誘われし幻想の吸血鬼 (☆さくらもち♪)
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プロローグ

導入部分の難しさ。
スカーレット姉妹にもし生き別れの次女がいたら?という考えでやってみました。
のんびり書いていきたいと思います。


天高くそびえ立つビルが並ぶ世界。

自動車と呼ばれる鉄の箱が走り、整備された道だけがある日本という国。

そんな国のとある家の一室にて絶世の美少女とも言える美しい少女が座っていた。

長い白銀の髪は光に照らされて輝き、少女の瞳はとても紅い。

アルビノと呼ばれる先天的なものではなく、生まれつきそういう容姿を持っていた。

 

「それで、今日はどうしたのですか」

 

苦笑するように虚空に向かって喋りかける彼女。

傍から見れば変な人として扱われるだろう。

しかしこの場においてはそうではない。

 

「あら。ばれちゃってる」

 

「当たり前です。そんなに妖力を垂れ流してたら嫌でも分かります」

 

「私の妖力を感知できる時点でおかしいのだけれどね?」

 

何も無い空間が裂けるように割れると中からはこれまた美しい女性が現れた。

流れるような金髪に中華風なフリルドレスもまた女性の魅力を引き立たせていた。

 

「それはいいのですけれど……今日はどんな?」

 

「ええ。今日は貴女に1つ私から提案をと思って」

 

少女と女性は見た目で言えば親子ほどにも離れたように見えるが対等な関係として会話していた。

それはお互いがお互いを認め合い、そしてかけがえのない親友だからだろう。

だからこそ少女は女性が持ってきた提案に対して強い興味を持った。

 

「私が以前から管理している世界については覚えているでしょう?」

 

「それはもちろん。たっくさん聞かされました」

 

「今回の提案はその世界……()()()に来ないかと思って」

 

「幻想郷……ですか」

 

だいぶ前から聞かされていた件の幻想郷と呼ばれる世界に興味がなかったわけではなかった。

どちらかと言えば強い興味があり、行ってみたくはあったが行く為の条件も相応に厳しいものがあった。

 

「紫?」

 

(ゆかり)……そう呼ばれた女性は少しビクッとしながらも少女を見ていた。

その様子を見てしまった少女はクスッと笑う。

 

「未練がない、と言えば嘘にはなります。人間というのは日々進化し続ける生き物です」

 

「……そうね」

 

「なので私はそれを傍観するのが好きでしたが……それらを見続けるより親友の願いを聞き入れる方が私にとっては大事とも言えます」

 

その言葉を聞いていた紫は本当に良いのかと思いながら少女の次なる言葉を待った。

 

「八雲紫。私を誘って下さいまし。幻想の世界へと」

 

「……ええ!分かったわ!誘いましょう。幻想郷は全てを受けいれますわ」

 

紫は手をかざすとスキマと呼ばれる空間の裂け目を作り出す。

そして少女が手を差し出すとその手を握って共にスキマの中へと入り込んだ。

 

「クーリア、ここからはもう擬さなくても良いのよ」

 

「……そう、ですね」

 

少女……クーリアは自身の胸に手を当てて己の中で封じていたモノをゆっくりと解いていく。

一つ、また一つと。

厳重に封されていたそれを解放仕切る。

 

「んっ……ぅ、ふぅぅ……」

 

抑圧されていた力が溢れ出し、彼女の存在をより一層高めていく。

それは紫と同じく妖力と呼ばれる力の一種。

クーリアもまた紫と同じ存在とも言える。

 

「……く、クーリア?久々なのは分かるのだけれどね?その……魅了とかを無意識に垂れ流さないで貰えるかしら?」

 

「ん……あ、ほんとです」

 

無意識とはいえとても強力な魅了を出さないように調整しながら自身の妖力も制御し終える。

 

「ふぅ……この状態は色んなものが解放されていて良いですね」

 

バサッとクーリアの背中で広げられる翼。

人間ではなく異なる人だという象徴にもなるそれはあまりにも異質だった。

 

「ある意味クーリアの翼は綺麗よねぇ……」

 

「危ないですから触っちゃダメですよ」

 

