運命の刃 (DestinyImpulse)
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プロローグ・運命の英雄・Ⅰ

 新しく始めました。気に入れば幸いです、それではどうぞ!
 あと、プロローグにはラクシズアンチがありますので無理な方はブラウザバックを推奨します。


 

 CE(コズミックイラ)71ーー遺伝子操作で誕生した新人類【コーディネイター】が組織する“ザフト”と旧来の人類【ナチュラル】による“地球連合軍”の戦争は、双方に甚大な犠牲を出しながらも終結した。

 

 そして、この戦争で家族を失ったオーブの少年・【シン・アスカ】は故郷を捨て、プラントへ渡り、ザフトに入隊する。

 

 それから二年ーー再び始まった戦争。

 

 MS(モビルスーツ)パイロットとなったシンは、新造艦ミネルバに配属され、愛機“インパルス”と共に数々の戦果をあげる。

 

 そして、数々の苦難や悲しみを乗り越え遂にCE73年、ビジネスの為に常に戦争を起こさせていた真の敵【軍需産業複合体“ロゴス”】…そのメンバーや盟主【ロード・ジブリール】を討ち滅ぼし戦争を終結させた。

 

 

 世界は"プラント"最高評議会議長、【ギルバート・デュランダル】の手によって平和を取り戻すーーーはずだった。

 

 議長が宣言したデスティニープラン施行に反対するものがいたのである。

 

 元平和の歌姫【ラクス・クライン】とオーブ連合主張国代表【カガリ・ユラ・アスハ】だった。

 

 両名は自由と正義という言葉を振りかざし、軍を率いてテロ行為を開始した。これに対しデュランダル議長はザフトの宇宙要塞【メサイア】に身を置きザフト全軍を率いて防衛体勢を整える。

 

 終わった筈の戦争がまた始まってしまった。

 

 

 犠牲は失くならない、流れる血は止まらない……流れる涙は止まらない。

 

 

 英雄(シンアスカ)は止まらない……戦争を失くすため、己の願いを叶える為に剣を握る。

 

 

 

 たとえこの先に何があったとしても………

 

 

 

 

 

 

 

 ザフトの宇宙要塞【メサイア】

 

 

 月の近くにあるこの要塞の宙域では、現在、議長率いる【ザフト】とラクス・クライン率いるテロリスト集団との最終決戦の火蓋が切って落とされていた。

 

 

 ロゴスとの戦いに終止符を打ったザフトのエース部隊【ミネルバ】を筆頭として構成されたザフト艦隊。 

 

 それに対して過去の大戦で不沈艦の名を知らしめた【アークエンジェル】とラクス・クラインの搭乗艦【エターナル】を旗艦として構成された、オーブ軍。

 

 

 両陣営の艦隊から発射されるビームとそれに撃墜されるMS、またはMSに撃沈される戦闘艦の爆発によって宙域は一種の芸術の様に瞬いていた。

 

 

 その戦闘宙域の中を真紅の流星がはしる。次々とオーブ軍のMSを撃墜するその光は"ガンダム"だった。青、赤、白のトリコロールカラーで何より目を引かれるのは背部のウイングユニットだ。

 

 鮮やかな紅い翼が開かれそこから宝石の様な美しい真紅の光が溢れて光の翼を形成する。

 

 しかし、その美しさに反して頭部には【血の涙】を流すような印象を受ける。

 

 まるで戦争が終わらない事を嘆くように……

 

 

 このMSの名は【デスティニー】

 

 議長がロゴスとの戦いに終止符を打つべく製造された最強のMS。

 そしてそのパイロットは母艦である【ミネルバ】、及びザフトのトップエースにまで上り詰めたシンだった。

 

 その時だ、"デスティニー"に向けてビームが放たれる。しかし、慌てる事なく回避したシンは"デスティニー"のカメラを放たれた方向に向ける。

 

 其所には此方に銃口を向ける黄金の装甲を持つMS…“アカツキ”がいた。

 "アカツキ"……かつての戦闘でいきなり現れた機体であと一歩の所で邪魔が入り撃墜できなかった機体である。

 

 迎撃しようとしたシンだが"アカツキ"から聞こえてきた声に目を見開く。あの時は、カガリ・ユラ・アスハがパイロットだったが聞こえてきたのは男の声、しかも、シンにとって忘れる筈のない声である。

 

「……ネオ・ロアノーク!生きていたのか!?」

 

 ネオ・ロアノーク………地球連合軍に所属していた男でシン達と幾度も戦ってきた敵である。

 

「何でアンタがそいつ等と一緒にいる!?」

 

 地球でネオ達と戦っていた時に奴等は伝説のMS“フリーダム”とその母艦“アークエンジェル”共に現れ、戦いを辞めろと叫びだした。当然、それでハイ辞めます…なんて事にはならない。そんな両軍を手当たり次第に“フリーダム”は攻撃を開始、両軍に甚大な被害が出た。

 

 ネオだって被害にあった筈なのに共に居ることが疑問だった。

 

「まぁ、いろいろあってな………俺も言いたい事があるぜ坊主。なぜそんなモノを守る!?」

 

 シンが今守っているのは月基地に設置されている軌道間全方位戦略砲“レクイエム”。これは元々、ザフトのモノではない、地球連合軍が建設した大量破壊兵器だ。

この兵器のせいで複数のプラントが破壊され過去最悪の大量虐殺を生み出した。

 

 一度は"ミネルバ"隊により破壊されたがはこれを直し戦争終結に反抗の意思を示し軍を出した地球軍のアルザッヘルを撃った。

 

 奴等はこれを口実に戦争を仕掛けてきた。確かにレクイエムを使った我々にも非はあるのだろう………しかしザフトは月やレクイエムのステーションでの戦闘で疲弊している。

 

 それに壊滅した連合艦隊の調査の結果を聞くと連合は核を撃とうとしていた…。被害を出さずにプラントを守るためにはこれが最善の手段だった。

 

 それを言ったところで目の前の男を含め奴等は聞く耳を持たないだろう…

 

「坊主!もうやめろ!!こんなことしてステラが喜ぶと思っているのか!?」

「ッ!」

 

 ステラ………その名前はシンにとって特別だった。

 

 

“ステラ・ルーシェ”…地球連合のパイロットだった。だが彼女はディオキアでシンと運命的な出会いをし互いに惹かれ合う…放棄された地球連合軍拠点・“ガルナハン”で戦闘した彼女の捕縛した時…恐るべき事がわかった。

 

 

 彼女は薬物投与等で無理矢理、身体強化をされた強化人間…【エクステンデット】だと言う。特殊な措置を施さなければ身体機能を維持できない体……このままでは彼女は死ぬ事を悟ったシンは親友と共にステラを地球連合に送り返した。現状ではこれしかステラを救える道はない……そして目の前のステラの上官…“ネオ・ロアノーク”は約束してくれた筈だ…彼女を戦争とは絶対に遠い優しい世界へ返す事を……しかし彼女は“デストロイ”の生体CPU扱いされ戦争に戻され……殺された。

 

 

「俺はお前を止める!ステラの為ー「ふざけるな!!」なっ!」

 

 だからシンは許せなかった……ステラを道具にした地球軍を………約束を守らずステラを戦場に戻して見殺しにしたくせにノウノウと生きているこの男を……

 

「ステラの為!?どの口が言ってるんだ!ステラを生体CPUとしか見てなかったアンタが!!」

「ち、違う!俺はステラを「思っていたとでも言うのか!?ならなんでステラを戦場に戻した!」それは……所詮、俺自身もジブリールの道具に過ぎなかった……だから!」

 

 確かにネオ自身もジブリールの道具に過ぎなかった。ネオが頑張った所でステラは戻されていたかもしれない……だけどシンは許す事ができなかった。

 

 

「ならなんでアンタはステラを殺した"フリーダム"と一緒にいるんだ」

 

 

 そう、ステラを殺した"フリーダム"と一緒にいる男が「ステラを思ってる」なんて言っても信じる筈もない。

 

「そんなアンタが………ステラの事を語るな!」

 

 

 シンの怒号と共に"デスティニー"が動き出す。真紅の翼を広げ"アカツキ"に迫る。それに対して"アカツキ"は宇宙戦闘装備“シラヌイ”の遠隔無線兵器「ドラグーン」を射出する。

 

 しかし、"デスティニー"には両肩に装備された「フラッシュエッジ2ビームブーメラン」を二本抜き取り立て続けにドラグーンを撃破する。

 

 確かにドラグーンは協力な武装だが"デスティニー"の圧倒的な機動力に対応されず瞬く間に接近を許してしまう。

 

「ステラの為?違うだろ!俺を殺して「ステラ…俺はシンを止めた、だから許してくれ」ってステラから逃げるため…自分の為だろ!」

 

 そのまま"アカツキ"の両手を切り飛ばす。

 

「違う!俺は……俺は!」

 

 ネオの悲鳴に近い声が聞こえる。この男も何か思いがあったのかもしれない……だけど、今のシンには止まるつもりは欠片もない………自分のような戦争で家族を失う子供やステラや己の親友の様に命を道具にされる子供が現れる事ない世界に変える為に……

 

 そして"デスティニー"は手に持つ光の刃で"アカツキ"を切り裂いた。

 

「あの世でステラに詫びていろ…!」

 

 

 暫く爆発する"アカツキ"を見ていたシンはモニターやレーダーに映る敵を一掃した後、母艦である【ミネルバ】へ通信を送る。そしてすぐに通信モニターに金髪の美女が表示される。

 

 【アビー・ウィンザー】、シンの信頼できる仲間である。

 

「アビー、敵部隊を一掃した。状況は?」

『こちらミネルバ、アビーです。此方は「アークエンジェル」の撃破に成功しました』

 

 

 ザフト軍に不沈艦と呼ばれ、アラスカ、ヤキンドゥーエもしぶとく生き残りザフトの将兵達を畏怖させた大天使は戦女神に討ち取られた。

 

 これにより奴等の戦力は大幅にダウンした。

 

 しかし………

 

 

『!?、シン!【インフィニットジャスティス】と戦闘していた「ルナマリア機」の被害大!!危険です!』

「ッ!了解!!今向かう!!」

 

 

 シン達がこの戦争に勝利するには二つの条件が必要。

 

 それは【ストライクフリーダム】と【インフィニットジャスティス】………オーブ軍、最強の二機を倒すこと。

 

 この二機だけでザフト軍は壊滅されてしまう。数など意味をなさず、対抗できるのはザフト最強の機体である【デスティニー】とその兄弟機【レジェンド】しかいない。

 

 今現在、"ストライクフリーダム"はシンの親友であり"レジェンド"のパイロットである【レイ・ザ・バレル】が足止めしている。

 

 

 ならば、"インフィニットジャスティス"を倒すのは己の役目だ。

 

 

 必ず"インフィニットジャスティス"を………自分達を裏切った【アスラン・ザラ】を倒してみせる。そう決意を燃やしてシンは"デスティニー"を動かした。

 

 

 

 

END

 

 

 




 


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プロローグ・運命の英雄・Ⅱ

 

 シンがネオ・ロアノークと戦闘を行っている頃、別の宙域では一つの戦闘が終わった。

 

 しかしそれは片方が無傷でもう片方が大破しており戦闘とは言い表せないだろう。

 

 無傷なのは真紅の機体…"インフィニットジャスティス"。それに対して片腕と片足を切り飛ばされボロボロなのはシンのかつての愛機"インパルス"だった。

 

「ルナマリア、もう辞めるんだ!俺達が戦う必要なんてない!」

 

 そう叫ぶのは"ミネルバ"に所属していたにもかかわらずザフトから脱走しシン達を裏切った男、【アスラン・ザラ】

 

 彼が語りかけるのは"ミネルバ"所属、"インパルス"のパイロットでありシンの同期、【ルナマリア・ホーク】

 

 アスランは彼女を……"ミネルバ"の皆を撃ちたくはなかった。アスランは今も彼等を仲間だと思っており、議長は間違っており、ラクスが正しいとわかってくれる筈だと思っていた。

 

「………けんな……」

「え?」

 

 

 しかし、それは… 

 

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

 

 アスランの妄想だ。

 

「今さら何よ!私達を裏切ったアンタを許すわけないじゃない!!」

「な!?」

 

 アスランは目を見開いて驚いているが……自分達を裏切った男の言葉を信用する者など居る筈もない。何よりルナマリアにはアスランを絶対に許せない理由がある。

 

 

「アンタのせいで【メイリン】は!」

 

 そう、アスランは脱走する時にルナマリアの妹、【メイリン・ホーク】を連れ出した。そんな妹は今、"エターナル"のオペレーターとしてラクス・クラインに寝返っている。

 

 ラクス・クラインを倒すため"エターナル"を射てばメイリンも巻き添えになる。だからといって"エターナル"を爆炸せずに捕縛しメイリンを捕らえても。裏切りとテロ行為に加担した罪は重すぎる。死刑は免れないかもしれないし、どんなに軽くても何十年も牢獄に収容されるのは明らか………もう、仲が良かった姉妹には戻れない。

 

「返してよ!妹を……メイリンを!私達姉妹の日常を返してよ!!」

 

 そう叫びアスランを睨み付けるルナマリアはモニター越しから見たアスランを怯ませるには十分な威圧感を放っていた。

 

「ッ!だから君もこっちに来い!メイリンだってそれを望んで「私にも皆を裏切れって言うの!?流石、裏切り者は言うことが違いますね!」ルナマリア……馬鹿野郎!」

 

 ルナマリアに拒絶された事に明らかに同様したアスランは無理矢理にでも連れていくために"インフィニットジャスティス"を動かす。

 

 今の損傷した"インパルス"では避ける事はできずルナマリアは思わず目を瞑ってしまう。

 しかし、何時までたっても衝撃が襲ってこず目を開けると……

 

 "インフィニットジャスティス"のビームサーベルをビームシールドで受け止める"デスティニー"の姿があった。

 

「悪い、遅くなった」

「シン!」

「アンタは黙ってろ!この裏切り者!!」

 

 “デスティニー”は“インフィニットジャスティス”の顔面に拳を叩き込み吹き飛ばす。

 

「無事かルナマリア!?」

「なんとかね…………やっぱり私じゃ無理だった」

 

 モニターに映るルナマリアは弱々しく悲しげだった。

 

「シン……アスランを!」

「………わかってる。あの裏切り者は俺が討つ……ルナマリアは"ミネルバ"に戻れ」

「………了解」

 

 大破してもまだ動ける"インパルス"は残ったスラスターを動かし"ミネルバ"へと向かう。それを追おうとした"インフィニットジャスティス"の前に"デスティニー"が立ちはだかる。

 

「アンタの相手は俺だ!アスラン!!」

「シン!!」

 

 "インフィニットジャスティス"は二つのビームサーベルを連結させ「ハルバードモード」で斬りかかる。それに対して"デスティニー"は背部右ウエポンラックに装備された対艦刀「MMI-714 アロンダイト ビームソード 」を構え、迎え撃つ。

 

 鍔迫り合いになり、周囲には粒子がぶつかり合って発生する閃光が奔る。

 

 

「アスラン、あんたよくも終わった戦争を起こしやがったな!」

 

「シン!もうやめろ!議長はやがて世界の全てを滅ぼす!お前は議長やレイに騙されてるんだ!」

 

「俺の言葉は無視か!それにあんたがレイの何を知ってるんだ、この裏切り者がぁ!」

 

 “デスティニー”の背部の翼から輝く光が発せられ、一度距離を取りすぐさま"インフィニットジャスティス"に向けて「アロンダイト」を振り下ろす。

 

 しかし、“インフィニットジャスティス”は連結サーベルを構えて真っ向から向かっていき、「アロンダイト」を、上半身を反らすことで回避し、サーベルで斬りつけ斬り返した「アロンダイト」と鍔迫り合いになる。そこを“デスティニー”は力任せに「アロンダイト」を振り切り、“インフィニットジャスティス”を吹き飛ばす。

 

 そして、ライフルを放つ。“インフィニットジャスティス”もライフルを取り、交差しながらライフルを放つが両者ともに命中はしない。

 

「くそ!やっぱり強い!」

 

 アスランの技量はこの世界で五本の指に入るほどの腕前だ。それゆえ、アスランがまだ"ミネルバ"にいた頃、シンは一回もアスランに勝つことはできなかった。

 

「もうやめろ、過去に囚われたまま戦うなんてもうやめるんだ!」

 

 

 連結ビームサーベルを解除し、両の手にビームサーベルを持った"インフィニットジャスティス"がスラスターを全開にして突っ込んで来る。"デスティニー"は光の翼を広げ後方に下がり回避する。

 

「そんなことをしても何も戻りはしない!なのに未来まで殺す気かお前は!お前が欲しかったのは本当にそんな力か!」

 

 

 シンの中に最愛の妹マユと守ると約束した相手であるステラの姿が浮かんでくると同時に、彼女らをシンから永久に奪い去ったフリーダムの姿も浮かんできた。

 

 

「……………………ふざけるなよ…!俺が戻りたいと思った場所や一緒にいたかった人を奪ったのが誰だと思ってやがる!未来だと?俺が作っていきたいって思った未来を殺したのが一体誰だと思っている!?」

 

 

 シンが戻るものなら取り戻したいものは、家族、家族と暮らしていた平和な時、そしてステラであり、欲しかった未来は彼女らと築いていくはずであったもので、彼女らを殺したのは紛れもない、"フリーダム"のパイロット……キラ・ヤマトだ。

 

 

 そしてシンは、自由の名の下にその強大な力を振りかざして好き勝手に暴れ回り、罪のない人達をも傷付けていくキラ・ヤマトこそが、人々の未来を殺すものだと思っている。

 

 

「それに!そんなのはタダの言葉じゃないか!!失った過去を護るのは間違いで、今ある現実だけを守るのが正義なのか!!それを決めていいのはアンタじゃない!俺なんじゃないのか!!」

 

 

 "デスティニー"の右手が光に包まれる。“デスティニー”の左右の掌底部には小型ビーム砲。「パルマフィオキーナ」が内蔵されている…

 

 

「結局アンタ等は自分の正義を押し付けているだけだ!俺が欲しかった力はアンタやキラ・ヤマト…ロゴス、ラクス・クラインみたいに自分の都合を押し付ける奴等から、守られるべき人達を守る力、この“デスティニー”だ!!」

 

 

 

 シンが力を欲した理由、それは家族を奪ったフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトへの復讐だけではない。キラ・ヤマトやオーブのように、自分のやり方・力・都合を、それとは関係のない自分の家族のように、罪のない、本来であれば守られるべきである人達に押し付ける奴等から守りたかった、守れなかったことを後悔したくなかったからだ。

 

 

「だから俺は戦う!キラ・ヤマトやあんた達からみんなの未来を守るために!」

 

 

 シンの思いに答える様に“デスティニー”のツインアイが輝き“インフィニットジャスティス”に突撃する。

 

「シン、お前!」

 

 

 アスランはきっと自分の言葉でシンが動揺し、考え直すはずだと思っていたのである。だが、彼の言葉は完全に逆効果になっていた。

 

 突撃する"デスティニー"に対して"インフィニットジャスティス"はビームシールドを使ったシールドアタックで迎え撃つ。

 

 

 ぶつかり合う"デスティニー"の光の槍(パルマフィオキーナ)と"インフィニットジャスティス"の光の盾(ビームシールド)……激しくぶつかり合う光と光。

 

 

「はあああああっ!!!」

 

 

 そして、"デスティニー"の光の槍(パルマフィオキーナ)が"インフィニットジャスティス"の光の盾(ビームシールド)を打ち破り、そのまま"インフィニットジャスティス"の左腕を破壊した。

 

 

(馬鹿な……!?俺がシンに負ける!?)

 

 

 アスランには今の状況が信じられなかった、自分がシンに圧されていることに……

 

 

 

「くっ、この馬鹿野郎っ!!」

 

 

 しかしアスランの頭の中で【種】が弾けた。

 

 【SEED】が発動したアスランは、近接戦闘では無敵のMSパイロットである。先程の焦りは完全に消え去り、すぐさま逆転の一手を放つ。

 

 

 "インフィニットジャスティス"は無事な右腕でビームサーベルを構え"デスティニー"に振り下ろす。完全に"デスティニー"は捉えられており、このままでは切り裂かれることは明白だった。

 

 

 

――だが

 

 

 

「やれるとおもうなあああっ!」

 

 

 シンの頭の中で【紅い種】がはじけ飛んだ。

 

 "デスティニー"は先程「パルマフィオキーナ」を放った右手で左肩の「フラッシュエッジ2ビームブーメラン」をサーベルモードにして居合い切りの如く"インフィニットジャスティス"の右腕を切り裂いた。

 

 

「馬鹿な……!?」

「俺は今日こそアンタを超えてみせる!!!」

 

 

 そのまま"デスティニー"は「フラッシュエッジ2」を"インフィニットジャスティス"のコクピットに振り下ろす。

 

 アスランはタダそれを見ることしかできなかった。何故己が負けたのか……そう考えながらアスランは光の中に消えていった。

 

 

「さよらな………アスラン隊長」

 

 

 シンは爆発する"インフィニットジャスティス"を見つめその場を後にした。

 

 

 

 アスランは最後まで気づくことができなかった。

 

 

 過去から逃げ、正義にしがみついた己と……過去を背負って運命に抗うシンとの違いに……

 

 

 

 

END

 

 

 



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プロローグ・運命の英雄・Ⅲ

 

 怨敵であるアスランを倒したシンはミネルバへ通信を入れる。

 

「アビー、俺だ、アスランは倒した」

 

『シンっ!本当!?』

 

 

 通信モニターの向こうでいつも冷静なアビーが歓喜の表情を浮かべている。通信内容が艦橋のメンバーにも漏れたようで、歓声が上がっている。

 

「ルナマリアは?」

『大丈夫、無事に帰還しました。これで……』

「ああ、後は"フリーダム"を倒すだけだ」

 

 "フリーダム"を倒してしまえば圧倒的に数で劣るオーブ軍の敗北は必然。しかし、逆を言えば"フリーダム"さへ残っていれば奴等は逆転できる。まだ、油断はできない。

 

「ここまま、レイの応援に向かう」

 

 その"フリーダム"は現在、シンの親友であり"レジェンド"のパイロット、【レイ・ザ・バレル】が戦闘を行っている。

 

 すぐさま応援に向かおうとしたシンの耳にアビーの悲痛な声が聞こえた。

 

『え……?嘘でしょ…!?』

『どうしたの!?』

 

 何時ものアビーからは想像もできない表情にただ事ではないと"ミネルバ"の艦長【タリア・グラディス】は悟る。

 

『高速に接近する機体あり!これは……"フリーダム"です!!』

 

『「なっ!?」』

 

 それを聞いたシンやタリア、艦橋のメンバーも目を見開く。"フリーダム"はレイが相手をしていた筈……その"フリーダム"が此方に来たと言うことは……

 

 思考の海にいたシンの意識はレーダーの反応を知らせるアラームで現実に戻された。

 

 此方に向けて放たれたビームを避け、メインカメラを其方に向けれるとそこには……

 

「………"フリーダム"」

 

 白を基調としたカラーリングで青い翼と"デスティニー"とは対照的なガンダム。

 

 "ストライクフリーダム"がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 時間はすこし遡る。

 

 "デスティニー"と"インフィニットジャスティス"がぶつかり合うその時、"レジェンド"と"ストライクフリーダム"はサーベルで鍔迫り合いを続けていた。

 

 二機が互いに力比べとばかりにサーベルを押し付けあっていると、"ストライクフリーダム"は、ドラグーンをその翼から切り離す。

 

 宇宙空間に射出された青い羽はそのまま意思を持っているかのように動き回り"レジェンド"へと向かっていく。

 

 だがその直前にドラグーンの射出を感じ取ったレイは"レジェンド"を後退させて距離を取り、自らもドラグーンを展開させる。

 

 サーベルを使っての接近戦の次は、両機の最大の長所であるドラグーンによる撃ち合いであった。

 

 "ストライクフリーダム"は、取り囲むようにまとわり付いて来るドラグーンから放たれるビームを潜り抜け、ときにはビームシールドで受け止めながら、"レジェンド"へ攻撃を加える機会を探していた。

そしてその最中、キラはかつて感じたことのある男のプレッシャーのようなものを感じ取っていた。

 

「!?これは…どういうことなんだ?君は…」

 

 キラの脳裏に、彼のトラウマともいうべき男の姿が、声が浮かんでくる。

 

ラウ・ル・クルーゼ

 

 キラ・ヤマトという存在が生み出される過程の産物であり、前大戦での激しい戦いの末に辛うじて倒すことができたものの、その後においてまでキラを苦しめ続けた存在である。

 

 もはや世界から姿を消した存在であるはずの男がこの場にいるはずがない。しかし、今、感じている男は間違いなくクルーゼのものである。

 

「君は誰だ…誰なんだ?」

 

 キラが絞り出したような声を出す。

 するとそこに"レジェンド"から聞き覚えのある、彼にとっては悪魔ともいうべき人間の声が聞こえてきた。

 

「わかるだろ…あなたには…俺はラウ・ル・クルーゼだ」

「あ…ああ…」

 

 レイにとって、クルーゼは兄であり、そしてもう呪われた宿命を背負わされた1人の自分である。

 そしてもう1人の自分たるクルーゼは自らの呪われた宿命と道連れに世界を滅ぼそうとして、憎しみの末に力尽きた。クルーゼの思いと末路を聞いたとき、レイは自らの存在理由について深い苦しみに陥った。

 

 しかし、レイが選んだ道はクルーゼとは異なるものとなっていた。

クルーゼの周りとは異なり、レイの周りには様々な人間が集まってきていたからである。

 

 父の様に自分を育ててくれたギルバート・デュランダルは言うまでもなく、アカデミーで互いに力を欲したが故に高みを目指してぶつかり合い、戦場に出てからも背中を預けあい共に戦ってきた親友のシン・アスカ。

 

 

 ルナマリアやアビーなど"ミネルバ"の仲間達がレイの周りにいたのである。

 

(今度こそ終わらせる…今度こそ全てを!)

 

 だからこそレイの心に強い決意が生まれていた。

 

「人の夢…人の未来…その素晴しき結果、キラ・ヤマト…ならばお前も、今度こそ消えなくてはならない!俺達と一緒に…生まれ変わるこの世界のために」

 

 レイの言う、生まれ変わる世界とは、デュランダルが目指したナチュラルとコーディネーターが共生し、デスティニープランによって両者の差異が小さくなり、妬みと蔑みがなくなった世界を意味している。

 

 そしてその到達点には、ナチュラル、コーディネーターという概念の消えた世界があった。

 

 クローンとして産み出された自分や戦争で家族なくした親友のシンが望む世界はもうすぐ実現するのだ……

 

 だからこそ、自分達とは違う者をタダ否定し…従わない者を力で縛り付ける。ラクス・クラインに邪魔される訳にはいかない!

 

 レイの叫びに呼応するかのように、"レジェンド"がドラグーン、手にしたビームライフルから発射されたビームが、一斉に"ストライクフリーダム"へ襲い掛かっていた。

 

「ラウ・ル・クルーゼ…」

 

 呆然と呟くような声がキラから漏れた。

 

 それはまさしくキラにとっては悪夢そのものである。ドラグーンのビームを回避しながら、かつてのように心が折れないようキラは必死に自分を保とうとしていた。

 

 だが、その時"インフィニットジャスティス"が撃墜されたと報告がはいる。

 

「え?」

 

 それはすなわち……アスランが死んだと言うことだ。

 

 動きが止まった"ストライクフリーダム"。その隙を逃さず"レジェンド"のドラグーンが"ストライクフリーダム"のドラグーンを全て撃ち抜いた。

 

「アスラン……」

 

 親友の死を受け入れられないキラ。その時、"エターナル"から通信がはいる。モニターに映るのは桃色の長髪の美女。彼女こそ歌姫の騎士団の首領、ラクス・クライン。

 

 

「キラ」

「ら、ラクス……アスランが!?」

 

 迷子の子供の様に叫ぶキラにラクスはまるで聖母の様な微笑みで言う。

 

『それはとても悲しい事です。ですが、止まる暇はありません。アスランの為にも私達の言葉を聞かぬ者を……平和の歌を聞かぬ者を倒すのです…キラ』

 

 その言葉を聞いたキラは先程の震えがなくなり……

 

「わかったよ、ラクス……アスランの為にも僕は」

 

 突然、“ストライクフリーダム”の翼から青い光が溢れ出した……それは“デスティニー”と同じ光の翼だった。“デスティニー”に匹敵する速さで飛ぶ“ストライクフリーダム”にドラグーンが追いつかない。接近を許してしまい右腕を切り飛ばされた。

 

「なッ!」

 

 

 【SEED】を発動させたキラの一撃に反応できずレイは目を見開く。

 

 

「これでぇぇぇっ!!」

 

 そして“ストライクフリーダム”のフルバーストに半数のドラグーンと左腕、右足を撃ち抜かれた“レジェンド”は大きく吹き飛ばされてしまった。それによりコックピットでは小さな爆発が起こり、それにより飛び散った破片が容赦なくレイの肉体に突き刺さった。

 

 なんとか意識を繋ぎ止めるレイが見たのは何処かへと飛び立つ"ストライクフリーダム"の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在、シン達の前に現れた"ストライクフリーダム"は両手にビームサーベルを構えて"デスティニー"に突撃する。

 

「君がアスランを!!」

「くそ!」

 

 

 【SEED】を発動させたキラに対してアスランとの戦闘の疲労で【SEED】が解除されてしまったシンとでは差が大きい。

 

 "ストライクフリーダム"の連撃を「アロンダイト」で迎え撃つ"デスティニー"だが受け止めきれず肩の装甲が切り裂かれてしまう。

 

『シン!!』

『クッ!全砲門開け!!目標、"フリーダム"!!』

 

 タリアの指示に"ミネルバ"は"デスティニー"を援護すべくビームを放つが。

 

「そんなモノ!!」

 

 "ストライクフリーダム"には掠りもせずに逆に砲門を撃ち抜かれる。それに起きた爆発はブリッジにも響き皆の悲痛な叫びが通信から聞こえる。

 

「皆!ッ!?」

 

 その事に気をとられたシンは"ストライクフリーダム"への意識が遅れてしまった。"ストライクフリーダム"は腰に装備された「クスィフィアス3レール砲」を連続で放つ。

 

 

 ビームではないため"デスティニー"の装甲は貫けないが衝撃までは防げない。更に連続で喰らってしまい、それにより"デスティニー"のコックピットでは小さな爆発が起こり、それにより飛び散った破片が容赦なくシンの肉体に突き刺さった。

 

「ぐ…!」

 

 その痛みはシンから意識を奪うのには十分なモノであり、必死に意識を繋ぎ止めるシンの隙を突きキラは"ミネルバ"に向けて腹部の「カリドゥス複相ビーム砲」を放つ。

 

 

「やめろーーー!!」

 

 

 痛みを無視してシンは"デスティニー"を動かす、"ミネルバ"の盾になるべく咄嗟に前に出た"デスティニー"…このまま無防備に喰らえばシンの命は尽きる。通信から聞こえるアビーの叫びを聞きながらシンは「ここまでか」と諦めたその時……

 

 

「なっ!?」

 

 

 目を見開いた。"ミネルバ"を守る為に前に出た"デスティニー"を更に守るべく大破した"レジェンド"が"ストライクフリーダム"のビームをその身に受けたのだ。

 

 

「シン……」

 

 

 シンの耳に聞こえたのはレジェンドからの通信から聞こえる己の名を言う親友の声と……その数秒後に聞こえた爆発音だった。

 

 

「レイぃぃぃいーーー!!」

 

 

 レイの命を消し飛ばす"レジェンド"の爆発により"デスティニー"は大きく吹き飛ばされシンは意識を失いかけていた。

 

 

 

「シン、しっかりしろ」

 

 

 しかし、それを繋ぎ止めてくれたのは今まさに死んだ筈の友の声だった。

 

(!、レイ?)

 

 芽を開ければ長い金髪の美形の少年……間違いなくレイが見える。最もその姿は半透明だが。

 

「こんなことを言うのは柄ではないのだが……アカデミーでお前達に出会う前の俺は、自分の宿命を呪いながら暗闇の中にいるに等しかった。だが、お前や皆のおかげで俺はレイ・ザ・バレルとして生きていくことができた……ありがとう」

 

 

 そう言ってレイは穏やか笑みをみせる。だが、シンは納得できなかった………親友が死ぬと言うことに……

 

(俺は……また!)

