飛ンデ日二入ル夏ノ蝶 (TouA(とーあ))
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第壱話 再会ノ行方

日柱・竈門炭治郎(18)
・天然ジゴロ
・落とした女は数知れず
・しかし恨みを買うことは一切ない。仏かな?

胡蝶しのぶ(14)
・思春期。超思春期
・カナエの生き写し前
・誰にも噛み付く狂犬


炭しの尊い(挨拶)





『もういっちゃうの?』

 

『うん。指令が来たからね』

 

『もうちょっと、いても……』

 

『また来るよ、だから……泣かないで』

 

『ないて……ないもん』

 

 

 ────。

 

 

『えへへ、あたたかい……』

 

『しのぶは本当に撫でられるのが好きだなぁ』

 

『だってきもちいいんだもの……』

 

『ふふ、また撫でに来るよ。しのぶがいい子にしてたらね』

 

『うん……まってる。ここはたんじろうさんのいえでもあるんだからね』

 

『────ッ、ありがとう……行ってくる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カァァ──! 危急! 危急! 花柱・胡蝶カナエヨリ通達! 日柱・竈門炭治郎重傷! 治療ノ準備サレタシ! 繰リ返ス! 日柱・竈門炭治郎重傷────』

 

 

 鼓膜をけたたましく叩いたのは、敬愛する姉の遣いからの通達だった。

 診察室を飛び出した少女は、屋敷にいる補佐の隊士に下知を下し、重傷者を迎い入れる準備を滞りなくすすめる。その所作に迷いはなく、手慣れていることが窺えた。

 

「姉さん!」

「しのぶ……! 炭治郎君をお願い!」

 

 (カクシ)に連れられ、帰宅した姉────胡蝶カナエの肩を借りるように、身体の半分を血に染めている青年────竈門炭治郎が運ばれて来た。

 見るからに重傷。止血はされているようだが傷が深い。恐らく骨も折れている。一本や二本どころでは無いだろう。

 

「───ッ、(カクシ)の皆さん此方へ!」

 

 他の重傷・軽傷者を治療室に案内し、自身は一番の重傷者の治療にあたる。

 大丈夫、大丈夫、この人は強い、強い……信じているからこその独白。空虚な希望論。

 

 この日ほど長く感じた夜はなかった。

 この日ほど歯を食い縛った日もなかった。

 この日ほど神に祈った日もなかった。

 

 少女────胡蝶しのぶは恩人を死なせない為に、死力を尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼殺隊。

 その数、(およ)そ数百名。

 政府には正式には認められていないが、(いにしえ)より存在していて、今宵も鬼を狩る。

 鬼を討つ、それこそが信条であり本分である。

 無論、人間であるから時には休息が必要である。

 隊士の休息には任務地付近の藤の花の家紋の家の世話になることも多いが、静養を要するとなると、ここ『蝶屋敷』が使われることが多い。

 

 それは、鬼殺隊の最高位に座する『柱』でも例外はない。

 “花柱”である胡蝶カナエが『蝶屋敷』の長ではあるが、薬学に精通しているカナエの妹の胡蝶しのぶが実質的に屋敷の長としている。

 

 先日運ばれた“日柱”である竈門炭治郎。

 彼と彼女ら姉妹は浅からぬ繋がりがある。

 ただ“柱”であるために多忙で、炭治郎としのぶは暫く顔を合わせていない。それは数年単位のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────蒸し暑い日だった。

 

 その青年の横顔を見たのは久方ぶりのこと。

 慈愛に満ちた面立ちに額にある大きな痣、厳然と佇むその身姿は美麗で凛としている。

 初めて出逢った頃より伸びている赫灼の長髪は一つに結われており、彼が伸ばす指先には蝶が留っていた。

 

 ────日柱・竈門炭治郎

 

 始まりの呼吸である“日の呼吸”の使い手。

 その強さと全てを包み込む笑顔、 万人に心優しく、明朗快活な性格はまるで日輪だ。

 彼を嫌う人物は鬼殺隊には居ないという。加えて、身姿の良さと圧倒的な強さから隊士の女性人気も非常に高い。

 ただ、文字通り“日”であるので色恋沙汰には発展しない。太陽同じく、好意に気付いた者は自然と身を引く。簡単な話、大自然に告白する者などいないのだ。

 

「日柱・竈門炭治郎様」

 

 あくまで怪我人と主治医として。

 鬼殺隊の“柱”とそれ以下の階級の隊員として。

 たとえ、恩人であり自身の憧憬であったとしても。

 しのぶはもう子供ではない。公私の区別はついている。

 “柱”には鬼殺隊隊員として最大の敬慕を。

 

「しのぶ……?」

 

 発した声に驚いたのか、蝶は彼の指先から離れてしまう。

 少しだけ残念そうに目を細めた彼は、太陽みたく柔らかく温かい笑みを浮かべながら、ゆっくりと……。

 

「しのぶだ! 久しぶり! 覚えてる!? 俺、竈門炭治郎ッ!!」

「うぇえ!!!???」

 

 近い近い近い近い────ッ!? 

 全然ゆっくりじゃない! 視界から消えたと思ったらいつの間にか目前にいるし、何なら手を握られて────!? 

