ロリコン探偵少女? 六伏コラン (小名掘 天牙)
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美術室のレオナルド 上

 此処、第一旧東京は、既に都市としての寿命を終えた、少しずつ斜陽に向かう、そんな旧都市だ。二十年くらい前には横浜と呼ばれ、其れなりに観光客で賑わっていたはずのこの都市も、人口の急激な減少と共に、今では見る影もなく、半分人が居ない巨大ビル群が立ち並んでいる。そんな寂れたビル群の一角、ワンフロアの端にある、この幽霊マンション唯一の人が居る一室が僕の今の職場だった。

 

「……」

 

チーンと鳴ったエレベーターのチャイムに、ぎぎっと開く立て付けの悪い自動ドア。暗い廊下には何時も通り、積もった埃と少しカビの臭いが漂っている。

 

「……」

 

そんな廊下を渡りきり、エレベーターから一番遠い、西向きの部屋に辿り着く。表札には無駄にピンクの丸文字で、「六伏(りくふし)コラン探偵事務所♥」と書かれている。何時見ても痛々しいそれも、流石に一年以上目にしていると、見飽きはしないが慣れはする訳で。特にそれに感想を抱くこともなく、僕はその上のチャイムを押した。

 カシャッと軋んだ音を立てるスイッチに、しかし、部屋の扉はしーんとしていて、一向に誰かが出てくる気配はなかった。まあ、それも何時ものことなので、僕は躊躇無くな部屋に上がることにした。

 

「……」

 

錆の浮いた既製品らしいドアを開くと、早朝にも関わらず真っ暗な廊下が口を開く。勿論、幾ら西向きの部屋とはいえ、窓の付いた室内がこうまで暗い訳もない。じゃあ、何が光を遮ってるのかといえば、

 

「所長、また増やしたのか……」

 

廊下の約半分を占拠した、大量のエロ同人誌に他ならなかった。しかも、一つ残らず幼女系。端的に言ってド変態のそれである。本人がロリコンを公言しているのもあって、ある意味キャラには忠実なのかもしれないが……。

 休日前より明らかに増えた同人誌の山に四苦八苦しながら、体を横にして廊下を進むと、

 

―ん……んぅ♥―

 

奥からくぐもった、声とどすどすと何かを叩き付けるような音がうっすらと聞こえてきた。

 

「……」

 

一瞬、心が折れそうになるが、何とか自分を奮い立たせて先に進む。次第に大きくなる喘ぎ声と、明らかに速くなるドスドスのテンポ。やがて、エロマンガに溢れ返った廊下の突き当たりの一室の前に立つ頃には喘ぎ声は絶叫となって、ドスンドスンはドドドドドくらいになっていた。

 

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

部屋の扉には「ラブリーエンジェル・コランちゃん♥」と書かれた♥型の表札。此処が僕の雇い主の部屋なのだと思うと……まあ、うん。

 とはいえ、何時までも立ち尽くしてはいられないわけで。僕は―何で、職場に着く度にこんな決心をしなければいけないのかという根本的な疑問から目を背けて―気合いを入れて、喘ぎ声の五月蝿い部屋の扉を開けることにした。

 

「みおたん♥みおたん♥みおたん♥とってもラブリーだよ僕のみおたん♥桃色のふかふかほっぺも、一寸背伸びしたさくらんぼの唇も、ぺったんこで手のひらサイズおっぱいも可愛いね! ぷっくりしちゃった乳首も、とろっとろになっちゃったてるつるのあそこも、意外とむっちりした太腿も、もう立派に大人の女の子だね! 最高だ!! 触りたい! しゃぶりたい! 舐め回したい! 植え付けたい!!! ていうか、植え付けるね! もう、大人の女の子なんだから良いよね! 背伸びして大人ぶっちゃって後悔してるのかな!? でも、植え付けるね!!♥ みおたん♥みおたん♥みおたん♥僕のみおたん♥産んで! 僕の! 赤ちゃんを! 産めええええええええ!!!♥♥♥」

 

「う わ あ」

 

地獄の釜を開いた瞬間、僕は後悔した。

 

左右の壁に聳え立つロリ系のエロ同人誌とディスクの数々

 

エロゲの抜きシーンをぼんやりと映し出す液晶画面

 

パソコンから延びたイヤホンコードを耳に、組み敷いたダ○チワイフの上で一心不乱に腰を打ち付ける半裸の……少女(・・)

 

電気一つ点いていない薄暗い部屋の中で繰り広げられた地獄絵図に、僕は思わず天を仰いだ。しかし、この薄暗い廊下の天井は、悲しいかな僕の職場、六伏探偵事務所のものに他ならないのだった。

 

「んほおおおおおおおおおお!!!!!!!!♥♥♥♥」

 

「……」

 

やがて、ぐりっとダッ○ワイフに腰を捩じ込み、絶叫を上げた銀髪の少女は、ビクビクッと痙攣した末に、べしゃりとそれの上にへばり付いた。そのふるふると震える白い小さな尻をひっぱたいて出社を告げると、「ひゃんっ!?♥」という、無駄にピンクの艶っぽい悲鳴が帰ってきたのだった。

 

「いたたたた。至くんかい?」

 

「ええ。おはようございます、所長」

 

「ああ、おはよう。時に至くん」

 

「何ですか?」

 

「僕のちっちゃなおしりはタイムカードのボタンじゃないんだぜ?」

 

「じゃあ、チャイムの時点で僕の存在に気付いて、オナニーを止めてください」

 

初めて見たとき、どれだけ仰天したことか……。

 

「僕に死ねっていうのかい! 至くんは!?」

 

「オナニーしないと死ぬのか、あんたは」

 

「ひどいー。所長ぎゃくたいだー」と万年床を転げ回る所長に思わず突っ込む。どういう生態してるんだ。いや、普通に考えれば、そんな生態は有り得ないのだが、この所長の場合そんな、トンデモ生態が有り得なくもないのが始末に悪い。

 

「ロリコンは美少女をおかずに一日三回、ちゃんとオナニーしないと体に変調をきたすんだ。百年以上ロリコンをしている僕が言うんだ、間違いない」

 

「左様で」

 

今回はどうやら唯の妄言の方だったらしい。というか、こんな耳が腐る類いの犯罪者の主張が、その情欲を向けられるはずの、腐っても美少女の口から出てくるのはどういうことなのか……。いや、まあ、僕自身はこの見た目だけは美少女の正体を知っている訳なんだけどさ。

 

「頭が痛くなってきた」

 

「おや? 大丈夫かい、至くん?」

 

「十中八九、所長のせいなので、治ることはないと思います」

 

「僕の大きなおっぱいで、パフパフしてあげようか? 本当なら美少女専用なんだけど、信頼すべき僕の片腕たる至くんのため、此れも我が六伏探偵事務所の福利厚生の一貫だ。遠慮なく患部を見せたまえ!」

 

そう言って、体格にそぐわないおっぱいをぶるんっ♥と張って、小さな両手を一杯に伸ばす所長。なんて言うか、うん。本当に、

 

(正体があれ(・・)じゃなけりゃね……)

 

思わず、また天を仰ぎながら、僕はそんな埒もないことを考えていた。

 

「まあ、取り敢えず、朝御飯にしましょう。まだ、食べてないんですよね?」

 

「ああ。一晩中、みおたんとエッチしていたからね」

 

「……」

 

聞いてねえ……。

 

「オナニー分だけじゃ栄養も片寄るし、ちゃんと経口摂取もしないとね♥」

 

「……」

 

オナニーは栄養ではないとは言うまい。言っても無駄そうだし。眉間を押さえる僕の前で、大きなおっぱいに引っ掛かったYESロリータ!NOタッチ!と書かれたTシャツを引き下ろし、うっすらと肋の浮いた華奢な身体と、不自然に大きなおっぱいを隠した所長を背に、僕は探偵事務所とは名ばかりのロリコンハウスのキッチンに足を向ける。と、

 

「それに」

 

不意に所長が呟いた。

 

「?」

 

思わず振り返った僕に、所長は悪戯っぽい空気を満面に乗せた笑みを浮かべてきた。

 

「何か適当に摘まんでも良いんだけど、どうせなら美味しいものを食べたい……そう思うのは普通だろう?」

 

「……」

 

「……」

 

「……さよで」

 

「ああ」

 

何故か自信満々に頷く所長。

 

「至くんの用意してくれるご飯を僕は心待にしているからね」

 

「……」

 

本当に、大したものじゃない……とは思うものの、そこまで期待されるのは悪い気分ではない。

 

「……」

 

幾分軽くなった足で、僕は今度こそキッチンに向かった。

 

「因みに至くん」

 

「? 何ですか?」

 

「今日の献立は何だい?」

 

「肉野菜炒め以上の何を期待してるんですか」

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「ん〜♥♥♥」

 

 先の魔の部屋からうって変わ……ってないね、うん。

 さっきの部屋と同じく、ロリコン御用達のエロ漫画犇めくキッチンの、同じくロリキャラの描かれたテーブルの前で、所長が満面の笑みを浮かべていた。

 

「いやあ、美味しい。やっぱり、至くんの作ってくれるごはんは最高だね♪」

 

「いや、どう考えても、そんな高尚な物じゃないでしょ」

 

それこそ、The男の雑料理だ。一応、本人曰く相当な資産家の所長に美味いと思われる代物ではないと思う。

 

「ちっちっち、そうじゃないんだなあ」

 

「?」

 

なんか、思わせぶりに人差し指を立てて、そんな事を言ってきた。

 

「確かに、外食なら御金に糸目をつけずに美味しいものを食べられるけどさ、逆にこういう家庭料理を外で食べる事は不可能だからねえ」

 

まあ、家庭料理は家庭でしか出てこないからね。お金取れる代物ではないとも言う。箸を弄びながらそんな事を口にする所長が「それに」と続けた。

 

「至くんは僕の正体(・・)を知っているだろう?」

 

「あー、まあ」

 

流れるような腰までの、ほつれ一つないストレートな銀髪

 

少女にしてはやや鋭い、じとっとした目

 

ニイィッと持ち上げられた桜色の唇

 

華奢な体躯を含め、端的に言って美少女と言って良い所長は、実の所、その中身は見た目とは裏腹に全くの別の姿をしている。

 

「味覚の好みの方は、今の身体になってからも当然変わらなくてね。僕も御多分に漏れず、こういうThe男料理な味付けに目が無いのさ」

 

そう言って、にこっと、それこそ正体とは正反対のそんな笑みを浮かべてきた。

 

「……」

 

うん、正体を知っているとはいえ、こういう事があると時々そっちの方を疑ってしまう事がある。

 

「だから、至くんの料理が最高というのは、この僕、六伏コランの偽らざる本音という訳さ♪」

 

「……さよで」

 

少し面映ゆい気分になりながら、椅子に掛けておいたエプロン―例によって少女が描かれている―を着直した。

 

「そういう訳で……ごちそうさまでした♪」

 

「ん。お粗末様でした」

 

まあ、喜んでくれるなら良いかな。

 

「……」

 

「? どうかしましたか?」

 

「いやね」

 

ふと、両手を合わせた所長が、何か真剣な顔になって形の良い顎に手を当てた。

 

「今の僕、控えめに言って、超美少女じゃなかったかい?」

 

「……」

 

うん、まあ、こういう人だから、一々真に受けても仕方ないか。僕は虚脱感と共に空になった所長の食器をシンクへと運ぶのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 所長への餌やりを終えて食器を洗っていると、後ろで魔法少女りりかるサクラを見ていた所長が、不意に「おや?」と首を傾げた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ん。どうやら、依頼が来たらしいね」

 

「え、本当ですか?」

 

「ああ」

 

実に四か月ぶり、僕がこの探偵事務所に就職してから通算で僅か5度目のフレーズに、僕は思わず大皿を持った手を止めた。

 

「場所は……第一旧東京の自然公園だね」

 

所長がパチンと指を鳴らすと、中空にぼんやりと水盆の様な物が浮かび上がり、その中には安っぽいカラーベンチに座り一人の女の子の姿があった。赤いランドセルを背負った、可愛らしくも一見何処にでもいる女の子だが、その表情は何処か不安げで、それ以上に不審げに見えた。

 

「彼女ですか?」

 

「ああ、そうみたいだ」

 

頷いた所長が、テレビの方を一時停止する。

 

「今時珍しい、黒のストレートロングに赤いランドセルが実にストロングスタイルで印象的な娘だねえ。それに髪型の割に意外と勝気な性格と見た。将来はア○ルの弱い美女に育つかもしれないね。素晴らしい。ミニスカートから覗くおみ足がすばら……あ、もうちょっと! もうちょっとだけ両足を開いて!!」

 

「うん、この野郎」

 

身を乗り出した所長は、今日も安定の馬鹿だった。

 暫くふんすふんすと鼻息荒くベンチの女の子を見ていた所長だったが、やがて彼女が水盆の中から立ち去ると、漸く「さて」と立ち上がってほっそりとした指の手をパンと鳴らした。

 

「それじゃあ、四か月ぶりのお仕事といこうか? 助手の至くん」

 

「はいはい」

 

「はいは一回だよ、ワトソン君?」

 

「ワトソンじゃねーよ」

 

そして、ロリコンのホームズが居て堪るか。

 

「じゃあ、コラアアアアアン、ディスガアアアアアアアイズ!!」

 

「……」

 

所長がYESロリータ!NOタッチ!のTシャツを脱ぎ捨てて、真っ裸になる。そして、あからさまに古臭い上に、明らかに少女の求めるフレーズとはかけ離れた変身のキーワードと共に緑色の光に包まれた。というか、眩しい。僕は投げ捨てられたTシャツを回収し、奥の部屋の洗濯機に放り込んだ。

 

「よし、出発だ!」

 

振り返ると、緑色中心のフリル満載のドレスに身を包んだ所長が、右手の人差し指で大判のポスターの貼られた天井を指さしていた。

 

「美少女の悩みを解決するために!」

 

「……はぁ」

 

うん、もう、諦めた。

 萎える僕の気持ちを綺麗に置き去りにして、

 

「コランワープ!」

 

僕は所長に手を引かれるまま、緑色の光のゲートに包まれたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 家路をとぼとぼと歩きながら、雪村要は溜息を吐いた。

 

(無駄な事をしちゃったな……)

 

登校の途中、態々寄り道をして要が試したのは、今学校で一寸だけ流行っている、ある一つの噂だった。

 

 

―町に落ちているりりかるサクラの付箋に名前と『たすけて』の四文字を書き込んで、流したばかりの涙を落とすと、名探偵が現れて、その女の子のどんな悩みでも解決してくれる―

 

 

怪しさ以前に、信憑性が疑わしい。下手をすれば怪しい男の人が出てくるのかもしれない。小学生の要ですらそう思ってしまう噂に、しかし、要は思わず縋ってしまう程に追い詰められていた。それこそ、解決してくれるなら怪しい噂話でも構わない。そう思って試してしまった結果は……付箋を探すための時間が無駄になっただけだった。

 

「……」

 

自分の馬鹿さ加減に、少女らしからぬ自嘲を浮かべながら要が歩いていると、不意に目の前に人の気配を感じた。

 

「あ……」

 

ぶつかる。そう思った瞬間、要に訪れたのは顔を覆うぱふっとした柔らかい感触と甘い匂い。そして、

 

「溜息ばかりだと幸せが逃げちゃうぜ? セニョリータ」

 

悪戯っぽい、自分と同じくらいの年齢の、だけど、不思議と落ち着きのある、そんな声だった。顔を上げた先に居たのは、心の底から楽しそうに、そして嬉しそうに笑う、今まで見たことのないくらい奇麗な女の子と、

 

「……」

 

ぼんやりと何処か遠くを眺めている冴えない顔の男の人だった。

 

「待たせてごめんね? 僕の名前はコラン。六伏(りくふし)コラン! 彼は僕の助手で相棒の鈴笛至くんだ。僕達、六伏探偵事務所が来たからにはもう大丈夫。君の心を助けて差し上げよう♪」

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 何時までも抱き寄せた小学生を離さない所長を引き摺り、一先ず近くの喫茶店に腰を落ち着ける事にした。

 

「……」

 

僕達が入店した瞬間、不意にしんとなる喫茶店も何時もの事(・・・・・)。取り合えず、コーヒーを三つ頼むと、後は所長に任せることにする。と、言ってもその所長の方は四か月ぶりの美少女との会話が嬉しかったのか、彼女を抱きしめたまま立て板に水とばかりに話し通しになっている。っていうか、思いっきりドン引きされているように見えるんだけど……。

 

「あ、あの!!」

 

あ、キレられた。

 止め処なく纏わり付く所長を押し退け、目の前の女の子が声を荒げた。まあ、当然だね。

 

「貴方が、女の子を悩みを何でも解決してくれるっていう探偵さんですか!?」

 

「ん?」

 

バンッとテーブルに手を突いた彼女の視線は何故か……でもなく当然の様に、隣の所長ではなく僕の方へと向けられていた。まあ、此れも、何時ものパターンか。

 その視線に浮かんでいるのは不審半分、疑心半分、そしてほんの少しの希望といった様子で、目の前の女の子が雰囲気以上に余裕がない状態なのが見て取れた。女の子の依頼だけを受けるなんて、字面を見たら、変質者か何かの誘拐のための文句にしか見えないだろうしね。まあ、いいや、この質問に対する僕の

答えは何時も一つしかない。

 

「いえ、違います」

 

「え?」

 

「先程もうちの所長が申しました通り、僕はただの助手です。主幹はそっちの」

 

「オッス、オラコラン!」

 

「所長のコランになります」

 

「……」

 

僕の言葉に、目を丸くしたままの彼女がギギギと油の切れたブリキ人形の様に所長を振り返り、そしてもう一度僕とを見比べた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「え、これが?」

 

長い沈黙の末に彼女が搾り出したのは、此れまで毎回耳にしてきた疑問符だった。『この子』ではなく『これ』というのが彼女の所長に対する認識を如実に表している。

 

「ええ」

 

とはいえ、僕としてはそう答えるしかないわけで。

 

「んむ?」

 

気付かれないように少女の体臭を嗅ぎ続けていたバカ(所長)が顔を上げると、目の前の女の子は何か信じられないものを見る目で、そのバカの頬をムニムニと引っ張った。まあ、そういう反応になるよね。

 

「信じられません」

 

頬を引っ張られる度に「あ♥ やんっ♥」と嬉しそうにアレな声を上げていた所長を一頻り弄った後、手を離した少女は真顔でそう言い切った。さもありなん。揶揄われたと思ったのか、小さな体に少なからず怒気を浮かべる姿に、僕としては同意を返すしかない。

 

「まあ、でしょうね」

 

多分、僕でも信じないし。

 

「ですが、僕としては、自分が考える限り真実を口にするしかありません」

 

「……」

 

「僕はあくまで助手です。そして、その隣に居る六伏コラン、当事務所の所長は本心から貴女の依頼を叶えたいと考えております」

 

「……」

 

「信じるかどうかはお任せ致します」と何時も通りの言葉を続けると、挑みかかる様にこっちを睨みつけてくる少女から目を逸らすことにした。

 

「安心したまえ、雪村要くん(・・・・・)

 

ここから先は所長の仕事だ。

 

「!」

 

唐突に名前を呼ばれて驚いたのだろう。仕方ないと言えば仕方ない。

 

「君の親友、石水無月ありさちゃんの事は、この僕六伏コランに任せてくれたまえ。必ず、失踪した彼女の事を探し出して見せよう」

 

「え、な、何で????」

 

自分の名前を呼ばれた事か、それとも親友の事か、はたまたその両方か。

 

「そうだね、種明かしも兼ねて、改めて名乗らせてもらおうか」

 

芝居掛った仕草で所長がお得意のチェシャ猫の様な笑みを浮かべた。

 

「六伏探偵事務所の所長を務めている、六伏コランという。世界の美少女を護るために戦う……探偵兼大魔法使いだ!」

 

普通に生きていれば噴飯物の、しかし、僕と彼からすれば動かしようのない、単なる真実。

 

「……」

 

それを目の当たりにした少女は、聊かの思考停止の中でこくりと小さく頷いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 一度冷めてしまったコーヒーを下げてもらい、温かいものを頼み直すと、未だ半信半疑ながら、話をする体勢にはなった雪村ちゃんの訝しげな表情を伺う。

 

「……」

 

さっきの、挑みかかるような僕への意識は綺麗に無くなり、代わりに所長への強い迷いが浮かんでいる。

 

「さて、それじゃあ、話を聞かせてもらおうかな? 何、慌てることはない。多少つっかえても僕なら君の言葉は余さず拾えるとも。この僕、六伏コランが君みたいな美少女の言葉を聞き溢し、思いを汲み取り間違えるなど決して有り得ないからね! そもそも、僕は他人の心を読めるしね。何故? 勿論、魔法使いだからさ! え? じゃあなんで、わざわざ言葉を喋らせるのかだって? そんなもの決まっているじゃないか。君みたいな美少女の声こそが、僕の生きる力になるからさ!」

 

「……」

 

どう見ても逆効果だけど、まあ、僕には関係ないか。雪村ちゃんの方から、何となく助けを求める視線を感じたけど、こうなった所長を止める方法を残念ながら僕は持っていない。可哀想(等とは心にも思ってないの)だが、諦めて所長の心の栄養分になってもらおう。

 やがて、のべつまくなしに捲し立てる所長に諦めが付いたのか、小学生らしからぬ、疲れきった溜め息と共に雪村ちゃんはぽつりぽつりと話始めたのだった。

 

「助けて欲しいのは、その、私の友達のありさちゃんの事です」

 

「うん。そうだろうそうだろう♪」

 

「……はぁ」

 

「溜め息を吐くと、幸せが逃げるらしいぜ?」

 

「吐きたくて吐いてるんじゃありませんし、吐かせているのは貴女です」

 

「そうとも言う♥」

 

「……」

 

何でこの人、ロリコン自称してるくせに、女の子に嫌われそうなことを嬉々としてやるかな。ほら、雪村ちゃん、本気で嫌そうな顔してるじゃないですか。

 

「むふふ♥」

 

だめだこりゃ……。

 

「すみません、やっぱり僕が代理で話を伺います」

 

「宜しくお願い致します」

 

流石に話が進まないし、僕が代理を申し出ると、大分疲れた顔の雪村ちゃんが即座に頷いてきた。何かもう、最初の挑戦的な視線は何処か遠くへ吹っ飛んでしまったみたいだった。気持ちは分かるけど……まあ、仕切り直しで。

 

「分かりました」

 

「おいおい、至くん。僕を除け者にするなんて酷いじゃないか。ウサギは寂しいと死んじゃうんだぜ? 実際は、単に性欲を発散できないストレスで死ぬってだけらしいけど」

 

五月蝿いです、所長(バカ)

 

「何か、酷いルビを振られた気がするのだが?」

 

「じゃあ、続きをお願い致します」

 

「……」

 

こくりと頷いた雪村ちゃんが、またぽつりぽつりと話始めた。

 

「私のお願いは、行方不明のありさちゃんを探してほしいということなんです」

 

「行方不明?」

 

「……」

 

僕の確認に、雪村ちゃんは首肯した。うーん、話はシンプルだけど……。

 

「申し訳ないけど、心当たりはあるのかな? 確かに探偵はお金を貰えば失せ物探しでも浮気調査でもするけど、あくまで民間の立場だ。人命に関わる話なら、基本的には警察の方が早いし確実だ。態々探偵に声を掛けるなら、逸れこそ警察が調べないアングラな心当たりが無いと余り効果的とは言えないんだけど」

 

「分かってます。心当たりが……あるんです」

 

「?」

 

頷いた雪村ちゃんだけど、その言葉を口にした瞬間、表情が明らかに曇った。はて?

 

「何か「ああ、安心したまえ。例え、どんなに突拍子もないことであっても、僕達は疑ったりはしない。きちんと君の言葉を受け止めると約束しよう。それこそ、幽霊や妖怪の類(・・・・・・・)でもね」

 

「!!」

 

いきなり割って入ってきた所長の言葉に、雪村ちゃんがまた目を丸くした。

 

「ん? 僕が幽霊や妖怪に言及したのが驚きかい? 言っただろう。僕は大魔法使いだってね♪」

 

うざいけど、まあ、そこが図星だったか。

 

「……」

 

僕が振り替えると、雪村ちゃんは少し気まずげに視線を伏せた。

 

「……怒ってますか?」

 

「いや、別に」

 

むしろ、あの程度で全てを吐き出されたら、そっちの方が心配だし。

 

「名前とかは、調べることが出来るので……」

 

幾ら小学生でも、全面的には信じられないだろうな。

 

「でも、少しは信じる気になってたんだ?」

 

僕としてはそっちの方が驚きといえば驚きなんだけど。

 

「……ありさちゃんを」

 

「?」

 

「ありさちゃんを連れていったおばけの事を知っていたので……」

 

そう言って、今度こそ雪村ちゃんは堰を切ったように、話始めたのだった。

 

「二ヶ月前、私とありさちゃんは美術の時間に、学校の裏にある旧校舎で写生をしていました。その日は丁度絵の仕上げの日で、絵が得意だったありさちゃんと私は授業が始まって直ぐに絵を描き終わってました」

 

何の事もない、ありふれた授業風景。だけど、その話を続ける雪村ちゃんの表情が次第に曇っていく。

 

「先生に提出しちゃうと、新しい課題を出されるし、このまま遊びに行こうと言ったありさちゃんと一緒に、私は旧校舎の探検をしてみることにしました」

 

「……」

 

「入り口から暫くは、日の当たる廊下ばっかりだったこともあって、本当に大したことはなかったんです。私もありさちゃんも全然怖くなくて、直ぐに校舎のはじっこに着いちゃいました」

 

旧校舎。そんな名称から想像するのは、古いコンクリートの四階建ての建造物。昨今の少子化の煽りを受けて、七八年前からコンパクトで耐震性の高い建物がトレンドになった今の時代、人の営みの途絶えた巨大な廃墟は、確かに彼女くらいの年齢の子供には好奇心がそそられる代物だっただろう。

 

「そのはじっこの廊下の奥に、"あれ"が居たんです……」

 

そして、その好奇心に突き動かされた代償が、これな訳か。

 

「あれ?」

 

「……」

 

僕が聞き返すと、雪村ちゃんはこっくりと頷いた。

 

「ベレー帽を被った、白衣の骸骨……」

 

「……」

 

何て言うか、そんなのかーって感じだ。今時、小学生でも、怖がらないだろう。

 

「最初は、私もありさちゃんも思わず笑っちゃったんです。誰がこんなの置いたんだろうって。イタズラにしたって、骸骨出して服着せただけなんて、手抜きも良いところだし」

 

うん、子供らしい辛辣さだね……。

 

「だから、ありさちゃんは手を伸ばしちゃったんです」

 

「その、骸骨に?」

 

「はい……」

 

「……」

 

「動いたんだね?」

 

「……」

 

僕が確かめると、また雪村ちゃんは頷いた。

 

「動いた瞬間も、ありさちゃんは笑っていました。中に入ってるのは誰って。私も一寸驚いたけど、同じ思いでした。誰か、先に探検してたんだって……」

 

その後のことは、予想はつく。

 

「そしたら、骸骨の手がありさちゃんの手首を掴んで……」

 

「……」

 

「その時、やっと私達は骸骨が変だって思ったんです。中に人が入っていて、白衣のおくから腕を動かすのは分かるけど、何で手を握れるんだって……」

 

「……」

 

「ありさちゃんの顔もひきつっていて、それで気味が悪くなって」

 

「逃げ出そうとした?」

 

「!」

 

そう、聞いてみると、ピクッと雪村ちゃんの小さな肩が震えた。

 

「……んです」

 

「ん?」

 

「……うと……たんです」

 

「……」

 

「一緒に逃げ出そうとしたんです!!」

 

「……」

 

雪村ちゃんの声が、小さな珈琲店に響いた。

 けど、その勢いは続かなかった。荒く息を吐きながら、次第にへなへなと座り込んだ雪村ちゃんは、もう一度消え入りそうな声で「一緒に逃げ出そうとしたんです……」と囁いた。

 

「でも、隣を見ても、ありさちゃんが……居なくて。それで、後ろを見たら……泣きそうな顔で笑っていて……」

 

「……そのまま連れ去られた」

 

「……!!」

 

とうとう、堪りかねたのか、ぎゅっと瞑った雪村ちゃんの目からポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。

 

「おっと」

 

隣で待機していた所長が、モゾモゾとテーブルの下へと潜り込んで、雪村ちゃんの華奢な肩を隣からそっと抱き締めた。

 

「わ、私、こ、怖くて、でも、ありさちゃん助けなきゃって……」

 

しゃくりあげる彼女を「よしよし」と宥めながら、所長は少し考え込んだ。

 

「て、手を伸ばしたんです。追っかけて! けど、何でか誰も居なくて、気が付いたら、夕方になっていて……」

 

「戻ることにした?」

 

僕が確かめると、今度は雪村ちゃんは首をブンブンと横に振った。ふむ?

 

「先生が、先生が来てくれたんです。担任の、田中先生。それで、凄い怒られて。けど、此れで一緒にありさちゃんを探してもらえるって!! なのに、なのに……」

 

「……」

 

「先生は……『ありさちゃんって誰?』って……」

 

(初めて聞いたケースだな)

 

 この事務所に就職してから、数える程度しかなかった依頼だけど、少し被害者の毛色が違うように思った。言葉のままとるなら、それはまるで……

 

「彼女の、そのありさちゃんの記憶が消えていたんだね?」

 

「所長……」

 

フルフルと震える雪村ちゃんの背中をさすりながら、所長が少し目を細めて確かめた。

 

「……」

 

テーブルを挟んで、雪村ちゃんがすすり泣く声だけがやけに響いた。

 やがて、彼女のしゃくり上げる声が少しずつ治まり始めた頃、再び雪村ちゃんはぽつぽつと事情を話し始めた。

 

「……学校に行っても、ありさちゃんの荷物も何もなくて」

 

「うん」

 

「ありさちゃんの家のおばさんも、ありさちゃんなんて知らないって……」

 

「うん」

 

「私、もうどうしたら良いか分からなくて……」

 

そう言って、また泣き始めた彼女を前に、さてと僕は首を傾げる。

 取り合えず、事のあらましは理解できた。依頼内容は『骸骨に連れ去られ、何故か皆の記憶から消えた親友を助け出す事』。いたってシンプルだけど、それ以上にオカルト染みていて、とてもじゃないけど警察には頼れない。

 

「うん、お誂え向きだね」

 

この依頼は正しくうちの事務所向け(・・・・・・・・)だろう。まあ、それを判断するのは僕じゃなく、所長の方な訳だけど……。

 

「安心してくれたまえ、要ちゃん」

 

「あっ……」

 

きざったらしいセリフと共に、すらりと形の良い人差し指で、そっと零れた涙を所長が掬った。

 

「君の依頼、この六伏コランが確かに受け止めた。親友のありさちゃんも必ず僕と至くんが見つけ出そう」

 

「僕もですか」

 

「ああ、勿論だとも。今回は君が必要になるだろうからね」

 

「……」

 

曇り一つない満面の笑みを浮かべる所長の視線が、一瞬、鋭く煌めいて見えた。

 やがて、泣き止んだ雪村ちゃんに出てきた温かいコーヒーを飲ませて、一先ずこの場は解散することにした。喫茶店のカウベルを鳴らしながら振り返った雪村ちゃんは、見送る僕と所長に一礼を向けながら、「宜しくお願いします。……私には、もう頼れる人が居ないんです」と囁いて学校へと向かっていったのだった。

 

「やれやれ。小学生といえど、女の子は女の子か」

 

最後の最後に確りと釘を刺していった彼女に対する印象は、僕も所長の意見に同感だった。

 

「で、何か懸念があったんですか?」

 

「うん?」

 

もう一度椅子に座りなおして、そっちの方を確認してみる。何かしら意図がなきゃ、ロリコンの所長が態々雪村ちゃんとの会話を僕の方に預ける訳がない。

 

「まあ、そうだね」

 

そして、予想通り、出てきたブラックコーヒーを啜りながらこくりと頷いた。

 

「ああいう風に固く心を閉ざされていると、きちんと集中しないと思念が読み取れないんだ」

 

「"読む"のに専念するために、僕に渡したと……」

 

それはつまり、彼女が心を閉ざそうとしていたということなわけで。

 

「じゃあ、雪村ちゃんが口にしたことは嘘だったんですか?」

 

「いや」

 

僕の疑問は、どうやら外れていたらしい。

 

「むしろその逆で、真実だからこそ読み辛かったパターンだね」

 

「と、言うと?」

 

「他人の記憶からすっきりさっぱり消えてしまった少女。そして、その存在が本当にあったものだとしたら、何故要ちゃんの記憶からは消えていないのか……それはつまり」

 

「心を閉ざして記憶を守ったと」

 

「そう考えるべきだろうね」

 

そう言って、所長は少し考え込む素振りを見せてくる。

 

「まず、彼女の言葉の真贋だけど、これは間違いなく全て真実だった。少なくとも彼女の記憶だけでなく彼女の身体が、彼女の言葉の通りの経験をしていた」

 

「残留思念ですか」

 

時折所長が口にする、物に染みついた記憶。

 

「この僕が残留思念を読み取るのにも、結構手間取った。つまり、石水無月ありさちゃんに関する忘却の力は相当に強力だという事に他ならない」

 

「そんな忘却を掛けた張本人が」

 

「ああ」

 

「「旧校舎の骸骨」」

 

「ですか」

 

「まあ、それ以外に容疑者も居ないしね」

 

そう言って、立ち上がった所長が軽く伸びをした。親父臭いですよ。

 

「問題ない、問題ない。見た目は美少女だから何をやっても大抵は許されるからね♪」

 

「うーん、この」

 

こうやって社会は腐っていくんだろうなあ……。まあ、いいや、それはそれとして、

 

「さっきの繰り返しになるんですけど、所長」

 

「うん?」

 

「今回は、僕も必要になるんですか?」

 

「恐らくね」

 

首肯した所長がパチンと指を鳴らすと、今まで靄が掛かっていた外の音が不意に鮮明になった。

 

「彼女の言葉がほぼほぼ真実である以上、石水無月ありさちゃんの生きた記録は非常に広範囲にわたっていたはずだ。その記録を全て消し去る力となると、僕でも受けたら危ないのは間違いないからね」

 

「……」

 

「だから、君が必要さ。僕の盾くん♥」

 

「きもっ」

 

「辛辣だなあwww」

 

百超えた男のウィンクとか誰が得するんだろうね。

 

「これでも、昔はちゃんとイケメンだったんだぜ?」

 

「イケメンであることと、同性がそれを見て気分が良いかは全くの別物じゃないですか?」

 

「まあ、確かにその通り」

 

くすくすと笑いながら会計を済ませた所長と連れ立って、店を出るとそろそろ太陽が真上に昇りかけていた。こりゃ、雪村ちゃんは完全に遅刻かな。

 

「しかし、前から思っていたんですけど」

 

「うん?」

 

「所長、毎回、きっちり依頼主の子達の頭ハックしますよね」

 

ふと思いついた疑問をぶつけてみた。ロリコンを自称するなら、その辺は無条件に受け入れるかと思っていたんだけど。

 

「美少女であることと、言葉が信用に足るかは全くの別物だからねえ」

 

「人間である以上、老若男女問わず嘘は吐くからねw」と所長はへらりと笑った。うん、知ってたけど再確認した。

 

「至くん?」

 

「前々から知ってましたけど、所長って」

 

「うん?」

 

「結構普通にクソ野郎ですよね」

 

「ああ、そうだとも♥」

 

無駄に高らかと肯定しながら所長は胸を張った。

 

「僕はロリコンであって、美少女ではない。故に中身は完全にこんな奴だ」

 

「凌辱ものとか割と好きですもんね」

 

「まあね。ちなみに、普通に僕よりゲロ汚い精神の美少女なんてこの世には掃いて捨てる程居るんだし、美少女に幻想なんて持たない方が身のためだぜ? 所長としての忠告だ」

 

「その価値観で何で、ロリコンやってるんですか?」

 

「見た目!」

 

「うーん、身も蓋もない」

 

というか、普通に最低だ。この人。美少女が美しいだけの物なんて幻想だぞ? やかましいわ。

 

「但し、本当にその美少女が心の底から助けを願っていて、僕以外に助けられないならば、僕が、この六伏コランが助けよう。無償で」

 

「無償ですか」

 

「破格だろう?」

 

「いや、むしろ怪しいです」

 

怪しくないところがないです。

 

「でも、大抵は僕に縋るしかないだろう?」

 

「うわ、凄い嬉しそう」

 

なんか、チェシャ猫とロリコンの気持ち悪いところを混ぜて良いところだけ切除したような笑い方してる。

 

「ま、おしゃべりはこの辺で置いておいて、早速調査といこうじゃないか至くん」

 

「雪村ちゃんが言っていた旧校舎ですか?」

 

「ああ」

 

頷いて、歩き出した所長を追いかけながら、僕はふと疑問に思ったことを口にした。

 

「そういえば」

 

「うん?」

 

「彼女を攫ったのって、結局どんなお化けなんですかね?」

 

「さて……」

 

少し首を傾げた所長は「皆目見当もつかないな」と笑った。

 

「だが、一つだけはっきりしている事はある」

 

「何です?」

 

「そいつは絶対にロリコンだ」

 

「……」

 

「美少女を攫ってしまいたいって感情は、同じロリコンにしか理解できないからね」

 

「さいですか……」

 

普通に、誰かに聞かれたらその時点でアウトな会話をしながら、僕と所長は雪村ちゃんの言っていた学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

 




鈴笛至
語り部。六伏探偵事務所の助手。小学生からは冴えない顔とか言われてしまう。
色々あって、今の職に就いたが、金銭的に余裕があるため、下手に離れられなくなっている。
目下の目標は貯金1000万。

六伏コラン
自称探偵兼大魔法使い。
見た目は純度100%の美少女だが、本人曰くどうも見た目と中身は全くの別物らしい。
少女の味方のふりをしているが、結構普通にクソみたいな性格をしている。
どう見ても儲かっていない探偵事務所を営んでいるが、メインの収入源は別にあるとかなんとか。


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美術室のレオナルド 中

切るところを逃しました。アドバイス頂いたのに。ごめんなさーいorz


 雪村ちゃんを見送った僕と所長は「さて、そろそろお昼も近いし、コンビニでおにぎりでも買っていこうか」という所長の言葉で、近くの○ミマに入り、二三個のおにぎりを片手に雪村ちゃんの通う小学校、第一旧東京都立、第十五小学校跡地へとやって来ていた。丁度、小学校もお昼休みに入ったのか、現在の校舎だけでなく雪村ちゃんの言っていた旧校舎のグラウンドにも少なくない子供の姿があった。

 

「ふぅ……」

 

そんなグラウンドの端っこで、思い思いに体を動かす子供達を背景に昼食を終えた所長が満足そうに溜め息を吐いた。

 

「さて、あの子達をおかずに食後のオナニーにしようか」

 

「何デザート頼む気軽さでとんでもないこと口にしてるんですか」

 

幾ら見た目が少女でも、社会的に死ぬことになるぞ。

 

「いやいや、そこは安心してくれたまえ。此れでも大魔法使い。オナニーのためなら、認識阻害の魔法の一つや二つ、軽いものさ」

 

「その能力を、せめてもう少し生産性のあることに使えよ」

 

「オナニーは生産的じゃないというのかい!?」

 

心底ショックを受けた。そんな顔で呆然とされてもな。

 

「いや、子供生まれないんだから、オナニーはどう考えても非生産的な行為でしょ」

 

「む、それは確かに……」

 

少し考え込んだ所長。これで、やっと静かに……「はっ!? オナニーが非生産的な行為で、生産的な行為をしろということはつまり!?」

 

「だ、ダメだよ至くん!? 確かにこの身体はぼくがかんがえたりそうのびしょーじょだけど、中身は正真正銘のアレなんだぜ!?」

 

「一瞬でも期待した僕がバカでした」

 

両手で華奢な体を抱き締めて、ずざざっと後退るベタな反応をされてもね。

 

「取り敢えず、僕は旧校舎の様子を見てくるんで」

 

「うん。じゃあ、僕もその間にオナニーを済ませておくよ」

 

「あ、うん、もうそれで良いです」

 

もう、本当に好きにしていてくれ。

 

「ああ。じゃあ、早速、あそこで水を飲んでいる女の子を……」

 

緑のスカートの下から、男物の青と白のベタな縦縞トランクスを投げ捨てながら、所長は服従のポーズでオナニーに耽り始める。何て言うか、もうね。うん。色々と言いたい言葉を飲み込んで、僕は一先ず校舎の確認に向かったのだった。

 

 

 

 

 ざっと旧校舎の外を回り、下見を終えて所長の所に戻ると、丁度一服を終えて、いそいそとトランクスを履き直しているところだった。認識阻害の魔法を掛けていたのは分かるけど、本当に最後までやったのか、この所長は……。

 

「む? ああ、至くん。お帰り」

 

「どうも」

 

「校舎の様子は?」

 

「悪いものは相当に溜まってます。間違いなく」

 

「ふむ」

 

「ただ、其がどの程度かというと、細かいのが多いみたいで、僕には分かりませんでした」

 

「ふむ……」

 

僕の報告に、所長は二度三度と頷くと、そのまま芝生の上にころんと横になった。

 

「となると、とにもかくにも入ってみるしかないね。至くん」

 

「はい」

 

「一先ず、黄昏時を待つことにしよう。四時になったら起こしてくれ」

 

そう言って、直ぐにスースーと寝息を立て始めた所長。それこそ、一見雪村ちゃんの言ったお化けに拐われても可笑しくない綺麗な容姿だが、校庭にいる多くの子供に存在を認識されないように、寝入りながらも魔法を使うあたり、本当に優秀なんだろう。

