ガンダムSEED NEOラウの『兄弟』地球連合の変態仮面ネオ少佐は娘を愛でたい (トキノ アユム)
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プロローグ『二つの出会い』

ステラは可愛い!(挨拶)
オリ主のネオさんというふざけた設定ですが、ゆっくりしていってね!


 灼熱の地獄の中に少年はいた。

 辺り一面に火の手があがり、住み慣れた屋敷を無残に焼き尽くしていく。

 それを為すすべなく、眺めていた。

「げほごほ!」

 煙を吸い込みすぎたのか、咳が止まらない。

 立っていられずに、倒れそうになる。

「え?」

 と、不意に誰かに身体を支えられた。

「……やっと見つけた」

 『誰か』は隣から少年の脇の下に腕を通すと、彼を支え歩き出した。

「きついだろうが、出口は近い。後少し頑張れムウ」

 名を呼ばれ、朦朧としかけていた少年の意識が少し戻る。

「君……は?」

 顔は上半分が火傷で覆われているため、分かりづらいが、多分自分と同い年ぐらいの少年だろう。

 少年は少しだけ悩むと、やがて答えた。

 

 

「ネオ・ロアノーク」

 

 

 それがムウ・ラ・フラガとネオ・ロアノーク。

 やがて地球連合軍のエースとなる二人のファーストコンタクトであった。

 

 

 

「君がステラ・ルーシェかな?」

「?」

 病衣のような粗末な服を着た少女に仮面の男が話しかけた。

 とある地球連合軍の施設。

 決して表には出せない非人道的な行いを行っているその施設で、その男は歪な存在であった。

 顔に仮面をつけた長身の男だ。この施設でそれなりの期間、生活をしてきたステラであったが、こんな男の事は知らない。

「誰?」

「ネオ・ロアノーク」

「……ネオ」

 何となく名前を呟いてみたが、やっぱり覚えはない。

 いや、そもそもここの職員の名前なんてほとんど覚えていない事に、ステラはぼんやりとした頭で考えた。

「それでよろしいのですか少佐?」

 仮面の男の隣にいた中年の男性職員がそう言った。

「それ……はないだろう」

 まるで棚に並べられた商品を紹介するような男に、ネオは不満があるようだ。

「この子は今日から俺のパートナーになるかもしれない子だぞ?」

「……失礼ですが、あまりおすすめはできませんね。それの性能はとてもいいとは言えません」

 人を人として見ていない発言を躊躇いなく行いながら、男は手元の紙のリストに目を向けた。

「薬の投与は初期段階ですので、薬の依存度は軽度というのは利点ですが、そのせいで戦闘能力、判断能力、共に生体CPUの中では並以下……とてもあなたと同じモビルスーツに乗る事なんて出来ませんよ」

「この子では、俺のパートナーは不可能だと?」

「データ上はそうですね。予定では別の強化実験を近い内に使う予定になっています……正直、現時点ではただの出来損ないです」

「なら、決まりだ」

 中年の職員の言葉を聞いたネオは、むしろ好ましいと言わんばかりに、満足そうに頷いた。

「この子だ。この子を俺のパートナーにする」

「……話をお聞きにならなかったのですか?」

「聞いていたさ……だからだよ」

 にやりと不敵に笑うと、ネオは職員が持っていたリストをひったくった。

 

 

「俺は不可能を可能にする男だからな。無理って言われた事をやる方が燃えるんだよ」

 

 

「……ふざけないで頂きたい」

 それを聞いた男は、眉を吊り上げる。

「ああ、やっぱりそう思うか? 今のは俺の親友の口癖なんだけど、ふざけているよな? 俺も初めて聞いた時はあんたと同じことを――」

「真剣にやっていただきたい!!」

 男が怒鳴り声をあげた。

「ここでの研究はあの忌まわしきコーディネーター共を根絶やしにする為に行っている崇高ものです! それを――」

 尚を激情をまき散らそうとする男。

「黙れ」

「!」

 それをネオは一言で黙らせた。

「俺は生まれてから一度たりとも、手を抜いたことはない」

 手元のリストを手で何度も引き裂きながらネオは男に向き直る。

「今回の事もそうだ。ブルーコスモスからの俺への命令は、この施設で生体CPUを一つ選び、それを育成し一つの『兵士』として作りあげろ……だ」

「は、はい。それは勿論承知していますが……」

 気圧されながら、男は何とか頷く。

「楽しみだな? 俺が育て上げた『兵士』とあんた達の作り上げた『兵器』どちらかが優秀かは結果が教えてくれる」

「……」

 仮面の男の視線には殺気すら混じっていた。

「だからいいだろう? この崇高な非人道的研究施設の『所長』さん?」

「は、はい」

 所長は頷いた。すると、ネオはようやく発していた殺気を収めると、ぼんやりとした瞳で自分達のやり取りを見ているステラに近付いた。

「さて、それじゃ改めて自己紹介だ」

 口元で笑みを作ると、仮面の男は手に持っていた引き裂いたリストを宙に投げた。

 ほんの数秒の間、その場にはまるで雪のように紙屑が空から落ちる。

「俺はネオ・ロアノーク。今日から君の教官で上司で――」

 それらの景色をバックに仮面の男は少女に手を差し伸べた。

 

 

「お義父さんだ」

 

 

 これが後に連合のエースとなるネオ・ロアノークと、彼の義娘であり、地球連合軍最年少エースとなるステラ・ロアノークの出会いであった。




今回の変態仮面の被害者 
所長さん「親切心から使えない失敗作だと忠告したのに、殺気飛ばされて、ちびりそうになった」


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PHASE-01『その名はファントム』
地球連合の変態仮面は親馬鹿に笑う


中立コロニー『ヘリオポリス』の玄関とも言える港に一隻の艦が入港していた。

「これでこの艦の最期の任務も無事に完了だ。貴様も道中ご苦労であったなフラガ大尉」

初老の艦長は肩の荷が降りたとばかりに、被っていた軍帽を脱ぐと一息をついた。

「いえ。道中何事もなく幸いでした」

そんな彼に笑顔と返答を向けたのは、金髪の二十代後半の男性であった。

端整な顔立ちと飄々とした雰囲気が同居したその男は地球連合軍に所属する軍人であれば、知らない人間がいないという程のパイロットであった。

ムウ・ラ・フラガ大尉。『エンディミオンの鷹』の異名を持つ地球連合軍のエースパイロットである。

「そして君もご苦労であったなネオ・ロアノーク少佐」

「いえ艦長。まだ終わってはいませんよ」

艦長の労いの言葉を、その男は即座に否定した。

風変わりな黒の仮面で顔の上半分を覆った奇妙な出で立ちをしていながら、ブリッジにいる艦のクルー達は誰も不思議そうにしない。

ネオ・ロアノーク少佐。

『ファントム』の異名を持つ地球連合軍で唯一のモビルスーツのエースパイロットである彼は、口元を険しく歪めばながら、宙を見るように目をさまよわせている。

「この周辺のザフト艦はまだこちらを諦めていません」

「考えすぎではないかね? 確かに二隻トレースしているが、港に入ってしまえばザフトも手が出せんよ」

「ヘリオポリスが中立国であるからですか?」

「聞いて呆れるけどな」

 ムウの呟きに、ネオは小さく心中で同意した。

 オーブ……地球連合とザフトの戦争中であるこの世界で両者に対して中立の姿勢を貫く国。

 だがその中立であるはずのオーブのコロニーであるヘリオポリスで、地球連合がザフトに対抗するための新型モビルスーツは開発されていた。

 これを呆れるなという方が無理な話である。

「はっはっは。だが、そのおかげで計画にここまでこれたのだ。オーブとて地球の一国家ということだよ」

 そう言いながら高笑いする艦長に、ネオが苦笑していると、数名のパイロットが彼の隣で敬礼を送った。

「では艦長」

「うむ」

 艦長も敬礼を返すと、パイロット達はブリッジから退室していった。

「上陸は本当に彼等だけでよろしいので?」

「ひよっこでもGのパイロットに選ばれたトップガン達だ。問題ない。貴様がちょろちょろしている方がかえって目立つぞ」

「こいつには負けますよ」

 苦笑しながら隣にいるネオの肩にムウは手を置く。

「というかお前もそろそろいかなくていいのか? あいつらとは別行動をとるとは聞いてたが……」

 階級が下でありながら、ムウはネオに砕けた口調で話すが、艦長を始め、誰も咎めようとはしない。

 二人が幾つもの死線を共に潜り抜けた戦友であり、階級などを気にしない親友同士である事はこの場にいる誰もが承知の事であったからだ。

「俺の準備は万端だよ。仮面がいつもと違う特注品になってるだろう?」

「……え? そうなのか?」

「……」

「いや、それぐらいで落ち込むなって。ちゃんといつもよりかっこよく見えるから安心しろって!」

慌ててフォローを入れるムウに、そうかと小さく頷いた時だった。

「ネオ。準備出来た」

「おぉ! お姫様の到着だなネオ!」

ブリッジに一人の少女が入ってきたのは。

柔らかく波打つ金髪と、大きな瞳の容姿端麗な美少女であるステラは基本的に何を着ても似合うが、今回のドレスは特に絵になる。

ホルターネックのドレスは凝ったデザインで、ベールのような袖が華奢な腕に垂れかかり、少女の可憐さを際立たせていた。

「……おいでステラ」

「うん!」

少女は名を呼ばれると、人目などは気にならないと言わんばかりに、嬉しそうにネオに抱きついた。

「ひゅー。相変わらず熱々だねお二方」

「?」

「義理とはいえ、親子なんだから当然だ」

茶化しを入れるムウに対して、ステラは首を傾げ、ネオは恥じる所かむしろ胸を張った。

「では艦長。我々も行くとします」

「それは構わないが……」

ヘリオポリスにつけば、ネオ・ロアノークとそのパートナーである少女は彼等の機体を受領するために、ヘリオポリスに降りるという上層部からの指示を前もって受けていた為、それは装っては問題ない。

「君達の格好も上層部からの特別な指示なのかね?」

ネオ・ロアノークはいい。口元以外を隠すフルフェイスの仮面は初見では中々に目を引くが、この任務の間の艦内生活で慣れた。

だから問題なのは、彼の隣にいる()()の方だ。

ステラ・ロアノーク。

幼い少女でありながらも『ファントム』の異名を持つネオ・ロアノークの相棒であり、卓越したモビルスーツの操縦技術とセンスを持つパイロットだ。

その少女は今、青を基調としたドレスを身に纏っている。

それが何を意図するのかを艦長は質問したのだ。

「艦長の言いたいことは理解できます」

ネオはこくりと小さく頷くと、

 

 

 

「最っ高に似合ってますよねっっッッ!!!!!」

 

 

ブリッジに響くような雄叫びを突如として発した。

「まさにエクセレント!! 青という落ち着いた色をチョイスしたことにより、我が娘の可憐さを際立たせ、更に更にお父さんもビックリなほどに、意外にある胸が成熟する前の青い果実を彷彿とさせ――」

「ネ、ネオ少佐?」

頭の中のなにかが弾けたのではないかとばかりの豹変ぶりに、一部を除くブリッジクルーは唖然とし、親友であり、ネオの性格をよく知るムウは必死に笑いを堪えている。

しかしそんなことは眼中にないとばかりに、隣にいるステラを抱き締めるとネオは叫ぶ。

「とにもかくにも、俺の娘の可愛さは宇宙一ぃぃ!!!」

と、そこまで叫んだ所で、ぴたりと止まると艦長と向き直る。

「折角平和なコロニーに降りるんです。味気ない軍服よりも、こっちの方がいい気分転換になると思いませんか?」

「……ああ、うむ、そうだな」

完全に勢いに呑まれた艦長は、それ以上何も言えずにただ頷いた。

「では艦長お世話になりました」

「あ、ああ。貴様達の更なる活躍に期待するぞ」

ネオは敬礼で答えると、「そうだ」とムウを振り返った。

「ザフトの艦への警戒は絶対に緩めるなよムウ」

「中立のここに仕掛けてくると?」

「……相手はクルーゼだからな」

「! ラウ・ル・クルーゼか!?」

ラウ・ル・クルーゼ。

ザフトのエースパイロットでありながら、優秀な指揮官でもある厄介な敵の名に、ムウは驚く。

「ああ。間違いない。あいつはすぐ近くにいる」

「その心は?」

「いつもの感覚だ」

ネオと長い付き合いのムウはそれだけで納得した。

ネオとクルーゼは互いの存在を感じる事が出来る。

普通なら笑い話にしか戯言だが、似たような感覚に覚えがあるムウは笑わなかった。

「了解。他のパイロットの奴等には俺から伝えておく」

「頼む」

伝えるべき事を終え、今度こそブリッジから出て行こうとするネオに、ムウはぽつりと呟いた。

「……毎度思うんだが、お前のその感覚はなんなんだ?」

「ん?」

振り返るネオに、ムウは肩をすくめてみせた。

「俺も奴が近くにいれば、何となく感じる事が出来るが、お前ほど正確じゃない……運命の赤い糸で結ばれているのかお前らは」

「さあな。自分の事だが、俺にも分からんさ」

何故かそこで曖昧に笑って誤魔化すと、ネオはステラと共にブリッジから出ていった。

ブリッジから出たネオはぽつりと呟いた。

 

 

「結ばれているかもな。血で染められた赤い糸で……」

 

 

隣にいたステラはそれを聞き、その意味をぼんやりと考えるが――

「?」

結局分からずに、首を傾げるのであった。

 




今回の変態仮面の被害者
艦長「あいつ娘の事になると口数多くなるよな」


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ザフトの仮面は愉悦に笑う

 ヘリオポリスから少し離れた宙域。

 そこにある小惑星の陰に二隻の戦艦が存在していた。

 ザフトのナスカ級戦闘艦『ヴェサリウス』とローラシア級戦闘艦『ガモフ』である。

 その内の『ヴェサリウス』の艦長であり、優秀な部下でもあるフレデリック・アデスに風変わりな銀色の仮面を着けた男──ラウ・ル・クルーゼは苦笑した。

「そう難しい顔をするな。アデス」

 眉間に皺を寄せる傍らの男とは裏腹に、ラウは落ち着き払った様子だ。

「は……しかし評議会からの返答を待ってからでも、遅くはないのでは?」

 これから行う作戦はそれほどまでに大事になってしまうのだ。ならばこそ、慎重に動くべきだとアデスはラウに進言する。

「遅いな」

 だがそれをラウは一蹴した。

「私の勘が告げている。ここで見過ごさば、その対価いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」

 手にしていた写真をラウは指で弾く。

 それを受け取ったアデスは何も言えなくなる。

 写真は不鮮明な画像だ。

 しかしそこには確かに写っているのだ。

 人型の巨大兵器の装甲の一部が。

「……それに」

 仮面の隠されていない口元を笑みに歪める。

「どうやら私の『宿敵』もいるようなのでな」

「――ネオ・ロアノーク……『ファントム』ですか?」

「他に誰がいる?」

 答える声は、はっきりと分かる程に上機嫌であった。

 それを聞いたアデスはまたかと、心中で溜め息をついた。

 彼の上官であるラウ・ル・クルーゼは誰もが認める優秀な軍人だ。

 常に冷静沈着で容赦のない戦いぶりから、部下からも軍の上層部からも信頼は厚い。

 だがそんな彼にもたった一つだけ『悪癖』が存在していた。

 地球連合軍エースパイロット ネオ・ロアノーク。

 地球連合で鹵獲したザフトのジンを操り、鬼神の如き活躍を見せる唯一のモビルスーツのエースパイロットであるネオ・ロアノークに対してラウは異常な執着を見せる。

 自らを『ファントム』の宿敵と称し、彼がいると分かればモビルスーツに乗ると、嬉々として戦いに赴く。

 副官であるアデスの心労を意に介さず……だ。

「新型兵器と共に、ヘリオポリスにある奴の新しい機体──それを我が軍が手に入れるのは、我が軍にとっても多大な利益になるのではないかね?」

「……そうですね」

 きりきりと痛む胃を感じながらも、アデスは首を縦に振った。

 こうなった自分の上司を止める術がない事を、誰よりも知っているからである。

 

 

「──地球軍新型兵器、並びに『ファントム』の専用機、あそこから運び出される前に奪取する」

 

 

 




今回の変態仮面の被害者
アデス「隊長がファントム好きすぎて胃が痛い」


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そして運命の歯車は回る

変態仮面さんとキラの出会いです。


 そして幾つもの運命の歯車は回り始める。

 それはヘリオポリスの民間人の少年キラ・ヤマトも例外ではなかった。

「――これって……」

 横たわる巨大な人型の兵器を目にしていた。

 鋼の装甲に、四本の角を生やしたような頭部。すらりとしたボディ――記録で見た事のあるザフトのジンとは明らかに違うモノ。

「地球連合軍の新型機動兵器……やはり……」

 キラの隣にいた少女ががくりと膝をつく。

 ザフトの襲撃を受けたと聞き、避難しようとしたキラであったが、少女が一人で避難場所とは別の所に向かおうとした所を見つけ、放っておけなくなりついてきた。

 退避シェルターを求め、工場区画まで来たまではよかったが、これは――

「お父様の裏切り者!!」

 キャットウォークの手すりを力の限り握りしめ、呻くように叫ぶ少女にどう声をかけるべきかと思った時であった。

 キラの目がこちらに向けられる銃口を捉えたのは。

「危ない!!」

 銃声が鳴り響く寸前、間一髪の所でキラは少女を手すりから引き離し、後ろに飛びのく事に成功した。

 一体何が起こっているのか、キラには分からない。

 だが今は逃げる事が最優先だと、キラは少女を抱えるようにして走り、退避シェルターの入り口に何とか辿り着いた。

「ほら、ここに避難している人がいる」

 シェルター入口のインターフォンを押しながら、隣にいる少女を励ますようにそう言うキラに、スピーカーから返答がある。

『……まだ誰かいるのか?」

「はい! 僕と友達もお願いします。開けて下さい!」

『二人!?』

「はい!」

 周りを確認しているのか、スピーカーからの返答には少しの間があった。

『もうここはいっぱいなんだ左ブロックに37シェルターがあるが、そこまでは行けんか!?』

 キラは振り返り、左のブロックを確認する。

 そこは銃撃戦の真っ最中だ。自分一人ならまだしも、少女を連れて行く事などとてもできない。

 キラは決断し、そして叫んだ。

「なら一人だけでも! お願いします! 女の子なんです!!」

 女の子の声が効いたのか、しばしの沈黙の後にスピーカーから返答はあった。

『分かった――すまん!』

 ロックを示していた赤いランプが、青へと変わり、扉が開いた。

「入って」

「?」

 まだショックを受けているのか、少女は呆けたようにキラの顔を見返す。

 キラは少女の身体をシューターとなっている扉の中に押し込む。

「なにを……私は!」

 そこまで来てようやく事態に気が付いたのだろう。抵抗の素振りを見せるが、キラは強引に押し込んだ。

「いいから入れ! 僕は向こうへ行く! 大丈夫だから! はやく!」

 少女の身体を押し込み切ると、キラは無理やりシューターの扉を閉めた。

「待て! お前は!?」

 シューターのガラス越しに何かを言わんとする少女の姿が見えたが、すぐに下層のシェルターへと向かって行った。

 それを見届け、走り出そうとした瞬間――

 

 

「いい奴だな君は」

 

 

 背後から声が聞こえた。

「!?」

 驚き、背後を振り返ると、そこには二人の男女がいた。

「こんな戦場で自分よりも他人を優先するなんて、中々出来る事じゃない」

 一人は仮面をつけた長身の男。

 仮面で覆われていない口元を笑みで歪ませ、興味深そうにこちらを見ている。

「あなた達は――?」

「俺は地球連合軍所属のネオ・ロアノーク少佐。見ての通り軍人だ」

「えっと……」

 どこの辺りが軍人なのだろうか? 軍服ではなくラフな格好の私服と共に仮面を装着したその男は、変質者にしか見えない。

「そしてこの子は俺の義娘で地球連合軍所属のステラ・ロアノーク少尉。ご覧の通り軍人だ」

「いや、あの……」

 だからどのあたりが軍人だというのだろう?

