VIVE LA FRANCE (Fletcher)
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どこかの海で

 

 

中央暦1644年某日某所

 

 

 

敵艦発砲!!

 

 

 

艦橋が凍りついたのは言うまでもない。此方の最大射程よりも遠方から撃ってきたのだ。予想外、それに尽きる。

 

先手を取られた墳進弾攻撃は確かに厄介だったが、戦艦を戦闘不能に陥らせるには力不足だった。

敵はこの艦の主砲を知っている。

だからこそ砲戦時に少しでも有利に、あわよくば戦闘の主導権を握るために仕掛けてきた姑息な手段だと誰もがそう思っていた。

この艦が今なお健全であることがそれに拍車をかけた。

 

しかし敵は撃ってきた。

 

「げ、現在距離47000!!敵速21kt!!」

 

「司令!敵に丁字を描かれています!!」

 

「全艦に伝え!!最大戦速!!取舵5度!!」

 

命令が伝えられ、戦隊最大戦速である26.5ktで進撃する。

ドゴォォォォ!!!

 

「なっ!?」

 

着弾した水柱の巨大さに46cm砲の威力を知る者も愕然とする。

 

「て、敵戦艦の主砲は46cm以上ですっ!!」

 

「なんといことだっ」

 

「水雷戦隊の状況は!?」

 

「一水戦、三水戦共に敵巡洋艦に足止めされています!!」

 

「8戦隊は何してる!?海軍の連中は!?」

 

怒号が飛び交う中、再び射弾が降り注いだ。

多数の弾が飛来する中1発が至近弾となり、ビル15階に匹敵する艦橋を越える極大の水柱が聳り立つ。

 

「距離38000で本艦とラティカは同行戦に移る。残りは30000まで近づけさせろ。」

 

「しかし閣下、遠距離の砲戦ではとてもっ」

 

「何のためのレーダーと46cm砲だ!さっさと伝達しろ!!」

 

「りょ、了解しました」

 

幸運にも砲戦距離に達するまで被弾した艦は無かった。しかし主導権を握られているのは変わりない。このまま砲戦を続ければジリ貧であるのは明確である。

 

「戻ーせ!!当て舵10!!」

 

「右砲戦!用意よし!!」

 

「交互撃ち方、てえっ!!」

 

二隻の46cm砲搭載艦が唸る。

 

「敵戦艦の詳細は?」

 

「はっ、4番艦はダンケルクですが、1、2、3番艦は例の新型かと」

 

「ちっ、厄介な」

 

ブーーー...ゴゴゴゴゴゴ!!

 

「第一射弾着!!...近、遠、遠!」

 

「修正急げ!!」

 

「砲術長慌てるな!」

 

敵は見えないのに目の前で銃を突きつけられている様な錯覚、前世界でもこの様な有様は無かった。

心臓がバクバクと煩い。緊張している、恐怖?いや興奮だ。胸が高鳴っているのだ。今までに感じたことのない高揚感、それは一種の麻薬のような。自然と口が吊り上がる。

 

「カルティアス被弾!落伍してます!!」

 

カルティアス

一六艦隊計画にて建造されたアルド・マーフェラス型戦艦の改良型。

41cm砲12門という大火力を持ち、GA型と並びポスト一六艦隊計画艦の1隻として君臨した巨艦が、無様に黒煙を吐きながら艦体を傾斜させていた。

 

更に一隻、同型のエンテルトが被弾し、隊列を離れたことで数で優位にあった態勢が同数となり崩れてしまった。

此方も既に敵弾を喰らっている。いまだ致命傷ではないが確実に戦闘力は削られつつある。

 

「敵艦にも命中弾を与えていますが未だ砲戦能力が落ちていません。」

 

「一度離れて仕切り直しましょう閣下」

 

「どうやって仕切り直しとするのだ?すでに此方の戦艦は2隻も撃破された。下手に下がったところで執拗な追撃に遭うだけだ。」

 

「しかしこのままでは」

 

議論をしていると通信参謀が電文を持って駆け込んできた。

ゴゴゴゴゴゴ!!

砲声の後、通信参謀は言った

 

「閣下!!海軍より入電です。《新タナ敵艦見ユ、戦艦6隻ヲ含ム大艦隊、敵ハミリシアル、真方位100度、距離45000》」

 

「この状況でか!?」

 

「海軍の現状は?」

 

「既に戦艦1隻撃沈、2隻撃破されたようです。巡洋艦駆逐艦も損害多数と」

 

海軍の戦艦群を含めればまだやれない事はない。しかし制空権は辛うじてこちら側が維持しいているがミリシアルの艦隊が加われば包囲される恐れがある。

今が潮時だった。

 

「...撤退する。機動部隊に攻撃隊発進を要請しろ、撤退を支援してもらうのだ。」

 

「...了解しました」

 

反論する者はいなかった。みな現状がどれほど辛いものなのか理解していたのだ。認めたくはないが、負けたのだ。

 

 

 

 

後の撤退戦で更に一隻の戦艦が撃沈されたが、ミリシアル艦隊の統率が乱れた隙を突いて監察軍と東部方面艦隊は撤退に成功した。

 

この戦いで監察軍は戦艦6隻中2隻を失い、1隻大破、3隻中破、海軍は戦艦9隻の内3隻撃沈、1隻大破、2隻中破となり、戦果は戦艦1隻撃沈、2隻大破、1隻中破、ミリシアル戦艦2隻撃沈破となった。

その他の空母、巡洋艦、駆逐艦等の被害を含めれば戦術的敗北は明らかであり、更に当該海域の制海権を失い大陸での戦線を一部縮小せざるを得なくなった。またこの海戦の情報は全世界に発表され帝国恐るに足らずとプロパガンダを流される始末。

 

 

 

 

戦術戦略両面において決定的に敗北したのである。

 

 

 

 

 



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第1章:植民地帝国
西進再び


中央暦1639年4月12日早朝

クワ・トイネ公国ロウリア国境より20km ギム

 

この日、ロウリア王国東方討伐軍先遣隊が越境を開始。ここに圧倒的戦力を誇るロウリア王国によるロデ二ウス大陸亜人殲滅戦が始まる......はずだった。

 

 

 

 

飛竜騎士団を指揮する竜騎士アルデバランは目の前の状況が理解できなかった。耳に響く不快な轟音、見たこともない竜が奏でる風切り音、そんな中でも聞こえるワイバーンや仲間たちの断末魔、一方的な蹂躙劇。

ああ神よ、これは我々への大陸を統一せんとする王国への試練なのか?それとも罰なのか?

