サモナーさん関連短編集 (cohaku)
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単発ネタ
ヴォルフ視点


本編でのヴォルフとは性格が違うかもしれませんが、それは本編ヴォルフ視点が投稿される前の作品だという事で見逃してください


我が主は、少々変わったお方だ。

サモナー系統という後衛職の系統であるはずなのに誰よりも先陣を切る奇特なお方だ。

戦う事が何よりも大好きで、格闘戦をしなければ禁断症状が出て、物欲が凄くて、無節操にスキルを取って、弟子の育成に容赦の欠片もない、配下の育成も容赦の欠片もない。そんなお方だ。

 

私は、主が初めて冒険をした時から共にいた。

ある時は、まだ弱い頃の主と連携して敵を仕留め。

またある時は、主に危険を知らせ。

そのまたある時は、主を身を挺して庇い死に戻った事もある。

 

今の主はそれなりに単独で魔神と戦える位の実力を発揮する存在だが、初期の頃は弱かった。戦い方も世界の事も良く知らず、偶然知り合った生産職の方々に教えてもらいながら進んでいた。

だが、今の主は比類なき強さがある。対戦のときは相手に合わせ呪文も武技も封じるが、封じて居なければまともに相手に出来る存在は果たしてどれだけいるか。

私たちも主の邪魔をせずに黙って見守る事もままある。死に戻ったのは情報も何もなく油断していた数回でその後はきちんとリベンジをしている。

 

私たちも強くなったが、まだまだドラゴンたちや師匠たちの配下たちにはまだ及ばぬ。

我が主も幾度も魔神と戦ったが仕留められたのはドワーフの魔神だけ、他の魔神は未だ倒せておらず先が見えぬ相手に勝つために己が技術と実を研鑽している。

私たちもまた、主に付いて行けるように強くあらねばならぬ。どれもこれも後衛が適しているくせに主の影響を受け前衛に出ていたり、性格に難が有る者ばかりだが、そこはもう我が主の配下らしい個性的な面々であるとしかいえない。

我が主も二面性が強い性格ゆえ、そこはもうどうしようもないのではないかと思っている。

私と私の同期ともいうべき最古参組はそんな時々抜けている戦闘狂の主を支え、仲間達を纏める役目を担っている。

全員性格を治そうとも思っていないが、最低限の統率は出来ているので良しとしてもらおう。連携面に問題が無く生活面で問題がある位見逃してもらう事にしよう。

 

にしても我が主は、私の毛並みが気に入らぬと言う。後輩であるシリウスの毛並みは気に入っている様だが、たまには私に触れてくれてもいいのではないか?

最近では、すすで汚れてしまった毛並みを我が主に洗ってもらえるのかと楽しみにしていたと言うのに実際洗ってくれたのは後輩の逢魔だ。我が主も水魔法が使えるのだからステータス操作など後回しにして洗ってもらいたかった!!

 

昔は同じベットで寝たと言うのに………



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運営に回収されたら(途中)

サモナーさんが運営に回収されたらどうなるかという妄想IF。本編では運営と敵対しています


首にある血のような赤を携える紅玉と深い深淵の闇のような黒い首輪をイラだしげに軽くひっかいた。そんなことをしても外れないのはもとより知ってはいるが、それでも思わずやらずにはいられないほど今の精神状態は不安定だ。

 

端的に言えば、世界が滅び、死ぬはずだった私は運営に回収されたといったところだろう。

 

米軍基地でウェーブと私が呼んでいた女性が私を運営が作ったロボットに組み込もうとしたが間に合わず殺され、私の脳と脳幹は運営のロボットに回収された。

そこで新たな肉体を与えられた。

運営のオーバーテクノロジーでゲームの世界を基準とした肉体を与えられた。魔法も使えれば武技も使える脳と脳幹は元々の私の物を使っているがそれにも特殊な加工が施され年を取るという事が無くなったらしい。

自分と運営の意思で外見年齢は5歳の幼子から80歳の老人まで変わる事が出来るそうだ。

運営からすれば特定監視対象を現実の方の世界を切り離したとはいえ捨てるのももったいなく、電子データから生きた人間を再生し再現する技術の実験体としても使えるという事で首輪をつけられ飼われている。

大人しく飼われるような性格ではないが、肉体を新たに与えられた事に感謝していないはずもなくそしてゲーム基準ならば拮抗する相手もいないだろうという事で与えられた部屋で大人しくしているわけである。

 

「……暇だ」

 

しかしゲームの世界で戦闘三昧な生活を続けていたからか戦闘欲求が満たされずイライラし始めている。

 

『キース、君の役割が決まったよ』

 

電子的な存在となった久住のホログラムが展開され私の目の前に現れる。

 

「久住か」

『ま、アナザーリンクオンラインでも君の担当だったからね僕に回されたよ』

「それはどうでもいい、私に何をさせるつもりだ」

『君には、選定前の世界の視察の役割を与える事になった』

「視察?」

『正確には、並行世界だけれど普通ではない力を持った世界への視察さ』

 

その言葉に首をかしげる。今まで接続された世界の資料をもらい読み進めたが、戦争が勃発しすぎて世界滅亡寸前とかなどはあったが共通して高度な文明と技術を持ちVRシステムがあっても不思議ではない世界という共通点がある。

しかし普通ではない力を持った世界というのはどういう事だろう。

 

『並行世界にはいろんな世界があってね、よく似た歴史と発展をしているのに魔法があったり、錬金術があったり色々あるのさ。

そういう世界は剪定しようにも原住民の能力にこちらのロボット技術が負ける場合もありうる。しかし視察を送ろうにも君の様に魔法などの補助が無くても大丈夫な人材は今までいなかった』

「爺様と親父はどうなんだ?実力的には私より上のはずだぞ?」

『あ~、それも考えられたんだけどねぇちょっと性質的にそういう視察とか興味なさそうだし」

「私も興味はないが?」

『だけど、傭兵をやっていたっていうだけあって報酬さえ払えばやってくれるでしょ?大体の世界はあの狂った爺さんだし、君や君のお父さんが生き残っている世界の方が少ないんだよ』

「なるほど、それで視察として派遣されるとして私は何をすればいいんだ?」

 

殆どの確率で爺さんしか残っていないのなら視察には不適格だ。基本的に剣のことしか考えない鬼だからである。

そして父の場合は、大抵の場合妻と息子を爺さんに殺されて半ば廃人状態であることの方が多いのでまた不適格だろう。

となれば、ある程度の人としての感性を残し傭兵稼業も行っておりそれなりに使えそうなキースが的確だと判断されたのかもしれない。

 

『原住民の能力の敵情視察だ。特に世界にとって重要とされるような存在と接触できる立場で君を送り込むからいつも通り流されるがままにあればいい。まぁ、法律とかもあるから殺人は極力しないようにね』

「それ位の分別はまだ残っている」

『基本的には君の自由に過ごしてもらって構わない。時折運営からの指令があるからそれをこなしてくれればいい』

「なるほど、わかった」

 

様は相手の能力を偵察しながら観光しろという事だ。戦闘行為は現実世界のため基本は禁止の敵情視察。

面倒なことこの上ないが新たな肉体を与えてくれた恩に報いるためには必要なことだろう。

 

「次元間の移動はどうやって行っているんだ?」

『それを行うための装置があるらしいよ?じゃないとこの世界にオーバーテクノロジーを持ち込んだ技術者が来られないし。

君には僕たちと連絡を取るための端末が支給される。防具はさすがにゲームの世界の防具を再現するのは無理だからカーボン繊維のライダースーツを用意してある。

端末を通して生活資金も渡す事も出来るし必要なら武器もある程度渡せるよ』

 

シュンッ、と何かが入った紙袋が目の前に現れる。開けて中を見てみれば、ごく一般的なTシャツとズボンが入っていた。

今着ているのは、体の検査などがあったので病院の入院着だったので着替えだろうと思う。



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ゼロ魔クロス(1)

ゼロの使い魔とのクロス。これも途中までです


それは、強敵を求めて未だ見ぬ風景を見るために獲物を狩りながら空中を移動している時だった。

 

「なんだ、あれは」

 

眼下には、ついこの間までなかったはずの小さな浮島。本当に小さな浮島だが何度もここを訪れているはずなのに見た事はなかった。

本来この海域に島などなかったはずなのだ。

 

「……降りてみるか」

 

何か運営の思惑があるかもしれないと思い、その島に降りる事にした。蒼月に指示をだし浮島に降り立つ。

浮島の中央には、人影が一つ。

 

『やぁ、君がこの世界で最も強い存在かい?』

 

特に特徴と言える特徴はない、優しげな好青年…若干気弱そうでヘタレ臭が漂うが。

 

「私が最も強いとは言えないな。師匠たちの方が強いだろうし」

『でも稀人の中で君が一番強いよね?』

「稀…人?」

『まぁ、いいか。此処にいるって事は最低限の実力はあるんだろうし』

 

その人は、1人納得したように頷きこちらに杖を向けた。反射的に戦闘態勢を取る。

 

『まずは、戦力を集めないとね』

 

そして光がはじけた。

 

『ポータルガードが強制解除されました』

『アイテムボックス2が強制転移させられます』

『召喚モンスターが強制解除されます』

 

(なに!?)

 

次々と表示されるメッセージに隣を見ると蒼月たちが消えていた。いつの間にか足元には、召魔の森に置いてあったアイテムボックスがあった。

すぐさまアイテムボックスを拾い、背負い直す。そしてグレイプニルに手をかけていつでも梱包出来る様に呪文も準備する。

 

『そろそろ時間だ』

 

そう怪しい人物が告げると同時に

 

ブゥン!

 

背中に緑色の鏡のような不思議なものが現れた。その存在を認めて、身体を離そうとしたが

 

ドンッ

 

『僕の故郷をお願いね』

 

何かに押され得体のしれない物の中に身体が入ってしまう。入ってしまったとたん取り込むように抗えない力で飲み込まれ始める。

 

「何が起こって…」

 

イベントにしてはおかしい。そして本能が何かヤバい事に巻き込まれていると告げている。だが、心沸き立つ危機感ではない。もっと厄介で楽しめないそんな何かを感じた。

 

 

 

 

所変わって、月が二つある異世界『ハルケギニア』。そこにある国トリステインにあるトリステイン魔法学院で今年2年生に進級する予定の生徒たちが使い魔召喚の儀式をしていた。

召喚した使い魔を見れば特異な魔法属性もメイジとしての力量も確認できる重要な儀式だ。

そんな中、召喚の儀式を何度も失敗している桃色の髪の少女がいた。

彼女の名は、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの公爵家ヴァリエール家の3女である。

彼女が、最後のチャンスとばかりに使い魔召喚の儀式「サモン・サーヴァント」の呪文を改変し爆発と共に現れたのは一人の人間。中肉中背であまりトリステインでは見ない黒髪黒目の普通の男に見えた。

 

「あんた誰?」

 

男は、召喚されて戸惑っているのか辺りを見回していた。

 

「ここは何処だ?」

「はぁ?トリステイン魔法学院の事を知らないの?一体どんな田舎に住んでいる平民よ?」

 

男の言葉にルイズが不機嫌そうに返した。

 

(トリステイン?聞いたことが無い…それに平民?どういう事だ)

 

男は、本来あまり働かせない頭をフル活動しながら情報を集める。

周りには制服だろう服を着た幼い少年少女たち。その傍らには自らの召喚モンスターの様に魔物が人を襲わず付き従っている。

目の前の少女の隣には禿げ頭の大人。しかし、

 

(この人、実戦経験があるな)

 

薄れた戦いの香りがその教師であろう男から香る。戦って負けるとは思わないが、それでも警戒しておくべきだと判断した。

 

「ちょっと、平民の癖に貴族を無視するんじゃないわよ!?」

(貴族…つまりここは貴族社会なのか?)

 

少女の態度からして貴族というのは、特権階級だとあたりを付けた。平民が貴族に従うのは当たり前、そう態度が告げていた。

 

(なら)

 

男は、断片的な情報からこの場で自分が平民だと思われると後々面倒だと判断する。確かに平民だが嘗められるというのはどうにも気に喰わない。

出来るだけ、丁寧に礼を取り少女に向き合った。

 

「初めまして、異国の貴族様。我が名はキース、しがない王家の剣術指南者です」

「王家ですって!?」

「ミス・ヴァリエールが王家の関係者を召喚したですっと!?」

「ベルジック家が王家サビーネ女王陛下より任命されております」

 

たとえ平民であっても王家の者に剣術を教えているとなると下手な貴族より地位は高い。

何でも言う事を聞く平民だと思われずに済むだろう。

 

「ミスタ・コルベール!ど、どうしたら!?」

「…契約は保留にして学院長の判断を仰ぎましょう。彼の国と国際問題になるかもしれません」

 

早速効果があったようでキースは、内心で満足していた。それを表に出すようなヘマはしなかったが。

 

(しかし、変だな)

 

先程から鑑定を繰り返しているが、名前以外の職業やレベルが全く見えない…いや、存在していない。

何時もの様に「???」と表示されない。

 

(ここは、本当にどこなんだ)

 

今は警戒されるからしょうがないが一段落したら召喚モンスターを召喚する必要があるだろうと思いつつ話している二人を見つめた。

 

「ついて来てください、学院長に相談します」

「了解した」

 

ハゲの男、コルベールと少女に呼ばれていた男に呼ばれた。

 

「ミス・ルイズもついて来てください。彼は、貴方が召喚したものですからね」

(召喚…か)

 

分からないことだらけだ。メニューは使えるし、ログアウトの文字もある。だが、知らぬ言葉、知らぬ土地…

 

(一体どこなんだ此処は)

 

そう1人呟いた。



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ゼロ魔クロス(2)

これでひとまず終了です


2人に連れてこられた場所は、例えるならば校長室だろうか?秘書である美人の女性とひげを蓄えた老人。

 

「さて君がミス・ルイズが召喚した使い魔かね?」

「さぁ?」

 

キースは、老人の言葉に肩をすくめる。

 

「ちょ、オスマン校長になんて口を「使い魔やらと言われても何も説明されていないもので、何の事だか」聞いて」

 

ルイズがキースを戒めようとするが、それにかぶせてキースが言葉を紡ぐ。

 

「そちらには“サモン・サーヴァント”の呪文が無いのかね?」

「我らの国には、使い魔…いいえ召魔を従える“サモナー”という職業があるので魔法使いが使い魔を持つことはあまりありませんね」

「なんと、それならば“サモン・サーヴァント”の説明からせねばらるまいな」

 

それから説明されたことは、“アナザー・リンク・オンライン”の設定から大きく外れた話だった。

“サモン・サーヴァント”…それは魔法使い、いやメイジと分類されている貴族が生涯の友にして従者である存在を召喚する儀式であるらしい。

メイジは、コモン・火・水・風・土・虚無の内コモンは基本的に誰でも使える魔法であり火・水・風・土の内どの属性が最も適性のあるのか“サモン・サーヴァント”とで知る事が出来るらしい。それを指標に事業の内容を決める為、2年生への進級試験は“サモン・サーヴァント”の魔法を使った使い魔召喚を題材にしているそうだ。

その中で最も異質なのか虚無であり、始祖であり全てのメイジの始まりと呼ばれるメイジ以外には発現していない伝説の系統。どんな呪文があるのかさえ分からないと言う謎の系統。

その基礎のコモンを除いた5つの属性のみで、複数の属性を組み合わせたり掛け合わせることで氷や雷などの属性を扱う。

随分と自分達が動いていたゲームの設定から外れた話だ。

 

(ますます怪しくなってきたな)

「して、君は王家の剣術指南役だと聞いたが?」

「はい、我が師には“宮廷魔導師”に推薦していただいていたのですが当時姫君であるサビーネ王女に剣の指南をした折に肩書を貰い受けました」

「ほう、“宮廷魔導師”とな?」

「我が国では、貴族が必ず魔法を使えるとは限らないのです。大陸が違えば魔法の成り立ちも変わります、私はいざとなれば前衛にて戦える接近戦闘能力と後方にて支援できる魔法戦闘能力が高いと評価されていまして王族の護衛として任を受けた時にその実力を買われたのです」

「それが“剣術指南役”という立場かの?」

「はい、サビーネ王女は王女でありながら騎士でもあるお方で魔法よりも剣の方が得意で未熟な所をつい指摘して稽古をつけてしまいまして」

「成程のう」

 

オスマンと呼ばれている老人は、キースの言葉にその立派な髭を撫でた。

 

「王族の方々には、どれ位の頻度で会うのかね?」

「あ~、今は死んでしまった王族の方々に変わり国を治めるのに忙しく稽古をつけている時間が無いのであまり会いませんね。つい数年前まで内乱がありまして」

「なんと、それは大変じゃったのう」

「まぁ、師匠方々や私の知り合いの者達も味方しましたのでそれほど大きな被害はなかったのですが、反撃するまでの間の民の犠牲が多く…」

「それは…」

 

実際、国の奪還間に魔人に魅入られた人々は救えないと師匠は言っていた。一部をスケルトンにされたり、魅了で意識を無くして肉壁にしていたりと民への被害は大きかった。

それを治めたりしていて、サビーネ王女たちは大忙しらしい。それこそ年単位で。

 

「その間は、基本的に王家が進出したがっている大陸に常駐し未知の魔物の排除や拠点の作成を知人たちと共に行っております」

「大陸…」

「随分前に文明が滅びたそうで残っている人口なんて雀の涙ほどしかない大陸ですが資源も豊富で見逃す手はないと内乱の前から手を出していましたから、もうすでに王家の手助けが無くてもある程度は動ける体制があったんです」

「成程」

「ですから、数年ならば行方をくらませても「ああ、強敵を求めてどこかに行ったな」位しか思われないんでしょうが…」

「何ぞ、問題があるのかね?」

「まだ嘗ての内乱の敵の首領を全て捕縛していないんです、いざとなれば戦場へ参上しその首領を殺すまたは捕獲するのが私の役目なんですよね」

「つまり、戦が始まる前に戻らないと問題があると」

「私以外には師匠たちが戦えるでしょうが、師匠たちは王族の護衛として後方にいてもらっていますので必然的に私にお鉢が回ってくるわけです」

 

キースの言葉にオスマンが顎に手を当てて考え込んだ。

 

(信じるならば、この人物は仕える国の最高戦力に当たる存在ということかの?先ほどの言葉、接近戦闘能力と魔法戦闘能力ということは武器も使えて魔法も使えるという事そんな人材そうそういないはずじゃ)

 

そう考えているオスマンだが、キースのいたゲームの世界ではそういうプレイをしていた人物は少数ながら存在はしている。キースの様にありえない位凄いリアルスキルを持って最強の一角だと数えられている存在が稀なだけである。

 

「君の国は何処にあるかわかるかね?」

「さぁ?使い魔として無理やり召喚されたみたいで詳しい現在地なんて分かるわけありませんし、もしかしたらすごく遠くかもしれませんね」

「むぅ」

「帰る手段も今のところ分かりませんし、どうすればいいですかね?」

「そうじゃのう…」(しかし本当にどうするか、いくら遠くの国であってもその国の最高戦力を事故とはいえ勝手に誘拐したようなものじゃし)

 

使い魔との契約は、一生もの。勝手に他国に属する者に契約を強制などしたら外交問題になりかねない。

 

「せっかくミス・ヴァリエールが成功した魔法なのじゃがなぁ、使い魔の契約は一生もの。使い魔が死ぬまで契約は切れん代物じゃ。もう一度召喚させたとしてキース殿の前に召喚の門がまた開かれてしまう可能性がある…どうしたものか」

「………」(さて、どうするべきか)

 

そんな2人の会話を聞いていて涙目を浮かべていた少女がいた。言わずもがなキースを召喚したルイズである。

 

(なんで、なんで…召喚した使い魔がただの平民だと思っていたのに)

 

ルイズは貴族としてのプライドが高い、そして自分が招いた外交問題になるかもしれないという事態に泣きそうになっていた。

凄い使い魔を召喚して今まで馬鹿にしていた奴らを見返す。「メイジの実力を見るなら使い魔を見よ」魔法が全く使えないルイズの評価を改めさせるには万人が凄いと認める使い魔を召喚することが一番簡単で確実にできる事なのだ。

だがいくら使い魔を召喚出来たとはいえ“コンタクト・サーヴァント”が出来なければ完了した事にならず進級も出来ない。それがさらにルイズの心に闇を落としていた。

 

(王家の剣術指南役?宮廷魔導師?何よそれ)

 

使い魔とは、メイジの生涯の友であり仲間であり下僕だ。その下僕が貴族の自分よりもかの国でははるか上の地位にいるという事も宮廷魔導師という職に選ばれるほどに魔法が使えると言うのも何もかもが下僕よりも自分が劣っていることを感じさせていた。

 

(何で、何でなのよぉ)

 

何時も魔法が失敗して、馬鹿にされてきた。魔法成功確率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』と呼ばれていた。

使い魔として召喚した男は、魔法が使えるのに自分は全く使えない。唯一成功したのが男を召喚した“サモン・サーヴァント”のみだ。

やっと魔法が成功して、周りの奴らを見返せると思ったら召喚したのは他国の王族の関係者。外交問題に発展するかもしれない人物だ。

それらの事実がルイズを追い詰めていく。

 

「…済みませんが、試したいことがるので契約?という奴をしてもらってもよろしいですか?」

「試したいこと?」

「ええ、これが成功すればまぁ当面の問題は解決できるでしょう」

「うむ、内容は教えてもらっても?」

「あなた方の魔法にはないようですが、我々の国の魔法には魔法の効果を打ち消す魔法があります。その魔法が効果があれば国への帰還までならば彼女の使い魔として働いても私は構いません」

「!?……そんな魔法が」

「まぁ、成功するかどうかは半々でしょうけど」

「う~む、ならば儂の使い魔で試しましょう。もし解除されてももう一度契約を結び直せばいいだけじゃし。

モートソグニル!」

 

オスマンの呼びかけに答え、モートソグニルと名付けられているネズミがオスマンの机の上に上がった。

 

「こやつが儂の使い魔の、モートソグニルじゃ」

「では、試してみても?」

「構わん、実験は大切じゃからの」

「お言葉に甘えて」

 

キースは、無音詠唱と詠唱破棄のスキルを控えに回して「ディスペル・マジック」の呪文詠唱を行う。

 

「ディスペル・マジック!」

 

キースの魔法が発動するとモートソグニルが白い光に包まれ

 

キィン

 

何かが割れた澄んだ音が響いた。

 

「…………」

「が、学院長?」

 

オスマンは、目を見開きキースに逃げないように捕獲されているモートソグニルを凝視していた。その姿に秘書である女が声をかけた事でオスマンの目に驚愕の色が現れる。

 

「つ、使い魔の契約が切れておる」

「「なんですって!?」」

 

その事実にコルベールと秘書の女が声を上げた。本来なら解除できない契約を解除したのだその驚愕は当たり前だろう。

 

「す、すごい!そんなすごい魔法がこの世にはあるのか!」

「しかし、これで当面の問題は解決じゃな。キース殿の祖国が見つかるまではミス・ヴァリエールの使い魔を引き受けてもらえますかな?」

「構いませんよ、どうせする事もないでしょうから」

 

キースは、なにか違和感を感じていた先ほどからフレンド登録しているプレイヤーと連絡を取ろうとしたが取れないし、「テレポート」の呪文を使おうと思っても今まで行っていたはずのエリアポータルの一覧が出ない。

まずは、現状を確認するためにこの魔法学院という情報が沢山ありそうな場所に一時的に厄介になりたいと思っていたのだ。

いつでも解除できるなら使い魔になる事も苦ではない為了承する事にした。

 

「では、ミス・ヴァリエール」

「…は、はい!?」

「キース殿と“コンタクト・サーヴァント”を行いなさい。ただし、キース殿はくれぐれも不当な扱いをせず動物などと同じように躾けようとしないように」

「あ、当たり前です!」

「ならば、よし。では、“コンタクト・サーヴァント”を」

 

ルイズとキースが向かい合う。

 

「それで“コンタクト・サーヴァント”ってのはどうやるんだ?」

「こうやるのよ。

我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 

杖を持ち呪文を唱えると

 

グイッ、チュ

 

「!?」

 

ルイズに無理やり頭を下げられキスされてしまったキースは、目を見開いた。

 

「こ、これが“コンタクト・サーヴァント”よ!」

「え、ななな!?」(垢BANになるはずなのにその警告類がない!?)

 

キースは、突然の事態に大慌てになるが

 

「グッ!」

 

突然灼熱の鏝を当てられたような痛みが左手を中心に体を襲った。こんな事で悲鳴を上げるような無様を起すような事もなく歯を食いしばり痛みに耐えるキース。

 

「これは、なんだ?」

「使い魔の証たる、ルーンを刻んでおるのじゃ。痛みはすぐに消えるじゃろう」

 

オスマンの言うとおり痛みはすぐに消え、左手に見た事もない模様が刻まれていた。

 

「ほほう、これはまた珍しい形のルーンですね。スケッチさせてもらっても?」

「構わない」

 

コルベールにルーンが刻まれた左手を差し出す。サラサラとコルベールは手早くルーンをスケッチしていく。

 

「では、キース殿。儂は、お主の祖国について調べるので帰還方法がわかるまではミス・ヴァリエールの事をよろしく頼みます」

「了解しました」

「ミス・ヴァリエールは、今日の授業を休みキース殿にトリステインなどこの国での一般的な常識を教えて差し上げなさい。幸い君は座学では優秀な生徒じゃからな」

「わ、分かりました。オスマン学院長!」

 

そしてキースとルイズは、学院長室を退室した。

 

 

 

「………他に何か聞きたいことはある?」

「いや、大体は分かった」

 

ルイズの部屋に案内されて、この世界の常識的な事を教えてもらっていた。

この国トリステインと隣国ガリア、天空の国アルビオンは王族を頂点とした完全なる貴族社会であり平民の地位は限りなく低く、貴族の不興を買えばその場で殺されることもあるらしいという社会だ。

その3つの国にロマリア連合皇国は、始祖ブリミルを信仰するブリミル教の教皇をトップとした宗教国家を加えた4つの国のトップがブリミルの力を継いだ血脈だそうだ。

そして新興国家ゲルマニア、実力と金さえあれば平民だろうと貴族になれて歴史の浅い野蛮な国だそうだ。

他にも色々と教えてもらったが重要なのはこれ位だろう。

 

「それであんた“宮廷魔導師”って奴に選ばれる位なんだから魔法は使えるの?」

「ん?大体の魔法は使えるんじゃないか?」

「え?」

「俺は無節操だからほぼ全ての属性は使えるようになったし」

「え、ほぼ全ての属性?」

「ああ、火・水・土・風・光・闇の6つの基本属性と派生属性の雷・氷・塵・溶・灼・木・時空に特殊属性の封印術・英霊召喚・禁呪も使えるし“サモナー”だけが使える召喚魔法も使えるしな」

「サモナーってなに?」

「サモナーというのは、召喚モンスターを従えて戦う魔法使いの事だ」

 

試しに見せようとリストから召喚モンスターを選ぶ。

 

「サモン・モンスター!」

 

呼び出したのは、比較的小さく可愛らしい白い毛並を持った狐だ。

 

「うわぁ」

「俺の配下のモンスターの一匹ナインテイルだ。後方支援を得意としている」

 

ナインテイルは、呼びされて早速とばかりに空を飛んでキースの肩に乗る。

 

「相変わらず、ちゃっかりなやつだ」

「何これすっごく可愛い!この子ちょうだい!」

「俺と契約しているから、譲渡は無理だぞ?」

「えぇーーー!」

 

残念そうなルイズに苦笑して、肩に乗っているナインテイルを撫でた。目を細め、もっと撫でてくれとばかりにすり寄ってくるナインテイルを観察しつつ、ルイズを見る。

 

「これが俺の召喚魔法だ。他にも色々いるが室内に呼べる奴なんてあまりいないからなぁ」

「へぇ、そんなに大きいんだ」

「デカい奴だと山位デカいからな」

「……嘘」

「ま、そいつらを出すような事態にならないことを祈るさ」

 

ルイズに見せ終わったのでナインテイルを帰還させる。

 

「さてと、使い魔の役目の内1つめの視界の共有とかは出来ないみたいだが、秘薬の材料の用意とかなら調べれば取ってこれると思う、護衛もこれでも腕には自信がある心配しないでくれ」

「それは疑ってないわ、王家の護衛に選ばれる位だもの。薬草とかも国が違うなら全く違うかもしれないし必要な物があったら図書館で事前に調べましょう」

「理解が早くて助かる。それで私は何処で過ごせばいい、流石に女性の部屋で寝る事は…」

「あ、そっか…どうしよう?」

「まぁ、それは後で学院長とかに相談するとして今日は野宿でもしよう。テントとかならあるからな」

「そ、それは駄目よ!あなたは一応他国からの客人なのよ!」

「構わないさ、新大陸の開拓中はほとんどテント暮らしだ。いつものことだ」

「でも」

「私は気にしてないんだからいいんだ。いつも通りの方が気楽だしな」

 

キースは、部屋の出口へと向かう。

 

「もう夜だ。私はもう寝る事にしよう、また明日」

 

そう言ってキースは外に出て行った。

 

「月が二つか…」

 

外に出て空を飛び、屋根に上がったキースは空に浮かぶ2つの月を見てため息を吐いた。

 

「ちょっと、調べてみるか…と、その前に召喚しておくか」

 

サモン・モンスターでキレート・イグニス・スパッタ・ナインテイル・ノワールを召喚する。

 

「キレートは、ルイズの護衛を頼む」

 

そう指示を出すとキレートは影の中へ消えて行った。

 

「よし、これで大丈夫だ」

 

“フライ”と“アクロバティック・フライト”を唱え、宙に浮きあがる。

 

「それじゃあ、周り見るついでに拠点でも探すか」

 

アイテム・ボックスの中には、愚者の石版と野菜の種などもあったので拠点を作るついでにポータルガードを配備して何かあった時の拠点を作る予定だ。

 

「流石に周りへの影響を考えて、迷宮の設置とかはしないけどな」

 

そしてキースは、空を飛ぶ。モンスター達もキースを追って空を飛ぶ。

真っ直ぐ飛べば、城がある街があったが夜なのでスルーして空を飛ぶ。しばらく空を飛んでいると海にたどり着いた。

 

「海に拠点を作るか、下手に誰かにばれるよりはマシだな」

 

海にあるそこそこ大きさの無人島に拠点を作る事にした。

 

「ここだな」

 

適度に森があり平原があり、浜がある島が見つかった。

 

「…ちょっと調べるか」

 

ノワールたちを帰還させて、ヴォルフ・シリウス・フローリン・逢魔を召喚する。

 

「この島に魔物とかがいないかどうか調べてきてくれ」

 

その言葉にヴォルフ以外の召喚モンスターが各方面へ散った。

 

「じゃ、俺達も行くか」

 

ヴォルフを伴い島を見て歩く。数刻もすれば島全体を調べ終わり此処に魔物の類などはおらず動物などが少数生息していることが分かった。

 

「愚者の石版を設置して、強化は最大。使用権限は自分とそのパーティーだけっと」

 

島の中心部にある草原の真ん中あたりに石板を設置する。今現時点で出来る強化を最大にしておく。

 

「ポータルガードは水中専門と人形組と空中戦闘が可能なモンスターが数匹でいいだろう」

 

次々とモンスターを配備していく。

配備したモンスターは、テイラー・アプネア・アウターリーフ・ロジット・プリプレグ・スラージ・久重・蝶丸・網代・クーチュリエ・スパーク・クラック・獅子吼・雷文・スコーチの15匹を配備した。

 

「じゃ、後は頼む」

 

召魔の森に置いてあったアイテム・ボックスに持ち歩いていたアイテム・ボックスから皮などいまは使えない素材などを移しておく、宝石などもいらない何個かを残してすべて移す。

 

「お金がいるかもしれないからな」

 

大体の準備を終えて、試しにテレポートの呪文を選択する。

 

「あ、魔法学院がテレポート先になっている。中継ポータル扱いなのか?」

 

そのまま魔法学院を選択して実行する。

 

「お、大丈夫みたいだな」

 

無事魔法学院に付いたキースは、ヴォルフ達を帰還させる。

 

「さて、ログアウトできるか試すか」

 

テントを設営して、中で横になる。

 

「あ、ログアウトできる。本当になんなんだ」

 

やる事もないのでいつもより早く今日はログアウトした。

 

午前5時、今日はいつもより遅くログインする。

 

「あ~ぁ、何で戻れないんだ」

 

ログインすれば、ログアウトする前の光景がしっかりとあった。

 

「何かバグか何かと思ったが違うんだな」

 

どうすれば、元の場所に戻れるのか分からない。

 

「当分は様子見だな」

 

起き上りテントを片付ける。

 

「さて、起きているかな。シンクロセンス」

 

キレートと視覚などの感覚を共有する。すると視界にルイズの部屋が写る。

 

(まだ寝ているようだな…どうやって暇をつぶすかな?)