 仮面の男ネオが紹介した彼の隣にいる少女もまた、軍服ではなくドレスを身に纏っている。

「まあ、とにかくだ……このままここにいても、死ぬだけだ――どうかな少年? 一緒に来ないかい?」

「あ、えっと……」

 激しく怪しい二人組だが、ここを襲撃しているザフトの兵がこんな格好をしているはずはない。

 軍人云々の話は別として、今この場に味方となってくれる人の存在は心強い。

「よろしく、お願いします」

「よし。いい子だ」

 頷くと、ネオは戦闘に立って進みだした。

「ハマナ! ブライアン! はやく起動させるんだ!!」

 三人が格納庫に出ると女性の声が響いた。

 キラを始めとした三人は、キャットウォーックを見下ろす。

 先程見たモビルスーツの背後に身を隠しながら、ザフト兵たちにライフルを撃つ作業服の女性がいた。

「!」 

 キラはその時気が付いた。

 一人のザフト兵が、作業服を着た軍人らしい女性を狙っている事を。

「危ないうしろ!」

「!」

 思わずキラが叫び、女性も反応し、背後に銃口を向ける。

 だが――女性が引き金を引く前に、一発の銃声と共にそのザフト兵は鮮血をまき散らし、地に倒れた。

「え!?」

 ぎょっとし、銃声がした隣を見ると――

「……ネオ。一人仕留めた」

 感情が籠らない瞳をした少女――ステラがその手に銃を持っていた。

「君!?」

 虫一匹殺せなさそうな華奢で可憐な少女が、躊躇いなく殺人をしたという事実にキラは驚くが、

「来い!」

 女性の怒鳴り声に似た大声が聞こえた。

「! 左ブロックのシェルターへ行きます! おかまいなく!」

「あそこはもうドアしかない!」

「!」

 その言葉にキラの足が止まる。一瞬迷うように、眼下の景色と自分の近くにいる二人を見るが――

「行け」

 迷うキラの背中を押すように、ネオはそう言った。

「俺達は俺達で何とかする」

「でも……」

「安心しろ」

 ネオの言葉を証明するように、

「行ってきますネオ」

 少女は躊躇いなくキャットウォークから身を躍らせた。

「!?」

「え!?」

 キラを始め、下にいる女性も目を見開く。

 5、6メートルの落差はある簡単には降りられない高さを、少女は華奢な見た目からは想像も出来ないような敏捷さで、猫のようにモビルスーツの上に危なげなく着地した。

「な? 大丈夫だろう? 君もはやく行け」

「あなたは!?」

「俺ならもっと大丈夫だ」

 「何故なら」と、キラを安心させるように肩をすくめ、おどけてみせながら言った。

 

 

「これでも『ファントム』なんでね。簡単には死ねない」

 

 

 そして仮面の男もまた進み出した。

 その歩みはまるで慣れ親しんだ道を歩くように、自然であった。




現在のステラは原作Destinyステラをと比べると、強化措置があまり施されていないため、身体能力は強化人間にしては低いですが、ネオさんの教育のお陰で、戦闘技術が異常に高く、総合的に見るとDestinyより強いです。
つまりーー


お願い死なないでラスティ!
ここで死んだら誰がストライクを強奪するの!?
ここの戦闘を乗りきったら、あなたもガンダムパイロットなんだから!!


次回『ラスティ死す』


デュエルスタンバイ!


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ラスティ死す

キラとアスランの再会とステラちゃんのリアルファイト回です。
原作でラスティを撃ち殺した地球連合の士官のハマダさんは、なんか勝手に死にました。


(くそぉ!)

 ザフトの兵士の一人であるアスラン・ザラは生き残っていた連合の士官達と銃撃戦。

 兵士の質はコーディネーターであるこちらが上だが、数で勝る地球連合軍に何人かの仲間が犠牲になった。

 だが銃撃戦の均衡も崩れ始めていた。仲間の一人が敵の士官を一人撃ち殺した。

 後はモビルスーツの近くにいる女性士官だけだ。

 任務達成は目前──

「な……」

 その時であった。アスランがその存在に気が付いたのは。

「女……の子?」

 この場に似つかわしくない綺麗なドレスを身に纏った少女が銃弾飛び交う戦場にいた。

(……民間人か?)

 着ている服から地球連合軍の士官である可能性は低い。ならば、戦闘に巻き込まれた民間人の可能性が一番高いが──

「!?」

 そんな思考は少女の目を見た瞬間、吹き飛んだ。

 華奢で可憐な見た目からは少女の目にあったのは紛れもない殺意。

(まずい!)

 そう思った時には手遅れだった。

「!」

 少女は手に持っていた銃を向けると、躊躇いなく引き金を引いた。

「がっ!?」

「ラスティ!?」

 発射される弾丸。それは死角である仲間を的確に撃ち抜いた。

「くそぉ!」

 仲間を撃たれた怒りから少女に銃を向けるアスランだったが──

「……!」

 発射された弾丸を少女は、必要最低限の動きで躱して見せた。

「馬鹿な!?」

 アスランも兵士だ。人を撃つのも殺すのも始めてではない。

 だから驚愕したである。

 経験上、絶対に当たるはずタイミングの弾を少女が躱して見せたのだから。

(まずい!)

 少女が動く。走りながら、銃口をこちらに向けようとしている。

「ちぃ!!」

 アスランは再び引き金を引く。

 アサルトライフルから発射される弾丸の雨。その一つが少女の手の銃に当たり、その手から弾かれる。

 勝利の確信。だがその瞬間、アスランは背後から殺気を感じていた。

「うおおぉぉ!!」

 振り返りながら、銃を撃つ。

「あうっ!」

 放たれた弾丸はこちらを撃とうとしていた女性士官の肩に命中した。

「これで終わりね」

「!」

 すぐ傍で声が聞こえた。

 綺麗で幼い声。だがそれはアスランにとって死神の声だった。

「赤いの!」

 少女の手にはナイフが握られている。

(まずい!)

 咄嗟に回避しようとするが、間に合わない。

 自分はここで死──

「アスラン逃げろぉ!!」

「ラスティ!?」

「!?」

 少女に撃たれた仲間の叫びと共に銃声が鳴り響く。

「!!」

 弾丸を回避することを優先したのか、少女はその場を飛びのくと、アスランからも距離を取った。

 当然それは明確な隙だ。アスランは手に持ったライフルを少女に向け、引き金を引くが──

(出ない!?)

 玉詰まりが起きたのか、弾丸が発射される事はなかった。

「ちぃ!!」

 舌打ちをし、ナイフを抜き取り、少女に襲い掛かろうとするが……

「行けアスラン!」

「ラスティなにを!?」

 仲間の声がそれを制止させた。

 ラスティに目を向けると、腹部からおびただしい鮮血を流しながらも、立ち上がり、叫んでいた。

「この化け物は俺が何とかする!! お前はGを確保しろ!!」

「邪魔!」

 銃を持っていないアスランよりラスティの方が脅威だと判断したのか、少女がラスティに標的を変えた。

「ラスティ!」

「行けっていってるだろう!」

「しかし!!」

「どの道、俺は助からねえ!!」

「……!」

 反論しようとするアスランだったが、ラスティの言葉に気が付いた。

 気が付いてしまった。

(あの出血ではもう……)

 ラスティがどんな思いでそれを口にしているのかを。

 どんな覚悟でそれを言っているのかを。

「行けぇ!!」

「!!」

 断腸の思いでアスランは選択した。

 少女の排除ではなく、Gの確保を。

 仲間の想いをくみ取り、仲間を見捨てる道を。

 

 

 

 キラ・ヤマトもまたその戦場にいた。

 キャット・ウォークから飛び降りた彼は、自分よりも歳下であろう少女の戦闘に唖然としていた。

 だが来いと言った女性士官がザフト兵の一人に撃たれ、彼の意識を引き戻した。

「大丈夫ですか!?」

 思わず駆け寄るが、返事はない。

 撃たれたのは肩のはずで死んではいないはずだが──

「!」

 近くのザフト兵がナイフを持ってこちらに迫ってきている事に気が付く。

 ただの民間人であるキラは咄嗟に逃げる事も出来ずに──

 

 

「──キラ?」

 

 

 こちらに襲い掛かろうとしていたザフト兵が茫然とした声を上げながら、制止していた。

 キラもザフト兵を見る。

 炎の照り生えるヘルメットのバイザーごしに見えた顔に、キラもまた驚いた。

「……アスラン?」

 無意識の内にキラはその名を呟いていた。

 幼馴染であった親友の名前を。

「!」

 バイザー越しに見える緑の瞳が、驚愕に見開かれる。

 その意思の強そうな瞳と、物静かそうな顔立ちには紛れもなく親友の面影が色濃く残っている。

 思いも寄らない形で再会に二人が立ち尽くしていると、 

「……ぐっ!」

 女性士官が負傷した肩を押さえながら、銃を構えた。

「っ!」

 間一髪の所で、それに気が付いたアスランは咄嗟に後方に下がった。

 先程までアスランがいた空間を、弾丸が薙ぐ。

 そしてその一瞬の隙をつき、女性士官は近くにいるキラに体当たりをすると、開いていたモビルスールのコクピットに一緒に転がり込んでいった。

 

 

「く!」

 コクピットに入り込まれ、起動するモビルスーツ。

 それを見ながら、アスランは今正に立ち上ろうとするモビルスーツの隣にあるモビルスーツの元に向かって行った。

(馬鹿な! キラがどうしてここに!?)

 この場にいない筈の幼馴染の姿を見たアスランの心中は乱れに乱れていた。

 そんなはずはない。何かの間違いだと自分に言い聞かせるが、先程見た少年の顔立ちは、自分のよく知る友の面影があった。

「ぐああああぁぁぁ!!!!」

「!?」

 仲間の苦悶の悲鳴に、アスランははっとする。

「ラスティ!!」

 無意識の内に悲鳴の上がった仲間の元へ向かおうとするアスランであったが、それを寸前で何とか堪える。

 ここでラスティの元に向かうのは、自分の背中を押してくれた彼の想いを無駄にしてしまう。

(それだけは駄目だ!!)

 だからと──アスランは自分達の奪取目的の一つへと向かった。

 振り返りは……決してしなかった。

 

 

「ぐ、がぁ!」

 赤いザフト兵が仰向けに地に倒れる。

 その手に持っていた銃は既にステラが奪い、勝敗は決していた。

 いや、最初からそもそも勝負にはなっていなかった。

 奪った銃のマガジンには弾は一発も入っていない。

「……やられた」

 このザフト兵は最初から囮として自分の命を使い捨てる算段であったようだ。

「へへ……」

 だからだろう。割れたバイザーから見える男の顔は勝ち誇ったように笑っていた。

「……」

 それを見たステラは無言で男の腹にナイフを突き刺した。

「ぐああああぁぁぁ!!!!」

 急所は刺さずに、あえて外す。

 殺すのではなく悲鳴をあげさせるのが目的だ。

 男の笑みに怒りを感じたからなぶっているのではない。

 かつての自分ならここで激情に支配されていただろうが、ネオから感情を律する術を教わった自分は戦闘中はそんな初歩的なミスはしない。

 男を直ぐに殺さないよう

 ネオに教わった戦法の一つだ。

 一人の敵をわざと生かし、その存在を餌にして他の敵を誘い出す。

 だが今回は失敗だったようだ。

 ああ、そうだったとステラは思いだした。

 この戦法は感情的な相手に効果があるが、冷静な敵には効果が薄いともネオは言っていた。

 仲間よりもモビルスーツの奪取を優先したあのザフト兵は冷静な相手だった。

「……失敗」

 無駄な時間を費やしてしまったと、ステラは刺したナイフを引き抜くと、今度は男の喉元に突き立て、絶命させた。

「……」

 ネオからの命令は可能であればGの奪取を阻止してくれ……であったからとりあえず敵を殺したが、これではもうどうしようもない。

 Gの一機は起動し立ち上がろうとしているし、もう一機の方は今正にザフト兵の一人がコクピットに入り込んだ所であった。

 今から行っても間に合わないのは明白である。

 火の手も上がって来た。ここで自分が出来ることはもうないだろう。

「任務、終了」

 ならネオの所に戻る。

 そこが自分の本来の居場所なのだから。

「ネオの所に帰る」

 自分には帰れる場所がある。 

 それがとても嬉しくて、ステラは幸せそうな顔でネオに指示された合流ポイントへと向かうのであった。

 

 

 その手は殺した敵の血で赤く汚れていた。

 

 




ラスティが死んだ!
ネオさんの教育でプレデターレベルのアサシンになったステラちゃん。
アスランは一つでも選択肢を誤ったら、ステラに惨殺されてSEED終わってましたね


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ミゲル・アイマンの死闘

ついにモビルスーツ戦!
視点はみんな大好き黄昏の魔弾さんです!(原作2話で退場の人)


「アスラン!」

 起動した二機のモビルスーツ。今回の任務の奪取対象が動き出した事を作戦の成功と捉えたミゲルは、歓喜と共に戦友の名を呼んだ。

『ラスティは失敗だ』

 だが通信から聞こえたアスランからの報告は思いも寄らないものであった。

「なんだと? なら──」

 今起動しているモビルスーツには──

『あれには地球軍の士官が乗っている』

「ちぃ!」

 ミゲルはジンの重突撃銃の弾丸を牽制の目的で、敵の新型モビルスーツの足元を狙い、撃った。

「ならあの機体は俺が捕獲する。お前はそいつを持って先に離脱しろ」

 そう言うと、ミゲルは自らのジンを走らせ、敵の新型に突っ込ませた。

 様子見目的のジンの重剣の一撃はスラスターを吹かせた敵機が後ろに下がった事により、回避された。

(赤ん坊みたいな動きと、鈍すぎる反応速度。乗っている奴は大した腕ではないか)

 だがミゲルはそれだけでおおよその相手パイロットの力量を把握した。

 ならばもう警戒は不要だと、ミゲルは再びジンを敵機に接近させる。

(こいつならどうだ新型!)

 そして攻撃の瞬間にジンのスラスターを吹かせ、上空から機体の重量を乗せた重剣の一撃を叩き込んでやる。

 

 

 だがその瞬間敵の新型に()()は起こった。

 

 

(機体の色が、変わる!?)

 メタリックグレイから胸部が青、腹部が赤、そして四肢が白へと変化する。

 だが変化はそれだげではなかった。

「なにぃぃ!?」

 ジンのサーベルの直撃。

 火花を散らしながらも、ストライクには傷一つすらつかない。

「こいつ!? どうなってる! こいつの装甲は!?」

 通常ではありえない現象に、ミゲルは敵の新型から距離を取りながら、コクピット内で叫ぶ。

『そいつらはフェイズシフトの装甲を持つんだ。展開されたらジンのサーベルなど通用しない』

 アスランからの通信に、ミゲルは舌打ちをする。

 見れば、アスランが強奪したモビルスーツもメタルグレイから鮮やかな赤へとその色を変化させている。

(化け物じみた性能だなおい! しかし……)

 あのモビルスーツが厄介な代物なのは間違いない。だか乗っているのはただの平凡なナチュラル。捕獲するのは不可能ではないはずだ。

「お前は早く帰投しろ。いつまでもうろちょろするな」

 アスランにそう告げると、ミゲルは再び機体を駆り、敵の新型に白兵戦を仕掛けるのであった。

 

 

「こっちだミリィ!」

 その時、戦闘を繰り広げる地球連合軍新型モビルスーツ──ストライクに偶然乗り合わせた民間人のキラ・ヤマトの友人達もまたそのすぐ近くにいた。

「はやく逃げないとここはやばい!」

 状況は悪くなる一方だ。

 避難はしていたが、逃げ遅れてしまっただけでも最悪なのに、たった今近くでモビルスーツ達の戦闘が始まってしまった。

「!!」

 近くの建物にジンとは違う人型のモビルスーツが倒れる。

 倒壊する建物と瓦礫の中少年たちは必死に走る。

「……え!?」

 その時、その中の一人である少女──ミリアリア・ハウがある事に気が付いた。

 少し離れた場所に自分達と同じ逃げ遅れた民間人がいる事を。

 可愛い少女だ。パーティーに参加するような綺麗なドレスを着た金髪の女の子。

「……?」

 こちらの視線に気が付いたのか、少女は自分達を見て首を傾げた。

「あなたも逃げ遅れたの!? はやくこっちに!」

 近くで戦闘が起きているためか、ほとんど叫びに近い大声を出しながら、ミリアリアが手を伸ばす。

「なにやってんだよミリィ!」

 ボーイフレンドであるトールの声に、一瞬彼の方を見るが。

「待って! あそこに女の子が……」

 だが、戻すとそこに少女の姿はなかった。

「え……」

 困惑するミリアリアであったが、足を止める訳にも行かずに、トール達の後を追った。

 

 

「こいつ!」

 攻撃を加えながら、ミゲルの苛立ちは募っていく。

 突破できない装甲というのもそうだが、それ以上に拙すぎる相手の動きがミゲルを苛立たせるのだ。

 ナチュラルのパイロット。それはコーディネーターのパイロットからすれば一笑にふす存在だ。

 奴等はコーディネーターの自分達から見ればあらゆる面で劣る。

 だがミゲルは知っていた。

 そんなナチュラルにもたった一人だけ例外が存在することを。

『ファントム』

 隊長と同じで仮面を着用しているという連合唯一のモビルスーツのエースパイロット。

 ミゲルは以前戦場でその男と遭遇し、敗北の苦汁を味会わされた。

 以降、『黄昏の魔弾』の異名を持ちながらミゲルは一部の仲間からナチュラルのパイロットに敗れたパイロットと後ろ指をさされてきた。

 それはまだいい。屈辱なのは確かだが、それ以上に得難い経験と越えるべき壁を得たことで、自分はかつての自分よりもあらゆる面で成長する事が出来たからだ。

 そういった点では、『ファントム』に感謝すらしている。

 だが、だからこそミゲルは許せなかった。

 あの『ファントム』よりも性能のいい機体に搭乗していながら、満足に動かすことのできない目の前のモビルスーツを操縦するナチュラルの士官が。

「生意気なんだよ! 『ファントム』以外のナチュラルがモビルスーツなど!!」

 叫び、剣の斬撃をお見舞いしようたした瞬間であった。

 不意に目の前のモビルスーツの動きが変わったのは。

 こちらのジンのサーベルをかいくぐったかと思うと、体当たりをかましてきたのだ。

「なにぃ!?」

 思いも寄らない反撃に驚愕しながらも、ミゲルは崩れた機体の体勢を直ぐ様立て直す。

「このぉ!!」

 ジンのスラスターを吹かせ、相手の距離を縮めようとするミゲルであったが──

「なに!?」

 敵の新型の頭部のバルカンで牽制され、ジンの加速は中断された。

 いや、問題なのはそうではない。

 相手の頭部のバルカンはこの前にも発射されたから把握していた。

 問題なのはそのバルカンの弾丸を全弾こちらに当ててきたという事だ。

(まさかこいつ!)

