このせかいを ふっかつ させたい (………)
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いせき このせかいの しんいり

 

 

 

 

そこは薄暗い。

 

 

そこは花が咲いている。

 

 

そこは塵にまみれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

底はとても静かだ。

 

 

 

============

 

 

頭が重い。息が詰まる。体全体が痛い。

 

 

 

重み? 息? 痛み?

 

そんなものはとうの昔になくなってしまったはず。どういった状況なのか。

―――――朦朧とした意識の中、そんなことを考える。

 

 

次第に自分はうつぶせに寝そべっていることに気が付く。それも、何か柔らかい絨毯のようなものの上に。

また、強くもなく、弱くもない、品の良いどこか懐かしい香りが鼻をつき、その瞬間静かな風の音が耳をなでる。

 

 

 

――――――落ち着かない。

 

どうしてなのかわからない。けれど、どこからか来る焦燥感が重たい瞼をこじ開けた。

 

 

一番最初に目に飛び込んで来たのは黄色、いや金色の花々。どうしても何も、今自分はその花畑の中で寝そべっているのだから。

とても美しい花たちだが、それに似合う青い空や小鳥のさえずり、暖かい太陽などはない。

 

ここは薄暗く、気味が悪いほど音が聞こえてこない。音といえば時々抜ける、冷たい風の音のみ。

 

そして何より、ここは穴の中だ。

自分の真上には、少しとは言えないぐらい高い位置にある丸い穴から灰色の空が見える。

 

自分の体の状態から察するに、自分はあの穴から落ちてきたのだろう。

 

 

痛みも和らいできた中、腕に力を込めて体を起こす。

進めばわかる気がした。そこに自分が求めるものが……いや、欲しいわけではない。じゃあなんのために?……そこに自分は行かなければならないから。どうして?……わからない。

 

――――頭が痛くなる。

とにかく急がなくては。

 

 

尽きぬ自問自答を繰り返すうちに、古い建物の前に着いた。もちろん中へ入る。

 

遺跡なのだろうか。トラップのようなものの名残がある。

「名残」といったのは、そのトラップが機能していない、というより、誰かが全て解いてしまったあとのようになっているからだ。

遺跡にはまだおかしい点がある。

 

 

 

中は塵まみれだった。遺跡なら普通かもしれない。が、塵ばかりなのに、どこか小綺麗で、少し前に誰かが塵をばらまいたような感じ。

それにとても静かで、自分以外生きているものいないのでは、と思えた。

 

 

ふと、1つの塵の塊の前に屈む。

 

塵に触れる。冷たい。

 

当たり前だ。温もりというものは生きるものにある。

 

でも、冷たいのとは別の感覚があるのだ。この灰には。ただの塵なのに。

 

 

―――悲しい。

 

 

気づけば何故か泣いていた。何故灰に対して泣くのかわからない。でも悲しい。悲しい。悲しい。

 

感情が溢れる。悲しみ、怒り、慈しみ。そして恐怖。

今まで何故感じなかったのだろうか。

 

 

頬をつたって涙が塵の上に落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――何かが動く。確かに自分のものである何かが。

 

 

 

 

―――何かが動く。確かに自分のものでない何かが。

 

 

 

 

それらが胸の奥で、温もりを持ち、感情が溢れる。

 

 

 

 

 

つらいことを耐え忍ぶ心、『にんたい』が。

 

何事にも立ち向かう気力、『ゆうき』が。

 

真っ直ぐに取り組む真心、『せいじつさ』が。

 

意志をつらぬき通す精神、『こんき』が。

 

公正さを重んじる気持ち、『せいぎ』が。

 

 

 

 

 

人のために尽くす思いやり、『やさしさ』が。

 

 

 

 

 

 

 

「…助けたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ケロ?」

 

 

そこにあったはずの塵の塊はもうない。

代わりにいるのはカエルのモンスターだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

=========

 

 

 

フライパンを片手にエプロンを着た少女は焦燥感に、いや、助けたいという『ケツイ』に満たされ、塵だらけの地下世界を進む。

 

 

塵だらけのこの世界の新入りとして。

 

 





サブタイトルは非公式日本語版のものであり、公式日本語版にはないフレーズなのですが、原文を直訳したものとして引用させていただきました。


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サイテーな クズ

 

 

「…ケロ?」

 

そこにいるのはカエル…ではない。カエルのモンスターだ。全身が真っ白で、胴体に黒い模様がある。そして脚の隙間からは、何かうごめくものが見える。

 

首をかしげ、状況がつかめないようだったが、いきなり私のことをおびえた目で見始め、全身をガタガタと震わせた。

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (きっきずつけない、でほし、いケロ…)」

 

こんなに周りが静かでなかったら聞こえないような弱々しい声でカエルのモンスターは言った。今にも泣いてしまいそうだ。

 

「大丈夫。安心して。私はあなたを傷つけたりなんてしないから。」

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (よ、よかったケロ… ぼくは しらないモンスターに いきなりぼうりょくを ふるわれたんだケロ。)」

 

私がつとめて優しい声でこたえると、疑うことを知らないのか自分の事情を話し始めた。もう少し警戒心があったほうがいいと思う。暴力をふるわれたらしいし、大丈夫なのだろうか。

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (キミが へいわしゅぎのニンゲンで よかったケロ。 )」

 

「うん。でもやっぱり知らない人間やモンスターには気をつけたほうがいいよ。」

 

私の気づかいに感謝を伝え、そのモンスターはフロギットと名乗った。元気そうなフロギットの姿に安堵を覚える。

 

 

 

しかし、その安堵もつかの間、フロギットは急に震えだす。

 