 

何時ものような対戦をしたり、召喚モンスターを愛でてもいいが使用人たちを怯えさせる可能性もある。

 

 

「素振りでもするか」

 

アイテム・ボックスから木刀を取出し構える。

それから基本的な方の素振りを始めた。相手がいないからそこまで派手ではないが見る者が見ればその高い技術力がよく分かるだろう。

シンクロセンスで視覚共有をしてルイズの様子を見ながら起きるまで素振りをし続ける。

 

(お、起きたか)

 

ルイズが起きたのを確認して、素振りとシンクロセンスをやめた。

 

「じゃ、ゆっくりと行くか」

 

木刀を仕舞い、ルイズの部屋へと向かう。

途中で使用人たちを見るが、彼女たちは此方をチラチラと見るだけで声をかけたりはしない。恐らく見た事もない大人の男を怪しんでいるのだろう。

 

「ルイズ、起きているか?」

「あっ、キース今着替えているから待ってて」

「分かった」

 

ドアの横でルイズが出てくるのを待っていると

 

ガチャッ

 

近くのドアが開いて、中から真っ赤な髪と褐色の肌を持ちプロポーションの良い少女が出てきた。

 

「あら、あなたルイズの使い魔?」

「一応そうだな」

「へぇ、本当に人間なのね!凄いじゃない!」

「まぁ、使い魔に人間というのは珍しいだろうな」

 

キースは、少女の言葉に頷いた。

 

「おはよう、キース」

「ああ、おはようルイズ」

「おはよう、ルイズ」

「キュ、キュルケ!?」

「なぁに驚いているのよ、部屋が近いんだからほとんど毎朝会っているじゃない。

しっかし、“サモン・サーヴァント”で平民を喚んじゃうなんて貴方らしいわね!流石は、ゼロのルイズ!」

「あんたねぇ!キースは、他の国の王家の剣術指南役よ!平民だなんて呼ぶんじゃないわよ!」

「え?」

 

ルイズの言葉にきゅるけと呼ばれた少女がキースの顔を見た。

 

「け、剣術指南役…しかも王家の?」

「師は“宮廷魔導師”に推薦していたがな」

 

サーッとキュルケの顔色が悪くなった。その姿にルイズがドヤ顔を浮かべて笑う。

 

「あんたもゲルマニアからの留学生なら一応気を付けなさい。私だっていつ外交問題に発展するか怖いのにあんたの態度で問題になっても困るのよ?」

「も、申し訳ございませんわ。ミスタ…まさか王家ゆかりの者だとは思わず」

「普段は、大陸への派遣兵だからな分からないのも無理はない。私は気にしていないよ」

「お礼を言いますわ、ミスタ」

 

キュルケが青い顔をしたまま頭を下げるのでキースは笑って不問にすると告げる。

 

「それでキースを笑ったんだからアンタの使い魔はさぞ優秀なんでしょうね?」

「も、勿論よ。フレイム!」

 

キュルケが名前を呼ぶと大きなトカゲが部屋から出てきた。

 

「これってサラマンダー?」

「そうよ、火トカゲ!見て、この尻尾。ここまで鮮やか大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?

ブランドものよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ」

「へぇ、サラマンダーか」

 

勢いを取り戻したのか使い魔の自慢を始めるキュルケだが、そのサラマンダー・フレイムはキースを凝視して固まっている。

 

「あ、あらどうしたのかしら?」

「固まっているわね?」

(これはまた、リアルな)

 

キースの力を感じ取って、恐れているだろうフレイムに苦笑いを浮かべる。

 

「そろそろ食堂に行かないといけないのではないか?」

「あ、授業に間に合わなくなっちゃうわ!」

「急ぐわよ、キース!」

 

キースに指摘されて話を切り上げて食堂に向かう二人。

 

 



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ネギ魔クロス

ネギ魔とのクロス。これも中途半端です



「キェェェェェェェ!」

『シャァァァァァァ!』

 

そこは戦場。狂気と殺気が渦巻く常人では手出しできぬような苛烈な戦場。

 

『ぐっ!』

「キェェェェェェ!」

 

拳と拳を交わらせ、その身から血を流し、打撲痕が増えようとも少しも怯まず技の応酬を繰り返す。

 

『やる様になったではないか!』

「お前もな!」

 

死合を楽しむ2人。その周りには、2体のドラゴンと主人を見守る5体のモンスターが観戦していた。

だが、そんな二人にとって至高ともいえる時間を害す存在がゆっくりと近づいていた。

 

『………』

『貴様!何をしにやって来た!』

 

その存在に始めに気が付いたのは、長年支配され続けた琥珀竜だった。今この場で戦っている二人は当然として竜やモンスター達さえも視界に収めるほどの距離にその老魔神が現れた。

 

『邪魔をすると言うならば、我らが相手になろうぞ!』

 

二人を庇う様に立ちはだかろうと2匹の竜とモンスター達が動き出すが

 

 

 

『ぐっ!』

「なっ!」

 

 

老魔神が2人の間めがけて何かを投げるとそこから目がくらむほどの光が発せられ近くにいた二人はおろか傍にいた竜達をも巻き込みその光は大きくなっていく。

暫くして光が消えると2人も竜達もまるでいなかったのかの様に姿を消し、その要因を作った老魔神もその場から消えていた。

 

 

その日を境に一時的に、アナザーリンク・サーガ・オンライン最強と名高いプレイヤーの姿が消える事となった。

 

 

 

「…とりあえずは、一時休戦だな」

『仕方あるまい、このような事態では楽しむも何もない』

 

光に包まれた2人は、光が晴れると先ほどまで狂気に包まれ拳を交わらせていた感情を押しとどめ事態の把握に努める為一定の距離を置いた。

 

『おい』

「あ?」

『飲んでおけ、不測の事態があるやもしれん』

 

筋骨隆々の大男が自分よりも小さな格闘戦を得意とするようには到底見えない並程度の肉体を持つ男に酒瓶を投げ渡す。

投げ渡された男は、何の気概もなくその中身を飲み干す。

 

「礼は言わない。で、さっき投げて来たものに心当たりはあるか?」

『いや、我は知らぬ。しかし、尋常ならざる事態だ』

 

大男の前には、ミニマムサイズにまで縮まった自身の相棒達たる竜がいた。男の配下であるはずのモンスター達に変化はない。

周りを見ると現代的な街並みが見えた。そして目についたのが

 

「見覚えはあるか?」

『ないな』

 

呪文を唱え、最も信頼できるヴォルフと名付けられている狼のみを残し全員を影の中に移動させる。その時、ミニマム化された竜達も渋々入っていく。

男は、鞄から一本の刀を取出しそれを構える。

 

「何か来るな」

『ああ、二つだ』

 

此方に向かってくる二つの魔力を感じ取る。

 

「なるべく殺すな、生きているなら回復させる。蘇生呪文が効くかどうか分からないからな」

『分かっておるわ』

 

腰を低くし、迎撃の体勢を整える。ヴォルフもすでに気配を察知したのか、低く唸り声をあげ警戒している。

大男は自然体であるが、そこには一部の隙もない。見慣れない場所である以上、油断をするような馬鹿ではない。

 

そして現れる。

 

月の光を背にして現れたのは、金髪の美しい少女とそれに付き従う従者の様に後ろに控える人ではない人型。

 

「ほぅ、私が警備のときに突然現れた不法侵入者は貴様らか?」

 

不遜の物言いで、2人を見下ろすのは宙に浮いた少女。

 

「どっちをやる?」

『ふむ、汝にはあの童をくれてやろう。我は、あちらの機械を相手にする事にしよう。

あれならば多少手荒くしても問題あるまい?』

「分かった。だが、頭と胴を壊すなよ、壊すなら手足にしろ」

 

丁度現れた獲物が2人なので分け合い、それぞれの相手に相対する。

 

「私を相手にしていい度胸だ」

「はっ!そこまで言うんだから少しは楽しませてもらおうか」

 

本来なら全力の強化を掛ける所だが、今目の前にいる少女から感じられる魔力はごく微量。

 

(なら様子見で強化無しで)

 

本来ならあり得ない選択だが、相手の無力化及び捕縛が目的である以上過剰な強化をして死なれても困る。

 

(グレイプニルは)

 

先程まで大男と戦っていたため、いつも捕縛で使うグレイプニルが肩になかった。今から鞄から出すのは少し問題がある。

 

(なら呪文での捕縛を目的に動くか)

 

方針が決まった。

 

「来ないのか、ならばこちらから行かせてもらうぞ」

 

少女は、試験管の様な物をこちらに向かって投げる。

 

「リック・ラクラ・ラック・ライラック」

 

少女が呪文を唱える。だが、それでは遅い。

 

(ショート・ジャンブ!)

 

「氷の17矢(グラキアーリス)!!」

 

少女が呪文をさく裂させると同時に呪文を発動して、少女の後ろに飛ぶ。

 

 

「なっ、避けただと!?」

(ブラックベルト・ラッピング!)

 

そしてすぐに闇魔法の拘束攻撃呪文“ブラックベルト・ラッピング”で拘束した。

 

「くっ!いつの間に!?」

(止めの!(((エナジードレイン!!)))

 

拘束したうえでの魔力吸収。たまらず、地面に落ちていく少女。それを受け止め、ゆっくりと地面の上に降りる。

 

「ま、魔力、吸収!?」

「お、あっちも終わったみたいだな」

 

横を見れば、四肢を破壊された機械少女を引き摺ってくる大男が見えた。

 

『歯ごたえのない奴だ』

「マ…すター、モウしわけ、アリマセン」

 

ドンッ、と地面に投げ出される機械少女が闇に拘束されている少女に僅かに動く顔で見て謝罪する。

 

「それじゃあ、尋問でも始め」

 

ガァッ!

 

今まで沈黙を保っていたヴォルフが新たな敵の来訪を告げる。

 

「まさかエヴァンジェリン達をこうも簡単に無力化するとは」

 

現れたのは、スーツを着崩したダンディと言える中年の男性。両手をポケットに突っ込み無防備極まりない姿だが不思議と隙というのを見当たらない不思議な構えをしていた。

 

『どうする?』

「下手に殺し、現住民と亀裂を起こすのは情報収集において致命的だ。なら無力化しかないだろう」

 

大男だけならともかく、男は食事も睡眠も必要だ。元の場所に戻るにも情報は必要で、それを聞き出すのは周囲に生きている現住民から聞くのが最も効率が良い。

幸い、少女を拘束する為グレイプニル(模造)とグレイプニル(真)はバックから取り出してある。

 

「二人を開放してもらおうか」

「断る、敵対する存在を開放するなんて馬鹿のやる事だ」

「なら

 

 

実力行使だ!」

 

中年の男がポケットから手を出すと同時に

 

「っ!」

『ほう!面白い!』

 

その見えざる一撃を避ける。その事に中年の男はもとより、拘束されている少女も目を見開く。

 

「タカミチの無音拳を初見で避けるだと!」

 

その言葉が2人の驚愕の理由だ。

だが、今もなお撃ち込まれている中年の男…タカミチの無音拳を避け続ける。避けるごとに2人とタカミチの距離は縮まっていき。

 

「くっ!」

 

思わず後方に逃げた時、

 

(ショート・ジャンプ!)

 

いつの間にか男が背後に飛び、男が持っていた鎖に絡め取られる。鎖を解こうと動こうとするがそれは許されない。

 

「う、動けない!」

「これはそういうものだからな」

 

ずるずると引き摺り、3人を並べる。

 

「で、不法侵入者だとか言っていたけどどういう意味?」

「ハァ?ここを麻帆良学園都市と知らずに来たのか?」

「麻帆良学園都市?俺達は、死合をしていた時に敵対する存在に何らかの方法で此処に転移させられた。だからここを知らない、OK?」

「え」

「状況が分からず、そちらから攻撃してきたから対処した。で、あんた達は何者だ?」

「僕は、個々の学園の教師兼警備員。彼女たちは生徒兼警備員だ」

「警備員?学園の警備にしてはいささか過剰だと思うが?」

 

今回は生きて捕縛を目的としていたため、ショート・ジャンプと捕縛アイテムの多用を余儀なくされたが正面から戦っても負ける事はないがそれなりの実力者だという事は分かる。

 

「ここ麻帆良学園都市は、それなりの戦力が無いと守れんという事だ」

「ふうん…じゃ、次。そっちの御嬢さんとあんたが使ってきた攻撃って何?」

「私は魔法だが」

「僕は氣や魔法で身体能力を向上させた拳圧だけど」

 

その言葉に僅かに考える。

 

(魔法がある?それに学園?どうもゲームの世界と毛色が違う)

 

少女が撃ってきた魔法は見た事が無い。学園都市とも言えるような巨大な学園など見た事が無い。

 

『まるで異界に来たようだな』

「だな、魔法も見た事がないものだ」

 

大男の言葉に頷く。

 

「君たちは、魔法使いなのかい?」

『いな、我は魔神なり』

「一応、召喚師やってるけど君たちにとって魔法使いってどういう存在なの?」

 

それから拘束したまま情報を交わす。

此方の魔法使いたちは秘匿されており、一般人に知られるとオコジョになる呪いを掛けられるとか魔法使いの世界があるとかその他色々な事を聞き出す。

 

『随分と我らの世界とは違うものだな』

「どちらかって言うと魔法界が近いけど、サビーネ女王とか魔人とかがいないようだしな」

 

しかも何度も戦争をしている。相手が人か魔人かという違いはあるがそれなりの規模の戦争が多発している。

 

「つまり何か?お前らは、別の世界から来たと?」

「そうとしか考えられない。そっちの魔法界は、久しく戦争なんてしてないんだろ?こっちは、王弟が魔人に組して1人を残し王族皆殺しだったり、国同士の戦争も結構あったし、こいつら魔神との戦闘だって結構な規模であったし、王都の壊滅、街の壊滅なんてざらだしな」

『それらを知らぬ以上、別世界だと考えた方が自然であろう』

 

王都を灰にした事もあった、魔人達が魔人の材料として住民をさらい無人の廃墟と化した街と村があった。

 

『ふむ、面倒な事になった。元の世界に戻ろうにもどう戻ればいいのか分からん』

「テレポートも機能してないし、シャドー・ゲートも意味なし(ログアウトも出来ないし)で打つ手なしだ」

『しかし、元の世界に戻られねばなるまい。それぞれ獲物を残しておるし、主は友もいるしな』

「ああ、何とか探さないとな」

 

辺獄からまだ魔神は甦っている。蘇らなくなるまで殺し続ける事が目標だし、それは大男も同じだ。

 

「一先ず拠点か?」

『うむ、我は人ではないし主はこの世界の基準で魔法使いであろう。いつもの様に召喚獣に乗って移動するわけにもいくまい。

身を隠せる落ち着ける拠点を用意した方が良いだろう』

「石板使えれば一番いいんだけどな」

『どのような影響を与えるかわからんからな、当分は様子見だろう』

 

2人とも別々に行動するつもりはもはやなかった。非常事態でそれを解決する手段も思いつかない状態で別々で動いても意味はない。

別々で行動して万が一片方が元の世界に帰れなくなっても困るのだ。2人は宿敵にしてライバルであり、お互いにあの世界に生きるのに必要な存在でもあるのだ。

だからこそ、敵対する関係とはいえ元の世界に戻るまで行動を共にするのに異論はなかった。

 

ブーッーブーッ

 

『?』

「何だ?」

 

何かのバイブ音が聞こえ、音源を探すと

 

「あ、僕の携帯だね」

『携帯?』

「…鎖を解くからでろ。だが、下手な真似をすれば首を落とす」

 

忠告してからグレイプニルを解いた。影から出て透明化しているモスリンがタカミチの後ろに回りいつでも首が取れる様にしている。

それに気づいているのかいないのか、大人しく携帯を取出し耳に当てた。

 

「はい、タカミチです」

 

大人しく出た事を確認するとすぐに意識から外す。今は、今後の事を煮詰める事が優先だ。

 

「資金に関しては、今は使わない低級な宝石もあるから。ウッドパペットを召喚して促進培養して宝飾とらせれば多少はいい値が付くだろう」

『我は良くても、主は無くては生きるのが難しいからな』

 

いくつかのレア度の低いアイテムは、闘技場に捧げるために持ち歩いている。それを売れば当座の資金になるはずだ。

 

「どこかの無人島でも占拠するか」

『それが良いだろうな』

「それはちょっと待ってくれるかな」

 

2人で今後の事を決めていると横から声がかかる。それは先ほどまで電話をしていたタカミチであり、電話を片手に此方を見ていた。

 

「学園長が貴方達と話し合いをしたい、と」

 

その言葉に2人は視線を交わらせる。そして

 

「了解した。案内してもらおうか」

 

罠があれば食い破る!そう心に決めて、答えた。

 

 

流石に移動するのに少女の鎖巻きは、視覚的観点から色々と拙いので脅して開放しロボットは試しに錬金術で修復した。

布を取り出しその上にロボットを置いて魔力を流したら、元通りになっていたのに驚いていたがこちらにとっては錬金術の修復が出来る事が分かった事が収穫だ。

それと歩いている間に装備品の点検を行うと耐久値回復不可のドロップ装備達が全部回復可になっていた。補給が絶望的なので色々ありがたい変化だった。

 

「学園長、彼らを連れてきました」

「入りなさい」

 

そして連れてこられた学園長室。扉を開けると

 

 

 

 

 

 

「人間?」

「人間じゃ!」

 

無駄に後頭部が長い、妖怪のぬらりひょんの様なご老人がいた。

 

「それで君たちが異世界から来たと言う者達かね」

「コイツと死合していた最中に敵対陣営から妨害で此処に転移された。こちらは、国同士の戦争やコイツの元陣営との戦争も頻発していたからそちらの魔法界やこの世界とは違う世界だと解釈した」

「成程、それほど戦争が頻発していたのかね?」

『我ら魔神が裏で動き、魔物の発生や地脈の書き換え、国の乗っ取りなど色々やっていたからな。コヤツの所属する国と魔神と組みした国との戦争はよくある事だ』

「ふむ、それほど戦争が頻発しておったなら確かに別世界なのじゃろうな。それで君たちは帰還方法を探すのかね」

「当たり前だ。私たちは、それぞれ殺したい敵も戦いたい敵も全てあちらにいる」

「儂らとしては、タカミチ君やエヴァンジェリンをいとも簡単に無力化した君たちに好き勝手動かれるのは少々拙くてのぉ。

どうじゃ、此方で拠点と仕事を斡旋するからここ麻帆良学園都市を拠点としてはくれまいか?」

 

その言葉に目を見張る。

先程から此方を刺激しない為かご老人一人だけで部屋で待ち、タカミチ達もご老人の後ろから出ずに此方を伺っている事から危険視はされていても危害を加えるつもりはないだろうと思っていたがそのような提案をされるとは思ってもいなかった。

 

「こちらとして喜ばしい提案だが、いいのか?私はともかく、コイツは並大抵の実力者では殺せない再生力と強靭な肉体を持つ存在だぞ」

『汝も十分逸脱した存在であろう』

「先ほども言ったとおり、君たちのような存在を野放しにして魔法の存在を世に知られるのが拙い。この学園内なら即座に記憶操作の処置も施せるが、外に行かれてはそれも後手に回る可能性が高いのじゃ」

 

その言葉に納得する。無力化できず野放しにするのも出来ないとなるとそれなりの褒賞を与えて膝もとにおいていた方がいざと言う時対処が楽という事だろう。

 

「こちらは異論はないが」

『こちらも異論はない。拠点を用意してもらえるならば手間が省けて楽だからな』

「それで仕事とは?」

「うむ、まずはこの学園を守る警備員…タカミチ君達と同じ仕事はしてもらう予定じゃ。それと何か出来る事はないかね?」

「出来る事?ガラス工に木工、後は武芸全般の指導?召喚モンスター達がいれば大工に石工、料理、農業とかいろいろ出来るが」

 

料理でカレーを作ってもゴミを作る為、基本料理は召喚モンスター達に依存している。召喚モンスター達は多芸で色々な事が出来る。

 

「そういえば、君は召喚師じゃったな。その狼も君の使役獣かの」

「ああ、私の一番の相棒ヴォルフだ」

 

その狼と言えば、常に主人のそばに控え老人たちが少しでも不穏な行動を起こせばそののど元を噛みきる、と雄弁に目が語っていた。

 

「その他にも使役獣がおるのじゃな?参考にまで何体ほどがいるか教えてもらえるかの?」

「大体130以上か?」

「……それは、凄いの」

 

予想以上の数に驚いているのか、その言葉は戸惑ったような声だった。

だが、これでもまだ全コンプリートには程遠い。

 

「ならば、人目に付かぬ場所に拠点を置いた方が良いじゃろうな」

「そうしてもらえると助かる」

 

家具や農業などは、召喚モンスターに頼りっぱなしなので常時出していても問題のない場所なら家が小さくてもすぐに拡張工事が出来るだろう。

 

「しかし、流石に教師にするわけにもいくまいし」

「その事だが」

「どうしたのじゃ、エヴァンジェリン」

「ガラス工や木工が出来るならば、女性向けの小物店でも開いたらどうだ。それならば家で作品を作り持って来ればいいので魔法が露見する可能性も低いであろう。

オーダーメイドで好きな形の小物も作れるとなればそこそこ人気が出るのではないか?」

 

今まで黙っていた少女、エヴァンジェリンから如何にも女の子らしい提案が出される。

 

「成程、確かにそれならば書類偽造も住民票のみですむのう」

「デザインとかは、デザイン学科のものを流用させてもらえばいいだけですしね。デザイン学科の学生にとっては自分のデザインが実物になっていろいろ勉強になるかもしれません」

「ふむ、どうじゃな。小物店をやるつもりはあるかの?」

 

その言葉に考え込む。

 

(ガラスの小物も一度作れば錬金術で複製できるし、木工も出来る。デウス・エクス・マキナをも2体育てて宝飾と皮工を取らせれば作品の種類も増える。

木はプリプレグの背から採取して、他の材料はこの世界の物を購入して、そうそうモジェラスの縫製も機織り機作って自分の糸で作らせるか蜘蛛の糸って事はシルクだし。

あと軽い軽食とかデザートを食べられるようにナイアスを人の姿にして料理担当にすれば)

 

頭の中で大まかな計画を頭の中で並べる。

量産に関しては木工とガラス工なら錬金術の短縮再現で質は落ちるが簡単に量産が出来る。他も不眠不休で動くパペット系なら一日中働かせればそれなりの数を用意できる。

料理や縫製に関しては、手の出しようもないが腕はそれなりにいいことは知っている。

 

「それで頼む。まぁ、それよりも拠点を確保して、拠点や店舗の改装が終わってからだが」

「それは分かっておる。当座の資金や材料の仕入れ先もある程度融通しよう、とりあえず今日はエヴァンジェリンの家にでも泊まるといい」

「おい爺!何を勝手に決めている!」

「人が少なく、何かあっても大丈夫そうな場所は君の家位だからのう」

 

 



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血界戦線

血界戦線とのクロス。これも中途半端です


今日も今日とて至る所で喧騒が絶えぬHL。

まぁ、生存率などという指標がある時点でお察しであるが、HLに拠点を構え世界の均衡を守るために暗躍している秘密結社「ライブラ」の者達にとっては血界の眷属も現れず異界人達もライブラが出撃する程の騒ぎを起こさず平和な日々が続いていた。

だが、しかしその平和はテレビの砂嵐で終わりを告げ。

全員がまたか、と思いながらもテレビに視線を向ければ、金髪の鉄仮面を付け顔を半分隠した男が写っていた。

 

『ごきげんよう、HLの諸君。相変わらず何の刺激のない退屈な日常に飽き飽きして最近ゲームに手を出し始めてしまったよ』

 

写った男の手には何かのヘルメットがあった。

 

『しかーし、残念ながらゲームの世界だと僕は新参者でね。PCの中でもトップにはまだまだ及ばない。というかこのままじゃ、追いつける気がしない。

そこで僕の持ちうる魔導を駆使してね、最強のPCをゲームキャラのままここHLに召喚して当分の間ゲームに関われなくしようと思いついたんだ』

 

余りの言葉に唖然とする。そんな勝手な理由でこのHLに召喚される人物が気の毒である。ゲームのキャラそのままとか堕落王は本当に規格外だ。

 

『これから僕が召喚するのは、ゲームの中でトップクラスを走る廃人。勿論、ゲームのままの強さだからそこらの連中より数段強い。

恐らく本気を出せばライブラ諸君と並ぶ戦闘力を出せる存在を今から召喚する』

 

それを聞いて、非戦闘員以外のライブラ職員が穏やかではなくなった。あまりにも警戒しすぎて殺気すらにじみ出ている。

 

『さて、そしてその存在についてだが捕えて力を利用するも、売るのも、殺すのも、人体実験するもよし。まぁ、できればの話だけれどもあまりにも強すぎて魔王とか呼ばれる存在だからもしかしたら反対に殺されるかもね!

しかし、ヒントも無しで探せと言うのも酷だ。5分毎にその存在についてヒントを出そうと思う。僕のヒントを参考にして探すと言い。

ああ、そうそう。“彼”は、その気になれば街1つ位なら滅ぼそうと思えば滅ぼせるから暴れる前に見つけないとHLが滅びるかもね!』

 

実に楽しそうに言われた言葉に息を飲む。

 

『ヒントは、先ほども話した通り“彼”つまり男だ。そして種族は“人”。さぁ、最初のヒントは出した探してみるがいいさ。もしかしたら手遅れで建物の10や20は、壊れているかもしれないけどね!』

 

そしてもう一度、テレビに砂嵐が流れる。

スティーブンの号令を合図に全員が事務所を出る準備を整える。

 

「探すにしても、あれだけのヒントじゃまだわかりませんね」

「ああ、とりあえずは次のヒントを聞ける5分後にどれだけ絞れるヒントを貰えるかがカギだな。あのヘルメットから堕落王がプレイしていると言うゲームの候補を絞ってみるか」

 

 

 

 

「ん?」

 

HLの何処かのビルの上。そこに一人の男が立っていた。

 

《運営からメッセージがあります。確認しますか?》

 

何時もと違うインフォに首を傾げながら、この異常な事態について何か分かるかもと久々に開いてみる。

 

《此度は、大変申し訳ございません。何者かの介入によってキース様は今、異世界の現実世界に居ると推測されます。

元に戻る為の手段も分からず、異世界に放り出されたキース様の為にいくつか特典を付与しておきますので元の世界に戻れるようご自分で尽力して下さいますことお願い申し上げます》

 

《『召喚魔法』呪文エンド・フォース・オールサモンズが解放されました》

《『召喚魔法』呪文ボディーガードが解放されました》

《『禁呪』呪文ザクルィトエが解放されました》

《共有呪文マイ・ホームが解放されました》

《共有呪文スタイル・チェンジが解放されました》

《アイテムの耐久値回復不可が解除されました》

 

更なるインフォを聞きながら、メッセージに送付された資料らしきものを読む。

この…メッセージで異世界と書かれたこの世界に関する資料でここHLは、世界一危険な場所で死人は毎日3ケタを超える超危険地帯だという事。

異界という異世界とまじりあった場所でここは魔術やら異世界の人間じゃない住人が人間と共存して暮らしている事。

ここHLを制した者は向こう1000年世界の覇権を握れると言われ後ろ黒い組織などが異界の技術を目当てにHLに群がっている事。

血界の眷属という不老不死の化け物がいること。無からでも再生しうる存在だという事等々この世界の事についてなどのHLに関する資料がまとめられていた。

 

「完全不死か…対処は封印処理だけ。成程だから“ザクルィトエ”か」

 

“ザクルィトエ”、封印のロシア語そのままの名前の禁呪。効果を見ても、対象を封印すると書かれているので推測は間違っていないだろう。

 

「HP半分以下、MPも半分以下。弱らせた後封印か」

 

一度ため息。

 

「とりあえず、着替えか」

 

下を見下ろせば、今着ているような革鎧を来ている者たちなどいない。

 

「幸い、服も送付されているから助かったな」

 

運営からのメッセージには、都合の良い事に普通の服も入っていた。

 

【防具アイテム:服】次元蜘蛛の服 品質A+ レア度?

 Def+220 重量5+ 耐久値∞ 

 自動修復[極大] ブレス耐性[極大] 物理抵抗[極大] 魔法抵抗[極大]

 次元蜘蛛の糸を用いて作られた服。

 見た目に反し、あらゆる攻撃から着用者を守る防御力を誇る。反面、スキルなどに判定は無くなっ

ている

 

【防具アイテム:服】次元蜘蛛のロングコート 品質A+ レア度?

 Def+220 重量3+ 耐久値∞ 

 自動修復[極大] ブレス耐性[極大] 物理抵抗[極大] 魔法抵抗[極大]

 次元蜘蛛の糸を用いて作られたロングコート。

見た目に反し、あらゆる攻撃から着用者を守る防御力を誇る。反面、スキルなどに判定は無くなっ

ている

 

見た目は、黒いTシャツに黒のジーンズと黒のロングコートだ。

 

「今の装備をスタイル・チェンジに登録して」

 

スタイル・チェンジ、これは召喚モンスターの装備切り替えと似たようなもので武器と防具を事前に登録する事で瞬時に切り替える事が出来る呪文だった。

 

「武器は小剣と小刀でいいか、現実だとするとおおっぴらに武器持ち歩くの駄目かもしれないしな」

 

登録して切り替えれば、先ほどの服を着て小剣と小刀を腰に差した状態になる。小物入れの中にはいつものアイテムを入れ、小剣と小刀を腰からは外し隠し持つ。

 

「布陣は、テロメア・待宵・キレート・ヘイフリック・十六夜にするか」

 

テロメアとヘイフリックとキレートは、影の中に潜む事が出来る。特にキレートは透明化のスキルもあるし、待宵もキレートの姿を写せば同じことを行う事が出来る。

十六夜は、“シャドー・ゲート”を使う必要があるが暗殺者スタイルであり、警戒役としても元となった狼系の力を受け継いでいるので十分な働きをするため妥当という判断で選ばれた。

 

「影の中に」

 

布陣を変え、指示を出すと迷いなく影へと身を沈めていく5体。

 

「とりあえず確認すべきことを考えるか」

 

明らかに自分の存在する現実と大きく違う街を見下ろしながら、確認すべきことを上げメモをする。

 

・召喚モンスターの死に戻りの確認

・血界の眷属の確認および呪文の効果

・魔法&武技の確認

・自分をこの世界に呼び寄せた存在の確認

・部分欠損があるか、それがあるなら回復するか

 

「とりあえず急ぎやるべきはこの5つだな」

 

いざ召喚モンスター達が死にゲームの様に死に戻りがなかった場合、あたり一面焼け野原にする自信があった。

そうならない為にも思い入れのない適当なモンスターを召喚して確認する必要がある。

血界の眷属という存在も気にかかる。魔法や武技がどこまで通じるのか、最適な組み合わせを見つける必要がある。

魔法も大規模に影響を及ぼす呪文が現実になった事でどう変わったのか、武技も現実になった事で変わった個所があるか調べる必要がある。

そして自分を此方の世界に呼び余所せた存在の確認も重要だ。見つけ次第お話をして元に戻してもらわなくてはいけない。

次に四肢欠損に関しても大切だ。今まではゲームで腕が飛ぶようなことがあっても体の一部が欠けるという事はなかった。それがあるのとないのじゃ戦い方を変えないといけない。

あったとして回復魔法で回復できるかどうかの確認。

 

「まぁ、今の状態じゃ確認できるのは」

 

『ごきげんよう、HLの諸君。相変わらず何の刺激のない退屈な日常に飽き飽きして最近ゲームに手を出し始めてしまったよ』

 

突然の声に思わず下を見る。

 

『しかーし、残念ながらゲームの世界だと僕は新参者でね。PCの中でもトップにはまだまだ及ばない。というかこのままじゃ、追いつける気がしない。

そこで僕の持ちうる魔導を駆使してね、最強のPCをゲームキャラのままここHLに召喚して当分の間ゲームに関われなくしようと思いついたんだ』

 

いつの間にか下のテレビジョンに写っていた男の手にはVRをプレイするためのヘルメットがあった。そしてその言葉にこいつが犯人かと睨みつける。

 

『これから僕が召喚するのは、ゲームの中でトップクラスを走る廃人。勿論、ゲームのままの強さだからそこらの連中より数段強い。

恐らく本気を出せばライブラ諸君と並ぶ戦闘力を出せる存在を今から召喚する』

 

ライブラ、こういう時の例えに出される以上この世界でも有数の実力を持つ組織なのかもしれないとその名を忘れっぽい脳に刻んでおく。

 

『さて、そしてその存在についてだが捕えて力を利用するも、売るのも、殺すのも、人体実験するもよし。まぁ、できればの話だけれどもあまりにも強すぎて魔王とか呼ばれる存在だからもしかしたら反対に殺されるかもね!

