生まれ変わったので全集中の呼吸極めます。 (役立たずの狛犬)
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テンプレみたいな転校生イベント。




人生初の物書きです。至らぬところやら文章がおかしいところが多いかもしれませんが生暖かい目で見守ってください。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、光照嶽虎(こうしょうたけとら)は俗に言う転生者である。

 

前世の記憶は既に朧気、一番覚えているのは死の間際に『鬼滅の刃』を読んでいたこと、死因は覚えていない。転生という道を選んだのは、転生直前に神を名乗る変なやつに『鬼滅の刃』に出てくる一部の技術を使える肉体にしてやると言われたからだ。きっとそれに憧れていなければ、俺は生まれ変わろうとは思わなかっただろう。

 

そういうことで俺は生まれ変わった。『鬼滅の刃』に出てくる“呼吸法”についての指南書を抱きしめ捨てられた孤児として。

 

最初はもう、そりゃどちゃくそに驚いたが、色々あって今は俺を拾ってくれた孤児院に住まうことになった。今の育ての親である院長にはとても感謝している。

 

生まれ変わり何年か経って、肉体がある程度動かせるようになった頃。俺は早速指南書に書かれた技術を使おうとしてみた。その技術とは“全集中の呼吸”。体中の血の巡りと心臓の鼓動を早くすることを可能にする技術だ。

 

これが出来なきゃもう始まらないということでやろうとしてみたのだが、これが全く出来なかった。

 

出来なかった、というよりその“全集中の呼吸”のやり方を上手く解ってなかったという方が正しい。原作風に言えば、最初の主人公の様に“知識として覚えているだけで体は分かってない”状態。…というかそれ以下、自分で言うのもあれだが、そもそもの下地になる肉体すら出来ていない。あの頃の俺は何故出来ると思ったのか不思議に思う、恥ずかしいくらいだ。

 

それを察した俺はまず肉体を鍛える事にした。目標は“全集中の呼吸・常中”が出来るくらいの肉体になること。目標がひたすらに遠い気がするが、これぐらいの方が目標っぽい。

 

その後の生まれ変わった俺は、生まれ変わる前の俺と良くも悪くも中身が別人になり始めていた。前世ではひたすらに嫌いだった努力も、努力をすれば憧れに届く可能性があると知ってからは大好きになった。

 

他には前世で人付き合いはそこまで苦手ではなかったのだが、今世では呼吸法についての特訓にかまけすぎたせいで人付き合いが苦手になっていた。今ではぼっちである。

 

特訓を初めて三年目で、ついに“全集中の呼吸”が出来るようになった。それから二年で“全集中の呼吸・常中”を。年にして10歳、世界中でISを知らない人間は居ないとまで言われる頃である。

 

目標通り“全集中の呼吸・常中”を身に付けた俺は更なる呼吸法、更に少しずつやっていた“型”習得のための特訓をより多く増やして、積み重ねながら中学生になった。

 

 

 

そしてあっという間に中学生二年生、前世でよく中学生で一番楽しい時期とか言われていた学年だ。中学も二回目の俺は一回目の時よりも何も考えず通っていた。そんな、初夏のある日である。

 

「私を、馬鹿にしているのか!!?」

「そういう訳では─」

「明らかに本気では無かっただろう!!」

「本気だった。先程も言ったと思うが俺は剣道はかなり弱いんだ」

「なら試合前に一瞬見せたあの構え、あれはなんだ!?あれは明らかに剣術の構えだ…!何故あれを使わなかったッ!?」

「…あれは剣道とは別物だ」

「──何処まで、私を馬鹿にすれば気が済むんだ?光照嶽虎」

 

転校生の少女に剣道の試合で負けただけなのに滅茶苦茶キレられた。こわい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい!皆静かにして!」

 

いつものと違うSHR、ざわめくクラスの人間たちに先生が手を叩きながら静止をかける。

 

一体どうしたのだろうか、このクラスの賑わい具合。いつものSHRなら皆特に騒ぐこともなく、むしろ気だるそうなものなのだが。とにかく自分はなぜこんなにも賑やかなのか分からないので、こういった事にまあまあ詳しいであろう右隣の席に座っている友人に声をかけた。

 

