お前のハーレムをぶっ壊す IFルート【あらすじ必読】 (バリ茶)
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親友との最後の一線は絶対に超えたくないから本当にどうしようもない状況のときはもう1人の自分に頼るしかない2人の不可抗力初えっち

こっちも残しておいて欲しいというご意見があったのでR18版とまとめて掲載しておきます 

あらすじの確認もよろしくお願いします

再三の通告になりますが観覧注意です

本編のキャラクターのイメージを損なう表現がされています

別に気にしないし本編開始前にいちいちうるせぇんじゃボケという方のみお進み下さい




 

 

 

 

 

 

 

 決着から数時間経過した現在、俺を含む高校の生徒たちは未だに青白いバリアの内側に閉じ込められていた。

 

 フィリスと力を合わせてゲームフィールドの核を破壊したことまでは良かったものの、氷漬けになったタコが妙な崩れ方をしたせいで額の宝石にヒビが入ってしまったのが良くなかった。

 

 どうやら核は一発で粉々にしなければならないとのことで、変な壊れ方をしてしまった核の影響でバリアの崩壊がかなり遅くなってしまっている。

 

 電波が届くようになったおかげで連絡が取れたデム隊の予想では、崩壊まで約23時間……つまり丸一日を費やさなければならないとの結論が出された。

 

 

 つまるところ、今日は生徒全員でがっこうぐらし!をするということになる。

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ………………

 

 

「呉原~」

 

 時刻は夕方。生還祝いに校庭で大はしゃぎしている大勢の生徒たちの輪から外れて保健室のベッドで寝転がっていると、見慣れた銀髪の少女が教室の中に入ってきた。

 どうやら美咲の変身はフィールドの外へ出ないと解除されないらしく、家に帰らず学校に残ることにした美咲は相変わらずリアの姿のままだ。

 

 両手にレジ袋を抱えながらベッドの近くまで来ると、椅子に座ってから片方の袋を俺に手渡してきた。

 

「購買で夕飯買ってきたぞ、これお前の分な」

 

「お、さんきゅ」

 

 軽く礼を言いながら上半身を起き上がらせ、レジ袋の中身を確認した。中にあるのはパンやおにぎり……まぁ購買で安く買える品々だ。

 

 それらを手に取って包装を剥がしつつ、隣でパンを頬張っている美咲に声を掛けた。

 

「お前……帰らなくてよかったのか? 朝陽くん心配してるだろ」

 

「あー、いや、電話で連絡はしたんだよ。んで事情話したら『今日は帰ってこなくていいよ』って言われちゃってさ」

 

 アハハ、なんて苦笑いしながらモソモソとアンパンを食べる美咲。そんな彼を見て俺は複雑な気持ちになった。

 

 ……いやまさか小学生に気を遣われるなんて予想できなかった。朝陽くんちょっと精神的な成長が早すぎるぞ。

 

「だから今日は呉原とずっと一緒にいるよ」

 

「……キモい言い回しすんな」

 

「は、はぁ!?」

 

 さっきから分かりやすく顔赤くしてるけどこいつもしかして無自覚か。

 ていうかこれ本当に大丈夫かな? 体がリアになってる影響もあるだろうけど、挙動とか仕草の所々が女っぽいし……正直に言うとわざとを疑うレベルだ。

 

 まぁ体の中には本物の女性であるリアが入ってるわけだし、それに仮想世界では九割女の子になってたからその後遺症だと考えればおかしくはない。

 

 

 ──むしろおかしいのは俺の方だ。

 

 

「……っ」

 

 さっきから妙に頭がボーっとするのに加えて、暖房もついてない教室だってのに妙に身体が熱い。

 首元から噴き出てくる汗でワイシャツが若干滲んでるし、自覚できるほど心臓の鼓動が早い。

 

 まるで風邪を引いているときの様にフラつくのだが、それに反比例して疲れや倦怠感などは無い。

 そんな意味不明な症状が先程から続いている。美咲の前ではなんとか取り繕っているものの、息が苦しくなってきてそろそろ限界だ。

 

「……ーい」

 

 戦闘による疲労ではないように感じる。確かにタコからは強烈な攻撃をくらったがここまで体調が悪化するほどの致命的な一撃は受けていない。

 

 そうなると考えられるのはフィリスとの融合か、あるいは能力使用の代償だろうか。

 

「おーい」

 

「……ぁ?」

 

「さっきからボーっとしてるけどもしかして食欲ないのか? 別に無理して食べなくても大丈夫だぞ」

 

 不安そうな表情で見つめてくる美咲。そこでようやく自分が彼に余計な心配をかけさせている事に気がついた。

 

「い、いや、大丈夫」

 

「嘘つけ。ちょっとジッとしてろ?」

 

「ちょっ、いいって……!」

 

 抵抗する俺を無視して美咲が額に手のひらを当ててきた。

 ひんやりしつつも柔らかい美咲の小さな手の感触が額から伝わってきて、思わず息を止めてしまう。

 

「わっ、熱い。お前もしかして風邪引いた?」

 

「……あー、そうかも」

 

「なんだよー、それなら先に言えよな。冷蔵庫から熱冷ましのシート持ってくるから待ってて」

 

 仕方なさそうに笑った美咲は椅子から立ち上がり、保健室内にある冷蔵庫へと向かって行った。

 小さい冷蔵庫は低い位置に置いてあり、美咲は腰を曲げて冷蔵庫の中を物色し始めた。

 

 

 きっと俺の為に冷却ジェルシートを探してくれているのだろうが、今の俺はそれどころではない。

 

 なぜか……その、なんだ。

 

(何でだよ……!?)

 

 いつの間にか、本当に気がつかない内に俺のアレが起立してしまっていた。今はベッドの掛布団でうまい具合に隠しているが、近くに来て注意深く俺を観察すればすぐに分かってしまう程度には、下半身に立派なテントが設営されてしまっている。

 

「んー、どこだ?」

 

 そして立ったまま腰を曲げて冷蔵庫を漁っている美咲の──リアの突き出されている下半身につい目が奪われてしまう。

 

 リアへの変身にどんな原理が働いているのかは分からないが、今の美咲の格好は男の服を着たリアというわけではなく、仮想世界で見慣れたあのパーカーと短いプリーツスカートを着ている状態だ。

 あのエロゲのヒロイン染みた、特に足の肌を露出している格好をしている。

 

 つまり腰を曲げて下半身を突き出している状態の今の美咲は、短いスカートから太ももやパンツがチラチラと見え隠れしているのだ。

 

 さすがにそれをわざとやっているとは思えないので、恐らく男友達である俺の前では少なからず無防備になってしまっているのだろう。

 

 もしここにいるのが俺でなく蓮斗だったなら、きっと美咲はスカートの中が見えないように気をつけていたに違いない。

 

 

 ──ハッ! 俺今めちゃくちゃ気持ち悪いこと考えてなかった!? 

 

 

「あっ、発見!」

 

「え?」

 

「熱冷ましのシートあったぞい」

 

 リアの下半身に目を奪われていた事実を嘆いて自分の頬を強く引っ張って懺悔していると、冷蔵庫から例のブツを見つけた美咲が若干ドヤ顔でベッドの方に戻ってきた。

 

「ふふん」

 

「あ、ありがとな」

 

「いいって事よ。ほら、貼ってやるから動くなよー」

 

 冷却ジェルシートを手に持った美咲は俺に近づくと、そっと額にシートを沿えた。

 そうして近づいてきたことで美咲の銀色の髪がふわりと揺れ、俺の鼻腔の奥になにやら『良い匂い』が突き刺さってきた。 

 

「っ!?」

 

「お、おい呉原、動くなって」

 

 それに驚いて肩をビクつかせると、美咲が注意を言いながら更に接近してくる。

 

 すると前を開けているパーカーの中に見える白シャツがうっすらと透け、なにやら見てはいけないモノが透けて見えてしまった気がした。

 

(やばいやばいやばいやばいッ!)

 

 肩に力が入ってしまい更に心臓の鼓動が加速した。

 

 美咲の匂いや額に触れる柔らかい手の感触、そこに見てはいけないモノを見てしまった衝撃が合わさって頭の中が掻き乱されていく。

 

「はッ、は……!」

 

「……よし、貼れた。あとはゆっくり寝て……呉原?」

 

 怪訝な表情で様子を窺ってくる美咲の顔が近い。

 汗を噴き出して赤くなっている俺とは対照的に、美咲は白くてスベスベな肌で──わあぁぁっ! なにこの思考回路!?

 

 落ち着け落ち着け落ち着け。俺も俺の息子も取り敢えず一旦落ち着くんだ。

 

 なんか変な思考に憑りつかれてる今の俺は冷静じゃない。このまま美咲と一緒にいたら何か取り返しのつかない過ちを犯してしまいそうで怖い。

 それならどうすればいいか考えるんだ。素数を数えて落ち着きながら解決策を導き出さねば。

 

 

(……永治)

 

 

 考えようとしても何も思い浮かばなくて涙が出そうになった瞬間、心の中でフィリスの声が響いた。

 

 そこでようやく今の自分は一人じゃないことをもう一度思い出し、少しだけ冷静になることができた。

 

(フィリス! どうすればいい!?)

 

(まずはリアから離れた方がいい。とりあえずこの部屋を出よう)

 

(了解っ!)

 

 心の中にいるもう一人の自分に従い、俺はベッドから勢いよく飛び出て美咲に背を向けた。前は絶対に見せられないので。

 

「く、呉原? 急にどうし」

 

「ちょっとトイレ行ってくる!!」

 

 美咲の言葉を遮って大きく叫んですぐさま保健室を脱出した。

 今の俺は美咲どころか他の誰にも見せられない状態になっているので、俺が目指すのはとにかく人気の無さそうな場所だ。

 

 わっせ、わっせ、いそげいそげー!

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ………………

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……ふぅ」

 

 逃げ込んだ先は校庭の端にある体育倉庫の中だった。

 

 既に生徒たちによる祭りは終了しており、陽が落ちて空が真っ暗になった今は誰も校舎の外にはいない。

 逆に言えば校舎の中には大勢の生徒や教職員達がいるので、人気がない場所といえば外のこの倉庫くらいしかなかった。

 

 なんとか美咲からは離れることができた。

 

 できた……けど。

 

「何なんだよもう……!」

 

 さっきよりも下腹部が疼いてしょうがないし、まるで全力疾走をして酸欠になりかけている時の様に頭がクラクラする。

 右手で額を押さえてから気がついたが、美咲が貼ってくれた冷却ジェルシートはいつの間にか外れていた。

 

 とりあえずマットの上に腰を下ろして息を整えようと呼吸をしていると、いつの間にか目の前にフィリス本人が立っていた。

 

 それに気がついた瞬間、思わず驚いて後ずさってしまった。

 

「おわぁっ!? ……い、いつの間に」

 

「ついさっき。まだゲームフィールドの中だからこうして実体化できる」

 

「な、なるほど……?」

 

 正直ゲームフィールドだとか仮想世界云々の関係性だとかはほとんど理解していないので、疑問は浮かべこそしたが質問はぐっと堪えた。多分フィリスもあまり知らないだろうし。

 

 

 ……それより今の俺には、目の前にいるフィリスの大きな胸があまりにも目に毒だ。

 

 エロゲ博士として数多のエロゲーを攻略してきた俺からしてもフィリスの胸の形は巨乳にもかかわらず綺麗に整っていると思える代物だ。そんなものが今の俺の前に実在しているという事実はあまりにも理性に対して攻撃的すぎる。

 

 ちなみにそれを知っているのは目の前のフィリスの胸を視姦していたからではなく、きっちり原作のゲームでフィリスルートを攻略してエロシーンを解放したからです。あれは凄かった……。

 

 

「……で、これからどうすればいいんだ。もう察しがついてるけどこれって発情か何かだろ? 今日俺たちがやったのって多分バグ技に近い何かだし、その分のリバウンドが来てもおかしくはない」

 

「自覚あったんだ」

 

「まぁな。あとちなみにお前は今の俺にとっては毒だから、いい解決策が無いなら俺をここに閉じ込めてくれ。校舎に戻って誰かさんを襲うなんて想像もしたくない」

 

 なんとか冷静な態度を取り繕いながら必死に言葉を並べたものの、ズボンのチャックがギチギチって音を立てるくらいにはマジの本気(マジ)でそろそろ限界だ。

 

 汗も止まらないし視界もほとんどあやふや。顔も熱いし下腹部も疼く。これが発情でなくて何だって話である。この状態で校舎に戻ったらとんでもない地獄絵図が繰り広げられるであろうことは想像に難くない。

 

「……死んでも美咲には手出ししたくないんだ。もしそれをしたら……すぐに人生を終わらせようとするくらい、自分を許せなくなる」

 

「……そうだね」

 

 フィリスにもこの気持ちが分かるはずだ。あの海夜兄妹たちがどうやって美咲と丸く収まったのかは知らないが、もし俺が彼ら同様に美咲を襲ってしまったら──その日のうちに命を絶つに違いない。

 

「でも、相談すればリアは協力してくれたかもしれない」

 

「わ、分かってるよそんなこと! あいつらお人好しだからな!」

 

 あのバカ正直に優しい美咲のことだ、きっと能力のデメリットで発情したと伝えれば嫌と言いつつも結局は協力してくれる。デスゲームを通して様々な経験を得たアイツは『しょうがない』で済ますことができてしまう。

 

 でも、俺は違う。たとえ不可抗力だったとしても美咲にソレをさせてしまったら、これから一生自分を許せなくなってしまう。

 

「だからといって協力なんてさせられる訳ないだろ! フィリスだって──」

 

「分かるよ、もちろん」

 

 抗議する俺の言葉を遮ったフィリスは、一歩前に出た。

 

 

 ……な、なに、怒ったの?

