灰の降る世界 (Humanity)
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1 : 爺のパーティ

—Vault 76—

Vault tec社によるアメリカ再建計画に基づいた核シェルターで、核戦争—後の最終戦争—に向けたものである。核により破壊されたアメリカ再建の、最後の希望として。

 

2102年。

予定された年から6年が経過してしまったが、やることは変わらぬものだ。だが、これだけは忘れてはならない。

 

このシェルターの中の誰もが

その胸に刻みつける言葉。

 

—『人は、過ちを繰り返す。(“War never changes.”)』—

 

 

...

 

 

ある爺はVault内最老年と呼ばれているが彼自身は実に若々しい。

 

またその白髪オールバックの頭にあることは一つだけ。あの硬い扉の外のこと。

彼の生まれ故郷、懐かしきウェストヴァージニアの景色だけである。

 

—10月26日—

 

Vault 76解放前夜のシェルター内はお祭り騒ぎである。住民の多くは明日から始まるウェストヴァージニアの再建に向けて旅のバディを探すラストチャンスとしてまたさらに盛り上がりを見せる。件の爺もまた例に漏れない。否、彼は誘うのでなく誘われラッシュである。

 

 

「すいません!どうか私のパーティに参加いただけないでしょうか?」

 

「あぁ!アダム爺さん、バディはもう決まりましたか?いやきっと貴方ならすぐに決まってしまうでしょう...えぇっ?!まだ、ですか?それではどうかわたくしと...」

 

「爺さん、ウェストヴァージニア生まれなんだそうだな。よかったら俺らと...」

 

 

「ハッハッハッハ、いやはや人気者とは困ったもんだな。落ち着いてシャンパンも飲めないじゃないか...いや、この爺は少し待ってもらえないかな?あぁ、いやいやミス.クリプトン何も嫌というわけじゃなくだがな。ただちょっとあそこのクラッカーが食べにいきたいだけなんだ。だからみんな、どうかこの爺にクラッカーを食べさせてくれないか?」

 

 

あまりにも適当な理由づけをしつつ群衆から駆け足で逃げ出すこの老人こそがその爺である。

 

 

Vaultで過ごした長い時間のなかで早朝から起き、ランニングと称してvault内を徘徊して回っていたこの爺に、シェルター76の構造において勝る者などあの群衆には居ない。彼が探すバディとはまさに「vault 76の住民」だけなのである。

 

 

 

 

「ハッハッハッハ、まさかこれだけで一人も追手がいないとは。若いモンは詰めが甘いんじゃぁないか?ハッハー!」

 

 

 

 

この元気さはとても彼がこのシェルター内で最年長とは思えないであろう。駆け足ながら手に持つシャンパンは溢さず、クラッカーにヒビひとつ入れることのない細やかな姿勢制御と力の加減は年の功というべきか。

 

また、彼はただ逃げているようでそうではないというのも驚くべきことである。彼が目指すのはシェルター最深部の原子力発電施設...などではなく、パーティ会場である大広間のすぐ脇にある会議室兼講義室である。わざわざパーティ会場から出て曲がりくねりながらシェルター深部まで走り抜け、その上で人がまばらとなった大広間の端を足音一つ立てずに駆け、講義室に入ったのだ。

 

そこまでして講義室に入った理由、それは彼のバディにある。先程触れたように、彼の探すバディとは「vault 76の住民」でありあの群衆ではないのだ。

 

 

 

講義室に入った彼は感嘆の声を上げる。

 

「おぉ、きっと君たちならここだと思ったんだよ諸君...」

 

 

 

目の前にいるのは男性2人に女性1人と広間の群衆とは比べものにならない少なさであるが、彼らこそが爺の組みたい最高のパーティメンバーなのである。

 

 

「ミス.アリサカにスチュワート君にミスター.スズキ。君たちこそがおれの最高の仲間なんだ。どうか頼まれてくれないだろうか。」

 

「もちろんですよ、ミスター.ブラッドリー。私を受け入れてくれる方なんて貴方しかいないのです。こちらこそ宜しくお願いします。」

そう答えたのは車椅子に座った女性、25歳の有坂 奈々美である。

 

「えぇ、言われずともそうするつもりでしたよ。アダム先生。」

爺を先生と仰ぐこの青年はパーティ最年少24歳の鈴木 勇人。彼は親がなく、有坂が姉代わりだった。

 

「あぁ、あぁ!ありがとうなぁみんな。君は...来るだろう?スチュワート君。」

 

「なぜ俺はそういう台詞なしに確定事項扱いなんですかね。」

天然パーマに丸い形の頭、中年太りの否めない58歳。ウィディーム・スチュワート。

 

 

彼らの繋がりはvault内で爺—アダム・ブラッドリー—が開いていた講義にある。その名も...『寺子屋(TERAKOYA)』である。もちろんながら公式の講義ではない。しかし想定よりもあまりに幼年の入植者が多く、扉の開くまで教育の一つもないのは問題であるとしたアダムの提案により発足したシェルター内教育施設それが『寺子屋(TERAKOYA)』なのだ。

 

 

 

名付けは勿論この爺。日本好きなのだ。

 

 

 

彼らの関係はというとスチュワートはそんなアダムの講義アシスタントを務めた。有坂と鈴木は言わずもがな、その生徒であり先述した通り仮の姉と弟である。

 

 

「ハッハッハまぁまぁ、いいじゃないかスチュワート君。おれからはそれだけ信頼されているという事さ。」

 

 

 

よく笑うのはこの老人の特徴である。

 

 

 

「『おれからは』って...みんな信頼してたよなぁ?なぁ?」

 

「「えぇ、もちろんですスチュワートさん。良きアシスタントとして。」」

 

「あぁ、ハハ。そうさスチュワート君。」

 

「は、ハハ...ははは...ありがとう......あはははは」

 

ナニカを察し、ナニカを失ったスチュワートは1人笑う。

 

「まぁ何はともあれだよ諸君。明日から大変だ。今日はゆっくりと休もうじゃないか。荷物を纏めて本を読んでよく眠るのさ。あしたの解錠セレモニーでまた会おう。じゃあおやすみ!諸君!」

 

「「おやすみなさい。」また明日ですね先生。」

 

「あはは、はは、......おやすみ」

 

 

元気にそして半ば逃げるように去っていった爺をスチュワートは追わず、また声をも掛けない。ただため息をつくのみである。

 

 

「...寝ようか、姉さん。」

 

「えぇ...そうしましょう。スチュワートさんも早くお休みになってくださいね。また明日からよろしくお願いします。」

 

「...ッ! あっあぁそうだな。そうさせて貰おう。そうだねまた明日から頑張らないとならないね。おやすみなさい2人とも。」

 

車椅子を押しつつ振り返って微笑むハヤトと、また優しい微笑みをして手を振るアリサカ。そんな2人を見て何か心が洗われるスチュワートであった。

 

あしたの朝は早い。

 

 

 

 

 




今更ながらFallout 76です。
ベセスダさんには頑張って欲しいなぁという届かない想いを胸に、まったりと進んでゆきます。

誤字報告、感想などお待ちしてます。


—2019.11.17: 冒頭を加筆—


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2 : 爺と扉

—10月27日—

 

 

 

爺の朝は早い。

 

 

 

朝5:00丁度に起床した爺はいつも通りにランニングの準備を始める。適当なシャツと短パン、スニーカーを履いて部屋から出ると大広間からシェルター深部へいつもの道—昨晩の逃走と似たルート—を走る。

 

昨晩のパーティー後にシェルター内のファームハンドなどが片付けをしたのだろう。テーブルは片付けられている。もちろん、大広間内の風船などヴォルトカラーの装飾はそのままだ。

 

「と、そういえば昨日はあの群衆から逃げて部屋に入ったのだからあいつらはおれがパーティを組んだこと自体知らんのじゃないか?これは...いや深く考えるのはよそうか。」

 

面倒にならないことを祈りつつ原子力発電施設の前を通り過ぎる。折り返し地点と決めていて、ここまでで20分弱かかっている。

 

「いよいよ今日だからな、しっかり体を解さにゃならん。いやしかし...」

 

脳裏でヴォルトに入ったとき見た景色、春のアパラチアが古いテープ式の映写機のように映し出される。

 

「懐かしいな。もう季節感が怪しいがいまはきっと...秋か?」

 

Take me home, country roadを口遊みながら後半へはいる。「そういえばこの歌にはアパラチアはないじゃないか」と思い出しながら。

 

 

 

 

