閃乱ジード (BREAKERZ)
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番外編
番外編 お正月と餅つきだぜ、ペガ!


新年明けましておめでとうございます。
お正月の怪獣を考えていたら、番外編を思いつきました。
まだ本編に出ていない忍達との関係や、フュージョンとゼロのオリジナル設定を出してしまいますが、ご了承下さい。時系列と言ったものは無視していただければ幸いです。


ー理巧sideー

 

暁月理巧がウルトラマンジードとなり、半蔵学院に編入し、飛鳥達と絆を結んでいき、ウルトラマンゼロと出会い、蛇女子学園と戦い、焔達と出会っていき、伏井出ケイと言う敵と遭遇し、月閃女学館の雪泉達や新蛇女子選抜メンバーの雅緋達とも出会い、彼女達とも絆を結んで、己の宿命『ウルトラマンベリアル』と死闘を繰り広げきた。僅か数ヶ月の間で目まぐるしい日々が続いた。

それでも、時と季節は流れて行き、理巧達は翌日に正月を迎えようとしていた。

秘密基地にて、飛鳥に斑鳩、焔に詠は年越し料理の支度に勤しんでいた。

柳生と雲雀、未来と春花は初詣で全員が着る着物の準備や基地の掃除をしていた。

本来ならば、月閃の雪泉達、新蛇女選抜の雅緋達も来る予定だったのだが、それぞれの忍学校の正月での行事があるらしく、それぞれの学校の代表のような立場の彼女達もその準備の手伝いをしており、年末年始は来れないと言われた(雪泉達も雅緋達も、本当は来たそうだったが)。

買い出しに出ていた理巧とペガ、葛城と日影が戻ってくると、ペガは料理支度中の飛鳥達に駆け寄っていた。

 

『飛鳥! 焔! 餅つきだよ! 餅つきをやろうよ!』

 

興奮気味に、飛鳥達に提案すると、飛鳥達はキョトンとした顔になる。。

 

「餅つき? どうして?」

 

「買い物途中で、町内会が餅つきをやるのを見てね。そう言えばペガには餅つきなんてやらせた事無かったなぁって思ってさ。ほら、ペガはペガッサ星人だから、ね・・・・」

 

『あぁ~・・・・』

 

飛鳥達も焔達も納得したように声をあげた。こうしていつも一緒にゲームをしたりご飯食べたり、遊んだりと共に生活していて馴れていたが、ペガは異星人だ。迂闊に外を出歩こうモノなら即座に大混乱になる。

AIBのシャドー星人ゼナのように人間に擬態できれば問題ないが、ペガには擬態能力はなければ擬態する装置もない。装置装置の方はAIBに申請すれば出るかも知れないが、地球人的には未成年のペガは親からの同意書が無ければ貰えない。

一応レムにそんな感じの装置の開発を頼んでいるが、中々上手くいっていないようだ。

毎年正月になると、ペガは理巧の実家の理巧の部屋に置かれているテレビなどで、餅つきの映像などを見ていて、自分でもやりたかったらしい。

 

「う~ん、そう言う事ならやってあげたいけど・・・・」

 

「外でやる訳にはいかないな。半蔵学院の屋上や展望台だって、何処に人の目があるか分からない世の中だからな」 

 

『・・・・そっか、そうだよね。仕方ない、よね』

 

飛鳥と焔の言葉を聞いて、ペガは少しションボリしたような声を発する。

理巧がそんな親友を見て、肩をすくめながら声を発した。

 

「この基地の中なら、人の目を気にする事もないよ。この間、懸賞で『新潟産の特選餅米』が大量に当たったし、明日に臼と杵を借りてきて、皆で餅つきをやろう」

 

「りっくん」

 

「ペガだって、この半蔵学院に来てから、色々頑張ってくれたりしたからな。そのお礼みたいなモノでさ。皆で餅つきをやろう」

 

半蔵学院に理巧と共に来たペガは、秘密基地で皆のサポートをしたり、ダークゾーンを使って救出や潜入と言った方面で自分達の力になってくれていたのだ。

 

「・・・・それもそうですわね」

 

「雲雀もお餅つきやりたい!」

 

「雲雀がやりたいならオレも構わん」

 

「ゲヘヘヘ、アタイは餅も良いが、ここにある餅のように弾力溢れた柔らかな餅の方が好みだねぇ!」

 

「ち、ちょっと葛姐ぇ!」

 

「ま、たまにはいいか」

 

「うん。それについた餅が余るだろうから、貧民街の皆にもお裾分けしよう」

 

「それは素晴らしいアイデアですわ! わたくしがお餅に合うモヤシ料理の開発もしますわ!」

 

「ワシも構わんわ」

 

「私も」

 

「それじゃ決まりね」

 

「と、言う訳だ。ペガ、餅つきだよ」

 

『本当!? やったぁぁぁぁっ!!』

 

ペガが両手を上げて喜ぶを表現し、そして一同は長方形のコタツを二つ繋げて、大晦日を満喫する事に集中した。

年越し蕎麦に料理を全員を楽しく食べ、空中ディスプレイで年末『脱走中』と言う番組を見て、自分ならあの場面はああすると言ったり、赤白唄決戦を見て盛り上がったりと、大晦日を満喫していた。

ちなみに霧夜先生とゼロも呼んでいたが、学生で楽しめと言われ、今年は理巧の代わりに鷹丸達とゼナで年末年始を楽しむらしい。

そんな中、レムが近くに来た理巧に、皆に聴こえないようにソッと声を発した。

 

『理巧。たった今一瞬でしたが、月面上に奇妙なエネルギー反応がありました』

 

「・・・・敵か?」

 

『それは不明瞭です。反応は本当に一瞬でしたから』

 

「何が起こるか分からない。警戒はしておいてくれ」

 

『了解しました』

 

 

 

 

 

 

そして翌日の新年。初詣に出掛け、神社でおみくじを引きや御守りや破魔矢を買って今年一年の無事を祈った。

 

「それじゃ皆、明けましてーーーー」

 

『おめでとうございます!』

 

晴れ着を着た皆はとても美しく、道行く人々はその麗しさに振り返ったりしていた。

理巧のおみくじは『小吉』で微妙な結果でありしかも、『待ち人 待ってもいないのに、これからもぞろぞろ増えてやって来る』、『恋愛・縁談 まだまだ増える。もはやハーレム。末永く爆発!!』と書かれ、理巧は頬に冷や汗を垂らし、飛鳥達と焔達はまだ見ぬ恋敵達に戦慄する。

そして一同は、神社の境内で行われる餅つきを見物していた。

 

『わぁ~!』

 

理巧の足元のダークゾーンからソッと頭だけ出したペガが、目を輝かせて見ている。

と、その時、理巧はふと上空を見ると、昼間の月から謎の影が現れる。

 

「・・・・何だあれは?」

 

理巧が昼間の月を見据え、飛鳥達に焔達も月を見ると、月から”何か“が此方に向かっているのが見えた。

 

「あれは・・・・!?」

 

「何だどうしたぁっ!?」

 

「なんなんや?」

 

月から舞い降りたように現れたソレを見て、理巧に飛鳥達に焔達や、その場にいた全員が目を見開いて唖然となり・・・・。

 

「う、臼ぅぅぅ~っ!?」

 

ビックリして、素っ頓狂な声を上げる飛鳥。

だが、そうなってしまうのも仕方ない、ソコに現れたのは、分かりやすく言えば、餅つきに使う『臼』であった。臼の中から大木のような物が伸びており、しかも、巨大な飛行船にロープ一本でぶら下がって浮遊している。

さらに言えば、サイズが桁違いであった。数十メートルはあろうかと言うバカみたいに巨大な臼。そして地上に近づくと、緑色の大木のような手足が生えてきた臼の怪物が、デンッと云わんばかりに立っていた。

 

『ふぁあああ、やっとついたぁ!』

 

赤くギラギラ光る三白眼に、長い二本の牙が下顎から生やし、まるで子供の落書きがそのまま実体化したような冗談のような、珍妙な姿なのだ。

 

「あれは確か怪獣のーーーー確か『モチロン』だったけ?」

 

基地の怪獣図鑑で読んだ怪獣を見上げながら、理巧が呟いた。

 

『おぉっ! 餅発見っ!』

 

『モチロン』はその大木のような腕で境内に置かれていた臼を摘まむと、自分の口元に持っていき、逆さにして餅を口の中にいれた。

 

『アムアムアムアム・・・・。んん~美味い美味い!』

 

『あぁっ! お餅がっ!!』

 

『ふははははははははぁぁっ!!』

 

ペガが悲痛な声を上げると、『モチロン』が野太い声で笑うと、その巨体がフワリと空に舞い上がり、再び手足を引っ込めて飛行船にぶら下がると、何処かへと去って行った。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『お餅を盗られたぁ! お餅泥棒だぁっ!!』

 