 

(能力と人格は必ずしも一致しないとは言うけれど)

 

これは中々に酷いよなあと思いながら、僕も所長につられて大きくあくびをしてしまう。そろそろ、昼休みが終わり、子供達が午後の授業に向かう頃だった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 黄昏時。それは、最も人の世が人ならざるものの世に近付く時。これは、六伏探偵事務所に入った僕が最初に所長から教わった事だった。

 

「所長。そろそろですよ」

 

秋になり、大分早くなった夕暮れに、斜めから射す橙色の光に目を細目ながら、僕は隣ですやすやと眠る見た目だけは美少女の所長を揺り起こした。

 

「んむ……」

 

「黄昏時です。仕事ですよ」

 

そう告げると、脳味噌がじんわりと動き出したのか、もぞもぞと身動ぎした所長が目を擦りながら起き上がった。

 

「おそよう。至くん」

 

「ええ、おそようございます」

 

下らない挨拶を返しながら立ち上がると、所長も立ち上がりはポケットに入れていたしましまトランクスをいそいそと履き直した。ノーパンで今まで寝てたのか、この人。

 

「僕はノーパンじゃないと寝られない質でね。だから、普段も寝るときはTシャツ一枚だろう?」

 

「聞いてません」

 

中身考えたら、気にもしないんだろうけど、流石にどうなんだそれは。と、その時、

 

「ん?」

 

思わず頭を抱えた僕と、なぜかにやにやと実に楽しそうな所長との間にキーコーンカーンコーンと、何ともベタなチャイムの音が響き渡った。そして、殆ど間を置かずにどっと玄関から出てくる子供達。自分が経験したのが十年以上前のことかと思うと、正直なところ懐古の念以上に違和感の方が先立ってくる。と、

 

「あ、雪村ちゃんですね」

 

「の、ようだね」

 

校門をくぐっていた一団の端っこで、一人重い足取りで歩いていた雪村ちゃんと目が合った。

 

「認識阻害解いたんですか?」

 

「彼女だけね」

 

所長の言葉で、他の子供達が此方に気付いた様子がないことに納得する。まあ、僕みたいなのがじっと校門見てたら通報されかねないし、それ以上に所長は目立つしね。

 

「要ちゃーん♥」

 

無駄に品をつくってブンブンと所長が手を振ると、はっと辺りを見回した雪村ちゃんは慌てた様子で此方の方に駆けてきた。ありさちゃんのこととかを考えると、他人には説明しづらいし、仕方ないよね。

 

「やあ、お昼前ぶりだね、要ちゃん♥」

 

「……………………………六伏さん」

 

一瞬、物凄く何か言いたげな顔になった雪村ちゃんは、結局何かを諦めた顔になって、深々と溜め息を吐いた。うん、その気持ちは良く分かる。小学生でそんな気持ち知りたくはなかっただろうけどね。

 

「おや、どうしたんだい? そんなに疲れた顔をして。溜め息ばかりじゃ幸せが逃げちゃうぜ? 良い年した若い女の子に疲れ顔は似合わない! さあ、笑って♪ ほら! こう!」

 

「この人、何時もこんななんですか?」

 

「残念ながら」

 

若いどころか、幼いはずの女の子よりも、遥かに幼い所長を僕はどうやって立てたら良いんだろうね? いや、そもそも、小学生に対して、面子を態々立たせなきゃいけない二百才児って……。

 

「残念。美少女である僕に年齢や性別は関係ないのさ!」

 

「なら、僕は所長を美少女として扱うべきなんですかね?」

 

「おいおい、そんな詰まらないことを言うなよ。至くんに才色兼備な美少女扱いされてしまったら、一体誰が僕と一緒にコミケの三日目を回ってくれるんだい?」

 

「然り気無く、才色兼備とか付ける辺り、本当に図々しいですね」

 

というか、

 

「コミケ行きたいなら、その女装……女装? むしろ、それより随分突っ込んだ何かを止めれば良いじゃないですか」

 

「二百年も美少女をやっている男の誇りにかけて、それは出来ない!!」

 

「いや、男の誇りにかけて女装を止められないって、何か決定的に可笑しくないですか? それとも、僕が可笑しいんですか?」

 

「いや、僕がおかしい♪」

 

「自信もって言うなら、改めてくださいよ。何が悲しくて、頭おかしい少女詐欺連れてエロ本購入行脚しなきゃいけないんですか」

 

「その分、ボーナスは出してるだろう? あれが手当てだとおもえb「全く文句ありません」うん、僕もそういう聞き分けの良いところ、嫌いじゃないぜ?」

 

にやっと笑った所長と視線が重なると、とうとう堪えきれず、僕と所長はどちらともなしに吹き出していた。

 

「っと、所長、さっきから雪村ちゃんが物凄く冷たい目でこっちを見てますけど?」

 

或いは、その視線で凍死しろと言わんばかりの視線で。

 

「なんと!? それはまずい。僕は美少女の笑顔を守る正義の味方だからね。直ぐに理由を聞かなければ。お嬢さん、一体どうしてそんな冷たい目をしているのですがっ!?」

 

「あ、ナイスレバーブロー」

 

細い体の何処にそんなパワーが秘められていたのか。やたらと体重の乗った雪村ちゃんのレバーブローがずしんと重い音を立てて所長のおなかに突き刺さった。

 

「至さん?」

 

「はい?」

 

どさりと崩れ落ちた所長をごみを見る目で見下ろした雪村ちゃんの矛先が、今度はこっちに向いてきた。うん、マンダム。

 

「脱線させないでくださいね?」

 

「別に脱線させる意図はないよ?」

 

勝手に所長が脱線しているだけです。僕と所長の日常会話は大体こんなものだしね。つまり、脱線している所長が悪い。

 

「……」

 

ぎりぃと人を殺せる顔になった雪村ちゃんが所長の後頭部をぐりぐりと踏み躙った。小学生なのに業が深い性格しているなあ。

 

「私にそうさせた責任の半分は間違いなく鈴笛さんにあります」

 

「じゃあ、所長に転送しておきますね」

 

僕、別に主幹じゃないし。ケセラセラ。のんびりと伸びをすると、足元の所長が「理不尽だ~♥」とやけに嬉しそうに悲鳴を上げた。うん、どうせドMなんだから、これくらいご褒美でしょうに。むしろ、所長におかずを提供する出来た助手ですよ僕は。

 

「僕はMもこなせるってだけで、本質的にはSなんだぜ?」

 

「でも事務所に置いてある作品の構成比、六対四くらいでMじゃないですか」

 

変にそっち系多いより、却ってリアルな数字。

 

「そうかな?」

 

「そうだと思いますよ?」

 

小首をかしげた所長に、肩を竦め返すと、僕と所長はどちらともなしにまた吹き出した。

 

「ああ、もう!!」

 

「?」

 

が、何が気に入らなかったのか、間にいた雪村ちゃんが堪りかねたようにバンバンと地面を蹴った。どうしたんだろう、一体?

 

「イチャイチャしてないでくださいよ、二人とも!! 私まで変な目で見られちゃうじゃないですか!!」

 

「いや、所長が認識阻害してるから見られることは絶対にないんだけど……」

 

ていうか、この子、今なんて言った?

 

イチャイチャ?

 

誰が?

 

誰と?

 

僕が?

 

所長と?

 

……………

 

「「おえええええええええええええええ」」

 

僕と所長は二人揃ってゲロを吐いた。

 

「酷い、酷すぎるぜ、要ちゃん!?」

 

「最近の小学生は血も涙もないのか……」

 

こんな、精神攻撃を仕掛けて来るなんて、化け物なんかよりもよっぽど質が悪い。

 

「何でそうなるんですか!?」

 

何か、わたわた言っているけど、一先ず僕と所長はコンビニで買ったスポーツドリンクで口を濯いだ。

 

「汚い!?」

 

ひーん!? と泣き叫ぶ雪村ちゃんだけど、僕と所長にこうさせたのは、他でもない君自身だよ?

 

「さてと……」

 

やがて、三度四度と口を濯ぎ終えた所長が軽く深呼吸をした。

 

「改めて、話を進めようか、要ちゃん♥」

 

「停滞の原因はお二人だと思うんですけど……」

 

ぴっと人差し指を立てた所長に、雪村ちゃんがじとっとした視線を返してきた。うん、実に正論だね。まあ、うちの所長も大概鋼メンタルだからさして気にしないだろうけどね。

 

「君の親友の石水無月ありさちゃん……見つかったぜ?」

 

「……え?」

 

「……」

 

所長の言葉に、雪村ちゃんは一瞬理解が追い付かなかったみたいだ。まあ、当然か。さっきの今だしね。

 

「少なくとも、君が言った通り、あの旧校舎にいるのは間違いない」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「おっと♥ 勿論、真実だとも。僕の美少女(ロリ)(コン)にかけて保証しよう」

 

小さいくせに大きなおっぱいを張って、自信満々に答える所長に、雪村ちゃんが思わず掴み掛かっていた。その華奢な体を、明らかに趣味で付けた巨乳で抱き止めて、ポロポロと涙を溢す雪村ちゃんに向けて所長は「だから、安心してくれたまえ」と片目を瞑った。って、右手右手。何お尻もんでんのさ。鼻の下?延びてますよ? 少女が浮かべてはいけない(と、いうか、普通は絶対に浮かべない)顔をして、あからさまなセクハラを敢行する所長……あ、ビンタ。

 

「いひゃい……」

 

「残念でもなく、当然です。所長」

 

真っ赤な紅葉が咲いた白い頬を抑えてるけど、あんだけ揉みしだいたら、そりゃそうなりますよ。ほら、雪村ちゃんも顔真っ赤にして、警戒心剥き出しだし。

 

「まあいいや」

 

「私は良くないんですけど!?」

 

「さっさと旧校舎に行きます?」

 

「この空気で!?」

 

「急がば回れって言いますし」

 

「それ、ゆっくりするときの言い回しですよね!? 思いっきり唐突に切り出してますよね!?」

 

「あ、ツナマヨおにぎり食べます?」

 

「何でそうなるんですか!? ていうか、どうしてそんなもの渡そうと思ったんですか!?」

 

「お昼ご飯です。僕、これ嫌いなんですよ」

 

「じゃあ何で買った!? 嫌いなのに何で買った!?」

 

「所長も嫌いだって言うから……」

 

「思っていた以上に最低だな!? 助手じゃなかったのか!?」

 

「そのおっさんは、ただの金づるです」

 

「そんな!? 僕のことを財布としてしか見てなかったなんて!?」

 

「もしもし、オレオレ。明日までに二億振り込め」

 

「オレオレ詐欺!? しかも命令形!?」

 

「男の口座に振り込むほど、僕も落ちぶれてはいないぞ? 至くん!!」

 

「雪村ちゃんの口座に」

 

「よっし、おじさん十億円振り込んじゃうぞー」

 

「やめてください!? 家庭が破壊されます!?」

 

「よし、やれ」

 

「やらいでかー」

 

「やるな!!」

 

「じゃ、そろそろ校舎に入ろうか」

 

「聞けよおい!!」

 

ぜーぜーと肩で息をする雪村ちゃんの口がどんどん悪くなるのを尻目に、僕達は事の発端、彼女の通う学校の旧校舎に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 足を踏み入れた旧校舎は、あからさまに薄暗く、いかにも出そうな(・・・・)雰囲気だった。

 

「まあ、実際出るわけだしね」

 

この、雑に何かいると言わんばかりの光景は、けらけらと笑う所長の言うとおり、雪村ちゃんの友達を呑み込んだ、正真正銘の心霊スポットな訳だ。ちらりと見ると、このシチュエーションに慣れきった所長の隣で、雪村ちゃんが固い表情でこくりと唾を飲み込んでいた。

 

「セ○ムが幽霊も払ってくれれば、僕も楽なんだけどねー」

 

「それされたら、仕事なくなっちゃうんじゃないですか?」

 

「大丈夫。その時は大魔法使い事務所開くから」

 

「それ、明らかに詐欺と思われますよ」

 

「その世界は、セ○ムが幽霊取り締まる想定だから、魔法も信じてくれると思うんだよねー」

 

「あー、まあ、言われてみれば」

 

「だろ?」

 

ふざけあっていた僕達だったが、玄関からの廊下を突き当たった所でどちらともなしに足を止めた。

 

「あの、ここは……」

 

思わず呟いた雪村ちゃんを背中に、所長が「居るね……」と漏らした。

 

「居る……」

 

「……」

 

鸚鵡返しに口ずさんだ雪村ちゃん以外の空気が、急速に張り詰めていくのを感じた。

 

「来るよ……」

 

「……」

 

普段の軽薄な笑みが消えて、代わりに鋭く切り裂くような、何処か残忍でシニカルな微笑が所長の口許に浮かぶ。依頼の時にしか見せない、所長の本性。

 

「ほぅら来たぞ……"黄昏時"だ」

 

「……」

 

「!?」

 

だんだんと細くなった所長の声が、囁くほどにしか聞こえなくなったのとほぼ同時に、ごうっ!! という暴風にも似た音が迫ってくる。くらい廊下を丸呑みにして疾った轟音が通り過ぎると、

 

「え?……え?」

 

「「……」」

 

後には血色に満たされた無音の空間に取り残された、僕達三人だけが居た。

 

「な、何なんですか、ここ」

 

「……」

 

 

 

 

そんな感想が真っ先に想起されるこの空間は、自分の気を持っていないと、それだけで身体も意識もどろりと溶かされ、消えてしまいそうな、そんな不安がある。まあ、慣れないと辛いだろうね。

 

「言っただろう。ここが、こここそが"黄昏時"。言葉だけじゃない、本物のこの世とあの世の境目さ」

 

「……」

 

漠然とした、しかし、本能的な不安にひしと身を抱いてかたかたと震える雪村ちゃんに、所長は何処か芝居がかった動作で両腕を広げて囀った。いや、まあ、良いんだけどさ。

 

「とっとと行かないと、どんどん"寄って"きますよ?」

 

「おっと♥」

 

何一寸嬉しそうなんですか。

 

「ま、それじゃあ、行こうか。急がないと、要ちゃんが"飲まれちゃう"からね」

 

「……」

 

スキップで先行する所長その背中を、初めて不気味なものをを見る目で見詰める雪村ちゃん。まあ、その反応は正しい。少なくとも、あの所長は僕個人としては変な所長だけど、本質的には相当にえぐいし相当にげすい性格をしている。

 

「おいおい、それは君もだろう?」

 

「否定も肯定もしませんよ。僕の性格をどう取るかは他人が決める事なので」

 

「そうかい?」

 

「ええ」

 

「ちなみに、僕は至くんの性格、嫌いじゃないぜ♥」

 

「……」

 

「あ、その豚を見る目♥」

 

何で、男に睨まれてそんなに嬉しそうにするかなあ。けらけらという聞き慣れた所長の笑い声が、しかし、無音の紅い旧校舎の渡り廊下でやけに大きく反響した。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

と、不意に隣を歩いていた雪村ちゃんが珍しく僕の方に声を掛けてきた。

 

「何か?」

 

「"黄昏時"……って何なんですか? 私の知っている、"黄昏時"と何が違うんですか?」

 

「ああ」

 

その混乱は納得。というか、所長の個人的なネーミングだからね。分かる訳もない。一先ず、

 

「所長の言っている"黄昏時"は、まあこの異空間の便宜上の名称って考えていればいいよ。正確には何か色々あるらしいけど、それで大体説明がつくから」

 

「異空間……ですか?」

 

「らしい」

 

あくまで所長の受け売りだからね。

 

「本来、"この世"と"あの世"は一寸距離が離れていて、交わる事は無い」

 

簡単な例として僕は右手と左手の人差し指を立てて見せる。

 

「けど、この二つの世界は丁度潮の満ち引きみたいに、周期的に近付いたり離れたりを繰り返していて、時々くっついちゃうんだ」

 

人差し指の先をくっつける。少しだけ肉が潰れ重なったしこりが出来る。

 

「これが、所長の言う"黄昏時"。要はこの世とあの世がほんの少しだけ重なった空間だ」

 

「あれ、でも」

 

「君達が肝試しをしたのは、今よりもずっと前って言いたいんでしょ?」

 

「はい……」

 

僕の確認に、雪村ちゃんはこっくりと頷く。

 

「実はこの"黄昏時"っていうのはこの世と違って、あの世側からだと多少融通が利くらしい」

 

「融通……」

 

「所長曰く、「この世はカチカチなんだけど、あの世はぷにぷにしている」……らしいよ?」

 

顔を上げると、両手を腰に当てた所長がこっちを振り返って、ニヤッと笑っていた。

 

「カチカチとぷにぷに……」

 

その所長の言葉に、雪村ちゃんがなんとも微妙な表情になった。まあ、僕もその表現はどうかと思う。

 

「仕方ないだろ? そうとしか表現のしようがないんだから」

 

そう言って、所長が横から出してきた口を尖らせた。

 

「ま、概要は至くんが説明してくれた通りさ。大前提は幾つかあるけどね」

 

「大前提ですか?」

 

「うん♪」

 

こてんと首をかしげた雪村ちゃんに、所長がにっこりと首肯した。

 

「まず、幾ら融通が利くとはいえ、世界を動かすのは相当に労力が要るからね。ある程度、やり易い環境が必要だ」

 

「やり易い環境……」

 

「具体的には、ある程度は夕方の"黄昏時"が現れやすい時間に近いことだね。具体的には、秋から冬にかけてなら二時~三時以降。日の長い夏はもっと遅くなるね」

 

「四季で変わるんですね……」

 

ぽつりと呟いて頷いた雪村ちゃんに、所長は「まあね♪」と笑った。

 

「よく、昼間に外で遊んでいた子供がいつの間にか消えていたなんて話があるだろ? あれは誘拐の場合もあるけど、一部はあの世の住人に連れ去られたのさ♪」

 

「……」

 

前例が身近にあるだけに、僅かに顔を青ざめさせる雪村ちゃん。流石に不謹慎……まあ、存在そのものが不謹慎だから、今更か。

 

「それは一寸言い過ぎじゃないかい?」

 

所長が、またけらけらと笑った。

 

「後の二つは単純。法則は分からないけど、どうもあの世でも"黄昏時"を作りやすい場所と作りにくい場所があるみたいでね。この世の心霊スポットの多くは、その"黄昏時を作りやすい場所"なんだ」

 

「一部は明らかに人為的なものだったり、原因不明のものもあるみたいだけどね」

 

「うん。昔"目"を手に入れる前は本当に原因が分からないものがあってね。今見たらまた違うのかもしれないけど、少なくともあれは完全にお蔵入りさ」

 

「それ、何年前です?」

 

「八十年くらいかな」

 

「僕としては、所長の正体の方がオカルトじみてると思うんですが」

 

「ま、大魔法使いだからね♪」

 

そう言って、所長はパチンとウィンクした。本当に、この人元男なのかな?

 

「勿論。此れでも評判のイケメンだったんだぜ?」

 

ロリコンが高じて体を美少女にしたゃった変態だけど、ですか。

 

「っと、脱線してしまったね」

 

「所長の存在が人類から脱線してますからね」

 

「それは一寸言い過ぎじゃないかい!?」

 

所長なら残当です。

 

「まあ、いいや」

 

良いんだ。

 

「最後の条件は、"黄昏時"を作るあの世の住人が、其れなりにあっちの世界で力を持っていること。さっきも言ったけど、幾ら"あの世"が柔らかいとはいえ、世界の一部を自分の都合の良いように弄くるんだ。当然、弄くる側もそれ相応の力を持っていないと話にならない」

 

「で、裏を返せば、自発的に"黄昏時"を起こした奴は相応に力があるってことでね」

 

「……」

 

やっぱり、雪村ちゃんは聡明な子なのだろう。僕と所長の説明を理解して、苦し気に押し黙った。

 

「自然発生した"黄昏時"に便乗した奴が常にヤバくない訳じゃないが、時間外れに"黄昏時"を引き起こした奴は例外なくヤバい。そして、今回、石水無月ありさちゃんを拐った骸骨は僕が経験した中でも相当にヤバい。何せ、百年以上生きてきた僕だけど、周りの記憶ごと存在を拐った奴なんてのは、聞いたことがないからね」

 

「……」

 

「その辺含めると本当にヤバいよ」と"ヤバい"を重ねた所長の言葉に、雪村ちゃんの表情がさーっと青ざめた。話し半分に聞こうにも、今朝所長が記憶を読み取ったことや、目の前の光景に、感情的に嘘だと否定することも出来ないでいるんだろう。ただ、そうなると、個人的に一つ引っ掛かることがあるんだけど……。

 

「御名答だよ、至くん♪」

 

どうやら、僕の引っ掛かりは当たりらしく、所長は両手の親指を立て……て、そのまま、人差し指と中指の間に突っ込んだ。いや、あんた何やってんだ。

 

「御名答ですか?」

 

と、女握りの両拳でファイティングポーズを取る所長と、取り敢えずその頭の上に拳骨を落とそうと身構えた僕の間で、雪村ちゃんが首をかしげた。……ああ。

 

「そういえば、言ってなかったね」

 

所長もそれに気付いたのか、ぽんと(女握りしたままの)右手を左掌に打った。

 

「言ってなかった、ですか?」

 

「ああ」

 

頷く所長。確かに、雪村ちゃんからはその疑問は出てくるだろう。なにせ、僕と所長の会話は(・・・・・・・・)ちょいちょい言葉を(・・・・・・・・・)交わさずに進んでいる(・・・・・・・・・・)からだ。

 

「丁度良いし、言っておこうか」

 

「そうだね。要ちゃん」

 

「はい?」

 

「僕と至くんはね」

 

「ええ」

 

「正に一心同体! 粘膜と粘膜なんて目じゃないくらい深く繋がった、言葉なんて要らないどころか言葉にしたらR-18な関kごふっ!?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

ぐーで行った。腹に。躊躇なく。

 

「次、その冗談言ったら……」

 

腹を抑えてのた打ち回る所長(バカ)を、僕は明日出荷される豚を見る目で見下ろす。

 

「もぎますよ?」

 

「どこを!?」

 

当然の様に復活した所長は、当然の如く股間を抑えた。いや、あんた百年以上前に自分で捨てたんじゃなかったんですか? 今は付いてないでしょ。

 

「だ、大丈夫なんですか!?」

 

自分と同じくらいの体格の女の子(に見えるだけの詐欺)が腹パン貰って崩れ落ちたのに驚いたのか、雪村ちゃんが慌てて所長に駆け寄った……けど、まあ、うん。

 

「僕を心配してくれるのかい、要ちゃん!? コラン感激という奴だ!! 勿論、すごく痛い。もう凄くすごく痛い! この痛みを癒すには美少女である要ちゃんの愛撫とぺろぺろがあればすぐにでも回復して元気百倍さ!!」

 

「いやあああああああああああああ!?!?!?」

 

まるで、僕の一撃で大ダメージを受けたと言わんばかりの言葉に騙された雪村ちゃんのお尻を胸元を、待ってましたとばかりに、まさぐり倒す所長。その、外見とは正反対の、スケベおやじそのものの手付きに、雪村ちゃんが堪らず悲鳴を上げた。あんた、YESロリータNOタッチの精神は何処行ったよ。思いっきりタッチしてんじゃん。Tシャツの自己暗示、全く効果発揮してないだろ。

 

「あ、た、助け」

 

「取り合えず、話進まないんで解放してあげてください」

 

「うーん、残念だなあ。最近冷たい至くんの代わりに、この子に癒してもらおうと思っていたのだけど」

 

「僕に、ていうか野郎に癒される趣味があったんですか?」

 

「無いな!!!」

 

「はっはっはっはっは☆」と笑った所長が、抱きしめていた雪村ちゃんの首筋をぴちゃりと舐めて、その身柄を解放した。「ひゃんっ!?」という悲鳴を上げた雪村ちゃんは、所長の手を離れると、ダダダっと走って、僕の背後へと逃げ出した。

 

「警戒しないでくれ、要ちゃん。僕は美少女の味方だぜ?」

 

「いや、今の行動はどう考えてもアウトでしょうが」

 

今以前も大体アウト。むしろ、美少女の敵を大体顕現させたら外見以外は所長になるレベル。

 

「まあ、種明かしをしちゃうと、所長のさっきの言葉は一分真実なんだよ」

 

「へ? え?」

 

「つまりだね」

 

「ひっ!?」

 

「僕と至くんはニ心別体の運命共同体。例えて言うなら、IB砲の様な関係なのさ!」

 

完全に雪村ちゃんに怯えられているのも気にせず、高らかに宣言する所長。宣言するのは良いんだけどさ……

 

「IB……砲?」

 

何それ? と言わんばかりの雪村ちゃんの表情に「あれ? アントニオ猪木とジャイアント馬場、知らないのかい? プロレスラーの」と所長は慌てだした。いや、うん、

 

「前にも言ったけど、僕も所長に説明されるまで知りませんでしたよ? そんなの、この年の女の子が知っている訳ないじゃないですか」

 

「いや! そんな事は無い! 絶対に知っていると僕は信じている!!」

 

何でこの人は、そこまでプロレスラーこだわるかな。

 

「だって、プロレスの派生って色々僕好みの(・・・・・・)レギュレーションが多いからね」

 

「……例えば?」

 

あんまり聞きたくないけど。

 

「ローションレスリングとか、バトルファックとか!」

 

「どう聞いても真面じゃないじゃないですか」

 

依頼者の耳が腐るわ。

 所長の聞き苦しいどころか聞くに堪えない戯言を打ち切って、軽く事情を説明してしまう事にする。まあ、何て言うかね、

 

「僕は、所長の"使い魔"なんだ」

 

「使い……魔……?」

 

再び首を傾げる雪村ちゃんだったが、今度はさっきの何を言っているか分からないという表情ではなく、言葉の意味は分かったが理解が及んでいないといった顔だ。

 

「え、じゃあ、鈴笛さんは人間じゃないんですか?」

 

「いや、至くんは人間さ」

 

やがて、理解が及んで、目を丸くした雪村ちゃんに、こっちも一通りセクハラして満足したらしい所長がやんわりと首を横に振った。

 

「"使い魔"というと、魔法使いが悪魔を召喚してというのがベタに思いつくし、実際その通りなんだけど、至くんは一寸特別で、どちらかというと既存の生物を呪文で縛るという方法で使い魔になってもらったんだ。だから、どっちかって言うと魔法使いの使い魔より、陰陽師の式神の方がイメージ的には近いね」

 

「はあ……」

 

「西洋だと……アラジンと魔法のランプは知っているかい?」

 

「あ、それは」

 

「アレが比較的近い存在だ」

 

先のセクハラの嵐を引っ込めて丁寧に説明する所長の淀みのない言葉に、雪村ちゃんは「は~……」と、感心とも感嘆ともつかない声を上げた。

 

「僕の様な魔法使いにとって、"使い魔"というのは本当に特別な存在さ。何せ、単純な身の回りの世話から、得意とする儀式の触媒、はたまた戦闘での相棒にもなると、本当に頼りになる存在でね」

 

「何か、色々と凄い存在なんですね」

 

「ま、心も体も別物だが、命を共有している存在だからね」

 

「い、命を?」

 

流石に聞き逃せない言葉だったらしく、しきりに感心した様子で僕と所長を見比べていた雪村ちゃんが思わずといった様子でどもりながら聞き返してきた。

 

「ま、色々あってね。何が琴線に触れたのか分からないけど、僕は所長の目に適ったらしくて、そんな職業をやってます」

 

「いやいや、あの時は本当に助かったんだぜ? 少なくとも、至くんを使い魔にすることに、僕は何の不安も躊躇も抱かなかったね♪」

 

機嫌よさげに、けらけらと笑う所長の隣で、僕は何も言わずに肩を竦めたのだった。

 

「話は戻るけど、僕と至くんは今そういう(命を共有している)関係なのもあって、互いが互いを傷つけることは不可能なんだ」

 

「お陰で、突っ込み一つろくに機能しないですけどね」

 

「その分、至くんの僕への突っ込みは精神攻撃が増える傾向にある。だから、直接暴力に訴えていないうちは、まだ、そこまで怒っていない証拠だったりするのさ。何で分かるかって? 実は使い魔契約しちゃうと、互いに思考を隠すことが出来なくなっちゃうんだよね~」

 

「ぶっちゃけ、突っ込みがままならないよりも、そっちの方が僕としてはきついです」

 

会話が楽だし、電話も不要なのは良い事なんだけどさ……。

 

「僕がオナってると、おかずがもろバレだったり、どっちかが夢で変な悪夢を見ていると、二人そろって一晩中スリラーパークにご招待なんてこともあるからねえ」

 

「強度が高いのも考え物だ♪」と欠片も悩んだ様子なく、所長はあっけらかんと言ったのだった。

 

「それは、何て言うか……」

 

「大変ですね」だろうか? 雪村ちゃんが、何とも言いづらそうな顔になる。

 

「まあ、でも、悪いことばかりじゃないんだぜ? 何せ、そのレベルになると、使い魔としての契約から引き出せる力、つまり馬力だね。そっちの方も相当な威力になるからね。魂の繋がりの強度は、そのままでも一つの大きな力になる♪」

 

「はあ……」

 

「だから、僕にとって、僕と至くんの繋がりこそが切り札なのさ♥ 冗談でもなんでもなくね」

 

「はあ……」

 

今一想像がつかない。そんなところだろうか? やや、曖昧な表情で頷く雪村ちゃんに、所長は「そして!」と人差し指を立てた。

 

「それは君と石水無月ありさちゃんとも同じことさ♪」

 

「え……?」

 

「……」

 

意表を突かれて、目を丸くした雪村ちゃんの表情に、所長はしてやったりと言わんばかりのチシャ猫の笑みを浮かべた。

 

「"黄昏時"の性質を考えれば、君達二人が見たベレー帽の骸骨は相当に力の強い化け物だ。それこそ、石水無月ありさちゃんの存在を丸ごと拐って自分のものに出来てしまうほどに。けど、君は、君だけはありさちゃんを覚えていた。それはつまり、君と石水無月ありさちゃんの間の繋がりが、それだけ強かったということに、他ならない訳だ」

 

「……」

 

所長の説明に、些か戸惑った様子の雪村ちゃんが、少し困った様子で頷いた。

 

「そして、それ(・・)が今、石水無月ありさちゃんの存在をこの世に繋ぎ止めている、最後の命綱になっている」

 

「!?」

 

雪村ちゃんは、今度こそ絶句していた。

 

「それは……」

 

どういう意味? だろうか。後の言葉を上手く紡げない様子の雪村ちゃんに、所長はにっと口の端じを持ち上げた。

 

「話を聞く限り、君達の見た骸骨は、間違いなく能力的にも性癖的にも人を連れ去ること、或いは誰かを閉じ込め、自分の所有物とすることに特化した存在だ」

 

性癖言うな。

 

「石水無月ありさちゃんを連れ去ったことが、なにより雄弁にその事実を物語っている」

 

「……」

 

「けど、それはまだ、完成していない。それはなぜか!?」

 

「!」

 

「それはね、君、雪村要という存在が、本来この世との繋がりを全て遮断されたはずの石水無月ありさちゃんを"覚えている"ということで、辛うじて繋ぎ止めているからに他ならない。恐らく、あの骸骨は君がこの世に居る限り、決して石水無月ありさちゃんを完全な自分の所有物にするのは出来ないはずだ」

 

「……」

 

所長の言葉に、雪村ちゃんは呆然と自分の小さな両手を見詰めた。自分という存在が、本当に親友を繋ぎ止められているのか? そんな、思いだろうか。

 

「自信を持って良いとも。君は、石水無月ありさちゃんを護るための最後の砦でもある。それこそ……」

 

顔を上げた所長が、不意にぐりんと振り返り、背後に無限の赤を広げている"黄昏時"に愉快げな嘲笑を向けた。……何か、居る?

 

「君の親友を拐った骸骨が、直接君という存在を、あの世に取り込もうとするほどにね」

 

所長がそう言って、白い歯を剥いたのとほぼ同時に、不気味でしかなかった廊下の中に、生臭くじっとりと生ぬるい、不快な空気が立ち込めた。

 

「そうだろう? ベレー帽の骸骨(・・・・・・・)!」

 

「……」

 

そしてそいつ(・・・)は、所長が口ずさんだ瞬間、まるで溶解の逆再生のように、とろりと赤い廊下に姿を表した。

 

 

真っ赤な血色のベレー帽

 

くすんだ、使い古しの白衣

 

カタカタと鳴る骨の体

 

そして、一切の思考の読めない、黒い眼孔

 

 

「ひっ!?」

 

その姿を認めた瞬間、雪村ちゃんが小さく悲鳴を上げた。確定か。こいつが……。

 

「あのときの、骸骨!!」

 

「……」

 

怯える雪村ちゃんを守るように、所長がこつりとブーツを鳴らして一歩前に進み出た。

 

「やあ、遅かったじゃないか?」

 

「……」

 

芝居がかった仕草で赤く染まった銀髪を掻き上げて、所長が問いかけると、其れまで黙っていた骸骨の下顎がかぱりと音を立てて下に落ちた。眼孔と同じく開いた、黒い口腔。無機質なのに、やけに生々しいそこから、

 

「A……」

 

「「……」」

 

 

 

「AHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAH!!!!!!!!」

 

 

 

何処か神経質で、そして狂気じみた、若い男の絶叫とも哄笑ともつかない悲鳴が赤色の"黄昏時"一杯に放たれたのだった。

 

「……」

 

本能的な恐怖に駆られたのだろう。所長に護られていた雪村ちゃんが両耳を抑えて「ひっ!?」としゃがみこんだ。まあ、怖いだろうしね。個人的には慣れもあって、怖さ以上にウザさが先立つけど。と言うか、本当に鬱陶しいなあ……。

 

「流石私だ! 運命に愛されている!!」

 

僕と、そして僕と同意見らしく、にやにやとした笑みに無機質な眼光を湛えた所長の前で、その骸骨は実に芝居がかった仕種と共に宝かに歌い上げた。美形の俳優とかなら様になってるんだろうけど、今それをやってるのは学校の理科室とかでよく見る、無機質な骸骨だ。はっきり言って、お前がやっても笑いを誘うだけって奴だ。

 しかしまあ、こういう空気の読めない手合いは、周囲からの冷たい視線にはやたらと耐性があるというか、無頓着なのが世の常で。

 

「この私、"第十五小のレオナルド"、佐藤牛太郎の最新作、"赤いドレスの石水無月ありさ"の完成を、運命や神すらも心待にしている証左だな、これは。まあ、それも仕方なかろう。何せ、この私の作品だ。神も運命も、期待をせずにはいられないのだろう。未完の大作もその悲劇性を含めれば話題性もあるとはいえ、それでも多大な損失には変わりないからな!」

 

うーん、自己完結。ぺらの五月蝿さは所長と良い勝負だな。

 

「いやいや、僕は此れでも至くんのことは気にかけてるんだぜ? 自己で完結するほど超人はしてないさ。大魔法使いだけどね。その証拠にオナニーしてても、直接"待った"をかけられたら、ちゃんと一度止めてるだろ?」

 

「いや、尻叩かないと止めないで「それが至くんの"待った"だろ?」さよで」

 

「まあ、一度止まりきれなくて、思いっきり、至くんに潮吹き顔射しちゃった訳なんだけどね♪」

 

「♪じゃねーよ、思い出させるなよ、せめて少しぐらい悪びれろよ!?」

 

このバカ(所長)、あの日は何を思ったのか、普段使っている愛用のダッチワイフ(名称、ぺおるちゃん)を使わずに、何故か仰向けでオナっていた。

 

そして、僕がドアを開けた瞬間にイきやがった

 

「あひいいいいいいいいいいいいい♥♥♥」

 

という絶叫と共に、顔面に掛けられた液体

 

生暖かいそれを拭うと、矢鱈とやりきった感を出している、全裸のアホ(所長)

 

全てを理解した僕は、その場でこのバカに尻叩き百回の刑を執行していた。

 

「ほんと、いきなり雇い主に、スパンキングをするなんて、至くんは本当に酷い所員だなあ。モンスター所員だ!」

 

「いきなり、その所員に体液掛ける上司に言われる筋合いはありませんけどね」

 

「いやあ、それほどでも///」

 

「何で一寸嬉しそうにするんだよ」

 

本当に、誰かこの所長をどうにかしてくれないかなあ。

 

「一応、言っておくけど、僕だって、至くんのお尻ぺんぺんは結構辛かったんだぜ? お陰で僕の小さな白いお尻は、何時も至くんの掌型に紅葉が咲いているし。……確かめてみるかい?」

 

「いや、確かめないから。見たくないから。そもそも、僕からの危害でダメージ受けないんだから、その痕も自分で作っただけでしょ? ちょ、何で嬉しそうに「至くんに嫌がらせが出来るから♥」だろうな畜生! って、ちょトランクス脱ごうとするな!?」

 

言っている間に脱ぎやがった……。そして、何故か脱いでからすぐにピタリと固まった。

 

「所長?」

 

まさか、あの骸骨からの干渉か?

 突如フルフルと、小さな肩を震わせる所長に、僕は思わず駆け寄り、

 

「至くん……」

 

「所長? 大丈夫ですか?」

 

「美少女に見られながら生ストリップするの……すっごく気持ちいい」

 

「……」

 

少しでも心配したことを後悔した。その震えは、興奮の震えかよ!?

 

「いやー、これまででも一二を争う快感だ。ジャンル的には初めてと言っても過言じゃないね♪」

 

やばい、変態が露出の快感まで手に入れやがった……。

 

「何時もは認識阻害掛けてたから気が付かなかったけど、直接美少女に裸を見られるのって、凄く興奮するね♥」

 

「良い笑顔で何言ってんだ、このド変態」

 

「そうだ、至くんも美少女に転生しないかい? そしたら、毎日二人で露出プレイを楽しめるんだけど」

 

「所長のオナニーに僕を巻き込もうとしないで「貴様ら!私の話を聞いているのか!?」一寸黙っててください。僕の労働環境と尊厳の危機なんです」

 

「因みに、我が事務所は今から美少女手当てを導入しました」

 

「何でもう過去形なんですか」

 

「既に導入済みだからね♪」

 

「今から導入って、自己申告してたじゃないですか」

 

「"今"とかそんな昔のこと言われても困るね。僕は未来に生きる男なんだから☆」

 

「あんたもう、正体隠す気更々ないですよね」

 

「き、貴様らあああああああああああ!!」

 

「ほら、所長のせいで、変態骸骨も切れちゃったじゃないですか」

 

「ちっ、此れだから、カルシウム足りてない奴は。センスも忍耐力も今一だね。至くんもそう思うだろう?」

 

「"第十五小のレオナルド"だからなあ……」

 

「本人のセンスが致命的にダサいんだろうね」

 

そう言って、所長はけらけらと嗤った。何て言うか、色々格好付けたいけど、一生懸命考えたことはばれたくないから、然り気無いニックネームに見せようとして、その然り気無さを出そうとしたるところまでばれちゃった感じの名前だなあ。

 

「まあ、本名が牛太郎な時点で仕方ないよネ!」

 

「本名は本人の責任じゃないんですけどね」

 

牛太郎。江戸時代の女衒の別名。それってどうなのさ。

 

「美少女を狙う"黄昏時"の住人には相応しい名前かもしれないけどね。全く、ロリコンの面汚しめ!!」

 

「相応しいのか面汚しなのか、はっきりしてください」

 

「ミックスして面汚しに相応しい名前としておこう」

 

「普通に悪化しましたね」

 

僕と所長は思わず吹き出していた。って、ん?

 

「……」

 

「何か、この骸骨、カタカタ震えてません?」

 

具体的には、ツービートで。

 

「放置プレーの快感で、興奮してるんじゃないかな?」

 

「この体でですか?」

 

「男なら、心のちんちんさえあれば勃起は出来るからね♥」

 

聞いてない。と、

 

「!」

 

不意にがばりと顔を上げたレオナルド(笑)が、またも芝居がかった仕草で自分の頭蓋骨を押さえた。

 

「おお、なんと嘆かわしい! まともな最低限の芸術にすら触れることもなく育った人間というのは、こうまで美的センスが壊滅擦るものなのか!!」

 

「お、見てくれ至くん。どうやら、自分のダサさを棚に上げて、世界の方が間違ってると勘違いし始めたようだよ。この骨は」

 

「自意識過剰型の骨に有りがちですね。言うほど大したことないくせに、プライドだけは人一倍。そもそも、自己顕示欲が満たされるほどの実力があったら、こんなところで人拐いなんてしなくても、お金や名声で女の子引っ掛けられる筈なんですけどね」

 

「おいおい、真実は時として人を傷つけるんだぜ? もっとオブラートに包んであげないと」

 

「貴方、才能ないですよ?」

 

「いや、単純に実力不足だね♥」

 

何となく面白くなって、所長と交互にからかっていると、いつの間にか骨の律動はピタリと止んでいた。そして、僕と所長、あと、恐怖が通り過ぎたのか、耳から両手を離した雪村ちゃんが見詰めるなか、じっと佇んだまま、何かぶつぶつと呟いていた。んん?

