刀剣乱舞 妖刀の主 (審神者ヘッド「S」)
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義勇與臣村正

JKなので初投稿です


 気付いた時、男は見知らぬ場所に立っていた。

 最初、彼は此処が白昼夢か何かなのだと思った。その場所は辺鄙な田舎道の真中で、周辺には生い茂った緑と田畑が見える。風が吹き、土の匂いが鼻腔を擽った。足元を見ると、赤黒く染まった草履に綺麗な砂利が見える。

 死体も、血潮も、悲鳴も、怒声も――此処にはない。

 

「此処は――」

 

 男は最初、そこが天獄か何かなのだと思った。若しくは、外面だけを装った地獄か? 自分という人間が、天獄などという上等な場所に行けるとは思っていない。しかし、この平穏、平和、静謐で暖かな風を男は知らない。人は知らない事を恐れる、男は無意識の内に腰の打刀に手を掛けた。

 

 男の姿は酷いものだ。

 頭に被った竹傘帽子は血の雨に濡れ、着込んだ襤褸布の様な衣服は赤黒く変色している。腰の刀も然り、鞘さえ組打ちのひとつとして活用する為、べっとりと付着した赤色が鉄の匂いを発していた。全身血濡れ――それが男の現状である。

 

 幾人殺したのか? 男は憶えてなどいない。悪鬼羅刹と畏れられる存在がいるとすれば、それはこの男の事だろう。人殺しを愉しむ人間は悪鬼と云う、ならば男は悪鬼だ、それは自他ともに認めるもの。

 

 そしてそんな男にとって血潮もなく、悲鳴もなく、死体ひとつ存在しない場所というのは――酷く慣れないもので、戸惑いが先行した。

 

「おい、そこの」

 

 背後より声が掛かった。

 男は刀に手を掛けたまま素早く反転した。腰を落とし、親指で鍔を跳ね上げる。右足が前、左足が後ろ、半身になって肩を前に出し顎を引く。突然斬り掛かられたとしても、顎を引くことで首は狙えず、心臓は半身になることで守る。刀の柄は下げ腕で右腹を守る、急所を守り反撃を容易くする構えであった。

 

 しかし、男が警戒しながら反転したのに対し、声を掛けた男は刀に手すら掛けていなかった。だがそれも一瞬の事。彼奴は男の姿を良く確認していなかったのだ。道中で茫然と立ち尽くす個人、これが集団であれば多少警戒も見せただろうが。

 

 振り向いた男が血潮に塗れた格好であると気付いた瞬間、刃が鞘を擦る音が周囲に響いた。声を掛けた人物は男であった。造形の整った顔立ち、そして艶やかな髪。どこぞの武家出か、男の想像力では目の前の人物がどんな存在であるか分からなかった。考えることは苦手だ、自分には戦場で刀を振るっているのが似合う。

 

「……貴様、時間遡行軍か」

「?」

 

 目の前の美男子は顔を歪め、そう問いかけた。男は答えず、竹傘で目線を隠し乍ら内心で疑問符を浮かべる。時間遡行軍――とは、何だろうか。

 男には分からない、もしくは男が知らないだけで新しく編成された内府の備だろうか。

 兎角、目の前の男は抜刀した。

 

 であれば、応えなければなるまい。

 

 男は静かに鞘を引いて刀を抜いた。戦場で幾度も振るったが故、その刃には未だ血がこびり付いている。

 

「うッ……!」

 

 思わず、と言った風に美男子が呻いた。刀を抜いた瞬間、凄まじい血臭が漂ったのだ。臓物を抜き、骨肉を断った妖刀が放つソレ。

 

 男は静かに刀を構える。構えは深い下段、切っ先を地面すれすれに寝かせ静かに摺足にて前進。

 

 美男子は男が下段に構えた瞬間、構えを上段に変えた。深い下段、というのは最早両腕を無防備に下げているに等しい。ならば晒されるのは無防備な頭部、受けるにしても上段から振り下ろす一刀を受ければ隙を晒すは必定。

 

 男は徐々に、ゆっくりと摺足にて間合いを詰める。

 美男子は動かず、再度問うた。

 

「貴様は、歴史修正主義者か、否か!?」

「………」

 

 男は答えなかった。

 美男子は、思う。

 この血に塗れた衣装、そして竹傘。これ程血臭を撒き散らすものが神格を持った神であるとは到底思えない。であれば――敵だ。

 

 この男は敵である。

 

推参(推して参る)

 

 躊躇いはなかった。同時に沈黙を通し、徐々に迫る男への圧迫感もあった。

 

 踏み込み、無防備な頭部に向け上段より打ち込む。

 

 狙いは正確、剣速は上段に構えた己の勝ち。美男子が踏み込むと同時、男も動いていた。丁度、男の刀の切っ先が視界の下へと消える。そして上段より振り下ろした一撃が男の竹傘に触れるより速く。

 

「かッ――!」

 

 下段より奔った切っ先が美男子の鳩尾を刺し貫いていた。

 

 蛇抜。

 

 切先を突き出す様にして地面に寝かせ、素早く、或いは威圧と共に間合いを詰める。動揺し、急いた相手が空いた上体に打ち込むと同時、踏み込んだ相手の視界下より刃を跳ね上げ急所を突く。相手の心理動揺を利用した妙手である。男は自身の抜刀と同時、美男子の感情が揺らいだことを悟った。であればそれを利用しない手はない。

 

 美男子の刀は僅かに力を失い、竹傘の先端のみを掠め、それから男の肩に着撃した。斬る、というより叩くという具合。無論、そんなもので人は切れぬ、襤褸布の衣服を裂き肌が断たれる――だがそれだけだ、致命傷には程遠い。薄皮一枚の傷など刀傷とさえ呼べぬ。

 

 男は鳩尾を貫いた刀を半回転させ、それから強引に引き抜いた。ごぽり、と美男子の口から血が噴き出る。蹈鞴を踏んだ美男子に蹴撃を浴びせ、地面に転がした。

 

 口と腹から血を流した美男子は空を仰ぎながら喘ぐ。最早声を出す事も叶わない。しかし、美男子は血の泡を吹きながらもなんとか声を絞り出そうとしていた。

 

「き、様……まさ、か、刀剣――男」

「――」

 

 男は最後まで非情であった。声を絞り出した美男子の喉に向け、刺突。刀の切っ先が美男子の喉元を穿ち、その両目が見開かれた。

 

 それだけで終わりだ――美男子は刀を握っていた腕を一度びくりと動かし、それから屍と化した。瞳の光が失われ、血を流しながらぴくりとも動かなくなる。男は息絶えた事を確認し刀の血を美男子の衣服で無造作に拭った。

 

 拭いながら、思う。

 結局こいつは誰だったのだろうか、と。

 

 ■

 

 男は斬殺した美男子の衣服を剥ぎ、襤褸布となった自前のそれを捨て去った。鳩尾に穴が空いているがまぁ、今の自分の衣服よりは数倍まともである。全裸にとなった美男子をさて、地面に埋めるか森に放るかと考えていた所、美男子は光の泡となって――軈て消えた。

 

 それを男はどこか茫然とした表情で眺めていた。

 

