全滅の刃 (秋町海莉)
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!!!!全アンケート終了!!!!

今回はアンケート結果を発表しようと思います。


アンケート対象キャラ

 

竈門炭治郎

竈門禰豆子

我妻善逸

嘴平伊之助

冨岡義勇

胡蝶しのぶ

胡蝶カナエ

栗花落カナヲ

煉獄杏寿郎

悲鳴嶼行冥

時透無一郎

宇随天元

伊黒小芭内

不死川実弥

甘露寺蜜璃

不死川玄弥

村田

サイコロステーキ先輩

珠世

愈史郎

 

 

投票数80票

キャラ数20人

 

それではランキングの発表です!

 

それでは最下位から行きましょう!

最下位は・・・・・・

 

 

 

 

愈史郎

で0票でした!

 

 まさかの愈史郎が最下位で0票とは・・・。残念ですが、最下位は愈史郎でしたね。うんうん、残念です。

 

 

次は15位!

なんと、15位は5人のキャラがランクインしました!

15位は・・・・・・

 

 

 

 

竈門炭治郎

嘴平伊之助

悲鳴嶼行冥

不死川実弥

村田

の5人で、それぞれ2票でした!

 

 ここにきて主人公がランクインとは・・・。伊之助ももう少し上位にランクインすると予想していたんですが。村田さんが主人公と並ぶとは・・・。実弥さん、悲鳴嶼さんも15位とは残念です・・・。

 

 

気を取り直して次は10位!

またもや5人のキャラがランクインしました!

10位は・・・・・・

 

 

 

 

冨岡義勇

煉獄杏寿郎

時透無一郎

伊黒小芭内

不死川玄弥

の5人で、それぞれ3票でした!

 

 冨岡さんと無一郎くんは3位あたりになると思っていたのですが・・・。主人公を越え、兄を越え、村田さんも越えましたね、玄弥くん。伊黒さんのネチネチはみんな嫌いなのでしょうか・・・。そして何より! 僕の好きな煉獄さんが、ここでランクインするとは!

 

 

それでは、涙を拭って続きを発表しましょう。グスン。

次は、同率8位のお2人です。

8位は・・・・・・

 

 

 

 

我妻善逸

宇随天元

で、4票でした!

 

 炭治郎、伊之助のかまぼこ隊メンバーを越えての8位を善逸は取りましたね。宇随さんも派手な順位になることが出来れば・・・。

 

 

次はなんと4位です!

4位では、4人のキャラがランクインしました!

4位は・・・・・・

 

 

 

 

胡蝶しのぶ

胡蝶カナエ

栗花落カナヲ

サイコロステーキ先輩

で、それぞれ5票!

 

 ここで胡蝶姉妹、カナヲのランクインは納得ができますね。(可愛いし、カッコいいし、綺麗だし)じゃあサイコロステーキ先輩は何故ここ? 胡蝶姉妹、カナヲの美人3人組と同率で羨ましい限りですよ、全く。

 

 

それでは、第3位の発表です!

第3位は・・・・・・

 

 

 

 

甘露寺蜜璃

で、8票でした!

 

 みんな大好き蜜璃ちゃんのランクインでした。蜜璃ちゃんに投票した方の大半が男性だと言うことがよくわかります、はい。乳柱の力ですかね。

 

 

はいはいそれではラスト2人!

禰豆子ちゃんと珠世さんのお2人ですが、先に1位の発表をさせていただきます

栄えある第1位は・・・・・・!

 

 

 

 

珠世さん

で、10票でした!

 

 愈史郎が最下位で、珠世さんが第1位・・・。まあ、愈史郎は珠世さんが一位で大喜びしているでしょうね。今日も珠世さまは美しい、とか言って。

 

 

と言うことで、2位は確定ですね。

惜しくも第2位は・・・・・・

 

 

 

 

禰豆子ちゃん

で、9票でした!

 

 禰豆子ちゃんが1位じゃないだとォォォォ⁉ とか叫びながら善逸暴れだしそうですね、ホントに。愈史郎に醜女と呼ばれたのが原因かな。

 

 

そんなこんなでキャラクターランキングは終了です!

最後にまとめたランキングを載せておきます。

 

1位 珠世

2位 竈門禰豆子

3位 甘露寺蜜璃

4位 胡蝶しのぶ

4位 胡蝶カナエ

4位 栗花落カナヲ

4位 サイコロステーキ先輩

8位 我妻善逸

8位 宇随天元

10位 冨岡義勇

10位 煉獄杏寿郎

10位 時透無一郎

10位 伊黒小芭内

10位 不死川玄弥

15位 竈門炭治郎

15位 嘴平伊之助

15位 悲鳴嶼行冥

15位 不死川実弥

15位 村田

20位 愈史郎




このランキングをもとに原作キャラが死んでいく予定です
上位のキャラは死なない確立が非常に高いです
(PS カナエに関しては考え中です)


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壱話 最終選別・前編

 高鳴る鼓動。痺れる全身。体が熱に犯されるのを感じ、無意識にも日輪刀を引き抜いた。鈍色に光る切っ先を前に笑みを浮かべ、一度左右に斬り払う。ビュン、ビュン、と音を立てて斬り払っていると、今すぐ何者かを斬り殺したくなってしまう。鬼でも人間でも、誰でもいい。早く首を斬り落としたい。そう、舌なめずりをした時だった。

 

「た、助けてくれよぉ」

 

 剣士とは思えない情けない声が聞こえてきた。声の聞こえてきた方向へと目を向けてみると、金色の派手な髪をした少年の姿が。もういい、彼奴にしよう。あの派手な髪色の少年でいいだろう。そんな事を考えながら、俺は少年へと足を向けた。

 

「む、無理だぁ。無理だよぉ。誰かぁ。誰か助けてくれよぉ」

 

 俺は少年の言葉に疑問を抱いた。助けてくれ、と言ったのか。もしや、あの少年は今まさに鬼に喰われようとしている? そうとなれば話は別だ。俺も一応は鬼殺隊の最終選別に挑戦した剣士の端くれ。鬼と人間、どちらを選ぶかと聞かれれば、俺は鬼を選ぶに決まっている。人間に罪はないのだからな。幸いにも、少年を喰おうとしている鬼は十二鬼月とやらではない、ただの雑魚鬼である。

 刀を一度握り直し、舌なめずりをする。そして、壱ノ型の構えをした。

 

「鏡の呼吸、壱ノ型」

 

 刀身を地面へと下ろし、雑魚鬼を一睨する。

 

鏡面双極(きょうめんそうきょく)

 

 刀を鬼の首目掛けて勢いよく振り上げた。神々しい輝きを放ち、刀は鬼の身体を縦に斬り飛ばした。

 

「う、うあ? いつの間に」

 

 鬼の右半身と左半身の口が同時に動く。何とも気持ちが悪い。その為、というわけでもないのだが、弐度目の攻撃を打ち込んだ。今度はしっかりと、首を刎ね飛ばした。

 

「弱過ぎる。弱過ぎるぞ、この鬼は。もっと手応えのある鬼を殺したい」

 

 刀に付いた不潔な血を振り払い、鞘へとしまう。派手な髪色の少年と言えば、あまりの恐怖に腰が抜けているようだ。口を大きく開けたまま、何も言わない。命を救ってやったと言うのに、無礼な少年だ。だが、頬や服に付いた砂埃から見ても、少年はなかなかの手練れであろう。

 

「俺が直々に助けてやったんだ。死ぬんじゃねぇぞ、少年」

 

 俺は鋭く言い放つと、少年を一瞥することなく駆け出した。

 

――――――――

 

 面白そうな鬼を見つけた。体全身を長い数十本の腕で覆った異形の鬼だ。名付けるなら、そうだな。手鬼、だろうか。

 

「鱗滝が殺したようなもんだぁ」

 

 ぬめりのある声を上げ、手鬼は不気味な笑みを浮かべた。手鬼の前に立つ少年は怒りで打ち震え、もう一人の座り込んだ少年は顔面蒼白になっている。

 ああ、可哀想だ。あの少年は何とも可哀想だ。早く俺が斬ってやろう。手鬼を殺してやろう。それはまさに、塵の如き扱いで。俺が斬り捨ててやろう。

 音を立てることなく地面を蹴り、異常な速度で手鬼の間合いに入る。手鬼の視線は未だに少年へと向けられており、俺の存在になどは気付いていない。

 何たる弱さだ。こいつに生きる価値はないな。

 

「鏡の呼吸、弐ノ型」

 

 刀を素早く引き抜き、強く柄を握り締めた。

 

残面鏡(ざんめんきょう)

 

 斜め、横、縦と順に刀を振り下ろした。手鬼の体を覆っていた無数の腕が一瞬にして切り刻まれ、手鬼の貧相な体が露わとなる。

 

「き、君は!」

 

 少年の声が聞こえたので、俺は一瞥する。目を凝らしてみると、少年の額には大きな火傷があった。

 

「気にするな。この鬼は弱い」

 

 宙で飛んだまま刀をしまい、手鬼へと視線を戻す。すると、いつの間にか腕の復元が異様な速度で進んでいた。すぐに首を斬ればよかっただろうか。まあいい。

 

「俺がお前の頭を掴みつぶしてやる」

 