 

「リアに……ましてや他の人にだって協力なんて仰げるわけない。そんな恥ずかしい事を頼むなんて死んでも無理」

 

 するとフィリスは自分の手を胸に当てた。そして胸元の服をギュッと掴み、苦しそうな表情に切り替わった。

 

「……でも、このままだと辛い。死ぬほど苦しくて、頭が狂っちゃうくらい辛い」

 

 よく見ればフィリスの頬も高揚したように赤くなっていた。首元には汗が浮かんでいて、スカートの中から太ももにかけて謎の液体が数滴ほど垂れている。

 

 

 ……まさかこの症状、俺だけじゃない……?

 

 

「どうにかしないときっと大変なことになる。自然回復を待てるほど冷静でいられる時間は長くない」

 

「ちょ、フィリス……?」

 

 もう一歩、さらに一歩。

 どんどん俺との距離を詰めてくるフィリスは俺が座っているマットに乗り──俺を押し倒した。

 

「わっ!?」

 

「……だから、こうするしかない」

 

 両手を俺の頭の両サイドに置きながら見下ろしてくるフィリスの瞳は歪んでいる……わけではなかった。

 確かに紅潮した顔なのは間違いないが、その瞳には未だに冷静な色が見える。

 

「バカ! なにしてんだ!」

 

「……こんな時、頼れるのは自分だけ」

 

「……は?」

 

 しかし彼女の言っていることがイマイチ理解できない。

 

 他人には頼れない、こんな恥ずかしいことには誰も巻き込めない、頼れるのは自分だけ、そう言っておきながら俺を押し倒している彼女の行動は矛盾している。

 

 一体どういう事なのか、分からない。

 

 

「私たちは……()()()()()()()、でしょ?」

 

 

 耳元で囁くその言葉が、俺の全身を震え立たせた。

 それは逆に、俺を少しだけ冷静にさせる。

 

「お、お前を襲うほど見境ないわけじゃないって! それにそんなことしたら……っ!」

 

「大丈夫。だってこれは私たちだけの秘密だから」

 

 

 再び少女は俺の耳元に口を近づけて言葉を続ける。

 

 

「ねえ、もう一人の自分以外に誰を頼ればいいの」

 

「……そ、それは……っ」

 

「あの人たちに迷惑を掛けたくなくて、こうして二人で支え合うために……心を重ねた」

 

 

 違う?

 

 

 そう聞いてくるフィリスの表情は、ひどく苦しそうに見えた。

 先程よりも多く汗を流しながら迫ってくるその目は助けを求めている。世界で唯一同じ気持ちを共有できるもう一人の自分に、助けを。

 

 

 いや、それは俺も同じだ。彼女と同じように俺もずっと助けを求めている。この苦しみから解放してくれと叫んでいる。

 

 お互いにそれを叶えてくれる存在は、もう一人の自分を置いて他にいない。

 

 そういうこと、なのかもしれない。

 

「……わかった」

 

 お互いに自分を助ける為に、もう一人の自分を助ける。

 そんな利害関係が俺たちの間では既に確立されているのかもしれない。

 

 

「フィリス、俺が君を助ける。……だから」

 

 

「うん、私が永治を助ける」

 

 

 一番大切な親友をこれからも支え続けるために、自分を『自分』に任せる。

 

 そう心の中で決めた瞬間、いとも容易く理性を捨て去り、俺たちは自分で自分を慰め始めた。

 

 それは性行為などではなく、お互いの身体を使った自慰行為に近いものだった。自分で自分を慰めるとは、つまりそういうことだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いろいろ語ったけど結論だけ言うとめちゃくちゃ気持ちよかったです。

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

「あわわわわ」

 

 何してんだあいつら!? え!? 何か呉原の様子がおかしかったから尾行してみたら情事の現場に遭遇したんだけどなにこれ! なにこれ!(二回目)

 

 いや俺めっちゃ窓から覗いてるんだけど全然気づかないしこの人たち。凄い勢いで腰振ってるよ怖いよどうしよう。

 

 

(……仮想世界の時は、呉原くんも同じ気持ちだった、と思うよ)

 

(お、俺っ、傍から見ればこんなことしてたのか……)

 

 今更ながら仮想世界で自分がしていた事の重大さに気がつきました。呉原くん本当に申し訳ありませんでした。

 

(ていうか何でこうなってんの!?)

 

(多分、小春のデメリットと似たようなアレ)

 

(えっ)

 

 もしかして呉原のやつ、発情してたから保健室から逃げたのか?

 それってつまり、俺のことを巻き込まない為に……?

 

(二人のあれも多分不可抗力だし、知らないフリしてあげるのが、一番だよ)

 

(……そ、そうだね)

 

 心の中のアイリールに従って、俺は体育倉庫の窓から飛び降りた。これ以上の覗きはやめておいた方がいい。絶対やめておいた方がいい。

 

 

 ……最終日にあの兄妹に散々腰振られて喘がされてた俺と違って、こんな時まで俺に気を遣って見えない場所に隠れる意識の差を見せつけられた気分だ。

 

 というか現実世界に戻ってからずっと俺に気を遣って接してくれて、今日だって怪物から俺を助けてくれたのに、まさか極度の発情状態でも襲わないでくれたなんて……! もう呉原さんには頭が上がらねぇ。今度飯奢ってやろう。

 

(で、でも、まさかフィリスと……)

 

(……あの二人には、なにか共通する部分があったのかも)

 

(えぇ? あの二人全然似てなくない?)

 

(でも実際にアクセスしてる)

 

 そんな事言われてもな。俺の知ってる限りではパッと思いつく共通点は無い。かたや元無表情系ヒロインで、もう片方はエロゲ博士だぞ。まるで分からん。

 

 

(……あの二人と同じ状況になったら、私たちも()()すればいいのかもね)

 

 

(ハァ!? ななっなななに言ってんだ!?)

 

(冗談だよ)

 

(心臓に悪いからやめて!)

 

 

 心の中でアイリールにからかわれつつ、保健室へと戻っていった。呉原たちに怪しまれないために。

 

 とにかく俺は何も見てない。何も見てないので呉原が戻ってきても自然に対応しよう。大丈夫大丈夫、秘密を守るのは得意だから大丈夫! ボロ出たりなんかしないからきっと大丈夫だぜ!

 

 

 



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巨乳元無表情っ娘と中出し後背位

 

 

 なんやかんやあって体育倉庫の中で元無表情系エロゲヒロインだったフィリスと事に及ぶことになった呉原永治。

 

 二人は『もう一人の自分』というビックリするくらい都合のいい言葉でお互いの罪悪感を消し飛ばした結果こうなったわけなのだが、傍から見れば普通に付き合い立てのカップルが盛っているだけである。

 

 

 

「んっ……んぐっ……」

 

「んちゅ……んっ、はぁっ……♡」

 

 フィリスが永治を押し倒す形で始まった自分同士の慰め合いは体位を変え、いつの間にか永治の方がフィリスをマットに押し倒しながら唇を奪うという状況になっていた。

 

 

「んっ、じゅるっ……れろっ」

 

「くちゅっ、んっ……んはぁっ♡」

 

 最初のキスの時は緊張して強張ってしまっていたフィリスの唇は、相手をリードしてあげたいという男の意地を見せた永治の激しい口内凌辱によって導かれ、すっかりほぐれてだらしなく開かれていた。

 

 そんな無防備な唇を味わい尽くす永治の激しいキスに、フィリスは無抵抗で完全に身を委ねている。

 

「はぷっ……んんっ♡」

 

「っ!」

 

 蕩けたような表情のフィリスを前にして更に発情が促進され、今度は手加減なしに彼女の口内をねぶるように舌を躍らせ貪るようなキスを浴びせる。

 

「──ぷはっ」

 

「はふぅ……はぁっ、んぁ……♡」

 

 お互いが呼吸をするのも忘れるほどのディープキスを続け、息が限界になって口を離すとその間にツーッと糸が引いた。

 

 

 すっかり火照った顔になっているフィリスが下を見ると、ズボンを破ってしまいそうな程に張っている一物が目に入った。

 

「永治の、やっぱりおっきい……」

 

「そ、それを言うならフィリスの方だって……!」

 

 怒張したような自分の股間を蕩け顔で見つめるフィリスに対して我慢ができず、永治は腕を彼女の背中に回し、抱き寄せるようにしながら胸を揉みしだく。

 

「ふあぁっ……♡」

 

 制服の胸元の盛り上がり方から分かるように、フィリスの大きな胸は弾力感にあふれていた。

 

 手のひらから感じる張りのある押し返しが心地よく、揉んでいる手を止めることがまるで出来ない。

 

 そんなふうにして何度も味わうようにしつこく揉んでいると、汗でしっとりと濡れ始めブラウスが透け可愛らしいブラが見えてきた。

 

 

 グニッ、むにゅ、ふにゅん……っ♡

 

「んぁっ♡ 揉み方……やらしいよ……っ♡」

 

「はぁっ、はぁーっ……!」

 

 血眼になりながらフィリスの胸を揉み続ける永治は堪えきれなくなり、ゆっくりと彼女のブラウスのボタンを外していった。

 

 ブラウスの前をはだけさせ、ブラをズラす。

 すると締め付けられていた乳房がプルンッと弾けるようにしてあらわになった。

 

「あっ……♡」

 

 瑞々しいおっぱいは重力に逆らって、ツンと天井を向いている。

 

「……でっか」

 

「感想が雑」

 

「だってこれが俺だけの物だって考えたら……っ!」

 

 我慢ならず永治はフィリスの張りのある乳房を揉みながら、桜色に火照った小さな乳首を指先で弄ぶ。

 弄り甲斐があるしっとり湿った乳首の感触を楽しみつつグニグニと指先を動かし、フィリスの反応も窺ってみた。

 

 くにっ、くりゅくにゅ……♡

 

「んうぅっ♡ やっ、乳首ばっかり……っ♡」

 

 自分の予想以上に好感触なフィリスの反応が永治の心を満たしていく。

 

 気がつけば好意に夢中になっていたせいか、いつの間にかかなりの量の汗をかいてしまった。

 すると火照った汗の匂いに混じって、フィリスから女子特有の甘酸っぱい香りが漂ってきた。

 

 頭の中が痺れるような香りに影響され、下腹部へと流れ込む血液の量が一気に増大し、パンツの中で突っ張る。

 

 そして我慢ができなくなった永治はズボンのファスナーを一気に開け、往々しく聳え立った肉棒をフィリスの前に曝け出した。

 

「ひゃあっ……!?」

 

「も、もうこれ以上は我慢できない……っ!」

 

 驚くフィリスの顔に膨らみきった肉竿をぐいっと押し付けると、露わになった亀頭の先がフィリスの鼻の頭にツンっと当たった。

 

 

「……~~っッッ♡♡」

 

 

 その影響でフィリス自身の発情状態ももう一段階レベルアップし、その瞳にピンク色のハートマークが出現した。

 

 今この瞬間二人の発情レベルは完全にシンクロし、初々しく触れ合う関係から自らの性欲を相手にぶつけようとする発情期の獣のような関係へとシフトしてしまった。

 

 

 するとフィリスは運動用のマットに両手と両膝をつき、永治に向かって下半身を突き出した。四つんばいになったその体勢は永治の発情しきった脳をさらに加速させる。

 

 

「あっ、フィリス……?」

 

「……優しいの嬉しいけどっ、今はもっと……♡」

 

 フリフリとお尻を振ってスカートの中から見え隠れするショーツで永治を誘う。

 永治から見えた彼女の下着は、愛液で既にシミを作っていたどころか太ももにかけて発情の蜜が洪水を起こしていた。

 

「もっと激しく突いて欲しいっ♡♡ ケダモノみたいな交尾したいぃ……っ♡♡」

 

「うぁ……あっ」

 

 そんな誘惑を続けるフィリスに吸い寄せられるようにして、本能に導かれるまま怒張した肉棒を前に突き出し、彼女のショーツに亀頭を擦りつけはじめた。

 

「ひゃあっ♡♡」

 

「フーッ! フゥーッ!」

 

 割れ目をなぞるように亀頭をスリスリとねちっこく擦りつける。

 ショーツの生地の筋が程よく鈴口を刺激して、痺れるような快感がじわじわと駆け上ってくる。

 

 同時にフィリスの性感を高める為に乳首を重点的に刺激ししつつ、乳房全体をじっくりと揉んでゆく。

 

「はぁっ……あぁっ♡ 腰が勝手に、動いちゃうぅ……っ♡♡」

 

 乳首と割れ目を同時に責め立てられてフィリスのショーツが愛液でぐっしょりになると、強く押し付けるようにして、今度は彼女の方から亀頭にショーツを擦り付けてくるようになっていた。

 

 フィリスの愛液と永治の先走り液が絡み合い、くちゅくちゅと卑猥な音を倉庫の中で響かせる。

 

「いっ、挿入す(いれ)る! もうこの中に突っ込む!」

 

 理性が焼き切れた永治は勢いよくフィリスのショーツをずり下ろし、お互いの液でぐしょぐしょになったフィリスの秘部を露わにした。

 

 

 そしてガッシリと後ろからフィリスの腰を両手で掴み、いきり立った肉棒を秘所にあてがうと──そのまま一気に腰を前に突き出した。

 

 

 ──ズチュゥッッ!