 なんと素晴らしい骸か。死ねば光の泡となって消える、血の匂いも残らないし死体も見えぬ。もし人間が須らくそうであったのなら、あの地獄の様な戦場ももう少し見れるものになっていただろうに。男は骸が光となって消えてから、衣服は残っている事に感謝した。やはりあの、血塗れの襤褸布を纏うのは心地が悪い。それに、襤褸布となったそれは聊か体を隠すのに面積が心許なかった。対手と向かい合った時、四肢や体の動きを読まれるのは出来得る限り避けるべきだ。故に、袴や上衣など、出来るだけゆったりした衣服で体を隠す。その点、この衣服は優秀であった。

 

 男は確信した、此処は己の知る世界ではない――と。

 

 死体が光となって消えるのもそうだが、どうにも――この世界には『悲壮感』が足りない。世界全体の空気とでも言えば良いのか、言葉にするのは難しいが男の五臓六腑が悲鳴を上げているのだ。『この世界は違うぞ』と。

 

 元より血潮に浸った人生であった、こうも清浄な空気を持つ世界を男は知らぬ。他國という訳でもないだろう、大和國でなくとも同じだ。

 

「奇怪な事だ」

 

 呟き、思わず笑った。それは思わず漏れた笑みであった。そうこうしている内に足音が耳に届いた。後続か、男がその方向に目を向けると道脇に広がる森繁みの中より人影が飛び出してきた。

 

「ッと!」

 

 飛び出してきたのは男、眼帯をした美上丈。黒い、見慣れぬ衣服を着込んでいる。その上に皮鎧と肩当て――あれはどういう意図の恰好だろうか? 眼帯の男は地面に着地すると同時、持っていた刀を此方に向けたが、先ほどと異なり血塗れでもなければ浮浪者の如き恰好でもなかった為、ややあって切っ先を逸らした。

 

「……見ない顔だ、君は?」

「………」

 

 男は答えず、ただ静かに脇の刀に手を掛けた。仕掛けてくるのならば迎え討つ、ただそれだけ。眼帯の男は何も答えぬ男にやり辛そうな笑みを浮かべ――それから男の纏う、見覚えのある衣服に気付いた。

 

「――それ、月山(ガッサン)の服だね」

 

 眼帯をした男の目が、鋭く光った。

 

「帯刀している、それにその雰囲気――どうやら此方側みたいだ、なら教えて欲しい、『君と同じ服を着た』刀剣男士が居た筈なんだ、何か知らないかい?」

「この服を着た奴なら、斬り殺した」

 

 途端、眼帯の男が息を止めた。

 来る、呼気を呼んだ男は抜刀した。

 

「はァッ!」

 

 中途半端に下げた切っ先が跳ね上げられ、男の喉元目掛けて放たれた。互いの距離は間合いの外であった。それを強引な踏み込みで以って潰し、突き穿つ。しかし少々強引が過ぎた、突きとは点の攻撃であり、またその性質上狙いも読まれやすい。喉か鳩尾、腕で心臓を庇った人間を一撃で葬るとすればこの二つのみ。斬撃の様に骨ごと臓物を斬り伏せられぬ以上、その選択は避けられぬ。故に、男が突如飛び掛かった眼帯の攻撃を躱すのは、それほど難しい事ではなかった。

 

 喉元目掛けて放たれた突きを回り込む事で躱し、抜刀。抜き打ちの要領で男の腹に刀を叩き込む。しかし、眼帯の男は用意周到であった。伸びきった腕、しかしそれは両腕ではない。突き出した腕は右のみ、左は腰の脇差を握っていた。

 

 振り抜いた刀は備えの脇差に防がれた。甲高い音と閃光が走り、眼帯の男と擦れ違う。斬撃は脇差の刃を欠けさせるだけに留まった。眼帯の男は脇差を握っていた腕を揺らし、その痺れを払う。

 

「っく、やるね、思ったより手古摺りそうだ」

「……」

「能面みたいな顔だ、何故攻撃されるか分からないかい? 君は僕の仲間を殺した、それだけで理由は十分だよね」

「戦う理由なぞ、どうでも良い」

 

 男は眼帯の言葉に小さく呟いて答え、下段に構えていた刀を脇に移した。脇構え、人体の急所が集まる正中線を半身を切って隠し、後の先を狙った奇襲構えである。

 

 男は目の前の眼帯の力量を凡そ把握していた。先の強引な一突き、あれは聊か逸ったのだろうが、刀一本を片手で突き出しあの剣速、十二分以上に鍛えられているだろう。咄嗟の機転もそうだ、『抜かれるかもしれない』と考えていなければ予め脇差に手を残しておくなど考えぬ。

 

 初手、それも遭遇して間もない相手にそれ程の用心深さ――一角の剣士だ。

 

 同時に、眼帯の男も思った。

 目の前の異様な雰囲気を放つ刀剣男士――本来彼は味方の筈である。しかしどうにも、同胞と呼ぶには余りにも『血の匂い』が濃すぎる。数百、数千? 一体どれほど斬り殺せばこれ程の血がこびり付くのか。物質的な話ではない、その魂そのものが血に塗れ臭いを放っているのだ。これはその者の在り方、つまりは生き様そのものである。

 

 とてもじゃないが――同じ存在、味方とは思えぬ。

 

 それに彼奴は月山を殺した。衣服を奪ったところを見るに、嘘ではないだろう。特にあの鳩尾の傷、血も滲んでいるが目の前の男が出血している様子はない。つまりあれは月山の血だ。殺して奪ったのだ、そう考えるだけで腹の底から怒りが沸いた。

 

「名前を」

 

 故に、その問いかけは眼帯の彼にとって必然であった。

 

「君の名前を教えて欲しい」

 

 これから斬り殺す、『仲間であったかもしれない』存在に。そして同じ存在とは思えぬ神格の者として。

 男は数秒沈黙した。そして徐に答えた。

 

「柳原藤右衛門公義」

 

 眼帯の男は驚いた。告げられた名前が、余りに人間然としていたからだ。

 

「……まるで人間みたいな名前だ」

「人間だからな」

 

 何を当たり前の事をと言わんばかりに男は笑う。眼帯の男は拭いきれぬ違和を抱いた。そう、まるで――目の前の男が、自身を刀剣男士と理解していないような。否、それはあり得ない。何故なら刀剣男士とは神であるからだ。神とはそれ即ち、人より優れた存在でなければならない。精神的にも、肉体的にも、でなければ神などと呼ばれ敬われる事は無い。

 

 しかし目の前の男は己を人間だという。『イカれ』か? そうも思った。しかし、目の前の男はその見た目と精神性に反し、思考はハッキリとしている。ならば――ならば、仮に目の前の男が人間だとして。

 

「刀の銘は」

「銘不要」

 

 今度こそ眼帯の男は己の感性に疑問を抱いた。

 こいつは――本当に刀剣男士か?

