その雷は何処へ向かうのか (営業マン)
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プロローグ

駄文ですがお付き合いください。


優しい母、厳しいながらも愛情を注いでくれた父。この人達の元に生まれてきて良かったと心の底からそう思えた。そして、歳が十三になった頃好きな女性が出来た。一目惚れだった。女性は皆んな綺麗だと思うけど彼女は別格で綺麗だった。

 

名前は小春(こはる)。同じ村に住む同じ歳で、可憐で、笑顔が似合う女の子だ。

 

「小春。俺が大人になったら結婚してくれ!」

「‥‥え、えっと、はい。私で良いんだったら喜んで」

「ほ、本当にいいのか!?」

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

俺の求婚に最初は戸惑った様子だったが、しばらくすると照れ臭そうに頷いてくれた。それを見た俺はわれを忘れるくらいに喜んだ。その様子を見てくすくすと笑う小春。時が経ち大人になっても、この幸せな日々が続くと思っていた。

 

でも、それは突然崩れてしまった。

 

ある日晩、俺が住んでいた村が異形の鬼たちに襲われとうとう俺達が暮らす家の中まで入り込んでしまっていた。

父さんは俺と母さんを守る為に勇敢に立ち向かったが程なくして殺されてしまう。そんな状況に俺は異様な程の身震いで震えているだけだったが、そんな俺を守るように刃物を持ち異形に立ち向かう母の姿があった。

 

「か、母さん」

「良い。征十郎(せいじゅうろう)。母さんがコイツらを足止めするから今のうちに逃げなさい!良い此処から遠くない所に貴方のお爺ちゃんが暮らしてる。その人を頼りなさい!」

 

母が震える手で刀物を持ち異形に立ち向かう姿を呆然と見ていると、今まで見たことのない顔をして振り返り俺を叱りつける。

 

「何をしてるの!男ならこれくらいでビビるな!!守る人がもう1人居るんじゃないの!?だったら早く行きなさい!!必ず母さんも後から行くから!!」

 

それを聞いた俺は家を飛び出して飛び出した。

 

 

 

「ごめんね。征十郎。貴方が大人になった姿を見れなくて。でも、貴方なら大丈夫。立派な大人になってくれるって信じてるから。‥‥私の息子を頼むわ。お父さん」

 

 

 

家を飛び出した俺は小春の家へと向かう。

 

「小春!此処から逃げるぞ!」

 

小春の家に入ると小春の両親は見るも無残な姿で朽ち果てていた。

 

「に、にげ‥て、せい、じゅ‥ろうさん‥‥だけ、でもにげ‥‥て。あいつ、が、‥もどっ、てくるから」

「小春!」

 

そして、亡くなっている両親の隣で血まみれになっている小春を見つける。

 

「ご、‥めん‥なさい。やく‥そく‥まも、れなくって‥」

「何言ってるんだよ!俺と結婚してくれるんだろ!だから死ぬな!」

 

息も絶え絶えに喋る小春を抱き締めると僅かに俺の着物に触れる。

 

「わ、わ、わたしの‥ぶ、んまで‥‥なが、いきし、て‥ね」

 

小春はそう言った後力が抜けたように横たわる。

 

「‥‥小春、誓うよ。必ず仇を討つ!!この村を襲った奴を殺してやる!!!!‥‥だから、ごめんな。今から此処を離れる。また後から来るからその時にちゃんと弔うから待っててくれ」

 

小春を静かに寝かしてその場を後にした。

 

それからは走って走って走って泣きながら走った。そして、朝になって近くの町に辿り着いて意識を失った。

 

 

「ちょっと困りますよ。慈悟郎さん!」

 

あれからどれだけの時間が経ったのか分からないが、どうやら俺は運良く誰かに拾われたようで、布団に寝かしつけられていた。

 

「良いから其処を退け!」

 

ガラッと引き戸を開けて杖をつきながら立派な鬚を生やし左頬に傷跡がある爺さんが横になっている俺の横に座った。

 

「お前さんが征十郎か?」

「は、はい」

 

すると、その爺さんは手を伸ばし俺の頭を撫で始める。

 

「お前の事は彼奴からの手紙で知っておった」

「あ、あの」

「あぁ、言い忘れとったな。儂は桑島慈悟郎。お前の爺さんになる」

 

その言葉を聞いて目を見開く。

 

「あ、あの母さん達が襲われたんだ」

「‥‥もう、何も言うな」

 

俺はその言葉で全てを悟るが、望みを捨てるわけにはいかなかった。布団に横になっていた体を起こし爺さんの服を掴む。

 

「そ、そう言えば、か、母さんは何処に?鬼を足止めするって村に残ってるんだ!」

「もう何も言うなと言っとる!!」

 

爺の気迫が伝わってきて黙るしかなくなる。

 

「‥‥お前の母さんは勇敢じゃった。一人息子のお前を逃がす為に必死に戦った」

「じ、じゃあ、母さんは?」

 

爺さんは俺の目をしっかりと見据えて、残念そうに瞼を閉じた。

 

「そ、そんな母さんまで」

 

服を掴んでいた手が自然と緩む。

 

「征十郎!しっかりせい!そんなんでは彼奴の望んだ男にはなれんぞ!じゃが、今は泣け。今だけは我慢するでない」

 

そう言って俺を胸元に引き寄せてくれる。

 

「父さん!母さん!小春!!!うぁぁわぁぁ!!」

「頑張ったな。よう頑張った」

 

しばらく爺さんの胸の中で泣きじゃくる。

 

「征十郎。鬼を倒したいか?」

「っ!倒せるのか?だったら俺は倒したい!皆んなの仇を討つんだ!!」

 

泣き止むのを待って爺さんが鬼を倒したいかと尋ねるので迷わず決断する。

 

「その道は厳しいぞ!お前の母も儂が鍛えたから強かった。だが鬼と戦いの末、怪我で剣を握れぬ体になってしまい辞めてしまったがな。そんな凄かった母が負けてしまう程強い相手と戦う事になる。それでもやるか!」

「やる!俺は鬼を倒すんだ!!」

 

爺さんは俺の手をガッチリと掴む。

 

「なら、鬼殺隊に入ることじゃ。その前に修行をし、鬼を倒す方法を身につけなければならん」

「爺さん、これからよろしくお願いします」

 

鬼殺隊。それは人喰い鬼を狩る剣士らが集まった政府非公式の組織らしい。しかし、そう簡単に入れるものではなく最終戦別に生き残らなければならないとの事だった。

 

それでも俺は鬼殺隊に入る為、最終選別を突破する為に爺さんの元で世話になることを決め頭を下げた。

 

「分かった」

 

数日後、世話をしてくれた人に礼を言い、その場を後にして爺さんが暮らしている山で修行に入る事になったが、修行に入る前に村があった場所に爺さんと戻ってくると村は悲惨な状況だった。

 

でも、皆んなの死体はどこにも無かった。もちろん、父さん、母さん、小春の死体も無かった。

 