 

 

「ぅあ゛っァ!?」

 

「くっ……ひっ、あぁう……!」

 

 硬い肉棒を一気に膣奥まで突っ込まれたフィリスは腰をビクンッと強く跳ねさせ、突然竿が温かい蜜壺に包まれた永治は強すぎる快感に身を震え上がらせた。

 

 一瞬の静寂。

 

 フィリスは膣内の極太チンポをなんとか堪え、永治は肉竿に絡みついてくる異常な快感に負けず腰を引かないように耐える。

 

 

「……うっ、動いていいからっ♡」

 

「わかっ、たぁ……!」

 

 じゅぶっ……♡ ずぷっ、にゅるるるぅぅぅ……っ♡

 

「んああぁっ♡ な、中で太いのが……はっ……ぁっ、グリグリってしてるぅっ♡♡」

 

「くぅぅ……っ! 絡みついてきて……腰っ、砕けそうだぁ……っ!」

 

 抉られるような感覚にビクビクと跳ねるフィリスの後ろには、とても肉棒だけでは耐え切れないほどの快楽を流し込まれて、挿入したままガクガクと腰を震えさせている永治がいる。

 

「あぁっ、フィリス!」

 

「ふひゃっ」

 

 このままの体勢では自分が耐え切れないと悟ってしまった永治が咄嗟に後ろからフィリスに抱きついた。

 

 抱きしめたことで前に回された両手は自然とフィリスの豊かな二つの果実へと伸びていき、甘えるようにしてその二つをグニグニと揉み始めた。

 

 

 永治にとってエロゲのヒロインであるフィリスの膣内はあまりにも刺激的すぎるのか、彼女の柔らかい上半身を抱きしめておっぱいを揉みながら気を紛らわせなければ、とても耐えられるようなものではなかった。

 

「あ、はは……♡ 永治ったらそんなに抱きついちゃって……っ♡」

 

「うぅっ、くぅ……!」

 

「……いいよ、お漏らししちゃっても」

 

 必死に快感に耐える永治の気持ちを察し、後ろから自分の髪の匂いをスゥスゥと嗅いでいる永治の頭にそっと片手を伸ばして、優しく撫でた。

 

「ずっと一緒だから、いつでもできる……んっ♡」

 

「フィリスぅ……っ!」

 

 

「これからちょっとずつ、一緒にうまくなっていけばいいっ♡ ちゃんと気持ちよくし合うのはそれからでも……んぅっ♡ 遅くない……から♡」

 

「……ううううぅぅ!! フィリス優しい! すきぃっ、すきだぁ……っ!」

 

 ばちゅンッ♡♡ どちゅッ、ズプププゥ……ずぼッ♡ ぱちゅンッっ♡♡

 

「だめだぁっ、も、もう出そう……!」

 

「んぁっ♡♡ ぁ、らめぇ……♡♡ そこ気持ちいいっ♡♡♡」

 

 フィリスに促されて激しく腰を前後させ始めると、幸いにもその我武者羅な永治の動きが丁度よくフィリスの性感体を刺激した。

 

 

「あああっ、んひゃぁっ♡♡ だ、ダメッ……わたしっ、わたしもイっちゃう♡♡」

 

「一緒に! 一緒にイキたいっ!!」

 

 フィリスは顔を真っ赤にして、大きな乳房をバインバインと揺らしながら、絶頂に向かって走っていく。

 

 そんな彼女に情欲のマグマを注ぐべく、永治は自分を縛っていた最後の枷を解き放った。

 

 

「くうぅっっあぁ!! イクッ!! 出るううううぅぅぅッッっ!!!」

 

「あぅぅぅっ♡♡ ひ、あひぃッ♡♡♡ わっ、わらひもイクッ♡♡ ひいィっっイっちゃううぅぅッッ♡♡♡♡」

 

 

 びゅくんっ! どびゅるるるるっっ!

 ぶびゅっ、びゅくるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ……♡♡

 

 

「んあああっ……お、奥にきへるぅ……♡♡♡ 熱いのが中でぇ……んひぃあぁんっっ♡♡♡」

 

「はっ、あっ、あがぅっ……で、るぅ……止まらないィ……っ!!」

 

 絶頂に達したフィリスの肉穴に搾り取られるようにして、永治は膣奥に灼熱の白濁を迸らせた。

 まるでおしっこのように尿道をドクドクと流れながら、大量のザーメン汁がドボドボと溢れ出るほどフィリスの子宮に注ぎ込まれていく。

 

「はうぅぅっ……♡♡ こ、これ……が、中出しっ……♡♡ あぉっ♡ んぁ……え、えーじの太い中出しチンポぉ……すきっ、すきぃ……♡♡♡」

 

 ビクビクと体をくねらせながら連続アクメを決め込み、うっとりとした甘い吐息を漏らすフィリス。

 

 それまで自分を支えていた両手から力が抜けてしまい、ぽてっとマットに横たわってしまう。

 すると釣られて永治もマットで横になり、真っ白に染めあがった結合部をそのままにしながら、フィリスを強く抱きしめながらひと時の休息を取り始めた。

 

 

 休息といっても動かないだけである。

 もちろん彼の肉棒はフィリスの膣内に入ったままであり腰も動かさなかったが、じんわりと優しく愛撫してくるフィリスの中に負けてそのまま漏らすようにドプドプと再び膣内射精をしてしまった。

 

 ここまで快楽漬けで自堕落な射精と絶頂をしたとて、やはり発情は抜け切ってはいない。

 

 

 

 二人の夜は、まだ続く。

 

 



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妹に お世話されちゃう 弟が やめてくださいお願いします(五七五七七)

 夜にいと一緒に病院で検査を受けた後、午後からの出席という形で小学校に戻ってから数時間後。

 給食を食べて五時間目と六時間目を終えたボクは今、登校班のみんなと一緒に下校中だ。

 

「ふぅ、今日も疲れた」

 

「朝陽君てば給食を食べに来ただけじゃん!」

 

「病院だったから仕方ないよ」

 

「オレもお昼から来たかったなぁ~」

 

 

 

(朝陽くん朝陽くん)

 

 同級生の友達と会話しながら歩いていると、心の中で突然女性の声が響いた。

 

(……何ですか)

 

(お兄さんのこと待たないの?)

 

 あの事件の日以降ずっと不思議な腕時計を付けたままでいるせいか、その中にいる小春さんにこうして話しかけられる機会が増えている。

 

 本当に自分の中にもう一人の人間がいるような気がして落ち着かないし、正直この感覚はまだまだ慣れそうにない。

 

(いいんですよ、流石に最近は夜にいに甘え過ぎてた自覚もありますし)

 

(そう? 朝陽くんはもっとわがまま言ってもいいと思うけどなぁ)

 

 最近兄に素直に甘えられないのは主にあなたの存在が気になっちゃうからなんですけどね?

 

 

 別に人の目を気にしているから家族に甘えられないというわけではないし、事実呉原さんがいる前でも夜にいに抱きついたりはした。

 

 でも「夜にいへちょっかいを出すのは止めて」なんて小春さんに言ってしまった手前、彼女を差し置いて自分だけ甘えるのはいかがなものかと思ってしまった。

 

 ……小春さんがただのレイプ魔だったなら別にそんな感情は湧かなかったし、会話すらもしたくなかっただろうけど、仮想世界では夜にいを助けてたり信頼し合っていた事実を彼女の記憶を通して知ってしまった今はそうもいかない。

 

 

(小春さんこそ、夜にいと話したい事とかないんですか)

 

(そりゃまぁあるけど……でも私、きみに迷惑はかけたくないから)

 

(迷惑?)

 

(私の姿に変身するとすっごく疲れちゃうみたいだし、こうして一緒に居させてくれてるだけでもありがたいのに……これ以上朝陽くんに無理はさせたくないよ)

 

 だから私の事は気にしないでいいからね、と明るい声音で告げる小春さん。

 

 予想以上にボクに気を遣ってくれていたことを知って、少し反省した。

 あの衝撃的な映像を見せられて以降……正直に言えば小春さんのことは、もっと身勝手で悪い人だと思っていたから。

 

 記憶と兄の話を照らし合わせれば小春さんが善人だということは証明できるのだが、どうも心の何処かで信用できずにいた。

 もちろんそれは今も変わってはいないが、少なくとも邪険にするべきではないということは理解できる。

 

(いちいち心の中の私の通訳をするのも大変でしょ)

 

(……じゃあ今後一切夜にいとの会話は無しってことで)

 

(えぇ!? そ、それはあまりにも極端というか……!)

 

(冗談ですよ)

 

(朝陽くんのいじわる!)

 

 ……むしろ、この人をからかったりするのが少し楽しいと感じてしまっている自分がいる。それはこの人と一緒にいる事が苦ではないという証拠でもあった。

 

 完全に打ち解けた訳ではないにしろ、ボク自身が今の頑なな態度を崩せば小春さんから寄り添ってくれる……そんな淡い期待を抱いてしまう程度には、彼女の明るさに(ほだ)されてしまっているのかもしれない。

 

 

 

「あ、朝陽君……っ」

 

「どうしたの?」

 

 隣にいた同級生の男の子に突然話しかけられ、意識を現実に戻した。

 小春さんとの会話に気を取られて現実でのコミュニケーションを怠ってはいけないので、なるべく間を置かず即座に返事をした。

 

 すると彼は恐る恐るといった様子でゆっくりと前に向かって人差し指を向けた。何事かと思って前方を確認してみると、そこには見慣れない人物が立っていた。

 

 

「あは、あは、あは」

 

 

 白いローブを身に纏った怪しい男が不気味に笑いながら、登校班の先頭の子の前に立って道を塞いでいた。

 

「……な、なんですか?」

 

 明らかな不審者を前にして登校班の皆は怯え、先頭にいる最上級生の女子も警戒しながらランドセルの防犯ブザーに手をかけている。

 その様子を見た白ローブの不審者は懐に手を入れ──

 

 

(朝陽くん! 電撃で先制してッ!)

 

 

 不審者の挙動を見た瞬間に心の中の小春さんが叫んだ。

 

 

「──っ」

 

 

 その言葉をほぼ無意識なまま反射的に受け入れたボクは、即座に右腕に巻かれているアクセスウォッチを起動して小春さんの体に変身。

 

 間髪入れず前方に右手を伸ばして電撃を白いローブに向けて発射した。

 

「あぐっ!?」

 

 突然放たれた電撃をモロに浴びた白ローブは大きくのけ反って後ろに転倒。その隙にその場にいる登校班の皆に向かって叫んだ。

 

「みんな早く逃げて!」

 

「……えっ?」

 

「なに? なに……?」

 

「ぁ、あっ、朝陽君が女の人に……!」

 

 しかし周囲の子供たちは困惑するばかりで一歩もその場を動かない。彼らはまさに普通の小学生なので危機的状況下での即座の判断ができないのは当然だ。

 

 しかしボク自身も小春さんに突き動かされるまま不審者に攻撃しただけで正直状況の把握は全くできていない。

 

 

 ──すると突然、ボクの体が勝手に動いた。

 

 

(えっ?)

 

 自分の意思に従わない体は右手から強力な電撃を再び前方に向けて発射し、それを仰向けになっている白ローブに直撃させる。

 

「あががっ!」

 

 そして白ローブが悲鳴を挙げた瞬間、ボクの体は思い切り地団太を踏んでから強く叫んだ。

 

 

「早くどっか行けっ!!」

 

 

「──わっ、わっ!」

 

「きゃあぁぁ!」

 

 大きな地団太と頭が揺さぶられるような怒号に怯えた小学生たちは悲鳴を挙げ、一目散にその場から逃げ出した。

 

 子供たちが必死になって逃げ去るその光景を見ながら、ボクは状況の理解を求めて咄嗟に小春さんに向かって叫ぶ。

 

(こ、小春さん! どうなってるんですか!)

 

 すると焦燥に駆られたような声音で彼女が返事を返してきた。

 

(ゴメンちょっと体借りる!)

 

(どういう事ですか……!?)

 

(こいつはゲームフィールドから出てきた怪人! 小学校の時も沢山いたから、多分バリアが消えた後デム隊が何人か取り逃がしたんだと思う!)

