輝きを常に心に (たか丸)
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本編
モノガタリのハジマリ


初めましての方もそうでない方もこにゃにゃちわ、たか丸です。

えーと、今回新しくお話を書き始めます。
個別でヒロインは設けません。
理由は至ってシンプル……みんなといい雰囲気にしてみたいなって、ただのたか丸の欲望です……

「未来という名の航海」を読んでくださってる方はなんとなく察していただけるかなと思いますが、そちらの方で少し、曜ちゃんが本当にメインヒロインなのかと疑わしくなってきたので、新しくこちらでお話を書くことで、たか丸の中のモヤモヤした何かを吹き飛ばしてしまおうという至極単純な考えです笑

何はともあれ、最後までお付き合いくださいませ。


天の声side

 

 

ぴぴぴぴっ ぴぴぴぴっ ぴぴぴぴっ

 

スマートフォンのアラームが部屋中に鳴り響く。

やかんの沸騰音程度のボリュームだろうか、かなり大きな音で鳴っている。

 

?「くー……かぁー……」

 

にも関わらず、幸せそうな寝顔でいびきをかく少年。

彼こそがこの話の主人公、高海(たかみ)柚希(ゆづき)、高校2年。

察しの良い読者諸君ならばこの苗字を聞いてなんとなく想像がついただろう。

 

――ガラリラッ

 

?「ゆづにぃ!起きてーーー!!!

 

柚「ふぎゃっ?!」

 

?「あははっ、いい反応〜♪」

 

柚「ふわぁ〜〜〜……もー、びっくりしたよ千歌ちゃん……」

 

柚希を起こしに来た少女。同い年ながら、柚希の義妹(いもうと)にあたる、高海千歌。

なぜ義妹なのかというのはまたのお話で。

 

千「それよりほらほら!早くしないと学校遅れちゃうよ!」

 

柚「ん、わかってるよ。着替えるから先に下行ってて」

 

千「あ、そっか。わかった!早く来てね〜!」

 

柚「はーい」

 

千歌が部屋から出ていったのを確認し、柚希は行動を開始する。

寝間着を脱ぎ、制服に身を包む。

彼だけの、特別な制服に。

 

跳ね散らかした寝癖を整え、身支度を完了させて階下へと向かった。

朝食のいい匂いが彼の鼻腔をくすぐり、腹の虫が先程から鳴くのをやめさせない。

 

柚「今日はパンか……」

 

朝食はパンより米な柚希だが、最近は米が続いていたので、久々のパン朝食に少なからず胸が躍っていた。

 

?「あら、おはよう柚希くん」

 

?「やっと起きたか、おはよう寝坊助♪」

 

柚「志満ねぇ、美渡ねぇ、おはよう」

 

千歌の実の姉であり、柚希の義姉でもある2人、落ち着いていて、みんなを包み込むような母性に溢れている長女の志満、対照的に活発でその暴れん坊っぷりは姉というより妹かと錯覚するような次女の美渡。

 

美「ったく、いい加減妹に起こされてるようじゃまずいんでないの?」

 

と言いつつ柚希をニヤニヤと見る美渡。

なんだかんだでこの義弟と妹の関係を気に入っている模様。

 

柚「そりゃもうそろそろ1人で起きたいけど……」

 

千「えっ、ダメダメダメ!ゆづにぃは千歌が起こしてあげないとダメなのだ!」

 

柚「……とまぁ、こんな調子だから、当分独り立ちは出来そうにないよ……」

 

千歌は物心ついた時から、同い年ながら義兄である柚希に、異性として何か特別な感情を持っている。

言うまでもなくそれは()()というものなのだが、柚希は気づいていない。

 

志「ほらほらみんな、早く食べないと遅れるわよ〜」

 

美「やべっ、もうこんな時間だ!」

 

美渡はテーブルにあった食パン1枚を咥え、いそいそと出ていった。

 

美「ひっへひはーふ(いってきまーす)!」

 

柚「あはは……相変わらずだね……」

 

その後柚希たちは朝食を終え、家を出た。

家を出たところで隣の家に住む桜内梨子が、こちらもちょうど家から出てきた。

 

梨「2人ともおはよう♪」

 

千「おはよー!」

 

柚「おはよ、梨子ちゃん……あ、梨子ちゃんちょっと失礼……」

 

梨「え?」

 

柚希は言うなり梨子の肩に手をやり、付いていた糸くずを取った。

 

柚「糸くず、付いてた。突然やっちゃってごめんね?」

 

梨「い……いえ……お構いく……///」

 

"ぷしゅう"という音が似合いそうなほど、梨子の頬は紅潮し、頭から湯気が出ていそうだった。

 

千「むぅ……そーゆーとこなのだ……

 

柚「ん?千歌ちゃん、何か言った?」

 

千「……べっつにー……」

 

いわゆる"嫉妬"というものである。

「千歌だってゆづにぃに不意に肩についてる糸くずとかとってもらいたいのだ」とかなんだとか心の奥底で思っている千歌。

鈍感、ニブチン、なんて言葉が似合う柚希が、そんな千歌の想いに気がつくわけもなく……

 

柚「あっ、もしかして朝ごはん食べ足りてないのかな?偶然にもここに何があるかわからないからと思って持ってきたみかんがあるよ!」

 

千「なっ……!もう!知らないっ!ぷんだっ!!!」

 

千歌は怒ってバス停まで走って行ってしまった。

……柚希の差し出したみかんをちゃっかり取っていきながら。

 

梨「ふふっ、本当に柚希くんと千歌ちゃん、仲がいいわね?」

 

柚「あはは……でもあれあとで詫びが必要なやつだね……」

 

梨「でも……そんな関係が、私にはちょっと羨ましいなぁ……」

 

物思いにふけるような表情を浮かべる梨子。

 

柚「うーん……そんなもんなのかな?」

 

梨「私には兄弟がいないから、柚希くんと千歌ちゃんの関係っていうのはやっぱり羨ましいよ。無い物ねだりなのはわかっているんだけどね、えへへ」

 

お淑やかな笑い方をする梨子にしては珍しく、舌を出してはにかんだような表情を見せた。

不意なそんな笑顔に、柚希の胸の鼓動が少し速くなった。

 

梨「あっ、バス来ちゃうね。急ごっか?」

 

柚「う、うん、そうだね……」

 

梨「?」

 

少し挙動不審な柚希に違和感を覚えながら、バス停に向かう梨子だった。

 

 

********************

 

 

バスに乗り込むと、沼津から通学している同い年で幼なじみの渡辺曜が座席の最後尾に座っていた。

 

曜「3人ともっ、おっはヨーソロー!」

 

千「おはヨーソロー!今日も元気だね曜ちゃん!」

 

梨&柚「「おはヨーソロー♪」」

 

曜「むむっ、2人とも息ぴったり……何かあったでありますか?!」

 

千「むぅ〜〜!!さっきから2人ともぉ……!!」

 

柚「ちっ、違う違う!たまたまだってば!」

 

梨「そっ、そそそそうよ!たまたまよ!」

 

曜「なーんか怪しいけど……まぁいっか!」

 

非常に楽観的な曜。頭はいいが、どちらかというと考えるより先に行動に移すタイプ。

 

曜「それよりそれより!昨日の()()、みんな見た?!」

 

柚「アレ……?なんのこと?」

 

曜「決まっているであります!"沼津市 船長グランプリ"のことだよ!!」

 

梨「……それは一体何……?」

 

詳しく説明するとこのグランプリは、いかに本物の船長っぽく見せるか、その上でどれだけ本物の船長感を崩さずオリジナリティを加えられるかを審査し、最もそれが出来ていた人が優勝という、なんともシンプルなグランプリで、今年でなんと13回目の開催になる。

 

曜「まさか誰も見ていなかっただなんて……すごかったんだよ?優勝した子の制服のクオリティが高くてさ?挙動が本当に船長のそれでさ?女の子で優勝したのは史上初なのにさ……?」

 

曜も参加していたのだが、オリジナリティが溢れすぎていて、予選で落選していた。

 

千「あ、あはは……う〜、り、梨子ちゃん!今日の1限目ってなんだったっけ?!」

 

梨「へっ?!あ、えっと、日本史だったわ!」

 

柚「そっ、そそそそっか!いや〜、楽しみだなぁ!!」

 

必死になって話を逸らして、何気ない小話を続けているうちに学校前のバス停に着いた。

 

曜「それにしても、やっぱりこうして学校の方に来るとゆづは浮くねぇ……」

 

柚「あはは、まぁしょうがないさ。なんせ()()()()()()()()()()()()だからね」

 

柚希はこの浦の星学院高校で唯一の男子生徒。

廃校になりかけているこの学校は、生徒数の増加を図るために共学化をした。

が、残念ながら集まった男子生徒は柚希のみ。

そもそもでここら一体の男子学生の数が少ないことも影響したが、男子学生の多くは沼津の静真高校に通っている。

ではなぜ柚希はこの浦の星に入学したのか。

その理由は至ってシンプル。

 

柚『千歌ちゃんが心配だから』

 

小さい頃からやんちゃだった千歌の身を案じ、そのストッパーとして一役買っていた柚希は、ちょうど共学化した浦の星に千歌と共に入学し、常にその行動を注視する役割を買ってでた。

まぁ簡単に言えば柚希は柚希で唯一の義妹のことが好きなのである。もちろん家族的な意味で。

 

柚「よーし、学校まで競走!ビリはみんなにみかんおごりね〜!」

 

千「あー!ずるーい!!!」

 

曜「いひっ、負けないであります!」

 

梨「ちょ、ちょっと〜!みんな速いわよ〜っ!!」

 

学校までの長い坂を駆け上がる4人。

 

スクールバッグを背負い、ブレザーを腰巻きした柚希が悠々と駆けていく。

その後を曜、千歌、梨子の順で追う。

 

暖かい日差し、春には珍しく澄んだ青空、ウミネコが鳴きながら自分の上を飛んでいく……

そんなことを考えながら柚希は坂を駆ける。

普段なら長く感じるこの坂も、楽しみながらのぼると短く感じる。

正門前に着くと、程よく暑くなった身体を冷ましてくれるかのように、心地よい涼しい風が吹く。

 

柚「ふうっ……へへっ、いっちばーん!」

 

曜「ぐわぁぁぁぁ……負けたぁ……」

 

少し遅れて曜が到着。

 

梨「はあっ、はあっ、はあっ……なんとか千歌ちゃんに勝てたわ……」

 

息を荒らげて梨子が到着。

そして千歌はというと……

 

千「うにゃぁぁぁぁぁ……カバンのファスナー閉め忘れてて、荷物が落ちちゃって、拾いに行ってタイムロスしちゃったよぉ……悔しいけど千歌の負けだよぉ……」

 

曜「あっはは、千歌ちゃんらしいね♪」

 

梨「そのタイムロスのおかげで私は助かったわ……」

 

柚「じゃあ千歌ちゃんがみかんおごり!まいどありっ!」

 

千「うわあああん!今日は運勢最悪だあ!!」

 

少女の悲痛な叫び声が響く朝の内浦。

今日も愉快な一日が始まりを告げた。

 

 

天の声side off

 

 

 

To be continued...




いかがだったでしょうか!

導入ということで、とりあえずはこんなもんでご勘弁ください笑

今回の主人公は千歌ちゃんの義兄である高海柚希!
とある過去の出来事により千歌ちゃんの義兄となるのですが、それはまたおいおい……

ではでは、オリキャラのプロフでも!


高海柚希 ――タカミユヅキ――
Age:17 Tall:175cm Weight:68kg Blood-Type:O
Birthday:April 25th

とある事情により高海家にやってきた少年。千歌と同学年だが、誕生日が千歌より早いため千歌から兄として慕われている。千歌と同じように自分は普通だと思っており、その存在が周囲に大きな影響を与えていることに気づいていない。Aqoursメンバーからの好意にも気づいていない。
黒髪のショートヘアで、基本的にアップバングにしている。
瞳は黒。バッチリ二重。
最近髭が生え始めてきて、剃る度に失敗するのが悩み。ちなみに生えるスピードはかなり遅い。
趣味はカメラ。休日によくカメラを持って様々なところに行き、主に風景を中心に撮影している。
特技は演技。中学時代は演劇部に所属し、類まれなる演技力で見るものを魅了した。
好物はトンカツ。とにかく好き。
逆に苦手なものは虫。特に脚が多い系の虫が大の苦手で、ムカデをみると泡を吹いて倒れることも。
座右の銘は"置かれた場所で咲きなさい"


と、まぁこんな感じですかね笑
次のお話で、Aqoursのみんなを登場させたいと思います!
それでは、また次回のお話でお会いしましょう!
(・ω・)/ばいにー!☆


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ヨハネ降臨 with ずらぴぎ

みなさんこにゃにゃちわ、「薬屋のひとりごと」という作品にどハマりしてます、たか丸です。
小説家になろうってサイトで人気を博した作品が書籍化、漫画化したものらしくって、ストーリーがめちゃくちゃ面白いです。
主人公の猫猫(マオマオ)ちゃんが、どことなくよっちゃんに似てる気がしてます笑
めっちゃ可愛いんですよ笑

そんでですね、前回から書き始めている本作品ですが、意外にもたくさんの方からいい反応を頂いております(歓喜)
たか丸の欲望のフルコースみたいなこの作品ですが、こうしてみなさまに読んでいただけて、作者冥利につきます!
これからもよい作品に出来るよう、邁進して参りますので、どうぞ作者共々、この作品をよろしくお願いします!

さて今回は、1年生メインでやっていきたいと思います!
とはいっても、前回みんな出すって言ったんで、最低限それは守ります笑
そんで1年生メインとか言ってますけど、サブタイ見てわかる通り、割とよっちゃんメインで書かせて頂きます笑
理由は語ると長くなるから割愛(薬屋のひとりごとの猫猫ちゃんのビジュアルの影響大)

では、今回もお付き合い下さいませ!


柚希side

 

 

いつからなんだろう、自分は普通なんだって思い始めたのは。

幼い頃は、「大きくなったらウルトラマンになれるんだ!」なんて、志満ねぇに豪語してたっけ。

 

でも本当はそんなことなくて。

 

世の中のことを学ぶにつれて、俺はウルトラマンになれないんだってことがわかった。

ウルトラマンはお話の中の存在。結局本当にウルトラマンになれる人なんて存在しない。

若干7.8歳でそんなこと考えてるくらいだから、本当につまらない人間だよね。

 

多分そこからなのかな、俺はごく普通で特にこれといって特徴のない、平凡な人間なんだって思ったのは。

 

先生「はい、じゃあ高海くん。1600年に徳川家康率いる東軍と、石田三成率いる西軍に別れて起こった"天下分け目の戦い"といえば、なにかわかるかしら?」

 

柚「"関ヶ原の戦い"です」

 

先生「そう、正解♪……ってこら!高海妹!寝てないでノートテイクしなさ〜い!」

 

千「わあああっ!は、はいぃ!!!」

 

――あははははははっ

 

柚「千歌ちゃんってば……」

 

……と、まぁ、ごく一般的な問題なら解けるような学力はあるし、ある程度の家事だって、十千万で教えこまれているからまぁできる。

 

本当にこれといって特徴のある人間ではないのだ。

 

そんな俺でも、仲良くしてくれる友達は沢山できた。

特に……

 

 

********************

 

 

?「くっくっく……来たわね、リトルデーモン"シトロン"!」

 

柚「ふふっ、今日も元気だねヨハネちゃん♪」

 

?「いつもちゃんと"ヨハネ"って呼んでくれるの嬉しすぎる……!///

 

この子は堕天使のヨハネちゃん。

もちろんそれは仮の名前で、本名は津島善子ちゃん。

なんでも「私の美貌に恐れをなした神が、天使である私を下界に追放した」から堕天使なんだとか……

ちなみにリトルデーモンシトロンってのは、

柚希→柚→柚子→Citron→シトロン

らしい。

ただ柚子を英語にしただけ……

 

?「ほんとに柚希くんは善子ちゃんの茶番に付き合ってくれるなんて優しいずらね♪」

 

柚「あはは……これでも楽しんでやってるよ?」

 

この子は国木田花丸ちゃん。

お寺の子で、家には電化製品がほとんどないという……

ちなみに語尾の"ずら"は、じいちゃんばあちゃんがよく使う昔の方言らしいんだけど、こんな若い子が使うのは珍しい……

あと、いっつものっぽパン食べてるイメージ。のっぽパンだけじゃなくて色んなものたくさん食べるんだけど、それでこの体型を維持できてるのは何か間違ってる気がする……

 

?「あ、柚希くん!こんにちは!今日の練習も……」

 

?&柚「「がんばルビィ!!」」

 

柚「こんにちは、ルビィちゃん!今日も早いね!」

 

この子は黒澤ルビィちゃん。

ちっちゃくて、動きが小動物っぽい癒し系な子。

男性恐怖症らしいんだけど、俺には最初から普通に接してくれてる……

「なんか、柚希くんは"男の人"っていうより、"優しいお兄ちゃん"ってイメージなんだぁ♪」って言われたんだけど、それは男としてちゃんと意識されてるのか不安だなぁ……

 

この3人はみんな今年入ってきたばかりの1年生。

善子ちゃんと花丸ちゃんは幼稚園の頃からの幼なじみで、花丸ちゃんとルビィちゃんは中学校時代からのお友達なんだって!

 

?「あー、授業疲れたもうやだ〜……あ、ちょうどいいハグできる人みーつけたー」

 

柚「えっ、あ、ちょっと果南ちゃん!誰ふり構わずハグするの禁止ってあれほど言ってるのに!」

 

果「失礼な!私がハグするのは……するのは……好きな人だけだから!///」

 

柚「途中の声小さすぎて何言ってるのかさっぱり……」

 

この子は松浦果南ちゃん。

曜ちゃんと同じく俺の幼なじみで、近くの淡島っていう島に住んでる1つ年上のお姉さん。

その淡島ではおじいちゃんと2人暮らしでダイビングショップを経営してるんだ。

インストラクターとして一緒に潜る果南ちゃんの美しさに魅了されて、リピーターになる人もいるらしい。

 

?「あっ、カナンってば抜け駆けは禁止よ〜っ!マリィ〜だってユヅにハグするデース!」

 

柚「んなあっ?!鞠莉ちゃんまで?!ふ、2人してハグしないでぇ!!!」

 

この子は小原鞠莉ちゃん。

淡島にある"ホテルオハラ"の経営者の一人娘で、そのホテルに住んでいる、超お金持ち。

この学校の理事長。

なんでも、鞠莉ちゃんのおうちである"オハラグループ"のこの学校への融資は相当な額になっていて、学校の危機を知った鞠莉ちゃんは"理事長兼生徒"としてこの学校にやってきた。

 

?「こら、2人ともおやめなさい!柚希さんが困っているでしょう?!」

 

果「ちぇ〜……」

 

鞠「まったく、硬度10なんだから……」

 

柚「ほぇ〜……助かったよダイヤちゃん……」

 

この子は黒澤ダイヤちゃん。

ルビィちゃんのお姉さんで、この学校の生徒会長を務めている。

幼い頃からお筝やお抹茶、生け花に舞踊、その他諸々のお稽古をしてきた。

黒澤家は内浦の網元のために、自然と長女のダイヤちゃんがその後を継ぐことが義務付けられ、様々な拘束を受けてきたらしい……

ちなみにこちらも小原家に勝るとも劣らないお金持ち。

 

この3人は最上級生の3年生。

小さい頃から一緒に遊ぶ仲のいい3人だったけど、ある事をきっかけに仲違いしちゃった。

けど、本音をぶつけ合って、今では昔のように超超超仲良しに戻ったんだ!

 

柚「あとは2年生が来れば練習出来るね!」

 

そう、ここは屋上。

今からここで練習をする。

なんの練習かと言うと、それは"スクールアイドル"!

 

全国的にも有名になってきたこのスクールアイドルとは、学校で結成されたアイドルグループのことで、目的としては学校の名前を全国に知ってもらったり、それによって生徒を集めたり……廃校の危機を救ったり。

 

かつて一世を風靡したスクールアイドルグループ"μ's"は、廃校の危機に瀕していた国立音ノ木坂学院高校を救ったという伝説が残っている。

 

そんなμ'sに憧れ、俺たちはこの浦の星学院高校を廃校の危機から救うために、スクールアイドルグループ"Aqours"を結成した。

 

もちろん俺はアイドルなんて出来ないから、みんなのサポート役。

いわばマネージャーみたいな立ち位置かな。

やることは至って簡単。

ダンスレッスン中のカウントや、練習合間にタオルやドリンクを渡す役割から、メンバーの健康状態やスケジュールの管理、時には作詞と作曲のお手伝い、なんてこともやる。

 

ここは廃校が危惧される高校。生徒だけでなく教員だって少ない。

そのため多くの教員は掛け持ちで部活動の顧問をしている。

だから、新参者の部活であるスクールアイドル部には、顧問なんて設けられるほどの人員は足りていない。

 

俺の役目はマネージャーとして、顧問の様な立ち位置でいること。

このグループをまとめあげるって訳じゃないけど、それに準ずるようなことが出来たらいいなって、思ってる。

 

柚「とはいっても……」

 

善「……?どうしたの、我がリトルデーモン?」

 

花「何か気になることでもあったずら?」

 

柚「えっ?あ、いやいや、なんでもないよ!」

 

このグループをまとめあげるべき存在は他にいる。

それはすなわちリーダーの――

 

千「ゆづにぃっ!練習はじめよーーーうっ!

 

柚「ぐえっ?!」

 

千歌ちゃんの存在が必要不可欠なんだけど……

 

こんなおてんば娘がリーダーで、本当に大丈夫なのだろうか……

 

 

********************

 

 

千「あはは〜……うぅ、ごめんなさい……」

 

柚「気にしないで千歌ちゃん、いつもの事で慣れてるから♪」

 

梨「()()に慣れちゃダメでしょ……」

 

屋上の扉を勢いよく開けて飛び出してきたこのみかん娘(千歌ちゃん)は、即座に俺のいる場所を把握し、勢いよく飛びかかってのハグをしてきた。

通称、"高海流 速射型強襲蜜柑砲(かんかんみかんミサイル)"

今回のは不発で、ハグするどころか頭から俺の腹に突っ込んできた。

本当に砲撃喰らって、腹に穴が空いたかと……

 

曜「まぁこれでみんな揃ったし、練習が始められるであります!」

 

柚「曜ちゃんは血も涙もない……」

 

曜「別にっ……心配してない……わけじゃ……ないけど……///」

 

なんだか最近、曜ちゃんが俺に冷たい。

なんかしちゃったかな……?

今日の朝はちゃんとお話できてたんだけど、昼頃からまただんだんいつもの様に冷たく……

 

今も「別に心配してない」って言われたしさ?

俺泣いちゃうよ?

 

千「あはは、ごめんねゆづにぃ。お詫びに今日は一緒に寝てあげるから、許して……?」

 

柚「え゙」

 

千歌ちゃんの発言にみんなが、とてつもない殺気を帯びた冷たい目線を向けてきている。

 

なんだかわかんないけどこれやばいやつ?

発言の自由はもちろん認めるけどさ、俺に被害加わるのって違くない?ない??

 

鞠「Oh!チカッチ〜、スリーピングボイスはスリーピングタイムにセイするデース!」

 

寝言は寝て言え、かな?

 

ダ「そうですわ!大体千歌さんが兄の柚希さんと一緒の布団で寝るだなんて破廉恥なこと、私が許しませんわ!」

 

ダイヤちゃん、あなたは一体どんな立場の方なの……?

 

善「悪魔の契約に逆らうだなんて……それ相応の罰が下ることを覚悟しておきなさいよ、リトルデーモンシトロン……」

 

そんな契約を交わした覚えはないんだけど、命だけはなんとか……

 

花「焼き芋の刑に処すずら♪」

 

にっこにこの笑顔でなんてこと言ってるんだこの子は?!

それ人でやると火葬って言うんですよ?!

 

曜「いくら千歌ちゃんといえど、ゆづを渡すのはできない……

 

うーん、聞こえない……

でも何か難しいことを考えてそうな顔をしている……

 

柚「あの〜……みんな?俺別に千歌ちゃんと寝るだなんて――」

 

一同「「「「「「「「柚希(ゆづ)くん(さん)は黙ってて!!!」」」」」」」」

 

柚「……はい……」

 

俺に何の罪が……

っておいそこの我が妹よ、お腹抱えてヒーヒー言って笑っているんじゃない。

 

 

********************

 

 

柚「ワン、ツー、スリー、フォー……」

 

あの後、場の雰囲気を落ち着かせて練習を開始した。

練習が始まったらみんな真剣に、目の色を変えて取り組んでくれた。

さすがに自ら進んでスクールアイドルを学校のためにやっているだけはある。

 

柚「ワン、ツー、スリー、フォー、じゃじゃーん!」

 

うーむ……

最後のポージングで花丸ちゃんの腕の高さが気になるなぁ……

 

柚「花丸ちゃん、ちょっとそのまま……」

 

花「ずら?」

 

俺は腕の高さを今より少し高めにするために、花丸ちゃんの腕に手をやり、高さを調整した。

 

柚「……うん、よし!花丸ちゃんはその高さ覚えておいてね?」

 

花「……ずらぁ……///」

 

柚「?」

 

なんか顔が赤い……

確かに今日少し暑いからなぁ……

 

柚「よしっ、それじゃあ一旦休憩にしよう!みんなドリンクとタオル配るよ〜!」

 

「「「はーーーい!」」」

 

屋上に設置した簡易テントの下に集まるみんな。

今日はやっぱり少し暑い。

陽射しから逃れようと、みんなそそくさとそちらに行ってしまった。

 

そんな中1人、その照りつける陽射しの中にいる子。

ルビィちゃんだ。

 

柚「ルビィちゃん、休憩も大事だよ?」

 

ル「うん、わかってるよ……でも、もう少しだけ……このステップだけ上手くいってないの、納得できなくて……」

 

うーん、さすがはスクールアイドル大好きっ子。

理想のスクールアイドル像に向かっていく心がすごいなぁ……

……でも。

 

柚「気持ちはわかるけど、今は休もう。さっきから汗の量がすごいし、足元が少しおぼつかなくなってる」

 

ル「あ……」

 

柚「それで怪我なんてしたら、せっかくの努力が水の泡になっちゃう。だから今は休憩を取ろう。休めばきっと、次は上手くいくから、ね?」

 

ル「……うゆ、わかりました……///」

 

うん、やっぱ顔も赤くなってるし、休んで正解だね!

 

ル「そんなにルビィのこと見ててくれたなんて……えへへ……///

 

柚「よーし、15分後にまた練習再開しよう!」

 

「「「はーーーい!」」」

 

その間に俺はやるべきことを……

 

 

********************

 

 

時刻は18時15分。

今日の活動も終わり、みんなは着替えタイム。

早く着替え終わった善子ちゃんが一番乗りで出てきた。

 

善「これ……まさかやっておいてくれたの?!」

 

柚「うん、これで平気だったかな?」

 

善「うん!ありがとっ、リトルデーモン♡」

 

柚「お、今日は素直で善い子のよっちゃんだ」

 

善「う、うっさいわい!!///」

 

俺がやっておいたことは、善子ちゃんの堕天用の衣装の修繕。

ニ○ニ○動画で生配信をして、かなり人気のある善子ちゃん。

昨日のニ○生の配信が終わったあと、衣装が棚のささくれに引っかかって裂けてしまったらしい。

曜ちゃんやルビィちゃんに頼もうにも、今はスクールアイドルの衣装を作ってるから忙しいし、善子ちゃん自身としても、何やら忙しいようで……

そこで俺の出番ってわけ。

裁縫自体はそこまで苦手じゃないから、ある程度なら出来るってことで、その役目を買って出た。

無事に綺麗にできたから、まぁ、及第点かな?

 

善「ねぇ、柚希……今日この後暇とか……ある?」

 

時々善子ちゃんは、俺のことを柚希って呼ぶ。

呼び分ける理由はよく分からないんだけど……

 

柚「うーん、今日は特になにもないかな。どうして?」

 

善「その……ちょっと付き合って欲しくて……///」

 

何か買い物とかするのかな?

 

柚「うん、いいよ」

 

善「ほんとっ?!」

 

柚「もちろん!」

 

「やったっ!」って嬉々とした表情でぴょんぴょん飛び跳ねる善子ちゃん。

そんなに俺と買い物するのが嬉しいのか……?

 

善「じゃあじゃあっ、早く行きましょっ!」

 

柚「あっ、ちょっと引っ張らないでよ〜」

 

軽い足取りで俺の腕を引っ張っていく善子ちゃん。

すごいテンション高いなぁ……かわいい♪

 

 

********************

 

 

柚「……あれ?ここって……」

 

善「そ、松月さんよ!」

 

柚「善子ちゃん……買い物じゃないの?」

 

善「え?買い物するなんて言ってないわよ?……あと、ヨハネ」

 

柚「あっ、ごめん……」

 

てっきり沼津で買い物とかするもんだと思ってたから、ちょっと意外。

まさかの松月さん。

こぢんまりとしている喫茶店だけど、木で出来た店内は不思議と暖かい空気で満ちていて、そこで食べるスイーツがこれまた絶品。

 

善「柚希は何食べる?」

 

柚「うーむ……ここはいつ来ても何食べるか迷っちゃう……よし、今日はコポーにしよう」

 

善「じゃあ私はショートケーキにしようかしら」

 

ここで言うコポーは、チョコレートケーキのこと。

本来コポーはフランス語で「削り屑」って意味があるんだけど、チョコレートにおいてのそれは、薄くスライスされたデコレーション用のチョコのこと。

 

松月さんの自慢は、この辺りで採れる寿太郎みかんを使用したタルトやどらやき、パウンドケーキなんだけど、今日は昼間に千歌ちゃんおごりのみかんを食べたから、みかんじゃない違うものを。

善子ちゃんはみかんが苦手だから、最初から食べないんだろうけど……

 

善「じゃあ、今日は私が出すわね」

 

柚「えっ、悪いよ!自分のくらい自分で出すよ!」

 

善「いいのよっ、私からのちょっとしたお礼なんだから……」

 

柚「お礼だなんて……そんな大したこと出来てないのに……」

 

善「私からしたら十分すぎるくらいよ。本当に感謝しているんだから、これくらい黙って受け取りなさい?」

 

なんだかとっても申し訳ない気持ちでいっぱいだけど……

これ以上は善子ちゃんも望んでいない言い合いになりそうな予感だから、ここは素直にその善意を受け取っておこう。

 

柚「……うん、わかった。じゃあお言葉に甘えてそうさしてもらうね?ありがとうございます、ヨハネちゃん♪」

 

善「クククッ、それでいいのよ?リトルデーモン♪」

 

なんとなく甘いものが食べたかったから、善子ちゃんとここに来られてよかった♪

 

善「じゃあ席に行きましょ?」

 

柚「うん、そうだね」

 

しばらく店内のイートインスペースで談笑していると、お店の人がケーキを持ってきてくれた。

 

善「う〜ん!やっぱりこのクリーム美味しいわね〜♡」

 

柚「松月さんのケーキはいつ食べてもほんとに美味しいよね〜!」

 

うーん、コポーもいいけど、善子ちゃんのショートケーキも実に美味しそうだ……

 

善「……はい、柚希。あーん///」

 

柚「えっ?ヨハネちゃん……?」

 

善「は、恥ずかしいんだから、早く食べなさいよ……///」

 

柚「え、えっと……」

 

なんだこのシチュエーションは……

善子ちゃんが俺にあーんしてくれてるぞ?

どういうことよこれ……?

 

善「柚希が私のケーキを美味しそうって目で見てたから……ひとくちあげるわよ……///」

 

バレてた?!

あれ?そんな俺ってば顔に出るタイプ?!

 

柚「えっ、あ……ありがと……///」

 

ひとつ言いたいのは、善子ちゃんはとんでもなく美人さんってこと。

そんな美人さんな善子ちゃんからあーんされるなんて、めちゃくちゃ嬉しいんですけど。

照れない男なんていないでしょ?ね??

 

柚「じゃ、じゃあ……あー……ん///」

 

善「どう?美味しいでしょ……?///」

 

柚「……めっちゃ美味しい……///」

 

正直な話、味なんて全く分からなかった。

強いて感じた味といえば、甘酸っぱい、それこそいちごのような味……なんて、少しクサすぎるかな?

 

柚「……じ、じゃあ、お返しに、あーん///」

 

善「へっ?!べっ、別に私は食べたそうにはしてなかったわよ!///」

 

柚「でもヨハネちゃん、チョコ好きでしょ?それにさっきから貰ってばっかりだから……ね?」

 

善「……そ、そういうことなら……あー……ん……ん、美味し……///」

 

柚「そ、そっか、よかった……///」

 

何恋人みたいなことしてんだ俺はぁぁぁぁぁ!!!

ていうか!お互いのフォーク使ってるから、これって……

 

善「間接キス……///」

 

2人して赤面したのは、その言葉の直後の事だった。

お店の人がニコニコとこちらを見ていてくれてることだけが唯一の救いだった。

 

 

柚希side off

 

 

 

 

To be continued!




いかがだったでしょうか!

うーん、こんな甘酸っぱい経験してみたいですねぇ……
みなさんの知り合いにこんな可愛い子いたら紹介してください()

次回は3年生メインで行きたいと思います!
その中でも誰を中心にいくのかは……
Twitterでアンケートとるので、良かったらご参加くださいませ!

では、次回もお楽しみに!笑笑


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輝きの核心

みなさんこにゃにゃちわ、齢19になって今さらオシャレをしたくなってきました、どうもたか丸です。

大学行くとやっぱり服装って大事ですね。
今までは制服があったからよかったけど、大学は完全私服だから毎日服選ぶのが大変なんですよね笑
いい感じのエモい服があったら教えてください!
なるべく庶民的なお値段でおねがシャス!!!笑

さてさて今回は、予告通りTwitterで取ったアンケートを参考にお話を書いてみました!
うーん、思いのほか拮抗したアンケートになって面白かったです笑
誰がメインになったのか、そしてたか丸はあのアンケートの意志をどう汲み取ったのか(?!)、読んであなたのその目でお確かめ下さい!笑
書きたいこと多すぎて本編長くなっちった、てっへ♡

てなわけで、3年生メインのお話、どうぞ最後までお付き合い下さいませ!


柚希side

 

 

ダ「あの……柚希さん、少しよろしいでしょうか?」

 

柚「およ、ダイヤちゃん。何かあったの?」

 

昼休み。

屋上で1人のんびり、昼ごはんの焼きそばパンとみかんクリームパンを食べ終わって、パックの牛乳を飲んでいるところでダイヤちゃんに声をかけられた。

 

いつもは教室でAqoursの2年生組で食べるんだけど、今日は曜ちゃんは水泳部の招集、梨子ちゃんと千歌ちゃんは先生からお呼び出し。クラスの子からお誘いもあったんだけど、今日はなんとなく気分的に、1人屋上で孤独のグルメ。

 

梨子ちゃんはなんとなくいいお話なんだろうけど、千歌ちゃんは……まぁ、うん。

 

ダ「その……ですね、ちょっとお願いがございまして……」

 

柚「ふむふむ、なんでしょなんでしょ?」

 

こうもハキハキと物を言わないダイヤちゃんは珍しい。

何か言いづらい事なのかな?刺激しないように慎重に話を聞いてあげねば!

 

ダ「実はですね……」

 

 

********************

 

 

果「お、ゆづ、やっほ♪」

 

柚「こんにちは、果南ちゃん。鞠莉ちゃんどこにいるか知らない?」

 

果「鞠莉?そういえばさっき理事長室に入っていくの見たよ」

 

お、知っているのなら好都合。

 

柚「理事長室か、わかった。じゃあ一緒に行こっか?」

 

果「えっ、なんで私も?」

 

柚「うん、ちょっと2人に協力して欲しくって……もしかして今忙しかった?」

 

果「いや、そんなことはないんだけど……協力って何に?」

 

柚「それは理事長室に着いてからのお楽しみ。ちなみになんだと思う?」

 

そう言って理事長室に歩みを進める俺たち。

 

果「んー……「いかにランニングを楽しくすることが出来るかグランプリ」を開催するにあたって、設けるルールの制定を協議しようって感じ?」

 

柚「うーん、正解か不正解かで言ったら、最も限りなく不正解に近い不正解」

 

果「いわゆる、なしよりのなしってやつかぁ……」

 

柚「まさか果南ちゃんからそんな言葉が聞けるとは……っと着いたね」

 

我が校の理事長兼生徒の鞠莉ちゃん。

鞠莉ちゃんのお家、つまり小原家は、この学校に相当な額の融資をしていて、今年度の理事長に鞠莉ちゃんを据えた。

「生徒が理事長なんてありえませんわっ!!!」ってダイヤちゃんは言ってたんだけど、まぁ誰もがそう思うよね……

 

てなわけでノックの必要もないとみた俺と果南ちゃんはズカズカと部屋に侵入していった。

 

柚「まーりちゃーん、やっほー!」

 

鞠「あら、ユヅ!会いたかったわ!今日はわざわざ理事長室にまで来てどうしたのかしら?私に会いに来てくれたの?」

 

柚「うん、そうだよ!」

 

鞠「へっ……あ、そ、そうだったの……///」

 

果「まったく天然たらしなんだから……

 

鞠莉ちゃんの顔は赤く、果南ちゃんの顔には呆れが。

鞠莉ちゃんはどうしたんだろ?熱?

でも今の今まで元気だったし……暑いのかな?