 急転直下の出来事に目を回すしのぶ。

 花開く笑顔で再会を喜ぶ炭治郎は、目の前のしのぶが平静じゃないことに気付かない。

 

「覚えてるかな!? 前に会った時は随分と小さかった様に思うけど大っきくなったなぁ! カナエさんに似て美人になった!」

「覚えてます覚えてます覚えてますからっ! ちょっと手を離してくれませんか日柱様!?」

「あ……ごめんよ?」

「いやその……はいぃ」

 

 心臓がもたない! 贓物が口からまろびでる! 

 申し訳なさそうに手を離す炭治郎に、胸のあたりがギュッ……となるしのぶ。

 深呼吸すること数十秒。落ち着いたしのぶは咳払いし、主治医として炭治郎に話しかける。

 

「日柱様、体調の方は如何でしょうか? 姉と血みどろで帰って来て、七日ほど目覚めなかったので」

「うん、もう大丈夫だ! 骨は罅が入っていただけだからもう数日すれば治ると思う、有難う!」

「────っ、別にこれが仕事ですから。じ、自分の職務をこなしているだけですよ」

 

 思わず、しのぶは目を逸らしてしまった。

 ちょっと待って、その笑顔を向けないで、こっち見ないで……心の中で言葉が溢れ出す。口に出すことは決してないが。

 

「それでもだよ。君のお陰で俺はまた戦いに行ける。無辜の民草を護れる。有難う」

「……有り難いお言葉です。日々の研鑽の励みにします」

 

 彼の性格からして全ての言葉は本心だ。

 彼の優しさは誰一人として分け隔てなくあてられる。人によっては、というよりしのぶにとってはある種の毒だ、と勝手ながらに思っている。

 

「それでも、熱も下がってないのに勝手に起き上がらないでください。お体に障ります」

「んーそうだね。下がってないけど、いつも戦っている時はこの体温だから平気────」

「駄目です」

「いやでも────」

「駄目です」

「久々に日光浴した────」

「だーめーでーす! いくら日柱様のお願いであっても、聞けません!」

「はぁい……」

 

 トボトボと戻る炭治郎。

 まったくもう、と息を吐くとしのぶは物寂しくみてる大きな背中に声を投げかけた。

 

「日当たりの良い部屋に変えてあげますから、今日明日は安静にして下さい」

「わぁ、ありがとう! ……あっそうだ」

 

 ちょいちょいっと手招きする炭治郎。

 しのぶは頭に疑問符を浮かべながら肉薄し、多少は慣れた炭治郎の目先に立つ。

 

「────ッ!?!?!?」

「よしよし。しのぶは撫でられるの好きだったよなぁ……本当に大きくなったなぁ……」

 

 ごつごつした大きな手。

 計り知れないほど修練を重ねてきたであろう大きな手。

 伝わる体温と慈しむように優しく撫でる大きな手。

 

 

 

「う、ぅわぁぁあああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

 

 

 

 その日の蝶屋敷では。

 夏にはまだ早い、綺麗な紅葉が見れたそうな。

 

 

 

 




作者には、バットエンドしか見えてません。

感想、評価をお願いします。
おそらく更新頻度は上がります。


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第弐話 喧嘩ノ行方

炭しの尊い(挨拶)
前回の感想にて。
ワニだの何だの言われましたが、私が吾峠先生が紡ぐ物語に勝てるわけがないだろう。
よくてお堂の鬼ぐらい。どうも雑魚です(自己紹介)。

それにしても未だにハッピーエンドが見えません。




 

 

「ってことがあったんですよ!」

「そうか」

 

 蝶屋敷。とある一室。

 布団から体を起こした炭治郎の傍に、一人の青年が座していた。

 黒き長髪に端正な顔立ち、左右で異なる羽織を羽織っており、怜悧な眼光からは冷静沈着な性格を思わせる────水柱・冨岡義勇。炭治郎の兄弟子であった。

 

「どうして俺は叩かれたんでしょう?」

 

 炭治郎は兄弟子の義勇に相談していた。

 その内容は、しのぶに頬を叩かれたことである。それも腰の入った凄まじい威力の平手打ちだった。

 昨日、しのぶに布団に戻る様に強く言われた炭治郎は、しのぶから“寂しい”という匂いを感じ取り、頭を撫でたのだ。数年前も同じような事をしていたので、それに乗っ取って元気づけたつもりだった。

 それがどうしてか、平手打ちである。

 

「怒らせたのか?」

「んー、そんな感じではないんですよね。色々な感情が入り混じった匂いがしました」

「やはり、怒らせたのでは」

「そう、なんですかね……そうなのかなぁ」

「女心はよくわからない」

「ですよねェ……」

 

 二人して遠い目をする。

 別にそこまで難しい問題でもないのだが、ことこの兄弟弟子に至っては心底難しい問題であった。

 

「俺も世話になったことがあるが、姉とは対照的に胡蝶妹はいつも怒っている様に見える」

「そうですか? 久々に会いましたけど、数年前と何一つ変わらず、優しくて温かい女の子のままでしたよ?」

「……そうか。それなら良い」

 