クーリアの翼は金属のような輝きと共に尖ってもいた。

翼膜には剣の先端のようなものが膜として成しており、その鋭さは見ただけでも分かるほどに。

剣翼と言える翼がクーリアの背中にはあった。

 

「一先ず私の屋敷で過ごすのかしら?」

 

「紫達のお邪魔でなければ、そうさせてもらいます。生憎と私は朝昼は出歩きにくいですし、案内もしてくれると嬉しいですね」

 

「誘った以上は案内は当然しますわ。私の幻想郷を見て欲しいのだもの。藍と橙に関しては貴女が来ると知れば喜ぶでしょうから」

 

「ふふ、なら良いのですけど」

 

スキマの内部を歩きながらそのような会話を続けていると紫が立ち止まる。

クーリアもそれに倣い止まると紫が手をかざして新たなるスキマを開いた。

 

「さて、この先が幻想郷ですわ」

 

「なら行きましょう」

 

クーリアの決断を表すように開かれたスキマへと足を動かしていく。

向こう側の世界へと向かった瞬間に外の世界からはクーリアという少女の存在は忘れ去られた。

幻想となりし忘却された存在達が集いし理想郷。

また一人、鄉へと誘われていった。

 

 



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誘われて幻想郷

紫と会話する時の藍とクーリアの口調が被っているように思えます……


紫のスキマを潜り抜けたその先には。

八雲紫とその家族が住まう屋敷があった。

和風で建築されたその屋敷は年季を感じさせたがしっかり手入れがされているのが分かる。

 

「空気が美味しいですね」

 

幻想郷に来て1つ目の感想がそれだった。

外の世界は人間たちによる進化の象徴として開発された土地があった。

しかしそれは世界を汚す一因にもなっており空気が汚れてい

る。

だからこそ幻想郷はとても綺麗なのだろうと理解出来た。

 

「さて、紫はもう先に行っているでしょうし……」

 

屋敷の玄関口で昔ながらの横開き扉を軽く叩く。

ガラガラと開かれた扉の向こうには紫のような服装をしている女性がいた。

その背後には巨大な尻尾が9つ見えていたが。

 

「久しぶりですね、藍」

 

「クーリア!?どうやってここに?」

 

「紫に誘われまして。暫くの間、この屋敷でお世話になると思います」

 

「紫様が……?あの人ならやりかねないな……とりあえず中に入るといい」

 

「では、お邪魔致します」

 

藍に言われ屋敷に入ると靴を脱いで中を案内される。

 

「クーリアはここに来てよかったのか?」

 

「まあ……人間達の進歩を観察するのも好きではありますが、親友のお願いの方が大事だったからですね」

 

「紫様はいつも貴女の事を嬉しそうに話すからな。私としても親しい人が来て嬉しく思う」

 

「ふふ、そうですね」

 

事実藍から生えている尻尾は少しばかり揺れており、本当に嬉しいのだろうと分かってしまう。

本人が気づいていないからクーリアは何も言わない。

 

「さて、もうそろそろご飯になるからクーリアはここで待っているといい」

 

「私も手伝いましょうか?」

 

「今日はクーリアの歓迎をしたいだろう。それに紫様の親友に働かせては私が紫様に怒られてしまう」

 

「あら、よく分かってるじゃない?」

 

自然とクーリアの隣に座っているのは先程クーリアを置いていった本人である八雲紫だった。

 

「藍、今日はクーリアの歓迎も兼ねてやるわ」

 

「分かりました。クーリア、何か苦手なものはあるか?」

 

「いえ、特にありませんよ」

 

「ふむ……じゃあ料理してこよう」

 

「あらあら……」

 

紫から見てもクーリアが来てくれて嬉しい藍の姿が分かるようで、浮き足立っている藍を珍しく思いながら笑っていた。

 

「紫。幻想郷にはどんな妖怪がいるんですか?」

 

「うーん、そうねぇ……どんなと言わわれば数え切れないほどいるわ」

 

「そうなんですね」

 

「ええ。でも貴女と同じ種はいるわ」

 

紫がそう告げた瞬間。

クーリアの雰囲気が少し変化していた。

何一つとして聞き逃さないように。

 