 

「拡声してみようか」

 

そう言って、所長が形の良い指をパチンと鳴らすと、くぐもっていた骸骨の声が不意にクリアになって、廊下に響き渡った。

 

「やっと、やっと完成する。被写体を取り逃して、もう完成させられないかと思っていた私の作品。間に合う、此で次のコンクールに間に合うとも。そうだ、この私が、天才であるこの私が、プロフェッショナルとして、メインの被写体を厳選した結果、賞を取り逃すなんてこと、あって良い訳がないんだ。此れまでも、私の才能を妬む馬鹿どもの妨害やイカサマで賞を逃してきたが、今度こそ、私が最優秀賞を取るのだ。そこの少女もメインの被写体には劣るが、主役を際立たせるための助演としてなら悪くない。ああ、目に浮かぶようだ。そうと決まれば、早速二人一緒に、同じ絵に書き込んであげよう。何、怖がることはない。私の、この"第十五小のレオナルド"に素材として選ばれるなど、こんなに光栄なことは他にないのだからぁ!!!」

 

「ひぃっ!?」

 

うわ、情緒不安定だなあ。

 

「それ以前に、幽霊の正体見たり枯れ尾花。何の事はない、"第十五小のレオナルド"なんて嘯いては居るが、単に才能がなくて、世を恨んで死んだロリコンだったみたいだね」

 

「まあ、可愛い女の子狙いみたいですしね……」

 

美少女を襲って、その絵を描こうとするロリコン幽霊か。一応身の危険がない所長の方がまだマシなレベルだな。

 

「おいおい、僕は此れでも紳士を自認しているんだぜ?」

 

「自認してても、他から認められてないでしょ」

 

「そんな事はない。至くんは僕を変態だと認めるだろ?」

 

「まあ、そうですね」

 

「変態とは、紳士の別名なのだから、当然変態である僕も紳士の仲間さ♪」

 

「いや、その理屈はおかしいですから」

 

世界の紳士に謝ってください。ほら、あのロリコン、今にも此方に飛びかかってきそうですよ。どうするんですか。

 

「んー……」

 

「何か?」

 

僕がロリコン骸骨を丸投げしようとすると、少し考え込んだ所長が、「一寸、試したいことがあるんだ」と笑って、怯える雪村ちゃんの前で、彼女を覆い隠すようにパッと両腕を広げた。

 

「大丈夫だよ、要ちゃん。この僕、六伏コランの名に誓って、このロリコンの骨一本君には触れさせない」

 

「ロリコンに、そんな決め台詞言われても困りますよ?」

 

「安心して僕の背中、もとい、お尻の後ろに居てくれたまえ」

 

「何で言い直したんですか」

 

「ちなみに穴の開くほど眺めてくれると、個人的には嬉しい。お尻には元々穴が開いてるけどね♪」

 

やかましいわ。

 

「「ん?」」

 

と、不意にかさりという小さな音が、やけにはっきりと廊下に響いた。顔を上げた僕と所長が目にしたのは、一目で分かる怒気を湛えたレオナルド()の黒い眼孔と、いつの間にかその両手に現れた、小さな筆とスケッチブックだった。

 

「所長?」

 

あからさまに何かしようとしているし、流石に僕も前に出るべきか……。

 

(いや、不要だ。恐らく、僕の勘は当たっているはずさ♪)

 

もし外れてたらどうするんですか。

 

(その時はその時。一緒にあの世へランデブーといこうじゃないか♥)

 

嫌ですけど?

 

(おや、つれないねえ?)

 

絶対に嫌ですけど?

 

「ちょ、繰り返すほどかい? どうせ、魔法使いと使い魔なんだから、足掻くだけ無駄だろう?」

 

そーゆー、デリカシーの無いこと言ってると、モテないらしいですよ?

 

「それは嫌だな。安心してくれ僕だけであの世に行くから!」

 

「お前も」

 

「お、始まったね♪」

 

「お前も私の芸術となれええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 

骸骨の絶叫が響き、その右手が目に見えないほどの高速で疾る。時間にして、ほんの一二秒。その骸骨の右手が止まり、スケッチブックが引っくり返されると。

 

「早……」

 

その中には、銀色の不適な表情の絶世の美少女。

 

「所長か」

 

おおよそ、この世のものとは思えない美貌は、紛うことなき所長の姿だった。ただ、まあ、

 

「二点! この顔は僕が造り上げた最高傑作だぜ? そんな、のっぺりとした野暮ったい顔な訳がないだろう? 本当に芸術家志望だったのかい? まともな観察力すら持っていないじゃないか。大体、少女だから体を小さくすればオッケーとか、そんな感性で、ダ・ヴィンチに肖っていたのかい? 噴飯ものだね! 僕は顔だけじゃなく顔までパーフェクト美少女な男だぜ? 体のバランスだって、単に小さいだけじゃなくて、程よく撫で肩にしながら、うっすらと肋を浮き立たせて、だけど腰骨は少し張らせて、おっぱいは夢一杯詰まってるボディなんだ。そんな貧相で取って付けたようなおっぱい乗せた、魔改造ボディごときが僕とか、失礼を通り越して神への冒涜に他ならないね! もうあれだ、夢諦めるとか筆を折るとかじゃなくて、幼女のかぼちゃパンツ様に土下座してそのまま、土の中に還りたまえよ! 輪廻転生すれば、ワンチャンましな芸術力手に入るかもしれないしね!!!」

 

けたけたと、実に楽しげに嗤う所長の言葉通り、その絵は一目で所長だと分かるレベルではあるものの、それは銀髪や笑い方などの、誰にでも分かる特徴的な部分を抑えた不可抗力にすぎず、実際のところ造形だけは無駄に優れた所長の美貌は欠片も表現できていなかった。芸術に全く触れたことのない僕ですらそう思うんだから、実際にあの顔を作った所長からすれば、そんな男が芸術家を名乗るなど、本当に噴飯ものなんだろう。ただ、

 

「だまれええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 

「まあ、当然そうなるよね」

 

 所長の言葉が幾ら真実とはいえ、それを飲み込めるかはまた別問題だ。相手は、過剰な自意識と自己顕示欲だけで亡者になりおおせた、生粋の意固地ロリコンだ。所長の言葉で自分を曲げるほど、潔い性根はしていない。

 

「!!」

 

 亡者の絶叫と共にスケッチブックの中から真っ黒な汚濁の奔流が吹き出す。一目で分かるその穢れの強さに、僕は咄嗟に雪村ちゃんの目を防いだ。それとほぼ同時に、所長の小さな身体が、その濁流に呑み込まれた。

 

「ふ、ふは、ふはは……」

 

「……」

 

「ふははははははははははははは!!!」

 

所長の姿が闇に消え、勝利を確信したのだろう。骸骨男の哄笑が、何処までも何処までも"黄昏時"の校舎を満たした。

 

「こ、此れがお前達、真の芸術を理解できないぼんくらに相応しい終末だ!! 惨めで! 無意味で! 何の劇的な要素も持ち合わせない、実に無味乾燥極まる、私だったらとても堪えきれないな!!!」

 

「……」

 

はははははと、又哄笑する骸骨。ていうか、凄い勢いで、所長を見下し始めたけどさ、その絵、芸術なんじゃなかったの? 遠回しに自分の実力を申告しちゃってるんだけど……。まあ、いっか。どうせ、

 

「甘い。甘いねえ♪」

 

「こうなる事、確定してるしね」

 

けらけらけらけらと先の骸骨の哄笑よりも遥かに軽薄に響いた少女の笑い声。その中心から現れたのは、

 

「美少女だと思った?」

 

「ざ~んねん!!」

 

「美少女を愛し、美少女に愛され、美少女に至った男」

 

 

 

「それこそがこの僕、六伏コラン!!!!!!!!!!!」

 

 

 

緑のドレスを脱ぎ捨て、いつの間にか着替えたYESロリータ!GOタッチ!のTシャツ。普通に考えて頭が沸いているとしか思えない格好だよな、あれ。

 

「さあ、美的センスゼロのクソダサペンネーム骸骨! 六伏コランバトルモードが出たからには、君のちんちんが美少女のCQに届くことは未来永劫あり得ないと心得るがいい!!!!」

 

何故か室内でそよいだ一陣の風と共に、所長が羽織ったぶかぶかのTシャツがふわりと舞う。一糸纏わない(見た目だけは)美少女の無毛の股座が、キュピーン!! と青い閃光を宿した。

 

「いや、絵面酷すぎるでしょ……」

 

 

 

 

 




鈴笛至
使い魔
コランとは二心別体の運命共同体
ぶっちゃけ、プライバシーなんてあった物じゃないので、最近は夢の中でコランがアヘってるのと
コランに突っ込みを入れようにも、自力では絶対に突っ込めないのが最大の悩み
所長の造形は確かに美少女だけど、最近グーパン入れるのに良心の呵責がなくなった


六伏コラン
美少女の形をした汚物
ロリコン、オナニストに続いて、露出狂の扉も開きかけている
普段着はYESロリータ!NOタッチ!
戦闘服はYESロリータ!GOタッチ!
ロリコンが行き過ぎた結果、自分の身体を「ぼくがかんがえたさいこうのびしょーじょ」に変えてしまった人
百年ロリコンしているだけあって、見た目だけはパーフェクト。本当に見た目だけは
滲み出る中身の汚さで相殺されて、まあまあ普通の美少女に見えてしまう


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美術室のレオナルド 下

なんか、長くなった……一息で読んでほしかったんです。ごめんちゃい


 所長のYESロリータ!GOタッチ!(戦闘服)が迸る魔力の奔流にはたはたとはためき、一糸纏わぬ股間から迸る青い光が強く緋色の廊下を切り裂く中、表情の見えない"第十五小のレオナルド"が、それでも傍目からでもそれと分かる程に愕然とした空気を湛えていた。

 

「な、何故……」

 

美的センスゼロのクソダサペンネーム骸骨と真正面から罵倒された事にも気付かず、自身の力が所長に及ばなかったという現実を受け入れられずにいる様だった。まあ、無理もないのかもしれない。

 才能の無い芸術家気取りの亡霊が、怒りに任せて取り込めるほど、うちの所長は簡単な生物じゃない。美少女には弱い、というか、好きにさせる傾向があるとはいえ、その力が本物なことは僕が誰よりも知っている。

 

「何故、私の芸術にならないっ!?」

 

「おいおい、あんまりきゃんきゃんと吠えないでくれるかい? ただでさえ、ネーミングセンスゼロなのに、この上男のヒステリーとか見苦しいなんてものじゃないぜ?」

 

その言葉通り、ヒステリックに叫んだレオナルド()に、所長はにやにやと心底小馬鹿にした風な笑みを向けた。まあ、細められた猫目がちらちらと骸骨の一挙手一投足を観察しているあたり、実際の所は油断なく相手の力を推し測ってるみたいだけど。

 

「お、お前のことは確かに"絵"にした! 間違いなく、私の"作品"になったんだ!! なのに、何で絵に取り込まれない!?」

 

「……」

 

その言葉に、おおよそ石水無月ありさちゃんを取り込んだ方法を理解する。どうやら、このロリコン骸骨は人を絵に描き込むことで、その人間の存在そのものを絵に取り込む力を持っているらしい。ていうか、追い詰められすぎじゃないかな? 態々自分から能力をゲロるなんて。

 

「……」

 

実にあっけない種明かしに、若干拍子抜けだけど、まあ、仕事がさっさと済むのは悪くないか。ちらっと所長に目配せをすると。此方も此方でにまーっとした御得意のチェシャ猫の笑みを浮かべた所長が、薄ら笑いのままこくりと首肯してきた。

 

「牛太郎さん」

 

「あ? !?」

 

不意討ちで本名を呼び、間抜けにも無防備に上げられた頭蓋骨に向けて力任せに拳を叩きつける。

 

「がっ!?」

 

軽い感触と共に骸骨は数メートル吹っ飛び、地に落ちた筆とスケッチブックが、からからと音を立てた。

 

「あ、ああ」

 

大の字になりながら、もぞもぞと立ち上がろうとする"第一五小のレオナルド"の前に、所長が「さて……」と進み出る。

 

「そろそろ、このクソダサペンネームにも飽きたし、石水無月ありさちゃん解放の条件の御開帳といこうかな☆」

 

「わ、分かるんですか!?」

 

所長のその言葉に、僕と所長の丁度間に挟まっていた雪村ちゃんが、瞠目と共に身を乗り出した。細い両腕の何処にそんな力があるのか、最前列で掌型の痣の付いた白いお尻を晒す所長に掴みかかっていく。

 

「勿論♥」

 

そんな、雪村ちゃんの本気に、所長は心底楽しげにウィンクをした。

 

「……」

 

「所長」

 

「なんだい、至くん?」

 

「格好つけて……いや、全く格好ついてないですけど、格好つけたつもりになってるところあれなんですけど、此までの実績のせいで雪村ちゃんが『信じたいのに信じきれない』って顔になってますよ?」

 

「なんだって!?」

 

「いや、驚愕する所じゃないでしょ」

 

むしろ、残当でしょ。何で「そんな!?」って顔になってるんですか。

 

「要ちゃん!」

 

「ひゃぃっ!?」

 

いきなり鬼気迫る表情の人間に掴み掛かられて驚いたのか、雪村ちゃんが小さな肩をぴょんっと跳ねさせた。

 

「僕の、この猫目を信じてくれ! 僕のこの目が嘘を言っているように思えるかい!?」

 

「……」

 

何か、アホ(所長)が小学生の情に訴え始めた。無駄にキラキラした"黄昏時"と同じ緋色の瞳が、ビックリして見開かれた雪村ちゃんの目を捉えて離さないでいる。此で外見からは必死な美少女に見えるあたり、本当に詐欺だよなあ……。ま、とはいえ、

 

「い」

 

「要ちゃん。信じてくれるのk「いやあああああああああああああああ!!!!!!!!」あふん♥」

 

幾ら外見は美少女とはいえ、むせ返る様な邪臭……というか、露骨なスケベ心に、当然の如く雪村ちゃんのキレの良いビンタが飛んだ。きりもみしながら吹っ飛ぶ所長。明らかにそんな威力はないだろとか、細かい理屈を抜きにぶわりと舞うゲス極まりないTシャツ。すぽーんと露になる白い裸体。ぶるんっとおっぱいを振りかざし、完成された未熟な体躯という矛盾を綺麗に内包したそれが、緋色の世界に変態の執念の結晶を見せつけ、

 

「う、うう?」

 

「はひんっ♥」

 

よろよろと起き上がった骸骨の顔面を、パイパンの股間で押し潰したのだった。……きったない絵面だなあ。

 

「ふんっ!」

 

何とか顔面騎乗位から逃げ出そうとする骸骨の上で、所長は両拳を女握りにして、踏ん張った。所長曰く"股間のガイア"が無駄に力強く光輝いた。

 

「因みに、この"ガイア"とは"ガイア"=地球から、地球と恥丘を掛けた高度なギャグでね」

 

「やかましいわ」

 

この下ネタマシマシのセンスって、実は骸骨のクソダサペンネームと酷さじゃどっこいどっこいなんじゃないかなあ。

 再び、緋色の廊下に、所長のけらけらという笑いが響き渡った。ふと見ると、雪村ちゃんの方もこの緋色の光景に大分慣れてきたのか、少しだけだが顔を綻ばせている。と、

 

「おおっ!?」

 

不意にプルプルと震えた所長が変な声を上げて……いや、

 

「おいおい、流石の僕でもドクロをバイブにオナる趣味はないぜ?」

 

震えていたのは、そう言って立ち上がった所長の股間の下の骸骨の方だった。

 

「ま、まさか……」

 

「あー、これは」

 

「まさかっ!!!」

 

「ふむ、どうやら、漸く気付いたみたいだね」

 

「ですね……」

 

御愁傷様と、僕は内心で合掌した。というか、股間の匂いでソレ(・・)を判別できるって、こいつ(クソダサ骸骨)も大概変態だな。

 

「むしろ、ロリコンの必須技能だぜ?」

 

「……」

 

したり顔の所長に、普段なら拳骨を落としている所なんだけど、こうやって実際に見せられるとなあ……。

 

(世の中って広い……)

 

僕は、思わず内心で呻かずにはいられなかった。

 

「っていうか、ロリコンなんですか?」

 

美少女狙いの誘拐魔ってあたり、予想できることではあるけど。

 

「ああ」

 

「全肯定ですね」

 

「まあ、彼は生前がそもそもあれだからね」

 

「生前ですか?」

 

"あの世"の住人の中には"この世"から何らかの理由でそっちに行ってしまった者が少なからずいるが、こいつは死んだ直後に"あの世"に行くという、比較的スタンダードな移動をしたらしい。

 

「ああ。佐藤牛太郎。五十年以上前のこの第十五小で図工の教師として教鞭を取っていた」

 

「ふむ」

 

「そして、生徒の一人に手を出して、そのまま自殺。所謂無理心中を小学生相手に敢行したらしい」

 

「普通にクソ野郎じゃないですか」

 

確かに、それはロリコンだ。しかも教師で強姦魔。

 

「き、貴様!」

 

その強姦魔がかっと目を見開いた(気がした)。

 

「そんな見た目で偽っているが!」

 

って、まさか……。

 

「本当の性別は男だなっ!?」

 

「う わ あ」

 

本当に嗅ぎ分けやがったよ、この骸骨。

 

「穢らわしい! 一見、私の芸術に相応しい美少女に扮しておきながら、その実、男の魂を私に描かせるなどと!!!!」

 

所長が穢らわしいってのは全面的に同意するけど、そもそもロリコン強姦殺人魔に言われたくねーよ。しかも、股間の臭いで性別嗅ぎ分けるお前も十分に穢らわしいからね? 普通に雪村ちゃんドン引きしてるじゃん。

 

「やれやれ、やっと気付いたか。ほんと、才能がないだけじゃなくて、観察眼も鈍すぎる上に、直接くんかくんかしないと僕の正体すら分からないなんて、感性鈍すぎじゃないかい? そうとも! 我が名は、六伏コラン! 正真正銘、男の魂を持った、世界一可愛い魔法少女さ!!!」

 

お前はお前で、少しは悪びれろと。別にその骸骨擁護する訳じゃないけど、直接臭い嗅いで性別判定するだけでも頭おかしいのに、遠くから臭い嗅いで判断しろとか、ハードルが天元突破だからね? その上、いざ嗅いでみて、美少女だと思ったら実は野郎って普通に悪夢だよ?

 

「それは、勝手に勘違いしたそいつが悪いね! そもそも僕は自分を美少女にはだとは言ったが男でないとは一言も言ってないぜ?」

 

いや、美少女なんじゃないの? うん? 僕がおかしいのかな?

 

「僕の相棒ならば覚えておきたまえ、至くん。美少女に性別なんてないのさ!」

 

脳味噌が審議拒否致しました。

 

 

 

おえええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……

 

 

 

所長の戯言が続くなか、そんな声が響いた。食道も胃袋もないくせに器用だとは思うけど、五月蝿いなあ。

 

「至くん」

 

「ん?」

 

「前から知っていたけど、至くんは、結構他人に冷たいんだねえ」

 

「ま、他人なので」

 

まして、こいつは始末するだけだし。

 

「んふふふふふふふふ♥」

 

何か、急に笑い始めた。嫌な予感しかしないんだけど。って、おい。

 

「その分、僕には結構優し「それ以上言ったら……殺しますよ?」

 

全身全霊をかけて、僕の尊厳を守りにいきますよ? 僕はホモじゃないので。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……ごめんちゃい」

 

「……ふぅ」

 

まあ、良いけどさ。それよりも、

 

「で」

 

「ん?」

 

「結局どういう事なんですか? 所長の言う"あの世"の力なんて殆ど感じ取れない筈の僕が、所長の"目"を借りなくても肉眼で見ることが出来る力なんて、相当強力だと思うんですけど」

 

「ああ、それかい?」

 

頷いた所長は、にゃっと得意のチェシャ猫の笑みを浮かべて、何の事はないよと肩をすくめた。

 

「そこの、選ロリ戦闘力ゼロの糞雑魚ロリコンは、力を行使するためにごちゃごちゃと細かい条件を満たす必要があって、さっきの力はその条件を満たせていなかったのさ」

 

条件?

 

「ああ、そうだとも♪」

 

頷いた所長はぴっと人差し指を立ててきた。

 

「そもそも、幾ら力が強くても、他人の記憶ごと存在を連れ去るのは相当に難易度が高い話なんだぜ? 少なくとも、天狗とか鬼とか、そのレベルじゃなきゃ不可能だ」

 

「ふむ」

 

「勿論、中には人間から鬼に成り果てた奴も居るから一概には言えないけど、明らかにこの人間としてもロリコンとしても半端な糞雑魚が手に入れられる領域の力じゃない」

 

「比較対照を考えると、確かにそれは思うな」

 

「だろう? 実際、僕もこのクソダサペンネームが現れるまでは、鬼とかそっち系を想定していたんだけど、出てきたのは明らかに力の割には小物な精神の亡霊だった。勿論、この小物は真っ昼間に"黄昏時"を呼び出せるだけの力はあるんだけど、それと記憶ごとの連れ去りとの間には、まだ何枚もの壁がある。と、いうことはだ」

 

「ああ、そういう」

 

成る程。所長が言わんとすることを考えると、確かに所長を絵にするのは、少なくともさっきの骸骨には不可能だ。

 

「うん。正解」

 

僕の答えは当たりらしく、所長もにんまりと頷いた。

 

「こいつの力は、相当に厳密な条件をクリアしないと、行使することが出来ないということさ☆」

 

あっけらかんと言い放った所長は、未だに失意体前屈をしている骸骨を、心底愉しそうに「ロリコン力2! ぺっ、雑魚め!」と馬鹿にしたのだった。しかし、

 

「ロリコンに、ロリコンとして半端者と見下されるのは、むしろ、社会的には正しいことなんじゃないかな」

 

「それは、現代社会が間違っているだけさ☆」

 

相変わらず、人生楽しそうな所長はけらけらと笑って、くるくると柔らかくターンをする。腰まである長い銀色の髪流れ、赤色の光の中を綺麗な燐光が舞って見えた。

 

「ロリコン力2は冗談にしても、君は芸術家としては落第だぜ? 佐藤牛太郎? お前は自分が何で僕の事を絵に出来なかったか理解しただろう?」

 

未だ俯く骸骨を甚振る様に、その後頭部を足蹴にして心底楽しそうに目を細めた。まあ、所長でなくてもそう言いたくもなるか。

 

「君は見誤った。芸術家だと、天才だと嘯いたその肉体で、この僕、六伏コランの存在の一端すら取り違えた。それこそ、その力、"絵に描いたものを絵に存在全て取り込む"力を使おうにも、それが機能しない程にね。はっきり言って、僕が男だっていうのは、所詮は表面上の事さ。だけど、君はその表面上の事にすら気付かなかった。体臭嗅げば一発で分かる程度の事すら見誤ったんだ、写生物の本質なんて、掴みようもないに決まっている」

 

ぐりぐりとその髑髏を踏み躙りながら、所長は「勝利のポーズ!」と嬉しそうに赤い天井を指さしている。いや、流石に油断しすぎでしょ。

 

「いやいや、もう大丈夫だよ。こいつはもう駄目さ」

 

そう言って、肩を竦める所長。何か、根拠が?

 

「何、ロリコンの気持ちはロリコンにしか分からないってだけさ。考えてもみたまえよ。自分がこの世で一番大好きな美少女の裸を見れる、今この薄布一枚を引き千切れば、そこのには溢れんばかりの未熟な花園が待っている! そんな気持ちで美少女をレイプしようとしたとするだろう?」

 

「まず、例えにレイプが出てくるのが可笑しいですけど、それで?」

 

「さあ、早速むしゃぶりついてやろうと思ったその瞬間、股間にエイリアン型のおっきくなったりちっちゃくなったりイカ臭かったりするアレが付いていた時の絶望感! ……うん、想像するだけで悍ましい。僕だったら一発でインポになっちゃうね。断言するよ」

 

「いや、あんた付いてないでしょうが」

 

「心のチンチンがって事さ♪」

 

「さよで」

 

うん、まあ、気持ちが萎えるってのはあるか。

 

「そうだね。萎えるってのは良い表現だ。勃起不全を正確に言い表している」

 

「そっちの意味は込めてねーよ」

 

「あれ? でも、"ちんちん萎びる"の"萎びる"って、"萎える"って書くよね?」

 

「仮にそうだとしても、その意図は込めて、ってか、所長は思考共有あるんだから気付いてるでしょうが」

 

「うん。分かってて、下に走ったとも♪」

 

「胸張って言うことじゃないでしょーが」

 

「いやいや、ちゃんと意味はあるぜ?」

 

「……あんま、聞きたくないんですけど」

 

「至くんは巨乳大好きで、チビでおっぱいの大きな僕はアンバランスで下品なトランジスタグラマーだろう? だから、日々おっぱいを強調しておっぱいアピールすることで、大切な相棒である至くんにより良い職場環境を提供しようという、所長の粋な心遣いなのさ♥」

 

「聞きたくないって言いましたよね、僕」

 

あー、心なしか雪村ちゃんの目が冷たくなってるし。

 

「ボーナスでパイズリくらいなら、考えても良いよ?」

 

「せんでいいから」

 

つか、あんた、ちんこ嫌いじゃなかったのか。

 

「おいおい、僕がその程度で萎えるほど、柔なロリコンだと思ったのかい? 百年前に自分の股ぐらで常時エレクチオンしてカウパーだらだらな黒光りするエクスカリバーが鎮座してたんだぜ? 全くもってどうということないね♪」

 

ほんの数秒前に言ったことをあっさりかなぐり捨てるなよと。というか、その蛇口の閉まりが悪いポークビッツはさっさとごみに捨てて、アーサー王に土下座してきてください。

 

「大丈夫大丈夫。濃厚なNTR小説の主人公だから、興奮でちんちん鬱勃起させてるに決まってるさ♪」

 

「いや、NTR趣味はどっちかって言うとチンギスハーンじゃないですか?」

 

「それに、女体化してエロ同人量産されるのと、NTR呼ばわりどっちがましだろうか?」

 

「風評被害甚だしいですね」

 

結論、どっちも酷い。

 

「話を戻すと、ロリコンはロリだと思ってショタとかいう、トラップを踏まないように、何よりも観察眼を重要視する。それは、この僕も例外じゃない。僕が"見る"魔法に長けているのも、それが理由さ」

 

「今明かされる、最悪の真実ですよそれ」

 

【悲報】所長の残留思念や記憶を読み取る魔法、男の娘を見分けるためのものだった。

 

「そして、このクソダサペンネームロリコンはその基本中の基本が出来ておらず、ロリを描くという精神状態で、よりにもよって男の僕を描いてしまった。ロリコン絵師として、心のちんぽこ中折れ不可避さ。だろう? 生前、自分の生徒を二人も犯して、事がばれる前に別の生徒と無理心中した佐藤牛太郎三十四才独身さん?」

 

「予想以上に、そいつも糞野郎ですね」

 

つか、さっきの説明より悪化してるじゃん。

 

「美少女だと思って、男を描いたこいつは、トラウマで美少女を被写体にすることはできない。かといって、ロリコン絵師は美少女以外は、そもそも描けない。よって、こいつは」

 

「もう終わりと」

 

「そ。まあ、少なくとも二度と絵を描くことは不可能だね」

 

そう言って、肩を竦めた所長は、「さ、いよいよ最後の詰めだ。石水無月ありさちゃんを解放させよう」と微笑んだ。いや、何その視線……って、ああ、そういうことですか。

 

「頼んだよ。至くん」

 

「まあ、仕方ないですね」

 

その為に高い給料もらってるんだし。

 僕が頷き返すと、所長はぐりぐりと髑髏を踏みつぶしていた足を退け、糞強姦ロリコン骸骨の胸倉を掴み上げた。

 

「さて、佐藤牛太郎。君には最後のチャンスを上げようじゃないか」

 

「う……あ?」

 

かたかたと揺れながら呻く犯罪者に、所長はにぃっと口角を釣り上げた。

 

「君が誘拐した、この雪村要ちゃんの親友、石水無月ありさちゃんを今この場で開放するのであれば、僕と至くんは直ぐにでもこの場から立ち去ろう。その後は君は好きにすればいい。ヘタレロリコン道にケツ道を上げるなり、このままインポで引きこもるなりね。但し、これに頷かないのであれば、僕達も相応の手段を取らせてもらうよ。どうするかな?」

 

ま、交渉の余地はないよね。犯罪者に取引なんて持ちかけるだけ無駄。"あの世"の住人なら更に無意味だし。所長の視線も実に覚めたもので、始めから期待の色は欠片もなかった。

 

「……わ」

 

「うん?」

 

「……た、め」

 

そして、当の骸骨は俯いたままぽそぽそと何かを口にしている……。

 

「所長」

 

なんか、余り良い予感がしない。咄嗟に呼びかけると、所長は視線で雪村ちゃんの方を見てきた。僕はその視線の指示に従い、骸骨と雪村ちゃんの間に立った。

 

「……るな」

 

そして、それとほぼ同時に立ち込めた濃密な殺気。先の所長に向けられた濁流に勝るとも劣らないそれに咄嗟に雪村ちゃんを突き放した。

 

 

 

「私を! な、舐めるなあああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 

絶叫。

 先の所長の言葉通り、殆ど肝の方が死んでいたはずの佐藤牛太郎が、しかし、先の絵筆を右手に再び黒い眼孔に強い殺気を爛々と輝かせていた。その視線の先には所長が、いや、これ、まずいって。ていうか、

 

「あっさり、ロリコンの拘り捨ててるじゃないですか」

 

ちらりと見えたスケッチブックの中身には、明らかにさっきの駄作と比較してはっきりと所長と分かる人物が描かれていた。いや、普通に考えれば、そっちの方が可能性高いのに、普段所長と居るせいで、ロリコンが美少女の絵以外を書けないなんていう穴だらけの理屈を納得しちゃっていた。っていうか、そこの所長(バカ)は「あれ~?」じゃないんですよ!。明らかにヤバイじゃないですか。煽ったせいで真っ先にターゲットじゃないですか。今度は男だってバレてるんですよ?

 

「いや~、不味いね。どうしよう」

 

「さっさと逃げてください」

 

「全く、此れだから10㎞先の美少女すら判別できない、半端物は始末に悪い!」

 

言ってる場合ですかこの変態は。ああ、もう。

 

「っ!」

 

先に距離を取らせていた雪村ちゃんと、所長を先行させる。少なくとも所長が居れば雪村ちゃんが"黄昏時"に呑まれる事はない筈だ。逃げる二人の姿を覆い隠す様に、骸骨の目の前を走ると、背中に強い衝撃を感じた。

 

「ぐっ!?」

 

焼け爛れる様な不快感。伝熱線のライターに肉を押し付けたような感覚に、思わず顔をしかめてしまう。

 

「至くん!?」

 

先を走る所長が、「想定外!?」と顔色を変えたのが見えた。いや、気分が悪いは気分が悪いですけど、そこ(・・)までではないですから。十分に想定の範囲内ですから。それよりも、早く先に行ってください。でないと、僕も逃げられないんですから。

 

「オッケ、任せたよ!」

 

「あー、はいはい、任されました」

 

そんなに心配…は、してないんだよね。むしろ、全然。何て言うか、所長の思考は本当に言葉通り。任せるとしか思っていない。

 

「まあ、そんなもんだよね、普通」

 

男同士、まして、僕なら抑え込める、そう思っているなら、掛ける言葉はそんなもんだろう。そのくせ、案外信頼は感じるんだから、中々どうして反応に困るというもの。悪い気分じゃないけどさ。

 

「さて、其じゃあ、さっさと片付けようか」

 

振り返ると、第一五小のレオナルド様様が、ギリギリと歯軋りをしながら、再び絵を書きなぐっている、十中八九、中身は僕の絵で……ん?

 

「そう来たか」

 

再び向けられた一枚のスケッチには、半分は僕の、そして、もう半分にはにまにまとした笑みを浮かべる銀髪の(見た目だけ)美少女。

 

(僕と所長を同時に括る気か)

 

さっき、この骸骨は雪村ちゃんと石水無月ちゃんを同じ絵に描こうと言っていた。それと同じことを、今回は僕と所長にやろうとしているのだろう。

 

「行かせるわけには、いかないんだよね」

 

所長一人だったら、少し位の取り残しは、まあ、愛嬌()で済ませていたかもしれないけど、今は雪村ちゃんがいる。

 

「と、なるとなあ……」

 

悲しいかな、僕はあまり選択肢が多い方じゃない。むしろ、かなり少ないと言ってよく、この骸骨を止める方法も思い付くのは一つだけだ。正直、やりたくはない。けどまあ、

 

「死ねえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」

 

あの、ネーミングセンスゼロの殺気を見るとやらないわけにもいかないわけで。スケッチブックから膨れ上がった魔力は魔法の才能ゼロの僕ですら、その異様とおぞましさに身震いしたくなるほどになっている。一般人の雪村ちゃんはおろか、あの所長でも、これは直撃したら一堪りもないだろう。

 

「やれやれ、仕方ない……か」

 

邪念の濁流がぷつっとスケッチブックからパージされ、轟音と共に迫り来るのを見ながら、僕は腹を括ることにした。汚濁の真正面に立つと、真っ直ぐに迫り来るそれを正面から受け止めた。瞬間、全身に走る激痛と見分けの付かない熱量と、脳髄を犯してくるおぞましい感情。その二つに、体と心の両方をぐちゃぐちゃにされながら、僕は深くため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

(と、至くんは上手くやってくれたみたいだね)

 

 自身の使い魔が、あの変態のなり損ないの絵を受け止めたのを感じながら、コランは手を引いている依頼主の雪村要に気づかれないように、ひそとほくそ笑んだ。

 あの、骸骨の地力は驚く程ではないが、力の方は手順が面倒臭いだけあって、相応に厄介な出力を兼ね備えていた。恐らく、対象物の本質を捉えたスケッチをすることで、その存在を因果ごと絵に閉じ込め永遠の存在とする。偏執的で変態的な、実に幼児強姦殺人犯らしい力だ。厄介なことに、相対しての攻撃手段としては多少遅いが、条件を満たせばその対象を即死させられる類の呪いとしては十分に早すぎる。最初の一回目は相手が条件を満たせず、二回目は至が受け止めた。

 

「ナイスだ、至くん♪」

 

六伏コランは、あまり直接戦闘が得意な魔法使いではない。どちらかと言えば、テレパシーや残留思念の読み取り、千里眼等、特殊技能を得意としている、その為、本来、あの呪いを受ければ一溜りもないないが、使い魔となった相棒(鈴笛至)のお陰で、問題なく雪村要を一時避難させる余裕が出来ている。

 

(やっぱり、至くんは最高の拾い物だったね♪)

 

あの日、本人も言っているが、実にらしくもなく自分の事を助けた相棒の事を思い浮かべながら、コランはくつくつと笑みを深める。

 

(さて、それじゃあ、僕は僕の役目を果たすかな)

 

使い魔が足止めをしている間に、現状、足手纏いにならざるを得ない隣の少女を一旦戦線から離脱させてしまう。とはいっても、"黄昏時"から追い出してしまう訳ではない。あの骸骨が捕らえた石水無月ありさを引っ張り出す釣り針である以上、手元から話すわけにはいかないのだ。コラン自身はあまり無いとは考えているが、もし、あの骸骨に仲間がいた場合、彼女を手元から放してしまっていた場合、守り切れない危険が付いて回る。故に、取る手段は一つ。

 

「さ、要ちゃん。一寸良いかな?」

 

「はぁ……はぁ……な、なんですか?」

 

骸骨から逃げるために只管走り通しだった彼女の方が、息を切らしながらその場にへたり込んだ。

 

「一気に走って疲れているところ、申し訳ないが、僕は至くんの所に戻らなくちゃいけない」

 

「! 鈴笛さんに何かあったんですか!?」

 

コランがそう告げると、はっとなった雪村要が身を乗り出してきた。

 

「いや、そうじゃないよ。予定通り。そして、想定通りに事は進んでいるとも、至くんは優秀だからね」

 

「優秀……ですか?」

 

「おや、信じられないかい?」

 

「……」

 

コランがくつくつと笑いながら問い返すと、少しきつめの美少女は言葉に困った様子で黙り込んだ。

 

「……別に、悪い人だとは思いません」

 

「女性らしい言葉の選び方だね」

 

「やっぱり女の子は、小学生でも女なんだねえ」とコランは苦笑した。

 

「ま、あの通りの風貌だ。確かに至くんは切れ者ってタイプじゃあない。けど、その人間の力量や真価が常に頭の回転にあるっていうのは、一寸モノの見方が狭すぎるとしか言いようがないぜ? 元々、人間の価値なんて他の動物同様腕力が第一で、頭の回転が最重要視されるようになったのなんてつい最近の事なんだから」

 

「じゃあ、鈴笛さんは喧嘩が強い人なんですか?」

 

「残念ながら、それも一寸違うね。マスターである僕が直接攻撃系じゃないように、至くんも直接攻撃はあまり得意じゃない」

 

「じゃあ、一体……」

 

困惑する、まだレディになり切っていない少女の仕草に、百年を生きた自称大魔法使いはふっと表情を綻ばせた。

 

「まず、一つ前提がある。戦闘は何も相手を破壊することが絶対の勝利条件じゃない。特に今回の要ちゃんの依頼の様に、誰かを助けて欲しいという依頼の場合は、『犯人は無事殺処分。しかし、囚われた被害者は死亡確認』とかじゃ話にならない訳だ。そういう依頼の場合、単純に破壊するよりも、取り押さえる方面に特化した使い魔の方が効率が良い場合がある。至くんは、そういう意味では僕が知る限り最高の『盾』で『鎖』で『追跡者』さ」

 

「……」

 

「さて、話を戻すけど、至くんは敵を拘束する事までは出来るんだけど、如何せん敵を甚振ったり、その心を壊したりっていうのには性格面は兎も角、能力的には向いていない。そっちは専ら僕の役割でね」

 

「え……」

 

コランの口から出た物騒な言葉に、一瞬虚を突かれたのか、雪村要が僅かに目を見開いた。しかし、コランの方はそんな少女の驚きを無視して、ぺらぺらと話を続ける。

 

「あの手の封印系は心を折らないとダメなんだよね。大抵は。心を折って、一旦拘束そのものを弱めた後、不完全な封印の原因を使って封印された相手をこっち側に引き戻す必要がある。その為には要ちゃんがありさちゃんを助けるのには絶対に必要なんだけど、あの骸骨の心を折っている途中では傍にいてほしくない。変な最後っ屁で君が襲われたらそれこそ本末転倒だからね。ここまでは良いかな?」

 

「あ、はい……」

 

「うん。いい子だ。おじさんが花丸を上げようじゃないか♪」

 

頭がまだ付いていかない中でこくりと頷いた雪村要に、コランはくるくると花丸を描く。そして、

 

「と、いうわけで……これを着たまえ☆」

 

やおら立ち上がると、自分が着ていたYESロリータ!GOタッチ!のTシャツを脱いで雪村要に差し出したのだった。

 

「……………………は?」

 

緋色の廊下に響き渡る、長い沈黙の末の「は?」。冷たいその声音に、しかし、変態コランの方は実に楽しそうに、むしろ嬉しそうに「はい♥」と全裸のまま、もう一度自分が脱いだTシャツを突きつけた。

 

「……」

 

「……」

 

「何の意味があるんですか?」

 

「お、論理的な反論を行おうとしたね? 中々にポイント高いじゃないか」

 

「所長さんが真面に話をする気が無いのは分かったので、せめて理由だけでも把握しておこうかと思ったんです」

 

「おや、色々と諦められてるのかな?」

 

「それは、自分の胸に聞いてみてください」

 

「僕のおっぱいに? ふむ……」

 

六伏コランは自分のおっぱいを揉み、乳首をコリコリした。六伏コランは30の快感を得た。

 

雪村要のビンタ。六伏コランは12のダメージと100の快感を得た。

 

「ま、要するに、僕と至くんがあの骸骨の心を折っている間に要ちゃんに現場に来られちゃ困る。だけど、待ってもらっている間に他のあの世の住人に襲われたら今度こそ助けようがないかもしれない。だから、その間はこの認識阻害を掛けたTシャツを着て待っていてほしいんだ。僕の愛用物だからね。馴染んだ認識阻害も相応に強力だし、何かあったら僕に知らせてくれるからね♪」

 

そう言って、ぷっくりと膨らんだ乳首をびくびくっと震わせ、とろとろと白い母乳を零しながら、コランはにっこりと微笑んだのだった。

 

「……」

 

「……おや? どうしたんだい? 僕のおっぱいを見詰めて。もしかして吸いたいのかい? 要ちゃんみたいな美少女の授乳希望なら僕は二十四時間三百六十五日受け付けているからいつでも言ってくれ。それとも、自分のおっぱいが大きくなるかとかそういう心配かな? なら大丈夫。ちゃんとご飯食べて、ちゃんと運動して、ちゃんと一杯寝てたら立派なおっぱいに育つから♥」

 

「いえ、もうなんか、色々と諦める気になったってだけです」

 

そう言って、深い深い溜息と共に、雪村要は全裸のコランから最後の衣服(Tシャツ)を受け取った。

 

「着心地はどうかな?」

 

「……匂いが甘ったるいです」

 

「辛辣だなあ♥」

 

雪村要の視線を受けて「僕のミルクが染み込んでいるからね♥」と、コランはけらけらと笑った。

 

「じゃ、僕はそろそろ行くから、此処で待っていてくれ」

 

「分かりました」

 

頷いた雪村要に、助手の手形の付いた白いお尻を向けたところで、コランがふと立ち止まった。

 

「? 何か?」

 

「言い忘れたけどもう一つ、要ちゃんは気が付かなかったみたいだけど、至くんはあれで結構ゲスい性格しているぜ?」

 

自分の言葉に難しい顔になった小さな依頼者を見て、コランはくすくすと

 

「まあ、まだ小さな君には分からないだろうけどね」

 

「子ども扱いしないでください」

 

「残念ながら、まだまだ子供さ。至くんの力、その本質に気付けないならね。僕が何故、彼を僕の唯一の助手にしたのか……それは、至くんの持つ怠惰性。自分への痛みすら、面倒の一言で切って捨てる痛覚に対する鈍さと強さ。おおよそ、壁役としては最高のスペックを誇る。何よりも、他人という奴に酷く冷淡で感情を向けることすら面倒臭がる」

 

「それ、普通にダメな人じゃないですか?」

 

「だが、常に敵が周りに居るなら決して悪くない性格だ。僕が何百何千と、"あの世"や"この世"の住人を壊そうが、ピクリとも気にしないだろうからね♪」

 

「……」

 

コランの説明に今一納得がいかないのか、雪村要は難しい顔になった。

 

「ロリコンとして教えておこう。良いレディの条件は、良いパートナーを見極める目を持つことだ。男でも女でも、老人でも幼子でも構わない。だが、運命の人が現れる。君の前にも……ね」

 

「……所長さんにとっては、それが鈴笛さん何ですか?」

 

「勿論♪」

 

コランは即答した。

 

「至くんの特性は、僕という魔法使いとっては最高の相性と言って良いからね。それに」

 

「?」

 

「何事にも冷淡で淡白だけど、僕"だけ"には少しだけ優しいからね♥」

 

「じゃ、そろそろ行かせてもらうよ☆」と笑い、踵を返した全裸のコランが、ブラジャーも着けていないおっぱいをばるんばるんさせて走り去った。

 

「……え? 優しい? あれで?」

 

後に残った雪村要の、至極真っ当な疑問が緋色の廊下に残ったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

―ああ、熱いな……皮膚が全て沸騰した金属にすり替えられたみたいだ―

 

―それに、胸のムカつきも治まらない―

 

―苦しい、気持ち悪い、胸くそ悪い、脳髄が犯されてるみたいだ―

 

―けど、―

 

 

 

 

「面倒臭いなあ……」

 

 

 

 

 "第一五小のレオナルド"の放った呪い。それを受け止めながら、僕は思わずため息を吐いた。全身を小さなハサミで切開されて、寸刻みに肉片ごと皮を切り取られる様な感覚と、産まれてからの不快な記憶や怒り、無念を順番に引きずり出されるようなむかつきにうんざりしてきた。

 

「……」

 

呪いの汚濁の中で目を開くと、薄暗いその濁流の奥で、勝利を確信したのか「はっはっはっはっは!!!」と哄笑する犯罪者の姿があった。

 

「ふうん……」

 

明らかに油断しきった姿。自分の力に酔って、勝利を確信しているそれに、ふつと胸の中で不快感が湧いた。なんだかなあ……

 

「様を見ろ!! この私、"第一五小のレオナルド"の不興を買うということの意味が分かったか!! 貴様は私の絵に閉じ込めたあと、直ぐに火にくべて、もう一度地獄を味わわせてやる!! ……そして、自身の罪深さを噛みしめ、愚かさを嘆きながら、消滅してしまうが良い。はぁーっはっはっはっ!!!!」

 

「……」

 

耳障りだな。それ以上に、面倒臭い。けど、その更に上に、

 

「あの、銀髪の男もそうだ! この私を! 私の芸術を侮辱した上に許しがたい詐欺まで行ったあの男も! 貴様と同じく絵ごと火にくべてやろう!! それが、貴様らに出来る唯一の償いだ!!」

 

所長も狙われるんだよね。まあ、あんだけ煽ったら当然かもしれないけど、このロリコン、普通に人殺しだからなあ……。

 

「仕方ないよね……」

 

仕事は仕事。それに、まあ、色々と問題のある、というか、問題しかない人ではあるけど、これでも其なりに情はあるわけで。

 

「させないよ……」

 

全身にまとわりついた呪いの靄の中で、骸骨に気付かれないように体勢を整えると、

 

「ふっ!」

 

無防備に哄笑するどくろに、一息で飛び掛かる。全身の皮膚が引きちぎれ、頭皮から爪先までベリベリと二区を引き剥がされる様な感覚に陥りながらの跳躍。

 

「なっ!?」

 

どうやら、絶讚勝ち誇り中だった骸骨は、僕が呪いの中から出てきたのが予想外だったらしい。白衣の中のぶつかりやすい肋骨目掛けて体当たりをすると、予想通り軽い衝撃と共にすかすかの体が簡単に吹っ飛んだ。

 

「……!」

 

また、からんと落ちた筆を尻目に、左手に残ったスケッチブックをもぎ取る。自力で簡単に補充できちゃう可能性もあるけど、持たせておいて良いこともないはずだ。後は、こいつを抑えて、所長が来るのを……「な、何故だ!?」うん?

