Fate/Grand 莠コ逅?┥蜊エ迚ゥ隱 (来栖川有栖)
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君はまだ、全てを知らない 英雄の詩

 俺は、どう足掻こうとも、英雄になんてなれない。

 なれっこないのだ。

 

 FGO、あのゲームをして俺は藤丸立香のようになりたいと思った。

 どう足掻こうとも、不可能なのに。

 

 夢を描くことはいいことだ。

 でもそれが現実になってしまうと、絶望する。

 

 現実と、夢の、あまりにも乖離した()()に。

 

 

 

 

 手を伸ばし、希望を掴もうとする。

 ああ、不可能。

 不可能だということは、可能ではない。無理ということだ。

 

 それは誰にでもわかる。

 

 これはただの、少年の言葉に過ぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 くだらない話の続きだ。

 

 人間は誰かの幸せを願う。

 

 ああ、嘘だ。誰だって自分の幸せが一番だ。

 

 これを見ている君もそうなのだろう? 

 

 言葉では誰かの幸せを願いつつも、自分のことばかり考える。

 

 エゴイストだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語が始まるとでも思ったかい。

 

 これは無駄話に過ぎない。

 

 何故かって? 理由は単純だ。

 

 人理は既に焼却されたのだから。

 

 無の空間で、一人ポツポツ話すのも、悪くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 このようなことになった理由、聞きたいだろうね。

 

 この世界では、藤丸立香という闍ア髮は存在しなかったのだ。

 

 そう、実に単純な理由だろう。

 

 助かるはずだった命は消え、全ては焼却された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが待て、まだ希望がある。

 

不確かな希望ではあるがね。

 

 明るく点滅する星のように、その命は消えかけている。

 

 何故そうなってるかって? 彼は英雄ではないからだ。

 

 ただの人間に、どんな希望を抱いているのだ、君たちは。

 

 おっと、藤丸君もただの人間だったね。

 

 なら、まだ希望はあるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ飽きてきた頃だろうが、まだもう少し、付き合ってほしいね。

 

 君は、マシュという少女についてどう思う? 

 

 簡単な感想でもいい、述べてほしいね。

 

 私の感想を話そう。

 

 素晴らしい、花のような少女だ。

 

 花のように、一瞬のために美しく生きる少女だ。

 

 

 

 

 

 

 ……人理焼却、その残された時間を使って延々と一人語りしたが、そろそろ時間のようだ。

 

 私が何者か、それはこれから君たちが知ることだろう。

 

 誰かのために戦い、誰かのために全てを殺し、進んでいく一人の少年の物語の中で。

 

 決して美しいものではないが、誰にでもできることではないことを。

 

 ……意識の消失が始まる。

 

 単独顕現を利用して、ここに存在しているが、もう時間はないようだ。

 

 最後に、一言挨拶を。

 

 それでは、皆の者、さらばだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて英雄になりたいと願った少年がいた。

 

 彼は決して、英雄にはなれなかった。

 

 理由は単純だ、彼は藤丸立香ではないからだ。

 

 だが、数々の英霊は彼を称えるだろう。

 

 誰にもできない決断をしたのだから。

 

 

 

 

 

 

 始めよう、物語を。

 

 

 

 

 

 

 

 [第一防衛杭:絶寒終末国『日本』]



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第一防衛杭:絶寒終末国『日本』 第1節:一握りの希望

 寒い。

 最初にそのような感想が頭に浮かぶ。

 意識は未だはっきりとしないものの、寒さが緩和しているような、そんな気がする。

 

 目を、ゆっくりと開ける。

 目を開けたそこは、真っ白な空間。

 ただ、吹雪いていた。

 

「……な、なんだ……? お、俺……どうしてこんな……」

 

 体を起こし、周りを見る。

 下半身が雪に埋もれている、が寒さはそこまで感じない。

 吹雪に打たれているというのに、寒さをそこまで感じていなかった。

 

 あまりにも感じないものだから、一瞬死んでいるのではと錯覚し体を見る。

 俺は黒を基調とした制服を着ていた。

 

 その制服には見覚えがあった。

 極地用カルデア制服、あのFGOに出てきた魔術礼装の一つだ。

 

 何故そんなものを着ているのか気になったが、もっと気になることがあった。

 それは当然、周りの景色である。

 

 雪なのだ。

 周り一面雪景色、真っ白だ。

 第2部の白紙化した世界より酷い。

 

 立ち上がり、周りを見るが、何も見えない。

 顔を覆い隠そうと、右手を顔の前に出した時、それを見つけた。

 右手に刻まれた赤い刻印、令呪だ。

 

 藤丸立香のものとは違うが、令呪であった。

 

「もしかしたら……マシュとか……いるのかも、しれない」

 

 令呪があるということは、サーヴァントがいるということ。

 それともう一つわかったことがあった。

 

 俺は、FGOの世界に来たということだ。

 俺の心は妙なワクワク感に包まれていく。

 それと同時に不安も抱く。

 

 もしそうなら、ここはどこで、いつなのだろうかと。

 格好から考えるに第二部あたりだろう。

 第2部第1章、永久凍土帝国:アナスタシア。

 この景色の様子からそう考えるのが納得の結果……のはずなのに……。

 

「……は?」

 

 吹雪が止んだ。

 突然、吹雪が止んだのだ。

 

 だがそれは、然程重要なことではない。

 重要なのは、止んで見えた景色だ。

 

「なんだよ……これ……っ!?」

 

 俺は氷漬けになった都市の真ん中に立っていた。

 周りにはいくつものビルが立ち並び、俺がいるのは道路の真ん中だろう。

 雪から突き出た標識でそれは予想できた。

 

 これは見覚えがある場所。

 そう、日本であった。

 

「……ま、待て。これはFGOの世界、だよな。そのはず、なんだよな……!?」

 

 混乱して、頭を抱え膝をつく。

 日本が舞台になったことは……イベント何回かあったが、こんな場所は一度もなかった。

 明らかにおかしい。

 

 周りの風景は、吹雪が止んだものの真っ白だ。

 ビルも何もかもが氷漬けになっているのだ。

 

「……取り敢えず、この場から動こう……」

 

 雪の中に埋まった足を出して、歩き出す。

 一歩足を前に出す度に、足が雪に沈んでしまう。

 深く足が沈むわけでもないから、進むのにそう時間はかからなかった。

 

 今の俺って、どういう状況なのだろうか。

 レイシフト、とは言い難い。

 かと言ってLost beltかそうかと言われると、YESと答えきれない。

 

 Lost beltの予定に日本はなかった。

 だとしたらこの光景、特異点と捉えた方がいいのだろうか。

 

 だが、それだとしたら少しおかしいだろう。

 周りの光景は明らかに現代だ。

 

 2018……2019あたりなのは確実だった。

 

 歩き続けていると、一つのビルのガラスが割れているのを見つけた。

 そこから中に入る。

 

 そこは電気屋、結構大きい電気屋だった。

 一階にはスマホやパソコンがたくさん置かれている。

 電気が通っている様子はない。

 人の気配も全くしなかった。

 

「すいませーん……! 誰かいませんかーっ……!」

 

 声が響き渡る、だがそれだけで声は返ってこなかった。

 山彦のようにずっと響いていく。

 

 俺は結局立ち尽くしてしまう。

 

 と、奥の方から声が聞こえたような気がした。

 自分の声の可能性も……と考えていたところ、今度はしっかり声が聞こえた。

 奥の方に誰かいるようだ。

 

 奥へ進めば進むほど、その声は鮮明に聞こえてきた。

 

「おーい、おいおいおーいっ! ここだよ。ここ、ここっ!」

「ど、どこだ……?」

 

 声のする場所に来たが、そこにはスマホがたくさん置いてあるだけで、他には何もなかった。

 周りを見渡しても、隠れれるような場所などは存在しておらず、人声の正体がわからない。

 

「あー、えっとスマホ。黒いやつだよっ!」

「え?」

 

 一つの、黒いスマホを見つける。

 なんとそれだけ画面がついており、何かが映し出されていた。

 俺はそれを手に取り、画面見る。

 するとそこには真っ白な空間が映し出されていた。

 

「……映ってる?」

「白い空間、なら……」

 

 と言って向こうに伝わっているか気になったが、そう心配することでもなかった。

 すぐに返事を返してくれたからだ。

 

「あれ、もしかして私、画面に映ってない?」

「な、ないけど……」

「ちょっと待ってね……よし、これでいいかな?」

 

 画面が少し揺れると、背景が動き一人の少女が映し出される。

 その少女はこっちを凝視し手を振ってきた。

 

「どう? 見えてる? 私何してる?」

「手を、振ってる」

「よし、見えてるみたいだね」

 

 そう言うとカメラから離れて、椅子を持ってきてそこに座る。

 身長が足りないようで、少し足が浮いている。

 

「よし、それじゃあまずは少し屈もうか」

 

 画面に映る少女は、変なことを言い出した。

 

「え……?」

「ほら速くっ!」

「う、うん……」

 

 俺は身を屈めると、その瞬間目の前の台座が破壊された。

 薙刀のような武器で、破壊されていた。

 

「……う、うわあああああああああああっっ!!!!」

「少し下がって!」

 

 俺は身を屈めたまま後ろを見て、飛び下がる。

 すると、薙刀は俺の目の前に振り下ろされ、ギリギリのところで地に刺さっていた。

 攻撃してきたやつの顔は見えない。

 

「頭を屈めて2秒後、立って走り出すっ!」

 

 言われるがままに頭を屈めると、頭上に斬撃が走る。

 その一撃でわかった、今攻撃してるやつは俺を殺そうとしている。

 

 全身を恐怖が覆っていく。

 

 死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない!!! 

 

 俺は死にたくないがために、スマホの少女の言うことを聞く。

 屈めた2秒後、立って走り出した。

 

「な、なんだよ、なんなんだよっ!! 何が起きてんだよっ!!!!」

「今、私が説明できるとでも!? 取り敢えず私のことはナビゲーターとでも思って! 一応言っとくけど、クラスはムーンキャンサー! いいね? よろしくっ!」

 

 そう言うと次の指示を出す。

 俺はその指示を聞き、追跡者からの逃走を始めた。



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第2節:サーヴァント『セイバー』

今回の節は、本編ネタバレを含みます。
第1部クリアしてない人はお気をつけを。


 逃走、後ろからの追随者は増えていく。

 俺は走りながら、スマホの少女に質問する。

 

「む、ムーンキャンサーって……サーヴァントってことだよねっ……!?」

「わ、私は……サーヴァントだけどサーヴァントじゃないって言うか……5秒後ジャンプ!」

 

 言われるがままに飛ぶ。

 飛んだことによって、足元に仕掛けられた攻撃の回避に成功。

 どう言う原理かわからないが、計算して次の攻撃を予想しているらしい。

 

「ちなみに私は、君のことを知ってるよ。何をしたらいいのかもね。3秒後スライディング!」

 

 攻撃を次々と避けていく。

 さっきまでバクバクなっていた鼓動は落ち着き。

 やっと平常心を取り戻せた。

 

「……それってどう言う……」

「ダヴィンチ女史はいない。ロマニと言う……魔術王もいない。そして……あの子もいないのさ」

「……え?」

 

 それを聞いて、一瞬動きが止まるが、後ろからの足音に急かされ再度逃走を始める。

 

「……うん、今話すことじゃなかったね! ほら来るぞっ! 1秒後右に曲がって!」

 

 指示を聞き続けるが、何を言ってるのかさっぱりだった。

 今の話、つまりダヴィンチちゃん、ロマニ、そしてマシュがいない。

 そう言うことになってしまう。

 

「……よし、霊脈を割り出せた! 地図を表示するからそこに向かって!」

 

 そう言うと画面が切り替わり、地図になる。

 地図は町の北のほうを指していた。

 どうやら道路の真ん中にあるようだ。

 

 俺はぐるぐる思考がまとまらない頭を放っぽり出し、そこへ向かうことにする。

 相変わらず逃走を続けながら。

 

「一応聞いとくけど、詠唱わかるよね?」

 

 一応、何度もFateは見たりしているからわかる。

 しかし召喚と言うけれどどうするのだろう。

 俺に魔力はあるのだろうか。

 

「……色々知ってる私から言わしてもらうと、君に魔力はほとんどない。だから私が魔力を肩代わりする。まあカルデアだと思って!」

「……カルデア……」

 

 一体このスマホの少女は、何者なのだろうか。

 わかることはクラスがムーンキャンサーだと言うことだけ。

 そもそもサーヴァントであってサーヴァントじゃないみたいなことを言っていたが、どう言うことなのだろうか。

 

 が、そんなことを考えさせてくれるような敵ではなかった。

 次々と追ってきては攻撃仕掛けてくる。

 休む暇なんて一切なかった。

 

 1分後には目的地の場所に到着した。

 後ろを振り返ると、やっと敵の姿がわかる。

 が、それを頭で思考するほど今は余裕がなかった。

 

 やつらはもう目の前まで来ていたからだ。

 

「さーて、ここに新たなマスターが生まれる。スマホの画面を床に向けて置いて! 足下が光り出したら詠唱を始めて!」

 

 言われた通りにスマホを置く。

 するとすぐに光が出てきて、魔法陣を勝手に描き始めた。

 俺は右手刻まれた令呪を見て、詠唱を始める。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻を破却する

 ────告げる」

 

 目を瞑りながらの詠唱だったが、奴らの足音でどこまで来ているかわかった。

 もうすぐそこまで来ていた、でも詠唱は止めない。

 未だ果てしないほど、体全体が恐怖に包まれていた。

 

 だから俺は無理やり、詠唱を続けていく。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───!」

 

 奴らは武器を振り上げ、俺の頭上から振り下ろし──! 

 だが、届くことはなかった。

 一撃の轟音と共に、武器が弾き飛ばされていた。

 ゆっくり目を開け、目の前の光景を見る。

 

 俺の目の前に、刀を持った一人の狐耳の少女が立っていた。

 白く長い髪。それでいて整った顔。

 一言で表すなら、ただただ美しく、可愛らしかった。

 

「……クラスセイバー。召喚に応じ参上した、が……オレのますたぁはあんたか?」

 

 そしてそれは、見たことのない英霊だった。

 

「……ふむ、どうやら他の英霊はいねぇようだし。真名言っとくか。オレの真名は天狐。妖怪だ」

 

 そう言いケラケラ笑って、追跡者たちを切り裂いた。

 飛んで切り裂く、着地した瞬間、飛びかかる。

 斬撃が一瞬のうちに、敵を何回も切り刻んでいく。

 

「……ふぅ、なんとか召喚に成功したみたいだね。ちょっと予想外のサーヴァントだったけど」

「天狐……って、妖怪……って」

「まあ、現状が現状だからこう言うこともあるか。頑張れー!」

 

 1分もしないうちに、敵の大半を斬り殺していた。

 斬り殺していた、と言うよりは倒したと言うべきだろうか。

 斬った奴らは、全員霧になって消えたのだ。

 

 大半を斬り倒したことによって、奴らは逃げていく。

 どうやらなんとかなったようだった。

 

「んーっ……目覚めの戦闘にはちょうどいいなぁ」

 

 そう言い刀を床に刺し俺を見る。

 近くに来て、俺の顔をジロジロ見てくる。

 少し恥ずかしくなってしまう。

 

「こんなひょろひょろがオレのますたぁか……」

 

 なんか落ち込んだ様子であったが、すぐに立ち直り周りを見る。

 

「……んで、次に何すればいいんだ?」

「いやその……特に……」

「うん、セイバー天狐、って言ったよね」

「うおっ!? な、なんだそりゃあ!?」

 

 スマホを見て、なんとも驚いた様子だった。

 興味深そうに画面を見つめる。

 

「はー、最近の英霊ってのはこんなものもあるんかい?」

「私が特別なだけかな。さて聞いときたいんだけど。君は聖杯について知識はあるかな」

「あん? そのために呼ばれたんじゃねーのかい?」

「っ……! この世界。聖杯があるのか!」

 

 だとしたら、俺はそれを回収したらいいのだろうか。

 いやでも、おかしいな。

 何故、ムーンキャンサーは魔力を肩代わりしている。

 聖杯があるならその魔力を……。

 

「聖杯の魔力、使えないんだ。一人が占拠してるって言ったらわかりやすいかな?」

「あ……」

 

 つまり、この世界には異聞帯の王みたいな存在がいると考えていいわけだ。

 いよいよFGOっぽくなってきた。

 

「さて、そろそろ君の役割について伝えなくちゃね。そのためには……安全圏に移動しようか」

 

 そう言うと、新たなマップが画面に出る。

 空を見上げると、雪が降り始めていた。

 

 俺たちはその雪道を歩き、目的地へと向かった。



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第3節:マイルーム

 地図で案内されたそこは、地下鉄であった。

 瓦礫の山でいくつか通れなくなっている道もある、地下鉄だったのだ。

 

「……ムーンキャンサー。どうしてこんなところに連れてきたんだ?」

「まあ見てからのお楽しみだねっ!」

 

 となんとも楽しげに言う。

 俺と天狐は首を傾げ、案内に従ってついていく。

 

 天狐を召喚し、戦闘を終え三十分後。

 今現在に至る。

 もう一度周りを見るが、特に目星いしものもなく、瓦礫の山が点々としているだけだった。

 その中を隣を歩く天狐と、手に持っているスマホの少女である。

 

 ふと、歩いていたら遠くに電車が見えた。

 

 近くまで来ると、かなり大きいことがわかった。

 それに近未来的な外装で、なんとも言えない格好良さがあった。

 

「さて……これが目的地の、地下鉄型移動要塞『ディザスター』だよ!」

「地下鉄型……移動要塞だって……?」

「うはぁー……スンゲェなぁ、オレの住んでた日本ってのはここまで進んでんのかい」

「んー、ちょっと合ってるようで違うかな。詳しいことは中で話すよ」

 

 そう言うと、ディザスターの扉が開く。

 中に入るとそこは、部屋だった。

 ただの部屋、マイルーム、って言ったらわかりやすいだろう。

 カルデアで見たマイルーム、よりかは幾分かふわふわしていたけど。

 

 その部屋に入った瞬間、体全体から力が抜ける。

 目の前に置いてあったダブルベッドに顔を埋める。

 

「……ますたぁ?」

「お疲れみたいですね。まあしょうがないですよ。あんなことばかりでしたし」

「ま、ただの人間じゃそんなもんか。んじゃまあ……オレは他の部屋見てくる」

「はいはい行ってらっしゃいな」

 

 その声を薄れ行く意識の聞いて、そして俺の意識は完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──何時間、経ったのだろうか。

 気づけば俺は毛布に包まり寝ていた。

 あくびと共に上半身を起こすと、目の前に見たことのない少女が立っていた。

 また……って、え? 

 

「う、うわああああああああああああああああああ!!!!?」

「マスターN/A様。おはようございます」

 

 目の前の少女はそう淡々と言い放つ。

 俺の叫びすら無視して。

 

「……え? だ、誰……?」

「私はアシストアンドロイド、『C-100』と申します。シーハ、とでもお呼びください」

「あ、ああ……ってムーンキャンサー?」

「私はここだよー」

 

 声のする方を見ると、ベッドの頭あたりに設置型充電器があった。

 ムーンキャンサーの入ってるスマホは、そこで充電されていた。

 

 いくら英霊と言えど、スマホに入ってる限り、限界があるんだな。

 

「天狐は?」

「今見て回ってるってさ。シーハ、工房に戻っていいよ」

「はい、それでは戻らさせていただきます」

 

 そう言うと、奥の方に歩いて行った。

 なんか体が涼しいな、と思い体を見ると下着姿だった。

 

「えっ!?」

「あー、汚れていたから、今洗ってもらってるよ。あれがないと満足に外歩けないしね」

 

 俺はスマホを手に取り、画面を見る。

 そこの奥ではムーンキャンサーが偉そうに椅子に座っていた。

 だが顔つきは、真剣そのものだった。

 

「さて、色々話すって約束してたね。うん、いいよ。何から聞きたい?」

「取り敢えず気になったことを言うと……まず、この世界について、俺は何故ここに、何をしたらいい、それにさっきのマシュたちがいないって……」

「うん、取り敢えずこの世界についてだけど……君がいた世界とは別の世界、異世界さ。全く違う歴史を歩んだ、違う世界だ」

 

 異世界、世界転移。いや、転生と言った方が正しいのか。

 何故、極地用カルデア制服を着ていたのか詳しいことはわからない。

 

「ロストベルトとは違うのか?」

「うん、ロストベルトはありえたかもしれない人類史でしょ。でもこの世界は、根本的に()()()()()世界なんだ」

「根本的に違うわけか……でもじゃあなんで世界はこんなことになってるんだ?」

「……簡単に言うとね、一度世界は滅んだんだ。だけどそれと同時に、七つの聖杯が現れた」

「七つの……聖杯?」

「うん、その聖杯が現れた土地を私は防衛杭と呼んでる。理由は後で話すよ。取り敢えずその聖杯によってなんと世界は生きている、って感じかな」

 

 つまり、この世界は一度滅んだものの、その時に現れた七つの聖杯によってなんとか維持されていると考えていいのだろう。

 ってことはその聖杯を守るものが存在しているわけで。

 俺はその聖杯を集めるわけで……? 