「貴女と同じ種族である()()()がこの幻想郷にはいるわ」

 

「同族が……ですか」

 

妖怪であるクーリアの種族。

それこそが紫が先程言った《吸血鬼》と呼ばれる妖怪。

闇夜の王、不死者の頂……言い方など様々なそれは、強大な妖怪達の中でも新参者でありながら大妖怪に匹敵する力の持ち主。

 

「最初に行ってみる場所は決まったようね?」

 

「まぁ、そうですね」

 

紫は分かっていてあえてクーリアに教えたのだ。

彼女の能力や戦闘方法などは知らないが、その人生などは知っていた。

今でこそ深窓の令嬢らしい言葉遣いと仕草などをしているが、出会った当初は自身以外の生物全てを嫌悪していた。

かつて自分しか信じれられる者は存在しなかった彼女にとって八雲紫という人物は恩人とも言ってよかった。

 

「紫」

 

「はーい?」

 

「……いつかの日、私の戦いを見たいと言っていましたね」

 

「……ええ」

 

孤高で戦い続けることなど不可能だろうと考えていた紫にとってクーリアという少女が如何様にして生き延びていたのか。

その生き様や戦い方、思考全てが興味を惹かれた。

だからこそ唯一未だ見たことのない戦いを見たいと昔言っていた。

 

「生憎と私は手加減出来るほど優しくはありません。現在を生きるために身につけた護身でしたから」

 

「分かっているわ」

 

「それでも構わないと、例え死しても構わないという覚悟があるなら。幻想の吸血鬼(fantasy vampire)として全力で迎撃させてもらいます」

 

事、戦いにおいては右に出るほどのいない天賦の才を持った戦闘狂。

普段でこそ現れることのない、戦闘思考は八雲紫をも超える。

 

「貴女と戦うなら万全の状態でも厳しそうだもの。今はまだいいわ」

 

「……そうですか。それがいいと思います」

 

「幻想郷では血なまぐさい戦いはご法度。気をつけなさい?」

 

「そうでしたか。ごめんなさい」

 

「幻想郷の戦い方を後で教えてあげる。だから今は藍のご飯を味わいましょう」

 

誘導されていると分かりながらも、ここで戦闘すればこの美しい光景がなくなってしまう。

クーリアはそれが嫌だったからすぐ様普段通りになった。

 

「紫様、クーリア。ご飯が出来上がりましたよ」

 

「ええ。橙ももうすぐ帰ってくるでしょう」

 

「そうですね」

 

橙という化け猫もまた八雲一家の家族。

式神という主従関係でありながらも家族として受け入れているその関係性は羨ましく思えた。

 

 

 



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幻想に咲く響音の刃

戦闘シーンの書き方がとてつもなく下手だと分かって、以降は出来るだけ戦闘シーン出ないように進めたいです……


 

「うぅ……がくっ……」

 

満身創痍を表すようにクーリアの目の前でボロボロに負けた門番らしき女性が倒れていた。

クーリアの片手には刀が握られている時点でやった犯人が丸わかりなのだが。

 

「……やりすぎましたね」

 

自身の力がどれほどまで幻想郷に通用するのかも分からなかったクーリアは一先ず自分の能力の制限を縛って持ちうる技術と二振りの刀で戦闘を行った結果が目の前の状態とも言えた。

そもそも何故クーリアが戦闘することになったのか。

それは少し時を遡る。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

「クーリア、いるかしら?」

 

「はい?」

 

自分の名前を呼ばれて、その声の主の場所まで行くと紫が座って待っていた。

 

「昨日貴女にこの世界の戦い方を教えると言ったでしょう?」

 

「そんなこと言っていましたね」

 

紫に連れられて幻想郷に初めて入り込んだその日に八雲家の食事に入っていたクーリア。

多少不穏な雰囲気になりながらもその後は何事もなく食事と雑談を楽しんだ。

 

「この世界は出来るだけ殺生をしないというのが妖怪でのルールなのよ」

 

「出来るだけ……つまるどころ殺してしまっても構わないのでしょうか」

 

「幻想郷に住まう全ての妖怪が守れるとは限らないもの。知性があり、己のプライドがある妖怪は人間を襲う事自体しないのだから」

 