 手鬼の腕が俺に向かって伸びて来る。だが所詮、十二鬼月でもない雑魚だ。もしかすれば、手鬼は俺の成長の糧にもならないかもしれない。それなら早めに殺した方がいいな。時間の無駄だ。

 俺は右腕に力を込め、拳を握り締めた。

 

「手鬼術、手鬼!」

 

 俺の右腕が勢いよく伸び、手鬼の腕を突き抜けて行く。俺の腕はどんどん伸びて行き、遂にはあの手鬼の首に風穴を開けた。

 とどめだ。

 

「鏡の呼吸、参ノ型。鬼鏡音雷(ききょうおんらい)

 

 音よりも、雷よりも速い速度で手鬼の首を突き刺した。プチン、という音と共に手鬼の首は潰れ、丸い頭は地面へと落ちる。誰も、俺の刀を引き抜く瞬間など見えなかっただろう。

 地面に着地し、刀に付いた血を振り払う。

 

「お、俺の首が、斬られただと? それにお前、今の術・・・」

 

 手鬼の体が少しずつ消えて行く。真っ黒な灰となり、宙に舞い始める。何とも滑稽な姿である。

 その時、額に痣の付いた少年が手鬼へと駆け寄っていくのが見えた。憐れむ様にして手鬼を見つめるその瞳は、炎よりも温かい。そして少年は、手鬼の角ばった手を両手で覆い瞳を閉じた。

 

「・・・・・・お前、名を何という」

 

 人間は鬼を憎むものではないのか? 鬼に顔見知った者を喰われたことは無いのか? お前は、先程まで怒りを露わにしていたではないか。

 額に痣の付いた少年は手鬼の手から手を離し、俺へと視線を向ける。

 

「竈門炭治郎。育手、鱗滝左近次の弟子だ」

 

 鱗滝左近次と言えば、元水柱で有名な男である。そんな鱗滝が育手になっている事も知らなかった。それに、こいつが。竈門炭治郎が鱗滝の弟子だと? 一体、どういう事だ・・・。

 いや、分からない事を考えても無駄なだけか。それに、あまり興味を感じないしな。

 取り敢えず、俺は名を名乗ることにした。

 

「俺は鏡音雷鬼(かがみねらいき)だ。師はいない」

 

 必要最低限の自己紹介を済ませた頃には手鬼の姿は消え去っていた。座り込んだ少年も消え、辺りは静寂に包まれる。

 

「竈門、俺は先に進む。お前は少し休息でも取れ。じゃあな」

 

 俺は刀を鞘へとしまい、一つ小さな溜息を吐いた。

 地面を蹴り、走り出す。走り出す直前、竈門が何か言いかけていたが何を言おうとしていたのだろうか。

 ・・・まあ、竈門が最終選別を突破した時にでも聞けばいいか。

 そんな事を考えながら、俺は走り続けた。




好きな鬼滅キャラ、コメントで教えてくれると嬉しいです。
ちなみに僕は煉獄さん推しです。


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弐話 最終選別・後編

 最終選別が始まり四日が過ぎた。あれから、竈門や派手な髪色の少年とは出会っていない。手鬼のような異形の鬼も他にはおらず、手応えの無い雑魚鬼ばかりだ。というか、山頂を過ぎた辺りから鬼の数が異様に減っている。誰かが狩り尽くしてしまったのだろうか。

 そんな事を考えていると、巨木の影からまた鬼が姿を現した。何の変哲もない、通常の雑魚鬼である。

 

「・・・・・・邪魔だ」

 

 型を使うことなく鬼の首が斬れた。鬼は短い悲鳴を上げて倒れたようだが、鬼の体は視界の外なのでどうでもいい。俺は兎に角、斬り殺せたらそれでいいのだ。

 

「よくも俺の仲間を殺ってくれたな!」

 

 木の葉の揺れる音と共に、一匹の鬼が降り立った。背中には巨大な翼が生えている。名付けるなら、翼鬼だろう。まあ、そんな事はどうでもいい。漸く、手応えのありそうな鬼が出てきたのだ。じっくり時間をかけて、痛めつけてやろう。

 俺は刀を引き抜き、切っ先を翼鬼へと向けた。翼鬼は目を赤く染め、勢い良く飛び上がった。

 

「ふはははははっ。人間を70人以上喰った俺に勝てるわけないだろ!」

 

 遥か上空から響く翼鬼の笑い声。何とも不快だ。苛つく。もういい、一太刀で殺してやる。

 刀を構え、俺は翼鬼を追うようにして勢い良く飛び上がった。

 

「無駄だ! お前のような人間が、俺のように飛べるわけないだろ!」

 

 腹を抱え、空中で転げ回る翼鬼。やはり、この鬼は頭が悪いようだな。相手の実力が分からないような鬼は、この先生きていけないぞ。

 

「血鬼術、翼鬼!」

 

 背中の違和感と共に、翼が生えた。白い、清らかな色をした翼である。

 

「う、嘘だろ。人間が、血鬼術?」

 

 動揺を露わにした翼鬼が、何とも滑稽だ。不意にも、俺は気持ちの悪い笑みを浮かべる。

 

「鏡の呼吸、肆ノ型」

 

 急激な速度で翼鬼へと接近し、俺は刀を振り上げた。禍々しいまでの威圧を放ち、翼鬼の首を凝視する。

 

鏡力壊落(きょうりょくかいらく)!」

 

 翼鬼を越えた時、俺は翼鬼の脳天めがけ刀を振り下ろした。風を切る轟音が空に吸い込まれ、翼鬼は恐怖で顔を蒼く染めた。

 

「う、うああああああああああああ!」

 

 大きな悲鳴を上げ、目の端にはうっすらと涙を浮かべている。何とも貧弱だ。何とも軟弱だ。この程度の鬼で70人以上喰っているという真実が理解できない。

 そして、振り下ろされた俺の刀は。

 

「・・・・・・は?」

 

 呆気なくも空を斬っていた。

 おかしい。おかしいだろ。何故だ? 何故、俺の刀は空を斬った?

 慌てて、俺は周囲を見回した。

 

「アイツか」

 

 一人の男を見つけた。上半身裸で猪の被り物をした男である。何やら高らかに笑い声を上げ、日本の刃毀れした刀を振り回している。

 

「やったぜ、やったぜ。俺が先に斬ってやった!」

 

 木の枝の上で子供のように飛び跳ねる猪男に俺は腹を立てる。アイツだ。アイツの所為だ。アイツの所為で俺の刀は空を斬ったんだ。それなら。

 

「殺してやる!」

 

 目を血走らせ、俺は猪男目掛け急降下した。俺自身が一発の弾丸となり、逆風を突き抜けて行く。俺は刀の切っ先を猪男に向けた。どうやら、猪男はまだ気付いていないようだ。

 

「鏡の呼吸、伍ノ型! 弾丸白銀境(だんがんはくぎんきょう)!」

 

 殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。

 

「殺す!」

 

 俺がそう叫んだ時、猪男はこちらを見つめていた。刀の切っ先は地面に向けられている為、反応したところでもう遅いだろう。心臓を突き刺せば終わる。

 

「っ!」

 

 俺の刀は猪男の左胸を突き抜けていた。猪男は吐血し、膝をつく。心臓を刺されたのだ。死んで当然である。

 俺は猪男の動きが止まるのを見届け、ゆっくりと刀を引き抜いた。刀の血を振り払い、鞘にしまう。猪男は、被り物の口元から血を流し、倒れ込んだ。

 

「お前は、俺の邪魔をした。恨むなら、自分を恨め」

 

 俺はそう言い残し、その場を後にした。

 

――――――――

 

 最終選別が始めり、遂に七日が過ぎた。あの二人の話が本当なら、今この場にいる剣士全員が鬼殺隊の一員になるようだ。

 見たところ、俺を含めて今のところ五人か。桃色の着物を着た少女、鼻の上に傷のついた目つきの悪い少年、派手な髪色をした少年、そして竈門炭治郎。予想よりも遥かに数が多い。

 

「あ、雷鬼じゃないか!」

 

 竈門は俺を見るなり、手を大きく振りながら駆け寄ってきた。頬や水色の袴には土埃が目立っている。竈門も竈門で頑張っていたという事か。

 

「竈門、お前も生き残ったか」

「ああ! 雷鬼も生き残ったようで良かった!」

 

 目つきの悪い少年は、和気藹々とした空気を漂わせる俺と竈門を一瞥し舌打ちをした。派手な髪色をした少年は、「死ぬ。絶対死ぬ」と呟いている。桃色の着物を着た女は蝶と戯れていた。こんな奴らが生き残ったて、鬼殺隊は本当に大丈夫なのだろうか。

 その時、説明をしていた例の二人組が姿を現す。

 

「「お帰りなさいませ」」

 

 仏頂面で言う二人に目つきの悪い少年が言葉を投げかける。

 

「で、俺はこれからどうすりゃいい?」

 

 目つきの悪い少年は一拍空けて言葉を付け足す。

 

「刀は?」

 

 刀を欲しがる少年を前に、二人はこう答えた。

 

「まずは、隊服を支給させていただきます」

「体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」

「階級は十段階ございま」

「ま、待ちやがれ!」

 

 誰かが説明を遮った。だがしかし、この声は竈門のものでも、少年二人のものではない。ましてや、あの少女のものではないだろう。

 俺達は、声の聞こえてきた後方を振り向く。

 

「俺がまだいるだろうが」

 

 何とびっくり。振り向いてみると、そこには殺したはずの猪男がいた。体中に傷が付いている中、左胸の刺し傷が特に目立っている。俺が付けたものである。

 

「おお。おお! 猪男、生きていたか!」

 

 満面の笑みで言う俺を目にし、猪男は胸を張ってこう言った。

 

「俺は体が柔軟なんだよ。心臓の位置をずらす事なんて造作もねぇ」

 

 心臓の位置をずらした? そんな芸当、人間に出来るのか?