 うん、難しいことは考えない。

 

「次に君はなんでこの世界に来たかだけど……覚悟して聞いてね。君の人類史は焼却された」

「…………は?」

 君はギリギリ生き残った、一人なんだ。選ばれたのは、君だったんだ」

「……ちょっと待て、そ、それってどういう……」

「どうもこうも、君は自分の世界を救うためにここに来たんだ」

「……どうやって」

「聖杯さ」

 

 ああ、そう言うことか。

 集める理由がこれではっきりした。

 俺は自分の世界を救うわなくてはならない。

 なら、聖杯を集める必要があるわけだ。

 

「……ま、理解してくれたようだね。何をしたらいいかについても、今言った通り、聖杯を集めればいいのさ。私の目的は君をサポートするだけだから、そこは安心してね」

「なんでサポートなんて……」

「それはね……わかんないんだよね。なんかしなくちゃって言う思いがあって……うーん、記憶喪失、って言ったらいいのかな? なんか使命があった気がするけど忘れちゃった」

「いいのか……それで……」

「最後に、マシュたちがいない点について。私にも分からんっ!」

「……まあ、大体聞けたからいいよ」

 

 俺はベッドに寝転ぶ、今聞いたことを頭の中で巡らせる。

 俺が、俺が世界救うと言うことなのだ。

 俺がしなくては、何もかもが、家族だっていなくなってしまうのだ。

 

 ……ちょっと待て、それなら何故転生……うん、難しいことは本当考えたくない。

 取り敢えず自分の使命を全うしよう。

 それで全て解決するはずだ。

 

「さて、これからのことだけど……」

「んー、ここほんとスンゲェな!」

 

 興奮した様子で天狐が部屋に入ってくる。

 その姿はなんとも楽しげであった。

 

「ますたぁも見てきなよ!」

 

 目を輝かせ、前のめりになって俺に言う。

 ピタリと、密着に近い形になってしまう。

 

「あーあー、これからについてなんだけどいいかなー?」

「お、おうっ! オレは大丈夫!」

「あ ……ああ、いいけどこれからどうするんだ?」

「取り敢えず探索をしたいと思っていて……」

「それについては、オレからも提案があるんだ」

 

 と天狐が言った。

 何も考えてなさそうな顔の割には、意外と考えているようで……。

 

「あんの敵、いっぱいいたろ。あいつらのボスを取っ捕まえたいんだよ」

「方法はどうするの?」

「それについては勿論考えがあるぜ!」

「うーん。確かにそっちも気になるなぁ……よし、これについてはマスター君に決めてもらおう」

 

 突然、俺に話を振ってきた。

 

「お、俺!?」

「うん、これからの方針について、どうする?」

「どうすんだ、ますたぁ?」

 

 二人にそう言われ、俺は……。




アンケート終了。




セイバー『天狐』の絆が上昇しました。
+1
1/10

ルート:セイバーへ移行します。


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第4節:ルート『天狐』

 俺が選んだのは、天狐だった。

 天狐は笑顔で作戦を伝える。

 

「これはとても簡単でな。囮だっ! いいか、ますたぁ。あいつらはどこからか知らねぇが、突如現れやがる。とある方向から一斉にだ。なら辿ればいいんだよっ! な、簡単だろ?」」

 

 作戦とは、一切言えなかった。

 要は、ゴリ押しと言うわけだ。

 

 確かに一定の方向から現れると言うのなら、そこを辿れば確実だろう。

 だが問題は数が多すぎることだ。

 

 しかし選んでしまったものは仕方がない。

 それに探索しててもキリがなさそうだった、やるしかない。

 

「──……本当にいいの?」

「ああ……大丈夫。向こうに連絡通ってるよな?」

「魔力でね。うん、大丈夫」

 

 軽く深呼吸して周りを見る。

 実は俺、あの日敵の姿を見ていない。

 とても必死でそれに注目すらできなかった。

 

 つまり頼りは天狐だけだ。

 

 天狐は俺の場所から少し離れたところにいる。

 と言っていた。どこからかわからないが、すぐ来れるらしい。

 とにかく心配だった。

 

 いつ来るかわからない敵に緊張を張り巡らせる。

 

「ムーンキャンサー、聞いてなかったことがあったな」

「何?」

「真名、真名だよ。俺たちは契約してないが協力関係にある以上、それぐらいは教えてくれてもいいだろ?」

「……わからないんだ。ほら、記憶ないって言ったでしょ?」

「そう言えばそうだったな……」

 

 ……ここに来て、さほど辛いことは起きていない。

 考えてみれば、支えてくれている奴らがいる。

 何も辛いことは、ないだろう。

 

 そんなことを、恥ずかしながらも考える。

 おかげで気持ちが落ち着いてきた。

 

「──Take(目標確認)Shift(戦闘準備)

 

 声が聞こえた。

 人間の、声。

 

()()()()ッ!! 今から襲ってくる奴らは……──!!」

 

 少し、とある可能性を考えていた。

 それは、果たしてこの大地に人間は存在しているのか、だ。

 あの敵達は人間ではない。

 それは倒した時にわかりきったこと。

 

 それにあいつらは、一言も声を発していない。

 なら、この声は一体何か。

 

「絶対に()()()()()ッ!!」

『なッ……!?』

 

 天狐の驚いた声と同時に、轟音がした。

 雪煙の中、数人の人影が見える。

 

「ムーンキャンサー! 逃走する!」

「え、なんで!?」

「人間だからだッ!」

 

 俺は駆け出す。

 後ろから銃撃音が聞こえたが、直前に出されたムーンキャンサーの指示でギリギリ回避。

 

 殺せない、俺に人は絶対に殺せない。

 

「お前、死にたいのか?」

「は……?」

 

 雪煙の中から声と1発の銃弾が飛んできた。

 俺の肩に直撃する。

 

 痛い、リアルな痛み。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! 

 

「ああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 そのまま前のめりに転ぶ。

 痛すぎる。

 あまりにも、痛い、辛い、苦しい。

 

 それがリアルな痛みだと言うものだった。

 到底、ただの人間である俺には耐えきれない。

 

 思考を放棄したい、全て投げ出したい。

 

「随分呆気無いものだな。死ね」

 

 銃を向けられ、引き金を引かれる。

 

「うおおおッ!」

 

 だが、その銃弾は一人の少女によって弾かれる。

 刀を持った、少女。天狐によって。

 

「おい立て!! ますたぁ!! こんなところで死ぬ気か!?」

 

 そう言われ、放棄しかけていた思考が戻ってくる。

 そうだ、ここで止まれば死ぬ、最後の希望すらも消え失せる。

 あまりにも大きい期待を、背負っている。

 

 なら、立ち上がって見せなくては。

 

「……死んで、たまるかァッ!」

 

 蹲ったまま雪を握りしめ、肩を抑えながら立ち上がる。

 俺に銃を撃ったやつを睨みつける。

 

「……ますたぁ、あいつは殺していいよな」

「あいつも人間だ……」

「ちげぇよ。あの先頭にいる奴、あいつサーヴァントだ」

「なっ……!?」

 

 純白のギリースーツで身を包み、銃を手に男は雪煙の中から現れる。

 その目は、冷血で、軽い恐怖を感じた。

 

「……よくわかったな、嬢ちゃん。君もサーヴァントだね?」

「おっさん、テメェ何者だよ」

「ふむ、では名乗らせて頂こう。私はシモ・ヘイヘと言う。クラスはガンナー。さて、そこの後ろにいる小僧、何者だね?」

「……まずはこっちも名乗らせてもらおうか。私は天狐、セイバーだ。あんたの後ろにいる奴ら、人間だろ?」

「ああ、共に戦う仲間だが、どうかしたかね?」

「こっちは人間に危害を加える気は無い。武器も手放す。そっちも警戒を解け」

「ほう、私たちがそれに応じると思うか?」

「応じてくれなきゃ困るさ。もし敵対すんなら……」

 

 一息置いて、言い放つ。

 

全員喰い殺すぞ?

 

「……わかった、こちらも仲間を無駄死にさせるようなことはしたくない。武器を離そう」

 

 目の前にいる人は武器を手放すと、その後ろの方でガチャガチャと銃火器が落ちる音がする。

 どうやら向こうの仲間は結構な数いるようだ。

 しかし、天狐はあの数相手にやれると言うのだろうか。

 隠し球でも、あると言うのだろうか。

 

「それでそこのマスター君。君は何がお望みなんだね?」

「……あ、えっと……情報が欲しい! それと出来れば安全なところで会話したい!」

「わかった、すぐそこの建物に移動することにしよう」

 

 それにこちらも応じ、お互いに近くの建物へと移動した。




私、シーハでございます。

ルート『天狐』お選びになられたそうですね。
いくつもの世界線で連ねられていく物語。
これは最初の選択に過ぎません。

七つの防衛杭と最後に待ち受ける終局防衛杭。
旅はまだ、始まったばかりですよ?


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第5節:ガンナー『シモ・ヘイヘ』

 あまりにも、その空間は敷き詰められていた。

 殺気と、膨張した緊張で。

 

 さっき撃たれた場所が少し痛んで押さえる。

 俺は話を始める。

 

「シモ・ヘイヘ。かなり近代の英霊だよ、な?」

「ああ、死んだのがつい17年くらい前だからな。それで情報は何が欲しい」

「ここ、日本なんだよな」

 

 改めて聞く。

 見ただけで日本とはわかるが、別世界と言うのであれば違う可能性もあるはずだから。

 

「ああ」

 

 別段そう言うことはなかったが、それを聞いて安心しホッとする。

 まず最初に気になったこと、それは日本のこの様子である。

 

「いつから日本はこんな様子なんだ?」

「いつから……だと? 君はまさか……いや、そうだな。もう数百年前からって話だ」

「……」

 

 数百年も前から……本当に根本から違うんだな。

 

「私からも一つ質問を、君はこの世界の人間じゃないな?」

「っ……!?」

「私と同じ、あのとこから来たのではないのか?」

「そ、それって……!?」

「……この世界のサーヴァントについて話そう」

 

 シモ・ヘイヘは目を伏せ、語り始める。

 この世界で召喚されるサーヴァントは本来、()()()()のだそう。

 どう言うことかと言うと、本来のサーヴァントはオルタとかではない。

 だが、この世界では普通の召喚でオルタなど、通常ではないサーヴァントしか召喚されない。

 

「だったら何故あんたは……?」

「言っただろう。私と同じ……と」

「あ……」

 

 つまりここで召喚される、本来は通常のサーヴァントは。

 俺のいた、人理焼却された世界のサーヴァントだと言うことだ。

 

「……シモ・ヘイヘ、自分がいた世界がどうなったか、知ってるのか?」

「いや、全く……」

「焼却、されたんだ。俺自身、未だ信じきれていないけど……」

「なにっ……!?」

「俺の目的は、その焼却された人理を救うことだ。もし同じ世界から来たと言うのなら、助けて欲しい」

 

 少し考えた後、俺の顔を見て頷く。

 

「わかった、少し待っていてくれ」

 

 後ろで待機している人たちに話している。

 俺はスマホと画面覗く。

 

「ムーンキャンサー、一つ気になったんだけどさ。聖杯ってどこにあるんだ?」

「……誰かが守ってるとしか、私にはそこらへんまでわからないんだ。でもわかることと言えば……数百年前からここは停滞してるってことかな」

 

 てい、たい……? 

 一瞬頭痛に駆られ、頭を押さえる。

 が、すぐ治ったから、気のせいだろうと言うことにしておく。

 

 と、シモ・ヘイヘがこちらを見る。

 

「うむ、了承を得られた。それで救うためには何をすればいい」

「聖杯が欲しい。聖杯があれば救えるんだ」

「聖杯……やはりそうなるか。なら大体目星はついている」

 

 意外なことを言う。

 なんともう既に、聖杯の目星はついていると言うのだ。

 幸運だった。

 

 まず出会えたこと、武器を降ろしてくれたこと、話を聞いてくれたことが。

 

「……ある場所はな、私たちが長い間敵対している者たちアジトだ」

「敵対……?」

「ああ、お互いにとって、利益のあると言うことだ」

「ならっ……!」

「ああ、ここ数年練ってきた作戦を実行する日は近づいているようだな」

 

 そう言うことで握手をし、これからについて話し合おうとしたところで、一人の少女が駆け込んでくる。

 かなり息が荒れている様子であった。

 

 随分と厚着で、全身を隠すような格好しているから、しょうがないような気もするが。

 

「シモ! 奴らが来ているッ!」

 

 今いる空間の緊張が更に膨張していく。

 ガンナーの後ろにいた人たちは全員を武器を手に外へ駆け出していく。

 

「天狐ッ!」

「はいよ!」

 

 後ろで立っていた天狐に呼びかけると、刀を手に駆け出していく。

 みんなの後から外へ出ると、遠くから何百人と言う奴らがやってきていた。

 そこで俺は、聖杯を守っている者が誰か、わかってしまった。

 

 奴ら全員、蒼い羽織を身につけていたのだ。

 

「蒼い……羽織、新撰組……っ!?」

「どうした?」

「……いやなんでも、ない……」

 

 天狐を見ると、遠くで無双していた。

 しかも狐のお面をつけて、紅い羽織を着ていた。

 向こうは大丈夫だろう、ということでほっとくことにしてみんなを見る。

 

 大体数十人ぐらいの軍隊って感じだ。

 それでもただの人間。

 ただの人間、そのはずなのに。

 

 大量の敵を前に、圧倒していた。

 

「……」

「驚いてるか、ここの世界の人間は皆強い。生きることに執着している」

「生きることに……」

「そう言う者のみが戦場で生き残れるのだ」

「…………」

「さて、敵が来るぞ。これを持って抵抗しろ」

 

 ハンドガンを一丁と結構な数の銃弾を渡される。

 ずっしりとした重量感、本物だった。

 いやこの状況で偽物渡すわけないだろうけど。

 

「じゅ、銃……!? 俺撃ったことないけど……」

「なら初めての経験じゃないか、喜べ」

 

 そう言うと駆け出していく。

 こうなってしまっては頼りになるのは……。

 

「ムーンキャンサー!」

「うんっ! 指示を出すよ! しっかり銃を構えてっっ!」

 

 俺は銃構える。

 初めて構える銃に手が震える。

 

 相手はいくら人間ではないと言うが、姿形は人間そのもの。

 殺すことに抵抗があったのだ。

 

「……生きるよ」

「……ああ、行くぞ」

 

 ムーンキャンサーからの指示によって後ろから来た敵を撃つ。

 かなりの衝撃に軽く仰け反る。

 

「うおっ……」

「次すぐ来るよッ!」

 

 次の指示を聞き、敵を撃つ。

 一撃、また一撃と撃つごとに恐怖は増していく。

 いつ殺されるのかわからないのと、俺が殺していると言う感覚で。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ムーン、キャンサー……?」

()()()()()()()()()()()()()()

 

 淡々とそう言い放った。

 

「誰だったか忘れちゃったけど、そう言われたの思い出してね。いい? 生きたいなら一切の躊躇はしてはダメ。相手が人間だろうが、殺すの」

「……」

 

 俺は答えられなかった。

 相変わらず恐怖が身を包んでいるが、その手の震えは自然と止まっていた。

 撃つことになれたのか、撃って感覚がなくなったのか。

 もはや何も分からなかった。

 

「後ろッ!!」

「はっ……!!?」

 

 後ろを見たときは、もう遅かった。

 奴の一撃が、目の前まで迫り……。

 

 そいつは吹き飛ばされた。

 一人の少女が俺を救ってくれた。

 さっき息が荒れていた少女だった。

 

「大丈夫っ!?」

「あ、ああ……たす、かった……」

「ほら、まだ来るよ! 気を抜かないで!」

 

 お互いに背を合わせ、敵を見る。

 俺は、半端思考を放棄し、駆け出した。



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第6節:絞り出した勇気

 あれから3時間、奴らの殲滅が終わった。

 戦場は随分と酷い者で、何人かの死者が出た。

 

 死体自体も酷い者で何度も刺されたような跡がある。

 

「ゔっ……お゛ぇっ……」

 

 口を押さえ蹲る。

 

「ますたぁ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫……げぇっ……!」

「まあ、慣れてないならそうなるだろうな。だが仕方がないことだ」

 

 そう言うと、シモ・ヘイヘは全員へ指示を出していく。

 天狐が俺の背中を摩る。

 

 これが、戦うと言うこと。

 戦うと言うその意味を、初めて知った。

 

「……辛いだろうけど、これは……」

「ああ、わかってる……まだ少し気分が悪い……天狐、すまないけど肩を……」

「あ、ああ、いいけどよぉ……これからもこう言うこと起きるんだろ? 先が思いやられるぞ?」

「慣れてやるさ、いつかな……」

 

 天狐に肩を貸してもらい、立ち上がる。

 少しフラフラしながらガンナーのところに行く。

 手を見ると、震えていた。

 どう頑張っても、それは止められそうになかった。

 

「大丈夫だな? よし、全員戻るぞ」

「お、おい……この死体は……」

「置いていく」

「な、何でっ……!?」

「当然だろう。下手に持って行って見つかったらどうする、それにそんなことする余裕なんてない……いいか、俺たちは生きるのに必死なんだッ!」

 

 声を荒げ言い放つ。

 俺は呆然としていた。

 

「……すまない、行くぞ」

 

 生きる。戦う。殺す。

 この人たちはみんな、そのサイクルで生きている。

 みんな強い、強いのだ。

 俺は、どれだけ幸せな世界で生きてきたのだろうか。

 

 藤丸立香は、どのような決意で、いくつもの世界を駆け抜けてきたんだろう。

 俺は、結局ただの人間なのだ、どう頑張っても英雄(藤丸立香)にはなれないのだ。

 

 歯を食いしばり、みんなの後をついていく。

 

苦しい。

 

 体がどんどん重たくなっていく。

 

辛い。

 

 意識が混濁し始める。

 

助けて。

 

 いやだ。聞きたくない。誰か、助けて。

 

なら、助けてあげよっか? 

