仮面ライダーmath(マス) (イノさん)
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始まりの(X)が響く
{2050年 東京都心にて}
すべすべした木の台と、その上に乗せられた大量のマイク。その前には、歴史的瞬間を目にしようと、野次馬根性前回の民衆が集まってきている。
おもむろに、男が出てきた。マスコミらしきカメラのフラッシュが、数カ所でたかれる。
「それでは、」男はもったいをつけていった。
「賛成派多数につき、ここに、少年少女擁護法を、可決いたします!」
どっと湧き上がる、嵐の風音のような歓声。さらに、嵐の雨音のような拍手。そしてやっぱり、嵐の雷のようなフラッシュ。それらは、世界が終わるまで続くんじゃ無いかと思わせるくらい、いつまでもいつまでも続いて、一向にやむ気配を見せようとはしなかった。
{2075年 東京郊外 カフェ&レストラン「カシムラコーヒー」にて}
「さ、片付けた片付けた!あと10っ分で開店だよ、急げ!」
「騒いでないでお前も片付け手伝えよ、ナナ。」ナナと呼ばれた女の子は、めんどくさそうに言った。
「えー、だって料理の下ごしらえがあるんだもん。ここが経営立ち回ってるのは、誰のおかげかな?幼なじみで大親友、そして恩人でありカズ君の初恋の相手、ナナじゃ無いのかな、んー?」カズ君と呼ばれた男の子の方は、テーブルを拭きながら返した。
「恩人じゃネーし初恋もしてねーよ。そもそもここ開店できたの誰のおかげだと思ってるんだ。」
「じゃあ、幼なじみで大親友とは思ってるわけだ。」
「後半を聞けよ。」
二人とも年齢的にはまだ子供だが、社会的には立派に大人である。樫村七海、17歳。文系、活発な美(←自称)少女。通称ナナ、明るく友達も多い。そして解生和人、同じく17歳。理数系、スポーツよりも実験がすき。そのため、やや引きこもりがち。趣味はプラモデル、国から正式に認められた{少年数学者}であり、謙遜しないので自称も他称も天才少年。多少のわがままなら許してもらえる。その代わり、国に貢献することを義務づけられている。無口なため根暗だと思われており、友達は少ない。しかし、こちらから話しかけると普通にしゃべる。ため息が多いのが最近の悩み。案外ノリはいい。
「おまえがレストランやりたいって言うから、本当は違法なのに無理突き通したんだぞ、分かってんのか?」
「はいはい、感謝してますよ。カフェの方は任せきりだけどね、スイーツ将軍。」スイーツ将軍。ナナがカズをいじるために作ったあだ名だ。
「その名前で呼ぶのはやめろって、いつも言ってるだろ。」
店の中が、ざわつき始めた。「カズ、8番テーブルコーヒー二つ!頼んだよコーヒーの大王!」本当に、ナナは調子がいい。いろんな意味を込めて、大きなため息を一つした。
「お疲れ様~。」
「お疲れ様。それじゃしばらく、地下にこもるから。」国から、急ぎの用事だと、「あるモノ」の開発を任された。期間中に完成しなければ、多分僕もナナも刑務所行きだ。なあに、あと少しさ。自分にそう言い聞かせながら、それの開発を進めた。
「それ、何なの?」
「知らなくて良い。てか知らない方が良い。もしも情報が漏洩したと分かったら、称号剥奪だろうな。」25年前、日本に出来た新たな法律。それが「少年少女擁護法」だ。その内容はいろいろあるが、とにかく理不尽だと思うのが、「18歳以下の外出を一切禁止」「18歳以下は積極的に商業をするように。ただし、そのもうけは親または国が管理する」というモノで、二人とも親がいないから国が管理するところを、自分たちのもうけとして良いことにしてもらっているのだ。
「何が擁護だ。アレは僕たちを守るためのモノじゃ無い。」そっとつぶやくようにして、ようやく声を絞り出した。「縛るためのモノだ。」ナナは、その背中を心配そうに見つめていた。
「こちらが、頼まれていたモノです。そしてこちらがその資料。」そう言いながら、スーツケースと紙の束をわたす。
「そうか、これが。では、しばらく、テストしてもらえるかな?」それは疑問形ではあったが、とても質問では無かった。
「・・・はい。」大丈夫だ、変な仕掛けは一切していない。この鈍く光る機械は、ただの道具だ。そうさ、殺意なんざもっていないはずだ。どうにも、そう言い聞かせないと不安の波にもみくちゃにされてしまいそうだった。
その日。いつも通りテーブルを拭いていると、電話がかかってきた。
「防衛省からです。和人さんですか?」
「はい、そうですが。」どうしたんだ、急に電話なんかかけて。
「渋谷に、怪物が現れました。至急、{例のモノ}をもって急行して下さい。」怪物。この世に?
「分かりました。」僕は全力でかけだした。
「ちょっと、どこ行くの?」ナナが聞いてきた。
「渋谷。すぐ戻るから。カフェは閉めといて!」そこまで早口で言うと、乱暴にドアを閉めて走り出した。
「フフ、フ。良いねぇ。うまそうな人間だ。脂がのってる女も、柔らかい子供も良いけど、やっぱダイエットには男だよな。」ブツブツと、サラリーマン風の男がつぶやく。突然、額から一本角がはえ、三ツ目になり、両の手のひらには口とも目ともつかない何かが出てきた。
「喰ってやるぅ、フフ。」近くにいた人々が、逃げ始めた。すると男の指が突然伸びて、蜘蛛の足みたいに広がった。
「逃がさないよう、小鳥はケージに入れてから食べるんだ。」そう言うと、あいている左手を伸ばして、コンクリートのビルを壊した。母親のような人が、「ひい!」と身近い悲鳴を上げた。
「タンパク質もお、大事だけども、カルシウムも、大事なんだあ。」そう言うと手のひらでコンクリートを食べ始めた。
「あんまり堅いのはあ、好きじゃ無いんだよねえ。だから、ちょうど良かった。そこの男に巻き込まれて、マヌケな親子が鳥かごに迷い込んだようだからねえ。安心しなよ。キミタチは口直しだ。最後に喰ってやるよお。」
そこに、ちょうど和人が駆けつけた。
「おい、怪物。なんなんだお前?」
「怪物なんて、ひどいなあ。僕は、おにぃ。伸びる鬼と書いて、「伸鬼」だよお?」
「そうか。」やはり、人間では無いか。当たり前か。
「お前は、名乗らないノお?」ああ、そうだったな。
「僕は人間。人の子だ。そして、天才数学者、今日からは仮面ライダーマスだ。」伸鬼が、ゆらりとゆれた。どうやら笑っているらしかった。
「自分で言うかなあ、そう言うの。あのね、カズで攻撃は出来ないんだよ?」カズ、か。
「それが、出来ちまうんだよな。」
鈍く光るそれを、腰につける。すると自動的にベルトが伸びて、固定された。レバーを起こす。「クエスチョン!」あたりに声が響く。ベルトの声だ。「Y!X!」三つある四角の、両端が埋まる。レバーを上からたたく。真ん中の四角の中が回って、文字が出てくる。レバーの曲がった部分を引き上げてまっすぐにする。「イコォール!」音楽が流れてくる。「変身!」左手で横向きに殴って、レバーをもう一度倒す。「アンサード!」声が、耳の奥でワンワンとこだました。「マス!プロポーション!」見た目が、変化した。まるで、そう、パワードスーツでも着てるみたいだ。そう、それが、国からの依頼だった。国の物になるはずの発明品、パワードスーツ。それを、自分が今使っている。なんとも奇妙な感じがした。
「見た目と、強さは関係ないよねえ。」伸鬼の右中指が凶悪に伸びてきた。
「先手必勝ってえ、知ってる?」どうやらつかもうとしているようだ。捕まえたあとで、ボコボコにするつもりなのだろう。僕はそれをジャンプしてよけた。
「あらら、とぶねえ。見掛け倒しではなさそお。」そういうと、手のひらの口を大きく開けた。その中には、目玉のような物がついている。黒目は無く、金色の中に黒い線が一本入っているだけだ。猫みたいな目だ、と思った。そして、周りの白目。それが、充血して真っ赤になっていた。
「鬼砲ぉ」そう伸鬼はつぶやいた。
ドゴォ!巨大なビーム砲のようなモノが、手のひらから放たれた。ビルの残骸が、蒸発している。かろうじてよけた和人は、それを見て真っ青になった。
「マジかよ。何でもありか鬼ってのは。」
伸鬼の腕が、ウネウネと複雑に波打っていた。いくらでも好きな方向に曲げれるようだった。
「そうか、」和人は思わずつぶやいた。「関節が無いんだ。」それはもう、腕と言うより肩から突き出た鞭だった。いろいろ危険な特典付きの。
「冷静をぉよそおっていられるのもお、今のうちい。次は外さないよお?」右手の目も、左手の目も、真っ赤に充血していた。マズい!和人は、ベルトのボタンを押した。
「ウエポン!グラフ」体の周りを回るx軸とy軸が直角に交わったそれを、左手でとった。それの軸を引っ張る。中心の四角が回転する。「コアチェンジ」+が現れた。
「プラス!シールド!」グラフが変形した。
「死ねえ!」鬼砲が飛んできた。
「フフ。死ね、死ねえ、死んじゃええ!」巨大な爆発が起こる。その中から、和人が出てきた。
「その盾え、じゃまあ!」指が伸びて、盾を奪い去ろうと躍起になって踊っている。
「コアチェンジ」和人はつぶやくと、四角を二つ回した。今度は✖が現れる。
「マルティプリケーション!ダガー!」グラフが、卍の反対型になった。次々と、指を切り裂く。ぼとりぼとりと落ちては、黒い煙を上げながら、静かに消えていった。
「おのれえ!おのれおのれおのれえ!怖いのはあ、お前だけだあ!痛いのはあ、お前だけだあ!お前が邪魔をしなければ、餌にありつけたというのにい!」男と親子は、とっくに逃げ去っていた。
「オマエのせいだあ!肉を食わせろお!」本体の顔の口から、つばが飛んできた。それをよけると、モノにぶつかった瞬間爆発していた。(よけたら被害が広がる!)