全員が呆然となる中、ペガだけかこの事件に大慌てになっていた。

ついでに、『モチロン』のインパクトが強すぎて、一般人はペガの存在に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼がすぎ、基地に戻った理巧達は、モチロンの捜索を始める。

 

「それで、りっくん・・・・? あの面しーーーー変な顔した大きな臼?のような怪獣、なのかな?」

 

着物を脱ぐのも面倒なので『忍転身』した飛鳥達と焔達。

飛鳥はモチロンの顔を思い出して笑いそうになるのを堪える。周りを見ると、焔と斑鳩と詠があのふざけたモチロンの姿を思い出し頭痛を堪えるように頭を抱え、柳生と日影と春花は、あの珍妙な姿を思い出し、必死に笑いを堪えているようで身体を震わせていた。葛城と未来はツボに入ったのか爆笑しており、ペガと雲雀はお餅を盗られてプンプンと怒っている。

 

「・・・・レム。説明宜しく・・・・」

 

理巧も頭痛を感じているのか、説明するのも面倒と思いレムに代わって貰った。そしてレムが説明する。

 

『あの怪獣の個体名は、『うす怪獣 モチロン』と呼ばれる怪獣です』

 

「そのまんまだね・・・・」

 

飛鳥が苦笑いを浮かべながら素直な感想を述べ、他の皆もウンウンと同意するように頷いた。

 

『そしてモチロンは、お餅が大好物なのです』

 

「本っ当に分かりやすいね・・・・あはは・・・・」

 

飛鳥は乾いた笑い声を上げるしか無かった。斑鳩達や焔達も同様であったが、葛城と未来は笑いすぎて呼吸困難に陥りそうになる。

理巧も半眼で呆れ果てながらも説明した。

 

「モチロンはなんでも、昔から『月ではウサギが餅つきをしている』って、伝説によって生まれた人々の想像力が集まって怪獣化したヤツらしいよ・・・・」

 

「伝説と想像力によって生まれた怪獣、ですか・・・・?」

 

「ファンタジーだな。って言うか何でも有りだな・・・・」

 

「あの姿じゃロマンチックの欠片もありゃしないけどね・・・・」

 

ツッコミ所が有り過ぎて、コメントに困る斑鳩と焔と春花。

最早笑い話になりそうだ。日影と詠と柳生が気になった事を聞いてみる。

 

「ほんで、あの臼は一体何しに来たんや?」

 

「まさか、お餅を盗みに来ただけなんですの??」

 

「まさか伏井手ケイが呼び出した怪獣って事は無いだろうな?」

 

最もな疑問だ。伏井手ケイが関与しているのではないかと考えてしまう。これまで幾度となく恐るべき怪獣達と遭遇し、時に戦ってきたのだから当然と言える。

しかし理巧は、頭を抱えながら推察を述べた。

 

「多分だけど、本当に餅を食べに来ただけだと思う。怪獣図鑑によると、奴は日本中の餅を、特に新潟県の米でできた餅を食べ尽くそうとしていたからね・・・・って、皆。気持ちは分かるけど、一応真面目な話だから聞いてくれる?」

 

理巧が半眼になって一同を見る。

飛鳥は苦笑いがひきつり、焔に斑鳩に詠と一緒に基地に置いてある救急箱から頭痛薬を取りだし。葛城と柳生、日影に未来に春花はやる気が失せたのか、コタツに入って蜜柑を食べてダラケながら空中ディスプレイで正月特番を見ていた。

ただ二人、ペガと雲雀は餅を盗られた事を怒り、レムに手伝って貰いながらモチロンを捜索していた。

 

「はぁ・・・・まぁ気持ちは果てしなく分かるけどねーーーーん?」

 

モチロンのしょうもない理由に皆が微妙な空気になっていると、理巧のスマホが震えた。取り出して画面をを見ると『美野里』からである。

 

「美野里ちゃん?・・・・何か嫌な予感が・・・・(ピッ!)もしもし美野里ちゃん、どうしたの?」

 

理巧の耳に、美野里の慌てた声が響いた。

 

《りくくん大変だよ! 臼の怪獣さんが月閃に現れたの!》

 

「・・・・はぁ? モチロンが月閃女学館に現れたぁっ!?」

 

『え”っ!?』

 

『ブッ!』

 

「「はい?」」

 

葛城達がコタツから此方に顔を向け、頭痛薬を飲んでいた飛鳥達が吹き出し、ペガと雲雀が理巧に振り向く。理巧はスマホをハンズフリーにすると、美野里の声が響く。

 

《今日は月閃で新年の行事で『月閃餅つき大会』が開かれたから、りくくん達にもお裾分けしようとみのり達も参加したんだけど・・・・!》

 

「そんな行事があったのか・・・・ソコに臼の姿をした怪獣が現れて、餅を全て平らげてしまったと?」

 

《うん! ゆみちゃんにむらくもちゃんによざくらちゃんが立ち向かったんだけど、怪獣さんの口から火を吐いて、三人を撃退しちゃったの!》

 

「炎を吐くねぇ~」

 

「餅を焼く為の能力か?」

 

葛城と柳生がまだやる気が出ないのか暢気な声を漏らす。

気にせず理巧は美野里に状況を聞く。

 

「それで、雪泉さん達は無事なの?」

 

《う、うん。でも、三人とも軽傷で済んだけど、怪獣さんに負けたのがショックで今落ち込んでるの。特にむらくもちゃん、お餅が大好物だからちょっと泣いちゃってるの》

 

「・・・・四季ちゃんと美野里ちゃんも戦ったの?」

 

《・・・・えっと、その、怪獣さんの顔が凄く面白くて・・・・》

 

「あぁ分かった。良く分かったよ。唖然と笑いの感情が複雑に絡み合って、マトモに戦闘できなくなっちゃったんだね」

 

《う、うん・・・・》

 

理巧が、唖然となる四季と美野里と、果敢に挑んだがノサれて体育座りで落ち込む雪泉と叢と夜桜の姿を想像し、苦笑いを浮かべた。

 

「まぁ無事なら安心したよ。怪獣の方はこっちも捜索しているから、今は雪泉さん達を慰めてあげて」

 

《うん・・・・お願いね、りくくん》

 

「ああ」

 

美野里との連絡を切ってすぐ、LINEが来ており、画面には『紫』のアイコンが表示されていた。またもや嫌な予感がする。

 

「まさか・・・・【紫ちゃんどうしたの?】」

 

【・・・・理巧さん大変、臼の怪獣が現れてお餅を奪われた】

 

「やっぱり・・・・【そっちでも餅つきをしていたの?】」

 

【うん。蛇女子の『餅つき死闘』が行われていたの】

 

「・・・・『餅つき死闘』? 蛇女ってそういうのやるの?」

 

「あぁ~そう言えばそんな事やってたわねぇ」

 

「忘れてたわ」

 

春花と未来が思い出したように声を上げ、焔と詠と日影もあぁ~って顔になった。

善忍も悪忍も、年の始めにやる事は同じだなぁ、と、理巧は半眼になるが、紫との会話に戻る。

 

【雅緋さんとお姉ちゃん、両備さんと両奈さんが立ち向かったんだけど、怪獣が手足を引っ込めて転がってきて、四人共踏み潰された】

 

「何っ!? 【雅緋さん達は大丈夫なのかっ!?】」

 

【うん。転身していたから、地面にめり込んで気を失っただけで済んだ】

 

「【命があっただけでもめっけもんだな】」

 

【でも、まだ暫く気絶しているから、お願い】

 

「【紫ちゃんは戦わなかったの?】っと」

 

【・・・・お餅盗られてちょっとイラッとしたけど、怪獣がすぐに逃げ出した】

 

「【あらそう】」

 

紫がキレて暴れたら、餅騒動じゃ収まらなくなっていたから不幸中の幸いだと思う理巧。

 

「【まあ怪獣はこっちでも何とかしておくから、雅緋さん達の介抱を頼むよ】」

 

【うん】

 

紫とのLINEを終えた理巧は、深いため息を吐いた。

 

「まさか、ここまで大事になるとはなぁ。ここまで来ると逆に笑えてくるよ、ハッハッハッ」

 

「りっくん、笑ってる場合じゃないよ」

 

理巧が呆れ果てた顔で乾いた笑い声を上げると、飛鳥も困り顔でそう言った。

 

「しかし、あの怪獣は一体何処に」

 

「今映っとるで」

 

『えっ!?』

 

焔が顎に手を当てて考えていると、日影がそう言い、一同が指差した方を見ると、空中ディスプレイに映されている正月特番で神社で餅つきをしている場面に、モチロンが現れて餅を奪って食べている光景だった。

 

《『やはり地球の餅は美味くて柔らかくて最高だぁ』》

 

《ご覧下さい! 突如現れた謎の臼型怪獣が、つき終えたお餅を平らげてしまいました! あぁ、ご相伴にあずかろうと昼食抜いてきたのにぃ・・・・!》

 

