5年くらい前まで某掲示板にて細々と書いていたSSだったんですが、プライベートの忙しさから足が遠のいてしまい、今更そこに戻るのもやりづらくなってしまったので、当時の作品を加筆訂正しながら連載していこうと思います。更新頻度は、ちょっとわからないです……
学校の昼休み。
あるものは食堂に駆け込み、またあるものは友達で集まって弁当を広げる。
世界のどこにでもあるような風景だ。
そしてエリア11のトウキョウ祖界に位置するこのアッシュフォード学園も例外でなく、同じ風景がみられた。
そしてその学園の屋上では、一組のカップルがお弁当を食べていた。
赤髪と銀髪の組み合わせ。どこからみても目立つ組み合わせである。
いつもと同じ風景――のはずだったが、今日は何かが違った。
さんざん朴念仁、天然と言われ続けてきた銀髪の彼氏も、さすがにその何かには気がついていた。
「カレン。いつもと雰囲気が違うけど、何かあったのかい?」
「ううん、なんでもないの。少し考え事をしていただけよ」
「だったらいいんだけど……」
赤髪の彼女――カレン・シュタットフェルトの悩みの原因は、今隣に座っている彼氏――ライ本人だった。
それは先日チョウフで、四聖剣とともに日本解放戦線の藤堂中佐を救出するときのことだ。
カレンは紅蓮弐式に騎乗し、ゼロと共に藤堂中佐を救出した。
そしてその後に現れたブリタニアの白兜との戦い。その戦いの中で、白兜のパイロットは同じ生徒会役員のスザクだったということをカレンは知った。
『スザクと同じ技術部の所属なんだ』
ライが以前言った言葉。
技術部ならば、黒の騎士団としての自分と戦うこともない。
だからこそ、安心してブリタニア軍所属のライとも付き合ってこれた。
昔はブリタニアの学校に通うことが嫌でしかたなかったが、ライという彼氏ができてからは昔は嫌だった毎日も楽しくなってきていた。
それなのに――――
「……ねぇ、ライ」
「なんだい?」
「その……スザクってあの白いナイトメアのパイロットなのよね?」
「うん。そうだよ」
「あなたもスザクと同じ部署ってことは、もしかして……戦場に出たことも…………」
「…………うん」
その言葉にカレンの表情はさらに暗くなる。
自分の不安が真実だとわかってしまった。
(やっぱり…………もう一体の白兜のパイロットって…………)
その表情に隠された真意を知らないライは、カレンは自分に危ない目にあってほしくはないのだと解釈した。
「でも大丈夫だよ、カレン。僕が騎乗しているのは、スザクが乗ってるランスロットと同じで第七世代のナイトメアだ。
黒の騎士団や他のテロリストのナイトメアとは機体性能が格段に違う。それに、スザクと一緒に戦っているから危ない目には…………」
「そういうことじゃないの!!」
「……カレン?どうしたの急に?」
自分の感じている不安とは全く違う、しかしそれでも自分の心配をしてくれているライの心からの言葉。
彼の気持ちはうれしい。だが、この場合は逆にそれが辛かった。
「私が言いたいのは…………そういうことじゃないの…………」
「じゃあ、いったい何が?」
「ごめんなさい…………言えないの…………」
(こんな言葉言いたくなかった。きっとライは今ので私との間に距離を感じてる。私たちの関係は…………もう…………)
「…………わかったよ。カレンが言いたくなったら言ってくれればいい。それまで僕は待ってるから」
言えるわけがなかった。自分が黒の騎士団のエースで、ブリタニアと戦う張本人だということを。
その事実が、余計にカレンを苦しめていた。
その日の夕方。
カレンは黒の騎士団のアジトで紅蓮を前に一人でぽつんと座り込んでいた。
先程の模擬戦で目もあてられないほどの失態をし、なんともない段差で躓き、扉を開けることなく衝突するといったことまでやってのけた。
「…………はぁ」
そして今日10回目のため息。
「私…………どうすればいいんだろう…………」
今まで、日本解放のために戦ってきた。そのためにブリタニアの兵士を何人も殺してきた。
そのことには微塵も迷いはなかった。
「私、ライのことを殺そうとしたこともあったのよね……」
思い出すのはナリタでの戦闘。
コーネリアのグロースターを追い詰めたときに現れた、白兜とサザーランド。
あの時は白兜のパイロットがスザクとは知らなかったから、あのチグハグなツーマンセルをあまり疑問には思わなかった。
しかし、名誉ブリタニア人であるスザクとツーマンセルで行動するブリタニア軍人がいるとは考えにくい。
つまり自然と、そのサザーランドにはライが乗っていたのではないかと予想ができるのだ。
あの時、自分は何をしたのか。邪魔をされたことに腹がたち、輻射波動で殺そうとしたのではなかったのか。
フトウでの強襲。
はじめてのもう一体の白兜との出会い。あの時も彼を殺そうとしていた。
愛する人と戦い、殺しあわねばならない。
カレンに日本解放という夢を越える存在ができてしまった以上、戦わなければならない理由が見いだせなかった。
「どうすればスザクを仲間に引き入れられるだろうか。ギアス……いや、それはダメだ。
それにもう一体の白兜。こいつをどうするか…………」
ゼロは自分の部屋で今後の作戦を考えていた。今の1番の課題は、2体の白兜の対処法。
それがゼロの計画にたいする最大の障害だった。
「ゼロ。少し…………お時間いいですか?」
「あぁ。入れ」
(カレンか。ちょうどいい。パイロットが同じ生徒会のスザクとはいえ、対処するには彼女の技量が必要だ。意見を聞いてみるか…)
そう思いながら、顔を向けたゼロは驚いた。
いつものゼロへの尊敬の眼差しはなく、男勝りな様子もなく、はっきり言って普通の女子学生のようだった。
「どうした?カレン。何か問題でも?」
カレンはゼロの問いに答えず、代わりに紅蓮の起動キーを机の上に置いた。
「これは…………どういう意味だ?」
しばらくの沈黙のあとの2回目のゼロの問いに、カレンは彼女らしからぬ、やっと搾り出したかのようなか弱い声で呟いた。
「私…………もう紅蓮には乗れません」
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第2話
「私・・・・・・もう紅蓮には乗れません」
兄の意志を継ぎ、日本を取り戻したいという信念。
兄以外に初めて出会った心から愛せる人。
どちらを選べばいいのか。
カレンが悩み抜いて選んだのは後者だった。
『・・・・・・それはどういう意味だ?』
「そのままの意味です」
再び同じ問いに、今度は即答した。
『・・・・・・一応、理由を聞かせてもらおうか』
(カレンが紅蓮を降りてしまえば、黒の騎士団の戦力は大幅に下がってしまう・・・・・・
そうなれば、ブリタニアに反逆するどころか組織を維持することもままならなくなる・・・・・・!)
焦っている内面とは裏腹に、ゼロは落ち着いた口調で問いかけた。
「実は、もう一体の白兜のパイロットがわかったんです」
『何だと!?』
この情報にはゼロも驚いた。
すでにディートハルトに指示をして情報を探らせていたが、よもやカレンの口からその情報が語られるとは思ってもいなかったからだ。
一瞬の驚きのあと、ゼロは1024通りの策を考案する。
どのような人物の名前が出てもいいようにと。
(・・・・・・いや待て。なぜあの白兜のパイロットと、カレンが紅蓮からおりることが関係する?・・・・・・まさか!)
「あれのパイロットは・・・・・・ライです・・・・・・」
(くそ!あたりか!)
ゼロの正体であるルルーシュも、もちろんカレンとライが恋人であるということは知っている。
だが“ゼロ”にとっては、ライは過去にカレンが騎士団に推薦してきた日本とブリタニアのハーフというだけの人間であり、カレンとの関係も知らない。
動揺が声に表れそうになったゼロだったが、なんとか押さえ込んで質問を続けた。
『確か、カレンの同級生だったな。以前シンジュクゲットーでテロに巻き込まれたときに助けてくれたという奴で間違いないな?』
「・・・・・・はい」
『しかし、なぜ彼があれのパイロットであるのと、君が紅蓮からおりることが関係あるのだ?
枢木スザクも同級生だったはずだが、彼と戦うことにためらいはなかったはずだが?』
頭の中で会話をシミュレーションしながら、ゼロは会話を続ける。
できるだけカレンの心を傷つけないように、尚且つゼロとしての威厳が保てるようにと。
「・・・・・・彼とは・・・・・・恋人なんです」
『・・・・・・やはりな。何となく予想は出来ていた。だが、それを理由にするということは、戦争に私情を持ち込んでいるということになるかが』
「わかっています。だから私は紅蓮を――『違うな。間違っているぞカレン』――え?」
思わぬゼロからの言葉に、カレンは俯きかけていた顔をあげる。
『こういう言い方はしたくないのだが、君は黒の騎士団のエースだ。君が前線からいなくなるだけで団員の志気も下がる。大切な人を傷つけたくない。そのためには自分の居場所を失っても構わない。その決断力の強さは認めよう。ただ、考えてみてほしい。君がいなくなるだけでどれほどの人が傷つき、そして死んでいくのかを。それでもなお、君は紅蓮から降りると言うのかな?』
「それは・・・・・・」
カレンは何も言い返せなかった。
今までの黒の騎士団の作戦は、紅蓮という強力なナイトメアがあったからこそ実現してきたものがほとんどだ。
四聖剣や藤堂が合流したとはいえ、自分の前線離脱での戦力ダウンはかなりのもの。
共に戦ってきた仲間が死ぬ確率が上がるということは、カレンにでもわかることだった。
『君が紅蓮からおりることは許されない。だが、彼のことはこちらでもできるだけ対処をしよう。……辛いだろうが、そこは覚悟を決めてもらいたい』
「わかり・・・・・・ました・・・・・・」
カレンは肩を落とし、俯きながらゼロの部屋から出ていった。
(すまない、カレン・・・・・・)
ドアが閉まる直前、ゼロは少女が流す涙の音を聞いた気がした。
「カレン……」
ライは、生徒会室で作業をしながら、無意識に呟いていた。
あの日――ライがナイトメアに乗っていることをカレンに明かした日から、カレンはぴたりと学校に来なくなっていた。
最初は、また体調が悪くなったのだろうかと思っていたが、連絡が取れないまま3日が過ぎた今では、その可能性を排除していた。
付き合いはじめてから今まで、1日でも休むことがあれば必ず連絡をしてくれていたからだ。
(やはり、ナイトメアで戦場に出ているって言わなかったほうがよかったかな……?)
悩みつつも、徐々に迫りつつある学園祭に向けて様々な書類を片付けていくライ。
(……あれ?)
ふいに、周りの視線が自分に向けられているのにライは気がついた。
哀れむような目つきで見てくるルルーシュ。
ニコニコしているスザク。
なぜか悔しそうにしているリヴァル。
そして何かをたくらんでいる目つきをしたミレイを見て、自分が何かをしてしまったのだということを自覚した。
しかし、ライには自分が何をしたのか検討がつかなかった。
「あの……何か……?」
「何かって……今自分でカレンの名前を呟いたこと気がつかなかったの?」
「……あ」
ミレイに言われ、確かに言ったかもしれないと思い、ライは顔を赤くする。
「無意識のうちに彼女の名前を呟いちゃうって……重症ね」
その言葉に、さらにライの顔は赤くなる。
「で?ライは愛しのカレンが最近学校に来ないから寂しいのかな?」
「えっと……その……そう……ですね……」
そう恥ずかしがりながら話すライを見て、リヴァルが叫ぶ。
「人は皆平等ではない!こんなところで皇帝陛下のお言葉に共感するとは思わなかった!!」
うわぁぁぁ!と叫びながら、そのままリヴァルは生徒会室を出ていった。
それもそのはず、スザクがユーフェミアの騎士となった今、独り身であるのはリヴァルだけだからだ。
ライはカレンと、ミレイには婚約者がいて、現在ルルーシュはシャーリーからの一方的な好意だが、そういう存在すらいないリヴァルにとっては羨ましい状態であることにかわりはない。
ニーナは異性に興味はないし、ナナリーはルルーシュという最大の壁があるから誰も手出しはできない。
「ミレイさん……?あんなになったリヴァルを放っておいてもいいんですか?」
「そのうち戻ってくるから大丈夫よ」
揚げ句の果てには、自分の思い人から適当にあしらわれる始末である。
リヴァル・カルデモンド。
つくづく不幸な男であった。
「ところでライ。一つ聞きたいことがあるのだが」
「ん?なんだいルルーシュ?」
リヴァルもいなくなり、そろそろいいだろうと思ったルルーシュは話を切り出した。
「確か、前に『スザクと同じ部署で働いている』と言っていたよな?で、そのスザクは実はブリタニアの最新鋭機である白いナイトメアのパイロットだったわけだ。それならば、ライもナイトメアのパイロットをしているということが簡単に予想できるが、実際のところはどうなんだ?」
ライはその質問に顔をしかめた。
今までみんなに心配をかけたくないと黙っていたことだからだ。
(でも、スザクのことが公になったし、今ここにいるのは僕の保護者のミレイさんと親友ともいえるルルーシュだ。無理に黙っている必要もないか・・・・・・?)