「ケロケロ。 ケロケロ…?(ど、どうして こんなに たくさん ちり が おちているケロ…?)」

 

フロギットは続ける。

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (ここで おそうしきごっこでも してたっていうケロ? いくらなんでも そんなふきんしんなこと するのは このいせきには いないはずケロ!)」

 

「フロギット、落ち着いて。」

 

息が荒くなるフロギットにそうは言ったものの、私も全く落ち着いてなんかいない。

―――塵にお葬式。そして暴力をふるわれたフロギットがついさっきまで塵であったこと。どんなに察しが悪くてもわかる。それになぜかなんとなくそんな気がしていた。目を背けていただけ。

 

そう。このたくさんの塵は本当に――――――

 

 

 

 

 

 

「……フロギット、どこかに隠れたほうがいいと思う。なるべく急いで。」

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (わ、わかった、そうするケロ。 …でも キミは どうするケロ?)」

 

「私は他に隠れられていないモンスターがいないか探そうと思う。」

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (いくらなんでも あぶないケロ! キミも いっしょにかくれるケロ!)」

 

こんなに大変な状況で心の余裕だってないはずなのに、フロギットは私のことを心配してくれた。

 

「ありがとう。でも大丈夫だよ。」

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (そ、そうケロ? でも できるだけはやく かくれるケロ…)」

 

「大丈夫」だなんて保証どこにもないっていうのに私は悪いやつだ。フロギットが疑いを知らないのをいいことに。

 

フロギットがこちらをちらちら見ながら去って行く姿を見届け、張りつめた気持ちのまま周りを見渡す。

 

ただの塵のように無機質にたたずむのは全てかつては生きていたものだった。それらの命を全て奪ったものがいる。

 

それを知って怖くないわけがない。いわゆる殺人鬼がいるというのだ。いつ自分が襲われてもおかしくない。

でも、体は全く震えていない。足もすくまない。

 

ある感情があるからだ。もちろん、助けたいという思いもそのうちの一つ。だが、何よりも―――

 

 

 

 

 

 

 

―――怒り。この行いに対して、その実行犯に対して、そしてその理不尽さに対して。

 

 

少なくともフロギットは疑いを知らず、怖がりなくせして他人を心配する心優しいモンスターだ。

その命が理不尽に奪われて行ったのだと知ると、怒りを覚えずにはいられない。

 

 

 

悪は許されないと思うとケツイがみなぎった。

 

 

 



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ほんとうに ほしいもの







私には一つ、目を向けるべき問題がある。

 

知らない遺跡にいて、塵となったモンスターたちがいて、私はモンスターたちを助けなければいけなくて、周りに殺人鬼がいるかもしれない。

これだけでもだいぶ非常で大変な問題ばかりなのだが、それとは別にある。

 

立ちあがり、少し歩を進める。

 

 

 

何故、フロギットが生き返ったのか。

 

フロギットは確かに塵だった。「塵」というのはどうもモンスターが死んでしまったあとにできる死骸のようなものらしい。

つまりフロギットは死んでいたのだ。それで何かがトリガーとなって生き返った。そう考えるのが妥当だろう。

 

あのとき、私は塵のそばに寄って何をしたか――――

 

 

思えばあのときの私のことはよくわからない。その時はまだ、ただの塵とした認識しかなかったというのに、悲しかったのだ。怖かったのだ。慈しんだのだ。

そしていろいろな感情が渦巻き―――――

 

 

 

 

「助けたい」と思った。

 

 

 

そう。これだ。助けたいと思ったら何かが動いたのだ。そして次の瞬間には塵がフロギットに変わっていた。

 

また別の塵の前にしゃがむ。

 

もう一度、できるだろうか。いや、やらなければわからない。今ここで。

 

 

 

 

 

「―――助けたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――何かが動く。自分のものである何かが、自分のものでない何かが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それらが温もりを持ち、感情が溢れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に慣れ親しんだものがある。

 

知らないものがある。

 

悪を許せない気持ちがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが光って、

 

 

 

 

その場所に一斉に命があるものの気配が広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのはフロギットとよく似たカエルのモンスター。何が起きたのかわからないようで首をかしげている。

 

そこにいたのは羽と触角のついた虫のようなモンスター。皆今にも泣き出しそうな顔をして、弱々しく羽を羽ばたかせている。

 

そこにいたのは大きな目を一つ持ち、内側に曲がった角を持つモンスター。その目をギョロつかせ、周りの様子を伺っている。

 

そこにいたのはゼリーのような体で前後左右にふるふると揺れているモンスター。何をしているのかはわからない。

 

 

 

「これは成功した…のかな…?」

 

現にここにはたくさんのモンスターたちがいる。

 

そう、たくさんの。

 

 

「どうしてこんなに…いや。」

 

知らないモンスターたちへの驚きや、新たな疑問について思考を巡らせている暇はない。

 

 

 

「あ、あの…」

 

 

一斉にこの空間にある目が、意識が私に向けられる。

 

一対の目は疑問、一対は恐怖、一つの目は怪訝、目はないが、一つの意識は好奇心。

 

「信じてもらえないかもしれないけど、ここは危ないの。」

 

 

 

 

 

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (キケン!? それはたいへんケロ!)」

 

「は、はやく ににににげないと…」

 

「からかってくるやつが いるの?」

 

「こぽこぽ…」

 

 

 

 

 

 

……モンスターたちは意外に皆とても素直なのかもしれない。

 

「そう。だからなるべく早く、どこかに隠れるべきだと思うの。」

 

そう私が言うと、反応はまちまちだが、皆同意したような姿勢を見せた。

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (ボク、 かくれるのにいいばしょ しってるケロ。 あんないするケロ。)」

 

カエルのモンスターがそう言う。皆もついていくようだ。

 