「コアチェンジ」グラフの四角を、もう一つまわした。
「ディビジョン!ランチャー!」次は÷になった。グラフが変形する。「うるぅぁああ!!」ツバをミサイルが迎撃した。
「な、何だそれは!?」どうやら、すっかりこの武器におびえてしまったようだ。
「パトリオットミサイルって奴?」そう言いながら、今度は本体に向けてミサイルを飛ばした。
「そうはいくかあ!」長い腕がミサイルを横からつかんで投げ返してきた。それをよけると、その先に伸鬼の手のひらがあった。大きく裂け、赤々とした口が見える。目は、笑っていた。
「食らええ!」僕はその目に、グラフの先端を突き立てた。
「ぐあああ!」伸鬼が叫ぶ。そして、その状態からゼロ距離でミサイルを撃った。
その声は、声も叫びも通り越して、耳障りな咆哮となって消えた。
「これで、右手の鬼砲は使えんだろ。」
「くそう、くそう!」伸鬼が呼吸を荒くした。
「負けてたまるかあ、鬼があ。人間の数如きにい!」伸鬼が、体全体を膨張させた。ミサイルを、その腹に撃つ。すると腹が引っ込んで、代わりに背中がグイーンと伸びた。「効かないよう!」ミサイルを、トランポリンのようにはね返した。
伸びる体か。厄介だな。
「コアチェンジ」四角を2回まわす。
「プラス!シールド!」僕はその盾を体の前に掲げて、突進した。
「うおお!」グイーンと伸びる。
「ムダだよお?」上から伸鬼の声が聞こえた。どんどん伸びていく体に対して、少しづつだがカクジツに速度も落ちてきている。それでも。
「ムダなことはしない主義だ。」そのままどんどん伸びていく伸鬼。
「はは、は、ははは!気でも狂ったか!所詮天才も、人間だというわけかあ?」
「ウルセーよ。」そうして、伸鬼ののびが、やがて止まった。「っがはあ!」血を吐いた。鬼の血だ。鬼の血も、どうやら赤いようだ。バチンと体が縮まって、伸鬼が飛んできた。
「ど、どういう、事、だ?」伸鬼の後ろには、崩れた壁。
「後ろに遮るモノがあれば、伸びられないだろう?」
「・・・クソ、クソォオオォオォォオ!」腕を目一杯に伸ばした。それを体に巻き付けて、戻す勢いでぐるぐる回り始めた。
「全部、全部破壊してやるう!鬼の力をなめるなよお!」その言葉通り、鬼の力はすさまじかった。ビルを、家を、それ以外を、粉々に砕き始めた。
「さすがに、マズいな。怒りで我を忘れてしまっている。」ぐるぐると回る伸鬼は、もはや狂気にすら見えた。
「みんな、みーんな、壊れちまえ!僕を馬鹿にした奴も、僕を侮っていた奴も、僕を見なかった奴も、傷つけてきた奴も、みんな、みーんないなくなれ!」
「ハア。」グラフが、一つ回転した。
「コアチェンジ」
「マイナス!ソード!」グラフが変形する。日本に分かれて刀になる。
「はっ!」切り裂くようにして、大量に攻撃した。すると、反対側から斬擊が飛んできて、伸鬼は腹を突き出す格好になった。
和人は、ベルトのボタンを押した。
「ファイナルアンサー!」スコープみたいな十字が出てきて、伸鬼をロックオンした。さらに右上がりのY=Xの線が足され、そしてそれが伸鬼のど真ん中に原点が来るようにしながら横向きに回転移動した。
「ハアア」足に力をためる。
「コレクト!」飛び上がり、線の上に乗る。そして伸鬼めがけて蹴りを放った。「ぐあああ!」火花が散る。
「覚えとけ。数式で解けない解なんざねえんだよ。鬼だろーが何だろーが、まとめて解いてやる。」伸鬼が、爆発した。
「政府は、この怪物が自分のことを{鬼}と称していたことを発表しました。学者達は・・・」
「それ、何のニュース?」和人はナナに話しかけた。
「昨日の怪物について。仮面ライダーマスだってさ、カッコイー。数学だよ数学、ねえ、カズ君とどっちが上?」ナナは、どうやら何も知らないようだ。
「互角かな。」うっそー、とナナが言った。
「いっつもは自分の方が上って言うくせに。変なもんくった?」
「天才が?」
「じゃあ、毒にやられたんだ?」
「こんなとこにそうそう毒なんざネーよ。」
「じゃあ、熱があるとか?おでこくっつけたろか?」
「やめろ。頭がおかしくなった前提で話すな。」突然、ナナが笑い出した。つられて、僕も笑った。久しぶりに、盛大に笑った。
ごめんよ、ナナ。嘘をつくのはつらいけど、迷惑をかけるのはもっとつらいから。全部終わったらはなすから。きっと、きっと話すから。だから、それまで、待っていてくれ。
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(X)を食す鬼
「まあ、君も私たちも超能力者では無いからね。被害ゼロとは、さすがにいかなかった。」
ここは、防衛省の本部。そう、あの時、変身ドライバーを持ってきたところだ。
「確かに、その通りです。事前予知なんて出来なかった。」
たまたま、今回は僕が道具を持っていたから良かったが、使い方を分かっていない人がもっていたら、もっと大変なことになっただろう。
「我々が怪物の存在を察知したのは、被害が出てからだ。おそらく、君が怪物の元に駆けつけるまでにも、被害者が出ただろう。そこで、だ。」
マズい。この話し方をするときは、大抵面倒なことを押しつけてくる。
「君に、鬼の出現予測装置の開発及びそのパワードスーツの正式な使用人になってもらいたい。」
やっぱり。本音を言えば、かなり面倒だ。
「僕よりも屈強な人がいるでしょう?」自分で作ったモノにもかかわらず、僕はこれが怖いらしかった。
「君以上に数学も正義感も併せ持っているならそうするがね。それに、君には実績がある。」
確かにそうだが。
「正義感ってどういうことですか?」そんなモノ、全くといって良いほど覚えが無い。
「君は、三人もの命を救っているではないか。」
僕は、それ以上は反論しなかった。
「ニュース7の時間です。連続的に農家が襲われる事件について、今日で四件目となりました。警察は、同一犯の犯行とみて、操作を続けています。」
カランカランとドアが鳴った。「ただいま。」
「あ、お帰り。ねえねえ、カズ君知ってる?駅前に新しいお店がオープンしたんだってさ。」
そんなの、聞いたことが無い。「どんな店?」ライバル店になりかねんモノはぶっ潰す。
「なんかさー、それがすごいらしいよ。確か、「励まし屋」ジョーキみたいな名前だったと思う。」
励まし屋?何だそれ?マッサージ店か何かか?とにかく怪しすぎるだろ。その上、なんか店って言うよりあだ名みたいだし。余計怪しいんだけど。
「それ、何円かかるの?」店のことも、仮面ライダーのこともあるから、あんまり費用を割きたくない。まあ、単に僕が生来のドケチだって事もあるけど。
「カズ君ってさあ、ドケチだよね。」ほら言われた。
「よく言われるよ。」本当によく言われる。特にナナに。
「消費税が25%になってから、お菓子は全部駄菓子屋で買ってるし。何でなの、計算しすぎとるんじゃない?」
計算しすぎたらドケチになるとは、新しい斬新な仮説だ。今度防衛省の人に言ってみよう。
冗談はさておき。「で、何円かかんの?」
「えーっと、ちょっと待ってよ。」ナナはそういうとどこからかチラシを引っ張り出してきた。
「初回の方に限り、無料キャンペーン実施中だって。良いじゃん、いこうよ。」
初回限定とは言え、無料なのか。まあ、損しないだけ良いか。「分かった。今度の日曜は開けておく。」
ナナは笑顔になった。「さっすが、ドケチ。」
「ウルセーよ。」
ナナは、そう返す和人に悟られないよう、心の中で願った。
(どうか、これでカズ君がいつも通りに戻りますように。)
彼女もバカでは無い。何年も一緒にいる幼なじみの様子がおかしいことくらい、分かっていた。
(それと、まだ変わんないんだね、その癖。嘘をつくとき声が三分の一くらいになってるよ。だから、昔から嘘が下手なんだ。)
「有り難うございました。次の方どうぞ。」その声で、僕たちは励まし屋なるものにはいった。
「二人とも初めての方ですね。さあ、お座り下さい。」お兄さんが、そう言って椅子をすすめた。
店内は、予想とは大分違った。いかにも怪しい「ザ・魔女」みたいな感じではなく、市役所の会議室をそのまんま小さくしたみたいな、清潔な見た目だった。
「さあ、お悩みごとを言って下さい。」お兄さんが顔面に営業スマイルを貼り付けながら言った。
「あの、ここはどんなお店なんですか?何をしているんですか?」部屋の見た目如きには、惑わされなかった。
「ああ、ここは皆さんの負の感情を取り除いてやってるんです。だって、恥ずかしい、悲しい、苦しい、そういうモノがすべてきれいさっぱり無くなったら、そのあと引きずらないですむでしょう?」
確かにその通りだが、果たしてどうやるつもりなのか。
「お兄ちゃん、疑ってるね。まあ、無理も無いけどね。」
そう言うと、お兄さんは僕の手のひらに軽くとんと触れた。とたんに、疑いの心がすうっと音が聞こえそうなくらいきれいに消えた。
「あ・・・」
「どうだい、すごいだろう?さあ、悩みを言ってごらん。」
ナナは、何が起きたか分からないと言った様子だった。
「実は、最近の事なんですけど。人のために動いた結果、何だか後ろめたい気持ちが残って。」
お兄さんはにやりとした。「そうかい。それじゃあ、手を出して。」
また、すうっと消えた。どうなっているんだと考えそうな所だが、どうしても疑うことが出来ないので、反射的に「すごい」と言ってしまった。
「お褒めにあずかり光栄だよ。」
「ね、ね、和人。」ナナが横から突っついてくる。「ホントに効果あるの?」
「ああ、あるよ。」事実、胸の中で出来ていた黒いダマが無くなっていた。
「じ、じゃあ、私もお願いします!」ナナは立ち上がりそうな勢いでそう言った。
「私、仲の良い友達が急にいなくなって、心配なんです。でも、もう8年も前のことだし。」
8年前。
「運命の日のことか?」
「うん、そう。覚えてたんだ、あのこと。」
激動の日。別名運命の日。一日にして日本人口の約半数がいなくなった6月2日のこと。また、その事件そのもの。8年前にそれを誰かが病原菌だと言って、その家族は全員強制的に収容された。そこで、僕とナナは出会った。結局違うことが分かっても、謝罪だけしかしなかった。病気は体の弱い人に好んで移るけど、噂や差別は心の弱い者を好む。政府は、意気地無しなんだ。
お兄さんは「わかった。」と短く答えると、やはりとんと軽く手に触れた。
「あ。本物なんですね、お兄さん。」
「ああ、本物だよ。だから、また悩みが出来たらここにおいで。次は有料だけどね。」
どこか含んでるように聞こえたのは、気のせいだろうか?
「続いてのニュースです。今朝8時、農場が巨大な鶏に襲われたとの通報がありました。」
「まただよ。野菜高くなるから、やめてほしいんだけどな。食べ過ぎなんじゃ無いの?」
「それなら良いけどな。もっと悪い者とかだとしたら少しマズいもんな。」
この事件は、もう五件目になるそうだ。そこへ、電話がかかってきた。
「はいはい、カシムラコーヒーです。え?カズ君ですか?いますけど。」
そう言ってわたされた電話から、聞き覚えのある声がしてきた。
「防衛省の杉山だ。至急来るように。」それだけ言うと、電話が切れた。
「悪いけど、ちょっと行ってくる。」
「え?どこに?」ナナが振り向いて聞いてきた。
「忘れ物したの。じゃ!」
「あ、ちょっと!」バタンとドアが閉まる。「本当、嘘が下手なんだから。」
「例の鶏に、角が生えているとの情報が手に入った。襲われているのは、東京都内で売り上げが高いところから順番に襲われている。次は銀座の高田家の農場と思われる。夜にしか現れないので、張り込みをしてくれ。」
それが杉山の言ったことだ。「全く、良いようにこき使って。」
すると、温室のガラスが割れる音がした。「ケェ~!!」という鳴き声。そして角。
「おい、お前ら!こんな所を何で襲うんだ?」そう言うと鶏の群れの後ろから人が歩いてきた。
「負の念を集めるためさ。」そう答えた人の顔を見て、一瞬固まってしまった。
「あれ、昼に来てたお客じゃん。フーン、君がマスか。」
励まし屋のお兄さんだったのだ。ただし、角が突き出ている。
「お前、何であんな店をしてた?まさか慈善活動では無いだろう?」
は、まさか、面白いジョークだねとお兄さんは返してきた。
「鬼が何から出来ているのか知っているかい?君たち人間の、心の闇から出来ているそうだよ。」
お兄さんはそう言うと、片手をさっとあげた。鶏の鬼が生まれる。
「心の闇を集めてたのさ。金にも、たっぷりと染みついていたよ。」
それで、金を持っているところを襲っているのか。
「何で農家なんだ?」
「鶏の仕業だと、ごまかせるだろう?」
かなり、頭が良い。だが、僕ほどじゃない。
「おいおい、ずいぶん豪語するねえ。」
え?声に出していないのに。
「私は{高鬼}情鬼。感情の鬼さ。高鬼ってのは、まあ鬼にも社会はあるんだよ。部長みたいなものだ。」
「それで、感情を読み取った。そういうことだな?」
「ご名答。だから私は君の弱点を知っている。」
弱点?何のことだ?