爺がランニング後半に入ったその頃、勇人が起きていた。ちなみに時間は5:30過ぎである。

 

ぼやける視界のなかベッドの側に置いた手帳と時計を照らし合わせる。

 

「セレモニーが7:30でヴォルトドア開放が8:00か...すんごい早く起きたな...。」

 

隣のベッドでは姉の奈々美がぐっすり眠っている。

 

「姉さんは朝弱いから6:30には起こさないとな...もしくはそれよりか。僕は...どうするかな。そうだ、プロテクトロンに朝食の予約を早めに入れておこう。6:30だともう他の人たちも起きるだろうし。」

 

寝間着の上からカーデガンを一枚羽織り、朝食の予約を入れることをメモに書き入れて置いておく。

 

「起きないと思うけど一応ね...。」

 

普段からシェルター内で姉と別れて行動するときには何か書き置きをしたりメモに書き入れたりして行き先や用向きをわかるようにしている。

 

「それじゃあ いってきます。」

 

起こさないようにそう告げると部屋の外へ出た。

 

食堂で注文を済ませて大広間に出、部屋へ戻る途中でランニングから戻ってくる老人と会った。

 

「あぁ、アダム先生おはようございます。」

 

「おっ ハヤト君か、おはよう。今日は早いねぇ。」

 

「自然に寝が覚めたので。先生はランニングの帰りですか?」

 

「あぁ。もう5:00過ぎから始めていたよ。どんな日であれ日課は欠かさない、これが大事だと思ってねハッハッハ。」

 

「5:00ですか...早いですね...いやいつも通りなのでしょうけど。」

 

「アリサカ君はまだ起きていないか?」

 

「おそらくは。」

 

「そうかそうか。ふむ、それじゃまた後でな。準備を入念にしておくんだぞ?」

 

「えぇもちろんです。それでは後ほど。」

 

「うむ、おれは7:00くらいにはヴォルトドアの前に行こうかと考えているよ。セレモニーに遅れんようにな?」

 

「分かりました。」

 

爺と別れて部屋へ入る途中でブラッドリーから声が掛かる。

 

「Pip boyもわすれんようになぁー?」

 

「えぇわかりました。」

 

軽く手を振りつつ部屋に入った。

 

 

 

部屋に戻ると行きは消えていたディスプレイに『Please stand by』の文字が映されていた。また、まだ1時間半も前にも関わらず既に画面端にはカウントダウンが表示されておりpip boyのケースもロックが外れていた。パソコンではヴォルトボーイが新着メールを知らせている。

ヴォルト全体が既に送り出す準備をほぼ終わらせているのだ。

 

 

 

 

勇人は時計を気にしつつ自分のバックパックの中を確認する。工学参考書があることを確認したあたりで6:30を過ぎた。そろそろか、と部屋の電気をつける。

 

「姉さん、朝だよ起きて。」

 

「〜…んん」

 

顔を背ける。

 

「姉さーん?」

 

「んん...」

 

布団を頭まで被って光を遮る。

 

「姉さ〜ん?今日は外にやっと出れる日なんだよ?」

 

「...」

 

「明日はもう僕以外のアダム先生にスチュワートさんもいるんだよ?今日で起きれなきゃ。」

 

「...」

 

「寝ないで。」

 

目までだけ出してジトッと見つめてくる。

 

「...もうちょっとごろごろする」

 

「駄目、起きて。」

 

「うぐぅ...」

 

首を起こしたので背中を押して手伝い、起き上がらせる。両足とも動かせないので自分で起き上がるのに苦労するのである。

 

「...考えてなかったんだけど、これから姉さん着替える時とか寝る時とか僕しかいない状況のほうが少ないんじゃないかと思うんだよね。どうしようか。」

 

「...」

 

絵に描いたようにぼんやりとしているのを見てため息をつきつつ

 

「...うん、聞いてないね。姉さんの話なんだけど。」

 

「...」

 

「まぁいいや後で話すよ。それじゃ、目が覚めたら言ってね?なるべく早くしてくれると嬉しいかな。」

 

姉を起こすまでの戦いで20分経ったことに不安げな表情を残しつつ自分の身支度を始めるのだった。

 

 

 

 

勇人が姉を起こそうと奮闘するちょうどその頃、スチュワートが寝覚めた。普段なら5:00には起きる彼は長く寝たもんだなと驚きつつこれからの行動を考える。

 

「さて、いつもならアダムさんのところへ行って講義の下準備をするんだが...いや行くか。講義ではないにしろ行程なんかについては話さなきゃならないわけだしな。」

 

ぶつぶつと独り言を言いつつvault 76のジャンプスーツに着替えて部屋を出る。アダムの部屋はすぐ隣である。

 

「ハヤト君のところにも挨拶を...いやタイミングが悪かったら不味い。やめよう。」

 

一度はハヤト、アリサカの相部屋へ向かった足を翻してアダムの部屋へ向かった。ちょうどその2人について話し合うべきことがあったと思い出しながら。

 

 

 

先行して出発していた監督官のホロテープがシェルター内の全体放送で再生されている。まだこの時点では人がまばらなヴォルトドア前には既に爺のパーティは集合が済んでいたので各々に恩師や知り合いへ声を掛け、意気込みに励ましなどを掛け合っている。

 

セレモニー30分前、さすがに他の住民もヴォルトドア前に集まり始めた。爺は再び群衆にもみくちゃにされつつ1人の男へ話しかけた。

 

「おはよう、ハルロ。」

 

「おぉ!アダム爺さん」

 

「体調は大丈夫かい?」

 

「あぁ健康体さ。昨日のバカ騒ぎでは飲まなかったからな。爺さんこそ大丈夫か?随分飲んだみたいだったが。」

爺が話しかけたこの屈強な黒人男性はハルロ=ラグウィスだ。Vault 76内では多い、米軍出身者のうち1人である。簡単な銃の解体・組み立てに撃ち方などをシェルター内では教えていた。

 

「ハルロ、そいつは大丈夫さ。なんせ昨日の逃走で酒気は飛んだからな!」

 

「ハーハッハ!あの逃走劇か。それはそれは大変なこって。」

 

「カッハッハッハッハ全くだ。まぁ、大丈夫ならよしとしよう。それで本題なんだが君に協力してほしいことがあってね。君のバディにも後で話してもらいたい事だ。」

 

「爺さんの頼みなら聞くぜ。あまりに度の過ぎたものは勘弁願いたいが。それでその内容は?」

 

「アリサカ姉弟についていや、アリサカ君についてだ。」

 

因みに、ハルロは60歳である。元気な老人たちの横では勇人と奈々美に工学を教えた男が話している。

 

「ハヤト君にアリサカ君なら大丈夫だ。私が教えたんだからな。それに君たちにあげた参考書なんかも私が持っているより役に立つハズさ。」

にこやかに2人を励ますこの男性はウィリアム・ヒルといい、元米軍の整備士だった。

 

「ありがとうございます。ところでウィリアム先生は誰とバディを...?」

 

「ハルロだよ。現役時代からなにかと付き合いがあってね。同い年でしかも扱いを心得ている奴ならツーマンセルも悪くないというものさ。華がないがね。」

 

クククッと笑うウィリアムにハルロが「おいうるさいぞウィル」と反応するその光景は2人組としての歴の長さを感じさせた。

 

 

 

Mr.ハンディがスポットライトに照らされ、拍手喝采のもとに迎えられる。セレモニーの始まりだ。

 

 

 

 




セレモニーではヴォルトドア前にあったコンテナから各住民へC.A.M.P.の配布がされます。ゲーム主人公にあたる人は遅起きでセレモニーに参加できなかった設定。

お寝坊のゲーム主人公はなんらかの形で関わるかと思います。

誤字報告、感想などお待ちしてます。


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3 : 爺と鳥

C.A.M.P.とスティムパックがvault-tecからの贈り物として配布され、ついに扉が開く。

 

 

暗転した空間で黄色の回転灯が回り、ブザーか鳴り響く。よくメンテナンスされたヴォルトドアはロックをはずされ、内側に引き込まれるとベルト型のラックの上を転がって右へスライドする。

 

外の世界(アパラチア)の眩い光がヴォルト内へ差し込み最初の一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

—『今こそ再生の時だ(“ it’s time for our future, begin.”)』—

 

 

 

 

 

 

Apalachia

 

秋色の山々が晴れた綺麗な空をバックに連なっている。風に揺れる音が耳に心地よく、昂った心を落ち着かせるように働いた。とても核戦争後とは思えないほどに穏やかなまた懐かしい風景に見惚れる。