「それは確かにありますね。妖怪というのは人間達の恐怖の象徴、恐れられなくなってしまっては存在意義に矛盾を生じます」

 

妖怪という存在が生まれる原因になったのは人間が心の深層にある恐怖心が形を持って具現化したものが妖怪。

人間が妖怪に対して恐怖を抱かないようになればいずれ妖怪は消えていくだろう。

 

「そこで私と()()()()()で考えついたものが《弾幕ごっこ》というものなの」

 

「弾幕ごっこですか?」

 

弾幕というものはどいうものか理解していながらもそれをごっこ遊びに繋げれるほどイメージが出来なかったクーリアは良く分からなかった。

 

「妖怪と人間は基本の能力が違うでしょう?妖怪は圧倒的な力を持つけれど人間は脆弱な力しか持たない。でもこの弾幕ごっこがあれば妖怪と人間でも戦えるの」

 

「……なるほど、妖怪が人間に合わせるということですか」

 

「弾幕ごっこの最も重要な部分は、()()()()()()()()()()()()()()()に尽きるの。ただ避けようのない攻撃ではつまらないでしょう?」

 

「そうですね。しっかりと避けれる部分を作りながらも、美しさを求める……意外にも難しいですね」

 

「あら?クーリアなら簡単に思いつきそうだけれど」

 

「うーん……」

 

自身でも自覚出来る戦闘狂のクーリアは唯一困り果てている部分があった。

今まで加減というものが無かった彼女にとって弾幕ですら攻撃性を持ってしまう部分。

また能力の特殊さもあり、弾幕ごっこに組み込む事が難しかった。

 

「あともう一つあるのよ」

 

「もう一つですか?」

 

「《スペルカード》。私たちが繰り出す技の名をカードに書くの。それが弾幕ごっこで使える必殺技のようなものになるわ」

 

「ふむ……なら出来るかもしれないですね」

 

スペルカードというものであれば殺傷しないように能力の調節も出来る。

こと戦闘においては無類の強さを持ちながらもそれを殺さないように抑えるというのは困難だったから。

 

「スペルカード、というのは専用のカードがあるのですか?」

 

「ええ。貴女にも渡してあげる」

 

はい、と紫が手渡してきたのは少し厚めの紙。

試しにクーリアは己の技名を書いてみる。

 

「技名を書いたら後はカードに力を込めると使えるようになるわ」

 

妖力を込めてみると、クーリアの体の中にあった妖力がとてつもない勢いでカードへと吸い取られていく。

数秒ほどして止まるとカード自体から溢れ出すぐらいの妖力が感じ取れていた。

 

「どれだけ強力なのよ……ま、まぁこれでクーリアも弾幕ごっこが出来るようになったわ」

 

「ここまで吸われるのは予想外でしたが……こんなあっさりと出来るのですね」

 

「簡単でしょう?その仕組みを作り出すまで当代の巫女と考え抜いたんだもの」

 

そしてクーリアは思いつく限りの技をスペルカードに書き込む。

おかげでかなりの枚数のスペルカードが出来上がり、全てポケットに放り込んだ。

 

「さて……紫。そろそろ私は行きたいので、お願いしてもいいですか?」

 

「ええ。直接内部に送ったら館の主に怒られてしまうから門前になるわよ」

 

「構いませんよ」

 

「じゃあ……行ってきなさい。クーリア」

 

「はい。行ってきます、紫」

 

紫が手をかざし、スキマを開くクーリアはその中へと入っていく。

スキマを通って出口を通ると一風変わって、森の中にある洋館があった。

クーリアにとっては数年しか見れなかった紅い館。

懐かしいような、新鮮なような……複雑な気分だった。

 

「今は……日の時ですか。日傘をさしながら行きましょうか」

 

目を閉じて頭の中で自分が欲しい日傘をイメージする。

妖力が多少減った感覚を覚え、右手には想像した日傘が握られていた。

 

「さて、行きましょう」

 

傘をさして館に向かっていく。

遠目から見ても大きな館は紅色なだけあり、かなり目立ちやすい。

だからだろう。

館の門の近くにいる存在がいるのを見落とすなんていうクーリアらしくないミスをやらかした。

 