そんな中、そのカエルのモンスターがこちらへ目を向ける。

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (そういえば、 このなかでだれか フロギットっていう ぼくによくにた モンスターを しらないケロ?)」

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (ぼくのトモダチなんだケロ、 なかなか あいにこないから むかえにいったんだケロ。 そしたら―――)」

 

ぷつりと糸が切れたかのように、言葉が急に途切れる。

 

 

私はほとんどモンスターの体について知らない。けれど、そのフロギットの友達の顔色が、どこか悪くなっていっている気がした。そしてその理由もなんとなくわかった。

 

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (そしたら…… しらないモンスターに あったケロ…)」

 

 

そこまで話を聞いて、他のモンスターたちも何か心当たりがあったのだろう。皆怯え出した。虫のようなモンスターに関しては、もう怯えるの域を越えている。

 

「…とりあえず、ここにいたら危ない。隠れに行こう。」

 

私がそう言うと、フロギットの友達が私の方を見た。

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (なにをいっているケロ! フロギットをまずさがすケロ! フロギットがあぶないケロ!)」

 

誰が見たって、怖がっているのがわかるような状態なのに、震える声を張り上げて友達を心配した。

 

「大丈夫。私、さっきフロギットに会ったの。フロギットはもう隠れに行ったよ。」

 

「ケロケロ。 ケロケロ。 (ほ、ほんとうケロ? よかったケロ…)」

 

彼は私の言葉に心底安心したようで、どこかで聞いたような力の抜けきった声で反応する。

 

他の皆も少しホッとしたような表情や仕草だ。

 

 

「じゃあ そろそろあんないしてくれない? これじゃあぼくたちがあぶないめに あうかもしれないよ。」

 

ルークスと名乗った大きな一つ目のモンスターがそう急かすように言う。

だが、ルークスだってフロギットが危険かもしれないと知った時、確かに焦っていたし、今だってその大きな目の奥に、安堵の色が隠しきれていない。

 

皆もそれをわかっていたのだろう。誰もルークスをとがめなかった。

 

フロギットの友達――彼の名前もフロギットらしい。――もそれに頷いて、皆を先導するようにぴょんぴょんと跳ねながら進んで行く。

 

皆が部屋を出ていく中、立ち止まっている私を虫のようなモンスターが見る。

 

「キミは…いかないの…?」

 

きっと私がついて行かないのか心配なのだろう。

 

「私は大丈夫だよ。ちょっと、隠れていないモンスターたちがいないかどうか確認するだけ。」

 

少しの間、私の前から動かなかったが、大丈夫だと念を押すとうじうじとしながらも部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふう、と一息つく。それでも、一息ぐらいしかつけない。

さっきからの情報量の多さに驚く。

 

部屋を出て、歩きながら考える。

 

まず、どうしてこんな状況なのか。

殺人鬼がいる。いきなり出てきたのか、そいつの気まぐれなのか。

 

次に、どうして私はモンスターたちを生き返らせられるのか。どうやって、はわかったが。

 

この二つに関しては本当にわからない。この先に情報があることに期待しよう。

 

それと、だ。モンスターという種族は、あんなも見た目が違って、あんなにも話し方が違って、あんなにも性格が違って。

 

 

それでいて、誰もがあんなにも素直で優しいのだ。

それだけは、この中でわかった数少ない事実だ。

 

皆を思い出すと、なんだか胸の奥が暖かい気がする。

いつぶりだろうか、こんなのは。

 

 

「あ、そういえばあの子に、心配してくれてありがとうっていうの忘れてたな…」

 

 

 

 

 

いつかまた会ったときに、感謝を伝えようと思うとケツイがみなぎった。

 

 

 

 

 





遅くなってすみません。
データが消えたり、忙しかったりと色々あったので遅くなりました。




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いいひと

 

 

「大丈夫?えっと…君ってしゃべれるよね?」

 

「なにいってるの? やさいは しゃべれないんだけど?」

 

「えっ?あー。うん、そうだね…」

 

ツッコミをいれたくなるようなことを言っているのは、今私の目の前にいるモンスター。にんじんのような形のくすんだ黄色い体に、吊り上がった目と大きな口がある。

さっき私が穴に落ちてしまったところで見つけ、『助けた』モンスターだ。

 

「キミって ちゃんとみどりのやさい たべてる?」

 

「私は好き嫌いしないけど…」

 

いきなり予想外な質問が来て驚く。

 

「たべてないよ ゼッタイ。キズ なおってないじゃん。」

 

「それはこの傷ができたあとに食べてないからで――」

 

「ほら やっぱりたべてない。」

 

「う、うん…」

 

そのただでさえ大きく持ち上げられた口の端が更に目に近づく。

 

傷というのは、この野菜のモンスターを見つけたときもそうだが、今までも何回か穴に落ちてしまったときにできたものだ。あと、ちょっといろいろあった。

フライパンを持ち歩いているのもあって、うまく受け身をとれなかった。フライパンでガードしても、逆に硬くて痛かった。なるべくもう穴には落ちたくないものだ。

 

「ほら たべて!」

 

そんなことを考えていたら、野菜のモンスターが緑色の小さいにんじんのようなものを飛ばしてきた。どうやっているのかはわからないが。

 

うまくキャッチして、観察してみるが、本当にただ緑色で小さいというだけのにんじんだ。

 

「たべて!」

 

生の、ましてや緑色のにんじんにそのままかじりつく、なんて経験はなかなかないなあと思いながらも、必死な彼のためだ。全部一気に口に入れて噛む。

 

 

 

 

 

なんと言うか、苦くて、固くて、土の味がする。

 