「なあ、どうして皆ここまで騒いでるんだ?」

「はぁ?まさかお前、知らないのか!!?てんこーせーだよてんこーせー!!昨日クラスのグループLIME見なかった訳!?」

「…あぁ、そういえば朝起きたら物凄い量のメッセージ通知が来ていたな」

「信じらんないぜホント…とにかく今日このクラスに転校生が来んの、しかも女子っ!!」

「そうなのか?」

「そうなの!!噂だとすっげぇ可愛いらしいぜ!?」

 

その後、唾をこちらに飛ばしながらどうしてか可愛い女とは何かを語り始める友人。今の女尊男卑の世の中でよくもまぁここまで。

 

俺が聞きたかったのはどうしてクラスが賑やかなのかだけだったので、後に続く友人の言葉は全て無視して先生に視線を戻す。いくら静止をかけようと止まる気配のない賑わいに先生は一度ため息をつき、全て無視して噂らしい転校生の紹介に移った。

 

「竹原さん!入っていいわよ!」

 

先生のその言葉と共に、教室のドアが開く。

 

 

 

「────」

 

 

 

入ってきた少女に、俺は驚きを隠せなかった。

 

「うっわ…滅茶苦茶美人じゃん…?なんだあれ、大和撫子って奴…?滅茶苦茶美人じゃん…」

 

隣の阿呆が口元を手で押さえながら目を見開き、血走った目で転校生の少女をガン見する。その光景は控えめにいっても気持ちが悪い。…まあ仕方ないだろう。この阿呆の言う通り、入ってきた少女は確かに美人という言葉が相応しい。結ばれている、ほどけば腰までありそうな少女の髪は何処かの小説の《漆のように黒い》という言葉がぴったりで、俺はあそこまで綺麗な黒髪を見たことはない。きっと毎日ケアを欠かしていないのであろう。

 

顔立ちもかなり良い。本当に日本人なのかと疑うほどに目鼻立ちがはっきりしている、もしかしてハーフか何かなのだろうか?最近はハーフも珍しくはないし。

 

そして何より凄いのは全体のバランスだ。少女は全てのパーツのバランスがとても良い、パーツ一つ一つを見れば主張が強く見えるのだが、全体的に調和が取れている。まるで作り物のようだ。

 

 

…って、俺が彼女に驚いた理由はそこじゃない。彼女の顔に見覚えがあったのだ。何処かで絶対に見たことがある、見た瞬間に脳裏に電流が走った様な感覚があったし。しかし全く思い出せる気配がない。

 

「竹原箒です。短い間ですがよろしくお願いします」

「はい、よろしくね。席は──」

 

先生が空いてる席を目線に入れる。…このクラスで空いてる席など一つしかない。

 

光照(こうしょう)くんの隣のあそこが貴女の席よ」

 

先生の指差した先、そこは俺の席から左隣。竹原は先生の言葉通り、俺の隣に座った。俺の隣まで来る竹原を目で追いながら脳を回転させ思い出そうとするが駄目、もしや前世で…?いや、そっちの方が無いか?

 

「…」

 

座った竹原と、目が合う。目があった瞬間に感じる悪寒。ヤバい、いくらなんでも見すぎただろうか。

 

「光照、だったか。よろしく頼む」

「此方こそ」

 

実際はよろしくするつもりなんて無いのだが。

 

俺は自慢ではないが異性が苦手だ、生まれてこの方女の友人が出来た事など一度もないくらいに。この謎の既視感はとても気になるが諦めるしかないだろう。

 

 

「あ、光照くん。竹原さん剣道部に興味あるみたいだから、放課後案内してあげてね?」

「…はい」

 

…マジか。

 

 

 

 

そういうことで放課後。俺は先生に言われた通り竹原箒を剣道部に案内する事になった。頻りに友人が代わってくれと目で訴えていたのだが、代われるなら代わってやりたかった。しかし残念ながらアイツは剣道部ではなくテニス部なのだ。先生にも駄目と言われてしまったし。

 

ということで今は剣道場で私用で遅れている部長が来るのを待っている、勿論部長が来るまで竹原箒の対応をするのは俺だ。正直コミュ障の俺には厳しい、他の部員に任せたい。助けて…