 

 次の瞬間、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っはぁ!!!」

 

 目覚める。呼吸を一気に吐く。

 

 ここは、どこだ。

 何故か俺は椅子に縛られている。

 

 周りを見ると、そこはまるで地獄のような場所であった。

 

「はいはーい、みんなに愛され……えっと、いつからだっけ? 忘れちゃったや」

 

 黒髪ボブの少女が突然隣、大きな声とともに現れた。

 

「う、うおおあああああああああっっ!!!!?」

「んもう、驚きすぎだよ!?」

「いや誰だよッ!?」

「んへへ、真名は封印ちゅー」

 

 明らかにふざけた態度で、俺の周りを歩いている。

 ずっとニコニコしていて、なんか奇妙だった。

 

 だけど、その笑顔に安心している自分がいた。

 

 真名を封印中、と言うことは英霊なのだろうか。

 だが英霊だとしたらこれは、固有結界か何かなのだろうか……。

 

「でーも、いずれは契約する仲なんだしー? クラスは教えてあげるー!」

 

 そう言うとくるくる回りながら俺の前にくる。

 そして胸に手を当て言った。

 

「私のクラスはランサー! よろしくね!」

 

 キラッと自分で効果音をつけてポーズを決める。

 

「大体ゲームだと☆5位かなー?」

「……え」

「ほらランサー☆5って美女が多いでしょう?」

「あの……?」

「私は全てを知っている」

 

 顔を覗かせ、間近で見つめてくる。

 その紅い眼が、俺の心の底まで覗いているようで、でも怖くはなかった。

 

「……さて、仕事をしますかねー」

「なに……?」

「言ったでしょ、助けるって。どんな時だって私が側にいるんだからっ! だから、怖がらないで前に進んで。貴方のために、世界のために、みんなのために!」

 

 ああ、そうか、そう言うことだったのか。

 俺は顔を伏せ、緊張が解けていく。

 気づけば俺は椅子から解放されていた。

 

 大地から大量の竜牙兵が現れる。

 

 為すべきことは分かっている、これは試練なのだ。

 自身を乗り越える、一つ目の試練なのだ。

 

「……ランサー、力を貸してくれるか」

「もっちろん!! さぁ行くよーっ!」

 

 何処からか出した槍を手に、構える。

 その目は、細く、獲物を狩る目をしていた。

 それが俺に、勇気を与えてくれていた。

 俺は一際大きな声を出し、彼女に指示を出す。

 

 

 

「行くぞっ!」

 

マスターN/A、第一魔術『文無しの勇気』が魔術礼装に刻まれました。

 

 

 

 ランサーは武神さながらの技術で次々と滅していく。

 槍を払い、叩きつけ、一撃で潰していく。

 

 初めてあったはずなのに、俺にはわかった。

 彼女は手加減している、全力の10%すら出していないだろう。

 

 流石は自称☆5と言うべきだろうか。

 一切の躊躇なく、次々と笑顔で潰していく。

 狂気を感じることなく、信頼を寄せ、安心しきっている。

 何故そうなっているのか、自分自身じゃ全くわからない。

 

「よーし、マスター君っ! 魔術礼装行ってみようかっ!」

「ああっ!!」

 

 手を前に出す、身体中に魔力を感じる。

 魔力がどんなものか知らないが、そんな感じがした。

 その手をランサーに向け、叫ぶ。

 

「ランサーっ!」

 

 すると、槍が一瞬光を帯びる。

 槍の振りは、残像になった。

 

「ひへへへっ!! いいねこれっ!」

 

 笑い声とともに、次々と潰していく。

 突くことなんてせず、振り払い、無双していく。

 

 一つ、霧が集まり人型を作った。

 それが何か、俺にはわかった。

 

「シャドウ……サーヴァント……!」

 

 大きな盾を持った、一人の少女。

 ああ、あれが俺の心にいる、マシュ・キリエライト(藤丸立香)なのか。

 

「ランサー、あれを打ち倒すぞっ!」

「……んー、いやその必要はないかな」

 

 そう言って槍を回し構える。

 

「おまけだよ。宝具を見せてあげる」

 

 一際大きな笑顔を見せ、叫ぶ。

 

「我が運命、辿り着くは煉獄の果てッ!!」

 

 槍が光を帯びていく。

 その光は大きくなっていく。

 

「その運命に一度も後悔なくッ!! 抗うことすらしなかったッ!! 故に、我が運命を洗浄せよッ!!」

 

 

 

「『■■■■■■■(■■■・■■■・■■■■■■)』ッッ!!!!」

 

 

 

 そして投擲した。

 極太のレーザーが同時に解き放たれる。

 まさに究極の一撃だった。

 

 光が景色を潰していく。

 

「さーて、またしばらくはお別れかな……寂しくなるなー。ま、頑張ってねっ?」

「……ああ、わかった」

 

 そして完全に景色を塗りつぶし……。




真・核律式極地カルデア制服

魔術1『文無しの勇気』
彼に、勇気なんてものはなかった。
これは、無理やり絞り出した、微かな希望。
それに何を見出すかは、君たち次第だ。

《ゲーム効果:単体に攻撃力アップ(3ターン、カリスマA相当)&クリティカル威力アップ(3ターン)&行動制限系無効(5ターン)》





ランサーの絆が上昇しました。+1
11/20


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第7節:決行前日

「……すたぁ……ますたぁ……ますたぁ!!」

「うわあっ!!?」

 

 何者かの呼び声に、飛び起きる。

 頭痛がする、結構酷い。

 上半身起こし、声をする方を見ると、天狐が心配そうに見ていた。

 

「だ、大丈夫かぁ……?」

「あ、ああ……」

 

 妙な記憶が頭にこびりついている。

 何かしていた気がする、気がするのだがわからない。

 だが、身体中から勇気が溢れているようだった。

 

「……一日中寝てたから心配だったけど……その様子だと大丈夫そうだね」

 

 スマホからいかにも陽気な声が聞こえた。

 スマホを手に取り、画面見るとムーンキャンサーが椅子に座って、こっちを見ていた。

 なんとも呆れた様子で踏ん反り返っていた。

 

「あ、起きたんだね」

 

 部屋の入り口に、一人の少女が立っていた。

 あの少女だ。

 

「あ……あの時は、ありがとう」

「ううん、困った時はお互い様だからね。あ、私伶奈(れな)って言うの、よろしくね」

「ああ、よろしく」

 

 手を差し出し握手を交わす。

 

 そして周りを見ると、そこは建物の中だった。

 明らかにそこらへんにあるビル内ではなく、最近作られたような人工物だった。

 

「ここ、どこだ……?」

「私たちの基地だよ。と言っても先人が使ってたものばかりだけどね」

 

 スマホをポケットに入れ、天狐を連れて3人で部屋から出て行く。

 するとそこは集会所のような場所だった。

 外の感じとは打って変わって盛り上がっていた。

 

「伶奈お姉ちゃんっ!」

 

 ちっちゃい子たちがこっちを見るなり、伶奈に近寄って行く。

 

「んー、どうしたのかな?」

「あのね……」

 

 話を邪魔するわけにもいかず、他のところへ……ガンナーを探すことにした。

 と、歩き出そうとしたとこで……。

 

「い、いだっ! 痛い痛いっ!!」

「ん?」

 

 天狐を見ると、ちっちゃい子たちに耳やら尻尾やら引っ張られていた。

 半泣きで。

 

「は、離せこのっ……ガキっ!」

「すげぇっ! 何これ何これっ!」

「わあっ! お姉ちゃんもふもふっ!」

 

 なんとも……面白い光景であった。

 助けを求められたが、流石に何もできず、苦笑いとともにそこを離れる。

 相手は子供、天狐も下手なことはできないだろう。

 

「さて……ガンナーはどこに……」

「いかに近代と言えど、英霊である限りは魔力でわかるからね。一番大きな建物にいるみたいだよ」

 

 と、ポケットから声が聞こえてくる。

 常に電源はついてみたいだけど、充電しなくて大丈夫なのだろうか。

 流石にそろそろ切れるはずだが……。

 

 それについては一旦ほっといて、大きな建物へ向かう。

 中を覗くと、どうやら会議中だった。

 

「む、君は……入ってくれ、奴らのとこに襲撃するための会議中だからな」

 

 中に入ると、威厳がありそうな人が何人もいた。

 だが、()()がいる様子はなかった。

 誰もかも、未成年に見えるのだ。

 

 ガンナーの隣の席に座る。

 

「さっきも話した通りだが……彼が、全てにケリをつける」

「……へっ!?」

「陽動作戦だよ。奴らのアジトの中は、何回か潜り込ませていたからね。構造は把握している……伶奈が」

「陽動作戦、ってことは……」

「私たちが、正面から仕掛ける。勿論相手は全力で来るだろう。君たちは地下から行く」

 

 と机の上に置かれた地図を手振りで伝える。

 近くのマンホールから直接行けるとのことだった。

 結構ガバガバみたいだ、警備は。

 

「……やることは至極簡単、耐えるだけだ」

 

 全員の顔つきは覚悟に満ちていた。

 俺には、とても眩しかった。

 

 俺は一つ気になったことを聞いた。

 

「……あの、伶奈には既に……」

「ああ、勿論伝えてある。と言っても今伝達したのだが。これにて会議は終了だ。作戦決行は明日……お別れは済ませておけ」

「「「はいっ!!」」」

 

 全員の返事とともに解散する。

 俺はそこに残ったガンナーに気になったことを聞いた。

 

「……ガンナー、ここって大人がいなくないか……?」

「よく気づいたな……ああ、20を超えると、皆凍る。唯一凍ってないのは、伶奈だけだ」

「……あの、それって……」

「わからない、この現象にも、終止符を打たないといけない。だからこそ、今回のは成功させなくてはならない」

 

 そう力強く言うと、この場から去っていった。

 それを聞いて、俺は考え事をする。

 

「どうかしたの?」

「……いや、なんでもない」

 

 外に出ると……天狐はさっきよりも何倍にも増して人気になっていた。

 

「ああああああああっ!!! 触んなっ!! 触んにゃっ……♡

 

 さっきよりも数倍に増して面白い光景だった。

 目をそらすように、別の方を見る。

 すると、遠くから手を振ってこっちに近づいてくる少女の姿……伶奈がいた。

 

「シモさんいた?」

「あ、ああ……なあ、伶奈。本当に、いいのか……?」

 

 聞くべきではないのだろう。

 だが、さっきの子供たちと姿を見てしまっては、どうも気になってしまう。

 

「うん、いいんだ。この子たちのためにも、私たちがやり遂げないと、行けないから……」

 

 と、笑顔を見せる。

 何処か無理をしているようで、これ以上何も言えなかった。

 いや、俺が何か言っていいことじゃない。

 これは俺の問題じゃない、彼女の問題なんだ。

 彼女が決めたなら、それは俺が口出しすることではないのだろう。

 

 そこで別れて、スマホを取り出す。

 

「……死人は出ると思うよ。辛い戦いになるだろうね」

「これは、乗り越えるべき戦いなんだ」

 

 自身の中で、決意する。

 諦めないと、何があろうと立ち止まらないと。

 

「……さて、俺たちも準備するかな。天狐行く、ぞ……?」

 

 天狐は揉みくちゃにされて、倒れていた。

 軽く痙攣しながら。

 意識はほとんど失ってる様子だった。

 

「……あれ、大丈夫なの?」

「酷いことになる前に、子供達が飽きてくれたようなね、あはは……」

「もう十分と酷いと思うんだけど……」

 

 英霊が子供に負けると言う、とんでもない光景を見せられてしまった俺たちであった。



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第8節:継ぎ接ぎの英霊

 貸してもらった部屋の中で、ベッドの上に座って銃を見る。

 俺は一旦これを返そうとした。

 けどガンナーは「それは持っとけ。いかにサーヴァントがいようとも、何があるかわからんからな」と言うことだった。

 

「……」

 

 銃を持つ手は、震えていない。

 既に決意はできている。

 

 立ち上がる。

 

「……覚悟は、できたのか?」

「ああ、行くぞ。天狐」

「へいよ」

 

 鞘に納めた刀を、振り上げ担ぐ。

 前来ていた羽織を羽織って、左手には仮面があった。

 

 昨日のあの姿とは、全く違かった。

 

「……天狐、その仮面はなんなんだ?」

「まー、宝具だな」

 

 宝具、どんなものかわからない。

 だって原作にはいないキャラだからだ。

 でも、宝具である以上、なんらかの活躍はしてくれているのだろう。

 

「ムーンキャンサー」

「んー、ごめん。今日はあんま活躍できそうにない。充電切れそうなんだよね」

「充電切れたら消えたり……」

「しないよ!? また充電してくれたら大丈夫!」

 

 とのことだった。

 外に出ると、みんなは既に集まっていた。

 

「どう、準備できてる?」

 

 早速伶奈に出会った。

 伶奈も完全武装で、顔以外全て覆われていた。

 それほど、この戦いは大変なのだ。

 

 それに比べ俺の格好は……黒を基調としたカルデア制服である。

 布一枚、刃物で貫かれれば簡単に死ぬだろう。

 

 俺にはマシュという『盾』がいない。

 だが、天狐という『剣』ならいるのだ。

 

 なら、自分の身は自分で守るしかない。

 

「大体はできてる、かな……」

 

 銃を後ろのズボンに挟む。

 ずり落ちないか心配だが、多分大丈夫だろう。

 

「全員、集まってるな」

 

 少し高い台のようなところにガンナーが立つ。

 

「……俺から言うことは特にない。だが、みんなに一つだけお願いがある」

 

 少し騒めきがあった。

 彼の性格からして、そう言うことはあまり言わないからだろうか。

 確かに、あれは意外と言えよう。

 

「生き残ってくれ。以上ッ!! 各自配置につき戦闘の準備だッ!!」

 

 結構淡々とした感じだったが、その言葉一つ一つに確かな意思を感じていた。

 深呼吸をして、令呪が宿っている右手を握る。

 

「よし、行くぞッ!」

 

 外へ出ると、相変わらず風景は凍結した街のみだった。

 人が凍る、とのことだったが、その凍った人の姿が見えない。

 今更気になることでもないが。

 

「場所は……この都市の中央にある相手のアジトから1km離れたところ、であってるよな。伶奈」

「うん、会ってるよ……でもその前に……」

 

 都市を歩く中、奥からいくつかの人影が見えた。

 蒼い羽織、敵だ。

 

「天狐!」

「へいよっと」

 

 刀を鞘から抜くと、構える。

 太陽は見えないが、刀は輝いていた。

 

 少し笑うと、叫ぶ。

 

「かかってこいッ!」

 

 まず一人目、飛びかかってきたところを、上段から振り下ろし斬り落とす。

 二人目、振ってきた刀を軽く避けて一点突いて弾き飛ばす。

 三人目、同じように突かれたところを避けて背後に回り斬りつけた。

 

 と、この調子で大体数十人は斬り落とす。

 それ以外はこちらで対応する。

 ムーンキャンサーの援護なくとも、少し離れているならなんとかなる。

 攻撃は流石に避けられないが。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 ……向こうは大丈夫だろうか。

 それが気になってしょうがなかった。

 私はサーヴァントだ。

 17年前、たった17年前死んだばかりの英霊だった。

 

 みんなを置いてきて、私は一人で単独行動を取っている。

 もう一つ、侵入口があったからだ。

 私は、そこでやることがある。

 

「……む?」

 

 向こうから一人の人影が見えた。

 羽織が雪の中、揺れ続けている。

 刀を片手に、その男は現れた。

 

「……ふむ、その格好。日本の新撰組というやつか」

「気づいてたろ。ずっと」

「まあ、だがこの世界では君たちは存在しない。そうだろう?」

 

 ああそうだ。と言って続ける。

 

「無駄会話は省くとしよう。我が真名、近藤勇ッ!! いざ参るッ!!」

「……私の真名はシモ・ヘイヘッ!! 行くぞッ!!」

 

 ボルトアクション方式ライフル、モシンナガンM28を手に駆け出す。

 一歩踏み出したところで私は宝具を発動させる。

 固有結界、『我が戦場、此度に非ず』。

 

 二度と立つことはないと思っていた、だがこうして立つことになるとは。

 今まで立っていた冬の大地と、比べ物にならない程の猛吹雪。

 その中で戦う。

 これが私の宝具、私の経験だ。

 

 私のライフルにスコープはない、反射によって居場所がバレる可能性があるからだ。

 スコープがなくとも400m先まで行ける。

 宝具だったら3km先だって行けるだろう。

 

 この景色は私の戦場。

 故に、何処かわか、る……!? 

 

「なッ……!?」

 

 ライフルで振り下ろされた刀を防ぐ。

 思いっきり逸らし弾くと、すぐに敵に向かって撃つ。

 だが簡単に弾かれる。

 

おいおい、舐めてんのか?

「何、が……起きて……ッ……!?」

 

 その男は、おかしかった。

 体の半分が霧のような影で構成されており、無理やり継ぎ接ぎのような格好だ。

 

……俺はな、ここに数百年もいてな。流石に霊基が持たなかった

 

 刀を振り払い近づいてくる。

 私は初めて、恐怖した。

 

聖杯でシャドウサーヴァントを集めて作り上げた。おかげで、こんな体さ。自我があるだけマシだけどな。土方はこれを拒否して消えちまった

 

 異常、それ以外に言葉が出てこない。

 

まあ……そのせいで性格も喋り方も変わっちまったがな。逆にいいこともあるんだぜ

 

 それはな、と言って飛びかかる。

 猛吹雪の中、たしかにこっちに向かってきていた。

 

この体の素材になった英霊どもの力が使えるんだよッ!!

 

 目前の攻撃を避け、戦闘が始まった。



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第9節:vsバーサークセイバー

 ビルの中、遮蔽物を利用し奴の様子を伺う。

 奴、近藤勇。

 彼は武器などから見てセイバーで間違い無いだろう。

 ない、はずだが。

 

出て来いやァッ!!!

 

 そう叫んで、刀で壁を破壊する。

 うむ、この様子だとアレはバーサーカーだな。

 色々と混ざりすぎた結果がアレか。

 

「……最悪、相討ちか……」

 

 だがそう悲観的になることもないだろうか。

 目標が達成できなくとも、アレは殺してやる。

 

 遮蔽物から少し顔を覗かせ狙う。

 この距離、確実に狙い撃てるだろう。

 

 だが、奴にこんな方法したところで弾かれるのがオチだ。

 

「……ったく、こんなことならアサシンで召喚されるだったな」

 

 と、軽く悔やみ1発弾丸を放ち駆け出す。

 見えなくなるが、銃弾を弾いた音がした。

 

 どうやろうとも、バーサーカーとなった彼には勝てない。

 故に彼が取った方法は、特攻紛いの方法だった。

 

 そして一息置いて呟く。

 

白い死神(スノーストーム・デス)

 

 

 一層吹雪が強くなる。

 その瞬間、彼は遮蔽物から出てくる。

 

クソがぁッッッ!!! どこ行きやがったぁぁあッッ!!!

 

 怒り狂った奴を他所に走る。

 勝てるかどうか、そんなことは二の次だ。

 撃ち抜く、今はそれだけだ。

 

 10m……8m……3m。

 ほぼ間近で銃を向ける。

 

 だが奴は気づいていない。

 これがこの宝具の力だ。

 

 本来わたしには気配遮断がある。

 と言ってもせいぜい少し離れるとわからない程度だ。

 だが、この宝具を発動している時は、間近で攻撃しないとわからない。

 しかも離れてしまえば、気配をまた消せる。

 アサシンの時はもっと使いやすいんだが、それはもうしょうがない。

 

 トリガーを引いて銃弾を撃つ。

 いかに英霊と言えど、これを弾くことは……。

 

 突然、奴の顔つきが変わる。

 トリガーを引く前にだ。

 

 そして刀を振り上げ、銃弾を真っ二つにした。

 

はっ……ふざけてんのかァッ!!?

 

 急いで銃口を両手で持ち、刀を防ぐ。

 刃物になるわけないが、鈍器としては十分威力がある。

 しかし、元セイバー。

 どう頑張っても、はっきり言って負ける。

 

 刀を思いっきり弾いて、少し離れた遮蔽物に隠れ、別の場所に移動する。

 

 が、上を見た時、刀が振り上げられていた。

 

逃げんじゃねェッ!! うひゃヒャヒャヒャッ!!!

 

 遮蔽物が破壊される。

 後ろを向きつつ避けて、銃口を突きつける。

 

「くっ……!」

 

 勿論その一撃は避けられる。

 後転し、振り下ろされた刀を横に飛び避ける。

 連続攻撃を次々と避けていく。

 

 進むに連れ、攻撃速度が上がっていく。

 

今宵の虎徹は、血に飢えてるぞオオオッッッ!!!!

 

 そう叫ぶと、刀が深紅に染まる。

 ゾッとしたが、そう感じてる暇もそうなくて、攻撃を避けていく。

 

ブッコロスブッコロスブッコロスゥゥゥウッッ!!!!

 

 無茶苦茶に刀を振りながら走ってくる。

 何が起きている。

 

 自身では目前の光景が理解できなかった。

 

 宝具を利用しているはずなのに。

 何故、何故()()()()()()()()()

 

 後ろによろけ、小石に躓く。

 

「マズッ……!?」

死ね

 

 その斬撃は、顔に振り下ろされ……。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 天狐を戦闘に、俺たちは地下を移動する。

 地下はそこまで広くはなく、一本道だった。

 

「天狐、大丈夫か?」

「大丈夫、って言いたいとこだけどよ。流石に数多くねぇか?」

「まぁ……そう言うものだと思うけど」

 

 相変わらず敵は前からくる。

 俺は銃を手に走る。

 

 後ろからの援護ならある程度はできる。

 当たるか当たらないかは別にしてだ。

 

「多分これは……宝具、『誠の旗』か……いやでも……」

 

 一人一人がサーヴァント級の能力を有している。

 ならこれはおかしいだろう。

 

 完全に量産型なのだから。

 

「っと、また来たぞっ!」

 

 天狐は目前で攻撃を刀で滑らせ、そのまま斬り裂く。

 すると真っ二つになって霧になる。

 

「はぁ……疲れてきた……ますたぁ、少し休憩しねぇか?」

「……伶奈、いいか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 途中で止まり、座る。

 俺は銃に弾を込める。

 

 すると、伶奈が話しかけてくる。

 

「……ねぇ、勝てると思う……?」

「……ああ、勝てるはずだ。いや、勝たないといけないんだ」

 

 右手の令呪を見る。

 令呪は相も変わらず紅く光っている。

 

 ……一つだけ、魔術が使える。

 最悪これで援護するしかない。

 

 それに、天狐の刀。

 あれがどんな宝具かまだ知らない。

 正直なところ、今回の戦いはあれにかかっているだろう。

 

 もし藤丸立香なら、どんなこと考えていたんだろうか。

 

 天井を見つめ、そう考える。

 緊張が俺の体を苦しめる。

 妙なことに恐怖はない。

 緊張と言う苦しみがあるだけだ。

 

 スマホを取り出し語りかける。

 

「……ムーンキャンサー」

「ん? 何?」

 

 暗かった画面が明るくなる。

 

「今どのくらいなんだ?」

「場所? 場所ならね……あと数百mくらいでアジト内だよ」

 

 もう少し、もう少しでここでの最後の戦いが始まる。

 顔を叩いて立ち上がる。

 

「そろそろ行けるか?」

「おう、バッチリだっ!」

 

 そう言って親指を立てる。

 刀片手に先頭に立つ。

 

 真剣な顔つきで、奥の方を睨んでいる。

 

「……行く前に、なんか来やがったぞ」

 

 そう言って刀を構えた。

 

 地響きが地下に広がる。

 地響き、音がどんどん大きくなっていく。

 

「む、ムーンキャンサー?」

「……巨獣だね。うん、3秒後、ここに辿り着くよ」

 

 と言って、画面が真っ黒になる。

 充電が切れたわけではない。

 充電が切れそうなようだ。

 

「ね、ねぇ……何この音……?」

「……やばい奴としか、言いようが……」

「GYAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

 雄叫びを上げ、その巨獣は目の前に立つ。

 もう一回咆哮を上げ、飛びかかってきた。

 

「「うわああああああああああッッ!!!?」」

「行くぞォッ!!!」

 

 天狐が刀を振って前に走り出す。

 俺と伶奈は、その場から逃げ出した。



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第10節:アーチャー

 彼の姿、消えていた。

 斬撃は確かに届いていた、そのはずなのに。

 

「──シモ・ヘイヘという男を知ってるか?」

知らねぇよ

「それは残念だ。この世界に来て、唯一の好敵手だったんだがなぁっ……!」

 

 そこに、彼は立っていた。

 シモ・ヘイヘ、そう名乗っていた男が立っている。

 

「この世界に来て、あの男戦った。で俺は勝って、あいつに願いによって成り代わった」

んだと……?