 

「問答には飽いた、元より死合いに口上など要らぬ、斬って殺すか斬られて死ぬか、それだけだ……そうだろう?」

「ッ――!」

 

 砂利を踏み鳴らし男が間合いを一歩詰めた。眼帯の男は呻き、刀を中段に構える。相手は脇構え、どの様にして仕掛けてくるか。後の先を狙うのは分かった、であれば先に仕掛けるのは下策。眼帯の男は微かに構えを下段に寄せ、脇を締めた。もしあの体勢のまま振り抜くとした場合、着撃する急所が脇下であったからだ。

 

 暫し、膠着する。

 

 男の狙いは分かった、同時に晒された隙も見えた。構えは右、故に左は無防備。頭部もそうだ、しかしどちらに打ち込んでも斬り伏せる未来が見えぬ。目の前の男が隙をそのままにしておくとは思えなかった。男が更に一歩、踏み込む。重心をそのままに、滑るように。

 眼帯の男が緊張に唾を呑む――そして。

 

「そこまで」

 

 澄んだ、女の声が響いた。

 

「ッ、何で此処に!?」

 

 思わず、と言った風に眼帯の男が叫んだ。視線は森の方へと向いている。明らかな隙だった、打ち込めば斬り殺せただろう。しかし、男もその声に意識を引っ張られた。心地の良い声であった、それは男にとって馴染みのない感覚であったが故に。

 

「彼を呼んだのは私です、忠光――義勇與臣村正、あなたですね?」

「………」

 

 果たして森影の中より現れたのは――社稷を司る者特有の神聖さを放つ、美しいとも可愛らしいとも呼べぬ女であった。極々、平凡な容姿、雰囲気も凡庸、なれど放つ内々の神聖さのみが非凡。男は一瞬、言葉を詰まらせた。この女をどう評価すれば良いのか分からなかったのだ。

 

「まさか肉体を与える事叶わず、生前の持ち主を引っ張って来るとは思いませんでした……巻き込まれた貴方には謝罪を」

 

 女が上品な動作で頭を下げる。男はそれをただぼうっと見ていた。

 眼帯の男――忠光と呼ばれた彼は女が現れた途端、強烈な殺気を此方に投げかけた。先ほどもそうだったが、今は尚一層凄まじい殺気を放っている。

 

 成程、夫婦(めおと)か何かか。

 

 男はそう邪推し、眼帯の男より一歩退いた。必要とあれば女子供も斬り殺そう、だが敵意を持たず、また明確に敵と云えぬ相手を殺しんで楽しむ趣味を己は持っていない。しかし、巻き込まれたとは何か。

 

 男――公義は手に持った刀を握り締めながら考える。

 どうやら此処は天獄でもなければ地獄でもないらしい、と。

 

 ■

 

「――事情は把握した」

 

 公義は女――小雪と名乗った女と、忠光と呼ばれた男の前で頷いた。最初は本丸と呼ばれる場所にて、という話であったが誰が好き好んで良くも分からぬ相手の本拠地に乗り込めよう? 聞けばそこには忠光や先ほど斬り殺した月山の様な連中が揃っているとの事。己ひとりでどうこうできる戦力ではない。故に、事情の説明は即座に、その場で行われた。

 

 公義に難しい事は分からぬ、元より戦場で刀を振り回すばかりの人間であった。学もなければ義もない、そんな日々を過ごしていた。だからこそ最大限噛み砕き、簡素な言葉で言い表すとこうなる。

 

 歴史を改変したい者と、歴史を改変したくない者の戦い。

 

 因みに目の前の小雪と忠光は歴史を改変したくない側の人間らしい。何やら小難しい単語と共に説明されたが、公義は小指の先ほども理解していない。まぁ兎角、良く分からない妖術か技術かは知らないが、それらの技で以って過去へと遡り、そこで刀剣に宿る付喪神を用いて自分らの代わりに戦わせていると。

 

 凡その話はこれで間違っていない筈だ。もうひとつ、この歴史改変派とは別に敵対する組織が在るらしいが、此方については余り良く分かっていない。公義は話を頭の中でまとめ、淡々と問うた。

 

「では、俺の事も歴史改変を企む輩と戦う為の尖兵として呼び出したと」

「身も蓋もない言い方をすれば」

「月山を殺した事については如何」

「彼の肉体は確かに死亡しました、しかし彼の存在が消滅した訳ではありません」

 

 その言葉に公義は思わずと言った風に目を見開いた。小雪は緩く笑みを浮かべながら、公義に言い聞かせる。

 

「彼らの本体は刀剣です、言ってしまえば肉体は影法師、ただ刀を振るう為にある器に過ぎません、肉体が消滅しようと刀剣さえ無事ならば数日の内に復活も叶うでしょう――ですから此度の事は不幸な行き違い、刀剣を破壊されたならば思うところもありますが、まだ我々は決定的な過ちを犯しておりません」

「………」

 

 成程、付喪神とは然様な存在か。

 

 公義は小雪の隣で不機嫌そうに顔を顰める忠光を見る。銘を燭台切忠光、仕手は伊達政宗だったか。公義でさえ名を知る豪傑のひとりである。刀自身が刀を振るうなどと奇天烈な発想だが、実際それで何とかなっているのだから馬鹿に出来ぬ。

 

 道具に技は宿ると言ったのは果たして誰だったか。あの月山は兎も角、目の前の燭台切忠光はただ使われるだけの道具ではなかったらしい。喜ぶべきか、嘆くべきか。

 

「して、返答は如何」

「……歴史を守る為に戦うか、という話か」

「はい」

「断る」

 

 公義は断固とした口調で告げた。忠光は微かに目を鋭くし、小雪は目を伏せ前で組んだ手を強く握った。

 

「何故、と聞いても」

「俺がやりたくないからだ」

 

 公義の言葉は簡素で、故に絶対的な意志の強さを放っていた。

 

「歴史を改変したいならばすれば良い、したくないならば守れば良い、俺は別段どちらでも良い、変わろうと変わるまいと、てんで興味がない」

「正しき歴史を守る、その義を共に抱く事は出来ませぬか」

「……良く分からんのだが、お前達は単に歴史を変えられたくないのだろう? お前達は好きで歴史を守っているし、相手も好きで歴史を変えようとしている、なら別段それで良いではないか」

「……我々は人類の為に歴史を保障しています、歴史を変える、それは人類と世界、そして時間軸に明確な混乱を引き起こすでしょう、無用な混乱は避けるべきです、これは防ぐべき事だと思いませんか?」

 

 小雪の言葉に今度は公義の顔が歪んだ。

 

「――まるで己が正義であるかの様な口ぶりだ」

「正義などと軽々しくは言いますまい、なれど、間違いであるとは思っておりませぬ」

「成程……なら、そちらはどうだ?」

「……僕かい?」

 

 公義が目を向けたのは忠光である。彼は腕を組んだまま近場の木に寄りかかっており、水を向けると億劫そうに口を開いた。

 

「何故神であるその身は人間の女に従う? よもや惚れた腫れたの話ではあるまい」

「従う理由か……彼女が僕達の今の仕手であるから、かな」

「刀を振るっているのはお前自身だろうに」

「確かに戦うのは僕達だよ、けれど刀の持ち主は彼女、なら従う理由はそれだけで十分だ――尤も、こういう風に考えているのがどれだけいるのか、僕には分からないけれど」

 

 忠光はそう告げ、これ以上言う事は無いと目線を切った。公義は彼の言葉を聞き暫く考え込む。成程、仕手であるから――か。

 

 これは凡そ、自分には理解出来ぬ感情だろう。生物としての違い、精神構造的な違い、信条、義とはまた違った視点だ。しかし理解は出来ねど納得はしよう。彼は自分のしたようにしているだけなのだ、ならばそれはそれで尊重すべきだ。

 