爺さんの話では鬼は人を喰らうらしい。つまり、死体は残らないとのことだった。

 

 

「泣くならこれで最後じゃぞ」

「泣かない。泣くわけにはいかない。仇を討つまでは」

 

 

きつく手を握りしめ決意を強くする。必ず仇は打つ。

 

あの鬼の姿は絶対に忘れない。

 

 

 

 

 

ー 翌日 ー

 

 

 

先程とは違った声が聞こえてくる。

 

 

「こら!こんな草原でサボってないでさっさと起きんか!!征十郎!!」

「!!何すんだ!げ!」

 

修行を抜け出し休憩していたのが見つかり爺さんが俺を杖で叩いき起こしたようだった。

 

「何がげ!じゃ!さっさと修行に戻らんか!!お前の覚悟とはそんなものなのか!!それでは仇を討つなど夢のまた夢じゃぞ!!待っておるからすぐに支度せい!」

 

そう言うと爺さんはその場を去って行ってしまった。

 

「やるよ。やってやるさ。俺は仇を討つんだからな」

 

 

起き上がって覚悟を口にすることで気持ちを引き締める。

 

 

 

 

「何をやっとるんじゃ!征十郎!!もっと早く動かんか!!」

「はぁ、はぁ」

 

無茶言うなよ。あれから半年、毎日毎日朝から晩まで何回も仕掛けのある山を全速力で走って登り降りされて足限界だって。それに空気が薄いせいで上手く体が動かない。

 

「雷の呼吸は足を鍛えねばならぬ。怠るでないぞ!さぁ、次!」

「チッ!くそ爺ィー!!」

「くそ爺ィーとはなんじゃ!師範と呼ばんかー!!!」

「くそ師範!!!」

「くそをつけるなでないわーー!!!」

 

次を行けという爺さんに対する怒りだけで一心不乱に山を走って降りる。

 

「ヌァッ!ガッッ!」

 

足を滑らせて転び、勢いよく木に体を打ち付けた。

 

「痛ぇ。‥‥雷の呼吸を身につけて皆んなの仇を討つんだ!これくらいで折れてたまるか!」

 

痛む体を起こし、山を全力で降りる。

 

「はぁ、はぁ、次は登り」

 

乱れた呼吸を整えずに今度は山を駆け上がる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、爺さん。後何本やるんだ」

「今日はもう終いじゃ」

「いや、後一往復やってから休む」

 

もう休むように言われるが滝のように流れる汗を気にせず修行を続ける。

 

「全く、やる気がありすぎるのも困ったもんじゃわい」

 

爺さんの心配をよそに再び山を全速力で往復してその日を終えた。

 

 

次の日。

 

 

「征十郎。次の修行に入るぞ」

「これは」

 

爺さんから渡されたのは刀。

 

「素振りじゃ」

「素振り?」

「朝から晩までその刀を振るんじゃ」

 

は?朝から晩まで?生まれて初めて握った刀を?

 

「儂が使う剣術は抜刀術。目にも留まらぬ速さで鬼を斬る」

 

爺さんがそう言って持っていた杖を刀に見立て抜刀術の構えを取る。

 

「力を入れるのは一瞬」

そう言いながら刀の代わりに杖を振り抜くと同時に風が通り抜ける。

 

「このようにやってみろ」

「は?」

 

凄すぎて素っ頓狂の声が漏れるが、それを気にしない爺さんは抜刀術の構えについて事細かく説明しだす。

 

「儂みたいになれとは言っとらん。じゃが、その身に抜刀術を染み込ませるんじゃ」

「‥‥舐めんなよ!爺さんと同じになるまで次の修行には移らない!!」

 

それから毎日毎日朝から晩まで寝る暇さえ惜しんで教えてもらった抜刀術を振り抜いた。雨が降ろうが、風が吹こうが、手に豆ができても、それが潰れて刀を握るのさえ辛くても、毎日毎日爺さんに教えてもらった抜刀術を染み込ませる為に必死に振り抜いた。

 

「爺さん、見てろよ!」

「あぁ」

 

刀の素振りをしてから五ヶ月が過ぎようとしていた頃、爺さんを目の前に立たせて、抜刀術の構えに入る。

 

「っ!!」

 

構えから素早く刀を抜き振り抜くとそよ風程度の風が爺さんの髭を揺らす。元鬼殺隊の柱だった爺さんには遠く及ばないけど、初日とは比べものにならない進歩だった。

 

「‥おぉ!少しながら髭が揺れたぞ!征十郎!」

「どうだ!」

 

大したもんだと嬉しそうに何度も頷く爺さんを見て誇らしく胸を張る。

 

「よし、これなら次に行けそうじゃな。抜刀術も身についたようだからな」

 

その言葉に力強く頷く。

 

 

 

次の修行それは体術。

 

「爺さんとやるのか?」

「当たり前じゃ」

 

爺さんは鬼との戦いで足を失っている為、まともに動けないのではないかと甘くみていると

 

「心配無用じゃ。これくらいのハンデがあって丁度良いくらいじゃ。さぁ、かかって来い」

 

心を見透かされた上に、甘く見られているとあって勢いよく爺さん目掛け突っ込んでいく。

 

「後悔するなよ!爺ぃ!」

「っ!!」

 

一瞬の出来事で分からなかったが、一つだけ分かっていることがあった。

 

「が!」

 

それは片足不自由な爺さんに投げ飛ばされているということ。地面に打ち付けられ呆然と空を見上げていると

 

「何をしておる。素早く立ち上がらんか」

 

その言葉にはっとし立ち上がって、また爺さん目掛け突っ込んでいくが結果は同じで投げ飛ばされて終わってしまう。

 

「くそ。何で触ることすら出来ないんだ」

「征十郎。半歩、いや一歩動き出すのが遅い!どうやったら早く動けるのか考えるんじゃ」

 

あれから何度やっても爺さんに触れる事すら出来ない状況に愚痴を零すと何が悪いのかを教えてくれた。動きが遅い。相手に間を持たせってるって事か?だったらそれを埋める為の行動をすれば良いんだ。

 

「動き出しが遅い?だったら」

 

集中力を高めて爺さんに向かっていく。

 

「答えは分かったか?征十郎!」

 

今回も爺さんに触れることが出来ずに投げ飛ばされるが、本当の勝負はここからだ。投げ飛ばされて宙を舞っている間受け身の体勢を整える。

 

「答えっていうのは受け身だろ」

 

地面に倒れるのではなく受け身を取り、すぐ様爺さんに向かって突っ込む。

 

「その通りじゃ。これはどんな体勢からからでも素早く立ち上がる修行だったんじゃ」

「だったら最初からそう言えよ!」

 

受身から素早く立ち上がり突っ込んだものの結果は同じだった。

 

「考えることも必要。それが成長に繋がる」

 

流石は元鬼殺隊の柱を務めただけあって、爺さんの言葉に重みがあった。

 

 

 

体術修行は一ヶ月間で終わり次の修行に移ることになった。

 

