転生するのは2回目でした!? (T・紫)
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ありふれた職業で世界最強 編
ありふれた転生…じゃない!?


 グダグダは許してつかあさい……


 

 あぁ……くそ……こんな所で死ぬのかよ……折角人より優れていたから良い人生を送れると思ってたのに……………………つか、空から急に車が降ってくるとか何だよそれ。

こうして、俺、神韋聖夜(かもいせいや)の人生は、空から急に車が降ってくるという、非現実的な出来事によって幕を閉じた。

 

 

 

 

 

「で?此処どこよ?」

 

目を覚ましたら、藺草の香る畳が敷き詰められたいかにも和風な部屋。そして目の前にはそれはそれは綺麗な土下座をするご老人。

 

ふぁっ!?

 

「ちょ、ちょ、ちょ、何してるんですか!?顔ををあげてください!」

 

「2回目じゃ……」

 

「へ?」

 

「お主がこの部屋に来るのは2回目なのじゃ」

 

「え?どういう事ですか?俺この部屋に見覚えなんて一切ないんですけど……」

 

ここで思い出すのは、先程の()()

 

「……推測するに、俺はさっき急に上から降ってきた車に押し潰されて死んだ筈。ならばこの場所は死後の世界って事でおーけー?」

 

「確かに、お主は先程車に押し潰されて死んでしまった。見事なまでの即死じゃったよ。じゃが此処は死後の世界ではなく厳密には神の間というところじゃ」

 

「えーと、それで?何で俺はこの神の間にいるんですかね?」

 

「それは………………………儂が寝ぼけて殺してしまったからじゃ……」

 

 えーと大体話が読めてきたぞ。つまり俺はこの人に殺されて此処にいると。そして2回目と言うことは前にも殺されたことがあってこの部屋を訪れていると。だがしかしそんなの記憶には無い。

ということはだ。俺はこのご老人もとい、神様に記憶を消されてあの世界に戻ったということか。

 

「本っ当に申し訳ないっっ!!」

 

 此処まで来れば後は芋づる式にこの謎は解けるぞ!さっきも言った通り前にも俺は神様にうっかり殺されてしまっているのだろう。だがしかしあのちょっとどころかかなりスペックの高い体は目の前にいる神様にお詫びとして貰ったものなのだろう!そしてそして、また死んじゃったけどお詫びを貰って生き返らせてくれるというところまで読めたっ!!

 

 ならばこそ俺が言う言葉これしか無い!

 

「気にしないで下さい!少しも怒って無いですよ!うっかりなんて誰にでもある事です!ましてや一回二回なんて大して変わりませんよ!」

 

「許してくれるのかっ!………いやはや有難い。まさか、1度生き返らせてるから歪んでしまった魂がこの世界の輪廻に戻すことも出来ないからこの世界でもう2度と生き返ることが出来ないのに許してくれるとは……なんと器の大きな若者じゃ!」

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

 

 おのれ謀ったな!?………………あぁどうしよう俺の輝かしいバラ色の人生が音を立てて崩れ去ってゆく……。折角神韋聖夜の人生設計No.2を考えていたのに…神は死んだ…。

 

 

 

 というか、俺本当にどうなるの?

 

「あの、俺はこれからどうなるんでせうか?」

 

「勿論、転生してもらうぞい?」

 

「へ?でも生き返れないって……」

 

「確かに()()()()では生き返らせることは不可能じゃ、だから別の世界に転生させるつもりじゃよ?」

 

 いやっふぅーーーー!

 

 来た!これで勝つる!神は俺のことをまだ見捨てていなかった!今目の前にいる彼が神だけど!というか死因が彼だけど!

 

「いやはや申し訳ないのぅ……ところでお主ライトノベルは好きかね?」

 

「そりゃあもう大好物です!」

 

 そう。この俺神韋聖夜はオタクなのである。極度の。

 

「実は次の転生先は『ありふれた職業で世界最強』の世界なんじゃよ」

 

「え?死ぬ未来しか見えないんですけど……転生してすぐに死後の世界は流石に気が滅入ります。はい。」

 

「安心せい。前殺してしまった時のお詫びと転生特典に加えて、今回分もお詫びと転生特典を追加するぞい」

 

 あ、それなら安心ですね。

 

「ところで前回のお詫びと転生特典って何だったんですか?」

 

「えーと、確か…お詫びに逆廻十六夜並みのスペック、転生特典にありとあらゆる武術武器術を直ぐに習得出来るほどの才能じゃな!」

 

「何そのチート……あれ?そのスペックなら俺死ななかったんじゃ…」

 

「ギクッ!」

 

 口でギクッっていう人初めて見たよ……というかまたあなたなんですね……

 

「いや、そのなちゃんと授けたのじゃぞ?………………30でそのスペックに至れるように」

 

「そこは直ぐ渡してくれよっ!!」

 

 まぁいいか……次の世界に行けるし……というか転生特典結果というかかなり強力だし……あれ?これって責めるとこなく無い?むしろ感謝すべきだよなぁ!

ありがとう神様!俺次の世界に行ったら女の子とイチャイチャ出来るように頑張るよ!

 

「ふむ、流石だなお主。そこまでポジティブに考えられるとは!しかも感謝を忘れぬとは何とも好青年であるな」

 

 あれ?俺今口に出してた?結構恥ずかしいこと口走って……

 

「儂は神様じゃぞ?心を読む事くらい当たり前に出来るわい」

 

「エッチ!」

 

「何で乙女になっておるのじゃ……まぁ良い……それで、お詫びと転生特典はどうするのじゃ?」

 

「あ、それなら原作知識を消してください!」

 

「へ?それだけ?もっとこうあるじゃろ、ものすんごいのとか…」

 

「それで良いんです!1人だけ原作知識なんてあったらズルしてるみたいで嫌なんです!」

 本音である。確かに知識はあった方が良いのだろう。しかし逆廻十六夜のスペックを既に頂いているのだ。これ以上は贅沢と言うもの。

 

「フム、何とも謙虚な若者じゃ……あいわかった。では転生特典はどうするのじゃ?」

 

「実はこの名前結構気に入ってるんです。だから転生後もこの名前のままにして欲しいです!」

 

「わかっておったが、何ともまぁ欲のない若者じゃ……人間なぞ欲の塊と思っておったがこういう者もおるのじゃな……」

 

 そうそんなんで良いのだ、死因はたしかに神様なのかもしれない。だがしかし特に未練があるわけでもない元の世界よりも新しい世界で楽しむというのは、これ以上のない贅沢なのではなかろうか。しかも逆廻十六夜のスペックを持って。

 

「よし、儂の独断と偏見によって今決めた」

 

「へ?」

 

「お主には転生特典以外に、この力を授けよう。」

 

 刹那、俺の脳裏にあるセリフが浮かんで来た。……というかなんて禍々しいワード……。

 

「どうやら上手く行ったようじゃの。どれ、試しに言ってみぃ」

 

「は、はい、えっと…『求ルハ言霊。繰リ返サレルハ悲劇。止マヌ阿鼻叫喚。幾星霜ノ時ヲ経テ産マレシ、キボウヲ以ッテ、此ノ惨劇ニ終止符ヲ撃タン』【禁忌の獄】」

 

 そう言った次の瞬間目の前が()()()()()()()

 

 赤、赤、赤、赤。見渡す限り地獄のような光景が広がっていた。黒い人のような影がいろんな方法で殺されている。そこら中でそんな光景が続いてる中。宙に浮かぶとても大きく真っ赤に染まった月が不気味にその存在を主張していた。

 

「あ、あのこれは?」

 

「大体どういう世界か分かったのでは無いかの?」

 

 そう、この世界を作った原因である俺が1番よく知っていた。

 

 

 

 

 あぁそうだ、この世界は…

 

 

 

 

「思い出したかの?」

 

 

 

 

さっきの世界の前の世界。俺が平和を望んだ世界である。

 

思い出した。あの世界で神様が殺してくれて、俺は望んだのだ。次生まれるのは平和な世界がいいと。

 

「お主には酷な光景じゃったの……あれは運が悪かったただそれだけじゃ……儂から言えるのはよく我慢した…それだけじゃ……」

 

 だがしかし、過去は過去。今を生きる、(いや死んじゃってるけど)俺にとっては全て終わった事。両手で頰をパンパンッと叩いて気を取り直す。

 

「それでこの光景がどうして力に?」

 

「当時は忌々しいだけじゃったろうがセリフにもあったろう?言葉を求めた…と。」

 

あぁ成る程つまりは此処で俺が望んだ事を口にするとそういう……

 

「こいつはお主にとっての切り札となるじゃろう。効果はお主が望んだ相手を此処に引き摺り出すことが出来る固有結界じゃ。本来なら固有結界なぞただの心象を写すだけのみすぼらしいものじゃが、お主のこれは一味違うでの」

 

これは俺にとっても成長する為に忘れてはならない光景である。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ転生させるとするかのぅ」

 

「あの、色々とありがとうございました!次の世界で俺は一生懸命に楽しく生きますね!」

 

「なんかお爺ちゃんと孫みたいじゃの……」

 

神様は嬉しそうに笑う。

 

「そういえば神様は何てお名前何ですか?」

 

「儂?儂は、ディオニュソスと言われておる」

 

「ディオニュソス様ですね!じゃあおじいちゃんって呼びますね」

 

「ウワッハッハッハッ!……まるで本当の孫のようじゃ!では聖夜よ、行ってらっしゃい。」

 

「行ってくるね!」

 

 足元が光だし、和室の部屋から俺、神韋聖夜の姿はかき消えた。

 

「聖夜よ、そのうちまた会えるでな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば他のラノベ小説やゲームの世界に召喚される様になるのを伝えるの忘れてた……まぁ召喚させるの儂だし聖夜ならそのうち自力で移動出来るようになるか。その為にありとあらゆる才能を習得出来る身体にしたしのぉ……まぁ良いか」

 

この神様最後の最後まで抜けているのである。

 

 




 取り敢えず次回からありふれに入ります!一応ありふれ世界のヒロインは雫で決定です故。場合によっては増えるかも……,。

読んでくださったありがとうございます!誤字がありましたら気軽に仰ってください!


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幼少期

どうぞ!


眩しい光、誰かが俺の名前を呼んでいるのが聞こえる。

そう、俺は転生したのだ。どうやらちゃんと原作知識は削除されてるみたいで、ここがどう言う世界なのか全く分からない。だがきちんと知識はある。。。

 

「……………ちゃん」

 

ディオニソス様のこともちゃんと覚えてる。転生させてくれた事に凄い感謝しているのだ。

 

だが、

 

「…………やちゃん」

 

だかしかしである!

 

「せいやちゃん……ママですよ〜」

 

目の前にいるのは大和撫子といった風貌で泣きぼくろのある美しい女性。

 

「この子はあまり泣かないのね〜」

 

そう。俺は赤ん坊なのである。

 

いやいやいやいやいや俺の前の年齢25よ!?もう大人と言って良いほど精神も成熟しきってるのよ?それで赤ちゃんプレイは………難易度高く無いですかねぇ……。

 

話そうとしても、出るのは泣き声だけ。

 

やめて!トイレしたわけじゃ無いから!下脱がそうとしないで!!母親かなりの美人だから凄い恥ずかしいの!!そこの父親ぁ!微笑んで無いで助けろぉ!!

 

 

……駄目だ、あらあら元気ねぇ……って……もうなるようになれ……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

8年後…………

 

ごめん、特筆すべきことが無いから飛ばした。。。。あ、今は小学校に通ってて、最近八重樫さんって女の子と仲良くさせて貰っています。はい。なんか精神年齢引っ張られるみたいで普通に彼女と遊んでて楽しいんだよねぇ〜つか、普通に可愛いし。。。。

 

母親の名前は、神韋楓。父親の名前は神韋凌牙。と言うらしい。

父親名前かっけぇー……。

 

 

「なぁ聖夜」

 

「何?」

 

「お前剣道やってみないか?」

 

「剣道?」

 

「そうだ俺と母さんの知り合いにな道場を経営してる奴がいてな。因みにそこの娘さんが聖夜と同い年だそうだ。…………どう思う母さん!」

 

「いいんじゃないかしら〜霧乃さんのとこの娘さん雫ちゃんって言ったかしら〜」

 

「お父さんとお母さんがそう言うならやってみようかなぁ剣道!」

 

「おぉ!いい声だ!じゃあ早速明日聞いてみるから、楽しみにしておけよ!」

 

ふむ。剣道か、神様には前の転生特典で武術武器術の才能を貰ったし、この世界がどう言う所か分からない今、力をつけておく事に異存は無いな!まぁ今でさえ十六夜並みのスペックだし普段はかなり抑えてるからそう言った意味では既に強いと言えるんだろうけど……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

と、いうわけで次の日。

 

「ここが八重樫道場だ!」

 

あ、八重樫って昨日母さんも雫ちゃんって言ってたし知り合いって彼女の家のことだったんだね!

 

父親がインターフォンのボタンを押した。

 

『はい、どちらさまでしょうか?』

 

 対応してくれたのは落ち着いた女性の声だ。

 

「お、霧乃さんか!神韋凌牙だ!昨日言ってた息子を連れてきた」

 

『あら凌牙さん。いらっしゃい。鍵はかかっていませんから、そのまま中へどうぞ』

 

「「お邪魔します」」

 

お父さんとハモリながら門を潜る。

 

 直後、ヒュッという風切り音!

 

 横から父さんに向かって飛んできたソレを目でおってると……アレ?俺の方にも一個飛んできた。手元が狂っちゃったのかな。俺は体を半歩ずらしてかわす。

 

 あ、父さんとった。あ、割って中身を確認してる。あ、かなり吸い込んだのか泣いてる。なにやってるの父さん……

 

 父さんに連れられて客間まで向かう。

 

「久しぶりだ、凌牙腕は鈍っていないようでなによりだ」

 

「なんだあの球は!随分な挨拶じゃないか虎一」

 

「ふむ君が聖夜君だね?」

 

「神韋聖夜と言います。剣道を習いに来ました!」

 

「娘からよく君の名前が出てくるよ」

 

「え、八重樫さんがですか?」

 

「え、なになに。聖夜もう雫ちゃんと仲良くしてるの?」

 

「うん、学校で同じクラスなんだ」

 

すると、急に扉が開いて中から八重樫さんが出てくる!

 

「聖夜君!いらっしゃい!聖夜君も一緒に剣道するんだってね!楽しみ!」

 

「こんにちは八重樫さん一緒に頑張ろうね!」

 

「稽古の時間までまだ少しある。私は凌牙と話しているから雫は案内してあげなさい」

 

「うん、わかった!ついてきて聖夜君!」

 

八重樫さんに連れられて、客間を出て行く。ついでに父さんの後ろにいた男の人も会釈して。

 

 

 

「凌牙。あの子は何者だ?」

 

「へ?うちの息子だけど?」

 

「あの子、私の投げた劇薬ボールを見切ってかわしていたんだぞ?あの動き小学生で出来るのは天才だぞ」

 

「何言ってるのさ、虎一あの子がそんなこと出来る訳…「私も見ましたわ」霧乃さんまで……」

 

「まぁうちで剣術をやってればわかるさ」

 

「そうだね。取り敢えずうちの息子を頼んだ」

 

「あぁ任せなさい」

 

「ところで鷲三さんは?」

 

「父さんなら後ろに」

 

「うわ!ビックリした!!!気配消さないでくださいよ……」

 

「聖夜君は……私の存在にも気付いていたな……会釈をしていった」

 

聖夜に対して謎が深まる客間の一同。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そんなこんなで剣道を習い始めて2年。なんと小学生4年という若さで俺こと、神韋聖夜は全国大会で優勝を果たしてしまった。ちなみに、俺の強さは、虎一さん達にとっても驚きらしく、娘を頼むとまで言われてしまった。雫ちゃんが嫌がると思うけどなぁ……あ、剣道を始めた日の帰りに八重樫さんだと家族もいるから名前で呼んでくれといわれた。

 

俺、嫌われるような事したかなぁ……。

 

あ、ちなみに剣道の強さは最初は雫の方が強かった。が、しかーし十六夜スペックの俺は始めて1ヶ月で直ぐに抜かしてしまった……ので今は俺が色々と教えてあげてるのだ!

 

 

5年にあがると奴が現れた。

そう天之川光輝である。

あいつは俺たちの前に現れてそうそう、雫に向かって「雫ちゃんも俺が守ってあげるねなどと」宣ったのだ!

 

剣道では一切手加減をしなかった。イケメンめ……

というより俺はとことん天之川とは性格が合わなかったのだ。俺は少しやっただけでスポンジの様に吸収するのでそこまで練習しなくても強くなった。だからあまり練習もしない俺に、雫に教えてあげてる時など「雫に迷惑を掛けるな」などと意味不明な供述をしており……。

 

ついには、「俺が勝ったら雫に二度と近づくな!」などと勝負をふっかけてくるのだ。

勿論雫と離れるつもりなど毛頭ない俺は、瞬殺してやったわ。6年まで毎年全国大会優勝し、3連覇した俺を倒せると思うなよ!

 

 

が、そんな日常が続いたのも、小学校までだった。中学に上がる時、父さんが職場をちょっと変えたらしく隣町まで引っ越すことになった……。ちなみにそれを機に剣道もやめ、某史上最強の弟子を真似て柔術、空手、中国拳法、ムエタイ、あとついでに武器術を始めた独学で。流石、転生特典。スルスルと吸収されていくわ。

 

 引越しのことを伝えると雫はギャン泣き、それを見越してた訳ではないけど、雫に似合うだろうなぁと街で見つけた赤紫のシュシュを買っていたのであげた。いつもポニーテールでまとめてるのでそのうちゴム切れそうだなぁって思ってたから丁度良かった。

 

雫につけてと言われたので付けて上げた時こっちを向いた時の涙に濡れながらも心の底から喜んでくれたような笑顔は忘れない。

 

 

あぁ俺はこの時……いや既に初めて会った時から彼女に一目惚れしていた。見惚れるついでに何か言った気がするが忘れた。

 

 

中学に上がってからも連絡先を交換していたので毎晩電話をした。

どうやら、白崎さんという可愛らしい女の子と友達になったみたい。

俺からしたら雫も十分可愛いと言ったら無言で切られた。解せぬ。

 

ちなみに俺にもちゃんと友達出来たぜ?

南雲ハジメって言ってオタク趣味でめちゃくちゃ話の合う奴がな!

将来のことも見据えてすごい奴って言うのが俺の感想。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

雫SIDE

 

私には、気になる男の子がいる。

その子は私の学校に転校して来た子である。

 

私の家は八重樫道場と言いかなり有名な道場で門下生の人も沢山いる。そこで生まれた私は当たり前のように幼い頃から剣道をやっていた。お父さん曰く、私には才能があるらしい。

 

そんな事だから手にはマメが出来、短髪で揃えた髪型のせいで学校では男女なんて、悪口を言われていた。要するにいじめである。もともと溜め込みやすいタイプだった私は誰にも相談せずにただひたすらに耐えていた。

 

そんなある日のことである。彼が転校して来たのは。

 

「神韋聖夜です!よろしくね!」

 

まだ小学生だしカッコイイというよりかわいいって感じで、要するにヘナヘナしてて弱そうと言うのが私の印象だった。丁度隣の席になるらしく彼が話しかけて来た。

 

「聖夜です!よろしくね!名前はなんて言うの?」

 

「八重樫雫。よろしく」

 

どうせこの子も私の事男女とかなんとか悪口言うんだって思って少しぶっきらぼうに言ってしまった。けれど。

 

「よろしくね!」

 

彼は笑顔だった。

 

休み時間。いつも私の事をいじめてくる男の子が近くまで来て、

 

「おい、聖夜!そいつに近づかない方がいいぜ!」

 

あぁまたか……なんて思ってると。

 

「ヤダ!」

 

即答だった。しかもいい笑顔で。

 

「こいつ男女(おとこおんな)なんだぜ?近づいたらオカマがうつるって」

 

この年代でそう言う言葉を知っているのに驚きだけど更に驚いたのが次の彼の発言。

 

「えーと、日本にはね大体4%つまり100人に4人ほどはニューハーフの願望もしくは手術を受けてる人がいてね、これは意外と馬鹿にならない数値でね人口にすると500万人ほどの人がそういう考え方をしてるんだ。それを馬鹿にするってことはつまり500万人を敵に回すって事だよ?」

 

「な、なにいってんだよ……」

 

「十人十色って言葉があるように人それぞれなんだよ。いろんな人にそれぞれ特色があって個性があって、考え方がある。それを馬鹿にすると、人として成長出来なくなるよ?」

 

「何言ってんだよバカやろー!!」

 

「あ、行っちゃった。全く……八重樫さん普通に可愛いと思うんだけどなぁ……」

 

私は顔が真っ赤になっていくのを感じた。嬉しい。正直何を言ってるのか半分くらい理解できなかったけど、自分を女の子として見てくれてるんだっていうのは分かった。こういう風に言われたのは初めて。

 

その日から彼と良く遊ぶようになった。

放課後のギリギリまで彼と遊んだ。色んなことを教えてもらった。彼と一緒にいると心がポカポカして、今までキライだった剣道も頑張れた。お母さんにその事を話したら、お母さんは「あらあら、家を継ぐ人が現れたかしら」なんて言ってた。意味が分からなかったので聞いても「あらあら」としか言わない。お父さんに聞いたら「今度うちに連れて来なさい」って確かに家で遊んだ事ないから今度呼んでみよう!

 

 

学年が一個上がると彼は家に剣道を習いに来ると言う。とても楽しみだった。これで彼と一緒にやれば剣道だって楽しくなるって思った。結果その通りだった彼と一緒にやると言う事にドキドキして、とても嬉しかった。最初は私が教えてあげたりしていた。私の方が長くやってるし才能もあるからそうそう抜かされることはないだろうと思っていた。

 

しかしたった1ヶ月。それだけで彼は私より強くなっていた。でも不思議と嫉妬の感情はなく、寧ろ彼が私の事を守ってくれるんじゃないか、小さい時に夢見た白馬の王子様の様になってくれるんじゃないかと喜んだ。

 

 

4年生になって、彼が全国大会で優勝した。ニュースにもなったし新聞でも取り上げられていた。私はまだ県レベルで彼との差にちょっと絶望していたけど、そんなことはお構いなしに彼は私の事をちゃんと見てくれていた。ちゃんと側にいてくれた。

 

 

 

5年生にあがったらうちの道場に、天之川光輝君と言う男の子が入った。彼は私の事を守るなんて言ってくれたけど、彼自身は直接何かをしてくれる訳ではなかった。

むしろ私が天之川君の近くにいる事をよく思わない女子に靴を隠されたりなどといじめられたりした。

天之川君に言うと、天之川君は私の事をいじめない様に口だけで言うだけ言っていじめは陰湿にばれない様にさらにひどくなった。

 

その事を聖夜に、彼に言ったら、彼は「雫が可愛いから嫉妬してるんだ、ちょっと言ってくる」なんて言って、本当に解決してしまった。彼何を言ったんだろう?

 

あぁずっとこんな日常が続けば良いのに……そう思っていた。だけどそんなものは長く続かないのが世の常なのよね。

 

中学に上がる時も、勿論彼と一緒だと思っていた。学校から帰る時いつも一緒に遊んでいた公園に寄ってこうと彼が言ったので一緒に行った。そこで聞かされた引越しという衝撃の事実に私は思わず大泣きしてしまった。

 

後にも先にもここまであたふたしてる彼を見たのは初めてだったわ。

 

私に似合うからと赤紫色のシュシュを私の為に買ってくれてたみたい。可愛いそれを、つい私は付けて欲しいと頼んでしまった。けど嫌な顔1つせずに、付けてくれたのが嬉しくて彼の顔を見て笑顔になった。

 

「やっぱり雫は笑ってる顔が1番似合うよ。……雫何かあったら俺のことを呼んでくれ。何があっても俺が雫を守るから」

 

 

 胸にストンッと落ちた。

 

 あぁ、そんな風に言われたら好きにならない訳無いじゃない。分かってた最初から。あなたが転校して来た時あの時に言われた言葉が私の心の奥底に貼り付いて、離れない。

 

 神韋聖夜君。あなたの事が心の底から大好きです。

 

まだ面と向かっては言えないけど、いつか伝えられたら良いな…。

 

 

 




 ここまで呼んでくださりありがとうございます!
展開早いのは気にしないで……さっさと物語に移りたいのよ…


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そして異世界へ…

 総員第一種先頭配置対月曜日迎撃戦用意!

 

などと、某新世紀で出てきそうなワードをぼんやり考えながら高校へと歩みを進めていた。

 

「はぁ…学校ダルすぎる…」

 

 中学校では雫と離れてしまったものの、高校では運命が収束したかのように、それはもう当たり前のように同じ所へと通うことになってはや2年目。

 

 クラスには雫だけではなく、我が心の友である南雲ハジメ、残念系幼馴染みの天之河光輝、そして雫が中学校で知り合ったという白崎香織、見た目は脳筋中身も脳筋という坂上龍太郎、といったメンツと同じクラスに配属される事になっていた。

 

「あ、聖夜〜!」

 

「お、おはようハジメ」

 

後ろから声をかけてきたのは、我が心の友こと南雲ハジメである。

 

「おはよう!この時間に登校って大丈夫なの?」

 

「ハジメだっていつもこんな時間だろうに…また親の手伝いか?精が出ますな〜」

 

「あはは、まぁね。自分がやりたくてやってる事だから、満足してるんだよ」

 

「ハジメは真面目だなぁ…」

 

 目の下にクマができてんぞ。

 

「そういえばハジメ、この前買ったゲームあれどこまで進んだ?」

 

「全部クリアしたよ?」

 

何言ってんだと、いうような顔でこっちを見るハジメ。

 

「まじかよ、ハジメ何処にそんな時間があるんだ……あ、だったら4面のボスの倒し方教えて欲しいんだけど」

 

 つい先日買ったロールプレイングゲームの話である。

 

「あぁ、あれね、ちなみに聖夜は最初のターンなにしてる?」

 

「え?普通にバフかけて、脳死殴り」

 

「あー、それしちゃってるのか…確かに3面までならそれでクリア出来るけど、4面のはまず、遊ぶってコマンドを選ぶんだよ〜次に味方に魔法反射かけてそいつに即死呪文で終わり」

 

「は?」

 

「全く、最初はびっくりしたよ〜こんな方法で倒せるなんて…」

 

「それ絶対正規じゃ無いだろ…つかなんだそのクソゲーボスに即死効いていいのかよ…」

 

 

 

 下らない話をしながら登校する。結構時間ギリギリだけど。

そして憂鬱なのが教室である。

 

ハジメと揃って教室に入ると、教室から舌打ちと睨みの嵐。

もう慣れた。

 

ハジメの隣である自分の席に向かう。すると毎日のことのようにちょっかいをかけてくる輩がいる。

 

「よぉ、キモオタ共!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモいじゃん〜」

 

「ばっかオマエラ、毎度言ってるがなエロゲに対してキモいは偏見だって言ってんだろ。やったことが無いからそう言えるんだよ。ものにもよるがな、あのストーリー生は普通の小説では出せないモノがあるんだぞ。グラフィックや魅力的なキャラもそうだが、なんと言っても心に響くオープニングやエンディングテーマ。ストーリーを最後まで見たからこそ、その曲で歌われてる意味に気付いたりするんだぞ?