 嫌々やっているというのなら目の前の小雪を斬り殺してやるが、そうでないのならいう事など無い。そして同時に、根本的に彼女に侍っている刀剣男士とやらと己は交わらないという事を理解した。

 

「やはり相容れぬ、俺は人間であるが故にな、お前を仕手とも思えぬし、仮にそうだとしてもやりたくない事をやろうとは思えぬ」

 

 公義の答えは変わらない。否、もっと強固になったとも言える。その言葉を聞いた小雪が眉を寄せ、僅かに口調を強くした。

 

「やりたい、やりたくないで貴方は物事を判断するのですか」

「当然だろう、他になにがある?」

 

 小雪の問いかけに公義は腹の底から意味が分からぬとばかりに首を傾げた。小雪はそんな彼の様子に僅かな怒りを見せ、一歩踏み込む。

 

「やらねばならぬ事もあるではありませんか、事、この仕儀は人の未来を左右するもの、やりたくないからやらぬでは済みませぬ、他に信条や義があるというのなら納得もしましょう、しかし貴方の言は余りに――」

「待て」

 

 小雪の責め立てる様な言葉を公義は遮った。突き出された手に面食らい、小雪は言葉を呑みこむ。視界の先に見えた公義の顔は、これ以上ない程に歪み切っていた。

 

「……まさかとは思うが、お前――『やりたくもない事をやっている』のか?」

「………」

 

 公義の問いかけに小雪は答えなかった。忠光は静かにその成り行きを守っている。公義は唸るようにして喉を鳴らし、重ねて問うた。

 

「お前は、確か審神者と言ったか? この刀剣男士とやらを使って戦っているのだろう、その歴史改変主義者とやらと」

「はい」

「斬り殺した筈だ、敵を、歴史を守る為に」

「……はい」

「好き好んで斬り殺したのではないのか?」

 

 当たり前の事を問う様に。「殺したいから殺しました」と、当然の如く頷くだろうと公義は思っていた。だからこそ、顔を強張らせ、叫んだ小雪の言葉が理解できなかった。

 

「誰が――誰が好き好んで、人など殺すものですかっ!」

 

 小雪のそれは悲鳴に近かった。殺したのだろう、そして殺したことを後悔しているのだ。それがはっきりと分かる声色だった。殺したくないのに殺した、仕方なく殺した、納得していないのに殺した。

 それは絶対的に、壊滅的に、公義が【嫌う】人間そのものであった。

 

 公義が顔を俯かせる。

 小雪ははっとなり、自分が声を荒げたという事実に気まずそうに眼を逸らした。それから、公義は肩を揺らす。それは泣いている様にも見えるし、笑っている様にも見えた。

 その事に小雪は疑問を抱き、どうしたのだと公義に手を伸ばす。しかしその手を遮った者がいた。

 忠光だ。

 

「忠光?」

「―――ふ」

 

 忠光は答えない。代わりに刀の柄を握った。

 公義の顔が上がる。忠光が体を強張らせ、抜刀した。小雪には忠光の背中が壁となりてんで彼の表情が見えない。しかし、一泊遅れて響いた絶叫がすべてを物語っていた。

 

 

「ふざけンじゃねぇぇぇえええェエエエッ!」

 

 

 まるで獣の如き発声であった。公義は腰の刀を抜き放つと、そのまま上段に構え小雪目掛けて斬り掛かった。口から泡を飛ばし、竹傘の下に見える瞳は爛々と輝いている。忠光は斬り掛かってきた公義に対し、小雪の盾となる形で対峙した。

 上からの唐竹、それを寝かせた刃で受ける。切先を左手で支え、まるで棒の様に刀を扱う。そうでなければ防げぬ一撃であった。

 

「ッ、ぁ――!」

 

 甲高い音、刀と刀がぶつかる音だ。その残響は小雪の耳を揺らし、その迫力に思わずその場で腰を抜かした。小雪を射抜く憤怒の双眸、対し公義を射抜く忠光の片目。

 

「退け燭台切ッ! 邪魔をするなァッ!」

「聞けない相談だね、君、斬り殺すつもりだろう!?」

「――当たり前だろうがァッ!」

 

 ぎちりと、一歩忠光が押し込まれた。

 公義の表情は憤怒一色。小雪はその場で腰を抜かしたまま後ろへと後退った。公義の双眸が小雪を射抜く、この人は何故、こんなにも激怒しているのか。小雪には分からない。

 理解されていないと分かったのだろう、公義は更に怒りを覚えがら叫んだ。

 

「お前、【嫌々】殺したのか?」

「えっ……?」

「歴史改変主義者の連中を、嫌々殺したのかって聞いてんだよッ!」

 

 小雪を睨みつけながら公義は一歩踏み込む。忠光が呻き声を上げ、一歩退く。刃と刃が擦過し火花を散らした。小雪が口をぱくぱくと開閉させる、何か云わねばならぬ、しかし言葉が出ない。恐怖と混乱で喉が動かないのだ。それを見た公義は益々激し、次々と言葉を吐き捨てた。

 

「涙を流しながら殺したか!? 謝りながら殺したかッ!? 泣きわめいて謝罪して、本当は殺したくないんですって言いながら殺したのかァッ!?」

「ふざけんじゃねぇぞ、ざけんじゃねぇェッ! お前が好きでやっている事でもねぇ、覚悟している訳でもねぇ! 義やら人類やら理由付けして人を殺しておいて、挙句の果てには【嫌々殺した】だと!?」

「殺すなら【真面目に】殺せよ!? 殺してから涙を流すなんざ厚顔無恥にも程があるだろうが!? お前が決めた事でもねぇ、『私がやらなくちゃいけない』なんてやりたくもねぇ本音を透かして殺されるなんざ、馬鹿馬鹿しくてやってらんねぇだろうがよォ!?」

 

 鬼気迫る表情、怒髪冠を衝くが如き強い口調。それらは小雪を真正面から叩きのめし、反論する気力すら沸いてこなかった。そしてその対象は斬り結んだ忠光にも向けられる。

 

「なぁ、なァ分かるだろう忠光よう! お前も刀なら、人を殺すための凶器なら、人を殺しておいて流す涙の醜さをよう! 殺したなら全部呑み干さなきゃいけねぇ! 【殺したかったから殺したのだ】と、胸を張らねばならんだろうが!? そんな覚悟も資格もねぇのに、人を殺しやがった これが許せるかよ!? なぁ!?」

「ぐ、ぅッ……!」

 

 また一歩、忠光が押し込まれた。

 忠光は目の前の公義が放つ怪力に困惑した。先ほどまでとは異なる、まるで体格が一回りも二回りも大きくなったかのような錯覚。気迫によるものか? しかし、それにしたって箍が外れ過ぎている。

 

「ッ、君……本当に、人間かいッ?」

 

 思わず、そんな言葉が漏れた。小雪を見つめていた双眸が忠光に向けられ、その口元が歪に曲がった。

 

「俺は生まれて三十年、人間を斬り殺す事だけを考えて生きて来た! 伊達政宗の刀だか何だか知らないが、体の使い方と技に関しちゃ負ける気がしねぇ!」

「ッ、これは、本当に――」

「なぁおい、燭台切、そこを退け、その女は殺す、斬り殺す! 殺さねばならんのだ! 彼奴は俺が最も嫌いな人間だァ! 使命感だか正義感だか知らんがそんなものに駆り立てられ、【分不相応】にも殺しに手を出しやがったッ!」