 俺は試しに心臓をずらしてみる。が、特に柔軟というわけでもない俺に出来るはずがない。

 そんな俺と猪男の会話を終わらせるように、手を叩く音が響いた。そして、二人は説明を再び始める。

 

「階級は十段階ございます」

「甲」

「乙」

「丙」

「丁」

「戊」

「己」

「庚」

「辛」

「壬」

「癸」

「今現在皆様は、一番下の、癸でございます」

 

 成程。新入りである俺達は、強制的に一番下の階級になるのか。

 関心を見せる俺とは別に、とある物に執着を見せる少年が呟く。

 

「刀は?」

 

 目つきの悪い少年は、刀好きか何かなのだろうか。ここまで執着心を見せる程だ。名の高い愛好家なのだろう。だがしかし、そんな愛好家の少年の気を二人が分かるはずがない。

 

「本日は、刀を作る鋼、玉鋼を選んでいたただきますが、刀が出来上がるまで十日から十五日かかります」

 

 と、冷たく答える。案の定、それには少年も溜息を漏らし「なんだよ」と呟きを漏らした。

 

「その前に」

 

 二人が二度手を叩くと、鴉の声が聞こえてきた。六羽の鴉が姿を現し、それぞれの腕に留まった。派手な髪色の少年だけは、鴉が逃げてしまったようだ。まあどうでもいいが。

 

「今から皆様に、鎹鴉を付けさせていただきます」

「鎹、鴉?」

 

 竈門が首を傾げた。

 

「鎹鴉は、主に連絡用の鴉でございます」

「鴉? これ、どう見ても雀じゃね?」

 

 派手な髪色の少年が唖然とした表情で二人を見つめた。だが、それを遮るようにしてとある少年が叫ぶ。

 

「ふざけんじゃねぇ!」

 

 目つきの悪い少年である。少年は、鴉の留まった右腕を振り払い、二人へと近づき始めた。

 

「どうでもいいんだよ! 鴉なんて!」

 

 少年は白髪の少女の髪を掴み、言葉を続けた。

 

「刀だよ。刀。今すぐ刀寄越せ。鬼殺隊の刀。色変わりの刀!」

 

 どうやらこの少年は学習能力がないようだ。先程、刀は十日から十五日かかると言われたというのに。もうその事を忘れている。阿保にも程があるだろう。

 だがしかし、俺はその現状を笑って見過ごす程、腐ってはいない。

 

「おいおい少年。手を離してやれよ」

 

 優しい口調で話しかける俺を、横目で睨み付ける少年。だがしかし、俺が笑みを崩す事は無い。

 

「離さないって言うなら、お前の腕を斬るぞ?」

 

 刀に手をかけ、俺は脅しをかけてみる。

 

「やってみろよ」

 

 俺は刀を振り下ろした。

 

「いっ」

 

 無くなった右腕を押さえ、少年は数歩後退った。少年の右腕が地面に転がり、竈門達がそろって顔を顰めた。あの桃色の着物を着た少女だけがまだ笑っている。

 

「お話は済みましたか?」

 

 黒髪の少女はそう言うと、机にかかった紫色の布を取った。机の上には、幾つもの玉鋼が置いてある。

 

「では、こちらから、玉鋼を選んでくださいませ」

 

 二人はそういう物の、俺には同じものに見えて仕方ない。

 

「鬼を滅殺し、己の身を守る鋼は、ご自身で選ぶのです」

 

 そんな二人の言葉を遮るようにして派手な髪色の少年が呟く。

 

「多分、すぐに死にますよ。俺は」

 

 何とも場を乱す一言である。だが、竈門達は玉鋼選びに夢中の為、どうやら聞こえていないようだ。

 玉鋼を凝視する竈門達を余所に、俺はひっそりと手を上げた。

 

「俺に玉鋼は必要ない。この刀で充分だ」

「俺も同じだ。この刀があればどうでもいい!」

 

 猪男が俺の意見に賛同した。

 

「分かりました」

「それでは、お二人はお先にお帰りください」

 

 そう答えた後、二人は声を合わせて頭を下げた。

 

「「いってらっしゃいませ」」




前回よりもだいぶ話が長くなってしまい、本当にすみません。
ですが、二日連続投稿に関しては褒めてください。
次回も、三日連続とはいきませんが、できるだけ早く投稿するのでお楽しみに。
(PS 文章に関しては目を瞑って下さい
   それと、伊之助ファン、玄弥ファンの皆様、すみませんでした)


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参話 桃太郎・壱

前回の後書きに反し、三日連続投稿をしてしまいました。
今回は原作にはない、オリジナル展開ですのでお楽しみください。


 最終選別から三日が過ぎた晩。寝床に付こうと布団に潜り込んだ時である。一羽の鴉が俺に話しかけてきた。と言うよりも、一方的に仕事を押し付けてきたと言う方が正しいであろう。

 

「南南西! 南南西! 次の場所は南南西!」

 

 甲高い、悲鳴にも似た声で叫ぶ鴉を俺は睨み付けた。腰に刀を差していれば、今すぐにでも斬り殺していたのだが・・・。全くもって残念である。

 それにしても、この鴉はどうやって黙らせたらいいのだろうか。

 

「おい、鴉。うるさいぞ」

 

 俺は強気な口調で言い、拳を振り上げた。だがしかし、鴉は逃げ出そうともせず同じことを叫び続けている。どうしても俺に任務をさせたいようだ。

 

「分かった、分かった。分かったから、もう少し小さな声で話してくれ」

 

 もし、鴉の声で家族が起きたりすれば・・・・・・。想像しただけで悪寒が走る。俺の家庭は色々と複雑なのだ。上下関係とか。

 まあ、結局は静かになってくれればいい。それに限る。

 

「南南西の町に向かえ~。そこでは、鬼殺隊を名乗る鬼がいる~」

 

 鬼殺隊を名乗る鬼? 随分、知力に富んだ鬼がいるもんだな。もしかして、十二鬼月の下弦あたりか?

 

「鏡音雷鬼~。早く向かえ~」

「え? 今すぐ? 今すぐいかなきゃダメなのか?」

 

 俺の問いに鴉は頷き、また叫び始めた。

 

「南南西! 南南西! 鏡音雷鬼~! 早く行け~! 早く終わらせて、次の任務に向かえ~!」

 

 おいおい、鬼殺隊ってのはここまで任務を強要するもんなのか? それにこの鴉。最初よりも、声量上げやがった。

 本当に家族が起きちまう。

 

「い、今すぐ行けばいいんだな! 分かった! 今すぐ行く! 今すぐ行くから黙ってくれ!」

 

 俺は布団から飛び出し、箪笥(タンス)から隊服を取り出した。つい昨日、この鴉によって届けられたものである。

 

「早くしろ~! 鏡音雷鬼~、早くしろ~!」

 

 家族が目を覚ます事を恐れながら、俺は隊服へと着替えた。時折、障子越しに確認してはいるが、怖いものは怖いのである。

 

「よし、出来た! 出来たから、本当に静かにしてくれ!」

 

 俺はこの時、とある事を誓った。

 次、この鴉が夜中に騒いだら焼き鳥にして家族に喰わせてやろう。

 

――――――――

 

「到着~。到着~」

 

 約5時間もの時間をかけ、南南西の町とやらに到着した。深夜4時という事もあり、町は静寂に包まれている。

 

「おい、五月(いつき)。こんな深夜で大丈夫なのか? 俺は暗闇でもはっきりと見える超視力なんて持ってないんだが?」

 

 町に向かう5時間の間、暇つぶしとして鴉に名を付けた。姓を蝿鴉(はえからす)、名を五月と言う。うるさいの漢字表記である、五月蝿いから漢字を拝借させてもらった名だ。この鴉には、ぴったりの名前だろう。

 

「ももたろさーん! ももたろさーん!」

 

 突然、五月が誰かの名を呼び始めた。もしや、桃太郎とかいう名前にでもなりたかったのだろうか。

 

「おい、五月。誰だよ、桃太郎って」

「ももたろさーん! ももたろさーん!」

 

 本気で五月に対する殺意が湧いてきた。今すぐ切り刻んでやりたい気分だ。

 イライラとする心を抑え、俺は町を見回した。一見、俺の町とはなんら変わりないのだが・・・。本当に鬼が現れるのだろうか?