キャスター(バストサイズ柳生クラス)が悲痛の声を上げていた。

 

「派手に暴れてるわねぇ」

 

「これだとAIBも動きそうですわね」

 

「だとすると、そろそろ先生から連絡を来るんじゃないか?」

 

『・・・・理巧。霧夜先生から通信が入りました』

 

「・・・・繋げてくれ」

 

春花が感心したような声を漏らし、詠と柳生が言った瞬間、レムからの報告を聞いた理巧が、霧夜先生と連絡を繋いだ。

 

《理巧。状況は分かるな?》

 

「うん。こっちも間近で見たからね」

 

《AIBも本格的に動く。すぐにモチロンを捕獲したい所だが、モチロンは怪獣レーダーに映らない特殊性質を持っているだけでなく、本来は『月の海』と呼ばれる月の黒い所の化身であり、ヤツが死滅すると月は真っ白になってしまうらしいから、倒す事はできんぞ》

 

「あんな珍妙怪獣にそんな能力があんのかよ・・・・」

 

「能力のムダ遣いだな・・・・」

 

「でもあんなお間抜けなそうな怪獣に負けたとあっては・・・・」

 

「善忍も悪忍も末代までの恥になるね」

 

葛城と焔が呆れた声を漏らすと、斑鳩と理巧が半眼になって言った。そして雲雀とペガが声を上げる。

 

「それでこっちのレーダーにも映らなかったんだ!」

 

『でもレムは気づいたんだよね!?』

 

『モチロンらしき反応が生まれた瞬間だけです。今は探索不可能です』

 

「じゃあどうやって探すのよ?」

 

未来の言葉に一同は悩むが、理巧はすぐに、ポンッと、手を叩いた。

 

「そうだ。ちょっと考えが思い付いた」

 

『えっ?』

 

一同に理巧が作戦を伝えると、ペガと雲雀はナイスアイデアと叫び、他の皆はえぇ~っと、言わんばかりに苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夕闇が広がり、そこは冬休みですっかり無人となった半蔵学院の屋上にて、斑鳩と詠がご丁寧にコンロを置き、AIBに特別に手配して貰ったり、基地に置いてあった『新潟産の特選餅米』を土鍋で炊いている斑鳩と詠。

そしてその周りでは。

 

「おりゃ! おりゃ! おりゃ! おりゃ!」

 

「何で! こないな! 事を! ワシがっ!」

 

葛城と日影が祭などで使われる大きなうちわを扇ぎ、土鍋から漏れる餅米の香ばしい香りを周囲にばら蒔いている。

 

「・・・・本当にうまくいくの?」

 

「『炊きたての餅米の匂いでモチロンを誘き出す作戦』、だなんて、そんな原始的な作戦が成功する?」

 

近くにいた未来と春花が半眼で、斑鳩達の近くで臼と杵を持ち出し、餅つきの準備をする理巧とペガにそう言った。

 

「モチロンは数十キロ離れた餅の臭いを嗅ぎわける。絶対来る筈だ。近くに霧夜おじさんとゼロが控えているし、半蔵学院周辺はAIBが避難させているよ。モチロンを誘き出し、尚且つペガが堂々と餅つきができる。一石二鳥の作戦だ」

 

「それって、ただりっくんがペガくんにお餅つきをやらせてあげたいって個人的な考えの方が多く含まれていない?」

 

「・・・・そんな事ないよ」

 

「出来上がりましたわ!」

 

飛鳥の言葉に、理巧が明後日の方角を見てそう言うのと同時に、斑鳩と詠が土鍋を持ってきて飛鳥が蓋を開けると、中から芳しい餅米の香りが辺りに広がり、葛城と日影が扇ぐうちわに勢いをさらに高める。

 

「うわぁ~良い匂い・・・・!」

 

飛鳥がそう言うと、斑鳩と詠が餅米を臼へと入れた。

 

「良し。それじゃ始めよう、ペガ! 行くよ!」

 

『やったぁ!』

 

理巧が臼の隣で片膝をつき、水が入った桶を足元に置き、ペガが杵を持ち上げてそして、

 

『えいっ!』 「はっ!」 『それっ!』 「よっ!」 『おりゃっ!』 「ふっ!」 『うりゃっ!』 「はいっ!」 『こりゃさっ!』 「なんのっ!」

 

ペガが杵を振り下ろして餅米を叩き、理巧が相の手役で水の含んだ手で餅米をひっくり返しを繰り広げていくと、餅米が徐々に餅へと変化する。

 

『よいしょっ!』 「よいしょっ!」 『よいしょーーーーっ!』

 

やがて飛鳥達と焔達も、それぞれペアを組んで餅つきを初め、二人のノリに合わせて声を上げた。

怪獣をどうにかしなければならないシリアスな状況なのだが、モチロンのあの舐めくさった風貌と、作戦の和やかさから、まるで子供の頃に読んだ、日本昔話の世界に入ったような朗らかな気持ちになっていた。

 

『あぁーーーー!! 良い匂いがするぞぉ!! 餅の良い匂いがするぞぉーーーー!!!』

 

が、そんな平和な雰囲気を壊すように、夕日の向こうから、飛行船にぶら下がったモチロンがやって来た。

 

「うわっ! ホントに来たっ!?」

 

「ああ、バカだ」

 

未来と柳生が言うと、モチロンは手足を出して地面に着地すると、走りながら半蔵学院へと向かう。本当に日本昔話のような展開だ。

 

『ワーイ! この匂いはまさか、夢にまで見た新潟県の餅かっ!? 貰うぞぉ!!』

 

モチロンが半蔵学院に後少しで到着するその時、

 

『させるかコラーーーー!!』

 

『ギャフッ!?』

 

ウルトラマンゼロが『ゼロキック』をおみまいして、モチロンがひっくり返った。

 

「ゼロ。少しの間宜しく」

 

『あぁ。しっかし、こんな作戦で上手くいくのか?』

 

『「まあソコは出たとこ勝負だな」』

 

ゼロと霧夜先生も頭を掻きながら、モチロンと対峙する。起き上がったモチロンは、腰を落として大地を揺るがしながら相撲のように四股を踏む。

 

『どすこい~っ! 何だお前はっ! オラは漸く見つけた新潟の餅を食べたいんだ! 邪魔するなっ!』

 

『あぁ~、悪いんだけどよ。お前が餅を食べまくると大勢の人達が迷惑するんだよ。大人しく月に帰ってくれねぇか?』

 

『どすこい~っ! どぉすこい~っ!! 帰らせたきゃ、オラを相撲で負かしてみろ! オラは餅をいっぱい食って力持ちなんだぞぉ!』

 

説得しようとするゼロだが、モチロンは聞く耳持たないようだ。

 

『仕方ねぇっ! 相手してやんぜぇっ!!』

 

『ごっつぁんでぇぇすっ!!』

 

ゼロとモチロンがぶちかましをすると、立合いを始める。

 

『よいしょっ! よいしょっ! よいしょっ!』

 

「よっ! よっ! よっ! よっ! よっ!」

 

が、そんな戦いが繰り広げられているのを尻目に、ペガと理巧は餅つきを続け、飛鳥達も料理を始めている。

 

「こんな状況でお料理している私達って・・・・」

 

「相当、感覚が麻痺しているのかもな・・・・」

 

調理している飛鳥と焔だけでなく、他の皆も、怪獣とウルトラマンが戦っている近くでこんな暢気な事をしている自分達の感覚が麻痺し始めている事に、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『シェァッ!!』

 

『ヌォゥッ!!』

 

威勢良くゼロに挑むモチロンだが、ゼロの回し蹴りを浴びて倒れる。

 

『この! 『モチロンボイラー』!!』

 

『よっとぉ!』

 

モチロンが口から火を吐くが、ゼロがモチロンの真上を飛び越える。

 

『あら? たっ! たったったったったったっ、ありゃぁあっ!?』

 

ゼロを追って火を吐きながら見上げるように仰け反るモチロンだが、バランスを崩して倒れた。

 

『あいたたたたた!』

 

『へっ!』

 

ゼロが下唇らしき部分を親指で拭った。

 

『このぉっ! 食らえ! 『うすぐるま』ぁぁっ!!』

 

『おわっ! そんなのアリかよっ!?』

 

モチロンが手足を引っ込めて転がるとビルなどを破壊しながらゼロに向かっていく。

 

『「ゼロ! 『ストロングコロナ』だっ!」』

 

『応!』

 

霧夜先生が『ウルトラマンゼロ ストロングコロナカプセル』を取り出して起動させる。

 

ーーーーセェヤッ!!

 

装填ナックルに入れて、ウルトラゼロアイNEOと合体させたジードライザーで読み込む。

 

[ウルトラマンゼロ ストロングコロナゼロ!]