しかし、ヒントも無しで探せと言うのも酷だ。5分毎にその存在についてヒントを出そうと思う。僕のヒントを参考にして探すと言い。

ああ、そうそう。“彼”は、その気になれば街1つ位なら滅ぼそうと思えば滅ぼせるから暴れる前に見つけないとHLが滅びるかもね!』

 

確かに街1つ位なら呪文詰め合わせを使い続ければ滅ぼすぐらいは簡単にできる。

だが、確かに戦闘狂の自覚はあるが相手もいないのにそうそう暴れるようなことはしない。相手がいないのに暴れてもむなしいだけである。

 

『ヒントは、先ほども話した通り“彼”つまり男だ。そして種族は“人”。さぁ、最初のヒントは出した探してみるがいいさ。もしかしたら手遅れで建物の10や20は、壊れているかもしれないけどね!』

 

「人?」

 

残念ながらそのヒントは間違いであった。

 

「始めたばかりだったか?なら知らないのも無理はないか」

 

あるレベルに達すると種族のクラスチェンジがあるのだ。勿論、前PCの中で一番のレベルの自分がそれを終えていないはずが無く。というか、まだ自分しかPCの中では達成できていない。

 

「とりあえずあれの事について調べるか」

 

いつの間にか手元に戻っている召魔の森のアイテムバックといつも持ち歩いているアイテムバックを肩にかけビルから飛び降りる。

 

(インビジブル・ブライント)

(レビテーション)

 

インビジブル・ブライントの呪文で姿を隠し、レビテーションで落下速度を緩め静かに地面に着地する。

 

「どこから行くかな」

 

裏路地から出れば、そこにいたのは異形の姿の者達と人々が共存する街。

 

「文字は、英語?他の文字もあるからこれが異界の言語か」

 

看板に英語やそれ以外の見た事もない文字を見て一つ頷く。

 

「金をどうするかも考えないとな」

 

マイ・ホームの呪文が説明書通りなら当分の間は食料に困る事はないだろうが一応稼げる手段を見つけてこの世界特有の食事もしてみたい。

 

『さて、次のヒントだ。“彼”はどちらかと言えば東洋人の様な顔つきをしているよ。見た目だけならごく普通の青年に見えるだろうさ』

 

「…見た目だけ?」

 

確かに見た目は、ランダム設定から弄ってもいないので「中肉中背、普通の外見」と師匠に言われた。多少戦闘狂っぽいはあるが自分的には見た目も中身も普通のつもりである。

 

「とりあえず街を歩いて観察か」

 

今はもう面影もないが、嘗ての旅の目的は「まだ見ぬ未知の景色を見る為」だった。今、目の前にある光景は現実でもゲームでも見た事のない完全な未知。

しかも現実である以上、所構わず戦闘をするわけにもいないので目的が一時的にそちらにシフトチェンジしていた。

原因を問い詰める事も必要だが見る限り電波ジャックして放送しており、しかも場所手がかりになるようなものがあっても判断できない現状、まずは街を把握する必要があるだろうと散策に繰り出した。

 

 

 

街を歩けば必ず未知なる物が目に入ると言うのも珍しい。ゲームの時でも未見のアイテムや敵には心躍ったものだ。

それと似たようなもので異界産の食べ物なども見るだけで楽しい。美味しそうかどうかは別にしてだが。

 

『まだ見つけられないのかい?しょうがない、もっと具体的なヒントをあげよう』

 

幾度となく聞こえた元凶の声。こちらに来て大体30分、誰も見つけられない事にイラついたのだろうかより詳しいヒントを流すつもりらしい。

 

『彼は今、HLを観光中だ。しかも、幻術で姿を隠しているから普通の人だと目に見えない状態だね』

 

(ピンポイントのヒントだが、意味あるのか?)

 

今使っている“インビジブル・ブライント”は、モンスターにもよるが大体のモンスターや魔人から姿を隠せる代物だ。

しかも“魔力遮断”というスキルも合わさって匂い感知か反響定位による感知か天啓などのスキルが無ければ居場所を把握するのは困難だ。

次いでに言えば法騎士一味が来ていた黒のローブも着ているので更にわかり辛くなっている。

 

『うわっ、改めて見てみるとメンドクサイな。僕でもじっくり見ないと分からないとか、流石ゲーム常識の範囲外の魔法だ。

まぁ、蘇生魔法とかある時点でゲームの魔法って規格外だけどね。姿は、今は黒いローブをまとっている姿だ』

 

場所を言われないだけマシかもしれない情報だが、今のところは問題はない。いざとなれば逃げる方法や撃退する方法なんていくらでもある。

 

「っ!」

 

不意に視線を感じた。

 

(クレヤボヤンス!)

 

千里眼の魔法“クレヤボヤンス”を発動させ、視線を感じた方角を見る。

 

(男の子…それに赤髪の大男に顔に傷がある細身の男)

 

特に男の子は、不思議な目をしていた。魔法陣が浮かび上がる青く光る瞳、その瞳で此方をまっすぐに見ている。

 

(アレは携帯か?つまり)

 

気配を深く探れば、此方に向かってくる複数の気配が感じ取れた。

 

(成程、インビジブル・ブライントを見破る何かがあの目にはある訳か)

 

ニッ、と笑い

 

(ショート・ジャンプ!)

 

建物の上に転移して

 

(フライ!)

 

保険として飛行魔法をかけて建物上を駆ける。

 

(捕まえられるもんなら力づくて捕まえて見な!)

 

 

 

「うわっ!」

「どうかしたのかいレオ君!」

 

ライブラの本部の屋上に立ち神々の義眼で堕落王が召喚した存在を探していたレオが声を上げた。

 

「す、すみません。突然建物の上に転移?して逃げ出しちゃったみたいで」

「転移だって!」

「そのまま建物の上を走り出しちゃったんです」

「厄介な事になったな」

 

今も目で追っているが軽やかにビルとビルの間を飛び越え縦横無尽に動き回るターゲットを補足するのは一苦労だ。しかも捕獲要員であるザップ達には見えず、レオナルドが視覚共有しなければとらえる事すらできない。

 

「視覚シャップルは出来そうかい?」

「ちょっと無理っぽいですね、ゲームって言ったから視覚シャップルが状態異常とかに分類されて無力化されているかもしれないです」

「ゲームとは、そのような事もあるのか」

「ああ、クラウスは知らないか。さっきも堕落王が言ったようにゲームなら蘇生呪文なんて当たり前にあるし、現実の魔術師が行使出来ない魔術を一人の存在が連発するなんて当たり前だからね。

だから早く保護したいんだけど」

「ゲームって所謂人の夢の塊ですからね、現実にない事だから魔法もぶっ飛んでますよね」

 

レオナルドの言葉に頷く。

 

「だから早急に保護しないとどんな事になるのか、堕落王がどんなゲームをしているかわからないが最強と呼ばれる存在をよんだと言っていたからね。もしも暴れ出したらどんな被害が出るか」

「ゲームで最強って、ゲームの種類によってはヤバいですからね」

 

まだガンアクション物だったり格闘物だったなら対処はしやすいだろう。だが先ほどの言葉からして剣と魔法の典型的なファンタジーだろうとは予測が付く。

どれだけ長く続いているのか分からないが大体のオンラインゲームの場合、飽きられない為に次々と強敵を生み出すのでそれに応じてPCの実力も跳ね上がる。

 

「あ~、凄いっすね。身体能力はライブラの人たちレベルみたいです」

 

レオナルドの視覚共有で相手の姿を見る事が出来るザップ達の追跡をいとも簡単に振り切り、HLの建物の上を舞台に追いかけっこをしている姿を見てそう零す。

神々の義眼が無ければその速度で影すら見ないだろう速度でライブラの追跡班を翻弄している。

 

「直接姿が見えればまだ、やり様はあるんだが」

 

『ふむ、彼を捕まえられなくて困っているようだね!』

 

スティーブンが指示を出すのに使っていた携帯から堕落王の声が響く。

 

『彼を捕まえたければ、彼の気を引く事をするといい。例えば

 

 

 

 

 

 

魔獣を呼び出し暴れさせるとかね!』

 

その言葉と同時に丁度、相手とザップ達の近くに魔法陣が現れその中から5つ首の蛇の様な魔獣が現れた。

 

 

 

目の前に現れた存在に自然と笑みが浮かぶ。

先程から自分を追跡してくる者達も強く戦いがいがありそうではあったが人の姿をしている以上勝手に戦う訳にもいかず、フラストレーションを溜めていた時に現れた丁度いい獲物に獰猛な笑みが浮かぶ。

 

(スタイル・チェンジ!)

 

装備が変わる。普通の服とローブとコートが消え、そこにいたのは自らが葬ったドラゴンの革で身を固めた一人の戦士。

取り出したのは一つの鉄球。

 

(レールガン!)

 

目の前の化け物に接近し、下から上へ向かってオリハルコン球をレールガンで放つ。その攻撃は化け物の腹に穴をあけ一瞬で絶命させた。

 

「耐久値低いな」

 

呪文でオリハルコン球を回収すると一撃で絶命した化け物の死体を見る。

 

「いや普通の生物は体に穴開けられたら死ぬか」

 

首を折っても、腹に穴をあけてもHPが完全に減らない限り死なないのはゲームだからだと考えれば別段不思議な事でもない。

まぁ、首を捩じ切ったり縦に裂けば大抵死んだが。

 

「とっ!」

 

死骸を見て色々と分析していると、僅かな殺気を感じその場から離れる。

 

「とうとう姿を現しやがったな!」

 

 



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ハリー・ポッタークロス 賢者の石(1)

ハリー・ポッターとのクロス。これも中途半端です


ハリー・ポッター、『生き残った男の子』。

闇の帝王と呼ばれた、名前を言ってはいけないあの人『ヴォルデモート卿』を倒すと予言され死の呪文を跳ね除け一時的に殺した存在。

魔法界の英雄。

しかし当の本人は、魔法界から離されマグル界の叔母夫婦の元で冷遇されながら育っていた。

食事抜きは当たり前、家事全般はハリーの仕事、従兄弟のダドリーには殴られ、部屋は階段下の物置部屋、勉強もまともにさせてくれず、服は太っちょダドリーのボロボロのお下がりしかもらえない。

 

「お兄ちゃん!」

 

だが、ハリーは幸せだった。それは全て5歳の頃に出会った、ある存在のお蔭だった。

 

「ハリー、勉強はもう終わったのか?」

「うん!」

 

鍛錬で掻いた汗を拭いながらハリーに笑いかける青年。

クセっ毛の黒髪、虹色と黒のオッドアイ、それなりに整った顔立ちの中肉中背の青年。だがハリーは知っている自らが兄と呼ぶその青年はこの世の誰よりも強い事を。

 

「もう、こんな時間か」

「そう!おやつの時間だよ!」

「今日のおやつは…ああ、そう言えば昨日黄金のリンゴをおやつにするように言ったか」

「ええ!?またアレをおやつにしたの!もったいない!!」

 

ハリーは、兄が良くおやつにするようにと命じる黄金に光る林檎を思い出す。おやつにしても大変おいしいリンゴだがその価値は下手な黄金よりも高い。

 

「さて今日は、アップルパイかそれとも他のお菓子か、楽しみだな」

「もー、相変わらずお兄ちゃんの金銭感覚が分からないよ」

「始めの頃はともかく、だんだん金には困らなくなったからなぁ」

 

2人で手を繋ぎ、すでに用意されているであろう薔薇園へと向かう。

何時の間に用意されていいたのかは、ハリーは知らないが兄が花をめでると言う趣味もないのに気が付いたらティータイムのテーブルセットと薔薇園が出来ていた。

そこには、食べられる薔薇もありそれで作ったジャムや香りの強い薔薇で精油なども作っているようである。

 

「ほぉ、タルトタンタンか」

 

マネキン人形の様な久重と絶世の美女ナイアスが椅子を引くとそこに座り用意されていたお菓子を見て呟く。

2人が席に着けば、紅茶がそっと差し出される。

 

「そろそろ、ハリーの誕生日だな。何か欲しいものはあるか?」

「う~ん、でもあっちに持って行けばダドリーにとられるだけだし…それに叔母さんたちが煩そうだし」

「ああ、その問題があったな。そうだな、豪勢な食事は当然として何かいい物が無いか考えよう…それに今年でハリーは11歳、予想が正しければアレが届くだろうからな」

「そういえば、そうだったね。お兄ちゃんと暮らすのが楽しすぎて気にしてなかった」

「私としては、未知の魔法というのに興味があるけどな。そう言えば、お金が手に入ったら私も杖を買った方が良いのか?」

「どうなんだろ?お兄ちゃんの世界は杖が無くても魔法が使えるみたいだし」

 

ゆっくりと紅茶とタルトタンタンを食べながら、笑顔で言葉を交わす2人の姿はまるで本当の兄弟の様だ。

 

「まあな、だがこの世界の魔法を使うのに必要かもしれない。ハリーの買い物の後、買う事を視野に入れてもいいかもな」

「お金はどうするの?」

「宝石を換金すればいい、調べてみたがあそこの銀行はマグルのお金だけではなく貴金属も換金できるらしいな」

「宝石ってあれ?」

「昔は闘技場の供物として使ったがこの世界だと手軽な換金アイテムだからな」

 

ハリーが思い浮かべるのは、地下倉庫の1つに山の様に置かれた金銀と宝石。どれも青年の魔法で品質を高めてから磨かれているので大きさも美しさもテレビで見る宝石の数段は美しいものばかりだった。

 

「ついでに本や薬の材料を買おう、何事も知っておいて損はないし予習復習は大切だからな」

「え!?そんな、いいよ!学校で頑張るから!」

「私も興味があるんだ、私の世界の薬は傷薬と魔力回復薬ぐらいしか作り方を知らないしな。私が買った材料をハリーに分けるだけさ」

「でも」

「気にしなくてもいい、お前が良い成績を取って学校で友達をたくさん作って楽しく過ごしてくれればそれでいい」

「…うん、ありがとうお兄ちゃん」

 

自分を見て優しく微笑む青年にハリーは嬉しくなる。

叔母夫婦と従兄弟はハリーを嫌っており、学校でも従兄弟に虐められまともな服を着せてもらえないハリーと関わるような子供はおらず友達もいない。

そんなハリーを優しく包んでくれるように、外では着る事が出来ないが綺麗な服を作りハリーに与え、勉強を教えてくれて、子供の頃は絵本や物語を読み聞かせてくれた。

外ではこの兄である青年は、ハリーにしか見えない幽霊のような存在になってしまうがそうであってもハリーを愛してくれる。

ハリーが疑問に思っていた時折ハリーに話しかける人々の正体を探り、ハリーは本来魔法界という魔法使いたちの住む場所が住むべき場所だと知った。

時折、ハリーの周りで起こる不思議な現象はハリーの魔法力が感情によって爆発し発生した魔法なのだと知った。

自分はとは違うのだ、だからあの家族に疎まれるのだとその時知った。

だがそんなものは気にしなかった、大好きな兄も種類が違うとはいえ多様な魔法を使う魔法使いだったからだ。兄と同じ魔法使い、それのなんと愛おしい響きだろうか。

兄は兄の世界では、同類たちの中では一番と言われるほど強者だったと配下である存在達に聞いた。ならば自分はこの世界で誰もが認める一番の魔法使いになると、そう決めた。

兄に誇れる自分になる。それがハリーの夢になった。

 

「久重達を使えば本の写本もすぐにできる、私としてもこの世界の魔法族の本は興味深い。ハリーも読書の本が増えて嬉しいだろう?」

「うん、そりゃあ嬉しいけど」

「なら問題ない、元の世界に戻る方法もここから実体を持って出る方法も調べる事に必要だから買うんだ。ハリーが気にする必要はない」

 

紅茶を飲み終わり、ソーサーにカップを戻し笑う。

 

「私が何故この世界に呼ばれたのか、君の前に現れたのかそれは分からない。だが、私はこの世界の異物だ、何処までハリーと共にいられるかわからない。だら今のうちに沢山甘えてくれ現実世界で生活できない私に出来る事は少なく物足りないと思うが」

「ぜ、全然物足りなくないよ!十分な物を貰ってるよ!」

 

美味しい食事に手作りで体に合った綺麗な服に綺麗な靴、優しい家族たち。昔あこがれていた全てを青年から貰った。

いつか終わる夢だとしてもその思い出がある。

 

「私の弟子たちと違ってハリーは我儘を言わないからな、もっと甘えてもいいんだぞ?」

「で、でも」

「まぁ、6年経っても治らないものを治せと言われても困るか。学校で友達を作ってそこら辺も学んでいけばいいさ」

 

俯いたハリーの頭を優しく撫でる。

 

「主様、そろそろお時間です」

「ああ、もうそんな時間か。ハリー、あの家の夕食の時間の様だ。怒られる前に戻りなさい」

「はい、お兄ちゃんまた後でね」

「ああ、美味しいご飯を用意させて待っているよ」

 

後ろを見れば、この世界から現実世界に戻る為のドアがある。そこに手をかけ開ければ向こう側は自分の部屋として与えられている物置部屋。

 

「行ってらっしゃい、ハリー」

「行ってきます、キースお兄ちゃん!」

 

そしてハリーは、現実世界に戻った。

 

 

ハリーは、自分が魔法使いだと知った時に時折起こる不思議な現象が自分の魔法力の暴発によるものだと知った。

不思議な現象を起こす度に叔母夫婦に怒られ殴られるので、兄の力の一部を借りた。兄の魔法を封じる魔法をかけてもらい暴発できないようにしたのだ。

そうすれば、彼らの嫌いな“普通”ではない事は起きないので時折ダドリーに殴られる以外の暴力からは解放された。家事手伝いは、そう言う能力が欠如している兄を手助けできると思えば苦痛でも何でもない。

今日もまた寝心地のいい兄の世界の城館のベットを抜け、兄の配下が用意してくれている軽食を食べて物置部屋に戻る。

今日はダドリーの誕生日、あまり遅くなりすぎると出かける時間に遅れ殴られるので手早く用意を済ませ現実世界に戻る。

部屋を出て、朝食用のベーコンをフライパンで炒める。

見れば、プレゼントが山のように積まれている。

可愛いダドリーの支度が終わったのだろう、叔母ペチュニアに連れられたダドリーが今に現れプレゼントの山に一直線。浅ましくもそのプレゼントの個数を数えている。

その様子をニコニコとみる新聞を読んでいるバーノンとペチュニア。

 

(よくもまぁ、あれだけのもの持っていて飽きない物だ)

(ダドリーだし)

 

フワフワと宙を浮いている兄は、ダドリーを見てそう零す。

 

「36だ。去年より2つも少ない!」

「坊や、マージおばさんの分を数えなかったでしょう。パパとママからの大きな包みの下にありますよ」

「分かったよ。でも37だ!」

 

(37もあれば十分だろうに)

(だね)

 

卵とベーコンを机に運び、食べながら答える。

 

「今日お出かけしたとき、あと2つ買ってあげましょう。どう? かわいこちゃん。あと2個もよ。それでいい?」

 

ダドリーが癇癪玉を破裂させかけているのに気付いたペチュニアがそう提案する。

するとダドリーは随分とゆっくり計算をした後、ようやく満足したようだ。にやりと笑うと、一番近くにあったプレゼントを鷲掴みにした。

 

「やんちゃ君はパパと同じで、絶対損したくないってわけだ。なんてすごい子だ! ダドリーや」

 

呆れてものも言えぬとはこのことか、ジト目になった兄を眺めながらそんな3人を無視して朝食を進める。あまりのんびりとしていても怒られるのだ。

 

「バーノン、大変だわ。フィッグさんが足を折っちゃって、この子を預かれないって」

 

ペチュニアは、朝食を食べているハリーを顎で示す。よほど嫌なのだろうしかめっ面で大変不細工な顔だ。

 

「どうします?」

「マージに電話したらどうかね」

「馬鹿なこと言わないで。マージはこの子を嫌っているのよ」

 

ダーズリー夫妻はハリーの目の前で平然と話を進めた。そんなもの気にしないハリーは黙々と朝食を食べ進めている。下手に反対しても意味はないのだから当然だろう。

 

「……なら、連れて行くしかないだろう」

 

渋々と、実に残念そうにバーノンが言った。ペチュニアもそれしかないと諦めたようだ。だがダドリーは大きな声で泣き出して、ハリーが来るのを嫌がった(泣けば大抵の我儘を聞いてくれる両親だと、知っているから嘘泣きする事も多い。今回は絶対嘘泣きだろう)。

 

「ぼく、いやだ……あいつが……く、くるなんて! いつだって、あいつが、めちゃめちゃにするんだ!」

「ダッドちゃん、ダドリーちゃん、泣かないで。ママがついてるわ。お前の特別な日をあいつなんかに台無しにさせたりやしないから!」

 

抱き締めている母親の腕の隙間から、ダドリーはハリーににやりと笑った。やぱり嘘泣きだったな、と思いながら留守番させてくれないだろうかと思う。

留守番になれば、一家が帰ってくるまで兄の世界でのんびりと過ごせるのだ。

そんな事を考えている時に、玄関のベルが鳴った。

 

「ああ、なんてことでしょう。みんな来てしまったわ!」

 

ペチュニアは大慌てだった。やがてダドリーの一の子分、ピアーズ・ポルキスが母親に連れられ部屋に入ってくると、ダドリーはたちまち嘘泣きをやめた。

 

 

そして、30分後ハリーはダーズリー一家の車の後ろに乗っていた。生まれて初めての動物園へと向かっていた。

 

「言っておくがな……」

 

 出発前に、バーノンはハリーを呼び止めた。

 

「変なことをしてみろ。ちょっとでもだ。そしたらクリスマスまでずっと物置に閉じ込めてやる」

 

ハリーとしてはその罰則は願ったり叶ったりである。クリスマスまでずっと兄のところで過ごせると言うのだから罰では無くご褒美だ。

ハリーの返事を待たずに車に乗ったバーノンに急いで車の後部座席に乗った。

 

 

 その日は天気も良く、土曜日だったため、動物園は家族連れで混み合っていた。ダーズリー夫妻は入口でダドリーとピアーズにチョコレート・アイスクリームを買い与えた。そしてハリーを急いでスタンドから遠ざけようとしたが間に合わず、愛想の良い売り子のおばさんが声をかけてきた。そこで仕方なく、ハリーにも一番安いレモン・アイスクリームが与えられた。

 

(ナイアスお姉ちゃんたちの手作りアイスの方が美味しい)

(ま、あれは全部出来立てほやほやのアイスばっかりだからな。あいつら基本作り置きなんてことはしない)

 

アイスを食べながら、ゴリラの檻を見ているダーズリー一家を見る。

 

(まるで兄弟だな)

(確かに)

 

ゴリラが頭を掻いている姿がダドリーそっくりだ。髪の色が若干違うが…

昼になると、園内のレストランでお昼を食べた。昼食では、ダドリーがチョコレート・パフェが小さいと怒り出したので、バーノンが追加でもう1つ買ってやっていた。

 

(ただでさえ太っているのに更に太るぞ)

(運動ってあまりしないからね)

 

昼食の後で、爬虫類館を見た。ダドリーはすぐに館内で一番大きなヘビを見つけた。バーノンの車を二巻きにして砕いてくずかごに放り込みそうな大蛇だ―――ただし、今はそういうムードではないらしい。それどころかぐっすり眠っている。

 

「動かしてよ」

 

息子にせがまれるまま、注意書きを無視してバーノンはガラスをトントンと叩くが反応は無し。

 

「もう1回やって」

 

ダドリーが言うと、バーノンは先程より強く拳でガラスを叩いたが、結局蛇は眠ったままだった。

 

「つまんないや」

 

ダドリーは文句を言いながら行ってしまった。

 

(ヘビかぁ~)

(インビジブル・ブライント使うか)

(うんお願い)

 

兄の言葉に頷く。それはハリーが蛇の言葉を理解できるパーセルマウスだからだ。もし蛇と喋っている所を見られたら比較的穏やかに過ごせている今日がすべておじゃんになるからである。

 

「蛇も大変だよね。こんな風に見世物にされて、沢山の人にジロジロと見られて動かなかったら叔父さんの時の様にたたき起こされるんだ」

(実際見世物だし、動いていない動物ほど退屈なものはないがな)

『いつもこうさ』

 

蛇がゆっくりと起き上がり、ハリーをじっと見つめるとそう話しかけてきた。

 

「分かるよ、僕も5歳ぐらいまでは似たような感じだった」

 

ハリーの言葉にヘビは激しく頷いた。

 

「どこから来たの?」

 

ヘビはガラスケースの横にある掲示板を、尾でツンツンとつついた。ハリーがのぞいてみると、『ブラジル産ボア・コンストリクター 大ニシキヘビ』と書いてある。その下には『このヘビは動物園で生まれました』と書かれてあった。

 

「動物園生まれか、ブラジルを知らないんだね」

(ハリーそろそろ離れろ、ダドリーたちが気付いた)

 

兄の警告に従い、すぐにその場を離れる。

 

「ダドリー!あの蛇が動いているよ!」

 

ピアーズの甲高い声にダドリーが太った体を揺らしながら走ってくる。

ダドリーとピアーズはガラスに寄りかかって蛇を見ていた。その姿にヘビが可哀想だと思いながらも何もしない。

下手に介入してバーノンたちの怒りを受けるつもりもないからだ。

その後は、ごくごく普通に爬虫類館を見て回り家に帰った。蛇と話していた姿を見られていた訳ではないので特におとがめなし。ごくごく平和にその一日は過ぎた。

 



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ハリー・ポッタークロス 賢者の石(2)

これでいったん終了


時は過ぎて、夏休みに入った。ハリーは毎日のようにやって来るダドリーの悪友達、ピアーズ、デニス、マルコム、ゴードン、そしてダドリーの通称「ダドリー軍団」にハリー狩りと称した虐めを家に居ては受けやすいので外に出て人目のないところで兄の世界に行き日々を過ごす。

そんな日々を過ごしているとフィッグばあさんのところにハリーは預けられた。なんでもダドリーは「名門」私立スメルティングズ男子学校に入学することとなっており、その学校の制服を買いに出掛けたのだ。

ハリーを度々預かるフィッグは、無類の猫好きだ。一度飼い猫に蹴つまづいて足を折って以来、以前ほど猫好きではなくなったが、ハリーはひたすら猫の写真を見せられることを除けば、彼女のことは結構好きだ。何しろ、怒鳴りつけられることがない。始終家事をこなす必要もないし、それどころかテレビも見せてもらえる。ハリーは感謝の念もこめて、フィッグから材料を分けてもらってドライフルーツケーキを作った。

 

「………」

(制服を着たブタだな)

 

そんな風に穏やかに過ごした夜、ダドリーはピカピカの制服を着て居間を行進してみせた。おじさんは人生で最も誇らしい瞬間だと声をつまらせ、ペチュニアおばさんは、こんなにハンサムな子が、私のちっちゃなダドリー坊やだなんて、信じられないとうれし泣きした。

ハリーは、その形容しがたい姿にコメントする言葉もなく兄であるキースはあれならオークの方がまだ見られるなと思いながらそうコメントを残す。

翌朝、ダドリーは制服を脱いでいたものの、スメルティングズの杖を持ってご機嫌だった。そんなダドリーを冷めた目で見ながらバーノンの前に朝食を運ぶと郵便受けが開き、郵便が玄関マットの上に落ちる音がした。

 

「ハリー。郵便を取ってこい」

 

バーノンに言われ、ハリーは郵便を取りに玄関へ向かった。マットの上に3通落ちている。マージからの絵葉書や請求書、そして切手が貼られていない、見慣れない羊皮紙の封筒。最後の封筒を拾い上げたハリーは、エメラルドのインクで書かれた宛名を見て驚いた。

 

「サレー州 リトルウィンジング

 プリベット通り4番地 階段下の物置内

 ハリー・ポッター様」

 

やたらピンポイントな住所だ。

 

(随分細かい住所を書くんだな)

(だね)

 

封筒を裏返すと、紫色の封蝋があった。真ん中に大きく“H”と書かれ、それを囲むように獅子、鷲、穴熊、蛇が描かれている。その印に見覚えがあったハリーとキースは笑みを浮かべる。

 

「ハリー、早くしな!」

 

キッチンで朝食を準備しているペチュニアに急かされ、ハリーはビングに戻った。バーノンに絵葉書と請求書を渡すと、自分に来た手紙を開こうとした。だがダドリーが叫んだため、それができなくなってしまった。

 

「パパ! ハリーが手紙を持ってるよ」

 

手紙に気付いたバーノンが、すぐにハリーの手からそれをひったくった。

 

「それは僕宛の手紙だよ!」

 

「お前に手紙なんぞ書く奴がいるものか」

 

バーノンはハリーを馬鹿にしながら手紙を開いた。だが文面に目を走らせた途端、バーノンの顔色が悪くなった。青を通り越して白っぽい。バーノンはどもりながら妻を呼んだ。ダドリーが手紙を奪って読もうとしたが、バーノンは太った手を避けてペチュニアに渡した。ペチュニアは訝しげに手紙に目を落としたが、一行目を読んだ途端、恐怖の顔つきをした。

 

「バーノン、どうしましょう……!」

 

バーノンはペチュニアと顔を見合わせると、今度は真っ赤な顔でハリーの方に振り向いた。

 

「あっちへ行け! ダドリー、お前もだ!」

 

リビングを追い出されたダドリーは、ドアの鍵穴に耳をつけて盗み聞きをしようとしていた。ハリーは気にせず物置に戻る。

 

「ホグワーツから来たね」

(ああ、だがいつになったら手紙を手に出来るやら)

 

きっとバーノンたちは、ハリーが手紙を手に入れるのを邪魔し続けるだろう。だが心配はしていない。

ハリーは、ハリー・ポッター。魔法界の英雄、闇の帝王ヴォルデモートを倒すための切り札。そんな存在を魔法界は野放しにしない。そう確信していた。

 

「大丈夫だよ、それに僕は魔法界を知らない事になっているからねしばらくすれば案内人が来ると思うよ」

(まぁ、そうだがな)

 

その夜、仕事から帰ってきたバーノンは、ハリーがいる物置までやってきた。不思議そうにしているハリーに、バーノンは引き攣った笑顔を浮かべた。バーノンが無理矢理にでも自分に笑顔を向けることは数少ないので、ハリーは眉を寄せた。

 

「ハリー。この物置はだな……お前にはそろそろ狭くなってきたかと思ってだね……おばさんとも話したんだが、ダドリーの2つ目の部屋に移ったらどうだね?」

「どうして?」

「質問は許さん! いいから荷物をまとめてさっさと二階へ移るんだ!」

 

ハリーが質問すると、バーノンはすぐに怒鳴りつけた。

ダドリーの2つ目の部屋とは、ダドリーが自室に入りきらないおもちゃやその他色々なものが押し込まれている部屋だ。ハリーは言いつけ通り少ない私物を持って2階へ上がると、その部屋に入った。ハリーには価値が分からないガラクタばかりが散乱している。キースが久重達を呼び出し掃除させる、物を捨てれば何かしら言われるので収納スペースにそれらを片付け、埃っぽいベットを運びだし昼夜逆転しているあの世界で天日干しをする。

ちょうどその時、階下からダドリーがわめく声が聞こえた。

 

「あいつらを部屋に入れるなんて嫌だ……あの部屋は僕が使うんだ……あいつらを追い出してよ……」

 