 

部員たちの練習を見ながらだからか分からないが、竹原箒の口数が少ないのが唯一の救いだった。

 

「すまないな、わざわざ案内してもらって」

「気にしないでいい。剣道部は人が少ないからな、見学でも人が来てくれるなら嬉しい」

「むっ、そうなのか?ここの剣道部にとても強い男が居ると噂で聞いたのだが」

「ああ、それならきっと部長の事だろう。部長、剣道は強いからな」

 

竹原と他愛ない会話を繰り返す俺、今世では異性と会話した経験が全く無いのでとても緊張する。しかも竹原は理想の高いあの友人が大和撫子と評するくらいに美人だ、控えめにいって心臓がヤバい。

 

「…竹原はどうして剣道部に興味を?」

「昔から剣道を嗜んでいてな。前の学校でも剣道部に入っていたし、ここでも続けたいのだ」

 

無言の方がありがたくはあるが、そうなればまた沈黙が怖い。なのでなんとかして会話を続けることにした。

 

「しかし、光照も剣道をやって長いのだろう?」

「そんなことはない。剣道をやり始めたのは去年からだし、それに剣道はかなり弱い」

「謙遜をする必要はないぞ?その竹刀、かなり使い込まれている。一年やそこらではそこまで使い込むのは不可能だろう」

 

竹原はどうやら俺の背負っている竹刀袋の中身をいつの間にか見ていたらしい。…実際に俺が剣道を始めたのは去年からで謙遜など全くしていないのだが、これは説明した方がいいのだろうか。正直このまま俺が剣道をやり込んでいると思ってもらっていてもいいのだが。

 

「あ、光照くん。その子が見学希望の転校生かい?」

 

説明の言葉を考えてる間に、用事を終わらせたのであろう剣道部部長がやって来ていた。あとは部長に任せれば大丈夫だろう、俺は適当に頷いてさっさと自分の練習をするためにそそくさと荷物をまとめて、剣道場の端に行って練習を開始する。

 

 

 

 

 

 

因みに俺がこの剣道部に入ったのは、別に剣道をやりたかった訳じゃない。というか剣道は滅茶苦茶苦手だ。具体的に言えば、この部活で最弱を名乗れるくらいには。何故なら剣術と剣道には様々な差違がある、大きな違いは俺が極めようとしている呼吸法は相手を殺すことに特化している所だろうか。

 

当然だが剣道は相手を殺めることを目標としていない、正々堂々とルールに乗っ取って勝ち負けを決めるスポーツだ。そのスポーツの中に当て嵌めて呼吸法を使おうとするとなんというか、感覚がずれてしまう。かといって呼吸法を使わない様にしてもそっちに意識を割いてしまって上手く立ち回れないし。

 

…まあその話は置いといて。俺は呼吸法を極めたかった、そのための修練の場として孤児院だけでは足りないので、ここを使わせて貰ってるのだ。それでここを使わせて貰う条件として剣道部に入部している。笹原に使い込まれていると評された竹刀は、呼吸法の修練に刀に似たものが必要だったために小さい頃から使っているだけ。剣道には一切使っていない。

 

今日行うのは“型"の特訓。型っていうのは少年漫画の必殺技みたいなのだ。これがまた難しい、中学生になって二年が経過したが全く上達しない。 

 

「“全集中・水の呼吸”」

 

呼吸法には一番の基礎である全集中の呼吸以外に、流派と呼ばれるものが存在する。例えば今俺がやり始めた“水の呼吸”がその一つだ。この呼吸から繰り出されるのが“型”である。

 

そこから口に出さずに、脳内で型の名前を唱えながら竹刀を型の通りに振るう。

 

水面斬り(壱の型)打ち潮(肆の型)干天の慈雨(伍の型)雫波紋突き(漆の型)滝壺(捌の型)…これを誰もいない正面に繰り出し続ける。型の連発は正直体への負担が強いのであまりしたくないのだが、最近はこの型の連発が一番良い修練になっているので止めるわけにもいかない。これよりも効率の良いやり方が見つけたらそっちに変えるが。

 

「あ、光照先輩。ちょっといいですか?」

 