それをエロゲだからと一括りにして馬鹿にするなどやってる事が小学生と同レベルだぞ!」

 

ちなみに俺のオススメは、は○ゆきさ○ら。あれは本当に感動した。あれをやってから聴いた、『Hesitation snow』は泣けた。

 

 と、ここで逆上する、声をかけてきた主である檜山大介。ちなみに取り巻き3人は近藤礼一、斎藤良樹、中野信治である。

 

「あ!なんだと神韋!」

 

「ってハジメが言ってた」

 

「えぇ!?僕!?」

 

 

ヘイトを向けられるハジメ、哀れ。まぁ向けたの俺だけど。

 

「おいおい、4人で集ってハジメを責めてやるな、そんなんだからお前らまとめてハクションカルテットとか呼ばれんだぞ?」

 

「「「「そう呼ぶのはお前だけだ!!」」」」

 

ちなみにハクションカルテットとは、彼らの頭文字を取って、H、K、S、Nとなるので俺が勝手にそう呼んでいるだけである。

 

まぁハジメの場合敵愾心を持たれるのに原因はもう一つあるんだけど……

 

それが彼女である。

 

「南雲くん、神韋くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

そう、雫のお友達こと、白崎香織である。

このクラス、いや学校でハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない人達であり、この事態の大元である。

 

 雫と揃って二大女神なんて言われるほど美少女である。いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見が良く責任感も強いため学年問わずして頼られるのである。嫌な顔1つせずに接するその姿は高校生とは思えない懐の深さである。

 

 まぁ、俺は雫派ですけど。

 

なんで、そんな彼女が南雲ハジメに構うのかと言うと、、、側から見れば直ぐわかるのだが彼女、南雲ハジメに惚れているのである。はいこの話題終了。

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん」

 

「おはよう白崎」

 

挨拶を返した瞬間、刺すような視線と殺気。十六夜スペックの俺は全然だが、ハジメには辛いだろう…あぁハジメ頬引きつってる。ちなみに気付いてないのはクラスの他の面々にハジメ本人と、残念系りんじ……じゃなくて幼馴染みの天之河と脳筋坂上だけである。俺と雫からしたらバレバレである。寧ろ早くくっ付け。

 

「聖夜、南雲君。おはよう。毎日大変ね」

 

「香織、また彼らの世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気のない奴にゃあ何を言っても無駄だと思うけどなぁ」

 

 そう言って声をかけてきたのはみんなのお姉さまこと八重樫雫。残念系自己解釈幼馴染みの天之河光輝。脳筋坂上龍太郎。まぁいつものメンツである。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

「おはよう雫。ついでに(残念)天之河と、(脳筋)坂上も」

 

あ、雫ちゃんとあげたシュシュ付けてくれてる……もうボロボロだし新しいの買ってやるか……

 

そこから天之河がハジメに絡んでいくまでがいつもの光景である。

 

………………寝よ。

 

「聖夜」

 

「どした雫」

 

「今度の日曜日空いてるかしら?」

 

「空いてるが…………分かった荷物持ちをしろとな!?」

 

「そこまで酷な言い方はしないわよ。……そうね……久しぶりにデートしましょ?」

 

教室がざわつく。なんであんな奴ととか言う声が聞こえる。おい誰だいまお姉さまに手を出したら穴ぶちぬきますとか言った奴。

 

「おーけーおーけー」

 

何でここまで気軽に返せるかと言うとそれは中学校まで遡る。

年始で雫と会うことになり、2人きりで買い物をする事になったのだが、俺は言ってやったのである。日時や場所を決めた男女が会う事をデートと言うのだ、と。何も恋人が一緒に出かけるだけがデートではないのだ。

 

まぁそんなこんなで、雫はそう思って言ったのだろうと、俺は意識せずにそのまま返した。

 

 

ちなみに雫はこの時『誘えたっ!聖夜をデートに誘えたっ!』と、内心狂喜乱舞であった。愛い奴である。

 

が、ここで待ったをかけるのが勇者クオリティ。我らが天之河である。

 

「おいおい、雫。買い物なら俺が一緒に行くから、神韋みたいな無責任な奴と一緒に行くなんて許さないよ?」

 

「なんで光輝の許可がいるのかしら?っていうか…私は聖夜を誘ってるの。それに聖夜は無責任なんかじゃないわ!幼馴染みだとしてもそれは取り消して頂戴。」

 

「まぁ落ち着け2人とも、争いは何も生まないぞ?」

 

お前当事者だろ!という心の声が一致するクラスメイト。

 

「……そうだな天之河。勝負をしよう」

 

「勝負だと?」

 

「ジャンケンで勝った方が雫とデートをする。負けたら口出ししない。それでいいだろ雫?」

 

「まぁ、聖夜がそう言うならそれで決めても良いけど……」

 

嘘である。雫は俺がジャンケンで負け無しなのを知っている。それに天之河は雫に言われたら断れない。だからこそ雫の口から言わせたのである。

 

「雫がそう言うなら分かった。そうしよう。」

 

ノッタナ。

 

「「最初はグージャンケンポン!!」」

 

結果…天之河はパー……俺はチョキで俺の勝ちである。

 

「な!?今後出ししたろ!!」

 

「おいおい何を言ってるんだ天之河。このクラスメイトが大勢いる中俺がそんな卑怯な事をするとでも」

 

正解で〜〜〜す!俺は後出しをしました。天之河がパーを出し終えた瞬間。俺はそれを見てチョキに変えたのだ、その差僅か0.001秒。はたからみたら普通に天之河が負けたように見えるだろう。

 

十六夜スペックだから出来たこと。直前に手を変えるなど容易い。

 

「くっ………」

 

これ以上の追求は、無意味だと悟ったのだろう、証拠もないから当たり前である。

 

「じゃあ、宜しくね聖夜♪」

 

「こちらこそ宜しくな雫。」

 

((はぁ……可愛い(カッコいい)))

 

いい笑顔である。

 

ちなみに天之河がこっちにきたため、ハジメと白崎の世界は構築されつつあった。

 

「ねぇ南雲くん……あの2人ってデキテルよね?」

 

「白崎さんもそう思った?実は僕もそう思ってた」

 

クラスメイトがギャーギャーうるさくて2人が何喋ってるのか聞こえなかった。

 

 ち、十六夜スペックから元に戻してたのが仇となった……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

はい、授業は殆ど寝てました〜。お昼です。

 

学年一位の座は譲ったこと無いし、授業中当てられても即答するので特にお咎め無し。

 

「にしても、聖夜すごいよね〜さっきの奴なんて僕全然分かんなかったよ〜」

 

「勉強不足だなハジメ」

 

まぁその問題と言うのも、『このたびは ぬさもとりあえず 手向山 紅葉の錦 神のまにまに』を詠んだ人物を答えろって奴。正解は菅原道真なんだが、それだけ言われても普通分からないよなぁ……普通の高校生には。それこそ百人一首やってないと。

 

つか社会の問題で出すか?それ。どっちかっていうと古典だろ…。

 

まぁその問題を出した当の畑山愛子先生はクラスの女子とお喋りに夢中っと。

 

  じゅるるる、きゅぽん!

 

隣から音が聞こえてくる。10秒チャージハジメ君である。

 

 あれ?ここにいていいのか?

 

その直後しまった!という顔をするハジメ。

 

「南雲くん。珍しいね、教室に居るの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」

 

拒否しようとするハジメに、ぐいぐい行く白崎。そこに待ったをかける天之河。

 

それを背景に俺はお弁当を食べ出す。俺のは手作り弁当である。自信作は唐揚げ。ポイントはお好み焼き粉を使うこと。

 

「聖夜、1人食べてるのなら一緒に食べない?」

 

「一緒に食べるか」

 

席をくっ付けて食べ始める。

 

「これ、美味しそう一個頂戴な?」

 

唐揚げである。仕方ない。これの美味しさを広めてやるとしよう……自分の箸で掴んで…

 

「はい、あーん」

 

「!?」

 

「なんだ、食べないのか?」

 

「い、頂きます!」

 

口に入れた瞬間その味を理解したのだろう…いい笑顔をする。

 

「美味しい!!」

 

「そいつは何より」

 

再び食べ出す。

 

 なんだ、雫こっちを見ながら顔を赤くして。は!?なんか顔に付いてる!?

 

顔を弄る俺を見て微笑む雫。未だに何か言いあってるハジメ達。甘々な光景を辺りに振り撒きながら、俺はその幸せを噛み締めていると……

 

 

凍りついた。

 

 

丁度俺達の足元に光り輝く円環と幾何学模様が現れる。その異常事態に周りの生徒達が気づく。その光は教室をどんどん満たしていきーーー

 

この感覚はあれだ!!転移するぞ!?

 

咄嗟に雫を抱きしめ……

 

光によって真っ白に塗りつぶされていた教室に再び色を取り戻す。

が、そこにはだれもおらず倒れた椅子や食べかけのまま開かれた弁当など、教室の備品はそのままに人だけがその姿を消していた。

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます!
グダグダはいつも通りになる予定ですので……


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異世界到着からの

すいませんかなり遅れました。


 眩い光が収まり、閉じていた目をゆっくりと開ける。

 

まず最初に飛び込んできたのは………

 

ギュッと目を閉じた雫の顔だった。咄嗟のことだったので抱きしめる形になってしまった。

 

「可愛い…………じゃなくて!大丈夫か雫」

 

「うえぇぇぇ!?せ、聖夜!?」

 

そらそうなるわな。目の前に俺の顔がドーンだぞ。

 

「怪我は無さそうだな良かった……」

 

「あ、ありがとう……」

 

そう言いつつもなかなか離れない2人。

 

「「………………………………」」

 

どちらともなく近づいていく顔。

 

 後戻り出来なくなるぞ!戻れ俺!

 

そう思いつつも雫から目を離せない。

 

そして………………………

 

「そこ2人!ラブコメやってないの!」

 

そこへ、さっきまで呆然としていたが2人のなんかイイ雰囲気を見て、自分も南雲くんとああなりたいなと、思いつつもそれどころでは無いと慌てて声を掛ける白崎香織。

 

「お、お、お、おう!だ、大丈夫か雫!」

 

「だ、だ大丈夫よ!というか香織!私達は別にラブコメなんて……」

 

「もう少しでくっつきそうだったよ?」

 

2人して慌てながら弁明を図る2人。

 

 俺は何をやってんだ……。

 

そこで改めて周りを見渡してみる。

今自分たちは巨大な広間らしきところにいるらしく素材が大理石で出来ていることや、彫刻のなされた巨大な柱、ドーム状の天井からかなりの豪華で重要な大聖堂であるとわかる。

 

さっきまでラブコメをやっていた俺達だが、そんなことが気にならないくらい、呆然と周囲を見渡すクラスメイト。どうやら教室にいた人全員が巻き込まれたようだ。

 

 これ、多分異世界転移って奴だよなぁ………ってことはこれ原作はじまったか。マジでどんな話か分からん。

 

そんな彼らを取り囲む様に、祈りを捧げる様な格好の法衣集団がいる。その中でも特に豪奢で煌きらびやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

 もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

 

 そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で聖夜達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 

 どうやらテンプレ通りの異世界召喚らしいな。最初から奴隷扱いとかされないだけまだマシな方だな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

さっきの場所から移り、今は食堂の様なところへ来ている。

十メートル以上ありそうなテーブルに上座のほうから愛子先生、天之河、坂上、白崎と、クラスのカースト順に席に着いていく。

 

俺とハジメは勿論最後の方である。

 

「で、雫。お前は白崎達のところへ行かなくて良いのか?」

 

「良いのよ別にここで、イシュタルさんだって好きに座って良いと言っていたでしょ?……………………それに………………」

 

「それに?」

 

「………ううん、やっぱ何でもない」

 

「そうか?まぁ雫が良いならいいけど」

 

なんかハジメがジト目でこっち見てるけど無視だ無視。

 

 

 

イシュタルとやらの話によると、人間族と亜人族と魔人族の3つでそれぞれ北、東、南と分けられていて魔人族とは長い間戦争をしていたという。魔人族の個々の力が大きいのに対し人間族は数で補い拮抗していたが、最近魔人族による魔物の使役により数の有利も覆されつつあると。んで、それに対する救世主として神エヒトとやらに呼ばれて俺達が召喚されたと。

 

 まぁ、要するに戦争の駒になれってことだな

 

このことに対して愛子先生が待ったをかける。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く返してください!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 あぁまた愛子先生が跳ねてる……

 

身長150センチ程で童顔なためどう見ても大人には見えない。

 

 これで原作開始って事だな……キーパーソンは間違いなくハジメだろう。あんないじめられっ子で学校のマドンナとも言うべき白崎から好意を寄せられてる時点で主人公確定だな。情報は確かに大事だがイシュタルの目からは侮蔑しか感じない。引き出せる情報もロクなものは無いだろうな。

 

愛子先生とイシュタルの問答を横目に見ながら小さくため息を吐く。

パニックの治らない中いきなり天之河がテーブルを叩いて立ち上がる。

 

 おい、テーブルに当たるなよ。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」 

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

「皆んな!俺に力を貸してくれ!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河。無駄に歯がキラリと光る。殴りたい。その笑顔。だが、それはそれとして

 

「おい、ちょっと待て」

 

いきなり声をかけた俺に、雫とハジメがギョッとこちらを見るのを傍目に天之河に向かって話す。

 

「ど、どうしたんだ神韋」

 

「どうしたじゃねぇよ、どうしてお前はそんな無責任な事が言えるんだ?」

 

「無責任ってそんな事は無い!現にイシュタルさんだってこの世界の一般人に比べたら戦う力が「そういうことを言ってんじゃねぇ」……じゃあどういう……」

 

「自分が先頭切って戦うって事に文句は言わねぇよ。お前自身が決めた事だからな。だが愛子先生も言っていたがお前は他の人にも、戦争をさせるつもりか?」

 

「俺達にしかできない事だろ!?俺達が戦う事で多くの人が救われるんだぞ!?」

 

「言い方を変えよう。………お前は他の人にも……クラスメイトにも()()()に加担させるつもりか?」

 

「なっ………!?」

 

他のクラスメイトも気づいたのだろう、戦争をするって事は人殺しをするって事と同義である。その事実に遅れながら理解をしめす。

 

「まぁ、、、今すぐに人を殺せって言ってんじゃ無いだろ。魔人と言うだけあってそれは人の形をしているのだろうしそうじゃ無いかもしれない。………が、戦争に参加するのは自分の意思で決めろ。他人に決められて、はいそうですかってなるわけないだろ」

 

 取り敢えずこれで、こいつらの浮かれた気分も無くなっただろう。少なくとも力に溺れて早死にするリスクは少し減ったくらいだが………それにしてもイシュタルの野郎、このクラスでは天之河が発言力がある事に気付いてたな……説明する時も天之河にアピールする様に話してたし……

 

そう考えつつイシュタルに目を向けると、親の仇の様な目をしてこちらを睨んでいる。

 

 こわっ……ジジイの熱い目とか誰得だよ……まぁ、お前の思う通りに物事進ませてたまるものか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

はい!結局、天之河率いる幼馴染'sがそれしか出来ないからと戦う事を決め、クラスメイトもそれに釣られる様にしたので特に俺が割って入ったのは意味が無かった。

 

 恥ずか死。まぁ最後まで雫とハジメが渋ってくれてたので良しとしよう……この2人は絶対に守る……後ついでにハジメヒロインの白崎も。

 

俺の中の優先順位は、雫≧ハジメ>白崎>>愛子先生>>>>>>>>>クラスメイト>>>>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>>>>>天之河である。

 

で、戦争参加を決意した今、必要になるのは戦い方などなど、超平和世界にいた雫達はただの高校生であるため、いきなり魔物とか魔人とか戦えなんて土台無理な話である。そんな訳で、やって来ました!ハイリヒ王国!

 

俺達が召喚された場所は神山と呼ばれる山の頂上にある聖教教会と呼ばれるところであった。その麓にあるのがその国だそうだ。ちなみにここに来るまでにこの世界の魔法とやらを体験したが……これ、そのうち自分でも魔法作れないかな?ドラクエのが目標。

 

王宮に着くと、聖夜達は玉座の間に案内された。イシュタルが堂々と玉座まで敷かれたレッドカーペットを歩く先に立ち上がって待つ初老の男性。この国の王様である。そこで、おもむろに手を差し出したイシュタルに対し国王が恭しくその手を触れないほどのキスをする。

 

 これで、この国は王様より神様の方が上である事が確定したな……傀儡か、それ以外か…。

 

そこからはただの自己紹介。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃をルルアリアといい、傍にいる金髪少年をランデル王子、14くらいは王女をリリアーナと言うらしい。なんとま、可愛らしい……そんなことを考えると横腹を雫に小突かれた。

 

その後、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。王宮では、衣食住が保障され、戦闘訓練の方もいずれも優秀な人たちが紹介された。

 

晩餐が終わり解散になると1人一部屋ずつ与えられた部屋に案内された。皆んなが寝静まった頃を見計らい、俺は部屋を抜け出し裏庭みたいな誰もこなさそうなところに足を運んだ。

 

 

「これから始まる訳だが…十六夜の戦闘力は常にフルオープンでいいか……あの擬似世界を使えば言ったことや念じたことが現実になる訳だし……というか色んなアニメの戦闘方法とかやってみたいし……取り敢えず武器どうするか……」

 

それから一通り運動して部屋でぐっすりと眠った。

 

 

 

---------------

 

 

 

翌日から、戦闘訓練と座学が始まった。それに伴い身体能力、この世界で言うステータスを目に見える形にすると言う。

 

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

仕事は副長(副団長)に押し付けてきたらしい。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

その、気さくで接しやすい性格は聖夜達にとっても気楽で良かった。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう? そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

アーティファクトと言うのは、現代では再現できない秘宝的なアレである。まぁ頑張れば再現出来ないこともなさそうだな。

 

早速配られたプレートに血を垂らしてみる。

 

 

===============================

神韋聖夜 17歳 男 レベル:1

天職:器用貧乏

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:言語理解

===============================

 

まぁ、うん、正直予想はしていた。だって十六夜スペックだぜ?ステータスプレート如きで測れるわけないよな……ってかなんだよ器用貧乏ってそれ天職じゃなくて称号だろ!いや、称号だとしても酷すぎる……。せめて問題児とかにしてくれよ……あと技能、何コレなんでこれしかないの?これって皆必ずついてるようなデフォルト技能だろ!?

 

メルド団長曰く、レベル上限は100らしくステータスも鍛えればそれなりに伸びるらしい。天職は謂わば才能のようなものらしく戦闘系天職と非戦系天職に分類され、戦闘系は千人に一人、ものによっては万人に一人の割合らしい。非戦系も少ないと言えば少ないが百人に一人の割合でいるらしい。また十人に一人という珍しくないものも結構ある。殆どは生産職らしい。

 

 え?俺は?これはどれに分類されるのよ?

 

ステータスの説明でハジメの顔が真っ青になった。

 

 あ、多分相当低かったなあれ。

 

メルド団長に次々とステータスプレートを見せていく中、ハジメの番が来た。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。まぁ、これで俺の武器は決まった。ハジメに()()を作ってもらう事にしよう。

 

 その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。その様子に檜山が声を上げようとするがそんな事をさせる俺ではない。

 

「じゃあメルド団長!俺のはかなりのレアケースでは?」

 

そう言ってすかさず声を上げステータスプレートをメルド団長に渡す。

 

「うん???なんだこれ?器用貧乏なんて天職見たことないぞ?それにそれ以外の項目もエラーを起こしている……」

 

やはり器用貧乏は天職ではないらしいな。

 

その場がザワっとする中、雫とハジメが驚いたようにこちらをみる。

 

「どうなんですかね?」

 

「ま、まぁステータスプレートが不具合をおこしたのかもしれないな。悪いが他ので試してくれ」

 

そう言われて他のステータスプレートに血を垂らしてみても結果は変わらない。

 

「う〜む確かにレアケースだな……ステータスが低すぎてエラーを起こしているのか??」

 

 逆です。高すぎてエラーを起こしてるんです。まぁこれでハジメから意識を逸らすことは出来たな。

 

俺の目論見通り、ハクションカルテットが絡んできたのは、ハジメでは無く俺だった。あまりにもうざかったので檜山にはデコピンで吹き飛ばしておいた。その時の周りは唖然とし、雫とハジメは何処か納得した様な顔をした。どうやら理解してくれた様である。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!

更新遅れた理由ですがね………はい、古戦場です。グラブってました。。まぁおかげで5万位以内で金剛も落ちてくれたので私的に満足です。


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いじめ……?

ステータスが分かってから、2週間が経過し俺は今、あの裏庭で1人日向ぼっこをしながら微睡んでいた。

 

あの後メルド団長に相談し、俺の訓練を免除してもらった。と、言うのも俺には訓練が必要ないって言うのが理由である。その証明にメルド団長とは他言無用で一対一で戦った。まぁ勿論圧勝したのは言わずもがなである。

 

その間、知識を求め図書館に通い続け、必要そうなモノ役立ちそうなモノは全て覚えた。

で、やる事が無くなったので他の人の訓練が終わるまでこうしてウトウトしている訳である。メルド団長には訓練に参加して他の人を鍛えて欲しいと言われたが、俺としてはまだクラスメイトに手の内を明かすつもりはないので断った。そのクラスメイトにはメルド団長から必要ないと言うことだけを伝えてもらい、想像に任せる事にした。

 

メルド団長には、召喚される前の世界にあった戦術などを話し合ったりして、役にたててもらう事にした。あの人超良い人だし信頼できる。今は兵法三十六計の話をしている最中である。

 

「あ、やっぱりここにいた」

 

「お、ハジメか、ちょうど良いところに」

 

「どうしたの?」

 

「ハジメの天職って錬成士だろ?あるものを作って欲しくてな」

 

「あるもの?」

 

「あぁ、実はルービックキューブを作って欲しいんだ」

 

「ルービックキューブ?なんでそんな物を?」

 

「そいつを武器にするつもりでね…ふふふふ」

 

「武器ィ!?どう頑張っても角で殴るくらいしか出来ないよねぇ!?」

 

「あ、そうかハジメは知らないんだったな。別にハジメとかには隠すことでもないし見せてやるよ」

 

「見せる?何を?」

 

「『求ルハ言霊。繰リ返サレルハ悲劇。止マヌ阿鼻叫喚。幾星霜ノ時ヲ経テ産マレシ、キボウヲ以ッテ、此ノ惨劇ニ終止符ヲ撃タン』【禁忌の獄】」

 

そう言うと、あの世界が俺とハジメを包んだ。

 

「せ、聖夜!こ、ここは!?」

 

「ここは俺の擬似世界。ある種の魔法だな」

 

この世界はどうやら自分の心象を写すとだけあり、その風景を作り替えることも可能である。前と同じなのは背景と巨大な赤い月だけで、あの時あった黒い人影の様なモノは無い。アレは見た通り人が様々な方法で殺されてる姿であり、詠唱にある阿鼻叫喚そのものであった。まぁ流石にそれをハジメに見せるわけにもいかないからね。

 

「す、凄いよ!!なんて厨二心をくすぐるセンスをしてるんだ!?」

 

「うぇえぇ!?反応する所そこ!?つか厨二はやめてくれ!凄い恥ずかしい!」

 

ハジメが暴走して何とかして止めるため格闘すること数十分。

 

「落ち着いたか?ハジメ君よ」

 

「ご、ごめんよあまりにも興奮して」

 

「いや、別に構わないけど……で、ルービックキューブなんだけど……」

 

「ああ、そう言えばそうだった。それで、ルービックキューブを作るのは良いけど作り方とか、初めて作るから時間かかるよ?あと素材も無いし」

 

「素材はこれ」

 

「いつの間に!?これは?」

 

「合成樹脂。プラスチックのアレね素材はここで念じればいくらでも出せるから錬成の練習にもなるだろ?いくらでも失敗してくれ」

 

ハジメの錬成は素材さえあれば工程とかを飛ばして形にする事が出来るらしい。俺もその技能欲しい。

 

「でもルービックキューブを作ったとしてもどうやって武器にするの?」

 

「それは作ってからのお楽しみだな」

「わかった!楽しみにしてるよ」

 

「そう言えばハジメも何か俺に用があったんじゃ無いか?」

 

「あ、そうだった!メルド団長が呼んでたんだよ!なんでも兵法三十六計話してるんだって?」

 

「あ、成る程ね。もう時間か。あの人とは意外に話が会うからね。ハジメも図書館で頑張って知識を溜め込んでるんだろ?ハジメや俺みたいな弱い奴は知識が武器になるからな」

 

「え?何言ってんの?聖夜ってたぶんあの中でも1番強いでしょ……というかこの世界で1番強いんじゃ無いの?」

 

「まぁ、……そうかも知れんが……」

 

「でも、そしたらどうして天職が器用貧乏なんだろうね?そこまで強かったらオールラウンダーとか、万能とかそっちの方が合うだろうに……」

 

「メルド団長によるとこういう天職って神様が決めてるとか言われてるらしいぞ」

 

「あ、なら聖夜の才能に嫉妬した神様が、形だけでもってわざとそういう天職にしてたりしてね」

 

「仮にそうだとしたら傍迷惑な神様だな……世界を助けて欲しくて呼んだのに弱体化させる様な天職とはこれいかに……少しも助からねぇ」

 

「あはは、それにしても僕って、聖夜の事知らない事だらけだなぁ……あの頃から喧嘩とかも強かったの知ってるし色んな武術やってたのは知ってたけどまさかデコピンで人1人飛ばせるほど強いとはなぁ…」

 

「ハジメも自分を守れるくらい強くなるんだな」

 

「あ、じゃあ聖夜が教えてよ!」

 

「ふは、構わんよ。夜とかに秘密の特訓はどうだろうか?」

 

「!?いいね!秘密の特訓!」

 

 やっぱりハジメと話してて楽しいわ。

 

「そろそろ戻るかメルド団長に呼ばれてる事だしな。じゃあハジメそれ頼んだぞ?」

 

「うん!任せてよ!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

メルド団長に呼ばれて、団長室に向かう。

ドアの前まで来てノックをする。

 

「ノックしてもしも〜〜〜し」

 

別に気に食わないとかそんな事はないけどついつい言ってしまうこのセリフ。

 

「おぉ来たなセイヤよ。毎回そのセリフを聞くと何故か『おっぱァアアーッ』と言ってしまいそうになるのはどうしてだろうか??まぁいい。また兵法三十六計の話の続きをしてくれ」

 

メルドさん何故そのネタを知ってる…

 

「どこまで話しましたっけ?」

 

「こちらが勝っている場合の声東撃西と言う戦法の話をして終わったな。実際に使われてた時の話も面白くて楽しみだな」

 

あぁ、端的に言うと陽動作戦ってだけだが何故かこの世界ではあまり使われてない戦法らしいな。

 

「じゃあ、勝戦計はこれで終わりですね。次は敵戦計、余裕を持ってこちらが戦える、優勢の場合の作戦ですね。まず無中所有と言うんですけど。最初に敵が本気にする様なハッタリをかますんだ、当然それに反応する敵をそうやって欺く。それに気づかせてから、再び同じことをする。」

 

「それをしても意味が無いし相手は反応してくれなくなるんじゃ……まさか」

 

「そう、そのまさかです。相手は同じ事をしても反応せずに油断します。またか、とね。そこを一気に攻撃をして敵軍を破る」

 

この話は童話『オオカミ少年』の心理を逆手にとっているのものである。

 

「この戦法の話は?」

 

「そうですね。昔の俺の世界のある国に孫権と呼ばれる武将がいました。彼は劉表という今で言う政治家の城。江夏城を攻めたんですけど、あまりにも硬すぎる守りに辟易とし一計を案じた。まず敵軍の矢を消費させるため夜遅く、城の近くに流れていた川に篝火をかかげた小舟の大群で城に接近しました。勿論、その時の城主であった黄祖と言う武将は火矢を放って反撃し撃退した。だが毎晩同じ事が続いた7日目、その小舟は兵が乗っていない空の船である事に光祖は気づいた。その次の夜も、同じ様にさらに接近してくる船があったが空であることを知っている黄祖は、反撃をせずに眺めていた。だがそれこそが孫権の策。油断した所を小舟に乗っていた多数の兵で襲撃。そうして江夏城を陥落させた、と言う話だ」

 

「ほぉーためになるな。確かに油断させるうえに矢を消費させるとは凄い戦法だ」

 

「まぁこれは人間同士の戦いだから魔人相手に通じるかはわからないですけど」

 

「それでもいいのだ戦い方はたくさんあっても良いものだからな!それに最近は逸話を聞いて楽しんだりするものだ」

 

「あ、そういえばクラスメイトはどんな感じです?」

 

「ふむ、あの天之河という勇者が1番の伸び代をみせているな。ついで、剣士の八重樫という子だなあの太刀筋はそんじょそこいらのものでは到底真似できない。」

 

ふむ。勇者はどうでもいいが。そうか、雫はメルド団長から見ても強くなっているか。

 

「まぁ、おまえさんに比べたらまだまだだが。どうだ?クラスメイトの方では無く私達騎士団の練習に参加して教えてほしいくらいだ」

 

「いやいや、遠慮させていただきます……」

 

「そうか、それは残念だ……そういえば檜山とか言ったかあと近藤と斎藤と中野。彼ら4人は仲が良い様だが少し力をつけて助長している様だな。あれではいつか痛い目を見る」

 

「そうですか……メルド団長から少し言ってもらえたら助かります」

 

 あいつらが勝手にピンチになるのは別に構わないが、そのせいでクラスが巻き込まれるのはごめんだ。

 

「うむ、おまえらみんな誰一人として欠ける事は許す訳にはいかないからな」

 

「じゃあ俺もう行きますね」

 

「あ、ちょっと待て夕食の時間に言おうと思っていた事だが、明日から実践訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行くつもりだ。必要なものはこちらで用意してあるが、王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すものだが……まぁおまえさんに言ってもあまり意味はなさそうだな……遠征中も話を頼むぞ」

 

「りょーかいしましたでは、失礼します」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 夕食まで自分の部屋でゴロゴロしようと自室への道のりを歩いていた。

その道のりで訓練施設の近くを通りがかる。と、

 

「ぐぁ!?」

 

 ハジメの声!?