 

 

 

-家に帰りたい-

 

 

 

そう思った爺はフラットウッズの方面へ目を向ける。ヴォルトに入ることが決まった彼を見送ってくれた同僚たちと、最後に飲んだ教会前の小さな酒場を思い出して涙が流れた。

 

空を鳥が飛んでいるのを見つける。

あの鳥のように空を行ければ、眼下には懐かしい風景がいっぱいに広がっているに違いない。

 

 

 

<さぁ!皆さん、アパラチアへ旅立ちましょう!監督官さまの記録が彼女のC.A.M.P.で確認できることでしょう。>

 

 

 

感傷に浸る爺のすぐ真横で事前に野外待機していたファームハンド、ペニントンがそう言った。驚いて飛び上がった爺へカメラを向けると暫く見つめたのち、

 

<いかがしましたか?Mr.ブラッドリー。>

 

と平然と声をかけるのだ。

 

「いッ、いやなんでもない。」

 

動揺をなんとか抑えて答える爺を横目にハルロが切り出す。

 

「それじゃ、俺達は監督官の後を追う事にしてるからな。彼女のC.A.M.P.に行く事にするぜ。」

 

階段を降り始めるハルロを追って

 

「まぁ、先ずは監督官のC.A.M.P.へ寄るのがいいんじゃないかな?彼女の所で作業台なりなんなり使えるだろうし、そうすれば一先ずの方向性も決まるしね。」

 

そうウィリアムがつづけて後ろへ声をかけると2人に続いて他のパーティも階段を降りて行く。

 

 

 

 

 

「わたしたちはどうしましょうか?」

 

車椅子から見上げて訊ねる。

 

「...うん?、あぁすまんすまんっとそうだな...」

 

「こういうときは周りを探索するのもまた手では?」

 

とスチュワート。

 

「僕もそう思いますアダム先生。」

 

ハヤトもまた同意見だ。

 

「それじゃあそうするとしようか。」

 

ハヤトは右手の階段へ降り、アリサカは車椅子にストッパーを掛けて待っている。爺とスチュワートは正面の階段を下って死体を漁る。

 

 

 

 

「マリア・チャベス...誰だ?レスポンダーとは?」

 

「Vault 76外での生存者であることは確かですが...彼らの組織でしょうね。善いか悪いかはわかりませんが。」

 

「まぁ名前からして町を統治するとかそんなものだろうな。」

 

「町内会...ではなきにしろそれベースではありそうです。」

 

「アパラチアに核が落ちたのかは分からないが、政府が正しく機能しないとなれば町や職場の繋がりが重要になるからな。ありうる話だ。」

 

「あちらにも誰か...死んでいますが。」

 

「ふぅむ?またさっきと同じレスポンダーか。」

 

爺は死体のベルトに挟まった錆びたマチェーテを手に取る。

 

「...血の跡だな。」

 

「狩りなのかそれとも...」

 

「争い、か。」

 

そう話すうちにふと左手に倒れた見慣れたロボットを発見する。

 

丸みを帯びた大きな胴体が草むらからのぞいていたのだ。

 

 

 

「ん?プロテクトロン...?」

 

「...関節部に焦げ付いた穴が空いていますね。」

 

「レーザーか?実弾ではつかない弾痕だな。」

 

爺が不吉な予感を感じたその瞬間、スチュワートの足元に赤い光線が着弾した。その射線の先には  薄いグリーンの頭部に赤い星形のレーザー照射機、多脚の小型ロボットが崖上からバラバラに多数降りてきた。アメリカでは見ないデザインに特徴的な赤い星形。

 

「これは...共産圏の戦闘ロボット...ッ!」

 

崖から降下し終えたものから次々にレーザーを照射する。が幸いな事にあまり定まらず威力が低い。

 

 

「スチュワート!離れろ!」

 

「ッ!わっわかりましたッ」

 

照射しつつ距離を詰めにかかる戦闘ロボット。

 

「だが、都合がいい。」

 

降下が同時ではなかったために列を成して距離を詰める。前方の味方へ誤射しないように後ろがあまり撃たないので、前から順にマチェーテを振り下ろす。左上から右下へ振り下ろすと錆びて脆くなった脚が折れ、頭頂部の天板が割れて内部回路を破壊した。

 

「脆いな。」

 

流れで右上から左下へ振り下ろせば頭部を斜めに切り裂き、そのまま振り切って飛ばす。

 

「ハァッ...まだいやがる...ッ 老人に寄って集りやがって!」

 

残り2台の戦闘ロボットを確認したとき、左後方では鈍い銃声が3発鳴り響いた。

 

「なッ その方向にはハヤトとアリサカが...!あぁくそ!急がねば。」

 

考える間に距離を詰めたロボットは戦闘ロジックに従って左右へ展開する。そのうち左へ展開したロボットを正面に捉え、一気に踏み込んでマチェーテを振りかざす。が右のロボットがレーザーを照射、それが運悪くも右脇腹に着弾する。

 

「ぐッ うぅぅっ」

 

熱さが伝わるがさほどの痛みはない。

そのまま振り下ろした鈍い刃は天板に入るが、攻撃を食らった影響でブレて切り裂くまでは至らずされども大きく歪んで行動不能に陥った。

 

 

右を向くと次射に入り赤く発光したロボットが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——鈍い銃声音と共に撃ち飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声の先には歪な銃を持ったハヤトが構えを解いてこちらに安全を知らせている。

 

 

「無事ですか?アダム先生。」

 

「あぁハヤト君、見ての通りピンピンしとるよハッハッ。」

 

 

 

車椅子をアリサカに衝撃が行き過ぎないように若干持ち上げてハヤトがこちらへ降りてきた。アリサカの方は心配気に声を掛けているが、ハヤトの方は微笑みで返している。

 

「さっきの3発の銃声は君だったか。」

 

「えぇ、階段を降りる手前の死体の側にあったので拾っておいたのですがまさか直後に役立つとは思いませんでしたよ。」

 

「ハッハッハそれは幸運なことだ。弾もそれが持っていたのかい?」

 

「はい...死体を漁るのにも慣れないとですかね?銃はハルロさんのおかげで扱えましたが。」

 

「うぅむまぁそうかもなぁ。まぁ極力おれとスチュワート君で拾うようにするが。」

 

「分かりました。」

 

「いやはや2人とも良く戦えますね...。」

 

ベンチの向こうからスチュワートが姿を現した。

 

「ハッハッハッハ、とはいえスチュワート君でも銃は扱えるだろう?また銃が手に入れば君にも持たせて戦ってもらうさ。」

 

爺がにこやかにそう言い放つ。スチュワートは「うはぁ...」と反応する。

 

「アリサカ君はうぅむ戦うべきではないが、ハンドガンの類が手に入れば...」

 

「わたしは...ライフルとかでも扱えますよ?」

 

「ハッハッハいやなに、前衛ではなくて自衛としてさな。」

 

車椅子から気持ち身を乗り出して

 

「ッ、でっでもわたしも何かお役に立てればと」

 

「むぅぅ、そうはいえどもなぁ。」

 

「じゃあ姉さんは物資とかスティムパックの予備とかを持てば良いんじゃないかな?」

 

「成る程。それならばアリサカ君に任せようか?」

 

「ナイスアイデア、ハヤト君!」

 

「...っでも...」

 

「姉さんが怪我をしたら嫌だしさ、ね?」

 

「っ......そうだよね...わかった、ごめんね。お姉さんなのに我がままで。」

 

「別にいいよ。」

 

 

 

爺とスチュワートは2人の会話を微笑みでもって眺め、話終わったタイミングで爺が口を開く。

 

「まっそういう事だ。だいぶ遅れを取ったぞ急ごうじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写のテストというわけでございます。

とはいえ本作は爺が他数名を連れてアパラチアを歩き回る話ですのでゲームストーリーを拾うわけではなく、当然の如く省かれたりつなぎ合わせたりして織りなされます。

誤字報告、感想などお待ちしてます。

—2019.11.22: 不足を発見したので加筆—


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4 : 爺の合流

—監督官のC.A.M.P.を目指して—

 

 

 

 

 

ペニントンの話を参考にpip-boyの衛星マップに監督官のC.A.M.P.のおおよその位置をピン設定をして、それを見ながら荒れた道を歩いている。

 

荒れているとはいえ舗装はされている故、アリサカの車椅子でも苦労せずに進む事ができる。

しかしやはり不便なのに変わりはなかった。

 

探索をする上で必ずしもこうした舗装道路を行けるわけではないのだから。

 

 

例えば先ほどの製材所。

 

そこに行き着くまでに車椅子ではかなり苦労した。車椅子はスチュワートが、アリサカはハヤトが負ぶって探索を行ったので行動にやや難が生じたのだった。

 

 

 

ギルマンという男がかつては所有していた製材所だったが、その荒れようからは少なくとも5年以上前に手放されていると見えた。

 

爺はその元の所有者であるギルマンに会いに訪ねたのだが、あるのは崩れ落ちた事務所と切り出された木材ばかりであった。

 

 

 

例えばその向かいの農家。

 

 

民家を訪ねるもやはり「人」は居なかった。こちらではアビーという人物のバンカーの存在が明らかになったがそれ以上の情報はなく、長きにわたって放置された家屋の中の僅かな資材や調度品を拝借するに留まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし最も目を奪われたのはそれらではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舗装された道に入ったことでアリサカは再び車椅子に座り、ハヤトが車椅子を押して気持ちゆっくりと合流を目指す中、爺は思案する。

 

—一体なんだ()()()は...?