練習を初めてからかれこれ一時間が経った、そろそろ水分を取らなければと思っていた時、部活の後輩が俺に声をかけてきた。

 

「どうした?」

「部長が光照先輩の事呼んでて…転校生の方と試合して欲しいみたいなこと言ってましたよ?」

「はぁ?俺と試合?俺が弱いのは部員全員が知っているだろうに。しかもその転校生剣道経験者だぞ、見た感じかなりの腕前だ。わざわざ負ける試合をするのは流石に嫌なんだが」

「いや、それがどうしても光照先輩に試合して欲しいみたいで…」

「俺よりも部長が笹原と試合すればいいだろう、部長強いし。…というかアイツなんでわざわざ人伝に言うんだよ、同じ部屋内なんだし直接言いに来ればいいものを」

「わー!!!!なんでそんなこと言うんですか死にたいんですか!!!?」

 

いきなり俺の口に手を当てて強制的に黙らせにくる後輩。一体なんだと言うのだろうか。訳が分からないが、後輩の目は何かに怯えていた。とりあえず事情を説明して欲しい。

 

「実はもう部長、転校生の方と一試合したんですよ」

「それで」

「…負けちゃったんです」 

「転校生が?」

「部長が」

「─は?」

 

後輩の口から飛び出した驚愕の真実。まさかあの鬼強い部長が負けるとは。アイツはこの部活…というか全国で通用するくらいには強いのだが。それほどまでに笹原は強いというわけだ。…ますます解らん、それで何で俺と試合させようとするんだ?

 

「それで。転校生の方が部長のことを、思っていたよりも弱かったみたいな事言って煽っちゃって…『噂も宛てにならんな、この部活の格も知れた』みたいな」

 

「そこからは売り言葉に買い言葉で。部長が『この部活の剣術最強は俺ではなく光照嶽虎だ!』って…転校生の方は転校生の方でならば連れてこいとか言っちゃうし。近くにいたって理由で私が先輩に事情を説明するために───」

「あぁ、うん。大体解った、お疲れ様。部長、怒ると語彙力下がるもんな。そりゃこっち来て説明なんて無理だ」

 

 

後輩に同情しながら二人を見やれば、どうしてか口論をしている二人の姿が。そして少しの間見ていると、どちらも此方に気づいたようで。

 

部長は明らかに青筋を立てながら此方を見ていた。隣の竹原さんもまるで抜き身の刀の様に鋭く恐ろしい目付きで俺の方を見てるし。

 

さて、その後はトントン拍子に進んだ。あとは前途の通り、緊迫とした雰囲気の中で剣道の試合を行い普通に負けた。

 

 

…これで、終わると思ったのだが。

 

 

「両者、構えて」

 

 

どうしてかもう一戦交えることに。勿論また俺と笹原で。今回は呼吸法を使えと言われたので使うことに。

 

…そもそも、俺は剣道で呼吸法を使うつもりはない。呼吸法を極めたいのはただの趣味みたいなものなので、そう言った事に使おうとは思えないのだ。使ったら使ったでもうそれは剣道ではなくほぼルール無視の実戦になるし。

 

部長もそれを知ってる筈なのだが、それをねじ曲げてまで俺に勝って欲しいらしい。本当なら断りたいのだが、あそこまで念押しされると断れなかった。

 

「はじめ!」

 

部長の掛け声と共に誰よりも早く、竹原が声を張りながら此方へ上段の構えで向かってくる。前の試合ではこれに対応できず一本取られて負けた。

 

けど今回はそうはいかない。あっという間に振り下ろされた、恐ろしい速さの竹原の上段を今度はしっかりと此方の竹刀で受け止め弾く、次は此方の番だと言わんばかりに思い切り息を吸う。肺に大量の酸素を取り込み、此方も構えを取る。

 

さっきも竹原にキレられたし、これはちゃんと本気を出した方がきっといいのだろう。

 

「“全集中・水の呼吸”」

「っ、試合中に何を呟いて────」

 

その構えは剣道でいう抜き技に近いだろうか。その違いは普通の抜き技よりも強く腕を引いていること、そして俺の呼吸音。

 

その音は、まるで力強い風が吹き逆巻くかの様な独特な音。風なんてこの道場内で吹く筈がないのに、この道場内に居る人間は皆風が吹いているのだと錯覚するほどに大きな呼吸音。