 

でも果南ちゃんはどうして呆れてるんだろ……

わからん……なるほどわからん……

 

果「……で?私と鞠莉にどんな用なの?」

 

鞠「ん?カナンにも用事があったの?」

 

柚「あっ、そうそう、2人に用事があるの……実はダイヤちゃんからとある相談を受けたんだ。それの解決に2人に力を貸してもらおうと思って」

 

果「ダイヤが?またなんでゆづに相談を?」

 

鞠「何か込み入った話なのかしら?」

 

柚「まぁ……その相談内容っていうのが、「一二年生ともっと仲良くなりたい」ってものなんだ……どう、思う?」

 

果&鞠「「まさか……また、あれやるの……?」」

 

実は既に1度、"Aqoursの親睦を深めようの会"と(勝手に)題して、ただただみんなでお話する機会を設けたんだ。

1年生と3年生はお互いに何か見えない壁のようなものがあった気がしたから開いたんだけど、善子ちゃん、ルビィちゃん、花丸ちゃんの1年生3人と、果南ちゃん、鞠莉ちゃんの3年生2人はそれなりに仲良くなった。

 

でも、その中でなかなかお話の輪に入ってこなかったのがダイヤちゃん。

「スクールアイドルとして大事なことは"馴れ合う事"ではなく、"切磋琢磨し合う事"」

っていう信念の元、なかなかお話に参加しなかったダイヤちゃんなんだけど、3年生の2人がメンバーと仲良くしているところを見て、少し嫉妬しちゃったみたい。

 

本人は「私だけ仲間はずれみたいなのがいや……ゴホン、メンバー同士の距離間に差があるのがグループとして活動していく上でよろしくないのですわ!」って言ってるんだけど……

 

果「まぁ、あの時ゆづと私たち以外の誰とも話してなかったからねぇ……」

 

鞠「自分から馴れ合わないなんて言ってたのに……きっと1年生たちと仲のいい私たちをみて嫉妬ファイヤ〜♪がメラメラと燃えあがってるんだわ!」

 

柚「そう思うよねぇ……ってことで2人にはどうしたらダイヤちゃんがみんなと仲良くなれるのかを一緒に考えてもらいたいんだ!」

 

またあの駄弁る会をやるのは、意図が見え見え過ぎて1、2年生に怪しまれると思うから、なにか別の方法を模索しようってことで、2人に協力してもらいます!

 

鞠「じゃあじゃあ、こんなのどうかしら?前に果南が言ってたこともヒントに……」

 

 

********************

 

 

千「琴?」

 

柚「そ。ダイヤちゃんはいつもお稽古でお琴をやってるのは知ってるよね?」

 

花「知ってるずら。でも今まで聴いたことは1度もないずらね」

 

柚「てことで、ダイヤちゃんから直々にお誘いが来たんだけど、みんな一緒に来る?お抹茶とか、和のおもてなしもしてくれるみたいだよ!」

 

鞠莉ちゃんと果南ちゃん(主に鞠莉ちゃん)が思い付いた作戦は、「ダイヤがいつも厳しくスクールアイドルの指導をしている一二年生に、少しずつ優しく接して徐々に好感度を上げていくわよ〜♪」大作戦。

 

それで何をするのがいいかってなって思いついたのが、ダイヤちゃんがいつもお稽古しているお琴。

雅なお琴の音色を聴きながら、お抹茶や和菓子なんかも一緒におもてなしとして振る舞うことで、「あれ?いつもあんなに厳しいダイヤさんが……優しい?!もしかしたら素のダイヤさんは優しいんじゃ……?」って思わせちゃおうっていう至極単純(?)で明解(??)な作戦。

 

梨「へぇっ、すごく面白そう!ダイヤさんのお琴を聴けるなんてなかなかない事だろうし、私は行ってみたいかな♪」

 

曜「ゆづがどうしても来て欲しいって言うなら……いいけど……」

 

お、梨子ちゃんと曜ちゃんは来てくれるみたい!

1年生たちはどうだろ……?

 

ル「花丸ちゃん、善子ちゃん、どうする?お姉ちゃんのお琴はすっごく上手で、綺麗な音色で、和服姿のお姉ちゃんがとっても素敵なんだよ♪」

 

善「クククッ、奏でられしは狂宴の狂騒曲(カプリチオ)……ヨハネの心を躍らせてくれるような甘美なる曲であれば、この堕天使たる私がその地に降り立ってもよいでしょう……」

 

花「つまりお琴を聴いてみたいから行きたいってことずらね」

 

善「説明するなっ!神秘性が薄れるでしょ!!!」

 

花「マルはもちろん行くずら♪」

 

善「無視っ?!」

 

柚「あっはははは、じゃあみんな行くってことでいいかな?」

 

千「うん!は〜っ、ダイヤさんの和装……早く見てみたいなぁ♪」

 

意外にもみんなノリノリでよかった。

これで、「え、別に琴とか興味無いし、抹茶飲めないし、行かない」とか言われたら、立ち直れなかったかも……

 

ル「でもお姉ちゃん……なんで急にみんなを招待するんだろう?」

 

梨「どういうこと?」

 

ル「うゆ、お姉ちゃんいつもお琴のお稽古は1人で集中してやりたいって、誰も部屋に入らないようにしてるの……そんなお姉ちゃんが急にみんなを招待するなんて、どうしたんだろうって……」

 

う、まずい……変に勘づかれると困っちゃうな……

なんて言い訳しようか……えーとえーと……

 

柚「えっとね、ダイヤちゃん曰く、「私と琴の世界ではなく、第三者も含めた世界で琴を弾いて、新たな可能性を見出したい」んだって!そのためにおもてなしするのは当然だって言ってたよ!」

 

……ごめんダイヤちゃん、適当なこと言った。

 

千「なるほど、さすがダイヤさんだ……まぁ何言ってるのか千歌には全然理解できなかったけどね〜、あっはは♪」

 

曜「あはは、千歌ちゃんには少し難しかったかな……でもダイヤさん、もしかしたらお稽古で行き詰まってるのかな?」

 

梨「そんな気がするわね。ピアノでも上手くいかない時は気分転換にみんなに聴いてもらって、観点を変えて次に繋げるって私もよくやるわ♪」

 

善「リリーでも行き詰まることってあるのね、ちょっと意外だったわ」

 

梨「私だって万能じゃないわ、アイディアが出てこない時なんてよくあるし……って、リリー禁止!」

 

まあ何はともあれみんな来てくれるみたいだ!

これで作戦に移れる。

3年生たちに上手く話を伝えておかないと!

 

 

********************

 

 

ダ「みなさん、ようこそいらっしゃいませ。さ、お上がりください」

 

ル「みんないらっしゃい!歓迎すルビィ♪」

 

千「ひゃ〜、なんて綺麗な和服姿のダイヤさん……黒髪ロングに和服は合わないわけないよぉ〜♡」

 

花「まさに日本美人ずら〜、やまとなでしこずら〜、くーるあんどびゅーてぃーずらぁ〜♡」

 

ルビィちゃんは洋服。

淡いピンクの薄手のフード付きプルパーカに、ピンクと白を基調としたふわふわのスカート。

もう……なんて言うんだろう……ルビィちゃんって感じのふわふわきゅんきゅんなかわいいお洋服。

こんな"ザ・妹"って子がいたらなんて幸せなんだろう……

 

千「ゆづにぃ、何か変なこと考えてる……?」

 

柚「まっ、まっさか〜、そんなわけ〜!!」

 

まさか千歌ちゃんに心を詠まれる日が来るとは思わなかった……

 

対してダイヤちゃんはバチバチの和服。

今日のお着物は、黒地に赤と白の牡丹をメインに様々な花が描かれているもの。

――妖艶――

そんな言葉が似合うだろう。それくらい見事にダイヤちゃんは着こなしていた。

 

ダイヤちゃんの和装を見るのは久しい。

以前果南ちゃんと2人で遊んでいた時、鞠莉ちゃんとダイヤちゃんと出会った。

果南ちゃんの友達ってことで、すぐに打ち解けて一緒に遊んだんだけど、その日ちょうどダイヤちゃんはお琴のお稽古があった。

果南ちゃんと鞠莉ちゃんの2人に手を引かれ、バレないようにって黒澤家に忍び込んで、ダイヤちゃんのお稽古を覗き見した。

その時初めて見たダイヤちゃんの和装。

十千万という旅館を我が家として過ごしてきた俺は何かと"和"に関わるものが周りに多かった。

そのため正直"洋"への憧れがあったのだが、艶めかしく絹のような長い黒髪、赤を基調とした花柄の着物、奏でられた琴の音色の優雅さ……

そんなただ純粋な"和"を体感してから、俺は"和"への興味を深めることとなった。

 

ダ「ふふっ、柚希さん。この姿を見るのも久しぶりでしょう?いかがですか、私の和服姿は?」

 

柚「うん、とっても綺麗だよ。イメージにぴったりな着物が、更にダイヤちゃんを美しくしてる」

 

ダ「あら、そんな風に面と向かって褒めちぎられるとさすがに私も照れますわ♪」

 

「「「むぅ…………」」」

 

ん、なんだろう?なにか多方向から鋭い視線を感じる……

背筋が凍るような視線な気がする……

 

ダ「さて、みなさんご案内しますわ。今日はぜひ楽しんでいってくださいませね?」

 

曜「はーっ!楽しみだなぁ!ダイヤさんの奏でる琴って、きっととっても素敵な音なんだろうなぁ……♪」

 

梨「そうね、私もピアノの参考になるかもしれないし、今日はじっくり聞かせてもらおうっと!」

 

善「くっくっく……この昂るヨハネの心さえも鎮めるようなような、幻想郷の鎮魂歌(レクイエム)を期待しているわ……」

 

花「狂想曲じゃなくなったずらね、キャラがブレブレずら」

 

善「う、うっさいわい!!」

 

 

********************

 

 

ダイヤちゃんに案内されるがまま連れてこられた場所は、幼い頃に果南ちゃんと鞠莉ちゃんと3人で覗き見した、あのダイヤちゃんのお稽古部屋。

あの頃とほとんど変わらない内装が、俺の幼い頃の記憶を蘇らせる。

そしてその部屋にあったひとつの琴。

琴の数え方が果たして"ひとつ"であっているのかはさておき、桐で作られた胴に、ピンと張った弦。

そっと触れるだけでも美しい音色を奏でるそれは、ダイヤちゃんの和服姿の妖艶さも相まって、文字通り琴線に触れるような思い。

 

ダ「特にこれといって決まりは設けておりません。みなさんはどうぞ正座などせずにくつろいでくださいませ」

 

千「うぅ、そうは言われてもなんだか緊張しちゃうなぁ……えへ……」

 

花「ずら、マルの家もこういった造りになってるずらが……何か、何かが違くていたたまれなくなるずら……」

 

果「そんなもんなのかな?私なんかもう慣れたもんだよ」

 

落ち着かない雰囲気で挙動不審になってる千歌ちゃんや花丸ちゃん達と違い、やはり本当に慣れているのだろう、果南ちゃんは日曜日のお父さんポーズをとり始めた。

まあつまり、テレビの前で寝っ転がって、片手で頭を支えているあのポーズ。

……いや慣れすぎでしょ?!

 

ダ「さすがにはしたないですわね……」

 

そう言いながらダイヤちゃんは慣れた手つきで琴の調弦(チューニング)を始めた。

丁寧に1音1音確かめるように、ダイヤちゃんの指先にはめた琴爪(ことづめ)から奏でられる音は、とても艶めかしく、雅な音だった。

 

なんて考えていると、颯爽とルビィちゃんが現れ、俺たちにお抹茶とお茶菓子を運んできてくれた。

ルビィちゃんも一応グル。

みんなに琴の話をした際に、何かと不利益を(こうむ)りかねないと察した俺は、事のあらましをルビィちゃんに伝えた。

すると、

 

ル「お姉ちゃんのためなら、なんでも頑張ルビィするよ♪」

 

と、二つ返事で了承してくれた。

なんて姉想いな健気な妹なんだ……

 

ル「お茶も作法を気にしないで自由に飲んでね♪」

 

善「よ、よかった……抹茶の作法って難しいらしいから助かったわ……」

 

曜「善子ちゃん、素が出てるよ?」

 

善「んなっ?!……くくくっ、今のはあくまで下等な種族である人間に溶け込もうとした結果よ。堕天使たる私は人間に溶け込む術も会得しなければならないからねぇ……っていうか、善子じゃなくてヨハネ!」

 

ルールに厳しいダイヤちゃんが、和の作法をここまで崩してまで1、2年生と仲良くしたいだなんて、よっぽど羨ましかったんだろうなぁ……

 

ダ「さ、準備が出来ましたわ。みなさん、どうぞゆっくりとくつろいでいってくださいませね……」

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪•*¨*•.¸¸♬•*¨*•.¸¸♪

・゜♪。.:*・゜:*・゜♪。.:*♪。.

 

 

俺たちはしばらくの間、ダイヤちゃんの奏でる琴の音色に心を奪われ、気づいた時にはせっかく出してもらったお抹茶がひんやりとしていた。

ダイヤちゃんを1、2年生と仲良くしちゃおう大作戦を企画していた俺と3年生の2人にルビィちゃんは、作戦のことをほとんど忘れて、ただ流れてくる音色に耳を澄ませていた。

ただ、それほどまでにダイヤちゃんの奏でた琴の音色は美しく、人々を魅了するものだった。

ここまでがっちりと心を掴んだのであれば、間違いなくダイヤちゃんとみんな仲良く――

 

千「さすがダイヤさん……尊、敬……♪」

 

花「すごすぎずら……マルがお茶菓子を食べられないほどに惹き付けられたずら……これはもう"すたんでぃんぐ・おべーしょん"ずら……」

 

あ、あれ……?

みんな……なんか仲良くなるっていうか……

……余計に尊敬して距離離れてない?

 

 

********************

 

 

千「仲良く……?」

 

柚「そ。ダイヤちゃんはもっとみんなと仲良くしたいんだ」

 

ダ「ちょっと柚希さん!!どうして皆さんにバラすんですの?!?!」

 

企画倒れを察した大作戦チームは臨時会議をすぐに行い、「事の全貌をみんなに話しちゃえば楽じゃない?」っていう果南参謀の発言。それに賛同する鞠莉曹長、ルビィ二等軍曹。そして俺、柚希総統閣下による承認を経て今に至る。

ダイヤちゃんには話をしてない、うん。

 

鞠「なんかもうダイヤ見てるとイライラしてくる……」

 

ダ「ただの悪口ですわ!!なんでですの?!」

 

鞠「そーやってうじうじしてないで、いつものダイヤらしくバシーンってみんなにぶつかってけばいいのよ!」

 

果「鞠莉の言う通りだね。こうして私たちと一緒にいるだけじゃ何も変わらない。自分から積極的に輪に溶け込んでいかないと。ほら、生徒会長さん♪」

 

ダ「くっ……そこで生徒会長を出してくるのはずるいですわ……」

 

我が校の生徒会長であるダイヤちゃんは、"真面目"、"お堅い"、"頭がいい"、"完璧主義者"なんて言われることがザラだ。

間違っていない、それもそのはず。

ダイヤちゃんは生徒との関わりが薄い生徒会長なのだ。

 

孤高の存在――

 

常に1人でなんでもこなし、生徒と馴れ合わないその姿はまるで、一匹狼。

そうさせたのは他でもない、ダイヤちゃんに向けられた周囲の目。

 

ここら一帯では有名な黒澤家。

網元の家の跡継ぎ候補である長女のダイヤちゃんは、幼い頃から跡取りとしての自覚を持つよう促されてきた。

常に周りに気を遣い、丁寧な言葉を使い、黒澤家の娘だということを常に自覚し、その名に恥じない行動を義務付けられてきた。

そしてそれを完璧にこなしてしまったダイヤちゃんへの期待値はうなぎのぼりだった。

期待値が上がれば上がるほどダイヤちゃんはその期待を裏切らないようにと努め、ダイヤちゃんの自由は、失われていった。

 

柚「ダイヤちゃん、ダイヤちゃんがみんなと仲良くしたい理由はよくわかる。やっと、少しだけでも、()()()()()()()()()()んだもんね」

 

ダ「……っ!!」

 

柚「最初はぎこちなくてもいい、ゆっくりでいいからみんなと仲良くしていこうよ。きっとみんな、どんなダイヤちゃんでも受け入れてくれるに決まってる」

 

ダ「柚希……さん……」

 

柚「でしょ?みんな」

 

花「もちろん!マルはもっとダイヤさんと仲良くしたいずら♪」

 

善「そうね。ダイヤだって立派な私のリトルデーモンなんですもの!」

 

曜「孤高の存在でどこか近寄り難いイメージあったけど、ダイヤさんが私たちと仲良くしたいって思ってたのが意外で……可愛い♡」

 

梨「ふふふっ。こちらから仲良くしたいってお願いしたいくらいよね♪」

 

千「私たちのこと、可愛い妹だと思って接してくれても……いいんですよ♡」

 

柚「……とまぁ、みんなこれだけ寛大なんで、ダイヤちゃんは臆することなくみんなと仲良くしちゃってくださいな♪」

 

ダ「みなさん……ありがとうございます!!」

 

ダイヤちゃんの目尻に光るものが見えた。

きっとそれは、今まで(くさび)として心に刺さっていた何かから開放された証なんだろう。

 

だってその時のダイヤちゃんの笑顔は、眩しいくらいに輝いていたから――

 

 

柚希side off

 

 

 

 

 

To be continued!




いかが果南でしたでしょうか?!笑笑

アンケート結果を見てこのお話に来たみなさん、いい感じに期待を裏切ったでしょう?笑笑
実はアンケート結果は、果南ちゃんと鞠莉ちゃんが同票でフィニッシュしたんです!
かなまりでお話を書くことをまず考えたんですけど、あえてダイヤちゃん1人に絞って書くのも乙かなと思いまして、今回こういったお話になりました笑

いやはや、アニメの内容を少しばかり模倣させていただいたんですけど、書いてるうちにほとんどオリジナルに笑笑
自己満足したらそれでいいと考えてる系SS作者のたか丸としてはもう大満足なんで言うことなしです笑笑

それでは次回はまた別のストーリーでお会いしましょう!
(・ω・)/ばいにー☆


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紅き宝石の中に眠るもの

みなさんこにゃにゃちわ、最近リバウンドに成功しました、たか丸です。
ついお菓子作っては食べ、作っては食べをしてたらみるみるうちにぶたちゃんボデーになってしまいました……
太ると周囲の目が気になるよな……たか丸、動きます。

えっとですね、この作品なんですけど、めちゃめちゃいい評価をしていただいています!
お気に入りの増え方がたか丸史上最高速度で、めちゃくちゃびっくりしてます……
読んでいただいて、本当にありがとうございます!

さて、今回からは一人一人に焦点を当てたお話をやっていきたいなと思っています。
柚希の過去についてはこのお話たちが終わってから書こうかなと今のところ考えております。

それでは、今回も最後までお付き合い下さい。


ルビィside

 

 

何をするにも、ルビィはお姉ちゃんにくっついて行動してました。

お姉ちゃんの幼なじみの果南ちゃんと鞠莉ちゃんでさえ、上手く話せずにずっと距離を置いていたくらい、人見知りでもあったの。

今ではあの頃が信じられないくらい仲良くなれたんだけどね♪

 

でも、ルビィが唯一家族以外で最初から心を許せた人がいるの。

それはね――

 

 

柚「あっ、ルビィちゃんおはよ!」

 

ル「柚希くん!おはようっ!」

 

そう、柚希くん。

ルビィは今まで出会った人の中で、初対面にもかかわらずいきなり話せたのは、柚希くんが初めて。

 

よくわからないんだけど、柚希くんは何かお姉ちゃんと同じ波長のようなものを感じたの。

 

出会いは、本当に突然でした。

 

 

********************

 

 

ル「うーん!みんなかわいいなぁ……♡」

 

あの日、ルビィはいつものように大好きなスクールアイドルの雑誌を読んでたの。

確か……小学校低学年くらいだったかなぁ?

難しい漢字は読めないから、基本的にスクールアイドルたちの写真の部分だけを見ていただけなんだけどね……

 

お姉ちゃんは果南ちゃんと鞠莉ちゃんと外に遊びに行ってました。

でもお琴のお稽古があるから、早めに帰って来なさいってお母さんに言われてたのを覚えてるなぁ。

 

まあ、ルビィはお稽古もないし、自分のお部屋でまったりとスクールアイドル鑑賞会を実施してたの。

 

お姉ちゃんが遊びに行って随分と時間が経った頃、外が何やら騒がしくなったの。

気になって行ってみたら、お稽古をしているお姉ちゃんがいる部屋の縁側に、果南ちゃん、鞠莉ちゃん、そして知らない男の子が1人、座ってお琴を聴いていたの。

 

ル「だれだろう……?」

 

思わずでたその言葉は、どうやらその男の子に届いてしまったようで……

 

?「ん?あの子はだぁれ?もしかしてダイヤちゃんの妹?」

 

き、気づかれちゃいました!

 

ル「ピッ!?」

 

咄嗟に隠れたものの、時すでに遅し。

既にその男の子はルビィの元まで駆け寄ってきていたのです!

 

?「こんにちは、はじめまして!俺は高海柚希!よろしくね!」

 

ル「あ、あぅあぅ……」

 

ダ「柚希さん、申し訳ございません。ルビィはものすごい人見知りでして……なかなか初対面の方と仲良くは……」

 

ル「は、はじめまして……くろさわルビィです……」

 

柚「ははっ、よろしくね、ルビィちゃん♪」

 

ル「う、うゆ!」

 

ダ「まぁっ……!」

 

あの時、ルビィはどういう訳か柚希くんと一瞬で話せたんです!

自分でも不思議なくらいスムーズに、ナチュラルに、流れるように会話ができたの!

生まれて初めての経験でした♪

 

果「ルビィちゃん、もしかしたらゆづのことお兄ちゃんみたいに思ってるんじゃない?」

 

鞠「オー!それはナイスなフィーリングね〜!」

 

お兄ちゃん……かぁ……

ルビィは人見知り以上に男性恐怖症がすごくて、お父さんだけが唯一話せる男の人……

だけど柚希くんとは一瞬で話せちゃった。

これはきっと果南ちゃんの言う通り、柚希くんのことを心のどこかで"お兄ちゃん"だと思っちゃったのかも?

 

ル「柚希……お兄ちゃん……ふふっ♪

 

柚「あっ、笑った!笑顔もかわいいね!」

 

ル「う、うゆゆゆゆゆ……///」

 

……思えば柚希くんはこの頃から天然たらしだったのかもしれないね……

あの幼さで女の子を(意図せず)手のひらで弄ぶなんて、もはや才能の域……

 

そしてあの時ルビィはまんまと、その手のひらの上に乗せられちゃったのです。

 

 

********************

 

 

っていうような感じで、ルビィと柚希くんは出会ったの。

 

もしお姉ちゃんが果南ちゃんたちとお友達じゃなかったら、今頃柚希くんとは出会えてなかったのかもしれないなぁ〜。

お姉ちゃんのおかげだね〜♪

 

柚「ねぇルビィちゃん、昨日ルビィちゃんが言ってたステップのことなんだけど……」

 

あの時からルビィは柚希くんと何一つ臆することなく話せています。

今でも男性恐怖症で人見知りなルビィだけど、やっぱり柚希くんは特別♡なのかも♪

 

柚「ちょっとー、ルビィさん聞いてますー?」

 

ル「えっ?あっ、ごめんなさい何も聞いてませんでした……」

 

柚「も〜、たまーにぼけぼけしてるんだから〜……」

 

ル「えへへ……ごめんなさい♪」

 

でもそれが幸か不幸か、柚希くんと話している時のルビィは、どこか上の空になっちゃって、お話を聞いてないこともしばしば……

柚希くんとお話してるっていう幸福感に浸って、ふわふわになっちゃうの♪

 

柚「しょうがないなぁ……ルビィちゃんが昨日言ってたステップのこと、今日の練習のあと時間があるなら一緒に特訓しない?って言ったんだけど、どうかな?」

 

ル「特訓って……もしかして2人きりで……?」

 

柚「ん?あー、どうだろ……心配がってダイヤちゃんが着いてくるかもだけど……」

 

ふふふ、2人っきりで……ととと、特訓?!?!

柚希くんが付きっきりでルビィの特訓を?!?!

 

柚「おーい、どうなんですか〜?ルビィさ〜ん?あれ、またぼけぼけしちゃってる……?」

 

ル「や、やりたいです!特訓!!」

 

柚「お、おお、すごい勢いだね……おっけー、やろっか!」

 

ル「うゆ!///」

 

柚希くんと2人っきりだなんて……こんな幸せなこと、あっていいのかな?

ルビィ……嬉しすぎて飛び跳ねちゃいたい気分です!

 

 

********************

 

 

柚「……はい、みんなおつかれ!今日のメニューはこれにて終了!各自、家に帰ったらちゃんとマッサージするんだよ〜」

 

「「「はーーーい!!!」」」

 

千「ゆづにぃっ、今日もマッサージよろしくね♡」

 

柚「うん、いいよ」

 

千「えへへっ、やったぁ!ゆづにぃのマッサージ、ほんっとに気持ちよくて、疲れが取れるんだよねぇ〜……」

 

鞠「そうなの?じゃあマリーもやってもらおうかしら!」

 

善「待ちなさい、まずエレキドゥからの解放(マッサージ)を受けるのは、この堕天使ヨハネよ……さぁ、その封印されし右腕、左腕の力を……私にっ!」

 

うぅ……千歌ちゃんはともかく、みんなのマッサージしてたらルビィとの特訓が……

でも、柚希くんだってルビィだけじゃなくて他の子のサポートもしなくちゃだろうし……

 

柚「あー、みんなごめん、マッサージはまた今度してあげるから、今日は各自でお願い!これからちょっと用事あるから、みんなは着替え終わったら早めに帰るんだよ〜!」

 

花「そっかぁ、残念ずら……でも用事があるなら仕方ないずらね?」

 

梨「そうね、じゃあみんな早く着替えて帰りましょ!」

 

柚希くん……もしかしてルビィのために……

ずるい……ずるいよ……///

 

柚「一旦職員室行ってくるから、ダイヤちゃん上手く説得して屋上で待ってて、ね?

 

ル「えっ?あ、う、うん……///」

 

わざわざ耳元でそう小さく囁いて、柚希くんは屋上から出ていきました。

誰も知らない、ルビィと柚希くんだけの秘密の特訓ってこと……だよね?

よぅし!()()()使ってお姉ちゃんを説得しようっ!

 

ダ「ルビィ、何をしているんですの?早く戻りますわよ」

 

ル「あ、お姉ちゃん、ルビィステップでちょっと気になるところがあるから、もう少しだけ練習してく!先に帰ってて!」

 

ダ「えっ?ですがもう夜も遅いですし……早く帰らないとお母様も心配しますわ?」

 

ル「おねいちゃん……おねがいっ♡」

 

ダ「くっはぁ……!!!……し、仕方ないですわね、私からお母様に話をつけておきますわ……」

 

ル「わぁい!お姉ちゃん大好きっ♡」

 

ダ「きゅんっ……♡」

 

果「あー……やっぱダイヤはルビィちゃんに弱いねぇ……」

 

えへ、お姉ちゃんの扱いはもう心得てるよ!

上目遣いで胸元に握りしめた両手を持っていけば、お姉ちゃんは大概のことを許してくれるの!

えへへ、ルビィってば悪い子……なのかも♪

 

さて、何はともあれ柚希くんと特訓できる準備は整った!

あとは柚希くんを待つだけ。

ううっ、楽しみすぎて体がうずうずしちゃって……今にも踊り出しそう♪

 

 

********************

 

 

柚「……おまたせルビィちゃん」

 

ル「あっ、柚希くん。待ってたよ♪」

 

柚「ははっ、それじゃあ始めよっか?」

 

ル「うゆ!」

 

みんなが帰ってからしばらくして柚希くんが来ました。

柚希くんはみんなが帰ったのをわざわざ確認してから来てくれたの。

どこまでも優しい人だなぁ……

 

ちなみにそれまでの間、ルビィは1人でその気になってるステップを練習してました。

 

柚「それで、まずはどの辺が気になってる?」

 

ル「えっとね――」

 

ルビィは柚希くんに、今思ってるステップの違和感を伝えて、改善点も挙げてみました。

ルビィが話をしている間、柚希くんはルビィの目をじっと見て、時々相槌も打ちながら真剣に話を聞いてくれました。

柚希くんのその綺麗な瞳に、吸い込まれちゃいそうなくらい見つめられて、ルビィはずっとドキドキでした……///

 

ル「……って思うんだけど……どうかな?」

 

柚「そうだなぁ……うん、やっぱり今回ルビィちゃんをセンターにして正解だった。ルビィちゃんがセンターでそのダンスをキメたら多分すごく盛り上がると思う!」

 

ル「ほ、ほんとっ?!」

 

柚「嘘なんて吐かないさ、ほんとだよ」

 

ル「え、えへへ……///」

 

ヘビさんみたいに体をくねくねさせて照れちゃいました。

 

柚「じゃあとりあえずルビィちゃんが今思うそのステップを見せてもらおうかな?」

 

ル「うん!まだ未完成だけど、2人で特訓すればきっとできるよね!」

 

柚「もちろんっ!さぁ、がんばろうっ!」

 

ル「おーっ♪」

 

こうしてルビィと柚希くんの2人で、秘密の特訓が始まりました。

最初のうちはなかなか上手く出来なくて、よろけたり、時には転んじゃったりもしました。

でもその度に柚希くんが支えてくれたり、手を貸してくれたり……

そんなふとした優しさに、特訓中にもかかわらず、ルビィの心はときめいてしまうのでした。

 

ル(ああ……好き、だなぁ……)

 

紛れもない本心。

隠すことも無く、野球で言えばまさにホームランボールのような、ど真ん中のど直球な感情。

でもそれがルビィの勝負球。

小さい頃の、お姉ちゃんの後ろにくっついて、隠れて、殻の中に閉じこもっていた時とは、もう違う。

この想いはいつか必ず、柚希くんの心という名のキャッチャーミットに投げ込んでみせる。

その時はしっかり受け止めてね、柚希くん♡

 

柚「おおっ!いいね!今めっちゃ上手くキマってた!」

 

ル「本当っ?!やったぁ!!」

 

柚「うんうん、今のすっごいよかったよ!ルビィちゃんがすごく輝いて見えた!」

 

ル「えへへ、嬉しいなぁっ///」

 

柚「でも急に上手くいったね……何か意識して取り組んだ?」

 

……言えません。

……柚希くんのことを考えて、柚希くんにこの気持ちを届けようって思って踊っただなんて。

 

ル「うーん……特訓に付き合ってくれてる柚希くんのためにも、早く形にしようって思ったから……かな?えへっ♡」

 

柚「あははっ、何それ〜!」

 

むぅ、このにぶちん柚希くんめ!

少しはドキドキしてくれてもいいのになぁっ……

 

柚「よし、それじゃあもう少しだけやって、自分のものにしちゃおうか?」

 

ル「うん!よーっし、がんばルビィするよっ!」

 

ねぇ柚希くん。

あなたの理想の女の子になれるように、精一杯がんばルビィするから、一瞬たりとも目を離さないでね?

あなたがキャッチャーミットを構える日まで、ルビィはマウンドで、ずっと待ってるからね♡

 

 

ルビィside off




いかが果南だったでしょうか?!

ハピトレのPVでもルビィちゃんは練習してましたね。
それぐらいスクールアイドルが大好きで、スクールアイドルにかける思いは誰よりも強いルビィちゃん。
きっとその努力は報われる。
……なんて、クサいセリフですね笑

さて次回は誰がメインのお話になるんでしょうかね?
おやおや、あそこに見えるのは……お寺の子とホテルの子?
どちらが先に準備を終えるのか、はたまた別の子が脇から差してくるのか?!
乞うご期待!!笑笑

それでは、また次回のお話でお会いしましょう!
(・ω・)/ばいにー☆


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笑顔の花束

みなさんこにゃにゃちわ、乾燥で唇がぱっくりいきやがりました、どうもたか丸です。
いってぇ、まじでいってぇ笑笑

前回のルビィちゃんのお話で、野球を例えに使った描写があったんですけど……どうでした?
私は野球が大好きなんで、「野球で例えるとかまじセンスねぇな〜wwwwww」とか言われない限りは、今後ともその例えは使っていきたいなと思ってます笑

さて、今回は題名から察するにあの子がメインのお話ですね!
さあ、あの子とはいったい、何者なのだろうかずら?!
ずら!!!

2019年最後の更新です。どうぞ年末のオトモにたか丸の作品はいかがでしょうか?

では、今回も最後までお付き合い下さいませ。


花丸side

 

 

マルは小さい頃から本が大好きだったずら。

時間さえあれば図書館に行って本を読んでみたり、昔使われてた書斎に眠る本を勝手に読んでみたり、とにかく「本のある所に花丸あり」と言われるほど、たくさん本を読んだずら。

難しい本は漢字が読めず、諦めかけたりもしたずら。

でも読み進めていくと、なんとなく分かってくる。

そう、本の世界に入っていける。

その時間は、マルだけが旅することの出来る本の世界。

夢中で旅をして、楽しくなって、旅の終わりはいつもちょっぴり寂しかったけど、次の旅にすぐ出られる。

一喜一憂できる、そんな本の旅が大好きずら。

 

でも最近……

 

?「ん、それはなんの本ずらか?」

 

花「"ぷれいぼーい"さんには縁のないお話ずら〜」

 

?「プレイボーイ?!」

 

そんな本の旅と同じくらい大好きになったものがあるずら。

それがこの男の子、高海柚希くん。

マルたちAqoursのマネージャーをしてくれてて、気が利いて、とっても優しい男の子ずら。

でも誰にでも優しくするから、みんなすぐにコロッと()()()()()ずら。

かく言うマルもその1人なのがなんだか悔しいずら……

 

柚「あー、近代文学……?」

 

花「ずら。面白いずらよ?」

 

柚「あはは……うー、活字はどうしても……」

 

最近の若者は活字離れが顕著ずら。

"すまほ"ばっかり使ってるから、活字を読むという行為に抵抗があるらしいずら。

 

でもマルは、そんな人が少しでも減って、本の世界に飛び込む楽しさを知って、本が大好きな人で溢れる世界になって欲しい。

まずは身近な人から変わって欲しくて、だから柚希くんをその活動の被検体第1号にしたずら。

でもなかなか上手くいかなくて……

 

柚「読もう読もうと思って本を開くんだけど、10分後には本の世界から夢の世界に……不思議だよねぇ……」

 

花「ちなみに何の本を読んでいたずら?」

 

柚「えっとねぇ……"君の臓物をたべたい"って本だった気がする……」

 

……膵臓ずら……

仮にそのタイトルだととんでもないストーリーになっちゃうずら。

ただの"さいこぱす"ずら……

 

柚「本屋さんでオススメされてて、本を読むのが苦手な人でもすぐに読めるって言われたんだけど、なんでか……」

 

花「あの作品は本当に面白かったずら……最後まで読んで、タイトルの意味がわかった瞬間に涙が止まらなかったずら……」

 

柚「へぇ〜、あのタイトルってただサイコパスな人の話を表してるわけじゃないんだ?」

 

サイコパスなタイトルにしたのは柚希くんずら……

 

この調子じゃ、マルの思い描く未来はまだまだ先みたいずらね……

早く柚希くんにも本が好きになってもらいたいなぁ……

 

柚「ね、花丸ちゃんは逆にどうしてそんなに本が好きなの?」

 

花「マル?んー、面白い話は出来ないかもしれないずら。それでもいいずら?」

 

柚「全然おっけーだよ!花丸ちゃんのお話が聞きたい!」

 

花「わかったずら……あれは、マルがまだ片手の指で数えられるくらいの歳の頃の話ずら――」

 

 

********************

 

 

?「マルちゃん、おいで。いいものを見せてあげよう」

 

花「じゅら?いいもの?」

 

この人はマルのおばあちゃん。

いつも和服を着ている落ち着いてる人で、とっても頭のいい大和撫子ずら。

 

おば「そうよ。ほら、これ」

 

花「これは……本じゅら?」

 

おば「その通り。とっても素敵な本よ」

 

花「じゅらぁ〜!」

 

小さい頃から本に興味があった訳ではなかったけど、電化製品のない我が家において、暇を潰すのに最適だったのは外遊びか、本を読むことだったずら。

おばあちゃんにもらったこの本は、今でも大切に取っておいてあるほど、すごく大好きな本ずら。

 

花「おばあちゃん、これ読んでほしいじゅら!」

 

おば「ふふふ、いいわよ」

 

この本は、とあるキツネの親子を主体として描かれているもの。

冬の寒い時期に、その時期を迎えるまで元気に走り回っていた子供キツネが急に衰弱し、母キツネの必死の介抱も虚しく死んでしまう。

悲しみに明け暮れた母キツネは、泣いて泣いて、泣き止んだ時には憔悴(しょうすい)しきっていた。

だがそんなある日、ある人間の小学生くらいの男の子を見つける。

いつも夕暮れ時の同じ時間に現れては、ぽつんと佇む電話ボックスの中に入っていき、遠くで入院している母親と電話をしていた。

そんな男の子の姿が、なぜか自分の死んだ子供キツネに重なり、母キツネの母性本能がくすぐられていた。

しかし、その男の子がいつも使っている電話ボックスが、需要の低下により撤去されることが決まった。

「あの男の子が悲しまないように……!」

そんな想いから、母キツネは電話ボックスに変身し、男の子が母親と電話しているように思わせようと、自らが母親として電話の相手となったのだ。

電話ボックスとなっている時に感じたのは、男の子の、人間の子供の"暖かさ"だった。

男の子は、母親の入院している病院の近くに引っ越すことが分かったが、その日の暖かさを胸に、母キツネは悲しみを乗り越えていった。

 

……っていうお話ずら。

あ、思い出しただけで涙が出てきそうずら……

 

花「うっ、ううっ、お母さんキツネ、かわいそうじゅら……ううっ……」

 

おば「ふふっ、マルちゃんは感受性豊かだねぇ。おばあちゃんの部屋にある本なら、好きなだけ読んでいいからね?」

 

花「ありがとうじゅら……ぐすっ……」

 

この日、この本を読んでから、マルは"本"というものにものすごく興味を持ち始めたずら。

ただの紙に書かれている文字だけで、人はここまで感動して涙を流すのか。

なぜこんな幼い少女の心に、ここまで響く何かが本にはあるのか。

 

その日を境にマルはおばあちゃんの部屋に籠っては本を読んで、読んで、読みまくったずら。

キツネのお話みたいな感動する本の他に、事件の犯人を探偵が探し当てる推理小説、独特の世界観で描かれているSF作品のような小説、摩訶不思議(ふぁんたじぃ)小説なんかも、とにかくありったけの本は読んだずら。

 

幼稚園に行っても、友達と遊ぶより本を読んだずら。

……まぁ、善子ちゃんがマルを外に連れ回して、本を読ませてくれなかったこともしばしばあったけど……

それはそれでいい思い出、ずら♪

 

そして小学校では2時間目休みとお昼休み、中学校ではお昼休みの時間に、いつも学校の図書館に行って、ひたすら本を読んでいたずら。

人知れず図書委員さんからは、"図書館のホコリ落とし"って言われてたみたいずら。

喜んでいいのかよくないのか……

 

まぁ、そう呼ばれるくらい、マルは小学校でも中学校でも本をたくさん読んだずら。

中学校ではそうやって図書館で本を読んでいたからルビィちゃんにも出会えたし、ある意味、本がマルたちを繋げてくれたと言っても過言ではないずら。

 

現実でも、本の中でも。新しい発見や出会いをくれる、そんな本がマルは大好きずら♪

 

 

********************

 

 

花「……って感じずら」

 

柚「へぇ〜、花丸ちゃんの本好きはおばあちゃんの影響が大きいんだね?」

 

花「ずら。マルにおばあちゃんがいなかったらここまでの本好きにはなってなかったと思うずら」

 

柚「っていうか、キツネのお話。俺それ知ってる」

 

花「えっ?!」

 

なんと!あのお話を知ってる人がこんな近くにいただなんて!