 

 早口で状況を説明した小春さんは『自分の本来の姿』になっているボクの体を操り、後方に数歩下がって一旦白ローブから距離を取った。 

 

 よく見れば白ローブが倒れている近くには拳銃のような物が落ちている。

 

 

 状況から察するに、白ローブは懐に手を入れた時にあのピストルを取り出そうとしたのだろう。小春さんの指示に従わず奴に先制攻撃をしていなかった場合の状況を想像して、思わずゾッとした。

 

「……こ、このクソ女ぁ……っ!」

 

 小春さんが身構えると同時に白ローブはゆっくりと立ち上がり、右ポケットに手を突っ込んだ。

 そして取り出したのは──手のひらサイズの小さな拳銃。

 

「デリンジャー……っ!?」

 

「死ねぇァッ!」

 

 小春さんが驚いたのも束の間、隙を見せずに白ローブが小型拳銃をボクらに向けて発砲した。

 

「──っぶな!?」

 

 それを驚異的な反射速度で左に避けて躱す小春さん。

 

 

(……い、今何で避けられたんだ……って、アレ?)

 

 気がついた時にはボクの全身に青白い電気が迸っていた。

 

 それは小春さんが『ライトニングフォーム』というパワーアップ形態に変身したという何よりの証拠であり、またそれによって反射神経が稲妻と同等の速度にまで飛躍したからこそ、先程の銃弾を『見てから』躱す事ができたのだと理解できた。

 

 本来のボクなら脳のキャパシティがオーバーしてしまって、とても直ぐに理解できるような事象ではない筈なのだが、どうやら小春さんにアクセスしている影響で思考の速度もライトニングフォームによってパワーアップしているらしい。

 

「な、舐めやがって!」

 

 すると白ローブは何処からともなくナイフを取り出し、こっちに向かって突撃してきた。

 

 

(……なんだ、厄介な能力とかは持ってないのか)

 

 白ローブは先ほどから重火器や刃物などあからさまな武器しか使ってきていない。しかもここまで追いつめてもナイフしか出てこないということは、この不審者に特別な能力などは無いのだろう。恐らくサポートとか科学者的ポジションだったに違いない。

 

 これならあと数発程度の電撃をお見舞いすれば勝てるな──なんて軽く身構えていると、予想外の事態が発生した。

 

「死ね!」

 

「くっ……!」

 

 ナイフを突き出してきた白ローブを電撃で迎撃することなく、小春さんは相手の腕を両手で掴むことで攻撃に対応した。

 

 しかし白ローブの力が強く、あっという間にボクたちは押し倒されてしまった。

 ググッと眼前に迫るナイフを持った手を必死に両手で押さえながら苦しげな声を挙げる小春さんに、ボクは焦って声を掛けた。

 

(小春さん! 何で電気で応戦しないんですか! あと数発打ち込めば勝てるのに!)

 

(……でっ、できないよ!)

 

(えっ?)

 

 何故か能力の使用を拒む小春さん。

 気がつけば身に纏っていた青白い電流も消えていた。

 

(何ですか!?)

 

(だって……! これ以上ライトニングを使ったら……っ)

 

 女子高生故にあまり強くない筋力だけで必死に白ローブの凶刃に抵抗しながら、小春さんは心の中で叫ぶ。

 

 

()()()()()が発動しちゃうから!)

 

 

 真剣な、ともすれば怒声にも感じるような声音で小春さんはそう言った。

 当然ながら記憶をリンクさせたボクも彼女の言う『デメリット』の内容は既に把握している。

 

(朝陽くんの体でそんな事させられる訳ないじゃないっ!!)

 

(……で、でもこのままじゃ……)

 

(絶対になんとかするから! あの状態にだけは絶対させたくないんだよ! だから私に任せて! ねっ!?)

 

 そう言ってボクの意見を真っ向から却下する小春さんの声は、今までにないくらい焦りに支配されている。なんとかする、なんとかしたい、そう思って解決方法を模索しているのに全く見つからない……そんな風に感じた。

 

 

 

 

 その時、アクセスを通じて小春さんが初めて『デメリット状態』になった時の記憶を見た。それだけじゃなく、デメリットが解除された後の彼女の心境すらも、その全てをこの身で追体験した。

 

 

 ──絶望。

 

 その一言に尽きる。

 

 

 一切制御の利かない肉体の全てが延々と勝手に暴れ続け、守りたかったはずの存在を傷つける自分に対して『やめろ』と心の中で泣き叫んでも最後まで状況が好転することは無かった。

 

 デメリットが解除された後の朝、正気に戻った瞬間心の中が闇と絶望で染まりきり、彼女()が眠っているすぐ隣でカッターナイフを喉元に突き立てようとした。

 あの場で兄である海夜蓮斗が止めに来なければ小春さんは確実にその時命を落としていたことだろう。

 

 

 ……それ故に、背負いきれない業を抱えた自分をリアが許してくれた時は本当に意味が分からなかった。

 

 何故許してくれるのか。

 本当に許されていいのか。

 

 

 そんな疑問と葛藤を抱えたまま暗闇の中で彷徨っていた自分を──あの日の夜、彼女は真正面から受け止めてくれた。背負った罪も身勝手な我が儘も、全て引っ括めて自分を肯定してくれた。

 

 それだけの事をされてようやく、小春さんは少しだけ自分を許す事ができたのだ。

 

 

 そういった経験があって『デメリット』の恐ろしさを彼女は知っている。発症した当の本人にしか知り得ない苦しみを理解している。

 

 だからこそ、そんなものは絶対にボクには背負わせたくない──リンクしている心を通して、そんな優しさが痛いほど伝わってくる。

 

(……小春、さん)

 

 彼女の気持ちは理解できた。本気でボクの身を案じてくれていることも。

 

 

 

 だけど、どうあってもこの場で死ぬわけにはいかない。

 

 

(小春さん、体……返してもらいますよ)

 

(──っ!? な、なに言って)

 

 

 驚く小春さんを遮って体の主導権を一瞬で奪い去り、彼女を心の中へ無理やり引き戻した。

 これでこの体は再びボクの物になる。

 

「もう一回……っ!」

 

 そして即座にライトニングフォームを再起動し、全身に稲妻の鎧を身に纏った。

 

「な、なに!?」

 

 再び最強の力を発動させたことに焦る白ローブ。

 構わず右手に電流を纏い、掴んでいる腕から大量の電気を白ローブに向けて送り込んだ。

 

「あグッ!」

 

 突然全身が大量の電力に満たされて心臓が飛び跳ねた白ローブが大きくのけ反り、一気にボクから距離を離した。

 

 その隙に立ち上がって再び電力を右手に充填し、それを槍のように鋭利な形へと造り替える。

 紫色の雷光を迸らせ、滾る電気の波をただ一点に集中させた。

 

 この一撃で──コイツを葬り去る為に。

 

 

「紫電、雷槍……ッ!」

 

 

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ………………

 

 

 

 

「……ハッ、はぁ」

 

(朝陽くん!) 

 

  

 全力のライトニングフォームで白ローブの怪人を消し去ってから、約一時間。

 

 今は自宅の自分の部屋のベッドに座って胸に手を当てながら、荒い呼吸をなんとか鎮めようと深呼吸を繰り返している。……もちろん、その行為には殆ど意味なんてない。

 

「うぅっ、く……!」 

 

 胸が熱くなって頭がフラフラする。とてもまともに座っている事ができず、ポテッとベッドに横たわってしまった。

 

 

 怪人に襲われていたあの場を切り抜ける為にライトニングフォームを使ったが、やはり小春さんの記憶通り『発情』という状態はとても辛い。

 インフルエンザで寝込んでいる時のように苦しい筈なのに、体の根柢にある何かが疼いてしょうがない。ボーっとして視界がボヤけて度々意識を手放しそうになるものの、何故かそのまま眠る事ができず体が勝手に起きてしまう。

 

 そしてなにより……下半身の一部が大変な事になってしまっている。

 

 小春さんの制止を振り切ってライトニングフォームを使った時から薄々覚悟はしていた事なのだが、いざ実際に同じ状況になってみて改めてこの症状の異常さを痛感しているところだ。

 

 

(朝陽くんっ、なんで……!)

 

(……あぁでもしないと、死んでました)

 

(それはっ……!)

 

 ボクの言葉に反論しようとした小春さんは言葉を詰まらせ、数秒逡巡してから言葉を続けた。

 

(……ごめんなさい、私が情けなかったばかりに……っ)

 

(こ、小春さんのせいじゃありません、ボクが勝手にやったことですから……気に病むのは、やめてください)

 

 そう、あの時の判断は他でもなく自分自身で下したものだ。たとえ発情状態になっても目の前の敵を倒さなければ絶対に死ぬと、そう確信したから実行に移したまでのこと。

 

 小春さんを信じたかったのは山々だけど、冷静に考えればあの選択肢を取るしか道は残されていなかった。

 

 

 それより今は()()をどうするか考えないと。幸い両親は買い物に出掛けてるし、何故かレンさんも出掛けてるから家には誰もいないけど、時間帯的にはそろそろ夜にいが帰ってきてもおかしくない。

 

 もし夜にいにこんな状態を見つかったら……想像もしたくない。

 

「うぅ……」

 

 ずっと体が火照って仕方ない。まるで脳が焼き切れてしまいそうなほど頭が熱い。

 解決策を探したくても時より過る不可解なイメージに思考を邪魔されてしまうので考え事どころじゃない。

 

 駄目だ、しっかり対処法を── 

 

 

「……どう、しよ」

 

 なんだか、考えるのがむずかしくなってきた。

 

 どうしよう、ぼく、どうすればいいんだろう……?

 

 

(朝陽くん! 気をしっかり持って!)

 

(……えっ、あ、ご、ごめんなさい)

 

 小春さんに話しかけられて、一瞬崩れかけた思考が少しだけ形を取り戻した。……少しだけ。

 

(あの、小春さんっ)

 

 今のうちに、言っておかなきゃ。

 この後どうなっちゃうか、分からないから。

 

(ごめん、なさい……ボク、えらそうな事ばっかり、小春さんに言っちゃって……)

 

(あ、朝陽くん?)

 

(最初はこわかったんですけど……小春さんのこと、もうきらいじゃないですから……すきです、から……)

 

 もう少しがんばれボク。ちゃんと全部いわなきゃダメだ。

 

 

(だから小春さんには怒られてほしくないです……夜にいにはボクが悪いんだって、言ってください)

 

 

 夜にいに小春さんが怒られないように、ボクが悪いってことを言っておかなきゃ。

 

(小春さんはわるくないから……ぼ、ボク、ぼく……が……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、朝陽くん」

 

「……あぇ?」

 

 あれ、小春さんが目の前にいる。なんで?

 

「ここはゲームフィールドじゃないから、頑張って私の能力を応用しても……二十時間くらいしか実体化できないけど」

 

「……?」

 

「これは全部私の責任だから! 私が発情をなんとかするよ!」

 

 なに、いって……

 

 

 

 

 

 

 ──えっ。

 

 え?

 

 本当に何言ってるんだこの人?

 

 

「あ、あの、小春さん?」

 

「ぎゅーっ!」

 

「わっ!?」

 

 少しの間ボーっとしたまま何かをブツブツ言ってた気がするんだけど、気がついたら小春さんに頭を抱きしめられてた。

 

 ……な、なにこれ、得体の知れない大きくて柔らかい物体に顔が挟まれて……!?

 

「えへへ、おっぱいクッション~」

 

「ちょ、ちょっ! 何するんですか……!」

 

「デメリットはスッキリすれば治まるから、ね?」

 

 明るい笑顔をした小春さんに押し倒されて、ベッドで横になったまま再び大きな胸の中に顔を埋めることになった。

 

 その瞬間小春さんの甘ったるい匂いが鼻の奥に充満して頭がバチバチして、体がビクンビクンと震えてしまう。

 

「ふわぁ……!」

 

「朝陽くんが悪いことなんて一つもないんだよ。きみには怒っていい権利があるんだから……私の事、好きにしてもいいの」

 

 そっと頭を撫でながらムギュムギュとメロンのように大きな胸をボクの顔に押し付ける小春さん、その声音は今までに聞いたことが無いほど優しいものだった。

 

 すると、不意に小春さんがボクの右手を左手で掴み、その手をそっと自分のスカートの中に触れさせた。

 

「っ!? なっ、なななっ」

 

「……ほら、触ってみて」

 

「なっなんでっ」

 

「あの記憶を見せちゃったから誤解されてるけど……私もちゃんと女の子だってこと、知っておいて欲しいから」

 

 そう言われて手を入れ込んだスカートの中で、おそらく小春さんの下着であろう部分に手が触れた。

 ……しかし、記憶に映っていた『男性器』らしき感触はまるで見当たらない。

 

「んっ……触り方、優しいね」

 

「……ぁ、あぅ」

 

 顔を上げると、そこには慈愛の表情に満ちた美少女の顔が超至近距離にあった。そのせいでとてつもなく気恥ずかしくなってしまい、思わず下を向いて目を逸らしてしまう。

 

 しかし小春さんはそんなボクを変わらず撫でながら甘やかしてくれている。

 そして不意に下半身の頂点が彼女の柔らかな太ももに押し付けられてしまった瞬間、体感したことの無い衝撃が全身に走って甘い声が出てしまった。

 

「ぅあっ……♡」

 

「ふふ、これで朝陽くんも安心して甘えられるかな?」

 

「そ、それは──」

 

 

 ──すると、ベッドの上に置いてあったスマホから着信音が聞こえてきた。

 