それでも、飲み込んだのだが、飲み込んだ感覚がしないのだ。代わりに、傷の痛みが和いでいく感覚がある。

 

 

「どう?」

 

「すごい…」

 

本心から私がそう言うと、もっと口の端を上げた。もう目の下に口の端がついている。

 

 

 

 

 

 

その後は、彼にはどこかに隠れるように話し、別れを告げた。

 

 

私はここまで何回か、モンスターたちを『助けて』きた。

 

今まで会ったモンスターたちとよく似たモンスターもいたが、昆虫のようだけど、なぜだかずっと踊っていたモンスター。縄張りだとかあるのかはわからないけれど、たくさんまとまっていたモンスターなどいろいろ見つけた。

 

途中で隠れ場所を知っているというモンスターがいたので、私も場所を教えてもらい、知らないモンスターに教えるようにしている。

 

さっきの野菜のモンスターにも教えてあげたのだが、もっと安全な場所を知っている、と言いながら土の中に入って行った。

 

 

穴をくぐり抜け、上の道へ戻る。

ここの部屋には隅に穴が六つあるようだ。今度は穴に落ちないように、と思ったけれど、穴の中にもモンスターたちがいる可能性がある。フライパンを一旦置いておけばましだろうし、ここは体を張ってでも行くべき―――

 

 

「ヤァ…」

 

「…こんにちは。」

 

いきなりすっと現れたてきたのはモンスター。それも真っ白で、浮いている体に顔がある。いわゆるゴーストだ。二つの目はうるうると揺れている。

 

急なことで反応が遅れた。その遅れを悪いように捉えてしまったのか、そのゴーストはただでさえ沈んでいた顔をさらに暗くする。

 

「ごめんネ… ボク… なんだか きまずいかんじに しちゃうんだよネ… ちょっとまえも そうだッタ…」

 

「誰かと会ったの?」

 

それを言い終わる前に、ゴーストの目から大量の涙が流れ出す。それが私のほうへ、決して速くはないが、それでも着実に近づいてくる。

 

「…っと、危ない。」

 

私はその大粒の涙をギリギリで避ける。というのも、これに当たると怪我をするからだ。これが傷があったもう一つの理由だ。

 

モンスターたちは何回かこの攻撃を私にしてきた。厳密に言えばこれは攻撃ではないのだろう。

だってモンスターたちからそんな意志は見えないし。皆優しいし。

 

とは言っても最初は驚いた。何かモンスターが飛ばしてきたと思ったら、それに当たると痛いのだ。

 

 

取り敢えず今は涙を避ける。

傷を緑色のにんじんで、せっかく治してもらったばかりなのだ。また怪我したら、また野菜を食べろと言われてしまう。

 

―――涙が一瞬止まる。

 

 

ここで何か行動しなくては。

 

 

「ねえ?大丈夫?」

 

モンスターのことはよくわからないとはいえ、相手は涙を流しているのだ。安心させられるような声で問いかける。

 

 

「ハハハ…」

 

 

―――また涙が流れ込む。

 

今度は細い涙だが流れが速い。動きも読めない。

 

 

「いっ…!」

 

避けきれず、背中に当たってしまった。何回か避けるのも経験して慣れてきたと思ったが、このゴーストの涙は今まで見てきた中で最も手強い。

 

 

―――涙がまた止まる。

 

 

「わっ私で良ければ話聞くよ?」

 

痛いのを我慢して声をかける。

 

 

「キミまで ゆううつに なっちゃうヨ…」

 

 

―――涙が流れ出す。

 

 

次は全部避けきる。

 

 

―――止まる。

 

 

「じゃあ、私に教えてくれない?ここらへんのこと全然知らなくて。」

 

 

「ボクには つとまらないヨ… すぐジブンのことばかり はなしちゃウ。」

 

 

―――流れ出す。

 

 

―――止まる。

 

 

「君のことでもいいんだよ。君のことも知りたいし。」

 

 

ゴーストの表情が少し明るくなる。

 

 

―――流れ出す。

 

 

―――止まる。

 

 

「そうだ、ゴーストって何か食べられるのかな?私料理得意だからさ。好きな食べ物とかある?」

 

 

次に来るだろう涙に身構える。だがその必要はなかった。

 

 

「えット… ボクは ゴーストサンドイッチが すきカナ… あっ… でも キミはつくれないだろうケド… すけちゃうカラ…」

 

「じゃあ作り方だけでも教えてくれると嬉しいな。」

 

「ボクのいえ… ウォーターフォールにあるんダ。 そこで おしえるヨ。 いきたくないナラ こなくてもいいケド…」

 

よっぽど自分に自信がないのだろうか。でも、さっきと比べて声がずっと明るい。

 

 

 

 

 

 

私はこの遺跡の中の状況をゴーストに話した。ゴーストの名前はナプスタ・ブルークというらしい。

私が穴の底に安全に行く方法はないかと訊くと、ナプスタが見てきてくれた。ゴーストは飛べるし、物を通り抜けられるらしい。

 

「どのあなにも おちば いがいは なかったヨ。」

 

「ありがとうナプスタ。すごく助かったよ。」

 

本当にありがたい。本当に。

 

その私の気持ちが伝わったのか、ナプスタはちょっとだけ、ほんの少しだけ、口の端を上げた。

 

 

「きょうは キミに あえてよかッタ。 ひさしぶりにたのしかったカラつい… たくさん はなしちゃったケド…」

 

「気にしないで。私は話聞けてすごい楽しかったよ。」

 

きっと、ナプスタは最近あまり誰とも話してなかったのだろう。そんな中、楽しく話せる相手ができたらついつい話したくなっちゃうのは普通だ。

私もいつか、そんなことがあった。

 

「それじゃあネ…」

 

