ブルトンちゃんと (クォーターシェル)
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ブルトンちゃんと

ウルトラ怪獣擬人化計画のブルトンに一目惚れして書いてみました。


――ある古いテレビ番組の話、そう、たしか『アンバランス』という題名だったか、内容もあまり覚えていないのだが、たしかこういう話だった気がする。

 

“日常や常識のバランスが崩れた不可解で理不尽な恐怖”

 

自分はそうした世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

朝、いつものように目覚めてリビングに行くと、珍妙な物体が置いてあった。

 

「なんだ、これ」

 

それはどうにも形容するのに困るが、半分が赤色、もう半分が青色でフジツボのような突起がいくつもついた物体だった。

そんなものが我が家のリビングの真ん中にあったのだから自分は面食らってしまった。

とりあえず邪魔なので一抱えもあるその物体を何処かに除けてしまおうと思ったが、これが中々に重い。早々に何処かに移動させるのは難しいと思ったので仕方なく一旦この謎の物体を放置して朝食を済まして仕事へ行くことにした。

 

 

 

そうしていつものように仕事に向かったのだが、当然というか頭の中はあの物体のことで一杯だった。一体どこの誰があんなものを置いて行ったのか、誰かが置いて行ったのならなぜ家に侵入された形跡が無いのか、あれの処分をどうしてしまおうか、普通のゴミには出せ無さそうだし、専門の業者でも呼ぶしかないのか。

結局そんな考えが頭の中を堂々巡りして仕事にもあまり集中ができなかった。

 

 

 

そんなこんなで家に帰ったのだが、なにかがおかしい。

 

ガサリガサリ

 

――物音がするのだ。まさか、空き巣か?

あの物体を置いて行ったのもなにかの下調べ…いや、空き巣に入るにしてもやっぱりあの物体を置いていく意味が分からない。そもそもあんな重いものを持って空き巣に入る泥棒など聞いたこともない。

 

部屋の暗がりを見ると何かがゴミ袋を漁っているようだ。

おそるおそる電気を点けてみると――

 

「ブル?」

 

そこには、小さな女の子が立っていた。

 

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃんはどこから来たの?」

 

「ブルブル!」

 

「お嬢ちゃん名前は言える?」

 

「ブルブルブル!」

 

「困ったなぁ。パパやママはどこにいるのかな?」

 

「ブル!ブルブル」

 

いつの間にか家にいた女の子に色々聞いてみたが、言語発達が遅れているのかブルブルとしか言わず埒が明かない。

やはり警察に事情を説明して預かってもらうしかないのか。というかこの子は一体どうやって戸締りをした屋内に侵入したのだろう?扉にはきちんと鍵をかけてあったし、窓も全てちゃんと閉まっていた。小さな子供と言え侵入できるはずがないのだが…

 

他にも気になる事はある。彼女は中々に奇抜な格好をしているのだ。具体的に言うと額と背中に大きなフジツボのようなものがくっ付いている。

それで想起したのが、彼女が現れた衝撃で頭の中から抜けていたあの物体のことだ。あの物体についていたそれと彼女にくっ付いているもの、そっくりなのである。それにあの物体の色と同じ赤と青のオッドアイがますますそれを想起させる。

 

あの物体はどうなったのかというと、朝に我が物顔でリビングに鎮座していたそれは跡形も無くなっていた。まるであの物体があの女の子に変じたとでも言うように。

まさかそれは妄想だろうと自分でも思う。今日は色々と変なことがあって疲れているようだ。とにかくこれは自分の手には負えない以上彼女を警察に届けなければいけない。

 

そんな訳で自分は彼女を警察に連れていくことにした。そこで彼女を改めて見るとフジツボに気を取られて最初は気付かなかったが彼女の服に名札のようなものが付いているのを発見した。

それには『ブるとン』と読める字が書いてあった。

 

「お嬢ちゃんの名前…もしかしてブルトンっていうのかな?」

 

「ブル!ブルブル!ブルルーッ!」

 

とても名前とは思えない単語だったがこの喜びようを見るとどうやら当たっていたらしい。

ブルトン…少なくても日本人の名前ではない。というか女子に付ける名前ではない気がする。

 

そうしてブルトンちゃん(仮)を連れて玄関を出ると――

 

「…は?」

 

――目の前に砂漠が広がっていた。

思わずバタンと扉を閉める。よし、とりあえず落ち着こう。今日は色々あったし疲れて幻覚くらい見るさ。さあとっととやること済ませて寝よう!