 

 守れなかったと叫ぶ前に……

 

 

「俺のことは気にするな、俺は気にしない………だが、シン、フリーダムを……キラ・ヤマトを倒してくれ!」

 

 そうまだ、フリーダムが残っている。今、フリーダムを倒せるのはシンしか居ない。

 

 

「守ってくれ……"ミネルバ"の皆や議長が目指す、俺とお前が望んだ世界を!お前にはそのデスティニー()がある。お前はまだ戦える!!」

 

 

 

 

 

 

 

「飛べ!!シン・アスカ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を最後にレイは消えてしまった。現実に戻ってきたシンは己が求めた力に……愛機(デスティニー)に語りかける。

 

 

「なぁ、デスティニー………まだ、戦える(飛べる)か?」

 

 

 

 その言葉が通じたのか……"デスティニー"のツインアイが眩く輝いた。シンにはそれは見えない。

 

 

 だけど……答えてくれた気がした。

 

 

 

「ふっ…………いくぞ!デスティニー!!」

 

 

 

 そして再び、シンの頭の中で【紅い種】がはじけ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でキラは"ミネルバ"を討ち滅ぼそうと"ストライクフリーダム"を動かす。 

 

「これで、ラクスの敵はーー!!」

 

 

 "ストライクフリーダム"は二つのビームライフルを連結させ"ミネルバ"に照準をあわせる。

 

「艦長!!」

「クッ!」

 

 副長のアーサーとタリアの苦痛の声、ブリッジの誰もが絶望に顔を染め、アビーも思わず目を瞑ってしまう。

 

 しかし、此方に急速に接近する友軍機の反応を知らせるアラームがなる。

 

「あ……」

 

 その時、アビーは気づく…まだ、彼が……シン・アスカがいることに。

 

 

「はぁぁぁあっーー!!」

 

 

 シンの怒号と共に"デスティニー"が凄まじい速度で接近し「アロンダイト」を振り下ろす。

 

「!?」

 

 "ストライクフリーダム"は咄嗟に反応するが避けきれず連結したビームライフルを切り裂かれ……そして“デスティニー”の拳が、“ストライクフリーダム”の顔面を殴り飛ばした。  

 

 

 吹き飛ばされる"ストライクフリーダム"のコクピットにキラは大きな衝撃を受け苦痛の声を漏らす。なんとか体制を整えたキラが見たのは真紅の翼を更に強く輝かせた"デスティニー"の姿だった。

 

 

 その"デスティニー"のコクピットにいるシンは光がなく、だけど力強い瞳で"ストライクフリーダム"を…キラ・ヤマトを睨んでいた。

 

 

 

「アンタは俺が討つんだ。今日、此処で!!」

 

 

 

 

 これが後の世に語られる【メサイア戦役】での最後の戦い………

 

 

 

 

 

 END

 

 



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プロローグ・運命の英雄・Ⅳ

 

「決着をつけようぜ……フリーダム!!」

 

 "デスティニー"が「アロンダイト」を構えて"ストライクフリーダム"に振り下ろす、先程とは違い【SEED】を発動させたシンの攻撃は速く正確でキラも冷や汗を流す程だ。

 

 

「クソ、もうやめるんだ!どうして君は憎しみに囚われたまま戦うんだ!?」

 

「俺はあんたみたいに大切な人を失って悲しみを持たないような人形とは違うんだよ!」

 

「それはどういうことだ!」

 

「アスランの奴は最低な屑野郎だったが、あれだけキラキラ言ってたのにその当人に俺を憎んでもらえないってのは同情するぜ!」

 

「僕だってアスランが死んだのは悲しいさ!でも後ろを振り向いてばかりじゃ仕方ないじゃないか!」

 

 ビームを放ちながらキラは叫ぶが、シンは怯まずに言い返す。

 

「違うな!あんたはそうやって振り返りたくない過去を見ないようにしてるだけだ!結局、過去から逃げてるだけなんだ!それに、戦いを止めなんて言うけどな、戦いを広げてるのはアンタ達だってこと本当にわからないのかっ!?」

 

 「アロンダイト」が"ストライクフリーダム"の左肩装甲と左翼を切り飛ばす。

 

 

「僕達が!? そんな筈はない! 僕はただ争いのない自由な世界の為に……君や議長と戦っているんだ!」

 

 

 しかし、"ストライクフリーダム"も負けじと"デスティニー"の左足を切り飛ばす。

 

「じゃあ、アンタ達はその自由の為に話し合ったことがあるのかよっ!? いっつもアンタ達は話し合わずに力だけじゃないかっ!」

 

 彼等は自分達の意見に従わない者に対していつも力で屈服させてきた。

 

「どうしてそこまでしてラクスに歯向かおうとするんだ!彼女は本当は戦いたくなんてないんだぞ!」

 

「終わった戦争をまた引き起こしておいて何を言ってやがる!」

 

「デュランダル議長を止めないと世界が滅ぶかもしれないんだ!」

 

「訳わかんねえ理屈で自分を正当化するんじゃねえ!」

 

「いい加減にしろ!君はラクスの言葉を聞いていなかったのか!」

 

「自分の言葉が常に正しいと思っている。あんなに傲慢な奴を見たのは初めてだ!」

 

「君はラクスの言ってることが正しいってどうしてわからない!?」

 

「完璧な人間なんてこの世の何処にも居ない!アンタ等はどれだけ関係ない人を傷付けるつもりだ!ふざっけるなあぁぁぁあ!!」

 

 左手の「パルマフィオキーナ」で"ストライクフリーダム"の右肩装甲を破壊する。

 

 

「僕だって世界を、平和を守るために戦ってるんだ!」

 

「ラクス・クラインに従わない奴全てを潰すなんて平和を守るとは言わねえんだよ!」

 

“デスティニー”は「アロンダイト」を構えて目の前の“ストライクフリーダム”に突撃し“ストライクフリーダム”もサーベルを二刀流にして突っ込んでくる。

 

「アロンダイト」と二つサーベルがぶつかり合い両機の翼から光が放出される。それはまるで神話の様な光景だった。

 

 しかし、左翼を破壊された"ストライクフリーダム"ではパワー負けをし吹き飛ばされる。

 

「一体なんでそんなにラクス・クラインを信じられる!タダ、相手を否定するだけの奴に!?」

 

「彼女は僕に優しくしてくれたんだ!」

 

「それで奴に殺せと言われればアンタは人を殺すのか!?」

 

 再び接近戦になるが"ストライクフリーダム"の振り下ろしたサーベルが"デスティニー"の右アンテナを切り落とす。

 

 しかし"デスティニー"が"ストライクフリーダム"の顔面を殴りつけて後方に吹き飛ばす。

 

 

「なんでお前らがいつも力ばっかり振り回すのかは知らないがなあ………関係ない人達まで巻き込もうとするアンタ等のやり方は絶対に許せないんだよ!!」

 

 

 「アロンダイト」を構えて突撃しようとした"デスティニー"だが"ストライクフリーダム"が右手に持っていたビームサーベルを投げたのだ。

 

「なっ!?」

 

 腹部にある「カリドゥスビーム砲」があるにも関わらず二つしかないビームサーベルを投げるとは思わず「アロンダイト」を持っていた右手が破壊されてしまう。

 

「これで!!」

 

 「アロンダイト」を失った"デスティニー"に残された武装は左手の「パルマフィオキーナ」と背部左ウェポンラックに装備された大型ビームランチャーのみ。

 

 

 しかし、キラは目を見開いた。

 

 

 "デスティニー"が左手に持っていたのは……

 

 

「"レジェンド"のビームサーベル…!?」

 

 そうレイは"レジェンド"が爆発する直前にビームサーベルをパージしていたのだ。

 

 

「いくぞ!レイ!!」

 

 

 "レジェンド"から託されたビームサーベルを構えて"デスティニー"は突撃する。

 

 

 迎撃しようと機体を動かそうとした時、"ストライクフリーダム"に異常が発生する。

 

「え!?」

 

 何が起こった?

 

 異常の原因は機体のダメージである。

 

 "ストライクフリーダム"はキラ・ヤマトの運用を想定して極限まで運動性向上のために装甲を細かく分割しスライドさせるシステムを採用しているが防御力低下の要因にもなっているのだ。

 

 それでも彼等は構わなかった。"ストライクフリーダム"とキラに勝てる可能性があるMSとパイロットが居るなんて考えもしなかったから。

 

 だが、現実は彼等の理想とは違う。キラと互角のシンとザフト最強のガンダムである"デスティニー"によって中破まで追い込まれた"ストライクフリーダム"は限界を迎えてしまった。

 

 

 目の前に迫る"デスティニー"見たキラは何とか「カリドゥス複相ビーム砲」と「クスィフィアス3レール砲」を"デスティニー"に放つ。

 

 

「止まれ!!止まれええええ!!」

 

 

 恐怖を感じ「カリドゥス複相ビーム砲」を何度も放つがギリギリで回避し、"ストライクフリーダム"に接近。

 

 

「これで終わりだああああああ!!!!!!!!」

 

 

 そして"レジェンド"のビームサーベルで"ストライクフリーダム"を貫いた。

 

 

 

(どうして?)

 

 

 何故負ける?

 自分は世界のために戦ってきた。

 それなのに何故世界の敵に、デュランダル議長に従う敵に負ける…?

 

 

 その事がわからないまま、キラはビームサーベルに焼かれ消えていった。

 

 

 

 

 

 コクピットに突き刺してすぐに距離をとる"デスティニー"、そしてすぐに"ストライクフリーダム"は爆発し宇宙の藻屑と化した。

 

「やったぜ……レイ」

 

 友の仇を討てたことを満足そうに喜ぶシン、すると"ミネルバ"から通信がはいる。どうやら皆は無事のようだ。

 

 

『シン!やったんだ……そんな…!?』

 

 

 "ストライクフリーダム"が倒された今、ラクス・クラインに勝ち目はない。この戦争は自分達、ザフトの勝利は確実だ。その一番の功労者であるシンを称賛しようとアビーが通信を開くが……絶句した。

 

 

『シン!傷が!!』

 

 そう、今のシンには"ストライクフリーダム"の攻撃に被弾した際にコクピット内で爆発し飛び散った破片が突き刺さっている。

 

【SEED】を発動していた為、痛みを無視して戦っていたが戦闘のダメージで傷が深く広がり、血も大量に出ている。今すぐにでも治療しないと命はないほどだった。

 

『速く戻って!!治療しないと!!』

 

「…………無理だ。もう間に合わない」

 

 正直に言えば視界はぼやけ手足の感覚もなくなり始めた。【SEED】が解除されれば痛みで意識を失い自分は死ぬだろう。

 

 だからこそ、今やらねばならぬ事がある。

 

 シンは"デスティニー"をエターナル……ラクス・クラインが居る方角に向ける。

 

『シン、何をしているの!?帰還しなさい!!艦長命令です!!速く!!』

 

 タリアは何をするか理解したのだろう。

 

「すみません艦長……その命令は聞けません」

「シン!!」

 

 怪我が治り戦線に復帰したルナマリアが"インパルス"に搭乗して此方に向かってくる。

 

 

「ルナマリア…………俺とレイが繋げた未来は……お前達が守ってくれ」

 

 

 最後にそう言い残すと、"デスティニー"は全速力でスラスターを吹かせ、"インパルス"を振り切った。

光の翼を最大限に広げた"デスティニー"の運動性と機動力は"インパルス"ではとても追い付けない。

"デスティニー"はビームシールドを展開しながら、すさまじい速度で敵艦隊の中央を目指し突っ込んでいく。

 

 

「やめて、シン!!いかないでっ!」

 

 ルナマリアやアビーの通信を切りシンはぼやける視線でラクス・クラインの居る"エターナル"をとらえる。

 

「いくぞ……デスティニー。最後の仕事だ!!」

 

 

 

 "デスティニー"は光の翼を広げる。

 

 

 

 己の命を燃やす様に……

 

 

 

 

 

 一方で"インフィニットジャスティス"と"ストライクフリーダム"を失ったオーブ軍は壊滅状態だった。しかもそこにその二機を倒した"デスティニー"が特攻してくるのだ。

 

 

「撤退を急げ、ラクス様をお守りしろ!!」

 

 それでもラクス・クラインに信仰の強い者達は懸命にラクス・クラインを守るため迫り来る"デスティニー"に数十のMSを差し向ける。

 

 しかし、圧倒的な速度のためか、まともに狙いが付けられるパイロットはほとんどいない。

 

 いや、ビームライフルを撃っているMS自体が余りにも少なかった。敗北が決まったオーブ軍の士気はとても低く当てる気のない弾幕など、ザフトのエースであるシンには何の障害にもならない。

 

 

 シンは左手の「パルマフィオキーナ」に"デスティニー"の全エネルギーを回すと、エターナルのブリッジに鬼神の如き勢いで迫る。

 

「か、回避を!」

 

「ま、間に合いません!!」

 

 それはラクス・クラインを震えあがらせるには十分過ぎる光景で後数秒もすれば「パルマフィオキーナ」が自分達を吹き飛ばすだろう。

 

 

 ラクス・クラインは拳を握り締め、こみあげる苛立ちにわずかにであるが震えていた。

 

 

「私はラクス・クライン…私は世界のもの、世界は私のもの…世界のために私は戦っているのにどうして!」

 

 

 

 それに対してシンは死にかけの体を奮い起たせ最後の一撃を叩き込む。

 

 

 

 

「これで最後だぁぁぁあーーー!!」

 

 

 

 デスティニーの「パルマフィオキーナ」は"エターナル"のブリッジを吹き飛ばしラクス・クラインを消し去った。

 

 

 しかし、シンと同じくボロボロの"デスティニー"は動く事ができず……"デスティニー"はエターナルの爆発に巻き込まれる。

 

 

 目の前に迫る光を見つめながらシンは自嘲的な笑みをこぼす。

 

 

「……やれるだけやった……ステラ、俺もそっちにいくよ」

 

 

 そしてシンは光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 "デスティニー"の特攻により、"エターナル"は沈黙した。直後、オーブ軍がザフトに降伏を打診しザフト側はこれを受託した。

 

 

 キラ・ヤマト、ラクス・クライン、アスラン・ザラと絶対的な存在を失ったオーブ軍には戦線維持するだけの士気が残っていなかった。

 

 

 

 

 

 こうして、戦乱の時代は終わった。

 

 

 それから五年、世界はデスティニー・プランが導入され、プラント=コーディネイターと言う図式は崩れ…ナチュラル、コーディネイターという概念は消えに世界はようやく一つに纏まった。

 

 

 

 世界はこれから平和への道を歩み始めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 しかし、それを誰よりも望んだ英雄(シンアスカ)は何処にもいない。

 

 

 

 

 

END

 

 




 
 ちなみにカガリはプラン導入に最後まで反対の意を示したが国民のクーデターで国を追われラクシズの残党を率いて戦いをしかけましたが戦死し平和への反逆者としてのレッテルを張られる事とななりました。



次回でようやく転生です。



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閑話・新たな世界へ

 
 長くなりましたが、いよいよ転生です。


 CE78、長い戦争が終わり五年……【メサイア戦役】と呼ばれる最後の戦争の舞台だった場所には丁寧に整えられた小さな広場があり、そこに一握りの剣が突き刺さっていた。

 

 その剣の名は「アロンダイト」……"デスティニー"の唯一残された武装でこの広場のシンボルとして置かれている。

 

 そしてそこには一般よりも豪華な墓が立てられておりこう刻まれている。

 

 

 

 

 

 

【戦争を終わらせた、ザフトの誇り高き英雄。シン・アスカとレイ・ザ・バレル。此処に眠る】

 

 

 

 

 

 そう、此処はシンとレイの墓。

 

 

 【メサイア戦役】で帰らぬ人となった二人を忘れぬ為に建てられた墓。

 

 そして今、墓の前に一人の女性が立っていた。

 

「此処にくるのも久しぶりね……」

 

 

 赤毛の髪を揺らす彼女は【ルナマリア・ホーク】"ミネルバ"部隊の1人でシンとレイの同期……あれから五年たった今、彼女も立派な女性として成長していた。

 

「あの戦争が終わって五年……平和は続いているわ。全く、後始末を私達に任せて……正直、立ち直るのに苦労したのよ」

 

 妹のメイリンも"エターナル"の爆発によって死亡した。妹を失い、シンやレイを失ったルナマリアの精神は崩壊しかけたが。

 

 

『ルナマリア…………俺とレイが繋げた未来は……お前達が守ってくれ』

 

 

 それでも、託されたのだ。命をかけて繋げてくれた未来を……たがら折れる訳にはいかなかった。

 

 

「だから安心して。アンタ達が守った未来は私達が守り次に託していくから」

 

 

 そう伝えるとルナマリアは静かにこの場を去っていった。

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――意識が甦る。

 

 

 

「……ここは?」

 

 

 何もない暗闇の中をシンは漂っていた。

 

 ラクス・クラインを倒す為、"デスティニー"の共に自分は死んだはずだ。

 

「……此処が地獄って場合か?」

 

 

 死後、罪を犯した魂は地獄と呼ばれる場所に行く。

 

 故郷であるオーブでそんな話を子供の時に聞いたことを思い出した。

 

 随分味気のない場所だと……苦笑しながら目を瞑った――そんな時であった。

 

 

『違うよ……シン』

 

 

 

 背後から少女の声が響く。

 

 その声はシンにとっては懐かしく、もう聞くことができない初恋の少女のモノ。思わず振り返るとそこにはピンク色の地球軍の軍服を着込んだ金髪の少女。

 

 

 

 【ステラ・ルーシェ】がいた。

 

 

 

「スっ、ステラっ!?」

 

 

『シン。また、会ったね』

 

 

 シンの驚きを無視して、マイペースにステラは微笑む。二度と見ることができないと思っていた彼女の笑みが見れて嬉しさが込み上げてくるが…疑問も出てくる。

 

「それでステラ、此処はいったい?」

『正直、ステラもわかんない!!』

 

「わかんないのかよ!?」

 

 まさかの回答にシンが思わずツッコミを入れてしまうがエヘヘと笑うステラを見て何も言えなくなってしまった。

 

『でも、何ができるかはわかる』

「できる?」

 

『うん………シンは戦い続けてきた。シンのお陰であの世界は平和への道を歩み始めている。 だけどその為にシンは死んだ……あまりにも救われない』

 

 

 ステラの顔に苦悶の表情が浮かぶ。

 

「ステラ……」

 

『だからね。ご褒美があってもいいと思うの』

「ご褒美?」

『うん、ご褒美。幸せになるご褒美』

 

 

 しかし、シンは悲しい笑みを浮かべ……

 

 

「いいんだ、ステラ。俺は多くの人を殺めてきた。それは仕方ないで済ませていいものではないんだ」

 

 

 例え世界を救う為でも多くの人を殺めた罪は消えない。そう語るシンだが、ステラは首を横にふる。

 

 

『シン……これはステラだけじゃない。この世界の意識でもあるの』

「世界の意識?」

 

 ステラが何か壮大な言葉を出した途端、自分の身体が光に包まれていく。

 

「これは、いったい!?ステラ!」

『此処からシンは別の世界に行く』

 

「別の世界!?どういう事なんだ!?」

『その世界がどんな世界なのかはわからない。もしかしたら此処より危険な世界かもしれない……だけど、今のシンには力がある。大切な人を守る力が』

 

 

 その時だ、シンを包み込む光が形を変えていく。

 

 

 それは大きな人型で頭部には血の涙を流すような紅いラインと紅い翼を持つ……運命の名をもつシンの相棒。

 

 

「デスティニー……」

 

『シン……』

 

 

 ステラの声が聞こえた直後、意識が遠のく。

 

 

『頑張ってね!』

 

 

 最後に見えたのはステラの微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと!」

 

 深い雪山の奥に立つ小さな一軒家。その近くにある小屋の前に大きな籠を背負った少年がいた。

 

「炭治郎」

 

 ふと、己の名を言う母の声に振り向けば家から出てきた母が手拭いを持って此方に近付いてくる。

 

「顔が真っ黒じゃない……こっちにおいで」

 

 少年……炭治郎の背負った籠には一杯の炭が詰まっており、その時に顔が汚れたのだろう。そんな炭治郎の顔を吹きながら母は心配そうに言ってくる。

 

「雪が降って危ないから今日は行かなくてもいいのよ?」

 

「正月になったら皆に腹一杯食べさせてやりたいし、少しでも炭を売ってくるよ」

 

 炭治郎の一家は炭焼きを営み、麓の町へと炭を売りに降り生計をたてている。

 

 そう言う炭治郎に母…葵枝は優しい笑みを浮かべ…

 

「ありがとう」

 

 その時、此方に向かって坊主頭の少年の黒髪の短髪の少女が此方に走ってくる。

 

「兄ちゃん、今日も町に行くの?」

「私も行く!」

 

 それは炭治の弟達で炭治郎は六人兄弟の長兄なのだ。

 

「駄目よ。炭治郎みたいに速く歩けないでしょう」

 

 葵枝にそう言われるが三男:茂は反対する。

 

「母ちゃん!」

 

「今日は荷車を引いていけないから乗せてもらって休んだりできないのよ」

「む~兄ちゃん!」

 

 母の正論に何も言えず茂は炭治郎に抱きつく。

 

「ついて行きたい!ちゃんとお手伝いするよ!」

 

 

 次女:花子もそう言って炭治郎に頼むが……

 

「今日はお留守番だ」

「えー!?」

 

「茂も今日はお留守番だ。その代わり美味いもん一杯買ってきてやるから」

 

「本当!」

「あぁ」

 

「花子も帰ったら本を読んでやるから」

「うん!」

 

 どうやら二人は納得してくれた様だ。

 

「良い子だ」

「ありがとうね炭治郎」

 

「うん、じゃあ行ってくる」

 

 

 最後に後ろで羨ましそうに此方を見ている次男:竹雄に頼み事をする。

 

「竹雄、できる限りでいいから木を切っといてくれ」

「そりゃあやるけどさ………一緒にやると思ったのに」

 

 少し不機嫌そうにそっぽ向く竹雄に炭治郎は近付きその頭を撫でる。

 

「頼んだぞ」

「な、何すんだよ!?」

「あー!竹兄照れてる!!」

「う、うるせぇ!」

 

 

 そうして家族に見送られながら炭治郎は山を降りる。

 

 

「お兄ちゃん」

「禰豆子」

 

 その前に長女:禰豆子と出会う。その背中には四男:六太が静かに眠っている。

 

「六太を寝かしつけてたんだ。大騒ぎするだろうから……お父さんが死んじゃって寂しいだね」

 

 

 そう、炭治郎達の父はこの前、他界してしまった。静かに六太を撫でる炭治郎にも寂しさが出ている。

 

「皆、お兄ちゃんにくっついて行くようになって……」

 

 

 そう言う禰豆子も寂しそうだったので……

 

「お前も無理をするなよ」

「………うん。いってらっしゃい!!」

 

 静かに撫でると笑顔になって見送ってくれた。

 

 

 

 此処はCEとは別の世界……技術力で言えば宇宙まで発展したCEとは比べる事すら烏滸がましい技術力しかないこの世界。

 

 

 しかし、もしCEの英雄をよく知る者が炭治郎を見れば驚くだろう。

 

 

 確かに炭治郎は髪は赤が混ざっており、左額に大きく目立つ赤い痣を持っているが間違いなく美形であり珍しいがそれで驚きはしないだろう。

 

 

 彼等が驚くのは炭治郎の瞳だ。兄弟達の瞳は赤が混ざったモノだが炭治郎は違う。

 

 

 

 その瞳は英雄(シンアスカ)と同じ真紅に染まっており瓜二つなのだから。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 




追句

 少し飛ばして過ぎた気がするので変えました。

感想など随時募集しています。
これからによろしくお願いします。


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一話・運命の目覚め

アンケートに参加して頂きありがとうございます


 

「まぁ、炭治郎ちゃん。こんな日に山を下りて来たのかい?よく働くね、風邪引くよ」

 

「これくらい平気だ。炭はどうだ、足りてるか?」

 

「おーい炭治郎!炭を売ってくれ!」

「こっちもお願い!」

 

「まいど!」

 

 町へと下りて来た炭治郎。この冬の寒さだ、炭は多い方が良いだろう。やっぱり今日来たのは正解だった、自然と炭治郎は笑顔になった。

 

 そうして炭を売って気づけば日が沈む頃だった。遅くなってしまったが炭は全部売れた事に嬉しさを感じながら山を上ろうとすると……

 

「こら、炭治郎。おめぇ山に帰るつもりか危ねぇから止めろ」

 

 そう言って炭治郎を止めたのは町外れに住む三郎爺さんだった。

 

「心配すんな、三郎爺さん。俺は鼻がきく」

「駄目だ。うちに泊めてやる………【鬼】が出るぞ」

 

 

 

 その言葉を聞いた炭治郎は少し硬直する。

 

 【鬼】

 

 亡き、父や祖母から聞いたことがある。日の光を嫌い夜になると動き出す、人喰いの化け物。そんな鬼を退治する【鬼狩り】と呼ばれる存在が居ることを…… 

 

 

 有無を言わせぬ彼の言葉に炭治郎は従おうとしたその時……

 

 

 

 

 

急げ、間に合わなくなるぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 その時、炭治郎は背筋が凍るかの様な寒さを感じた。心臓が締め付けられる、とても嫌な気持ちになる、自分はこれを知っている……父が亡くなった時……いや、"それ以前"から知っている。

 

 

 これは……自分の大切な人が居なくなってしまう前兆だ。

 

 

「ッ!」

 

 それを感じた炭治郎の行動は早かった。背負っていた籠を投げ捨て全速力で雪山を登り家へと急ぐ。

 

「おい、炭治郎!?」

「わりぃ!そうも言ってらんねぇ!!」

 

 自分を呼び止める三郎爺さんの言葉を無視して全速力でかけ上がる。

 

 

 

(頼む………間に合ってくれ!)

 

 

 

 必死に真夜中の山をかけ上がると我が家が見えてきた、まだ幸せを消し去る"血の臭い"はしない。

 

 

 しかし、夜中に関わらず玄関は開いており、この辺りで見たことのない男が家の前に立っていた。

 

 

(コイツ……人間じゃあない!!)

 

 

 常人を遥かに超えた嗅覚を持つ炭治郎は一瞬で理解した。この男の臭いは人間の臭いじゃあない。

 

 

「何やってんだお前!!」

 

 

 そんな男が家の前に……家族の前に居るのだ。炭治郎はあらん限りの声を捻りだし、男へと怒鳴りつけた。

 

「………………ほう」

 

 男は静かに此方へと振り返り炭治郎を見る。

 

 体が震えた……恐怖が心に染み渡る感覚がする。

 

 しかし、自分には家族が居る。母と禰豆子は気を失っており、六太や茂と花子の泣き声が聞こえ、竹雄は涙を貯めながら此方を見ている。

 

「兄ちゃん!!」

 

「…………ウチに何かご用ですか?」

 

 警戒心を保ちながら少しずつ近づき目的を探る。すると男は丁寧な様子で語りかけてくる。

 

「あぁ、君達にお願いがあって来たんだ」

 

 

 男は炭治郎に手を伸ばし……

 

 

「私の為に死んでくれ」

 

 

 其処から赤黒い棘のようなモノが飛び出し炭治郎を貫こうと伸びていく。

 

 男……鬼舞辻無惨は竈門家の者を全員この手で殺す為にこの雪山にやってきた。女一人に子供が五人、確認して殺そうとした時……もう一人ノコノコ殺されにやって来た事に嬉しさを感じていた。

 

 

 炭治郎がそれを避けるまでは……

 

 

「何!?」

 

 

 無惨は子供とはいえ慢心なく確実に殺せる攻撃を放ったのだ。

 それを避けられた。何故だ、【あの耳飾り】を着けているとはいえ、鬼狩りでもないただの小僧に……

 

 一瞬、思考を巡らせていたが炭治郎が視界に居ないことに気づき視線を横に向けたときには……

 

「家族に近寄るな!!」

 

 炭治郎の拳が無惨の顔面に突き刺さり地面を何回もバウンドしながら吹き飛ばされる。

 

「兄ちゃん!!」

 

 竹雄の叫びに視線を向ける。母と禰豆子は気を失っているだけ、他の三人も何処も異常はない。

 

「竹雄……茂達を連れて山を下りて三郎爺さんの所に行け」

「俺だけじゃあ無理だよ!それに兄ちゃんは!?」

 

 確かに竹雄だけでは気を失った母達を運ぶのは無理だ。

 

「母さん達は後で俺が連れて行く………ぐずぐずするな、行け!!」

 

 初めて聞く何時も優しい兄の怒鳴り声に反射的に竹雄は三人を連れて家を出て走る。

 

 それを横目で見守りながら炭治郎は無惨を睨み付ける。殴られた無惨は起き上がり、顔に触れる。鼻の辺りから液体に触れた感触があり、見ると……

 

「血だと……!」

 

 それは鼻から出た血だった。

 

 あり得ない、鬼して限りなく完璧に近い存在たる自分に傷をつけた、下等な人間がだ……それに先程だってそうだ。思考していたとはいえ見失う筈がない。

 

 

 その時、無惨は気づく。炭治郎の呼吸の仕方が独特だと言う事に……

 

(これは、鬼狩りどもの呼吸!?)

 

 それは【鬼狩り】が生物として格上である鬼と戦うために仕様する特殊な技術であり、 呼吸器官や血流器官を活性化させ、瞬間的に身体能力を強化する特殊な呼吸法。

 

 

 

 一方で炭治郎は懐から一つの短刀を取り出す。これは亡き父が自分に与えてくれた物だった。

 

 

 そして脳裏に過る、父の言葉。

 

 

『なぁ、炭治郎』

 

『なに、父さん?』

 

 まだ父である炭十郎が生きていた頃、自分に聞いてきた事がある。

 

『どうしてお前は暇があれば自分を鍛えているんだい?』

 

 そう、炭治郎は暇さえあれば己を鍛え上げていた。そんな我が子に炭十郎が何故そんな事をするのか疑問を持つのは当然だった。

 

『………自分でもよくわからないんだけど……失いたくないから、かな』

 

『失いたくない?』

 

『うん、父さんや母さん。禰豆子達が居る幸せを失いたく………"奪われたく"ないから。俺は備えているのかな……』

 

 そう語る炭治郎は本当に自分でもわからないのだろう……困惑した様子が見れた。

 

 

 しかし、その瞳は迷いのない真っ直ぐなモノだった。

 

『………炭治郎、これを』

 

 それを見て何かを感じた炭十郎は自分の耳につけた耳飾りを炭治郎へと手渡した。

 不思議そうに耳飾りを見つめる炭治郎に炭十郎は語りかける。

 

『竈門家の家督を継ぐ者は先祖から伝わるこの耳飾りと【神楽】を伝えていく役割を担っているんだよ』

 

『神楽って年の始めに父さんが踊るあの神楽舞?』

 

 竈門家は炭焼きの家系だが、年の始めには独自の衣装と神楽舞を「ヒノカミ様」なる神的存在に捧げ、怪我や災いが起こらないよう祈る風変わりな慣習があった。

 

『俺も父さんみたいにずっと踊れるかな?』

 

 

 新年の始まりに、雪の舞い散る山頂において一晩中奉納することで、一年間の無病息災を祈る。

 気の遠くなる苦行に炭治郎は冷や汗を流すが、炭十郎は優しい笑みを浮かべて頭を撫でる。

 

『【呼吸】を極めるんだ。そうすればお前もずっと踊れるさ』

 

 あの時はまだ、呼吸の意味を理解していなかった為、困惑していたが……

 

 

『まだ、早いと思うけどお前に継承しようと思う。だけど心に刻んでくれ、この神楽と耳飾りだけは途切れさせず継承していってくれ……"約束"なんだ』

 

 父の真剣な眼差しとその言葉だけは心に刻んだ。

 

 

 

 

 

 それから父は教えてくれた「ヒノカミ様」に捧げる神楽……生半可で修得できるモノではなく父の様に一晩中踊れはしなかったが、一時間くらいは踊れる様になった。

 

(父さん……力を貸してくれ!)

 

 

 炭治郎は短刀を構え無惨に駆け出す。

 

 一方で無惨はそんな炭治郎をある男と重ねていた。

 

(あの耳飾り…!)

 

 遥か昔、己に敗北と死の恐怖を与えた忌まわしき男。

 惨めだった自分はあの男には勝てないと認めるしかなく必死に逃げた。

 

「ふざけるな!」

 

 その苛立ちを吹き飛ばす様に血の棘を多数放つ。速度も数も先程より段違い……しかし、獣並みの鋭い嗅覚をもう炭治郎は【隙の糸】なる必殺の間合いを感じとり短刀を構え……

 

 

「ヒノカミ神楽……円舞!!」

 

 

 それは本来、祭具を両手で握り、円を描くように振るう舞い。祭具を短刀と持ち換えて振るう事で無惨の放った棘を次々と弾く。

 

「できれば傷つけたくない………だが、アンタが家族を殺すなら。俺はアンタを討つ!!」

 

 

 炭治郎は本来とても心優しく、生真面目で快活。麓の町人たちに慕われていた少年だ。

 しかし、目の前の無惨は家族を殺そうとしている…そんな奴を野放しにはできない。

 まだ、少年の炭治郎……しかし何故か【殺す覚悟】があった。

 

 そのまま炭治郎は飛び上がり短刀を両手で握り威力を高め無惨に叩きつける。

 

(これで!)

 

 終わりだと確信した炭治郎の顔は次の瞬間、驚愕にそまる。振り下ろした短刀は無惨の片腕に受け止められている。よく見れば受け止めた無惨の腕は刃物の様に変化しており切り裂くどころか短刀が欠けてしまいヒビも入ってしまった。

 

「なっ!?」

 

「調子に乗るなよ小僧……私を誰だと思っている!!」

 

 

 無惨に弾き飛ばされた炭治郎は上手く着地したが寒気を感じとりすぐに横に飛ぶ。

 先程まで炭治郎がいた場所には刃状に変わった無惨の腕が鞭のように伸び叩きつけられていた。

 

 そして直ぐ様、攻撃がくる。咄嗟に短刀で防御するが刃は更に欠けて炭治郎も大きく吹き飛ばされ近くの木に叩きつけられてしまった。

 

「私は忙しいんだ手間をとらせるな」

「ぐっ…!」

 

 立ち上がろうとしたがいつの間にか目の前に無惨が立っており炭治郎の腹を踏みつける。

 

「忌々しい見飾りだ。それにさっきの動きも"あの男"を思い出すようで不愉快だ」

 

 そう言って踏みつける力を強める。痛みが強くなる中、炭治郎の脳裏にある光景が過る。

 

 

 何故か見覚えのある服の袖口から、小さな手が覗いているが、"それだけ"だ……【妹】の体に続く筈の腕は途中でたちきられ………妹?

 

 花子は逃げ、禰豆子は気を失っているだけ……妹は無事だ。

 

(なんだ?)

 

 

「しかし、正直ホッとしているよ、君を此処で殺せて」

 

 

 無惨の言葉は聞こえるがそれどころではない。

 

 

 次は今の様に雪が降るなか泉に金髪の少女を埋葬した光景だ。

 

(誰だ……ス、テラ?)

 

 見たことも会った事も無い筈なのにどうして心が痛むのだろう。 

 

 

「君を殺した後は君の家族を一人残らず殺す。怨むなら己の先祖を恨むがいい」

 

 

 無惨は己だけじゃなく家族全員を殺すつもりだ。

 阻止しなくては……守らなければ!

 もう、失う訳には………奪われる訳にはいかない!!

 

 その時、聞こえてきたのはステラの声だった。

 

『その世界がどんな世界なのかはわからない。もしかしたら此処より危険な世界かもしれない……だけど、今のシンには力がある。大切な人を守る力が』

 

 

 そう、自分にはあるはずだ。守れる力が!!

 

 

「そう言う訳で死んでくれ」

 

 そう言って刃状に変えた腕を降るう無惨がスローで見える炭治郎には他のモノが見えた。

 

 

 それは長い金髪の美形の少年……初めて会う筈なのに微塵も初めての気がしない。

 

 彼は………レイは笑って言う。

 

 

 

 

 

 

「飛べ!!シン・アスカ!!!」

 

 

 

 

 

 

 そして血飛沫が飛び雪を染める。

 

 しかしそれは炭治郎の血ではなく無惨の血だ。

 

「馬鹿な……!?」

 

 無惨は地面に落ちた己の片腕を唖然と見つめる。

 

 炭治郎は刺し殺される瞬間、変化していない肩部分を切り片腕を切り飛ばしたのだ。

 

 

 咄嗟に距離を取る無惨。しかし、驚くべきことに次の瞬間、その腕が再生したのだ。

 

 しかし、無惨は余裕を持てず困惑していた。

 

 どういう事だ、楽な作業だった筈だ。ただの一家を殺すだけの……しかし、現実はどうだ。自分の腕はその少年に見事に切り裂かれた。

 

 いや、切り裂かれたことはどうでもいい。どうせ再生するし、たとえ首を切られても死ぬことはない。正に限りなく完璧に近い存在。

 

 

 だからこそわからなかった。

 

 

 何故、そんな自分が"殺される恐怖"を感じているのかが……

 

 

「なんなのだ………なんなのだ貴様は!?」

 

 

 無惨はそんな苛立ちを込めて立ち上がった炭治郎に叫ぶ。

 

 

「先に手を出しといて何騒いでんだ」

 

 

 そう言って炭治郎は……【シンアスカ】は短刀を向ける。ようやく思い出せた。自分は死んだ後、ステラによってこの世界に運ばれ転生した。

 

 そして竈門炭治郎として幸せに暮らしてした。

 

「アンタが何者か知らないけどな……俺の家族を殺そうとして無事で済むと思うなよ」

 

 

 そう言って炭治郎は無惨を睨み付ける。無惨は背筋に氷水を流し込まれたような怖気を感じた。

 

 更に重なる。炭治郎が【あの男】と……

 

 

「貴様は…!……いつまで……死してなお私を追い詰めるのか!!」

 

 

 無惨は恐怖を消し飛ばす様に刃状と貸した両腕を鞭の様に振るう。

 

 一方で炭治郎は焦ることなく胸に片手をおき、問いかける、あの時(フリーダムと戦った時)の様に……

 

 

「なぁ、デスティニー……戦える(飛べる)か?」

 

 

 

 その時、不思議な事が起こった。

 

 炭治郎の両目に血の涙の様な赤い痣が刻まれたのだ。

 

 

 炭治郎にはそれは見えない。

 

 

 だけど……デスティニーは自分と一つになって力を貸してくれている。

 

 そう確信を持てた。

 

 

 

「…………いくぞ!デスティニー!!」

 

 

 

 そして、この世界に転生して初めて炭治郎の頭の中で【紅い種】がはじけ飛んだ。

 

 

「えぇ、いきましょうマスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃と貸した無惨の腕は鞭の様に伸縮し炭治郎を切り裂いた…………かと思われたがその炭治郎は幻の様に消える。

 そして本当の炭治郎は短刀を構えて此方に向かってきている。

 

「残像だと…!?」

 

 無惨は次々と両腕を振るい炭治郎を切り裂こうとするが当たらない。

 

 

 炭治郎が行ったのは【ヒノカミ神楽・幻日虹(げんにちこう)

 

 

 高速の捻りと回転による舞いで戦闘に用いれば、回避行動に特化した足運びとなる。速度だけでなく残像によるかく乱効果があり【SEED】を発動させた炭治郎が使えばその動きがあまりに無駄なく、最小限である為に攻撃が当たっているように見えるのだが、悉く炭治郎を突き抜けてしまっている。

 

 

 そうして迫りくる炭治郎に恐怖を感じながら無惨は我武者羅に両腕を振る。

 

 しかし、炭治郎には当たらない。【シンアスカ】として覚醒した事によって前世の戦闘経験もフルに使い悉くを避けていく。

 

 確かに無惨の攻撃は速い。しかし、(ビーム)の飛び交うCE(コズミックイラ)で戦ってきたシンアスカ(炭治郎)にとっては避けるのは苦痛ではない。

 

 

「―ッッッ!!!」

 

 

 恐怖を感じながら、炭治郎を睨みつけるが光のない真紅の瞳に睨み返される。

 

 その姿が完全に重なる【あの男】と!