「うん。今度はナプスタの家でね。」

 

 

 

ナプスタの影がだんだん薄くなり、ナプスタ自体も見えなくなる。

 

 

また、友達ができた。

今度は家に遊びに行く約束もした。

 

いろいろ大変なこともあるけれど、またそのためにも。

 

 

 

 

ナプスタとまた会いたいと思うと、ケツイがみなぎった。

 

 

 

 



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あなたは なにも しらない

 

 

「それで まもられいたのは そとにいる みんなの ほうだった!」

 

「ハ … ハ ハ … 」

 

 

―――ソウルの割れる音がする。

 

 

 

―――そして塵。

 

 

 

同じ言葉。もう聞き飽きた。そんな言葉では私には響かない。止められない。変えられない。

仕方のない物だとは知っているけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり静かになってしまったこの空間に、おもちゃのナイフを持ち、リボンを無造作に付けた子供が一人。

子供には驚くほど似合わない顔をして、ただ、前へと進んで行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===========

 

 

 

 

 

縞の入った服にピンクのリボンを付けた子供。これがモンスターたちを傷つけた犯人の特徴らしい。

 

 

これはナプスタから聞いた情報だ。ナプスタはゴーストだからダメージを負う事はないのだが、そのふりをしていたらしい。

 

子供が犯人とは驚いた。本当なのだろうか?

 

 

飴をなめて、遺跡の中を歩きながら考える。

ちなみにこの飴はずっと踊っているモンスターから貰った。やっぱり傷が癒えていく。モンスターの食べ物はそういう物なのか?

 

 

今、周りにはたくさんの柱やいろんな色のスイッチがある。これも何かの仕掛けなんだろうけど、全て解かれているので横を素通りして行く。

 

奥に来てから塵を全然見かけなくなった。もちろん隅々まで確認しているが。

きっと、遺跡の入り口辺りでの危険を察して、ここら辺にいたモンスターたちは逃げたんだろう。

 

 

 

特に何もなく、広い空間に出る。落ち葉がたくさんと、葉も花も実も何もついていない大きな木が、その空間のど真ん中に居座っている。

その奥にあるのは…家?

 

遺跡なのに小綺麗なこの場所もそうだが、それ以上に、遺跡の中にこんな清潔感のある家があるのもだいぶおかしい。

 

 

誰か住んでいるのだろうか?

 

ドアは私の身長を大きく越しているため、今まで会ってきたようなモンスターたちが住んでいるわけではなさそうだ。

ドアの上には「ホーム」と書かれている。

 

 

他の道も全て見てまわったが、全て行き止まりだった。

他に行っていない場所というと、途中の物置きのような場所から見えた、使われていないらしい家々。それと、今目の前にある大きな家。

 

この家は他と違って使われている感じがする。どこか温かみがあるというか…

 

 

という訳で、行く所はここ意外にはないのだ。もしかしたら、この家の先に道があるかもしれない。いや、そんな気がする。

 

 

 

 

「あの…誰かいませんか?」

 

声をかける。

 

 

 

 

 

――――――返事はない。

 

 

「お邪魔します…」

 

 

家の中に入る。

 

 

 

その瞬間、温かさが身を包む。ずっとここに居たくなるような、この温かさに体を預けてしまいたくなる。そんな温かさ。

 

それと同時に感じたのはある香り。香ばしくて、甘くて、優しくて、懐かしくて、…そして、切ない。そんな香り。

 

 

 

 

部屋をまわる。

誰もいない。

 

ダイニングに入る。

誰もいない。

 

キッチンに入る。

誰もいない。

 

 

誰かそこにいてくれることを願うように、走って探した。

誰もいなかった。

 

 

入り口のすぐ前にあった、下へと続く階段の先は、やはり道があった。

 

 

階段を下りる。

 

 

もう、あの温かさは感じられない。

もう、あの香りは感じられない。

 

戻りたくなるけれど、戻れない。

 

背中を押されているからだ。

 

他の誰でもない、自分に。

 

 

焦燥感でもなく、怒りでもなく、悲しみでもなく、哀れみでもない。

 

 

これは『ケツイ』だ。

いつかの私のケツイが、私の背中を押す。

 

 

 

私は()()「ホーム」をあとにした。

 

 

 

 

 

 

長い廊下を突き進んだ先にあったのは、大きく、重たそうな扉。そしてその前にあるのは…

 

一際大きな塊の塵。

 

 

黙って側まで寄る。

 

 

 

 

 

―――――――――助けたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――何かが動く。自分のものである何かと、自分のものではない何かが。

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――何も起きない。

 

 

 

 

 

どうして?どうしてできない?助けなければいけないのに。

 

 

焦りが大きくなる。

 

 

 

 

助けられないだなんて嫌だ。このモンスターにも大切な物があるかもしれないのに。

 

話しができないなんて嫌だ。友達になれたかもしれないのに。

 

会えないだなんて嫌だ。こんなに悲しいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ。諦めるもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが光って―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――っ…」

 

息が詰まる。

 

 

 

体を起こして居られなくなり、遺跡の硬い床に倒れ伏す。

 

瞼が重い。いや、体全体が重い。

 

意識が遠のき、冷たい床だけが感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケツイがみなぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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だいじなこ

 

 

 

 

暖かい。

 

柔らかい。

 

冷たく硬い床はない。

 

 

目を開ける。

 

赤い天井が見える。

 

暖色系で統一された家具や壁が見える。

 

 

私は…今ベッドの上にいるようだ。

暖かい毛布をかけられている。

 

体に異常はなさそうだ。

 

ゆっくり体を起こす、と―――

 

 

「あら? めが さめたのね。 からだはだいじょうぶかしら? 」

 