そうして再び扉をちょっと開けてみると、相も変わらず家の真ん前に砂の平原が横たわっていた。

 

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!

どうなっているんだ!?なぜ家の前に砂漠が!?ここは日本だろ!?

念のために庭や窓を見て回ったがどこもだめだった。完全に砂漠に囲まれている。

一体なぜこうなってしまっただろう。ブルトンちゃんを警察に連れていくとかそんな場合ではない。

 

「どうしよう…」

 

「ブルブル」

 

とりあえず間に合わせの材料で作った夜食をブルトンちゃんと食べていた。

いや…ほんとマジでどうしようこの状況。まるでSFやファンタジーみたいにいきなり砂漠の真ん中に放り出されるなんて。とても救助が来るとは思えないし、そもそもここが一体どこなのかも分からない。

家の水食糧を食い尽くしたらあとはもう…

これからのことに絶望しかけていると――

 

「ブル!」

 

夜食を食べ終わったらしいブルトンちゃんが自分の手をグイグイと引いてくる。

意外と力強いな。

 

「どうしたの?トイレ?」

 

「ブルブル!」

 

引っ張っている手の方向を見るにどうやら外に行きたいらしい。

別にいいけど外は砂だらけで何もないんだけど…

 

ブルトンちゃんに手を引かれて家を出てしばらく砂漠を歩いた。

 

「ねえ、どこまで進むんだい?家がだいぶ遠くなっちゃったんだけど…」

 

「ブルブル~」

 

ブルトンちゃんに連れられた先には白い扉だけが砂丘の上にポツンと立っていた。

なんだこれは、シュールな図だな。

近くまで来たが本当にそこには扉以外は近くになにもない。無論扉の後ろ側にもだ。

 

「ブル~ブルブル」

 

「開けろって言うのかい?」

 

ブルトンちゃんはドアノブに手が届かないのか自分に開けてくれと示している。

もしかしてこの扉を開けると元の世界に戻れるとか?

普通ならそんな思考にはならないだろうが既に変なことが起きまくっているのだ。それくらい都合のいいことを考えてもいいじゃないか。

どうせ他にやることも見つからないし開けてしまおう。

そして扉を開けてみると――

 

「うわっ!」

 

そこには砂漠ではなくジャングルが広がっていた。

後ろを振り返ってみると既に砂漠は無く同じような密林の景色が広がっている。

これ、家に帰れなくなった…?

これからの先行きに不安を感じたが、

 

「ブルブルーッ!」

 

「ブルトンちゃん!?」

 

ブルトンちゃんはなにも迷うことなくジャングルの先に進んで行ってしまった。

ここで放置されたら野垂れ死にそうな気がしたので自分は彼女を追いかけることにした。

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…ちょ、ちょっと待って…お願い…きゅ、休憩させて……」

 

「ブルブル?」

 

あの後、ブルトンちゃんの後をついて行ったが大変だった。進んだ先には砂漠にあったように扉が立っていてその扉を開けたらまた全く違う場所にたどり着いていての繰り返しだった。

正直言って何回か死ぬかと思ったぞ。ブルトンちゃんはなにも動じずすいすい進んで行くし一体なんなんだ…

おかげでへとへとに疲れたので自分はその場にへたり込んだ。

 

「今度はどこだろうここ…」

 

今いる場所を見渡してみると草木が一本も生えていない荒野の様な場所だった。前々から思っていたが一体ここは地球なのだろうか?