 

「おいおい、誰だよ全く。こんな時間に俺の名前を呼ぶ奴はー」

 

 背後から若い男の声が聞こえてきた。

 俺は慌てて振り返り、刀を構える。

 

「・・・・・・え? 動物?」

 

 俺の前に現れた男の後ろには、三匹の動物がいる。犬、猿、雉の三匹である。この三匹と言えば、童話『桃太郎』の家来の三匹であるが・・・。何か違う。その、何というか。

 人間のような体格をしているのだ。

 

「おいおい、どうかしたか? 俺達の身体何か変か?」

 

 猿が頭を掻きながら言う。手足や胴体の長い猿は元から人間のような体格をしているが、赤い顔と尻、それに尻尾だけは隠す事など出来ない。こいつは、紛れもない猿だ。

 

「まさか、僕達が動物に見えたりなんて、してないですよね?」

 

 犬が鼻をひくひくさせながら言う。明るい茶色の髪は犬の耳のように尖っており、犬の牙も生えている。確かに、一見小柄な美少年と言う風にも見えるのだが、やはりこいつは犬である。

 

「まさかのまさか、私達が鬼だなんて思ってないわよねぇ」

 

 雉が腕を上下に振りながら言った。鳥類特融の趾をしており、腕からは薄っすらと緑色の毛が生えている。何度目を擦ろうが、頭を叩こうが、雉に関してはただの擬人化途中の雉としか言いようがない。正直言って気持ち悪い。

 

「で? 何で、俺の名を叫んでたんだ?」

 

 男は太い筋肉質な腕を組み、目を細める。物言いからして、俺が叫んでいたと思っているようだ。そこまで、俺は常識知らずに見えるかな・・・・・・。

 俺は兎に角、答えることにした。

 

「いやなんだ、この町の茶菓子がうまいと聞いてな。その名前が『ももたろさん』というそうなんだ」

 

 何とも俺は嘘が下手のようだ。茶菓子の名を夜中に叫ぶ非常識人とでも思われたであろう。

 

「ああ、それなら『神野』っつう茶菓子店で売ってるぜ。あの建物を右に行った先にある、でかい店だ」

 

 いやいや、まさか本当に売ってるのかよ。まあ、名前からして桃の茶菓子という事は安易に想像できる。どうでもいいが。

 正直、今すぐにでも首を刎ね飛ばしてやりたいのだが、鬼殺隊に入った手前だ。一般市民という可能性がある者を殺すのは隊律違反になってしまう。鬼殺隊とは、なんとも面倒なものである。

 

「悪いな、助かった。ありがとう、桃太郎・・・でいいのか?」

「ああ、桃太郎で構わねえ」

 

 桃太郎は何とも気さくな奴だ。雰囲気が、どことなく竈門に似ているように感じる。

 

「俺は鏡音雷鬼だ。よろしく頼む」

「ああ!」

 

 俺と桃太郎は固く握手を交わす。

 

「取り敢えず、今日は宿屋に泊まるといい。こんな時間に店は開いてないからな」

 

 俺は桃太郎に続いて宿屋に向かう事にした




次回は柱を一人登場させる予定です。
アンケートにご協力お願いします。


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肆話 桃太郎・弐

学校が忙しくて投稿できませんでした、すみません。


 町の中心部を陣取るようにして建てられた建物こそが、桃太郎の薦めた宿屋であった。建物の壁は白く、真新しい。見たところ、建てられて一月(ひとつき)経つか経たないかと言うところである。どちらにせよ、俺はこの宿屋で一夜過ぎるのを待つ事になるのだが。

 宿屋の戸に手をかけ、俺は深く息を吸い込んだ。体全身に酸素が行き渡り、心臓が勢いよく跳ね上がる。何とも奇妙な感覚に身震いをし、俺はすぐさま息を吐いた。全集中の呼吸・常中とやらに体が慣れ親しんだ所為だろうか。ほんの数秒でも呼吸を乱すと心臓が跳ね上がり、感覚が狂う。全集中の呼吸・常中も面倒なものである。

 俺は戸を横に流し、開いた。

 

「こんな夜分に失礼する! 誰か、店の者は居ないか!」

 

 灯り一つない宿内に向かって呼びかけるが、こんな夜の更けた時間帯である。当然、返事など返ってくるわけもない。正直、返事が返ってくるという期待もしていなかった。つまりは、どうでもいいのである。

 

「やはり、この時間帯だ。起きているわけがないか」

 

 あからさまに声のトーンを下げ、俺は戸を閉めた。

 

「仕方ねぇな。ああ、仕方ねぇ」

 

 桃太郎は腕組みをして深く頷いた。だが、その口調が何とも棒読みである為、その真意が分からない。宿屋に行っても無駄だという事は、彼の予定通りというやつだったのだろうか。まあ、どれだけ考えても結局無駄である。俺は考えるのを辞め、俺は一歩右に移動した。

 そろそろかな。

 

「桃太郎、この付近で鬼が出てるって噂、知ってるか?」

 

 桃太郎の姿は視界の外だが、確かに動揺したのを気配で感じる。恨みの、怒りの、憎しみのこもった殺気と共に感知した。俺は不敵な笑みを浮かべ、羽織りの下に隠した刀へと手を伸ばす。まあ、これも念の為というやつである。

 だが、結局は無駄になるだろう。俺の行動、言動、思考全てが不必要なものと化す。

 

「来るぞ、化物(てんさい)が」

 

 俺の呟きと同時に、宿屋の戸が粉砕した。突如発生した霧の目眩ましに、桃太郎は防御態勢を取る。まあ、そんな事しても、無駄でしかないんだろうけどな。

 

「霞の呼吸」

 

 華奢な体格をした少年が霧を突き抜ける。長髪の黒髪が揺れ、目眩ましである霧を一瞬にして振り払った。霧の晴れた宿屋前に姿を現した少年は刀を引き抜き、桃太郎の目下で地面を踏みしめる。

 

「弐ノ型」

 

 少年は体幹を大きく捻り、一瞬にして刀を振り下ろした。

 

「八重霞」

 

 八連撃程の斬撃が桃太郎の大きな体を瞬時に斬り裂き、首をも捉えた。少年の刃が桃太郎の首を刎ね飛ばし、またもや濃い霧が視界を狭める。

 

「ぐはっ。こ、こいつ!」

 

 空中で弧を描く桃太郎の首が驚愕の表情を浮かべていた。瞳孔が真っ赤に染まり、口元には鋭い牙が見えている。十二鬼月や鬼舞辻無惨に比べると大したことは無いが、そこらの鬼よりは桃太郎も強いようだ。

 必死に言葉を紡げようとする桃太郎を一瞥し、少年は。

 霞柱、時透無一郎は桃太郎に追撃を喰らわせた。

 

「黙ってなよ。君はどうせ死ぬんだから」

 

 冷徹な、冷酷な、冷淡な一言を呟いた。無一郎の瞳に光はなく、鬼殺隊内の噂では記憶喪失だそうである。すぐに物事を忘れる彼を蔑む者も少なからずいるが、それ以上に。

 彼の天性とも言える剣技に賞賛の声を上げる者の方が多かった。勿論、そのうちの一人が俺である。

 

「は、柱だ! 柱が来たぞ!」

 

 桃太郎は消滅する直前、町中に轟く程の大声で叫んだ。仲間の三匹の事を思っての行動だろう。

 案の定、猿と雉は木の上に撤退し、犬は全速力で宿屋から離れて行くところだった。

 

「逃がさないよ」

 

 音もなく地面を蹴り、無一郎は犬を追いかける。必然的に、俺は猿と雉の相手をすることになるのだが・・・。雉の相手は何だか嫌だ。気持ち悪いからな、あの雉。

 そんなこんなの思考の結果、俺は猿へと視線を向けた。

 

「どうせ死ぬんだ。早く木から降りて来い」

 

 鞘から刀を引き抜き、俺は切っ先を地面に突き刺した。血鬼術を使ってもいいのだが、あれは体力を大幅に削るからな。この程度の鬼相手には不必要だろう。

 ・・・・・・あれを試してみるか。

 

「降りるわけないでしょうが! 私達が殺されちゃうじゃないの!」

 

 何故か、猿ではなく雉が反応した。何という自意識過剰ぶりだ。世の中が自分を中心に回っているとでも思っているのだろう。何とも哀れである。

 そんな雉は綺麗に無視し、俺は先程の無一郎の攻撃を脳裏に浮かべた。

 

「鏡の呼吸」

 

 ゆっくりと落ち着き払った声で呟き、俺は体幹を大きく捻る。先程の無一郎と同じ体制であるものの、やはり俺には可愛さという物が皆無らしい。心折れそう。

 

「霞ノ型」

 

 刀を振り下ろした。

 

霞空粉鏡(かくうふんきょう)・弐」

 

 無一郎と同等とも言える速度で八連撃を決める。猿と雉の足場であった木は粉砕し、その猿と雉の体にも斬撃が入った。二匹の断末魔が夜空に吸い込まれていく。

 

「手応えの無い鬼だった、つまらない」

 

 俺は刀に付いた血を振り払い、鞘へと戻した。

 

――――――――

 

 宿屋の宴会場に響く笑い声。

 

「アレ斬ったの、柱だってさ」

「あー、霞柱だったけ?」

「そうそう! さっきまで居たあの昆布髪の奴!」

「アイツ、俺達が鬼って気づいてなかったよな」

「ホントに馬鹿だよな、人間ってのは」

 