 

そこから繰り出されるのが先程も練習していた技。

 

「“壱の型・水面斬り”」

 

 

 

青々とした海の波を纏ったかのように鋭い竹刀の一閃が、竹原を襲う。

 

 

 

「──っ!?」

 

気づいた頃には此方の竹刀は竹原の胴に命中し、それだけでは壱の型の威力を殺しきれなかったらしい竹原は後方へ3m程吹き飛ばされていた。竹原は何をされたかよく理解できていないらしくその場に尻餅、道場内が静寂に包まれた。

 

本来なら、片手で振るった竹刀で人が吹き飛ぶなど有り得ない。しかし元よりこの呼吸法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、この呼吸を用いた際の力は、普通の人間とは比にならない。

 

 

 

「…一本!」

 

 

 

 

 

今回は一本勝負、今の胴抜きで俺の勝ちだ。一応手加減はした、本気でやった事がないので威力が分からなかったし。

 

 

 

 






週一更新目指して頑張ります。


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馴染む転校生とちょっと馴染めない俺


ギリギリ一週間です、あぶねぇ。




   

 

 

転校生、竹原箒がうちの学校にやってきてから一ヶ月、同時に剣道部でひと悶着あった日からも一ヶ月経った。

 

結局あのあと竹原は部長や他の部員、あと俺にも謝った。俺は何故部長や竹原がキレてたのかはよく分からないし、竹原が謝った理由もよく分からないのでどうでもよかった。

 

 

「なー光照、放課後どっか遊びに行こうぜ!」

「悪い、今日は部活だ」

「今日はって…お前毎日部活じゃんか!たまには息抜きしてもいいんじゃないって思わないわけ?」

「特には。小さい頃からこんなんだし、習慣みたいなもんだよ」

 

今は美術室の掃除中。今日の授業で友人と色々とやらかしてしまい、その罰として掃除をすることになった。しかしその掃除を、さも当然の様にサボりながら話しかけてくるのは、教室で隣の席の友人。金髪に染めた毛髪が異様に目立つ。

 

「はー…漫画ではお前みたいなの見るけど、現実にも居るんだな。そういう奴」

「それは褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだ」

「どっちでもない、ただ感想を言っただけだよ」

「なんだ、それ」

「お前が変人ってことだろ」

 

…確かに、自分が変人かどうか聞かれると自信をもってNOとは言えないかもしれない。前世の自分の事を言われているのなら胸を張ってNOを言えるものの、今の自分は改めて考えてみると変人な部分は多い気もする。

 

「そういや光照、竹原さん結局剣道部入ったんだって?いいよなぁ美人がやる剣道!この間チラッと見に行ったけどくっそ絵になっててさぁ!いいね美人!!」

「そんな誉める割には声かけたりとかしないよな」

「いやぁ…竹原さんはなんと言うか、近寄りがたい雰囲気出してるからなぁ。貧弱なハートの俺には無理だわ」

 

実際、俺は竹原が部活の時以外で人と話している所を見たことがなかった。竹原はいつも不機嫌そうな顔をしているせいか全く人が近寄らない。

 

時たまクラスの女子が絡みに行っても、当たり障りない感じで流される。無視するとかでなくちゃんと受け答えはするのだが、その受け答えの仕方が淡白過ぎて余計近寄りがたい。竹原はそれを問題とは思ってないようだし。

 

「でも、意外と竹原って話しやすいぞ」

「ほんとかぁ?」

「本当だよ、部員たちとも案外普通に話してるし。あとあの不機嫌そうな顔は元からだって」

「元から?あの仏頂面が!?」

「意外だろ?本人から聞いたときはびっくりしたよ」

「今聞いた俺もびっくりだわ…」

 

あの竹原さんが普通の話しているところなんて想像がつかない、そんな顔をして驚く友人。気持ちは大いに解る。

 

「部活といえばさ、竹原さんって実際剣道強いわけ?」

「滅茶苦茶強いぞ、部長よりも強い」

「マジか…?剣道部の部長ってあれだよな、この前朝礼で大会優勝で表彰されてたあの人だろ?」

「ああ、その人だよ」

「…女子なのにそこまで強いってことは、想像つかないくらい相当鍛えたんだろうなぁ。俺には絶対無理だわ」 

 

