Fate/Grand 莠コ逅?┥蜊エ迚ゥ隱 (来栖川有栖)
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君はまだ、全てを知らない
英雄の詩


 俺は、どう足掻こうとも、英雄になんてなれない。

 なれっこないのだ。

 

 FGO、あのゲームをして俺は藤丸立香のようになりたいと思った。

 どう足掻こうとも、不可能なのに。

 

 夢を描くことはいいことだ。

 でもそれが現実になってしまうと、絶望する。

 

 現実と、夢の、あまりにも乖離した()()に。

 

 

 

 

 手を伸ばし、希望を掴もうとする。

 ああ、不可能。

 不可能だということは、可能ではない。無理ということだ。

 

 それは誰にでもわかる。

 

 これはただの、少年の言葉に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 くだらない話の続きだ。

 

 人間は誰かの幸せを願う。

 

 ああ、嘘だ。誰だって自分の幸せが一番だ。

 

 これを見ている君もそうなのだろう? 

 

 言葉では誰かの幸せを願いつつも、自分のことばかり考える。

 

 エゴイストだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語が始まるとでも思ったかい。

 

 これは無駄話に過ぎない。

 

 何故かって? 理由は単純だ。

 

 人理は既に焼却されたのだから。

 

 無の空間で、一人ポツポツ話すのも、悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 このようなことになった理由、聞きたいだろうね。

 

 この世界では、藤丸立香という闍ア髮は存在しなかったのだ。

 

 そう、実に単純な理由だろう。

 

 助かるはずだった命は消え、全ては焼却された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが待て、まだ希望がある。

 

不確かな希望ではあるがね。

 

 明るく点滅する星のように、その命は消えかけている。

 

 何故そうなってるかって? 彼は英雄ではないからだ。

 

 ただの人間に、どんな希望を抱いているのだ、君たちは。

 

 おっと、藤丸君もただの人間だったね。

 

 なら、まだ希望はあるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ飽きてきた頃だろうが、まだもう少し、付き合ってほしいね。

 

 君は、マシュという少女についてどう思う? 

 

 簡単な感想でもいい、述べてほしいね。

 

 私の感想を話そう。

 

 素晴らしい、花のような少女だ。

 

 花のように、一瞬のために美しく生きる少女だ。

 

 

 

 

 

 

 ……人理焼却、その残された時間を使って延々と一人語りしたが、そろそろ時間のようだ。

 

 私が何者か、それはこれから君たちが知ることだろう。

 

 誰かのために戦い、誰かのために全てを殺し、進んでいく一人の少年の物語の中で。

 

 決して美しいものではないが、誰にでもできることではないことを。

 

 ……意識の消失が始まる。

 

 単独顕現を利用して、ここに存在しているが、もう時間はないようだ。

 

 最後に、一言挨拶を。

 

 それでは、皆の者、さらばだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて英雄になりたいと願った少年がいた。

 

 彼は決して、英雄にはなれなかった。

 

 理由は単純だ、彼は藤丸立香ではないからだ。

 

 だが、数々の英霊は彼を称えるだろう。

 

 誰にもできない決断をしたのだから。

 

 

 

 

 

 

 始めよう、物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 [第一防衛杭:絶寒終末国『日本』]



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第一防衛杭:絶寒終末国『日本』
第1節:一握りの希望


 寒い。

 最初にそのような感想が頭に浮かぶ。

 意識は未だはっきりとしないものの、寒さが緩和しているような、そんな気がする。

 

 目を、ゆっくりと開ける。

 目を開けたそこは、真っ白な空間。

 ただ、吹雪いていた。

 

「……な、なんだ……? お、俺……どうしてこんな……」

 

 体を起こし、周りを見る。

 下半身が雪に埋もれている、が寒さはそこまで感じない。

 吹雪に打たれているというのに、寒さをそこまで感じていなかった。

 

 あまりにも感じないものだから、一瞬死んでいるのではと錯覚し体を見る。

 俺は黒を基調とした制服を着ていた。

 

 その制服には見覚えがあった。

 極地用カルデア制服、あのFGOに出てきた魔術礼装の一つだ。

 

 何故そんなものを着ているのか気になったが、もっと気になることがあった。

 それは当然、周りの景色である。

 

 雪なのだ。

 周り一面雪景色、真っ白だ。

 第2部の白紙化した世界より酷い。

 

 立ち上がり、周りを見るが、何も見えない。

 顔を覆い隠そうと、右手を顔の前に出した時、それを見つけた。

 右手に刻まれた赤い刻印、令呪だ。

 

 藤丸立香のものとは違うが、令呪であった。

 

「もしかしたら……マシュとか……いるのかも、しれない」

 

 令呪があるということは、サーヴァントがいるということ。

 それともう一つわかったことがあった。

 

 俺は、FGOの世界に来たということだ。

 俺の心は妙なワクワク感に包まれていく。

 それと同時に不安も抱く。

 

 もしそうなら、ここはどこで、いつなのだろうかと。

 格好から考えるに第二部あたりだろう。

 第2部第1章、永久凍土帝国:アナスタシア。

 この景色の様子からそう考えるのが納得の結果……のはずなのに……。

 

「……は?」

 

 吹雪が止んだ。

 突然、吹雪が止んだのだ。

 

 だがそれは、然程重要なことではない。

 重要なのは、止んで見えた景色だ。

 

「なんだよ……これ……っ!?」

 

 俺は氷漬けになった都市の真ん中に立っていた。

 周りにはいくつものビルが立ち並び、俺がいるのは道路の真ん中だろう。

 雪から突き出た標識でそれは予想できた。

 

 これは見覚えがある場所。

 そう、日本であった。

 

「……ま、待て。これはFGOの世界、だよな。そのはず、なんだよな……!?」

 

 混乱して、頭を抱え膝をつく。

 日本が舞台になったことは……イベント何回かあったが、こんな場所は一度もなかった。

 明らかにおかしい。

 

 周りの風景は、吹雪が止んだものの真っ白だ。

 ビルも何もかもが氷漬けになっているのだ。

 

「……取り敢えず、この場から動こう……」

 

 雪の中に埋まった足を出して、歩き出す。

 一歩足を前に出す度に、足が雪に沈んでしまう。

 深く足が沈むわけでもないから、進むのにそう時間はかからなかった。

 

 今の俺って、どういう状況なのだろうか。

 レイシフト、とは言い難い。

 かと言ってLost beltかそうかと言われると、YESと答えきれない。

 

 Lost beltの予定に日本はなかった。

 だとしたらこの光景、特異点と捉えた方がいいのだろうか。

 

 だが、それだとしたら少しおかしいだろう。

 周りの光景は明らかに現代だ。

 

 2018……2019あたりなのは確実だった。

 

 歩き続けていると、一つのビルのガラスが割れているのを見つけた。

 そこから中に入る。

 

 そこは電気屋、結構大きい電気屋だった。

 一階にはスマホやパソコンがたくさん置かれている。

 電気が通っている様子はない。

 人の気配も全くしなかった。

 

「すいませーん……! 誰かいませんかーっ……!」

 

 声が響き渡る、だがそれだけで声は返ってこなかった。

 山彦のようにずっと響いていく。

 

 俺は結局立ち尽くしてしまう。

 

 と、奥の方から声が聞こえたような気がした。

 自分の声の可能性も……と考えていたところ、今度はしっかり声が聞こえた。

 奥の方に誰かいるようだ。

 

 奥へ進めば進むほど、その声は鮮明に聞こえてきた。

 

「おーい、おいおいおーいっ! ここだよ。ここ、ここっ!」

「ど、どこだ……?」

 

 声のする場所に来たが、そこにはスマホがたくさん置いてあるだけで、他には何もなかった。

 周りを見渡しても、隠れれるような場所などは存在しておらず、人声の正体がわからない。

 

「あー、えっとスマホ。黒いやつだよっ!」

「え?」

 

 一つの、黒いスマホを見つける。

 なんとそれだけ画面がついており、何かが映し出されていた。

 俺はそれを手に取り、画面見る。

 するとそこには真っ白な空間が映し出されていた。

 

「……映ってる?」

「白い空間、なら……」

 

 と言って向こうに伝わっているか気になったが、そう心配することでもなかった。

 すぐに返事を返してくれたからだ。

 

「あれ、もしかして私、画面に映ってない?」

「な、ないけど……」

「ちょっと待ってね……よし、これでいいかな?」

 

 画面が少し揺れると、背景が動き一人の少女が映し出される。

 その少女はこっちを凝視し手を振ってきた。

 

「どう? 見えてる? 私何してる?」

「手を、振ってる」

「よし、見えてるみたいだね」

 

 そう言うとカメラから離れて、椅子を持ってきてそこに座る。

 身長が足りないようで、少し足が浮いている。

 

「よし、それじゃあまずは少し屈もうか」

 

 画面に映る少女は、変なことを言い出した。

 

「え……?」

「ほら速くっ!」

「う、うん……」

 

 俺は身を屈めると、その瞬間目の前の台座が破壊された。

 薙刀のような武器で、破壊されていた。

 

「……う、うわあああああああああああっっ!!!!」

「少し下がって!」

 

 俺は身を屈めたまま後ろを見て、飛び下がる。

 すると、薙刀は俺の目の前に振り下ろされ、ギリギリのところで地に刺さっていた。

 攻撃してきたやつの顔は見えない。

 

「頭を屈めて2秒後、立って走り出すっ!」

 

 言われるがままに頭を屈めると、頭上に斬撃が走る。

 その一撃でわかった、今攻撃してるやつは俺を殺そうとしている。

 

 全身を恐怖が覆っていく。

 

 死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない!!! 

 

 俺は死にたくないがために、スマホの少女の言うことを聞く。

 屈めた2秒後、立って走り出した。

 

「な、なんだよ、なんなんだよっ!! 何が起きてんだよっ!!!!」

「今、私が説明できるとでも!? 取り敢えず私のことはナビゲーターとでも思って! 一応言っとくけど、クラスはムーンキャンサー! いいね? よろしくっ!」

 

 そう言うと次の指示を出す。

 俺はその指示を聞き、追跡者からの逃走を始めた。



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第2節:サーヴァント『セイバー』

今回の節は、本編ネタバレを含みます。
第1部クリアしてない人はお気をつけを。


 逃走、後ろからの追随者は増えていく。

 俺は走りながら、スマホの少女に質問する。

 

「む、ムーンキャンサーって……サーヴァントってことだよねっ……!?」

「わ、私は……サーヴァントだけどサーヴァントじゃないって言うか……5秒後ジャンプ!」

 

 言われるがままに飛ぶ。

 飛んだことによって、足元に仕掛けられた攻撃の回避に成功。

 どう言う原理かわからないが、計算して次の攻撃を予想しているらしい。

 

「ちなみに私は、君のことを知ってるよ。何をしたらいいのかもね。3秒後スライディング!」

 

 攻撃を次々と避けていく。

 さっきまでバクバクなっていた鼓動は落ち着き。

 やっと平常心を取り戻せた。

 

「……それってどう言う……」

「ダヴィンチ女史はいない。ロマニと言う……魔術王もいない。そして……あの子もいないのさ」

「……え?」

 

 それを聞いて、一瞬動きが止まるが、後ろからの足音に急かされ再度逃走を始める。

 

「……うん、今話すことじゃなかったね! ほら来るぞっ! 1秒後右に曲がって!」

 

 指示を聞き続けるが、何を言ってるのかさっぱりだった。

 今の話、つまりダヴィンチちゃん、ロマニ、そしてマシュがいない。

 そう言うことになってしまう。

 

「……よし、霊脈を割り出せた! 地図を表示するからそこに向かって!」

 

 そう言うと画面が切り替わり、地図になる。

 地図は町の北のほうを指していた。

 どうやら道路の真ん中にあるようだ。

 

 俺はぐるぐる思考がまとまらない頭を放っぽり出し、そこへ向かうことにする。

 相変わらず逃走を続けながら。

 

「一応聞いとくけど、詠唱わかるよね?」

 

 一応、何度もFateは見たりしているからわかる。

 しかし召喚と言うけれどどうするのだろう。

 俺に魔力はあるのだろうか。

 

「……色々知ってる私から言わしてもらうと、君に魔力はほとんどない。だから私が魔力を肩代わりする。まあカルデアだと思って!」

「……カルデア……」

 

 一体このスマホの少女は、何者なのだろうか。

 わかることはクラスがムーンキャンサーだと言うことだけ。

 そもそもサーヴァントであってサーヴァントじゃないみたいなことを言っていたが、どう言うことなのだろうか。

 

 が、そんなことを考えさせてくれるような敵ではなかった。

 次々と追ってきては攻撃仕掛けてくる。

 休む暇なんて一切なかった。

 

 1分後には目的地の場所に到着した。

 後ろを振り返ると、やっと敵の姿がわかる。

 が、それを頭で思考するほど今は余裕がなかった。

 

 やつらはもう目の前まで来ていたからだ。

 

「さーて、ここに新たなマスターが生まれる。スマホの画面を床に向けて置いて! 足下が光り出したら詠唱を始めて!」

 

 言われた通りにスマホを置く。

 するとすぐに光が出てきて、魔法陣を勝手に描き始めた。

 俺は右手刻まれた令呪を見て、詠唱を始める。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する

 ────告げる」

 

 目を瞑りながらの詠唱だったが、奴らの足音でどこまで来ているかわかった。

 もうすぐそこまで来ていた、でも詠唱は止めない。

 未だ果てしないほど、体全体が恐怖に包まれていた。

 

 だから俺は無理やり、詠唱を続けていく。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」

 

 奴らは武器を振り上げ、俺の頭上から振り下ろし──! 

 だが、届くことはなかった。

 一撃の轟音と共に、武器が弾き飛ばされていた。

 ゆっくり目を開け、目の前の光景を見る。

 

 俺の目の前に、刀を持った一人の狐耳の少女が立っていた。

 白く長い髪。それでいて整った顔。

 一言で表すなら、ただただ美しく、可愛らしかった。

 

「……クラスセイバー。召喚に応じ参上した、が……オレのますたぁはあんたか?」

 

 そしてそれは、見たことのない英霊だった。

 

「……ふむ、どうやら他の英霊はいねぇようだし。真名言っとくか。オレの真名は天狐。妖怪だ」

 

 そう言いケラケラ笑って、追跡者たちを切り裂いた。

 飛んで切り裂く、着地した瞬間、飛びかかる。

 斬撃が一瞬のうちに、敵を何回も切り刻んでいく。

 

「……ふぅ、なんとか召喚に成功したみたいだね。ちょっと予想外のサーヴァントだったけど」

「天狐……って、妖怪……って」

「まあ、現状が現状だからこう言うこともあるか。頑張れー!」

 

 1分もしないうちに、敵の大半を斬り殺していた。

 斬り殺していた、と言うよりは倒したと言うべきだろうか。

 斬った奴らは、全員霧になって消えたのだ。

 

 大半を斬り倒したことによって、奴らは逃げていく。

 どうやらなんとかなったようだった。

 

「んーっ……目覚めの戦闘にはちょうどいいなぁ」

 

 そう言い刀を床に刺し俺を見る。

 近くに来て、俺の顔をジロジロ見てくる。

 少し恥ずかしくなってしまう。

 

「こんなひょろひょろがオレのますたぁか……」

 

 なんか落ち込んだ様子であったが、すぐに立ち直り周りを見る。

 

「……んで、次に何すればいいんだ?」

「いやその……特に……」

「うん、セイバー天狐、って言ったよね」

「うおっ!? な、なんだそりゃあ!?」

 

 スマホを見て、なんとも驚いた様子だった。

 興味深そうに画面を見つめる。

 

「はー、最近の英霊ってのはこんなものもあるんかい?」

「私が特別なだけかな。さて聞いときたいんだけど。君は聖杯について知識はあるかな」

「あん? そのために呼ばれたんじゃねーのかい?」

「っ……! この世界。聖杯があるのか!」

 

 だとしたら、俺はそれを回収したらいいのだろうか。

 いやでも、おかしいな。

 何故、ムーンキャンサーは魔力を肩代わりしている。

 聖杯があるならその魔力を……。

 

「聖杯の魔力、使えないんだ。一人が占拠してるって言ったらわかりやすいかな?」

「あ……」

 

 つまり、この世界には異聞帯の王みたいな存在がいると考えていいわけだ。

 いよいよFGOっぽくなってきた。

 

「さて、そろそろ君の役割について伝えなくちゃね。そのためには……安全圏に移動しようか」

 

 そう言うと、新たなマップが画面に出る。

 空を見上げると、雪が降り始めていた。

 

 俺たちはその雪道を歩き、目的地へと向かった。



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第3節:マイルーム

 地図で案内されたそこは、地下鉄であった。

 瓦礫の山でいくつか通れなくなっている道もある、地下鉄だったのだ。

 

「……ムーンキャンサー。どうしてこんなところに連れてきたんだ?」

「まあ見てからのお楽しみだねっ!」

 

 となんとも楽しげに言う。

 俺と天狐は首を傾げ、案内に従ってついていく。

 

 天狐を召喚し、戦闘を終え三十分後。

 今現在に至る。

 もう一度周りを見るが、特に目星いしものもなく、瓦礫の山が点々としているだけだった。

 その中を隣を歩く天狐と、手に持っているスマホの少女である。

 

 ふと、歩いていたら遠くに電車が見えた。

 

 近くまで来ると、かなり大きいことがわかった。

 それに近未来的な外装で、なんとも言えない格好良さがあった。

 

「さて……これが目的地の、地下鉄型移動要塞『ディザスター』だよ!」

「地下鉄型……移動要塞だって……?」

「うはぁー……スンゲェなぁ、オレの住んでた日本ってのはここまで進んでんのかい」

「んー、ちょっと合ってるようで違うかな。詳しいことは中で話すよ」

 

 そう言うと、ディザスターの扉が開く。

 中に入るとそこは、部屋だった。

 ただの部屋、マイルーム、って言ったらわかりやすいだろう。

 カルデアで見たマイルーム、よりかは幾分かふわふわしていたけど。

 

 その部屋に入った瞬間、体全体から力が抜ける。

 目の前に置いてあったダブルベッドに顔を埋める。

 

「……ますたぁ?」

「お疲れみたいですね。まあしょうがないですよ。あんなことばかりでしたし」

「ま、ただの人間じゃそんなもんか。んじゃまあ……オレは他の部屋見てくる」

「はいはい行ってらっしゃいな」

 

 その声を薄れ行く意識の聞いて、そして俺の意識は完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何時間、経ったのだろうか。

 気づけば俺は毛布に包まり寝ていた。

 あくびと共に上半身を起こすと、目の前に見たことのない少女が立っていた。

 また……って、え? 

 

「う、うわああああああああああああああああああ!!!!?」

「マスターN/A様。おはようございます」

 

 目の前の少女はそう淡々と言い放つ。

 俺の叫びすら無視して。

 

「……え? だ、誰……?」

「私はアシストアンドロイド、『C-100』と申します。シーハ、とでもお呼びください」

「あ、ああ……ってムーンキャンサー?」

「私はここだよー」

 

 声のする方を見ると、ベッドの頭あたりに設置型充電器があった。

 ムーンキャンサーの入ってるスマホは、そこで充電されていた。

 

 いくら英霊と言えど、スマホに入ってる限り、限界があるんだな。

 

「天狐は?」

「今見て回ってるってさ。シーハ、工房に戻っていいよ」

「はい、それでは戻らさせていただきます」

 

 そう言うと、奥の方に歩いて行った。

 なんか体が涼しいな、と思い体を見ると下着姿だった。

 

「えっ!?」

「あー、汚れていたから、今洗ってもらってるよ。あれがないと満足に外歩けないしね」

 

 俺はスマホを手に取り、画面を見る。

 そこの奥ではムーンキャンサーが偉そうに椅子に座っていた。

 だが顔つきは、真剣そのものだった。

 

「さて、色々話すって約束してたね。うん、いいよ。何から聞きたい?」

「取り敢えず気になったことを言うと……まず、この世界について、俺は何故ここに、何をしたらいい、それにさっきのマシュたちがいないって……」

「うん、取り敢えずこの世界についてだけど……君がいた世界とは別の世界、異世界さ。全く違う歴史を歩んだ、違う世界だ」

 

 異世界、世界転移。いや、転生と言った方が正しいのか。

 何故、極地用カルデア制服を着ていたのか詳しいことはわからない。

 

「ロストベルトとは違うのか?」

「うん、ロストベルトはありえたかもしれない人類史でしょ。でもこの世界は、根本的に()()()()()世界なんだ」

「根本的に違うわけか……でもじゃあなんで世界はこんなことになってるんだ?」

「……簡単に言うとね、一度世界は滅んだんだ。だけどそれと同時に、七つの聖杯が現れた」

「七つの……聖杯?」

「うん、その聖杯が現れた土地を私は防衛杭と呼んでる。理由は後で話すよ。取り敢えずその聖杯によってなんと世界は生きている、って感じかな」

 

 つまり、この世界は一度滅んだものの、その時に現れた七つの聖杯によってなんとか維持されていると考えていいのだろう。

 ってことはその聖杯を守るものが存在しているわけで。

 俺はその聖杯を集めるわけで……? 

 うん、難しいことは考えない。

 

「次に君はなんでこの世界に来たかだけど……覚悟して聞いてね。君の人類史は焼却された」

「…………は?」

 君はギリギリ生き残った、一人なんだ。選ばれたのは、君だったんだ」

「……ちょっと待て、そ、それってどういう……」

「どうもこうも、君は自分の世界を救うためにここに来たんだ」

「……どうやって」

「聖杯さ」

 

 ああ、そう言うことか。

 集める理由がこれではっきりした。

 俺は自分の世界を救うわなくてはならない。

 なら、聖杯を集める必要があるわけだ。

 

「……ま、理解してくれたようだね。何をしたらいいかについても、今言った通り、聖杯を集めればいいのさ。私の目的は君をサポートするだけだから、そこは安心してね」

「なんでサポートなんて……」

「それはね……わかんないんだよね。なんかしなくちゃって言う思いがあって……うーん、記憶喪失、って言ったらいいのかな? なんか使命があった気がするけど忘れちゃった」

「いいのか……それで……」

「最後に、マシュたちがいない点について。私にも分からんっ!」

「……まあ、大体聞けたからいいよ」

 

 俺はベッドに寝転ぶ、今聞いたことを頭の中で巡らせる。

 俺が、俺が世界救うと言うことなのだ。

 俺がしなくては、何もかもが、家族だっていなくなってしまうのだ。

 

 ……ちょっと待て、それなら何故転生……うん、難しいことは本当考えたくない。

 取り敢えず自分の使命を全うしよう。

 それで全て解決するはずだ。

 

「さて、これからのことだけど……」

「んー、ここほんとスンゲェな!」

 

 興奮した様子で天狐が部屋に入ってくる。

 その姿はなんとも楽しげであった。

 

「ますたぁも見てきなよ!」

 

 目を輝かせ、前のめりになって俺に言う。

 ピタリと、密着に近い形になってしまう。

 

「あーあー、これからについてなんだけどいいかなー?」

「お、おうっ! オレは大丈夫!」

「あ ……ああ、いいけどこれからどうするんだ?」

「取り敢えず探索をしたいと思っていて……」

「それについては、オレからも提案があるんだ」

 

 と天狐が言った。

 何も考えてなさそうな顔の割には、意外と考えているようで……。

 

「あんの敵、いっぱいいたろ。あいつらのボスを取っ捕まえたいんだよ」

「方法はどうするの?」

「それについては勿論考えがあるぜ!」

「うーん。確かにそっちも気になるなぁ……よし、これについてはマスター君に決めてもらおう」

 

 突然、俺に話を振ってきた。

 

「お、俺!?」

「うん、これからの方針について、どうする?」

「どうすんだ、ますたぁ?」

 

 二人にそう言われ、俺は……。




アンケート終了。




セイバー『天狐』の絆が上昇しました。
+1
1/10

ルート:セイバーへ移行します。


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第4節:ルート『天狐』

 俺が選んだのは、天狐だった。

 天狐は笑顔で作戦を伝える。

 

「これはとても簡単でな。囮だっ! いいか、ますたぁ。あいつらはどこからか知らねぇが、突如現れやがる。とある方向から一斉にだ。なら辿ればいいんだよっ! な、簡単だろ?」」

 

 作戦とは、一切言えなかった。

 要は、ゴリ押しと言うわけだ。

 

 確かに一定の方向から現れると言うのなら、そこを辿れば確実だろう。

 だが問題は数が多すぎることだ。

 

 しかし選んでしまったものは仕方がない。

 それに探索しててもキリがなさそうだった、やるしかない。

 

「──……本当にいいの?」

「ああ……大丈夫。向こうに連絡通ってるよな?」

「魔力でね。うん、大丈夫」

 

 軽く深呼吸して周りを見る。

 実は俺、あの日敵の姿を見ていない。

 とても必死でそれに注目すらできなかった。

 

 つまり頼りは天狐だけだ。

 

 天狐は俺の場所から少し離れたところにいる。

 と言っていた。どこからかわからないが、すぐ来れるらしい。

 とにかく心配だった。

 

 いつ来るかわからない敵に緊張を張り巡らせる。

 

「ムーンキャンサー、聞いてなかったことがあったな」

「何?」

「真名、真名だよ。俺たちは契約してないが協力関係にある以上、それぐらいは教えてくれてもいいだろ?」

「……わからないんだ。ほら、記憶ないって言ったでしょ?」

「そう言えばそうだったな……」

 

 ……ここに来て、さほど辛いことは起きていない。

 考えてみれば、支えてくれている奴らがいる。

 何も辛いことは、ないだろう。

 

 そんなことを、恥ずかしながらも考える。

 おかげで気持ちが落ち着いてきた。

 

「──Take(目標確認)Shift(戦闘準備)

 

 声が聞こえた。

 人間の、声。

 

()()()()ッ!! 今から襲ってくる奴らは……──!!」

 

 少し、とある可能性を考えていた。

 それは、果たしてこの大地に人間は存在しているのか、だ。

 あの敵達は人間ではない。

 それは倒した時にわかりきったこと。

 

 それにあいつらは、一言も声を発していない。

 なら、この声は一体何か。

 

「絶対に()()()()()ッ!!」

『なッ……!?』

 

 天狐の驚いた声と同時に、轟音がした。

 雪煙の中、数人の人影が見える。

 

「ムーンキャンサー! 逃走する!」

「え、なんで!?」

「人間だからだッ!」

 

 俺は駆け出す。

 後ろから銃撃音が聞こえたが、直前に出されたムーンキャンサーの指示でギリギリ回避。

 

 殺せない、俺に人は絶対に殺せない。

 

「お前、死にたいのか?」

「は……?」

 

 雪煙の中から声と1発の銃弾が飛んできた。

 俺の肩に直撃する。

 

 痛い、リアルな痛み。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 

 

「ああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 そのまま前のめりに転ぶ。

 痛すぎる。

 あまりにも、痛い、辛い、苦しい。

 

 それがリアルな痛みだと言うものだった。

 到底、ただの人間である俺には耐えきれない。

 

 思考を放棄したい、全て投げ出したい。

 

「随分呆気無いものだな。死ね」

 

 銃を向けられ、引き金を引かれる。

 

「うおおおッ!」

 

 だが、その銃弾は一人の少女によって弾かれる。

 刀を持った、少女。天狐によって。

 

「おい立て!! ますたぁ!! こんなところで死ぬ気か!?」

 

 そう言われ、放棄しかけていた思考が戻ってくる。

 そうだ、ここで止まれば死ぬ、最後の希望すらも消え失せる。

 あまりにも大きい期待を、背負っている。

 

 なら、立ち上がって見せなくては。

 

「……死んで、たまるかァッ!」

 

 蹲ったまま雪を握りしめ、肩を抑えながら立ち上がる。

 俺に銃を撃ったやつを睨みつける。

 

「……ますたぁ、あいつは殺していいよな」

「あいつも人間だ……」

「ちげぇよ。あの先頭にいる奴、あいつサーヴァントだ」

「なっ……!?」

 

 純白のギリースーツで身を包み、銃を手に男は雪煙の中から現れる。

 その目は、冷血で、軽い恐怖を感じた。

 

「……よくわかったな、嬢ちゃん。君もサーヴァントだね?」

「おっさん、テメェ何者だよ」

「ふむ、では名乗らせて頂こう。私はシモ・ヘイヘと言う。クラスはガンナー。さて、そこの後ろにいる小僧、何者だね?」

「……まずはこっちも名乗らせてもらおうか。私は天狐、セイバーだ。あんたの後ろにいる奴ら、人間だろ?」

「ああ、共に戦う仲間だが、どうかしたかね?」

「こっちは人間に危害を加える気は無い。武器も手放す。そっちも警戒を解け」

「ほう、私たちがそれに応じると思うか?」

「応じてくれなきゃ困るさ。もし敵対すんなら……」

 

 一息置いて、言い放つ。

 

全員喰い殺すぞ?

 

「……わかった、こちらも仲間を無駄死にさせるようなことはしたくない。武器を離そう」

 

 目の前にいる人は武器を手放すと、その後ろの方でガチャガチャと銃火器が落ちる音がする。

 どうやら向こうの仲間は結構な数いるようだ。

 しかし、天狐はあの数相手にやれると言うのだろうか。

 隠し球でも、あると言うのだろうか。

 

「それでそこのマスター君。君は何がお望みなんだね?」

「……あ、えっと……情報が欲しい! それと出来れば安全なところで会話したい!」

「わかった、すぐそこの建物に移動することにしよう」

 

 それにこちらも応じ、お互いに近くの建物へと移動した。




私、シーハでございます。

ルート『天狐』お選びになられたそうですね。
いくつもの世界線で連ねられていく物語。
これは最初の選択に過ぎません。

七つの防衛杭と最後に待ち受ける終局防衛杭。
旅はまだ、始まったばかりですよ?


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第5節:ガンナー『シモ・ヘイヘ』

 あまりにも、その空間は敷き詰められていた。

 殺気と、膨張した緊張で。

 

 さっき撃たれた場所が少し痛んで押さえる。

 俺は話を始める。

 

「シモ・ヘイヘ。かなり近代の英霊だよ、な?」

「ああ、死んだのがつい17年くらい前だからな。それで情報は何が欲しい」

「ここ、日本なんだよな」

 

 改めて聞く。

 見ただけで日本とはわかるが、別世界と言うのであれば違う可能性もあるはずだから。

 

「ああ」

 

 別段そう言うことはなかったが、それを聞いて安心しホッとする。

 まず最初に気になったこと、それは日本のこの様子である。

 

「いつから日本はこんな様子なんだ?」

「いつから……だと? 君はまさか……いや、そうだな。もう数百年前からって話だ」

「……」

 

 数百年も前から……本当に根本から違うんだな。

 

「私からも一つ質問を、君はこの世界の人間じゃないな?」

「っ……!?」

「私と同じ、あのとこから来たのではないのか?」

「そ、それって……!?」

「……この世界のサーヴァントについて話そう」

 

 シモ・ヘイヘは目を伏せ、語り始める。

 この世界で召喚されるサーヴァントは本来、()()()()のだそう。

 どう言うことかと言うと、本来のサーヴァントはオルタとかではない。

 だが、この世界では普通の召喚でオルタなど、通常ではないサーヴァントしか召喚されない。

 

「だったら何故あんたは……?」

「言っただろう。私と同じ……と」

「あ……」

 

 つまりここで召喚される、本来は通常のサーヴァントは。

 俺のいた、人理焼却された世界のサーヴァントだと言うことだ。

 

「……シモ・ヘイヘ、自分がいた世界がどうなったか、知ってるのか?」

「いや、全く……」

「焼却、されたんだ。俺自身、未だ信じきれていないけど……」

「なにっ……!?」

「俺の目的は、その焼却された人理を救うことだ。もし同じ世界から来たと言うのなら、助けて欲しい」

 

 少し考えた後、俺の顔を見て頷く。

 

「わかった、少し待っていてくれ」

 

 後ろで待機している人たちに話している。

 俺はスマホと画面覗く。

 

「ムーンキャンサー、一つ気になったんだけどさ。聖杯ってどこにあるんだ?」

「……誰かが守ってるとしか、私にはそこらへんまでわからないんだ。でもわかることと言えば……数百年前からここは停滞してるってことかな」

 

 てい、たい……? 

 一瞬頭痛に駆られ、頭を押さえる。

 が、すぐ治ったから、気のせいだろうと言うことにしておく。

 

 と、シモ・ヘイヘがこちらを見る。

 

「うむ、了承を得られた。それで救うためには何をすればいい」

「聖杯が欲しい。聖杯があれば救えるんだ」

「聖杯……やはりそうなるか。なら大体目星はついている」

 

 意外なことを言う。

 なんともう既に、聖杯の目星はついていると言うのだ。

 幸運だった。

 

 まず出会えたこと、武器を降ろしてくれたこと、話を聞いてくれたことが。

 

「……ある場所はな、私たちが長い間敵対している者たちアジトだ」

「敵対……?」

「ああ、お互いにとって、利益のあると言うことだ」

「ならっ……!」

「ああ、ここ数年練ってきた作戦を実行する日は近づいているようだな」

 

 そう言うことで握手をし、これからについて話し合おうとしたところで、一人の少女が駆け込んでくる。

 かなり息が荒れている様子であった。

 

 随分と厚着で、全身を隠すような格好しているから、しょうがないような気もするが。

 

「シモ! 奴らが来ているッ!」

 

 今いる空間の緊張が更に膨張していく。

 ガンナーの後ろにいた人たちは全員を武器を手に外へ駆け出していく。

 

「天狐ッ!」

「はいよ!」

 

 後ろで立っていた天狐に呼びかけると、刀を手に駆け出していく。

 みんなの後から外へ出ると、遠くから何百人と言う奴らがやってきていた。

 そこで俺は、聖杯を守っている者が誰か、わかってしまった。

 

 奴ら全員、蒼い羽織を身につけていたのだ。

 

「蒼い……羽織、新撰組……っ!?」

「どうした?」

「……いやなんでも、ない……」

 

 天狐を見ると、遠くで無双していた。

 しかも狐のお面をつけて、紅い羽織を着ていた。

 向こうは大丈夫だろう、ということでほっとくことにしてみんなを見る。

 

 大体数十人ぐらいの軍隊って感じだ。

 それでもただの人間。

 ただの人間、そのはずなのに。

 

 大量の敵を前に、圧倒していた。

 

「……」

「驚いてるか、ここの世界の人間は皆強い。生きることに執着している」

「生きることに……」

「そう言う者のみが戦場で生き残れるのだ」

「…………」

「さて、敵が来るぞ。これを持って抵抗しろ」

 

 ハンドガンを一丁と結構な数の銃弾を渡される。

 ずっしりとした重量感、本物だった。

 いやこの状況で偽物渡すわけないだろうけど。

 

「じゅ、銃……!? 俺撃ったことないけど……」

「なら初めての経験じゃないか、喜べ」

 

 そう言うと駆け出していく。

 こうなってしまっては頼りになるのは……。

 

「ムーンキャンサー!」

「うんっ! 指示を出すよ! しっかり銃を構えてっっ!」

 

 俺は銃構える。

 初めて構える銃に手が震える。

 

 相手はいくら人間ではないと言うが、姿形は人間そのもの。

 殺すことに抵抗があったのだ。

 

「……生きるよ」

「……ああ、行くぞ」

 

 ムーンキャンサーからの指示によって後ろから来た敵を撃つ。

 かなりの衝撃に軽く仰け反る。

 

「うおっ……」

「次すぐ来るよッ!」

 

 次の指示を聞き、敵を撃つ。

 一撃、また一撃と撃つごとに恐怖は増していく。

 いつ殺されるのかわからないのと、俺が殺していると言う感覚で。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ムーン、キャンサー……?」

()()()()()()()()()()()()()()

 

 淡々とそう言い放った。

 

「誰だったか忘れちゃったけど、そう言われたの思い出してね。いい? 生きたいなら一切の躊躇はしてはダメ。相手が人間だろうが、殺すの」

「……」

 

 俺は答えられなかった。

 相変わらず恐怖が身を包んでいるが、その手の震えは自然と止まっていた。

 撃つことになれたのか、撃って感覚がなくなったのか。

 もはや何も分からなかった。

 

「後ろッ!!」

「はっ……!!?」

 

 後ろを見たときは、もう遅かった。

 奴の一撃が、目の前まで迫り……。

 

 そいつは吹き飛ばされた。

 一人の少女が俺を救ってくれた。

 さっき息が荒れていた少女だった。

 

「大丈夫っ!?」

「あ、ああ……たす、かった……」

「ほら、まだ来るよ! 気を抜かないで!」

 

 お互いに背を合わせ、敵を見る。

 俺は、半端思考を放棄し、駆け出した。



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第6節:絞り出した勇気

 あれから3時間、奴らの殲滅が終わった。

 戦場は随分と酷い者で、何人かの死者が出た。

 

 死体自体も酷い者で何度も刺されたような跡がある。

 

「ゔっ……お゛ぇっ……」

 

 口を押さえ蹲る。

 

「ますたぁ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫……げぇっ……!」

「まあ、慣れてないならそうなるだろうな。だが仕方がないことだ」

 

 そう言うと、シモ・ヘイヘは全員へ指示を出していく。

 天狐が俺の背中を摩る。

 

 これが、戦うと言うこと。

 戦うと言うその意味を、初めて知った。

 

「……辛いだろうけど、これは……」

「ああ、わかってる……まだ少し気分が悪い……天狐、すまないけど肩を……」

「あ、ああ、いいけどよぉ……これからもこう言うこと起きるんだろ? 先が思いやられるぞ?」

「慣れてやるさ、いつかな……」

 

 天狐に肩を貸してもらい、立ち上がる。

 少しフラフラしながらガンナーのところに行く。

 手を見ると、震えていた。

 どう頑張っても、それは止められそうになかった。

 

「大丈夫だな? よし、全員戻るぞ」

「お、おい……この死体は……」

「置いていく」

「な、何でっ……!?」

「当然だろう。下手に持って行って見つかったらどうする、それにそんなことする余裕なんてない……いいか、俺たちは生きるのに必死なんだッ!」

 

 声を荒げ言い放つ。

 俺は呆然としていた。

 

「……すまない、行くぞ」

 

 生きる。戦う。殺す。

 この人たちはみんな、そのサイクルで生きている。

 みんな強い、強いのだ。

 俺は、どれだけ幸せな世界で生きてきたのだろうか。

 

 藤丸立香は、どのような決意で、いくつもの世界を駆け抜けてきたんだろう。

 俺は、結局ただの人間なのだ、どう頑張っても英雄(藤丸立香)にはなれないのだ。

 

 歯を食いしばり、みんなの後をついていく。

 

苦しい。

 

 体がどんどん重たくなっていく。

 

辛い。

 

 意識が混濁し始める。

 

助けて。

 

 いやだ。聞きたくない。誰か、助けて。

 

なら、助けてあげよっか? 

 

 次の瞬間、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っはぁ!!!」

 

 目覚める。呼吸を一気に吐く。

 

 ここは、どこだ。

 何故か俺は椅子に縛られている。

 

 周りを見ると、そこはまるで地獄のような場所であった。

 

「はいはーい、みんなに愛され……えっと、いつからだっけ? 忘れちゃったや」

 

 黒髪ボブの少女が突然隣、大きな声とともに現れた。

 

「う、うおおあああああああああっっ!!!!?」

「んもう、驚きすぎだよ!?」

「いや誰だよッ!?」

「んへへ、真名は封印ちゅー」

 

 明らかにふざけた態度で、俺の周りを歩いている。

 ずっとニコニコしていて、なんか奇妙だった。

 

 だけど、その笑顔に安心している自分がいた。

 

 真名を封印中、と言うことは英霊なのだろうか。

 だが英霊だとしたらこれは、固有結界か何かなのだろうか……。

 

「でーも、いずれは契約する仲なんだしー? クラスは教えてあげるー!」

 

 そう言うとくるくる回りながら俺の前にくる。

 そして胸に手を当て言った。

 

「私のクラスはランサー! よろしくね!」

 

 キラッと自分で効果音をつけてポーズを決める。

 

「大体ゲームだと☆5位かなー?」

「……え」

「ほらランサー☆5って美女が多いでしょう?」

「あの……?」

「私は全てを知っている」

 

 顔を覗かせ、間近で見つめてくる。

 その紅い眼が、俺の心の底まで覗いているようで、でも怖くはなかった。

 

「……さて、仕事をしますかねー」

「なに……?」

「言ったでしょ、助けるって。どんな時だって私が側にいるんだからっ! だから、怖がらないで前に進んで。貴方のために、世界のために、みんなのために!」

 

 ああ、そうか、そう言うことだったのか。

 俺は顔を伏せ、緊張が解けていく。

 気づけば俺は椅子から解放されていた。

 

 大地から大量の竜牙兵が現れる。

 

 為すべきことは分かっている、これは試練なのだ。

 自身を乗り越える、一つ目の試練なのだ。

 

「……ランサー、力を貸してくれるか」

「もっちろん!! さぁ行くよーっ!」

 

 何処からか出した槍を手に、構える。

 その目は、細く、獲物を狩る目をしていた。

 それが俺に、勇気を与えてくれていた。

 俺は一際大きな声を出し、彼女に指示を出す。

 

 

 

「行くぞっ!」

 

マスターN/A、第一魔術『文無しの勇気』が魔術礼装に刻まれました。

 

 

 

 ランサーは武神さながらの技術で次々と滅していく。

 槍を払い、叩きつけ、一撃で潰していく。

 

 初めてあったはずなのに、俺にはわかった。

 彼女は手加減している、全力の10%すら出していないだろう。

 

 流石は自称☆5と言うべきだろうか。

 一切の躊躇なく、次々と笑顔で潰していく。

 狂気を感じることなく、信頼を寄せ、安心しきっている。

 何故そうなっているのか、自分自身じゃ全くわからない。

 

「よーし、マスター君っ! 魔術礼装行ってみようかっ!」

「ああっ!!」

 

 手を前に出す、身体中に魔力を感じる。

 魔力がどんなものか知らないが、そんな感じがした。

 その手をランサーに向け、叫ぶ。

 

「ランサーっ!」

 

 すると、槍が一瞬光を帯びる。

 槍の振りは、残像になった。

 

「ひへへへっ!! いいねこれっ!」

 

 笑い声とともに、次々と潰していく。

 突くことなんてせず、振り払い、無双していく。

 

 一つ、霧が集まり人型を作った。

 それが何か、俺にはわかった。

 

「シャドウ……サーヴァント……!」

 

 大きな盾を持った、一人の少女。

 ああ、あれが俺の心にいる、マシュ・キリエライト(藤丸立香)なのか。

 

「ランサー、あれを打ち倒すぞっ!」

「……んー、いやその必要はないかな」

 

 そう言って槍を回し構える。

 

「おまけだよ。宝具を見せてあげる」

 

 一際大きな笑顔を見せ、叫ぶ。

 

「我が運命、辿り着くは煉獄の果てッ!!」

 

 槍が光を帯びていく。

 その光は大きくなっていく。

 

「その運命に一度も後悔なくッ!! 抗うことすらしなかったッ!! 故に、我が運命を洗浄せよッ!!」

 

 

 

「『■■■■■■■(■■■・■■■・■■■■■■)』ッッ!!!!」

 

 

 

 そして投擲した。

 極太のレーザーが同時に解き放たれる。

 まさに究極の一撃だった。

 

 光が景色を潰していく。

 

「さーて、またしばらくはお別れかな……寂しくなるなー。ま、頑張ってねっ?」

「……ああ、わかった」

 

 そして完全に景色を塗りつぶし……。




真・核律式極地カルデア制服

魔術1『文無しの勇気』
彼に、勇気なんてものはなかった。
これは、無理やり絞り出した、微かな希望。
それに何を見出すかは、君たち次第だ。

《ゲーム効果:単体に攻撃力アップ(3ターン、カリスマA相当)&クリティカル威力アップ(3ターン)&行動制限系無効(5ターン)》





ランサーの絆が上昇しました。+1
11/20


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第7節:決行前日

「……すたぁ……ますたぁ……ますたぁ!!」

「うわあっ!!?」

 

 何者かの呼び声に、飛び起きる。

 頭痛がする、結構酷い。

 上半身起こし、声をする方を見ると、天狐が心配そうに見ていた。

 

「だ、大丈夫かぁ……?」

「あ、ああ……」

 

 妙な記憶が頭にこびりついている。

 何かしていた気がする、気がするのだがわからない。

 だが、身体中から勇気が溢れているようだった。

 

「……一日中寝てたから心配だったけど……その様子だと大丈夫そうだね」

 

 スマホからいかにも陽気な声が聞こえた。

 スマホを手に取り、画面見るとムーンキャンサーが椅子に座って、こっちを見ていた。

 なんとも呆れた様子で踏ん反り返っていた。

 

「あ、起きたんだね」

 

 部屋の入り口に、一人の少女が立っていた。

 あの少女だ。

 

「あ……あの時は、ありがとう」

「ううん、困った時はお互い様だからね。あ、私伶奈(れな)って言うの、よろしくね」

「ああ、よろしく」

 

 手を差し出し握手を交わす。

 

 そして周りを見ると、そこは建物の中だった。

 明らかにそこらへんにあるビル内ではなく、最近作られたような人工物だった。

 

「ここ、どこだ……?」

「私たちの基地だよ。と言っても先人が使ってたものばかりだけどね」

 

 スマホをポケットに入れ、天狐を連れて3人で部屋から出て行く。

 するとそこは集会所のような場所だった。

 外の感じとは打って変わって盛り上がっていた。

 

「伶奈お姉ちゃんっ!」

 

 ちっちゃい子たちがこっちを見るなり、伶奈に近寄って行く。

 

「んー、どうしたのかな?」

「あのね……」

 

 話を邪魔するわけにもいかず、他のところへ……ガンナーを探すことにした。

 と、歩き出そうとしたとこで……。

 

「い、いだっ! 痛い痛いっ!!」

「ん?」

 

 天狐を見ると、ちっちゃい子たちに耳やら尻尾やら引っ張られていた。

 半泣きで。

 

「は、離せこのっ……ガキっ!」

「すげぇっ! 何これ何これっ!」

「わあっ! お姉ちゃんもふもふっ!」

 

 なんとも……面白い光景であった。

 助けを求められたが、流石に何もできず、苦笑いとともにそこを離れる。

 相手は子供、天狐も下手なことはできないだろう。

 

「さて……ガンナーはどこに……」

「いかに近代と言えど、英霊である限りは魔力でわかるからね。一番大きな建物にいるみたいだよ」

 

 と、ポケットから声が聞こえてくる。

 常に電源はついてみたいだけど、充電しなくて大丈夫なのだろうか。

 流石にそろそろ切れるはずだが……。

 

 それについては一旦ほっといて、大きな建物へ向かう。

 中を覗くと、どうやら会議中だった。

 

「む、君は……入ってくれ、奴らのとこに襲撃するための会議中だからな」

 

 中に入ると、威厳がありそうな人が何人もいた。

 だが、()()がいる様子はなかった。

 誰もかも、未成年に見えるのだ。

 

 ガンナーの隣の席に座る。

 

「さっきも話した通りだが……彼が、全てにケリをつける」

「……へっ!?」

「陽動作戦だよ。奴らのアジトの中は、何回か潜り込ませていたからね。構造は把握している……伶奈が」

「陽動作戦、ってことは……」

「私たちが、正面から仕掛ける。勿論相手は全力で来るだろう。君たちは地下から行く」

 

 と机の上に置かれた地図を手振りで伝える。

 近くのマンホールから直接行けるとのことだった。

 結構ガバガバみたいだ、警備は。

 

「……やることは至極簡単、耐えるだけだ」

 

 全員の顔つきは覚悟に満ちていた。

 俺には、とても眩しかった。

 

 俺は一つ気になったことを聞いた。

 

「……あの、伶奈には既に……」

「ああ、勿論伝えてある。と言っても今伝達したのだが。これにて会議は終了だ。作戦決行は明日……お別れは済ませておけ」

「「「はいっ!!」」」

 

 全員の返事とともに解散する。

 俺はそこに残ったガンナーに気になったことを聞いた。

 

「……ガンナー、ここって大人がいなくないか……?」

「よく気づいたな……ああ、20を超えると、皆凍る。唯一凍ってないのは、伶奈だけだ」

「……あの、それって……」

「わからない、この現象にも、終止符を打たないといけない。だからこそ、今回のは成功させなくてはならない」

 

 そう力強く言うと、この場から去っていった。

 それを聞いて、俺は考え事をする。

 

「どうかしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 外に出ると……天狐はさっきよりも何倍にも増して人気になっていた。

 

「ああああああああっ!!! 触んなっ!! 触んにゃっ……♡

 

 さっきよりも数倍に増して面白い光景だった。

 目をそらすように、別の方を見る。

 すると、遠くから手を振ってこっちに近づいてくる少女の姿……伶奈がいた。

 

「シモさんいた?」

「あ、ああ……なあ、伶奈。本当に、いいのか……?」

 

 聞くべきではないのだろう。

 だが、さっきの子供たちと姿を見てしまっては、どうも気になってしまう。

 

「うん、いいんだ。この子たちのためにも、私たちがやり遂げないと、行けないから……」

 

 と、笑顔を見せる。

 何処か無理をしているようで、これ以上何も言えなかった。

 いや、俺が何か言っていいことじゃない。

 これは俺の問題じゃない、彼女の問題なんだ。

 彼女が決めたなら、それは俺が口出しすることではないのだろう。

 

 そこで別れて、スマホを取り出す。

 

「……死人は出ると思うよ。辛い戦いになるだろうね」

「これは、乗り越えるべき戦いなんだ」

 

 自身の中で、決意する。

 諦めないと、何があろうと立ち止まらないと。

 

「……さて、俺たちも準備するかな。天狐行く、ぞ……?」

 

 天狐は揉みくちゃにされて、倒れていた。

 軽く痙攣しながら。

 意識はほとんど失ってる様子だった。

 

「……あれ、大丈夫なの?」

「酷いことになる前に、子供達が飽きてくれたようなね、あはは……」

「もう十分と酷いと思うんだけど……」

 

 英霊が子供に負けると言う、とんでもない光景を見せられてしまった俺たちであった。



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第8節:継ぎ接ぎの英霊

 貸してもらった部屋の中で、ベッドの上に座って銃を見る。

 俺は一旦これを返そうとした。

 けどガンナーは「それは持っとけ。いかにサーヴァントがいようとも、何があるかわからんからな」と言うことだった。

 

「……」

 

 銃を持つ手は、震えていない。

 既に決意はできている。

 

 立ち上がる。

 

「……覚悟は、できたのか?」

「ああ、行くぞ。天狐」

「へいよ」

 

 鞘に納めた刀を、振り上げ担ぐ。

 前来ていた羽織を羽織って、左手には仮面があった。

 

 昨日のあの姿とは、全く違かった。

 

「……天狐、その仮面はなんなんだ?」

「まー、宝具だな」

 

 宝具、どんなものかわからない。

 だって原作にはいないキャラだからだ。

 でも、宝具である以上、なんらかの活躍はしてくれているのだろう。

 

「ムーンキャンサー」

「んー、ごめん。今日はあんま活躍できそうにない。充電切れそうなんだよね」

「充電切れたら消えたり……」

「しないよ!? また充電してくれたら大丈夫!」

 

 とのことだった。

 外に出ると、みんなは既に集まっていた。

 

「どう、準備できてる?」

 

 早速伶奈に出会った。

 伶奈も完全武装で、顔以外全て覆われていた。

 それほど、この戦いは大変なのだ。

 

 それに比べ俺の格好は……黒を基調としたカルデア制服である。

 布一枚、刃物で貫かれれば簡単に死ぬだろう。

 

 俺にはマシュという『盾』がいない。

 だが、天狐という『剣』ならいるのだ。

 

 なら、自分の身は自分で守るしかない。

 

「大体はできてる、かな……」

 

 銃を後ろのズボンに挟む。

 ずり落ちないか心配だが、多分大丈夫だろう。

 

「全員、集まってるな」

 

 少し高い台のようなところにガンナーが立つ。

 

「……俺から言うことは特にない。だが、みんなに一つだけお願いがある」

 

 少し騒めきがあった。

 彼の性格からして、そう言うことはあまり言わないからだろうか。

 確かに、あれは意外と言えよう。

 

「生き残ってくれ。以上ッ!! 各自配置につき戦闘の準備だッ!!」

 

 結構淡々とした感じだったが、その言葉一つ一つに確かな意思を感じていた。

 深呼吸をして、令呪が宿っている右手を握る。

 

「よし、行くぞッ!」

 

 外へ出ると、相変わらず風景は凍結した街のみだった。

 人が凍る、とのことだったが、その凍った人の姿が見えない。

 今更気になることでもないが。

 

「場所は……この都市の中央にある相手のアジトから1km離れたところ、であってるよな。伶奈」

「うん、会ってるよ……でもその前に……」

 

 都市を歩く中、奥からいくつかの人影が見えた。

 蒼い羽織、敵だ。

 

「天狐!」

「へいよっと」

 

 刀を鞘から抜くと、構える。

 太陽は見えないが、刀は輝いていた。

 

 少し笑うと、叫ぶ。

 

「かかってこいッ!」

 

 まず一人目、飛びかかってきたところを、上段から振り下ろし斬り落とす。

 二人目、振ってきた刀を軽く避けて一点突いて弾き飛ばす。

 三人目、同じように突かれたところを避けて背後に回り斬りつけた。

 

 と、この調子で大体数十人は斬り落とす。

 それ以外はこちらで対応する。

 ムーンキャンサーの援護なくとも、少し離れているならなんとかなる。

 攻撃は流石に避けられないが。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 ……向こうは大丈夫だろうか。

 それが気になってしょうがなかった。

 私はサーヴァントだ。

 17年前、たった17年前死んだばかりの英霊だった。

 

 みんなを置いてきて、私は一人で単独行動を取っている。

 もう一つ、侵入口があったからだ。

 私は、そこでやることがある。

 

「……む?」

 

 向こうから一人の人影が見えた。

 羽織が雪の中、揺れ続けている。

 刀を片手に、その男は現れた。

 

「……ふむ、その格好。日本の新撰組というやつか」

「気づいてたろ。ずっと」

「まあ、だがこの世界では君たちは存在しない。そうだろう?」

 

 ああそうだ。と言って続ける。

 

「無駄会話は省くとしよう。我が真名、近藤勇ッ!! いざ参るッ!!」

「……私の真名はシモ・ヘイヘッ!! 行くぞッ!!」

 

 ボルトアクション方式ライフル、モシンナガンM28を手に駆け出す。

 一歩踏み出したところで私は宝具を発動させる。

 固有結界、『我が戦場、此度に非ず』。

 

 二度と立つことはないと思っていた、だがこうして立つことになるとは。

 今まで立っていた冬の大地と、比べ物にならない程の猛吹雪。

 その中で戦う。

 これが私の宝具、私の経験だ。

 

 私のライフルにスコープはない、反射によって居場所がバレる可能性があるからだ。

 スコープがなくとも400m先まで行ける。

 宝具だったら3km先だって行けるだろう。

 

 この景色は私の戦場。

 故に、何処かわか、る……!? 