「それ以上の侵入はお控え頂けますか」

 

凛とした気迫のある声はクーリアの足を止めるのに充分なものだった。

クーリアがその主を視界に入れると中華の妖怪なのだろうと理解する。

 

「あ……これは申し訳ありません」

 

「いえいえ……ここ《紅魔館》に何かご用でしょうか?」

 

「はい。館の主にお会いしたいのですが」

 

「生憎と我が主に気軽と会われますと館の主人としての品格が落ちます。どうかお引取りを」

 

クーリアとしてはここの主に会っておきたかった。

同族として、そして()()だったこの館自体も思い入れは多少なりともあったのだから。

 

「それでもなお、会いたいと言えば。どうなりますか」

 

「武力行使させてもらいます」

 

クーリアは一瞬で武器となる刀を想像する。

抑えていた妖力も僅かだけ解放して。

 

「ならば、実力でお願い致します」

 

相手に礼としてカーテシーをすると、傘を左手に持ち変えて刀を右手に現した。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

女性から感じ取れるのは《気》と呼ばれる力の一種。

それを身体に巡らせて身体能力を強化していた。

 

「ごめんなさい。一瞬で終わらせます」

 

最大限に加減をして、右手で構えた刀は少し軸をずらす。

 

「『幻想鏡花』」

 

スペルカードにて発動されたそれは、クーリアと女性の周囲だけに及ぶ効果だった。

 

「ぐっ……あぁ!?」

 

耳障りを通り越して鼓膜を破壊する高周波と共に現れる斬撃は空間そのものを斬り裂く断空剣。

クーリアの宣言通り一瞬で片がついてしまうほどに強力過ぎる技だった。

 

「うぅ……がくっ……」

 

力尽きたように倒れた女性にクーリアはやり過ぎてしまったと思いながらも、とりあえず彼女が起きるまで門番の代わりを務めることにしたのだった。

 

 

 



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幻想の吸血鬼(fantasy vanpire)

少女の片隅でボロボロになった女性があった。

それは少女の一撃によって成されてしまった事なので仕方ないと言えばそうなのだろう。

事実、やり過ぎたと反省して少女……クーリアは女性の代わりに門を守っていた。

 

「威力もう少し下げるべきですね」

 

先程女性をボロボロにした技。

『幻想鏡花』というそれはクーリアの能力と刀があるからこそ成せる技。

目には見えない不可視の刃と共に鼓膜をいとも容易く破壊する快音波を鳴らす。

使い手がクーリアただ1人という事もあり、その威力は空間を斬り裂くほど。

山は抉れ、海は穴が出来るというぐらいな為に基本的には使うことのなかった技ではあったが。

 

「……吸血鬼、ですか」

 

紫によって教えてもらった情報。

それは確実な物だとクーリアはこの館に近づいた時点で確定した。

並の妖怪では決して持つことの無い妖力。

それは大妖怪とも並ぶ。

そんなものがあちらこちらにいるわけもなく。

 

「……()()()も久々に見ました」

 

元より生まれた家。

いずれはまたこの家に帰れると信じてはいたものの、幻想郷に来ていたとなれば見つかることすらなかったというわけだった。

クーリアは能力を発動させて()()()()()()()()()()()

 

「私に物理的な攻撃は通りませんよ」

 

全方位から向かってきた銀色のナイフはクーリアの身体を通り抜けていく。

クーリアの能力によって引き起こされた状態だった。

 

「戦う気はないつもりなのですが」

 

「門番をそんな状態にしている時点で敵と認識されてもおかしくありませんわ」

 

「館の主に会いたいもので。アポイントメントを取れば良かったのですか?」

 

「いいえ。そもそも取る前に殺してさしあげるつもりでしたが」

 

クーリアが視界に捕らえたのは銀髪のメイド。

その両手には先程クーリアに向かって投擲されたナイフがあった。

 

「我らが主がお会いになるそうです。門番はそのままで構いませんわ」

 

「ふむ……そうですか」

 