「伸鬼はね、人間の形をしていたろう?」
え?まさか、あのときー
「そう、その予想であってるよ。善良な人間は人間を殺せない。人型もね。」
心臓が、ものすごい音を立てる。肺を鷹に握られているみたいで、息が詰まりそうだ。
「それでも・・・助けると決めたんだ。」僕はベルトを着けた。
「クエスチョン!Y!X!イコォール!」
静かな夜を、切り裂くように音が響く。
「マス!プロポーション!」
「行け」情鬼が言うと、鶏が襲いかかってきた。なんなんだこいつらは。
「低鬼。底辺の鬼さ。高鬼になると、部下を与えられるんだ。だけど、自分で作れるからいらないと言ったのさ。」
それで、今までためていた闇を鬼に変えているのか。
「伸鬼は中鬼だったから部下がいなかったけど、私は数の暴力なら、負けないよ?」
鶏が突進してくる。
「ディビジョン!ランチャー!」
僕は次々と鶏を撃ち抜いた。
「マルティプリケーション!ダガー!」
「くらえ!」僕は全力で投げつけた。
「フン」情鬼は鬼を出して攻撃を防いだ。仲間を盾に、という奴だ。
「今度はこっちから仕掛けさせてもらう!」情鬼の足下から出てきた黒いうねる物が、こちらに伸びてきた。
「プラス!シールド!」
僕はその刺そうとしてくる何かをそらした。
「闇だよ。」そういうと、人差し指をくいっと曲げた。
後ろから、闇の爪が飛んできて、肩をかすめる。
「ぐあっ!」あまりの痛みにゴロゴロと転がって、やがて止まった。
「惜しい、もう少し下か。」情鬼は黒い爪の軍団をこちらに飛ばしてきた。
ああ、視界がぼやける。かすっただけでこれだ。肉体的なダメージより、当たった瞬間いろんな人の「闇」が僕の中に入り込んできた。その闇は、呼吸を止めようとするかのように、肺の中に満ちていった。
「次は、心臓だ。」情鬼は、楽しんでいた。
これはあくまで遊びなんだ。間違っても戦いじゃあ無い。なら、そこの隙を突けばー
「ムダだよ、全部聞こえてるよ?鬼をなめないことだね。」
畜生、どうやったら勝てるんだよこんな怪物に。
「羊鬼!」ミサイルの弾を、羊の鬼で防いだ。
「安心しなよ、ただ殺すなんて芸の無いことはしないよ?もしかしたら、死ぬより苦しいかもね。」
闇の玉が浮き上がる。
「今まで吸い取ってきた中でも、上質な闇だ。」
そういうと、情鬼は投げる構えをした。
「空っぽの器に、闇をいれれば、何になるのか?」
情鬼はそれを投げつけてきた。
「答えは、鬼。」
闇が、心臓を通る。あらゆる感情が、記憶が、入ってくる。
「鬼の仮面ライダー。良いねえ。」
この闇を追い払えば、鬼にならずにすむ。でも、到底無理だ、そんなこと。苦しくて、出来やしない。
「今までで最高の鬼になりそうだよ。さあ、誕生の時だ!」
闇が、つきまとう。僕を、飲み込もうとする。見えない怪物は、まるで世界のすべてをなめてしまおうとしているようだった。
(合理的に考えろ!こんな物打ち払えるわけが無い。なら、どうしたら良い?)
答えは、決まっている。
「うああ~!!」
僕は、逆に闇を飲み込んだ。
「な、何だと!?正気かお前は?」
呼吸が、苦しい。でも、人間のままだ。
「正気だから、お前をぶっ飛ばす。」
情鬼は、たじろいだ。
(何だと?この私が、おびえているだと?)
情鬼は、自分に驚いた。
(こいつの気迫・・・それに狂気。常人の域を飛び出している。)
「私は、それでも私は。」情鬼が、手を握りしめた。
「お前を殺す!」
両手から、闇の爪がはえる。和人に飛びかかる情鬼。
(ああ、憎い。憎くてたまらない。)
和人の影が、揺れた。そして、いつの間にか背後に回り、情鬼を蹴っ飛ばした。
「お前の闇は、そんな物か?」
情鬼は、歯を食いしばった。
「私は、お前なんかの付け焼き刃の闇とは違う!私の闇に、かなうはずが無い!」
「それを、やられ台詞って言うんだよ!」
僕は思いっきり殴りに言った。情鬼が、その拳をいなす。
「触れたぞ」
そう言って、情鬼は闇を僕から吸い取った。
「これで、お前の思考が分かる。」
「でも、何を考えているか分からないだろう?」
情鬼は、目を見張った。
「言葉が・・・すべて、数式に・・・」
ハア、と息を吐いた。
「お前と戦っていると気分が悪い。終わりにしてやる。」
僕はそう言って、ボタンに手を伸ばした。
「ファイナルアンサー!」
僕はダガーを構えた。
十字の中心に、狙いをすます。
「コレクト!」
右足を踏んで地面深くに埋めて、思いっきり投げた。赤い竜巻を作りながら、情鬼めがけて飛んでいく。
「鶏鬼!」
情鬼が低鬼を呼び出したが、吸い込まれて消えた。
情鬼の悲鳴が、体が、風に吸い込まれて、遙か上空で爆発した。
人影が水晶を覗いている。
「ほう、あれを倒すか。なかなかやるな。なら、今度はアイツをぶつけてみるかな。おい、これをわたしておけ。」
そう言って、隣にいた執事風の男に指示を出した。ただし、角が生えている。
男は黙ってうなずくと、その古めかしい箱を運んでいった。
「さぁて、かまっていこうじゃないか。」
人影がにたりと笑う。
「あのクソガキに。」
水晶には、和人が映っていた。
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「そうか。感情を喰う鬼か。」
「はい。そして、集めた感情を操っていた。」
いつも通りに防衛省に報告に来ていた。
「ということは、物理だけでは対応しきれないな。」
確かにその通りだ。
「それでは、研究してくれるね?」
「一つ、きいても良いですか?」
僕は彼を呼び止めた。
「なんなんだい?」
「前から思ってたことなんですけど。研究者でチームを組んだらダメなんですか?ほら、僕一人のみには重すぎて。」
僕は眉毛が一瞬引きつったのを見逃さなかった。
「そうか。考慮しておこう。」
その曖昧な言葉には、これ以上きくなという暗黙の威圧が潜んでいた。
{同施設、地下にて}
「行ったか?」
「はい、帰りましたよ。全く、鋭すぎて困りものですよ。あいつは気づいているかも知れません。」
和人と同い年ぐらいの少女が、笑いもせずに答えた。
「いいわ。どうせもうすぐ終わるんでしょう?そしたらご対面するじゃ無いの。」
「それでも、体裁は守っていただきます。あなたは、人間でありながら人間では無い、「強化人間」なのですから。」
少女は、モニターを見上げながらいった。「ええ、分かってるわ。」
そのモニターには、おかしなボトルと、そしてドライバー。
「皮肉なものね。「GOD」だなんて。」
{同時刻、喫茶&レストラン カシムラコーヒーにて}
「和人ってさあ、変な人だよね。」
唐突に、ナナがそう言った。
「ナナには言われたくは無い。」
心を込めて、僕はそう返した。
「え~、だってさあ、政府が嫌いなくせに頻繁に出入りするじゃん?」
「しなくちゃならないんだよ。誰かさんのせいでな。」
「擁護法がいやだー、て言うけど、守られてるのも事実だし。」
「ああ、そうだ。確かに守られている。それでも、縛りの方が大きいッつってんだよ。」
僕は振り向きもせずに返した。料理が追いつかなくてそれどころでは無い。
「{あ~あ、擁護法も政府も鬼みたいにドッカーンと爆発すれば良いのに}とか思ってるでしょ。」
え?
「何で、鬼が爆発するって分かるんだ?」
「あー、カズ君動画とか見なさそうだもんね。ほら、これ。」
そう言って二人の間にスマホを置く。十秒足らずの、短い動画だった。
情鬼が、爆発する。監視カメラに写っていたそうだ。
「この人の温室、野菜も果物も飛んで行っちゃったって。どうして竜巻なんか起こしたんだろ?」
「・・・。」
僕は、黙っていた。
(大人なんか、消えれば良い。金持ちなんか、いなくなれば良い。一度甘い汁を吸った人間は、その幹から離れようとしない。太った{既得権益者}どもには、苦痛にゆがむ顔がお似合いさ。)
僕は、ふと考えた。
(こんなにこの世が嫌いでも、何で人を助けるのか?それとも、僕は鬼を殺したいだけなんだろうか?)
いくら考えても答えは出なさそうだったので、その問いをやめた。
「爆発する。外傷によって爆発、空気。多分メタン。」
パソコンとにらみ合っていると、後ろから背中をどつかれた。
「なーに、それ。呪文?」
当然というか、地下室に来たのはナナだった。
「ノックくらいしろよ。」
本当に、こいつは礼儀がなっていない。
「何、千本ノック!?やったろか?」
「そのノックじゃねえし。やめろよなお前。こっちは忙しいんだから。」
「まーた、政府のことでしょ。」
その通りなのだが、何故か認めることが癪に障ったので、代わりに「ナナはのんきで良いね」と返した。
「もっちろん!店も終わったし、やることナシ!どこかのお兄さんとは違うのですよ。」
そう言ってケラケラと笑うナナ。
「今検証中だからちょっと待て。」
鬼の爆発は、おそらくメタンによるものだ。そうすれば、爆発も桁外れのエネルギーも説明がつく。ただ、メタンだけじゃ無い可能性もあるが、普通の生き物よりは多いはずだ。それを元にすれば、きっと探知機が作れる。効果は使ってみるまで分からないが。
ピピーン、ピピーンといかにもレーダーという音が鳴る。その中に、赤い点が映る。
ビィー、ビィーと音が急に激しくなった。
「しゃあ、実験成功!」
僕は疲れたからだと頭を休めようとした。しかし。
「これって、鬼がいるっていうこと?」
仮眠はもうしばらくあとになりそうだ。
「串刺しにしてしまえ~!」
そう言いながら、あちこちに針を飛ばす鬼。ハリネズミみたいな見た目だ。
「何やってんだよ鬼さん。」
僕は変身しながら話しかけた。
「来たな。お前が噂の男か。」
こちらに向けて、針を飛ばす準備をしている。
「そうだよ。仮面ライダーマス。あんたは?」
とげを飛ばしながらしゃべる。「我は棘鬼!針の鬼なり!」
飛んでくる棘をかわしながら、腹に蹴りを入れる。
「ガードがあまいぞ。。もう一発いれてやる。」
僕はそう言ってかけだした。腹に、みぞおちに、パンチが数発飛んでいく。
「おごお!」と棘鬼が声を上げる。そこで、僕は思いっきり蹴っ飛ばした。
「楽勝楽勝」僕は言いながら飛びかかろうとした。
すると棘鬼は、背中をこちらに向けて丸まった。防御なのだろう、確かに触ったらいたそうだ。
「ウエポン!グラフ!」
それを左手でとる。
「ディビジョン!ランチャー!」
僕はミサイルを飛ばした。それを針が迎撃する。
どうやら銃口を狙っているようだ。自爆させて楽に勝とう、ということなのだろう。鬼のくせにせこいことだ。
「マルティプリケーション!ダガー!」
「は!」僕は針を打ち落としながら、棘鬼めがけて走って行った。
「そうはさせん!」針が一段と大きくなる。
「ぬおりゃあ!」棘鬼が回り出す。あちこちに針を飛ばし始めた。
「ぐ・・・」なんとかかわすので手一杯だ。針は抜けても抜けても、すぐにまた新しい針が生えてくる。
「プラス!シールド!」
僕はダメージ覚悟の突進をした。
「おらあ!」棘鬼が転んで、動きが止まる。
「食らえ!」盾を下にして、ジャンピングプレスをした。針が数本折れるが、すぐに戻る。
「ぬあああなめるなぁ!」棘鬼が腕を針でぐるぐる巻きにして殴りに来る。
「おっと」盾ではじいて、カウンターのパンチを入れる。
「くうう」威嚇する猫のように、背中を丸めて突き上げる。
「おらあ!」は利がそこら中を飛び交う。面制圧しようとしているようだ。
「効かねえよ」盾で身を守りながら言った。
「だろうな」棘鬼はそう言うと地面を殴った。下のコンクリートが巨大な針になって盛り上がる。
「ぐあっ!」なんとかよけはしたものの、こすれた部分が熱い。
「なかなかすげー能力を持ってるじゃんか。」なんとか対策しなければならないだろう。
その時、棘鬼が急いで何かを古めかしい箱から取り出し、口に入れた。
そして、「ぬん!」と棘鬼が一言発した。一瞬、背中が緑色に光る。
すると針が鞭のように伸びて、こちらを刺そうと次々襲ってくる。
前にもこんなことがあったような。まさか!