 

「なッ……!?」

 

 ライフルで振り下ろされた刀を防ぐ。

 思いっきり逸らし弾くと、すぐに敵に向かって撃つ。

 だが簡単に弾かれる。

 

おいおい、舐めてんのか?

「何、が……起きて……ッ……!?」

 

 その男は、おかしかった。

 体の半分が霧のような影で構成されており、無理やり継ぎ接ぎのような格好だ。

 

……俺はな、ここに数百年もいてな。流石に霊基が持たなかった

 

 刀を振り払い近づいてくる。

 私は初めて、恐怖した。

 

聖杯でシャドウサーヴァントを集めて作り上げた。おかげで、こんな体さ。自我があるだけマシだけどな。土方はこれを拒否して消えちまった

 

 異常、それ以外に言葉が出てこない。

 

まあ……そのせいで性格も喋り方も変わっちまったがな。逆にいいこともあるんだぜ

 

 それはな、と言って飛びかかる。

 猛吹雪の中、たしかにこっちに向かってきていた。

 

この体の素材になった英霊どもの力が使えるんだよッ!!

 

 目前の攻撃を避け、戦闘が始まった。



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第9節:vsバーサークセイバー

 ビルの中、遮蔽物を利用し奴の様子を伺う。

 奴、近藤勇。

 彼は武器などから見てセイバーで間違い無いだろう。

 ない、はずだが。

 

出て来いやァッ!!!

 

 そう叫んで、刀で壁を破壊する。

 うむ、この様子だとアレはバーサーカーだな。

 色々と混ざりすぎた結果がアレか。

 

「……最悪、相討ちか……」

 

 だがそう悲観的になることもないだろうか。

 目標が達成できなくとも、アレは殺してやる。

 

 遮蔽物から少し顔を覗かせ狙う。

 この距離、確実に狙い撃てるだろう。

 

 だが、奴にこんな方法したところで弾かれるのがオチだ。

 

「……ったく、こんなことならアサシンで召喚されるだったな」

 

 と、軽く悔やみ1発弾丸を放ち駆け出す。

 見えなくなるが、銃弾を弾いた音がした。

 

 どうやろうとも、バーサーカーとなった彼には勝てない。

 故に彼が取った方法は、特攻紛いの方法だった。

 

 そして一息置いて呟く。

 

白い死神(スノーストーム・デス)

 

 

 一層吹雪が強くなる。

 その瞬間、彼は遮蔽物から出てくる。

 

クソがぁッッッ!!! どこ行きやがったぁぁあッッ!!!

 

 怒り狂った奴を他所に走る。

 勝てるかどうか、そんなことは二の次だ。

 撃ち抜く、今はそれだけだ。

 

 10m……8m……3m。

 ほぼ間近で銃を向ける。

 

 だが奴は気づいていない。

 これがこの宝具の力だ。

 

 本来わたしには気配遮断がある。

 と言ってもせいぜい少し離れるとわからない程度だ。

 だが、この宝具を発動している時は、間近で攻撃しないとわからない。

 しかも離れてしまえば、気配をまた消せる。

 アサシンの時はもっと使いやすいんだが、それはもうしょうがない。

 

 トリガーを引いて銃弾を撃つ。

 いかに英霊と言えど、これを弾くことは……。

 

 突然、奴の顔つきが変わる。

 トリガーを引く前にだ。

 

 そして刀を振り上げ、銃弾を真っ二つにした。

 

はっ……ふざけてんのかァッ!!?

 

 急いで銃口を両手で持ち、刀を防ぐ。

 刃物になるわけないが、鈍器としては十分威力がある。

 しかし、元セイバー。

 どう頑張っても、はっきり言って負ける。

 

 刀を思いっきり弾いて、少し離れた遮蔽物に隠れ、別の場所に移動する。

 

 が、上を見た時、刀が振り上げられていた。

 

逃げんじゃねェッ!! うひゃヒャヒャヒャッ!!!

 

 遮蔽物が破壊される。

 後ろを向きつつ避けて、銃口を突きつける。

 

「くっ……!」

 

 勿論その一撃は避けられる。

 後転し、振り下ろされた刀を横に飛び避ける。

 連続攻撃を次々と避けていく。

 

 進むに連れ、攻撃速度が上がっていく。

 

今宵の虎徹は、血に飢えてるぞオオオッッッ!!!!

 

 そう叫ぶと、刀が深紅に染まる。

 ゾッとしたが、そう感じてる暇もそうなくて、攻撃を避けていく。

 

ブッコロスブッコロスブッコロスゥゥゥウッッ!!!!

 

 無茶苦茶に刀を振りながら走ってくる。

 何が起きている。

 

 自身では目前の光景が理解できなかった。

 

 宝具を利用しているはずなのに。

 何故、何故()()()()()()()()()

 

 後ろによろけ、小石に躓く。

 

「マズッ……!?」

死ね

 

 その斬撃は、顔に振り下ろされ……。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 天狐を戦闘に、俺たちは地下を移動する。

 地下はそこまで広くはなく、一本道だった。

 

「天狐、大丈夫か?」

「大丈夫、って言いたいとこだけどよ。流石に数多くねぇか?」

「まぁ……そう言うものだと思うけど」

 

 相変わらず敵は前からくる。

 俺は銃を手に走る。

 

 後ろからの援護ならある程度はできる。

 当たるか当たらないかは別にしてだ。

 

「多分これは……宝具、『誠の旗』か……いやでも……」

 

 一人一人がサーヴァント級の能力を有している。

 ならこれはおかしいだろう。

 

 完全に量産型なのだから。

 

「っと、また来たぞっ!」

 

 天狐は目前で攻撃を刀で滑らせ、そのまま斬り裂く。

 すると真っ二つになって霧になる。

 

「はぁ……疲れてきた……ますたぁ、少し休憩しねぇか?」

「……伶奈、いいか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 途中で止まり、座る。

 俺は銃に弾を込める。

 

 すると、伶奈が話しかけてくる。

 

「……ねぇ、勝てると思う……?」

「……ああ、勝てるはずだ。いや、勝たないといけないんだ」

 

 右手の令呪を見る。

 令呪は相も変わらず紅く光っている。

 

 ……一つだけ、魔術が使える。

 最悪これで援護するしかない。

 

 それに、天狐の刀。

 あれがどんな宝具かまだ知らない。

 正直なところ、今回の戦いはあれにかかっているだろう。

 

 もし藤丸立香なら、どんなこと考えていたんだろうか。

 

 天井を見つめ、そう考える。

 緊張が俺の体を苦しめる。

 妙なことに恐怖はない。

 緊張と言う苦しみがあるだけだ。

 

 スマホを取り出し語りかける。

 

「……ムーンキャンサー」

「ん? 何?」

 

 暗かった画面が明るくなる。

 

「今どのくらいなんだ?」

「場所? 場所ならね……あと数百mくらいでアジト内だよ」

 

 もう少し、もう少しでここでの最後の戦いが始まる。

 顔を叩いて立ち上がる。

 

「そろそろ行けるか?」

「おう、バッチリだっ!」

 

 そう言って親指を立てる。

 刀片手に先頭に立つ。

 

 真剣な顔つきで、奥の方を睨んでいる。

 

「……行く前に、なんか来やがったぞ」

 

 そう言って刀を構えた。

 

 地響きが地下に広がる。

 地響き、音がどんどん大きくなっていく。

 

「む、ムーンキャンサー?」

「……巨獣だね。うん、3秒後、ここに辿り着くよ」

 

 と言って、画面が真っ黒になる。

 充電が切れたわけではない。

 充電が切れそうなようだ。

 

「ね、ねぇ……何この音……?」

「……やばい奴としか、言いようが……」

「GYAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

 雄叫びを上げ、その巨獣は目の前に立つ。

 もう一回咆哮を上げ、飛びかかってきた。

 

「「うわああああああああああッッ!!!?」」

「行くぞォッ!!!」

 

 天狐が刀を振って前に走り出す。

 俺と伶奈は、その場から逃げ出した。



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第10節:アーチャー

 彼の姿、消えていた。

 斬撃は確かに届いていた、そのはずなのに。

 

「──シモ・ヘイヘという男を知ってるか?」

知らねぇよ

「それは残念だ。この世界に来て、唯一の好敵手だったんだがなぁっ……!」

 

 そこに、彼は立っていた。

 シモ・ヘイヘ、そう名乗っていた男が立っている。

 

「この世界に来て、あの男戦った。で俺は勝って、あいつに願いによって成り代わった」

んだと……?

「……シモ・ヘイヘってな、顎の傷の後遺症が印象的なんだよ。()()()()()()()()()()()()()()

テメェ……()()()

 

 男は笑い、歩いてくる。

 帽子に白い羽を乗っけて。

 歩いてきた。

 

「今、やっと思い出したよ……俺のクラスはアーチャー、真名カルロス・ハスコックだッ!!」

 

 男の名前は、カルロス・ハスコック。

 シモ・ヘイヘと同じ時代を生きた男だった。

 

 ライフルを手に駆け出すと、一言呟いた。

 

「『白い羽の狙撃手(ドゥ・キック・ロン・チャン)』」

 

 そしてもう一言。

 

「『一撃必殺(ワンショットワンキル)』」

 

 と呟き、滑り込み銃弾を放つ。

 刀で弾こうとして、その瞬間奴は避けた。

 表情は驚愕し固まっている。

 

……何しやがった

 

 その弾丸の危険性に一発で気づいたらしい。

 腐っても新撰組、という訳か。

 

「宝具さ。当時の狙撃兵教育プログラムに用いられた概念が俺の宝具となったものだ。即ち、当たれば即死。掠っても死ぬぞ?」

 

 これはハッタリだ。

 一撃必殺(ワンショットワンキル)、つまりは一撃で決めなければ即死ではない。

 今の一発で宝具の効力をなくしている。

 

 だが、奴の表情を見る限り、なんとかまだ通用するかもしれない。

 俺はそれに賭け、走り出す。

 

 このハッタリが上手くいったのか、奴はそこで初めて逃げた。

 俺は飛んで空中から奴を狙い撃つ。

 紅に輝く刀が弾く。

 着地した瞬間、銃口を近づけると、後ろに避けようとしよろける。

 

クソがああああああああああッッ!!!!!

 

 チャンスは訪れる、俺は奴の頭に狙いを定めトリガーを引き……。

 

やっぱり頭狙いやがったなぁああッ!!

「なにッ……!?」

 

 奴がそう叫ぶと同時に、俺の銃弾を腕で防ぐ。

 狙い通りと言わんばかりに笑う。

 と言っても当たってるから痛いのだろう、少し顔を歪める。

 

ンだよ……やっぱりハッタリじゃねぇか

 

 ニヤニヤした顔でこっちを睨む。

 あの短時間で、バレたというのか。

 バーサーカーめ、ふざけるな。

 

 狂化と言うより、強化じゃないか。

 

ぶっ殺す

 

 宝具の出し惜しみはするつもりはない。

 全力で行く、対人、いや一対一専用宝具がある。

 奴は突撃してくる、俺もそれに対し走り出す。

 

 そして叫んだ。

 

「『非常に困難で不可能に近い事(キャットアンドマウス)』ッ!!」

 

 振り下ろされる刀を、ライフルを使い目前で弾き返す。

 そのまま小突くと軽くよろけたが、すぐ体制を整えなおしたとこ、顎に向かって銃口を突きつける。

 トリガーを引く前に、奴が刀身を銃口と顎の間に挟んで防ぎきる。

 

 俺はいくつかのステップで後ろに下がると、飛びかかる。

 刀の一撃にそのまま当たりそうになるが、体を捻って避けきると、奴の下半身辺りから頭部に向かって銃を撃つ。

 その一撃も刀によって防がれてしまう。

 

 一息ついたところを、更に追撃するように銃弾を数発入れていく。

 流石に全て捌ききれず、肩に一発入った。

 

 そこで奴は遠くへ離れる。

 

て、テメェ……一体なにしやがったあああああああッッ!!!

「そうキレるな、宝具だよ。不可能と言われていたことを成し遂げた逸話が宝具化したものさ」

 

 ヘラヘラしながらそういう。

 魔力、体力、色んなものを大量に使う引き換えにこれを放てる。

 短時間勝負に持ち込むときに使う。

 

 もう一つの宝具でゴリ押しという手も考えたが、アレはマスターが近くにいることが条件だから使えない。

 数秒だけなら使えるだろうが。

 故にこれを使って短時間でカタをつける気でいた。

 

 短時間じゃなくても、全身全霊をもって。

 

「行くぞ」

 

 そう言うと、駆け出す。

 奴は動かず、構えた。

 

 とうに吹雪は止んでいる。

 この戦いに邪魔はない。

 要は、運はもはや頼りにならない。

 自分の、この力だけなのだ。

 

 銃口を奴に向かって突きつける。

 すると奴は言う。

 

いいこと教えてやるよ。俺にはもう宝具がねぇ。これを突破できたらテメェの勝ちだ

 

 故に……と続ける。

 俺はそれを気にすることなく、突き進む。

 まだ宝具の効果は続いている。

 おかげで、限界を超える羽目になったが。

 

 だが、そこで気づいた。

 奴の妙な構えに。

 

俺は局長だった。だからこそ、あいつらを見てきた

 

 そして言った、宝具を。

 

「『偽典型・無明三段突き』」

 

 飛び出し剣撃を放とうとしたところで、もう一つ言い放つ。

 

「『偽典型・不滅の誠』」

 

 二つの宝具を同時に使用したのだ。

 この斬撃、避けることは不可能。

 

 故に、俺の宝具は真価を発揮する。

 俺の宝具の真価、それは『不可能とされていたことを成し遂げる』だ。

 だからこそ、見切った。

 

 はずだったが、俺の腕を斬撃が掠める。

 お互いにとって、ギリギリのようだ。

 

 一つめの宝具の斬撃が終わったとこに、ゼロ距離で腹に一発ぶち込む。

 撃ち込んだ、はずなのに奴は生きていた。

 俺は後ろに下がりもう数発ぶち込む。

 だが奴は、立って刀を振るう。

 

 異常だ、もはやこれは化物だ。

 英霊の時点で、人間ではないのだが。

 

「なら今から……脳天にぶち込んでやるッ!! 

 

 俺は駆け出す。

 後ろから叫び声が聞こえる。

 発狂にも似たその声は、近づいてくる。

 

 二階に登り、三階に行き、ビルを上っていく。

 階段の途中で何発も銃弾をぶち込むが、死ぬ様子はなかった。

 

 血を垂らしながら、近づいてくる。

 

うおおおおおおおおオオオオオオッッッ!!!!!

 

 奴の走りは止まらない。

 

「クソがぁあああッ!!」

 

 銃弾を何発も撃ち込みながら、駆け登っていく、

 屋上のドアを蹴り開け、俺は走る。

 後ろから奴の気配を感じる。

 

 今の奴は、正気がない。

 なら、乗ってこい。

 

 鉄柵は破壊されていて、簡単に飛べた。

 

 踏み切って、後ろを見たまま落ちていく。

 奴も飛んで刀を掲げる。

 

 数センチの距離、奴は目の前で刀を振ろうとしている。

 俺は額に銃口を突きつける。

 

 奴の刀が俺の首に振りかかる。

 俺は、叫んだ。

 

「『エレファント・バレーの戦い(決死の作戦)』ッッッ!!!」

 

 奴の刀が首を斬り裂く。

 

 だがしかし、刀はすり抜け俺は生きていた。

 

 数秒だけなら、全ての攻撃を無効化できる。

 マスターがいるなら、五日間全ての攻撃に耐える。

 

 それがこの宝具だ。

 

 脳に向かって、一撃を撃ち放つ。

 奴の手から、刀が零れ落ちる。

 

 奴を下敷きにして、地に落ちた。

 

「……俺の、勝ちだ」

……俺は……負けたのか……

 

 まだ息がある様子だった。

 だがもう数秒ももすれば消えるだろう。

 サーヴァントなのだから。

 

 俺だって、一時間も保たないであろう。

 だが一時間あれば十分だった。

 

「……この期に及んで……やっと、落ち着けたよ……ったく……平常心なんて……いつぶり、なんだか……

 

 血反吐を吐き、そう言う。

 話すのも辛いはずなのに、言葉を出していた。

 

「……沖田、後は……お前だけが……頼りだ……俺たち、は……新撰組……新撰組は……此処に、あり……」

 

 何処からか出てきた誠の旗が、彼の近くに一本だけ立っていた。

 そしてその瞬間、彼は光となって消えてしまった。

 

「……行くか」

 

 アジトを見つめ、痛む足を引きずり雪の中を進んでいった。



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第11節:聖杯の守護者

「天狐ッ!」

「はいよッ!」

 

 地上、アジト内部に来た俺たちは、天狐と背中合わせで戦う。

 集団で相変わらず奴らは襲ってくるからだ。

 

 だが何故だろう。

 さっきよりいくらか数は減って楽になってきていた。

 おかげで恐怖も半減していた。

 

 足は少し震えてるけど。

 

 殲滅し終え、銃をしまう。

 

「伶奈、大丈夫か?」

「うん、こっちは戦い慣れてるからね!」

「天狐も大丈夫?」

「おうっ! オレは大丈夫っ!」

 

 刀を担ぎ、親指を立てる。

 うん、二人とも大丈夫そうだった。

 

 アジトの中は中央に螺旋階段があり、そこを登っていくと上に着けそうだった。

 階段からは常に敵たちが降りてきている。

 

「天狐、伶奈。道は長いぞっ!」

「おっし、いっちょ頑張っるかっ!」

 

 天狐が刀を振って駆け出していく。

 伶奈は銃を構えると走り出した。

 

 この上、この上に聖杯を持つ人がいる。

 俺たちはそれを打ち倒し、人理を救ってみせる。

 そう何度も決意し、階段を登っていく。

 

「うぉらぁっ!!」

 

 受け止め薙ぎ払う。

 天狐はの斬撃は鬼神が如く、次々と打ち倒していた。

 

「スンゲェ数だなぁ……ったく、おらっ!!!」

 

 敵を倒した時に落とした刀を拾うと、左手で投擲する。

 しっかりと真っ直ぐに飛んで行っていた。

 

 階段を走り登っていく。

 俺は天狐に、一つ確認を取る。

 

「……天狐、宝具……刀は使えるよな?」

「あー、それなんだがなぁ……ますたぁ、今の俺じゃあ使えねぇ」

「……それはどう言うことだ?」

「霊基が……っと、このっ! ……一段階上がんねぇと、使えねぇ。一段階上がっちまうと、今の姿とおさらばだからなぁ……」

 

 とのことだった。

 つまりは霊基を一段階上げると、戻せなくなるということだろうか。

 それって……どうなんだろうか。

 

「一段階上がるとまずいことがあるのか?」

「いや特に……ただ……喋り方とか色々変わるな。見た目も変わるぞっ!」

「別人、ってわけではないんだろ?」

「んま……そうだけど、ほら一番若い姿がいいだろ?」

 

 と言いいながら敵を斬り倒す。

 決して適当ではなく、一撃で確かに仕留めていた。

 

「……まあ、奥の手ってことで」

「おうっ!」

 

 階段を登り続ける。

 そろそろ次の階が見えてきた。

 何が待っているのか、覚悟はできている。

 

 俺は最後の一段を踏み、そこに辿り着く。

 

「……来ましたか。もう一つの人類史に残る、最後の希望」

 

 蒼い羽織を身に纏い、刀を片手に少女が立っていた。

 しかしその姿は、どう見ても大人で長い髪。

 

 そして一番おかしいのは、彼女の周りにいくつもの刀が刺さっていることだった。

 

「……我が真名、沖田総司……[カオス]と名乗った方がいいですね。クラスはアサシンです」

 

 刀を手に近づいてくる。

 一歩、歩いてきたその瞬間、全身の鳥肌が立つ。

 

 沖田総司[カオス]ってなんだよ。

 オルタじゃないのか。

 いや、オルタは既に魔人さんがいるけど。

 

 しかし、この距離からでも十分にわかる。

 あれはヤバイ。

 まともに戦っていい相手ではない。

 

「……ますたぁ。奥の方に道が見えるか?」

「先がまだある、ってことかぁ……」

 

 伶奈にもそれを伝える。

 どうしようかと軽く悩んでいると、天狐が突然叫んだ。

 

「オレの真名は天狐っ!! あー……テメェと戦いに来たッ!!」

「天狐っ!?」

「ますたぁ、行ってくれ。オレなら大丈夫だっ!」

「だが……」

「宝具使うことなくぶっ飛ばしてやるから。安心して先進んでくれ」

 

 天狐の発言を聞いた沖田さんが、足を止める。

 

「貴方が、私の戦い相手ですか。飽きさせないで、くださいよ?」

 

 それを聞いた天狐が、狐のお面をつける。

 深呼吸すると、走り出した。

 

 刀と刀がぶつかり合い、轟音が響き渡った。

 

 俺たちはそれを見て、回り込んで奥の道へ進んでいく。

 奥へと続く階段であった。

 かなり長い、階段が続いていた。

 

「行くぞ、伶奈」

「はいっ!」

 

 階段を一歩を踏んだとこで、頭痛が響く。

 

助けて。

 

 あの時と同じ声。

 抑えつけるように頭を振ると、走り出した。

 

 上へ、上へ、上へと。

 足を早めていく。

 

 そして、一番上に辿り着く。

 

 着いた場所、そこは屋上。

 風がとても強い、屋上であった。

 中央には、一つの金色の杯が置いてあった。

 

 それは聖杯、あれを取って、終わりだ。

 一回立ち止まって息を整える。

 そして、俺は伶奈に話しかけた。

 

「……ふぅ、なあ伶奈。一つ聞いていいか?」

「ん? 何かな?」

「なぜお前は俺の頭に、銃を突きつけてんだ」

 

 後頭部、後ろから銃を突きつけられていた。

 

「……貴方の旅はここで終わりだからだよ。人類最後の希望」

「俺のこと、全て知ってるってことか」

「当然」

 

 そう言うと銃をこちらに向けたまま、俺の前に来る。

 銃を降ろすと、右手の手袋を外す。

 

 青く凍った手、いや腕があった。

 それが何を指し示すか、わからない。

 だが、それよりも目を引くものがある、赤い刻印。

 

「令呪……!?」

「そ、私がアサシンのマスターなんだ」

 

 そう言うとこちらに銃を向ける。

 同時に俺も銃を向ける。

 

 そうか、伶奈が聖杯を守っていたと言うことか。

 なら敵は、目の前の伶奈、か。

 

「……諦めてくれないかな」

「無理だ」

「……そりゃそっか。でも知ってるの? 君がそれを取れば……人理は焼却される」

「…………は?」

「正しくは、ここの人理がね。そこのスマホに聞いてんじゃないの? 聖杯で維持してるって、聖杯で維持してるってことは、聖杯がなくなれば維持ができなくなる。と言っても私が取った手は停滞なんだけどね。簡単に言うと、聖杯は渡せない」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……聖杯を取ると、人理が焼却される……?」

「……そう、だから諦めてほしいの」

 

 聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない。

 

 俺が、聖杯を取らなきゃ俺の世界は焼却されたまま。

 だが取ってしまえばこの世界は焼却される。

 ……この世界には、人がいる。

 普通に、人が住んでいる。

 

 同じだ、同じなんだ。

 それを焼却して、自分の世界を救う。

 いや、救えと言うのか。

 

「……お、俺は……」

 

 俺は、この世界にとって敵なのだ。

 敵だと言うことなのだ。

 

「決めろ、と……言うのか……」

 

 呟く。

 苦しい、ただただ苦しい。

 大切なものを守るために、この世界を殺す。

 これでは、俺は英雄なんかじゃない、ただの大量殺人鬼だ。

 

 藤丸立香は、どう選択したんだろうか。

 

「違う……!」

 

 俺は藤丸立香ではない。

 なら、考えるな。

 そうだ、決めろ決めろ決めろ! 

 

 後悔だろうがなんだろうが、ここまで来てしまった。

 俺が選ばれた。

 

 苦しい、辛い、放棄したい。

 様々な感情が交差する。

 

 だが……これは先へ進まねばならない。

 なら選択は一つ……。

 

 銃をしっかり握り直し、伶奈を睨む。

 

「俺は……俺の世界を救うために、喜んで人理を焼却しよう」

 

 そうだ、俺は藤丸立香にはなれない。

 なら、選択は俺自身が選ぶ。

 

「……残念だよ。なら殺し合いだね」

 

 一息つくと、大きな声を出す。

 

「私の名前は言峰伶奈ッ!! 日本最後のマスターとしてッ!! 防衛人類史を守り通すことを誓うッ!! 行くぞッ!!」

 

 そう言うと、走り出してきた。

 これが、日本での最後の戦いになるのだった。



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第12節:アサシンとそのマスター

「ったくよ……アサシンって言うから楽だと思ってた、ん……だがなぁ……ゴフッ……!」

「私を舐めないでくださいよ。次はその首、討ち取りますよ」

 

 そう言って奴は構える。

 一人の少女は鮮血を撒き散らし、刀でなんとか支え立っていた。

 奴の刀はほぼ必中、取り付く隙がねぇ。

 

「……霊基再臨したくねぇんだけどな。少し、女っぽくなっちまうし……。はぁ……」

「何をブツブツと、ケリをつけますよ」

 

 と言うと駆け出し、奴は呟く。

 

「三段突き」

 

 宝具級の威力を誇った急所狙いの3回攻撃。

 これをただの攻撃、宝具ではない攻撃だと言い張るのだから末恐ろしい。

 要は、これ以上の攻撃がいくつもあると考えていいのだ。

 

 1、2……そこまでは防ぎきれるのだが、如何せん完全体ではないオレでは3発目は見事に当たる。

 が、今回ばかりはギリギリ避けることに成功して掠めるだけで助かった。

 

「おほっ……次当たったら死ぬんじゃねぇかな。オレ……!」

 

 刀を手に振りかかる。

 数撃、叩き入れるが全部刀で巧みにいなされる。

 こんなんじゃアサシンと言うより、セイバーだ。

 

「弱い。あまりにも弱い」

「お前が強すぎるだけだろ!」

 

 カウンターで入れられた複数回の攻撃を、体を捻り躱すと、後ろに飛んで突撃する。

 すると鍔迫り合いに持ち込める。

 体格の違いは明確、明らかにあっちの方が大きい。

 

 だが、押し込もうと思えば押し込める。

 結構な無理をするが。

 

 鍔迫り合いの結果はお互いに弾き飛ばした。

 着地し、軽く呟きすぐに飛びかかる。

 

「んまぁ……やれるとこまで叩き込みますか」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「おい! ムーンキャンサー!」

「んー……何……? って何が起きてんのっ!?」

「話すと長いから割愛だっ! 援護しろっ!」

「う、うんっ! 取り敢えず演算を始めるからまってて!」

 

 屋上、転々と散らばる瓦礫が唯一の壁だ。

 屋上に何故そんなものがあるのかわからないが、戦いの後なんだろう。

 瓦礫の後ろに隠れて、何発か銃弾を撃ち込む。

 目で見て避けられた。

 感覚とか、そう言うものに一切頼っていない。

 

「数百年前からこの世界ってことはよ、お前何歳なんだ!?」

「女の子に聞くことかなぁ……? まぁ教えてあげるよ。■■■歳……ってそうか、聞こえないか……ヒントは教えてあげる、3桁だよ」

「そりゃ当然だよな」

 

 数百年、長い間彼女はこの聖杯を守り続けていた。

 俺がアレを奪い取れば、それは全て水泡に帰す。

 だが、俺には俺の救うものがある。

 やらないと、やらないといけないのだ。

 

「銃弾を目で見て避けるとか言う荒技やめてほしいなっ!」

 

 瓦礫から少し顔を出し銃を撃つ。

 勿論避けられ、向こうからも一撃飛んできた。

「うおっ」とマヌケな声を出して顔を引っ込める。

 

「……よーし、データはたくさんあるからね、演算終了。ただ、問題は充電が少ないことかな」

「……切れた時はどうにかするさ。行くぞ!」

 

 俺は飛び出した。

 銃を手に駆け出した。

 

「っ! 血迷ったの!?」

 

 驚いたような表情で銃をこちらに向ける。

 真正面に立ってわかった。

 銃、二丁持ってる。

 

「やべ……」

「1秒後! 計8発の発砲!」

 

 ポケットから聞こえてくる声を頼りに、走って銃弾を回避する。

 一個先の瓦礫の裏に隠れる。

 銃は一丁、そう思っていたが運の尽き。

 次の策はない。

 

諦めちゃうの?

 

 馬鹿言うな。

 啖呵切って突撃したのに諦められない。

 後戻りも、もうできない。

 

「……ムーンキャンサー、隙ができたら教えてくれ」

「え……?」

「うおおおっ!!」

 

 走り出す。

 銃を構え数発撃ち込む。

 全部避けられ、数発撃ち込んでくる。

 

「飛んで!」

 

 言われた瞬間、反応的に飛ぶ。

 銃弾は足元に当たり、ダメージはなかった。

 そのまま走り抜く、銃弾はまだ残っている。

 銃の中にも数発こもっている。

 

 心臓撃ち抜く。

 やることはそれだけだ。

 

 ほぼ相討ち覚悟の狙撃。

 同時に銃弾が飛んでいく。

 

「避けて!」

「いいや! これでいい!」

 

 腕に当たる。

 痛い、痛い痛い痛い痛い! 

 だが耐えろ。

 

 進め、突き進め、決して足を止めるな。

 目の前で銃を構えた。

 

 伶奈はリロードをしていたところで驚愕し、動きが固まる。

 

「なっ……!?」

 

 俺が1発撃ち込む。

 避けようとしたが、避け切れず右腕に当たった。

 片手に持っていた銃を手放す。

 

 俺はその銃を蹴飛ばし、遠くへやった。

 が、その時には装填も終わっており、銃をこちらに向ける。

 俺も銃を向けると、膠着状態になった。



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第13節:VSアサシン

「があ゛っ……!」

 

 後ろに向かって滑っていたところ、刀を床に突き刺し止める。

 口から血が止まらない。

 左腕が、吹っ飛んだ。

 

 右腕、利き手の方があればまだ戦える。

 ったく、左腕と引き換えに奴に与えられたダメージは、かすり傷程度かよ。

 

「……殺してやる」

「やってみてくださいよ。その前に貴方を殺す」

 

 右手だけで構える。

 真っ赤に染まった全身から、目がギラギラ光る。

 

 この状況でも、彼女は全く諦めていなかったのだ。

 

 地を蹴り、駆け出した。

 刀を振り上げて、振り下ろす。

 一同の動作が大振りであった。

 

 軽く避けられ、轟音とともに地を破る。

 そのまま即座に着地し、斜め上に刀を振る。

 それも簡単に避けられてしまう。

 

 大振りになったことで、全く通用しなくなってしまった。

 だが、刀を振るわなければ負ける。

 

 刀を振り終えたところで、蹴りを入れられ飛んでいく。

 

「がッ……!!」

 

 壁に激突し、ずり落ちる。

 

「かはっ……」

 

 血反吐を吐いて、立ち上がる。

 それに対し、沖田は淡々とした様子で見る。

 動揺を見せず、立っている。

 

「何故、消えないんですか」

「……逸話が多すぎてなんも言えねぇな。んー……まあ、なんでもいいじゃねぇか」

 

 よいしょ、と言って刀を担ぐ。

 左腕が流れ出る血に対し、彼女の顔は、笑顔だった。

 そして笑っていたのだ、恐怖も、何もなく、ただひたすら笑っていたのだ。

 

「攻撃は……終わんねぇよ」

 

 飛ぶ、刀を振り上げ飛んだ。

 斬撃はたった一撃、片腕による重い斬撃だ。

 だが弾かれる、威力が小さすぎるのだ。

 

「ぐっ……」

「……はあ……絶剣・無窮三段」

 

 宙に浮いてるところに、攻撃を叩き込まれる。

 沖田オルタ、彼女の宝具をただの攻撃として。

 

「……ひゅー……生きてん、なぁ……」

「……な、何故まだ……!」

 

 床に倒れてはいたが、まだ生きていた。

 

 流石の沖田も驚いていた。

 そして同時に、少しの恐怖を抱く。

 

「かおす、って言ったよな。あれどう言う意味だよ」

「……ありとありゆる可能性を詰め込んだ結果、ですよ。だから私は、ありとあらゆる『沖田』の剣を放てる」

「……怖え、なぁ……」

 

 それだけ言って刀を床に刺し、もう一度立ち上がる。

 

「カハハ……ハハハハハッ!!!」

「……気でも狂ったか……っ!」

 

 一瞬無表情になって脱力し床に刀を刺す、そして沖田に向かって睨む。

 

「狂う? 違うねぇ。()が本気出そうとしてるだけなんだが?」

「なに……?」

「あまりにも……久しぶり過ぎてねぇ……私ってさ、ほら……ガキじゃん?」

 

 クックックッ……と静かに笑うと、刀を思いっきり床に刺した。

 

「我が宿敵ッ!! 天照の神に乞おうッ!! 我に力を与え給えッ!!」

 

 突然叫び始めた。

 言葉を紡いで叫び始めたのだ。

 すると、突然天狐の背中にあった壁が崩壊した。

 

「っ……!!?」

「ったく……これ使いたくない理由の一つとして……天照の力なんだからなんだがなあ……」

「天照だと……!?」

「……絶戦の果てにて願いを乞うはッ!! 敵に報復をッ!! 我らに祝福をッ!!」

 

 外で吹雪いていた雪景色が、突然晴れた。

 晴れたのだ、何百年と言う間、曇っていた空から太陽が顔を出しのだ。

 実に、■■■年振りの出来事であった。

 それと同時に、天狐の体が蒼い焔に包まれる。

 

「さぁて……地獄の果てに夢見るはッ!! 我らが世界っ!! 我らが夢幻ッ!!」

 

 焔の中から、一本の手が伸びる。

 明らかに、天狐の腕より長く、細く、美しかった。

 

「我が剣に、たった一度の力を与え給えッ!!」

 

 焔が霧散し、そこに現れたのは、一人の少女。

()()()()()()()()()()

 狐の耳に尻尾を持ち、いくらか伸びた身長。

 

 天狐であった。

 

 左腕も完全に回復しており、傷は無くなっていた。

 

 刀を叩く掲げると、その刀は太陽の反射によって綺麗に輝く。

 沖田に向かって突きつけると、叫ぶ。

 

「『天輪快晴深裂刀(てんりんかいせいしんれつとう)』ッッ!!!」

 

 セイバーではよく見るであろう。

 極太のレーザー、それがたった一本の刀から解き放たれる。

 沖田は目を見開き、構える。

 

「ありとあらゆる可能性を秘めた絶剣、此度に於いては意味を得ず。無剣の果てにて得たのは究極の三段。それでいても足りず。貪欲に求めては最強の攻撃」

 

 一息置いて呟く。

 

「『神剣・絶界九段突き」」

 

 レーザーに相対し、沖田は九の突きを放つ。

 一撃一撃が究極の突きを。

 だが、飲み込まれる。

 

 あまりにも大きすぎたのだ。

 そのレーザーは太陽の力、凍った大地を溶かすには十分の威力だった。

 これで、勝負は決した。

 

 かのように見えたが。

 

「……んー、生きてんの?」

「……形成、逆転。ってわけですか……」

 

 左目失明、左腕消失、感覚麻痺。

 様々なものを今の一瞬で背負う。

 だが、立っていた。

 

「私の全てを込めた一撃、だったんだけどな……まさか生き延びるとは……」

「一瞬で避けるための隙間を作り出すのは、随分と苦労しましたがね……」

「うはぁ……そんなことできんのー?」

 

 太陽の力によって黒くなった刀を振り払うと、沖田の前に立つ。

 紅い羽織をはためかせ、立ちはだかる。

 

「……まあ、このくらい攻撃を受けた方が対等でしょう……」

「マジかよ。まだ余裕って言うの?」

 

 お互いに刀を構える。

 沖田は片手で、天狐は両手で。

 

 決戦の時は来た。

 お互いに駆け出し、鍔迫り合いが始まった。



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第14節:第三ラウンド

 ありとあらゆる可能性、について考えたことがあるだろうか。

 今回のサーヴァントはあらゆる可能性を得た、沖田総司だ。

 だが、それとは別に、人間にはありとあらゆる可能性がある。

 別の世界と呼ばれるものだ。

 

「……うむ、俺が語れることでもないのは確かだな」

 

 その男は、遠くのビルから四人の戦いを見守っていた。

 彼がこれを見るのは、既に■■■■■回目だった。

 何回も見たが故に、飽き飽きしていたのだ。

 

「……まあ、ウォッチャーとして、最低限のことはやらせてもらいますよ」

 

 そう言い男は両手で一回パンっと叩く。

 すると、地面が大きく揺れる。

 

 全てを破壊するように。

 

 

 

 

 

「──……ふぅ……」

 

 目の前で、狐の少女が息をついて刀を納める。

 私は……負けたのだろうか。

 

 口から出るのは、息ではなく血反吐だった。

 

「生きてる……?」

「あ……──」

「……この様子だと、数分もすれば消えるな」

 

 そう言って立ち去ろうとする。

 アレを、行かしてはならない。

 この、この世界を守らねば。

 いくつもの時の間、ずっと守り続けてきた、この世界を。

 約束したんです。

 

 

 

「──アサシン、これからよろしくね」

 

「あなたは……その姿……そうですか、私は何をしたらいいんですか?」

 

「守って、この世界を、全部を。私が敵になったのなら殺して……私はさ、もうどうしようもないから……──」

 

 

 

 右腕を動かそうとする。

 だが、どう頑張っても動く気配はない。

 

 私は、負けるわけにはいかないんです。

 誰か、誰でもいい、力を力をください。

 私は……わたしは……──! 

 

『沖田、しっかりしろ』

 

「こ……んど……──さ、ん……?」

 

 何処からか、あの人の声が聞こえた。

 

『沖田、お前の覚悟はその程度か?』

 

「ひじ……か──た、さん……?」

 

 まただ。

 声が聞こえていた。

 私の耳に、確かな声が届いていた。

 

『お前がやらなきゃ、誰がやるんだ。もう来るとこまで来てんだぞ?』

 

「で……す、が……──もう……」

 

『諦めるなんてお前らしくねぇぞ、立て、立って戦え』

 

 私らしくない……か。

 そうかもしれない。

 

 そう考えると、不思議と右腕に力が入った。

 右腕が、上に上がる。

 

 それに気づいた狐の少女が、こちらに驚愕の顔を向ける。

 

『……沖田、お前は俺たちの『誠』を背負ってんだ』

 

『戦え、戦い続けろ。俺たちは──』

 

「しん……せ、ん……ぐ……み──で、すよね……」

 

 自然と笑みが溢れる。

 下半身の感覚はなかった。

 でも、それでも立つことができた。

 

 勇気が、力が溢れてきていた。

 

 刀を手に、彼女の前に行く。

 

「……ふぅ──……ま、だ……やれ、ます……よ……」

「う、そ……だろ……そんな……確かに心臓を……ッ!」

 

 少女は慌てた様子で刀を手にする。

 

「わたしは……しんせん、ぐみです……」

 

『そうだ沖田、生きるんだ。進むんだ。戦うんだ!』

 

『俺たちは……お前は……──!』

 

「わたしは……私は……──ッ!!」

 

 私には近藤さんが、土方さんがついている。

 刀を握る手にどんどん力がこもっていく。

 

まだ君には焔が灯っているか?

 

 ああ、灯っているとも。

 だからこそ叫ぼう。

 私の決意を、私の思いを。

 

「私が……私が新撰組だァッ!!!」

 

 焔が私を包んでいく。

 彼女を包んだように、私の体をも。

 

「……な、にが……おきて……!?」

 

 狐の少女は後ろへ下がっていく。

 顔を驚愕で歪めて。

 

「……すいませんね。少しお待たせしてしまって」

 

 余裕の笑みを浮かべ、私は立っていた。

 

「改めて真名を……私の真名は『新撰組』、クラスはルーラーです。よろしくお願いしますよ」

 

 焔が晴れたそこには、頭に焔のように揺らめく鉢巻を巻き。

 同じように焔の如く揺らめく羽織。

 そしてその(意思)には、焔が宿っていた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 これを見て私は何を抱いたんだろうか。

 何が、起きてやがる。

 

「……マジかよ。こりゃ一筋縄じゃいかねーだろ……」

 

 私は鞘に納めた刀を手に構える。

 距離は大体10mくらい。

 沖田総司、縮地法があるから一瞬で距離を詰めてくるはずだ。

 

「いや、ありゃ沖田総司じゃねーのか……」

 

 新撰組、クラスはルーラー。

 短期決着、それは確実だろう。

 

 ジリジリ詰めていく、コンっと足に小石が当たってそれが地に落ちた瞬間。

 お互いに刀がぶつかり合う。

 

 ギリギリ音を立て、鍔迫り合いに持ち込む。

 

「ッ……」

 

 弾いて足がついた瞬間また飛ぶ。

 お互いに斬撃が繰り広げる。

 

 少しでも位置をミスれば即死。

 それはどっちも同じ。

 最悪相討ちということだ。

 

 刀が輝く。

 地に着地した瞬間、腰を屈め、刀を鞘に納め後ろに滑り込む。

 敵はまだ空中。

 そこに飛んで斬撃を加える。

 

 加えようとした、その時奴は私を見た。

 こっちを向いて、刀で斬撃を食い止める。

 そして刀を捻るように動かすと、私の刀を上に向かって弾いた。

 

「なッ……!?」

 

 奴が床に着地した瞬間、刀による攻撃が始まる。

 回避、不可能。

 できるだけしたくなかったことを。

 

 第三の宝具。

『狂気の仮面』、仮面と言うかお面だけど。

 

 狐の面を、つける。

 意識の切り替わり。

 敵味方の認識。

 全てが不可能となる。

 

 だが、私は素手で、斬撃を食い止めた。

 

 それを踏んで奴の後ろに飛ぶ。

 そして着地し、上半身を前に屈める。

 確かな意識はあるものの、体を操ることはできないし、喋る事も出来ない。

 

 今の私は、バーサーカーだから。

 

「ぐるるるぅ……!!」

「……ええ、打ち倒しましょう。その首、切り落とすッ!!」

 

 第三ラウンド、その始まりだった。



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第15節:決着

 数分にも及ぶ沈黙。

 下の方で一度轟音がしたが、この緊張状態が解けることはなかった。

 それを破ったのは、ムーンキャンサーの声だった。

 

「終わった……?」

「いや、まだだ」

「そうだね。お互いに終わらせるわけにはいかないからね」

 

 俺は終わらせたいのだが。

 ……ここまで来たんだ。

 もう、いいだろう。

 

「頼む、もう諦めてくれ」

「……私は……ここまで来たんだ。だからこそ、尚更諦めたくない」

 

 俺はトリガーを引く。

 俺は狙ったのか、無意識だったのか、もうわからなかった。

 だが、それが功を成しこちらに向けていた銃を弾き飛ばした。

 それを受けてため息をつく。

 

「はぁ……出会った時に殺しとけばよかった。短時間でここまでなるとはね……」

 

 流石にもう、できることはないようだった。

 そこまで言うと、近づいてくる。

 俺は銃を向けるが、手が震えて狙いが定まらない。

 治った、治ったはずなのに……! 