 畳の上に座り込んだ五十程の鬼達。酒器に()いだ酒を嗜み、小粋な冗談を交えて会話をする。笑いが飛び交う夜の宴は朝まで続き、夜が過ぎると町は消える。

 この町に住む全員が鬼であり、宴を楽しむヒトである。

 

「少し、俺の話を聞いてもらえないか?」

 

 そんな中、一人の人間が手を上げた。体全体の筋肉が膨張し、鬼に程近い容姿をしている。腰に日輪刀が下げられていることから、鬼殺隊の一員なのだろう。

 人間の言葉に宴会場は静まり返る。

 

「俺の幻影があそこまで弱いとは、どういうことだ?」

 

 人間の額に青筋が浮かび、五十の鬼は息を呑む。

 

「お前ら、俺が誰か知っているのか?」

 

 鬼らの筋肉が、内臓が、細胞が恐怖で震える。

 

「俺は、伝説の鬼狩り」

 

 渇いた笑みと共に鬼は言葉を吐き出した。

 

「桃太郎だぞ」




あまり無一郎君の活躍が少なくてすみません。
また活躍が増えるのでお許しを。
(PS 無一郎くんってカッコ可愛いですよね)


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伍話 桃太郎・参

早めに投稿できました~。
主人公、鏡音雷鬼の絵はこちら


【挿絵表示】



 一羽の鎹鴉が甲高い声で一声鳴く。何とも、間の抜けた鳴き声を上げた鎹鴉であるが、これでもお館様お気に入りの鎹鴉である。とある剣士に『蝿鴉五月』と名付けられているようだが、既にお館様に名を付けられている為、特に意味はない。

 

「おかえり、伽哉(かや)。鏡音雷鬼の接触には成功したのかい?」

 

 ゆったりとした口調で五月に話しかけたのは、言わずもがなお館様である、産屋敷耀哉その人だった。

 

「勿論ー、勿論ー。成功したー!」

 

 五月の言葉に耀哉は微笑み、五月の頭を軽く撫でた。くすぐったいというように頭を振る五月は、どこか嬉しそうにも感じる。

 

「伽哉、よくやったね。今夜はゆっくり休息を取ると良い」

 

 耀哉の言葉に小さく鳴いた後、五月は庭に生えた木の枝に留まり、瞼を閉じた。何とも気持ちのよさそうに眠り始めた五月を微笑ましく思い、耀哉は肩から力を抜くようにして息を吐いた。

 

「それにしても、蝿鴉五月とは何とも酷い名前だね」

 

 誰に話しかけるわけもなく耀哉は呟く。

 

「また、雷鬼にあった時、五十嵐(いがらし)伽哉の名を伝えるとしようかな」

 

 耀哉の笑い声に釣られるようにして、あまねは笑みを浮かべた。その時、庭で駆けていたかなたが石に躓いて転ぶ。あまねは穏やかな笑顔でかなたに近寄り頭を撫でて慰める。温かい家庭の象徴であろう。

 だが、彼らはまだ知らない。

 この幸せが、鏡音雷鬼の手によって壊されるという事を。

 

――――――――

 

 十年前の一月。俺が齢6の時だった。畳の上で木刀を振り、剣術を上げようと励む俺に、とある男が話しかけてきた。

 

「鏡の呼吸を知っているか・・・?」

 

 男は、気持ちの悪い形をした刀の刀身を指でなぞる。木刀を構えた俺になど目を向けず、男は穏やかな表情で自身の刀を愛でていた。

 

「俺の父上が使ってる呼吸だ。当たり前だろ」

 

 禍々しい殺気を放つ俺に対し、男は至って冷静だった。そんな男に嫌気がさした俺は、この木刀で男を殺そうと動き出す。男の背後に回り、首目掛けて木刀を振り落とした。

 

「それなら俺が、鏡の呼吸について、教えてやる」

 

 木刀は男の首に触れると同時に、真っ二つに折れた。木刀の切っ先が宙で弧を描き、畳に深く刺さる。俺の腕が反動で痺れ、咄嗟に声にならない悲鳴を上げた。

 

「鏡の呼吸とは、始まりの呼吸にも匹敵する最強の呼吸」

 

 畳の上で蹲る俺が視界に見えていないのか、男は自然に話を続けた。

 

「あらゆる技を水の如く受け流し、時には鏡の如く打ち返す」

 

 それなら、俺も父上から聞いた。父上が死ぬ三日前に、父上本人から聞いた。

 

「だが、それは偽り」

 

 男の発した言葉に俺は唖然とした。父上を殺したアイツに対する怒りが、憎しみが全て崩れた。

 

「鏡の呼吸の本来の力。それは・・・・・・」

 

 男の瞳が全て閉じ、言い難い言葉を絞り出すようにして呟いた。

 

「他の呼吸全ての型を、複写する力だ」

 

 始まりの呼吸にも匹敵する鏡の呼吸は、本来他の呼吸全ての型を複写する力だった。どんな型をも超越する力。なら、何故父上は偽りを口にした? 何故? 何故? 何故?

 驚愕と困惑が入り混じり、男の言葉を瞬時に理解することが出来ない。そんな俺の心境に気付いてか、男は言葉を付け足した。

 

「だが鏡の呼吸は、使用する人間の体を蝕む。だからお前の父親は、自分の代で呼吸を絶たせようとしたんだ」

 

 俺が父上に抱き着いた時も、一緒に寝た時も、剣術の訓練をした時も、鏡の呼吸は父上の体を蝕み続けていたのだった。男の言葉に涙が溢れ出した。

 折れた木刀を畳に落とし、膝をつく。常人の持つ感情が崩れたと、何故か俺は感じた。

 

「・・・頼む」

 

 そして、俺の感情は完全な異質なものへと変化し。

 

「俺に鏡の呼吸を教えてくれ」

 

 俺の全てを、黒々とした闇に塗り替えてしまった。

 不気味な笑みを浮かべると、不思議と涙も出なくなった。喜怒哀楽全てを失った俺は、悦と言う新たな感情を手に入れたのだ。

 

「鏡の呼吸で、俺が全てを滅殺してやる」

 

 俺の言葉が脳内で激しく反響する。不意にも、今置かれている状況を忘れてしまいそうになる。そんな俺の意識を引き戻したのは、金属音のぶつかる甲高い音だった。

 

「ふんっ!」

 

 小太りの中年鬼と無一郎が刀を交えていた。

 鬼の一振りを受け流した無一郎は、相手の足元に潜り込むようにして屈み込んだ。

 

「霞の呼吸、肆ノ型。移流斬り」

 

 鬼の体を斜めに斬り上げる。鬼は小さな悲鳴と共に消滅を始め、ものの数秒で塵と化した。

 

「任務中に意識を飛ばすなんて、いい度胸だね。まあ、僕は忘れるからどうでもいいけど」

 

 皮肉じみた口調で言う無一郎の言葉を軽く流し、俺はすぐさま刀を引き抜いた。先程打った『霞の型』の所為か、少し気だるげに感じる。

 

「それにしても、君も霞の呼吸を使ってたんだね」

 

 また一匹の鬼を斬り殺し、無一郎は言葉を発した。任務中に雑談を持ちかけるのもどうかと思うが、と捻くれた事を考えつつも、俺は言葉を返した。

 

「まあ、な!」

 

 型を使うことなく鬼の首を刎ね飛ばす。鬼の頭が空中でくるくると回転しているのが何とも面白い。何匹かの鬼で楽しんでいると、無一郎に頭を叩かれた。

 

「ふざけてないで早く終わらせなよ。君の所為で任務に失敗したらどうするの?」

 

 無一郎の冷たい一言に俺は肩を落とす。任務中に何故楽しんだらいけないのか、理解が出来ない。無一郎と俺の価値観は、全くの正反対ともいえるのではないだろうか。

 

「霞の呼吸、伍ノ型。霞雲の海」

 

 無一郎の繰り出した広範囲攻撃により、十匹程の鬼が一瞬で斬り殺された。あたかも当然のように鬼の首を斬り捨てて行く無一郎が、刀を握って二ヶ月とは思えない。熟練度で言えば、竈門にも匹敵すると感じられる。

 

「鏡の呼吸、霞ノ型。霞空粉鏡・伍」

 

 無一郎に聞こえないよう最小限の音量で呟き、俺は数匹の鬼を一掃する。やはり、無一郎程の威力を出す事は不可能のようだ。これが複写する側の限界か。

 そう溜息を吐く俺に追い打ちをかけるように、宿屋から百匹程の鬼が現れた。




無一郎君がチート過ぎて、書いてる自分も疲れました。
原作とは違って、過去はあっさりと書きましたが・・・・・・。いいですよね?
(PS 男の正体が分かった人は、主人公の正体も分かっちゃうかも・・・)


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陸話 桃太郎・肆

二日連続投稿頑張りました。
今回は展開が本当に早いのでお気をつけて。


 静まり返った宴会場で一人、酒を楽しむ桃太郎。酒器いっぱいに注がれた日本酒を流し込み、大きな音を立てて机に置いた。

 

「カァァ!!! やっぱり酒だよな!」

 

 顔を赤く染めた桃太郎は、また酒器に酒を注ぎ始めた。酒瓶片手に一人酒とは、なんとも悲しい絵面である。

 