ちらっとスザクを見ると、その顔が『しかたがないよ』と物語っている。
それを確認し、ライは口を開いた。
「その通りだよ。僕もナイトメアで戦闘に参加したことがある」
「……やはりな」
ライの言葉に、ミレイの顔つきが一気に真剣なものへと変わる。
「どうして今までそのことを黙っていたの?」
「みんなを心配させたくなかったからで――」
「カレンはこのことを知ってるの?」
すかさずミレイ質問を重ねられる。
その声は、心なしか少し鋭くなっていた。
「……はい。3日前に話しました」
「その時のカレンの様子は?」
「・・・・・・怒っていたと思います」
――何にたいしてかはよくわかりませんでしたが、とライは付け加えた。
ミレイは、その言葉を聞いて結論を出した。
「この3日間、カレンが来ないのはあなたのせいかもね」
「えっ?」
「きっと、あなたが死ぬかもしれないという現実と向き合いたくないのよ。
まぁ、私はカレン本人じゃないからこれが本当のことかはわからないけどね」
「そう……ですか……」
(カレンの事を思ってしていたことが、逆に彼女を苦しめていたのか……これじゃ彼氏失格だな)
彼女の不安を取り除こうと思い、正直に打ち明けた自分の職業。
それが彼女の負担になっていたと知り、ライの心は痛んだ。
(カレンとしっかり話をしなくちゃな。僕は今や自分の記憶の事のためにナイトメアに乗っているというわけじゃないということも……)
もともと、自分の記憶探しの手がかりになれば、と思って特派に入ったライ。
しかし、今では自分の過去の記憶などどうでもよくなっていた。
アッシュフォード学園で生徒会の仲間達と過ごす日々。
スザクたち特派の面々との生活や、ラウンズであるノネットとの交流。
そして何より、かけがえのない存在であるカレンの事が大きかった。
――今、このときを大切に生きて生きたい。大切な人たちを守りたい。
それが今のライにとっての戦う理由、生きる理由だ。
(いつかカレンと本音で話し合いたいな。カレンが『病弱なお嬢様』を演じている理由も含めて……)
その『いつか』が意外にも早く、そして悲しい別れとなることに気づいているものは誰もいなかった。
どうも、お久しぶりです。
インフルエンザとか、テストとかやってたら前回からこれほど時間が空いてしまいました。
めでたく休みに入ったので、ゆっくりちょくちょく更新していきたいと思います。
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第3話
――式根島。
伊豆諸島を構成する島の一つであり、新島の南西に位置する面積3.9平方キロメートルの島である。
ここに、現在エリア11で対立する2つの勢力が集まっていた。
ブリタニア軍と黒の騎士団である。
ブリタニア軍側では、式根島を訪れる第2皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアを出迎えるために、第3皇女ユーフェミア・リ・ブリタニアと彼女の騎士である枢木スザク、そして彼が所属する特派の面々が訪れていた。
その面々の中にはライも含まれていた。
先日のチョウフでの一件でナイトメアの騎乗資格を停止されていたが、スザクとセシルが『気分転換になるから』と言って強引に連れてきたのだった。
「でも、本当に僕が来ちゃってもよかったんですか?いざというときにナイトメアにも乗れないですし……」
「いいのよ、あなたはここに休暇に来たとでも思っていてくれれば」
「そうだよ、ライ。ここは海も青く澄んでいるし、空も綺麗に見える。体を休めるにはもってこいのところだと思うけどね」
「君ね、役に立たないなんて大間違いだよ?君はスザク君並の身体能力があるんだから、万が一スザク君がランスロットで出撃中にテロリストが来ても、その身体能力で皇女殿下をお守りできるんだよ?」
ライの身のことを気にかけているスザクとセシルとは裏腹に、ロイドはあくまでもライの能力だけを見て声をかけた。
いつも通りにそれを聞いたセシルがロイドに説教を始める。
ライとスザクはそれを苦笑いしながら眺めていた。
「ライ。カレンと話はできた?」
「……いや、まだだ」
ルルーシュとミレイに自分の本当の仕事を告げたあの日から後は、スザクの騎士就任の準備や事務作業に追われて学園に行くことすらままならなかった。
そのため、カレンが学園に顔を出していたとしても直接あって話をすることもできず、また、メールでの連絡は依然としてとれないままであった。
「だったら、今日は誘わないほうが良かったかもしれないね」
「いや。いいんだよスザク。さっき君が言ったように、ここにいるとなんだか心が安らぐんだ。それに、何か自分が変われる気がするんだ」
「どういうこと?」
「さぁね。ただ、ふとそう思っただけさ」
そう二人が話していると、遠くから爆発音が聞こえてきた。
「!?なんだ、今のは?」
二人が音のしたほうを見ると、黒煙が立ち上っているのが見える。
明らかに何かが燃えているような色。
それもただの火事のようなものではない。
ライは、煙の見える方角と、事前に調べた式根島の地理情報を照らし合わせた。
(あの方角……まさか……!)
「何事ですか?」
音を聞いて外に出てきたのであろう、ユーフェミアが近くの軍人に問いただした。
「皇女殿下!?危険です、一度船の中にお戻りください!!」
すぐに皇女の身を守ろうとしたのは、彼女の騎士であるスザクだった。
しかし、彼女はそんなこともかまわずにその場にい続けて軍人からの説明を待つ。
「守備隊の司令部がテロリストの奇襲を受けているようです」
「そんな!?なぜいままで察知できなかったんですか?」
「特殊なジャミングを使われているようで、直前まで探知できなかったようです」
ブリタニア皇族を巻き込みかねない危険事態に、軍人たちは急遽対応策を練り始めた。
「ご安心下さい。皇女殿下の事は、自分が守ります」
スザクはすぐに自分の主君であるユーフェミアの警護を名乗り出た。
「いえ、あなたは司令部の救援に向ってください。せっかくの戦力をここで私一人のために遊ばせておくわけにはいきません」
「しかし……」
「枢木スザク、私を守りたいと言うのなら、速やかに敵を追い払い、私の元に戻ってきてください」
「……イエス、ユア・ハイネス!」
「スザク。さっきロイドさんが言ったように、いざとなったら僕が殿下を守るから。君が戻ってくるまでの安全は任せてくれ」
「……ありがとう、ライ」
ライの言葉を受け取ってスザクはランスロットに乗り込み、司令部に急行した。
紅月カレンは紅蓮弐式に乗っていた。
先日、ゼロから告げられた『ライという少年は、先日のチョウフの一件でナイトメアの騎乗資格が停止させられているらしい』という言葉。
それを聞いてこの作戦で紅蓮に乗ることは承知したものの、やはり以前と違ってためらいなくブリタニアのナイトメアを破壊できなくなっていた。
白兜をおびき寄せるための司令部強襲の作戦中でも、輻射波動の使用頻度が激減し、呂号乙型特斬刀での駆動系を破壊する、パイロットの命を奪うことないような攻撃を続けていた。
そしてスザクの乗る白兜が現れ、ゼロの乗る無頼を追いかけ始める。
「ライ…………」
その機影を見て、カレンはここ最近メールすらも無視している彼氏のことを思い出す。
自分が彼を心配させていることはちゃんとわかっている。
それでも、黒の騎士団としての自分とブリタニア軍人としての彼が存在している以上、安易に連絡を取ることはできなかった。
『どうした紅月?!我々も早く集合地点に向うぞ!』
「わかりました!」
藤堂の言葉に、しばらく呆然として白兜とゼロの無頼を見ていたカレンは紅蓮を集合地点――ラクシャータによるゲフィオンディスターバーが設置されている砂地へと向った。
『枢木スザク、出てきてくれないか?話し合いに乗らない場合、君は四方から銃撃を受けることになるが?』
カレンの乗る紅蓮の前に広がるくぼ地の中で、ゲフィオンディスターバーによって動きを止められた白兜と無頼が対峙していた。
ゼロは既に無頼を降り、その姿を現している。
スザクもそれに応じ、コクピットから降り立つ。
何かを話しているようだが、コクピット内にいるカレンには聞こえない。
しかし突如スザクがゼロから銃を奪い、羽交い絞めにして彼を拘束した。
「あいつ!」
『動くな。力場の干渉を受けるぞ』
「でも!」
ライと戦うことには抵抗はあっても、目の前にいるスザクと戦うことにはそれはない。
自分達に日本解放という夢を見せてくれたゼロをみすみすと殺させるようなことをするのなら、スザクを殺すこともいとわなかった。
しかし場合が場合であるためにゼロを助けられないことが、ゼロの親衛隊隊長であるカレンにとって辛いことだった。
『藤堂さん!レーダーに多数のミサイルの反応が!』
その通信を聞き、カレンもレーダーに目を走らせる。
(多すぎる……ゼロを助けないと!!)
カレンが行動に移ろうとしたちょうどそのとき、林の中から黒の騎士団のものでない1機のナイトメアが現れた。
(嘘……なんで……?)
白いナイトメア。
カレンの愛する人が乗る機体だった。
それを見て、黒の騎士団のナイトメアが一斉に臨戦態勢を取る。
『待ってくれ!交戦の意志はない!ミサイル迎撃に協力する!』
オープンチャンネルで告げられるその声は、間違いなく彼のものだった。
カレンが唖然として動けない間に藤堂の機体がほかの期待を制止し、通信をかえした。
『なるほど。命令より戦友を選ぶか。承知した。そちらが手を出さない限り貴公の行動には干渉しない』
(良かった……)
藤堂の言葉にカレンは感謝した。
あやうく、愛する人を失いかけたのだから。
藤堂の言葉を受け、白いナイトメアはアサルトライフルを狙撃モードに切り替えて射撃を開始した。
半分ほどまでミサイルが減ったところで、ライは射撃をやめた。
(エナジーが足りない……これでは通常射撃も無理だな……)
「すまない!こっちはここまでのようだ。後を頼む!」
ライの言葉に返答はなかったが、藤堂のナイトメアは左腕を空に向けた。
それに追従するように黒の騎士団のナイトメアがそれぞれの武器を空へ向ける。
藤堂の指揮の下、黒の騎士団のナイトメアは全力で対空射撃を開始した。
(だが……ミサイルの数が多すぎる)
スザクはゼロをランスロットのコクピットにゼロを押し込んだまま動かない。
あくまでも命令に従うつもりで、その身を犠牲にしようとしているようだった。
ミサイル着弾まであと少し。
残されている時間はない。
同じように感じ取ったのか、紅いナイトメアが動きだしてゼロを救出しようとする。
しかしそのナイトメアも、ランスロットと同じように機能を停止してしまった。
そしてナイトメアから一人の紅い髪をした少女が飛び出す。
「スザク!ゼロを離せ!私は……私は、生徒会のカレン・シュタットフェルトだ!こっちを見ろ!!」
(カレン!?なぜここに!?いや、それよりもこのままでは彼女が危ない!!)