 

「……正直に言うとね、驚いてる」

「何をだ……?」

「勿論、ここまで来たこと。もっと早く死ぬと思ってたからさ」

 

 そう言うとため息をついて、ポケットに手をやる。

 俺はトリガーに手をかけると、片手を差し出して俺を止める。

 

「最後の一服、それぐらいさしてくれないかな」

 

 タバコを一本取り出すと、ルーンを描いて火をつける。

 空に煙が立ち上る。

 背景には、綺麗な太陽が存在していた。

 

「……私の負けだ。いいよ、聖杯……あげる」

 

 そう言うと両手を挙げて、ヒラヒラと動かす。

 勝った、勝ったんだ。

 一つ目の、防衛杭は、終わったんだ。

 

 俺は後ろを振り向き、聖杯に向かって手を……。

 

「ダメだッ!! 殺さ」

 

 そこでムーンキャンサーの声が途切れる。

 充電が切れたのだろう。

 俺は後ろを振り向いて銃を向けた。

 

 1発の銃声が、輝く蒼天にて響き渡る。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 刀と素手、差は圧倒的と言ってもいいだろう。

 だが、私はひたすらそれを受け止め避けて殴る。

 攻撃、と呼べるかもわからない。

 もはや攻防ですらないのかもしれない。

 

 無茶苦茶、やりすぎた。

 霊基再臨、それを上回る力で奴は押してきた。

 それに合わせるように、私は力を無理やり上げる。

 能力上では奴の勝ちだろうな。

 

 既にここは壊滅しており、少しでも下手やるとこのビル全体が崩壊するだろう。

 ここまで来たお互いはもうボロボロだった。

 だから、だからこそ、終わりは目前だった。

 

「……ぐがぁ……」

「ふぅ──……やるじゃないですか」

 

 奴は一息ついて構える。

 

 私自身、このバーサーカー状態を維持するのはきつい。

 もう数分する保たないだろう。

 

 私は腰を低く落とす。

 奴は刀持つ手の力を抜く。

 

 構えすら、していない。

 いや、あれは……あれが構えなのか。

『新撰組』と言う一つの、行き着いたものなのか。

 あれを、乗り越える。

 

 それは不可能に近いことだろう。

 いや、実質不可能と言っても過言ではない。

 何百人と言う人が積み上げてきた、剣術。

 それをたった一人である私が乗り越えるのは不可能だ。

 

 故に……最後の宝具と行こう。

 

 仮面を手に取り、外す。

 手を掲げると、羽織が手に落ちてくる。

 それを着て、奴の前に立つ。

 

「……準備は、できてんぞ……」

「……『霊核直結』」

 

 奴の刀が一際大きな輝きを放つ。

 霊核直結、奴は自身の命を賭して私を殺す気のようだ。

 いい、覚悟だ。

 

 私も、全力で行こう。

 刀を腰に鞘に納め、両手を広げる。

 

「我が友よッ!! 我が声を聞けッ!!」

「我ら新撰組、魂はここにあり」

 

「幻想に於いて語られるは、夢幻の城塞ッ!!」

「数々の研鑽の果て、輝き募るは我が身に引いて」

 

「三千束ねる、我が要塞ッ!!」

「全てを打ち砕いてくれよう」

 

「『妖魔城塞:百鬼劣紅』ッ!!」

「『新撰組:此度にて剣極に至れり』」

 

 縮地、奴は一瞬で私の目の前に来る。

 剣を引きしぼり、放つ。

 究極の、神を撃ち落とすが如く最強の一撃を。

 それは見ただけでわかる。

 

 かつて仲間たちを呼び出し、塊として壁を成す。

 それを借りて呼び覚ます、かつての城。

 一塊として、いくつもの敵を打ち倒してきた。

 最強の防壁。第3宝具だ。

 

 故に、矛盾。

 

「ぬぐっ……ぅぉぉおおおおおおおおッッ!!!!」

「……ぉぉぉぉおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

 

 奴の刀が、私の防壁にぶつかる。

 だった一瞬、だが一生のような時間が流れる。

 壁が、崩壊し始めた。

 

 全てを込めた一撃、だからこそどんな防壁だって吹き飛ばすだろう。

 私の防壁は、もう吹き飛んでいた。

 

 半身が、吹き飛んだ。

 それでも私は、立っていられた。

 立ち続けられていた。

 

 理由は、わからない。

 ますたぁのためなのか。

 それとも……。

 

 結果として耐えた、それは私の勝利を意味さす。

 

「……私、負けたんですね」

「……がふっ……私も、死にそーだがな」

 

 私の体は既に、消えかけていた。

 耐えた、と思ったのだが。

 

「……これ、持って行ってください」

 

 そう言うと、刀を鞘に納め、投げ渡す。

 私はそれを受け取る。

 

「これ……」

「それで、生き残れるでしょう……天狐、と言いましたよね? 成し遂げてください。私の代わりに」

 

 そう言って、消えて行った。

 私は、刀とともに受け取った()()に入ってる液体を飲み干す。

 そして、ますたぁのところに向かって駆け出した。



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第16節:全ての始まり

 銃弾は、彼女の心臓を貫いていた。

 俺は、やってしまったのか。

 殺して、しまったのか。

 

「ころし、て……」

「馬鹿言わないでよ……生きてるよ……」

 

 口からタバコを溢し、血を垂れ流す。

 へへっ、と笑って倒れる。

 

「持ってけ、ドロボー」

 

 俺は後ろを向く。

 そこでは聖杯がキラリと輝いていた。

 俺は手を伸ばし、聖杯を手に取る。

 あの聖杯が、手にある。

 

 その瞬間、世界が揺れた。

 聖杯の取得に呼応するように。

 世界を破るように、揺れたのだ。

 

「なっ……!?」

「揺れてる……のかな? この世界住人の私は感じれないけど、さ……」

「それはどう言う……」

「世界が、崩壊してるんだよ」

 

 そうか、俺が聖杯をとったから、そのせいで……。

 これはもう、どうしようもないことだ。

 ないことなんだ。

 

「……最後に、警告しとくよ……」

「警告……だと?」

「……ムーンキャンサー……信用しないほうが、いいよ」

 

 そう言うと、目を閉じる。

 信用しないほうがいい、だと。

 いや、今は考えることはよそう。

 取り敢えず、ここを離脱しなくては。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 負けちゃった、か。

 アサシンも、消えたのだろうか。

 いやでも、令呪は……。

 

 残るものなのだろうか。

 

「マスター、生きてますか?」

「……生きてる、よ……」

「ならよかった……負けましたね」

 

 私の寄りかかっているところに座る。

 霊核が傷ついているのか、もう消えかけていた。

 

「……ありがとね、アサシン」

「いいんですよ……結局、あの子との約束、守れませんでしたけどね」

「あの子って……()()()()()()()()?」

「……ええ、私たち全員を束ねていた、最後のマスターですよ。魔術は全く使えないくせに、前に立って、私たちとともに戦ったんです。びっくりでしょう?」

「あはは……そんなひとがいたんだね……」

 

 目を開ける。

 既に景色は霞んでいた。

 何も、見えない。

 

「……ねえ、あさしん……せかいは、どうなってる?」

「綺麗、ですよ。ここに来て、初めての太陽ですよ」

「……たいよう、かぁ……きれい、なんだろうな……」

 

 体から力が抜けていく。

 苦しくはなかった。

 何故か、とても気持ちが良かった。

 

「おわかれ、だね……あさしん」

「アサシンはもういないよ」

「え……?」

 

 アサシンは消えて、そこにはひとりの男が立っていた。

 シモさん……いや、かつていたカルロス・ハスコック……。

 ああ、そう言うことか、まだ生きてんだ。

 

「……出番、伺ってたんだがなぁ……まさか出番なしとは。と言うわけで、俺も消えるんでお別れにだ」

「はは……あーちゃー……ついていけばいいのに……」

「いんや、あいつらとともに歩むことを決めたからな。一緒に消えてやるさ」

 

 顔は見えなかったが、多分笑顔だった。

 だって、太陽のように照りつけていたから。

 輝いていたから。

 

「……すごいな、消える時ってこんな綺麗なんだな」

 

 最後に、そんな言葉を聞いて私の意識は遠くに消えた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「天狐っ! 生きてたんだな!」

「まー、なんとかな」

「って……どうした、その格好」

「かっこいいだろー!」

 

 途中合流した天狐が、俺の隣を走る。

 今は地下を走っていた。

 

 世界は揺れを大きくし、崩壊を進めていた。

 この揺れは、天狐も感じているようだ。

 

「なあ天狐っ!」

「なんだ!?」

「どこ行けばいいと思う!?」

「そりゃ……あそこだっ! 地下鉄!」

 

 おおっ! と言って、地上に出る。

 サーヴァントが消える時に出る光が、地上から出ていた。

 この世界が、消えようとしているのだ。

 

 聖杯を脇に抱え、二人で走る。

 地下鉄に向かう。

 

 この世界の雪は、全て溶けていた。

 綺麗さっぱり溶けて、本来の世界が顔を出していた。

 俺の住んでいた、地球があった。

 

 それを見て、立ち止まる。

 

「どーした!? そんな懐かしむような顔して!?」

「す、すまん! 急ぐぞ!」

 

 また駆け出す。

 こんなところで死ぬわけにはいかないからだ。

 

 地下鉄に向かう。

 そこにあったのは、『ディザスター』。

 

「マスターN/A様っ! お急ぎください!!」

 

 そうシーハが叫んでいる。

 シーハに聖杯を渡し、三人で乗り込むと電車の扉が閉じる。

 すると、移動を始めた。

 

 動き始めたのだった。

 

「終わり、なんだよな?」

「全て、終わったんだよ」

「聖杯の獲得、お疲れ様でした」

 

 シーハが扉の前に立ちそう言う。

 

「これは奥の保管庫にて保管します。それでは次の防衛杭へ向かうので、その間ご休憩を」

 

 その報告を受け、俺と天狐は布団に倒れこむ。

 その3秒後、その時にはもう寝ていた。

 

 

 

 [絶寒終末国『日本』]-人理崩壊-




セイバー『天狐』とムーンキャンサー『繝弱う繝槭Φ』の絆が上昇しました。
+1
天狐:2/10
繝弱う繝槭Φ:1/10


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幕間&マテリアル
マテリアル1『天狐』


 天狐

 クラス  :セイバー

 年齢   :不明

 身長   :152cm

 体重   :秘密☆

 地域   :日本

 属性   :秩序・善

 特技   :人を化かすこと

 天敵   :玉藻の前

 好きなもの:お稲荷、覚悟ある人、ますたぁ

 嫌いなもの:細かいもの、チキン

 適正クラス:セイバー、バーサーカー、アサシン、ルーラー、■■■■■■■、■■■■

 

 

 ステータス

 筋力:B+

 耐久:C

 敏捷:A++

 魔力:A+

 幸運:D

 宝具:EX

 

 スキル

 カリスマ:E

 かつては妖怪の総大将として渡り歩いたことがあるそう。

 その時の姿は、今よりボンキュボン(本人談)だったそうだ。

 しかしカリスマE相当、実はこれには理由がある。

 [絆3以上かつ、『虚空の太陽に願いを灯す』突破後解放]

《ゲーム効果:全員攻撃力アップ(3ターン)》

 

 見切りの構え:B

 セイバーとして召喚された彼女は、かつて剣聖と戦った記憶がある。

 ちなみに負けたそうで、その時に鍛えて貰いこれを習得した。

 これを発動している間は大体負けない。(本人談)

《ゲーム効果:回避(3回)&必中(3ターン)》

 

 天狐の天啓:A+

 天狐として名を馳せた彼女は、実は神から愛されていたとのこと。

 どんな神かは誰も知らないが、直感とは違い未来予知に近いものだそうだ。

 見切りの構えと合わせれば、ほぼ負けることはないと言う。(本人談)

《ゲーム効果:スター配布&クリティカル威力アップ(3ターン)&自身のクリティカル発生率アップ(3ターン)》

 

 猛攻突破:C+++

 その最期は凄まじいものだったと言う。

 どんなに血に塗れても、ひたすら戦い続けたらしい。

 心臓を撃ち抜かれようとも、意識を失っていても。

 立って、立って、立って、戦い続けたらしい。

 最期には人質を取られ、首を討ち取られたそう。

《ゲーム効果:ガッツ(回復2000)(一回)&クリティカル威力アップ(3ターン)&攻撃力アップ(3ターン)》

 

 ■■顕■:E

 [詳細データは削除されている]

 

 

 宝具

 第1宝具『天輪快晴深裂刀(てんりんかいせいしんれつとう)

 天照の神の力を借り、全力で放つ究極の一撃。

 セイバー特有の極太レーザーを放つ。

 威力は太陽の出具合によって変わり、雲ひとつない空ならばエクスカリバー以上の威力が出る。

 故に……

 

 種類:対界宝具

(セイバー時の宝具)

 

 第2宝具『狂気の狐面』

 これは百鬼夜行時、いつもつけていたとされる狐面。

 この面をつけると、クラスが一時的にバーサーカーに変化する。

《ゲーム効果:クラス相性『バーサーカー』(5ターン)&攻撃力アップ(3ターン)&攻撃力アップ(1ターン)&クリティカル威力アップ(1ターン)》

 

 種類:対人宝具

 

 第3宝具『我が友よ、今一度覇道を極めん(百鬼夜行の劣紅の羽織)

 かつて百鬼夜行を率いていた時に着用していたとされる、紅い羽織。

 この羽織を着用している間、全ステータスが2倍になる。

 そして新撰組の旗と同じように、かつての仲間たちを召喚することができる。

 その仲間たちの気を纏い、三種類の宝具を使うことができる。

(バーサーカー時の宝具)

 

 種類:対軍宝具、対撃宝具、対人宝具

 

 第一再臨

 和服を着こなし、刀を腰にぶら下げている。

 特に特徴もない普通の和服。

 ボサボサの白く長い髪で、少し獣臭い。

 

 第二再臨

 雰囲気をガラリと変えて、時代は大体大正時代になる。

 和服だったものは軍服となる。

 この軍服の逸話は彼女が生涯で、唯一好きになった人間の男から来ている。

 金髪になり、髪は手入れしたのかサラサラでいい匂いがする。

 

 第三再臨

 [NO DETA]

 

 

 セリフ集

 

 戦闘時

 

「よし! ぶっ殺すッ!」

 

「ますたぁ、後ろ下がっててくれよな」

 

 スキル発動

 

「ま、やってみるか」

 

「全員、私に続けーッ!」

 

 コマンドカード

 

「うんうん」

 

「よし!」

 

「覚悟を決めたな?」

 

 宝具コマンド

 

「ますたぁ、魔力を回してくれ。決めにかかる」

 

「ますたぁ! これ終わったら稲荷食わせろ!」

 

 ダメージ

 

「ふげぇっ!?」

 

「あの頃に比べたらこのくらい……!」

 

 戦闘不能

 

「……すまねーなぁ。ますたぁ……私は……ここまで……」

 

「また、守れなかったのか。私は……私は……」

 

 勝利時

 

「よし! 勝ったぞますたぁ!」

 

「へへっ! 勝ったご褒美として稲荷な!」

 

 レベルアップ時

 

「んー……強くなった、のかな? ま、あんま考えねーようにするか」

 

 第一再臨

 

「この服な……俺の好きになった奴の服なんだ。ま、そこんとこあんま話したくねーけど。あ、いやでも……その、勘違いするなよ! 昔の話だからな!」

 

 第二再臨

 

「見た目に変化は……ねーな。ま、そんなもんか。だが強くなったって感じはするからな!」

 

 第三再臨

 

「あー……この服か。現代に馴染んでしまってんなー……まあ、嫌いじゃねーけど。え? なんでこの服装かって? そりゃ……死んだ時の服だからな」

 

 最終再臨

 

「なんだえーっと、改めて誓おう。我が剣は貴方の為に。我が身は貴方の為に。全てを尽くして貴方を守ろう……いや、なんか嫌だなこれ。私らしく行こう、うん。と、言うわけでだ。これからもよろしく! ますたぁ!」

 

 ホームボイス

 

 絆1

 

「まだまだこれからだ。ますたぁのサーヴァントとして頑張らせてもらうからな!」

 

 絆2

 

「にゃー……ってなんか違う……ってうわぁっ!? 何見てんだよますたぁ!? ち、ち、違うぞ!? これは、その……も、モノマネだ! あ、アタランテの!」

 

 絆3

 

「稲荷ってさ、美味しいよな。どうって言われても……んー、詳しくはわかんーねけどさ、とにかく美味しいんだよ。狐だから? い、いくら私でもそれは怒るぞ!?」

 

 絆4

 

 

 絆5

 

 

 

 会話:玉藻の前所持

 

「げぇっ!? あいついんの!? ……マジかよ、最悪だな、ここ」

 

 会話:??? 所持

 

「そりゃ……あいつがいるのは嬉しいけど。キャスターなんだろ? じゃあ私が知ってる奴じゃねーな」




私はもう一度、アイツに会いたいだけなんだ。

ーーーーーーーー天狐


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マテリアル2『繝弱う繝槭Φ(ムーンキャンサー)

 繝弱う繝槭Φ

 クラス  :ムー%〒キャ☆4サー……?? 

 年齢   :ふめめめめめめめ

 身長   :137777〒☆¥%=4÷

 体重   :──

 地域   :アメリカ合衆国

 属性   :ちつつつつつつつ・悪

 特技   :数学、もっと詳しく言えば暗算

 天敵   :いない

 好きなもの:数学

 嫌いなもの:全て

 適正クラス:キャスター、ムーンキャンサー、アルターエゴ、フェイカー、セイヴァー

 

 

 ステータス

 筋力:E

 耐久:E

 敏捷:E

 魔力:EX

 幸運:E

 宝具:不明

 

 第一再臨

 白いワンピースを着ている。

 それ一枚で、薄い。

 多分透ける。

 

 

 

一つ、忠告しておこう。

これ以上、知り過ぎるな。

 

 

 

 スキル

 驚異的頭脳:EX

 彼女のIQは■■■である。

 このことからこのスキルがある。

 

 電子之王:EX

 彼女の逸話から発現したスキル。

 

 ■■■■ :EX

 道具作成が独自のものに進化したもの。

 

 ■一宝■:『我が電子の海にて回帰せよ(エレクトロニック・オーシャン)

 ■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■、■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■。

 ■■■■■■、■■■■■■■。

 ■■■? ■■■■■■■■■! 

 全ては回帰する。

 

 ■■■具:『■■■■■■■■■■■■』

 ■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■? ■■■■。

 ■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 

 戦闘開始

 

「よーし! 張り切っちゃうぞ! あ、サポート面限定だけどね?」

 

「うーん、不条理。戦いたくないな。うん」

 

 スキル発動

 

「ほらほら! みんな頑張れー!」

 

「たまには頑張らないとね!」

 

「……計算終了。とっとと殺して」

 

 コマンドカード

 

「えっ、私!?」

 

「が、頑張るよ!」

 

「ひ、一つくらい妥協は……」

 

 エクストラアタック

 

「えーい! ヤケクソだぁっ!」

 

 宝具コマンド

 

「ぎ、擬似的なものでもいいかな? ダメ? そうだよねー」

 

「やってみるよ? やってみるけど、失敗したらごめんね?」

 

 宝具

 

 未開放

 

 未開放

 

「……宝具、取り敢えずやることはやるよ……はぁ、めんどくさ。ゲホッゲホッ、これさ病人にやらせることじゃないよね? 『我が電子の海にて回帰せよ(エレクトロニック・オーシャン)』」

 

 ダメージ

 

「いたっ!?」

 

「ごめんなさいっ!」

 

 戦闘不能

 

「うん、まあ知ってた。じゃあ報復弾1発……」

 

「まだ死にたくないよぅ……」

 

「……ま、人間だしね。そりゃ死ぬさ」

 

 勝利時

 

「わーい! 案外勝てるもんだねー!」

 

「帰ったら労ってね? 意外と頑張ったんだから!」

 

「作業終了。眠るから……部屋に来んなよ?」

 

 レベルアップ

 

「んー、私なんかでいいの?」

 

 第一再臨

 

「服装変えてみましたー。どう? 可愛い? えへへー、ありがとう!」

 

 第二再臨

 

「たまーにね、考えるんだ。もう一度あの人と会えないかなーって、会えるといいな」

 

 第三再臨

 

「……再臨完了。感情表現薄くなるけどさ、これからもよろしく」

 

 最終再臨

 

「再臨終了。はぁ、よくもまあここまで……なんちゃってね! お疲れ様! そしてありがとう!!」

 

 ホームボイス

 

 絆1

 

「え? 私のことについて? 男じゃないのって? まあ……色々あってね、実際死んだ時はおじいちゃんだよ!?」

 

 絆2

 

 絆3

 

 絆4

 

 絆5

 

 会話1

 

「……眠い、寝ていい? マスターの膝の上で」

 

 会話:天狐所持

 

「あ、天狐だー。昔ね、あの子と旅してたんだよ。あ、勿論マスターがいたけどね」

 

 会話:??? 所持

 

「なんでいるの? 私は、ここにいるよ。おかしいなー」




私の計画は、既に破綻していた。

ーーーーーーーー繝弱う繝槭Φ(ムーンキャンサー)


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マテリアルEX:マスターN/A

※これは壊滅特異点にて残されていた資料です。

 貴重なものなので、扱いには十分注意するように。

 by.ダヴィンチ

 

 

 

 NAME:[焦げていて読めない]

 レイシフト適正:100%

 正直に言うと、日本人でこのような人材は驚きだ。

 かの少女に続き二人目、面白い。

 

 霊基属性:中立・神格

 年齢:18歳

 

 見てみればレイシフト適正どころか、魔力もかなりあるようだ。

 このことから見て、Aチームに配属するのも考えられる。

 ……だが、魔術師でもないのに、何故ここまで……? 

 

 

 データ:レイシフト三日前

 

 

 希望サーヴァントクラス:ランサー

 

 彼をAチームに入れたことは間違いではない。

 それはこれから証明していこう。

 キリシュタイア君には申し訳ないが、秘密裏で彼の召喚希望通りに召喚する。

 どちらにも秘密で、だ。

 

 

 

 時期:不明

 

 

 

 彼はなんとも勇気がある。

 結果的にAチームに置いて良かったのだろう。

 召喚したサーヴァントは[焼却していて読めない]、しかも神霊ときた。

 今は三つ目の特異点だが、彼のおかげで苦労もなく突破できている。

 

 ただ……ロマニさんは、彼のことを奇妙だと話す。

 理由はわからないが、彼のことを認めていないと言うことなのだろうか。

 ならば、認めてもらうしかないだろう。

 それこそ彼は実力があるから、すぐに認めてくれるはずだ。

 

 

 時期:不明

 

 

 今日、彼が一人の少女について話してきた。

 彼と同じ出身の少女、レイシフト適正100%の彼女だろう。

 何故か、とても羨ましがっていた。

 とても、憧れると言っていた。

 

 私にはそれが理解できなかった。

 

 

 時期:不明

 

 

 突然、彼が変なことを意味不明なことを言い出した。

 彼曰く、「俺は転生した」「この世界で起きるはずだった事象を捻じ曲げた」。

 と、全くわけのわからないことを言い放つ。

 最終的にはロマニさんのことをサーヴァントだと言い始める始末だ。

 ……どうしたのだろうか、疲れでも溜まっているのだろうか。

 

 それもしょうがないだろう、ここ数ヶ月戦い続けているのだから。

 いかに神霊と言えど、彼自身の心労は如何程が計り知れない。

 少し休憩を要請してみよう、通ればいいのだが……。

 

 

 時期:第七特異点辺り

 

 

 彼が死んだ。

 死因は自殺だと言う。

 彼の遺書は以下の通りだ。

 

「俺は、俺は間違えていた。自分で全てを破綻させてしまった。目の前で起きることと、その現実はまるっきり違う。生きている、みんな生きていた。ゲームなんかではなかった。これを見た人は、俺が狂っている、とでも思うだろう、でも違う、そうじゃない。レフ教授が裏切ることはわかりきっていたし、どう頑張ったところで所長は死ぬ。

 だが、俺はたった一つだけ変えてしまったことがある。それはマシュと彼女を引き離したことだ。その時点で、その時点で未来はもう、どう頑張っても焼却が決まっていた。マーリンに言われて初めて気づいた、俺は既に戻れないと。

 それに、気づいていたはずなんだ、第六特異点。神聖円卓領域キャメロット。あそこで俺は限界を感じていた。ランサーは励ましてくれていたが、俺はもう嫌だった。辛かった、苦しかった。戦い、別れ、後退は許されない。[ここから先、故意に破かれたような跡がある]

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、何度言おうと許されないことはわかっている。俺のせいで人理が焼却されるってわかってる。でももう、手遅れだったんだ。全ては流れのままに、動かすべきだったんだ」

 

 これにも書いてある通り、読んだときは狂っていると思った。

 だが、これを読んで一つ、思いついたことがあった。

 世界線と言うものにだ。

 

 彼は世界線を超えてやってきた者、なのではないのか。

 私たちの世界の結末を知っている者、そうではなかったのだろうか。

 

 [これ以上は何も書かれていない]

 

 このことから、この特異点は別の世界のカルデアだったことがわかる。

 果たしてこの後、この世界で何が起きたのか、それはもう、誰にもわからない。



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カルデア崩壊時に残されていた資料

以下の資料は、壊滅特異点で見つけた資料だ。
これまた貴重な物なので、丁寧に扱いたまえ。
by.ダヴィンチ


 [紛失、又は掠れてて読めない]苦し紛れの笑い声が出た。

 

 いや、実際苦しかった。だって[紛失]

 

 自分は所詮、人間だったのだ。

 

 [以下、上から殴り書きされている]あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

 

 

 

 

 

 おい、笑えよ。[以下続き]死にたい

 

 

 

 

 

 

 自ら望んでそうなったのが、世界の崩壊に繋がった。

殺して

 もはや願いは消え、希望は、闇に溶けた。

 

 これを書いているのも、最後の、人間らしい気力であった。

 

藤丸立香。最後の希望。

 

 僕ができるのは、彼を助けることだけだった。

 

苦しいそう言えば、あの時からだった、全てが狂ったのは。

 

 召喚英霊第2号、マシュ・キリエライト。

 

 [血で滲んでいる]彼女の中にいる、あれは……ギャラハッドなのだろう。

 

 僕は、あれを止めるべ[以下、上から塗り潰されている]

 

 [私はこれ以上の情報を得られなかった]

 [カルデアとは、一体なんなのだろうか。ここは何をしていたのだろうか]

 [それについては、もう一枚の資料を見てわかったことがある。世界がこんなのになったのは]

 

 

 

 [全て、このカルデアのせいだったのだ]

 

 

 [以下、2枚目の資料]

 

 

 

 これは遺書だ。

 俺が書き残せる、遺書なんだ。

 そして償うための……。

 

 あの日、運良く生き延びた俺は、逃げ出した。

 戦うことを放棄した。

 そのせいでこのような事態を招いてしまった。

 

 ……ドクターにも、すまないと思っている。

 謝っても、謝りきれない。

 

 だからこそ、俺は聖杯を使うことにした。

 全てを、全てを停滞させるために。

 協力者も得た。

 

 ……そしてサーヴァント達も、俺に協力してくれると言った。

 ここは既に停滞しているがまだ、動く施設はいくつかあるだろう。

 

 これは、俺の戦いなんだ。

 だから、全てを取り戻す。

 

 

 

 これを書いた人物は分かっていない。

 

 ただ、殴り書きでカルデアの一室に置いてあった。

 

 

 全ては焼却されていた。

 

 

 その事実に気づいた時、もう遅かった。

 

 

 

 

 

 我々は。

 

 もう既に。

 

 

 停滞していた。




まるで言葉の羅列だ。
到底意味を成しているとは言えない。
だがこれは…おい誰か、絶対にマスターには見せるなよ。
キャスター呼べ、最強格の…それこそあのロクデナシとか。

こんなもの…呪いの塊だ。

by.カルデアの誰か


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幕間:天狐と少年

 ガタンゴトンと揺れ動く電車の中、壁しか映らない窓を見つめる。

 絶寒の日本を踏破してから既に、一週間が経過していた。

 最初の一週間はそれこそベッドで寝続けていたが、流石に長すぎると思った俺は、シーハに「いつ着くのか」と聞いた。

 そして彼女は「大体一ヶ月後です」、と言い放ち、困惑したばっかなのである。

 

 窓を見つめていると、スマホの明かりがポッとつく。

 

「どうしたの? そんな顔して」

「ん? いやまあ……なんかな……」

 

 窓から見える、何もない景色が俺を思考に浸らせる、ちょうどいい素材であった。

 一つ目の防衛杭、日本。

 あそこの人たちのことを思い浮かべる。

 

 いつまでも引きずるべきではないのだろう、だが俺はあの人たちを消したのだ。

 否、殺したと言うべきだろう。

 

 それに、伶奈が最期に言ったこと、ムーンキャンサーのことも気になる。

 何故、あんなことを言ったのだろうか。

 俺にはそれが気になってしょうがなかった。

 

「ますたぁ、そろそろ昼飯の時間だぞー」

 

 天狐の声が聞こえる。

 隣の車両、工房で何かしていたが、気づけばこの部屋に戻ってきていた。

 

 しかし、相変わらず不思議な格好だ。

 最初は今より幾らか小さく、白色のボサボサとした髪だった。

 それに少し臭い……。

 で、着物を着ていた。

 

 が、今となっては全く違う。

 格好はアニメとかでよく見るであろう、大正時代系の軍服だった。

 ちょっとカッコいい。

 髪の色は金髪、前の打って変わって髪はサラサラだ。

 それになんかいい匂いがする。

 

 ちなみに今は、奥の車両から引っ張り出してきた和服を着用している。

 いつも戦闘服、と言うわけにはいかないのだろう。

 

 かく言う俺も、適当な服を取り出してきて今は来ている。

 カルデア制服の管理は、シーナに任せている。

 

「今日のご飯もカップラーメン〜♪」

 

 変な歌を歌いつつ、俺の反対側の席に座る。

 で、奥の倉庫に大量にあるカップ麺を食べ始めた。

 明らかに使い慣れていないであろうフォークでだ。

 

 てか、サーヴァントってご飯いらないはずでは……? 

 作中でそれについては何度か言及されてたか。

 ……まあ、そう言うことなのだろう。

 

「……天狐、毎日毎日朝昼晩、カップ麺で飽きないのか?」

 

 ここ最近、毎日これである。

 いつ飽きてもおかしくないのだが、飽きる気配はない。

 

 麺をずるずる飲み込んで、答える。

 

「うん、飽きねーぞ。美味しいからな!」

 

 と満面の笑みで答える。

 なんとも羨ましい限りだ。

 俺は最初の三日で飽きてしまった。

 

 幸い、色々と食材はあったため、適当に料理しては食べている。

 

「そう言えば、工房で何やってたんだ?」

「いやな、昔よく使ってたもん作ろーかな、って思ってたんだがよ、やっぱキャスターじゃねーとダメだな」

 

 そりゃそうだ。

 キャスター、クラススキルは道具作成と陣地作成。

 何か物を作ると言うのなら、それこそキャスターのクラスが適切だろう。

 

 ってか、クラス候補にキャスターがあるのか。

 天狐……キャスターに、なるとしたら空狐だろう。

 元々同一の存在だから、そこら辺は……難しいな。

 

「……なんか顔くらいぞ?」

「……いや、な……少し考え事をしてたから……」

「やっぱ、辛いのか?」

 

 麺を啜る手を止める。

 いや、口を止めるか。

 

 そう言えば、ガンナーと話した時に全て聞いてたんだっけか。

 俺の目標。

 

 今の場合は、何故あの世界がああなったか理解していると言うとこだろう。

 

「正直、俺でもわからない……天狐俺な、あの最初の……集団戦あったろ」

「……ああ、あれか。死人を見るのは初めてって顔してた」

「あの日から、あの日から頭に声が響いてんだ」

 

痛い。

 

 まただ、声が響いてきた。

 辛い、この声を聞くたびに辛くなっていく。

 

 俺の感情を全て無視し、その言葉が侵食していく。

 ひたすら辛かった。

 

 ただ、最初期よりは酷くなかった。

 最初は本当に叫び声みたいに頭中に響き渡り、少しでも気を抜いたら狂いそうだった。

 意識を失ってから、かなり緩和されていたが。

 

「……それが……苦しくて、誰かの叫び声みたいで……押し付けられていて……」

「あー……あんま深く考えない方がいいんじゃねーの? それあれだ、呪いだ」

「……呪い?」

「簡単に言うと人の残留思念だ。死体にはそー言うの残りやすいからな。私みたいな上級妖怪は一切を遮断できるが、ただの人間のますたぁじゃ、遮断をするのは難しいだろうなぁ……精神も弱いし」

「つまり……なんだ、俺の心に問題があると……?」

「まあ、要約するとそんなとこだ。いいかますたぁ、自分のせいだと思い込むな。死、って言うのは運命ってやつなんだ。出会いも運命、死ぬのも運命、それは絶対的な力に違いねぇ。カミサマだって動かせねぇ絶対的な力に、だ」

 

 そう言うと、笑顔で麺を啜る。

 運命、か……。

 出会いも、別れも、生も死も、運命……か。

 

 だが、それを自分のせいではない、と思い込むのとはまた違うと思った。

 それを受け止め、前に立つ。

 そうするべきなのだろう。

 

「なあ天狐……」

 

 と話しかけたところで、シーハが入ってくる。

 

「皆さま、予定が大幅に狂いまして、残り五分で第二の防衛杭に着きます。準備をはお早めにすることをお勧めします」

 

 それだけ言うと、部屋から出て行った。

 沈黙が1分くらい流れた。

 

「え?」

「……うん、まあそう言うこともあるよね。外との繋がりわけわかんないことになってるから」

 

 ムーンキャンサーがそう言った。

 それにしてはわけわからないことになりすぎでは。

 

「……よし、急いで準備だ!」

 

 俺は隣の車両に駆け込み、制服を受け取ると着替え始めた。




[第二防衛杭:究極進化要塞『九龍城』]



セイバー『天狐』の絆が上昇しました。
+1
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第二防衛杭:究極進化要塞『九龍城』
第1節:新天地


『未来は明るくない、だが決して絶望すること勿れ』

 私の記憶にある誰かの言葉。

 この記憶は、決して私自身のものではない。

 

 自身の髪、赤いショート。

 視界の端にチラチラ映る。

 

 重い体を動かし、壁に手を着き歩く。

 

 右手には赤い刻印、令呪が刻まれている。

 私をあの箱から救い出してくれた、アーチャーのものだろう。

 奴の部屋に来た、私はタンスから奴の服を引っ張り出し、着る。

 サイズはちょうどいい、当然と言えることだが。

 

 外から駆け足の音が聞こえる。

 どうやら脱走がバレたようだ。

 私はゆっくり口を開くと、あの忌々しい奴の……少女の声がでた。

 

「あー……ちゃー、聞こえる、かしら……」

 

 魔力による通信、この国では探知される可能性はほぼないためこの手段をとった。

 どちらかと言うと、機械を使った方が探知される可能性は高い。

 

 耳元で聞こえる、少女の声。

 アーチャーだ。

 

『ん、聞こえてるよ……バレたんでしょ』

「……そう言う、ところよ……そっちは、どうなのよ……」

『んまぁ……逃走ちゅ……っとぉ!? 《Open(開門)》、《Burst(射撃)》……!』

 

 どうやら向こうは、敵に追われているようだ。

 

 窓に手をかけ、開ける。

 かなりの高さがある、落ちれば即死は免れないだろう。

 だが逃げ道は、ここしかない。

 

 突然、部屋の扉が開けられる。

 そこを見ると、私の瓜二つの、ただし髪の色は青色の、忌まわしい少女が立っていた。

 

「……逃げようと思ってるのかしら?」

「逃げるつもりよ……あんたが、何を思っていようともね……」

 

 体が重い、少しクラクラしてきた。

 あんなところに閉じ込められていたのだ。

 体力がないのも、当然の話だろう。

 

「いい加減いうこと聞きなさいよ。私たちは同一の存在なのよ? なら目的も……」

「ふざけるなッ!!! 私は……私はお前なんかではッ……!!」

 

 声を荒げ、体が更に重くなる。

 

「……酷い言いがかりね。私はこの世界を思ってるからこそなのよ?」

「なら何故私なんて……」

 

 そろそろ限界か。

 フラフラ動く、出来るだけ自然に、開いた窓の方へと。

 

 そしてわざと、引っかかったフリをして落ちる。

 下へ、下へと。

 

「なっ……!?」

 

 窓から覗かせる奴の顔が見える。

 驚いて、いい気味だ。

 

「アーチャー……受け止めてよ……」

 

 そうして私は意識を失う。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 電車の揺れが収まり、止まる。

 どうやらついたようだ。

 ドアが開くまでの一瞬で呼吸を整える。

 

 天狐は隣で立っている。

 着物を着て行くようだ。

 

 電車のドアが開く。

 そして俺は足を一歩、前に踏み出す。

 

 降りるとそこは、やはり廃棄されたような、そんな場所だった。

 手にスマホを持ち、ムーンキャンサーに周りを見せる。

 

「……うん、ここだね。第二の防衛杭、九龍城」

「それって……土地じゃなくて建物だったはずだが?」

「そうなんだよね。建物そのものが防衛杭? って感じかな」

 

 九龍城、香港にあったスラム街だ。

 違法建築の塊みたいなもので、写真だけでもその凄さがよくわかる。

 ここ数年の間で解体され、跡地は公園になったようだが。

 

「建物そのものが防衛杭……」

 

 なんとも言えないが、ドキドキしてきた。

 ここで次は何を見て、何を経験するのだろうか。

 俺は上へ向かう階段に足を置き、踏み出して行く。

 

 上を見ると、地上の光が射していた。

 

「ますたぁ、用心しとけよ。地上に出ていきなり敵とぶつかる、みたいなことがあるかもしれねーからな」

「ああ、わかった……」

 

 そして地上に出たそこは……。

 完全に、SFの世界だった。

 未来、と言った方がもっと確実か。

 全く想定していなかった世界が、そこには広がっていた。

 

「あー……なんだこれ」

「さ、さぁ……?」

「聞いてないんだけど、これ」

 

 俺たちは絶句し、困惑していた。

 ムーンキャンサーも流石に現状を知らなかったようで、スマホの中で口をあんぐりあげて絶句している。

 なんというか、カオス。

 

 建物が空中に浮いたり、壁に埋め込まれてたり、電車は飛んでるし、エレベーターは変な移動してる。

 その中で人々は普通に暮らしている。

 格好もバラバラで、色んな人種が混じった感じだ。

 

 色は水色と白を基調としていて綺麗な感じだ。

 そこにおいては九龍城の面影は消え失せたが、建物の羅列という点では面影があった。

 

「ムーンキャンサー、現地人と会話した方がいいと思う?」

「そうだね……外から来たってことを言い漏らさなければ、怪しまれないだろうね」

 

 色んな格好が混ざっているおかげだろう。

 そこについてはひたすら幸運だった。

 

「……取り敢えず、今いる場所について伺うとするか」

「大丈夫かよ、それ……」

 

 天狐に心配されたが、問題ない。

 こんなに広いのだから、物覚えが悪いという設定で通せばいけるはずだ。

 いける、はず! 

 

 早速行く人に声をかける。

 現代、俺基準の、現代の服装をしたお兄さんに話しかける。

 

「あの……ここってどこの地区かわかりますか?」

 

 多分、多分だけど、こう言えばいいはずだ。

 

「ん……ああ、ここは商業地区だが……どうしたんだ?」

「いえ、なんとも物覚えが悪いもので……」

「そうかい。気をつけろよ、ここ最近レジスタンスがいるって話だからな」

「レジスタンス……?」

「知らないのか?」

「ニュースとか見ないもので」

 

 適当に誤魔化し会話を進める。

 いかんせん、会話は苦手なのだから仕方がない。

 

「レジスタンスってのは、ここ最近現れた女紅帝様に逆らう奴らのことさ」

 

 また新しい単語が出てきた。

 脳内メモにしっかり書いておかないと辛いことになる。

 

「いっつも突然テロを行うもんだから、国の方も困ってるらしい。あ、これは秘密だが、レジスタンスを指揮してるのは美少女らしいぞ」

 

 どうでもいい情報を手に入れ、ありがとう。とだけ言って別れる。

 取り敢えず、この女紅帝とか言う奴が、ここの聖杯を守ってる奴で間違い無いだろう。

 レジスタンスか、ここになんとか入り込めるならいいのだろうけど。

 今は難しそうだな。

 

「……よし、手がかりが一切ない」

「よし、じゃないよね」

「どうすんだ、ますたぁ」

「取り敢えずこの九龍城を見て回ろう、どんなとこか知ることは重要だからな」

 

 今後の行動を決め、二人並んで歩き出した。



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第2節:商業地区

 商業地区を歩く、いくつもの出店が羅列しており、様々なものが揃っている。

 デパートがいくつも並ぶ異様な光景でもあった。

 でもこれは、歩くだけで楽しくなる。

 

「……金ないからなにも買えないけどね」

「んふふっ。それはこの私が解決しよう!」

 

 とムーンキャンサーが言った。

 てな会話を今さっきして、五分経過。

 なにをする気なのだろうか。

 

「特に荒れてる様子もねーし、暇だな」

「天狐は戦ってる方がやっぱいいのか?」

「まー……平和よりは刺激があって好きだな」

 

 とのことで、生前の逸話は……知らないけど。

 まあ喋る方とか、性格から見て好戦的なのは確実だ。

 

 ……てか、腰にぶら下げている刀一本増えてるような。

 

「なんか……宝具の他に一本増えてないか?」

「あー……これはな……拾った」

 

 少し言いにくそうにして、拾ったと言う。

 拾ったにしては、綺麗すぎるような気がする。

 何か言えないような事情でもあるのだろう。

 ならば、それを探る気は毛頭ない。

 

「美味そうなものがあるな。色々な国の建物があるぞ」

「どうなってんだろんな。お、あれ美味そ」

 

 ひょいひょい歩いていって、出店に出ていた肉を見る。

 結構な大きさのある、確かに美味しそうな肉だった。

 

 やはり、根本的に狐だからなのか、美味しそうに見つめる。

 可愛い。

 

 久々に……心が安定している。

 一個前の世界が世界なだけに、ここは平和だ。

 藤丸立香もイベント中は、こんな感じだったのだろうか。

 

「元のとこがスラム街だったのに、これじゃ真逆だな」

「へぇー、スラム街だったのか」

「ああ、写真で見たことあるけど、あれはすごかったな」

 

 かつて見た、微かな記憶の写真を思い出す。

 外観もかなり酷かったと思う。

 

 ここはどちらかと言うと、外観がそのまま中に来て、かなり綺麗になった感じだが。

 

「よぉーし! えへへへへ……一億……二億……三億……あははははっ!!」

 

 ポッケのスマホから、少しヤバめの声が聞こえてきた。

 取り出すと、そこには金に埋もれたムーンキャンサーがいた。

 

「うわっ……なんだこれ、趣味悪……」

「なにそれ酷くない!? 仮想通貨だよ、仮想通貨。やっぱそう言う世界だからね。私、未来演算は得意なんだよ! ハックして盗んだ約100円を、ここまで貯めたよ」

「解決しようって……こう言うことだったのか。てか大丈夫なのか、盗んだって……」

「え!? ……多分、多分大丈夫……バレないバレない!」

 

 本当に、大丈夫なのだろうか。

 まあ、この際細かいことは気にすることでもないだろう。

 細かいことではないのだが。

 

「すいませーん、この肉一つください」

 

 専用機器にスマホをかざすと、ピッと音ともに支払われる。

 しっかり増やしたもののようだ、偽物でないらしい。

 と言うか、未来演算……できるのか? 