 満足な加速が得られず、バランスを崩した斬撃。

 それを新型は避けるまでもないと言わんばかりに、ジンの顔面に拳を叩き込み、迎撃する。

「ぬおぉ!!」

 とてつもない衝撃と共に、壊れかけた建物にジンが吹き飛ばされる。

「なんだあいつ! 急に動きが!!」

 ジンを建物の瓦礫から立ち上がらせながら、ミゲルは自分の感じていた事が正しかった事を理解する。

 信じられない事だが目の前のモビルスーツの動きは時間が経つことに、成長していっている。

 しかもただの成長ではない。

 蛹から蝶が出てくるような劇的なものである。

「こいつ! まさか『ファントム』なのか!?」

 ナチュラルとは思えない動きに、思わず呟いたミゲルではあったが、「いや」と直ぐ様自らの言葉を否定する。

 奴がパイロットだとしたなら、最初の動きは絶対にあり得ない。

 何百回と奴の戦闘データを元にしたシミュレーションを行ってきたミゲルは自分の直感に確信を持っている。

 こいつはファントムとは別の出来る奴だと。

 ストライクが動く。

 スラスターを吹かせ、上空へと。

(逃げる!? いや……)

 ミゲルはその瞬間に気が付いた。

 サブカメラを映すモニターの端に、何人かの人間の姿がある事を。

「民間人!?」

 服装と挙動から見るに逃げ遅れた所をここに来たと言った所か。

 ストライクがこちらが動くのを誘っているのは明白。

 それに乗るのは愚の骨頂だが……

「ちぃ!!」

 ナチュラルと言えども民間人。

 それが近くにいると分かっていながら巻き込むのは、許される事ではない。

(……今更だけどな)

 中立のコロニーを襲撃した時点で、自分達は既に多数の民間人を巻き込んでいる。

 だがそれでもと。偽善と分かっていながらも、ミゲルは軍人としての矜持を選んだ。

 スラスターを吹かせ、ストライクを追いかける。

 だがその速度ははっきりと分かる程に遅い。

「やはりこいつでは駄目か!」

 ここに来て今搭乗している機体が自分専用のカスタムジンでない事が悔やまれる。

 機動性も、反応速度も全てが遅い。

 だが──

「舐めるなぁ!!」

 記憶にあるファントムの存在がミゲルの闘志を燃え上がらせる。

 奴と戦った時、相手の機体は自分の機体よりも低い性能であった。

 だが奴は勝った。

 格の差を見せつけるように、鮮やかに圧倒的に自分に勝って見せたのだ。

「モビルスーツの性能の差は戦力の決定的差じゃねえ!!」

 先程とは離れた位置に着地した新型を確認したミゲルはメインとサブモニターで周辺を一瞬だけ確認する。

 民間人は──いない。

 やはりあの新型は誰もいない場所に自分を誘導したのだ。

 戦場でそういう行動を迷わず取れるというのは同じ軍人として尊敬するが──

「舐めやがって!!」

 それとは別にそう言った事に気がはらえる程の余裕が相手にはあるという事実に、ミゲルは苛立ちを覚える。

「っ! 来るか!」

 ジンが着地したと同時に、敵の新型はついに攻勢に転じてきた。

 機体の両腰から射出されたナイフを両手に持つと、ジンとは比べ物にならないスピードと運動性を持って接近してくる。

「速い! だが──」

 迫ってくるストライクの動きをミゲルの目は完全に捉えている。

 既にミゲルは敵の新型を重機関銃で迎撃するという選択肢は捨てている。

 あの速度で動いている機体に当てるのは至難の業であるし、仮に運よく直撃させられたとしても、フェイズシフト装甲とやらに阻まれ、大したダメージにはならないだろう。

 常に冷静さを失わず、自分が選べる最善手を数ある選択肢の中から的確に選び取る。

『ファントム』の敗北からミゲルが会得した技術の一つ。

 撃破は不可能でも、突撃する敵の新型の完璧な対処方法を頭の中で組み上げたその時であった。

 

 

 突如として飛来したモビルスーツ用のナイフに、頭部を貫かれたのは。

 

 

「なにぃいいい!!??」

 敵の新型からの攻撃ではない。連合の白いモビルスーツの両手には変わらずに二本のナイフが握られている。

(後方だと!? 馬鹿な! レーダーには何も反応がなかったぞ!?)

 生き残ったサブカメラで飛んできた方向を確認し、ミゲルは目を見開いた。

 そこには一機のジンがいた。

 只のジンではない。追加装甲が施されているのか、通常のジンよりも大きな胴体とそれと対照的なほっそりとした四肢。

 だがそれはいい。問題なのはそれが漆黒の機体色をしていたという事だ。

 黒……それは忘れもしない()の色。

 地球連合軍唯一のモビルスーツのエースパイロットにして、亡霊の異名を持つ化け物。

 その名は──

 

 

「ファントム!!!!」

 

 

 漆黒の亡霊の名を叫ぶのと、正面から接近していたストライクのアーマーシュナイダーがミゲルのジンの首のジョイント部分に突き刺さるのは同時であった。 




この作品のミゲル君はネオさんにぼこぼこにされた経験を糧に特訓して強くなったスーパーミゲル君なので、原作よりも強いです。


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ラウ出撃

えー。書いといてなんですが……


(ラウが)へ、へ、変態でちー!!


「……何とか援護が出来たか」

と言っても、アーマーシュナイダー1本を投げる程度の援護だが。

目的であった自分専用のモビルスーツに到着したネオであったが、機体を起動した時には既にストライクとジンの戦闘が始まってしまっていた。

劣勢になれば、加勢する気ではあったがーー

(まさか、俺とステラ以外にあれだけ動かせるナチュラルがいるとはな)

いや……とそこまで考えてネオはふっと笑みを浮かべた。

「ナチュラルとは限らないか」

あの工場区にいたお人好しの少年がいた。

強化人間で、身体機能を人為的に強化されているステラは例外として、あの高さをあんなに簡単に降りられるナチュラルなどいるわけがない。

あの時、あの少年が降りた場所はちょうどストライクのコクピット付近であった。

「となると、色々面倒なことになりそうだな」

まあ、今は撃破は出来たからよしとするかと、ストライクにアーマーシュナイダーを突き立てられたジンを見て思う。

「それにしても、やはり悪くないな……ブリッツパックは」

現在自らが乗るジンの装備の性能を発揮された事に、ネオは満足そうに笑った。

「パイロットである俺と同じ失敗作同士、相性が――」

そこまで言った時であった。

メインモニターにジンからザフト兵が離脱するのを見たのは。

「あ」

あれはまずいなとネオが思った瞬間、

 

 

ジンはストライクを巻き込み、自爆した。

 

 

 

そして戦闘はコロニーの外でも激化していた。

「オロール機大破。緊急帰投!」

「オロールが大破だと!? こんな戦闘で!?」

オペレーターからの報告に、アデスは思わず眉を上げていた。

アデスが驚きの声を上げるのも無理はない。

彼等の部隊はパイロットの基本レベルが高いザフトの中から選び抜かれた精鋭中の精鋭。

ましてやろくな防衛戦力など存在しない中立コロニーの戦闘で後れを取るなどあり得ない事であった。

「まさか『ファントム』がいるのか!?」

「違うな」

思わず出してしまった敵の名前は、後ろのラウ・ル・クルーゼに即座に否定された。

「報告になかっただろう。奴はコロニーの外にはいない」

感情の籠らないラウの言葉に「しかし」とアデスは否定する。

「過去の戦闘では奴は存在しない所から突然現れたという記録があります!」

「ああ、それなら……」

「ミゲル・アイマンよりのレーザービーコンを受信。エマージェンシーです」

ラウの言葉を遮る報告に、アデスは眉をしかめた。

「ミゲルまでもか!? 一体――」

 どうなっているのでしょうかと、ラウに尋ねようとした所でアデスはぎょっとした。

 

 

「……くくく」

 

 

 ラウが笑っていた。

 ただの笑みではない。

 何かを堪えるように、あるいは歓喜するように全身をフルフルと震わせたかと思うと、ニィ!と頬をこれ以上ない程に吊り上げてみせたのだ。

「そこにいるか……ネオ」

 小さく、だが確かに呟いた。

(ああ、だめだ……)

 それを見たアデスはこの後の展開を悟った。

「ミゲルが機体を失う程に動いているとなれば、最後の一機そのままにはしておけん」

「ああ、はい……そうですね」

 滑らかな動作で立ち上がり、そう言うラウだが、アデスにはそれが建前にしか聞こえなかった。

「私もシグーで出る」

「……ご武運を」

 ブリッジから出て行く背中に、アデスは何とかそれだけを告げた。

 きりきりと痛む胃のある腹部を手で抑えながら。




アデス艦長の胃に敬礼
(^-^ゞ


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ラウVSムウ

変態仮面の変態ぶりが発揮される戦闘回です


そしてヘリオポリスの外の宙域での戦闘は鎮静しようとしていた。

「このままではまずいな……」

 メビウスゼロを駆りながら、ムウは仲間が乗っていたメビウスの残骸を一瞥し、苦々しく呟く。

 戦況は絶望的の一言に尽きる。

 彼の乗っていた艦は既にザフトによって撃沈され、共に出撃したメビウスのパイロット達も撃墜されてしまった。

 今、この宙域で生き残っている地球連合軍は自分一人のみ。

(ネオに任されておきながらこの様か!)

 親友に頼まれた物を何一つ守れなかった自分の無力さに、ムウは歯を食いしばる。

 しかし客観的な視点で見るのであれば、ムウはよく戦っていた。

 味方が次々に墜とされていく中で、ジン数機に損傷を与え、内一機は大破させたのだから。

 それは現在の戦場を知るものでは十分に善戦と言える戦果であった。

 そもそも地球連合とザフトの戦力には大きな差がある。

 ザフトの兵は皆、コーディネーターで運動神経、反射神経、判断力、全てにおいてナチュラルを凌駕している。その為、全体のパイロットとしての質ではどうしても連合はザフトには勝てない。

 それだけでも不利な要因なのに、ザフトは連合に対してもう一つ大きなアドバンテージを持っている。

 それがモビルスーツの存在だ。

 機動力、火力共にモビルスーツはモビルアーマーを圧倒する。

 それはこれまでの戦場でも、そしてこの戦場でも証明されてきた。

 戦いは数……という古来からの戦争のルールを塗り替えたのは、コーディネーターとモビルスーツという数ですら覆せない『質』であった。

 だからこそ、地球連合はこの戦局を打開する為に新型のモビルスーツをヘリオポリスで建造していたのだが……

(ネオとステラの奴は無事だろうか?)

 絶望的な戦場で窮地に立たされながら、ムウの脳裏に浮かぶのは親友とその娘の姿だ。

 ここがこのような騒ぎなのに、ヘリオポリスの内部が無事だということはあり得なく、まず間違いなく戦闘が始まっているだろう。 

(……大丈夫だ。あいつらなんだから)

 あの親子の強さは誰よりも自分が良く知っている。だがそれでもやはり心配にはなる。

(ここを片付けて、助けに行ってやりたいんだがな)

 自嘲気味に笑う。

 己の力量をわきまえているムウは、それがどれだけ難しい事なのかを理解している。

 『エンディミオンの鷹』と異名は持っていても、自分に戦局をひっくり返すような力はない。

 そんな事が出来るのは『ファントム』の親友ぐらいのものだ。

 だが――

「せめて、戦艦だけでも落とさせてもらおうか」

 そうすれば、あいつらの負担は少しでも軽くなるだろう。

 それすらも一般的には不可能と言われる事だが、ムウの決意は固かった。

 それぐらいの不可能は可能にして見せると。

 何故なら自分はあの『ファントム』の親友で、

(不可能を可能にする男……だからな)

 覚悟を決め、敵艦への特攻をムウが敢行しようとしたその時であった。

 三つの光が戦場を照らしたのは。

 それは信号弾と呼ばれる物で、撤退を意味するものだ。

「引き上げる?」

 戦局は言うまでもなくザフトの優勢。だというのに、ザフト側が上げた撤退命令に、ムウが訝し気にしていると、

「だがまだ何か……!」

 瞬間、ムウはぞわりと肌を伝うような感覚と共に、頭に軽い電流のようなひらめきに似た感覚を覚えた。

「これは……!」

 馴染みのある感覚に、ムウはメビウスゼロの機体を反転させ、ヘリオポリスへと向かった。

 

 

 

「ほう……」

 そしてその感覚は、彼もまた感じていた。

 ラウ・ル・クルーゼ。

 自らの愛機であるシグーに登場した彼はその機体を操り、ヘリオポリスへと向かっていた。

「私がお前を感じるように、お前もまた私を感じるか……」

 憎悪と奇妙な愉悦をラウは感じていた。

(だが足りん)

 この程度で今の自分は満足できない。

 何故なら自分をこの世で一番悦ばせてくれるのはあの男を置いて他にいないのだから。

 故に、ラウは機体を制止させた。

 物陰に隠れる為ではない。 

 その逆――あえて、敵に己の身を晒す為だ。

『貴様! ラウ・ル・クルーゼか!!』

 通信で馴染みの声と共に、警告音がコクピットに鳴り響く。

 だが――

「遅いな」

 その時既にラウは回避行動を終えていた。

『なに!?』

 背後からの奇襲。それを躱されたムウは驚愕する。

 だがラウから言わせれば、驚く事ではない。

 敵の殺気だけで察知して攻撃を避ける等、自分と『奴』はとっくの昔から出来るようになっていると。

「お前はいつでも邪魔だなムウ・ラ・フラガ」

 極めて冷静に、ラウは言う。

「もっとも、お前も私がご同様かな?」

 そうだと言わんばかりに、ムウのメビウスゼロが機体に取り付けられた四つのガンバレルを展開する。

 四方に展開されたそれは時間差で、ラウに攻撃を開始する。

「つまらんな」

 位置を変えて、次々に襲い来る弾丸をラウは必要最低限の動きでかわすと、その内の一つをシグーの銃突撃機銃で撃ち落とした。

『ぐ、貴様ぁ!』

「以前に会った時から少しは腕を上げたようだが、その程度では私とネオには追い付けんよ」

 メビウスゼロ本体からのレールガンを躱しつつ、ラウは二つ目のガンバレルも早々に墜とす。

「歯ごたえがない」

 三つ目は背後を取ろうとしていた為、振り返り様に墜とす。

 ただの単純で簡単な作業だと言わんばかりに淡々と。

「やはりお前では私を満足させられないな」

 それを再認識すると、ラウは機体を近くにあったヘリオポリスの港口に侵入させる。

『ヘリオポリスの中に!』

 当たり前だと、ラウはコクピットで笑う。

 自分の『本命』はその中にしかいないのだから。

(感じる。感じるぞ!)

 奴の存在を。

(今港口を抜け、センターシャフトだぞネオ!)

 貴様はどこにいる? と、感覚で宿敵の存在を感じようとするラウ。

『行かせるか!』

 だがそんな彼をムウは追跡する。

 最後のガンバレルを展開し、追いかけて来るメビウスゼロ。

 だがその動きは先程と比べて精彩を欠いている。

 おそらく今いる場所の為だろう。

 センターシャフトはコロニーにとって人体で言うなら背骨のように重要な場所だ。

 下手に撃てば、シャフトを傷つけてしまうとでも思っている。

「だからお前は駄目なのだよムウ」

 ラウはそう言うと、トリガーを引いた。 

 

 

『だからお前は駄目なのだよムウ』

「クルーゼ!」

 オープン回線で聞こえてくる声には、はっきりと落胆が感じられた。

 奴には分かっているのだろう。自分がシャフトへ損傷を与えるのを恐れていることを。

(だが!!)

 ここで行かせるわけには行かない。

 あの変態野郎が、目を血走らせて向かう理由なんて一つしか考えられない。

(ネオ!!)

 ファントム……すなわち、ネオ・ロアノークとの戦闘。

 奴はそれに異常なまでに執着している。

 これまで戦場で出会う度にそうだったのだ。今回も間違いなくそうなのだろう。

「行かせ――」

 止める。そう思い、展開したガンバレルで攻撃を与えようとした時――

 

 

 唐突に、ガンバレルの反応が消えた。

 

 

「なに!?」

 そして遅れて、後方で何かが爆発する。

 驚愕しムウが確認すると、ガンバレルの残弾数を示すモニターには全てLostと表示されていた。

「馬鹿な!?」

 3つがLostなのはいい。だが残っていた筈の最後の一つがないのはどういう事だ?

 いく奴の腕前が変態的でも、自分に気付かせずにガンバレルを撃墜するなんて事が出来るはずな――

「まさか!」

 そしてムウは気が付いた。一つだけあると。こちらに気付かせずに、ガンバレルを無力化する方法があると。

 

 

(野郎! まさかメビウスの機体とバレルを繋ぐコードを狙いやがったのか!?)

 

 

 ムウの乗る機体メビウスゼロのガンバレルは本体から切り離し、遠隔操作を行うのが特徴だ。だがその操作を行うのは無線ではなく、有線なのだ。

 だから可能なのだ。

 限りなく不可能に近い芸当ではあるが、機体とガンバレルを繋ぐ有線のコードを狙撃すれば、バレルを爆発させることなく無力化できる。

「クルーゼ!!」

 かつて相対した時も奴の技量は圧倒的だった。

 だが今その技量には更に磨きがかかっており、神業めいてすらいる。

 

 

「この変態野郎が!!」

 

 

 だがそれでもムウはラウのシグーを追いかける。

 以前よりやばい相手になっているのであれば、尚更行かせるわけには行かないのだ。

 たとえ自分では敵わないと分かっていても、親友の為にムウは退く訳には行かなかった。




原作ラウ

ヘリオポリスのシャフト内に侵入することで、ムウさんの動きとガンバレルの動きを鈍らせ、バレルを撃破。


変態仮面ラウ
素の状態でガンバレル三機撃破。最後は動きが鈍っているとはいえ、有線のコードを狙い撃ちし、撃墜。


ムウさんが弱いわけではなく、変態仮面が変態すぎるだけですね♫


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ネオとヘリオポリスの少年達

「う……」

 肩の痛みに呻きながら、地球軍の将校であるマリュー・ラミアスは目を覚ました。

「あ、気がつきました? キラ!」

「……」

 ベンチに寝かされた自分を見下ろしていた少女の視線の先を見ると、そこには見覚えのある黒髪の少年がいた。

「うぐ!」

 利き腕を動かそうとすると、肩に激痛が走る。

「あ、まだ動かない方がいいですよ」

「……」

 意識がはっきりしない。自分は一体――

「すみませんでした。なんか僕、無茶苦茶やっちゃって……」

「?」

 無茶苦茶? なんのことだ? そもそも自分は何処でこの少年と知り合って――

「お水いります?」

「……ありがとう」

 気遣わしげな少年と少女の視線に警戒を解くと、マリューは渡された水を喉に流し込む。

 曇っていた意識がはっきりとする。

 そうだ確かザフトの襲撃があり、自分はやむ終えず近くにいた少年と地球軍の新型モビルスーツ──ストライクに搭乗した。

 その後、途中で操縦を変わった少年がストライクの未完成のOSを書き換え、交戦していたジンを撃破した。

(その後、ジンが自爆して、私は気を失ったのね)

 ならばストライクは今どうなって──

「すげえな。ガンダムっての!」

「動く? 動かない?」

「お前ら! あんまり弄るなって!」

「あんまいじんなよな!」

「!?」

 少年達の声にはっとし、マリューは顔を向ける。

 そこには、地に膝をついたストライクと、そのコクピットに潜り込み、騒いでいる民間人の少年達がいるではないか! 