「今までのは基礎中の基礎。今から全集中の呼吸、そして、型を教える」

「全集中の呼吸、型?」

 

爺さんが言うには体の隅々まで行き渡るように長い呼吸を意識することが肝らしい。

 

「そして、雷の呼吸は六つの型がある。それを全て宗次郎お前に教える」

 

爺さんは今までの修行で見せたことも無い、厳しい表情を浮かべながら事細かく全集中の呼吸、型について教えてくれる。

 

「違うそうではない!」

 

呼吸をしてみるが途中でやり方が違うと持っている杖で、胸、肺のあたりを爺さんに強く叩かれる。

 

「痛えな!」

「全集中の呼吸とは体中の血の巡りと心臓の鼓動を速くする。すると体温が上がり人間のまま鬼のように強くなれるのだ。とにかく肺を大きくする。血の中に多くの空気を取り込む事で血が驚き骨と筋肉が慌て熱くなる。もう一回やってみ」

 

話を聞くつもりがないのか俺の文句を無視して肺の使い方を説明する。話を聞かない爺さんに怒りを感じながらも胸に手を置き、もう一度、集中して呼吸をする。

 

「っ!がは!!「違う!もっと長く!」

「分かったから叩くなよ!」

「叩かれたくなかったら出来るようになるんじゃ」

 

呼吸は今までにないくらい厳しいものになったが、つきっきりの指導もあってか何とか身に付けることができた。

 

 

 

“ すぅぅぅ "

 

“ しゅぅぅぅぅぅぅ ”

 

鼻から息を吸い、肺を大きくし、口から吐き出す。

 

「出来るようになった事を考えれば、今のところは合格点じゃな。だが、慢心するなよ。征十郎。全集中の呼吸には上があるのだからな」

「‥‥分かってるよ」

 

コツとかそんなものはない。ただ、何回、何十回、何百回と呼吸をして身につけたものだった。

 

「さて、次は雷の呼吸の型じゃな」

 

全集中の呼吸を使う雷の型。

 

「気負うな征十郎。お前なら出来る」

「やってやるよ」

 

爺さんから雷の型を丁寧に説明され、全集中の呼吸を使いながら実際にしてみるがこれも簡単に出来るものではなかった。それでも頭に、体に、骨に染み込ませる。只の知識で終わってしまわないように。肺が痛くなろうが、腕がちぎれそうな痛みに耐えながら、足が動かなくなろうが必死に食らいつく。

 

 

 

そして、全集中の呼吸、雷の型を学び始めて半年経った。

 

 

「どうだ爺さん」

「うむ、よくやった征十郎」

 

雷の呼吸全て習得して、爺さんに認めてもらう事が出来た。

 

 

「もう儂に教えられることはもう無い。じゃが、更に研ぎ澄ませる為修行場を変えるとする」

 

 

今までの山よりも標高が高い山に修行の場を移して習ってきた事の繰り返しをする事になる。

 

「征十郎、これをつけて山を降りるのだ」

「目隠しか」

 

渡された目隠しをつけ山を駆け出そうとした時、爺さんはまるで忘れていたかのように仕掛けの危険度が上がっていると言い出す。

 

「すまん、すまん忘れておった。あと刀も持って行け」

「わざとだろ」

 

目隠しをいるせいで爺さんの表情は見えないが、にやついているのが目に浮かぶ。

 

「この程度で死ぬようなら最終選別などでは生き残れん。その程度の男だったという事だ」

「上等だよ。くそ爺ぃ」

 

更に環境が険しくなったのを気にせずに走りだす。

 

 

 

 

「(仕掛けの凄さ上がりすぎだろ。今までは間隔を多少空けた仕掛けだったけど、今回は間隔が曖昧で複数同時とかだし殺す気満々だな。でも、やばいという時は全身に電気が走ったかのような第六感が働くので助かる)」

 

絶え間なく自分を殺しにくる仕掛けに困惑しながらも、第六感が働いて特に怪我という怪我もなく突破していく。それが終われば刀の素振り。夜になれば木に登り、不安定な場所での全集中の呼吸。

 

 

 

更に修行を続け半年後。爺さんの元で修行し二年。ついに最終選別を受ける時がきた。

 

 

 

 




キャラクター紹介

名前 瀬田征十郎

年齢 13歳 修行後 15歳。

身長 13才時 157センチ 54キロ 15歳 167センチ 63キロ

富岡義勇、錆兎と同期。

趣味 将棋、賭けごと。猫を愛でること。

好きな食べ物 肉じゃが、玉子焼き、甘い物。


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最終選別

駄文ですがお付き合いください。


最終選別

 

「征十郎。お前には才能がある。必ず生き残れる」

 

最近選別に向かう前の晩に爺さんと一緒に食事を取っていると、今まで言われた事のない褒め言葉をかけられる。

 

「何だよ。突然」

「儂の修行についてこれたのだ自信を持って。弱気になるな。諦めるな。これだけ忘れなければ大丈夫だ」

 

爺さんからの助言を聞き漏らさないように、励ましてくれているのを無駄にしないように頭に叩き込む。

 

 

爺さんとの食事を終えて、一息ついていると鬼について色々と教えてもらう。

 

 

「鬼も人と同じよ。基本的に人を食った分だけ強くなれる。力は増し、肉体を変化させ、怪き術を使うものも現れる」

 

そこまで言うと爺さんは部屋を出て行ってしまうが程なく刀を持ち戻ってくる。

 

「鬼には二つの弱点がある。一つは急所は頸だが普通の刃物で頸を斬っても殺せん。この刀の名前は日輪刀。特別な鋼で造られた刀だ。明日これを貸してやるから持って行くといい。それともう一つの弱点。太陽の光だ。奴らは昼間は行動出来ない。奴らが行動できるのは夜だけなのだ。覚えておくのだぞ」

 

爺さんから日輪刀を受け取り明日に備える。

 

 

ー翌日ー

 

 

爺さんが用意してくれたお揃いの羽織りに袖を通して出発の挨拶を済ませる。

 

「じゃあ行ってくる」

「あぁ。軽く突破してこい」

 

その言葉を受け、藤襲山へと向かう。

 

夜になりやっと最終選別が行われる藤襲山に辿り着くことが出来た。藤襲山と名前が付けられるだけあって山の麓から中腹にかけて藤の花が咲き誇っている。その景色に見惚れながら山に設けられた石段を登り終えると開けた場所に出る。

 

「こんなに最終選別を受ける奴がいるのか」

 

既に20名程の受験者がその時を待っているようだった。爺さん曰く、育手は山程いてそれぞれのやり方で剣士を育てるらしい。それが今日此処に集結し、最終選別を受けるのだという。

 

「ん?‥‥なんだ彼奴ら」

 

気になった方を見ると狐面をつけた宍色の男と同じ狐面をつけた黒髪の男が仲良く話をしている姿が目に入る。

 

「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出ることはできません」

 

刻限になったからなのか藤の花が描かれた提灯を持った一人の女性が場を仕切り始める。

 

「山の麓から中腹にかけて鬼共が嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」

 

この話は前置きで次の話が重要なのだと直感が働く。

 

「しかし、ここから先には藤の花が咲いておりませんから鬼共がおります。この中で七日間生き抜く。それが最終選別の合格条件でございます」

 

最終選別の合格条件を告げられ場の空気が引き締まる。

 

「では、いってらっしゃいませ」

 

それを合図に奥へと足を踏み入れている。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「まずは、この夜を乗り切る」

 

七日間生き抜く為には無駄な行動で体力を消費しないこと。その為には最も早く朝日が当たる場所、東側に移動するか。そうすれば体を休めることができる。

 

 

「!」

 

東側を目指して走り出してしばらくすると、止まった方が良いと直感が報せるので動くのをやめ身構える。

 

「何処だ?」

「ち!感のいい餓鬼だぜ!」

 

少し先から鬼が姿を現わす。

 

「でも、それだけじゃ生き残れないんだよ!」

 

俺を食うためにこちらに向かってくる鬼を見据える。

 

(落ち着け!俺なら出来る!)