ライは反射的にコクピットを飛び出して、ユーフェミアのことをも忘れて彼女のもとへと向かっていた。
驚きよりも、主君の事よりも、彼女の命を守らなくてはならないという気持ちが彼を彼女のもとへと動かしていた。
「カレン!!」
ライの声にカレンは彼の姿を見て足を止めた。
「どうして!?どうしてあなたも出てきちゃうのよ!!」
「それは――」
ライが言葉を発しようとした瞬間、辺りを闇が包んだ。
正体を探ろうと空を見上げると、そこには1隻の戦艦が飛んでいた。
「空飛ぶ……戦艦?」
ライの隣では、カレンも呆然と立ち尽くしている。
黒の騎士団のナイトメアの軍勢がいっせいに攻撃を開始するが、ランスロットやクラブと同じブレイズルミナスによって全て防がれていた。
その数瞬後、空中戦間の下部ハッチが開き、そこから赤黒い光が放たれて辺りは光で包まれた。
そして光が晴れたときには、そこにいたはずの5人の姿は見えなくなっていた。
昔某スレで掲載していたときは、この話はもう少し長かったのですが、ここで区切りがよくなったので、少し短いですがここでこの話を終了にします。
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第4話
滝の下で、一人の少女が水浴びをしていた。
ゼロを助けるために飛び出し、もっとも戦場で会いたくなかった人と出会ってしまった黒の騎士団のエースパイロット。
普段騎士団の仲間からは『がさつ』、『女っ気がない』などと言われているが、現在恋愛真っ盛りの年相応の女でもある。
そんな彼女がナイトメアを操縦して汗だらけになった自分の体をそのままにしておくはずもなく、意識が戻ったときに近くにあった水場で水浴びを始めていたのであった。
もちろん、周囲への警戒は緩めていない。
隠しナイフであるポーチを忍ばせた騎士団の制服も手を伸ばせばすぐに届くところにある。
相手がナイトメアで攻撃してこない限りは対処できる自信あった。
「!?」
ふと、誰かの気配を感じた。
こちらの様子を伺っているのか、一瞬感じた気配はすぐになりを潜め、再びあたりを水音のみが支配する。
直後、かすかに揺れる草の音。
そのわずかな音にも反応したカレンは、服を着ることもなくそのまま騎士団の制服からポーチを取り出し、ナイフをきらめかせながら一目散に駆けつける。
視界に入ったのは、ブリタニア軍の制服。
何のためらいもなく、ナイフを相手の急所へと――
「きゃっ!」
突き出したナイフは相手の肉体を傷つけることなく、代わりに自分の手をつかまれて体が宙を舞う。
背中から地面にたたきつけられ、気がついた時には手にしていたナイフが自分の首筋へと当てられていた。
しかし、その軍人はそれ以上手を動かさない。
「……はやく……殺しなさいよ」
空高く輝く太陽が逆光となって軍人の顔が見えないカレンにはその行動の真意が見出せない。
しかし、その考えは彼の一言によって打ち砕かれた。
「やっぱり、カレンはお嬢様を演じていたんだね。僕は今のカレンも好きだけど」
「えっ?」
固定したナイフをはずし、カレンの手をとった銀髪の少年は笑みを見せながら言った。
「ライ……?」
「そうだよ、僕だ。正真正銘の君の彼氏で、ブリタニアの騎士でもあり、ランスロット・クラブのパイロットだ」
ライのその言葉に、カレンの顔は一瞬暗くなる。
「でも、今は僕たち二人しかいない。黒の騎士団もブリタニア軍も関係ない。ただのライとただのカレンだよ」
続いた彼の言葉に、暗くなった顔もすぐに明るくなる。
カレンは感極まって、そのままライに抱きついた。
いきなりのカレンの行動に、ライは顔を赤くしながら言う。
「……その、彼氏としてはこういうことは嬉しいんだけど、状況を考えてからにしてくれないか?」
ライの言葉にカレンは辺りを見回す。
しかし誰の姿も視界にはない。
「別に、誰もいないからいいんじゃない?」
「いや……その……そうじゃなくて…………そういう姿で抱きつかれるのは、理性を保つのが……」
そこまで言われて、カレンは今の自分を見る。
先ほどまで彼女は水浴びをしていた。
そして物音に警戒して、そのままの姿で飛び出していたのである。
だから今の彼女は何も身につけることなく、生まれたままの姿でライに抱きついていたのだった。
その事実に気がつき、カレンの顔が紅蓮と比べても負けないくらいに真っ赤になる。
「ライのバカ!エッチ!スケベ!ど変態!!」
そう叫びながら放ったカレンのパンチが、見事にライのみぞおちに決まった。
それを見て、カレンは自分がした事に気がついて慌てて謝り始めた。
「ご、ごめんなさい!大丈夫?!」
「だ……大丈夫だ……それより早く服を……」
そこまで言ってライの意識は途絶えた。
「どどどどどどどうしよう!」
ライを気絶させてしまったことに焦り、彼の手を握って辺りを見回す。
もちろん、どこにも助けてくれる人などいない。
とりあえずライに言われたとおりに服を着て、再び彼のもとへと戻る。
「気絶してるとはいっても、綺麗な顔して寝てるわね……女の私でも惚れ惚れしちゃうわ」
そんなことを呟きつつ、カレンは今後の事を模索し始めた。
目が覚めたときに確認したように、カレンは通信機器を一切持っていない。
それにどうやら黒の騎士団もブリタニア軍もこの島にはいないようなので、式根島でないであろうということは予想できる。
自分一人ならそれなりにできることはあるのだが、今は一応敵方のライと一緒なのだ。
最初に出会う人間がどちら側の人間かによって、今後の対応が決まってしまう。
それもふくめて、二人でしっかりと話し合わなくてはいけなかった。
そのための第一段階は、カレンが気絶させてしまったライを起こすことだった。
「寝ている人を起こすっていうと、昔から定番なのは――いや、だめよカレン!いくら恋人同士だからといって、寝ている人にそんなことをしちゃ!」
そんなことをいいながらも、カレンの顔は徐々に隣に寝ているライの顔に近づいていく。
(少しくらいならいいわよね?私たちは付き合ってるんだし、初めてのキスというわけでもないし……)
あとわずかでカレンの口がライの口に触れようというちょうどそのとき、お約束かのごとくライは意識を取り戻した。
「くっ……」
「ほわぁ!!」
すっとんきょうな声を上げて、カレンはライから飛びのいた。
そんなカレンを見つけて、ライは不思議そうに尋ねる。
「ん……どうしたの、カレン?」
「ななななんでもない!!」
明らかに挙動不審なカレンに首を傾げつつも、彼女がなんでもないというならいいか、と思ってライはそれ以上追求しなかった。
ライとカレンの二人が食料として魚を大量に捕まえ、それを焼きはじめたころには空は暗くなっていた。
そしてこのとき初めて、二人が落ち着いて話せる時間が生まれた。
しかし、二人とも立場が立場なのでなかなか口を開くこともなく、ただ黙々と焼き魚を食べ続けるだけだ。
ライにとって、ブリタニア軍とは自分の記憶を取り戻すための手がかりであり、アッシュフォード学園のみんなを守るためのものに過ぎなかった。
一部の軍人のように軍を純粋なブリタニア人で組織しようという考えなどももたないし、普通のブリタニア人のようにイレヴンを差別しようとも思わない。
黒の騎士団と戦いはするが、彼らの戦う理由を一方的に否定することもない。
もともとここは日本と呼ばれた彼らの国なのであり、それを取り戻そうと戦うのは当たり前の事だともいえる。
それに他のテロ組織と違って一般人を巻き込んで戦うようなことはほとんどなく、まさに正義の味方といったようなものだった。
それでも、ブリタニアに戦いを仕掛けるということはライの戦友たちを殺そうとしてくるということでもある。
そのほとんどがナンバーズに差別的な意識を持っているとはいえ、共に戦った仲間であることには違いがない。
彼らが死ぬのを黙って見過ごすわけにはいかない。
それよりも、なす術もなく知り合いが死んでいくということに対するライ本人もよく知らない感情が彼を戦場へと立たせていた。
カレンにとって、黒の騎士団は自分の兄の夢を達成するための手段であり、日本人として自分がいられる大切な場所だった。
シンジュクで初めてゼロの指揮下で戦い、彼がいれば兄の夢がかなえられると思って所属をし続けてきた組織。
ナリタでシャーリーの父親を犠牲にしてしまったことは精神的につらいことではあったが、この犠牲のためにも一刻も早く日本を取り戻したいと考えていた。
彼女にとっての最大のイレギュラーは、ブリタニア軍に所属するライと恋におちてしまったことだった。
技術部所属と聞いていたからこそそのまま戦い続けることができていたし、早い段階で日本独立を達成できたのなら、ハーフであると聞いていた彼とともに新しい日本で生きていけるとも思っていた。
結局はそのはかない夢もついえて、こうして敵同士として二人は対峙する事になってしまった。
「ごちそうさまでした」
最初に沈黙を破ったのはライだった。
このまま沈黙が続いてもなにも始まらないと思い、1番自然に口を開けると思った食後の挨拶をしたのだった。
それをうけ、黙りっぱなしだったカレンも口を開く。
「はぁ~おいしかったぁ~」
「そうだね。普段こんなものを食べないから新鮮だったし。新鮮といえばカレンの素の姿も新鮮だったけど」
「もしかして、素の姿を見て私のこと嫌いになった?」
今のカレンにとって、一番の不安はそれだった。
ライも学園での『お嬢様との自分』の事が好きだったのではないかと。
「そんなことないよ。最初に言ったけど、僕はその素のままのカレンも魅力的だと思う。それに、君がどんな性格をしていようともカレンはカレンだ。僕が君の事を好きだっていう気持ちは変わらないよ」
「…………ありがとう」
ライのこの言葉が、カレンに決心をさせた。
チョウフのとき以来、心にはあったもののけっして考えないようにしてきたことを。
「ひとつお願いしたいことがあるの」
カレンの表情はいつになく真剣だ。
その真剣な表情に、ライも思わず姿勢を正してしまうほどである。
「なんだい、カレン?」
「私を……私を、ブリタニア軍に入れてほしいの……」
それは、カレンの決死の覚悟で紡ぎだした一言だった。
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第5話
ストックを少しずつためていますが、足りなくなったら更新速度が落ちると思います…
「私を……ブリタニア軍に入れてほしいの……」
「えっ……?」
カレンの言葉にライは耳を疑った。
日本人のことをイレヴンと呼んで差別をし、虐げていたブリタニア軍に入るというカレンの言葉。
公園で偶然見かけたその光景にとてつもない怒りを見せていた彼女が、そんなことを言うなんてライには信じられなかった。
「それは……どういう……?」
「そのままの意味よ。私は今まで、ブリタニアから日本を取り戻すために黒の騎士団として戦ってきたわ。それが、私にとって一番大事だったお兄ちゃんの夢だったから。でも、今の一番は――あなたなの」
昔からカレンに優しくしてくれた兄、紅月ナオトの存在。
ブリタニア人とのハーフだということで、あまり多くはなかったがいじめを受けたこともあったカレンにとって兄の存在は大きかった。
当時日本との関係がぎくしゃくしていたブリタニアとのハーフである自分を、なんの隔てもなく優しくしてくれたただ一人の兄。
そんなカレンとナオトの関係は、ルルーシュとナナリーの関係に似ている部分がある。
ルルーシュがナナリーを溺愛していることに類似することがないなど違うところもあるが、基本的には同じような関係だ。
カレンにとって心から安心して生活できたのは、兄と母、そしてたまに顔を出しに来ていた扇と過ごしていた時間だけだった。