 

と。

 

()()()とは。

 

先程「『人』は居なかった」と記したことに由来する。「人型」と表現するのが近しいか、それはともかくとしてあの悍ましい姿の人のことである。また、製材所内に群れを成していたあの大型のダニのことでもある。

 

--UMAか?でかいダニだけならそう笑って済ませたものをあんなモノ(人型)を見せられては笑ってもいられないじゃないか。

 

核攻撃がアパラチアに行われた可能性というのは認識があった。Vault内で監督官がその可能性について触れる講義を開いていたのだから。しかしあれらが果たして核攻撃だけによるモノであるのか、という話である。

 

—まさかそんな...いや、否定はできないか。

 

未知がありすぎるのだった。

 

 

 

そんな爺の右斜め後にはアリサカとハヤトがいる。

 

角材にパイプを据え付けたような雑な拵えのハンドガンを手にしてハヤトは右側を、パーティの左側はスチュワートが周辺警戒をしつつ正面を張る爺の後に続く。ちょうど三角形に位置を取り周囲を見つつ進むパーティでは先程の戦闘からピリついた空気が停滞している。

 

 

アリサカは先の戦闘のあとで爺から「自衛用に」と手渡されたショーテッドライフルを膝の上に置いて指でなぞりつつ、目蓋の裏に移った人型を忘れようと努力していた。

 

ショートバレルの散弾銃よりやや小さいくらいにカットされたこのライフル。ハンドガンのような木製のグリップをしておりハンティングライフルより取り回しがしやすい。しかしその反面に反動のコントロールには慣れが必要で、なおかつボルトが左側に倒れるので前の大戦の軍用ライフルのようなスムーズなコッキングとはいかないだろう。

 

と、そんなことを思って見るがそれでもやはり消えないのだ。

 

全身が赤く焼け爛れ、なにやら緑色に発光する棘によって内部から貫かれた人型。もとはやはり人間だったのだろう、時折り言葉を口にする。

 

「我々はひとつ」

 

真っ黄色になって白黒の区別がつかず、目蓋がなくなって剥き出しに鎮座する眼球。

口周りの薄い肉もところどころ穴が開いて歯が見えた。

 

また、その周囲にあった同じく緑色に発光する部位が見られる石像。頭を抱え、膝をつき、這いつくばって必死に耐えるようなすがたの石像郡。

 

—あの人型にそっくりな石像はもしかしたら...

 

そこまで考えて寒気に襲われ、腕を摩って一瞬浮かびかけた信じたくない考察から目を背けた。

 

 

木造の橋を渡る。

下には小川が流れており、水のせせらぎを聞いた。

 

 

まるであのいたましい現実を隠匿してしまうようなそんな音に聞こえた。

 

 

 

 

 

途中で重さに耐えられなかったか床を突き抜けたトラックがあったがさして問題にはならず、木造の橋を渡ったその先の右手で他のvault 76民の姿が見えた。ランタンか何かの黄色い光が見えている。

 

「おっ?あそこが監督官のC.A.M.P.じゃないか?」

 

思考の沼地から出た爺が明るい声でそう言えば、緊迫した空気は幾らか晴れたようでスチュワートがpip-boyを確認して続いた。

 

「んん?あぁそのようですね。ちょうどペニントンが話していた辺りですから間違い無いでしょう。」

 

「あっ本当ですね!やっとハルロさんたちに追いつきましたか。」

 

「...まだ止まっていてくれていたらいいのだけど」

 

「なぁにあいつ(ハルロ)のことだ、我々を置いていくなんてしないさ。彼はあの見た目に反してなかなか優しいやつなんだからなハッハッ」

 

 

爺に笑いが戻った。

 

 

低い丘の上に設営されたC.A.M.P.にのぼるとすぐに声がかかった。件の彼である。

 

 

「なんだ爺さん案外遅かったじゃないか?普段からランニング(徘徊)してる爺さんのことだからもっと早いだろうと思ったんだがな。走り過ぎて腰を悪くしたんじゃないか?ハッハッハ」

 

「そらみろ居るだろう?ハッハッハッハ、言ってくれるじゃないかハルロ。なぁにただランニング(徘徊)で徘徊癖に極みが掛かっただけだよ。ハッハーハッハッハッハ」

 

C.A.M.P.にはハルロ・ウィリアムペアの他にも当然ながらパーティが居る。爺には前夜祭で聞き覚えのある声がかかった。

 

「あら、Mr.アダム。あなたやっぱり断ったじゃないの。」

 

「む、なっMs.クリプトンっ...!」

 

覚えているだろうか。爺をあの宴会で誘った女性がいたのであるが、台詞は割愛され名前しか出ていないのである。はじめまして。

 

ダネル・クリプトン、ある大手不動産会社社長のご令嬢である。本社とともにワシントンD.C.に屋敷があったが、vault-tecに申し込んだ際に入居シェルターがウェストヴァージニア州都アパラチアのvault 76に自動設定されたらしい。またそのために共に入居する最小限のお世話係の他に余分に連れて来ず、シェルター入居式の際には目立たずにいたという小噺がある。彼女自身は真面目な性格ゆえに「むしろ喜ばしい」と話したのだとか。

 

「全く失礼な反応を。まぁいいですわ、私は元より屋敷にいた者たちと行く予定だったのですから。」

 

「ご指名いただき感謝の極みです、お嬢様。」

クリプトン家ではダネル専属のメイドだったフローリィが続く。専属のメイドとは言ったものの彼女はダネルの3つ上の37歳である。教育係などもいたが歳の近さから親しまれていた。

 

「アダム、我らが猟友会の本領発揮だなぁ!いやもう私は楽しみで楽しみで...ッ!」

少々テンションの高いこの男性はマック・ハミルトンという。歳は76、爺とは猟友会仲間でアパラチアには馴染みがある男だ。クリプトン家では料理人を務めていた。ダネルパーティのシェフである。なお猟友会では親しみを込めて「コック」と呼ばれていた。屈強な男性で白いシャツの上からエプロンをかけ手には斧を、ベルトには—恐らくウィリアムが作った—ホルスターにパイプボルトアクションピストルを入れている。

 

「おぉコック!たしかに、我らが猟友会の狩り技術は全面的に役立ちそうだな?ハッハッハッ」

 

 

ダネルパーティは以上の3名である。

 

 

ハルロが切り出す。

 

「さて、ここにいる我々2組は監督官を追って隣町のフラットウッズに向かうんだがそっちはどうするんだ爺さん?」

 

「そうかそうかそりゃちょうどいいな。おれ達もそちらに向かうつもりだったのさ。旅は道連れ、共に行こうじゃないか。ところで他の連中はどうしたんだ?」

 

「他か?連中はアパラチアの探索にそれぞれのパーティで散開していったよ。Pip-boyのマップで他のpip-boyの位置が白い丸で表示されるから大体の位置は把握できるぜ?」

 

「そうなのか...ッ!こりゃあ便利だな。この表示の意味が分からなくて無駄に警戒していたぞ...」

 

「ハッハッハーそりゃいいや。爺さんところでベンのやつは見なかったか?」

 

「ベンか?見てないな。奴のことだから寝坊でもしたんじゃないか?セレモニーでは見なかったぞ?」

 

「!そうだったのか。奴が俺を『監督官を追わないか?』と誘ったくせしやがってからに...」

 

「ハッハッハッハッまったく良くも悪くもベンらしいじゃないか。まぁ奴のことだ、そのうち追いつくさ。暫くここに止まるのか?」

 

「あぁそうするつもりだ。フラットウッズまではどの程度掛かるんだ?」

 

「昼過ぎには着くだろうな。飯を途中で食うなりする必要はありそうだがそこは猟友会にまかせなされ。」

 

「そうさハルロ!我々猟友会が居ればそのくらいは軽いもんさ。」

 

「元気な爺さん方なこって。それじゃあ暫く準備したのち出発するとしよう。」

 

 

 

...