問いかけた瞬間アルデバランは体に衝撃を受け気づけば宙へ投げ出されていた。異形の竜が飛び去って行くのが見えた。その胴体には赤、白、青の円形章が描かれていた。

 

視界が、暗転する。

 

 

 

 

 

「クソっ、クソっなんなんですかあれは!?」

東方討伐軍先遣隊副将アデムは馬を全速力で走らせていた。焦燥した顔に脂汗が滲む。

向かうは討伐軍後方予備総軍本陣。

 

早朝に越境を開始しギムを強襲制圧する作戦はワイバーンの第一次攻撃隊がクワ・トイネのワイバーン部隊を殲滅した直後より何かがおかしくなった。飛竜騎士団から

「北東方面から騎影多数!!敵増援と思われる!我これより迎撃す!」と魔信がはいった後

 

「敵は未確認騎!見たこともない竜だ!!」

この魔信を最後に通信は途絶してしまった。

 

アデムは増援と状況把握のためワイバーン15騎を追加投入したが

「未確認騎多数!!こいつら早いぞ!!」

この魔信の直後より轟音が聞こえてきた。

出所は戦列を組んでいた歩兵部隊からだった。

 

大地が爆発する。人が木の葉のように舞う。

「な、なにが...なにが起こって...」

将軍パンドールは半ば放心状態、いや経験したことのない恐怖が身体と思考を縛っていた。

どのくらい続いたかわからないその爆発はいつの間にか止んでいた。

 

「しょ、将軍!!戦列が崩壊しましたあ!!被害甚大です!」

 

「先遣隊より報告!戦線崩壊、救援要請と!」

 

参謀の言葉でようやく我に返ったパンドールは再集結の指示を出そうとするが視界に入ったソレをみてまた固まってしまった。

 

「なんだ、今度はなんだ」

 

土煙を上げながらソレは近づいてきていた。見たこともない奇怪な形をしたそれは猛然と突撃を敢行していた。

 

「て、敵か!?先遣隊を突破して?まずい!隊列を組み直させろ!!」

 

もはや遅かった。決壊した隊列に楔を打ち込むように敵はなだれ込んできた。

先の爆発でシェルショックになった者が多発しており組織的抵抗は不可能だった。瞬く間に壊走。

 

「おのれぇ!!」

 

傍らに控えていた兵たちがいつの間にか目前に迫った敵に立ち向かう。

がしかし、なにか衝撃を受けたように仰け反り倒れる。二度と立ち上がることなく。

 

「ひっ、ひいいいいあああああ!!!」

 

魔導師はその場で尻餅をつき失禁した。奇怪な地竜が目の前まで迫りパンドールは意識を手放した。

 

 

 

 

「状況は?」

 

「はっ!既に敵先遣隊は壊滅、第19歩兵戦車大隊がさらに進行中です。後釜はオランダ独立旅団が担当しています。南部の第2軍団は第1機甲旅団及びベルギー騎兵師団を先頭に急速に侵攻しています。抵抗はないも同然だそうです。」

 

当たり前だ。敵主力は目の前にいるのだ。南部は精々国境警備隊ぐらいしか碌な戦力はいまい。

 

「1週間以内に首都の眼前にまで迫るぞ。制空権は?」

 

「現状制空権は我々が握っています。既に後方の軍集団に爆撃を始めているそうです。」

 

「閣下、第一軍団の進路上にあると思われる城壁都市はいかがいたしますか?」

 

幕僚の一人が地図を指さす。そこには首都までの北部第一軍団の侵攻ルート上に立ちはだかるように城壁都市の印があった。

 

「迂回すればよかろう。1個大隊でも張り付かせておけば問題ない。」

 

「しかし主要街道を外れることになります。そうすると兵站線に余計な負荷がかかるかと。」

 

「では爆撃と砲撃による城壁の無力化を行え。あとは降伏勧告でもすればよい。銃弾一発も撃ってこない石壁相手に足止めを喰らう訳にはいかん。」

 

有無を言わさない彼の言に幕僚たちは押し黙った。そこに通信担当官が情報参謀へメモ書きを渡してきた。

 

「少将、砲兵観測航空群の偵察機から敵主力中央梯団は潰走中とのことです。」

 

「よろしい。機動大隊と先行する歩兵戦車大隊は予定通り左右へ展開させろ。これで最初の一歩は終わりだ。」

 

 

 

 

アデムは言葉が出なかった。目の間に広がる惨状を目にじっくりと焼き付けていた。

そこには先ほどと似た光景が広がっていた。大地が爆発したかのような跡がいくつもあり黒煙を上げていた。

 

ロウリア王国東部諸侯団討伐軍予備総軍。それは約30万に上る兵とワイバーン500騎のうち約半数を有し、正面戦力が損耗したら適宜部隊の補充ないし代替を行うために組織されていた。

その大軍団があちこちで阿鼻叫喚としていた。伝説の魔帝軍でさせ蹴散らせるような大軍勢、それが視るも無残だった。

 

その時耳に小さな轟音が響いてきた。東の空を見上げると竜と思しき騎影が多数、いくつかの梯団に分かれてこちらに向かってきていた。

 

そこに多数の味方ワイバーンが要撃に上がるのが見えた。

よし、いいぞ、あれを落とせ!!胸中でそう叫んだ。

 

比較的小さめの竜の梯団が降下を始めた。ワイバーン隊に気づいたのだ。アデムは味方ワイバーンが向かってくる竜を次々落としていく情景が浮かんだ。しかしそうはならなかった。猛速で突入してきた竜は瞬く間にワイバーン隊を散り散りにさせ勢いを奪った。何騎かが落ちているのが見える。小さな竜と戦闘をしているうちに更に上を飛んでいる竜はどんどんこちらに近づいてきていた。遠目からははっきりしなかったがワイバーンより大きいその竜は悠々と真上にまでやってきた。

 

「なんだ?なにをする気だ?」

 

見つめていると竜が何かを落とし始めた。逃げなければ、馬を蹴って走らさなければ!