あの感動作を今まで誰とも分かち合うことが出来なかったのに……!

 

柚「母キツネの少年に抱いた想いには、幼ながらに感動したのを覚えてるなぁ……」

 

花「そうずら!ほんっとうにいいお話ずら!切ないのになんだか勇気を貰える、そんな作品ずら……」

 

これから柚希くんとあの作品について大いに語り合ったずら。

時間にして小一時間程度。

Aqoursで本が好きなメンバーは、魔術書を読む善子ちゃんと、夏と冬の聖戦場(こみっくまーけっと)で買ってきた薄い本を読む梨子ちゃんくらい。

だから当然本は本でもとても話が合うような2人じゃなかったし、こうして柚希くんと同じ作品について語り合えて、マルは本当に嬉しかったずら。

 

でも多分、語り合えたことよりも、柚希くんと長い時間2人きりで話せたことの方が嬉しかったのかもしれない。

 

ああ、マルはきっと"恋の病"っていう治りにくい病に侵されてしまってるんだね。

この病の治し方は、夏目漱石も、芥川龍之介も、太宰治でさえ本に書き記していない。

でもこの病が治るのには……

 

きっと"綺麗な月"を一緒に見るしかないのかもしれない……

 

へへっ、文学少女らしく、でも少しクサいずらね?

でも今日は、今日くらいはご愛嬌ずら。

 

だって、マルと話している柚希くんの笑顔が、向日葵の花束のように明るいから。

 

 

花丸side off

 

 

 

To be continued!




いかがだったでしょうか!

うーん、オチが下手くそかも笑
でも修正効かせても多分これが限界値かも笑笑

花丸ちゃんにフィーチャーしたお話はやっぱり本にまつわる話がいいなあって思ってて、今回こうして書かせていただいたんですけど、お前本苦手だろっていうのがモロバレしちゃったかな??笑笑

でも、キツネのお話は、小さい頃大好きだったやつです。
まじでいい作品なんで、タイトルは推測して探して読んでみてください笑

さぁて、次回はあの堕天使が再びかの約束の地に降臨せしめんとするですよ←
どんなお話になるのか、是非お楽しみに!

それでは、また次回お会いしましょう!
(・ω・)/ ばいにー☆


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堕天使(キャラ)ちゃんは気付かせたい

みなさんこにゃにゃちわ、虹ヶ咲のモチベーションが現在最高潮で、私の中の大好きが抑えられず、みなさんの理想のヒロイン()になりたくて、お昼寝で可愛い寝顔を晒しつつ、セクシーなポーズを決めて、夢に向かって一歩一歩努力して、腹黒系もとい小悪魔系になるために、ダジャレを完璧に決めつつ、みんなに安らぎを届けて、たか丸ちゃんボードで感情を伝えようとしています、どうもたか丸です。(?????)

虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会ですか……
フェスも含めてライブは全部見に行ってますけど(LV)、まじ神っすね(語彙力)
ちなみに推しは歩夢、彼方、エマ寄りのしずく、果林微寄りの箱推しです。多分前と変わってるともう笑

……この流れ、きっと何か裏で始まってると思いませんか読者の皆様……

さてさて、今回はあの堕天使ちゃんにフィーチャーしたお話にしていきますよ〜
昨今よく使われる「〇〇ちゃんは〇〇たい」みたいなタイトルにしてみました!
べっ、別に流れに乗りたかったからとかそういうのじゃないんだからね!()
か、勘違いしないで欲しいんだからねっ!()

あっ、待って……お気に入り外さないで……

それでは!笑
今回も最後までお付き合いくださいませ。


善子side

 

あいつは鈍い。とんでもなく鈍い。

あまり人と関わってこなかった(関われなかった)私でさえ、多分この私の数々のアプローチの真意には気づけているはず。

にしてもまぁ、なんでこんな人の事……

 

善「好きになっちゃったんだろ……

 

柚「え?ヨハネちゃん何か言った?」

 

善「なんでもないわよニブチン」

 

柚「にぶ……えぇっ?!」

 

はぁ……どうしてこう、大事なところでは突発性難聴が発動するスキルがあるのかしら……

私の読んでるライトノベルの主人公でしかないわね……

いや、でもこいつは果たして主人公って呼べるような人間なのかしら?

 

柚「……ん、ヨハネちゃんシャンプー変えた?なーんか爽やか〜ないい香りだね?」

 

善「え?え、えぇ、変えたけど……何、私の髪の毛嗅いだの……?」

 

柚「んなっ?!そんなことするわけないでしょ!ふわっと香っただけ!」

 

善「あははっ!分かってるわよそんなことぐらい!」

 

……まったく、何でこんなシャンプーを変えた程度の細かいことには気がつくのに、私の気持ちに気が付かないのかしら……

いよいよもってラノベの鈍感主人公のそれね……

 

でもこのままじゃいつまで経ってもニブニブで、「好き?ああ、友達としてだよね?うん!俺も好きだよ!」って私の気持ちになんか気付かないある意味"ハァトブレイクッ!"してくるような人間になってしまう!

それだけは避けないと……なんとかして、私の気持ちに気付かせてやらないと!

 

善「ね、ねぇ柚希……あんたは、さ、その……き、き、キス……とか、したことあ、ある……?///」

 

柚「はぇっ?!きっ、ききき、キス?!んな、なななっ、何を急にそんなっ?!///」

 

あっはは!何その反応、照れちゃって可愛いわね〜♡

いろんな揺さぶり掛けて、私に"ぞっこんラヴ"な柚希にしてやるんだから!

 

善「べ、別に、ただの興味本位よ……深い意味なんてないわ……///」

 

柚「なんだそれ……な、ない……けど……何か問題でも……///」

 

善「へ、へぇ〜、ないんだ……安心した……」

 

柚「えっ、安心?なんで?」

 

善「へっ?!なっ、なんでもないわよっ!べべっ、別に「まだファーストキスを奪われたことないんだ、ラッキー!」なんて思ってないんだからっ!///」

 

ってバカぁ!!!こんなこと言ったらどんなニブチンおバカな柚希でもさすがに気付くに決まってるじゃない!!!

もっと遠回しに言わないとこいつのニブニブがニブニブのままになっちゃうじゃない!

私のバカ!アホ!間抜け!柚希のニブスケ!!!

この行くあてを無くしたドジな私への怒りはどうすればいいのよぉ……

 

柚「ラッキー……ってことは、ヨハネちゃんもまだキスとか、したことないんだ?」

 

善「へっ?」

 

柚「いや、ほら、ヨハネちゃんが過去にキスの経験がないから、同じくキスの経験がない言わば同士みたいな存在がいてラッキーって言ったんじゃないのかな……って」

 

こ、この……このニブ太郎……救いようのないニブ之助なのね……

アレで気付けないって……ニブニブメーター(?)振り切ってるんじゃないかしら……?

 

善「そ、そうよ、そう!堕天使たる者、孤高の存在であるけれど、時折近しい者との関わり合いが必要なの。同じ境遇のリトルデーモンがいてくれるのならば、この堕天使ヨハネ、優美なる悦に浸れるものなのよ……」

 

柚「は、はぁ……とにかく仲間ができて嬉しいってことだよね?」

 

善「簡潔に言えばそうなるわね……」

 

何 で ご ま か せ ら れ た し

 

こんなんじゃあ私の気持ちになんか気付けないかしら……

って、弱気になったらダメよヨハネ!

まだまだ挽回できるチャンスはあるんだから!

 

 

********************

 

 

善「はい!柚希!問題よ!」

 

柚「えっ、何いきなり……どしたの?」

 

善「私、堕天使ヨハネは今、リトルデーモンシトロンを目の前にして、何を考えているでしょうか!!!」

 

柚「えっ、えっ、む、難しいよ〜!!ただでさえそういう人の心を詠むっていうの苦手なんだから〜!」

 

そう、人の心を詠む。

柚希のステータスの赤特能と言うべきかしら?

圧倒的に苦手なのよね。

しかも恋愛とか、普通の人なら感じ取れるようなことのみに発動するの。

回りくどくやって気付かせるのじゃあ、このニブ衛門は100年経っても無理。

キスのくだりでそれがよーーーーーっく分かったわ……

だから今、目の前に美味しそうなケーキを置いておき、それをガン見している私から何を感じ取るかって、ほんっっっとうに言ってしまえばお猿さんでももしかしたら分かっちゃうような心理テストをしてるの。

 

柚「んと……この美味しそうなケーキを食べたい……?」

 

善「そう、その通りよ」

 

柚「えっと、何がしたいのかな……?」

 

善「私の意図が詠めるまで続けるわよー」

 

柚「ええっ?!?!」

 

善「はい、じゃあ第2問」

 

柚「嘘だろっ?!?!」

 

今度はちょっとレベルアップ。

便箋と封筒、ペンを取り出して、おもむろに何かを書き始める。

柚希は何事かとそれを見つめてくる。

今書いているのは所謂想いを伝える恋の文(ラブレター)

これはさすがに感じ取れないだろうけど、柚希のことを想って書いてる。

私が柚希に詠みとって欲しいのは即ち、想いを伝える恋の文を書いている間、相手の事を想って少し恥ずかしくなったり、渡す時のことを考えてドキドキしたり……

そんな恋する乙女の感情。

 

善「さ、これを書いている時の気持ちを考えなさい!」

 

柚「ラブレターを書いている時の気持ち……」

 

善「実際に自分が誰かに書いていることを想像すれば分かりやすいわよ?」

 

柚「誰かって、誰?」

 

善「それは……あんたの好きな人……とか、さ……///」

 

柚「好きな人?ヨハネちゃんとか?」

 

善「はぇっ?!?!///」

 

なっ、ななななななに言ってんのこのニブ黄門は!!!///

私のことが好きって……えええええ?!?!///

 

柚「あ、でもラブレターだから友達的に好きなAqoursのみんなっていうのは違うか……」

 

ま、まぁそうよね……こいつに限ってそんなことあるわけないわ……

少しでも期待しちゃった数秒前の私が憎いわ……

……っていうか!本当にこんなこと言っちゃうような人になっちゃってるじゃない!!

 

柚「あ、でも、そうすると恋愛的に好きな人っていないんだけど、どうすればいいんだろ……?」

 

善「へ、へぇ、好きな人いないんだ……ふぅ〜ん……」

 

ってそうじゃないでしょ!!!!!!!

柚希に好きな人がいるとかいないとかは今じゃないでしょ!!!

どうすんのよ、これ……

本格的にニブすぎてラノベの主人公よ……?

 

 

********************

 

 

善「どうしたものか……」

 

柚「んー?ヨハネちゃんどうかした?」

 

善「別にー……」

 

柚「???」

 

あのあと結局どうすることもできなくて、終いには「あ、逆にヨハネちゃんは好きな人とかいるの?」とか満面の笑みで聞いてきたわ……

なんか思い出しただけで腹が立ってきた……

どうしたもんかね、このニブ兵衛は。

 

なんて考えながら2人で並んで歩く海岸通り。

私たちを照らすあの夕日はまるで地獄の業火のように燃え上がっている。

はぁ、こいつの中に私への愛なんてものが、あの夕日のように燃え盛っていてほしいものね……

こんなんじゃ私から仕掛けるしか方法はないのかしらね……

はぁ、気がないってのも分かっちゃったし、気分も上がらないわ……

 

柚「ねぇヨハネちゃん、ちょっといいかな?」

 

善「ん?どうしたの?」

 

柚「ちょっとだけここで待ってて。1分以内に戻るから」

 

善「え、えぇ。急がなくてもいいわy……ってもう行っちゃったし……」

 

何しに行ったのかしら?

……あ、コンビニに入ってった。

そーいえばあのコンビニ、いつも買ってたたまごのサンドイッチと、レンチンするだけの美味しいハンバーグが最近やけにないのよね。

部活終わりとかあのコンビニでよく買ってたんだけど、誰が買い占めてるのやら……

 

 

『へくちっ!……誰か私の噂でもしてるのかしら……?ふふっ、いい噂だといいわね♪』

 

『へっぷし!……私もくしゃみ出たんだけど……こうして2人してくしゃみするってことは、もしかしたら千歌ちゃんが噂してるかもね?』

 

 

あ、出てきた。

何買ったんだろ?結構袋に入ってる……

 

柚「おまたせ〜、はい!ヨハネちゃん!」

 

善「えっ?何よこれ……あっ」

 

柚「ヨハネちゃんの好きなチョコのアイス!最近いつも食べてるよね?」

 

確かに、最近はこのアイスが好きでよく買って食べてるわ……

でもなんでまた……

 

柚「なんだかヨハネちゃん、いつもより元気ないなーって今なんとなく思って、ヨハネちゃんには笑顔が1番だから、これ食べて元気だしてもらおうって思ってさ……」

 

善「柚希……」

 

なんで……ほんとにどうして……

こういう変なタイミングで鋭くなるのかしらね……

このラノベ主人公(仮)、どこまで私を魅了するのかしら?

"9人の少女を翻弄する部活の男子マネージャーが無自覚な件について"ってタイトルでラノベ書いたら売れそうね……

なんて、くだらないこと考えてる間にも目の前のこの人は、ヨハネちゃんが受け取ってくれない、怒らせちゃったかな?!みたいなこと考えてるんだろうけど、すごいオロオロしてるわ……

 

善「柚希、うれしいわ!ありがとっ!」

 

今の私が見せられる最高の笑顔を贈ってやったわ。

ま、こいつはなんとも思わないんだろうけど……

 

柚「えっ、あ、う、うん、どういたしまして……///」

 

……ん?

なんか顔赤くない?

 

柚「ほ、ほら!早く食べようよ!いっぱいあるからさ!!」

 

善「えっ、ちょっと買いすぎじゃない?!1、2、3……10個?!」

 

柚「あげるからおうちで食べて元気だしてね?」

 

既に元気なんだけれども……

ま、こいつの善意に今は甘えておくとしようかしら。

 

善「ふふっ、ありがと、柚希!大好きよっ!」

 

友達感覚で言えば意外と楽に言えるものなのね?

ついでにウィンクもサービスしておいてあげたわ♪

 

柚「ふぇっ……?あ、え、えっと……///」

 

んー!おいしっ!やっぱこのアイス美味しいわね〜っ!

甘すぎないチョコが最高♡

 

柚「大好きって……まさかそんな……///

 

よし、柚希が私の気持ちに早く気付けるように、私も何か策を練らないといけないわね!

これ以上ニブくなったら取り返しがつかないもの……何とかしなくっちゃ!

 

柚「でも、もしかしたら善子ちゃんも……///

 

いつもみたいにバスで帰るのもいいけど、たまには2人で並んで歩いて帰るのも、いいかもね?

夕日はいつの間にか、なりを潜めて海の向こう側へと行ってしまった。

今日は十千万で温泉に浸かってから帰ろうかしら?

もう少し、このニブニブくんと一緒にいたいしね♡

 

 

善子side off




いかがだったでしょうか!

え?オチがまとまってない?
自覚はあったんです……でも修正して修正して、また修正した結果がどうなったか、こうなったんです……
ココ最近のブランクがほんとエグくて、まじで書けなくなってて……
って見苦しい言い訳を失礼しました……笑
精進します!笑笑

柚希くん、最後の発言が少し意味深ですねぇ……
善子ちゃん"も"って、"も"って……!
どういう事ですかねぇ?(わかってない)

それでは次回は3年生から誰かがやってきます(?)
ダイバーなのか、お嬢様なのか、生徒会長なのか……
どの子もお話の作りがいがありそうな子達ですわねぇ……笑

その前に閑話休題的なのも面白いかも……なんて……

それではまた次回のお話でお会いしましょう!
(・ω・)/ばいにー☆


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宝石の内側

みなさんこにゃにゃちわ、そろそろダイエットしないとやばいよなぁって思い始めました、たか丸です。
居酒屋の賄い飯が美味すぎてウマなんで、仕方ないですよね?!ね?!

さてさて、今回は硬度10の女の子について描いていきたいと思います。
ダイヤちゃんと柚希くんが、不思議な体験をしてしまうふぁんたじぃなお話です。
どうかごゆるりとお楽しみください。
それでは、今回も最後までお付き合いください。


ダイヤside

 

 

この世で最も硬い鉱石といえば。

教養のある方なら恐らく誰でも答えられる質問でしょう。

正解はダイヤモンド。

モース硬度という硬さを表す尺度でナンバーワンの硬度10を誇ります。

(わたくし)はこんな性格ゆえ、小学生の頃はよくクラスメイトの男子に言われたものです。

 

「硬度10のカチカチ頭のダイヤちゃん」

 

あながち間違いではありません。

私は幼い頃から実家を継ぐことを義務付けられ、その立場に相応しい人間になるべく様々な教養を身につけさせられてきました。

それ故に礼儀正しく、丁寧な言葉遣いで、網元の次期当主という責務を全うできるよう、努力いたしました。

学校では常に勉学に励み、生徒会長を務め、人の一歩先の行動をとっていました。

その結果、私はスクールアイドルになりました。

 

……ええ、はい。スクールアイドルです。

 

因果関係がどこにあるか、ですか……

話の流れからしてまずないでしょうね。

ですが、まったくないと言ったら嘘になりますわ。

この浦の星女学院、いえ、浦の星学院を、生徒会長黒澤ダイヤとして守るため。

私は、スクールアイドルになったのです。

 

柚「……難しい顔してどうしたの?」

 

ダ「ピギャッ?!な、なんですか柚希さん、急に顔を覗き込んで驚かせないでくださいまし!」

 

柚「あ、ごめんごめん。急にぼーっとし出すから何事かと思ってね」

 

ダ「別に大したことではありませんわ……私が、スクールアイドルになったという事実を再認識していただけです」

 

柚「なんでまたこのタイミングで……?」

 

本日の内浦は晴れ。

程よい暖かさと、時折頬を撫でる涼しい風が心地よい、そんな気候ですわ。

所用で朝早く行った淡島にあるホテルの最上階から、はた迷惑な大きな声で「シャイニーっ!!!」なんて聞こえるほどにいい天気です……

 

そんな良き日に私はとある殿方と先程から行動を共にしています。

私たちのスクールアイドルグループ"Aqours"のマネージャーであり、幼い頃から仲良くさせてもらっている、高海柚希さん。

浦の星学院にやってきた唯一の男子生徒とはこのお方ですわ。

 

ではなぜそんな方と今、行動を共にしているのか。

それは世間一般で言う"デート"とよばれるものをしているからですわ。

なぜ、ですか…………愚問ですわね。

デートというものはとどのつまり、相手のことが好きだからする行為ですわ。

彼にその感情があるかなど、私には分かったものではありませんが、私の心は間違いなく彼に対してその感情を持っています。

それはいつから芽生えたものかは覚えてなどいませんが、恋というものは恐らくそういうものなのでしょう。

 

柚「ねね、ダイヤちゃん!これなんてどうかな?きっとルビィちゃん似合うよ〜!!」

 

そう言って彼が私に見せてきた、紅く輝く宝石がモチーフのネックレス。

混じり気のない綺麗な赤をしていますわね。

たとえそれが偽物の宝石であっても。

なんて、そんなことを考えている私は本当につまらない人間ですわね。

 

ダ「ええ、きっと似合いますわ。それがあなたの選んだものであれば、ルビィはきっと喜びますわ」

 

柚「そっかそっか!よーし、じゃあこれはルビィちゃんにプレゼントだ!」

 

そう言って高々とそのアクセサリーを掲げる柚希さん。

普段はマネージャーとして私たちAqoursを支えて下さる姿から真面目な印象を受けますが、こうして見るとどこか幼さがあって、私に弟がいたらきっとこんな感じだったのでしょうかと、少し思ってしまいます。

 

ああ、申し忘れました。

本日のデートは柚希さんが提案してくれたのです。

なんでも、

 

「ダイヤちゃんには日頃から救われっぱなしで何のお礼も出来てなかったから、今度の日曜日にそのお返しで、ダイヤちゃんの行きたいところ、したいことをしよう」

 

とのこと。

別に柚希さんを救っているつもりは全くなかったですし、むしろそれは逆では?と思いますわ。

ともあれそう言われた場面でどうしてもと言われてしまい、挙句の果てに土下座をしようとするものですから、少々不本意ではありましたがお受けした次第ですわ。

まぁ、このデートと呼ばれる行為自体が嫌なわけは毛頭なく、むしろ今日という日が早く訪れないかとそわそわしていましたわ。

口が裂けてもそんなことは言えませんが……

 

そんな訳で本日は、柚希さんにお付き合いしてもらっているわけですわ。

まず訪れているのは雑貨屋さん。

私事ではありますが、"雑貨屋"というお店にあまりいい印象を持っていません。

なんだか色々なものがあちらこちらに置いてあって散らかっていて、本当に客に物を売る気があるのかと思ってしまうのです。

ですのであまり自分から雑貨屋さんに行くということはしません。

そこで普段しないことを柚希さんとしてみようと思い立ち、こうして雑貨屋さんへと足を運んだ次第ですわ。

 

ダ「ふふ、こうして来てみると、もしかしたら案外悪くない……のかもしれませんわね♪」

 

柚「ダイヤちゃんが思ってるほど、雑貨屋さんってとっちらかってる所じゃないもんでしょ?」

 

ダ「ええ、とても素敵な場所ですわ。潜在意識から決めつけていた私が少し恥ずかしいですわね……」

 

……はて、これはなんでしょう?

ネコの……耳でしょうか?

カチューシャにネコの耳を模したものが付いていますわ。

 

柚「あっ、ダイヤちゃんもしかして、ネコミミに興味がおありですかな?」

 

ダ「ネコ……ミミ……」

 

柚「うん、間違いなく似合う……着けてみてよ!」

 

ダ「は、はぁ……わかりましたわ」

 

柚希さんに言われるがまま、私はネコミミカチューシャを着けてみることにしました。

 

途端に目をまん丸にする柚希さん。

どこか顔が赤い気がしますわ。

 

柚「こ、これは……なんてこった……Oh my godだよ鞠莉ちゃん……」

 

柚希さんは鞠莉さんに影響されて日常的に英語が出るようになってきてしまっているようです。

「シャイニー!」なんて言い始めなければいいのですが……

 

柚「ち、ちょっとダイヤちゃん、鏡見てもらえるかな……?」

 

ダ「は、はい。どうかなさったんですk……」

 

鏡に映った私の顔。

キリッとつり上がった目に、口元にある黒子、真っ直ぐに切りそろえた前髪に、いつものヘアアクセサリー。

これといっていつもと違う点は見受けられません。

頭頂部に乗ったネコミミを除けば、ですが……

 

ダ「?!?!」

 

なんですかこの恥ずかしい身なりは!

私の頭からネコの耳が生えているみたいではありませんか!

これは破廉恥と言うより……は、恥ずかしい……ですわ……///

 

柚「やっばいなぁ……ここまで似合うだなんて……///」

 

ダ「に、似合ってなど……!///」

 

そう言って再び鏡を見る。

私の頭から生えている(ように見える)ネコの耳が動いたような気がしましたわ……

同化はしないでくださいまし……

 

柚「うん、めちゃめちゃかわいいよダイヤちゃん!普段のイメージにないから余計に……///」

 

ダ「かっ、からかわないでください!私がかわいいだなんてそんなこと……///」

 

柚「…………///」

 

ダ「ちょっ?!無言でネコミミを触らないでください!!は、恥ずかしいですわ……///」

 

不思議な気分です。

自分の耳ではないはずなのに、何故か触られているような感覚がするのです……

 

ダ「ちょっ……あの……あっ……ゆ、柚希さ……ひっ……や、やめっ……///」

 

おかしい……

やっぱりなにか触られている感覚があります……

 

柚「あっ、ご、ごめん……ついかわいくて夢中になっちゃって……」

 

ダ「い、いえ……平気……ですわ……///」

 

なんなのでしょうこの感覚は……

これ以上何か起こらないように、もうこんなものは取ってしまいましょう。

 

ダ「あれ……?どうして……?ゆ、柚希さん!」

 

柚「ん?どうしたのダイヤちゃん?」

 

ダ「()()()()()()!!!

 

柚「取れないって……ネコミミが?あっはははは!いやいやまさかそんなことある訳……取れねぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!」

 

取れない……取れないですわ!!!

それに、こうして引っ張られると……

 

ダ「痛っ……!」

 

柚「えっ、痛いって……まさか……!」

 

きっと信じ難いですがそのまさかですわね……

なんてことでしょう……ネコミミが私と同化してしまいましたわ!

鏡を見ると、さっき動いたように見えたこのネコミミは、たった今確かにぴこぴこっと動きました。

 

ダ「どっ、どうしましょう?!まさかずっとこのまま……!」

 

柚「お、おおお落ち着いてダイヤちゃん!きっと取れるはず!……そうだ!お店の人に聞いてみよう!」

 

そう言って柚希さんはレジカウンターの方に向かいました。

と同時に、私は急に頭痛がしてふらついてしまい、意識が保てなくなってしまいました。

 

ダ「あ、あれ……なんだか……急に……意識が……」

 

そのまま重力の法則に乗っ取るように、私の意識は落ちていったのです。

 

 

********************

 

 

柚「ダイヤちゃん!ダイヤちゃん!!」

 

ん、んん……なんでしょう……私を呼ぶ声が……

 

柚「ダイヤちゃん!どこに行ったの?!ダイヤちゃん!!」

 

こ、ここにいますわ!

……と私は()()()()()()でした。

私の口から発せられた声に、動揺を隠せませんでした。

 

ダ「に、にゃあにゃあにゃ!」

 

にゃあ……?

にゃあとはなんでしょう……?

猫の声……ですわよね?

私の声に被せて猫が声をあげたのですか?

周りを見ても猫の姿はありません。

ん……?

周りの景色が……なんでしょう、何もかもが高く見えます。

先程まで見ていた陳列棚があんなにも高く……

これは一体どういうことなのでしょう……

 

柚「ダイヤちゃーん!!!」

 

ダ「うにゃにゃにゃあにゃあ!!!(私はここですわ!!!)」

 

間違いない、これは……

私、()()()()()()()()()!!!

 

柚「ダイヤちゃーん……って、なんだこの黒猫……?」

 

ダ「にゃ!にゃにゃにゃにゃあ!(あっ!気づいてくれましたわ!)」

 

柚「真っ黒な猫……はは、綺麗な目をしてるね。よいしょっと……」

 

ダ「にゃ?」

 

柚希さんの手が伸び、私を抱き抱えました。

 

柚「キミ、ダイヤちゃん知らない?しっかり者で厳しいけど、本当は優しい子なんだけど……」

 

ダ「にゃにゃにゃあにゃんにゃあにゃあ!!(ダイヤは私ですわ!!)」

 

必死に訴えかけますが、猫になってしまった私の言葉など柚希さんに届くはずもなく……

 

柚「なんて、分かるわけないか……あれ?キミが敷いてたこの布は……これもしかしてダイヤちゃんの洋服?!」

 

地面を見ると、無作法に脱ぎ捨てられた私の洋服が落ちていました。

普段あんなことをしたらお母様になんと言われてしまうのか……

ってそうではありませんわ。

どうしましょう……このままにしておく訳にはいきませんし……

 

柚「仕方ない、畳んでおこう……」

 

……そうしてもらうしか他ならないですが!

なんでしょうこの羞恥に悶えなければならない罰ゲームのような空間は!

1つ年下の、部活でお世話になっているマネージャーであり、私が恋心を抱いている方に、自分の洋服を畳まれるというのはなんとも恥ずかしいものです!

不幸中の幸いと言うべきでしょうか、下着類は無事洋服の中でしたので、柚希さんが見ることなく畳まれましたわ。

見られていたらそれこそもう猫として生きていくことさえ考えていましたわ。

 

柚「仕方ない、キミも見たところ1人だもんね。洋服もなんとかしないといけないし……とりあえずうちに行こうか」

 

柚希さんのお家、ですか……

なにか解決策が思い浮かぶかもしれませんし、何より早く柚希さんに気づいてもらわないといけませんしね……

 

ダ「にゃあ!」

 

柚「よし、決まり!」

 

 

********************

 

 

いいことを思いつきましたわ。

この姿ですし、普段できないことをやってみようじゃありませんか。

柚希さんに対して、ありのままの自分をさらけ出して接している鞠莉さんや果南さん。

私には到底出来ない事です。

ですので、この体であることを利用して、思いっきり柚希さんに甘えてみようと思いますわ!

 

ダ「にゃあにゃあん♡(柚希さん♡)」

 

柚「ん?あっはは、かわいいなぁキミは、膝の上なんか乗っちゃって」

 

ダ「にゃにゃにゃあにゃん♡(撫でてくださいまし♡)」

 

柚「ふふ、かわいいね」

 

そう言って柚希さんはなんと頭を撫でてくれました。

あぁ、なんて心地よいのでしょう……

頭を撫でられるというのは、こんなにも気分がよくなるものなのですね。

 

柚「しかし、ダイヤちゃんがどこに行ったのかだ。洋服だけ脱いでどっか行っちゃうだなんてどう考えたってありえないし……と、なるとやはり……」

 

そう言ってちらりとこちらを見る柚希さん。

私がこのネコだと気づいたのでしょうか?

 

柚「うーん……」

 

訝しむように私を見ている柚希さん。

そして私を抱き上げました。

それはよかったのですが……

柚希さんは私の両脇の下に手を入れ、対面するように抱き上げたので、柚希さんの親指が胸部に当たっているのです。

 

ダ「にゃっ、にゃにゃにゃにゃ?!?!(ゆっ、ゆゆゆ柚希さん?!?!)///」

 

柚「ん、キミはメスなのか……ってそんなことどうでもいいんだ……」

 

ダ「にゃにゃにゃにゃあ!!!(どうでもよくないですわ!!!)///」

 

自分が恋している男性に、姿形は違えど胸を触られるというのは恥ずかしいと言うよりもう意識が飛びそうですわ……

 

柚「なんだかキミはよく喋る子だね……でもどうしよう。ルビィちゃんに連絡した方がいいかな……?」

 

それも大事かもしれませんが、早くこの親指をどかしてくださいまし!

 

柚「うーん、この子がペロって顔を舐めてくれたりしたら嬉しいなぁ……っていかんいかん、猫好きの欲がつい……」

 

ペロって?!むっ、むむむ無理ですわ!!

なんですかその恥ずかしい行為は!

確かに今の私は猫ですが、本来は人間です!

そんな破廉恥なこと出来るわけないでしょう!!!

 

と、思いますが……

もしかしたら何かが起こるかもしれない、元の姿に戻れるかもしれない。

そんな小さな希望から、私は柚希さんの頬を1度、舐めてしまいました。

 

柚「ふぁ……ペロってしてくれたぁ……」

 

な、なんですかそのだらしのない顔は……

完全に緩みきった顔をしてますわ……

 

柚「嬉しいなぁ……じゃあお返し……」

 

ダ「にゃあ?」

 

突然の事で呆気にとられてしまいました。

寄せられた柚希さんの顔と私の顔が最も近づいた時、私たちの唇が触れ合ったのです。

瞬間、私の体から眩い光が出て、何も見えなくなってしまいました。

 

柚「ん……んん……猫ちゃん、大丈夫かい……?」

 

ダ「ええ、大丈夫ですわ……」

 

柚「えっ?」

 

ダ「えっ?」

 

ふと、私は自分の手を見ました。

先程まであった黒い毛と、可愛らしいピンクの肉球はどこへやら、そこには人間の、私の手がありました。

 

ダ「よ、よかった……戻りましたわー!!!」

 

柚「えええっ?!ダイヤちゃんがあの黒猫だったってこと?!」

 

ダ「本当に良かったですわ〜!あのままキャットフードを食べる生活を送ることがなくて!」

 

柚「…………///」

 

おや、どうしたのでしょう?

柚希さんが目を合わせてくれません。

 

柚「そ、その、ダイヤちゃん……自分の姿をよく見た方がいい……///」

 

私の、姿?

もうそんなの人間に戻って……

 

ダ「?!?!」

 

私の目に映ったのは、紛れもなく私の体。

ですが、それは一糸纏わぬ生まれたままの姿でした。

もう私は口をパクパクすることしか出来ませんでした。

 

柚「お、お洋服ならここにあるから、どうか気にせず着替えt……///」

 

ダ「柚希さんは破廉恥ですわーっ!!!///

 

柚「なんでえええええええええ?!?!」

 

こうして私の奇妙な一日が終わったのです。

自身が恋心を抱いている男性に対して、

・脱ぎたての洋服を畳まれる

・猫の姿とはいえ胸を触られる

・裸を見られる

というなんとも恥辱的な体験をしましたわ。

 

柚希さんは私へのお礼としてのデートだったにも関わらず、大変なことをしてしまったと詫び、またデートしてくれると約束してくれました。

本当、どこまでもお優しい方ですわ。

 

私があの黒猫だったということを全てお話したところ、柚希さんはこんなことを言ってきましたわ。

 

柚「うーん、なんとも信じられないけど実際そうだったもんねぇ……ってことはさ、膝の上に乗ってきたりして甘えたのはダイヤちゃんの意思ってことだよね?」

 

ダ「そっ、それを聞くのは反則ですわ!!!///」

 

柚「あははっ、照れちゃってかわいいね、ダイヤちゃん♪」

 

ダ「っ?!?!……も、もう知りませんわっ!///」

 

そう言って後ろを向き、口元の黒子をかいていることを、柚希さんは見逃さなかったようです。

 

本当は甘えたい。

そんな硬度10の本当の気持ちを、あなたは理解してくださっているのですね。

 

 

ダイヤside off

 

 

 

To be continued!




いかがでしたでしょうか!

なかなかふぁんたじぃな作品になりました笑
ダイヤちゃんが猫に変身したら間違いなくかわいい、はっきりわかんだね。

最近淫夢厨と絡む機会が多くて語録がつい……笑笑

このお話が夢だったのか、はたまた現実で起きてしまったことなのか。
それは、皆様のご想像におまかせして、私は筆を置くとしましょうか。

次回はお嬢様かダイバーか、どちらが来るんでしょうかねぇ?
シャイニーしちゃうのか、ハグゥしちゃうのか……

それでは、次回のお話でお会いしましょう!
(・ω・)/ ばいにー☆


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私とあなたはお嬢とメイド?!

みなさんこにゃにゃちわ、久保田未夢さんのお渡し会に行きたいです。どうもたか丸です。
あんの接近具合は他の女性声優さんやその他アイドルの方なんかじゃ見られないですよね?!
いいなぁ……いくら積めばあれやって貰えるんです?
前世で世界救うくらいの徳積んどかないとダメです?

さてさて今回は鞠莉ちゃんにスポットを当てていきますよ〜!
私事ですが、最近鈴木愛奈ちゃんに物凄く癒されています。
YouTubeで「鈴木愛奈 ゲラ笑い」って検索してつられて笑ってます笑笑
コロナの嫌な雰囲気をぶち壊すのに愛奈ちゃんのゲラ笑いは最高です笑

それでは今回も最後までお付き合いくださいませ。


鞠莉side

 

 

鞠「ええっ?!実家に?!」

 

メイド「はい、今朝連絡を受けまして。今日1日だけお願いしたい、と言っておりました。」

 

鞠「そう……仕方ないわね」

 

メ「ですがお嬢様、少々問題がありまして……」

 

鞠「人員不足、よね……」

 

今日だけでなんと3人も急用で休んでしまうだなんて。

ふむぅ……どうしたものかしらねぇ……

メイドなんてそこら辺に転がっているわけじゃないし……

 

メ「私の知り合いで手伝ってくれそうな人に声はかけてみたのですが、どうもみんな予定があるみたいで……」

 

鞠「平日だものね〜、仕方ないわ」

 

今は夏休みに突入したばかりの7月下旬。

まだ仕事のある社会人だって多いわ。

それに学生だって学校の補講やら部活やらで忙しいこの時期。

幸いにも今日はスクールアイドル部の活動は休み。

思いっきり羽を伸ばそうと思ったのだけれど……

 

ん?ってことはAqoursのみんなはもしかしたら今暇してる……?