 

 

 




ラストに名前だけ登場した「ベン」。彼が本作におけるゲーム主人公となります。

誤字報告、感想などお待ちしてます。


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5 : 爺と酒場

...

 

アダム爺とマック爺は山へ狩りへ、ウィリアムとハヤトとハルロの3人は監督官のC.A.M.P.の武器作業台で銃のメンテナンスを、残った女性陣3人はクッキングステーションでフローリィがハーブティーの淹れ方をアリサカへ教えている。

 

 

 

スチュワートはといえば製材所と農家へ戻ってジャンクを拾っている。

 

 

 

「アダム、あんまり撃ちすぎないでくれよ?肉が傷んでしまう。」

 

コックが携行ナイフでモールラット(大きめの鼠)の血を抜きつつそう苦言を呈す。

 

「あぁすまんなコック。」

 

「目が悪いんならV.A.T.S.でも使えばいいじゃないか...」

 

「なんだいそれ。」

 

「動体センサーとサーモグラフィーで生物の大体の位置を割り出して表示する補助機能...ってアダムあの講習聞いてなかったのか?」

 

「小難しい話は昔から眠くてな。」

 

「寝てたのか...」

 

「いやいや、意識が飛んでたのさ。」

 

「重症じゃないか...。」

 

「いやしかしやはりレバーアクションが欲しいな。おれの愛銃が恋しいよ。」

 

「私はエアポンプライフルかクロスボウあたりがいいかな。弾を取り出しやすい。」

 

「すべては美味しいジビエのために、か?」

 

「もちろん。」

 

「ハッハッハ変わらんな流石コックだ。後でウィリアムかハヤトに聞いてみればどうだ?何かやれるかもしれないぞ?」

 

「そうしてみるよ。っとアダム静かに。遠くに何かいるぞ。」

 

「どこだ?」

 

「北東方向だな。」

 

「ここぞそのヴァッツ?とかいう奴の出番だな...ありゃあ犬か?痩せてるな。」

 

「ジジイのエイム練習台になってもらうか?」

 

「ハッハッハーハッハそりゃいいや」

 

「笑うな声がでかい」

 

「...」

 

山を駆ける爺。

 

 

 

 

...

 

 

 

 

ところ変わって監督官のC.A.M.P.。

ウィリアムとハヤトがくしゃみをする。

 

「どうした?」

 

「「誰かが噂したらしい(です)。」」

 

「アダムだな。」

 

「「間違いない(ですね)。」

 

ハルロの勘が的中している。

 

アリサカから預かったショーテッドライフルや他の—猟友会をのぞく—人から預かったパイプ銃を分解して構造を見る3人である。

 

「パイプ銃の方はまさに『パイプガン』ですね。」

 

ハルロが続いて

 

「簡易的な資材で簡易的に銃を量産する、となると猟銃じゃねぇな。猟銃というより軍備といったところだ。」

 

「量産が目的となると何かから身を守るためにか何かを襲うためにとなりますね。」

 

ウィリアムが口を開く。

 

「たしかにこれなら修理素材も楽に手に入るしね。ただ問題は命中精度かな。パイプを銃身に代用しているからライフリングがなくて、弾もパイプにゆるすぎない程度のものを選んだんだろうね。38口径弾薬だけど銃身内で弾が揺れるからブレるし。」

 

「素晴らしく簡易的という点ではAKに及ぶがな。」

 

「これでフルオート化していたら勲章ものだね。」

 

「ショーテッドライフルの方は...まぁハンティングライフルの改造銃でしょうか。」

 

「ロシア帝国にこんなのあったよな?」

 

「ハルロそれは...オブリズかい?モシンナガンを短く切った奴だね。」

 

「あぁ!そうそれだ!一部の州じゃあ規制避けのために猟銃で作られたタイプだ。これもそうかもな。」

 

「女性に扱わせるにはちょっと負担が強すぎるね。ストックでもつけてあげようか。」

 

「フルストックは作る暇がないな。」

 

「アラインストックをハヤト君に教えるついでにね。ハルロ、君がさっきバラして資材にしたパイプガンはあるかい?」

 

「あぁちょっと待て...」

 

 

 

 

...

 

 

 

 

しばらくして何かの肉を持った猟友会が帰ってきた。コックがミートハンマーで叩き、軽く塩を振ってグリルにする。またその間にウィリアムとハヤトへ彼が猟銃の相談をしていた。

 

「なるほどね、マック。クロスボウは私も知識がないから用意はできないがエアポンプならバラねじにボトル、バネが手に入れば作れそうだよ。」

 

「フラットウッズでしばらく滞在するなら作りたいですね。」

 

コックは大喜びだ。

 

後にシリンジャーという既製品を発見したコックであったがそれは取らずに、彼らに作ってもらったエアポンプライフルを愛用し続けたのだとか。

 

 

 

 

...

 

 

 

 

コックのモールラットグリルを食べ終わった一行は出発する。9人の大御所帯である。

 

コックと爺、フローリィ、ハルロが前衛を張る。コックは大きなバックパックに調味料と料理用品を詰めて斧を片手に。爺はベルトの金属リングにマチェーテを掛け、パイプピストルを片手に。フローリィはホルスターにパイプピストル、バックパックの外付けポーチにトマホークを入れている。ハルロは割と軽装であり、サバイバルナイフにパイプピストルである。彼の場合は荷物をウィリアムが持っている。

 

後方にパイプボルトアクションを持ったハヤト、ショートバレルのライフルを抱えるアリサカ。護身用にパイプリボルバーを持つダネルとパイプボルトアクションピストルを改造してライフルにしたウィリアム、殿にトゥルーストックのショートライフルを持つスチュワートである。

 

 

 

途中、プールを持つジムにやって来たがめぼしいものはなかった。何かあったかといえばラッドローチ(巨大G)をみて悲鳴を上げるダネル、アリサカに対してフローリィがピストルで的確に処理していったことだろうか。勇ましい。

 

コックが「アレの味はどう思うか」と爺に相談した時にはダネルが全力で止めていた。試すつもりはなかったらしいが。

 

 

 

 

フラットウッズ

 

木造で白いペンキを塗った古い教会が見える。坂を下って突き当たりのT字路を右へ曲がればその教会と酒場に出るのだ。

 

爺の記憶の中では新しい。あの酒場がある町である。

 

しかし悲しきかな。ここもやはり人の気配がないのだ。途中の一軒家の玄関先では高齢の女性が亡くなっていた。彼女の遺したホロテープからレスポンダーという組織の活動が推測できたが、彼女が生前に経験しホロテープで1人語った内容は古びた絶望の色をしていた。

 

 

 

かつては細やかながら栄えていたフラットウッズの町は今では教会しか燈を灯しておらず暗い。教会には監督官のホロテープが彼女のスタッシュと共に置いてあった。

 

 

 

曰くレスポンダーとは弁護士、警察官、医師といった専門職の集まったチームで近隣の住民などから厚い信頼を寄せられていたという。

 

 

 

ハルロの流すそのホロテープを聞きながら爺は独り酒場へ足を運ぶ。

 

息絶えたレスポンダーの遺体が多く倒れている。

血痕をみるに何らかとの戦闘か内乱によって死滅したとみられるが、真相は探らなければわからない。あの人型—彼らレスポンダーはそれらをスコーチと呼んでいた—との戦闘であるやもしれない。

 

 

レスポンダーのシステムは生きていることからレスポンダーのボランティアに参加することとなった。酒場に入ってすぐ目の前の壁にあるコンピュータで登録を行う。

 

爺は登録した後、正規メンバーのリストを閲覧する。

 

「あぁ、君たちはここに居たのか...。」

 

懐かしい名を見たのだ。

 

あの夜にvault 76に入る爺を祝い偲んで共に飲み明かした同僚たちの名だった。

 

また大学時代の後輩の名もあった。

彼女はたしか薬学で研究員をしていた。いつか自分の研究が何かの役に立つことを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔を思う爺を他所に、あまりに高額な取引をだすベンダーロボットに対して発狂して叫びをあげるウィリアムの姿が教会にあったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿ペースが早い人間性。