 

“ シィィィー ”

 

「 “ 全集中(ぜんしゅうちゅう)雷の呼吸 壱ノ型(かみなりのこきゅう いちのかた) 霹靂一閃(へきれきいっせん) ” 」

 

片足を引き、力を足に集中させ溜め前傾の居合の構えから一瞬で敵と間合いを詰めすれ違い様に一閃し、刀を鞘に収めた音と同時に鬼の頸が地面に落ちる。

 

(できた。あの修行は無駄じゃなかった)

 

後ろを振り向くと、さっきの頸を斬られた鬼はボロボロと姿が崩れ無くなっていく。

 

(この刀で斬られると何も残らないのか)

 

完全に無くなったのを見届けて東側を目指して再び駆け出す。

 

 

 

「ケヒヒ!久々の人肉じゃ!」

「 “ 雷の呼吸 弐ノ型 稲魂(かみなりのこきゅう にのかた いなだま) ” 」

 

構えは抜刀術。雷の呼吸で得た力を逃さないうちに一瞬で五連撃を放つ。切り落とす場所は両腕、両足、最後に頸。

 

「大丈夫だ。やれてる」

「く、来るなーー!」

 

雷の呼吸を使いこなし二体目を倒して一息つくと、悲鳴をあげながら俺の脇を通り抜けていく最終選別の受験者。

 

「怖いのは分かる。でも、覚悟がないなら参加するな」

「ヒヒ、そうだよな!」

 

今の奴を追っていた鬼が飛び掛ってくるが刀で払い距離を取った。

 

「もらったぁ!」

 

すると横から別の鬼が飛び出してくるが、攻撃を食らう前に後ろに飛びそれを避ける。

 

「おい!俺の獲物だぞ!」

「うるせぇ!早い者勝ちだろぉ!」

 

何方の獲物かと言い争う鬼達。

 

「 “ 雷の呼吸 肆ノ型 遠雷(かみなりのこきゅう しのかた えんらい) ” 」

 

雷の呼吸は基本的に一対一を得意とする流派だが、肆ノ型は雷の呼吸では数少ない複数を同時に相手する技それが遠雷。雷の呼吸で得た力を逃さないようにしつつ、体を捻る。そして、抜刀術の構えから一瞬で刀を振り抜くと共に溜めていた雷の力を自分を中心とした場所から広範囲に飛ばす。

 

「「ぎぁやぁぁぁ!」」

 

この技は鬼達には致命傷にはならないが、この攻撃には別の意味がある。鬼達は強度の雷に打たれ、原型を無くすほど焼き爛れるが

 

 

「馬鹿が!鬼の再生能力にこんなもの!!!?」

「知ってるよ。でも、お前らの足は止まってる。全身の回復に力を回しているからだ。だから今、頸は無防備なんだろ」

「「ま、待って!」」

 

 

致命傷にならずとも鬼を焼き爛れにしてその場に釘付けにする。その間に間合いに詰め寄ればいくら鬼といえど対処は難しい。そして、頸がある程度再生したところを続けざまに斬る。これが遠雷の真骨頂。

 

「何方にも食われてやるつもりはない」

 

崩れゆく鬼に目もくれずに先を急ぐ。

 

 

あれから八人の鬼を倒し、合計で十二人を倒した時。

 

 

 

「だ、誰かいないかーー!!」

 

遠くから助けを求める声にまたかと内心で悪態を吐くが、鬼に食わせてやるつもりもないので向かうことにする。

 

 

「たすけてくれ!」

「落ち着け。それで鬼は何処にいる」

「あっちだ。さっき宍色の髪をした狐面をつけた奴が行ったんだ。あんなのに勝てるわけがない!」

 

 

宍色の髪の狐面?あぁ、彼奴か!コイツの言っている奴に心当たりがあったので直ぐに分かった。

 

「分かった。任せろ」

 

逃げてきた奴を更に逃がした後、言われた方へと駆け出す。

 

 

(どんな鬼かは分からないがあの動揺は尋常じゃない。急がないとまずいな)

 

 

 

「今、なんと言った!!!」

 

(いた!何だあの手が幾つも生えた異形の鬼は?!鬼は元々は人間だったと修行に入る前に爺さんから聞いだけど。一体人間を何人食ったらあんな醜い姿になるんだ!)

 

「ふふふっ!何度でも言ってやる!鱗滝のせいで子供達は死んだ。鱗滝が殺したようなものだ!」

「鱗滝さんは優しい人だ!あの人を悪く言うのは許さん!」

 

(馬鹿それは挑発だぞ!乗るな!)

 

探していた奴は既に異形の鬼と対峙している。近くにあった木の影に隠れて会話を盗み聞きする限り大切な人を侮辱し、狐面の奴を挑発しているようだった。

 

 

「 “ 全集中(ぜんしゅうちゅう)水の呼吸 壱ノ型(みずのこきゅう いちのかた) 水面斬り(みなもぎり) ” 」

 

 

狐面は跳躍しクロスさせた両腕から勢い良く水平に刀を異形の頸を斬る為に振った。しかし、異形の鬼の頸を斬るはずだった刀が頸に当たっただけで何故か折れてしまった。

 

 

「終わりだな!安心しろよ。お前も殺した後で俺が食ってやるから」

 

(まずい!)

 

そう言うと異形の鬼はいくつもあった手を一つに纏め、無防備な狐面に向けてそれを伸ばす。それを見た俺はあの狐面が死んでしまう事が容易に想像できたので、間に合うか分からなかったけど急いで隠れた木の陰から飛び出す。

 

 

(諦めない!必ず助ける!もう誰も俺の目の前で死なせない!!)