 

鞠「いいこと思いついたわ!ちょっと声かけてみるわね♪」

 

メ「どなたかアテがあるのですか、お嬢様?」

 

鞠「ええ、すぐにわかるわ♪」

 

そう言って私はスマートフォンを取り出して、電話をかけた。

まず電話をかけたのはこの子。

 

ダ『もしもし、ダイヤです。どうしたのです鞠莉さん?』

 

鞠「ハローダイヤ!今暇してるかしら?」

 

まああんまり可能性はないとは思ってるのだけれど、しっかり者が来てくれるとほんと助かるからまずはダイヤに声をかけたわ。

 

ダ『随分とまた唐突ですわね……残念ながらこれからルビィと出かける用事がありますわ』

 

鞠「アウチ!ってことはルビィもダメなのね……」

 

まあ想像通りではあったけれど、ルビィまでダメとなると残念ね。

ルビィを着せ替え人形にして可愛がってあげたかったんだけれど……

って、それじゃ仕事にならないわね☆

 

ダ『何かあったのですか?』

 

鞠「ううん、ノープロブレムよ!ごめんね、ありがとダイヤ♪」

 

まだ何か言いたげなダイヤだったけど、ルビィとの時間を長く楽しんでもらいたいから切っちゃった。

 

メ「その様子ですと……」

 

鞠「まだ候補はいるわ。どんどん聞いていくわよ!」

 

次に電話をかけた時、最初に聞こえてきたのは潮の音。

 

鞠「ハローカナン!今日もシャイニーな天気ね!」

 

果『おはよ、鞠莉。うん、いい天気だよ。それで、どうかしたの?』

 

鞠「カナンは今お暇してるかしら?」

 

果『あー、今ちょうどお客さん来て船乗ってる所なんだよねぇ……』

 

鞠「Oh my god……なんてバッドタイミング……」

 

暇な店にも客は来るものなのね☆

こんなこと言ったらカナンにボコボコにされちゃうから、マリーの心の中のトップシークレットにしておくわ♪

 

果『もしかして何か手助けが必要な状況?』

 

鞠「実はそうなのデース。今Aqoursのみんなに暇してないか聞いて回ってるところデース」

 

果『あ、だったら暇してる人、1人知ってるよ。さっき私に「あーそーぼー」って電話してきたから』

 

鞠「Really?!誰かしら?!」

 

果『それはねぇ……』

 

********************

 

 

柚「確かに暇してるって言ったさ……けどこれは違うんじゃない?」

 

鞠「Oh!!! So cuteよ、ユヅ!!」

 

柚「それ褒めてるの……?」

 

私の救世主になってくれたのはユヅ。

カナンに言われて電話したら想像以上にダルそうな声で、

 

柚『めぇぇっちゃひまぁぁぁ……鞠莉ちゃんあーそーぼー』

 

って言ってきたの。

その「あーそーぼー」が可愛くって可愛くって……

電話越しに顔を真っ赤にしてしまったわ///

 

柚「第一、男の俺が()()()()ってどうなのよ?」

 

鞠「ユヅは割と中性的な顔だから似合ってるわよ?自信持つデース!」

 

柚「う、全くもって褒められてる気がしない……」

 

本当に似合うと思うんだけどな〜。

執事の燕尾服を着せても似合うだろうけど、こっちはこっちで本当にアリね。

リコが見たらまた新しい扉を開いちゃいそうなくらい!

 

柚「それで、具体的にどういった仕事をすれば平気かな?」

 

鞠「そうね、今日はマリーの側近として行動を共にしてくれればいいわ♪」

 

柚「え、それだけ?」

 

鞠「ええ、それだけよ!」

 

ただ、その"それだけ"が"どれだけ"で済むのか……その時の反応が楽しみね♪

 

鞠「じゃあ手始めに、美味しいコーヒーでも淹れてもらおうかしら?今日は暑いからアイスでね☆」

 

柚「ん、わかった。すっごく美味しいコーヒー淹れるから待っててね!」

 

ユヅは最近コーヒーに凝ってるって聞いたけど、今の様子だとそれは本当みたいね?

自分で豆を選んで、挽いて、ドリップするって言うくらいだし、こだわりは強いのかもね♪

 

柚「はい、鞠莉ちゃん。柚希特製スペシャルコーヒーだよ!」

 

鞠「スペシャルコーヒー?何か違うのかしら?」

 

そう聞くとユヅはいたずらっ子のような笑みを浮かべ、自慢げに説明してきた。

 

柚「俺がこの間買ったまあまあいい値段のコーヒー豆3種類を、それぞれの個性が生きるようなブレンドをして淹れたコーヒーなんだ!豆のランクは"スペシャルティコーヒー"、豆の中でも最上位に位置する豆なんだ!いや〜、本当にいい買い物をしたもんだよ……!」

 

鞠「……あら、美味しいわ。いつも飲んでる味に似てるわね♪」

 

柚「………………へ?」

 

鞠「ん?ユヅどうしたのかしら?」

 

柚「……い、いえ……なんでも、ないです……」

 

鞠「んー?」

 

あ、そーだ。いいこと思いついちゃったわ♪

 

鞠「ねぇユヅ、ちょっといいかしら?」

 

柚「うん?どうしたの?」

 

鞠「ユヅは今メイドさんとして仕えてくれているわけでしょ?」

 

柚「うん、そうだけど……それがどうかしたの?」

 

鞠「ふふっ、そう焦らないで?私はここのお嬢様、そしてユヅはそんな私に仕えるメイドさん。ここには主従関係があると思うの!」

 

柚「う、うん、そうだね……」

 

鞠「だから、()()()()使()()()()()☆」

 

柚「…………は?」

 

鞠「だーかーらー、私に敬語を使ってって言ったのよ♪」

 

あはは、困惑してるわ!

そりゃそうよね、小さい頃から同い年の感覚で遊んできた私たちだもの。

今さら敬語なんて気持ち悪いだけよね〜。

でもそれが面白いと思うの!

これでも一応1つ年上のお姉さんなわけだし、学校で言えば先輩になるわ。

普通だったらちゃんと敬語を使うのがスジだし、それが主従関係になったのであればタメ口なんてご法度だもの♪

 

柚「……なーんかまた変なこと思いついたね鞠莉ちゃん……」

 

鞠「ノー、ユヅ。マリーの事はお嬢様と呼ばないと♪」

 

柚「うっ……」

 

鞠「ほらほら、早く言ってちょうだい??」

 

柚「ま、鞠莉……お嬢様……///」

 

うーん!Pretty cute!!!

顔を赤くしながら言うところがgoodよ!

なんて可愛いのかしら……このままメイドとしてここに置いておきたいくらい!

 

柚「ま、鞠莉お嬢様……それで次は何をすればいいの……ですか……?」

 

あっ、いっけない。何も考えてなかったわ。

うーん、どうしましょ??

 

鞠「そうねぇ……それじゃ〜あ〜……肩!揉んでちょうだい!」

 

柚「は??」

 

鞠「Oh!お嬢様に向かってそーんな言葉遣いはbadよ、ユ〜ヅ♡」

 

柚「ぐぬ……か、肩を揉めばいい……よろしいのですか……?」

 

鞠「Yes!飛びっきりに気持ちいいのをお願いするわ♪」

 

柚「か、かしこまりました……///」

 

そう言って肩を揉み始めるユヅ。

あら、意外と手馴れてるわね?

 

鞠「ユヅ、とっても上手ね。気持ちいいわ〜♪」

 

柚「えへへ、実は母さんや志満ねぇ、美渡ねぇに千歌ちゃんの肩を揉んであげているから、結構手馴れてるんだ〜……じゃなくて、です!」

 

鞠「そうなのね〜。それは十千万のみんなが羨ましいわ♪」

 

本当にいい気持ち♡

専属のマッサージ師として雇いたいくらいだわ☆

近年やけに肩が凝るようになってきたから、このマッサージは本当に効くわ。

 

鞠「ふぅ〜……ありがとうユヅ、最高のお仕事をしてくれたわ♡」

 

柚「お気に召されたようで何よりです♪」

 

さーて、次は何してもらおうかしら〜。

私と一緒に遊ぶのも面白いわね。

なんならこのまま出かけるっていうのもアリね。

それとも〜……

 

 

――ぐぅ〜〜〜――

 

 

鞠「ひゃうっ!///」

 

柚「おや?鞠莉お嬢様、もしかしてお腹が空きになられましたか?」

 

反撃のチャンス!とでも思っているようなにやけ顔をしてユヅが聞いてくる。

 

鞠「う〜!そこは嘘でも何も聞こえてないフリをするのが男の子ってもんじゃないの〜?!///」

 

柚「ふふっ、今の私はメイド服を着た()()()()()ですので、女の子という扱いではないのですか、鞠莉お嬢様?」

 

鞠「くぅ〜〜〜っ!!!///」

 

grave hole(墓穴)を掘ってしまうなんて……

ここはユヅに1本取られたわ……

 

柚「ふふっ、すぐに昼食の準備を致します。しばしお待ちくださいませ♪」

 

 

********************

 

 

鞠「は〜〜〜っ、美味しかったわ!ユヅ、あなた凄いわねっ!」

 

柚「あはは、さっきも聞きましたよ。ありがとうございます。お口に召されたようで光栄です♪」

 

ランチは私たっての希望でユヅに作ってもらったわ。

「出来ない出来ない!無理だよ〜!」なんて言いつつも、私が "☆渾身のお願い☆" をしたらやってくれたの♪

やっぱり十千万でユヅのパパと調理場に立っているだけはあるわね。

十千万の料理がいかに美味しいかが今日改めてわかったわ。

料理長なんて、私と一緒に働いて欲しい!なんてお願いしてたし♪

 

さーてと、次は何をしてもらおうかしらね〜?

ユヅに応援要請をしたものの、今日の仕事自体があまりにも少ないことがわかって、現有の人員だけでも十分間に合ったわ。

だからユヅはただの私の遊び相手になっちゃったわ♪

それでもメイド服は脱がせないけどね☆

 

――コンコン

 

鞠「何かしら?」

 

入ってきたのはメイド長。

私がママのお腹にいる時から小原家に仕えている立派なメイドさん。

 

メ「失礼しますお嬢様。あ、柚希さまもいらっしゃいましたか、これはちょうど良かったです」

 

鞠「困った顔してどうしたのかしら?」

 

メ「実は、先程からホテルの前に怪しい人物が3人いまして……とあるボードを掲げているのです」

 

柚「ボード、ですか?」

 

メ「はい……そしてその内容が……」

 

 

――ユヅキを返せ――

 

 

鞠&柚「「はい???」」

 

メ「いえ、ですから、柚希さまを返せと言われているのです……」

 

柚「俺を返せ……ってなんでまた俺なんだ?」

 

鞠「なんだか物騒ね……その人らは男の人?女の人?」

 

メ「見る限り3人とも女性と思われます。年齢は恐らく10代後半でしょうか、お嬢様方と同世代ではないかと」

 

うーーーん???

ユヅの知り合いなんだろうけど、このメイド長が"怪しい"って言うくらいの人と、ユヅは付き合いが果たしてあるのかしら?

ユヅが浦の星の女の子たち以外と話してる様子を見たことがないわ。

っていうことは浦の星の子達なのかしら?

 

柚「とりあえず、話を聞いてみないと何も分からないね」

 

鞠「まってユヅ、私も行くわ」

 

 

********************

 

 

女1「あっ、ゆづに……ゴホン、やっと来たか。ずっと籠っているのではないかと思ったよ」

 

開口一番、何かを口走ったような気がしたけどよくわからない。

ここにいる3人の女の人はみんな真っ黒なスーツを身にまとい、サングラスをかけ、黒いハットを目深に被っているため、素性が分からない。

どこかのSPかっていうくらいに……

 

鞠「あなたは一体誰なの?」

 

女2「君たちに名乗るような名前はあいにく持ち合わせていない……ぜ」

 

違和感しか覚えないような喋り方ね。

無理して男っぽい言葉遣いをしてるような……

でもこのポニーテール、見たことある気がするのよねぇ……

 

柚「なんで俺を返せ、なんて言ったんだい?」

 

女3「なんでアンタは男なのにメイド服なんて着てるのよ?」

 

柚「質問返し……だって……?」

 

何でちょっと乗り気なのユヅは……

 

柚「まあいいや。それで、そんな格好してどうしたの?()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「えっ????」」」」

 

え、なに、どういう事なの?

この人たちがチカっちとカナンとヨシコなの?!

すると一番最初に声をかけてきた女の人が、サングラスとハットを取ってその顔を見せてきた。

 

千「ぬわ〜っ!なんで分かっちゃうかなゆづにぃは!!」

 

鞠「ち、チカっち?!」

 

果「まぁ、バレないっていう方が難しいっていうか……」

 

鞠「カナン?!」

 

あはは……やっほ、鞠莉。と何事も無かったかのように声をかけてくるカナン。

すでにサングラスとハットを取っていたわ。

 

善「くっ……まさか堕天使の変装を見抜くだなんて……甘く見ていたわリトルデーモン……」

 

柚「ふっふっふ、どんなもんだいっ!ぶいっ!」

 

膝を着いて項垂れるヨシコに向かって、満面の笑みでVサインをするユヅ。

ほんっとこの子は一挙手一投足が可愛らしいわ……

メイド服も相まって最高かしら……

 

鞠「で、でも、なんで3人ともユヅを返せだなんて……?」

 

果「ああ、それ?それは千歌が話した方が分かりやすいかな」

 

柚「千歌ちゃんが?」

 

千「むぅっ、そうなのだ!ゆづにぃと一緒に遊ぼうと思って、中居さんのお仕事終わってすぐお部屋行ったらいないんだもん!何か知ってるかなって果南ちゃんに電話したら鞠莉ちゃんの家にいるっていうから……ビックリさせてやろうとおもって!えへ!」

 

柚「なーんだそういうことかぁ……このバカチカちゃんめ〜!」

 

そう言ってユヅはチカっちのほっぺたをぐにぐに引っ張った。

 

千「あう〜!いひゃいいひゃい(いたいいたい)〜!」

 

鞠「チカっちとカナンは分かったけど、ヨシコはどうして来たの?」

 

善「ヨハネよ!クックック、簡単なことよ……地上に蔓延る闇の力を我がものとするため、この堕天使ヨハネが直々に舞い降りてきた時、地上のリトルデーモンたちの反乱に遭い、不覚にも拘束されてしまった結果よ」

 

果「まぁつまり、暇してそこら辺ブラブラしてた善子ちゃんを見つけて拉致ってきたって感じ」

 

善「説明するなぁ!!!」

 

あー、ヨシコもチカっちもみんな暇だったのね〜。

もっと一二年生のこと信頼して、頼ってみるべきだったわね……

 

千「それよりゆづにぃはなんでメイドさんになってるの?」

 

柚「ああ、カクカクシカジカあってね。こうなったの」

 

千「なるほど……!」

 

善「わかるかぁ!!!」

 

 

********************

 

 

あれから3人とも暇だったから、私の家でメイドさんごっこをすることになったわ。

3人ともやっぱりSo Cuteだったわ♪

ちなみに私もメイド服を着て、4人の中で誰がいちばんかわいい?ってユヅに聞いたんだけど、

 

柚『みっ、みんな素敵すぎて選べるわけないじゃん!!!』

 

はぁ、これが()()()()()()()ってやつなのね〜……

 

千「じゃあゆづにぃ、先帰るね!今日の晩御飯は冷しゃぶなのだ〜っ!」

 

柚「うん、気をつけて帰るんだよ。母さんたちには事情伝えておいてね?」

 

千「はーいっ」

 

ユヅには今日1日私の側近としてずっと居てもらったから、ちょっとばかりゴホービ♡

マリーと一緒にディナーを食べてもらうことにしたわ♪

 

柚「ご厚意、感謝致します。鞠莉お嬢様」

 

鞠「あははっ、もう敬語じゃなくていいわよ♪」

 

柚「あ、そっか……あはは、やっぱり敬語に慣れちゃったみたい……」

 

最初は違和感のあったユヅの敬語だけど、慣れてくると案外面白くってよかったわ♪

 

チカっちはさっき晩御飯が冷しゃぶって言ってたわね。

この時期あれは本当に美味しいのよね〜!

カナンの家で食べた時にカルチャーショックを受けたわ!

あー、なんだか食べたくなってきたわね……

でもまぁ、今日はきっと、今日もきっとイタリアンね。

 

柚「あ、そうだ鞠莉ちゃん。今日のディナーなんだけど、シェフにお願いして和食にしてもらったんだけどよかったかな?」

 

鞠「へっ??」

 

柚「ほら、ランチは俺とシェフで作ったでしょ?その時に相談されちゃってね。「鞠莉お嬢様はいつもいつもイタリアンで飽きてしまっていると思うので、何か良い案はありませんか」って」

 

ん……まあ確かに飽きはきてるわ。

けどそれが私の口に合ってるものだから、なんの違和感もなく食べてたんだけど……

 

柚「だからね、今日は思い切って和食にしてみませんかって、レシピを渡したんだ」

 

そう言うと私の部屋のドアが開いて、ディナーが運ばれてきた。

 

柚「さあっ、ご賞味あれ。柚希印!豚の冷しゃぶ膳!」

 

鞠「わあっ……!」

 

思わず目を見張ったわ。

とってもとっても美味しそう!

程よい柔らかさを保った絶妙な茹で加減の豚肉に、レタス、きゅうり、水菜、トマト。仕上げに和風おろしポン酢。

主食はいつものパンやパスタではなく白米。

キャベツとニンジンのお味噌汁も付いてる。

完全に和膳ね、本当に美味しそうだわ。

 

……それにしても、本当にこの子は鈍いのか鋭いのか、分かったもんじゃないわね♪

 

鞠「ユヅ、ありがとっ!大好きよっ♡」

 

この言葉を、()()()()()()で捉えてくれる日を待ってるわ♪

 

 

鞠莉side off

 

 

 

To be continued!




いかがだったでしょうか!
いやグダグダ!笑笑
なんじゃこりゃってくらいグダグダ!
最初に思い浮かべていた草案とはかけ離れた内容になっちゃってまじ駄作感が否めなくてほんともうごめんなさい()

前回のふぁんたじぃから打って変わってのガチリアル。
世界線どうなってんだってつっこんでつっこんでつっこんでね!(Wao!)

はい、では次回は内浦の誇るDiverDivaもといダイバーの登場です。
せくしーあんどだいなまいとぼでぃの果南ちゃんを私たか丸がどう料理していくのか!乞うご期待!
では、また次回のお話でお会いしましょう。
(・ω・)/ばいにー☆


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紺碧の海のように

みなさんこにゃにゃちわ、生活リズムが刻めません、どうもたか丸です。
いやはや世間はコロナコロナで大変ですね。
遂には緊急事態宣言も出されてしまいましたし、感染者は日々増えていく一方。
病床はキャパオーバーして、命の取捨選択を行わなければならない厳しい状況に追い込まれているとも聞きます。
影響力のない小さな作家の卵にも満たない私ですが、そんな私からもこの作品を読んでくださっている皆様だけにでも伝わって欲しい。
自分を、自分の大切な人を、そして国を守るためにも、今は外に出ずに人との接触を避け、これ以上の感染拡大を抑止しましょう。
国がああだこうだ言えているうちは華です。
そのうち国のお偉いさんたちに感染して国会や内閣でパンデミックが発生したら。
その時はこの国はきっと。
そうならないように一人一人の意識や行動が大切になります。
私もですが、自覚を持って過ごしていきましょう!

なんて、暗い話をしちゃってごめんなさい笑
気休め程度ですが、私の作品で暇を少しでも潰せたらと思います笑

それでは今回も最後までお付き合いくださいませ。


?side

 

――怖くないって、さあおいで!

 

だれかが俺を呼ぶ。

それは毎日空とにらめっこをしている青い海が。

 

――また一緒に遊ぼうよ!ほら、こっちにおいで!

 

優しく語りかけてくる。

まるで大きく腕を広げて、俺を迎え入れるかのように。

 

――あの時のことは謝る、だから早くおいでよ!

 

嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

戯言を吐くのはやめろ。

 

ああ、ダメだ。足がすくむ。

体温が下がっていく。

嫌な汗が身体中の至る所から吹き出てくる。

呼吸が苦しい。

これ以上あいつの声を聞いていたら俺はダメになる。

 

だから俺は、そこから逃げたんだ。

 

 

?side off

 

 

柚希side

 

 

柚「ふわぁぁぁぁ……」

 

時刻は午前9時。

夏休みともなれば、本当ならお昼の12時くらいまで爆睡していたいんだけど……

今日は遊びのお誘いがあるから頑張って起きたとさ。

 

柚「ん……電話…………もしもしぃ……」

 

?『おはよ。随分眠そうな声だねぇ……しっかり寝られたの?』

 

柚「それが、今日が来なければいいなぁと思ってたら全然寝られなくて……気がついたら4時間睡眠……」

 

?『悲しいこと言うなぁゆづは。せっかくゆづの苦手なことを克服させてあげようとしてるのにぃ……』

 

ありがた……迷惑なんだよなぁ……

でもここに、内浦に住んでいる以上、この苦手……()()()に打ち勝たないと。

 

柚「そうだね、俺頑張るよ。ありがとう果南ちゃん」

 

果『うむ、よきにはからえ!』

 

柚「じゃあ30分後にまた」

 

果『おっけ。待ってるよ……あ、千歌も来るんだっけ?』

 

あー、千歌ちゃん。

どうしようか、誘ったらもちろん来るだろうけど……

俺のへっぽこな姿を可愛い妹に見せられない……

 

柚「いや、恥ずかしいから呼ばないよ……」

 

果『あっはは、そっかそっか。わかった、じゃあまた後でね』

 

そこで通話を切った。

ふぅ、仕方ない。

準備して行くとするか。

 

……っとその前に適当に朝ごはんを済ましちゃおうか。

もう旅館の仕事はこの時間になれば落ち着くだろうし、勝手にさせていただきますよ。

 

千「あ、ゆづにぃ!おーはよっ!聞いたよ〜、果南ちゃんと()()()()するんでしょ?面白そう!千歌も着いてく!」

 

階下のキッチンに行ったところ、眩しいみかん色の髪のかわいい義妹(いもうと)が、もっと眩しい笑顔で俺を出迎えた。

正確には鉢合わせた。

っていうか、そんなことより……

 

柚「…………どこで聞いたのそれ?」

 

千「ふぇ?果南ちゃんから!」

 

あの脳筋ダイバーお姉さんめぇ!!!!!

今日来ること知っててわざとさっき聞いたな?!?!

くそう……妹に醜態を晒すことになろうとは……

 

千「えへへっ、楽しみだねっ♪」

 

波乱の一日の幕開け、か……

 

 

柚希side off

 

 

果南side

 

 

果「おっ、ぷふっ……きたきた」

 

柚「ねぇ、なんで笑ったのか詳しく教えて果南ちゃん」

 

千「おっはよー、果南ちゃん!」

 

柚「おはよ果南ちゃん、ねぇなんで笑ったのか――」

 

果「おはよ、千歌、ゆづ」

 

柚「おっとスルースキルを身につけたか……」

 

あっはは、おもしろっ!

千歌を先に誘っておいて正解だったね!

千歌にゆづの醜態を晒しちゃおう大作戦、ステップ1は大成功♪

この後は海に突き落として、泳げないゆづを危なくない程度にお腹抱えて笑って差し上げよう☆なんて鬼畜なことはさすがにしないことは確かだからそこんところよろしくね。

 

柚「さて、未だに乗り気ではございませんが今日はご指導ご鞭撻のほどヨロシクオネガイイタシマス」

 

果「やけに棒読みだねゆづ……」

 

千「うん?ゆづにぃそういえば目の前に海があるっていうのに入ってる姿を見たことがないなぁ……」

 

お、いきなり痛いとこ突いちゃうか千歌は。

でも面白いからおっけー♪

 

柚「え゙っ?!そ、それはほら、別に海に入って何がいいとかないじゃん?!」

 

果「何言ってんの〜?海に入ればこの時期なんかは最っ高だよ!涼しいしお魚さんいっぱいで綺麗だし!」

 

千「そうそう!あ、あと……海の音が聴こえる☆」

 

うわ〜……なんてドヤ顔……

しかもちょっといい声出てたし……

梨子ちゃんの受け売りってこちとら知ってるんだからね?

 

柚「あっはは、梨子ちゃんもそんなこと言ってたね」

 

千「ギクッ!そ、そうだっけ?あ、あはははは……」

 

柚「あの時一緒に曲作ったんだから知らないわけないでしょ〜」

 

千「うう、そうでした……」

 

ここはお兄ちゃんに軍配だね♪

ま、千歌がゆづに勝てるのは元気くらいなものだし、しょうがないか〜。

 

果「さて、雑談はさておき、始めよっ」

 

千「おーっ!」

 

柚「お、おぉ……」

 

 

********************

 

 

果「そこで息継ぎっ、そう……そうそう!いい調子だよ!」

 

苦手といったものの、元々のセンスはあるみたいで、始めに怖がって水に足を入れるのを拒んでいる時間を除けば、ものの30分程で普通に泳げるようになってきた。

最初はほんとに大変だったなぁ……

 

 

『いやだっ、むりっ、むりむりむり〜〜〜っ!』

 

『なんだって俺がこんな目にぃ……』

 

『皮膚が呼吸出来なくなっちゃうよぉ……苦しくなっちゃう……』

 

 

宥めるのに何時間かかったことか……

うーん、やっぱりゆづはなにか才能に恵まれた人なのかな?

やらないだけで、ほんとはなんでも出来ちゃうような。

 

柚「ぷはっ!はぁ、はぁ、はぁ……」

 

千「ふふっ、ゆづにぃってばちゃんと泳げるじゃん!食わず嫌いならぬ、やらず嫌い?」

 

柚「もー、わかってるくせにぃ……トラウマなんだって」

 

果「小さい頃溺れたんだもんね、ゆづは」

 

千「あっ……」

 

柚「いや忘れてたんかい!」

 

千「ふぇっ?!そ、そそそ、そんな事ないよ!」

 

果「怪しすぎるんだけど……」

 

そう、ゆづは小さい頃私たちと遊んでいる時に溺れてしまったんだ。

あれは私が小学3年生の頃だったかな?

それくらいの時だからあんまり背も高くないわけで、浅瀬で遊んでいたんだ。

ゆづもその時はなんの恐怖心もなく私たちと一緒に海の中に入って遊んでいた。

 

 

けど。

 

 

ゆづは調子づいて、どこまで行けるか試してみようなんて言って。

気付けば私と千歌がいる浅瀬から多分10メートル程奥にいた。

奢り高ぶって自分の実力に見合わないことをした結果、小学校低学年の身長ではとても足が着かない程に急激に深くなった場所でゆづは、

 

消えた。

 

 

その後のことは必死だったからあんまり覚えてない。

唯一覚えているのは、泣きじゃくる千歌を抱きしめて宥めていたこと。

それ以来ゆづは学校のプールでさえその時の記憶が蘇り、一切、海やそれに近しいものに距離を置いてきたんだ。

最近はだいぶマシになってきて、今日みたいに普通に泳げるようになったわけだし。

この調子ならそのうち一緒にダイビングなんかも出来そうだね♪

 

柚「んぐっ?!ぶはっ!ゲホッ、ゲホッ、ゲホ……」

 

果「あっ、水飲んだの?!大丈夫?!」

 

柚「うへぇ……しょっぺぇ……おいしくない……」

 

果「ぷっ、あっはははは!」

 

弱々しい声でそう答える姿が、なんとも……面白くって……!

感想が、苦しいとかより先においしくないって、ほんとゆづは面白い♪

 

千「よーっし!ゆづにぃがもっと上手く泳げるように、頑張って応援するぞー!おーっ!」

 

柚「お、おー……」

 

 

********************

 

 

果「ええっ?!ダイビングしてみたいぃ?!?!」

 

柚「うん、挑戦してみたい」

 

果「いや、でも……」

 

いくらなんでも無茶だ。

泳ぎが上達して普通に泳げるようになったことはもちろん認めるけど、だからっていきなりダイビングって……

 

柚「あの頃みたいに慢心してるわけじゃない、ただ海の世界を知りたいんだ」

 

海の世界を、知りたい……

 

私は、ゆづに海の素晴らしさを知って欲しくて、今日ゆづを特訓した。

泳げるようになって、ゆづは"楽しい"って、言ってくれた。

すごく嬉しかった。

私の大好きなものに、興味を持って、認めてくれた気がしたから。

 

柚「それに、果南ちゃんがいるから」

 

果「私がいるから?」

 

柚「果南ちゃんならもしもの時、すぐに助けてくれるって思ってるからさ」

 

果「そんな人をレスキュー隊みたいに……」

 

ゆづの目を見る。

穢れのない、綺麗な黒い瞳で私をじっと捉えている。

本気の目。

小さい頃から何か大きなことに挑戦する時は、いつもこの目をしていた。

 

果「うん、わかった。もしもの時は私に任せておいて!」

 

柚「えっ、じゃあ!」

 

果「やってみよっか、ダイビング♪」

 

柚「わあっ……うん!」

 

あはっ、すごい満面の笑みだ。

こんなところを見るとやっぱり、ちょっぴりやんちゃな弟っぽく見えるなぁ。

こんな弟が欲しかった……

 

果「でも、危ないって私が判断したらすぐにやめさせるからね?」

 

柚「わかった!ありがとう果南ちゃん!」

 

千「ふふん、千歌もいるから安心するのだ、ゆづにぃ!」

 

柚「うん、千歌ちゃんも頼りにしてる♪」

 

果「よし、じゃあ早速準備しようか!」

 

 

********************

 

 

ウェットスーツに着替えた私たちは船に乗り、航海の旅に……

とはいかず、沖に出た。

雲ひとつない青空、燦々と照りつける太陽、青く染まった海。

絶好のダイビング日和とはまさにこういう日のことを言う、って私は思ってる。

 

果「さ、準備は平気かなん?」

 

柚「うん、いけるよ」

 

千「ゆづにぃ、がんばって!」

 

柚「ありがと千歌ちゃん、頑張る!」

 

そう言いながらもゆづの足は少し、震えている。

だから私は得意技をゆづに使った。

 

 

――はぐっ

 

 

果「大丈夫、海に入れば全部忘れる。今のその不安な気持ちも、全部」

 

柚「果南ちゃん……」

 

果「さっきレクチャーした通りすれば、大丈夫だよ」

 

柚「うん……」

 

ゆづの私を抱きしめる力が少し強くなった気がした。

やっぱり、少し強がってたんだね。

 

果「さぁ、それじゃあ行ってみようか!」

 

千「今のハグは見なかったことにしてあげるから、あとでみかんどら焼きおごりだからね!」

 

柚「あはは……うん、緊張ほぐれたからいいよ!それじゃあ、行くよ!」

 

そしてゆづはあの日以来の深い海へ、潜って行った。

続いて千歌が、その後に私が潜った。

 

いやはや、相変わらず綺麗な世界だなぁ……

内浦の海は穏やかで、魚がいっぱいいて、呆れるほど透き通った綺麗な水。

沖縄とかハワイとかの海にも劣らない、素敵な海だって私は思う。

……マングローブとかはないけども。

 

物思いにふけったところで、ゆづの方に目をやる。

多少泳ぎ方にムラがあるものの、初心者にしてはだいぶ綺麗な方。

昔あんなことがあったけど、今はこうして海中散歩が一緒に出来ている。

ものすごい進歩だと思う。

頑張ったね、ゆづ。

 

するとゆづは急に泳ぎを止め、くるりと回ってこちらを向いた。

ん?どこかを指さしてる。

ああ、魚を見つけたのか。

あれは……アジ、ソイ、メバル、タイ、かな?

 

んー?今度は上を指さしてる。

と、同時にゆづの体が上に浮かんでいった。

何かがいる訳じゃなくて単純に上がりたかっただけか……

 

柚「ぷはっ!ふぃ〜……」

 

果「ぷはっ、どうしたの?」

 

柚「あの魚たち、すっごく美味しそう!」

 

目をキラキラさせてそんなこと急に言うもんだからびっくり。

綺麗な魚だね〜!とか、俺達も魚みたいに泳げてるのかな〜?とか言うのかと思ったらまさかのそれ。

ふふっ、やっぱりゆづは面白い♪

 

果「そうだねぇ、アジは開きや刺身、ソイは刺身、メバルやタイは煮付けなんかが美味しいかな〜」

 

あー、もうすぐお昼かぁ、お腹すいたなぁ……

 

柚「食卓に並ぶ魚だもんね!海中は元より、水族館すら行ってなかったから、久々にちゃんと泳いでる魚を見られて嬉しいや!」

 

そっか、確かにそうだ。

海やそれに近しいものから距離を置いてきたなら、泳いでる魚なんか見る機会なんか無いもんね。

十千万じゃ魚なんか飼ってないし、余計に。

 

千「ねぇねぇ2人とも〜、もうひと潜りしたら戻らない?千歌お腹すいちゃったよ〜……」

 

柚「あはは、実は俺も……」

 

果「私も、そろそろお昼だからね。よし、じゃあもう少し海中散歩を楽しんだら、ご飯食べよっか。メインディッシュはお魚にしよう!」

 

千&柚「「はーーーい!!」」

 

ふふっ、可愛い妹と弟みたい♪

こんな兄妹(けいまい)がいたら毎日飽きなくて楽しいだろうなぁ。

 

 

********************

 

 

柚「今日はありがとう果南ちゃん、すごく楽しかった!」

 

果「楽しいって思ってくれてよかった!海が恋しくなったらまたおいで?」

 

柚「うん!」

 

千「ん〜〜〜っ、はっ、疲れたぁ〜……」

 

ぐーっと背伸びした千歌がだらしなく砂浜に座り込む。

それを見たゆづは千歌の頭を撫でる。

へにゃへにゃっと顔を緩ませて喜ぶ千歌と、そんな顔を見て微笑むゆづ。

 

柚「それにしても、果南ちゃんってばほんと綺麗だったなぁ」

 

果「えっ?いきなり何?!///」

 

柚「とっても優雅だったし、艶麗って言うのかな?とにかく綺麗だった!」

 

えっ、えっ、なに?なんなの?!

急にそんな綺麗綺麗って……///

ゆ、ゆづがそんな風に私を見ていたなんて……///

 

柚「内浦の海の中とっても綺麗だったけど、果南ちゃんの方が綺麗だったな〜、なんて♪」

 

果「なっ、ななななな?!?!///」

 

ば、バカじゃないの?!///

そんなの告白も同然なフレーズじゃん!///

 

千「はぁ、ゆづにぃってばほんと学ばないね〜……」

 

柚「えっ、何が?」

 

千「自分で考えて〜。それじゃ、千歌は先に家に戻るからばいばーい」

 

柚「あっ、ちょっと千歌ちゃん?!……行っちゃった……」

 

ちょっと千歌!なんでこの状況で2人きりにしたの?!///

 

柚「はぅ〜、それにしても今日は本当に楽しかったよ!まぁ、千歌ちゃんを誘ったのはどうかと思ったけどね……」

 

それはつまり2人きりがよかったってこと?!///

 

柚「いや〜、それにしても綺麗だった!新しい視点で見られたって感じで、知らなかった魅力を感じられたよ♪」

 

新しい視点?!知らなかった魅力?!///

潜りながら魚じゃなくて私を見てたってこと?!///

 

柚「ん?果南ちゃん顔赤い……大丈夫?」

 

果「だ、大丈夫!!なんでもないから!!///」

 

柚「???」

 

おちちゅけ私!松浦かにゃんしっかりしろ!///

いちゅも通りちゃんとやりゅ……

 

ダメだー!脳内でもこんな噛むなんて相当動揺してるよぉ〜……///

うぅ、ゆづのばか……ゆづのくせに変に意識すること言いやがって……///

 

柚「あっ、もしかして風邪?ちょっと失礼……」

 

果「ひゃっ?!///」

 

急におでこに手を当てて……って何してんの?!///

うぅ、恥ずかしすぎる……年下の男の子におでこ触られて熱の有無を確認されるだなんて……///

誰のせいで体温上がってると思ってんの!!!///

 

柚「うーん、やっぱりちょっと熱いね……このまま家まで送るよ」

 

果「えっ?い、いやいや平気だよ!1人で帰れる!///」

 

柚「だめだめ、風邪気味の女の子を1人残して帰る訳には行かないよ……っと」

 

え?

あれ?これどういう状況?

私の足が地面についてない……宙に浮いてる?

体は、どこか頼りないのに大きな背中の男の子に預けられている。

ん?

それってつまり……

 

果「なんでゆづ私の事おんぶしてるの?!?!///」

 

柚「えっ?だってほら、熱出てると足元覚束無いだろうし、この方が楽かな〜って!」

 

なんでそんな穢れのない綺麗な瞳でそんな事言えるのかなほんと……

下心だとかそんなものが一切ない、ただの善意でこうしてるのが、お年頃の男子高校生とは思えなくて私は少し不安になってきた……

 

柚「年下だし、力持ちでもないし、頼りないかもしれないけどさ、たまには立場逆転してもいいんじゃないかな、なんて♪」

 

本当に、これじゃあどっちが年上なのかわかんないね。

ずっと弟みたいだと思っていたゆづはもう、こんなに大きくなったんだなってようやくわかったよ。

 

果「じゃあ……よろしくおねがいしましゅ……///」

 

柚「うん、お願いされました♪」

 

ばか……

余計に意識しちゃう……///

こんな気持ち私には似合わないのに……

 

でも。

伝えるなら、今……なのかな?

 

でも。

それは同じ気持ちを持ってるAqoursのみんなに失礼なのかな?