「一人酒か? 桃太郎」

 

 背後から突然話しかけられた所為か、桃太郎は手元を狂わせ、畳の上へと酒を溢す。年季のはいった畳に酒が染み込み、シミとなる。

 

「あーあ、おいおい。どうしてくれんだよ!」

 

 声を荒げ、桃太郎は振り返った。不満を少しも隠そうとはせず我を通す桃太郎に、一つ称賛の声が上げる。

 

「私を前にして臆さないとはな、気に入ったぞ。桃太郎」

 

 桃太郎の額に激痛が走った。瞳孔を震わせながらも桃太郎は上を見る。

 

「嘘、だろ?」

 

 色白の細い枝のような指が、桃太郎の額を貫通していた。驚きの状況に理解の追い付かない桃太郎。声の主は言葉を続けた。

 

「私の血を大量に送り込んだ。これで、お前も私の配下となる」

 

 声の主、鬼舞辻無惨は額から指を引き抜き、双眸を細める。

 

「う、うが。あ、あう!」

 

 小刻みに揺れ悲鳴を漏らす桃太郎ではあるが、着実かつ迅速に無惨の血に順応していた。そんな桃太郎に関心するように無惨は笑みを浮かべ、指に付いた桃太郎の血を舐める。

 数秒後、桃太郎は無惨の血に順応することができた。

 無惨は満足げに桃太郎を見つめ、言葉を発する。

 

「さあ、桃太郎。私の為に鬼を喰らえ」

 

 桃太郎は一度、深く息を吸い、絞り出すように言葉を返した。

 

「・・・お任せくださいませ。無残様」

 

ーーーーーーーー

 

 突然、宿屋から強烈な威圧を感じた。十二鬼月にも匹敵するであろう威圧に、俺と無一郎は目を見開いた。

 

「・・・今の、何だ?」

「何が起きたの?」

 

 俺と無一郎の言葉が重なると同時に、周りの鬼達の頭が勢いよく破裂する。蹴鞠の玉が割れるような派手な音が連続的に鳴り響いた。

 

「やっぱ、こいつらは不必要な存在だったぜ」

 

 感情のない笑い声を漏らし、その男は現れた。赤い日輪刀を肩に担いだ男を一睨し、無一郎は地面を蹴る。

 

「ありがとう、探す手間が省けたよ」

 

 無一郎の刃が男の首を捉えた。鋭い切っ先が月光を反射し、無一郎は呟く。

 

「霞の呼吸、壱ノ型。垂天遠霞」

 

 無一郎の姿が俺の視界から消えた。男の。桃太郎の表情も驚愕のものへと変わり果て、次に無一郎の姿を視界に捉えたときには。

 

「・・・嘘だろ」

 

 桃太郎の頭は宙を舞っていた。無一郎の繰り出した突き技によるものだろう。

 

「君、そんな風格のわりに随分弱いんだね」

 

 無一郎は音もなく刀を鞘へとしまう。桃太郎は顔面を蒼白させ、何かブツブツ呟き出す。無一郎は踵を返し、桃太郎へと背を向けた。

 その時、俺はとある異変に気付く。

 

「消滅。しない」

 

 鬼の死を断定する判断材料として、体の消滅は最もであろう。体全身が塵となって空へと舞い上がることによって、鬼の死が確定する。つまり、桃太郎は。この鬼は。

 

「まだ・・・。死んでない」

 

 桃太郎は不敵な笑みを浮かべ、自信の頭を破裂させた。気付くと、桃太郎の胴体には既に元通りの頭が。あまりの驚きに俺は刀を落としそうになるも、何とか堪え、桃太郎に向かって駆け出した。今すぐ桃太郎の動きを止めないと、無一郎が危ない。

 

「鏡の呼吸、拾ノ型! 伸刃之鏡死(しんばのきょうし)!」

 

 俺の刀の刀身がうねり出した。小刻みに伸縮を繰り返した末、刃は勢いよく伸びる。真っ直ぐ一直線に刃は伸びていき、桃太郎の頭を突き抜けた。

 

「雷鬼! やはり、貴様は鬼殺隊だったか!」

 

 怒りで真っ赤に染まった桃太郎の顔が、脳裏に浮かんだ茹蛸と重なる。咄嗟に噴き出すのを堪えた所為か、全集中の呼吸・常中が途切れてしまった。

 トクン、と心臓が跳ね上がり、体中に電流が走る。体中の内臓や筋肉、細胞に至るまでの全てが膨張し始めた。心臓の鼓動が徐々に速度を増し始め、俺の体に異変を与える。

 

「霞の呼吸、弐ノ型。八重霞」

 

 そんな中、無一郎は桃太郎目掛けて攻撃を放った。桃太郎は頭を切り離して攻撃をかわし、すぐさま体勢を立て直す。無一郎は覇気のない表情から一変、鬼の滅殺だけを目的とするような鋭い表情になる。

 俺は刀を地面へと落とし、理性を保ち続けるべく歯を喰いしばった。

 今の俺は確実に危ない。理性を失い、誰彼構わず斬り殺してしまうかもしれない。それだけは絶対ダメだ。してはいけない。ダメなんだ。

 

「桃の呼吸、壱ノ型。桃離抜頭!」

「霞の呼吸、肆ノ型。移流斬り!」

 

 桃太郎の刀と無一郎の刀が勢いよくぶつかった。甲高い音と共に両者刀が弾かれ、大勢が崩れる。今斬り込めば、確実に桃太郎の首を斬り落とせる。桃太郎も、頭を外しての回避は間に合わないはずだ。

 俺は悦びだけを求める存在。全てを滅し、殺す最強の存在。こんなところで、止まるわけがあるか。

 俺は素早く刀を拾い、眼を見開いた。

 

「鏡の呼吸、漆ノ型」

 

 俺の振り下ろした刀は空を斬り、一陣の小さな竜巻を起こす。

 

幻鏡複写(げんきょうふくしゃ)

 

 小さな竜巻はゆらゆらと揺れ、人間へと姿を変え始めた。竜巻はいつしか幻影と変化し、俺の分身体を生み出した。幻鏡複写こそ、鏡の呼吸最強とも言える型であろう。

 

「「鏡の呼吸、霞ノ型」」

 

 俺と分身体は姿勢を低め、桃太郎の間合いへと入った。

 

「「霞空粉鏡・肆」」

 

 斜めに斬り上げた二本の刀が桃太郎の首を刎ね飛ばした。桃太郎の頭は唖然とした表情のまま地面に落ち、消滅を開始する。つまりは、死の確定である。

 俺と無一郎は深く息を吐いて地面に倒れ込んだ。羽織が汚れることなど一切気にも留めず俺は仰向けになり、藍色の空に浮かんだ満月へと手を伸ばす。初の任務完了に悦びを噛みしめ、俺は言葉を吐き出した。

 

「全テ、壊シテヤル」




初の無惨様登場と桃太郎の鬼化のシーン、桃太郎が典型的なダメ人間過ぎました。
そしてたった一話で殺される桃太郎・・・、正直生死に関してはまだ悩んでます。
(PS 桃太郎のイキリト発言には書いてる僕も寒気を感じました)


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漆話 暴虐・前編

みんな大好き冨岡さんが出ます
冨岡さん大好きしのぶさんの絵はこちら

【挿絵表示】



 桃太郎が消滅していく最中、俺の血流は濁流の如く激しい勢いで循環していた。凄まじい速度で鼓動の鳴り響く心臓に気圧された所為か、呼吸は乱れ、理性は崩れ、精神を保つことが出来ない。この状況で鏡の呼吸を使うのは不可能だと本能に告げられた。

 だが、今はそんな事で頭を使う必要も、余裕も俺にはない。今、俺の体を、脳を操っているのは俺自身ではなく、俺の持つ欲望と言う感情なのだから。

 だから俺が何をして、誰を殺そうがどうでもいい。興味は無い。知りたくもない。それに、根本的な話から。

 鏡音雷鬼という人間は、実在しないのだから。

 

「殺ス!」

 

 俺は勢いよく体を起こし、無一郎へと刀を向けた。刀の刃が無一郎の首を捉えた時、俺の横腹に激痛が走る。突然の痛みに、嗚咽を漏らし吐血した。

 俺は宙で身を翻し、数歩先で着地を決めた。

 

「マタ柱カ」

 

 左手の甲で口に付いた血を拭い取り、俺に蹴りを入れた男を一睨した。男は一束にまとめられた黒髪を揺らし、言葉を返す事も無く、俺に向かって駆け出す。何とも不気味な奴だ。

 俺は鬼の如き唸り声を上げながら、その男、冨岡義勇に斬りかかった。

 

「水の呼吸、弐ノ型。水車」

 

 飛びあがり、宙で勢いよく回転する義勇から斬撃が放たれる。今、呼吸の使えない俺には攻撃を受け流す事など出来ない。だが、血鬼術でかわす事は可能である。

 

「血鬼術、翼鬼!」

 

 義優の斬撃より早く飛び上がり、俺は空中で体勢を立て直した。そして、すぐさま義勇に向かって攻撃を仕掛ける。攻撃直後の義勇に回避は不可能である。

 

「霞の呼吸、肆の型。移流斬り」

 