「!」

 ほとんど反射的にマリューはホルスターに入れてあった銃を取り出すと、少年達の頭上に向けて発砲した。

「機体から離れなさい!!」

「何をするんです! やめて下さい! 彼等なんですよ!? 気絶してるあなたを下ろしてくれたのは!」

 血相を変えて詰め寄ってくるキラに対しても、マリューは油断なく銃を向けた。

「……助けてもらった事は感謝します。でもあれは軍の重要機密よ。民間人が無暗に触れていいものではないわ……皆こっちへ並んで一人づつ名前を!」

 抵抗すれば撃つ。マリューの目は言外にそう告げていた。

 怯えながらもマリューの指示通りに一列に並び、それぞれ名乗る。

「サイ・アーガイル」

「カズイ・バスカーク」

「トール・ケーニッヒ」

「ミリアリア・ハウ」

「……キラ・ヤマト」

 少年達は一様に、不満げな顔つきだ。

(……事の重要さが分かっていない)

 それを見てマリューは溜め息をつきたくなった。

 意識を失って大切な軍の機密を無防備にしてしまった自分が誰よりも悪いが、それを見てしまった彼等はもう無関係な一般人ではいられなくなった。

(あの子と同じように……)

 ちらりと自分とストライクに搭乗した黒髪の少年を一瞥する。コクピットで発揮した彼の能力はおそらく──

「──私はマリュー・ラミアス。地球軍の将校です。申し訳ないけど、あなた達をこのまま解散させるわけにはいきません。事情はどうあれ、軍の最高機密を見てしまったあなたたちは、しかるべき所と連絡がとれ、処置が決定するまで、私と行動を共にしていただきます」

「なんで!」

「冗談じゃねえよ! なんだよそれ!?」

「僕らはヘリオポリスの民間人ですよ? 中立です。軍なんて関係ないです!」

「!」

「関係ない」少年達の一人のその一言がマリューの怒りに火を着けた。

「黙りなさい! 何も知らない子供が!!」

「「「「「!?」」」」」

 威嚇のために銃を一発発砲し、一喝をすると、少年達の不満は不安へと変わった。

「中立だ、関係ないと言ってさえいれば今でもまだ無関係でいられる……まさか本当にそう思っているわけじゃないでしょう? 周りを見なさい!!」

 少年達は周囲に目をやった。その景色は彼等の知る景色とはまったくかけ離れたものだろう。

 人で溢れていた街並みは、一人もいない無人と化し、建物は戦闘の余波を受け傷つき、所々倒壊している。

「──これが今のあなた方の現実です……戦争をしているのよ。あなた方の世界の外はね」

 

 

「そう言う君も周りをもう少し見た方がいい」

 

 

「!?」

 背後から声。咄嗟に振り返ろうとした瞬間、マリューの身体が宙を舞う。

 何者かが後ろから足払いをかけたのだと遅れながら気付く。

「あぐ!?」

 バランスを崩した所を、後ろから襟首を持った誰かはマリューの身体を後ろに叩き付けた。

 受け身も取れずに、仰向けに倒れたマリューは背中と撃たれた傷の痛みに呻く。

「中断されているとはいえ、まだここは戦場だ。油断などすれば背後から襲われるぞ?」

「く! ……え?」

 自分を見下ろす相手に銃を向けようとしたマリューは気付く。

 手にあったはずの銃がなくなっていることを。

 そして自分を見下ろす仮面の男の手に代わりに握られている事を。

「何より理由はどうであれ民間人に銃を向けるのは、軍人としてルール違反だ。マリュー・ラミアス大尉」

「あなた、は!?」

 軍服は着ていないが、その特徴的な仮面には見間違えようがようない。

「久しぶりだな。ラミアス大尉……本当はさっき工場で会った時に言いたかったのだが、お互いそれ所ではなかったからな」

「ネオ・ロアノーク少佐!」

 以前面識があり、尚且つ地球軍では知らない士官がいないエースパイロットがそこには立っていた。

「いきなり手荒な真似をしてしまって悪く思うが許してくれ。少し冷静さを欠いていた君に頭を冷やしてもらいたくてやった」

 倒れたマリューにネオは手を差し伸べる。

「あ、いえ……こちらこそすいません」

 混乱しながらも、マリューは差し伸べられた手を受け取った。

「俺は構わんよ。彼等の事は許してやって欲しい。君を助ける為に手を貸して欲しいと頼んだのは、俺だからな」

「そうなのですか?」

「ああ。俺も娘と合流しないといけなかったからな。降ろすのを手伝ってもらった後に、気絶した君の様子を見てもらっていた。彼等に罪はない」

「もっとも」とそこまで言うと困ったようにネオは微笑んだ。

「釘を刺していなかったとはいえ、モビルスーツのコクピットに無断で入ったりするやんちゃ坊主がいるとは思わなかったがな」

 それを聞くと、少年達の一人──トール・ケーニッヒはびくりと肩を震わせた。

「銃を撃たれて驚いただろうが、君達も彼女を許してやってくれ。他人に知られたら軍機違反で銃殺ものの機密事項に無断で触られてたんだ。優しいラミアス大尉だから威嚇で済んだが、気性の荒い士官なら頭を撃ち抜かれてるぞ」

「い、いえすいません! こちらこそ勝手に触ってすいませんでした!!」

「いや、こちらにも非がある。お互い次からは気をつけていこう」

(……相変わらですね少佐)

 口が上手いの一言では片付けられない程に、人心掌握術に長けている仮面の男は、この切迫した状況下で緊迫した雰囲気の場を纏めて見せた。

(ハルバートン提督が信頼するわけね)

『知将ハルバートンの懐刀』……『ファントム』とは別の彼の異名が伊達ではない事を、マリューは痛感していた。

「さて、さっきは娘の事を優先して名前を名乗れなくてすまない」

 ネオは少年達に向き直った。

「改めて自己紹介をさせてもらおうかな。俺はネオ・ロアノーク少佐。ご覧の通り軍人だ」

「「「「「…………」」」」」

 どう見ても軍人には見えないと、面識である軍人のマリューでさえ思った。

「ステラ。お前も皆さんに自己紹介しなさい」

「うん」

 仮面の男に寄り添うように彼の近くにいた少女が、小さく頷いた。

「ステラ・ロアノーク……少尉」

 ペコリと一礼をし、ステラは再びボーッと空を見上げる。

「その子が娘さんですか?」

「ああ、どうしたのかな? 何か問題でも?」

「いえ。もっと小さい子かと思っていました……って、え? 少尉? 俺達より歳下に見えるぜ!?」

 トールが驚くが他の少年達も同様の事を思っていたようだ。皆信じられない面持ちでステラを見る。

「? なに?」

 当の本人は何故自分が注目されているのか、分からない様子で首を傾げていたが。

「地球軍ってこんな子でも少尉になれるのか?」

「勿論普通は慣れないとも。だがうちのステラはとびきり優秀でね……これでも最年少エースパイロットと言われて──」

「……ネオ少佐」

 一分一秒が惜しいと言いながら、話が脱線しそうになったのを察したのか、マリューは咎めるようにネオの名を呼んだ。

「ああ、すまんラミアス大尉。どうやら俺は少し親馬鹿みたいでな。娘の事になるとすぐ熱くなるとハルバートンのおやっさんにもどやされてたな」

「少しではないでしょう。それとおやっさんではなく、提督です」

 どこか砕けた口調で話す二人に、学生たちはやや目を食らう。

 先程まで緊迫した様子であったマリューが、やや軟化している。

 それ程までに仮面の男のネオは、信頼し、頼れる相手なのだろうかと。

「それはそうとだ、大尉はこの子達を監視下に置くと言っていたが、それは今も変わらないのか?」

「はい。理由はどうであれこの子達は軍の重要機密を見てしまいましたから……少佐はどのようにお考えですか?」

「ん? ここで解放だ」

「な!?」

 思いも寄らない上官の意向に、マリューは目を見開き、少年達の顔はぱっと輝く。

「……と言ってやりたい所だが、すまないが、それは出来ない」

「やっぱり軍の機密っていうやつの為ですか?」

 挑むように、こちらを見てくるのはキラであった。

 その視線を飄々と受け流しながら、ネオは肩を竦める。

「それもあるんだがね……」

「なんなんですか? 一体?」

「なんなんですかもなにも──」

 業を煮やしたのか、不服そうなのが見てとれる態度をとりながら尋ねてくる、色つきの眼鏡をかけた少年サイ・アーガイルに、ネオは微笑んだ。

 

 

「君達全員、ここでザフトに殺されたいのかな?」

 

 

「「「「「!?」」」」」

 学生達の顔が一同に驚愕した。

「驚くことではないだろう? ここは既に戦場だ。今は小休止中だが、後数十分後には再び戦闘は再開されるだろう」

「そんなこと!」

「僕達には関係ないことです……じゃないぞキラ・ヤマト君」

「!?」

 言おうとした言葉を一言一句違えずに先読みされて言われたキラは、たじろぐ。

 それを見たネオは畳み掛けるように続けた。

「君も見たはずだ。ジンのパイロットが脱出したのを。奴は母艦に帰投すると、ここの事を上官に報告するだろう。そうすれば間違いなくここに再び攻めてくる」

「な、ならその前にシェルターに避難して!」

「間に合うと思っているのかなカズイ君?」

「!」

 つい先程、モビルスーツの激しい戦闘を目の当たりにしたからであろう。言い出したカズイを含め、少年達は皆顔を伏せた。

「さっきの戦闘があったんだ。近場のシェルターは殆どがすでになくなっていたり、満員だと見た方がいいぞ」

「遠くのシェルターに行けばいいんじゃないのかよ?」

「相当な運が必要だなそれは。到着する前も到着した後も」

「な、なんで後も?」

「おかしな事ではないだろうトール・ケーニッヒ君。遠くのシェルターが満員ではないという保証がどこにあるのかな?」

「!」

 ネオの言わんとしていることを理解したのだろう。トールは俯いた。

「最悪なのは中途半端に満員だった時だ。想像してみろ。再び戦闘が始まって、何とかたどり着いたシェルターで全員は無理だから一人二人だけにしてくれと言われたらどうする? 友人同士で生存をかけた椅子取りゲームでもするのかな?」

 もう学生達は全員が顔を上げていなかった。

「……少佐。なにもそこまで言わなくても」

「事実だよ。ラミアス大尉」

 非情な現実達を容赦なく突き付けるネオに、思わず口を挟むマリューを一言で一蹴すると、仮面の男は改めて少年達を見た。

「君達がそこまで考えて、それでも俺達と別行動を取ろうというのなら止めはしない。好きにしろ。だが現実問題、君達が今一番生き残る可能性が高いのは俺達と行動を共にすることだ」

「……ついていけば」

「ん?」

 ポツリと漏らしたのは、サイであった。

「あなたについていけば、俺達は助かるんですか?」

「確約は出来ない。だが市民の安全を守るのは軍人の義務だ。君達の安全を守るのに全力を尽くすことは約束するよ」

「……分かりました。お願いします」

 頭を下げたサイに倣い、他の少年達も頭を下げる。

「ありがとう。では早速働くとしようか……ラミアス大尉!」

「は!」

 改めて名を呼ばれ、ラミアスは無事な腕で敬礼をした。

「ストライクの情報は事前に見させてもらったが、さっきの戦闘で内蔵バッテリーが切れたようだが、他のパワーパックを装備すれば、あいつは再び動き出す……という認識でいいかな?」

「はい。その通りです」

「他のパワーパックは何処にある?」

「モルゲンレーテの中に……運び出す寸前でしたので、おそらくトレーラーの中かと」

「少年達を守る壁にするにも、フェイズシフト装甲がなければただのカカシだ。何とかして取りに行けなければならないが……今の君には厳しそうだな」

「……申し訳ありません」

「いや、謝らなくてもいい。しかし困ったな。俺とステラは俺達の機体を動かす為にここに留まる必要がある現状、取りに行く手段がない」

 手当をしたとはいえあくまで応急手当だ。

 肩を負傷しているマリューでは、トレーラーを見つけたとしても運転することが出来ない。

「あ、あの!」

「ん?」

 トールが意を決して前に出る。

「その、運転なら俺出来るんで、手伝わせてもらえませんか!」

「……いいのか? 確かに助かるが、君に手伝う義務はないぞ?」

「勝手にコクピットに入った罪滅ぼしって言うのもありますけど、それ以上に何か手伝いたいんです」

「……危険が絶対にない保証はないぞ?」

「分かってますけど、誰かがやらないといけないんでしょう?」

「……分かった。ありがとうトール君」

「──それなら、俺も手伝いますよ」

「じゃ、じゃあ俺も……」

「君達までいいのか?」

「人手は多い方がいいんでしょう?」

「すまない。本当に助かるよ」

 トールが向かおうとすると、サイとカズイもそれに続いた。

「……トール」

「大丈夫よ」

「え?」

 その様子を心配そうに眺めるミリアリアの肩に、手を置くとマリューはネオに向き直った。

「少佐。私も彼等の護衛に行ってもよろしいでしょうか?」

「肩の傷はいいのか? ここに残ってもいいんだぞ?」

「少佐がいるのであれば、私がここで出来ることはありません。それに、子供である彼等だけを危険にさらすわけにはいきません」

「そうか……ならば、これは返そう」

 マリューから奪っていた銃をネオはマリューに手渡した。

「今の君なら撃つ相手は間違わないだろうからな」

「……ありがとうござます少佐」

 銃を受け取り敬礼すると、マリューはトール達の後に続いた。

 それを見送ると、その様子を見ていた

「……いい男だな。君のボーイフレンドは」

「え……」

 どうして知っているのかと顔を赤くしたミリアリアにネオは苦笑した。

「あてずっぽうだったんだが、図星か。羨ましいな、くそ。俺もそういう甘酸っぱい青春を味わいたかったな」

「……ネオ、青春出来なかったの?」

「そんな時間なかったからな。いや、ただの負け犬の言い訳なんだけどなぁ」

「……じゃあ」

 こくりと頷くと、

 

 

「ネオ。ステラと青春する?」

 

 

「なん──だと?」

 恐ろしい速度でネオがステラに顔を向けた。

「ステラもやってみたい。ネオと青春」

「いや、それは……いや、確かにそういうのもありだが、しかし! 親子としてそういう事をするわけには──!! っていうか、ステラ絶対青春の事なんて分かってな──!!」

「あ、あの!」

 ネオが地面に膝をつき、拳を叩き付けた所でそこまで黙っていたキラがネオに声をかけた。

「ん? どうしたんだキラ君。悪いが今、子供との禁断の関係についての脳内会議が──!!」

「僕も何か手伝えませんか?」

 暴走していたネオがそこでぴたりと止まる。

「いいのか? 民間人の君に手伝う義務はないんだぞ?」

「分かってます。でも、トール達だって頑張ってるのに、僕だけ何もしないわけにはいきませんよ」

「……分かった」

 頷くと、ネオは立ち上がり指を指した。

 

 

 

「ではあれに乗ってくれ」

 

 

 

 そこには地球軍の新型モビルスーツであるストライクがあった。 




ステラちゃん


「ネオ。ステラと青春する?」


その頃のザフトの変態仮面さん


(今港口を抜け、センターシャフトだぞネオ!!)


 ……どっちがいい?(究極の選択)


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相対

「こちらX105ストライク! 地球軍応答して下さい! 

 こちらX105ストライク! 地球軍応答して下さい!」

 何度かそれを続けると、キラは溜め息をつき、近くでこちらを見ているネオに顔を向けた。

「通信、繋がりません」

「そうか。やはりまだザフトの奴等の電波干渉が残ってるか」

 そこまで言うと、ネオはストライクのコクピットから身を乗り出した。

「ステラ! そっちはどうだ?」

 向かいあう形で膝をついた漆黒のジンのコクピットには、ステラが乗っており、キラと同様通信を試みていた。

「ダメ! 誰も出ない!」

「了解。悪いがもう少し続けてくれ!」

「うん!」

 トール達がトレーラーを取りに行ったように、キラもまたネオの指示に従い、ストライクのコクピットでコロニー内に生き残っているであろう地球軍に通信を行っていた。

「すまないが、君ももう少し続けてくれ」

「はい。あの──ネオ少佐」

「すいませんでした。さっき僕──」

「さっき? ああ、そう言えば頼んだ時に今にも噛みついてきそうな怖い顔をしていたな」

「いや、その──」

 あの機体に乗ってくれ……と言われたら時、確かに自分はネオに険しい顔を見せてしまった。

「戦わされるとでも思ったか?」

 見透かすように尋ねてきたネオにキラは頷く。

「……すいません。僕は勝手に誤解してロアノーク少佐に──」

「謝る必要はない。一度こいつで戦闘をしたんだ。なら二度目も出来るだろうと言われると思うのは、当然の反応だ。後、ネオでいい。少佐もいらない。君は軍人ではないのだから」

「えと、じゃあネオさんで?」

「ああ。それでよろしく頼むキラ・ヤマト君」

「僕もキラでいいです。フルネームで呼ばれるの落ち着かないんで」

「分かった……じゃあキラ様でいいかな?」

「いや、なんでそうなるんですか?」

 生まれてこのかた、そんな風に呼ばれたことはない。

「分からんぞ。未来ってのは何が起こるか分からんものだ。もしかしたら君は将来、何処かで色々な人からキラ様、キラ様と呼ばれるかもしれない」

「……からかってます?」

「ばれたか?」

 頼りがいのあるしっかりした人という印象であったが、実は結構悪戯好きな性格なのかもしれない。

「あのジン。ネオさんの機体なんですよね?」

 このまま弄られ続けるのも面白くないと思ったキラは、強引に話題を変えることにした。

 ちょうど向かい側に話題になるものもあった為、それを選んだ。

「ん、まあな」

 そんなキラの意図を察したのか、くすりと笑うとネオもまた漆黒のジンに目を向けた。

「変わってるだろう?」

「はい」

 先程交戦したジンにはなかった角と、漆黒の機体カラーは勿論のこと、全体的な特徴も違う。

 イメージであれば、通常のジンに鎧を着せたような感じだ。

「今はあんな格好だが、本当はもっとスマートなやつなんだぞ?」

「そうなんですか?」

「ああ。まあ、このストライクには負けるけどな」

 こんこんと近くの機械を小突くネオ。

「変と言えば、コクピットも変わってますよね?」

 外だけでなく、中も特徴的であった。

 ストライクよりも若干広いコクピットは二つの座席が前後に設置されている。

「二人乗りですか?」

「そうだ。可愛い娘と常に一緒にいたいから、特注で作らせたんだ」

「……」

「冗談だぞ?」

「そ、そうですよね!」

 一瞬この人ならやりかねないと思ったキラは慌てて頭を横に振った。

「あれは地球連合軍の失敗作の集大成みたいな機体でな」

「え?」

「ザフトから滷獲したジンに、地球連合軍がGに採用せずに、廃棄される予定だった試作武装を全部積めるような機体になってる。装備を換装する点ではこのストライクと同系統の機体だな」

「い、いいんですか? そんな事僕に話して」

 それも所謂機密というやつなのでは……

「いいんだよ。ザフトに知られた所で不利益な事はない。あっても乗ってる奴の正気を疑われるたけだ」

「……」

 確かにそうかもしれない。なんせ話を聞いた民間人のキラでさえそう思ったのだから。

「安心しろ。これでも一応エースパイロットだからな。乗りこなしてみせ──」

 そこまで言うと、クラクションの音が聞こえた。

「どうやら君の友達が帰ってきたみたいだな」

「はい!」

 コクピットから出たネオはこちらに来るトレーラーに目を向け、しかしすぐに空を仰ぎ見た。

「ネオさん?」

「ち。予想よりもはやく来やがったか。あの変態仮面!」

「へ、変態仮面?」

 一体何の事を言って──

「キラ君!」

「は、はい!」

 突然名で呼ばれ、キラは何とか返事を返す。

「すぐにトレーラーにあるストライカーパックを装備してくれ。事前に話した通り、装備とパックは一体になっている。そのまま装備してくれ」

 言いながら時間が惜しいとばかりに、ネオはコクピットから飛び降り、自らのジンへ向かった。

「その後はフェイズシフトを起動し、君の友達とラミアス大尉を守る楯になれ! 敵が来るぞ!」

「敵!?」

 そんなもの何処にもいない。

「上から来るぞ! 急げ!! 君は絶対に戦闘に参加するな! 仲間を守ることだけを考えろ!!」

「わ、分かりました!」

 疑問は残るが、キラはネオの指示通りに動く。

 トール達が運んでくれたトレーラーに近付くと、そのパックを事前にネオに教えてもらった手順で装備していく。

 そして装備が完了した瞬間──

 

 

 ネオの言葉通り、シャフトを破壊し、敵がコロニーに侵入してきた。

 1つは戦闘機。そしてもう1つはモビルスーツだが──

(白いジン? いや……)

 ジンとは少し形状が違う。

 

 

 

 

『くくく、ふははははははは!!!!』

 

 

 

「!?」

 通信機から聞こえた笑い声にキラはぎょっとした。

 ただの笑い声ではない。狂笑と呼ぶに相応しい狂いに狂った狂気を感じさせる笑い声だ。

「あの機体から?」

 オープンチャンネルの通信はあの白い単眼の機体から発せられている。

 

 

『来たぞ!』

『……来たか』

 

 

 狂喜する声に応えるように、起動したネオの自分もまたオープンチャンネルで、辟易としたように溜め息を吐くと、

 

 

 

『ネオ!!』

『ラウ!!』

 

 

 白と黒の機体は空中でぶつかり合った。




ついに次回変態仮面VS変態仮面です


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交戦

変態仮面VS変態仮面前編

変態仮面ファイト! レディー ゴー!!