 

 

「鳴女!!」

 

 

 声を振り絞り、命令する。

 

 すると…べん、とどこかで琵琶がなり、後方に襖が出現した。

 

 屈辱だ。完璧に近い自分が子供相手に撤退………いや違う!これは撤退ではない。自分は臆していない!!

 

 

 この屈辱は…いずれ殺す事で晴らしてやる。

 

 

 しかし、そんな無惨をあざ笑うかのように、炭治郎が無惨の懐に踏み込んだ。

 

 

「逃がすかよ!」

 

 

 短刀を両手で構え自分の首に狙いをつけている。

 

 

(くるな!くるなくるな…………緑壱!!)

 

 

 無惨の脳内に警鐘がけたたましく鳴り響く。しかし、そんな無惨など知るかと言わんばかりに炭治郎は短刀を振るう。

 

 

 

「ヒノカミ神楽!!」

 

 

 

 炭治郎の気迫からか、ヒノカミ神楽を高めたから、もしくはその両方か……炭治郎の握る短刀から燃え盛る炎が溢れ出す。

 

 所詮それは幻……本当に燃えた訳ではない。

 

 しかし、幻と言えどその炎は雄々しく美しく燃え盛っていた。

 

 

 

 

 

碧羅の天(へきらのてん)!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、上から下へと放つ回転斬り。幻の炎は日輪を描き短刀は無惨の首をとらえ食い込む。

 

 驚愕と恐怖に染まった無惨を睨み付け短刀を握る両手に最大限の力を籠める。

 

 

「(俺は今度こそ……家族を守ってみせる!!)うおおおおおおおおおォォォオ!!!!」

 

 

 雄叫びと共に無惨の首が切り飛ばされる。それと共に短刀が折れるが……それでも折れた短刀を突き刺そうとするが……

 

 首から上がなくなった体が切り飛ばされた頭部を掴み後ろの襖に飛び込んだ。

 

(頭を切り飛ばしても生きてるのか!?)

 

 余りにも現実場馴れした光景に流石の炭治郎も数秒硬直してしまい襖は消えてしまった。

 

 

「逃がしたか……」

 

 

 炭治郎は襖があった場所を見つめたがヒノカミ神楽の疲労で背中越しに倒れこむ。そして、夜が開け日の光が差し込む空に折れた短刀を掲げる。

 

 

 

「父さん……俺は守れたかな?」

 

 

 届く筈の無い言葉かもしれない。

 

 

 しかし……

 

 

 

 

「あぁ、よく頑張ったな…炭治郎」

 

 

 

 

 優しい父の声が聞こえた。

 

 

END

 






 炭治郎(シン・アスカ)

 このssの主人公。シンアスカがステラやCEの意識により別世界に転生した。

 今まで目覚める事はなかったが無惨襲撃によりシンアスカとしての記憶が覚醒する。

 シンアスカのステータスが汎用され緑壱ほどではないが原作より高いステータスで産まれた。

 前世で多くの者を失ったのが大きく魂に刻まれたせいか暇さえあれば体を鍛え備えていた。

 それに何かを感じた炭十郎が早い段階で耳障りとヒノカミ神楽を継承し……完全では無いにしろ使いこなす事ができた。

 強さは【無一郎】以上、【緑壱】以下


 愛機であるデスティニーは炭治郎と一つになっておりデスティニーの力を使うときには両目に血の涙の様な赤い痣が現れる。

 前世と同じように【SEED】も使える。




 次回予告

 無惨を退けた炭治郎。しかし、その後に現れた若者の言葉が炭治郎を更なる運命へと誘う。失ったモノ……しかしそれはまだ取り戻せるモノ

 次回・運命の刃
【取り戻す為に】

 新たな運命に抗え炭治郎!!


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二話・取り戻す為に

 二話ですがホントは七話……ようやくあの人の登場です。

 


 

 炭治郎が無惨を撃退したその頃、竹雄達は無事に三郎爺さんの家に着くことができた。

 炭治郎の事もあり鬼気迫る状況で話す竹雄の言葉から三郎爺さんは町の人を集めに家を出る。

 

「いいか、俺は町の皆を連れて炭治郎達を助けに行く。それまで家を出るな」

 

 三郎爺さんが出て少したった時、花子が不安そうに竹雄に聞く。

 

「……………お兄ちゃん達、大丈夫かな………お父さん見たいに死んじゃったりしてないかな……」

 

 ちいさな声で呟く花子に竹雄は一瞬戸惑う。

 

 しかし…

 

「大丈夫に決まってるだろ!兄ちゃんならきっと!!」

 

 兄ならきっとこう言ったであろうと竹雄を妹達を励ます。

 

(大丈夫……だよな………兄ちゃん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、雪山に金属同士がぶつかる音が聞こえる。音のする方では無惨を撃退した炭治郎と一人の青年が己が持つ刀で剣戟戦を行っていた。

 

 しかし、戦況は青年に傾いている。青年が振るう日本刀を短刀で防ごうとするが無惨との戦いで折れてしまい炭治郎自身も戦闘のダメージがあり「ヒノカミ神楽」を放つ余裕も無いほどに疲れきっている。

 

 そんな状態で防げる筈もなく吹き飛ばされ地面に転がりこむ。

 

「炭治郎!!」

 

 そんな炭治郎を庇う様に母…葵枝が前に出る。

 

「お辞めください鬼狩り様!」

 

 葵枝が叫ぶが……左右で異なる柄の羽織を纏った青年。鬼狩り……通称【鬼殺隊】と呼ばれる鬼を殺す組織。

 

 その最高位の柱の一人である【水柱・冨岡義勇】は容赦なく刀を未だに気を失っている禰豆子に向ける。

 

「…………悪いが鬼を見逃す訳にはいかない」

 

 

 

 無惨を撃退した炭治郎は目を覚ました葵枝と合流し未だに目を覚まさない禰豆子を連れて山へと下りていた。

 しかし、其所にやって来た義勇は刀を此方に向けてこう言ってきたのだ。

 

 

 その少女(禰豆子)は鬼だと………

 

 

 

 そうして禰豆子を切ろうとする義勇を止めるべく炭治郎は戦っていたのだ。

 

「鬼だなんて……!禰豆子は私が腹を痛めて産んだ子供です!本当です、信じてください!!」

 

「………残念だが。鬼に襲われた者が鬼の血を受け鬼になる事がある。そうして鬼になった者は人を喰らう」

 

「そんな……!?」

 

 義勇の口から放たれた残酷な真実を葵枝は受け止めきれず立ちすくんでしまう。

 

 そんな葵枝と禰豆子を庇う様に立ち上がった炭治郎がフラフラと前に出る。

 

「本当はお前も気づいているんだろ……その少女はお前達を襲った鬼と同じになってしまった事に……」

 

 

 はっきり言えば義勇はこれまでの人生で炭治郎の様な存在は見たことがなかった。その身は柱と同等かそれ以上の歴戦の戦士のような威圧感を感じる。

 

 不思議に思ったが、同じ柱には普通の人間に比べて筋繊維の密度が約8倍の特別な体質を持つ女、刀を手にしてから二ヶ月で柱となった少年もいる。

 

 ならばこの炭治郎も才を持って産まれた天才と義勇は納得した。

 そんな炭治郎なら妹が鬼になった事に気づいてもおかしくはない。

 

 義勇に冷たく言われた炭治郎はやるせない笑みを浮かべて呟いた。

 

「………………確かにアンタの言う通り、禰豆子は鬼になっちまった。鬼になった禰豆子を切るアンタは正しいのかも知れない……頭は納得できる」

 

「炭治郎!?」

 

 まさか禰豆子を差し出すつもりなのか……葵枝は泣きそうな顔を炭治郎に向ける。

 

「だかな…!それでも禰豆子は俺の妹だ…!変わりなんて何処にも居ない…!頭で納得しても、心は納得できねぇ……人はそう言うもんだ」

 

 そう言って炭治郎は折れた短刀を義勇に向ける。

 

「悪いが……諦めてもらう!」

 

 数多くの戦いを潜り抜けた義勇にはわかる。炭治郎の言葉は偽善でもなければ夢物語でもない。本当の覚悟がある、必ず妹を守る強い意識を感じた。

 

 

「そうか………だが、鬼は人に仇為すもの、ゆえに必ず斬らねばならない」

 

 

 どんな恨みを買おうとも……義勇は長年の勘や炭次郎の己を倒して妹を守る覚悟感じ取り、攻撃に備える。

 

 一方で炭治郎も体の痛みを無視して構える。シンアスカとしての勘や先程の戦いで義勇が強者だと言うことを理解している。故にヒノカミ神楽しか勝機はない。

 

「俺のことは恨んでくれて構わん」

「……………そんな悲しい顔をした奴を恨めるか、生殺しもいいところだ」

 

 己を恨んでくれて構わないと義勇は言うが前世で多くの悲しみを知った炭治郎(シンアスカ)にはわかる。この義勇も多くのモノを失い沢山の悲しみを知ったのだと、炭治郎には義勇の顔がとても悲しく見えた。

 

「……………………こい」

「あぁ……」

 

 これ以上交わす言葉はない。

 

 

 義勇は抜刀しての自然体…おそらく刀が届く範囲に入っら切る、カウンターに近い技だろう。

 しかし、炭治郎には進む以外の選択肢はない。

 

 悲鳴をあげる体を無視して駆け出す。短刀を両手で握りヒノカミ神楽を繰り出す。

 

 義勇は炭治郎が自分達【鬼殺隊】と同じく呼吸を操る事に驚きを隠せないがそんな暇はないと炭治郎の攻撃に備える。

 

 

「ヒノカミ神楽!!」

 

 

「全集中・水の呼吸・拾壱ノ型」

 

 

 

 炭治郎はヒノカミ様に捧げる神楽を…義勇は鬼殺隊の基本且つ奥義でもある「全集中の呼吸」その五大流派の一つである【水の呼吸】。

 しかも義勇にしか放てない奥義を……義勇も覚悟を持って迎え撃つのだ。

 

 

 炭治郎から妹を奪う覚悟を………

 

 

 炭治郎が刀の届く範囲内に入った瞬間、義勇……そして炭治郎はそれぞれの一撃を放った。

 

 

 

灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)!!」

 

 

 

 それは、祭具を両腕で握り、太陽を描くようにぐるりと振るう舞い。それを刀と持ち替えて振るう事により昴炎が竜巻となって降りかかる災厄を吹き飛ばす。

 

 

 

 

(なぎ)

 

 

 

 

 それは、無風の海面を意味する凪の名の通り間合いの全てを無に帰す無数の斬撃。

 

 

 

 紅と蒼、太陽と海………全てが対極の二つの一撃は激しくぶつかり合い、やがて激しい白の光が全てを覆い尽くし、炭治郎の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗く、何もない暗闇の中を炭治郎は漂っていた。目を覚ました炭治郎が見たものは………

 

「父さん……?」

 

 其所には死んだ筈の父が居た。

 

『よく頑張ったな。炭治郎……』

 

 ハッキリとは聞こえないが父が言ったのは無惨を撃退した事だろう。

 

 しかし、炭治郎は納得できなかった。

 

「何言ってるんだ……!禰豆子は…!」

 

 妹は人間ではなくなってしまった。自分が早く戻っていたら……!町へ行かなければ……!こんな事にならなかった。

 

 しかし、炭十郎は何時もの優しい声で言う。

 

『確かに禰豆子は人を奪われ鬼になってしまった。だが、まだ完全に失ってはいない………まだ、取り戻せるんだ』

 

「取り戻せる?」

 

 父の言葉に疑問を持つ炭治郎。しかし、炭十郎の姿が消えていく。

 

「父さん!」

『炭治郎……お前にはこれから辛い運命が待っているだろう。だけど決して挫けるな………見守っているよ』

 

 

 炭治郎に背を向けて行ってしまう。

 

 

 

「待ってくれ父さん!父さん………!!」

 

 

 炭治郎は必死に呼び掛けるが父は消えてしまった。そして辺りが眩く輝き炭治郎の意識はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………夢か……?」

 

 目を覚ませば布団に横になっていた。しかも見慣れた天井ではない……此所は何処だと不思議に思い起き上がると……

 

「兄ちゃん!」

「お兄ちゃん!」

 

 

 すると其所に先に逃がした茂と花子が抱き付いてくる、いきなりのことで困惑する。

 

「な!?茂、花子……無事だったのか」

「俺も母さんも無事だよ。此所は町の空家……町の皆が連れてきてくれたんだ」

 

「竹雄………!そうだ!禰豆子は!?禰豆子はどうしたんだ!?」

 

 

 竹雄の言葉に安堵するが禰豆子の事を思い出し緊迫した様子で竹雄に問い詰める。まさか、義勇に切られたのでは…!?

 

「無事よ炭治郎」

「母さん!」

 

 声のする方に振り返れれば其所には母と………

 

「ムー!」

 

 口元に竹を咥えさせられた禰豆子の姿があった。無事だった事に安堵するが疑問もある。義勇はどうしたのだろう……あのぶつかり合いで重症をおい禰豆子を殺す余裕がなく撤退したのなら納得できるが……

 

 

「炭治郎……よく聞いてね」

 

 あの場に居た母が詳しく話してくれた……

 

 あのぶつかり合いは自分の負け……やはり無惨との戦いでダメージをおい短刀も折れていた炭治郎と万全の状態の義勇とでは差があり自分は意識を失ってしまった。

 

 しかし、義勇も無事ではなく灼骨炎陽により火傷をおい、中傷だったが…それでもまだ戦える状態だった。

 

 

 しかし、目覚めた禰豆子は義勇にも炭治郎にも襲い掛かることなく明らかな飢餓状態ながらも炭治郎に付き添い、義勇を威嚇したのだ。

 

 

 その時の義勇は信じられないモノを見る目をしていたそうだ……そしてしばらくしたのち義勇はその手に持った刀を納め……

 

 

『狭霧山の麓に住んでいる鱗滝左近次という、老人を訪ねろ……………富岡義勇に言われて来たと言え』

 

 

 とだけ言い残しその場を去ったそうだ。

    

 

 禰豆子の口枷は義勇につけて貰ったそうだ。気休め程度でも無いよりはマシだろう。

 

(見逃してくれた?富岡義勇か………何にしても大きなカリができてしまった)

  

 義勇の言った人物……その老人に会って一体どんな意味があるのかわからない。とりあえず今は傷を治すのが先決だ……そう考え炭治郎は再び目を閉じた。

 

 

 

 

 それから一週間、いろいろ事があった。

 まず、自分達は鬼ではなく人喰い熊に襲われた事になった。今の世間は鬼は空想の存在となっている……そう事実が書き変わるのは納得できた。

 

 それからあんな事があったのだ……もうあの家には住めない。どうするか悩んだが、なんと街の人達があの空き家を譲ってくれた。

 これには炭治郎達も流石にムシが良すぎると思ったが炭治郎が慕われていること、どうせ誰も使わないと言うことで使ってくれと言われてしまった。

 これには炭治郎も日頃の行いに感謝し、山奥に家にある物を新しい家に移動させ新しい生活に備えた。

 

 

 そしてその準備がほとんど終わった頃……

 

 

「やっぱり行くのかい……」

 

「あぁ」

 

 

 炭治郎はやっぱり義勇の言った鱗滝左近次と言う老人を訪ねる事にした。

 

「禰豆子を元に戻せる宛もない今、その老人を訪ねるしかないよ」

 

 そう言って炭治郎は竹で補強し布に包まれた籠を見る。それに花子が語りかける。

 

「お姉ちゃん……元気でね」

「ム……」

 

 すると籠から禰豆子の寂しそうな声が聞こえる。鬼は日の光を浴びると消滅してしまう。禰豆子も例に漏れず日の光を極端に嫌い夜以外は籠に入る事にした。

 

「竹雄……皆をよろしくな」

「………………うん」

 

 最後に母と向き合う。

 

「必ず……必ず禰豆子を人間に戻して帰ってくるよ」

「…………気をつけてね」

 

 

 家族に見送られながら炭治郎は町を出た。

 

 

(必ず取り戻す!!)

 

 

 決して消えることのない決意と共に……

 

 

 

 

 

END

 

 




 
 次回予告

 あれから一年、義勇の言った鱗滝の元で修行をしている炭治郎。そして遂に最終課題を言い渡される。その時に現れる謎の二人……果たして最終課題の結末は!?


 次回・運命の刃

【岩石両断】

 揺るがぬ意思で岩をも切り裂け、炭治郎!!



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 それではまた次回で。


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三話・岩石両断

 

 誰も寄り付かず霧が立ち込める狭霧山。

 

 その山を全速力で下る少年が居た。それは、禰豆子を元に戻す為に旅を始めた炭治郎だった。

 

 濃霧による視界不良の中、険しい山肌を全力で下る、空気も薄い状況でそんな事ができる人間はそうはいない。

 

 しかし、炭治郎は山育ちで山道や薄い空気には馴染みがある。更にシンアスカとしての記憶にはザフトの訓練生時代に過酷なサバイバルをした経験もある。狭霧山の環境には瞬時に慣れた。

 

 全速力にしても山を下るだけなら炭治郎には苦労はない………ただ山を下るだけなら。

 

 

「っ!?」

 

 下る途中何かを感じ視線を向ける。其所には炭治郎を突き刺そうと飛んでくる小刀の群れが迫ってきていた。

 炭治郎は腰にある刀を抜き襲いかかる小刀を全部弾き飛ばす。

 

 安心したのも束の間、今度は別方向から小刀が襲ってくる。咄嗟に右に転がり込むが今度は近くの木が炭治郎を押し潰そうと迫ってくる。

 

「くそぉぉぉお!!」

 

 それはこの状況への怒りか炭治郎は雄叫びを上げながら刀を振るう。そして木を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 こうして幾つもの罠を掻い潜って山を下りた炭治郎は汗だくで大きく息をして酸素を取り込む。

 

「ハァハァ……まじで死ぬかと思った」

 

 そんな炭治郎に長鼻の赤い天狗のお面をつけた老人が現れる。

 

 

「最速タイムじゃないか……炭治郎」

「………ありがとうございます………鱗滝さん」

 

 

 このお面をつけた老人こそ、義勇が訪ねろと言い、炭治郎が探していた人物……【鱗滝左近次】

 

 

 

 

 狭霧山に向かった炭治郎は道中のお堂で人喰い鬼に教われるも難なく戦闘不能にさせることができた。しかし倒すことができなかった。

 

 頭と胴体を分断しても心臓のある部分を刺しても死なない……これではキリがないと炭治郎が感じた時に現れた人物こそ鱗滝だった。

 

 そこでようやく炭治郎は鬼について知ることができた。

 

 まず鬼を殺すには太陽の光を浴びせるか特殊な武器が必要らしい。

 

 その武器は奴らが苦手とする太陽の力をたっぷりと溜め込んだ刀、『日輪刀』。

 

 それで首を切れば奴等は殺せる。後者はともかく前者の弱点はまんま前世で聞いたことのある吸血鬼だと炭治郎はこっそり思った。

 

 

 そして、炭治郎は何故義勇か鱗滝を訪ねろと言ったのか……その真意を知った。

 

 まず、義勇達は鬼を狩る力を有した剣士、そしてその剣士を支える者たちが集まった、政府非公式の組織・【鬼殺隊】だと言うこと。そのルーツは1000年以上も前に遡り、現在の構成人員は数百名を超える。

 

 その鬼殺隊に入団するには【育手】と呼ばれる者の下で数年単位の過酷な修練経て、藤襲山で行われる最終選別を生き残る事で、正式に隊士となる。

 

 鱗滝はその『育手』の役割を担っている。

 

 つまり、炭治郎に鬼殺隊に入れと言うことだ。

 

 正直炭治郎は悩んだ。禰豆子が鬼にされた事がバレればその鬼殺隊に殺される。しかし、自分達を襲った鬼の事や禰豆子を人に戻す方法を探すには情報が必要。そしてその情報は大きな組織に集まる。

 

 苦渋の策として炭治郎は鬼殺隊に入る事にし鱗滝の元で修行していた。

 

 まぁ、もしバレれて禰豆子を殺しにきた奴が居たとしたら…命までは奪わないにしても二度と刀が持てない体にするつもりだ。

 

 

 

 こうして鱗滝の元で修行を初めた炭治郎は……何度も死にかけた。

 

 山下りは当たり前のように、罠が顔など急所のある位置を狙い。飛来物も、小刀などの金属製が襲ってくる。

 

 また、落とし穴の底にびっしりと並んだ刃物が待ち受けていることもあった。

 

 

 こうして体を鍛えた次は呼吸の訓練だった。

 

 鬼殺隊は代々伝わる呼吸術がある。

 

 空気を大量に取り込み、血流を加速、体温を上げることで、身体能力を劇的に向上させる技法だ。人の身で鬼に対抗するための基本にして奥義。

 

 日輪刀の存在に比肩するほど、鬼殺隊にとってなくてはならない技だ。

 

 鬼殺隊士となるためには、炭治郎も身に付けてもらわねばならない。

 

 呼吸の基本となる流派として炎・水・風・岩・雷の五系統が存在しており、その他にも呼吸はあるがそれらはここから派生している。

 

 鱗滝や義勇は【水の呼吸】

 

 どんな形にもなれる水のように変幻自在な歩法で如何なる敵にも対応でき、歴史が古くいつの時代も“柱”が存在したようだ。

 

 その為に崖の上から滝壺に落とされたり、肺を大きくする訓練と称して水を張った桶に顔を押し付けられたりもした。

 

 ザフトの訓練も酷く厳しいものだったが……流石にこれよりは楽だった。

 

 こうして何度も死にかけた炭治郎……意識を失う事もあり川の向こう岸に居る死んだ父が必死に「此方に来るな」と叫ぶ光景が見える時もあった。

 

 

 こうして一年が経過した。町に残した家族には手紙で今の状況を伝えていた。そうして今も手紙を書き終えた炭治郎は隣で死んだように眠る禰豆子を寂しそうに見つめていた。

 

 修行をしていたある日、禰豆子は目を覚まさなくなった。医者に見てもらっても何処にも異常はなくお手上げ状態………炭治郎は不安で一杯だった。

 

 

 

 そんなある日……

 

「お前に教える事はない」

「え?」

 

 何時もの修行かと思った炭治郎だが、鱗滝の言葉に唖然とする。そんな炭治郎は鱗滝に連れてこられてやって来たのは身の丈よりもなお巨大で、縄の巻かれた大岩がある場所だった。

 

 鱗滝から与えられた最終課題の内容、それは『刀で岩を斬れ』というものだった。

 

 岩って切るものだっけと一瞬思った炭治郎だが最終課題を突破しなければ鬼殺隊に入るための『最終選別』を受けられない覚悟を決めてやるしかない。

 

 こうして炭治郎は最終課題に挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「義勇の奴………とんでもない少年を招いたものだ」

 

 炭治郎が最終課題に挑んで数日、今だに岩が切れた様子はないがあと数日もしない内に切られるだろうと鱗滝は感じていた。

 

『鬼になっても人を襲わぬ少女と柱である自分に引けをとらぬ実力を持つ少年……この二人には今までにないものを感じました。もしかしたらこれまでにない風を吹かせられるかもしれません』

 

 義勇から届いた手紙にはそう書いてあり、炭治郎を弟子にして鬼殺隊士となるよう育成してほしいとのこと。

 

 

 しかし、弟子………………その言葉を耳にする度、胸が苦しくなる。

 

 

 炭治郎や義勇の他にも我が子のように大切な弟子達が数えきれぬ程いた。

 

 いつの頃からだったか。最終選別に行った育てた弟子が生きて帰らなくなったのは。

 

 だからこそ、鱗滝は弟子を取らないつもりだった。

 

 己にはきっと、育手としての才がない。

 

 しかし、最後に唯一戻ってきた弟子の願いとあれば、修行をやらぬわけにはいかなかった。

 ならば、炭治郎が死ぬことのないよう、徹底的に鍛えるしかあるまい。

 

 

 そう決心して修行を始めたが炭治郎は逸材だった。過酷な修行を乗り越え柱への入り口、常時全集中の呼吸を修得し水の呼吸をも元柱である自分に勝るとも劣らない腕前を手に入れた。

 

 

 そんな炭治郎ならばと思っていたその時……何か予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で炭治郎は目の前の光景を目に焼き付けていた。

 

「どう言う事だ……!」

 

 炭治郎は困惑し今に至る経緯を思い返していた。最終課題、今すぐにやっても良かったが今まで練習を一通りやってから挑もうと考え鍛練をしていた時、何処からともかく現れた二人の少年少女が手合わせしてくれた。

 

 最初は勿論警戒した。いきなり現れた奴を信用するほどぬるい前世はおくっていない。

 しかし、話していく内に二人が鱗滝の弟子であることや鱗滝を心から思っていること……それは強く感じる事ができ彼らと修行する事にした。

 

 狐のお面を被った少年、【錆兎】と刀の打ち合いをし、狐面の少女・【真菰】に鬼には人の姿をした者ばかりではなく異形の姿をした奴も居る事を教わった。

 

 こうして二人と修行をした炭治郎は先程、手合わせの中で錆兎を面を切る事ができ初めて錆兎の顔を見ることができた。口元に傷痕のある宍色の髪をした少年でありその顔は安心した笑みだった。 

 

『炭治郎…よくやったね』

 

 真菰の声が聞こえ振り向くと彼女は笑っていた。霧が強くなり姿が見えなくなっていく。

 

『負けないでね……"アイツ"にも。これから貴方に迫る運命にも……見守ってる』

 

 そう言って真菰は霧の中に消えてしまった。

 

『炭治郎……義勇の事、よろしくな』

 

 次に聞こえた錆兎の声に振り向けばいつの間にか錆兎は消えており、錆兎のお面を切った筈の刀は……最終課題の岩を切っていた。

 

 

 唖然としていた炭治郎だが、ふと匂いがした。嗅いだ事のある匂い……振り向くと。

 

「よもやと思ったが……やったな炭治郎」

「鱗滝さん」

 

 其所には鱗滝が居て、炭治郎が切った岩を撫でながら語った。

 

「初めはお前も最終選別に行かせるつもりはなかった。これ以上子供が死ぬのを見たくなかった」

「……………」

 

 そう語る鱗滝には後悔や悲しみの匂いがした。恐らく自分のせいで弟子を死なせてしまったと感じているのだろう……ステラを死なせてしまった責任を今も背負っている炭治郎(シン・アスカ)には痛い程理解できた。

 

「だが、義勇の言う通り……お前には可能性がある。わしもその可能性を信じよう」

 

 そう言って鱗滝は炭治郎の頭を優しく撫でる。

 

 

「炭治郎。お前は凄い子だ」

 

 

 その言葉は……優しく撫でるその手は……とても温かなモノだった。

 

 

END

 

 




 
 次回予告

 いよいよ始まった最終選別。迫りくる鬼を次々と切り裂く炭治郎だが其処に異形の鬼が現れる。そして語られる真実、それは炭治郎の怒りを燃え上がらせるには十分だった。


 次回・運命の刃

【怒りの眼】

 怒りと共に全てを切り裂け、炭治郎!!






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四話・怒りの眼

お気に入りが100人になりました。
ありがとうございます!!


 

 最終課題を終わらせた炭治郎。最終選別までの残りの半年は【ヒノカミ神楽】の完成と"別件"に費やした。

 

 そして最終選別の日がやって来た。身支度を整えた炭治郎は禰豆子が眠る部屋の見るが変わらず禰豆子は眠ったままだった。

 

 寂しそうに見つめる炭治郎は禰豆子を手を握る。

 

「禰豆子………必ず帰ってくるからな」

 

 必ず帰ると誓って。

 

 

「妹の事は心配するな。ワシがしっかり見ておく……必ず帰ってこい」

「はい!ありがとうございます!!」

 

 こうして鱗滝に見送られて、最終選別が行われる藤襲山へと向かった。

 

 

(やはりわからん、炭治郎………何故お前が死んだ筈のあの子達を知っている?)

 

 そんな炭治郎を背中を見つめ鱗滝は考えていた。炭治郎が言った最終課題の時に手を貸してくれた二人。それは間違いなく鱗滝の弟子にして炭治郎の兄・姉弟子である錆兎と真菰……最終選別で帰らぬ人となった命だ。

 

 勿論、その事を炭治郎に言ってはいない。

 

 言葉では言い表せない感情を抱えながら鱗滝は炭治郎の無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 月が輝く夜中、山の麓から中腹にかけて季節問わず一年中藤の花が狂い咲いているその藤襲山に炭治郎は足を踏み入れた。

 

 選別会場となっているそこでは既に何人もの人が集まっており、予想以上の人数に炭治郎は驚いた。

 

(政府非公認の組織……だよな?)

 

 意外と知られている組織なのかもしれないと考えていた時……

 

「「皆様、今宵は鬼殺隊最終選別にお集まりくださって誠にありがとうございます」」

 

 提灯を携えた黒髪と白髪の幼い双子の少女が現れた。言動から察するにこの二人は鬼殺隊の人間だろう。

 そう感じた炭治郎は最終選別の内容について語る双子を見つめた。

 

 

 最終選別の内容、それは……藤襲山には鬼殺の剣士が生け捕りにした鬼を閉じ込めており、一年中鬼が嫌いな藤の花が狂い咲き鬼は外に出ることはできない。この中で7日間生き抜けば、鬼殺隊に入隊が認められる。

 

(必ず戻るからな…!)

 

 提灯を携えた幼い双子の声を背に受け、僅かな月明かりしか射さない山中へ歩みを進める。七日間生き抜く。前世でもサバイバル訓練はしたが七日間という期間は片手で数える程しか経験がない。更に鬼が居るとなれば生存率は格段に下がる。

 

(まずはこの夜を乗り切る。日が上れば鬼は活動を止め体力の回復ができる。その為には最も早く日が上る東を目指せ!)

 

 冷静に隠れながら東を目指す炭治郎………しかし、前世より優れた嗅覚が鬼の匂いをとらえる。そして闇夜の中から二匹の鬼が現れた。

 

「横取りするな!テメェは向こうに行け!俺がコイツを喰う!!」

 

「いや貴様が失せろ!こっちは腹が減ってるんだ!知るかそんなの!!」

 

 目は血走り、爪や牙は大きく鋭く、口からよだれを垂らしながら言い争っている、人を外れた化け物の姿。炭治郎はその醜悪な姿に恐怖するよりも先に、ひどく哀れだと思った。

 

(人を失うってのはこんなにも醜いんだな……)

 

 

「俺の獲物だぞ!」

「黙れ!!先に殺った方が喰えばいいだろうが!!」

 

 此方に迫ってくる二匹の鬼。しかし、炭治郎は慌てる事なく息を整え鱗滝が貸してくれた日輪刀を構える。

 

 

「全集中・水の呼吸」

 

 それは鱗滝から教わった、変幻自在の水の呼吸。炭治郎は隙の糸をとらえ地を蹴った。

 

 

「肆ノ型・打ち潮(うちしお)!」

 

 それは、淀みない動きで斬撃を繋げる技で一瞬で二匹の鬼の頸を切り飛ばした。

 頸を切られた鬼は灰となって消えていった。

 

(日輪刀……鬼に唯一勝てる武器。アロンダイトとはかってが違うな)

 

 前世でデスティニーのメイン武器として使った対艦刀とは随分違い事を実戦で痛感していた。

 

「っ!?この腐った匂い……」

 

 その時に鼻がとらえた腐ったような夥しい血の匂い。この匂いを放つ鬼は相当な数の人間を喰っている。

 

(鬼は人を食えば食う程強さを増す……全くCEの科学者に見せてやりたいモノだ)

 

 そう心中で呆れていた時、悲鳴を上げながら逃げて行く別の参加者の少年……そしてその少年を追うの異形の鬼が見えた。

 

 小山ほどの大きさ、全身に腕を生やした異形。仮に名前を付けるならば『手鬼』というがふさわしいだろう。

 

 手鬼は全身に生えた腕で少年を捕まえようとするが咄嗟に出た炭治郎に腕を切り裂かれる。

 

 手鬼は一瞬驚くが炭治郎が身につけた狐のお面を見ると上機嫌に笑った。

 

「ふふふ、また来たな。俺の可愛い狐が」

 

 少年を庇いながら炭治郎は日輪刀を構える。

 

「まただと?」

「おい狐小僧。今は明治何年だ?」

 

 突然、年を聞かれた……答える義理もないが「また来た」「狐」……この鬼から聞きたい事がある。

 

「………今は大正時代だ」

 

「大正?…………あああああー!!!!年号がー!!年号が変わっている!?まただ!?また俺が閉じ込められている間に!?」

 

 途端に手鬼は狂ったように叫び出す。肉が裂けるほどかきむしり叫びをあげる。後ろの少年は恐怖で震えているが炭治郎は油断なく構える。

 

「許さんぞ……鱗滝め!鱗滝め!!鱗滝めー!!!!