「うッ――」

 

 忠光の背中越しに視線で射抜かれた小雪が喉を引き攣らせた。この人は本当に、自分を殺すつもりだ。本気で、一切の躊躇いなく、情けなく、無慈悲に、残酷に。死にたくないと小雪は思った、同時にそれは自分が殺して来た者にも言えると思った。ならばここで贖罪を果たすのが最善か? 否、それは逃げである、それこそ目の前の彼が唾棄する生き方だろう。

 主の壁となった忠光が負けじと両腕を押し込み、歯を食いしばった。

 

「随分独特な生死観だね! けれどそれを、僕たちに押し付けないで欲しいかなッ……!」

「なら歴史改変主義者もそう思っただろうさ! お前等の勝手な都合で殺さないで欲しいです、ってな!」

 

 目の前の忠光の顔が露骨に歪んだ。

 

「死合いってのはそういうもんだ! 互いに勝手な都合を押し付け合って殺し、殺される! 殺したくねぇのに何で殺す? 殺したくないなら殺さなきゃ良いだろうがよ! 覚悟も理解もねぇなら田舎に引っ込んでりゃ良かったんだ!」

「で、でも、私が……私がやらなければ」

「お前がやらなければ何だって言うんだ!? 歴史が変わるか、世界が亡ぶか、時間軸とやらに混乱が起こるか? 良いだろうがよ別段、やりたくねぇならやらなきゃ良いだろうが! お前がやらなきゃ世界が亡ぶって言うなら、亡んじまえば良いだろうがよォ!」

「ッ――」

 

 流石に、それは聞き捨てならなかった。思わずと言った風に公義を睨みつける。未だ地面に座り込み情けない事この上無いが、世界など滅んでしまえば良いという言葉だけは受け入れられなかった。しかしそんな反抗さえも、公義には毛ほども通じなかった。口元を歪め、公義は叫び続けた。

 

「お前がやらなくても、別の『やりたい誰か』がやってくれる、【世界と人類の為に死んでくれ】と、躊躇いなく殺せる奴がやってくれるさ! それともお前がそれをやるのか? 世界の為に堂々と人殺しが出来るか? 真っ直ぐ目を見て、大衆の目の前で、或いは相手の家族の前で、『必要だから殺します』と言って【真面目に】殺せるかァ!?」

「っ――」

 

 想像した。大衆の目前で、相手の家族の前で――人間を殺す、相手を殺す。

 無理だ。

 

「殺せない――お前には殺せない!」

 

 その通りだ、自分には殺せない。自分には出来ない。小雪は思わず唇を噛んで悔し気に俯いた。それがまた、公義の怒りに油を注いだ。

 こいつは自覚しているのだ、自覚しているのに止めようとしないのだ。公義の目が血走り、獣の如き声量で叫んだ。

 

「殺せねぇのに殺しやがった! 殺したくねぇのに殺しやがった! 人殺しとは無縁の真っ当な人間が、英雄の真似事で嫌々殺しやがった! 俺はそれが、どうしても許せないんだよォ!」

「ぐッ、いい加減――やめて欲しい、よねッ!」

 

 忠光が大きく息を吸い込み、渾身の力で刀を跳ね上げた。体ごとぶつかる様な押し込み、これには公義も虚を突かれ背後へと押し出される。このまま組み付くのは不利と見て、公義は数歩間合いを取った。忠光は刀を素早く構え直し、公義もまた上段に構える。

 

「ふぅ、ふぅーッ……!」

「ちっ、本当に邪魔だな、燭台切ィ!」

「生憎と、黙って斬らせる性分でもないんだよね……!」

「なら、お前ごとその女を叩き斬って――!」

 

 上段に構えた刀をそのままに、大きく一歩踏み込む公義。忠光が顔を顰め、小雪を庇う様に刀を構えた。しかしその刃が交わる寸前、森の奥方から『主殿~!』という声が聞こえて来た。

 

「ッ!」

 

 公義は咄嗟に踏み込んだ足を止める。小雪と忠光はその声に喜色を浮かべた。彼奴等の味方だ、そして公義にとっては敵に当たる。流石に忠光と同程度の力量を持った剣客に囲まれては逃げ出す事も難しい。多対一は愚者のやる事。

 公義の判断は早かった。刀の切っ先を下段に構え、地面を浅く突く。そして切っ先を目で追った忠光目掛け、掬い上げる様に砂利を跳ねさせた。

 

「っう!?」

 

 跳ねた砂利が忠光の目に降りかかる。刀を用いた目潰し、些細な手妻だ。尤も効果は一瞬、砂が目に入れば儲けものだが、小さい眼球を刀の切っ先を用いた砂で狙撃するなど土台無理な話。しかし背を向け逃げるには十二分。

 公義は刀を脇に構えたまま一直線に後方へと駆け出した。

 

「ッ、逃げるのかい!?」

「次は殺す」

 

 一瞬のみ振り返り、公義は告げた。

 追手はなかった。ここで追えば小雪を危険に晒すと分かっていたのだろう。その判断は正しい、公義は暫く砂利道を駆け、それから彼奴等が見えなくなったところで森へと飛び込んだ。後は痕跡を消しながら遁走するのみ。

 

「燭台切忠光、長柄(ながら)小雪――その顔、憶えたぞ」

 

 公義の声は森の中に消え、軈てその背中は陰の中に溶け込んだ。

 

 




もぅマヂ無理。剣とかぜんぜんゎかんない。がっこぅで剣道ちょっとやっただけ。
ゥチのあたまじゃぜんぜんだめ。。。。
ぃみゎかんなぃしぉてぁげ。。。
でもゥチにもゎかることぁる。。。
けんぜんぃちにょ。。。つまりゥチでもゎかる心構え。
即ち剣の道、それ究極の境地は禅に通ず。
無想無念とは体のみならず、心の鍛錬こそ重要なれば。
其即ち無我である。

次回は同田貫が仲間になります。
理由は私が好きだからです。
心がぽんぽこするからね、仕方ないね。


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同田貫正国

 

 小雪と燭台切との邂逅から数日。公義は森を突っ切り、小さな集落へと辿り着いていた。いや、元集落と表現すべきか。辿り着いたそこは廃村と化しており、煤けた家屋が隙間風を吹かせている。元々災害か何かで田畑がやられたのか、一部の家屋は隣接する山の土砂崩れに呑まれていた。住処とするには聊か不気味で寒々しいが、雨風凌げる壁があり天井があるだけ良いだろう。比較的小綺麗な家屋を選び、公義はそこを寝床とした。

 

 腐りかけた畳と埃を被った襤褸布が寝具だが、元より戦場を転々とした生活を送っていた公義である。青空の下で悲鳴と怒声を子守唄に寝ていた経験に比べればどうという事はない。

 

「……おい、そろそろ出てきたらどうだ」

 

 二日目の夜。そろそろ方針を固め、この世でどう生きて行こうかと考えていた頃。ふと、公義はひとの気配を感じた。それも――血の匂いを伴った、だ。それは懐かしい感覚、自分に慣れ親しんだ故郷の様な心地であった。