「伸鬼の能力か。誰からもらった?」
棘鬼は愉快そうに笑っている。
「教えても良いが、奴にそんな力は無い。借り物の力に過ぎんよ。」
針が、足下に刺さる。飛び退いてよける。
「ああそうかい。」
何度か蹴りを食らわそうとしたが、そのたびに針がこちらを止める。近づこうにも近づけない。しっかり守られているので、攻撃するとこちらもダメージを負う。
単の棘鬼なら楽勝だった。しかし、針が伸びるとなると厄介だ。さて、どうしたものか。
「ベリエヴォル」
僕はレバーを起こしてyの四角を外した。ベルトが「インコレクト!」と叫ぶ。
そして、そこに代わりに「a」の四角をいれる。
レバーをたたいて、真ん中をまわす。スラッシュが出てくる。
「アンサード!」ベルトが叫ぶ。僕はレバーを再び倒した。
「マス!レイシャー!」
僕は確かめるように右手を数回ほど開閉した。
「さーて、テストの時間だ。」
僕は、殴りに行った。そのたびに、棘がそれを防ぐ。
「どうだ、頑丈だろう?」自慢げに棘鬼が言った。
「そうだな。」僕は武器を取り出した。
「マイナス!ソード!」
「よけれるか?」
僕は斬擊を飛ばした。針を地面に刺して伸ばすことで、棘鬼が浮いた。
「何だって?」
棘鬼がそういったときだった。斬擊が当たったかのように、吹っ飛んだ。
「どういうことだ?」棘鬼はこちらを見ながら行った。
「1度に2回切れるんだよ。曲線が二つだからな。タネが分かれば、どうと言うこと無いだろ?」
傷口が、みるみる治っていく。
「消えてしまえ。」針が複雑に絡み合って、こちらに向かってくる。
「プラス!シールド!」僕はそれをいなす。
「お返しするぞ」僕は、棘鬼に向かっていった。
後ろから、針が戻ってきて、体を縛られる。
「よけるなよ」そう言うと棘鬼は拳をかまえた。
「鬼砲!」叫びながら、腕を前に突き出す。光線が飛び出す。
「惜しかったな。お前如き、一撃あれば十分なんだよ。」
「ああ、本当に惜しかったな。」煙の中から現れた僕を見て、驚いている。
「僕は、光線をこのシールドで取り込んだのさ。」
右手に力を込める。すると、薄く発光を始める。
「この形態は、ダメージを受ければ受けるほど攻撃力が上がるのさ。」
「まさか、それでわざと受けてー」
「当たり前だろ。お前如き、一撃あれば十分なんだよ。」
僕は、思いっきり腕を前に突き出した。光線が飛び出して棘鬼を襲う。
「ぬうう!」棘鬼が、鬼砲を撃ってこちらの攻撃をそらした。
「当たれば、の話だろう?」
「ああ。」僕はボタンを押した。「そうだな。」
「ファイナルアンサー!」
十字が現れて、その近くにブーメランのような二本の曲線が現れる。
「今からお前をブッタ切る。」
十字の中心に狙いをすます。
「コレクト!」
僕は右手の曲線を投げた。斜めの風穴が出来る。続いて左手の曲線を投げる。曲線は交差して、「X」のあとがつく。
「ぐ、うう。うああ~!」
水晶を覗いている人影が、怪しく笑う。
「うん。やはり棘鬼をあてた甲斐はあったね。まだ形態を隠し持っていた。」
人影が水晶をなでる。
「さあて、次はどう出ようか。それとも、{どう出るか}、かな?」
フフッと笑い声が漏れる。
「それにしても、」
人影は続けた。
「我ながら、私は性格が悪いなあ。なあ、「和人」。フフッ。」
人影はそばの写真の表面をなでた。そこには、小さな和人と、ある男が映り込んでいた。
「・・・全くだ。」もう一つの人影は、その場を離れ、召喚陣のような物があるところに行った。
「どこへ行く気だ?」
「少し、憂さ晴らしをしてくるだけですよ。」人影の姿が、一瞬にして消えた。
いかがでした?感想・アドバイス、お待ちしております。(出来れば推薦)
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鬼と人間と(X)と
「クッソ、また遅れちまう!急がねーと!」
急ハンドルを切り、車が曲がる。その先に、人影が立っていた。
「うわあ!」叫び声を上げて、前転しそうな勢いで車が止まる。
「危ないだろ!自殺なんて考えるなよ!」
「自殺?ほう、自殺に見えるか。なかなか面白いことを言う。こんな生き生きとした自殺願望者を、知っているのか?ただ人間一人の処理に、動くエネルギーがもったいないというだけだ。。全くあいつらときたら馬鹿馬鹿しい、先に待ち伏せれば良いのだよ。そうしないから、肝心なところで負けるんだ。」
人影が、街灯に照らされて形を表す。
「お前は素晴らしい。素晴らしい人間だ。そして苦労を重ねてきた。今、楽にしてやるぞ。」
人影が手を伸ばす。
「どういう意味だ?」
「まんまじゃないか。お前を今から殺すんだよ。」
男はびっくりして後ずさりした。
「いや、いやだあ。これから、大事な商談がー」
そこまでで言葉は切れた。恐怖のあまり、あえいで何も言えなかったのだ。
「苦しいだろう?悔しいだろう?善人であり続けた結果が、人外に殺されるなどとあっては。さあ、たっぷり闇をだせ。」
あとには、無残な人の姿と車の影のみが残った。本来頭があるはずの所に、人影はサイコロをおいた。
「6。これの意味が分かったときには、すべて手遅れだろう。そうさ、闇は消えない。人間がいる限り、鬼も消えないんだよ。」
「全く回りくどい、もう少しシンプルにしたらどうです?」
もう一つの人影が言った。
「なあに、単なるゲームだよ。」
チラリと死体に目をやった。
「等しく死にゆく者達よ、呪いを恐れよ。死を恐れよ。」
「本当に、あなたほど手の込んだ作戦を考える者は、少なくとも鬼の中にはいないでしょう。」
「ボスを除けば、な。」
二人の男女の足音は、静かな夜の町にこれでもかと言うほど響いた。
「最近さあ、殺人事件が起きたんだって。」
ナナはビスケットをポリポリとかじりながら話しかけてきたので、粉が落ちるのが見えた。なんか、小動物みたいだ。
「それがどうした?」
「いやあ、計算でパパッと割り出せないかなあ、なんて。」
「情報がなさ過ぎる。殺人事件かどうかも分かりゃしないじゃないか。そう裏付ける確かな証拠はあるのかよ?」
「ホント、和人って堅物だよねえ。全く、そんなんだから顔面カチカチ山って言われるんだよ。」
「言われたことねえんだけど。何だそれ?」
「ああそうか、引きこもり予備軍だもんね。」
いや、ていうかまずカチカチ山はそのカチカチじゃないと思うんだが。
「ともかく、証拠はないんだろう?」
「あ、そう思う?そう思っちゃう~?」
いいからはよ教えろよ。
「んとね、顔のところがなくなってる代わりに、サイコロが落ちてたんだって。六の目が上にしてあったってかいてある。」
「それだけ?一件だろ?」
「んーにゃ、おんなじようなんが起きてんのよ、四件目なんだってさ。」
四件目・・・四件目か。それだけとなると鬼の可能性も高そうだが、しかしレーダーには反応がなかった。もちろん履歴にも、鬼が出たことを感知したことはかいてなかった。
「ま、そう思うならそれでいいと思うけどね。」
僕は、どうしても確かめたいことが一つあった。
「それ、どこのサイトで見れるんだ?」
僕は地下室に引きこもっていた。ああ、これじゃあまた笑われるな。四件目。サイコロがすべて違う面を上にしており、一般的な六面性であることから推測すると、被害者は六人までだろう。そうなると、あと二人。置かれた順番は、2-5-4-6-ダメだ。統一性がない。
罰印のついた紙をもう一度見る。あれ、これってもしかして?
番号をつなげると、できかけの中途半端な図形が現れる。
「星・・・」
思わず、絶句した。こんな幼稚な仕掛けだったとは。
コツン、コツン。張り込みをする僕の耳に、足音が響く。
「やあ。」僕は曲がり角から急に姿を現した。
「誰です、あなた。妙になれなれしいようですけれど。」
「そう堅いこと言うなよ、鬼さんよお。」
相手が一瞬、ピクリと眉を動かした。どうやら、カマカケは大成功のようだ。
「どうして、それを?私は呪いによって鬼と認識されないはず。ここに現れることもどうして分かったんです?」
「簡単だよ、図形に気づいたのさ。あとはどちらに行くにも通らないといけない分かれ道で待機すれば良いだけだ。」
本当に、簡単なことだ。
「やはり、賢いですね。ですが、そんな賢いあなたも、この方までは殺せないでしょう?」
鬼は、もやをまとって、その中からナナの姿で出てきた。
「変鬼。変身の鬼です。」
「少々、厄介だね。」
「マス!プロポーション!」
僕はいきなり飛びかかった。
「フン!」
何度も拳を浴びせる。
さあ、とどめだ。
「カズ、お願いやめて!」
ピタッと一瞬手が止まった。
「ハッ!」僕は蹴っ飛ばされた。
「ずいぶん甘いな。さすがに血液までは数式で出来ていなかったらしいな。」
くそったれが、もう一回だ!
「きゃあ!」
ぐ、う・・・
「チョロい!」また、吹っ飛ばされる。この野郎、調子に乗りやがって。
「でりゃあ!」
「ひっ!」
ぐ・・・いや、殴る!
「遅い!」
「うあああ!」結局また蹴っ飛ばされた。
「ずいぶん思い入れているじゃないか、初恋か?」
「そんな良い関係じゃないさ。現実ってのは、ロマンチックにはいかない物なんだってじいちゃんに教わらなかったか?」
「私に祖父はいない!」
「そりゃ失礼!」
僕は殴りにかかった。
「きゃあ!」
「あいにくと同じネタは2度と通用しない!」
今度こそ、本当の悲鳴を上げた。
「もう一発いれてやる。」僕自身がされたように、僕は変鬼を蹴っ飛ばした。
「さあ、その腹にしこたまぶち込んでやる。」
僕はひたすら殴った。殴り続けた。そうしないと理性が持たなかったのだ。
「ぐ」とか「う」とか時々うめいては、反撃しようとしてきたが、すべてむなしく終わった。
これでとどめ。そう思ったときだ。拳が止まった。殴れなかった。
蹴っ飛ばされて、仰向けに転がる。「最後の最後まで、甘い奴だ!」
そういう変鬼の拳も、なかなか降りなかった。
「どうした?」
突然変鬼は泣き出した。
「無理だよ。こんなに悲しい思い出、苦しい思い出、楽しい思い出、見せつけられたら・・・カズ君。」
正直、驚いた。記憶までコピーしてしまったようだ。
「なら、和解できないか?共存は出来ないのか?」
僕も、ナナの姿をしたモノを殺したくはない。
「そうですね。そうすれば、私もあなたも、平和に生きられますものね。」
ああ、良かった。これですべてが終わる。誰もしなないー最高じゃないか。
「とでも言うと思ったか?」
へ?
「私は鬼だ!兵器なんだ!たとえこの身が滅びても、一人でも多くの人間を殺す!それが使命で、生き様だ!」
「ーそうか。」
僕は、少しずつ歩み寄った。
「さあ、死ねっ!死んでしまえ!でなければ殺せ!」
「ファイナルアンサー!」
「これが僕の、「ファイナルアンサー」だ。」
「コレクト!」
一瞬、火花が散った。変身を解除する。
「はは、無様だな、我ながら。あなたは立ちはだかった敵を倒しただけ。なのに、何故、何故ー泣くのです?」
「いや・・・何でもない。」
「こんな自分に同情してくれるなんて。あなたみたいな人間が増えれば、もしかしたら、本当にー」
そこまで言って爆発した。歯が、ギリリと音を立てた。
「共存。」
「カズ、また殺人事件だって。」
「へ?」
どういうことだ?変鬼は倒したぞ?
「それとさー、面白そうなのがもう一件だけあるよ。」
そういてナナはスマホをこちらに差し出した。
画面には、若い少年が写っている。あれ、この顔はもしかしてー
「皆さん、こんにちは。これから新宿駅を爆破します。確かな物証は示せませんが、代わりに、今から僕の個人情報をお伝えします。久賀浩人、16歳。学校は町立高山高校、血液型はー」
画面の少年は、淡々と読み進めていく。語尾を少し強める癖、この顔、年齢、名前。間違いない、すべて一致している。そんな、でもどうして?
「見ていますか、日本の「善良」なる国民の皆さん。あなたたちは僕の味方だと思っていました。でも違った、結局政府の犬だったんですね。がっかりです。」
この台詞は聞き覚えがある。やはり、そうなのか。
「カズ覚えてる?」
「ああ、{運命の日}のあと、同じ牢に入れられた少年だ。」
動画は、驚いているこちら側を無視するように進んでいく。
「もう一度言います。これは、脅しではありません。冗談でもありません。三日後、新宿駅を爆破します。無理だというなら無視すれば良い。たいしたことないと思うなら罵れば良い。遊びだと思うのなら確かめれば良い。全て、出来なくなりますけどね。終わってから、後悔する。それでも知りませんよ?」
どういうことだ。あの優しくておとなしかった浩人が、爆破予告だと?いじめで強要でもされたのか?
「ー全部、吹き飛んでしまえ」
意味深な言葉を残して、動画が終わる。
「どう思う?」
「さすがに、ないな。」
僕は例によって、地下室に引きこもっていた。爆破予告、殺人事件(事故かも知れないけど)、考えないといけないことはかなりあったが、その二つによってきれいさっぱり、それこそ全部吹き飛んだ。たった二つが、重すぎたのだ。ものすごいエネルギーをもってみぞおちあたりを殴りに来る。
「ああ、これだからやっぱり、現代という奴は嫌いなんだ。」
独り言を吐くことで、感情をおさめようとした。
「気持ち悪くて、吐きそうだ。」
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。(出来れば推薦)また、僕がかいた「ちょっと魔王を倒してくるわ」(略して魔っちょ)も併せてお願いします。それと、今回から次回予告をいれていきたいと思います。
「突然の犯行声明、少年の過去には何があったのか。その謎に、少しずつ和人が迫る!次回、仮面ライダーmath、「爆破予告の(X)者」お楽しみに!