 

 

「やっぱりお前は鱗滝さんを」

「あぁ、知ってるさ。俺を捕らえたのは鱗滝だからな!忘れもしない四十七年前…アイツがまだ鬼狩りだったころ!江戸時代だ!!」

 

 やはり目の前の手鬼は鱗滝に恨みを持っている。

 

「江戸時代か…」

「嘘だ!そんなに長く生きた鬼は居ない筈だ!?此処には人を二・三人喰った鬼しか入れてない筈だ!?」

 

 嘘だと叫ぶ少年だが。

 

「そんで楽勝だと思って来たらこのザマか……事前の情報と戦場が常に一致してる訳ねぇだろ」

 

 そんな甘い考えを炭治郎(シン・アスカ)はくだらないと切り捨てた。

 

「そうだぜ。俺は生き残った……藤の花の牢獄で五十人は喰ったな~ガキ共を」

「五十人だと…!」

 

 多く人を喰った事は理解していたが……五十人という言葉に炭治郎の日輪刀を持つ力が強くなる。

 

「十一……十二……十三……で、お前で十四だ!!」

 

 笑いながら炭治郎を指差す手鬼。炭治郎の脳裏に過る鱗滝の言葉。

 

『もう、子供が死ぬのを見たくなかった』

 

 奴は鱗滝を憎んでいる。そして炭治郎がつけているこのお面は鱗滝が最終選別に行く弟子に渡す物……鬼はそれを知っている。

 

「まさか、お前が…!」

「あぁ、そうさ。俺が喰った!そうだな特に印象に残ったのは二人だ。珍しい毛色のガキ。一番強かったなぁ。宍色の髪で口に傷があった。もう一人は花柄の着物に女のガキだ。力も無いし小さかったがすばしっこかった」

 

 

 炭治郎は耳を疑った。その二人を自分は知っている。

 

(あの二人のことか!?だが、俺は二人と確かに会っている!?)

 

「目印なんだよ、その狐の面がな。鱗滝が彫った面の木目を俺は覚えてる。アイツがつけてた天狗の面と同じ彫り方だ。厄除の面とか言ったか? それをつけてるせいでみぃんな俺に喰われた。鱗滝が殺したようなもんだ。フフッ、フフフフッ」

 

 そんな炭治郎に気にせず手鬼は上機嫌に語る。それは余りにも残酷で余りにも酷い事だった。

 

「それを女のガキに言ったら泣いて怒ってたなーー」

 

 そこから先は聞いていない。聞く価値もない…この鬼の言葉を聞きたくない。怒りが……焔の様に熱い怒りが込み上げてくる。思い出すのは真菰の言葉。

 

『勝ってね………アイツにも』

 

 

 上機嫌に語っていた手鬼だが炭治郎が俯いていることに気づく。

 

「おい、聞いてたのか?駄目じゃないか、兄弟子達の無様な「黙れ」っ!?」

 

 

 手鬼は恐怖した炭治郎の光が消え怒りが渦巻く瞳にーーそしてーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『錆兎…』

 

『何だ?』

 

『炭治郎…大丈夫かな?』

 

『お前も知っているだろう……炭治郎は強い。あの山にいる鬼程度なら相手にすらならないだろ。"アイツ"でもな』

 

 一方で錆兎と真菰は炭治郎が切った岩で月を眺めながら炭治郎の無事を祈っていた。手鬼に殺され魂だけどなった二人だが、鱗滝や炭治郎を見守っていた。

 

 錆兎は炭治郎の無事を確信していたが真菰は不安だった。確かに炭治郎は圧倒的に強いが自分達を殺した相手と戦うのだ不安がるのも当然だろう。

 

『でも、アイツの首は硬いんだよね?』

 

『あぁ、だかな。炭治郎は誰よりも硬く大きな岩を切った男だ。それにアイツは一人じゃない。アイツには鬼なんかよりも雄々しく、何よりも美しい……"鬼神(デスティニー)"がついている』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手鬼は恐怖していた炭治郎の後ろに見える"鬼神(デスティニー)"に勿論それは幻だ。現に炭治郎の後ろにいる少年には見えていない。

 

 しかし、おぼろげだったその姿は次第に半透明からーー重厚な装甲や背部の紅く大きな翼……そして絶対許さないと言わんばかりに手鬼を睨み付ける血の涙のような赤いラインの入った緑色に輝く瞳まで鮮やかに実体化していた。

 

(なんだ……なんだアレは!?)

 

 手鬼は恐怖した。此方を睨み付ける"鬼神(デスティニー)"が恐ろしくてたまらない。恐ろしい……あの子供が憎い鱗滝よりも恐ろしい。

 

 

 しかし、"鬼神(デスティニー)"が炭治郎の体に溶け込む様に消えていく。よかった、自分が見たのはタダの幻だった……そう安堵するも束の間、炭治郎の目にその"鬼神(デスティニー)"と同じ赤いラインが現れた。

 

(…錆兎、真菰…お前達や他の皆の無念……俺とデスティニーが晴らす!!)

 

「いくぞ……デスティニー!」

 

 愛機に語りかけ炭治郎は手鬼へと走り出す。恐怖を感じながら手鬼が体から生えた夥しい数の手を放つ。

 炭治郎を握り潰そうと迫る鬼の手……しかし、【SEED】を発動した炭治郎にはとても遅く見えた。

 

 

 

 

「全集中・水の呼吸」

 

 

 月明かりに照らされ日輪刀が蒼く輝き水の幻を纏う。

 迫り来る鬼の手を切り裂く、鬼の手は次々と迫り来るが刀を回転させ他の手も切り裂いた。

 

 

「拾ノ型」

 

 

 それは鱗滝に教わった水の呼吸で最も難易度の高く最強の技。日輪刀を回転させた数が三回を超えた時、纏っていた水が形を織り成し水龍へと姿を変えた。

 

 

生生流転(せいせいるてん)!!」 

 

 

 生生流転……龍の如く刀を回転させながら連撃を打ち出し、一撃目より二撃目の、二撃目より三撃目と、回転が増すごとに威力が上がっていく「水の呼吸」最強の技。

 

 日輪刀を回転さて威力を上げながら手鬼へと走る。握り潰そうと手を放つが悉くが切り裂かれる。

 そして回転させた回数が十三回……手鬼に喰われた兄弟子達の数になったとき。炭治郎は目と鼻の先まで手鬼に迫っていた。

 

 このままではまずいと手を地面の下に潜り込ませて奇襲しようとするが地面から匂いを感じた炭治郎は飛び上がり回避する。

 

(避けられた!?だが、空中なら避けられない!)

 

 足場のない空中なら避けられないと勝利を確信した手鬼は腕を繋げてより強力な腕で炭治郎を握り潰そうとする。

 

 

『GUOOOOOOOOOOOON!!!』

 

 

 しかし更に回転し威力を高めた炭治郎が日輪刀を振るう。それと共に夢か幻か水龍が雄叫びをあげ腕を食い破った。

 

「なっ!?」

 

 勝利への確信が崩れ去った時が何よりも隙を生む。既に炭治郎には手鬼の頸へと繋がる隙の糸が見えていた。

 

 

「俺達を…鱗滝の弟子を……ナメるなぁぁぁぁぁあー!!」

 

 

 そして手鬼は見た炭治郎の後ろには自分が殺した筈の鱗滝の弟子達が居たことを……落下の威力をのせながら日輪刀が手鬼の頸を切り裂き、水龍が手鬼を食い破った。

 

 

 頸を切り裂き着地した炭治郎は日輪刀を鞘に納める。すると水龍の幻は消えていった。そして、悲しみの匂いを感じ頸を切られた手鬼を見る。体が灰と貸して消えていく手鬼。切り飛ばされた頭も消えていく、その目に涙を貯めながら。

 

「……………眠れ、安らかに……」

 

 そっと手を合わせる。

 

 人を食い殺す化け物だとしても、彼らは人間だったのだ。人を殺したことを許すつもりはないが、せめて……

 

 

「ありがとう……炭治郎」

 

 

 その時、真菰の声が聞こえた気がした。炭治郎は暫く月を見上げて東に向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(生き残ったのは俺を含めて4人か…)

 

 こうして七日間鬼を切りまくり最終日を迎えた炭治郎は集合場所に来ていた。

 

(俺も人の事は言えないが……随分と個性的な連中が集まったものだ)

 

 

 モヒカンの目つきが悪い少年にやたらと『死ぬわ、俺死ぬわ…』といいまくる黄髪の少年、いずれも前世ならともかくこの世界においてはかなり変わった個性の持ち主たちだった。

 

 

(だけど、あの娘は違う)

 

 

 その少女はほかの二人と比較して割と普通の見た目だったが、傷どころか土汚れひとつなく涼しい顔でいるところから、かなりの訓練を受け相当な実力があるのだと推測できる。

 

 

 そして七日前に会った双子の少女が現れ最終選別が終わった事を伝える。その後モヒカンの少年が案内役の少女に絡んだが話が進まないので炭治郎が無理矢理止めた。少年が此方を睨んでくるが気にも止めずに案内役の話に耳を傾ける。

 

「では玉鋼を選んでください。鬼を抹殺し己の身を守る刀の鋼はご自身の手で選ぶのです」

 

 そうして並べられた玉鋼……正直、どう選べばいいのか炭治郎にもわからなかったが……感じた匂いと……

 

(!…わかった。コレでいいんだな、デスティニー)

 

 愛機の判断を信じることにした。

 

 

 

 

 こうして最終選別を無事に終えた炭治郎は鱗滝や妹の元へと帰って行った。七日間、禰豆子を見ていない不安を早く払う為に全速力で走る炭治郎。鱗滝の家に着いた時にはヘロヘロだった。

 

 しかし、そんな炭治郎は疲れなど知らずに唖然としている。だって目の前には二年間、ずっと眠りについていた禰豆子が目を覚まし自分の帰りを待っていたのだから。

 

 禰豆子は炭治郎を見ると一目散に走りだし、炭治郎に抱きついた。唖然としていた炭治郎だが、次第に涙が溢れ禰豆子を抱き締める。

 

「お前…!ずっと起きなくて…!心配したんだぞ!!本当に…!本当によかった!!」

 

 炭治郎の声を聞いて表に出た鱗滝も二人を優しく抱き締める。

 

「よく、戻って来たな!」

 

 お面の中で涙を流しながら。

 

 

 

『よかったね』

 

『あぁ……』

 

 それを少し離れた所で錆兎、真菰……鱗滝の弟子達が見守っていた。彼等は魂だけになろうとずっと此処で大好きな鱗滝を見守っているのだろう。

 

 そして、そんな彼等と共にデスティニーもまた見守っていた。その緑色の瞳は手鬼に向けた激しいモノではなく優しい光を放ち己の主を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから炭治郎は鱗滝から鬼は異形の他に血鬼術と言うまるで魔法のような術を使う異能の鬼がいる事を知る。禰豆子が眠っていたのもその為と考えたが人を食べる代わりに眠ることで体力を回復させたのだと炭治郎達は仮説をたてた。   

 

 

 そうして最終選別から十五日後、炭治郎は自分のために打たれた刀を持ってきたというひょっとこの面をつけた男、【鋼鐵塚】と話をしていた。

 

「赫灼の子…何ですかそれ?」

 

「頭の毛が赤みがかって、目ん玉が赤いだろう。火仕事をする家はそういう子が生まれると縁起がいいって喜ぶんだぜ」

 

「これならきっと刀も赤くなるかもしれん。日輪刀は別名色変わりの刀と言ってな、持ち主によって色が変わるのさ」

 

「なるほど……」

 

 色が変わる……まるで前世の装甲を展開した際に流される電流の量を任意に変更する事ができ、それによって色が変わるデスティニーにも使われたVPS(ヴァリアブルフェイズシフト)装甲に似てると感じた。

 

 

 パイロットだった頃は色が変わることを密かに格好いいと思っていた事を思い出した炭治郎は若干ワクワクしながら渡された刀を抜く。

 

 すると目に愛機(デスティニー)と同じ赤い痣が現れる。初めて見た鋼鐵塚や修行で見たことある鱗滝……隣の部屋からこっそり見ていた禰豆子。そして炭治郎自身もいきなりの事で驚いた。

 

 しかし次の瞬間、日輪刀の色が変わった。

 

「おおお!」

 

 炭治郎の変化に驚いたが鋼鐵塚は歓喜の声をあげる。

 

 炭治郎の日輪刀の色は………紅かった。赤よりも紅く鮮やかな真紅に染まっていたのだ。

 

「紅いな……いい色じゃないか」

 

 鱗滝も嬉しそうに感想を述べる。一方で炭治郎(シン・アスカ)はこの紅を知っている。これはデスティニーが広げる光の翼と同じ色だ。

 

 

(………これからもよろしくな。相棒(デスティニー))

 

 

 転生しても己と共にいてくれる愛機へ感謝を込めて掲げた日輪刀は紅く美しく輝いていた。

 

 

 

END

 

 

 




 次回予告

 あれから一ヶ月、鬼殺隊の間では、血の涙を流す鬼神の面を着け数多の鬼を切り裂く凄腕の隊士。【血涙の鬼神】の噂が流れていた。それについて会議を始める鬼殺隊最高位の柱達。その中には正義の名を持つ青髪の青年がいた。
 

 次回・運命の刃

【裏切りの罪】

 己の罪から逃げるな!アスラン!!








 時系列が原作とは違う点があると思いますが気にしないでください。








え?それより次回予告がバレバレだって?………気にするな!作者も気にしない!!




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五話・裏切りの罪

時系列が原作と違うところがあると思いますがご了承ください。


 

 鬼を滅ぼさんとする精鋭の剣士で構成された鬼殺隊。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十段階に階級が分かれており、炭治郎達、選別を潜り抜けたものは癸から始まる。

 

 しかし、『鬼殺隊』の最高位に立つ剣士達がおり、彼等は【柱】と総称されている。

 

 その実力の選定基準については鬼50体を討伐するか、全ての元凶【鬼舞辻無惨】の血が濃い最強の鬼たち【十二鬼月】を討伐することだが、どちらも至難を極める所業だ。

 

 特に十二鬼月の実力はまさに人外で、身体能力は勿論その血鬼術は複数の村を一晩で滅ぼせるほど強大である。これに対抗するには人間もその枠を超える力を身につけなければならない。

 

 そんな彼等は半年に一度開かれる【柱合会議】なるものに参加する事を義務づけられている。

 

 柱合会議は柱達が鬼殺隊の最高管理者と共に鬼を討つための情報を共有、ならびに対策、方針を決定づける会議。

 

 場所は最高管理者……【お館様】と呼ばれる人物の屋敷の中庭で行われている。その庭で柱達は主であるお館様を待っていた。

 

 

 その中には二年前に炭治郎の前に現れ鬼殺隊に入ることを進めた水柱・冨岡義勇の姿もあった。

 柱はそれぞれの得意とする呼吸の名を持ち。

 

 炎柱・煉獄杏寿郎

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥

 

 風柱・不死川実弥

 

 

 基本となる流派に加え。

 

 

 霞柱・時透無一郎

 

 蛇柱・伊黒小芭内

 

 蟲柱・胡蝶しのぶ

 

 音柱・宇髄天元

 

 恋柱・甘露寺蜜璃

 

 派生した呼吸を極めた者達がいた。

 

 

 そして彼等の他に白い羽織を纏い両腰に二本の日輪刀を携えた、青髪の青年も【柱】として会議に参加していた。

 

 彼は【正柱(せいばしら)】・【守護之(しゅごの)正義(せいぎ)

 

 

 もし、炭治郎が彼を見たら思わず斬りかかっていたかもしれない。何故なら正義は自分達を裏切った【アスラン・ザラ】にそっくりなのだから。

 

 そして程なく縁から覗く和室の襖から鬼殺隊最高管理者【産屋敷耀哉】が子供に連れられ柱の前へ姿を現した。

 

「皆すまないね。多忙の中集まってくれてありがとう」

 

「いえ、お館様のご命令とあらば何処へでも参ります」

 

 柱の中でも最年長である悲鳴嶼が代表して敬意を払う言葉を宣った。

 

「ありがとう行冥。私の代で君達のような優秀な剣士が多くいる事……嬉しく思う」

「ありがとうございますお館様!しかし、まだ全員揃っていませんが…!」

 

 産屋敷の称賛に煉獄がまだ全員揃って居ないことを告げる。本来、「柱」の文字の画数が9である事から、「柱」の定員は9名なのだが…基本、人材不足な鬼殺隊なので柱に相応しい人材が多い事は願ってもないこと。

 現在、柱は"十一人"居る。

 

「心配ないよ杏寿郎。【雪柱】には"彼女"の所に行ってもらっているんだ」

「でしたら我等!此処に揃いました!!」

「あぁ、始めようか」

 

 

 こうして始まった会議は、明るい話とは言い難かった。それは、鬼殺隊の剣士の死亡数がどんどん増えてきている事。理由は異形や異能の鬼の現実離れした攻撃に殺されたり狡猾な鬼にだまし討ちされたりと例をあげればキリがない。

 

 

「やはり、選別を更に厳しくするべきかと。強く正しい者だけを鬼殺の剣士として認めるのです」

 

 弱れば生き残れない鬼殺隊……ならば、基準を高くするべきだと不死川が発言した。しかし、それに異を唱えたのは煉獄だ。

 

「しかし現在の最終戦別でも多くの若者が散っている!現状の解決にはつながらない!これ以上は無理だ!」

 

「そうだね……若者が多く死ぬのは駄目だ」

 

 煉獄の意見に産屋敷が賛同する。ならば言うことはないと不死川は黙る。

 

「ではどうする。俺達が鍛えるにしてもの隊士たちはあまりに弱い。おそらく、いや確実に俺達からの修練を物には出来ないだろう」

 

 柱が十一人居るとしてもそれ以外の隊士達のレベルの低さを語る伊黒。それに反応したのが産屋敷だ。

 

 

「実はね。心当たりがあるんだ。君達に匹敵するであろう剣士に……」

 

 

 柱である自分達に匹敵する剣士が居る。それは柱達を驚愕させるには十分だった。真っ先に反応したのは義勇だった……彼には心当たりがある。柱である自分に引けを取らない少年を知っている。

 

「お館様……それは一体?」

「君達はここ一ヶ月…隊士達の間で広まっている噂について知っているかな?」

 

「噂ですか?」

 

「あぁ、鬼がいる場所に突然現れてては凄まじい剣技で次々と切り裂く凄腕の隊士が居ると鬼殺隊の間で噂になっているんだ」

 

「私の蝶屋敷に居る患者達が話して居るのを聞いた事があります。異形であろうと異能であろうと悉く鬼を討ち滅ぼすと………」

 

 蟲柱・胡蝶しのぶの屋敷は怪我をした隊士達が治療を受ける所で其所に運ばれた患者がそんな事を言っていたことを胡蝶は思い出した。

 

 

「うん、陰の者達に調査させた結果。その者が既に五十以上の鬼を斬っている事がわかったんだ」

 

 柱になる条件には鬼を五十体の討伐もある。

 しかし、それに反論する声が上がる。

 

「お言葉ですがお館様、いくら雑魚の鬼を殺そうと十二鬼月とは戦えません。過去には五十体殺し柱となった者が十二鬼月……【下弦】になすすべもなく殺された例もあります」

 

 

 鬼舞辻無惨が選別した直属の配下で、“最強”の十二体の鬼……それが十二鬼月。

 

 彼ら十二鬼はさらに“上弦”の六鬼と“下弦”の六鬼に分かれており、主座は“上弦の壱”、末席は“下弦の陸”となる。

 

 特に上弦の鬼の強さは常軌を逸脱しており、未だに本格的な情報が集まらず長い時の中で鬼殺隊最高位の剣士である“柱”をも幾人も葬ってきた。

 

 下弦の鬼は上弦に比べると圧倒的に格下でこの下弦の鬼を倒し柱となる。

 しかし、それでもその強さは通常の鬼とは比べモノにならず、五十体を倒し柱になった者が下弦になす術もなく殺されるケースも存在する。

 

「俺達も甘く見られたモノだ。雑魚を倒すことしかできない奴と同一と扱われるとは……やはり、他の隊士は無能だな」

 

 そう言って伊黒は呆れる。しかし、産屋敷はこれを予想した様に笑う。

 

「そうだね君の言う通りだ。だけど……この子が【下弦の陸】と【下弦の参】を倒した、と言ったらどうだい?」

 

 既に下弦の鬼を……それも2体倒している。それを聞いた柱達は目を見開く。

 

「はは!お館様が言うだけある派手な奴じゃねぇか!」

「うむ!下弦を2体倒したとなれば柱になるには十分な実力だ!!」

 

 柱でない隊士が下弦を倒す実力がある事に煉獄と宇髄が嬉しそうに声をあげる。

 

「それで、お館様。その者はどのような流派を使うのですか?既に水・炎・風・岩の基本となる流派の柱はおります」

 

 その者がどのような呼吸を使うのか興味がある悲鳴嶼が訪ねる。

 

「まずは事の経緯から話そう。最初に下弦の参が倒されそれから数日後に下弦の陸が倒された。下弦を見張っていた陰はその戦闘を見ていたんだけどね。圧倒していたそうだ……柱でもない隊士が下弦とはいえ十二鬼月を……その報告を聞いて興味を持ったんだ。どんな呼吸を使うの剣士なのか………そしたら"わからない"って言われてしまってね」

 

 

 下弦を圧倒した。それだけでも驚きだが何の呼吸かわからない。下弦を見張っているのは歴戦の陰だ。当然、基本の流派だけでなく派生したモノも知っている。そんな彼等がわからない……

 

「その隊士が持つ日輪刀は炎の刀よりもずっと紅い……真紅に染まっており。まるで日輪が見えたらしい…」

 

「日輪の刃……まさかそれは!?」

 

 日輪と聞き真っ先に反応した煉獄。煉獄家は長い歴史で多くの炎柱をだしてきた名門だ。

 

「うん。もしかしたらそれは、鬼舞辻をあと一歩まで追い詰めた【始まりの呼吸】……【日の呼吸】かもしれない」

 

「よもや!?」

 

 始まりの呼吸………それは全ての呼吸の元となった原初の呼吸。この呼吸を使った剣士は鬼舞辻をあと一歩まで追い詰めたのだ。

 

「成る程、たがら奴は人前に姿を出さないのか。始まりの呼吸を使える事を鬼舞辻が知れば間違いなく追ってを出すだろう。それを少しでも減らす為に姿を隠す。地味だがいい判断だ」

 

「そうだね。彼は仮面をつけて行動している。正体がばれない為にね」

 

 そう言って産屋敷は陰の者に書かせた仮面の絵を見せる。

 

「なっ!?」

 

 それを見たとき、今まで沈黙していた正義が目を見開き驚きを露にする。

 

 それは白い面で別れた二本の黄色の角や緑色の目など特徴な所はあったが……何より注目するのは血の涙を流すような赤いラインだろう。

 

「この仮面から彼は【血涙の鬼神】……と呼ばれているんだ」

 

 

(コワ!?)

 

「ほ~なかなか派手な仮面じゃねぇか!いいな!!」

 

 【血涙の鬼神】……甘露寺や宇髄がそれぞれ思っているが正義はまじまじとその絵を見ていた。

 

「私は是非とも彼を柱として招き入れたいと思っている。私の代で君達のような優秀な柱達に加えて……確証はないが鬼舞辻を追い詰めた日の呼吸の剣士までもが現れた。…………この長きにわたる鬼舞辻との因縁はこの時代で終わらせたい」

 

 そう語る産屋敷は確固たる意思を感じた。必ず鬼舞辻を倒す意志が………己の主がここまで言ったのならば自分達はその為にできる事をする。それが柱だ。

 

「ならばお館様!その者についてはこの煉獄杏…「自分に任せてくれませんか!!」……珍しいな、正義がそこまで頼むなんて」

 

 

 炎柱として日の呼吸の使い手に興味があった煉獄が血涙の鬼神の捜索を志願しようとしたが正義が名乗りをあげた。

 

「確かに珍しいね。どうしたんだい正義?」

 

「俺も気になったんです。それに鬼舞辻を追い詰めた日の呼吸の剣士が柱となれば隊士達の士気も高まります。どうか俺に任せてくれませんか!?」

 

「……………わかった。君にお願いしよう」

 

 産屋敷の許可がおり正義は深々と頭を下げる。

 

「ありがとうございます!……すまないな杏寿郎」

「なに気にするな!俺と正義の仲だ!」

「……………今度奢る」

「うむ!それは楽しみだ!!」

 

 

 こうして血涙の鬼神について決まったところで次の議題へと移る。

 

「鬼神については君に任せるとして……【あの薬】についてはどうだい?」

 

「はっ!只今【雪柱】と共に改良を加えて実験をした結果……一時的ではありますが"鬼の力を抑制"する事ができました。異能も使えず身体能力も人間と同等に弱体化しました」

 

 鬼の力を抑制……正義の報告に柱達は歓喜の声をあげる。

 

「凄い事ですよ守護之さん。一時的とはいえ異能や身体能力を封じる。これは今後の切り札になりますよ」

「あぁ!派手でな結果だな」

 

 胡蝶と宇髄の称賛を聞きながら産屋敷は研究結果に笑みを浮かべる。

 

「ああ、これなら」

「はい。【鬼になった者を人間に戻す】……これは決して夢物語ではないはずです」

 

 

 鬼を人に戻す薬の開発。鬼は鬼舞辻の血によって生み出される。ならばその逆も可能だと正義と【雪柱】は研究を続けてここまで来たのだ。

 その事を喜ぶ者もいれば否定する者もいる。

 

「お館様!鬼の能力を抑制する薬の完成は喜ばしいと思います!!しかし、鬼を人に戻す必要などありません!鬼を抹殺してこその鬼殺隊です!」

 

「その通りです。鬼を救う必要など何処にあるのです」

 

 

 不死川と伊黒が人に戻す事を否定するが正義は臆する事なくいい放つ。

 

「俺は全ての鬼を救うつもりはない。鬼は人を喰う。たとえ己の家族でも……それを人に戻して思い出させ後悔させるより忘れたまま殺した方がいい。俺が救いたいのは鬼になったばかりの人だ」

 

「鬼は存在そのものが罪だ!それを救うだぁ!?ふざけた事を言ってんじゃねぇ!!」

「お前こそふざけるな!!存在そのものが罪だと!?お前は何時から命の価値を決められる程偉くなった!!」

 

 先ほどから正義を殺す気で睨みつける不死川。

 

 元々、正義と不死川は意見が合わないことが多々あった。鬼を人に戻そうとする正義と、全て殺さなければ気が済まない不死川とでは、元から価値観が合うはずもなかった。

 

「彼等は望んで鬼になった訳じゃない!!お前が鬼を許せないのは理解している。だが、俺達は悪鬼を斬るんだ!罪のない鬼を斬ろうとするのは八つ当たりだ!!」

「八つ当たりだと……テメェ!?」

 

 もはや、不死川は何時正義に斬りかかってもおかしくはない。それでも斬りかからないのは産屋敷の前だからだろう。

 

 

「私は正義の意見に賛成だ。鬼になったばかりで悪鬼に堕ちていない者達を人の道に戻してやる。救いの手を差しのべる……素晴らしきこと」

 

「うむ!俺も正義の考えを尊重する!」

 

 悲鳴嶼と煉獄は正義の考えに賛成の声をあげ不死川は舌打ちをして黙る。

 

 

 

 

 こうして様々な議題について話し合い日が沈む頃に柱合会議は終わりを迎えた。

 

 それぞれの帰路につき館へ戻る。正義は煉獄と共に月を見上げてながら帰っていた。

 

「………わかっていたが……薬の話をする度に不死川と伊黒が突っかかってくる。面倒だ」

「仕方あるまい!あの二人の鬼への恨みは相当だ!だが、正義の理想にかける思いも負けていない!!」

 

 ため息をつく正義を煉獄がでかい声で励ます。

 

「あぁ!鬼なんて運命を押し付けられた者達を救う…この思いはアイツ等に何度反対されようが例えお館様に言われようが曲げるつもりはない!」

「うむ!それでこそ正義だ!では、また明日会おう!」

 

 そうして煉獄と別れた正義は月を見上げ【血涙の鬼神】について考える……その顔は後悔に溢れていた。

 

 

「………"デスティニー"」

 

 

 正義は………"アスラン・ザラ"は呟いた。

 

 アスランはシンに倒された後、この世界に守護之正義として転生した。初めは訳がわからない状態だったが…守護之家は代々、鬼狩りとして剣を振るってきた一族。

 

 アスランは正義として剣を振るい人を守ってきた。

 

 前世の経験を生かして柱となり鬼を人に戻す研究を【雪柱】と共にやってきた。初めは【雪柱】に嫌悪され刀を向けられた時もあったがなんとかココまでこれた。

 

(その時に現れたデスティニーの面をつけた剣士……お前なんだなシン……)

 

 あの面はデスティニーだった。そしてデスティニーを扱う者はただ一人。シンならば十二鬼月を2体倒した事に納得できる。

 

 

「例えお前が俺を殺そうとしても……俺はお前から逃げる訳にはいかない……シン」

 

 

 

 果たしてシンは自分を見たらどう思うのか……そう呟く正義を月明かりが優しく照らしていた。

 

 

 

END

 

 

 




 正柱・守護之正義

 CEでシンとデスティニーに倒されたアスランは死後、この世界で守護之正義として転生する。
 守護之家は煉獄家と同じように代々鬼狩りの一族で、鬼と戦い続ける中でアスラン・ザラとしての記憶が蘇り前世の格闘センスをいかして戦い柱となった。記憶が戻った後は鬼になった者を人に戻す研究を始める

 流派は(せい)の呼吸。強き心を持ち刃を振るう炎の呼吸の派生。日輪刀の色は緋色。

 歳は煉獄と同い年で煉獄とは友人の間柄。そして何処かの水柱と同じで不死川と伊黒に嫌われている。

 


正義(そう言えば初めて伊黒に会ったとき声がシンに似ていて驚いたな……)

 アスランの心境については先の話で明らかにします。




 次回予告!

 鬼殺隊に入り一ヶ月……あちこちで鬼を斬る炭治郎。しかし、妹を元に戻す手がかりは一向に見つからない。その時、かつての戦友との出会いが一つの希望を輝かせる。


 次回・運命の刃

【雪の再開】

 一つの希望を、語れアビー!!





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六話・雪の再開・前編

「凄いな……!」

 

 鬼殺隊に入隊し一ヶ月、連絡様の鎹鴉に導かれてやって来た東京は西洋風の建築物と和風の建物が混在し独特の美しさを感じさせ田舎暮らしの炭治郎としてもCEの未来を生きたシン・アスカとしても初めての世界だった。

 

 しかし、喜んでばかりではいられなかった。一ヶ月の間、炭治郎はなるべく正体がばれない様に鱗滝に作ってもらったデスティニーのお面をつけ各地を走り鬼を斬りまくった。

 その途中で最強の鬼、十二鬼月の下弦二匹に遭遇する。十二鬼月となれば禰豆子を元に戻す方法を知っているかもしれないと期待しさっさと無力化してザフト式の拷問をしたが知らないと叫ぶばかり……他に聞き出そうとしたら【呪い】と呼ばれる機能が働き死んでしまった。

 

 その結果、【血涙の鬼神】と呼ばれ手がかりの一つも見つからない。自然と険しい顔をした炭治郎だったがその顔を見て心配そうにした禰豆子に頭を撫でられ少し表情が和らぐ。

 

「…ありがとうな。一筋縄ではいかない事はわかってたんだ…今焦ってもどうしようもないよな」

 

 炭治郎の言葉に笑顔になる禰豆子。こうして二人は東京の町へと歩きだした。

 

 夕飯は食べてなく、腹も減ったので何か食べようとあちこちを見る。発展した東京だ、もしかしたらカレー等の今世でまだ食べていない前世の食べ物があるかもしれないと期待しながら歩く。

 

 

 

 その時、酷い悪臭がした………街道ゆく人々の香水の臭い等よりもよっぽど強い血を纏ったゲロ以下の臭いが炭治郎の鼻を刺激する。

 

「!?」

 

 この臭いを炭治郎は知っている。二年前、自分達家族を襲い禰豆子を鬼に変えた忌むべき存在………鱗滝から聞いた人を鬼に変える全ての元凶。

 

 

「鬼舞辻無惨…!」

 

 

 その臭いを辿ると人混みの中でよく目立つ質の良さそうな服装をした鬼が妻と娘と思われる人間をつれていた。

 

 反射的に刀に手を伸ばすが理性で止める。フリーダムに勝るとも劣らない憎悪を必死に隠しながら禰豆子に視線を向ける。

 

 禰豆子は震えていた……恐らく恐怖からで先程まで眠そうにウトウトしていたのが嘘のようだ。

 

「禰豆子……俺から離れるなよ」

 

 そう言って禰豆子の手を握る。少しは落ち着いた禰豆子も頷き一度裏通りへと入り体を小さくさせ、箱に入る。

 様子を伺いながら炭治郎は思考する。今戦うのは得策ではない。こんな大通りで戦闘すれば多くの人が巻き込まれる。それは炭治郎は望まない。それにもしかしたら十二鬼月を呼ばれるかもしれない。下弦なら何とでもないが上弦は無理だ。

  

(今は上弦と戦いたくはないが………奴のアジトを探るくらいはできるか?)

 

 十二鬼月の上弦は柱でさえ情報を持ち帰らせることなく殺すことが可能なのだ……これまで倒した下弦とは次元が違う。流石の炭治郎もまだ上弦と戦うべきではないと考える。ならば、今は情報を集める事に重点を置き無惨の潜伏先を気付かれることなく突き止めることが出来れば……そう考える。

 

(それにしても……隣の女性や子供は人間だ。協力者?いや、母親はともかくあんな小さな子供にそんな演技ができるとは思えない……)

 

 催眠術の類いか……と炭治郎は考えていたが。次の瞬間驚愕する。

 

 

(…な!?)

 

 無惨がやったことに対して炭治郎は一瞬理解が追い付かなかった。

 

(なんだと、アイツは正気なのか!?こんな都会の!しかも人が多い街道で堂々と鬼を!!)

 

 炭治郎の驚愕を他所に無惨は妻役と娘役と思しき女を連れてこの場から立ち去ろうとする。理解できない……なぜ無惨は突然こんな愚かしい行動を態々するのかと。

 

 その時だ、立ち去ろうとした無惨が一瞬…炭治郎に視線を向けてきたのだ。

 

(まさか……俺の存在に気づいて!?)

  

 自分の存在に気づき逃れる為に近くに居た男を鬼に変えたのだ。それもこんな人通りが多い東京で。

 

 

「クソ、まずはこの場を収めるのが先か」

 

 

 鬼にされた男はそのまま見境なくに暴れようとするが炭治郎は一瞬の内に男のもとまで到達すると組み伏せる。この男の首を日輪刀で斬る選択肢はない。

 こんな衆勢の中で刀を振り回し人間だった者を切ろうものなら鬼殺隊の隠の者に自分の事を調べられ禰豆子の事がバレる可能性があるからだ。

 

 

 

「あ、あなたどうしたの!?あなた!!」

 

 明らかに眼が完全に正気を失っている旦那を見て、何らかの異常事態が起こっているということだけはかろうじて理解できた女性は慌てふためくが、炭治郎は耳をかさず男の後頭部を殴りつけ気絶させる。

 

 

「貴様ら!!これは何の騒ぎだ!?」

 

 しかし、ひと段落したのもつかの間、騒ぎに気付いた警官たちがこちらへとやってくる。

 

(面倒だ!)