 

「何故、貴様は動くことが出来る!? その焼け爛れた体で!? そもそも、何でその体で生きている!? いや、それ以前に、何で私の絵に取り込まれていないんだ!?」

 

いや、言うわけないし、本当はやりたくもなかったし。

 

「う……あ……」

 

「有り得ない有り得ない」とぶつぶつ呟くロリコン骸骨がいい加減鬱陶しくなり、軽く黙らせようとしたけど、焼け爛れた唇が貼り付いて、口を開くのも激痛が走るな……。あ、唇裂けた。痛いし苦しいし、ムカつくし、ホント、さっさと終わらないかなぁ……。未だ、逃げようとする骸骨を都度押さえ込み、焼け焦げた皮膚の悪臭に顔を顰めながら思わずぼやいてしまった。と、

 

「ごめん、遅くなったね。至くん」

 

本当ですよ、凄く痛かったし頭の方も壊れそうでし……

 

「至くん?」

 

いや、時間かかったのはこの際置いておいて、何で全裸?

 

「要ちゃんを隠すのに、僕のTシャツを貸しちゃったからね♪」

 

明らかに自分の趣味じゃないですか。小学生に自分の体液着いた服着せるのは楽しかったですか?

 

「勿論、最高だったね!」

 

ああ、もう、何でそれで胸張るんですか、褒めてませんよ。ていうか、何で母乳噴き出してるんですか。

 

「一寸そういう気分でね。飲んでみるかい? 至くんなら僕としては構わないよ?」

 

遠慮しておきますのでさっさと助けてください。「味は保証するよ?」結構です。

 

「それは残念」

 

何で残念がるんですか。

 

「じゃ、今治すから、少し待っていてくれたまえ」

 

はいはい……。

 全裸の所長が芝居がかった動作で指を弾くとパチンという音が不思議と澄んで緋色の空間を満たした気がした。同時に、体中の激痛や胸のむかつきが解れ、体中が柔らかな流体で洗い流されたような気分になる。

 

「ふぅ……漸く痛みが引いた」

 

「お疲れ様。ごめんね? 遅くなっちゃったね」

 

「雪村ちゃんのケアしてたんでしょう? 気にしなくていいですよ」

 

流石に一々子供の評価に傷つく性質じゃないけど、反論していたのは悪い気分じゃなかったし。

 

「うん? そうかい♥」

 

「いや、何でそっちが嬉しそうなんですか。何にやにやしているんですか」

 

あーもう、なんだかなあ。

 

「そこで、素直に思い浮かべてくれるのが、至くんの良いところだと思うよ?」

 

「単に包み隠すのが面倒なだけですよ」

 

そもそも、思考まで共有しているのに、隠すなんてほぼ不可能だし。

 

「そうかい?」

 

そこ、にやにやしない。

 

「ま、そういう事にしておこう。これ以上大切な相棒に嫌われちゃったら困るからね」

 

はいはい。

 

「さて」

 

こほんと咳ばらいをした所長が、自身の最高傑作と言ってはばからないおっぱいをゆっさと揺らして、僕の下で未だにじたばたしている骸骨を覗き込んだ。ていうか、垂れてます、垂れてます。

 

「おいおい、至くん、僕のおっぱいは確かにデカメロンサイズだけど、その辺はきっちり調整して作ってあるんだから、普通の女性のおっぱいと違って垂れたりなんかしないよ?」

 

「そっちじゃねーよ」

 

母乳の方だよ、母乳の方。

 

「おっと、此れは失礼」

 

そう言って、所長は何処からともなくハート型のニプレスを取り出して、ミルクがとろとろと流れる乳首に蓋をした。いや、服着てくださいよ。

 

「さて、何故至くんが君の絵になっていないのか。君の呪いが効かないのかだったね? 頭の血の巡りが悪く、自分の芸術が自分の芸術()であることすら理解できない残念な知能しかない君に、今回はこの大魔法使い六伏コランが特別に講義をしてあげよう。お代は君の命だ。喜んでむせび泣くと良い♪」

 

なんか、普段の一割増しで機嫌よく、腕の下の骸骨に罵倒をプレゼントした。(但し、僕の切実な願いはガン無視)

 

「この大魔法使い、六伏コランのたった一人のパートナー。相棒である至くんはその特性上、魂の形が非常に"停滞"の力と相性が良い。ぶっちゃけ、物凄く"怠惰"だ」

 

「何時聞いても酷いですよね。それ」

 

というか、普通にクズだし。

 

「普通というのは社会が暫定的に都合よく定義しているに過ぎないからね。仮に"怠惰"が今の社会で評価が低くても、僕の使い魔として永遠を生きる至くんには適用されないのだ♪」

 

「はいはい」

 

何て言うか、所長も所長で無駄に度量広いよね、実際。

 

「で、この"怠惰"と"停滞"、そして"保留"は逆説、維持に非常に優秀な適性だ。そう、其れこそ、使い魔としての契約込みであれば、君のそのご自慢の呪いを真正面から受け止めて耐えられる程にね。感情も、肉体ダメージも、"停滞"の元に維持を続ける。その両腕も振り解けなかっただろう? その辺も至くんの特性さ。もっとも、激痛や不快感まで残り続けるから、まともな神経をしていたら、とてもじゃないが耐えきれない」

 

「暗に人をまともじゃない扱いしないでください」

 

失礼な。

 

「つまり、君はまともじゃない至くんを狙った瞬間にほぼほぼ詰んでいたという事なのさ。分かったかな?」

 

「真っ向からまともじゃない扱いしろって事じゃないですからね?」

 

所長が締めくくると、腕の下の骸骨が「そ、そんな……」と呆然としたのが分かった。ま、予想できないよね。僕自身、未だに半信半疑と言えば半信半疑な部分があるし。自分の性格にまさかそんな長所を見出されるとは思わなかったよね実際。

 

「さ、それじゃあいよいよチェックメイトといこうか」

 

そんな、僕の疑問符を他所に、所長が詰めの準備に入る。

 

「繋ぐんですか?」

 

「ああ」

 

頷いた所長がぺたりとその場に座り込み、僕と骸骨の頭に手を伸ばした。

 

「な、何を……?」

 

その動きに不信感を持った骸骨が呻くと所長はにまーっと、しかし、普段と違って実に酷薄な光を目に宿して微笑んだ。

 

「君には報いを受けてもらう」

 

機嫌が良さそうな声音。だけど、これも心地よい音色の中に冷たい響きと毒があった。

 

「君の呪いは相当に手順が面倒臭く、その制限の分強力だ。逆説、君自身がそれを解くことが出来るのか、僕達には分からない。そんな状態でも一度は君自身で呪いを解くように要求したけど、解かなかっただろう? なら、こっちとしては力ずくで君の呪いをこじ開けるしかないんだよね」

 

「わ、私をどうこうしたら」

 

「確かに、呪いがそのままになる危険がある。けど、こっちには要ちゃんがいる。君の呪い。他人の記憶からすらその存在を消し去る程強力なあれの中で、たった一人だけ、石水無月ありさちゃんを記憶していた。そして、その繋がりの強さ故に呪いの完成すら阻止していた。彼女が居れば、石水無月ありさちゃんの身柄を引っ張り上げるくらいは出来るさ」

 

「わ、私にはまだ他にも作品が」

 

「ああ、その事かい? そっちはそもそも無理さ。僕達じゃ助けられない。君が本当に助ける気があるとも思えない。仮に助けても、もう世間との繋がり切れちゃってる娘が殆どだろう? なら、このまま"黄泉帰らない"方がその娘達のためさ」

 

「み、見捨て「ああ、そうだとも」

 

所長の罪悪感を突こうとした骸骨の言葉を遮り、所長がこくりと頷いた。

 

「だけど、勘違いはしちゃいけないぜ? 僕達は見捨てるが、それはもう手立てがないってだけの話さ。手立てがあれば助けたし、なんならアフターフォローだってサービスしただろう。だけど、そうはならなかった。他でもない、君のせいでね。すり替えるなよ。悪いのは君で、僕達には関係ない話だ」

 

「く、こ、この!」

 

刻一刻と自分が十三段の階段を登っている事に気が付いたのか、骸骨が呻きながら再びじたばたと身を捩り始めた。あー、所長。

 

「ああ、そうだね。伸ばし伸ばしにしていても、別段面白味も無いし、すぱっと殺っちゃおう♪」

 

そう言って、所長は小さな掌を今度こそ、僕と骸骨の額に宛がった。

 

「な、何をするつもりだ!?」

 

骸骨が悲鳴を上げると、所長は実に楽し気に鼻歌を歌った。

 

「別に大したことじゃないさ」

 

そして、事も無げにそう告げる。

 

「さっき、至くんが受けた苦痛や苦しみ、心身両面余さず、君に追体験させてあげるだけだとも♪」

 

「なっ!?」

 

「正しく、"報い"だろう?」

 

そう言って、絶句する骸骨を見下ろしながら、所長はけらけらと笑い声を上げた。

 

「至くんの身体は非常に頑丈で、君の呪いの事も全て記憶している。そしてその記憶を僕が取り出し、今から君の身体と心に同じものを練り込んであげるという訳d「や、やめ」ん?」

 

「やめてくれ!? 私は! あんな悍ましいものを受けたくない!?」

 

「ああ」

 

形振り構わず、泣きわめく骸骨に、所長は実に、実に楽し気な笑みを浮かべた。

 

「い や だ よ。そんなの」

 

そう言い切ると、今度こそ、その小さな掌に青い光が宿る。

 

「そもそも、当六伏探偵事務所は美少女からの依頼しか受けていないんでね。ブサイクで、男で、大人の君は全てにおいて対象外さ」

 

その辺は割とあんたが言うなだけどね。

 

「それに」

 

 

「僕は君の事が純粋に嫌いなのさ。ロリコンとしてとかそういうのなしに僕の相棒に与えた苦痛くらい、がたがた言わずに受け止めたまえよ……男だろう?」

 

「……」

 

僕は何となく面映ゆい気分になりながら、

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

骸骨の絶叫が何時までも何時までも緋色の世界に響くのに耳を傾けたのだった。

 

 

 

 

「さ、出て来たね」

 

 数分後、絶叫を止め、かたかたと震えるしかなくなった骸骨の右手に、所長の言葉通り一本の筆が出てきた。

 

「これが彼の妄執。心残りの形さ」

 

「筆なんですね」

 

「みたいだね」

 

頷いた所長が細い手からそれを毟り取る。

 

「正直、やった事を考えたら女の子の何かが出てくるかと思ってました」

 

「恐らく、そっちは副次的なものだったんだろうね。肥大した自意識と承認要求の中で、自分より弱いものに鬱屈した暴力性が向いた」

 

「だから、こっちがスタートですか」

 

使い古したそれには、確かに骸骨の努力の痕が見えたと言えば見えたかもしれない。まあ、

 

「この程度の事で殺された美少女達はさぞ無念だっただろうね」

 

「ま、でしょうね」

 

頷き返し、僕も立ち上がる。

 

「で、此れを壊すんですか?」

 

亡霊の方は既に肉体も人格も壊れていると言って良い。けど、まだ雪村ちゃんの親友の姿はこの緋色の廊下には現れていなかった。

 

「確かに壊すんだけど、直接的に折る感じじゃないね。どっちかって言うと、気力を搾り取るイメージだし」

 

「ですか」

 

「ああ」

 

頷いた所長が少し考える様に顎を撫でた。

 

「"あの世"の物っていうのは、住人と同じ様に、精神的な要素が非常に強く出るんだ。だから、物を壊すと言っても、物理的な破壊は殆ど効力を発揮しないし、逆に心の持ちようで結果も大きく変わる特性がある。この筆は主人が居直り開き直りの自己顕示欲型だったせいか、多少折った程度じゃどうにもならなそうだね」

 

「じゃあ、どうやって?」

 

「そうだねえ……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……あ、そうだ」

 

少し首を傾げた所長が何かを思いついた様子でポンと手を打った。

 

「妄執を砕くには、概ね一番嫌なことをさせるのが常道だ」

 

「ふむ」

 

「なので、精液をこの筆に含ませよう」

 

「おい」

 

僕は思わず突っ込んでいた。ていうか。筆を精液に漬け込むって?

 

「ついでにこいつのスケッチブックにザーメンで絵の一つも描いてやったら、もう一発だね」

 

「待った待った待った」

 

なんかもう、この時点で嫌な予感しかしないんだけど。

 

「ちょ、所長?」

 

「何だい? 至くん」

 

「本当に、其れしかないんですか?」

 

「少なくとも、この骸骨の筆の思念を読み取ったら、一番嫌なのはそれだったね」

 

「このロリコンが……」

 

ほんの少しでも才能の無さに鬱屈した物を抱えていたことに同情した僕が馬鹿だった。っていうか、

 

「じゃあ、もう一つ質問なんですけど」

 

「うん?」

 

「その、精液は「ああ、其れかい!!!」

 

なんか、今日一番の笑顔を浮かべて背伸びをしてきた。っていうか、近いです。

 

「まず、この場には現状至くん以外にザーメンをどぴゅどぴゅ出来る人間が居ないだろう?」

 

「所長は男だけど身体は女ですからね」

 

「勃起くらいはクリトリスで出来るけど、吐精は無理だから、どうしてもおちんちんに頼らざるを得ない」

 

「ものすごく聞きたくない分析ありがとうございます」

 

っていうことは、え? まさか、僕、この場で自慰しなくちゃいけないの?

 

「勿論、至くんにそんな事をさせるのは所長として心苦しい! もし、至くんがしたいと言うのなら、僕の身体をおかずとして提供するくらいは考えても良いんだけど、至くん、嫌だろ「絶対に嫌です」うん、至くんならそう言うと思ったよ」

 

そう言って、所長は軽く肩を竦めた。

 

「嫌がる所員にオナニーをさせたらセクハラになっちゃうからね。ここは僕が所長として一肌脱ごうというわけさ♪」

 

「セクハラを気にするなら、まず普段の言動を改めてくださいよ」

 

ほんと、割と切実に。っていうか、

 

「一肌脱ぐ?」

 

「ああ、そうさ♥」

 

「……」

 

何だろう、猛烈に嫌な予感がするんだけど。

 

「この場で精液が必要だけど、現状調達できるのは至くんしかいない。けど、至くんにはそんな事はさせられない!」

 

「はあ……」

 

「なら……」

 

「……」

 

「僕が射精するしかないじゃない!! 至くん! 僕にチンチンを分けてくれ!!!」

 

「……は?」

 

なんか、訳の分からない、というか、頭が理解を拒否する言葉が飛び出した。思わず固まった僕の前で、そんなこと知った事かとばかりに所長が吠え猛った。

 

 

 

 

「丸ごと飲み込め。至くんの……約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

その瞬間、所長と僕の股間が青い光に包まれる。そして、

 

「?」

 

僕の股間から、絶対にあるはずの、二十年以上付き合ってきた筈のアレの重みがすっと消え去った。

 

「!」

 

……ない。

 慌てて確かめてみたトランクスの中には、絶対にある筈のそれが奇麗さっぱりいなくなっていた。

 

「……所長?」

 

「ん? ああ、至くん。中々至くんも良いちんちん持ってるじゃないか」

 

そして、当の所長。僕の主人である筈の大魔法使いの一応見た目だけは正真正銘美少女の股間から、絶対にありえない筈の男根が隆々と勃ち上がっていた。っていうか、それって?

 

「ご想像の通り、至くんのおちんちんさ♪」

 

「……」

 

おい。

 

「うん、本当に良い形だね。これならこの絵筆に浸してコックさんくらいなら描けちゃいそうだ。ああそうそう、このコックさんは棒が一本で始まるからと言って、Cockさんでは決してないから、間違えないようにね?「そんなんどうでもいいわ」

 

僕は思わず所長の頭を引っ叩いた。

 

「え? 何? 何ですか? 今日散々相棒だのなんだの言っておいて、その相棒の相棒引っこ抜くとか何するんですか? 仕舞いには訴えますよ? 暴力に」

 

「いや、暴力て、至くん僕に攻撃は「所長がトイレに行こうとするたびに、体を抑えて漏らさせます」ゴメンナサイ、本当に勘弁してください」

 

所長は一瞬で土下座した。ていうか、土下座するならやらないでくださいよ。

 

「で?」

 

「うん?」

 

「それ、元に戻るんですよね?」

 

この際、原理とかはもうどうでも良いから、其れだけが気がかりだった。

 

「ああ、そこは保証しよう」

 

「信じますよ?」

 

「ありがとう」

 

「嘘だったら所長の尻の穴にさっきの骸骨の大腿骨ねじ込みます」

 

「あれ? 微妙に疑ってないかい? 至くん」

 

いきなり、ちんこ取られたらそうもなるわ。

 

「まあ、種明かししちゃうと、使い魔との感覚共有の延長でね、僕と至くんは互いの肉体を一時的にだけど交換したり渡したりすることが出来るんだ」

 

「それ、初耳なんですけど」

 

「普段はあまりやらないから、良いかなーって!?」

 

「今後は絶対に言ってください。じゃないと注入しますよ?」

 

「何を!?」

 

所長の眼球にこんにゃくゼリーを。

 

「無言は怖いなあっ!?」

 

というか、悲鳴を上げているところあれなんですけど。

 

「うん?」

 

「さっきから、全然ちんこ萎えてなくて、言う程堪えていないの丸分かりなんですけど」

 

うん、所長の股間のそれ、物は僕のでも、今の持ち主は所長だよね?

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……てへ☆」

 

「いや、誤魔化せてませんからね?」

 

下手すると、普段から罵倒されながら興奮してた疑惑まで出てくるんですが?

 

「仕方ないだろう!? 僕はMで至くんの事はかなり気に入ってるんだから」

 

「いや、知りませんて」

 

つか、男に罵倒されて興奮できるんですか。

 

「至くんがもしも美少女だったらって姿を想像しながら罵倒されてるからね♥」

 

「やめい」

 

怖すぎるわ。

 実際に体弄られたの見ると、何時か勝手に美少女にさせられそうだなあと僕は漠然とした恐怖に駆られずにはいられなかった。

 

「さて」

 

「ええ」

 

「僕は一寸そっちでオナってくるから、少し待っていてくれ」

 

「はいはい、行ってらっしゃい」

 

「ああ、イってくるよ」

 

やかましいわ。

 

「というか、精液に筆を浸すってそこまで効果があるものなんですかね?」

 

前段の拷問は兎も角、ふとそんな疑問を持った。

 

「ああ、勿論ばっちりさ」

 

僕の疑問に、所長はにっと笑みを浮かべる。

 

「封神演義って知っているかい?」

 

「中国の怪奇書ですよね? 西遊記とか水滸伝とかの類の」

 

「そ。あの中に、仙人の神通力を奪う描写が幾つか出てくるんだけど、その方法の一つに糞尿を混ぜたものを頭からぶっかけるって描写ある」

 

「はあ」

 

普通にやられたら嫌だけど、言葉でされても凄さは今一伝わってこないな。でもまあ、

 

「そ。元来、力っていうものは清浄ではないにしても純粋な物でね。ああいった汚物の類には凄く弱い。"邪視"或いは"魔眼"の類の持ち主は眼球を清浄に保つ必要があり、一目で他人を殺すことが出来る力でありながら、目の前で汚いセックス。まあ、スカトロプレイとかそっちを見せられると、その悍ましさに眼球が破壊されて死に至るんだ」

 

「そういうモノなんですね……」

 

何となく、所長の言わんとすることを理解する。要するに、この行動は僕が思っている以上に強い力でこのレオナルド()の魂を破壊する効果が見込めるということだ。

 

「じゃあ、今度こそイってくるよ♥」

 

「はい」

 

「至くんなら覗いても……良いんだぜ?」

 

「殆ど毎日見てるので興味ありません」

 

「それもそうか♪」

 

「何で一寸嬉しそうなんですか」

 

けらけらと笑った所長が直ぐ近くの教室に消える。ほどなくして、

 

「ふおおおおおおおおお!♥ やっぱり、銀髪巨乳トランジスタグラマーロリ美少女最高! っていうか僕の身体最高! 美少女の髪形って言ったら絶対にストレートのロングだよね! ん! 良いよその表情! エッチだよ!! 服従のポーズも無様で下品で、最高にエッチだ! ほらもうそこそんなに大きくしちゃって!! 我慢できないのかい!? ほら! びくびくしちゃって!! すっごく溜まってそうだね!! どうしたいんだい!? 早く射精したくてしょうがないんだろう!?♥ でも駄目だぜ? まだイっちゃ♥ 気持ちよくイきたかったら、たっぷりと我慢しないとね♥」

 

「あの野郎……」

 

僕の身体を使って、所長の身体をおかずにオナりやがった所長(バカ)に、グーパンを見舞う事を決心しながら、深々と溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 雪村要にとって、石水無月ありさという親友は、もしかしたら両親以上に繋がりの深い相手だったかもしれない。幼稚園の頃から、今の様に率直にものを言う性格だったことが災いしてか、雪村要は虐められてこそいないものの酷く孤立していた。そんな要に直接声を掛けたのが。

 

―要ちゃん―

 

同じ学年の石水無月ありさだった。二人は何時も一緒で、その時間が要にとっては何よりも大切だった。小学校に上がってもそれは変わらず、むしろ塾や習い事が増えて、学校だけでなく雪村要の時間は石水無月ありさとの時間となっていった。もしかしたら、睡眠の時間を除けば両親以上に顔を合わせていたかもしれない。それは、最早自身の半身と言ってもよかった。

 

「……」

 

 だから、今この場で、緋色の世界でじっと耐えることが出来た。それは、耐えることが出来たというよりは、この"緋色の世界"も、"普段の世界"も石水無月ありさが居ないのであれば、雪村要にとって、さして違いがないという事に過ぎなかった。

 あの日、偶然にも頼った奇妙な二人組。六伏コランと鈴笛至。本当にこの二人がどうにかしてくれるか分からない。けど、

 

「ありさちゃん……」

 

どんな手を使っても良い。どんな目に会っても良い。ただ、雪村要は石水無月ありさが居ない世界など考えられないのだった……。そして、

 

「あ」

 

―待たせちゃったね、要ちゃん♪ 石水無月ありさちゃんを引き上げるからこっちに来てくれ―

 

不意に脳裏に響いた声。その何処までも楽し気で、妙に悪戯っぽい声音に頷き、よろよろと何故か頭に浮かぶ道を辿って、雪村要は緋色の世界を真直ぐに歩き始めたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「いやあ、お待たせ。悪かったね、要ちゃん」

 

「ありさちゃんは……ありさちゃんは何処ですか?」

 

「そこさ。この光の奥に居る」

 

「……」

 

 そう言って所長が指さしたのは小さな青い光。元はスケッチブックだったそれは、先程所長がはたいたら、一番最初に一人の少女の姿が出てきた。

 

―間違いない。要ちゃんが思い浮かべていた親友の姿そのものだ♪―

 

そう言って笑った所長がイカ臭い絵の具をのせた絵筆で何かを書きつけると、途端にこれは発光して、こんなゲートを作り出した。

 

「さ、後は君の力次第だ」

 

そう言って、所長が促すと雪村ちゃんが不安げに所長を見返した。

 

「君が、ありさちゃんをこっちに引き戻すんだ。このゲートの奥に居るありさちゃんを。鍵になるのは思いの強さだ。残念ながら、此れは僕には出来ない。確かに石水無月ありさちゃんに性欲は持っているけど、それ以上の感情は無いからね」

 

「僕の心にありさちゃんはいない」と締めくくるのは良いですけど、その前の言葉をさあ。もっとさあ……。

 

「……」

 

そうこうしているうちに、青い光のゲートの前に立った雪村ちゃんがおずおずとその中へと手を伸ばした。細い小さな手を差し出し、何処か不安げに。ふと、何かを思いつめた様に目を瞑ると、彼女はぽつりとつぶやいた。

 

「ありさちゃん……お願い、戻ってきて。お願い」

 

「「……」」

 

「私、もう一人は嫌なの、ありさちゃんがいないと、生きて行けないの……だから!」

 

それは、一つの懇願だった。何処までも純粋で、何かに怯えた姿。ああ、そうか。

 

「彼女はありさちゃんと二人で一つ。そんな存在だったんだね」

 

「……」

 

所長の言葉に耳を傾けながら、おぼろげに彼女だけが石水無月ありさちゃんを覚えていた理由を理解した。確かに、そうでもなきゃ、両親以上に繋がりが強くなるわけがない。そして、

 

「「お」」

 

「!?」

 

僕と所長が見守る中、ゲートの奥から彼女の物と同じくらい細い腕が姿を見せた。

 

「ありさちゃん!!」

 

その感触に、直ぐにそれが誰なのかを理解した雪村ちゃんが、そう叫んで腕の奥へと抱きついた。直後現れる、雪村ちゃんより一回り小柄なボブカットの女の子。

 

「石水無月ありさちゃんですか」

 

「だね。実物は初めて見る♪」

 

その身体に抱きつき、わんわんと泣き叫ぶ雪村ちゃんと混乱しながらおずおずと彼女を抱き寄せる石水無月ちゃんを見ながら、僕と所長はそろって軽く肩を竦めた。どうやら、この依頼も終わりが近いみたいだ。

 このままずっと泣き続けるんじゃないかってくらい泣き続けた雪村ちゃんがやっと泣き止んだのは、結局、それから十分もしてからの事だった。

 

「ありがとうございます」

 

泣き枯らした声で、少ししゃくりあげながらも、はっきりそう言って、頭を下げた雪村ちゃんに、所長が「うん。どういたしまして♪」と微笑んだ。

 

「さ、それじゃ、そろそろ出ようか。"黄昏時"も御仕舞いだ」

 

そう言って所長が指を鳴らすと、辺りの赤が潮が引くように消え、後にはとっぷりと月明かりだけが照らす静かな廊下が残った。

 

「これで恐らく、君の親友、石水無月ありさちゃんの記録は全て元通りの筈だ」

 

「はい」

 

「ただ、万が一、何か困ったことがあったら、また前と同じ方法で僕と至くんを喚んでくれ。必ず力になるからね」

 

「ありがとうございます。全裸のお姉さん」

 

雪村ちゃんの隣でぎゅっと手を握っていた石水無月ありさちゃんが、少し戸惑いながらもお礼を言ってきた。まあ、初対面じゃそういう反応になるよね。

 

「いやいや、ちゃとニプレスは付けてるだろう?」

 

「世間一般では、その差は誤差としかカウントされませんよ」

 

「なんと!?」

 

「なんとじゃないですよ。何で驚いているんですか」

 

下半身は当然のように全裸だし、ほぼほぼ全裸でしょ。

 

「いやいや、ほぼほぼということは、まだ全裸ではないということさ」

 

やかましいわ。

 

「それじゃ、そろそろ僕達は行くけれど、最後に報酬の話をしようか?」

 

一頻りけらけらと笑った所長が、軽く延びをして雪村ちゃんと石水無月ちゃんを向き直り、そう言って人差し指を立てた。報酬かぁ……。

 此までの経験から、ろくな結果にならないことを察しながら、しかし、依頼内容は完璧にこなしてしまっている事実に、僕は二人に気付かれないように溜め息を吐く。

 

「はい……」

 

所長の言葉に、雪村ちゃんが少し緊張した面持ちで頷いた。子供……と言っても、本当に聡明だったこの子はこの結果に対価なしというわけにはいかないということを理解しているのだろう。或いは相当に無茶な事でも受け入れる心づもりなのかもしれない。そんな彼女を前に、にまーっというチェシャ猫の笑みを浮かべて、所長は「じゃあ、代金を言おう」と心底楽しそうに告げた。

 

「……」

 

こくりと頷いた雪村ちゃん。そして、

 

「雪村要ちゃん」

 

「はい」

 

「君の、パンツをいただこう」

 

「はい…………はい?」

 

当然のように、そう宣ったのだった。

 

(やりやがった……)

 

正直、思考が繋がっているせいで、こう言うのは知っていたわけだけど、うわ、本当に言いやがったよ……。

 直立したまま、びしりと硬直した雪村ちゃんが「冗談ですよね?」という表情になる。まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるんだけど、

 

「あ、勿論脱ぎたておパンツだよ? この場で、脱いで、渡してくれ♪」

 

この変態が、こういうことで冗談言うわけがないんだよなあ……。

 

「……」

 

顔を真っ赤にした雪村ちゃんがぷるぷると震えながら僕の方に、助けを求めてきたけど、まあ、そこは諦めてください。親友を助ける対価としては安いでしょ?

 僕が両手を上げて無理と告げると、雪村ちゃんはこの日一番の絶望の表情になった。然もありなん。とはいえ、このままじゃ埒も空かないわけで。

 

「あー、僕は一寸そっちの教室に入ってるんで、終わったら呼んでください」

 

「ん。了解だ至くん」

 

せめて、(外見が)男の僕だけでも席を外すことにする。なので、その「私を見捨てるんですか!?」っていう表情は止めてほしい。所詮サラリーマンの僕に雇い主(所長)を止められるわけないじゃないか。

 

「因みに、至くんは僕と感覚を共有できるから、席を外していても、僕が見ている限りはバッチリ見えているからね?」

 

そこ、余計なこと言わない。

 

「そして、僕は当然の権利として見させていただこう♪」

 

「……」

 

いそいそと特等席に着地した所長に、雪村ちゃんの羞恥が臨界点に到達する。っていうか、少し泣いちゃってるじゃん。前から思っていたけど、うちの所長ってMを自称しているけれど、結構いじめるのも好きなんだよなあ……。一方の石水無月ちゃんは、いきなり親友がパンツを要求されていることに、理解が追い付いていないみたいだ。然もありなん。

 

「ふうん?」

 

そして、そんな石水無月ちゃんを前に所長の顔がにまーっと更に楽しげな弧を描いた。いや、待った、それは、流石にどうかと思いますよ?

 

「もし、要ちゃんが嫌だって言うなら、僕としてはありさちゃんの方でも良いんだぜ?」

 

「!?」

 

言 い や が っ た。

 

いや、まあ、理屈上は変ではないですよ? 人命救助依頼されて、依頼主が支払いをしたくないなら、救助された人間から取り立てる。まあ、なくはない、けどさあ、

 

「うん。要ちゃんとタイプは違うけど、ありさちゃんもとっても可愛いからね。僕としては全然オッケ「待ってください!!」うん?」

 

「分かりました。私が脱ぎます。だから……だから、ありさちゃんには変なことをしないでください!!」

 

「要ちゃん!?」

 

雪村ちゃんの悲鳴に、石水無月ちゃんが不安そうに声をあげる。まあ、どう見ても体を対価に何か叶えてもらったようにしか見えないもんなあ。

 

「う〜ん、美しい友情だねえ♪」

 

あんたは少し位悪びれろ。完全に時代劇に出てくる女郎屋の主人か何かじゃん。

 

「安心してくれたまえ。僕はスケベでエッチなロリコンだけど、約束は必ず守るロリコンだ。要ちゃんの脱ぎたておパンツが手に入るなら、ありさちゃんには指一本はおろか、性的な目で見ることもしないと、この僕の肉体に誓おうじゃないか」

 

「……」

 

今一信用できるような出来ないような、そんな誓いを立てる所長に、じっと俊巡していた雪村ちゃんはとうとうデニムのスカートの奥に手を掛けたのだった。

 

「……」

 

羞恥心によって、一杯一杯になりながら、ゆっくりと引き下ろされるその姿は、たどたどしさも手伝ってかえって艶かしさすらあった。

 

「!!!!」

 

所長も同じ意見だったのだろうか、ほぼ全裸で正座した体勢のまま、無言で身を乗り出している。

 

「か、要ちゃん!?」

 

「だ、大丈夫。……大丈夫だから」

 

流石に、親友のその行動に、石水無月ちゃんが声をあげたが、雪村ちゃんな気丈にもそう言って石水無月ちゃんを安心させるように微笑んで見せている。いや、所長、そこは「美しい友情だねえ♪」とか笑ってる場合じゃないですから。完全にあんた悪役ですから。

 そうこうしているうちに、躊躇いながらも引き下ろされた雪村ちゃんのパンツのサイドが、肉付きの薄い太股を滑り降り、デニムスカートの下から姿を表す。少しよれたパンツのは水色と白のボーダー柄、俗に言う縞パンだった。

 

「お、要ちゃんも縞パン愛好家なのかい? 奇遇だね。僕も百年来の縞パン派なんだ♥」

 

「し、知りません!!」

 

いや、あんたのは縞パンは縞パンでも縦縞のおっさんトランクスじゃないですか。しかも無駄に正当派な。

 

「……!!」

 

と、いつの間にか膝まで引き下ろされ、完全に姿を現した雪村ちゃんのパンツに、所長が「むふ〜!」と鼻息荒く猫目を見開く。所長の鼻息に太股を撫で付けられそうになった雪村ちゃんは、必死に膝を閉じて短いスカートを引き下ろそうとする。何て言うか、もう絵面そのものが犯罪的だ。

 

「……!!」

 

とはいえ、何時までもこのままではいられないわけで。雪村ちゃんもそれは理解しているのか、スカートの股下部分を抑えながら何とかスカートの中がどスケベ所長に見られないように右足と左足を交互にパンツから引き抜いていく。怖々と下ろされ、最後の一息が取れると、雪村ちゃんは床に落ちた自分のパンツをぎゅっと丸めて半泣きになりながら、変態へとそれを差し出したのだった。何て言うか、何処までも犯罪的な絵面だった。

 

「うん、確かに♪」

 

そして、当然そんな雪村ちゃんの葛藤と苦悩と羞恥を心底楽しんだ所長は満足げに丸められたパンツを受け取る。小学生が自分の手で脱いだ脱ぎたてのパンツを毟ろうとするあたり、知っていたけど所長のしょーもなさを再確認した。

 

「要ちゃん……」

 

そんな所長を前に、泣きそうになりながら俯く雪村ちゃんと、その雪村ちゃんを心配そうに見詰める石水無月ちゃん。

 

「大丈夫。……大丈夫だから……」

 

気丈にもそう言いながら、それでも堪えきれずに石水無月ちゃんの手を握る雪村ちゃんの前で、

 

 

 

「ふおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

所長(バカ)は貰ったばかりの、まだ人肌に温かいパンツをその空っぽの頭部に装着したのだった。

 

「「い、いやあああああああああああ!?」」

 

 丁度、クロッチを鼻と口元に、足を入れる部分を目に持ってくる、ザ・変態仮面スタイル。局部を隠している分、まだ変態仮面の方がましなレベルの⁉変態仮面とけっこう仮面の悪いとこ取りの異様に、雪村ちゃんと、石水無月ちゃんの悲鳴が上がった。

 

「いい加減にしてください。引きちぎりますよ?」

 

流石に見かねて、廊下に飛び出すが、時すでに遅し。

 

「くんかくんかくんかくんか!! すーはーすーはーすーはーすーはー!!! んほおおおお!! 要ちゃんのおぱんちゅしゅっごい香しいのほおおおおおおおお!!!♥♥♥ 一寸、汗ばんでて、おしっこの匂いも! あ♥ あ♥ ああ!!♥♥♥ 達する! 達しちゃうのほおおおおおおおおお!!♥♥♥ ああ、でもこの匂い! ありさちゃんのこと、心配だったんだね!! ふひっ!!♥ 小股にまでありさちゃんとの友情が迸って! ふおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!♥♥♥♥「てい」がびょっ!?」

 

この世で最もおぞましきアホの顕現に、僕は思わず身悶える所長を踏み潰した。

 

「本当に、どうも済みませんでした」

 

潰れたゴキブリのようにじたばたする所長を足の下に、僕はもう条件反射で雪村ちゃんと石水無月ちゃんの二人に頭を下げていた。いや、もう、罪悪感と羞恥心でほんと、勘弁してください。

 

「お、頭を下げてスカートの中身を見る気かい? 見えたら僕にも是非アガルタの感想を教えてくれ!」

 

「ほんと、殺しますよ?」

 

もう、雇い主とか知ったことか、この野郎。って、何で息荒くなってるんですk「それは気持ちい「言わんでいい」ぬおっ!?」力を込めて体重を乗せると、所長は漸く大人しくなった。

 

(はあ……何だかどっと疲れた)

 

「取り敢えず、報酬も頂いたので、僕達はこれで失礼しますね」

 

いや、もうほんと、過去の依頼もそうだけど、何でこの所長と一緒に仕事するとこうまで疲れる……いや、原因はその所長本人なんだけどさ。ため息と共に足を退けると、あっさりと立ち上がった所長がけろっとした様子ではたはたと軽く体をはたいた。

 

「やれやれ、危うく僕のおっぱいが潰れすぎて、ニプレス吹き飛ばして母乳溜まり作っちゃうところだったじゃないか。至くんおっぱいだけじゃなくてみるくも好きなのかい?」

 

個人の趣向として巨乳派なのは事実ですけど、それを今言いますかね? ほら、雪村ちゃんと石水無月ちゃんが白い目でみてきてるんですけど。

 

「おいおい、要ちゃんにありさちゃん。あんまり、至くんを責めないでくれ。彼の嗜好は至って正常さ。そもそも、男が巨乳を好きじゃなかったら、人類の半分は産まれてこないんだぜ?」

 

「いや、もう、ほんと傷口に塩を刷り込まないでくれますか?」

 

或いは黙っててくれません? っていうか、もうそういうのもどうでもいいから、帰ってふて寝したいです、正直。

 

「そ、そうですよね」

 

「所長さんに比べたら、鈴笛さんは全然普通ですよね」

 

「あれ?」

 

「あれ? じゃないですよ」

 

むしろ当然です。

 

「酷いなあ、ロリコンは美少女に嫌われると泣いちゃうんだぜ?」

 

「所長のは自業自得です。むしろ、泣きたいのは僕の方ですよ。あれ? 何か、本当にダメージが……」

 

僕が胸に手を当てると、所長がポンポンと肩を叩いてきた。……うん、サムズアップの代わりに女握りはもう慣れましたよ。ええ。

 

「じゃ、今度こそ僕達は失礼させてもらおう」

 

「あ、はい」

 

何かもう、小学生すら疲れた顔をしている。

 

「もし、また何か助けが欲しがったら、何時でも喚んでくれ。君達が小学生の間はすぐに駆けつけるよ♪」

 

「絶対に喚ばないので安心してください」

 

「まあ、所長頼るような事態にならないに越したことはないけどね」

 

セクハラされないし、精神的に色々と削られないし。

 

「それじゃ、行こうか至くん」

 

「はいはい」

 

「はいはいは赤ちゃんプレイの一部だよ?」

 

「……」

 

鈴笛至23歳。一生返事は「はい」で通すことを誓った。

 

「りくふし・まじかる・きるぜむおーる☆」

 

「おう、おっさん、せめてもう少しマシな魔法少女選べよ」

 

それより酷いの、プリティベルくらいでしょ。

 所長が気紛れで日替わりな魔法の言葉()を唱えると、僕と所長の周りに淡い青の光が立ち上る。最後に見た雪村ちゃんと、石水無月ちゃんは、

 

「「!!!」」

 

二人とも、所長に向けて思いっきり中指を突き立てていた。……然もありなん。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 今回の依頼の後日談。

 あの日、"第一五小のレオナルド"の依頼が終わってから一週間、六伏探偵事務所はエロゲとオナニーに耽る所長の相手という、ある意味いつも通りの日常に戻っていた。曲がりなりにもロリコンを自称していた所長は、その日から暫くは千里眼で雪村ちゃんと石水無月ちゃんの一方的な経過観察(要するにストーキング)をしていたが、三日もすれば飽きて、日々のエロ同人漁りに戻っていた。

 

「……ん?」

 

今日は普段より少し陽射しが温かいし、所長の洗濯をしようかと考えながら、何時も通りの閑散としたマンションの端の部屋に行くと、ある意味見慣れた付箋が錆の浮いたドアの中心に貼り付けられていた。

 

―今日は天気が良いから屋上で日光浴をしているね☆ついでに何か飲み物持ってきてくれると嬉しいな♪ by君の相棒♥―

 

「いや、此れ貼るなら電話かメールで良いじゃないですか」

 

思わず呟いたが、そこは兵糧を握られている日本人。一先ず、事務所の冷蔵庫から、コーラのペットボトルを持って、屋上に向かうことにした。

 

「ん……」

 

エレベーターから降り、屋上に続く暗い階段を抜けると、所長の付箋通り、秋にしては少し強い日光が、ひび割れた屋上のコンクリートで跳ね返って少しだけ何時もよりも眩しかった。

 

「お、来たね至くん♪」

 

辺りを見回そうとすると、丁度視線を向けた反対側から、もう聞き慣れた感のある、外見にしては少しハスキーな悪戯っぽい所長の声が聞こえた。ぽかぽかとした陽の光も手伝って、何となく穏やかな気分になった僕は、

 

「おはようございます、所長。冷蔵庫にあったコーラなん……」

 

呑気に手を振る所長の姿を見て、思わず絶句したのだった。

 

「ん? どうしたんだい、至くん?」

 

屋上に出されたデッキチェア。これはいい。普通に日光浴で使うものだし。

 

隣に出されているパラソルとテーブル。別に悪くない。一寸手間だけど、少しだけ張り切った範囲で済む。

 

サングラスとイヤホンの付いたスマホ。変ではない。ここ数年の日本の日光は割と殺人的で、サラリーマンがサングラスで通勤するのも珍しくないくらいだ。

 

全裸。最早何も言うまい。というか、この所長(変態)に付き合って数年。いい加減慣れもしてくる。今更驚けない。

 

蟹股に開いた両足と、その中心でヴィィィィィィと振動音を奏でる、スマホと繋がったピンク色の物体……うん、まあ、何て言うか。

 

「普通にアウトです」

 

「んむ?」

 

両手を枕に、首から上だけは真っ当に、上半身だけは優雅に日光浴をしていた所長はサングラスを外しながら首を傾げた。

 

「どうしたんだい、至くん? こっちに来て一緒に日光浴と洒落込もうじゃないか。こうして、君の分のデッキチェアもう用意したことだし」

 

「その辺の心遣いは非常に有難いのですが、その恰好はどういう事ですか?」

 

「ん? ああ、これかい? いやね、僕はこの通り基本的にエロゲ三昧でインドア派だろう? だから、ここ数年、日焼けってしたことが無くてね。何となく褐色肌の僕でオナニーしたいなーって思っていたら今日が絶好の日光浴日和だっていうから、こうし「股間に突っ込まれてるディルドの事を言ってるんですよ」ああ、これかい?」

 

なんか、事も無げに、というか「ん? こんなのに興味があるのかい?」ってテンションで返された。いや、どう見てもそれが一番異常でしょう。

 

「所長、とうとう女の期間が長すぎて、そっちまでその嗜好になったんですか?」

 

「いやいや、流石にそれは無いさ。僕は僕のまま、ロリコンの六伏コランだとも♥」

 

にっこりと笑うのは良いんですけど、股間のヴィィィィィィで説得力皆無ですよ?