 

咄嗟に中に入るとそこには、ハクションカルテットとその前にお腹を押さえ倒れ込んでいるハジメがいた。

 

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ〜、マジやる気あんの?」

 

「おい、ハクションカルテット!ハジメに何してんだ!?」

 

「お?神韋か?お前も一緒に稽古つけてやろうか?」

 

檜山がニヤニヤと言う後ろでケラケラ笑う取り巻き3人。

 

 それより先にハジメだ。

 

急いでハジメに駆けつけ回復魔法を唱える。

 

「ベ(ピー)マ!」

 

ぶっ!!っとハジメが吹いたのがわかった。

 

痛みが治ったのだろう。ガバッと起き上がると俺の手をガシッと掴み一言!

 

「ドラクエ!と言うか今のピー音どこから!?」

 

「反応する所そこかよ」

 

相変わらずのハジメに苦笑する俺。そして現在進行形で無視されてるハクションカルテット。面白く無いのか、檜山が思い切り蹴ってくる。

 

「無視すんじゃっ……ねぇっ!」

 

俺は振り向き蹴ってくるその足に掌を重ねると、そのまま()()()()()

すると、面白い様に飛んでいく檜山。

 

「おぉ〜結構跳んだな……どのくらいの威力で蹴ったんだよ……」

 

「せ、聖夜今のは?……」

 

「あぁ化頸(かけい)って言ってな、わかりやすい言葉で言うなら相手の攻撃を吸収したり、そのベクトルをコントロールすることができる」

 

「おい!オマエラ!神韋をやれ!」

 

吹き飛ばされたとこで、檜山の怒号がはいる。

 

「ここに焼撃を望むーー"火球"」「ここに風撃を望むーー"風球"」

 

中野と斎藤が魔法を放って来た。

 

 チッ、俺が避けたらハジメに当たる様に計算してやがる。

 

「ハジメ、魔法を使う相手に対する戦い方を教えてやる」

 

「聖夜!?」

 

「はっ!しゃらくせぇ!」

 

怒号一線、魔法を2つ殴り消す。

 

「「「「「は?」」」」」

 

「ボケっとしてんじゃねぇぞ!戦いにおいて相手は待ってくれないぞ!」

 

「なんっ!!」「うぐっ!!」

 

中野に一瞬で近づき、その顔を殴りとばし、そのまま横にいる、斎藤のお腹に向かって蹴りを放ち、これまた壁際まで吹き飛ばす。

 

「とまぁ、この様に魔法は気合いで吹き飛ばす」

 

「「「出来るか!!」」」

 

ハジメと檜山と近藤の声が重なる。どうやら、『ション』は気絶した様だ。

 

「くそっ!良くも『ション』を!」

 

「近藤おまえ、意外とその渾名気に入ってんだろ…」

 

近藤は槍術師であり、持っている槍を俺に向けて突き刺してくる。

 

「おい、危ないだろ、武器は人に向けるなって教わらなかったのか?」

 

「軽々と避けてるやつのセリフじゃない!」

 

近藤の突き刺してくる槍の先端の側面に手を添え矛先を変えて避ける。文字通り片手間で。

 

「ハジメ、いいか?この様に槍など使うやつに関してはこうして避ければ問題ないぞ」

 

「だから、出来……無くはなさそう……頑張れば……でもそのままじゃあ千日手じゃ…」

 

「ハジメ千日手なんて言葉よく知ってるな。まぁこのままじゃあ戦況は変わらない……が、こうして避け続けることで相手がどういう風に攻撃するかは分かる。だからこうしてっと………」

 

突き出された槍に合わせ下から蹴り上げる。

 

「なっ!?ごふっ!!」

 

「こうして武器を手放させてから、物理で殴る。以上」

 

近藤も気絶したみたいだ。一発しか殴ってないのに脆すぎだろ……

 

「う〜ん、こうして聖夜が戦うのを見るのは初めてだな」

 

「まぁ向こうの世界で戦うなんて喧嘩くらいだもんな……ハジメも鍛えなきゃな内功から」

 

「なんか怖くなって来た」

 

俺がハジメと話してると。みんなお待ちかね、彼らが登場した。

 

「何やってるんだ!」

 

「ちょっと、光輝!」

 

そう言って俺に詰めかけて来て胸ぐらを掴んでくる天之河、それを止めようとする雫。南雲くん大丈夫!とハジメに近寄る白崎。

 

「雫は黙っててくれ!さぁ答えろ神韋、彼らをこんなにして何をしていたんだ!」

 

「何って稽古だよ稽古。檜山に聞けよ、あいつがハジメを稽古してやるって言ってハジメをボコボコにしてたから俺がその相手を務めたまでだ」

 

「稽古でも、ここまでする必要は無かっただろ!」

 

「いや、ここまでって言っても一撃でのしたから、追い討ちをかける様な事はしてないぞ」

 

 ハジメのことは無かった事にするのか残念勇者。

 

俺が檜山の名前を出したからか、嘘は言っていないのでバツの悪そうな顔をする檜山。

 

「だが気絶するくらい強くする必要は無かっただろ!」

 

「あいつらが先に魔法を撃ってきたり槍で突いて来たから反撃しただけだぞ?」

 

「だとしてもだ!!」

 

ギリギリと力を強めていく天之河。

 

「光輝!聞いていたでしょ!檜山君の顔を見て分かる通り聖夜は嘘を言ってないわ!早く離しなさい!」

 

「そうだよ、天之河君。聖夜は僕を助けてくれただけなんだ」

 

しかし、力を弱める素振りを見せない天之河。

 

 はぁ、しょうがない

 

「少し頭を冷やせ、残念勇者」

 

胸ぐらを掴んでいる手に、両手を添えると。グルンッ!と天之河ごと回して地面に倒す。

 

「なっ!がはっ!!」

 

「天之河、俺を憎む気持ちは理解しているが、せめて雫やハジメの言う事くらいは信じてやれよ」

 

 雫に至っては檜山の顔からと、天之河にも分かるように説明していたのに。

 

「白崎、あいつらも治療してやってくれ。今はお前しか治癒魔法使えないからな」

 

「う、うんわかった」

 

「え?聖夜もモガッ!」

 

 余計な事を言うなハジメ。面倒くさくなるから。ほら、雫とか俺のことめっちゃ凝視してくるし。

 

「俺達は先に部屋に戻ってるから、雫また夕食の時にな」

 

「まったく……ここは任せなさい」

 

「ありがとな、雫。助かる」

 

 

 

夕食の時間には、ハクションカルテットはちゃんと復活していて、天之河も不機嫌そうな顔をしていたが、メルド団長の話を聞いて意気込んでいた。雫は俺の隣で黙々と食事を摂っていた。なんか席近くない?俺としては嬉しいけど。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!
誤字報告ありがとうございました!


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月下の語らい

「ハジメ、お前本当に明日ついていくのか?なんだか、嫌な予感しかしないんだが…」

 

「うん、確かに危険だけど、ここまで来たら腹を括って冒険しないと」

 

「命の危険があるのにそれでもか?」

 

「それでもだよ…」

 

夕食後、ここはハジメの部屋。明日からいよいよオルクス大迷宮への遠征が始まることが告げられたついさっき。少しハジメと話がしたくてお邪魔させてもらっていた。

 

「そうか……そこまで言うなら俺は何も言わない。ただし、無理はするなよ?」

 

「うん、それにクラスのみんなは強いし、聖夜に至ってはチートみたいなものでしょ?」

 

「ははっ!違い無いな!ちゃんとハジメも守ってやるよ!ところで!ルービックキューブどうなった?」

 

「あぁ!それなら……ほら!あのあと直ぐに完成させられたよ!昔バラバラにしたことがあってね……思い出したらすぐ作れたよ!……でも本当にこれ武器になるの?唯のルービックキューブだよ?」

 

「まぁまぁもうすぐお披露目する機会があるから待ってなって」

 

「うーん、なんかのアニメでルービックキューブを武器にする奴があったような気がするんだけどなぁ……思い出せない……」

 

「いや、そこまで出て来てるならもうわかった様なものだろ…」

 

「ヒント頂戴!」

 

「そうだなぁ……じゃあ大ヒントだ。これ以上は言わないぞ?」

 

「うん!当ててみせる!」

 

「じゃあ……Next Conan's Hint!『呪い』!次回はハジメの作ったルービックキューブが変形して活躍!」

 

「ゔぇぇえぇぇ!?何今のSEとBGM!?というかもうほとんどネタバレ!」

 

「おぉ!ナイスツッコミ、ハジメ」

 

「というか今ので、もうわかっちゃったよ……確かに、カッコいいよねアレ、凄い厨二心をくすぐるワード」

 

ちなみに、BGMとSEは禁忌の獄をプチ展開して音だけ流してみた。万能なのねあれ。

 

コンコン。

 

「ハジメ来客だぞ」

 

「そうみたいだね、どうぞー!」

 

「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

開いた扉の先には白崎が立っていた。ネグリジェにカーディガンを羽織った姿で。

 

「……なんでやねん」

 

「おっと俺はお邪魔みたいだし部屋に戻るわ……ハジメ。」

 

「何?」

 

「避妊はしろよ?」ぼそっ

 

「しないよ!!」

 

「しないって!?ハジメ!?お前、ヤル気なのか……?」

 

「そういう意味じゃ無い!あぁ、もうとにかくややこしくなるから聖夜は部屋に戻ってて!」

 

「そういうことだ、白崎」

 

「なにかな?」

 

「good luck」

 

「無駄に発音良いね!でも頑張るよ!」

 

お互いにグッジョブサインを出す。

 

扉を閉めて、部屋に戻った。

 

 

そこからどれくらい時間がたったかわからない。ウトウトと微睡んでいると、

 

コンコン。

 

 誰か来たな、この時間だとハジメか?なんか俺忘れ物でもしてたか?

 

扉に近づきとドアノブに手をかける。

 

「はいは〜い、白崎とは上手くやれたかハジメ……」

 

「私よ、聖夜。それより南雲くんが香織と上手くやれたってどういう意味よ…」

 

「いやいやこっちの話…別にやましい事は無い……ことも無さそう?」

 

「へ?」

 

「いや、白崎のやつ薄いネグリジェにカーディガン羽織った姿でハジメの部屋を訪問してだな……まぁ本人にその気は無いんだろうが……」

 

「香織には後でちゃんと言っておかないと……」

 

「にしても白崎も大変なやっちゃなぁ〜ハジメは気付いてないぞアレ」

 

「いつかは報われるわよ……きっと」

 

「それより、どうしたんだ雫も」

 

「あ、そういえば用事があって来たんだったわ……」

 

「おいおい……で、どうした」

 

雫は一息入れると、口を開いた。

 

「あなた、何処にも行かないわよね?」

 

「へ?急にどうした?」

 

「夕食前に少し仮眠をとった時、夢を見たのよ」

 

「どんな?」

 

「あなたが、自分から、私の元から私を置いて去って行く夢を。中学の頃離れて行った時みたいに……」

 

「……俺はその時何か言ってたか?」

 

「……確かに、何か言っていたような気がする……でも、覚えてない……ただその後…っ!」

 

「どうした急に顔真っ赤にして?は!?俺もしかしてそんな恥ずかしい事言ってたの!?」

 

「いえ…なんでも無いわ」

 

そうよアレは夢だったのなんでも無いわ。ぶつぶつと呟く雫。

 

「まぁ、なんだ、俺から雫の元を離れるなんて事はそうそうないぞ?それこそ雫が嫌とか言った場合その限りでは無いが……」

 

「私がそんな事言う訳ないでしょ、あなたにはずっと側にいて貰いたいくらいだわ」

 

「!?いや、まぁずっとは分からないぞ、いつかは雫も結婚するだろうし」

 

 やべ、ウェディングドレス着た雫を想像してしまった。結婚しよ。

 

まだ、付き合ってもいないし、二人とも両片思いなので、いつになることやら。

 

「まぁ……そうね」

 

 しゅんとしないでくれ、罪悪感が、が、が、

 

ギクシャクとしてしまった空気を正そうと、一つ咳払いをする。

 

「まぁ、明日からオルクス大迷宮に遠征だしな、不安があるのは分かるが、俺の強さは雫も知っているだろ?俺が逆に雫の事守ってやるから」

 

「守っ!そ、そうよ!あんなに強いだなんて聞いてないわ!さぁキリキリ吐きなさい!」

 

「確かに、黙っていたのは悪いと思ってるが、特に自分から話すようなことでも無かったしね」

 

「あの強さは何処で手に入れたのよ!」

 

「まぁ生まれた時からだな」

 

 嘘は言ってない

 

「生まれた時って、あなた……確かにあまり他人に言いふらしたく無いのも分かるわ……私はそんなに信用ならない?」

 

「いやいや!嘘は言ってないし、雫の事は世界で1番信用してるし信頼してる!だけどこれはかなり重い話だから詳しいことはまだ雫にもあまり話せないかなって」

 

「世界で1番……///」

 

 おっとどうやら違う所に反応したみたいだぞ?

 

「まぁ、なんだ?そのうち話してやるよ。今日はもう遅いし部屋まで送って行くよ」

 

「はっ!!…う、うん、ありがと」

 

 

部屋を出て雫の隣を歩きながら雫の部屋へ向かう。道中言葉は無いが、それでも居心地悪いわけではなく、むしろ心地よい静寂が流れていた。楽しい時間は長く続かなく、すぐに終わりを迎える。

 

 

「じゃあ、雫。おやすみ」

 

「うん、聖夜もおやすみ。ここまで送ってくれてありがとう」

 

「気にすんなよ、あそこで別れて1人で送り出すにはこの世界は物騒だからな」

 

「あっちの世界では送ってくれないのかしら?」

 

「なんだか、今日は珍しくしおらしいじゃないか……そんなこと無いさ、雫の為なら何処にでも行く」

 

「あっ……」

 

「こうやって頭を撫でるのも久しぶりだな……昔と変わらない綺麗な髪だな、それにこのシュシュもまだ使ってくれてたのか。嬉しいよ」

 

「……ずるいわ……他の誰でも無い、あなたから貰ったものだもの大切にしてるわ」

 

2人して顔を真っ赤にしてるのはいつもの事。

 

「今度こそおやすみ雫」

 

「うん、おやすみなさい」

 

 名残惜しいがここは別れよう。どうせ明日も会えるのだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

雫SIDE

 

 

 この世界に飛ばされた時、私はとても不安だった。戦争をしなきゃいけないんだって。でもそんな気持ちも直ぐに吹き飛んだわ。

彼が、聖夜がずっと側にいてくれたから。どういう訳か、彼はものすごく強いみたい。それこそ何かのアニメを見てるような感じ。

 

彼なら私の事を守ってくれると思った。小さい頃に夢見た王子様みたいに。だって強すぎてステータスプレートにエラーと表示されるくらいだもの。

 

だけど、そんな思いもある夢を見て不安が止まらなくなった。聖夜が私の事を置いて1人で何処かに行ってしまう夢。その時何かを喋っていたのを覚えている。でも内容はあまり覚えていない。だってその後に、キ、キスを、してくれた事の方が衝撃的だったから。あの時彼は私に愛してるって言ってくれてた!

 

私の願望だって事くらい分かるわよ?それでも期待してしまうじゃ無い……

 

それを聖夜に話したら、勿論キスの事は伏せてよ、そしたら彼、私の事守ってくれるって。つい恥ずかしくて強さの方を言及しちゃったわ。強さの方が気になるのも事実だったしね。

まぁはぐらかされてしまったけれど。それでも、彼は私の側に居てくれるって言ってたわ!勿論結婚だって彼以外とは考えていないわ。

 

その後だって私って結構強いけど、ちゃんと部屋まで送ってくれたし……私の胸はずっとドキドキしてたわ……音聴こえてないわよね?

 

久しぶりに頭撫でてくれたり!!彼から、大好きな彼から貰ったシュシュだもの!

 

おやすみの言葉が今は悲しい。

 

あぁ、なんか1人でここまで興奮して、何か少し虚しくなってきたわ……私は大好きだけど、彼は私の事どう思ってるのかしら……少しは私の事意識してくれているのよね……それこそ魔法を使って知りたいものね……




ここまで読んでくださりありがとうございました!


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トラップで悪いことばかりでは無いみたい?

今回は若干長めです。


 いきなりですが、問題!今俺、神韋聖夜は何処にきているでしょうか?

 

聖夜を探せ。5、4、3、2、1。

 

「ここでーす!ここ!ここ!正解は、ハイリヒ王国オルクス大迷宮、その隊列の人混みにいました〜!……はぁ1人で何やってんだ俺」

 

「次来たよ〜」

 

「ほいよ」

 

飛んで来た魔物を、ハジメの作った落とし穴に叩き込む。

 

そこを容赦無く上から突き刺すハジメ。

 

「手慣れてきたな」

 

「何回もやればね〜でも、わざわざ弱らせてから飛ばしてくれるから寄生プレーヤー感が半端ないよ」

 

ハジメは、そうは言っているが、周りの騎士団員達は俺とハジメのコンビを見て普通に感心していた。俺の身体能力は言わずもがな、錬成して作った穴に落として身動きを取れないようにしてから確実にとどめを刺すという戦法にどうやら納得した様に頷いていた。

 

小休止に入り、ラブコメしているハジメと白崎を横目に見ながら、1人考えていた。

 

 うぅーん、楽!ハジメに作ってもらったルービックキューブを出すまでも無いし、こんなもので終わるなら、別に付いてくる必要もあまり無かったな……いや、雫やハジメを守ると言った手前そういうわけにも行かないか。

 

そんな事を思いながらふと雫を見る。どうやらあっちもこちらを見ていたみたいで、目が合う。そしてお互いに微笑む。

 

 可愛い。あ、白崎になんか言われてる。あわあわしている雫も可愛い。

 

一行は二十階層を探索する。

 

迷宮の各階層はだいたい数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通らしい。

現在、四十七階層までは確実で堅実なマッピングがなされているので迷うことはないしトラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。そこまで行けば今回の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代には存在しない。禁忌の獄を使えば多分できるが、そんな薮蛇は今はやめておこう。

 

一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

すると、突然先頭を行く天之河達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。天之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を脳筋もとい坂上が拳で弾き返す。天之河と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができないらしい。

 

坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないが単純にうるさい。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる、らしいがまぁ俺には効かんな。

 

まんまと食らってしまった天之河達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達後衛組に向かって投げつけた。見事、プロ顔負けの砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと迫る。

 

白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。しかし、発動しようとした瞬間、白崎達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。白崎と本邦初公開、中村恵里と谷口鈴の2人コンビも「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

するとハジメが、

 

「行って!」

 

「オッケーついでだし、カ◯イ外伝のアレ見せてやるよ」

 

隊列的に、天之河達前衛組その後ろに白崎達後衛組そしてその後ろに騎士団員と俺、ハジメがいるのでそれを飛び越えるように、足に力を入れて跳ぶ。クレーターが出来るが有事のこの際仕方ない。

 

一瞬でロックマウントまで近づき、腹部に蹴りを入れて勢いを殺し、ロックマウントの背後に空中で回り込みロックマウントが上にくるように抱え込む。そのまま何も無い地面へと一緒に勢いをつけて落下する。

 

ドゴォォォーーーン!!!

 

舞う土煙。それに隠れるようにして一瞬にしてハジメの元へと戻ってきた。

 

「今のっていづな落としだよね!凄い!初めて見たよ」

 

「まぁまぁ落ち着け」

 

呆然としていた、メルド団長と天之河達前衛組、どうやら雫とメルド団長は俺がやったと気付いたらしく2人して俺にウインクを、送ってくる。

 

 雫は可愛いが、いい年した大人がそれは……

 

直ぐに立て直し、メルド団長が声をたてる。

 

「こらこら、戦闘中になにやってる!」

 

白崎達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

 

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが(なんちゃって)勇者天之河光輝である。誰も期待してない。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、天之河は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで白崎達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する天之河。白崎達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

 その時、ふと白崎が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。あ、雫も気になるんだね。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディゴライトが内包された水晶のようである。白崎や雫を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

そういえばインディゴライトは10月の誕生石だったな、雫の誕生日も10月だし少し貰って行って加工してあげるか。

 

「素敵……」

 

白崎が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、俺と雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのはハクションカルテットのハ担当。檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てるはメルド団長。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

聞こえないフリをして鉱石に近寄る檜山。それを追いかけるメルド団長。

 

「団長!トラップです!」

 

「ッ!?」

 

美味しい話には裏がある。それを体現するかのように、檜山が鉱石に触れた瞬間に部屋全体に広がるように発動する、魔法陣。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長が声を張り上げるがもう遅い。

 

みんな慌てる中俺も慌てていた。

 

 なんとしてでもあの鉱石は貰っておこう!

 

光が視界を満たす前に鉱石を手に取り、禁忌の獄の中へ放り込む!もはや倉庫である。

その瞬間光が部屋全体を満たした。

 

 

転移した先は一つの橋の上で横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。聖夜達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷鳴の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、対するは迷宮のトラップ。この程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

目の前にはベヒモス後ろにはトラウムソルジャーというスケルトン部隊。まさに前門の虎後門の狼だな。

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。

 

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせじと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

 

半ドーム状の障壁が展開される。

 

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

 

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーの足元が突然隆起した。

 

「ナイスだハジメ」

 

バランスを崩したトラウムソルジャーを横から殴り飛ばした。更に、地面の隆起は数体のトラウムソルジャーを巻き込んで橋の端へと向かって波打つように移動していき、遂に奈落へと落とすことに成功した。

 

魔力回復薬を飲みながら倒れたままの女子生徒のもとへ駆け寄るハジメ。錬成用の魔法陣が組み込まれた手袋越しに女子生徒の手を引っ張り立ち上がらせる。それを側から見る聖夜。

 

呆然としながら為されるがままの彼女に、ハジメが笑顔で声をかけた。

 

「早く前へ。大丈夫、冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員強いんだから!」

 

自信満々で背中をバシッと叩くハジメをマジマジと見る女子生徒は、次の瞬間には「うん! ありがとう!」と元気に返事をして駆け出した。

 

「おいおいハジメさんよこんなピンチの時にラブコメたぁ、随分と余裕ぶっこいてるのね〜」

 

「余裕なんかないよ……てかラブコメはやめてラブコメはなんか寒気がする。というか、聖夜そこ随分と余裕だね」

 

白崎がこちらを睨んでるからな。

 

「まぁ実際このくらいは余裕だしな。あのベヒモスとか言う犬っコロもたいして強くなさそうだし」

 

「そんなことが言えるのは聖夜だけだよ…」

 

会話をしながら辺りを見渡す聖夜とハジメ。

 

誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは、いずれ死者が出る可能性が高い。騎士アランが必死に纏めようとしているが上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。

 

「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」

 

「どうすんだ?ハジメ」

 

「とりあえず天之河くんを呼んでくる、聖夜はそこまでの道を開けて欲しいんだ!」

 

「任せな」

 

おもむろに、足元に転がっている瓦礫を拾い上げる。

 

「そんな石でどうすんの?」

 

「まぁみてろ。……ぶっ飛べや骨供!」

 

拾った瓦礫をトラウムソルジャーに投げつけた。第三宇宙速度で!

 

ドンゴォォォォン!!

 

第三宇宙速度で飛んで行った瓦礫はトラウムソルジャーに直撃の瞬間大きな音を立ててクレーターを作り出した。

 

「行け!ハジメ!こっちは任せな」

 

「色々と言いたい事はあるけどありがとう!」

 

ハジメは走り出した。天之河達のいるベヒモスの方へ向かって。

 

 

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

 

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

 

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

ドンゴォォ

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

 雫は状況がわかっているようで天之河を諌めようと腕を掴む。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

 

ドンゴォオ

 

「龍太郎……ありがとな」

 

 しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる天之河。それに雫は舌打ちする。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

 

ドンゴォォォォ

 

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ雫に心配そうな香織。

 

 その時、一人の男子が光輝の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

 

「なっ、南ドンゴォォォォ

 

「南雲くん!?」

 

 驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

 

ドッカーン!

 

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした天之河の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する天之河。いいぞもっとやれ。

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

 天之河の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。そして骸骨に向けて石を投擲し続け、高笑いを上げる聖夜。

 

「えーと……い、今は聖夜があぁやって石を投げて牽制してくれているけど」

 

「あれ、普通に神韋が一方的に圧殺してないか……」

 

「さっきからドンドン音がしてたの聖夜の仕業なのね……」

 

「「「す、すごい……」」」

 

「そ、それより!一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませーー」

 

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。その瞬間後方からベヒモスに向けて瓦礫が投擲された!

 

ドンゴォォォオォオォォォ!

 

舞い上がる埃。

 

聖夜が瓦礫をぶつけてくれたおかげで、比較的被害は少なかったようだ。

 

低い唸り声を上げ、瓦礫の投擲主を探すように射殺さんばかりの視線をキョロキョロとむけている。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「ボケッとするな! 逃げろ!」

 

ベヒモスが突進を始める。そして、天之河達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

が、ここに登場。

 

「おまえらよく耐えた」

 

「「聖夜!!」」

 

雫とハジメの声が重なる。それを後ろに聞きながら落下途中のベヒモスに向けて跳躍し、そのまま拳を振りかぶる。

 

「はっ!しゃらくせぇ!!」

 

ズドン!

 

短い破砕音が響いたと思ったら、ベヒモスが元の場所まで吹き飛ばされた。

 

唖然としてる、雫達の元へ降り立つと。

 

「な、だから言ったろハジメ、あの犬っコロもたいして強くないって」

 

「「「それが出来るの聖夜(おまえさん)だけだから!!」」

 

「で、どうしますメルド団長さん、あの額と角の割れた犬完全に苦しそうにしながらも俺の方睨んでますけど」

 

確かに聖夜がいればこの状況を突破するのは容易い。だがそれを彼1人に任せるなど……と人としての悩みで苦悩するメルド団長。

 

そんな団長に、ハジメがとある提案をする。それは、この場の全員が安全に助かるかもしれない方法。本来ならハジメ1人でも出来るのだが、聖夜がいるおかげで成功率は100%とと言っても過言ではない。

 

メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。割れたの兜が赤熱化を開始する。時間がない。

 

「……お前さん達やれるんだな?」

 

「やります」

 

「任せな」

 

再び突進してくる、ベヒモス。それに対して足を振り上げる聖夜。

 

「さぁ、オネンネの時間だ犬っコロ!」

 

突進に合わせるようにしてその顔面へとかかと落としを放つ。

 

再び大きな音を立て橋に頭ごと、体も少し埋まっている、ベヒモスに向けてハジメが近寄り、

 

「錬成!」

 

「さぁ行け、おまえら、ここは俺とハジメに任せろ」

 

「直ぐに助ける!任せたぞお前さん達!」

 

メルド団長がみんなを引き連れトラウムソルジャーを蹴散らしにむかう。

 

「さ、ここから簡単なお仕事だぞハジメ、気張れよ」

 

「聖夜こそ、ベヒモスの相手任せたよ」

 

橋から顔を抜け出した瞬間三度足を振り下ろし、元の場所へと戻し、そこにハジメがこれまた三度錬成をかける。

 

錬成をかけ続けなくて良い分魔力の消費は圧倒的に少ない。

 

「なんか弱いものいじめみたくなってるよ……」

 

「なんだハジメ、1人で相手出来るのか」

 

「滅相もございませんいつも感謝しております故どうか……」

 

「必死すぎだろ」

 

 

 

トラウムソルジャーの方もどうにかなったようだ。

 

天之河の一撃で窮地を脱したみたいで、階段前を確保しようと各々が力を奮っている。

 

そして、遂に包囲網を突破した!