ルルーシュとナナリーが、スザク以外の人間を信用せずに日本での留学生活をしていたのと同じような状況にあったのだ。
だから、ルルーシュがナナリーのためにゼロとなって戦っているのと同じように、カレンもまた兄の夢のために今まで戦ってきた。
その信念が今、転機を迎えていた。
「私はあなたの役に立ちたい……あなたのために戦いたい……そのためなら、何を失ってもかまわないわ……」
日本人としての自分も捨ててもかまわない。
あれだけ嫌っていたシュタットフェルトの名を名乗ることもいとわない。
尊敬し続けてきたゼロの敵として戦うことにもためらいはない。
愛する人――ライのためになら何だってできる。
「……カレン。本気で言っているのか?」
「えぇ」
『何を失ってもかまわない』
この言葉がライのどこかで引っかかっていた。
確証のもてる疑念ではない。
ただ先ほど脳裏にちらついた映像が頭から離れなかった。
槍や矢が飛びかう戦場のひとつになったその町に、戦いの後に残されたのは人々の死体しかない。
老若男女、民兵問わず、全ての人が息絶えていた。
そしてその中心で打ちひしがれている銀髪の青年。
何もかも――自分自身の肉親すらも失った彼。
『何を失ってもかまわない』という決意の元、愛する人たちのために戦った男の末路だった。
その映像が何を意味するのか、なぜその映像の背景が自分にわかったのか、ライにはわからない。
しかし、カレンの決意がいい方向に進まないと何かが全力で警告しているのだとライは感じとっていた。
「……カレン。残念だけどその頼みは受け入れられない」
「どうして?!ライは私と殺しあうことになってもいいの?!」
「違う!そんなことは……!」
「私はあなたと一緒にいられればそれでいいの!日本が解放されなくたってもいい。あれだけ憎んでいたブリタニアの一員になってもいい。あなたがいてくれれば、私はそれだけでいいのよ……」
「カレン……」
カレンの強い決意は十分にライに伝わっていた。
それでも、ライはカレンの気持ちにこたえることができなかった。
カレンが何か強い決意を持っているということは、付き合い始めた当初からわかっていた。
それがなんにせよ、全力で応援してあげようとも思っていた。
しかし今は――
(僕が彼女の足枷になっているみたいじゃないか……)
自分という存在が彼女の目標を霞ませてしまっているのだとライは感じ取っていた。
カレンの夢である日本解放。
ブリタニア軍人であるライには手助けなどできるものではなかったが、積極的に妨げようとも思わなかった。
(もちろん、恋人としてカレンには危ない目にはあってほしくない。ただのカレンとして、平和に暮らしてほしい)
そうは思っていても、ライの心はなかなかすっきりしなかった。
(カレンの『日本解放』という夢は、僕がアッシュフォード学園に来る前からのものだったはずだ。そうであるならば、僕という存在が現れたことによって、彼女に夢を断念させてしまったことになる……)
カレンの事を大切に思うがゆえに、自分自身の存在も否定したくなる。
もしも自分がいなければ、カレンは自分の夢を貫けただろうか。
もしも自分と恋仲にならなければ、カレンはこんなにも苦しい決断を迫られるようなことがあっただろうか。
歴史にifはない。
それと同じで、人生にもifはない。
(――いや、“あの力”なら『もしも――』は実現可能だ……)
絶対遵守の力。
一回のみだが、相手を自分が命じたままに行動させることができる王の力。
その力があれば、過去の記憶をなくさせることもできる。
――自分のことをカレンの記憶から抹消すれば、彼女は昔のように兄の夢を達成するために戦えるようになるはず。
そんな考えがライの頭をよぎった。
「カレン。君が何で黒の騎士団に入ったのかを聞いてもいいかい?」
ライの言葉に一瞬戸惑うような表情をみせたが、カレンはゆっくりとその質問に答え始めた。
「さっきも言ったけど、私のお兄ちゃんは日本を解放するために戦っていた。 私だけがブリタニア人の父から認知されブリタニア人として生活し、お母さんは使用人扱いで雇われ、お兄ちゃんにいたっては存在も認識されなかった……」
10年以上にわたって共に過ごしてきた家族がばらばらにされた。
“ブリタニア”という支配者によって。
――こんな家族の在り方は間違っている。
ブリタニアが、それを自分達に強要してくるというのなら、そのブリタニアを壊すしかない。
そう思い、カレンは兄と共に反ブリタニアのレジスタンス活動に参加するようになり、兄の死後もこうして黒の騎士団のエースとしてブリタニアと戦ってきたのだった。
そう、カレンの戦う真の理由は、日本のためというよりも家族のためなのだ。
もし家族が離れ離れにならないのですむならば、カレンはなんでもやっていただろう。
日本がどうなろうがかまわない。
家族と――兄と母と、昔のように一緒に楽しく幸せに暮らせるのなら、ほかの事はどうでも良かったのだ。
しかし今やその兄は死に、母はリフレインの使用で実刑判決を受けて服役中。
『待ってて。お母さんが出てくるまでには――きっと変えてみせるから。私とお母さんが普通に暮らせる世界に。だから、だからっ……』
かつてカレンが、リフレイン中毒でまともに会話ができない母に向かって誓った言葉。
カレンの母に下された判決は禁錮20年。
その間にカレンにできることは、黒の騎士団の一員としてブリタニアを壊すことだけだった。
「これが、私が黒の騎士団で戦う理由。でも、どうしてこんなことを知りたいの?」
話し終えたカレンの、当然とも言える質問。
黒の騎士団に所属していたことは、カレンにとってはもう既に過去の事。
いまさらなんでそんなことを……という気持ちがカレンからは離れなかった。
「僕は君の真意を知りたかった。カレンが話してくれたおかげで、僕も決心がついたよ」
ライはカレンの話を聞いて決めた。
“あの力”を使おう、と。
「じゃぁ――」
――私をブリタニア軍に入れてくれるのね。
そう言おうとしたカレンの体をライが抱きしめた。
割れ物を扱うように、大事に、優しく包み込む。
「どうしたの、急に?」
いきなりなことに驚きつつも、愛する人からの抱擁に顔をほころばせるカレンに、ライは別れの言葉をつむぎだす。
「カレン……僕は君の事が好きだ。いや、愛している。世界中の誰よりも、君の事が大切だ」
これがきっとカレンへの最後の言葉になる。
そう思いながら、ゆっくりと彼女への気持ちを語った。
「最初は『人形みたいだ』と言われた僕が今みたいになれたのも、お世話係主任としてカレンが一緒にいてくれたからだと思う。僕にとってカレンは世界そのものだ。だから――」
――これ以上、僕のせいで君を縛り付けることはできない。
「――だから、僕たちの関係は終わりにしよう」
「…………え?」
突然の別れの言葉。
先ほどまで幸せだったカレンには嘘のような言葉だった。
呆然としているカレンが反応するまもなく、ライはカレンに口づけをした。
今まで何度もやってきた深いものではなく、ただ唇を重ね合わせるだけの簡単なもの。
今しがた自分が言われたことの意味を理解しきれないカレンに対してそのようなことをするのは気が進まなかったが、ライは最後に彼女とキスをしておきたかった。
そしてそれを、カレンとの決別を意味するものとして、自分自身に深く刻み付けたかった。
ゆっくりと顔をカレンから離し、心の奥で“力”のスイッチを入れる。
「カレン。君は――」
ライは、苦しげに“絶対遵守の命令”をカレンに下した。
記憶を失う前にもこんなに辛い決断はなかったに違いない。
そう思いながら。
“力”を使われたあとは、目の周りが赤く縁取られてその命令に従う。
そのはずだった。
「……嫌よ」
「!」
カレンは、ライの“命令”に明らかな拒否反応を示していた。
力に抵抗するかのように、目の周りが赤くなったり正常に戻ったりを繰り返す。
「嫌よ!私はあなたと共にいたい!あなたと……別れるなんて…………別れる……?誰と……?」
彼女が涙を流しながら辛そうに“力”に抵抗する姿を見ていられなかった。
自分自身でそうすることを選んだとはいえ、あまりにも辛いことだった。
「すまない……カレン……」
ライはそう呟き、愛する人の首筋に手刀を打ち込み気絶させた。
次に彼女と対峙するのは敵同士として、戦場でのこととなるだろう。
(そうなる前にこのエリア11――いや、日本が平和になれるように全力を尽くそう……)
それは、満天の星空のもとでの出来事。
愛する人と別れを告げた銀髪の青年の目からは、一筋の涙が流れていた。
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第6話
ブリタニア第二皇子シュナイゼル・エル・ブリタニアが保有する、ブリタニア軍初の“フロートユニット”を備え付けた空中戦艦、アヴァロン。
その艦内で二人の青年が、シミュレータを使って今回始めて実戦投入される装備のシミュレーションを行っていた。
“ナイトメア用フロートユニット”。
現在ブリタニア軍最強の陸戦兵器であるナイトメアフレームに装備可能なフロートユニットだ。
それを装備することによって、今まで陸上の戦いがメインだったナイトメアが、空中からの攻撃も可能になり、戦略も大幅に広がることになる。
その装備自体は既にドルイドシステムをつんだガウェインに装備されていたが、神根島でゼロに強奪されてしまったため、今回が初実戦ということになる。
「すごいよね、このフロートシステムは」
シミュレーションをしていた茶髪でくせっ毛の青年が、隣のシミュレータを使っていた銀髪の青年に声をかけた。
彼はスザクの言葉に答えることもなく、いぜんとして苦しそうな表情をしている。
その青年は、神根島に遭難したスザクが合流した時には既に様子が変だった。
恋人であるはずのカレン・シュタットフェルトの身柄を拘束し、それを盾にしてゼロに拘束されたユーフェミアの解放を求めていた。
鈍感なスザクから見ても幸せそうに見えていた二人が、互いに敵側の陣営に属していたからと言って、そこまで他人行儀になるとは思えない。
一度だけ彼がそのことについて言葉を発したのは、『喧嘩をしたんだ。ルルーシュとシャーリーみたいに、他人ごっこ中だよ』というものだけ。
それ以降は、カレンに関することは何一つ話していない。
彼が意図的にカレンの話題から逃げていることは、さすがのスザクにもわかる。
だから、直接そのことについて聞くようなことはせず、できるだけ普段と同じように接するように振舞ってきた。
(なんとかカレンを説得できれば、戦わずに二人を仲直りさせられるんだけど……)
敵を殺すためではなく、敵を含めた多くの命を守るために軍に入ったスザクにとって、その考えは妥当なものであった。
実際スザクは、カレンが自分の説得に素直に従うとは思っていなかったが、何もしないであきらめるということだけは絶対にしたくなかった。
親友とその彼女。
二人の関係を正常化できるなら、スザクはどんな努力も惜しまないつもりだった。
黒の騎士団のアジトの一室ではゼロが頭をかかえていた。
もちろんキュウシュウに侵攻してきた澤崎のことではなく、表の顔であるルルーシュ・ランペルージの親友であるライと、ゼロ親衛隊隊長の紅月カレンの神根島での行動に関しての事だった。
ゼロ――いや、ルルーシュが一番気になったのは、神根島で自分を含めた5人が一堂に会したときのライの表情だった。
(似ている……あのときの俺の表情に……)
それは、彼がナリタでシャーリーにギアスをかけたときの事。
ゼロとしての自分、そして秘密を知ってしまったシャーリーの身を守るためとはいえ、大切な人にギアスを使ってしまって苦しんでいたときに鏡に映った自分の表情にそっくりだったのだ。
そのことと、その後のカレンの様子から導き出される結論はただひとつ。
(ライもギアスが使えるのか……?)