竹原への感想を持つのは勝手だが、いい加減掃除を手伝ってはくれないだろうか。このままでは俺だけでこの教室の掃除を終わらせることになるのだが。

 

「光照。ここに居たのか」

 

タイミングがいいのか悪いのか、掃除中の教室に竹原がやってきた。どうやら俺に何か用があるらしい、ほんの少し予想がつくが。

 

「お、竹原さんじゃん!?噂をしたらって奴?」

「噂?」

「いやいや此方の話だから気にしないで!そんな事より光照になんの用?」

「ああ、今日も部活の練習に付き合ってもらう予定だったのだが、思っていたよりも遅いから迎えに来た」

 

やはり予想通りだった。俺はあの日から一ヶ月、部活がある日は毎回竹原の練習に付き合わされている。練習は試合形式の時もあり、しかもその際は呼吸法を使うことを強いられる。使わないと手を抜いていると怒られてしまうのだ。正直理不尽だと思うのは俺だけだろうか。

対人で呼吸法を使って戦うことが普段無いから加減もしにくいし。…使わない、何て言ってた時のプライドは何処に行ったのか。

 

「すまない、今は見ての通り掃除中だからそれが終わったら…」

「───は?」

 

突然、ぎろりと友人が俺を鬼の形相で睨んでくる。いや待ってくれ、何で俺を睨む?今の会話の流れにお前がそんな顔になるような部分は無かっただろ。

 

友人はさっきまで振り回していた箒を机の上に置いて、どかどかと音を立てながら俺の側まで近づいてくる。そして小声で俺に文句を言ってきた。

 

「お前!!いつの間に竹原さんと仲良くなっちゃってる訳!!!?」

 

一体何事かと思ったが、聞いてみれば特に何でもなかった。そういえばこいつ、一ヶ月前も竹原を部活に案内することになった俺を羨ましがっていたな。…いまいちよく分からないが、そういうものなのだろうか?

 

「ったく!俺がここの掃除終わらせとくからお前はもう部活行けよ!」

「なんだ、いきなり」

「女子を待たせるなって事だよ!女子放っておいて掃除とかするか?俺だったらしないね!」  

 

また突然の友人の優しい気遣いに一瞬思考が停止してしまう。友人は俺の手から箒を奪い取り親指で竹原の方を指差す。行け、ということなのだろう。

 

「その代わり、今度部活サボって俺に付き合って貰うからな」

「ああ、その時は何でも付き合うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、場面は移り、前回と同じでまた剣道場。今日も今日とて竹刀のぶつかる音で賑わっている。

 

まるで焼き直しかの様な剣道場への移動だが、俺が学校で自分から行くところなんて剣道場しかないから仕方がないのだ。

 

「それにしても意外だった」

「?何がだ、竹原」

「光照が堂々と部活をサボるような発言したことがだ。そういうタイプには見えなかったからな」

「俺は面倒だったらサボるぞ、今は面倒じゃないからサボってないだけだ」

「そうなのか?てっきり私は光照は剣の特訓以外に興味がないのだと」

 

そんなことあるか。そう否定しようかと思ったのだが、これまた否定する材料が見当たらない。特に竹原が転校してきてからここまでの一ヶ月は、竹原からの練習の誘いを断れず部活で馬鹿みたいに竹刀を振っていたし。いや、竹原が来る前までは友人と遊んだりもしていたのだ、本当に時たまだが。

 

「うーん…ああうん、ノーコメントで頼む」

「ノーコメント?」

「いや、否定したいんだがちょっと否定しきれないのがな…」

「そ、そうか…そういうものなのか?」

「そういうものなんだ」

 

沈黙。俺はどうしても異性が苦手なので会話をする気が起きない、ぶっちゃけこうやって真正面に立ててるだけでもすごい方だ。竹原は竹原で軽くコミュ障だ。…お互いに自分から話していけるようなタイプではないので、こういった状況になるとどうしてもこうなる。いつもは部員が割って入ってくれたりしてなんとかなるのだが、今はその頼りになる部員は一人もいない訳で。気まずかったので俺と竹原は同時に柔軟を始めた。