「……シモ・ヘイヘってな、顎の傷の後遺症が印象的なんだよ。()()()()()()()()()()()()()()

テメェ……()()()

 

 男は笑い、歩いてくる。

 帽子に白い羽を乗っけて。

 歩いてきた。

 

「今、やっと思い出したよ……俺のクラスはアーチャー、真名カルロス・ハスコックだッ!!」

 

 男の名前は、カルロス・ハスコック。

 シモ・ヘイヘと同じ時代を生きた男だった。

 

 ライフルを手に駆け出すと、一言呟いた。

 

「『白い羽の狙撃手(ドゥ・キック・ロン・チャン)』」

 

 そしてもう一言。

 

「『一撃必殺(ワンショットワンキル)』」

 

 と呟き、滑り込み銃弾を放つ。

 刀で弾こうとして、その瞬間奴は避けた。

 表情は驚愕し固まっている。

 

……何しやがった

 

 その弾丸の危険性に一発で気づいたらしい。

 腐っても新撰組、という訳か。

 

「宝具さ。当時の狙撃兵教育プログラムに用いられた概念が俺の宝具となったものだ。即ち、当たれば即死。掠っても死ぬぞ?」

 

 これはハッタリだ。

 一撃必殺(ワンショットワンキル)、つまりは一撃で決めなければ即死ではない。

 今の一発で宝具の効力をなくしている。

 

 だが、奴の表情を見る限り、なんとかまだ通用するかもしれない。

 俺はそれに賭け、走り出す。

 

 このハッタリが上手くいったのか、奴はそこで初めて逃げた。

 俺は飛んで空中から奴を狙い撃つ。

 紅に輝く刀が弾く。

 着地した瞬間、銃口を近づけると、後ろに避けようとしよろける。

 

クソがああああああああああッッ!!!!!

 

 チャンスは訪れる、俺は奴の頭に狙いを定めトリガーを引き……。

 

やっぱり頭狙いやがったなぁああッ!!

「なにッ……!?」

 

 奴がそう叫ぶと同時に、俺の銃弾を腕で防ぐ。

 狙い通りと言わんばかりに笑う。

 と言っても当たってるから痛いのだろう、少し顔を歪める。

 

ンだよ……やっぱりハッタリじゃねぇか

 

 ニヤニヤした顔でこっちを睨む。

 あの短時間で、バレたというのか。

 バーサーカーめ、ふざけるな。

 

 狂化と言うより、強化じゃないか。

 

ぶっ殺す

 

 宝具の出し惜しみはするつもりはない。

 全力で行く、対人、いや一対一専用宝具がある。

 奴は突撃してくる、俺もそれに対し走り出す。

 

 そして叫んだ。

 

「『非常に困難で不可能に近い事(キャットアンドマウス)』ッ!!」

 

 振り下ろされる刀を、ライフルを使い目前で弾き返す。

 そのまま小突くと軽くよろけたが、すぐ体制を整えなおしたとこ、顎に向かって銃口を突きつける。

 トリガーを引く前に、奴が刀身を銃口と顎の間に挟んで防ぎきる。

 

 俺はいくつかのステップで後ろに下がると、飛びかかる。

 刀の一撃にそのまま当たりそうになるが、体を捻って避けきると、奴の下半身辺りから頭部に向かって銃を撃つ。

 その一撃も刀によって防がれてしまう。

 

 一息ついたところを、更に追撃するように銃弾を数発入れていく。

 流石に全て捌ききれず、肩に一発入った。

 

 そこで奴は遠くへ離れる。

 

て、テメェ……一体なにしやがったあああああああッッ!!!

「そうキレるな、宝具だよ。不可能と言われていたことを成し遂げた逸話が宝具化したものさ」

 

 ヘラヘラしながらそういう。

 魔力、体力、色んなものを大量に使う引き換えにこれを放てる。

 短時間勝負に持ち込むときに使う。

 

 もう一つの宝具でゴリ押しという手も考えたが、アレはマスターが近くにいることが条件だから使えない。

 数秒だけなら使えるだろうが。

 故にこれを使って短時間でカタをつける気でいた。

 

 短時間じゃなくても、全身全霊をもって。

 

「行くぞ」

 

 そう言うと、駆け出す。

 奴は動かず、構えた。

 

 とうに吹雪は止んでいる。

 この戦いに邪魔はない。

 要は、運はもはや頼りにならない。

 自分の、この力だけなのだ。

 

 銃口を奴に向かって突きつける。

 すると奴は言う。

 

いいこと教えてやるよ。俺にはもう宝具がねぇ。これを突破できたらテメェの勝ちだ

 

 故に……と続ける。

 俺はそれを気にすることなく、突き進む。

 まだ宝具の効果は続いている。

 おかげで、限界を超える羽目になったが。

 

 だが、そこで気づいた。

 奴の妙な構えに。

 

俺は局長だった。だからこそ、あいつらを見てきた

 

 そして言った、宝具を。

 

「『偽典型・無明三段突き』」

 

 飛び出し剣撃を放とうとしたところで、もう一つ言い放つ。

 

「『偽典型・不滅の誠』」

 

 二つの宝具を同時に使用したのだ。

 この斬撃、避けることは不可能。

 

 故に、俺の宝具は真価を発揮する。

 俺の宝具の真価、それは『不可能とされていたことを成し遂げる』だ。

 だからこそ、見切った。

 

 はずだったが、俺の腕を斬撃が掠める。

 お互いにとって、ギリギリのようだ。

 

 一つめの宝具の斬撃が終わったとこに、ゼロ距離で腹に一発ぶち込む。

 撃ち込んだ、はずなのに奴は生きていた。

 俺は後ろに下がりもう数発ぶち込む。

 だが奴は、立って刀を振るう。

 

 異常だ、もはやこれは化物だ。

 英霊の時点で、人間ではないのだが。

 

「なら今から……脳天にぶち込んでやるッ!! 

 

 俺は駆け出す。

 後ろから叫び声が聞こえる。

 発狂にも似たその声は、近づいてくる。

 

 二階に登り、三階に行き、ビルを上っていく。

 階段の途中で何発も銃弾をぶち込むが、死ぬ様子はなかった。

 

 血を垂らしながら、近づいてくる。

 

うおおおおおおおおオオオオオオッッッ!!!!!

 

 奴の走りは止まらない。

 

「クソがぁあああッ!!」

 

 銃弾を何発も撃ち込みながら、駆け登っていく、

 屋上のドアを蹴り開け、俺は走る。

 後ろから奴の気配を感じる。

 

 今の奴は、正気がない。

 なら、乗ってこい。

 

 鉄柵は破壊されていて、簡単に飛べた。

 

 踏み切って、後ろを見たまま落ちていく。

 奴も飛んで刀を掲げる。

 

 数センチの距離、奴は目の前で刀を振ろうとしている。

 俺は額に銃口を突きつける。

 

 奴の刀が俺の首に振りかかる。

 俺は、叫んだ。

 

「『エレファント・バレーの戦い(決死の作戦)』ッッッ!!!」

 

 奴の刀が首を斬り裂く。

 

 だがしかし、刀はすり抜け俺は生きていた。

 

 数秒だけなら、全ての攻撃を無効化できる。

 マスターがいるなら、五日間全ての攻撃に耐える。

 

 それがこの宝具だ。

 

 脳に向かって、一撃を撃ち放つ。

 奴の手から、刀が零れ落ちる。

 

 奴を下敷きにして、地に落ちた。

 

「……俺の、勝ちだ」

……俺は……負けたのか……

 

 まだ息がある様子だった。

 だがもう数秒ももすれば消えるだろう。

 サーヴァントなのだから。

 

 俺だって、一時間も保たないであろう。

 だが一時間あれば十分だった。

 

「……この期に及んで……やっと、落ち着けたよ……ったく……平常心なんて……いつぶり、なんだか……

 

 血反吐を吐き、そう言う。

 話すのも辛いはずなのに、言葉を出していた。

 

「……沖田、後は……お前だけが……頼りだ……俺たち、は……新撰組……新撰組は……此処に、あり……」

 

 何処からか出てきた誠の旗が、彼の近くに一本だけ立っていた。

 そしてその瞬間、彼は光となって消えてしまった。

 

「……行くか」

 

 アジトを見つめ、痛む足を引きずり雪の中を進んでいった。



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第11節:聖杯の守護者

「天狐ッ!」

「はいよッ!」

 

 地上、アジト内部に来た俺たちは、天狐と背中合わせで戦う。

 集団で相変わらず奴らは襲ってくるからだ。

 

 だが何故だろう。

 さっきよりいくらか数は減って楽になってきていた。

 おかげで恐怖も半減していた。

 

 足は少し震えてるけど。

 

 殲滅し終え、銃をしまう。

 

「伶奈、大丈夫か?」

「うん、こっちは戦い慣れてるからね!」

「天狐も大丈夫?」

「おうっ! オレは大丈夫っ!」

 

 刀を担ぎ、親指を立てる。

 うん、二人とも大丈夫そうだった。

 

 アジトの中は中央に螺旋階段があり、そこを登っていくと上に着けそうだった。

 階段からは常に敵たちが降りてきている。

 

「天狐、伶奈。道は長いぞっ!」

「おっし、いっちょ頑張っるかっ!」

 

 天狐が刀を振って駆け出していく。

 伶奈は銃を構えると走り出した。

 

 この上、この上に聖杯を持つ人がいる。

 俺たちはそれを打ち倒し、人理を救ってみせる。

 そう何度も決意し、階段を登っていく。

 

「うぉらぁっ!!」

 

 受け止め薙ぎ払う。

 天狐はの斬撃は鬼神が如く、次々と打ち倒していた。

 

「スンゲェ数だなぁ……ったく、おらっ!!!」

 

 敵を倒した時に落とした刀を拾うと、左手で投擲する。

 しっかりと真っ直ぐに飛んで行っていた。

 

 階段を走り登っていく。

 俺は天狐に、一つ確認を取る。

 

「……天狐、宝具……刀は使えるよな?」

「あー、それなんだがなぁ……ますたぁ、今の俺じゃあ使えねぇ」

「……それはどう言うことだ?」

「霊基が……っと、このっ! ……一段階上がんねぇと、使えねぇ。一段階上がっちまうと、今の姿とおさらばだからなぁ……」

 

 とのことだった。

 つまりは霊基を一段階上げると、戻せなくなるということだろうか。

 それって……どうなんだろうか。

 

「一段階上がるとまずいことがあるのか?」

「いや特に……ただ……喋り方とか色々変わるな。見た目も変わるぞっ!」

「別人、ってわけではないんだろ?」

「んま……そうだけど、ほら一番若い姿がいいだろ?」

 

 と言いいながら敵を斬り倒す。

 決して適当ではなく、一撃で確かに仕留めていた。

 

「……まあ、奥の手ってことで」

「おうっ!」

 

 階段を登り続ける。

 そろそろ次の階が見えてきた。

 何が待っているのか、覚悟はできている。

 

 俺は最後の一段を踏み、そこに辿り着く。

 

「……来ましたか。もう一つの人類史に残る、最後の希望」

 

 蒼い羽織を身に纏い、刀を片手に少女が立っていた。

 しかしその姿は、どう見ても大人で長い髪。

 

 そして一番おかしいのは、彼女の周りにいくつもの刀が刺さっていることだった。

 

「……我が真名、沖田総司……[カオス]と名乗った方がいいですね。クラスはアサシンです」

 

 刀を手に近づいてくる。

 一歩、歩いてきたその瞬間、全身の鳥肌が立つ。

 

 沖田総司[カオス]ってなんだよ。

 オルタじゃないのか。

 いや、オルタは既に魔人さんがいるけど。

 

 しかし、この距離からでも十分にわかる。

 あれはヤバイ。

 まともに戦っていい相手ではない。

 

「……ますたぁ。奥の方に道が見えるか?」

「先がまだある、ってことかぁ……」

 

 伶奈にもそれを伝える。

 どうしようかと軽く悩んでいると、天狐が突然叫んだ。

 

「オレの真名は天狐っ!! あー……テメェと戦いに来たッ!!」

「天狐っ!?」

「ますたぁ、行ってくれ。オレなら大丈夫だっ!」

「だが……」

「宝具使うことなくぶっ飛ばしてやるから。安心して先進んでくれ」

 

 天狐の発言を聞いた沖田さんが、足を止める。

 

「貴方が、私の戦い相手ですか。飽きさせないで、くださいよ?」

 

 それを聞いた天狐が、狐のお面をつける。

 深呼吸すると、走り出した。

 

 刀と刀がぶつかり合い、轟音が響き渡った。

 

 俺たちはそれを見て、回り込んで奥の道へ進んでいく。

 奥へと続く階段であった。

 かなり長い、階段が続いていた。

 

「行くぞ、伶奈」

「はいっ!」

 

 階段を一歩を踏んだとこで、頭痛が響く。

 

助けて。

 

 あの時と同じ声。

 抑えつけるように頭を振ると、走り出した。

 

 上へ、上へ、上へと。

 足を早めていく。

 

 そして、一番上に辿り着く。

 

 着いた場所、そこは屋上。

 風がとても強い、屋上であった。

 中央には、一つの金色の杯が置いてあった。

 

 それは聖杯、あれを取って、終わりだ。

 一回立ち止まって息を整える。

 そして、俺は伶奈に話しかけた。

 

「……ふぅ、なあ伶奈。一つ聞いていいか?」

「ん? 何かな?」

「なぜお前は俺の頭に、銃を突きつけてんだ」

 

 後頭部、後ろから銃を突きつけられていた。

 

「……貴方の旅はここで終わりだからだよ。人類最後の希望」

「俺のこと、全て知ってるってことか」

「当然」

 

 そう言うと銃をこちらに向けたまま、俺の前に来る。

 銃を降ろすと、右手の手袋を外す。

 

 青く凍った手、いや腕があった。

 それが何を指し示すか、わからない。

 だが、それよりも目を引くものがある、赤い刻印。

 

「令呪……!?」

「そ、私がアサシンのマスターなんだ」

 

 そう言うとこちらに銃を向ける。

 同時に俺も銃を向ける。

 

 そうか、伶奈が聖杯を守っていたと言うことか。

 なら敵は、目の前の伶奈、か。

 

「……諦めてくれないかな」

「無理だ」

「……そりゃそっか。でも知ってるの? 君がそれを取れば……人理は焼却される」

「…………は?」

「正しくは、ここの人理がね。そこのスマホに聞いてんじゃないの? 聖杯で維持してるって、聖杯で維持してるってことは、聖杯がなくなれば維持ができなくなる。と言っても私が取った手は停滞なんだけどね。簡単に言うと、聖杯は渡せない」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……聖杯を取ると、人理が焼却される……?」

「……そう、だから諦めてほしいの」

 

 聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない。

 

 俺が、聖杯を取らなきゃ俺の世界は焼却されたまま。

 だが取ってしまえばこの世界は焼却される。

 ……この世界には、人がいる。

 普通に、人が住んでいる。

 

 同じだ、同じなんだ。

 それを焼却して、自分の世界を救う。

 いや、救えと言うのか。

 

「……お、俺は……」

 

 俺は、この世界にとって敵なのだ。

 敵だと言うことなのだ。

 

「決めろ、と……言うのか……」

 

 呟く。

 苦しい、ただただ苦しい。

 大切なものを守るために、この世界を殺す。

 これでは、俺は英雄なんかじゃない、ただの大量殺人鬼だ。

 

 藤丸立香は、どう選択したんだろうか。

 

「違う……!」

 

 俺は藤丸立香ではない。

 なら、考えるな。

 そうだ、決めろ決めろ決めろ! 

 

 後悔だろうがなんだろうが、ここまで来てしまった。

 俺が選ばれた。

 

 苦しい、辛い、放棄したい。

 様々な感情が交差する。

 

 だが……これは先へ進まねばならない。

 なら選択は一つ……。

 

 銃をしっかり握り直し、伶奈を睨む。

 

「俺は……俺の世界を救うために、喜んで人理を焼却しよう」

 

 そうだ、俺は藤丸立香にはなれない。

 なら、選択は俺自身が選ぶ。

 

「……残念だよ。なら殺し合いだね」

 

 一息つくと、大きな声を出す。

 

「私の名前は言峰伶奈ッ!! 日本最後のマスターとしてッ!! 防衛人類史を守り通すことを誓うッ!! 行くぞッ!!」

 

 そう言うと、走り出してきた。

 これが、日本での最後の戦いになるのだった。



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第12節:アサシンとそのマスター

「ったくよ……アサシンって言うから楽だと思ってた、ん……だがなぁ……ゴフッ……!」

「私を舐めないでくださいよ。次はその首、討ち取りますよ」

 

 そう言って奴は構える。

 一人の少女は鮮血を撒き散らし、刀でなんとか支え立っていた。

 奴の刀はほぼ必中、取り付く隙がねぇ。

 

「……霊基再臨したくねぇんだけどな。少し、女っぽくなっちまうし……。はぁ……」

「何をブツブツと、ケリをつけますよ」

 

 と言うと駆け出し、奴は呟く。

 

「三段突き」

 

 宝具級の威力を誇った急所狙いの3回攻撃。

 これをただの攻撃、宝具ではない攻撃だと言い張るのだから末恐ろしい。

 要は、これ以上の攻撃がいくつもあると考えていいのだ。

 

 1、2……そこまでは防ぎきれるのだが、如何せん完全体ではないオレでは3発目は見事に当たる。

 が、今回ばかりはギリギリ避けることに成功して掠めるだけで助かった。

 

「おほっ……次当たったら死ぬんじゃねぇかな。オレ……!」

 

 刀を手に振りかかる。

 数撃、叩き入れるが全部刀で巧みにいなされる。

 こんなんじゃアサシンと言うより、セイバーだ。

 

「弱い。あまりにも弱い」

「お前が強すぎるだけだろ!」

 

 カウンターで入れられた複数回の攻撃を、体を捻り躱すと、後ろに飛んで突撃する。

 すると鍔迫り合いに持ち込める。

 体格の違いは明確、明らかにあっちの方が大きい。

 

 だが、押し込もうと思えば押し込める。

 結構な無理をするが。

 

 鍔迫り合いの結果はお互いに弾き飛ばした。

 着地し、軽く呟きすぐに飛びかかる。

 

「んまぁ……やれるとこまで叩き込みますか」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「おい! ムーンキャンサー!」

「んー……何……? って何が起きてんのっ!?」

「話すと長いから割愛だっ! 援護しろっ!」

「う、うんっ! 取り敢えず演算を始めるからまってて!」

 

 屋上、転々と散らばる瓦礫が唯一の壁だ。

 屋上に何故そんなものがあるのかわからないが、戦いの後なんだろう。

 瓦礫の後ろに隠れて、何発か銃弾を撃ち込む。

 目で見て避けられた。

 感覚とか、そう言うものに一切頼っていない。

 

「数百年前からこの世界ってことはよ、お前何歳なんだ!?」

「女の子に聞くことかなぁ……? まぁ教えてあげるよ。■■■歳……ってそうか、聞こえないか……ヒントは教えてあげる、3桁だよ」

「そりゃ当然だよな」

 

 数百年、長い間彼女はこの聖杯を守り続けていた。

 俺がアレを奪い取れば、それは全て水泡に帰す。

 だが、俺には俺の救うものがある。

 やらないと、やらないといけないのだ。

 

「銃弾を目で見て避けるとか言う荒技やめてほしいなっ!」

 

 瓦礫から少し顔を出し銃を撃つ。

 勿論避けられ、向こうからも一撃飛んできた。

「うおっ」とマヌケな声を出して顔を引っ込める。

 

「……よーし、データはたくさんあるからね、演算終了。ただ、問題は充電が少ないことかな」

「……切れた時はどうにかするさ。行くぞ!」

 

 俺は飛び出した。

 銃を手に駆け出した。

 

「っ! 血迷ったの!?」

 

 驚いたような表情で銃をこちらに向ける。

 真正面に立ってわかった。

 銃、二丁持ってる。

 

「やべ……」

「1秒後! 計8発の発砲!」

 

 ポケットから聞こえてくる声を頼りに、走って銃弾を回避する。

 一個先の瓦礫の裏に隠れる。

 銃は一丁、そう思っていたが運の尽き。

 次の策はない。

 

諦めちゃうの?