身体は動かなかった。甲高い笛のような音が聞こえる。あの世が、迫る。

 

 

 

 

「爆撃成功だな。写真を撮っておけ!!堅物将軍への手土産だ。」

 

「了解」

 

機長にとってこの任務は実弾演習以外の何物でもなかった。トカゲ飛行隊は数こそそれなりだがそれだけだ。

そして高度3000mからの精密爆撃。もちろんトカゲは追い付けない、というより迫れる状況ではない。

トカゲどもは味方の戦闘機隊に容易く蹴散らされている。一部の機は既に地上への掃射へと移行している。

 

「機長!見てください。第四小隊のやつら高度を落としてます!」

 

機長は第四小隊の位置を見た。自機の右後方だ。3機のB25がゆっくりと高度を落としながら左旋回をしていき視界から外れていった。

 

「掃射するつもりか」

 

『コマンドより四小隊、程ほどにしておけ』

 

主席指揮官である大佐は咎める気はないようである。

 

高度300mまで降下したB25は単縦陣へ編隊を組み換機体間隔を800mにした。速度約280km、梯団の周りを回るように旋回しながら防御銃座が地上へ向かって吠えた。赤い曳光弾が無秩序に地面を耕していく。

後にこの四小隊長はガンシップによる対地攻撃任務の第一人者となるがそれはまた別のお話。

 

 

 

 

「うっ...がぁあっ...」

 

痛みでどうにかなりそうだ。視界には千切れた腕が見えている。アレは俺の腕だ。

敵の大型種が何かを落とし地上が何度も爆ぜた。運よく怪我はしなかったが三半規管がいかれた。

手が震える。突然怖くなった、恐怖、不安、絶望。綯交ぜになった感情が頭を身体をぐるぐる回っているのがわかった。

その時見えた大型種。ソレは地上の獲物を探す猛禽類のように見えた。気づけば腕が吹き飛び身体は地面に倒れていた。

助けて神様。

 

不気味な重低音が残響していた。

 

 

 

 

ロウリア王国東方討伐軍壊滅。この報がハーク・ロウリア34世に届いた際、彼は数回同じ質問を繰り返した。

曰く「それは真か?」と。

その日ハ―クは執務が困難なほど体調を崩した。

 

そして王国軍防衛騎士団将軍パタジン及び三代将軍であるミミネルとスマークは確認された謎の魔導軍に対する防衛策を急いで策定する必要があった。しかし三人は魔導軍の進撃速度を見誤ることになる。

 

一方、4400隻の大船団を率いて東進を始めた海将シャークンは討伐軍壊滅の方を聞き人目を憚らず間抜けずらを呈した。自らが何度も魔信で確認したという。

 

 

その後シャークンはパタジンから直接魔信を受け取った。

 

”マイハ―クを速やかに陥落させよ”と。

 



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宴の準備は念入りに

中央暦1639年4月21日

フランス パリ コンコルド広場オテル・ド・マリーヌ

海軍参謀本部

 

ここは花の都パリ。ヨーロッパ有数の美の街、セーヌ川北岸に位置するコンコルド広場には今日も人々が自らの生を賛歌していた。

 

海軍参謀本部。そこでは臨時会議が開かれていた。

 

「4000隻以上...か。今なきライミー供も顔を真っ青にするぞ。」

 

「内訳は?」

 

「偵察機によると木造帆走船ばかりであり軍艦は発見出来なかったと。」

 

ロウリア艦隊発見。それは偵察中の海軍所属機、PBYカタリナ飛行艇によって報告された。

数千隻になる大艦隊、海を埋め尽くす船の数に搭乗員は狼狽したと言う。

なお、この偵察機は1時間以上に渡って艦隊を偵察しロウリアのワイバーンが飛来するとそそくさと退散したため無事に帰還している。

 

そして今回の重要な議題としてこの大艦隊に対してどう対処するかが話し合われていた。

 

「艦隊の規模はクワトイネからの情報とも一致します。問題は船ですが...」

 

「帆船か...ガレオン船だとしてどの程度の艦隊で当たるべきか。」

 

敵の脅威度が未知数なのが各人が頭を悩ませる原因の一つであった。

これが敵に戦艦や巡洋艦がいれば戦力評価は簡単にできる。

しかし、相手は時代錯誤も甚だしい帆船による艦隊、だが数が尋常ではなく、その上ワイバーンと呼ばれる航空戦力、魔信なる相互通信能力がある。

 

「航空攻撃で漸減してしまえば良いのでは?西部戦線でのバトルレポートでは、ワイバーンは戦闘機の敵なりえないとあるぞ。」

 

「しかし何か強力な呪いが顔を出すかも。」

 

「その呪いで船を多く見せているだけでは?」

 

室内に笑いが響く。

海軍内部では陸上に展開した空軍と海軍航空隊の航空攻撃のみで十分ではないかとの意見が大半であった。初期の戦闘結果により自分たちはワイバーンの性能を過大評価していたと気づいたのだ。

そして何よりは、あの大戦終結からまだ数年しか経っていない現状、フランス海軍の内状は寂しいものだった。

 

「実際問題、動かせる艦が少ない。そしてその中に主力艦は含まれていない」

 

この時フランスは遠征艦隊を多数編成しクワトイネからの情報を元に多数の国家と接触を図っていた。その中のパーパルディア皇国へはこれ以前にも早い段階で外交官が派遣されているがお察しの通り文明圏外というだけで塩対応であった。

そこから進展せずに二ヶ月が経ち国内情勢をいち早く安定させたい政府は砲艦外交止む無しと判断、戦艦ストラスブール改を旗艦とする任務部隊を派遣している。

その他、戦艦ジャンバールは第二文明圏列強ムー国へ、前大戦の英雄艦ガスコーニュは第1文明圏へ、リシュリュー級クレマンソー及び改リシュリュー級ダンケルクllは北海危機での損傷が修復されておらずドック入りしたままであった。

巡洋艦や駆逐艦も軒並み任務部隊へ編入されており残った艦艇もドイツ、イタリア、スペインとの国境が海となった今、国防の観点から外す事も出来なかった。

 

「空母ベアルンとディクスミュードがたしか大陸へ航空機輸送に従事していたな」

 

「はい、現在2隻はバイヨンヌで航空機の積み込み中のはずです。」

 

「使えるか?」

 

「航空隊が少ないのが問題です。」

 

この時海軍航空隊の飛行隊はSBDドーントレスで編成された第2F海軍飛行隊が本土に展開する唯一の艦上機実戦部隊であった。主力の第6F、第12F海軍飛行隊はロデニウス大陸西部戦線に配置されていた。

 

「十分では?敵に艦上ワイバーンなんてものはないでしょう?」

 

「一個航空隊だけでは無理だ。最低でも巡洋艦は一緒に付けねば。」

 

「無理なローテーションになりますがこちらでなんとか確保します。」

 

大まかに決まっていった艦隊編成。そこに1人が声をあげた。

 

「オランダとベルギーにも艦を出させますか?」

 

「話を持っていけば首を縦に振るだろう。ベルギーはどうかわからんがオランダはどうしても取り分が欲しいだろうからな」

 

今回の戦争ではオランダ、ベルギーからは既に地上戦力が摘出されており、内訳はオランダが2個歩兵師団、1個独立旅団、戦闘機爆撃機他合わせて40機程。

ベルギーは1個山岳猟兵師団、1個騎兵師団、2個歩兵師団他、1個航空連隊約50機を派遣していた。

 

これはフランスとの協定によりロウリアを植民地とし、分割支配するという取り決めに基づくものだった。

 