 

「未来演算できるのか、って顔してるね。簡単だよ。数学さ」

「数学?」

「たまにミスが出るけど、今までの数字さえ見れば、そこから導き出せる簡単な話さ。攻撃だって距離、風、勢い、様々なものを見ればどこに来るかは一目瞭然」

 

 とドヤって言う。

 ドヤっていうことなのだからしょうがない。

 

「ふーん……」

 

 肉を受け取った天狐は、おもむろに齧り付くと、美味しそうに食べ始める。

 幸せそうな笑顔である。

 ……俺の金じゃないけど。

 

 そしてまた歩き出す。

 商業地区、とても広い。

 ここ全てを回ろうものなら、何時間……何日かかるのだろうか。

 建物の中もあるのだ、そこまで回ろうというのなら、かなりの時間はかかるだろう。

 

 歩いていると、突然後ろの方から音がする。

 物を壊すような轟音がした。

 俺は反応的に、銃を抜いて後ろを向く。

 肉の骨をそこらに投げ捨てて、天狐は適当な感じで、後ろを向く。

 

 そこでは一人のスーツを着た大男が叫び怒っていた。

 どうやら店の中から吹き飛ばされてきたようだ。

 それに連れてぞろぞろスーツ姿の男が出てくる。

 

「テメェッ!! この女紅帝様直轄の小隊長である俺に向かってぇぇぇえッ!!」

 

 自己紹介かっての。

 しかし直轄と来た、結構偉い立場にあるのは間違い無いだろう。

 店の中から出てきて、ローブを着た人が男の前に立つ。

 

「なに……? あんたが悪いんでしょ……ったく、女を襲うとかマジで気持ち悪い」

「んだとおおぉぉおおおッ!!」

 

 大男は大振りのパンチで殴りかかるが、軽く避けて一撃蹴りを入れる。

 すると軽く吹っ飛んでいった。

 

「ッ! あれサーヴァントだよ!」

「なにっ!?」

 

 その騒動に気づいた人が、見物として集まったかと思ったら、ざわざわし始めて逃げる。

 みんな怯えているようだった。

 

「ま、まずいっ! レジスタンスの副リーダーだ!! みんな逃げろッ!」

 

 俺たちを残し、人は全くいなくなる。

 突然、大男の周りにいたスーツ姿の男たちが集まってくる。

 

「ん、なんだー?」

「お前たちも、レジスタンスだな」

「は?」

 

 それだけ言って飛びかかってくる。

 天狐が鞘に納めた刀で思いっきり殴ると、吹っ飛んでいく。

 

「敵と認識、戦闘を開始します」

 

 全員スーツ姿から、戦隊モノとかでよく見るような格好になっていく。

 一人一人が変なポーズを取っているとこを見ると、それ系統なのだろうと思ってしまう。

 

 変身を終えた人から順に、飛びかかってきた。

 

「いきなり戦闘とはね……行くぞ天狐っ!」

「おうよッ!」




定説:1
決して彼は藤丸立香になりたいわけでは無い。
結論的に、そこへ辿り着く。
ならば果たして、どうしてそこまでそれに執着するのだろうか。
答えは簡単だ。

憧れて、依存していただけに過ぎないのだ。

定説完了





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第3節:居住地区と…

 気絶した男たちの山の上に天狐が立つ。

 全員峰打ちで済ませていた。

 

 に、してもだ。

 面白いスーツをみんな着ていた。

 気絶したら解除されてしまったが。

 

 スーツは、流石に銃弾などは防げないようだった。

 が、明らかに人間を超えた行動をしていた。

 

 さっきの大男のところを見ると、ずっとローブの人が避けていた。

 明らかに一方的であった。

 

「はぁ……はぁ……クソ、野郎……ッ!!」

「……ウザい」

 

 と言い、後ろへ軽く飛び避けると、蹴り上げる。

 大男は仰け反り、そのまま倒れた。

 そしてローブの中から一丁の銃を向ける。

 

「待て待て待てッ! なにも殺すことはないだろう!」

 

 俺は二人の間に入り込む。

 ローブの人は表情一つ変えることなく、俺を見つめていた。

 その目は、なんとも凍えていて、紫色だった。

 

「……貴方……そう、そういうこと」

 

 そう言うと、銃を下ろす。

 その場から歩き、去っていく。

 

「ちょっ……!」

 

 俺は後ろから追いかけようとするが、瞬きした瞬間、姿を消した。

 跡形もなく、姿は消えていた。

 

 後から刀を肩に担ぎ、とっとこ天狐が歩いてきた。

 

「どっかいちまったな、どーする」

「……どうしようか」

「他の地区行ってみる?」

「そうするか」

「あ、ますたぁ……」

「ん、どうした?」

 

 天狐に呼び止められる。

 少し悩んだ様子で、チラチラ何処かを見ていた。

 が、やっぱいいと言った。

 

 そして気絶した男たちを置いて、歩き出した。

 

 約30分にも及ぶ散歩の末、居住地区へ着いた。

 相変わらず、色んな人がいる。

 ここでは大量のビルが、壁のようにいくつも羅列している。

 一軒家は一切見当たらず、そのビルの高さは天井までに達しており、上を見ると窓がいくつもあった。

 

 建物の色は相変わらず、白と水色。

 

 ここに来て、一つ気づいたことがある。

 目立つものが一切ないのだ。

 なんというか、観光名所らしきものがないというか。

 言ってしまえば外界との関係を一切断っているような。

 

「居住地区来たけど、見るものもないな」

「面白みのねー街だな」

「やっぱそこなんだよなぁ……」

 

 街の中を歩いていく。

 何一つとして目立つものはなく、面白みはない。

 ただ、人々は幸せそうである。

 

 それを破壊することを考えると、なんとも気が滅入る。

 だが……やり切らなければいけない。

 

 居住地区をいくら歩いても、同じ光景が続く。

 なんというか、無限ループしてるような気がしてきた。

 

「……帰りたい」

「ますたぁ、私もだ」

「もう少し、もう少し頑張ってみよ!」

 

 と言われるが、正直數十分も同じ光景はキツイし、辛い。

 一旦切り上げて、ディザスターの中に帰りたかった。

 

 と、そこでやっと新しいものが見える。

 階段だ。

 

「上へ続いてるみたいだな。なんの地区だろ」

「書いてねーな。うーん……居住地区と繋がってるてことはそりゃ……また居住地区?」

「嫌だな、それ」

 

 会話をしつつ、階段に登っていく。

 階段を登りきると、まずそこにあったのは広場。

 明らかにしたとは全く違う光景で、いくつもの一軒家がある。

 それはどれも屋敷サイズだ。

 

 さっきまでは見えなかった木々があり、どう見ても高級住宅地って感じだった。

 

「おお、よかった新しい光景だ」

「喜ぶとこ、そこなの?」

 

 人々を見ると、服装はしたと明らかに違っており、誰もが綺麗な服を着ていた。

 明らかに俺たちは場違いって感じだった。

 

 が、気にすることなく進んでいく。

 今更そのくらい気にしてどうするのだ。

 藤丸立香も、明らかに場違いな服装で進んでいただろう。

 なら大丈夫だ。

 

 と、思っていたが、突然警報音が鳴り響く。

 続いて声が聞こえてくる。

 

『緊急!! 緊急!! 外界からの侵入者を確認しました!! 住人は直ちに避難を開始してください!! 女紅帝様による緊急指令です!!』

 

 それを聞いた人々は騒めき、一斉に家に駆け出した。

 服が汚れようとも御構い無しに。

 

「天狐、ムーンキャンサー。俺の勘が言ってるんだが、これはまずいと」

「勘じゃなくてもわかるよ」

「ああ、そーだな」

 

 天狐は自身の刀を抜くと、右に振る。

 俺は銃を取り出し、周りを警戒する。

 

 緊張が辺りを包む。

 

 そんな時、

 

「……ますたぁ、この戦いが終わったら……」

「ん?」

「……さっきの、その……売ってたお稲荷……と言うか油揚げ……」

 

 と、そこまで言ったとこで、轟音とともに、誰かが飛んできた。

 黒服の男たちが飛んできたのだ。

 おかげで会話が途切れる。

 

「話は後だ! 今はこいつらの対処を!」

「お、おう……」

 

 天狐は少し残念そうになりつつも、戦闘を始める。

 飛んできた男を軽く避けて、鞘に納めたままの刀で、背中に一撃を叩き入れる。

 その勢いで男は地面に叩きつけられ、気絶する。

 一人目、ノックダウン。

 

 次に飛んできた奴の首に一撃を入れ、軽く吹っ飛ばす。

 更に飛んできた二人を、真上に飛んで避けて、一瞬のうちに刀で気絶させる。

 四人目、ノックダウン。

 

「演算開始! 背後から3秒後着地!」

「おーけー!」

 

 2秒数え、後ろを向いて避ける。

 その瞬間、頭に銃弾を打ち込む。

 すると敵は気絶した。

 

 これは貰った銃を改造したものである。

 主にシーハが改造した。

 魔術礼装って奴だ。

 

 このカルデア制服を通して、魔術は一つ使える。

 だが、これだけでは到底戦闘できない。

 だから銃を使いたいが、殺したくない。

 だからガンドを利用した銃に改造してもらった。

 

 ルーン魔術はそれなりに知識はある。

 Fateの作品類を見ていたおかげだ。

 ……使えないけど。

 

「何人やった!?」

「無尽蔵に湧いてくるから数えてねーよ!」

 

 気絶した黒服の山が出来上がる。

 それを見て俺たちは一つの行動に移ることにした。

 即ち、逃走である。

 

 二人一緒に、隙を見て逃走を始めたのだった。



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第4節:逃亡

 軽く踏み込み、後ろを向く。

 さっきよりも数が増して黒服……+変身スーツども。

 一体なんだと言うのか。

 

 しかも大男ばっかだ。

 何が嬉しくて、こんなのに追いかけられなければいけないのか。

 

「天狐!」

「はい……よっ!」

 

 急停止すると、そのまま飛んで奴らの中心に突っ込むと、刀を振るい一気に散乱させる。

 しかも刀を抜いてでだ。

 

 地を蹴り、軽く飛ぶと刀を逆刃に持ち、男の腹に一撃入れ、地に叩き落とす。

 逆刃に持ったまま刀を振り、次々と敵を落とす。

 一寸の狂いもなしに、刀で倒していく。

 

 俺は左手にスマホを持ち、右手を伸ばし、この礼装を通して魔術を使用する。

 それが何か、わからない。

 でも徹底して、自分の中にそれがどういうものか叩き込まれている。

 たった一つだけだが。

 

 ちなみに、スマホを持った理由だが、魔術の起動の仕方がわからなかったからである。

 事前の打ち合わせで、もしも戦闘時魔術を使うというのなら、左手でスマホを持てと言われていた。

 このことによって、俺だけに聞こえる声で、使い方を教えてもらっている。

 

 と、魔術を使った瞬間、機動力が上がる。

 瞬発的な攻撃能力の上昇。

 攻撃速度がどんどん上がっていく。

 

「うぉらぁッ!!」

 

 2本目の刀も抜いて振るう。

 あの刀……拾ったと言っていたが、何処かで見たような気がする。

 

「っと……そんなこと気にしてる暇はなかった」

 

 戦闘を後ろで見る。

 まさに圧倒的な実力を見せていく。

 ただの人間と英霊、ここまで差があるのだ。

 流石に数の差ではやられるけど。

 

 飛んでこっちに戻ってきた。

 

「ますたぁ……あいつら、無尽蔵に増えやがる。どうなってんだよ……」

 

 天狐は少し息を荒げ、刀を床に刺す。

 さっきよりも数が減っていない、いやむしろ増えている。

 おかしい、流石にこれはおかしい。

 

「……どうなってんだよ!」

「私じゃ対処しきれねぇ! 逃げるぞますたぁ!」

「あ、ちょっ……待て!」

 

 刀を収め、逃げ出した天狐を追いかけるように、俺も逃げ出す。

 元来た道を戻っている、と言ったほうが正しいが。

 だが何かおかしい。

 あの敵と同じように、この街も。

 

 左手に持ったスマホに向かって呼びかける。

 

「ムーンキャンサー!」

「何?」

「この街……なんかおかしくないか!?」

「おかしいって……何が?」

「構造だよ! こんな道さっきなかったろ!」

 

 なんというか、構造が変わっていると言ったほうがいいだろうか。

 明らかに建物が増えているのだ。

 

「言われてみれば……うん、ちょっと待ってて!」

 

 そう言うと、スマホが暗くなる。

 俺はそれを見て、ポケットにスマホを入れた。

 

 裏路地のような、少し寂れた場所に入る。

 そこで天狐が足を止める。

 天狐に手で制され、俺も足を止めてしまう。

 

「ど、どうした……?」

「ちょっとそこで待ってろ」

 

 刀を抜くと、構え摺り足で前に出る。

 下駄で摺り足でするのも結構難しそうだ。

 そこで誰かが出てくる。

 

 さっきの、ローブの人だ。

 

 ローブのフードを取ると、そこに出てきたのは、パッツンで少し長い白い髪に、紫の目を持った少女だった。

 冷徹な目をでこっちを見る。

 

「テメェ……何者だ」

「……真名教えるほど、私も馬鹿じゃないんだけど……あんたに用はないよ、後ろの貴方に用があるの」

「はっ……そうか……よッ!」

 

 地を蹴り上げると、一瞬のうちに奴の目の前で刀を振り上げる。

 が、そこに蹴りを入れられ、後ろに飛んでいく。

 しかし壁に手をついた瞬間、岩が剣のように尖り出てくる。

 

 ローブの少女はそれをぬらりと避けると、飛んで二丁の銃を天狐に向ける。

 それを見た天狐は刀を上段に構え、走り出した。

 そして壁に足をつくと、壁を走り、飛んでいる奴のところへ向かう。

 銃から何発か銃弾が放たれるが、一瞬にして全て叩き斬り、また飛んで刀を振り下ろす。

 だが、二丁の拳銃をクロスし、奴は刀の一撃を防いで見せた。

 

 思いっきり押し返される。

 天狐は地を力強く踏み切ると、落ちてくるやつに向かって、鞘に収め構える。

 銃弾が飛んでくる中、ひたすら構え、待つ。

 銃弾は、自然と天狐を避けているようだった。

 

「天啓……ここに極めたり」

 

 そう呟く、まさかこれスキルかなんかか。

 宝具、ではないだろう。

 ゲームでいないのだから、スキルがわからない。

 見れるようになればいいのだけれど。

 

 いや、後で聞けばいいことか。

 

 この場合、天狐はスキルを発動していた。

 それは天狐以外誰にもわからない。

 

「その攻撃……()()()()ぞ」

 

 飛んだ。

 音もなく、地を蹴り飛んだ。

 刀を振るい、銃を二丁、切り落とす。

 それと同時に、体に刀を叩きつけ、吹き飛ばした。

 

 が、一回回転し、奥の壁に足をつくと、右手を横に出す。

 すると、機械……重機装備が出てきた。

 いかにもレーザーが飛んできそうないかついものだ。

 

 おかげで途中まで進んでいた考察が、わけわからなくなる。

 考察とは、真名についてだ。

 あの様子だとクラスはアーチャーかガンナー。

 だがあの重機だとアーチャーなのは確定だろう。

 

 しかしあまりにも未来感がありすぎる。

 アーチャーにしては、近接戦闘が……。

 いや、そこはむしろアーチャーだからこそか。

 

「吹き飛べ」

 

 奴はそう言うと、やはりと言うかなんというか。

 その重機装備から轟音とともにレーザーが飛び出す。

 

 天狐は奴に向かって駆け出している。

 刀を一回振り払うと、スライディングでレーザーの下を通っていく。

 レーザーの尾の部分で立ち上がり、刀を振るい……。

 動きを止めた。

 

 そこで戦いは終わる。

 仲裁が入ったからだ。

 

「……何やってるのよ、アーチャー」

「言われたことを実行してるだけだけど」

「セイバーを殺して、なんて言ってないわ。むしろ連れてきなさいよ」

 

 俺の後ろから、一人の少女の声がしたと思ったら、そこに赤毛の少女が立っていた。

 

「人類最後の希望、よね……貴方……お願い、私を助けて……!」



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第5節:少年と少女

 突然のことで呆然になっていると、あっと言って自己紹介を始めた。

 

「えっと……私はアンナ、でそこにいるのが……私のサーヴァント、アーチャー。真名は……今は言わないわ」

()()……?」

「それね……私、聖杯の守護者だったのよ」

「なっ……!?」

 

 俺と天狐はお互いに背中合わせで身構える。

 だが、襲ってくる気配は一切ない。

 会話の途中だからか……。

 

 と思っていると言葉を続ける。

 

「元、よ……色々あって、奪われたのよ」

「奪われた?」

「……そこ語るとややこしくなるから後回しね」

 

 一体どういうことだか。

 要点を押さえると、目の前の人は敵であって敵ではないと。

 アーチャーに関しては、真名がわからないし、天狐と睨み合っているから置いとくとして。

 

「取り敢えず、こっちに……協力者のところに……」

 

 そう言うと、この裏路地らしき場所から出て行く。

 それに追従するように、アーチャーも出て行く。

 

 アーチャーを見て唸っていた天狐は、俺の隣にくると、小声で言う。

 

「信じていいのかよ、あいつら」

「私は……そうする以外道がないと思うな。それに……レジスタンス、ってあの二人のことだよね」

「レジスタンスだから、手掛かりがあの二人しかない」

「……わーた、私はますたぁについて行くからよ。行くぞ」

 

 そう言って、渋々ついて行く。

 どうも天狐はアーチャーを嫌っているようだ。

 

 ってか、唸るって猫かよ。

 

 そんなことを思いつつ、俺もついて行く。

 が、出たところで、俺らの前に二人の大男が落ちてくる。

 

「なっ……!?」

「チッ……」

 

 天狐は刀を構えた、その瞬間。

 2発の銃声音とともに、頭から血を出し倒れる。

 死んだのだ。

 

 男たちの後ろにはアーチャーが立っていた。

 拳銃を構え、立っていた。

 

「……早く行くよ」

「し、んで……!!」

 

 ダメだ、ダメだダメだダメだ!! 

 鼓動が速くなり、蹲る。

 鼓動打つ心臓を握るように、胸を掴む。

 

痛い。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

「テメェ……ッ!」

 

 天狐がアーチャーに詰め寄り胸ぐらを掴む。

 

「何殺してんだッ!」

「……何言ってんの、あんた」

「殺す必要なかったろうがッ!!」

「ふざけんな……甘い、甘すぎる。あんたも、そのマスターも」

 

 声が遠のくようで、鼓動が速まって。

 辛くて、苦しくて、痛い。

 

 俺は乗り越えた、乗り越えたはずなんだ。

 違う、あの時とは、目の前でたしかな死を見ていない。

 即死ではなかった。

 まだ生きていた。

 だがこれは……! 

 

 ああ……。

 

痛い痛い痛い痛い痛い

 

            痛い痛い痛い痛い痛い

 

  痛い痛い痛い痛い

 

                 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

辛い。

 

「……本当に、こんなのが日本を……あの日本を突破したって言うの……?」

 

 ……いや、決めろ。

 違う、もう決めた。

 

 歯をくいしばる。

 

「天狐……俺を、俺を殴れ」

「……は?」

 

 胸ぐら掴んでいた手を離し、俺を見る。

 俺は天狐の前に行くと、もう一度言う。

 

「俺を、殴れ!」

「お、おう……」

 

 全力であろう一撃を頰に食う。

 だがおかげで目が覚めた。

 

「だ、大丈夫か? ますたぁ」

 

 心配そうに天狐が近寄ってくる。

 俺は大丈夫だ、と言うと立ち上がる。

 

「すまない、アンナ。変なことに付き合わせてしまったな……そうだよな、当然の行動だ」

「……ごめんなさいね。生きるためには、殺さずなんて、できないから……」

 

 そう言うと、フードを被り、歩き始める。

 アーチャーもフードを被ると、歩き始める。

 俺たちも後ろからそれについて行く。

 

 スマホを取り出し、ムーンキャンサーを見る。

 

「大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だ。なんとか、な……」

「それならいいけど……あ、そうだ。調査結果、って感じかな?」

 

 ……あ、ここの構造についてか。

 周りを見ると、やはり景色が多少変化していた。

 

「どうだったんだ?」

「予想通り、虚構定数が実現定数に変化してる」

「……? え、なにそれ」

 

 虚構定数、実現定数。

 

 わけのわからない言葉が出てきた。

 

「うーん、わかんないか。それではムーンキャンサー先生の、よくわかる虚構定数と実現定数について!」

 

 と、スマホの中の景色がまるで教室のようになる。

 

「……まさか準備してた?」

「……まぁ、してた」

 

 と言うわけで、歩きながら授業が始まる。

 まず虚構定数についてだ。

 

「それじゃ質問するけど、虚構定数ってなんだと思う?」

「虚構……って言うくらいなんだから、無、みたいな?」

「うん、3割正解。虚構定数って言うのはね、目に見えないもの、即ち空気なんだ」

 

 空気、つまり虚構と言うのは……どう言うことだろうか。

 触れられないもの、と定義できない。

 

「もっと簡単なこと言うと、0。0なんだ」

「0って、ことは……高さで見たら楽そうだな」

「そう言う感じの考えだよ! そもそも虚構定数とか魔術でもそう使うことないから、覚える必要ないけどね」

「ええ……」

「重要なのはこっち! 実現定数だよ!」

 

 実現定数は虚構定数の逆、即ちx≠0ってことだ。

 こっちは魔術で言う、加算式系統の魔術で。

 そこに存在しないものを、足して増やす。

 と言うものらしい。

 

「実現定数に変化するってことは、定数の変動が起きるってことなんだよね。これのせいで、勝手に建物が増えてるの。ちなみに逆もあって、実現定数が虚構定数になったりしてるみたい」

「ふーん……」

 

 大体わかったところで、アンナは足を止める。

 

「ついたわよ」

 

 そう言うと建物に入る。

 マンションっぽいけど、かなり大きい。

 

 上へ上がり、部屋へ入る。

 

 先へ進むとそこでは、三人の人がいた。

 ムーンキャンサーを見ると、紙を手にしていた。

 書いていたのは、全員サーヴァントだということだ。

 しかしもう一枚、提示した紙には妙なことが書いてあった。

 それは、サーヴァントであってサーヴァントではないと。

 

 それを見て、意味がわからなかった、一応警戒しておくことにした。

 

「……セイバー、アーチャー、ランサー。この世界の聖杯によって召喚された野良サーヴァントたちよ」

 

 それはこの世界でともに戦う仲間との、邂逅だった。



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第6節:仲間

 男が二人と女が一人。

 目の前にいるのは全員英霊であって英霊ではない。

 

 天狐はさっきから白髪の少女、アーチャーを睨みっぱなしだ。

 

 まず最初に、真ん中で立っていた青年が前に出る。

 

「あー……うん、俺がセイバーだ。真名は……ない」

「え?」

「うん、真名がないんだ。俺たち。あ、別に記憶喪失ってわけじゃねないぞ」

 

 それを説明する間もなく、おじさんが前に出てくる。

 槍を持っていることから、ランサーであろう。

 

「えっとだな……おじちゃんは見ての通りランサーだ。説明された通り真名は無いんで、よろしく」

「真名がないってどう言う……」

 

 で、そこで女性。

 消去法で、アーチャーだ。

 

「んと、私がアーチャーだよ」

 

 それだけで階段に上がり、二階に行く。

 なんというか、変な人である。

 後の男二人もなんだか何処か適当そうである。

 頼りない、と言うかさっきから気になっていることがある。

 

「で、なんなんだよ、真名がないって」

「それは私から説明するわ……えっと、難しい話なのよ。幻霊は知ってるわよね」

「ああ、英霊に満たなかった……ってあれだろ」

「それが……うーんと、いっぱい集まって合体したのよ」

 

 一瞬、言われたことの意味がわからなかった。

 ギリギリ絞り出した言葉は……。

 

「は?」

「言うなれば歴戦の戦士たちが手を組んで一人の英霊を生み出したの。それがここにいる三人ってこと」

 

 そんなもの……成立するのかよ。

 

 いや、FGO内でもいたな、前例が。

 新宿のアヴェンジャー、真名へシアン・ロボ。

 首なし騎士へシアンと、狼王ロボを合体させた英霊。

 

 他にも新宿のアーチャー、ジェームズ・モリアーティ。

 魔弾の射手と呼ばれたものと融合。

 だからアーチャーで召喚された。

 

 以上のことから、なんだかんだで納得できてきた。

 

「そうだな、真名がないってのもどうかと思うからよ。取り敢えず剣士とでも呼んでくれや」

「おっちゃんは槍兵って呼んでくれればいいさ」

「わかったが……そこのアーチャー、そろそろ真名を教えてくれ。協力する上でそれは大切だろ」

「……そうね。わかったわ。アーチャー、自己紹介して」

 

 アーチャーはため息をつくと、俺の近くに来る。

 そしておもむろに自己紹介を始める。

 

「えと……私の真名は、ナーサリー・ライム・オルタ[TYPE-SF]。よろしく……」

「あー……え? マザーグースのナーサリー・ライムだよな?」

「それだけど……まあ、召喚事故があったと言うか、色々あったの」

 

 だるそうにそう言うと、あくびをして、近くの椅子に座る。

 

 待て待て、この世界の英霊わけわかんないぞ。

 もしや、あまり深いこと考えない方がいいのでは。

 

 考えれば考えるだけ辛くなるのでは。

 

「……うん、わかった。ありがとう」

「大体こんな感じね……それで早速だけど、これからあるところに侵入するわ。それについて話し合いたいから隣の部屋に来てちょうだい」

「わかった。天狐、ちょっと行ってくる」

「え、私をこん……ここに残してくのか?!」

「すぐ終わるから、待っててくれ」

 

 むー、っと顔を膨らませ、椅子に座った。

 アーチャーからかなり離れた椅子に。

 

 アンナについていき、この建物の三階に行く。

 そして一つの部屋に入る。

 

 中はかなり質素で、目立ったものは何もない。

 あるのはベッドとタンスくらいだ。

 

「それじゃあ作戦だけど、まず最初に上級国民のパーティに潜入するわ」

「上級国民って……ああ、あの人たちか」

 

 階段の先の人たち、多分あの人たちのことだろう。

 服装、建物から見てもほぼ間違い無いと思う。

 だが、パーティに参加する理由は……。

 

「理由としては、そのパーティが行われる場所にある、とある物が欲しいからよ」

「とある物?」

「それについては……こっちの方で手に入れる。貴方はついてきて、参加者たちの気を引いといて欲しいのよ」

「つまり参加者たちをか?」

「まあ、そんなところね」

 

 とある物、これが多分ここの……防衛杭の王を倒すのに必要なんだろう。

 しかし警戒はしておくべきだろうか。

 だって、もしかしたらアンナは俺たちを騙している可能性だってある。

 信じるべきか、悩む。

 

「……わかった、それでどこなんだ?」

「場所は──」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「──以上です、女紅帝様」

 

 偽りの存在に対し、私は跪く。

 所詮、意味のない行為に過ぎない。

 

「そう……ついに来たのね。それであの子は?」

「それが逃走してしまいまして」

「……わかりきっていたことよ。今更狼狽える必要はないわ。それよりも、貴方のサーヴァント、活躍しているのかしら?」

 

 私のサーヴァント。

 あいつからこの世界を奪った時に契約した、奴のことだ。

 奴は何というか、信用ならない。

 キャスター、と言うこともあって戦闘能力は皆無だし。

 

 だが私には、奴から受け継いだ技術がある。

 これでギリギリ戦闘はできるだろう。

 ……だが、あの絶対に攻略できないとされていた日本を突破した奴らに、私は勝てるのだろうか。

 下を見つめ、そんな心配が頭を過る。

 

「顔をあげなさい」

「はっ……」

 

 顔を上げると、目の前の女性は微笑みをかける。

 全て偽りだとわかっているのなら、温かみがあった。

 

「……絶対に、諦めてはダメですよ」

「……御意」

 

 それだけ言って、玉座が出て行く。

 するとそこで、キャスターがいつものスーツ姿で立っていた。

 

 私が隣を通り過ぎると、後ろからついてくる。

 そして話しかけてきた。

 

「おやおやこれは、マスター殿。どうですかな? 進捗はいかがですかな?」

「さっぱりよ。どうなのそっちも」

「ええ、上級国民のパーティの準備は完了しておりますとも。かの者が拒否したので縛り付けることにしたのですよ」

「それ、大丈夫なの?」

「完璧でござますとも! 簡単に負けるつもりはないのでありましてね」

 

 そう言うと、笑う。

 むっ、と言って立ち止まったかと思いきや、姿を消す。

 どう言う原理か、キャスターと言うのだから魔術でも使っているのだろう。

 前を見ると、一人の男……。

 

「ウォッチャー。何の用なのよ」

「いやはや、新たな王を見ようと思ってね。うん、瓜二つ」

「……余計なお世話よ」

「そんな君に耳寄りな情報を」

 

 そう言うと、ぬらっと消えて、ぬらっと目の前に現れる。

 帽子を取ると、顔が明らかに……。

 なりはしなかった。

 だってそもそも、彼に顔など存在していないからである。

 

「上級国民のパーティに彼らも出席するそうで。どうするかは貴方次第」

 

 そう言うとぬらっと消え、奥の方に現れる。

 

「それでは失敬」

 

 帽子を取り礼をすると、また消えていった。

 

「そう……ふーん、キャスター。聞いてたわね」

「ええ、勿論ですとも」

「彼女、本部からの協力者、ランサーを使いなさい」

「わかりましたとも!」

 

 そう大きな声で言うと、姿を消した。

 少女はたった一人、ため息をつくと、歩き出した。



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第7節:オークション

「ガキンチョ、できるだけ話すな。下手に話すとボロが出るからな」

「ああ……で、本当に大丈夫なのか、この上行って」

「入ることは基本禁止されてないしな」

 

 目の前にはさっきと形を変貌させた階段、俺はスーツを着込んで立っていた。

 スーツと言っても、魔術礼装であるカルデア制服を、アンナの魔術で隠蔽でしてるだけだが。

 脇にはメイド服を着込んだ天狐とナーサリーが立っている。

 

 ナーサリーはさっき見た格好とからっきし変わったものだから、びっくりする。

 ナーサリーらしくない格好と言うべき格好だったから、こっちの方が似合っている。

 その格好とは、ミリタリージャケットで身を包み、首には口を覆うタイプのガスマスクをぶら下げていた。

 

 だからこそ、『誰かのための物語』と呼ぶべき者ではないだろう。

 そうだな……オルタなら、『自身のための物語』とかだな。

 

 で、そのマスターであるアンナは、ドレスを着て俺の隣にいた。

 

 そしてランサーからの指示を今は聞いているところだ。

 

「出来るだけ腕を組んで歩け、指輪を見せつけろ。そうすれば大体大丈夫だ」

「……本当に?」

「本当だ。信じろ」

 

 心配になりつつ、手にある招待状を優しく握る。

 アンナの顔を見ると、ちょうど向こうもこっちを見たようで、なんか恥ずかしくなって、俯く。

 向こうも、目線を外し何処かを見る。

 

「うん、こいつら大丈夫かな」

「……ますたぁ、落ち着いてけよ?」

「……頑張ってみるさ。天狐も身勝手なことするなよ? お前なら大丈夫だろうけど……」

 

 アンナが俺の隣に立って、腕を組む。

 側から見れば、高貴な新人夫婦と言えるだろう。

 

 腕を組んだまま、歩き出す。

 後ろで剣士と槍兵がこちらを心配そうに見ている。

 俺たちの後ろには、天狐とナーサリーいるから大丈夫だろうに。

 

 階段を登りる、周囲は既に暗く、街灯の明かりと、建物の明かりだけが目立っている。

 そしてこの階段を登りきった上級地区、中央広場──。

 つまり俺がさっき行った場所がパーティの会場入り口だった。

 奥の大きな建物が本会場だ。

 

 階段を登りきったところの傍にいる黒服に招待状を見せる。

 すると軽く頷かれ、元いた場所に戻る。

 

 だと言うのに、ここの時点で既に賑わっていた。

 誰も彼もが高貴な服で、高貴そうで。

 それを見て、改めて黙って言おうと思えた。

 

「……どうすんだよ。これから」

 

 耳打ちで、アンナに話しかける。

 少し悩んだ様子を見せて、提案する。

 

「取り敢えず一通り見て回りましょ。何があるかまだわからないし」

 

 と言う提案を受け、歩き出す。

 本会場は後回しにし、その周りから見ていく。

 これは……この地区全体を用いたパーティなのだろうか。

 地図など存在しないから、なんとも迷いそうである。

 

「なあ……そろそろ教えてくれないか? その……欲しいもの」

「……霊核よ。サーヴァントの」

「霊核……って心臓みたいなもんだろ? 手に入るのかよ?」

 

 霊核、そこを貫かれればどんなサーヴァントだって死ぬだろう。

 まあ、多少例外もあるだろうけど。

 

「そうね……元サーヴァントの霊核、物質化したものと言えばわかるかしら」

「あー、だけどそんなものどうするんだ?」

「私ね、キメラとかそっちの方に精通してるのよ。数百年前、時計塔に通ってた時は希代の天才と言われたんだから!」

 

 と、自慢げに言う。

 サーヴァントの霊核を使ってキメラを作るらしい。

 そんなもので作ったキメラ、どんな化け物なのだろうか。

 

 新宿のスーパーキメラくん、思い出した。

 こんなことで思い出すのもどうかと思うが。

 

 で、それを話していたアンナは周りの景色を見て感心していた。

 

「へぇー、すごいわね……私ね、自身の作り出した防衛杭に興味なんてなかったのよ……」

 

 そう語り出す。

 

「なんで……」

「元々、とっとと譲渡して消えるつもりでいたの。でもそれまで自身の魔術師として、やりたいことがあった……それが原因でこうなったのだけれどね」

 

 そう言い、苦笑いを見せる。

 その表情には、なんとも悔しそうで、悲しげなものがあった。

 

 と、奥の方……本会場の入り口で一人の男が大声で話す。

 

「ただいまを以って、特別オークションを開催します!!」

「あれよ。あれを待ってたの」

「オークション? ……ああ、そう言うことか」

「行くわよ」

 

 人が集まる中、人混みに紛れ中へ入っていく。

 中へ入ると、整理券らしきものを渡され、説明が始まる。

 

 今から全員個室に案内され、そこで中央のステージで商品紹介。

 機械を用いて、入札する。

 部屋に案内される。

 途中でスマホを取り出し、ムーンキャンサーを見る。

 

「……ムーンキャンサー。お前の出番だぞ」

「はーい」

「何よそれ」

「……サーヴァント? 二人いるの?」

「契約してないけどね」

 

 ふーん、と言った後、驚く。

 

「ちょっと待って!? 契約してもいないのになんでここにいるの!? それって日本で……」

「あれ、確かにそうだな……なんでだ?」

 

 魔術にそこまで詳しくない俺が語れるはずもなく。

 ムーンキャンサーに聞く。

 

「そうだね……うーん、契約上私が契約してるのは、ディザスターになってるんだよね」

「ディザスターって?」

「地下鉄、魔力で動くとか言ってた気がする」

「その魔力どこから来てんのよ」

「どこから来てるんだ?」

 

 そう言えば俺、ディザスターについて全く知らなかった。

 ここで一応聞いておくのもいいだろう。

 

「ここが貴方のお部屋でございます」

 

 部屋に入る。

 ホテルのスイートみたいな部屋だった。

 窓を見ると、中央にステージがある。

 あそこで、商品紹介されるのか。

 

「で、どこから来てるんだ。ムーンキャンサー」

「……ええと、言いたくないんだけどね。ちょっとした……サーヴァント、使ってるって言うか。シーハを利用してんの。あの子魔力作れるから」

「魔力を作るぅ!? なにそれ馬鹿じゃないの!? そんな……永久機関みたいなこと……」

「出生が特殊が故だね。うん」

 

 そこまで話したところで、オークションが始まる。

 

「よーし! 入札しちゃうぞー!」

 

 俺はスマホを机の上に置く、なんとも楽しそうだったから置いていくことにした。

 俺は天狐を呼ぶ。

 

「ん、どーすんだますたぁ?」

「今からあのステージの裏に行く。色々と気になるからね」

「そう、こっちはやることやっておくわ。アーチャー、貴方は好きにやりなさい」

「……そう、少し気になることがあるから行ってくる」

 

 メイド服を脱ぎ捨てると、ミリタリージャケットに着替える。

 何処からかサブマシンガンを手に取ると、外へ行った。

 

「……ますたぁ、私あいつ嫌いだ」

「そう言うなって……よし、行くぞ!」

 

 俺たちはその姿のままで、外へ行く。

 行動が、始まる。



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第8節:セイバー『真神』

「……天狐、メイド服って動き難いのか?」

「めちゃくちゃ動き難いぞ。まー、変に見つかったらやだし着とくけどよ」

 

 地下へ来た俺たちは、その道を進む。

 色々な物品が立ち並び、いくつかの檻もある。

 中には人のようなで人じゃないのが何人かいた。

 

「しかしここ、ヤベーとこだなぁ……なんか嫌な気配もすんぞ」

 

 前へ進んでいく。

 ここにくる途中、何度か警備兵に見つかったが、この服装のおかげでなんとかなった。

 

「天狐、周囲の警戒頼むぞ」

「ああ、任せろますたぁ」

 

 アンナの言う、霊核か。どんなものか知らないため置いておく。

 目的は……特にないわけでもない。

 実はこの地下でサーヴァント反応がするらしい。

 事前に剣士たちに教えられていた。

 

 だが、無視してもいいし、行ってもいいと言われたため、行くことにした。

 行ったところであまり意味もなさそうだったが。

 

「……なぁますたぁ、これ奴隷、ってやつか?」

「そう……なるんだろうな。ムーンキャンサー、変なもの買わなきゃいいけど」

 

 ブツブツ呟いて、歩く。

 すると、突然天狐が足を止める。

 心底嫌そうな顔をして、奥の鉄格子を見ていた。

 何重にも鎖で巻かれ、周りにはペタペタお札が貼ってある中身が見えない鉄格子を。

 

「ど、どうした? 天狐」

「ちょっといいか、ますたぁ」

 

 そう言うと、刀を手に取る。

 構え、一撃を放つと、鉄格子が真っ二つになった。

 大きな音を立て、上の部分が落ちる。

 中では一人の少女がスヤスヤ寝ていた。

 狼の耳が生えた、一人の少女が。

 

「うげぇ……まじかよ、お前かよ……」

「天狐の知り合い……なんだよな。ってことはサーヴァントか?」

「ああ、多分バーサーカー辺りだろ。めんどくさいやつだしな」

「知り合いなら面倒見てやれば……」

 

 と言った瞬間、突然激昂して叫ぶ。

 

「レズの相手しろってか!? ますたぁそりゃ無情すぎんぞ!!」

「生前、結構苦労してたのか……?」

「……まぁ……うん」

 

 と言うと、しゃがむ。

 顔を埋めるように、手で覆い隠す。

 この様子、本気で嫌らしい。

 

「……じゃあ、放置でいいかな?」

「……ああ。放置で、頼む」

 

 少女を置いて、先へ進もうとした瞬間、ガタッと物音がした。

 振り返り周りを見る。

 だが景色に変化はない。

 と思っていた。

 

「……ますたぁ、用心しろ。奴が起きた」

「っ……!?」

 

 真っ二つになった鉄格子の下の部分を見ると、スヤスヤ寝ていた少女が消えていた。

 天狐ですら、その気配は感じ取れないらしい。

 

 いつもより、焦っているように感じ取れた。

 

「GRRrrrr……」

「上かッ!?」

 

 上の方から声がして、見る。

 そこには天井に這いつくばった少女がいた。

 対話は不可能そう、クラスはバーサーカーで確定か……? 

 

 と奴が奇声をあげ、飛びかかってくる。

 

「ギシャアアアアッ!!!」

「こん……の馬鹿野郎ッッ!!!」

 

 刀を鞘に収めたまま思いっきり投擲した。

 

「うぎゃっ!?」

 

 奴の額にぶつかり、墜落する。

 で、べちって音を出し、床に倒れる。

 

 額からは勢いが良すぎたのか、すこし煙が出ていた。

 が、次の瞬間、天狐に飛びつき、抱きつく。

 

「うぅ……天狐ぉっ!」

「おおおおああああああッ! 離れろおおおおッ!!」

 

 発狂して泣いていた。

 どれだけ嫌なんだろうか。

 俺には、到底理解し得ない。

 

 

 

 3分後……やっと落ち着いた。

 目の前で少女は正座して、こっちを見ている。

 天狐に関しては完全に怒っていた。

 

「やあやあ天狐ちゃん。おひさー」

「クソが……なんでこいつに……」

「あー、えっと真名とクラスは?」

「んー、天狐ちゃんのますたぁさん?」

 

 真実を言うべきか一瞬悩んだが、嘘言ってもしょうがないので言うことにした。

 

「まあ……そうだけど」

「んじゃま教えてもいいかな。真神。クラスは……バーサーカー、じゃなくてセイバーだよー」

 

 心底嫌そうな顔をして言い放つ。

 

「げっ、お前もセイバーで召喚されたのかよ……」

「天狐ちゃんも? うーん、これは運めッ!?」

「うるせぇ!」

 

 天狐は真神と名乗る少女をぶん殴る。

 すると床に倒れた。

 が、飛び起きる。

 

 この間、3秒も経っていない。

 

「真神って……あれだよな。狼が神様として信仰されたみたいな……よく覚えてないけど」

「まー、そんなとこでいいよ。ますたぁ。こいつは神様とは程遠いけどよ」

 

 と言うと、横目で睨む。

 すごい嫌そうな顔して。

 

「うへえー、天狐ちゃんそりゃ評価が低いってもんよー」

「黙れ!」

「それにしても……幸運だね。ほんと、アヴェンジャーとかで召喚されてたりと心配しちゃってたよー」

「……アヴェンジャー適正、あるのか?」

 

 そう聞くと、小さな声で少し呟く。

 

「……てないのかよ

「ん?」

「なんでもねーよ。んでこいつどうすんだ、ますたぁ」

「取り敢えず……連れて行こうかな」

 

 そう言うと、大声出してキレる。

 

「はぁっ!? 嘘だろ!? こいつ連れて行くって……それ以上にめんどくせーことはねーぞ!?」

「だってここに置いて行くわけにはいかないだろ?」

「……たしかに、そうだが……」

 

 そして黙った。

 今日の天狐は、精神的に疲れてそうだな。

 帰ったら労ってやろう、うん。

 

「うんうん、先へ進むって言うなら探索手伝うよー。勿論天狐ちゃんのも、へぶっ!?」

「したら霊基消滅させんぞ」

「ひいー、怖いなぁ」

 

 で、結局これからの行動については、真神を連れて、先へ進むと言うことになったのだった。



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第9節:命短かき恋する乙女

「天狐ちゃーん、えへへ」

「おいやめろ! ますたぁ、私もうやだぁ……」

 

 ここに来て初めて、天狐が弱音を吐く。

 それもそうだろう、さっきからベタベタベタベタくっつかれて、疲れ切っていた。

 

 果たしてサーヴァントって疲れるものなのだろうか。

 精神的なものかもしれない。

 

 天狐はメイド服をさっき破り捨て、軍服になっていた。

 後ろでベタベタしている、セイバーの真神は着物に近いものを着ている。

 サイズ的にコスプレに見えてしまう。

 まあ、そう言うの意外とありそうだけど。

 

「真神は、野良サーヴァントなんだよな?」

「まー、出てきた瞬間捕まえられてあんな感じになったんだけどね。えへへー」

「引っ付くな!」

 

 この、真神……軽く狂化でも入っているんじゃないだろうか。

 だが対話はできる。

 いや、対話できるバーサーカーは何人かいるが。

 だが、セイバーで狂化ってのもおかしい話だな。

 

 しかし……昔、俺にもこんな友達いた気がするな。

 名前、なんだっけな。

 思い出せないものは仕方ないし、置いとくか。

 

「うぅ……早く離れてーよ……」

「ははっ……すまんな、もう少しだけ、もう少しだけ我慢してくれ」

「無情だぞ、ますたぁ……」

 

 明らかに元気を失っていた。

 

 突然、奥の方から物が壊れるような音がする。

 木箱を壊したような、ガシャンと言う大きな音が。

 突然のことで、俺たちは警戒する。

 

 真神も天狐から離れて、何処からか出した刀を手に取る。

 

 天狐の刀は、普通のサイズ、と言ってもわかりにくいから具体的に言うと。

 大体100cmぐらい、重さはディザスター内で持ってみたが、到底持てるような重さではなかった。

 

 アルトリア・ペンドラゴンは魔力でブーストし、剣を持っているが、天狐はそう言うのなしで、素で持ってるらしい。

 

 ちなみに、デザインとしては黒を基調とし、鍔は椿を描いたようなもの。

 その他に目立ったデザインはないが、鞘には全体的に色々な花が描かれていて、綺麗だ。

 

 真神の刀はサイズで言えば太刀くらい、今見ただけではわからない。

 ただ、結構な大きさはある。

 だが、そんな太刀を片手で持ち、担ぐ。

 デザインは無地で、何も描かれていない。

 シンプルってやつだ。

 

 さて、現状へ戻ろう。

 

 木箱が壊した音がしたかと思えば、人影が現れる。

 

「誰だ!」

 

 俺がそう叫ぶと、人影はその身を現す。

 フラフラした、不安定な足に転びそうになりつつも、前に来る。

 

 見たことがあった、そうだ奴のクラスはキャスター。

 ジル・ド・レェ、だが何処か違った。

 あのローブではなく、何処か富豪じみたキラキラした服。

 それに髭は、まさに青ヒゲって感じであった。

 

「ジル・ド・レェ……だよな」

「それって……あれだよな。ジャンヌ・ダルクの……」

「ああ……って知ってるのか? 天狐」

「え、あ、いや……聖杯だよ、聖杯の」

「ああ、そう言うことか」

 

 どうやら合っていそうだが、何処か様子がおかしかった。

 さっき服はキラキラしていると言ったが、何故か黒ずんでいた。

 それに片手にはナイフ、顔つきはセイバーの時のだ。

 つまり目が飛び出ていない。

 

 あれって確か、ジャンヌが直していたんだよな。

 目潰しで。

 

「そこの……えっと、おっさん?」

「ガァ……」

 

 やはり様子がおかしい。

 

 変な声を漏らした後、フラフラこっちに近づいてくる。

 と思ったら、顔を上げ走り出してきた。

 

「ウガァッ!!」

「はァッ!」

 

 天狐が、鞘に収めた刀を一振りする。

 その一撃は、奴の腹に直撃した。

 次の瞬間、奴は霧となって姿を消した。

 

「シャドウサーヴァント……なわけないよな。何だったんだ……?」

「ますたぁ、そこで待っててくれ。私がこの先を見てくるから。真神……お前に頼むのは不本意だけど……ますたぁを頼むぞ」

「……! うん、天狐ちゃん!」

 

 真神はなんとも嬉しそうな顔で答えた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「やっと離れられた……」

 

 私は疲れからか、肩を落とし先へ進む。

 さっきのあれは、私が離れるための理由だったのかもしれない。

 

 しかし、さっきの奴……ジル・ド・レェなのは間違いないだろう。

 ゲームで見たことあるしな、ふふん。

 しかし、なんか懐かしいな。

 

 ゲームか、この世界には存在してねーんだろうな。

 ゲームに触れたのが……800歳くらいの時だったから。

 本当に懐かしい気分になる。

 

「しっかしここ……ほんと汚ねーな。地下倉庫なんだからせめて少しは綺麗にしろよな……ん?」

 

 足が何かに浸る。

 水かと思い、床を見て、驚愕する。

 赤い、ただただ赤い。

 血だ。

 

「血……!? 何が……」

 

 前を見る。

 そしてその血の正体が、判明した。

 私は困惑し、後退りする。

 

「ンだよ……これ……!?」

 

 いくつもの女性の死体が放棄されており、どれもが無残に殺されている。

 一部の死体の血は乾き、黒くなっていた。

 さっきの男の服が黒くなっていた理由がこれで判明した。

 

 驚嘆で固まっていると、遠くから声が聞こえた。

 男の声、だがますたぁの声ではない。

 

 声のする方に行くと、一人の男が紅く黒い鎖に巻かれ、白紙の本に何か書いていた。

 服装はスーツの上に、大きめのコートを着ている。

 

 

「おお、そこに誰かおられるのですかな? この声が聞こえるなら助けてくれまいか?」

「あ、ああ……いいが」

 

 私が姿を表すと、訝しむように見つめてくる。

 

「な、なんだよ?」

「ふむ……いやはや、知り合いによく似ていたもので、すみませんな」

「似ている人がいるもんか?」

「ええ、確か天狐とか名乗っておりましたな……」

「……ちょっと待て」

 

 私は腰を落とし、刀を構える。

 一閃、刹那の一撃で鎖は全て斬れる。

 

「いやー、助かりましたぞ。おおっと、自己紹介を……クラスはキャス」

 

 話を遮るようになってしまったが、さっきの事を聞く。

 私と同じ名前の知り合いがいることについてだ。

 知り合い、と言っても本当に知り合いなんだろう。

 

「そいつ! 天狐って奴!! どこ行きやがった!!」

「……貴方と入れ替わりになりましたがねぇ……どこ行ったかまでは……」

「クソッ!」

 

 私は振り返り走る。

 積み重なった木箱が邪魔して上手く走れない。

 

 天狐というのは、実を言うと名前じゃない。

 真名は別にある。

 ただ、種類として名乗っていた。

 別に真名を名乗ることはないだろうと思っていたからだ。

 だが、同じ種類が出たなら話は別である。

 

 そうこれは、異常な事態である。



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第10節:眠れる森の美女

「ただいま」

 

 天狐の声……に似せた誰かの声。

 真神と顔を見合わせる。

 

 俺はあいつのマスターだ。

 そしてこいつは……なんと言うか、まあそう言う事だ。

 

 軽く頷きあうと、俺は普通に、お帰り。と言った。

 が、次の瞬間だった。

 声は、()()からした。

 

声にブレがあったぞ?

 

 ゾッとして後ろを向く間もなく。

 前に転がるように逃げる。

 

 俺のいた場所には轟音とともに大穴が開く。

 木箱を押し退け、走る。

 背後からの攻撃、それをしっかり感じ取れる。

 

 恐怖、全身の毛が立つのを感じる。

 

 ちなみに、逃げたところで無駄なのだ。

 相手はサーヴァント、当然追いかけっこで勝てるわけがない。

 一瞬で距離を詰められ……。

 

 真神が、太刀で振り下ろされた刀を弾き飛ばす。

 大きさが大きい太刀は、アドバンテージがある。

 それは威力の大きさなど様々だ。

 

 真神が協力してくれるのは嬉しいが、ゲームで出てたわけではないので、宝具がわからない。

 どう指示を出せばいいのだろうか。

 俺は、俺は……。

 

 いつも通りだ。

 天狐と同じなんだ。

 

「真神!」

「なにー」

「絶対に負けんな!」

 

 俺は右手を前に差し出す、魔術礼装の起動。

 魔術の使い方は前に使った時にわかっている。

 

 真神の体が一瞬、光に包まれる。

 攻防が見えなくなった。

 目視できなくなったの方が正しいだろう。

 

 今までどんな状態か、戦闘中はムーンキャンサーに教えてもらっていたが、今はいない。

 置いてくるんじゃなかった。

 

 軽く後悔したとこで、攻撃の余波が飛んでくる。

 斬撃波が頬を掠め、血が垂れる。

 

 俺は木箱の後ろに隠れる。

 後ろでは、ただひたすら音が響き続けていた。

 

 

 

 真神が刀を弾き返したすぐ後、クルッと回転し、着地したかと思えば、飛び出す。

 大振りの太刀で、攻撃を防ぐが、そのまま回転するように上へ飛んできて、背後へ回り一撃を放つ。

 踏み込み、振り返り腕で防ごうとした瞬間だった。

 何かに察した真神は、後ろへと、攻撃の当たる寸前で避ける。

 

「その宝具……なにかなー?」

「へへ、へへへへへ……気づいてんだろ。『妖魔断ちの妖刀』、常時発動宝具だよ……へへへ」

 

 木箱から顔を覗かせ、会話を覗く。

 

 そいつは、笑いを絶やさない。

 天狐と同じ気配はするが、全く違う。

 黒い髪に、やはり着物。

 下駄は履いている。

 

「真名天狐……とはちと違うな。黒羽、ってんだが……知ってるよなぁ?」

「あの黒羽かー……まためんどくさいのが」

 

 声色を変え、真神は独自の構えを見せる。

 突きに特化したような構えに。

 

 さっきまでホンワカしていた顔つきが鋭くなる。

 本気、と言う事なのだろうか。

 

「へへへ、へへへへへ……人間クセェよ。臭ってんだよ、臭ってんだよぉ……クラス、アヴェンジャー!! 行くぞォォォオ!!!」

 

 轟音、俺ができることと言えば、考察のみである。

 が、真名とクラスはバラした。

 じゃあなにを考えるか。

 

 今の言動だけでも、一応アヴェンジャーになった理由はいくらでも考察できる。

 人間に恨みがある、ってとこだろう。

 通常の聖杯戦争で召喚されたなら、召喚者殺しそうだな。

 

 てか、俺ここにいない方がいいのでは。

 

「危ないッ!」

 

 声がして、咄嗟の行動で、前に飛ぶ。

 木箱が破壊され、そこに刀が刺さっていた。

 

イタぞタぞイタゾイタぞイタゾォォォオオオオ!!!! ブッコロスァァァアア!!!!

 

 完全に狂化入った叫び声に、ビビる。

 目はただ一人、俺だけを捉えていた。

 

 奴の背後のを見ると、真神が自身の太刀に腹を刺され身動きが取れなくなっていた。

 

「真神ッ!」

「私のことは気にしないで……! 逃げてッ!」

「くっ……!」

 

 横に飛び退く、その瞬間剣が振られ、俺のいた場所が破壊された。

 明らかにさっきよりも大きなクレーターが出来上がっていた。

 

 逃げようと後退ったが、後ろにあるのは壁だった。

 まずい、まずいまずいまずい。

 逃げてばかりで自分がどこにいるか把握していなかった。

 

死ぬ。

 

死ねぇぇぇぇえええええ!!!!

「クソっ……!」

 

 刀が、上から振り下ろされる。

 俺は恐怖から、目を瞑る。

 

 痛く……ない。

 刀は、俺に当たらなかった。

 一人の少女が、割って入ったからだ。

 

「てん、こ……?」

「ますたぁ……無事、だったか……?」

 

 カランカランと刀が落ちる。

 右腕が、ズチャッと音を立てて床に落ちる。

 天狐は俺を庇った。

 庇っていたのだ。

 

「まずい……!」

 

 遠くで真神がそう言う。

 すかさず飛んできて、奴に何度か斬撃を入れ、吹き飛ばす。

 

 すると駆け出していく。

 

「大丈夫か!? 天狐ッ!!」

「私は……大丈夫だ……ぐっ……!」

 

 斬り落とされた場所を押さえる。

 天狐は、横目で二人の戦いを見る。

 

「ちくしょう……あの刀……やられ、ちまったか……」

 

 なんかとてもしんどそうだ。

 顔が赤く、何処か風邪に似たような感じになっている。

 

 額に触れるが、特に熱いわけでもない。

 熱と言うことはないだろう。

 

「ますたぁ、こそ……大丈夫か……? 嫌なもん……見ちまったろ……」

「馬鹿言うな! そんなことより天狐、お前が……!!」

「私の方……心配してくれんのか……へへ……嬉しい、な……」

 

 目を閉じる。

 意識を失った……? 

 消滅していないと言うことは、死んでいないだろう。

 

邪魔すんじゃねぇぇええ!!!