 

 近づく警官に対して炭治郎は悪態をつく。

 

「この人を無視する訳にもいかない。どうする……」

 

 

 しかしその時思いもよらぬことが発生する。

 

 何処からともなく不思議な香りが漂ってきたと同時に、華を基とした不思議な文様が現れ自分たちと警官たちを分断する。

 

 

「!?、血鬼術か!?」

 

 

 十二鬼月は必ず異能をもっている、それに慣れる為にこの一ヶ月で異能を使う鬼は数多く切り捨てたからそれ事態には驚きはないが……こんな街中で使われるとは思っていなく無惨が差し向けた手先かと警戒する。

 

 しかし、予想に反し女性は優しい声色でこう言った。

 

 

 

「あなたは、鬼となった者にも『無視する訳にいかない』と言ってくださるのですね。そして助けようとしている、ならば私も、あなた方を手助けしましょう」

 

 

 意外にも正面から現れた彼女達は一人の美しい女性と、目つきが鋭い少年の鬼の二人だった。

 

 

「何故ですか?貴方達は鬼舞辻の部下ではないのですか?この匂いは…」

 

 炭治郎の言葉に、女性の鬼は頷き肯定する。

 

「そう。私は鬼ですが医者でもあります。そしてあの男、鬼舞辻を抹殺したいと思っています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で無惨は妻役と娘役と別れて路地裏に足を進める。その顔を憎悪で歪みながら……

 

(間違いない……二年前の小僧だ!鬼狩りになっていたとは!)

 

 つくづくあの時殺せなかった事を後悔する。

 

 思い出す度に重なる……炭治郎とあの男が……あの耳飾りが頭から離れない。

 

 周りに誰も居ないことを確認すると無惨は指を鳴らす。すると背後に二人の男女が現れ膝をつく。

 

「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りの首をもってこい」

 

「御意!」

「仰せの通りに」

 

 無惨の命令を聞くと男女は炭治郎を追うために姿を消す。それからしばらくして……

 

「鳴女」

 

 

 すると…二年前と同じ様にべん、とどこかで琵琶がなり、襖が出現し2体の鬼が現れた。一体は男の鬼…もう一体は少女の鬼。いきなりの事で困惑する彼等……男の鬼の目には弐。少女の鬼には肆と刻まれていた。

 

「頭を垂れて平伏せよ」

 

 無惨がそう言うと2体の下弦……下弦の弐【轆轤(ろくろ)】下弦の肆【零余子(むかご)】は反射的に平伏する。

 

「も、申し訳ご「誰が喋っていいと言った?」!」

 

 

 零余子の謝罪の言葉を蹴飛ばし無惨は語る。

 

「ここ百年あまり…上弦の顔ぶれは変わらないのに対して下弦は柱と呼ばれる鬼狩り達に倒され変わるばかり………そしてこの間も下弦の参と陸が殺された。ハッキリ言おう……下弦はもういらない」

 

 その無惨の言葉を聞いて顔色が絶望に染まる轆轤と零余子。恐怖に震えて必死に生き残る術を模索していた。

 

「まだ、下弦の壱と伍には見所がある。だが…お前達にはそれはない」

 

 それは死刑宣告と変わらない言葉……零余子の目には涙が溢れていた。

 

「だがチャンスをやろう……耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りの首をもってこい。そうすれば更なる血を分けてやろう。どうだ?私は優しいだろう?」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

「か、必ずや!!」

 

 まだ生き残る道があることに喜び2体はすぐさま移動した。それを見届けた無惨は闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で炭治郎は先程助けてくれた鬼の女性【珠世】の隠れ家で話を聞いていた。彼女は自分の体を弄り呪いを外し自我を保ちながら無惨を倒す為に極秘ではあるが鬼殺隊と協力していると語る。

 

「こら禰豆子、行儀悪いぞ」

 

 疲れたのか部屋につくなり、禰豆子はごろりと畳に寝転がる。

 

 

 

「いえ楽にしてくださって構いませんよ。先ほどの続きですが、私たちは人を食らうことなく暮らしていけるようにしました。人の血を少量飲むだけで事足りる。不快に思われるかもしれませんが、金銭に余裕のない方から輸血と称して血を買っています。もちろん、彼らの体に支障が出ない量です」

 

 

 だから鬼なのに特有の異臭がしないのかと納得する炭治郎。だが次に珠世から発せられた言葉は驚くべき内容だった。

 

 

「愈史郎はもっと少量の血で足ります。この子は私が鬼にしました」

 

「…何だって!?、それは本当ですか!?」

 

 

 

 隣にいる珠世の助手と思われる少年【愈史郎】に視線を向ける。

 鱗滝から聞いた話では鬼を増やすことができる鬼は鬼舞辻だけ。しかしここにはそれを覆す存在がいたことに驚きを隠せない。

 

「鬼舞辻以外は鬼を増やすことができないと言われている。それは概ね正しいです。二百年以上かかって鬼にできたのは、愈史郎ただ一人ですから…」

 

(二百年……途方もない時間だがその技術をもつこの人は………相当な人だ)

 

 

「一つ、誤解しないでほしいのですが、私は鬼を増やそうとはしていません。不治の病や怪我を負って、余命いくばくもない人にしかその処置はしません。その際は必ず本人に、鬼となっても生きながらえたいか尋ねてからします」

 

 

 そんな珠世の眼を炭治郎はじっと見据える。彼女の眼は、嘘偽りのないものであり、匂いも清らかなものであった。

 

「………珠世さん。鬼なった人を元に戻す方法はありますか!?あったら教えてください!!」

 

 頭を下げ叫ぶ炭治郎。珠世は一瞬禰豆子に視線を向ける。

 

「頭を上げてください。あります。人に戻す方法は」

 

 珠世の言葉に目を見開き思わず詰め寄ろうとする。

 

「珠世様に近づく「教えてください!!」ぐふぅ!?」

 

 そんな炭治郎を愈史郎は怒り浸透で投げ飛ばそうとするが返り討ちあう。

 

「どんな病にも必ず治療方があります。今、鬼殺隊の一部の柱と協力して薬の開発に着手しております。まだ、完成してはおりませんが……必ず完成させます」

 

 そう語る珠世にはやると言ったらやる凄みを感じた。

 

「貴方にお願いしたいことは二つ。一つは妹さんの血を調べさせてほしい。二つはできるだけ鬼舞辻の血が濃い鬼から血を採取してほしい。しかし、血が濃いと言うことは鬼舞辻に近い強さをもっていること」

 

「十二鬼月ですね」

 

「はい。それは容易ではありません……それでも貴方は「!?、伏せてください!!」

 

 珠世が最後まで言い切る前に突然屋敷の壁が砕け何かが飛んできた。それは頭上を縦横無尽に駆け、あたりのものを次々に破壊していく。

 

 それを察知した炭治郎は鋭く叫び、愈史郎は珠世をかばうように頭を抱え床へと伏せる。炭治郎も禰豆子を抱えその場を少し離れる。明かりが消え、暗闇に包まれた部屋の中で、轟音と共に砂煙がもうもうと立ち上る。

 

 

(やっぱり刺客がやってきたな)

 

 

 屋敷の砕けた壁の向こう側に襲撃者の姿が見える。相手は二人、狂気じみた笑みを浮かべた女と目を閉じた男だ。

 

「キャハハ!矢琶羽のいう通りじゃ。何もなかったところに建物が現れたぞ」

 

 女の鬼の楽しげな声が響くと同時に、再び轟音が鳴り響く。それに対して矢琶羽と呼ばれた男の鬼は着物を払いながら、忌々しそうに女の鬼に悪態をつく。

 

「巧妙に物を隠す血鬼術が使われていたようだな。しかし、鬼狩りと鬼が一緒にいるのはどういうことじゃ?だが、それにしても朱紗丸。お前はやることが幼いというか短絡的というか。儂の着物が塵で汚れたぞ」

 

「うるさいのぅ。私の毬のおかげですぐに見つかったのだからよいだろう。たくさん遊べるしのう!」

 

 

 そう言って朱紗丸は再び毬を屋敷の壁に投げつける。轟音と砂塵を上げて毬は壁を砕くと、再び彼女の手元へ戻った。

 

「ちっ。またしても汚れたぞ」

 

 矢琶羽はさらに顔をしかめ、再び着物を払う。

 

「神経質な奴じゃのう、着物は汚れて等おらぬわ」

 

 朱紗丸は楽しそうに笑いながら再び毬を投げつける。毬は不規則な動きをしながら縦横無尽に飛び回り、あちこちを破壊する。

 

 そして毬の一つが愈史郎に向かって飛んできたため払おうとしたが、毬は空中で一瞬停止すると急に方向を変え愈史郎の頭部に命中しそうになる。だが…

 

「コイツらは俺に任せてくれ」

 

 毬をいとも簡単に切り裂き炭治郎は二人にそう言う。

 

「炭治郎さん、私たちのことは気にせず戦ってください。守っていただかなくて結構です…鬼ですから」

「………了解」

 

 炭治郎は前に出て日輪刀を構えるそんな炭治郎を朱紗丸は狂喜の笑みで見つめた。

 

「見つけた見つけた!耳に花札のような飾りをつけた鬼狩り!!」

 

(やっぱり狙いは俺か……)

 

「キャハハハ!さぁ遊ぼうか!お前の命が尽きるまで!!」

 

 そう叫び二つの毬を投げる。投げられた毬は不規則に飛び回る。

 

(ドラグーンのような遠隔操作か………)

 

「おい鬼狩り!矢印を見ろ!と言っても人には見えないか………たっく、俺の視界を貸して「情報ありがとう、だけど大丈夫だ」は!?」

 

 

 愈史郎は耳を疑った。人には見えないのに何を言っているんだと。しかし、炭治郎は一人ではない。

 

「デスティニー……見えるか?」

 

 相棒(デスティニー)に問いかける。すると日輪刀が真紅に輝き炭治郎の目に涙のような紅い痣が浮かび上がる。

 そして見えた毬を動かす矢印を。

 

「サンキュー!相棒(デスティニー)!!」

 

 どう来るかわかるならどうと言う事はない。炭治郎は二つの毬を切り裂いた。

 

「アイツ見えるのか!?」

 

(痣が浮かび上がった!【あの人】と同じ……でも、何か違う)

 

 愈史郎は矢印を見えた事、珠世は痣が浮かび上がる事に驚いた。一方で朱紗丸は余裕を隠さず笑う。

 

「なかなかやるな………だが、十二鬼月である私達に勝てるかな?」

 

「十二鬼月だと…!?」

 

「鬼舞辻直属の配下…!」

 

 珠世の焦った声に機嫌を良くする朱紗丸。隣にいる矢琶羽も上機嫌だ。

 

「そうじゃ!情けなく死んだ参と陸の地位をあの方か「そんな訳あるか、もっとマシな嘘をつけ」……なんだと!?」

 

 

 明らかに機嫌が悪くなる朱紗丸に対して、炭治郎は呆れたように答える。

 

「十二鬼月には目に数字が刻まれている。アンタ等にはそれがない。大方、血をもらって意気がってたんだろ」

 

「貴様!!」

 

 朱紗丸は憤怒の表情を浮かべると体に力を込める。するとが、新たな二対の腕が生えてきた。

 しかし、炭治郎は臆する事なきある物を取り出す。

 

「まぁホントに参と陸でもかまわなかったけどな………もう一度斬るだけだから」

 

 

 それは血の涙を流す鬼神(デスティニー)のお面。炭治郎がそれをつけると朱紗丸と矢琶羽は驚愕する。

 

「き、貴様!まさか……【血涙の鬼神】!?」

 

 参と陸を殺した血涙の鬼神の噂は2体にも届いていた。それが目の前に現れた。

 

「さぁ、覚悟はいいな?」

 

 もう聞くことはないと炭治郎は飛び出す。動揺しながらも毬を投げる朱紗丸。

 

 

 

「水の呼吸・参ノ型…流流舞!」

 

 

 

 しかし、矢印の動きを相棒(デスティニー)の目で完全に見切り水流のごとく流れるような足運びによる、回避と攻撃を合わせた参ノ型で炭治郎はそのまま朱紗丸に近づき容易に首を跳ね飛ばした。

 

「もう1つ教えてやる。俺はお前みたいに殺しを楽しむ奴は大嫌いだ」

 

「朱紗丸!?クソ!!」

 

 一瞬で相方が斬られた事に焦りながらも毬を操っていた矢印を炭治郎に向けて放つ。この矢印は対象に当たるまで消えないし、斬ることもできない。刃に触れさせても矢印の方向へ飛ばしてしまう……だが無意味だ。

 

 

「当たらななければどうと言う事はない!水の呼吸・ねじれ渦・流流!!」

 

 

 

 水流のごとく流れるような足運びで回避と攻撃を合わせた参ノ型と、上半身と下半身を強くねじった状態から勢いを伴って斬撃を繰り出す陸ノ型を組み合わせることで、飛来してくる矢印を巻き取りそのまま炭治郎は矢琶羽へと一気に近づく。

 

「そ、そんな!?儂のー「終わりだ。水の呼吸 弐ノ型・改…横水車!!」

 

 

 本来は垂直方向に身体ごと一回転しながら斬りつける水車を、水平方向に回転しながら斬りつける形に改式した技をもってして矢琶羽の首を跳ね飛ばす。

 

 かくして戦闘は終わった。しかし、炭治郎は拭えぬ違和感を関していた。

 

(弱すぎる……こんな奴らで俺を殺せると思っていたのか?二年前に殺されかけたのに……)

 

「【血涙の鬼神】……その噂は耳にしていましたが。まさか貴方だったとは……ともかく血液の採取を」

 

 珠世は注射器を取り出すと2体の鬼からも採血する為に動こうとするが……

 

「(まさか囮!?)駄目だ!」

 

 炭治郎がそう叫ぶと同時に珠世達に向かって無数の刃や岩石が降り注ぐ。それを見た炭治郎は庇う様に珠世達の前に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煙を上げ崩れる珠世達の隠れ家。それを確認して現れた轆轤と零余子。

 無惨とて馬鹿ではない。朱紗丸達では勝てぬ事は百も承知。だから戦闘を終え油断した所に下弦2体をぶつけたのだ。

 

 先程の戦闘を見ていた轆轤と零余子。確実に倒す為にワザと炭治郎ではなく珠世達を攻撃した。炭治郎が必ず庇うと確信して。

 

「やった……!」

「あの雑魚達も少しは役にたったな。後はあの方に鬼狩りの首を差し出せば……私達の命は」

 

 炭治郎達が死んだ事を確信して笑みを浮かべる轆轤。これで自分達の命は助かると……

 

 

 しかし次の瞬間、煙が吹き飛ばされ見えたモノは…

 

 

「………危なかったぜ」

 

 無事だった珠世達と血を流す炭治郎だった。生きていたことに一瞬動揺するが轆轤は不適な笑みを浮かべる。

 

「無事だったか……しかし、少なからず負傷したその体で後ろの奴等を守りながら我々を倒せるかな?」

 

 咄嗟に技をだし防いだが完全ではなく所々から血を流していた。

 

「ムーー!?」

「心配するな禰豆子。この程度なんともない」

 

 心配する妹に声をかけ炭治郎は日輪刀を構える。

 

「フフフ。これで私は更なる血を分けて頂ける!!散れ人間!!」

 

 

 勝利を確信し轆轤は腕を振るう。すると何もなかった空間に突如として刃物が現れた炭治郎を串刺しにしようと飛んでくる。

 

 避ければ後ろの皆に当たる。故に回避はできない、迎撃しようと刀を構える。

 

 

 

 

 

「雪の呼吸…壱の型・初雪の雪化粧」

 

 

 

 

 しかしその時、まるで化粧をしたかのように一面が真っ白になる雪化粧の様に一瞬景色を白く染める白い斬擊が放たれた刃物を吹き飛ばした。

 

「何!?」

 

 突然の事に驚愕する轆轤。一方で炭治郎も何が起きたかわからなかった。

 

 

「随分賑やかね。私も混ざっていいかしら?」

 

 そんな炭治郎の前に現れたのは雪の様な白と緑色の羽織を着た白髪の少女。その顔を見たとき炭治郎は驚愕した。髪の色は違うがその顔立ちは…

 

 

「あ、アビー……!?」

 

 

 前世の戦友……アビー・ウィンザーと瓜二つだったのだから。

 

 

 

 

END

 

 

 




 書いてて思い付いたネタ。


炭治郎「俺は前世で人を裏切るグズの様ないろんな悪党を見てきた。だから、いい人間と悪い人間の区別は臭いでわかる!」

無惨「…………」

炭治郎「コイツはクセェ!ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇ!!こんな悪には出会った事がねぇ程にな!!」



 最後まで読んでくれてありがとうございました。


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閑話・貴方に会えたら

 前回話に出たアビー・ウィンザーについて

 アビーは本編にて裏切ったメイリンの代理としてミネルバに加わった原作キャラです。
 シンssにはよく登場しておりコアな人気もあります。
本編にて出番はそんなにないので作者の妄想で性格を決めたりオリジナル設定があるのででご了承ください。

今回の話はシンが死亡したその後のCEの話でアビーの視点で話が進みます。

それではどうぞ!




『俺とレイが繋げた未来は……お前達が守ってくれ』

 

 この言葉を思う度に思う。あの時、【私】に力があればと……後ろではなく隣に立てたならレイやあの人……シンは死なずにすんだのかもしれない。

 

 だからあの戦争が終わった後、私はパイロットの特訓を我武者羅にやった。今に思えば皆が逝ってしまった事を認識したくなかったのだろう。

 平和を誰よりも望んだ二人の英雄の死はミネルバ全体に暗い影をおとし誰も私を止めたりはしなかった。

 

 あの戦争から一年。確かに世界は議長の元、平和の道を歩みだした……しかし、すぐに戦いはなくならなかった。息を潜めていたロゴスやクライン・オーブの残党が動きだしテロ行為を繰り返したのだ。今、ザフトはその鎮圧に全力を注いでいた。

 

 

 そして英雄を失い殆ど壊滅したミネルバも遂に戦場に戻ることになった。

 

 

 

「“ミネルバ”所属、アビー・ウィンザー出頭いたしました」

 

 そして私は今、ザフトでもエリートしか着ることのできない赤服を纏い呼ばれた格納庫に来ていた。

 

「よく来てくれたね。アビー君」

 

 そんな私を出迎えてくれたのはプラント最高評議会議長…“ギルバート・デュランダル”議長。一年前の緑服だった私がまさかこの人と直接会う事になるとは……驚きしかない。

 

「すまないね…………君達まで戦場に戻すことになるなんて」

「いえ………今のザフトにはエースと呼べる部隊がありません。自分達がやるしかありません」

 

 そう、あの戦争でザフトの代表的なエース部隊、ジュール隊はラクス・クラインに寝返り戦後処刑され他の部隊はキラ・ヤマトに壊滅された。今のザフトには戦力はあるもののエースと呼べる部隊は存在しない。だから私達ミネルバ隊が蘇る必要があった。

 

「そう言ってくれるとありがたいよ。ミネルバクルーの皆が戻ってきてくれて」

 

 艦長や副長……ヴィーノ達メカニックもミネルバに戻ってきてくれた。タダ一人を除いて……

 

「…………ルナマリア・ホークはやはり………」

「………………はい」

 

 ルナマリアは現在精神病院に入院している。シンとレイ、二人の戦友を失うばかりか妹のメイリンまで死んでしまった。その事実に精神は傷つき不用意に接触すればいつ崩壊してもおかしくない状況だ。

 

 パイロットを失ったミネルバ………でも。

 

「その代わりは私がやります!」

 

 私は元々パイロット志望で上位の成績はあったのだが情報処理能力がとても高くオペレーターの方が活躍できると判断されオペレーターになったのだ。

 

「……………本当にいいのかね?」

「はい。涙はもう流しました……私はシンやレイが望んだモノを守りたいんです!」

 

 それは議長も同じ筈だ。レイは議長にとって息子のような存在だったと聞く。それを失った悲しみは計り知れない。だけど、立ち止まらずにレイが望んだ世界を目指している。私だけが辛い訳じゃない!

 

「………わかった。ならば君に託そう。」

 

 

 議長がそう言うと暗かった格納庫に明かりがつき其処に見えたのは……

 

 

「インパルス?」

 

 

 それは雪の様に白いインパルス。背面にはデスティニーと同じ赤い翼が装備されていた。

 

「これは【インパルス・ヴァルキリー】……デスティニーとレジェンドのデータを参考に設計された名付けるならセカンドステージプラスの機体だ」

 

 セカンドステージをサードステージであるデスティニーとレジェンドのデータを元に再設計されたセカンドステージプラス………そんな機体を元オペレーターである私に預けてくれるとは……!?

 

「どうかね?受け取ってくれるか?」

 

 私を見つめる議長………覚悟は既にできている。

 

「はい!任せてください!」

 

 こうして私は正式にミネルバのMSパイロットとなった。

 

 

 

 

 

 

 こうして再び戦場に戻ってきたミネルバ隊の最初の任務はジャンク屋組合の討伐だ。

 戦争終結から一年がたった今でも彼等は不必要な技術拡散を続け兵器の売買をしている。ザフトはジャンク屋組合に対し戦争地域で勝手に回収したジャンク品、修復品の国境を逸脱した持ち出しと利用禁止等を通告した。

 

 しかし、ジャンク屋組合はこれに徹底して拒否の姿勢を示した。元々、ラクス・クラインに兵器を密売していた事も発覚していた為にザフトはジャンク屋組合を討伐対象として制定、討伐に乗り出したのだ。

 

 

「アビー!準備はいいか?」

「ええ……どこも異常はありません。何時でもいけます」

 

 私は今、【インパルス・ヴァルキリー】のコクピットで出撃許可が出るのを待っている。メカニックであるヴィーノの気づかいに大丈夫だとこたえるが………正直手の震えが止まらない。初めての実戦……何時死んでもおかしくない………シン達が戦っていた世界に私は足を踏み入れる。

 

『まもなく戦闘に入る!準備はいい、アビー?』

 

 そんな時、コクピットにあるモニターにグラディス艦長が映る。もうすぐ戦闘が始まる……無意識に手の力が強くなる。

 

「はい!問題ありません!」

『……ごめんなさいね。貴方に背負わせてしまって』

「……いえ、自分で選んだ事です。気にしないでください」

『………』

 

 それはタダの強がりだった……艦長はそれを見抜いていたのだろう何も言わないでくれた。そして“インパルス・ヴァルキリー"はカタパルトに移動され………

 

 

「アビー・ウィンザー!、"インパルス・ヴァルキリー"……行きます!!」

 

 

 私は戦場へ飛び立った。

 

 

(見ててレイ……シン。私が皆を守ってみせるから!)

 

 

 初めてのMS戦だったが赤服を着るに至った操縦技術と"インパルス・ヴァルキリー"の性能のお陰で戦果をあげることができた。 

 そもそも、ジャンク屋組合は軍隊ではない。確かに機体があるだろう錬度があるパイロットはいない。

 唯一ロウ・ギュールと言う男が乗る"アストレイレッドフレーム"は強く苦戦はしたが撃破しジャンク屋組合は掃討された。

 

 

 こうして各地を周りながら残党を撃破していたある日の事……世界中のテレビ放送がジャックされた。

 そして今、テレビに映っているのはクライン・オーブ軍の残党。

 

 そして………

 

『我々はデュランダルの支配政権を認めない!自由を取り戻すため我々『SEED』は彼等を討ち、世界に平和の種子を撒かん事をココに宣言する!!!!』

 

 【メサイア戦役】後、プラン導入に最後まで反対の意を示し国民のクーデターで国を追われた元代表【カガリ・ユラ・アスハ】が其処にいた。

 

 

 その後、カガリが残党軍を率いてプラント本国に向かっている事がわかりザフトは再び【宇宙要塞メサイア】で迎え撃つ事を決めミネルバは最前線に配置された。

 

 全軍が終結し議長による兵達への激励が終わり、兵達は敬礼した後、それぞれ準備に入る。

 ミネルバは最前線で残党軍の主要艦と思われる"クサナギ"、及びカガリ・ユラ・アスハの撃破が目的だ。

 私は"インパルス・ヴァルキリー"の最終チェックを終わらせコクピットにつけていた一枚の写真を見る。

 

 それはアカデミー卒業記念に撮ったモノだ。写真には私は勿論、メカニックのヴィーノやヨウラン。同じくオペレーターとして卒業したメイリン。そして……赤服のパイロットに任命されたルナマリアやレイ……シンが写っていた。

 

 メイリンは裏切り、ルナマリアは精神を病み、シンとレイは逝ってしまった。

 アカデミー時代が尊くて……取り戻せないとわかっているのに過去に戻りたいと強く思う自分がいる。

 

「貴方もこんな気持ちだったんですか……シン?」

 

『コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは速やかにMSに搭乗してください』

 

 

 

 思わず口から漏れた言葉がコクピットに虚しく響いた時、コンディションレッド……戦闘開始の合図が響く。戦闘が始まった事を意識すると心臓の鼓動が早くなる。元々"インパルス・ヴァルキリー"に搭乗していたので気持ちを落ち着かせて待機していると………

 

 

『これより本艦は戦闘を開始する!"インパルス・ヴァルキリー"発進!全砲門開け!目標、クサナギ!ザフトの誇りにかけて、あの艦を討つ!!』

 

 艦長の激励が聞こえる。気持ちは落ち着かせた……だけど恐怖は消えない。何度戦場に行っても消える事のなかった恐怖……私が弱いからだろうか……それとも、シンも同じだったのだろうか………考えても仕方ない、私が戦わないといけない。

 

「了解!インパルス・ヴァルキリー、出撃します!!」

 

 

 全システムの起動を確認。

  発進シークエンスを開始。

   ハッチ開放。

    射出システムのエンゲージを確認。

     カタパルトオンライン。

      射出推力正常。

       針路クリア。

 

 

 

「アビー・ウィンザー!、"インパルス・ヴァルキリー"…行きます!!」

 

 

 

 私が出撃すると同時に敵艦"クサナギ"から放たれた一筋の光が宇宙を貫いた。しばらくして遠くで小さな小さな消える命の光がいくつも弾けた。

 それが大きな戦いの小さな狼煙だった。

 厳戒態勢の中を"ムラサメ"や"M1アストレイ"が突っ込んで来る。

 前線部隊は手頃な敵めがけて殺到し瞬く間に粉砕していった。連携プレーにより死角をなくしたザフト軍の勢いは凄まじく被害を殆ど受けない。それでも一点に集中して攻撃されたことで防衛ラインに穴が空いた。

 

 すかさず敵の第2波が飛び込んでくる。

 "ムラサメ"やどこからかき集めたのか地球軍の"ウインダム"まで次々に小さな点を巨大な穴にするために来る。負けじとザフト軍のMSに薙ぎ払われても引く気配もみせない。

 勢いに押され、歪な形になっていく陣形。

 

 

 そんな戦場を私は駆ける。残党軍の主力である"クサナギ"……そしてカガリ・ユラ・アスハを討てば全てが終わる。

 その事は相手もわかっているのだろう"クサナギ"から出撃した“ムラサメ”隊が数条のビームを放ってくる。

 

『そんなもので!!』

 

 しかし、そんなモノはこの"インパルス・ヴァルキリー"には通用しない。

 バックパックは"デスティニー"と同じ赤い翼だがウェポンラックはなく代わりに"インパルス"の兄弟機である"カオス"の機動兵装ポッドを"レジェンド"のデータで改良した【マルチドラグーン・ランドグリーズ】が搭載されている。

 

 二つ搭載された【ランドグリーズ】を展開。分離された【ランドグリーズ】は遠隔操作で動きビームシールドを展開。攻撃を防ぐ。その隙に主武装のビームガトリングガン、前腕部に取り付けられたビーム砲【ゲイルドリヴル】を放ち"ムラサメ"部隊を撃墜させる。

 

 

『おのれ!ミネルバ!!』

 

 そんな中、普通とは違う色をした“ムラサメ”が“インパルス・ヴァルキリー”に攻撃を仕掛ける。

 

『貴様等“ミネルバ”は我々にとって何を犠牲にしてでも撃つべき怨敵なのだ!!貴様の様な女子供であろうとこのキサカ、容赦せん!!』

『………シンが、失望したのも納得ですよ!』

 

 何を犠牲にしようと……その言葉に苛立ち“ムラサメ”の放つビームを軽く避け、そのまま“ムラサメ”の腕ごとライフルで破壊する。

 

『おのれ!!』

 

 すぐさまビームサーベルで反撃に移る“ムラサメ”。しかし“インパルス・ヴァルキリー”はそれを回避して“ムラサメ”に蹴りを入れる。

 

『ぬおぉっ!?』

 

 バランスを崩す“ムラサメ”、すかさず“インパルス・ヴァルキリー”はビームガトリングで狙い撃つ。

 

『終わりです!!』

 

『カガリ様ぁぁぁっーーーー!!』

 

 

 断末魔の雄叫びを残し、キサカは放たれたビームに焼き尽くされた。キサカが倒された事で“ムラサメ”隊に動揺が走る。

 

 その時だ、此方に向かって通常より高出力のビームが放たれる。それを回避し発射された方向にビームガトリングガンを構える。

 其処に居たのは黄金の装甲を持つMS“アカツキ”だった。メサイア戦役にシンに破壊された筈だが……あれは下手したらこの"インパルス・ヴァルキリー"よりも製作費がかかる機体だ。残党軍にそれを造る財力がある筈がない。おそらく予備パーツを使って製造されたのだろう………そして"アカツキ"はアスハを象徴する機体。そのパイロットは間違いなく……

 

『貴女が……カガリ・ユラ・アスハですね』

『そうだ!私がオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ!!』

 

 目標を見つけた事に喜びつつ思った事を口にする。

 

『【元】をお忘れですよ。テロリストのトップさん』

 

 メサイア戦役後、戦争を仕掛けてきた事でアスハの重役は次々と権力を失い国民によるデモで潰れ。目の前の元代表もクーデターにより国を追放された。

 

『っ!?黙れ!!』

 

 その事が癪に触ったのだろう背部ストライカーパック「オオワシ」に装備されている2基の高エネルギービーム砲を放つが…【ランドグリーズ】のビームシールドで防ぐ。

 

『お前達が奪ったんだろう!!(オーブ)を!兄弟(キラ)を!仲間(ラクス)を!愛した人(アスラン)を!』

 

 その叫びと共に"アカツキ"はビームサーベルを振り下ろしてくる。回避する度に怒りがこみ上げてくるのがわかる。

 ラクス・クライン達が死んだのは自業自得だ。勝手に戦争をおこして死んだ。その自業自得にシンを……私の大切な仲間達を道連れにした!!

 

『ふざけないでください!!勝手に戦争を仕掛けて死んで、私の大切な仲間達を道連れにしたくせに!!』

 

 "インパルス・ヴァルキリー"の拳が"アカツキ"を殴り飛ばす。

 

『勝手にだと!?デスティニープランで自由を奪う議長を止めるために!!』

『デスティニープランの何がいけないって言うのですか!?』

 

 確かに多少の自由はないのかもしれない。だけどデスティニープランは雇用の保障による治安の改善や戦後の効率的な復興には役立っている。

 それに対して彼等は何も具体案をだしていない。タダ気に入らないから戦争をおこした!

 

『まともな政策1つ示すことが出来ず、戦争しかやらない貴方達に世界を任せられる筈がない!!』

 

『だまれぇぇぇーーー!!!』

 

 私の言葉に耐えられなくなったのかカガリは逆上して襲い掛かっていた。

 

 迫るビームサーベルを左腰部に装備されたビームソード…【シグルドリーヴァ】で受け止める。つばぜり合いになるがデスティニーの翼を持つ"インパルス・ヴァルキリー"の方が出力は上だ。徐々に押している。

 

 不味いと思ったのか背部ストライカーパック「オオワシ」に装備されている2基の高エネルギービーム砲を構える。それに対してコチラは【ランドグリーズ】を射出する。

 

『"アカツキ"にドラグーンのビームは効かん!!』

 

 "アカツキ"の高出力ビームが放たれる……

 

 

『知っています』

 

『何?ぐっ!?』

 

 その時、突如衝撃と共にオオワシパックが爆散した。"アカツキ"の装甲【ヤタノカガミ】はビームを跳ね返す強力な装甲だ。ドラグーンである【ランドグリーズ】のビームは効かない筈だ。

 

 

 

 そう考え困惑しているだろうカガミに私は言う。

 

『アカツキの装甲は確かに強力ですが、実弾、ビームサーベル系統の近接武器には弱い。何時私が【ランドグリーズ】はビームサーベルがないと言いました?』

 

 

 そう【ヤタノカガミ】は持続的にビームを生み出す兵器には弱い。それに対して【ランドグリーズ】はビームシールドだけでなく刀身が短めのビームダガーを発生させる事ができ。オオワシパックを破壊したのだ。

 

 そのまま【シグルドリーヴァ】を振り下ろして"アカツキ"の右腕を切り裂いた。

 

『クソ!?こんな所で!?』

『これで終わりですね』

 

 カガリが何か叫んでいるが無視して【シグルドリーヴァ】を振り下ろす………これでこの戦闘は……

 

 

 終わると思ったその時、"インパルス・ヴァルキリー"のレーダーが此方に迫る高エネルギー反応をとらえる。

 

『っ!?』

 

 咄嗟に"インパルス・ヴァルキリー"を動かし回避するが放たれた大出力エネルギー砲に驚愕する。"フリーダム"すらあんな高出力ビームは射てない。

 

 ならばMA!?私はレーダーがとらえた高出力反応にあわせてメインカメラを向ける。

 

『………どうやら残党軍を甘く見ていたようですね』

 

 

 それは銀と黒、そして金のヤタノカガミの装甲を持つ多数の頭を持つ四足歩行のMA。蛇のような長い頭部でありながら足があるキメラ的な見た目。

 メインと思われる3つの頭部の他に側面の爪を装備した2つの頭部とビーム砲らしきものを装備した背中の3つの頭部。

 

 その全長はCE最大の機動兵器、"デストロイ"に勝るとも劣らない。まさかあんなモノを造る力があったとは…もっと早くジャンク屋組合を潰しておくべきだった。

 

『カガミ様!!ご無事ですか!?』

『ソガ!間に合ったのだな!』

『はい!早くこの"ムラクモノオロチ"に!』

 

 巨大兵器からの通信が聞こえ"アカツキ"があの巨大兵器に向かう。

 それを防ごうとビームガトリングガンを放つが"アカツキ"を守る様にメインの頭部が盾となる。

 その隙に"アカツキ"は巨大兵器…"ムラクモノオロチ"の中に消えていった。

 

『これこそは我々の切り札"ムラクモノオロチ"!これは警告だ"インパルス"。大人しく投降しろ!さもなくば『その力で捩じ伏せるですよね。ラクス・クラインやキラ・ヤマトの様に……』っ!警告したぞ!!』

 

 

 カガリの怒号と共にメインの三つの頭部の口が開き大出力ビームが放たれる。当たればこの"インパルス・ヴァルキリー"でも一溜りもない!回避しビームガトリングガンや【ゲイルドリヴル】を放つが、やはり【ヤタノカガミ】には効果ない。

 

『接近できれば!』

 

 しかし、メインの頭部三つ、背中の三つの頭部からの高出力ビーム砲の回避に必死でなかなか接近できない。

 

『私がデスティニーの翼を使いこなせれば!』

 

 "インパルス・ヴァルキリー"にはデスティニーの翼が装備されているが最大の特徴である光の翼……【ヴォワチュールリュミエール】を使ってはいない。例え使わなくてもその機動力はザフト一だ不満はない。

 そもそも【ヴォワチュールリュミエール】を使いこなせるのはザフトではシンだけだった。即席パイロットと私が使いこなせる訳がない。

 

 

『使えなくても、やるしかない……!』

 

 

 【シグルドリーヴァ】を構え"ムラクモノオロチ"に突撃する。次々と迫る大出力ビームをなんとか避けながら接近する。

 

『ちょこまかと!』

 

 "ムラクモノオロチ"は"インパルス・ヴァルキリー"を撃ち落とそうとビーム砲を放つが"インパルス・ヴァルキリー"は三つのメイン頭部の間をすり抜け左側の頭部を切り落とす。

 

『一つ!』

『たかが一つ落としただけで!!』

 

 しかし、背部頭部からのビームを避けた時……

 

『あ……』

 

 私が目にしたのは……こちらを切り刻もうと迫る側面の爪を装備した頭部だった。

 咄嗟に両腕の【ゲイルドリヴル】で防ぐが防ぎきれず破壊され"インパルス・ヴァルキリー"近くのデブリに叩きつけられる。意識が薄れていく私が目にしたのは此方に向けて口を開きビーム砲を射とうとする"ムラクモノオロチ"だった。

 

(もうダメ……やっぱり私じゃあ…)

 

 悔しさや虚しさがこみ上げてくるが……でも、これでシン達の所に逝ける……そう思い目を閉じようとしたその時………

 

 

『俺とレイが繋げた未来は……お前達が守ってくれ』

 

 

 浮かんできたのはシンの最後の言葉だった。

 

 そうだ……託されたんだ!未来を!!