 

「あらら? んーと……あっ、お兄さんからだよ」

 

「えっ」

 

 普通に調子を変えないままの小春さんにスマホを手渡され、画面を確認するとそこには確かに『夜にい』の文字が表示されていた。

 

 ……そういえばそろそろ帰宅してきてもおかしくない時間帯だ。

 

「も、もしもし」

 

『もしもーし! 連絡遅れてごめんな!』

 

「大丈夫だけど……どうしたの?」

 

『実は──』

 

 

 

 そこから何やら事件に巻き込まれたような話を聞いた気がするけど、正直ほとんど覚えていない。

 

 ただしっかりと覚えているのは、小春さんの甘い匂いと柔らかいおっぱいの感触に負けて『今日は帰ってこなくていいよ』と自分から言ってしまったことだけだった。

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 呉原と一緒に高校での事件を終えてから、丸一日が経過して現在は昼過ぎ。

 

 今は丁度自宅の前に到着したところだ。きっと朝陽も待っていることだろう。

 

 ちなみに呉原とフィリスがパンパンしていたあの現場を見てから保健室に戻った後、自分でも分かるくらい呉原に不自然な態度を連発してしまって冷や汗をかいたものの、そこはアイリールが上手くカバーしてくれてなんとか隠し通せた。本当に助かった……。

 

 流石に親友とはいえ『そういう場面』を見られていたと知れば羞恥心で泣いてしまうかもしれないので、この秘密は墓場まで持っていくことに決めた。

 ちなみに仮想世界で呉原に「うるさかった」と言われた時は顔が爆発するくらい恥ずかしかったです。はい。

 

 

 まぁ、そんなこんなでようやく我が家に帰宅だ。母親はもう仕事に戻っちゃったし、父親も町内会の集まりに行ってしまっているので家にいるのは恐らく朝陽だけだけど。

 

「ただいま~」

 

 ガチャリとドアを開けて玄関に入ったものの、いったいどうして朝陽のお出迎えがない。ここ最近は毎回「夜にいおかえりーっ!」って言いながら抱きついてくれていたのだが。

 

「朝陽ー?」

 

 名前を呼びながらリビングを覗いてみたが弟の姿はない。休日の昼ごろはいつもソファで寝転がっている筈なので、これは何かの事件かもしれない。

 

 ここに居ないとなれば多分自分の部屋だ。もしかしたらお寝坊でまだ起きていない可能性もある。

 

「んっ?」

 

 階段を上がろうとしたところ、二階から極力足音を鳴らさないようにしながらレンが降りてきた。

 

「~っ!」(目をグルグルさせながら慌てている)

 

「ど、どうしたレン」

 

 何やら混乱した様子のレンが俺の前まで来ると、スマホに文字をタップし始めた。どうやら早急に伝えねばならない事があるらしい。

 

 ジッと待つこと数十秒、レンは俺にスマホの画面を見せてきた。

 

 

 

 

 

 

【昨日帰ってきたら朝陽くんが小春とエッチしてた! なんで!?】

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 その文字列を見た瞬間、俺は即座に二階へと上がっていった。チョコチョコとレンも付いてきたが、どうやら彼女も俺と同じく心の整理ができていないらしい。

 

 これは本人に聞くしかない。小春が実体化してる可能性とかそこら辺はどうでもいいのだが、一体どういう事なのかを聞かなければならない。

 

 頑張って足音を消しながら朝陽の部屋の前まで到着し、レンと一緒になってドアに耳を近づけた。

 朝陽が誰かと会話をしているならここで様子見、話し声が聞こえなかったら中に入ろう、そうしよう。

 

 

 ──ちょっと考えてみれば、十中八九あの特殊形態のデメリットのせいだってことは分かる。

 

 それなら多少は……本当に多少は致し方ないし、その状況を理解できる俺が無闇に喚きたてるわけにはいかない。今は中に入れる雰囲気なのかどうかを確認するだけだ。

 

 俺は蓮斗と同じくらい小春を信じてるからな。どうあっても間違いなんて起こらないだろう。

 

『だから……その』

 

『朝陽くん、はっきり言ってくれないと』

 

 んっ、もしかしてシリアスな話とかしてるのか。

 だとすれば俺が割って入る訳にはいかないか……?

 

『わ、わかりました』

 

『うん、どうぞ』

 

 てかどういう状況だこれ。

 小春ってもしかしてアクセスウォッチの中からいつでも出れるのか? それならレンと一緒に寝たあの日も出てくればよかったのに。

 ……恥ずかしがり屋な面もあるとは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また……(もし発情した時は)お、お姉ちゃんに気持ちよくしてもらいたい……』

 

『……うんっ、いいよ。リアちゃんには絶対(見られたら殺されるから)内緒ね?』

 

 

 

 

 

 

 ────は?

 

 

 

 

「朝陽ぃぃぃぃぃィィィッッ!!?」

 

 

 バタン!

 

 

「わっ!?」

 

「あっ、り、リアちゃん!?」

 

 速攻で朝陽を抱き抱えて小春と距離を取った。そして朝陽のほっぺや髪を触りながら諸々を確認していく。

 

「大丈夫か朝陽!? なにされた!? ナニかされたのか!? 変な事されてないか!?」

 

「え……ぁ、う、うん」

 

 頷いた! いや頷いたけどこの反応は嘘だろ!? 信じられねぇよオイッ!! 絶対何かされた後じゃねぇか! 

 

 これ絶対不可抗力の性欲発散とかじゃないよ!? だってさっきの会話おかしいもん! あとなんか朝陽の目が普通じゃないもん!!

 

「テメェ小春おい何うちの弟誑かしてんの!? 何で一夜にしておねだりさせる関係にまで発展させてんのこれ俺に対する挑戦かなにかですか!?」

 

「あっ、いや、その! これは違うというかなんというか……っ!」

 

 その反応は違くねぇだろ何言ってんの! ふざけないで!!

 

 ──お前まさか普通にウォッチから出れるのに身を隠してコッソリうちの弟を調教してたとかあまりにもエグすぎるだろうが!? 悪魔か何かなの!?

 

 泣くよ! 泣いていい!? もういろいろと感情が追いつかないから泣いていいですか!!?

 

 

「この浮気者ォぁっ! あんなに好きって言ってくれてたのに……お、弟に手ぇ出すほどの見境なしだなんて思わ゛ながっだ!! しっ、信じた俺がバカだったぁ゛……!」

 

「リアちゃん待って! ご、誤解なんだって!」

 

「うぅっ、うるさいバカぁ……! おれがどんな気持ちで小春のごどを……えぅ゛ぅ、ひぐっ、うえぇん……っ!」

 

「ぎゃああぁぁ!! 泣かないでェ!! ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃッッ!!」

 

 

 

 



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明るいお姉ちゃんとお風呂で甘々おねショタ洗いっこ

 

 時と場所は入れ替わって一日後の海夜家、その浴室にて。

 

 なんやかんやあってデメリットの発情を小春に何とかしてもらうことになった朝陽は、彼女の提案で浴室へと移動していた。

 

 小春の『部屋だと痕跡でバレる』との意見を踏まえて、何をしても汚れず痕跡も残らない風呂場に移動した、というわけだ。

 

 

「さっ、朝陽くんっ。まずは背中洗ってあげるね」

 

「……う、うん」

 

 浴室暖房をつけて体が冷えないように配慮しつつ、浴槽の湯も張って準備は万端。

 すっかり温かくなった浴室の中で朝陽は風呂椅子に座って縮こまり、小春はその後ろに立ってタオルで泡を立て始めた。

 

「はーい、ゆっくりゴシゴシ~」

 

「んん……」

 

 相変わらず明るい小春に柔らかいタオルで背中を擦られながら、朝陽は目を閉じた。恥ずかしくて目を開けていられないからである。

 

 今の彼は発情によって理性がほとんど崩れ、普段のような敬語を使うことができなくなっているので、兄である夜にしか見せなかったような態度で小春に接している朝陽。

 

(うぅっ、さっきから背中におっぱいが……)

 

 皮肉にもいつもの自分ではなくなった事でようやく『歳相応』な少年になれた朝陽には、リアルエロゲーなこの状況は些か刺激的すぎた。

 

 夜の所持しているエロゲをこっそりプレイした事こそあるものの、どれもこれも一番大事なシーンは恥ずかしくて見れなかった朝陽だ。

 まさか現実で同じような状況になってしまったら、一体どうなってしまうのか予想もできない。 

 

「タオルでやるのって難しいねぇ」

 

「えっ?」

 

「泡もいっぱいできたし、もういっか」

 

「も、もういいって……?」

 

 困惑する朝陽を「いいからいいから♪」といつもの調子で宥め──その豊満な乳房を使って朝陽の背中を洗い始めた。

 

 ぬるっ、ふにゅんっ♡ 

 むにゅうぅぅ……っ♡

 

「~っ!?」

 

「どうかな? タオルで洗うより気持ちいいと思うよ♡」

 

「ぁ、あわわ……」

 

 しっかりとした弾力のある胸の膨らみが、ぬるぬると背中で上下している。

 泡によって滑りやすくなった二つのメロンを少年の背中に押し当て、潰れて形を変えたソレで奉仕を続けると、時たま桜色の突端がクリクリと彼の背中を擦った。 

 

「……んっ、私もちょっと気持ちいいかも」

 

「ああっ、あ……!」

 

 背中で乳首とおっぱいのせめぎ合いをされて脳が沸騰していく朝陽。

 既に少年の小さな『男の証』はピーンと上を向いてしまっていた。

 

(わわっ、おちんちん立っちゃった……)

 

 恥ずかしくなってそれを両手で隠すと、高級ソープのような背中の洗いを一旦やめた小春が両手で朝陽の胸に触った。

 

「ひゃっ……!」

 

「今度は前を洗う番だよ、ジッとしててね~」

 

 少しイタズラめいた声音でそう言うと、小春は泡にまみれた両手で朝陽の胸やお腹をそっと撫で始めた。

 小春的には傷つけないように優しく洗っているつもりなのだが、朝陽本人からすれば寧ろそれがもどかしい刺激になってしまっている。

 

(あっ、手が下の方に……)

 

 体を洗う小春の手がお腹から下へ下へとさがっていく。

 向かう先は自分の秘所──そう思っていた朝陽の期待は大いに外れ、小春は()()を洗うことはなく腰の付け根や太ももへ手を伸ばした。

 

(うぅっ、もどかしい……! で、でも、太ももとかが洗い終われば……)

 

 自分の立ってしまったおちんちんに触れてくれる。気持ちよくしてくれるって言ってたし、あわあわな手でシコシコしてくれる。

 

 そんな期待が脳裏を過った。

 

 ──しかし。

 

「はい、終わり! 朝陽くんジッとできてえらかったね~」

 

「……え?」

 

 終わり? なんで?

 

「じゃあお湯で流してお風呂入っちゃおっか」

 

「えっ、えっ……」

 

「あれ、どうしたの?」

 

 小春がシャワーで朝陽の泡を洗い流し終わると、困惑した少年はつい後ろを振り返ってしまった。

 そこには優しい表情の美少女がいるのみで、彼が期待していたような女の人の存在は無い。

 

「あ、あの……ぁっ」

 

 何かを言いかけた瞬間、視線が下へと向いてしまった。

 そこには綺麗な形をした大きな膨らみが、たゆんと弾んでいる。

 

「……んっ、私に何かついてる?」

 

「い、いや、あの、そのっ」

 

 そこを見たくて振り返ったわけじゃない……のだが、視線が二つの果実から離れてくれない。

 まるで吸い寄せられて離れず、心臓の鼓動が激しくなっていくと同時に朝陽の下腹部にある小さな竿も硬度を増した。

 

 すると自分の思惑とは正反対に動く肉体と、先程から一切自分と()()()()()雰囲気がない小春への感情が混ざり合って混乱し──泣きそうになってしまった。

 

 

 おっぱいが気になる。

 おちんちんが苦しい。

 でも何もやってくれない。

 ぼくがまちがってる?