 義優の背後から無一郎が飛び出し、俺の体を弾き飛ばす。地面に着地すると同時に地面を蹴り、再度攻撃を仕掛ける。

 

「血鬼術、手翼鬼神(しゅよくきじん)!」

 

 空中から、数十本にも及ぶ大量の腕が出現した。腕にはそれぞれ二枚の翼が生えている為、空中からの攻撃である。腕は義勇や無一郎の、体中に巻き付き、締め付け、動きを完全に封殺した。後は首を斬るだけである。

 俺は身を捩り、腕へと力を込める。呼吸を使っていなくとも、渾身の一撃で首を斬れるだろうという考えだ。

 

「霞の呼吸、伍ノ型。霞雲の海」

「水の呼吸、陸ノ型。ねじれ渦」

 

 あっさりと腕全てを斬り裂いた二人の刃が俺へと向けられた。二本の刃が俺の腕を片方ずつ突き抜ける。不思議と腕に痛みは無く、すぐさま後ろに飛び退いて、体勢を立て直した。

 やはり、この二人に対して呼吸が使えないのは不利過ぎる。でも、俺が何を命令したところで身体は言う事を聞かないし・・・・・・。

 

「水の呼吸、参ノ型。流流舞い」

 

 突然、義勇の方から攻撃を仕掛けてきた。軽やかな足取りで距離を詰め、俺の首目掛けて刀を振る。

 

「アッブネェ!」

 

 ギリギリのところで刀は空を斬り、俺は攻撃をかわすことが出来た。柱と言うのは、人間に対してもここまで容赦がないのだろうか。

 

「霞の呼吸、壱ノ型。垂天遠霞!」

 

 無一郎の声が、背後から聞こえた。体勢が崩れた状態の俺に、この攻撃をかわす事は出来ない。

 無一郎の刃は俺の腹部を突き抜けた。腹から血が流れ出して止まらない。止血が出来ない。再生する事もない。

 もう、俺は死ぬんだ。鏡の呼吸を手に入れて、全てを滅殺する野望を叶えることもできず。俺はこの町で死ぬのだ。柱二人に殺されて。

 無一郎は刀を引き抜き、付着した血を振り払う。くるくると二、三度回して鞘へと戻した。

 

「ウアッ、ガッ」

 

 そう嗚咽を漏らした時、心臓の鼓動が徐々に失速し始めた。先程まで、激しく循環していたはずの血流も穏やかになり、呼吸が落ち着き始めた。まあ、死ぬのだから当然のことである。

 だが不思議と、刺されたはずの腹は痛みを感じなかった。

 

「・・・時透、気を付けろ」

 

 義勇は刀を構え、俺を強く睨みつけた。やはり冨岡義勇は、時透無一郎よりも強いのかもしれない。剣技に関しては同等の二人だが、ここで熟練度の差が出たか。

 そう、刺されたはずの俺の腹は、既に止血を済ませていた。

 

鏡音雷鬼(そいつ)は」

 

 その止血速度は十二鬼月にも匹敵するであろう速度だ。だが、俺は鬼ではない。今の俺は確実に鬼ではない。だが、俺は人間でも。鬼でも、人間でもない生命体。それが。

 鏡音雷鬼である。

 

「呼吸を使っている」

 

 義勇の言葉と同時に俺は飛び上がり、上半身を引きちぎれんとばかりに捩った。

 

「鏡ノ呼吸。拾壱ノ型。鏡舞乱桜(きょうぶみだれざぐら)!」

 

 数十発にも及ぶ連撃を無一郎目掛け繰り出した。

 既に刀をしまった無一郎が受け流せるはずもなく、腹やら頬やらを掠め、左太腿と右上腕を突き抜けた。

 

「フハハハハッ! 殺ッタゼ! 殺ッタ! 柱ヲ殺ッタ!」 

 

 悪役らしい高らかな笑い声を上げ、刀についた無一郎の血を振り払う。そして、すぐさま義勇へと攻撃を仕掛けた。

 

「鏡ノ呼吸、拾弐ノ型! 鏡離之骸(きょうりのむくろ)!」

 

 刀をくるくると回しながら、義勇の心臓目掛けて突きをいれた。

 

「水の呼吸、漆ノ型。雫波紋突き」

 

 義勇の突き技と俺の突き技が真正面から直撃した。義勇の刀は弾き飛ばされ、俺の刀は軌道がずれる。

 俺の攻撃は義勇の手を突き抜けた。

 

「俺ノ、勝チダナッ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 産屋敷邸に、二人の剣士が呼び出された。

 

「君達二人に、とある任務を任せてもいいかな?」

 

 にこやかな笑みの耀哉に二人の剣士は小さな笑い声を漏らした。

 

「愚問ですよ。私達に果たせない任務などありません」

 

 薄い桃色の羽織を羽織った少女が言葉を返した。藍色の双眸は全てを見透かすように光を宿している。

 

「俺達であれば、どんな鬼でも斬り殺せまする」

 

 雪のように白い髪色をした少年が不気味な笑みを浮かべて言った。両手の甲には滅という文字が深く刻まれている。

 

「とある剣士が暴れだしたようでね。柱二人でも完全に抑制できないようなんだ」

 

 耀哉の発した言葉に、二人の顔色が一変した。呆れと、驚きの混ざった複雑な表情。そんな二人に、耀哉は最終確認をとる。

 

「それじゃあ、言ってくれるかな? 水鬼(みずき)炎鬼(えんき)

 

 水鬼と炎鬼は一度見つめ合い、何かを決心するように頷き合う。そして、下を向き、静かな声で呟いた。

 

「「御意」」




冨岡さん、無一郎くんファンの方々本当にすみません。
後で冨岡さんはしのぶに、無一郎くんは炭治郎に、手当てさせておきますのでどうかお許しを。
(PS 11/29は不死川さんの誕生日! みんなでおはぎを送りましょう!)


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捌話 暴虐・後編

今回は短めになっていますごお許しください。
スマホとパソコンが不調で投稿が遅れました。すみません。


 夜明け間近の産屋敷邸は、不気味な程に静寂だった。そんな静寂の場に居づらく感じたのか、産屋敷あまねは必死に言葉を探し、耀哉へと尋ねかける。

 

「あ、あの二人で本当によかったのですか?」

 

 珍しく不安を露わとした口調に、耀哉は小さな笑みを漏らした。そして、静寂とも言える冷静さと、静けさを醸し出しながら、言葉を返す。

 

「大丈夫だよ。雷鬼は、絶対にあの二人が抑えるからね」

 

 耀哉の発した言葉に、驚きを隠せないあまねは、狼狽えたような口調でまた、尋ねかけた。

 

「な、何故そう言いきれるのですか? 柱二人でも、抑え切れないというのに」

 

 耀哉は口元に手をあて、優しげな笑みを浮かべた。そのまま指で頬を掻き、言葉を返す。

 

「あの二人。水鬼と炎鬼は」

 

 この後に発せられた言葉に、驚愕しない隊士はいないであろう。事実、あまねもあまりの驚きに言葉を失っている。

 

「上弦の壱をたった二人で追い詰めた」

 

 耀哉の言葉が、あまねの脳裏に響いた。

 

「最強の剣士なんだよ」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「水の呼吸、漆ノ型」

「霞の呼吸、壱ノ型」

 

 おいおいおいおい。こいつら化け物かよ。体中怪我してるってのに、なんで動けんだよ。

 俺は小さく舌打ちをして、早口で言葉を発した。

 

「鏡ノ呼吸、弐ノ型」

 

 俺はすぐさま刀身を体近くに引き寄せた。歯を食いしばり、目を細める。

 

「雫波紋突き」

「垂天遠霞」

「斬面鏡」

 

 義勇と無一郎の繰り出した突き技を素早く受け流す。一撃一撃が先程よりも重々しい。あまりの重々しさに、刀が折れてしまいそうだ。

 

「鏡ノ呼吸、水ノ型。水流清鏡・参」

 

 軽やかな足取りで駆け、義勇と無一郎の刀を弾き飛ばした。義勇と無一郎の仏頂面が崩れた時、俺は不気味な笑みを浮かべて、言葉を漏らした。

 

「鏡ノ呼吸、拾肆ノ型。轟鏡鋭鏡(ごうきょうえいきょう)

 

 この二人は、ここで仕留めなくてはいけない。俺の筋肉が、内蔵が、細胞が。体中の全てにそう告げられた。

 勢いよく横に斬り流し、義勇と無一郎の首を捉える。

 

「死ネ」

 

 刃が義勇の首に触れた時。

 俺の刀が真っ二つに折れた。

 いや。違う・・・。

 

「首ニ触レル前ニ、刀ガ折レタ?」

 

 感嘆の声を漏らした時、どこからか深い溜め息が聞こえてきた。深い溜め息に混じり、小さな笑い声も聞こえる。

 

「ふふふっ。本当に、雷鬼(きみ)はいつまで経っても愚かね」

 

 背後から聞こえた少女の囁き声に目を見開き、俺は息を呑んだ。

 は、速い。速すぎる。こいつ、一体何者なんだよ。

 

「殺シテヤル!」

 

 すぐさま背後を振り返った時、俺の首に異常なまでの激痛が走った。首の骨が一瞬で粉砕し、意識が飛びそうになる。

 