これはつまり私が忙しくなる前に新話を出そうと躍起になっているということです。

誤字報告、感想をお待ちしてます。


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6 : 爺と教会

—10月28日—

 

 

 

朝日が上がるのが若干遅く、また山を背後にするフラットウッズに光が入るのも遅い。そのために朝焼けに染まる空と山とは対照的に町はまだ暗いままである。

 

 

 

時刻は朝の5:00前。

 

フラットウッズから少し離れた川辺の草原に、コックの料理店を中心に置いてぐるりと8つのテントとクッキングステーションが囲んでいる。C.A.M.P.に付属していた仮設テントセットを使用して設営した。C.A.M.P.の本領はまだ発揮されていないが、このテントの設営に昨日の残ったほとんどの時間を費やしたのも事実である。

 

そんなテントだが、この朝早くにすでに灯りをつけた物が1つある。

 

 

 

 

 

 

 

無論、爺である。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーよく寝たよく寝た。さあて朝の散歩に出るとしようかねぇ!」

 

元気なことである。

 

「しかし寒いなぁ、シェルター内がどれだけ暖かかったかよくわかるもんだ。ジャンプスーツはその点本当に快適なんだが..」

 

Pip-boyを操作してライトを点け、レザーアーマーを着てピストルとマチェーテを装備する。完全武装でなければ安心して散歩もできないというのは昨日でよくわかったのだ。

 

「やはりこれでは味気ない、そのうち服でも買えればいいが。」

 

そう1人呟きつつテントを後にする。

 

 

Pip-boyのダイヤルを操作してAppalachia radioに周波数を設定する。戦前から続くこのラジオ局は昔からコメンテーターも無しにアメリカのレトロな楽曲が選曲、放送され続けている。Vault 76内には電波が届かず、シェルター内で代替のミュージックシステムがあったがそれとはまた違った物なのだ。

 

 

扉の外であるというのもあるかもしれない。

 

 

バチバツッ...ヅヅ...

 

 

ノイズが走り静かになる。

ちょうど曲が変わるところだったらしい。

しばらくの沈黙ののちにメロディが流れ出す。

 

落ち着いた曲調で、どこか遠い音にも感じるピアノが女声を先導する。

 

 

 

 

♪Well, twirl my turban, man alive

 

Here comes Mister Five by Five

 

He's one of those big fat bouncing boys

 

Solid avoirdupois!

 

Mister Five by Five

 

He's five feet tall and he's five feet wide

 

He don't measure no more head to toe

 

Than he do from side to side♪

 

 

 

 

爺の左腕のpip-boyから女性の歌声とジャズ調のバックが流れ出す。音質が良いというわけではないがどこか懐かしい音色である。

 

爺のお気に入りの1つでもあるのだから尚更懐かしく感じるのだ。

 

 

「やはりやっているか懐かしいな。朝からMr Five by Fiveとはいいセンスじゃないか、気持ちよく散歩ができるという物だな。」

 

 

3分しかないこの曲は短いながらも「帰ってきた」という実感をよく引き立てる。続いてルイ・アームストロングと男性コーラスの渋い歌声が響く。

 

 

 

 

 

その名も”Old Man Mose(おじいさん)”である。

 

 

 

 

 

狙っているのだろうか?

 

 

 

 

「ハハッまさかな。」

 

まさか受信者の年齢を見るなどできないだろうと思いながら軽い足取りで無人の町を歩いて行った。

朝日に照らされ始めた白い廃教会が輝いて、1人町を歩く爺をステージの上のように照らしていた。

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

コックは爺が外へ出たその僅かな物音で目が覚めた。いや正確に言えば爺の独り言とラジオの音で、であるが。

 

 

「アダムがもう起きたか?料理人として失格じゃないか。」

 

自らを含めて9人分の朝食を準備するのだから早く起きなければ仕込みが間に合わないと昨晩思っていた彼は、少々鈍った体と歳を重ねても変わらない爺の調子に苦笑いしつつ起き上がって着替える。

 

爺はジャンプスーツ以外での服装を考えていたが彼—正確にはフローリィも—はそうではない。仕事着は持っているのでそれを着て行動しているのである。彼の場合ならば白地に黒い縁取り、金色のボタンの料理服と白いエプロンである。

 

 

昨日はこの姿で狩猟を行っていたのだからそのスニーク技術が窺えるが彼はただの料理人(コック)である。

 

 

「肉だけで見れば戦前の料理店がよだれを垂らす代物だからな...見た目は凄いが。」

 

双頭の牛(バラモン)のことである。

 

「油のノリはやや悪いが赤身なら最高だ。野生化した牛は脂は付かないがいい肉になる...。」

 

バラモンの話ではあるが朝からそれを食すのではない。

 

「まったく、イチボに弾丸さえ入らなければまだ量を確保できたものを...アダムのやつが...」

 

イチボとは牛の希少部位の肉のことである。非常に柔らかいのが特徴でそれなりの店でそれなりの値段がつく。

因みに昨夜はカイノミ—脇腹あたりの肉—も出すことができた。イチボに弾丸が命中したのは残念だがそのあとはアダムがマチェーテで牛の頭を切り落としたので手早く、またあまり肉に傷はつかずに済んだのである。

 

「肉への無頓着さはフローリィにも通じる物があるからな...彼女にも言っておかなければ...。」

 

おそらく「善処します」としか返ってこないのだが。

 

「彼女は彼女でクリプトン嬢にべったりだからなぁ。あまりキツく言うことができない...」

 

軽く身震いをしながら今日の朝食でオムレツとして出すつもりの卵を手に取った。明らかに鶏ではないだろう大きさだ。

 

「...もとがなんなのか知りたくはないが。」

 

知らない方がいいこともあるさ、と言いつつpip-boyのラジオを設定する。アダムはあの調子だが彼はクラシックを掛けるのだ。

 

「ドボルザークの『春』?いいじゃないか。」

 

 

そう言いながら今度はマットフルーツを手に取ってジャムを考えだすあたりは流石コックというべきか。

 

 

「きのう少し食べてみたがブラックベリーが元らしい味だったからな...日中で作っておけばパンにも合うし鹿肉あたりにもいいかな...」

 

 

「口では何かいいつつも結局は食べ物のことしか頭にはない」というのはフローリィが彼について言う常套句である。

 

 

 

 




短い幕間程度に捉えてください。

特に本編との脈絡もなく2人の爺が起きたと言うだけの回です。
—服のくだりは回収しますが。—

やたらとスローペースですが本作は内容的にこのくらいがちょうどいいかなと思っているのです。「もう少し早く!」などお声があれば調節しますが。

誤字報告、ご感想をお待ちしてます。


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7 : 爺と給仕係(メイド)


フローリィ回です。




爺2人の起床時間が他と比べて早いのは言うまでもない。しかしこの日は総じて皆起床が早かった。

 

 

 

殊に暖房設備など整っていない仮設テントでは朝の寒さから目が覚めるというのも珍しくはない。

 

 

コックから「クリプトン嬢にべったり」と称されていたフローリィもまたそうである。

 

 

 

...

 

 

 

「くしゅんッ...うぅ、寒っ」

 

マットの上で毛布にくるまりながら髪を梳いていたフローリィは梳かす手を止めてくしゃみをし、そう呟いた。あまりの寒さに寝が覚めた彼女は他の女性陣の—主にダネルの—体調が心配になりながら震える手で髪を梳かしていく。長い銀髪は癖毛こそないものの梳かすのに時間がかかるのだ。

 

 

「早くお嬢様の様子を見に行かないと...」

 

 

やっとこさ梳き終わった髪を一旦後ろに束ねると彼女の仕事着を用意する。メイド服であるから想像には困らない。ただピストルのホルスターが付属した胴のレザーアーマーを上からつけるくらいしか違いはない。メイド服を着る前にコルセットを巻いておく。銃弾は防げないが刃物を胴体に受けないというだけで恩恵はある上、姿勢を保つのに必要なのだ。

 

 

 

余談だが、監督官やアリサカに比べれば豊かでもなく、かといって貧相でもないと自負している彼女は体型にコンプレックスは抱えていない。唯一あるとすればピストルなど銃火器やその他サバイバルナイフ、手斧、マチェット、今でも愛用するトマホークなどを広く扱うために無駄なく鍛えた体に対してであるか。

 

「その分太らないのは羨ましいわよ」とダネルからは言われたが大して嬉しくはならなかった。

 

「目立つほど筋肉質なわけではないのだから気にしすぎじゃないかしら」とも言われたかと思いつつ一瞬黒リボンを襟元に結ぶ手を止める。

 