一応念の為にクーリアはまだ気を失っている門番に治療を施してからメイドの方へと歩いていく。

その様子を見ていたメイドは少し驚いたように目を見開いていたが、すぐに直すと館の中へと案内する。

 

「……?」

 

生活した年月は何十年も満たないだろう。

しかしそれでもクーリアは違和感を感じた。

この紅魔館は見た目よりも広いと。

 

「空間……あぁ、そういう事ですか」

 

「どうかなされましたか」

 

「メイドさんの能力、時間に関する事ではないでしょうか」

 

「何故そう思われましたか」

 

「貴女から感じるのは至って普通の人間です。しかし微かに能力は感じ取れました。となれば、先程の攻撃は空間か時間に関することではないかなと」

 

「その推測では確定し切れませんわ」

 

「はい。しかし空間系能力の特徴として、設置時に微かに遅れるのですよ。先に発動させた力が来てしまいナイフは遅れます。となれば残りは時間系能力。時を止めるとなれば時の世界に入り込み、ナイフを私に投げてから元の世界に戻った。そうなれば辻褄が合うのですよ」

 

その予測はクーリアだからこそ出来た方法。

それに至るまでの思考回路は並大抵ではない。

 

「……お手上げですわ」

 

《答え》を言ったクーリアにメイドは否定はしなかった。

クーリア自身も間違ってはいないだろうと思って喋ったのだから。

 

「お嬢様が、この先でお待ちです。後ほどお茶と茶菓子を持って参りますわ」

 

「分かりました」

 

答え合わせのように、メイドは一瞬にしてその場から消える。

クーリアは時間系能力の一つである《時間停止》だと完全に理解した。

 

「人の身で珍しいですね」

 

そう呟きながらクーリアは案内された部屋の扉を押し開ける。

中には先程感知した大妖怪のような力の持ち主がいることは分かっていた。

 

「へえ、来たのね」

 

そしてその主がどんな相手なのかも把握していた。

 

「吸血鬼にとっては天敵とも言える日が昇る時に来てしまい申し訳ございません」

 

「ええ、そうね。おかげで気分はとても悪いの」

 

館の主、青髪の幼い少女。

その姿を見ただけでこの場所に来てよかったと思った。

 

「そうですか。私はとても気分が良いです」

 

「……それで、機嫌が悪い私を楽しませれる何かがあるのよね?」

 

「はい。もちろん」

 

多少胡散臭い笑顔にも取れるクーリアの表情。

しかしそこで気を抜いては我慢した意味がなくなってしまう。

だからこそしっかり気を張っていた。

 

幻想の吸血鬼(fantasy vanpire)をご存じですか?」

 

そう告げた瞬間、クーリアの首に魔力で作られた槍が当てられていた。

その槍の持ち主は殺気を溢れ出させて威圧もしていた。

 

「どこでそれを聞いた」

 

「お答えになられませんか?」

 

「どこでそれを聞いたと言っている!」

 

吸血鬼という存在自体が最早伝説の話。

それでも《幻想の吸血鬼》という二つ名がついた吸血鬼は確かに存在したのだ。

しかし存在はしていたが、それを知る者はいなかったはずだった。

だからこそクーリアの目の前で対峙する少女は睨み殺さんばかりに殺気を溢れださせているのだろう。

 

「確かに聞いた、と言えば聞いた事になるのでしょうか?人間から聞いた事もありましたから」

 

「……」

 

「幻想というのは、根拠の無い存在です。それ故にそもそも《幻想の吸血鬼》という存在自体が居なかったのではないかと」

 

「……《紅い悪魔》《幻想の吸血鬼》《悪魔の妹》。その子の姉であった以上は決して居なかったとは認めない」

 

悔いるように少女は槍を消すと、クーリアの横に座り直す。

 

「もし、《幻想の吸血鬼》が帰ってきたらどうします?」

 

「帰ってきたら……か。思い付きもしないよ。姉と言いながらも共に過ごした時間は生きた年月に比べてとても少ない」

 

紅魔館が揺れる。

クーリアの隣に座る少女よりも強い力の持ち主が暴れ回るように動いていた。

 

「この館に居ると私の妹に巻き込まれる」

 