 空中でぶつかり合う2機のモビルスーツ。

 互いの在り方を象徴するように、相反する白と黒の機体はお互いの得物をぶつけ合い、鍔迫り合いを演じる。

 だが均衡は一瞬で互いに距離を取った。

『会いたかったぞネオ』

 愉悦に満ちた声を発しながら、ラウは歌うように告げる

『今日こそつけるかね? 決着を!』

「俺は正直会いたくなかったな」

 対するネオは苦々しい顔で溜め息をついた。

「ただでさえ新型を4機奪われているのに、ここで最後の一機まで破壊されたら、俺の立つ瀬がない」

『ああ。あれか……』

 言われて今気がついたと言わんばかりに、シグーが地上にいるストライクを一瞬だけ見る。

「白々しいな。あれを破壊するためにここに来たんだろう?」

 会話をしながら、俺はラウの乗るシグーを観察する。

 武装は

 つまり──武器という点ではこちらの圧倒的不利というわけだ。

 そもそも今ジンが装備しているのは『ブリッツパック』その用途は隠密強襲用だ。

 今ジンが着込んでいる追加アーマーは見た目は堅牢な鎧を纏っているように見えるであろう。

 だがその実はその逆でこの追加アーマーは機体全体の防御力を上げる所か、逆に下げている。

 レーダーに熱源としてうつるのを防ぐためのフィルターの役割をしている。

 その為、隠密強襲用の機体案としてテストを行われたまではよかった。

 しかしブリッツに搭載された新技術である『ミラージュコロイド』には勝てず、失敗作の烙印を押され、この排熱フィルター追加アーマーは廃棄されるのが確定していた。

 それを主体とした隠密強襲機体が、ネオの現在の専用機の姿であった。

 しかし──

(破滅的に相性が悪すぎる!)

 他の相手なら機体のステルス性を生かした立ち回りも可能であった。

 しかしラウ・ル・クルーゼは駄目なのだ。ネオ・ロアノークはラウ・ル・クルーゼに決して不意打ちは出来ない。

 何故なら二人は互いの位置を感じられるからだ。ここまでの近距離であれば、正確な位置さえも把握できる。

 その為、ラウを相手にするのにこの『ブリッツパック』の相性は最悪なのである。

 いくらレーダーから消えても、それ以外の手段で正確な位置を知られるのだ。それは最悪の一言に尽きる。

(まともにやりあえば、勝ち目はないな)

 排熱を抑えるため、こちらには火器が搭載されていない。あるのは接近戦用のアーマーシュナイダーが2本と、重刀が一本のみ。

 誰がどう見ても絶望的だ。

 しかし──

(やれないことはない)

 ネオはラウとの通信の音声マイクを切り、一時的にこちらの会話を聞こえないようにすると、別の通信回線を開いた。

「聞こえるかムウ」

『ネオ! 悪い! 外は俺以外は全滅だ!』

「……だろうな」

 ここまで大規模な戦闘を仕掛けられたのだ。こちらの戦力では太刀打ち出来ルはずがない。

『本当にすまない。外を守れなかったばかりか、あの変態野郎も止められなかった!』

「……いや、謝る必要はない」

 ネオはむしろムウを称賛したかった。

 絶望的な戦力差でありながら、よく生き残ってくれたと。あの変態仮面を相手にしながら、よくここまで辿り着いてくれたと。

「ガンバレルは全滅しているようだが、レールガンの方はどうだ?」

『問題なく撃てる!』

「……そうか」

 それを聞いたネオは、不敵な笑みを浮かべた。

「助かったぞムウ。お前のお陰で勝てる」

『?』

「悪いが、今から俺の指示通りに動いてくれ」

 この絶望的な盤面をひっくり返す策を、ネオはムウに伝えた。

『難しい事を言ってくれるなお前ー』

 思いも寄らないネオの提案に、ムウは呆れと驚きを同居させた顔で溜め息を吐いた。

『俺がちょっとでもタイミングをミスれば、ステラ共々お陀仏だぜ?』

「だからこそお前に任せるんだ。『エンデュミオンの鷹』のお前にな」

『へいへい。うちのファントム様は人使いが荒いぜ』

 だがまあと、ムウもまた不敵な笑みを浮かべた。

『不可能を可能にする男だからな俺は……やってやるよ』

「……行くぞムウ」

『りょーかい!』

 方針が決まったネオは、ムウとの通信を切ると、ラウとの通信の音声をONにして言う。

 

 

 

「勝負だラウ」

 

 

 

『勝負だラウ』

 その言葉を聞いた瞬間、ラウの全身の毛が逆立った。

 身体が愉悦に震え、笑みが止まらない。

(いや、駄目だ抑えろ。今はまだ行くべきではない)

 宿敵からの誘いに乗りたい所だが、ラウは動かなかった。

 何故ならネオのその挑発こそが、自分を陥れる為に彼が仕掛けた罠である事を見抜いていたからだ。

 ネオと自分の実力は互角。だがしかし、モビルスーツの操縦技術ではこちらの方が一枚上手だ。

 これは互いの技量ではなく、環境が大きい。

 ラウがモビルスーツを戦線に積極的に投入しているザフト軍であるのに対し、ネオはモビルスーツの運用に関しては素人同然の地球連合軍。

 必然的にその環境には差が出てくる。

 特に代表的なのはモビルスーツを動かすOSの差だ。

 ラウは独自の情報網でネオの情報を幾度もなく入手していた。

 その中で、彼の乗る機体のOSを見た時は同情すらした。

 はっきり言って粗末の一言に尽きる代物であった。モビルスーツと呼ばれる巨大な機械を動かす歯車にしては、あまりにも無能すぎる。

 だが、それでもネオはラウにくらいついてきた。

 機体の操作の殆どをマニュアルで行うという奇想天外な発想によって。

 モビルスーツというのは、幾つかの決められた動作を自動的に行うように事前にインプットされている。パイロットがサーベルを握ろうとすれば、インプットされた動作の中で適切かつ迅速なものを、コンピューターが選出し、実行するのだ。

 だが、その選定をするOSにハンデがあることを悟ったネオはオートとマニュアルを織り混ぜた独自の操作技術と『生体CPU』という存在で補った。

(確か、ステラ……と言ったか)

 ネオ・ロアノークの機体の『パーツ』の一部である少女の名は。

 表向きは養子にし、その実少女は『ファントム』を機能させるための歯車の1つに過ぎない。

(やはり貴様は私だよネオ)

 そして自分は奴なのだとラウは笑みを深める。

 だからこそ、ラウには分かるのだ。

 ネオが何かを仕掛けるつもりであることが。

 なのでやはり迂闊に動くことは出来ない。かといってこのまま睨み合うのも面白くない。

 さてどうしたものかと、ラウが考えたその時、思いも寄らない事態が起きた。

 突如として、コロニーの中に対して、外から2本のビームが貫通したのである。

「!?」

 ザフトからの攻撃──ではない。自分はそのような命令を下していない。

 破壊された隔壁。その爆発によって発生した爆煙より現れたのは、巨大な白い戦艦であった。

「地球軍の新型……仕留め損ねたか」

 それはラウがヘリオポリスを襲撃するように判断した要因の1つであった。

 部下に命じ、停泊する港に爆弾を仕掛けさせ、爆破したが、流石は地球軍の新型と言うべきか。目立った損傷は見受けられない。

(しかし思いきった事をする……)

 あらかたの避難を終えているとはいえ、ここはコロニーの中だ。戦艦を用いた戦闘となれば、周囲に与える被害も甚大なものになるのは免れない。

(だが同時に正しい判断であるとも言える)

 しかしコロニーの外を制圧されている現状では最もベストな選択でもあった。

 仕留められなかったことは残念だが、今の自分にとっては好都合だと思うと、案の定連合の戦艦はラウに対して攻撃を仕掛けてきた。

 戦艦のミサイル発射口から誘導ミサイルが放たれ、一斉にラウのシグーに殺到する。

(やはりそうくるか)

 ラウは自分を狙うミサイルが接近してきているというのに、笑みを浮かべていた。

 誘導ミサイルによる攻撃を、ラウは読んでいた。コロニーのシャフトにダメージを与えずに、尚且つ有効な攻撃手段と言えば、それぐらいだ。

 だからこそラウの動きは既に決まっていた。

 反転し、急降下。ネオに背中を見せるなどと言う事は、本来であれば自殺行為であるが、今回ばかりは例外であった。

 何故なら戦艦から撃たれた誘導ミサイルが、彼の動きを阻害するからである。

 それはほんの一瞬の阻害ではあるが、ラウにとってはそれだけで十分だ。

「歯痒いだろうなネオ」

 コクピットで悔しそうに唇を噛むネオの顔が目に浮かぶ。

 互いの実力が同等である以上、一手の遅れが致命的となる。

 そして援軍であるはずの戦艦の登場で、先手をとったのは皮肉にも敵であるラウであった。

 遅れながらこちらに向かってくる漆黒のジン。

「使わせてもらうぞ」

 ラウはその進撃に対して、シグーの盾に内臓されたガトリングを連射した。

 ネオに対して撃ったのではない。ラウに対して殺到していた誘導ミサイルに対してだ。

 神がかった射撃で、ラウは誘導ミサイルを全て余裕で撃ち落とす。

『ちぃ!』

 誘導ミサイルの爆発によってネオの動きが再び阻害される。

 ラウはほくそ笑みながら、地上に向かって機体を走らせる。

『! お前!!』

 それだけでネオはラウの狙いに気付いたようだが、遅い。

 既にラウは地上にいる標的に対して、照準を定めている。

「フェイズシフト……これならどうかな?」

 ラウのシグー重機関銃が火を吹く。

 そこに装填された強化APS弾は通常のモビルスーツ相手なら確実に撃破が出来るほどの、協力な弾丸だ。

「ほう?」

 しかしフェイズシフト装甲はそれらを完璧に防いで見せた。

(地球軍のモビルスーツは化け物だな)

 改めてその性能の高さを思い知らされる。

 だがそれでいい。むしろ撃破されたら困る所であった。

 今は地球軍の新型モビルスーツには、そこにいてもらわなければ。

『ラウ!』

 既にネオが後ろから迫ってきている。

 それを感覚で知覚していたラウは、機体に大きく回避行動を取らせた。

 ネオからの攻撃ではない。奴はまだ攻撃をしていない。

(攻撃を行うのは──)

 

 

 地上にいる連合の新型のモビルスーツだ。

 

 

「じょ……冗談じゃない!」

 キラはコクピットの中で叫んでいた。

 ザフトのモビルスーツがこちらに向かってくる。

 それだけでも恐ろしいというのに、相手は既に一度こちらを撃ってきていた。

 機体にダメージはない。

(みんなは違う!)

 そう。自分は助かっても近くにいる友人達は違う。彼等は生身。流れ弾に当たっただけでも死んでしまうだろう。

 先程は何とか庇うことが出き、誰も怪我はないが、おそらく次はない。

(僕がやるしかないんだ!)

 あの仮面の少佐は間に合わない。

 ならば今皆を守れるのは自分しかいないのだ。

 キラはストライクに装備された武器を腰だめに構えさせると、手探りするように照準スコープを引き出した。

 画面には敵機の機体が写り、ロックオンの表示が出ている。

(やれる!!)

 キラは引き金に指をかける。

 

 

 その瞬間──

 

 

『撃つなストライク!!』

 

 

「……え」

 聞き覚えのない男性の声が聞こえたのと、キラが引き金を引いたのは同時であった。

 そしてストライクの構えた砲から凄まじいエネルギーが放たれる。一瞬視界が真っ白に覆われるほどの圧倒的なパワー。

 放たれた太い光条。

 しかしそれを敵のモビルスーツは難なくかわして見せた。

 まるで事前にこちらが撃つのを予見していたかのように。

 だが悪夢はそれだけではなかった。

 敵機が避けたその先に──

 

 

 あの人の──ネオ・ロアノークの漆黒のジンの姿があった。

 

 




原作ラウ
アグニを撃たれて片腕をもぎ取られ、撤退。

変態仮面ラウ
余裕で回避し、逆に利用して、キラにネオをフレンドリーファイアさせる。


キラ君のトラウマに1つ追加確定ですね
((((;゜Д゜)))


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逆転の一手

変態仮面ファイト第一ラウンド決着。

それはそうと、いよいよ明日が新作Gジェネ発売日!
ステラを全力育成だぁ!!




「ステラ! 右腕強制パージ!!」

「!!」

咄嗟のネオの指示を、ステラは的確に実行した。

「動、けぇぇ!!」

そしてステラに指示を出すと同時にネオは、機体にあるスラスター全てを噴射し、回避行動を取っていた。

だがしかし、ビームはあまりに大きい。

完全に避ける事は叶わず、左腕を持っていかれる。

「ぐぅ!」

「ネオ!」

ビームにもぎ取られる右腕。直前に強制パージをした為、機体全体へのダメージの拡散は防いだが、バランスを大きく崩してしまった。

「姿勢制御と回避は俺がやる! ステラは『準備』を!」

「分かった!」

何に対してとは言わなかったが、幾つもの死線を共にくぐり抜けてきた二人にはそれだけで十分であった。

崩れた機体のバランスをネオは細かいマニュアル操作で修正していく。

だが――

『終わりだネオ!』

その隙を見逃すラウではない。

彼は反転し、ストライクへの進路を変え、ネオ達の漆黒のジンへと向かう。

「しつこい!」

当然それを読んでいたネオは、機関銃を構え、接近してくるラウのシグーの射線を読み切り、回避行動をとる。

「ぐ、が!!」

「ん!!」

進行方向を無理矢理曲げるような軌道に、コクピット内のネオ達の身体を凄まじいGが襲う。

だが二人の動きにまったく衰えはない。

ネオは正確無比なラウの射撃を、落下しながら躱し、ステラはネオの指示を実行する。

「着地するぞステラ!」

「うん。こっちも準備いいよ!」

よし! とネオは覚悟を決める。

(先読みしろ。次の奴の一手を! 仕掛けてくるであろう攻撃を!!)

経験と直感による先読み。

それがネオを『ファントム』たらしめている武器の一つ。

そしてその武器は的確に次の敵の動きを予測する。

 

 

「来いラウ!!」

 

 

 

「行くぞネオ!!」

そしてラウ・ル・クルーゼもまた勝負に出た。

モビルスーツは言うまでもなく巨大だ。それほどの重量があるものの着地とはそれだけで危険が伴う。

着地しただけで脚部が破損し、行動不能になるなどよくある話だ。

だが相手が相手だ。そんなミスをするとはラウは欠片も思っていなかった。

しかしそれでもラウは着地する瞬間を狙い、行動に出た。

ミスを期待してではない。彼が狙うのは着地する瞬間に出来るであろう『隙』であった。

着地の瞬間に、故障はなくても、その動きはワンモーションの遅れが生じる。

ラウが狙うのはそこであった。

『ムウ!!』

通信に向かってネオが叫ぶ。

あの男に自分は止められない。

奴の射撃なら目をつぶっていても躱す自信がある。

ラウは勝利を確信し、シグーをネオの機体が着地するであろう場所に向かわせた。

(やはり最期はこの手で引導を渡してやる)

ラウが選択したのは近接武装による強襲。

それは決して感傷から選んだものではない。

確かに射撃武器による攻撃が最もリスクがないが、それでは確実にネオの機体の装甲を貫き、奴を葬れるとは限らない。

だが近接攻撃であれば、敵がどんなアクションをとっても臨機応変に対応が出来る。

『チェックメイトだネオ!!』

着地した漆黒のジンに装備はない。重剣による近接攻撃なら、どう転んでも対処できる。

(勝った!)

距離を詰め、確実に始末できる間合いに達した時、ラウはそう確信した。

『私の勝ちだ!!』

ラウはネオの選択を目に焼き付けようと、その目をこれ以上ない程に見開く。

完全な詰み。少なくともラウはそう確信した。

だが――

 

 

『なら、盤上ごとひっくり返すまでだ』

 

 

「!?」

次の瞬間、ネオはまったくの予想外な行動に出た。

回避でも防御でもない。

 

 

漆黒のジンのアーマーが強制パージするという奇想天外な行動を。

 

 

「ネオ!?」

予期しなかったネオのアクションに流石のラウも一瞬反応が遅れる。

そしてそれが運命の分かれ道であった。

弾け飛ぶパーツ達に、レールガンが直撃する。

(! ムウか!)

相手にならない些事と判断し放置していたムウのメビウスゼロによる射撃。

自分に対しての攻撃であればどうとでも出来るが、ムウが狙ったのは自分ではない。

レールガンが狙ったのは、弾け飛んだアーマーパーツであった。

「まさか――!!」

その行動の意図を理解した時にはもう遅く……

 

 

撃ち抜かれたアーマパーツは引火し、爆発を引き起こした。

 

 

「ぐおおおおおお!!!」

突っ込む形であったラウはその爆発をモロに受け、機体のバランスを大きく崩す。

(やってくれたなネオ!!)

地上に激突しようとする機体を、何とか急上昇させながら、ラウは自らがネオの策に嵌められた事を悟る。

最初から奴はこの状況を予測していたのだ。

おそらくお互いが様子見をしている時に、ムウに通信し指示を出したのだ。

 

 

自分が隙を作り、奴の近接攻撃誘う。お前はその時、俺達の間にレールガンを一発撃ってくれ……と。

 

 

(そしてレールガンが来るタイミングを計算し、アーマーを強制パージさせた!)