「では直ちに取り掛かりましょう。敵艦隊が目的地と思われるマイハーク港へ到達するまで時間がありません。艦隊が迎撃できるまでどれくらいかかるか?」

 

「3日以内には派遣できます。」

 

「よし、二カ国へは私が通そう。各員掛かってくれ」

 

以下本迎撃作戦に参加することとなった部隊である

ロデニウス派遣艦隊

フランス

巡洋艦シャトールノー(旗艦)

空母ベアルン、ディクスミュード

艦隊水雷艇シムーン、テメレール、ミストラル、トロンベ

その他4隻

艦載機25機

3個航空連隊約180機

 

オランダ

駆逐艦 ファン ガレン(旗艦)

チェリク ヒッデス

1個航空連隊約40機

 

ベルギー

フリゲート アルテベル(旗艦)

ビクタービレット

 

オランダは外交艦隊も編成している中なけなしの駆逐艦を派遣してきた。ベルギーは国内最大の戦闘艦2隻を投入しやる気満々であった。

 

艦隊合同演習を行う時間がないことから総括指揮をフランスが執り各国ごとに単縦陣を形成、それぞれの適正戦闘距離において攻撃を行うことが決まった。

蘭白艦隊との合流は敵艦隊接触直前とされた。

 

 

 

 

 

中央歴1639年4月23日 マイハーク港

 

クワトイネ公国海軍第二艦隊は創設以来の慌ただしさであった。敵艦隊出撃の報を受け第二艦隊は約50隻になる軍船へ食料、武器を次々と搬入していた。

 

「壮観だ」

 

海軍提督パンカーレは港に並ぶ軍船を感嘆深く見入っていた。

50隻になる軍船は決して少ない数ではない。並みの文明圏外国家相手であれば容易く打ち砕ける、それがクワトイネ公国海軍であった。

 

今度の戦い、練度は十分、しかし数では大きく...いや、絶望的差がある。

どれ程死ぬのか、いやどれ程生き残るか。

 

パンカーレの心中は暗雲垂れ込めていた。

 

しかし!我々は軍人である!国を民を守る為に自らを犠牲にし安寧を銃後に残すのだ!!

パンカーレは自らを奮い立たせた。その時後ろから声が掛かった。

 

「提督」

 

「ブルーアイか」

 

パンカーレが振り返るとそこには副官のブルーアイが職業軍人らしく綺麗に背筋を伸ばし立っていた。

 

「提督、フランスから連絡がありました。フランス、オランダ、ベルギーの三国から艦隊を派遣してくれるそうです。」

 

「そうか、我々は猫の手も借りたい状態だ。ありがたいことだな...それで、規模は?」

 

ブルーアイが少々困った顔になりながら紙切れに目を落とした。そしてなかなか口を開かないブルーアイにパンカーレは訝しんだ。

 

「どうした?」

 

「いえ、ああ...向こうは15隻を向かわせると」

 

「...15?15と言ったか!?150の間違いではないのか!?」

 

パンカーレは素っ頓狂な声を出し、ブルーアイは目を伏せ首を左右に振った。

 

「それは三国合わせた数字なのか?」

 

「...はい、また向こうは観戦武官の派遣と、それと...ええ...」

 

「なんだ?まだ何かあるのか?」

 

「...貴艦隊は手出し無用、と」

 

何も言えない。パンカーレは一周まわって呆れていた。

三国合わせてたったの15隻、そんな死中に観戦武官を送ってこいと言い、挙句手出し無用だと!?

 

「提督、私に観戦武官としての派遣を許可願います。」

 

突然ブルーアイが言った。唐突な物言いにパンカーレは瞼を瞬かせた。

 

「許可するわけにはいかん。私に死んで来いと言わせたいのか!?」

 

「いいえ、私は彼らの実力を、この目で見たいのです。提督もお聞きになったでしょう?越境したロウリアの地上軍がフランス連合軍により壊滅したと。」

 

パンカーレは昨日報告された西方戦線の戦況報告を思い出していた。

 

曰く、強力な爆裂魔法が何度も何度も敵陣にて炸裂し鋼鉄の馬車や地竜に乗った歩兵が数十万になる敵を蹂躙、鉄竜がロウリアのワイバーンをいとも簡単に墜としていき壊滅させた、と。

 

信じられなかった。フランス連合軍の数は約9万、これだけでも並みの文明圏外国ではない数であるがロウリアはその4倍以上の40万、ワイバーン約300機である。列強でさえ、この数の差では押しつぶされるはずだ。

しかしフランス連合軍はそれを歯牙にもかけず逆に蹂躙せしめた。

フランスは神龍でも味方につけているのか!?いや、伝え聞く所業、その圧倒的な力は古の魔法帝国みたいではないか!!

 

「提督、いざとなれば自分の身くらいは守れます。どうかお願いします。」

 

ブルーアイはパンカーレの瞳をジッと見つめていた。

 

 

 

 

中央歴1639年4月25日 巡洋艦シャトールノー艦橋

 

ブルーアイにとってこの数時間は驚きの連続であった。

朝早くにマイハーク港へやって来たフランス艦隊は11隻の(ブルーアイの常識では)巨大な船で構成されていた。

3ヶ月前にフランスが接触して来た時、彼の国の船を臨検した船長は100mを優に超える巨船を臨検したと報告していた。ブルーアイはこの報告が自分の仕事を誇張する為の嘘であると思っていた。

しかし、今ここでそれが嘘ではないことがわかった。フランスの船は小さいものでも我が国のガレー船の二倍はあるではないか!?しかも船が進む為に必要な風力を受ける帆がない。伝え聞くムーやミリシアルの帆がない船のようであった。

そして眼前下にある、筒が二本突き出した鉄塊は遠くの敵を倒す為の武器であるという。まさか、噂に聞く第三文明圏唯一の列強国、パーパルディア皇国の持つ魔導砲と呼ばれるものでは?

それは矢の届かぬ距離から城門を一撃で粉砕できる威力があると言われている。

もしかすると、フランスの船はパーパルディア皇国の船に迫る性能を持っているのか?

しかし何故、文明圏外国がこのようなものを...

 

ブルーアイの脳裏にフランスに関する資料で見た異質な内容が横切る。

 

(転移国家...こことは別の世界から来たと記されていた。まるで第二文明圏のムー神話のような...)