「ふむ……そうでしょうね。あれ程までに強力な妖怪はそう見ません」

 

やるべき事を先に終えてから、そして《正気に戻してから》。

クーリアは驚く顔を見てみたくて。

剣翼を出して羽ばたかせて、使い慣れた刀を現す。

 

()()。待っててください」

 

 

神にも等しい戦闘狂の吸血鬼が部屋を飛び出した。

明かりに照らされ輝く銀髪は美しいの一言だろう。

戦女神の如く、クーリアは()()()()を助ける為に動く。

 

 



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捉えられない幻想の存在

クーリアは剣翼を羽ばたかせて、巨大な妖力の塊へと急ぐ。

本来ならば発現することのなかった狂気。

吸血鬼という存在に加え、この世に存在するあらゆるものを破壊する能力。

その規格外な力の持ち主がもし狂気に飲まれていれば後は察するだろう。

 

「……凄まじいですね」

 

クーリアが通る道。

普段は廊下だったそれは、粉々に破壊されており原型を留めていなかった。

 

「『おいでよ、おいで、私の元に。この世の暗きもの、この世の影なるもの、私の元へ』」

 

鈴の音を転がすように美しい声で紡がれたその文言。

妖力と魔力を使って行ったその術は数秒の時をもって形を成す。

とても薄くクーリアを包むように纒わりついた暗影はクーリアを守る壁でもあり、太陽の光の影響を一切受けないカーテンでもあった。

 

「さて、行きましょうか」

 

地を蹴って先へと進むと、攻撃性のある弾幕が飛んでくる。

当たれば無事では済まない妖力が込められたそれは今の幻想郷のルールでは違反とも取れた。

 

「……とりあえず、鎮めましょう」

 

この状況を作り出した相手が誰なのかも分かっていた。

だからこそ元に戻してあげたかったと。

 

「フラン」

 

「ダレ?」

 

「御相手して下さるかしら?」

 

「ウン!イイヨ!」

 

元気よく頷いた幼い少女。

背中からは七色の結晶のようなものが翼についており、ふわっとした金髪が風に吹かれていた。

 

「サイショハー……コレッ!」

 

ぐぐっと手を握って一気に妖力を圧縮したフランは一瞬にして解放して大量の弾幕を貼る。

その全てがクーリアへと向いており、当たれば危険だろうと分かった。

焦らず、クーリアは片足をつま先で円を描いて踵で中心を踏むと陽炎のように姿が消える。

 

「『幻鏡』」

 

「アレ?ドコ?」

 

きょろきょろと居なくなったクーリアを探しているフラン。

 

「こっちですよ、フラン」

 

「ヘッ?」

 

「『幻想結界・乱れ桜吹雪』」

 

予め組んでいた術式を発動させると、クーリアはまた存在を消す。

発動させたのはクーリア自身が想像した武器が予測不可な軌道を描いて飛び交う幻想結界。

フランの能力も対策するために術式を組み直してまで作ったそれは狂気にただ飲まれただけの何の実力もない少女に対してはとても有効打だった。

結界が消える頃にはフランはボロボロでふらふらと立ち上がっていた。

クーリアは近づいてフランにそっと触れると目を閉じる。

 

「ア……ゥ……」

 

「……点は、ここですか」

 

フランの存在そのものを精査し、中に巣食う狂気を探り当てると、顕現させた刀を構える。

 

「痛くはしません。そのまま寝ていると良いのですよ」

 

 

「ふー………………、『水月一閃』!」

 

勢いよく振り切られた一撃でフランの狂気そのものを斬る。

精神という分類に入る狂気は元を辿っていけばクーリアの能力の適用範囲内。

フランには傷をつけず、狂気だけを切り離して消し去ることなどクーリアにはいとも容易く出来た。

 

「ぁ……」

 

気を失ったように身体の力がなくなったフランの身体をクーリアが受け止めると、抱きかかえて来た道を戻り始める。

 

「戦うことは好きじゃないんです」

 

虚空に向かって喋りかけると、先程まで見ていた視線は消えた。

クーリアにはその正体が分かっていたものの、一々注意するほどでもなかった。

 

「『さようなら、現の世界』」

 