 

 馬鹿言うな。

 啖呵切って突撃したのに諦められない。

 後戻りも、もうできない。

 

「……ムーンキャンサー、隙ができたら教えてくれ」

「え……?」

「うおおおっ!!」

 

 走り出す。

 銃を構え数発撃ち込む。

 全部避けられ、数発撃ち込んでくる。

 

「飛んで!」

 

 言われた瞬間、反応的に飛ぶ。

 銃弾は足元に当たり、ダメージはなかった。

 そのまま走り抜く、銃弾はまだ残っている。

 銃の中にも数発こもっている。

 

 心臓撃ち抜く。

 やることはそれだけだ。

 

 ほぼ相討ち覚悟の狙撃。

 同時に銃弾が飛んでいく。

 

「避けて!」

「いいや! これでいい!」

 

 腕に当たる。

 痛い、痛い痛い痛い痛い! 

 だが耐えろ。

 

 進め、突き進め、決して足を止めるな。

 目の前で銃を構えた。

 

 伶奈はリロードをしていたところで驚愕し、動きが固まる。

 

「なっ……!?」

 

 俺が1発撃ち込む。

 避けようとしたが、避け切れず右腕に当たった。

 片手に持っていた銃を手放す。

 

 俺はその銃を蹴飛ばし、遠くへやった。

 が、その時には装填も終わっており、銃をこちらに向ける。

 俺も銃を向けると、膠着状態になった。



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第13節:VSアサシン

「があ゛っ……!」

 

 後ろに向かって滑っていたところ、刀を床に突き刺し止める。

 口から血が止まらない。

 左腕が、吹っ飛んだ。

 

 右腕、利き手の方があればまだ戦える。

 ったく、左腕と引き換えに奴に与えられたダメージは、かすり傷程度かよ。

 

「……殺してやる」

「やってみてくださいよ。その前に貴方を殺す」

 

 右手だけで構える。

 真っ赤に染まった全身から、目がギラギラ光る。

 

 この状況でも、彼女は全く諦めていなかったのだ。

 

 地を蹴り、駆け出した。

 刀を振り上げて、振り下ろす。

 一同の動作が大振りであった。

 

 軽く避けられ、轟音とともに地を破る。

 そのまま即座に着地し、斜め上に刀を振る。

 それも簡単に避けられてしまう。

 

 大振りになったことで、全く通用しなくなってしまった。

 だが、刀を振るわなければ負ける。

 

 刀を振り終えたところで、蹴りを入れられ飛んでいく。

 

「がッ……!!」

 

 壁に激突し、ずり落ちる。

 

「かはっ……」

 

 血反吐を吐いて、立ち上がる。

 それに対し、沖田は淡々とした様子で見る。

 動揺を見せず、立っている。

 

「何故、消えないんですか」

「……逸話が多すぎてなんも言えねぇな。んー……まあ、なんでもいいじゃねぇか」

 

 よいしょ、と言って刀を担ぐ。

 左腕が流れ出る血に対し、彼女の顔は、笑顔だった。

 そして笑っていたのだ、恐怖も、何もなく、ただひたすら笑っていたのだ。

 

「攻撃は……終わんねぇよ」

 

 飛ぶ、刀を振り上げ飛んだ。

 斬撃はたった一撃、片腕による重い斬撃だ。

 だが弾かれる、威力が小さすぎるのだ。

 

「ぐっ……」

「……はあ……絶剣・無窮三段」

 

 宙に浮いてるところに、攻撃を叩き込まれる。

 沖田オルタ、彼女の宝具をただの攻撃として。

 

「……ひゅー……生きてん、なぁ……」

「……な、何故まだ……!」

 

 床に倒れてはいたが、まだ生きていた。

 

 流石の沖田も驚いていた。

 そして同時に、少しの恐怖を抱く。

 

「かおす、って言ったよな。あれどう言う意味だよ」

「……ありとありゆる可能性を詰め込んだ結果、ですよ。だから私は、ありとあらゆる『沖田』の剣を放てる」

「……怖え、なぁ……」

 

 それだけ言って刀を床に刺し、もう一度立ち上がる。

 

「カハハ……ハハハハハッ!!!」

「……気でも狂ったか……っ!」

 

 一瞬無表情になって脱力し床に刀を刺す、そして沖田に向かって睨む。

 

「狂う? 違うねぇ。()が本気出そうとしてるだけなんだが?」

「なに……?」

「あまりにも……久しぶり過ぎてねぇ……私ってさ、ほら……ガキじゃん?」

 

 クックックッ……と静かに笑うと、刀を思いっきり床に刺した。

 

「我が宿敵ッ!! 天照の神に乞おうッ!! 我に力を与え給えッ!!」

 

 突然叫び始めた。

 言葉を紡いで叫び始めたのだ。

 すると、突然天狐の背中にあった壁が崩壊した。

 

「っ……!!?」

「ったく……これ使いたくない理由の一つとして……天照の力なんだからなんだがなあ……」

「天照だと……!?」

「……絶戦の果てにて願いを乞うはッ!! 敵に報復をッ!! 我らに祝福をッ!!」

 

 外で吹雪いていた雪景色が、突然晴れた。

 晴れたのだ、何百年と言う間、曇っていた空から太陽が顔を出しのだ。

 実に、■■■年振りの出来事であった。

 それと同時に、天狐の体が蒼い焔に包まれる。

 

「さぁて……地獄の果てに夢見るはッ!! 我らが世界っ!! 我らが夢幻ッ!!」

 

 焔の中から、一本の手が伸びる。

 明らかに、天狐の腕より長く、細く、美しかった。

 

「我が剣に、たった一度の力を与え給えッ!!」

 

 焔が霧散し、そこに現れたのは、一人の少女。

()()()()()()()()()()

 狐の耳に尻尾を持ち、いくらか伸びた身長。

 

 天狐であった。

 

 左腕も完全に回復しており、傷は無くなっていた。

 

 刀を叩く掲げると、その刀は太陽の反射によって綺麗に輝く。

 沖田に向かって突きつけると、叫ぶ。

 

「『天輪快晴深裂刀(てんりんかいせいしんれつとう)』ッッ!!!」

 

 セイバーではよく見るであろう。

 極太のレーザー、それがたった一本の刀から解き放たれる。

 沖田は目を見開き、構える。

 

「ありとあらゆる可能性を秘めた絶剣、此度に於いては意味を得ず。無剣の果てにて得たのは究極の三段。それでいても足りず。貪欲に求めては最強の攻撃」

 

 一息置いて呟く。

 

「『神剣・絶界九段突き」」

 

 レーザーに相対し、沖田は九の突きを放つ。

 一撃一撃が究極の突きを。

 だが、飲み込まれる。

 

 あまりにも大きすぎたのだ。

 そのレーザーは太陽の力、凍った大地を溶かすには十分の威力だった。

 これで、勝負は決した。

 

 かのように見えたが。

 

「……んー、生きてんの?」

「……形成、逆転。ってわけですか……」

 

 左目失明、左腕消失、感覚麻痺。

 様々なものを今の一瞬で背負う。

 だが、立っていた。

 

「私の全てを込めた一撃、だったんだけどな……まさか生き延びるとは……」

「一瞬で避けるための隙間を作り出すのは、随分と苦労しましたがね……」

「うはぁ……そんなことできんのー?」

 

 太陽の力によって黒くなった刀を振り払うと、沖田の前に立つ。

 紅い羽織をはためかせ、立ちはだかる。

 

「……まあ、このくらい攻撃を受けた方が対等でしょう……」

「マジかよ。まだ余裕って言うの?」

 

 お互いに刀を構える。

 沖田は片手で、天狐は両手で。

 

 決戦の時は来た。

 お互いに駆け出し、鍔迫り合いが始まった。



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第14節:第三ラウンド

 ありとあらゆる可能性、について考えたことがあるだろうか。

 今回のサーヴァントはあらゆる可能性を得た、沖田総司だ。

 だが、それとは別に、人間にはありとあらゆる可能性がある。

 別の世界と呼ばれるものだ。

 

「……うむ、俺が語れることでもないのは確かだな」

 

 その男は、遠くのビルから四人の戦いを見守っていた。

 彼がこれを見るのは、既に■■■■■回目だった。

 何回も見たが故に、飽き飽きしていたのだ。

 

「……まあ、ウォッチャーとして、最低限のことはやらせてもらいますよ」

 

 そう言い男は両手で一回パンっと叩く。

 すると、地面が大きく揺れる。

 

 全てを破壊するように。

 

 

 

 

 

「──……ふぅ……」

 

 目の前で、狐の少女が息をついて刀を納める。

 私は……負けたのだろうか。

 

 口から出るのは、息ではなく血反吐だった。

 

「生きてる……?」

「あ……──」

「……この様子だと、数分もすれば消えるな」

 

 そう言って立ち去ろうとする。

 アレを、行かしてはならない。

 この、この世界を守らねば。

 いくつもの時の間、ずっと守り続けてきた、この世界を。

 約束したんです。

 

 

 

「──アサシン、これからよろしくね」

 

「あなたは……その姿……そうですか、私は何をしたらいいんですか?」

 

「守って、この世界を、全部を。私が敵になったのなら殺して……私はさ、もうどうしようもないから……──」

 

 

 

 右腕を動かそうとする。

 だが、どう頑張っても動く気配はない。

 

 私は、負けるわけにはいかないんです。

 誰か、誰でもいい、力を力をください。

 私は……わたしは……──! 

 

『沖田、しっかりしろ』

 

「こ……んど……──さ、ん……?」

 

 何処からか、あの人の声が聞こえた。

 

『沖田、お前の覚悟はその程度か?』

 

「ひじ……か──た、さん……?」

 

 まただ。

 声が聞こえていた。

 私の耳に、確かな声が届いていた。

 

『お前がやらなきゃ、誰がやるんだ。もう来るとこまで来てんだぞ?』

 

「で……す、が……──もう……」

 

『諦めるなんてお前らしくねぇぞ、立て、立って戦え』

 

 私らしくない……か。

 そうかもしれない。

 

 そう考えると、不思議と右腕に力が入った。

 右腕が、上に上がる。

 

 それに気づいた狐の少女が、こちらに驚愕の顔を向ける。

 

『……沖田、お前は俺たちの『誠』を背負ってんだ』

 

『戦え、戦い続けろ。俺たちは──』

 

「しん……せ、ん……ぐ……み──で、すよね……」

 

 自然と笑みが溢れる。

 下半身の感覚はなかった。

 でも、それでも立つことができた。

 

 勇気が、力が溢れてきていた。

 

 刀を手に、彼女の前に行く。

 

「……ふぅ──……ま、だ……やれ、ます……よ……」

「う、そ……だろ……そんな……確かに心臓を……ッ!」

 

 少女は慌てた様子で刀を手にする。

 

「わたしは……しんせん、ぐみです……」

 

『そうだ沖田、生きるんだ。進むんだ。戦うんだ!』

 

『俺たちは……お前は……──!』

 

「わたしは……私は……──ッ!!」

 

 私には近藤さんが、土方さんがついている。

 刀を握る手にどんどん力がこもっていく。

 

まだ君には焔が灯っているか?

 

 ああ、灯っているとも。

 だからこそ叫ぼう。

 私の決意を、私の思いを。

 

「私が……私が新撰組だァッ!!!」

 

 焔が私を包んでいく。

 彼女を包んだように、私の体をも。

 

「……な、にが……おきて……!?」

 

 狐の少女は後ろへ下がっていく。

 顔を驚愕で歪めて。

 

「……すいませんね。少しお待たせしてしまって」

 

 余裕の笑みを浮かべ、私は立っていた。

 

「改めて真名を……私の真名は『新撰組』、クラスはルーラーです。よろしくお願いしますよ」

 

 焔が晴れたそこには、頭に焔のように揺らめく鉢巻を巻き。

 同じように焔の如く揺らめく羽織。

 そしてその(意思)には、焔が宿っていた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 これを見て私は何を抱いたんだろうか。

 何が、起きてやがる。

 

「……マジかよ。こりゃ一筋縄じゃいかねーだろ……」

 

 私は鞘に納めた刀を手に構える。

 距離は大体10mくらい。

 沖田総司、縮地法があるから一瞬で距離を詰めてくるはずだ。

 

「いや、ありゃ沖田総司じゃねーのか……」

 

 新撰組、クラスはルーラー。

 短期決着、それは確実だろう。

 

 ジリジリ詰めていく、コンっと足に小石が当たってそれが地に落ちた瞬間。

 お互いに刀がぶつかり合う。

 

 ギリギリ音を立て、鍔迫り合いに持ち込む。

 

「ッ……」

 

 弾いて足がついた瞬間また飛ぶ。

 お互いに斬撃が繰り広げる。

 

 少しでも位置をミスれば即死。

 それはどっちも同じ。

 最悪相討ちということだ。

 

 刀が輝く。

 地に着地した瞬間、腰を屈め、刀を鞘に納め後ろに滑り込む。

 敵はまだ空中。

 そこに飛んで斬撃を加える。

 

 加えようとした、その時奴は私を見た。

 こっちを向いて、刀で斬撃を食い止める。

 そして刀を捻るように動かすと、私の刀を上に向かって弾いた。

 

「なッ……!?」

 

 奴が床に着地した瞬間、刀による攻撃が始まる。

 回避、不可能。

 できるだけしたくなかったことを。

 

 第三の宝具。

『狂気の仮面』、仮面と言うかお面だけど。

 

 狐の面を、つける。

 意識の切り替わり。

 敵味方の認識。

 全てが不可能となる。

 

 だが、私は素手で、斬撃を食い止めた。

 

 それを踏んで奴の後ろに飛ぶ。

 そして着地し、上半身を前に屈める。

 確かな意識はあるものの、体を操ることはできないし、喋る事も出来ない。

 

 今の私は、バーサーカーだから。

 

「ぐるるるぅ……!!」

「……ええ、打ち倒しましょう。その首、切り落とすッ!!」

 

 第三ラウンド、その始まりだった。



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第15節:決着

 数分にも及ぶ沈黙。

 下の方で一度轟音がしたが、この緊張状態が解けることはなかった。

 それを破ったのは、ムーンキャンサーの声だった。

 

「終わった……?」

「いや、まだだ」

「そうだね。お互いに終わらせるわけにはいかないからね」

 

 俺は終わらせたいのだが。

 ……ここまで来たんだ。

 もう、いいだろう。

 

「頼む、もう諦めてくれ」

「……私は……ここまで来たんだ。だからこそ、尚更諦めたくない」

 

 俺はトリガーを引く。

 俺は狙ったのか、無意識だったのか、もうわからなかった。

 だが、それが功を成しこちらに向けていた銃を弾き飛ばした。

 それを受けてため息をつく。

 

「はぁ……出会った時に殺しとけばよかった。短時間でここまでなるとはね……」

 

 流石にもう、できることはないようだった。

 そこまで言うと、近づいてくる。

 俺は銃を向けるが、手が震えて狙いが定まらない。

 治った、治ったはずなのに……! 

 

「……正直に言うとね、驚いてる」

「何をだ……?」

「勿論、ここまで来たこと。もっと早く死ぬと思ってたからさ」

 

 そう言うとため息をついて、ポケットに手をやる。

 俺はトリガーに手をかけると、片手を差し出して俺を止める。

 

「最後の一服、それぐらいさしてくれないかな」

 

 タバコを一本取り出すと、ルーンを描いて火をつける。

 空に煙が立ち上る。

 背景には、綺麗な太陽が存在していた。

 

「……私の負けだ。いいよ、聖杯……あげる」

 

 そう言うと両手を挙げて、ヒラヒラと動かす。

 勝った、勝ったんだ。

 一つ目の、防衛杭は、終わったんだ。

 

 俺は後ろを振り向き、聖杯に向かって手を……。

 

「ダメだッ!! 殺さ」

 

 そこでムーンキャンサーの声が途切れる。

 充電が切れたのだろう。

 俺は後ろを振り向いて銃を向けた。

 

 1発の銃声が、輝く蒼天にて響き渡る。

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 刀と素手、差は圧倒的と言ってもいいだろう。

 だが、私はひたすらそれを受け止め避けて殴る。

 攻撃、と呼べるかもわからない。

 もはや攻防ですらないのかもしれない。

 

 無茶苦茶、やりすぎた。

 霊基再臨、それを上回る力で奴は押してきた。

 それに合わせるように、私は力を無理やり上げる。

 能力上では奴の勝ちだろうな。

 

 既にここは壊滅しており、少しでも下手やるとこのビル全体が崩壊するだろう。

 ここまで来たお互いはもうボロボロだった。

 だから、だからこそ、終わりは目前だった。

 

「……ぐがぁ……」

「ふぅ──……やるじゃないですか」

 

 奴は一息ついて構える。

 

 私自身、このバーサーカー状態を維持するのはきつい。

 もう数分する保たないだろう。

 

 私は腰を低く落とす。

 奴は刀持つ手の力を抜く。

 

 構えすら、していない。

 いや、あれは……あれが構えなのか。

『新撰組』と言う一つの、行き着いたものなのか。

 あれを、乗り越える。

 

 それは不可能に近いことだろう。

 いや、実質不可能と言っても過言ではない。

 何百人と言う人が積み上げてきた、剣術。

 それをたった一人である私が乗り越えるのは不可能だ。

 

 故に……最後の宝具と行こう。

 

 仮面を手に取り、外す。

 手を掲げると、羽織が手に落ちてくる。

 それを着て、奴の前に立つ。

 

「……準備は、できてんぞ……」

「……『霊核直結』」

 

 奴の刀が一際大きな輝きを放つ。

 霊核直結、奴は自身の命を賭して私を殺す気のようだ。

 いい、覚悟だ。

 

 私も、全力で行こう。

 刀を腰に鞘に納め、両手を広げる。

 

「我が友よッ!! 我が声を聞けッ!!」

「我ら新撰組、魂はここにあり」

 

「幻想に於いて語られるは、夢幻の城塞ッ!!」

「数々の研鑽の果て、輝き募るは我が身に引いて」

 

「三千束ねる、我が要塞ッ!!」

「全てを打ち砕いてくれよう」

 

「『妖魔城塞:百鬼劣紅』ッ!!」

「『新撰組:此度にて剣極に至れり』」

 

 縮地、奴は一瞬で私の目の前に来る。

 剣を引きしぼり、放つ。

 究極の、神を撃ち落とすが如く最強の一撃を。

 それは見ただけでわかる。

 

 かつて仲間たちを呼び出し、塊として壁を成す。

 それを借りて呼び覚ます、かつての城。

 一塊として、いくつもの敵を打ち倒してきた。

 最強の防壁。第3宝具だ。

 

 故に、矛盾。

 

「ぬぐっ……ぅぉぉおおおおおおおおッッ!!!!」

「……ぉぉぉぉおおおおおおおおおッッッ!!!!!」

 

 奴の刀が、私の防壁にぶつかる。

 だった一瞬、だが一生のような時間が流れる。

 壁が、崩壊し始めた。

 

 全てを込めた一撃、だからこそどんな防壁だって吹き飛ばすだろう。

 私の防壁は、もう吹き飛んでいた。

 

 半身が、吹き飛んだ。

 それでも私は、立っていられた。

 立ち続けられていた。

 

 理由は、わからない。

 ますたぁのためなのか。

 それとも……。

 

 結果として耐えた、それは私の勝利を意味さす。

 

「……私、負けたんですね」

「……がふっ……私も、死にそーだがな」

 

 私の体は既に、消えかけていた。

 耐えた、と思ったのだが。

 

「……これ、持って行ってください」

 

 そう言うと、刀を鞘に納め、投げ渡す。

 私はそれを受け取る。

 

「これ……」

「それで、生き残れるでしょう……天狐、と言いましたよね? 成し遂げてください。私の代わりに」

 

 そう言って、消えて行った。

 私は、刀とともに受け取った()()に入ってる液体を飲み干す。

 そして、ますたぁのところに向かって駆け出した。



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第16節:全ての始まり

 銃弾は、彼女の心臓を貫いていた。

 俺は、やってしまったのか。

 殺して、しまったのか。

 

「ころし、て……」

「馬鹿言わないでよ……生きてるよ……」

 

 口からタバコを溢し、血を垂れ流す。

 へへっ、と笑って倒れる。

 

「持ってけ、ドロボー」

 

 俺は後ろを向く。

 そこでは聖杯がキラリと輝いていた。

 俺は手を伸ばし、聖杯を手に取る。

 あの聖杯が、手にある。

 