 

でも。

恋は団体戦じゃない、個人戦だ。

誰かと同じ人を好きになるってことは、私か他者かが結ばれない結末に至る。

 

ならば、先手必勝じゃないのかな?

 

果「ね、ねぇ、ゆづ……」

 

震えるな、頑張れ私。

ただ一言、「好きだよ」が言えればいいんだ。

落ち着け、落ち着け……

 

果「私、さ……ゆづのことが――」

 

柚「わあっ!綺麗な夕日!内浦の海の中といい勝負だ!」

 

果「えっ?」

 

柚「ん?あぁほら、さっきも言ったじゃん。新しい視点で新しい魅力を知れたって。内浦の海の中ってあんなにも綺麗なんだなぁって!」

 

えーーーーーっと……

え?

海の中が??

綺麗???

じゃあゆづはさっきから私のことじゃなくて、内浦の海の中の話をしてたってこと……?

 

果「は、はは、はははははは……」

 

柚「か、果南ちゃん……?」

 

果「ゆづ、ちょっと降ろして」

 

柚「えっ、う、うん……」

 

ふぅ……

 

果「こんのド天然女ったらしがぁぁぁぁぁ!!!!!

 

柚「ホゲーーーーーーッ!!!!!

 

水飛沫を上げてゆづは海の中に消えていった。

正確には私が海の中に投げ入れた。

 

はっ!そんな事だろうとは思ってたよ!

期待した私がバカだったよまったく!

 

……でも。

そんな天然でアホでドジでマヌケですっとこどっこいなゆづだけどさ。

 

 

私は、そんなゆづのこと、大好きだよ。

 

 

いつか、言える日まで、この言葉は大切に取っておくからね。

だから、その日まで待ってて――

 

 

果南side off

 

 

 

To be continued!




いかがだったでしょうか!

自分の中で勝手に果南ちゃんは少し男勝りなところがあると思っていて、それが言葉の節々で出てきていたかと思うのですが、お気づきであれば作者としましては幸いでございます笑
男勝りなイメージはありつつも、あのぐら〜まらす(言ってみたいだけ)なぼでぃはほんま魅力的ですわよね。
きっとふかふかなんだろうなぁ……(どことは言っていない)

さて次回から2年生編が始まります!
トリは恐らくみなさん分かってらっしゃるとは思いますが、先方と中堅は誰がやってくるのか乞うご期待ですわよ奥さん()

それでは、また次回のお話でお会いしましょう。
(・ω・)/ばいにー☆


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ツンツン?デレデレ?

みなさんこにゃにゃちわ、大学の講義でzoomを使うことになって激萎え、どうもたか丸です。
なんで顔も知らん人に顔晒さなあかんのですか……
せめて私の顔が松坂桃李さんくらいイケメンだとか、橋本環奈さんくらい美人さんだったら思っきし晒したりますわ。
でもどうもこうもこのツラじゃあ、ねぇ……

さてさて、今回はヨーソローガールのお出ましです!
この作品だとちょっとツンデレ気味な彼女ですが、ゆづはそんなツンツンしちゃう曜ちゃんの心に気づけているのでしょうか?
それはたか丸もわかっていません(おい)

それでは今回も最後までお付き合いくださいませ。


曜side

 

 

セミの声が騒々しい。

7日間しか生きられないセミくんたちとしては、自分たちが今こうして生きている証を残すべく、必死に鳴いているんだろうけど。

こんな暑い真夏の天気の中、セミの声は追い打ちをかけるように、私たちの体力と、やる気を削いでいく……

 

まぁ、それは外にいる時の話。

海の中にいれば私は無敵。

あんな幸せな空間に今すぐにでも飛び込んだものなら、字のごとく水を得た魚の様に泳ぎ回ると思う。

 

でも、そんな暑い日に海に入らなくてもいい場所がある。

それは家。

ガンガンにクーラーを効かせて、みかんジュースを飲みながらゲームしたりとかマンガ読んだりとか、はたまたダラダラするだけでもいい。

そこに広がるのは楽園。

体を動かすのが大好きな私も、ここだと"動きたい"っていう思考が全カットされる程幸せな空間になるんだ。

 

そして、この夏の最高気温の記録を更新した真夏日である今日という日に私は千歌ちゃん家でゆづと梨子ちゃんと4人で遊んでた、わけなんだけど……

 

大変なことに気がついたのは、遊んでた部屋にやってきた志満さんの一言。

 

 

志「いまさっき終バスが出ちゃったのよ……」

 

 

渡辺曜、家に帰れない大ピンチです!

 

 

志「まだ旅館のお仕事が残ってるし、美渡も今日は帰りが遅くなるから……」

 

千「じゃあ今日は千歌の部屋でお泊まりする?」

 

曜「うん、する!……って言いたいんだけども……」

 

梨「何かあるの?」

 

曜「実は今日、晩御飯がチーズインハンバーグなんだよね……!」

 

そうです。

私が今日何としても家に帰らなければならない理由……

この世の中で最も大好きと言っても過言ではない食べ物である、挽肉と飴色になるまで炒めた玉ねぎやその他具材や調味料たちを混ぜた肉だねの中にとろけるチーズを畳んで小判状に成型して焼いた絶品料理、またの名をCheese In Hamburg(ちーずいんはんばーぐ)が本日の我が家のメインディッシュなのです。

たとえ千歌ちゃんにお泊まりに誘われても、これだけは、このおかずの日だけは、譲れないの……!

 

柚「それじゃあ帰らないとだ、大好物だもんね」

 

曜「そうなの……」

 

でも困ったなぁ。

バスがない、車もない、夕飯までの時間もない。

走って帰るにも少し距離がありすぎるし……

 

柚「よし、じゃあ俺が送ってくよ」

 

「「「えっ????」」」

 

志「ふふ、最初から頼もうと思ってたの、柚希くんに♪」

 

千「ふぇ?どういうこと?」

 

なんだなんだ?

まったく状況が読めない……

 

志「柚希くんが高校1年生の夏休み、何かを取りにいつもどこかへ行ってたの覚えてない?」

 

千「あっ!そっかぁ!バイク!!!」

 

梨「ば、バイク?!柚希くんバイクの免許なんて持ってたの?!」

 

柚「あはは、実はね。颯爽とバイクを乗りこなす父さんに憧れて、16になったら取りに行くって決めてたんだ」

 

志「ふふっ、小さい頃はいつもお父さんのバイクの後ろに乗って、色んなところに行ってたもんね♪」

 

まさかバイクの免許を取っていただなんて……

まだまだ私の知らないゆづがいるんだ……

なんかちょっと悔し――

いやいやいや!全然悔しいとかないし、ゆづのこと知ってどうとかないし!

 

柚「じゃあ俺が送ってくって事でいいかな?」

 

曜「そ、それしか方法がないなら……仕方ない……」

 

柚「あれ、嫌だった?」

 

曜「べ、別に嫌だなんて、そんなことは言ってない!……お、お願い、します……

 

柚「うんっ、かしこまっ♪」

 

 

********************

 

 

千「それじゃあゆづにぃ、曜ちゃんをよろしくね!くれぐれも事故なんか起こさないよーに!」

 

柚「安全運転で曜ちゃんを送り届けます!」

 

梨「バイクに跨る柚希くんも、かっこいい……」///

 

曜「ゆづ、本当に大丈夫なの?」

 

柚「まかせて。これでも実技試験は一発合格した腕前だし、今まで何度も後ろに人を乗せて走ってきてるから!」

 

自信満々にそう語るゆづの目は確かなもの。

ここはゆづのことを信じて、しっかり送り届けてもらおう。

 

柚「っていっても、誰かを乗せるのは久々なんだけどね……」

 

千「じゃあ今度は千歌を乗せてドライブしてね〜」

 

柚「まっかせ〜い!」

 

梨「わ、私も乗ってみたい……かな……」///

 

柚「うん、大歓迎だよ!それじゃ、いってきまーす!」

 

千「行ってらっしゃーい!気をつけてねー!」

 

そんな千歌ちゃんの声を背に、私を乗せたゆづのバイクは動き出す。

 

柚「落っこちないように、できるだけ俺の近くまで来てもらって、腕を前に回しておいてね」

 

曜「う、うん」

 

ゆづの近くに寄って、腕をゆづの体の前にまわす……

腕を、ゆづの体の前に、回す……?

そ、そそそそれって!!!

はっ、はははははハグぅ?!?!

 

柚「恥ずかしいかもしれないけど、安全のために……ね?」

 

曜「わ、わかってるっ……!」///

 

わかってるけどやっぱり……恥ずかしい……///

でも、これで落っこちたりしたら嫌だし、何よりゆづに心配かける……

そんなのは怪我するより嫌だ。

 

ゆづの体に自分の体を密着させて、腕をゆづの体の前に回した。

体がくっついた瞬間、ゆづは少しビクッとして体を一瞬だけ硬直させた。

自分で言うのもなんだけど、胸は割とある方だと思ってる。

ゆづだって思春期を迎える男の子だし、少しくらい意識してくれてもいいんじゃないかなって思ったんだけど……これは相当意識しちゃってるよね。

 

柚「曜ちゃん……気づかないうちにこんなに……」///

 

ゆづは何か妙なことを口走った。

 

曜「ゆづのすけべ」

 

柚「んなっ……!お、男ならしょうがないの!」///

 

曜「や〜らしい」

 

柚「ごめんなさいぃぃぃ〜〜〜っ!」

 

千「むぅ、千歌だってああやってゆづにぃをドキドキさせたいのだ……

 

梨「さすが曜ちゃん……不意打ちを狙って好感度を上げに行ったのね……

 

大好きな友達だけど、ゆづを好きな者同士、私たちはライバル。

今回のは別に狙った訳じゃないけど、いい感じにゆづに意識させられたみたい。

 

曜「それじゃ、全速前進〜、ヨーソロー!出発であります!」

 

船じゃないけど、何事も出発っていうのはちょっとテンション上がる♪

ゆづの前(実際は後ろ)だけど、ちょっとはしゃいじゃった。

 

 

〜〜〜

 

 

千歌ちゃんの家を出てから大体10分くらい、渋滞もなく比較的快調な道を進んでいくゆづのバイク。

別段、話すことがあるわけでもなく、「風切って寒くない?」とか、「乗り心地は平気?」とかゆづに聞かれてその度に「大丈夫」って薄い返事を返してる。

う、ちょっと空気が重い……

私に非があるのは明らかだけども……

 

柚「……ねぇ曜ちゃん」

 

曜「ん、な、なに?」

 

柚「明日って、その、暇かな?」

 

明日……善子ちゃんに生配信の手伝いをして欲しいって言われてるんだけど……

ま、大丈夫でしょ。

 

 

『くしゅんっ!……リトルデーモンが主であるこの堕天使ヨハネ様のことをどこかで噂してるみたいね…………ううっ、何か嫌な予感がするっ!』

 

 

曜「特に何も無いけど……」

 

柚「ほんとっ?じゃあさ、俺に付き合って欲しいんだけど!」

 

曜「…………え?」

 

あっ、"俺()"か、びっくりした……

てっきり、"俺()"かと思って頭の中がぐるぐるしちゃったよ……

 

曜「付き合ってって、何するの?」

 

柚「ふふ、デート!」

 

曜「はぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぃぃぃ?!?!」

 

 

********************

 

 

曜「なんて思ったけど来てしまった……」

 

沼津駅前。

時刻は10時10分。

デートなんて聞いて、初めはほんとにこの男は阿呆だと思った。

けど次第にその言葉をよく理解した時に、心の底から"嬉しい"って思ってしまったんだ。

ああ、心っていうのはどれだけ偽ろうとしても、素直になっちゃうものなんだねぇ。

私の一部なのに、難儀なもんですわ……

なんて1人くだらない事を考えているとゆづがやってきた。

 

柚「あれ、早いね曜ちゃん。まだ時間まで20分もあるよ?」

 

曜「……そっくりそのまま返すよゆづ」

 

柚「確かにそうだ、こりゃ1本取られたね」

 

なんておどけるゆづの顔を見て、少し心が踊っている私が悔しい。

この正直者め。

心をこつんと小突いてみた。

あくまで感覚の話。

 

でも、ゆづに対して"好き"という感情がありながら、話す時はいつも斜に構えてしまうようになったのはいつからだっけ?

 

柚「さ、行こっか!」

 

曜「う、うん……それで、今日はどこに行くの?」

 

柚「とりあえず腹ごしらえ!」

 

曜「まさかとは思うけど朝食はとってきたんだよね……?」

 

柚「……食べてないです」

 

まったく……

大方私の見立てだと、昨日夜更かしして朝寝坊して、ちょうど千歌ちゃんにも起こしてもらえず、朝ご飯を食べずに急いで支度してきたって感じだろうね。

夜更かしの原因はおそらくこのデート。

ただただ私とお出かけしたいって一心だったわけだから、夜もなかなか寝付けなかったんだと思う。

自分でこういっちゃうのもなんだけどさ……

ゆづは昔から自分から企画したお出かけの前日とかは目が冴えて寝られなくて、でも落ち着くとすぐに寝てそのまま深い眠りへと移行しちゃう。

だからなかなか目覚めないし、そのまま寝坊する。

千歌ちゃんが起こすから寝てなきゃいけない〜みたいなこと前に言ってたけど、起きらんないだけでしょ……

 

曜「仕方ない。じゃあゆづのブランチタイムのために、やば珈琲にでも行こっか」

 

柚「曜ちゃん……!今日はとっても優しい!」

 

曜「べ、別にそんなことは……!」///

 

き、今日くらいはゆづに甘えさせてあげても、いい……かも……?

 

 

********************

 

 

曜「ね、ちょっと相談してもいい?」

 

柚「ぶぇ(ふぇ)ばびぼーびばぼ(なにどーしたの)?」

 

曜「口の中のもの飲み込んでからしゃべってよ……」

 

あーあーあー、口の周りケチャップで汚して……

まったく、拭いてあげるか……

 

柚「ん……ありがと曜ちゃん♪」

 

曜「べ、別に、だらしない人と一緒って思われたくないから……」///

 

柚「ふふ、素直じゃないなぁ?」

 

曜「…………」///

 

柚「い、いたたたたた!ほっぺつねらないで!ごめんなさいぃ!」

 

なんかちょっとイラッときたから軽くつねってやった。

 

柚「いてて……それで、相談ってなに?」

 

あ、そうそう、相談だ。

私は今日ゆづにプレゼントを買うために今日のデートを了承した。

なんでプレゼントかっていうと、先日、ゆづに衣装を作るのを手伝ってもらったから。

ライブまで期間が無くて、歌とダンスに凝りすぎちゃったもんだから、衣装に回す時間がルビィちゃんと一緒でも足りなくて、急遽ゆづに助っ人に来てもらった。

そんでその手際のいいこと。あっという間に終わっちゃったから、そのお礼でプレゼントを少々……

んで、何が欲しいかちょっとわかんないから、うまーく聞き出そうって感じ♪

 

曜「実はね、今度パパが帰ってくるの」

 

柚「ふんふん」

 

曜「それで、パパにプレゼントを渡したいなーって思ったんだけど、何を渡せばいいのか分かんなくて……」

 

柚「曜ちゃんパパにプレゼントかぁ……」

 

ちょっと無理があるかな?

でもこの話をおっぱじめた時点で後には引けない。

 

曜「それで、ゆづに何かアイデアを聞こうと思って」

 

柚「うーーーーーん……曜ちゃんパパは曜ちゃんのあげるものならなんでも喜んで貰ってくれると思うんだけどなぁ?」

 

それもそうだ。

私からパパへのプレゼントは、いちばん直近にあげたものに関してはいつも船に持っていって、大切にしているそう。

時々それを見て私のことを思い出してはニヤついてるらしい。

や、悪い意味でなく、単に私から貰ったプレゼントが嬉しいだけなんだろうけど、こう聞くとなんか悪い意味でしか捉えられない……

 

柚「でも、それで片付けちゃダメだね。うん、こうしてデートに付き合ってくれてるわけだし、協力する!」

 

曜「…………あ、ありがと」///

 

改まって"デート"って単語をゆづから聞くとちょっと照れる。

ムカつく……

けど、心はあったかい……

 

柚「いつもプレゼントは次の航海の時に船に持っていってるんだもんね?だとしたら実用性のあるものがいいかな?」

 

曜「なるほど……」

 

実用性のあるもの……

船乗りに必要なものって事だよね。

それでいてゆづへのプレゼントとして成り立ちそうなもの……

うーーーーーん……

そういえは、船の中って結構日差しが強くて、目を守るため、そして航路の安全を守るためにサングラスが必須アイテムなんだっけ。

サングラスをかけたゆづ、かぁ……

 

曜「かっこいいかも……」///

 

柚「んー?」

 

曜「決めた!サングラスにする!」

 

柚「お!よし、それじゃあ早速買いに行こう!」

 

 

********************

 

 

曜「…………」///

 

柚「な、なんだよぅ……そんなにジロジロ見られると恥ずかしいよ……」

 

…………似合う。

悔しいけどすごく似合っててかっこいい。

 

曜「別にっ!ジロジロなんて見てないしっ!」///

 

柚「え〜?見てたじゃ〜ん♪」

 

耐えて……耐えて私の心……!

くぅ、"ゆづ×サングラス=無限の可能性"って方程式成り立っちゃったよ……

 

柚「でも、ほんとにもらっちゃっていいの?」

 

曜「う、うん……だってあげるために買ったんだもん……」///

 

柚「でも別に大したこと出来てないしなぁ……あ、そーだ!忘れるところだった」

 

曜「?」

 

何やらバックの中をガサゴソと漁ってる。

うーんうーん唸ってるけど大丈夫かな……?

 

柚「よっと、とれた!はい、曜ちゃんにあーげるっ♪」

 

曜「なに、これ?」

 

柚「ふふん、開けてみて?」

 

淡いブルーの包装紙に包まれた何やら柔らかいもの。

性格的にビリビリと開けたいんだけど、本人の目の前じゃさすがに気が引ける。

それに、ゆづからもらったものだしこの包装紙は丁寧に取っておいt……

って、そんなことしないしない!!!

 

気を取り直して、とりあえずまぁ()()()()()()()()、丁寧に開けてみた。

 

曜「これ……ベレー帽?」

 

柚「うん!夏にベレー帽って暑いかなって思ったんだけど、ちゃんと夏用の素材のものがあるの!曜ちゃん絶対似合うと思って買ったんだ!」

 

確かに涼し気な素材の黒のベレー帽。

私服でベレー帽はかぶったことないなぁ……

 

柚「ねね、つけてみて?」

 

曜「うん」

 

ちょうど、ベージュのペンシルスカートに黒のトップスを合わせてたから、コーデ的にはバッチリだと思うんだけど……

 

柚「おお〜……」

 

曜「ど、どう、かな……」

 

柚「見立て通りだよ!曜ちゃん、すっごく似合ってる、超可愛い」

 

曜「んなぁっ?!?!」///

 

お、おっきい声出ちゃった!

ば、馬鹿じゃないの急に?!

そんな、か、かわ、可愛いだなんて……///

 

柚「これは世の中の男性諸君が余計に放っておけない渡辺曜ちゃんが誕生しましたわ……」

 

曜「な、な、何言ってんの?!」///

 

こんのド天然女ったらし男め……

1回くらい本気で喝を入れないと、この先どれだけの女の子をたぶらかすか分かったもんじゃない……!

 

?「あーーーっ!見つけたわよ、曜!!!

 

曜「えっ、よ、善子ちゃん?!」

 

柚「ヨハネちゃんこんにちは♪」

 

善「こんにちは♪……じゃないわよ!あと、曜!私はヨハネ!」

 

うわぁ、街中でこんなに大きな声出して……

ただでさえ黒いマントをこの真夏の暑い時期に来ているだけで注目されてるのに……

 

柚「ヨハネちゃんどうしたの?曜ちゃん探してたみたいだけど……」

 

善「どうもこうもないわ!今日生配信の手伝いを曜がしてくれるって言うから待ってたのに、一向に現われやしないからこうして探しに来たのよ!」

 

曜「あっ」

 

柚「曜ちゃん、予定あったの?」

 

色々違うと思うけど、浮気してる人って現場に浮気された人が来ちゃうとこういう気持ちなんだろうなって、よくわかった気がする……

これはまた……めんどくさい事になったなぁ……

 

善「丁度いいわ!柚希、アンタも生配信の手伝いをしてちょうだい♪」

 

曜「ちょ、これからやるの?!」

 

善「当たり前でしょ!下界のリトルデーモンたちは主との邂逅を心待ちにしているの。主に尽くすリトルデーモンたちには主からも尽くしてあげなければならないからね……」

 

え、ええ……

さらにめんどくさい事に……

 

柚「ヨハネちゃんカッコイイ……曜ちゃん、お手伝いしに行こっ!」

 

曜「ええええええ?!?!」

 

騒がしい今日という日は、まだまだ終わりそうにないみたい……

 

曜「あーん!早く帰ってごろごろしたーーーーい!!!」

 

 

曜side off

 

 

To be continued!




はい、いかがだったでしョーソロー?(?)

gdgd?いやいや、元々このSSはgdgdが売りですから!(ちがう)
はい、反省してます。
次のお話はなんとか綺麗にまとめるんでなにそつ……()

夏用のベレー帽ってあるんですね?(唐突)
ベレー帽って冬に被るもんだと思ってたんで、意外でした!
おしゃれさんはきっと被ってるんでしょうね(適当)

さてさて次回はお分かりの通り、東京からやってきたピアノ少女のお話です!
今の構想だと、きっとあそこに行ってあんなことしてこんなことしちゃうと思いますムフフ♡()

それではまた次回のお話でお会いしましょう。
(・ω・)/ばいにー☆


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桜色が朱に染まる時

みなさんこにゃにゃちわ、プロ野球がようやく開幕して胸を高鳴らせています、どうもたか丸です。

やっと始まりましたプロ野球。
ここまで本当に大変でした。
ですが依然としてヤツの脅威は勢いを無くすどころか、再加速しています。
国と観光業者としては観光地に客が集まらず、経済的にまずい事態になってるから、とりあえずみんな出かけろって感じで旅行したら幾ら補助とかやってますけど、それは感染者数を増やすための取り組みですか?と疑問を呈したくなってしまう若者です。
こうして再び感染者が増えていっており、外出は避けねばならない事態であるのに、出かけようぜキャンペーン(適当)みたいなことして、それで国としての感染対策バッチリですよWHOさんって言えるんですかね?

とまぁ、知識もない一Fラン大学生の戯言なぞ気にせず本文へレッツゴー!
今回も最後までお付き合い下さいませ。


梨子side

 

 

柚「わあっ、ここが東京!秋葉原!」

 

梨「ふふっ、いきなりはしゃいじゃってる♪」

 

柚「だってだって、こんな大都会に来るのは久しぶりだもん!うわぁ……すごい高いビルに眩しいくらいの電飾……いくらかかってるんだろう……」

 

梨「いきなり現実的ね……」

 

私と柚希くんは会話を見てもらえばわかる通り、秋葉原にやって来ています。

理由は……

自分で説明するのも恥ずかしいんだけど、その……

う、薄めの本を少々嗜むもので、それの新作の購入と新規開拓を少しばかし……///

 

本当は1人で来るつもりだったんだけど、柚希くんが私が秋葉原に行くって言ったら一緒に行きたいって言うから……

でも、柚希くんは私の()()をちゃんと理解してくれてるから、大丈夫だと思って連れてきました。

あ、千歌ちゃんには餌付けをしてきたので大丈夫です。

 

柚「ねね、どこから行く?あっちのおっきな建物?それともこっちのピカピカのお店?それとも……!」

 

梨「ま、待って!とりあえずまずはあのお店に行かせてもらえる?」

 

柚「んー、あの緑の同人誌のお店?」

 

梨「お、大きな声で同人誌って言わないでっ!!」

 

うう、やっぱり連れてきたのは間違いだったかなぁ……

私の趣味を理解してくれてるわけだけど、柚希くん自身にはその趣味がないから心理が分からないのかも……

 

梨「と、とにかく行こっ!」

 

焦った私は柚希くんの手を取り、さっさと1軒目の薄い本の販売店に入店しました。

気が動転してちゃんと考えられていなかったから、柚希くんの手をずっと握ったままお店の中を巡り始めてしまいました。

それに気付いて急いで離した時、私の顔は酷く紅潮していましたが、柚希くんは

「あれ、もう離しちゃうの?ざーんねん」

なんてあまりにも意に介していないようで、なんだかとっても悔しいです……

 

とにかく、天国とも呼べるこの空間で、まずは私の好きな先生が描かれていらっしゃる作品の新作をここで購入して、2軒目と3軒目で新規開拓と掘り出し物探し。

どれくらい時間がかかるのかなぁ?

 

柚「ねぇ梨子ちゃん、この"NTR"っていったい何?」

 

梨「へっ?!?!」

 

NTR、つまり寝とr……

柚希くんがそんな単語知ってるわけはありません。

じゃあ一般向けの作品コーナーでどうしてその単語を見つけて……

柚希くんの手に握られた作品には、丸で囲った18に斜線が入っているマークがバッチリと印字されていました。

 

梨「は、早くそれ戻してきて!!!」///

 

ふええ、やっぱり連れてくるべきじゃなかったよぉ……

さすがに柚希くん、無知すぎます……///

 

 

********************

 

 

梨「ふぅ……もう、大変な目にあったわ……」

 

柚「ご、ごめんなさい……まさか二次創作に、その、()()()()()()の本があるとはつゆ知らず……」///

 

18禁が二次創作品で存在しているものとは、どうやら思っていなかった様子。

理解はあっても、この世界の詳細を知らないのなら仕方ない……のかもしれないのかな?

ま、目的のものは買えたし、ある程度新規開拓は出来たからよしとするけれども……

 

梨「もういいわ、気にしないで。それより柚希くん、行きたいところがあるんでしょ?」

 

柚「あ、うん。音ノ木坂学院高校に行きたいんだ」

 

梨「オトノキに?」

 

柚「そう。梨子ちゃんが1年の間過ごした学校を見てみたい」

 

音ノ木坂学院高校、通称"オトノキ"。

私が浦女に転校する前に通っていた、東京は神田の国立高校。

のんびりとした雰囲気で、とても穏やかな校風の学校。

そんなゆったりできる空間が私にはとても合っていました。

 

ただ、有名な音楽の学校という側面を持つオトノキ。

私もピアノの実力を上げるために入学したけれど……

まあ、そんな話はいいですよね。

 

柚「それに、あのμ'sが生まれた場所だもんね……」

 

梨「μ's、やっぱりすごい存在なのね」

 

私がこうしてスクールアイドルを始めたのは千歌ちゃんに誘われたからです。

でも、その千歌ちゃんはどうしてスクールアイドルが好きになったのか。

それはそのμ'sの影響なんです。

初めて行った東京で見たμ'sの姿が、とても輝いていたと、私は聞いています。

 

そんなμ'sは私の第1の母校であるオトノキで誕生したものというのは、おそらく日本中の人ならば8割方知っていると答えると思います。

でもさっき言った通り、私はオトノキにはピアノの実力を上げるために入学したので、もちろんピアノに全力を注ぐ学生生活を過ごしていました。

ピアノ以外に目もくれなかった結果、私はその"μ's"という存在を、"スクールアイドル"という存在を、まったく知らずに過ごしてきたのです。

 

柚「そりゃもちろん!自分たちの力で廃校を阻止しちゃうくらいすごいんだから!それに――」

 

梨「キラキラ輝いてる、でしょ?」

 

柚「あ、あはは、その通り♪」

 

そうです。

千歌ちゃんはそのμ'sの輝きに憧れて、スクールアイドルを始めたんです。

 

梨「それじゃ、中を見て回ってみよっか?」

 

柚「えっ、入れるの?」

 

梨「申請すればちゃんと入れるわ、行きましょ」

 

オトノキの中に入れることがわかった瞬間、柚希くんの顔はぱあっと明るく輝き、満面の笑みを浮かべました。

ふふっ、ちょっと幼い柚希くん、かわいい♡

 

柚「うんっ、行こうっ!」

 

校門をくぐり、校舎内へ。

職員室付近の受付で申請をした後に向かった先は音楽室。

運良く誰もおらず、私たちで貸切状態に出来ました♪

 

それにしても懐かしい。

つい昨年まではここでただ黙々と、ピアノに向き合って、白黒の鍵盤で私の思いを奏でていたなぁ……

普通の教室よりも響くこの音楽室。

逆に何も無いとどの教室よりも静かに感じるこの空間は、ピアノと向き合うための時間として使っていた私にとっては、誰とも干渉せずにいられる極上の空間でした。

入校する時に借りたスリッパが、歩く度にリノリウムの床に擦れて出る音を聞きながら、高級感漂う黒いピアノの前にやって来ました。

 

柚「ここが音楽室……μ'sの西木野真姫さんが作曲に使っていた場所。そして梨子ちゃんが鍛錬していた場所」

 

梨「なんだかそう言われると恥ずかしいわね……」

 

柚「この空間からμ'sの曲が生まれて、廃校にならずに済んだから、梨子ちゃんがこの学校に来た。それで、まぁ、カクカクシカジカあって俺たちと出会えた」

 

梨「カクカクシカジカの部分って説明端折るのに文面で使うのにそのまま言っちゃうんだ……」

 

でも、本当に奇跡のような偶然で、私たちは出会い、Aqoursとしてスクールアイドル活動をしている……

改めて考えてみると、それってやっぱりすごいことです。

簡単に"奇跡"なんて言葉を使っちゃうと、あまりそのことの偉大さに迫力がつかないけれど、それでも使いたくなるくらいに"奇跡"なんです。

 

でも、私がオトノキに入学して、挫折して、内浦に引っ越して、柚希くんや千歌ちゃん、Aqoursのみんなに出会えたことがもし"運命"だとしたら。

神様はなんて波瀾万丈な人生を、私に歩ませようとしているのでしょう。

 

柚「ね、梨子ちゃん」

 

梨「なぁに、柚希くん?」

 

柚「ピアノ、聴かせてよ」

 

唐突なお願い。

でも、なんとなく言われるんじゃないかって思っていました。

 

梨「ふふっ、いいわよっ、何が聴きたい?」

 

すると柚希くんは、再び満面の笑みを顔に浮かべ、瞳は輝いていました。

 

柚「えっとね、まず海の音を聞いた時に作った曲でしょ!それから初めて3人で歌った"ダイスキだったらダイジョウブ!"でしょ!それからそれから……!」

 

あはは……

腱鞘炎になりそうです……

 

 

********************

 

 

柚「んーーーっ、楽しかったぁ!いっぱい弾いてくれてありがとっ、梨子ちゃん♪」

 

梨「ふふっ、柚希くんが楽しんでくれたのならよかったわ♪」

 

柚「あれだけお願いを聞いてくれたんだもん、なにかお礼がしたいなぁ……」

 

梨「ええっ、いいわよそんな!柚希くんの楽しそうな顔を見られて嬉しかったし……」

 

柚「うーん、でもなぁ……」

 

つくづくこの高海柚希という人間は、義理堅くて人への感謝を忘れない優しい人なんだなって改めて感じます。

そんな優しさについ甘えたくなってしまう、私は悪い人です。

 

梨「じゃあお礼として、私の行きたいところ、もう1つ付き合ってくれる?」

 

柚「えっ、そんな事でいいのなら……」

 

梨「うふふっ、それじゃあ行きましょ♪」

 

柚「あっ、ちょちょ、ちょっとまって〜!」

 

どうやら私はこっち(内浦)に来て変われたみたいです。

引っ込み思案で、誰かと干渉するのが苦手で、陰と陽で分けるなら間違いなく陰にいたかった私。

だから内浦に来た時も、「私なんかがあの結束力の強い浦の星の人達の輪に入っていけるのか」とか、「きっと"地味な東京もん"ってバカにされて、東京での暮らしと変わらない」とか思っていたんです。

 

そんなあの頃の私に、今の私の暮らしぶりを言い聞かせてあげたい。

きっとびっくりすると思います。

 

 

"私にも、心の底から大切だと思える仲間ができたこと"

 

 

こう言うと、今までいた仲間が大切じゃなかったみたいに聞こえるけど、そういうことではなくて。

ただ、今のこの"仲間"には、不思議な繋がりがあるんです。

普通の友達とは違う、特別な何かが。

 

そしてその仲間の中でも一際特別だと感じてしまっている人。

私が今、手を引いている人。

初対面の私の弾く曲を、歌声を、素敵だと言ってくれた人。

私の好きなことをすんなりと受け入れてくれた人。

 

 

 

私が、好きな人。

 

 

********************

 

 

柚「うっわ、きれ〜〜〜〜〜い!!!」

 

梨「ほんと、とっても綺麗ね♪」

 

ずっとここで見たかった。

お台場海浜公園で望む夕焼け空。

 

燃えるように真っ赤な夕日と、徐々に赤へと染まっていく夕焼けのコントラスト。

まだ青空が広がっている部分や、混じりあって紫やピンクっぽくなっている部分。

どの部分もそれぞれの良さを思いのままに表現していて、まるでこの大空は芸術家が描く作品のよう。

 

砂浜を目の前に、板張りの歩道の端に腰を下ろし、ただ一瞬一瞬変わりゆく夕焼け空のショーに暫し見とれていました。

 

ふと私の右隣に視線を移すと、さっきまでの私と同じように、夕焼け空に見とれている柚希くんの横顔が私の視界に飛び込んできました。

長いまつ毛に高い鼻、横顔でも分かる端正な顔立ち。

これから訪れるであろう満天の星空よりも輝いている瞳。

こういうところを見ると、可愛い弟のようだと思っていても、やっぱり1人のかっこいい男の子です。

 

柚「梨子ちゃん、今日一緒に東京へ連れてってくれてありがとう」

 

梨「えっ?」

 

柚「沼津でもこの夕焼けは見られるし、梨子ちゃんとだって一緒にいられる。けどね、なんだか今この場所で梨子ちゃんとこうして夕焼けを眺めているっていうことが、とっても幸せなんだ」

 

上手く言葉に出来ないんだけどね。といってはにかむ彼を見て私はそっと微笑む。

柚希くんにはきっと、恋愛感情なんてものは今はないんだろうと思います。

だけど、今の言葉には間違いなく友達としてでの言葉ではない、何かが含まれていた気がしてなりません。

彼の頬がほのかに紅潮しているのがその証拠ではないのかなと。

 

昔から思い込みの激しかった私。

このことももしかしたら自意識過剰に捉えられてしまうかもしれません。

夕日によって照らされた頬が紅くなっているように見えただけかもしれません。

 

でもなんであれ、柚希くんにあんな言葉を言わせたのはあのまん丸の夕日。

 

だから私はこの夕日に誓いたい。

赤く燃える夕日のような、私のあなたへの熱いこの想い。

あなたに届く日まで、決して燃え尽きない炎であると。

 

柚「ふぇ?燃え尽きない炎?」

 

梨「えっ、えっ、えっ?どっ、どどどどこから聞いてたの?!」///

 

柚「えと、燃え尽きない炎ってしか言ってなかったけど……」

 

梨「ぷしゅうぅぅぅぅぅ〜〜〜……」///

 

柚「ぷしゅう?」

 

た、助かった……

どうやら漏らしたのはその部分だけでした。

九死に一生を得るとは、まさにこのことなんでしょうね……

 

柚「さて、名残惜しいけどそろそろ帰ろうか」

 

梨「う、うん、夜遅くなっちゃうものね」

 

柚「よし、じゃあ行こっか♪」

 

彼はそう言って私の手を掴んで走り出しました。

 

柚「さっきのお返し、しっかり握っててね?」

 

梨「は、はひぃ……」///

 

そう言った彼の頬は、夕日のせいではなく、紅かった。

 

 

梨子side off

 

 

 

To be continued!




いかがだったでしょーか!

んー、自画自賛じゃないですけど今回上手くいった気がします(言っちゃう)

あの緑色の同人誌のお店っていうのは、秋葉原によく行く方ならお察しじゃないですか?
秋葉原行かなくても全国展開してると思いましたけど。
この歳になってようやく行くようになりましたし、読むようになりました。
まぁでも、まだまだ全然量はないんですけど笑

さてさて、次回はソロ回ラストです!
もちろん登場するのはあのオレンジ少女です!

千「オレンジじゃなくてみ・か・ん!!!」

えっ?いやパイセン、なんの差なんですk

千「そんな違いが分からないなら……みかんの刑だよ……」

えっ、なにそれ、そんなホラーテイストに言うセリフなの?!
あっ、ちょっ、まっtギャーーーーー!!!!!