 ペチュニアがダドリーを宥める声が聞こえる。ハリーはドアに鍵をかけると本来の自分の部屋に移動してベットに横になった。

 

「こんなの意味あるのかな」

「ないんじゃないか?住所が書き変わってまた来るさ」

 

ベットに横になったハリーの頭を撫でながらベットに腰かけるキース。

 

「まっ、しばらくの我慢だ」

「うん」

 

ハリーは兄のぬくもりを感じながら目を閉じた。

 

次の朝、ダーズリー一家の食卓は静かだった。ダドリーはひどくショックを受けていた。どんなに泣いたりわめいたり暴れたりしても、2つ目の部屋を取り戻すことができなかったからだ。

そして朝の郵便が届いた。バーノンは何故かハリーの機嫌を取ろうとしているらしく、昨夜のような不恰好な笑顔を浮かべて、ダドリーに郵便を取りに行かせた。ハリーはどきどきしながら郵便を待っていた。ヴォルの言葉を信じるのなら、今日またホグワーツからの手紙が来ているかもしれないのだ。ダドリーはスメルティングズの杖であちこちを叩きながら郵便を取りに行ったが、すぐに大声を上げながら戻ってきた。

 

「また来たよ! プリベット通り4番地、一番小さい寝室ハリー」

 

ダドリーが宛先を読み終えるより早く、バーノンはとんでもない叫び声をあげながらダドリーを組み伏せて手紙を奪い取った。だがダドリーも手紙が気になるらしく、機嫌の悪さも手伝って父親を杖で殴っていた

自分の手紙なのに、とあっけにとられて当のハリーは呆然としていた。やがて、息も絶え絶えに立ち上がったのは、バーノンだった。手紙を鷲づかみにしている。

 

「物置に・・・じゃない、自分の部屋へ行け」

 

おじさんはゼイゼイしながら命令した。

 

「ダドリー、おまえも行け・・・とにかく行け・・・」

 

移って来たばかりの部屋に戻ると、クスクスと笑うあまりにも必死なバーノンの姿が滑稽だったからだ。

 

「これからは根競べかな?」

(負ける事が決定している根競べだけどな)

 

 次の日の早朝、ハリーが階段を下りると、玄関に大きな何かが横たわっていた。しかも微妙にもぞもぞと動いている。ハリーが内心びくびくしながら電気を点けると、それが寝袋に包まったバーノンおじさんだということが分かった。どうやらハリーが郵便を受け取れないように、わざわざ玄関で手紙を待ち伏せていたらしい。ハリーは大きな脱力感に襲われた。とりあえず、変質者でなくて良かったと安堵する。バーノン自体がすでにそれに近いような執念を見せている気がしないでもないが。

バーノンの命令で紅茶を淹れたハリーがキッチンから戻ってくると、ちょうどバーノンの膝の上に郵便が投げ込まれるのが見えた。羊皮紙の封筒は四通あった。バーノンはそれをすぐに引き裂いた。

バーノンはその日会社を休み、家の郵便受けを板で塞ぎ、釘を打った。バーノンは困惑するペチュニアに説明した。

 

「こうして配達させなければ、奴らも諦めるだろう」

「でもあなた、そんなことで上手くいくかしら」

 

ペチュニアは不安げに首を傾げたが、バーノンは結局郵便受けを釘だらけにした。

 

翌日の金曜日には、八通もの手紙が届いた。どうやら届け先は郵便受けに限らないようで、扉の隙間やらトイレの小窓やらあちこちにねじ込まれていた。かなりフリーダムな郵送をする学校である。バーノンは再び会社を休み、手紙を全て焼き捨てた。また釘と金槌を持ち出すと玄関も裏口も板を打ちつけ、誰も外出できないようにした。ヴォルはその様子を意地悪く笑いながら見ていた。

 

 曜日になると、さらに手紙の配達方法は過激になっていた。手紙は全部で12通も届いた。牛乳配達が不思議そうな顔で、居間の窓からペチュニアに卵を1ダース渡したが、その卵一つ一つに丸められた手紙が入っていたのだ。バーノンは、誰かに文句を言わなければ気がすまず、郵便局と牛乳店に怒りの電話をかけた。ペチュニアはミキサーで手紙を粉々にした。

 

「おまえなんかにこんなにメチャメチャに話したがっているのはいったい誰なんだ?」

 

ダドリーも驚いてハリーに聞いた。ハリーとキースはその言葉に苦笑を漏らすしかなかった。

 

 

・・・中略

 

 

「えっと」

 

ハリーは、召魔の森の城館の自分の部屋で本を読んでいた。それは魔法学校の教科書で隣では別の教科書をキースが読んでいた。

 

「随分と色んな薬の種類があるんだな」

「うん、楽しみだなぁ。それにもしも生徒が自習できるなら傷薬を作っておいてストックしておきたいなぁ。いくら受け身で軽減していてもいたいものは痛いし」

「薬の調合って言うのはなかなか難しいからな、ポーションだって材料は少ないがすり潰す加減とかを間違うと品質が一気に下がるからな」

「うん、知ってる。きっといれる順番を間違ったら大惨事になるんだろうね」

「基本的な魔法もいくつか覚えておいた方が良いな。

たしか」

 

習得しておいた方がお得な呪文、と書かれた本を見る。

 

「最低でも武装解除と守護霊、取り寄せ、防御4つは覚えていた方が賢明だろうな」

「武装解除と取り寄せと防御は分かるけど、守護霊?」

「吸魂鬼に唯一対抗できる高等呪文だ。覚えるのは難しいだろうが、ハリーの立場だといつか関わり合いになる可能性も高い。なら今のうちに覚えていた方が良いだろうからな」

 

“生き残った男の子”それがハリーの魔法界での肩書。有名であればあるほど騒動には巻き込まれやすい。今のうちに身を守るための最低限の魔法は覚えていた方が賢明だ。

 

「その4つを覚えたら他の呪文も試そう、教科書もしっかりと読み込んで予習復習だ」

「はい」

 

召魔の森ならば心置きなく教科書を読み、魔法の練習をする事が出来るバーノンたちはハリーが部屋から出なくても気にしない。

だから、少しでも勉強をしたいとそう思った。

 

 

・・・中略

 

 

ハリー・ポッターは、大変優秀な生徒だ。

あらゆる学科でハーマイオニーに次ぐ優秀な成績を叩きだし、暇があれば図書館や先生たちの元に行き勉強をしている。

それもこれも金に糸目を付けずにハリーの学習環境を整えているキースのせいである。全生徒の持ち物を調査し、7年間分の教科書(これは担当する教授によって変わるので大まかな指標としてだが)、魔法薬学で必要な材料全般、ホグワーツにある書籍の写本を秘密裏に作り、それを収めたハリーの為の勉強部屋を作っているからだ。

召魔の森の中なら魔法を使っても感知されないので思う存分訓練をする事が出来、数々の魔法薬を作れるため予習復習に事欠かない。

夜になれば、ベットのカーテンを閉めて召魔の森へといき予習復習をして自分専用の部屋のベットで寝る。そして朝になって皆が起きる前にベットに戻る。

まぁ、宝石類や貴金属類がモンスターを倒せばドロップ品として手に入るし、それを加工しようにも贔屓にしている宝飾職人もいないし、召喚モンスターに加工させてもそれほどの数が必要なわけでもないので余ったものを売りに出しているだけだから気にせず使いまくっているのだが。

これほど恵まれた環境にいるハリーに勝てるハーマイオニーがどれほど優秀なのかよく分かる話だろう。

 

「お兄ちゃん!」

「どうした、ハリー」

「このブーツありがとう!」

 

ハリーは、新品のブーツを履いて闘技場で  と手合せをしていた兄の元へと向かう。

 

「おお!出来たか!」

「すっごく動きやすくて、ブーツとは思えない位!」

「元々、俺が履いていたブーツを元にしているからな。動きにくかったら意味なんてない」

 

それはユニバーサルドラゴンの革を使って作られたブーツだった。

ハリーは、結構危険な事に巻き込まれる。それを危惧してキースは、問題にならない程度に防具を与える事にしたのだ。

宝石をはめ込んだネックレス、金毛羊で織った布で作った服、そして今回のブーツ。

 

「サイズが変わったら言うんだぞ、すぐに作るからな」

「当分は大丈夫だよ」

「まだまだ、お前は成長期だからな合わなくなったら遠慮せずに言う様に」

「はーい」

 

元気よく挨拶をするハリーに笑みを浮かべ、頭を撫でる。

 

「さて、今日は何をする?」

「今日はね、勉強の復習をしたいんだ。あと動物もどきになる為の方法を調べたいんだ」

「動物もどき?」

「うん、僕のお父さんはそれだっていうし僕もなってみたいんだ」

「許可を取らないといけないんだぞ?」

「だけど、なってみたいんだ」

「そうか、ならこれ以上は言わないさ。まぁ、とりあえずは全部の予習復習が終わって時間が余ったら動物もどきに関する文献を探そう」

 

ハリーの覚悟を聞いて、キースは頷く。

 

「さて、まずは武術の復習だ。今から召喚する方と戦うぞ」

「はい!」

 

そして今日もまたハリー・ポッターは、魔法界でも希少な物理攻撃が出来る魔法使い(物理)として成長していくのだった。

 

 



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鬼滅の刃クロス(1)

鬼滅の刃で最強の剣士と魔王系最強サモナー掛け合わせてみた縁壱成り代わりものです


機械の体が壊れた。運営の建設されていた基地に潜入し破壊活動をしていたところで記憶が途切れている。

 

そして今、何故か死んだはずの自分の意識がある。

 

 

「…?」

 

目を覚ませばそこは小さな和室。

 

「…………」

 

ぼーっと呆けていれば継国縁壱という少年の記憶が頭に流れ込んできた。それはスルリスルリと頭の中に溶け込み何の抵抗もなく受け入れられた。

 

「生まれ変わった?」

 

突然のことに思考が働かない。

今の名は継国縁壱、継国家の双子の弟で醜い痣を持つ忌み子。母の庇護が無ければ殺されていた子供。

前の名前は○○○○、ゲームでの名はキース。機械の体を敵の残骸でアップグレードしながら運営を追いかけて基地に強襲した途中で記憶が途切れている。

 

「死んで生まれ変わった」

 

少しずつ事態を飲み込んでいく。記憶を思い出して何か変わったことがあるのかと確認するために思い出した記憶を再度時系列に思い出そうとして

 

「サモン・モンスター」

 

つい、ゲームの中で最も唱えただろう呪文を声に出して唱えてしまった。

 

「!?」

 

それと同時に召喚リストが脳内に表示される。

 

「まさか」

 

次に思い浮かべるのは時空魔法リスト、それも脳内に表示される。そこから一つの呪文を選ぶ。

 

(テレポート)

 

選択画面は出なかった。しかし心に強く思い描いていた風景があった。

ASOで最も強化が進み最も発展していると言われた自分の拠点。

 

「あ…」

 

気が付けば懐かしい場所に立っていた。もう城と言ってもいいような白亜の城館を見上げる。

 

「ガウ」

「ヴォルフ…」

 

いつのまにいたのかすぐそばに見慣れたけれど久しぶりの最初の相棒の姿があった。そしてさらに視線を動かすといつの間に現れたのか、召喚した覚えもないのにそこには自分の召喚モンス達が全員揃って小さな子供になっている自分を見下ろしていた。

 

『ふむ、やっと目覚めた様じゃなキースよ』

「煙晶竜」

『ふふふ、我だけではないぞ』

 

いつの間にやらビーコンとしての偽装を解いた転生煙晶竜が上から自分を見下ろしていた。煙晶竜に視線を合わせるように空を見上げると

 

ザンッ

 

『おお、ついに目覚めたか久しぶりだなキースよ』

「水晶竜」

 

快晴の空から水晶の輝きを放つ竜が降り立つ。

 

『他の者達もいたのだが、全員で押し掛けるのは流石に遠慮した方がいいのではないかという事になってなとりあえず此度の挨拶は我で行う事にしたのだ。

何より、キースの配下たちが自分たちを差し置いて最初に我らが会うのは嫌だと言ってな。流石に直属の配下にそういわれては配慮しなければな』

「ガウッ!ガウガウ!!」

『む、確かに目覚めたばかりで我ら全員と合わせるのは確かに酷ではあるな。特に今のキースは幼子であるからな。

さて、キースよ。其方の目覚めを我らは祝おう。我が盟友、我が小さき友よ、また今世もよろしく頼むぞ』

「…うん、よろしく」

 

水晶竜は、俺の返事を聞くとニヤリッと笑みを浮かべたような雰囲気に変わると空へと飛び立っていった。

 

ヒョイ

 

「うあ」

『さて、さっそく話をと言いたいところだが、その前に食事をしようかの。あの家のものどもキースにまともな物を食べさせておらんかったからな。

赤ん坊のころなど、腹をすかせたキースに乳母もつけずにほぼ放置。母親の方も其方が生まれてまもなく病に侵され其方の面倒が満足に見れぬと来た。余りにもあんまりな状況なのでアマルテイア達の乳を飲ませ黄金の林檎や桃を食べさせたお陰でなんともなかったようだが。

なにこれからは、キチンと食事を用意する故心配するな。ナイアス達も其方に食べさせる料理を常に試作していたほどだ』

 

ナイアスに抱き上げられ、いつの間にかビーコンの姿になった転生煙晶竜が他の配下のモンス達を率いて移動する。

 

「な、ないあす?」

 

声を掛ければナイアスは魅力的な笑みをこちらに向けてくれる。ぎゅっと抱きしめられればナイアスの魅力的な胸を存分に堪能出来てかつてなら大興奮だが、悲しきかな今の体は5歳児の子供であるそこまでの性欲の芽は少しも目覚めていなかった。

連れられてこられたのはいつの間に作られたのか、そこは様々な花が美しく咲き乱れる庭園で、その中央にテーブルと椅子がありそこに下された。

 

『さて食事をしながらでもよいから聞くのじゃぞキース』

 

いつの間に離れていいたのか久重が普段碌な物を食べさせてもらえない俺に配慮したのか出汁香る卵と鶏肉の雑炊が出させる。

今は戦国時代でかつ家に疎まれている俺には絶対に出されないと言える豪勢な料理でもある。

 

『まずはこの世界はキースを起点とした異界となっておる。キースの拠点である此処と海の島、そしてキースと関係の深い者たちの拠点も合わさった異界であるな』

「…ドラゴン達とアポロン?」

『ふむ、それらが主だな。まぁそれはおいおい知っていけばよかろう』

 

雑炊を食べていた手を止める。キョトりっと煙晶竜を見た。

 

「他に変化は?」

『我らは特にないな、お主が生まれてから5年。周りの魔物どもを相手に戦ったが特に変化はなかった。ただ、キースに召喚されなくとも力技でこの異界の中なら実体を出来るようになったのと、影の転移でお主の傍に行ける事。ただこれは力技のようでな最大2体までしかあちら側には行けなかった。

お主が目覚めたらもしかしたら増えているかもしれんな』

「だから皆出ているのか」

 

食べ終わった雑炊の器はスーラジが片付けていく。足元にヴォルフやシリウス、頭にナインテイルが陣取った。

膝の上に頭を載せてきたシリウスの頭を優しく撫でると満足そうに目を細める。

 

「ガウ」

「うん、ごめん」

 

不満そうに声を上げたヴォルフの頭をなでてやるとこっちも気持ちよさそうに目を細める。

 

『キースの方はこれから確認するしかあるまい。夜などの周りに人がいない時間をこちらで能力の検証などに使うとよいのではないか?』

「そう、うん…待宵、キレート」

 

灰色のマネキン姿に似た待宵という名を持つ召魔と半透明の姿が分からないキレートいう名を持つ召魔が前に進み出る。

 

「待宵は俺に化けてあの部屋に、キレートは待宵と共にあの部屋に待機して母上か兄上が来たら教えて」

「……」

「……」

 

その指示に答える声はない、だが待宵の姿が自分になり影に沈み半透明のキレートも沈んでいくのを見届ける。

 

 

「じゃ、とりあえず食後の運動をしよう!」

 

 

 

この家で疎まれている縁壱を構うものは少ない。産まれた縁壱を殺すと決めた父に烈火の如く怒りその方針を返させた母と何もかもを自分と差をつけて育てられる縁壱を哀れに思い合いに来るようになった兄・厳勝だけで使用人も臣下達も不吉な双子で不気味な痣を持つ縁壱を遠目に色々と噂している。

 

「そろそろ」

 

記憶を思い出す前、縁壱は言葉をしゃべらず耳が聞こえていないのかと思われていた。そのまま思われていた方がめんどくさい継国家の当主になるという事がないと思い記憶を思い出したからも続けている。

そしてこの家にいられる期限も近い。母上の死期が近いからだ。あと少し、あと少しでここを穏便に出る事が出来るそう思っていた。

 

「兄上!」

 

それは誰の差し金だったのか、何故かその日は兄上に連れられて遠乗りに出かけた。今世では初めて出た城の外、その嘗ての世界では見る事の出来ないだろう自然あふれる光景に感動していた。

だが、それも長くは続かなかった。

 

ヒッヒーーーーン

 

「なっ!」

 

何処からともなく二人で乗っていた馬に弓矢が撃ち込まれる。突然の攻撃に馬が暴れ出し、二人そろって馬の背から振り落とされる。

狙ったかのように道の片方は断崖絶壁で下の川は激流で巻き込まれれば人間は生き残ることは難しい。

 

「っ!」

 

とっさに同じように投げ出されている兄上の手を握り

 

「縁壱!?」

「兄上、受け身を!」

 

この体になっていつの間にか行うようになっていた特殊な呼吸法は、人間以上の力をこの小さな子供に与える。

それを利用して兄上を元の道に向かって放り投げる。

 

「!?」

 

投げられ地面に投げ捨てられ目を白黒させている兄上を見て、次に暴れている馬に

 

(九曜封印)

 

無詠唱で相手の動きそのものを阻害する呪文を行使する。馬はそれに抗えず、暴れていた馬は身動き一つできなくなる。

 

「縁壱!縁壱ーーーーーー!!」

 

兄上が崖の上から顔を出し手を伸ばしている。それを掴める位置にはいない。そのまま自分は激流に飲み込まれた。

 

(アンダー・ウォーター)

 

水中呼吸の呪文を唱え、激流の中を進む。

 

(うん、これはこれでアリだな。これなら死んだと思われるだろう)

 

目の前で弟が死んだ兄上は気の毒だが、どうせもう少しすれば寺に行くと見せかけて行方不明になる予定だったのだ、それが少し早くなっただけだと思おう。

 

 

(さようなら、兄上)




・「兄上の夢は、この国で一番の侍になることですか?」と厳勝とのファースト会話をする前に記憶を思い出した縁壱inキース。
・なので父親の輩下を叩きのめしてもいない
・兄に嫉妬もされてないけど母親が死んだ後の日記を見られたら少しは嫉妬されるかも

今のところの原作との変更点


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鬼滅の刃クロス(2)

此処からはオリジナル妄想展開があります。


あの紐なしバンジージャンプを終え、川を下流に下っていき、ある程度流れが緩やかになったら岸に上がった。

事前に用意していたそこらの一般人が着る様な着物に見せかけたちょっと丈夫な布で作った着物に着替え、元々着ていた着物は適当な動物の血を振りかけて再度川に流す。

 

「……ヴォルフ、逢魔」

「ガゥ」

「………」

「逢魔は、普通の着物に着替えて」

 

その言葉に嫌そうにしながらも影から送られた着物を着ていく逢魔。本来の戦闘スタイルを考えれば嫌がるのも分かるが一般人に紛れ込むにはどうしようもない。

 

「とりあえず、継国の領地から出よう。後は、日本全国周ってテレポートできる場所を増やす。寝る場所は召魔の森があるし、食料にも困らない、せっかく自由になったんだから観光するのもいい」

 

戦いたいなら召魔の森などで戦えばいい。だがせっかく転生して、しかも昔の日本、戦国時代となれば現代の日本で潰されてしまった自然や当時名をはせていた偉人などもいるはずだ。

それらを見て周り、戦いたくなったら戦うものいいのではないかと思う。

前の時と違いに発作も頻度が少なくなっている。まぁこれが召魔の森などが無ければ戦いに飢えた餓鬼になっていたかもしれないが問題ないのならそんなIFのことなど考えない方がいい。

 

「グルルゥ」

 

だが、考え事をしていると聞こえたヴォルフの唸り声に考え事をやめヴォルフを見る。これは何か悪いものがいるときのヴォルフの声だ。敵だったり、獲物だったり、PKだったり様々な場面でヴォルフの索敵能力は俺を救った。

逢魔も警戒して、構えを取り周りを警戒している。

 

「…」

 

その様子に息を吸い、集中する。五感を高めるように、些細な気配も見逃さないように、この身になって産まれてから当たり前のようにしていた呼吸はそれを可能とする。

 

キィン、ガキンッ

 

金属同士がぶつかり合うような音が聞こえる。血の匂いが香る。ドロリとした殺気とまるでネズミを食らう間に弄ぶ猫の様な残忍な気配。

 

「行くよ」

 

声を掛ければ音もなく動き出す。森の中だから「フォレスト・ウォーク」をかけてさらに音がしないようにして駆ける。

 

「人間風情が!鬼に勝てる訳ねぇだろうが!!」

「グッ!」

 

たどり着いた光景は、まるでアニメや漫画のようであった。異形の化け物とそのバケモノに刀一本で戦いを挑む人間。その周りには倒されてしまったのか血濡れの複数の人間たちがいた。

 

「ヴォルフ!逢魔!」

 

ヴォルフと装備を整えた逢魔が駆けだす。

 

「ガアッ!」

「ッ!」

「な、なんだこいつらは!?」

 

突然襲い掛かった2匹の狼に怪物は声を上げ抵抗しようと腕を振り上げる。だが2匹の俊敏値はあの程度の愚鈍な存在に捕らえられるほど低くない。

 

(倒れているのは5人か)

 

一先ず一番近くにいる者の傷を確かめる。

 

(チッ!致命傷か!)

 

まだこの世界で回復呪文は試せていない。ぶっつけ本番で致命傷の治療は危険だ。

 

(ほかの者も似たようなものだな…神霊の桃を使うしかないか)

 

アイテムボックスから5つ桃を取り出す。それを倒れている人たちに当てればたちまち傷がいえていく。

 

「さて」

 

先ほどから横目で見ていた戦いを見る。化け物と対峙していた日本では珍しい金色の髪色をした男は、限界だったのか気絶している。その男にも桃を投げ、倒れていた者達を一か所にかためて置いた。

ヴォルフと逢魔に襲われている怪物はいまだ健在。自己再生能力が高いのか瞬時に傷が回復される。

 

「何か弱点があるのか、倒すのに条件があるのか、どっちだろう?」

 

渋い色の灰色の縄を取り出し、そっと忍び寄る。近づいていた主人に気が付いたのかヴォルフと逢魔は怪物の気をそらそうと更なる猛攻を仕掛け始めた。

 

「ぐっ!この犬畜生共が!!」

 

いつまでも引きはがせないヴォルフ達に苛立ちさらに大振りになった攻撃。それらを潜り抜け魔後ろから忍び寄る。

 

「ガッ!?」

 

首に縄をかけて一気につるし上げる。

 

「アァァァァァァァ!?」

 

捕縛縄、神すらも拘束するグレイプニルには、流石の怪物も抗えないのか大人しく吊り上げられる。いつまでも持っているのもつらいので人間形態に戻った逢魔とつるし上げるのを交代してもらう。

 

「うっ」

 

一番傷の浅かった金髪の男から声がした。

 

「ハッ!お、鬼は!?」

(鬼?)

 

ガバッ!と体を起こした男の言葉に、ついっとつるし上げられている怪物を見やる。抜け出そうと足掻く事も出来ずつるし上げられプラーンプラーンと揺れている。

 

「は!?」

 

そのつるし上げられている鬼を見て目を見開いて凝視している男。

 

「お兄さん?」

「む!な、何故子供がこのような山の中に!しかも今は鬼が蠢く夜!危険ではないか!」

「これ、鬼って呼ばれてるんだ。どうやったら殺せるのでしょうか?」

「鬼は日の光にあてるか、この特殊な鉄で作った刀を使って頸を落とさねば死なない!」

 

男はそう言って手に持った刀にしては異色の刃が赤い刀を手に持ち鬼に向かった。

 

ガキンッ

 

「ぐ、やはり硬い!」

 

まるで金属を切ろうとして失敗したような音が響く。見れば普通の生き物の様なのにまるで鉄のように固いようだ。

まぁ弱点を固くするのは生物としてはありな事なのだろう。

 

「どうやって斬るの?」

「…いや、このまま抜け出せない様なら日の出まで待って焼き殺したほうが確実だろう」

「……」

 

諦めたように刀を下ろした男。地面に散らばっているだろうまだ目を覚まさない男の仲間だろう者たちが使っていただろう刀の中で一番マシな状態の黒い刃の刀を手に持つ。

 

「何を?」

 

戸惑ったような男の声を無視して、鬼と呼ばれる怪物の頸に狙いを定め

 

ザンッ

 

まるで紙を切る様に抵抗も感じることもなくその頸を切り落とした。

 

「そこまで硬くないような?」

「なんと!鬼の頸をこうも簡単に!」

 

予想よりも簡単に切れたことに驚いていると、金髪の男の方も驚きの声を上げた。

そして頸を斬られた鬼は、灰のように体が崩れ消えていく。

 

「……」

「き、君今のはどうやったのだ!鬼の頸は強くなれば強くなるほど固く鬼専用に誂えたこの日輪刀でも頸を落とすのは至難の業!だが君は当然のことのようにやってのけた!」

 

問い詰める様な言葉を並べる男を無視して刀を手放しグレイプニルを回収した逢魔のもとへヴォルフと共に移動する。

 

「ま、待ってくれ!」

「うわっ」

 

ガシッと肩を掴まれるとまだ子供の体はバランスを崩し後ろに倒れそうになってしまった。

 

バシッ

 

「お、逢魔」

 

倒れそうになった体を逢魔が支えていた。後ろに目線をむけると手から血を流した男と

 

「ガァァァァ!」

 

完全に威嚇通り越して戦闘態勢に入り唸り声を上げているヴォルフが男をギリッと睨み付けていた。

 

「……」

 

逢魔も男に向かって人間形態でなければ牙をむけていただろう殺気をむけて睨み付けている。

 

「も、申し訳ない!」

 

男は謝るが、ヴォルフと逢魔の目つきは変わらない。むしろより鋭くなっているように見える。

 

「……はぁ」

 

戦闘態勢に入っている2匹を止めるために手を上げ制し

 

「ヴォルフ」

 

ヴォルフの名前を呼ぶと攻撃態勢を解き、こちらに戻ってきた。

 

「で、なんの御用ですか?」

 

ヴォルフの背に乗り、男を見下ろす。男の手には鋭い爪痕がありそこから血が流れ出ている、ヴォルフが攻撃した痕だろう。本気で攻撃すれば腕を落とせるので最低限の理性は働いていたと思う。

 

「俺達は、あの鬼達を狩るため動いている!だが、鬼の力は強く傷が治るのも早い、そして鬼は日の光を浴びれば死んでしまうので奴らが動くのは奴らの時間である太陽が沈んだ夜だけ!

強くなればなるほど頸を斬るのも難儀してしまう!頼む、俺たちに鬼の頸を容易く切った技を教えて欲しい!」

「?あれがいて何か問題が?」

「…いや、君は知らないのだったな。まず鬼は人を食らう、人を食らわねば生きていけぬ生き物なのだ。そしてアレは元が人なのだ」

「人?」

「1人の鬼が人を鬼にしてその数を増やしている。鬼になった人間の最初の犠牲者は大体共に暮らしている家族や村のものだ。

それから鬼は人を食らい続け、力を増していく、次第に鬼の身体能力も頚の硬さも上がっていき、血鬼術という血を媒体とした特殊な能力を使う様になる」

 

男の言葉に考え込む。人を怪物にして誕生する鬼という生き物、人を食らい人外の力を発揮する。

 

「なぜあなた達はアレを殺そうと?明らかに人間が相手取るには手の余る怪物ではないでしょうか?」

「俺達の大半は、鬼に身内を殺されたものだ。言ってしまえば復讐だろうな…」

「その刀は?そんな特殊な鋼を使った刀をある程度供給するのは一個人では難しいはず」

「俺達を支援してくれる産屋敷家という家がある。彼らも鬼を倒す理由がある、産屋敷家は平安の頃から呪われており、その呪いを解くには鬼の首領を倒さねば呪いが解けぬと言われている。

呪いのせいで産屋敷家は短命で20を超えられればいい方だ」

 

復讐に呪い、いや目の前の男に復讐者特有のドロリとした負の感情は感じられない。復讐もあるだろうが、自分たちの様な犠牲者を出したくないという思いもあるかもしれない。

復讐と言えば、ゼータ君になったラムダ君を思い出す。復讐者という職業になりPKKとしてPKを狩りながら仇を探しそれを成し遂げた。

 

(だけど)

 

そっと男と未だ意識を失っている男の仲間たちを見る。ラムダ君は復讐者という職業の恩恵があった、他のPKK職だって無力な存在だったわけでもない。

ゲームの世界と違い、この世界で人間は魔法も武技も高いステータスもない。ただあるのは鬼を殺せる武器だけだ。

 

(そうか、そうかもしれない)

 

自分は産まれながら普通の人と違う呼吸をしている。それが鬼を狩るための武技であるのかもしれない。

 

「頼む、俺たちに君の技術を教えてくれ!」

「…産屋敷という者に面通りを。あなた達の後ろ盾がどのような人物か分からなければ判断できません」

「了解した!俺達と戻ってほしい!」

「分かりました」

 

そして旅の目的は一時変更して、男たちと一緒に産屋敷という者に会いに行くことになった。




ここら辺は本誌で掲載ないのでほぼほぼ妄想です。


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召喚士とゼロ
召喚士とゼロ


ゼロの使い魔とサモナーさんが行くの短編を疑似連載。ゆっくりと書いていくのでのんびりと待っていてください


それは、強敵を求めて未だ見ぬ風景を見るために獲物を狩りながら空中を移動している時だった。

 

「なんだ、あれは」

 

眼下には、ついこの間までなかったはずの小さな浮島。本当に小さな浮島だが何度もここを訪れているはずなのに見た事はなかった。

本来この海域に島などなかったはずなのだ。

 

「……降りてみるか」

 

何か運営の思惑があるかもしれないと思い、その島に降りる事にした。蒼月に指示をだし浮島に降り立つ。

浮島の中央には、人影が一つ。

 

『やぁ、君がこの世界で最も強い存在かい?』

 

特に特徴と言える特徴はない、優しげな好青年…若干気弱そうでヘタレ臭が漂うが。

 

「私が最も強いとは言えないな。師匠たちの方が強いだろうし」

『でも稀人の中で君が一番強いよね?』

「稀…人?」

『まぁ、いいか。此処にいるって事は最低限の実力はあるんだろうし』

 

その人は、1人納得したように頷きこちらに杖を向けた。反射的に戦闘態勢を取る。

 

『まずは、戦力を集めないとね』

 

そして光がはじけた。

 

『ポータルガードが強制解除されました』

『アイテムボックス2が強制転移させられます』

『召喚モンスターが強制解除されます』

 

(なに!?)

 

次々と表示されるメッセージに隣を見ると蒼月たちが消えていた。いつの間にか足元には、召魔の森に置いてあったアイテムボックスがあった。

すぐさまアイテムボックスを拾い、背負い直す。そしてグレイプニルに手をかけていつでも梱包出来る様に呪文も準備する。

 

『そろそろ時間だ』

 

そう怪しい人物が告げると同時に

 

ブゥン!