 

「皆、待って!南雲くんと神韋くんを助けなきゃ!彼らが2人であの怪物を抑えているの!」

 

白崎の言葉になにを言っているんだと言う顔をするクラスメイト。そこへ、雫が追い討ちをかける。

 

「あなたたちもさっきまでトラウムソルジャーの相手を聖夜1人に任せていたでしょ?」

 

そう言われ、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには談笑している聖夜とハジメの姿があった。

 

「なんだよあれ、何してんだ?」

 

「あの魔物、上半身が埋まってる?」

 

「ていうかあの2人談笑してるぞ!」

 

「キャァ!出て来たよ!!」

 

「あ、神韋がかかと落としして同じ場所に戻って…」

 

「南雲がまた蓋をして」

 

「談笑に戻った」

 

クラスメイトと、騎士団員は揃って、この糞忙しい時に何してんだあいつらは!!と思った。

 

「まぁ、うん。そうだ。あいつらがたった2人で足止めどころか赤子の手を捻るように相手してくれているから撤退出来たわけだしな。うん。」

 

「メルド団長、現実逃避したい気持ちはわかりますが早く指示を」

 

「おぉ、そうだったな!前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの子犬を足止めしろ!」

 

ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。中には階段の方向を未練に満ちた表情で見ている者もいる。無理もないだろう。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。

 

 

時を同じくして、聖夜とハジメサイド。

 

「ぉ、どうやら階段前を確保したみたいだぞ」

 

「りょーかい!次の拘束で離脱するよ!」

 

そしてその時、もう何度目か分からないくらい。聖夜の足跡出来てるんじゃないかと思えるくらいに落とされたかかと落とし。そして蓋をするハジメ。ベヒモスも殆ど涙目に見えた。

 

「行くよっ!」

 

聖夜とハジメは一斉に駆け出す。

直後、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。未だに抜け出せていないベヒモスに向かって。

 

 もうやめたげてよぉ。

 

お前が言うな。と言われそうである。

 

後ろ向きで走りながらようやっと顔を出したベヒモスを確認すると、前を向き再び走り………

 

「ハジメっ!?!?」

 

いきなりハジメが来た道を引き返すように吹き飛ばされた。足を止め、魔法を放っている連中を見る。すると、してやったりと言う顔をする檜山を見つける。

 

「檜山っ……貴様……」

 

いつの間に始まっていた橋の崩壊。どうやら目の前にはハジメが来たことに歓喜した様子のベヒモス。

 

「くそっ……」

 

ベヒモスに向けて足元にあった瓦礫を投擲する。前よりも力を込めて。

 

そのまま崩落した橋の底へと落ちていくベヒモス。そして……

 

「ハジメェェ!!」

 

今にも落ちそうなハジメに急いでかけより手を伸ばそうと…………

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

間に合わなかった。

 

呆然とする聖夜。そこに向かってくる雫やメルド団長、そして半狂乱になった白崎。そして唖然としているクラスメイト。

 

「聖夜!南雲くんは」

 

「間に合わなかった」

 

「え………?」

 

「間に合わなかった!俺の手が届かなかったばかりに!」

 

地面を激しく叩く。

 

 全部あいつのせいだ。檜山大介のせいでハジメは落ちたのだ。

 

あいつを問い詰めようと立ち上がった瞬間。

 

「それでも!聖夜が無事で良かった……」

 

雫に抱きしめられた。

 

「な、んで?」

 

「クラスメイトが落ちたっていう事実は揺らがないし、とても悲しい。香織だって報われない」

 

「だったらなんで!落ちるなら俺が落ちれば良かった!ハジメじゃなくて生き残れるであろう俺が!」

 

 

 

「そんなの決まってるじゃない。

 

 

 

聖夜、私ねあなたの事が好きなの。それこそ小学生の頃からずっと。

 

 

 

だからね、落ちるのがあなたじゃなくて良かったって心の底から思っているのよ?」

 

「し、ずく」

 

「何?」

 

「暫く、暫くこうしてて良いか?」

 

「ええ、勿論。大好きなあなたのためよ?落ち着くまでこうしてなさい」

 

 

 

 

「おいおい雫、神韋が好きって……」

 

「ごめんなさい、香織…でも、もう少しまって絶対に南雲くんも助かると思うから……」

 

「……え?雫ちゃん?」

 

「何を言ってるんだ雫!南雲はもう死んだだぞ!それより神韋が……「光輝は少し黙ってて!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「…………有り難う、少し楽になったよ雫」

「ええ、どう致しまして、それで、聖夜どうするのかしら?」

 

「決めた、取り敢えず俺もここから降りてハジメを助けにいく」

 

「どうして?南雲くんは落ちちゃったんだよ?この高さ絶対に助からないよ……」

 

「安心してくれ白崎。ハジメには咄嗟にだが落下衝撃に対する吸収魔法をかけておいた取り敢えず落下死はないから直ぐに合流する。」

 

「でも…」

 

「なぁ、白崎お前はライトノベルとか見てたよな?」

 

「う、うん」

 

「こういう展開の時あからさまな最弱キャラが絶望的な状況になった時どうなってた?」

 

「……あ」

 

「気付いたな、大方ハジメは戻ってこれる。それこそ見違えるほどに強くなってな。だから安心してくれ」

 

「……雫ちゃんが言ってた事ってこういう事?」

 

「聖夜なら助けに行くと思ってたし……でも、ああ言った手前、私は言って欲しく無い」

 

「すまないな雫。俺はどうしても行かなきゃ行けない」

 

「どうしても?それに聖夜からの返事も……んぐっ!?!?」

 

クラスメイトの息を飲む声が聞こえる。

 

 

 

まぁ当たり前だろう、何せ今、雫とキスしたのだから。

 

 

 

数秒か、そうして離れると2人の唇から掛かるように銀色の糸がつぅっと落ちる。

 

「ぷはぁ!せ、聖夜今のって…」

 

「雫。好きだ。愛してる。実は小学校の時初めて見た時から一目惚れだった。出来る事ならずっとそばに居たい。だけど俺にはハジメを見捨てるなんてことは出来ない。だから……」

 

「……だから?」

 

禁忌の獄を展開し、中から先ほどのインディゴライト改め、グランツ鉱石を取り出す。

 

「それ……」

 

「見ててくれ」

 

いつの間にか覚えてた『錬成』で形を変えていく。

 

指輪の形に。

 

「綺麗……」

 

 

 純度100%の指輪だ、誕生石だし丁度いい。

 

 

完成すると、雫の左手をとる。

 

 

 

「雫、俺と結婚を前提に付き合ってくれ」

 

「!!!………はい……」

 

 

 

とった左手の薬指に指輪をはめる。

目の前で作ったからサイズは丁度良いはずだ。

 

目の前で涙を零す雫に微笑むと、雫から顔を近づけ、

 

「んむっ!」

 

キスされた。

 

突然の事だったが、すんなり受け止め、

 

「!!?」

 

にゅるっと、口内に雫の舌が侵入して来たのが分かった。

対抗心を燃やしたわけでは無いが、それに応えるように聖夜もまた、雫の舌を自分のそれで絡めとった。

 

「ん、んんっ、…ぅ……ふぁ」

 

「んむっ……ちゅっ、ん、」

 

深い深ーいディープキスである。

 

「……ふっ…ん、、」

 

鼻先から抜けるような僅かに甘いそれでいて乱れた雫の呼気が耳に入る。

 

触れ合う唇の角度を変えるために僅かに離しては、また触れ合わせ、その度に微かな水温がたつ。口腔内を舌が行き来するたびに体に痺れるような、それでいて心地のいい、感情が体の芯まで響いていく。

 

どのくらいそうしていたか、どちらとも無く離れ、見つめ合う。

 

「雫、愛してる。向こうの世界に戻ったら俺たち、結婚「ちょっと!あからさまな死亡フラグ立てるのやめてよ!」

 

「「………………ぷっ!アハハハハハ!」」

 

 

目に涙を浮かべながらお互いに笑い合う。

 

 

「雫。もう一度言うが、愛してる、白崎の元にちゃんとハジメを送り届けると言う任務があるからな、それまでは毛頭死ぬつもりもない、ハジメにも言われた事だが、どうやら俺はこの世界で一番強いみたいだからな」

 

「私もよ、愛しているわ聖夜。絶対に戻って来て、もし死んだりしちゃってたら私もその後追うから」

 

「早とちりだけはするなよ?」

 

「うん」

 

「じゃあ行ってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

最後に触れる程度のキスをして、聖夜は奈落の底へとその身を投じた。

 

 

 

物悲しそうにそれでいて、嬉しそうな雫の後ろ姿に、クラスメイトや騎士団、メルド団長は気まずそうな顔をしていた。天之河は苦虫を噛み潰したような顔をしていて、白崎は、目をキラキラさせていた。自分もいつか南雲くんとあんな風になれたら良いなと夢想していたのである。ちなみに谷口も目をキラキラさせていて、中村は苦笑い、脳筋坂上は、若干顔を赤らめ1人不思議そうな顔をしていた。

 

あぁ、このカオスな状況。心折れることは無さそうだが、振り返った瞬間からの雫の運命やこれいかに……。




ここまで読んでいただきありがとうございました!
とうとう結ばれました2人想像していた通りかもしれませんが、私のお粗末な文章力と展開力ではこれが限界ですえ……。ふぅ満足満足。


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変貌

 かなり落ちてるな……ハジメ大丈夫か……

 

「いたっ!……ハジメっ!しっかりしろハジメっ!」

 

「ん……うぅ……ここは」

 

「奈落の底だ、どこか痛むところは?」

 

「痛いところは……あれ、ない」

 

「それなら良かった」

 

「あれ?なんで、聖夜もここにいるの?落ちたの?死んだの?」

 

「辛辣っ!お前を助けに来たんだよ」

 

「ほ、ほんと!というか、もしかして僕の事を落とした人物も……」

 

「檜山だ。あいつがわざとハジメに火球を当てやがった。大方白崎との仲を嫉妬してだな」

 

「やっぱり……実は昨晩から憎悪のような嫉妬のような粘つく様な視線を感じてたんだ……というかさ、なんか聖夜楽しそうにしてない?」

 

「んん!まぁな…」

 

「あ、分かった!どうせ僕の事追いかけて来るくらい切迫詰まってたとみて、八重樫さんに愛の告白と熱いベーゼをして来たとこまで見えたっ!」

 

「ふっ…流石だなハジメ……」

 

「え、本当なの?冗談で言ったつもりなのに……」

 

「見て来たかのような反応をしておいてからに!エスパーか貴様はっ!」

 

「まぁ、でもおめでとう!白崎さんといつも言ってたんだよね、聖夜と八重樫さんいつもイチャイチャしてるし仲良さそうなのにまだ付き合ってないんだ〜って」

 

「おまえらも十分仲良いよなぁ…」

 

「え、なんて」

 

 これは白崎が自分から言うべきことだしな

 

「いや、何でもない、それよりどうする?戻るか?俺としてはこの先の攻略しても良さそうだと思ったんだけどな」

 

「そうだね…聖夜が守ってくれるんでしょ?僕も強くなりたいし……」

 

「りょーかいした」

 

 あれ?これハジメヒロインじゃねって思ってしまった俺は悪くない。

 

歩き始めて幾分か、今まで攻略されて、マッピングされてたようなところとは違って、完全に洞窟って感じの所である。

 

今まで一本道だったが初めての分かれ道へと辿り着いた。

 

巨大な四辻である。

今まで喋っていたがここで違和感を感じる。

 

「待て、ハジメ。何かいる」

 

「う、うん……あれはウサギ?」

 

そうウサギである。見た目白い毛玉で長い耳のウサギである。大きさの後ろ足を除いて。

 

「なんだあのぶっとい足は……勝てなくは無さそうだが、あれベヒモス並みかそれ以上は強さがあるぞ」

 

「うぇぇそんなに……これこそまさに寄生プレーヤー……あ、あのウサギに狼が!」

 

岩陰から突然体を出したのは大型犬くらいの大きさの尻尾が二本のある狼であった。

 

どっからどう見ても狼がウサギを捕食するシーンである。

 

「取り敢えずここは一旦引くか…」

 

「そうだね」

 

だがしかし…

 

「キュウ!」

 

可愛らしい鳴き声が響いたと思ったら

 

ドパンッ!

 

振り向いた先にあったのは、ウサギの回し蹴りが狼の頭部にクリーンヒットしそのまま首がねじ曲がってしまった光景であった。

 

更に蹴りの衝撃で跳び上がるとそのまま空気を踏み締めて強烈なかかと落としを2匹目の狼に放った。

 

ベギャ!

 

ザクロのように頭部を粉砕された狼達。

 

しかしこのままでは終わらない!と、狼の増援!

 

ウサギが着地した瞬間を狙ってウサギに飛びかかる。

 

が、またしてもお前か、ウサギさん!

 

なんと、うさ耳を逆立てブレイクダンスのように足を広げたまま高速で回転を始めた。

勿論のこと飛びかかった狼達はグシャという音と共に血の肉片を撒き散らした。

 

「うっそ〜……」

 

「訂正、ベヒモス以上だなあの強さ」

 

かなり血の気が引いたらしいハジメは無意識に後退りをし……

 

カラン

 

その音は洞窟内にやたら大きく響いた。ついでにあのウサギさんもハジメを凝視した。

 

首だけで振り返っていたウサギは体ごとハジメの方を向き、足をぐっと力を込めた。

 

来る!そう悟った瞬間ハジメは横っ飛びをしていた。

 

聖夜は突進して来たウサギに向かって拳を放つ。

 

「ここは俺に任せろ!ハジメは逃げろ!」

 

「で、でも」

 

「こいつ、どういうわけか空中でも自在に移動できるみたいだ……守りながらっていうのは正直きつい……」

 

「う、うんわかった」

 

ハジメが逃げ出したのを見ると。あの蹴りウサギに向き直る。

どうやら、俺にヘイトを向けたようだ。さっきの横槍で片足をやったようである。

 

「自慢の片足が折れてるぞ?」

 

「キ、キュウウ……」

 

蹴りウサギが足に力を込め始める。それに続くように聖夜も足に力を込める。

 

ズドンッ!

 

お互いに向けて足元にクレーターを作りながら飛びかかる。

 

衝突の瞬間。ウサギはニヤリと笑ったような顔ををすると、その場で身を翻し、空中に逃げるように空気を踏み締め天井に着地する。

 

聖夜はと言うと蹴りウサギの()()に着地する。

 

ヒュン

 

蹴りウサギが着地した聖夜に向かって、すかさず、かかと落としを放つ。

 

「やっぱり獣か、あまり学習しないんだな……そう来ることは分かってた!」

 

かかと落としをしてきた目の前の蹴りウサギの腹部に当たるように手を添え、足を一歩引く。

 

「退歩掌破!」

 

蹴りウサギの位置エネルギーに加え、蹴りウサギ自身の脚力がそのままカウンターの形で腹部を襲い…

 

スパン!

 

体ごと弾けたんだ。返り血と肉片を浴びてるが問題ない。

 

ハジメが逃げて行った方向に足を向ける。

すると、

 

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!」

 

 

「ハジメっ!!」

 

 

 

ハジメの悲鳴が聞こえた方向に向かって走っていく。

時間にしておよそ数秒。目の前にでかい熊がいた。

口には誰かの血だらけの左腕を咥えて。

 

周りにハジメはいない。

 

 血の量からして腕だけ喰われたか…クソ、クソ、クソ!

 

錬成が使えるので、多分どこかに隠れたのだろう。

 

 まずは目の前の洞窟の熊さん倒してからだなぁ……ハジメ借りるぞ

 

ハジメに作ってもらった、ルービックキューブを取り出す。

 

「Emulation Start 『五番機構・刺式佇立態《ヴラド・ツェペシュの杭》』curse calling!」

 

聖夜がそう言い放つと、ルービックキューブを中心にこの世界とは違う、四角形の魔法陣が広がる。その中から一つの槍のようなものが顔を出す。

 

それを手に取ると、熊の腕に向かって投擲する。左腕に向かって。第三宇宙速度で。

先端が赤く燃え秒もたたないうちに、

 

ヒュッ

 

と、当たり前のように落ちる熊の左腕。壁を貫通して尚も止まらない杭には意思ひとつで直ぐに元に戻す。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

「おい、どうした?おまえもハジメに同じような事をしたんだろう?因果応報だろ」

 

「グガァァァァア!!」

 

「うるさい」グシャ

 

いつの間に、出てきたのだろう、熊の頭部を一つの大きな車輪が粉砕していた。

 

「『八番機構・砕式円環態《フランク王国の車輪刑》』」

 

物言わなくなった骸を一瞥すると、ハジメを探しにその場を離れる。

 

 腕を喰われている間にその場から逃げ出したか……およそ壁の中だろう……ハジメ自身が出て来るか、掘り当てるしかない……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

どのくらい探しただろうか、この奈落に落ちてから時間にしておよそ八日目、熊を殺したあたりまで戻ってきた。この間色々な場所を覚えたての錬成をつかって探しまくっていた。

身体能力で掘り起こすのは多分楽だが、それをしてしまうとハジメの体も壊してしまう。

 

 あとはこの部屋……考えてみればそうだよな腕食われてどこかに逃げる余裕なんてあるはず無いよな。

 

部屋の隅々まで錬成しまくり、ついに……

 

「ハジメ!」

 

「ぁ、………せ、…い、………や……」

 

「良かった!ハジメ!取り敢えずこれを食え!」

 

この8日間なにも口にしていないはずなのに、何故か知らないが生きている。

 

「禁忌の獄に貯蔵してあった、食料と水だ。」

 

ハジメに差し出すと、

 

「あ、りがとう……」

 

どうやら食べるだけの余裕はあるみたいだ。なくなった左腕が見ていて痛々しい…

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「で、俺としては嬉しいが、何故生きていたんだ?痛みと飢餓感で普通は死んでるぞ…」

 

「どうやらこれのおかげみたいだな」

 

指を指した先にはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。その鉱石が、周りの石壁と同化するように埋まっており、そこから下方に向けて水滴を滴らせている。

 

「これ、神結晶じゃないか!?伝説の鉱物の!」

 

「そう、図書館で見たやつと同じだな。まさか存在するとは」

 

「というかハジメさんなんか口調変わってない?」

 

「仕方ねぇだろ、あんな目にあったんだ、むしろいままで聖夜こそ何してたんだよ」

 

「ずっとハジメを探していたに決まってんだろ!ハジメは大切な親友だ!おまえが居なくなったら誰が………」

 

「誰が?」

 

「いや、何でもない。取り敢えずハジメが無事で良かった!」

 

「あぁ、まぁこの通り左腕は失ったがそれ以外はいつも通りだ」

 

「やっぱり、その左腕……あの熊に」

 

「そうだ!聖夜もあの熊に遭遇しなかったか?」

 

「あいつならもう殺した」

 

「あぁまぁ、聖夜ならそうだよな……」

 

「ハジメその左腕どうする?元に戻せるぞ」

 

「……いや、このままでいい。俺は今までの弱い自分を捨てたんだ。その証として今はこのままでいい……それはそれとして聞くが、聖夜、」

 

「どうした、ハジメ?」

 

「おまえは……俺の道を阻むつもりはあるか?」

 

「あまり言ってる意味は分からないが、微塵もそんなつもりは無いぞ、ハジメを強くはするつもりではあるが、おまえの自身の道を阻むつもりは一切無いな」

 

「……そうか、ならこれからもよろしく頼むな」

 

「任せろ」

 

「しかしなぁ…強くなるって言ってもあまり方法が思いつかないんだよなぁ…」

 

悩むハジメに聖夜は一つ考えついていた提案をする。

 

「ハジメよ、古来よりこんな言葉がある『人間万事塞翁が馬』とな」

 

「つまり?」

 

「そもそも強い体を作るためには適度な運動と適度な食事を取らないといけない……たがしかし、君の場合時間をかけずに急速に強くしなきゃ行けない……」

 

「?全く話が見えて来ないぞ?」

 

「ハジメよ、ここには何でも治す不思議な、それはとても不思議な鉱石が存在する。そしてこの洞窟には体が崩壊するほどに人体に悪影響を及ぼすと言う、魔物肉が存在する」

 

「は?おいおいまさかとは思うが……」

 

「そのまさかだ。流石にいきなり1人で食えっていうのは、死にはしないけど、唯の人殺しみたくなるから、まずは俺が先に食べよう、で、何も変化が起きなかったらこの話は無しだな……つか今はそれ以外で急速に強くする方法が思い浮かばねぇ……」

 

「聖夜、一つ聞くが、何故魔物の肉食えば強くなれると思ったんだ?」

 

「この世界では、魔物の肉を人が食ったら死ぬって言う話は聞いたことあるよな?」

 

「あぁ、まぁ」

 

「でも魔物同士では特に何の問題もない」

 

「……そういえばそうだな……」

 

「最初は遺伝子の問題かとも思ったが、明らかに違う遺伝子の魔物でもお互いに肉を喰らいあってる様を見てそれも違うと踏んだ。で、だ。この世界には魔法という概念があるだろ?」

 

「お、おぉ話が飛び飛びだが少しずつ言いたい事が分かってきたぞ……魔力の直接操作が出来る魔物と出来ない人間。つまりは、出来る奴同士なら肉が食える、出来ない奴が出来る奴を食うと、体が耐え切れず崩壊する……」

 

「そう、なら崩壊に耐え切って見せたらどうなるか知りたいだろ?それに崩壊して新たに体が作り直されれば強靭な肉体って言うのもあながち間違いじゃ無さそうだし……」

 

「成る程……最初に、聖夜が食うんだよな?」

 

「勿論。元に戻す事も可能だしな。ハジメもだぞ?」

 

「なら、安心して食えるか……神水もあるし……」

 

話はついた。あとは探し出して、肉を喰らうだけだ。

 

 あ、外に出しっぱなしにしてた熊の肉があったな……流石に腐ってるか……いや、神水使って調理すればあるいは?

 

「ハジメ、外に殺したまま放置してる熊肉あるけど、それにしてみるか?」

 

「調理出来るのか?」

 

「ふ、俺を誰と心得る」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「『禁忌の獄』」

 

 今回はいつものあの風景に、厨房をそのまま用意してみた。

 

「まだこの世界来るの2回目だが、どうなってるんだ……すげぇ……」

 

「さ、ハジメ君よ君には助手をしてもらうとしよう」

 

「はい!先生!ちなみにどんな料理にするんですか!」

 

ノリの良いハジメ。まぁ強くなれるかもと言うのだからそうもなるか。

 

「ふむ、そうだな……俺の禁忌の獄でも、無から有を作り出すのは不可能なんだ、つまり調味料は保存してる分しかない」

 

「聖夜のコレでも、作り出すのは無理なのか……」

 

「なんか、再現して物にするのは可能だが、そういった食料みたいなのは専門外みたいだな……今度たくさん保存しとくか……と、話がズレたが今回は、熊肉でステーキを作ろうと思う」

 

「普通に旨そう」

 

「あはは……まぁまずはハジメ、あの熊、解体するから手伝ってくれ」

 

「おーけー」

 

 頭が無いからグロいな……

 

まずは仰向けにして、股間部から首に向けて体の中心に沿って皮を剥ぐ。

 

「ハジメ、こいつ左手無いから左足だけ皮を剥ぐのを手伝ってくれ、今みたいにしてくれれば良いから」

 

「お、おう、躊躇いないのな……」

 

そうして剥いだ手足首の関節の部位で外す。

 

「次はこれを使う」

 

「……まさか」

 

「そのまさかだ『二十番機構・斬式大刀態《凌遅の鉈》』」

 

腹部を開いていき、続いて胸部も開く。肋骨があるから鉈を選んだのだが流石、禍具切れ味抜群。この時胃や腸は傷つけ無いようにするべし。

 

「さて、ハジメ、手は洗えるから首から食道を取り出してくれ」

 

「おう」

 

その間、横隔膜を骨に沿って切り取り、残りの内臓をひきだす。

肛門の部分は鉈で骨を割ってそのまま取り出す。

 

「あ、ここまでやったけど、別に肉切り取ってあとは捨てれば良かったのか……」

 

「いや、この毛皮とか有難いぞ」

 

「そうか、ならこのまま腕の肉を使って料理するか」

 

「お、待ってました!」

 

まずは、タマネギをすり下ろしてにしてジップロックに入れる。その上に切り取った肉を筋を切ってから入れて……そのまま蜂蜜を塗り込む、で、しっかりと揉み込む。

 

ジップロックの口を閉じて、冷蔵庫へin

 

「本来なら2時間ほどかかるけど、冷蔵庫の中だけ時間を進めて……」

 

「便利だなぁ」

 

熊肉を常温にもどして、フライパンにサラダ油を入れて、その上に熊肉をタマネギを落として投入。その上に塩胡椒、中火で焼き色がつくまで焼いていく。

 

「あぁ、もう既に美味しそう……あ、でも少し臭みあるな」

 

「それなら、こっちを焼いてる間、残ったタマネギをいれて、砂糖、酢、醤油の代わりに味噌を入れて、おろしにんにく、後さっきとった神水を入れて煮詰めてくれ」

 

「お任せを!」

 

 さっきと全然違う人みたいだなハジメ

 

「後は食べやすい大きさに切り分けてタレをかけたら完成!」

 

「早速頂くか!」

 

「まぁ、待てハジメちゃんと飲み物で神水用意しとけ、体の崩壊は起こるだろうし……というか先に俺が毒味するぞ?」

 

「こんなに美味しそうなのに、待てるか!」

 

「そうか、なら……」

 

「「頂きます!」」

 

さっき食べたばかりなのにまだ余裕があったのだろう一気にかぶりつくハジメ。それを傍目に見ながら聖夜も食べていく。

 

「「………………………美味ぇ!!」」

 

「こいつは意外にイケる!」

 

「ああ、てっきり不味いかとも思ったが……」

 

実はこれ、神水のおかげである。

 

2人同時に完食すると、直ぐに変化が現れた。

 

「あ、ーーッ!?アガァ!!!」

 

ハジメが突如、悲鳴を上げる。

 

「ーーーー!!!ーーウぐぐ……」

 

聖夜も同じく、全身に強い痛みが襲った。

 

 これ………十六夜ボディでも関係ないのかよ……!!

 

体の内側から侵食されるような痛みに襲われる。すると直ぐに神水の効果も現れる。

 

体の異常をどんどん修復していく。そして修復が終わると再び走る激痛。

 

「あ、………ハァハァ……クソッ……ハ、ジメェ!」

 

すると、スッと聖夜の体から痛みが引いた。

 

「あれ?治った……けどなんだこの違和感……そうだ、ハジメ!」

 

ハジメの方を振り向くと、色々と変化が起きていた。まずはその髪である。日本人特有の黒髪はカケラも残っておらず、白くなっていた。

 

次いで、この筋肉や骨格が太くなっており、体にうっすらと赤黒い線が幾本か浮き出ていた。

 

どうやらようやく、痛みも落ち着いたようである。

 

「大丈夫か、ハジメ」

 

「あぁ、なんとかな……つか俺今どうなってる?」

 

「ほれ、手鏡」

 

「んなっ!!これ、俺か!?」

 

どうやらその変貌っぷりに驚いているようである。

 

「確かにかなり変わっているが……ハジメは「カッコいいな!!」……は?」

 

「この厨二心をくすぐるこのセンス!」

 

「厨二野郎………落ち込むなら最初から言わなきゃいいのに……ま、まぁカッコいいと思うぞ、あ、そうだ!ステータスプレート!」

 

「お、おう、……そうだな……」

 

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・風爪・言語理解

==================================

 

 

==================================

神韋聖夜 17歳 男 レベル:20

天職:器用貧乏

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:錬成・魔力操作・胃酸強化・風爪・言語理解

==================================

 

「おおぅ願ってた通りになったな……風爪?」

 

「あぁ、多分爪熊の技能だろうな、爪から風を飛ばして俺の腕も切り落とされた」

 

 成る程な、食った奴の技能もそのまま使えるって感じか。

 

「そうだ、あのウサギや、狼も食わないか?」

 

ニヤリとハジメが言う。

 

「面白そうだなぁ……あ、そうだハジメも武器とか作らないのか?」

 

「ああ、それなら一つ思いついてるのがあるんだ」

 

更に笑みを深くするハジメを見て思った。

 

 こいつ完全に厨二キャラやろ……

 

「あとこの違和感もこの魔力操作って奴のおかげだろうな」

 

「おっ、おっ、おぉ〜?」

 

 ふむ、どうやら操作しているみたいだな。

 

「まぁ取り敢えずハジメの武器作りに行くとするか」

 

「それなら直ぐ出来るぞ?あぁいや時間はかかるがな」

 

 そんな壁を見てどうした?