そこに来るであろうレールガンの弾丸に、アーマーのパーツを置くために!!

やられた……心の底からラウはそう思った。

事実、ラウは一手を誤ったのだ。

チェックメイト寸前で、盤上をひっくり返したネオの奇策によって。

(となれば……まずい!! 奴は盤上をひっくり返した程度で満足などしない!!)

ひっくり返した盤で敵を撲殺してくるのがネオ・ロアノークという男なのだ。

「!」

ラウは咄嗟に機体を振り向かせる。

案の状、スラスターを狙ったネオの攻撃が来ていた。

ナイフの形状をした武器を、シグーの盾で防ぐ。

おそらくこちらが爆発を受けた直後に、こちらの乱れた軌道を読み、投擲したのであろう。

後少し反応が遅れてれば背部のスラスターに直撃し、機体は撃墜させられていた。

「……流石だ。それでこそ私の――!」

言葉は最後まで続かなかった。

 

 

何故なら突如としてシグーの盾が爆発したからだ。

 

 

「ぬおおおお!!」

投げられたナイフに爆薬が仕込まれていたのであろう。接触後に時間差で爆発されるように設定されていたのか、盾ごと左腕を持って行った。

『終わりだラウ』

「!!」

気配はすぐ近くにあった。

見ると、こちらを狙う漆黒のジンの姿が迫ってきていた。

その左手には特殊な形状をした重剣が握られており、躊躇いなくこちらのコクピットを――

 

 

貫くかに思えた瞬間、漆黒のジンのモノアイが光を失った。

 

 

『!?』

「!?」

必殺のタイミング。それを自ら捨てた漆黒のジンは、地へと堕ちていく。

(マシントラブルか?)

明らかな異常事態にラウはこちらも攻勢に転じようとし――

「ちぃ! こちらもか!」

自らの機体もまた限界である事を悟った。

正面から受けた爆発と、左腕の損傷で機体のパフォーマンスは最悪に近い。

正直、何時止まってもおかしくない状態だ。

『クルーゼ!』

「!」

ムウのメビウスゼロが墜落するネオを援護するように、レールガンを撃ってくる。

「うるさいハエが!!」

回避行動を何とかとるが、その反応はやはり鈍い。

「……潮時か」

ラウの決断は早かった。ネオとの決着は彼にとって何よりも優先すべき事ではあるが、この状況では満足な結果を得る事は叶わないだろう。

ならばここにいる理由はないと、ラウは機体を反転させ撤退行動に入る。

 

 

『また会おうネオ』

 

 

通信機械がいかれているのか、返事はない。

だがラウは確信していた。ネオもまた自分と同じであることを。

彼もまた自らの半身との闘争を望んでいる事を。

 

 

「……なにがまた会おうだ」

コクピット内で落下運動に身を任せながら、ネオは溜息を吐いた。

「どう答えてもお前は無理やり会いに来るだろうが……変態仮面が」

「……ネオ?」

毒づくネオに、ステラは不思議そうな声を出した。

「ん、どうしたステラ?」

「楽しそうな声、してる」

「……」

肯定はなかった。だが否定もせずにネオは苦笑すると、

「変態仮面なのはお互い様か」

生きているカメラでコロニーの空をネオは見る。

もう離れて言っているラウのシグー。ムウとアークエンジェルが攻撃を加えているが、あの変態仮面の事だ。絶対に逃げ切るだろう。

(本当の勝負はここから……か)

地上にいるであろうストライクを撃破する為に、奴はこちらを執拗に追撃してくるだろう。

奴の事だ。その際に奪ったGも全機投入してくるはずだ。

それをこちらは限られた戦力で対処していなければならない。

「頭が痛くなるな」

やることは山積みだ。

思わず愚痴を漏らしたネオに、

「大丈夫」

「ステラ?」

彼の娘であり、パートナーでもあるステラは答えた。

「ステラをネオが守って、ネオはステラが守る」

それはきっと何の根拠もなく、これから起こる事を露ほども分かっていない発言だ。

だがしかしそんな何の意味もない少女の言葉が――

 

 

「だから何が起こっても絶対大丈夫」

 

 

「……ああ」

この世のどんな言葉よりも、ネオの心を安心させた。

 

 

「やっぱり俺の娘は最高に可愛いな」

 

 

 

そう呟いたネオに迷いはもうなかった。

 

 

 

 

 

 

「……ああ」

撤退をしながら、ラウはふと思い出した。

そう言えば自分は地球軍の新型のモビルスーツの破壊に来ていたのだと。

途中で戦闘意思を失っていたから、放置していたがアレの破壊が表向きの自分の最優先事項であったと。

「アデスは渋い顔をするだろうが……まあいいさ」

元よりラウにとって残った地球軍のモビルスーツの存在にそこまで執着はなかった。

ネオの側に残す駒としての価値がなければ破壊する気ではあったがミゲルの撃墜と、こちらを狙ってきたあの射撃を見て、とりあえずは及第点を与える価値はあると判断した。

「……次こそは決着をつけたいものだなネオ」

こちらの駒は強力だ。4機の新型もデータの吸出しさえ終われば、戦力になる。

対するネオの駒はたった1機の新型と、ムウ・ラ・フラガ。

圧倒的な戦力差であるのは誰の目から見ても明らか。

「くくく……」

だがラウは期待に心を震わせていた。

その戦力差さえもあの男なら覆してしまう……そんな確信がラウにはあった。

故に――

「修理のついでにアレの準備を急がせなくてはな」

一人呟くラウの声はどこまでも楽しそうで――

 

 

「奴がドレスを新調したのであれば、私もそれに倣わなければな」

 

 

そして何処までも純粋であった。




キリがいいので、原作とは違いますが、ここで第一話が終わった感じですかね。
技の変態仮面ネオさんと、力の変態仮面ラウさんの勝負はこれからだ!


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PHASE-02『崩壊せし大地』
責任


更新が遅れて申し訳ありません_(..)_
べ、別にクロスレイズしまくってて執筆出来なかったわけじゃないんだからね!(滝汗)
フェイズ2はキラ君とネオさんの回ですので、どうぞ。


 燃える。

 何もかも。

 人も物も等しく全て。

 燃えて、壊れて、消えていく。

 そしてその中心には──『俺』がいた。

 

 

 目覚めてすぐに感じたのは、いつも感じる重さがないこいうこと。

 そして──誰かが俺の手を握っているということ。

「ネオ……」

「……ステラか」

 この世でただ一人の愛しい娘の声に、ネオの意識が完全に覚醒する。

「そんな顔をしてどうした?」

 上体を起こし、枕元に置いてあった仮面をつけると、ネオは涙が流れる娘の頬に触れる。

「何か怖い思いでも──」

「ネオ!」

「うおっと!」

 泣きながら抱きついてくるステラにネオは押し倒される。

「よかった! ネオ、落ちたら返事しなくて! ステラ、ステラ……!!」

「あー、とりあえず落ち着けステラ。何が起きたのかまるで意味が分からんぞ」

「ネオ! ネオ……!!」

「……駄目か」

 自分の胸で泣きじゃくるステラの髪を優しく透いてやりながら、ネオは大体の事情を察した。

 戦士として教育したステラが、ここまでパニック状態に陥ってしまうのは1つしかない。

(俺が負傷したか)

 ネオの教育により、卓越した戦闘技術を手に入れたステラだが、1つだけ大きな問題を抱えてしまった。

 それが親であるネオが傷つくと、過剰なまでに反応し、パニックを起こしてしまう事だ。

 これはネオにとって唯一の誤算であった。教育を始めた時点で過去の記憶がないステラがある一時的に依存状態になることは予想できたが、依存は解消される所か、共に過ごす時間が長くなる毎に、強く大きくなっていっている。

 自分と一緒でなければ、一人で眠ることも出来ないまでに悪化してしまったステラの依存を解消するのは、現在のネオの教育の最も大きな課題であった。

(しかしこれでは何も分からんな)

 自体は切迫しているのは間違いない。せめて状況の把握だけでもしたい所だが──

「あ」

「ん?」

 部屋に一人の来客が訪れた。

「よかった! 目を覚ましたんですねネオさん」

「キラ君か」

 部屋の中に入って来たのはヘリオポリスであった少年──キラ・ヤマトであった。

「無事だったか」

「はい。おかげさまで」

 そう答えるキラであったが助かったというのに、その顔はあまり晴れないものであった。

「……何かあったか?」

「えっと、何かっていうか──その、色々……」

 歯切れの悪い言い方に、ネオは腹筋に力を籠めると、ステラに抱き着かれながらも、上体を無理やり起こした。

「すまないが何があったか教えてくれないか? 見ての通り、うちの娘はこんな状態でね」

「あ、はい。でも落ち着いたみたいで良かったです」

「やっぱり俺が負傷して、パニックになってたか?」

「……はい。人が変わったみたいに」

「……その件も含めてよろしく頼む」

「はい」

 キラは頷くと、何があったのかをネオに話しだした。

 

 

「ネオ!! ネオ!!」

「君、落ち着いて!!」

 ザフトとの戦闘が一時的に終了したキラ達はマリューの指示の下、戦闘中に突然現れた戦艦アークエンジェルに入っていた。勿論、マシントラブルで動かなくなった漆黒のジンも一緒にだ。

 戦艦に上がる前にマリューが簡単に容態を見たが、目立った外傷はないため、強い衝撃を受けた事により、気絶。命に別状はないという事であった。

「ネオが! 死ぬの! ステラが守らないといけないのに!!」

 むしろ問題なのはネオと一緒に搭乗していたステラという少女の方だろう。

 トール達がコクピットから降ろしたネオに縋りつき、一向に離れようとしない。

「……困ったわね」

 どうしたものかと溜息をマリューがついていると、

「ラミアス大尉!」

 聞きなれた声に、マリューははっと、顔を上げた。

「ご無事でなによりでありました!」

「バジルール少尉! あなた達こそ、よくアークエンジェルを。おかげで助かりました」

 見知った部下との再会に、マリューの心中に安堵が訪れる。

「大尉。これは一体どういう事でしょうか?」

 ナタルが気絶したネオを始め、ストライク、そしてヘリオポリスの少年達に目を向け、尋ねて来る。

「そうね……どこから説明したらいいものかしら」

 

 

「ネオ! 大丈夫かよおい!!」

 

 

 脇から大声を発し、見知らないパイロットスーツの長身の男が血相を変えながら、倒れたネオに向かう。

「ムウ!! ネオが、ネオが!」

 面識があるのか、ネオ以外の認識を拒むように彼のみに意識を向けていたステラが、その男の方を向いた。

「落ち着けステラ! おいあんた! こいつの容態はどうなんだ?」

「あ、いえ、細かい検査は必要ですが、気を失っているだけで、命に別状はないかと……」

「本当か? ……って、今は他に確かめようがないか」

 大きなため息を吐くと、ムウと呼ばれた男は、ひとまず安心したのか、落ち着きを取り戻すと泣きはらすステラの肩に手を置く。

「大丈夫だステラ。ネオは気を失っているだけだ」

「でも! でも!!」

「勿論ステラが心配なのは分かる。だが、このままこんな床が固い所で寝かせてても、ネオ辛いだろう?」

「……そう、かも」

「だからベットの上に運んでやろうぜ。その方がネオの奴も楽だろう?」

「うん」

 ステラと面識があるのか、あれほど激しかったステラのパニックが一時的に収まる。

 あまりの出来事に呆気に取られる面々に、ようやく男は顔を向ける。

「悪い。自己紹介が遅れたな」

 端整な顔にやや軽薄そうな笑みを浮かべた。

「地球軍第七起動艦隊所属ムウ・ラ・フラガ大尉だ、よろしく……で、そこで気絶している奴がネオ・ロアノーク少佐。そしてそいつから離れようとしないお嬢ちゃんが、その娘で同じく特別遊撃部隊所属のステラ・ロアノーク少尉だ」

「エンディミオンの鷹に、ファントム……」

 士官の誰かが、信じられないという面持ちで呟いた。

 それもそのはず、ムウもネオも地球連合に所属する士官なら知る人ぞ知るエースパイロットの二人だからだ。

「地球軍第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です」

「乗船許可を貰いたいんだが。この艦の責任者は?」

 重い口調でそれに答えたのは、マリューではなく、ナタルであった。

「艦長はじめ、主だった士官はみな戦死されました……よってラミアス大尉がその任にあるかと

「え……!?」

 信じられない衝撃の事実に、マリューが凍り付く。

「なんてこった……ああ、とにかく許可をくれよラミアス大尉。俺達が乗って来た船も墜とされちまってね」

「あ、はい。許可いたします」

 慣れない様子でマリューが許可を出すと、ムウは「で」と自分達のやりとりを眺めている少年達に──否、黒髪の少年に目を向けた。

「ストライクから降りたあれは?」

「ご覧の通り民間人の少年です。襲撃を受けた時、何故か工場区にいて、私がGに乗せました。キラ・ヤマトと言います」

「ふーん」

 何やら含むものがあるように頷くと、ムウは何を考えているのかが読めない笑みを浮かべた。

「彼のおかげで先にもジン一機を撃退し、あれだけは守る事が出来ました」

「ジンを撃退した? あの子供が?」

 ナタルを始めとした地球軍の士官達が顔を見合わせる。

 いくら新型のモビルスーツの力があったにせよ、まだ若い少年がジンを撃退した。

 それはザフトの、コーディネーター達の力を知る地球軍の人間にとって驚くべき事であるからだ。

「……俺は例のあれのパイロットになるひよっこ達とその教官であるネオの奴の護衛で来たんだがね。連中は?」

「ちょうど指令ブースで艦長へ着任挨拶をしている時に爆破されましたので、共に……」

「……そうか」

 沈痛な面持ちで答えるナタルに、一瞬ムウも重々しく表情を引き締めると、キラに歩み寄って行った。

「な、なんですか?」

 

 

「……君、コーディネーターだろ?」

 

 

 ムウの問いに、その場の空気が一瞬で凍り付くのをキラは確かに感じた。

 

 

 

「あ、うん。もうそこまでで大丈夫だ」

「え、そう──ですか」

「ああ。そこからは大体予想がつく」

 重々しいため息を吐くと、ネオは仮面の額部分を手で抑えた。

「大方、その後士官達に銃を向けられそうになったが、ラミアス大尉がそれを制止……んで、ムウのバカが騒ぎにして悪かったな。とかなんとかほざいて、そんな事よりザフトの奴らが攻めて来るから、こんな所で時間を食っている場合じゃないと思うぜ? とかなんとか言って、その場はとりあえず流れて、俺はステラと一緒に医務室に運ばれた……って所だろう?」

「す、すごいです。なんで分かるんですか?」

「それぐらい分かるさ。地球軍の士官の取る行動と、ムウの馬鹿が言いそうな事ぐらいは……」

「ネオさんも、僕がコーディネーターって事は知ってたんですか?」

「……まあな」

「そう……ですか」

 キラの表情の陰が増す。それを見ると「だが」とネオは続けた。

「俺が君にモビルスーツを任せたのは、君がコーディネーターだからではない」

「え? なんでですか?」

「君がいい奴だからだ」

「僕が──ですか?」

「ああ。友達を守る為に、自分の危険を省みない……そんな筋金入りのお人好しじゃないと、自衛のためとはいえ、素人にモビルスーツなんて任せられない。まあ、だからこそ──」

 そこまで言うと、ネオは改めてキラに頭を下げた。

「本当にすまないキラ君」

「ネ、ネオさん? 頭を上げて下さい!」

「そういう訳にもいかん」

 だがネオは決して頭を上げようとはしなかった。

「君達に迷惑をかけただけでなく、君には辛い思いをさせてしまった」

「い、いえ! 迷惑をかけたのは僕の方です。戦闘には参加するなって言われていたのに、僕は勝手に行動して──」

 話しながらその時の光景を思い出したのか、キラは顔を俯けた。

「ヘリオポリスに穴をあけたばかりか、危うくネオさんを殺しかけました」

「だからこそだよ」

「え?」

 俯いていた顔を上げるキラに、尚もネオは頭を下げ、続ける。

「戦場で味方の誤射が当たるなんてことはよくあることだ。それを避けられなかったのは俺の未熟が原因だ。君は何も悪くない」

「ネオさん……」

「そして何より、俺は君に自分の住むヘリオポリスを撃たせてしまった。今でもその時の感覚が忘れられないんじゃないか?」

「……はい」

 キラの乗るストライクの射撃武器アグニが放ったビームはヘリオポリスの壁を貫き、穴をあけた。

 その時の操縦桿を握る感触と恐怖は、あれから時間が経った今でもキラははっきりと覚えている。

「そうか……なら余計に頭は上げられないな。自分達の住むコロニーを撃つ。その辛さは想像を絶する程に大きく強いだろう。軍人としてではなく、君に武器を持たせてしまった者の責任としても、俺は君に頭を下げなくてはならない」

「……」

 キラは驚いたように何度も瞬きをした。

 何かを言いかけて迷って、やがて意を決したように口を開いた。

「ネオさんって、本当に軍人ですか?」

「……俺、なんか変な事言ったかな?」

 キラの問いは予想していなかったのか、やや困惑したようなネオにキラは慌てて答えた。

「いや、あのすいません! ただ、その、なんて言えばいいのかな……軍人の人って、戦争で勝つのが第一って考えているっていうか、もっと厳しい人たちっていうか、冷たいっていうか──そんなイメージが……」

「あー、うん。そう思われても仕方ないな」

 中立のヘリオポリスで新型のモビルスーツを作っていたのだ。そのようなイメージを持たれても無理はない。

「でもネオさんはその、なんか違う感じがします」

「うん。まあ、自分でもちょっと変わり者だっていう自覚はある」

「……ちょっとですかね?」

「むぅ。それもよく言われるな」

 肩の力が抜けたかのように、キラの口調は緊張で張り詰めたものから柔らかいものになっていた。

「……頭、上げて下さい」

「キラ君?」

「正直、なんで自分がこんな事をってずっと思ってましたし、ヘリオポリスを撃った時はモビルスーツに乗りたくて乗ったわけじゃない、僕は悪くないっていう気持ちもありました……」

「でも」とキラは続けた。

「子供の僕に対してでも頭を下げて、自分の責任を果たそうとしているネオさんを見ていて思いました。僕にも責任はあるんだなって」

「キラ君……」

 自分の罪を認めるように、キラは尚も続ける。

「武器を持たせたのはネオさんかもしれませんが、それを撃ったのは僕です……だから、その──」

 言いよどみながらも、少年は言葉を続ける。

 

 

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

 

 そう言うとキラもまたネオに対し、頭を下げた。

「……」

「……」

 互いに頭を下げたまま、奇妙な沈黙がその場に訪れた。

「──ステラも」

 その沈黙を破ったのは、意外にも今まで黙って二人のやり取りを見ていたステラであった。

「ステラも頭を下げた方がいい?」

 少女のあまりに的外れな天然発言。

 だがそれを聞いた二人は噴き出すと、

「頭、上げようか」

「はい!」

 同時に頭を上げた。

「さて、ブリッジに行く前に君の友人達にお礼を言いたいんだが、案内頼めるかなキラ君?」

「はいネオさん!」

 二人の声は明るく、そして前向きであった。

「?」

 どうして二人が笑ったのか分からないステラは、その理由を考えたが──

「──ぎゅう」

 結局分からず、ネオの胸に顔を埋めるのであった。




順調にキラ君の好感度を稼ぐ変態仮面ネオさん。
女性より男性にモてる系主人公ですはい。


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ミゲル出撃

ザフトの変態仮面サイドです。
胃「(ストレスで)お前を殺す」
アデス艦長「!?」

デデン!!