 

背中に緑色の鏡のような不思議なものが現れた。その存在を認めて、身体を離そうとしたが

 

ドンッ

 

『僕の故郷をお願いね』

 

何かに押され得体のしれない物の中に身体が入ってしまう。入ってしまったとたん取り込むように抗えない力で飲み込まれ始める。

 

「何が起こって…」

 

イベントにしてはおかしい。そして本能が何かヤバい事に巻き込まれていると告げている。だが、心沸き立つ危機感ではない。もっと厄介で楽しめないそんな何かを感じた。

 

 

 

 

所変わって、月が二つある異世界『ハルケギニア』。そこにある国トリステインにあるトリステイン魔法学院で今年2年生に進級する予定の生徒たちが使い魔召喚の儀式をしていた。

召喚した使い魔を見れば特異な魔法属性もメイジとしての力量も確認できる重要な儀式だ。

そんな中、召喚の儀式を何度も失敗している桃色の髪の少女がいた。

彼女の名は、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステインの公爵家ヴァリエール家の3女である。

彼女が、最後のチャンスとばかりに使い魔召喚の儀式「サモン・サーヴァント」の呪文を改変し爆発と共に現れたのは一人の人間。中肉中背であまりトリステインでは見ない黒髪黒目の普通の男に見えた。

 

「あんた誰?」

 

男は、召喚されて戸惑っているのか辺りを見回していた。

 

「ここは何処だ?」

「はぁ?トリステイン魔法学院の事を知らないの?一体どんな田舎に住んでいる平民よ?」

 

男の言葉にルイズが不機嫌そうに返した。

 

(トリステイン?聞いたことが無い…それに平民?どういう事だ)

 

男は、本来あまり働かせない頭をフル活動しながら情報を集める。

周りには制服だろう服を着た幼い少年少女たち。その傍らには自らの召喚モンスターの様に魔物が人を襲わず付き従っている。

目の前の少女の隣には禿げ頭の大人。しかし、

 

(この人、実戦経験があるな)

 

薄れた戦いの香りがその教師であろう男から香る。戦って負けるとは思わないが、それでも警戒しておくべきだと判断した。

 

「ちょっと、平民の癖に貴族を無視するんじゃないわよ!?」

(貴族…つまりここは貴族社会なのか?)

 

少女の態度からして貴族というのは、特権階級だとあたりを付けた。平民が貴族に従うのは当たり前、そう態度が告げていた。

 

(なら)

 

男は、断片的な情報からこの場で自分が平民だと思われると後々面倒だと判断する。確かに平民だが嘗められるというのはどうにも気に喰わない。

出来るだけ、丁寧に礼を取り少女に向き合った。

 

「初めまして、異国の貴族様。我が名はキース、しがない王家の剣術指南者です」

「王家ですって!?」

「ミス・ヴァリエールが王家の関係者を召喚したですっと!?」

「ベルジック家が王家サビーネ女王陛下より任命されております」

 

たとえ平民であっても王家の物に剣術を教えているとなると下手な貴族より地位は高い。

何でも言う事を聞く平民だと思われずに済むだろう。

 

「ミスタ・コルベール!ど、どうしたら!?」

「…契約は保留にして学院長の判断を仰ぎましょう。彼の国と国際問題になるかもしれません」

 

早速効果があったようでキースは、内心で満足していた。それを表に出すようなヘマはしなかったが。

 

(しかし、変だな)

 

先程から鑑定を繰り返しているが、名前以外の職業やレベルが全く見えない…いや、存在していない。

何時もの様に「???」と表示されない。

 

(ここは、本当にどこなんだ)

 

今は警戒されるからしょうがないが一段落したら召喚モンスターを召喚する必要があるだろうと思いつつ話している二人を見つめた。

 

「ついて来てください、学院長に相談します」

「了解した」

 

ハゲの男、コルベールと少女に呼ばれていた男に呼ばれた。

 

「ミス・ルイズもついて来てください。彼は、貴方が召喚したものですからね」

(召喚…か)

 

分からないことだらけだ。メニューは使えるし、ログアウトの文字もある。だが、知らぬ言葉、知らぬ土地…

 

(一体どこなんだ此処は)

 

そう1人呟いた。

 

 

2人に連れてこられた場所は、例えるならば校長室だろうか?秘書である美人の女性とひげを蓄えた老人。

 

「さて君がミス・ルイズが召喚した使い魔かね?」

「さぁ?」

 

キースは、老人の言葉に肩をすくめる。

 

「ちょ、オスマン校長になんて口を「使い魔やらと言われても何も説明されていないもので、何の事だか」聞いて」

 

ルイズがキースを戒めようとするが、それにかぶせてキースが言葉を紡ぐ。

 

「そちらには“サモン・サーヴァント”の呪文が無いのかね?」

「我らの国には、使い魔…いいえ召魔を従える“サモナー”という職業があるので魔法使いが使い魔を持つことはあまりありませんね」

「なんと、それならば“サモン・サーヴァント”の説明からせねばらるまいな」

 

それから説明されたことは、“アナザー・リンク・オンライン”の設定から大きく外れた話だった。

“サモン・サーヴァント”…それは魔法使い、いやメイジと分類されている貴族が生涯の友にして従者である存在を召喚する儀式であるらしい。

メイジは、コモン・火・水・風・土・虚無の内コモンは基本的に誰でも使える魔法であり火・水・風・土の内どの属性が最も適性のあるのか“サモン・サーヴァント”とで知る事が出来るらしい。それを指標に事業の内容を決める為、2年生への進級試験は“サモン・サーヴァント”の魔法を使った使い魔召喚を題材にしているそうだ。

その中で最も異質なのか虚無であり、始祖であり全てのメイジの始まりと呼ばれるメイジ以外には発現していない伝説の系統。どんな呪文があるのかさえ分からないと言う謎の系統。

その基礎のコモンを除いた5つの属性のみで、複数の属性を組み合わせたり掛け合わせることで氷や雷などの属性を扱う。

随分と自分達が動いていたゲームの設定から外れた話だ。

 

(ますます怪しくなってきたな)

「して、君は王家の剣術指南役だと聞いたが?」

「はい、我が師には“宮廷魔導師”に推薦していただいていたのですが当時姫君であるサビーネ王女に剣の指南をした折に肩書を貰い受けました」

「ほう、“宮廷魔導師”とな?」

「我が国では、貴族が必ず魔法を使えるとは限らないのです。大陸が違えば魔法の成り立ちも変わります、私はいざとなれば前衛にて戦える接近戦闘能力と後方にて支援できる魔法戦闘能力が高いと評価されていまして王族の護衛として任を受けた時にその実力を買われたのです」

「それが“剣術指南役”という立場かの?」

「はい、サビーネ王女は王女でありながら騎士でもあるお方で魔法よりも剣の方が得意で未熟な所をつい指摘して稽古をつけてしまいまして」

「成程のう」

 

オスマンと呼ばれている老人は、キースの言葉にその立派な髭を撫でた。

 

「王族の方々には、どれ位の頻度で会うのかね?」

「あ~、今は死んでしまった王族の方々に変わり国を治めるのに忙しく稽古をつけている時間が無いのであまり会いませんね。つい数年前まで内乱がありまして」

「なんと、それは大変じゃったのう」

「まぁ、師匠方々や私の知り合いの者達も味方しましたのでそれほど大きな被害はなかったのですが、反撃するまでの間の民の犠牲が多く…」

「それは…」

 

実際、国の奪還間に魔人に魅入られた人々は救えないと師匠は言っていた。一部をスケルトンにされたり、魅了で意識を無くして肉壁にしていたりと民への被害は大きかった。

それを治めたりしていて、サビーネ王女たちは大忙しらしい。それこそ年単位で。

 

「その間は、基本的に王家が進出したがっている大陸に常駐し未知の魔物の排除や拠点の作成を知人たちと共に行っております」

「大陸…」

「随分前に文明が滅びたそうで残っている人口なんて雀の涙ほどしかない大陸ですが資源も豊富で見逃す手はないと内乱の前から手を出していましたから、もうすでに王家の手助けが無くてもある程度は動ける体制があったんです」

「成程」

「ですから、数年ならば行方をくらませても「ああ、強敵を求めてどこかに行ったな」位しか思われないんでしょうが…」

「何ぞ、問題があるのかね?」

「まだ嘗ての内乱の敵の首領を全て捕縛していないんです、いざとなれば戦場へ参上しその首領を殺すまたは捕獲するのが私の役目なんですよね」

「つまり、戦が始まる前に戻らないと問題があると」

「私以外には師匠たちが戦えるでしょうが、師匠たちは王族の護衛として後方にいてもらっていますので必然的に私にお鉢が回ってくるわけです」

 

キースの言葉にオスマンが顎に手を当てて考え込んだ。

 

(信じるならば、この人物は仕える国の最高戦力に当たる存在ということかの?先ほどの言葉、接近戦闘能力と魔法戦闘能力ということは武器も使えて魔法も使えるという事そんな人材そうそういないはずじゃ)

 

そう考えているオスマンだが、キースのいたゲームの世界ではそういうプレイをしていた人物は少数ながら存在はしている。キースの様にありえない位凄いリアルスキルを持って最強の一角だと数えられている存在が稀なだけである。

 

「君の国は何処にあるかわかるかね?」

「さぁ?使い魔として無理やり召喚されたみたいで詳しい現在地なんて分かるわけありませんし、もしかしたらすごく遠くかもしれませんね」

「むぅ」

「帰る手段も今のところ分かりませんし、どうすればいいですかね?」

「そうじゃのう…」(しかし本当にどうするか、いくら遠くの国であってもその国の最高戦力を事故とはいえ勝手に誘拐したようなものじゃし)

 

使い魔との契約は、一生もの。勝手に他国に属する者に契約を強制などしたら外交問題になりかねない。

 

「せっかくミス・ヴァリエールが成功した魔法なのじゃがなぁ、使い魔の契約は一生もの。使い魔が死ぬまで契約は切れん代物じゃ。もう一度召喚させたとしてキース殿の前に召喚の門がまた開かれてしまう可能性がある…どうしたものか」

「………」(さて、どうするべきか)

 

そんな2人の会話を聞いていて涙目を浮かべていた少女がいた。言わずもがなキースを召喚したルイズである。

 

(なんで、なんで…召喚した使い魔がただの平民だと思っていたのに)

 

ルイズは貴族としてのプライドが高い、そして自分が招いた外交問題になるかもしれないという事態に泣きそうになっていた。

凄い使い魔を召喚して今まで馬鹿にしていた奴らを見返す。「メイジの実力を見るなら使い魔を見よ」魔法が全く使えないルイズの評価を改めさせるには万人が凄いと認める使い魔を召喚することが一番簡単で確実にできる事なのだ。

だがいくら使い魔を召喚出来たとはいえ“コンタクト・サーヴァント”が出来なければ完了した事にならず進級も出来ない。それがさらにルイズの心に闇を落としていた。

 

(王家の剣術指南役?宮廷魔導師?何よそれ)

 

使い魔とは、メイジの生涯の友であり仲間であり下僕だ。その下僕が貴族の自分よりもかの国でははるか上の地位にいるという事も宮廷魔導師という職に選ばれるほどに魔法が使えると言うのも何もかもが下僕よりも自分が劣っていることを感じさせていた。

 

(何で、何でなのよぉ)

 

何時も魔法が失敗して、馬鹿にされてきた。魔法成功確率ゼロ、だから『ゼロのルイズ』と呼ばれていた。

使い魔として召喚した男は、魔法が使えるのに自分は全く使えない。唯一成功したのが男を召喚した“サモン・サーヴァント”のみだ。

やっと魔法が成功して、周りの奴らを見返せると思ったら召喚したのは他国の王族の関係者。外交問題に発展するかもしれない人物だ。

それらの事実がルイズを追い詰めていく。

 

「…済みませんが、試したいことがるので契約?という奴をしてもらってもよろしいですか?」

「試したいこと?」

「ええ、これが成功すればまぁ当面の問題は解決できるでしょう」

「うむ、内容は教えてもらっても?」

「あなた方の魔法にはないようですが、我々の国の魔法には魔法の効果を打ち消す魔法があります。その魔法が効果があれば国への帰還までならば彼女の使い魔として働いても私は構いません」

「!?……そんな魔法が」

「まぁ、成功するかどうかは半々でしょうけど」

「う~む、ならば儂の使い魔で試しましょう。もし解除されてももう一度契約を結び直せばいいだけじゃし。

モートソグニル!」

 

オスマンの呼びかけに答え、モートソグニルと名付けられているネズミがオスマンの机の上に上がった。

 

「こやつが儂の使い魔の、モートソグニルじゃ」

「では、試してみても?」

「構わん、実験は大切じゃからの」

「お言葉に甘えて」

 

キースは、無音詠唱と詠唱破棄のスキルを控えに回して「ディスペル・マジック」の呪文詠唱を行う。

 

「ディスペル・マジック!」

 

キースの魔法が発動するとモートソグニルが白い光に包まれ

 

キィン

 

何かが割れた澄んだ音が響いた。

 

「…………」

「が、学院長?」

 

オスマンは、目を見開きキースに逃げないように捕獲されているモートソグニルを凝視していた。その姿に秘書である女が声をかけた事でオスマンの目に驚愕の色が現れる。

 

「つ、使い魔の契約が切れておる」

「「なんですって!?」」

 

その事実にコルベールと秘書の女が声を上げた。本来なら解除できない契約を解除したのだその驚愕は当たり前だろう。

 

「す、すごい!そんなすごい魔法がこの世にはあるのか!」

「しかし、これで当面の問題は解決じゃな。キース殿の祖国が見つかるまではミス・ヴァリエールの使い魔を引き受けてもらえますかな?」

「構いませんよ、どうせする事もないでしょうから」

 

キースは、なにか違和感を感じていた先ほどからフレンド登録しているプレイヤーと連絡を取ろうとしたが取れないし、「テレポート」の呪文を使おうと思っても今まで行っていたはずのエリアポータルの一覧が出ない。

まずは、現状を確認するためにこの魔法学院という情報が沢山ありそうな場所に一時的に厄介になりたいと思っていたのだ。

いつでも解除できるなら使い魔になる事も苦ではない為了承する事にした。

 

「では、ミス・ヴァリエール」

「…は、はい!?」

「キース殿と“コンタクト・サーヴァント”を行いなさい。ただし、キース殿はくれぐれも不当な扱いをせず動物などと同じように躾けようとしないように」

「あ、当たり前です!」

「ならば、よし。では、“コンタクト・サーヴァント”を」

 

ルイズとキースが向かい合う。

 

「それで“コンタクト・サーヴァント”ってのはどうやるんだ?」

「こうやるのよ。

我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 

杖を持ち呪文を唱えると

 

グイッ、チュ

 

「!?」

 

ルイズに無理やり頭を下げられキスされてしまったキースは、目を見開いた。

 

「こ、これが“コンタクト・サーヴァント”よ!」

「え、ななな!?」(垢BANになるはずなのにその警告類がない!?)

 

キースは、突然の事態に大慌てになるが

 

「グッ!」

 

突然灼熱の鏝を当てられたような痛みが左手を中心に体を襲った。こんな事で悲鳴を上げるような無様を起すような事もなく歯を食いしばり痛みに耐えるキース。

 

「これは、なんだ?」

「使い魔の証たる、ルーンを刻んでおるのじゃ。痛みはすぐに消えるじゃろう」

 

オスマンの言うとおり痛みはすぐに消え、左手に見た事もない模様が刻まれていた。

 

「ほほう、これはまた珍しい形のルーンですね。スケッチさせてもらっても?」

「構わない」

 

コルベールにルーンが刻まれた左手を差し出す。サラサラとコルベールは手早くルーンをスケッチしていく。

 

「では、キース殿。儂は、お主の祖国について調べるので帰還方法がわかるまではミス・ヴァリエールの事をよろしく頼みます」

「了解しました」

「ミス・ヴァリエールは、今日の授業を休みキース殿にトリステインなどこの国での一般的な常識を教えて差し上げなさい。幸い君は座学では優秀な生徒じゃからな」

「わ、分かりました。オスマン学院長!」

 

そしてキースとルイズは、学院長室を退室した。

 



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召喚士とゼロ2

「………他に何か聞きたいことはある?」

「いや、大体は分かった」

 

ルイズの部屋に案内されて、この世界の常識的な事を教えてもらっていた。

この国トリステインと隣国ガリア、天空の国アルビオンは王族を頂点とした完全なる貴族社会であり平民の地位は限りなく低く、貴族の不興を買えばその場で殺されることもあるらしいという社会だ。

その3つの国にロマリア連合皇国は、始祖ブリミルを信仰するブリミル教の教皇をトップとした宗教国家を加えた4つの国のトップがブリミルの力を継いだ血脈だそうだ。

そして新興国家ゲルマニア、実力と金さえあれば平民だろうと貴族になれて歴史の浅い野蛮な国だそうだ。

他にも色々と教えてもらったが重要なのはこれ位だろう。

 

「それで貴方は“宮廷魔導師”って奴に選ばれる位なんだから魔法は使えるの?」

「ん?大体の魔法は使えるんじゃないか?」

「え?」

「俺は無節操だからほぼ全ての属性は使えるようになったし」

「え、ほぼ全ての属性?」

「ああ、火・水・土・風・光・闇の6つの基本属性と派生属性の雷・氷・塵・溶・灼・木・時空に特殊属性の封印術・英霊召喚・禁呪も使えるし“サモナー”だけが使える召喚魔法も使えるしな」

「サモナーってなに?」

「サモナーというのは、召喚モンスターを従えて戦う魔法使いの事だ」

 

試しに見せようとリストから召喚モンスターを選ぶ。

 

「サモン・モンスター!」

 

呼び出したのは、比較的小さく可愛らしい白い毛並を持った狐だ。

 

「うわぁ」

「俺の配下のモンスターの一匹ナインテイルだ。後方支援を得意としている」

 

ナインテイルは、呼びされて早速とばかりに空を飛んでキースの肩に乗る。

 

「相変わらず、ちゃっかりなやつだ」

「何これすっごく可愛い!この子ちょうだい!」

「俺と契約しているから、譲渡は無理だぞ?」

「えぇーーー!」

 

残念そうなルイズに苦笑して、肩に乗っているナインテイルを撫でた。目を細め、もっと撫でてくれとばかりにすり寄ってくるナインテイルを観察しつつ、ルイズを見る。

 

「これが俺の召喚魔法だ。他にも色々いるが室内に呼べる奴なんてあまりいないからなぁ」

「へぇ、そんなに大きいんだ」

「デカい奴だと山位デカいからな」

「……嘘」

「ま、そいつらを出すような事態にならないことを祈るさ」

 

ルイズに見せ終わったのでナインテイルを帰還させる。

 

「さてと、使い魔の役目の内1つめの視界の共有とかは出来ないみたいだが、秘薬の材料の用意とかなら調べれば取ってこれると思う、護衛もこれでも腕には自信がある心配しないでくれ」

「それは疑ってないわ、王家の護衛に選ばれる位だもの。薬草とかも国が違うなら全く違うかもしれないし必要な物があったら図書館で事前に調べましょう」

「理解が早くて助かる。それで私は何処で過ごせばいい、流石に女性の部屋で寝る事は…」

「あ、そっか…どうしよう?」

「まぁ、それは後で学院長とかに相談するとして今日は野宿でもしよう。テントとかならあるからな」

「そ、それは駄目よ!あなたは一応他国からの客人なのよ!」

「構わないさ、新大陸の開拓中はほとんどテント暮らしだ。いつものことだ」

「でも」

「私は気にしてないんだからいいんだ。いつも通りの方が気楽だしな」

 

キースは、部屋の出口へと向かう。

 

「もう夜だ。私はもう寝る事にしよう、また明日」

 

そう言ってキースは外に出て行った。

 

「月が二つか…」

 

外に出て空を飛び、屋根に上がったキースは空に浮かぶ2つの月を見てため息を吐いた。

 

「ちょっと、調べてみるか…と、その前に召喚しておくか」

 

サモン・モンスターでキレート・イグニス・スパッタ・ナインテイル・ノワールを召喚する。

 

「キレートは、ルイズの護衛を頼む」

 

そう指示を出すとキレートは影の中へ消えて行った。

 

「よし、これで大丈夫だ」

 

“フライ”と“アクロバティック・フライト”を唱え、宙に浮きあがる。

 

「それじゃあ、周り見るついでに拠点でも探すか」

 

アイテム・ボックスの中には、愚者の石版と野菜の種などもあったので拠点を作るついでにポータルガードを配備して何かあった時の拠点を作る予定だ。

 

「流石に周りへの影響を考えて、迷宮の設置とかはしないけどな」

 

そしてキースは、空を飛ぶ。モンスター達もキースを追って空を飛ぶ。

真っ直ぐ飛べば、城がある街があったが夜なのでスルーして空を飛ぶ。しばらく空を飛んでいると海にたどり着いた。

 

「海に拠点を作るか、下手に誰かにばれるよりはマシだな」

 

海にあるそこそこ大きさの無人島に拠点を作る事にした。

 

「ここだな」

 

適度に森があり平原があり、浜がある島が見つかった。

 

「…ちょっと調べるか」

 

ノワールたちを帰還させて、ヴォルフ・シリウス・フローリン・逢魔を召喚する。

 

「この島に魔物とかがいないかどうか調べてきてくれ」

 

その言葉にヴォルフ以外の召喚モンスターが各方面へ散った。

 

「じゃ、俺達も行くか」

 

ヴォルフを伴い島を見て歩く。数刻もすれば島全体を調べ終わり此処に魔物の類などはおらず動物などが少数生息していることが分かった。

 

「愚者の石版を設置して、強化は最大。使用権限は自分とそのパーティーだけっと」

 

島の中心部にある草原の真ん中あたりに石板を設置する。今現時点で出来る強化を最大にしておく。

 

「ポータルガードは水中専門と人形組と空中戦闘が可能なモンスターが数匹でいいだろう」

 

次々とモンスターを配備していく。

配備したモンスターは、テイラー・アプネア・アウターリーフ・ロジット・プリプレグ・スーラジ・久重・蝶丸・網代・クーチュリエ・スパーク・クラック・獅子吼・雷文・スコーチの15匹を配備した。

 

「じゃ、後は頼む」

 

召魔の森に置いてあったアイテム・ボックスに持ち歩いていたアイテム・ボックスから皮などいまは使えない素材などを移しておく、宝石などもいらない何個かを残してすべて移す。

 

「お金がいるかもしれないからな」

 

大体の準備を終えて、試しにテレポートの呪文を選択する。

 

「あ、魔法学院がテレポート先になっている。中継ポータル扱いなのか?」

 

そのまま魔法学院を選択して実行する。

 

「お、大丈夫みたいだな」

 

無事魔法学院に付いたキースは、ヴォルフ達を帰還させる。

 

「さて、ログアウトできるか試すか」

 

テントを設営して、中で横になる。

 

「…ログアウトが出来ないか、本当になんなんだ。寝るしかないか」

 

やる事もないのでテントで寝る事にした。

 

何故か表示される時計表示で午前5時、。

 

「あ~ぁ、一体これは何なんだ」

 

もしかしたらバグか何かで寝ている間に修正されるかと思ったが修正されいない状態に思わずため息が出る。

 

「何かバグか何かと思ったが違うんだな」

 

どうすれば、元の場所に戻れるのか分からない。

 

「当分は様子見だな」

 

起き上りテントを片付ける。

 

「さて、起きているかな。シンクロセンス」

 

キレートと視覚などの感覚を共有する。すると視界にルイズの部屋が写る。

 

(まだ寝ているようだな…どうやって暇をつぶすかな?)

 

何時ものような対戦をしたり、召喚モンスターを愛でてもいいが使用人たちを怯えさせる可能性もある。

 

 

「素振りでもするか」

 

アイテム・ボックスから木刀を取出し構える。

それから基本的な方の素振りを始めた。相手がいないからそこまで派手ではないが見る者が見ればその高い技術力がよく分かるだろう。

シンクロセンスで視覚共有をしてルイズの様子を見ながら起きるまで素振りをし続ける。

 

(お、起きたか)

 

ルイズが起きたのを確認して、素振りとシンクロセンスをやめた。

 

「じゃ、ゆっくりと行くか…着替えた方がいいか」

 

木刀を仕舞い、アイテムボックスにしまってある儀礼用の装備を取り出し装備を取り換えてからルイズの部屋へと向かう。

途中で使用人たちを見るが、彼女たちは此方をチラチラと見るだけで声をかけたりはしない。恐らく見た事もない大人の男を怪しんでいるのだろう。

 

「ルイズ、起きているか?」

「あっ、キース今着替えているから待ってて」

「分かった」

 

ドアの横でルイズが出てくるのを待っていると

 

ガチャッ

 

近くのドアが開いて、中から真っ赤な髪と褐色の肌を持ちプロポーションの良い少女が出てきた。

 

「あら、あなたルイズの使い魔?」

「一応そうだな」

「へぇ、本当に人間なのね!凄いじゃない!」

「まぁ、使い魔に人間というのは珍しいだろうな」

 

キースは、少女の言葉に頷いた。

 

「おはよう、キース」

「ああ、おはようルイズ」

「おはよう、ルイズ」

「キュ、キュルケ!?」

「なぁに驚いているのよ、部屋が近いんだからほとんど毎朝会っているじゃない。

しっかし、“サモン・サーヴァント”で平民を喚んじゃうなんて貴方らしいわね!流石は、ゼロのルイズ!」

「あんたねぇ!キースは、他の国の王家の剣術指南役よ!平民だなんて呼ぶんじゃないわよ!」

「え?」

 

ルイズの言葉にきゅるけと呼ばれた少女がキースの顔を見た。

 

「け、剣術指南役…しかも王家の?」

「師は“宮廷魔導師”に推薦していたがな」

 

サーッとキュルケの顔色が悪くなった。その姿にルイズがドヤ顔を浮かべて笑う。

 

「あんたもゲルマニアからの留学生なら一応気を付けなさい。私だっていつ外交問題に発展するか怖いのにあんたの態度で問題になっても困るのよ?」

「も、申し訳ございませんわ。ミスタ…まさか王家ゆかりの者だとは思わず」

「普段は、大陸への派遣兵だからな分からないのも無理はない。私は気にしていないよ」

「お礼を言いますわ、ミスタ」

 

キュルケが青い顔をしたまま頭を下げるのでキースは笑って不問にすると告げる。

 

「それでキースを笑ったんだからアンタの使い魔はさぞ優秀なんでしょうね?」

「も、勿論よ。フレイム!」

 

キュルケが名前を呼ぶと大きなトカゲが部屋から出てきた。

 

「これってサラマンダー?」

「そうよ、火トカゲ!見て、この尻尾。ここまで鮮やか大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?

ブランドものよ、好事家に見せたら値段なんかつかないわよ」

「へぇ、サラマンダーか」

 

勢いを取り戻したのか使い魔の自慢を始めるキュルケだが、そのサラマンダー・フレイムはキースを凝視して固まっている。

 

「あ、あらどうしたのかしら?」

「固まっているわね?」

(これはまた、リアルな)

 

キースの力を感じ取って、恐れているだろうフレイムに苦笑いを浮かべる。

 

「そろそろ食堂に行かないといけないのではないか?」

「あ、朝食に間に合わなくなっちゃうわ!」

「急ぐわよ、キース!」

 

キースに指摘されて話を切り上げて食堂に向かう二人を微笑ましく見送り

 

「ほら、固まっていないで行くぞ」

「キュ~」

 

サラマンダーを動かしてその背を追った。

 

トリステイン魔法学院の食堂は、楽員の食堂とは思えぬほど豪奢であった。学年ごとに分かれたテーブルには豪華な飾り付けが成され、幾つものローソクが部屋を照らし、瑞々しい花が飾られ、テーブルの上には果物が盛られた籠や朝食とは思えぬ豪華な食事が用意されていた。

 

「ここ、トリステイン魔法学院で教えるのは魔法だけじゃなく、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』というモットーの元、貴族たるべき教育も受けます。

だから、食堂も貴族の食卓に相応しいものになっております」

「成程、だからこれほど素晴らしいものが多いんだね」

 

ルイズが座ろうとしていた椅子を引いて促せば、自然とそこに優美に座り、周りを見ていたキースの様子に気づいてこの食堂の説明をしてくれた。

それに頷き、

 

「ミス・ヴァリエール、隣に座っても?」

「ええ、どうぞ」

 

断って座り、周りを見れば3つのテーブルにそれぞれ違う色のマントを身に着けた生徒たちが座っている。学年ごとに見分けがつけやすくするためなのだろう。

そして視線を上に動かせば、ロフトの中階があり、そこに教師陣達が集まり談笑していた。

 

「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」

 

祈りの声が、唱和される。ルイズも目をつむってそれに加わっているのでキースもそれに倣う。

それが終われば食事だ。流石貴族、誰も彼もテーブルマナーを守って食事をしている。暫く食べずに観察し、自分が教えられたものと大差ないことを確認してキースも食べ始めた。

 

(母さんの息子だってわかった時に、ゲルタ婆様に礼法を叩き込まれたけどさっそく役に立ったな)

 

サビーネ陛下の国では、母であるジュナさんは枢機卿という高い地位を持っていた。血が繋がっていないとはいえ正体を明かして、実は並行世界でのつながりで家族でしたと分かり、新たな妹弟が生まれた時にそういう集まりにも連れ出される事を予測して(押し付けようと)ゲルタ婆様に徹底的にテーブルマナーからダンス、礼法などなど色々な物を叩き込まれた。

今では、ジュナさんや師匠たちの代わりに国に派遣されることも少なくない。(面倒からと押し付けられたともいう)

そして、大体親睦を深めるために開かれるのは食事会と舞踏会などのパーティーだ。運よくこの世界でも食事に使う食器や順番に差がないのでそこまでおかしくは見えないだろう。一応、キースの世界では国王との会食でも使えるマナーだからだ。

 

 

魔法学院の教室は、大学の講義室のような作りだった。講義を行う魔法使いの先生が一番下の段に位置し、階段のように席が続いている。

キースとルイズが入ると、先に教室に入っていた全員が一斉に振り向いた。

そしてひそひそと話し始める。「おい本当に人たぞ」とか「どっかの国の王族の関係者らしいぜ」とか色々だ。先ほどのキュルケと名乗っていた少女は大勢の男子生徒に囲まれていた。

あのプロモーションと美しさなら、多感な時期の男子なら誘蛾灯に誘われる蛾の如く群がるだろう。

皆が皆、昨日召喚した使い魔を連れている。一体一体識別を駆けるがやはりレベル表記はない。

 

(…足があるタイプのバジリスクか?)

 

自分の知っている物との違いを確かめているとルイズが席に座った。食事の時と違い、隣には座らない。

少し経つと一人の中年の女性が入ってきた。紫色のローブに身を包み帽子を被っているふくよかで優しげな雰囲気を漂わせている。

彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑む。

 

「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」

 

その言葉に、ある一人の男子生徒が反応する。

 

「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺歩いていた平民を連れてくるなよ!」

 

恐らく召喚の時にその場からいなかったか、信じていないのかそうヤジを飛ばし来た男子生徒の言葉にルイズは目を見開いて立ち上がる。

 

「あんた!その言葉の意味わかっていっているんでしょうね!」

 

生徒の約半分と教師の顔色が一気に悪くなる。キースの立場を人伝であっても聞いていたりしていた者達だろう。

 

「サモン・モンスター」

 

キースは、未だ何か言いそうな男子生徒に一瞬視線を向けため息を吐くとそっと片手を伸ばす。その片手の手の平に魔方陣が浮かび上がり、一つの存在が現れる。

 

「黒曜、あいさつを」

「ホー」

 

そこに現れたのは大きなシロフクロウだ。黄金に輝く瞳で周りを一瞥し、先が僅かに黒と灰が混ざっている羽をバサバサと動かすそのシロフクロウは、グルリと教室を一瞥すると先ほどまでヤジを飛ばしていた男子生徒をジッと見つめた。

 

「…何か?」

「イ、イエ…ナンデモアリマセン」

「そうか、今後そのような軽率な発言がないことを願うよ。黒曜、今日は流石に頭はやめてくれよ」

「ホー」

 

男子生徒やそれに乗ろうとしていた生徒たちも顔色を悪くして神妙に席に座りなおした。それを見てキースは満足そうに頷き、黒曜はキースの方に移動した。

 

「おっほん、ミスタ・マリコルヌ。彼に失礼な態度を取らない様になさいなさい。さて、授業を始めましょう。

私の二つの名は、『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義いたします。

魔法の4大系統は御存じですね?ミスタ・マンコリヌ」

「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の4つです!」

 

シュヴルーズは頷いた。

 

「今は失われた系統である『虚無』を合わせて5つの系統がある事は皆さんも知っての通りです。その5つの系統の中で『土』はもっとも重要なポジションを締めていると私は考えます。

それは私が『土』系統だから、というわけではありませんよ。私の単なる身びいきではありません」

 

シュヴルーズは、再び重々しく咳をした。

 

「『土』系統の魔法は、万物の組成を司る重要な魔法であるのです。この魔法が無ければ重要な金属を作り出すことも、加工することも出来ません。大きな石を切り出して建物を建造できなければ、農作物の収穫も今より手間取る事でしょう。

このように『土』系統の魔法は皆さんの生活に密接に関わっているのです」

(錬金術と土と木の合成か?そういえば錬成ってやったことないな)

 

話を聞いていて、生産技能の錬金術の錬成を試したことがないことを思い出したキースはアイテムボックスからなぜか残っていた石ころを取り出し握りしめウィンドウを操作して錬成を使ってみる。

 

(ふ~ん、結構制約があるんだな)

 

確認している間に話し終わったシュヴルーズは、机の上に置いておいた石ころの杖を振り上げる。そして小さく呪文を唱えると、石ころが光だし、光が収まるとただの石ころがピカピカ光る金属に変わっていた。

 

「ゴゴ、ゴールドですか!?ミセス・シュブルーズ!」

 

キュルケが身を乗り出して質問する。他の生徒たちも興味津々だ。

 

「違います、ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの…」

(石ころから真鍮…錬成はこっちの方が自由度があるな。しかし、スクウェア?こちらの言葉では英語で正方形の意味だな。どういう意味があるんだ?)