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!

あ、戦闘描写について突っ込むやめてくださいね。下手なのは自覚してるんで


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ハジメの兵器!

かな〜り遅くなりましたことを謝らせて下さい!
すいませんでしたっ!!


====================

緑光石

魔力を吸収する性質を持った鉱石。魔力を溜め込むと淡い緑色の光を放つ。

また魔力を溜め込んだ状態で割ると、貯めていた分の光を一瞬で放出する。

====================

 

「ま、まさか、これは!?」

 

「その、まさかだ」

 

「いや、だがアレを作るのにはまだ材料が足らないな……」

 

「取り敢えず、他の魔物の肉食べるついでに探してみるか」

 

このダンジョンかなりの難易度を誇る筈なのだが、この二人にとってはもはやタダの食料庫でしかない。聖夜の料理の腕があればの話なのだが…

 

ハジメと2人目的の鉱物を探しつつ、ウサギや狼を調理しつつその技能をモノして言った。

 

====================

燃焼石

可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を1度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

====================

 

「この鉱石、アレを作るためだけに存在するような鉱石だな…」

 

「まさか、これほどまでにピンポイントに存在するとは……」

 

「どれくらいで作れそうだ?」

 

「うーん……作ったことないから何百千回と試行錯誤してだが、幸い聖夜がいるおかげで、食料には困らないし、3日で仕上げる」

 

「了解、ならそれまで俺は階層下に降りてって新たな技能を取ってくるわ」

 

「今サラっととんでも無いこと言わなかった?」

 

「言ってない」

 

という訳でここからは別行動。まぁちゃんと日帰りだが。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の階層まで来たのだが……何これ?暗っ!

 

 

取り敢えず自作、『緑光石で作ったカンテラみたいなもの』、を左手にもち先へ進むことにした。

 

暫く進んでいると、通路の奥でキラリと光った。

 

「暗闇で光を出すなんて自殺行為してんじゃねぇよ!」

 

それをお前がいうのが!というツッコミはハジメがいないので無し。

 

とまぁ、その光源に向かって、《ヴラド・ツェペシの杭》に変形させたルービックキューブを投擲。

 

鳴き声が聞こえるでもなく、グシャッ!と、何かが潰れるような音がした。

 

近づいて見てみると、体長二メートル程の灰色のトカゲのような生き物だった。頭部を粉砕されているので、即死したようだ。

 

「……収納するか」

 

 

 

時間にしておよそ数十時間そんなこんなで、他にもフクロウと、六本足の猫の収穫が出来た。

 

あまりにも真っ暗過ぎたので、途中フクロウを調理して食べ、技能の夜目を手に入れた。

フクロウには夜目があるって聞くし、そう思い食べたら大当たりで喜んだのは別の話。

 

「下に行く階段も見つけたし、そろそろハジメのとこ戻るか」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「という訳でただいまー」

 

「どういう訳だよ?」

 

「進捗の程は?」

 

「試作の段階だが…一つ問題が発生した」

 

「というと?」

 

「形は出来上がったし、これで飛ぶ筈だし、実際に飛んだ……のたが……」

 

そう言って、差し出してきたのはリボルバー式の拳銃。

 

「問題は?」

 

「弾が脆すぎて発射の瞬間が耐えられない」

 

「あ、ならこれ使ってみたら?」

 

そう言って聖夜はある鉱石を取り出す,

 

「これは!?」

 

「階段の近くの壁にこれがあった。鑑定したら使えそうだったし持ってきてみたのだが……俺の判断は当たりだった様だな」

 

「まじか、まじか!まじですか!!流石、聖夜!今すぐに作る!何がなんでも作る!というか明日にはもう完成してる!」

 

「まだ1日経ってないぞ?というより先に飯だ」

 

「あ、そっちから頂きます」

 

「あ、そこは素直に従うんだ……」

 

飯の力は偉大である。

 

====================

タウル鉱石

黒色で硬い鉱石。硬度8。衝撃や熱に強いが冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

====================

 

 

 

 

 

 

「それで?そっちは?」

 

「下の階は真っ暗だった。だから、緑光石を加工してカンテラモドキを作って、進んでたのだが……」

 

「だが?」

 

「フクロウの魔物がいてなこいつの技能に夜目があった、これのおかげで更に下に続く階層は見つけといた」

 

「じゃあ俺の新武器のお披露目はその下の階層からだな!」

 

「思ったんだが、この洞窟の魔物に地球来の銃の威力が通じるのか?」

 

「それなんだが、あの狼の技能の纏雷のおかげで小型レールガンとしてやってみようと思う」

 

「オーバーキルかな?」

 

「敵は殺すだけだ」

 

「同感だな」

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「…………………美味」

 

 そいつは有難い。今夜のメニューはサラダが無いのが痛いが、トカゲの唐揚げにフクロウの胸肉を使ったステーキ。

 

「米……欲しいなぁ」

 

「わかるぜその気持ち。まぁ普通以上に美味しいから、感謝しか出ない」

 

 

 

==================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:20

天職:錬成師

筋力:450

体力:550

耐性:350

敏捷:550

魔力:500

魔耐:500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物系分離]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩・風爪・夜目・石化耐性・言語理解

==================================

 

 

==================================

神韋聖夜 17歳 男 レベル:25

天職:器用貧乏

筋力:ERROR

体力:ERROR

耐性:ERROR

敏捷:ERROR

魔力:ERROR

魔耐:ERROR

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物系分離]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目

・言語理解

==================================

 

「石化耐性ってことはあのトカゲ、バジリスクか何かか?」

 

「サーチアンドデストロイだもんな。聖夜。」

 

 

食後、ハジメは弾丸を作成するため錬成を始めた。

 

弾丸は一発作るのにも途轍もなく集中力を使うらしい。超精密品であるし当たり前なのだが。

ドンナー(ハジメ命名)に刻まれたライフリングが無意味にならないようにサイズを完璧に合わせる必要がある。炸薬の圧縮量もミスは許されない。

 

何度も繰り返す失敗のおかげで、錬成の熟練度がメキメキと上昇していく。

 

御蔭で、鉱物から不純物を取り除いたり成分ごとに分けたりする技能が簡単にできるようになったし、逆に融合させるのも容易になった。実際、今のハジメの錬成技術は王国直属の鍛治職人と比べても筆頭レベルにある。

 

ハジメは黙々と錬成を続ける。聖夜も錬成の技能があるので、その隣でハジメ用の弾丸を作成していく。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

一方その頃、ハイリヒ王国王宮内。

の、時間を少し遡る。

 

ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫雫は、ひとり、枕に顔を埋め悶えていた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!聖夜!ほんとになんてものを最後に残していってくれたわけよ!!」

 

それでいて思い出される、聖夜との深いキス。そして、ほとんどプロポーズと言っていい告白。

 

それを思い出しては顔を真っ赤に染め上げ、枕に顔を埋め身悶えをする。

 

更に思い起こされるのは、聖夜が奈落に向かって飛び降り、その姿が見えなくなった後、暫く感傷に浸り。振り替えるとニヤニヤ顔の香織と鈴、そして明らかにソワソワしてるクラスメイト。

それを見た瞬間、雫は顔に血が登っていくのを生まれて初めて感じた。羞恥心で。

 

自分でもよく叫ばなかったと思う。そして、それを隠すように出来るだけ表情を真顔にして、メルド団長に早く戻るように進言し。そのまま撤退したのだが……

 

その帰り道香織と鈴に、初めてのキスの味がどうとか、今どんな気持ちとか、根掘り葉掘り聞かされ……一言で言うと地獄だった。それはそれはベヒモスを相手にしてる以上にきつかった。

 

この場に聖夜はいないし、もう五日も会ってないから夢なんじゃ無いかと思うこともある。しかし、左手の薬指にはめられた、グランツ鉱石がキラリと光る指輪を眺めてはあの時のことが夢なんじゃないって事を思い起こさせてくれる。

 

「はぁ……聖夜……逢いたい……」

 

 

あの日、迷宮での死闘と喪失を味わった日から5日は過ぎている。

 

あのあと、ホルアドにて一泊し、早朝には王国へと戻った。最後の最後で、カップルどころか夫婦誕生の瞬間を目の当たりにしてしまったクラスメイト達だが、ハジメが落ちたという事実に聖夜が妻(雫)を残して飛び降りたという現実(ハジメを助けるためだが)に、どう考えても生存は絶望的であると考えていた。

 

そのため、とても、迷宮内で実践訓練を続行できる雰囲気では無かったし、ハジメという無能と聖夜と言うと無能(事実を知っているのはメルドと雫など近しい人間だけであるため王国からの評価は無能)が死んだという勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

帰還を果たし、聖夜とハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は皆愕然としたものの、それが無能の聖夜とハジメと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

 

そして、悪し様に聖夜とハジメを罵る者が出た瞬間。雫は激情に駆られ何度も手を出しそうになった。というか聖夜を、罵しった者には天罰をくだした。

 

正義感の強い光輝は真っ先怒った。光輝が激しく抗議した事により、国王や教会も悪い印象を持たれてはマズいと判断したのか、彼らに処分をくだした。

 

一部のクラスメイト達は影で雫の事を未亡人扱いしている事が判明した時は、そのクラスメイトに手を出しそうになった。香織のおかげでなんとか踏みとどまれたが……。

 

その香織自身はハジメが生きていると確信しているようで、自分も彼を探しに行く!と、強くなる為に頑張っているようだった。

 

直接その話を香織から聞いた時に、頑張って付き合うことにした。雫自身、聖夜を探しに行くことも考えていたからである。聖夜には待ってろと言われたが、こちとらそんなに待っている気は無い。

 

光輝は完全に聖夜とハジメが死んだと思っているようで、空回りの励ましを会うたびに香織と雫に掛けていた。初めてそれを聞いた時は、まだ聖夜は死んでいない!とビンタを喰らわしたのもつい最近の話である。

 

光輝はというと、雫があの場であんなことを言ったことは何かの気の迷いだと思っているようで何も気にしていない。

 

聖夜に逢えなくて落ち込んでいた雫に、クラスメイトが死んだことに胸を痛めていると勘違いした、なんちゃって勇者は、本人が居なくなっている以上自分がその代わりだって務めると言わんばかりに雫に積極的に話しかけていた。

 

 

「はぁ……聖夜……」

 

 

はめられた指輪を、胸に抱きながら雫は眠りについた。

 



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封印の部屋

続け様に!


その階層は、地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼の様な場所だった。

 

「ハジメ、そろそろ元気だせよ……」

 

「あぁ……」

 

さっきからこれしか言っていない。

 

 

=====================================

フラム鉱石

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

=====================================

 

 いわゆる火気厳禁である。ハジメお手製の銃のお披露目も当分先だな。

 

武器に振り回されないように技能の訓練をしながらここまできたがこの仕打ちである。あまりにも酷い。

 

そして落ち込んでいるせいでハジメが全然戦えないので、先ほどから飛び出てくるサメのような生き物を貫手で胴体ごと貫いているせ聖夜。

 

1度殴ってみたものの物理衝撃を、緩和する性質を持っているみたいであまり効かなかったので、貫通させることにした。

 

 

 

 

 

二人の迷宮攻略は続いた。

 

あのタールザメの階層から更に五十階層は降りてきていた。あの階層のあとのハジメのヒャッハーぶりは凄かった。

 

それはもう俺の活躍がないくらいに。料理のおかげで習得した技能の気配感知で、サーチアンドデストロイを繰り返すハジメはどこか楽しそうであった。

 

まぁそれでもここまで安全に迷宮を攻略出来たのはひとえに神水と聖夜のおかげであった。

 

気配感知も無しに聖夜は魔物が出てくると即あの世行きにさせるし、怪我したり状態以上にかかっても神水と聖夜のドラクエ魔法で回復出来た。ハジメは一人だったらここまてサクサクと進んでないしかなり慎重に攻略することになってただろうなぁと、しみじみと感じていた。

 

因みに、1番厄介だったのは密林のような階層に出てきたムカデでである。実力的にではなく精神的に。無表情でギラグレイドを、唱えた聖夜にハジメは賞賛をおくった。

 

それでは実力的に1番キツかったのは何かと言うと、聖夜との実践を想定した組手である。

 

音速をこえ、光速の域に到達しそうな弾丸を視認して避ける化け物である。更に教え方も上手く、空手や柔術、中国拳法にムエタイなどの体術も仕込まれた。

 

「今なら、誰にも負けない気がする」

 

「じゃあ俺とまた戦うか?」

 

「勘弁してください!お前のは特訓では無く拷問だ!」

 

「何を言ってんだハジメ。あんなのタダの準備運動に過ぎないだろ」

 

「人権を無視するな!」

 

「え?人権なんてここにあると思ってんの?」

 

「はい。強くなるためですよね……分かってるよ……」

 

「まぁ、でも驚くくらいにハジメ吸収するからついついいろいろ仕込んじまった」

 

「少しは勘弁しやがれ……」

 

「魔法も完全に扱える様になれば、禁忌の獄を使って、ドラクエ魔法とかも覚えさせられそうだな」

 

「あ、それは是非覚えたいかも」

 

「まぁ、でもそれを抜きにしてもドンナーが

あれば充分だろ」

 

「それを目視で避けるやつが何言ってやがる」

 

そんな感じで階層を突き進み、気がつけば50層。未だ終わりの見えない迷宮攻略。現在ハジメのステータスはこうである。

 

 

=====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:55

天職:錬成師

筋力:2300

体力:3200

耐性:3000

敏捷:2050

魔力:900

魔耐:900

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・体術・言語理解

=====================================

 

聖夜との、訓練の賜物である。

 

そして現在聖夜とハジメの目の前には高さ3メートルほどの両開きの扉があった。

 

「なんか明らかにボス部屋っぽいんだけど…」

 

「だな」

 

「下に続く階段はあったしハーフポイントみたいなものか?」

 

「さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

 

「ねえ?それだったら他にも色々と不味いのが入ってるの前提なんだけど?」

 

「そのツッコミ待ってた!」

 

「軽いなぁ俺たち」

 

「それでも、俺は生き延びて故郷に帰るんだ。日本に、家に……帰る。邪魔するものは敵。それは間違いない。ならば殺すまでだ」

 

近くで見れば、益々豪華絢爛な装飾が施されておりら中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれていた。

 

「?こんな式見たことねぇぞ?」

 

「だったら話は簡単だ。ハジメ」

 

「何だ?」

 

「俺は手を使わずにこの扉を開けることが出来るぞ」

 

「は?手も使わずにどうやってだよ」

 

「それはなぁ!……………こうやってだよ!!」

 

扉に足をかけると、そのまま蹴破った。

 

「脆い脆い」

 

「あのなぁ…普通に錬成とかでも開けられるだろ……」

 

直後

 

ーーオォォオオオオオオ!!

 

野太い雄叫びが部屋全体に響き渡った。

 

二人で顔を見合わせると、苦笑する。

 

「まぁ、ベタっちゃベタだよなぁ…」

 

扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようとハジメの方に視線を向けた。

 

 その瞬間、

 

ドパンッ!

 

「ハジメ…変身中に攻撃は如何なものかと……」

 

「こいつらに気を使う必要は無いだろ?」

 

撃たれた右側のサイクロプスはビクンビクンと痙攣をし前のめりに倒れた。

 

 満を持して登場したのにこの仕打ち…ほら左の巨人もハジメのことなんてことしやがるコイツ!みたいな目で見てるし…まぁいいかこっちはこっちで倒すか。

 

「おい、デカブツ」

 

ビクッとしてこっちを見るサイクロプス。ちょっと可愛い。

 

「普通に殴りあってもいいが面倒だから、一撃で屠る。Emulation Start 『五番機構・刺式佇立態《ヴラド・ツェペシュの杭》』curse calling!」

 

「おぉ!初めて見るけどカッコイイ!」

 

「ふっ、まぁな……さて覚悟しろ」

 

杭を右手に持ち足に力を込める。

 

「その心臓貰い受ける!ゲイ・ボルク!!」

 

踏み込みの力を加えその杭をサイクロプスの目に目がけで投擲する!

 

第3宇宙速度でサイクロプスの目に向かう杭は接触の瞬間、音も立てずに頭部を粉砕し、後ろの壁に突き刺さりなおも止まらず壁の中へと消えていった。

 

本来の速度はマッハ2、およそ2469km/hらしいが、第3宇宙速度だと60100km/hだからなだいたい24倍だ。

 

「なんかレーザービームみたいに尾を引いてたんだけど……というかこんな時でもネタを挟む聖夜すごい」

 

「まぁ、こうなるな」

 

「俺が言えたことじゃないが聖夜もよっぽどだぞ!?……あ」

 

「どうした?」

 

「扉壊したけどもしかして、あの扉の窪みこいつらの魔石かなんかを嵌めたりすれば空いたんじゃ?」

 

「入ったら急に扉が閉まるみたいな仕掛けがなくなったことを考えれば十分だろ」

 

「ぐうの音も出ない」

 

 

扉の先の暗闇へと足を踏み入れると中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

その立方体を注視していた聖夜とハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

よく確認しようと中に入るとそれは急に声を上げた。

 

「……だれ?」

 

 かすれた、弱々しい女の子の声である。すると、先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

 

「ふむ……」

 

 〝生えていた何か〟は人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

流石に予想外だった二人は硬直し、紅の瞳の女の子も二人をジッと見つめていた。やがて、二人はゆっくり深呼吸し互いに顔を向け合い頷くと決然とした表情で告げた。

 

「「すみません。間違えました。」」

 

そう言って部屋から出ていこうとする二人。

それを金髪紅眼の女の子が慌てたように引き止める。

 

「ま、待って!……お願い!……助けて……」

 

「嫌です」

 

「まぁ話くらいは聞いてやろうぜ」

 

ハジメの即答に可哀想に思った聖夜は援護を出す。

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されてる奴だぞ?パンドラの箱と例えたが希望どころか災厄の種しか無さそうだしここは去る一択だろ」

 

「ど、どうして……なんでもする……だから……」

 

「ん?今なんでもするって「この場でそういう事言うのやめてもらえます!?」

 

「やだなぁ、ハジメがピリピリしてたからすこし場の雰囲気を和ませようと」

 

それでも出ていこうとするハジメに泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう!ケホッ……私、悪くない!……待って!私………………裏切られただけ!」

 

背を向けて歩いていたハジメがピタッと止まる。

 

ハジメは頭をかくと、苦虫を噛み潰したような表情で女の子に歩み寄る。

 

「裏切られたと言ったな?だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印した?」

 

そこからは女の子の必死な身の上話。彼女は先祖返りのいわゆる吸血鬼とやららしい。すごい力を持ってるから、国のために頑張っていたのだが、家臣が必要無いと切り捨てたらしい。彼女のおじも、自分が王になるといい、彼女の強すぎる力を危険視して封印したと。

 

怪我をしても勝手に治るらしくそれは首を落とされてもらしい。他にも魔力の直接操作が可能だとか。

 

「……たすけて……」

 

「…………ハジメ」

 

やがてハジメはガリガリと頭を掻き溜息を吐きながら、女の子を捉える立方体に手を置いた。

 

「あっ」

 

ハジメは錬成を始める。だが、思ったよりも抵抗が強いらしい。

 

「ぐっ、抵抗が強い!……だが、今の俺なら!」

 

「まぁ待てハジメ、このあとめんどくさそうな予感するからあまり魔力を使うな。俺がやる」

 

「……任せる」

 

「お前が助ける意思を見せてくれただけで俺は嬉しいんだよ」

 

立方体に手をおき、禁忌の獄を開いて、中を解析する。

 

 雁字搦めの鎖みたいに封印されてるのか……なら、その鎖全てを断ち切る!

 

複数の鎖を断ち切るイメージをすると、立方体がドロッと融解し一瞬にして流れ落ちた。

 

解放された女の子がペタンと床に座り込むとらまだ封印から解放されたという実感が湧かないのだろう、呆然とハジメと聖夜を見ると、聖夜とハジメの手を掴み、震える声で小さく、しかしハッキリと告げた。

 

「……ありがとう」

 

ここまできて、初めて前のハジメの姿を垣間見た気がする。

 

ハジメと顔を合わせ、これで良かったのだと苦笑しあうと。

 

「……名前、なに?」

 

囁くように問いかけてきた。

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。で、こっちが……」

 

「神韋聖夜。あんたは?」

 

女の子は、「ハジメ、セイヤ……」と繰り返し呼ぶと名前を答えようとして、思い直したようにハジメ達にお願いした。

 

「……名前、付けて」

 

「は?付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

「いや、前の名前が嫌なだけだろう、それならハジメに付けて貰った新しい名前が良いよな?」

 

「うん」

 

「はぁ、そうは言ってもなぁ…」

 

そういう言って考え込むハジメ。

 

「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

 

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

 

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

 思いのほかきちんとした理由があることに驚いた。ハジメ、適当に名前付けると思ってた。

 

女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

「おう、取り敢えずだ……」

 

「?」

 

礼を言う女の子改めユエは握っていた手を解き、着ていた外套を脱ぎ出すハジメに不思議そうな顔をする。

 

「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃあなぁ」

 

「……」

 

そう言われて差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。確かに、すっぽんぽんだった。大事な所とか丸見えである。ユエは一瞬で真っ赤になるとハジメの外套がいとうをギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。

 

「ハジメのエッチ」

 

「おい!それなら聖夜は……お前なんでもう離れてんだよ!」

 

「悪いな嫁持ちだから…」

 

「……ハジメのエッチ」

 

「何故2回目も言った!」

 

ユエはいそいそと外套を羽織る。ユエの身長は百四十センチ位しかないのでぶかぶかだ。

 一生懸命裾を折っている姿が微笑ましい。気分的にはお父さん。

 

さて、

 

「お二人さん敵さんのお出ましだぜぇ」

 

ハジメもその存在に気づいたのかソレが天井より降ってきたと同時に咄嗟にユエに飛びつき片腕で抱き上げると全力で〝縮地〟をする。

 

一瞬で、移動したハジメが振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

 サソリだな……うん。

 

部屋に入った時はいなかった。

 

少なくともこのサソリモドキは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛けなのだろう。

 

ハジメは、腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリモドキになど目もくれず一心にハジメを見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命をハジメに委ねたのだ。

 

その瞳を見た瞬間、ハジメの口角が吊り上がり、いつもの不敵な笑みが浮かぶ。

 

ひどい裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託すというのだ。これに答えられなければ男が廃る。

 

「上等だ。……殺れるもんならやってみろ」

 

ハジメはユエを肩に担ぎ一瞬でポーチから神水を取り出すと抱き直したユエの口に突っ込んだ。

 

「うむっ!?」

 

試験管型の容器から神水がユエの体内に流れ込む。ユエは異物を口に突っ込まれて涙目になっているが、衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。

 

衰弱しきった今の彼女は足でまといだが、置いていけば先に始末されかねない。流石に守りながらサソリモドキと戦うのは勘弁だ。

 

「聖夜!手出し無用だ!ユエを、任せた!」

 

「はいよ、ハジメが決めたことなら俺はお前の師匠として成長を見守ってやろうじゃ無いか」

 

「セイヤ、師匠?」

 

「おうともさ、あいつに闘い方を仕込んだのは俺だぜ?」

 

ニヒルに笑うハジメに目を向ける。

 

「邪魔するってんなら……殺して喰ってやる」

 




はい!という訳でもうお分かりでしょうが、ユエはハジメヒロインです!ここは原作通り!先に言っておくと聖夜は兄的ポジションに位置することになります!


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さそりもどき!

すこし空きましたすみません 


体の大きさもかなり違うがこういうのは相手が動くのを待つのは危険である。攻撃は最大の防御なり。

 

そうハジメには教えていたし実際ここまで来るのに容赦の無かったハジメには分かっているのだろう、目視した瞬間にサソリモドキに向かって発砲した。

 

ドパンッ!

 

向かった弾丸は頭部に直撃した。しかしその表情は険しい。

 

殻が硬いのもあるだろうが、サソリモドキが未知の武器を前に微動だにしないのだ。

 

サソリモドキの尻尾の針がハジメに照準を合わせた。その先が一瞬肥大化したと思ったら凄まじい速度で針がうち出された。避けようとするハジメだが途中で破裂し散弾の役に広範囲を襲う。

 

「ちっ!」

 

舌打ちをしながらドンナーで撃ち落としたり豪脚で払い、風爪で叩き切る。どうにか凌ぎ、お返しをするよなドンナーを発砲。

 

一方、聖夜の方は、

 

「ハジメ、直接魔力を操作してる?」

 

「おう、俺もだが魔物の肉食べたらなんか出来るようになってたなぁ」

 

「セイヤは行かなくていいの?」

 

「ハジメがユエを守るために男として立ち向かってるんだ手を出すような野暮なことはしないさ」

 

「でも、全然攻撃効いてない…」

 

ユエの言う通りあのサソリモドキにはハジメの攻撃が一切効いていない。

 

「あぁーあれはまぁ確かに効いていないが……まぁそれくらいで諦めるような奴じゃないぞ?ハジメは」

 

目を向けるとハジメが何かを投げた。カッと爆ぜると中から爆発と同時に黒い泥を撒き散らした。

 

流石に効いたようでサソリモドキから強烈な怒りが伝わってくる。

 

「な?」

 

「すごい……」

 

すると、サソリモドキが今までにない絶叫が響き渡る。

 

「キィィィィイイイ!!」

 

その叫びを聞いて、ハジメは悪寒を感じたようで一瞬こちらをみる。

 

「はぁ…まったくこっちは大丈夫だってんのに…まぁユエが心配だったんだろうな」

 

「何を………!?」

 

周囲の地面が突如波打ち始めた。

 

「ハジメ!飛べ!」

 

「……っ!」

 

俺の意図を理解したのか、一瞬で空力を使い空に跳ぶ。

 

俺はユエを抱っこしたまま、足を大きく振り上げ真っ直ぐに振り下ろす。

 

瞬間、波打っていた地面は大きく揺れると、サソリモドキに向かって揺れが戻っていき……

 

スパンッ!!