そうであるならば、全て理解ができる。
幸い、カレンが依然悩んでいたことの内容を知っていたのがゼロのみだったので、神根島から帰ってきて以降、彼女が以前よりも元気になったことに騎士団員は素直に喜んでいる。
彼がどう命じたかまでは知らないが、これで黒の騎士団の戦力は元に戻った。
二人の親友と戦わなくてはならないという辛さに加えて、カレンに関することまで考えなくてはならなくなった。
全てはナナリーが平穏に過ごせる世界を作るため。
そう思って自分がしてきた行動が、次々に親しい人間を巻き込んでいってしまう。
一体どうすれば――
「ゼロ!キュウシュウに向かう準備が完了しました!」
ゼロの考察は、急に部屋に入ってきた赤髪の少女によってさえぎられた。
彼女の目は、かつてのようにゼロに対する尊敬の色に満ち溢れている。
『わかった。カレン。君にはキュウシュウで私と共に最前線に出てもらう。紅蓮の突破力と、ガウェインの飛行能力でしかなしえないことだ。それにそなえ、キュウシュウまでしっかりと休養をとり、紅蓮の整備もしておくように』
「はい!!」
黒の騎士団のエースとも呼ばれる少女は、尊敬するゼロと共に前線に出られると言うことを聞いて、目の輝きをさらに増してかけていった。
もしも彼女に犬のように尻尾があったとしたら、引きちぎれんばかりにその尻尾を振っていただろう。
それくらい嬉しそうに見えた。
そんな彼女を見て、ゼロは再び考え込んでしまう。
「ライ――お前は本当にこれでいいのか?そして俺は本当に、ああなってしまったカレンを使っていいのか……?」
味方を駒として扱っていたかつてのゼロなら持つことがなかったであろう心情。
彼の考え方が変わってきたのは、学園で見つけた記憶喪失の青年が原因かもしれないし、そうでもないかもしれない。
ただ、彼と知り合いになった頃から何かが変わり始めていたのは事実だった。
ライは、アヴァロンのナイトメア発艦カタパルト内に装填されたランスロット・クラブのコクピット内にいた。
機械の音しかしないその場所で、彼は先日の自分の行動について考えていた。
本当にああしてよかったのだろうか。
結局自分のしたことは、カレンを戦いに縛り付けることになってしまったのではないのだろうかと。
『ライ君?聞いている?』
「えっ?すいません、セシルさん。もう一度お願いします」
彼の思考は、特別派遣嚮導技術部所属のセシル・クルーミー中尉の言葉によって遮られた。
考えに夢中で忘れていたことであったが、今は作戦の真っ最中。
キュウシュウを奇襲でその手におさめた、元日本政府の官房長官を務めた澤崎敦が率いる日本軍を名乗る中華連邦軍を、フロートユニットを備えたナイトメアでの空中からの奇襲により制圧する。
それが、シュナイゼルから特派に命じられた任務だった。
いくらランスロットとランスロット・クラブが世界で2機しか存在しない第7世代ナイトメアフレームとはいっても、圧倒的な火力と量を誇る敵を前にしては、そのスペックも関係ない。
命を捨てろと言う命令に限りなく近いものであった。
『神根島から戻ってきてから様子が変だけど、何かあったの?』
「……黒の騎士団に、同級生がいたんです。それで、すこし複雑な気持ちで……」
もうカレンのことを“恋人”とライは言えなかった。
別に“同級生”でも間違ったことは言っていないのだから、セシルに嘘をついてしまった、というような罪悪感もない。
「でも、心配しないで下さい。任務中に私情ははさみませんから。与えられた任務を的確にこなすだけです」
その説明で完璧に納得したわけではなかったが、個人的なことにもあまり触れないほうがいいだろうとセシルは思い、それ以上は追求しなかった。
こういうところが、『特派のお袋さん』とも呼ばれるゆえんでもある。
『じゃぁ頑張ってね、ライ君』
「はい」
そうやって、いつも通りに出撃していく彼を見送る。
それが、今の彼女にできる精一杯のライへの応援だった。
『ライ!2時の方向に敵影!』
「わかってる!」
アヴァロンから発艦した2機の白い巨人は、フクオカ基地から迎撃に来た約10機の軍事ヘリを相手に戦っていた。
今までの戦争であるなら、2対10の空中戦はそのまま負けを意味する。
しかし、今回はその2機がフロートユニットにより空中での機動性まで手に入れた第7世代ナイトメアフレームであるということが、その常識を覆した。
かつての極東事変で始めて実戦投入された第4世代ナイトメアフレーム、グラスゴーによって日本軍がことごとくやられていったのと同じように、なすすべもなく、相手の機動性に翻弄されながら撃墜されていく。
迎撃機を全て撃墜した2機の巨人は、それぞれ手に持ったヴァリスを腰のホルスターに戻して、再びフクオカ基地に急行した。
しばらくの飛行後、2機の行き先に巨大な軍事施設が目に入ってきた。
広大な敷地と、何台もある砲台。
キュウシュウ最大の要塞と呼ばれるその基地は、海辺にあるという性質上、対空対地対海全てにおいて鉄壁の防御ともいえるものを持っていた。
『見えた!フクオカ基地だ』
スザクの言葉と共に、ライは可変ヴァリスをスナイパーモードに切り替えて、基地に備え付けられた対空砲に狙いを定める。
砲塔もこちらを射程範囲内に捕らえているはずだが、今までの戦闘機にはない機動力で宙を舞うランスロットによって上手く照準が合わせられないでいた。
キュウシュウ基地側が対応できないでいる間に、ライは的確に1つずつ対空砲を破壊していく。
スナイパーモードでの連射はできないため、徐々に基地に接近しながらの射撃となり、最後の対空砲を破壊し終えたときには、基地まであと200メートルの場所にまで近づいていた。
地上に降り立った2機は、もはや荷物以外のなんでもないフロートユニットをパージして、基地内へと向う。
『ライ。さっきの射撃でクラブのエナジーは相当減っているはずだ。僕が先鋒をするよ』
「すまない、スザク」
『そんなことはないよ。ここまでの道を切り開いてくれたんだから』
そう言って、スザクが乗るランスロットはキュウシュウ基地の壁を乗り越えていった。
それにライのランスロット・クラブも続く。
キュウシュウ基地の敷地内は中華連邦製のナイトメア、ガン・ルゥであふれていた。
その数、約300。
とても2機のナイトメアで戦える量の相手ではない。
さまざまな面で現行のナイトメアフレームに劣るガン・ルゥだったが、その生産性と火力は目を見張るものがある。
生産性が高いからこそ、こうして300機集めることができたのだし、火力があるからこそ、数での勝負を仕掛けることが可能になっている。
『必ず・・・・・・生きて帰ろう』
「あぁ!」
二人の騎士はそれぞれの武器を携え、偽りの日本軍との戦いを開始した。
『壱番隊は右翼から回り込め!弐番隊はそのまま前身!参番隊は敵をひきつけろ!』
ゼロは、部下である黒の騎士団員に命令を下した。
彼らは、ゼロの指示をなんの迷うことなく遂行する。
今までのゼロの作戦が完全な成功まではたどり着けなかったものの、今までのレジスタンス活動に比べればはるかに大掛かりなことを実現してきたからだ。
今回のキュウシュウでの作戦も、黒の騎士団が真の日本解放を手に入れようとしていることを示すことや、その後に倒すべきブリタニアにすら恩を売ることによって、『正義の味方』としての知名度をさらに向上させようとするもの。
今までの最大の反ブリタニア勢力、日本解放戦線などではなしえない作戦だった。
『カレン!今からフクオカ基地司令部に向かう!送れずについて来い!』
『わかりました!』
ゼロの一声に、ゼロの親衛隊隊長である紅月カレンは従順に従う。
その声には、尊敬の念をさらに越えた別の情も感じられた。
そのことに気づいたルルーシュは、顔を曇らせる。
「どうした?親友の女の気持ちを奪ってしまったことが心苦しいのか?」
『……黙れ』
複座式になっているガウェインのコクピット内で、C.C.がゼロことルルーシュに問いかけた。
その声にはなにやら面白がっているような雰囲気も含まれている。
対するルルーシュは、険しい顔つきで、戦況をモニターする画面を見ながら両手を組んでいた。
ナイトメアの操縦という面では役に立たない――そのあたりは、生身のルルーシュが運動を得意としないことと同じである――ため、操縦はC.C.に一任して、自分自身はドルイドシステムを使って高度な電子戦を仕掛けようとしている。
今に置き換えてみれば、それはフクオカ基地のシステムへのハッキング。
基地の防衛システムである砲塔や、戦闘ヘリなどを収納している格納庫のシステムに侵入し、格納庫の扉を閉ざしたり、砲塔の制御を奪ったりして敵の攻撃力を下げようとしている。
しかし――
(あいつらのおかげで、俺の役目は少ないな……)
ハッキング先の砲塔が、別ルートからフクオカ基地に入ってきたスザクとライの手によってことごとく破壊されていたからだ。
彼らのおかげで、実際黒の騎士団がしているのはほぼ基地内のガン・ルゥの殲滅のみ。
当初の予定より、かなり楽になったともいえる。
「……まったく、あいつらの有能ぶりにも困ったものだ」
ガウェインのコクピット内で仮面をはずしたルルーシュは呟いた。
このフクオカ基地を攻めるに当たって、多勢に無勢であった黒の騎士団にしては彼らの活躍は嬉しいものではあったが、ブリタニア軍人である二人は本来敵勢力。
優秀な敵が少ないにこしたことはない。
「ルルーシュ。そろそろあいつらのもとに着くぞ」
「あぁ」
ルルーシュの指示のもと漆黒の闇に包まれた空を黒いナイトメアが宙を舞い、その後ろに紅い機体が続いていった。
「くっ!」
ライは今受けた攻撃のダメージを急いで確認する。
左腕部駆動系へのダメージ。
使用すること自体には問題ないが、長時間の使用は難しい。
エナジーの残量も少なくなっている。
左腕が動かなくなるのが先か、エナジーがなくなるのが先か。
どちらにせよ、そろそろ活動の限界が迫ってきている。
そのとき、少し離れた場所でガン・ルゥと戦闘を続けていたランスロットの動きが変わった。
電池が切れた懐中電灯のように徐々に動きが遅くなっていき、そしてまもなく活動を停止した。
(まさか……!)
『ライ。ランスロットのエナジーが切れた』
ランスロットが動きを止めた理由は単純明快だった。
エナジー切れ。
ナイトメア戦においては、致命的なことである。
エナジーが切れたナイトメアは、とどのつまり巨大な棺桶。
動くこともできず、ただ破壊されるのを待つだけ。
イグニッションシートで脱出することも可能だが、味方がいないこの戦場ではその選択肢も危うい。
脱出先で攻撃を受けてしまえば、それこそどうしようもない。
『ライ。僕のことは置いて、君だけでもここから脱出してくれ』
「何を言っているんだスザク!君を見殺しにはできない!」
『ダメだ。君は生きなくちゃいけない。黒の騎士団に参加している、カレンと和解するためにも……』
スザクの言葉にライは唇をかみしめる。
彼女にギアスをかけてしまった以上、簡単には以前のような関係に戻ることはできない。
「スザク。ダメなんだ。僕とカレンは――」
ライが言葉を言いかけたちょうどそのとき、近くで爆発音がとどろいた。
ランスロットが破壊された音ではない。
破壊されたのはランスロットを取り囲んでいたガン・ルゥ。
そしてそれらを破壊したのは、漆黒のナイトメアフレーム、ガウェインだった。
『枢木。それともう一体の白兜よ。聞こえるか?』
その機体の外部スピーカーから、黒の騎士団のリーダーであるゼロの声が響く。
『私はこれから澤崎を叩きにいく。まだ動けるか?私とともに戦ってもらいたいのだが』
『ゼロ……なぜ君と僕たちが協力しなければならない?』
『簡単なことだ。我々の目的は同じ――この基地を占拠した、澤崎率いる中華連邦軍を討滅すること。違うか?』
ゼロの言葉は、確かに的を射ていた。
両陣営とも、ここでやるべきことは同じ。
違うのは、その行動の目的だけだった。
『それにだ。確率論的には、戦力はあればあるほどいい。今の私の戦力は、このガウェインと後に来る紅蓮のみだ。機体性能の面からでは十分な戦力だが、このままでは損傷なし、というわけにもいくまい?』
その通りだった。
2体の第七世代ナイトメアフレームでも、時間さえかけられれば十分にこの要塞を攻略することができる。
ただしそれは、エナジー切れの可能性を除き、なおかつ機体の損傷率を無視して考えた場合。
それは、この場に赴いている黒の騎士団所属の2機のナイトメアにおいても同じことだった。
「わかった。ゼロ、僕は君に協力しよう」
『ライ!?』
ライの心は既に決まっていた。
紅蓮がこの場に来るということを聞いた時点で。
「僕のナイトメアのエナジーも残り少ない。もってあと5分程度だ。その間に勝負を決めてほしい」
『了解した……君の補佐に紅蓮を残そう。君も知ってのとおり、紅蓮の機動力は君たちのナイトメア同等だ。存分に敵を撹乱してくれ』
「……っ!……わかった」
その後、スザクもゼロの言葉によって共に戦うことを決意した。
4機のナイトメアが同時に行動を開始する。
漆黒のものと白と金の塗装のものは基地司令部に向かい、紅いものと白と蒼の塗装のものは先行する2機を狙うガン・ルゥを破壊していく。
今現在、エリア11内で最高ともいえる機体性能を誇る4機の共同作戦が始まった。
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第7話
「なんで私がブリタニアなんかと一緒に戦わなきゃならないのよ!」
黒の騎士団のエースパイロットである紅月カレンは、愛機である紅蓮弐式のコクピット内で叫んでいた。
そんな不満を叫びながらも、中華連邦制ナイトメア、ガン・ルゥを持ち前の操縦技術と紅蓮の機体性能で続々と撃破していく。
その後ろでは、黒の騎士団の前に幾度となく立ちふさがってきた、青と白のカラーリングのブリタニア軍のナイトメアが戦っている。
カレンをここまで怒らせているのは、何もそのナイトメアがブリタニア軍のものであるというだけでない。
そのナイトメアのパイロットが完璧なまでにカレンのフォローを行い、後方からの攻撃を心配する必要がなくなっているからだった。
「私はあんたなんかに助けられなくても……!」
カレンの負けず嫌いの心に火がついた。
もう一体のナイトメアのことなど考えず、そのまま単機でガン・ルゥの群れに突入していく。
『待て!カレン!』
誰かの声が聞こえたような気もしたが、カレンはそれを無視した。
紅蓮は左腕に持った呂号乙型特斬刀でガン・ルゥを切り裂いていく。
反撃の隙さえも与えない。
数の多いガン・ルゥ自体を他の機体からの攻撃の盾に使いながらの攻撃。
そして、高速移動することによって的を絞らせないようにする行動。
いくらか力のあるガン・ルゥとはいえ、攻撃が当たらなければ機動力がない分ただの的。
カレンは自信満々に攻撃を繰り返した。
ピーッ!