 どこか遠い目をする兄弟子に首を傾げる弟弟子。

 過去、苦い薬を処方され、苦虫を噛み潰した様な顔をしてしまった義勇に『柱なら我慢しろ』と気合論を叩き付けたはしのぶだった。

 反対に、やたらと一人の義勇に話しかけてくるのは姉であるカナエだった。

 炭治郎が話す姉妹像と義勇が話す姉妹像が一致しないのは、重ねた月日があまりにも違うからだ。当然のことではあるが。

 

「炭治郎」

「はい?」

「さきの任務先で扶け出した御老人から“みるくきゃらめる”という物を貰った。若者に人気らしい」

「知ってます知ってます! かなり人気で中々手に入らないんだとか……」

 

 エンゼルマークの入った黄色い箱。

 その中には巷を賑わせる甘露が入っていた。どうやら砂糖や牛乳を煮詰めて作るキャンデーの様な物だという。

 

「これを胡蝶妹にあげるといい」

「えっ!?」

()()()は甘い物が好きだ……と思う。蔦子姉さんも好きだった。お詫びとして渡して仲直りすると良い」

「なっなるほどぉ……流石です義勇さん!!」

 

 ムフフ……と少しだけ弧を描く口元。

 弟弟子に頼られ、褒められ、少しだけ嬉しくなる兄弟子。

 同じ食べ物、同じ卓で食事をする。それこそ、ここにいる竈門炭治郎と冨岡義勇はそれにより仲が深まった過去がある。あれは、いつかのざる蕎麦早食い勝負のことであった。

 懐かしい記憶を想起した炭治郎はあっ! と声をあげて義勇に向き直った。

 

「お腹が空いていたんですよッ!!」

「?」

「しのぶのことです! 人ってお腹が空くと妙に腹が立ってしまったり集中力が続かなくなりますよね! しのぶもそうだったんじゃないかと!」

 

 昨日、炭治郎のもとにしのぶが訪ねたときも正午を過ぎた頃であった。

 無作為に負傷者が運ばれてくる蝶屋敷では休める時間も少ないだろう。長であるならば尚更だ。

 

「そうか……流石だな炭治郎」

「いえいえ、義勇さんが助言をくれなければ判っていませんでした。ありがとう御座います」

「気にするな。胡蝶妹はまだまだ成長する齢だ。きちんと食事は取らなければならない」

「そう……ですね! よく食べるよう伝えます! 義勇さんもわざわざお見舞いありがとう御座いました」

 

 笑顔の炭治郎を一瞥すると、立ち上がった義勇。

 鬼殺隊の“柱”に休暇や余暇はない。負傷した、と聞いた弟弟子の見舞いに来るのも、多少の無理を言った結果である。

 それが判っていたからこその感謝。ぶっきらぼうで不器用な兄弟子に対する謝恩だった。

 

「……はやく任務に戻る為にしっかり身体を休めろ。お前の穴は大きい」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 叩いて……しまった────。

 衝動的に、平手打ちをしてしまった。上司であり恩人でもある人に。

 

「はぁ……」

 

 静かな蝶屋敷では、私の吐息が大きく聞こえる。

 仕事に身が入らない。

 本当に他人の心を掻き乱すことが得意な人だ。本当に女心を理解しない人だ。本当に自分勝手な人だ。本当に恰好いい人だ。本当に心臓に悪い人だ。本当に太陽みたいな人だ。本当に本当に本当に本当に────。

 

「……」

 

 久々に会えたことに胸が高鳴った。

 元気な姿を見れただけで涙が溢れそうだった。

 彼の笑顔に蕩けそうだった。

 変わらない日輪のような性格に甘えそうだった。

 屋敷に帰ってきてくれたことがたまらなく嬉しかった。

 

「本当にどうして叩いたんでしょうか」

 

 ────子供扱いされたからだ。

 独白してみたけれど判っている。あの人にとって私は『護るべき大勢の一人』だ。多少の繋がりはあれど、それは鬼殺が無ければ無くなる繋がりだ。

 大勢の一人。よくて妹扱い。親戚の子供、の方が正しいのかもしれない。それ以上求めるのは傲慢だろう。

 

「しのぶ?」

「……姉さん」

 

 振り返ると、私の顔を心配そうに覗き込む姉の姿があった。

 落ち着いた物腰と彼に負けず劣らずの包容力。誰が見ても美人だと口にする。

 そんな姉の妹なのに自分はどうだろう。背は高くない。身体は小さい。女性としての魅力も姉さんに比べると乏しい。

 

「どうしたの? 百面相なんかして。炭治郎君と何かあった?」

「……姉さんには関係ないでしょ」

 

 あぁ……嫌になる。

 心配してくれているのに。心配をかけてしまっているのに。こんな言い方しか……できない。

 姉さんは、こんな言い方をしても優しい笑顔でいてくれる。姉妹だから、姉だからと────。

 

「そんな顔しないの。お姉ちゃんに話してみなさい」

「……うん。御免なさい」

「良いのよ。私はしのぶが頼ってくれるだけでとても嬉しいの」

 

 

 あぁ……私は未熟だ。直ぐに顔に出てしまう。甘えてしまう。

 しょうがないなぁって慈しむように笑顔をこぼす姉とは正反対に、私の顔は酷く醜いのではないか。

 そんな酷く鬱屈な気持ちがあまり出ないように、姉に本音を吐露する。

 

 

 ──。

 ────。

 ──────。

 

 

「あらあら、そんな事があったのね……」

「うん……あぁ! もう! 私のばかぁ!!」

 

 穴があったら入りたい、いやもう穴に入って埋めてもらいたい……! 