「...」

 

すぐに気を取り直して手を動かす。

寒いのでテキパキと着替えるとレザーアーマーは着ずに上から灰色のカーデガンを羽織り、メモ帳と鉛筆を胸ポケットに入れ、一度束ねた髪をもう一度シニヨンに纏め直しながらテントを出る。

 

8つのテントに囲まれた広場はコックの食堂のような立ち位置で、フラットウッズから拝借して運び込んできた丸テーブルと椅子4脚が3セット置いてある。テーブルの上にひっくり返して置いた椅子を見ると正に営業前のレストランを思わせる光景だ。

 

広場の隅、フローリィのテントから出て右手の空き地にあるクッキングステーションではコンクリートブロックに腰かけたコックが鉄製の飯盒の中身を火にかけながら念入りに混ぜ続けている。匂いからしてジャムだろう。

 

「おはようございます、マックさん。」

 

「やぁフローリィ おはよう。」

 

にっこりと笑うコックは絵になる。

 

「やはりというか、寒いですね。」

 

「そうだなぁ。寒くて目が覚めたかい?」

 

「えぇ。」

 

「それは体に悪いな。明日からは毛布を2枚に増やすべきだろうよ。」

 

「そうですね。ところでそれはジャムですか?」

 

飯盒を指差すとまたにこりと笑ったコックが続ける。

 

「あぁそうさ。マットフルーツからジャムを作ってみたんだが、なかなかうまくできたようだね。一口食べてみるかい?」

 

スプーンを腰の縦長の木箱から取り出して見せている。

 

「...ッ!是非。」

 

「それじゃ、はいこれ。」

 

コックがスプーン1匙を火にかけている飯盒から掬い、それを受け取る。

 

「熱いから気をつけて。」

 

「はひ...」

 

「ふむ、さてと。寒いから広場の真ん中に篝火でも用意するかな?フラットウッズにところどころあるやつだけど。」

 

「はむ...んぐんぐ...」

 

「...聞いてないか...まぁいいや。味はどうだい?」

 

「...甘いですがさっぱりしてるんですね。酸味がちょうどいいです。」

 

「ブラックベリーのジャムに似た感じだな。マットフルーツ自体がブラックベリーの派生なのかもしれないが...」

 

「美味しいですね。スコーンに合いそうです。」

 

「そうだねぇ。流石にそれを焼くのは後になりそうだけど、これなら乾燥パンでも食べやすいかと思ってね。」

 

「そうですね。ごちそうさまでした。」

 

「いやいや、付き合ってくれてありがとうよ。」

 

「ふふふ、それではこれで。」

 

「また後でな。」

 

 

コックと別れるとフローリィの左隣のアリサカのテントの前を通っていく。

 

 

 

 

 

—わたしは気づいていますよアリサカさん...テントが1つ少ないですものね...?

 

 

 

 

 

大方、アリサカがハヤトに頼み込んで同じテントに居させているのだろうと当たりをつける。テントを張る作業の際にやたらコソコソしていた彼女はおそらく「うまく隠し通せた」と思っているのだろう。

 

「ふふ、ふふふ...」

 

ニヤリと笑いながらその前を通り過ぎる。

フローリィの頭の中ではアリサカが「えっ、えっ、ナンノコト?」と言っているのが浮かんではまた消えていった。

 

 

 

アリサカテントのすぐ隣がダネルのテントだが間にはフラットウッズへ向いた小道がある。そこを渡るその時、ラジオの音がかなりのスピードで接近してきた。

 

 

 

 

♪“FLASH!! BAM!! ALAKAZAM!!(「フラッシュ!バン!アーラカッザム!」)

 

Out of an orange colored sky♪

 

 

 

 

言わずもがな、ノリノリの爺である。

散歩の帰り掛けにかかったOrange colored skyにノッてスキップ気味に走り帰ってきたのだ。

 

 

 

 

反応しきれなかったフローリィは体重差から爺に弾き飛ばされ、丸テーブルに背中を打って倒れる。

 

「キャッ うぐ...ッ」

 

「おおっとすまない!大丈夫か...⁉︎」

 

メイド服の下にコルセットを使っていたので内臓が揺れる感覚があるもののあまり痛くはない。すぐに立ち上がってロングスカートとエプロンの埃を払うと爺へ答えた。

 

「うぅ......えぇ大丈夫ですよ。」

 

「いやすまない...ついノッてしまった。」

 

「ふぅ...わたしは大丈夫ですが他の方だっているのですから。っ、気をつけてくださいね?」

 

「ハイ」

 

「ふふ、それではこれで。」

 

ダネルのテントへ入った。

 

 

 

 

—爺はコックからため息混じりに「気を付けろよ」と睨まれ、

自身のテントに走り去っていったという。—

 

 

 

 

やたら長く感じたダネルのテントへの道のりたが、中ではまだクリプトンが寒そうに丸まって眠っている。テント端に畳んでおいた予備の毛布を手に取ってダネルに追加で掛ける。

 

顔は見えないが寝息は静かだ。特に寝苦しくはないようで安心しつつ、テント内の椅子に腰掛けて時間を待つことにした。

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

いつの間にか眠っていたフローリィはダネルに揺すり起こされる。

 

「フローリィ?」

 

「...ッ!お嬢様っ、申し訳ございません...」

 

「いや別にいいわよ?あなたが私に毛布かけてくれたんでしょう?」

 

「はい...」

 

「フフ、ありがとう。まぁ寝てたのはマック曰く10分もないみたいだし気にしないわよ。」

 

「すみませんでした。」

 

「いいのいいの。—私も珍しいあなたの寝顔見れたわけだし—」

 

「...?私の顔になにか...?」

 

「なんでもないわよフフフフ。さっ外の篝火にあたりにいきましょう?」

 

「...?わかりました。カーデガンを羽織ってからにしましょうか。」

 

「えぇ、そうしましょう。なかなか寒いわね。」

 

広場では3つのテーブルのちょうど真ん中に、金網の箱に火を焚いた篝火が設置されていた。そのそばではコック、ハルロ、スチュワートが話しており、また奥では据え置きのラジオを抱える爺とそれを見るウィリアムが頭を抱えている。フローリィは思った。「おそらくラジオを広場かどこかに設置したい爺がウィリアムに発電機の設置を頼んでいるのだろう。それに対してウィリアムは...頭を抱えているのだ」と。

 

「どうしましたの?Mr.アダム。ウィリアムが頭を抱えていますわよ?」

 

「おぉMs.クリプトン、おはよう。おれはこのラジオを広場に置きたいと思って廃教会から拝借してきたんだがこいつがな...」

 

「おはようダネル、フローリィ。いやアダム爺さん、当たり前だろう?だって今のところ電力を必要とするのはそれだけなんだぞ...?」

 

 

フローリィの勘が冴えている。

 

 

「ほかに必要なものを置いたらどうだ。」

 

「そういうことじゃない。とにかく今はpip-boyで満足してくれないだろうか?というかソレで十分だろう...?」

 

「むむッ」

 

「『むむッ』じゃない。わかったらもういいかね?」

 

「むむむっ」

 

「まぁ、いざC.A.M.P.で小屋でも立てれば資材の許す限りラジオならいくらでも置けるのだし今は我慢すればいいんでなくて?Mr.アダム。」

 

「むむ、むむむむっ 不利! 圧倒的に不利! わかったそうしよう...。」

 

「あぁそうしてくれアダム爺さん。」

 

「ソレを持ってわたしにぶつからないならなんでもいいですよ。アダムさん?」

 

— 爺 はその場から逃げ出した! —

 

「あらフローリィあなたMr.アダムと何か...」

 

「なんでもございませんよ。ふふふ。」

 

「あらそう?」

 

「えぇ。」

 

 

 

 

...

 

 

 

 

しばらくしてアリサカとハヤトが広場へ合流したのでコックがクッキングステーションへ向かった。朝7:00のことである。

 

アリサカのテントから2人が出てきたことに対してダネル、フローリィは生暖かい視線を送り、アリサカがそれに気付いて顔を一気に紅潮させるということがあった。アリサカ本人が気にしていたほど男性陣への広がりはなかったことがまたさらに顔を赤くしたのだとか。

 

 

 

 

 

 

 




ドゥーン
—BONFIRE LIT—


はいすいません。
反省しましたもうやらないと思います。



...




結局のところテントになりました。

前回分がそうでしたが爺の散歩徘徊回とC.A.M.P.陣地での日常描写では積極的にラジオがかかるかと思います。前書きに使用する曲を書いておくべきでしょうか?