 

(それなのに……此処で死んだら会わせる顔がない!)

 

 私はあるシステムを起動させる。それはデスティニーの【ヴォワチュールリュミエール】……私が使いこなせないのは百も承知。

 だけど、これしか手はない。システムを起動さ"インパルス・ヴァルキリー"を再び動かす。

 

 

『お願い、私をシンが戦っていた世界へ!連れていって、ヴァルキリー!!』

 

 

 そして"インパルス・ヴァルキリー"の赤い翼から白い光が溢れ光の翼となる。

 

『まだ落ちないかー!!』

 

 "ムラクモノオロチ"から放たれた高出力ビームだが光の翼を広げた"インパルス・ヴァルキリー"は飛び立ち回避する。

 

 カガリにはそれが"デスティニー"と重なって見えた。

 

『クソ!早く打ち落とせ!!』

 

 "ムラクモノオロチ"が次々と高出力ビームを放つが光の翼を広げた"インパルス・ヴァルキリー"には掠りもしない。そしてすれ違い様に右側のメイン頭部を切り裂く、右側面の頭部が切り刻もうとするがそれよりも早く【シグルドリーヴァ】を振るい右側面の頭部を切り落とす。

 

 しかし、パイロットであるアビーには凄まじい負荷がかかり口から血を流しながら必死に耐えていた。

 

 

(痛い……痛い痛い痛い!!体が引きちぎれそう!!)

 

 

 全身にかかる負荷が洒落にならない。

 

 血管が破裂するのが分かる。心臓が五月蝿いくらいに脈打ち、胸が貫かれたように苦しい。

 骨が軋む。口から血が零れるのがわかる。

 だがその全てを無視した。シンと同じ世界にいくのに必要な代償と割り切った。

 

 

 ビームの雨を潜り抜け背部の三つの頭部をとらえる。左右の頭部に【ランドグリーズ】をダガーモードにして突撃させる。貫かれた左右の頭部は爆発し残った中央の頭部は【シグルドリーヴァ】で切り落とす。

 

『何をしている!さっさと打ち落とせ!!』

『しかし、速すぎてとらえきれません!!』

『何だと!?ふざ『左側面の頭部、破壊されました!!』……クソ!!』

 

 八つあった頭部は残り一つになるまでに破壊され、もはや"ムラクモノオロチ"には勝ち目はない……それを悟ったのか"ムラクモノオロチ"から"アカツキ"が飛び出し此方に迫ってくる。

 

『何故だ!もうシン・アスカはいない!!なのにどうして!!』

 

 そう叫びながら突撃……いや、特攻を仕掛けてくるカガリ・ユラ・アスハ………確かにシンはもう居ない。

 

『だけど、彼の意思は生きている!!』

 

 残った左腕でビームサーベルを振り下ろす"アカツキ"だが……その前に左腕を切り飛ばし【シグルドリーヴァ】を"アカツキ"のコクピットへと突き刺しカガリ・ユラ・アスハはビーム刃の中へ消えていった。

 

 そして光の翼を広げ"アカツキ"を突き刺したまま"ムラクモノオロチ"へと突撃する。

 最後に残った中央のメイン頭部へ"アカツキ"を叩きつける。最後の頭部は"アカツキ"と【シグルドリーヴァ】と共に爆発する。

 

 最後に"ムラクモノオロチ"を完全に破壊するために【ランドグリーズ】をガントレットのように両腕に装備させ……

 

 

『これで最後だぁぁぁぁぁーーー!!!』

 

 

 凄まじい衝撃音と共に"インパルス・ヴァルキリー"が全ての頭部を失った"ムラクモノオロチ"を貫いた。

 

 貫かれ大きな穴が空いた"ムラクモノオロチ"はその後大きな爆発と共に消えていった。

 

 それを見届け光の翼を解除する。

 

 

(こ、これで、後は、"ミネルバ"とごうりゅう、して…いっ…しょに………あ、れ……?からだが、うごかな…い…めのまえ、が……まっくら、に…………)

 

 

 限界を超えた身体は指先一つすらも動かず、重く下がった瞼はやがて完全にその瞳を隠し……私の意識は途切れた。

 

(ねぇ、シン。私は守る事ができましたか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、目を覚ました時……私は病室にいた。聞いた話では私が気を失ったその後、カガリ・ユラ・アスハを失った残党軍は崩壊しザフトの勝利で終わった。

 

 シン達が託した未来を守る事ができてよかったと心から思う。

 そんな時、扉をノックする音が聞こえる。「どうぞ」と声を出す。ミネルバの仲間がお見舞いに来たのだろう……しかし、現れた人物に私は目を見開いた。

 

「ルナマリア……!?」

 

 それは精神を病んでいたルナマリアだった。何故彼女が此処に?驚きを隠せない私に苦笑いを浮かべてルナマリアは席に座った。

 

「体は大丈夫なの?」

「ええ、かなりの重症でしたがリハビリ次第で復帰できるそうです。パイロットはもう止めろと言われましたが……ルナマリアは大丈夫ですか?」

 

「うん、退院できるくらいには回復してね。……ごめんアビーに押し付けて、本当は私がやらないといけなかったのに!」

「気にしないでください……私が自分で選んだことですルナマリアが気にする必要はありません」

 

 涙を流すルナマリアに笑みを見せる。これは私が自分で選んだ道だ、後悔はない。

 そんな私を見て暫く黙ったら後ルナマリアは私に聞いてきた。

 

「どうしてアビーは戦おうって思ったの?」

 

 ルナマリアの質問……その答えは決まっている。

 

 

「託されましたから。シン達に……だから、何かをしなきゃって思ったんです」

 

 

 そう………託された。誰よりも平和を願ったシンとレイに。それを聞いたルナマリアは涙を流し笑みを浮かべていた。

 

「………そうだね。何時までもウジウジしていたら二人に笑われちゃうわ」

 

 涙を吹いたルナマリアの顔は……強気な何時ものルナマリアだった。

 

「ありがとうアビー。私、ミネルバに戻る。シンやレイ……そしてアビーの分まで戦うから!!」

 

 その言葉を聞いたとき安心した。ルナマリアならきっと大丈夫だと、私のパイロットとしての役割は終ったのだと……

 

 

 その後、何気ない話を沢山してルナマリアはミネルバの元へ向かった。それを見届け私は窓から見える綺麗な青空を見つめる。

 

(シン、私は見届けます。貴方達が託し平和になったこの世界を……そして、生まれ変わって貴方に会えたなら伝えたい)

 

 馬鹿な夢物語だろう……だけど、私は伝えたい。

 

 

 

 シン・アスカの人生には後悔もあるでしょう。

 

 

  何度やり直しを望んだかもわからないでしょう。

   

   

   それでも

 

 

 

 

 

 貴方は間違えてなどいなかった

 

 

 

 END

 

 




 
 過去最大の長さですが見てくれてありがとうございました!!今回の話はプロローグの続編……早い話がユニコーンの続編であるナラティブですね。
 今年最後の投稿なので気合いを入れてやりました。
それでは来年も【運命の刃】をよろしくお願いします!

 

機体解説

インパルス・ヴァルキリー

 デスティニーとレジェンドのデータを元にデスティニーインパルスを再設計した機体。分類はセカンドステージプラス。

17.5mmCIWS×2
ビームガトリングガン 

マルチドラグーン・ランドグリーズ

"カオス"の機動兵装ポッドを"レジェンド"のデータで改良した兵装で刀身が短めのビーム製の剣を発生させて敵に接近戦を仕掛けたり、ビームシールドを発生させて敵からの攻撃を防ぐ事ができ、さらにガントレットのように両腕に装備する事が可能
 名前は「盾」を意味するヴァルキリー、ランドグリーズからそのまま取りました。

ビーム砲・ゲイルドリヴル

 両腕に装備されたビーム砲。出番はないがドラグーンの様に遠隔操作できる。
 名前は「槍を投げる者」を意味するヴァルキリー、ゲイルドリヴルから。



小型対鑑刀・シグルドリーヴァ

 小回りのきく様に対艦刀を小型かした武装。威力は「アロンダイト」に劣るがMS戦で重宝する。
 名前は「勝利を促す者」を意味するヴァルキリー、シグルドリーヴァから。
 

 インパルス・ヴァルキリーは簡単に言えばデスティニーインパルスにジュピターヴガンダムをたしたモノです。ジュピターヴガンダムが発売されれば実際に作って画像を出すかもしれません。



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六話・雪の再開・後編

新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!!


「あ、アビー……!?」

 

 炭治郎は………シン・アスカは驚愕していた。最初に襲って来た朱紗丸と矢琶羽は囮であり、倒した直後に十二鬼月の下弦二体が奇襲を仕掛けてきた。

 

 多少負傷したがどうとでもなる。しかし、後ろに居る禰豆子達を庇いながらでは厳しい。

 

 そんな時に現れた少女。金髪だった髪は雪のように白くなっているが前世の戦友であるアビー・ウィンザーと瓜二つだったのだから。

 

「女!我等を十二鬼月と知っての事か!」

 

 邪魔をされた轆轤は殺気をぶつけるが、顔色一つ変えずに少女は語る。

 

「そうですか、十二鬼月ですか……なら私も名乗りましょう。鬼殺隊最高位の"一柱"。【雪柱・降雪(ふるゆき)浴美(あび)】!」

 

 雪柱…それに轆轤と零余子……炭治郎も目を見開く。

 

「は、柱!?な、何でこんな所に居るの!?」

 

 柱……それを聞いた瞬間、零余子が激しく動揺しているのは誰の目から見ても明らかだった。

 

(アビーが柱!?)

 

 炭治郎(シン)が知るアビーはオペレーターだ。確かに戦闘経験はあるが…柱になるほどの実力はない。

 ならば別人…?

 もしそうなら不味いかもしれない。禰豆子達が鬼であることは気づいている筈だ。

 

 

「来てくださったのね。浴美さん!」

 

 そう思っていたが、珠世の言葉に炭治郎は振り向く。そんな炭治郎を安心させる様に珠世は語った。

 

「安心してください彼女は信用できます」

 

 鬼である珠世が信用している。ならば禰豆子も大丈夫か…判断に迷うシンは浴美の口が動くのを見る。それは何かを喋っていた。

 前世のアカデミーの授業で習った読唇術を思いだし、何を言ってるか直ぐに察する。

 

『コイツらを倒してからゆっくり話しましょう……"シンアスカ"さん』

 

 今の炭治郎はデスティニーの面をつけているがそれが分かるのはCEの者だけ。

 やっぱり彼女はアビーだ。疑問は確信に変わったが先ずは邪魔な下弦を倒す。

 

 炭治郎はアビーの隣に立ち日輪刀を構える。一方で轆轤は驚きや苛立ちを隠せずにいた。

 

 雑魚の鬼を囮して血涙の鬼神(炭治郎)を手負いにして逃れ者(珠世)達を人質にして満足に戦えなくして殺しあのお方(無惨)に首を差し出すつもりだった。

 しかし、柱が現れるとは……これを逃せば自分達は確実に殺される。ゆえに全員殺すしかない……用意ではない。しかし、全員殺す事ができれば……

 

「クゥ………ッ!……ふふ」

 

 恐怖で塗られた表情が途端にニヤリと笑う。

 

(今ここで耳飾りの小僧(炭治郎)だけでなく逃れ者(珠世)や柱を殺せば、私は大手柄だ!上弦も夢ではない!)

 

 約束された未来をイメージした轆轤の顔に正気が戻ってきた。隣で怯えている零余子を奮い立たせる。

 

「こうなっては仕方ない……私が柱を殺す、貴様は耳飾りの小僧を殺せ」

(何が仕方ないだ!?柱が居るなんて聞いてない!!)

 

 しかし、零余子は野心より恐怖が増しており炭治郎を殺したら逃げる算段をたてていた。

 

「どうやら下弦の弐は私をご指名のようですね。下弦の肆は任せていいですか?」

 

「………大丈夫なのかアビー?」

「…………心配しないでください。今は、後ろに居るアビー(過去の私)ではなく、共に戦う降雪浴美(雪柱)です」

 

 

 そう言って笑う浴美を炭治郎は信じ、轆轤を任せる事にして零余子に日輪刀を向ける。

 

「なら……行くぞ浴美!!」

「ええ、任せてください!!」

 

 

 再び戦友と肩を並べられる事に喜びを感じながら炭治郎と浴美はそれぞれの相手に向かった。

 

 

 

ーーーー

 

「それにしても貴様、小僧はともかく何故鬼である逃れ者(珠世)達を庇う」

「それを貴方に言うとでも?」

  

 轆轤の言葉に耳を貸さず浴美は斬りかかるが予想していたのだろう避けられる。

 

「まぁ、そんなことは些細な事だ。どうせ貴様等は殺され私の糧となるのだから!」

 

 轆轤は腕を振るう、すると何もなかった筈の空間から突然、包丁や小刀が現れ浴美を切り裂こうと飛んでくる。

 

 通常では考えられない現象だが、雪柱として数多くの鬼を斬ってきた浴美は驚くことなく……

 

 

「壱の型・初雪の雪化粧」

 

 

 先程、炭治郎を助けるために放った白い斬撃で全て弾き飛ばす。そして浴美は轆轤の血鬼術の正体を見抜く。

 

「血を刃……鉄に変えて操る能力ですか」

 

 轆轤の血鬼術の正体は自らの血を刃等の鉄に変えて自在に操る事だった。

 見破られたが特に気にすることなく轆轤は余裕の笑みを見せる。

 

「確かにその通りだが………わかった所で貴様の死は変わらない!!」

 

 すると今度は浴美の上から無数の刃物が雨の様に降り注ぐ。それを認識した浴美は迎撃よりも回避を選択して避けるが……

 

「無駄だ!私の血から生まれた刃は私の手足となる!」

 

 避けた筈の刃が向きを変えて襲いかかる。回避は無理と判断して迎撃に転じる。

 

 

「面倒ですね。雪の呼吸…弐ノ型、初冠雪(はつかんせつ)細雪(ささめゆき)!!」

 

 

 それは夏が終わり初めて山を白く染める、細やかにまばらに降る雪の如く放った突きの連撃が刃の雨を防ぐ。

 鬼の血から生まれた刃なら日輪刀で消し去ることができる。

 

 そのまま、轆轤の頸を斬るべく駆け出す。轆轤は再び腕を振るう動作をする、再び刃を放つためか……

 

(奴は私が刃しか放てぬと思ってる筈だ……次に放つのが鉄の糸だとは思うまい!!)

 

 相手は下弦とはいえ十二鬼月、そんな筈がなかった。

最初は刃しか生み出さず、浴美に自分は刃しか生み出させないと思わせ、人の目には見えにくいワイヤーとも言うべき鉄の糸で浴美の体を真っ二つにする算段だった。

 

(終わりだ!!)

 

 そして放った鉄の糸は浴美の体を切り裂こうと迫る。自らの勝利を確信し笑みを強める……浴美がそれを避けるまでは。

 

「なっ!?」

「私言いましたよね?鉄に変えてるって」

 

 生み出せるのは刃だけでなく鉄ならば他の物をうみだせても可笑しくはない。そうして注意してたら案の定、鉄の糸を放ちこちらを切り裂こうとしていた。呼吸を使って身体機能を強化しているのでバッチリ見え避けた浴美は動揺し決定的な隙を見せた轆轤の頸に狙いをつける。

 

「く、くるな!?」

 

 戦闘が始まってから初めて恐怖を感じた轆轤は咄嗟に無数の刃物を放つ。それは四方八方に放たれ容易に近くことはできないが……

 

 

「雪の呼吸…参の型、秋雪・回雪舞!!」

 

 

 雪柱には通じない、秋に降る回雪の様に舞って刃物を避けながら轆轤の頸をすれ違いざまに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

___________

 

 

「来るな、来るなァッ!!」

 

 一方で下弦の肆、零余子と炭治郎の戦闘も刻一刻と終わりに向かっていた。恐怖に顔を歪めながら零余子は腕を炭治郎に向ける。

 

 すると地面の一部が盛り上がり槍の形となり、相手の体に突き立てる。

 何十、何百。そのすべてが零余子の血で強化された地面でできている。

 

 しかし、炭治郎には通じない。

 

「水の呼吸・参ノ型…流流舞!」

 

 水流のごとく流れるような足運びで避け、零余子の懐へと踏み込む。

 目を見開きながらも今度は炭治郎の足元から地の槍を放ち串刺しにしようとする。

 

 普通なら避けきれず死ぬだろう。

 しかし、炭治郎はスペシャルだ。それすらも回避して腕を切り裂いた。

 

(なんだ!?なんなんだコイツは!?)

 

 明らかな不意打ちも通じない、まるで攻撃がくることがわかっていたような動きだった。

 切り裂かれた腕を再生させながら零余子は炭治郎に恐怖していた。

 

(慣れれば便利だな……相手がどっから攻撃してくるかわかる)

 

 炭治郎は零余子が自分の足元から不意打ちしてくることを理解していた。

 炭治郎は今、デスティニーの力を使っているが強化されるのは身体能力だけではなく。デスティニーに搭載された高性能レーダーの名残か炭治郎は高い空間把握能力を手にいれた。

 これにより何処から攻撃がくるか、敵や味方の居場所等がわかるようになっていた。

 

「何なの…!」

「………?」

 

 ボソッと零余子が喋ったのを炭治郎は逃さなかった。

 

「何なんだお前は!?柱でもないのに!?ふざけるな!ふざけるな!!私はまだ死にたくないんだ!!!」

 

 

 狂ったように叫び出す零余子を炭治郎は冷めた目で見ていた。

 

「…………お前に食われた人達もそう思ってたさ」

 

「馬鹿にするな!そんなことはわかってるんだよ!!」

 

 叫びながら零余子の周囲に大量の地槍が形成され始める。どれも炭治郎を貫こうと先端がとても鋭く尖っていた。

 

「死ね……死ね死ね死ね!!お前が死ねば私は助かるんだ!!そしてあの方から血が貰える!!!」

 

 地の槍が炭治郎に迫る。どれも大きく鋭く、一本でも当たれば無事ではすまない……しかし、当たらなければどうと言う事はない。

 

「死への恐怖がわかるなら………何故、アンタは他の誰かを殺せるんだ!!」

 

 

 水の呼吸 拾ノ型 生生流転!!

 

 

 迫り来る地槍を回転しながら繰り出される連撃で炭治郎は次々と斬り落としていく。しかも回転を増すごとに威力が増す。叫びながら迫る炭治郎はまるで荒れ狂う龍の如き動きで零余子に迫る。

 

 このままでは斬られると悟った零余子は再び足元からの奇襲を仕掛けるが炭治郎は察知して飛び上がり空中で狙いをつける。

 

(嫌だ、嫌だ!!死にたくない!!助けてください、無惨様!!)

 

 零余子からは恐怖の臭いがした。涙があふれて、怖くて怖くてたまらないのが見てわかる。

 

 

 だからだろうか……前世で誰よりも死を恐れ利用されたあの娘に……守ると誓ったのに、守れなかったステラが脳裏に過った。

 

 

(……………伍ノ型)

 

 

 生生流転を止め日輪刀を持ち直し別の技を放つ。

 

 

 

「干天の慈雨」

 

 

 

 そして気づけば零余子の頸は斬られていた。

 

(斬られた!?斬られたのか!?頸を斬られた!!)

 

 零余子は自分の頭が地面に向かって落ちていくのを感じながら、漠然と自分が敗れたことを理解した。

 

 それなのに痛みは感じなかった。

 

(どうして少しも痛くないの?どうして苦しくないの?………どうして……暖かいの?)

 

 体が灰になって消えながらもその事を考えていた零余子の意識は………

 

「もう、眠れ…」

 

 その言葉を聞いて途切れた。

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 灰となっていく零余子を炭治郎は見つめていた。最後に放ったのは【伍ノ型・干天の慈雨】

 数多くある鬼殺の技で唯一斬られた者に殆ど苦痛を与えない慈悲の剣。

 

「相変わらず優しいのですね……シン」

 

 声がして振り向くと無傷の浴美がいた。どうやらそっちも終わったようだ。

 

「久しぶり……アビー」

 

 仮面をとって浴美に微笑む炭治郎。

 

 アビー……そう呼ばれるのは何年ぶりだろうか……気づけば浴美は涙を流し炭治郎に抱きついていた。

 

「っ!ええ、やっと貴方に会えた!伝えたい事が多くあった!!」

 

 

 それから血の回収は珠世に任せて炭治郎と浴美は二人で話す為に裏に回った。

 

「そうか……CEは平和になったのか」

  

 それから炭治郎(シン)浴美(アビー)から様々な事を聞いた。アビーがパイロットになった事は流石の炭治郎も驚いたが、心残りだったCEの事も心配はなくなった。

 

「シン……貴方は後悔していますか?」

「え?」

 

 後悔しているか……正直難しい。

 家族を失い、我武者羅に力を求めだが、守りたかったステラは守れなかった。

 それでも自分はやれるだけの事はやって死んだ。自分が死んだ後、自分と親友が望んだ平和な世界がある。

 

 悩む炭治郎を見て浴美は言う、ずっと伝えたかった言葉を……

 

「……………シン・アスカの人生には後悔もあるでしょう。何度やり直しを望んだかもわからないでしょう。

それでも……………貴方は間違えてなどいなかった」

 

 そう言って炭治郎を抱き締める。

 浴美の言葉に目を見開くが………何処か救われてる自分が居る事を理解する。

 

 自分の人生が意味がアルかナイのかなんて自分で決める事だ。だけど、シン・アスカとして生きた事が多くの人を救った。貴方の人生は意味があったと誰かに言われれば救われるのは当然だ。

 

「………………そうか……ありがとアビー」

 

 炭治郎の頬を熱い何が流れていった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 それから夜が明け朝日が昇った。炭治郎は浴美に連れられボロボロになってしまった屋敷に足を踏み入れ地下室の階段を下りていくと……

 

「禰豆子!」

 

 珠世や愈史郎……禰豆子が居た。

 禰豆子も炭治郎に気付き飛びつく。二人はしばらく抱きしめあったが、禰豆子は炭治郎から離れると元の道を戻っていく。

 

 そして珠世に炭治郎にしたのと同様に抱き着いた。それを見た愈史郎が激昂するが珠世はそっと静止した。

 

「禰豆子さんがこのような状態なのですが、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫ですよ。きっと二人のことを家族のだれかだと思っているのでしょう」

 

 すると浴美が禰豆子を優しく撫でる。

 

「…………暗示がかかってるんですね。人を守り鬼を倒す暗示が」

 

「そうだけど、浴美は柱なんだろ。禰豆子を……「斬りませんよ。この娘は人を襲わない。なら斬る理由がありません。それに私は今、珠世さんと協力して鬼を人に戻す研究をしてるんです」………だから珠世さん達と面識がありこの屋敷に来たのか」

 

 浴美の事に納得した所で困惑する珠世に言う。鬼である珠世達を禰豆子が家族に見えた理由を……

 

「貴方達を人間だと判断した理由は簡単ですよ。貴方達の【心が人】だからです、きっと」

「っ!?」

 

「禰豆子には鱗滝さんが暗示をかけたのですが、今回は自分の意思によるもの……禰豆子が信じるなら俺も珠世さん達を信じ……」

 

 途中まで言いかけた炭治郎の言葉が不意に途切れた。珠世の薄紫色の瞳から、大粒の涙がこぼれだしたからだ。それを見た炭治郎や浴美は困惑する。

 

 一方珠世は禰豆子をぎゅっと抱きしめ、「ありがとう」と呟く。それを愈史郎は複雑そうに眺めていた。

 

 

「私たちはこの土地を去ります。鬼舞辻に近づきすぎました。早く身を隠さなければ危険な状況です。それに医者として人と関わると鬼だと気づかれることもある。特に子供や年配者は勘が鋭いです」

 

「ええ、それがいいと思います。鬼舞辻は貴女も狙っています」

 

「はい、浴美さんも今回はありがとうございました。ところで炭治郎さん。禰豆子さんは私たちがお預かりしましょうか?」

 

「珠世様!?」

 

 珠世の提案に愈史郎が同時に声を上げ心底いやそうな顔で首を振る。

 

「絶対に安全とは言い切れませんが、戦いの場に連れていくには危険が少ないかと」

 

 鬼舞辻に狙われた以上、炭治郎はそのほうが禰豆子にとっては安全である可能性が高いかもしれないと考える。

 

 するとそんな考えを見抜いたのか禰豆子が炭治郎の手をそっと握った。

 

(…………そうだよな)

 

 炭治郎は禰豆子の手を握り返す。そして優しく微笑み珠世と向き合う。

 

「気遣いありがとうございます、ですが俺達は一緒に行きます。離れ離れにはなりません」

 

 かつて自分は家族を殺された。今回は守る事ができたが、禰豆子は人を奪われてしまった。

 だけど父が教えてくれた。まだ取り戻せると……

 必ず取り戻す。そして全てを守ってみせる!

 

 炭治郎の言葉にも表情にも一切の迷いはなかった。それを見た浴美は微笑み珠世は納得したようにうなずく。

 

「では、気をつけてください。下弦が通じない事を知ったの今、次は上弦を出してくるかもしれません。お二人の武運をお祈りします」

 

「ありがとうございます、ですが大丈夫です。俺は一人ではありません」

 

 そう言って炭治郎は胸に手を当てる。例え上弦が襲いかかってきてもデスティニーとなら大丈夫。

 

(そうだよな、デスティニー)

 

 不思議とデスティニーが喜んでくれた気がした。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

「南南東!!ツギノバショハ南南東!!」

 

 それから珠世達と別れた炭治郎は鎹烏の導きに従い次の目的地に歩いていた………浴美と共に。

 

「いいのか?柱なのに俺のような下っ端と一緒で」

「下弦を四体倒して何言ってるんですか……貴方はもう柱になる条件をクリアしているんですよ」

「俺は地位に興味ない」

 

 下弦でも十二鬼月を倒したなら柱になれるが興味無しの炭治郎に浴美は呆れていた。

 

 

「ハァ、そう言うと思いましたよ。……質問の答えですが、貴方と一緒に居たい……じゃあ、駄目ですか///」

 

 

 少しドキっとする言い方に驚いた炭治郎の言葉は……

 

 

「それってどう「頼むよーーーーー!!」……え?」

 

 

 道端で女性にしがみつくヤバい金髪の少年の声に消えていった。

 

 

 

 

END

 

 




 雪柱・降雪浴美

 平和になったCEを最後まで見届けたアビーはこの世界で降雪浴美として転生する。
 アビーとしての記憶が蘇ったのは育ての元で修行していた時、親は居なく思い出せないので捨て娘だったのだろう。
 
 呼吸は雪の呼吸。日輪刀の色は薄い白。

 呼吸自体は存在したが…水の変幻自在さと、風の荒々しさをあわせ持つ難易度の高い呼吸で使い手が全く居なく、元雪柱である育ての元で血の滲む修行の末に習得し柱となった。
 
 柱の権力を手に入れてからは鬼になった者を人に戻す研究を始める。
 その為、正義や何処かの水柱と同じで不死川と伊黒に嫌われている。

 年は16歳。





 次回予告!!

 かつての戦友と再開した炭治郎。しかし、それは新たなる出会いの始まりだった。


 次回・運命の刃

【最弱の少年と山の王】

 新たな出会いに何を感じる?炭治郎!!
 


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。








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七話・最弱の少年と山の王

 


「何ですか………あれ?」

 

 道端で女性にしがみつき求婚を迫る金髪の少年。摩訶不思議な光景で浴美にそう聞かれるが炭治郎にもわからず、さっきまで叫んでいた鎹烏も黙り首をかしげていた。

 

 その時、「チュンチュン」と何処かで見たことあるような雀が炭治郎の手に止まり、「チュンチュン」と何かを語りかける。

 

「よく見たらあの変人、日輪刀を持っていますね。となると鬼殺隊士でこの雀は鎹烏?ですが、何を言っているのかわかりませ…「そうか、なんとかしてみる」……何でわかるんですか?」

 

 「チュンチュン」で何を理解したのか……呆れている浴美を余所に炭治郎は変人を女性から引き剥がす。

 

「アンタ、道の真ん中で何をやっているんだ!その娘は嫌がっているだろ!後、雀を困らせるな!!」

 

 いや、何で雀の言葉がわかるのだろうか…呆れる浴美だが変人は炭治郎を見て何かに気づく。

 

「あ、お前は最終選別の「アンタみたいな奴は知人には存在しない!知らん!!」 えーーーー!!あっただろうが!?あっただろう!?お前の問題だろう!!記憶力の!!」

 

 確かに最終選別を合格した者の中に「死ぬわ死ぬわ」と言っていた、この変人も居たが…………正直関わりたくない。

 

「もう大丈夫です。安心して家に帰ってください」

「はい、ありがとうございます!」

 

 とりあえず見ているだけの浴美は絡まれた女性を家に帰した。それに気づいた変人が止めようとしたが……ビンタされフラれてしまった。

 

「とりあえずアンタはもうこんな事は止めるんだな」

「うるせぇ!お前には関係ないだろ!!」

 

 そんなことを言い出す変人を炭治郎と浴美は……

 

「「……………………」」

 

 別の生き物を見る目で見ていた。

 

「何だよその顔!?止めろーー!!何でそんな別の生き物を見る目で俺を見るんだよーー!?

 お前ーー!!責任とれよ!?お前のせいで結婚できなかったんだからーーーー!?」

 

 逆切れで炭治郎を指差す変人を二人は……

 

 

「「……………………」」

 

 

 びっくりする程、呆れていた。

 

「おいーーーー!?何か喋れよ!!…………いいか!俺はもうすぐ死ぬ!次の仕事でだ!俺はめちゃくちゃ弱いんだぜ!ナメんなよ!!と言うか何でお前はそんな綺麗な人と旅してんだよ!?ふざけんよ!?」

 

 泣き叫び恥を晒しまくっている変人………

 

「……………行くか」

「そうですね、時間の無駄です」

 

 相手にするのもめんどくさいので二人は目的地に向かって歩き出した。

 

「嘘でしよ!?置いてく普通!?ま、待ってよ!!」

 

 一人は嫌なのか変人も着いてきた。

 

 

 

 

 

 そして今、浴美はその事をとても後悔していた。鎹烏に導かれ山奥の屋敷にたどり着いた炭治郎と浴美。そして着いてきた変人……善逸。

 

 その屋敷の近くの森で怯えていた少年少女、正一とてる子の話を聞くと夜道を歩いていたら化け物が兄を連れていってしまった。怪我をした兄の血をたどりこの屋敷に来たとの事。

 

 それを聞いた炭治郎と浴美は連れていかれた兄を救出するために屋敷へと入った。しかし、なんと正一とてる子が追いかけて来たのだ。

 善逸は屋敷の中に行きたくないと泣き叫び駄々をこねた。もともと期待してなかったので二人の側に居て守れと言ったのだが。あろうことか善逸は正一とてる子にしがみつき怖いやなんだと泣き叫び恥を晒しまくった。

 

 当然そんな善逸は頼りなく炭治郎と浴美を追いかけて来てしまったのだ。

 

 それを聞いた炭治郎は追いかけてきた善逸をぶん殴った。ふざけなと……確かに命懸けの戦いは怖い、炭治郎や浴美だってそうだ。

 だが、必要以上に泣き叫びただでさえ不安で一杯な正一やてる子を追い詰め何時死ぬかもわからない場所へと向かわせたのだ。

 

 とりあえず二人を外に運ぼうとしたところで恐らく鬼の血鬼術だろう、次の瞬間部屋が変わり炭治郎とてる子、浴美と正一と善逸に分断されてしまった。そして浴美達の前に舌が攻撃手段の鬼が現れたのだ。

 

 

 鬼を間近で見てしまった正一は恐怖で体が震えてしまったが……

 

「正一君、何も心配はいりません。君は私が必ず守って見せます」

「あ、浴美さん……」

「少し離れていてください」

 

 そんな正一を安心させるため浴美は日輪刀を抜き正一に微笑む。それで多少は落ち着いたのだろう正一は部屋の隅に避難した。

 

「ねぇ、浴美さん俺「貴方は知りません。何処へでも行ってください」なんでー!?」

 

「正一君達をこんな場所に追い込んだのは貴方でしょう!?戦いが怖いと叫ぶのは構いません。ですが、自分よりも幼い子供に泣きつき恥をさらす?貴方が持ってるその刀は何ですか!?」

 

「で、でも!俺は凄く弱「だったら戦場に立つな!!」

 

 善逸を怒鳴るが当然、鬼から目を離さない。飛んでくる舌をかわす。

 

「仲間割れはもういいか?女、お前は最後のお楽しみだ。まずはあの金髪のガキの脳味噌を耳から吸ってやるぞ!」

 

 どうやら舌の鬼は善逸を標的にしたようだ。そして標的にされた善逸は………

 

「………………」

 

 なんと気絶してしまった。

 

(前世も含めて初めてですよ……こんなに酷い人は。一体育ては彼の何を見ていたんですか?)

 

 まぁ、そんな事はどうでもいい。さっさとこの鬼を斬って正一を外に避難させるのが先だ……そう考え飛んでくる舌を斬ろうとしたその時……

 

 浴美が斬るよりも先に鬼の舌が斬られた。斬られた鬼は勿論、浴美ですら唖然として……気を失った筈の善逸を見ていた。

 

(彼は間違いなく気を失っている…なのに何故刀を握っているのですか!?)