 その瞬間、世界が揺れた。

 聖杯の取得に呼応するように。

 世界を破るように、揺れたのだ。

 

「なっ……!?」

「揺れてる……のかな? この世界住人の私は感じれないけど、さ……」

「それはどう言う……」

「世界が、崩壊してるんだよ」

 

 そうか、俺が聖杯をとったから、そのせいで……。

 これはもう、どうしようもないことだ。

 ないことなんだ。

 

「……最後に、警告しとくよ……」

「警告……だと?」

「……ムーンキャンサー……信用しないほうが、いいよ」

 

 そう言うと、目を閉じる。

 信用しないほうがいい、だと。

 いや、今は考えることはよそう。

 取り敢えず、ここを離脱しなくては。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 負けちゃった、か。

 アサシンも、消えたのだろうか。

 いやでも、令呪は……。

 

 残るものなのだろうか。

 

「マスター、生きてますか?」

「……生きてる、よ……」

「ならよかった……負けましたね」

 

 私の頭の上あたりに座る。

 霊核が傷ついているのか、もう消えかけていた。

 

「……ありがとね、アサシン」

「いいんですよ……結局、あの子との約束、守れませんでしたけどね」

「あの子って……()()()()()()()()?」

「……ええ、私たち全員を束ねていた、最後のマスターですよ。魔術は全く使えないくせに、前に立って、私たちとともに戦ったんです。びっくりでしょう?」

「あはは……そんなひとがいたんだね……」

 

 目を開ける。

 既に景色は霞んでいた。

 何も、見えない。

 

「……ねえ、あさしん……せかいは、どうなってる?」

「綺麗、ですよ。ここに来て、初めての太陽ですよ」

「……たいよう、かぁ……きれい、なんだろうな……」

 

 体から力が抜けていく。

 苦しくはなかった。

 何故か、とても気持ちが良かった。

 

「おわかれ、だね……あさしん」

「アサシンはもういないよ」

「え……?」

 

 アサシンは消えて、そこにはひとりの男が立っていた。

 シモさん……いや、かつていたカルロス・ハスコック……。

 ああ、そう言うことか、まだ生きてんだ。

 

「……出番、伺ってたんだがなぁ……まさか出番なしとは。と言うわけで、俺も消えるんでお別れにだ」

「はは……あーちゃー……ついていけばいいのに……」

「いんや、あいつらとともに歩むことを決めたからな。一緒に消えてやるさ」

 

 顔は見えなかったが、多分笑顔だった。

 だって、太陽のように照りつけていたから。

 輝いていたから。

 

「……すごいな、消える時ってこんな綺麗なんだな」

 

 最後に、そんな言葉を聞いて私の意識は遠くに消えた。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「天狐っ! 生きてたんだな!」

「まー、なんとかな」

「って……どうした、その格好」

「かっこいいだろー!」

 

 途中合流した天狐が、俺の隣を走る。

 今は地下を走っていた。

 

 世界は揺れを大きくし、崩壊を進めていた。

 この揺れは、天狐も感じているようだ。

 

「なあ天狐っ!」

「なんだ!?」

「どこ行けばいいと思う!?」

「そりゃ……あそこだっ! 地下鉄!」

 

 おおっ! と言って、地上に出る。

 サーヴァントが消える時に出る光が、地上から出ていた。

 この世界が、消えようとしているのだ。

 

 聖杯を脇に抱え、二人で走る。

 地下鉄に向かう。

 

 この世界の雪は、全て溶けていた。

 綺麗さっぱり溶けて、本来の世界が顔を出していた。

 俺の住んでいた、地球があった。

 

 それを見て、立ち止まる。

 

「どーした!? そんな懐かしむような顔して!?」

「す、すまん! 急ぐぞ!」

 

 また駆け出す。

 こんなところで死ぬわけにはいかないからだ。

 

 地下鉄に向かう。

 そこにあったのは、『ディザスター』。

 

「マスターN/A様っ! お急ぎください!!」

 

 そうシーハが叫んでいる。

 シーハに聖杯を渡し、三人で乗り込むと電車の扉が閉じる。

 すると、移動を始めた。

 

 動き始めたのだった。

 

「終わり、なんだよな?」

「全て、終わったんだよ」

「聖杯の獲得、お疲れ様でした」

 

 シーハが扉の前に立ちそう言う。

 

「これは奥の保管庫にて保管します。それでは次の防衛杭へ向かうので、その間ご休憩を」

 

 その報告を受け、俺と天狐は布団に倒れこむ。

 その3秒後、その時にはもう寝ていた。




セイバー『天狐』とムーンキャンサー『繝弱う繝槭Φ』の絆が上昇しました。
+1
天狐:2/10
繝弱う繝槭Φ:1/10


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幕間&マテリアル マテリアル1:『天狐』『繝弱う繝槭Φ(ムーンキャンサー)

私の、私の計画は全て破綻したッ!!

ーーーーーーーー繝弱う繝槭Φ(ムーンキャンサー)


 天狐

 クラス  :セイバー

 年齢   :不明

 身長   :152cm

 体重   :秘密☆

 地域   :日本

 属性   :秩序・善

 特技   :人を化かすこと

 天敵   :玉藻の前

 好きなもの:お稲荷、覚悟ある人、ますたぁ

 嫌いなもの:細かいもの、チキン

 適正クラス:セイバー、バーサーカー、キャスター、■■■■■■■、■■■■

 

 

 ステータス

 筋力:B+

 耐久:C

 敏捷:A++

 魔力:A+

 幸運:D

 宝具:EX

 

 スキル

 カリスマ:E

 かつては妖怪の総大将として渡り歩いたことがあるそう。

 その時の姿は、今よりボンキュボン(本人談)だったそうだ。

 しかしカリスマE相当、実はこれには理由がある。

 [絆3以上かつ、『虚空の太陽に願いを灯す』突破後解放]

《ゲーム効果:全員攻撃力アップ(3ターン)》

 

 見切りの構え:B

 セイバーとして召喚された彼女は、かつて剣聖と戦った記憶がある。

 ちなみに負けたそうで、その時に鍛えて貰いこれを習得した。

 これを発動している間は大体負けない。(本人談)

《ゲーム効果:回避(3回)&必中(3ターン)》

 

 天狐の天啓:A+

 天狐として名を馳せた彼女は、実は神から愛されていたとのこと。

 どんな神かは誰も知らないが、直感とは違い未来予知に近いものだそうだ。

 見切りの構えと合わせれば、ほぼ負けることはないと言う。(本人談)

《ゲーム効果:スター配布&クリティカル威力アップ(3ターン)&自身のクリティカル発生率アップ(3ターン)》

 

 猛攻突破:C+++

 その最期は凄まじいものだったと言う。

 どんなに血に塗れても、ひたすら戦い続けたらしい。

 心臓を撃ち抜かれようとも、意識を失っていても。

 立って、立って、立って、戦い続けたらしい。

 最期には人質を取られ、首を討ち取られたそう。

《ゲーム効果:ガッツ(回復2000)(一回)&クリティカル威力アップ(3ターン)&攻撃力アップ(3ターン)》

 

 ■■顕■:E

 [詳細データは削除されている]

 

 

 宝具

 第1宝具『天輪快晴深裂刀(てんりんかいせいしんれつとう)

 天照の神の力を借り、全力で放つ究極の一撃。

 セイバー特有の極太レーザーを放つ。

 威力は太陽の出具合によって変わり、雲ひとつない空ならばエクスカリバー以上の威力が出る。

 故に……

 

 種類:対界宝具

(セイバー時の宝具)

 

 第2宝具『狂気の狐面』

 これは百鬼夜行時、いつもつけていたとされる狐面。

 この面をつけると、クラスが一時的にバーサーカーに変化する。

《ゲーム効果:クラス相性『バーサーカー』(5ターン)&攻撃力アップ(3ターン)&攻撃力アップ(1ターン)&クリティカル威力アップ(1ターン)》

 

 種類:対人宝具

 

 第3宝具『我が友よ、今一度覇道を極めん(百鬼夜行の劣紅の羽織)

 かつて百鬼夜行を率いていた時に着用していたとされる、紅い羽織。

 この羽織を着用している間、全ステータスが2倍になる。

 そして新撰組の旗と同じように、かつての仲間たちを召喚することができる。

(バーサーカー時の宝具)

 

 種類:対軍宝具

 

 第一再臨

 和服を着こなし、刀を腰にぶら下げている。

 特に特徴もない普通の和服。

 ボサボサの白く長い髪で、少し獣臭い。

 

 第二再臨

 雰囲気をガラリと変えて、時代は大体大正時代になる。

 和服だったものは軍服となる。

 この軍服の逸話は彼女が生涯で、唯一好きになった人間の男から来ている。

 金髪になり、髪は手入れしたのかサラサラでいい匂いがする。

 

 第三再臨

 [NO DETA]

 

 

 繝弱う繝槭Φ

 クラス  :ムー%〒キャ☆4サー……?? 

 年齢   :ふめめめめめめめ

 身長   :137777〒☆¥%=4÷

 体重   :──

 地域   :アメリカ合衆国

 属性   :ちつつつつつつつ・悪

 特技   :数学、もっと詳しく言えば暗算

 天敵   :いない

 好きなもの:数学

 嫌いなもの:全て

 適正クラス:キャスター、ムーンキャンサー、アルターエゴ、フェイカー、セイヴァー

 

 

 ステータス

 筋力:E

 耐久:E

 敏捷:E

 魔力:EX

 幸運:E

 宝具:不明

 

 第一再臨

 白いワンピースを着ている。

 それ一枚で、薄い。

 多分透ける。

 

 

 

一つ、忠告しておこう。

これ以上、知り過ぎるな。

 

 

 

 ■一宝■:『我が電子の海にて回帰せよ(エレクトロニック・オーシャン)

 ■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■■■、■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■。

 ■■■■■■、■■■■■■■。

 ■■■? ■■■■■■■■■!

 全ては回帰する。

 

 ■■■具:『■■■■■■■■■■■■』

 ■■■■■■■■■■■■■■。

 ■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■? ■■■■。

 ■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。




儂はな、全ての幸せを否定したんじゃ…

ーーーーーーーー天狐


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マテリアルEX:マスターN/A

※これは壊滅特異点にて残されていた資料です。

 貴重なものなので、扱いには十分注意するように。

 by.ダヴィンチ

 

 

 

 NAME:[焦げていて読めない]

 レイシフト適正:100%

 正直に言うと、日本人でこのような人材は驚きだ。

 かの少女に続き二人目、面白い。

 

 霊基属性:中立・神格

 年齢:18歳

 

 見てみればレイシフト適正どころか、魔力もかなりあるようだ。

 このことから見て、Aチームに配属するのも考えられる。

 ……だが、魔術師でもないのに、何故ここまで……? 

 

 

 データ:レイシフト三日前

 

 

 希望サーヴァントクラス:ランサー

 

 彼をAチームに入れたことは間違いではない。

 それはこれから証明していこう。

 キリシュタイア君には申し訳ないが、秘密裏で彼の召喚希望通りに召喚する。

 どちらにも秘密で、だ。

 

 

 

 時期:不明

 

 

 

 彼はなんとも勇気がある。

 結果的にAチームに置いて良かったのだろう。

 召喚したサーヴァントは[焼却していて読めない]、しかも神霊ときた。

 今は三つ目の特異点だが、彼のおかげで苦労もなく突破できている。

 

 ただ……ロマニさんは、彼のことを奇妙だと話す。

 理由はわからないが、彼のことを認めていないと言うことなのだろうか。

 ならば、認めてもらうしかないだろう。

 それこそ彼は実力があるから、すぐに認めてくれるはずだ。

 

 

 時期:不明

 

 

 今日、彼が一人の少女について話してきた。

 彼と同じ出身の少女、レイシフト適正100%の彼女だろう。

 何故か、とても羨ましがっていた。

 とても、憧れると言っていた。

 

 私にはそれが理解できなかった。

 

 

 時期:不明

 

 

 突然、彼が変なことを意味不明なことを言い出した。

 彼曰く、「俺は転生した」「この世界で起きるはずだった事象を捻じ曲げた」。

 と、全くわけのわからないことを言い放つ。

 最終的にはロマニさんのことをサーヴァントだと言い始める始末だ。

 ……どうしたのだろうか、疲れでも溜まっているのだろうか。

 

 それもしょうがないだろう、ここ数ヶ月戦い続けているのだから。

 いかに神霊と言えど、彼自身の心労は如何程が計り知れない。

 少し休憩を要請してみよう、通ればいいのだが……。

 

 

 時期:第七特異点辺り

 

 

 彼が死んだ。

 死因は自殺だと言う。

 彼の遺書は以下の通りだ。

 

「俺は、俺は間違えていた。自分で全てを破綻させてしまった。目の前で起きることと、その現実はまるっきり違う。生きている、みんな生きていた。ゲームなんかではなかった。これを見た人は、俺が狂っている、とでも思うだろう、でも違う、そうじゃない。レフ教授が裏切ることはわかりきっていたし、どう頑張ったところで所長は死ぬ。

 だが、俺はたった一つだけ変えてしまったことがある。それはマシュと彼女を引き離したことだ。その時点で、その時点で未来はもう、どう頑張っても焼却が決まっていた。マーリンに言われて初めて気づいた、俺は既に戻れないと。

 それに、気づいていたはずなんだ、第六特異点。神聖円卓領域キャメロット。あそこで俺は限界を感じていた。ランサーは励ましてくれていたが、俺はもう嫌だった。辛かった、苦しかった。戦い、別れ、後退は許されない。[ここから先、故意に破かれたような跡がある]

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、何度言おうと許されないことはわかっている。俺のせいで人理が焼却されるってわかってる。でももう、手遅れだったんだ。全ては流れのままに、動かすべきだったんだ」

 

 これにも書いてある通り、読んだときは狂っていると思った。

 だが、これを読んで一つ、思いついたことがあった。

 世界線と言うものにだ。

 

 彼は世界線を超えてやってきた者、なのではないのか。

 私たちの世界の結末を知っている者、そうではなかったのだろうか。

 

 [これ以上は何も書かれていない]

 

 このことから、この特異点は別の世界のカルデアだったことがわかる。

 果たしてこの後、この世界で何が起きたのか、それはもう、誰にもわからない。



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カルデア崩壊時に残されていた資料

以下の資料は、壊滅特異点で見つけた資料だ。
これまた貴重な物なので、丁寧に扱いたまえ。
by.ダヴィンチ


 [紛失、又は掠れてて読めない]苦し紛れの笑い声が出た。

 

 いや、実際苦しかった。だって[紛失]

 

 自分は所詮、人間だったのだ。

 

 [以下、上から殴り書きされている]あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 

 

 

 

 

 

 おい、笑えよ。[以下続き]死にたい

 

 

 

 

 

 

 自ら望んでそうなったのが、世界の崩壊に繋がった。

殺して

 もはや願いは消え、希望は、闇に溶けた。

 

 これを書いているのも、最後の、人間らしい気力であった。

 

藤丸立香。最後の希望。

 

 僕ができるのは、彼を助けることだけだった。

 

苦しいそう言えば、あの時からだった、全てが狂ったのは。

 

 召喚英霊第2号、マシュ・キリエライト。

 

 [血で滲んでいる]彼女の中にいる、あれは……ギャラハッドなのだろう。

 

 僕は、あれを止めるべ[以下、上から塗り潰されている]

 

 [私はこれ以上の情報を得られなかった]

 [カルデアとは、一体なんなのだろうか。ここは何をしていたのだろうか]

 [それについては、もう一枚の資料を見てわかったことがある。世界がこんなのになったのは]

 

 

 

 [全て、このカルデアのせいだったのだ]

 

 

 [以下、2枚目の資料]

 

 

 

 これは遺書だ。

 俺が書き残せる、遺書なんだ。

 そして償うための……。

 

 あの日、運良く生き延びた俺は、逃げ出した。

 戦うことを放棄した。

 そのせいでこのような事態を招いてしまった。

 

 ……ドクターにも、すまないと思っている。

 謝っても、謝りきれない。

 

 だからこそ、俺は聖杯を使うことにした。

 全てを、全てを停滞させるために。

 協力者も得た。

 

 ……そしてサーヴァント達も、俺に協力してくれると言った。

 ここは既に停滞しているがまだ、動く施設はいくつかあるだろう。

 

 これは、俺の戦いなんだ。

 だから、全てを取り戻す。

 

 

 

 これを書いた人物は分かっていない。

 

 ただ、殴り書きでカルデアの一室に置いてあった。

 

 

 全ては焼却されていた。

 

 

 その事実に気づいた時、もう遅かった。

 

 

 

 

 

 我々は。

 

 もう既に。

 

 

 停滞していた。




まるで言葉の羅列だ。
到底意味を成しているとは言えない。
だがこれは…おい誰か、絶対にマスターには見せるなよ。
キャスター呼べ、最強格の…それこそあのロクデナシとか。

こんなもの…呪いの塊だ。

by.カルデアの誰か


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幕間:天狐と少年

 ガタンゴトンと揺れ動く電車の中、壁しか映らない窓を見つめる。

 絶寒の日本を踏破してから既に、一週間が経過していた。

 最初の一週間はそれこそベッドで寝続けていたが、流石に長すぎると思った俺は、シーハに「いつ着くのか」と聞いた。

 そして彼女は「大体一ヶ月後です」、と言い放ち、困惑したばっかなのである。

 

 窓を見つめていると、スマホの明かりがポッとつく。

 

「どうしたの? そんな顔して」

「ん? いやまあ……なんかな……」

 

 窓から見える、何もない景色が俺を思考に浸らせる、ちょうどいい素材であった。

 一つ目の防衛杭、日本。

 あそこの人たちのことを思い浮かべる。

 

 いつまでも引きずるべきではないのだろう、だが俺はあの人たちを消したのだ。

 否、殺したと言うべきだろう。

 

 それに、伶奈が最期に言ったこと、ムーンキャンサーのことも気になる。

 何故、あんなことを言ったのだろうか。

 俺にはそれが気になってしょうがなかった。

 

「ますたぁ、そろそろ昼飯の時間だぞー」

 

 天狐の声が聞こえる。

 隣の車両、工房で何かしていたが、気づけばこの部屋に戻ってきていた。

 

 しかし、相変わらず不思議な格好だ。

 最初は今より幾らか小さく、白色のボサボサとした髪だった。

 それに少し臭い……。

 で、着物を着ていた。

 

 が、今となっては全く違う。

 格好はアニメとかでよく見るであろう、大正時代系の軍服だった。

 ちょっとカッコいい。

 髪の色は金髪、前の打って変わって髪はサラサラだ。

 それになんかいい匂いがする。

 

 ちなみに今は、奥の車両から引っ張り出してきた和服を着用している。

 いつも戦闘服、と言うわけにはいかないのだろう。

 

 かく言う俺も、適当な服を取り出してきて今は来ている。

 カルデア制服の管理は、シーナに任せている。

 

「今日のご飯もカップラーメン〜♪」

 

 変な歌を歌いつつ、俺の反対側の席に座る。

 で、奥の倉庫に大量にあるカップ麺を食べ始めた。

 明らかに使い慣れていないであろうフォークでだ。

 

 てか、サーヴァントってご飯いらないはずでは……? 