 

しばらくその場に座っていたが、

 

「ブルブルブル~」

 

「ちょっ!待ってブルトンちゃん」

 

突然ブルトンちゃんが走っていってしまう。当然自分はその後を追ったが――

 

「なんだ、あれ…?」

 

ブルトンちゃんを追ってしばらく行くと異様なものが姿を現した。

それは今朝リビングに置かれていた物体を何百倍にも大きくしたものだった。

しかもそれはリビングに置かれていたものとは違いまるで生き物の様に脈動していた。

 

「ブル!ブルブル!」

 

ブルトンちゃんはそれの近くで嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねている。

自分がブルトンちゃんの所に行くとブルトンちゃんは自分の手を掴んで、

 

「ブルブルブル、ブルブル!ブル~」

 

と、どうやらでかいそれに向かってなにか話しかけているようだ。

でかいそれはそれを聞いているのかいないのか脈動を続けている。

 

「もしかして…ブルトンちゃんの仲間?」

 

と、思わず疑問に思ってしまったことを聞いてみる。

ブルトンちゃんは笑顔で、

 

「ブル!ブルブル!」

 

と答えた。おそらくは肯定だろう。

すると、でかいそれの突起からアンテナのようなものが伸びたかと思うとアンテナが回転しだした。

 

「な、なんだ!?」

 

突然のことに慄いていると、

 

「ブルブルブルーッ!」

 

なんとブルトンちゃんの額の突起からも同じようなアンテナが伸びて回りだした。

それと同時になぜか視界がなにかおかしくなってくる。

具体的に言うとアンテナの回転に合わせるかのように景色が回りだしたのだ。

 

「う、うわぁ!」

 

いきなりこんなことになって自分の感覚も狂いだしたらしく、頭がクラクラするし足もふらついてきた。

このままどうなってしまうんだ!?

 

「ブ、ブルトンちゃんっ!止めてくれっ!俺には効く…」

 

「ブルブル~ッ!」

 

自分はブルトンちゃんに懇願するがブルトンちゃんは額のアンテナを止めようとしない。

いよいよ目の前の景色の判別も出来なくなってきた。

 

「う、うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

そのまま何もかも分からなくなって自分の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

―――1週間後、

自分は何時ものように仕事の帰路に着いていた。

 

あの後どうなったのかは分からないが、自分は自宅のリビングでぶっ倒れていた。

ブルトンちゃんの姿は消え、我が家も今までの通りに住宅街に建っていた。

あの物体やブルトンちゃんが居た形跡などどこにもなく、自分は元の日常にいた。

 

あのことは一体なんだったのだろう。

夢として片づけてしまえばそれで済む話なのだが、同時にどうしても夢というにはリアルな体験でもあったのだ。

個人的な見解だかあの日自分は日常ではない別の世界に入ってしまったのだろうか。

昔見たテレビ番組の言葉を借りるなら『アンバランスゾーン』とも言うべきなにかのバランスが崩れた世界へ迷い込んでしまったのかもしれない。

 

とすると結果を見ればブルトンちゃんに助けられたことになるのだろうか?

それならあんな冒険はもうごめんだがもう一度彼女に会ってお礼が言いたいのだが――

 

そんなことを考えながら家の近くの坂を進んでいると、

 

ブルブル~

 

そんな音が聞こえた。

空耳か?なんて思いながら辺りを見回してみる。

するとなにか見覚えのあるものが坂の下から転がってきた。

あれは――

 

「ブルトンちゃん!?」

 

「ブル!」

 

それは紛れもなくあのブルトンちゃんだった。

彼女は現実の存在だったのか、それともまた自分が非現実の世界に迷い込んだのか――

まあ、それは今考えることではないだろう。

 

 

 

 

 

 

「ブルブル!」

 

「えっあの扉の先に行くって?」

 

「ブルル、ブル!」

 

「えっちょっ待って!そんな強引に引っ張らないで!」

 

そうして彼女とは長い付き合いになっていくのだが、

それはまた別の話だ。

 

 

 




キャラはほぼ独自解釈です。
いや~本当にブルトンちゃんぷよぷよしてそうでかわいいんですよ。


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