 

「よ、よし!柔軟も終わったことだし早速試合稽古しないか!?」

 

この気まずくなってしまった雰囲気をどうにかしたいらしい竹原は、テンパりながらも試合稽古を俺へ申し込んだ。この申し込みは正直とてもありがたかった、試合をすれば沈黙なんて当たり前だしな。

 

正直最近試合ばかりなので一人で素振りとかしたいのだが、そう思いながらも俺は柔軟のために脇に置いておいた竹刀袋から、愛用の竹刀を取り出してゆったりと構える。

 

「構えた、ということは了承したということでいいんだな?」

「勿論だとも」

 

相対する竹原も竹刀を構える、あとついでに流石に審判が居ないと試合は難しいので、審判を近くにいた休憩中の後輩に声をかけて頼んだ。

 

「ちゃんと本気でやるのだぞ?」

「…使わなきゃ駄目か?」

「ええい!やはり言わなきゃ使わないつもりだったな!!?」

「じゃあいつも通りジュース一本だ」

「むう。分かっている!」

 

仕方なし。呼吸の仕方を部活の時だけしている普通の呼吸から“全集中の呼吸”へと切り替える。因みに呼吸法を使ってでの試合では竹原に負けたことは一度もない。

 

「今日こそは勝つからな!」

「水の呼吸に反応でき始めてるのは誉めてやるが、勝ちは譲れないな」

 

竹原は飲み込みがいい、試合を通して本当に恐ろしい早さで強くなっている。既に一ヶ月前よりも圧倒的に強いだろう。しかしそれだけで負ける理由にはならない。一ヶ月前と比べて強いだけで、竹原は未だに俺の一撃を止めることすら叶わないし。

 

「じゃあ準備はいいですか、先輩──」

「ごめん!竹原さん、ちょっといいかな?」

 

後輩が掛け声を掛けようとしたところで部長が此方に来て割り込んでくる。なんというタイミングで入ってくる部長だろうか、竹原は呼ばれた事に驚きながらも後輩と俺に断りを入れて部長の方へ寄る。

 

「どうしたんですか、部長」

「竹原さん、いきなりなんだけど次の夏季大会に出てみない?個人戦で!」

「大会…?大会ですか!?」

「うん、竹原さんも入部して一ヶ月だし。どうかな?」

「私でいいなら是非お願いしますっ!!」

 

大喜びの竹原、こんなに大きな声を出せたのかと少し驚いてしまう。夏の大会…ということはあれだろうか、全国大会。そういえばこの間そんな話を帰りに聞かされた気がする。確か八月頃だから今から出る選手を決めるのは妥当だろう。

 

「良かった!個人戦の女子がなかなか決まらなくてね、助かったよ」

「良かったな、部長。結構悩んでた…よな?確か」

「よく覚えてるなぁ、でもこれでひと安心だ」

「あの、部長。大会の詳細を聞かせてもらっていいですか?」

「勿論だよ」

 

竹原は出ることになった大会にウキウキのようだ、まぁ大会に出れるって言うので十分嬉しいのにそれが全国だものな。この感じだと試合稽古は出来そうにないし、久々に一人で型稽古でもしようか。そう思った時だった。

 

「あれ?光照先輩は大会に出ないんですか?」

 

後輩が余計なことを口走りやがった。その手には大会に出る選手の名が書かれた紙、恐らく部長が落としたりしたのだろうか。

 

「な、今の言葉は本当か!?」

 

苦笑いで誤魔化そうとする部長と、案の定というか、予想通りの反応をした竹原。

 

「本当だ、俺は大会に出ないぞ」

「光照!?どういうことだ、お前ほどの強さがあればまず出ても可笑しくないだろう!またあれか、試合で本気を出したくないからか!?」

「はは…僕個人としては出て欲しかったんだけどねぇ」

 

食って掛かる竹原を手であしらいながらどう言い訳したものか悩む。今回は別に俺の下らないこだわりとか関係なく出れないのだ。しかしなんというか、その理由を話すのも面倒くさいと言うか。

 

…さて、どうしたものか。

 






今回はほのぼの。次回は多分真面目な回だトカじゃないトカ。


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