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爆破予告の(X)者
平日の朝で、普段なら通勤ラッシュで満員になるはずの列車には、僕たち以外に誰も乗っていない。やけに静かで、不気味にも思えるのだろうが、僕にとっては何故かかえって落ち着いた。
ナナは寝ていて話は一言もしていないため、動画の声がいやに澄んで響き渡る。
「新宿駅を爆破します。これは嘘ではありません。」
たんたんと少年は語る。
「すべて、吹き飛んでしまえ。」
それで動画は終わった。
「新宿駅」と一言にいっても、新宿と名前のつく駅はたくさんある。それらを経由する列車すべてがストップした。
そして、動いている列車にもほとんど乗客はいなかった。タクシーは儲かっているんだろうな。
列車にすら興味を持たれない小さな駅は、肩をかすめてあおり立てたあげく無視して走り去ろうとする車両にひどく怒りを覚え、カンカンと音が聞こえるほど真っ赤に怒った。
「小さな駅は、石のように黙殺された。」
「何、それ。」
いつの間にかナナが起きていて、こちらを見ていた。
「昔の小説の出だし。文系なのに知らないの?」
「おあいにく様、読むより書く方が好きなんだよ、まだ人に見せられるレベルではないけどね。」
僕たちは、都心に向かっている。例によって政府からお達しが来たのだ。探偵役は正直気が乗らなかったが、相棒役のナナはノリノリだった。
何が、あいつを変えたのか。
{三年前、牢屋にて}
「時計が進まないんですよ」
それが、第一声だった。久賀浩人という少年に、過去を聞いたときの返答だ。
彼は苦渋に満ちた顔でそう答えた。
「事件が起きた日から、全く進まないんです。カレンダーをめくっても、インフルエンザを引いても、こうして逮捕されていても、それこそ年が変わっても。ずっと、ずっと止まっているんです。まるで2,3分前起きたように感じられる。」
浩人は、ある少年犯罪の被害者だ。正確に言えば、被害者の遺族である。
時々、彼の言葉を思い出す。どれだけ時間がたとうとも、心の傷は癒えない。
古人いわく、「時間がすべての感情を風化させる」らしいが、そうではないことを一部の人間は身をもって知っている。
それどころか、苛立ちと虚しさだけが、日に日に募っていく。自分は、身をもって知っている。
「和人さんのおかげで、少しだけ時計が動きました。」
その言葉をようやく聞けたときには、すでに半年が経過していた。
「ようやく、納得がいったんですよ。誰も加害者のひどさを教えてくれなかったから。」
浩人は、泣きながら訴え、頭を下げた。
僕は頭を上げてほしいと伝えた。
「少年審判では、少年たちの単なるケンカ、という風に審理が進んだといってたね。」
彼はため息をついた。
「でも、和人さんの調査によれば、一方的な暴行だったんですね?現場には、祖父の他5人もの男子がいた。五対一の喧嘩などあり得ない。しかし祖父にも非があるようにかかれている。検察が全く調べなかったと言うことですよね?」
僕はうなずいた。当時加害者は13歳、刑事罰に問えなかったのだ。
その少年は少年院送致になった。年齢を鑑みれば、最も重い刑。しかし、決して納得は出来ないだろう。
「僕、民事裁判を起こします。少しでも、後悔させてやるんです。」
「そのときは、協力するよ。」
「忙しくないんですか?」
「まあ私情だ。」
彼は僕の手を握り、何度もうれしそうに笑った。
そして僕は「少年犯罪被害者の会」に行くようになった。少数というものは、自然と集まり形をなす。なんとも奇妙な理だ。
国会議員にも会った。会津輝彦という。
「先生、進行状況はどうですか?」
「そう呼ばれるのは好きではありません。順調とは言いがたいですね。」
会津は苦笑した。
彼は少年少女擁護法を強く批判し、一時期注目を集めた議員だ。
「18歳以下の極刑を使用できない非行少年をどう裁くか、国民の不満はここにあります。」
間違いないな、と思った。それを裏付けるように凶悪犯罪を起こした少年のフィクションも数多くある。
「今一度、国民が少年犯罪と向き合うときがやってきました。お互い同じ思想を持つ者同士、共に励みましょう」
噴き出しそうになってしまった。政治家らしい台詞だ。何でそう事を大きく表現したがるのやら。
僕は別れを告げた。そういえば、その頃「あいつ」はいなかった。
その日、深夜に自宅に帰った。安いアパートである。同居人は今はいない。かつてはいた。
部屋に飾られた写真を見上げる。「康夫」。僕の兄だ。
時計が進まなくなると言うのは間違いないな、と思った。あの事件からもう7年もたつ。しかし目を閉じれば昨日のように思い起こせる。
寒い雪の中、うつ伏せになり真っ白だったはずの、美しかったはずの雪を紅に染めた兄の背中。僕がよく口にしたグチや、よく焼いてくれたクッキーの匂いまで。
誰もが少年犯罪に興味を持つべきだ。しかしそれはいつでも凶悪犯罪が起きてからで、必ず被害者がいる。不条理で皮肉だなんて言えばかっこいいのだろうが、要するに僕個人としては全く納得できないと言う事だ。
ケータイがなったのはそのときだ。
「誰?」
「あ、カズ君?店作らない?」
深夜にかけてくる内容ではないと思いながら受け答えをした。
頭は別のことを考えていた。興味を持つような犯罪は起きないに越したことはない、と。まさか、会津の言葉が予言になるとは思わなかった。それも、二年越しに。
再びうつらうつらし始めたナナを、けたたましくなるケータイの着信音が起こした。いやな気分だ。
「もしもし?」
「和人さんですね。新宿駅にて、トランクケースが破裂しました。」
僕は列車から降りると、レンタル自転車で走り出した。
「少年犯罪はただでさえ面倒だ、気合い入れろよ」
「ホントにこれ、少年犯罪なの?」
「何が言いたい?」
「爆弾なんてどうやって作るの、あんなおとなしくて優しい人が。黒幕がいるんじゃないの?」
「過酸化アセトンの例がある。木や貝殻からでも作れる爆薬だ。ネットに作り方ぐらいかいてあるだろう。」
もちろん、運搬や起爆装置など、爆破するにはかなり他のスキルも求められる。
「それに、黒幕についてはなんとも言いがたいな。」
「どうして?」
「こいつが、おとなしく優しい、犯罪組織と縁遠い子供だからだよ。」
爆破があったのは、五月十二日朝八時二十四分。久賀浩人のテロは、日本中を震撼させることになる。
(過去にて)
僕は「声」を見つめる。お守りのような物だ。真っ暗な場所でスマホを起動させて、ある記事のコメントを開く。
キタナい罵詈雑言に温かい励ましの言葉。犯罪についての記事だ。
僕はもう片方の手で、さらに二つのお守りに触れた。
一つはラミネート加工した白くて小さいかわいらしい押し花のカード。
もう一つは、傷だらけで現代アートといっても通用しそうな、少しいびつな十徳ナイフ。
どちらも僕にとっては宝物だ。
スマホを切れば辺りは暗くなる。夜ではないかと思えるほどに。
耳に、目に、先ほどの声が響く。毎日これをやって、ようやく怒りが安らぐ。
僕は散歩に出かけた。今年は寒く、早めの雪がバカみたいに散らばっている。
寒い町だった。気温も、雰囲気も。そして、一人の少女を見かける。
コートも着ずに佇んでいた。見ているだけで凍死しそうな気分だ。
何をしているんだ?
指先は真っ赤で、頭や肩には雪が乗っている。季節外れのせっかち雪が降ったようだ。
向こうもこちらに気づいたらしく、目が合ってしまった。
僕は驚いた。見覚えのある顔だったからだ。
整った顔立ちで、ショートボブにカットした髪からは清潔さを感じる。その癖に目は大きく、印象づけるような人物だ。
どうしようが迷ったが、すぐに結論を出した。
前に進むこと。進み続けること。
「どうしたの?」精一杯優しい声で言った。「風邪引くよ?」
「あの・・・」少し当惑したようだ。さっと顔を伏せる。「捜し物をしていて。」
「捜し物?」
「財布を、見ませんでした?このくらいの、ピンクの奴。」
彼女は手で大きさを示した。普通の長財布くらいか。
「見てない。最後に使ったのは?」
「この先の自販機で、ジュースを買ったとき。」
目をこらす。かなり離れているが、確かに自販機があった。
「じゃあ、探そうか?」
「え、そんなの申し訳ないですよ。」
「誰かに盗まれたかもよ」
「ここから自販機の間には落ちてませんでしたから」
「そうか。」
話していてどうやら諦めがついたらしい。
「もう家に帰ります。ありがとうございました。」
彼女は去って行った。次にとるべき行動に移るか。
前に進むこと。進み続けること。
どれだけ時がたったか分からないが、背中に雪が積もって山をなした頃、財布は見つかった。
盗まれていたらしく、かなり離れた場所に落ちていた。
財布の中を確認すると、学生証が出てきた。
チカ、という名前が記されている。そして住所も。
駅からそう離れていないところに、家があった。庭にはプランターがたくさんあるのに、どれ一つ何も植えられていない。土すらいれられていなかった。
チャイムを鳴らすと、チカが出てきた。
「これであってる?」
彼女はこちらを凝視してきた。「ずっと探してたんですか?」
「暇だから。」
「この近くの人じゃないですよね。」
「そうだね、東京に住んでる。観光客だ。」
「観光は良いんですか?」
「観光客なんて、みんな大体暇なものさ。」
自分でも、雑だと思った。でも他に良い言葉も思いつかない。
「ごめんなさい。本当に、助かりました。」
その後、家に上がって暖まっていくよう勧めてくれた。
ずうずうしいかな、とも思ったが、寒さに負けた。
寒空の下、ずっと雪をいじってたせいで指ははち切れそうに冷たかった。
「もしかして、同年代ですか?」
チカは靴を脱いでいると質問してきた。
「僕は15歳。」
「あ、じゃあ同い年だ。敬語は外して良いかな?」
「いいよ、どうせ僕もチカに敬語使ってないし。」
「名前は?」
少し迷って正直に答えた。
「久賀浩人」
「じゃあ、浩人ね」
「下の名前?」と聞き返すと、「浩人も下の名前で呼んでたから。いやだった?」
そういやそうだ。うっかりしてた。
「気づいてなかったの?」チカは笑いかけてきた。
「全く。」僕も笑い返した。
これが、チカとの出会いだった。
チカの家族は花好きらしく、そこら中に花のポスターが貼ってある。
「誰?」「私の財布を拾ってくれたの。」そんな会話が聞こえる。ああ、こたつに入る許可を先にもらっとけばよかった。
「おなか減ってない?何かつくってあげるわ」
愛想よく優しそうだ。母親だろう。
ぬれた猫みたいに震えている僕を見て、チカは「こたつ、入ってるから。」と話しかけてきた。
「迷惑だった?母さん、張り切っちゃって。普段二人しかいないから。」
「一人っ子なの?」
「兄がいるんだけど、ずっと帰ってきてないの。」
あ、といってこたつの上のノートを素早く引き寄せた。全く意識していなかったが、今の動作でいやでも意識してしまう。
「何それ?」
「日記。あまり見ないで。」
「手書きなんだね。字の練習でもしてるの?」
「ううん、そんなんじゃないんだ。見せやすいように、手書きしてるの。」
まるで、誰かに見せようとしているような口調だ。気にはなったが、尋ねなかった。あまり聞かれたくなさそうだ。
向こうも話題を変えたかったらしい。「浩人は花に興味ない?」
「花?」押し花を握りしめる。
「近くに、おすすめの公園があるんだ。」
晩ご飯のあと、僕たちは外に出た。公園はすぐ近くにあり、色とりどりの花とイルミネーションが暗い夜を明るく切り抜いた。
雪が応援でもしているように後ろから照らしてはやし立てている。幻想的な光景だ。
公園内をふらりと歩いて、ある花壇の前で足が止まった。
「オオアマナ・・・・・」
この花はまだ咲いていないようだ。細長い葉を何重にも茂らせている。小さく、力強く。
「好きなの?」
僕はかぶりを振った。「好きってわけじゃない。」
「そっか。私もあんまり好きじゃないかな。毒もあるし、ある地方では、「鳩の糞」なんて呼ばれて、これを食べた人が鳩の糞を食べたと馬鹿にされたなんて伝承もあるしね。」
鳩の糞ーいやな響きだ。気が滅入ってくる。
「この花は、妹から誕生日にもらったんだ。」
あ、と目を見開いた。「それはごめん。気を悪くしたかな。」
「良いよ、別に。ただ、ちょっと見てたい。」
「咲いてないのに?」
「うん、苗はもう枯れたから。」
近くのベンチに腰を下ろし、看板の説明書きを読んでいく。
開花時期や原産地のあとに、長く細かい文章が続いている。
『日本には、明治時代に観賞用として輸入された』
「あれ?」思わず声を上げた。「日本には自生してないの?」
「らしいよ。原産地はヨーロッパ南部だって。」
少し、引っかかることがあった。が、今は後回しだ。「そっか、それは知らなかった。」
黙って鑑賞を続ける。彼女も何も言わなかった。
「寒くない?」
「平気。開花前の花ってのも案外ステキだね。」
「咲いてないのにって自分で言ってたじゃん。」
「良いでしょ、細かいことは。満開だけが花じゃない、満月だけが月じゃないって昔の人も認めてるんだから。」
学校で聞いたフレーズだ。「徒然草だっけ?」
「そう、それ!」
その後、古典の話で盛り上がった。まさか古典好きの同年代がいるとは思わなかった。
「もしかしたら、私たちって似てるのかもね。」チカはしみじみとつぶやいた。
「そうかもね。」と相づちを打っておく。ずいぶん長く咲いていない花を眺めていた。
終電の時間が迫っていた。駅まで歩く間も、僕たちは話した。
「よかったら、友達にならない?」口に出すのは子供っぽいと思ったが、それ以外の言葉が浮かばなかったのだ。
チカは一瞬目を丸くしたが、すぐに「なら、メアドを交換しようよ」と提案してきた。
彼女の指はたどたどしく、じれたくて貧乏揺すりをしていた。寒いせいだ。
「私、連絡先の交換なんて数年ぶりだから。」
「何それ?」と僕は笑う。彼女も笑う。照れくさそうに。
「実は、結構感動してるかも。連絡ちょうだいね、浩人。」
はにかむ笑顔を見せた。人なつっこい笑顔だ。
内心ではほっとしていた。どうやら疑われてはいない。
僕の演技力では、そろそろが限界だった。
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。(出来れば推薦)なお、ちょっと魔王を倒してくるわ(略して魔っちょ)も併せてお願いします。
次回予告
浩人の過去と、彼の嘘。現代のテロと、関係者達。それぞれの思惑は複雑に絡み合って、もつれ合う。次回仮面ライダーmath、「嘘と(X)の交差点」お楽しみに!