 

『「ブラックホールが吹き荒れるぜ!」』

 

ジードライザーを眼前に持ってスイッチを押すと、炎が吹き出し、全身を包んだ。

そして炎の中から、身体が赤と銀に染まり、金のラインが走った姿、『ウルトラマンゼロ ストロングコロナゼロ』へとタイプチェンジした。

負傷した身体でタイプチェンジは出来なかったが、『リトルスター』として回収した『ストロングコロナカプセル』を読み込む事で、その内包されたエネルギーを使い、タイプチェンジが可能になったのだ。

 

『はっ!』

 

ストロングコロナゼロは、両拳を叩き合わせると、エレキギターのような音が響き、転がってくるモチロンを両手で止め、持ち上げた。

 

『はい?』

 

『これでぇ! 終わりだぁっ!』

 

『ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁぁっ!!』

 

『待った無し! 『ウルトラハリケーン』!!』

 

『のわぁああああああああああああああああああああああああああっっ!!!』

 

その場で回転し、竜巻を発生させながらモチロンを天高く投げ飛ばし、

 

ーーーードシィィィィィィィィィィィィィンンッ!!

 

モチロンはそのまま重力に従って、地面に盛大に落下した。

 

『はらほろひれはれ~~・・・・』

 

引っ込めていた手足を戻しながら、目を渦巻きにして奇妙な声を発するモチロン。

 

『「ここまでやれば良いだろう」』

 

『あぁ。さ、もう気が済んだろ? 大人しく帰ーーーー『悔しいぃぃぃぃぃぃっ!!』あ?』

 

悔しがるモチロンは、手足を投げ出して大の字に寝そべる。

 

『さあ殺せ! 一思いに殺してみろおっ! だがオラを殺せば月の影が無くなって、もう月見も出来なくなるからなっ!!』

 

『・・・・・・・・』

 

『「・・・・・・・・」』

 

相変わらず往生際が悪いモチロンに、ストロングコロナゼロも霧夜先生も呆れ、半蔵学院の屋上にいる理巧を一瞥した。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「理巧さん。予想通りの展開になりましたわ」

 

「良し。それじゃ次の段階だ。あーちゃん、交代ね」

 

「は~い!」

 

理巧が相の手役を飛鳥に交代して貰うと、ジードライザーを取り出す。

 

「それじゃ正月早々、ジーッとしてても、ドーにもならない!!」

 

[フュージョンライズ!]

 

「守るぜ! 希望!! ジィィィィィィィド!!」

 

[ウルトラマンゼロ! ウルトラの父! ウルトラマンジード! マグニフィセント!!]

 

理巧は月をバックに、『ウルトラマンジード マグニフィセント』に変身した。

 

『ん? げぇぇぇぇっ!? ア、アナタはっ!?』

 

側頭部に生えた大きなウルトラホーンを見て、モチロンが顔を青ざめたようになる。

 

『「モチロンよ。いい加減にしなさい」』

 

『や、やっぱり! ウルトラの父!?』

 

『(いや、違うんだけどな・・・・)』

 

ストロングコロナゼロが内心呆れる。モチロンはウルトラの父に頭が上がらないと言う情報から、理巧がウルトラの父と容貌が似ているマグニフィセントになって、モチロンを説得する作戦なのだ。

 

『「モチロンよ。地球の人々に迷惑をかけてはいけない。お餅を返し、月に帰るのだ」』

 

何やら理巧もノリノリでウルトラの父のような態度になる。

 

『で、でも! オラ漸く新潟のお餅を腹一杯に食いたいんだ・・・・』

 

『「しかし、お前と同じようにお餅を楽しみしている子達はいっぱいいるのだ。自分一人が満足する為に、他の人達の食べる分のお餅を食べてはいけない」』

 

『うぅ~・・・・!』

 

モチロンが名残惜しそうに頭を抑えると、頭の大木が光り、ソコから小さな光の粒が降り注がれる。

良く見るとソレはーーーーお餅だった。

 

『・・・・霧夜』

 

『「あぁ。AIBに連絡して、全て回収させよう」』

 

と、ストロングコロナゼロと霧夜先生が話し合っていると、ジードは半蔵学院の屋上にいるペガ達に目を向けると、ソコにはモチロンの手の平に収まる位に大きなお餅が置かれており、ジードがその餅を手に取り、モチロンへと近づく。

 

『「良く考えを改めたなモチロン」』

 

『うぅ~、すみません・・・・』

 

『「これは、自らの過ちを改め、ちゃんと謝罪したご褒美だ。受け取りなさい」』

 

『えっ? あぁっ!! 新潟のお餅!!』

 

モチロンはジードからお餅を貰うと、先ずは匂いを楽しみ、そして満面の笑顔を浮かべてお餅を口に放り込んで咀嚼すると、

 

『うっ、うぅぅっ・・・・なんて旨いんだぁっ・・・・! うぉおおおおおおおおおおおんん! オラが間違っていたんだぁあああああああああああああああああああ!!』

 

『「うんうん」』

 

大粒の、いや最早滝のような涙を流しながら、モチロンは自分の非を認めると、ジードもうんうんと頷いた。

 

『・・・・・・・・・・・・いや、これで良いのかよ?』

 

『「まぁ、無駄に殺生をしないで済んだんだから、良いんじゃないか?」』

 

ツッコミ処満載で、何処から突っ込めば良いのか分からないゼロと霧夜先生は、呆れるしかなかった。

そして、半蔵学院の屋上にいるペガはモチロンもの和解に涙を流し、飛鳥達と焔達は、完全に日本昔話の世界にいるような奇妙な感覚に苦笑いを浮かべるしか無かった。

モチロンは飛行船にぶら下がり、月に帰る準備をした。

 

『「では、モチロンよ。気をつけて月に帰りなさい」』

 

『はい・・・・。あっでもオラの飛行船だと、大気圏落下は兎も角、大気圏脱出は無理なんですが・・・・』

 

『「成る程。しかし、安心しなさい。ゼロ」』

 

『あん?』

 

ジードがストロングコロナゼロの耳にコショコショと話すと、ストロングコロナゼロは頷き、ジードと共にモチロンの背後に回り、そしてーーーー。

 

『「『メガボンバーパンチ』! 威力弱めっ!!」』

 

『『ガルネイトバスター』! 手加減バージョンっ!!』

 

ーーーードゴォォォォォォォォォォォンン!!

 

『ドエェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!』

 

緑色の光を纏った拳と炎を纏った拳で、モチロンの背後を殴った。

 

『うわぁぁぁぁぁぁっ!! これなら大気圏も余裕で脱出できるだーーーー! ありがとうウルトラマン!! 地球の皆さん、良いお年をーーーーーーーーっ!!』

 

そう叫びながら、モチロンは月へと真っ直ぐに吹っ飛んでいき、月にに向かってその姿がキランッと消えると、月に満面の笑顔でサムズアップしているモチロンの姿が見えたのは、恐らく気のせいではない。

 

『「一件落着だね」』

 

『だな』

 

『「うむ」』

 

『うんうん』

 

『いやそう言うのアリっ!?』

 

ジードとゼロに霧夜先生とペガが頷くが、飛鳥達と焔達が思わずツッコミを入れた。

 

『「さて皆、ここから忙しくなるよ」』

 

『あ、はいはい!』

 

飛鳥達と焔達が、作っておいたお汁粉とお雑煮の入った寸胴鍋を見て頷いた。

 

 

 

 

 

 

そして理巧達は、AIBに協力してお餅を回収し終えた雪泉達月閃チームと雅緋達新生蛇女チームと合流し、貧民街でお汁粉とお雑煮を配膳していた。因みに中身のお餅は、余ったお餅と回収したお餅を少し使わせてもらっている。

貧民街の大人や子供や老人達が、美味しそうに暖かそうに食べており、皆笑顔になっていた。さらに、斑鳩と叢の実家から古物だがコートやら暖かい飲み物を配られていた。

 

『見て理巧! 皆凄く喜んでいるよ!』

 

「うん。そうだね」

 

皆から少し離れた場所で様子を眺めている理巧と、足元のダークゾーンからペガが現れる。

 

『理巧、今日はありがとう。おかげで餅つきができたよ』

 

「・・・・お礼は、むしろ僕が言いたいよ」

 

『え?』

 

「ペガがいてくれたから、僕は友達を得たんだ」

 

中学での凄惨な虐めの数々、鷹丸達にも相談できず、一人心を磨耗していく日々の中、ペガと出会い、ペガと友達になり、心が癒されていった。ペガのおかげで、虐めをしていた奴らを学校から追い出せた。全てペガが、理巧の友達になってくれたおかげだ。

 

「ありがとうペガ。僕の、『友達』になってくれて」

 

『ペガも、お礼が言いたい。理巧がペガを見つけてくれたから、ペガは一人ぼっちにならなかったんだよ』

 

子供一人宇宙の旅に出て、宇宙船は地球に着いた時に壊れ、助けも呼べず、孤独感に押し潰されそうだったペガを見つけてくれたのが、理巧だった。そして理巧と出会えたから、地球でこんなに友達ができた。

 

「そっか。・・・・『友達』になってくれて、ありがとうペガ」

 

『『友達』になってくれて、ありがとう理巧』

 

お互いを見ながら、二人は笑みを浮かべた。

 

「りっく~ん! ペガく~ん!」

 

「お前ら何二人だけサボってんだ!」

 

「早く来て下さい二人共!」

 

「お前達の分も取っておいているぞ!」

 

『理巧(くん/さん/様)!! ペガ(くん/さん)!!』

 

飛鳥と焔、雪泉と雅緋、そして仲間達が自分達を呼んでいる。その事が、二人の笑みをより大きくさせる。

 

「行こうペガ」

 

『うん! 理巧!!』

 

ダークゾーンから出たペガの手を取って、理巧は走り出す。ーーーー愛すべき皆の元へと。

理巧とペガを迎え入れ、笑い合う皆の姿を、月は強く、優しい光で夜を照らしていた。

 

『皆、これからも仲良くね』

 

と、笑顔のモチロンの顔が、月に浮かんでいたーーーー。




本編のストーリーの構築がうまくいかず、番外編を書いてしまいました。
なるべく本編を投稿できるように頑張ります!