千「えへっ、それじゃあ、次回のお話でまたお会いしましょうなのだ!」

ば、(・ω・)/ばいにー☆


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お兄ちゃん

みなさんこにゃにゃちわ、お久しブリーフ。どうも、たか丸です。

前回投稿から意外と時間があきましたねぇ。
まぁ理由は色々とあるんですけども、触れない方が身のためですのでやめておきますね、はい。

にしてもなかなか終息しませんねコロナとやら。
そろそろマスク無しで外出したいですよほんと。
バイト先も客が来ないもんで早く帰らされちゃったり、バイトに行く日を少なくされちゃったり。
もうっ、まいっちんぐ♡(古い)(わかってない)
せっかく20歳になったもんだから、友達と大いに飲み会とかしたいわけですよこちらとしても。
早く終息することだけを切に願っております……

さてさて今回はソロ話ラストでございます。
我らがみかん様のお通りでござい!道を開けんか!()
タイトルはどシンプルにいきました。
色々察してからごゆるりとお読みになってください。

それでは今回も最後までお付き合い下さい。


千歌side

 

 

千「お、お兄ちゃん……

 

柚「えっ?千歌ちゃん何か言った?」

 

千「あっ、ううん、なんでもないっ!」

 

美渡ねぇから借りた少女マンガ。

出てくる主人公の女の子は、自分の兄のことを"お兄ちゃん"って呼んでた。

千歌の友達も、自分の兄のことは基本的に"お兄ちゃん"って呼ぶ人が多い。

稀に男勝りな子だと、"兄貴"とか呼んでたりするけど……

 

何が言いたいのかっていうとね、千歌だって1人の女の子なわけで、そんな少女マンガみたいなかわいい女の子に憧れたりするわけなのです。

だからまずは形から入ろうと思って、"お兄ちゃん"って呼んでみることにしたのです。

 

でもでもでも、いままでずっと"ゆづにぃ"って呼ぶのに慣れてたから、いきなり"お兄ちゃん"なんて恥ずかしくて言えなくて……

もういままで通り"ゆづにぃ"でいいんじゃないかなって思っちゃう。

 

柚「ちーかちゃんっ」

 

千「ひゃうぅっ?!なっ、ななな、なに?!」

 

柚「どうしたの?ぼーっと外なんか眺めちゃって」

 

うっ、言えない……

ゆづにぃからお兄ちゃんに呼び方をチェンジしようとしてただなんて……

10何年間一緒に過ごしてきてそんなことで悩んでるなんて恥ずかしすぎるもん……

 

千「え、えっとね……」

 

柚「うんうん」

 

千「なっ、なんでもないっ!!!」

 

柚「えっ、千歌ちゃん?!」

 

あの場所からとにかく逃げ出したくて、何も考えずに家の外に出てきた。

考えるだけでなんでか恥ずかしい。

"お兄ちゃん"だなんて、本当に言えるのかな……?

 

 

********************

 

 

千「に……にぃに……!」///

 

柚「にぃに?」

 

うわあーーーーーっ!!!

言っちゃったーーーーーっ!!!

え、なにこれ!すっごく照れる!!!

外の空気を吸って落ち着いて、段階踏んで言い方変えてみようって考えてみたけど、いきなり飛躍しすぎた?!

あーなんかもうゆづにぃこっちすごい見てくる!

「え、どうしたの?急に呼び方なんて変えて……」みたいな顔してる!

 

千「ほ、ほら!いつも千歌は"ゆづにぃ"って呼ぶでしょ?だからたまには趣向を変えてみようかな〜……なんて……」

 

柚「なるほど!うんうん、なんだか新鮮でいいじゃん!」

 

そう言ってなんでだかわからないけどゆづにぃはハグをしてくれました。

なんで?

 

柚「えへへ、"にぃに"って呼ばれ方にちょっと憧れ……じゃないけど、なんかいいなって思ってたことがあったんだ。思いがけずそれがちょっと叶っちゃった感じ♪」

 

抱擁を解いて物思いにふけるような顔で窓の外を見てそう言うゆづにぃ。

そしたら今度はニコニコしながら「にぃに」って呟いてふふって笑ってる……

これは流石にちょっと怖い……

 

柚「んー、じゃあここは俺もひとつ趣向を変えて、千歌ちゃんの呼び方も変えてみよっか?」

 

千「ふぇ?」

 

柚「たとえば〜…………()()

 

千「んにゃっ?!?!」///

 

びっくりした……///

急に呼び捨てなんてそんなのずるいよ……///

しかもなんでちょっといい声で言うの……///

 

柚「こんなのとかどう?」

 

千「ち、ちょっと刺激が強しゅぎりゅ……」///

 

ああっ、噛み噛みだぁ……

もう顔絶対真っ赤っかだよぉ……///

 

柚「千歌、なんでそんなに照れてるの?」

 

千「うーっ、いじわる〜っ!」///

 

柚「えっ、なんで?!」

 

ゆづにぃは"オトメゴコロ"ってものを理解してなさすぎる!

梨子ちゃんなんか呼び捨てにしたらきっと倒れちゃうよ?

 

ゆづにぃは自分では気づいてないだけで、すっごくかっこいい。

その上優しいわけであって、いつもみんなの事は"ちゃん"をつけて呼んでるんだけど、そんな人が急にキメキメの顔でキメキメの声で呼び捨てしてくるって、ちょっとズルすぎると千歌は考えるのです。

 

ふ、ふーんだ!こうなったら仕返ししてやるんだ!///

 

千「ねぇにぃに、千歌のことぎゅってして欲しい……」///

 

柚「え、うん、いいよ」

 

千「ちょっとは躊躇ってよーーーっ!!!」///

 

柚「えぇ?!」

 

なーんの躊躇もなく抱きにくるもんだからびっくりしちゃった。

"てんねんじごろ"?っていうやつはほんとに怖いねぇ……

 

千「でも……」

 

柚「?」

 

千「やっぱぎゅってして……」///

 

柚「お?何やら心がジェットコースターのようだね……はい、ぎゅーーー」

 

あぁ、ゆづにぃで身体が満たされていく感じ……

あったかくてやさしくて、おちつく……

 

柚「千歌、いい香りがする……」

 

千「よっ、呼び捨て禁止〜〜〜っ!!!っていうか、嗅がないでーーー!!!」///

 

********************

 

 

柚「千歌、怒ってるの……?」

 

千「怒って……ないし……」///

 

美「なんだー?珍しく喧嘩かー?」

 

志「あら〜、若いわねぇ〜♪」

 

はぁ、2人の姉は呑気だし、ゆづにぃは呼び捨て気に入っちゃったみたいでずっとそう呼んでくるし……

なんか呼び方1つで悩んでる千歌がバカバカしく思えちゃうよ……

 

美「喧嘩なんてしてっとご飯が美味しくなくなるぞー?」

 

志「美渡?私の作った料理が美味しくないみたいな言い方してるわね?」

 

美「げっ、めんどくさいのに絡まれた……」

 

志「ん〜〜〜〜〜???」

 

柚「あー、ほらほら2人とも喧嘩しないの〜!お仕事頑張って!」

 

美「へいへーい……くそ、どこまでブラックなんだうちの会社は……」

 

志「まさかこの時間に素泊まりしたいだなんてびっくりだわ〜、困ったものねぇ……」

 

お互いにお仕事がまだ少し残ってるみたいで、志満ねぇも美渡ねぇも晩御飯の準備をしてくれたらすぐに仕事に戻っちゃった。

 

時刻は19時。ゆづにぃとお互いの呼び方の話をしてたらいつの間にか日は傾いて、明日に備えて太陽は水平線の向こう側へ休みにいった。

また明日、私たちを優しく照らしてね〜♪

 

呼び方を変えられて、千歌はただただ恥ずかしくてゆづにぃに対してぎこちなくなっちゃってるけど、どうもゆづにぃはまったく気にしていないみたい。

それどころか"にぃに"って呼ばれてまだ嬉しそうにしてるし。

テンション上がってずっと千歌のこと呼び捨てにしてくるし。

 

いま食卓を囲むのは千歌とゆづにぃの2人きり。

もうっ、なんでこんな時に2人ともお仕事が残ってるのかなっ?!

千歌としてはとてもとても気まづいんですけど!

 

なんて口に出さずに色んなこと考えながら、食卓に並んだ唐揚げを一つ頬張り、白米をかきこむ。

唐揚げには流石の千歌もみかんをかけずにレモンをかけて食べる。

何にでも"合う合わない"はあるわけだしね。

 

合う……合わない……

 

じゃあ千歌がゆづにぃのことを"にぃに"って呼んでみたり、"お兄ちゃん"って呼んでみたがってるのは、もしかしたら千歌に"合ってない"……?

 

柚「ふふっ、千歌ちゃん。そんな顔でご飯食べてるとせっかく作ってくれた志満ねぇが悲しむよ?」

 

千「あっ……ご、ごめん……」

 

柚「……自分らしさってさ、難しいよね」

 

千「えっ?」

 

突然雰囲気が変わったように話し始めたゆづにぃ。

 

柚「自分で決めたわけでもないのに、勝手に相手から付けられた印象通りに振る舞わないといけないって感覚に陥る」

 

なんで急にこんなことを言い始めたのかはわからないけど、今の千歌にピンポイントすぎる話。

 

柚「兄弟って、俺たちは兄妹(けいまい)だけど。家族って、遠慮しちゃダメなんだよ、千歌ちゃん」

 

千「…………」

 

間違いない。どうしてかはわからないけど、ゆづにぃは千歌の気持ちに気づいてる。

ゆづにぃと家族になった経緯はいろいろと複雑なものがあるけれど、それでも間違いなくゆづにぃとは紛れもない家族なんだ。

 

千歌らしさ。

それを家族の前でも作ってまで振る舞う必要なんか、なかったんだ。

 

柚「好きなように、自分の思うままに、それが出来るのが"家族"でしょ?」

 

千「……うん、そうだね。千歌が間違ってた……ありがと、ゆづにぃ」

 

ほんと、とことん鈍いくせにこういうことはすぐ気づくんだからずるい。

 

呼びたいように呼ぶ。

それでいいんだ。

それで嫌だって言われたらやめればいい。

まぁ、ゆづにぃはなんて呼んでも喜んでくれそうなんだけど……

 

柚「さてと、お腹すいたし、早く食べよ食べよ!」

 

千「うんっ!……はい、ゆづにぃ、あーーーん」

 

柚「えっ、えと、えと……」

 

千「誰が見てるわけでもないんだよ〜?ほらほらは〜や〜く〜っ!」

 

柚「あ、あ〜〜〜……ん……うまうま……」

 

千「どうどう?千歌があーんしてあげると余計に美味しく感じるでしょ?」

 

柚「それはそれは大好きな妹があーんしてくれるんだもの、おいしくないことがあるだろうか、いやない」

 

千「ふふん、そうでしょうそうでしょう♪」

 

千歌は千歌のままで。

大好きなゆづにぃの妹として。

ずっとこの想いをゆづにぃに捧げるよ♡

 

千「……大好きだよ、お兄ちゃん♡」

 

 

 

千歌side off




いかがだったでしょうか!

いやもうブランクが!!!
すっごいブランクが!!!
どうしようもないですねこりゃ笑笑
ひゃ〜……ちょっと実力つけ直してからまた来ますね?笑笑

ちなみに次からはちょいと柚希くんの過去についてお話していきたいと思います。
千歌ちゃんの義兄となった経緯だったりを語らいたいと考えています。

とにかく寝不足故に頭が痛いのでもう寝ます(AM 11:00)

では、次回のお話でお会いしましょう。
(・ω・)/ばいにー☆


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高海柚希

あめんぼ あかいな あいうえお
かきのき くりのき かきくけこ
ささげに すをかけ さしすせそ
たちましょ ラッパで たか丸です(?!)

発声練習してましたわ〜()
これ効くんですかね?どうなんでしょ?

さてさて、今回は柚希くんの過去についてお話していきたいと思います。
少しつらく、悲しいお話です。
でも、今の柚希くんを作り上げた過去のお話を、ぜひ皆様にも読んでいただきたいと思います。

それでは今回も最後までお付き合いくださいませ。


柚希side

 

 

俺は親の顔を知らない。

正確には、もう覚えていない。

 

"親"っていうのはもちろん"高海家"の、"今"の親のことを指している訳ではない。

()()()()のことを言っている。

 

顔は愚か、身体的特徴、果てには名前なんかも、俺の記憶からすっ飛んじまってる。

 

千「ゆーーーづにぃっ!」

 

柚「わっ、どうしたの千歌ちゃん」

 

千「へへ、ボーっと外を眺めてるから何してるのかな〜って思って!」

 

千歌ちゃんらしい、なんて言うだけ野暮だね。

でも、柄にもなく物思いにふけっていた俺を、現実に呼び戻してくれたのはありがたかった。

 

柚「ううん、別になんでもないよ」

 

千「……………そっか」

 

あぁ、バレてる。

 

()()()()()()()()、千歌ちゃんには。

稀にだけど、千歌ちゃんが何か俺が隠し事をしているのを気がついてしまう時があるんだ。

 

小2のころ、男友達とやんちゃして学校の花瓶を割って、先生に正座させられて怒られたこと。

小5のころ、小6に絡まれて殴り合いの喧嘩でデカい怪我をしたこと。

中2のころ、先輩にちょっとアダルトな本を借りたこと。

 

全部隠そうとしてバレたんだ。

エロ本に関してはマジギレされたのはいい思い出……

それで志満ねぇや美渡ねぇにバラそうとするもんだから焦った焦った。

中2なんてのはお年頃なんだから、許容してくれてもいいじゃないのと思ったけど、口に出したら千歌ちゃんが最悪まともに目を見て話してくれなくなると思ってやめた。

 

千「ね、ゆづにぃ」

 

柚「ん?」

 

千「ちょっと、2人でお散歩しない?」

 

ちょっぴりネガティブになってた心を晴らしてくれる、明るくて元気な千歌ちゃんの声。

義妹(いもうと)ではあるけれど、ふとした瞬間に姉のような、母のような、安心感を与えてくれる。

女の子っていうのはやっぱよくわかんないなぁ。

 

柚「よろこんで、お付き合いするよ」

 

 

********************

 

 

千「きれい……」

 

柚「うん、きれい」

 

内浦の海。

今までは苦痛でしかなかったこの景色も、今なら好き好んで見られるようになった。

やっぱり素敵な風景だ、気持ちが安らぐ。

 

千「千歌ね、悩んだり落ち込んだりすると、いつも海を見てるんだ」

 

柚「え?」

 

千「海ってすっごく広いでしょ?だからそれに比べて小さな私の、さらにその内側の小さなことなんてバカバカしくなって、笑えてくるの」

 

そう言った千歌ちゃんの瞳は、今まで見た事ないくらいに大人びていた。

"今"じゃなくて、もっとどこか遠くを見ているような。

 

千「ありきたりな言い回しなんだけどね。でも、ほんとにそう思うんだ」

 

かと思うと、今度はいたずらっ子のような笑顔を見せる。

この子はまるで一瞬で顔を変える百面相のよう。

 

千「ねぇゆづにぃ。ゆづにぃのお話を聞かせて欲しいの。()()()()()()()

 

柚「!!!」

 

千「今すぐじゃなくていい、話せるようになったら聞かせて?」

 

ここに、来る前のこと。

親のことを忘れているって確かにさっき言った。

けどそれは半分本当で半分嘘だ。

名前、身体的特徴、顔、その他諸々のことは忘れている。

ただひとつ、覚えているもの。

 

それは声。

 

威厳があって、強くて、屈強な男を体現したかのような声の父。

おおらかで、優しくて、みんなを暖かく包み込むような声の母。

 

そんな、両親の声だけはいまだに耳に残っている。

 

けれど俺はその声を、最期の声を、聞くことは叶わなかった。

 

この話をするには、相応の覚悟が、語る側にも語られる側にも必要だと思う。

それだけ重たい話だから。

 

だからこそ、大好きな妹にこんなツラい話をするのは躊躇われる。

悲しい顔は見たくないから。

 

でも千歌ちゃんは歩み寄ってくれた。

俺の過去を知りたいと、そう言ってくれた。

 

いずれ訪れる()()()()()()()が、今日だっただけなんだ。

 

柚「……俺がこの家に来たのは11年前――」

 

 

********************

 

 

そう、11年前の夏。

俺が6歳の時。

 

両親が死んだ。

 

殺害された。

 

俺の両親が殺されたこの事件は、あまりにも残虐的な出来事で、全国的に報道された。

 

強盗殺人。

 

それも最悪の手口だった。

 

犯人の証言によると、空き巣目的で侵入した家にたまたま帰宅してきた俺の両親と鉢合わせ、キッチンにあった包丁で父と母を……。

 

そしてそのまま現金や貴金属類を盗み、逃走したという。

 

犯人の証言って言ったからわかると思うけど、ちゃんと捕まっている。

 

その犯人っていうのが――

 

 

 

俺の叔父だった。

 

無類のギャンブル好きで、勝つとこれでもかという程にみんなに振舞ったり、自分で使って豪遊したり、そんな生活をしていた叔父。

 

しかしある時、まったく勝てなくなったという。

 

賭け事に使う額は変わらない故、ずっと勝てないという状態が続けば、もちろん資金は底を突く。

 

金融機関で借金をしてギャンブルをするものの、まったく勝てず返済も出来なくなり、借入も出来なくなった。

 

あの人にとってギャンブルというものは"(せい)"そのもの。

 

生きる上で、息を吸うことのように重要なファクターだった。

 

ギャンブルが出来ない、それは叔父にとって死を意味した。

 

自慢じゃないけど、俺はある程度裕福な生活が出来ていたと、朧気ながら記憶している。

 

食べ物にも、洋服にも、住処にも、自由にも、不便なことは無かった。

 

だからこそ、あの人に狙われてしまったのだろう。

 

 

犯行は平日に白昼堂々と行われた。

 

本当に平日の真昼だったが故、幼稚園に行っていた俺は、不幸というか幸というか、助かってしまった。

 

だが待ち受けていた現実は、6歳の幼子にはあまりにも酷だった。

 

大好きだった両親が忽然と消えたという現実。

 

6歳という幼さ故に、"死"が何を意味するか分かっていなかった。

 

混凝土(コンクリート)を征くアリを踏んでみたり。

生を求めて人間の血を吸うべく飛んでいる蚊を潰してみたり。

蒲公英(たんぽぽ)の綿毛を飛ばすために茎からむしり取ってみたり。

 

"人間の死"というものがそれと同じことを意味するなど、露ほどもわかっていなかった。

 

 

俺はこのまま一人で生きていくわけにもいかず、結論からいえばすぐにこの高海家に引き取られることとなったのだが、なぜこの家だったのか。

 

それは、両親が結婚前も結婚後も好んで沼津旅行に行き、宿泊した旅館がこの十千万だったからだ。

 

沼津の景色と人の温かさに魅了された両親は、移住することも考えていたと、今の母さんから聞いた。

 

どうやら家族ぐるみで親交があったようで、俺が赤ん坊のときも実は母さんだけでなく、志満ねぇも美渡ねぇも知っているみたいだ。

 

その強い繋がりがあったから、俺はこの家に引き取ってもらえた。

 

初めのうちは両親の死を理解していない俺だったため、母さんからは「仕事の都合で2人とも海外に移住するから、柚希を預かっていて欲しいって言われてる」と伝えられ、()()()が来るまでそれを信じきっていた。

 

()()()

 

俺が10歳になった時。

 

母さんから伝えられた真実。

 

両親は死んでいる。

 

叔父に殺された。

 

もう、帰っては来ない。

 

6歳の頃に比べたら多少は成長しているが、それでもまだ10歳。

 

悲しみや怒り、様々な感情が混ざって、どこにぶつけたらいいかも分からず、酷く母さんに当たってしまった。

 

真実は残酷、嘘は優しい。

 

優しい嘘に踊らされ、突然残酷な真実を突きつけられた10歳の少年。

 

その現実を受け入れるのに時間はかかった。

 

高海家での生活もかなり慣れ、今までの生活を忘れかけていたそのタイミングで。

 

俺は浅はかな考えから、自分も死んでみようと考えた。

ここで死ねば父さんにも母さんにも会える。

そうすればまた3人で仲良く暮らせる。

 

いざキッチンのナイフを逆手に持ち、自分の胸に突きつける。

これを押し込めばまた会える。

 

でも。

 

出来なかった。

 

 

俺の手を止めたのは、両親だった。

 

正確には、両親と思われる人。

 

この時既に俺は、真実を伝えられたことによるショックで記憶が混乱状態にあった。

 

結局この記憶の混乱は回復することはなく、今も両親の記憶はほぼない。

 

しかし何故かこの時だけは、死のうとする俺の手を止めたのは両親だったと自信を持って言える。

 

理由は今でもわかっていない。

 

だけど、あれは間違いなく両親だった。

 

おかげで今もこうしてピンピン生きていられる。

 

 

 

俺がこの家に来た時、唯一持ってきたものがある。

 

それは、前の家に飾ってあったとある(がく)

挟んであるものは、おそらく父が書いたであろう書。

 

"置かれた場所で咲きなさい"

 

そう(したた)めてある。

 

なぜこれを持ってきたのかはっきりとは覚えていないけど、確か父に日頃から教訓のようにこの額の前で言われていたからだったと思う。

 

もちろんちゃんとした意味なんて分かっていたはずがない。

 

でもなぜかあの時は、おもちゃより、お菓子より、なにより、これが必要だと感じたのだろう。

 

いやはや、子供というのはやはりわからない。

 

その額は未だに持っていて、俺の部屋に飾られている。

 

千歌ちゃんに「誰かにもらったの?」とか聞かれても、なんだかんだ誤魔化してた。

きっと怪しんでたよね。

 

俺は、この言葉を胸に日々生きている。

 

それは、覚えていないなりに両親のことを忘れないようにしているから。

 

あっちでの生活を、記憶が混乱したからといって無かったものにしたくないから。

 

 

********************

 

 

千「そう……だったんだ……」

 

柚「これを話すのに、すごく勇気が必要だった。どうしても千歌ちゃんの悲しむ顔を見ることになっちゃうと思ったから」

 

頬を伝って流れ落ちる涙。

腰掛けていた砂浜の色が涙で変わっていた。

 

やっぱり悲しませてしまった。

心苦しいけど、千歌ちゃんには知る権利が、義務がある。

家族に隠し事は無しだと決めているから。

 

俯いて涙を流す千歌ちゃん。

小刻みに体を震わせているところを見ると、やはり堪えるものがある。

 

柚「ごめん、ごめんね」

 

後ろから千歌ちゃんを抱きしめ、震える手を握る。

 

千「千歌、決めたよ……ゆづにぃのこと、ずっと離さない。ずっと守り続ける。ずっと……愛し続ける……」

 

柚「……っ、千歌ちゃん」

 

千「これからもずっと、笑顔でいてほしいから、千歌は……」

 

柚「千歌ちゃん……」

 

嗚咽混じりのか弱い声で、ずっと愛し続けるって言ってくれた、大好きな義妹(いもうと)

 

自然と力が入る俺の両の腕。

 

柚「情けないね、妹に励まされるようじゃ……」

 

千「そんなことないっ、ゆづにぃは情けなくなんてない!」

 

さっきまでのか弱い声が一転、熱のこもった力強い声になった。

少し涙声ではあるけど。

 

千「それに、千歌たちはもう、()()なんだよ?妹だって、弱気になってる兄なら励ましてあげたくなるに決まってるじゃん!」

 

柚「!」

 

ハッとした。

疑っていたわけじゃないけど、深層心理ではおそらく考えていたのだろう。

高海家の一員ではあるが、俺だけ血の繋がりは当然ない。

養子という形でこの家に来たのだから当然である。

 

だからこそ、勝手に感じている疎外感があった。

急に来た血の繋がりのない男。

きっと煙たがられているんだ、受け入れられやしないんだ。

この家に来た頃は何度もそう思って枕を濡らした。

 

今はまったくそんな気持ちはないと思っていたんだけど、どうやら心の奥底で考えていたみたい。

 

柚「家族、かぁ……」

 

千「だからさ、隠さないで弱いところも出していこうよ、ゆづにぃ」

 

柚「……より一層、カッコ悪い兄貴になるけどいいの?」

 

千「元がかっこいいからへーき」

 

柚「悲しい時はハグとか頭なでなでとか求めるかもよ?」

 

千「いっぱいしてあげる」

 

柚「…………ありがとう」

 

 

キスをした。

 

 

もちろん頬に。

 

 

親愛と感謝の意味を込めて。

 

 

柚「かっこいい兄貴になれるように、頑張るから」

 

千「……うん、がんばれゆづにぃ!」

 

 

俺は、"高海柚希"。

過去の姓は残念ながら忘れてしまった。

親の顔も、名前も、姿形も忘れてしまった。

微かに耳に残る両親の声。

千歌ちゃんの力強くあったかい声が、2人の声に重なる。

あぁ、両親はきっと千歌ちゃんと一緒に、俺を見守ってくれてるんだなと、感じた。

 

 

形見代わりのあの額に記されている言葉のように。

今この場所で、きれいな花を咲かせるべく、俺は今日も必死に生きていく。

 

柚希side off

 

 

 

To be continued!




さてさて、いかがでしたでしょうか?

人の死を実は私は知りません。
とはいっても、死というものが何を意味するかというのはさすがに分かります。
幸か不幸か、身近な人が亡くなったという経験がまだ生まれてこの方なく、その悲しみはまだ感じたことがないのです。
きっと想像もできない悲しみに明け暮れ、前を向くのも難しいのではないかなと思っています。

そんな中、今回作品として柚希くんの両親が亡くなるという描写をさせていただきました。
人の死を知らない私がこういうことを書くのにはすごく躊躇いました。
「現実ではないから……」という軽い理由でもちろん書いたわけではありません。
死を描くというのは、非常に重いものだから。

でもきっと、絶対に誰もが行き着く最後の出来事。
向き合わないわけにはいかない時が来るはずです。
慣れておけ、なんて言いません。
身近な人がその最後の出来事に行き着いた時、いかに前を向けるか。
その人のためにも前に進めるか。
この度、ゆっくり考えて描きました。

しんみりしてしまいましたね。
このお話は柚希の過去とは切っても切り離せないものになっていくと思います。
過去無くして今は無し。
しかし向くべきは前。
作者共々この作品を通じて、まっすぐ前を見て歩み続けていきたいと思います。
応援のほど、よろしくおねがいします!

それでは、また次回お会いいたしましょう!


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モノクロ→カラフル

みなさんこにゃにゃちわ、たか丸です。

長いこと、本当に長いこと期間が空きましたが、ずっと書きたかった柚希と梨子ちゃんの出会いを鋭意制作させて頂いておりました。

いつも以上に駄文をつらつらと述べてしまった気がしますが、お時間よろしければ読んでいただきたく思います。


梨子 side

 

色のない私の世界を鮮やかに彩ってくれる。

 

いつか、いつかはそんな人に、そんな場面に出会える。

 

そしてその時はきっと、唐突に訪れるものだと思っていました。

 

実際にその出会いはあまりにも唐突でした。

 

?「おーーー、素敵な曲だね」

 

新しく通う学校に手続きに来た際、音楽室に訪れてピアノを弾いていた時でした。

にこにこの笑顔で拍手を送ってくる人。

 

同い年くらいの男の子でした。

黒髪で前髪を少し上げた七三分けみたいな……そんな髪型。

瞳はなにか悲しいものを抱えていそうな反面、優しさに溢れた澄んだ綺麗な黒。

端正な顔立ちは男らしいというより中性的。

細身で背が高い、そんな特徴の男の子。

 

梨「あ、ありがとうございます……」

 

なかなか男の人と1対1で話すことがないから少し緊張。

いつもより少し速い鼓動がそれを物語る。

 

?「もしかして、自分で作った曲?」

 

梨「あ、いえ、これは"バダジェフスカ"の"乙女の祈り"っていう曲です」

 

?「……?」

 

あ、なんだそれって顔してる……

頭の中がハテナマークでいっぱいになってそうな顔してる……

 

?「あはは、ごめんわかんないや……でも素敵な演奏だったよ!」

 

梨「ど、どうも……」

 

屈託のない笑顔で私の演奏を褒めてくれる名前も知らない男の子。

なんだか悪い人じゃなさそう。

 

?「キミ、この学校の制服着てるけど……この学校の人じゃ……ない、よね?」

 

梨「は、はい。えっと、東京から引っ越してきて……」

 

?「東京?!すごいなぁ!え、なんでまたこんな田舎に?」

 

梨「うーん……なんというか、少し環境を変えるため、ですかね」

 

なんでだろう。

素性も知れない男の子だけど、少し踏み入った話でも喋っちゃって大丈夫だなって思えちゃうんです。

 

?「ふぅ〜ん……てかごめん、キミの名前聞いてなかったね。ここの制服着てるし、これからここに通うんでしょ?」

 

梨「あ、はい、私は桜内梨子です。高校2年生です。東京の音ノ木坂学院高校から転入してくる予定です。この学校に通うのは手続きとかでもう少し後なんですけど……」

 

?「音ノ木坂?!ほぇ〜、そりゃすごい……っと、俺は高海柚希!この浦の星学院高校の同じく2年生!これからクラスメイトになると思うからよろしくね、梨子ちゃん!」

 

太陽のような眩しい笑顔。

心の底から笑えているような素敵な笑顔。

 

そんな笑顔に自然と惹かれたように思います。

触れなくても頬が紅潮しているのが分かるから。

 

フランクな話口から、最初は少しだけ、ほんの少しだけ嫌な感じがしたけれど、話していくうちに彼のあたたかさに触れ、そんな気持ちは微塵も感じなくなっていました。

 

……いきなりファーストネームで呼ばれたのはさすがにびっくりしたけれど。

 

なんだか彼には不思議な縁を感じました。

 

 

**********

 

柚希side

 

 

千「ゆづにぃただいまぁ〜!」

 

柚「ん、おかえり千歌ちゃん。なんだかご機嫌だね?」

 

千「うん!さっきそこの浜辺で東京から来た女の子に会ったんだ!」

 

東京から来た女の子かぁ。

千歌ちゃんみたいなどこか抜けててちょっぴりドジなこっちの田舎娘とは違って、しっかり者でおしとやかでおっしゃれ〜な感じなんだろうなー。

 

千「ゆづにぃ、絶対に失礼なこと考えてるでしょ?」

 

柚「んえっ?!そ、そんなことないよ!」

 

千「ふぅ〜〜〜ん……」

 

どうして心の内が読めるんだこの子は……

 

千「ま、いいけどさ。その子、()()()()()っていって、ピアノをやる環境を変えるためにこっちに来たんだってー」

 

ん……?梨子ちゃん??

数日前に浦の星で会ったあの子?

 

柚「その子ってなんというか、静かそうな美人さん?」

 

千「そうそう!……ってなんでゆづにぃ知ってるの?」

 

柚「この前浦の星でたまたま会ってね。今度から浦の星にかよ──」

 

千「なーーーんで鼻の下少し伸びてるのーーー?」

 

柚「え゙っ゙」

 

思わず手で隠したけど、逆にそれが怪しまれたみたいで……

 

千「ふーんだ!どうせゆづにぃは都会の美人さんにしか興味のない面食い男なんだよねーだ!かんかんみかんだもんねーだ!!!」

 

よくわかんない言葉を残して自室へドタドタと向かった。

美渡ねぇに途中で「うるせぇぞバカチカ!」とお叱りの言葉を頂戴してたけど。

 

にしても。

 

柚「……伸びてたかなぁ?」

 

だとしたら何故だろう?

やましい事なんて何も考えてないのになぁ。

 

とはいえ、千歌ちゃんも梨子ちゃんに会ったんだ。

しかもそこの浜で会ったってことは、越してきたのはこの近くなのかな?

学校で会えるのはもちろんだけど、普段も会えるなら嬉しいや。

 

柚「……いや、何が嬉しいのか全然わかんないケド」

 

まだ1回だけ学校であっただけの人なのに。

 

だけどそんな考え方をするとなぜか、心が少し、チクチクする。

 

柚「疲れてんのかな……晩御飯まで少し横になろう」

 

 

**********

 

梨子side

 

 

梨「ふ〜……」

 

力が抜けるように私はベッドに倒れ込みました。

 

梨「今日も疲れたなぁ……でも今日はピアノの調子がいつもよりよかった。いつもより弾けた」

 

東京では思うように弾けなかったピアノも、ここに来てから少しだけ調子が出てきたと思います。

 

目を閉じると思い出すあの光景。

 

ステージ上、圧倒的な存在感を放っている大きな楽器。

 

ライトに照らされ黒光りしているその楽器は、いつも私が相対しているものとは、どこか違う。

 

感じたことの無い恐怖に、身体を支配されているようでした。

 

深呼吸をひとつして、私はその楽器と向かい合います。

 

美しき白と黒のコントラストを持つ鍵盤。

 

その鍵盤に手をかけようとしても、身体が言う事を聞きません。

 

私は、"ピアノ"という楽器に取り込まれそうになります。

 

私が思うままに弾くのではなく、ピアノに弾かされてしまうのではないかと、そんなことまで考えてしまいます。

 

身体が震える。息が苦しい。

 

次の瞬間には、私の視界は、

 

 

白黒。

 

 

鍵盤を弾く度に溢れる色鮮やかな音は、その日以来、見ることも感じることも叶いませんでした。

 

私の世界から色は消え、全てがモノクロに変わってしまったのです。

 

 

ハッとして目を開くと、私の頬を涙が伝っていました。

 

梨「私……また泣いて……」

 

全く弾けなくなった当時に比べたらマシになったものの、私はまだ過去の出来事に囚われ、怯えているのです。

 

──また弾けなくなるかも、と。

 

幼い頃からピアノを弾くことは、私にとって人生を華やかにする唯一の楽しみでした。

弾くことが出来れば出来るほど、私は空を飛ぶような心地がしていました。

自分がキラキラと輝いて、まるでお星様になっているかのように。

 

そんな楽しみが苦しみに変わったのは、高校に入学してしばらくがたった頃でした。

 

国立音ノ木坂学院高校。

 

古くから音楽に力を入れるこの学校で私は、ピアノの才を更に伸ばそうと決意して入学しました。

 

しかし現実はそう甘くはなく、高い高い"壁"にぶつかることになるのです。

 

「思うようにピアノが弾けない」「弾けても楽しくない」

 

次第に"ピアノ"という存在が私を苦しめるものに変わってきたのです。

 

そうしてそんな感情を抱いた私は、さっき述べた出来事が最大の原因となり、鍵盤に手を置くことを辞めていました。

 

ピアノから離れようとする私を心配してくれた母が、内浦に引っ越すことで環境を変えようとしてくれました。

 

事実、都会の喧騒とはかけ離れた小さな田舎町でのびのびと数日間過ごしただけで、私は再びピアノに向き合うことが出来ました。

 

とはいっても、苦しい気持ちが完全に消えた訳ではなく、易しい曲を軽く弾く程度まで克服してきたレベルです。

 

梨「はぁ……」

 

溜め息がひとつ、夕日の明るさが少し残る部屋にこぼれます。

 

梨「お風呂入ってスッキリしてこようかな……」

 

ぽつりと独り言を呟き、体を預けていたベットに別れを告げ立ち上がる。

 

少し皺の付いた制服を脱ぎ、ラフな格好になりました。

というのも、隣の家がどうやら旅館であるらしく、温泉だけの利用も出来るみたいなので行ってみようと思ったのです。

母に温泉に行くと伝え、ふらふらと重たい足取りで私は家を出ました。

 

家を出て僅か10数秒、旅館『十千万』に着きました。

旅館の名前にはもちろん何か意味があると思うんですけど、さすがに何を意味しているのかは分かりませんでした。

 

梨「ごめんくださ――きゃっ!」

 

?「わっ、ごめんなさい!怪我はないですか?」

 

梨「は、はい、大丈夫で……って、柚希、さん?!」

 

柚「ん?……ありゃ梨子ちゃんだ!」

 

旅館の暖簾をくぐった瞬間、旅館から出てきた人とぶつかってしまいました。

誰かと思えば柚希さん。

数日前に会って以来の再会でした。

 

柚「こんなとこで会うなんて奇遇だね。どしたの?温泉入りに来たの?」

 

梨「えと、は、はい。母にここの温泉が評判だって聞いて、近かったから来てみたんです」

 

柚「ほ〜!そりゃなんともありがたい!」

 

ありがたい……?

なぜ柚希さんがありがたがるんでしょう?

 

柚「ん?ああ、実はここ俺が住んでる家なんだ」

 

梨「えっ、旅館がお家なんですか?!」

 

柚「へへ、そうなんだ〜。てか梨子ちゃん、タメなんだし敬語じゃなくていいんだよ?」

 

梨「そ、そうですよね……じゃなくて、そうだよね」

 

旅館がお家なんて羨ましい。

毎日温泉入り放題なのかな?

 

柚「っと、こんなとこで立ち話してちゃいけないね。ささ、入って入って!」

 

梨「お、お邪魔します…」

 

柚「お客様一名様ァ!ご案内ィ!」

 

えっ、えっ、えっ?

厳かな雰囲気の旅館なのに、もしかして結構ガテン系な掛け声使うの?