 

ブルーアイが思考に耽っている時、猫を撫でるような声が掛かった。

 

「ブルーアイさん、少々よろしいか?」

 

「っ!はっ、はい。如何致しましたか閣下」

 

声をかけて来たのはロデニウス派遣艦隊司令長官バスチアン ルルネ少将であった。

ルルネは異世界転移時、地中海艦隊の巡洋艦戦隊の司令であったが事態鎮静後の異動により再編された南方艦隊第3航空艦隊司令になっていた。

ロデニウス派遣艦隊は第3航空艦隊所属の空母ディクスミュード 、巡洋艦シャトールノーが編入されておりルルネは旗艦であったシャトールノーと共に横移動して来たのだった。

ちなみに、ベアルンは第4航空艦隊所属であり、艦隊水雷艇群は予備役艦を転移後再就役させたものであり、乗員錬成が完了した直後に派遣艦隊へ編入された経緯がある。

 

「失礼ながらあなた方の海軍は、どのような方法で敵を撃退しますか?」

 

唐突に投げかけられた質問にブルーアイは戸惑った。

 

「それは、どういう...」

 

「そのままの意味ですよ。あなた方は船対船の戦いでどうやって相手を沈めるのですか?」

 

沈める、だと...?

 

「...敵船へ接近し、まずは火矢で攻撃を行います。後、敵船へ接舷し切り込みをかけます。抵抗が無くなれば、あとは火を放って燃やします...答えになっていますか?」

 

ルルネは目を細め口を三日月型にして笑ってみせた。

 

「ええ、ええ。十分な回答です。前情報の不備も無さそうですし結構結構。作戦参謀、作戦計画を参謀本部のものから私のものへと変更します。よろしいですね?」

 

「はっ、了解であります閣下。各艦へ伝達しておきます。」

 

「よろしい...航空参謀、状況は?」

 

「はっ、既に索敵機が敵艦隊を捕捉、監視中です。位置は我が艦隊よりの方位270、距離約60海里です。」

 

「以外と近くまで来てましたか。オランダとベルギー艦隊は?いつ合流できそうですか?」

 

通信参謀が受電した内容記したメモを見ながら言った。

 

「我が隊より40海里程後方を二艦隊合同で速度18ktで航行している模様です。合流はこのままいけば...」

 

「6時間後ですか。」

 

「はい、またベルギー艦隊へは補給の必要があるかと。」

 

「わかりました、両艦隊との合流を優先しましょう。艦隊進路0度!しばらくこの海域で遊弋します。」

 

「閣下...」

 

航空参謀が目で訴えて来ているのがルルネにはわかった。

そしてブルーアイはいきなり始まった会話にポカンとしていた。

 

「わかっていますよ、何もしない訳ないじゃないですか...ベアルン、ディクスミュードへ下令、第一次攻撃隊発艦!!水雷艇戦隊は対潜、対空警戒厳となせ!」

 

「「はっ!!」」

 

ルルネの命令に参謀達は即座に行動を起こした。そして、ブルーアイへ一言言った。

 

「ブルーアイさん、是非楽しんでいってください。」

 

ルルネは、静かに笑っていた。

 

 

 

 




もっとこう、心情描写を上手く書きたいものです。

次回は心踊る大海戦...もとい、殲滅戦です。乞うご期待。


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業火の海

 

 

中央歴1639年4月25日 ロデニウス大陸北方沿海域

 

海将シャークンは焦燥感を露わにしていた。

東方討伐軍の壊滅、そして敗走。この報が届いた時は信じられなかった。いや誰だって信じられないだろう。正面兵力だけで20万、総兵力40万になる東方討伐軍が、動員したとしても5万そこらであるクワトイネの農奴どもに負けたのだから。奴らは神龍でも味方に付けたのか?

全くもって不可解であった。

 

魔導師の間では独自の掲示板機能がある。そこでは討伐軍は魔帝軍にやられたと、専らの噂であった。海将付き魔導師は酷く狼狽していて現在はベットの上だった。

 

一体なにが起こっている?

シャークンは心中穏やかではいられなかった。しかし眼前に広がる光景を見ると勇気が湧いてくる。

4400隻の大艦隊。文明国、いや列強国ですら実現出来ないであろう大艦隊だ。

やるべき事は分かっている、己の務めを果たすことに集中するのだ。

水平線を睨むと目端に違和感を感じた。

 

 

 

 

フランス艦隊第一次攻撃隊 

 

鋼鉄の鳥は徒党を組み前進する。

既に敵艦隊は補足できている。12機のSBDドーントレスが二組の梯団に分かれ飛行していた。

 

「4000だろ?4000...俺たちだけでどうしろってんだ。」

 

第一次攻撃隊司令兼飛行隊長のロラン フーリエ少佐は独り言ちた。

第一次攻撃隊の目的はもちろん敵船の撃破であるが遅滞戦闘も目的の1つとされていた。

本隊の戦闘準備が整うまで敵船団を撹乱し、進行速度を低下させる。

進行速度を低下させるとは?具体性に欠いた作戦指示にフーリエは鼻持ちならなかった。

 

綺麗な海だ。フーリエはふと思った。

祖国の沿岸部は、大戦後の経済復興を掲げ、イギリス、ドイツの本土工業地帯が滅多打ちされた様を横目に、重工業を盛んに発展させている。

その弊害が、最近になって問題となっていた。

所謂"公害"

地中海沿岸や北部フランス沿岸は一部死の海と化し、美しき海の色は濁ってしまった。

そんな中この世界へやってきた。人の魔の手が及んでいない海にフーリエは少年時代の心が戻ってくるようだった。

 

「少佐、2番機が見つけたようです。」

 

後席からの声でフーリエは現実に戻された。

見ると二番機が仕切りにバンクしている。手信号の通り観ると敵が見えた。

二時下方、密集しているからだろう茶色に塗られた面が見える。

 

「敵機は確認できないな?」

 

「そのようです。僚機からの報告もありません。」

 

「それでは行くか。各隊、小隊ごとに突入、敵対空砲の存在に注意しろ」

 

『小隊了解』

 

フーリエは小隊ごとの突入を命じた。第2飛行隊の3個小隊6機は船団の先頭を横切り反対側から攻撃する。フーリエ直率の第1飛行隊はそのまま左翼より攻撃を仕掛けた。

 

フーリエは二番機について来るよう合図する。

船団はかなり密集している。適当に落としても当たりそうだ。

 

「いくぞ!!」

 

先頭左翼のやや後方、回避出来ない位置にいる船に狙いを付けた。

もっとも帆とオールで推進しているガレー船に回避する能力があるか甚だ疑問ではあるが

 

「1200...1100....1000」

 

後席から高度を知らせる声が聞こえてくる。

的は訓練時の標的艦よりも遥かに小さい。感覚がナイフのように鋭くなる。

集中しろ、目と耳だけが頼りだ。

 

「800...700...600...500!!」

 

「てぇ!!」

 

ガチャン!ガコ!