「えっ!?」
突如としてコクピット内に鳴り響く電子音。
あわててカレンは何事かと計器に指を走らせてチェックをする。
「嘘でしょ……」
今や紅蓮は中華連邦のガン・ルゥに完全に包囲され、固定式キャノンによってロックオンがかけられている。
戦闘能力だけでなら卓越したものがあるカレンであったが、戦略まで完全に把握できる能力はない。
そしてそのことが、今の状況を作り上げたのだ。
ガン・ルゥの撃破数だけを見れば、帝国最強の騎士と呼ばれるナイトオブラウンズの親衛隊をも上回る結果を残しているが、相手の指揮官が徐々に紅蓮を包囲しようと布陣を動かしていることに気付くことはできていなかった。
しかし、今の状態を改善することができないということぐらいはわかっている。
終わった……
カレンは自分の人生の終焉を感じた。
抵抗しようという気は失せ、ゆっくりと目を閉じる。
脳裏には、ブリタニアに侵略される前に家族で楽しく過ごしていた時期の光景が浮かんでくる。
母と笑って過ごした日々。
兄と扇と3人で無邪気に遊んだ日々。
そして……
『カレン!!』
――どこからか声が聞こえた気がした。
声につられて目を開いたカレンが見たのは、次々に炎上していくガン・ルゥ。
そして紅蓮を守るかのように立ちふさがる白き騎士の姿だった。
カレンはその後ろ姿に、銀髪の少年の姿が見えたような気がした。
彼女に対して優しく微笑み、暖かな気持ちで満たしてくれる彼の姿が。
しかし、その幻想も一瞬で消え去ってしまう。
『紅蓮のパイロット!ぼさっとしないで戦え!』
「……わかってるわよ!」
微妙に上から目線なランスロットクラブのパイロットの言葉に、再びカレンは闘志を燃やした。
即座に2機のナイトメアはその場から離れ、持ち前の機動力を生かした戦いを繰り広げる。
それはさきほどまでの紅蓮が連携を無視したような戦いではない。
紅蓮が輻射波動を使うならばクラブがその大きな動きをカバーするようにツインMVSで援護を。
クラブが可変ヴァリスを使用するために動きを止めた時には、紅蓮がその背後をカバーする。
本当に今まで敵同士だったのかとも言えるほど2人の呼吸はそろっており、向かうところ敵なし、という状況だった。
そして……
『日本軍を名乗る者たちに告げる。お前たちのリーダーである澤崎と曹将軍は私が確保した』
『自分は無駄な命を取るつもりはありません。速やかに投降してください』
カレンとライが周りのガン・ルゥのほとんどを撃破し終えたころ、フクオカ基地全体にある2人の声が響き渡った。
黒の騎士団のリーダーであるゼロと、ユーフェミアの騎士枢木スザクの声だ。
彼らの宣言により、ガン・ルゥの部隊は即座に攻撃をやめて投降、もしくはフクオカ基地からの撤退を始めた。
もとより、彼らは上司である曹将軍に命じられたためにこのエリア11に来ただけであり、そうでなければ日本人である澤崎敦と行動を共にしようと思いもしなかった人々だ。
無駄に戦って命を散らすことに何の意味もない。
こうして、のちにキュウシュウ戦役と呼ばれる戦いは終わりを告げた。
遅れてフクオカ基地に到着したコーネリアの部隊からも無事に逃げ延び、カレンたちは黒の騎士団のアジトに戻ってきていた。
あたりは今回キュウシュウへ共にいけなかった団員たちの歓声にあふれている。
そんな中、カレンは今回の戦闘における報告書を書きながらあることに意識を集中させていた。
自分のことを助けたあのもう一体の白兜のパイロット。
その男のことについてだ。
カレンは今までブリタニア軍人となど、同じ生徒会である枢木スザク以外には面と向かって話したこともない。
(それなのに、あのパイロットは私の名前を知っていたのよね……)
左手で頬杖を突き、右手ではペンを回しながらカレンは思う。
あの時、命を落とす寸前に例のナイトメアが現れた時の安堵感はいったいなんだったのだろうかと。
心が温かくなり、何かに満たされたかのような感情。
今まで感じたことのないはずなのに、どこか懐かしいものを感じた。
黒の騎士団のエースパイロットであるとはいえ、普段から扇が言っているようにカレンも年頃の女の子だ。
同じ年代の女の子が話題にあげそうなこともしっかりと知っている。
「恋……なのかな……」
もちろん、確信が持てることではない。
同年代の人間とかかわってきたのは、シュタットフェルトの名を名乗り、ブリタニア人として生きてきたときだけ。
自分の故郷を奪っていったブリタニア人と恋仲になれるわけがない。
さらに、ブリタニアに侵略される前はまだ10歳になったぐらいであったから、初恋も未経験。
「でもこの感じ、初めてじゃないのよね……」
記憶をたどってみると、確かにそのような感情を持ったことがある。
それも黒の騎士団が成立してからという最近のこと。
なのに、その感情がだれに向けられたものなのかがわからない。
『どうかしたのか、カレン?』
声の主は、カレンとともに今回の戦闘において、神根島でブリタニアから拿捕したガウェインを使用し、それについての報告書をラクシャータによって書かされているゼロだった。
「いえ……その……」
(言えない……ゼロに『恋の悩みです』なんて言えない!!)
ゼロは心のうちでカレンがそんなことを思っているなどとは微塵も思わず、彼女に言葉をかける。
『確か、君の通っているアッシュフォード学園ではそろそろ学園祭があると聞いたが?』
「……どうしてそれを?」
そのことをここで話した覚えはないのに……とカレンは思った。
黒の騎士団としてブリタニアの敵となり戦っているのだから、カレン・シュタットフェルトという表のブリタニア人としての自分をアジト内ではできるだけ見せないようにしている。
その一面をのぞかせていたのは、しばらく前まで学園から直接アジトに来ていたときに制服のままで来ていたことや、親代わりとしていろいろ心配をかけてくれる扇から学校のことを聞かれたときにしぶしぶと答えるときぐらいだった。
『なに、私はゼロだからな。たいていのことは知っている』
そう言いながら右手を頭にかざすようなポーズをとるゼロ。
かっこいいと思っているのかしら……と思いつつも、カレンはゼロの次の言葉に耳を傾けた。
『最近の君は少し無理をしているように見える。特に神根島から戻ってきて以降、実家にも帰らず常にアジトにこもりっきりだ。あの島で何があったのかは知らないが、戦士にも休息が必要だ。学園のイベントに参加して、戦いの日々から少し離れてくるといい』
「でも、学園には枢木スザクがいます!神根島で私が黒の騎士団にいるということを知られてしまっているので、私がそこに行くのは……」
『いや、それについては大丈夫だろう。枢木スザクは義理堅い男だ。それはかつて私が彼を助けたときに、再びブリタニア法廷に出頭したことからも明らかだ。君がアッシュフォードの生徒としている間は手を出してこないだろう。だから安心していってくるといい』
(本当は、アッシュフォードには“あいつ”がいるからなんだが……)
ゼロの脳裏に浮かぶ銀髪の少年の姿。
納得がいかない、といったような表情を浮かべるカレンの顔を見ながら、ゼロはその少年がしたと思われる可能性が一番高いことについて思索する。
(あいつがギアスを持っていようがいなかろうが、今のところ俺の計画には支障がない。あとは、どうやって2人を前線から離脱させるかだが……)
いつの間にかカレンの話から、ブリタニアの最新ナイトメアに騎乗する2人の親友への対処へと考えが変わっってしまっていたゼロ。
しかしそんな考えも数日後の一人の少女の宣言によって意味をなさなくなる……
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第8話
ジリジリジリジリジリジリジリジリ!!
クラブハウスの一室に鳴り響く目覚まし時計の音。
その音に反応して、部屋の主は目を覚ました。
「ん……」
ゆっくりと体を持ち上げて目覚ましに手をかける。
時刻は午前6時。
にもかかわらず、外からは既に学生たちの声が聞こえつつある。
(そうか……今日は学園祭か……)
アッシュフォード学園の学園祭。
彼が所属する生徒会も、この日のためにかなり前から準備を進めてきた。
もちろん学生たちも、お祭り好きな生徒会長以上の熱気でこの日を迎えていた。
(本当は僕もなんだけど……)
そう思い、ライは自分の机の上に数日前から放置されている膨大な紙束を見た。
それは、学園祭に出店する各団体の生徒会への申請用紙のコピーの山。
どこで、どのクラスが、どれくらいの規模で、何を目的に、何をするかが詳細に書かれている。
それらはすべて、この日のためにライが集めたもの。
普段は軍務で一緒に出掛けることも少ないカレンのために、必死になって学園祭デートを計画した痕跡だ。
「でも、もうそれも無駄になっちゃったな……」
キュウシュウから帰ってきてすぐ、ミレイに学園祭当日の仕事を回すように頼み込み、周りからカレンのことを聞かれる隙もないほどにスケジュールを過密にした。
朝の動き始めこそ出店する一般生徒に比べれば遅いが、夜は遅くまで仕事がある。
自分で頼んでおいて思うのもなんだったが、あまりのハードスケジュールに思わずため息が出てしまった。
1時間後、ライは身支度を整えて学園祭実行委員会の総本部にもなっている生徒会室を訪れた。
すでに会長であり学園祭実行委員長も兼ねるミレイは今日1日のスケジュールをチェックし終え、各担当への指示を始めている。
「あら?もう起きたの?あなたの出番はまだまだ先だからゆっくりしていてもよかったのに。まだこの間の疲れ、とれていないんでしょ?」
「大丈夫ですよ、ミレイさん。僕も一応軍人なんですから体力はあります。それに、スザクだってもうガニメデの準備を進めているじゃないですか」
「でも――」
「心配ないですよ。自分でも無理そうでしたら休憩を入れますから」
そう笑って言ったライは、自分に関係のある書類を手に取り生徒会室を後にした。
その後ろ姿を見て、ミレイはため息をつく。
「まったく……仮にも保護者である私にも相談してこないなんて……」
ブリタニア軍に入ろうとするときは、きちんと彼女に許可を求めてきた。
それ以外でも、彼を拾ったころは何かと相談に乗っていたのである。
「独り立ちしていく子供を見る親ってこんな気分なのかしら……成長を実感できるけど、なんだかさみしいわ……それを考えると、親になるってのも考え物よね……」
などと考えつつ、ミレイは赤毛の少女のことを思う。
ある時からめっきり学校に来ることがなくなってしまった彼女のことを。
(ライと何かあったのは確かね……でも、二人とも恋人同士なんだから私が首を突っ込む話でもないか……)
普段ならばここで何かしら行動を起こすミレイだったが、今回はほかならぬ自分が保護していてまるで弟のような人間に関すること。
余り深入りはすることなく、彼のことを見守っていくことに決め、彼女は仕事を再開した。
「さて。思わず生徒会室を出てきてしまったけど、これからどうしようか」
書類をいくつかもってきたものの、それに関係あることまで時間はまだある。
誰が見ても明らかな暇な時間だ。
「ルルーシュの手伝いでもしに行こうかな……」
向かう先は校庭を見下ろす土手の上に配置された専用のトレーラー。
そこでは学園各所に配置された監視カメラの映像をすべてチェックすることができ、防犯対策は完璧だ。
そこで学園全体の指揮をとるのは、生徒会副会長であるルルーシュ・ランペルージの役割だ。
ライがトレーラーの中に入った時も、彼はてきぱきと指示を繰り出していた。
「P4、それはそこではない。巨大ピザの会場だ。R1、何をしている?お前は5分前には指定の警備位置についているはずだ。さっさと移動しろ!」
「見事だね、ルルーシュ。さすがだよ」
「!……あぁ、ライ。来ていたのか」
一瞬ライがいたことに驚いた様子を見せたルルーシュだったが、それを悟られる前に平然とした態度で返事をした。
「どうだい?準備は順調かい?」
「もちろんだ。俺を誰だと思っているんだ?」
「ははは…悪かったね、『生徒会の司令塔』さん」
生徒会の司令塔。
それはルルーシュがミレイの暴走を食い止めたり、様々な行事で先頭に立って指揮をしてきたりしてきたことから、生徒一同につけられた彼の呼び名だった。
「まったく……誰がそんな呼び名を考えたのかは知らないが、まったく困ったものだ」
「幻の美形、とか呼ばれているよりはましだと思うよ?僕なんかそんなに美形じゃないのに……」
いつも通りのライの天然発言に、思わずルルーシュは思わず頭を抱える。
「まったく、お前は自分の容姿を一度他の連中と比べてみる必要があるな……そして、きちんと自分を客観的に評価すべきだ」
そんな言葉を受けてもなお、ライは意味が分からない、といったような表情を浮かべていた。
それを見てさらに、ルルーシュは深いため息をつく。
「まったく……そんなことばっかり言っているといつかカレンにも愛想を尽かされ……」
途中まで言いかけたルルーシュは口を止めた。
今、ライとカレンはとてもいつも通りだとは言えないような間柄になってしまっているのだということを思い出したのだ。
「いや、すまなかったな、ライ。あの島から戻ってきてからお前たちの仲がうまくいっていないことを忘れていたよ」
「いいんだよ、ルルーシュ。僕とカレンが他人ごっこをしているのは双方の合意の上だ。君だってシャーリーと他人ごっこをしているだろ?それと同じ……」
ふと、ライはあることに気がついた。
(なんでルルーシュは僕が『島』に行っていたことを知っているんだ?)