 洗いざらい話してみると、あまりの行動の幼稚さに昨日の自分を平手打ちしたい気持ちになった。

 

「それにしても、しのぶは炭治郎君のこと本気で好きなのね。姉さん、しのぶがちゃんと“女の子”してて嬉しいわぁ……!」

「────ッ!? もっもう! それはいいでしょう!! それに好きじゃないから! 憧れているだけだから! 憧憬の的なだけだから!!」

 

 あらあらうふふと穏やかな笑みを浮かべる姉さんは、どこか楽しいそうだ。

 こっちは、味わったことない感情の激流に溺れかけているのに……! 

 

「それでも、叩いちゃったのはきちんと謝らないといけないけど、炭治郎君もそんなに怒ってないと思う」

「どうしてそう思うの?」

「昨日炭治郎君に会った時に訊いたの。『右頬どうしたの?』って。そしたら彼、白目向きながら『気合を入れようと自分で頬を叩きました』って言ってたの。相変わらず不器用なんだなぁって思ったわ」

 

 さすがにその嘘は無理がありますよ炭治郎さん……。

 庇われた、正直な彼に嘘をつかせた、その事実に心が痛む。

 でも、でも……それ以上に、私のことを大事にしてくれる事実が嬉しかった。姉さんに怒られないように庇ってくれたのだと。

 だからこそ─────。

 

「謝らないと、炭治郎さんに」

「そうね。きちんと謝らないといけないわ。でもね、それ以上に─────」

「?」

「きちんと気持ちを伝える事が大事なのよ、しのぶ。素直になる事は難しいと思うし、怖いと思う。それでも正直に自分の気持ちを伝えないといつかきっと後悔するわ。尚更、この仕事に就いている人にはね」

 

 難しい。きっと難しい。

 それでも敬愛する姉からこうも諭されると、少しだけ勇気が湧いてくる。

 姉の言葉を反芻すると、ふと気付いた。妹だからこそ気付けたのかもしれない。()()()()()()()()()()()()()、と。

 

「姉さんにも……そういう人がいるの?」

「え?」

 

 笑顔だった姉が目を丸くした。

 当たりだ……! 確かな確信を抱く。

 

「だ、だからぁ……す、す、気になっ、ている人はいるの?」

「……うふふ、どうかしら?」

 

 画になる笑顔ではぐらかす姉さん。

 これ以上追求してもはぐらかされるだけだろう。それでも、何となく鬼殺隊の誰かかなぁと

 長年の妹の勘が告げている。

 

「姉さん、しのぶの笑顔が大好きなの。それも炭治郎君の隣で一緒に笑うしのぶがね。会えない時間は長くあったけど、それ以上にこれから一緒につくっていけばいいじゃない」

「うん、うん……頑張る……!」

「その意気よ、しのぶ! 姉さんは早くしのぶの花嫁姿見たいわぁ……」

 

「────っ、もう姉さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ……」」

 

 立ち上がった義勇が襖の引手に手をかけようとすると、襖が勝手に開いた。義勇がいたことを知らなかった様子である、思わぬ見舞い客に目を丸くしたしのぶだった。

 

「水柱様、いらっしゃっていたのですね。挨拶も出来ず、申し訳御座いません」

「構わない。用は済んだ」

「そうでしたか。もう宜しいので?」

「あぁ、これで失礼す────」

 

「あ! 冨岡君じゃない!」

 

 義勇がしのぶとの会話から早急に離脱しようとすると、少し離れた縁側から嬉々とした声が届いた。

 

「胡蝶……」

「来てるのなら声を掛けてくれたら良いのに……もぅ」

「声を掛ける用が無い」

「私は今、用は無いけど貴方に声を掛けたわ」

「……」

 

 助けてくれ、と義勇は弟弟子に目線を飛ばす。

 弟弟子の返事は無言の笑顔でサムズアップ。内心は『義勇さんと二人の仲が良くて嬉しい!』だった。

 

「そんなに難しく考えなくていいのよ?」

「……?」

「ではこうしましょう。今から牛鍋屋にご飯に行く用を作りましょう! ほら早く!」

「……!?」

 

 困り顔の義勇を強引に連れ去るカナエ。

 それはどこか生き生きとしていて、万人に振りまく笑顔とは少し違った、柔和であたたかい艶やかな笑顔を義勇に向けていた。

 

「……え、嘘でしょう?」

「義勇さーん、禰豆子を宜しくお願いしまぁぁす!!」

 

 何かを察した妹のしのぶは口が開いて塞がらない。

 炭治郎は義勇に想いを投げ掛ける。カナエとの関係には“柱”としての交流が増えることは良いことだと満足げな笑顔を浮かべて何度も点頭しているぐらいで、気付きもしない。

 