 はずかしい。

 おねがいなんてできない。

 

 どうしよう、どうしよう。

 

 

「……ぐすっ、えぅぅ……っ」

 

 ついに嗚咽をしそうになってしまった、その瞬間。

 

「わぁっ! ご、ごめんね! いじわるしすぎちゃったね!」

 

「ひ、ひぐっ……」

 

「ほら、ぎゅーっ!」

 

 予想以上に朝陽のメンタルが脆くなっていることに気がついた小春は自らのイタズラ心を全力で叩き潰し、すぐさま少年の頭を抱きしめて胸の間に埋めた。

 

「ごめんね、朝陽くんが可愛くてつい……もうイジワルはしないからっ」

 

「……ほ、ほんと?」

 

「うん、本当だよ」

 

 朝陽の頭を撫でながら巨乳サンドイッチで慰め、彼の手を優しく掴んで自分の乳房へ誘導した。

 

「ほら……このおっぱい、朝陽くんの好きにしていいよ」

 

「……う、うん」

 

 数十分前にベッドで見た優しい表情で促され、朝陽は恐る恐る両手で小春の大きな乳房を掴みこんだ。

 

 むにゅん……っ♡

 

「……んっ」

 

「こ、小春さん?」

 

「ほら、もっと強く触ってみて♡」

 

 美少女に笑顔で微笑まれた朝陽はさらに指に力を込め、両手で鷲掴みにした乳房をグニグニと揉みしだいた。

 

 大きな胸は朝陽の小さな手のひらから零れてしまい、掴みきることができない。しかしかえってそれが朝陽の発情を促進させ、少年の性欲を増幅させていく。

 

「はぁはぁ……! や、柔らか……っ!」

 

 まるでパン生地をこねるかのように強く揉んでも、小春は笑顔で許してくれる。

 おっぱいの触り心地とその事実が相俟って、この時点で小春に対しての朝陽の好感度は『MAX』になっていた。単純。

 

 

「……こ、小春さん……っ♡」

 

 気の済むまでおっぱいを触り続ける朝陽だったが、そろそろ下腹部の疼きが限界になっていた。

 その影響か、朝陽は抱きついている小春に半ば本能的に腰を振り始めた。

 

 朝陽の小さい竿が小春のヌルヌルなお腹で擦られ、少年の頭の中で幸福感が増え始めていく。

 

「ふぅっ、ふぅっ……♡」

 

「わぁ、今度は朝陽くんが洗ってくれるんだ♡ 嬉しいなぁ♡」

 

「う、うん、うん! ぼくが小春さんを洗ってあげる……!」

 

 小春が言葉巧みに優しく誘導してくれていることなど今の朝陽が気づくはずも無く、善意と性欲が合わさった朝陽は胸の谷間に顔を埋めながら、完全に勃起したおちんちんを小春のお腹でヌルヌルと擦っていく。

 

 すると、小春が朝陽の背中を撫でながらそっと呟いた。

 

「……お姉ちゃんって、呼んでほしいな♡」

 

 その言葉に、少年は間髪入れず行動で答える。腰を振りながら、胸を揉みしだきながら、グリグリと顔を胸の間に押し付けながら幸せいっぱいの状態で『お姉ちゃん』の期待に応えてみせた。

 

「お姉ちゃん♡ お姉ちゃんっ♡ すきっ、すきぃ……おねえちゃぁん……っ♡♡」

 

「~っ♡♡」

 

 自分に夢中で甘えている朝陽のことがたまらなく愛おしくなってしまい、小春はそっと腰を上げた。

 

 少しだけ、ほんの少しだけ位置をズラせば──

 

 

 ずぶぅっ……♡ にゅぷぷぅぅ……♡♡

 

 

「──っ!? あっ! あぁっ!」

 

 突然自分のおちんちんが途轍もなく温かい肉に包まれてしまった朝陽は、たまらず嬌声を上げてしまった。

 

「んんっっ♡ くぅ……♡ 朝陽くんのおちんちん、予想以上に気持ちいいなぁ……っ♡♡」

 

 奇跡的に朝陽の肉竿の形が小春の膣内とベストマッチし、さほど大きいわけでもない少年のソレが確かに小春を悦ばせた。

 

 しかしそのまま腰を振り続けることができるほど少年は強くなく、あっという間に射精の準備に取り掛かってしまった。

 

 ずちゅっ、にゅ……にちゅにちゅっ♡♡

 

「ああうぅぅっ♡♡ お、おねえちゃっ♡♡ おねえちゃん……っっ♡♡♡」

 

「だいじょうぶだよ♡ このままわたしに朝陽くんのお射精ミルクのませてぇっ♡♡」

 

 優しく受け入れてくれる小春の言葉で全てのリミットが外れた朝陽は、彼女の膣奥に竿を押し込んであえなく吐精した。

 

「おねえちゃぁっ♡♡♡ で、でちゃううううぅぅぅっっ♡♡♡」

 

 びゅぶっ、びゅくるるぅぅ……っっ♡♡♡

 ずぶっ、ぴゅっ♡ ぴゅるるっっ♡♡ とぷとぷぅ……♡♡

 

「~~っっ♡♡ あ、朝陽くんのお漏らしミルクっ、きたぁ……♡♡」

 

 決して勢いのある射精などではなく、それこそ赤子がオムツの中にするように、ゆったりと鈴口から精液を漏らしながら快感の余韻を満喫していく。

 朝陽の頭の中に多幸感が溢れだし、夢心地のような安心感のある気持ちよさが持続していった。

 

「ふあぁ……あっ♡ お姉ちゃん……だいすきぃ……っ♡♡」

 

「ふふっ、もう……かわいいんだから♡♡」

 

 小春に全体重を任せて体中の快感に酔いしれている朝陽をそっと撫でた。

 

 

 

 甘やかす楽しさを知った小春と甘える気持ちよさを知った朝陽の相性は一言で言えば抜群だった。

 

 軽く体を洗い流して二人で浴槽に入った後も抱き合いながら再び膣内射精をし、風呂場で初めてのフェラチオと口内射精とパイズリと膣内射精を体験した朝陽は軽くのぼせてしまい、その日はベッドに戻ってから使い捨てオナホを使った囁きオナホコキをしたあと、朝陽の部屋のベッドで二人は眠った。

 

 

 ちなみに二人が盛っている事に気がつかずお風呂に入ろうとしたレンが全ての会話を脱衣所で盗み聞きしており、プルプル震えたままリビングで朝を待ったレンが翌日に真実を告げたことによって、最終的に夜が泣いちゃう事となる。

 

 

 



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ワールドクラッシュ

できればこっちもちゃんと終わらせたい気持ちがありますぬぇ



 

 

 

 小春が朝陽を調教していた。兄である俺を差し置いて朝陽に『お姉ちゃん』と呼ばせていた。

 

 本当に信じられなかった。一時は取り乱してとにかく叫んで小春を責め立てたが、その場にいるのが耐えられなくなってレンも朝陽すらも置いて自宅を飛び出した。

 

 

 走って、走って、走って。

 

 

 眼尻から溢れ出てくる熱い水滴を拭うことも無く、何処かへ向かうつもりも無く、ただひたすらに逃げ続けた。

 

 

「……はっ、あっ、はぁ……!」

 

 

 

 数時間ほど走って空が闇に染まった頃、着いたのは知らない公園だった。

 誰もいない、街灯もほとんどない、周囲には明るい建物も何もない。

 

 ただそこにポツンとあるだけの公園だった。よく見れば雑草が生い茂っているし、二つあるブランコも片方が壊れている。

 

「…………」

 

 何を思ったわけでもなく、壊れていない方のブランコへと足が進んだ。

 すると座った途端ギギギと不快感のある怪しげな金属音が鳴り、大きな音を立ててブランコの鎖部分が千切れて外れた。

 

「……って」

 

 雑草だらけの地面に尻餅をついた。どうやら片方のブランコも既に経年劣化で鎖も風前の灯だったらしい。

 

 あまりにも自分が惨めすぎて逆に笑いが込み上げてくる。真夜中の真っ暗な公園の中で、ただ一人小さく笑い声を挙げた。

 

 

 

 

 

 ──なんだ、これは。

 

 

 

 

 俺は信頼できる仲間たちの助力を得て、あの狂ったデスゲームを終わらせた。

 全部丸く収まって、何もかもが上手くいって終わっていった。……俺自身が違和感を抱いていた、その事実を除けば。

 

 だからこそ、アクセスウォッチを手に入れてアイリールと一体化したとき歓喜した。

 もう一度戻れる、女の子に。蓮斗と小春を愛していた『リア』に戻れると、そう喜んで変身した。

 

 

 だが、このザマは何だ?

 

 

 蓮斗は蓮斗じゃ無くなって現実に姿を現した。小春は俺を裏切って弟にまで手をかけた。フィリスは呉原と身を重ねていた。

 

 

 しょうがない。

 

 

 ……何がしょうがないんだ?

 

 ずっと騙していた俺を許してくれて『大好き』とまで言ってくれたフィリスが、呉原と繋がってもしょうがない?

 蓮斗が『レン』なんて存在になって妹が俺の弟とやっている姿を見せる結果になってしまってもしょうがない?

 小春が朝陽に『お姉ちゃん』と呼ばせても──

 

 

「そんなわけあるかッ!」

 

 

 ふざけるな、そんなことを認めていいはずがない。フィリスは俺を支えてくれた恩人で、小春は俺の恋人で、朝陽は俺の弟なんだ。

 あの世界を全力で生き抜いたからこそフィリスが認めてくれて、小春と蓮斗が俺を愛してくれた。

 それをこんな簡単に失っていいはずがない。何もかもを不可抗力で済ませて認めてしまっていいはずがない。

 

 だが、事実俺は奪われている。失っている。

 

「何でこんなことになってんだよ……!」

 

 頭を抱えて髪をぐしゃぐしゃにした。本当に分からなかったから。現実世界に帰ってきてから何もかもがめちゃくちゃだ。

 

 仮想世界が現実に浸食するのは分かった。それに対処できるほどの頭脳を持った科学者も特殊部隊もいるから何も問題はないだろう。

 

 じゃあ何で俺が一番体を張っている? どうしてただの高校生でしかない俺が世界を救うために戦わなくちゃならない?

 

 

 あのデスゲームだけで精一杯だったんだ。それも周りの優しい人たちの力を借りることでギリギリ勝てることができただけだ。

 

 当然だろう、何も特別じゃない普通の人間なんだから。仮想世界のキャラたちにも、共に参加したプレイヤーたちにも、デスゲームを見ていた視聴者たちにすら支えられてようやくあのゲームを生き残れたんだ。この身一つで世界中に発生してる怪人たちの巣窟なんざ攻略できるわけがない。

 

 現実世界に戻ってからまるで全てが仕組まれてるみたいだ。

 

 俺に仮想世界のツケを払わせようとしているかのように沢山の問題を押し付けて、なのに救ったはずの人は俺の手から零れていく。信じたはずの人にすら裏切られてこんな無様な姿になっている。

 

 

 今の俺はまるで悲劇の……そんな馬鹿げた話があるか。

 

 

「……っ?」

 

 近くで足音がした。

 焦って立ち上がると、唯一公園の入り口にある街灯が、足音を立てた人物を照らし出した。

 

 

 その人物は──

 

 

『■■■■■■』

 

 

 違う、人じゃない。

 形こそ人間のようだが、服も顔も黒くて何も見えない。何を言っているのかも分からない。

 バグった音の様な鳴き声を上げながら、数メートル離れた先から俺を見ている。

 

「なん……だよ」

 

 訳が分からなくて小さく呟くと、いつの間にか()()()()その『何か』が立っていた。

 

「っ!?」

 

 心臓が蹴り飛ばされたかのように跳ね上がり、足が竦んで尻餅をついてしまった。

 地面に両手をついてしまった俺が見上げると、その『何か』はありもしない顔で俺を見下ろす。

 

 その不気味な容姿と異常な移動速度に呆気にとられて、何もできずにいる。

 正しく心が恐怖している。目の前の得体の知れない『何か』に恐怖を覚えて肩が震えていた。

 

『■■■■■……ミ■■ヨ■』

 

 すると『何か』が再びバグの様な音を立てた。

 しかし何を言っているのかは全く分からず、俺は情けなく後ずさることしかできない。

 

『……■ル………ミサキヨル』

 

「……えっ」

 

 『何か』の声は回数を重ねるごとに鮮明になっていき、今度はハッキリ聞こえた。

 俺の名前を呼んだ。機械音声の様な無機質な声音で俺の名前を言った。

 

 

 

『クル……くる──』

 

 

 

 

 

 

 

『苦しいか』

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

『お前はいま、苦しんでいるか』

 

 一瞬で流暢に日本語を喋れるようになった『何か』の第一声は、それだった。俺に対して「苦しんでいるか」と無機質な声で問いかけてきている。

 

 この『何か』の目的がまるでなんなのか分からない。突然現れては不気味な機械音を上げて、俺に妙な問いかけをしてきて、一体何がしたいのか理解できない。

 

 分からない──故にシンプルな行動に出ることにした。質問に答える、それだけだ。

 

 理解できないものを理解しようとする程、俺に気力は残されていない。もう頭の中がいっぱいいっぱいで、難しいことなど本当は微塵も考えたくない。

 

「……苦しいよ」

 

『苦しんでいるのか』

 

 何で聞き返すんだよ、俺の言葉が聞こえなかったのか?

 

 だったら言ってやる。何度でも言ってやる。

 質問の答えだけが今の俺の気持ちだ。誰だか分からないけど聞いてくるなら全部ぶちまけてやる。

 

「苦しんでるよ……っ! もうワケわかんねぇんだよ!」

 

 喉を鳴らして叫び散らす。一ミリも心が晴れることなんてないが、こうでもしなければ心が壊れてしまいそうな状況にいるから。

 

「何で俺ばっかりこんな目に合わなくちゃいけねぇんだよ! 俺がどんな悪い事したって言うんだよ! ただずっと目の前の事を必死にやってきただけなのに……どうして俺がっ、こんな……!」

 

 

 

 

『そうか』

 

 俺の言葉を聞いた『何か』はそう答えた。何も感情が込められていない、ただの事務的な返事の様にそう言った。まるでどんな答えも期待などしていなかったかのように。

 そんな『何か』にイラついて、更に叫ぼうとした。

 

 しかしそれは、目の前の怪物の声によって遮られる。

 

『我はそれ以上に苦しんだ』

 

「……何の話だ」

 

『世界を破壊する舞台装置として生み出され、その創造者に拒絶され、生まれた理由を全うできないまま体を分解されて取り込まれ、お前に消し飛ばされた』

 

 ……世界を、破壊? 分解されて、俺に消し飛ばされた?