ネット上でユーフェミアの行動予定が流出していたようだったので、彼女の専属騎士であるスザクが島に出向いていたであろうことならば、知られていても何の問題でもない。
しかし、公には休職状態であったライが式根島に行ったということは、実際にその姿を見たもの以外にはわからないはずなのだ。
(誰なら僕のことを知りえた?……式根島駐在のブリタニア軍。それに黒の騎士団……ルルーシュが軍属だなんて話は聞いたことがないし、黒の騎士団は日本人の組織だ。カレンのようなハーフならばまだしも、ルルーシュは純粋なブリタニア人だ。それに、もし黒の騎士団に所属しているなら、カレンがあそこまでルルーシュに好意を持たないでいる理由がわからない。となると……)
「……ゼロ、か」
ライの言葉に、ルルーシュの目つきが一瞬変わった。
眼光が鷹のように鋭くなり、視線だけで目の前のものを委縮させることができるようなきついものだ。
しかし、それに気づかれる前にルルーシュはいつもの笑顔に戻る。
「どうしたんだ、ライ?いきなりイレヴンの英雄の名前なんかつぶやいたりして」
「……いや、なんでもないよ。少し考え事をしていてね。でも、そんなことは考えるまでもないことだったんだ。ブリタニア人である君が、ゼロなんかをやる理由なんてどこにもないし」
「まったく……急に真剣な顔つきになったかと思えば、そんなことを考えていたのか」
あきれた表情を見せたルルーシュは、ため息をついて言葉を続ける。
「ほら、そろそろ学園祭も開始だ。その目で学園中を確認して回ったほうがいいんじゃないのか?」
「いや、ミレイさんからたくさん仕事を任せられているから、校内を回る時間なんてないと思う」
「……お前、仕事の内容を確認したか?」
「どういう意味だい?」
ルルーシュに言われ、ライは手に持っていた書類の束を見る。
それには、ミレイから指示された『仕事』が書かれていた。
「……あれ?」
ライは目を疑った。
確かに、その書類には今日ライがやるべきことが山ほど箇条書きにしてあり、それはA4の紙4枚にわたるほどの量になっている。
しかし、そのどれもが『~部の出展団体に参加すること』のようにただ単に遊びの指示をしているようなものばかりだった。
「これは……」
「会長にやられたな、ライ。そこにあるのは仕事と言っても、要するに各団体がうまくいっているかどうかを実際に体験して確かめろ、というスタンスのものばかりだ。実質仕事ではなく、遊んで来いと言っているようなものだな」
「でも、僕は……」
「カレンと会わないために仕事を増やしてもらったのかもしれないが、あまり固くなるな。今日はせっかくの学園祭なんだから、ゆっくり楽しめばいいさ」
「……あぁ、わかったよ」
ルルーシュはルルーシュなりに自分のことを励ましてくれているんだろう。そうライは思い、彼の進言を受け入れることにした。
「じゃぁすまないがルルーシュ。僕はこれからミレイさんに頼まれた、『出展団体への参加』をしてくるよ」
「あぁ。楽しんで来いよ」
軽くルルーシュに手を振り、ライはトレーラーから立ち去って行った。
「さて、まずはどこにいこうかな……」
手元にあるのは、学園祭のパンフレット。広大なアッシュフォード学園の敷地の地図に、書く模擬店や出し物の設置場所が記入されている。
激辛カレーやアイス、ブリタニアドッグなどの食料品のほか、人間もぐらたたきや球当てなどのレクリエーション、そして校舎内では展覧会や展示会が行われているようだ。
過去の記憶がないライにとってはどれも興味深く新鮮なものであり、それが理由でどこに行くのかをすぐに決められないでいた。
迷った挙句に、ライは行先を運に任せることに決めた。適当にパンフレットを開き、目をつむって指をさす。そこに書いてある場所へと行ってみようという考えだ。
その結果、行くことになったのが・・・
「クレー射撃、か・・・」
クレー射撃とは、散弾銃を用いて、空中などを動くクレーと呼ばれる素焼きの皿を撃ち壊していくスポーツ競技だ。この学園祭では、それの体験ができるらしい。
「体験用とうはいえ、銃を使うのか。危険性がないか確認をもう一度しなくてはな」
実際は、こうして学園祭で行うことが許可されているので、安全面についてはしっかりと確認されているはずだ。だからわざわざ安全確認という面はもうないのだが、ライの生真面目な性格が、なんの理由もなしにそこを訪れることを許さないのだった。
クレー射撃体験を行っている、校庭のすみに設けられた会場で、ライはスザクと遭遇した。
「あれ?ライじゃないか。どうしてここに?」
「いや、ちょっとクレー射撃に興味をそそられてね」
そうスザクに告げながら、ライはクレー射撃担当の学生から散弾銃を受け取る。受け取った散弾銃は、もちろん本物ではないので、ブリタニア軍内で触るような銃ほどの重量感はない。どうやら、この散弾銃は空気の力を利用して、弾丸を打ち出す仕組みになっているようだ。
弾を装填してもらい、早速銃を構えて狙いをつける。
クレー射撃は15m以上遠くを飛ぶ直径15㎝ほどの円盤を打ち抜く競技だ。そもそも銃を使うことのない一般人にとっては、初めての体験では成功することはめったにないものであったが、ライはブリタニア軍人。だてに普段の訓練や戦闘でクレーよりも遠い位置で早く動く敵戦力を撃っていない。20枚以上飛び交うクレーを、1枚も逃すことなく撃ち抜いた。
「ふむ。こんなものかな。銃の手入れもしっかりとしてあるし、照準の制度も悪くないな。もしかしたら、ブリタニア軍のものよりもいい状態を保っているかもしれない」
「ちょっとそれは言いすぎじゃないかな」
射撃を終えた後のライのコメントにすかさず突っ込むスザク。
そしてその突っ込みをしながら、スザクはライのある違和感に気付いていた。
銃を構えたときの何気ないしぐさではあったが、普段から一緒に訓練しているスザクは気づいてしまった。
「ライ、何か悩み事でもあるのかい?散弾銃を構えるときに、何かの迷いのようなものを感じたけど……」
「……よくわかったね」
「コンビ組んでだいぶたつからね。そりゃ気づくさ」
「はは……スザクにはかなわないな」
クレー射撃を終えたライは、学園の中を回りながら、スザクに悩み事を包み隠さず、すべて話した。もちろん、ギアスのことは話しても信じてもらえるはずがないので伏せていたが。
「カレンとライとで、大事にしてほしいことが一致しなかったってことだね?」
あまり人が多いところで話すことでもないと思い、二人は学園の屋上に来ていた。学園全体が見渡せるので、何かあったらすぐに行動に移ることもできるだろう、ということも理由の一つである。
「ライもカレンも、おたがいのことがすごく好きなんだね」
「ま……まぁね」
スザクのストレートな言い方に、ライは顔を赤くして答えた。
「お互いの夢を尊重し合える関係って、僕はすごくいい関係だと思うよ。だけど、どちらかがもう少しわがままになってもいいんじゃないかなぁ…」
「わがまま……?」
「お互いを思いやっているのはいいことだと思うんだけど、そのままだと自分を押し殺しているだけにならないかな?今回の場合だったら、ライは、本当は『カレンと戦いたくない』んでしょ?なのに、カレンの『日本のために戦いたい』という意思を守るべく、君たちは疎遠状態になってしまった。もう過ぎてしまったことだし、今更後悔してもしょうがないけど、今度何かでカレンと会うことがあったら、自分の本音をぶつけてみるのがいいと思うな」
スザクの言っていることは間違ってはいない。ただ、それは普通の喧嘩をしている場合のみだ。
『王の力』が関係している今回ばかりは、通常の考え方は通じない。ライ自身で導いた運命に従うしかないのだ。
「ありがとう、スザク」
それでも、スザクがライのことを心配してアドバイスをしたことには変わりない。
感謝の言葉を述べることは忘れなかった。
スザクはライからの返答を受けて満足したかのような笑顔を浮かべ、屋上から出ていった。
この後、彼はミレイ主催の巨大ピザ制作イベントで、ナイトメアを操縦してピザを作る役目があるのだ。
(巨大ピザか……C.C. が知ったら絶対見に来るだろうな……)
そんなことを思いながら、ライはやや雲の占める面積が広くなってきた空を見上げた。
空は明るいが、風向きや雲の色からしてそろそろ雨が降りそうだ。
空模様を見ながら、カレンのことを少しでも頭の隅に追いやろうと、ライは学園祭中に雨が降ってきた場合の対処法を頭の中で再確認し始めた。
結局、学園祭中に雨が降り出すことはなかった。
しかし、それ以上のものがアッシュフォード学園を、いや、エリア11中を襲った。
「私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、フジサン周辺に『行政特区日本』の設立を宣言します!」
この宣言が世界情勢に大嵐を生み、ライはその嵐の中心に巻き込まれるのである。
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第9話
――行政特区日本。
フジサン周辺に設立されることになっているこの行政特区では、イレブン、つまり旧日本人に次のようなことが認められることになっていた。
・特区内では、『イレブン』ではなく、ブリタニア占領前の『日本人』という名前で呼称される。
・イレブンへの規制、ブリタニア人の特権制度の廃止
この2点が改善されるだけで、旧日本人の精神的苦痛はほとんど取り除かれる。
それだけに、ユーフェミアによって行政特区日本構想が発表され、参加者募集が始まって1週間たらずで、すでにブリタニアの予想の10倍の人数が参加希望を提出してきている。そして、参加希望をしている多くはゲットーに住んでいる人々だ。名誉ブリタニア人としての生活をしている旧日本人は、待遇こそブリタニア人に劣るものの、この7年間で生活体系を作り上げていた。そのため、わざわざ新しく作られる未知の制度に身をゆだねるよりも、今までの生活を続けたほうがいいと考える人が多くいたのである。
そのほかにも、数は限りなく少ないが、ブリタニア人による参加表明も出ていた。しかし彼らは、世論から激しい非難を浴びることになった。なぜイレブンなどと対等の立場に自らなるのか、と。彼らにしても、全員が全員進んで旧日本人と同じ身分になることを選んでいるわけではない。特区に参加すれば、特権を失う以上に儲けを得られると判断した商人や、特区を成功させてユーフェミアをサポートするために…とプライドを捨てた人など、様々である。
残念ながら、ユーフェミアが行政特区日本を提案した時はここまで様々な考えの人間が集まることを想定していなかった。彼女の中では、『日本人とブリタニア人が争いなく過ごせる場所を作る』というのが第一目的で、ここまで深く考えられていなかったのである。
事前準備はできていなかったものの、主導していくのはやはりブリタニア、優秀なスタッフが配属されて、次々と問題に対処していっていた。
その中で、最も活躍していたと言ってもいいのが彼、ライである。
「はぁ…こんなことになるなら、スザクにももっと事務作業のことを叩きこんでおくべきだったか…」