「しのぶ」

「……日柱様」

「縁側に行かないか? 日当たりの良い部屋に変えてくれたお蔭で直ぐそこだし。話があるんだ」

「はぁ、承知しました。肩をお貸しします」

「ん、いや大丈夫だ。自分で立てる」

「……では行きましょうか」

 

 

 ──。

 ────。

 ──────。

 

 

「……」

「……」

 

 昨日と同じく、蒸し暑い。

 生い茂る夏草が草いきれとして鼻をつんとさせる。隣の彼は苦手ではないのか。

 しのぶと炭治郎の距離は人が一人座れるぐらい。隣り合わせではないが、縁側に腰掛けている。

 どこか張り詰めた空気だが、しのぶの目は凛とした横顔に吸い込まれていた。あぁ……恰好良い。

 その視線に気付いたのか、彼はこちらに振り返った。目が合うとしのぶは彼と会うことの目的をハッと思い出し、告白する。

 

「ごめん!」

「申し訳御座いません!」

 

「「……え?」」

 

 ほぼ同じ時に、互いに謝罪を口にした。

 ほぼ同じ時に、互いに疑問符が漏れた。

 

「どうして日柱様が謝罪するのですか? 昨日のことは私の未熟さ故に手が出てしまったという────」

「いやいやいや! しのぶが謝る事なんて一つも無い! 目覚めてすぐに庭に出て日光浴していた俺が悪かったんだ!」

 

 お互いに顔を見れていない─────と云うより首が取れん勢いで互いに頭を下げていた。

 少しの静寂、あれ? と恐る恐るしのぶが顔を上げると、恩人の蓬髪が自身の触れん距離にあった。

 微かな太陽の香りが鼻腔を擽り、思わず少し距離を取った。

 

「べっべべべべべべ別に心配なんてしてませんからッ! ……それに重傷者の面倒を見るのは私の役儀ですから」

「それでもだ! ()()()()()()()()()()それに気付きもせず、我儘を言った俺が悪い! 手を煩わせてしまった俺が悪かったんだ! “柱”として不甲斐ない……!」

「んなッ……! 不甲斐ないなんてそんなことありません! 日柱様の活躍は末端の隊士の私も聞き及んでいます! そんなに御自身を卑下しないでください! あとお腹は空いてませんでしたッ!!!!!」

「そうなのッ!?」

 

 目を真ん丸にする炭治郎に顔を真っ赤にするしのぶ。

 勘違いされたことよりも恩人に“いやしんぼ”だと思われたことが気恥ずかしくて堪らない。

 そんなことも露知らず、鬼殺隊の朴念仁筆頭は距離を取ったしのぶに詰め寄り、両手を掬い取り、握り締めた。

 

「それでもあの時、しのぶからの平手打ちは『柱としてしっかりしろ』という叱責だろう!? 頭を撫でてしまったのは、久しぶりに会えたけど余所余所しかったしのぶと昔と同じ様な距離で接してしまった俺の未熟さ故の行動だった! ありがとう! あの平手打ちのお蔭で目が覚めたよ!」

 

 純朴な瞳で見詰める視線は華奢な体を貫かんとしており、手を握ると言う直情的な行動はしのぶが耐えれる容量(キャパ)を優に超えていた。

 

「違います! 違います! 未熟でもありません! あ、あれはあまりにも恥ずかしくて思わず反射的に手が出てしまったんです! 久々に会えた炭治郎さんがあまりにも恰好よくて撫でられた事があまりにも嬉しくて思わず叩いてしまったんです! それだけです! 私が悪かったんです!」

「じゃあお互いが悪いということで! それとありがとう! しのぶも綺麗になった!!」

「ふぁあっ!!」

 

 綺麗? 綺麗、私が……? 姉さんじゃなく……? と炭治郎に掛けられた言葉と此の状況に目が回り始める。

 しのぶが口をぱくぱくさせてると、炭治郎はしのぶの口の動きで思い出した物を取り出した。

 

「しのぶ、これ義勇さんに貰った“みるくきゃらめる”なんだけど、一緒に食べないか?」

「へ……? は、はい喜んで戴きます。ありがとうございます」

「どういたしまして! はいどうぞ!」

 

 

「「戴きます」」

 

 

 ────美味しい。

 いつの間にか縮まっていた距離は気にならなくなった。二人の距離は拳一つあるかないか。

 久々の再会、というしこりはいつの間にか消え去り、穏やかな時間が流れている。

 

「水柱様はよく手に入れましたね。巷ではかなりの人気だと聞いてますが」

「任務先で助けた御老人から貰ったらしいよ?」

「あー、何かと気に掛けられそうな性格してますよね水柱様は。だから姉も……!」

「し、しのぶ……?」

「何でもありません。乙女の秘密です。それに、炭治郎さんには分かりっこないです」

「えぇ……」

 

 不服そうに頬を膨らませる炭治郎をみて、屈託のない笑顔でくすくす笑うしのぶ。それに釣られるように炭治郎も笑顔をこぼす。

 ほのぼのとした時間が過ぎる。炭治郎はおずおずと口を開いた。

 