「このッ……!」

 

 クソ、どうする。

 今の状態、どう逃げる。

 逃げ道が思いつかない。

 どうすれば、どうすればいい。

 

「ふむ……ここはワタクシがご恩をお返しするとしますかな」

 

 そう言ったコートを着たおじさんが刀を拾い、鞘に収める。

 天狐を抱えた俺に、押しつけるように渡すと、本とペンを取り出す。

 少し考えるような素振りを見せ、何か書き始めた。

 

「ふむふむ……それでは、少しだけしか効かないでしょうが……『眠れる森の美女』と参りますかな?」

 

 そう言い本を閉じると、本の隙間から霧が溢れる。

 その霧が、奴の周りにまとわりつくと、突然奴は脱力する。

 次の瞬間には倒れる。

 寝たのだ、奴は。

 

「真神! 逃げるぞ!!」

 

 今ここで殺そうとは考えていない。

 刺したところで一撃で死ぬとは思えない。

 起こしてしまうのがオチだろう。

 それを理解しているからか、すぐに出口に向かって駆け出した。

 

 天狐を抱え、俺とおっさんは後を追うように走り出した。



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第11節:息をつく間も無く

 イラつく、イラつくイラつくイラつく! 

 

 トントン、トントン。

 貧乏ゆすりの音が目立つ。

 

 それもそうだ、通信式円卓盤にはまだ誰も来ていない。

 

 しかしキャスター、やはり使い物にならない。

 あいつ、「ええ僕は所詮、映画監督にし過ぎませぬので。しかして、マスター殿。進捗はいかがですかな?」──と。

 

 進捗進捗、うるさくて嫌になる。

 何が確かなあれは映画監督だ。

 ゴミクソみたいな映画監督なのだ。

 

 しかも……縛り付けていたキャスターを奪われたと言うではないか。

 これについても。

 

「ええ、単純に想定外でしたよ。僕は映画監督ですが、何か」──だと。

 

「……ぁぁぁああああああッ!! みんな死ね!!」

 

 涙目でそう叫ぶ。

 するとその言葉に応じるものが現れる。

 

『言葉遣い悪りぃな、おめぇ』

「……あんた……バーサーカーのマスター」

 

 声のする方を見ると、青くボヤけているが、人が座っていた。

 魔術を介した通信機器なのだから、鮮明に映らないのはしょうがない。

 

 バーサーカーのマスター。

 いつも顔をフードで隠していて、煙草をモクモク蒸している。

 基本喋ることはなく、喋ると驚かれる程だ。

 だが、奴は異様に私に対して話しかけていた。

 

『……おめぇ、いつまでそうしているつもりだ』

「あいつが、あいつがするつもりなかったから、代わりに私がしてるのよ……自業自得でしょ……」

 

 そうだ、あのアンナが悪い。

 全部、全部全部全部! 

 あいつが悪いんだ。

 

『そう言うのは……達観的じゃない……』

 

 ブゥンと音を立てて、もう一人出てくる。

 長い銀髪を携え、病院で貰えるタイプの眼帯をつけ、頭に包帯を巻いている。

 その様子を見れば怪我でもしたのかと思うが、違う。

 自ら望んでああなっている。

 

 いや、彼女の世界はかなり酷いのもあるだろうが……。

 

 ちなみに担当クラスは……よくわからない。

 ライダーだけどライダーではない。

 と()()()()()にある。

 

 向こうから話しかけてくるなんて言うのは、これまたとても珍しい。

 私たちはコミュニケーションが苦手、即ちコミュ障グループである。

 

「……それ使い方あってるの?」

『わかんない』

 

 そう言って、ボロボロの人形を抱き抱える。

 初めて会った……と言っても先日からずっと持っている。

 

 今から行われるのは、一ヶ月ごとに行われる円卓会議である。

 各地の王がそれぞれ通信し、現状……即ち自分の担当する国の様子を報告し合う。

 

 ……とまあ()()()()()にある。

 奴の記憶だから、微妙だけども。

 

 チラッとアサシンの席を見ると、椅子には根が張り錆びれていた。

 

「あの根って……」

『あの野郎が来る前に切断された……()()()()なんじゃねーの?』

 

 今度は楽しげに言う男が現れる。

 担当クラスは……これまたよくわからない。

 ライダーと同じく、アーチャーであってアーチャーではないとのこと。

 

「裁定の根って……あれよね。聖杯によって植えられる、その世界を固定するための根」

『そーそー。うちんとこ見る? すげぇことになってんぞ!』

「遠慮しとくわ。面白そうにないし」

『誰に……切断されたんだろうね……』

『……わからねぇ、が向こう側だろうよ。警戒しとけよ』

 

 軽く頷く。

 と言っても今は重大な問題にぶつかっている最中なのだが。

 

 そう言えば、私のところ植えられてなかった。

 アンナは譲り渡す気でいたからそれも当然だろうけど。

 そこらへんはキャスターに任せることにした。

 

『しっかしよー……こっちはてーへんだぞ。なんか神々? だったかどうか忘れたが……あー、天使だわ。天使天使、あいつら聖杯戦争始めてやんの。勝手に自分たちで聖杯作って』

 

 と、勝手に楽しげな男は語り始める。

 ちなみに、誰も聞いてはいない。

 

『そこまでにしなさい。そろそろ始まるのよ』

 

 と言うのは、如何にも清楚って感じの少女。

 黒髪で長く、大人しめで、それでいて厳しい。

 女子高の制服を着ており、少し羨ましい。

 

 担当クラスはランサー。

 

『お、謎好きのねーちゃん。どーしたのそんな顔して』

『主にあなたのせいです……ランサーのせいでもあるのですが……

 

 ブツブツ呟いているのだろうが、機械を通しているため丸聞こえだ。

 彼女の彼女で苦労しているらしい。

 少し気になって世界を見せてもらったが、霧が濃くてよくわからなかった。

 

『それで……セイバーのマスターは?』

『あの冠位(グランド)野郎はまだ来てねーよ?』

『すまんすまん……昼寝してて遅れちまった。へへっ』

 

 頭をぽりぽり掻きながら男が現れる。

 パーカーを来ており、基本的な思考は簡単に、らしい。

 

 担当クラスはセイバー、と言っても。

 冠位(グランド)セイバーなのだが。

 そう、私たちの中で唯一の冠位(グランド)である。

 

『いやさ……一日一回の裁定が変に長引いてよ。あのセイバーまともに対話できないから困っちまって』

『それは……大変だったね……』

『嬢ちゃんの声、久し振りに聞いたぞ……で、どうなんだみんな』

『クソ……の一言に限るがどうした』

 

 タバコを蒸し、そう言い放つ。

 彼は一番広大な場所を管理しているのだから、しょうがないだろう。

 それに比べて私は、一番進んでいて、後退している。

 

『んで……もうみんな集まってるわけだな?』

 

 全員が返事をする。

 それを確認し、言い放つ。

 

『これから第■■■■■回目の円卓会議を始める。さあ、現状について語り尽くしてくれ』



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第12節:失敗、敗退、撤退

 こんな気分になったのは、いつぶりだろうか。

 腕を失くした天狐を抱え地を走る。

 恐怖だろうか、それとも混乱だろうか。

 それすらわからなくなって、走っていた。

 

「天狐、天狐天狐ぉ……!」

 

 俺は彼女の名前を叫ぶ。

 反応はなかった。

 

 更に恐怖と混乱が全身を掻き立てる。

 果たして俺は、何故ここまで恐怖しているのだろうか。

 彼女を失うのが怖いから。

 それもあるだろう。

 

 だが、一番は彼女がいないと何もできないから、だ。

 情けない、とても情けない。

 だけど、俺は怖かった。

 

 地下倉庫から出てくる。

 俺たちはそこで一旦息をつく。

 

「はぁ……はぁ……ここまで来れば、大丈夫、だよな……」

「うん、そうだといいんだけどねー……天狐ちゃん。その腕……」

 

 斬れた断面から血は出てこない。

 紫色の炎が断面にまとわりついている。

 それを見たコートのおじさんが頷いて言う。

 

「ふむ……ワタクシとしては、非常にまずいと思われますがね。おおっと、自己紹介遅れましたが、ワタクシキャスターの……」

「どう言う意味だ!」

 

 胸元掴む勢いで聞く。

 俺は焦っていた、多分かつてないほどに。

 勢いに気圧され、少し仰け反る。

 

 真神が俺を見て、言う。

 

「あの刀……やっぱ黒羽ちゃんは、あれで召喚されたんだなー……」

「あれ……?」

「そう、宝具……妖魔断ちの妖刀……魔力を根本的に断ち切るヤバいやつ」

 

 待てそれは……。

 ほぼ魔力で構成されているサーヴァントをそんなもので斬ったら……! 

 

「サーヴァントを斬っても死にはしない。でもその傷はどんな力を使おうとも、()()()()()()()()。宝具ですら無効化する。はずだよー」

「なら……どうすれば……」

「一旦ここから離れようよ、どっかに休めるとことかないのー?」

「なら部屋に……」

 

 俺たちは歩いて部屋へ向かう。

 その間も彼女は眼を覚ますことはない。

 どちらかと言うと、ぐったりしている。

 

 部屋のドアを開けて入ろうとした。

 が、何かがつっかえていて扉が開かない。

 

「真神、少し天狐を……」

「うん」

 

 天狐を真神に渡すという、体全体で扉を押す。

 半端無理やりだが、扉を開けようとする。

 だが、開く気配はない。

 

「ダメじゃん」

「……その、頼む」

 

 天狐を俺の腕に抱き抱える。

 軽い掛け声とともに扉を小突くと、扉が吹き飛ぶ。

 

「ほうほうこれは、すごいですな」

 

 キャスターがそんなこと言い、部屋へ入る。

 俺もそれについていき入り、愕然とする。

 

「なにが、起きて……?」

 

 荒れていた、その一言に尽きる。

 なんと言うか、荒い捜索をされたようで、そこにあったものは大抵破壊されている。

 辛うじてソファは残っている。

 

 そして、ゴミの山みたいなのもあった。

 あれは荒らされたものではないことが、見てわかる。

 多分……オークションで手に入れたものだろう。

 

 そこに天狐を寝かせると、ゴミを退け探す。

 スマホを、ムーンキャンサーを。

 

「お、おい! ムーンキャンサー!」

「何かお探しですかな?」

「こう……スマホだ、聖杯で知識あるだろ」

「おお! それでありますか。さすればワタクシも手伝うことにしましょう」

 

 そう言うと、コートのおじさん……キャスターも手伝い始める。

 この様子だと、スマホ割れていてもおかしくない。

 最悪、消える可能性も。

 

「おーい、ここだよ。ここにいるよー!」

 

 なんと声は、ゴミ山からした。

 ゴミ山を退け、それを探す。

 一つの、デバイスが出てきた。

 スマホに似た黒色のもの、だが明らかにスマホの数段階上ぐらいのものだった。

 で、相変わらず画面にはムーンキャンサーが映っている。

 

「……なにこれ?」

「いやー、スマホぶっ壊されちゃった」

「で、これになったと」

「そそ、オークションの商品。あ、充電切れそう」

 

 そう言って画面が暗くなる。

 うん、大丈夫そうだ。

 

「で……アンナは」

「……捕まった」

 

 画面が再度明るくなる。

 そしてそれだけ言い残し、画面が消える。

 

 そう、それだけだった。

 

「……これからどうするー?」

「アーチャー、帰ってきてないもんな……クソ、こんなことならどっかに行くんじゃなかった!」

 

 勝手な行動に出た自分自身に腹が立つ。

 特に意味のない行動をし、その結果がこれだ。

 最悪である。

 

 天狐は付いてきてくれただけなのだ。

 本来なら、俺が受けるべき傷だ。

 

 アーチャーを責めることはできない。

 なんせ彼女はなんらかの目的があって行動したのだから。

 

「あー、それでどうするのですかな?」

「……一旦戻る。仲間たちに一度報告しなくちゃいけないから」

「うん、付いてくよー」

 

 俺はスマホらしきデバイス……取り敢えずスマホと呼ぶが、それをポッケに入れる。

 そして天狐を抱き抱えると、外に出て行った。



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第13節:ゲームと行動

 額にかかる痛みに、目がさめる。

 

「ん……ここは、どこ……?」

 

 私は確か、部屋にいたはずだ。

 ムーンキャンサーと雑談を交わし、商品を奪い取るために金を積んでいた。

 だがそこで……。

 

 そこまで出てきている、がそれ以上が思い出せない。

 

 体を動かそうともがく。

 が、椅子に縛られており、体は動かない。

 

 横を見ると、どちらにも黒服の男が立っている。

 衣服はほとんど剥がれ、下に着ていた服とスカートになっていた。

 要はいつもの服だ。

 

 上下共々少し厚いが、ドレスの下に隠せる程度ではある。

 魔術で。

 

 戦闘用に隠していた宝石、ナイフ、ルーンを刻んだ札……これらは全て取られていた。

 

 前を見る。

 そこには偉そうに椅子に座った黒服の男がいた。

 そいつを睨むと、傍から一人の少女が現れる。

 

 ああ……あれは、私だ。

 私が作ったのだ。

 そう、失敗作。

 

「……プロトと呼んだ方が見分けがつくかしら?」

「プロト、ね……いい名前じゃない、どうかしら。キャスター」

「僕は映画監督でして、評論家ではないのですよ。ノーコメントです」

 

 一瞬表情を失くす、が笑い私を見る。

 やはり、欠如しているのか。

 

()()()め。

 

「ですって、……じゃあゲームを楽しんで」

「は? 何しに来たのよ」

「見学よ。あなたの無様な姿のね」

 

 そう言うと消えていった。

 が、キャスターは残っていた。

 

 ペンを一本、どこからか取り出すとメモ帳も取り出す。

 

「ふむ、ふむふむふむふむ……それではシナリオを作り上げましょうかね。今回のストーリーは……そう! ゲームです。一人の少女は果たして、死ぬのか、見事生還するのか!」

「な……どう言うことよ」

「それではルールを説明すると致しましょう。簡単です。ここに52枚のトランプがあります。あなたは数字がHigh(高い)Low(低い)か当てればいいのです」

 

 ああ、そう言うことね。

 どっかで見たことあるわ、これ。

 間違えたら……。

 

「ロシアンルーレットですよ。このリボルバーには1発の銃を込めます。発砲直前に回転させ、引く。それでもし当たれば……」

 

 メモ帳から出てきたリボルバーを手に取る。

 そう言い、傍に立っていた黒服に向かって撃つ。

 胸に大きな穴が空き、血を吹き倒れる。

 その血が軽く吹きかかる。

 

 躊躇なく引く姿、恐怖でしかなかった。

 だがそれと同時に、私は落ち着いていた。

 

「そう……わかったわ。ならゲームを始めましょう」

「ええ、いいですよ……その決意に満ちた顔! ……始めてください」

「はっ! 死んでたまるか!!」

 

 ゲームが始まる。

 それでは……と、男がカードを提示する。

 クローバーのK。

 うん、これは簡単だ。

 

「Low」

「正解です。それでは次……」

 

 ハートの3。

 淡々と進めるせいで、変に恐怖はない。

 が、それはただ死という実感がないだけなのかもしれない。

 

「High」

 

 そうだ、私に恐怖なんて、未だなかった。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「ああ、そりゃ大変だったな」

 

 天狐をベッドに寝かせ、側に座る。

 

「俺は……俺は!」

「そう背負いこむな。苦し紛れの言い訳だってしていいんだぞ? ほら、おじちゃんに話してみろ」

「違う、俺のせいなんだ! 俺が……俺が悪いんだ……」

「……そうだな。少し休んでるといいさ。そうすりゃ気分も晴れんだろ?」

 

 そう言うと、髪をぽりぽり掻いて出ていった。

 頭を抱える。

 苦しい、ただただ苦しいだけだ。

 

間違えた。

 

 その通りだ。

 苦し紛れの言い訳なんて、できるわけがない。

 ないのだ。しては、いけないのだ。

 

「……何があったの?」

 

 スマホがゆっくりと明るくなっていく。

 そこにムーンキャンサーがいた。

 

「……やられた。敵に斬られたんだ。魔力を断つ刀とやらで……俺を、庇って……」

 

 会話は途切れる。

 いや、会話ですらない。

 

 じゃあ、なんなんだろうか。

 

 ムーンキャンサーは少し悩んだ様子で、提案をする。

 

「この様子だと、どう考えても戦えないよ。シーハに預けた方がいいと思うんだ」

「シーハに……?」

「……彼女()()なら、なんとかしてくれるかもしれない」

 

 たち、だと。

 あの電車には、俺と天狐とムーンキャンサー、それにシーハにしかいないはずだ。

 まさか、まだ誰か、いや隠していることが、あるというのか。

 いや、いやいや。

 助けれれば、なんでもいい。

 

「……行くぞ」

「それ、付き合うよ」

 

 扉の方で声がした。

 そこには女の人……弓兵、アーチャーが立っていた。

 彼女の服装は緑色に近く、森で身を隠すのに適しているようだ。

『顔のない王』、かのアーチャー、ロビンフッドの装いに似ていた。

 

「んまぁ……近接戦闘は苦手だけど、護衛くらいはできるでしょ。ほら……私も仕事しないといけないし」

 

 と言うと、弓を手に弦の調整をする。

 そう言えば、幻霊の塊である彼ら、それはつまり象徴とするものがないと言うこと。

 つまりそれは、宝具は……どうなると言うのだろうか。

 今調整している弓も、明らかに量産品だ。

 

「で、どこにあるの? 行くよ」

「お、おう……」

 

 俺は天狐を背負うと、ムーンキャンサーをポッケに入れ歩き始めた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 ──偽りの女王は、もういらない。

 

 

 

 決着まで、数日だろう。

 

 キャスターは最悪のシナリオを作り上げるのが仕事。

 そのせいで、私が負けるのは、ほぼ確実と言ってもいいだろう。

 それに、アンナがゲームに勝つかどうか、と言う点もある。

 

 いや、彼女ならやり遂げてみせるだろう。

 最悪……時間稼ぎ程度はするはずだ。

 

 だって、あのお人好したちは絶対に助けに来る。

 わざわざそこに狙って潰そうとも思っていない。

 

 アーチャーとランサーは未だ交戦中か。

 

 

 

 ──終末は、近づいている。



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第14節:未だ帰還せず

 屋根裏を駆け抜けていく。

 最新式にしては古い、木組みの屋根裏だ。

 と言っても、柱をいくつか組み込まれているだけのため、下が見える。

 落ちれば、死ぬ。

 

 単純明快だった。

 

 軽く跳ね、後ろを向く。

 両手に持った短機関銃のトリガーを引く。

 軽く転がり、立ち上がると、左手を斜め下横に出す。

 

「《Open(開門)》、《Burst(射撃)》ッ!!」

 

 すると、空間に穴が開く。

 その穴から、一線のレーザーが飛び立す。

 飛んできた奴は、軽い身のこなしで避け、目の前に着地して、手に持っているハルバードを振るった。

 しゃがんで避けると、後ろに飛んで二丁の拳銃で撃つ。

 が、振り回し、弾き返された。

 

 奴の服装、ミリタリージャケットはこの背景でよく見える。

 だが、顔はガスマスクで覆われていてわからない。

 それに私は、見覚えがあった。

 

 首にぶら下げていた口を覆う、ガスマスクを装着する。

 

「にゃははー、ぴょんぴょんぴょんぴょん、うさぎさんかー?」

「……それ、単純にうざいんだけど」

 

 眉間を狙って早撃ち。

 が、弾かれる。

 

 やはり奴はクソだ。

 私が、私と言う虚言が召喚に応じたのは。

 そう、目の前のやつだ。

 

 目の前のやつを、殺すために応じた。

 

「にゃはー、死にたい?」

 

 ハルバードを構える。

 フラフラと不安定だが、目つきは本物だ。

 

 長時間に及ぶ戦闘の疲労……と言うわけではない。

 それが彼女の、戦闘スタイルだからだ。

 

 私は直前の発言に対し、悪態を吐く。

 

「うっさいよ、『人の夢を壊す者(ナーサリー・ライム・オルタ)』」

「殺してあげる。『自分のための物語(ナーサリー・ライム・オルタ)』」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 天狐を背負い、街を歩く。

 服装は着物に戻っていたが、片腕は相変わらずない。

 

 ひらひら動く、右腕の袖がなくなったと現実を教えていた。

 それから目をそらす。

 どうしようたって現実は変わらない。

 不変なのだ。

 

「俺が……俺のせいで……」

 

 俺はずっと悔やんでいた。

 あの時の瞬間を、あの一瞬を。

 

 そして心を締め付けていた。

 

 が、アーチャーは苛立ったように舌打ちをする。

 

「さっきから聞いてれば、あんたほんと……自分勝手だよね」

「自分、勝手……?」

「何故その子があんたを守ったか、わかる?」

 

 わからない。

 俺は、守られるような人間ではない。

 誰がどう見たって、わかることだ。

 

「サーヴァントだから、なんで答えじゃない。ここは戦場だからだよ」

「戦場……だから……」

「そうよ。あんたがいなくなれば自身が残っていようが負けは負け。確定事項になる。なら自分が犠牲になっても勝機を残すべきでしょ?」

「それは……」

 

 否定できない。

 マスターと言う存在である俺は、人類最後の希望と言われた。

 俺がいなくなれば、その先の未来は停滞し、消える。

 凡人類史、俺の世界はどうしようもなくなる。

 

「それに聞くけど戦闘中に仲間が死んで、それを悲しんでる暇なんてあるわけ?」

 

 そんなことしていては、自分も死んでしまうだろう。

 誰だってわかる、なんなら子供だって。

 

「……貴方は、その屍を超えなくてはならない。聞いたの、貴方はこの世界を……こと人理焼却するために来たって」

 

 どこか儚げで悲しげな顔を見せる。

 その顔に、俺は言葉を濁してしまう。

 

 事実だから、それはどう頑張っても捻じ曲げられないから。

 

「……これから貴方の周りで次々と仲間が死ぬ。でもそれを悲しんでる暇はない。進むの、前に、道を外れても。先へ」

「俺は……」

「はい、この話はここで終わり……はぁ、柄でもない話をしたら疲れちゃった……あー、ヤダヤダ」

 

 止まるべきではない。

 そう言うことなのだろう。

 天狐はあの時、俺に未来を託したのだろうか。

 

 もし、もしそう言うことなら、止まるわけにいかない。

 

「ありがとう……アーチャー」

 

 弓兵は素っ気ない返事を返し、前を行く。

 そこで突然爆音が響いた。

 すぐそこのビルからだった。

 かと思えば、爆発しビルが倒壊する。

 

「なっ……!?」

「あれは……チッ、サーヴァント……」

 

 ビルの上の方を見て、舌打ちする。

 何か見えていそうだ。

 

「見えるのか?」

「まあ、千里眼持ってるし」

 

 そう言うと駆け出す。

 どこからか取り出した弓を手に。

 

 俺は天狐を背負いついていく。

 が、そこでムーンキャンサーの声がした。

 

「待って! このまま連れて行く気?」

「いやそんなことは……」

「先にディザスターに行こうよ。もし本当にサーヴァントならアーチャーが対処してくれてるだろうし」

 

 少し悩んだ。

 このままアーチャーを置いて行くべきか。

 だが、さっきの会話を思い出し決断する。

 

「わかった、先にディザスターに行こう」

 

 俺は進行方向を変えると、走り出した。

 少女のために、戦場へ向かった彼女ために。



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第15節:非情也て、邂逅を打つ

 ディザスター前、シーハが立っていた。

 俺たちを待っていたようだ。

 まだ聖杯を持っていなかったからか、訝しげに見つめてくる。

 

「どうなさいましたか?」

「天狐が腕をやられて……」

「ふむ……そうですか。なら工房へ来てください」

 

 そう言うと、車両に入っていった。

 俺はその後ろについて行く。

 

 工房、そう言えば初めて入る。

 魔術師に於いて、工房というのは大切なもので、他人には絶対見せないと言う。

 だが、彼女……シーハは所謂ロボットだ。

 

 果たして、どう言うことなのか。

 結局のところ、言ってみない限り何もわからないのである。

 

 工房へ入る。

 そこはまさに工房と言えるような場所で、かなり綺麗だ。

 ある意味シーハらしいとも言える。

 

「そこに寝かせてください」

 

 俺はシーハに言われた場所に天狐を寝かせる。

 すると、斬られた断面を見て頷く。

 

「……マスターN/A様。今更ですが、私のことを話します。私はサーヴァントです。クラスはキャスター……それでいてバーサーカー。キャストバーサーカーとでも」

「……え、サーヴァント?」

「はい、私はサーヴァントです。そこのムーンキャンサー様と同じで、記憶喪失ではありますが」

「それは……どう言う……」

「言ったままです。気づいた時には拾われていたので」

 

 さて、びっくりだ。

 だが同時に納得もしていた。

 何故シーハが工房を、と前々から思っていたのだが、彼女がキャスターなら、陣地作成がある。

 そこから来ているのだろう。

 

 で、どうする気なのだろうか。

 

「魔力で接続は不可能。故に、科学の力を利用することにします」

「科学……?」

「ええ…….()()()力も借りればなんとかなるでしょう」

 

 誰だろう、彼女って。

 誰か気になりはしたが、助かればなんでもよかった。

 

「頼む……天狐を、助けてくれ!」

「はい、天狐さんは私たちにお任せください。あなたたちは引き続き、防衛杭攻略に励んでください」

 

 俺は、ディザスターから出てくる。

 スマホを取り出し、ムーンキャンサーを呼ぶ。

 

「ムーンキャンサー。今からアーチャーのところに行く、案内頼めるか?」

「うん、わかった……戦闘の範囲が広がっている、これは爆発物……?」

「取り敢えず危険なんだな? よし……」

 

 俺は外に目掛けて、駆け出した。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 思考がこんがらがっていく。

 自然と涙が溢れ行く。

 私は、私は今までにないくらい恐怖していた。

 根っからの魔術師だと思っていたが、どうやら違うようだ。

 死ぬのが怖いのだ。

 

「ろ……Low……」

「ハズレです、3回目です」

 

 カチャと言う音ともに、リボルバーが頭に突きつけられる。

 全身が震える、涙が流れる。

 

「い、いやっ……死にたく、ない……っひぃっ……!?」

 

 カチャって音がした。

 どうやら入っていなかった、セーフのようだ。

 全身から力が抜ける。

 

「ゲームはまだ続いていますよ」

 

 さっき出た数字は、クローバーの7。

 

 7、外れやすい数字である。

 ただ、偏っていた当たりやすくはある。

 残りカードは……数えている余裕なんてなかった。

 

 クローバーだけで考えた場合、数字は8、10。

 だが、下で考えた場合、3、2が残っている。

 選択肢的に言えば、上を選ぶべきか、五分五分だ。

 

「で、どうするのですかな?」

 

 これはもう、ほぼ賭けの運だった。

 

「High」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 さっきの爆発から数分が経過。

 物陰に隠れているが、奴は暴れている。

 あの様子だと推定クラスはバーサーカー。

 アーチャーである私は、近接戦闘になるとまるっきりダメなため、相性が悪かった。

 

「はぁ……残機制でほんと助かった」

 

 私は前に出て、姿を表す。

 奴が土煙の中から姿を表す。

 白衣を着て、両手にダイナマイトを抱えた少女が。

 

「ナニモンだお前!」

「アーチャーだけど。あんたは?」

「バーサーカー……あー、えっと、真名はアルフレッド・ノーベルだよッ!!」

 

 そう叫ぶと同時に、天井から爆音が聞こえる。

 そして崩れてきた。

 私は横に飛び、隙間を狙って大体数十発撃ち込む。

 が、軽くダイナマイトで吹き飛ばされてしまった。

 

 やはり、そう簡単には敵いそうにない。

 

「うん、無茶やるけど……やるっきゃないか」

 

 私は走り出す。

 弓を捨て、手を前に出す。

 

 これが私と言う英霊の真骨頂。

『アーチャー』を体現する、私の真骨頂である。

 

「『偽・投影開始(トレース・オン)』」

 

 無理やり通した魔力により、自身の中から数人消えたことがわかる。

 が、一度使用してしまえば、これは自分のものだ。

 魔力回路は成立している。

 

 戦闘技術の継承も完了済み。

 駆け出し、敵の前で二本の剣を振るう。

 が、正面爆発での破壊。

 

 投影を繰り返し、攻撃を加えていく。

 

 が、やはりバーサーカー。

 破壊されていく。

 

 押し通すってのも、多少の無理をしないとやはり行けない様子。

 

「これ使いたくないんだけども……」

 

 さて、改めて説明するとしよう。

 これらが、()()宝具だ。

 

 アーチャーという兵士の集合体である私は、霊核に何百万という人を抱えている。

 これを残機という。

 

 第1宝具、尽き果てぬ命。

 剣士、槍兵、そして私の共通宝具、残機がなくならない限り死なないというものだ。

 

 そして第二宝具、これは他アーチャーの宝具が使えるようになるというもの。

 ただし、その宝具の強さによって使用残機が変動する。

 例えば、今から使うものは、30万は減る。

 

 それは、かの英雄王が使った宝具。

 

「……『偽・王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』」



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第16節:令呪

「ムーンキャンサー、指示を出せ!」

「わかってる! いい、決して下を見ないで! と言うか上見てて!」

 

 そう言われる、が俺は現実と向き合うため、前を見る。

 悲惨だった。

 死体がそこら中に転がっており、しかも酷い死に様であった。

 吐き気を催す光景、とはまさにこのことだ。

 

 口を押さえ、一瞬蹲る。

 

助けて。

 

 その声な、耳に届く。

 俺は、藤丸立香のような、異常なほどの強靭な精神を持っていない。

 でも、彼と同じように足がある。

 前に進める。

 

 なら、戦わなくてどうするんだ。

 

 吐きかけたもの、無理やり飲み込み、走り出す。

 死体を避け、先へ進む。

 

「アーチャー!!」

「来ないでっ!」

 

 呼びかけに応じ、声が聞こえる。

 一際大きな爆発音とともに、すぐ近くに来た。

 驚いたように、こちらを見ている。

 

「なんで来たの!? 待機しておけば……はぁ、来ちゃったものは仕方ないか……」

 

 手に弓はなかった。

 見覚えのある二本の剣を手に、立っていた。

 干将・莫耶……かの有名な夫婦剣。

 エミヤも使っている奴だ。

 

 で、さらに驚くことに傍に、どう見ても『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』があった。

 

「え、なにそれ……」

「それについては後で説明する。今は逃げて、相手はバーサーカー。あんたが敵う相手じゃない」

「サーヴァント相手にしたら誰一人して敵わないよ。だから俺はお前と戦う」

 

 右手を前に出す。

 それを見て、堪忍したように、ため息をつく。

 

「……わかった、でも危なくなったら逃げてよ」

「おう!」

 

 握手を交わし、隣に立つ。

 と、ムーンキャンサーが出てくる。

 俺はポッケからスマホを取り出し、画面を見る。

 

「……ねぇアーチャー。今ここで擬似契約でも結んどく事を勧めるよ」

「ああ、たしかにその方がいいと思うが……」

「なんだそれ?」

「うーんまあ、簡単に言えば擬似的な契約で……令呪を行使できるようになるんだよね」

「聞いてないぞ、そんなの」

「言ってないもん」

 

 と、そこまで言ったところで、壁が爆発する。

 アーチャーは、俺を庇うように、俺の前に立つ。

 そして右手を横に出し、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』から、武器を放出した。

 

 が、全て爆破によって弾かれる。

 

「考えてる暇ないな。うん、契約だ」

「どうすればいいんだ?」

「魔力を繋げれば……そこら辺は私がするよ。今は前に集中して、できたら言うから」

「わかった……アーチャー、行くぞッ!」

 

 掛け声とともに、アーチャーが駆け出した。

 干将・莫耶を上から振り下ろす。

 土煙の中、簡単に避けられる。

 土煙の中から、腕が伸びてきた。

 

 彼女を掴もうとして、下から飛んできた剣に貫かれ……る寸前で、爆破で弾く。

 そこを狙ったように、二本の剣を投げた。

 そして奴の背後に現れ、呟く声が聞こえた。

 

「『偽・投影開始(トレース・オン)』」

 

 新たな剣が現れる。

 そして剣を振るった。

 が、伸びてきた腕に爆破で、刀身を破壊される。

 それを見て、飛んでこちら側に戻ってきた。

 

「アーチャー、相手の真名はわかってるのか?」

「……アルフレッド・ノーベル」

 

 その名を呼んだ瞬間、土煙が晴れる。

 

 アルフレッド・ノーベル。

 有名な話と言えば、ノーベル賞の制定と……ダイナマイトの開発。

 それにより巨額の富を得たと言う。

 その逸話だと、黄金律あるなあれ。

 

 ダイナマイトの開発の逸話が、中心なっているんだろう、あれは。

 

 白衣の少女は俺たちの前に立つと、右手にダイナマイトを生成した。

 

「よお、あんたらナニモンだ?」

「バーサーカー、じゃないのか……?」

「バーサーカーだよ、正真正銘な。ちょっとスキルが特殊でな……へへっ」

 

 あの様子だとキャスター適性もありそうだ。

 スキル、ダイナマイトを開発したと言うくらいだから、頭脳系のスキルがあってもおかしくはないだろう。

 多分それのおかげで理性があると言ったところか。

 ただ、爆発衝動を抑える理性はないみたいだけど。

 

「なんか召喚されちまったから、とりま爆破してんだけどよ……へ、へへっ……楽しいなぁ……!」

「戦闘狂……私ああ言うタイプ嫌いなんだけど」

 

 さて、そんな逸話あっただろうか。

 ちょっとおかしいな。

 そもそも、バーサーカーで召喚されるような逸話はないはず。

 

 爆破=バーサーカー。

 もしそうだとしたら笑い飛ばすぞ、抑止力。

 

 違う……違うよな? 

 

「よし、できたよ。契約……」

「とっととここを潜り抜けよう。()()()()、令呪行ける?」

「っ……!」

 

 令呪、俺は右手の赤い刻印を見つめる。

 初めて使うことになる、まさか初めては天狐じゃないとはな。

 まあ、そう言うこともあるだろう。

 

「アーチャー……令呪を以って命ず、奴を退けろッ!!」

 

 刻印が一角、消えて痣になる。

 それを聞いたアーチャーは一呼吸置いて、消えた。

 次の瞬間、強大な力がぶつかり合い、轟音が辺りに響く。

 

「……ムーンキャンサー、これって一角使ったらもう使えないのか?」

「一応……回復は可能だけど、時間はかかるよ。それにディザスターじゃないとできないからね?」

「それならいいんだ」

 

 俺はその確認を終え、前を見る。

 強大な力の衝突を、令呪と言う力の本髄を見るために。




擬似契約
擬似契約は魔力がほぼなくても短時間だけなら契約できると言うもの。
この時、魔力を大量に持っている人が仲介人をする必要がある。
天狐は本契約であるが、主人公の魔力じゃないため、令呪は行使できない。


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第17節:少女の肯定

 機械の頭では、考えられることは少ない。

 それは、記憶がないことのせいなのだろうか。

 

 否定(わからない)否定(わからない)否定(わからない)

 

 結局のこと、彼女を助ける意義はない。

 が、任せられてはやる他ないだろう。

 

 私の中に残る、善性が微かながら囁く。

 

 結局、こうする他ないと。

 ちなみに、私は私自身が、医学とか全く無関係の人生を歩んでいることぐらいは、知っている。

 

「む……?」

「ここは……どこだ……?」

「起きたんですね。天狐さん……いえ、■■■さん……でしたか」

「なんで……その名前……」

「至極簡単です。()()()()知るようにできていただけのことです」

 

 そっか……と言って、顔に手を置く。

 そこで気づいたのだろう、自身の右腕がないことに。

 だが、それに特別驚愕することもなく、虚無が如く見つめる。

 

「私は……守れたのか……」

「ええ、しっかりと」

 

 安心したような顔で、全身の力を抜く。

 天井を見つめて、今一度ため息をつく。

 

 苦しんでいる様子はない。

 ただ、すごく、悔しそうだった。

 理由はわからない。

 当然だ、機械の頭ではわかるはずもない。

 

 機械……ではなかったのに。

 生前は、もっと人間だったはずだ。

 

「……なぁ、聞いてくれねーか。私の、くだらない話を」

「別に……治療中、騒がないと言うのであれば」

 

 私は工房で作業をしそう言う。

 別に、邪魔をしないと言うのならばなんでもいいのだ。

 

 と言っても、これは治療ではなく、無理やりな仕事でしかない。

 もう一度言おう、私の逸話に治療行為なんてない。

 一つ刻まれているのは、ペンを手に取ったことのみだ。

 

 だからこそ、善性なんてないと思っていた。

 

「ますたぁが、私を召喚できた理由についてだ」

「理由、ですか」

「ああ……私はな、召喚される気なんてなかったんだ。()()と言う存在なら他にたくさんいたしな」

 

 それについては興味深くはあった。

 天狐、と言う種類で召喚されるのだろう。

 だがその場合、宝具はどうなるのだろうか。

 統一、されると言うのだろうか。

 予想からして、それは否定(わからない)だ。

 

「だから、それこそ触媒とか使われないと召喚される気は無かった。本来の魔術どもが私の触媒なんて手にはいねーだろうけどな……たった一つのことを除いては」

「たった一つ……ですか。その触媒を彼は持っていたと」

「あー……ちと違うようで合ってるな」

 

 予想外の答えに驚く。

 なかなか使う機会のない頭では、やはり彼女のような演算は不可能なようだ。

 そもそも私は、体が機械なだけであって、そのような演算処理は抱えていないのだから。

 

「それは果たして?」

「簡単に言っちまうとな……ますたぁ()()が触媒だ」

 

 そう、寝ながら言う。

 実に空虚な言葉で、そう言った。

 魔力が足りていないのだろう。

 これは彼女が、無意識で話している。

 

 今更ながら、その事実に気づく。

 

 そのことに、なんとも情けなくなる。

 

「それはどう言う意味ですか」

「うーん……なんてかな、難しい話なんだよな……先祖代々、あいつの一族を見守ってきたって言うか……あ、別に私の子孫とかそう言うわけじゃねーぞ。ただ……あいつの先祖を好きになっちまったからな……」

「恋……と言うものですか」

「当時の私は全くわかんなかったがな。出会うたびに心臓の鼓動が早く打つ。期待、高揚、戦えることが楽しかったからなぁ……」

「……相手は人間じゃないのですか?」

 

 おかしな話である。

 天狐、その出身などはよく知らないが、妖怪というやつだ。

 強いのは当然だろう。

 しかも彼女クラス……そうそれこそ()()持ちのような彼女が。

 人間相手に戦ってワクワクする、なんで万が一でもあるのだろうか。

 

「そいつには……何回も負けてんだ。結局一回も勝てなかった」

「っ……!?」

 

 改めて驚愕した。

 彼の先祖は一体、どのような人間だったのだろうか。

 

「強い、とにかく強い……そして生きるということに対して、異様なまでに執着していた。それこそまるであの日本のように」

「……英霊クラスの強さ、だというのですか」

「いやー……どうかな。ありゃ神霊辺りだと言っても誰も疑わねーだろうよ」

「そんな人の子孫だというのですか……マスターN/Aは」

 

 考えがまとまらない。

 思考を感情が上書きしていく。

 機械の頭では、まともなことができない。

 

 ──ああ、出来ることなら人間に戻りたい。

 

「それで、どうして彼は貴方の触媒に?」

「あー……そりゃ……ますたぁは、私の親友だったから、かな……」

 

 無意識の発言、嘘はない。

 現代、現代を生きる中で人間と妖怪が手を取り合って生きる? 

 例外中の例外、と言うか例外もいいところだ。

 どう言うことなのか、皆目見当もつかない。

 

「……できました」

「……何がだ?」

「話は終わりってことですよ。少しの間、戦場に出ることはできませんが、これで繋げてください」

 

 そう言って私は、それを手に取った。



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第18節:作戦会議

 周りを見て、状況を確認する。

 一つ言えるのは死体の山が積み重なっていると言うことだけ。

 それに対して吐き気を覚えるが、前の戦闘音がその感情を打ち消す。

 

 戦闘音に紛れ、集団の足音が聞こえた。

 兵士ども、と言ったところか。

 ここ最近出会うことはなかったが、今出会うと、相当厄介なことになるだろう。

 そう言えば……女紅帝とか言うやつ、アレも戦うことになるのだろうか。

 

「アーチャー!」

「……ふぅ、どうしたの」

「相手は……ノーベルは今どうなってる」

「致命傷、とまではいかなかったけど、なんとかって感じかな」

 

 なら、逃げても流石に追ってこないだろう。

 俺はアーチャーに指示を出す。

 

「撤退だ。令呪で回した魔力もそろそろだろ?」

「……まだ行けるけどね」

「ムーンキャンサー。撤退のルートを演算してくれ」

「はいはい……えーっとね、ここ周辺だと……うん、下から兵士たちが来てる。アーチャー、抱えて逃げれる?」

「抱えて? 行けるけど……そう言うこと」

「ん? どう言う……うわっ!?」

 

 言い終える前に、アーチャーが俺を抱える。

 後ろを振り向くと、軽く舌打ちして身を傾ける。

 すると後ろからダイナマイトが一つ飛んでくる。

 

「……へ、へへっ、逃げんなよ……私は戦えりゃなんでもいいんだよ……」

「もういいでしょ……」

 

 今の爆発により、壁に穴が開く。

 撤退のルートが出来上がったと言うところだ。

 

「また会おう、今度は敵か味方か……どっちかわからないけどね」

「逃げん……」

 

 そこまで聞こえたところで、アーチャーは飛び出した。

 

 

 

 

 

 数分後、セイバーたちのところへ帰宅。

 取り敢えず起きたことを話した。

 

「アルフレッド・ノーベルでございますか。さぞかし強かったんでしょうな」

「令呪を行使してなんとかな……何というか、敵味方どうでもいいって感じだった。取り敢えず戦えればって感じの奴だった」

「生前の逸話からはあり得ないけどね……だから一応、複合英霊の可能性も考えてる……あっ、やば。充電切れる」

「充電してくればよかったな……」

 

 テーブルを囲んで話す。

 セイバーは何かを考えているようで、頭を悩ましている。

 ランサーはふーん、と興味なさそうに答えた。

 

 真神は部屋に籠っている。瞑想がしたいんだと。

 そんなことするキャラには見えないけどね。

 

 キャスターはここで話を聞いていた。

 そう言えば真名を聞いていなかった。

 まあ、キャスターと『眠れる森の美女』で大体予想はついているが。

 

「キャスター、真名聞いてなかったな」

「おお、そうでしたな。ワタクシの真名はシャルル・ペローと申します」

 

 やはりそうか。

 作家系サーヴァントか。

 作家系って結構捻くれてるイメージが大きい。

 アンデルセンのせいだろうか。

 

 とそこで、セイバーが提案した。

 

「一つ、いいこと思いついた。そのノーベル……クラスはバーサーカーだろ。バーサーカーを奴らとぶつけるんだ」

「味方にすると?」

「敵の敵は味方って言うだろ? ……この場合ちょっと違うけど」

 

 たしかに……あの戦闘能力、味方につければ頼もしいだろう。

 だが、こっちに乗ってくれるだろうか。

 

 いかにスキルで理性はある……ないな。

 ないけど、対話は出来る。

 対話ができるが、話を聞きそうにない。

 

 ダメじゃん。

 

「どうやって……そんなことするんだ?」

「まあ……何とかするしかないな。それで、敵についてだ」

「敵に?」

 

 ああそうだ、と言うと話し始める。

 

「いいか、敵の本拠地はあの会場の地下を潜った場所にある。あの白髪のアーチャーが帰ってこないが……恐らく戦闘で……」

「今帰った……」

「ナーサリー!?」

 

 入り口に現れた少女は、それを言って倒れる。

 かなりボロボロで、怪我をしている。

 

 魔術を使うことができない俺は、見てることしかできなかった。

 

「この程度の傷なら、休んどけば回復するだろ。何があった?」

「……相手ランサー。クソ、殺しきれなかった」

 

 椅子に座らされ、そう言う。

 随分疲労しているようで、天井を見つめていた。

 

「少し……寝かして。疲れたから……」

「ああ、わかった」

「おっさんが運ぼう。作戦会議はそっちで頼むよ」

 

 そう言うと腰を上げ、ランサーはナーサリーを背負うと部屋を出て行く。

 そして話を続ける。

 

「でだ、帰ってきたから何とかできるだろ。ランサーはもういないだろ、相手も怪我を負った状態で襲ってこない……ことを祈る」

「仮定するとして……どうするんだ? セイバー」

「別れて拐われたアンナを救う組と、そのまま突撃する組に分ける。地下にアヴェンジャーがいるから、誰かが引きつける必要が……」

「それ、私にやらせてもらうと助かるなー」

 

 気づいたら、真神が部屋にいた。

 決意に満ちた目で、俺たちを見ていた。

 

「……いいのか?」

「どうせ聖杯取っちゃえば、私たち消えるんでしょ。そこは知ってる、今更命を投げ打つなんてね……それに」

 

 少し陰鬱な顔になる。

 やはり、天狐のことがあるのだろう。

 

「……わかった。取り敢えず今は仮定としてノーベルを仲間にしたとする。だとしたらそっちに誰が行くかだが……お前と、俺と、あのキャスターと、ノーベルだ」

「と言うことは……向こうは三人で行くのか?」

「ああ、向こうはそれだけでも十分だろう……あのおっさんがいるしな。いざとなればアーチャーが……。取り敢えず向こうは向こうでだ。こっちにはあの狐の……天狐がいない。戦力的にも俺が入った方がいいだろう」

 

 たしかに、それもそうだ。

 戦力的には、こっちにアタッカーを入れる。

 シャルルはあれでもキャスターだ。

 後方支援ぐらいならできるだろう。

 

「よし、じゃあ明日はバーサーカーをこっちに迎え入れる。いいな?」

「ああ……だけど、どこにいるか……」

「それなら検討はついている。今日は休め、明日に備えてな」



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第19節:戦場にて武器は取らず

 俺──即ちウォッチャーの仕事は様々だ。

 まず他の防衛杭の王の運搬。

 たまに他の防衛杭に行きたい人がいるようで、連れて行くことがある。

 俺の力は、基本的に虚構で成り立っているから、どうとでもできる。

 

 そしてメインの仕事は、防衛杭を見ることと。

 裁定だ。

 裁定の根を叩っ斬るのは俺の仕事(やる事)ではないが、「あ、もう終わるな」って思ったら区切りをつけて崩壊させる。

 日本では聖杯取得と同タイミングになってしまったが。

 おかげで、意味はなかった。

 

「はて……君はここでボーッとしていていいのかな?」

「ん? この声はキャスターじゃないか。仕事は終わったのかい?」

「ああ、端的な仕事さ。所詮は数学……1分も必要ない」

 

 それを聞いて学者達は恐れ慄くだろう。

 俺の知ったことではないけど。

 まあ、たしかに彼女の仕事をする様は見ていて気持ちがいい。

 なんせ数秒もかからずに終わるからね。

 

「……で、なんでここにいるんだい?」

「いや何、撤退してきたランサーを送り届けにきただけさ。しかしどうだい? 俺の『虚栄七英霊』は役に立っているかな?」

「まだ戦ってないからなんとも、さ」

「そうかい、そりゃ残念」

 

 その少女は()()()を動かし、軽く咳き込んで隣に来る。

 どうも苦しそうだ。

 

「それは……生前の逸話から?」

「ああ……全身に転移した癌だよ。はぁー、なんでその時代かな……姿はこんな幼気な少女なのにさ」

 

 と言って軽いため息をついた。

 

「ところで、あの作家紛いのフォーリナーは?」

「仕事中だね。彼も彼で忙しいみたいだ」

「そうかい、俺。あいつ苦手だから会わなくて済みそうだな」

 

 胸をなで下ろす。

 結構ガチで、あいつは苦手だ。

 妙にいつもハイテンションだし、かと言って戦うとこっちが消し炭にされるし。

 とにかくヤバイ。

 

「……私からも気になったことを一つ。君、室内なのに帽子は取らないのかい?」

「……どうもこの顔を見たいと見える」

「その気は無いさ、仲間同士なんだからさ」

「仲間、ね……はっ」

 

 俺は帽子を取る。

 いつも被っている帽子、これは俺と言う男を主張させる顔を見せたく無いために被っていた。

 その顔は、()()

 俺は、無面(ノーフェイス)なのだ。

 

「あー、あー……いつ見ても奇妙だね。その顔は」

「喧嘩売ってるのか?」

「君と戦ったところで私は瞬殺されるのがオチさ。やめとくよ」

 

 そろそろここにいる理由もなくなってきた。

 九龍城へと戻るとするかな。

 

「へっ……さてと、そろそろ行くかな」

「もう行くのかい?」

「なんだ、さっきまで去って欲しそうに……あー、なるほど、これが世に聞くツンデレってやつ……」

「消し炭にするぞ?」

「冗談だよ。ヘヘッ」

 

 おー、怖い怖い。

 

「……そうだな、ついでだ。部屋まで送ろう」

「頼むよ。ワープは無しで」

「はっ、お前ごときに使えるワープなんてねぇよ」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 やはり話し合いは出来ないと思う。

 バーサーカーだもの、当然だ。

 ただの人間があの戦闘能力、おかしな話だと気づくべきだった。

 

 今回は、セイバーとアーチャー、この二人と擬似契約を結んできた。

 バーサーカーの居場所としてはわかりやすく、街の中で暴れていた。

 どうやらつい昨日、しかも俺が通りかかったあのタイミングで召喚されたらしい。

 こっち側として。

 

 が、やはり予想しておくべきだった。

 複合されていたのが、()()かもしれないと。

 

「まずったね……まさかたまたま通りかかった犬を見て、暴走するとは」

「犬嫌い……ってことか?」

「あの様子だと神霊だろうし、あの戦闘狂になったと言うことは……軍神」

 