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第1章 新たな光の誕生 秘密基地へようこそ
名前、暁月理巧


『閃乱ジード』はそのうち連載しようと思っていたので連載します。


無限に広がる大宇宙。そして、無量大数に存在する平行世界。

そして、平行世界には平和を乱す怪獣と暗躍する宇宙人達から、宇宙の平和と秩序と正義を守る『光の巨人 ウルトラマン』が存在した。

 

最弱無敗の英雄と共に戦う『超古代の勇者』。

 

百の武装の勇士と共に戦う『闘志の戦士』。

 

魔法の鎧を装着する魔王と共に戦う『大地と大海の光』。

 

海を守る艦船の司令官と共に戦う『慈愛の勇者』。

 

光の適合者である少年と共に戦った『絆の戦士』。

 

最強の霊能力者と共に戦った『最速の勇士』。

 

歴代の光の戦士の意志を継いだ『若き戦士』。

 

無限の可能性を秘めた『最強の勇者』。

 

魔女の世界で突撃の名を冠する魔女と共に戦う『遥か未来の戦士』。

 

同じく魔女の世界で勇気を冠する魔女と共に戦う『地底世界の勇者』。

 

怪獣と災厄と人類が共存する世界を作る為に戦う『電子の勇者』。

 

刀剣の魂を持つ者と共に戦う『さすらいの風来坊』。

 

ウルトラマンはあらゆる平行世界に存在し、平和を守ってきた。

 

だが。

 

光があれば闇があるように、ウルトラマンの中にただ1人、闇の力を持つ『悪のウルトラマン』がいた。

『若き戦士』と『最強の勇者』と同じ世界の出身のその名を、『ウルトラマンベリアル』。

 

何度も正義のウルトラマン達に倒されてきたが、その度に復活を果たしてきた。

何度もウルトラマンや全宇宙に恐怖を与えてきた最悪のウルトラマンであるウルトラマンベリアルは、あらゆる平行世界でその名を轟かせた。

 

『フハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!』

 

そしてまた、ある平行世界の銀河でウルトラマンベリアルは復活を果たした。

そしてその宇宙を争乱の渦中に陥った。ベリアルを討伐するために平行世界のウルトラマン達が集い、ベリアルと戦ったが、度重なる怒りと怨みと憎しみの力でより強大な力を得たベリアルに、正義のウルトラ戦士は劣勢を強いられた。

戦いに終止符を打つため、科学者でもあるブルー族のウルトラマン、『ウルトラマンヒカリ』は、『ウルトラカプセル』を開発した。

ウルトラカプセルには、正義のウルトラ戦士達の強大な力が宿っていた。

掌に収まる位の大きさしかなかったが、たった一つで、戦局を覆す力を秘めていた。

しかしーーーーーー。

 

『『超時空消滅弾』、起動!』

 

『何っ!?』

 

その平行世界の地球に降り立ち地球を壊滅寸前まで追い込んだベリアルは“超時空消滅弾”を用いて、その地球を破壊した。だが、地球を中心に生じた次元の断層は、宇宙全体に拡がり、星々を消滅したーーーーーーかに思われた。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

しかし光の戦士の王者、『ウルトラマンキング』がその宇宙を再生させ、その姿を消した。

 

 

 

そして、後に『クライシス・インパクト』と呼ばれるこの事件から数年の月日が流れーーーー。

 

 

 

 

暗い暗い闇の中に、その赤ん坊は眠っていた。

瞼を少し開けると、誰かが自分を見ていた。暗がりで顔は見えない。しかし耳には、その人達の声が聞こえた。

 

「・・・・この少年ですか?」

 

「はい。適齢期を迎えてから訓練を行い、他の“候補生達”と共に育てます」

 

「お願いしますよ。我らが“大いなる目的”の為にもね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

赤ん坊は再び瞼を閉じた。

 

 

 

 

それから赤ん坊は3歳位の少年となり、ある施設にて、地獄のような日々が始まった。

 

荒行とも言える戦闘訓練。

 

毒に耐性をつけるために毒薬・毒草等を食する訓練。

 

苦痛に耐える訓練。

 

逃げようとすれば処分されるそんな日々。少年の他にいた子供達は、少年が8歳になる頃には、20人ほどいた子供達は、訓練で死に、逃げようとして処分され、少年以外はいなくなってしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その少年もまた、あらゆる訓練をしていくうちに、心の無い人形のようになっていった。

 

「素晴らしい。この少年は素晴らしいぞ! まさに最高傑作と呼べないだろうか!?」

 

今まで訓練をさせてきた教官が、興奮気味に少年を絶賛し、黒いコートにフードを被った男性に聞いてくる。

黒いコートの男は一瞬、少年を一瞥するか、少年はその視線に無感情な態度で見やると、黒いコートの男は教官の男に向き直る。

 

「確かに素晴らしいですね。これでちゃんと殺る事ができるなら文句なしですね」

 

「それならば問題ありません! これからすぐにでも「いえ、それには及びませんよ」・・・・えっ?」

 

教官が何か言う前に、フードの男は教官の胸に手を当てると、教官の身体が膨張し、破裂した。

 

パァアンッ!!

 

びちゃびちゃと、“教官だったモノ”が辺りに散らばり、少年の顔にも教官の破片と血が顔に付いた。

 

「・・・・・・・・」

 

それでも少年は、何も感じていないように無表情だった。フードの男は少年を見下ろすように見つめ。

 

バンッ!

 

少年の頬をおもいっきり叩き、少年は力無くに吹き飛び、床をゴロゴロと転がった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ふん、まさに人形。“器”としてなら余計な感情など必要無いですがね・・・・」

 

フードの男は施設に火を放つと、建物の中は火の海となり、業火に埋め尽くされた。

 

「これで死ぬならそれも良いかもしれませんね。貴方は相応しく無いと言う証明になります・・・・」

 

それだけ言うと、男は火の海の中に消えた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

少年は、燃え盛る火の海でぼんやりと炎を見つめた。

 

 

 

ー???sideー

 

未明のビル街を二人の男女が歩いていた。二人は“仕事”を終えて帰路に付いていたのだが、不意にビルの路地を見ると、一人の少年はボロボロの姿で倒れていた。

 

「“鷹丸様”、この子は?」

 

「・・・・“ハルカさん”。取り敢えず家に連れていこう」

 

二人の男女に連れられ、その少年を家に連れていった。

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・ほお、まさかあの方達に出会うとは、これは少し面白い事になりそうですね」

 

黒いコートの男は離れたビルの屋上から少年の動向を見ていた。

 

 

 

ー少年sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その少年は、助けられた人達に看病され、ボゥっと朝日が登りそうな空を眺めていた。青年は少年を見つめながら、“三人の奥さん”に目を向けた。

 

「それで“鷹丸”、あの子どうする?」

 

「まさか『AIB』が目をつけていたあの施設の出身となれば、警察に任せる訳にも行かないな」

 

「それにあの子は、まるで何も感じていないようです。何にも執着していない、自分の命にすら・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

“鷹丸”と呼ばれた青年は、少年に近づく。

 

「なあ? お前名前は何て言うんだ?」

 

「(フルフル)」

 

少年は首を横に振って、分からないと意思表示した。

 

「ん~。じゃ俺が名前を付けてやるよ。そうだな・・・・」

 

“鷹丸”は空を見ると、ちょうど太陽が登り始め、月が太陽と対になるように月が沈む光景を目の当たりにした。

 

「暁と月・・・・名字は暁月、名前は・・・・理巧、正しい筋道を真っ直ぐ進む子になってほしいから、理巧。『暁月 理巧<アカツキ リク>』なんてどうだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・(コクン)」

 

少年は一瞬逡巡するが、了承を示すように頷いた。

 