「結局しのぶは……えっと、撫でられるのは嫌いではないってこと?」

「えぇ、嫌いではありません。ただ恥ずかしいので二人きりの時だけにお願いします。それだけで────」

 

 ────少しだけ、報われます。

 この言葉だけは溢してはならない。しのぶにとっての意地で、鬼殺隊である矜持がぶれてしまうからだった。

 

「それだけで?」

「何でもありません。忘れて下さい」

「そっか。じゃあ今から撫でるぞぉ〜?」

「えぇ、お願いします」

「よし……よっと!」

「え……きゃあっ!」

 

 しのぶの脇に手を入れて、炭治郎は自身の膝の上に乗せる。

 縮こまるしのぶの身体を左手で抱き留めると、右手で撫で始める。互いに顔は見えない。

 優しく、柔しく、慈しく、撫でる。

 

 

「しのぶは撫でられるのは好きかい?」

 

 

 炭治郎は改めて問いかける。

 

 

「えぇ、好きです。本当に」

 

 

 口内に残る甘露にのせて────。

 ひとつひとつの言葉に想いをのせて────。

 

 

「本当に……大好きです」

 

 

 花ひらく笑顔でそう、告白した。

 

 

 






水柱・冨岡義勇(21)
・炭治郎の兄弟子
・歩く擬音はてちてち、笑う擬音はムフフ
・天然ドジっ子
・不器用でそこそこ余計なことをするが、めちゃくちゃ優しい
・継子がいる

花柱・胡蝶カナエ(21)
・あらあらまぁまぁ
・あらあらまぁまぁ
・あらあらまぁまぁ
・気になって…気に掛けている人がいる
・しのぶの花嫁姿が見たい。幸せになって欲しい


沢山の感想、評価、お気に入りをありがとう御座います。
『フラッティア』『inahu』『是非』さん、高評価ありがとう御座います!励みになっております。


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第參話 手紙ノ行方

お久しぶりです!
遅れてしまい申し訳ありません!
就活中なのでご勘弁!

では楽しんでいただけたら幸いです!
どうぞ!


 

 

「今日も今日とて良い天気だなぁ……」

「ですねぇ……」

 

 玉露入りの熱いお茶をズズッと啜る二人。

 まるで熟年夫婦の様相であり、穏やかな時間が流れている。

 

 日柱・竈門炭治郎と胡蝶しのぶ。

 

 ちょっとしたすれ違いが解消され、以前の様な朗らかな雰囲気となった二人は時間があれば蝶屋敷の縁側に座り、空白の時間を埋める様に取り留めのない話を交わした。

 

「そう言えば炭治郎さん」

「ん?」

「禰豆子さんとあれから会いましたか?」

 

 痛い所をつかれたのか微動だにしない炭治郎。

 その様子からしのぶは察した。まだこの兄妹はすれ違いというか諍いを続けているのだと。

 

「そりゃ会いたいけど……」

「兄妹喧嘩も程々に、ですよ?」

「分かってる。手紙は書いてるし、返事も来る。だけど会うっってなるとなぁ……」

 

 優しさ故、なのか。

 しのぶは二人の兄妹を憂慮する。彼だけでなく、彼女も彼女で素直じゃないところが頭を悩ませる点なのだ。

 

 確かあれは────。

 二人の兄妹のすれ違いの切っ掛けを思い出す様に、少しだけ過去の記憶を辿ってみる────。

 

 

 

☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓

 

 

 

『何で分かってくれないの!』

『駄目なものは駄目だ!』

 

 数年前、いつかの蝶屋敷。

 あの時も、今みたく炭治郎さんが怪我を負ったことで蝶屋敷で安静にしていた日だった。

 その日突然、蝶屋敷の一画で怒号が飛び交った。

 実際は思いの丈のぶつかり合いなのだけど、そう捉えてしまうほどに激しいものだった。

 

 それが竈門兄妹であると脳が理解するのにえらく時間が掛かったことを覚えている。

 兄妹の理想像、そう呼べるほど彼らは仲睦まじい。そのことは鬼殺隊でも周知の事実だった。

 

 炭治郎さんの妹────竈門禰豆子。

 禰豆子さんは私にとって数少ない友人の一人だ。年が近いことは勿論、どちらも妹であり上に兄・姉がいる共通点からも話がよく弾んだ。勝手ながら親友……とも思っている。

 彼ら兄妹は私達姉妹同様、家族を鬼に殺されている。私達は両親を、彼らは弟妹と母親を。

 悲しみの度合いなんてそんなものは無いけれど、お互いにそれを乗り越えようと前へ一歩踏み出せたのは生き残った肉親のお蔭であったと思う。

 互いに支え合い、助け合い、そうして生きてきた。

 

 私と禰豆子さんが出会ったのは、私が最終選別を通過して暫くあとの事だった。

 それ以前に炭治郎さんには出会っていたのだけど、それはまぁ置いておくとして。

 蝶屋敷に怪我をして運び込まれた炭治郎さんの御見舞に禰豆子さんがいらっしゃったことが初めての出会いだった。

 

 ────貴女が胡蝶しのぶさん? 