 

地面から円錐状の大きな針が突き出て来て、サソリモドキの二本あったうちの一つを切り落とした。

 

「うむ、予想通りの攻撃方法だったな…そのまま利用すればと思ったけど貫通力は結構あったな……」

 

「今……セイヤ何したの……!?」

「見たままだぞ?さぁ、そろそろユエの出番だぞ………ハジメ!」

 

ハジメは驚いたようにこっちを見る。それに向かってユエを放り投げた。

 

「「!?!?!?」」

 

「いい反応だな!ハジメ、お前の攻撃はあいつには効かない、なら方法を考えろ!ユエ!お前はただの守られるだけの姫様か!?これくらいの壁ですらない障害は2人で乗り越えて見せろ!その間時間は稼いでやる」

 

 

「っち!無茶言ってくれるぜ…ユエ……あいつに俺の攻撃は効かない……なら魔法だ……俺はまだあまり使えない…だが、お前ならそういうの得意なんじゃないか?というかそうじゃないと聖夜がユエを放り投げた意味が思いつかない…」

 

「うん……でも、魔力足りない……」

 

「足りないなら補充すればいいか……どうすればいい?」

 

「ハジメ……信じて」

 

そう言ってユエはハジメの首筋にキスをした。

 

否、キスではない噛み付いたのだ。

 

ユエは吸血鬼の生き残りだと言っていた。ならばその吸血行為を恐怖、嫌悪しても逃げないでと言うことなのだろう。信じて。その言葉に苦笑すると、ユエの体を抱きしめて支えてやった。そして時間稼ぎをしてくれている聖夜の方に顔を向ける。

 

 

「ふはははははは!弱いなぁ!」

 

打ち出される針は腕を一振りするだけで弾かれ、一瞬で頭部に肉薄すると拳を打ち込む。

 

メキャ。と嫌な音がすると吹き飛んでいく。切り落とされた尻尾の方は毒液を飛ばしていた方だったらしい。

 

強敵とすら思っていない聖夜に対して苦笑いしか浮かばない。しかも今見間違いじゃなければ頭部にヒビが入っていた気がする。

いやヒビ割れ程度で済んでいると思えばいいのか。

 

「……ごちそうさま」

 

「お、終わったか……いけるか?」

 

「うん」

 

「よし、いじめてるとこ悪いな聖夜!」

 

追撃しようとサソリモドキに近づいている聖夜に向かって声を張り上げる。

 

「いじめちゃうわ!!……じゃあそっちにとばすぞ」

 

サソリモドキの尻尾を掴むと、ハジメ達に向かって()()投げ飛ばす。

 

土煙をあげながら飛ばされたサソリモドキはハジメとユエの前で止まると、

 

「蒼天」

 

瞬間、サソリモドキの頭上に直径6メートル程の青白い炎の球体が出来上がる。

 

直撃した訳ではないのに余程熱いらしい悲鳴を上げながら離脱しようもがく。

 

だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。セイヤとハジメは腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。

 

やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむサソリモドキの姿があった。

 

「……メラガイアーとどっちが強いかな…」

 

トサリと音がして、ハジメが驚異的な光景から視線を引き剥がし、そちらを見やると、ユエが肩で息をしながら座り込んでいる姿があった。どうやら魔力が枯渇したようだ。

 

「ユエ、無事か?」

 

「ん……最上級……疲れる」

 

「はは、やるじゃないか。助かったよ。後は俺がやるから休んでいてくれ。聖夜ユエを頼む」

 

「ん、頑張って……」

 

「お任せを!」

 

ハジメは、手をプラプラと振りながら縮地で一気に間合いを詰めた。サソリモドキは未だ健在だ。外殻の表面を融解させながら、怒りを隠しもせずに咆哮を上げ、接近してきたハジメに散弾針を撃ち込もうとする。

 

ハジメは素早くポーチから閃光手榴弾を取り出し頭上高くに放り投げる。次いで、ドンナーを抜き、飛んできた散弾針が分裂する前に撃ち抜いた。そして、電磁加速させていない弾丸で落ちてきた閃光手榴弾を撃ち抜き破裂させる。

 

流石に慣れたのか、サソリモドキは鬱陶しそうにしているものの動揺はしておらず、光に塗りつぶされた空間でハジメの気配を探しているようだった。

 

しかし、いくら探してもハジメの気配はなかった。サソリモドキがハジメの気配をロストし戸惑っている間に、ハジメはサソリモドキの背中に着地する。

 

「キシュア!?」

 

声を上げて驚愕するサソリモドキ。それはそうだろう、探していた気配が己の感知の網をすり抜け、突如背中に現れたのだから。

 

ハジメは、気配遮断により閃光と共に気配を断ち、サソリモドキの背に着地したのだ。

 

赤熱化したサソリモドキの外殻がハジメの肌を焼く。しかし、そんなことは気にもせず、表面が溶けて薄くなった外殻に銃口を押し当て連続して引き金を引いた。本来の耐久力を聖夜の殴打とユエの魔法によって失ったサソリモドキの外殻は、レールガンのゼロ距離射撃の連撃を受けて、遂にその絶対的な盾の突破を許した。

 

サソリモドキは自分が傷つく可能性も無視して尻尾でハジメを叩き落とそうとするが、それより早くハジメが動いた。

 

「これでも喰らっとけ」

 

ポーチから取り出した手榴弾をドンナーで開けた肉の穴に腕ごと深々と突き刺し、体内に置き土産とばかりに埋め込んでおく。ハジメの腕が焼き爛れるがお構いなしだ。

 

そして、サソリモドキに攻撃される前に縮地で退避した。サソリモドキが、背後に離れたハジメに再度攻撃しようと向き直る。

 

しかし、そこまでだった。

 

ゴバッ!!

 

そんなくぐもった爆発音が辺りに響くと同時にサソリモドキがビクンと震える。動きの止まったサソリモドキとハジメが向き合い、辺りを静寂が包む。

 

やがて、サソリモドキがゆっくりと傾き、そのままズズンッと地響きを立てながら倒れ込んだ。

 

ハジメは、ピクリとも動かないサソリモドキに近づき、その口内にドンナーを突き入れると念のため二、三発撃ち込んでからようやく納得したように「よし」と頷いた。止めは確実に!これは、聖夜とハジメによる最近できたポリシーである。

 

振り返ると、無表情ながら、どことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながらハジメを見つめているユエと、納得したようなしたり顔でたたずむ聖夜がいた。迷宮攻略がいつ終わるのか分からないが、どうやら頼もしい相棒が増えたようである。

 

パンドラの箱には厄災と一握りの希望が入っていたという。どうやらこの部屋に入る前に出したその例えは、中々どうして的を射ていたらしい。そんなことを思いながら、ハジメはゆっくりとユエと聖夜のもとへ歩き出した。 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

サソリモドキとサイクロプスと素材やら肉やらをハジメの拠点に戻る。

 

さっさと下に行こうと準備をしながら、現在お互いの事を話していた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

 

「……マナー違反」

 

「そうだぞハジメ。だからデリカシー無いって言われるんだ」

 

「それ言われた事ないが」

 

「……ハジメ、デリカシー無い……」

 

「ほらな」

 

「お前らのそのコンビネーションなんなの?さっき会ったばかりだよな?」

 

「なんか俺には妹いないけどさ、いたらこんな感じなんだろうなあって思って」

 

「………ん、お兄ちゃん……」

 

「はぁ………それで肝心な話だが、ユエはここがどの辺りか分かるから他に地上への脱出の道とか」

 

「……わからない……でも……この迷宮は反逆者の1人が作ったと言われてる」

 

「「反逆者?」」

 

書き慣れない上に、なんとも不穏な響きに顔を見合わせる聖夜とハジメ。

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 この世界に神がいるのは分かっている。この世界に呼べる存在自体数少ないであろう……しかし反逆者か……もしかすると、この世界の神とやらはロクでもない奴だったりするのか……あのイシュタルとか胡散臭い爺さんが国王よりも上の存在だとしたら神はかなりこの世界に対して干渉を行なっているんだろう……なら、わざわざ俺たちを呼ばずに自分ですればいいだけ……にも関わらず俺達にやらせようとしてるのは、何のためだ?干渉するのに制限があるならまだ納得できる……だか最悪の場合……

 

「聖夜!」「お兄ちゃん!」

 

「…ん?あぁどうした?」

 

「さっきから反応しないから耳が遠くなったのかと…」

 

「セイヤ……老化?」

 

「ちゃうわ!ちょっと考え事だよ……で、どうするんだ?」

 

「取り敢えず、地上を目指してこのまま下におりるぞ。いつかは最下層に行けるはずだしそこなら地上へつなぐ道とかあるかもしれないしな」

 

地上に行くために下に行くとはこれいかに……まぁしょうがない……

 

「……お兄ちゃん……」

 

「ん?どうしたユエ?」

 

「その呼び方はもう固定なのか.……ユエは食事の代わりに血を吸うのでもいいらしい……俺のも美味しかったらしいが聖夜のも吸ってみたいと」

 

「成る程……好きなだけ吸っていいぞ!お兄ちゃんだから!」

 

「……いただきます……」

 

聖夜の首筋に噛みつくとちゅうちゅうと吸い始めた。

 

ちなみにハジメのは何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような感じの濃厚な深い味わいらしい。

 

「………これは……!……美味!……ハジメがスープならお兄ちゃんは沢山のフルーツの詰まったデザート……」

 

「……虫歯にならないように歯磨きはしろよ?」

 

「ツッコム所はそこじゃ無いだろ……」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

おまけ

 

香織「……チッ」

雫「……新しい家族の気配!?というかどうしたの香織!?」

香織「え?どうしたの雫ちゃん?」

雫「なんか今、聖夜に妹が出来たような……香織は?」

香織「私もハジメ君センサーは大概だと思ってるけど、雫ちゃんの神韋君に対する勘はすごいよね……」

 

 

 




ここまで呼んでいただきありがとうございました!


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クラスメイトside

今回は原作とほぼ同じですねー


ユエと出会いサソリモドキとの死闘?を生き抜いた日。

 

光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し訪れているのは光輝達勇者パーティーと、ハクションカルテット、それに永山重吾という大柄の柔道部の男子生徒が率いる男女5人パーティーだけだった。

 

セイヤとハジメの死が多くの生徒達の心の傷になってしまったのである。教会側は参加しないと言うのをよしとはしなかったが、愛子先生の猛抗議によって、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーとハクションカルテット、永山重吾のパーティーのみで戦闘訓練を継続することになった。

 

現在六十五層。しかし光輝達は立ち往生していた。あの悪夢を思い出してしまったのである。

彼らの前にはあの時と同じような吊り橋がかけられており、断崖絶壁が広がっていたのである。

 

特に、香織と雫は崖下の闇をジッとみつめたまま動かなかった。

2人とも人物は違えど人のことを思っているのは同じこと。

 

「香織……」

 

雫のその言葉にはほんの少しの心配と決意のようなものを含んでいた。

 

「うん、大丈夫だよ雫ちゃん!一緒に頑張ろうね!」

 

「そうね……戻ってきたら一発引っ叩いてやらないと……」

 

「それは神韋君が可哀想……私もハジメ君が戻ってきたらちゃんと想いを伝えないと……」

 

力強い返事に、頼もしさを感じる雫。

2人にとって聖夜とハジメが生きているのは確定事項なのである。そのあとのことを考える2人。

 

だが、そんな空気を読まないのが勇者クオリティー。

 

会話が聞こえていなかったのか、眼下を見つめる香織と雫の姿がハジメと聖夜が死んでしまったことに対して嘆いてる様に感じたのだろう。クラスメイトの死に、優しい香織と雫は今も苦しんでいるんだと結論づけた。聖夜と雫のやり取りの事はもう既に忘れていた。

 

「香織、雫……君達の優しい所は好きだ。でもクラスメイトの死に、何時迄も囚われてちゃいけない!前へ進むんだ!きっと南雲も神韋もそれを望んでいる」

 

「……はぁ……」

 

雫にとってこのやりとりはもう何度目か。

 

「香織、雫、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織と雫を悲しませたりしないと約束するよ」

 

「いつもの暴走ね……香織……」

 

「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。……えっと光輝くんも言いたい事は分かったから大丈夫だよ」

 

「そうか、分かってくれたか!」

 

おそらくどころか十中八九、今の2人の気持ちを話しても光輝には伝わらない。それどころか理解しようとしないだろう。光輝にとって聖夜もハジメも死んだ人なのである。

 

ちなみに、完全に口説いているようにしか思えないセリフだが、本人は至って真面目に下心なく語っている。光輝の言動に慣れてしまっている雫と香織は普通にスルーしているが、他の女子生徒なら甘いマスクや雰囲気と相まって一発で落ちているだろう。

 

普通、イケメンで性格もよく文武両道とくれば、その幼馴染の女の子は惚れていそうなものだが、雫は小さい頃から実家の道場で大人の門下生と接していたこと、厳格な父親の影響、天性の洞察力で光輝の欠点とも言うべき正義感に気がついていたこと、何より、聖夜という存在がある限り一切そんな感情はわかない。いや、いなくても湧かないのだろうが。

 

香織は生来の恋愛鈍感スキルと雫から色々聞かされているので、光輝の言動にときめく事ができない。いい人だと思っているし、幼馴染として大切にも思っているが恋愛感情には結びつかなかった。

 

「香織ちゃん、雫ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」

 

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンとシズシズの味方だからね!」 

 

「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

 

「恵里、鈴、ありがとね」

 

 

そんな女子4人の姿を、正確には香りを後方から暗い瞳で見つめるものがいた。

 

檜山大介である。彼はもう既に香織が手に入ると思っていた。

 

「おい、大介?どうかしたのか?」

 

「い、いや、何でもない。もう六十層を越えたんだと思うと嬉しくてな」

 

「あ〜確かにな。あと五層で歴代最高だもんな〜」

 

「俺ら、相当強くなってるよな。全く、居残り組は根性が無さすぎだほ」

 

「まぁ、そう言うなって。俺らみたいな方が特別なんだからよ」

 

一行は特に問題なく、遂に歴代最高である、六十五層に到達した。

 

「気を引き締めろ!ここからはマップが不完全だ。なにが起こるかわからんからな!」

 

メルド団長の声に表情を引き締め、未知の領域にあしをふみこんだ。

 

しばらくすると大きな広間に出た。

 

そしてあの時の同じ魔法陣が浮かび上がる。とても見覚えのあるものである。

 

「ま、まさか…アイツなのか!?」

 

光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

 

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

 

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き……

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

 

全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す女の子が二人。

 

片方は香織である。香織は誰にも聞こえないくらいの、しかし、確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。

 

「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼のもとへ行く」

 

もう片方は、雫である。聖夜が奈落の底に行くことになった直接の原因では無いもののハジメが落ちた事による間接的な原因だが、それは今となってはどうでも良いこと。どちらにせよ、憎い相手なのである。

 

「聖夜に逢わせて……」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ベヒモスの断末魔が広間に響き渡り、やがてその姿を散らして消えていった。

 

そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。

 

「か、勝ったのか?」

 

「勝ったんだろ……」

 

「勝っちまったよ……」

 

「マジか?」

 

「マジで?」

 

 

「そうだ!俺達の勝ちだ!」

 

 

聖剣を掲げながら勝利の勝鬨をあげる光輝。

その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声がわきあがった。

男子連中は肩を叩きあい、女子達は互いに抱き合って喜びを表している。

 

そんな中、ボーとベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。

 

「香織?どうしたの?」

 

「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまてま来たんだなってちょっと思っただけ」

 

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

 

「うん……雫ちゃん、もっと先へ行けばハジメ君にも……」

 

「逢えるわ、絶対に……むしろ地上に出ちゃってたりしたりして……」

 

「えへへ、そうだね」

 

そんな二人の所へ光輝達も集まってきた。

 

「二人共、無事か? 香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」

 

爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う光輝。

 

「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね」

 

「うん、平気だよ、光輝くん。皆の役に立ててよかったよ」

 

同じく微笑をもって返す二人。しかし、次ぐ光輝の言葉に少し心に影が差した。

 

「これで、南雲も神韋も浮かばれるな。自分達を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

 

「「……」」

 

光輝は感慨にふけった表情で雫と香織の表情には気がついていない。どうやら、光輝の中でハジメと聖夜が奈落に落ちたのははベヒモスのみが原因である。ということになっているらしい。確かに間違いではない。直接の原因はベヒモスの固有魔法による衝撃で橋が崩落したことだ。しかし、より正確には、撤退中のハジメに魔法が撃ち込まれてしまったことだ。それにそれを助けるために後を追った聖夜に関しても一緒くたにされているようである。

 

今では、暗黙の了解としてその時の話はしないようになっているが、事実は変わらない。だが、光輝はその事実を忘れてしまったのか意識していないのかベヒモスさえ倒せばハジメと聖夜は浮かばれると思っているようだ。基本、人の善意を無条件で信じる光輝にとって、過失というものはいつまでも責めるものではないのだろう。まして、故意に為されたなどとは夢にも思わないだろう。

 

しかし、香織は気にしないようにしていても忘れることはできない。その誰かを知らないから耐えられているだけで、知れば必ず責め立ててしまうのは確実だ。だからこそ、なかったことにしている光輝の言葉に少しショックを受けてしまった。

 

雫は雫で溜息を吐く。思わず文句を言いたくなったが、光輝に悪気がないのはいつものことだ。むしろ精一杯、ハジメのことも香織のこともついでに聖夜のことも思っての発言である。ある意味、だからこそタチが悪いのだが。それに、周りには喜びに沸くクラスメイトがいる。このタイミングで、あの時の話をするほど雫は空気が読めない女ではなかった。昂りそうになる感情を抑えようと聖夜にはめてもらった指輪を静かに撫でる。

 

若干、微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。

 

「カッオリ~ン!」

 

「ふわっ!?」

 

「えへへ、カオリン超愛してるよ~! カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」

 

「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」

 

「げへへ、ここがええのんか? ここがええんやっへぶぅ!?」

 

鈴の言葉に照れていると、鈴が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが鈴の脳天に炸裂した。

 

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は南雲君のよ?」

 

「雫ちゃん!?」

 

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンでピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」

 

「鈴ちゃん!? 一体何する気なの!?」

 

雫と鈴の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。いつしか微妙な空気は払拭されていた。

 

これより先は完全に未知の領域。光輝達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった。

 




ここまで呼んでいただきありがとうございます!
すいませんベヒモスとの戦闘は原作と全く同じなのでカットさせていただきました!
次回は直ぐに投稿します!


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お兄ちゃんの偉大さ

直ぐに投稿すると言ってかなり間が空いてしまい申し訳ございません!




「「…………楽(だな)……」」

 

「まぁ、正直こんな所で何時までも立ち止まっているわけにもいかないからな」

 

あのハーフポイントから、順調に降りることが出来ていた。ここまででユエもどうやら兄の偉大さを思い知ったようだ。

 

出てくる敵は基本殴ったら一発で風穴が空く。群れで出てきたなら魔法が炸裂。たまにハジメとユエで相手にすることもあるが、二人のコンビネーションはかなり凄まじい。

 

たった今殴られて風穴を開けられたティラノサウルスは何故か頭に一輪の可憐な花を生やしていた。

 

「この階層の魔物はどいつもこいつも花を咲かせているんだけど……何これ?寄生?」

 

「……おめでたい頭してるんだな」

 

「……かわいい」

 

直後、突然周囲から反応が現れた。

 

「「!?!?」」

 

「ハジメも気付いたか」

 

「あぁ、ユエ、やばいぞ。三十いや、四十以上の接近反応だ。やっぱりこれ洗脳か何かだな全方位から囲むようにして集まってきてやがる」

 

「……逃げる?」

 

「まぁ、任せろ、ここはどっちが上の存在か操っている奴に教え込んでやる」

 

「……どうする気?」

 

「今からこの洗脳を全て解く」

 

禁忌の獄を開いて、念じる。そして手を一つ叩く。

 

パン!

 

魔物の頭に咲いていた花が一斉に枯れ、洗脳が解かれた。

 

「「……聖夜(お兄ちゃん)今のは?」」

 

天の逆手(あまのさかて)本来は呪術の類で使用されていたらしい柏手だ。ここで、博識タイム。ハジメしか分からないだろうが、昔の出雲の国の話だ。争いの耐えない時代に国譲りを迫られた出雲の神様は勢力的に仕方なく投降したらしいが、悔しさの余り呪いの柏手をうって自殺したとされている。が、その時、呪いの柏手を撃った方向は大陸側。つまり日本の外にむけてだったらしい」

 

「で、それがなんで……」

 

「そもそも出雲は朝鮮半島経由で日本にやってきた渡来系の一族とされているんだ。主神は当時の大和国に忠誠を示したのだとか。もともと大和側に付くつもりだったんだろうな、だからわざわざ大陸側と縁を切るために、その柏手をしたんだろうな。さらにその回数は4回だった事と中国大陸由来だったことから四神相応が取り入れられていたと考えられて、大和繁栄を祈っていたとされている事から、天の栄手(あまのさかえて)という考え方もされている……まぁ諸説はあるが」

 

「はぁ、様は縁切りと繁栄の二つの意味があるから縁切りの方を使って洗脳との縁を切ったと?」

 

「ハジメって実は頭いいだろう?ちなみちこれ神様が使ったという逸話からかなり強力だからな」

 

直前まで、操られていたはずの魔物達は一斉に枯れ落ちた花を親の仇のように踏みつけていた…

 

「この奥にさっきから動く気配のない反応がある」

 

「そいつが親玉か」

 

「………さっきから話に付いて行けてない……」

 

「あぁごめんよユエ、俺らの世界の昔の話だったからな」

 

「ユエ、俺はその世界に戻るつもりだ。勿論ユエも連れてな」

 

「……ハジメ!……」

 

「はいはい、イチャイチャするのもそこまでにしとけよ〜」

 

 というか、ハジメには白崎がいるだろうに………………まさかハーレム!?なかなかやりおる……。

 

「む……お兄ちゃんがなんか変な事考えてる……」

 

「今なんか寒気が……」

 

「お前ら急に何言ってんだ?あいつらと同じ頭花畑か?」

 

「「それはイヤ(だな)……」」

 

敵の反応する所まで行くと、広間の様な場所に出た。

 

中央まで歩みを進めると、全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできた。

 

「色的に、回復しそうだけど触れるなよ?これ寄生元の胞子だ」

 

「りょーかい」

 

「ん……」

 

「かなりの数あるからな……燃やすか……」

 

「……何をなさるおつもりで?」

 

「決まってんだろ…『ギラグレイド』」

 

呪文を唱えた瞬間、聖夜達を中心に地面から業火が吹き荒れた。

 

「……自然破壊?」

 

「だな」

 

「何を納得しちゃってるの……まぁ、このまま親玉も燃やすか……アルラウネっぽいし、草には火だろ」

 

「ギィィィィィィィ!!」

 

どうやら呪文がとどいてしまったらしい。断末魔が広間に響き渡った。

 

「お、死んだっぽいな…」

 

「黒焦げ……可哀想……」

 

「何を当たり前のことを……聖夜だぞ?」

 

「お前らちょっと俺にあたり強くない!?」

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

可哀想なアルラウネを燃やし尽くし、かなりのハイペースで迷宮攻略が進み、気づいたらもう99階。

 

ちなみに、日にち的には1週間経ってない。

 

「こんなに楽でいいんだろうか……」

 

「さすおに……」

 

「なんでそのネタ知ってるの…」

 

「50階で中ボスだったから次がボスだろ…気合い入れないとな」

 

そういうハジメだが、ちゃんと聖夜との訓練であれから、かなり強くなっていた。

 

 

=====================================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:88

天職:錬成師

筋力:3200

体力:3400

耐性:3120

敏捷:3600

魔力:2000

魔耐:2000

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・体術・言語理解

=====================================

 

魔物を喰えばステータスは上昇するが固有魔法はそれほど増えなくなっていた。

 

「じゃあ行くか」

 

「ん!」

 

「おう!」

 

 

その階層は、無数の柱に支えられた広大な広間だった。

広間の先には10メートルを超える両開きの扉がありいかにもボス部屋という感じである。

 

「……これはまたすごいな……」

 

「……反逆者の住処?」

 

「多分そうだろうな……まぁ先にボス戦っぽいけどな……」

 

3人の目線の先には、巨大な魔法陣が光り輝いている。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする3人。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が聖夜達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が聖夜達に叩きつけられた。

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

「ほれ『逆風』」

 

聖夜達に到達した、その火炎放射は目の前で反射されると、元来た道を辿っていき、赤い紋様の頭を覆った。

 

「まぁ、無傷だよな」

 

「ほんと、聖夜いてくれて助かるなぁっ!」

 

ハジメが叫ぶと同時にドンナーが火を吹き赤頭を吹き飛ばした。

 

「流石の命中率だなハジメ」

 

「まぁ、これくらいは…!?」

 

聖夜とハジメが話してるうちに白頭が「クルゥアン!」と叫び吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、逆再生かのように、赤頭が元に戻った。

 

「ふむぅ…ザオリク持ちか…あの白頭から飛ばすぞ」

 

「そうだな!」

 

「んっ!」

 

今度は青頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出しくる……が

 

「しゃらくせぇ!」

 

聖夜が腕を一振りすると、氷の礫がはじけ飛ぶ。

 

「聖夜様々だな…まじで棒立ちしてるだけで勝てるだろ…」

 

「さすおに……」

 

「そのネタさっきやった…というかお前らも働け」

 

ドパンッ!

 

「『緋槍』!」

 

閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きハジメのレールガンもユエの『緋槍』も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいて聖夜達を睥睨している。

 

「盾役か、メンドイ」

 

「攻防回復とかバランス良すぎだろ」

 

「ん…強い」

 

「……回復しちゃうなら回復出来ないようにすればいいか」

 

「お、セイえもん今度は何をするんだ」

 

「ワクワク…」

 

「んもぅ……しょうがないなぁ」

 

禁忌の獄を開き、ある技を覚える。

 

「回復するならダメージに変換しちゃえばいいじゃない!『冥界の霧』!」

 

広間を覆い尽くすように紫色の霧が包み込む。

 

「さぁ、フィーバータイムだ防御役の黄色い頭を俺が破壊するから、あとはお前らでも出来るだろ」

 

「任せろ!」

 

「ん!」

 

「Emulation Start 『五番機構・刺式佇立態《ヴラド・ツェペシュの杭》』curse calling!さぁ吹っ飛べ!」

 

キィィィィィィ!

 

杭の形に変形させたルービックキューブを黄頭に第三宇宙速度で投げると、さっきの赤頭と同じように吹き飛んだ。

 

すかさず、白頭が回復しようとするが、冥界の霧の効果で、回復が反転され、黄頭のあった部分が首からどんどん壊死していく。

 

「……すごい……何あれ」

 

「どっちのことだい?」

 

「どっちも……」

 

「まずあの杭は俺の武器な、ちなみにハジメ作」

 

「む…お兄ちゃんズルい」

 

「んで、冥界の霧はさっきいった通り回復をダメージに変換してやったんだ」

 

「あとは……私たちで頑張る」

 

「おい、お前ら呑気に話してる暇あったら頭破壊しろ!」

 

「ありゃりゃ怒られちゃった…さぁ頑張っておいで、あともうひと踏ん張りだ」

 

「任せて…!」

 

そこからは一方的な圧殺だった。

 

ハジメとユエによって頭が一つずつ潰されていった。

 

途中黒頭による精神攻撃もあり、ユエが狂乱しかけたが、ハジメの熱いキッスによって正気を取り戻し、聖夜による光のはどうで状態異常を完全に消し飛ばした。

 

そして残りの一つである、銀色の頭。これはレーザービームのような極光を吐き出してきたが、聖夜がどこからともなく取り出してきた鏡によって反射され、自分の出した極光によって首をスパッと切られた。

 

「あっけなかったな……」

 

「これがボスでいいんだろうか……」

 

「…ん…お兄ちゃんいなかったら厳しかった」

 

「まぁ…そうだな……正直助かったわ」

 

「ふははは!もっと崇めたまえ」

 

こうして、聖夜達による迷宮攻略は幕を閉じた。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございました!
最後のボスは簡単に終わらせて頂きました!
戦闘描写苦手なもので…


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反逆者の住処

今回は少し短めです!


ヒュドラを倒し、独りでに開いた扉の先に進むと、中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったのだ。ここが反逆者の住処なのだろう。

 

3人で取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのでどうやら維持管理は独りでにしてくれているようだ。

 

それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。仕方なく諦め、探索を続ける。

 

3人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「……怪しい……どうする?」

 

「まぁ色々見て回ったきたが、どうやらこの部屋が地上への道の鍵っぽいしな、調べるしかないだろ」

 

「取り敢えず何あるかわからんから俺から魔法陣の中はいるわ」

 

「ん、気をつけて」

 

聖夜は魔法陣の中に足を踏み入れた。その瞬間、カッと光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げた。直後頭の中を探るような感覚がして、奈落に来てからの事が頭の中を駆け回った。

 

やがて、光がおさまると、目の前に骸と同じローブを着た青年が立っていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして始まったオスカーの話は、聖夜が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

いや、ある意味想像通りだと言うべきか。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

話を締めくくると映像はスっと消えた。同時に脳裏に何かしらが侵入してきた。多分オスカーが言っていた魔法だろう。

 

「割と重めな話しだったな…」

 

「あぁ、どえらい事をきいちまったな…」

 

「ん…どうするの?」

 

「どうするもこうするも先に飯にするべ」

 

「だな!腹減ったし、正直この世界の事なんざどうだっていい。元の世界に戻る方法を探すくらいしか考えてない」

 

「そういや、神代魔法ってのを覚えたみたいだ。ハジメとユエも立って覚えたらどうだ?生成魔法っぽいし、ハジメにとっては天職みたいなものだろ」

 

「マジかよ!これでアーティファクトも作れるんじゃないか!?」

 

早速と、ハジメが魔法陣の中に足を踏み入れると、

 

同じことを言いながらオスカーが現れた!