重量250kgの通常爆弾が機体のアームから外され重力と慣性によって落下していく。

 

「ふっ!!ぬぐぐぐぐ...!!!」

 

投下レバーを押したのと同時にフーリエは目一杯操縦桿を両手で引いた。

機体がギシギシと音を立てている。今にも分解しそうであるが構わず操縦桿を引き続ける。

何度も体感した強烈なGが身体を襲うがそれも直ぐに終わった。

 

「命中!!」

 

後席から声が上がった。

対空砲火がない為フーリエはゆったりとした動きで旋回した。

狙った船は四分の一程を残して木っ端微塵となっていた。残った部分も急速に姿を消しつつある。

よく見れば周囲の船も大なり小なり被害が生じている様だ。

直後に爆発。時差を置いて二番機が投下した爆弾はフーリエが狙った船の前方100m程前方にいた別の船へ着弾した。

全体を見渡せば黒煙が数条上がっている。第一撃は成功したとみていいだろう。

 

(ま、当たり前か...)

 

銃弾1つ跳んでこない上にロクな回避機動も取らない相手に対しての急降下爆撃。名実ともに実弾演習である。

 

「掃射に移る。銃座も用意しろ!」

 

「了解っ!」

 

後席の相棒はどこか少年の様な返事をした。

 

 

 

 

「また一隻燃えたぞ!!」

 

「墜とせ!あの竜を墜とせ!!」

 

艦隊は混乱状態であった。不快な音を立てて飛んできた異形の竜は耳を塞ぎたくなる鳴声を発しながら急降下し、どうやったかは知らないが眼下にある船を木っ端微塵にしてしまった。

その後は細いブレスを物凄い勢いで吐いていき一隻、また一隻と船を燃やしている。

シャークンは必死に対策を考えていた。翼竜の相手はワイバーン一択に限る。しかし此方のワイバーン部隊は全てが本土防衛に充てられてる為出動要請はできない。

一体どうすれば?

考えれば考える程何も浮かばなくなってくる。既に前衛は混乱の極地に達し各々が勝手に回避を行なっている。

 

「提督!!」

 

船長が大声を上げシャークンを呼んだ。

 

「なんだ...?」

 

「新たな竜が複数接近中です!!」

 

「っ!?」

 

打つ手なし。

もうこうなれば、竜がスタミナ切れで去っていくのを待つしかない。

 

(クワトイネはいつの間にこんな竜を躾けていたのだ!?いや、本当にクワトイネか?例の...魔導軍なのか?)

 

ドゴォォォン!!

 

またあの爆発が起こり海水が吹き上がっていた。

 

 

いつまでも続くかと思われた竜の攻撃は、いつの間にか止んでいた。あの不快な音が無くなり、穏やかな波の音がかえって不気味に感じられた。

 

「被害は?」

 

「はっ、全体的に見れば損害は微々たるものです。しかし前衛集団が集中的に攻撃されたらしく艦隊前面の陣形が総崩れを起こしています。船員の救助と陣形の再構築を行うには時間が掛かります。」

 

シャークンは思案した。

被害は全体の1割もない。このまま進撃しても支障はないであろう。だがあの竜が何度も波状攻撃を仕掛けてくれば被害の累積もそうだが士気の低下は免れない。なにしろこちらには迎撃手段がないのだ。

本国からワイバーン隊が来れないことはシャークンとその側近達しか知らない。しかし何度も飛来するあの竜を指をくわえたままずっと座視していれば、理由はともかくワイバーンが来れないことに兵たちは気づくことになる。

そんな状況で竜の波状攻撃を受ければ士気崩壊、離反が相次ぐだろう。悪ければ謀反すらもあり得る。

 

「むぅ...」

 

どうすべきかという言葉をシャークンは飲み込んだ。そして、はたと気づいた。

 

やつらは何故前衛を集中的に狙ってきた?

 

結果は前衛の混乱による進撃速度の低下を招いている。

簡単なことだ、やつらは時間稼ぎに出ているのだ!地上の軍勢が王都へ進撃し制圧するまで敵は海上の我々を足止めしようとしているのだ!

 

短絡的ではあったが思い至ったシャークンは即座に指示を出した。

 

「進撃だ!進撃する!!陣形の再構築は行わず健全な船は即座にマイハークへ向け進撃せよ!!」

 

 

 

 

「思ったより早く終わりましたね」

 

「ええ、ベルギーの連中士気旺盛ですな」

 

軍属の給油船、エティエス号の乗組員は給油を終えたベルギー・オランダ連合艦隊を見ていた。視線の先では幾人かの水兵が此方に手を振っている。

ベルギー・オランダ連合艦隊は臨時旗艦とした蘭海軍駆逐艦ファン・ガレンが指揮していた。

ファン・ガレンは大洋大戦前に竣工した旧型駆逐艦で僚艦のチェリク・ヒッデスとは十年ほどの年差があるが、戦後の改装によって通信能力と武器システムは最新のものになっている。

手を振り返しながら甲板長が連絡士官へ言った。

 

「うちらの艦隊はどうしてるんです?」

 

「待機してる筈です。ベルギーとオランダの連中と合流してから当たるそうで」

 

「たしかに、相手は4000隻だって話ですもんね。...戦艦とか連れてこなくて良かったんですか?」

 

「今海軍には動かせる戦艦がないそうでして...ま、相手は木造船です。簡単ではないでしょうが、やられはしないでしょう」

 

「大丈夫ですかねぇ」

 

 

 

 

 

「事前に聞いていたのと違うが...」

 

ベルギー・オランダ連合艦隊臨時司令官となった駆逐艦ファン・ガレンの艦長はフランス艦隊から送られた通信文を読み呟いた。

 

《貴艦隊 指令アルマデ 待機サレタシ》

 

当初の予定では仏艦隊と合流後、基地航空隊と協同で一気に殲滅すると聞いていた。

しかしこれは、どういう事だろう?

 

「通信長」

 

「はっ!」

 

「エスカルゴの連中に作戦詳細送られたしと送れ」

 

「わかりました」

 

艦長は仏艦隊の真意を問うため電文を送るよう指示した。

 

(まさか連中、手柄を独り占めする気か?)

 

ファン・ガレン艦長の予想は全くその通りだった。

 

 

 

 

「準備は整いましたね」

 

艦橋にルルネの猫撫で声が響いた。攻撃隊による足止めから数時間経っている。全ては準備万端、正に敵艦隊を殲滅する作戦が始まろうとしていた。

ブルーアイには現状がどうなっているのかがわからなかった。そしていきなり

 

「対空ロケット撃ち方用意!!」

 

号令が掛かり、復唱され、ビーっとした何かを知らせるような音が艦内に響いた。

 

「かっ閣下、なにが始まるんですか?」

 

ブルーアイは恐る恐るに聞いた。

ルルネは振り返る事なく言う。

 

「ただの消化試合ですよ」

 

「提督、第三次散布隊退避完了、観測機の配置も完了しました。」

 

「よろしい、ファバル司令には感謝しないと...艦長、攻撃開始」

 

「はっ!対空ロケット撃ち方はじめ!!」

 

バシュッ!!バシュッ!!