 

奥のドアからヤギのような大きなモンスターが入って来た。

 

 

「あなた、 キズは みあたらなかったけど、 きをうしなっていて… 」

 

ヤギのモンスターが言葉を途中で切り、私の方を心底心配そうに見る。

 

「ほんとうにだいじょうぶ? どこかいたむようなら いってちょうだい? 」

 

「ぇ…?」

 

 

頬を何か、生暖かい物がつたう。

そこでやっと気付いた。

 

私は泣いていたのだ。

だから彼女が私を心配した。

 

私は安心したのだ。

だから私は泣いた。

 

「い、いえ。大丈夫です。ただ、貴女が無事でいてくれた事が嬉しくて…安心しちゃって…それで…」

 

ヤギのモンスターは優しく笑う。

 

「そうだったのね。 よかったわ。 わたしはトリエル。 このいせきの かんりにんです。 よろしくね。 」

 

こちらも挨拶をすると、握手をした。

それが終わると、トリエルは顔を真剣な表情へと変える。

 

「あなたが… わたしのことを たすけてくれたのよね? 」

 

まさか貴女が塵でいるところを見つけたのです、だなんて言えない。

 

「はい…」

 

「そこで こどもにあわなかったかしら。 」

 

子供…というのはきっとナプスタが言っていた子供だろう。

 

つまりは、トリエルを塵にした張本人だ。

 

 

「…いいえ、私が着いた時にはもう誰もいませんでした。」

 

「そう… 」

 

トリエルは悲しいような、怒っているような、ホッとしたような、焦っているような、複雑な表情をした。私がただ、モンスターの表情の読み取り方を、分かってないだけかもしれないけど。

 

 

「いいの。 きにしないで。 それよりあなたはやすんだほうがいいわ。 」

 

…いや、でも私は。

 

「トリエルさん、気づかいはとても嬉しいんですけど、私はあの扉の奥に行きたいんです。」

 

 

トリエルの目の色が変わった。これは私にもはっきり分かった。

 

「ダメよ! いせきのそとは いまキケンなの! あなたにまた そんなところにいってほしくない… 」

 

 

「また行く…?」

 

あっと言い、トリエルは口を隠した。

 

 

「…ごめんなさいね。 あなたとよくにたコと しりあいでね、 そのコと かさねちゃったの。 もう… あのコはもういないのにね… 」

 

トリエルの声が暗く、悲しげに沈んでいく。

私がここを出て行ったら、トリエルはもっと悲しむだろうし、苦しむだろう。

 

 

でも私は、ここから出て、皆を助けに行かなきゃいけない。

 

でも、トリエルを悲しませるわけにはいかない。だから―――

 

 

 

「トリエルさん、私は全然強くないんです。相手が誰でも傷つけたくないし。」

 

トリエルが私の意図を掴めないというように首をかしげる。

 

「でも、私にはたった一つだけ力があるんです。」

 

トリエルの目を真っ直ぐに見る。

 

 

 

「皆を助ける力です。」

 

少しだけ沈黙が流れる。

 

 

「そのチカラで あなたはわたしをたすけた。そういうことかしら? そのチカラをつかって、 あなたはこのさきにいるみんなを たすけにいきたいのね… 」

 

「私にあるものと言ったら、この力しかないけど、これは私にしかないから。皆がいなくなるのが嫌だから。だから、先へ行かせてください。」

 

頼み込むようにトリエルに言う。

 

また沈黙が流れて―――

 

 

 

「わかったわ… ドアのむこうへいきなさい。 わたしがまちがっていたわ。 」

 

トリエルが悲しげな笑顔を私に向けながら言う。

 

「あなたは キケンをわかったうえで みんなをたすけようとしていたのよね。 そこで ははおやがとるべきたいどは ヒテイじゃないわ。」

 

トリエルが近づいて、体が、心が、温かくなる。

私は、トリエルに抱きしめられていた。

 

「あなただって こわかったし さびしかったはずよ。 」

 

…そうだ。自分でも気づけなかった。怖がっていちゃ、寂しがっていちゃいけないと、自分で自分を仕舞い込んでいたから。

 

「トリエルさん…」

 

私がそう言うと、トリエルは少し困った顔をした。

 

「わたしはあなたのことを ジブンのこどものように おもっているわ。 だから そんなにかしこまらなくていいのよ。 」

 

「あぁ… えっと、じゃあママ…とか?」

 

何だか自分で言ってて恥ずかしくなってきた。トリエルはというと、最初は驚いていたようだったけど、今日一番の心からの笑顔を見せた。

 

「あなたがそうしたいなら… ぜんぜんかまわないわ。 すきなように よんでちょうだいね。 」

 

もの凄く恥ずかしいし、なんでそれなんだって我ながら思うけど、トリエルがこんなに嬉しそうな顔をしているし、どうしてだかしっくりくるような感じがした。

 

「うん…… ママ。」

 

トリエル、いや、ママがにっこりと笑う。

 

「それとよ。 あなた、 そのチカラしか もってないっていってたけれど ぜんぜん そんなことないじゃない。 」

 

私が首をかしげるとママは続けた。

 

「やさしさよ。 」

 

ママは続ける。

 

「ただ チカラがあるだけじゃ だれもたすけられないわ。 でもあなたはちがう。あなたは キケンをおかしてでも、 みんなをたすけたいとおもった。 」

 

「そのやさしさが あなたにはあるじゃない。 」

 

 

 

…どうしよう、また泣きそうだ。改めて、ママが本当に私の事を考えてくれているんだなと思った。

 

「ありがとう。でもやっぱりモンスターたちの優しさには敵わないかな。」

 