 作中でそれについては何度か言及されてたか。

 ……まあ、そう言うことなのだろう。

 

「……天狐、毎日毎日朝昼晩、カップ麺で飽きないのか?」

 

 ここ最近、毎日これである。

 いつ飽きてもおかしくないのだが、飽きる気配はない。

 

 麺をずるずる飲み込んで、答える。

 

「うん、飽きねーぞ。美味しいからな!」

 

 と満面の笑みで答える。

 なんとも羨ましい限りだ。

 俺は最初の三日で飽きてしまった。

 

 幸い、色々と食材はあったため、適当に料理しては食べている。

 

「そう言えば、工房で何やってたんだ?」

「いやな、昔よく使ってたもん作ろーかな、って思ってたんだがよ、やっぱキャスターじゃねーとダメだな」

 

 そりゃそうだ。

 キャスター、クラススキルは道具作成と陣地作成。

 何か物を作ると言うのなら、それこそキャスターのクラスが適切だろう。

 

 ってか、クラス候補にキャスターがあるのか。

 天狐……キャスターに、なるとしたら空狐だろう。

 元々同一の存在だから、そこら辺は……難しいな。

 

「……なんか顔くらいぞ?」

「……いや、な……少し考え事をしてたから……」

「やっぱ、辛いのか?」

 

 麺を啜る手を止める。

 いや、口を止めるか。

 

 そう言えば、ガンナーと話した時に全て聞いてたんだっけか。

 俺の目標。

 

 今の場合は、何故あの世界がああなったか理解していると言うとこだろう。

 

「正直、俺でもわからない……天狐俺な、あの最初の……集団戦あったろ」

「……ああ、あれか。死人を見るのは初めてって顔してた」

「あの日から、あの日から頭に声が響いてんだ」

 

痛い。

 

 まただ、声が響いてきた。

 辛い、この声を聞くたびに辛くなっていく。

 

 俺の感情を全て無視し、その言葉が侵食していく。

 ひたすら辛かった。

 

 ただ、最初期よりは酷くなかった。

 最初は本当に叫び声みたいに頭中に響き渡り、少しでも気を抜いたら狂いそうだった。

 意識を失ってから、かなり緩和されていたが。

 

「……それが……苦しくて、誰かの叫び声みたいで……押し付けられていて……」

「あー……あんま深く考えない方がいいんじゃねーの? それあれだ、呪いだ」

「……呪い?」

「簡単に言うと人の残留思念だ。死体にはそー言うの残りやすいからな。私みたいな上級妖怪は一切を遮断できるが、ただの人間のますたぁじゃ、遮断をするのは難しいだろうなぁ……精神も弱いし」

「つまり……なんだ、俺の心に問題があると……?」

「まあ、要約するとそんなとこだ。いいかますたぁ、自分のせいだと思い込むな。死、って言うのは運命ってやつなんだ。出会いも運命、死ぬのも運命、それは絶対的な力に違いねぇ。カミサマだって動かせねぇ絶対的な力に、だ」

 

 そう言うと、笑顔で麺を啜る。

 運命、か……。

 出会いも、別れも、生も死も、運命……か。

 

 だが、それを自分のせいではない、と思い込むのとはまた違うと思った。

 それを受け止め、前に立つ。

 そうするべきなのだろう。

 

「なあ天狐……」

 

 と話しかけたところで、シーハが入ってくる。

 

「皆さま、予定が大幅に狂いまして、残り五分で第二の防衛杭に着きます。準備をはお早めにすることをお勧めします」

 

 それだけ言うと、部屋から出て行った。

 沈黙が1分くらい流れた。

 

「え?」

「……うん、まあそう言うこともあるよね。外との繋がりわけわかんないことになってるから」

 

 ムーンキャンサーがそう言った。

 それにしてはわけわからないことになりすぎでは。

 

「……よし、急いで準備だ!」

 

 俺は隣の車両に駆け込み、制服を受け取ると着替え始めた。




[第二防衛杭:究極進化要塞『九龍城』]



セイバー『天狐』の絆が上昇しました。
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第二防衛杭:究極進化要塞『九龍城』 第1節:新天地

『未来は明るくない、だが決して絶望すること勿れ』

 私の記憶にある誰かの言葉。

 この記憶は、決して私自身のものではない。

 

 自身の髪、赤いショート。

 視界の端にチラチラ映る。

 

 重い体を動かし、壁に手を着き歩く。

 

 右手には赤い刻印、令呪が刻まれている。

 私をあの箱から救い出してくれた、アーチャーのものだろう。

 奴の部屋に来た、私はタンスから奴の服を引っ張り出し、着る。

 サイズはちょうどいい、当然と言えることだが。

 

 外から駆け足の音が聞こえる。

 どうやら脱走がバレたようだ。

 私はゆっくり口を開くと、あの忌々しい奴の……少女の声がでた。

 

「あー……ちゃー、聞こえる、かしら……」

 

 魔力による通信、この国では探知される可能性はほぼないためこの手段をとった。

 どちらかと言うと、機械を使った方が探知される可能性は高い。

 

 耳元で聞こえる、少女の声。

 アーチャーだ。

 

『ん、聞こえてるよ……バレたんでしょ』

「……そう言う、ところよ……そっちは、どうなのよ……」

『んまぁ……逃走ちゅ……っとぉ!? 《Open(開門)》、《Burst(射撃)》……!』

 

 どうやら向こうは、敵に追われているようだ。

 

 窓に手をかけ、開ける。

 かなりの高さがある、落ちれば即死は免れないだろう。

 だが逃げ道は、ここしかない。

 

 突然、部屋の扉が開けられる。

 そこを見ると、私の瓜二つの、ただし髪の色は青色の、忌まわしい少女が立っていた。

 

「……逃げようと思ってるのかしら?」

「逃げるつもりよ……あんたが、何を思っていようともね……」

 

 体が重い、少しクラクラしてきた。

 あんなところに閉じ込められていたのだ。

 体力がないのも、当然の話だろう。

 

「いい加減いうこと聞きなさいよ。私たちは同一の存在なのよ? なら目的も……」

「ふざけるなッ!!! 私は……私はお前なんかではッ……!!」

 

 声を荒げ、体が更に重くなる。

 

「……酷い言いがかりね。私はこの世界を思ってるからこそなのよ?」

「なら何故私なんて……」

 

 そろそろ限界か。

 フラフラ動く、出来るだけ自然に、開いた窓の方へと。

 

 そしてわざと、引っかかったフリをして落ちる。

 下へ、下へと。

 

「なっ……!?」

 

 窓から覗かせる奴の顔が見える。

 驚いて、いい気味だ。

 

「アーチャー……受け止めてよ……」

 

 そうして私は意識を失う。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 電車の揺れが収まり、止まる。

 どうやらついたようだ。

 ドアが開くまでの一瞬で呼吸を整える。

 

 天狐は隣で立っている。

 着物を着て行くようだ。

 

 電車のドアが開く。

 そして俺は足を一歩、前に踏み出す。

 

 降りるとそこは、やはり廃棄されたような、そんな場所だった。

 手にスマホを持ち、ムーンキャンサーに周りを見せる。

 

「……うん、ここだね。第二の防衛杭、九龍城」

「それって……土地じゃなくて建物だったはずだが?」

「そうなんだよね。建物そのものが防衛杭? って感じかな」

 

 九龍城、香港にあったスラム街だ。

 違法建築の塊みたいなもので、写真だけでもその凄さがよくわかる。

 ここ数年の間で解体され、跡地は公園になったようだが。

 

「建物そのものが防衛杭……」

 

 なんとも言えないが、ドキドキしてきた。

 ここで次は何を見て、何を経験するのだろうか。

 俺は上へ向かう階段に足を置き、踏み出して行く。

 

 上を見ると、地上の光が射していた。

 

「ますたぁ、用心しとけよ。地上に出ていきなり敵とぶつかる、みたいなことがあるかもしれねーからな」

「ああ、わかった……」

 

 そして地上に出たそこは……。

 完全に、SFの世界だった。

 未来、と言った方がもっと確実か。

 全く想定していなかった世界が、そこには広がっていた。

 

「あー……なんだこれ」

「さ、さぁ……?」

「聞いてないんだけど、これ」

 

 俺たちは絶句し、困惑していた。

 ムーンキャンサーも流石に現状を知らなかったようで、スマホの中で口をあんぐりあげて絶句している。

 なんというか、カオス。

 

 建物が空中に浮いたり、壁に埋め込まれてたり、電車は飛んでるし、エレベーターは変な移動してる。

 その中で人々は普通に暮らしている。

 格好もバラバラで、色んな人種が混じった感じだ。

 

 色は水色と白を基調としていて綺麗な感じだ。

 そこにおいては九龍城の面影は消え失せたが、建物の羅列という点では面影があった。

 

「ムーンキャンサー、現地人と会話した方がいいと思う?」

「そうだね……外から来たってことを言い漏らさなければ、怪しまれないだろうね」

 

 色んな格好が混ざっているおかげだろう。

 そこについてはひたすら幸運だった。

 

「……取り敢えず、今いる場所について伺うとするか」

「大丈夫かよ、それ……」

 

 天狐に心配されたが、問題ない。

 こんなに広いのだから、物覚えが悪いという設定で通せばいけるはずだ。

 いける、はず! 

 

 早速行く人に声をかける。

 現代、俺基準の、現代の服装をしたお兄さんに話しかける。

 

「あの……ここってどこの地区かわかりますか?」

 

 多分、多分だけど、こう言えばいいはずだ。

 

「ん……ああ、ここは商業地区だが……どうしたんだ?」

「いえ、なんとも物覚えが悪いもので……」

「そうかい。気をつけろよ、ここ最近レジスタンスがいるって話だからな」

「レジスタンス……?」

「知らないのか?」

「ニュースとか見ないもので」

 

 適当に誤魔化し会話を進める。

 いかんせん、会話は苦手なのだから仕方がない。

 

「レジスタンスってのは、ここ最近現れた女紅帝様に逆らう奴らのことさ」

 

 また新しい単語が出てきた。

 脳内メモにしっかり書いておかないと辛いことになる。

 

「いっつも突然テロを行うもんだから、国の方も困ってるらしい。あ、これは秘密だが、レジスタンスを指揮してるのは美少女らしいぞ」

 

 どうでもいい情報を手に入れ、ありがとう。とだけ言って別れる。

 取り敢えず、この女紅帝とか言う奴が、ここの聖杯を守ってる奴で間違い無いだろう。

 レジスタンスか、ここになんとか入り込めるならいいのだろうけど。

 今は難しそうだな。

 

「……よし、手がかりが一切ない」

「よし、じゃないよね」

「どうすんだ、ますたぁ」

「取り敢えずこの九龍城を見て回ろう、どんなとこか知ることは重要だからな」

 

 今後の行動を決め、二人並んで歩き出した。



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第2節:商業地区

 商業地区を歩く、いくつもの出店が羅列しており、様々なものが揃っている。

 デパートがいくつも並ぶ異様な光景でもあった。

 でもこれは、歩くだけで楽しくなる。

 

「……金ないからなにも買えないけどね」

「んふふっ。それはこの私が解決しよう!」

 

 とムーンキャンサーが言った。

 てな会話を今さっきして、五分経過。

 なにをする気なのだろうか。

 

「特に荒れてる様子もねーし、暇だな」

「天狐は戦ってる方がやっぱいいのか?」

「まー……平和よりは刺激があって好きだな」

 

 とのことで、生前の逸話は……知らないけど。

 まあ喋る方とか、性格から見て好戦的なのは確実だ。

 

 ……てか、腰にぶら下げている刀一本増えてるような。

 

「なんか……宝具の他に一本増えてないか?」

「あー……これはな……拾った」

 

 少し言いにくそうにして、拾ったと言う。

 拾ったにしては、綺麗すぎるような気がする。

 何か言えないような事情でもあるのだろう。

 ならば、それを探る気は毛頭ない。

 

「美味そうなものがあるな。色々な国の建物があるぞ」

「どうなってんだろんな。お、あれ美味そ」

 

 ひょいひょい歩いていって、出店に出ていた肉を見る。

 結構な大きさのある、確かに美味しそうな肉だった。

 

 やはり、根本的に狐だからなのか、美味しそうに見つめる。

 可愛い。

 

 久々に……心が安定している。

 一個前の世界が世界なだけに、ここは平和だ。

 藤丸立香もイベント中は、こんな感じだったのだろうか。

 

「元のとこがスラム街だったのに、これじゃ真逆だな」

「へぇー、スラム街だったのか」

「ああ、写真で見たことあるけど、あれはすごかったな」

 

 かつて見た、微かな記憶の写真を思い出す。

 外観もかなり酷かったと思う。

 

 ここはどちらかと言うの、外観がそのまま中に来て、かなり綺麗になった感じだが。

 

「よぉーし! えへへへへ……一億……二億……三億……あははははっ!!」

 

 ポッケのスマホから、少しヤバめの声が聞こえてきた。

 取り出すと、そこには金に埋もれたムーンキャンサーがいた。

 

「うわっ……なんだこれ、趣味悪……」

「なにそれ酷くない!? 仮想通貨だよ、仮想通貨。やっぱそう言う世界だからね。私、未来演算は得意なんだよ! ハックして盗んだ約100円を、ここまで貯めたよ」

「解決しようって……こう言うことだったのか。てか大丈夫なのか、盗んだって……」

「え!? ……多分、多分大丈夫……バレないバレない!」

 

 本当に、大丈夫なのだろうか。

 まあ、この際細かいことは気にすることでもないだろう。

 細かいことではないのだが。

 

「すいませーん、この肉一つください」

 

 専用機器にスマホをかざすと、ピッと音ともに支払われる。

 しっかり増やしたもののようだ、偽物でないらしい。

 と言うか、未来演算……できるのか? 

 

「未来演算できるのか、って顔してるね。簡単だよ。数学さ」

「数学?」

「たまにミスが出るけど、今までの数字さえ見れば、そこから導き出せる簡単な話さ。攻撃だって距離、風、勢い、様々なものを見ればどこに来るかは一目瞭然」

 

 とドヤって言う。

 ドヤっていうことなのだからしょうがない。

 

「ふーん……」

 

 肉を受け取った天狐は、おもむろに齧り付くと、美味しそうに食べ始める。

 幸せそうな笑顔である。

 ……俺の金じゃないけど。

 

 そしてまた歩き出す。

 商業地区、とても広い。

 ここ全てを回ろうものなら、何時間……何日かかるのだろうか。

 建物の中もあるのだ、そこまで回ろうというのなら、かなりの時間はかかるだろう。

 

 歩いていると、突然後ろの方から音がする。

 物を壊すような轟音がした。

 俺は反応的に、銃を抜いて後ろを向く。

 肉の骨をそこらに投げ捨てて、天狐は適当な感じで、後ろを向く。

 

 そこでは一人のスーツを着た大男が叫び怒っていた。

 どうやら店の中から吹き飛ばされてきたようだ。

 それに連れてぞろぞろスーツ姿の男が出てくる。

 

「テメェッ!! この女紅帝様直轄の小隊長である俺に向かってぇぇぇえッ!!」

 

 自己紹介かっての。

 しかし直轄と来た、結構偉い立場にあるのは間違い無いだろう。

 店の中から出てきて、ローブを着た人が男の前に立つ。

 

「なに……? あんたが悪いんでしょ……ったく、女を襲うとかマジで気持ち悪い」

「んだとおおぉぉおおおッ!!」

 

 大男は大振りのパンチで殴りかかるが、軽く避けて一撃蹴りを入れる。

 すると軽く吹っ飛んでいった。

 

「ッ! あれサーヴァントだよ!」

「なにっ!?」

 

 その騒動に気づいた人が、見物として集まったかと思ったら、ざわざわし始めて逃げる。

 みんな怯えているようだった。

 

「ま、まずいっ! レジスタンスの副リーダーだ!! みんな逃げろッ!」

 

 俺たちを残し、人は全くいなくなる。

 突然、大男の周りにいたスーツ姿の男たちが集まってくる。

 

「ん、なんだー?」

「お前たちも、レジスタンスだな」

「は?」

 

 それだけ言って飛びかかってくる。

 天狐が鞘に納めた刀で思いっきり殴ると、吹っ飛んでいく。

 

「敵と認識、戦闘を開始します」

 

 全員スーツ姿から、戦隊モノとかでよく見るような格好になっていく。

 一人一人が変なポーズを取っているとこを見ると、それ系統なのだろうと思ってしまう。

 

 変身を終えた人から順に、飛びかかってきた。

 

「いきなり戦闘とはね……行くぞ天狐っ!」

「おうよッ!」




定説:1
決して彼は藤丸立香になりたいわけでは無い。
結論的に、そこへ辿り着く。
ならば果たして、どうしてそこまでそれに執着するのだろうか。
答えは簡単だ。

憧れて、依存していただけに過ぎないのだ。

定説完了





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→はい
 いいえ


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第3節:居住地区と…

 気絶した男たちの山の上に天狐が立つ。

 全員峰打ちで済ませていた。

 

 に、してもだ。

 面白いスーツをみんな着ていた。

 気絶したら解除されてしまったが。

 

 スーツは、流石に銃弾などは防げないようだった。

 が、明らかに人間を超えた行動をしていた。

 

 さっきの大男のところを見ると、ずっとローブの人が避けていた。

 明らかに一方的であった。

 

「はぁ……はぁ……クソ、野郎……ッ!!」

「……ウザい」

 

 と言い、後ろへ軽く飛び避けると、蹴り上げる。

 大男は仰け反り、そのまま倒れた。

 そしてローブの中から一丁の銃を向ける。

 

「待て待て待てッ! なにも殺すことはないだろう!」

 

 俺は二人の間に入り込む。

 ローブの人は表情一つ変えることなく、俺を見つめていた。

 その目は、なんとも凍えていて、紫色だった。

 

「……貴方……そう、そういうこと」

 

 そう言うと、銃を下ろす。

 その場から歩き、去っていく。

 

「ちょっ……!」

 

 俺は後ろから追いかけようとするが、瞬きした瞬間、姿を消した。

 跡形もなく、姿は消えていた。

 

 後から刀を肩に担ぎ、とっとこ天狐が歩いてきた。

 

「どっかいちまったな、どーする」

「……どうしようか」

「他の地区行ってみる?」

「そうするか」

「あ、ますたぁ……」

「ん、どうした?」

 

 天狐に呼び止められる。

 少し悩んだ様子で、チラチラ何処かを見ていた。

 が、やっぱいいと言った。

 

 そして気絶した男たちを置いて、歩き出した。

 

 約30分にも及ぶ散歩の末、居住地区へ着いた。

 相変わらず、色んな人がいる。

 ここでは大量のビルが、壁のようにいくつも羅列している。

 一軒家は一切見当たらず、そのビルの高さは天井までに達しており、上を見ると窓がいくつもあった。

 

 建物の色は相変わらず、白と水色。

 

 ここに来て、一つ気づいたことがある。

 目立つものが一切ないのだ。

 なんというか、観光名所らしきものがないというか。

 言ってしまえば外界との関係を一切断っているような。

 

「居住地区来たけど、見るものもないな」

「面白みのねー街だな」

「やっぱそこなんだよなぁ……」

 

 街の中を歩いていく。

 何一つとして目立つものはなく、面白みはない。

 ただ、人々は幸せそうである。

 

 それを破壊することを考えると、なんとも気が滅入る。

 だが……やり切らなければいけない。

 

 居住地区をいくら歩いても、同じ光景が続く。

 なんというか、無限ループしてるような気がしてきた。

 

「……帰りたい」

「ますたぁ、私もだ」

「もう少し、もう少し頑張ってみよ!」

 

 と言われるが、正直數十分も同じ光景はキツイし、辛い。

 一旦切り上げて、ディザスターの中に帰りたかった。

 

 と、そこでやっと新しいものが見える。

 階段だ。

 

「上へ続いてるみたいだな。なんの地区だろ」

「書いてねーな。うーん……居住地区と繋がってるてことはそりゃ……また居住地区?」

「嫌だな、それ」

 

 会話をしつつ、階段に登っていく。

 階段を登りきると、まずそこにあったのは広場。

 明らかにしたとは全く違う光景で、いくつもの一軒家がある。

 それはどれも屋敷サイズだ。

 

 さっきまでは見えなかった木々があり、どう見ても高級住宅地って感じだった。

 

「おお、よかった新しい光景だ」

「喜ぶとこ、そこなの?」

 

 人々を見ると、服装はしたと明らかに違っており、誰もが綺麗な服を着ていた。

 明らかに俺たちは場違いって感じだった。

 

 が、気にすることなく進んでいく。

 今更そのくらい気にしてどうするのだ。

 藤丸立香も、明らかに場違いな服装で進んでいただろう。

 なら大丈夫だ。

 

 と、思っていたが、突然警報音が鳴り響く。

 続いて声が聞こえてくる。

 

『緊急!! 緊急!! 外界からの侵入者を確認しました!! 住人は直ちに避難を開始してください!! 女紅帝様による緊急指令です!!』

 

 それを聞いた人々は騒めき、一斉に家に駆け出した。

 服が汚れようとも御構い無しに。

 

「天狐、ムーンキャンサー。俺の勘が言ってるんだが、これはまずいと」

「勘じゃなくてもわかるよ」

「ああ、そーだな」

 

 天狐は自身の刀を抜くと、右に振る。

 俺は銃を取り出し、周りを警戒する。

 

 緊張が辺りを包む。

 

 そんな時、

 

「……ますたぁ、この戦いが終わったら……」

「ん?」

「……さっきの、その……売ってたお稲荷……と言うか油揚げ……」

 

 と、そこまで言ったとこで、轟音とともに、誰かが飛んできた。

 黒服の男たちが飛んできたのだ。

 おかげで会話が途切れる。

 

「話は後だ! 今はこいつらの対処を!」

「お、おう……」

 

 天狐は少し残念そうになりつつも、戦闘を始める。

 飛んできた男を軽く避けて、鞘に納めたままの刀で、背中に一撃を叩き入れる。

 その勢いで男は地面に叩きつけられ、気絶する。

 一人目、ノックダウン。

 

 次に飛んできた奴の首に一撃を入れ、軽く吹っ飛ばす。

 更に飛んできた二人を、真上に飛んで避けて、一瞬のうちに刀で気絶させる。

 四人目、ノックダウン。

 

「演算開始! 背後から3秒後着地!」

「おーけー!」

 

 2秒数え、後ろを向いて避ける。

 その瞬間、頭に銃弾を打ち込む。

 すると敵は気絶した。

 

 これは貰った銃を改造したものである。

 主にシーハが改造した。

 魔術礼装って奴だ。

 