 今はセイバーとアーチャーが戦っている。

 なんとか二人かがりでギリギリと言ったところだ。

 

「犬嫌いの軍神……? そんなのいたか?」

()()()()。かつては最高神だったが、まあマイナーになっちゃったしわかんないよね。私も逸話知らないし。ただ……本来は天候神だったりするんだよね」

「天候神……でもなんで犬が嫌いで……?」

「フェンリルに腕を噛み千切られた逸話があるからだ」

「っ!」

 

 テュール。

 とんでもない勇気があったが、その勇気が仇となった神。

 と言ったところだ。

 

「しかも最期は番犬に殺されてるしね」

「うわぁ……それは……トコトン犬が嫌いになるな。しかしなんでノーベルと複合したんだ?」

「考えられるのは、色々一致したと言ったところかな。よくわかんないけど」

 

 戦闘の余波がこっちにまで飛んでくる。

 瓦礫が頭上に飛んできた。

 これには流石に避ける隙もなく……。

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』ッ!」

 

 一風の風が吹く。

 瓦礫を吹き飛ばす、強力な風が吹き荒れた。

 そのあと瓦礫は空中崩壊した。

 そしてセイバーが横に来る。

 

「大丈夫か?」

「い、今のって……」

「あー、俺たちの宝具みたいなものだ。ま、気にすんな」

 

 そう言うと飛び出していき、叫ぶ。

 その宝具名を。

 

「『黄の死(クロケア・モース)』ッ!」

 

 連続攻撃である。

 ひたすら、ひたすら、ただ打ち込んでいく。

 しっかり弾かれているのだが。

 

 そこで横にランサーが飛び出てくる。

 

「『神槍无二打(しんそうにのうちいらず)』ッ!!」

 

 追撃、ほぼ必中必殺の一撃。

 が、避けられる。

 

「な……!? あの无二打だぞ!? なんで避けられて……」

「軍神の加護、ってとこだろうね。これは……ヤバイよ」

 

 一際大きな爆発を起こし、更なる攻防が始まった。



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第20節:ごめんなさい。

 演算処理、終了。

 どうあっても負けるのがオチ。

 気づく必要すらないだろう。

 

 充電切れを目前に考えた。

 一体どうやって仲間に引き入れる気だと。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 さて結果は負けである。

 神霊だとわかった瞬間、見えていた結果だ。

 

 が、ここでセイバーが前に行く。

 俺はそれを止めようと走って近づくが、ランサーに遮られる。

 

「ちょっ……セイ……」

「やめとけ。ガキンチョじゃなんもできねぇよ」

「くっ……」

 

 武器を捨て、前に出る。

 ノーベルは片手にダイナマイトを片手に出す。

 

「おい待て待て、俺たちの負けだ」

「……なんだつまんねぇな」

 

 すると、ダイナマイトを握りつぶし消した。

 胡座をかいて座ると、ジト目で俺らを見つめてきた。

 

 これは……予想外の結果だった。

 まさか彼女が止まるとは。

 

 ただの敗北宣言をしただけである。

 だが止まってくれたと言うことは……。

 話を聞いてくれるだろうか。

 

「アンタの強さはよーくわかった。いつまで戦っても俺たちでは勝てないこともない」

「へー、でそれがどしたの? 戦えない奴に興味はないんだけど」

「提案がある。実はこれから戦争すんだが……」

「なんだとッ!?」

 

 嬉しそうに飛び上がって反応する。

 それは予想内だったのだろう。

 ランサーは上手くいったとばかりにニヤつく。

 

「それで……どうだ? その様子だと戦いたくてウズウズしてるってとこだ。一緒に来ないか?」

「行く、行く行く行くッ!!」

 

 駆け寄って、詰めてくる。

 目を輝かせ嬉しそうに。

 あの様子だと、大体の部分はバーサーカー……テュールに持っていかれてるな。

 意識な保っているけど、欲望などはそっちの方ってわけだ。

 

 で、欲望に忠実過ぎた結果がアレだと。

 

「と、だが一つ約束してほしい。とんでもない戦いをやらしてあげるかわりにな」

「ん、なんだ」

「俺の仲間には手を出すなよ?」

「なんだそんなことか、安心しろ! これでも一応神霊がいんだ、約束は破んねぇよ!」

「よし、交渉成立と」

 

 

 

 で、連れて帰ってきた。

 アレでもやはり神霊がいるからだろう。

 意外と落ち着いた様子で、真神と話していた。

 

 それで、先日俺と話していた作戦について、みんなに話していた。

 特に変えることもなしで、あのまま行くつもりだ。

 結果的にそれがいいのだろう。

 

「予定通り、仲間にできた。半端利用しているんだけど……まぁ、俺たちができるのはせいぜいその程度だ」

 

 そうだ。

 藤丸立香なら結果は多少変わっていただろう。

 しっかりとした、仲間として戦っていたのだろう。

 でも俺は、あの男じゃない。

 英雄なんかでは、ない。

 

 故にこのような方法しか取れなかった。

 それが心を締め付けて、痛かった。

 

「ムーンキャン……げ、充電切れてる……」

 

 スマホを取り出すと、画面が真っ暗だった。

 逆に切れそうな状況が先日から続いているのに、よく保ってくれたものだ。

 

「ん、どうした?」

「作戦実行は明日だよな」

「ああ、そうだが。そうか……うーん……」

「充電器か? ここにあるぞ?」

 

 と言い、セイバーが床から充電器を取り出す。

 

「なんであるんだよ」

「そう言うとこだからな、ここは(九龍城)

 

 充電を繋げ、スマホを放置する。

 そこで一つ、スマホから声が聞こえた。

 ムーンキャンサーの声ではない。

 無機質な、機械のような声。

 

『防御術式、壱型、限定解除』

 

「なんだ? どうした?」

 

 そうランサーが聞いてくる。

 そう聞かれても、わからない。

 

「さぁ……? まあ、変なこと起きないし、ほっといていいんじゃないかな?」

 

 

 

 自室に行く。

 作戦決行日は明日、しっかりと備え寝なくてはならない。

 明日……明日でこの世界とも決着がつく。

 二つ目の防衛杭、藤丸立香のように、その世界の人たちと会話を交わすことは俺にはできない。

 

 無駄な罪悪感が付き纏うからだ。

 そんなもの背って、進んでいけるわけがない。

 いけるわけがないのだ。

 

 結局、なんでただの人間である俺が選ばれたのだろう。

 もしかしたら俺の世界にも、魔術師ぐらいいただろう。

 だったらそいつを選べばいい話だ。

 俺なんて……なんの役にも……。

 

 自室のベッドに寝転んで天井を見つめる。

 無機質な天井が、今の俺には心地が良かった。

 

「あの……入ってもいいかなー?」

「真神か……ああ、大丈夫だが……」

 

 真神が部屋に入ってきた。

 

「……その、大丈夫かなーって?」

「まあ、大丈夫だ。令呪は一角ないけどなんとか……」

「そうじゃなくて、精神的な方だよー……ほら、天狐ちゃんやられちゃったし……」

「まあ……なんとか」

 

 大丈夫なわけがないのだ。

 だが、この話をするわけにはいかない。

 なんとか話をずらすため、違う話題を出す。

 

「そういえば……あの地下にいた、もう一人の天狐のこと、黒羽って呼んでたよな?」

「あ、そこ聞いちゃうかー」

「ってことはさ……」

「うん、あるよ。天狐ちゃんにもちゃんと名前」

「教えてくれないか? 今更聞くのもなんだかさ……」

 

 ずっといた、だからこそ今更聞くのはなんだか気が引けた。

 だからここで聞いておきたかった。

 

「秘密って言われてたんだけど……ま、いいか」

「どうかしたか?」

「ううん、なんでもないよ。天狐ちゃんの名前はね、(あかつき) 雛子(ひなこ)って言うんだー」

「あかつ、き……ひな……こ……?」

 

 一瞬の激痛が、頭を駆け巡る。

 

 

 ──約束、守ってくれる? 

 

 

 聞いたこともない言葉が、脳内に響き渡る。

 

「うがあ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛アッッッ!!!!!!」

 

 頭を抱えうずくまる。

 

痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 思考がまとまらない。

 

「ど、どうしたの!?」

「違う……違うんだ……俺は、俺は……ごめん、ごめ゛ん゛ッ……」

 

 泣いていた。

 何故かわからないが、泣いていたのだ。

 

 気づかないかった、泣いていた。

 駄目だ、思考がまとまっていない。

 

 

 ──最後まで、守れなかったね。ごめん

 

 

 やめてくれ、そんな、そんなことを……。

 俺は違う。

 何を……。

 

「ま、かみ……すまん……部屋から、出て行ってくれないか……」

「う、うん……」

「すま、ん……」

 

 俺は一晩、泣いて悩んで、苦しんだ。



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第21節:敗退を望まず

 休憩し、時間を稼ぐ。

 私はそれしかできない。

 

 恐怖が体を覆う。

 

 何度も突きつけられた、銃の感触を忘れられないでいた。

 

「さあ、続きを始めましょう」

 

 もう、耐えきれない。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「と、言うわけで作戦を開始する。いいな、昨日言った通りだ。ノーベル、お前は……とにかく暴れろ」

「へへっ、楽しみだ」

「充電満タン! いくらでも演算するよー!」

 

 準備は、万端だった。

 令呪は二角、擬似契約はセイバーとノーベルとシャルル、後は真神だ。

 真神とは地下で別れる予定ではあるが、一応契約しておいた。

 

 天狐……天狐に関しては、令呪を使えない。

 いや、ムーンキャンサーに頼れば何となるが。

 今回の戦いで呼ぶ気はさらさらないけど。

 

「よし、行くぞッ!」

 

 家から出る

 

 途中で三人たちと別れ、目的の場所に向かった。

 

 

 走って、階段まで向かう。

 何と、ここで奴らが現れた。

 そう、スーツの男たち。

 

 抵抗するために、俺は銃を抜く。

 

 恐怖はない。

 勇気もない。

 そして、力もない。

 やれることは、ある。

 

 戦闘が始まった。

 敵は軍隊並みの数。

 と言っても、軍隊みたいに規律正しいわけではない。

 各自が自由に戦っている感じだ。

 

「セイバー! 宝具ってどう言う感じなんだ!?」

「残機制と言ったらわかりやすいな! そしてその残機を使うことで宝具を放てる!」

「……わかった」

 

 剣を振るう。

 後ろからキャスターの援護があるため、その振りはかなりのものだ。

 だが、出来るだけ早めに片付けたい。

 

「……そこを退けェッ!! 『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』ッ!!」

 

 手にしていた剣を頭上に放り投げると、太陽が顕現する。

 落ちてきた剣を手に取ると、それを振るった。

 広範囲にわたって振るわれる太陽の一撃、大軍に大穴を開けた。

 

「ノーベル、そいつらに構うなッ! 先へ行くぞッ!」

「あ? 何でだ!?」

「もっと強い奴がいるからだよッ!」

 

 ならしょうがねぇ、と言って後ろからついてくる。

 何というか、根本的に戦闘狂だ。

 

 おかげで助かっているとは言えるが。

 

「絶対に! 止まるんじゃねェッ!!」

「おー」

 

 真神も緩い掛け声を出し走る。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「遂に動きましたか。ええ、僕は監督ですが、マスター殿のサーヴァントなのでね。最後まできっかり働きますよと」

 

 玉座まで歩いてくる。

 そして軽く手を叩くと、女王は姿を消した。

 

「偽りの女王はもういりませんのでね。はてさて、どうしたもんですか」

 

 改めて周りを見渡す、ここで戦うの少々狭すぎる。

 だとしたら外で戦う以外道はないだろう。

 それに、聖杯を植えていない。

 

 マスターは植えるつもりだったそうだが、色々追われていてまだできていないようだ。

 

「む、マスター。進捗はいかがで?」

「またそれ……もう聞き飽きたわ」

 

 突然現れたマスターは、玉座に登り、座る。

 その席は、この世界を収める者の席。

 まさに彼女に相応しかった。

 

「それでどうしたのですかな? やることでも……」

「ないわ、だからこそ来たのよ。決戦はそこまで近づいている」

「ええ、そうですね。それで戦闘は外でやりますが、どうされるので……」

「ついて行くわよ。貴方のマスターだもの、最後まで付き合うわ」

「それはそれは、嬉しい限りで」

 

 窓を開け、地上を見る。

 大量の兵士が、蹂躙されていた。

 奴に味方するサーヴァントは多い。

 

 奴は、この世界を破壊するために来たのだ。

 そして奴のいた人理のサーヴァントなのだから当然だ。

 

 対してこっちは、地下にいるアヴェンジャーしかいない。

 ほぼ詰みだ。

 だが、抵抗だけでもしてみよう。

 もしかしたら勝てるかもしれない。

 

「マスター殿、ここは一つ……虚構を演じましょう」

「……いいわ、やりなさい。令呪を以って命ず、シナリオを書き上げなさい」

 

 自身の体に魔力が満ちるのを感じる。

 僕はただ、紡ぐ。

 

「今、シナリオは出来上がった。いくつもの憐憫に於いて、誰も我を見ず。求めたは傑作としての終焉、されど出来損ないを纏め上げ、完成したのは最悪のモノ。『九つ紡ぐ、最低のシナリオ(フロム・アウタースペース)』」

 

 宝具は発動した。

 舞い降りてきたのは、いくつもの宇宙船。

 そう、宇宙船であった。

 

 この宇宙船を奴らにぶつける。

 結局は虚栄でしかないから、意味はあるかわからない。

 だが……。

 

「僕の宝具は、少しぐらいは役に立ってくれるだろう」

 

 戦いが、始まる。



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第22節:行動開始

「ねね、ちょっといい?」

「ん、どうした、ムーンキャンサー」

 

 俺はスマホを手に取る。

 相変わらずの白い空間に一人佇んでいる。

 階段を上っている途中だが、なにやら話したいことがあるようだ。

 

「……おかしいと、思ったことがあるんだよね」

「おかしいと思ったこと?」

「うん、この土地のサーヴァントについて」

「あー……確かにおかしいな、九龍城は香港にあるはずなのにな。何で全く別の国のサーヴァントがいるんだろうな」

「もしかして……ううん、考察に過ぎないから今は置いとく。今は目の前に集中して!」

 

 なんか……ホームズみたいなこと言うんだな。

 ホームズも確信が取れるまで、推理を言うことはない。

 

 ……確かに、おかしな話だ。

 本来、中国とかその辺りのサーヴァントが召喚されるはず。

 だが、シャルル・ペロー、真神、アルフレッド・ノーベル、そして敵の天狐。

 あとあの三人。

 

 召喚された人を見ると、全く関係ない人たちが召喚されている。

 つまり……どういうことなんだろうか。

 一応そのことを考えておこう。

 何か重要なことかもしれないし。

 

 登り切って周りを見る。

 人の様子はない、先へ進む。

 

「っ!? 止まれッ!」

 

 セイバーの突然の制止に、足を滑らせかける。

 上を見ていたもので、俺も同じように上を見た。

 そこで見たものは、宇宙船だった。

 よくある円盤型の、宇宙船。

 

 それが大量に現れた。

 

「……は?」

 

 つい、声が漏れる。

 あまりの非現実的なそれに。

 

 全員武器を構える……前に。

 ノーベルが飛び出した。

 それにしがみついたと思った次の瞬間、宇宙船の中に手を突っ込む。

 次の瞬間、それは爆発した。

 

 袖がチリチリになっているが、気にせずもう一機にしがみつくと爆破させた。

 で、戻ってきたと思ったら、片手にダイナマイトを生成。

 

「……ぶっ壊すッ!!」

 

 また飛び出していった。

 

「ここは、ノーベルに任せるか。行くぞ」

 

 セイバーは先行して進む。

 ノーベルは一人勝手に戦闘を続けた。

 

 

 

 会場の前に来た。

 

「さて、これからさっきいた通りだ。ナーサリー、魔力でアンナを辿れるな?」

「できるよ、セイバー」

「本当に三人だけで大丈夫か……?」

「大丈夫、どっちかと言うとあんたの方が心配なんだけど……人類最後の希望」

「なんかその呼び方やだな。シーハと同じようにN/Aって……いや、なんでもない」

 

 軽い頭痛に苛まれ、それ以上なにも言わない。

 言う必要が、なかったのかもしれない。

 わからない。

 

「集合場所も確認したな。よし、それじゃ作戦開始だ……まあ、生きて帰れとは言わん、サーヴァントだしな。だがせいぜい、サーヴァントらしく任務の達成程度はしてみせろ」

 

 俺を除いて、全員頷く。

 三人はナーサリーを戦闘に地下とは逆の方に行く。

 俺たちは地下に向けて走り出した。

 

 が、地下に入る前に、ガラスを突き破って円盤型の宇宙船が現れる。

 次の瞬間、ビームを放ってきた。

 それを真神が、太刀で弾き返す。

 

 原作でエネミーで出てきたら確実にアーチャーだろう。

 

 はっきり言って、あの感じでは銃は意味をなさない。

 要は、俺は戦力にならないと言うわけだ。

 マスターらしく、後ろで指示を出すことしかできない。

 

「シャルル! セイバーと真神を魔術で支援しろ! 真神! 大振りの太刀で叩き落とせ!!」

「はいよッ!」

 

 両側から二人が挟むように回り込む。

 飛び上がると、それを真神を狙い銃口を向ける。

 そこにセイバーが割り込む。

 

 そしてセイバーはビームで貫かれ、地に叩き落される。

 

「セイバー!?」

「大丈夫だ! 一撃程度じゃ死なねぇッ!」

 

 真神が太刀を振り下ろし、宇宙船を叩き落とす。

 そこにセイバーが剣を突き刺すと、叫ぶ。

 

「『輝ける本懐の剣(クラウ・ソラス)』ッ!!!」

 

 そう叫んだ瞬間、宇宙船は内部から崩壊した。

 

 セイバー、『剣士』。とんでもないサーヴァントだ。

 ありとあらゆるセイバーの宝具を行使できる。

 限度はあっても尽きる前に勝利してしまえばいい。

 本来の聖杯戦争で召喚されたら、結果は見えているようなものだ。

 やろうと思えば、ギルガメッシュも圧倒できるのではないだろうか。

 

 後ろからついていき、そう思う。

 彼自身の戦闘能力は微妙そうだが、恐ろしいのは宝具と言うわけだ。

 

「さて、今から件の地下に行くが……残念なことに俺たちには、気配遮断がない。よって……真神、突っ込め」

「……」

 

 俺は、止めることすらできない。

 止める必要のないことだ。

 そうだ、多少の犠牲は必要なのだから。

 

 違う……自身が傷つくのが怖いのだ。

 

「マスターは要、こいつがいなくなれば……まあ、聞いた通りだ。こっちの世界に変化はないが、向こうはパーってなる。そこんとこ重要だからな」

「ふむ、わかりましたとも。つまりは、戦闘中にバレなければいいのでしょう?」

「まあ……そうだが、何かあるのか?」

「ええ、これです」

 

 そう言うと本の中から黄金に輝く皮が出てきた。

 これは、『ロバの皮』か? 

 

「こんな輝いてるもので姿を隠すのか……?」

「……いや、いける」

 

 俺は話を思い出す。

 ロバの皮は一人の王女の話。

 超大雑把にすると、これで身を隠すと言う話ではあった。

 

 気配遮断、付与程度ならできるのではないだろうか。

 そのことを伝えると、少し考え頷く。

 

「よし、それじゃあ……頼んだ」

「……死ぬなよ」

 

 俺は搔き消えそうな声で言う。

 

「……うん、頑張るよー」

 

 真神は太刀を手に、駆け出していった。

 俺たちはロバの皮を被り、行動を開始した。



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第23節:真神と黒羽

 私は駆ける、奴に一撃を与え、トドメを刺すために。

 許せない、って言うものなんだろう。

 生前、あることを成し遂げた私は、感情を消失した。

 今までだって、悟られるようにそうやっていただけだ。

 

 逸話、のせいだろう。

 おかげで鉄仮面なんてスキルまで付いちゃって。

 でも……天狐の……雛子の前だと私の感情が動いた。

 生前からずっとそうだ、彼女の前なら動いていた。

 

 理由はわからない、でも……ただひたすら嬉しかった。

 嬉しいと言う感情が、はっきりわかっていた。

 

来たなァァァァアアアッッ!!!

「来たよー……お前を殺すために」

 

 太刀を下段から構える。

 奴の大振りの一撃が届く前に、太刀を振り上げ弾く。

 それにより、隙ができる。

 たった一突き、与えるための隙が。

 

 そこを狙って刺突。

 が、刀により、軽くズラされる。

 

「な……」

ありえない、とでも思ったか?

 

 思ったとも、()()()()()

 明らかに太刀の方は重量が大きい。

 威力も相まって、刺突をズラす事はほぼ不可能なはず。

 はずなのだ。

 

宝具……『天啓、我を見ず』だ

 

 常時発動、対人宝具ッ! 

 

 そうだ、彼女の逸話は……()()()神に見られなかった事。

 と、()()()助けられなかった事。

 

 ただ、運と実力だけで足掻いてきた彼女は、ありとあらゆる戦闘に有利な判定が付く。

 一撃で死ぬような攻撃すら、稀に避け切る宝具だ。

 スキル『啓示』が、劣化し進化したもの。

 

 しかし、あの様子……あれは、()()()()か。

 

一つ、確信を得ず

「ッ……!?」

 

 直感が働く、全身の毛が逆立った。

 後ろに飛んで、奴から離れる。

 

 が、奴は詠唱を続け、突っ込んできた。

 

二つ、この身尽き果てるまで動く

「くっ……! 止まれッ……!」

 

 太刀による攻撃、だが全て受け流される。

 目の前まで近づいて、刀を振り下ろし……。

 

 私はそこで、()()()()()()に手をかける。

 私の太刀は本来の宝具ではない。

()()()()()()()だが。

 

 こっちが本来の宝具の時は、バーサーカーだ。

 あの太刀にて成し遂げたのは、雛子が殺されたと聞いて、暴れた時に手に取ったものだから。

 それによって、敵を全員殺したと言う逸話から成り立ったものだから。

 

 セイバーとしての私は、感情を捨て、相手を殺すために、ただ一閃を得たもの。

 

「『感朸宝剣(かんりょくほうけん)』」

 

 一本の刀を取り出す。

 緑に輝く、刀を。

 

 出てきた風圧で、奴は吹き飛ぶ。

 壁に足をつき、着地……詠唱を続ける。

 

三つ、奴を殺せと囁く

「やってみろよ」

 

 太刀を捨てたことにより、軽くなった全身。

 軽く踏み切ると、奴の寸前まで飛ぶ。

 刀を振り下ろす。

 が、受け止められる。

 

 攻撃を続ける。

 連続攻撃を打ち続ける。

 

 だが、奴の目は私を捉えていなかった。

 

殺せ(殺戮)殺せ(壊滅)殺せ(死滅)』」

 

 宝具の発動。

 斬撃が、届く。

 この一撃、防げないッ! 

 

「真神ぃッ!!!」

 

 遠くから、叫び声。

 あいつの、雛子のマスターの声。

 

 黒羽は、そっちを見た。

 斬撃は掠れ、ずれて当たらなかった。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 わかっている。

 これはエゴだ。

 助けれやしない。

 それどころか、作戦をぶっ壊す……やってはいけないことをした。

 でも叫ばずにはいられなかった。

 

ミツケタゾォッ!!!

 

 叫び声を上げた俺を見て、奴は飛び出してくる。

 セイバーが前に出て、剣で受け止める。

 

「チッ……説教は後だッ! 総力戦で決着をつけるッ!!」

 

 受け止めた刀を弾くと、奴は後ろに飛んだ。

 それを追いかけるように、セイバーは駆け出す。

 

「……」

「くれぐれも、間違ったなどと思わないように。ワタクシは貴方が間違ったとは思いませんので」

 

 気づけば隣でシャルルが本を手に立っていた。

 

「だが俺は……」

「いえいえいえ、貴方があそこで叫ばなければ彼女は死んでいたことでしょう! ……ええ、正しい選択ですとも。ですが、勘違いなさらないように、正しいのであって、正解ではないのですから」

「……」

 

 俺はそれ以上、何も答えられなかった。

 後悔してももう遅い、先へ進むしかない。

 

「ムーンキャンサー、わかる程度でいい。アヴェンジャーの事について話してくれ」

「……うーん、私そう言う機能は生憎持ち合わせていないしなぁ……あ、ちょっと時間をくれたらなんとかできるかも」

「わかった、頼む」

 

 俺は、その戦いを見つめる。

 壮絶なその戦いを。

 

 二人同時に攻撃を放つ。

 だが、一撃追いつかず。

 避けられる。

 

 と、隙を見て俺の方に飛んでくる。

 

「スマホ……か知らないけど、前にかざして!!」

 

 ムーンキャンサーが、唐突にそう叫ぶ。

 俺は咄嗟に、スマホを前にかざした。

 すると、結界が張られる。

 まるで、マシュの宝具のように。

 

 そして奴の攻撃を防いだ。

 

「仮想宝具『防御術式:壱型限定解除』」

 

 何が起きてるのか、さっぱりだった。

 

「え、なにこれ……」

「これの機能の一つみたいだね。対サーヴァント用に作られたみたい。これ自体には色々機能があるから今は開放作業中だよ」

 

 なんとも頼もしい限りだ。

 何故そんなものがここにあるかすごい気になるが。

 

 ちょっと時間をくれたらなんとかできるかも、とはそう言う事らしい。

 

「……セイバー、宝具打ち込めッ! 真神、死なないように上手く立ち回れッ!!」

 

 叫んだのだ、死んでもらっては困ると言うもの。

 ならせいぜい、生き抜く。

 ともに、絶対に。



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第24節:死なば諸共

「……ダメか」

 

 私は薄々ながら察していた。

 今の戦力では犠牲出さずして勝つことは不可能だと。

 

 他のみんなも察していただろう。

 ならば犠牲を出してでも早々に決着をつける。

 それが良いと言うもの。

 

 それに……ここで生き残っても、雛子に合わせる顔がない。

 

 二度も、助けられなかったから。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 徐々に追い詰められていた。

 宝具すら避ける奴の技量には驚く。

 

「サーヴァント解析機能開放したよ……と言ってもわかるのはスキル程度。宝具は不明だからね!」

「ああ、スキルでもわかれば十分だ! で、どう使うんだ?」

「英霊相手に写真を撮るだけ。簡単でしょ? まあ解析に時間がいるんだけども……」

 

 俺は説明された通り、遠くから奴を写真に収める。

 すると画面が黒くなった。

 ムーンキャンサーは作業を始めたようだ。

 

 俺は前の戦闘を見る。

 横ではシャルルが魔術による支援を行う。

 二人の行動力は上がっていくものの、それら全ていなされている。

 奴は……まるで、執念に取り憑かれているようだった。

 

 俺を殺すと言う目的、たった一つに。

 

 クラスがアヴェンジャーだと言うのもあるんだろう。

 奴が歩んできた人生、それを知ることはないだろうけど、奴の執念さを見ればどれだけ大変だったかは、はっきりわかる。

 

「スキル、わかったよ。まだ機能制限が多いからランクまでは不明だけどね。戦闘続行、直感、狂化だね。それと……死滅論理」

「死滅論理……ってなんだよ」

「さぁ……危険な事って言うのはわかるんだけどね」

 

 ならば早期決着をしたほうがいいだろう。

 令呪、あれを使うか……。

 

 俺は右手を前に差し出す。

 令呪を使い、倒すために。

 

 だが、隣に飛んできた真神が、俺の手を下ろさせる。

 

「真神……?」

「……先へ行って、私は通す気ないからさー」

「だが……」

「大丈夫だって、絶対に通さないから」

 

 俺はその言葉を聞き、一瞬不安に陥る。

 だが、ここは真神を信頼する事にした。

 

「……わかった、絶対に死ぬなよ」

 

 今度はしっかり、正面から言えた。

 死ぬな、と。

 

「セイバーッ!」

「なんだ!?」

「行くぞ……真神がここを食い止めるッ!」

「……わかった。が、少し待て」

 

 セイバーを奴と戦っている、少しズレたタイミングで、奴の刀を弾くと後ろに下がる。

 そして何処からか現れた鞘に剣を収めた。

 

「『不抜刀の誓い(聖カトリーヌの剣)』」

 

 そう言って鞘に収めた剣を、高々と掲げた。

 聖カトリーヌの剣。

 ジャンヌ・ダルクの剣だ。

 

 もしかして彼女、セイバー適性が……? 

 いや、わからない。

 

 生前剣を抜かなかった逸話から来ているのは、確かだろう。

 だが、あれでどうなると……。

 

 宝具を使用した途端、奴の動きが止まる。

 いや違う、動けなくなったのだ。

 

「行くぞ!」

 

 俺たちは後を真神に任せ、先へ進んでいったのだった。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「ふぅ……やっと惜しみなく宝具が使える」

 

 私は剣を下ろし、奴に近づく。

 少し近づいたところで、拘束から解除されたのか、飛び出してきた。

 奴の刀が、私の体に突き刺さる。

 

 が、今更何も怖くなかった。

 痛くはあった。

 感情がないのだから、痛みはあっても痛いと言う感情が湧き上がらない。

 

 私は緑に輝く刀を見つめる。

 この刀、生前の友である……雛子が私にくれたもの。

 死んでからも、それを忘れることはなかった。

 あの時はただ、嬉しかった。

 

 嬉しいと言う感情が私を埋め尽くしていた。

 それがどう発展したのか、もう忘れしまったが、好きと言う感情に変化した。

 ただ、彼女の前にいるとそれが湧き出るだけであって、日常では何にも思わなかった。

 

 拒否されている、嫌われているかな。

 などと昔はたまに考えたものだ。

 今となっては、どうでもいいと思っているが。

 

 私が好きでいれば、それでいいと。

 

「決着をつけよっかー」

 

 奴は驚いていた、私の体から剣が抜けない事に。

 そう私は、奴が近づいた瞬間に、宝具を発動していた。

 

「我が生涯に、意味を考え続けた」

テメ……!?

 

 詠唱を始めたことで気がついたのだろう。

 私が宝具を使うことが。

 

 だが、もう遅い。

 

 私は刀を手に、奴の腹を貫く。

 これでもう、お互いに動けない。

 それが私の宝具だから。

 

「ねぇ、知ってる? 私の最期……思考の果てに、意味など非ず」

し、知るかッ……!

 

 必死に私の刀を抜こうとしている。

 ビクともしないが。

 

「減衰を経て、覚悟を決めた。共に歩んだ道は全て終えると」

クソ……野郎ォォオオッ!!!

「『回帰、道隔たりて乖離せよ』」

 

 刀に、ヒビが入る。

 体から光が溢れる。

 霊基が消滅する時に出る、あの光だ。

 

 それは向こうも、同じだった。

 

「雛子、ごめんね……そして、ありがとう」

 

 そしてこの九龍城から、二人の少女は姿を消した。



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第25節:玉座

「さて、お前らに伝えたいことがある」

 

 セイバーが唐突にそう言った。

 長い階段を登り、この地下の出口はもうすぐ。

 奴との相対まで、もう少しだった。

 

「どうした?」

「俺は今、宝具『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を発動させている。効果は……」

「大丈夫、わかるから……だがそれは……」

「俺はセイバーの宝具をなんでも出せると言ったろ。と言うわけで、これはお前が持ってろ」

 

 無理やり押し付けられるような形で、鞘に渡された。

 これ、永久に残るのだろうか。

 聞いてみたところ、流石にそんなことは無いようで、自分が消えたら消えるらしい。

 擬似的な宝具に過ぎないから、効果は同じでも永久に残ることはないと言った。

 

「でも、なんでこんなもの……」

「……勇気増幅材だな。それがキッカケになるといいと思ってさ」

 

 勇気増幅材、か。

 確かに死なない、ってのがわかると勇気は満ちる。

 だがそれは、勇気なんてものではなく……。

 

 一般的に言う、蛮勇と言うものだ。

 

 それにだ、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』は、カウンターとして使うことができる。

 そっち方面で使った方がいいのではないのだろうか。

 

「え、カウンター? 俺そう言うの難しくてわかんねぇからいいや」

 

 と言うことであった。

 ならしょうがない。

 

 上へ辿り着く、城の中だった。

 その場所に似合わぬ、城であった。

 

 中では大量の兵士、それに宇宙船。

 たくさんであった。

 

「ほうほう、これはすごい! さてセイバー殿、頼みましたぞ!」

 

 そう言うとシャルルは、俺の後ろに隠れる。

 セイバーは駆け出す、俺は魔術を利用し、シャルルも魔術で支援を始めた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「入ってきましたな。ええ、それでは僕も頑張るとしますかね。それではお先に」

「……ええ、また後で。絶対に、殺すわよ」

 

 敵に対して、明確な殺意を持って別れる。

 キャスターは窓の外へ。

 私は玉座へ。

 

 お互い、信頼をしているかと言われると、そうでもない。

 ただ、協力しあっているだけだ。

 

 彼はこの世界の維持。

 私は根を育てる。

 そう言う関係性だ。

 

 根を植える前に奴が来てしまったが。

 アンナはどうなっているのか、もはやそんなことはどうでもいい。

 勝率はほぼ1%、向こうには強力なサーヴァントばかりだから。

 

 だからこそ、勝てるはずもない。

 でも、私たちは……私は争うしかなかった。

 それ以外に、生きる道なんてなかったから。

 

 元々私の寿命は短い。

 後、数日もすれば死ぬだろう。

 今死ぬか、数日後死ぬか。

 その違いだ。

 

 ならばせいぜい、勝って死んでやろうではないか。

 浅ましく足掻いて、欲望のままに生きて。

 

 ただ私は、死にたくないだけだから。

 

 ああ、なんて人間らしい。

 

 聖杯は渡さない、でも死にたくない。

 それこそ私の求めていた、人間らしさだ。

 

 人間らしさ、と言うものなんだ。

 

「──もう、終わりそうだな?」

「ウォッチャー……なに、邪魔しに来たのかしら?」

「いやいや、最期を看取りに来たんだよ」

 

 キョトンとして、笑う。

 

「そう、なら楽しんでいきなさい」

「ああ、最期まで人間らしく足掻く様……楽しく拝見させてもらうよ」

 

 そう言うと姿を消した。

 その代わり、どこからか見られていると言う感覚はあるのだが。

 

 そっか、看取ってもらえるだけ、マシか。

 ああ、それでも結局私は、最後まで人間ではなかった。

 

「……あ、んな?」

 

 来た。

 遂に決戦の時が来た。

 ああ、そうだ、いっそ思いっきり演じてやろう。

 

 最期の大舞台なのだから。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 そこにいた少女は、アンナと同じ顔をしていた。

 髪の色は青く、唯一違う点はそこだけだった。

 

「来たのね……初めまして、と言うべきかしら。人類最後の希望さん」

「お前が……ここの王、なんだな?」

「ええ、そうよ」

 

 周りを見る。

 サーヴァントはいない、アサシンではないだろう。

 前のあそこがアサシンだった。

 

 かといって異聞帯のこともあるし、アサシンの可能性だってありえる。

 様々な可能性を考慮に入れなくてはならない。

 

 だが、その可能性は否定される。

 

「ここに私のサーヴァントはいないわよ? ちょっと出かけてるから」

 

 それを不審に思いつつも、セイバーはヘラヘラした様子で前に出る。

 

「マスターを残してお出かけとは、随分不忠実なサーヴァントだな?」

 

 セイバーがそう言うと、真剣な顔つきで俺らを見下す。

 蔑むようで、嘲笑のようで、まるで恐怖のようで。

 

「不忠実? ()()()。忠実よ。忠実だからこそよ。さあ……裁定の時は()()()! 現実は混同し! 世界はたった一つの根によって収束する!!」

 

 その時、地面が揺れた。

 地震が起きたのだ、途轍もなく大きな地震が。

 

 数分にも渡る長い地震が終わる。

 周りを見るが、特に何もない。

 変動したわけでも……。

 

「なんですかな、これは……なんの、冗談ですかな?」

 

 シャルルが外を見て、驚愕していた。

 俺とセイバーも、急いで窓に駆け寄ると外を見た。

 

 そして俺たちは驚愕した。

 

 今までそこにあった景色は消え失せ。

 あったのは廃墟のみ。

 

 中央には光の柱が立っていて、木の根が街を蹂躙していた。

 

 後ろでアンナらしき人物は語る。

 

「そうね……名付けるとするならば、『虚構架空要塞『庭園』』ね。急いだ方がいいわよ? あの根は急速に成長している。育て切ると……」

 

 そこまでで言い終える。

 何が起きるか、それを考える前に俺は行動していた。

 

 それを追うようにセイバーたちも付いてきたのだった。



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第二防衛杭:虚構架空要塞『庭園』
第26節:VS裁定根『???』


 助かった。

 結果的に言えば、一瞬遅ければ死ぬところであった。

 遠くから紅く輝いた、ランサーの槍が飛んできたおかげで助かったのだ。

 

「──『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』だ。んま、おじさんの槍は強いからな」

 

 周りにいた男たちを、たった一本の槍で、圧倒したのだ。

 

 後からナーサリーとアーチャーが入ってきた。

 

「……大丈夫?」

「え、ええ……ナーサリー、助かったわ……希望たちは?」

 

 名前がわからない。

 取り敢えずこう呼ぶことにした。

 こう呼んでおけば分かりやすいだろう。

 

「今は上の方で……?」

 

 途端、地震が起きた。

 途轍もなく大きな地震が、起きたのだ。

 

 この地震には覚えがあった。

 別の防衛杭で体験した。

 裁定の根を植えた時に起きる地震だ。

 

 マズイ。

 

「三人とも! 急いで地上に出るわ! マズイことに、なってる……!」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 セイバーに背負ってもらい、全力で走っている。

 その途中で始めて気づいた。

 

 ここ、香港ではないのだ。

 そもそもどこであるかすらわからない。

 だから色々な英霊が召喚されたのだろう。

 

「おやおや、もう少し遅いかと思いましたが、来ましたか」

 

 あれから数分でここまでで辿り着いた。

 

 周りには木の人形が大量に転がっている。

 中心からは相変わらず光が満ちていた。

 

 辿り着くとそこに、一人の男が立っていた。

 

「お前が、アイツのサーヴァントか」

「ええ、そうですよ。彼女、ホムンクルスでしてね。随分と寿命が短いんですよ」

 

 突然、男は根を前にして語り始める。

 

「僕は彼女の願いを叶えるために召喚されたんです」

「つまり、その根を育て切ると?」

「ええ……それでは始めましょうか!! 僕の真名はエド・ウッド!! シナリオは既に書き上げられた!!」

 

 それをキッカケにセイバーが駆け出す。

 先手必勝と言わんばかりに、一撃を繰り出す瞬間だった。

 大地から木の根が生える。

 

 まるで殴りあげるように、セイバーを吹っ飛ばした。

 

「が、はッ……!」

 

 そして光の柱が出ているところに、何か宝玉のようなものが出てきた。

 

「……あの中に聖杯がある。さあ、奪い取ってみたまえ!」

 

 膨大な数の根が現れる。

 この三人では、あまりにも戦力が足りなさすぎる。

 が、やるしかない。

 

「セイバー……一蹴出来ないか、あれ」

「宝具使えば……と思ったが、残念ながらそろそろ残機がヤベェ……不可能だ」

 

 天狐がいればよかったが……。

 怪我人を戦わせるわけにはいかないだろう。

 

 彼女の宝具を使えば、なんとか突破できたかもしれないが、しょうがない。

 

「しょうがねぇ、アイツらが来るまで一本一本斬っていくぞ」

 

 だが、奴はそんな隙すら与えてくれなかった。

 少女が一人、奴の隣に現れる。

 魔術を使ったのだろう、どういう原理かサッパリだが。

 

「……そんな隙、与えるとでも?」

 

 少女はそう言い、隣に立つ。

 すると、右手を横に出す。

 令呪が描かれたその手を。

 

「エド……令呪を二画持って命ずるわ。完成させなさい……貴方の、最悪のシナリオをッ!!」

「……えぇ、えぇっ!! 今こそ完成させましょう! 我が最悪のシナリオをッ! 既にそれは完成された! 現実邂逅なりて、世界を作り上げる! この身は主役なりて! さあ!! 現実を演じ切ろうッ! 我が名は『最低最悪の映画監督(エド・ウッド)』ッ!!」

 

 そう叫んだ瞬間、その時の彼の霊基は限界であった。

 消滅していく中、彼はいう。

 

「さあ、賽は投げられた! 勝利の女神はどちらに輝くか! 僕はマスターだと思いますがね!! はーっはっはっはっはっ!!!」

 

 高笑いとともに、彼は消えていった。

 同時に、宝玉らしきものは輝く。

 それが更に力を増しているのは、俺でもはっきりとわかった。

 

「さあ……行きなさい! 裁定根『ジュピター』ッ!」

 

 根が飛んでくる。

 セイバーはそれを避けるが、別の根が飛んで来る。

 それをなんとかギリギリ剣で躱すが、また更に飛んでくる。

 

 流石にそれを避けきれず、壁に殴りつけられる。

 

 そこから更に追撃で攻撃が加わる。

 

 剣戟で斬り刻む。

 が、いくらかダメージを受けていた。

 

「くっ……んだよ、これ……馬鹿みたいに強えぞ……」

「当然でしょ? キャスターが命をかけて最期の強化をしたのだから、当然強いに決まってるわ」

 

 俺はスマホを取り出し、ムーンキャンサーに結界を張ってもらう。

 俺らの方にも攻撃が飛んできていた。

 

 空想樹相手してるような気分だ。

 

 かなり、強い。

 

「シャルル! セイバーの援護……」

「していますとも! ですがアレでは……!」

 

 やはり一人では……。

 

 と、そこで矢と銃弾が根を引き千切った。

 更に槍が投擲され、更に引き千切る。

 

「ッ……!? アンナッ!?」

「待たせたわね!」

 

 アンナたちが現れた。

 向こうは、こっち側を見つめている。

 

「アンナ……久しぶり」

「ええ、久しぶりね……今こそ私のした間違いに、決着をつけるわ」

「……ふざけないで……ッ! 私が……私はッ……!!」

 

 裁定の根が飛んでくる。

 それをランサーは簡単に引き千切る。

 

「もう……終わらせるわよ」

 

 総力戦が始まった。



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第27節:最後の願い

 俺たちは後ろから援護を続ける。

 今は、ムーンキャンサーの出す結界の後ろに三人で隠れている。

 

 アーチャーは遠くから連射、隣でナーサリーがビームを放つ。

 セイバーとランサーは次々と根を千切っている。

 

「行きなさいッ……! あいつら……あいつらを殺せェェえええッ!!!」

 

 彼女は叫ぶ、ただただ必至に。

 殺すために。

 

「ランサー! 擬似契約だ! こっちに……!」

 

 ランサーが下がってくる。

 そして結界の後ろに隠れ、話す。

 

「……本当にいいのか?」

「ああ、令呪でブーストしてあの根を吹っ飛ばす」

「セイバーの方がいいんじゃないかしら?」

 

 アンナは魔術で遠くから攻撃を飛ばす。

 抑圧的なことならある程度できている。

 ただ、ほとんど効いていそうにはない。

 

「セイバーはもう……」

「そう、霊基が……」

 

 流石に察したようだ。

 ランサーでも広範囲で殲滅できる宝具はある。

 

 それにだ……奴の生産スピードは一定。

 殲滅してしまえば、あの宝玉を狙える。

 この際、あの少女は考えないことにしてだ。

 

 殲滅したとこを総力戦で狙えば……行ける。

 

「対軍宝具、行けるか?」

「ああ、おじさんに任せろ」

「ムーンキャンサー」

「う、うん……」

 

 擬似契約を交わす。

 これで俺はランサーに対して令呪を行使できる。

 

 どんな宝具使うかは、彼に任せる。

 この際殲滅できればどうにでもなるだろう。

 

「……よし! マスター!! いっちょやるぞッ!」

「ああっ!」

 

 俺は叫ぶ。

 右手を掲げると、赤く輝く。

 

「ランサー!! 令呪を以って命ずッ! ぶっ放せェッ!!!」

 

 赤く輝いた刻印は、一画消滅する。

 令呪は使用した。

 

 その叫びに、彼は答える。

 槍を構え、宝具を放つために叫ぶ。

 その名前を。

 

「行くぞォッ!! 『不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)』ッ!!」

 

 槍を全力で投擲、その槍は根めがけて飛んでいく。

 そして槍は、根を全て貫いた。

 

 それがその宝具だからである。

 

 ヘクトールの宝具である、ドゥリンダナ。

 わかりやすく言うと、デュランダル。

 全てを貫く物だ。

 

 故に、その威力は絶大。

 

 槍が奴らを一瞬にして蹴散らす。

 成功であった。

 大量にあった根は、一斉に折れ生命力を失う。

 

「今だッ!! 行けぇッ!!!」

 

 その叫びを聞いた皆んなは、駆け出す。

 宝玉めがけ。

 

「……は、ははっ、この程度でやられるとでも?」

 

 根が一斉に生えてきた。

 1000以上の根が、一斉にだ。

 

「な、んだと……!?」

 

 予想だにしていなかったことが起きた。

 まさか、地に伏せていただけなのだ。

 潜って、この機会を狙っていたのだ。

 

「まず……」

 

 俺が叫ぶ、その前に。

 根を動き出す、彼らにとどめを刺すために。

 

 が、その前にセイバーが叫んだ。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ァァァァアアッ!!!」

 

 極光が、根を飲み込む。

 剣から放たれる唯一の極光は、道を作り出したのだ。

 

「今だッ! 離れろッ!!」

 

 消えかける体で、叫ぶ。

 その声を聞いて、セイバー以外の全員がその場から離れた。

 

「……まだだ……俺の魔力は最後に……まだ残ってるからな……」

 

 俺を指差し、そう言うと、その身は世界に溶け、消えた。

 消えてしまったのだ。

 

 セイバーは、消えた……。

 

 だが、まだ諦めるわけにはいかない。

 しかし、ランサーたちは苦戦している。

 敵の根があまりにも、多すぎる。

 

「ランサー、アーチャー! 道を……ッ!」

「待ちなさいっ! 流石に連続では……」

「セイバーが切り開いてくれた道だッ! 進むんだよッ! 進むしか、ねぇんだよッ!」

「バカ言わないでッ! そんなの……無謀よッ!」

 

 胸ぐらを掴んで叫ぶ。

 俺たちは必死だった、ただただ必至であった。

 だからだろう、戦闘中にも関わらず、言い合いをしていたのは。

 

 そのせいで、俺は間違えた。

 

「……マスターっ!」

 

 遠くで、ナーサリーが叫ぶ。

 俺たちは前を見ると、根が正面まで迫ってきていた。

 アンナは俺を、押し退け貫かれた。

 

「あ、んな……っ!?」

「……クソっ……何やってんのバカマスター……ッ!」

 

 ナーサリーは近づき、銃で根を千切る。

 

「マスター……っ! マスター……ッ!!」

 

 ナーサリーが必死に揺らすが、起きない。

 腹には大きな穴が開いていた。

 

「あ、あんな……お、俺は……そん、な……」

「……悲しんでる暇があったら前見ろ、ぶっ殺すぞ」

 

 ナーサリーがそう言う。

 俺は前見ると、もう一本根が前に来ていた。

 

 俺はスマホを掲げると、根が弾かれる。

 かなり後ろの方では、シャルルが必死に援護している。

 

 ランサーもアーチャーもいっぱいいっぱいだった。

 このままでは、敗退する。

 

 覚悟を、決めなければならない。

 アーチャーの宝具を使えば、この現状を打破できる。

 だがそれは……。

 

 俺は藤丸立香じゃない。

 選択は、別の方を取る。

 

 選べ、選べ選んで選ぶんだ。

 

 決めた、絶対に勝利する。

 

「……ナーサリー、これを使え」

 

 俺は、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を取り出した。

 消えると同時に消える、と言っていたが、結局最後の魔力で残してくれたようだ。

 彼女を回復すれば消えるだろう。

 

 だが、それで……十分だ。

 

 もう、決着はつくのだから。

 

 俺は立ち上がり叫ぶ。

 

「アーチャーッ! 宝具だッ!!」

「な、何を……」

「頼みがある……死んでくれッ!」

 

 全てを込めた、この状況を打破するたった一つの願いを叫んだ。




主人公、と呼ぶべき者

スキル
発狂:EX
時と場合によって、死体を見たときに発狂する。
たまに■■■■■に意識を持っていかれる。

選択の決意:B
どれかと、選択する時に決意に満ちると言うもの。
本来恐怖などで選択できない時も、このスキルが発動すると絶対に選択できる。
要は踏み込みのキッカケである。

英雄の素質:E
英雄として素質があることを示す。
藤丸立香はEXだが、彼はEでしかない。

否定の黙示録:E
■■■■■■■■。
これ以上言うことはない。
ただ、その決意を否定するだけだ。


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第28節:少女の本懐

「死ねって……どう言うこと?」

「宝具だ……『流星一条(ステラ)』だ」

「大英雄アーラシュの……ッ!」

 

 みんなご存知、最強の一撃。

 自身の崩壊と引き換えに放つ、一撃はそれこそ絶大だ。

 だからこそ、この状況を打開できた。

 

「……そこから先どうするの?」

「ランサーに宝具でアレをぶち込んでもらう……そこから先の運命は、神のみぞ知るってやつだ」

 

 攻撃をしつつ、会話を続ける。

 少し考えた様子で、軽く頷く。

 