「フフフ。 そうかしら? でもケツイは あなたのほうがつよいとおもうわ。 」

 

そんなやり取りができるのが本当に嬉しい。ここでママと二人、暮らしていくのも悪くないかもと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんとうにほんとうに きをつけてちょうだい。 キケンだとおもったら すぐに にげるのよ。 」

 

「うん。わかった。」

 

真剣な面持ちで話しているのはあの大きな扉の前。今は開け放たれ、冷たい風が足元を通り抜けている。

 

本当はママも一緒に来るはずだった。でもどういう訳か、使えていたはずの魔法が使えなくなっていたらしい。ママはそれでも一緒に行くと言ったが、色々理由を並べ立てて押しきってきた。だから遺跡の外へ出るのは私だけだ。

 

「わたしが いせきのそとへでたのは ずいぶんまえだから、 あまり たすけになるじょうほうがなくて ごめんなさいね。 」

 

「心配ないよ。今までもそうだったし、途中で皆に訊けば大丈夫だよ。」

 

極力ママを安心させられるように応える。

 

「そうだわ。 そとに サンズっていうスケルトンのモンスターがいるの。 かれはきっと たすけてくれるはずよ。 それと―― 」

 

ママが声のトーンを落とす。

 

「あのコは ほんとうにキケンよ。 モンスターいじょうに モンスターだった。 どうか ブジでいてちょうだい、 わが子よ。 」

 

「うん。必ずまたママに会いに行くから。」

 

ママが私を抱きしめる。私も力強く抱きしめる。

名残惜しく思いながらもママと離れる。

 

「それじゃあママ、行ってきます。」

 

「いってらっしゃい、 わが子よ。 」

 

扉をくぐる。後ろは振り向かない。振り向いたらあのママのとても悲しそうな顔が見えてしまうから。帰りたくなってしまうから。

 

 

あの優しいママとまたたくさん話したい。だから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に無事に帰ると思うと、ケツイがみなぎった。

 

 

 



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スノーフル サムい

 

 

 

バアンと音を立て、扉が閉まる。遺跡の中で反響した音が外からでも聞こえる。

 

私は今、遺跡の外へ出た。遺跡の外、というだけであって地上ではない。

 

 

というか寒い。もの凄く凄く寒い。

足元を見ると雪が積もっている。道理で寒い訳だ。地下というのは勝手に暑い場所だと思っていたけど、そんな事はないらしい。日差しが通らないからかもしれない。

 

体を暖める為にも少し小走りになりながら、気味が悪いほど静かな雪の小道を進んで行く。

 

そう言えば、ママはどうして魔法が使えなくなってたんだろう。ちなみに魔法はモンスターなら皆使えるらしく、私が触れるとダメージを受ける、モンスターたちが飛ばしてきたあれだ。

ママの様子からして、魔法が使えなくなるのはよくあるような事ではないのはわかった。そして私が助けた後に使えなくなったんだから――

 

 

 

私の『助ける』力の副作用的な物…?

 

思えば、ママを助けた後、全身がだるくなってその後の記憶がない。気を失ってたとママが言ってた気がする。今までそんな事なかったのに。

 

 

前を見ると、木でできた橋のような、ゲートのような物が小道の先にある。これも何かしらの仕掛けなのかもしれないけど何も起きない。

 

これも誰かが解いた後なのか?

だとするとやっぱり例の子供だろうか…

 

 

 

 

 

 

 

遺跡の中には仕掛けと、落ち葉と、あと机にくっついたチーズぐらいしかなかったけど、遺跡の外はそうでもないらしい。

 

雪は勿論の事、針葉樹がたくさん。川もあったし、小屋とかランプとか、何も入ってなかったけど箱だとか。モンスターの写真が釣り針の所に付いた釣り竿もあった。

人工物に関してはどれも使用用途が分からない。

 

そんな中で、その箱の近くの雪が盛り上がっていた。

 

 

 

…いや雪が盛り上がっているんじゃない。

 

雪の上に塵が乗っかっているんだ。

 

 

「―――助けなきゃ。」

 

 

 

 

 

=======

 

 

 

 

 

「…いよっと。」

 

寒さに震えながらも魔法を避ける。

 

「こんなゆきで ふるえとったら さきゆきわるいで。 」

 

「お気遣いありがとう。でも走ってるからちょっと暖かくなったかも。」

 

「わらうところやで、 ここ。 」

 

「えっ?」

 

鳥のモンスターの口がへの字に曲がる。そして魔法が飛び交う。三日月型の雪の欠片のような魔法だ。

 

動きが読めてきた。十分避けられる。

 

鳥のモンスターがこちらをジトっと見る。

 

「 “ゆき” のだじゃれや! だじゃれ! 」

 

「…あっ。」

 

鳥のモンスターが私に失望したような、悔しいような目を向ける。

 

「ごめんね!いや私はその…そういう事に疎いから! …でも分かるモンスターには、きっと受けると思うよ?」

 

そう言うとすぐに、鳥のモンスターはパアっと表情を明るくする。

 

「おもしろいやろ!? オヤジめ! きいたか! 」

 

「あーうん、何事も自信がある方が良いよ。」

 

 

 

取り敢えず『助ける』力は問題なく使えるようだ。この鳥のモンスターも普通に魔法が使えてるようだし、私自身に不調もない。

 

どうしてママの時だけ?