 このカルデア制服を通して、魔術は一つ使える。

 だが、これだけでは到底戦闘できない。

 だから銃を使いたいが、殺したくない。

 だからガンドを利用した銃に改造してもらった。

 

 ルーン魔術はそれなりに知識はある。

 Fateの作品類を見ていたおかげだ。

 

「何人やった!?」

「無尽蔵に湧いてくるから数えてねーよ!」

 

 気絶した黒服の山が出来上がる。

 それを見て俺たちは一つの行動に移ることにした。

 即ち、逃走である。

 

 二人一緒に、隙を見て逃走を始めたのだった。



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第4節:逃亡

 軽く踏み込み、後ろを向く。

 さっきよりも数が増して黒服……+変身スーツども。

 一体なんだと言うのか。

 

 しかも大男ばっかだ。

 何が嬉しくて、こんなのに追いかけられなければいけないのか。

 

「天狐!」

「はい……よっ!」

 

 急停止すると、そのまま飛んで奴らの中心に突っ込むと、刀を振るい一気に散乱させる。

 しかも刀を抜いてでだ。

 

 地を蹴り、軽く飛ぶと刀を逆刃に持ち、男の腹に一撃入れ、地に叩き落とす。

 逆刃に持ったまま刀を振り、次々と敵を落とす。

 一寸の狂いもなしに、刀で倒していく。

 

 俺は左手にスマホを持ち、右手を伸ばし、この礼装を通して魔術を使用する。

 それが何か、わからない。

 でも徹底して、自分の中にそれがどういうものか叩き込まれている。

 たった一つだけだが。

 

 ちなみに、スマホを持った理由だが、魔術の起動の仕方がわからなかったからである。

 事前の打ち合わせで、もしも戦闘時魔術を使うというのなら、左手でスマホを持てと言われていた。

 このことによって、俺だけに聞こえる声で、使い方を教えてもらっている。

 

 と、魔術を使った瞬間、機動力が上がる。

 瞬発的な攻撃能力の上昇。

 攻撃速度がどんどん上がっていく。

 

「うぉらぁッ!!」

 

 2本目の刀も抜いて振るう。

 あの刀……拾ったと言っていたが、何処かで見たような気がする。

 

「っと……そんなこと気にしてる暇はなかった」

 

 戦闘を後ろで見る。

 まさに圧倒的な実力を見せていく。

 ただの人間と英霊、ここまで差があるのだ。

 流石に数の差ではやられるけど。

 

 飛んでこっちに戻ってきた。

 

「ますたぁ……あいつら、無尽蔵に増えやがる。どうなってんだよ……」

 

 天狐は少し息を荒げ、刀を床に刺す。

 さっきよりも数が減っていない、いやむしろ増えている。

 おかしい、流石にこれはおかしい。

 

「……どうなってんだよ!」

「私じゃ対処しきれねぇ! 逃げるぞますたぁ!」

「あ、ちょっ……待て!」

 

 刀を収め、逃げ出した天狐を追いかけるように、俺も逃げ出す。

 元来た道を戻っている、と言ったほうが正しいが。

 だが何かおかしい。

 あの敵と同じように、この街も。

 

 左手に持ったスマホに向かって呼びかける。

 

「ムーンキャンサー!」

「何?」

「この街……なんかおかしくないか!?」

「おかしいって……何が?」

「構造だよ! こんな道さっきなかったろ!」

 

 なんというか、構造が変わっていると言ったほうがいいだろうか。

 明らかに建物が増えているのだ。

 

「言われてみれば……うん、ちょっと待ってて!」

 

 そう言うと、スマホが暗くなる。

 俺はそれを見て、ポケットにスマホを入れた。

 

 裏路地のような、少し寂れた場所に入る。

 そこで天狐が足を止める。

 天狐に手で制され、俺も足を止めてしまう。

 

「ど、どうした……?」

「ちょっとそこで待ってろ」

 

 刀を抜くと、構え摺り足で前に出る。

 下駄で摺り足でするのも結構難しそうだ。

 そこで誰かが出てくる。

 

 さっきの、ローブの人だ。

 

 ローブのフードを取ると、そこに出てきたのは、パッツンで少し長い白い髪に、紫の目を持った少女だった。

 冷徹な目をでこっちを見る。

 

「テメェ……何者だ」

「……真名教えるほど、私も馬鹿じゃないんだけど……あんたに用はないよ、後ろの貴方に用があるの」

「はっ……そうか……よッ!」

 

 地を蹴り上げると、一瞬のうちに奴の目の前で刀を振り上げる。

 が、そこに蹴りを入れられ、後ろに飛んでいく。

 しかし壁に手をついた瞬間、岩が剣のように尖り出てくる。

 

 ローブの少女はそれをぬらりと避けると、飛んで二丁の銃を天狐に向ける。

 それを見た天狐は刀を上段に構え、走り出した。

 そして壁に足をつくと、壁を走り、飛んでいる奴のところへ向かう。

 銃から何発か銃弾が放たれるが、一瞬にして全て叩き斬り、また飛んで刀を振り下ろす。

 だが、二丁の拳銃をクロスし、奴は刀の一撃を防いで見せた。

 

 思いっきり押し返される。

 天狐は地を力強く踏み切ると、落ちてくるやつに向かって、鞘に収め構える。

 銃弾が飛んでくる中、ひたすら構え、待つ。

 銃弾は、自然と天狐を避けているようだった。

 

「天啓……ここに極めたり」

 

 そう呟く、まさかこれスキルかなんかか。

 宝具、ではないだろう。

 ゲームでいないのだから、スキルがわからない。

 見れるようになればいいのだけれど。

 

 この場合、天狐はスキルを発動していた。

 それは天狐以外誰にもわからない。

 

「その攻撃……()()()()ぞ」

 

 飛んだ。

 音もなく、地を蹴り飛んだ。

 刀を振るい、銃を二丁、切り落とす。

 それと同時に、体に刀を叩きつけ、吹き飛ばした。

 

 が、一回回転し、奥の壁に足をつくと、右手を横に出す。

 すると、機械……重機装備が出てきた。

 いかにもレーザーが飛んできそうないかついものだ。

 

 おかげで途中まで進んでいた考察が、わけわからなくなる。

 考察とは、真名についてだ。

 あの様子だとクラスはアーチャーかガンナー。

 だがあの重機だとアーチャーなのは確定だろう。

 

 しかしあまりにも未来感がありすぎる。

 アーチャーにしては、近接戦闘が……。

 いや、そこはむしろアーチャーだからこそか。

 

「吹き飛べ」

 

 奴はそう言うと、やはりと言うかなんというか。

 その重機装備から轟音とともにレーザーが飛び出す。

 

 天狐は奴に向かって駆け出している。

 刀を一回振り払うと、スライディングでレーザーの下を通っていく。

 レーザーの尾の部分で立ち上がり、刀を振るい……。

 動きを止めた。

 

 そこで戦いは終わる。

 仲裁が入ったからだ。

 

「……何やってるのよ、アーチャー」

「言われたことを実行してるだけだけど」

「セイバーを殺して、なんて言ってないわ。むしろ連れてきなさいよ」

 

 俺の後ろから、一人の少女の声がしたと思ったら、そこに赤毛の少女が立っていた。

 

「人類最後の希望、よね…貴方……お願い、私を助けて……!」



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第5節:少年と少女

 突然のことで呆然になっていると、あっと言って自己紹介を始めた。

 

「えっと……私はアンナ、でそこにいるのが……私のサーヴァント、アーチャー。真名は……今は言わないわ」

()()……?」

「それね……私、聖杯の守護者だったのよ」

「なっ……!?」

 

 俺と天狐はお互いに背中合わせで身構える。

 だが、襲ってくる気配は一切ない。

 会話の途中だからか……。

 

 と思っていると言葉を続ける。

 

「元、よ……色々あって、奪われたのよ」

「奪われた?」

「……そこ語るとややこしくなるから後回しね」

 

 一体どういうことだか。

 要点を押さえると、目の前の人は敵であって敵ではないと。

 アーチャーに関しては、真名がわからないし、天狐と睨み合っているから置いとくとして。

 

「取り敢えず、こっちに……協力者のところに……」

 

 そう言うと、この裏路地らしき場所から出て行く。

 それに追従するように、アーチャーも出て行く。

 

 アーチャーを見て唸っていた天狐は、俺の隣にくると、小声で言う。

 

「信じていいのかよ、あいつら」

「私は……そうする以外道がないと思うな。それに……レジスタンス、ってあの二人のことだよね」

「レジスタンスだから、手掛かりがあの二人しかない」

「……わーた、私はますたぁについて行くからよ。行くぞ」

 

 そう言って、渋々ついて行く。

 どうも天狐はアーチャーを嫌っているようだ。

 

 ってか、唸るって猫かよ。

 

 そんなことを思いつつ、俺もついて行く。

 が、出たところで、俺らの前に二人の大男が落ちてくる。

 

「なっ……!?」

「チッ……」

 

 天狐は刀を構えた、その瞬間。

 2発の銃声音とともに、頭から血を出し倒れる。

 死んだのだ。

 

 男たちの後ろにはアーチャーが立っていた。

 拳銃を構え、立っていた。

 

「……早く行くよ」

「し、んで……!!」

 

 ダメだ、ダメだダメだダメだ!! 

 鼓動が速くなり、蹲る。

 鼓動打つ心臓を握るように、胸を掴む。

 

痛い。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

「テメェ……ッ!」

 

 天狐がアーチャーに詰め寄り胸ぐらを掴む。

 

「何殺してんだッ!」

「……何言ってんの、あんた」

「殺す必要なかったろうがッ!!」

「ふざけんな……甘い、甘すぎる。あんたも、そのマスターも」

 

 声が遠のくようで、鼓動が速まって。

 辛くて、苦しくて、痛い。

 

 俺は乗り越えた、乗り越えたはずなんだ。

 違う、あの時とは、目の前でたしかな死を見ていない。

 即死ではなかった。

 まだ生きていた。

 だがこれは……! 

 

 ああ……。

 

痛い痛い痛い痛い痛い

 

            痛い痛い痛い痛い痛い

 

  痛い痛い痛い痛い

 

                 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

辛い。

 

「……本当に、こんなのが日本を……あの日本を突破したって言うの……?」

 

 ……いや、決めろ。

 違う、もう決めた。

 

 歯をくいしばる。

 

「天狐……俺を、俺を殴れ」

「……は?」

 

 胸ぐら掴んでいた手を離し、俺を見る。

 俺は天狐の前に行くと、もう一度言う。

 

「俺を、殴れ!」

「お、おう……」

 

 全力であろう一撃を頰に食う。

 だがおかげで目が覚めた。

 

「だ、大丈夫か? ますたぁ」

 

 心配そうに天狐が近寄ってくる。

 俺は大丈夫だ、と言うと立ち上がる。

 

「すまない、アンナ。変なことに付き合わせてしまったな……そうだよな、当然の行動だ」

「……ごめんなさいね。生きるためには、殺さずなんて、できないから……」

 

 そう言うと、フードを被り、歩き始める。

 アーチャーもフードを被ると、歩き始める。

 俺たちも後ろからそれについて行く。

 

 スマホを取り出し、ムーンキャンサーを見る。

 

「大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫だ。なんとか、な……」

「それならいいけど……あ、そうだ。調査結果、って感じかな?」

 

 ……あ、ここの構造についてか。

 周りを見ると、やはり景色が多少変化していた。

 

「どうだったんだ?」

「予想通り、虚構定数が実現定数に変化してる」

「……? え、なにそれ」

 

 虚構定数、実現定数。

 

 わけのわからない言葉が出てきた。

 

「うーん、わかんないか。それではムーンキャンサー先生の、よくわかる虚構定数と実現定数について!」

 

 と、スマホの中の景色がまるで教室のようになる。

 

「……まさか準備してた?」

「……まぁ、してた」

 

 と言うわけで、歩きながら授業が始まる。

 まず虚構定数についてだ。

 

「それじゃ質問するけど、虚構定数ってなんだと思う?」

「虚構……って言うくらいなんだから、無、みたいな?」

「うん、3割正解。虚構定数って言うのはね、目に見えないもの、即ち空気なんだ」

 

 空気、つまり虚構と言うのは……どう言うことだろうか。

 触れられないもの、と定義できない。

 

「もっと簡単なこと言うと、0。0なんだ」

「0って、ことは……高さで見たら楽そうだな」

「そう言う感じの考えだよ! そもそも虚構定数とか魔術でもそう使うことないから、覚える必要ないけどね」

「ええ……」

「重要なのはこっち! 実現定数だよ!」

 

 実現定数は虚構定数の逆、即ちx≠0ってことだ。

 こっちは魔術で言う、加算式系統の魔術で。

 そこに存在しないものを、足して増やす。

 と言うものらしい。

 

「実現定数に変化するってことは、定数の変動が起きるってことなんだよね。これのせいで、勝手に建物が増えてるの。ちなみに逆もあって、実現定数が虚構定数になったりしてるみたい」

「ふーん……」

 

 大体わかったところで、アンナは足を止める。

 

「ついたわよ」

 

 そう言うと建物に入る。

 マンションっぽいけど、かなり大きい。

 

 上へ上がり、部屋へ入る。

 

 先へ進むとそこでは、三人の人がいた。

 ムーンキャンサーを見ると、紙を手にしていた。

 書いていたのは、全員サーヴァントだということだ。

 しかしもう一枚、提示した紙には妙なことが書いてあった。

 それは、サーヴァントであってサーヴァントではないと。

 

 それを見て、意味がわからなかった、一応警戒しておくことにした。

 

「……セイバー、アーチャー、ランサー。この世界の聖杯によって召喚された野良サーヴァントたちよ」

 

 それはこの世界でともに戦う仲間との、邂逅だった。



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第6節:仲間

 男が二人と女が一人。

 目の前にいるのは全員英霊であって英霊ではない。

 

 天狐はさっきから白髪の少女、アーチャーを睨みっぱなしだ。

 

 まず最初に、真ん中で立っていた青年が前に出る。

 

「あー……うん、俺がセイバーだ。真名は……ない」

「え?」

「うん、真名がないんだ。俺たち。あ、別に記憶喪失ってわけじゃねないぞ」

 

 それを説明する間もなく、おじさんが前に出てくる。

 槍を持っていることから、ランサーであろう。

 

「えっとだな……おじちゃんは見ての通りランサーだ。説明された通り真名は無いんで、よろしく」

「真名がないってどう言う……」

 

 で、そこで女性。

 消去法で、アーチャーだ。

 

「んと、私がアーチャーだよ」

 

 それだけで階段に上がり、二階に行く。

 なんというか、変な人である。

 後の男二人もなんだか何処か適当そうである。

 頼りない、と言うかさっきから気になっていることがある。

 

「で、なんなんだよ、真名がないって」

「それは私から説明するわ……えっと、難しい話なのよ。幻霊は知ってるわよね」

「ああ、英霊に満たなかった……ってあれだろ」

「それが……うーんと、いっぱい集まって合体したのよ」

 

 一瞬、言われたことの意味がわからなかった。

 ギリギリ絞り出した言葉は……。

 

「は?」

「言うなれば歴戦の戦士たちが手を組んで一人の英霊を生み出したの。それがここにいる三人ってこと」

 

 そんなもの……成立するのかよ。

 

 いや、FGO内でもいたな、前例が。

 新宿のアヴェンジャー、真名へシアン・ロボ。

 首なし騎士へシアンと、狼王ロボを合体させた英霊。

 

 他にも新宿のアーチャー、ジェームズ・モリアーティ。

 魔弾の射手と呼ばれたものと融合。

 だからアーチャーで召喚された。

 

 以上のことから、なんだかんだで納得できてきた。

 

「そうだな、真名がないってのもどうかと思うからよ。取り敢えず剣士とでも呼んでくれや」

「おっちゃんは槍兵って呼んでくれればいいさ」

「わかったが……そこのアーチャー、そろそろ真名を教えてくれ。協力する上でそれは大切だろ」

「……そうね。わかったわ。アーチャー、自己紹介して」

 

 アーチャーはため息をつくと、俺の近くに来る。

 そしておもむろに自己紹介を始める。

 

「えと……私の真名は、ナーサリー・ライム・オルタ[TYPE-SF]。よろしく……」

「あー……え? マザーグースのナーサリー・ライムだよな?」 「そ、それだけど……まあ、召喚事故があったと言うか、色々あったの」

 

 だるそうにそう言うと、あくびをして、近くの椅子に座る。

 

 待て待て、この世界の英霊わけわかんないぞ。

 もしや、あまり深いこと考えない方がいいのでは。

 

 考えれば考えるだけ辛くなるのでは。

 

「……うん、わかった。ありがとう」

「大体こんな感じね……それで早速だけど、これからあるところに侵入するわ。それについて話し合いたいから隣の部屋に来てちょうだい」

「わかった。天狐、ちょっと行ってくる」

「え、私をこん……ここに残してくのか?!」

「すぐ終わるから、待っててくれ」

 

 むー、っと顔を膨らませ、椅子に座った。

 アーチャーからかなり離れた椅子に。

 

 アンナについていき、この建物の三階に行く。

 そして一つの部屋に入る。

 

 中はかなり質素で、目立ったものは何もない。

 あるのはベッドとタンスくらいだ。

 

「それじゃあ作戦だけど、まず最初に上級国民のパーティに潜入するわ」

「上級国民って……ああ、あの人たちか」

 

 階段の先の人たち、多分あの人たちのことだろう。

 服装、建物から見てもほぼ間違い無いと思う。

 だが、パーティに参加する理由は……。

 

「理由としては、そのパーティが行われる場所にある、とある物が欲しいからよ」

「とある物?」

「それについては……こっちの方で手に入れる。貴方はついてきて、参加者たちの気を引いといて欲しいのよ」

「つまり参加者たちをか?」

「まあ、そんなところね」

 

 とある物、これが多分ここの……防衛杭の王を倒すのに必要なんだろう。

 しかし警戒はしておくべきだろうか。

 だって、もしかしたらアンナは俺たちを騙している可能性だってある。

 信じるべきか、悩む。

 

「……わかった、それでどこなんだ?」

「場所は──」

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「──以上です、女紅帝様」

 

 偽りの存在に対し、私は跪く。

 所詮、意味のない行為に過ぎない。

 

「そう……ついに来たのね。それであの子は?」

「それが逃走してしまいまして」

「……わかりきっていたことよ。今更狼狽える必要はないわ。それよりも、貴方のサーヴァント、活躍しているのかしら?」

 

 私のサーヴァント。

 あいつからこの世界を奪った時に契約した、奴のことだ。

 奴は何というか、信用ならない。

 キャスター、と言うこともあって戦闘能力は皆無だし。

 

 だが私には、奴から受け継いだ技術がある。

 これでギリギリ戦闘はできるだろう。

 ……だが、あの絶対に攻略できないとされていた日本を突破した奴らに、私は勝てるのだろうか。

 下を見つめ、そんな心配が頭を過る。

 

「顔をあげなさい」

「はっ……」

 

 顔を上げると、目の前の女性は微笑みをかける。

 全て偽りだとわかっているのなら、温かみがあった。

 

「……絶対に、諦めてはダメですよ」

「……御意」

 

 それだけ言って、玉座が出て行く。

 するとそこで、キャスターがいつものスーツ姿で立っていた。

 

 私が隣を通り過ぎると、後ろからついてくる。

 そして話しかけてきた。

 

「おやおやこれは、マスター殿。どうですかな? 進捗はいかがですかな?」

「さっぱりよ。どうなのそっちも」

「ええ、上級国民のパーティの準備は完了しておりますとも。かの者が拒否したので縛り付けることにしたのですよ」

「それ、大丈夫なの?」

「完璧でござますとも! 簡単に負けるつもりはないのでありましてね」

 

 そう言うと、笑う。

 むっ、と言って立ち止まったかと思いきや、姿を消す。

 どう言う原理か、キャスターと言うのだから魔術でも使っているのだろう。

 前を見ると、一人の男……。

 

「ウィッチャー。何の用なのよ」

「いやはや、新たな王を見ようと思ってね。うん、瓜二つ」

「……余計なお世話よ」

「そんな君に耳寄りな情報を」

 

 そう言うと、ぬらっと消えて、ぬらっと目の前に現れる。

 帽子を取ると、顔が明らかに……。

 なりはしなかった。

 だってそもそも、彼に顔など存在していないからである。

 

「上級国民のパーティに彼らも出席するそうで。どうするかは貴方次第」

 

 そう言うとぬらっと消え、奥の方に現れる。

 

「それでは失敬」

 

 帽子を取り礼をすると、また消えていった。

 

「そう……ふーん、キャスター。聞いてたわね」

「ええ、勿論ですとも」

「彼女、本部からの協力者、ランサーを使いなさい」

「わかりましたとも!」

 

 そう大きな声で言うと、姿を消した。

 少女はたった一人、ため息をつくと、歩き出した。



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