 

「ほら、この前、自称天才画伯と戦った時に、精液の準備のために至くんのおちんちんを借りてオナニーしただろう?」

 

「そういえば、そんな事もありましたね」

 

正直、屈辱とかそれ以前に、普通に理解が追い付かない現象でしたけど。

 

「あの時、至くんのおちんちんを借りた時に、おかずに僕自身を使ったんだけどね」

 

「出来れば思い出したくなかった事実でしたけど、そういえばそうでしたね、ええ」

 

廊下全体どころか、校舎一杯に響きそうな声でやってたからね。

 

「で、今更なんだけど、あの時のおちんちんを生やした僕に犯されるのって、案外悪くないんじゃないかなーっと思ってね」

 

「うん、何でそうなると言いたいけど、所長ならあり得なくもないという説得力が凄く腹立たしいです」

 

六伏コラン。ロリコンが高じて自分が考える最高の美少女の肉体を手に入れた変態。要するに一番のストライク=自分の外見。

 

「で、この魔法を使って作ったサングラスでバーチャルなおちんちんの生えた僕に犯される感触をこうして楽しんでいるって事さ♪ 良い発想だろう? 世界一の美少女に抱かれるなんて、なかなかできないからね♥」

 

「うん、さらっと腐りきった発想どうもありがとうございます」

 

理屈は……うん、まあ、矛盾はしていない。美少女と性行為をしたいというのは別にそこまで変でもない。けどそれはどう考えても入れる方であって、入れられる方ではないでしょうが。

 

「と、言っても、僕の場合おちんちん生やすには至くんに同意してもらう必要があるだろう? 流石に至くんのおちんちんをいきなり借りて、もし至くんがオナニーのイク寸前だったりしたら、生殺し地獄を味わう事になるじゃないか。だから、僕だって本当は入れる方をやりたかったんだけど我慢したんだぜ?」

 

「気遣いに礼を言えばいいのか、許可さえもらえば他人のちんこ使いたいって思考回路にキレればいいのか、非常に判断に悩みます」

 

「ま、そういう訳で、今は至くんのちんぽこを借りるんじゃなくて、至くんのちんぽこを入れてオナニーしてるわけさ」

 

「…………?」

 

なんか、今凄く聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんですが?

 

「あの、所長?」

 

「うん?」

 

「今、誰の何を入れてって言いました?」

 

ていうか、聞き間違えであってほしい。そんな切実な思いの元尋ねた僕の願いは、

 

「勿論、至くんのぽこちんを」

 

あっさり打ち砕かれたのだった。

 

「……」

 

「……」

 

「……何でですか?」

 

「あの日の僕が至くんのちんぽを生やしていたから」

 

端的な回答どうもありがとうございますこの野郎。

 

「いやー、それにしても、至くんも中々良い物を持ってるねえ。これまでも至くんの事は最高の相棒だと思っていたけど、これは益々見直さざるを得ないね♥ 美少女になる前の僕の股間の約束された勝利の剣(エクスカリバー)にも勝るとも劣らないサイズなお陰で、小さな体の僕のおまんこに程好くアンバランスな圧迫感で、しかも絶妙に気持ちいいところに当たるときた☆ これはもう、グッドボタンを押さざるを得ないね♥」

 

「……」

 

機嫌よく笑う所長の股座で、ディルドの音が一層大きくなる。どうも、スマホに入れられているVRの光景に合わせて振動が変わる様に魔法で弄っているらしい。無駄に丁寧な事をしやがる。

 

(羞恥心と怒りで人が殺せたらなあ……)

 

所長が死ぬと、僕も一緒に死なざるを得ないらしいけど、もうその辺知った事かという気分になる。

 

「あ、そういえば」

 

「ん?」

 

僕がそろそろ、この所長を道連れにして命を絶つべきか考え始めたところ、不意に所長が体を起こし、おっぱいの谷間に挟んでいたスマホを弄って股の間のディルドのスイッチを切った。

 

「今日は至くんに見せたいものがあってね」

 

「見せたいものですか?」

 

「ああ」

 

頷いた所長が「じゃーん☆」と言って取り出したのは、

 

「……おい」

 

大きな額縁に収められた一枚の写真。先日、所長に対価を要求され顔を真っ赤にしながら代金のパンツを脱ごうとしている雪村ちゃんの写真と、その写真の前で丁寧にクロッチ部分を真正面にして額に収められたシマシマの一枚のパンツ。これは、もしかしなくても、

 

「この前の依頼の時の写真さ! いやー、やっぱりいつみても美少女の羞恥心と屈辱に濡れた顔は良いねえ♪ ご飯十杯は軽く行けちゃうよ☆」

 

「ですよねー」

 

所長の言った羞恥心と屈辱。正直、今なら彼女と心底分かり合える気がした。

 

「予想以上にこの表情がナイスでね。今日は天気も良いし、日光浴しながら青空の下オナニーをしたいなって思ってさ」

 

「……じゃあ、態々僕にこの写真を見せようとした理由は?」

 

「決まっているじゃないか!」

 

当然とばかりに所長はぶるんっ♥ とおっぱいを張った。

 

 

 

 

「もう一度、竿でオナニーしたいから、至くんのちんちん貸してくれないかい?」

 

 

「 死 に さ ら せ 」

 

 

 

 

奪い取った写真を、所長(バカ)の顔面に向けて振りぬと、良い笑顔を浮かべていた所長(バカ)が吹っ飛ぶ。なんか涎を垂らしながら宙をきりもみして舞う所長の周りで、砕け散った額縁のカバーガラスがきらきらと陽光に輝く。気絶した所長を見た雪村ちゃんの写真が少しだけ満足気に微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 




鈴笛至
真面目系クズ
目立つ変態の所長が居るから気付かれにくいが、普通にクソ野郎
そのクソ野郎な性格がタンク役として最適だったという不思議
コランが直接攻撃を苦手としているため、割と重要な盾役
コランが死ぬと自動的に死にます


六伏コラン
クンカー。ロリコンでオナニストでクンカー
尚、自分の身体は性癖の集合体ですが、『好みの見た目』なのであって『なりたい見た目』という訳ではないという不思議
色々と理由を付けているが、至を使い魔にした本当の理由はただ何となく
実際には使い魔にしてみたら思いの外相性が良かった
至が死ぬと自動的に死にます


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メリーさん 一

新章スタートです。今回は試しに、一回当たりの分量を1万未満に抑えて投稿してみます。前回のレオナルドと比較してどちらが読みやすかったか、アンケートにご回答いただけますと幸いです。


―私、メリーさん。今ごみ捨て場にいるの―

 

―私、メリーさん。町のコンビニの角にいるの―

 

―私、メリーさん。今あなたのマンションの前にいるの―

 

―私、メリーさん。今あなたの部屋の前にいるの―

 

―私、メリーさん。今―

 

 

 

 

―あ な た の う し ろ に い る の―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 その日、第一旧東京のマンションの一室、六伏探偵事務所のキッチンで、僕は所長が気紛れで始めた古い格闘ゲームに付き合っていた。

 

「あまいっ!」

 

「うおっと」

 

丁度、僕のロープを使うトレジャーハンターが不用意に飛び込んだ所を、女の子を背負ったデブウサギに綺麗に刈り取られ、これで僕の方に都合三つ目の黒星がついたのだった。

 

「ふ〜、いやあ、中々に白熱したバトルだったねえ」

 

「ですね」

 

所長の言うとおり、互いにさして上手くない者同士、程好く実力が拮抗していて、意外と楽しい対戦だった。毎日やる気にはならないけれど、たまになら案外悪くないかもしれない。

 

「さて、そろそろ御昼にしようか?」

 

「確かに、腹減りましたしね」

 

今日は朝から格ゲーの気分だったせいか、珍しくYESロリータ!NOタッチ!のTシャツ一枚ではなく、愛用の青と白の縦縞トランクス一丁だった所長が立ち上がり、軽い足取りでキッチンに向かう。スキップの度に、変態が偏執的に拘り抜いたどたぷーんがばるんばるんするんだけど、流石に一年もこの光景見てると、慣れても来るよなあ……僕、男として大丈夫なのかな?

 

「インポになっちゃったならともかく、この世で最も美しくてエッチなおっぱいを毎日見てたせいで、他の女体に対する点数が辛くなっただけだから、むしろ正常な反応だとも。何せこのおっぱいも僕、六伏コランが大きさから色、形に乳首の感度まで拘りに拘り抜いて作った最高のロケットおっぱいだからねえ♥」

 

「その中身が野郎なことが事態を複雑化させてるんですよ」

 

いや、割りと本気で。そこ、けらけら笑わないでください。え? 絶対に大丈夫? 僕の身体でなら絶対にエレクチオン出来るから? 余計なお世話です。

 

 

 

 

「そういえば至くん」

 

「はい?」

 

 ダイニングで椅子の上で胡座をかいた所長が、ちゅるんとほうれん草のペペロンチーノを吸いながら、何かを思い出した様にフォークを振った。

 

「今日は一寸お出掛けしたいから、付いてきてくれるかい?」

 

「ええ、別に構いませんけど、何かあるんですか?」

 

「フッフッフ、ジャーン!」

 

「おい、今何処から取り出した」

 

「勿論、あそこのあn「そこは期待を裏切れよ。誰も文句言わないから」

 

縦縞のトランクスに手を突っ込んで軽くごそごそした所長が、一枚の紙切れを取り出した。見れば、何かのサイトをプリントアウトしたらしい、湿った用紙だった。いや、湿り気っておい。

 

「汗だよ?」

 

「……」

 

「汗?だよ」

 

「疑問符の位置を変えるな」

 

「(^_^;)だよ」

 

「何誤魔化そうとして「あれ? 誤魔化さなくて良いのかい?」誤魔化せ。せめて、上手く誤魔化せ」

 

ああ、もうこの所長は……。

 

「はぁ……まあいいや」

 

「おや? 良いのかい? 僕の股間の湿度のことなのに?」

 

「そのワードの何処に、他人の興味を引き付ける要素があるんですか」

 

「美少女が心の中でどれだけエッチなことを考えているかなんて、世界中の男の子の懸案事項だろう?」

 

「それはそうかもしれませんが、仮にそれが事実だったとしても、中身が男の所長には適用されませんよ」

 

「おや、酷いなあ♪」

 

「そして、僕の場合は所長が何を考えているのか丸分かりなせいで、態々確かめなくても所長がオナニーの事しか考えてないのは知ってますから、懸案事項にもなりません」

 

「そりゃそうだ☆」

 

僕が答えると、所長は心底愉快そうにけらけらと笑ったのだった。

 

「話を戻すけど、今日は秋葉原で僕の好きな、まもってパンティー&ストッキングの限定一番くじがあってね」

 

「……」

 

まあ、うん、何となく予想はつく。っていうか、何時聞いても酷い名前のアニメだなあ。

 

「これ、一緒に「嫌です」……」

 

「……」

 

「……ほんの三十分くらいで済むんだ「絶対に嫌です」……」

 

「……」

 

「何故だい?「あんたみたいな見た目の人間連れて、そんな列に並んでると、僕の心が持たないんです」

 

「……」

 

「……」

 

「……三回で良いから」

 

「妥協して三回も並ばせるって、普通に図々しいですからね?」

 

「……」

 

「……」

 

「……至くん」

 

「はい」

 

「至くんが僕の相棒になってから、本当に色んな所に行ったよね」

 

「まあ、そうですね」

 

「そのどれもが良い思い出だし、これからも僕は至くんと良い相棒としてやっていきたいと思っている」

 

「光栄ですね」

 

「じゃあ、「絶対に嫌です」……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「僕のおっぱい揉んd「その先言ったら捻ってワニ口クリップで止めますよ?」どこを!?」

 

所長が悲鳴を上げて、桜色の乳首を抑えた。

 

「あーもう、至くんも時々怖い事言うよね。おかげで僕の乳首()っちゃったじゃないか」

 

「いや、その反応はおか「僕、SもMもいけるんだぜ?」しくもないか」

 

この所長が何を理由に発情するかは僕にも分からないしね。

 

「っていうか、何でダメなのさ。コミケは付き合ってくれただろう?」

 

そう言って、所長がフォークをガジガジとかじりながら唇を尖らせた。行儀悪いから止めなさい。

 

「分かりません?」

 

「僕の完璧すぎる天才頭脳をもってしても、皆目見当もつかないよ」

 

いや、心が繋がってるんだから、それはあり得ないでしょ。まったく……。

 

「あのですね、所長」

 

「ぶー」

 

「ぶーじゃなくて」

 

「うー」

 

「うーでもなくて」

 

何処か拗ねたようにくるくると銀髪をすらりとした指で弄ぶ所長に、僕は深々と溜め息を吐く。何故?

 

「いや、所長言うほど、残念がってないでしょ?」

 

むしろ、一寸楽しんでるでしょ?

 

「いや〜」

 

ばれたか♥ じゃないですよ。まったく。

 

「もう、内心で分かってると思いますけど、コミケと違って、今回は確実に買える訳じゃないんですよね?」

 

「一番くじだからね」

 

「所長としては少しでも確実に当てたいから、僕にも並んでほしいんですよね?」

 

「うん。その通りだ」

 

「だからですよ」

 

「と、言うと?」

 

この野郎、最後まで言わせる気か。

 

「あのですね、コミケは最悪自分の買い物にコスプレイヤーの知り合いに付き合ってもらった体で済みますけど、単なる休日の秋葉原では所長の格好はくそほど目立ちますし、一番くじに一緒に並んだら、"所長が僕に"じゃなくて、"僕が所長に"並ばせたように見えるじゃないですか」

 

「あはははは♪」

 

「じゃないですよ。ほんと」

 

流石にこう、この目立つ見た目の(外見だけ見たら)女の子をエロいフィギュアの列に並ばせた奴にはなりたくない。

 

「と、いうわけで、今回は嫌です」

 

「……」

 

僕が、そうきっぱり言うと、所長は何故か物凄く楽しそうに目を輝かせた。……何だろう、所長がこの顔をした時、大抵ろくな目に会ってない気がするんだけど……。

 

「そうだねえ……」

 

「……」

 

やがて、思案が纏まったのか、所長が徐に口を開いた。僕は当然警戒心を強めた。

 

「僕としては、男友達として、至くんと一番くじの引き勝負をしたい」

 

「僕としては、所長が中身通りの見た目に一時的にでもなるなら吝かではありませんよ?」

 

曲がりなりにも雇い主。強情を張るにも限度がある、ノーと言えない悲しいサラリーマンの性。

 

「それはダメだ。この身体は世界で最も美しい至高のどエロ美少女だぜ? 一時的にでもこの世から姿を消したら、それこそ世界を揺るがしかねない損失だ」

 

「どんだけ自己評価が高いんですか」

 

「高いのは自己評価じゃなくて、僕の作品に対する性欲さ」

 

「そういえばそうでしたね」

 

この所長、自分の身体はあくまでもナイス美少女の見た目として楽しむスタンスのため、意外にもこんな見た目の割りにナルシスト成分を持ち合わせていなかったりする。

 

「じゃ、どうするんですか?」

 

「一つ、賭けをしないかい?」

 

「賭けですか?」

 

「ああ」

 

所長がこっくりと頷くけど、賭けねえ……。う〜ん。

 全く自慢になる話じゃないが、僕はあまり頭の回転が速くない。いや、特別遅いとは思いたくはないけど。そして、残念ながら、この所長は普段の変態行為やロリコンに隠されてはいるが、大魔法使いを自称するだけあって、そっち方面は滅法強かったりする。つまり、何が言いたいかというと、

 

「普通に、僕の勝ち目が無いんですけど」

 

相応に負け筋があれば賭けにもなるが、敗けのない賭けは賭けではなく投資と言うと思う。

 

「いやいや、この僕、六伏コランが、最愛の相棒である至くんにそんな理不尽なことをするわけがないだろう?」

 

「フィギュア一緒に買いにいく時点でそこそこ理不尽ですけどね」

 

「そうとも言うね♪」

 

そこ、開き直るなと。

 

「で?」

 

「うん?」

 

「どんな賭け何ですか?」

 

「おや、乗ってくれるのかい?」

 

所長が意外そうに首をかしげてきた。

 

「まあ、流石にそこまで頑迷に拒否するほどではないですし、理不尽な賭けを要求するなら、始めからそのつもりで掛かってくるでしょう?」

 

逆に言えば、理不尽なことをしないと言うなら、しないと信じるくらいには、所長を信じているつもりだ。

 

「……」

 

「……どうかしましたか?」

 

「いや……」

 

何か、珍しく虚を突かれた様子で、何時もは横に細められがちな目を真ん丸に見開いている。

 

「一寸、嬉しくてね///」

 

「?」

 

にひっと笑った所長がそう言って、くてっとテーブルの上にしなだれかかった。

 

「いや、何時もは辛辣な至くんが、意外と僕のことを信じてくれていたんだと思うとね」

 

「まあ、一年も毎日顔合わせてたら、それくらいはそうなりますよ」

 

「うん……」

 

「……」

 

「……」

 

何となく、妙な空気になったな、なんて思っていると、不意に所長がごそごそと身を捩った。

 

「? ……おい」

 

「親愛なる我が相棒の至くんに、僕からも感謝を込めての御馳走だ」

 

「……」

 

そう言って、食卓の上に身を乗り出した所長は、二つのカップに煎れたコーヒーの上でゆっさゆっさと揺れるおっぱいをぎゅっと握った。忽ち桜色の乳首を染めるクリーム色の母乳。噴き出したそれがブラックのコーヒーに滴り落ち、甘い薫りと共に苦味の強い液体を白く濁らせていく。

 

「はい、どうぞ☆」

 

「……」

 

差し出された、カップはもう色々と諦めて無視をする。ていうか、自分の母乳を入れたコーヒーを仮にも五感の共有している相手()に飲まそうとするとか、どう考えてもど変態の所業ですよ? 抵抗ないんですかあんた。「至くんになら構わないよ?」何か自信満々に言われても、喜べば良いのか、萎えれば良いのか、判断に困ります僕は。ていうか、

 

「で?」

 

「うん?」

 

「賭けは結局何をするんですか?」

 

「ああ、それかい?」

 

もう、さっさと話を進めてしまおうと、先の賭けの話を振ると、自分の母乳入りコーヒーを美味しそうに飲んでいた所長がかちゃりとそれを置いて、改めて身を乗り出す。そこ、垂れてる垂れてる「僕のおっぱいは垂れてなんか「そっちじゃねーよ」うむん♥」

 何故か嬉しそうに笑った所長が、つっと人差し指を顎にあて、うーんと考える。そして、

 

「そうだねえ、じゃあ、今から僕が言う言葉を我慢して聞き流せるかとかどうだい? 此れなら、賭けとしては成立するし、勝敗は至くんの意思の強さ次第だ」

 

「はあ?」

 

何と言うか、それは賭けなのか?

 

「むしろ、単純な我慢比べじゃないですか?」

 

「そうとも言うね♪」

 

そうとしか言わねーよ。

 

「因みに、某世界的宗教はそのリーダーをコンクラーベという催しで「はいストップ」

 

いくらなんでも、ロリコン汚物な所長が喧嘩売って良い相手じゃないですからね?

 

「まあ、話は分かりました。所長が何かを言い、僕がそれを聞き流せたら僕の勝ち。聞き流せなかったら負け」

 

「負けたら、僕に付き合って、一緒にフィギュアの一番くじの列に並んでもらう♪」

 

勝っても何もないんだけど、まあ良いか。

 

「パイズリくらいならしてあげても「いりません」

 

さっさと始めてください。

 

「オッケー。じゃあ、いくぜ?」

 

「どうぞ」

 

にまーっと勝利を確信した、物凄く楽しそうな所長の笑顔。だが、僕も僕でこの一年、所長の様々な奇行や変態行為に付き合ってきたのだ。出社初日にダッチワイフのぺおるちゃんに種付けプレスをキメていたのに始まり、家だけでなくマンション全体でのエクストリームオナニーの数々。一度、「二十四時間耐久オナニー。マンションの全室でイけますか!?」なんてトチ狂った行為に及んだときは本気で見限ろうかとも思った。それらの非常に低俗で下ネタな修羅場の数々を潜ることを拒否して踏み潰してきた僕をキレさせるなんて、所長でも相当に難しい筈だ……多分。

 僕は一抹の不安と共に深呼吸をして、ぐっと身構えたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「負けた……」

 

 秋葉原のホビーショップの行列の中で、僕は思わず天を仰いだ。

 秋空の下、割りとマニアックな作品だったはずなのに、あからさまに全国各地から集まったと思われるオタク達が自分の順番を今か今かと待ち構えていた。そして、そんな集団の中で、

 

「♪~」

 

当然のことながら、我が所長は他の誰よりも目立っていた。銀色の一本のほつれもないしなやかなストレートヘアを靡かせて、一番くじのカタログを鼻歌混じりに眺める姿は何処か幻想的で、非日常的だ。もっとも、何時もの如く愛用のYESロリータ!NOタッチ!のTシャツは、この(見た目だけは)美少女が着ているせいで、あからさまに注目の的になっている。しかも、

 

「せめて、下着だけでも着てくださいよ……」

 

「ん~?」

 

思わず頭を抱える僕を振り返り、何時ものTシャツのおっぱいの先をツンと()たせた、所謂ノーブラの所長がコテンと首を倒す。いや、コテンじゃなくて。ものすっごい視線集めてますよ?

 

「何を言っているんだい、至くん? ちゃんと穿いているじゃないか」

 

そう言って、所長はジーパンの腰元をちらっとめくり、愛用の縦じまトランクスを見せてくる。うん、それも確かに下着だけど、そうじゃない。

 

「そっちじゃなくて、ブラジャーの方ですよ」

 

思わず小声になりながら、さっきの賭けで『一緒に並んでくれなかったら、毎晩至くんのベッドに潜り込んで、朝まで耐久オナニーをするからね?』の一言に屈した自分を思わず呪った。

 

「断る!」

 

「何でですか」

 

いや、本当。普通にそのサイズじゃ、邪魔だし痛いでしょうに。

 

「だって、男がブラジャー着けるとか、色々と終わりじゃないか」

 

「その身体になる事選んだ時点で普通に終わってますよ?」

 

主に男として。

 

「何を言う、頑張れば勃起くらい「やめい」あうち☆」

 

咄嗟に、所長の頭をぺしっと軽く叩いた。

 

「所長」

 

「んむ?」

 

「せめて、普段のノリは我慢してください」

 

凄い目立つから。ちらちらと見てる奴らだけじゃなく、勝手にスマホで盗撮している奴もいるから。しかも、おまけで僕の事を爬虫類みたいな目で睨んでくる奴らもいるから。せめて、事務所に戻るまで待ってください。ええ。

 

「ああ、それなら大丈夫だよ」

 

しかし、当の所長はそう言って、自信ありげに含み笑いをした。

 

「? どういうことですか?」

 

「何、認識阻害の応用さ。今、僕と至くんをちらちら見ていた人間は」

 

「人間は?」

 

「一人残らず今日の記憶が飛んで、何故か激辛ラーメン巡りをすることになる」

 

「いや、割と普通に怖いですね」

 

気付いたら翌朝で、しかも激辛ラーメンを食べたせいで、翌日の腹が……。

 

「この僕の完璧な美貌を目に出来たんだから、その程度安い代償だろう?」

 

「本人完璧に忘れてますけどね」

 

まあ、それなら良いか……。そうこうしているうちに、所長をチラ見していた人間が残らず列から消え、長蛇の列が蛇の列程度にはランクダウンした。

 

「そして」

 

「?」

 

「僕を記憶媒体に記憶した奴らは」

 

「ええ」

 

「今この場で僕の写真を抹消した後、電子端末上のエロいデータを残らず知り合いに拡散してから携帯を粉砕し、記憶を失ったまま全裸になって公道を全力疾走する」

 

「おい」

 

所長がそう言った瞬間、列に残っていた三人の一際気持ち悪いオタクがその場でスマホを叩き割ると、やおら周りが止めるのも振り解いて全裸になって公道を爆走し始めた。普通に、そいつらの人生破壊しているじゃねーか。どうするんだ、これ。……ま、別にいっか。

 

「前にも言ったけど、僕は別に男の視線を集めて興奮する変態でもなければ、優越感を得るナルシストでもないからね」

 

「まあ、その恰好自分用ですからね」

 

代わりに、自分の身体をおかずにオナニーするのって、ナルシストとどっちがマシなのかなあ……ん?

 

「所長、一寸良いですか?」

 

「んむ?」

 

「そもそも、認識阻害で人数誤魔化せるなら、別に僕が来る必要なかったんじゃないですか?」

 

「うん、物理的にはその通り!」

 

「おい」

 

「でも、僕の気持ち的には大外れだ☆」

 

「んん?」

 

にかっと笑った所長が、とうとう目の前に誰も居なくなったのを確かめて、てくてくと一番くじの列の一番最初に並んだ。

 

「確かに、僕の認識阻害なら、くじ引きで並ぶ人数は簡単に誤魔化せるけど、そもそも人数を揃えるより、至くんに僕の趣味に付き合ってもらうのが第一の目的」

 

「あー」

 

そういう事ですか。

 

「要するに、連れしょんのお誘いだね♪」

 

「もう少し、マシなたとえあるだろーが」

 

態々汚物を例えに選ばないでくださいと。

 

「もう一つは、僕は別に転売ヤーじゃないからね。フィギュアはプレイ用と保管用があれば十分というのもある☆」

 

「お金には困ってないしねー」と笑う所長。プレイ用が何のプレイかは一先ず置いておいて、こういうのって普通は観賞用、保管用、布教用の三つじゃないんですか?

 

「日本人はロリコンしかいないからね。僕が布教するまでもなく、どうせ全員変態さ!」

 

「あつい風評被害どうもありがとうございます」

 

そして、四方八方に喧嘩を売らないでください。ほら、後ろのオタクさんがこっち睨んで……すたすたと長蛇の列ができている激辛ラーメンの店に並んじゃった。おい、その認識阻害、これでも条件達成なのかよ。

 

「ていうか、さっきの三回っていうのは?」

 

「ぶっちゃけ、適当に言っただけっ!?」

 

即座に脳天にチョップを食らわせると、また数人が激辛ラーメンの列に並んだ。おいおい……。

 改めて僕が所長の認識阻害の威力に内心戦慄していると、丁度店のシャッターが開き、中から出てきた店員が間延びした声で、「まもってパンティ&ストッキングの一番くじ始めまーす」と告げた。

 

「さ、一番乗りだ♪」

 

そう言って、真っ先に一番くじの前に立った所長は闘志を全身に漲らせて、店員に八百円を渡した。一瞬、店員が目を見開いて、(当然の如く)僕と所長を見比べて、って、またラーメン。どうするんですか、この惨状。

 

「パンティ……引けっ!!」

 

「いや、聞けよ」

 

ラーメン屋に走って行こうとして、他の店員に羽交い絞めにされている係員を尻目に、所長が引いた一番くじを開き。

 

 

 

 

― G ―

 

 

 

 

「がはっ」

 

普通に一番ハズレの賞を取っていた。なんて言うか、うん、

 

「普通に自業自得だと思いますよ?」

 

そうこうしているうちに、別の店員がやってきて、焦った様子で「大変お待たせして申し訳ございません」と列の全員に謝罪した。まあ、突然店員がラーメン屋に疾走していったらなあ。

 明らかに息が上がっているせいか、逆に所長を見る余裕がなかったお陰で、特に暴走することなく一番くじを差し出してきた。

 

「……」

 

取り合えず、お金を払って、くじに手を突っ込む。所長が一枚引いただけなのもあり、当然ながら中には相当数のくじがあった。

 

「いける! いけるよ至くん! 僕の相棒なら絶対にパンティのフィギュアを引けるはずだ!! 信じるんだ! 君が君を信じられないなら! 信じられないと思うなら! 僕を! 君という相棒を信じる僕を信じて「いや、普通にうるさいですから」

 

僕は真面からは程遠い人間ですけど、そこまで卑屈になった記憶もありませんからね?

 

「これでお願いします」

 

箱から取り出したくじを店員に差し出すと、受け取った店員がそれを開いた。隣の所長が「パンティだよ。パンティだよ至くん!」とさっきからうるさい。そして、

 

「あ」

 

「お」

 

「お、おおっ!?」

 

― A ―

 

「パンティだ! パンティだよ至くん!! 流石はこの僕、六伏コランのたった一人の相棒だ!! よくやってくれた! 見てくれ、この入らいきった表情に見るからに清楚な雰囲気! 原作そのままの姿を見事に再現しているぜ! しかもこのキャラ、こんな可愛らしい見た目をしていて、なんとパ ン ツ を 履 い て い な い!!!! まったく、とんだビッチだと思わないかい? 僕は最高に良いビッチだと思う!! そして、このフィギュア、なんとその穿いていない(ノーパン)まできっちり原作再現しているんだ。最高だね♪ 絶対にこのフィギュアを手に入れたら、まず涙目になりながら必死にスカートの裾を下ろそうとしているその真下から眺めると決めていたんだ! さあ、早速パンティのノーパンティを眺めてオナニーをしないと!!」

 

文字が見えた瞬間、興奮に目を輝かせながらしゃべり倒す所長。その風貌、そして言葉に、一斉に客や店員の眼が所長に向き、

 

「「「「「「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

そして、全員が激辛ラーメン屋へと走り去って行ったのだった。

 

「……あれ?」

 

「あれ? じゃありません」

 

今更ながら、この変態所長の力の強さを思い知り、僕は思わず頭を抑えた。

 

「取り合えず、店員が戻ってくる前にさっさと逃げましょう。お金も払ってますし、別に文句を言われる筋合いもないですけど、流石にこの光景では色々面倒になりそうですし」

 

「そうだね。僕もさっさとオナニー始めたいし」

 

「はいはい」

 

もう、突っ込む気も無くなった僕は、所長が何処からともなく取り出した袋にフィギュアを入れ、その手を引っ張って急ぎ店を後にしたのだった。

 

 

 

 

 




鈴笛至
ノリで所長以外への勃起が不全なっちゃった可哀そうな語り部
みんなでインポマンとののしってあげてください
尚、所長相手には問題なくできます。本人の苦悩は深いでしょう


六伏コラン
ノリで母乳出るキャラになっちゃった汚物
割と至の事は気に入っているので、ミルクくらいは振舞ってくれる汚物
野外オナニー上等のド変態だけど、こんなのでも大魔法使いですので、さらっと他人の人生破壊しています


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メリーさん ニ

どうもこんちには。デポジットカンチョーでございます。前回はアンケートの御協力どうもありがとうございます。今後は一万文字前後位を目安に投稿していくことにいたします。


「う〜ん、マーヴェラス!!! 流石僕の親愛なる相棒の至くん! とれびあ〜んだよ! 実に見事なくじ運だ!!」

 

「はあ、どうも」

 

 結局あの後、認識阻害を態々外しても、それはそれで面倒だということになり、僕と所長はさっきのホビーショップをそのままに近くの公園にやって来ていた。まあ、認識阻害自体は所長が居なくなれば無意味になるものだったけど。

 そして、その所長はといえば、早々に公園の端にあったベンチに座り込み、さっき僕が引き当てたパンティ? のフィギュアを真新しい梱包から取り出すと、むふーっと鼻息荒くスカートの中身をじーっと覗き込んでいる。いや、おっさんかよ。

 

「いやあ、あそこで見事に引き当ててくれるとは! 流石は至くん! 僕の相棒♥ これは、臨時ボーナスの一つも出さないとイケないね♪」

 

「まあ、喜んでくれたなら良いですけど」

 

ここまで、素直に喜ばれるのは、正直、悪い気分じゃないし。

 

「そうだね、僕主演のAVでどうだい?」

 

「それの何処に、僕にとってのボーナス要素があるのか、よくよく考えて発言してくださいね?」

 

僕はホモじゃねーよ。

 

「あ、そうだ」

 

「今度は何ですか?」

 

「せっかくだから、一緒にこのフィギュアをおかずにオナニーでもどうだい?」

 

「何がせっかくなんですか、この野郎」

 

いや、ほんと、食事に誘うノリで、オナニーに誘わないでください。

 

「おや? しないのかい? オナニー」

 

「しません」

 

というか、何で「え? 本当に?」って顔になってるんですか。

 

「そうかい? じゃあ、僕だけ先に頂かせてもらうよ。至くん、膝借りるね?」

 

「あー、はいはい。別に構いませ……はい?」

 

何か、不穏な言葉が聞こえた気がした。慌てて顔を上げるが時既に遅し、とんっと軽い重みが右の太股に掛かり、パサリという音と共に一瞬視界が真っ暗になる。

 

「んっ……あんっ♥」

 

同時に響く、音だけは艶かしい、矢鱈と聞き慣れた声。顔に掛かった目隠しを退けると、そこには履いていたジーパンとトランクスを脱ぎ捨て、YESロリータ!NOタッチ!のTシャツを首もとまで捲し上げた所長が、ひっくり返ったカエルのポーズで、さっきのフィギュアを片手に、開けっ広げに露になった股間とおっぱいをねちっこく粉ね繰り回している姿があった。

 

「……」

 

「ん、んふ……♥」

 

「……」

 

「んくぅ!♥」

 

「…………所長」

 

「んあっ!?♥ あ、は……あっ? 至くん?」

 

「何やってるんですか?」

 

「見ての通り、んっ♥ 青姦オナニーだけど?」

 

僕の太腿を枕代わりに、ベンチにころん寝転がり、服従のポーズで、天に向かってにちゃにちゃと股間をまさぐりだした所長が「見ての通りだけど?」と、さも当然のことのように首をかしげてくる。何か、何でそんなことを?といわんばかりだけど、首捻りたいのは僕ですよ?