「 “ 雷の呼吸 弐ノ型 稲魂(かみなりのこきゅう にのかた いなだま) ” 」

 

 

狐面を掴もうとしていた腕を斬り落とし間一髪のところで狐面を救い出すことに成功する。

 

 

「誰だ!!」

 

 

異形の鬼は怒り狂っているがそれを無視し、狐面に目を向けると

 

「大丈夫か?狐面」

「あ、あぁ」

 

狐面は刀が折れた事で動揺していたがそれ以外は大丈夫だったようだ。

 

「あれは俺が倒す」

「大丈夫だ。彼奴は俺がやらなくちゃならないんだ。鱗滝さんのことを侮辱した彼奴だけは!」

「頭冷やせ!馬鹿が!そんな折れた刀で彼奴を倒せると思ってるのか!!大切な人を侮辱されて怒る気持ちは分かる。でも、今ここでお前が死んだらその人は喜ぶのか!もう一人の連れは悲しむんじゃないのか!自分を責めるんじゃないのか!そう言う事考えてから言え!!!」

 

此処で死んでしまったら大切な人がどう思うのか、一緒に来ていた連れはどうなったのか分からないが、もし、其奴だけが生き残ったらどう思うのか、考えるように伝えると彼は悟ったような表情を浮かべていた。

 

「なら、頼む!彼奴は俺の恩人を尊敬する人を侮辱したんだ。俺の代わりに倒してくれ!」

「‥‥あぁ。分かった。必ず倒す」

 

視線を手が複数生えた異形の鬼へと戻して対峙する。

 

「話は終わったか?お前も、宍色の餓鬼も俺に殺されて食われるんだからな」

「俺も、こいつも此処では死なない」

 

駆け出して間合いに入ろうとするが、手が伸縮自在、斬っても直ぐに分裂する手が近づくのを阻もうと邪魔をしてくる。

 

「手を斬るだけじゃ俺は倒せないぞ」

「分かってるよ。そんなこと」

 

無数に伸びてくる手を斬りながら異形の鬼に向かう。

 

(何だ下から嫌な気配が!)

「ち!飛びやがったか!勘がいいな!」

 

地面からも手を出せるようで、間一髪のところで飛び上がって躱す。

 

「でも、空中では避けられないだろう!」

 

さっき狐面にした攻撃。複数あった手を一つに纏めて無防備な俺へと伸ばす。

 

「!」

 

咄嗟に刀を握り返し、俺を掴もうとした手を刀の棟で押しとどめ、その時にできた反動を生かして前中し手を完全に躱す。そして伸びきった腕に着地し頸めがけて駆け出した。

 

「(刀の棟で押しとどめた力を利用して躱しやがった!?)」

 

慌てた様子の鬼は頸の辺りからも手を生やし、間合いに入られるのを止めようとするがそれを全て斬り防ぎそして、刀を収め抜刀術の構えをしながら間合いに入った時、鬼が焦った表情が見えたが関係ない!

 

「俺を倒せると思っているのか?!お前ごときが!!」

「いつまでも下に見てるつもりなんだ!“ 全集中(ぜんしゅうちゅう) 雷の呼吸 壱ノ型(かみなりのこきゅう いちのかた) 霹靂一閃(へきれきいっせん) ” 」

 

鬼の間合いに入り片足を引き前傾の居合の構えから一瞬で頸へと間合いを詰めすれ違い様に一閃する。

 

 

 

(斬られたのか?!俺が!あんな餓鬼に!!くそくそくそ!!!これも全部鱗滝のせいだ!許さん許さん許さん!!!)

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、倒せた。‥‥危なかった」

 

今までの鬼とは比べ物にならない戦闘をして、どっと疲れが押し寄せる。

 

 

「倒したのか」

「何とかな」

 

狐面も安心したような表情を浮かべている。

 

「刀が折れたんじゃ戦えないだろ。これからは一緒に行動しよう」

「あ、あぁ。そうしてくれると助かる」

 

冷静になっていた狐面は俺の話に素直に乗ってくれた。狐面の男の名前は錆兎と言うらしい。そして、彼が言うには藤襲山の鬼は大方倒したはずだと。

 

「でも、全部じゃないんだろ。今みたいのがいないとも限らないし油断は禁物だな」

「そうだな」

 

錆兎は崩れゆく異形の鬼を少し気にかけていたが俺と共にその場を後にする。

 

 

錆兎の言った通り襲ってくる鬼は殆どいなかった。何故、鬼がいないと分かったのかと尋ねると彼は自分が倒したからだと言った。凄い奴もいるんだと思ったのと同時に自分を磨かないといけないと言うことも分かった。

 

それから錆兎とは数日間一緒に行動したせいか、色々な話をした。自分達が何故鬼殺隊に入りたいのか、互いの流派の修行はどうだった、とか様々な事を語り合った。こうして、最終選別の合格条件の七日間は終わりを告げた。

 

朝日が昇ったのを確認して最終選別が始まった場所へと戻ると、七日前と同じ人数とあの時の女性がいた。

 

「お帰りなさいませ。そして、おめでとうございます。ご無事で何よりです」

 

女性は此処にいる全員の合格を告げると、皆安堵した空気に包まれる。

 

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます。階級は十段階ございます。甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸。今現在皆様は一番下の癸でございます」

 

そんな空気を壊すかのようにてきぱきと鬼殺隊の隊服についてと鬼殺隊の階級についての説明を受ける。

 

「さらに今から鎹鴉をつけさせていただきます」

 

パン、パンと女性が手を叩くと上空を舞っていた鴉が一斉に俺達目掛けて降りてくる。

 

「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます」

 

降りてきた鴉はあたかも当然のように俺の肩に止まっていた。

 

「では、あちらから刀を造る玉鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は御自身で選ぶのです」

 

最初に来た時にはなかった机がいつのまにかあり、その机の上にはゴツゴツとした石のようなものが用意されていた。

 

いきなり自分で選べと言われて困惑しているようだったが、俺は直感に任せて鋼を一つ取り女性へと手渡す。

 

「刀が出来るまで十日から十五日程度ようしますのでご了承ください」

 

刀はすぐにはできないとの事だった。なので、爺さんの元に戻ったらまた修行に戻ることに決めた。錆兎のような強さを少しでも身につけられるように。

 

 

 

俺が選んだことで困惑していた錆兎をはじめとした面々も次々と鋼を一つ取り女性へと手渡して行く。そして、藤襲山での最終選別と鬼殺隊入隊の準備が終わり各々が隊服を持ち帰り帰路へとつくことになった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「そうかい。最終選別は全員が生き残ったのかい。凄いね。また、私の剣士達が増えた」

 

報告を持ってきた鴉を撫でながらも、内心では驚いていた。

 

 

(まさか全員が生き残るなんてね。近年稀にみる成果だ。一体、どういう子達なんだろうね)

 

 

詳しい報告がないので詳細は分からないけど、いずれ会う子供達に思いをときめかせる。

 

 

「会うのが楽しみだよ」

 

 