 隊長機の損傷。それはヴェサリウスのクルー達に衝撃を与えた。

 あのクルーゼ隊長がよりにもよって、ナチュラルに不覚を取る等とは……

 だがしかし……

(やはりこうなったか)

 ヴェサリウス艦長であるアデスは口には出さないが、驚く所かむしろ納得していた。

「ミゲルがこれを持って帰ってくれて助かったよ」

 帰還したラウは一息つくことすらせず、その足でヴェサリウスのブリッジに上がると、パイロット達を収集し、新たな作戦開始前ブリーフィングを行っていた。

「でなければいくら『ファントム』が相手だったとはいえ、機体を損ねた私は大笑いされていたかもしれん」

 誰もが真剣な顔で、ミゲルが持ち帰った記録映像と、ラウが持ち帰った記録映像を見る。

 映像に映るのは、奪取し損ねた地球軍の新型モビルスーツと漆黒のジンだ。

 その動きがどちらも搭乗しているのがナチュラルとは思えない程の動きを見せている。

「オリジナルのOSについては君らも既に知っての通りだ」

 皆が一様に頷く。

 捕獲したモビルスーツのOSは粗末の一言に尽きる代物であった。

 それでは何とか動ける程度のレベルでしかモビルスーツを動かせない。

 ……そのはずだった。

「なのに、何故この機体だけがこんなに動けるかは分からん」

 映像が新型のモビルスーツの切り替わる。

「『ファントム』のように操縦の殆どをマニュアルでやるなどという馬鹿げた離れ業をやってのけれるとは思えんしな」

「……」

 力強い頷きを見せたのは、ミゲル・アイマンだ。

 その目は闘志に満ち溢れており、自分に不覚を取らせた新型モビルスーツと『ファントム』への再戦に燃えていた。

「だが我々がこんな物を残し、放っておくわけにはいかんという事は、はっきりしている──捕獲できぬとなれば今ここで破壊する。戦艦もな」

「ただし」とラウはそこで言葉を区切ると笑みを浮かべた。

「『ファントム』と1対1でやり合おうとは考えるな。君達では奴には勝てん」

「クルーゼ隊長!?」

 オロールが抗議の声を上げる。口にはしないが、その場にいる他の者も同じ意見であった。

「何故ですか? 訳を教えて下さい! いくら地球軍のエースとはいえ、しょせんはナチュラル──我々の敵では……」

「よせオロール」

「ミゲル……」

 身を乗り出しなおも追及しようとしたオロールをミゲルは手で制した。

「その様子なら君は理解しているようだな。ミゲル」

「勿論です」

 ラウの視線を真っ向から受け止めると、ミゲルは力強く頷いた。

「奴の強さと恐ろしさは、隊長を除けば、この場で誰よりもよく理解しています」

 固く拳を握りしめながら、ミゲルは不敵に笑う。

「俺はこの時をずっと待っていたんです。奴に有効な戦術も戦略も全て考えています。間違っても1対1などという奴の独壇場となる舞台では戦いません」

「では最早私から言う事は何もないな。君に託すとしようミゲル……侮らずにかかれよ」

「は!」

「ミゲル、オロールは出撃準備! D装備の許可が出ている! 今度こそ完全意に息の根を止めてやれ!!」

「「はい!」」 

 アデスの指示を受けると、ミゲルとオロールはブリッジを後にした。

「アデス艦長! 私も出撃させて下さい!」

「ん?」

 ブリーフィングに同席していたアスラン・ザラからの思わぬ申請に、アデスは怪訝な顔をする。

「機体がないだろう。それに君はあの機体の奪取という重要任務を既に果たした」

「ですが!」

 尚も食い下がろうとするアスラン。

 だが到底許可など出来るはずもなく──―

 

 

「いいだろう。君がそこまで言うのならば許可しよう」

 

 

「今回は譲れアスラン! ミゲル達の悔しさも君にひけはとら──へ?」

 横からの思いも寄らぬ了承に、素っ頓狂な声を上げ、アデスはラウを見た。

「た、隊長今なんと?」

「行かせてやれアデス」

「!?」

「ありがとうございますクルーゼ隊長!」

 聞き間違いでもなんでもなく、はっきりとラウは出撃の許可を出した。

「いやしかし、隊長も言ったではないですか! 機体がな──」

「あるじゃないか。他でもないアスランが奪取してきた機体が」

「隊長!?」

 一体何を言い出すのだと、アデスは自らの耳を疑った。

 折角捕獲した貴重な機体をもう実戦に投入すると言うのかと。

「データの吸出しは終わっている。なら行かせても問題あるまい?」

「し、しかし!」

「本当なら私が出たい所だが、奪取した新型の解析を優先するため、『アサルト』の準備はまだ出来ないと整備班の者達に釘を刺されてしまったからな……」

「……まだ『ファントム』とやり合う気だったのですか?」

「当然だろう? 決着がつくまで私は奴を追い続ける」

「……っ!」

 その一言が決定的だった。

 治まっていた腹痛が再発し、アデスは無意識の内に腹部を手で押さえた。

「そう難しい顔をするなアデス」

「……」

 したくてしているわけではない。

「それにかえって面白いではないか」

「な、なにが……ですか?」

 何とか声を絞り出したアデスに対し、ラウは上機嫌に言う。

 

 

「地球軍のモビルスーツ同士の戦い……そしてそれを前に『ファントム』がどう動くのか」

 

 

 絶対前が建前で後ろが本命だろう。

「出撃準備をしろアスラン! 隊長の厚意を無駄にするなよ!」

「はい!!」

 そう思いながらも、ラウの意向に従い、アデスもまた出撃許可を下すのであった。

 これが終ったら、絶対に医務室に行こうと固く心に誓いながら……

 




アデス艦長の胃に敬礼
(^-^ゞ


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キラの選択

キラは原作より成長させる気です。
原作ラウさんの最終決戦であの人を完全論破出来るぐらいには、ネオさんが鍛える予定です。
え? この作品の変態仮面はどうかって? クアンタムバーストしても対話出来ない変態だから無理じゃないかな(白目)


「この状況で他人の心配ができるってのもすごいよな」

 アークエンジェル内に設けられた居住区の一室でネオと行動を共にしていた少年達の一人、カズイ・バスカークは呟いた。

「キラのことか?」

「うん。あんなことがあったのに、少し寝たかと思うとネオさんの所に行くだぜ? 疲れてないのかねキラは」

「そんなことないわよ。キラ、ベッドに横になったら、すぐ寝ちゃったでしょう? 疲れてるけど、それ以上に少佐の事が心配だったのよ……キラ、本当に大変だったんだから」

 数時間前の出来事を思い出すよう呟くミリアリアに、カズイは含みのある笑みを浮かべた。

「大変だった……か。キラにはあんなことも大変だったですんじゃうんだもんな」

「何が言いたいわけ?」

 サイに問われたカズイは「別に」と返しながらも、すぐに言葉を紡ぐ。

「たださ、キラ、OS書き換えたじゃん。あのモビルスーツ……それって、いつだと思う?」

「……いつって……」

 カズイ以外の全員がそこで初めて気付く。

「戦闘中……だよな」

 それ以外には考えられない。

 戦いの様子はかの場にいる全員が見ている。

 モビルスーツに対して素人の自分達から見ても、途中からストライクの動きが見違えるようによくなった瞬間を。

 ジンと戦いながら、キラがOSを書き換えたのは間違いないだろう。

 勿論、キラがコーディネーターである事は事前に知っていたし。だがナチュラルである自分達では到底できないような事を平然とやってのける程の能力が、彼等にはあるということを、本当の意味で理解はしていなかった。

 だからかもしれない。ちょっと頭のいいでも気の抜けた所のあるお人好しというキラに対する印象が根本から崩れていくような錯覚を少年達は感じていた。

「……コーディネーターってのは、そんな事も『大変だった』で出来るんだぜ? ザフトってのはみーんなそんな奴等の集まりなんだ……そんなんと戦って勝てんのかよ地球軍は……」

 それは誰かに対しての問いではなかった。口に出したカズイ自身の心にため込んだ想いを吐き出しただけの発言。

 

 

「勝つさ」

 

 

 だからこそその場にいる者達は驚いた。

「それが俺の仕事だ」

 部屋の戸口にいつの間にか立っていた男が、力強い返答を返して来たのだから。

「やあ諸君、先程は世話になってすまなかったな」

「ネオ少佐……」

 一瞬でカズイの顔が蒼白になる。

 

「そのお礼を言いに来たんだが……君には説教とまではいかないが少し『お話』が必要かな? カズイ・バスカーク君」

「ひ!」

 気の弱いカズイはネオが笑いかけただけで、無意識の内にすくみあがってしまう。

「君の物事を見る目は優秀だが、その見方には少々問題があるようだな……君のさっきの発言はあまり褒められたものではない」

「あの、その、すいません」

「ん? 何がだい?」

 首を傾げるネオに震えながら、カズイは必死に言葉を絞り出す。

「地球軍の人達が勝てるのかみたいな言い方をして」

「ああ、それはどうでもいい」

「え?」

 てっきりその事に対して怒りを感じていたのだろうと思っていたカズイは困惑する。

「君達から見たら勝ち目のない戦いをしているように見えても仕方ない。実際の所、ザフトは強敵だしな」

「な、なら──」

 一体何がまずかったのだろうか? 

 カズイはますます分からなかった。

 ネオは溜息を一つ吐くと、出来の悪い生徒に説明する教師のように、語り出した

「俺が問題だと思うのは、君がザフトのコーディネーター達とキラ君を同一として見て発言をしている事だ。無意識なのが余計にたちが悪い」

「……あ」

 指摘を受けてようやくカズイは気が付いた。

 ネオの言う通り、先程自分はキラが友人である時

「キラ君が力を尽くしたのは、君達を守る為だ。それを忘れて彼をただのコーディネーターとしか見ないのは、あまりにも酷な話だぞ?」

「……すいませんでした」

「違う。間違っているぞカズイ・バスカーク君」

 頭を下げるカズイにネオは首を横に振る。

「君が謝る相手は俺ではない」

「え?」

 まさかと思い、カズイが顔を上げると──

「……」

「キラ……」

 部屋の入口に辛そうな顔をした友人の姿があった。

「あの、その──」

「……」

 視線をせわしなく動かすカズイだったがやがて意を決し、

「俺お前に──!」

 

 

「キラ・ヤマト君!」

 

 

 その瞬間、最悪のタイミングで新たな訪問者が現れる。

 部屋の戸口には軍服に袖を通したマリュー・ラミアスが立っていたのだ。

「……最悪だ」

 あまりの間の悪さに、ネオが溜息を吐くと、彼の姿に気付いたマリューはぱっと顔を明るくした。

「ロアノーク少佐! 目を覚まされたのですね!」

「……ついさっきな」

 余裕がないのか、ネオの態度が普段と違う事に気付かず、マリューは続ける。

「今すぐにブリッジに来てください。相談したい事が──」

「その前に、君がここに来た目的を果たすべきなんじゃないのか?」

 マリューの態度からネオは彼女がここに来た目的を、察した。

「今の反応を見る限り、俺に用事がここにあったわけではないのだろう?」

「そ、それは……」

 気まずそうにマリューは、ネオから顔を逸らすと、近くにいたキラに目を向けた。

「ごめんなさいキラ君。ちょっといいかしら?」

「……はい」

 キラもまた何を言われるのかを察したのか、部屋から出て廊下に行くマリューの後を追いながらも、その顔は険しい。

「……騒がせて悪かったな。それと、先程は助けてくれてありがとう。本当に助かった」

 部屋の中にいた少年達にそう告げると、ネオもまたキラの後を追い、廊下に出た。

「キラ君……」

 やや迷いを見せながらも、マリューは硬い口調ながらも少年に話を切り出した。

「申し訳ないけど、もう一度ストライクに乗って欲しいの」

 

 

「お断りします!!」

 

 

 その瞬間、キラの怒声が廊下に響き渡った。

(やっぱりそうなるか)

 ネオは予想していた通りの展開にため息もでなかった。

「なぜ僕がまたあれに乗らなきゃいけないんですか!? 」

「キラ君……」

「あなたが言ったことは正しいのかもしれない。僕らのまわりで戦争をしていて、それが現実だって。でも僕らは戦争がいやで中立のヘリオポリスを選んだんだ! もう僕らを巻き込まないで下さい!」

「……」

 マリューは辛そうな顔で頷いた。

(無理もない)

 それを見たネオは双方に同情した。

 大人しい少年であるキラが、あそこまで感情を露にするのは仕方がないことだ。

 自分にもヘリオポリスを撃った責任があるとキラは言った。

 だがだからと言って、戦う覚悟が出来たわけではない。

 兵士でも戦士でもない民間人の子供に、大人が殺しあいをしてこいと言ったのだ。武器を一番扱えるからという理由だけで。

 キラと歳が近い子を持つ親としてネオはキラに同情する。

 だが同時に軍人としてのネオは、マリューに同情していた。

 本心であれば温和な性格のマリューが、年端もいかない少年を自分達の都合で戦闘に駆り立たせるような真似はしたくないはずだ。

 だが今の彼女はそれが許される立場ではない。

 キラから聞いた話によれば、マリューは現在この艦の最高責任者。クルーの安全確保の為に全力を尽くさなければならない立場にある。

 倫理や人道を考慮しないのであれば、マリューの選択は決して間違ったものではない。

 どちらも正しいのだ。

 故に互いに一歩も退くことが出来ずに、視線だけが交錯する。

 

 

『ラミアス大尉。ラミアス大尉。至急ブリッジへ!』

 

 

 廊下の壁に設置されてあるモニターから声が発せられた。

「どうしたの?」

 ボタンを押し、音声だけの通信を始める。

『モビルスーツが来るぞ! はやく上がって指揮を取れ! 君が艦長だ!』 

「私が!?」

 通信相手のムウの思いも寄らぬ指示に、マリューは自分でも気づかない内に驚きの声を上げていた。

『先任大尉は俺だが、この艦の事は分からん』

「しかしそれなら、ロアノーク少佐が……」

 ネオを見ながら呟くマリューに、ネオは何も言わずにただ苦笑を返した。

『賭けてもいいぜ。まだ呑気に寝てる少佐殿でも、あんたを艦長に推薦するってな』

「……当たりだよムウ」

『って、その声はネオか!? お前、そこにいるのか!?』

「ああ、さっきまで呑気に寝てた少佐殿はここにいるぞ」

『うわ。しかも全部聞かれてたのかよ。盗み聞きは趣味が悪いぜ』

「抜かせ」

 流石に地球軍を代表するエースパイロットの二人。互いが返す言葉には軽口を叩く余裕さえうかがえた。

「艦長はラミアス大尉に任せるが、前線の指揮は俺がとる。ステラはもう先に準備をさせているが──ムウ、お前のメビウスはどうなってる?」

『ガンバレルはまだ使えんが、出撃は出来る』

「分かった。お前は居残ってCICでもやってろ」

『なんでだよ!?』

 思いもよらない答えに、抗議の声を上げるムウに「よく考えろ」とネオは駄々をこねる子供を諭すように、言う。

「この次の戦闘では、かなりの高確率でコロニーが破壊する恐れがある。半壊したモビルアーマーなんかでコロニーが崩壊してみろ。一瞬であの世生きだ」

『でもよ!』

「でもじゃない。見誤るなムウ。戦いはこれで終わりなんじゃない。ここから始まるんだ。貴重な戦力であるお前をここで失う訳にはいかない」

『……ストライクはどうなった?』

 ネオはそこでキラを一瞥すると、彼を安心させるように微笑んで見せた。

「元より出すつもりはない。今回の戦闘は俺とステラだけで出る」

「!?」

「少佐!?」

 驚くキラとマリュー。しかしネオは構わずに続ける。

『ちょっと待て! いくらお前でも死にに行くようなもんだぞ!?』

「通信を終わる」

 聞く耳をもたんと言わんばかりに、通信を一方的に終えると、茫然とやり取りを見ていたマリューに顔を向ける。

「というわけですまないが、艦の事は任せるぞラミアス大尉」

「……私で大丈夫でしょうか」

「大丈夫だから頼んでいる」

 不安そうな顔のマリューの肩に手を置くと、ネオは彼女に正面から向き直った。

「君なら出来る。俺とステラの帰る場所を頼むぞ……ラミアス艦長」

「……分かりました少佐」

「よし」

 まだ完全には納得したわけではないだろうが、頷いて見せたマリューに満足をすると、ネオもまたパイロットとしての自らの役目を果たす為に、踵を返した。

「ネオさん!」

 だがそんな彼を引き留める者がいた。

「どうしてですか? どうしてネオさんは僕に戦えって言わないんですか!?」

 キラだ。困惑しながらも聞いてくるキラに、ネオは振り返った。

「約束しただろう?」

「え?」

 不敵でありながらどこか他者を安心させる笑みを浮かべながら、

「君達の安全を守る為に全力を尽くすと──それには当然君も含まれてる」

 英雄と呼ばれる仮面の男はそこに立ち、

 

 

「俺はファントムだからな……死んでも守って見せるさ」

 

 

 それ以上は何も言わず、振り返りもせずに戦いへと赴くのであった。

「……あ」

 遠ざかっていくネオにキラは無意識の内に手を伸ばす。

 だがその背中は既に遠く、決して止まろうとはしない。

 何も掴めなかった手を、握りしめながらキラは瞼を閉じ、歯を食いしばった。

(戦わなくていい)

 そう言われた。言ってもらえた。

 ならば喜ぶべきなのだ。

 戦争なんてしたくないのだから。

 だが──

(本当にそれでいいのかな?)

 喜ぶ事が出来なかった。それ所か、今ここに立っている事に違和感がぬぐえない。

「アークエンジェル発信準備。総員第一戦闘配備、フラガ大尉には少佐がおっしゃったように、CICをお願いします」

 マリューだって慣れないながらも、自らの役目を果たそうとしている。

 なら自分は? 自分は一体何をしているのだ? 

「……聞いての通りよ」

 ブリッジとの通信を終えると、会話を聞いていたキラとその友人達に顔を向けるとマリューは感情を押し殺し、ありのままの事実だけを伝える。

「また戦闘になるわ。シェルターはレベル9で今はあなた達を下ろしてあげることも出来ないの……何とかこの戦闘を乗り切って──」

「やります」

 気付けば、そう言っていた。

「キラ君?」

 こちらを見て来るマリューの視線から目を逸らしながらも、キラははっきりと言った。

 

 

「僕もネオさんと一緒に戦います。モビルスーツに乗って」

 

 

 声はおろか全身を震わせながら、キラは数ある選択肢の中から最も困難な道を選んだ。

 誰かに強制されたわけではなく、自らの意志で。

「キラ君……」

「戦争をしたいわけじゃありません!」

 戦いたくなんてない。それは変わらない。

 だがそれでも──

 

 

「死なせたくないんです友達を──あの人を」

 

 

 友人達。

 そして死んでも守る……そう言ってくれた彼を死なせてはいけない。

 それだけは今のキラにとってただ一つの確かな想いであった。

 



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ネオ出撃

イカれた変態機体を紹介するぜ!