 

「普通に通報されますよ?」

 

「大丈夫さ。今回はきっちり始めから認識阻害をしているからね☆」

 

無駄に手際良いですね。それなら安心だ。うん、もう、そういうことにしておこう。

 なんだか、投げやりな気分になりながらベンチにもたれ掛かる。もう、この際、通報されないならどうでもいいや……。

 

「因みに、美少女だけには、僕の姿は見えるんだけどね」

 

「全然、防げてねーじゃねーか」

 

「あはははは♪」

 

むしろ、防ぐ気ねーじゃねーか。僕の突っ込みにけらけらと笑いながら、所長はフィギュアの両足に舌を這わせていく。既に、ぐちょぐちょになった股間からはにっちゃにっちゃと水音が鳴り、仰向けのままでもつんと上を向いた形の良いおっぱいからはとろとろと止めどなく母乳が流れ落ちていて、何かもうベンチ全体が水浸しになっている。

 秋の日差しが、少し肌寒い空気を温めて、程好く過ごしやすい天気。この大分寂れた感があっても、まだ日本の中心地のビル街の中、ぽっかりと空いた自然豊かな公園の中心で、

 

「あっは♥ 遂に逢えたね僕のパンティちゃん♥ 今日もノーパンなのかい? ふっふっふ、何故気付いたかって? 彼氏の目を誤魔化せると思ったのかい? おいおい、そんなに恥ずかしがることないじゃないか♪ 世界を守るために、自分のパンティを犠牲に頑張ってるんだろう? 誇るべき事であって恥ずかしがるようなことじゃないさ! だから、ほら、僕にパンティちゃんが戦った証を見せて……むふふ。その顔! 悔しそうで、恥ずかしそうでプルプルしてるの、最高だよ! 僕も思わず母性が刺激されてちゃうね♥ っていうか、刺激されちゃった♥ もう、パンティちゃんが悪いんだよ? こんなに僕をママにしちゃうなんて♥ ああもう、ダメだ。今日は許してあげないからね? ミルクあげるだけじゃ我慢できないからね? 今日は僕がパンティちゃんのママになってパンティちゃんを産んであげるからね? ほら! 来て! ママの中に帰って来てええええええええええ!!!!!!!!♥♥♥♥♥♥」

 

「……」

 

極めて業の深い絶叫と共に、僕が当てたパンティちゃん? のフィギュアで乳首とクリトリスを弄り倒していた所長が、とうとうフィギュアの頭を自分の胯間にじゅぽじゅぽと突っ込み始めたのだった。何かもう、「おっほ♥ おっほぉ♥」とかそんな声しか聞こえない公園の中で、僕は今日も矢鱈と良い天気に目を細め、

 

「え……?」

 

そして、不意に聞こえたそんな声に、僕は思わずその綺麗な天を呪ったのだった。

 

(おお、天におわす神々よ。僕は貴方を恨みます)

 

鈴の鳴るような、そして、それ以上に困惑の音を乗せた声。ここ一年、門前の小僧よろしく、所長のロリコン趣味に付き合わされ続けた結果、この辺の事に勘が働くようになった自分が嫌になる。果たして視線を下ろしてみれば、予想がついてしまった通り、小学校に上がるか上がらないかくらいの、人形を持った女の子が目を丸くして所長と僕を見詰めていた。

 幸いなことに……本当に不幸中の幸いなことに、周りにはこの娘以外に、所長の認識阻害を抜ける年頃の女の子は居なかったから、伝染の可能性は無いが、しかし、僕の前にいる頭のおかしな変態(所長)のおぞましさに、この年頃の女の子が耐えきれるわけもなく、見る間に、その大きな瞳に涙が溜まっていき、そして、

 

「い、」

 

「あ〜……」

 

「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「おっ♥ おっほぉ♥ 危ないね♪」

 

一瞬で決壊したのだった。

 絹を裂くような悲鳴が昼の秋葉原に響き渡る。いたいけな幼女の、本能的に所長のおぞましさに恐怖したその悲鳴は、しかし、無駄に能力だけは高い変態(所長)がパチンと指を鳴らすと、あっさりと遮断される。そして、

 

「あっは♥ 見られてる。見られてるよパンティちゃん!♥ 僕とパンティちゃんのスーパーウルトララブラブタイムが知らない女の子に見られちゃってるよほぉ!!♥♥♥ あっ、パンティちゃん、、嫉妬したのかい? むふふ、赤くなっちゃって。はっはっは、違うよ、からかってなんかないさ。焼き餅を焼いてくれて嬉しいのさ♪ 安心してくれたまえ。僕は今だけは君のものだとも♥ おっほぉ、そ、そんなところを急にひぃ!? ああ、いかせてくれ! いく、いくっ、いくううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!」

 

そんな閉鎖された空間の中、自分好みの女の子に見られながらするオナニーに興奮したのか、自分の胯間をフィギュアで泡立てていた所長が一際大きな嬌声上げる。ピンッとベンチに爪先を立てて、人形の突き刺さったおまんこの砲身を空に向けると、絶叫と共にプシャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!! と盛大に潮を吹いたのだった。

 

「……」

 

「……」

 

「あっ♥ あっ♥……」

 

秋空の下、季節外れの七色の虹に、女の子は呆然と佇み、僕は脳が理解を拒否するのを感じながら、矢鱈と良い天気な御天道様を睨み付ける。

 

「……」

 

「……」

 

「あんっ♥」

 

やがて、盛大なスプラッシュが終わり、所長がぶるりと震えると、最後の一滴がぷしゅっと切れて、空を恨みたくなる光景は終わりを告げたのだった。そして、

 

「やあお嬢さん。そんな悲鳴を上げて、何かあったのかい?」

 

「所長、あの痴態の直後によくそんなことを言えますね」

 

「…………?」

 

「そこ、「何を言っているんだい? 至くん」みたいな顔をしない」

 

「何を言っているんだい? 至くん」

 

「口にすれば良いって話でもないですからね?」

 

悲鳴を上げさせたのも、その娘を呆然とさせたのもあんただあんた。

 

「おいおい、そんなことはあり得ないね。僕は美少女の味方、六伏コランだぜ? 美少女にこんな、根源的な恐怖に苛まされないと出てこないような悲鳴を上げさせる訳がないだろう?」

 

「その自信が何処から来るのかさっぱり分からないですけど、根源的な恐怖は正解です」

 

所長=根源的なおぞましいナマモノ。

 

「いやいやいや、そんなわけ無いだろう? 見ての通り、僕はYESロリータ!NOタッチ!のTシャツを着ているだろう?」

 

「まず、Tシャツは免罪符じゃないですし、オナニーのためにたくしあげちゃってるから、そもそも文字が読めてませんよ?」

 

「おっと、しまった」

 

「ああ、下ろしましたね。ええ、母乳とよだれでべっちょべちょですけど。そして、下ろしたからといって、此れでよし! じゃないですからね?」

 

ていうかさ、

 

「所長」

 

「なんだい? 至くん」

 

「普通の女の子は、仮に話し掛けてきたのが自分と同じくらいの年齢の女の子であっても、股間から人形生やしていたら当然警戒しますからね?」

 

ていうか、普通に怖いわ。

 

「……てへ☆」

 

そう言って、所長はオナニーの途中で股座の中に深々と突っ込んだ、パンティちゃん人形をちゅぽん♪と引き抜いた。いや、「てへ☆」じゃないですからね?

 

「あんっ♥」

 

引き抜く瞬間も人形の突起が気持ちの良いところを刺激したのか、軽い喘ぎ声を出した所長に、女の子は一層警戒した表情を見せた。そんな、女の子に向けて満面の笑みを浮かべると所長は今股間の穴から引き抜いた、愛液ででろでろのパンティちゃん人形を突きつけた。おい、それは何か新手の呪いか何かか?

 そして、

 

「初めましてお嬢さん。僕は六伏コラン。探偵さ♥ もしよかったら、(パパ)が今産んだこの娘のママになって、二人で幸せな家庭を築いてみないかい?」

 

と無駄にキメ顔でのたまったのだった。いや、あんた自分の今の格好理解してるのか?

 

「い……」

 

「お? 良いのかい? いやあ嬉しいね。君みたいな美少女が僕のプロポーズを受けてくれるなんて、今日は何て良い日だ。絶好のオナニー日和で愛するパンティちゃんを産んで、こんな美少女にプロポーズを受けてもらえ「いやあああああああああああああああ!!!!!!!! いやあああああああああああああああ!!!!!!!!」……あれ?」

 

「あれ? じゃないですよ。どうするんですかこの子。本気で泣いちゃってますよ」

 

「おいおい、まるで僕のせいでこの子が泣いているみたいじゃないか」

 

「みたいも何も、そう言っているんですよ」

 

「でも、女の子はお人形遊びとか好きだろう? なら、おままごとに誘われるなんて日常茶飯事の筈じゃないか」

 

「仮にそうだとしても、普通の女の子はそんな、体液でデロデロになった人形を行き成り突き付けられたら、怖がりますよ」

 

「んー? でも、世のロリコンは美少女の体液はおしっこでもうんt「言わせませんよ?」

 

主にコンプラ的な理由で。

 

「おいおい至くん」

 

「何ですか?」

 

「今更、僕がコンプライアンスとか気にしても手遅れじゃないかい?」

 

「そう感じてるなら、せめて服着る努力しろよ」

 

股間に物突っ込んでないでさあ。

 

「まあ、良いや」

 

「いや、良くないですからね?」

 

泣き叫ぶ女の子を前に、けらけら笑っている辺り、この所長も大概良い性格をしているよね、本当に。

 

「っていうか、普通に汚いですよ」

 

比較対象がアレだったけど、股間の体液とか普通に衛生面で問題あるでしょうよ。

 

「いやいや、至くん。よく考えてみたまえよ。人間は須らく産まれてくる瞬間はみんなママのマン汁に(まみ)れて産まれてくるんだぜ? それがばっちぃなら、赤ちゃんは産まれてくる瞬間がばっちぃ事になる。それは古き日本の廃れた風習、産褥=穢れよって女性は穢れという考えそのものじゃないか」

 

「人権を盾にして巧みに自分の行動の正統性を主張していますけど、それとこれとは話が違います」

 

つか、いきなり体液まみれの人形出されたら、その女性だって嫌がるわ。目の前の女の子みたいに。

 

「体液まみれといえば、中古の人形は基本的に未開封以外はブラックライトを当てちゃいけないってのは知っているかい?」

 

「いえ、初耳ですけど……」

 

っていうか、"体液まみれといえば"っていう前置きが不穏なんですけど。

 

「ああ、中古市場で流れてくるフィギュアっていうのは前の所有者がオナニーの時にザーメンぶっかけてる率がかなり高いんだよね。ほら、同人誌と違って、ザーメン掛けても洗えば済むからさ」

 

「はい、予想以上にきったない理由でしたね」

 

「で、ブラックライトをあてると、ザーメンが掛かったところが光るからさ。こう、色々と分かっちゃうんだよね」

 

「う わ あ」

 

「で、しこたま精液をぶっかけて「もうこのフィギュアは飽きたし、場所も取るから中古で売っちゃえ」ってのが安く中古市場で流れてくるわけ。当然、使用済みで、二つの意味で中古だから、怖いもの見たさにブラックライトは御法度なんだ。清潔なフィギュアが欲しかったら新品を買うか、最低でも未開封の無駄に高額な転売品を買うかのどっちかになるのさ」

 

「闇が深いなあ」

 

つーか、普通に怖いわ。

 

「初めから売り目的で無傷のまま攫うのも、散々輪姦した後に安く叩き売るのも、遊郭と女郎屋に繋がる日本人の古くからの伝統だからね。仕方ないさ」

 

「日本人碌でもないですね」

 

「人間そのものが碌でもないのさ」

 

「自分と所長を見ていると良く分かります」

 

僕の言葉がツボに入ったのか、所長はけらけらと笑い声を上げた。

 

「そういえば、新品のフィギュアしか買いたくないって言うのは、この場合処女厨になるのかな?」

 

「あー、そうかもしれないですね?」

 

「ふむ、ネットとか処女厨は暫し馬鹿にされるんだけど、僕は正直処女厨の気持ちが良く分かるかな。他人がザーメンぶっかけたフィギュアとか買いたくないし」

 

「それは、処女厨じゃなくても嫌だと思いますし、それ以前に精液ぶっかけたフィギュア買いたくない人間が自分の体液掛かったフィギュアを他人に渡そうとしないでくださいよ」

 

「いや、美少女にエッチな体液付着した私物を渡したいってのは別に男なら変じゃないぜ? そういう欲望が根源的にあるから、男はフィギュアにザーメンぶっかけるわけだし」

 

「あー、まあ確かにそうですね?」

 

矛盾はなかった

 

ダブルスタンダードなだけだった

 

「そういえば、処女と言えば、男は女性の処女に対して様々な持論を持っていたりするけれど、当の女性はさして処女に価値を見出していないらしいね。男性が処女に高値を付けるから「じゃあ、大切にしておこうか」ってくらいで」

 

「まあ、男も自分の童貞にはさして価値を見出しませんしね」

 

「しかし、そうなると、女性は男が考える程レイプに対してダメージを受けていなかったりするのかね? 痴漢冤罪なんかも金銭目的だし。内心は「お金も払わずにタダで私にエロいことしやがった!! だから強姦は重罪だ!!」みたいな?」

 

「多方面に喧嘩売らないでください」

 

「とは言っても、僕は女の気持ちなんて絶対に分からないしね。至くんだってそう思うだろう? 女性用の漫画は小学生向けからしてレイプの繰り返しなのに、リアルのレイプを本気で嫌がる理由が金銭以外に思いつくかっていうと、僕には分からないぜ?」

 

「ノーコメントでお願いしますよ。ええ」

 

僕は藪を突く趣味は無いんですよ。

 

「で、それはそれとしてだ、お嬢さん」

 

「!?」

 

一頻り笑った所長がくるりと女の子の方を振り返り、こてんと首を横に倒す。

 

「僕のおまたから産まれてきたパンティちゃんのママになってくれるかい?」

 

「当然の如く、そこまで話を戻す所長に、ある意味尊敬の念を抱きます」

 

いや、普通怖いでしょ。

 

「んー? でも、この娘はさっきからずっとお人形を抱いているだろう?」

 

「はあ」

 

「!?」

 

「つまり、お人形が大好き=僕のパンティちゃんの事も大好き=僕の事も大好き。よって、僕と結婚してくれるに違いない♪」

 

「いや、論理もくそも破綻しまくってますし、下半身真っ裸な変態の事好きになる理由は無いし、ふふん♥ じゃありませんからね?」

 

何でそんなに自信満々なんですか。

 

 

 

 

「……らい」

 

 

 

 

「んむ?」

 

そんな僕と所長の会話の中、ぽつりと小さな声が響いた。

 

「お嬢「人形なんて大っ嫌い!!!!!!!!!」おや」

 

首を傾げた所長の前で、やおら絶叫を上げる女の子。その鬼気迫る表情と雰囲気に、僕と同じく所長も妙なものを感じたのか「はて?」と首を傾げた。同時に、僕の脳裏に所長の疑問符が流れ込んでくる。

 

(人形を大切そうに持っていながら、人形が嫌い?)

 

その疑問に、僕も同意だった。その女の子は、所長に気付いた瞬間から手に小さな人形をずっと大切そうに持っていた。にも拘らず、人形が嫌い。所長の存在に思わず反発した可能性も捨てきれないが、そういう雰囲気でもないのだ。

 

「……!!」

 

その女の子は、自分があげた叫び声にびっくりしたのか、はっとした表情になって言葉を詰まらせると、僕と所長の視線からそれを守る様に、ぎゅっと手に持った人形を掻き抱いた。

 

「「……」」

 

思わず顔を見合わせた僕と所長の前で、何かに怯える様な表情になる女の子。さてどうしたものかと首を傾げる僕達の間で、不意に「おねえちゃ~ん」というおっとりとした、何処か間延び気味な声が響いた。

 

「! ゆき!!」

 

「んむ?」

 

「……」

 

顔を上げた所長と僕の前にやって来たのは、人形を抱いた女の子とよく似た、心持ち穏やかそうな雰囲気の女の子だった。その女の子の出現に、今度は慌てた様子で人形を抱いた女の子が走り去って行く。

 

「かえろっ!!」

 

「お姉ちゃん?」

 

そして、さっと後から来た妹と思われる女の子の手を取ると、首を傾げるその娘を無理矢理引っ張る様にして、足早に公園から立ち去ったのだった。

 

「……」

 

「……」

 

後に残された僕と所長はもう一度顔を見合わせ、

 

「かえろっか」

 

「……ですね」

 

でろでろのフィギュアと上司のパンツ&ジーンズを片手に、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 数日後の事、

 

―あんっ! やだぁ!?―

 

「ふっふっふ、泣き叫んでも無駄だよいつきちゃん♥ 直ぐに僕のケンタウロスの大根サイズチンチンでおなかをボゴォさせて赤ちゃん産ませてあげようじゃないか」

 

「爽やかな朝の食卓で、何ゲス極まりない発言してるんですか「ん?」

 

食卓に置いたノートパソコンで起動したM○GENで、パンツ一丁の所長が改造された美少女キャラをのんびりとレイプしていた所長が不意に首を傾げた。

 

「? どうかしましたか?」

 

「ああ、一寸新しい依頼みたいなんだけど」

 

「はあ」

 

全開のロリコン美術教師から二か月振りだから、久しぶりと言えば久しぶりだけど、美少女専門かつ極めて特殊な依頼方法を要求する事務所としてはむしろ早いペースだとも言える。

 

「で、それがどうかしたんですか?」

 

「これ、一寸見てくれないかい?」

 

「ん?」

 

そう言って、所長が指さしたノートパソコンの画面を覗き込むと、

 

「あれ? この子達って確か」

 

「ああ、だよね?」

 

そこに居たのは、ベンチに座る二人の女の子。一人は右腕に小さな人形を抱えていて、その隣には妹らしきおっとりした少女の姿。

 

「数日前の?」

 

所長の胃もたれを起こしそうな濃厚オナニーを見せつけられた、あの人形の娘に違いなかった。

 その二人が肩を寄せ合って、じっと所長がばら撒いた魔法少女りりかるサクラの付箋を見詰めている。

 

「……」

 

「どうします?」

 

先日、あれだけ怖がられていると、まともに依頼になるかという疑問もあるけれど。

 

「そうだねえ……」

 

少し首を傾げた所長だったが、直ぐにパンッと手を打つと、コントローラーを置いて軽く伸びをする。

 

「まあ、美少女の依頼だ。僕としては男らしく義を見てせざるは勇無きなりといきたいかな」

 

「ちんこ付いてないですけどね」

 

「でも勃起は出来るんだぜ?」

 

ぷるぷるっと揺れたおっぱいの先で、少しだけ乳首を勃起させながら、所長が不敵に笑った。いや、してやったりみたいな顔する要素無かったですからね?

 

「じゃあ、早速依頼者の所に行くから、一寸皮パン取ってくれたまえ」

 

「はいはい」

 

あ、流石にパンツ一丁で行く気はなかったんですね。まあ、ゲイ御用達っぽいレザーのズボンもどうかとは思いますけど。

 

「あと、サスペンダー」

 

「はいはい」

 

皮のズボンだと、腰を縛るベルトだと肌がこすれたりかぶれちゃいますしね。

 

「制帽」

 

「……」

 

うん、なんかもう大体予想がついた。

 

「じゃ、最後に鞭を持って……さあ、出発♥」

 

「うん、まともな格好を期待した僕がバカでした」

 

つか、おっぱい丸出しだと流石にしょっ引かれますよ?

 

「大丈夫だって。この通りサスペンダーでちゃんと乳首は隠してあるから♥」

 

「そんなんじゃ、一寸動いたら一発でズレるでしょうに」

 

「その辺は僕の魔法で一発さ♪」

 

「便利ですね、魔法って」

 

「個人的に、美少女に見られながら、一寸乳首が擦れて気持ちよくなれるから、サスペンダーは最高にエロいアイテムだと思ってるんだけど、至くんはどうだい?」

 

「そういうジャンルがあるのは知っていますけど、ドストレートにサスペンダー=エロって発想することはないと思います」

 

「でもレザーはエロだろう?」

 

「それ以前に、日本に居たら日常的にレザーを見る事自体が無いですよ」

 

多分。きっと。メイビー。

 

「ま、いいや、それじゃあ早速行こうか」

 

「はいはい」

 

「四つん這いになりたまえ、至くん」

 

「その鞭ケツの穴に突っ込みますよ?」

 

僕と所長は例によって青い光に包まれ、依頼者の元に向かうのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「来ないね、おねえちゃん」

 

 隣で足をぶらぶらさせながら、退屈そうに呟く妹の声を聴きながら、私は唯頷く事しか出来なかった。手に持った人形を抱きしめ、もう一度手に持った付箋をなぞったけれど、何も起こる気配はない。

 

―魔法少女りりかるサクラの付箋に涙を落として強く願うと、美少女の悩みを何でも解決してくれる名探偵が現れる―

 

そんな、私にでも分かる嘘に頼って、隣の娘と一緒に名探偵を待つけれど、こんなことに意味なんて……

 

 

 

「やあ、待たせたね!」

 

 

 

「!」

 

 だけど、じっと目を瞑っていた私の前で、不意にそんな声が聞こえてきた。少しかすれた、ママよりも大人っぽい声。何となく、何処かで聞いた気もするそんな声に釣られて顔を上げた先には、

 

「漆原さきちゃんだね? 君の悩みをばっちり解決に来たぜ♪」

 

上半身真っ裸で、四つん這いになったおっぱいの凄い大きなお姉ちゃん……そう、昨日私が見た、公園のベンチでおしっこをしていたお姉さんが、昨日のお兄さんにお尻を踏まれたまま、何となく格好をつけた雰囲気で笑っている姿があった。

 

「……え?」

 

絶対に誰も来ない。そう思っていたのに、何故か来たのは何か変なお姉さんと、そのお姉さんを踏みつけながら、物凄く冷たい目でお姉さんを見下ろすお兄さん。正直、私は自分が何をしようとしてたのか、その一瞬で忘れちゃう程だった。

 

「あひぃ♥♥♥」

 

急にすぱーん!! という大きな音が鳴って、お姉さんが悲鳴を上げる。お姉さんを踏みつけていたお兄さんが手に持った棒みたいなもので、お姉さんのお尻を叩いた音だった。私もゆきも悪い事をするとお母さんにお尻を叩かれるから良く分かる。あれは、私達がとっても悪い事をした時と同じ叩き方だった。

 

「♥♥♥♥♥」

 

びくびくっと震えたお姉さんがふーっふーっと涎を零しながら息を吐く隣で、お兄さんの方が足を退けて、私とゆきの方を振り返ってきた。その目に、私とゆきは思わず顔を見合わせた。とっても、とっても冷たくて、何となく怖い何を考えているのか良く分からない目のお兄さんだった。

 

「あ、あn「六伏コラン探偵事務所の鈴笛至です」

 

私がお姉ちゃんとして話をしようとすると、お兄さんはそう言って自己紹介をしてきた。

 

「こちらの所長と、お二人の依頼を受けに参りました。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 

そう言って、時々パパやママが偉い人にそうするように、お兄さんは私とゆきに下の方まで頭を下げてきた……。

 何か、変なお兄さんとお姉さんだけど、もしかしたら、このお兄さんとお姉さんなら、私の話をちゃんと聞いてくれるかもしれないと思った。

 

「ふーっ、もう、至くんはいきなり過激だなあ♥」

 

「人にいきなり四つん這いを要求してくる所長相手には妥当な反応だと思いますよ、僕は」

 

「僕なりの愛情表現さ。好きな子に全裸土下座をさせたり、四つん這いにさせたいってのは男の根源的な欲望の一つだろう?」

 

「それは割と特殊な趣味ですし、仮に理解できたとしても、男が男に要求するものじゃないでしょうが」

 

「じゃあ、僕にやらせてみるかい?」

 

「……」

 

私もゆきもお尻を叩かれるのは絶対に嫌なのに、このお姉さんはなんだかとっても嬉しそうだった。……大丈夫なのかなあ……。

 

 

 

 

 




鈴笛至
突っ込み役の助手
所長がタフすぎるせいで、なんかどんどん突っ込みが過激になっていく
けど、使い魔なので所長にダメージを与えることはない(出来ない)ため
自分のストレスの方がたまってきている気がする23歳
最近、NBAの観戦に嵌っている

六伏コラン
突っ込まれ役の所長
突っ込むって何を!? 勿論ナニです。そんな所長
美術室のレオナルドの時にはちゃんと出動時はフリフリではあっても人前に出られる格好だったのですが
今回は上半身真っ裸にサスペンダー、レザーのズボンに制帽(警察官の被っている帽子)というスタイル。多分、今後はこの路線で衣装弄って行きます


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所長「至くん、至くん。パンツ買いに行こうぜ」

本編の合間に思い付いた小ネタです。また思い付いたら時々差し込むと思います。


―……くん―

 

ん……

 

―…た……くん―

 

んん……

 

―至くん―

 

……ん?

 

……何か、急に小さく温かな感触が頬を撫でて……。

 

「……んん」

 

……まあ、眠いし、どうでも良いか。

 

「う〜ん、流石は僕が見込んだ停滞の化身。このまま寝かせてあげたい気持ちと、いたずらをしてみたい気持ちの両方が僕の中でせめぎあっちゃってるよ」

 

「は?」

 

そして、聞こえてきた、あるはずのない、よく知った声。そして、その不穏極まりない言葉の内容に、僕の意識は一瞬で夢の中から現実に引き上げられた。

 

「やあ、おはよう、至くん♪」

 

目を開いた先に居たのは、愛用の縦縞トランクス一丁という見慣れた姿で、幼い体格に似合わない大きなおっぱいの谷間越しに、実に嬉しそうに此方を見下ろしてくる所長の笑顔だった。

 

「!」

 

僕は思わず飛び起きたが、その場所が悪かった。丁度、所長が僕の顔を跨ぐようにして立っていたせいで、起き上がった僕の顔面が所長の胯間に直撃してしまう。

 

「はぐぅ!?」

 

咄嗟のことでまともに一撃を食らった所長が、男なら誰でも同情するそれに、切ない悲鳴を上げてどさりと僕のベッドの上に倒れた。本当なら、一応の部下らしく所長の心配をするべきなんだろうけれど、

 

(……何で、良い香りなのさ)

 

「至くん……」

 

所長の胯間に顔面を叩き付けた瞬間、鼻孔に触れた無駄に香る花の匂いに、地味にショックを受けていると、仰向けのまま、ちんぽ(と、言わないと不機嫌になる)を抑えた所長が、ぽつりと声を掛けてきた。はい、何ですか?

 

「この体勢、何かAVのフィニッシュシーンみたいだね♥」

 

「……」

 

仰向けになって、(胯間に頭突きを食らったせいで)息が上がった顔

 

細い両腕で横から押し潰されて、(所長の個人的な趣味で)母乳を噴き出しながらぷるぷると震えるおっぱい

 

僕の両肩に掛かる、少女にしては既に完成されてる感のあるすらりと長い両足

 

うん。言われてみれば、体制はその通りだ。けど、

 

「ふん」

 

「おごぉ!?♥」

 

それは、本当に体勢だけの話だった。

 僕が所長の白いお腹に拳を振り下ろすと、所長はさも大ダメージを受けたかのように腹を抱えて悶絶した演技をする。実際は、使い魔と魔法使いは互いにダメージを及ぼせないんだから、全然効いてないでしょうに。

 

「ノリが悪いぜ、至くん。こういう時は、お情けで、心配してるフリをするのが、男が世を渡るコツさ♪」

 

「別に器用に世を渡る気もないですし、そもそも、こういう時は男の甲斐性とか言うものじゃないですか?」

 

「女の子が一方的に要求してくる、男の甲斐性とかレディファーストとか、あれ、僕嫌いなんだよね。幻想の男の水準に現実の男が達していないことに文句を言うくせに、言うほど自分達が幻想の女の水準に達していないところが特にね。しかも、それを言うと、さも男が天地をひっくり返すような悪事を働いたと言わんばかりに騒ぎ立てるし」

 

「ずばずば言いますね。ほんと」

 

「男と女、両方経験してるけど、中身は男だからね。乙女心()とか、エゴ以上の意味なんてないない」

 

ほんと、多方面に喧嘩売るなあ。

 所長は一頻りけらけらと笑うと、「よっ」と後ろに転がりながら立ち上がり、両手を上げてポーズを取る。

 

「で?」

 

「んむ?」

 

「どうしたんです? こんな朝っぱらから」

 

しかも、休日に。

 

「おや、どうやって? の方は気にならないのかい?」

 

「大体、魔法で済んじゃうじゃないですか」

 

そういう意味じゃ、聞くだけ無駄だ。

 

「ま、それは確かにそのとーり」

 

もう一度けらけらと笑うと、所長は少しだけ勿体ぶったフリをして、こほんと無駄に大仰に咳払いをした。

 

「たまには一緒に遊びにでも出掛けないかって思ってね」

 

「は?」

 

何か、所長が妙なことを言い始めた。

 

「どうしたんですか? 急に」

 

「まあ、そういう反応もになるよね」

 

「そりゃ、大分唐突でしたからね」

 

割りと本気で。

 

「至くんが僕の事務所に来てから、そこそこ時間も経っただろう?」

 

「まあ、一年は経ってますよね」

 

「そろそろ、仕事だけじゃなくて、プライベートの繋がりもあって良いんじゃないかなと思ってね」

 

「はあ……」

 

また、妙なことを言い始めた気もするけど、その心の方は嘘を吐いてもいない。

 

「仕事だけの相棒というのも、あんまり詰まらないだろう? それに、僕はこういう性格で立場だから、中々友達を作る機会に恵まれなくてね。端的に言って、友達が居ないんだ」

 

「少なくとも、僕なんかよりは大分取っつきやすい性格してると思いますけどね」

 

変態行為はあれど、自粛出来ないわけでもないんだし。でもまあ、不老の魔法使いって立場が、友達というありきたりな関係の構築を阻んでいるというのは分からないでもない。実際、僕が使い魔でなかったら、不老の人間と友達を続けられるかというと、中々に難しいとも思う。

 

「あとはまあ、あれだ。"この世"生まれの魔法使いが"あの世"に堕ちる理由第一位は使い魔との仲違いなんだ」

 

「うわ、しょうもない」

 

「ま、確かにね」

 

僕が思わず漏らすと、所長も苦笑混じりに頷いた。

 

「けど、これが案外馬鹿にならない。不老の魔法使いにとって、対等な友人を作るのは至難の技。むしろ、不可能と言っても良いくらいでさ。実際、自分の使い魔以外とは数百年話したこともないって魔法使いは相当に多いんだよね」

 

「はあ……」

 

何て言うか、現代の孤独死とかその辺を聞いているみたいだ。

 

「孤独死は確かに近いかもね。使い魔に見捨てられて、孤独に耐えきれなくなった魔法使いが"あの世"に堕ちる訳だから」

 

「……何か、世知辛いですね」

 

「だね」

 

所長はくすりと微笑んだ。

 

「まあ、そういった事情は置いておいて、単純に至くんと友達になりたいとも思うわけだよ。何時までも雇い主と従業員じゃあ、味気ないだろう?」

 

「まあ、それはそうですね」

 

別段僕としても所長との関係の名称を従業員と雇用主のまま維持したい理由がある訳でもない。

 

「ん。至くんのそういうのに頓着しないところは好ましいと思うぜ」

 

「さよで」

 

面倒臭いだけな気もするけどね。

 

「じゃあ、改めてってのも変ですけど、交友でも深めますか」

 

「ああ。宜しくってのも変だけど、まあ気持ち的には宜しくお願いします……かな」

 

そう言って首を傾げた所長が差し出してきた右手を、僕も何となく面映ゆい気分になりながら握り締めたのだった。

 

「で?」

 

「んむ?」

 

「遊びに出かけるって、何処か行きたいところは決まっているんですか?」

 

「ああ、それかい」

 

頷いた所長が、不意ににまーっとチェシャ猫の様な笑顔を浮かべた気がした。……なんか嫌な予感しかしないんだけど。

 

「あの、やっぱり欠せ「おいおい、親愛なる至くんにここで断られたら、僕の男らしいシャイな心は粉々に砕け散って、涙が溢れて止まらなくなるぜ? もう、あれ? こいつ本当に男だっけ? いや、なんかもう男でもいいやってなっちゃうくらい、演技してすんすん泣くぜ? 男の感情は女でも簡単に理解は出来るけど、男の感情に共感できるのは男だけなんだから、ガチで落としに行ったら、流石の至くんでもダメージは必至だぜ?」うん、僕が悪かったのでそれだけは本気でやめろ、この野郎」

 

僕が思わず遮ると、当然ながら、してやったりの笑みが返ってきた。うん、もうこの際仕方ない。僕は降参と諦観を伝えるために両手を上げた。

 

「で、何処なんですか?」

 

「うん、そうだね……至くん」

 

「はい」

 

 

 

「パンツ買いに行こうぜ」

 

 

 

「……」

 

やっぱり、この世はくそったれだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「で」

 

「んむ?」

 

「ここで良いんですか?」

 

パンツを買いに行く。そう言った所長についてやって来たのは、僕がイメージしていたランジェリーショップとはかけ離れた、極々普通の量販店だった。

 

「んむ? ……ああ、もしかしなくても、高級下着店とかそういう類いを想像してたかな?」

 

「まあ、そうですね」

 

いや、普段から縦縞のトランクスなんて愛用しているんだし、変じゃないと言えば変じゃないんだけど。ていうか、

 

「そういえば、所長」

 

「なんだい? 至くん」

 

「今更の質問なんですけど、何で何時も縦縞のトランクスなんですか?」

 

「……」

 

「……」

 

「……至くん」

 

「はい」

 

「男の僕が、女物の下着を愛用するわけがないだろう? そんなの、変態じゃないか「お前が言ってんじゃねーよ」

 

本当に、説得力皆無だった。

 

「ていうか、前々から疑問だったんですけど、所長は何で態々女の身体になんてなったんですか?」

 

「あれ? 言ってなかったかい?」

 

「所長がロリコンで、美少女をおかずにするために、今の身体になったって話は嫌と言うほど聞きましたけど。それでも、普通はそんな理由でちんこ捨てないですよ」

 

「突っ込むものも突っ込めなくなるしね♪」

 

やかましいわ。

 

「でもまあ、至くんが今言ったのが端的な理由なんだよね。補足するなら『生きている生身の美少女』が良かったってのはあるかな」

 

「はあ」

 

「後、付け足すなら、生身の美少女が良かったけど、子供の反応は要らなかったんだよね」

 

「そこ、問題発言」

 

「問題発言だろうと、本音は本音さ。そして、至くんにまで嘘を吐いてもしょうがないだろう?」

 

「まあ、それはそうですけどね」

 

ばれる嘘とか無駄だしね。

 

「僕、美少女の身体と、エロゲーの美少女の反応は好きだけど、現実の美少女の中身は完全に好きにはなれないんだよね」

 

「あ、それは初耳」

 

「だってほら、創作と違って、可愛いげのなさが可愛くないだろう?」

 

「まあ、その辺は創作ならではですよね」

 

可愛くない反応の中に可愛いげがあるのは、男の制作者が男が好む可愛いげの分量を理解しているからって部分が大きい。巧い女の人もその辺は分かるんだろうけど、流石に子供に求めるものじゃないか。

 

「その辺は洗脳すれば簡単に解消出来るは出来るんだけど、流石にロリコンを自認する僕としてはそれはどうかとも思うしね」

 

「所長って変なところで節度が顔を出しますよね」

 

無いよりは良いんだろうけど、節度が今一歪なところがある。

 

「そういう訳で、至くんが美少女になって相手してくれるなら、僕としては万々歳だね。そうだ、至くん。僕と身体交換しないかい?」

 

「おい」

 

ほら、こういう所とか。

 

「冗談だよ至くん。流石の僕でも親愛なる君をおもちゃにする気はないよ。君とは同じおもちゃで遊びたいのであって、間違っても君で遊びたい訳じゃないからね」

 

「信じますよ?」

 

割りと本気で。

 

「ま、話を戻すと、変身願望ありきで女の体になった奴と、この世のありとあらゆる美少女でオナり尽くした結果、より満足できる美少女を求めて美少女の身体になった僕とではスタンスが大分違うってことさ。僕にとって美少女化は手段であって目的じゃない。だから、もし理想の美少女が目の前に現れたら、僕はすぐにでも男に戻るだろうね」

 

「成る程ね……」

 

何となく最後の一言で所長の身体に対するスタンスが分かった気がした。所長にとって、今の身体は様々な感情の妥協点なんだろう。そう考えると、子供の体格におっぱいだけが大きいアンバランスなチョイスも、何となく所長の妥協点を浮き彫りにしている気がした。

 

「感情的に男だから、下着とかその辺で女物を着ける事に抵抗があるってことか」

 

「そーゆーこと♪ パンツなんか、程好くぶらぶらして、適度に落ち着かせてくれるトランクスが個人的には一番気に入ってたからね。ガラパンじゃないと寝られないんだ♪」

 

「割りとノーパンのことも多かったですけどね」

 

「アイアムノットブリーフ派」と笑う所長に肩をすくめると、それがおかしかったのか、所長はけらけらと笑うのだった。

 

 

 

 

因みに、買い物自体は前振りのやり取りはなんだったのかといわんばかりにあっさりと終わった。しめてお徳用のトランクス三枚入りを3セット。

 

「ありがとうございましたー」

 

間延びした店員の声を背中に、自動ドアを抜けるも、まだ入店して十五分も経っていなかった。うーん、

 

「所長」

 

「なんだい? 至くん」

 

「これ、遊びにきたって言えますかね?」

 

今更ながらにパンツ買うとか、レジャーからは程遠い訳で。

 

「僕は中々に楽しかったぜ?」

 

だが、むふふっと笑った所長は、実に楽しげに口角を持ち上げた。

 

「ほら、女の子連れでパンツ買わせるのって、コンドーム程ではないにせよ、エッチな買い物させる羞恥プレイに似た所があるだろ?」

 

「おい、こら」

 

僕をおもちゃにする気はないんじゃなかったのかと。

 

「おもちゃじゃないよ。性欲の対象さ♥」

 

「もっと悪いわ」

 

というか、ホモじゃなかったんじゃないの?

 

「勿論、単に今の至くんに性欲を抱いている訳じゃないぜ? こう、目付きの悪い猫背気味の美少女になった至くんが死んだ目で僕のパンツを買おうとしている姿を想像して……むっふふふふ」

 

「……」

 

あまりのおぞましさに、僕は思わず右手の拳を振り抜いた。ひょいっとしゃがんで避けた所長はけらけらと笑いながら走って逃げ出した。

 

「至くんは僕以外の誰よりもよく知っているだろうけど、僕は構ってちゃんなんだ!! だから、こう至くんに構って貰いたくなるわけだ!!」

 

「……」

 

叫びながら距離をとった所長が、交差点を駆け抜けてくるりと振り返った。その顔に浮かんだ笑顔は実に無邪気な、それこそ、本当に外見通りの美少女と錯覚してしまいそうな、そんな笑顔だった。

 

「大好きだぜ至くん♪ 構って構われたくなるくらいにさ! 僕はナルシストじゃないけれど、自分勝手で自分の自由第一な魔法使いだから、君への親愛は多分に自己愛を含んでいる! けれど、君は僕で、僕は君だ。だから、僕は世界で一番()を愛してる!!」

 

高らかに叫ぶのは良いんですけど、恥ずかしくないですか? それ!

 

「恥ずかしいけれど、僕はMもこなせるから全く問題ないとも」

 

けらけらと笑った所長が、しかし、次いでにまーっという笑顔を浮かべてきた。…………嫌な予感しかしないんだけど。

 

「因みに!」

 

「……」

 

そして、その予感は嫌な方向に、即座に的中した。

 

「今回は特別に至くんと遊ぶために、認識阻害は完全に切断しているからね♪ 同じ魔法使い達から『口から先に生まれてきた糞野郎』と呼ばれた僕の口を塞ぎたければ、この六伏コランを物理的に捕獲してみせることだ☆」

 

「……おい」

 

「はっはっはっはっは!!」

 

そう言って、実に愉しげな、そして、それ以上にサディスティックな笑みを浮かべて、所長は脱兎のごとく駆け出した。

 

周りを見ると、(中身を加味しなければ)美少女に白昼堂々とバカップルと呼ばれる人種ですらしない、愛の告白(なんてものではなく、実際はお遊び混じりの爆弾投下)をされた僕に刺すような視線が注がれていた。あー、うん。成る程ね。これ、所長を捕まえないと、今後ろくに外も出歩けないと……。

 

「生爪を剥ぎます。一枚一枚、丁寧に」

 

内心を繋ぎ、百メートルくらい距離を稼いだ所長に、直接宣言すると、慌てた所長がその場で土下座を始めた。すぐに追い付いた僕は、事務所にあった工具の中で一番適切な道具は何れかを考えながら、

 

「ぐへぇ!?」

 

土下座する(外見だけは)美少女の後頭部に渾身のニードロップを見舞ったのだった。矢鱈と良い天気な秋空に中指を突き立てると、腕時計の二本の針が丁度午後1時を指したところだった。

 

 

 

 

 




鈴笛至
所長とはプライベートでは友人同士にランクアップした
あのコランと付き合っていけるだけでも、実は割りと凄い男なのかもしれない
パンツは普通にトランクス派。但し、コランみたいなコテコテの縦縞トランクスは履いていない
というか、あの柄は量販店でも見た記憶がない

六伏コラン
ぼっち。友達が居ない。付き合っていると疲れる
構ってちゃんで構いたがり
今でもちんちんの感覚が残っているせいで、パンツは男物のトランクス派
ちんちん男の証


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メリーさん 三

パンツが普通に人気ありましたので、今後も時々書かせていただきます。あと、改名致しました。この作品を書くに相応しい名前だと思います(/・ω・)/


 今回、僕と所長を喚んだ二人の依頼者に軽い自己紹介をしていると、後ろで軽くイっていた所長が立ち上がり、パンパンと軽く制帽を叩いて僕の隣に進み出てきた。

 

「いや、失礼。レディの前で帽子が曲がっていたね」

 

「それ以前に改めるべき所がありますけどね」

 

「後、レディの前でサスペンダーが曲がっていたね」

 

「それはレディの前とか関係なしに改めるべき所ですよね」

 

僕が所長のずれたマナー()に頭を抱えていると、昨日の女の子に庇われていた、妹? らしき女の子が「あのー……」と首をかしげてきた。

 

「お姉ちゃん達は?」

 

そんな妹ちゃんを嗜めるように、やや気が強そうな顔立ちのお姉ちゃんの方が「ゆき!」と声を上げた。

 

「おっと、これは重ねて失礼したね。僕は六伏コラン。見ての通りのしがない探偵さ♪」

 

「何処からどう見ても、ただの変態にしか見えないですよ」

 

「そんな! ちゃんとコスプレショップで買った警官の制帽だって被ってるじゃないか!」

 

「全国の警察官に謝ってくださいね?」

 

矢鱈と大仰にショックを受けた演技をする所長に肩をすくめると、所長は「おや、突っ込んでくれないのかい?」と笑った。

 

「えっと……」

 

「と、すまないね。これは僕と至くんの愛情表現みたいなものなんだ。許してくれたまえ」

 

「そんなもの、表現した覚えはないですけどね」

 

したとしても、日頃の疲労感だけです。

 

「で、お嬢さん達、何か悩みかな?」

 

「あ……ちが」

 

「違うという事はないだろう? その付箋は僕が依頼用に特別な魔力を染み込ませて作ったものだ。使用条件はそれに美少女の涙を落とすこと。そうすると何が起きるかくらいは知っていて、試してみたんだろう?」

 

「それは……」

 

「不安かい? まあ、このおまじないを使う時点で、パパやママには言いにくいんだろうね。けど安心してくれたまえ。僕は美少女の味方だ。体はチビだけど、大きなおっぱいで全部ちゃんと受け止めてあげようじゃないか。例えどんなに突拍子もない事でも……ね♪」

 

そう言った所長が、にっこりと笑って屈み込むと、ゆっさと目の前で揺れたおっぱいに気恥ずかしくなったのか、妹ちゃんは顔を赤らめてもじもじとお姉ちゃんの背中に顔を押し付けた。

 

「……信じられるの?」

 

そんな、所長と妹ちゃんのやり取りを見ていた、お人形を持ったお姉ちゃんは、気丈にもキッと所長を見上げて、そう尋ねてきた。

 

「約束しよう。僕は六伏コランだ♪」

 

そして、そんな女の子に、所長は自信たっぷりに頷いたのだった。

 

「「……」」

 

所長の言葉に、顔を見合わせた双子ちゃん?は互いにこくりと頷き合うと、何かを決心した表情で口を開いた。

 

「おっぱいの大きなお姉さんと、顔のさえないお兄さん」

 

「……」

 

何ていうか、うん。自分が美形だとは間違っても思わないけど、子供の体躯にストレートな感想はそれなりに心に来るね。うん。

 

(おいおい、至くん。君は僕以外の人間からの評価を一々気にするのかい?)