 

「おおぅ…台無し…」

 

「……錬成使わないけど…」

 

「まぁ、せっかくだし覚えたら?」

 

「ん……お兄ちゃんが言うなら」

 

 

 

その後ユエも魔法を覚え、戦闘直後で少し疲れていたが、台所を借りて夜食をつくり、3人で食べたあとに外にあった風呂でゆっくりと寛いでいた。

 

「はぁ……幸せ」

 

 とにかく今後の事について考えなきゃな…色々設備が整ってるみたいだし暫くは滞在でいいだろう。その間にハジメを少し鍛えて、装備整えるべきだな。

 

ちなみにオスカーの骸はユエが無慈悲にも畑の肥料にし、ハジメが身につけていた装飾品を根こそぎ奪い取った。

 

まぁ、そのおかげで、書斎を(物理で)空けた時に判明したのだが、どうやら3階の魔法陣がオスカーの身につけていた指輪に反応して地上にそのまま出れるらしい。

 

「どちらにしろ、暫くはここに滞在して、ゆっくりするべかぁ〜」

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!


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出発前夜

「昨晩はお楽しみでしたね」

 

「「………///」」

 

「いや、するなとは言わないよ?でも隣の部屋からのBGMを背に現在独り身の男が一人寂しく寝るのは少し悲しいし、あと寝れないからもう少し音量下げてくれないかな?」

 

 というかハジメには、白崎が、いるだろうに……あれ?これ前も言ったな……

 

「「……だってハジメ(ユエ)が……」」

 

「仲良しか。いや仲良しなのか。まぁいいや、ユエはともかくハジメはこの後俺との楽しい楽しい訓練な」

 

「殺生な!色々作らせてくれよ!」

 

「む……それもそうだな……」

 

「ホッ……」

 

「じゃあ終わってからでいいや」

 

「なにも解決してないっ!」

 

「お兄ちゃん……ごめんなさい……」

 

「よし、可愛い妹の頼みだし許す。」

 

絶望してるハジメの横で、やたっ!と、小さくガッツポーズをしてるユエ。

 

「そう悲観するなハジメ。元から君には更に訓練をして、もうちょいの強くなって貰おうと思ってたんだ」

 

「そりゃ、聖夜に比べれば俺はまだ弱いけどよ…」

 

「俺と比べるのがまちがってる」

 

「それ自分で言うんだ……取り敢えず色々思いついてるアーティファクトとか作って見たいんだよ!」

 

「それはハジメに任せるわ、あ、そうだハジメ、神結晶で魔眼作ったら?」

 

「俺に目をくり抜けと?」

 

「ちゃうわ。コンタクトレンズみたいにしたらってことだよ」

 

「採用。魔力感知と先読とか付ければ全然違うだろ」

 

ということで、反逆者の住処での3人生活が始まった。

 

 

 

---------------

 

 

 

2ヶ月後………

 

 

「どうしたハジメ?お前の徒手格闘はその程度か?」

 

「なんで先読使ってるのと同じタイミングで拳が飛んでくるんだよ!」

 

「単純に早いだけ」

 

ハジメは、聖夜の放った拳をギリギリで避けると、カウンター気味に拳を突き出す。

 

「さっきまでは対応出来てたのにっ!?ぐぁっ!!」

 

「組手中にお喋りとは余裕だなぁ!」

 

ハジメは聖夜に腕を取られ投げ飛ばされて仰向けに転がっていた。

 

確かに最初のうちはハジメのコンタクト型の魔眼を慣らすためかなりの手加減をして、徒手格闘をしていたが、先読を使って避けたり、攻撃を当てられるうちにハジメが助長し始めたので少し本気を出した。

 

「今のが四方投げな」

 

助長しないように少し本気を出しただけだ。別に調子に乗ってるのが腹立って意地になった訳では無い。断じて。

 

「っ…てて……」

 

「すまんな少し本気を出した」

 

「まぁ良い訓練になるから良いけどよ…」

 

「じゃあ飯にするぞ、ユエが作ってくれてるから」

 

「あぁー腹減った」

 

この2ヶ月の間でユエには料理を教えていた。

手先が器用なので上達は割と早かった。

 

「……お疲れ様。ハジメ、お兄ちゃん……ハジメ、どう?」

 

「聞いてくれよ。聖夜の奴大人気ないんだぞ」

 

色々ユエにチクられるが、気にしない。気にしないったら気にしない。

 

「お兄ちゃん……めっ!」

 

「妹に、怒られた……まぁ、それくらいハジメが強くなってるって事だ」

 

「そう言われると悪い気分はしないな」

 

「ハジメも直ぐ調子に乗っちゃ……めっ!」

 

ハジメ作のコンタクトレンズはカラーコンタクトの様に色が青になっており……まぁ、厨二心をくすぐられた結果なのだが……本人は気に入ってる筈だが、それを言うと不貞腐れる……何故そうした……

 

「さて、ハジメ、ユエ」

 

「うん?どうした?」

 

「?」

 

「移動手段は作った、武器も作った、万能薬である神結晶も欠片にして魔力を充満させた俺の蔵(禁忌の獄)で時間を無理やり進めて新しい神結晶を作り出すという増殖手段を確立させた今、ここに留まる必要性はぶっちゃけ風呂くらいしかない」

 

「んじゃあ、明日にはここを出ていくか?」

 

「そうしたいと思うけど、お前らはどうしたい?」

 

「俺もいい加減ここで燻ってるのは性にあわないと思っていたんだ」

 

「……私はハジメとお兄ちゃんに付いていくだけ」

 

「じゃあ出ていく事でいいな!そうと決まれば今日は贅沢するぞ!昨日のうちにこの迷宮の1階に戻って食料を集めに行ってたんだ」

 

「いつの間に……」

 

「お前らが毎日のようにプロレスしてるからな。寝れなくて行ってきたんだ」

 

「「申し訳ございません」」

 

「お前ら恥ずかしがりもしなくなったな!」

 

「いや、ある意味慣れた」

 

「ハジメ、聞かれてると考えると興奮するって……」

 

「ゆえっ!?」

 

「はぁ、全く……俺は雫と逢いたくて我慢していると言うのに……」

 

「そういえば、お前ら付き合ったんだっけか……雫一人残して心配じゃないのか?」

 

「心配に、決まってんだろ……まぁ、だから雫に贈った指輪に色々と加護付けておいたから悪い虫にはご退場願えるし、悪意からも守ってくれる。ちなみに、身体能力が1.5倍になるという特典つき」

 

「それ付けてなかったら意味無いよな?」

 

「さぁ!今すぐ雫に会いにいくぞ!」

 

「冗談だって、八重樫も聖夜からの贈り物だし大事に持ってると思うぞ?」

 

「……根拠は」

 

「聖夜が前に贈ったシュシュも毎日付けてくれてたんだろ?」

 

「……ハジメに論破された」

 

「信じているようで何より」

 

「……お兄ちゃん雫って誰?」

 

「そういえばユエには言ってなかったな。俺の婚約者でユエの義姉になる相手だぞ」

 

「……!初めて知った!会うの楽しみ……!」

 

「ユエはそういうの不安じゃないのか?」

 

「お兄ちゃんが選んだ人だもん」

 

「雫もユエなら気に入ってくれると思うぞ」

 

そう言って花のように笑うユエ。

 

 まったく……ハジメも良い子を捕まえたものだ……

 

「ハジメ……」

 

「ん?どうした?」

 

「妹はやらん」

 

「急にどうした!?」

 

「冗談だよ。俺もハジメなら信頼出来るし信用してる唯一無二の親友だからな。ちょっと言ってみたかっただけだ」

 

「……そう考えると聖夜は俺の義兄になるのか……」

 

「まぁユエとも血が繋がってるわけじゃないし俺達が勝手に言ってるだけだからな」

 

「「……あ」」

 

「……二人揃ってどうしたの?」

 

「ハジメ、ユエも地球に、日本に連れて帰るんだよな?」

 

「全く同じこと考えてたぜ」

 

「戸籍弄って家の家族にするか」

 

「出来なくは無さそうなのが聖夜だな……」

 

「……お兄ちゃん!」

 

「嬉しいのは分かるが抱きつくならハジメにしとけよ」

 

「……セイヤも家族」

 

「俺だって聖夜には嫉妬しねぇよ」

 

「まったく……」

 

「あ、そういやユエに渡すものがあるんだった」

 

そういって宝物庫(オスカーが保管していて指輪型アーティファクトである)からネックレスやらイヤリングを取り出しユエに手渡す。

 

「魔晶石シリーズって言ってな、神結晶の魔力を内包する性質を使って作って見たんだ。要は魔力タンクって奴だな。それ付ければ最上級魔法も連発出来るぞ」

 

「「……プロポーズ?」」

 

「なんでやねん……それで魔力枯渇を防げるだろ? 今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」

 

「……やっぱりプロポーズ」

 

「だな……プロポーズだろ」

 

「いや、違ぇから。ただの新装備だから」

 

「……ハジメ、照れ屋」

 

「……最近、お前人の話聞かないよな?」

 

「……ベッドの上でも照れ屋」

 

「止めてくれます!?、そういうのマジで!」

 

「ハジメ……」

 

「はぁ~、何だよ?」

 

「ありがとう……大好き」

 

「……おう」

 

「砂糖吐きそう……」

 

そんなこんなで3人での最後の晩餐の時間は過ぎていった。

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございました!


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帝国と残念ウサギ

クラスメイトSIDE

 

 

 

時を少し遡る。

 

聖夜達がヒュドラ相手に一方的にボコし終わり、悠々とオスカーの住処で休んでいる時。

 

勇者一行は、ヘルシャー帝国から勇者一向に会いに使者が来てたので、迷宮攻略を一時中断し、王国へと戻っていた。

 

戻って来た時に白崎香織に片思い中のランデル殿下と一悶着あったがこれといって平和な時間が過ぎて3日後。

 

遂に帝国の使者が訪れた。

 

現在、迷宮攻略メンバーに国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司教数人が謁見の間に勢ぞろいし、扉から伸びるレットカーペットの中央には帝国の使者が5人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

 

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

 

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

 

「はい」

 

陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となった。陛下に促され前にでる光輝。召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。

 

光輝を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

 

「えっと、俺は構いませんが……」

 

光輝は若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

 

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」

 

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 

 

光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。むしろそう思わせる方が不自然であると、逆にわかり易いのだが……そんな事を気にするようなら残念勇者なんて呼ばれているいないだろう。

 

「いきます!」

 

光輝が風となる。『縮地』により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。並みの戦士なら視認することも難しかったかもしれない。もちろん、光輝としては寸止めするつもりだった。だが、その心配は無用。むしろ舐めていたのは光輝の方だと証明されてしまう結果となった。

 

バキィ!!

 

「ガフッ!?」

 

吹き飛んだのは光輝の方だった。護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま光輝を睥睨している。光輝が寸止めのため一瞬、力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばしたのだ。

 

光輝は地滑りしながら何とか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。寸止めに集中していたとは言え、護衛の攻撃がほとんど認識できなかったのだ。護衛は掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている。そう、先ほどの攻撃も動きがあまりに自然すぎて危機感が働かず反応できなかったのである。

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

 

確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

今度こそ、本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。護衛は、そんな光輝を見て、「戦場じゃあ〝次〟なんてないんだがな」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はするようだ。先程と同様に自然体で立つ。

 

光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

 

結果的には、残念勇者の辛勝に終わった。

 

途中までは、本気を出した残念勇者が押していたのだが、()()()で本気を出した護衛に無意識的に限界突破を使った残念勇者が護衛を吹き飛ばしてしまい、さぁこれからという所でストップが入ってしまった。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

 

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された『ガハルド殿』と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

 

すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

 

四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

 

「皇帝陛下!?」

 

そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

 

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

 

光輝達は完全に置いてきぼりだ。なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 

なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 

ちなみに、早期訓練をしている雫を、見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。が、雫は左手に付けてある指輪を見せびらかすように、婚約者である事を話して、丁寧どころか割とキレ気味に拒否していた。

 

雫にとって、聖夜以外の男など眼中にないのだ。そこで、ふと思いついたように、どうしても私が欲しければ私の婚約者を倒せばいいと言ってやった。

 

今はいないがそのうち戻って来ることを伝えると、婚約者に『倒してやるから言っておけ』と言われた。

 

ここで、彼の人生は終了したもようである。

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

「「「外だーーーー!!!!」」」

 

現在、一行はオスカーの住処から、魔法陣を使い地上へと出てきた。

久しぶりの外である。興奮するなという方が土台無理な話である。

 

「さて、このままホルアドに戻りたい所なのだが、今から戻るとなる正直教会やら国やらがめんどい」

 

「なるほどそれで?」

 

「他の迷宮探して手っ取り早く帰る方法探そう。そのあとに雫やら白崎やらを拾って帰る」

 

「異議なし!」

 

「右に同じ」

 

「さてさてここは?」

 

「崖の下っぽいな」

 

「なら多分ライセン大峡谷……魔法使いづらいし間違いない」

 

「なるほど。なら周りのヤツらは敢えて魔法使って虐殺だな」

 

「……分解される。、でも力づくでいく」

 

「脳筋兄妹め……」

 

「ほい、『ザラキーマ』」

 

聖夜が呪文を唱えた瞬間、周りに居た魔物達はドクロのような黒いモヤに瞬く間に包まれ息の根を止めた。

 

「ざっと10倍くらいだな」

 

「効率悪いな……取り敢えず、次は俺がやるよ」

 

「私、お荷物?」

 

「そんな事はない。所謂適材適所って奴だな」

 

聖夜の唱える呪文にら最初の頃は驚いていたものの、もう慣れてしまったハジメとユエ。

 

「というか一瞬だったせいで奈落の魔物とどっちが強いのか分からなかったな……」

 

「奈落のも最後の方は片手間だったからな」

 

「ハジメもお兄ちゃんも化け物……」

 

「「酷い言われようだ……」」

 

実際ここの魔物の方が弱いのだが、彼らにとってそれは最早ドングリの背比べレベルで変わらないのである。

 

「さて、ここを登れ無いことはなさそうだけど、ライセン大峡谷と言えば七大迷宮があるとされてる場所だしな。せっかくだし樹海側に向けて探索しながら進むか」

 

「砂漠横断も嫌だし賛成」

 

「……確かに」

 

「さて、移動もめんどいしハジメさんよアレ出してくれ」

 

「そうだな」

 

そう言って右手の中指にハマっている宝物庫に魔力を注ぎ魔力駆動二輪を2台出す。

 

ハジメが黒い方に乗り込むとその後ろに、ユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。聖夜は赤い方に乗る。

 

これはハジメが作成した、要するに魔力で動くバイクである。本来ならガソリンを燃焼して使うのだがこちらは魔力の直接操作でエンジン機構を動かしているので、自然にも優しい。しかもタイヤの底には錬成機能が取り付けられているので、悪路も楽々である。

 

基本一本道なので並走しながら軽快に走らせていく。接敵しそうな魔物はハジメのドンナーが火を噴き、聖夜の方は、某英雄王の様に蔵(禁忌の獄)をプチ展開して、鉱石で作った矢(ザラキ効果付与)を敵に当てていた。矢は敵を掠るだけで即死であり、飛んでいったあとは自動で蔵に戻ってくるという、素敵仕様になっている。

 

暫くそうして走らせていくと、魔物の咆哮が聞こえてきた。

 

その姿は数秒で判明した。双頭のティラノサウルスである。近くまでま来て気づいたがそいつの足元でぴょんぴょん跳ねてるウサミミを生やした少女がいた。

 

「……何だあれ?」

 

「……兎人族?」

 

「よかったじゃないか、ハジメ。念願のウサミミ少女だぞ喜べ」

 

「厄介な香りしかしない点を除けばな」

 

「……なんでここに?」

 

「谷底が住処じゃないなら犯罪者か?」

 

「……悪ウサギ?」

 

冷たい3人である。呑気に会話をしていたが、そんな3人をウサミミ少女の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のまま聖夜達を凝視している。

 

そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……聖夜達の方へ。

 

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊し聖夜達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、聖夜達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

 

「……迷惑」

 

「こんな意志を持った弱肉強食を生で見たのは初めてだわ……」

 

必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。ハジメ達を必死の形相で見つめてくるウサミミ少女から視線を逸らすと、ハジメに助ける気がないことを悟ったのか、すぐさま視線を聖夜の方に移した。

 

ニコッと笑いかける聖夜。

 

パァァァと希望がさしたかのような表情になるウサミミ少女。

 

「さ、先進もうぜ」

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

 

「聖夜鬼畜だな」

 

「お兄ちゃん酷い……」

 

「お前らにだけは絶対に言われたくないわ」

 

 ウサミミ少女が更に声を張り上げた。

 

そんな逃げるウサミミ少女を追う双頭ティラノも向かう先に聖夜達を見つけ、殺意と共に咆哮を上げた。

 

「「グゥルァアアアア!!」」

 

「「……あ゛?」」

 

ドパンッ!グシャッ!

 

殺意を向けられた瞬間ドスの効いた声とともにドンナーを抜き頭をぶち抜いたハジメに同じくルービックキューブを瞬時に変形させ大きな車輪にして、そのまま頭上から圧殺した聖夜。その際飛び散った血やら肉片やらがウサミミ少女に降り掛かった気がするが気にしないことにしよう。

 

「……グロい…」

 

「……『八番機構・砕式円環態《フランク王国の車輪刑》」

 

「それ言わないとダメなのか…」

 

「いや、かっこいいじゃん」

 

ちなみにウサミミ少女はティラノ吹き飛ばした衝撃で、空を跳んでいた。物理的に。

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ〜い!」

 

丁度ハジメの上に来ていたらしい、ハジメに向かって手を伸ばしている。血まみれの肉片まみれになりながら。

 

「「「汚い……」」」

 

「えぇー!?」

 

3人ハモりながら、ハジメがスっと避けると、悲鳴を上げながら地面に墜落。うつ伏せになりながらピクピクと痙攣している。

 

が、すぐに跳ね起きて、ティラノの存在を確かめようと振り返った先には何もいないことに気づき唖然としていた。

 

 落下の衝撃かなりあったはずなのに案外丈夫なのな……

 

「し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」

 

「厳密には二撃だけどな」

 

聖夜の呟きにハッ!とこちらを振り向くと、、、

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアと言いますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

「感謝と共に要求が来るとか図々しすぎるだろこのウサギ」

 

「ハジメの言いたい事分からないでもない」

 

「……ウザウサギ」

 

予測していた通りの厄介事に頭を悩ませる3人の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました!
クラスメイトサイドは、ほぼほぼ原作通りです!ガハルドの死刑が決まった事以外は…



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兎人族

すいませんすいません! 
遅くなりました!



「私の家族も助けてください!」

 

「で、どうするよ?」

 

「助けるメリットが無いだろ」

 

心に余裕があるため、話は聞いてみたものの。ハジメからの返答はこれである。

 

どうやら彼女、シアが固有魔法を持ち忌子として生まれてきて、それを長年隠していたがとうとうバレて里を追い出されてしまったらしい。

 

「で、逃げてる最中に帝国兵、挙げ句の果てには樹海の魔物……ねぇ…」

 

「泣きっ面に蜂どころか文字通り恐竜が出てきたわけか」

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

話を聞き終わったハジメは組んでた腕を解き、閉じていた目を開いて笑顔をシアに向ける。

 

シアの顔にまたもや希望の光が差す!

 

「断る」

 

瞬間シアの顔に影が刺す。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、待って、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」

 

シアは、背を向けて再び行こうとする聖夜たちの足にしがみついて一言。

 

「助けてくれないと、ずっと貴方達について回って…貴方!その金髪の女誰よ!!私との子供認知してくれるって言ったじゃない!!って言い続けますからね!」

 

「ブッ」

 

「笑うな聖夜」

 

 俺の足にしがみついてはいたけど明らかにハジメの方に向かって言ってたからな…

 

ふざけたことを言ったシアに向かってドンナーを打ちながら、ハジメはため息を一つ吐いて睨み付ける。

 

「あのなぁ~、さっきも言ったがお前等助けても、俺らに何のメリットがあるんだよ」

 

「メ、メリット?」

 

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

 

「うっ、そ、それは……で、でも!」

 

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」

 

「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」

 

「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」

 

「え? あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」

 

「は?ならなんでそれを使わなかったんだよ、その固有魔法があれば、フェアベルゲンの連中にもバレことはなかっただろ」

 

「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」

 

「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」

 

「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」

 

「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」

 

「うぅ~猛省しておりますぅ~」

 

「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが………ってかユエも聖夜も黙ってないでこいつになんか言ってやってくれよ……」

 

俺は疲れたぞ…と1人愚痴るハジメ。

 

「うん、そうだな、ハジメこいつ連れて行こう」

 

「ん、私もそれ思ってた」

 

「ユエ!?聖夜!?」

 

「!? 最初から貴方達のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

 

ユエと聖夜の言葉にハジメは訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。聖夜とユエは2人向き会うと考えていたことが一致し頷くと再び前を向いて、口を開く。

 

「「樹海の案内に丁度いい」」

 

「あ~」

 

樹海は亜人族以外は迷うと言われているのだ、その案内に兎人族というわけだ。

 

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

 

「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。

 

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それで皆さんのことは何と呼べば……」

 

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

 

「俺は神韋聖夜。まぁ気軽にセイヤと呼んでくれ」

 

「……ユエ」

 

「ハジメさんとセイヤさんとユエちゃんですね」

 

 三人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。

 

「……さんを付けろ。残念ウサギ」

 

「ふぇ!?」

 

ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ!

 

「大丈夫だぞユエ。ハジメは大きさなんて気にしない」

 

「……お兄ちゃん……」

 

「あれ?お二人は兄弟なんですか?」

 

「「うん」」

 

「嘘を言うなっ!……まぁこいつらが勝手に言ってるだけだ……ほれ、取り敢えず残念ウサギも後ろに乗れ」

 

「へ?乗るなら聖夜さんの方では?」

 

「婚約者がいるんだ最初に乗せるのは雫って決めてるから…」

 

「見ての通りあいつは変な所で頑固だからな。まぁ諦めて後ろに座れ」

 

「へ!?セイヤさん結婚されてるんですか!?」

 

「この薬指の指輪が目に入らぬか!」

 

「入りそうにありません!」

 

「ネタしてないで行くぞ」

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのでしょう?」

 

「あ~、それは道中でな」

 

最初は怖がっていたシアだったがどうやら風の切る感じが気持ちいいらしい今となっては大はしゃぎである。

 

ハジメは、道中、魔力駆動二輪の事やユエが魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。

 

「え、それじゃあ、お三人も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

 

「ああ、そうなるな」

 

「……前に同じ」

 

「以下同文」

 

 しばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様にハジメの肩に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。

 

「……いきなり何だ? 騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり……情緒不安定なヤツだな」

 

「……手遅れ?」

 

「手遅れって何ですか! 手遅れって! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

 

「「「……」」」

 

「まぁ、安心しろおかしな化け物ならすぐ隣走ってる奴にぴったりの言葉だから」

 

「…超同意」

 

「おい聞こえてるぞお前ら」

 

「へ?見た感じ、ハジメさんの方が凶悪そうですしセイヤさんなんて優しそうな黒髪じゃ無いですか」

 

「ああ、あいつ髪の色いじってるし……もともと俺と一緒に髪の色抜けて白に近かった。……って誰が凶悪そうだ残念兎」

 

「……ん、お兄ちゃん強い」

 

「まぁあいつの化け物ぶりは戦いを見ればわかるぞ、つかあのティラノ倒したの見てなかったのかよ」

 

「いえ、あの時はいつの間にか上空にいたので…」

 

そんなこんなでしばらく走らせながらシアが騒いでそれをハジメとユエが怒鳴る、のルーティンを続けていると、遠くで魔物の咆哮が聞こえた。どうやら相当な数の魔物が騒いでいるようだ。

 

「! ハジメさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」

 

「だぁ~、耳元で怒鳴るな! 聞こえてるわ! 飛ばすからしっかり掴まってろ!」

 

ハジメと、セイヤは、魔力を更に注ぎ、二輪を一気に加速させた。壁や地面が物凄い勢いで後ろへ流れていく。

 

そうして走ること二分。ドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

尻尾がモーニングスターのような事を除けば普通のワイバーンのような見た目をした魔物である。

全部で6匹いるがそのうち一体が痺れを切らしたように兎人族の集まった岩の隙間に向かって突進をし、その尻尾で岩を叩きつける。轟音と共に岩が粉砕され中から兎人族が這い出てくる。

 

待ってましたと言わんばかりにその顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

周りの兎人族がその様子を見て瞳に絶望を浮かべた。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは有り得ない。

 

「セイヤ!」

 

「任せろ!」

 

懐から取り出した()()()()()()()()()を急降下しているワイバーンに向かって投擲。

第三宇宙速度なので手から抜けた瞬間にそれはワイバーンの目の前に現れた。

 

「おいおい…聖夜撃ち落とすだけで良かったのに…」

 

「ん…さすおに」

 

「二十六番機構・貫式閉鎖態《鋼鉄の処女》」

 

現れたのはよく見るアイアンメイデン。中心部が開くとワイバーンの体を棘だらけの中へと引き摺り込み、ついに扉が閉まった。その瞬間金切り声が響いたとおもったら、それはすぐに止んで、アイアンメイデンごと消えた。

 

「え、エグい…」

 

ポカーンとしているのは兎人族もハイベリアも一緒だった。

 

いち早く立ち直ったハイベリアはこちらを見つけると残りの5匹が一斉に突っ込んで来た。

 

「ハジメも働け」

 

「ほいほいっと」ドパンッ ドパンッ

 

2匹の頭を撃ち抜き、セイヤは蔵(禁忌の獄)から一振りの刀を取り出すと魔力駆動二輪の上にスッと立ち、居合の構えを取った。

 

「ちょっ!セイヤさんそんな所でふざけてたら危ないですよ!」

 

「「まぁみてろ残念兎」」

 

再び聖夜の方を向くと刀を上向きに振り切った後だった。

刹那突っ込んできた3匹のハイベリアが同時に真っ二つに割れた。

 

「へ?」

 

シアのその言葉はハジメとユエ以外の言葉を代弁していた。

 

丁度二台の魔力駆動二輪の両側を滑るように落ちていくハイベリアの死骸。

 

未だポカーンとしている兎人族の前で二輪車を止めた。

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

「シア! 無事だったのか!」

 

「父様!」

 

真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互いの無事を喜んだ後、聖夜達の方へ向き直った。

 

「セイヤ殿とハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです!セイヤさんは正直容赦ない化け物ですけど1番味方になってくれる人です!ちゃと私達を守ってくれますよ!」

 

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人達なんだな、それなら安心だ」

 

シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しで聖夜達を見ながら、うんうんと頷いている。

 

ハジメは額に青筋を浮かべドンナーを抜きかけるが、意外なところから追撃がかかる。

 

「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」

 

「ユエ!?」

 

「おい、化け物を自覚はしているがまだ人間だぞ」

 

ここで溜まっていても魔物が寄ってくるので、一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。

 

 

 




ここまで読んでいただき有難うございました!
いなくなりはしませんので気長に待っていただければと…


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帝国兵と亜人族

遅くなりまして申し訳ございません!
今回はちょっと長めになっております!