ライのデスクの上には書類の山ができていた。高さ約1mの山が全部で5個。枚数にすると、実に約5万枚の書類である。
自分が担当している分だけでなく、他のブリタニア政庁の人間がした仕事にミスがないかのチェックもしているため、このような膨大な書類がデスクにそびえたっていたのだった。
本来はライ一人でやるべき仕事ではないのだが、行政特区日本を成功させるために隅々まで計画にほころびができていないかの確認をしておきたかったのだ。
ブリタニア政庁内には、まだ行政特区日本反対派の人間がたくさんいる。コーネリアが総督となってからは、クロヴィス総督時代のような汚職はほとんどなくなってはいるが、特区反対派の人間がずさんな仕事をして、内部から特区を失敗させようとしている可能性も捨てきることができない。無事に特区を成功させるには、どうしてもライが自分自身でチェックしておきたかったのだ。
本当はユーフェミアの騎士であるスザクにも手伝いをしてほしかったのだが、実際にやらせてみたところ、ものの数分で集中力が切れてしまった。学校の成績は決して悪くはないのだからやればできるはずなのだが、初めて見る行政文書の山に心が折れてしまったのだろう。
一方のライはどうだろうか。
書類仕事に関しても、かつてマニュアルを読まずにナイトメアの操縦法がわかったように、自然にどの書類が何を意味しているかわかってしまった。
「これのおかげで、より一層僕が何者だったかわからなくなってしまうんだよな…」
軽くインターネットを使って『ナイトメアの操縦ができる』かつ『書類仕事を普通にこなせる』という条件で調べてみたことがある。その結果出てきたものは、それこそ皇族の専任騎士程度しかいなかった。もし自分がそのような立場であったのなら、間違いなく捜索されているはずなので、さらに出自が分からなくなってしまったのだ。
「自分でやるとは言ったものの、さすがにこの量はくたびれるな。もう少しコーネリア殿下が派遣してくださった皆さんを信用したほうがいいのだろうか…」
もちろん、最初は信用していた。しかし、たまたまチェックした書類に不備を見つけてしまったのだ。ケアレスミスであるならばあまり気にしなかったはずなのだが、いくつか見つけたミスがどれも特区を作り上げていく上で重要な個所に含まれていたのだった。
ライはダールトン将軍にも相談したのだが、「私も部下たちを疑いたくないのだが、ただのケアレスミスがここまで狙ったように重要な場所に出てくるとは考えにくい。すまないが、特区のことをよく思わない意思が働いているのかもしれん」とのことだった。
しかし、わざわざ蒸し返して特区肯定派と否定派の溝を広げるわけにもいかず、ライとダールトンの間だけでの話となった。
「ライ、部屋に入るよ?」
ノックの音とともに、スザクが部屋に入ってきた。簡単な食事を携えているようだ。
「ごめんね、本当は僕も手伝えるといいのだけれども」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら、スザクは持ってきたものを、書類を一時的に片付けたライの目の前に広げる。コーヒーの入ったポットとカップ。そして数個のおにぎりとサンドイッチだ。
「ありがとう、スザク。助かるよ」
「あ、でもオニギリには気を付けて……」
「まさか……」
特派に所属している者ならこのフレーズを聞くだけで、何を注意すればいいかはすぐにわかる。ライはおにぎりに手を伸ばし、軽く力を入れることで半分に割った。表面からは見えなかったが、半分に割ることで出てきたおにぎりの中身は……
「スザク……今回は何のジャムだい?」
「えっと……確かクランベリージャムとか言っていたような気が」
特派名物、セシルの作るおにぎり――いや、オニギリだ。見た目はきれいだし、かなり丁寧に作られているが、中身が問題なのである。
セシルは独特の味覚感というか、日本食に対して屈折した見方をしている。これまで作られてきたものを例として、なぜかフルーツの乗った寿司がある。酢飯の上に物を乗せているという点では本来の寿司と変わらないのだが、乗っているものが問題なのだ。
本人は味見をしないのだろうか?というのが特派の面々の疑問なわけだが、直接聞くわけにもいかない。彼らには、独特の味を我慢しつつ食べきるか、そもそもセシルが料理を出す気配を察して逃げ出すかの二択しか残されていないのだ。
そして今回、ライに対して差し入れを持っていこうとしていたスザクの姿をセシルが目撃、どうせならついでに――と、『特製オニギリ』をこしらえてスザクに持たせたのだった。渡されてしまっては無下に捨てることもできない。スザクはこのオニギリがわたる相手であるライのことを憐れみながら運んできたのだった。
「えっと……僕がもともと持ってくるつもりだったサンドイッチもあるから、作業を終えてからオニギリに手をつけたら?そうすれば、少なくとも仕事そのものに対する影響は小さいだろうし」
「わっかった……参考にさせてもらうよ」
憂鬱そうな表情を浮かべたまま、返事をするライだった。
「ところでスザク。ユフィは今どうしている?」
行政特区日本の責任者となるユーフェミアは、皇籍返還を行うことにより、ゼロの――黒の騎士団が今まで行ってきた罪をすべて肩代わりし、行政特区に参加させようとしている。
最初はコーネリアの逆鱗に触れたこの案だったが、それをライとダールトンでこの行為によるエリア11平定への効果を、時間をかけて説明した。
1つ目。黒の騎士団を行政特区日本に正式に取り込むことによって、エリア11最大のテロ組織の活動を実質的に止めることに成功するということ。エリア11内の財政事情で、もっとも赤字を生み出しているのが軍事費である。よりブリタニアへの利益を生み出すために様々な政策をとっていきたいところなのだが、治安維持活動の影響でなかなか行えない状態が続いていた。黒の騎士団を武装解除するということは、そのまま財政への余裕が生まれることにつながり、よりよい政策も行っていけるはずである。
2つ目。黒の騎士団には奇跡の藤堂がいる。先の戦争でエリア11の希望として映った彼が、行政特区に参加することは、まだ参加表明をしていないイレブンにとって、参加へのハードルを下げるものになるに違いない。
3つ目。これはライとダールトンも認めざるを得ないことだが、ゼロの手腕はこのエリア11内にいる人間ではトップクラスであるということだ。彼が台頭する前は、黒の騎士団の前身であった集団はどこにでもいるようなテロリスト集団だった。それを彼一人で組織化し、運用を行ってきた手腕を疑う余地はない。日本人からの求心力も高いため、今後行政特区を運営していく上では彼の力は必要不可欠になるであろう。
これらは『コーネリアを説得するため』に述べた利点であったが、ライはこの利点のためだけにでも皇籍返還を行うこととは釣り合わないのではないか、と考えていた。実際のところ、3番目の利点以外はゼロをとらえて刑罰を与えても問題は起きないはずだ。ゼロという人材が惜しいという考えは、行政特区を短期的に考えた場合に出てくる発想だ。長期的な視点で考えれば、いい人材はブリタニア本国から呼ぶのでもいいし、行政特区内の日本人を育成して優秀な人材にするのでもよい。ユーフェミアが考えているのはおそらく後者の長期的に持続させる行政特区なのであるから、テロリストのトップを、皇位継承権を返上してまで救う必要はないはずなのだ。
『ユフィのやりたい政策だから……』と仕事に精を出すライだったが、この疑問点だけはいつまでも心にとめていた。
今はまだ、皇籍返還を行うことは公表してはいない。しかし、特区設立にあたっての役職や法律の整備を行う際、皇族の身分を失うユーフェミアの扱いをどうするかの議論が、発起人であるユーフェミアも含めて行われている。最近はユーフェミアもその議論にかかりっきりで疲弊している姿がトウキョウ租界政庁内で何度も目撃されている。スザクもライも、そんな彼女の健康状態が心配だった。
「特区の準備も大詰めだってこともあって、最近は会議の回数も減ったんだ。だからゆっくり休める時間もとれるようになってきていてね。今はちょうど部屋で体を休めているところだよ」
「そうか。休めているなら安心だな。スザクは休まなくても平気なのか?」
「僕は体力あるほうだから大丈夫だよ。それに、ライみたいにずっとデスクワークをしているわけでもないしね」
ニヤっと笑いながら言うスザクの言葉は、ライに対する皮肉そのものだった。
その後、しばらく二人は談笑を続けた。
普段の忙しさを忘れ、貴重な友人同士の時間を過ごす。
15分ほどたったころだろうか。スザクが話題を変えた。
「ところで、特区が正式に発足して、黒の騎士団も特区に参加することになったら、ライはどうするんだい?」
「??今まで通り、軍人の一人として特区運営にかかわっていこうと思っているけれども。必要であれば軍を除隊して、特区の職員に正式になろうとも考えているが…」
「いや、そうじゃなくてさ。カレンとのことだよ」
「……」
結局その話になることは、ライも半ばわかっていた。そのうち決着をつけなければならないことではあるのだが、ギアスという超常の力を利用してしまった以上、もう後戻りができないのである。
「カレンとはもう一度話してみるよ。だけど、この行政特区日本はもともと彼女が望んでいた形の日本の姿ではない。あくまでも、ブリタニアが『与えた』形になってしまう。彼女も頭が悪くないのだから、そのくらいはわかるさ」
そのことを利用して、ライは「結局カレンとは仲直りできなかった」ということにしようとしていた。自分は自分の道を行き、そして彼女は彼女自身がもともと望んでいた道を行く。アッシュフォード学園に自分が現れなければもともとそうなっていたはずなのだ。なので、ライに未練はない。
「以上、休憩終わり。僕はまた仕事を再開するから、君もユフィの元へ戻るといいよ。彼女にも、親しい人と話すことで気を休めることも大事だと思うから」
「……お言葉に甘えさせてもらうよ」
まだライの返答に納得いかないこともあったようだったが、スザクは追及することなく、部屋を出て行った。
スザクの足音が遠ざかったことを確認したライは、机の引き出しを開けた。そこには、しばらく前から伏せてある写真たてが入っている。
入っている写真に写っているのはライとカレン。最後に租界でデートした時の幸せなときの写真だ。そのころには、今このようなことになっているなど2人とも思ってもいなかった。
(カレン。僕は、君が戦う必要のない世界を作るよ。そのために、今僕ができることはなんでもやる。)
そう写真に写る自分たちに誓うのがライの日課。今日もまた誓いを立て、エリア11から争いをなくすために、5万枚の書類との戦いを再開した。
お久しぶりです。
復帰するといってから3か月近くたっての投稿となりました。
書くのに時間がかかってしまい、かつあまり推敲できていないので、今後ちょくちょく修正するかもしれません。
修正したら、前書きとあとがき両方に更新記録として残したいと思います。
次話もいつになるかわかりませんがよろしくお願いします。
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