 

(あー、うん、まあ。気にすることはないとはいえ、こうストレートに言われると、それなりに気になります)

 

面倒だから、一々どうこう言わないけど。

 

(それは、素直に腹立たしいなあ♪)

 

なんか、素直に嫌がられた。

 

(何でですか)

 

(君は僕の使い魔だろう? なら、僕以外の人間なんてミトコンドリア程の価値もないと理解してくれなくちゃ♪)

 

(何か、物凄くメンヘラなこと言いますね)

 

(良いじゃないか。美少女なんだし♪)

 

(美少女は免罪符じゃないですよ?)

 

(でも、ブスに言われるよりは良いだろう?)

 

(まあ、そうですけど)

 

美醜がある種の通貨になるのは、まあ、事実だし。と、

 

「メリーさんって知ってる?」

 

「ふむ?」

 

そうこうしているうちに、目の前のお姉ちゃんの口から、そんな言葉が出てきた。メリーさん?

 

「メリーさんって、あの電話の?」

 

「うん」

 

僕が確かめると、今度は妹ちゃんの方がこくりと頷いた。

 

―メリーさん―

 

怪談、都市伝説、逸話、寓話といったものが、未だに産まれては忘れ去られる日本の中で、一定の知名度を得てメジャーになったものとしては、かなり新しい部類の話だ。その細部には様々な違いが見られるが、基本的に電話が掛かってくること、電話を取る度に徐々に自分に近付いてくる事は共通している。ジョーク、アレンジ含めれば、派生した逸話はそれこそ無数にあるだろう。そんな―都市伝説にしては―在り来たりな言葉に、一瞬拍子抜けした気分になる。しかし、

 

「!」

 

妹ちゃんが頷いた瞬間、僕と、そして所長の視界が一瞬で"緋色"に染まり上がった。

 

「これは……」

 

「ああ」

 

頷いた所長が猫目を細める。

 

「"黄昏時"だね……」

 

「……」

 

所長の呟きに頷きながら、辺りを見回す。その緋色の世界は、確実にこの話が所長が言うところの"あの世"に絡んだものであることを物語っている……

 

PiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPiPi

 

「!」

 

そして、間を置かずに鳴り響いた無機質な電子音。高架下の騒音のようなそれに、思わず耳を塞ぎたくなる中で、それはやって来た。

 

―私、メリーさん。今、駅前のデパートに居るの―

 

「「……」」

 

何処か硬質な、ネット上で聞く電子音声にも似た声。

 

「……聞こえた?」

 

「……」

 

そう言って、ぎゅっと手を握りながら呟くお姉ちゃんと、その後ろでお姉ちゃんの服の袖を掴む妹ちゃん。

 

「……確りとね」

 

頷いた所長と視線を合わせると、少し考え込むように、所長は手に持った鞭でトントンと肩を叩いた。

 

「さきちゃんはとゆきちゃんは一体何時からこの世界に来るようになったんだい?」

 

「世界?」

 

「来る?」

 

そんな所長の言葉に、二人の女の子はそれぞれ左右に首を傾げた。

 

「この緋色……赤い景色の事だよ」

 

僕が捕捉すると、

 

「……???」

 

お姉ちゃんの方がまた首を傾げた。んん?

 

「ゆきちゃん、さきちゃん」

 

「「?」」

 

「君達は、この空は何色に見えるかな?」

 

そう言って、真っ赤な空を指差した所長に二人の女の子は顔を見合わせ、

 

「「何色って、水色」」

 

至極不思議そうに、そう答えてきたのだった。えっと、これはつまり、

 

(見えてない?)

 

(或いは、引きずり込まれていないか……だね)

 

隣で腕を組んだ所長が、そう言って首をかしげた。

 

(そういうことってあるんですか?)

 

("あの世"の住人の力そのものが弱ければ、起こらなくもないかな)

 

所長の言葉に頷き、同時に首をかしげる。

 

(となると、メリーさんは"あの世"の住人としては凄く弱い存在ということになるんですかね?)

 

(もしくは、凄く特殊なタイプの可能性もあるかな)

 

(と、言うと?)

 

(力そのものが弱いのは間違いなさそうだけど、たったそれだけの存在が"黄昏時"を使って人を襲えるとも思えないからね。何かカラクリがある可能性を捨てない方がいい)

 

(確かにそうですね)

 

最低限慎重に。そう受注する所長の言葉はもっともで、僕も同意を込めて頷いた。

 

「では、質問を変えようかおふたりさん」

 

「「?」」

 

「この、"通話"は一体何時から始まったのかな?」

 

「それはっ!……!?」

 

所長の質問に、一瞬声を上げたお姉ちゃんの方が。しかし、何かを飲み込むように、唇を噛んだ。んん?

 

「……この前の、お休みの日から」

 

言葉を引き継いだ妹ちゃんがそう答えてきた。先週の土日だから、4日程前からか。

 

「一日に何回くらい声は聞こえてくるのかな?」

 

「一回の時と、三回の時と……」

 

「ふむん……」

 

少なくとも、一日に一回。多いと三回か。

 

「最後に、何処で電話を聞いたのか、教えてもらえるかな?」

 

「「……」」

 

こくりと頷いた二人の女の子に、所長はにっこりと微笑んで「良い娘だ」と呟いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

パァン!

 

 二人の探偵が去ったのを見送った直後、そんな乾いた音が公園の中心で響いた。

 

叩かれたのは人形を持ったお姉ちゃん

 

叩いたのはお姉ちゃんのうしろに隠れていた妹ちゃんだった

 

赤くなった頬を抑えてキッと妹を睨み付けるお姉ちゃん。しかし、妹ちゃんはそんなお姉ちゃんの前髪を掴むと、「いやっ!?」と悲鳴を上げるのも構わずに、その目を覗き込んだ。硬質で無機質、そして何よりも酷く生物感のない。そんな目だった。

 

「ねえ、お姉ちゃん(・・・・・)

 

「!」

 

妹の声に、お姉ちゃんはビクリと肩を跳ねさせる。

 

「私、言ったよね? メリーさんが聞こえてきたのは四日前からだって。何度も言い聞かせたよね?」

 

「……」

 

言い募る妹に怯えたお姉ちゃんが、ぎゅっと人形を抱き抱えると、妹はその姿を見てにぃぃっと口角を持ち上げた。

 

「ちゃんと私の言うとおりにしないと、その人形壊しちゃうよ?」

 

それは、まるで感情のないお面の口の端を無理矢理引っ張って持ち上げたような、そんな歪な笑顔だった。

 

「約束は守ってよね? お姉ちゃん(・・・・・)

 

そう言い捨てて、すたすたと公園を歩き去る後ろ姿には、先程の探偵二人の姿に恥ずかしがっていた弱々しさはなく、年相応以上に傲慢な色が見えた。

 

「……」

 

妹が歩き去ると、残されたお姉ちゃんはぐしぐしと涙を拭い、気丈にきゅっと唇を引き結んで立ち上がった。

 

「……人形じゃないもん」

 

呟いた彼女の声は、抱き抱えた人形だけが聞いていた。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 事務所に戻った所長は、幼女がオークに肉便器にされたイラストのテーブルにつくと、皮のパンツを脱ぎ捨ててコスプレ用に持ってきた鞭のグリップをじゅっぷじゅっぷと股間に突き立ててオナニーを楽しみながら、何かを考え込むようにバサリと大きな紙を広げた。

 

「それは?」

 

「地図さ」

 

見慣れないくすんだ羊皮紙?について尋ねると、所長はにっと笑ってその中央に、丁度鞭のグリップを握っていてでろでろになった右手を翳した。ちょ、たれてますたれてます。

 

「舐めてみるかい?」

 

「いやですよ、汚いし」

 

「おいおい、僕のおまんこはセーラー服を経験したビッチの汚まんことは違って、味わった瞬間にこの世で味わえる最高の多幸感に包まれる代物だぜ?」

 

「まず、中学生を無条件で汚まんこのビッチにしないでください。何処かの一方通行ですか。つか、あんたの体液はヘロインか何かなのか?」

 

「中学生がBBAなのは厳然たる事実さ。僕の様なエターナルパーフェクトロリータボディの持ち主以外はね♪ そして、世界最高の覚せい剤ごときが、そんなエターナルパーフェクトロリータおまんこ汁に並び立てるわけがないだろう?」

 

けらけらと所長が笑うと、ぽたりと小さな手に着いた愛液が零れ落ち、そして、その小さな染みを中心に、忽ち紙一面に、航空写真にも似た、しかし、やけに赤い家々の絵が広がった。これは……。

 

「そ。これは所謂"あの世"の地図さ」

 

「へぇ……」

 

所長のその言葉に、僕はまじまじとその地図を覗き込んだ。一見、赤いだけのその地図だったが、時折紙の一部が明滅していたのに気が付いた。

 

「この点は何ですか?」

 

僕が指差した先には、丁度この町の小さな神社があった。

 

「ああ」

 

頷いた所長は、「それが、所謂力のある(・・・・)"あの世"の住人さ」と言った。ということは、

 

「そ。この点がこの前のロリコン美術教師みたいな、自力で"黄昏時"を開ける奴ということだね」

 

ふーん。何となく興味が湧いて地図を見たが、しかし、常に明滅しているのは神社ばかりで、後は本当に小さな点が一二度光り、直ぐに消え去るだけだった。んん?

 

「至くんが考えている通り、この地図は基本的には役立たずだ」

 

僕が浮かべた疑問に気が付いたのか、所長はそう言ってくすりと笑った。

 

「まず、見ての通り、本当に力の強い奴じゃないと、この地図にはのってこない。次に、御神体の類いを除いては、力のある奴らは直ぐに移動できてしまうから、やはり追跡にも向かない。そもそも、どの点がどの住人かは僕が直接確かめないといけないからね。しかも、地図としては普通にネットの地図の方が良くできている」

 

「まあ、ですよね」

 

親指、人差し指、中指と順番に立てた所長に、僕も頷き返す。

 

「だが、幸いこの地図は"あの世"の住人を力で足切りしてくれるからね」

 

「ああ、そういう事ですか」

 

「うん」

 

今日の姉妹との会話中、メリーさんの電話が掛かってきたあの時、僕と所長にははっきりと"黄昏時"が見えたけど、あの二人の姉妹には音しか聞こえなかった。それは、"黄昏時"を作り出した者の性質によるものなのか、それとも力の規模によるものなのか。

 

「魔法使いの僕と、僕と契約した使い魔である至くんの五感は、"黄昏時"を感知することに長けている分、どうしても弱い力を拾いやすいからね。こうやって、"あの世"の住人の力の度合いを確かめて、その力が条件依存のものなのか、力の規模依存のものなのか分析するのは大切さ♪」

 

じゅっぷじゅぅぷと右手のペースを早めながら、所長は笑った。ふむ、

 

「一先ず、二人の事をパソコンでストーkもとい、見守っておきながら、この地図と連動させることで、何かしら見えてくる筈さ☆」

 

そう言って笑った所長が、園児服の女の子が輪姦されている壁紙の前でソフトを一つ起動する。ソフトが開いた先には、二人で並んで家に帰る、さっきの女の子達が居た。不意に、パソコンから鳴った電子音。次いで、画面の奥で真っ赤に染まる世界と、怯えた仕草を見せる二人の女の子。

 

「お、早速引っかかったね」

 

「ですね」

 

にんまりと笑う所長の前で、メリーさんの声が室内に響き渡った。

 

 

 

―私、メリーさん。今、デパートの隣のコンビニに居るの―

 

 

 

「至くん」

 

「映ってませんね」

 

所長の声に、僕は地図の中身を確かめながら答える。電話のメリーさんの言葉、そして、あの二人の女の子の居場所、その間の何処にも、赤く光る点は見られなかった。

 

「決まりだ、至くん。この"メリーさん"は相当に力の弱い都市伝説に違いない」

 

「と、いう事になりますね」

 

僕と所長の眼にしか映らない"黄昏時"。そして、地図にも姿を見せないという事は、力そのものは相当に弱いという証拠だ。……あれ? 所長?

 

「ん? どうかしたのかい? 至くん」

 

「これ一寸変じゃないですか?」

 

「んん?」

 

ぐちゅぐちゅと音を立てながら、身を乗り出しておっぱいを地図に押し付けた所長。ちょ、母乳が垂れてます。

 

「おっと……よし」

 

ティッシュでミルクを拭いた所長が「それで?」と首を傾げる。

 

「ここが、あの二人の家ですよね?」

 

地図の中心にある団地。その一つを指さすと、所長が「そうだね」と頷く。

 

「で、駅が此処」

 

「ふむ」

 

次に、今日の電話のあった場所。団地から少し離れた場所にあるこの町の駅を指さす。

 

「で、メリーさんのスタートであるごみ置き場が」

 

「……確かに、妙だね」

 

メリーさんの都市伝説は捨てた人形がじわじわと家に近付いてくるところからスタートする。その点は比較的どの寓話でも一致しており、人形を持たないような成人男性や中年男性等がターゲットとなった話であっても、この点は変わらない場合が多い。今日の二人の女の子の話も、同じように人形を捨てた経験はなかったにも拘わらず、ごみ捨て場から話が始まっていた。だが、

 

「あの二人の家の近くのごみ捨て場は……」

 

「駅からむしろ反対側だね」

 

そう、明らかにゴミ捨て場の位置がおかしいのだ。偶然かもしれないが、二人の家は団地の最も駅に近い方向にあり、結果的にゴミの集積場所が全て駅とは反対側に密集していた。

 

「しかも、駅の近くには当然ですけどごみ集積所は無いですよね」

 

「ふむ……」

 

「じゃあ、別の町のごみ集積所ってなりますけど、今度は距離に違和感があります」

 

「……」

 

あの二人の言っていたメリーさんの電話の位置を見ると、その移動は非常に小刻みで、都市伝説以上にじわじわと距離を詰めて来ていた。が、もしごみ集積所をスタートにした場合、そのごみ集積所から駅までの移動だけが異常に距離が長いのだ。

 

「これは……ちょ、と、調べる! 必要があるかなはぁ♥」

 

「? ……ておい」

 

気が付いたら、所長の右手のペースが8ビートから16ビートに進化していた。ていうか、

 

「いや、一寸待ってください。直ぐに距離取りますから、せめて少しだけ我慢して「んひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」

 

僕が慌てて椅子から立ち上がったのとほぼ同時に、椅子に座っていた所長がぴんっと爪先を立てて腰を持ち上げた。そして、やばいと思う間もなく、

 

「おほ♥ おっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!♥♥♥」

 

ぷしゃあああああああ!! という長い噴出音と共に、長い馬上鞭の生えた所長の股間から勢いよく潮が吹き出す。びくびくっと震える所長の腰の動きに合わせて、ぶっるん!ぶっるん!と震える鞭を伝い、所長の体液が地図と言わずパソコンやキッチン全体に撒き散らされた。そして、

 

「……」

 

「はぁ……♥ はぁ……♥」

 

当然の如く、所長の真ん前に居た僕が一番被害を受けていた。

 

「……所長?」

 

「んっ……♥」

 

ぴくっ……ぴくっ……と震えながらオナニーの余韻に浸っていた所長。普通に見れば顔を赤らめたおっぱいの大きな美少女の全裸に見えるんだろうけど、

 

「いやあ、済まないね至くん。一寸、我慢できなかった♥」

 

そう言って、でろでろになった両手をパンと合わせて所長は「てへ♥」と舌を出した。はっはっは。うん、

 

「毟りますね?」

 

「逃げるぜ?」

 

僕が右腕を振りぬくより一瞬速く椅子から下りた所長が素早く距離を取った。畜生、すばしっこい。

 

「ああ、そうだ至くん」

 

同人誌が山のように積まれた廊下の入り口に行ったところで、所長がくるりと振り返った。うん?

 

「ほらほら、ぞーさんだよ♪」

 

そう言って、所長は蟹股になり、へこへこと腰を振った。所長の腰の動きに合わせてぶらんぶらんと回転する鞭。そして、愛液の雫がキッチンの奥にまで飛び散った。うん、

 

「生皮剥ぎますね? 一枚一枚丁寧に」

 

掃除するの誰だと思ってるんですかね。この変態は。

 

「はっはっは! 捕まえてみると良い♪」

 

実に楽しげに笑った所長が、けらけらけらと逃げ出した。僕はキッチンから包丁を取ると、躊躇なくアホを追いかける事にした。尚、

 

「はごぉ!?」

 

「うわぁ……」

 

所長との追いかけっこは僅か数歩で終わりを告げる。

 

「そんなもの入れたまま走るからそうなるんですよ」

 

何のことは無い、股間に入れたままの鞭が引っかかり、予想以上に深くずぼっと股間にめり込んだ結果だった。

 

「はぁ……」

 

股間を抑え、ぴくぴくと震える所長の手の痕の付いたお尻から延びた、黒光りするびしょ濡れの鞭を引っ張る。ちゅぽんと音を立てて栓を抜くと、緊張していたあれこれが、抜けたのかしょろろろろという音と共にアンモニア臭が広がった。……はぁ。

 

「掃除、増えるなあ……」

 

取り合えず僕は、盛大に自爆した所長(アホ)の細い腰を掴み上げると、無理矢理風呂に放り込むことにしたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 三日後の事、

 

「う~ん……」

 

「所長?」

 

あの日から毎日、双子を観察していた所長はエロゲの隣で起動していたストーカーソフトの前で首を傾げた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「中々尻尾を見せないと思ってね」

 

差し出したコーヒーのカップを受け取ると、所長は何時も通り母乳を垂らしてくるくるとコーヒーをかき混ぜた。

 

「……」

 

その視線の先、画面の中には地図の中心の団地から程近い幼稚園と、その端で遊ぶあの姉妹の姿があった。

 

「現れる場所、時間、スパン、タイミング、そのどれもが不規則で、法則性というものが確認できなかった。唯一、一貫しているのは……」

 

「家までの距離」

 

「のはずだったが、その第一歩目から挙動が明らかに可笑しい……」

 

考え込みながら所長が僕の分のカップに母乳を垂らして差し出してきた。うん、何かもう、面倒くさくなってきた。

 やたらに旨味の強いミルクコーヒーを口にしながら、所長の上からパソコンの画面を覗き込む。つけられた地図の印を見ると、確かに一貫性がない。

 

「うーん、実地調査……しようか?」

 

「実地調査ですか」

 

「ああ」

 

そう言って、所長あぴょこんと椅子から飛び降りた。

 

「現状、あの二人に纏わり付いたメリーさんの正体を知る術がないしね。推測は幾らか浮かぶけど……」

 

「……」

 

「正直、現状ではお手上げだ」

 

そう言って所長が両手を上げると、ぷるんっとおっぱいが揺れた。

 

「分かりました。じゃあ、少し待ってくださいね」

 

それなら、一寸部屋を片付けないと。

 

「ああ、僕も着替えて準備をしておくよ☆」

 

「はいはい……はい?」

 

そう言った所長が唯一身に着けていた柄パンをすぱんと脱ぎ捨てる。

 

「ファッキン・エクスカリバー、メイクアップ!」

 

直後、宙を舞ったトランクスが光、青と白の光が所長を包み込んだ。

 

身長の割にすらりと長い両足が露になると、膝まで届く青いロングブーツ

 

両の手首にはきつく巻かれた青いリストバンド

 

ぷっくりと恥丘を浮き立たせて、お尻を顕わにしている、光沢のあるハイレグのショートパンツ

 

「マイティ六伏……見!参!」

 

当然の如くトップレスで現れた所長に僕は思わず天を仰いだ。

 

「何故にプロレスラー?」

 

「ノリ♪」

 

当然のように言い切った所長がエプロンを置いた僕の手を取ると、「さ、行こうぜ♪」と微笑んだ。何時もの如く青い光が僕と所長を包み込んだ。

 

「警察に捕まりますよ?」

 

「大丈夫☆」

 

「……」

 

この前みたいなテロ行為は止めて欲しいんだけどな。

 

「僕を見た人間は女性がトップレスなのが普通だと思うようになるから☆」

 

「他人の性癖を歪めるな」

 

多分、この前みたいなことにはならない。けど、うん、色々と他人の人生を歪める所長に、僕は深く深く溜息を吐いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「……」

 

 肌寒い冬の空の下、熱いコートと手袋を身に着けた漆原さきはじっと青い空を見上げていた。手に持った人形はあの日からずっと手放さずにいる。本当は今すぐにでも逃げ出してしまいたい。こんな人形だって捨ててしまいたい。けど……

 

―お姉ちゃん! お姉ちゃん!!―

 

―ゆき!?―

 

あの日、家で見た光景。まだ、本当にあった事なのかもわからない中で、さきは唯々途方に暮れる事しか出来ないでいた。

 

「おねーちゃん♪」

 

「!」

 

不意に、背中から聞こえた声に、さきは思わず肩を跳ねさせた。振り返った先には、にこにこと笑顔を浮かべる妹のゆきの顔があった。

 

「どうしたの? そんなところで」

 

一見無邪気なその笑顔に、しかし、潜んだ眼の光が酷く冷たかった。

 

「……別に……何でもない」

 

始めのうちは怖くて仕方なかったその笑顔も、大分慣れていた。慣れてしまっていた。さきはぎゅっと唇を噛むと、そう言って、顔を背けた。

 

「ふふふ……」

 

「……」

 

そんなさきに微笑を浮かべたゆきは心底楽しそうに笑った。

 

「そんな冷たい事言わないで、一緒に遊ぼうよ。お姉ちゃん♪」

 

「私は……あなたのお姉ちゃんじゃない」

 

"お姉ちゃん"その言葉にはっと目を見開いたさきはキッとその言葉を口にしたものを睨みつけた。だが、その仕草が面白かったのか、彼女はくすくすと笑うだけだった。

 

「冷たいなあ、お姉ちゃんは。本当に冷たい……」

 

「……」

 

「あんまり冷たいと、私、お姉ちゃんの大切な物全部壊したくなっちゃうわ♪」

 

「!!」

 

そう言って、もう一度笑った彼女の笑顔には、酷く冷淡な、そして、隠し切れない残忍な、そんな色が浮かんでいた。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

「……」

 

「私は……私がお姉ちゃんの妹なんだよ?」

 

「……」

 

「だから、仲良くしましょう?」

 

「……」

 

「私を守って」

 

「……」

 

「私を助けて」

 

「……」

 

「死ぬなら私の代わりに死んで? じゃないと」

 

「!!」

 

耳元に近付けられた唇からは生温かい、獣の臭いがした。

 

 

 

「あなたの大切な物、本当に永遠に失われちゃうわよ?」

 

 

 

その笑顔に、さきのなけなしの勇気は既に壊れそうだった。そして、その事実が愉快だったのか妹の姿をしたそれは絶叫の様な哄笑を上げた。やがてそれが終わると、「じゃ、行こ♪」と微笑んできた。

 

「……」

 

頷いて手を引かれたさきには、もう抗う気力は残されていなかった。

 

 

 

 

 




鈴笛至
なんかもう、最近所長のお漏らし癖に慣れてきました。
多分、顔面にここまで男の体液掛けられた主人公ってあまりいないと思います。

六伏コラン
色々漏らしすぎのヒロイン(男)
下半身から三種の体液をまき散らし、鞭のグリップと人形を穴に突っ込む系ヒロイン()
でも、メインヒロイン。なんだかんだで主人公の事は友人として気に入っています


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メリーさん 四

遅くなりました。ご免なさい!!


 さて、所長のワープ「チッチッチ、そこはワープじゃなくて転移魔法と言ってほしいね」いや、所長、自分でワープって言っちゃうじゃないですか。

 

「そういえばそうだったね」

 

けらけらと笑う度に、(造形技術的な意味で)自慢のバストがぷるんぷるんと揺れるが、何か魔法で弄っているらしく、綺麗に切り揃えた揉み上げが器用に乳首を隠していて、ギリギリR-15な格好になっている。「さ、それじゃあ早速観察といこうか」と笑っているけど、どう見ても変質者だよね。

 

「おいおい、ひどいじゃないか至くん。今の僕は何処をどう見ても立派なプロレスラーじゃないか」

 

「せめて女子プロレスラーの格好をしてたら、ギリギリ、百万歩譲って言い訳できたかもしれないですけどね」

 

「ほら、チャンピオンベルトも巻いてきたんだぜ?」

 

「DSKB……何の略ですか?」

 

「勿論、ドスケベの「うん、皆まで言わずとも分かりました」

 

やっぱりろくでもないね。

 

「で、実際に来たわけですけど」

 

「うん」

 

「取り敢えず、辺りを回りますか?」

 

「ま、それくらいしかないよね」

 

肩をすくめた所長が天に向かって腕を伸ばすと、形の良い指をパチンと鳴らした。

 

「ん?」

 

途端に鳴り響く、矢鱈と力強いハイテンポな音楽。ていうか、この曲って、

 

「さ、行こうか至くん」

 

「プロレスラーの入場曲流しながらの調査とか初めて見ましたよ」

 

というか、普通にうるさいし。

 

「ていうか、寒くないんですか?」

 

僕がそう聞くと、所長は急に真顔になった。

 

「至くん」

 

「はい」

 

「くっそ寒い」

 

「ダメじゃねーか」

 

本当に、ダメじゃねーか。

 

「まったく……」

 

仕方なく、僕は雑に引っ掻けてきたダッフルコートを脱いで、にっこりと笑いながらカタカタと震えている所長に被せる。ああもう、こんなに鳥肌立てて。

 

「至くん」

 

「はい?」

 

「素直に助かる」

 

あまりにも所長らしくない素直な感謝。地味に追い詰められてたな……。

 

「はいはい……っと」

 

そして、不意討ちで虚を突かれたせいか、少し前から使わないようにしていた口癖がつい口をついて出てしまった。なんとなしに口を抑えて隣を見ると、

 

「……」

 

物凄い良い笑顔の所長が、ぎゅっと親指を中指と人差し指の間に突っ込んでいた。……おしゃぶりをしゃぶって。

 

僕は所長を殴り飛ばした。

 

所長は「うーわ、うーわ、うーわ」とストリートファイターの物真似をした。

 

……懐かしいな。

 

「はっはっは♪」

 

そして、両人差し指を天に向けるポーズ。当然のようにばるんっ♥と揺れるおっぱい。お前、負けたんじゃないのかよと。と、

 

「あ……」

 

「んむ?」

 

例によってバカをしていた筈の僕と、そして、当然の如く所長も、同時にそれ(・・)に気が付いた。

 

首筋に触れる幽かな違和感

 

鼻腔を擽るほんの僅かに生臭い香り

 

そして、染まる血色の世界

 

「「……」」

 

二人同時に幼稚園の方を振り返ると、園の外で怯える姉妹の姿。そして、

 

 

 

―私、メリーさん。今公園前の歩道橋にいるの―

 

 

 

無機質な女の子の声。

 

「「……」」

 

ある意味待ちに待った光景が、再び僕と所長の前に広がったのだった。

 あの日に見て、そして、画面越しにも何度か確認したその光景に、僕と所長は一度顔を見合わせる。

 

(違いは?)

 

(直ぐに)

 

周囲の景色の中、音、匂い、感触。その全ての中から差異を探し、違和感を見つけ出す。ほんのわずかなそれでも、案外この化け物の本性を探る場合には重要な手掛かりとなる場合が多いと、僕もそれなりの期間を所長の下で過ごすうちに学んでいた。果たして、

 

「ん?」

 

ほんの僅かに首筋に感じた違和感。その奇妙な生臭さの先を追った僕の視線が、一瞬の内に所長のそれとリンクする。

 

「「いた」」

 

僕の、所長からは抑揚のないと称させる声と、所長の風貌に対して少しだけしゃがれた声が重なる。僕と所長、一つに重なった五感は研ぎ澄まされ、その先に小さなロボットが不自然に電柱の影に隠れている姿があった。

 

「おっと、逃がさないぜ♪」

 

僕と所長の視線に気付いた瞬間、動きのないロボットの顔のくせに、やたらと感情豊かに慌てだした子供向けのおもちゃ。そのロボットに向け、所長は汗でぐっしょりと濡れた青いパンツの上から身長の割にむちっとしたお尻をパァンッ!と叩き、その手で人形の方を指さした。

 

「!」

 

瞬間、その人形を囲う三段のロープ。次いでく染まったリングに向かって、所長が走り出す。だが、

 

「っと」

 

不意に鳴ったクラクション。その方向には、慌てた顔のドライバーと、ステアリングにまとわりついた小さな女の子の人形の姿。

 

「……」

 

ロボットに走り寄る所長に向かって一直線に突っ込んでいくそれに、僕は一息で体を割り込ませた。

 

「くっ」

 

直後、前進を襲う強い衝撃。内蔵の奥から競り上がる不快感をそのまま吐き出すと、喉全体が鉄錆の味に満たされた。

 

「ナイスっ! 至くん♥」

 

「ひいっ!?」

 

横目で笑い、サムズアップ代わりの女握りを投げて寄越した所長は、タタンッ!と軽やかにリングに駆け上がると、そのトップロープを足場にして、高々と赤い空の上へと跳躍した。そして、

 

「潰れてしまうと良い……コラン・ヴィクトリー・ピーチ・スタンプ!!」

 

握り拳と共に両脚を振り上げて、レガースに包まれたすらりと形の良いそれで、綺麗なVの字を描く。リングの中央に向けられた、むちっとしたお尻が核弾頭となり、

 

「ぐびっ!?」

 

「はい、わんつーすりー」

 

「っ〜〜〜〜〜!! 勝利!!」

 

所長の身体をゲートに、僕が右腕を出してカウントを取ると、所長はビクビクッと震えて、ピースサインを僕に向けてきたのだった。あー、はいはい。

 

「勝者、マイティ六伏」

 

「イエーイ!!!♥」

 

観客もいない中で、僕に右腕を掲げられながら、嬉しそうに煽りを向ける所長。うん、まあ、本人楽しそうだし良いか。ていうか、見えてます見えてます。

 リングの上でトップレスでガッツポーズをとる少女と、その手を掲げる吐血した男という異様な組み合わせ。というか、所長と僕なんだけど。二人して軽いウィニングランをした後、所長がリング中央を振り返った。くっきりと出来た、二つのクレーター(お尻の痕)。その片方の中で、四肢のひしゃげたロボットが、「あ、う…」と実に人間らしい(・・・・・)悲鳴を上げた。

 

「ちっ、生きてたか」

 

「いや、その反応はおかしいですからね?」

 

捕まえて、情報引き出すんじゃなかったんですかと。

 

「仕方ない……ガムテープでぐるぐる巻きにして、持ってきてくれ」

 

「はいはい」

 

色々ともう、僕自身も開き直って、肩を竦めると、所長からポイッと投げ渡されたそれで、ロボットの悲鳴も無視してそれを巻き上げる。

 

「じゃ、戻りますか?」

 

「そうだねぇ……」

 

頷いた所長が、不意に何を思ったのか、ずいっとビキニパンツに包まれたお尻を突き出してきた。

 

「……何ですか?」

 

「ボーナス♪」

 

「……」

 

何か、嫌な予感がする。

 

「マイティ六伏のむちぐしょピーチ、揉んでみるかい?♥」

 

ああ、うん、予想通り。

 

「ていっ」

 

僕は所長のパンツ越しにお尻をひっぱたいた。

 

「はふんっ♥」

 

無駄にそれっぽい仕草で喘いだ所長は、けらけらと笑っていた。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 六伏コラン探偵事務所のあるフロアは実は一フロア丸ごと所長の物だったりする。その部屋の全てに所長の趣味(・・)が格納されており、所長は「コランズタンク♪」等と秘密基地を気取っていたりする。で、そのタンクの二号室、俗にいうエロフィギュアがずらっと並ぶ一室で、

 

「ぐっふっふっふっふ♪」

 

「むーっ! むーっ!?」

 

サバトも真っ青な光景が繰り広げられている。

 

 

固く亀甲縛りで縛り上げられた未熟な身体

 

桜色の唇にきつく噛まされたボールギャグ

 

そして、

 

 

「くっくっく、ふっふっふ、ふあああああああああははははははは!!!」

 

 

その目の前で、テンプレ極まった哄笑を上げながら色欲濡れの下卑た表情で、本来あるはずのない男根を小さな掌でしごきあげる所長の姿があった。

 

「……何してるんですか所長?」

 

人のちんこ勝手に使って。

 

「んん? 見て分からないかい?」

 

「分かりたくないから聞いているんです」

 

振り返った所長はそれでも右手のしこしこを一切止めようとしなかった。つか、ペースアップするなと。

 

「で?」

 

「んむ?」

 

「答えは?」

 

あんまり聞きたくないけど。

 

「勿論決まっているだろう……レイプだ!☆」

 

「んむーっ!?!?!?」

 

「予想はついていたけど、知りたくなかったです」

 

あ、レイプって言葉に反応した。レディコミの倫理観ってどうなってるんだろうね。というか、所長もYESロリータ!NOタッチ!の精神は何処に行ったんだ?

 

「おっと、信頼する僕の右腕たる至くんともあろう者が、一寸その質問はケアレスだぜ?」

 

「何か気付いていないことでも?」

 

「良いかい至くん」

 

「はあ」

 

「幽霊に、人権なんてものもなければ、性犯罪なんて立件不可能なんだぜ!!!♥♥♥」

 

「目を最高にきらっきら輝かせて何、糞下劣極まりない発言してやがる」

 

こういう奴が居るから性犯罪は無くならないんだな。

 

「ていうか」

 

「んむ?」

 

「ものすごーく嫌な予感しかしないんですけど」

 

「うん」

 

「その股間のちんこ……どうしたんですか?」

 

「……」

 

「……」

 

「勿論、至くんの「やっぱりかこのやろう」

 

出来れば外れていて欲しかった。

 

「至くんと契約してから、昔みたいにちんちん生やせるようになっちゃって、すっかり歯止めが利かなくなっちゃったんだよね♪」

 

「いや、もとからあんた、こういう性格だったじゃないっすか」

 

「実質二人の共同作業。つまり、輪姦だね☆」

 

「勝手に人を巻き込むな」

 

犯るなら、せめて一人で犯ってください。通報してあげますから。

 

「そっか、脱獄の準備をしてくれるんだね!」

 

「ポジティブだなぁ……」

 

絶対にせんわ……面会くらいは行くかなあ。

 

「至くん、至くん」

 

「はい?」

 

「なんか、めっちゃリアルな想像してないかい?」

 

「してませんよ?」

 

「心が繋がっちゃってるのに、当然のように嘘を言うなあ」

 

「むしろ、内心がバレバレだから、平気で嘘を吐けるって感じですけどね」

 

それはもう、お互いにね。

 

「それもそうだ」

 

所長はけらけらと笑った。

 

「さて」

 

「ん?」

 

「いい加減、僕の方も色々と辛抱堪らなくなっちゃった♥」

 

「今の会話に、情欲をそそるシーンありました?」

 

「こう、全裸で亀甲縛りの美少女を床に転がして馬鹿話するシチュエーションが?」

 

「放置好きなんですか?」

 

「割りと」

 

さよで。

 

「性的快楽を知らない美少女が、性欲解消のために何を要求すればいいのか分からなくなってパニクッてるるのって最高にそそると思わないかい?」

 

「そこは言わんでいい」

 

僕が尻をひっぱたくと、所長はけらけらと笑った。

 

「さて」

 

そして、一頻り笑い終えると、「さ、それじゃあそろそろ」と呟いた所長が、何もない空間から、太くて黒い物を取り出した。

 

「んむーっ!?!?」

 

そして、魔法陣の中心で亀甲縛りされた女の子の一際大きな悲鳴が響き渡る。……まあ、

 

「ふっふっふ」

 

実際には単なる

 

「ふーじーこちゃーん!!!!」

 

ぶっとい付けもみあげなんだけどさ。

 アニメ通りの奇麗な……奇麗な? いや、むしろくっそ汚いルパンダイブで亀甲縛りの女の子に襲い掛かった所長は、

 

「射殺せ……牙突☆零式!!♥♥♥」

 

その股間でびくびくと脈動するペニスを躊躇なくぶち込んだのだった。

 

「んぐぉ!?!?!?」

 

ぼこりと膨らんだ腹に、ぐりんと反転した白目。直後に響くパキンッ!! という冷たい破裂音。後に残ったのは、まるでガラスみたいに砕け散った小さな人形の姿だった。

 

「……ふぅ」

 

それを確かめた所長がどくどくと精液を垂れ流したちんぽの前でパチンと指を鳴らすと、青い燐光に包まれたそれは奇麗さっぱりなくなっていたのだった。

 

「……分かりましたか?」

 

「ああ、ばっちりだ♪」

 

隣室から持ってきたガウンを渡すと所長はにっこりと笑ってそれに手を通した。

 映画の悪役が着るようなそれに身を包んだ所長は気付け用に持ってきていたコーラを一気に飲み干すと、人形の前にどっかりと座り込むと「げぇぇぇふ!」と腹の底からげっぷを吐き出した。

 

「この都市伝説のメリーさんだが、どうやら予想以上に性質が悪いみたいだ」

 

「……」

 

「あの二人の身柄を確保しよう。場合によっては既に"マーキング"されている可能性もあるからね」

 

「了解しました」

 

立ち上がった所長に頷き、僕も直ぐにウィンドブレイカーを羽織った。

 

「そういえば所長」

 

そして、青い魔法陣の中心に立ったところで僕はふとある事に気が付いた。

 

「んむ?」

 

「思考をぶっこぬくのに、セックスって必要なんでしたっけ?」

 

「心を壊した方が、思考を取り出しやすいって意味では必要だね」

 

「……なんか、含みありますね」

 

「実際には必要ないしね♪」

 

「……」

 

うん、知ってた。

 

「じゃあ、なんでやったんですか?」

 

「犯りたかったからかな☆」

 

うん、もう駄目だ。本当にダメダメだこの人。いや、知ってたけどさ。本当に自分の株を下げることに余念がないよなあ……。

 

「ちなみにロリはあんまり気持ちよくは無いんだよね実際」

 

「聞いてねーよ」

 

そんな情報は本当に要らなかったわ。つーか、何でその感触を知ってるんだと。ノータッチは本当に何処行ったんだと。と、そうこうしているうちに準備が完了したらしい。

 

「じゃ、いくよ、至くん♪」

 

「はいはい」

 

さっさと片を付けたいですし。

 

「世界の果てまでイってくっ」

 

「所長、72じゃないですけどね」

 

「その倍はあるからね♥」

 

空中に浮かんだどっかの72に女握りをした所長と、それに嘆息した僕は再びあの双子の所に向かったのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「マジか……」

 

 僕と所長が二人の所に飛んだ瞬間に見たのは

 

「いや、いやああ!?」

 

「っ!?」

 

ひしと抱き合う、あの双子と、その双子を囲むように並んだ大量の人形達だった。何でこんなにクリティカルなタイミングになるかなあ……。

 

「至くん!」

 

「了解です」

 

所長の声に、僕は一旦思考を打ち切って一軒家のリビングで抱き合う二人の女の子の方に飛び出した。

 

(どうやら、完全にマーキングが完了したみたいだ。これはもう振り切っただけじゃ逃げきれないね)

 

「……」

 

脳内に直接響いた所長の言葉に頷きながら、僕は二人に襲い掛かった人形の群れに体を割り込ませた。

 

「ぐ……」

 

直後、全身に走る、通電したようなバチバチとした感覚。一瞬視界が白くなるが、直前の記憶を頼りに二人の方に手を伸ばした。幸いへたり込んでいた二人は移動する気配もなかった。

 

「所長!」

 

纏わり付く人形の間から差し出した手で二人を掴むと、声を上げる。すぐさま返ってきた所長の「よし来た!」という声と共に、ガウンの袂を解いた所長がつるんとした一糸纏わぬ股間をかくかくと振った。おい、何でその動作にした。「何となくさ♪」知ってるわ。

 直後、青い光に包まれる僕と所長、そして姉妹。同時にパンッ! という音と共に、僕にむしゃぶりついてきていた人形達が一斉にはじけ飛んだ。

 

「はっはっは! 残念だったね、メリーさん! 君達の負けだ! 何! 恥じることはない! この六伏コランと至くんが相手だったんだ。その時点で、君達には敗北という泥を啜る以外の結末はあり得なかったのだからね!☆」

 

そう言って、痴女スタイルで盛大にメリーさんを煽る所長と共に、再び意識が途切れる。後に残った人形達がどんな反応を見せているか……まあ、中身は子供(・・)だからなあ。

 僕は思わずぼやきながら、手の先で震えている二人の女の子をどうするか、考え込んだのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 所長がゲートを閉じると、僕と所長、そして件の姉妹の四人は先ほどの家から再び所長のエロフィギュア室に舞い戻ってきた。

 

「ふぅ……♥」

 

メリーさんを煽るだけ煽って気持ちよくなったのか、震える二人の前で、所長がぶるりっと身震いをした。てか、たれてますたれてます。そりゃもう、ぼたぼたと。

 

「おっと失礼」

 

「何かもう、全方位に失礼なせいで、今更感ありますけどね」

 

「確かに♪」

 

所長はけらけらと笑った。

 

「で、ここから、どうするんですか?」

 

振り返った先、ひしと抱き合って、何とか気を保たせている、二人の女の子の方を向くと、気が立っていたのか二人ともびくっと肩を跳ねさせた。

 

「そうだねぇ……」

 

少し考えるように首をかしげた所長は、やがて考えがまとまったのか、ぽんと軽く手を打った。

 

「よし、彼女たちを囮にしよう」

 

「さらっとゲスですよね、ホント」

 

爽やかに笑う所長に、僕は思わず肩を竦めたのだった。まあ、でも、マーキングされている以上、下手に逃げ回るよりはそっちの方が楽っちゃ楽か。そう僕が思案する前で前半分全裸の所長ががに股で二人の前にしゃがみこんだ。同時に、

 

ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!