「『トライアングル』ですから…」

(三角形の英語、3つの点がある物と4つの点がある物。つまり何かを三つ繋げられるのがトライアングルで4つ繋げられるのがスクウェアという解釈でいいのだろうか?)

 

ルイズに聞きたいが授業中ならば私語は咎められるだろう。急ぐものでもないし、授業が終わった後聞けばいいと考えて一先ず疑問を棚に上げた。

 

「では、実際にやってもらいましょう。誰がやりたい人はいますか?」

 

それからは、一人の男子生徒が躍り出て青銅に石ころを変え、時間いっぱい生徒が前に出て呪文を試していく。

こういう時に率先として前に出そうなルイズだが、ずっと俯いたままで前に出ようともしない。

 

(?何かあるのか?)

 

「…後は、ああ。ミス・ヴァリエールがまだでしたね」

 

シュヴルーズが教室を見回して最後に残ったルイズに視線をやると生徒たちが一斉に顔色を変え、一部は椅子から床に座り込んでいた。

 

「先生、やめておいた方がいいと思いますけど…」

「どうしてですか?」

「危険です」

 

キュルケがきっぱりと言った。教室の他の生徒たちも頷いている。

 

「危険?どうしてですか?」

「ルイズを教えるのは初めてですよね?」

「ええ、でも彼女が努力家という事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、何もできませんよ?」

「ルイズ、やめて」

 

あんなにルイズに対して挑発していたキュルケだが今は蒼白になり懇願するようにルイズを見つめている。

しかし、ルイズは立ち上がった。

 

「やります」

 

そして緊張した顔で、つかつかと教室の前へと歩いていった。

隣に立ったシュヴルーズは、にっこりと笑いかける。

 

「ミス・ヴァリエール、錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」

 

こっくりと頷いてルイズは、杖を振り上げ

 

(!?まずい!)

 

呪文を選択し実行。ルイズが呪文を唱え杖を振り下ろすと石ころが爆発した。

 

「間に合ったか…」

 

しかし、被害は驚くほど少なかった。音は大きかったが被害は石ころが置いてあった机一つルイズとシュヴルーズは、いつの間に移動したのか二人の後ろにいたキースに抱え込まれたまま後ろに下がり石ころと机は不可視の壁に四方を囲まれ、その周りには黒い球体が浮かび上がっていた。

 

「ミセス・シュブルーズとルイズ、怪我はありませんか?」

「え、ええ。ミスタ・キースのおかげで傷1つありません」

「わ、私もよ」

「それはよかった」

 

そっと二人の腰に回した手を解き、展開していた魔法を解除する。

 

「机はもう使い物になりませんね。本来なら拡散する爆発を一点に集中したせいで威力が上がってしまったようです。申し訳ございません」

「いえ、あのまま爆発していれば怪我をしていたかもしれませんからそれは大丈夫なのですが、今のは一体何が?」

「そのルイズのせいですよ!」

「そうだよ!ヴァリエールは退学にしてくれよ!」

「いつだって成功確率ゼロ!失敗したら大爆発!」

「だからお前はゼロのルイズなんだ!!」

 

生徒たちの言葉に「成程、だからゼロのルイズか」と納得し毎回あの爆発が起きていれば嫌われるのも無理はないなとも思う。

今回はキースがうまく収めたとはいえ、これがしょっちゅうなら大迷惑な授業妨害だ。

 

「…ミス・ヴァリエール。貴方は席に戻りなさい、そして授業で杖を使う事を禁止します」

「え!?」

「今回は、ミスタ・キースの補助もあり机一つの被害で済みましたがもしもなければ授業が進まなくなります。

皆さんもごめんなさいね。あなた方は忠告してくれていたのに知らぬとはいえこんなことになるなんて。幸い、ミスタのおかげで被害は最小限に収まりました。授業を再開いたしましょう」

 

その後の授業も別の先生の授業でもルイズは実技は免除というか禁止され授業を受けるしかなかった。

ルイズはその間も散々からかわれていた。ルイズの言葉を信じるならば、貴族は魔法が使えて当たり前のようだからそれもそうかとも思う。

極論だが、魔法が使えないルイズは貴族ではないと言われてもおかしくもないのだ。流石に公爵令嬢の事を貴族ではないというバカもいないし、一応使い魔召喚と契約は成功させたので魔法が使えないこともないことを証明しているからまだそこまで言われてはいないらしい。

 

「呆れたでしょ、貴方を召喚したメイジが魔法一つ満足に使えないなんて」

 

昼休みに入り、昼食に向かおうと食堂までの道を歩いているとルイズがボソッと呟いた。

 

「ん~、でも使い魔召喚と契約はできただろ?つまり、一応ゼロではなくなったってわけだ」

「それは!……そうだけど」

「後な、あの爆発の時なんで私が即座に動けたか分かるか?」

「それが何?」

「一応ここは私の知らないところだから魔力の流れとかを感知する呪文を使っていたんだが、ルイズが魔法を使おうとしたとき物凄い魔力が杖に集まっているのを見て暴発か何かするんじゃないかと思って動いたから対応できたんだ。

他の奴らが1だとしたらルイズは100ぐらいの量を注ぎ込んでたからな」

 

他の生徒たちと比べてもその量は段違いだった。目が眩むかというほどの光が杖に収束し暴発すると分かるほど制御されてなかったのだ。

 

「多分推測だが、ルイズは自分に合ったものが見つけられていないっていう印象を受けたな」

「自分に合った?」

「ああ、ルイズはさっきのたとえ話だと常時100かそれ以上の魔力が必要な魔法が適正でその適正以外の適性がないんだと思う。

そうだな、例えばの話として4大系統がコップだとしたらルイズに合うのは壺か鍋サイズの大きさの器がある系統じゃないか?」

「4大以外ってもう伝説の虚無しかないじゃない」

「あ、そういえばそうだな。こういうものは巡るものだしいつか虚無の魔法に出会うかもな」

「ふふふ、何それ。でもそうね、そうなったらいいわね」



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召喚士とゼロ3

「そういえば、ルイズ。トライアングルとスクウェアというのはメイジの力量という認識で合っているのか?」

「?ああ、そういえば貴方の国と私たちの国じゃ使っている魔法が違うって言ったわね。

そうよ、系統を足せる数が多いほどメイジのレベルが高いの。

『火』という1つの系統だけ使えるのが『ドット』メイジで学生の大半がそのレベルかしら?『火』『土』という2つの系統が足せるのを『ライン』メイジ、『火』『土』『土』という感じに3つの系統が足せるのがさっきのシュヴルーズ先生と同じ『トライアングル』、『火』『火』『土』『土』という感じに4つの系統が足せるのが『スクウェア』が超一流のメイジね」

 

食堂で昼食を食べながら気になったことを聞けば、嫌な顔をせずに答える。

 

「成程」

「そういえば、そっちはどうやってレベルを決めているの?」

「私たちの魔法は、基本属性6つと派生属性7つ、そして魔法を極めたものだけに使えるものと生まれで素質が無ければ使えない魔法が約6つ。後者に関してはまだあるかもしれないが大体私が知っているもので21つの種類がある」

「そんなに種類があるの!?」

「基本的にどの魔法もより高度な魔法が使えるものがレベルが高いと言われている。単純に水や火を生み出すことから火の球を飛ばしたり火の壁を作ったりと熟達すればより高度で危険な呪文を覚えていくという感じだな」

 

むしろレベルが高くなればより強い魔法を覚えるという感じだが其処まで説明するのは面倒だし、理解も出来ないだろうとそこら辺は適当に誤魔化す。

キースのゲームの世界の話を適当に誤魔化しながら話したり、ルイズのこの世界の話を話していれば昼食が終わりなじみ深い黒髪黒目のメイド服を着た女性が銀のトレイを手に持ちながらケーキを配り歩いている。

 

「なぁ、ギーシュ!お前は、今は誰と付き合っているんだよ!」

「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」

 

魔法がある世界でも男子学生という者の話題は変わらないのか、金色の巻き髪のフリルの付いた服を着たなんとなくナルシサス・モスカトスの戦う前に似たキザな少年が複数の男子生徒たちに声を掛けられていた。

 

「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

 

自分を花にたとえるとは、もしかして本当にナルシサス・モスカトスの同類なのだろうか?あの年で寝技を掛けられて耳元でハァハァと悦ぶ?想像して気持ち悪くなったので頭の中から消し去るために一口ケーキを含む。

 

(ん?)

 

大げさでキザな仕草のせいなのか(仮)ナルシサス・モスカトス似の少年のポケットから小壜が零れ落ちる。

それに気づいたのか、黒髪のメイドがそれを拾いギーシュと呼ばれる少年に渡せば展開されるのは二股男の修羅場?茶番劇?だった。

絡んでいた男子生徒たちは、その小壜に心当たりがあるのかある女子生徒の名前を上げ、それをギザな少年が否定するが栗色の茶色のマントを身にまとった少女が初めに立ち上がり少年の頬を叩き、金色の如何にもお嬢様的な巻き毛の少女が立ち上がり近づくと、少年がまた言い訳を重ねるが先ほどのやり取りを見ていてそれを信じられるかといえば信じられないだろう。少年の頭からワインをぶっかけ「嘘つき」と怒鳴って去っていった。

しかし、少年は彼女たちの悲しみを微塵も感じていないのかハンカチで顔を拭いながら

 

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

 

という始末。しかも

 

「君が軽率に香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」

「そんな」

 

小壜を拾ってくれたメイドに八つ当たりする始末だ。

 

「僕は、君が香水の壜をテーブルに置いた時に知らないふりをしただろう?話を合わせるぐらいの起点があってもよいだろう?」

「そこまでだ、少年」

 

余りにも見苦しい態度にメイドの彼女を守る様に割り込み少年を見下ろした。

 

「いくら何でもそれは酷い八つ当たりだ。君が二股をしていたのが悪く、同時にこんな大人数の人が要る場所に浮気がバレる様なものを持ち込んだ君の不注意だろう。

それに軽率にポケットに入れていたのも問題だな。それほどバレたくないのならば零れ落ちない様に工夫するか何かすべきだろう」

「突然、割り込んできていきなり何を言っているんだ!これは、貴方には関係ないだろう!」

「いくら貴族とはいえ、男ならば女性に優しくしなければならないと思うがね。ああ、浮気をするような君に紳士的な対応を求める方が酷か。

この国の貴族は、こんな野蛮な対応を取るのが普通なのかな?」

 

突然割り込んできたキースに少年は怒鳴るが、その程度の怒気は猫にじゃれつかれているようなもので特に気にすべきことでもない。

 

「なっ!それは僕を侮辱しているのか!?」

「そう聞こえたか?女性を二人も傷つけておきながら、慰めにも走らない男が野蛮でないと誰が信じる?紳士ならば、即座に悲しむ女性を慰めるものだろう?

それとも君にとっては女性の涙などどうでもよくて、女性たちの悲しみに暮れる心にも寄り添わない男を紳士だと思っているのか?」

 

バッ

 

「決闘だ!」

 

頭に血が上ったのだろう、少年は勢いよく手に嵌めていた手袋をキースの胸に向けて投げつける。

 

「…少年、意味は分かっているのかな?」

「勿論分かっているとも!そこまで侮辱されて決闘もしないとは僕の誇りに反する!ヴェストリの広場で決闘だ!!」

「はぁ、いいだろう。後悔しない事だ」

「そっちこそ後悔するなよ!」

 

ズンズンと少年は、その場から離れていく。騒いでいた男子生徒たちも居辛いのか少年についていった。

 

「…大丈夫かな、黒髪のお嬢さん」

「は、はい!あ、あの大丈夫なんですか?貴族様と決闘なんて」

「問題ないよ、すぐに終わるだろう。お嬢さんが気に病むことはないさ」

「貴方!勝手に決闘なんて、何やっているのよ!」

「さて、彼が勝手に言ったことだが貴族が挑んできたことに反対しても面倒だからな。まぁすぐに終わらせるさ」

 

キースの肩に留まったままだった黒曜がキースに手袋を投げつけられた時点で飛び立ち少年の後を追いかけていた。それを追えば、ヴェストリの広場の場所は分からないが迷わないだろう。

 

「ケガさせないように気を付けないとな」

 

ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内の『風』と『火』の塔の間にある中庭である。そこは西側にある広場なので、そこは日中でもあまり日が差さない。決闘にはうってつけの場所である。

しかし、今は決闘のうわさを聞き付けた生徒たちで広場は溢れかえっていた。

 

「諸君!決闘だ!」

 

少年が、薔薇の造花のような杖だろうものを掲げる。うおーーっ!と歓声が上がった。

 

「ギーシュが決闘するぞ!相手は、ルイズが召喚した奴だ!」

 

周りを見回して、興奮しながらも顔色の悪い子たちも居る。他国の要人に決闘を挑んだギーシュの行動に不安を感じているんだろう。

 

「さて、始めようか」

「構わない」

 

ギーシュは、笑みを浮かべると薔薇の造花型杖を振るう。花びらが一枚落ちると、甲冑を着た女騎士の形をした人形が現れる。表面は金属の光沢があり、分かりやすくいえば女騎士型のゴーレムか。

 

「僕の二つの名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」

「ワルキューレね…名前負けしてるな」

 

ワルキューレはヴァルキュリャとも呼ばれ北欧神話にて戦死者を主神であるオーディーンの元に連れていく女性の事だ。

 

「っ!行け!」

 

ギーシュの号令にワルキューレと名付けられたゴーレムがこちらに突撃してくる。

 

「弱い」

 

突撃を体を横にずらすことで避け、ワルキューレの通り道に武器を置き触れた瞬間に叩き切る。いつの間にか一本の武器がキースの手に握られていた。

 

「なっ!『武器』だと!?平民どもがせめてメイジに一矢報いようと磨いた牙が何故ここに」

「言ってなかったか?私は、王家の剣術指南役。こっちも私の得意分野だ!」

 

驚いて動きを止めているギーシュの手に持つ杖に狙いを定め、

 

「ぐっ!」

「遅い!」

 

杖を持つ手を木刀でケガをさせない程度の強さで叩き、取り落とした杖を軽く上に上げるように打ち上げそれをキャッチする。

 

「これで終わりだ」

 

喉元に木刀を突きつけて終了。メイジは杖がないと魔法が使えないので逆転の目は欠片もない。

 

「杖もないメイジにこれ以上の攻撃は無理だろう、降参でいいか?」

「あ、ああ…僕の負けだ」

(しかし、なんだこれは?)

 

ある事を疑問に思い、木刀をギーシュに突きつけながらステータス画面を開くとステータスが5割り増しぐらいになっていた。しかも木刀をどう振ればいいか余計な知識が頭の中に浮かんでしまう。それを気持ち悪く思いながらも降参したギーシュに突きつけていた木刀を下し、背を向けてその場を離れようとするが

 

「待ってくれ!どうして魔法を使わなかったんだ、貴方はメイジだろう!?」

「……ガキ相手に魔法を使う?今のところ他国の人間を殺すことはしたくないから加減がやりやすい武術で相手をしたんだが?」

 

暗に使っていれば殺していたかもしれないと匂わせればギーシュの顔は強張った。

実際、ゲームの世界での対人戦は相手が死んだとしてもペナルティ付きで復活する世界だ。手加減も出来ると言えば出来るが魔法は威力が決まっていてはっきり言えば手加減には向いていない。

 

「それじゃ、あの子達に詫びでもしとけよ。女ってのはたとえどんな女だろうと大切にするものだ、自分より強くても、自分より長く生きていてもな」

 

人の生け垣が分かれ、丁度その向こうにいたメイドとルイズを見つけてそこに向かって歩いていく。

 

「心配なかったろ?」

「最初から心配なんてしてないわよ、王族指南役なんだから。ま、魔法を使わないで勝っちゃうとは思わなかったけど!」

「き、貴族様に勝ってしまうなんて」

「先ほども言ったが、私の国の魔法は加減が難しい。間違って殺して問題を起こすと師匠たちに説教されるからな」

 

まぁ、母さんと父さんの方は気にしないし、師匠たちも大して気にもしないだろう。

むしろ、叩きのめさなかったことを責められるかもしれないがそんなことを言っても意味はないので何も言わずに木刀をアイテムボックスの中に収納する。

 

「初めまして、メイドのお嬢さん。私の名はキース、ベルジック家が王家の指南役をしているしがない冒険者だ」

「お、王家の関係者なのですか!?」

「師匠と母が王家と関係があってね、その伝手だよ。こっちの近くの国じゃないから殆ど平民みたいなものだ、よろしくな」

「は、はい!?」

「王族の指南役が遠い他国とはいえ平民なわけないじゃない!もう、早く校長先生のところに行って貴方の部屋の事を相談するんだから行くわよ」

「ああ、じゃまたなメイドのお嬢さん」

 

その後、オスマンに相談すると教師達の部屋がある場所の空き部屋を提供すると言われてキースの部屋が決まった。



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召喚士とゼロ4

キースが魔法学院の生徒ルイズに使い魔と召喚されて約1週間が経った。

ルイズが明日は虚無の曜日で学院が休みだから出かけないかと聞いてきた。そろそろ夜中の空中散歩だけでは飽きてきたのでよろしく頼むと了承した。

約一週間の間は特に何もない、朝に与えられた部屋から出てルイズを迎えに行き朝食を食べ共に授業を受け、昼食を食べ、また授業を受けたり何故か文字が読める事が分かったので図書館で知識を仕入れたり、夕食を食べ終わったらそれぞれの部屋に戻り、用意した拠点に転移して召喚モンス達と手合わせしたり大まかな地理を知るために空中散歩をしたりして僅かな睡眠をとるために部屋を戻るというのを繰り返していた。

いい加減変化が欲しいと思っていたところなのでルイズの提案は渡りに船だった。

明日の初めてのこの学院の外の街に心を馳せ歩いていると

 

「キュルキュル」

 

ルイズを部屋に送った後、与えられた部屋に戻ろうとしようとして鳴き声が目の前から聞こえて足を止める。

 

「キュルケ嬢のサラマンダーか?何か用でも?」

「キュルキュル」

 

1週間でだいぶ慣れたのか最初の頃のように固まったりはしないがこのように積極的に近づいてきたのは初めてだ。

スリスリと足元に甘えるように絡まるとそっとある部屋へと入っていく。その部屋は光が落とされ暗く、まるで何かを誘い込むように開いていた。

 

(……流石になぁ)

 

しかし、キースは暗視を自身に付与する魔法を夜になると使う様習慣づけているためその闇の仲が見えてしまう。

少女とは思えないほどの抜群のスタイルとそれを飾るベビードールを着たキュルケ嬢が部屋の中で待っていた。その目は獲物を狩る肉食獣でその獲物とは自分の事だろうと何となく察した。

 

(『微熱』のキュルケ…恋多きメイジだったか?)

 

その抜群のスタイルと蠱惑的な雰囲気で多くの男子たちを虜にしていると耳に入っている。現に気配察知にこちら側に向かっている反応が複数あった。きっと夜のお楽しみを予約していた紳士たちなのかもしれない。

きちんと管理できていない所に少女らしい未熟さが見える。

 

コンコン!

 

「キュルケ…待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば!」

「ペリッソン!ええと、2時間後に」

「話が違う!」

 

早速予約した紳士が来たらしい、他にも気配が複数あるのでその多感さに苦笑してそっと開いていた扉を閉めた。

 

「あ、待ってぇぇ」

 

 

虚無の曜日、昨日の出来事は心の奥底に仕舞い街に向かうための馬を借りようとしたルイズを止める。

 

「せっかくなら私の馬に乗らないか?」

「貴方の?」

「ああ、サモン・モンスター パナール」

 

魔方陣が現れ八本足の黄金の鎧をまとった馬が召喚される。

 

「スレイプニルのパナールだ。パナール、今の私の護衛対象のルイズだ」

「   」

 

ルイズは現れた立派な駿馬に言葉をなくし見つめていた。

 

「よっと…ん?ほら、ルイズも」

「…え…えっと私は学院から借りて」

「そこらの馬だとパナールについていけないぞ。大丈夫、私と一緒なら乗れるからおいで」

 

ルイズが伸ばし来た手を取りルイズを自分の前に乗せる。

 

「わぁ、高い」

「さて、道をまっすぐ行けば街だったかな?」

「ええ、まっすぐ進んだ先に城下町があるわ」

「よし、行くぞ。あまり、張り切るなよパナール」

 

普通の馬で3時間かかる道を1時間半で走り切ったことをここに記しておこう。

 

「とても速かったわ」

「あれでも全力は出してないぞ」

 

城下町に着きパナールを送還してさっそく街へと歩き出す。白石造りの街はまるでゲーム世界に戻ってきたかのような心地になる。

 

「とりあえず、貴方が興味ありそうと言えば武器屋とかかしら?」

「どこでもいいが、確かに武器屋は気になるな」

「じゃ、こっちよ」

 

ルイズと共には言った路地裏は悪臭が鼻につき、ゴミや汚物がそこらの転がっていた。

暫く歩いた先に剣の形をした看板が下がっている店がありそこに入っていく。店の仲は昼間だというのに薄暗く、ランプの明かりが灯っていた。

壁や棚に所狭しと剣や槍が乱雑に並べられ、立派な甲冑が飾ってあった。店の奥でパイプを加えていた親父が入ってきたルイズを胡散臭そうに見つめるが、紐タイ留めに描かれた五芒星に気づく。

 

「貴族のお嬢様。うちは全うな商売をしてまさぁ。お上に目を付けられるようなことなんかこれっぽっちもありませんや」

「今回は道案内よ」

「道案内?」

「そうよ、どお貴方の目から見て欲しい物はあるかしら何でもは無理だけど一本位なら贈らせてもらえないかしら?」

「…今は手持ちがないからな、もしも欲しい物があればご厚意に預かろう」

 

キースはさっそく乱雑に置いてある武器を見て回る。

 

「あの方は誰ですかい?貴族のお嬢様が直々に案内なさるとは」

「剣とか武器に興味があるっていうから案内したの。何かお気に召すものがあればいいのだけれど」

 

その様子を見守るルイズと店主を尻目にキースは、武器をざっと見て回る。

 

(特に欲しい物は…ん?)

 

【武器アイテム:剣】 意思ある魔剣 デルフリンガー

 

魔力付与品

 

はるか昔、虚無の魔法と先住の魔法により命を吹き込まれ虚無の使い魔の武器として生を受けた魔剣

今は力の大半を封印しているが、その封印が解けた時真の姿と力を現し虚無の使い魔を助けるだろう

 

 

「…成程、面白い物があるな」

 

その件は刀身が細い薄手の長剣。表面には錆が浮き、お世辞にでも使えるとも思えない見た目をしているが鑑定によって得た情報を見てそれを手に取った。

 

「おいおい、おどれぇた。ここまでの実力がるやつぁが真っすぐに俺を手にとるたぁ」

「それって、インテリジェンスソード?」

「しかもてめ、『使い手』かよ。凄腕で使いてとわぁ、俺ぁついてるな。おいてめ、俺を買えよ」

「意思のある武器か、うん店主こいつはいくらだ?」

「そいつを買ってくれるなら百で結構でさ。口うるさくてたまらねぇ」

「ふ~ん、いいわそれなら余裕で買えるし他に欲しい物はないの?予想外に安く済んだから余裕はあるわよ」

「いや、こいつだけでいい。他は私が持っている物の方が良い物だしな」

「ほう、旦那。あんたの武器がここにあるどんな物よりも良いと?」

 

武器屋のプライドか、それとも大した金も持ってなさそうな男の武器より悪いと言われたか挑発するように言ってきた店主に肩をすくませ、デルフリンガーを店主に手渡した後、マジックバックから一本の小刀を取り出す。

 

「最低でもこれ位ないとな」

 

神鋼鳥の小刀を見せると店主とルイズが吸い込まれるように見つめた。

 

「こいつぁ、なんでできているんですかい?」

「私の国に住む鋼鉄の羽を持つ鳥の羽を加工して作っているんだ。大抵のものは切ってしまう凶暴なやつだった」

「これが鳥の羽なの?」

「ほぉ、すげぇもんだな」

「こりゃ、俺の店にあるやつじゃ役不足って言われてもしょうがねぇな。ちょいと持ってみてもいいかい?」

「重いぞ?」

「っ、旦那これアンタ使えるのかい?」

「勿論」

 

店主が僅かに持ち上げてすぐに机に戻した小刀を軽々と持ち上げる。

 

「流石に動くにはここは狭いから証明はできないが私の近距離戦の主兵装だよ」

「成程、旦那はすげぇ達人みたいだな。よっと、こいつがうるせぇと思ったら鞘に入れればおとなしくなりまさぁ」

 

デルフリンガーを鞘に入れた店主から受け取る。ざっと見た長さは150㎝、長さ的に両手剣に部類され腰に下げるには少々長い。

それを見越してか、鞘には肩にかけるショルダーベルトがある。とりあえず肩にかけるようにして背負ってみる。

 

 (そういえば、今まで抜き身だったけど小刀とか短剣位は鞘付けないと危ないか…あとで作らせるか)

 

今までは戦場でしか、武器を持ち歩かないので鞘とかはつけてなかったがこれからは必要になるかもしれない。

 

「よし、武器屋は終わったしどこか別の場所に行きましょうか」

「そうだな、なら適当なお店と昼食を食べたりしようか」

「そうしてくれると嬉しい。色々見てみたいからな」

 

武器屋を出て路地裏から出ると雑貨屋や露店を見て回り、適当な食堂で食事をとり学院に帰っていった。

 

 

「キース様、そんなボロ剣なんて捨てて私の贈った剣を使ってちょうだい!」

「へ?」

「は?」

 

折角だからとキースの召喚モンス達の毛並みのブラッシングをモフモフを堪能しながら過ごしていたらルイズとキースのもとに大きな大剣を持ったキュルケとその後ろを青い髪で眼鏡をかけた少女がついて歩きながら突撃してきた。

 

「ちょっと、ツェルプストーがキース様に贈り物をするのよ?まさかキース、この女に誘惑されたんじゃないでしょうね!?」

「誘惑されたが乗ってないぞ?幾人もの約束があったようだし、下手に女性に手を出して何かあっても困るからな」

「あの時はごめんなさい、私のお友達達が押しかけてしまって…私あの決闘を見て貴方に恋をしてしまったの!あの時の貴方の戦いを見て私に恋の炎が灯って、いつも貴方の事を考えてしまう!

思わず、貴方が街に行くと聞いてタバサに頼んでその後を追いかけてしまう位!」

 

キュルケは頬を赤らめてキースを見つめている。タバサだろう青い髪の少女を見てその隣に小さな竜がいるのを見てそれで追いかけてきたのかと思う。

 

「そ、そうなのか」

「ええ、貴方の乗っていた馬がとても速くて追いつくのが大変だったけど追い付いてついていってみれば武器屋に入っていったわ。そこで買ったのがボロボロで錆びついた剣だっていうじゃない!

貧乏なヴァリエールのせいでそんな粗末な剣を勝ったのでしょう?

私ならこんな豪華で立派な剣を贈れるわ!ぜひ受け取ってちょうだい!」

 

キュルケが出したのは豪奢な飾りと模様があるレイピアだ。余りにも華美すぎて実用品ではなさそうだ。それを見てルイズは鼻で笑う。

 

「フン、そんな玩具がキース様のお気に召すと思ってるの?あとお金が無くてアレしか買えなかったんじゃなくてアレ以外キース様の気を引くものが無かったのよ!

アンタのそんなほっそい弱そうな剣よりもずーとずーと強い武器を持っているんだからキース様のお気に召した剣を買ったのよ!!」

「なぁに?ヴァリエール、もしかして負け惜しみ?私がこんな綺麗で立派な剣を買ったのに嫉妬しているの?」

 

言い合いは終わらない、もはやキースと剣の事すら忘れかけているかもしれない。

 

「…ヴォルフ、どうおもうあれ」

「ガゥ」

 

キュルケの手にあるレイピアを見て召喚されてブラッシングを受けていた大神のヴォルフが論外だと顔を振る。

 

見せかけのレイピア

【宝物】

完全な観賞用に作られたレイピア。武器としての性能は皆無

 

と出ている鑑定結果に笑うしかない。流石にそんなものを渡されても困るのだが彼女たちに武器の目利きを期待するのも無理な事でもある。

 

(さて、どうしたもんか)

 

「もう、許さないんだから!」

 

ルイズが杖を取り出しルーンを唱えるが見当違いの場所が爆発。

 

「ゼロ!ゼロのルイズ!壁を爆発させてどうするのよ!あなたってどんな魔法を使っても爆発させるんだから!あっはっは!」

 

馬鹿にしたように笑うキュルケにさらに怒りが増したのかもう一度杖を構え呪文を唱えようとして

 

「な、なにあれ!?」

 

ルイズが呪文を唱えるのを中断してキュルケの後ろを見る。キュルケとタバサ、キースもその方向を見るとそこには巨大な土のゴーレムが現れていた。

 

「なんなのあの大きさトライアングルクラスのメイジじゃないの!」

「下がれ、3人とも!」

 

驚いて固まっているルイズとキュルケを片手で俵のように抱き上げて後ろに下がらせる。タバサ嬢は、言われる前に動いて竜に乗って退避しているので心配はない。

 

「ヴォルフ!」

「ガァァァア!」

 

キースの声を受けてヴォルフがゴーレムに躍りかかる。

 

(キレート!)