「全くもって残念だ。柱二人を追い詰めた男が、ここまで弱いとは。」

 

 首に続いて腹、胸、太腿と順に骨が粉砕されていく。一撃一撃が重く、速く、殺意がこもっている。この男は、本気で俺を殺そうとしているのか。

 

「今すぐ地獄に叩き落としてやる。覚悟しろ、雷鬼」

 

 暗闇の為か、うまく男の姿を視界に捉えることができない。動きが尋常なまでに素早いのも原因の一つであろう。

 必死に目で追いかける事しかできない俺に、男は冷たい口調で声を上げた。

 

「地の呼吸、破壊。破断地壊(はだんちかい)

 

 風を切り裂くような轟音が響き、俺の脳天に刀の刃が触れた。漆黒の刃は有り得ない程に重い。人間の頭蓋骨など簡単に割れないはずなのだが。

 

「あらあら、もう終わっちゃったのね」

 

 俺の頭蓋骨は、あっさりと碎け散った。

 意識が朦朧とし、視界も定まらない。千鳥足で男へと歩みを進めていく。骨が砕かれているはずなのに、こうも体が動くのは自分でも気味が悪い。

 

「もう炎鬼、ダメじゃない。一人で勝手に終わらせたら、私がつまらないでしょ」

 

 耳鳴りが酷い所為か少女の声が聞き取れなかった。耳まで狂い始めてきたのか、と一人心中で悔やみの声を上げた。

 そんな時、男が俺の肩へと手を伸ばしてきた。そして、ゆっくりと俺の肩に触れ、耳元で囁く。

 

「雷鬼。鬼舞辻無惨のことなら、俺達に任せろ。絶対に俺達が殺してやる」

 

 俺は、この男を知っている。

 突然、そんな考えが脳裏に過った。確信があるわけでもない、理由があるわけでもない。だけど、これだけはわかる気がする。

 この男は・・・。

 

「兄、貴・・・」

 

 今にも溢れ出してきそうな強い欲望を抑えながら、俺は問いかけた。俺の言葉に男は目を見開き、言葉を発する。

 

「俺達は、お前を知らない」

 

 男の言葉が脳内で反響する。絶望にも近い不思議な感覚が体中を駆け巡り、朦朧とする意識に衝突した。

 頭の中に靄がかかり、俺は不意に膝をつく。そして、小さな溜め息を漏らした後。

 俺は意識を失った。




たったの1話で雷鬼を追い詰めた炎鬼、強すぎました。
そして次回は鬼滅の刃ならではの、過去に関してです。
雷鬼の過去は本当に複雑になっているので、過去の一部といった感じになります。
(PS あまねさんの口調難し過ぎませんかね)


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玖話 憎悪・壱

前話の後書きに反し、今回は過去編の序章的なものになってしまいました。すみません。
あと、漆話と捌話の題名を変更しましたが、おきになさらず。
上弦の陸・堕姫/妓夫太郎の絵はこちら!

【挿絵表示】


上弦の伍・玉壺の絵はこちら!

【挿絵表示】



 俺は死んだのだろうか。

 いやいや、当たり前の事である。体中の骨を砕かれ、刺傷の数も酷いのだ。必然的に考えれば、生きているわけがない。

 俺は殺されたのだ。俺は殺され、完全に死んだのだ。死んだはずなのだか。

 

「・・・何処だ? ここは」

 

 俺の視界に広がるのは、目を逸らしたくなる程に青々とした空だ。雲一つない快晴を前に、動揺を隠せない俺の目の前を、1羽の蝶が横切った。

 紫色と桃色の2色で彩られた、美麗な羽を懸命に羽ばたかせる蝶。よくよく目を凝らして見てみると、蝶の羽には小さな穴が幾つか空いている。

 

「この蝶、どこかで見たことがある」

 

 不意にそんな言葉が漏れた。特に脳裏に浮かび上がったわけでも、言おうと思って発した言葉ではない。無意識に漏れた、不思議な言葉だった。

 その時、一陣の強い風が吹き、蝶を勢いよく吹き飛ばす。蝶はくるくると宙で旋回し、俺の鼻に留まった。

 

「おいおい、はな違いだけはやめてくれよ」

 

 苦笑混じりに言葉を漏らし、俺は瞳を閉じた。爽やかな風が吹き抜け、かさかさと草の揺れる音が聞こえる。どうやら、俺は野原の上で横たわっていたようだ。

 暖かな太陽に照らされていると、不思議と思考を放棄してしまいたくなる。悦の感情を放棄し、ただ時間が流れるのを待ち続けたくなる。

 

「大丈夫、ですか?」

 

 鈴を転がしたような声が頭上から聞こえた。優しげな口調にはどこか聞き覚えがある。

 俺は渋々、瞼を開く。その時、鼻に留まった蝶が飛び立った。

 

「誰だ、お前」

 

 陰った視界の先に、小さな少女の顔が見えた。橙色の奇妙な髪色をしている。少女の薄く紅潮した頬に、一瞬胸がざわめきを起こした。

 そんな俺になど気付くこともなく、少女は言葉を返してきた。

 

「わ、私、はっ。み、峰ヶ崎(みねがさき)。り、莉亜(りあ)、です!」

 

 緊張で顔を真っ赤にした莉亜が何とも愛らしい。流石の俺でも、心底溺愛してしまいそうだ。まあ、結局は溺愛しないのたが。

 

「・・・莉亜、か。成程、覚えておこう」

 

 莉亜の名を胸に刻み、俺は体を起こした。既に莉亜への興味は消え失せいている為、俺は視線を莉亜から外す。そして、無意識的にも、飛び立った蝶へと向けた。

 その時、額に激痛が走る。

 

「いあっ⁉」

「きゃっ⁉」

 

 俺と莉亜の額が勢いよく衝突したのだ。莉亜の見た目からは想像もできない石頭に、脳裏で激しい火花が散る。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 痛みに耐えかね、呻き声を漏らす俺に対し、莉亜は何事もなかったのようだ。あまりの痛みに一瞬、気を失いかけたと言うのに、全く。

 痛みが和らいで来た頃、俺は額から手を離す。掌を見てみると、指先が血で赤く染まっていた。

 

「う、嘘だろ・・・」

 

 驚愕で震える俺をよそに、莉亜は小首を傾げている。何とも愛らしい姿にまた溺愛しかけた。まあ、勿論、やっぱり、溺愛しなかったが。

 その時、俺はとある事に気付いた。

 

「・・・あれ? 骨が砕かれてない?」

 

 頭、腕、脚。体中の骨が完全に再生している。つまり、この野原も、莉亜も、実在するものではない。所謂、幻想というやつなのだ。

 

「わ、私の頭、そんなに硬いですか?」

 

 困惑気味の莉亜は、額を手で軽く叩き、石頭の確認を始めた。2、3度額を叩いた末、にっこりと満面の笑みを浮かべ、一言。

 

「ごめんなさいっ」

 

 神々しさすらも感じさせる屈託のない笑み。天使か、天女か、女神あたりなのではないかと錯覚を起こしてしまう。いや、幻想なのだから有り得る話か。

 俺は一度咳払いをして、莉亜へと言葉を発した。

 

「・・・謝るな。別にお前は悪くないんだ」

 

 莉亜と話してると、不思議な感覚になる。いつもの、悦の感情が消えて、何か懐かしい感情が蘇ってくる。喜び、悲しみ、怒り、楽しみ。そんなありふれた平凡な感情じゃない、特別な感情。

 

「憎いん、だよね。あの二人が」

 

 莉亜の言葉に目を見開き、驚きで息を呑んだ。俺が抱いた懐かしい感情。それは、喜怒哀楽ではなく。

 憎しみだった。

 

「どうして、莉亜がそれを・・・」

 

 俺が言葉を発した時、莉亜は複雑な表情で笑みを浮かべた。悲しみの権化とも言えるその笑顔を前にすると、胸が締め付けられたような感覚になる。

 

「それくらい、分かるよ」

 

 莉亜の言葉と同時に、俺の瞳から涙が溢れだした。悲しいわけでもない。悔しいわけでもない。俺は憎いだけなのに。それだけなのに。

 涙が止まらない。

 

「たすけ、られなかった」

 

 彼女は、助けを求めていたのに。

 

「まもれ、なかった」

 

 守るって、約束したのに。

 

「何もっ。できなかった!」

 

 俺の目の前で、彼女は泣いていたのに。

 

「俺はっ! あの鬼をっ!」

 

 そうだ。俺はしなければならない。

 

「憎悪の刃でっ!」

 

 憎い鬼を、全滅させるまでは。

 

「滅殺してやるっ!」

 

 死んでいる暇はない。

 

ーーーーーーーー

 

 そして時は遡り。

 

「妬ましいなぁ、妬ましいなぁ」

 

 俺が刀を握る少し前。

 

「私は、若くて美しい人間が喰いたかったんだよ」

 

 彼女が。

 

「雷鬼くん、助けてっ」

 

 峰ヶ崎莉亜が、遊郭に連れていかれた日に戻る。




次話こそは雷鬼の過去を書きますので、どうかお許しください。
新キャラの莉亜ちゃん、可愛く書こうとした結果がこれでした。
(PS 雷鬼はロリコンではありません)


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