 

「「!?」」

 

「……」

 

部屋に置いてあった電話がけたたましく鳴り出した。

 

「さて、お二人さん。君達には言わなければいけないことがある」

 

「「……」」

 

ビクッと肩を竦ませる二人に、所長はにっこりと微笑んだ。無言のまま、ぎゅっと互いの手を取り合う双子。

 

「君達は既に"メリーさん"に完全に取り付かれてしまっている。端的に言って、逃げることは不可能だ」

 

「!?」

 

所長の言葉に、妹ちゃんの方は目を潤ませ、お姉ちゃんの方は顔を青くさせた。

 

「となると、手段は迎撃。襲ってくるメリーさんを迎撃するしかない」

 

「「……」」

 

無言になる二人の女の子。だが、所長は一切の気負いなく、「安心したまえ」と言い放った。

 

「僕と至くんが全てするっと片付けてみせようじゃないか♪」

 

「「……」」

 

そのあまりにも能天気であっけらかんとした言葉に、今度は本気で絶句したようだった。

 

「……出来るんですか?」

 

やがて、おずおずと口を開いたお姉ちゃんに、所長は「出来るとも♪」と笑った。

 

「この僕、六伏コランと、助手の至くんのコンビに不可能は無いんだぜ?」

 

「そこまで、大袈裟に何か出来る訳じゃないですけどね」

 

信頼されるのは悪い気分じゃないけど、流石にそれは大風呂敷。それよりも、

 

「どうやら、捕捉されたみたいですね」

 

「ああ」

 

ちりっとうなじ辺りに響いた悪寒のような感覚に僕が外を見ると、所長がにやりと口角を吊り上げた。直後、

 

「「!?」」

 

世界が一瞬で真っ赤に染まる。

 

「"黄昏時"のお出ましだ」

 

所長が立ち上がるのとほぼ同時、爆音と共に部屋のドアが吹き飛び、ビダビダビダビダッ!という接着音。ガシャンと割れて飛び散ったガラス窓と合わせ、その穴から夥しい数の人形が雪崩れ込んできた。

 

「ひぃっ!?」

 

悲鳴を上げるお姉ちゃん。辺り一面に犇めき、不規則に蠢いている人形達は、そのどれもが妙に生々しい(・・・・)動きをしていて、確かに如何にも不気味に見える。ていうか、うん。

 

「まさか、本当だった(・・・・・)とは……」

 

その光景は、あの人形を犯した所長から受け取ってはいたものの、正直実際に目にしてみると意外という感想を抱かずにはいられなかった。

 

「確かにね」

 

僕の感想に所長はニヤニヤとチェシャ猫の笑みと共に頷いた。

 

「な、何で……」

 

背中の方でポツリと聞こえた、声の方を振り替えると、お姉ちゃんの方が泣きそうな顔でへたりこんでいた。

 

「何で! 何でなの!? メリーさんが居なくなったら、ゆきは戻ってくるって言ってたのに!! ゆきは返してくれるって言ってたのに!! こんな、こんなに一杯……どうやってなくせばいいの!?」

 

「「……」」

 

そして、所長と顔を見合わせる前で、何かが決壊した様子で泣き出すお姉ちゃん。だが、成程ね。

 

「そう言って、さきちゃんを脅していた訳か」

 

「え?」

 

「君の負けだ。漆原ゆきちゃん……いや、一番最初の"メリーさん"♪」

 

その瞬間、ダンッ! と強い音と共に所長が無防備だった妹ちゃん……漆原ゆきに扮していたメリーさんの顔面をフランケンシュタイナーで捕らえた。

 

「ん? んぶ!?」

 

所長の無毛の股間の下で目を丸くするメリーさん。その顔を見下ろしながら興奮し始めた所長はにちゃにちゃと腰をグラインドさせる。

 

「ん……はぁ♥ 何だ、結構いい舌使いするじゃないか♥ んちゅ♪」

 

ちゅぱちゅぱと自分の乳首をしゃぶり始めた所長を置いておく。ていうか、一斉に飛び掛かってくる大量の"メリーさん"を前に、僕は所長とお姉ちゃんの方を守るために盾として両手を広げたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

「ん~~~~~~~~♥♥♥ ……ふぅ♥ あー、気持ちよかった♪」

 

 おっぴろげた両足の間からしょろろろろとおしっこを股の間のメリーさんにぶっかけながらコランは満足気に溜息を吐いた。

 

「……」

 

そして、一頻り余韻を楽しみ終えると、その光景を目を丸くして見ている漆原さきに、コランはにっこりと微笑を向けた。

 

「種明かしをしようか。さきちゃん♪」

 

その顔は、実に楽し気で、そして、稚気の混じった残忍さがあった。

 

「……」

 

その無言の圧力に、思わず首を縦に振った漆原さきにコランは「ん。宜しい♪」と頷く。

 

「まず、話の前に君の妹、漆原ゆきちゃんを元に戻すところから始めないとね」

 

「!!」

 

だが、続いたその一言に、彼女ははっと目を見開いた。

 

「出来るの!?」

 

「勿論だとも♪」

 

頷いたコランは再びぐちゅぐちゅと腰を動かす。同時に、その言葉を聞いた股の下のメリーさんが「むーっ!むーっ!」と悲鳴を上げた。

 

「君の持っている人形……妹のゆきちゃんだろう?」

 

「……!」

 

コランがそう尋ねると、彼女は必死に頭を縦に振った。

 

「なら話は単純さ。僕が彼女を体の中に産み直してあげれば良い」

 

産み……直す? あれ? 何か無性に嫌な予感がするんだけど。

 

「じゃあ、本物のゆきちゃんを連れてきてくれるかな?」

 

「!」

 

頷いた漆原さきちゃんが人形を差し出すと、所長はそれを躊躇なく自分の股間に突っ込んだ。いや、おい。

 

「はふぅ……。やっぱりオナニー最高♥」

 

「やっぱりオナりたいだけじゃねーか」

 

この野郎。

 

「まあまあ、本番は此れからさ♪ 悪いんだけど、其れまでの時間稼ぎ頼んだぜ?」

 

「あー、はいはい」

 

いつの間にか、集まった人形達はその身を固め合って、大きな、化け物へと成り代わっていた。僕から見ても見上げる大きさのそれが振りかざした腕を受け止めると、肩に慣れた激痛が走った。背中の方では、

 

「イッツ ショータイム♪」

 

所長が腰を大きく振りかぶり、

 

「おごぇ!?」

 

妹ちゃんの小さな喉に、その人形をぶちこんでいるのだった。

 

 

 

 

「さて、メリーさんの違和感だけど、それは他でもない、僕達とさきちゃんが初めて会ったあの公園まで遡る。あの日、僕は僕と至くんを覆うように、"美少女にしか僕達を見ることが出来なくなる結界"を展開していた。当然、さきちゃんには見えるし、ゆきちゃんにも見えるはずだった」

 

ぐちゅぐちゅ

 

「だけど、ゆきちゃんは僕を見ることができなかった。いや、見ても反応しなかっただけでは? 僕はそうは思わない。仮にも全裸で股間から人形生やした人間だぜ? 悲鳴を上げないにしても、逃げるだろ。普通」

 

ぐちゅぐちゅ

 

「次に、メリーさんの電話を掛けてくる位置。メリーさんの自己申告ではあるけれど、あれを信じるなら、メリーさんは一度君達二人に近付いて、一度離れた(・・・・・)ことになる。何故そんな事を? 徐々に距離を詰めていくのがメリーさんの怖さの根幹なのに?」

 

ぐちゅぐちゅ

 

「最後に、この"黄昏時"だ。"黄昏時"は通常は力が強い住人にしか展開できない代物な訳だが、メリーさんのそれは何て言うか、中途半端だ。引きずり込むでもなく、潜むでもない。単に力の届く範囲に展開しただけ。しかも、僕や至くんの目には見えても、さきちゃんの目には見えなかったっと」

 

ぐちゅぐちゅ

 

「それらを繋ぐのが、僕と至くんが捕まえた、人形。いや、メリーさんの一体(・・・・・・・・)だった」

 

ぐちゅぐちゅ

 

「そう、都市伝説のメリーさんとは、水子の霊の集合体だったのさ♪」

 

じゅぼっ!!

 

あ、漸くイラマチオが終わった。

 

「ふぅ……。さて、続きだ」

 

て、続けるのかよ。

 

「彼らは郡体で、一つの都市伝説。群れで狩りをする存在だった」

 

じゅぽじゅぽ

 

「ターゲットを定めるとそのターゲットを追い掛けるように、群れが一定の範囲に展開。ターゲットの居る方向は分かっても、直接乗り込むほどの力はないから、じわじわと距離を詰めるわけだ。そして、その過程でターゲットに恐怖心を抱かせる。実はこの過程が地味に大事だったと知ったのは後のことなのだがね?」

 

じゅぽじゅぽ

 

「彼らメリーさんの望みは"人生のやり直し"。まあ、当然といえば当然かな。何せ、十そこそこで亡くなった訳で。ちゃんと人生を歩みたいっていうのは人情さ。だから」

 

「子供を襲って、成り代わるんですよね」

 

「そーゆーこと♪」

 

じゅぽじゅぽ

 

「過程で恐怖を抱かせることで、ターゲットの心を弱らせる。そして、接敵したと同時に、そのターゲット、つまり子供に成り代わって人生をやり直すわけだ。が、此処で一つ問題が発生する」

 

じゅぽじゅぽ

 

「メリーさんのターゲットは基本的に一狩り一人。まあ、これは仕方ない所ではある。何せ、数は多くとも、一人一人の力は弱い訳だからね。そして、そのせいで、成り代わりは完全に早い者勝ちになってしまうんだ」

 

「元々、生き返りたい子供の霊の集合体だから、譲り合いなんて発生しないしね」と所長は笑う。うん、まあ、そういうことなんだよね。

 

「そして、そんな性根の子供達に、仲間を祝福するなんて思考回路は当然あるわけがない。一人が成り代わりに成功したら後は周りからの嫉妬と、"あいつが成り代わったなら、自分も"っていう欲だけが残る。つまり、最初のターゲットは他でもない"一番目のメリーさん"。そ、ゆきちゃんの中に入っている君さ」

 

「……」

 

所長の言葉に、喉の奥まで人形を突っ込まれたメリーさんが激しく首を横に振ろうとした。しかし、所長の細い腕でも、小さな女の子の頭くらいなら、余裕で捕まえておけるわけで。

 

「じゃ、消えよっか♪」

 

そう言った所長が、ラストスパートとばかりに腰のギアを一段引き上げる。じゅぽじゅぽじゅぽじゅぽっ! という音と共に、股間の人形が耳に痛いほどの音と共にキュピイイイイイイイイイン!! と発光する。そして、

 

 

 

「僕の赤ちゃん(ゆきちゃん)を産みたまえええええええええ!!!!!!!!!」

 

 

 

最低最悪の気合いと共に股の間から人形が発射され、漆原ゆきちゃんの身体が2メートル程吹き飛ばされたのだった。

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださり、どうもありがとうございました。
多分今年最後の投稿になるかと思われます。
自分でも半分酔っぱらいながら書いておりましたが、いろんな方に読んでいただき、とても嬉しかったです。
また来年も、くっそ汚く頑張っていこうと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
では、よいお年をー


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メリーさん 五

コラン「あけましておまんこ!! 今年もよろシコシコ!!」
至「……」

新年一発目から本作を開いてくださった勇者の皆様、明けましておめでとうございます。今年も大体こんなノリでハーメルン一汚い作品目指して頑張っていきたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。



「ゆきっ!?」

 

「えほっ!? けほっ!?」

 

 所長の……何だろう、ファック? に、吹っ飛ばされた妹ちゃんの方に、半泣きになったお姉ちゃんが慌てて駆け寄ると、口に加えていた人形を吐き出して「お姉ちゃん?」と顔を上げた。

 

「ゆきなんだよね? メリーさんなんかじゃないんだよね!?」

 

そんな妹ちゃんの小さな肩を揺すって、その手の中にある大切な妹が偽物ではないと、本当の自分の妹だと確かめるように声を上げた。

 

「うん。ゆきだよ、お姉ちゃん」

 

少しだけ疲れたように、しかし、自分の姉を安心させるように微笑んだ妹ちゃんを、お姉ちゃんは「よかったぁ……」と抱き締めた。妹ちゃんの纏う穏やかな雰囲気は確かに、一番目のメリーさんとは似ても似つかなかった。……所長の潮吹きをもろにくらったせいで、感動的なシーンのはずなのに妹ちゃんの顔がでろでろなんだよなあ。まあそれでも、少しも嫌そうな顔をしないで抱きしめているあたり、あのお姉ちゃんはきっと良いお姉ちゃんなんだろうね。

 

「な、何で……」

 

「「ん?」」

 

その声のした先には、よろよろと立ち上がろうとする、あの小さな人形。こっちも所長の潮吹きもろにぶっかかったせいで、体中からぼたぼた粘り気のある体液を滴り落としている。うん、普通にばっちぃね。

 

「おいおい、至くん。美少女のマン汁をばっちぃだなんて、ロリコン神様のばちが当たるぜ?」

 

「中身はおっさん通り越しておじーさんすら凌駕してるじゃないですか」

 

「それもそうだね」

 

全裸の所長は両腰に手を当てて、何時も通りけらけらと笑った。その間にもずるずると立ち上がった一番目のメリーさんはがくがくと揺れながら「何で邪魔するのよ」と呻いた。いや、だって。

 

「美少女の為さ。あと僕の性欲の為。決まっているだろう?」

 

「所長の中だと、メリーさんは少女には含まれないんですか?」

 

「当たり前だろう? だって、中身の魂はババアだぜ?」

 

「まあ、都市伝説何年もやってればそうもなりますか」

 

メリーさんが流行ってから二十年ちょいだから、間違っても世間一般の同年代の女性には言っちゃいけないんだろうけど、所長(ロリコン)的にはまあババアだよね。

 

「私は、私達はただ、ちゃんと産まれて、ちゃんと生きたかっただけなのに!」

 

「ババアの願望とか興味ないね!」

 

「身も蓋もないですね」

 

「だって、理由付けとかすれば幾らでも反論は思いつくけど、そもそもその反論自体が僕にとってはどうでも良い事だからね。ロリじゃない=抹消。これで全て片付くんだよ」

 

「まあ、片付きはしますね」

 

本当に片付くだけだけど。

 

「どうします? 片付けるなら、こっちから先にしないと」

 

そういえば、さっきから僕を絞り上げようとしてくるこれ(メリーさんの群れ)なんだけど、いい加減鬱陶しいんだよな。

 

「そうだね。ちゃっちゃと終わらせよう♪」

 

そう言って、所長がパチンと指を鳴らす。

 

「「「「「お、う゛ぉ゛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」」

 

直後、大量のメリーさんの塊の中から、多くの人形がボロボロと欠落していく。

 

「はっはっは! おいおい、この程度でギブアップかい?」

 

「何したんですか?」

 

「至くんの苦痛全部を味わってもらった」

 

「ああ、そういう」

 

「ことさ♪」

 

所長は腰に手を当てて、もう一度「はっはっは!」と笑った。

 

「まったく、これくらいで現実逃避して昇天しちゃうなんて、一寸堪え性がないんじゃないかい? 至くんの苦痛は正直僕も『あれ? これってどうなの?』とか『いや、何で平然としてるんだい?』なんて、時々ドン引きするほどだけどさ」

 

「おい」

 

「でも、異常とする程ではない。だからこそ、至くんの感覚接続はカウンターとして使って出力を補強してるわけだし」

 

「……」

 

「その、出力不足の感覚接続でそこまでダメージ受けるなんて、人生舐めすぎじゃないかい?」

 

「人生どころか世界舐めきってる所長には言われたくないと思いますよ?」

 

「まったく、確かに水子の霊とはいえ、君達もう三十年以上都市伝説やってるんだろう? いい加減良い年してるくせに、未だに『生きれば今より楽しい人生送れる』なんて幻想抱いてるのは、流石に見てて痛々しいぜ?」

 

「確かに、幽霊としての活動期間考えると、本当にもう良い年してるのか……」

 

言われてみれば。

 

「あ、ぐぅ……」

 

そこかしこで身悶える人形達を見てなんとなく世の無情を感じる。そっかー、これ、全部おっさんとおばさんかー。「私達だってちゃんと生きたかった(by子供」じゃなくて、「私達だってちゃんと生きたかった(by三十代無職」かー。……そりゃ、所長の反応も雑になるよね。ロリじゃないし。子供ですらないし。

 

「半分残ったけど、うん、まあ良いや、僕は自分と至くんと美少女には優しいからね♪ 君達は特別に美少女に産まれ変わらせてあげよう☆」

 

きらっきらと目を輝かせながら、所長がそんな事を言い出した……嫌な予感しかしないんだけど。

 

「所長」

 

「んむ?」

 

それ(美少女転生)させて、一体何をするつもりなんですか?」

 

もしくは何を企んでるんですか?

 

「おいおい、企んでるなんて酷いなあ☆」

 

「過去の自分が何をやってきたか、胸に手を当てて考えてください」

 

「んー? んっ……あっ♥」

 

誰が乳首こねくりまわせって言った。この野郎。

 

 

僕のアッパー。所長は吹っ飛んだ。

 

 

「ふぅ……。一寸ミルクが溢れちゃったじゃないか」

 

「出るの早いなおい」

 

「責任を取って舐めとるかい?」

 

「ふざけろ」

 

僕はホモじゃありませんので。つか、責任て何のだよ。

 

「ま、いいや。僕が何を企んでるかだったね? そんな事、決まっているさ」

 

そう言って、所長はこれ以上ないくらい、どす黒い欲望に目を輝かせて、満面の邪悪な笑みを浮かべた。

 

 

「美少女になった、メリーさん全員に、僕の事をアヘ顔ダブルピース出産してもらうのさ!!」

 

「狂 っ て や が る」

 

 

うん、再確認した。知ってたけど、再確認。この(所長)、マジで性根が狂ってやがる。

 

「聞きたくないけど聞いときます。それは、一体どういった除霊なんですか?」

 

字面だけで分かる酷さに頭痛を覚えながら、それでも一縷の望みを託して、所長に確認することにする。

 

「まず、この子達全員美少女にするだろ?」

 

「ええ」

 

「次に、僕が美少女から美幼女に進化するだろ?」

 

「それは進化なんですかね」

 

退化とは言わないけど、退行はしてるよね。

 

「で、子宮に入るだろ?」

 

「発想が狂ってますね」

 

「ボテ腹陣痛を、心優しい僕が全部快感に変えるだろ?」

 

「うん。もう分かった」

 

「あへって守護月天確定だね♪」

 

「過去の名作に謝れや」

 

「あふん♥」

 

所長の頭を叩くと、母乳と愛液が吹き出た。シャンプーか何かかな?

 

「さ、それじゃあ、そろそろ除霊に入ろうかな♪」

 

未だかつて、ここまで酷いが存在しただろうか……したらしたで、凄いわなあ。

 

「君達のロリマンコを僕のパーフェクトビューティーロリータボディでファックしてあげよう!♥」

 

「前と後に"サー"を付けなくて良いんですか?」

 

口から糞をたれる所長に突っ込みながら、僕の方は抱き合って目を白黒させている姉妹の方に移動する。そして、そんな僕達の前で何やらポーズを取った、全裸の所長の腰に銀色のベルトが現れた……仮面ライダーのどれかかな。

 

「変身!!」

 

雑に発光した所長。光る全裸ってもうどう表現すべきなんだろうね。

 そして、光が消えると、そこには一回り身長が小さくなり、少しお腹が出た所長の姿があった。……胸は?

 

「知っての通り、僕はロリコンだけど、おっぱい聖人だからね♪」

 

ああ、うん。そこは外せないと。

 

「イエス! アイアム!!」

 

ばちこん!とウィンクした所長に僕は心の底から溜め息を吐いた。

 

「じゃ、いこっか♥」

 

「二人とも、耳と目を塞いでて」

 

「「あ、はい」」

 

まだ幼稚園くらいの二人だけど、素直に頷いてくれた。本当に良い子達だね。

 

「よーい」

 

そして、二人が防御体勢になったのを確めた所長は、

 

「すたーと♥♥♥」

 

ゲス極まりない笑顔に涎をたらしながら、爆音と共に、飛び出したのだった。

 どしゅんっ!! という加速音と共に、銀色の長い髪をたなびかせて掻き消える所長の小さな身体。

 

「お゛ぅ゛っ!?」

 

直後、ぼんっ! と音を立てて肥大する、美少女に作り替えられたメリーさん。

 

「お゛っ!? お゛お゛っ!? お゛お゛っ!?♥」

 

股間から伸びた所長がやけにリズミカルに両足をばたつかせる度に、ぐりんと白目を剥いて痙攣しながら、お腹の大きなメリーさんは悲鳴をあげる。やがて、その痙攣もなくなると、パリンッ! という軽い音と共に、その身体は跡形もなく消え去っていった。

 

「ハッピバースデイ、デビルマン!!」

 

「実写版並みの糞っぷりですね」

 

直後、無駄に元気かつ溌剌とした表情で笑う体液ででろっでろの所長。うん、やってることは悪魔よりもおぞましいよ。

 

「さ、次の僕のママは誰だい?」

 

「「「「「い、いやああああああああああああ!?!?!?!?!?」」」」」

 

悲鳴と共に一斉に逃げ出すメリーさんの群れ、男も女も関係なしに美少女にしちゃったから、これもうどれが男で何れが女かも分からないね。そんなメリーさんを所長が追い詰めて、片っ端からママ除霊していくのを眺めていると、ふと、一部から小さな視線を感じた。

 

「あ……」

 

「こ、この……」

 

それは、小さな小さな人形。というか、"一番目のメリーさん"だった。

 

「やっべ」

 

すっかり存在を忘れていた人形が、最後の力を振り絞って、双子の姉妹に飛びかかろうとしていた。

 咄嗟に手を伸ばすと、ほぼ同時に"一番目のメリーさん"の小さな身体が飛び上がっていた。間に合……いや。

 

(狙いは此方か)

 

僕の手にぱすっと軽い布の感触。そして収まったメリーさんの無機質な目が、ぎらりと鋭い光を宿したように見えた。

 

「お前の身体を……寄越せええええええええええ!!!!!!!」

 

「ちっ……」

 

激情と共に膨れ上がる存在感。あからさまにタガ(・・)が外れたメリーさんは完全に見境をなくしていた。

 

(というか、十歳にもならない女の子から、二十過ぎた男に切り替えるって、どんだけ柔軟なんだよと)

 

直後に走る、激痛。まち針か何かを寸刻みで突き立てられた様な感覚に、僕は思わず舌打ちをして、右手を大きく振り払った。

 

「もう……遅い!!」

 

しかし、全身で僕の手にまとわりついた"一番目のメリーさん"はぎらぎらと光るボタンの両目で僕の身体を睨み付けてきた。

 

(あー)

 

同時に変質する痛みの質。此まで刺すような、僕という存在を排除するための刺激だったのが、何となく身体にじわじわと浸透するような、そんな刺激になる。これは入ろうとしてきてるな。何て言うか……うん、

 

 

 

「ふむ。そんなに僕と至くんの身体をタンデムしたいのかい?」

 

 

 

都合数百度の生誕を終えた所長が、いつの間にか目の前の一人目を残して消滅した数多のメリーさんの体液にまみれながら、にっこり……いや、にんまりといやらしく微笑んだ。うん、嫌な予感しかしないね。

 

「い、いや……いやああああああああああああ!?!?!?!?!? 入ってこないで!! 私の中に入ってこないでえええええええええええええええ!?!?!?!?」

 

「おいおい、何悲鳴上げてるのさ? 人の精神をレイプしていいのは人から精神をレイプされる覚悟のある変態だけだぜ?」

 

「う わ あ」

 

何て言うか、うん。やりやがった。

 メリーさんが僕の身体を乗っ取りに掛かった直後、ぎらぎらとした欲望に濡れた空気が一変し、悲鳴と共に身悶え始める。

 

「お゛ほっ!? お゛ほっ!? お゛っほぉっ!?」

 

「おいおい、たかが心にちんこ突っ込まれただけで、あへあへじゃないか。都市伝説の代表格"メリーさん"ともあろうものが、随分と弱々じゃないかい?」

 

「お゛ほっ!? おぽっ!? おひょっ!?」

 

僕の腕から離れ、空中でがっくんがっくんと揺れているメリーさんの前で、がに股になった所長が、かくかくと股間を突き上げる。何ていうか、シュールとしか言いようがないよなあ……。

 

「残念ながら、君の力、誰かと成り代わるそれは、僕と至くんには全く無意味だ。何せ魔法使いとその使い魔は互いの存在を接続しあっていて、二心二体だが存在そのものは共用。至くんは僕で僕は至くんだ。端的に言って、至くんだけを襲っても、僕がいる限り至くんは普遍の存在だし、僕に矛先を向けても至くんが居る限り痛くも痒くもないからね♪」

 

「あがっ!? ほはっ!?」

 

「ていうか、この僕から最高の相棒である至くんを寝取ろうなんて、百年早いんじゃないかい? アラサー都市伝説の行き遅れBBAのメリー()さんさあ。年齢考えなよ。ていうか、その年でメリーさんとか普通に痛々しいと思わないのかい?」

 

「所長ブーメランです」

 

あんた百歳越えてるじゃないですか。

 

「ほら、年齢が現実感無くなってくると、逆に愛嬌が出てくるって言うじゃん? 僕のは一週回った若さだけど、彼らのは単に幼稚なだけだからね♪」

 

「おひょ!? おっひょぉ!?」

 

そう言って、所長はけらけらと何時もの笑い声を上げた。何か、人形の腹がばっこんばっこん膨らんで萎んでを繰り返しているんだけど……。

 

「さ、それじゃあ、そろそろ無様にあへって昇天しちゃおっか♥ 通称アヘ死♪ エロ漫画とかでイき死ぬってあるけど、現実世界でのテクノブレイクって最早ギャグだよね」

 

「さらっととんでもない事言ってますね」

 

まあ、現実でエロ本みたいなアヘり方されても、気持ち的には「うわ、汚い……」以上の感想なんて出てこないとは思うけどさあ……。

 

「あ、あへぁ……」

 

うん、何て言うか、本当にもう無理っぽいね。

 

「さ、それじゃあ、

 

 

 

 

ちん(ころ)♪」

 

 

 

 

最 低 極 ま る

 がに股の所長が、満面の笑みと共にかくかくと股間を振る。

 

「お゛ぼお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

直後、人形のこの世のものとは思えない絶叫と共に、再びその腹が膨れ上がる。しかし、こんどはさっきとは違い、そのサイズが一向に小さくならない。拳大から、風船、そして、バランスボール程まで肥大したそれに、一番目のメリーさんの「あ、あが……」絶叫にすらならない悲鳴がガラスの割れた一室に木霊する。

 

「フィニッシュレイプだ♥」

 

にぃぃぃぃっと笑った所長が、膨らみに膨らんだ風船に、ツンと画ビョウを突き刺すように、股間を振り抜く。その瞬間、アドバルーンの様に膨らんでいた一番目のメリーさんのお腹がパンッという実に軽い、そしてそれ以上に呆気ない音と共に破裂する。弾けとぶ布切れ、そして白い綿。人工の実に安っぽいそれがはらはらと零れ落ちるなか、所長が「はぁぁぁぁぁぁぁ……」と甘ったるい息を吐き出す。

 

 

中指と人差し指を立てた両の小さな手

 

ぐりんと白眼を剥いた形の良い両目

 

だらりと伸びた舌と股間からだらだらと落ちる体液

 

 

「うわ、汚い……」

 

思わず口をついてでた本心を前に、所長はアへ顔ダブルピースのまま、そこに存在しないはずのぺニスを何もない空間からずるりと引き抜いたのだった。

 

「終わったんですか?」

 

「あへあへ」

 

「……ていっ」

 

「あうちっ」

 

 

アへ顔のまま頷く所長に、1のダメージ

 

所長は元から狂っているので正気にはならなかった

 

 

「で?」

 

「ああ。無事完了だとも。一番目の含めてメリーさんは消滅。もう二度と二人がメリーさんに襲われることはないだろう」

 

そっすか。

 

「ほ、ほんと?」

 

所長の言葉に、真っ先に反応したのは妹ちゃんを抱き寄せていたお姉ちゃんだった。

 

「ああ、勿論。六伏コランの名に賭けて誓おうじゃないか」

 

張りつめた空気で問うてきた彼女に、所長がそうウィンクを返すと、お姉ちゃんは「よかったぁ……」と胸を撫で下ろした。

 

「ま、もし万が一メリーさんが生きていたら、僕と至くんを呼ぶと良い。もう相手のからくりも分かっている。オナニーのついでにパパパッと片付けてあげようじゃないか」

 

「片手間は兎も角、何でオナニーなんですか」

 

「そりゃ、二人をおかず「うん、言わんで良い」

 

知っていたよこの野郎。

 

「僕達を喚ぶ方法は前と同じだ。良いね?」

 

「「はい」」

 

「うん、よろしい♪」

 

頷いた二人の小さな依頼者に、所長も満足げに頷き返す。

 

「じゃ、料金をいただこうかな♪」

 

そして、どことなく和やかになった空気の中でそう切り出したのだった。……嫌な予感しかしないね。

 

「あ……」

 

所長の言葉に、お姉ちゃんの方が困ったような顔になる。まあ、普通に聡い子みたいだし、意味するところは想像出来ちゃうよね。お仕事には代金が必要ってことも分かってるみたいだし。実際は想像の斜め下をぶち抜いているんだけどさ。

 

「……」

 

「ああ、安心してくれたまえ。この大魔法使い六伏コラン、君達のような美少女から金銭を巻き上げるようなみみっちぃ真似はしないとも♪」

 

流石に困ったようにもじもじしてるお姉ちゃんを安心させるように、所長はにっと力強く微笑んだ。人を安心させるようなその笑顔に、ほっとするお姉ちゃんだけど、

 

「と、いうわけで」

 

その笑顔は、

 

「君の脱ぎたておパンツをいただこうかな♪」

 

罠なんだよなぁ……。

 

「……え?」

 

呆然とするお姉ちゃん。うん、まあそういう反応になるよね。

 

「……」

 

嘘でしょ? と言いたげな顔になって所長を見下ろすけれど、満面の笑みを浮かべる所長(幼女Ver.)は欠片も動じた様子はない。いや、幼女性愛者自認するなら、少しは動じろよと。

 

(僕はロリコンだけど、悪いロリコンだからね♥)

 

(ロリコンに、良いも悪いもねーよ)

 

つうか、生物的には普通にロリコン=悪だよ。

 

「さあ」

 

さあじゃないが。

 

「へ……」

 

「へ?」

 

あ、何かタメが入った。

 

 

 

「変態! 変態! 大変態!!」

 

 

 

呆然とする妹ちゃんをかばったお姉ちゃんの悲鳴が、ガラスの砕け散った窓からビル全体に響き渡った。そんな彼女の悲鳴に、所長は「いや、変態じゃないな」と無駄に格好をつけて返した。

 

「六伏コラン……ロリコン(探偵)さ☆」

 

お前全国の探偵に謝れ。死神呼ばわりされてる眼鏡の高校ショタでもあんたよりはマシだぞ。いや、人死に出してないから、どっこいどっこいか?

 

「さあ」

 

「……」

 

「さあ」

 

「……」

 

「さあ!!」

 

いつの間にか大きくなった所長がずいっずいっとおっぱいを向けてお姉ちゃんに迫っていく。お姉ちゃんは涙目に成りながら僕に助けを求めてくる。けどごめん、僕は所長に雇われてるんだ。という訳で、助けられません。

 

「!!!」

 

あ、絶望された。

 暫くした後、そして多分彼女からしたら永遠にも思える時間が過ぎた頃、

 

「……」

 

真っ赤になったお姉ちゃんが、本当に決意と俊巡を繰り返しながら、長いスカートに手を入れた。白くふっくらとした頬を真っ赤に染め、大きな瞳に大粒の涙を浮かべながら右足、左足と順番に足を抜く彼女。

 

「……!!」

 

無言で小さな手を差し出す頃には、既に少ししゃくりあげていた。けど、コレで終わりじゃないんだよなあ……。

 

「ん、たしかに」

 

満足げにそれを受け取った所長は、本人にそんな気はないのかもしれないが、彼女の羞恥心を煽るように高々とそのパンツを天井に翳した。掲げたそれは小さな熊のキャラクターが描かれた、俗に言うクマパンツ。それを掲げる所長を前に、お姉ちゃんは声にならない悲鳴を上げていた。そんな、お姉ちゃんの悲鳴に気付いているのかいないのか、

 

「はむっ、うん、少しだけしょっぱいな。ふふっ、一寸お漏らししちゃったんだね♪」

 

この野郎、一切の躊躇なく、そのパンツを口の中に放り込んだのだった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?」

 

絶句する姉妹。当然だよこの野郎。そんな二人を前に、至福の表情でもっしゃもっしゃとパンツを咀嚼していた所長がごっくんと喉を鳴らして、けぷっと小さく漏らした。仕草そのものは美少女のそれなのに、実際にやっていることは並みの変態もドン引きの所業だった。

 

「あー、美味しかった♥」

 

「パンツ食ってその感想が出てくることに驚愕してます」

 

「美少女のパンツはこの上ない甘露だね♪」

 

「あんたしょっぱいって言ったばかりでしょうが」

 

「!!」

 

お姉ちゃんに蹴られた。……うん、悪かったから泣かないでくれないかな。

 

「さ、それじゃあ、代金も貰ったし、そろそろ御別れの時間かな」

 

「名残惜しさは欠片もないですけどね」

 

「おいおい、僕はすんごく名残惜しいぜ?」

 

「そりゃ、あんたはな」

 

パンツ一枚で人の命助かるなら安いものと言えば安いものなんだろうけどさ。

 

「じゃ、お二人さん♪」

 

「「!?」」

 

びくっと震える二人に、所長はにっこりと、本当に見た目だけは無邪気な笑顔を向ける。

 

「よいお年を♪」

 

「最低の年の瀬だなおい」

 

光に包まれる二人を見送りながら、僕は深く深く溜め息を吐いたのだった。

 

 

 

 

     ◆

 

 

 

 

 数日後のこと、僕と所長は探偵事務所から少し離れた、小さな神社にやって来ていた。日付は十二月三十一日。一年の締め括りの大晦日だ。この辺りの民家の人が集まってくるらしく、町中ながらそこそこ人の並んだ列の最後尾で、少しだけ回顧的な気分に成りながら、今年の事件の事を思い出して、

 

「ろくな思い出じゃねーな」

 

今更ながらに、その顛末の無茶苦茶さに何とも言えない気持ちになっていた。

 

「ん? ふぉーかひたのはい?」

 

「クレープ食いながら話さないでください」

 

出店で買ったバナナクレープをはむはむと啄みながら、信仰とかどっかへ投げ捨てた、ある意味伝統的な日本スタイルの所長に突っ込みを入れる。というか、見た目だけは完全に北欧かロシア人ぽいんだけどな。

 

「あ、僕はこれでも純日本人だぜ?」

 

「心を読まないでください」

 

幾ら、自然に流れ込んでくるとはいえ。

 

(まあでも、ここまで信仰心無さそうなのは日本人ならではっちゃ日本人ならではか……)

 

と、そんな事を考えていると、ふと疑問が浮かんだ。

 

「そういえば所長」

 

「んむ? クレープなら食べきっちゃったぜ?」

 

「別にいらんわ」

 

何が悲しくて男同士で回し食いせにゃならんのだと。

 

「"神様"って実際に居たりするんですか?」

 

此処まで人が並んでいるのを見ると、そんな所が気になった。

 

「神社に関しては居たり居なかったり、半々ってところかな」

 

くしゃくしゃっと包み紙を丸めてポケットに放り込みながら、所長はそう言って首を傾げた。

 

「半々ですか」

 

「ああ。半々さ」

 

ふむ、居ると言えば居るのか。

 

「本当に神様が居て祭ってあるところもあれば、偶然幸運や不幸が重なったりして、鰯の頭を信じちゃうパターンもあるね」

 

「ふむ」

 

「因みに、この神社は鰯の頭の方だね」

 

「おい」

 

え? じゃあ、この神社なにもいないの? てか、空っぽなの?

 

「そうだよ? 一応、天災とか静めたことになってるけど、単なる偶然。そこに神様はいないし、神業も存在しないね」

 

あっさりと断言してるけれど、え? それ意味あるの? ていうか、いくら近場とはいえ、普通に神様居る方選ばない?

 

「因みに、僕は神様が居ない神社しか拝まないって決めているんだ」

 

「何でですか?」

 

へそ曲がりなんですか?

 

「ほら、僕の場合、神様を実際に見ることが出来るし、会話すら成立してしまうだろう?」

 

「ええ」

 

「そうなると、なまじ知ってるから、この力があるとか、これやってほしいとか具体的な交渉になっちゃうんだよね。でも、祈りってそういうものではないだろう?」

 

「まあ、確かに」

 

所長の言うことは何となく分かる気がする。遠くのどこかに居て、本当に居るのか居ないのかも分からない存在であるということが、一つの神秘とも言える。

 

「しかし」

 

「?」

 

「意外に所長もロマンチストなところがあるんですね」

 

「だろ?」

 

そう言って、所長はにひっ♥と笑った。……。

 

「ふぁにふるんはい?」

 

所長の作り込まれたもちもちの頬を引っ張ると、半眼の所長がじとっと呻いた。

 

「あんた、男ですよね?」

 

何か、うん、妙に嵌まってて若干心配になったんだけど。

 

「おう、勿論男だぜ?」

 

「好きな漫画は?」

 

「コミックLO」

 

「好きなキャラは?」

 

「らぶらぶしたいならTo LOVEるのミカンちゃん。レイプしたいならFateのイリヤちゃん」

 

「理想の女性は?」

 

「外見僕の、中身鳳翔さん」

 

よし、何時もの所長(変態)だ。

 

「お? 何だい? もしかして、僕のぱーふぇくとびしょーじょすまいるにくらっときちゃったのかい?」

 

「その単語、全部ひらがなにすると最高に頭悪いですよね」

 

「ひどいなあ♪」

 

所長はそう言って、けらけらと笑った。

 

「ま、男の方が女性よりもセンチメンタルでロマンチストなものだからね」

 

「……」

 

そう言って、のんびりと雲一つない夜空を見上げる所長は、確かに不思議とセンチメンタルで本人が言うように何となく男そのものに思えた。

 

「あ……」

 

辺りに響いていた除夜の鐘の音が不意に途切れた。新年の一突き目が終わったんだろう。ふわりと風に流れた所長の銀色の髪がさらりと僕の指に触れた。

 

「新年、明けましておめでとうございます」

 

「ああ。明けましておめでとう、至くん。今年も宜しく頼むぜ?」

 

「ええ。此方こそ」

 

「ん♪」

 

頷いた所長と賽銭箱の前に立ち、百円玉を放り投げて二度手を打つ。

 

(さて……)

 

こう、改めて立つと、正直願いに困るな。所長曰く神様の居ない神社みたいだし。うーん……。

 少し考えて、無難に僕と所長の健康を祈願すると、「おみくじ引いて行こーぜ♪」と笑う所長に着いてそっちの列の最後尾に並ぶ。さてさて、此方もどんな籤になるかな?

 

「籤引いたら、どうします?」

 

このまま解散というのも、何となく味気ないけど、眠いのも事実なんだよね。

 

「うーん……あ☆」

 

首を捻った所長が何かを思い付いたのか、ポンとミトンに包まれた小さな手を打った。

 

「事務所に帰って、僕のスペアの身体を二人で輪姦しながら姫初めと洒落込むのはどうだい?」

 

「……」

 

はっはっは……。いくら神様が居ないからって、嵌め外すにも限度があるわ。

 

「アウチッ!?」

 

深夜の神社で人混みに紛れて消えた悲鳴。新年一発目の突っ込みは何時も通りの脳天チョップだった。

 

 

 

 

 




鈴笛至
新年の願いは無難に自分と所長の健康。
健康のためにも突っ込みは我慢しないことに決めた系語り部

六伏コラン
新年の願いは(信じられないことに)自分と至の健康。
健康のためにもオナニーは我慢しないことに決めた系男ヒロイン


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