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嘘と(X)の交差点
別れてすぐに気が付いた。体がどっと疲れている。立てなくなって、座り込んだ。
嘘をつき続けると、心が削れるんだな。だからこそ、平気でそんなことが出来るあいつはおかしいんだ。
ギリギリだった。これ以上一緒にいたら、狂ってしまいそうだ。
自分の町に戻ってから、まっすぐにある場所に向かった。
売り地の看板と焦げた土だけが残っている。匂いはとっくの昔に流された。
ここに、一年前まで家があったなんて、想像がつくだろうか。釈放されてから、たった半年で消失したなんて。
その中に、一本の木がある。いつも寄り添って座り込んでいる。
周辺の光がうまい具合に遮られる。闇が、僕を包む。
「前に進むこと。進み続けること。」
何度でもつぶやく。狂ったように。憑かれたように。事実、僕は狂って、憑かれていた。
それに、誰もこの言葉を聞きはしない。妹の花はもういないのだ。
間違っていない。僕は正しい行動をしている。
やっと、だ。やっとあの家族と近づいた。
僕がすべてを失ったように、あいつらのすべてをぶっ壊してやる。
ポケットから、押し花のカードを取り出す。枯れたオオアマナがラミネートされていた。
僕らは、潔白だった。潔白で、純粋だった。きれいすぎて、汚い人間を知らなかったのだ。実際にいると思っていなかったのだ。
今にも壊れてしまいそうな心を、爪がめり込むくらい必死でつかむ。
僕は前に進む。進み続ける。
ここが、黒焦げの闇の中でも。
(現代にて)
新宿はパニックに陥っていた。誰もが冗談だと思い、真に受けていなかったテロを久賀浩人はやってのけたのだ。爆破予告は、もはや信じざるをえなかった。被害者の数、爆弾に残りがあるか、浩人の動機は何かなど、彼の動画は注目を集め、再生数をものすごい勢いで伸ばした。
新宿と名がつく駅すべてがふさがれ、数百万人が足止めを食らった。
爆破から約1時間だ。
ここぞとばかりに、SNSやニュース番組は不確かな情報を発信したりはやし立てたりしてもうけようという魂胆が丸見えだった。
けが人は出たようだが、今はまだ死者の報告は無い。
爆破から1時間後、和人のケータイに着信が入った。
「防衛省の杉山だ。久賀浩人を知っているというのは本当か?」
何で、こいつがそんなこと知っているんだ。
「知っていますけども、あなたは警察では無いでしょう?」
「私の知っている情報を話す。だからそちらも情報をくれ」
「電話で話せる内容なんて限界がありますよ」
「天才サンは大変だな」
これ以上は、言ってもムダだろうな、全く。
「爆破されたのは、新宿駅中央線のプラットホーム。スーツケースが爆発した。不審物を探していた駅長が被害にあった。今話せるのはこれだけだ」
「監視カメラの映像は?アップロードされたデバイスから逆探知は出来ないのか?」
「監視カメラは検査中だ。接続経路は匿名化してあるから難しいな。」
やはり直接会って話を聞くべきだったか。どうせ報道される物ばかりだ。そのくせ、図々しくも浩人の情報を言え、とせかしてくる。まったく、政府の連中はやっぱり自己中だ。
でも、言うしか無かったので、仕方なく情報を語った。
最初に会ったのは三年前の牢屋で、最後にあった記憶があるのは八ヶ月ほど前。だから少なくとも七ヶ月前からは消息が不明だと言うこと。最後に会ったのは少年犯罪被害者の会でのこと。その会には、少年犯罪に強い興味を持つ人、擁護法に疑問を抱く人などが訪れ、空中歩道を使えば子供でもいけるが、子供はあまり来ないこと。そして、少年犯罪の被害者であること。
彼は両親が忙しいため、妹、祖母、祖父の三人と一緒に暮らしていた。育児が出来ないからと、祖父母の家に引っ越させたのだ。彼の心の一番の支えは妹だったこと。祖父は五人の少年に暴行されて死亡したこと。その原因は車道での火遊びを注意したこと。そして、六ヶ月前あたりには、すでに様子がおかしかったこと。
「分かった。引き続き情報を入手したら連絡するように。」
それはこちらの台詞だ。ろくなもん教えなかったくせに。
ため息をついて、少々乱暴に電話を切った。
「まーたため息ついてる」
「悪いかよ」
「まあ、でも本当にやるせないね、浩人君の人生」
「浩人『君』はよせ」
あくまで犯人である彼に、同情してはいけない。
「しっかり調べて、助けてあげないと」
どうやら調べる前から浩人は悪くないと決めつけているようだ。
「あまり私情を挟むなよ」
「なによ、私情で裁判したくせに」
「まだやってない」
「『まだ』でしょう。わかってるんだから、いつかはやるつもりなんでしょう」
「はいはい」
「誰かいないの?容疑者は?」
「アポを取った」
「よくとれたね」
素直に感心した目つきでこちらを見た。
「向こうとしては、応じるしか無いんだよ。変に疑われないためにな」
和人は、あの会の常連から話を聞いていた。
『六ヶ月前に、国会議員に怒鳴りかかった』という。
あのおとなしくて優しかった浩人を知っていると、全く想像がたたない。うめくしかなかった。
見るからに高級そうな車が目の前で止まった。秘書っぽい男性に持ち物は片っ端から取られた。どうやら録音はダメらしい。
「適当に走らせます。ここで話しましょう。」会津は二人が乗ると車を走らせはじめた。窓にはカーテンが掛かっている。
「率直に尋ねます。これからの話を、あなたは記事にするつもりですか?」
会津は不意に口を開いた。
「記事にされたら困るんですか。」
「困りますとも。テロリストが強く罵倒した国会議員なんて、誰が信じるんです?」
間違いないだろうな。少なくとも、マスコミはこの手の記事が大好きだ。でないと国会議員が一個人に会おうとするはずがない。
「嘘の記事を書いたりしないで下さいよ」
「ええ。真相の究明が目的ですから、人気稼ぎではありません。」
僕が知りたいのは、テロの目的だ。
「教えて下さい。浩人は何故、あなたに怒鳴ったのです?」
「擁護法です」会津は即答した。
「正確には、加害者を野放しにする法律を作った政治家への怒りですね。彼は非行少年によって家に放火されてるんです」
「なんで浩人君の思いをくんであげないんですか?」横からナナが割っていった。
「かわいそうじゃないですか。少数意見はどうでも良いんですか?それでホントに政治家ですか?」
「やめろナナ」
「どうして止めるの。浩人君が嫌いなの?」
「ちがう。こういう場面でかわいそうとかそういった精神論は弱いんだ。一人のために他の人を犠牲にしろというのかって言われたらそれで終わりなんだから」
「・・・それでも、やっぱりかわいそうだよ。厳罰化しなきゃ」
「してきたよ、これまでに何度かは」
これまでに擁護法は細かく姿を変えてきた。
「よくご存じですね。調べたんですか?」
「少々興味があったので。今まで何度か変わったが、いずれも大きな動きは無かった。変わったのは二、三回だけ」
「なんで?」
「無意味だからだよ。非行少年が成人して再び悪事に手を染めると言うことが年々減ってきてるんだ」
「人口減少しただけじゃん」
「パーセンテージ的にも、減ってきてるの。だから大きく変えると言うことはリスクが大きい。厳罰化すると再犯が起きる可能性をあげてしまう。リスクしか無いから、無意味なんだ」
会津は頭をかいた。「これでは私の出る幕はありませんね。ただ、浩人君がかわいそうだというのは同感です。これからも、厳罰化を目指していきますよ」
そこまでで下ろしてもらい、会津と僕らは別れた。
「さて、ちょっと暴れるか」
「秋葉原にでも爆弾を置く気で?」
「何の話だ。ちょっと待ってろ」
僕はスマホのアプリを起動した。
「何してんの?」
その声に重なるように影が通り過ぎる。
地面に赤い光が映る。「何これ?」
「来るぞ。離れてろ」
上から四角の箱が振ってきた。ドシンとは言わず、ぼふんと柔らかい音で落ちてきたそれは、落ちた直後に開いて中からバイクが出てきた。バイクは横に車みたいな物をつけている。
「これで暴れるの?」
「いや、物理的には暴れねえよ。こいつで捜査するのさ。探偵ごっこの続きだよ」
「でかした、数学デカ!」なんじゃそりゃ。
「初めの容疑者は?」
横の車からナナが突っついてくる。
「かなり有力な人物だ、かなりな。」
「どういうこと?」
僕は写真を見せた。「放火の実行犯。高田陽生だ」
家の前には、すでにパトカーが出ていくところだった。しまったこされたか。
「すみません、陽生君はいます?」
「なんなんだあんた達は。子供が外を出歩いたら犯罪なんだぞ」
どうやら父親のようだ。「少年数学者として国から正式に認定されている、改正和人を知らねえたあ良いご身分で。」
父親は目を見張った。「君があの・・・」「いや、こっち」
父親は廊下を駆け戻った。「すぐに呼んでくる」
僕は肘で小突いた。「勝手に人の名前を名乗るなよ」
「あいやそれぁごぉめぇあぁそぉあぁせぇ~!」
「馬鹿にしてる?」
「いや、毛頭もーあるけど」
「ぶん殴るよ?」
「あ、来た!」誤魔化しやがったこいつ。
「何のようなんですか?」
「浩人がここに来たと聞いてね。何を話したんだい?」
おずおずと陽生は座った。「ここに来て、話があると言われて・・・公園の木の下まで連れて行かれて、話し合いをして分かれました。」
「何も怒鳴ったりしなかった?」
「はい」
嘘だな。そんなわけがない。
「ほら、息子はこう言ってる。警察も納得したんだ、帰った帰った」
「あなたは、浩人を知らない。彼は国会議員相手に怒鳴ってるんです。実行犯を目の前にして、話し合いで終わるわけが無い」
陽生は押し黙った。もうちょっと圧をかけるか。
「考えてみて下さい。ここで何も話さなかったら、余計に疑われるんですよ?」
依然として黙ったまま。仕方ない、あまり好きでは無いが嘘で突破するか。
「いいですか。今自白してしまえば、罪状は軽くなります。法律にも書いてあります、『個人の利益を顧みず、社会貢献に尽くした者は可能な範囲で擁護される』と」
もちろん、全部嘘っぱちだ。でも相当効いたようだ、1度うなだれると背筋を伸ばして話し始めた。
「あいつに公園に連れて行かれた後、脅されたんです」
陽生の話は、要約するとこうだ。包丁を持った浩人が、『自分からすべてを奪ったお前のすべてを奪ってやる』と脅迫した。陽生は、あの放火事件には黒幕がいたんだと必死に弁解した。それは誰かと聞かれたとき、彼は上田弘海と答えたそうだ。
僕は目を見張った。その名前を知っているのだ。忘れるわけが無い、あの凶悪犯を。
「先輩は僕に言ってきました。『ある人からもらったタバコだ、ライターでこいつに火をつけろ。あの家の裏にガソリンの入れ物があるから、キャップを緩めて導火線代わりを作れ。そしてたばこを放るんだ。なに、擁護法が守ってくれるよ。ここに酒がある、酔った勢いでやってしまったといえ。そうすればお前の罪は軽くてすむ』と。でも、その後で知ったんです。そんなに甘くなかったって。細かい決まりを知らなくて、僕は怖い言葉をたくさん聞きました。少年院を出てから、後悔ばっかりが残ってるんです。あんなことのために、あんな人のために」