誤字報告、ご意見ご感想をお待ちしてます。


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8 : 爺とコンピュータ

 

久々の投稿になってしまい申し訳ありません...。

活動報告をご覧いただければ私の生存は確認できますので...(露骨な宣伝)


 

 

爺はスチュワートとともにレスポンダーのシステム内に大量に残された情報を整理して、レスポンダーの残された仕事をハルロが片付けて再び情報を共有するといった作業を行なっている。

 

 

 

—ハルロはというと「少し待っていてくれ」とだけ言い残して廃教会から立ち去った。10分ほど前の話である。

 

 

 

自動化され、フュージョンコアによる半永久的な電力供給により人はいないがこうしたシステムのみが動いている。教会のベンダーロボットやキオスクと呼ばれていたレスポンダーのデータベースがそれにあたる。

 

 

 

またフラットウッズの再探索を行った。これによってこの町にもはや生存者はいないことがはっきりとした。キオスク内のデータベースに名前が残されたレスポンダーメンバーの内大半が、なんらかの要因でこの町で息を引き取ったのだ。

 

 

 

大抵のレスポンダーが当時の現状についてのホロテープを残しているために推測するのに事欠かなかった。

 

 

「自動化とはすばらしいなっ!」

 

「記録物が綺麗に残りますからね。まぁしかし希望とは言い切れない程度のものにしがみついて生きるようなそんな感じが見られますね...。」

 

「まさに『藁をも掴む』ほどに必死だったのだろうよ...戦争以来、政府の機能が停止してしまった中でどうにか生き残るのにな。」

 

「なるほど...このレスポンダーという組織はかなりの規模があるように見えますから、この分ならある程度の生き残りがいる可能性を念頭に、広い範囲を動く必要がありそうです。」

 

「まぁ、おれは元よりそのつもりだったがな。」

 

「そうですか?」

 

「あぁ。ここを探るのが終わったら、アパラチア北部のグラフトンを目指すつもりだよ。」

 

「何か当てがあってですかな?」

 

「うぅむ、それは無いが...グラフトンは工業地帯だったからな。グラフトン市もチャールストンやワトガほどとは行かずとも人口は多かったはずだ。生き残り探しと資材探しにはうってつけだろう?」

 

突然爺の口から出た知らない地名に困惑したスチュワートは左腕(pip boy)を覗き込む。

 

「あぁすまんな知らないか。おれはちっさい頃からアパラチアにいたもんだからなぁ?ハッハッハ。」

 

「えぇとぉ、まずモーガンタウンがどこです。」

 

「フラットウッズの北だ。64号線を登った先だな。」

 

「この空港がある町ですか?」

 

「あぁ。あそこには2つ空港があったからな。一つは軍に買い上げられて空軍基地になったが。」

 

「で、その上まで登ったところが?」

 

「グラフトン市だな。ダムがある。」

 

「モーガンタウンに流れる川を上った先ですか?」

 

「あぁそう、それがグラフトンダムだ。まぁその位置からではグラフトン市街が遠いのだがな。」

 

「チャールストンは?」

 

「グラフトンに比べれば近いぞ。だいたいモーガンタウンまでと同じ距離さ。64号線を逆に下れば良い。」

 

「チャールストンというと州都所在地ですね。」

 

「あぁ、チャールストンの議事堂がある。」

 

「なるほど成る程。で、我々は64号線を登って東へ出てモーガンタウン経由でグラフトンですか?」

 

「それでもいいのだがそれだとグラフトン市街まで遠い。おれは64号線を西へ出るつもりだ。」

 

「あぁ、分かりました。他の方々とはどの道別行動ですかね。」

 

「まぁそうなるだろうよ。仕方ないさ。」

 

「分かりました。」

 

ところで、...と思い出されたのはハルロの事。

 

「「奴はまだ帰ってこないの(です)かね?」」

 

まだハルロを待つ2人である。

 

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

一方その頃ウィリアムのテントにて

 

 

 

 

 

 

「さて、マックからの話でエアライフルが欲しいらしいがどの程度突き詰められるかね?」

 

「エアライフル自体の構造をよく知らないのですが」

 

「競技用のエアライフルなんてものがあるんだけども、その参考書がないとなんとも言えないね...」

 

そんなことを話しつつウィリアムの方は手元で既になにかエアライフルらしいものを作っている。

 

「ウィリアムさんそれは?」

 

「これかい?簡単に言うと水鉄砲さ。」

 

「水鉄砲ですか?」

 

銃身はパイプで作られており水鉄砲にしてはかなり径の大きいものだが、銃身下部のポンプ機構はまさに水鉄砲である。

 

「ただこれだけだと弾頭を飛ばせる程には空気を圧縮できないし気密性も低いから、これをベースに作っていこうか考えててね。」

 

「気密性と圧縮部の改良ですか。」

 

「うん。君には圧縮部の改良に貢献してもらおうかとね。」

 

「なるほど、わかりました。」

 

 

そう話すところにハルロがやって来た。

 

「よう!ウィリアム、ハヤトじゃまするぜ。」

 

ジャンクが大量に入った箱を抱えている。

 

「やぁハルロ、ジャンクだねありがとう。」

 

「こんな量をどこで手に入れたんですか?」

 

「いやなに俺は爺さんの下でキオスク内の情報整理に出てるからな。ジャンクだったら大量に手に入るのさ。」

 

「それで、箱に入り切らなくなったから抜けて来たってことさ。私の頼みでね。」

 

「なるほどそうなんですか。」

 

「まぁそんなわけでハルロの持ってきてくれた材料からエアライフルを作るとしよう。ハルロはまた戻ってくれて構わないよ。」

 

「酷い言い様じゃないか...まぁ良いさ俺にはわからない話だろうからな...ハッハッ」

 

 

 

 

 

 

...

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだ爺さん。」

 

「ハハァーンなるほどねぇそりゃてーへんだ。ハッまぁいいさ。次は農業センターに行ってくれ。フラットウッズから橋を渡ってすぐなはずだ。フローリィとMsクリプトンとアリサカくん辺りが肥料を取りに行くとかなんとか話していたからきっと居るだろうよ。気ぃつけてなぁー?」

 

「爺さん俺に拒否権はないらしいな。まぁそれが今の仕事だがな」

 

「ハッハハよろしいよろしい」

 

「...ところで爺さん、話は変わるんだが」

 

「どうした?」

 

「爺さんはフラットウッズから出てどうするんだ?」

 

「ふむ。そう決めているわけではないが、おれはレスポンダーに残る気でいるよ。パーティメンバーにはそれを強要するつもりはないのだがね。」

 

「そうか...」

 

「んで、そう聞いたからにはハルロ、君からも聞かねばな?」

 

「ハハ、まぁそりゃそうか。俺はな...アメリカ軍の生き残りどもがどうなったのか、それを調べるつもりだ。」

 

「なるほど。確かに彼らなら生きているかもしれないな。」

 

「そういうことさ爺さん。幸いにアパラチアには海軍と陸軍の基地がそれぞれあるからな。.........—それに、核ミサイルサイロもだが。」

 

「監督官の意志をつなぐか?」

 

「そのつもりさ。爺さんなら知っているかもしれないが、アパラチアには物騒なことに核ミサイルサイロが3箇所もある。あれを好き勝手にされるわけにはいかない。」

 

「そうか...嬉しいことを言うじゃあないか。ハハッまぁ気ぃつけてな。」

 

 

 

「まぁこれでも持っていけ」とスチュワートがハルロに弾薬箱を渡してやると「助かる」と笑いながら数種類の弾薬袋と手榴弾を手に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハルロが農業センターへ向かってから30分ほど経っただろうかと言うころ。

 

 

突如、アパラチアラジオが途切れて緊急無線放送がpip-boyに受信された。

 

 

『全レスポンダーへ自動メッセージ、

農業プランセンターのミスターファームハンドが誤作—』

 

 

「あぁ...?」

 

「農業プラントセンターのロボットが誤作動...ということは...っ?!」

 

 

スチュワートが取り乱す横で爺が叫ぶ。

 

 

「こんのやろうッ 自動化制御のクソったれがぁぁ!!」

 

 

アパラチアラジオが切れたことに対する怒りが爆発したようだ。

 

 

 




 
しかもたいして話に進展が無いということにもまた重ねてお詫び申し上げます...。



誤字報告、感想などお待ちしてます。

追記: 各話に通し番号を振りました(忘れていました)。


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