「ふふふ、ハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

 

子供に純粋な眼差しを向けられて若干居心地が悪そうなハジメに、シアが実にウザイ表情で「うりうり~」とちょっかいを掛ける。

 

額に青筋を浮かべたハジメは、取り敢えず無言で発砲した。

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

「あわわわわわわわっ!?」

 

ゴム弾が足元を連続して通過し、奇怪なタップダンスのようにワタワタと回避するシア。道中何度も見られた光景に、シアの父カムは苦笑いを、ユエは呆れを乗せた眼差しを向け、セイヤは何かを考え込んでいる。

 

「はっはっは、シアは随分とハジメ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら安心か……」

 

 すぐ傍で娘が未だに銃撃されているのに、気にした様子もなく目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親のような表情をしているカム。周りの兎人族達も「たすけてぇ~」と悲鳴を上げるシアに生暖かい眼差しを向けている。

 

「いや、お前等。この状況見て出てくる感想がそれか?」

 

「……ズレてる」

 

「…………………………」

 

「さっきからセイヤは何を考え込んでるんだ?」

 

「ん?あぁこの先進んだら帝国兵いるだろうなって」

 

セイヤのその言葉にハウリア族にザワッと緊張がはしる。

 

「その…帝国兵はまだいるでしょうか?」

 

「んー。全滅したと諦めてる可能性もあるが、そういう奴らは意外と執心深いからな…まぁ十中八九いるだろ」

 

「そ、その、もしまだ帝国兵がいたら……セイヤさんとハジメさんはどうするのですか?」

 

シアのその言葉にセイヤとハジメは顔を見合わせる。

 

「「どうするって何が?」」

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。お二人と同じ。……敵対出来ますか?」

 

「残念ウサギ、お前、未来が見えてたんじゃないのか?」

 

「そうだぞ、ウサミミ娘何を不安がってる」

 

「はい、確かに見ました、お二人が帝国兵と相対してる姿を…」

 

「だったら何が疑問なんだ」

 

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

 シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きでセイヤとハジメを見ている。小さな子供達はよく分からないといった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達とセイヤとハジメを交互に忙しなく見ている。

 

「「で、それがどうかしたのか?」」

 

「えっ?」

 

セイヤはハジメと再び顔を合わせるとため息ひとつ、ハジメが話し始める。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

 

「そ、それは、だって同族じゃないですか……」

 

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

 

「それは、まぁ、そうなんですが……」

 

「大体、根本が間違っている」

 

「根本?」

 

さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

 

「うっ、はい……覚えてます……」

 

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

 

「な、なるほど……」

 

「ま、ギブアンドテイクってやつだ。お前らだってただただ助けられるよりも何か要求されてる方が納得出来るだろ?ハジメは言葉は悪いが間違ったことは言っちゃいねぇぜ?」

 

「はっはっは、確かに分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

セイヤのその言葉にカムが快活に笑う。その表情に含むところは全くなかった。

 

一行は、階段に差し掛かった。ハジメを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。

 

そして、遂に階段を上りきり、セイヤ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 

登りきった崖の上、そこには……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、セイヤ達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

 

帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやくセイヤとハジメの存在に気がついた。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

 

「なぁなぁハジメ、ここまでテンプレみたいな悪党が居ることに嫌悪感よりも感動を覚えてるんだが」

 

「まぁその気持ち分からなくもないな」

 

「おい、こっちを無視するな!……なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そうセイヤとハジメに命令した。

 

当然、2人がが従うはずもない。

 

「まぁ、お前達としては、商品も玩具も手に入るしでこいつらを所望したい気持ちもまぁわかるがな」

 

「だろう?ならさっさとこっちによこせ」

 

セイヤとハジメは互いに向き合い上手くいったと内心喜び勇み、キメ顔で言い放つ。

 

「「だが断る」」

 

「……今、何て言った?」

 

「「この、俺たちが最も好きな事のひとつは自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやることだ」」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

 

「なぁなぁもしかして、セイヤがさっきまで考え込んでたのこれのためか!」

 

「あたぼうよ!なんかすごい気持ちよかったな!」

 

「あぁ!人生で一度は行ってみたいセリフ第1位をこんな完璧にいえるとは流石だセイヤっ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」

 

「おい、ハジメ何どさくさに紛れてその言葉まで言ってるんだ」

 

取りつく島の内心セイヤとハジメの言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で2人

を睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、2人の後ろから出てきたユエに気がついた。幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、ハジメとセイヤの服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇらが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇらの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

その言葉にスッと、セイヤの顔から表情が消えた。ハジメは眉をピクリと動かし、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。

 

だが、それを制止するハジメ。訝しそうなユエを尻目にハジメが最後の言葉をかける。

 

「つまり敵ってことでいいよな?」

 

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

グシャ!!

 

想像した通りにセイヤ達が怯えないことに苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。なぜなら、一つの大きな歯車が小隊長がいた所に鎮座していたからだ。

 

何が起きたのかも分からず、小隊長がいたであろう所を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。

 

ドパァァンッ!

 

一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。実際には六発撃ったのだが、ハジメの射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。

 

突然、小隊長げ消し飛び仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器をセイヤ達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

 

「『八番機構・砕式円環態《フランク王国の車輪刑》……すまんなハジメあまりにも耳障りで目障りだったから手が出ちまった」

 

「まぁいいよ俺も追い討ちかけたしな」

 

「まぁ、後はハジメに任せるか?」

 

「半分頼むわ」

 

「りょーかい」

 

その言葉を皮切りに一方的な蹂躙が始まった。

 

ハジメのドンナーが火を吐くたびに帝国兵の頭に風穴が空いていき、セイヤが手を振ると帝国兵の上半身と下半身に二つに分かれた。

 

1人だけを残して、一瞬にして壊滅した部隊。

 

「十八番機構・伸式外枠態《エクセター公の娘 》」

 

その生き残りが、土台に長方形の形をした枠から生える鎖に両手両足を拘束された。

 

キリキリと音を立てながら両手両足を引っ張る鎖をBGMにセイヤは口を開く。

 

「さて、他の兎人族がどうなったか教えてもらうか。結構な数がいたよな?あ、早くしないとダルマになるぞ」

 

「ま、待ってくれ!多分全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

その言葉にセイヤは兎人族の方を振り返ると悲痛な表情を浮かべていた。すぐに視線を戻して指を出す。

 

「ぜ、全部話したんだからこれを止めてくれ!ま、まて…」

 

パチン

 

指を鳴らした瞬間

 

「があぁぁぁあぁぁぁあああぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!!」

 

ブチブチと音を立てて四肢がもげた。

 

痛みに喚く帝国兵を見下ろし

 

「下衆が……『ザキ』」

 

即死呪文をかけた。

 

息を呑む兎人族達。あまりに容赦のないセイヤの行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずとセイヤに尋ねた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

その言葉に呆れ言葉を返そうとしたセイヤをハジメとユエが制す。

 

「アホかおまえら。一度剣を抜いてこちらを殺そうとしてきた奴らに対して、相手の方が強かったからと見逃してもらおうなんざ虫が良すぎるだろ」

 

「そ、それは……」

 

「……そもそも守られているだけのあなた達がそんな目をお兄ちゃんに向けるのはお門違い」

 

「まぁまて、2人ともその援護はありがたいし嬉しいが、もともと温厚らしいこいつらに頭に血が上っていたとはいえグロテスクな場面を見せたのは俺だしな、悪かったな」

 

「いえ、セイヤ殿、申し訳ない。含むところがあるわけでも無いし、守られたのはこちらだ。争いになれてはいない故驚いただけなので謝らなくても……寧ろ感謝をすべきだな。ありがとう」

 

「セイヤさん、すみません…」

 

「はい、じゃあこの話はこれでおしまい。ハジメその馬車使って先進むぞ〜」

 

「はぁ、セイヤはなんというか……」

 

「……うん、お兄ちゃんらしい」

 

 あ、この死体片付けるか。

 

「みんな、ちょっと下がってて」

 

皆んな不思議そうな顔を向けてくるが、言われた通りに下がった

 

「『バギムーチョ』っと」

 

セイヤが呪文を唱えると台風のような風が巻き起こり死体と血を上空に巻き上げ、谷底に落とした。

 

「これ程の風魔法がこの谷で使えるとは……セイヤ殿はすごいのだな」

 

キラキラとした目を向けてくる兎人族に背中がむず痒くなる。

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

ハルツィナ樹海を前方に見据え魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が平原を速いスピードで進んでいた。

 

二輪にはハジメの前にユエがその後ろにシアが乗っている。ちなみにセイヤは馬車に乗って兎人族のちびっ子達と遊んでいた。

 

「あの、あの!ハジメさんとセイヤさんとユエさんのこと、教えてくれませんか?」

 

「? 俺達のことは話したろ?」

 

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お三方自身のことが知りたいです。」

 

「……聞いてどうするの?」

 

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。お三方に出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとお三方のことを知りたいといいますか……何といいますか……」

 

シアは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になってハジメの背に隠れるように身を縮こまらせた。出会った当初も、そう言えば随分嬉しそうにしていたと、ハジメとユエは思い出し、シアの様子に何とも言えない表情をする。あの時は、ユエの複雑な心情により有耶無耶になった挙句、すぐハウリア達を襲う魔物と戦闘になったので、谷底でも魔法が使える理由など簡単なことしか話していなかった。きっと、シアは、ずっと気になっていたのだろう。

 

確かに、この世界で、魔物と同じ体質を持った人など受け入れがたい存在だろう。仲間意識を感じてしまうのも無理はない。かと言って、ハジメやユエの側が、シアに対して直ちに仲間意識を持つわけではない。が……樹海に到着するまで、まだ少し時間がかかる。特段隠すことでもないので、暇つぶしにいいだろうと、ハジメとユエ、ついでにセイヤが馬車から顔を出してこれまでの経緯を語り始めた。

 

 結果……

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そしてセイヤさんはとても素敵でずぅ〜そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。そして、さり気なく、ハジメの外套で顔を拭いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ハジメとユエが自分以上に大変な思いをしていたことを知り、そこに駆けた仲間思いのセイヤに、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

しばらくメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

「ハジメさん!セイヤさん!ユエさん!私、決めました!お三方の旅に着いていきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお三方を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった四人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

勝手に盛り上がっているシアに、ハジメとユエが実に冷めた視線を送る。ケラケラと笑うセイヤ。

 

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ? 完全に足でまといだろうが」

 

「……さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている……厚皮ウサギ」

 

「どうなるかはウサミミ娘次第だなぁ」

 

「な、何て冷たい目で見るんですか……心にヒビが入りそう……というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

 意気込みに反して、冷めた反応を返され若干動揺するシア。そんな彼女に追い討ちがかかる。

 

「……お前、単純に旅の仲間が欲しいだけだろう?」

 

「!?」

 

 ハジメの言葉に、シアの体がビクッと跳ねる。

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、お前、アイツ等から離れる気なんだろ? そこにうまい具合に〝同類〟の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってか? そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えないしな」

 

「……あの、それは、それだけでは……私は本当にお三方を……」

 

 まぁ、図星だったんだろうなぁ、ま、さっきも言った通りこれからどうなるかはウサミミ娘次第

 

「別に、責めているわけじゃない。だがな、変な期待はするな。俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。おそらく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

 

「……」

 

しばらくシアは、何かを考え込むかのように難しい顔をして座敷に座り込んだ。

 

それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、セイヤ殿、ハジメ殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お三方を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

 

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが、セイヤ達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った〝大樹〟とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてセイヤ達の周りを固めた。

 

 ふむこれだけ霧が深くても迷わないのか……意外と亜人族は方向感覚に優れているのか…それとも……いやこの先はあくまで推測の域を出ないし考えるのはやめるか…

 

「セイヤ殿ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

 

「ああ、承知している。俺もユエも、ある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ」

 

ハジメは、そう言うと〝気配遮断〟を使う。ユエも、奈落で培った方法で気配を薄くした。セイヤは姿を消した。

 

「ッ!? これは、また……ハジメ殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?セイヤ殿!?どこに行かれたのか!?」

 

「ん? ……こんなもんか?というかセイヤマジで俺たちも分からないからそれはやめてくれ」

 

「ほいほいっと」

 

虚空からいきなり現れたセイヤに驚愕の目を向けるカム。

 

「そのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。というよりセイヤ殿はもうなんて言ったら良いか…いや、全く、流石ですな!」

 

「じゃあ行くか」

 

その後ちょくちょく魔物に襲われながらも姿をあらわす前にセイヤによって息の根を止められていく魔物達。

 

樹海に入って数時間が過ぎた頃今までにない無数の気配に囲まれ、セイヤ達は歩みを止めた。

 

正体に気付いた兎人族は顔を青ざめ、ハジメとユエは面倒そうな表情に、セイヤはケラケラと笑っている。

 

「お前たち……何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」

 

 ふむ、虎の亜人族ねぇ

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

キィィィン

 

「はいストップ、おっと『五番機構・刺式佇立態《ヴラド・ツェペシュの杭》』」

 

今回はノーモーションで第一宇宙速度で虎の亜人の真横に向けてその杭を発射した。音を置き去りにして光の線を残しながら背後の樹を抉り樹海の奥へと消えていった。

 

「セイヤ今の速度は?」

 

「7.9km/s第一宇宙速度だな…まぁざっと音速の23倍の速度だな」

 

「ふむちなみに第6まで出せるのか?」

 

「出してもいいがソニックブームの衝撃波だけでこの世が終わるぞ?ちなみに第5で1000km/sだからそれだけでもここら一帯はなくなる」

 

「……絶対にやめてくれ……まぁ分かったと思うがお前ら如きに俺たちを止められると思わない事だ。周囲を囲んでいる奴らも全て把握している。お前らがいる場所は既にキルゾーンだ」

 

「な、なんだいまのでたらめな攻撃は…」

 

「兎人族の命は俺たちが保障している。こいつらに手を出すというのなら……」

 

セイヤはそこで言葉を止めるとハジメとユエと兎人族を対象から外して、殺気を振りまいた。

 

「ただの1人も生きて帰れると思うなよ?」

 

ドサドサッと周りの気配が消えた。気絶したなこれ。

 

「こいつ達がタフなんじゃないな…セイヤこの2人だけ殺気緩めてるだろ?」

 

「そりゃあ全員気絶したら交渉(きょうはく)出来ないだろ」

 

「そうか……………今なんて言った?」

 

「な、何が目的だ……」

 

「俺たちはただ樹海の深部にあると思われる迷宮に行きたいだけ、この場を引けと言ってもどうせ、上の指示を仰がないと行けないとかあるんだろ?あ、異論反論抗議質問口答えは一切認めない。この場で全員あの世への片道切符を切るか俺たちを見逃すか二つに一つだ選べ」

 

「……わかった…ザムを伝令に出すこの場で待機してくれ」

 

ハジメの方を見るとハジメが頷いた。

 

「おっけー、俺たちからはお前ら同胞に危害を加えるつもりは無い、樹海の深部にあると思われる迷宮に用があるだけ、オルクス大迷宮を攻略したからわかることだと、曲解せずに伝えてくれよ?」

 

「無論だ。ざむ!長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

ザムと言われた亜人が遠ざかっていった。

殺気を解いてしばらくすると周りで気絶していたものがチラホラと起き始めた。

 

者によっては、こちらに敵対しようとしてきたが、虎の亜人が宥めるように言って押さえていく。

 

 人望はあるほうなのか…

 

しばらく、重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、そんな雰囲気に飽きたのか、ユエがハジメとセイヤに構って欲しいと言わんばかりにちょっかいを出し始めた。それを見たシアが場を和ませるためか、単に雰囲気に耐えられなくなったのか「私も~」と参戦し、苦笑いしながら相手をするハジメに、少しずつ空気が弛緩していく。敵地のど真ん中で、いきなりイチャつき始めた(亜人達にはそう見えた)ハジメとセイヤに呆れの視線が突き刺さる。

 

時間にして一時間と言ったところか。調子に乗ったシアが、ユエに関節を極められて「ギブッ! ギブッですぅ!」と必死にタップし、それを周囲の亜人達が呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、急速に近づいてくる気配を感じた。

 

場に再び緊張が走る。シアの関節には痛みが走る。

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族いわゆるエルフなのだろう。

 

 これが長老か

 

「ふむ、お前さん達が問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「神韋聖夜。セイヤとでも」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さん達の要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

 

「オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

目的などではなく、解放者の単語に興味を示すアルフレリックに訝しみながら返答するハジメ。セイヤは何故か疑問にも思っていないようだが。一方、アルフレリックの方も表情には出さないものの内心は驚愕していた。なぜなら、解放者という単語と、その一人が〝オスカー・オルクス〟という名であることは、長老達と極僅かな側近しか知らない事だからだ。

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 

「そうだな…ハジメ、魔石とかオルクスの遺品は?」

 

「ああ! そうだな、それなら……」

 

 ポンと手を叩き、〝宝物庫〟から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

 アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オルクスが付けていた指輪なんだが……」

 

そう言って、見せたのはオルクスの指輪だ。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

 アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

 アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。しかし、今度はハジメの方が抗議の声を上げた。

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

 

「いや、お前さん。それは無理だ」

 

「なんだと?」

 

「やっぱりか……大方予想はしていたがその通りだったみたいだな」

 

「ふむ?どういうことか聞いても良いかの?」

 

「まず大前提としてこいつら方向感覚を見失わずに目的の場所まで行けると仮定してだ、さきも見えないこの深い霧の中で察知に長けているだろう兎人族が何故固まって移動している?そんなに見失うほど濃いというのなら大樹の周りはもっと深い霧なんだろうなぁ……入る前に俯瞰して見てみたが大樹周りはかなり霧が濃かった。ならば霧は一定周期で弱まったりするんじゃ無いか?」

 

「そこまで頭がまわるとは…お前さんの言う通りだ次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

「大方追放されてたとかで周期を忘れてたんだろドタバダしてたっとぽいしな」

 

「あっ」

 

青い顔をしたカム。ハジメの額には青筋が浮かぶ。

 

まぁこの先はハジメにお仕置きされまいと責任のなすりつけ合いという醜い言い争いが始まり、ユエによって天高く舞い上がったウサミミ達がいたとだけ。

 




ここまで読んでくださりありがとうございます!


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まぁそうなるよね…

直ぐ様置いていきますね。


「おぉ…綺麗だな」

 

「確かに…これはすごい…」

 

「ん…綺麗」

 

上からセイヤ、ハジメ、ユエである。

濃霧の中虎の亜人を先頭に1時間ほどかけて歩いて着いてみるとそこには先ほどのような霧が一切ない、もはや別世界と言っていい景色が広がっていた。

 

アルフレリック曰く、フェアドレン水晶と呼ばれる霧や魔物の寄り付かない鉱石でフェアベルゲンの集落の近辺を取り囲んでいるのだとか。

 

掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。

 

セイヤ達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

---------------

 

 

 

 

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

現在、セイヤとハジメとユエは、アルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、セイヤ達がオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。

 

セイヤ達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、俺達は資格を持っているというわけか……」

 

アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

セイヤとハジメとアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。セイヤ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。セイヤとハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

セイヤとハジメとユエが階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧共が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

「そうだ」

 

あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてセイヤとハジメを睨む。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、セイヤに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、セイヤに向かって振り下ろされた。

 

亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族と傍らのハジメとユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となったセイヤを幻視した。

 

しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

スッ

 

衝撃音と共に振り下ろされた拳は、あっさりとセイヤが突き出した人差し指に止められていた。

 

「うーん2点。これならまだハジメのが……いやそれはハジメに失礼だな……さて殺意を持って攻撃したんだ。覚悟は出来てるだろ?」

 

そう言って、セイヤは一瞬にして熊の亜人に間合いを詰めその腹部に向かって拳を添え………

 

「手加減はしてやる……死ぬ気で耐えろよ……『不動砂塵爆」』」

 

本来だったら星を砕くような威力を込められた(今回はかなり手加減した)拳が、遠慮容赦なく熊の亜人族の腹に突き刺さる。が、熊の亜人はその場に飛ばされる事なくその衝撃を体全体に与えられた……いや()()()()()()()()()

 

そこからピクリとも動かない熊の亜人の頭部に向かってゆびを添えて()()()

 

ただのデコピンである……が、一瞬にして衝撃波を発生させながら、文字通り猛烈な勢いで吹っ飛び。熊の亜人は、悲鳴一つ上げられず、頭を仰け反らしながら背後の壁を突き破り虚空へと消えていった。しばらくすると、地上で悲鳴が聞こえだす。

 

セイヤが行ったのは、体を揺らさずその()()に余さず衝撃を加える事で臓器を破壊させると言う最早神業に近い荒業をやってのけたうえ、デコピンで退場してもらっただけである。

 

「で? お前らは俺の敵か?」

 

その言葉に、頷けるものはいなかった。

 

 

セイヤが熊の亜人を吹き飛ばした後、アルフレリックが何とか執り成し、セイヤとハジメによる蹂躙劇は回避された。熊の亜人は内臓破裂、全身の骨が粉砕骨折という危険な状態であったが、何とか一命は取り留めたらしい。高価な回復薬を湯水の如く使ったようだ。もっとも、もう二度と戦士として戦うことはできないようだが……

 

現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、セイヤとハジメと向かい合って座っていた。ハジメの傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた。戦闘力では一,二を争う程の手練だった熊の亜人(名前はジン)が、文字通り手も足も出ず瞬殺されたのであるから無理もない。

 

「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……亜人族・・・としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう? あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

 

 グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。

 

「は? 何言ってるんだ? 先に殺意を向けてきたのは、あの熊野郎だろ? セイヤは返り討ちにしただけだ。再起不能になったのは自業自得ってやつだよ」

 

「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」

 

「あのなぁ、それが初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?それに行ったがあれでもかなり、かなーり手加減してやってるんだぞ?本来は問答無用で殺してるところを」

 

「そ、それは! しかし!」

 

「勘違いするなよ? セイヤが被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ? なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

 おそらくグゼはジンと仲が良かったのではないだろうか。その為、頭ではセイヤとハジメの言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、2人ははお人好しではない。

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼らの言い分は正論だ」

 

アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。

 

「確かに、この少年達は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼らを口伝の資格者と認めるよ」

 

そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

 その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックがハジメに伝える。

 

「神韋聖夜。南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんらを口伝の資格者として認める。故に、お前さんらと敵対はしないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

 

「絶対じゃない……か?」

 

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな……」

 

「それで?」

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

 

「そうだ。お前さんらの実力なら可能だろう?」

 

「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

セイヤに助けられたとは言え、奈落の底で培った、敵対者は殺すという価値観は根強くハジメの心に染み付いている。殺し合いでは何が起こるかわからないのだ。手加減などして、窮鼠猫を噛むように致命傷を喰らわないとは限らない。その為、ハジメがアルフレリックの頼みを聞くことはなかった。

 

しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

その言葉に、ハジメは訝しそうな表情をした。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはなかった。そのことは、彼等も知っているはずである。だが、ゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 

「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

 

「でも、父様!」

 

土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。おそらく、忌み子であるということよりも、そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。何とも皮肉な話だ。

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

それが嫌なら、こちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。他の長老衆も異論はないようだ。しかし、セイヤもハジメは特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せることはなかった。

 

「なぁ、セイヤ……こいつらアホだろ?」

 

「……あぁなんでこうお花畑みたいな頭してるのか疑問だわ」

 

「な、なんだと!」

 

セイヤとハジメの物言いに、目を釣り上げるゼル。シア達も思わずと言った風に2人を見る。ユエは2人のの考えがわかっているのかすまし顔だ。

 

「俺は、お前らの事情なんて関係ないって言ったんだ。俺からこいつらを奪うってことは、結局、俺の行く道を阻んでいるのと変わらないだろうが」

 

ハジメは長老衆を睥睨しながら、スっと伸ばした手を泣き崩れているシアの頭に乗せた。ピクッと体を震わせ、ハジメを見上げるシア。

 

「俺から、こいつらを奪おうってんなら……覚悟を決めろ」

 

「ハジメさん……」

 

ハジメにとって今の言葉は単純に自分の邪魔をすることは許さないという意味で、それ以上ではないだろう。しかし、それでも、ハウリア族を死なせないために亜人族の本拠地フェアベルゲンとの戦争も辞さないという言葉は、その意志は、絶望に沈むシアの心を真っ直ぐに貫いた。

 

「本気かね?」

 

アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光でハジメを射貫く。

 

「当然だ」

 

しかし、全く揺るがないハジメ。そこに不退転の決意が見て取れる。この世界に対して自重しない、邪魔するものには妥協も容赦もしない。奈落の底で言葉にした決意だ。

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

「何度も言わせるな。俺の案内人はハウリアだ」

 

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

 

「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう。」

 

「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ……」

 

 ハジメは一度、言葉を切って今度はユエを見た。ユエもハジメを見ており目が合うと僅かに微笑む。それに苦笑いしながら肩を竦めたハジメはアルフレリックに向き合い告げた。

 

「格好悪いだろ?」

 

闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ。殺し合いにおいて、ハジメはこれらを悪いとは思わない。生き残るために必要なら何の躊躇いもなく実行して見せるだろう。

 

しかし、だからこそ、殺し合い以外では守るべき仁義くらいは守りたい。それすら出来なければ本当に唯の外道である。ハジメも男だ。奈落の底で出会った傍らの少女がつなぎ止めてくれた一線を、自ら越えるような醜態は晒したくない。

 

ハジメに引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した。

 

「ならば、お前さんらの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

 完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。

 

「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「だが……」

 

ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり、危険因子とそれに与するものを見逃すということが、既になされた処断と相まって簡単にはできないようだ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう。

 

だが、そんな中、セイヤが敢えて空気を読まずに発言する。

 

「ああ~、盛り上がっているところ悪いが、そこなウサミミ娘を見逃すことについては今更だぞ?」

 

セイヤの言葉に、ピタリと議論が止まり、どういうことだと長老衆がセイヤに視線を転じる。

 

セイヤはおもむろに右腕を曲げ上に向けて指を出して火の玉を出す。

 

長老衆は、セイヤのその異様に目を見開いた。そして、詠唱も魔法陣もなく魔法を発動したことに驚愕を表にする。

 

「俺も、ハジメもウサミミ娘と同じように、魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。次いでに言えばこっちのユエもな。あんた達のいう化物ってことだ。だが、口伝では〝それがどのような者であれ敵対するな〟ってあるんだろ? 掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないわけだし、ウサミミ娘一人見逃すくらい今更だと思うけどな」

 

しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。

 

「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者神韋聖夜と南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、神韋聖夜、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

 

「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 

ハジメの言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ! という雰囲気である。その様子に背伸びをしながら立ち上がるセイヤに、肩を竦めるハジメはユエやシア達を促して立ち上がった。

 

ユエは終始ボーとしていたが、話は聞いていたのか特に意見を口にすることもなく2人に合わせて立ち上がった。

 

しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

ハジメの言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行くハジメの後を追うシア達。アルフレリック達も、ハジメ達を門まで送るようだ。

 

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

 

「? さっきの話聞いてなかったのか?」

 

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

「……素直に喜べばいい」

 

「ユエさん?」

 

「……ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

「そうだぞウサミミ娘、珍しくハジメが人助けなんかしたんだから喜び庭駆けまわればいいんだ」

 

「……」

 

ユエとセイヤの言葉に、シアはそっと隣を歩くハジメに視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める。

 

「まぁ、約束だからな」

「ッ……」

 

シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シアが必死に取り付けたハジメ達との約束だ。

 

 ウサミミ娘が不安がるのも無理はないか。元々、未来視で俺らが守ってくれる未来は見えていたとはいえそれで見える未来は絶対ではないらしいからな。……おや?ウサミミ娘の様子が……?

 

シアは、ユエとセイヤの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ハジメに全力で抱きつく!

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 

「どわっ!? いきなり何だ!?」

 

「むっ……」

 

泣きべそを掻きながら絶対に離しません! とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。

 

それを見たユエが不機嫌そうに唸るものの、何か思うところがあるのか、ハジメの反対の手を取るだけで特に何もしなかった。

 

喜びを爆発させハジメにじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

 

それを何とも複雑そうな表情で見つめているのは長老衆だ。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

 

 全くハジメは直ぐ増やすなぁ……

 

苦笑しながらもその光景を見守るセイヤ。

 

 




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