後方からそんな音が聞こえてきたと思ったら左舷方向に白い煙が伸びていた。

ブルーアイにはそれが何かわからない。

 

巡洋艦シャトールノー

大洋大戦時イタリア海軍がフランスの大型駆逐艦に対抗するために建造された小型巡洋艦であった。戦後賠償の一環としてフランス海軍が取得し二度の改装を得て現在の姿になっている。

排水量4000t弱の船体に半自動装填の新型100mm連装砲を前後併せて2基、37mm連装高射機関砲を4基、Vlz対空ロケット発射器2基、試作13.2mm四連装自動機銃1基、550mm三連装魚雷発射管2基と巡洋艦としては非力だが第三文明圏外では敵なしである。

Vlz対空ロケットは簡易的な赤外線誘導弾で、射程は25km、高度13000にまで到達しその弾体には焼夷榴散弾が装備されている。それを18連装の発射器に装填しており次発装填は手動である。

転移直前の世界ではセミアクティブホーミング式が登場し始めたが、大挙して押し寄せる敵機群を迎撃するにはこちらの方が都合が良かった。

何より北海危機の際、ドイツ大西洋艦隊はこの方式で日英のジェット機戦爆連合を多数撃墜し有用性を証明している。

 

そして今回はそのロケットの時限信管とジャイロを調整し、水平線の向こう側にいる敵艦隊へ向け発射したのだ。

 

 

 

 

 

 

海が燃える。

全てを焼き尽くす業火の如く

 

 

 

 

 

 

「ファバル中将、作戦は成功したそうです」

 

「...そうか、使い所に困っていたが役に立ったか。奴には秘蔵のワインでも要求しようかね」

 

「是非私も、一口いただきたいですな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《敵艦隊 半数以上ヲ損失シ撤退中 コチラノ損害皆無》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





海戦してないじゃん(真顔)


さっさと第三文明圏での話は終わらせたいのですが外交、政略、謀略とか考えが纏まらなくて(トホホ
一気に制圧したいですが流石にフランスでもフィルアデス大陸全土はねぇ...

今更ですが転移してきたのはフランスの他オランダ、ベルギー、ルクセンブルクのベネルクス三国です。海抜高度とか調べてないので陸続きになっていた部分がどうなっているかは各人の脳内補正ということで


この作品、これからも書き方が安定しないと思いますが兵器をカッコよく描写するのが目的の作品ですのでご容赦ください。
その兵器もオリジナルが結構ありますがあしからず。


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文明国

中央暦1639年4月末

 

ロウリア戦役は呆気なく終了した。王国三代将軍達が立てた防衛計画もフランス連合軍の電撃的侵攻により意味を為さなくなり、気づけば首都の目の前まで迫っていた。

王都に最初に入ったのはフランス陸軍一の精鋭と名高い第19歩兵戦車大隊だった。街道を塞ぐバリケードもAMX戦車の前には無力でありなす術なく王都は占領され、ハーク・ロウリアも囚われの身となった。

ロウリアは無条件降伏しその土地はフランス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの三国によって5:2:2:1に分割され植民地となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルルネ少将の独断には恐れ入る」

 

「全くだ。オランダとベルギーから抗議文が届いているそうじゃないか」

 

「自国主義なのはいいがこの世界で我々は孤立しているんだ。孤独にならない為には同郷の者たちを大切にせねばならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムー国首都 オタハイト

 

地球で言えば20世紀初頭の英国に近い街並みがそこには広がっていた。それはムーが一度通った道ではあったが、力を失ったムーは昔の栄光を取り戻す為、日々前へ進んでいる状況だった。

 

そんなムーの行政機関の1つ、外務部では今日、遠く東の世界からやってきた者たちと対談していた。

 

「まさか、失われた大陸が貴国とは、これは神の導きがあったとしか思えませんな」

 

「同感です。我らが祖先の故郷、その同郷の者に出会えたのは生涯の喜びです。しかし、もはや我々は郷愁の念に駆られることすらなくなってしまった。」

 

「仕方のないことでしょう。1万年もの長い時間をこの世界で在ったのですから。ところで、我が国と他三国との間で正式に国交を結ぶ案は如何だったでしょうか。いくばか内容の擦り合わせは必要だと思いますが」

 

「そうですね。ざっと目を通させていただきましたが、擦り合わせは必要でしょうな。」

 

「わかりました。それでは出来るだけ早く行いたいですな。私は全権を委任されています。オランダ、ベルギー、ルクセンブルクの各大使も同様です。早急なる国交開設を願います。」

 

 

 

ムー国首都 オタハイト港湾地区

 

「で、でかいな...」

 

技術士官マイラスは目の前に聳え立つ巨艦を前に冷や汗を流していた。

 

(ミリシアルと同程度と聞いていたが全くその通りだな)

 

外務部から招集された時は、なんだなんだと思っていたが、機密事項だとして第三文明圏外から来た国の技術調査を命令されて余計になんだが増えた。

機密事項と謳っているものの、ここまで来る道中の港の見物客の数から言って、秘密にはできていない。仕方のないことだ、こんなに巨大な戦艦はどうしても目立つのだから。

フランス海軍戦艦ジャン・バールの舷梯をマイラスは震える足を懸命に動かしていた。

 

 

 

「38cm?」

 

「ええ、それをこの通り四連装に纏めて前部に2つ集中配備しています。...どうかしましたか?」

 

「い、いえっ...いや、あの」

 

マイラスは少々動揺してしまった。主砲の後継がデカかったからではない。38cm砲は確かに大口径だ。自国の新鋭戦艦であるラ・カサミ級は30.5cm砲と幾分か小さいが、しかしそれは悲観するべき事ではない。対外諜報によりミリシアルの新鋭戦艦の主砲は36cm以上と結論が出ている以上、ラ・カサミ級は次なる戦艦への布石である。ただバランスが良くこれまでの戦艦よりも強力な為、それまでの主力艦を置き換えることとなり、大量建造される。なので内外に強力な新鋭戦艦であるとでかでかと宣伝している訳である。(口径以外は)

既に次級の戦艦主砲は34cm砲と決まっているし、40cm砲の研究も行われている。マイラスが驚いたのは

 

「そんな簡単に口径を明かしていいんですか?」

 

案内役の艦長があっさりと主砲口径を言ったことにある。

普通戦艦の主砲口径は秘匿されるべきものである。フランスが転移する少し前の地球でも、戦艦の主砲口径は機密扱いであった。

この世界でも主力艦の主砲口径というのは機密情報であり、各国諜報機関はそれを求めて日々攻防を続けていた。特にミリシアルの防諜っぷりは凄まじく主砲自体に認識阻害の魔法を掛け、乗組員に忘却術を施すほどである。