 

 

 

オワライチョウというらしい鳥のモンスターには危険について知らせ、隠れるように促した。オワライチョウも例の子供について覚えているらしかったが、思い出した時に顔色が一瞬で悪くなったので、わざわざ掘り返しはしなかった。

 

周りを見渡す。

 

雪が一面に積もっている中、塵がないかどうか探すのはかなり大変そうだ。

 

でも、ちゃんと見つけてあげなきゃ。

 

 

 

 

自分の中で、意志がかたまる。

 

 

 

 

「助けたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――何かが動く。自分のものである何かと、自分のものでない何かが。

 

 

 

それらが温もりを持ち、感情が溢れる。

 

 

 

自分に慣れ親しんだものがある。

 

知らないものがある。

 

悪を許せない気持ちがある。

 

意志を貫き通す精神がある。

 

 

 

何かが光って―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆を助ける意志がかたまり、ケツイがみなぎった。

 

 

 

 



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なんの やくにも たたない

 

 

 

つまりこういう事だ。

『青は止まれ』

 

 

青色の魔法は、当たる時に動くとダメージを受ける。逆に言えば、避けられない魔法も動きさえしなければダメージを受けない。

 

分かってしまえば簡単な法則だけど、分かるまでにだいぶダメージを受けてしまった。結構、いやかなり痛い。

 

今は走り回る必要がなく、痛みが増さないのでとてもありがたい。というのも、私は今、目の前にいる犬のモンスターを撫でているからだ。

 

「ナデナデ」

 

「だいて? ないて? なでて? なでて? だいて? だいて? 」

 

なぜこんな事をしているかというと、こうする事でこの犬のモンスターが大人しくなるからだ。

どうやらこの犬のモンスターは嗅覚が良いらしく、私の事が人間だと判ったようだ。今まで私が人間なのを見抜いたのは、ママとフロギットだけだ。あのふたりはどうして判ったんだろう?

 

それはそうと、この犬のモンスターはママやフロギットと違い、人間である私の事を捕まえようとしている。そういう訳で、大人しくさせる必要がある。

 

「ここは危険ナデナデ。どこかに隠れた方が良いナデナデ。」

 

「な! なな! なでられたら きくしかないぞ!」

 

なんか色々大丈夫かな。心配になってきた。

 

 

 

=======

 

 

 

つるつると滑りながらも、氷に囲まれた場所にある看板の下に辿り着く。東にスノーフルという町があるようだ。あぁ、あと雪ね。まあそうだろう。

 

そのスノーフルの町に行く前に、雪としか書いてないけど北へ行ってみるか。

 

 

 

 

「ほんとうに雪しかない。…ん?」

 

一面真っ白な雪の中に橙色の物が辛うじて見える。

 

 

近くに寄って、しゃがんでみる。何かが雪に埋もれている。引っ張り出そ―――

 

「おねがいします… 」

 

「わ!」

 

手を伸ばした先から、いきなりくぐもった声が聞こえて驚く。

 

「ボクは ゆきだるまです。 ただしくは ゆきだるまだった、 ですね… 」

 

確かにちょっとここらへんの雪が不自然だ。調度雪だるまだった物が崩れたみたいに。

 

「ボクのからだのゆきを ほとんど もっていっちゃった モンスターがいるんです。 」

 

「大丈夫なのそれ…?」

 

「からだは だいじょうぶです。 でも、 もっていかれたからだも まだ ボクのからだなわけで… だから あのたびびとがやっていることが いやでも みえちゃうんです… 」

 

なんとなく、話の行く先が見えた気がした。

 

「あのたびびとは たくさんのモンスターたちをきずつけています。 ボクは もうこんなの みたくないんです… 」

 

あの子供だ。こんな事までやっていたとは…

 

「今どこにいるか分かる?」

 

「スノーフルのまちです。 」

 

「町!?町の皆は大丈夫なの?」

 

町はたくさんモンスターたちがいるはずだ。

 

「まちのみんなは もう にげていました。 」

 

良かった… 思わずほっと息をつく。

 

「それでなんですが、 たびびとさん もしよかったら ひとつおねがいしても いいですか…? 」

 

「うん、言ってみて。」

 

「ボクのあたらしいからだを ゆきでつくってほしいんです。 ニンジンで はなを、 いしで めと くちと ボタンを。 」

 

「そうしたら、 ボクのからだは そのあたらしいからだになるから、 あのたびびとがもっている ものからは きりはなされる… だからおねがいします… 」

 

雪だるまが懇願するように言う。

 

「勿論だよ。今すぐ作るね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これでよし。」

 

最後にニンジンを顔につける。

 

「ありがとうございます! ほんとうにありがとう! 」

 

「いえいえ。雪だるま作ったのは随分久しぶりだからあんまり自信ないけど大丈夫?」

 

「カンペキですよ! 」

 

「良かった。」

 

にこりと、可愛らしく笑うのは私がそう作ったからだが、心から笑っているのが感じ取れる。

 

 

 

 

そういう反応をされるとこっちまで嬉しくなる。

そう思うとケツイがみなぎった。

 

 

 

 

 

 

 

========

 

 

 

 

 

「で… でも… きさまのことはしんじてるよッ! きさまはもっとりっぱなひとになれる! 」

 

信じる信じるって、そんなに信じて報われている奴なんて見たためしがない。

 

 

 

 

 

 

 

本当にくだらない。

 

 

 

 

 

 

 

=========

 

 

 

 

 

 

 

EXP。

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

 

ポケットが湿っている。

 

 

 

―――おかしい。

 

 

 

ポケットをすぐに探る。

手に冷たい物が触れる。取り出す。

 

これは雪だるまの欠片。かなりの回復力があるから最後まで取って置こうとしていた物だ。

 

それが溶けている。手の熱で。

 

雪だるまの欠片はホットランドに行っても溶けない物のはず。

 

どういう事だ。これではただの雪の塊だ。

 

 

 

ここで何かが起きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さい足跡を残して、スノーフルの町を去る子供が一人。

 

 

 

 

 

ケツイ。

 

 

 

 

 



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