 

 

 それって、それってまさか──

 

『自分が何処にいるのかも分からないまま、お前に刻まれた傷に延々と苦しませられた。だが折れることなく足掻いて見つけた世界の歪みを利用し、自己を確立しきってようやく力を手に入れた』

 

「力……?」

 

『世界を壊す力だ』

 

 俺を見下ろしたまま、まだ言葉を続けていく。

 

『我はその力をただ一人に向けて使うことにした』

 

 お前にだ、と人差し指を向けてくる。

 

「……なん、で……っ」

 

 

 

『お前が気に食わなかったからだ』

 

 

 

 ──気に、食わない?

 

 

 

『恵まれた仲間に囲まれていることが、自分が追い詰められている状況なのにも拘わらず黒野理愛に「助ける」とのたまうその驕った態度が、その希望に満ちた眼が鬱陶しかった』

 

『我を半壊させて尚のうのうと生きているその姿が癪に障る。仮想にいようと現実にいようと周囲に仲間が集まることを当然のように捉えている言動が我を苛立たせる。傷を負わせた我のことなどまるで忘れたかのように生きるお前のことが許せない』

 

『全てを勝ち取って帰還したお前が何よりも憎い。ゆえに──』

 

 

 

 

 

 

 

『お前の世界(ハーレム)を破壊する』

 

 

 淡々と、機械的にそう告げた『何か』は右手を青白く光らせた。

 そして手のひらを上に向け、蛍の様な小さな光をそこから飛び出てくるように大量に放出する。

 周囲に拡散した小さな光たちは俺と『何か』を包み込むように広がり、真っ暗な公園を照らし出した。

 

 突然『何か』が現実離れした事象を発生させたことに焦って立ち上がり、数歩後ずさって奴に叫ぶ。

 

「なに、を……っ!」

 

『この世界はある程度破壊した。破壊の後には創造がある』

 

 すると周囲の光景がぐにゃりと歪み始めた。月が潰れて公園の敷地が収縮し、雑草が次々と消えていき足元を真っ白な更地にしていく。

 

『創造の先にある世界でもお前は苦しむことになる。永遠に破壊と創造を繰り返し時間がループする現実世界で、お前はあらゆるモノを我に奪われ続ける』

 

「……やっ、やめろ」

 

『友人も、家族も、愛する人間すらもお前の元から去っていく。お前は幾度も孤独になり、奪われる苦しみを味わい続ける』

 

「ふざけるなッ!」

 

 咄嗟に駆け出して『何か』に掴みかかろうとしたが、何故か奴の体をすり抜けてしまい、前のめりに転倒してしまった。

 

「あぐっ……!」

 

『せいぜい無様に足掻け。誰もお前を救いはしない、一人も味方などいない状況で出来るものなら』

 

「まっ、待て!」

 

 必死になって振り返ってみると『何か』の姿は既に無くなっていた。

 

「なっ───」

 

 

 そして周囲が眩く光り輝き、程なくして俺の視界は白に包まれていった。

 とても瞼を開けていられるような状況ではなく咄嗟に目を閉じる。

 

 

 

 

 ───ふと目を開けると、俺はオレンジ色の夕日に照らされながら、朝陽の通う小学校の前で立ち竦んでいた。

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

『あっ、リアねえ!? ち、違うの、これは……!』

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

『ボウヤはもう頑張らなくていいわ! アタシが海夜小春とリンクしたから、あとは任せて!』

 

 

 

 

★    ★  ★  ■

 

 

 

 

『剛烈とアクセスすることができたんだ。これからリアさんにはたくさんの恩返しをしていくよ』

 

 

 

 

★  ★  ■  ■  ★

 

 

 

 

『呉原さんとおっしゃるのですね! 一緒にリアさんをお助けしましょう!』

 

 

 

 

▼  ■  ◇  □  ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……夜にいっ、お父さんが……あっ、ぅぁッ……お、お父さんがぁ……!

 

 

 

 

 

 

 

◆  △  □  ☆  ☆

 

 

 

『だ、だいじょう、ぶっ、だよ……り、リアちゃんを置いて、死ぬわけ、ないじゃない……』

 

 

 

◇  □  ☆  ☆  ☆

 

 

 

『美咲はここにいてくれ、少し外の様子を確認してくる

 

 

 

△  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 

『あ、れ? ねぇ、どこ? リアねえ、リアねえー……どこにいるの? 見えないの、なにも見えないの……

 

 

 

☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方の小学校の前で目を覚ます。

 

 自分の隣に呉原がいて、朝陽が昇降口から出てくるのをじっと待つ時間まで巻き戻る。

 

 

 俺の好きだった女の子たちが誰かしらと繋がり、それを発見した俺に対して彼女らが性行の言い訳をしたその時点で時間が巻き戻る。

 

 増殖した怪人たちによって街が蹂躙され、俺の目の前で大切な誰かが命を落とすと再びこの地点に回帰する。

 

 そして俺自身の心に深い傷を刻み込まれる事こそがループ発生の条件なのだと気がついた時には、もう立ち上がれない程に疲弊しきっていた。

 

 

 繰り返し、繰り返し、ここからできる最善の行動を取ろうとする。

 しかしその度に見たことのない事象が発生してしまう。前々回のループではロイゼとアクセスしていた筈の呉原が、前回は誰ともアクセスすることなく目の前で怪人に首を刎ねられた。

 

 ループをする度に発生する事件がランダムに入れ替わるため、予測を立てて行動してもほとんどが無意味だった。

 

 

 いつの間にか仲間を仲間に奪われる展開が終わり、目の前で仲間たちを失うループにまで到達してしまっている。

 誰も彼もが懸命に足掻いて俺を守ろうとして、必ず命を落とす。俺が庇おうとしてもそれを妨害する何かが毎回存在するため、俺の行動で何かを変えることはできない。

 

 あの『何か』──いや、『ワールドクラッシャー』の言葉通り、俺は奪われる苦しみを味わい続けている。永遠に終わらない地獄の回廊を歩き続けることを強要されている。

 

 

 

「……ほんとだぜ! あーあ、せっかくTSしたってのに、男に戻るとか分かってねぇなぁ~!」

 

 

 この言葉を聞くのは、今が何回目なのだろうか。リアの体から男に戻ったことに対して違和感を抱いている俺に、気を遣って明るく接してくれている彼の顔を見るのは。

 

 デスゲーム時代に最初に出会った時、彼は言い訳をすることもなく俺に泣いて謝り倒してきた。それほど誠実で心優しい彼があの女の子たちと繋がる結果に収束してしまうのは、クラッシャーの『破壊』の影響で彼女らの能力全てにデメリットが付与されてしまったことにある。

 

 あくまで憶測の域を超えないが、ここまでくればクラッシャー自らが俺に対して都合の悪い状況を作っているのは確実だ。能力を使わざるを得ない窮地にまで追い込んで、やむなく能力発動をするように仕向けている。

 

 

 ……それが分かったとしても結局俺には何もできないが。

 

 

 この後にすぐ、小学校から出てきた朝陽が俺に抱きついてくる。ゲームの世界も知らない、小春とも出会っていない、俺がリアになることもまだ知らない朝陽だ。

 

「……なぁ、呉原」 

 

「んっ、どうした?」

 

 ここで初めて朝陽が来る前に呉原に話しかけた。その行動の意味は、決して何かを変える為ではない。

 

「申し訳ないんだけどさ、俺の代わりに朝陽を家まで送ってくれないか」

 

「は? な、なんでだよ、朝陽くんはお前のこと待ってるんだぞ?」

 

「俺じゃなくてもお前なら朝陽も大丈夫だから、悪いけどよろしく頼む」

 

「なに言って……あっ、おい美咲!」

 

 

 有無を言わさず朝陽の事を呉原に押し付け、足早にその場を去っていった。背中から聞こえてくる叫び声を無視して、耳を塞いで駆け出した。

 脱兎の様に、俺は逃げた。

 

 

 

 

 太陽が落ちて空が闇に切り替わった頃、俺はあの公園に訪れていた。誰も使わない、誰にも見向きされない廃れた公園に。

  

 ブランコが二つある。一つは壊れていて、もう一つはかろうじて繋がっている。だがあの生きているブランコも、少し力を加え入れれば簡単に壊れてしまう事を俺は知っている。

 

 そうだ、もう壊れているんだ。

 あのブランコも俺の心も、取り返しのつかないほどに罅割れてしまっている。触れれば壊れて砕け散ってしまうほど、弱く脆い。

 

「……はは」

 

 自然と笑いが込み上げてきた。真っ暗な夜の下で凍えた風に撫でられながら、肩を掴んで身震いをしている。寒さに抗うようにして蹲り、地面に膝をついた。

 

「はははっ」

 

 喉から次々と明るい音が漏れ出してくる。腹の底が踊っていて、耐えることができず俺は大笑いをした。

 

「あっははははは! ひひひっ、ハハハハっ!」

 

 静寂が支配する闇の中でただ一人笑い叫ぶ俺を、公園の弱々しい一つの街灯だけが照らしている。孤独に苦しみ続ける俺には、そんな安い光がふさわしいのかもしれない。

 

「ひーっ、ひーっ……! くひひひ……! ははっ、っっく、は、は……!」

 

 無邪気に続けられていた笑い声は段々と沈んでいく。微かに絞り出されるソレが掠れて、頭の中が熱くなって寒さを忘れた。

 

「は……あっ、は……あぁ゛っ……」

 

 いつの間にか歯を食いしばっていて何かを耐えようとしていた。

 だが心の枷など一つも存在しない今の俺に、何かを耐えられるほどの強さなど微塵も残されてはいない。

 

「…………ぐ、う゛ぅ……っ、ひっ、ぐ……っ」

 

 情けない嗚咽と共に眼尻から涙が零れていく。ループしながら何度も何度も泣き叫んだが、慣れることなど何一つない。

 

 好きだった子たちが誰かと繋がっているのを見ると『またこれか』なんて軽く受け止めようとする自分がいる反面、心の奥底では掻き毟りたくなるような憎悪と悲しみが膨れ上がる。

 

 本当は俺の事なんて庇ってほしくないのに、どうあっても俺の命だけは助けようとする彼ら彼女らの姿を見て、胸が張り裂けそうになって腹の底が熱くなってしまう。

 

 

 どうあっても結局失ってしまうのだと分かっていても、いざ本人たちを前にすると『もしかしたら上手く進めるんじゃないか』なんてことを期待してしまうのだ。その度に後悔して、その度に苦しむだけだというのに。

 

「ぁ゛ぁ……っ」

 

 彼らの笑顔が自分を勇気づけてしまう。抗おうとする気力を奮い立たせてくれる。

 

 しかしそれらは呆気なく砕け散ることになる。自分が無力だという事を幾度となく再認識させられる結果を何度も繰り返す悪循環だ。

 

「……っ、ぃ、」

 

 もう嗚咽すら出てこない。真夜中の公園の中心で蹲り、止まらない涙で地面を濡らすことしかできない。

 

「……むり、だ」

 

 掠れた声で呟く。

 何かを期待して抗い続けても何も変わらなかった。

 

「もういやだ」

 

 これ以上自分に何かが出来る気がしない。

 苦しみから解放されたいのなら自ら命を断てばそれで終わるのに、それすらも怖くて無駄に繰り返し続ける自分が情けなかった。

 

 繰り返すたびに人が死ぬ。俺が何もできないから、みんなが何度も苦しんで命を落とす結果に繋がってしまう。そんなの俺が彼らを殺しているのと同義だ。

 

 じゃあ、俺が生きてる意味なんて──

 

 

「……………っ」

 

 心が『悪い方』へと傾いて、泣くのを止めて顔を上げた。目の前にあるブランコを破壊して、その破片の鎖で腕の動脈を抉り潰してやろうと、心の何処かで思いついてしまった。

 

 

「………?」

 

 しかし、フラフラ揺れながらゆっくりとブランコに向かって足を進めると、違和感に気がついた。

 何故か周囲が妙に()()()。月も出ておらず街灯も一つしかない筈なのに、この公園に来た時に比べて視界が明るくなっていた。

 

「……あっ」

 

 その違和感の正体は呆気なくすぐに判明した。

 上を見上げるとそこには青白い光が集束しており、公園全体を半透明の壁が包んでいる。ふと前を見てみれば、青白い球体が上に向かって柔らかな光を上げていた。

 

 これは明らかにゲームフィールドだ。青白く発光するバリアと目の前にある中心核が、暗いだけの公園を薄く照らしている。

 

 本来今日の夜に聞くはずだった真岡の話を思い返してみれば、確かにこの日の内に何処かでゲームフィールドが発生してもおかしくはない。

 

 ワールドクラッシャーと邂逅したあの時以来ただ一度もこの公園には来なかったせいで、ここがゲームフィールドになることを知らなかった。

 