その思いを口にするだけで更に胸が高鳴った。




全集中のみ色を変えてみました。

見ずらかったら色を黒に戻します。

遠雷については独自解釈です。水の呼吸 ねじれ渦に似せた感じにしようと思いました。

漆ノ型 火雷神(ほのいかづちのかみ)は善逸独自の技ですので使いません。


代わりの漆ノ型 は 漆ノ型 草薙の剣・千鳥刀にします。NARUTOのサスケが使っていた技ですね。

そして、もう一つ 捌ノ型 建御雷神(たけみかづち)
これについては使うんですけど、効果はまだどうしようかなと言った感じです。


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初任務

駄文ですがお付き合いください。


「よく、生きて戻った!征十郎!!」

 

最終選別から爺さんの元に戻ったらいきなり抱きつかれ戸惑ってしまう。

 

「無事でなによりだ!」

 

最初は意味が分からず立ち尽くしているだけだったが、俺より背が小さい爺さんに目をやると爺さんの体が小さく震えているのが分かった。爺さんは口では厳しい事をよく言ったり、強気なことを言っていたけど全ては愛情の裏返しだっていうことは分かっていた。なので、最終選別に行った俺のことをあれからずっと気にしてくれていたようで、こういう形になっているんだと思うと恥ずかしながらも抱きしめ返す。

 

「ただいま爺さん」

「あぁ。よう戻ってきた」

 

 

 

最終選別が終わってからずっと教えられた事を繰り返す日々が続けている。何故なら、最終選別の時の事を爺さんに教えると異形の鬼の事は珍しく褒めてもらえたが、錆兎の事を話すと目の色を変えたように「鱗滝の剣士に先を越されるとは不甲斐ない!」刀が出来るまで修行をし続けろと言われる。

 

「まぁ、そのつもりだったんだけど。あの時の抱擁は何だったのか」

「何をぶつぶつ言っとるんじゃ!」

 

刀の素振りをしながら愚痴を吐き出すと、後ろから爺さんに話をかけられる。

 

「びっくりするだろ!いきなり声かけるなよ!」

「びっくりする方が悪いのだ」

 

爺さんの悪びれもしない態度に呆れるが、今に始まったことではないのでもう何も言わない。

 

「それで何の用だよ」

「客だ」

 

客?こんな所まで俺を訪ねてきたのか?

 

「はぁ、刀が出来たから持ってきたのだ。早く来い馬鹿者」

「!そうか!出来たのか俺の刀!」

 

玉鋼を選んで十五日。とうとう刀が出来たようでわざわざ届けに来てくれたようだった。

 

 

「あ、どうも。私は刀穴森(かなもり)と申します。征十郎殿の刀を打たせて頂きました。戦いのお役に立てれば幸いです」

 

刀穴森さんの第一印象はひょっとこの面をつけた変な人。後々、爺さんから聞いた話だと刀鍛冶の人は皆ひょっとこの面をつけているらしい。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

日輪刀は色変わりの刀と言われているらしい。使い手によって抜刀した時に初めて色を帯びる。鬼殺隊専用の刀。

 

「日輪刀の原料は砂鉄と鉱石。太陽に一番近い山でとれます。“ 猩々緋砂鉄” “ 猩々緋鉱石” 陽の光を吸収する鉄を加えて日輪刀ができます。それらを採掘する山、陽光山は一年中陽が射していますし、曇りませんし、雨も降りません。と、説明はここまでにして、ではどうぞ抜いてみて下さい」

 

刀穴森さんの説明を一通り受け、造られた刀を受け取る。鍔は長方形連結型で色は金色。柄は白色。そして、金色で三角のモチーフが施されている。柄頭は金。鞘は黒色。

 

受け取った刀を意を決して抜くと刀身は深い黄色へと変わり、鎬に稲妻のような模様浮かび上がる。

 

「あぁ。良い色だ。鮮やかさを表現する稲妻模様。鬼を滅する覚悟が伝わってくる良い色、良い模様だ」

「‥‥これが俺の刀」

 

最終選別の時使っていた刀は、最終選別が終わって爺さんの元に帰ってきてすぐに返却した。

 

「では、私はこれで失礼します」

「刀穴森さんありがとうございました」

 

礼を言っていると空から鴉が舞い降りてくる。

 

 

『カァァーー!瀬田征十郎!指令ヲ伝エル!北ノ町へ向カイナサイ!!鬼狩リトシテノォ最初ノ仕事ヨ!心シテカカリナサイ!!ソコデハ毎夜毎夜、子供ガキエテイルゥ!!』

「えっ。鴉が喋ってるんだけど」

「気にするでない」

 

 

鴉からの鬼殺隊、最初の指令を受け準備にすることになった。

 

ー翌日ー

 

 

「爺さん。今までお世話になりました」

「師範と呼べと言っとろうが!‥‥‥だが、今は孫を見送る爺さんでいたい」

「爺さん」

 

鬼殺隊に正式に入隊したことによって、爺さんとの生活に終わりを迎えることになった。

 

「一つ儂からの助言だ、征十郎。雷の呼吸が全て出来るからといって驕るなよ。一つ一つ極め抜け極限まで達してみろ強靭な刃としろ。お前ならきっと出来るようになると儂は信じている。頑張れ征十郎」

「期待に必ず応えてみせる。じゃあ行ってきます」

 

 

爺さんがいななければ生きながら死んでいただろう、爺さんがいなければ鬼殺隊にも入れなかった。爺さんは俺を救ってくれた人だ、恩人だ。そんな人に恥じない生き方を見せる為に、隊服の上から爺さんお揃いの羽織に袖を通して別れの挨拶を済ませ爺さんと暮らしてきた山を後にした。

 

 

 

 

 

 

ーー 北の町ーー

 

 

日が傾きかけた頃。

 

「ここであってるのか?」

『カァーー!アッテるワ!ガンバリなさイ!征十郎!』

「分かったからもう黙ってくれ」

 

此処に来るまでにずっと喋り続ける鴉にうんざりして、子供が消えるという町に足を踏み入れる。

 

 

 

 

「すいません。みたらし団子ください」

「あいよー!」

 

鴉に言われた通り北の町へと来たわけだがこの町の一体何が起こっているのか状況を調べるために町で商いをしていた茶屋の軒先で休息しつつ、何か変わったことが町で起きてないか店主のおじさんに聞くと急に顔が青ざめる。

 

「お客さん。あんたよそ者だろ。悪いことは言わねぇ。早くこの町を出た方が良いぞ」

「へぇー。何でですか?」

「どういう訳かわからねぇが最近この町では子供が消えてるのさ。だから、よそ者が来ると連れ去りに来たんじゃねぇのかと疑われるんだよ」

 

そういうと店の奥へと姿をけしてしまう。

 

「はいよ。みたらし。それ食ったらこの町でなよ」

「考えておきます」

 

しばらくして注文したみたらし団子とお茶を持ってきてもらう。それをゆっくり食しながらこの町の鬼の事を考えていると

 

 

「あの。すいません。うちの子来てませんか?」

「また、あんたかい。来てないよ」

「じゃあ、見かけてませんか?」

「見かけてもない」

 

 

茶屋に綺麗な女性がやって来て店主と話をし始める。聞き耳をたてるのは失礼だと思いながらも、意識はしっかりと会話に向ける。

 