 公義が声を掛ければ、灯していた提灯の火が揺れる。この廃屋で唯一の光源だ。崩れ落ちた天井からは僅かな月明かりが漏れているが、灯りとしては心許ない。そして軽い音を立てて木戸が開き、そこから一人の男が屋内を覗き込んだ。

 

「んだよ、気付いていたのか、あんた」

「それだけ闘志を振り撒いていれば誰だって気付けるだろうよ――お前、小雪の刀剣か?」

「小雪ぃ? 誰だそりゃあ、知らねぇよ」

 

 男は公義の言葉に肩を竦め大袈裟に声を上げた。一瞬嘘かと疑ったが、どうやら本当に知らぬらしい。僅かな時間視線を交わしていた双方だが、不意に男がぶるりと肩を震わせ言った。

 

「どうでも良いけどよ、気付いたなら中に入れてくれねぇか、寒くて敵わねぇ」

「……良いぞ、囲炉裏がある、囲むと良い」

「お、そいつぁ有難い」

 

 屈託なく笑い、男は屋内へと足を進めた。二人で囲炉裏を囲み火を熾す。僅かだが炭と灰はあった。被せていた灰を払い、じんわりとした熱に手を翳す。

 灯りに照らされた男は黒い甲冑に身を包んでいた。肩当てに首まで覆う栴檀板。弦走はなく、腹は細布で覆われている。甲冑の上に胴着を着込んでいるのが分かった。何とも独特な戦装束。しかし鳩尾を除き必要な急所は守った、という風な格好だ。間違いなく戦人、こちら側の人間だと分かった。

 

「あんた、名前は」

 

 男が公義に目を向け問う。

 

「柳原藤右衛門公義」

「あん? なんだ、同類じゃねぇのか」

 

 公義の名を聞いた男は意外そうにその鋭い目を見開き、それからどこか落胆した様に背を丸めた。公義は目を細め、問う。

 

「同類って言うと、やはりお前は刀剣男士か」

「応よ、同田貫正国って銘だ」

「同田貫――」

 

 公義はその名を聞き思考を走らせた。しかし、どうにも覚えがない。そうなると自分の時代には存在しなかった刀剣なのかもしれぬ。或いは単に己が物を知らぬだけか。しかし公義が知っているとは元より思っていないのか、単純に名乗っただけなのか。男――同田貫はそれ以上己に関して口を開く事無く、囲炉裏の灰を鉄棒で突いていた。

 

「しかしあんた、こんな廃村で何しているんだ?」

「その言葉、そっくり返そう」

「あー、そりゃあれだ、俺は野良って奴だからよ」

「野良?」

「そ、あんたも刀剣男士を知っているって事は時政府の人間じゃねぇのか? どうにも、歴史修正主義者にも、検非違使にも見えねぇ」

 

 公義は口を噤んだ。検非違使、というのは例の第三勢力だろう。しかし、野良とな。小雪の話では刀剣男士というのは付喪神の仮初の姿という。そしてそれを呼び起こすのは審神者の仕事だ。単独で肉を得られるものなのだろうか? 公義はその事を問おうとして、やめた。そんな事を気にしてどうするというのか、頭を使うのは己の性分ではない。

 あるがままを受け止め、そういうものであると扱う。公義は刀剣男士に関してそのような姿勢を見せた。

 

「まぁ、何だ、俺はその時政府の人間とやらではないし、歴史改変主義者でもない、無論検非違使とやらでもない」

「……じゃあ、あんたは何者だよ」

「ややこしいが、まぁただの仕手だ、こいつのな」

 

 そう言って公義は脇に置いていた打刀を膝に乗せた。同田貫は膝に乗せられたそれに目を向け、「あんたの刀か」と問う。公義は頷き鞘を僅かに払った。月明かりを反射する刀身が同田貫の目に映る。

 

「そうだ、銘は義勇與臣村正」

「村正――妖刀か」

 

 同田貫が驚いたように目を瞬かせたのが見えた。公義はふっと笑みを見せ、「正確に言えば、違うな」と首を振る。

 

「こいつは千子村正、右衛門尉村正の二振りと同じ、数打ちの一つだ、何分妖刀と呼ばれる程度には内府の連中に恐れられていたからな、名に肖るには丁度良い――だから願掛けみたいなものだ、内府打倒の為の……尤も切れ味や頑強さは保障する、村正の名は伊達ではない」

「へぇ、良いな、親近感が湧くぜ」

 

 公義が鞘をそっと撫でながらそんな事を口にすれば、同田貫がどこか嬉しそうにそう言った。その口ぶりはまるで良い同胞を見つけた様な声色だった。公義は視線を彼に投げかける。

 

「まさか、お前も数打ちか?」

「応、俺は只の一刀じゃねぇ、同田貫って銘の数打ち、その集合体だ――だからまぁ、あんたみたいに数打ちを大事にしてくれる奴は好きだぜ? それに」

 

 同田貫の目が絞られる。どこか射抜く様に、羨むように、公義の持つ村正を見ていた。

 

「あんたは【刀の使い方】を良く分かっている、無駄な装飾もねぇ、どこまでも実戦的で機能美に溢れてやがる、それにこの、禍々しい雰囲気と鉄の臭い――その刀で斬って、斬って、斬って、幾人も斬り殺して来たんだろう?」

 

 同田貫は口元を緩めた。それは羨むような、或いは本当に信頼できる仲間を見つけた様な目だった。

 

 ――成程、そういう刀か。

 

 公義もまた、口元を緩めた。邂逅が邂逅であった為に、刀剣男士とはあの月山や燭台切の様な奴ばかりだと思っていたが――何だ、話が分かる奴もいるじゃないか。

 同田貫が鉄棒を灰に突き刺し、爛々とした瞳で公義を射抜いた。口調には熱が籠っている、そこには【あんたにも分かるだろう?】という感情が躍っていた。

 

「刀は敵を斬り殺してなんぼだ、戦で殺してこそ武器の華、それを理解していない奴が多すぎる、刀は凶器だ、斬り殺すための道具だ! 飾って愛でるものでも、守る為の盾でもねぇ! 殺して、殺して、殺して、殺す……それが凶器ってもんだろうが、違うか?」

「――然り、嗚呼、そうだとも」

 

 公義は同意する、腹の底から同意する。

 刀とは凶器である、人を殺す為の道具である。それ以上でも以下でもない。それ以外の使い道などない。それを用いて尚、他を口にするならば、それは。

 

「へへっ、あんたみたいな人と会えたのは僥倖だ――あんた、俺の仕手にならねぇか?」

「何?」

 

 思わず、といった風に聞き返した。同田貫は変わらず、どこか悪戯小僧然とした表情で笑っている。

 

「何だ、俺に二刀流でもやれと言っているのか?」

「違ぇよ、仕手と言ってもあれだ、俺の主って奴だ」

「主? だが俺は審神者とやらではないぞ」

「別段審神者じゃなきゃいけねぇ理由はないだろうがよ、確かに真っ当に考えるならそうなるだろうけれどよ、俺としては『正しく使ってくれる奴』を主としたいんだ……あんたにも分かるだろう?」

 

 同田貫は身を乗り出し、覗き込むようにして公義に言った。成程、意図は理解出来るし共感もする。

 彼は戦いたいのだ、斬りたいのだ、無情に、無慈悲に、『殺せ』と言われ『殺す』刀に成りたいのだ。それが本来の在り方だと、同田貫は確信している。

 