 

 それに気配も変わっている。先程の弱々しいモノからまるで雷のように激しく変化しておりまるで別人のようだ。善逸は居合いの構えをとり呼吸をする。

 

 

 

 

「雷の呼吸壱ノ型 霹靂一閃!」

 

 

 

 それはまさしく雷が落ちたかのような音と共に善逸が消え、一瞬の内に鬼の頚を切り裂いた。

 

 まさに電光石火の一撃を目の当たりにし浴美は善逸の評価を改める。

 

(雷の呼吸……実際に見るのは初めてですがこれ程とは。それに善逸のあの変わりよう……恐らく、普段戦闘力を見せないのは恐怖で体が強張って動かないから、しかし眠ることで邪魔な感情が一切消え失せ、本来の身体能力を発揮できるようになる)

 

 そう結論付け浴美は正一達を連れ屋敷を出た。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 そして、てる子と共に分断されてしまった炭治郎は無事にてる子達の兄を保護して屋敷に巣くっていた鬼を倒した。

 元は十二鬼月とか言っていたが下弦を四体倒した炭治郎の敵ではなかった。

 

「あの、炭治郎さん?」

「……………俺にもわからない」

 

 どうやら面倒事は終わらないらしい。二人を連れて屋敷を出た炭治郎はため息をついた。

 

「悪いことをしたら「ごめんなさい」って言うんですよ。はい、言ってみてください」

 

 炭治郎の目の前には震える善逸と正一………猪の皮をかぶった上半身裸の謎の少年に説教する浴美だった。猪男の横はギザギザに刃こぼれを起こした日輪刀が二本あるので鬼殺の者だろう。

 

「ふざけんな、女!?乳もぎ取「ご・め・ん・な・さ・い」………ごめんなさい」

 

 反論するが反対を許さない浴美の威圧感に飲まれ謝罪する猪男。

 

 善逸から話を聞くと猪男……伊之助は屋敷から脱出した浴美達の前に現れいきなり浴美に戦いを挑み返り討ちにあった。しかも炭治郎や善逸と同じ最終選別を合格した五人目だと言う。

 

「……………とりあえず屋敷の人達を埋葬しよう」

「………そうですね。あのままにしてはおけません」

 

 あの屋敷には殺された人の死骸が多くあった。そのままにする事はできず、埋葬しようと再び屋敷に入ろうとするが……

 

「おい、お前!ビンビンくるぜ!お前もあの女と同じ強者だろ!!勝負しろ!!」

 

 伊之助が勝負を仕掛けてきた。

 

「するかそんな事。それより殺された人達を埋めて埋葬するほうが先だ」

「あ?生き物の死骸なんか埋めてなんになる!?」

 

「炭治郎、あの子は猪に育てられたって言うんですよ」

 

 コソコソと浴美が教えてくれるが……にわかに信じられない。しかし、嘘の臭いは全くしないし伊之助自体、まるで獣のようだ。とても人に育てられたとは思えない。

 

「…………わかった。もし、俺が勝ったら埋葬するのを手伝ってくれ」

「おう!かまわないぜ!猪突猛進!猪突猛進!!」

 

 こうして生き生きと炭治郎に向かっていく伊之助だが炭治郎に勝てる筈もなく埋葬を手伝うはめになった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

「本当にありがとうございました!家までは自分達で帰れます」

「気をつけてな」

「お守り、肌身離さず持っていてくださいね」

 

 その後、無事に埋葬できた炭治郎達は山をおり正一達と別れた。拐われた兄はどうやら【稀血】と呼ばれる。鬼にとって百人分の栄養のつまったご馳走だと言う。このままではまた襲われるので藤の花がつまったお守りを渡した。

 

 

「夜も遅いですし、藤の宿に行きましょう」

 

 浴美が言う藤の宿は前に鬼殺隊に命を救われた一族で鬼殺隊なら無償で尽くしてくれるそうだ。

 

「そうだな、行こう。…………余計なのも一緒だが」

 

 そうため息をつき後ろを振り替えると……

 

「ハァー!ふざけんよお前!浴美さんみたいな美人と同じ宿で寝る!?」

「かまぼこごんぱちろう!!お前に勝つ!!」

 

 何故かついてくる善逸と伊之助がいた。炭治郎は二人を連れて行くつもりはなかった。問題児なのもそうなのだが自分は無惨に狙われている、二人を巻き添えにしたくはない。

 

 話をしようにも伊之助は最も善逸も一人は嫌だとか浴美と一緒に旅をするのが気に入らないとか話を聞かない。

 とりあえず宿で疲れをとってから説得しよう。そう考え宿に入った。

 

 ちなみに……禰豆子を見た善逸は………

 

「お前ホントにふざけんよ!!浴美さんみたいな綺麗な人だけじゃなく禰豆子ちゃんみたいな可愛い女の子とアハハウフフしてたのかよ!?粛正だよ!!お前なんか粛正してや「うるせぇ!」ーあべし!?」

 

 あまりに五月蝿くて伊之助にぶっ飛ばされた。

 

「私達は別の部屋で寝ましょう。禰豆子さん」

「ム!」

 

 こうして長かった1日が終わった。

 

 

 

 

 そして次の日……炭治郎は善逸と伊之助に別れるように言ったが。

 

「だから俺と一緒にいたら上弦が襲ってくるかもしれないんだ!」

「望むところだ!!その上弦ってのを倒してお前に勝つ!!かまぼこごんぱちろう!!」

「なら、俺を守ってくれよ~!!お兄さ「誰がお兄さんだ!!」

 

 全く聞く耳を持たない。後、禰豆子にはいよる善逸はなんとしても引き剥がす。

 

 そんな時、浴美が話に入る。

 

「伊之助君、善逸君……強くなりたいですか?」

 

 浴美の言葉を不思議がる二人。

 

「私達の戦いはとても半端な者達では生き残ることはできません。それでも私達について行きたいのなら最低限、自分の身は自分で守れるように稽古をつけてあげます」

 

 まさかの浴美の言葉に驚く炭治郎だが、浴美の真意を理解する。此処まで否定すると無理矢理でもついてくるだろう。ならば、強くすればいい。

 確かに今は半端な実力だが、善逸と伊之助の潜在能力は高い。開化すれば必ず強くなる。

 

 それに禰豆子の事も理解してくれたし、鬼に対して差別意識もなく組織への執着心も薄いので行動を共にするには悪くない。

 

「へ!上等だ!!底を見せんじゃねぇぞ!」

「いい返事です伊之助君。それで善逸君は?」

「イヤー!また、辛い特訓とはイ「では、さようなら。何処へでも"一人"で行きなさい」え?わ、わかった!わかりました!やりますよ~!」

 

 

 こうしてなんとも個性的は二人が仲間に加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『面白い仲間ができましたね……マスター』

 

 それは何処と説明するには余りも難しく、余りも曖昧で、何処までも透き通った青空とそれを移す水面の世界に"誰か"が立っていた。

 

 そんな"誰か"を見たら浴美(アビー)正義(アスラン)は驚きを隠せないだろう。

 

 だってその"誰か"はシン・アスカの姿をしていたのだから。ザフトの赤服を着た【シン?】だが、一つだけ違うところがある。

 

 その目は真紅ではなくデスティニーと同じ緑色に染まっていた。

 

 シンの姿をした"誰か"の正体はデスティニー。

デスティニーは此処、炭治郎の心の世界で何時も己の主とその仲間達を見守っていた。

 

『…………………それにしても、仲間ですか』

 

 善逸と伊之助、個性的な仲間ができた事に喜んでいたデスティニーだが不意に浴美が炭治郎に言った言葉を思い出す。

 

 

【アスラン・ザラはこの世界に居ます】

 

 

 その一言は炭治郎は勿論、この心の世界で聞いていたデスティニーも驚愕した。

 確かにアビーがこの世界に居るのだ。他に居てもおかしくはないが……よりにもよって主を裏切ったアスラン・ザラとは……

 

 奴も記憶を取り戻しており、浴美と同じく柱として鬼殺隊に居るそうだ。

 

【彼は現在、私の人に戻す研究に協力しています。………正直彼をどうしたらいいか私にはわかりません】

 

 変わったと言うことだろうか?例えそうだとしても奴のしたことは許される事ではない。

 

 

『貴方はどうするのですか?マスター』

 

 

 斬るのか……それとも許すのか………どの選択を選んでも自分はその意思を尊重しよう。

 

 

 そう言ってデスティニーは何処までも透き通った青空を眺めていた。

 

 

 

END

 

 




次回予告!

 善逸と伊之助の特訓が始まって数日。そんな時に緊急の指令がはいり、炭治郎達は"那田蜘蛛山"ヘ向かう。
 そこで多くの出会いと再開があると知らずに……

次回・運命の刃

【出会いと再開】

 その出会いと再開が意味するモノを……見極めろ、炭治郎!!



 読了ありがとうございました。




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八話・出会いと再開

 
 さぁ、いよいよ那田蜘蛛山編に突入だ!

 それではどうぞ!!


 

 

 善逸と伊之助……個性的な二人が仲間に加わた。炭治郎達はそんな二人が自分達の旅で死なないように稽古をつけることにした。

 

 全集中の常中を習得させるために空気の薄い山の山頂で走り込みや川に放り込んだりと……とにかく肺を鍛えた。

 

 そして数日がたった頃、善逸と伊之助は浴美に渡された瓢箪を持ち息を吸い込み瓢箪に吹き込み破裂させ、破片をあたりに飛び散らせる。

 

「しゃあ!!どうだ!ざっとこんなもんよ!!」

「ええ、よくやりましたね伊之助君」

 

 まだ、常中には至らないが出会った頃よりは格段に肺活量が強化された伊之助の誉める浴美。一方で善逸は禰豆子に怪盗ダイブする。

 

「禰豆子ちゅわ~ん!!俺頑張った「妹に抱きつくな」そんな~!いいじゃないですか、お兄さん!!「誰がお兄さんだ!!!!」

 

 が、炭治郎に止められる。そんな賑やか時間を過ごしていたら……

 

「カァ~!北北東。次ノ場所ハ北北東!"那田蜘蛛山"!那田蜘蛛山ヘ行ケー!」

 

 鎹梟はそれだけを告げると、窓の外へ飛び去る。それを聞いた炭治郎達はすぐさま身支度を整える。

 

 

「では俺達は行きます。いろいろとお世話になりました」

 

 炭治郎達は見送りに出てくれた宿の主の老婆に向かって頭を下げる。それに合わせて伊之助もぎこちなくとはいえ頭を下げる。

 

 老婆も彼らにこたえるように深々と頭を下げる。そして頭を上げると、袂から火打石を取り出した。

 

「では、切り火を……」

 

「ありがとうございます」

 

 炭治郎がそういうと、伊之助は不思議なものを見るように、老婆に顔を向けた。そして老婆が火打石を二回打ち鳴らすと、カチカチという音と共に火花が飛び散る。それを見た伊之助は驚きの声を上げる。

 

「何すんだババア!!」

 

 いきなり大声を上げて老婆に殴りかかろうとしたのを浴美が止める。

 

「伊之助君、これは切り火というお清めの一種で害はありません」

「よく分かんねぇけど、害がないなら別にいいか。」

 

「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ」

 

「誇り高く?ご武運?どういう意味だ?」

 

 伊之助の言葉に炭治郎は手を顎に当て少し考えながら答える。

 

「改めて聞かれると難しいな。誇り高く…自分の立場を理解して、その立場であることが恥ずかしくないように正しく振舞うこと…というべきか」

 

 炭治郎が説明するが、伊之助はわけがわからないと言った様子でさらに口を開く。

 

「その立場ってなんだ?恥ずかしくないってどういうことだ?責任っていったい何のことだ?なんでババアが俺たちの無事を祈るんだよ?何も関係ないババアなのになんでだよ?ババアは立場を理解してねえだろ?」

 

「他人を思いやるのが人間というものですよ」

 

「…やっぱ訳分かんねぇ」

 

「いつかわかる時がきますよ。とにかく急ぎましょう…何かが起こりそうな予感がします」

 

「あぁ、急ごう」

 

「あ…俺が先に行くんだ!負けるかーーーーー!!」

 

 炭治郎と浴美は言葉を切り上げるとそのまま急加速しそれに対して闘争心に火が付いた伊之助が追いかける。

 

「イヤー!置いていかないで~!!」

 

 善逸も泣きながら追いかける。

 

 

 

 

 

 

 炭治郎達が那田蜘蛛山についた頃は既に夜になっており明らかに異常であると炭治郎と浴美は気づく。

 

「浴美……」

「ええ、明らかに何かありますね。デスティニーはなんて言ってます?」

 

 浴美にはデスティニーの事は伝えてある。コソコソ話では耳のいい善逸に聞かれてしまうので、ザフト式の手話で会話する。

 

 炭治郎に血涙の痣が現れ強化された第六感が那田蜘蛛山に居る者の気配を感じ取った

 

 

「…………何体かの鬼が居る。多くの隊員も居るが……何かがおかしい………それに"下弦"が居る」

 

 

 それを聞き浴美の表情が強まる。下弦が居るのなら普通の隊員が何人いようが相手にならない。残る下弦は壱と伍……

 

「どっちだと思います?」

「たぶん、伍だと思う。気配がそんなに強くない」

「おい!なんか居るぞ!!」

 

 炭治郎と浴美は伊之助の声に反応し指さす方を見るとボロボロの隊員が倒れていた。

 瞬間、炭治郎と浴美は気づく。隊員に何かの糸が繋がっていたのだ。

 

「!、浴美!!」

「ええ!壱の型・初雪の雪化粧!」

 

 浴美が放った斬撃がその糸を断ち切った。

 

「大丈夫ですか?私は雪柱……援軍に来ました」

「は、柱…!柱が来てくれた!」

 

 柱である浴美を見て安堵の涙を流す隊員。

 彼から話を聞くと指令を受け、十人ほどの集団でこの山に入った。だが、しばらくして隊員たちが突如斬りあいを始めたという。そして彼も巻き込まれそうになり、命からがらここまで逃げてきたということだった。

 

「違和感はそれか………あの糸で操り人形のように隊員を操作していたのか。……浴美」

「ええ、私が伊之助君と善逸君を連れて行きます」

 

 自分の意図を理解した浴美に頷き。炭治郎は上に来ていた着物を籠の中に入れデスティニーの仮面をつける。

 

「じゃあ気をつけろよ」

 

 そう言って炭治郎は先に山の中へ消えていった。

 

「では、私達も行きましょう」

「おう!!腹がすくぜ!!」

「………腕がなるです」

 

「じゃあ……俺は此所で待って「じゃあ、善逸君は今日でさようならですね」ヒィ!行きますから一人にしないで~!!」

 

 こうして浴美達も突入した。

 

 

 

「蜘蛛の巣だらけじゃねえか!邪魔くせえ!」

 

 山へと入った伊之助は被り物の下で顔を思い切り顔をしかめる。ふとあたりを見回すと、あちこちに蜘蛛の糸が絡みつき、かすかな月明かりで不気味に光っていた。手についた蜘蛛の巣を乱暴に振り払い悪態をついた。そんな彼の背中に、浴美は声をかける。

 

「蜘蛛や糸には注意をしてくださいね……他にも生存者が居ましたか」

 

 浴美達は生存者を発見する。その眼には絶望が浮かんでいた。

 

「援軍なのか…」

「ええ、雪柱。命を受け援軍に来ました。状況の説明をお願いします」

 

 一応、彼からも説明してもらったが…さっき聞いた話と対して変わらなかった。その時、あたりから奇妙な音が聞こえてきた。生存者の隊員は、音に聞き覚えがあるのか瞬時に顔が青くなる。音はこちらに近づく様にどんどん大きくなっていく。そして不意に、彼らの背後で何かが動く気配がした。反射的にその方を向くと森の奥から一人の隊士がこちらに向かってくる。さらに森の奥から次々と他の隊士たちも現れた。全員口から血を流し、目の焦点が合っていない者もいる。

 

 そしてそのうちの一人が刀を構え浴美達に斬りかかってきた。

 

「ヒィ!!ヤバいよコイツら正気じゃない!!」

 

「ハッハ!こいつらみんな馬鹿だぜ。隊員同士でやりあうのはご法度だって知らねえんだ!」

 

「いえ、彼等は操られています」

 

 浴美は身をかわしながら伊之助と善逸に説明する。実際彼らの動きは明らかにおかしく、人間ならばありえない動きをしているのだ。それに中には死体すら向かってくる。

 

「伊之助君、善逸君、とりあえず糸を斬ってください」

 

 そう言われ目を凝らすとそこには、やっと見えるくらいの糸が何本もつながっていた。その糸を断ち切ると隊士の体は解放された様に地面に吸い込まれていった。

 

「よっしゃ!わかった!!」

「イヤー!こないでー!!」

 

 伊之助はイキイキと善逸は泣き叫びながら刀を振るい複数の隊士の糸を切り捨てた。

 とはいえ糸を切るだけではまた蜘蛛が操り糸をつなぐし、その蜘蛛は血鬼術の類で作られているから本体を叩かないと意味がない

 

「伊之助君、本体を見つけてください。貴方にしかできない事です」

「俺にしかできない…………ヘへ!任せなぁ!!」

 

 浴美できない事を頼まれたのが嬉しいのか上機嫌で持っていた二本の刀を地面に突き刺し両手を広げ感覚を研ぎ澄ませる。

 

「獣の呼吸・漆ノ型 空間識覚!」

 

 

 炭治郎は嗅覚。善逸は聴覚。そして伊之助の特技は、触覚が人並外れて優れていること。意識を集中すれば僅かな空気の揺らぎすら感知することができる。ただしその場から動けなくなり無防備になってしまうため、一人での使用には危険を伴うが、自分よりも強い浴美ならば大丈夫だと考えていた伊之助は気にせず捜索を続ける。

 

「…見つけたぞ!そこか!!」

 

 しばらくした後、伊之助は大声で叫びその方向に指を向けた。

 

「よくやりました。流石ですね」

「でも浴美さん。これどうするの!?」

 

 善逸が泣きながら襲いかかってくる隊士を指差す。しかし生存者……村田が刀を受け止め絞り出すように叫んだ。

 

「ここは俺に任せて先に行け!!」

 

「小便漏らしが何言ってんだ!?」

 

 伊之助が返すと村田は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「誰が漏らしたこのクソ猪!テメエに話しかけてねえわ黙っとけ…情けない所を見せたが、俺も鬼殺隊の剣士だ!!ここは何とかする!!糸を切ればいいというのが分かったし、ここで操られている者達は動きも単純だ。蜘蛛にも気を付ける。鬼の近くにはもっと強力に操られている者がいるはず。先に行ってくれ!!」

 

「…………わかりました、お願いします。二人とも行きますよ!」

 

 

 彼に任せて浴美は二人を連れて先に進んだ。探知した方角に進むたびに本体にちかづいている証拠か、蜘蛛が増え、糸も多くなる。その様子に伊之助は苛立つ。

 

 すると先程のキリキリという金属音が聞こえ、浴美達は足を止める。暗がりの中からすすり泣く声と共に、糸に繋がれた隊士が現れた。

 

「駄目…こっちに来ないで…」

 

 今にも死にそうなか細い声で隊士がそう嘆願するのは、黒髪を一つにまとめた女性の隊士だった。顔色が悪く、右手には他の隊士が突き刺さったままの刀を持ち、左手は同じく血まみれになった隊士の屍を掴んでいる。

 

「階級が上の人を連れてきて!!そうじゃないと、みんな殺してしまう!お願い、お願い!!」

 

 女性隊士の刀が振り上げられ、浴美達を襲う。

 

「おい!コイツさっきの奴よりも強いぞ!」

「操られているから、動きが全然、違うのよ!私たち、こんなに強くなかった!!」

 

 

その無理な動きで彼女の骨が砕ける音が響き、潰れたようなうめき声が上がった。

 

 さらに全身から血を噴き出し、体のあちこちが人体の構造上あり得ない方向に曲がった三人の隊士が現れる。

 

「頼む。こ、殺して…くれ…」

 

 一人の隊士が息も絶え絶えに懇願する。満身創痍、それでも糸がお構いなしに持っている刀を振り上げさせようと、無理やり彼の腕を引き上げていた。

 

「イヤー!?どうすんの浴美さん!?これヤバすぎでしょーーー!!」

 

 流石に善逸でなくてもこれは酷いと感じる。

 

(本体は私達を見ている……もう少しで!)

 

 浴美は刀を納めると、女性隊士に突進する。そしてそのまま懐に入り彼女を抱え女性隊士を真上に放り投げた。そしてそのまま木の枝に糸が引っ掛かり、ぶら下がりの状態になった。

 

 糸が複雑に絡み合いこれでは刀を振るうどころか、動くことさえままならない。

 

 それを見て伊之助は

 

「なんじゃああそれええ!!俺もやりてええ!!」

 

 子供の様にはしゃぎだし、同じ様に隊士を放り投げた。木の上で絡まる隊士を見て、伊之助は小躍りしながら声を上げる。

 

「見たかよ!俺にだってできるんだぜ!?」

 

「その調子です!どんどんいきますよ!」

 

「おっしゃ!、負けてらんねぇ!」

 

 憤慨した伊之助は再び隊士を掴むと、再び渾身の力で放り投げた。そして負けじと次々と放り投げてゆく。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 一方でその様子を蜘蛛を目として見ていた本体の鬼は苛立っていた。

 

「何なのよ、全く役にたたないじゃない!!もういいわ!!まだ切り札がある……使えない人形なんていら………え?」

 

 鬼は困惑した……無理もないだろう。目の前に"首のない自分の体"があるのだから。

 

「終わりだ」

 

 声のする方に視線を向ければデスティニー(鬼神)の面をつけた鬼狩り(炭治郎)があり……それが最後に見たモノだった。

 

 

ーーーーー

 

「え?止まった?」

 

 操られていた隊士が解放され地面に倒れ伏す。それを見た善逸と伊之助は頸を傾げるが……

 

「やりましたね、炭治郎」

 

 浴美は上手くいったと、安堵していた。

 

「どういうこった?権次郎がなんかしたのか?」

「炭治郎ですよ………操られた人達の動きを止めても鬼が使えないと判断して彼等を殺す可能性がありました。だから鬼の注意を私達に向け、その隙に炭治郎に斬ってもらったのです」

 

 あの糸は無理矢理体を動かしていた。もしかしたら頸を捻って殺す事もできただろう。

 

「さぁ、他にも鬼は居ます。まだいけますよね?」

「当然だ!!いくぜ、猪突猛進!!」

「たがら、一人にしないで~!?」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「お願いだから、もうやめて累…」

 

 山の中を進む炭治郎はすすり泣くような声が聞こえてきたのでのぞいてみると、そこには顔から血を流してすすり泣く少女の鬼と、その傍らで冷たい眼で彼女を見下す少年の鬼の姿があった。少年の手には、血の付いたままの糸があやとりをするように指にかかっていた。

 

「何見てるの?見世物じゃないんだけど」

 

 累は炭治郎に視線を向けさほど興味がないといった口調で言った。

 

「仲間割れか……」

 

「何言ってるの?仲間などというそんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ…それにこれは僕と姉さんとの問題だよ。余計な口出しするなら、刻むよ」

 

 そう言う累を炭治郎は愚かしく見ていた。

 

 自分にとって家族というのは炭治郎(今世)の時もシン・アスカ(前世)の時も温かく何よりも大切なものだ。

 

 だからその家族を道具でも見るような目で見ている累の言葉に何も感じなかった。

 

 そんな時、不意に背後から草が揺れる音がした。

 

「お?ちょうどいいくらいの鬼がいるじゃねえか」

 

 炭治郎が視線を向けると、そこには一人の鬼殺隊士が笑いながら近づいてきた。

 

「こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ!俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃあ上から支給される金も多くなるからな。俺の隊は殆ど全滅状態だが、とりあえず俺はそこそこの鬼一匹倒して下山するぜ」

 

 彼はそう言って刀を累へとむけた。

 

「止めろよこの馬鹿!?相手は「うるせえ!お前は黙ってろ!!」

 

 炭治郎の言葉を聞かず男はそのまま背後から累に斬りかかった。

 

 累は手の指に絡まっていた糸を隊士の方へ伸ばした。その糸は一瞬で隊士の全身を細切れに刻み、サイコロステーキへと変えてしまった…

 

「…………馬鹿野郎」

 

「次は君の番だよ。僕達家族を侮辱して……刻んであげるよ」

 

 累は先程、隊員を切り刻んだ糸を放つが……

 

「なら、何でお前達は互いに嫌悪している。本当の絆なら信頼しあうモノだろ」

 

 炭治郎は容易く糸を切り裂いた。

 

「所詮アンタ等の絆は言葉だけの紛い物だ」

 

 炭治郎の言葉が累の逆鱗に触れる。空気が重く濃くなり威圧感が増すが炭治郎は一切同様しない。

 

「………今、何て言ったの?」

 

「アンタは所詮、恐怖で縛りあげているだけだ。それは"絆"じゃなく"支配"だ」

 

「……………黙れ」

 

 襲いくる糸を切り裂きながら炭治郎は語る。累は恐怖で縛りあげ家族の役割を押し付けているだけだ。

 

 

「何度でも言ってやる。お前の絆は偽物だ」

 

「黙れ!黙れ黙れ黙れーーーーー!!」

 

 

 累は血を含んだ真っ赤な糸を炭治郎の周りに張り巡らす。普通の糸はすでに斬られていることを累は先ほどのやり取りで知っているため確実に炭治郎を殺す為に放つ。

 

(…………わかってる。見せてやろう相棒(デスティニー))

 

 どうやらも累のやり方に相棒(デスティニー)も文句を言いたいようだ。日輪刀が真紅に輝き放つは父が託してくれた技。

 

 

「ヒノカミ神楽!!」

 

 

 燃え盛る炎の幻を纏い、日輪刀が次々と糸を切り裂いた。自身の本命の糸が次々と断ち切られたことに、累の眼が見開かれる。

 

「そんなはずはない!――血鬼術・刻糸輪転!!」

 

 

 ようやく炭治郎の強さを理解し焦りに焦った累の手にいくつもの糸が集まり、輪のようになっていく。最高硬度の糸をさらに密集させた文字通りの本気の攻撃、その糸の束を累は炭治郎に向かって放った。糸の嵐が、轟音を立てて彼に向かう。当たれば先程の隊員みたいに切り刻まれる。

 

 しかし、炭治郎には前世から運命を共にし今も尚、共に戦ってくれる相棒(デスティニー)がいる。そして放ったのは亡き父が託してくれたヒノカミ神楽……

 

 偽りの絆を縛る糸が、本当の絆の焔に勝てる筈がなかった。

 

 

「円舞!!」

 

 

 炭治郎は糸を切り裂き、累の頸を切り飛ばした。累の頸がずれ、ごろりと頭が地面に落ち体が灰になって消えていく。炭治郎はすぐさま珠世からもらった道具で血を採取する。

 

「累が殺られた……!?い、イヤー!!」

 

 

 それを見ていた少女の鬼が悲鳴をあげて逃げていく。それを追おうとしたが………

 

「?、禰豆子?」

 

 禰豆子が籠の中から出てきた。不思議に思う炭治郎だが禰豆子が見つめる先には頸を斬られ灰なりながらも此方に手を伸ばす累だった。

 

 それを禰豆子は悲しそうに見つめていた。少し震えていた………不安なのだろう。自分もいつか……取り返しのつかない事をしてしまうのではないかと…

 

 

「…………心配するな。お前にこんな運命は歩ませない。お前は俺が……"俺達"が必ず元に戻してやる」

 

 

 その時、こちらに向かってくる何かの匂いがした。禰豆子の前に立ち刀を抜き襲撃者を迎撃する。

 

「あら?」

 

 襲撃者は空中でくるりと体勢を立て直すと、炭治郎を見た。その女性は蝶を彷彿とさせる羽織を纏い、蝶の髪飾りを付けた小柄な女性。

 

「どうして邪魔をするんですか?」

 

 浴美のような丁寧な口調で喋る女性は炭治郎を見てあることに気づく。

 

「………血の涙のお面。もしかして貴方が鬼神さんですか。運がいいですね、お館様が貴方の事を探していたんですよ」

 

 女性は嬉しそうに言うが炭治郎は聞く耳もたず女性を観察していた。

 

(蝶みたいな羽織をきて針のような刀を持つ女性の剣士。…蟲柱、胡蝶しのぶ)

 

 浴美からお館様が自分を探していることや他の柱の事を聞いていた。

 蟲柱が鬼に効果的な毒を扱う剣士だと知る炭治郎は禰豆子を避難させるべきだと考える。

 

「禰豆子、俺は後から追う。先に浴美の所に行け。いいな?」

 

 禰豆子は頷きこの場を離れる。しのぶは禰豆子を斬ろうとするが炭治郎に受け止められる。

 

「…もしも~し、何か言ったらどうですか?」

 

 それでも炭治郎は一言も答えない、声で正体がバレたら仮面を被る意味がない。

 

「…あぁ、もしかして元家族の方ですか?だとしたら可哀そうに…」

 

 一方しのぶは事情を察したらしく気の毒そうに口元に手を当てた。しかし、憎しみが漏れ出しそれを上っ面の笑顔で隠そうとしている。

 

 憎しみで動く相手に何を言っても無駄だ、かつての(シン・アスカだった)自分がそうだったように。

 

 

「安心してください、苦しまないよう優しい毒で殺してあげますから。それまで眠っていてください」

 

 

 炭治郎(血涙の鬼神)が強者なのは理解しているのでしのぶも本気で攻撃する。

 

 

「蟲の呼吸 蜂牙の舞い 真靡き」

 

 

 それは蜂のように舞い相手を鋭く刺す、突きの威力に特化した刺突技。

 

 下弦では反応すらできない最速の突き。初見ではまず避けられない。

 

(急所は外しますが、行動不能にはなってもらいますよ。鬼神さん) 

 

 笑みを浮かべるしのぶだが………彼女は……

 

 

「え…!?」

 

 

 鬼神(炭治郎)を甘く見すぎていた。

 

 

 しのぶの笑みは消え去り驚愕の表情が浮かぶ。

 

 無理もないだろう。鬼神(炭治郎)のとった行動は迎撃でも回避でもない。

 

 初見でありながらどんな技が見破り、何処に攻撃がくるかも理解し、一寸の狂いなく、突きを放った刀を腰に備えていた鞘で受け止め納めたのだ。

 

 しかも、上位の鬼の頭蓋すらも余裕で貫通する威力も殺している。

 

 まさに神業とか言い表せない行動にしのぶはただ唖然としていた。

 

 

(…あり得ない…こんなことが…!?)

 

「…………アンタが鬼を憎もうが恨もうがアンタの自由だ。何も言いはしない」

 

 此処で炭治郎が初めて口を開く。しのぶの刀は炭治郎の鞘に納められてしまって使えないが草鞋の裏の部分に仕込まれた小刀で不意を突こうとするが……

 

「だけど、関係のない人を巻き込むな。俺達は(アンタ)と戯れてる程暇じゃない」

 

 

 そんなモノは通用しない。足を踏まれ行動できず、その言葉と共に強い衝撃が襲い、しのぶの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しのぶを気絶させた炭治郎だが……先に行った禰豆子を追わず、強い警戒心のまま……今まさに自分を見ている人物に言い放った。

 

「よかったのかよ。助けなくて」

 

「………………誰にも聞かれずにお前と話がしたかった。それにお前が必要以上に傷つける筈がない」

 

 

 男性の声が背後から聞こえてくる。炭治郎はデスティニーの面を外し、素顔で男性を見る。

 

 

「随分俺を信頼しているですね……"アスラン"」

 

 

 その男は前世で自分が殺したかつての仲間……守護之正義(アスラン・ザラ)だった。

 

 

 

 

 

 

END

 

 




 次回予告!

 遂に再開してしまった炭治郎と正義。二人はその胸に抱えたモノを刃に宿しぶつかり合う……やはり、わかりあう事はできないのか……

次回・運命の刃

【運命と正義】

 世界を越えて尚、戦うしかないのか……炭治郎(シン)!!正義(アスラン)!!














 サイコロステーキ先輩だけ原作通りだけど……是非もないよね!



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九話・運命と正義

 お待たせしました!

 とうとう二人がぶつかります!!


 

 白い羽織を纏った、黒髪の蝶の飾りを付けた少女が森をかける。年齢は炭治郎とさほど変わらないように見える。

 彼女……栗花落カナヲは少女の鬼……禰豆子の頸へ刃を振るう。だが、その刃が鬼の少女の頸を穿とうとしたその時、禰豆子は身体を縮ませ幼子の姿になった。

 

(小さく、子供になった)

 

 小さくなった鬼はそのままとてとてと足音を立てながら走り出す。少女もその後を追い、何度か刀を振るうが禰豆子は小さな体でそれを巧みに躱す。

 

(逃げるばかりで少しも攻撃してこない。どうして?まぁいいか…) 

 

 カナヲは一向に反撃してこない禰豆子に疑念を抱くが、言われたとおりに鬼を斬るだけと考えを固定し刀を振るう。しかし、それは第三者に防がれた。

 刀を防がれたカナヲや逃げていた禰豆子はその第三者を知っている。

 

 蒼い日輪刀を持ち、左右で異なる柄の羽織を纏った青年。二年前に出会った……水柱・冨岡義勇だった。

 

「………どうして柱が?」

「…………………………」

 

 不思議に思うカナヲだが義勇は何も答えない。共に言葉足らずな性格同士ゆえに会話が始まらない。

 禰豆子もこんな状況でどうすればいいかわからず立ち往生していると。

 

「禰豆子ちゃん!!」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと其所には全ての鬼を切り終わり炭治郎達を探していた浴美達の姿があった。

 浴美の姿を見るなり抱きつく禰豆子。それを見ていた義勇はだいたいの事情を察する。

 

「………降雪、お前も此処に……炭治郎達と行動を」

 

「はい、富岡さん達の関係は理解しています。既にお館様にも話はとうしてあります。そこの君、悪いけどこの娘は私、雪柱の預かりなの。刀を納めてくれませんか?」

 

 浴美にそう言われカナヲは刀を納める。それを確認した浴美は禰豆子に炭治郎の事を聞く。

 

「炭治郎はどうしたんですか?」

「ムムム!ムー!!」

 

 禰豆子はカナヲを指さしジェスチャーで何かを訴える。その様子を善逸は気持ち悪い笑顔で見て、伊之助と浴美は頸を傾げ、カナヲはボーとしていた。

 

「………そうか、そこの隊員と似た格好をした剣士と戦っているのか」

「ムー!」

 

「……いや、何でわかるんですか?」

 

 義勇には理解できたらしく浴美は呆れていたがカナヲと似た格好の剣士。間違いなくしのぶだろう。義勇の話によれば既に援軍が来ており負傷者を運んでいる最中だそうだ。 

 彼等と共に義勇としのぶが来たそうだ。

 

「だが、お前と炭治郎が居るなら既に終わったようだな。確認だが降雪………血涙の鬼神の正体は炭治郎だな」

 

「ええ、その通りです」

 

 やっぱり義勇にはわかっていたようだ。しかし、次の言葉は浴美の予想を大きく越えていた。

 

「なら"守護之"に会ってるかもしれん」

 

「待ってください!正義さんが来ているんですか!?」

 

「?、あぁ。炭治郎の捜索にあたっていた守護之はこの近くに居たらしく援軍を頼んだらしい」

 

 浴美の驚きに疑問を持つ義勇だが、浴美の心境は穏やかではない。

 

(遂に…!遂にこの時が来てしまった!!炭治郎(シン)正義(アスラン)が出会ってしまうこの時が!!」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 炭治郎(シン)正義(アスラン)が再開して暫く二人は口を開かなかった。これまでの事を思い浮かべているのか言う言葉を選んでいるのか……それは二人にしかわからない。

 

「……久しぶりと言えばいいのかな……シン」

 

「………………」

 

 炭治郎(シン)正義(アスラン)の言葉に答えない。そんな言葉が聞きたいのではない。炭治郎は日輪刀を抜き正義に向ける。正義もこうなる事は理解していたのだろう両腰にある二刀の日輪刀を抜く。

 

「正直、アンタに会ったらどうしたらいいかアレコレ考えても答えは出なかった」

 

「…………俺もだ」

 

 二人の因縁は話し合いですむ程、生温いモノではない。なんとも奇妙で…なんとも残酷な運命なのだろう。かつては共に戦った者同士が互いに殺し合い、そして死して新たな生を得ても二人は出会ってしまったのだから。

 

(ごめん、デスティニー。……今回だけは手を出さないでくれ……)

 

 すると炭治郎に浮かんでいた血涙の痣が……バックアップが消えた。自分の我儘を聞いてくれた相棒(デスティニー)に感謝し、炭治郎(シン)正義(アスラン)と向かい合う。

 

 数秒か一分か………言葉では言い表せない時間を過ごしていた二人の【SEED】が弾け……

 

 

「シィィィインッッッツ!!!」

 

「アスラァァアッッツ!!!」

 

 

 遂に動き出す。炭治郎(シン)の真紅の刀と正義(アスラン)の朱い二刀が激しくぶつかり合った。

 

「アスラン……何のために俺に会いに来た!?俺はアンタを殺した男だぞ!?」

 

 

 ヒノカミ神楽・円舞!!