「わかった……少し時間を頂戴」

「ああ、頼む……そして、ありがとう」

「これが本来の.サーヴァントの使い方だから……」

 

 優しい笑みで、俺を見た。

 ナーサリーに指示を出す。

 

「ナーサリー、急いでここから避難しろ。キャスターも一緒にな」

「……何するの?」

「ここ一帯を吹き飛ばす。そうすれば地下にいる根も一緒に吹っ飛ぶはずだ……流石にアレを壊すのは無理だが、そこはランサーにやってもらう」

「……わかった、死なないでよ」

 

 そう言うと、走ってここから離れていく。

 俺はもう一度、ランサーを呼び戻すと作戦を伝える。

 すると、ああわかったと言う。

 

「だがな……成功したとしても、アレを破るのは……五分五分と言ったところだ」

「……もうこれに、賭けるしかない」

 

 壮絶な攻撃は、決して止まない。

 ならば、戦争を終わらした一撃で、この攻撃すらも終わらせてみせる。

 全ては、アーチャーにかかっているのだ。

 

「ムーンキャンサーッ! 結界を張れッ! 魔力を全て突っ込む勢いでなッ!!」

「うん!」

 

 俺とランサー囲うように、結界が張られる。

 アーチャーは遠くで、一息ついて矢を引く。

 攻撃が飛んでくるが、全て耐え抜いている。

 

 そして、叫んだ。

 

 全てを終わらせる、最強の一撃を。

 

「『流星一条(ステラ)』ァァァァアアアアッッ!!!」

 

 最強の一撃は、天に放たれる。

 地上へ落ちてくるまで、恒久的な時間が流れる。

 

 落ちた。

 

 たった一撃が。

 

 地上を抉り、大地を破り、全てを破壊する。

 元々廃墟だったここは、更に酷いことへとなっていく。

 

 根はほぼ根絶やしになっていく。

 作戦の、第一段階は成功したのだ。

 

「ランサーッ!」

 

 別れている暇はない。

 爆破が終わった瞬間、結界を解除して、叫ぶ。

 するとランサーは走り出した。

 

 俺は横目でアーチャーを見ると、笑顔で手を振っていた。

 

 ──がんばれ。

 

 聞こえなかったが、たしかにそう言っていた。

 ならばもう、頑張るしかないのだ。

 

「行けええぇぇぇぇええええッ!!!」

「うおぉぉぉぉぉおッッ!! 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』ァァァアアッ!!」

 

 その一撃は、宝玉めがけ放たれる。

 投げるのではなく、刺し穿つのだ。

 

 これは対人宝具である。

 心臓を刺したと言う結果を作ってから放つ一撃。

 因果系宝具。

 

 だからこそだ。

 中心狙い、放つ。

 

 故に、強大な一撃が……つらぬ、いて……。

 

「な、に…… ?」

「クソ……ッ!」

 

 ダメだったのだ。

 ヒビは入った。

 だが、割るにまでは至らなかったのである。

 

「ランサー! もう一撃だッ!」

「ダメだッ! 連続で宝具は……!」

 

 悔やんだような顔でそう言い放つ。

 マズイ、作戦が狂った。

 このままでは、負けて……。

 

 向こうも勝利を確信してか、笑みを浮かべる。

 

 負けてしまう、そう思った瞬間だった。

 ダイナマイトが投げ込まれた。

 

 爆発寸前でランサーは避難。

 ギリギリ当たらなかった。

 

 そう、ダイナマイトである。

 

 そして現れた、白衣をはためかせ、一人の少女が。

 

「キャスター、アルフレッド・ノーベル。抑止力さんさ、これ別クラスで再召喚する意味あったの?」

「ノーベル!!?」

「えーっと、誰だかわかんないけど。ピンチっぽいよね。何やってんの?」

「ノーベル! 力を貸してくれッ!」

「え? え? ……まあ、いいけど」

「やらせるかッ!」

 

 奴は手を前に出すと、地下から現れた根がノーベルを襲う。

 が、ノーベルが軽く触れると動かなくなった。

 

 その次の瞬間、轟音とともに爆発した。

 触れた瞬間、爆弾と化していたのだが、気づけない。

 

「えい、しょっ!」

 

 掛け声とともにダイナマイトを投げる。

 それは空中で爆発した。

 奴はそっちを見てしまったのだろう。

 ノーベルは宝玉に触れていた。

 

「ほら、早く逃げないと巻き込まれるよ?」

 

 ノーベルはそう言うと、その場から離脱した。

 それを聞いて、奴は脱力する。

 そしてその場から離れなかった。

 

 次の瞬間、爆発した。

 それは爆発し、弾けたのだ。

 そしてこっちに飛んできたのは……聖杯だった。

 

 と、同時に揺れる。

 

「うわぁっ!? ……ナーサリーッ! 帰還するからついてこいッ!」

 

 俺は咄嗟にそう叫ぶ。

 この世界はもう保たないだろう。

 ならば早く戻るべき……だが。

 

 抑止力に召喚され、その役目を果たし、消えるランサーとノーベルを見る。

 

「ランサー、ありがとう……ノーベルもありがとう……それにキャス」

 

 キャスターと言おうとしたが、どこにもいなかった。

 攻撃に巻き込まれたのだろうか。

 

「……別におじさんはやることやっただけさ」

「私もわけわかんなかったし、まあ感謝されたならそれでいいかな?」

 

 それを聞いて、俺は急いでその場から離脱する。

 後ろからは消滅した音が聞こえていた。

 

 道を走り、地下鉄を目指す。

 が、そこで最後の抵抗と言わんばかりに、根が生えてきていた。

 

「……ムーンキャンサー、どうすれば逃げれる」

「これは……くっ、演算式が……えっと、うぅ……」

 

 やばい、相当やばい。

 どうする、どうすればいい。

 逃げる、逃げるんだ。

 

 逃げ……。

 

 根が一本、突っ込んできた。

 まだ攻撃することはできるようだった。

 

 その攻撃は目の前まで迫り……。

 

 叩っ斬られた。

 真っ二つに、真正面から。

 

「ますたぁ! 大丈夫か!?」

「……その声は、天狐……!?」

 

 俺は声の方を見ると、天狐が二本の刀を手に立っていた。

 右腕は黒く無機質なものになっていたが、しっかりと動いていた。

 そしてその両手で刀を手に持ち、振っていた。

 

「ますたぁ! こっちだっ!」

 

 そう言うと駆け出す。

 俺は後ろからついてくるナーサリーたちを確認して、その場から逃げ出した。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「は、ははっ……ま、け……た……」

 

 霞む空を見つめ、泣き言のように呟く。

 どうせすぐ尽きる命は、今日を以って終わろうとしていた。

 数日後か今日の違いなのだが。

 

 負けた、負けたか。

 そうだよね。

 当然だ。

 

 彼は英雄ではない。

 勇者でもない。

 

 人間なんだ。

 

 だから負けた。

 

 至極簡単な話だ。

 

 でもあれは……心が死んでいる。

 近いうち人間ではなくなるだろう。

 ちょっとしたキッカケがあれば、私と同じだ。

 

「がはッ……あ゛……わた、じ……じぬ゛……の、がな……?」

 

 血反吐を吐く。

 もう、体が保たないようだ。

 

「しに、だぐ……な、い゛っ……!」

 

 ここまで来て、そう思えた。

 死ぬのは怖くなかった、と言えば嘘になるが、それでも死ぬ覚悟はできていたはずなのに。

 ただ、ただただ、今は死ぬのが怖かった。

 

「おや……これはこれは、一人寂しく死んでいくのですかな?」

 

 あいつは、奴らのキャスター。

 

「ぁ……」

 

 疲れた体では、声が漏れるだけ。

 まだ少し喋れるかもしれないが、気力が湧かない。

 

「……さて、それでは失礼して」

 

 近くに座る。

 何を、する気なのだろうか。

 

「……そうですな、どうせ消えるのですから話をしますかな!」

「ぇ……?」

「実はですな。ワタクシ野良になる予定ではなかったのです。貴方のサーヴァントとして召喚されるはずだったのですがね。あのエド・ウッドに割り込まれましてな」

「……な、んで……」

 

 かろうじて出てきた言葉は、それだけだった。

 なんで、ただそれを聞きたかった。

 

 なんで私なんかところに、召喚されようとしたのか。

 

「それは、もっとも貴方が()()()()()()()からですな。あの少年らは、ちょっとズレているのでね。貴方はただ願ったではないですか、()()()()と」

 

 そうか、私は気づかないうちに……。

 ああ、くだらない。

 なんてくだらないんだろう。

 

「ね、ぇ……はな、し……して……えほ、ん、さっか……なん、でしょ……?」

「……ええ! しましょう、最後の話を! そうですなそれでは……ええ、これはとある少女の物語──」

 

 少女は、もっとも、誰よりも、人間らしかった。

 己に課された運命に抗い、戦った。

 いつしかその少女は掴むのだ、幸せというものを。

 

 

 

 [虚構架空要塞『庭園』]-人理崩壊-




ムーンキャンサー『繝弱う繝槭Φ』の絆が上昇しました。
+1
繝弱う繝槭Φ:2/10


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幕間&マテリアル
マテリアル3『ナーサリー・ライム・オルタ[TYPE-SF]』


 ナーサリー・ライム・オルタ[TYPE-SF]

 クラス  :アーチャー

 年齢   :大体10〜15(マスターによって変わる、アンナの時は13歳)

 身長   :147cm

 体重   :42kg

 地域   :不明(一般的には宇宙)

 属性   :宇宙・善

 特技   :遠距離狙撃

 天敵   :もう一人の自分、陽キャ

 好きなもの:宇宙、睡眠

 嫌いなもの:地球、陽キャ

 適正クラス:(■■■■)アーチャー、フォーリナー

 

 ステータス

 筋力:D

 耐久:E

 敏捷:B

 魔力:C

 幸運:EX

 宝具:A

 

 

 スキル

 一方その頃:E

 自身のための物語(ナーサリー・ライム・オルタ)であって、誰かのための物語(ナーサリー・ライム)ではない彼女。

 本来有していたこのスキルは、そのせいでかなりランクダウンしている。

 ただ、使用することはできるので、特に問題はない。

 

 現実直視:A

 精神系の攻撃に対して一定の抵抗を得ると言うもの。

 これは自身のための物語(ナーサリー・ライム・オルタ)であることが理由だ。

 彼女は子供の夢を守るのではなく、子供の平和を守る。

 だからこそ現実と向き合う必要があるのだ。

 このスキルのせいで物理系のダメージは1.5倍になっている、が魔術系は0.5倍になる。

 

 ツンデレ:D+++

 途轍もなく不要なスキル。

 なぜこんなものがついてしまったのか、彼女自身理解していない。

 推測としては、誰かのための物語(ナーサリー・ライム)が御伽噺であるのに対し、自身のための物語(ナーサリー・ライム・オルタ)は現代のものだからと言うのがある。(天狐談)

 が、結局のところ理由は不明だ。

 このスキルの効果は、素直になれなくするものである。

 好きな人に対しては4倍ぐらいブーストされる。

 

 天体観測:A++

 何故このスキルがついているのか、彼女自身もわからない。

 フォーリナーだからか、はたまた彼女が特別だからか。

 それは誰にもわからない。

 このスキルは、宇宙に広がる星を見て、現在地、時間、方角を知るというものである。

 時と場合によっては、それ以上のことを知ることができる。

 

 周囲認知の湾曲:E

 このスキルは存在していても使用することができない。

 異様に強い自身を否定しようとした結果だからか。

 勿論マスターにすらわからない。

 このスキルは、周囲に蔓延する常識を変えるというものである。

 ただし、このサーヴァントに限っては少し違い、()()()()()()価値観を変えるというもの。

 Eのため、当然のように使用は難しい。

 

 領域外の生命:D

 [該当データ、消滅]

 

 

 宝具

 第一宝具『子供のための物語(ナーサリー・ライム・オルタ)

 子供の平和を守るために生み出された彼女は、その力をその者のために使う。

 この宝具は、マスターによってその姿を変える。

 一対一の対人宝具にも、全てを破壊する対界宝具にも。

 時としてそれは、■■■■すらも上回る。

 故にこの宝具の種類は。

 

 種類:対(■■■■)宝具

 ランク:EX

 

 第二宝具『殲滅と壊滅の繰り返し(くるくるくるくる回るドア)

 この宝具に関しては完全攻撃特化型宝具。

 武器、威力関係なしに、敵を殲滅することができる。

 架空銃口と呼ばれるものから放たれる一撃は、とてつもない。

 ただしこれを発動させるためには、宝具名を叫ぶ必要はないが《Open(開門)》、《Burst(射撃)》と言う必要がある。

 

 種類:対軍宝具

 ランク:B

 

 第三宝具『肯定的な夢、否定的な未来』

 彼女を肯定づける宝具。

 この宝具がないと彼女と言う存在は確立できない。

 魔力の塊で出来ており、霊核の一段階上を行く。

 霊核が破壊されても、代わりにこれで稼動できる。

 一つ傷を入れれば、彼女は消滅し、全てを破壊する爆発が起きるだろう。

 

 種類:自爆死滅宝具

 ランク:A++

 

 第一再臨

 学生服っぽいセーターを着て、アサルトライフルを構えている。(時と場合によってライフルは変わる)

 下はスカートでパンツの色は白。

 後長めのブーツ。

 髪の色は白く、本来のナーサリー・ライムを思わせる。

 が、ショートボブで、ウェーブではない。

 

 第二再臨

 さっきの服の上に、スカートの下まで丈があるパーカーを着ている。

 後はベルトをして、いくつかのポケットが付いている。

 アサルトライフルを構えているのは相変わらずだ。

 普段の服装はこっち。

 

 第三再臨

 特に変化はないが、第二宝具を常に展開した状態になる。

 そして背景にな様々な銃がある。

 

 セリフ集

 

 戦闘開始時

 

「目的確認……殲滅する」

 

「……いいよ、遊んであげる」

 

 

 スキル発動

 

「チェックメイト……ってね」

 

「決めてかかるよ」

 

 

 コマンドカード

 

「……うん」

 

「わかった」

 

「殺す」

 

 

 宝具コマンド

 

「魔力充填……殲滅機構、OK……発動準備」

 

「死ぬまで殺し尽くす……それが私の仕事だから」

 

 絆Lv.10にて解除「■■返上……いいよ、マスターのために全てを尽くす」

 

 

 ダメージ

 

「うぐっ……」

 

「なにをっ……!?」

 

「ぶっ殺す……!」

 

 

 戦闘不能

 

「私は……守れなかった……?」

 

「そんなっ……! 誰か……私の、代わりに……!」

 

「私を殺したこと……後悔しろっ……!」

 

 

 勝利時

 

「うん……まあ、上々かな」

 

「任務完了……次に行くよ」

 

 

 レベルアップ時

 

「……ありがと。これ強くなってる……のかな?」

 

 

 第一再臨

 

「やっぱ慣れた服が一番だね……え、似合ってる……? ……あんたに言われても……嬉しくないんだけど……」

 

 

 第二再臨

 

「……QP……大丈夫? 素材も、足りないって……喚いてたのに……いいの?」

 

 

 第三再臨

 

「そこまで明確な変化は……え? 可愛い? ……そ、そんなこと言ったって……嬉しいわけじゃ……ないんだから……」

 

 

 最終再臨

 

「そう、ここまで……うん、わかった。私は改めて誓おう……■■返上、私の命は……貴方のために……これからも、よろしく……ね?」

 

 

 ホームボイス

 

 絆1

 

「……? どうしたの、マスター……? 私の顔に、なんか……ついてる?」

 

 

 絆2

 

「……ここの人たち、いい人が多いよね……だからこそ、イラつくんだけど……」

 

 

 絆3

 

「……平和、ね……マスターはどう思うの、平和について……平和になったら、私は存在できないから……嫌い」

 

 

 絆4

 

 

 

 絆5

 

 

 

 会話:ナーサリー・ライム所持

 

「あの子……いるんだ。まあ、そうだよね……仲良く、してあげてね……」

 

 

 会話:アーサー・ペンドラゴン[プロト]所持

 

「そう……あの人も、そうなんだ。ふーん……」

 

 

 会話:殺生院キアラ所持

 

「ッ……!? ち、違うのか……なんであんなの、いるの……?」

 

 

 会話:カーマ所持

 

「……えと、うーん……なんとも、嫌な気分になる……あの人が、いると……カーマ、だっけ?」

 

 

 第一部未クリア時

 

「……ロマニ・アーキマン……だっけ? 私、あの人苦手だな……」



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マテリアル4『真神』

 真神

 クラス  :セイバー

 年齢   :不明

 身長   :164cm

 体重   :秘密

 地域   :日本

 属性   :秩序・中立

 特技   :人に合わせること

 天敵   :黒羽、玉藻の前

 好きなもの:雛子、雛子、雛子、雛子

 嫌いなもの:雛子を害するもの(雛子のマスターだろうが御構い無し)

 適正クラス:セイバー、ランサー、バーサーカー、アサシン、ルーラー

 

 

 ステータス

 筋力:A++

 耐久:D

 敏捷:A+

 魔力:B+

 幸運:-C

 宝具:A+

 

 

 スキル

 感情凍結:-EX

 昔、とある事象によって感情を失った逸話がスキルになったもの。

 このスキルのせいで感情は一切ない。

 が、マイナスになっている。

 その理由は、特定の人物の前では感情が湧き上がるからである。

 

 

 鉄仮面:EX

 上記のスキルにより付属したスキル。

 本来は表情を一切変えず、そのままにするスキルだが、ランクがEXのため、表情を自由に操ることができる。

 

 

 野生の直感:B+

 本来のスキルは直感だが、彼女の特性で進化したもの。

 本来の直感の数段階上を行く。

 流石に天狐の天啓を超えるのは不可能ではあるが。

 事前の攻撃、危険察知など色々なところで活躍する。

 

 

 神性:B++

 真神という存在は、本来神である。

 一応言っておくが、妖怪ではない。

 が、とある人物と並び立ちたい、と言う意思のせいで神性のランクは下がっている。

 それでも真名返上時には、神性が爆上がりする様子。

 

 

 狂化:E-

 雛子が好きという思いが強すぎてスキルになったもの。

 ただしE-のためそこまで影響はない。

 が、プロフィールを見てわかる通り、異常なまで雛子に執着している。

 

 

 宝具

 第一宝具『感朸宝剣(かんりょくほうけん)

 緑に輝く、膨大な魔力を有した刀。

 一振りで大地の花を実らし、敵を斬れば血を吸い取る。

 神刀とも呼ばれ、妖刀とも呼ばれた。

 この宝具の逸話は、彼女が最期にこれで敵と心中したことが逸話となっている。

 が、それはまた別の宝具。

 そのため種類は……。

 

 対大地宝具

 ランク:B+

 

 

 第二宝具『回帰、道隔たりて乖離せよ』

 上記にて書かれた心中宝具がこれである。

 雛子が死んで、いくつもの旅の果てに掴んだのは無であった。

 何もなかったのだ。

 そして最期に、自身の思いを果たすため、敵と心中した。

 それが宝具と化したもの。

 これの発動条件は、追い詰められることと、もしくは思い残すことがない時。

 

 心中宝具

 ランク:C

 

 

 第三宝具『見目廃せよ。天命穿つ極槍』

 本来は槍、つまりランサーの宝具である。

 だが、これは投擲することによって発動する宝具なので、投げれる武器であればなんでもいい。

 ただし使用した場合、クラスがなんであろうがランサーに強制変化する。(ルーラーは例外)

 そのためバーサーカーであっても、これを使えば理性ができると言うとても珍しい宝具だ。

 これの逸話となった話は、雛子に放った天命を穿つ一撃が元となっているらしい。

 雛子はそれで死ななかったらしいが。

 

 対人宝具

 ランク:A+++

 

 

 第一再臨

 和服を着こなし、下駄を履いている。

 髪は黒く、ボサボサしており長い。

 手入れを怠ったせいである。

 そして太刀を持っている。

 

 第二再臨

 この頃とある奴の呪いにより、目が見えなくなっている。

 そのため目隠しをしている。

 よって野生の直感が一ランク上がっている。

 ちなみに服装は雛子と少し違ったタイプの軍服である。

 海軍寄りの服。

 感朸宝剣(かんりょくほうけん)を持っている。

 

 第三再臨

 [NO DETA]

 

 

 セリフ集

 

 戦闘時

 

「皆目せよー、なんちって」

 

「はいはい、行きますよー」

 

 

 スキル発動

 

「っとまぁ……そう言う事だよねー」

 

「ぺぺっとな」

 

 

 コマンドカード

 

「はいはーい」

 

「がおー」

 

 男:「いえっさー」

 女:「いえすまむ」

 

 

 宝具コマンド

 

「へいへーい……んじゃま、ぶっ放しますかねー」

 

「まあまあ、ここは1発……行きますかねー」

 

 

 ダメージ

 

「ふなー」

 

「ひー」

 

 

 戦闘不能

 

「まま、こんなこともあるよねー」

 

「ごめんねー……次は頑張るからさー」

 

 

 勝利時

 

「うんうん、いい感じだねー」

 

「どうかなマスター、いいよねー?」

 

 

 レベルアップ

 

「強くなったよー」

 

 

 第一再臨

 

「わーい、霊基再臨だよー……どうかな、これ似合ってるー?」

 

 

 第二再臨

 

「霊基じょうしょー、強くなったかな? なったかなー?」

 

 

 第三再臨

 

「……うん、うんうん。久しぶり見たな、これ……なつかしー。ほら可愛いでしょー?」

 

 

 最終再臨

 

「……マスター、これからもよろしく! ……私ね、これからも頑張るか! もっとずっと、よろしくね!」

 

 

 ホームボイス

 

 絆1

「ぴゃー……って鳴く鳥がいるんだよー。変だよねー」

 

 

 絆2

「私ね、鳥を見るのが好きなんだー。鳥はそこまでだけど。なんでって? うーん……あ、雛子ちゃんがねー、鳥って可愛いよな。っていたからだよー。雛子って誰って? ……えと、それはまた今度教えあげるよー」

 

 

 絆3

「えっとねー、雛子ちゃんはね。狐なんだー。可愛いよー。大好き。うん」

 

 

 絆4

「……マスター、どうしたの? 何か用? え、私のこと? うーん……あ、死んだ時の話でもする?」

 

 

 絆5

 

 

 

 会話:雛子所持

 

「きゃっー! 雛子ちゃんだー! ここにもいたんだー!」



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幕間:ディザスター内部

 第二防衛杭を焼却して、一ヶ月が経過した。

 相変わらずの地下で、ディザスターは動き続ける。

 

 アンナはあの後しっかり回復して、今は元気に生活をしている。

 要は、仲間になったというわけだ。

 共にアーチャー……ナーサリーも付いてくることになっている。

 

 天狐はしっかり腕が動くようになっている。

 右腕は機械の腕のようだが、本来の腕同様に動く。

 つまり、そこまで問題はないようだ。

 

「……アンナ、本当に良かったのか? 俺たちに付いてきて」

 

 向こう側の椅子に座ったアンナと話す。

 アンナは自分で作った適当な飯を食べている。

 今日の俺は食欲がなかったため、食べていない。

 アンナは言う。

 

「別にいいの。私、この世界に特別な思い入れがあるわけじゃないし。普通に生活ができればなんでもいいかなーって……それに私の防衛杭なくなっちゃったしね」

「だから……協力してくれるのか?」

「ま、安心して住めるところは欲しいからね……ま、これからよろしく頼むわね!」

「……ああ、よろしく頼む」

 

 それっきりである。

 この狭い空間では新たな話題が出るわけもなく。

 静かな時が流れる。

 

 テレビでもあればいいのだが、当然こんな世界ではテレビなんてやっていないだろう。

 つまんないものだ。

 

 だが、休養を取るには十分だ。

 流石に一ヶ月も休養を取れば、体調は万全。

 いつでも出撃出来るような状況にある。

 令呪もしっかり三角あるし。

 

 と、シーハが工房から出てくる。

 

「皆さま、後二時間で到着を予定しています。準備をお願いします」

 

 そう聞いてアンナは後ろの車両。

 自分で作った工房に籠る。

 一番後ろ、倉庫にしていた場所を占領され工房にされた。

 ちなみに中央のリビングらしき部屋は、俺の寝室でもある。

 

 タンスには最近使っていない銃がしまってある。

 今回でも使わなさそうだ。

 なんせ事前情報ではブリテン、防衛杭がぶつかり合っているところの片方なのだから。

 

 ブリテンと言えば、キャメロットが有名だろう。

 Fateをやったことがある人なら誰でも知っているはずだ。

 なんせFateの顔、青セイバーアルトリア・ペンドラゴン。

 かの有名なアーサー王だからだ。

 

 ちなみに俺は、第六章のバスターゴリラは許さない派の人間だ。

 石割ってクリアしたのは、今となってはいい思い出だ。

 

 だとしたら、だがやはり……円卓領域、の可能性は高いだろう。

 ガヴェインを出てこないことを祈る。

 

 セイバー、剣士の転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)を見たことあるが、あれはすごかった。

 あれを喰らいたくは、ない。絶対に。

 

 ……そう言えば。

 

「シーハ、ちょっといいか?」

「……はい、なんでしょうか?」

「お前、天狐を届けた時にさ……私たち、って言ってたよな」

「はい、それがどうしましたか?」

 

 俺は改めて、気になったことを聞く。

 

「お前以外に、誰かいるってことで……いいんだよな?」

「……そうですね、見に行きますか?」

「え、いいの?」

「特に問題はないと思われますが……ちょうど寝ていますしね」

 

 充電中のスマホを見ると画面は真っ暗だった。

 多分シーハの言う通り、寝ているんだろう。

 着くまでに時間はまだある、見るなら今ぐらいしかないだろう。

 

「わかった、見せてくれ」

「はい、それではこちらへ」

 

 そう言うと工房へ入っていく。

 俺は後ろからついていく。

 

 工房へ入ると、そこはまさに清楚な場所だった。

 シーハらしいと言えば、シーハらしくもある。

 奥の方を見ると、何重にも鍵をかけられた扉があった。

 

 鍵を開けている途中だったから、工房を見渡す。

 色んな道具やら、札やらで溢れてはいるが、しっかり片付けられている。

 

「開きましたよ。来てください」

 

 そう言うと、扉を開ける。

 俺も後ろからついていく。

 中へ入るとそこは、機関室であった。

 プシューと音を立て煙が出る。

 いくつものパイプが複雑に絡み合って、訳のわからないことになっていた。

 

 暗い空間で、唯一ある明かりは赤い光。

 それがなんとも奇妙な空間に仕上げていた。

 

「なんだこれ……」

「感動したようですね。それは結構。それではこの先にあるもので、更に感動できるでしょう」

 

 と言うと、更に奥へ行く。

 パイプは更に複雑になっていく。

 一番奥、更に幾重にも鍵がかかっていた。

 

 どうしてここまで、何重にも扉をかけなければならないのだろうか。

 何か理由が、あるのだろうか。

 

「……気になっているようなので、言っておきますが……ここまで扉に鍵をかけている理由は、入られないようにするためです。他に聞きたいことは?」

「え……特に、ないけど」

「そうですか、ならいいです」

 

 と言い終えると同時に扉が開く。

 ガチャっと、最後の錠前を開けて。

 

「この先です」

 

 そう言い扉を開けると、そこにあったのは最奥の運転室であった……が、運転室ではなかった。

 どう言うことかと言われると、そう言うこととしか言いようがない。

 

 詳しく話すとだ。

 一人の少女が壁に埋め込まれていた。

 目を閉じ、様々な機械に繋がれていた。

()()()()を持った少女だった。

 

「どう言う……ことだ……!?」

「彼女も英霊です。魔力生成のスキルを有しているため、こうして燃料として動いています。と言っても彼女だけでは足りないため、私も協力はしていますが……ああ、彼女の真名は、彼女自身しかわからないので。聞かないでくださいよ」

 

 取り敢えず知りたいことは知れた。

 が、これは人道的とは、あまりにも言い難い……。

 

 ムーンキャンサーがさせているというのなら……それはつまり……。

 

 俺はここで、日本で最期に言われたことを思い出した。

「ムーンキャンサーを信じるな」、と……そう言われたのを思い出していた。

 嫌な考えだ……これは、伏せておこう。

 うん、考えてはダメだ。

 

 この世界に来て、俺にかかるのは重圧ばかり。

 なのに、その上にこんなことを知ってしまっては……。

 

 いや、でも知りたいと言ったのは俺だ。

 その事実は……変わらない。

 

「……シーハ、ありがとう」

「はい。役に立てなら満足です……ですが、あと30分もすればつきますよ。早く準備することをお勧めしますが?」

「……え?」

 

 俺は壁を突き破る勢いで走り出す。

 急いで出る準備をするために。




[第三防衛杭:裁定円卓領域『ブリテン』]


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第三防衛杭:裁定円卓領域『ブリテン』
第1節:新天地


 カンッ……と、剣の音が玉座の間に響き渡る。

 裁定を告げる、鐘が鳴ったのだ。

 

 フードを被った一人の男が言う。

 

「罪人を前へ」

 

 そうして出されるのは、下の街に住む人。

 彼らは罪があると告げられ、ここに連れてこられたのだ。

 彼が起こした罪とは……。

 

「名前、テイニック。罪、隣人を覗き見」

 

 その罪名は、あまりにもくだらなすぎた。

 それでも騎士達は言うだろう。

 ()()()()()

 

「……くだらない、そのようなことで命を落とすことになるとは」

 

 フードを被った男はそう呟く。

 近くにいた、王の側近の騎士はただ。

 

「口を慎め。今は裁定の時だ」

 

 そう言う。

 当然だ、それがこの世界の、当たり前なのだから。

 

 処刑される男は、ただ恐怖で震える。

 それしかできなかった。

 当たり前とも言い難い、この世界の掟。

 

 それが罪人の裁定である。

 

 王は立つ、罪人を裁くために。

 

 王は剣を握り、罪人の前に立つ。

 ただの鉄の剣を振り上げ──……

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 キキーッ……と音を立て、電車は止まる。

 相変わらずの地下鉄景色は、精神を病みそうだった。

 仲間がいたからまだマシではあったが。

 

「……貴方まさか……私のところに来るときも、こんな長旅を……?」

「いやまぁ……一週間くらいは」

 

 えぇ……って顔で見られた。

 初めての旅で、天狐とムーンキャンサー、後シーハしかいないからキツかったものだ。

 だって英霊ばっかだもの。

 

 正直、仲間にただの、とは言い難いが人間が入ってくれて嬉しかった。

 

 さて、取り敢えず今回はいつものメンバーだ。

 俺とアンナ、そして天狐とムーンキャンサーとナーサリー。

 シーハはいつも通りお留守番だ。

 

 英霊らしいが、戦えないのではしょうがない。

 

 荷物の確認を改めて行い、階段を上る。

 地上に向かう階段へと。

 最後の段を登りきる。

 

 すると、そこにあったのは……。

 

「すげーな、これ……」

「ああ……今までが今まで何だけにこれは……」

「まだこんな場所があったのね……」

 

 自然が広がる、大草原であった。

 遠くの方には、街が見える。

 近くにある家の様子から、大体中世ぐらいと見て間違いないだろう。

 アーサー王伝説、当時の街並みだ。

 

 今までのと比べると、あまりにものどかで平和。

 素晴らしいの一言に尽きるだろう。

 

「へー……すごいね……で、これからどうするの」

 

 そうナーサリーが言う。

 たしかにそうだ、これからどうしよう。

 遠くに街は見えるものの、あまり入りたくはない。

 何故かって言われると、会話が苦手だからだ。ただし一部の人は除くものとする。

 

「……そうだな、街に向かうか」

 

 でも、それでも情報手に入れないと、何も始まらないものである。

 故に街へ行くことにした。

 

 基本的に主導権は俺にある。

 が、いざという時は各自、自由行動。

 俺の言うことなんか聞かなくてもいい、とは言っているのだが……。

 やはりリーダーは決めておくべきと、ムーンキャンサーが言い放った。

 で、公平にじゃんけんで決めた結果、俺が勝ってしまったのだった。

 

 責任重大である。

 たしかに前のあそこでは指示をバンバン出していたけど、アレは本当にめちゃくちゃだったから。

 頭に思い浮かべたことを、そのまま言い放っていただけなんだよな。

 

 取り敢えず、決めてしまったことだからしょうがないのである。

 

 道に沿って、街へ向かう。

 俺たちの様子だが、側から見れば怪しい集団だ。

 だって明らか様に周りの服装とあっていない。

 

 が、そこら辺は大丈夫らしい。

 アンナの認識阻害系の魔術(少し前に使った、スーツに見えるようになる魔術の類)を使っているらしい。

 それなら安心だな、と言うわけで歩いているのだが……。

 

 なにやら少し先のところが騒がしい。

 歩いてその場所に向かうと、遠くから馬車が獣たちに襲われているのが見えた。

 

「天狐っ!」

「おうよっ!」

 

 そう言うと、二本の刀を手に駆け出した。

 と同時にナーサリーも駆け出す。

 俺たちは後ろから走ってついていく。

 

 やはり英霊、その速度は異常。

 いつも俺たちに合わせてくれいるようだ。

 すごく足が速い。

 あっという間に馬車について、獣どもを滅殺していく。

 それこそ瞬殺の勢いで。

 

 実際瞬殺だったのだが。

 

 少し遅れて到着すると、完全に戦闘は終わっていた。

 獣の死体の山が積み重なり、結構酷い絵面になっていた。

 多少気持ち悪くなったものの、吐くまではいかなかった。

 

 馬車を引いていた男の人が、馬車の中から現れる。

 

「いやー助かりました。ありがとうございます。貴方達は一体……」

「ああ、ちょっとした旅人ですよ」

「旅人……そうですか。私あそこの街で商人をやっていましてね」

 

 そう言って、俺たちが向かっていた街を指差す。

 

「見たところ貴方達も、あそこへ向かっているご様子。どうでしょうか? なんとか馬車も無事でしたし、乗って行きませんか?」

 

 これはなんとも嬉しい申し出。

 断る理由は特にないが……。

 一応聞いておいたほうがいいだろう。

 

 俺は小声でアンナに聞く。

 

「どうする……? 乗っていくか?」

「え、えぇ……乗って、行きましょ……」

 

 どうやら随分と疲れているようだ。

 そりゃ一ヶ月もこもっていたら体力だってなくなるもんだ。

 しょうがない。

 

「それじゃお言葉に甘えて……」

 

 俺たちが馬車に乗り込むと、商人の男は馬車を動かした。

 なんか……異世界に来た気分だな。

 そんな生易しいものではなさそうだけども。

 

 ここからだった。

 もう既に、戦いは始まろうとしていた。



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第2節:街

 馬車に揺れて、道を行く。

 結構長い道のりだが、平穏そのもので楽ではあった。

 これから待ち受ける戦いを考えると、苦しくはあるが。

 辛い、とは思う。

 

 でも戦うしかないのだ。

 

「……あの、これから行く街ってどんなところ、何ですか?」

 

 談笑するみんなを他所に、俺は不安を消すために商人に話しかける。

 これから行く街、それを知っておくべきだろう。

 これから何が起こるか、わからないからな。

 

 多少でも知ることができれば、向こうには及ばないだろうが、やりやすくはなると思う。

 何が、かは知らないが。

 

「そうですね……実に素晴らしい街ですな」

「素晴らしい、と言いますと」

 

 この様子だと安心できそうだ。

 

「皆が平等、皆が幸せです! ……とあることを除けば」

 

 なんとも不穏な響きである。

 とあることを除けば、と言われると不安になってしまう。

 まだそこに行ったことがないものだから、不安はあっても恐怖はない。

 

 つまり、不安である。

 

「とあること……ですか?」

「あ、いや……聞かなかったことに……」

 

 と、有耶無耶にされてしまった。

 うーん、怖い。

 

 俺はみんなの輪に戻る。

 みんなは楽しそうに話をしていた。

 

「なんの話ししてんだ?」

 

 と聞くと、慌てた様子で、声を紡ぐ。

 特に天狐が。

 

「なんの話……してたんだ?」

 

 流石に少女たちの会話に潜り込むの、無粋だろう。

 これ以上追求するのはやめておいた。

 やめておくべきだと、俺の本能が告げていた。

 

 数分後……景色はだいぶ変わり、街の目の前まで来ていた。

 俺たちは身を乗り出し、周りを見る。

 まさに中世、なんというか、レイシフトしたような気分だ。

 

 今俺は初めて、楽しい、って思ったかもしれない。

 

 ……あれ、以前思ったっけな。

 ま、いいか。

 

「ここら辺でいいかい?」

「ええ、ありがとうございました!」

 

 俺たちは馬車から降り、商人と別れる。

 さて、これからどうしよう。

 俺一人で考えるのは、流石にまずいだろう。

 

 後ろを向いて、みんなを見る。

 みんな好き勝手に周りを見ていた。

 

「えっと……みんな?」

「ん? どーした、ますたぁ」

「な、何かしら」

「……何?」

「……うん、自由行動でいいや」

 

 結局みんな好き勝手に動くことにした。

 と言っても、一応まとまって歩く、ということにはしたのだが。

 各自見に行きたい場所で、別れる。

 

 俺とアンナ、天狐とナーサリーとムーンキャンサー。

 そう言う配分になった。

 まあまあに奇妙な配分ではあるが、取り敢えず行動することになる。

 

 さて、まず俺たちだが、街の中央へ向かっている。

 やはり賑やかになる場所と言えば、中央だからだ。

 

 一方天狐たちは、裏路地などの方らしい。

 やはりこの街にも危険がないか、調べておきたいとのことだった。

 スマホは渡してある。

 

 なんとも頼もしい仲間である。

 

「うーん……なんかいい気分ね。私、何百年こもってたのかしら」

「それ、引きこもり極めてんな……そんな長い間、何してたんだ?」

「……そうね。魔術……と言っても、ホムンクルスの研究ね。私のフルネーム知りたい?」

「え、いや……う、うん……知りたい」

 

 どこか重圧を感じ、知りたいと言ってしまう。

 知ったところで、だからどうした、状態なのだが。

 

「アンディアナ・フォン・アインツベルン。って言うんだけど」

「アインツベルンッ!?」

 

 アインツベルン。

 勿論、Fateやっている人なら誰でも知っているだろう。

 なんせ一番最初のFate、Fate/stay nightに登場するキャラ。

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと同じ性なのだから。

 

「知ってるかしら?」

「あ、ああ……ホムンクルスの……」

 

 ええ、そうよ。と言って話を続ける。

 

「言っとくけど、私はホムンクルスじゃないわよ? ちょっと特殊な事情があってね……その、逃げてきたのよ。技術全部かっさらって」

「お前それ……大丈夫なのか?」

「数百年前に滅んだ一族相手に、心配してどうするのよ」

「それもそうだな」

 

 その一言で俺は納得する。

 確かにこの世界、人理が焼却されたのは数百年前。

 てか、人理が焼却されたと言うことは……絶対存在するわけないよな。

 

「で、何百年も研究してて、なんか成果あったのか?」

「……ええ、私は完全なクローンを作ることに成功したの」

「クローン……おい待て、まさかそれって……」

 

 俺には当然、心当たりがあった。

 あの世界の、防衛杭の王。

 

 それは、もう一人のアンナだ。

 

 裁定根と呼ばれるものを操り、俺たちと決着をつけた。

 

「ええ、多分予想をしている通りよ。私が……私が間違えたの……決着をつけるべきだった……でも結局あなたのせいで、ね」

 

 そう言い、どこか優しい笑みを見せた。

 苦し紛れの、悲しい笑みを。

 

「それは……なんか、すまん……」

「いいのよ。私の意地で負けたら元も子もないしね」

 

 なんとも暗い話になってしまう。

 俺たちは暗い雰囲気のまま、道を進む。

 ちょっとの間進むと、中央へ出てくる。

 俺たちはそこで、改めて驚愕する。

 

 中央にあったのは、時計とか、なんかを讃える像とか、噴水とか。

 そう言うものではなく。

 

 処刑台だったからだ。



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第3節:騎士と少女

 俺たちは困惑し、硬直する。

 この街の中央にあるもの、それがなんと処刑台だったのだ。

 驚いて声も出ない。

 

 処刑台、ギロチンだ。

 ギロチンとは言えば、やはりあのアサシンを思い浮かべるだろう。

 シャルル=アンリ・サンソン。

 

 まさかこの世界に……。

 いや、ブリテンの時点でそれはおかしい。

 抑止力が召喚したと言うのなら、多少なりとも理解はできる。

 だが、触媒もなしに召喚されるものだろうか。

 

 それにだ、アレはギロチンとは言えないだろう。

 なんせアレに、刃はない。

 ただ、首入れるところがあるだけだ。

 

「アンナ……あれ、どう言うことかわかるか……?」

「わかるわけないでしょ……何が起きてるの、この街……!」

 

 で、周りの住人たちは、その断頭台を気にする様子もなく……。

 さも当然のように暮らしていた。

 いや、当然の話だろう。

 

 俺たちとこの世界の人たちは、常識が違う。

 FGOだってそうだった。

 各異聞帯は全て常識がどこかおかしかった。

 

「……なんか、嫌なもん見ちゃったな」

「え、ええ……」

 

 気分は下がるばかりだ。

 で、当初の目的は達成した。

 これからどうするかアンナと話し合う。

 

「どこ行こうか、これから……」

 

 

 と、遠くからガチャンガチャン音がした。

 重装備をつけて走っている感じがする。

 

 まさにその通りだったのだが。

 

 真正面を見ると、向こうから重装備をつけた騎士たちが行進してきたのだ。

 なんとなく予想はしていたが、やはり騎士たちが出たか。

 

 ま、戦うことには絶対にないだろう。

 だって今のところ奴と俺たちに接点はない。

 

 で、奇妙なものが見えた。

 騎士の行進を先導しているが、一人の少女だったのだ。

 服装はどう見ても女子高生、だが重装備を手にしていた。

 右手に鞘に入った刀を持っている。

 

 鞘はかなり大きく、たくさんの刀が入っていた。

 それに所々黒く機械感のある装備をつけている。

 

 特に両腕なんか真っ黒な籠手をつけていた。

 カッコいい。

 

「なんだあれ……?」

「もしかして、あの断頭台と関係があるんじゃ……」

 

 それだったら嫌ではある。

 騎士たちはこっちに来て、二組に分断する。

 俺たちを囲うように歩いている。

 

 いや、囲っちゃいな、い……はず……? 

 

「アンナ……これさ、相当まずい奴じゃ……」

「……そのようね」

 

 アンナはポッケから、宝石を取り出す。

 俺は銃を取り出そうと、ケツの辺りを触る……が。

 ない。

 

「あ、置いてきたんだった……」

 

 そんなことしてる間に、完全に囲まれてしまった。

 

 こうなってしまっては仕方がない。

 魔術礼装に付属された魔術でブーストして……無理やり体術をするしかない。

 見様見真似のクソ体術だが、魔術で強化されてる分、いくらかマシだろう。

 

 重装備の女子高生が前に出てくる。

 こんなところにあんなのがいるのはおかしい、よってマスターか……英霊か……。

 

「ふむ、お前らだな……件の人類最後の希望とやらは……聞いた話だと、男一人だったはずだが?」

「ちょっとした事情があってね。私も協力してるのよ」

 

 俺とアンナは背中合わせになる。

 魔術を使うタイミング、戦闘が始まった瞬間。

 天狐たちはすぐ気づいてくれるだろう。

 

 最悪令呪……あ、ムーンキャンサーいないから使えない。

 

 ……うん、すぐ気づいてくれることに賭けよう。

 

「そうか……ならお前も連れて行くまでの話だ。王の命令だッ! 貴様らをキャメロットに連行するッ!! 戦闘態勢……構えッ!!」

 

 そう言うと一斉に騎士が構えた。

 俺たちも構え、戦闘態勢に入る。

 

 気づけば周りから住人はいなくなっていた。

 

「行けェッ!!」

 

 騎士たちは一斉に飛び出す。

 その瞬間を狙って、アンナが地面に宝石を叩きつける。

 足元に爆発が広がる。

 こちらに被害はないが、一斉に土煙が捲き上る。

 俺は駆け出すと同時に、魔術礼装を起動させる。

 

 見様見真似の一撃を、拳で繰り出す。

 もちろん結果はこっちの手が死にかける。

 なんせ相手は鎧を着ている。

 

 が、やはりと言うか何というか。

 魔術すげぇなと。

 

 俺の手は死にかけたが、同時に相手の鎧が大きく凹む。

 そして吹っ飛んでいった。

 後ろにいた騎士たちが巻き込まれ、倒れる。

 

 俺の右手を犠牲にすれば、なんとか行けるかもしれないが……。

 流石にこの痛みを何度も味わうのは……。

 

 と、そこで俺は天狐を思い出す。

 俺のせいで右腕が切断された、天狐を。

 そうだ、自身を犠牲にしてまで助けてくれた。

 なら俺も、やるべきだろう。

 

 血で滲んだ右手を握り、構える。

 無茶苦茶な構えだったが、どこか様になっていた。

 

 息を軽く吸って吐く。

 足を踏み込むと、叫ぶ。

 

「来いッ!!」

 

 土煙が晴れる。

 周りに現れたのは、飛びかかってきた大量の騎士。

 

 俺は駆け出すと、一番前にいた騎士に一撃を入れる。

 痛みで顔を歪めつつ、飛び上がると、蹴りを入れ叩き落とす。

 

 俺は着地すると、次々と殴り込んでいく。

 両手がどんどん血で滲んでいく。

 痛い、痛いがまだ戦える。

 

 殴れ、殴れ殴れ殴れ。

 

 チラッと後ろを見る。

 アンナの方は宝石魔術と、身体能力の上昇系……だろうか。

 それを駆使して戦っている。

 

 魔術回路をフルで起動させているようで、全身を覆っていた。

 

 俺は改めて前を見る。

 

「……チッ、何をしている騎士どもッ! とっとと捕らえろッ! 相手はただの人間だぞッ!!」

「ただの人間だからって舐めんなよ……こっちは魔術師がいんだからな」

「……え、それ私のこと?」

「お前以外に誰がいんだよ」

 

 女子高生はイラついた様子でこっちを見ている。

 ポッケから何かを取り出した。

 ハートのような、何かが入った容器だ。

 

「『魂増幅改善装置(ソウルレーション)』……こいつを使うか……」

 

 それを隣にいた一人の騎士に渡す。

 それを受け取った騎士は、それを右手で握り砕いた。

 すると突然、鎧の中が膨張する。

 

 かと思いきや、収縮した。

 次の瞬間だった、奴は踏み込むと、一瞬で俺の目の前に来て、剣を振り上げた。



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第4節:キャメロット

 剣を振り下ろされる、寸前で飛んでいく。

 宝石が飛んできたのだ。

 

「アンナっ……助かった!」

「……何よ、あれ」

 

 俺とアンナは並び立つ。

 真正面を見ると、何事もなかったかのように、騎士は立つ。

 異様な気配を、嫌という程感じる。

 しかもこの感じ……何度も感じたからわかる。

 

「宝具……!」

「待って……それってつまり……!」

「ああ、あの女子高生みたいなの、英霊だ」

 

 まずい。

 宝具で強化される、つまり俺たちでは敵わない。

 どうする、今の俺では令呪は使えない。

 賭けに、出るか。

 

「ふぅ……」

 

 息を吸う。

 そして俺は、空に向かって叫んだ。

 

「天狐ォォォオオオオッ!!」

 

 人頼みである。

 俺は魔術ではない。

 魔術で強化しただけの、ただの人間だ。

 あまりにも、壊滅的な戦闘能力しかない。

 

「えぇ……」

 

 アンナは、少し困惑していた。

 俺たちでなんとかできると思ったら、それこそ大間違いだ。

 死ぬわけにはいかない、なら叫ぶ。

 

 来ない。

 

 騎士が踏み込む。

 それを見た俺は、アンナに囁く。

 

「逃げるぞ」

「……ええ、そうね」

 

 二手に分かれる。

 その瞬間だった、騎士は飛び出した。

 壁に激突すると、その家が半壊する。

 

 ぬっと起き上がり、騎士は俺を見る。

 めちゃくちゃ怖い。

 

 そんなこと思っていると、奴はジャンプした。

 俺の方向に向かってジャンプしたのだ。

 飛ぶのと、飛び出すのでは違う。

 奴は空を舞っているのだ。

 

 ちょうど俺の真上に、剣振り上げながら落ちてくる。

 俺のところに落ちて来て──。

 

 蹴り飛ばされた。

 

「ますたぁ! 大丈夫か!?」

「天狐っ!」

 

 俺の願いは、届いたようだ。

 天狐は蹴り飛ばすと、俺の横に降りてきて、刀を抜く。

 少し遅れてナーサリーも現れた。

 

「……二人とも、頼めるか?」

「ああ!」

「……うん、いいよ」

 

 俺が指示を出すと、二人が飛び出す。

 天狐は二本の刀を手に、走る。

 ナーサリーはどこからか、アサルトライフルを取り出し駆ける。

 

 騎士は起き上がる、そこを狙って天狐が刀を振るった。

 が、右手で受け止められる。

 そこを掴まれた刀を軸として、回転し地に降りると左手の刀で腹を切り裂く。

 それを食らってから倒れる。

 

 何度も倒れていて気づいたが、倒れている間、起きる間、奴は抵抗できない。

 そこ狙ってか、後ろに陣取ったナーサリーは鎧にぴったりと銃口を当て、アサルトを撃ち込む。

 連続的に撃ち込まれたそれは、遂に鎧を貫通する。

 

 そこから先、俺は見ることができなかった。

 

 が、騎士の方向からとんでもない音が聞こえてきたため、死んだのだろう。

 

 女子高生は明らかにイラついた様子であった。

 靴音を鳴らし、刀を抜く。

 

 瞬間、詠唱を始める。

 

「提言:道を通れば意味は不問とす」

 

 空気を切り裂く。

 かと思ったが、空間に切れ目ができていた。

 

 ちょっと困惑しつつ、それを見ていると、奴はそこに腕を入れる。

 すると、俺の頭が何か掴まれ、地に叩きつけられる。

 

「ッ……!?」

 

 天狐が刀を奴に向けた。

 奴は、動くな、と言った。

 それ受け、刀を下ろし、天狐は動かなくなる。

 ナーサリーは動こうとしていたが、天狐がそれを止める。

 

 ナーサリーは納得のいかない顔で、今にも飛び出しそうだが。

 

「殺されたくなかったら、動くなってか?」

「ふんっ、わかっているじゃないか」

 

 俺は、俺の頭を掴んだ手を見ると、それは空間の切れ目から現れた、奴の手だった。

 どうやら俺は、人質にされたらしい。

 魔術で強化していた効果も切れたため、抵抗はできない。

 

「隊長! こちらも捕まえました」

 

 そう言うと、アンナが気絶した様子で連れてこられた。

 それを見てナーサリーも武器を投げ出す。

 さて、負けた。

 

 天狐も刀を収める。

 

「ついてこい、こっちだ」

 

 そう言うと、奴は歩いて馬車に入る。

 もはや俺たちは抵抗する意味もないので、馬車に行く。

 

 周りを見ると、騎士たちはたくさん倒れている。

 死んではいないだろう。

 あのやばい奴以外。

 

 俺たちは抵抗できないまま、馬車を揺れる。

 

「これからお前らが向かう場所はキャメロットだ」

「知ってるよ。円卓の騎士がいる、アーサー王の城だろ?」

「……円卓の騎士? 何言ってんだ?」

「へ……?」

 

 奴は円卓の騎士なぞ知らんと言い放つ。

 待って、この世界まさか……。

 王は存在していても、円卓の騎士はいない……? 