「審神者の連中と合流すりゃあ、確かに安泰だ、備も組めるだろうしな……けれどそうはならないかもしれない、大事に居間に飾られて、或いは畑仕事やらされたり、馬の世話をやらされたり――違うだろう? そうじゃないだろう? 刀剣っていうもんはよ」

「根草なしの浪人だ、良いのか?」

「偶に手入れしてくれりゃ他に望まねぇよ、それに……あんたは戦場に愛されている、こいつは確信だ」

 

 同田貫が笑った。公義もまた、笑った。

 片や付喪神と呼ばれる神格の持ち主。片や戦場で人を斬り殺す事に総てを捧げた悪鬼羅刹。比べるのも烏滸がましい、あまりに差のある二人。しかし、その性質はどこまでも似通っていた。

 

「同田貫と呼べば良いか?」

「あぁ、『俺達』は同田貫――我等同田貫一派、あんたと共に戦場を駆けてやるよ」

「宜しく頼む、同田貫」

「こっちこそ、期待しているぜ、俺の主」

 

 突き出された拳。公義は最初、それを見て目を見開き。

 けれど屈託なく笑う同田貫に魅せられ、苦笑しながら拳を合わせた。

 

 ■

 

「公義、おい、ありゃあ戦場じゃねぇか?」

「なに」

 

 同田貫と同道する流れとなり早三日程。食糧関係の問題もあり、早々に廃村を経った二人は兎角、人のいる村や町を目指し歩く事にした。そして半日程歩いたところで同田貫がそんな事を口にした。戦場(いくさば)――その言葉に反応した公義はすん、と鼻を鳴らす。火薬の臭いはしない、しかし確かに、仄かに香る血の臭い。同田貫を見れば待ちきれないとばかりに身を揺らしている。

 

「まずは見に徹す、横槍を入れるなら機を見てだ」

「了解、あんたが言うなら従うさ」

 

 僅かばかり不満顔を晒し、しかし素直に頷く同田貫。戦には興味津々だが、誰彼構わず斬り殺すという訳でもない。武器とは、仕手の意を汲んで振るわれる物であればこそ。賊の手に在らば無幸の民をも斬り殺すは道理。しかし公義は悪鬼羅刹を自認しながらも、そこらの人間を手当たり次第に斬り殺すような性格はしていなかった。

 理由は簡単――彼がやりたくないと思うからだ。

 

「……ありゃあ、刀剣男士だな」

「例の審神者の部隊か」

「そうだ、相手は歴史遡行軍みてぇだが……押されているみてぇだ」

 

 場所は湖近くの森林帯。廃村より西に真っ直ぐ進んだ場所だ。どうやら小雪とはまた別の審神者も存在している様で、彼らはそこの刀剣男士であるとの事。何故そんな事が分かるのかと同田貫に問えば、実は野良として生きて行く内にここら一帯の勢力図に詳しくなったとの事。聞けば何度か彼から逃げた事もあるのだとか。

 成程、だから馬の世話だの畑仕事だのと言っていたのか。

 

「おっ、連中退いてくぜ、まぁあんだけ斬られりゃそうなるか、んで、どうする公義?」

「……連中は確か、歴史遡行軍だったか? 金目のものは?」

「歴史を遡っても多少の誤差がある、その間こっちで過ごさなきゃならねぇし、持っているんじゃねぇか?」

「良し、なら殺して奪おう」

 

 決断は早かった。賊として連中を襲撃する事を決め、公義は腰の村正を抜き放つ。同田貫も異論を挟まず、待っていましたとばかりに笑って腰の刀を抜いた。その笑顔を横目で眺め、公義は不意に問いかける。

 

「賊として殺す事に思うところは?」

「あるかよそんなもん、あんたが殺すと決めた、ならそれに従うのが凶器の役目だろうが、 それに賊だろうと御武家様だろうと、殺しに違いはないだろうがよう」

 

 その答えに、公義はこれ以上ない程に満面の笑みを浮かべた。

 

「――最高だな、お前は」

「――その言葉、あんたにそんまま返すぜ、主」

 

 破顔する同田貫。

 とても素晴らしい笑顔で見つめ合う双方。そしてどちらからという事無く茂みから飛び出し、今しがた敵を撃退し、気を緩めた歴史遡行軍の横腹に襲い掛かった。数は五、得物は全員打刀。

 まず、同田貫が最寄りの歴史遡行軍に襲い掛かった。刃を寝かせ、こちらに気付き刀を構えるより速く刺突。肺と心臓を横合いから串刺しにし、肋骨に当たらぬ様水平に薙ぐ。それだけでひとりは鮮血共に絶命した。

 

「何奴ッ!?」

「答えるか間抜けェッ!」

 

 同田貫が吠え、骸を蹴り飛ばした。公義もまた、ひとりを斬り殺す。

 同田貫の奇襲に浮足立った打刀、その首目掛けて刀を振るう。意識するは円、刀は腕で振るうものに非ず。さながら鞭の如き軌跡を描き、村正が打刀の首を刎ねた。鮮血が宙を舞い、首がくるくると虚空に踊る。

 残り三人。

 

「同田貫ィッ!」

「応さァ!」

 

 奇襲は成った。連中は右往左往し、刀を片手に身を震わせている。

 

 事、奇襲、強襲に於いて尤も重要な事は何か? 公義は策を知らぬ、戦略も戦術も専門外だ。彼にあるのは技術それのみ。しかし、長年戦場を渡り歩いた公義には嗅覚がある。即ち、『どういう時に斬り込めば良いのか』という経験則だ。

 それによれば奇襲強襲の類は、相手が持ち直す前に済ませるべしとある。

 即ち。

 

「殺せる時に殺す――手傷では死なん! 往くぞォッ!」

 

 防御無視の突貫である。

 

 突然の奇襲に浮足立った敵、それもたった今戦を終えたばかりの状態。安堵と興奮が入り混じり、達成感に満ち溢れていた筈だ。そんな折に奇襲を受け、即座に立て直せるか? 否、必ず及び腰になる、怖気づくと言っても良い。

 事実、二人を殺され、今まさに己等に迫る公義と同田貫相手に、打刀の連中は腰が引けていた。そんな地も掴まぬ刀構えで骨肉を断てるのか?

 

 否、断じて否である。

 

 だからこその突貫、故の捨て身! 断骨の意を捨てた相手など恐るるに足らず! 一撃この身に受けようと、必ず骨で止まろう! ならば肉を切らせて骨を断つべし! 