「皆、俺はこの子を家で育てようと思うけど、どうだろうか?」

 

「「「・・・・・・・・・・(コクン)」」」

 

鷹丸が聞くと、三人の奥さんも承諾したように頷いた。

 

「それじゃこれからよろしくな。理巧」

 

「・・・・・・・・は、い」

 

少年、理巧は初めて、生まれて初めて肉声を発した。

 

そして、『クライシス・インパクト』から17年、『暁月 理巧』がこの世に生を受けて16年の月日が流れ、彼と、彼を取り巻く全ての人達の運命を歯車が動き始めた。

 




『暁月 理巧』。
『光に選ばれし勇者達』の『閃乱ジード』の『暁 リク』と同じ設定、しかし性格が若干異なる。


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動くぜ、物語

少年が、暁月理巧を名乗るようになってから、およそ8年弱。2年間は学校に通わず、『普通の生活』ができるように、訓練が行われた。

言葉は「はい」・「了解」以外はまるで喋れず、文字の書き方すらも知らず、それらの訓練を受けた。

自分を育てた恩人の三人の奥さん達が師匠となって鍛えられた。

 

亜麻色の髪をし、お淑やかな性格をした師匠から言葉と文字と礼儀作法を。

桃色の髪に、活発な性格の師匠からは、遊び方と家事全般を。

黒みががった青い髪をした、クールな性格をした師匠からはスポーツと体術を。

 

10歳を迎え、ようやく小学校に通うことが出来た。最初はたどたどしくだが、その当時のクラスメートに、黒い髪をして、まるでお日様のように明るい笑顔が特徴的な女の子と過ごし、なんとか学生生活を送った。その女の子とは、中学ではお互い違う学校になって離ればなれになってしまった。

そして中学生になると、容姿の事で問題が起こった。

理巧は髪の毛と瞳の色が燃えるような赤い髪と瞳をしていた。それを周りの人達がヒソヒソと悪く囁いた。

 

同級生達からは「目立ちたがり」だとか、「髪染めてる」なんて囁かれ、何度も地毛だと言ってきたが、今度は理巧を露骨に無視したり、理巧を見てクスクス笑ったりしたりした。

 

上級生は髪の毛で難癖を付けられ、何度も暴力を振るわれた。

 

教師に相談しても、「お前がそんな髪をしているからだ! 嫌なら染めるのをやめろ!」と逆に責められ、地毛だと言っても信じて貰えなかった。

 

よく言うところの虐めだった。同級生や上級生からの虐め、先生達はそれらを無視、二年生になって下級生も上級生達に唆され自分にタメ口や難癖を付けてくる始末。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は引き取ってくれた人達以外の周りの人間に、心を開かなくなっていった。

そんな理巧に、奇妙な出会いが訪れ、“奇妙な友人”が出来た。

そしてその“友人”が、理巧が虐めに合っていることをネットで配信し、学校の教員達、虐めをしていた生徒達は世間から糾弾され、教員達は免職処分、虐めをしていた生徒達は放校処分とされた。

しかし、理巧にとって、そんな事はどうでも良かった。それよりも、今まで虐めを受けてきたのに、それに気づけなかった事で、“鷹丸”さんと、“師匠達”が泣きながら自分に謝罪してきた。理巧にとってそれが何よりも申し訳なかった。

 

「ごめんなさい、鷹丸さん・・・・。ごめんなさい、師匠達・・・・」

 

自分を受け入れてくれた人達を悲しませた、それが何よりも、理巧は申し訳なかった。

 

 

 

 

それから数年経ち、理巧は高校二年生となり、高校に入ってすぐバイトに励んだ。学校には出席日数を稼ぐ為にしか行かず、ほとんどの時間をバイトに費やしていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

暁月理巧16歳、現在は『駄菓子屋 銀河マーケット』でバイトに励んでいた。働きながらテレビから流れる特番ニュースに目を向ける。

 

《『知りたいワイド』。今日は、『クライシス・インパクト』の真実に迫ります》

 

ラジオ番組『知りたいワイド』から司会者の声が響くと、ゲストの学者の声が続いた。

 

《えぇ~。かつての『クライシス・インパクト』は、“隕石落下が原因”とされていますが、違います。これを見てください》

 

学者が、ある写真を見せた。その写真には、“目付きの悪い巨人と破壊された町並”が写っていた。

 

《『クライシス・インパクト』の影響で、当時の記録は全て失われたと言われていますが、偶然に発見された1枚です。名前は、『ウルトラマンべリアル』!》

 

「(ウルトラマン、べリアルね・・・・)」

 

「お兄さん、あれ取って!」

 

「はい・・・・よっ!」

 

「わ~!」

 

「はいこれね」

 

理巧はニュースの内容を興味なしに聞き流しながら、客の子供がお菓子の棚の一番上にあるお菓子を取ってほしいと注文された。

大人でも少し高い段に置かれ、普通なら小さな足場を持ってくる所を、理巧は軽くジャンプすると、その段まで到達し、お菓子の袋を取ると子供に渡し、会計を済ませた。

 

「ありがとうお兄さんスゴいね!」

 

「・・・・これくらいなんともないよ。はいこれオマケね」

 

少し無愛想に答えた理巧は、いつも買いに来てくれる子供に、サービスでグミをプレゼントした。

 

「わ~! ありがとうお兄さん!!」

 

子供は大喜びで帰っていった。テレビでは、6年前から日本で起きている『怪獣騒動』の件で専門家や学者が大喧嘩を初め、番組は終わっていた。

 

「ふぁあ~」

 

『ん?』

 

理巧は大きな欠伸をすると、理巧の影から、異形の姿をした頭が出ていた。

 

 

 

 

「ただいま~・・・・」

 

理巧は八年間お世話になっている、どこにでもある2階建ての日本家屋、『戦部家』に帰り、居間を見ると、テーブルに書き置きが置いてあったので覗いてみると。

 

【理巧へ。ちょっとハルカとナリカとスバルとで、浅草に行ってきます。戸締まりとか気をつけておけよ。お土産期待しててね。

追伸 ナリカが、冷蔵庫の苺大福に手を出したら修行5倍にする、だって】

 

「まったく直ぐどっかに行くなあの重婚者は・・・・」

 

『地球人って、大勢の奥さんを持っても良いの?』

 

「あの人達が少し変わっているだけだ・・・・」

 

居間の窓を開けた理巧はテレビを付けて、他愛ないバラエティー番組を聞き流しながら、台所からジュースを取りに行くと、“影の中から異形の生物が現れた”。

全体的に黒の体色で、頭は長く、カタツムリのように突き出た目はタレ目で、首にはハートの形の発光体を付け、服装は、上は白と黒のパーカー、下はジーンズでカラフルなベルトを巻いており、白いスニーカーを履いていた。

 

「“ペガ”、家の中では靴は脱いでくれって言っただろ?」

 

『あっ、ゴメン』

 

この生物の名前は、『ペガッサ星人のペガ』。地球で言うところの、宇宙人だ。

中学時代、理巧が出会った友人で、理巧を虐めから救ってくれた恩人でもある。

 

『でもさ。おじさん達がいないと、ペガがこうやって家の中を歩けるから、安心できるよ』

 

「宇宙人と同居しているなんて、世間に知られたら大騒ぎになるからな」

 

普段ペガは、異次元空間『ダークゾーン』と言う空間を作る能力も持っており、外を出歩く際や、理巧が戦部家に居る間は、彼の陰にダークゾーンを作り、その中に潜んでいる。

理巧がバイトに励んでいるのは、一刻も早く自立して、ペガとのんびりできる部屋を手にする為だった。

理巧はペガの内職の造花作りを手伝っていると、ペガが話をする。

 

『そもそも君は、自分が地球人だと思い込んでる』

 

「僕は地球人だと思うけど?」

 

『ペガの、“助けを求める声”を聞こえたのは君だけだ! それに、理巧のあの身体能力は・・・・』

 

「あんなの、ウチの師匠達だって余裕でできるよ」

 

『そうだけど・・・・』

 

ペガも理巧の三人の師匠達の身体能力の高さを知っているから、それ以上言えなくなった。

 

「しかし、本当にいると思う?」

 

『何が?』

 

「さっき特番でやっていただろう。『ウルトラマン』、宇宙の平和を守るために、『べリアル』と戦ったっていうさ」

 

『都市伝説だよ。『ウルトラマン』も、『べリアル』も』

 

「(今僕の目の前にいる宇宙人が、都市伝説を語るのかよ?)」

 

『そう言えばさ。ここ最近、夜になると出るって話の、“アレ”はどう思う理巧?』

 

「“アレ”って、忍者の事か?」

 

『ウンウン』

 

「それこそ都市伝説だ。今時に忍者だなんているわけ無いだろ」

 

『理巧のお師匠さん達だって忍者なのに?』

 

「・・・・・・・・あの人達が特殊なんだ」

 

なんて他愛ない話をしていた二人に、異変が起こった。

 

ドシィィィィィィィィィィン・・・・!