自身の能力を発動させると陽炎のように姿が消えていく。

その時クーリアの姿を見たものはいなかった。

 

 

 



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優しい記憶

いつからだったのだろうか。

暖かい家庭で暮らしていたあの頃。

穏やかで優しい母様。

名家の当主でありながらも家族思いの父様。

姉らしく振舞おうとする背伸びした姉様。

まだちっちゃくて可愛かった妹。

 

「変わりましたね」

 

変わった、変わらざるを得なかったのが正しいのだろう。

 

ーーーーーーーーーー

 

スカーレット家は吸血鬼の中でも最上位に君臨する支配階級の名家だった。

その為、スカーレット家のご令嬢を見ようとする者は多く、そしてその縁談もまた多かった。

特に次女のクーリア・スカーレットはとても美しく、見惚れた令息が大量におり、彼女を自分の物にしようと縁談が相次いだ。

 

「クーリア。気になった男はいたか?」

 

「いいえ、特には。可愛い女の子に視線を向けていたので」

 

「……お前はそういう子だったな」

 

優しい姉と甘えたがりな妹のおかげでシスコンになったクーリアは男性よりも女性のが好ましく思っていた。

その殆どは彼女の両親と姉妹達によるものだったが、女性にだけはその効果が及ばなかったのも大きかったのだろう。

 

「ああ、そういえばメリル家の令息が私を見ていましたね。かなり強い魅了をかけてきてましたから」

 

「ほう……」

 

「野心の強い家だったはずです。私含め、スカーレット家を手に入れる気でしょう」

 

クーリアの能力は他と比べてとても異質であり同時に特異性も秘めていた為、能力目当てで何度か手を出されていた。

無論その手に対応出来るように戦闘は出来るようになっていたので返り討ちにしていた。

 

「……父様。もし、私がこの家から消えたらその時は探さないでください」

 

「……!なんてことを言うんだ。お前は私とフェリシアとの宝だ!」

 

「そうだとしても私がいる以上は付け入る隙を与える口実になります」

 

「だとしてもお前はこの家に居ていい。親が子を守るのは当然だぞ」

 

慈しむようにクーリアの頭を撫でる父に恥ずかしくなりつつ、告げられた言葉の温かさに泣きそうになった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「『幻想結界・潰滅』」

 

ぐちゃり、と何かが潰れる音。

 

「……あと3人」

 

クーリアは館に残っている人数を探知すると、大規模な魔法を組み上げる。

齢にして数十歳の吸血鬼の子供が、御しきれるとは思えないほどの高難易度な魔法を使っていた。

 

「私たちの城から消えろ、メリル家(ゴミ)

 

対象者となる侵入者を捕捉し、その対象を消滅させる魔法。

古代にて使われていたそれはクーリアの持ちうる力全てを吸い取って行った。

 

「……あはは……」

 

虚しい笑いが木霊した。

 

「クーリア……」

 

「クーリアお姉様……」

 

心配そうにクーリアを見つめるレミリア()フラン()

壊れかけているクーリアに寄り添おうとしても何故か近づけないからこそ何も出来ない自分たちが悔しかった。

 

「……姉様、フラン。私はしばらく外に出ます」

 

「え、ええ。分かったわ」

 

「うん……気をつけてね?」

 

「はい。…………後はもう任せました」

 

陽炎のように消えたクーリア。

いくら待っても帰ってこない彼女に2人の姉妹は館で静かに泣いた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「姉様」

 

「っ……何かしら?」

 

「フランも交えて寝ましょうか。昔みたいに」

 

クーリアからそんな提案が来るとは思っていなかったレミリアはキョトンとしながらも本当に良いのかと聞いた。

 

「もう過去の事です。ちゃんと理解しましたから。もう大丈夫ですよ」

 

「そう……なら一緒に寝ましょう?」

 

「はいっ」

 

嬉しそうに頷いたクーリアの表情はぱぁっと咲いた花のように綺麗な笑顔だった。

数百年ぶりに見たその表情にレミリアは妹ながらもドキッとしてこの感覚もとても懐かしいと思いながらもフランを抱えたクーリアと共に寝室で仲良く3人眠りについた。

 

 

 



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