 

?「バカ柚希!その掛け声居酒屋でやるやつだろーが!静かにしろ!」

 

柚「あひー!美渡ねぇごめんなさーい!」

 

梨「ぷっ……!」

 

多分柚希さんのお姉さんなんだろうけど、注意してる側も声大きいし、すぐ素直に謝る柚希さんが面白くって、つい吹き出してしまいました。

 

柚「ひー……あ!梨子ちゃんやっと笑った!」

 

梨「えっ?」

 

柚「最初に浦の星でピアノ弾いてる梨子ちゃん見た時も、さっきばったり会った時も、すごく寂しそうな……何か少し楽しいことを忘れちゃってるような顔してたからさ。ちょっと元気づけてあげたくて……見当違いだったかな?」

 

梨「……」

 

正直、驚きました。

まだ出会ったばかりの、お互いのことをほとんど知らない男の子に、私の感情を読まれてしまったから。

 

柚「あれ……ほんとに違ったかな……?」

 

梨「えっ?あ、違くて……じゃなくて、違くないの……」

 

突然の事で、話していて私自身ちゃんと意味のある言葉を使えているのかわかりませんでした。

 

柚「……何かわけありなのかな?」

 

梨「なんていうか、私の気持ちの、心の問題なの」

 

柚「話しづらい事だったりする?」

 

本当は話しづらい。

ピアノに怯えているだなんて話をしても、変な人だと思われるかもしれないし、からかわれてしまうかもしれない。

東京にいる時でさえ誰にも話さなかったそれを、ほとんど素性もしれない男の子に話すだなんて考えられない。

 

そんな感情には驚くべきことに、一切駆られなかったのです。

 

私は柚希さんに案内された旅館のロビーで、東京で私が体感したことを赤裸々に話しました。

 

ピアノが大好きだったこと。高校に入ってからその感情を失いかけたこと。

そして、沼津に来たこと。

 

どちらかというと内向的な性格の私にとって、身の上話を出会ったばかりの男の子に話すということは、正直想像すら出来ませんでした。

 

だけど柚希さんは、柚希さんだけには、そんな話をしても大丈夫だという根拠の無い確信がありました。

 

事実、柚希さんは私が話している間ずっと私の目を見て、時折何かを考えるような顔をして、私の話を真摯に受け止めてくれました。

 

一通り話し終わった私の目尻には、涙が少しだけ溜まっていました。

 

柚希さんはそんな私を見てそっと、ハンカチを差し出してくれました。

 

柚「こんなこと言うと"お前に何がわかるんだ!"って言われちゃうかもだけど、すごく大変な思いをしてきたんだね」

 

外の方に顔を向け、少し目を閉じる柚希さん。

 

その横顔がとても整っていて、少しだけ鼓動が早まるのを感じました。

 

梨「ごめんね、まだ知り合って日が浅いのに、こんな話急にしちゃって……」

 

柚希さんが差し出してくれたハンカチで涙を拭いながら、柚希さんに話しかける。

 

ゆっくりと目を開いた柚希さんはこちらに顔を向け、優しく微笑みました。

 

柚「謝らないで。むしろデリケートなことなのに話させちゃってごめん。つらい思いを掘り返しちゃってごめん」

 

梨「ううん、大丈夫だよ。私が聞いて欲しかったから話しちゃっただけだし、謝らなきゃいけないのは私の方」

 

そう言って私は外の方に目をやり、夕日が完全に沈んだ海を眺めていました。

 

そんな私を見て柚希さんも視線を外に移しました。

 

やっぱり言わなければよかったんだと、少しだけ後悔している自分が心の中に現れ、誰かに話して少しでも気を楽にした方がいいという自分と争いをはじめました。

 

以降、私も柚希さんも口を開くことなく、ただ気まずい沈黙がこの場を支配していました。

 

時計の秒針が動く音。外から聞こえる波の音。時折走り去る車の音。

 

全ての音が鮮明に聞こえるほどの静寂でした。

 

柚「……これは俺の勝手な考えだから、気分を悪くしたら申し訳ないんだけど」

 

そう言って静寂を切り裂いた柚希さんは、立ち上がって私の目の前に跪き、優しく私の手を柚希さんの手が包み込みました。

 

あまりに突然の事で、一瞬で頬が紅潮したのが分かりましたが、そのことに柚希さんは気付いていないのか、そのまま話し始めました。

 

柚「楽しくピアノが弾けないっていう気持ちは常に持っていていいんじゃないかな?」

 

梨「えっ?」

 

柚「俺がずっと続けてきたことに"演劇"があるんだけど、梨子ちゃんと一緒、でいいのかわからないけど、1回とっても高い壁にぶつかっちゃったことがあったんだ」

 

少し俯きながら柚希さんは、私に語りかけるように優しく話してくれます。

 

柚「多重人格者の役で、何個もの性格とか語り口とか、果てには声音まで変えるようなすごく難しい役で、何やっても複数の人格の役を作ることが出来なくて、そんな自分に腹が立って、小学生の時から大好きだった演劇が嫌いになった瞬間があったんだ」

 

確かに多重人格を演じ分けるのは難しそう。

何も出来なくなって、そのもの自体が嫌になるっていうのは私も同じだから、すごく共感できる話。

 

柚「でも、俺は途中で投げ出して諦めることだけはしたくなかった。だからめちゃくちゃ努力して、寝る間も惜しんで役作りに没頭したんだ」

 

梨「寝る間も惜しんでって……すごい努力をしたのね」

 

柚「あはは、ありがと」

 

にこっとはにかむ彼を見て、また少し鼓動が早まります。

 

柚「それで結局役作りが完璧じゃないまま本番を迎えることになっちゃって、わけがわからないまま演技をせざるを得ない状況で、頭の中ごちゃごちゃになって舞台上でぶっ倒れちゃって」

 

梨「倒れっ……ええっ?!」

 

柚「役に飲まれちゃったんだよね。そんでこんなことになるなら演劇なんてやらなきゃよかったー!って、一時期考えちゃって……」

 

確かに、そんなことがあったら大好きなことも嫌いになっちゃいそうです。

 

柚「でもね、そうなっちゃったのは全部自分のせいだなって、冷静になって考えてみたらそう思えたんだ。自分じゃまだまだ完璧に演じられない役があるって気づけたし、だからこそ努力のしがいがあるって気づけた」

 

すごい……

ピアノが上手く弾けなくて、嫌になって逃げ出した私とは正反対。

 

梨「柚希さんは、強い人だね」

 

柚「ん、そんなことないよ。今でも上手く出来ないことに直面すると絶対に1度は逃げ出しちゃうからね」

 

あはは、と苦笑いを浮かべる柚希さん。

 

きゅっと私の手をさっきより少しだけ強く握った柚希さんは、顔を上げて私の目を見て、また話し始めました。

 

柚「だからね、どれだけ好きなことでも"これは出来ないな"って壁にぶつかる瞬間は絶対にあると思うんだ。でもそれを乗り越えた先にはきっと、素敵な景色が待ってるって思って、俺はいつも努力をするんだ」

 

梨「つらくはないの?」

 

柚「もちろんつらいよ。けど、そのつらさを乗り越えればまた一歩成長した自分になれる」

 

梨「……私に、できるかな?」

 

柚「突き放しちゃうかもだけど、それは梨子ちゃんの気持ち次第かな。"自分を信じないやつなんかに努力する価値はない"って、俺の心の師匠も言ってたしさ。だから、梨子ちゃんは梨子ちゃんを信じてあげて」

 

柚希さんはニコッと私に微笑んで、そう伝えてくれました。

 

彼の優しい言葉の数々で、少しずつ、胸につかえていた何かが取れかけたような、そんな気がしました。

 

梨「柚希さん、ありがとう。こんな私だけど頑張ってみるね!」

 

柚「うん、いい顔になった!」

 

先程までの静寂が嘘のように、私たち2人の弾んだ笑い声がロビーに響き渡ります。

気づけば旅館の看板に明かりが灯るほど、空は暗くなっていました。

 

梨「ところで柚希さん。心の師匠ってどなたなの?」

 

柚「えっ?!あー……わ、笑わない?」

 

梨「……?笑わないと思うけど……?」

 

柚「実は好きな漫画のキャラクターなんだ。忍者を題材にしてる漫画で、主人公の先生のライバルみたいな人……デス……」

 

梨「……ふふっ」

 

柚「あ゙ーーーっ!!!梨子ちゃん笑ったなぁ!!!」

 

梨「ご、ごめんなさい!バカにしてるつもりはなくて、なんだか柚希さんが急に可愛らしく見えちゃって、思わず……ふふっ……」

 

どことなく柚希さんから感じていた弟のような、守ってあげたくなるような雰囲気は、こういう一面があるからなのかもしれません。

 

柚「んも〜……と、とにかくさ、梨子ちゃんが持ってる"ピアノが楽しく弾けない"って感覚は、梨子ちゃんがさらにレベルアップできるってことを暗示していると思うから、その感覚は持っていていいんじゃないかなって俺は考えたよ」

 

私のレベルアップに必要な感覚。

成長するために、つらさや苦しさが伴うのはもちろん分かっていたけれど、それ以上に自分が成長出来る喜びの方が強いんじゃないかなと考えていました。

 

事実、小さい頃は色んな曲が弾けるようになっていく楽しさを味わったからこそ、また新しい曲に挑戦しようという気持ちが芽生えていました。

 

そんな感覚を私は大きくなっていくにつれて失っていたのかもしれません。

 

梨「ええ、私も柚希さんに言われてそう考えることが大切なのかなって思えた」

 

まだ怖さはあるし、私の性格上すぐにはそんな考えにシフトできるとは思えません。

 

けれど、少しずつ。

どれだけゆっくりでも。

 

まだまだ成長出来る伸びしろがあります。

 

梨「目の前の壁は、壊せるし、倒せるもの、よね」

 

柚「……さすが、音ノ木坂に通っていた人だね

 

梨「……?何か言った?」

 

柚「んーにゃ、なんでも……それよりさ、気持ちも少しは晴れたところで、よかったらうちの温泉、浸かっていってよ。温泉入ればさらに気持ちもスッキリできるよ」

 

あ、そういえば私、ここの温泉に入ろうと思って来たんだった……

すっかり忘れてた……

 

時刻はだいたい19時。

帰りが遅いから、お母さんからメッセも来てるみたい。

 

梨「うん、それじゃあ入らせてもらおうかな」

 

柚「まいど〜!あ、でも、今日は俺の奢りでいいから、好きなだけ堪能してきてねっ」

 

梨「ええっ?!そんな悪いよ!」

 

柚「いーのいーの!大切なお話聞かせてもらったお礼ってことで、受け取ってちょーだい」

 

梨「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

初対面の時にいきなり私の拙いピアノを褒めてくれたり、今もこうして重たい話をしっかり聞いて答えをくれたり。

なぜここまで出会ったばかりの人に尽くしてくれるのか、とても不思議です。

 

でもきっとそれは、彼が持つ優しい心があるからこそなんだと思います。

 

初めて会った時に瞳から感じた優しさに、間違いはなかったみたいです。

 

柚「それじゃ梨子ちゃん、ごゆっくり〜」

 

梨「ええ、ありがとう……柚希、くん……!」

 

柚「ふぇっ……?」

 

今日は温泉に浸かって、身も心もスッキリさせて、明日からまた少しずつ、ピアノと向き合おうと思います。

 

家を出た時の重たい足取りではなく、浴場へ向かう私の足取りはとても軽くなっていました。

ピアノを楽しく弾いていた、あの時のように。

 

柚希くん、勇気をくれて、ありがとう。

 

私の世界に少しだけ、明るい色が付きました。




いかがだったでしょうか。

ブランクはありながらも、ある程度は気持ち悪くならないような文章になったのかなと思います。

ちなみに柚希の心の師匠について。
もちろん、かの有名な八門遁甲の使い手として名高い、木ノ葉の気高き蒼い猛獣です。
ちなみにちなみに、同じ作品におけるたか丸の心の師匠が言っていたセリフは、「忍の才能で一番大切なのは持ってる術の数なんかじゃねェ……大切なのは、あきらめねェど根性だ」ですね。
マジでかっこいい人です。尊敬してます。

さてさて、たか丸はただ今絶賛就活中でございまして、正直さっさと終わらせて卒論もやって遊び回りたいんですが、来年以降就職先が自宅の警備のみだと些か不安ですので、納得のいく就活をして、時間を見つけてまた執筆しようと思います。

また少しオマタセシマシタさせちゃうかもしれませんが、どうかたか丸は就活に励んでいるんだと思って、温かく見守っていただければなと思います。


それではまた次回のお話でお会いしましょう。


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ゆづにぃ、野球見よっ! <上>

みなさんこにゃにゃちわ、たか丸です。

お久しぶりです。
就活終わりましたァ!!!!!!!
少し不満はあるものの、ある程度納得できた会社に内定を頂きまして、来年から長年過ごしてきた地元を離れて一人暮らしスタートです。

いやぁ……不安しかないっスね……
料理は出来る方なんですけど、掃除洗濯が……ね?

まぁともあれ、あとは卒論をぶっ蹴飛ばしたるだけなんで!
このSSも少しずつ執筆ペースを上げて行けたらなと思っています!

卒論も書いてSSも書くって、文章書くんどんだけ好きやねん……

それでは今回もごゆるりとお楽しみください。


柚希side

 

柚「え、野球?あのアキバドームでやるプロのやつ?」

 

千「そう!美渡ねぇの会社の人が貰ったらしくて、たまたまそれを美渡ねぇが譲り受けたんだって。それで美渡ねぇは野球興味ないし、せっかくならチカたちで行ってきたらどうだーって」

 

柚「ちょうどペア券なのか……」

 

野球ねぇ〜。

確かに静岡の方でも時々試合やってるし、テレビでも時々見るし、ルールもある程度なら分かる。

やったことはないけど。

 

千「あんまり興味、ない?」

 

柚「ううん、千歌ちゃんは行きたい?」

 

千「うん、行ってみたいかな」

 

柚「なら、俺も行くよ。千歌ちゃんが東京で迷子になっちゃったら大変だろうしね」

 

千「ぶー!そんな子供みたいなことにはなんないもんっ!」

 

その"ぶー!"っていうのが既に子供っぽいけど、それを言っちゃったらカンカンみかんになるからよそう。

 

千「じゃあ、今週土曜の朝イチの電車で東京に行って、観光もしようねん♪」

 

柚「え、開催日いつなの?」

 

千「今週の土曜日だよ」

 

柚「明日じゃん」

 

そう、今日は金曜日。

さっき放課後の部活が終わって、家に帰ってきたところ。

 

つかれたねー、なんて千歌ちゃんと話しながら晩御飯を待ってるところなんだけど、そんなタイミングで明日の予定が朝イチから埋まることって、ある?

 

でもまぁ、千歌ちゃんのこういう無計画な感じにも、小さい頃からずっと一緒だからもう慣れっこ。

ぱぱっと準備しちゃいますか。

 

でも、一つだけ問題がある。

 

柚「朝イチの電車って言ったけど、千歌ちゃんてば起きられるの?」

 

千「えー?それ聞いちゃう?この高海千歌さんに、それ聞いちゃう?」

 

ふふん、と言わんばかりのドヤ顔でこちらを見てくる千歌ちゃん。

なんでそんなに胸を張ってドヤドヤしているんだろう……

 

千「ゆづにぃ、起こしてね♡」

 

柚「だと思ったァ〜……」

 

ま、今回ばかりは俺が早起きして千歌ちゃんを起こしてあげますかね。

 

 

***

 

 

翌日。

 

昨日調べてみた限りだと、こっちを始発で出ると秋葉原には7時半には着けるみたい。

ただいくらなんでもその時間だと何もやってなさそうだから、少し遅らせて6時頃にこっちを出て、8時半くらいに秋葉原に着くような電車に乗ることに決めた。

向こうに7時じゃ流石に早すぎるもんね……

 

それで、向こうで朝ごはんを食べてから色々散策してみるつもり。

秋葉原だし、近くに神田明神とか音ノ木坂とかあるし、そっちでも楽しんでみようかな。

 

時刻は4時半。

7月の終わりにもなると、この時間で既に空は少しずつ白みはじめてきている。

 

言われた通り、千歌ちゃんを起こしに行かねば。

どうせまだイセエビぬいぐるみでも抱いたまま、ヨダレ垂らして寝てるんだろうな……

可愛い子なのに、寝てる姿だけは誰にも見せない方がいいなって思っちゃう。

寝相もすごいしね……

 

まだ少し寝ぼけている頭を必死に働かせて、なんとかベッドから起き上がり、のそのそと千歌ちゃんの部屋の前まで歩いてきた。

 

部屋の前で大きなあくびをひとつぶちかまして、どうせ寝てるだろうしノックはいらないと思い、そのままふすまを開けてズカズカと入っていきました。

 

柚「おはよーさん。柚希おにーちゃんが起こしに来てあげまs……え」

 

千「ふぇ?」

 

我が妹……いや、正確には我が義妹……なぜ起きている……?

 

それどころか。

 

なぜ、俺が部屋に入るそのタイミングで、一糸纏わぬ生まれたままの姿になっている……?!

 

時間にしておよそ5秒ほど、感覚としては20秒以上の静寂が訪れた。

現状を認識した千歌ちゃんは、徐々に顔をまさに茹でダコのように紅く染めあげ、口をパクパクしている。

 

余談ではあるが、カニやエビは生きている時は赤くなく、茹でると赤くなるのは広く知られていると思う。

これに関しては科学的な証明がなされているそう。

しかし同じように生きている時は赤くなく、茹でると赤くなるタコに関しては、説はいくつか出ているものの、科学的に正しいと考えられるひとつの説としては定まっておらず、定義ができないらしい。

以上、余談終わり。

 

千歌ちゃんがあうあうしている時の俺はというと、何も出来ずただただ唖然として立ち尽くし、千歌ちゃんのことを見つめてしまっていた。

というより、これも男の(さが)か、その一瞬で目を逸らすということが出来なかった。

 

ようやく目を逸らそうと、さっきまで半寝ぼけだった全神経がフル稼働して、目を逸らすことは出来たが、時すでに遅し。

この後、一糸纏わぬみかん娘から、超弩級の絶叫が発せられることとなる。

 

えー、本日当旅館にお泊まりして頂いているお客様の皆々様方、快眠をお邪魔してしまうことをお許しください。

こんな旅館ではありますが、よろしければまた沼津にお越しいただいた際にはご利用していただければなによr――

 

千「ゆづにぃのえっちぃぃぃぃぃ!!!!!

 

 

***

 

 

朝の早い時間でバスもなく、志満ねぇの車で駅まで送ってもらった。

山沿いを走っていた電車も気付けば海岸沿いを颯爽と走っていた。

 

そんな中俺たち2人は、会話のないまま電車に揺られ、時間と車窓からの景色だけがただただ過ぎていっていた。

 

まぁ、原因は俺が千歌ちゃんの一糸纏わぬ生まれたままの姿を見てしまったことにあるんですが……

 

それを見越していたわけじゃないけど、朝ご飯を東京で食べるから電車内でお腹空いたら嫌だなって思って、昨日の夜にみかんのパウンドケーキを志満ねぇに作ってもらって、それを持ってきていた。

 

簡単だしおにぎりで大丈夫だよって言ったんだけど、千歌ちゃんもこっちの方が喜ぶわよって言われて。

まぁ千歌ちゃんが喜ぶならいっかって、それを作ってもらった。

 

んで、さっきそれを渡したらすぐに満面の笑みで受け取って、今俺の隣でもぐもぐしてるとこです。

 

あーあー、そんな口角上げながら食べちゃって……可愛いなぁ……くそう……

うちの義妹の笑顔、破壊力抜群だわ……

 

千「は〜〜〜っ、美味しかった〜っ!」

 

ニコニコの笑顔でパウンドケーキを2切れ平らげた千歌ちゃんは、だいぶ満足したようで、ご機嫌はすっかり"だいぶいい感じ〜"みたいです。

 

千「ところでゆづにぃ、ご相談があるのですが……」

 

柚「ん、なに?」

 

千「東京に着いたら起こしてねん♡」

 

そう言って千歌ちゃんは俺の肩に頭をぽすっと乗せ、夢の世界に旅立っていった。

 

柚「まったく、しょうがないな……」

 

と言いつつも、きっと今の俺の顔は緩みきっている。

大切な義妹と一緒にいられる時間を噛み締めて、幸せを感じているから。

 

 

***

 

 

ふと目が覚めると、沼津では聞き馴染みのない発車メロディーが聞こえてきた。

でもどこかで聞いたことあったな……

あ、教育テレビで流れてた、山手線の駅名を順に歌っていく曲と同じメロディーだ。

とーきょー、かーんだ、あーきはーばらーって

 

で、ここはどこなんだ?

寝ぼけ眼を擦り、駅名標を見てみた。

 

品川。

 

あれ、確か次の駅で乗り換えじゃんか。

 

次は、新橋駅。

山手線に乗り換える、らしい。

あの有名な山手線に。

さっきも言ってた山手線に。

 

さて、そろそろ頭を起こさないといけないと思い、座ったまま伸びをすると、()()()()()()()()()()()がごろんっと落ちた。

と同時に、ふぎゃっ、という声も聞こえた。

 

千「あたたたた……もぉ〜なにぃ……?」

 

柚「あ、千歌ちゃん。おはよ」

 

千「んぅ〜?ふみゅ……ゆづにぃ……?」

 

まったく頭が働いていない様子の千歌ちゃん。

 

そういえば国府津のあたりで、俺の肩に頭乗っけて寝始めたんだっけ?

んで気づいたら俺も寝てて、今起きて伸びをしたタイミングで肩からごろんと落ちてったわけか。

 

千「ふわぁぁぁぁぁ……おはよ、ゆづにぃ……着いたの……?」

 

右手で口を抑え、左腕を上に伸ばして大きなあくびをする千歌ちゃん。

 

柚「うん、次で乗り換えだよ」

 

千「次かぁ……じゃあまだ着いてないし、寝るねぇ〜……」

 

柚「ダメダメダメダメ、起きて起きて!」

 

いくらなんでも寝ぼけすぎでしょ……

まあ、俺を起こそうとだいぶ早くから起きてたみたいだし、こうなるのも仕方ないか。

……自業自得ではあるんだけども。

 

そんな千歌ちゃんを無理やり動かして新橋駅で沼津から乗ってきた電車を降りる。

 

んで次は山手線。

素朴な疑問なんだけど、どうして"やまのてせん"なんだろうね?

"やまてせん"じゃダメなのかな……

語感的な話、なのかな?

ま、なんでもいいケド。

 

2番線に着いた俺たちは乗り換えのために跨線橋を渡って5番線に向かった。

たった少しの距離の移動のはずだったんだけど、気付けば3分くらい迷ってた。

いやはや、我ながら情けない話だわ。

 

無事に乗り換えに成功して山手線に揺られることおよそ10分。

目的地の秋葉原に到着した。

 

千「んーーーーーっ!着いたっ!」

 

ぐーっと伸びをして、足を大きく広げ、右腕を斜め上に、左腕を斜め下にした謎ポーズを駅前でキメる千歌ちゃん。

割と奇異なものを見る目をされるからやめとき……

 

柚「よく寝られた?」

 

千「えへへ、ぐっすりでした……」

 

柚「そりゃ何より」

 

にしても、朝日が差し込む東京のビル群っていうのは、内浦の朝日のそれとはまた違う眩しさだなぁ。

これはこれで、"都会の朝"って感じでなかなかにいいんだけど。

個人的には、やっぱり内浦の海辺で見る朝日が好き、だなぁ……

溢れる地元愛、いいもんだ。

 

柚「さーて、それじゃ朝ごはん食べよっか!」

 

千「わーい!おなかペコペコだったんだぁ〜!」

 

 

***

 

 

電気街口から出てすぐの所にあるカフェでモーニングを食べ、少しのんびりしたあとで活動を開始。

小倉クリームチーズのトースト美味しかったな……

 

まずはμ'sの聖地でもある神田明神にお参り。

ここに来るともう持ってるのにどうしてもお守りが欲しくなって、いつも頂いてるんだけど、今回も例に漏れずお守りを頂きました。

 

千歌ちゃんは神田明神にあった"神社声援(ジンジャーエール)"なるものを見つけて、1人でケタケタ笑ってた。

ひとしきり笑って、おもしろいねーなんて言ってお土産にそれを買ってた。

この子、ダジャレで笑うんだ……

 

その後は少し歩いてアメ横に。

千歌ちゃんに「なんでアメ横っていうの?」って聞かれてあうあうしてたら、近くにいた元気いっぱいの魚屋の店主さんが、詳しく教えてくれた。

 

要約すると、

1.戦後間もない頃にここで飴を販売するお店が多く出店したから名付けられた。

2.アメリカ兵の販売する米国商品がこの場所で多く売られ、アメ(リカ)屋と名付けられた。

って2つの説があるらしい。

どうやら他にもあるみたいだけど。

 

親切に教えてもらえたってことで、そのお礼に鮮魚はさすがに無理だったけど、塩辛の瓶詰めを買って帰ることに。

父さん喜ぶかな?

 

そんなこんなで秋葉原近辺を歩き回って観光して、クタクタになったところで正午。

今日はデーゲームだから2時開始。

 

丁度よくアキバドーム付近に戻ってきていたから、一旦アキバドームを外から見て、その後入場することに。

 

千「いや〜、おっっっきいねぇ〜」

 

柚「そうだね」

 

両翼100m、中堅122mっていう、広さをしたこのアキバドーム。

沼津の仲見世商店街、より距離あるのかなここ……

ホームベースからスタンド見たら多分果てしなく遠いんだろうなぁ……

 

千「ここで、ラブライブも開催されるんだよね……」

 

柚「うん……いずれきっと、Aqoursが立つ場所」

 

千「……!……うん、そうだね!」

 

スクールアイドルの高海千歌としてまたこの場所に来るために、きっと千歌ちゃんは決意を新たにしてくれたと思う。

 

柚「……よぉ〜し!せっかくの野球観戦なんだし、何かグッズでも買って応援しようよ!」

 

千「おー!いいじゃんゆづにぃ!チカはニャイアンツのユニフォーム着たーい!」

 

あー、やっぱオレンジ色のチームなんだ……

 

柚「なら俺はブルーレオーズのユニフォームかな!」

 

千「えぇー!?一緒にニャイアンツのユニフォーム着よーよー!」

 

グッズ売り場で楽しくいっぱい話しながら買い物をして、お互いにお目当てのユニフォームを着て、ついに入場。

 

うーん、いやはや楽しみになってきた。

 

 

試合開始まで、あと30分。

 

 

 

 

 

To be continued!




いかがでしたでしょうか?

やっぱ期間空けて書くもんじゃないっスね笑
ベタ展開に次ぐベタ展開、からのなんこのgdgdは?っていういつものたか丸スタイルだとは思うのですが……
あと卒論書いてるから少しだけ文面堅くなったかもしれないです、すみません。

たか丸は野球大好きなんですけど、推しチームがセパ両方にいるので、少しもじったチーム名にして戦わせることにしました。
つまり交流戦ですね。

お察しかと思いますが一応
ニャイアンツ→読○ジャイ○ンツ、ブルーレオーズ→埼玉○武ライオ○ズ
こんなんです笑笑

さて、今回は前後編の2回に分けてのお話になります。
なーにを中途半端なとこで終わらしとんねんって感じですけど、すぐ書くと思いますので、待っていていただけたら、たか丸は嬉しくて嬉しくて言葉に出来なくなります(?)

それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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ゆづにぃ、野球見よっ! <下>

みなさんこにゃにゃちわ、たか丸です。

お待たせしました、お待たせしすぎたのかもしれません。
いや、待ってなかったかもしれません。
ともかく後編です。

かなーりギュッとまとめた、それこそしじみ習慣のような内容(?)になってしまって駄文がチラホラ……
むしろ綺麗な文の方がチラ……くらいかもしれません。

そこもまたたか丸クオリティとしてお楽しみいただければ幸いです。

それでは今回もお楽しみください!


柚希side

 

千「お腹空いた〜!」

 

ドームに入場してまだ席にも着いていない時、そんな千歌ちゃんの声を聞いて腕時計を見ると、時刻は試合開始25分前の13時35分。

 

柚「よし、それじゃあ先にスタジアムグルメでも買いに行こうか?」

 

千「わーい!何食べようかなぁ〜」

 

場内マップを見てみると、ドームの内側をぐるっと1周、飲食物の販売店やグッズの販売店が並んでいるのが確認できた。

しかも各階にあるらしい、すごいな。

 

千「よし、きーめた!チカ、この選手プロデュース弁当っていうの食べてみたい!」

 

場内マップの脇にあったひとつのポスターを見ていた千歌ちゃんが、どうやらもう食べたいものが決まったようで、高らかに宣言してくれた。

見ていたポスターは、選手プロデュース弁当の販売店が書かれていたものだった。

 

柚「選手プロデュース弁当……そんなのもあるんだ」

 

うげっ、このお弁当1500円もするのか……

そんなに美味しいのか?

 

って、そんなこと考えるだけ野暮だな。

こういう所のものは少し割高でも、野球を生で観戦しながらご飯を食べられるっていう非日常を楽しめるからいいんじゃないか。

よし、俺も選手プロデュース弁当にしてみようかな。

 

柚「あれ、選手プロデュース弁当って意外と種類あるんだね……」

 

千「あ、本当だ、8種類もある!むむむ、こりゃまた悩んじゃうなぁ……」

 

和風御膳弁当に、唐揚げ弁当、肉盛りだくさん弁当、バランス重視のヘルシー弁当なんてのもある。

他にもチャーハン弁当とかロースカツ弁当、ガッツリスタミナ系のお弁当、球団のマスコットキャラクターがプロデュースしたお弁当もある。

 

こりゃさすがに迷うなぁ……

気分的には、朝を厚切りトースト1枚っていう割と控えめなもので済ませちゃったから、思いっきり食べられるものがいいんだよねぇ。

 

千「よーし、じゃあチカはこの"和風御膳 寿"っていうのにする!穴子が乗ってるご飯美味しそ〜!」

 

柚「え、は、早いな千歌ちゃん……」

 

こうしちゃいられん、俺も早く決めなきゃ。

 

ロースカツ弁当なんて絶対美味しいに決まってるし、チャーハン弁当も男の子向けって感じのやんちゃなお弁当感あって後ろ髪引かれるし……

んぐぐぐぐぅ……

 

千「ゆづにぃ?難しい顔してるけど……大丈夫?」

 

柚「よし、決めた!"圧倒的肉づくし!弁当"にする!やっぱり肉が正義でしょ!」

 

千「わわっ、このお肉とお米しか入ってないお弁当?!すっごいねぇ!」

 

柚「それじゃ、買いに行こっか?」

 

千「うんっ!」

 

 

***

 

 

外から見て既に分かっていたけど、この中すっごく広いな……

目的のお店に着くまでにかなり時間かかりそうだぞ。

 

それにしても。

 

「今日あの選手ホームラン打ってくれるかな?」

「今日勝てば首位浮上!勝たないわけにはいかないっしょ!」

「お、今日の打順だいぶ組み替えたな。かなり良さそう」

「はぁ〜〜〜、今日も推しの顔が強すぎる……!!!」

 

……最後の人は少し違うかもだけど、みんな今日の試合をどれだけ楽しみにしているかが分かるな。

それだけ野球には人々を熱狂させる力があるわけだ。

 

千「ねぇゆづにぃ」

 

柚「ん、どうした?」

 

千「なんかみんなとっても楽しそうだね!ウキウキワクワクしてるのが、みんなの顔を見てわかるよ!」

 

柚「うん、そうだね」

 

どうやら千歌ちゃんも同じこと感じてたみたい。

俺も早く試合が見たくなってきた。

 

なんて考えてたらあっという間に目的のお店に到着。

目的のお弁当も無事に購入して、売り子のお姉さんから炭酸飲料を2つ買って、いよいよ今日の試合を見るための座席へ。

 

頂いたチケットはどうやらかなり良いものだったみたい。

なんでも、ホームベースがある場所のすぐ後ろのバックネット裏って所で、そこの前から3列目の席だった。

こんなのほぼグラウンドに立ってるようなもんじゃん……

 

しかも椅子も高級な革で出来たもので、背もたれまでとってもふかふか。

そんな普段なかなか座るようなことの無い椅子に、千歌ちゃんはかなり大喜びの様子で、さっきから10秒ごとに「ふかふかだねぇ」を繰り返してる。

この椅子だけで千歌ちゃんはここに来た価値があるって考えてそう……

 

なんて他愛もない会話や思考を繰り返していると、グラウンドが騒がしくなってきた。

それと同時に場内のメインビジョンが様々な映像を流し始めた。

 

――先攻の、ブルーレオーズのスターティングラインナップをお知らせ致します。

 

そしてスタメン発表が始まる。

 

千「ねねゆづにぃ、スターティングラインナップってなに?」

 

柚「スタメンっていうのはね――」

 

両チームの先発出場する選手の打順のこと。

野球は、っていうよりセ・リーグ公式戦は、投手を含めて両チーム9人の先発出場がいる。

その9人をどう並べるかが勝敗を左右する重要なポイントでもある。

日本の野球だと1番打者に"足が早く、パンチ力があり、四球(フォアボール)も選べる"ような選手を置き、2番打者に送りバントなどの小技が上手い選手、3〜5番にホームランをたくさん打てる強打者を置く、っていう打順が昔からかなり使われている。

 

柚「って感じかな」

 

千「す、すごいねゆづにぃ!そんなしっかり答えてくれるなんて!」

 

柚「あはは……千歌ちゃんに色々聞かれるかなって思って、少しだけ勉強してきたんだ」

 

野球って難しいルールだとか言葉が多いスポーツだからね……

きっと千歌ちゃんが「これってどういうこと?」っていっぱい聞いてくるとこを見越して、ある程度は理解出来ているけど、心配な部分もあったから真面目にも勉強してきました。

 

説明している間に両チームのスタメン発表が終わり、続々と選手たちがグラウンドに現れ守備位置へとつく。

いよいよ試合開始。

 

試合は序盤から動いた。

 

先攻、レオーズの先頭打者が初球を叩いてライトスタンドへ突き刺す先頭打者ホームラン。

続く2番打者もヒットで出塁し、3番打者が四球。

そして4番打者が動揺する投手の失投を見逃さずレフトスタンド上段に特大の一発をお見舞いした。

 

幸先よく4点を先制したレオーズに沸くレフトスタンドと俺だったけど、俺の隣のみかん娘さんの機嫌はすこぶる悪くなり……

 

千「もー!なんでなんでー!すっごい点取られるじゃん!」

 

と、めちゃくちゃぶーぶー文句言ってます。

 

しかし裏の攻撃でなんと"ニャイアンツの若大将"の異名を持つ4番が満塁ホームランを放つと、みかん娘さんのテンションは一気に急上昇。

 

千「すごーーーい!!!追いついた!追いついたよゆづにぃ!!!」

 

お隣のお姉さんとハイタッチなんかもしちゃって、完全に機嫌が回復しました。

切り替えの早い子でなんとも助かる……

 

しかし試合は4-4の同点のまま両チームの投手が好投を続ける投手戦となり、スコア変動が全く起きない試合展開に、6回あたりで千歌ちゃんがとうとう飽き始めました。

 

千「どっちも全然点入らないねー……もっと最初みたいに、ぽこぽこいっぱい打つものだと思ってたよ……」

 

野球を見に来ているからこそ、初心者でも楽しめるようないっぱい点が入る展開を期待していたんだろうなと。

これじゃいくら売り子さんのアイスを買い与えてもそりゃ満足しないよね。

 

こりゃ千歌ちゃんはサッカー見るのは向いてないかもなぁ……

 

千「ん〜……ホームラン打てぇ〜……」

 

やる気は見受けられないながらも、ニャイアンツの応援をする千歌ちゃんの願いが通じたのか。

7回裏、ニャイアンツは好投を続けていた先発投手の代打に、ニャイアンツの新・元気印として今季から新たに加入したベテラン選手を送る。

カウント1-1の3球目、甘く入ったスライダーを捉えて値千金のホームランを放ち、ニャイアンツがついに勝ち越しに成功する。

お決まりのホームランパフォーマンスを決めると、千歌ちゃんのテンションは急上昇。

 

千「わわっ!すごいすごい!打ったよゆづにぃっ!!!チカの思いが通じたんだよ〜っ!」

 

柚「あはは、本当だね。よかったね千歌ちゃん」

 

千「うんっ!ナイスバッティーーーング!」

 

そして試合はそのまま9回表に。

ニャイアンツはクローザー、守護神を投入。

 

千「ゆずにぃ、くろーざーって何?」

 

柚「英語で書くとcloser、要は試合を締める人みたいなもんかな。"抑え"なんて言われ方もするんだよ。大体はチームで1番強い球を投げられる人が務めるもので、1イニングだけをピシャリと抑えるために投げるんだ」

 

千「へぇ〜っ!じゃあこの人がチームで一番強い人なんだ!」

 

うーーーん?

微妙に解釈に乖離があるな……

 

ともかく、守護神が出てきたことでドームのムードは一気に盛り上がる。

 

ドームのムード……逆から読んでもドームのムード……

へへっ、何考えてんだか。

 

しかしその守護神が今日は裏目。

絶不調だった。

レオーズの先頭8番打者に四球、9番打者に代打が送られるも死球。

そして1番打者がレフト前にヒットを放つが、外野は前進守備を敷いていたため2塁走者は3塁ストップ。

無死満塁のこの場面で、レオーズは2番打者にも代打を送る。

通算でも400本以上のホームランを放っている強打者が打席に入る。

満塁にことごとく強く、自身の持つ満塁ホームランの記録は未だ更新中。

太っててもうアラフォーなんだけど、笑顔がとってもキュートな、そんな名プレイヤー。

 

守護神対強打者の決着は初球で着いた。

完璧に捉えた当たりはあと少しでフェンスオーバーとなる、フェンス直撃の走者一掃タイムリーツーベースヒット。

この回レオーズは3点を入れて逆転に成功した。

 

ということでお隣のみかん娘さんはというと……

 

千「えぇ〜っ?!逆転されちゃったんだけど!も〜どうして〜?!」

 

現実が上手く飲み込めてないみたいです。

 

にしてもすごい当たりだった!

千歌ちゃんのメンタルケアしてる余裕が無いくらい興奮しちゃった!

 

よーし、このままレオーズも守護神投入でビシって締めてもらうしかない!

 

……って思ってたんだけど。

 

 

***

 

 

柚「ま、負けた……」

 

千「逆転に次ぐ逆転!それで勝利だなんて……なんていい試合だったんだろう……!」

 

レオーズの守護神の調子は、ニャイアンツの守護神のそれより酷いものだった。

え、3者連続ホームランって……

そんなことあんの……

最終回2点リードのあの場面で……

 

千「やっぱり〜、チカがあれだけ必死に応援したから勝ったと思うんだよねぇ〜!」

 

柚「逆転されてから声すら出してなかったのによく言うよ……」

 

千「な〜に〜か〜い〜い〜ま〜し〜た〜?」

 

柚「いーえなんにも〜」

 

9回の表にレオーズが大逆転してから、千歌ちゃんは口を閉ざしたまま試合もほぼ見ていないような状態に。

けど9回裏の先頭打者の凄まじい打撃音を聞いて、一気にテンション回復。

その次の打者もニャイアンツファンの待つ、オレンジ色のライトスタンドにボールをぶち込んでからは、もう手に負えないくらいテンション上がっちゃって。

その次の打者のサヨナラホームランで、お隣のお姉さんと抱き合うまでテンションが最高潮になって。

 

まったく、気分屋さんもいい所だなこの子は。

けどそんな気分屋さんに振り回される今も、悪くは無い……のかな?