病んだ人のように、両手で顔を覆い、ギラつく目だけを覗かせてうつむいている。そうだ僕は悪くない、先輩が悪いんだ、と何度も繰り返す。
「最期に二つ聞きたい。その先輩は、それ以前に誰かを殺していなかったか?」
「はい、そういえばそんな話を聞きました。新宿の駅前で、当時12歳の人を殺したって」
「名前は?」
「野田トウコっていってました、確か」
やっぱりか。
「もう一つは、先輩の居場所を知らないかい?」
「それは分かりません。事件依頼、音信不通で」
またブツブツとつぶやきはじめる。
「ごめんよ、最後って言ったけど、もう一つだけ聞かせてくれ。もし法律をきちんと理解してたら、君は放火したかい?」
「そんなの決まってる。やるわけ無い。」
怒鳴ろうとするナナを片手で制す。それでも、お前はやったじゃないか。被害者は出た、命は戻らない、時だって戻らない。お前はそれを理解しているのか?多分、ナナも同じ事を考えたのだ。
少し意地悪な考えが浮かんだ。とどめを刺してやろう。
「浩人は、裁判を起こすと言っていたよ。僕も手伝う約束をした。金の用意をしておくことだ」
陽生の顔から、精気が消える。ざまをみてればいいんだよ。
「ありがとうございました。お邪魔しました」
あっけにとられた父ととりつかれた息子を残し、僕たちは外に出た。
しばらくしてから、父親の怒鳴り声が聞こえた。
「お前なんかに金を使うか!慰謝料も学費も生活費も全部自分で払ってみせろ!」
あの親子には言わなかったが、慰謝料を払わない加害者は非常に多い。時効まで逃げ切るのだ。
いやになってくる。人に罪をなすりつける上田も。無知のくせして軽い気持ちで人を殺した陽生も。金を払おうとしない、被害者への慰謝料すら出さないと言った父親も。
「人間は、これだから嫌いだ。犬畜生なんて言うけれど、犬の方がよっぽど平和で賢いじゃ無いか」
「カズも人間でしょ?」
「ああ、だから僕は僕が嫌いだ」
{同時刻、ある場所にて}
男が水晶をのぞき込んでいる。「どうやら君の計画は計算外が起きたようだね」
「良いですよ、これはこれで。どうせ人間社会を引っかき回すことが目的なんだから」
「そういう意味では、期待以上かもね」
水晶の上の和人に微笑みかける人影。
「どうだい、憂さ晴らしは満足かい?」
「いえ、まだ終わってませんよ。しかしそれにしてもニンゲンは便利ですね、金と口車だけありゃ乗ってくれる」
人影は廊下に足音を響かせながら去って行く。
「さて、そろそろだね」
残された人影は、水晶の映像を変えた。その中に大きく映される、『GOD』の文字。
「もう一人の仮面ライダーが、完成する頃だ」
太陽すらも瞬間冷凍してしまいそうな笑みを浮かべて、人影は水晶の映像を消した。
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次回予告「浩人の過去、そして決意ー和人はどう動くのか?次回仮面ライダーmath「浩人の過去は(X)に」お楽しみに!
オマケ 和人からの挑戦状
ある男が言いました。「ここに錠剤と水の入ったコップが二つずつある。片方は無害、もう片方は有害。どっちか選ばしてあげるよ」男は毎回生き残りました。さて何故でしょう?答えは下
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答え 水に毒が入っていたから
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浩人の過去は(X)に
どうしたのだろう、町がより騒然としている。
高々と掲げられたテレビに、テロップが流れる。
(久賀浩人第二次犯行予告)
「僕はテロを続けます。僕が捕まるまで、何度でも。」
画像の中の浩人はにこりともせずに言った。
「予想した、最悪の結果だな」
(過去にて)
今日も、僕は闇にいる。闇は良い。それ以外の邪魔な物を押し出してくれる。
さて。そろそろ次の段階に入ろうか。
僕は電話をかけた。
(もしもし?)
「あ、もしもし?浩人だけど、チカ?」
(うん、そう。どうしたの?)
「明日そっちに行く用事が出来たんだけど、ついでによろうと思うんだ。五時ぐらいは大丈夫?」
(ごめん、明日は塾あるから。六時に出来る?)
知っている、そんなことぐらい。「うん、分かった。じゃあそういうことで」
僕は電話を切った。やっと、だ。体中がブルブル震えた。うれしさに打ちひしがれるというのは、こういうことなんだろう。
大丈夫、僕は正しい行動をしている。味方が何人もいるじゃ無いか。
(現代にて)
浩人の犯行予告は瞬く間に広がった。そして、どこで突き止めたのか浩人の過去も出回った。少年犯罪の被害者であるということだ。ある芸能人が炎上した。浩人を強く批判したからだ。賛否両論両極端に分かれた。
かわいそう、という言葉も行き交うようになった。
「何がかわいそうよ。あんたらが作った社会でしょうが。自分は良い奴だと言いたいのね。こういう奴に限ってクズばっかなんだから」
あくまでナナの持論だが、その通りだと思う。こういう奴は自分のやったことに責任を持たない。責任を持たないから、平気で忘れられる。だからやったことすら気づいていない。指摘されても分からない。そんな奴ばっかりだ。そういうと、偏見だと抗議する人もいるけれど。
突然ケータイがなった。
「もしもし?」
(浩人の情報は無いか?)
また、お前かよ。正直うざったくなってきた。
「あ~、どちら様ですか?お人違いでは?」
(遊んでいる暇なんて無いんだよ。君も大人になれば分かるがね)
「僕は大人が嫌いだね。話すことは何も無い。それじゃ」
ボタンを押そうとして、次の言葉で手が止まった。
(耳寄りな情報があるぞ。きっとここで聞かなかったらきっと後悔する。特に君の場合はね)
「・・・餌をぶら下げて食いつくまでまっとる気か?僕はお利口な魚じゃあ無いからな、お前ごとのみこむかもよ」
(これを聞いても、それが言えるか?)
ザザ、ザという音に続き、キーン、キュイーュンと聞こえてくる。
(ザザ・・・もう・・・ザザ・・・うまザザ・・・)
どうも音質が悪い。それで余計意識を集中していた。
(二人目のザザ・・・ライダーが)
今、なんて言った?二人目のライダー?
(どうだこれでも言わない気か?)
「わかったよ。でも、先に情報を流すなんて馬鹿じゃないのか?」
(普通ならな。だが、これで何も言わないのは、お前の主義に反する。強制したんだよ)
なるほど悪知恵が働く。全く、こんな奴が政府にいるなんてな。
「・・・放火犯に接触した。当時の事件には黒幕がいることが分かった。以上」
(関係は?何も言わなかったわけは無いだろう?)
時々鋭いからこいつは嫌いだ。
「先輩と言っていた。それ以外は何も」
(ありがとう。引き続き調査を頼む)
一方的に通話を切られた。
耳の奥で、『二人目のライダー』という言葉が反響している。どうやってそんな情報を手に入れたのだろう。
まあ、そのことはいくらこの場で考えても答えが出ない。いったん保留することにしよう。
「カズ、先輩は見つかってるの?」
「いや、まだ。探してくる」
僕は逃げるようにその場を去ろうとして、途中で立ち止まった。
「ちょっと調べてくれないか?」
「何をよ」
「このあたりで、ここ数ヶ月以内に殺人事件が起きていないかをだ」
(過去にて)
今日はとうとう、チカの家まで行く日だ。
かなり早めに家を訪ねる。
「あら、いらっしゃい。どうしたの?」
「ちょっと早くに着いちゃったので。まだ帰っておられませんよね?」
おばさんは喜んで家の中に入れてくれた。簡単だ。こんなに警戒心が無いだなんて。
僕は包丁を握りしめる。家の扉を閉め、後ろ手に鍵をまわした。
(現在にて)
約束の時間が来た。そろそろ来るはずだ。
黒塗りの車が向こうからやってくる。ドアが開く。今回は部下の人はいない。
「何ですか、二人だけで話がしたいなんて」
車が発進する。津田議員の車だ。
「もしかしたらなんですが」
僕はそう前置きした。
「浩人は、擁護法を改定させるためにテロを起こしたんじゃ無いですかね?」
「私も、ちょうどその線を疑っていたんですよ」
車は走る。殺風景な町の中を。雪はもう、すっかり溶けている。
「このことは、広めるべきです」
「どうして?」
「だって、でないと浩人君は何のためにテロをしたのか分からなくなるじゃないですか。ただの凶悪犯にされてしまいます」
僕は何だか腹が立った。
「まだ、決定的な物的証拠がありません。犯人と決めつけるには、まだ早いのでは無いでしょうか」
僕は自分に驚いた。無意識に浩人をかばっていたのだ。これではナナに言えた身分では無いな。
僕が車を降りたのとほぼ同時に電話が鳴った。
「もしもし?」
(あ、もしもしカズ君?調べ物が終わったよ)
「そうか、それでどうだった?」
(うん、その周辺では事件らしい事件は火災以降発生していないんだって)
「そうか。分かった、ありがとう」
よかった。少なくとも、浩人は殺人鬼じゃない。
(過去にて)
おばさんはドタドタと忙しく動き回っている。その背後にそっと忍び寄り、首に突きつける。
「動かないでください」
ピタッと動きが止まる。
「あの、」「しゃべらないでください」
僕は包丁を握り直した。
「僕は今から一年前、あなたの息子に、チカの兄に、家を焼かれました。その復習のために、あなたたちに接触したんです。この包丁は祖母の形見です」
「ああ、あ、あの子がまた・・・」
どうやら家族にも信頼されていないらしい。かわいそうなやつだ。
「息子さんの、コウタの居場所はわかりますか」
「いえ、音信不通でして」
「それでは、チカさんの日記を見せてください。」
「・・・見ない方が、いいかもしれません」
「それでも、それしか手がかりがないんだ!」
僕は包丁で机をたたいた。
「世の中の人は許せというでしょう!でもどうしても許せないものは許せません!第一、ここで引き下がったら・・・」
僕は固く閉ざした口の間から、水を漏らすようにして言った。
「この恨みは、どうなる」
おばさんは哀れみの目を向けてきた。昔っからそうだ、世間の大人たちは哀れみか同情しかしてくれない。
「ここに・・・」
おばさんが日記を出してきた。表紙をめくる。
(7月10日 今日もいじめにあった。犯罪者の妹め、といって水をかけられた。でも仕方がない、悪いのは私の方だ。)
「何、知った風な口をきいてる」
(7月11日 今日はノートを破かれた。流しっぱなしの水道の水でノートはだめになった。先生は誰一人何も知らせてくれなかった。)
「自分で気づけよ、その程度。だから相手の気持ちがわからないんだ」
(7月12日 今日は殴られた。体中がアザだらけ。いつもの痛み止めを飲んだ。もうそろそろ病院に薬をもらいに行かなきゃ。あとどれくらい、こんな生活を続ければいいの?)