 

常に陰に潜ませているキレートにも声を掛け、オリハルコンメイスを取り出しゴーレムに襲い掛かる。

ヴォルフが攻撃を繰り出しているが、欠けたかと思えばすぐに再生する様子で攻めあぐねているようだ。

 

(再生力が高いな、それじゃあ)「ヴォルフ!」

「!」

 

幸い鉄という耐久性が高い素材でもない、キースが右足を、ヴォルフが左足を担当し

 

「ハァ!」

「ガァ!」

 

メイスと霊撃で足を完全に崩した。

 

「ディスペル・マジック!」

 

幸いゲームの時と違いこのゴーレムは魔法によって動いている。足を壊し接近し魔法を解除してしまえば敵ではない。

 

(よし、犯人も確保したし問題なしだな)

 

物陰に潜んで此方を伺っていた犯人だろう人物も捕縛は完了した。

 

「大丈夫か、3人とも。怪我はないか?」

「問題ないですわ!キース様!」

「キース様がさっさと倒したから怪我をする間もなく終わったわね。でもさっきのゴーレムは何だったのかしら?」

「…問題なし。でもどうやってゴーレムを倒したの?」

「キュウ!」

「怪我がないようで何よりだ。先ほどのゴーレムは魔法によって動いていたようだからな、私の国にある魔法を解除する魔法で動かしていた魔法を解除したんだ」

 

キースの言葉にピクッと今まで大して動いていなかったタバサの表情がほんのわずかに動いたように見えた。

 

「魔法を解除する魔法?」

「そう、戦闘にはあまり使わないがこういう物にかかった魔法とかを解除するのに有効だな。後は、魔法で異常な状態にされた人物相手にとかにも使えるがそっちに関してはあまり使い勝手はよくないな」

「異常な状態になった人に使える…」

「とりあえずそろそろ暗くなってきたから部屋に戻ろう。あんなものも出たし、犯人捜しは教師たちに任せた方が良いだろうしな」

「そうね、さっさと部屋に戻りましょう」

「キース様、この剣を受け取って…って、ああ!」

「あらぁ、ツェルプストーアンタご自慢の剣ゴーレムに潰されっちゃってるじゃない?こんな潰れてひしゃげたのなんの役にも立たないじゃないの」

「あのゴーレム!犯人を見つけたらただじゃおかないわ!」

 

いつの間に手から落ちていたのかキュルケの手にあった豪奢なレイピアは、ゴーレムの足の下敷きになりひしゃげもはや使い物にならなくなってしまった。

それを見て怒髪天の如く怒るキュルケにルイズは満足そうな笑みを浮かべ、タバサは何か考え込んでいるようで俯いて黙っていた。

後日、あのゴーレムは今話題の第怪盗『土くれのフーケ』の魔法が学院の宝物庫を狙ったことが分かったがそれ以降土くれのフーケは現れることはなかった。

 

 

 

「…っ、ここは」

「お、起きたな」

 

土くれのフーケ、いやミス・ロングビルは意識を取り戻した。そして聞こえてきた声にバッと起き上がる。

 

「ゴーレムの魔法を使っていた犯人だよな?まぁ違うって言われても私の中ではあなた以外犯人になりえる人がいないって思っているから嘘ついても意味ないぞ?」

「…いったい何をおっしゃっておられるのかわかりませんわ」

「成程、しらを切ると…まぁ、とりあえず話を聞け、それで自分に有益だと思うなら正直に話すといい」

 

キースは、警戒して距離を取るミス・ロングビルを見て苦笑しながら部屋にあったソファに腰かけ用意してあった紅茶を口に含む。

 

「まず、貴方の名前はマチルダ・オブ・サウスゴータで今話題の大怪盗土くれのフーケ。ロングビルという名は偽名だろう?」

「っ!」

「私は君の出自に関して何も言うつもりない。私が欲しているのは君の盗品を売りさばく人脈だ」

「…」

「君も知っての通り、私はこの国の人間ではない。貴金属を持っていても売りさばく伝手がないのでね、是非君の伝手を使って私の持つ貴金属を売ってほしいのさ。

勿論タダでとは言わない、そうだな6:4。純利益の4割でどうだろうか?君は盗賊という危険な事をしなくていいし、私は貴金属を売って現金を手に入れられる。どちらの損にもならないと思うがどうかな?」

「…」

「勿論、他にも要望があるなら叶えられるなら叶えよう。今君と私がいるのは海のど真ん中にあってそこそこ大陸とは離れている小さな島でね。土系統が得意な君だとここから逃げられないし、他の人間も特殊な結界を張ったここは入る事が出来ない。

野菜や果物の栽培を始めて、君がお金を調達してくれるなら近々家畜も飼おうと思っている。常に私の使い魔が常駐し戦力にも不足はない。貴金属もある程度調達できる体制が出来ているから商品が無くなるという心配はないだろう」

 

ソファの前のテーブルに置いてあるベルを鳴らすと幾人もメイドや執事の姿をした召喚モンス達が入ってきてワゴンを押しては戻り押しては戻りを繰り返し上に布がかけられたワゴンが20個ほど運び込まれる。

その布が取り払われると

 

「!?」

「これは、私が今用意できている貴金属の一部だ。どうだい?こちらに雇われるつもりはないかい?」

 

ワゴンの上には様々な宝石や金銀のインゴット、マチルダも見たことの無いような精巧な細工が施された宝石が煌くアクセサリーなどが乗せられていた。

 

「…どうやってこんな量を」

「お、やっと反応してくれたね。そうだな、君には見せた方が早いかもしれない。少し外に出ようか」

 

やっとこちらの話を聞く気になったのか、質問をしてきたマチルダに笑みを見せソファから立ち上がり外へと歩き出した。

少し後ろをついて歩き出したマチルダをたまに確認して、新たに設置された城館を出ると闘技場に向かって歩き出す。

 

「さぁ、ここだよ」

「何だいこれは」

「闘技場であり召喚の場でもあるね」

「?」

「まずは分かりやすいのからかな?」

 

闘技場の中心に移動するとポータルガードの 獅子吼と雷文が待っていた。

 

「さて、マチルダ嬢私から余り離れない様に。

 

 

コール・モンスター ベリルビースト」

 

何故だか知らないがコール・モンスターの使用がゲーム世界と変わっていた。モンスターをおびき寄せる呪文ではなく、戦い勝ったことのあるモンスターを呼び出す呪文へと変わっていたのだ。

ベリルビーストがすぐさま獅子吼と雷文に食いつかれ抵抗する間もなくその命が消えると、その死体があった場所に石のようなものが一つ現れる。

 

「今回はエメラルドか」

「今のは一体何なんだい!?大きな化け物が現れたと思ったらすぐに殺されて石ころが現れる!?どうなってんだい!」

「ここは、不思議な力が働いていてね。さっきは私の国に生息する魔物でここで殺すと稀に宝石を落としてその死体を消していくんだ」

 

今回はポータルガードが殺したので死体が自動で消えたが、キースやそのパーティーの召喚モンス達が倒すと死体が丸々残ってドロップアイテムが手に入らない代わりにその魔物本来の素材を丸々一頭分手に入る様になっている。キースがドロップアイテムが欲しかったら剥ぎ取りナイフを突き立てればドロップアイテムになる仕様になっていた。

 

「後はこれを磨けばさっき見た宝石の出来上がりってわけだ。さっき見せた金や銀もそうやって入手している。そして私の国だと魔物は絶滅するという事はなかったから無限にそれらを手に入れられるという事でもある」

「  」ゴクッ

「まぁ、倒さないといけないという手間と落とす確率が低いというものあるし、加工や細工を施すのもそれなりに時間がかかるがあまり市場に流して安くなるのは困るしな。

さて、ミス・マチルダ。怪盗をやめて私の貴金属を売りさばいてくれないか?」

「…いいよ、やってやろうじゃないかい。ただし、ある条件を飲んでくれるならだけどねぇ」

「言ってみな。さっきも言ったように叶えられる願いは叶えよう」

 

その言葉に一度だけ息をのんで真剣な表情をしてマチルダは条件を述べ始める。

 

「まず一つ、アンタとの接点を持ったままでいた方が都合がよさそうだからあのエロ爺の秘書はそのまま継続させてもらいたいね」

「かまわないよ。君にとっても秘書の給料があった方がいいだろうし、売りさばくのもそう頻繁に行う事じゃないだろうしね」

「次に…」

 

 

 

 

「よし、契約成立だね」

「それじゃあ、さっそく質問良いか?」

「質問って何だい?」

「とりあえず、ここで手に入りそうなもので高値で売れる奴を教えて欲しい。どういう装飾品が売れるかとか、どういう宝石が人気だとか色々あるだろ?

布や料理とかもある程度体制が整えば出来るし、今のうちに何をするか決めておいた方が無駄がない」

「む、それもそうだね」

 

おおむねマチルダの条件は全て通り、キースは裏社会にある程度通じる人材を手に入れる事が出来たのだった。

 




一巻の最後のパーティーってどういう理由で開催されたんでしょうか?土くれのフーケ撃退記念とかだと開催されないので書いてないのですが皆さん知っていたら教えてくださると嬉しいです


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召喚士とゼロ5

うん、めっちゃ原作と違う展開になってしまった。
サモナーさんだとどうしてもこういう方向に行ってしまう。とりあえず書いたので投稿しますが、もしかしたらIF扱いになるかもしれません


ポータルガードとパーティーモンスを召喚し、10匹のスケルトンマンモスと30匹のラプターを用意する。

あとは、自分は羅刹や護鬼などと対戦を他のモンス達がスケルトンマンモス達を倒し終わるまで続け倒したら解体ナイフを突き刺しドロップアイテムを回収する。相変わらず回収率は高くないがその分は量で補う。

古代石と古代石柱は、石工を持つドール系モンスターを3匹ほど促進培養で増やした。他にも鍛冶や細工を持ったドール系も増えた。

 

「キースさん!もうそろそろ、お時間ですよぉー」

「!分かった、これで終わりにしよう」

 

熱中していて気が付かなかったが時計を見てみるとそろそろ睡眠を取りに戻らなければならない時間だった。

最後に召喚されたモンスターたちが倒され、ドロップアイテムを回収し終わると闘技場に来ていた少女に近づく。

 

「毎日すまないな。つい、熱中してしまう」

「大丈夫ですよ。見ているだけでも面白いですし」

「そうか、負担でなければいいんだが」

 

土くれのフーケことマチルダを雇って、雇用条件の一つを迎えに行った。空中に浮かぶ国アルビオンの森の中に隠されるようにあった小屋に住むハーフエルフとそのハーフエルフが面倒を見ていた孤児たちだ。

ハーフエルフのティファニアは、マチルダを『マチルダ姉さん』と呼び慕いマチルダの方もティファニアを妹のように思っているようで、今までの怪盗家業の報酬も大半は彼女と孤児たちの生活費として使っていたらしい。

最初に聞いた時、この島に来る以上完全に人間社会とは切り離されるが問題ないのかと問うとあっちにいるよりこっちの方が安全だから問題ないと即決していた。

トリステインやアルビオンなど周辺各国ではエルフなどが迫害の対象になっていてハーフであるティファニアも迫害の対象で最悪の場合殺されることもあるという。

この島は、基本的に関係者以外立ち入りを禁止する結界もあるし、元々トリステインなどがある大陸からも離れているので安全安心という訳だ。

 

「さて、そろそろ戻るか」

「行ってらっしゃいませ!」

 

ティファニアに見送られてキースは魔法学院へと戻っていった。

 

「最強の系統は知っているかね?ミスツェルプストー」

「『虚無』じゃないんですか?」

「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているんだ」

 

『風』の系統の授業。土もそうだが、彼も自分の系統が自慢らしい。

『疾風』のギトーという先生がキュルケの魔法を防ぐが、生徒と先生では力量が違うのだから防げるのは当たり前だとも思う。

先生が生徒の魔法を防げないなどほぼほぼあり得ないだろう。態々生徒を虐めて自分が上だと示す、些か教鞭をとる者として相応しい態度ではないとも思う。

その様子を冷めた目で眺めていると、『火』の系統の授業を受け持つコルベールが教室に入ってきて、今日の授業は全て取りやめになりトリステインの王女アンリエッタが魔法学院を訪問するので出迎える準備をするの授業を取りやめにすることにしたらしい。

 

「諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ!覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい!よろしいですかな!」

 

 

魔法学院に続く街道を、アンリエッタ王女殿下とマザリーニ枢機卿の馬車が清々と歩んでいた。2台の馬車の四方を固めるのは崩室曲族の近衛隊『魔法衛士隊』の面々だ。

名門貴族の子弟で構成された魔法衛士隊は国中の貴族の憧れだ。男の貴族は誰もが魔法衛士隊に入隊したがり、女の貴族はその花嫁になる事を望んでいる。トリステインの華やかさの象徴とも言えた。

街道は花々が咲き乱れ、街道に並んだ平民たちが、口々に歓呼の声を投げかける。

 

「トリステイン万歳!アンリエッタ姫殿下万歳!」

 

馬車の窓からそれに答え花のような笑みを浮かべて手を振る王女に人々はさらに歓呼の声を投げていた。

それは魔法学院でも変わらず、生徒たちは歓声を上げて王女一行を出迎えていた。

 

その日の夜は、ルイズは落ち着きがなかった。王女一行を迎えていた時は、その護衛の1人を見て頬を染めて見ていたのでその護衛が婚約者で部屋に訪れるのを待っているのかもしれない。

座ったり立ったり、枕を抱いてぼんやりしたり忙しない。

それを見守っていると、ドアがノックされた。ノックは規則正しく叩かれた。初めに長く2回、それから短く3回…ルイズの顔がはっとした顔になり急いでドアを開けた。

そこに立っていたのは真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった少女。

 

「……あなたは?」

 

ルイズは驚いたような声を上げたが、頭巾をかぶった少女はシッと言わんばかりに口元に指を立てた。それから、頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から、つを取り出すと呪文を呟く。

光の粉が部屋に舞う。

 

「…ディテクトマジック?」

 

ルイズが訪ねた。頭巾の少女が頷く。

 

「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからね」

 

部屋のどこにも、聞き耳を立てる魔法の耳や、どこかに通じるのぞき穴がない事を確かめると、少女は頭巾を取った。

 

「姫殿下!」

 

そこにいたのは、アンリエッタ王女殿下だった。ルイズが慌てて膝をつく。キースは、どうすべきか一度考えて会釈にとどめた。

 

「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」

 

ルイズとアンリエッタ王女殿下は、幼馴染らしい。宮廷の中庭で蝶々を追いかけたなど昔話に花を咲かせている。最初は堅苦しい態度を取っていたルイズだが、昔話をするにつれてきやすい態度に変わっていった。アンリエッタ王女殿下はそれが狙いのようで態度が気安くなるにつれて嬉しそうに微笑む。

 

「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら?」

「お邪魔?どうして?」

「だって、そこの彼「あ、姫様に紹介してませんね!彼の名はキース、私が使い魔として召喚してしまった人です」

「ご紹介に預かりました。ルイズ嬢の使い魔を務めております、キースと申します。お見知りおきを、アンリエッタ王女殿下」

「まぁ、使い魔?はぁ、ルイズ・フランソワーズ、貴方って昔からどこか変わっていたけれど相変わらずね」

 

そう言うと、アンリエッタ王女殿下はため息をついた。

それを気にしたルイズが問いかければ、誰にも話すなと最初に告げてからアンリエッタ王女殿下は事情を話し出した。

アンリエッタ王女殿下は、ゲルマニアと同盟を結ぶために輿入れをすることになったといえばゲルマニア嫌いのルイズは憤慨した。

同盟は、アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、今にも王室が倒れそうなこと。反乱軍が勝利したら次にトリステインに進行してくるだろうということ。

それに対抗するためにゲルマニアとの同盟が必須であり、ゲルマニア皇室に嫁ぐ事になったと言えば流石のルイズも政治的に必要な事だと理解したのか肩を落とした。

口調からその結婚を望んでいないと分かるが一貴族であるルイズに出来る事は何もないと分かっているからだろう。

 

「…私の婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しています」

「もし、そのような物が見つかったら…」

 

同盟を妨げるものを反乱軍側が探しているとアンリエッタ王女殿下が言えば、そんなことを言うならばもしやあるのではないかと想像して顔色が悪いルイズが問いかければアンリエッタ王女殿下はかおを両手で覆うと床に崩れ落ちた。

 

(捨て駒か)

 

その芝居がかった仕草にこの後の展開を想像して、流石為政者だとアンリエッタ王女殿下に感心した。幼馴染さえも切り捨て同盟を成すために利用する。まさしく為政者の行いだ。

アンリエッタ王女殿下は、一通の手紙が婚姻を妨げる材料になるという。どこにあるのかとルイズが問えばアルビオン王家のウェールズ王子が持っているという。

そこまで言えば、何故人目を忍んでまでアンリエッタ王女殿下が来たのかわかったルイズが使命感に駆られて自分が取りに行くと言った。

しかも、すでに敗北一歩手前だから明日にでも出発するという。

 

「あの、キース様…」

「いいぞ、暇だったし今の私はルイズの使い魔だからな主人の身を護る事は使い魔の仕事だろ?」

「助かったわ、頼りにしてるわよ」

 

その後ギーシュが突撃してきたが、特に問題はない。守る対象が増えたがサモナーであるキースなら多少増えた位問題はない。

アンリエッタ王女殿下がギーシュの参入を認め、親書と指輪を託して部屋から出ていった。

 

次の日の朝、ルイズたちは学院の入り口に立っていた。

 

「さて、馬を用意していないがどうやって行くつもりなんだい?」

「キース様が考えがあるって言ってたけど」

「空ならこいつだな。サモンモンスター アードバーク」

 

大きな魔方陣が現れたかと思うと、その魔方陣の上に巨大な鳥が現れた。

 

「ほら、乗るぞ」

「……あの、この鳥は?」

「私の従魔のアードバーク。こういう時に一番使える奴だな、ほらさっさと乗り込め」

 

キースは、アードバークの背によじ登るとビックリして突っ立ったままの二人に手を伸ばす。

 

「あっ、僕の使い魔も連れて行っていいかい?」

「一人や二人増えても変わらないから問題ないぞ。それよりさっさと乗り込め」

「え、ええ」

 

ルイズが掴んだ手を引き上げて背に移動させる。ギーシュの足元の横が盛り上がったかと思うと大きなモグラが地面から顔を出す。

ギーシュがモグラを引き上げながらアードバークの背に乗るのを確認して

 

「じゃ、出発「待ってくれ!」ん?」

 

朝靄の中から一人の男が走り寄ってきた。昨日の出迎えの時ルイズが見つめていた男だ。

 

「誰だ!?」

「僕は敵じゃない。姫殿下より、君たちに同行することを命じられて。君たちだけでは心もとないらしい。しかし、お忍びの任務である故一部隊も付けるわけにもいかず。

そこで僕が指名されたって訳だ」

 

長身の貴族は帽子を取ると一礼した。

 

「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊対象ワイド子爵だ」

 

文句を言おうと口を開きかけたギーシュは、相手が悪いと知ってうなだれた。魔法衛士隊は全貴族のあこがれである。ギーシュも例外ではない。

 

「ワルド様…」

 

ワルドは予想通り、ルイズの婚約者であったらしくルイズを見て人懐っこい笑みを浮かべた。

 

「婚約者と再会して嬉しいのはいいが、アンタも来るならさっさと乗れ。ああ、グリフォンも一緒に乗るといい暖を取るのにちょうどいいからな」

「君がルイズの使い魔か?人とは思わなかったな。それにこの巨大な鳥は?」

「こいつでアルビオンまで直通だ。こういうのは速度が命だからな」

「ハハハハ、それは何かの冗談なのかい。こんな鳥があそこまで飛べるわけが「キュエェェェ!」

 

自分が侮られたのが分かったのだろうアードバークが不機嫌そうな声を出してワルドを睨み付ける。

 

「さっさと乗れ」

 

睨み付けられて固まってしまったワルドを一度地面に降りてアードバークの背に投げ飛ばし無理やり乗せて乗りなおす。

 

「ちょ、ワルド様に何を」

「口を閉じておけよ、舌噛むぞ。アードバーク!目標アルビオン!」

「キュエェェェ」

 

アードバークが小さな声で鳴くとその大きな翼を羽ばたかせて大空へと舞い上がる。それに上空に待機していたであろうワルドのグリフォンも慌てて続いた。

 

 

 

「さ、寒い」

「そりゃあ、空だからな。ほら、防寒具」

 

凍えているルイズとギーシュに適当な防寒具を渡す。

 

「アードバーク、いったん速度を落とせ。それでグリフォンを呼べ」

「わ、わかった」

 

アードバークが速度を落とし、ワルドがグリフォンを呼べばアードバークの速度にやっとこさついて言っていたグリフォンが息を切らせてアードバークの背の上に乗った。

 

「サモンモンスターナインテイル、命婦」

 

白狐と妖狐のナインテイルと命婦を召喚し

 

「グリフォンはそこに座れ、ワイド子爵様はそこ、ルイズとギージュはそこでギーシュは自分の使い魔を抱いてルイズはこいつらを抱いておくといい。

アードバークの羽毛に身を包み、グリフォンとナインテイル達の体温があれば多少はマシだろ」

 

グリフォンを中心にワイドとギーシュとルイズという並びにしてルイズにナインテイル達を抱かせる。

 

「で、そこにいるドラゴンちゃんは大丈夫なのか」

「ちょっと厳しい」

「乗せてもらえると嬉しいわね」

「ならさっさと乗れ」

「ちょっと、ツェルプストー。これはお忍びなのよ!なんであんたが来ているのよ!」

「お忍び?だったらそう言いなさいよ。言ってくれなきゃ分からないじゃない」

「言い争いは後にした方が良いぞ、全員乗ったな。アードバーク、もういいぞ」

 

またもやついてきたキュルケとタバサが乗っている風竜もアードバークに乗り込み体制を整えたのを確認してアードバークに声を掛ければ待ってましたと言う様に先ほどよりも大きく羽ばたきさらにスピードを上げて空を飛ぶ。

足手まといがいなくなったので全力とはいかないが8割ぐらい本気で飛んでいるようだ。

 

「ちょ、ちょっとさっきより早くなってない!?」

「今度は無理してついていってる奴らがいないからな」

 

ゲーム世界でもドラゴン達と友誼を結び空高く飛ぶことも出来るようになっていたがどうしても最初に空高く飛んだ時に現れたドラゴンのインパクトが忘れられずドラゴンが出てくるような高度を飛ぶことがあまりなかったが、この世界にはそんなドラゴンがいない。

それを知っているからアードバークはゲーム世界とは比べ物にならない高度を飛べて喜んでいるようでさらにさらにと高度を上げていく。

空気が薄くなり、さらに寒さがきつくなる前にエアカレント・コントロールで風の流れを操作して薄くなる酸素を補い、冷気を散らす。

 

「…インビジブル・ブラインド。アードバーク、そこらにある船は無視してアルビオンの城が目に入る位置に着いたら一時停止だ」

「キュェェェ」

 

光学迷彩でアードバークを覆い姿を隠す。流石空に浮かぶ国アルビオン、雲の中に空飛ぶ船が当たりを警戒するように巡回している。

普通なら雲に隠れて分からないだろうが、遠視と広域探査、魔力感知と索敵系スキルがあるアードバークはそれらを器用によけながらアルビオンの城へ向かう。一度ティファニアを迎えにアルビオンに向かったとき一通り土地を上空から見て回ったから迷う事はないだろう。

 

「ついたな」

 

何度も攻撃されたのだろう城壁が崩れた城が雲の合間から姿を現す。

 

「さて、大丈夫か?降りるぞ?」

「も、もう着いたの!?」

「ぐずぐずするなよ、行くぞ」

「ま、待ってくれ!このまま降りる気かい!?」

「姿を隠す魔法は使ってるから、降りるまでは安全だぞ?ありがとな、アードバーク」

 

アードバークが身をひるがえす。足場が消え乗っていた面々が風を切りながら下へと落ちて

 

「フライ、インビジブル・ブラインド」

 

落ちる前に飛行呪文と光学迷彩呪文をつぎ足しゆっくりとアルビオンの城ニューカッスルに向かって降下していく。

慌てて呪文を唱えようとしたり、主人を背中に乗せようとしていた使い魔達がほけっとした顔をしている。

 

「到着っと、さて誰か呼び止めないとな」

 

光学迷彩を解いて中庭に立つ。

 

「な、貴様らどこから入ってきた!」

 

すぐに見回りの兵士が現れる。その兵士にルイズが持っている親書と指輪を取り出し見せつけ

 

「我ら一行、トリステイン王国アンリエッタ王女殿下より密命を受けてアルビオン王国皇太子ウェールズ王太子への親書を届けに来た。ウェールズ皇太子殿下に取次ぎを求む。

これは、アンリエッタ王女殿下から預かった指輪だ。身分証明としてお預けする」

 

そう言って、兵士に親書と指輪を渡せば、一人の兵士がウェールズ皇太子殿下のもとへと向かい他の兵士は自分たちを監視したがそれも確認を取れれば解放されウェールズ皇太子殿下のもとへと案内された。

 

「君たちがアンリエッタから密書を預かった者たちかい?」

「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かってまいりました。トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵ともうします」

「ふむ、成程。彼らは?」

「こちらが姫殿下より大使の退任を仰せつかったラ・ヴァリエール令嬢とその使い魔。そして同行者の」

「ギーシュ・ド・グラモンと申します。ウェールズ皇太子殿下!」

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。初めまして、ウェールズ皇太子殿下」

「タバサ」

「そうか、僕はアルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーだ。密書を読ませてもらったよ、姫の望みは私の望み。件のものはお渡ししよう」

 

用意していたのだろう手紙をルイズに手渡す。

 

「君たちがどうやってきたのか知らないが、明後日の朝非戦闘員を乗せた船がここを出港する。それに乗ってトリステインに帰りなさい。

もう、僕らの負けは決まってしまっているからね」

「…あの、殿下…それはもう王軍に勝ち目がないという事でしょうか?」

「ああ、わが軍は3百、敵軍は5万。万に一つの可能性もあり得ない。我々にできる事は、はてさて、勇敢な死にざまを連中に見せる事だけだ」

 

ルイズたちはウェールズの言葉に俯いた。

 

(…成程、これは厳しいな。だが…)

 

「さぁ、君達の部屋は用意してあるあまり持て成しはできないが出航まではゆっくりしていってくれ」

 

メイドたちがルイズたちを連れて部屋を出ていく。

 

 

 

次の日、ニューカッスルの中庭に愚者の石板を使う。強化だけ最大にして特に施設は建てず、結界を張る。

設定は、色々弄る方法をゲルタ婆様から習っているので外から侵入する害意あるものと設定。

 

「…やあ、ここで何をしているんだい」

「もう少しで壊れるらしいからな、適当に見て回っているだけだ」

「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」

 

突然のワルドの言葉に眉間にしわを寄せてワルドを睨む。

 

「…こんなところでか?」

「ぜひとも、僕たちの婚姻の媒酌をあの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくてね。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に僕たちは式を上げる」

「ムードもへったくれもないな。いくら婚約者とはいえ些か横暴だな」

 

いくら何でも戦場で結婚式とは、しかも貴族の結婚とは華やかに行うべきなのにそれすらもする気がないとは恐れ入る。

 

「君も出席するかね?」

「時間があればな」

 

目を細め、ワルドの顔を見据える。どうにもきな臭い。

 

 

最後の日、ルイズの結婚式と決戦の日だ。

 

「さて、暴れるか」

 

眼下に広がる敵軍にアルビオン王軍は最後に勇敢に死のうと意義込んでいるがそれは無駄に終わる。

 

「ポータルガード」

 

その呪文に合わせて空に幾つもの魔方陣が現れ、そこから現れるのは

 

「あれはなんだ!?」

 

敵も味方もその姿に恐れおののく。それもそうだろう魔方陣の光が消えた其処には12体の大型のドラゴンと5体の蛇のような宙に浮かぶ化け物が現れたのだ。

 

「テロメアとヘイフリック、モジュラス、イソシアネートは死人の捕縛を。待宵はトップの捕縛に動け、私はあっちの方に行くから任せたぞ」

 

ルイズに護衛としてつけてあるキレートの視線から知らされるルイズたちの危機にキースはテレポートを使い向かった。

 

 

「3つ目は…貴様の命だウェールズ!」

 

 

「成程、やっぱり裏切り者だったわけだ」

 

ウェールズの胸を貫こうとした攻撃は、ウェールズに当たらず空振りになった。

「貴様、どこから現れた!」

「どこからでも問題ないだろう?護鬼、しばらくあれの相手を頼む」

 

ギンッ

 

「っ!邪魔だぁ!」

 

ワルドに6本の腕を持つ異形が襲い掛かる。

その間にルイズとウェールズを抱き上げ、結婚式に出ていたギーシュ達と合流する。

 

「大丈夫か?」

「私たちは大丈夫よ、でもまさか子爵が反乱軍だなんて想像も出来なかったわ」

「じゃ、ちょっと待ってろよ。とりあえず、アレを無力化してくる」

 

デルフリンガーを抜き放ち、神鋼鳥の小刀の変則二刀流が出来るように取り出して護鬼が相手をしているワルドのもとへと向かう。

 

「ちょっと待ってくれ、いくら裏切り者だからってワルド子爵は近衛隊だぞ!あなた一人では」

「…心配するな。あの程度の敵、大した問題じゃない。護鬼交代だ!」

 

その言葉に従い、一度ワルドの腹に一撃を入れ距離を取るとルイズたちのもとに向かい油断なく周囲を警戒している。

 

「少しは、本気を出させろよ。裏切り者」

「舐められたものだな!風が最強だと何故言われるか、その所以を教育いたそう」

 

キースを楽しませるためか力を入れて蹴ってはいなかったらしく、痛みにうめく事もなくワルドが杖を構える。

 

「ユビキタス・デル・ウィンデ…」

 

呪文が完成すると、ワルドの体はいきなり分身した。

 

「ほう」

「これはただの『分身』ではない。風のユビキタス(偏在)…風は偏在する。風の吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」

「成程、ならその風を奪ったらどうだ?」

 

(エアカレント・コントロール)

 

周辺一帯の風は、キースの支配下に入る。そこは一時的に無風空間に変貌してしまう。風が無くなればワルドの分身は存在できず何せぬままにその存在が消えてしまう。

 

「なっ」

「それが切り札なのか?それなら拍子抜けだな」

 

いとも簡単に自分の切り札である魔法を封じられ驚き固まってしまうワルドにつまらなそうに声を零し斬りかかる。

それに反応して杖を青白く光らせて応戦する。だが、

 

「弱い」

 

神鋼鳥の小刀で防げは、杖を纏う風も杖もまとめて両断された。

 

「魔法職が接近戦をするならもう少し武器にこだわるべきだったな」

 

デルフリンガーの柄で顎を殴り脳を揺らし、

 

ジャラジャラ

 

脳が揺らされて身動きが出来なくなったワルドを『グレイプニル』で縛り上げる。

 

「よし、終わりっと」

「くっ!なんだこれは!」

「あっちも終わったようだな、少し遊びすぎたか」

 

 

「グォォォォォオオオオ!」

 

キースによって無風空間になっていた場所に突風が吹き荒れる。突然の突風にルイズたちが腕で顔をかばい前が見えなくなる。

突風が止み、腕をどけると

 

「ど、ドラゴン」

 

タバサの風竜とは全く姿が違うが、それはドラゴンだった。二股の尻尾、全身に突起物が生えたような細身の体躯、細身の体躯に相応しい翼、湾曲して前方に向かって生えている尻尾、その凶悪な見た目に思わず喉を鳴らす。

そのドラゴンに笑って手を伸ばすキースに声なき悲鳴を上げようとして

 

「終わったのか、アイソトープ?」

「   」

 

まるで猫のように伸ばされた手にすり寄るドラゴンに驚きを隠せない。

 

「?ああ、殺さずにはおいておいたか」

「   」

「もうあっちは終わったんだな?…ん?ああ、そういえば死肉どもの始末は私がいないと難しいか。では、彼らを連れていこうか」

 

キースはワルドを縛った鎖を引きワルドを引きずりながらルイズたちのもとへと歩いてくる。ドラゴンもそれに寄り添うようについてきた。

 

「ウェールズ皇太子殿下」

「き、君は一体」

「この戦、王軍が勝利いたしました。戦場に戻り戦後処理をしなければなりません、虚無の系統の使い手と自らを偽り革命軍を率いていた司祭オリヴァー・クロムウェルを捕獲、軍にも壊滅的なダメージを与えオリヴァー・クロムウェルがマジックアテイムにより蘇生させたかのように見せかけた死肉どもも捕獲しました。

王軍から奪われた船はいくつかは…まぁ多少の損傷がありますでしょうが鹵獲するように指示しております」

「「「「「「はっ!?」」」」」」

 

 

現状を把握できず戸惑っているウェールズに跪いたキースの言葉にワルドやルイズ達が理解できないと声を上げる。300対5万、どう考えても勝てる戦ではなかったものに勝った?彼らは混乱し何を言えばいいのか分からなかった。

 

「そ、そんなはずはない!300対5万だぞ!どうやって数の力という絶対的なものを覆して王軍が勝利したというんだ!」

「高々5万、しかも私の国レベルだと一般兵士程度の実力だろ?なんの不思議もない自然な事だ」

 

キースは、ワルドの言葉を鼻で笑った。その程度の戦力差をひっくり返せないはずがない。しかもレベル的には20レベルが精々の軍が5万、その程度の戦力でキースの従魔達を相手にするなんて自殺行為も甚だしい。

特に前線に出るのは自己回復スキルを持ち、その体躯だけでも兵器ともいえるドラゴンと龍が出ているのだ。しかも補助として万能の吸血鬼組と捕縛が大得意の蜘蛛組もセットで用意していた。

 

「現にアイソトープには傷1つないぞ」

「   」

 

傷を負えば自己回復スキルで回復するとはいえ、多少はMPを使うのにアイソトープのMPは少しも減っていない。ブレスなどを使わずになるべく土地を傷つけるなと言っていたのでそれを守り牙や爪、その体躯を用いた接近戦中心だったはずなのでMPが減っていないという事はまともな傷1つつける事も出来ずに蹂躙されたのだろう。

 

「ここで話していても信じられないでしょう。ですから、実際に戦場に行きましょう」

 

キースはもう一つ縄『蘇芳羂索』を取り出しアイソトープの前足に囚われていたワルドのグリフォンを縛り上げる。

 

「…アイソトープ、ちょっと背中借りるぞ」

 

アイソトープの背中に移動し、鎖と縄をアイソトープの背中の突起に引っ掛けて背中に固定する。

 

「よし、それじゃあ参りましょうか」

 

 

時は少し遡る。

主人に召喚された召魔達は事前に命じられた命令を思い出す。

 

『土地をなるべ傷つけるな。死肉は再生するみたいだから適当に動けなくしてモジュラス達に任せろ』

 

ドラゴン達と龍達は、それだけの注意だった。

 

「ギャアァァァ!」

 

一番の古株、青龍ストランドが吠える。

 

「グォォォオ!」

 

ドラゴンで一番の古株、アイソトープがそれに応じるように吠え

 

「「「「「ギャアァァァァ!」」」」」

「「「「「「「「「グォォォォオ!!」」」」」」」

 

それを合図にドラゴン達が龍達が革命軍へと襲い掛かった。 

 

 

「ヒィィィィ!」

 

それは暴虐の化身そのものだった。幾人ものメイジが放つ魔法は、その化身達になんら痛烈を与える事は出来ず蹂躙されていく。

 

「逃げるな!たたk」

 

逃げ出そうとする兵たちを叱咤しようとした指揮官は優先的に殺される。指揮官を殺せば統制が乱れただ徴兵されて参加していた兵士たちは逃げ出す。

 

「うぉぉぉ!」

 

その中でまったく怯むことなく向かってくるものがいる。何度四肢を飛ばしても数分後には五体満足になり襲い掛かる。

 

「もがっ!」

 

しかしそれも補足されてしまえば、糸玉にされ地面に転がされる。杖を奪い、四肢を縛り呪文が紡げぬように糸に縛られる。

ドラゴンや龍は、自分たちの物理抵抗や魔法抵抗さえ抜けぬ攻撃を気にするそぶりも見せず戦場を蹂躙していく。

それは空も同じだった。

 

「っ艦長!」

「くそっ!化け物め!」

 

嘗ての王軍の本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』こと反乱軍艦『レキシントン』は、もはや軍艦としての役目は果たしていなかった。

いまやその巨体は、絶えず蛇のような化け物に巻き付かれ搭乗していた竜騎士隊も外に出るハッチを開く事が出来ず、化け物の重量に空を飛ぶ力が耐え切れず少しずつ少しずつ地上へ向かって落ちていっていた。

 

「なんとしてでも化け物を引きはがせ!」

 

竜騎士達は、杖を持ち化け物に魔法を放つがその化け物の体に傷1つつけられず

 

「ぐわっ!」

「なんだ貴様!」

 

いつの間にいたのか黒髪の女が次々に搭乗員たちに襲い掛かり無力化、または殺害していく。

 

ガブッ!