なんだかんだでね。

 

千「さーてゆづにぃ!大いに、いやこれまた大いに盛り上がったところで、内浦に帰るまでまだ時間あるし、どこかでまた遊んでいかない?」

 

柚「まったく調子いいんだから……うん、いいよ。どこ行こっか」

 

千「そうでさぁねぇ……"東京ならでは!"っていうのがいいよね〜」

 

東京ならでは、か……

 

柚「あ、じゃあさ!」

 

 

***

 

 

千「うわぁぁぁ!すっごぉぉぉい!きれーーーい!」

 

千歌ちゃんを連れてお台場まで来ました。

東京で夕景を見るならお台場海浜公園かなって、以前梨子ちゃんと訪れてから思うようになって、東京ならではも楽しめるかなと思って。

なんたってお台場海浜公園の夕景は、高層ビル群とかレインボーブリッジとかがシルエットとなって、運が良ければ屋形船なんかもシルエットとなって、夕日がとっても映える場所だから。

 

今日の日の入りは18時20分頃。

現在の時刻は18時15分。

試合終了時刻が17時過ぎ頃だったから、結構ギリギリになっちゃったものの、なんとか見ることが出来た。

 

千「ゆづにぃ、こんな素敵な場所よく知ってたね」

 

柚「え?!ま、まぁ、一応都内の観光地とか少し調べてたから……」

 

梨子ちゃんと来たって言うとまた面倒なことになりそうって、なんとなく感じたからはぐらかすことにした。

この子意外と嫉妬深いとこあるからな……

「ゆづにぃ梨子ちゃんと2人でお出かけなんてずるい!チカも梨子ちゃんとお出かけしたいのにっ!」とかなんとか言われそうだからね……

 

千「内浦で見る夕焼けとはまた違うね」

 

柚「そうだね。あんな高いビル建ってないし、あんなおっきな橋も掛かってないしね」

 

内浦で見る夕景は自然をいっぱいに感じられる、まさに海と夕日だけの夕景として最もあるべき様式美のようなものだけど、人工の建造物を照らしてシルエットを作り出し、より夕日を目立たせるような夕景もこれまた素晴らしいもののように思える。

 

で、でも、内浦の夕景が日本で……世界で1番だと思うけどね!

誰に言ってるのかわかんないケド……

 

千「あ、野球部の人たちってさ、あの砂浜とか走って足腰鍛えてそうじゃない?」

 

柚「あー確かにね。この辺の高校の野球部はやってるのかも」

 

千「なんか、チカたちと一緒だね」

 

柚「うん。千歌ちゃんたちも砂浜ダッシュして下半身鍛えてるもんね」

 

千「となると……」

 

おもむろに目が輝き始める千歌ちゃん。

夕日のせいでなく輝いているこの目は、何かよからぬ事を考えている目にも見える。

 

千「チカたちも野球始めちゃうしか無いんじゃない!?」

 

柚「あぁ……そうきたか……」

 

またなんとも突拍子もないことを……

野球見てすーぐ影響されちゃうんだから……

 

千「よーし、それじゃ内浦に帰ったらみんな呼んで朝まで地獄のノックしよ!特訓あるのみ!早速行こーう!!!」

 

柚「ちょっ?!え、今からなの?!か、考え直して、千歌ちゃーん!」

 

 

 

 

To be Continued!




いかがでしたでしょうか?

いや野球パートがまあまあ長ぇ!(粗品)
まあ題材が題材なんでしゃーなしって感じですけど、みなさんお楽しみ頂けましたでしょうか?
ある程度の説明しかしてないんですけど、大丈夫でしたかね……
わっかんねぇ!ってのがあれば随時コメントでお待ちしてます。ちゃんと答えます。

大好きなおか○り君を出せて獅子党のたか丸は大変に満足です。
来季のライオンズの核弾頭となりうる選手は果たして出てきてくれるのか…
愛斗選手に大いに期待したいです…
あ、すみません、めっちゃ脱線しました。

てなわけで、次回はおそらく2年生の3人目になるかなと。
更新時期は未定ですが、卒論が終わり次第執筆に取り掛かりたいと思っています!多分年跨ぎます!ごめんなさい!
けど続きを楽しみにしてくださっている方がいらっしゃると分かったので、なんとか期待に応えられるように精一杯頑張ります!
応援よろしくお願いします!

それではまた次回のお話でお会いしましょう!


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堕天使の目にも涙 <上>

みなさんこにゃにゃちわ、油断してたら最後の投稿から1年の月日が経っていました、たか丸です。

今更どのタイミングで投稿してんの?ってなるかもですが、理由は最後に語れたらと思いますので、お暇な方はあとがきまでご覧いただければと思いまち()

それでは、今回もお楽しみください。


善「うっ……くうっ……」

 

柚「ほれ、涙をお拭いよ善子さんや」

 

善「ううっ……ヨハネよぉ……」

 

某日、柚希は休日を利用し映画を観に沼津まで訪れていた。

 

遡ること数時間前。

 

駅前の複合施設にある映画館へ向かう途中、なんとびっくり、バッタリと善子と出会った。

 

聞けば、映画を観る約束をしていたクラスメイトが、急遽風邪をひいて行けないとのことで、駅前のオブジェ前に腰掛けてボケーっとしていたらしい。

 

「ケーキでも食べて帰ろうかしら……」と、ぬるっと立ち上がり、とぼとぼ歩き始めて僅か数歩。

一人の人間とぶつかった。

 

頭を下げて謝り、頭を上げて見えた顔はよく知る中性的な顔立ちの男、高海柚希だった。

 

「わおヨハネちゃん!偶然だね、何してるのー?」と陽気に話しかけてきた柚希に、先程まで呪っていた運の悪さにおサラバ、MAXテンション満面の笑顔で、「今から映画!観に行かない?!」と何も考えず思いのまま突発デートのお誘いをした善子。

 

「わお、それも偶然……実は映画観ようと思って沼津まで来てたんだよね」と、思わぬ返答に善子のテンションは限界突破。

 

「じゃあじゃあ!映画!観に行こっ!」なんて、子供のように目を輝かせて柚希に無自覚アプローチ。

 

普段は"堕天使ヨハネ"を名乗ってカッコつけてる善子だが、無邪気に笑ってキャッキャする善子は、どうやら柚希にとってかなりのギャップだったらしく、意外な善子の一面に少しだけ鼓動が速まる。

 

そんなことに気付くはずもなく、「なにみる〜?」なんて柔らかすぎる笑顔で話しかけてくる善子に、柚希は頬を少し紅潮させるが、すぐに平静を装っていつものペースに。

 

柚「ヨハネちゃんは何が観たい?」

 

善「うーんそうねぇ……私が誘ったんだし、柚希が観たいもの観ましょ?」

 

柚「え、いいの?」

 

善「もちろんよ。私は友達に誘われてとりあえず来ただけだったから、柚希は観たいものがあって来たんじゃないの?」

 

友達に誘われて映画館に来ていた善子だったが、誘われていた映画は正直あまり興味のないジャンルだった。

 

だが「クラスメイトとさらに距離を縮めるチャンス……!」と意気込んで来ていたために、風邪でキャンセルになった時はかなりテンションが落ちていた。

 

柚「一応観たいやつはあるんだけど、ヨハネちゃんの趣味に合わないかもよ?」

 

善「へーき!柚希が観たいものならなんでも大丈夫よ!」

 

柚「んー、じゃあお付き合いしてもらっちゃおうかな?」

 

善「任せなさいっ!」

 

と、何を観るかも知らずに意気揚々と映画館に向かい、柚希の観たい映画が、国内で話題沸騰の感動作"子猫といじめっ子"だった時の善子の反応たるや。

 

善子は感動作、特に動物系の感動作品にはめっぽう弱く、ひとたび見れば涙腺は瞬く間に決壊し、大雨洪水警報が発令される。

 

大好きな人の前で号泣する姿を見せてしまうかもしれないという不安から、別作品を提案しようとも考えたが、自分から「大丈夫」と告げているため、今更その言葉を曲げる訳にも……とぐぬってしまった善子であった。

 

対する柚希は、よほど楽しみにしていたのか、チケットを購入後売店に向かい、パンフレットとグッズのボールペンを購入していた。

 

「今日は泣く準備してきたから、ハンカチとティッシュはバッチリ!」と、観る前からルンルンである。

 

善「ね、ねぇ柚希……これ、ほんとに、泣けちゃうやつなのよね……?」

 

柚「もちろん!国内で話題沸騰!誰しもが涙する超感動作なんだから!……って、内容はまだ知らないんだけどね……」

 

善「そ、そうよね、泣けるのよね……」

 

柚「それじゃ、行こっか?」

 

善「……へい」

 

受付でチケットを渡し、指定のシアタールームへと向かう廊下でも頭を抱えながら、うんうん唸っていた善子。

 

座席に着いて上映前の映画の宣伝やら、カメラとパトライトの被り物を被った人たちの映画盗撮撲滅の映像やらを見終えた頃に、「せっかく柚希と映画を観に来られたんだから、もうとにかく楽しもう」と決意。

 

そして映画が始まり25分後、冒頭の状況になっていたというわけである。

 

 

*****

 

 

柚「もー、感動系に弱いんだって言ってくれればよかったのにー」

 

善「自分から観るって言った手前そんなこと言えないわよぉ……」

 

言いながら柚希から借りたハンカチで涙を拭う善子。

映画を見終わり、南口に移動してカフェに入った2人。

 

映画の感想を語り合おうとしたわけだが、未だ涙の止まらない善子を慰めるばかりで、語り合えない状況が5〜10分続いている。

 

善「ん……ありがと……落ち着いた……」

 

柚「どういたしまして。落ち着いてよかった」

 

善「てか柚希、あんたどうしてそんなケロッとできてるの?」

 

意外にも柚希は善子ほどダムの決壊はしておらず、静かに涙を零すくらい。

 

柚希も感動作には割と弱い方。

故に平気な顔して自分を慰めてくれているのが不思議に思った善子。

 

感動作とはいえ万人に刺さる作品ではなかった……というわけではなく。

 

柚「あー……カッコつけとかじゃないんだけど、善子ちゃんがあれだけ泣いてたら、なんか守ってあげなきゃって思って……」

 

善「そっ、そんなに泣いてないわい!」

 

柚「いやいやいや、あたしのハンケチびしょびしょじゃないすか……」

 

善「こ、これは……その……なんというか……」

 

たじろぐ善子。

柚希が貸した水色のハンカチは、善子の涙を吸いに吸って、深い青に色が変わっていた。

 

柚「そのハンカチあげるからさ、ちゃんと涙拭きなね?」

 

善「ぐぅ……」

 

柚「ぐうの音が出た……」

 

善「…………っていうか!ヨハネ!!!」

 

柚「あはは、ディレイかかってたね〜、ごめんごめん」

 

2時間程度の映画を見て、現在時刻は15時過ぎ。

まだ内浦に帰るのには少し早い。

内浦方面の終バスまであと5時間近くもある。

 

柚「ね、ヨハネちゃんさえよければもう少しこの辺で遊んでかない?」

 

善「ふぇ……?べ、別にいいけど、どこに行くの?」

 

柚「しまった何も考えずにお誘いしたわ」

 

善「ぷっ……!」

 

額をぺちっと軽く叩きおどける柚希に、思わず吹き出す善子。

いつもの調子が少しずつ戻ってきたようだ。

 

善「なら、このヨハネが上級リトルデーモンの柚希を、エスコートしてあげるわっ」

 

柚「えっ、いいの?」

 

善「もちろん!だって今日、不幸のどん底にいた私を幸せにしてくれたんだもの」

 

柚「そんな大袈裟な……でもそういう事なら、今回はヨハネちゃんに甘えちゃおうかな〜」

 

善「ふふん、任せなさいっ」

 

 

*****

 

 

柚「ねぇヨハネちゃん、あれなんだろ?」

 

善「ダンボール……よね?」

 

善子がエスコートする、とは言ったもののやはりノープランだったため、仲見世通りを抜けて閑静な住宅街を、なんとなくぷらぷらと歩いていたところ、ひとつのダンボールを見つけた2人。

 

何やら貼り紙も付いている。

 

柚「拾ってください……?」

 

善「柚希、これ……」

 

ダンボールの中には黒い小さな何か。

 

みゃー。

 

か細い声で鳴き、もぞもぞ動く黒い小さな何か。

 

柚「子猫ちゃんだ」

 

黒い子猫。

 

善「こんな小さな子……」

 

みゃー。

 

か細い声で鳴き続け、何かを訴えている(と思われる)子猫。

 

柚「よく鳴く子だねぇ〜、お腹すいた?でもごめんね、君が食べられるもの持ってないや……」

 

みゃー。

 

子猫は鳴くと善子の方に顔を向け、小さな箱の中をよちよちと移動し、箱の壁に両前足をかけ、善子にこの箱から出すよう訴えるように、もう一度鳴いた。

 

みゃー。

 

善「……っ!」

 

柚「お、どうやらこの子猫ちゃんはヨハネちゃんと遊びたいみたいだ……ね……?」

 

善「……ぐすっ……ううっ……」

 

柚「え、え、ど、どどどどどーしたの善子ちゃん?!」

 

柚希が善子の方に目をやると、目尻から大粒の涙を流しながら、子猫の鼻付近に人差し指を近づけていた。

 

善「寂しかったよね……辛かったよね……」

 

動物系の感動作品に弱い善子だが、現実でそんな事が起きようものなら、フィクションのそれとは比べ物にならないくらい心を揺さぶられてしまう。

 

善「決めた、もう大丈夫だよ子猫ちゃん。私が、私が君のママになるからね……ぐすっ……」

 

柚「ちょちょちょ、善子ちゃんのおうちはペットNGじゃなかった?」

 

善子が住んでいるのは沼津駅南口からほど近いマンション。

近年はペットの飼育が可能な所も多いが、善子のマンションは残念ながら当てはまらなかった。

 

以前、沼津駅北口の建物でレッスンをした後、帰り道で犬を拾った時は、梨子の家で預かってもらったこともあった。

 

善「この子はペットじゃなくて家族!家族なら大丈夫なの!」

 

柚「おーっと、ルールの抜け道みたいな無茶苦茶理論持ってきたぞ」

 

善「今日から一緒に暮らしましょ、バステト!」

 

柚「名前までつけちゃった……しかも猫の神様の名前……」

 

ちなみに、以前拾った犬に付けた名前はライラプス。

ギリシャ神話に登場する猟犬の名前から取ったそうだ。

 

シェルティに猟犬の名前……?と当時の柚希は思ったらしいが、ニコニコ楽しそうな善子にそんなことを言えるはずもなく、柚希もニコニコと見守っていた。

 

善「柚希!ケージとご飯買いに行くわよ!」

 

柚「ちょいちょいヨハネちゃん、一旦落ち着こう。まずはお母さんに連絡してみた方がいいんじゃないかな?いきなり連れて帰ったら、いくらこの子猫ちゃんが家族って言ったってびっくりするでしょ?」

 

善「そ、そんなこと……ない……こともない……のかもしれない……」

 

以前拾ったシェルティは、母親にマンションのルールをもってして一蹴され、善子がマンションの裏にあるひっそりとした稲荷神社でこっそり飼っていたという経緯を柚希は聞いていた。

 

今回も同じ結末を迎えるのであれば、以前梨子に頼ったように誰かしらに泣きつくのは明白。

 

善「じゃあ電話してみる……」

 

柚「うん、いい答えもらえるといいね」

 

 

*****

 

 

善「こうするしかないのよ……お願いよ柚希!この子に生きていく道を与えて!」

 

結局善子の母親から得られた答えは、無慈悲にもNo。

 

ただどうしても諦めきれない善子は、前回同様家の裏で飼うことを画策したが、季節は夏。

しかも真っ盛り。

子猫にはあまりにも酷な環境になってしまう。

 

そこで柚希が提案したのは、譲渡会への参加だった。

 

譲渡会であれば、猫への愛を持った素敵な家族が見つかると考え、参加までの期間であれば自分の家で飼育すればいいと、あまり深く考えずに提案したのだった。

 

譲渡会に参加するとなると、ワクチンの接種や便の検査、ノミダニの検査、猫風邪の検査、生後経過期間によっては去勢避妊手術などなど……

これらの全てをクリアしてからでないと参加出来ないことを、提案直後に調べて知ったのである。

 

しかしどこのダイビング少女に影響されたのかは分かりかねるが、考えるより行動に移すことが少しずつ板に付いてきた柚希。

早速近くの動物病院へ連れて行ったのである。

 

幸い空いていたおかげですぐに診てもらうことができ、子猫の基本情報が分かってきた。

 

生後およそ3ヶ月、メスの黒猫。

外傷などの目に見える異常はなく、皮膚病も罹患していないうえ、そこまで痩せている訳でもないため、直前までちゃんと飼育されていたことが伺えるとのこと。

 

また、猫風邪なども患っていなかったが、ワクチンだけは未接種であったため、明日接種をすることに。

理由としては午前中に接種することで、その後の変化を観察しやすくなるためと説明してもらった。

 

ワクチン接種の予約を済ませ、2人は帰路に着くことに。

 

善「……柚希、ごめんなさい」

 

柚「へ?なんで謝るの?」

 

善「私がわがまま言うから柚希にいっぱい迷惑かけちゃって……」

 

柚「…………えい」

 

善「いたっ」

 

柚希は善子の頭に優しくチョップした。

 

柚「俺は幸せだよ。ヨハネちゃんにワガママ言ってもらうこと」

 

善「え、なんでよ……?」

 

柚「Aqoursに勧誘した時も言ったじゃん。嫌なら嫌って言う……ってそれは千歌ちゃんのセリフか。まぁでも思いは一緒だよ」

 

善「柚希……」

 

柚「もっとヨハネちゃんのワガママ、いっぱい聞きたいな」

 

濁りのない、澄んだ瞳でさらっとキザな言葉を並べる柚希に、善子は少し頬を赤らめ、俯く。

 

善「じゃ、じゃあ、こんなワガママ、伝えてもいい……?」

 

より頬を紅潮させた善子が顔を上げ、柚希の瞳を見つめる。

 

鈍すぎる柚希でもこの時ばかりは流石に全てを察し、体温が上がっていくのが分かった。

 

善「わ、わたし……の……こ……こい――」

 

みゃーーーっ!!!

 

善「きゃぁっ!」

 

柚「うおっ?!」

 

突然大きな鳴き声をあげた子猫、もといバステト。

 

猫の神はまだ()()()ではないと伝えているのだろうか。

 

「「ぷっ……!」」

 

呆気にとられたふたりは目をまん丸にして見つめ合い、お互いに吹き出した。

 

善「ふふふっ……帰ろっか?」

 

柚「ふふ、うん、そうだね」

 

譲渡会まで、あと2ヶ月。

 

 

 

To be continued

 




いかがでしたでしょうか???

ヨハちゃんが動物系の感動作に弱いっていうのは実は公式設定(設定言うな)なんですよ。
どえげつねぇほどに解釈一致すじて勢いのまま書き始めました。
ヨハヨハは善い子なので、さすがにみなさんもあーしと同じく解釈一致でしたよね?ね??んーね???


えと、ここからはわたしの空白の1年間についてつらつらと。

いきなりぶっ込むんですけど、実は恥ずかしながら少しばかりAqoursちゃんから離れておりまして、わたしの頭の中は虹ヶ咲と野球と馬(賭ける方も見る方も)と酒でいっぱいになってまちた()
日本酒とウイスキーだいすち人間になりまちた()
あと推しの馬が出来まちた(引退したけど…)

なんでまた投稿したかと言いますと、もう内容から察してると思いますけど、幻日のヨハネですねぇ…はぁい。

ヨハ子ちゃんは元々すちだったのですが、一気に加速しちゃいまして、昨年11月と今年1月ってか4日前に沼津行きまして、もう沼津とヌマヅにスブズブです。

Aqoursちゃんの曲とかも一気に追い始めて、ちょっといまモチベがえげつねぇです。

そんなこともあり今回のヨハちゃん回は前後編でお届けすることにしました。

社畜やってるんでなかなか投稿できない日々が続くかもですが、これからも応援していただけたら嬉しい限りです。

それでは、また次のお話で。


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番外編
柚希のグルメ vol.1


みなさんこにゃにゃちわ、久々に神のみぞ知るセカイのOPを聴いて英詞を必死に覚えようとしています、どうも、たか丸です。

いや、ね、むっずいねあれ笑笑
基礎の英語力が無いもんだから余計に難しく感じちゃってどうしようも無いです笑笑
ネイティブっぽく歌おうとしても、付け焼き刃感が否めなさすぎて死んじゃう()

さて今回は番外編と致しまして柚希くんが1人、美味しいご飯を求めて彷徨う……そんなお話です。
もちろん実在するお店に、たか丸自身が訪れて美味しいと思った所を柚希くんに巡ってもらおうと思います。
孤独〇グルメじゃないです(迫真)

前回投稿からまさかの1日で次の作品を投稿するSS作者の鑑(殴)
単に書き溜めてるだけなんですけどね笑笑

それでは、今回も最後までお付き合いくださいませ。


柚希side

 

柚「へぇ……ここが"小江戸 川越"かぁ……」

 

降り立ったのはJR川越線、東武東上線が乗り入れる川越駅。

"小江戸"と言うだけあって、さぞ駅舎も趣ある荘厳な造りになっているんだろうと、勝手に想像していた。

ところがどっこい、普通に近代的なデザインをした、デッキ付きの二階建て構造のオシャレな駅舎だった。

ただ、何やら鐘突き堂のような、小さなモニュメントが通路のど真ん中に設置されていた。

これは一体……?

 

ところで、なぜ今俺がここ、川越にいるのか。

それは単純に観光したかったから。

以前から和風の物に興味があって、たまたまテレビで見た蔵造りの街並みが広がる川越という場所に強く惹かれたからだ。

……まぁ、歴史的な街並みとか美味しいご飯とか、何も下調べせずに来ちゃったもんだから、いかんせんここからどう動けばいいのか分からない。

 

観光案内所に行くべきか……?

いや、ここはあえて自分の足で色んなところを回ってみよう。

観光マップには載っていないような穴場スポットがあるかもしれないし。

そうと決まれば早速行動開始だ。

時刻は午前10時を過ぎたところ。

有限な時間を目一杯活用しようじゃないか。

 

 

********************

 

 

柚「これが蔵造りの建物かぁ……」

 

実際に見るとやっぱりすごい。

江戸時代に起きた大火事も耐えきったというこの蔵造りの建物。

瓦屋根も含めて全体が黒く、まさに"荘厳"という言葉が似合う。

所々雨風にさらされてきたせいか、色が落ちてきているのも味わい深い。

休日ということもあって、この川越一番街という通りは、なかなかに観光客で賑わっている。

ちらほらと外国人観光客もいて、ここが相当人気な観光スポットであることはよくわかった。

 

柚「ん、これって……」

 

見つけたのはさっき駅にあったモニュメントと同じ建物。

サイズは駅にあったもののおよそ10倍程だろうか?

 

「時の鐘すごいね〜」

「これが時の鐘かぁ〜」

 

へぇ、これは"時の鐘"って言うのか。

どんなものなんだろうと思い、ジーパンのポケットからスマートフォンを取り出して検索窓に打ち込む。

 

昔はこの時の鐘というものは、人が登って街全体に時間を知らせるために鐘を突くという目的で使われていたものらしい。

現在はさすがに人が登って突きはしないそうだが、決められた時間に自動で鐘を突くシステムになっているそう。

あとは昨今話題の除夜の鐘として使われているらしい。

この時の鐘は所謂、川越のシンボル的存在らしく、川越に訪れる人はほとんどみんなと言っていいほど観光に来るスポットなんだとか。

 

柚「……ん?電話だ」

 

発信元は……千歌ちゃんか。

 

柚「もしもし?」

 

千『あっ、ゆづにぃ?!今どこにいるの?!朝起きたらどこにも居ないし、心配してた……いや、"げんざいしんこーけー"で心配してるんですけど!!!』

 

柚「えっ?母さんにも姉さんたちにも言ったよ?今日は一人旅で川越に来てるって……」

 

千『ひ、一人旅ぃぃぃ?!…………はぁ、よかった……誰かと愛の逃避行してるって美渡ねぇが言うから心配して電話したのに……心配して損したよぉ……』

 

損はしないでくれ、義理だけど兄として悲しいぞ……

 

千『でもでも!なんで旅行するなら千歌を連れて行ってくれないの?!』

 

柚「いやぁ……俺の趣味に千歌ちゃんを付き合わせる訳にはいかないと思ってね。勝手だけど一人で来ちゃったよ」

 

千『別にゆづにぃの趣味を一緒に楽しんでもいいのに……なんでわかってくれないの……ばか……

 

ん?電波悪いのか?全然聞き取れなかった……

 

千『川越って確かお芋が有名なところだよね?前テレビでやってたの見たことある!ってなわけで、おいしいおいしーーーいお土産、買ってきてくれなかったら怒るからね!じゃ、よろしく!』

 

柚「えぇ……めんどくs『ブチッ』……切れたし……」

 

仕方ない……あのみかん娘ちゃんの機嫌をとるためにも、いいお土産買っていってやるか……

 

……っていうか、千歌ちゃんが言ってたけど、ここって芋が有名なの?

って思ってたら時の鐘の真下のお店に、さつまいもソフトなるソフトクリームが売ってるじゃないの。

あぁ、なんだかここまで歩いてきて少し……お腹が、空いた……

 

よし、お昼ご飯にしよう。ソフトクリームはその後だ。

せっかくならさつまいもを使った美味いご飯が食べてみたい気もするけど……それは食後のデザートとして取っておこうか。

さつまいもご飯とか惹かれるけど、また次回だな。

 

さーて、それじゃあ何食べようか?

この辺だとやっぱりさつまいもを使ったご飯が多いのかな?

気分的にはパスタとかラーメンとか、何か麺類を求めている……

とりあえず来た道を戻ってみようか。

 

柚「ん?なんだあそこ?すごい行列ができてるな……」

 

近寄ってみると、香ばしい香りが辺りに漂っていて、一気に腹の虫が騒ぎ始めた。

 

柚「かつおぶし 中市本店(なかいちほんてん)……?」

 

どうやらかつお節やいわし節といった乾物を取り扱う老舗らしい。

この行列の正体は、この店先で作っているものにあった。

 

その名も、"ねこまんまおにぎり"

 

炭火で焼いたおにぎりに、かつお節かいわし節をこれでもかと山盛りにかけたものらしい。

見た目の迫力は抜群。食べている人の顔を見ればわかるが、めちゃめちゃ美味そう。

これは……食べざるを得ない、いや、食べなければならない!

こいつを食べ歩きしながら、いい感じの店を探そう。

……って、1個250円するのか?!

おにぎりとしては少々割高ではあるが……

美味そうなものに値段は関係ない。今現在資金は潤沢だ。何も問題は無い。

 

並んでいる間に、かつお節といわし節のどちらにするか決めておかないとな。

やっぱりここは店の売りであろうかつお節でいくべきなのだろうか?

はたまた売りの逆を突いていわし節でいくべきなのだろうか?

どちらも買う……のは腹の余裕的にもよしておこう……

考えている間にも列は進み、鼻腔を香ばしい醤油の香りがくすぐる。

パチパチと鳴る炭火の音、ジューっと焼ける醤油の音、賑わいを見せる店前の客の話し声、そして俺の腹の虫の鳴き声……

なんて四重奏(カルテット)なんだ……こんなセッションをしたのは俺史上初だ……

 

なんて考えていたらついに俺の番。

ここはやはり味を知るという点を考慮して、

 

柚「かつお節のねこまんまおにぎりを1つください」

 

定番のメニューで優勝させてもらう!

 

 

********************

 

 

柚「う、うまぁ……!」

 

昆布とかつお節で取った出汁を使った醤油を満遍なく塗った焼きおにぎりに、老舗ならではの特別な製法で作られたであろう風味豊かで上品なかつお節の相性が抜群。

焼きおにぎりの美味しさと、かつお節の美味しさの相乗効果(シナジー)……

まさに完璧、優勝、完全勝利。

人がいなかったらここでコロンビアしてるぞ。

 

思わずひとくち食べたところで歩くのをやめてしまった。

いかんいかん、美味しさに惑わされて店を探すのを忘れるところだった。

歩こう、とりあえず歩こう。

それで美味そうな麺類を食べられる個人経営のこぢんまりとしたいい店を探そう。

 

柚「ん?メッセージだ……鞠莉ちゃん?」

 

――Hello、ユヅ!聞いたわよ!あなた今一人旅してるんですって?

――もー、かんっじんな時にいないんだから困るわぁ……

――この間ママがこっちに来て、イタリアのお土産をくれたの!

――だからユヅにも手渡しであげたかったんだけど……

――チカッチに渡したから食べられてたらドンマイね?☆

 

柚「えー……」

 

沼津に帰るまで待ってて欲しかった……

確実に千歌ちゃんの胃の中だ……

イタリアのお土産って、いったいどんなものをくれたんだろ?

イタリアのお菓子とかどういうのなんだろう?気になるわほんと……

千歌ちゃんがもし本当に食べてたら川越土産はなかったことにしよう。

 

……と、それよりも、イタリアで思いついた。

もう今日の昼ごはんはパスタにしよう。

ついでにピザなんかも食べたくなってきた。

いい感じのイタリア料理店を探すべく、とりあえず川越駅に戻るか!

 

 

********************

 

 

とりあえず川越駅に着いた。

おにぎりは既に俺の胃の中に格納済み。まじ美味かった。

この辺でいい感じのイタリア料理店は何処にあるのだろうか?

さすがに川越って広いから、ここは"goguru(ゴーグル)先生"に頼るか。

何か気になるお店は……っと、ここなんかどうだろう?

"クッチーナ タト"かぁ……

イタリア語?どういう意味?

口コミサイト見ても結構評価高いぞ……

これは期待値爆上げだな。

ここからそう遠くないし、決めた、今日の昼ごはんはここで優勝しよう!

 

蔵造りの街並みが広がる方とは逆の、川越駅西口。

打って変わってとても近代的な街並みが広がっている。

デッキを渡って下に降り、そこから歩いておよそ5分。

雑居ビルの1階に位置するそのお店は、場所がわかりづらく、本当にこぢんまりとした佇まい。

木でできた店内は、照明が少し暗く、落ち着いた雰囲気。

少し昼時からズレたため、お店はそれほど混んでいなかった。

案内されたカウンター席は、目と鼻の先にキッチンがあり、シェフが自慢の腕を振るう姿がよく見える席だった。

 

さてさて、とにかく食べよう。

メニューメニューっと……

えっ?!Aランチ1000円?!?!

前菜、パスタ、デザート盛り合わせにコーヒーか紅茶……

それで1000円って……コスパすごいな!なんて安さなんだ!

ちなみにBランチは、これにメイン料理が付いて1700円。

こっちも安い……

 

パスタは、「本日のスパゲッティ」「ニンニク風味のトマトスパゲッティ」「帆立貝のスパゲッティ(白ワイン風味orクリーム風味)」「バジリコソース和え トマトのマリネのせスパゲッティ」「ズワイガニのトマトソースのスパゲッティ」の5種類から選べる。

うーん、どれも名前を見る限り美味そうだぞ……

本日のスパゲッティが何か気になるけど、ここは、

 

柚「すみません。Aランチで、スパゲッティは"ズワイガニのトマトソースのスパゲッティ"で。あとコーヒーでお願いします」

 

店員「かしこまりました」

 

カジュアルでこぢんまりとしたこの店は、シェフとウェイトレスさん2人で切り盛りしている様子。

おそらく夫婦なのかな?

夫婦で仲良く町の小さな飲食店を経営してるって、なんかいいよなぁ……

ちょっと憧れはある……かも?

俺もいつかは運命の人と出会って、結婚して、ある程度生活が安定したら、こうやって飲食店を経営してみたり、カフェなんかやってみたいなぁ。

まずは料理の腕を上げて、料理の知識をつけて……

って、何よりお嫁さんを探すのが先か……

出来るかなぁ?俺に……

 

なんて考えてたら、前菜がやってきた。

早いな……

これはなんだろう……?

生ハムにルッコラ、トマト、etc……

バジルソースとパルメザンチーズがおしゃれな雰囲気を醸し出している。

 

柚「いただきます……」

 

小さく呟き、俺はフォークを手にした。

まずは何からいこうか……

じゃあこのトマトからいこう。

……うん、美味い。

しっかり熟れたトマトは、恐らくこれはビネガーに漬けたものだと思うが、程よい酸味とトマトの甘みがちょうどいい。

では次に生ハムとルッコラを。

……ほ〜、これも美味い。

新鮮なルッコラだ。独特の苦味が後を引く。

そして程よい塩気の生ハムとの相性が抜群。

バジルソースが見た目だけじゃなく、いい味を出している。

こりゃもしバイキング形式だったら、間違いなくおかわりしてる。

冗談抜きで本当にそれぐらい美味しい。

 

……あっという間に食べ終わってしまった。

ここは前菜から当たりだったな。

次のスパゲッティにも大いに期待できる。

 

ふとキッチンを見てみると、茹で上がった小麦色に輝くスパゲッティがシェフの振るうフライパンの中で、ズワイガニとトマトソースと魅惑のダンスを踊っている。

スパゲッティに絡み合うズワイガニとトマトソース。

まるで三角関係のように、ズワイガニとトマトソースがスパゲッティを取り合う。

それを食らう俺はきっと漁夫だ。

まさに漁夫の利。

……使い方、違うか……?

 

店員「お待たせしました、ズワイガニのトマトソーススパゲッティです」

 

あれ、くだらないこと考えてる間に出来上がってた。

うーん、これはこれは……

なんとも食欲そそるいい香りだ……

ズワイガニの身がたくさんだ。

なんて主張の強いズワイガニなんだ……けしからんぞ……

と、とにかく早く食べよう。

俺の腹の虫が早くその美味そうなものを寄越せとばかりに騒ぎ立てる。

 

柚「いただきます……」

 

上品に、フォークだけでなくスプーンも使って食べていく。

スパゲッティの醍醐味といえばこのフォークでクルクルして食べるところだよなぁ……

……うん、美味い。これは美味いぞ。

甘みだけじゃなく酸味も効いてるトマトソースに、大ぶりなズワイガニの身。

何よりプリプリのスパゲッティの食感がたまらない。

これは最強だ。間違いなく優勝できた。

いやはや、手が止まらない。

矢継ぎ早にスパゲッティが俺の口の中に入ってくる。

これだけ美味しいスパゲッティは久々だ、いいものを食べた。

 

……あれ、もうないぞ?

美味すぎていつの間にか食べ終わってしまった。

うーん……ピザでも頼むか……?

いや、この後はお待ちかねのデザートだ。

程よい空腹感を残しておくことで、デザートも美味しく食べられる。

イタリアのデザートと言えばなんだろう?

ティラミスとかパンナコッタとかかな?

ジェラートも確かイタリアのものだった気がする。

どんなデザートが来るのかワクワクしながら、先に出されたアイスコーヒーを1口。

すっきりしていて、いい具合の苦味のあるこのコーヒー。

スパゲッティをかき込むように食べたあとの口に安らぎを与えてくれているようだ。

 

店員「お待たせしました、デザートの盛り合わせです」

 

ほほ〜……

ガトーショコラにパンナコッタ、スフレチーズケーキの3つ。

これはなんとも美味そうだ……

じゃあまずはチーズケーキ。

うーん、美味い。

しゅわっとした舌触りと、まろやかなチーズの味が素晴らしい。

程よい甘さが最高だ。

次は……パンナコッタ。

ん?バニラビーンズが入っているのか。

うん、ちゃんと甘い。しかしながらしつこさは全くない。

美味しくないわけが無い。

最後にガトーショコラ。

おぉ……これはすごいぞ。

ビターチョコが前の2つの甘さを緩和してくれている。

これは間違いなく最後に食べて正解だ。

そしてアイスコーヒーで流し込んで……

 

柚「……ごちそうさまでした」

 

本当に美味しいご飯が食べられた、至福のひとときだった。

さてさて、まだまだ時間はあるわけだ。川越散策をしに行こう。

さつまいもソフトも食べに行こう!

 

 

********************

 

 

柚「もしもし、千歌ちゃん?」

 

千『もぐもぐ……ん、どうしたのゆづにぃ?』

 

柚「鞠莉ちゃんから貰ったお菓子美味しい?」

 

千『んぐっ?!う、うん、美味しいよ……?』

 

柚「そっかそっか、それでさぁ、俺の分ってとっといてあるよね……?」

 

千『へっ?!もっ、もももももちろんだよぉ〜!ゆ、ゆづにぃの分なんて食べちゃうわけないじゃん!』

 

柚「あ、ほんと?ならいいんだ。川越のお土産楽しみにしててね?」

 

千『あぁ……う、うん、ありがとゆづにぃ!』

 

よかった、食べてないみたいで。

それじゃ、可愛い可愛い妹のためにも、素敵なお土産を選んであげようか。

 

川越、今度は芋づくしの旅にしよう。

 

 

柚希side off

 

 

 

To be continued!




いかがだったでしょうか!

時折出てくる井之頭〇郎感が否めませんね笑笑
「うん、美味い」なんて特にそうですよね笑笑

今回のこのお店は、たか丸がかなりオススメするお店です。
本格イタリアンと言うべきでしょうか、そんな感じのスパゲッティやピッツァがいただけるお店となっています。
川越にお越しの際はぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか?
(※料金に関しては以前訪れた際の価格を参考にしています。現在は異なっている可能性がありますので、事前にお確かめの上ご利用ください。)

あとねこまんまおにぎり!最近話題になってきたおにぎりですね。
調べてもらえればわかるんですけど、ほんとに山盛りの鰹節なんです笑笑
めっちゃ美味しいので、こちらもぜひ!

それではまた次回のお話でお会いしましょう!
(・ω・)/ばいにー☆


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