 

突然大きな音と共に、家全体が大きく揺れたのだ。テレビの画面がブツっときれた。

 

『なんだろう? 地震かな?』

 

「いや、揺れる前に何かが落ちたような衝撃音があった・・・・」

 

理巧は居間の窓から庭に出て、家の2階の屋根に一瞬で飛び上がると、周囲を見て愕然となった。

 

「・・・・・・・・マジかよ」

 

理巧の目の前に、巨大生命体、通称『怪獣』が現れた。

 

曲がった赤い角が頭部、背中、ひじ、膝に生えており、見ようによってはそれが触手のようにも見え、非常に禍々しい姿。

また、胸には血管の様な模様と、紫色の丸い結晶体がある。

 

『ピギャグワアアアアアアアアアアアッ!!』

 

赤い角の怪獣は、悠然と理巧の目の前に足を下ろし、そのまま横切って行った。

 

《住人の皆様は、速やかに避難行動を行ってください》

 

「っ!」

 

避難放送の声に理巧は正気に戻る。

 

『理巧~!』

 

「あぶねえ、危うく家が潰される所だった・・・・」

 

理巧はそのまま、ペガと共に速やかに避難した。

 

 

 

 

時刻は夕暮れ、理巧は河川敷の原っぱに避難の時の為に用意していた荷物のリュックを置いて腰を下ろすと、携帯ラジオの放送とけたたましくなるパトカーのサイレンと、対岸で街を歩いて破壊している怪獣の足音が聞こえ、目の前で怪獣が歩く度に立ち込める黒い煙をを見ていた。

すでに怪獣の頭上では、自衛隊とマスコミのヘリコプターが入り乱れながら、怪獣周りを飛んでいた。理巧は小声で『ダークゾーン』に隠れたペガと会話する。

 

『良かったね。店長さん達が無事で』

 

「運良く店が怪獣の足に踏まれなかったからな。でも、怪獣が歩き去った場所は立ち入り禁止になったから、寝床は・・・・」

 

『理巧?』

 

「ペガ、隠れろ」

 

『う、うん・・・・』

 

ペガが『ダークゾーン』に引っ込むと、理巧は後ろを振り向いた。

 

「何か用かな?」

 

「うおっ! びっくりしたな。すまない、こんなところに座っていたから少し気になってね」

 

振り向いた先には後方の避難している人達の列から出て来て、背後から自分に近づいてきた人物は、理巧と同い年くらいの中性的な話し方をする女の子だった。

 

黒い長髪をポニーテールにし、小麦色に焼けた肌、鼻筋は整っており、黒いセーラー服は臍が見え、靴下はルーズソックス、そして制服の胸元を押し上げる大きなバストが特徴的なギャル風の美少女だった。

 

「(この子、タダ者じゃないな)」

 

「(コイツ、気配は消した筈なのに、わたしの接近に気づいた?)」

 

お互い相手の正体が分からず、しばし睨み合っていたがーーーー。

 

『ピギャグワアアアアアアアアアアアッ!!』

 

「「っ!!」」

 

怪獣が雄叫びを上げたので、二人の意識がそっちに向くと、怪獣は相変わらず悠然と歩きながら、街を破壊していた。

 

「それにしても、本当にいたんだな。怪獣」

 

「ただの都市伝説だと思っていたから驚いたよ」

 

「自衛隊が来て、何とかしてくれると思うかい?」

 

「・・・・無理だね」

 

少女の質問に、理巧は一瞬考えるが、直ぐに無理だと言って、腰を上げた。

 

「イヤにはっきり言うんだね?」

 

「正直、自衛隊でどうにかできる存在とは思えないよ」

 

「それじゃ、君ならどうするんだい?」

 

「さあね。僕はただの一般人だからね」

 

理巧はそう言って、少女と別れるように去っていこうとする。

 

「君、この辺じゃ見ないけど、どこから来たの? 家族とかは?」

 

「ああ。少し野暮用でここに来たんだ。家族は離れた所に住んでいるから問題ないよ」

 

「そうか、それはツイてないね。気をつけて帰りなよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

理巧はそのまま少女に背を向けて去り、理巧と少女は、お互いの顔が見えなくなると、訝しそうにお互いを見据えていた。

 

「(あの子、堅気じゃないな)」

 

「(アイツ、まるで隙を見せてなかった。やっぱりタダ者じゃないな)」

 

理巧は、今日出会ったこの少女と、以外な場所で再び出会う事になることは、この時は想像すらしていなかった。

 

 

 




次回、変身します。


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ジーッとしてても、ドーにもならない!

すっかり日が落ちて夜になり、街から離れた郊外にある広場に来た理巧は、『ダークゾーン』にいるペガに話しかける。

 

「ペガ、いるか?」

 

『うん。おじさん達と連絡はついたのかい?』

 

「ああ。ここから浅草まで結構距離あるし、怪獣が歩き回っているせいで交通状態も電車線もガタガタになっちゃったしね。とりあえず近くで野宿するって伝えたよ」

 

『理巧の足なら浅草まですぐに付くのに』

 

「片道20分もかかる浅草まで、夜の町を人目を忍んで全力疾走してたら危ないし、ダルいし、それにまだ怪獣が彷徨いているかも知れないだろう?」

 

『それもそうだけどねぇ・・・・』

 

「それに、案外と野宿も悪くないよ」

 

『どうだかねぇ・・・・』

 

などと駄弁っていると、広場にある古い建物に付いた。

そこには古びて、閉鎖された天文台があり、周りには人の目が無かったため、ペガは理巧の影から出てくる。

 

『よいしょ・・・・。天文台だ、星を見るところだ。確か理巧が子供の頃に、ここで修行してたんだよね?』

 

「あぁ。スバル師匠とここでよく鍛練と組手をしていたな。修行の後はこの天文台で、プラネタリウムを見るのが楽しみだった。ま、その天文台も潰れちゃったけどね・・・・」

 

理巧の顔は年齢よりも大人びた雰囲気になっていた。

 

『君の“本当のお父さんとお母さん”って、どんな人だったのかな?』

 

「・・・・知らない」 

 

ペガがずっと疑問に思ったことを口にすると、理巧はそう答え、天文台の近くのベンチに座り、ペガは理巧の隣に座る。

その二人の様子を『赤く発光しながら浮遊する球体』が見ていた。

 

『知らないって・・・・両親のこと、知りたくないの?』

 

「知りたくない訳じゃないんだ・・・・。でも、何て言うか、怖いんだ・・・・」

 

『怖い?』

 

「うん。赤ん坊の頃の記憶が少しだけあるんだけど、その記憶で、赤ん坊の僕は、真っ暗で、凄く冷たくて、凄く恐いって感情が、沸き上がってくるんだ・・・・!」

 

理巧はいつの間にか呼吸が荒くなり、震える身体を押さえるように腕を交差させ、二の腕を掴み、身体を少し俯かせる。

 

『理巧・・・・!』

 

「大丈夫・・・・大丈夫だ・・・・」

 

ペガが心配そうに声をかけると、理巧は呼吸を整え、身体を少し擦りながら気持ちを落ち着かせた。

リュックから野宿の道具を取りだし、まだ春半ばでも肌寒い夜。理巧はキャンプ用のコンロと手鍋でミルクを温め、自分とペガの分のカップに容れて、ペガに渡した。

 

「ペガ」

 

『ありがとう』

 

すると、携帯ラジオから怪獣関連の情報が報道された。

 

《出現した巨大生物は、明日未明にも、“浅草”に達する模様ーーーー》

 

「っ・・・・なに、“浅草”だと? 鷹丸さん達が入るところだ!?」

 

理巧はカップを置いて、急いでスマホを取り出して連絡を取ろうとするが、電話線が混雑していて通じなかった。

 

「クソッ!」

 

『理巧。ペガ達にできる事なんて、何もないよ・・・・』

 

「・・・・っ、そうかもしれない・・・・。でもな。他の人達がどうなろうが知ったことじゃないが、鷹丸さん達は、あの人達は僕にとって、地球よりも大切な人達なんだよ! あの人達に何かあったら・・・・僕は、僕は・・・・!!」

 

『理巧・・・・』

 

ベンチに座り、どうすれば良いのか悩む理巧の目の前に突然、『赤く発光する浮遊する球体』が近寄ってきた。

 

「なんだこれは?」

 

『理巧。これ、地球の技術で作ったものじゃないよ』

 

機械いじりが得意のペガは、この球体が地球の物ではないと見抜いた。

 

「って事は・・・・宇宙人の物なのか?」

 

理巧は訝しそうに、目の前を飛ぶ球体に恐る恐ると、人差し指で触って見る。

 

バチィッ!