「分かりました。何度もすいません」

「いや、気にしないでくれ。どこに行っちまったんだろうな。娘さん」

 

女性は店主のおじさんに頭を下げてその場を後にしてしまった。

 

「おじさん、さっきの人は」

「あぁ。さっき話したろ。あの人の娘さんがいなくなったんだよ。確か、一昨日だったかな」

「へぇ。あ、ご馳走さまでした」

 

みたらし団子を急いで食し先程の女性を追った。

 

 

「すいません。失礼だとは思ったのですが茶屋での話を聞いてしまいました。それで良かったらなんですけどさっきの話を詳しく聞かせてくれませんか?」

「えっと、貴方は?」

「俺は瀬田征十郎と言います」

 

 

女性の名前はきよ。一人娘の凛ちゃんが一昨日から帰ってきてないのだという。

 

 

「娘さんは最後どこに行ったのか分かりますか?」

「あの日はいつも通り遊ぶと行って出かけたんです。でも、夕暮れになっても、夜になっても帰っては来ませんでした」

 

話を聞いて考えていると。きよさんはある話をし始める。

 

「もしかしたらあそこに行ったのかもしれないんです」

「あそこ?」

 

きよさんがいう場所とはこの町を出て少し進むと綺麗な小川が流れており、いくつもの岩屋がある場所で子供達の遊び場になっていた時期があるらしい。

 

「でも、あそこは危ないから行っては駄目だと行って聞かせましたし、そんなはずはないんですけど」

「そこへ行ってますので場所を詳しく教えてください」

 

きよさんは一緒に行くと聞かなかったが、流石に夜になるといつ鬼が出てくるのか分からないし、危ないので家に戻り、旦那さんと待っていてほしいと伝えて教えられた場所へと急いで向かう。

 

 

 

 

 

すっかり日がくれ夜になってその場所へとたどり着く。

 

 

「ここか」

 

その場所は教えてもらった通り、綺麗な川で近くには花々が咲き誇っていた。

 

「凛ちゃん!いたら返事をしてくれ!」

 

呼びかけは夜の川辺に虚しく響くだけだった。

 

 

こっちにおいで 、こっちにおいで

「!」

 

突如、怨念じみた声が何処からか聞こえてくる。俺を呼んでいるのかその声を頼りに川辺を進むといつのまにか岩屋へとたどり着いていた。

 

さぁ、奥へおいで

 

岩屋から響く声が中へ来いと誘う。

 

最初に声を聞いた時からすぐに鬼だと分かっていた。刀をいつでも抜けるよう柄に手を当てたまま奥へと向かう。

 

「あぁ。来てくれたのかい」

「お前鬼だな。消えた子供達を返せ」

 

岩屋の奥へと進むと開けた場所へとでる。

 

「なんだ。人間かと思ったが鬼狩りかお前」

「質問に答えろ。消えた子供達を返せ」

 

姿は若い女性の姿だが、その容姿ではあり得ない白く長い髪を翻して挑発した様子で俺を睨みつける。

 

「消えた子供達を返せぇ。ぷっあはははは!生きてるわけないだろ!馬鹿じゃない!!全部食ってやったわ!」

「嘘よ!!」

「!?」

 

聞き覚えのある声が背後から響き、慌てて振り返ると

 

「きよさん!何で此処に!?」

「‥‥ごめんなさい。征十郎君。気になって跡をつけてきたの」

「ふふふ。何だ普通の人間か。大人の肉は不味いから食わない主義だけど特別に鬼狩り共々食ってやる」

 

何故きよさんが此処にいるのかと思いながらも、彼女を庇うように立ち鬼と向かい合う。

 

「り、凛を返しなさい!」

「凛。凛。誰のことかしら」

「一昨日、川辺にいたんでしょう!?」

 

そこまできよさんの話を聞くと女の鬼はニヤニヤとしながら思い出したようだった。

 

「あぁ。あの花で冠作りに夢中になって、帰るのが怖くなって泣いていた娘のこと?」

 

一呼吸をおいて、舌なめずりする女の鬼。

 

「あんた達と同じように岩屋から呼んであげたら、来てくれたから食ったわ」

「うわぁぁぁ!!人殺し!人殺し!!この人殺し!!凛を返せ!凛を返してよ‥‥!お願いよ‥‥」

「その子が教えてくれたわ。お母さんの為に花で冠を作ったって。ほら、そこにあるでしょう。汚らしい花の冠が!馬鹿な子ね!こんな物を作るために死んで!」

「お前が殺したんだろ。それより何で子供ばかりを食らう」

 

きよさんは凛ちゃんが鬼に食われたと知り泣き崩れてしまう。きよさんの気持ちを考えると怒りが湧き上がるがそれを何とか堪え、何故子供ばかり食うのか訪ねると今度は嬉々とした表情を浮かべて

 

「だって、子供の肉は柔らかいし美味だわ。それにその親の絶望する姿!楽しいじゃない!ねぇ、教えてよ!今、どんな気持ち!!憎い、悲しい。滑稽ね!あははは!!」

「 “ 全集中(ぜんしゅうちゅう)雷の呼吸 肆ノ型 遠雷(かみなりのこきゅう しのかた えんらい)” 」

 

雷の呼吸で得た力を逃さないようにしつつ、体を捻る。そして、抜刀術の構えから一瞬で刀を振り抜くと共に溜めていた雷の力を自分を中心とした場所から広範囲に飛ばす。

 

「!がぁぁあ!!」

「地獄に落ちろ!下衆が!」

 

鬼は強度の雷に打たれ、原型を無くすほど焼き爛れるが

 

「もらった!」

「舐めるんじゃないわよ!!」

 

焼け爛れた筈の鬼に間合いを詰めて頸を斬り落とす刀を素早く躱してみせる。

 

「はぁ、はぁ、よくもやってくれたね!」

 

最終選別の時とは比べものにならない回復力で焼け爛れた体を修復してしまう。

 

「何だいその顔は?あぁ、藤襲山の事か。あんな雑魚鬼と私を一緒にするんじゃないわよ!!」

 

女鬼は俺の心を見透かしたように笑みを浮かべる。

 

「見せてあげるわ!私の力を “ 血鬼術 毒華爪(けっきじゅつ どっかそう) ” 」

 

異能の鬼が使う特殊な術。人を沢山喰べた鬼が血鬼術に目覚めると爺さんから聞いたことがある。

 

女鬼の血鬼術。それは爪。爪が異様に長くなった。

 

 

「きよさん。辛いのは分かります。だから、危ないのでここを動かないでください」

「驚かないのね。まぁ、良いわ。この爪で引き裂かれて死ぬが良い」

(消えた!?)

 

先程まで立っていたところから鬼がいなくなってしまい必死に探す。

 

(どこだ!どこに!‥‥上か!)

「ちっ!」

 

刀の構えを上段にして迫り来る爪を薙ぎ払う。

 

(何だ。爪を止められたのに驚きが少なかった。まだ何か能力があるのか?)