 ────では貴女が禰豆子さん……ですか? 

 

 炭治郎さんを介して、互いに互いの事を知っている、初めて会ったのにも関わらずいつの間にか長い付き合いの友人みたくなっていた。それが可笑しくて可笑しくて私達は暫く笑っていた。

 鬼殺隊に入って、初めて出来た同年代の女の子で大切な友人。それが竈門禰豆子さんだった。

 

 それから、禰豆子さんは住み込みで蝶屋敷で私の仕事を手伝ってくれた。

 どうやらここに来る前も『鱗滝さん』という元水柱の方の手伝いをしており、近辺に住む御老人の介護を含めたお世話をしていたという。

 手慣れていたこともあって、仕事の覚えも早かった。何より、兄が身を投じて無辜の民を守ることの高尚さを支えたいという気持ちも大きかったに違いない。

 

 そんな彼女が声を荒らげて敬愛する兄に切実な想いを訴えていた。

 その部屋の傍らで私は耳を(そばだ)てる。

 私は薄々、禰豆子さんがそう言い出すのではないかと思っていた。同時に、その想いを兄である炭治郎さんは否定することも────。

 

『私も鬼殺隊に入りたい!』

『駄目だ! どうして急にそんなことを言い出すんだ!』

『お兄ちゃんの力になりたいからだよ!』

『それならもうなってる! 俺は……俺は、禰豆子が蝶屋敷(こ こ)で待ってくれてるだけで良いんだ……禰豆子までが鬼殺隊(こちら側)に来る必要は無いんだよ……!』

 

 悲痛な声で訴えかける炭治郎さん。

 だが、聞く耳をもたない、というよりは既に心を決めていた禰豆子さんは考えを変えなかった。頑固な所は兄妹似ているなぁと場違いな考えが頭を過る。

 

『私はね、お兄ちゃん。お兄ちゃんが私を守ってくれる様に私もお兄ちゃんを守りたいの。私も……ほら、長女だからさ』

『違う……違うんだよ禰豆子。俺は竹雄、花子、茂、六太、……みんなに、みんなにしてやれなかった事を全部お前に────』

『前にも言ったでしょ? 私の幸せは私が決める。お兄ちゃんが背負っているものを、私にも背負わせてよ。もう……守られるだけは嫌なんだ』

『禰豆子ッ話はまだ! 禰豆痛ッッッ────!?!?』

 

 禰豆子さんが部屋を飛び出すのと同時に、私は無理をしてまでその歩みを止めようとする炭治郎さんを支えに部屋へ。

 無理をしないで下さい、軽傷じゃないんですから、そう口にしながら体を布団へと戻す。

 それでも私は、肩を持つのは禰豆子さんの方だった。妹として、禰豆子さんの気持ちは十二分に理解できるから。

 

『俺がもっともっと強かったら……! 禰豆子に心配させることもなかったのに……! 俺は俺は……!!』

 

 彼は────。

 不甲斐ない自分に。

 情けない自分に。

 力のない自分に。

 悔しくて悔しくて、涙がこぼれそうになるほど悔しくて、止めどなく溢れそうになる激情を噛み殺していた。

 

 炭治郎さんは禰豆子さんの心中を全て理解していた。そのよくきく鼻も嗅ぎ取っていたのだと思う。だが理解していたが納得はできてなかった。出来る筈もない、唯一の肉親を戦地に送るのだ。はいそうですか、と簡単に納得がいくものでもないことは妹の私でもわかる。

 互いに互いを想っているからこその結果。

 不器用なところも兄妹似ているのだと、第三者だからこそそう感じてしまった。

 

 それから────。

 禰豆子さんは炭治郎さんの兄弟子にあたる、水柱・冨岡義勇さんの継子として。

 炭治郎さんは脇目もふらず強さだけを、無辜の民を守り抜くためだけの強さを、大切な人を守るために強さを、それだけを追い求めて、遂には【柱】にまで昇り詰めた。

 

 彼ら兄妹に共通していることは、互いを想い合っていること。

 そして────蝶屋敷に足を運ぶことが無くなったことだった。

 

 

 

☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓

 

 

 

「炭治郎さん」

「……ん?」

「想いをぶつけないと伝わらないことも多いと思います。私達みたいに」

「そうだよなぁ……うん、一度面と向かって話すよ。ありがとう、しのぶ」

「いいえ。私も彼女の友人として当然のことをしたまでです。はやく仲直りして下さいね」

 

 ────でないと寂しいじゃないですか。

 そんなこっ恥ずかしい言葉は呑み込んで、しのぶは恩人の背中を押す。余計なお世話だと言われようがこちらも親友と会えないのは不安であるし大変心寂しいのだ。

 

 そんな時、一羽の[[rb: 鎹鴉> カスガイガラス]]が庭へ降り立った。指令だ。

 

『カカァァァー!! 音柱・宇髄天元ヨリ要請! 花柱・胡蝶カナエ、シノブ姉妹ニ救援求ム! 遊郭ニテ十二鬼月ト思ワレル鬼ガ潜伏シテイル可能性アリ!』

 

「私に? なぜ?」

 