「ふざけんな!」
ノートを思いっきり放り捨てた。
「僕は、僕の家族は、妹は、痛いなんてどころじゃなかったんだよ!全身大やけどしながら、息もできない状態で、消防隊も見殺しにした!どっかの偉い「セージカ」の方を優先して、二時間も火の中でのたうち回った!痛みを知ったような口をきくな!」
おばさんはずっと正座している。
「あなたの言うとおりだった。見るべきじゃなかった。見たらいけなかったんだ、こんなもの」
おばさんは僕に向かって土下座した。
「お願いです、あの子にはまだ将来があります。どうかあたしの命で、あの子を、チカを見逃してやってください」
包丁を、確かめた。しっかりと握っている。振りかぶって、そしてー
床にたたきつけた。
「できない!僕は土下座して謝る人を切り殺せるほど非情になれやしないんだ!卑怯じゃないか!」
僕は花のポスターに目がとまった。うっとうしいポスター。お前は、何で僕を笑うんだ?
突然、はっとした。
「まさか、家中に貼ってあるポスターは・・・」
僕は一番近くのポスターを引っぺがした。
あらわになる、大きな傷跡ーコウタの仕業だ。
僕は次々とポスターを破いた。どこもかしこも傷だらけ。
気がつくと、玄関まで来ていた。
「僕は、もうたくさんだ!傷つけるのも、傷つけられるのも!」
僕は、走った。走って、走って、気がついたらいつかの公園まで来ていた。
僕はベンチの上で仰向けになった。静かに雪が積み重なってゆく。ああ、このまま押しつぶされたらいいのに。
(現代にて)
浩人が、第二回のテロを決行した。電車に毒ガスの発生する混合液を入れたトランクケースを乗せたのだ。
怪しいケースがあるという通報に警察が駆けつけた。警戒している人がほとんどだったため、簡単に見つかったようだ。ケースの中には、塩素系漂白剤と酸性洗剤の混合液が入っていたそうだ。
「本当に虐殺が目的なら、犯行予告なんてするかなあ?」
「そう思ってるやつもいるらしいな。見てみろ、これ」
スマホの画面には、「凶悪犯久賀浩人の過去」という見出しに続いて、家が焼かれたことや家族が死んだことが書いてあった。
どこから持ち出したのか、僕の名前まで出ていた。
「早く止めないと、えらいことになりそうね」
ナナの言うとおりだ。早くしなければ。
(過去にて)
視界が薄くなる。僕は落ちていく。冷たいとも思わなくなった。ああ、最高だ。世界からほっぽり出されることが、こんなに楽しくうれしいことだったとは。もっと早く気づくべきだった。
「何してんの?」
上から声が降ってきた。ザ、ザと雪がはらわれる。
「風邪引くよ?」
「・・・うるさい。ほっとけ。家には帰ったのか?」
「うん。フクシューのために、近づいたんだってね」
「なら、何で追いかけてきた?」
「だって、これでお別れだなんて、寂しすぎるよそんなの」
僕は鼻で笑い飛ばした。
「しつこくて嘘つきの男でもか。それとも何か、初恋でもしたとでも言うのか?」
「うん」
チカがうなずいたのを見て、ドキンとした。心臓が頭を飛び抜けて、上から見下ろしているみたいだ。
「私に初めて優しくしてくれた人。最初は友情あたりだったんだけど、気づいたら、ね。たった今さっき失恋したばかりだけれど」
僕は、わかっていなかったのだ。自分のことしか見ていなかったのだ。
「ごめん」
「ううん、いいよ。もう終わったことだし。それより今は、お兄ちゃんを探さなきゃ」
僕らの関係は、最悪から始まった。それは仕方がないことだ。でも、僕らを引きつけるものがあった。
「その押し花は、オオアマナ?」
「うん、前に言ったでしょ。妹の誕生日プレゼント。枯れたから、押し花にしたんだ」
「それ、いつのこと?」
「去年の夏」
「え?それ、枯れてないかも」
今、なんて言った?
「オオアマナは、球根植物だから休眠するの。それ、枯れてないよ」
僕らの溝が、埋まり始めた。もう一度球根を世話し始めた。ああだこうだと指示を受けているうちに、僕らは距離を縮めていた。
そんなあるときだった。コウタの居場所がわかった。幸せは連続するものだと思った。僕たちはカラオケの一室で落ち合った。
家族以外には話を聞かせるなと言ったので、二人が隣の部屋で会話し、スマホを通話状態にして盗聴することになった。
「お兄ちゃん、どうしてずっといなかったの?」
「俺が更生してまっとうに働き出すようになってから一ヶ月、過去のことが新聞に載った。俺は職を失った。友も失った。でも、みっともなくて誰にもいえなかった。だから黙って出て行った」
「お兄ちゃん・・・」
「でも、俺はまた仕事がもらえた。それをするだけで、一千万もらえるそうだ。何だと思う?爆弾運びさ!新宿駅に爆弾を運ぶ、それだけで大金が手に入る」
僕らはあっけにとられた。
「俺は家族を幸せにする。信じてほしい」
僕たちはそのあと、二人でしばらく歩いた。二人とも黙りこくっていたが、ついに僕は言った。
「ねえ。いつ、爆弾を運ぶのか聞いてもらえる?」
「なんで?」
「いいから」
「何か、変なこと考えてない?」
「大丈夫。心配ないよ」
僕はチカを介して、爆破予定日を聞いた。そして、犯行予告を行った。
(現代にて)
「防犯カメラには何もなかったのか?」
(それが、あったはあったんだがな。プライバシーの関係上、報道できんかった)
「じゃあ、動画を送ってくれ」
僕は動画を確認した。間違いない。大急ぎで画面を打つ。
「ナナ、見ろ。勝ったぞ」
「へ?何が?」
「だから、コウタだよ。いくぞ」
「分かった」
「あ、ナナにはこっちな」
僕は紙切れを渡した。
(浩人サイド)
この車に隠れてから、かなりの日がたった。タブレットには、相変わらず僕のことが書かれている。
こんこんと扉をノックされた。
「浩人、ちょっと出てきて」
チカの声だ。僕は外に出た。
「何?どうしたの?」
「あのね、さっき樫村さんって人が来て、和人さんって人が今お兄ちゃんと話してるって」
ああ、やっと頼りになる人が来た。浩人は、ゆっくり歩いた。
(和人サイド)
僕はある倉庫へと向かった。
「コウタ、いるか?」
「いるぞ。ケーサツはつれてきてないだろうな」
「ああ、僕だけだ」
ナナには別の仕事を任せた。
「おまえ、何で浩人の家を焼いた?」
「計画がばれたからだ」
ずいぶんあっさりと答えたな。
「あいつの妹が、俺が爆弾の実験をしてるところを見てたんだよ」
山奥で、爆破実験をしていたところ、兄への誕生日プレゼントにするため、野花を探して山奥まで行っていたらしい。そして、ある人物に命令されて、放火を促したそうだ。
「なぜ、手を貸そうと考えた?」
「金がもらえると聞いたからだ。それだけだ」
「それだけのために、人を殺したのか?」
「そうだよ。俺は触法少年だ。裁くことはできないさ」
「本当に、そう思っているのか?」
「ああ、そうだよ」
僕は首を振った。
「おまえみたいなのが処罰された事例はある。お前は無事じゃいれないさ」
「乗るか、そんな脅し」
「じゃあこれを見ろ」
僕は逮捕状を突きつけた。
「え?」
「本物のコピーだ。知り合いから借りた」
そこへ、誰かが駆け込んできた。
「お兄ちゃん!」
「・・・チカ」
「もうやめてよ、こんなこと」
コウタは震えだした。
「今更、やめられねえよ!」
暴れ出したコウタを最小限の動きで押さえつけると、僕はスマホからある人の声を聞かせた。
「おまえに命令したのは、こんな感じの声か?」
「・・・そうだよ。」
決まった。チカから番号を聞き、僕は大急ぎで浩人にあるものを送った。
(浩人サイド)
「・・・決まった」
「ん?なんか言った?」
「いや、何でもないです」
「それにしても、いつもこんな裏方ばかり、飽きないのかねえ、和人は」
「それが、和人さんですから」
(和人サイド)
「まず言っておかなければならないことがある。新聞におまえの記事を載せたのは僕だ。すまない」
僕は頭を下げた。
「僕は、おまえに兄を殺されてから、おまえをずっと恨んできた。平気な顔して働いているのが、許せなかった。それが被害者を減らすことだと信じていた。でも、違った。被害者は増えた。すまなかった」
僕はうわごとのように繰り返した。
「いいですよ、もう、そんなこと。それより、浩人のところに行きましょう」
チカと僕が出て行き、手錠をされたコウタだけが残った。
(浩人サイド)
「けりがついたよ」
チカからそう聞いたときは、本当にほっとした。僕は包丁を確かめた。チカから返してもらったものだ。
僕ら二人は、町に出た。日用品を買いに。顔はタブレットにうずくめるようにして隠している。
僕は画面を見つめすぎて目がしょぼしょぼした。目をいじくっている間に、何かにつまづいてこけた。
「大丈夫?」
「あ、大丈夫です」
声をかけてきた女の人は僕の顔を見てわなわな震えだした。まずい、ばれた。
「逃げるぞ」
僕はチカの手を取り全速力で駆けた。後からいくつもの足音が追いかけてくる。
「浩人、オオアマナは?咲いた?」
「なんで今、そんなこと聞くんだ。それどころじゃないんだよ!」
「それどころなの、私にとっては。教えて」
何かを悟っているようだ。
「まだ咲いてない。つぼみが膨らみ始めたところ!」
息が荒くなる。そろそろ、逃げられないな。
僕は公園に入った。
包丁を出し、チカの喉元に突きつける。
「ごめん、人質を演じて」
この日、彼女がいい役者であることを知った。小刻みに震え、涙を薄く浮かべて、唇をかんでいる。
「見ろ!僕には人質がいる!会津議員と話がしたい!十分だけでいい。呼んでこい!」
やがて会津議員が現れた。
「何かな、浩人君」
「おまえの愚行を、僕は許さない」
「許さない?それは私の台詞だ!君のような非行少年がいるから、擁護法を変えようとしているんじゃないか!君はテロリストだ。許されないのは、おまえだ!」
拍手が起きた。やむのを待ってから、僕はしゃべった。
「あなたは、僕をかばうようなことを言っていたじゃないですか」
「何のことかな?全く覚えがないな」
「知り合いが言っていました」
「証拠は?ないだろう!」
僕はチカに「おい」と言った。あくまで渋々という演技をしながら、彼女はある音声を再生した。
「浩人君は何のためにテロをしたのか分からなくなるじゃないですか。ただの凶悪犯にされてしまいます」
野次馬がざわめきだした。
「それはあくまで、あなたの擁護法が厳罰化に向かうようにしようという思考だけです!」
「コウタという実行犯に、会津議員の肉声を聞かせたところ、自分に命令したのと同じ声だと言いました」
会津は何も言わない。
「僕は、真実が知りたい!この事件の、本当の黒幕を!」
さて、これ以上は無駄だろう。
「ごめんよ、チカ。僕は真実をしれない」
僕はチカを突き飛ばすと、自分の首元に包丁を向けた。普通に言っただけじゃ簡単に忘れられるだろう。だが、少年が自殺してまで、死の間際で言ったことなら、なかなか忘れられないだろう。
警察官が駆け込んでくる。耳に声が飛び込んでくる。
「ヒロト!」
(翌日)
浩人のことは記事になった。自殺して、強いメッセージをこの世に残した『美形過ぎる』ヒーローとして。全く世間は調子がいい。
電話が鳴った。
「カズ、例の公園に来いって」
結局、浩人は死ななかった。チカが叫んだ瞬間、ほんのちょっとだけ動きが止まり、その間に取り押さえられた。
「なんで、動きを止めたんだ?」
「わかりません。体が勝手に。僕たちの関係は、ただの友達ではありません。でも、この感情は何なのか・・・」
僕は笑った。
「どうしたんです?」
「いや、若いなと思って」
「和人さんもでしょう」
チカの一家は、引っ越した。そこではいじめもなく、うまくやっていけているようだ。
コウタは、無期懲役の判決が下された。今度こそ、更生するだろう。
浩人は孤児院で育てられることになった。友達もいるようだ。
デモも起こった。ただ、ワーワー騒ぐのではなく、静かに、気品のあるデモだった。浩人の言葉が引用されていた。「真実を語れ」、と。
津田議員は裁判中だ。きっと手ひどいしっぺ返しが待っているだろう。
「これで、一件落着だね」
店に帰るなり、ナナがそう言った。
「いや、まだだ」
「え?」
「僕の予想が正しければ・・・この事件の裏には、本当の黒幕は、鬼だ」
いかがでした?感想・アドバイスお待ちしております。そして、「ちょっと魔王を倒してくるわ」(略して魔っちょ)も併せてお願いします。
次回予告
ついに現れる黒幕と、動き出すもう一人の仮面ライダー。果たして何者なのか?
次回、仮面ライダーmath、「仮面ライダー(X)参上」お楽しみに!
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