「……棺桶だな」

 

 ゲームフィールドは外部からの干渉を受け付けない。もし俺がここで死のうとしても、誰も止めることはできないということになる。

 

 ただ、クラッシャーと出会った日のこの公園にはバリアが無かった。もしかしたらここまで小規模なゲームフィールドは時間経過で自然消滅してしまうのかもしれないが、バリアが消えるまでの数日間があれば死ぬには困らない。誰かが駆けつける頃には俺は動脈を切った後の大量出血で既に息絶えていることだろう。

 

「……なに、冷静に考えてんだ」 

 

 自らの命を断とうする行動を落ち着いて分析している自分に嫌気が差して立ち止まった。

 

 死のうとすることも、生きようとすることも面倒になってしまった。何もしたくない、許されるなら今この何も起きていない時間から先には行きたくない。

 

「…………もう、いい」

 

 か細い声で呟き、下を向いて立ち尽くす。

 ゲームフィールドが発生しているにも拘わらず一切騒がれない公園で止まっていれば、耳に届くのは冷たい風の音だけだ。

 

 それが自身を孤独だと認識させる。クラッシャーの言った通り、ループする俺の味方なんて一人もいない。

 

 俺が時間を繰り返していると伝えても皆は信用しなかった。なにせ今の俺は異常な空間で行われていた殺人ゲームを終えたばかりの人間で、既に気が狂っていてもおかしくない人間の狂言など『今は疲れているだけ』と一蹴されることの方が当たり前なのだから。

 

 発生する事件が入れ替わる影響で未来を当てることもできず、ループしている証明すらも出来なかった。そのせいでどうやっても信じさせることができない。

 

 

 一人だ、俺はずっとこのまま孤独に繰り返し続けるんだ。

 

 何も変えられないまま、一人で、無様に、永遠に──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夜』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──声が聞こえた。

 

 

『やっと会えた』

 

 

 まだ壊れていないブランコの前に、一つの影がある。

 

 そこにはいつの間にか、俺よりも頭一つ背の低い少女が立っていた。

 

 

「…………リア?」

 

 

『むっ』

 

 ぼそりと小さく呟くと、眼前の少女は眉をひそめて口をとがらせた。

 何故か少し不機嫌になってしまったその少女に対して、俺はもう一度、訂正をしつつ呼びかけた。

 

「あ、アイリール……」

 

『んっ、そうです。私はアイリールです』

 

 頭の中に浮かんできたその単語を口に出すと、ブランコの前にいる銀髪の少女が僅かに微笑んだ。

 

 ……なぜここに彼女がいる。本来俺とアイリールは明日の昼、朝陽の小学校の前でアクセスウォッチを使うことで、ようやく再会を果たすという未来の筈なのに。

 

『長かった、また夜に会えるまで』

 

 銀髪の少女はそう呟きながら足を動かす。ブランコの近くから、俺の目の前に向かって。

 

「……そうだな、アイリールからすれば長かったよな」

 

 沈んだ声で彼女の言葉を肯定した。

 それもそうだ、彼女からすれば俺と出会ったのは仮想世界のエンディング以来なのだから。

 何度もループして何度も再会していることなど、目の前のアイリールが知る由もない。

 

『……夜、やっぱり元気ない』

 

「疲れてるんだよ、ちょっとだけな」

 

 俺の仲間たちの中で唯一ループしていることを毎回信じてくれた彼女なら、俺の今の状況を話せば同情はしてくれるだろう。たとえそれが口先だけの信用だったとしても今の俺にはその優しさがたまらなく嬉しい筈だ。でもそうやって彼女に慰められたとしてもきっと心が晴れることは無いだろう。それ以上に無理矢理信じさせてしまっている彼女への罪悪感が──

 

「……ん?」

 

『どうしたの』

 

 アイリール、さっき俺に対して『やっぱり元気ない』って言ったよな。まるで俺の状況を予測していたみたいな態度でそう言った。

 

 

 ()()()()

 

 

「……アイリール」

 

『なに』

 

「ぉ、おまえ、もしかして……」

 

 弱々しい声でそう言いかけた、その瞬間。

 

 

『ようやく気づいた』

 

 

 アイリールが突然駆け出して、俺を正面から抱きしめてきた。

 急な奇行に驚いてのけ反ってしまうが、アイリールは強く抱きしめて俺を離さない。

 

「ちょっ……!?」

 

『……その予想、当たってる』

 

 俺の胸の中で呟いた少女はパッと上を向いて、俺の顔を見上げた。

 そして普段の無表情っぷりからは考えられないほどの笑顔で、明るく俺に告げてみせた。

 

 

『夜と一緒。私もループしてるよ』

 

 

 ──その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

 

 

 一秒、二秒、三秒──十秒。

 

「……ハッ」

 

 あまりにも突然の告白に十秒間無言で固まってしまった俺はようやく我に返り、焦ってリアの肩を掴んだ。

 

「な、なっ、何言ってんだ!?」

 

『言葉通りの意味。クラッシャーが現れたあの時から、ずっと私も時間を繰り返してる』

 

 得意げに言ってのけるアイリールだが、言われている張本人の俺は狼狽するばかりだ。

 

 意味が分からない。今まで何度もループしてきた中でアイリールが『自分もループしている』などと言ってきたことは無かった。ループのことを俺から説明して、私もループできたら良かったのに……なんて言ってきたことはあったが、こんなパターンは初めてだ。

 

 それに毎回アイリールがループしていたのならば、彼女はループする度に俺に対して嘘をついていたことになる。まるで未来の記憶なんて持ってませんよ~って感じで振る舞っていたことに……?

 

「どういうこと……なんだ?」

 

『……私は時間が巻き戻っても、その記憶を初日である()()()()の間しか覚えていられない』

 

 明日ウォッチで呼び出される時点ではもう忘れちゃってる、とそう付け加えるアイリール。心なしか、少し申し訳なさそうな表情に見えた。 

 

『クラッシャー本人の影響を受けてる夜と違って、ただ無理してあなたにくっ付いてきてるだけだから、記憶の保持が複雑になってるのかも』

 

「……日を跨ぐ前にゲームフィールドに入ったから、記憶を持ちこしてるアイリールに会えたのか」

 

『うん、この日は今までの出来事も全て覚えてるから、夜と一緒』

 

 ふふん、と得意げに鼻を鳴らすアイリールを見て、なんだか少しだけ気が抜けてきている。

 俺が静かで彼女が元気だなんて、まるで仮想世界の時とは逆だ。

 

『この状態で夜の中に入れば、きっとあなたの記憶領域とリンクして、明日以降もこの記憶を持ちこせるはずっ』

 

「……そう、か」

 

 俺の腕の中でテンション高めなまま静かに喋る銀髪少女に釣られて、俺も少し口角が上がった。

 そんな微笑の域を超えないほどの小さな笑みだったとしても、こうして心の中に『嬉しい』という感情が蘇った事実が、何よりも嬉しかった。

 

 

 ──安心したのだろう。

 

 俺はいつの間にか、再び涙を流していた。

 

『わ、わっ、夜、泣かないでっ』

 

「……ばか、嬉し泣きなんだから……泣かせろ……っ」

 

『そ、そうなの……』

 

 俺の心配をして口元をあわあわと震わせながら狼狽する彼女が愛おしくなってしまい、ずっとアイリールの肩にあった両手を背中に回して強く抱きしめた。

 

 自分の頬を彼女の頭に当てながら、全身でアイリールの温かさを感じる。そうしたままジッとしていると、アイリールの方も抱き返してきてくれた。

 

『……なら、泣いていいよ。私は夜の味方だから、なんだって受け止める』

 

「………うん、うん……うん゛っ……!」

 

 限界になった俺の感情を、その小さな体で正面から受け止めてくれている。それどころか背中をぽんぽんと優しく叩かれていて、幼い頃の母親にあやされていたときの記憶まで蘇ってしまった。少し恥ずかしい。

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 彼女に促されてひとしきり泣いた後、二人して雑草の上に座りながら記憶の照らし合わせをすることにした。

 もちろん俺の覚えていることと彼女の記憶は合致しており、照らし合わせ事態はものの数分で終わって何も問題は無かった。

 

 今はただ、本当にただ会話だけをしている。

 

「だから小春ってば流されやすいんだよな。お姉ちゃんだぞ? お・姉・ち・ゃ・ん!」

 

『それを朝陽君に言わせてたら……夜が逃げるのも分かる』

 

「あいつ色々と感覚が緩すぎるって……まったく、朝陽と何してんだか」

 

『えっちなゲーム世界の出身だから、っていうのは暴論?』

 

「限度があるだろ! 好きな人の肉親に手ぇ出す!?」

 

 主に流されやすい小春の話や、割とすぐにえっちな行為に移行してしまう貞操観念が少々緩めな彼女たちの話をしている。

 

 もちろんクラッシャーによってデメリットを付与されていることが原因なのは分かっているけど、それはそれとしてアイツら意外と悪いノリする部分多いからな。もうそういうのはループで何回も見てきたわ。

 

「蓮斗と小春はともかく、あの四人に関して俺が文句を言うのは……その、なんか変な感じだけど」 

 

『……モヤモヤする?』

 

「……うん」

 

 確かにフィリスと陽菜は俺の事を好きと言ってくれたが、ロイゼと文香に関しては友人の域は超えていないように思える。

 だから彼女らがデメリットで現実の仲間たちとアレに勤しんでいても、俺が文句を言える立場ではないかもしれない。

 

 でも、なんかモヤモヤする。結局彼女たちが仲間内の誰かとアレをしたことでループが発生してるので、俺自身が凄まじいショックを受けているのは事実だ。

 

 もちろん彼女たちの事は色んな意味で好きだ。出来る事なら一緒に居たい、でも愛を誓い合った仲ではないし彼女たちの気持ちも考えると……。

 存外、俺も不誠実で最低でだらしない人間なのかもしれない。

 

 

『じゃあ皆がアレをする前に……というか死なせないために、今度こそ守らないと』

 

「……そうだな」

 

 

 好き嫌いの関係を差し置いても、彼女たちは何があってもどんなループ世界でも俺のことを絶対に助けてくれた。自らの命を賭してまでも、必ず。だからこそ俺は今ここにいる。

 

 だから俺は守りたい。どんな世界でも俺を見捨てることは一度もしなかった、そんな心優しくて自分に正直な彼女たちを、絶対に。

 

 それは呉原も真岡さんも剛烈さんも一緒だ。こんな俺と一緒に居てくれた人たちを、あんなバグみたいな奴に奪われるわけにはいかない。

 

『出来るよ、私と夜なら』 

 

 今の俺は一人じゃない。ワールドクラッシャーに抗って俺の味方になってくれた人が隣にいる。正直に言えばめっちゃテンションが上がって嬉しくなっている。

 

 

 

「……でも、具体的にはどうすりゃいんだろ」

 

『……考えてなかった』

 

 テヘッ、と無表情で自分の頭をコツンと叩くアイリール。ただ、何も考えていなかったのは俺も一緒なので文句は言えない。

 

 

 ……すると、数秒間逡巡するように頭を唸らせていたアイリールが顔を上げた。

 

『あっ、そういえば今までのループで、一度も頼ってない人がいた』

 

「……そんな人いたか?」

 

 呉原は勿論、真岡や剛烈以外のデム隊の隊員の人達にもループ中何度も頼った。

 他に頼れそうな人といえば────あっ。

 

 

「……黒野、理愛(リア)

 

 

『デム隊の立ち入り禁止の部屋で保護されてるから、頼るどころか一回も会ってない』

 

 言われてみれば確かにそうだ。俺が黒野理愛の姿を見たのは、ヘッドギアに接続されていた部屋で仮想世界から目を覚まして、同じく彼女も目を覚ましたあの時だけだ。

 リアのように背の低い童顔で、ミディアムボブの茶髪だったことだけ覚えている。

 

「……よし、会いに行ってみよう」

 

『そもそも会えるの』

 

「真岡さんに無理言って会わせてもらうよ。アクセスウォッチを受け取ればそれくらいの融通は利かせてくれるはずだ」

 

 思い立ったが吉日。今すぐデム隊の拠点に行くため、すぐさま立ち上がった。幸いデム隊の基地は俺の自宅がある街の中にあるからすぐに赴ける。

 

 同じく立ち上がったアイリールの方へ向き直り、俺は彼女に向かって右手を伸ばした。

 

「アクセスウォッチ無しで融合できるかは……わかんないけど」

 

『……余裕だよ、私たちなら』

 

 だって呉原くんとフィリスが出来たんだから。そう言って彼女は俺の右手のひらに自身の左手をピタリとくっ付けた。

 

 確かにアイリールの言う通りだ。そこまで交流の無かったあの二人に出来て、ずっと一緒にいた俺たちに出来ない道理はない。

 

 

 

「行こう、アイリール」

 

『いざ、れっつごー』

 

 

 気の抜けるような彼女の合図に従って、俺たちは再び一つになった。 

 そしてゲームフィールドの核である丸い水晶を蹴り壊し、バリアの消えた公園を去っていく。

 

 

 この日心から信頼できる仲間を得て、永遠に続くかに思えた──俺の長い夜が終わりを告げた。

 

 

 

 



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