そんな国防の最重要機密である主砲口径をさらっと言った艦長は、あっけからんとしていた。

 

「我々にとって、あまり主砲口径は重要なものではありませんよ。詳しく話すと長くなりますが聞きます?」

 

「...是非ともお聞かせください」

 

艦長が話したのは転移する前の地球で起こった大洋大戦とそれに続く北海危機の話だった。

 

「要は、交戦距離が伸びたのと大口径化の限界があったからと?」

 

「そんな感じです。後者について言えば更に経済的な問題とも」

 

大洋大戦末期、日本がV2ロケットの技術と非公式ながら存在した未来技術会により実用化した対艦弾道弾はソ連のキメラ戦艦、戦艦空母クラスヌイ・ドルジバを一撃で轟沈せしめた。これにより各国で戦艦主砲の射程外から敵艦隊を撃沈できる兵器の開発が盛んに行われた。

 

「そんな...戦艦主砲の射程外から?嘘だあり得ない!」

 

「事実ですよ。実際この艦にも、射程40km以上の対艦ロケットが搭載されています。」

 

「4、40!?」

 

戦艦ジャン・バール

大洋大戦中期にアメリカにて就役したリシュリュー級の2番艦である。

リシュリューと共にアメリカ大西洋艦隊、イギリス王立海軍と連合艦隊を結成し、時の帝政イギリス海軍と死闘を繰り広げた。

北海危機では直接戦闘には参加しなかったが、トルコへ派遣されソ連海軍黒海艦隊の地中海進出を無言の威圧で押しとどめた。

そんなジャン・バールの現在の兵装は以下の通りである

主砲:38cm四連装砲 2基

副砲:19.4cm連装砲 3基

備砲:100mm連装砲 12基

37mm連装自動砲 8基

20mm単装機銃 41丁

その他:Vez小型対艦ロケット発射機 2基

Vlz対空ロケット十八連装発射機 4基

 

ムー国海軍なんて鎧袖一触!!な性能を誇るジャン・バール

もちろん艦長は全てを曝け出す事はない。主砲よりも長い射程の兵器があるとは言ったが詳細は伏せているし、速度性能も21ktと偽っていた。

案の定、マイラスは偽りの数字でも十二分な衝撃を受けたわけだが。

ちなみに、ロケットの射程は40km以上と言ったがそれは主砲射程であり(仰角を38度まで上げれるよう改修されたため主砲射程は大和型と同等)対艦ロケットの射程は約80kmと二倍である。

 

(これは、不味い。ラ・カサミが勝てるビジョンが全く見えてこない!これが、第三文明圏外から来たって?冗談も程々にしてくれ!!)

 

マイラスは軽くショック状態だったが艦橋トップへと案内された途端、陰鬱な気分は吹き飛んでしまった。

そこから見えるのはオタハイトの港湾と言わず遠く内陸部まで街を見通せた。そして眼下に鎮座する巨大な主砲塔、全てが強力で美しい。

マイラスの心が沸き立った。

 

(これは、越えるべき壁だ!!)

 

 

 

神聖ミリシアル帝国西部沿岸 港湾都市ホールワンド

 

ムーとの交渉が始まる少し前

 

ミリシアル帝国の第7魔導艦隊が根拠地とするこの都市は首都ルーンポリスよりも南へ下がった地域にある大都市である。

いつもならマーキュリー級魔導戦艦2隻が係留されている場所には見慣れない巨艦が2隻いた。

 

仏蘭第一文明圏派遣連合艦隊

戦艦ガスコーニュ、ネーデルラントの2隻である。

ガスコーニュは言うに及ばず、ネーデルラントもマーキュリー級と同等以上の艦容を擁しているため、非常に目立っていた。

随伴の艦艇群も近場の桟橋へ係留されており異様な光景が広がっていた。

 

「なんだあの船、スレイストラ(マーキュリー級)よりでかいじゃないか!?」

 

「新型戦艦か?」

 

「無骨すぎる、魔導船じゃないみたいだ」

 

「それじゃあ、ムー!?」

 

「いやムーの旗じゃないぞ、あんな旗見たことない!」

 

港湾には異様な船の噂を聞いた見物客で賑わっていた。

浮き足立っているのは見物客だけではなかった。ホールワンドにある海軍庁舎でも慌ただしい雰囲気であった。

 

「外務から連絡は来たのか?」

 

「はい、既に担当官が帝都を出発したと。2時間ほどで到着します」

 

「陸戦隊は?」

 

「臨検チームを編成して待機させています。今のところ向こうは大人しいですよ」

 

「陸軍も待機しています」

 

「これは海軍の管轄だ。陸軍は引っ込んでいろと言え!」

 

「既に一次交渉は終わっている。向こうは国交開設を求めて来たのだろう?何をそんなに殺気だっている?」

 

慌ただしい将兵を見て第7魔導艦隊司令長官フュルステは言った。

 

「しかし閣下、奴らは文明圏外から来た野蛮人ですぞ!何か突拍子のないことをするやもしれません!」

 

「野蛮人か、そんな印象はなかったがな...」

 

「何を...」

 

「彼らは紳士的だったよ、非常にね。そして従順で規律正しい。見ろ、甲板上に並んだ水兵たちを。こちらとの対比が面白い。まるで駄々を捏ねる子供と理性的な大人だ。」

 

「なっ...」

 

基地司令は絶句してしまった。目の前の艦隊司令は世界一の国である自国よりも、第三文明圏外から来た未開人たちの方を高く評価した。

フュルステは基地司令を見て、内心で溜息を吐いた。

 

(全く、しょうがないか。役人が来るまでに二次交渉をした方がいいかな)

 

「7艦隊の司令部要員で再度交渉してくる。基地からも人を出してくれ」

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです皆様。

前回のやつ、非常に出来の悪いものになってしまい申し訳ありません。最後力尽きちゃったんです。直す気力もないで...トホホ

簡潔に言うとナパームみたいなやつを艦隊前方に撒いて対空ロケットの焼夷弾頭で引火、逐次散布を続けて3分の1を炎が囲い船艇4分の1を焼失したっていう感じです。
強引過ぎる...

なお統率を失った艦隊は散り散りに逃げたため(強引に陸に揚がったもの多数)追撃戦における直接的な撃沈艦は少ないです。オランダ、ベルギーの艦隊も結局港湾への対地砲撃しかしてない感じです。


フランスがいた前いたパラレル地球の設定はありません。取り敢えずフランスは強化してるとだけ
もしかしたらパラレル地球の話も出すかも?でも収集つかなくなりそうだから作中に小噺が出てくる程度にしたい。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。



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