 公義と同田貫はその意気で敵に踏み込んだ。

 打刀が刀を振り上げる。上段の構え、しかし腰は退けたまま、あれでは頭部に打ち下ろしても頭蓋すら断てまい。

 

「俺は強ぇ! 実戦刀の頑丈さ舐めんなァッ!」

 

 振り下ろされた上段、同田貫はそれを手甲で防いだ。刃が僅かに食い込む――だが肌には届かない。反対に同田貫の突き出した刃が打刀の喉を穿った。決着、即死である。

 

 そして公義もまた、悪足搔きの如き無様さで突き出された突きを、僅かに体を傾ける事で躱した。刀身の腹に指を添え、そのまま相手の左脇下を斬り捨てる。脇というのは人間の急所の一つだ、突き刺せば臓物に届くし斬っても大量に出血する。事実その場に崩れ落ちた打刀は得物を取り落し、呻いたまま立ち上がらなかった。

 

「最後ォッ!」

「つ、ぐ!?」

 

 最後のひとり、流石に他四人がやられるだけの時間間抜けに見守っているだけではなかった。体勢を立て直し、両手で確りと刀を握っている。だが悲しいかな、既に形勢不利は覆している。数は一、此方は二、数とはそれ即ち力である。仲間がやられて尚折れぬその心胆は敬意に値するが、勝機は既にない。

 

「同田貫、右!」

「あいよォ!」

 

 肩を並べた公義と同田貫は、打刀の歴史遡行軍を中心に円を描く。同田貫は右回り、公義は左回り。打ち刀は徐々に距離を取り、また挟撃の形をとる二人に忙しなく切っ先を向ける。多対一の剣戟に於いて挟撃は基本にして究極。もしこれを脱する事を考えるならば、一も二もなくこの場を離れる事だが――。

 

「良いのか? 彼奴はまだ息があるぞ」

 

 公義は自分の傍に転がっている歴史遡行軍のひとりを刀の切っ先で指した。

 そう、仲間の存在である。もし彼奴が背を向け逃亡するというのなら問答無用で首を刎ねる。そんな雰囲気を纏う事によって相手方の選択肢を潰した。もしこれで仲間など知った事ではないと逃亡するのであれば、それはそれでやりようがある。

 そうでなくともこの戦、元より殲滅が目的ではない。一人逃がしたところでという思いもあった。しかし打刀は逃げず、ただ公義と同田貫に挟まれたまま忙しなく視線を左右にしていた。

 

「しゃァッ!」

「おぉぉォオッ!」

「ッ、ぅ!」

 

 敵を挟んだまま、猿声を上げる。『今から打ち込むぞ』という威嚇だ、それを受けた相手は声の出した方へと意識を割かれる。しかし、その隙に逆が打ち込んでくるのではという疑念も生じる。これは敵の精神を削ぐやり方であった。同時に、挟み込んだ双方はゆっくり、じりじりと間合いを詰める。

 

 相手からすれば堪ったものではない。不意に響く猿声、詰まる間合い、もしこのまま間合いを詰められれば同時に放たれる斬撃にて己は敗死する。しかし、ならばどうするか? そんな思考が頭の中を駆け巡っているだろう。相手の動揺が手に取るように分かった。

 

「ッ――おぉぉォオオオッ!」

 

 結果、相手が選んだのは僅かに間合い近かった公義への突貫。先にひと当てし、どうにか突破口を開こうと画策したのかもしれない。しかし、それは叶わぬ。

 公義に向かって敵が突貫した瞬間、同田貫が動いた。それを待っていたと言わんばかりに敵方の背中に向け駆け、刺突。同田貫の一撃は公義に刀が届くより速くその心臓を突き穿ち、打刀は驚愕の表情と共に絶命した。ゆるやかに振り下ろされた刀を、公義が片手間に弾く。

 

「はッ、他愛ねぇ」

 

 同田貫は突き出した刀を無造作に抜き出し、骸となった打刀を蹴飛ばして地面に転がした。

 

「これで全員か」

「みたいだな、元々歴史遡行軍って言っても多くて五、六人程度の部隊だ、増援でも来ない限りこれで全員だろうよ」

「もっと大きな塊となって動いている印象があったが……」

「歴史を変えるって言っても時代なんざ腐る程あるんだ、同一の目的を持った組織っつうより、偶然目的が同じだった連中が集まったってのが実態だろうな、まぁ、俺も詳しい訳じゃねぇけどよ」

「十分だ、さて……せめて数日凌げるだけの金を持っていると良いんだが」

 

 そう言って公義は死体を仰向けに転がし、その懐を探り出した。同田貫もそれを真似て懐を漁る。傍から見れば正に賊という感じだろう。そして無言で懐を漁る事暫く、どうやら連中最低限財布の類は持ち込んでいた様で、僅かだが金銭の入った麻袋が手に入った。

 中身を覗けばまぁ、数日程度なら宿も取れるだろう。他の者も持っているなら暫くは安泰な筈だ。公義は次の死体を転がしながら、ふと疑問に思った事を同田貫に問うた。視線の先には転がった敵の打刀がある。

 

「同田貫、今更何だが」

「あん?」

「こいつらは肉体を斬るだけで死ぬんだな、てっきり見た目からして付喪神側の存在かと思ったんだが」

「あぁ……そうだな、コイツ等は俺達の模造品みたいなもんだからよ、肉体も器じゃねぇし、斬れば死ぬさ、神格は持ってねぇよ」

「そうなのか」

「あぁ」

「しかし連中、なんで態々刀なんて使っているんだろうなァ」

「……って言うと?」

 

 懐を漁りながら視線を投げかけてくる同田貫。公義は打刀の衣服を剥ぎながら、何でもない事の様に言った。

 

「いやなに、連中の目的は歴史の改変なのだろう? 聞いた話では咎人として指定されているだとか何とか」

「そうだな、俺もそう聞いているぜ」

「時の政府とやらが時代に即した武装で挑むのは分かる、無用な混乱を起こさぬ為だろう、しかし連中が態々刀で襲い掛かって来るのが解せん、本気で歴史を変えたいのなら鉄砲なり大砲なり……あとは何だ、未来の技術とやらで出来た摩訶不思議な武装で挑んだ方が楽だろうよ?」

「それは……まぁ、確かに」

「だろう? 咎人ならば今更整合性、無用な混乱云々なぞ気にしまい、それこそ歴史を変えると意気込んでいるのなら尚更」

「……主はどう考えているんだよ?」

「俺か?」

 

 聞かれると思っていなかったのか、公義は素っ頓狂な声を上げた。そしてこちらに視線を投げる同田貫を真っ直ぐ見つめ、にやりと笑う。

 

「――分かる訳ないだろう、俺は考えるのが苦手なんだ」

「……何だよ、期待して損したじゃねぇか」

「くはッ、お前に分からんことは俺にも分からんよ、だから精々同田貫、お前が頭を使ってくれ」

「だぁぁあ! 俺に考えろってかッ!? んなもん刀のやる事じゃねぇよ! 目の前の敵をぶった斬る! 俺の仕事はそれだけだろうが!?」

「ははははッ、なら俺の仕事もそれだ、難しい事を考えるのはよそう、そら、漁れ漁れ、今晩の晩飯は此処から出るんだからなァ」

 

 笑いながら今しがた抜き出した財布を掌で弾ませる。骸は五つ、ひとりひとりは少しばかりの金だが合わせればそれなりだ。同田貫も見つけた麻袋の中身を覗き込み、小さく口元を綻ばせた。

 

「そういやよ、もし、仮にだが」

「うん?」

「連中が鉄砲を揃えてきたら主は勝てるか?」

「一騎打ちならば、まぁ不可能ではないな、一発撃てば弾込めの間に斬り捨てられる」

「んじゃあ、未来の技術とやらで弾込めなしでバンバン撃って来る様な奴が来たら?」

「それは、お前――」

 

 一拍置いて、公義は吐息を零した。

 

「勝てる訳ないだろう、刀じゃ無理だ」

 

 





同田貫の腹筋で大根擦り下ろして食べたい。
食べたくない?
私は食べたい(マジギレ)


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