 

 いや、これを聞かなくてはならないだろう。

 

「アーサー王、がいるんだろ?」

「ああ、そうだ」

 

 なんか意外と話聞いてくれるな、こいつよくわかんないな。

 もしかしたら、本当はいい奴なのかもしれない。

 仲間にしたらいい奴、みたいなそんなタイプなのかもれしない。

 

 引き続き聞く。

 

「……どこまで話してくれる」

 

 今ここで、どこまで聞き出せるか。

 もはや勝負は始まっている。

 

 そう言うと奴はため息をつく。

 

「……これはつまらん独り言だが、この国では裁定によって人が殺される。何であれ、罪ならば人を殺す。それが裁定だ」

 

 やっぱいい奴なんだろう。

 真名は全くわからないが。

 

 独り言、と言ってくれた。

 ならつまらない感謝などするべきではないだろう。

 裁定、か。

 

 名付けるならば、裁定円卓領域。

 円卓領域ってのもおかしいだろうけど、それ以外思い浮かばないし。

 

「ついたぞ。いいか、城の中で喋れば殺すからな」

 

 アンナをナーサリーが背負い、俺と天狐は並んで。

 そして驚愕する、その城の様子に。

 そこはキャメロットと呼び難い、途轍もなく大きな城であった。



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第5節:王の間

 押されつつ、俺たちは城を進む。

 道中天狐からムーンキャンサーのスマホを返してもらう。

 城の中は随分と広く、あっちこっちに通路があった。

 勿論そう言うとこには進めないのだが。

 進んでいる途中でアンナは目を覚まし、隣を歩く。

 現状を理解してない様子で、困惑していた。

 

 何が起きたか説明する。

 

「……そう、私のせいで……」

「いや、俺もやられたしな……それに、敵に近づけたって意味では、良かったかもな」

 

 俺たちは静かに道を進む。

 あれ以前、女子高生の英霊は黙っている。

 俺が話しかけても、黙れ、の一言。

 何があるんだろうか、ここには。

 

 先へ進んでいく。

 進めば進むほど、重圧に満ちて行く。

 恐怖、とはまた違った威圧。

 恐怖ではない恐怖が身を襲っている。

 

 これは一体、何だろうか。

 

 横の道を見ると、騎士の姿が一切消えていた。

 天狐が呟く。

 

「ますたぁ、こいつは……やべーぞ。この先、英霊がいるのは間違いない……だが、こいつは本当に英霊か……?」

「英霊、だろうね……でもこれは……うん、私たちじゃ太刀打ちできそうにない」

 

 と、彼女らが語るには、とんでもないのがこの先にいるとのこと。

 ここまできたら、大体予想はできるが。

 

 キャメロット、王。

 

 この二つの言葉出た時点で、誰がまとめあげてるかなんてわかりやすい。

 でも一つ、気になったのは円卓がないことだ。

 

 円卓がないと言うことは……だ。

 うん、ガヴェインとかいないだろう。

 いないはずだ。

 

 円卓の騎士たちとの戦闘とか、絶対に嫌だからな。

 

 ……俺たち、来る順番間違えたかもしれないな。

 

 俺たちは階段を進んで、玉座まで登りきる。

 そこにいたのは、まさに王であった。

 

「あいつ……あの野郎ッ……沖田と同じかッ……!」

 

 天狐がそう言った。

 沖田、沖田総司。

 日本の防衛杭を守っていたサーヴァント。

 彼女と同じだと、言った。

 

 俺は、あそこにいた沖田総司のことをよく知らない。

 だから何とも言えなかった。

 

 女子高生の英霊は、膝をつく。

 

「王よ、連れてまいりました」

「そうか……下がれ」

「はっ!」

 

 そう言うと、女子高生は姿を消す。

 どこに消えたのだろうか。

 と、俺たちは王を見る。

 

 何と言えばいいか、とにかく姿は、アルトリアランサー。

 だがその手に持ってくるのは、なんというか……剣を超越した何か。

 剣ではある、たしかに剣だ。

 だが剣とは呼び難い何かを感じた。

 

 それにだ、あの威圧、本当に()()()アルトリアか? 

 おかしい、絶対におかしい。

 

「我が真名は、アーサー・アルトリア[カオス]……とでも名乗ればいいのでしょう。あの日本の英霊と同じように。私はありとあらゆる、『アルトリア』と言う存在が融合したモノ。クラスは……本来は、冠位(グランド)セイバーです」

 

 なんか今の言葉、全てに意味がありすぎて、ちょっと混乱してしまった。

 待て、冠位(グランド)セイバー、って言ったよな。

 つまり、つまりそれは、ビーストが……。

 いやでも……そこについては本来、と言ったよな。

 

 それにだ、なんなんだ[カオス]って。

 抑止力、ふざけてんのかよ。

 

 ありとあらゆるアルトリアの可能性が混ざっただと。

 ただの化物じゃないか。

 

 周りには何人か騎士がいた。

 それにフードを被った男、ともう一人、明らかに英霊な白髪の騎士。

 しかも……誰だ、あの女性は。

 黒い鎧を身に纏った女性が一人いた。

 

 で、見知った顔も一人。

 モードレッドもいたのだ。

 ただ……何かおかしい。

 とても平穏としており、静かなのだ。

 

 で、もう一人女性がいる。

 長い金髪を携え、キラキラ輝く金色の鎧。

 一見するとギルガメッシュに見えるが、女性なのでそれはないだろう。

 

 明らかに、ヤバイ。

 

 アルトリア、いやアーサーは剣を地に、突き鳴らす。

 それを聞いた瞬間、全身の鳥肌が立つ。

 

「貴様、名を名乗れ」

「お、俺……?」

「ああ……貴様以外に誰がいる」

 

 アンナとか、アンナぐらいか。

 俺の、名前……。

 名前……? 

 な、まえ……? 

 

 脳が沸き立つ。

 頭痛が響き、全身を駆け巡る。

 

痛い。

痛い?

痛い!

 

 わからない。

 脳に響く言葉が、ズルズル駆け巡る。

 

 名前って、なんだっけな。

 

「……ふん、そうか……貴様、そう言うことか」

 

 その言葉に、我に帰る。

 とにかく静かなこの空間、耳が痛くなる。

 天狐とナーサリーは一切行動できなさそうだった。

 

 アーサーが剣を一振りする。

 それを見た天狐がハッとして、刀を抜き俺の前に立つと、()()()弾いた。

 そして飛び出していく。

 が、さっと出てきたフードの男が刀を掴むと、地に叩きつける。

 

「が、あぁっ……!?」

「場を弁えなさい。狐の剣士よ」

 

 頭を掴むと、こちらに向かって投げてきた。

 それを俺は受け止める。

 

 天狐はなんと、一切のダメージを負っていなかった。

 

 もう一度、アーサーは剣を鳴らす。

 

「裁定の時は来た」

 

 まずい、何かわからないがこれはまずい。

 裁定だと、まさかあいつが言っていたのはこのこと……! 

 

 死ぬ。

 

 入り口に、モードレッドと一人の白髪の騎士が立つ。

 要は、逃げれなくなった。

 

 どうする、どうすれば、いい! 

 

「おやおや、それはなんとも頂けないね」

 

 少女のような、女性のような、なんともおかしい声が聞こえた。

 この声、聞いたことがある、と言うか。

 本来は目の前にいる、あの王の声だ。

 

「やあやあ、みんな元気かな? 僕は元気だよ」

 

 そう言って現れたのは、白髪の、杖を持った少女だった。

 なんというか、ロクデナシのオーラがプンプンとしており、なんとも言えない気配感じる。

 アーサーは悔やむように、憎むように言う

 

「マーリンッ……! 貴様ッ……!」

 

 そう、そこに現れた少女はマーリンであった。



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第6節:冠位(グランド)キャスター『マーリン』

 少女なマーリンは、ヘラヘラした様子で俺たちの前に出てくる。

 まさか、何故アレがマーリン……。

 いやでも、確かprototypeの方のマーリンは……なるほど、そう言うことか。

 そっちか。

 

「うんうん、やぁやぁ王様。それに元円卓の騎士たちと……えーっと、そこの金ピカ、誰だっけ……ま、いいか。ボクの名前はマーリンさ」

 

 それを聞いたフードの男は、走り出す。

 そしてそこらに刺さっていた鉄の剣を手に取り、マーリンの前で振るう。

 が、するする避けられていく。

 いとも簡単に、避けて行っていた。

 

 杖をコンコンと鳴らすと、床に波紋が広がる。

 と、マーリンの後ろから女子高生が現れる。

 刀を振り下ろし、一撃を当てようとした、瞬間だった。

 その体が溶ける。

 花が舞い散る。

 

 それと同時に俺たちの体も、花に溶けていく。

 

「え……あ、なっ!?」

 

 アーサーは俺たちを睨んでいる。

 剣を一回、鳴らす。

 すると、フードの男は剣を置き、女子高生は武器を収める。

 

「いいだろう。今は見逃す……貴様ら、覚悟しておけ」

 

 次の瞬間、意識は外にあった。

 キャロットの外に俺たちはいたのだ。

 みんなもびっくりしたようで、困惑していた。

 アンナなんかキョロキョロ、ちょっと挙動不審になっていた。

 

 マーリンは俺たちのことを見て、ニコニコしている。

 少女になるとなったで、どこか胡散臭さが増している。

 ロクデナシ感も増している気がする。

 

 俺は聞く。

 

「マーリン、なんだな……?」

「そう言う君は人類最後の希望、ってやつだね。うんうん、マーリンだよ。よろしくね!」

 

 なんとも言えない気分になる。

 やはりマーリンが女だからだろう。

 どうせなら本来のマーリンが出て欲しかった。

 

 ムーンキャンサーを取り出す。

 

「な、何があったの……?」

 

 ずっとポッケに入れていたものだから、何があったかわかっていないらしい。

 俺は取り敢えず、説明していく。

 すると、うーんと少し悩んだ様子で、マーリンに話しかける。

 

「マーリン、君はなんで私たちを助けたの?」

「それは今から説明しようとしていたところさ。うんうん、とにかく現状を聞いて行ってくれたまえ」

 

 彼女は一息置いて、現状説明を始めた。

 今この大地では、一日百人程度の裁定が起きている。

 だがそれと同時にもたらされるのは、平等とのことだった。

 だからだろう、この平等に疑問持った人たちがいるらしい。

 

 その人たちは、自身で独自の村を作っているらしい。

 所謂、反逆者の村だ。

 マーリンはそっちの陣営らしい。

 アーサー王を倒すなら、俺も自然とそっちの陣営になる。

 

 で、その村はいくつかあるらしく、それをまとめ上げているのが、サーヴァントとのことだった。

 

「それで……どうするんだい? 君たちはボクらとともに来るか。それとも……」

「それ以上言わなくてもわかる。俺たち的には戦力が欲しい……ほらやっぱり、あいつらは強すぎる。野良サーヴァントがまとめ上げていると言うのなら、願ったり叶ったりってやつだ」

 

 後ろでアンナが頷いていた。

 女子高生の時点でかなり強かったが、他にもたくさん騎士がいる。

 それに、あのフードの男……天狐がさっぱり敵わなかった。

 考えたくないが、二人では到底敵わない、と言うことになる。

 だから戦力が欲しいと言うのだ。

 

 勿論こっちがついていく形になるけど。

 

「アンナ、ついていく……でいいか?」

「ええ、私的にもそっちの方が望ましいわ。こんなところで死んだら元も子もないしね」

 

 そう言うと、呆れたようにマーリンを見る。

 マーリンはただニコニコしているだけだった。

 その二人の間で、なんらかを感じてしまう。

 

 とまぁそんな感じで、村へ向かう。

 村までの道は、やはりと言うか何というか。

 とても険しいものであった。

 

 まず最初は平原を進んでいくのだが、獣系の化物が徘徊している。

 さっきは合わなかったのだが、どうやら運が良かっただけらしい。

 まあ、話を遮るようなワイバーンは出てこないからいいとしよう。

 

 山を上り下りし、道を進む、ついに村にたどり着いた。

 ここまで何度か野宿しており、疲れていた。

 

「……ここ?」

「ああ、そうだよ。お疲れ様」

 

 なんか、マーリンらしくないというか。

 まあ、男じゃないからそういうものか。

 

 俺たちは村へ入っていく。

 村には、様々な人たちがいる。

 と、子供達がマーリンの元に集まってくる。

 

「マーリンおねーさん!」

「おやおや、どうしたんだい?」

「あのね、おかーさんがね!」

「うむ、わかった。すぐに行こう」

 

 と、まぁ忙しいそうだった。

 アレ、本物だろうか。

 それとなくムーンキャンサーに聞いてみた。

 

「本物だと、思うけど……」

「本物だよ……あの霊基、本物以外ありえない……」

 

 と、ナーサリーが言った。

 つまりは、ちょっと見方を変えてみれば、マーリンだって行動するぐらいヤバい状況と言うわけだ。

 俺たちはとにかく奥へ向かう。

 ここの人たちをまとめ上げているであろう、英霊に会うためだ。

 

 大体どこにいるか、それはムーンキャンサーがわかる。

 案内に沿って進むと、そこは一つの小屋だった。

 俺は軽くノックする。

 

「……誰だ?」

「マーリンに連れこられた……えっと……」

「そうか、お前らが人類最後の希望か。入れ」

 

 俺はドアを開け入ると、そこにいたのは一人の騎士だった。

 鎧に身を包んだ、一人の騎士。

 

「俺はサーヴァント、ケイだ」

 

 サー・ケイ、円卓の騎士の一人。

 そして、アルトリア・ペンドラゴンの義兄だった。



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第7節:セイバー『ケイ』

「ケイ……って言ったらッ……!」

 

 ケイは安心しろ、と手を出す。

 ここにいることも考えて、どうやら敵ではないようだ。

 壁にかけていた剣を手に取ると、立ち上がる。

 

「……クラスはセイバーだ。知ってると思うが、元円卓の騎士だ」

 

 そう言うと、剣を抜いて床に刺す。

 騎士特有の構えみたいなやつだ。

 

 ……なんか、見たことある剣だな。

 

 ケイと言えば、アルトリア・ペンドラゴンの義兄。

 本来、アルトリアに敵対するような位置にはいない。

 いや違う……もしかしてあれだから敵対しているのか。

 義兄だからこそ、敵対しているのか。

 

 てか、ケイってこんなんだったかな。

 マテリアルで出ていた顔と同じ、だがアッドとの性格……全然違う。

 彼は毒舌を吐くと聞く。

 だが、そんな雰囲気は一切ない。

 雰囲気自体そもそも違う。

 

 まさか、そこほどまでに追い詰められていると言うことか。

 

「お前たちが、マーリンの言っていた……」

「そうよ。私たちが……まぁ、人類最後の希望ってやつよ」

 

 そうアンナが言う。

 改めて聞くと、なんか恥ずかしいな。

 まぁ、事実を述べただけなんだろうけどさ。

 

「そこ狐の耳を生やしたお前と、そこの奇怪な格好をしたやつがサーヴァントだな」

 

 そう確認を取ると、剣を抜く。

 すると、ついてこいと言った。

 俺たちは後ろからついていく。

 天狐は、その様子に何か思うとこがあるのか、訝しげに見ていた。

 ナーサリーは辺りを見渡し、キョロキョロしている。

 アンナは覚悟を決めた様子で、歩いていた。

 

 村から少し離れた山の場所。

 そこでケイは、俺たちに剣を向ける。

 

 待て、あの剣……思い出したぞ!? 

 

「お前らの力、試さしてもらう」

「天狐ッ……! まずいあれは……!」

 

 そうだ、あの剣は宝具。

 セイバーの時点でおかしいと気づくべきだった。

 彼は剣をに関する逸話はない。

 一つを除いて。

 

「あれは……勝利すべき黄金の剣(カリバーン)だッ!!」

「『偽・勝利すべき黄金の剣(ボロウ・カリバーン)』」

 

 その黄金の剣が、たった一撃の極光が放たれる。

 たった一撃、されど究極の一撃。

 天狐は少し前に出ると、羽織を着る。

 そして叫んだ。

 

「我が友よッ! 我が声を聞けッ! 幻想に於いて語られるは、夢幻の城塞ッ!! 三千束ねる、我が幻想の要塞ッ!! 『妖魔城塞:百鬼劣紅』ッ!!」

 

 一撃が天狐に当たる。

 が、その一撃は天狐に当たって、裂けていた。

 防いだのだ、その一撃を。

 

「ナーサリー! 行きなさいっ!」

 

 アンナがそう叫ぶ。

 天狐がそれを防いでる後ろに行って、横に手を出す。

 そして何かを呟いた。

 

 その瞬間、空間に穴が空いた。

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)に似た穴が。

 

 その一撃を防ぎ切る。

 天狐が膝をついた瞬間、ナーサリーが銃を手に駆け出した。

 向こうも、走り出す。

 

 銃を手に撃ち続けるが、流石は円卓の騎士。

 全てを切り防いでいた。

 が、それはわかっていたようで、ナーサリーは踏み込むと、飛んだ。

 飛んで、手を振り下ろす。

 すると穴から、一撃が放たれる。

 

 それを見たケイは剣を振り下ろす。

 

「なッ……!?」

「円卓の騎士を、舐めるなよ」

 

 地に足をつき、軽く踏み込む。

 剣の腹に叩き込む。

 そして地面に思いっきり叩きつけた。

 別に引いたわけではないため、斬れたわけではない。

 

「……天狐、行けるかっ!」

「あ、ああ……!」

 

 刀を抜くと、地を走る。

 ケイはこちらを見ると、攻撃を避ける。

 刀を振る一撃では、いとも容易く避けられる。

 そこに腹に蹴りを入れられるが、そこを上手く利用し、回転し刀を振り下ろす。

 

 が、剣で防がれる。

 それを弾かれ、天狐は地に降り立つ。

 その瞬間、飛び出す。

 刺突の構え、突くと言う一撃に特化した攻撃。

 

 が、その攻撃は剣によってずれる。

 そこを狙ったかのように、ケイは剣を振り下ろした。

 

 しかしそこで、ナーサリーが銃を撃ち、剣をずらしたのだ。

 それによって、剣で斬られることは免れる。

 

 そこに刀の一撃を叩き込んで、距離を取る。

 

 試すにしては、やりすぎかと思う。

 が、こちらが一人相手に押されているのだ。

 

 天狐とナーサリーは並ぶ。

 流石にこれは……辛いと言うもの。

 

 そんな時、ムーンキャンサーが騒ぐ。

 

「す、すごいよここ! 霊脈が凄いことになってる!」

「霊脈が……? まさか……!」

「魔力の接続を確認、令呪と霊脈の接続を確認。いつでもいけるよ!」

 

 それを聞いた俺は、手を前に出す。

 そして俺は紡ぐ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する

 ────告げる

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」

 

 床に刻まれていくのは、召喚陣。

 辺りに広がる稲妻。

 そう、今ここに新たなサーヴァントが召喚されようとしているのだ。

 アンナは俺のしようとしていることを見て、驚愕する。

 

「な……貴方まさか……っ!」

 

 俺は直感的に、自身の召喚するサーヴァントのクラスを悟る。

 長い戦いが、俺の感覚を鍛え上げていたのだ。

 ──叫ぶ。

 

「来い……バーサーカーッ!!」

 

 召喚陣が煙に包まれる。

 赤い光が、そこに現れる。

 

「Arrr……thurrrrrrrrr!!!」

 

 黒い漆黒の鎧を着た、騎士。

 そう、かの狂戦士と化した男。

 円卓一の強さを誇る……彼だった。

 

 ケイは、それを見て驚愕し、呟く。

 

「サー・ランスロット……!」



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第8節:サーヴァント『バーサーカー』

「Arrrrrrrrrrrr……」

 

 ランスロットは身を屈め、構える。

 その瞬間飛び出した、俺は叫ぶ。

 

「天狐ッ!! ナーサリーッ!! 今すぐ離れろッ!!」

 

 それを聞いた天狐とナーサリーは、すぐに離れる。

 ランスロットは右手を出し、掴みかかろうとする。

 ケイは剣を投げると、右手で受け止める。

 すぐさま左手を出すランスロット。

 そしてそれも受け止めるケイ。

 

 剣を投げた理由はやはりあれだ、ランスロットの宝具『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』が原因だろう。

 同じ円卓の騎士、どんな宝具を使っているかなんて当然わかるだろう。

 しかし、俺もなかなか運がいい。

 狂化してるとはいえ、円卓最強の騎士を引き当てるとは。

 

「ね、ねぇ……あの英霊、なんなの?」

「バーサーカー……ランスロットだ」

 

 てか、見知った顔だよ。

 やっと原作でも出てくるのが来たよ。

 zeroでもしっかり活躍するし。

 嬉しいね。

 

 互角の戦いを繰り広げる。

 土煙でほとんど見えないが。

 何か援護しようにも、あの戦いに入ることはできない。

 

 一方、天狐とナーサリーは、その戦いを見て呆然としていた。

 

「なんだありゃ……」

「あれが……円卓の騎士……」

 

 それはそうだ、そこらの英霊と比べ物にならない位強い。

 二人も十分強いのだが。

 

 一つ、援護出来るかと思い聞く。

 

「ナーサリー、銃ってどのくらいあるんだ?」

「え……たくさんあるけど……どうしたの」

「なんでもいい、出してくれ」

「……わかった」

 

 何をさせたいのか理解はできてないみたいだが、それでも言った通りに銃を手に取る。

 サブマシンガンだ。

 すると土煙からランスロットが手を伸ばし現れる。

 ランスロットは、それを手に取ると奴に向けてぶっ放す。

 

 彼の宝具は、誰でも知っているだろう。

 どちらかと言うと、スカスカの方が有名かもしれないが。

 

 向こうから呟くような、声が聞こえる。

 さっきもきいた、あれだ。

 

「『偽・勝利すべき黄金の剣(ボロウ・カリバーン)』」

 

 偽物の一撃、そうなってしまってはそんな連発できないはず。

 おかしい、何かがおかしい。

 

 しかし、その極光は俺たちを許さない。

 今にもその一閃は、俺たちを飲み込もうとして、ランスロットが前に立つ。

 そして叫んだ。

 

「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 気づけば手に、黒い剣を持っていた。

 そうだあの剣、あの剣は……。

 無毀なる湖光(アロンダイト)

 魔剣『無毀なる湖光(アロンダイト)』だ。

 二つの宝具と、膨大な魔力を引き換えに抜き放つことができる剣。

 なんで……。

 

 俺は心配になってムーンキャンサーを見る。

 だが、疲れている様子は、一切なかった。

 

 そして光に飲み込まれる瞬間、俺は確かに聞いた。

 その()()

 

「『縛鎖全断(アロンダイト)……過重湖光(オーバーロード)』……!」

 

 狂った叫び声、その中で確かにその言葉は聞こえた。

 そう、ランスロット、セイバーの宝具である。

 絶対にありえない、そんなことが起きた。

 とんでもない特殊な召喚なら、目の前で起きてることも多少の理由づけ出来るだろう。

 

 霊脈もしっかり安定していた。

 なら何故……。

 

 ランスロットは剣を振るう。

 極光がぶつかり合った。

 そして、聖剣の一撃を撃ち砕く。

 

 ケイは立って、呟く。

 

「やはり……ランスロット、そう言うことか……」

 

 どう言うことだよ。

 誰か俺にもわかるように説明してくれ、頼むから。

 

「ランスロット、少し下がっててくれ。最後にお前のマスターとそのサーヴァントが、この戦いを乗り越えれるかだけ確かめたい」

 

 静かな時間が少しすぎる。

 が、ランスロットは軽く頷いて、後ろに下がる。

 

 バーサーカー、バーサーカーだよな。

 まさかこのランスロット、ランスロットだけど俺の知ってるランスロットと別物だったり、しないよな。

 それは流石に嫌だぞ……。

 

「二人とも、名前はなんて言うんだ」

「天狐だ。んま、日本のとこの英霊だが?」

「……ナーサリー・ライム。詳しいことは……聞かないで」

「わかった。なら今から、全力で攻撃を放て」

「……いいんだな? ナーサリー、下がってろ」

 

 天狐は前に立ち、刀を構える。

 目を瞑り、息を整えていく。

 同時に、ケイも構え、呟く。

 

 天狐は、刀を天に掲げ詠唱を始めた。

 

「我が宿敵、天照の神に乞おう。我に力を与え給え」

 

 体が、蒼い焔に包まれる。

 羽織が風に揺れる。

 威圧が、こちらまで届いてくる。

 

「絶戦の果てにて願いを乞うは、敵に報復を。我らに祝福を」

 

 太陽は、一層輝く。

 これが、天狐の宝具か。

 セイバーとしての、彼女の宝具か。

 

「地獄の果てに夢見るは、我らが世界。我らが夢幻」

「『儚くも忘れじの城(キャメロット・イマージュ)』」

 

 向こうは先に宝具を放つ。

 霧とともに、キャメロットの姿が顕現する。

 あの宝具、アッドのやつと……。

 

「まさか……! 天狐、まずいッ!!」

「『天輪快晴深裂刀(てんりんかいせいしんれつとう)』」

 

 城壁は、極光の一撃を受け崩壊する。

 崩壊するのは当然だ、あの宝具の本領はここからなのだから。

 崩壊し、霧散した城壁のカケラが、構えた剣に集う。

 

「行くぞ」

 

 宝具を放った天狐は、膝をつく。

 あの様子では、避けることもままならないだろう。

 俺は飛び出しそうになり、ナーサリーが呟きながら出て行く。

 ケイが剣を振り下ろすと同時に、それを言った。

 

「『子供のための物語(ナーサリー・ライム・オルタ)』」

 

 強大なバズーカみたいなソレを手に、撃ち放つ。

 ケイはソレを打ち壊すために、剣を振るう。

 ギリギリの攻防、その末ケイが撃ち破る。

 が、同時に宝具も効果を失う。

 

 ケイはそれを見て、剣をしまう。

 

「合格、と言うべきか。マーリン、聞こえてるな。移動の号令をしろ」

 

 そう言って戻る。

 途中、振り返る。

 

「何をしている、行くぞ」

 

 それで、戦いは終了した。



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第9節:大地を渡り

 ケイとの戦いを終えた俺たちは今、大地を渡り歩いていた。

 あの後、村の人たちとともに村から脱出した。

 元々廃棄予定だったらしいが、あんな戦闘してしまえばバレるのは確実だと言うこと。

 今は他の反乱軍と邂逅する為に目的地へ向かっている。

 

 神聖円卓領域『キャメロット』とは真逆な風景、だがやっていることは全く同じと言う。

 なんとも言えないものになっていた。

 

 俺の隣をアンナが歩く。

 天狐とナーサリーは後ろで、マーリンを列を乱させない為に真ん中へ、そして戦闘をケイが行っていた。

 

 バーサーカーはこの中で擬態している。

 バーサーカーだから短時間しか擬態できないはずだが……喋らなければ何時間でもできる、らしい。

 やはり何か変だ。

 

 マーリンは基本ヘラヘラしているが、その行動に一切の適当さ加減は見えない。

 彼は本気なのだ。

 

「なぁ、アンナ」

「何?」

「どこに向かってるんだろうな」

「さっき言われたでしょ?」

「そう言う意味じゃないんだけどな……」

 

 まぁ、目的地の名称なんてわかったところで、無駄だろうけど。

 随分と長いこと、歩いていた。

 列はそこまで長くはない、乱れることもなく、ペースよく歩けているはず。

 慣れている様子から何回かやっているはずだ。

 だが、それでもまだ目的地に着く様子はない。

 

「ますたぁ、大丈夫か?」

 

 気づいたら、天狐が隣にいた。

 心配そうな顔で、俺の顔を覗く。

 俺は手で制しつつ言う。

 

「ああ、なんとかな。天狐は大丈夫か? そっちは……戦闘とか起きてないよな?」

「ああ、こっちはなんとか。襲われる前にナーサリーがやってくれてるからな。私は……ま、出番がないと言ったとこだな」

 

 そう笑顔で言う。

 やはりサーヴァント、心配するまでもないようだ。

 俺のことを確認すると、後ろのところに戻って行った。

 俺はスマホを取り出し、ムーンキャンサーを見る。

 

「本来の聖杯戦争、そこに君たちがいたらどうなってたんだろうね?」

「それは……俺が天狐を召喚できたと仮定しての話か?」

「まぁ、そうだね」

「私は想像できないわね。彼女の召喚、少し特殊だったから」

 

 特殊、とはどう言うことなのだろうか。

 確かクローンの自分と敵対してたんだよな。

 状況はたしかに、ある意味特殊だ。

 だがどう言うことだろうか。

 

「特殊って、どう言うことだ?」

「魔力を介せずに行ったの。聖杯で無理やり行使して適当に召喚したのよ」

「触媒もなしにか?」

「それは……あなたも同じでしょ?」

「それもそうか」

 

 そう言えばもう既に、今までの経緯については話していたな。

 そんな会話していると、マーリンがやってきた。

 なんか少し、疲れている様子であった。

 彼……じゃなくて彼女はサーヴァントだ。

 疲れる、って言うことはあるのだろうか。

 そこら辺、まだ知識不足だ。

 

「やぁ、君たち。慣れない旅で疲れただろう?」

「マーリンの方が疲れてそうだけどな」

「いやだなぁ、ボクはサーヴァントだよ?」

 

 そうは言ってもその顔、どう見ても疲れている。

 まぁ、頑張っている証拠ということなんだろう。

 そう言うことにしておく。

 

 と、アンナが聞く。

 

「ねぇマーリン、これからの予定教えてくれないかしら」

「いいとも。これからボクたちは別の村と合流する。それはさっき言ったね。で、そこを纏め上げているサーヴァントと出会う」

「纏め上げているサーヴァント? 誰だ?」

「セイバーとしか、言えないかな」

 

 セイバー、か。

 正直ここだから……候補が多すぎる。

 と、そんなこと会話していると、何か気づいた様子のアンナ。

 どちらかと言うと、酷く困惑している。

 

「どうした?」

「ちょっ、ちょっと、いいかしら?」

 

 そう言うと、一つ前を歩く男の肩を掴んだ。

 男は驚いた様子で、肩を震わせる。

 アンナは言う。

 

「そこの貴方、少しいいかしら……いや、違うわね。こう呼ぶべきかしら? ここの防衛杭を守るマスター。ロイド・アルフォード」

「なっ……!?」

「なに……?」

「は、ははっ……やっぱバレちったか。久しぶりだなぁ、嬢ちゃん」

 

 そう言って振り返る。

 なんともお気楽そうな男だった。

 俺は右手の甲を見る。

 するとそこには赤い刻印、そう令呪が刻まれていた。

 

「なんで、なんでいるのかしら?」

「あの嬢ちゃん……見事に負けちまったんだな」

「聞いてるの? ねぇ、どう言うこと!?」

「んー、そうだな。っと、そっちの坊主が人類最後の希望だな? よろしく!」

「あ、ああ……って違うだろ!?」

 

 なんでこんなところに。

 いやたしかに、あそこにマスターらしき人物はいなかった。

 まさか、こっちにいるとは……。

 だが、アーサーとの契約は続いている……。

 どう言うことだろう。

 

「んと、そうだな。質問は……えっと、どう答えりゃいいか……話すと長くなるんだよな。てか、嬢ちゃん……」

「話を逸らさないで!」

「あ、ああ……すまんすまん」

 

 そんなことしていると、マーリンが言う。

 

「一度休憩にするように呼びかけてこよう。そこで話すといい」

 

 そう言って先頭に行った。

 少しすると列が止まり、休憩になった。

 

「ロイド、何があったのよ……」

 

 そうして俺たちは、休憩に入った。



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第10節:火を囲んで

 夜、火を囲み俺たちは話し合いをしようとしていた。

 話し合い、と言うよりも事情聴取と言った方がいいか。

 俺、アンナ、天狐、ナーサリー、ムーンキャンサー、そして敵であるはずのロイド。

 ちなみに、ランスロットは会話ができないため、手伝いに行ってもらっている。

 

 天狐は常に刀に手をかけていて、いつでも抜ける状態だ。

 怪しい動きをしたりすれば、殺しそうな勢いで。

 

 アンナが、口を開く。

 

「で、なんでこんなところにいるのよ」

「なんで、って言われてもだな……嬢ちゃん、見たらわかるだろ? 俺はもうダメってこった」

「あなたは……! ……何が、あったの。一つ一つ話して」

「……わかった」

 

 そう言うと、語り出す。

 簡易的に話をまとめていこう。

 

 まず、サーヴァントであるアーサーと意見がすれ違う。

 次々と殺されていく、それが認められなかったそうだ。

 どちらかと言うと、ここが守りたかっただけかもしれないが。

 

 思い込みだけで物事語るわけにもいかないので、そこは保留。

 

 で、案の定追放。

 彼女が従えていた六人のサーヴァントの追撃を命からがら逃げてきて……。

 ここに至る。

 

「……いいわ、大体わかった」

「……一つ聞いてもいいか?」

「ああ、いいけどなんだ?」

「アーサー、その令呪でなんとかできなかったのか?」

 

 いくら強大なサーヴァントだろうが、令呪には抗えない……はず。

 記憶が曖昧なのでそこらへんよく覚えていないが。

 だが、令呪を使えば大半のサーヴァントは……。

 

 と、考えていた。

 

「無理だ無理だ、あいつ対魔力EXだからな」

「……え?」

 

 スキル、どうやって見れるんだろう。

 見ると言うより、感じるのだろうか。

 いや、だったら俺は……。

 

 うん、そこについては考えないでおこう。

 それより、対魔力EXって……。

 

「それって、まさか魔術系統……」

「ああ、全く効かねぇよ。坊主、お前さんも相対してわかったろ。ありゃバケモンだってな」

 

 確かにそうは思った。

 だが同時に、本来の俺なら抱かないであろう感情も抱いていた。

 その時は恐怖に塗り潰されていたが、落ち着いた今ならよくわかる。

 同情、だ。

 それがどうして湧き出たのか、俺にはわからない。

 でも、湧き出たものなのだ。

 

「……一時、とはいえそれを従えていたロイドは、ほんとおかしいと思うわ」

「褒め言葉として受け取っておくよ。で、他に聞きたいことは?」

 

 他に聞いとくこと……。

 

 向こうにいたと言うことは、有益な情報を、それこそたくさん持っているだろう。

 だが、聞いて話してくれるのだろうか。

 ……聞いてみるだけ聞いてみよう。

 

 俺は取り敢えず、向こうのサーヴァントたちについて聞いてみる。

 すると、すんなりと喋り出した。

 

「ああ、あいつら真名わかんねぇけど。クラスならわかるぞ。白髪の騎士、あいつはライダーだ。金ピカと、あの女騎士はセイバー、のはずだ。女騎士は少し怪しいが……。で、フードの男、あいつ……エクストラクラスだと言うことしかわからねぇ。で、黒い鎧の嬢ちゃんだが……ありゃ、なんだって感じだ。クラスは多分セイバー、ああ、あと女子高生の格好した嬢ちゃんに関しては真名ねぇからな。そこ注意……」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。いいのか? 話して?」

「? 聞いたのお前さんじゃねぇか」

 

 そこではない。

 そこじゃないのだ。

 

「いや確かにそうだが……俺とお前は敵だろ!?」

「今は利害が一致した仲間だ。な? そうだろ、嬢ちゃん?」

「……あんま認めたくないけど、アーサーを倒すとどちらにも徳がある、一時的な共闘、と言うことになるわね」

 

 これでいいのかよ。

 何というか、お気楽な人だな。

 反抗しなくても、ちょっとしていたら追放されてたんじゃないかな……。

 

 あ、でも数百年もここにいるわけだから……。

 

 うーん、なんとも言えない。

 

「……信じていいのかよ。ほんと」

「天狐。それは言うな」

 

 と、そんな時に、少し離れたところで轟音が響く。

 同時に爆風のような、とんでもない風が辺り一面に広がる。

 

 と、その瞬間であった。

 

 朝になった。

 いや、昼か。

 違う、そこじゃない。

 

 昼夜が、一瞬のうちに逆転してしまったのだ。

 

 天狐とナーサリーが警戒態勢に入る。

 アンナが目の当たりに触れている。

 魔術、でも使っているのだろうか。

 

 少しすると、驚いた様子であった。

 

 ムーンキャンサーが言う。

 

「ズーム! カメラ機能のズーム使って! 数百倍まで近づけることができるから!」

 

 無駄に高性能だな、おい。

 と、言われるままに、ズームする。

 するとそこに映っていたのは、フードを着た男。

 サーヴァントだった。

 

 ムーンキャンサーも見ていたようで、スキルを叩き出す。

 

「スキルは……焔撃の復讐心B、太陽召喚EX、聖者の数字A、狂化E+++……なに、これ……」

 

 今、なんて言った。

 太陽、聖者の数字? 

 おい、おいおいおい……ふざけんなよ。

 まさか、そのまさかか。

 

 俺がランスロットを召喚できたのも、そのせいなのか。

 

 あれは、あれは……。

 

「ガヴェイン……!」

 

 俺はそれに気づいた瞬間、すぐに指示を出す。

 昼になった、それは彼の力が、本領を発揮できる時間だ。

 3倍にまで上がる、ステータス。

 

 俺は、恐怖する。

 ゲームで十分味わった、馬鹿みたいに強くなる昼の時間。

 それが今、起きている。

 

 俺は、指示を出す。

 

「マーリンッ! すぐに逃走を用意してくれッ! 聞こえてんだろッ!! 天狐ッ! 防御用意だッ! ナーサリー、ここからあいつを撃ちまくれッ! 今すぐにッ!」

「ど、どうしたのよ……確かにあれはサーヴァントよ。でもここにはたくさん……」

「馬鹿言うなッ! あいつはガヴェインだッ! 今昼になったんだぞッ! 迎撃しに言ってみろッ! 殺されるぞッ!」

 

 エクストラクラス、間違いなく奴はアヴェンジャーだろう。

 ガヴェイン、しかもそれがアヴェンジャーに。

 間違いなく、逃げなきゃ殺される。殺されるのだ。

 

 俺はコンティニューという手段がない。

 ゲームじゃないのだから、作戦会議は一度っきり、少しでも選択をミスれば死。

 なら今は、逃げるだけだ。

 

 それに、ギフトがどうとか関係なく、昼になった。

 その事実が、あれば逃げる理由は十分だ。

 

 と、ナーサリーが叫ぶ。

 

「ッ!? マスター……早く逃げて……! 間に合わ、ないっ……!」

 

 それを聞いて向こうを見ると、とんでもない速度で走ってきているのがわかった。

 

「天狐ッ!!」

「だ、ダメだ、もう遅いッ!!」

 

 奴は飛び上がると剣を抜いて、叫ぶ。

 ただ一言、名前を。

 

「ランスロットォォォオオオオッッ!!!!」



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第11節:VSアヴェンジャー

 それに答えるように、黒装の騎士は現れる。

 どこからか取ってきたのかわからない木の棒を手に、剣を防ぐ。

 だが、威力は向こうが数倍大きい。

 簡単に押し込まれる。

 だが、その一瞬を狙って、天狐が刀を振り上げる。

 それを防いだガヴェインは大きく遠くへと飛んでいく。

 

「ぶっ殺すァァァァアアアアッッ!!!!」

「Aaaaaaarrr……」

 

 ランスロットはアロンダイトを抜き取ると、飛びかかる。

 衝撃が、辺りに響き渡る。

 太陽が出ている状態のガヴェインとまともに戦おうと言うのか。

 不可能もいいところだ。

 だがランスロットなら、或いは……。

 

 たった一瞬、されど一瞬。

 剣戟は辺りを黙らすように鳴り響いて行く。

 そこに介入する隙なんてなくて。

 

「アンナッ! 今のうちに逃げるぞ!」

「ここにいる人みんなは!?」

「マーリンが聞いているから、もう既に伝わっているはずだ!」

 

 と、向こうから人影が見えた。

 ケイがやって来たのだ。

 戦いを見ると、顔を歪ませ剣を抜く。

 

「ガヴェイン卿……ッ!」

 

 二人の戦いに介入するように、剣を振るう。

 すると、ガヴェインは攻撃を受け、飛んでいく。

 一撃は大きく、相対の隙ができる。

 今俺たちが出来るのは、ここで時間を稼ぐ程度。

 少し選択を間違えれば死に直結するだろう。

 せめて、アンナを逃して……。

 深呼吸して、無理やり落ち着かせる。

 

「アンナ、とにかく今は逃げろ。ナーサリー、頼んだ」

「……まさか、ここに残るの……?」

「ランスロットのマスターだからな。天狐、付き合ってくれるか?」

 

 ここで断るならば、アンナにマスター権を移そうと思った。

 だが、天狐は言い放つ。

 

「聞くんじゃねーよ。私はますたぁについて行くって言ったろ?」

「……そういやそうだったな」

「わ、私も残るわ! こんなところでッ……!」

「頼む。もし俺が死んだら、本当にお前だけが……!」

「……」

 

 それ以上、会話は途切れる。

 俺は戦う。

 自分の信じた道のために。

 アンナが後やってくれるだろうと言うことを信じて。

 

「……死なないでよ。死んだら私は……どうしたらいいか、わかんなくなるから」

 

 そう言ってアンナは走って行く。

 ナーサリーは俺を見て、軽く頷く。

 そうして走り去って行った。

 人の話す声は既に聞こえない。

 逃げたのは確実だろう。

 

 ならあとは、ガヴェインを退けるのみだ。

 だがあの様子だと、まともな話し合いは通じないだろう。

 第6章はまだまともだった。

 だからこそ、会話のチャンスはあった。

 だが今は……。

 とにかくやってみるしかない。

 

「ランスロットッ! とにかく……耐えろッ!!」

 

 それに答えるように、ガヴェインに飛びかかる。

 それに合わせ、ケイも飛び出す。

 

 二人一緒に一撃を叩き込むが、それをなんと片手で受けた。

 思いっきり腕を振って、二人を飛ばすと、剣に炎を纏わせ撃ち放つ。

 熱気はかなり離れている俺のところにまで来る。

 熱い、熱すぎる。

 だが、耐える以外道はないのだ。

 他に方法すら、ないのだ。

 

「天狐ッ! あそこに介入は……!」

「無理だッ! ありゃ……本当に英霊かよ……ッ!?」

 

 と、ガヴェインは唸り声を上げる。

 その瞬間、幻視だろうか、奴の後ろに女の人が見えていた。

 まるで取り憑くように。

 なんか日本っぽい人だった。

 

「……なんか、見えないか……?」

「どーした、ますたぁ」

「いや……ガヴェインの後ろに、なんかいないか?」

「後ろに……? うげぇっ!? 嘘だろッ!!? なんであいつがいんだよッ!!?」

 

 と、大きく取り乱す。

 なんかすごい焦っている様子であった。

 と、天狐は俺をみると……。

 

「ますたぁ。すまねーが今回私は、全くと言っていいほど役にたたねーぞ」

「え、どうして」

「あの後ろにいるあいつ……神霊だぞ……ッ!」

 

 神霊。

 また神霊かこの野郎。

 神霊との複合英霊だろう。

 しかもガヴェインと一緒って……チートにも程がある。

 だが、こちらは最強の騎士、アルトリアの義兄。

 そして俺のサーヴァント、天狐。

 

 ギリギリなんとかなるはずだが……。

 

「言っとくが、あの神霊のせいで、私は戦えねーからな。ありゃ……天照大神だ」

「……天照ッ!? ちょっと待て! それは玉藻の……ッ!」

「ああ、そうだ。私の宝具は天照大神の力を借りて放つ。それにこの刀自体も……道理で全く通じねーわけだ」

 

 実にまずい。

 それはまずい。

 よりにもよって、太陽神か。

 太陽の力を使うガヴェインと、太陽神。

 相性が悪くないはずはない。

 

 俺は思考を張り巡らせた。

 奴を、退けるために。



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第12節:Don't wish easily

 私は、イラついていた。

 かつてない程、自分自身に。

 役に立てない自分が腹ただしい。

 それよりも、魔術も使えないあいつが……。

 

「どうしたんだい? 随分とイライラしている様子だけども」

「……ナーサリー、どうにかできないのかしら」

「あれー、ボクは無視なのかなー?」

 

 マーリンのことを無視して、話す。

 ナーサリーは言う。

 

「無理……アレは、絶対に勝てない。どんな英霊であっても……」

「たしかに、アレはね。あんなものがいる時点で無理だと言うものだよ」

 

 あんなもの……。

 果たして私は、役に立てているのだろうか。

 居場所を失い出てきたのはいいが、彼の隣に立てないなんて。

 

「そう気を落とすな、嬢ちゃん。あいつから嬢ちゃんの方が最後の希望だからな?」

「どう言うことよ」

「そのまんまの意味さ。決めたんだろ? 俺たちの世界を滅ぼすって」

「私は……」

 

 ナーサリーを見る。

 ナーサリーはただ、私の目を見つめ返してくるだけだ。

 私は何も言えずに黙ってしまう。

 ずっと黙っていると、ナーサリーが声をかけてくる。

 

「託されたなら……私たちは……やることを、やるだけ……」

 

 確かにそうだ。

 私たちはやることをやるだけなのだ。

 

 私はディザスターで安心て住めるところが欲しいと言った。

 あれは決して嘘ではない。

 でもそれ以上に、私は彼の世界を見てみたいと思った。

 

 彼はこの世界に絶望している。

 彼はこの世界に苦しんでいる。

 彼はこの世界から逃げ出したがっている。

 

 ならば彼にそうさせるその世界とは一体、どれだけ素敵なのだろう。

 どれだけ平和で、どれだけ幸せになれるのだろう。

 

 ああ──。

 

「できることなら、私も逃げ出したいのに」

 

 ふと、自然にそう呟いていた。

 

「次の村まで少し時間がかかるよ。大丈夫かい?」

 

 マーリンが私の隣でそう聞いた。

 私はこう答えることしか、いやこう答える以外選択肢はない。

 

「ええ──私がこんなところで止まるとでも?」

「……ならばよかった。もう少しで山に入るからね。疲れていると言われたらどうしようかと思ったよ」

 

 ニコニコ笑顔のままで前の方を歩く。

 その笑顔に私は、何処か恐怖を抱く。

 何故だかわからないけど、見透かされているような気がして。

 少し怖かった。

 

 私はふと、一つ気になったことをナーサリーに聞いた。

 

「ねぇ、ナーサリー」

「……なに?」

「もしも、もしもの話よ。あなたがこのまま受肉したとして、普通の生活ができたとしたら。なにがしたいの?」

「そんなこと聞くなんて……アンナらしくない……」

「……そうね。少し、疲れているのかもしれないわ」

 

 確かにそうだ。

 私はこんなこと言うことなんて滅多にない。

 聞いたところでどうする、どう何か変わるのか。

 結果は何もだ。

 でも、そんな私でも無駄話はする。

 

 だけど私はきっと、これに限っては聞かないだろう。

 だって、彼女はサーヴァントだ。

 いつかは消える存在だ。

 人間よりも、早く、儚く、溶けるように。

 

 ナーサリーは一度、歩みを止める。

 

「……私は、普通に、暮らせたら。アンナと……一緒に、いたい……」

「え?」

「……それだけ」

 

 そしてまた歩き始めた。

 私は何故か答えてくれたことに嬉しくなってしまった。

 

 私たちは希望的観測をしない。

 だってこの世界は理不尽と恐怖で支配されている。

 だと言うのに彼は、七つの世界を跨いで制覇しようとしている。

 きっとそれが、それに、私が選ばれていたとしたのなら。

 

「──私たちはあんたみたいになれないわ」



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