「少佐ぁこっちです!」

 ネオがモビルスーツが置かれたデッキに到着すると、すぐに彼を呼ぶ声があった。

「……君は?」

 ぼさぼさの頭に無精髭。日焼けした肌の男にネオは覚えがない。

「ああ、これは失礼しました」

 手慣れてないというよりは様になっていない敬礼をすると男は名乗る。

「コジロー・マードック軍曹であります。今はここの整備士連中の責任者です」

 言われてネオはなるほどと頷いた。言われてみればいかにもと言わんばかりの風貌だ。

「敬礼はいい。君がやりやすいように接してくれ」

「……いいんですか?」

「見れば分かる。苦手だろ? そういうあからさまな上司部下の関係ってやつは。大切な機体を任せる相手だ。君達とは仲良くしたいんだよ」

 見るからに職人質な男は、驚いたように何度も瞬きをすると、やがて一本取られたと言わんばかりに、豪快な笑い声をあげた。

「噂は外れでしたな……つけている仮面と同じくらいにロアノーク少佐は変わった性格をしていると聞きましたが、本物はそれ以上に変わっている」

「お互い様だろう? 君もかなり変わり者と見た」

「違いねえ」

 にやりと笑みを浮かべるマードックにネオもまた笑うと、改めて目の前のある自らの機体に目を向けた。

「早速で悪いが俺とステラの機体の状況を知りたい。手短に教えてくれ」

「了解です少佐。まず見て分かる通り、ぶっ壊れちまった腕は『デュエルパック』の腕とまるごと取り換えましたんで、もう片方の腕も合わせて全部を同じやつに変更しました」

「ということはスラスターアームか。『デュエルパック』の一番の特徴だな」

 近接戦闘をメインとした装備に、ネオは不敵な笑みを浮かべた。

 本来の腕との差異はその両肩部分にある。

 肩パーツ自体がバックパックと同等のバーニアを持ったそれは、理論上は戦闘中に機体を無理やり動かすことだって可能な優れものであった。

 そしてバックパックも通常のジンの者とは違う。

 フルバーニアンウイングと名付けられたそれは通常の三倍の数のスラスターが取り付けられ、超高軌道で立体的な戦闘を可能とする。

「メカニックの俺が言うのも何ですがその──」

「この『デュエルパック』は正気を疑うような装備……か?」

「はい」

 引きつった顔のマードックにネオは無理もないとネオは苦笑した。

 機体を無理やり動かせる高機動機体というのは、それだけを聞けばメリットに聞こえるだろう。だが実際の所スラスターアームもフルバーニアンウイングもデメリットの方が大きかった。

 まず第一にパイロットへの負担だ。急加速や急制動などパイロットにかかる負担は尋常ではない。

「設計案を出した時に技術者も言ってたよ、『それだと最大12Gは余裕で超えますよ?』って。胃を痛めたのか、腹を押さえながら」

「え?」

 マードックは驚いた顔でネオを見る。

「これを設計したの少佐なんですか?」

「これだけじゃないぞ? このジンデッドライジングの換装武装パック、『デッドデュエル』『デッドバスター』『デッドブリッツ』。Xナンバーに採用されなかった失敗作の制作には、全部一部だが俺が関わっている」

「ま、マジですか?」

「みんな斬新なアイディアって褒められたよ。何故かいつも決まって目を逸らしてたけどな」

「で、でしょうね……」

「ちなみに軍曹はこの装備どう思う? 肩のパーツとか友達の凄腕の傭兵のアイディアを元に作らせたから、自信作なんだよな」

「ざ、斬新なアイディア……ですかね」

 マードックもまたネオから目を逸らした。

「ネオ!」

「ん」

 聞きなれた声に目を向けると、パイロットスーツに着替えたステラだ。

 彼女は一直線にネオの胸に飛び込むと、幸せそうに頬を緩ませる。

「よしよし。可愛い娘もパイロットスーツに着替えた事だし、さっそく出撃する」

「あ、少佐! 一つだけ問題が!」

 コクピットに上がろうとしたネオ達をマードックは引き留めた。その顔は険しく、また迷いがあった。

「さっきの戦闘中に少佐の機体が緊急停止したって聞いたんで調べて見たらその──」

 言いにくそうに言葉を選んでいるマードックに、大体の事情を察したネオは苦笑した。

「予期せぬトラブルではなく。()()()()()()()()()……だったか?」

「!? なんで分かったんですか?」

「なんでも何も、味方から殺されそうになるなんてよくある事だ」

 答えるネオはまるでそれが当然だとばかりに、落ち着いていた。

「地球軍っていうのは怖い所でな。俺を利用できる駒と考えるお偉いさんがいれば、危険人物と思うお偉いさんもいる。そんな人たちからよく命を狙われるんだよ」

「……」

 あっけからんと言うネオにマードックは何も言えなくなった。

「英雄の予期せぬ戦死。しかし彼の無念を晴らすように新型のモビルスーツは獅子奮迅の活躍を見せ、ザフトを圧倒する! 地球軍の戦いはこれからだ!! っていうのが、これを仕掛けた望んだ奴のシナリオかな……このことを他に知っているのは?」

「……これを見つけたメカニックと俺だけです」

「なら悪いが他言無用だ。その見つけた子にも口止めをしておいてくれ、この状況で士気を下げるような事実は必要ない」

「……了解です」

「だが逆に安心したよ」

「え?」

 沈んだ顔を見せるマードックの肩にネオは手を置く。

「この短時間でその事に気が付いたんだ。それはここのメカニック達が優秀だという事の何よりの証拠だ。これなら安心して機体を任せられる」

「少佐……」

「長い付き合いになる。これからよろしく頼むぞ」

「了解です!」

 自然と敬礼をするマードックに、やはり様になっていないなと苦笑すると、ネオはステラと共に今度こそコクピットに上がった。

「ブリッジ。聞こえるか?」

 シートに座り、高機動戦闘用の特別仕様のシートベルトをつけながら、ネオは通信をブリッジに繋げた。

『少佐!』

 すぐにブリッジにいるマリューが答える。

「これより戦闘を開始する。そちらの準備はいいか?」

『はい。何とか艦を動かせる者をかき集めました』

「よし。現時点での最優先事項はなんだ? 答えてくれラミアス大尉」

『……ヘリオポリスからの脱出──でしょうか』

「正解だ」

 勉学を教える教師のように大仰に言うと、ネオは続けた。

「敵はおそらく拠点攻略用の重爆撃装備のジンで来るはずだ。ブリッジ内の者はそれを留意せよ」

『ヘリオポリスの中でそんなものを!?』

 マリューを始めとしたブリッジの誰もが驚きを見せる。

 だがネオは確信を持っていると言わんばかりに、大きく頷いて見せた。

「ヘリオポリスの中だからこそだよ。こっちが撃てない状況で最も有効かつ効率的な戦術だ……コロニーへの被害を考慮しないという前提だがな」

 そして相手はあのラウ・ル・クルーゼなのだ。まともな倫理観など持ち合わせているはずがない。

「念のための確認だが、コロニー内の住民の避難は完了しているのか?」

『はい』

 ならばと、ネオは頭の中でこれからの動きを決める。

「迎撃後、アークエンジェルは南側の港から脱出してくれ。迅速に対応出来れば、コロニーへの被害も最小限に済ませられるだろう……各員の奮闘に期待する」

『了解いたしました!』

 通信を切ると、ネオは溜め息をついた。

「ネオどうしたの?」

「いや……我ながらよく白々しい事が言える」

 何かを守るためには何かを捨てる覚悟がいる。

 それはネオ・ロアノークの持論であり、これまで歩んできた人生であった。

 だからこそ、この後に起こることを彼は先読みする。

 守るために、自分が捨てるものを事前に選ぶのだ。

(仮にこの戦闘を乗りきったとしても、港口から出れば、ザフトの奴等に発見され、袋叩きにされるだろうな)

 敵の規模は最低でも戦艦が2隻あるのは間違いない。

 対するこちらの戦力は自分達のジンとアークエンジェルのみ。

 しかし頼みの新造艦であるアークエンジェルは主だった士官が死亡し、それを動かしているクルーはマリューのように対モビルスーツ戦を経験したことがない者達ばかりであろう。

 絶望的と言ってもいい。

(外の敵の戦艦に見つからず、逃げる方法……今求められるのはそれだ)

 そんな奇跡のような状況にする方法などない。

 普通ならそう思うだろうが、ネオは違った。

 1つだけ思いついた。その奇跡を起こす方法を――

 ()()()()()()()()()

「やはり盤上ごとひっくり返すしかない……のか」

 ネオが迷いを見せた時であった。

『ネオさん!』

「キラ君?」

 突然通信が入ったかと思うと、キラの姿が通信用のモニターに映された。

 まさかと思い、サイドモニターを確認すると、ネオ達のジンの隣にいたストライクが機動している。

「ストライクに乗っているのか?」

『はい』

「……それは自分の意思でか?」

『はい』

『戦いなんか嫌ですけど、何もせずにいるのはもっと嫌ですから』

「……そうか」

 ネオはやや間を置くと、やがて口を開いた。

「それが君が選んだ事だというのであれば、俺はもう何も言うまい」

 だがと力強い笑みを浮かべる。

「不安だろうが、俺の指示通りに動けば君は死なない。いいな?」

「はい!」

 ネオはキラに簡単な作戦を伝えながら、決意を固めた。

「ステラやるぞ」

 キラとの通信も切り、発進用のカタパルトに機体を乗せるとネオは呟いた。

「何を?」

 決まっているとネオは答えた。

 

 

「盤上事ひっくり返す」

 

 

 生き残るために、娘と部下達を守るために──

 彼はまた一つの罪を犯し、自らの手を汚す事を覚悟した。

 

 

「ネオ・ロアノーク並びにステラ・ロアノーク。ジンデッドデュエル出るぞ!!」

 

 

 そしてファントムは戦場に飛び立った。




ミゲル君とアスラン超逃げて


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亡霊の戦場 前編

ネオさんがいない時に、ザフトの変態仮面が大暴れするのはムウさんの時にお見せしたので、今度はラウさんがいない時に地球軍の変態仮面がどうなるのかをお見せします。
頑張れスーパーミゲル君!!


 破壊されたコロニーの外壁から侵入したミゲル達は、一直線に敵の新型の戦艦へと向かっていた。

「オロールとマッシュは距離をとりつつ、戦艦を! アスラン! お前は俺と一緒に敵の新型モビルスーツと『ファントム』を叩く! 無理矢理ついてきた根性見せてもらうぞ!」

『ああ』

「?」

 どこか心ここにあらずと言ったアスランからの返答に、かすかな違和感を覚えつつも、ミゲルは今回の任務の隊長としての指示を続ける。

「くれぐれも単独行動はするな! そうしないために作戦を変更したのを忘れるな! でないと亡霊に命を持っていかれるぞ!」

 別々の位置から侵入する予定であった作戦を一か所からの侵入にミゲルが変更したのは、理由があった。

 本来であればまず自分とアスランが先行し、これを迎撃に出るであろう敵の新型のモビルスーツと『ファントム』を相手にしている間に別の場所から侵入したオロールとマッシュのジンが敵の戦艦に攻撃をする……という内容であったが、これには問題がある事にミゲルは直前で気が付いた。

 相手に『ファントム』がいる以上、こちらの作戦に気が付く可能性が高く、先行した自分達よりも先に戦艦を攻撃するための重爆撃装備をしたオロール達を撃墜してくる事があり得た。

 オロール達は火力が高い装備をしているとはいえ、それは対モビルスーツ用のものではない。

 まともにやり合えば、『ファントム』と敵の新型のモビルスーツに墜とされるのは明白であった。

 故にミゲルは各個撃破される危険性を少しでも回避する為に、あえて集団で侵入する事にしたのだ。

 そしてそれは正解であった。

 何故なら敵は侵入してきた自分達をすぐに迎撃しようとせず、戦艦の近くで待機していたのだから。

「! 見つけた!!」

 そしてミゲル達はついに視認した。

 敵であるモビルスーツの姿を。

 1機は新型のストライク。自分が戦闘をした時とも、隊長であるラウが交戦した時とも装備が違う。

 巨大な大剣に小型のシールドは近接用の武装。

 コロニーへの被害を嫌っての装備なのは明白であった。

 そして──

「いたぞ『ファントム』だ!」

 漆黒のジン。

『ファントム』の専用機であるそれは新型戦艦の甲板の上に仁王立ちしていた。

「こっちも装備が違う?」

 漆黒のジンはラウとの戦闘時の映像とは明らかにその姿を変えていた。

 通常のジンよりも大きく特徴的な肩とバックパックが特に目を引く。

「各機警戒しろ! 奴の事だ、すぐにでも仕掛けてく──」

 ミゲルがそこまで言った時であった。

 目視で確認出来るかぎりは、両手に重剣をそれぞれに握っているのみ。

 ストライク同様に、近接攻撃がメインの装備のようだ。

 ならばと先手をとる為に、

「!?」

『ファントム』が動いた。

「なに!?」

 瞬間、ミゲルは驚愕せざる終えなかった。直進してくるジンの速度が段違いに速かったからだ。

『!?』

 その証拠に、漆黒のジンの標的となったオロールは、自らが狙われているというのに、反応が遅れてしまった。

 それはコーディネーターの中でも特に優秀な者達が集められたエリート部隊であるクルーゼ隊の者としてはあり得ない事だ。

 しかしそれは偶然ではなく、起こるべくして起きたのである。

 もし仮に段違いのスピードを見せたのが地球軍の新型機であるストライクであったのであれば、驚きこそすれ反応が鈍くなる程の動揺をオロールはしなかっただろう。

 モビルスーツの性能の差に頼ってと、所詮はナチュラルだ! と余裕すら見せたであろう。

 だが『ファントム』の乗っているのは、そんな特別な機体などではない。

 見た目は何処にでもいるような、ジンなのだ。

 無論、バックパックや肩など細部にいたって普通のジンとは違う。だがそれは問題ではないのだ。

 慣れ親しみ、その性能を熟知し、自らも今乗る機体と同系統の機体が相手だったからこそ、理解してしまったのだ。

 漆黒のジンの異常性に。そしてそれに乗る『ファントム』の殺意に。

 

 

「動けオロール!」

 

 

 だからこそミゲルは誰よりも早く動いた。

 この中で唯一『ファントム』の戦い方を熟知しているからこそ、動けた。

(相変わらずだな『ファントム』!!)

『ファントム』がジンに好んで乗るのは酔狂なだけではない。あの漆黒の機体にはこちらの心理的な動揺をかけるという意味もあるのだ。

 捕獲され、敵の兵士が乗っているとはいえ、ジンはジンだ。ザフトの戦争を支え、命を預けるモビルスーツ。それに対する思い入れは、ザフトの軍人なら誰もが持っているものだ。

 だからこそ奴はそれを利用する。自分達にとって最も心理的な打撃が与えられるのが、ジンであることを知っているから。

(だが俺には通用しない!)

 しかし、ミゲルはそれを知っている。かつての敗北から奴の戦闘スタイルを研究しつくした彼に、そのような小細工は通用しない。

 その証拠に、ザフトの精鋭中の精鋭にのみ着ることを許された赤い軍服──通称赤服を着るのを認められたアスラン・ザラでさえ反応が遅れた漆黒のジン相手に、臆することなくミゲルは引き金を引けた。

 ミゲルのジンが持つライフルから放たれたビームが漆黒のジンの進行先にへと放たれる。

 当然の事ではあるが、ビームは撃たれた後にかわすのは物理的に不可能だ。

 通常の三倍──いや、それ以上の速度で動く『ファントム』のジンといえど、例外ではない。

 その狙いは正確無比。相手が相手だけにこれだけで終わるとは思えないが、これで『ファントム』の動きを止める事は出来──

「なにぃ!?」

 だが漆黒のジンは動きを止める所か減速しようとすらしなかった。

 ビームが当たる直前に肩パーツが動いたかと思うと、直進する漆黒のジンが横に動いたのだ。

「まさかあの肩、バーニアなのか!?」

 ミゲルは瞬時に漆黒のジンの肩パーツの秘密に気が付く。

 信じられない事ではあるが、あの肩パーツ自体が通常のジンのバックパックに搭載されているバーニアと同等かそれ以上のバーニアを持ち、それを作動させる事により、『ファントム』は無理やり機体を横に移動させたのだ。

「距離を取れオロール! 奴の機体は──!!」

 だがミゲルがそう言った時には、もう手遅れだった。

 漆黒のジンは一切の減速をせずに、すれ違い様にオロールのジンの胴体を横に切断して見せた。

 

 

『うわぁぁぁぁあああ!!!』

 

 

 通信か仲間の断末魔の声が聞こえたかと思うと、オロールのジンは爆発した。

『オロール!! くそ! よくもぉ!!』

「よせマッシュ!!」

 仲間を殺された事に激昂したマッシュのジンが『ファントム』へと向かって行く。

『堕ちろこの亡霊がぁ!!』

 脚部につけられたミサイルポッドから大量のミサイルを放つが、どれも恐ろしい速度で飛翔する漆黒のジンを捉えることは出来ない。

 それ所か、明後日の方向に飛んで行ったミサイルの一つはセンターシャフトと地上を繋ぐアキシャルシャフトに命中し、爆発した。

 それにより破壊されたシャフトはまるでロープのようにちぎれ、宙をのたうつと地面に落下した。

 結果論とはいえ、コロニーの生命線であるシャフトの一つを破壊しながらも、マッシュは止まらなかった。

『くそ! 来るな! 来るなぁ!!』

 何故ならたった今、仲間を殺した漆黒の亡霊が今度は自分を狙ってきているのだから。

 マッシュの目には迫り来る漆黒のジンが、自分の命を刈り取りにきた死神にしか見えない。

 そして恐怖に耐えきれなくなったマッシュは、戦艦を沈める為に持って来たジンの両腕に装備した大型ミサイルの一発をファントムに向かって撃ってしまう。

 だが当たらない。

 バックパックのみならず、両肩のバーニアをも吹き上がらせた漆黒のジンは不規則かつ無駄のない動きで、ミサイルを躱す。

 そして先程のオロールの時のフラッシュバックのように、すれ違い様に今度はマッシュのジンの頭部を切り捨てて行った。

『うわぁぁああああ!!!』

 一歩間違えれば死んでいた。オロールのように。

 その事実がよりマッシュの恐怖を煽り、彼の正気を失わせていく。

「やめろマッシュ!!」

『くそぉお!! 化け物め! 堕ちろよ! 堕ちてくれよぉ!!』

 通信に呼びかけるが、錯乱しているのかまともな返答が帰ってこない。

「ちぃ!」

 ミゲルは舌打ちをすると、自らの機体を漆黒のジンに向けた。

「作戦変更だアスラン! 悪いがお前は一人であっちの新型ので相手を頼む!」

『どうする気だミゲル!?』

「……決まってるだろう」

 最早この状況ではまともな戦闘は望めない。

 仮に錯乱したマッシュが正気を取り戻したとしても、亡霊から狙われる限り彼は何度でも狂気に囚われてしまうだろう。

 今は動きを見せないとはいえ、地球軍に残った最後の新型のモビルスーツも放置するには危険すぎる代物だ。

 誰かが戦わなくてはならない。

「悪いがお前は一人であっちの新型のモビルスーツの相手を頼む」

 それをする適任は、同じ新型のモビルスーツに乗るアスランを置いて他にはいない。

「俺は──」

 そして同様に、オロールを瞬殺した化け物を相手にするのは、奴を熟知した者ではなければならない。

 故に──

 

 

「『ファントム』は俺が一人で倒す」 

 

 

 ミゲルは決意を込めた瞳で、モニターに映る漆黒のジンを睨みつけながら、はっきりとそう言った。




もうこれミゲル君が主役でいいんじゃないかな?


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