「へぇ。中々やるわね」

 

弾き飛ばされた女鬼は意外そうな表情を浮かべていたる。

 

「でも、私の爪の本質は分からないようね。止まってる暇はないわよ!」

「!」

 

攻守交代といったところか怒涛の攻めを受けきる防戦一方となってしまう。幸いなことに女鬼の意識は今のところ俺にだけ向けられているようで、移動しながらの戦闘となっている。

 

 

「これでお終いよ!」

「!!」

 

 

一瞬の隙を突かれ無防備な状態で女鬼の攻撃を受ける事になってしまった。背後は岩。目の前には鬼。万事休すかと思ったが

 

「ちっ!また避けるなんてね。反射が良いのかしら」

「はぁ、危なかった。‥‥!その爪!そういう事か!」

 

咄嗟の判断で身をしゃがめて爪を躱すことが出来た。

 

「そう。私の爪には猛毒があるのよ。まぁ、分かったところでどうしようもないけどね!」

 

目線だけを鬼に向けると、この鬼の本当の血鬼術を知ることができた。その理由は、俺がいたら串刺しになっていたであろう場所に爪が刺ささり岩が焼けるような音を立てて溶けているから。

 

「でも、今なら爪は必要ないわね。貴方、早く体勢立て直した方が良くない?背後には岩、前には間合いが詰まった私。そして、私の目の前でしゃがんだ貴方。さて、質問です!今から貴方は何をされるでしょう!」

(不味い!)

 

「遅いわよ!!!!!」

「がっ!!!」

 

その場から逃れようとしたが、鬼の身体能力のまえにそれは叶わず、鋭い蹴りをくらい頭部を岩にぶつけてしまった。

 

 

 

 

『起きなさい!征十郎!!目を開けなさい!!』

 

‥母さん

 

蹴りを食らって頭がおかしくなったのか、死んでしまった母さんの声が聞こえる。

 

『征十郎。良いの?人を守れなくて。また、あの日と同じ思いをするの?』

 

‥嫌だ!俺はもう誰かの死ぬところを見たくない!だから、爺さんの厳しい修行にも耐えた!仇を討つために歯を食いしばって必死にやってきた!

 

『そう。でも厳しいことを言うわ。だったら、もっと頑張りなさい!極限まで極み抜け、誰にも負けないほどに!!もう何も失わないように!!誰にも触れられないくらい速く。ただ速く!!誰よりも強く守り抜きなさい!!』

 

‥‥極限まで極めろ。爺さんからも言われたよ。母さん

 

『あの人は期待してない人にそんな事言わない。だから信じなさい自分を!貴方なら出来る!だって母さんの子だから!』

 

分かったよ。母さん。

 

 

 

自分を信じる。誰かを守る。それだけで今まで以上に強くなれた気がした。

 

 

 

 

 

 

「ぁ。夢か?‥!」

 

あの攻撃でどれくらい気を失っていたのか、ゆっくりと目を開けると女鬼がきよさんにゆっくりと近づいて行くのが視界に入る。

 

「ははは!鬼狩りは死んだ!もう誰も助けに来ない!お前も殺してから食ってやろう」

 

きよさんは未だ凛ちゃんの死が受け入れられず、泣いている。

 

(もう誰も死なせない!俺が守る!!)

「おい。何勝手に殺してんだ」

 

女鬼は俺が生きてることに驚いているようだった。

 

「へぇ。生きてたの貴方」

「何が面白いんだ。ニヤニヤして。俺が生きてることがそんなに面白いのか?そんなに親が子供の死に涙するのが面白いか?そんなに子供が親を思うのが面白いか?」

「(何こいつ!気配が変わった!!空気が揺れてる!!!)」

 

 

「 " 全集中(ぜんしゅうちゅう) 雷の呼吸 壱ノ型(かみなりのこきゅう いちのかた) 霹靂一閃 八連(へきれきいっせん はちれん)

 

もう、何も失わない。もう、誰も死なせない。託されたものもに応える為にだからこそ踏み出す。岩屋の中に雷が落ちるような音が鳴り響く中、最後の一閃だけは頸を狙い斬り落とす。

 

 

(速すぎて分からなかった!斬られたこの私が!)

 

 

「今度こそ地獄に堕ちろ」

 

頸を斬ったことで安心してきよさんの元へと向かう。

 

 

 

 

 

「きよさん。帰りましょう。凛ちゃんも生きて欲しいと願っているはずです」

 

凛ちゃんが作ったという花冠を持ち、泣き崩れるきよさんの目線に合わせる為片膝をついた。

 

 

「っ!」

「貴方に凛の何が分かるのよ!何も知らないくせに!!知った風に言わないでよ!!!」

 

凛ちゃんの名前を出すときよさんから力を込めたビンタをくらい視界がぶれる。

 

 

「そうですね。俺は凛ちゃんに会ったこともない。喋ったこともない。‥‥でも、この花冠はどういう気持ちで造ったかは分かる。母親である貴方を喜ばせたかった。子供は母親が大好きです。そんな気持ちが現れている花冠だ。だから、きよさん。凛ちゃんが大好きだった人のままで居て下さい。悲しくても生きて下さい」

 

結構力強いビンタを食らったけど痛む頬を気にすることなく、すぐにきよさんと向き合い想いを伝えるときよさんは固まってしまう。

 

 

「征十郎君。そ、そのご、ごめんなさい。私!」

「良いんです。さぁ、帰りましょう」

「え、えぇ」

 

持っていた花冠をきよさんに渡して共に岩屋を後にした。

 

 

 

 

町に戻って、きよさんの家に連れていかれ町医者に頭部の怪我を診てもらうと骨に異常はなく、いくつかの動作を確認して脳にもダメージはないだろうとのことで、怪我は少し岩で切れている箇所がある。という診断だった。

 

「気を使ってもらってすいません」

「良いんです。お世話になったから」

 

 

 

きよさんは岩屋であった事を旦那さんにも伝えると、最初は旦那さんも動揺して信じられない様子だったが、きよさんが抱きしめると堰を切ったようように涙を流していた。

 

 

 

「じゃあ、すいません。俺はもう行きます」

「えぇ。あの人のことなら任せて」

 

 

 

頭に包帯を巻いて治療を終え、きよさんに旦那さんのことを任せる。

 

「お世話になりました。じゃあ、きよさん。お元気で」

 

 

きよさんに頭を下げてその場を離れる。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ。征十郎君。貴方も大切な人を亡くしたのね。そうじゃなきゃ、あんな悲しい表情はしない」

 

私がビンタした時、怒りもしないで諭すように話してくれたあの時の表情。

 

「辛いのにあんな子供が頑張ってるんだから。私も辛いけど前に進むわ」

 




調子に乗って色を変えたうえに文字を揺らしてみました。空気が揺れてる表現を入れてみたかったからです。やめろとの意見があったらやめます。

征十郎の鎹鴉は世話焼きな雌鴉です。

今回出てきた鬼は色々と設定を変えましたが、安達ケ原の鬼婆をモチーフにして登場させました。


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