『原因不明ノ毒ニ侵サレテイル住民ガイル模様! 宇髄天元ノ持ツ解毒剤ガ効カナイ事カラ恐ラク血鬼術ト思ワレル! カァー!』

 

「それで薬学に長けたしのぶが選ばれたってことか。それなら俺も────」

 

『日柱・竈門炭治郎ハ【上弦丿壱】ニヤラレタ傷ヲ癒ヤスノガ優先デアル! カァァァー! 他ニ恋柱・甘露寺蜜璃モ既ニ向カッテイル! 心配スルナ! ケケッ』

 

「今、鴉に鼻で笑われたのか俺……」

「ま、まぁ甘露寺さんも向かっているのなら、たとえ上弦であっても柱が三人居ますし、必ず勝てます!」

「……うん」

 

 柱だけあって実力は折り紙付き。

 それでも不安は拭えない。簡単な話、相手は鬼だからである。どんな手を打ってくるのか分からない。それが上弦となると……炭治郎は身をもって知っていた。

 

『胡蝶シノブ! 急グノダ! 時間ガナイ! カァァァ!』

「はっはい!」

 

 バタバタと医務室の方へ向かうしのぶの背中は、炭治郎にとって大きな安心感を得るものの一つとなっていた。

 治療などの裏方の支援ができる隊士が一人いるだけで戦況は幾らでも好転する。そのことは実戦を経て何度も経験したことである。

 それがしのぶだと殊更に安心する。誰よりも人の為に動ける者がしのぶだからである。

 願わくば、全員が無事に帰るべき場所に帰れるよう、居るのか居ないのかも分からない神に祈るばかりが炭治郎にできる事だった。

 

 

 数刻後。

 カナエとしのぶは準備を終え、遊郭に向かおうとしていた。

 お見送りは炭治郎とアオイ。

 若輩ながらしっかり者のアオイが門で切火を行い、炭治郎はオニギリの包みを手渡した。炭治郎の料理は『オカン』の愛称に裏切らぬ、見事な出来だということは鬼殺隊ではかなり知られている。さすがは火仕事の家系、といったところだ。

 

「じゃあ行ってくるわね〜。アオイと炭治郎くん、お留守番宜しくお願いします」

「はい! カナエ様としのぶ様に代わって私が精一杯、ここを命を賭して守ります!」

「もう〜そうやって肩肘張らないの。アオイらしく私達の帰りを待ってて頂戴。炭治郎くんも───」

「はい! カナエさんとしのぶの帰るべき場所は必ず俺が守ります!」

「ふふふ、似た者同士ね〜」

 

 優しく微笑むカナエ。

 戦場に行く様なものなのにこの落ち着き具合は【柱】であるから……ではなく元来備わっていたものだということをしのぶは知っていた。悪く言えば緊張感がない、よく言えば戦場であっても普段通りでいられる、緊張がほぐれるということでもある。

 

「炭治郎さん」

「どうしたの?」

「手紙……書きます」

「うん! 待ってるよ。あっ、しのぶから手紙を貰うのは初めてだなぁ」

「ですから炭治郎さんも禰豆子さんに……」

「分かってる! 必ず書く!」

 

 約束です、そう口にしなくても二人は目で交わし合う。

 その様子を見たカナエは嬉しそうに笑う。

 

「仲直りできたのねぇ……姉さん嬉しい」

「はい! 全部しのぶのお蔭です! 今度は禰豆子とも!」

「そう……! また皆でご飯を食べましょう! どこかへ遊びにも行きましょう! 沢山お喋りしましょう! 今から楽しみだわぁ……」

「えぇ必ず! 約束です!」

「そうね! 約束!」

 

 天真爛漫な長男・長女が約束を交わす。

 それを傍から見る二人の少女は少しだけ呆れたように微笑んだ。

 

 みんなが笑って暮らしている、そんな未来を思い描いて────。

 

 

 

 

☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓

 

 

 

 

 炭治郎は二人が発って直ぐに手紙を書き、禰豆子のもとへ手紙を送った。

 しのぶからの手紙、禰豆子からの手紙、この二つを炭治郎は心待ちにしていた。カナエがいう幸せな未来を描きながら。

 

 そして一週間後、炭治郎に手紙が届いた。

 

 二通とも同時に────。

 

 

 

 

 

 

「あぁ……あぁ……ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【死亡告知書】

 

 花柱・胡蝶カナエ

 

 遊郭(花町)にて、音柱・宇髄天元と恋柱・甘露寺蜜璃の加勢のもと【上弦ノ陸】を討ち取ったが、突如現れた【上弦ノ弐】と連戦。後進と町の民が一人たりとも命を奪われる事なく守り抜く。

 

 後、鬼化した竈門禰豆子隊士との戦闘にて戦死せられましたことを御通知致します。

 尚、鬼化した竈門禰豆子隊士は隊律違反のため同じく隊士である胡蝶しのぶにより討伐されたことを御承知置き下さい。

 

 大正 年 月 日

 

 

 

 




次回はこの戦闘の裏側から、かと思います。



ではまた次回! 
感想と評価お待ちしております。
こういう展開どうなんでしょうね、低評価沢山つきそう(小並感)


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