 

 

 炭治郎は上段から渾身の一刀を放ち……

 

 

 正の呼吸 参ノ型 正十字!!

 

 

 正義は二刀からの十字切りを放ち受け止める。鍔迫り合いになりながらも正義は炭治郎から目を放さずに自分の思いを伝える。

 

「……お前に会いに来たのは……ずっとお前に謝りたかったから。浴美の研究に手を貸すのは、俺がそう望んだからだ……」

 

「謝る……だと……っ!?」

 

 

 予想外の言葉に一瞬呆けたような表情を炭治郎シンは見せる。正義はその隙に弾き飛ばし……

 

 

「壱の型・不軽一戦!!」

 

 

 重く踏み込み軽く地を蹴り、間合いを詰めてからの袈裟斬りを放つ。

 

 

「っ!水の呼吸 壱ノ型 水面斬り!!」

 

 

 咄嗟にクロスさせた両腕から勢い良く水平に刀を振るい弾き飛ばす。瞬時にヒノカミ神楽から水の呼吸へ切り替え。普通、二つの呼吸を使いこなす事は不可能だ。 

 しかし、前世で変幻自在の"インパルス"の限界以上の性能を引き出した炭治郎(シン)ならばできる。

 

「何を言っているのかわかっているのか……!」

 

「…………謝っても許されない事だって言うのは分かってる、これが俺の自己満足であることも分かってる。だがお前にはしっかりと聞いてほしいんだ……本当にすまない」

 

 正義はそう言って深く頭を下げた。その姿に炭治郎は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「ふざけんな!!」

 

 

 漆ノ型 雫波紋突き!!

 

 

 放つは水の呼吸最速の突き。正義が紙一重で回避するが青い髪が数本宙を舞う。

 

「何を今さら!気づくのがーー!!」

 

「あぁ、遅すぎた!俺はどうしようもなく愚かだった…!俺は自分の目で物事を見ずに、他者に判断を任せていた……ラクスやキラが間違えるはずがないと………考えていたんだ……!!」

 

 上段から斬りおろし、下段からの斬り上げ、時折突きも混ぜて、あるいはそれを払い、大振りに放ち、小ぶりにも打つ。両者の斬撃戦は凄まじいものだった。

 

 

 正の呼吸 肆ノ型 水無陽炎!!

 

 ヒノカミ神楽 灼骨炎陽!!

 

 

 正義の螺旋の軌跡を描く斬撃と炭治郎の焔の様に猛烈な斬撃がぶつかり合い周りの草木を吹き飛ばし互いに一歩も引かずに傷ついていく。

 

 結果は相討ち、互いに弾き飛ばされる。両者共に傷つき大きく息を吸い次に備える。唐突に炭治郎は正義に向かって言葉を放つ。

 

「……例えアンタが謝ってもC.Eであんた達に吹き飛ばされた【花】は戻ってこないんだぞ、それともまた植えなおすのか?」

 

 

 かつてアスランやキラ・ヤマト達が言っていた言葉を投げ返す。皮肉を多分に込めているが、ぶつかり合いの中で自分の知っているアスラン・ザラとはまるで違う事を理解してきた。

 

 正義(アスラン)の意思を確認するの為にあえて同じ言葉を使ったのだ。

 

「……【命】を……植えなおすなんてできない。今の俺は【花】を散らせないために戦うと決めた……"ラクス・クライン"や"キラ・ヤマト"に言われたからじゃなく、俺自身で決めた事だ!!」

 

 

 かつてのアスランとは決定的に違う正義の言葉を聞いて炭治郎(シン)は刀を強く持ち直し…………

 

「…………だったら見せてみろ!アンタの思いを……それを貫く強さを!!」

 

 強さのレベルを引き上げた。炭治郎は左額に大きく目立つ赤い痣を持つ。

 シン・アスカが目覚める前の幼少時に弟である竹雄が転ばせた火鉢から彼を庇って負った火傷の痕だ。

 

 しかし突如、その火傷の痕を覆うようにデスティニーの血涙とは違う、炎を連想させる痣が浮かび上がった。

 

 それだけではない、炭治郎の握っていた日輪刀にも変化がおこる。

 

 

「赫灼の刃……!?」

 

   

 そう、炭治郎の日輪刀が赫灼に染まった。刃の部分は変わらず真紅だがそれ以外の峰、鎬にあたる部分が赫灼に染まった。

 

 その刀を正義は知っている。無惨をあと一歩まで追い詰めた始まりの剣士。彼が使う刀は今の炭治郎のように赫灼に染まっていたと言う。

 

 

「いくぞ………正義(アスラン)!!」

 

「くっ!」

 

 二人の戦いは更に激しさを増していく。

 

 

 ヒノカミ神楽 幻日虹!!

 

 正の呼吸 漆ノ型 明鏡止水!!

 

 

 瞬間、二人の姿が消えた。共に移動や回避に特化した技を使い、紅と朱の影が超高速で移動し、時折衝突してはまた駆け巡る。

 

 炭治郎は残像を生み出し正義を翻弄しながら斬撃を繰り出し。正義は緩急自在かつ一切の曇りのない移動法で炭治郎の動きに喰らいつく。

 

 

 しかし、それも長くは続かなかった……赫灼にしまった炭治郎の刀が正義の二刀を砕いたのだ。自分の刀が砕かれ動揺した正義に炭治郎の拳が突き刺さった。

 

 正義は大きく吹き飛ばされなんとか立ち上がろうとしたが既に炭治郎に刀を受けられていた。

 

「…………どうした、斬らないのか?」

 

 刀は折られダメージは深く、正義は己の敗北を認めた……伝えたい事は言えた。このまま炭治郎に斬られる覚悟はある。

 

「…………俺は"アスラン・ザラ"を決して許せない」

 

「………あぁ、わかっている」

 

 それだけの事を自分はしたのだ……決して許される事ではない。しかし、炭治郎は刀を鞘に納めた。

 

 

「……俺は絶対に許さない。アンタ達がやったことは決して……だけど守護之正義(今のアンタ)が花を、命を大事にしてるのは分かったよ」

 

 それは炭治郎は正義を認めたと言うこと、アスラン・ザラではなく今この世界で命の花を守る守護之正義を認めたのだ。

 

 

「…………………ありがとう」

 

 正義の頬に熱い何が流れていった。

 

 

 

 

「良かったんですか?」

 

 炭治郎の心に語り駆ける声が聞こえる。それが誰の者か炭治郎(シン)はよくわかった。

 

(あぁ、今はこれで良いんだ。お前は納得できないかもしれないけど……俺の気は済んだ)

 

「なら、私が言うことはありません。マスターの意思を私は尊重したい」

 

(………ありがとう、相棒(デスティニー))

 

 

 

 

「炭治郎!正義さん!!」

 

 その時、慌てた様子で浴美が走って来た。その後ろから禰豆子達、義勇やカナヲが後を追いかけていた。

 

「ムー!」

 

「禰豆子、心配すんな。俺は大丈夫だ」

 

 禰豆子は炭治郎の姿を見るなり飛びつく。そんな二人を見て浴美は戦闘が終わった事を察する。

 

「…………終わったんですか」

 

「…………あぁ、伝えたいことは伝わったようだ」

 

 炭治郎(シン)がそうしたのなら自分が言うことはないと浴美は納得した。

 

 

「それにしても……久しぶりだな義勇」

「………………あぁ」

 

 二年ぶりの再開だと言うのに口数の少ない人だと苦笑いを浮かべる炭治郎は次に最終選別で見た少女……カナヲに視線を向ける。彼女は先程、気絶させたしのぶを揺さぶっていた。

 

「師範……大丈夫ですか師範」

 

「う………カナヲ?」

 

 目を覚ましたしのぶは混乱する頭を使いこれ迄の経緯を思い出す。自分は血涙の鬼神に敗北した、そしてその鬼神は目の前の少年、炭治郎だ。

 

「………君が私を気絶させたんですよね。それで浴美さん、この状況やあの鬼について教えてくれますよね」

 

 しのぶの鋭い視線、浴美はこれ迄の経緯を話した。炭治郎と出会った事、禰豆子と共に過ごして一回も襲われなかった事を……

 

「禰豆子ちゃんは共に過ごして一度も私を襲う事はなく、鬼から人を守る時もありました。この娘の心は人です、斬ると言うのならしのぶさんであろうと容赦はしません」

 

「俺も同じ意見だ。手負いの俺やお前を襲っていない、彼女は人だ」

 

 鬼を人に戻す研究をしている浴美と正義が禰豆子を庇うのはわかっていたが……義勇が禰豆子を切らなかった事にしのぶは驚いていた。

 

「…………富岡さんも同じですか?」

「…………あぁ、禰豆子は他とは違う」

 

 柱三人が鬼を庇う。前代未聞も光景だが、しのぶは諦めがついたように笑みを見せる。

 

「…………浴美さんの事です。既にお館様に許可はもらっているのでしょう」

「ええ、禰豆子ちゃんは私、雪柱に任せると……」

 

「なら、私が言う事はありませんね」

 

 そう言ってしのぶは刀を納めた。 

 

 

 

 

 こうして、那田蜘蛛山の一件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、これは序奏に過ぎなかった。

 

 

 

 

 END

 




 次回予告?

 辞めて炭治郎!もう不死川さんのライフは0よ!!

 確かにいきなり禰豆子を殺そうとした不死川さんに非があるけど……デスティニーにSEEDに痣に赫刀……そんなブルー界王拳みたいなバフ盛り形態でボコボコにしたら不死川さんの命が!?
 確かに初登場はヤバい人感MAXだけど凄い好い人だからその人!!あぁ!止めに入った無一郎君と伊黒さんが瞬殺された!!

 ……次回・運命の刃!!

【風柱死す!!】

 デュエルスタンバイ!!




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十話・柱合裁判

 

 悪鬼滅殺。

 

 それが鬼殺隊の絶対不変の掟。

 

  鬼は人を喰う。

 

 鬼舞辻の血を入れられた人間は理性を失い、記憶を失い、ただただ人を無差別に殺す。時に人を喰う為に嘘も吐き、残酷に、人を不幸にする。

 

 故に、鬼殺隊は鬼を見つければすぐに殺す。

 

  それ以上鬼が人を殺さない為に。

 

 故に、鬼殺隊は慈悲なく鬼の頸を斬り落とす。

 

  鬼を庇うなど言語道断。

 

   それが鬼殺隊の掟だった。

 

 

 

 柱合裁判

 

 

 鬼殺隊の最高幹部である柱たちによる隊律違反を犯した隊士を裁くために行われる裁判だ。

 

 其所に竈門炭治郎は今まさに判決を待つ身としてこの場にいるのだ。

 

 那田蜘蛛山で戦いを終えた炭治郎は(禰豆子)を庇った罪として柱合裁判に参加しろと連絡が来た。

 

 無視しても良いのだがそうなると無惨と鬼殺隊の両方に狙われてしまう。

 浴美と正義が全力で弁護するので気は乗らないが炭治郎達は鬼殺隊本部に足を運んだ。

 

 

 こうしてやって来た炭治郎の後ろ手に拘束された姿はまさに罪人。

 

 鬼を狩り人を守ることを目的としている鬼殺の剣士が鬼を連れて歩いていた事実は背任行為にほかならず、重大な隊律違反と言うほかない。

 

 

 

 

 

「…………」

 

「が…!」

 

 しかし、その柱合裁判は殆ど崩壊していた。理由は簡単だ、縛られていた炭治郎は自由になり……満身創痍と化した風柱・不死川実弥の頸を片手で掴み持ち上げていたのだから。

 しかも、足元には倒れ伏す蛇柱・伊黒小芭内が足蹴にされていた。

 

 炭治郎は現在、血涙の痣(デスティニーの力)焔の痣(炭治郎本来の力)を発動しており、その目には【SEED】特有の光のない瞳でボロボロの不死川を見ていた。

 

 

 柱合裁判をおこなう庭には現在、浴美と正義を覗いた九人の柱が揃っているが下手に動けば不死川や伊黒がどうなるか火を見るより明らか故に動けなかった。

 

 

(よもやこれ程の強さとは……正に鬼神!)

 

 その様子を"炎柱"煉獄杏寿郎は冷や汗を流しながら見ていた。

 炭治郎は最初は大人しく柱合裁判が始まるのを待っていた。初めて炭治郎を見たとき煉獄は納得した。炭治郎が纏う威圧感は十分に下弦を四体倒した事に納得のいくモノだった。

 

 

 これ程の強き剣士を処刑するのは余りにも勿体ない!そして自分の継子にしたい!!←コレ重要

  

 

 確かに鬼を庇うのは重罪だが、彼が連れていた鬼……妹の禰豆子は人を一度も喰っていないと、親友である正義と元継子の恋柱・甘露寺蜜璃と同じく妹分の浴美から聞いていた。

 

 あの二人が言ったのだ、真実だろう。

 悪鬼であるなら斬るのみだが、人を喰わぬのら……正義達に任せよう。

 

 

 二人は現在、事の経緯をお館様に詳しく説明するためにこの場にはいない。

 

 裁判が始まるまでの間、煉獄は炭治郎と色々と話をした。浴美との旅の話や(これについては甘露寺もグイグイ聞いてきた)、父親から教わったと言う【ヒノカミ神楽】など興味深い話を聞けた。

 

 やはり継子にほしい………正義と共に弁護し、刑を軽くして自分の監視下に置く形で保護し、炎柱の継子にできないモノか……

 

 そんな時に風柱の不死川が遅れてやって来たのだ……炭治郎の妹が入った箱を持って……

 

 

 嫌な予感がした……不死川は誰よりも鬼を憎んでおり正義と浴美の鬼を人に戻す研究に反対している。

 

 炭治郎に向けて笑みを浮かべ刀を抜く不死川……やはり禰豆子を刺すつもりだ。

 義勇はやめろと叫び、煉獄は止めようと行動に移るが不死川が禰豆子を刺す方が速い、間に合わない。

 

 そう思った時だ……炭治郎は自身を縛る縄を引きちぎり刀を持つ不死川の腕を掴み……

 

 

 ボキッ!!

 

 

 容赦なくその腕をへし折った。

 

 

 如何に柱とはいえ人間だ。いきなり腕をへし折られて無事ではすまない、痛みの叫びをあげる不死川の顔面に間髪入れずに拳を叩き込む炭治郎。

 

 いきなりの状況に固まってしまった柱達……下手に動けない状況だが伊黒が刀を抜く。鬼を庇う炭治郎は伊黒にとっては既に死刑者。柱に手をあげた事を建前に頸を斬ろうと……

 

 

 蛇の呼吸 壱ノ型 委蛇斬り!

 

 

 間合いを詰めつつ両手で振りぬく一閃を放つ。

 

 それを炭治郎は近くに落ちていた不死川の刀で受け止めた。容易に、それも片手で握る刀に受け止められた事に目を見開く伊黒。

 

 それを見逃す炭治郎ではない。片手に持っていた不死川を叩きつける。ある一人を除いて仲間意識の薄い伊黒だが、流石に冷静に人は斬れない。戸惑いを曝した隙を突かれ炭治郎の一撃に倒れ付した。

 

 

「………クソが…!」

 

 激しい痛みに耐えながら不死川は自らの頸を掴む炭治郎の腕を折られていない腕で引き剥がそうとするがビクともしない……そんな不死川を炭治郎は光が消えた真紅の瞳で見ていた。

 

「自業自得だろ……人の妹を刺そうとしたんだ」

 

「……鬼なんて…!醜い!化物は!……死んで……当たり前なんだよ!!」

 

 その言葉や不死川の瞳で理解する。この風柱は鬼を激しく憎んでいる。一体とてこの世に存在する事は許さない。過去に何かあったのだろう。

 

「…………別にアンタが鬼を憎もうが勝手ですけど……俺達には何の関係もない」

 

 だが、そんなのは炭治郎達には関係ない。

 

 

 不死川の大切な人を殺したのは禰豆子か?違う。

 

 禰豆子を今ここで殺して鬼が今すぐ滅ぶのか?違う。

 

 今も大勢の人間が苦しめられているのは、禰豆子と炭治郎のせいなのか?違う。

 

 

 別に復讐が悪い訳ではない。炭治郎(シン・アスカ)もかつては復讐に生きた人間だ。

 

 しかし、それを関係のない者にぶつけた事はない。

 フリーダムへの憎しみはフリーダムに、アスハへの憎しみはアスハに……決して関係のない者には矛先を向けてはいない。

 

 

 不死川は鬼であれば容赦なく復讐の矛先を向ける。それが人を喰う悪鬼ならばいいだろう。敵として立ち塞がるならいいだろう。

 

 だが敵ではなく、人を喰らう悪鬼でもない。人を傷つけず、人に戻るために懸命に足掻く禰豆子に復讐の矛先を向けるのはお門違いだ。

 

 

 炭治郎は不意に不死川を離す。

 

「少し頭でも冷やしてろ」

 

 そして、解放され地面に落ちる不死川の顎を繰り上げた。顎を繰り上げられ激しく脳を揺らされた不死川の意識はその言葉を聞いたのが最後、途切れた。

 

 

 

 一瞬で二柱を無力化……如何に二人が油断していたとはいえ普通は不可能。それを意図も容易くやってのけた炭治郎の強さに柱達は唖然としていた。

 

「…………随分なご挨拶ですね……お館様」

 

 そう言って炭治郎は屋敷の方から開かれた襖の奥から現れた黒く長い髪と白い羽織を着た男性。

 

 お館様……産屋敷耀哉へと顔を向けた。

 

 それと同時にやって来た浴美と正義は倒れ伏す不死川と伊黒を見て頭を抱える。

 

 元々、禰豆子は浴美と正義が連れていく手筈だったのだが不死川が勝手に持っていったのだ。案の定、不死川は禰豆子を斬ろうとして炭治郎に潰された。

 

 耀哉は倒れ伏す不死川と伊黒を辛そうに見つめ炭治郎に申し訳なさそうに謝罪する。

 

「………すまないね炭治郎。次は「そんな言葉、信用できません」……」

 

 しかし、炭治郎はそれを受け取らない。その時、炭治郎に向けて石が飛んでくるがそんな物は当たらない。

 

「お館様の話を遮って、あんまり調子に乗るなよ」

 

 それは霞柱・時透無一郎が投げた物だった。先程までボーとしていた無一郎だが、耀哉の言葉を遮った事に苛立ち炭治郎に敵意を向ける。

 

「浴美から話は聞いていた。お館様は俺と禰豆子のことを容認していて、それを他の柱達に認めさせる。それがこの裁判の本当の目的………だが、それが始まる前に柱一人の暴走で妹は殺されそうになった。自分の部下の暴走の一つも止められないようなトップが「次は--」なんて言葉を言っても信用できるか」

 

 

 既に禰豆子は危険な目にあった。事実であり耀哉は何も言えない。

 

「そんなのお前の妹が鬼「だから斬られろ……そう言って鬼を斬るアンタ等は…人を喰うと力がつく、だから人を喰う鬼とそんなに変わらないな」………お前、ホントにムカつくよ!!」

 

 鬼と同じにされ遂に無一郎も刀を抜き……

 

「よせ。無一郎」

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥に止められた。止められた事に無一郎は苛立ち、行冥に視線を向ける。

 

「何で止めたの?まさか、俺までやられるなんて言わないよね。二人は油断したから「油断しなければ負けない…それ自体が油断だ」………クソ」

 

 容易に無一郎を下がらせ行冥は炭治郎の前に立つ。

 

(この人が…岩柱・悲鳴嶼行冥。他の柱とは匂いが違う)

 

 浴美から柱については一通り聞いていた。2メートルを超える恵まれた長身に服から見てももわかる鍛えぬかれた筋肉……感じる威圧感は正義や義勇を超えている。

 浴美が柱最強と言うのも頷ける。

 

「……まずは不死川の暴走を止められなかった事に謝罪しよう。すまなかった」

 

「……いえ、俺も少し冷静じゃあ…ありませんでした」

 

 行冥に頭を下げる炭治郎。行冥は目は見えていないがその瞳は炭治郎を見つめていた。

 

(守護之に勝ったと聞いてどれ程の男かと思ったが………強い。肉体的にも、精神的も……万に一つでも無一郎に勝ち目はない)

 

 柱達の実力で正義は行冥を次ぐ二番目の強さだった。剣の腕では不死川や無一郎より上、鬼殺隊一番の剣士だった。 

 そんな正義に血涙の鬼神(炭治郎)が勝ったと聞いた時は耳を疑ったが相対して事実だと理解した。

 

「炭治郎よ。妹を人に戻す……それが君の望みだな」

 

「ええ、俺は禰豆子を人に戻す。禰豆子が鬼として生きていかねばならないのが運命なら………そんな運命!俺が変えてやる!!」

 

「………その覚悟を否定するわけではないが……鬼を人に戻す。その研究は守護之と降雪がしているが、今だに完成してない……そして我々は人の脅威である鬼から人々を護るために剣を振るう」

 

 行冥が言うように鬼殺隊の目的と炭治郎の目的は根本の指針が反対だ。

 

 鬼殺隊には肉親を鬼に殺された者たちが大半であり、鬼に対しての憎悪が原動力となっていることが多い。勿論それと同時に自分と同じ境遇を生まない様に人々を護る優しき者たちでもあるということを忘れてはならない。

 

 それに対して炭治郎は妹とはいえ鬼を庇っている。

 

 そして行冥の言う通り、まだ鬼を人に戻す方法は見つかっていない。

 

「降雪が言った事は真実だろう。君の妹が一度も人を喰った事がなく、人を襲う保証はない……しかし、人を襲わない保証もない。その娘が人を喰らった場合、君はどうする」

 

 行冥の言葉がこの場に響く…誰もがその答えを知りたいと思っている。

 

 炭治郎(シン・アスカ)を知る浴美や正義も……

 

 炭治郎達に希望を見いだした義勇も……

 

 煉獄達、他の柱達や耀哉も……

   

 「…………」

 

 「……マスター」

 

 

 そして、禰豆子やデスティニーも…………誰もがその答えを待っている。

 

(…………………)

 

 

 炭治郎は目を瞑り……暫くすると再び目を開けた。

 

 

 そしてーーー 

 

 

 

「……俺はーーー」

 

 

 

 END

 




 次回予告!

 岩柱・悲鳴嶼行冥の問い……それは考えいない訳ではなかった。禰豆子が人を喰った時……自分はどうすればいいか……
 
 
 次回・運命の刃!!

【誕生!運命(さだめ)柱!!】


 避けては通れぬ問い……お前の答えは…なんだ!炭治郎!!






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十一話・誕生!運命柱!!

「俺は禰豆子を必ず人に戻す。どんな運命が立ちはだかろうとも………上弦だろうが何だろうが全て、凪ぎはらってやる!……………これは決して譲りませんが…貴方が聞きたい答えじゃあないですよね」

 

「…………」

 

 考えていない訳ではなかった。もしも禰豆子が人を喰ってしまった時……自分はどうすればいいか。

 

「もし、禰豆子が人を喰ってしまったのなら……俺の手で終わらせます」

 

「炭治郎……!?」

 

 炭治郎の言葉に誰もが反応する。炭治郎は妹をこの手で殺すと言ったのだ。悲鳴嶼は暫くした後、口を開いた。

 

「…あるのだな………妹を手にかける覚悟が」

 

「ええ、貴方や他の誰かが討ったのなら……俺はその人を恨むでしょう。だったら、俺自身の手で終わらせる」

 

 

 それはかつて、堕ちいく己の故郷を討った男の言葉……思っているからこそ、自分自身で止めなければならない……

 

 

(その覚悟が(アスラン・ザラ)にはなかった)

 

 

 そんな炭治郎(シン・アスカ)正義(アスラン・ザラ)は後悔の眼差しを向けていた。

 

 前世で好き勝手に暴れまわるかつての仲間達を止めるべきだったのに、自分の目で物事を見ずに、他者に判断を任せていた……ラクスやキラが間違えるはずがないと………考えてしまった。

 

「派手にいい男じゃねぇか!!」

 

「宇髄……」

 

 静まる空間に響く"音柱"宇髄天元の声。炭治郎や悲鳴嶼、誰もが彼に視線を向ける。

 

「いいんじゃねぇか悲鳴嶼さん。こいつは派手に示した、己の強さも、己の覚悟も……」

 

 炭治郎の言葉には嘘偽りはない、妹が人を喰ったなら本当に自分で頸を斬るつもりだ……もっとも炭治郎が人を喰う前に止めるだろうが。

 

「………そうだな」

 

 宇髄の言葉に頷き下がる悲鳴嶼。

 悲鳴嶼から感じていたモノが消えた事を感じた炭治郎は宇髄に視線を向ける。

 

「………認めてくれる……って解釈でいいですか」

 

「おう、そこで倒れている二人以外………いや、無一郎も無理だな」

「当たり前じゃん」

 

 自分の言葉を否定せずに炭治郎を睨む無一郎に苦笑しながら炭治郎に言った。

 

「お前は派手に示した。俺達、柱を超えた力を…妹に対する覚悟を……お前は信用するあたる。

…………お前はな」

 

「……………」

 

 宇髄の意味深な発言に目を細める炭治郎。宇髄は禰豆子の入った籠を見る。

 

「何かあるのでしょうお館様。この娘が人を襲わないと証明できる何かが?」

「その通りだよ。降雪、例の物を」

 

「……わかりました」

 

 炭治郎が警戒していると、浴美は薬箱から小さな小瓶を取り出した。その小瓶には、血のような液体が入っていた。

 

 その液体の匂いを炭治郎は知っている。

 

「稀血か…」

「ええ、これはそこで倒れている不死川さんから採取した血です」

 

 稀血。

 

 それは、特殊な血液の性質を持った人間のことを指す。鬼はこの稀血の人間を喰うと普通の人間50~100人分を食べる事に相当する力を得る。

 

 以前助けた、てる子達の兄がそれだったが……何かが違う。

 

「この人の血は稀血の中の稀血………鬼を酔わせるですよ。禰豆子ちゃんには、これに耐えてもらいます」

 

 炭治郎は示した。次は禰豆子の番だ。人を襲わないと……心は人だと示してみろ。

 

 そう言っている。

 

「……………わかった」

 

 炭治郎は禰豆子が入っていた箱を持ってか屋敷の日陰へ移動し箱を開いた。

 

 中から禰豆子が現れる、箱に入るために小さかった身体が、大きくなっている。

 

 

「これの匂いを嗅いでそれでも正気を保てれば……ごめんなさい、禰豆子ちゃん。耐えてください」

 

 

 浴美は自分の腕を出し稀血をかけた。下手をすれば自分も危ないのにだ。共に旅をして大丈夫だと確信したが故の行動だ。

 

 禰豆子に変化が訪れたのはすぐだった。

 

 

「フゥー……!フゥー……!」

 

 目を血走らせ、口枷から大量の涎が溢れだしている。

 

 稀血によって本能を刺激されているのだ。鬼としての、人食いとしての食欲を。

 

 

 食べたい……稀血がかかったあの腕を……食べたい、食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい!!

 

 

 血が滲むほど拳を握っても溢れる涎。そして聞こえてくる本能の声……この本能に身を任せれば……どれだけ楽になれるだろう。

 

 

 

 

 だけど……できなかった。できる筈がなかった。

 

 兄は自分の為に戦っている。自分を人に戻すために、運命を変えるために……

 

 炭治郎だけではない。自分を信じてくれた浴美、共に旅をした善逸や伊之助。助けてくれた正義と義勇。

 

 他にも自分達の帰りを待っている家族や鱗滝、珠世…皆の思いを無駄にすることは……できる筈がなかった。

 

(人の肉は、人の血は、喰わない。

人間は皆、家族。人は、守る………絶対に、傷つけない。絶対に、負けない!)

 

 稀血の誘惑を跳ね除け、禰豆子は炭治郎に顔を向ける。其所には兄の他に……

 

(私も……運命に抗うから…負けないから……見守ってくれる?……お父さん……)

 

 炭治郎の後ろに死んだ筈の父の姿があった。うっすらとしか見えず。禰豆子以外の誰も気づいていない。

 

 

「…………」

 

 

 父は生きていた時と変わらない優しい微笑みを浮かべて消えていった。

 

 

「これで、禰豆子が人を襲わないと証明できたね」

 

 それと同時に耀哉の言葉が静かに響く。浴美はすぐに稀血を拭き取り、安堵のため息をつく。

 

「……よかった」

 

「よく耐えたな、禰豆子」

 

 禰豆子の頭を優しく撫でる炭治郎。一方で宇髄は派手に笑っていた。

 

「ハハハ!!耐えやがった!稀血の誘惑に鬼が!?派手におもしれぇ兄妹じゃあねぇか!!いいぜ!俺は信じるぜ!!」

 

「うむ!ここまでやったのだ、俺も信じよう!!」

 

 大きく笑い称賛する宇髄と煉獄、隣に立つ悲鳴嶼も満足そうに頷いていた。

 

「…………流石、富岡さんが認めるだけありますね」

「お館様や皆さんが言うなら……私も賛成で!」

 

 どうやら女性陣も納得してくれたようだ……無一郎はそっぽ向いているが……

 

「では、これで柱合裁判を終了する」

 

 耀哉の言葉と共に緊張が解ける浴美と正義。一事はどうなる事かヒヤヒヤしたが……鬼殺隊始まって以来、前代未聞の「鬼を連れた隊士」が認められたのである。

 

 

 

 これで終わりかと……思ったその時……

 

 

「それで炭治郎………君に柱になってほしいんだ」

 

 耀哉の発言に再び緊張がはしる。禰豆子の存在で忘れていたが……そう言えば、柱にしたいと言っていたことを思い出した。

 

「…………俺が柱?」

 

「うん。君は既に四体の下弦を倒している。柱になるには十分……是非とも鬼殺隊を支える柱になってほしいんだ」

 

 確かに炭治郎は四体の下弦を倒し柱を超えた力を持っている。柱になるには十分過ぎる……

 

「………ありがたく思いますが……其所の柱みたいに他の隊士が納得しません」

 

 気絶している不死川を指差しながら炭治郎はそれを丁重に断った。

 お館様の提案を断った炭治郎を不敬と言うべきかも知れないが炭治郎の言い分は何となくわかる。

 

 鬼殺隊の大半は鬼を毛嫌いしている。そんな中、鬼を連れた炭治郎が一番位の高い柱になれば、何かしらのトラブルが起きるかも知れないし、禰豆子に手をだそうモノなら不死川みたいに潰される。

 

「確かに君の言う通りだ。だけど……これは私だけの願いじゃないんだ……例の手紙を」

 

「はい」

 

 

 耀哉がそう言うと娘のひなきが手紙を開きながら言った。

 

「こちらの手紙は、元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます」

 

 

 

 

 

 

 炭治郎が鬼の妹とともにあることをどうか御許しください。

 

 しかし、禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を食わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました。

 

 そして炭治郎は逸材です。柱となり多くの人々を守り必ずや鬼殺隊の悲願を達成させるでしょう。

 

 俄かには信じ難いですが紛れもない事実、私はこの兄妹を信じます。

 

 もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は……

 

 

 

 

 

「竈門炭治郎及び、冨岡義勇、鱗滝左近次、以上三名が腹を切ってお詫び致します」

 

 

「―――――!」

 

 自分を育ててくれた、鱗滝。導いてくれた義勇……この二人が命をかけてまで自分達を信じてくれる……純粋に嬉しかった。

 

「………………ズルイや、そこまで言われちゃ……ならない訳にはいかないですよ」

 

 

 そう呟きながら義勇に顔を向ける。相変わらず無表情に見えるが少し頬が緩み笑っていた。

 

 そして、膝をつき。耀哉に向けて頭を下げる。

 

 

「鬼殺隊。階級【癸】……竈門炭治郎。柱の役目、喜んでお受けいたします」

 

 

 炭治郎の言葉に耀哉や浴美達も微笑み新しい柱の誕生に喜んだ。無一郎は変わらずそっぽ向いているが

 

「よっしゃ!派手に歓迎するぜ、新入り!!」

「うむ!本音を言えば継子に欲しかったが……新たな柱の誕生に喜ぼう!!」

 

 派手に笑う宇髄と……何処か残念そうな煉獄。

 

「それで名はどうします?水柱は、既に富岡さんが居ますので……「それなら既に考えてあります!」……珍しくウキウキしてますね浴美さん」

 

 しのぶの言葉を遮り何時もよりウキウキしている浴美が取り出したのは着物だった。

 

「炭治郎…これを///」

 

「これって…!?」

 

 浴美が渡したのは……赤と黒を貴重とした着物。それは前世でザフトのエリートしか身に纏うことのできない赤服にどこか似ていた。

 

「隠れて作っていたんですよね、禰豆子ちゃん」

「む~!」

 

 浴美の言葉に元気よく答える禰豆子。どうやら一緒に作ったようだ。どこか懐かしさを感じながら着物を受けとる炭治郎に……

 

「……運命(さだめ)

 

「え?」

 

 ぽつりと呟いた浴美。

 

「貴方にぴったりだと思います。…運命(さだめ)柱。ど、どうですか?」

 

「流石浴美さん。私達にぴったりな名前ですね!」

 

 運命(さだめ)柱……デスティニーの言う通り、自分にぴったりな名に微笑みながら受け取った着物をはおり……

 

 

運命(さだめ)柱。竈門炭治郎!!これからよろしくお願いします!」

 

 

 

 己が背負う柱の名を高らかに叫んだ。

 

 

 

 END

 

 




炭治郎「しかし、よくできるよな」イチャイチャ♡
浴美「ふふ、自信作なんですよ♪」イチャイチャ♡ 

一同「「「「……………………………」」」」


甘露寺「守護之さん!守護之さん!!あの二人はどこまで進んでいるんですか!?」
正義「お、落ち着け!!」

宇髄「降雪の奴、色沙汰に地味な奴だと思っていたが………やることは地味にやってんだな」
煉獄「うむ!浴美の兄貴分として応援しようではないか!!」
悲鳴嶼「あぁ、雪の少女と日輪の少年。果たしてどうなる事か……」

しのぶ「ふふふ……少し羨ましいですね~冨岡さん~」
義勇「…………何故俺に言う?」




最後まで読んでくれてありがとうございました。次回もお楽しみ!!


 


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