 

「まさか、吸血k」

 

その姿に亜人である吸血鬼を連想した物はその言葉を最後まで紡ぐ前に首を落とされる。

 

空も地上もキースの従魔達が制し、無慈悲なる蹂躙場と化していた。

 

 

「そんな、こんな事があり得るはずが」

 

そんな惨状を見てワルドが唖然と言葉を零す。ルイズたちも又、こんな状態だとは思っておらず全員が絶句していた。

 

「殿下!」

「バリー、これは」

 

ウェールズは、自分に駆け寄ってきた老メイジに問うが老メイジは首を振りスッと戦場で未だ蹂躙を繰り返すものたちを見た。

 

「何なのか分かりませぬが、我々はあの者達のおかげで勝ったようです」

「それは」

 

バリーと名を呼んだ老メイジの言葉にウェールズは言葉をなくす。絶対に勝てないと思っていた戦が勝てた。それは喜ばしい、だがそれは自分たちの手で手に入れた勝利ではない。

 

ドサッ

 

「これがオリヴァー・クロムウェルか?」

 

いつの間にかキースの足元にカールした金髪の痩せた男が銀色の紐のようなものに捕縛されて地面に無造作に倒れていた。

 

「気絶してるな、よしテロメアこれの贋作を作らせろ」

 

キースは、気絶しているクロムウェルの指から一つの指輪を取り外すとどこから現れたのかキースの隣に立っていた黒髪の美女に手渡す。美女はそれを受け取ると影に沈んでいき姿が見えなくなった。

 

「え?」

「さっきの美女はどこに!?」

「ウェールズ皇太子殿下、これが反乱軍のトップで虚無の系統を使うと言っていたオリヴァー・クロムウェルです」

「……待って欲しい、あのドラゴン達は何なんだ!?いくらドラゴンとはいえ5万の軍隊をああも簡単に倒すなど」

 

戸惑う声にキースは、アイソトープの背に乗せていたワルドとグリフォンを下ろした後笑った。

 

「ヒッ、そのドラゴンは先ほどまで戦場で暴れていた!」

「あれは、私の従魔…あなた方にわかりやすく言えば使い魔ですね。まぁ、一人一匹ではなく100は超えてますが。

そしてもう一つの質問の答えは、弱いからですよ」

 

キース達が使う魔法に比べてこの世界のメイジたちの魔法は威力が弱い。実際にスクウェアメイジと対峙したわけではないが。ドット・ライン・トライアングルのメイジの魔法は見たことがあるがどれも23レベル程度の威力の魔法しかなさそうだった。

確かに多少は効果があるだろうがキースのように呪文融合での同時詠唱による火力の強化もなしでは魔法抵抗と自己回復を持つドラゴンと龍を落とすには火力不足が否めない。

 

「弱い…そんなまさか」

「とりあえず、こっちの死肉をどうにかする方が先かな」

 

モジュラス達が一か所に固めている糸玉の一つをパンタナールに運んでもらいウェールズに見やすいように目の前に置いた。

 

「それは」

「王軍が苦戦した一番の原因だな」

 

糸玉を切り裂き中に拘束されている死肉を露出させる。四肢や口の拘束は解けない様に露出させた死肉の生きているなら心臓部分にデルフリンガーを突き立てる。

 

「ヒィイ!」

「キース、突然何を」

「見ろ」

 

突然の凶行に悲鳴を上げるが、よくよく見れば剣を突き刺したはずなのに血が一滴も流れていないことに気づく。そして突き立てられて死んでいるはずのものが動いているのも。

そしてキースが剣を抜いていくと、見る見るうちに傷口がふさがっていき数秒後には切り裂かれた服だけがそこが切られていたと証明する証になった。

 

「こ、これは!?一体どういう」

「簡単に言ってしまえば、ゴーレムですよ。死人の死体をそっくりそのまんま使ったね」

「なっ!それが始祖の系統だと!?」

「いいえ、違います…お、出来たな」

 

いなくなっていた黒髪の美女が影から現れ二つの小箱をキースに手渡す。キースは、木でできた小箱と黄金の金属でできた小箱を開ける。

そこにはそっくりな銀の指輪があった。

 

アンドバリの指輪

【装飾アイテム:指輪】 アンドバリの指輪

ラグドリアン湖の水の精霊が守る秘宝。

指輪の石は水の精霊とほぼ同じ成分の結晶体で強力な水の魔力を秘める

 

ミスリルの指輪

【装飾アイテム:指輪】 ミスリルの指輪

M・AP+10 重量0+ 耐久値200

ミスリル銀で作られた指輪

 

それぞれの鑑定結果を見て頷き、クロムウェルの指にミスリルの指輪を戻しウェールズにアンドバリの指輪を見せる。

 

「これはアンドバリの指輪といって、水の精霊が守る秘宝らしい。強力な水の魔力を秘めているらしいからこれで死体を生前の姿のままのゴーレムにして操っていたんだろう」

「なんと!では、オリヴァー・クロムウェルが虚無の系統を授かったというのは」

「嘘だな。実際クロムウェルからは魔力が感じられない」

「しかし、それは本当なのかい?本当ならば、こちらには好都合だが」

「そうだな実際確かめないと不安か」

 

不安そうに聞いてくるウェールズに頷き、キースはアイテムボックスから全長2メートルはあるかと思うほど巨大な杖を取り出す。

 

「とりあえず死肉を始末してくるからしばしお待ちを」

 

死肉の選別が終わったのだろうその判別係として召喚してたテロメアとヘイフリックの吸血鬼組が2体とも手を止めて傍に来ていたのを確認してやることが終わって死肉どもを運んで一か所に固める終わっているのを確認して杖を両手でつかみ天へと掲げる。

 

((((((ディスペル・マジック))))))

 

杖の効果と魔法範囲拡大で広域呪文になったディスペル・マジックで死体を死肉に変えていた魔力を消し去る。一つの残らず消えたのを確認して死体を5体ほど運びクロムウェルの近くに並べ、クロムウェルを縛っていた縄を解く。

 

「え、解いてしまうの?」

「あのままだと虚無を使えるかどうか確認できないからな。大丈夫だと思うが警戒しておいてくださいね。

 

 

リキッド・ウォーター」

「わぶっ!」

 

気絶しているクロムウェルの顔の上に水を生成し、目を覚まさせる。運よく一回目で目覚めたクロムウェルは乱暴な起こし方に目を瞬かせる。

 

「ここは」

「起きたか、レコン・キスタのトップ オリヴァー・クロムウェル」

「っ!貴様はウェールズ!」

 

真っ先に目に入ったのは、倒すべき大敵であるアルビオン王族のウェールズだったようでウェールズの目の前で転がっているというのを認識してノロノロと起き上がる。

 

「オリヴァー・クロムウェル、君の負けのようだ」

「私の負け?私が負けるわけがない!この始祖ブリミル様より虚無の系統を賜ったこのオリヴァー・クロムウェルが偽の王族に負けるものか!

いっけ、忠実なるわが友よ!」

 

クロムウェルの号令に誰も起き上がらない。それはそうだろう、すでにアンドバリの指輪はクロムウェルの指にはないし、残っていた死肉もキースがすでに無力化している。

 

「君の兵は、もういないよ」

「…いや、まだわが友はいる。見よ、偽りの王族よ!これぞ私がブリミル様より賜った虚無の力だ!!」

 

低い小さな詠唱がクロムウェルの口から洩れる。だれも聞いたことのない言葉だ。詠唱が完成し、近くにある死体にクロムウェルが触れるがそれは起き上がることがない。

 

「なっ!嘘だ!」

「成程、彼キースの言葉は真実だったようだ。始祖ブリミルの名を偽りに用いた罪は重い、オリヴァー・クロムウェルを背信者として捕らえろ!」

 

ウェールズの言葉に周りに立っていた兵たちが一斉にクロムウェルに群がり拘束される。

 

「その指輪は」

「私が保管しておきます、水の精霊に返すにしてもまた似たようなことに使われない様にしないといけませんしね」

「そうだな、今のアルビオンにその指輪を守る力はない。貴方にお預けしよう」

「はい、確かに」

 

キースは、金属の小箱の蓋を閉め小箱と杖をアイテムボックスに仕舞いこむ。

 

「まずは、感謝を。君のおかげでアルビオン王国は滅びずに済みました。すぐに報奨をとはいきませんが、必ずこの戦果に相応しい報奨をお渡しすると約束します」

「復興してからでも構いませんよ。なんだかんだ、あっちに着いたメイジの大半は殺してしまいましたし、ここから立て直すのは大変でしょうからね」

「それにしても、君は何者なんだ?」

「今はラ・ヴァリエール嬢の使い魔をしております。しがない召喚士ですよ」




サモナーさんならゼロ魔のメイジ5万でも普通に蹂躙しそう。拠点作ってポータルガード配置すれば殲滅可能だと思っております
これ今後の展開考えるのめんどくさそうだけど、どうしてもサモナーさんだとこっち方向の展開になってしまう


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召喚士とゼロ6

改めてみるとレコン・キスタ片づけると3巻の内容全部おジャンになってたのに気づいて頭を抱えた考えなしの作者とは私の事だ!


レコン・キスタによって滅ぼされるはずだったアルビオン王国は、イレギュラーであるキースによって制圧されアルビオン王国派は降ってわいた完全勝利に沸き立った。

レコン・キスタによって占領された大型艦も奪還され、始祖の系譜と偽っていた背信者オリヴァー・クロムウェルも捕らえられ禁忌によって動かされていた死体も倒され、もうレコン・キスタは再起不能ともいうべき大打撃を受けてしまった。

その絶大な功績の褒賞を与えようとアルビオン王国は頭をひねっていたがつい最近まで敗戦確実の戦争をしていたのでその余裕もなく「貴族になりますか?」と声を掛ければ「故郷で母が枢機卿なので他国の貴族になるのは禁止されております」と返されさらに頭を抱えることになってしまった。

 

「国を立て直してからでもいいですよ」

 

というキースの言葉に甘え、アルビオン王国は褒賞の支払いを後回しにする代わりに始祖から受け継いだという至宝と風のルビーをキースに預けた。

キースたちは、戦勝パーティーに誘われたがアルビオン王国が勝利したことを伝えるため戦争が終わった次の日にはアルビオン国王とウェールズ皇太子からトリステイン王国とアンリエッタ王女宛の親書を預かりアードバーグに乗ってアルビオン王国から立ち去って行った。

アードバーグの飛行速度は速い。その日の夜にはトリステイン王国王都トリスタニアに到着した。

今回は密命だという事で大々的に訪問するわけにもいかず、どうするか悩んだルイズ一行だがキースが

 

「私一人なら忍び込めるから、私の魔法で私の影に入ってくれ」

 

そう言ってルイズとギーシュをシャドーゲートの魔法で自身の影の中に収納すると王宮へと忍び込んだ。キュルケたちはお留守番だ。一応外交的な問題なので他国人に知られるのは拙いので。

ひょいひょいと壁を上り光学迷彩を使って姿を隠しながらアンリエッタ王女の資質の窓にたどり着き、嘗てアンリエッタ王女がやったように規則正しく初めに長く2回、次に短く3回。

まるで祈る様に空を見上げていたアンリエッタ王女はハッと音がした窓を見る。そこからそこに突然黒い服を着た男が現れたように見えた。

声を上げようとしたアンリエッタ王女に王女がルイズに渡した水のルビーを見える様に手に持って軽く振る。

それに気が付いた王女は、口を押えて急いで窓を開けた。

 

「貴方は」

「ルイズの使い魔キースです。少しお待ちを」

 

キースの影からルイズとギーシュが現れ王女は目を見開く。

 

「姫様、ルイズ・フランソワーズ。任務を終えて帰還しました」

「ギージュ・ド・グラモン、任務を終えて帰還しました」

「まぁ!これは一体」

「キースの魔法らしいです」

「あら、ではこれはエルフが使うという先住魔法なのでしょうか?」

「いいえ、恐らくは全く別体系の魔法かと私は思います。姫様、アルビオン国王とウェールズ皇太子からの親書です。お読みください」

 

その言葉に王女は顔色を悪くしてその3枚の親書を受け取り、初めに国王からの親書を読み始める。

読み始めしばらくたつと悪かった顔色に喜色が浮かびバッとルイズの後ろに控えていたキースに目を向け驚愕の視線をよこした。

最後まで読み進め、次にとったのはウェールズ皇太子からの公的な私書だ。まぁつまりは一人の男ではなく皇太子としての文章でそこにはゲルマニアとの同盟に亀裂が入りかねない手紙も同封されていた。

国の立て直しも終わってない状態で何かよろしくないことがあった時の為に一時的に返すという内容だろう。

その内容を読んで少し悲しげな表情をした王女だが最後のウェールズからの私書で喜色一色に染まった。

 

「る、ルイズ!こ、ここに書かれていることは本当ですか!?」

「はい、アルビオン王国はレコン・キスタに完全勝利いたしました。トップも捕縛され奪われていた大型艦も奪取に成功しレコン・キスタ側に多大なる打撃を与えることに成功し恐らくですが自然に自壊すると思われます」

「な、なんてこと」

 

つかつかと王女はキースに歩み寄りキースの手を取って両手で包み込みように持ち上げた。

 

「ありがとうございます、貴方様のお陰でアルビオンもトリステインも救われました!」

「それは良かった」

 

本当に嬉しそうな王女にキースは微笑ましく思った。

今の王女の顔は、愛しい人を思いその生存を喜ぶ乙女の顔だった。王女と皇太子は他に兄弟がいないので結婚するとしてもすぐとはいかないが、もともと王女は政略結婚をする予定だったのでその相手が変わるか変わらないかはその後の政治手腕や情勢次第だろう。

それでも最愛の人が死なずに済んだことに喜ぶ彼女はこれからどのようにしてその心を成就するのかそれはこれからの両者の頑張り次第だろう。

それから大層ご機嫌になり水のルビーを返却しようとしたルイズにそのままルビーを渡し、ギーシュにはお褒めの言葉を言ってギーシュは大層喜んだ。やっすい奴だなとも思ったが、今回は密命大々的に褒賞を与えるわけにもいかないからこれが王女の精一杯なのだろう。

最後の一つ礼をして静かに王宮を後にして追求するキュルケを交わし一行は魔法学院へと戻っていった。

 

 

とある場所

 

「オリヴァーが捕まっただと」

「はい、指輪も行方不明になりこれ以上の作戦実行は不可能になったようです」

「……指輪の行方は分からぬか」

「詳しい状況がつかめず指輪の行方はわかりません。巨大なドラゴンが暴れたやヘビのような空飛ぶ魔物が現れたなど情報が錯綜していて探るのもしばらく時間がかかりそうです」

「こちらに繋がるようなものはそこしていないな?」

「そこはご心配なく」

「では、もう一つの方を進めるか」

「はっ、了解しました」

 

 

 

 

それからしばらく何事もなく時間は過ぎた。魔法学院が平和なだけで国は大荒れだそうだが。

まずトリステインとゲルマニアの同盟が白紙になった。その理由になったレコン・キスタが無くなったのだから当然だろう。

トリステインはアルビオンの復興に手を貸す条約を近々締結するらしいがその詳しい内容は分からない。

常識的に考えて無条件はないだろうが、皇太子の輿入れはないとして、王女と皇太子の結婚とかがあったりするのだろうか?そうなったらトリステインの王位継承者は誰になるのか、公爵家であるルイズにも何やらありそうだ。

マチルダの伝手で宝飾品を販売し、ある程度の資金を手に入れたので家畜やこの世界特有の風石・土石・火石・水石などこの世界特有の資源を購入して何かに使えないか調べ始めてもいる。

 

キースは、魔法学院に戻ってきて暫く用意したオリハルコン合金をシェイプチェンジで弄繰り回して鍵がなく取り出したり出来ないような鳥籠のような宝箱を作っていた。

どうせなら見た目にもこだわりたいのでデウス・エクス・マキナの久重に美しい鳥の造形を作ってもらいその首に指輪を配置して二重三重の細かい檻を時々飾りを久重たちに手直ししてもらいながら指一本も入らない堅牢な鳥籠を作っていく。

 

【その他アイテム】オリハルコン製の鳥籠 品質A+ レア度10 重量22+

オリハルコン、ミスリル銀、鉄の合金製の鳥籠

 

オリハルコン合金は並大抵の方法では破壊できない。そして人間が使うには指輪に触れなければならないみたいなのでこれで使う事はほぼ不可能になっただろう。後日、水の精霊に還しに行けばこの状態でも水の精霊なら触れることはできるだろうし問題ないはずだ。

 

「うわぁ、とっても綺麗」

 

ルイズはやっと出来上がった鳥籠に目を輝かせた。黄金の鳥籠とその奥にたたずむ黄金の優美な鳥とそれを飾る指輪がとても美しく太陽の光に当てると輝いていた。

 

「ふぅ、慣れないことはするもんじゃないな」

 

ここまで細かい細工をしたのは初めてで疲労が凄いが何とか見れるものが出来てホッとした。

 

「これを水の精霊に還すのよね?」

「ああ、すぐにじゃないが還さないといけないだろうしな」

 

ルイズたちに聞いてみたり調べてみたりしたがこの世界の精霊はゲームの世界の精霊とは毛色が違う。話を聞くに早めに還さないと面倒なことになりそうな予感がした。

 

「でも、残念ね。こんなに綺麗なのに還さないといけないなんて」

「気に入ったのか?」

「ええ、こんな綺麗な工芸品見たことないわ。まるで純金みたいなのにこの金属とても硬いのね」

「ああ、私の武器の素材だな。とても頑丈で壊すのは実質不可能だろうな。製錬にも特性の炭を使わないと難しいと職人達がよくぼやいていた」

「こんな綺麗な金属が武器の素材なの?」

「これ位頑丈な素材じゃないとまた指輪を奪われて使われたら面倒だからな。これなら壊すのも難しく直接触れなければ使えないみたいだからもう人間が使える状態じゃないだろう。

最後に魔力付与で耐久性とかを上げれば完成だ」

 

世界が分かたれた後、ゲルタ婆様にそこらへんも叩き直された。というか、勉強をはじめからさせられ直した。

礼儀作法から魔法、武技、歴史などなどそれら全てを叩き直され、儀式系魔法やら色々叩き込まれた。

もう頭から煙が出そうな量で何度逃げ出そうとしたが覚えてない。だが、とっ捕まって完全に習得するまで軟禁された。軟禁なのはストレス発散で闘技場での戦闘が許可されていたからだが、今役立っているし世界が分かたれた後の戦いで大いに役に立っているから無駄ではなかったんだろうが当時は目を回していたものだ。

 

「そこら辺は精霊に聞かないと何かあっても困るから下地だけの方が良いか」

 

幾つかの呪符文様を台座の部分に刻み小さな宝石を取り付ける。大きさはそれほどでもない品質の高い0.5カラットぐらいの小さな石を3つ。

 

「小さいけどいい色ね」

「付与するならある程度の品質がないとな」

 

盗まれたりしないように用意した小綺麗な木箱にしまいマジックボックスに片づける。

 

「そんなに気に入ったなら何か一つ装飾品を作るか?」

「え、いいの?」

「少し残ったからな、と言ってもそこまで大きなものは無理だけど」

 

残った合金を細めの板状に整形、O型整形をしてルイズの手を何度か往復させてサイズを決め、最後にルイズの髪色に似た色の宝石である小粒のピンクトルマリンを取り付けた。

 

「…よし」

「綺麗」

 

ルイズは手首にはめたバングルを頭上に掲げうっとりと眺めている。

 

「これ何の金属なの?金みたいな色なのに金よりも硬くて色合いもちょっと違うような?」

「私の故郷で取れている金属を数種類まぜって作られている合金だな。作るのには専用の施設でしか作れないから使っている人はあまりいなかったな」

 

実際に武器に使っているのは私の関係者以外はいなかったように思う。他のゲームでもオリハルコンはそこそこの難易度なのか最前線組でも難しいようで私経由で供給していたような気がする。

 

「そんな希少な金属、私がもらってもいいの?」

「最近、鍛冶師に頼んでいくつかのインゴットを作ってもらったし、故郷に戻ったら私なら調達はすぐに出来るから気にしなくてもいい」

 

オリハルコンもミスリル銀も私にとってはそこまで調達難易度の高いものではないし、アイテムボックスの中にはそれなりの量があるから多少遊びに使っても問題はない。

 

「ありがとう、キース様。大切にするわ」

 

 

「手を貸してほしい」

 

タバサと言われる青い髪の少女が私の目の前に立っていた。

 

「…手を貸してとは?」

「ここでは詳しく話せない。私の実家で話したい」

「ちょ、突然言われても!」

「大丈夫よ、もう休暇届も受理してもらって国境を超えるための手続きも終わってるから!」

 

目を白黒しているこっちを無視してタバサとキュルケの二人によってルイズは旅行の為の荷物をまとめ用意された馬車にルイズともども詰め込まれた。

ルイズが荷物の様に連れていかれたので私は渋々馬車に乗って対面して座った。

 

「それで態々、ツェルプストーも巻き込んで何をキース様に頼みたいのよ」

「今は言えない」

「じゃあ、国境を超えるって言ってたけどあなたの実家は何処なの?」

「タバサ、あなたのお国がトリステインじゃなくって、ガリアだって初めて知ったわ。あなたも留学生だったのね」

「え、貴方。ガリアの貴族だったの!?

 

キュルケは『タバサ』の名が偽名だという事に薄々感づいていた。

キュルケは、タバサは世を忍ぶトリステインの名門貴族の出だろうと思っていたが、それは違った。

タバサは、トリステイン、ゲルマニアと国境を接する、ガリア王国の出だったのだ。

キュルケはタバサに尋ねた。

 

「何でまた、トリステインに留学してきたの?」

 

しかし、タバサは答えない。じっと、本を見つめたままだ。

 

「ちょっと何か言ったらどうなの!」

 

ルイズは、突然拉致をするように連れられて不機嫌なのか質問に答えないタバサを見るがタバサは本を見つめたまま何も言わない。その時、キュルケは気付いた。

本のページが、出発したときと変わらないことに。めくりもしない本を、タバサはじっと見つめている。

 

「ルイズ、タバサが家で話すって言うんだからアンタは黙りなさい」

「なっ!突然連れてかられた理由すらも話さないのに黙りなさいですって!」

 

キュルケはそれ以上、タバサに尋ねるのをやめてルイズをからかう方向に会話の流れをシフトしそれに気づかないルイズはキュルケの挑発に乗ってしまった。

 

一行の2泊した旅路は、ラグドリアン湖の水が溢れて街道が水没し通れなくなったため迂回した以外は、おおむね順調だった。

途中キュルケが農民が収穫していた籠に入れられた林檎を見つけ馬車を止めて買った。その時農民からここはラクドリアン直轄領と教えられ、キュルケとルイズは黙ったままのタバサを凝視した。

たどり着いたタバサの家は旧い立派なつくりの大名邸で掲げられた紋章は交差した2本の杖、そして“更に先へ”と書かれた銘。まごうことなきガリア王家の紋章である。

だが近づいてみるとバッテン傷がありこの家は王族でありながら権利を持たない不名誉印が刻まれている家だとわかった。

出迎えも老僕一人で他の使用人はいるような気配はない。

 

「…」

 

タバサはエントランスホールに3人を案内し、ディティクトマジックを唱える。それに反応するものがないか確認して安心したように頷くとキースの方を向き

 

「貴方に聞きたいことがある」

「ご質問をどうぞ」

「貴方が土くれのフーケのゴーレムを無力化したとき貴方は言った「魔法を解除する魔法」で無力化したと」

「確かにそういったな」

「私の問題の解決にその魔法が使えるかもしれない。私の事情をこれから話す」

 

タバサと老僕ペルスランは、タバサ…いや、ガリアの王権争いとオルレアン家に降りかかった悲劇、シャルロットという名を捨てタバサという感情を捨てた人形になった少女の話をした。

ジョゼフとオルレアン公の継承争いにオルレアン公は破れ謀殺され、継承権を持ったシャルロットが薬を盛られようとしたとき母親が代わりに薬を飲み心を壊してしまった。

シャルロットは、王家に忠誠を示すため達成困難な任務を達成し本来なら領地をもらってもいいはずの手柄を立てたはずがシュヴァリエの称号だけ与え母親を人質に取り汚れ仕事を押し付けながら海外に留学させられた。

母親の飲んだ毒は、心を狂わせる水魔法を込めた水薬。この地でエルフという異種族が作り出したルイズたちが使う魔法とは違う魔法によって生み出されたものだという。

 

「貴方の魔法を試してほしい」

「……」

 

話を聞いていて頭が痛くなってきたキースはタバサの言葉にすぐは頷かなかった。

 

「キース様?」

「……まず確認だ」

「なに?」

「タバサ…いや、今はシャルロットと呼ぼう。君は復讐者か否か」

「………お母様を壊してお父様を殺した」

「そうか…まず問題の一つ。狂っているからこそここは監獄であり人質であった人物が正気に戻った場合、ガリア王家はどう出る?」

「っ」

「逃亡するにしても奴らは君らを国境を越えて追いかける大義名分を作ろうと思えば作れる状況だ。その状況からどうやって逃げるつもりだ」

「そ、それは」

 

シャルロットとペルスランは言葉に詰まった。内紛をおこそうにも当時オルレアン公に味方していた貴族は軒並み現王家に力をそがれているし、今まで手助けをしてもくれなかった貴族を信用できるかと問われれば否としか言えないからだ。

 

「わ、私は」

「……ハァ、わかった」

 

最近手に入れた魔道具を二つ取り出す。

 

「それってスキルニル!?」

「これでお母様とペルスランの替え玉を作る。で、二人には避難してもらう予定だ」

「避難ってどこに?」

「…まずはお母様の治療からだ。案内してくれ」

「わ、わかりました」

 

全員でシャルロットの母親の部屋へと向かう。人形を抱きしめ焦点の合わない目線でこちらを見ている。

何かを言われる前にシャルロットが母親を眠らせた。

 

「リフレッシュ、ディスペルマジック」

 

一応解除魔法と状態異常回復魔法を重ねて発動させる。その魔法で眠りの魔法も溶けたのか目を覚ます母親の目線は

 

「……シャルロット?」

「母様!母様ぁ!!うわああああああああっ!!」

 

それはしっかりと娘を写し、名前を呼ばれたシャルロットはこらえきれなかった全てを出し切る様に滝のような涙を流しながら母親に抱き着いた。

母娘二人っきりにしてやろうと二人を残して部屋を出るとエントランスでペルスランに紅茶を出してもらった。

 

「タバサ、泣きながら笑っていたわね」

「ええ、よかったわ。本当に」

「皆様!このペルスラン心より感謝いたします!よくぞ・・・・・よくぞ奥様のお心を取り戻してくれました!!」

 

ペルスランも歓喜の声を上げ、ルイズとキュルケもほっとしたように息を吐いた。

感動の再会から落ち着いたのかしばらくして部屋から出てきた母娘は、今の状況を説明しあい、そして全ての元凶である継承争いの真実が母親の口から語られた。

行ってしまえば嫉妬とコンプレックスによる行き違いによる盛大に拗れた兄弟喧嘩に巻き込まれたらしい。まぁ、王族にはよくある事なので特に何も思わないが巻き込まれた側にとっては迷惑極まりない事であった。

 

「さて、相互の情報が出そろった所でお二人をかくまう場所にご案内したいのだが」

「そういえば、どこに」

「ルイズにも秘密にしていたんだけどな」

 

全員で手を繋いでテレポートを唱えると新しく作った拠点に移動した。

 

「ようこそ、私の拠点へ」

 

拠点に招待したルイズ達にティファニア達を紹介し、シャルロットの母親はここで療養しペルスランはその世話をしてほしいといった。

ハーフエルフだがすぐに仲良くなったようでここでの療養を了承してくれた。スキルニルに二人の血を与えて影武者を作り屋敷に配置して城館の一室を整え、定期的にルイズ達をこちらに招待するのを約束して屋敷に戻ったが、ガリアからのタバサへの指令が水の精霊の討伐の為ついていくことになった。

水の精霊は、盗まれたアンドバリの指輪を取り戻すために水かさを増やしていたと話した。

 

「それはこれか」

「おお、それはまさしく我が秘宝アンドバリの指輪!お前が取り戻してくれたのか」

「これは戦争に悪用されていた。悪用されないように人間には触れられぬようにしたが不都合があるだろうか」

 

そっと水の精霊に鳥籠に包まれた指輪を差し出す。それは水の精霊の体に取り込まれるが精霊が苦しむ様子はない。

 

「ふむ、何の問題もない。少しばかり力は減っているようだがまた月日が経てば元に戻るものだ」

「それは良かった。また盗まれた時の為の細工をしても大丈夫そうか?」

「ああ、またお前が取り戻してくれるなら安心できる」

 

水の精霊が差し出した鳥籠の台座にいくつかの呪符文様を刻み、細工をしておく。

 

「それでこれで水かさは元に戻してもらえるのか?」

「勿論だ、秘宝が戻ってきたなら水を増やす必要はない」

 

タバサの任務も終わり指輪も還し終わったので一同は魔法学院に戻っていった。

 

後日、また指輪を盗んだもの達がいたようだが指輪を守る鳥籠を破壊することは愚か傷一つつけることもできず細工によって盗まれたことを知ったキースによってアポーツで取り戻されるのを数回繰り返させられることになるとはだれも知らなかったのである。

 




レコン・キスタないと

ルイズの虚無覚醒
竜の羽衣(そのそも必要ない)
フレッシュゴーレムウェルーズがいない

という重要イベントが軒並みつぶれてしまった

更新遅くてすみません


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