 

触れた瞬間、弾ける音と火花が散り、理巧は慌てて指を引っ込める。

 

「いっつ! 刺したぞこれ?」

 

『『Bの因子』、確認』

 

「『Bの因子』・・・・?」

 

『基地をスリープモードから通常モードへと以降します』

 

『うわっ!?』

 

球体が突然喋りだし、目の前にエレベーターのようなものが出現し、ペガが驚きの声を上げた。

 

『権限が上書きされました。マスター、エレベーターにお乗りください』

 

理巧とペガは顔を見合わせて首を傾げる。

 

「聞こえるのは僕だけ、って事は無いよなペガ?」

 

『うんうん! ペガも聞こえる!』

 

『お乗りください』

 

『理巧、どうしよう?』

 

「・・・・・・・・」

 

ペガが少し怖がり、理巧は警戒してエレベーターを見る。

 

『こちらに敵対する意思はございません』

 

浮遊する球体が敵対意思がないと言うが、理巧は警戒を解かなかった。

袖口から、師匠達に護身用にと貰ったクナイを取り出す。

 

「・・・・信用できないな。『Bの因子』とか、『マスター』とか、一体お前は何者だ?」

 

『お乗りになれば分かります。ソコに、今マスターが欲しいと思う『力』も、置いてあります』

 

「なんだと?」

 

『その『力』を手にすれば、マスターが助けたい人達を、助ける事ができます』

 

「・・・・・・」

 

『理巧・・・・』

 

「・・・・嘘だった場合は、お前をスクラップの屑鉄にしてやるが、それでも良いか?」

 

『はい』

 

とりあえず理巧はクナイを仕舞いペガと共に、言われた通りエレベーターへと乗り込み、エレベーターは地下を目指して進み、青く光るエレベーター内部を見ていた。

 

『到着まで、残り30秒』

 

「ところで、お前は何者だ?」

 

『報告管理システム、声だけの存在です』

「この下にはなにがある?」

 

『基地です』

 

「基地だと?」

 

 

ー???sideー

 

場所は変わり、けたたましく警報が鳴り響き、ビルのテレビに映るテレビアナウンサーの避難勧告が響く夜のビル街の屋上を、どこかの学校の制服を着た女の子が走り、別のビルの屋上に、跳び移っていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

少女はビルの屋上から街を闊歩する怪獣を見据える。

 

「あんな大きな生物がいるだなんて。何とかしないと・・・・っ!」

 

少女はその場を飛び退くと、少女のいた地点に大量のクナイと手裏剣が突き刺さり、少女を取り囲むように身体ラインが丸見えのピッチリしたインナースーツ着た女性達が、少女に向けて小太刀を構える。

 

「もう、こんなところまで!」

 

少女は、“大きな胸元に挟んだ巻物”を守るべく、その場を跳び去りながら、女性達と交戦した。

 

 

ー???sideー

 

そしてここは、地上から怪獣を双眼鏡で眺める六人の男女がいた。

 

「あっ、『鷹丸』! 怪獣よ!」

 

桃色の髪の女性がそう言うと、怪獣は目映く光って、消えた。

 

「あぁ、消えた」

 

「“本部”に連絡するか」

 

青みがかった黒髪の女性が“本部”に連絡し、背広を着た仏頂面の男性が“口を動かしていないのに声が響いた”。

 

「終わった気がしない。コイツは、何かあるな?」

 

すると今度は、白髪の中年男性が、もう一人の男性に話しかける。

 

「済まないな『鷹丸』。せっかく来てくれたのに」

 

「気にしないでくれ『霧夜』さん。これも俺達の仕事だからな」

 

「・・・・“あの子”は、大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫だ『ハルカ』。アイツなら今頃、野宿を楽しんでいるだろうさ」

 

亜麻色の髪の女性『ハルカ』の肩に『鷹丸』は手を乗せる。

六人はそのままワゴン車に乗り込み、“本部”へと戻っていった。

 

 

ー理巧sideー

 

『ねえ理巧・・・・っ!』

 

「ここは・・・・?」

 

扉が開くとそこには、それなりに大きな部屋があった。

 

『ここは天文台の地下500メートルに位置する中央司令室です』

 

理巧とペガを案内してきた球体は、部屋の中央に設置された黄色い球体のようなものの近くに浮遊する。

 

『この基地はマスター、貴方に譲渡されました』

 

理巧とペガは顔を見合せる。

 

「僕の事を、誰かと勘違いしてるんじゃないか?」

 

『さあ?』

 

『誤認ではありません』

 

肩をすくませる二人に、球体は答える。

 

『既に血液の採取を行いDNA検査を終了させています』

 

「・・・・あの時か」

 

球体に触れた瞬間の火花と痛みが、検査であると理巧は推察した。

 

『お渡しするものがあります』

 

球体がそう言うと、中央のテーブルに『四つのアイテム』を出現させた。

 

『フュージョンライズ用のマシン、『ライザー』です』

 

1つは赤いナックルのようで、中央にカプセルがある。

もう1つは黒いナックルのような形でカプセルを装填する穴があった。

もう1つは四つのカプセルが入るカプセルケースのようだ。

そして最後に、『カプセル』が置かれていた。

 

「・・・・・・・・」

 

『理巧っ!』

 

ライザーに近づく理巧に、ペガは止めようと声を上げた。

 

「なぜこれを僕にくれるんだ? 答えてくれ」

 

理巧の質問に、球体はテーブルの上に降りると、中央テーブルの奥にぶら下げられた大きめの球体が黄色く発光し、赤い球体と同じ声が響く。

 

『これはあなたの“運命”です』

 

「・・・・・・・・」

 

いまいち信用できないが、これで鷹丸達を助ける事ができるならと考えた理巧は、ライザーを手に取る。

 

『ライザーを使用することで、貴方は“本来の姿”に戻れる。力を行使する事が出来るでしょう』

 

「“本来の姿”、だと?」

 

『あなたは、“この星の住人ではありません”』

 

「っ・・・・」

 

その球体の言葉に、つまり、“自分は異星人だった事”に、理巧は衝撃を受けて一瞬驚愕したが、直ぐに気持ちを落ち着かせようとした。

幼い頃から異常とも言える身体能力とかに、理巧本人も少し疑惑があり、以前ペガにも、「君は地球人じゃない、そう思い込んでるんだ」と指摘を受けたことがあったため、わりかし納得する事ができた。

 

『理巧・・・・』

 

「大丈夫だ。今大事なのは、『力』の事だ。“本来の姿”に戻れば、『空を飛んだり』できるのか?」

 

『可能です』

 

「『ダンプカーを持ち上げる事』とかは?」

 

『可能です』

 

「・・・・『怪獣と戦う事』、はどうだ?」

 

『えっ・・・・?』

 

『可能です』

 

「良しわかった。このライザーの使い方を教えてくれ」

 

『なにする気!?』

 

「怪獣を止める。このままでは鷹丸さん達がいる浅草に到達する。鷹丸さん達に危険が及ぶんだ」

 

『無理だよ!』

 

鷹丸達以外は正直どうでも良いが、鷹丸達が危ないなら戦おうとする理巧に、ペガは引き留めようとした。

黄色い発光体、管理システムが進言した。

 

『可能です』

 

『嘘だ!!』

 

即座に否定するペガに、管理システムはさらに続ける。

 

『嘘ではありません。何故ならマスターは、『ウルトラマンの遺伝子』を受け継いでいますから』

 

「・・・・・・・・」

 

『え・・・・・・・』

 

ペガは唖然と理巧を見ると、理巧はテーブルに置かれたカプセルの1つを手に取った。

そのカプセルには、銀の身体に赤いラインが入り、胸元に水色の発光体を付けた超人、都市伝説と言われた光の巨人、『初代ウルトラマン』の姿が描かれていた。

 

 

 

ー???sideー

 

とある場所で、黒い服を着込んだ1人の男性が、理巧が渡された物と同じ『ライザー』を手に持っていた。

男性は『ウルトラカプセル』と酷似した『怪獣カプセル』、『古代怪獣 ゴモラ』と『どくろ怪獣 レッドキング』、2体の怪獣のカプセルを眺めた。

 

「冷却完了。次の行動に移らせてもらおう」

 

男性は一度目を閉じると、身体から黒い靄のようなオーラを放ち、目を開くと赤く不気味に発光した。

 

「おおおあっ!!」

 

キシァアアアアアアッ!!

 

男性は『ゴモラカプセル』を起動させると、ゴモラの雄叫びが響き、『ゴモラカプセル』を黒い装填ナックルにカプセルを装填した。

 

ピギャグゥゥゥゥゥッ!!

 

今度は『レッドキングカプセル』を起動させて、同じくナックルに装填した。

そして、専用の装填ナックルへ装填し、ライザーの握り手のスイッチを押すと、ライザーでナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーから鼓動音?のような物が鳴り、ライザー中央のカプセルが黄色と赤に発光し、音声が流れる!

 

『フュージョンライズ! ゴモラ! レッドキング! ウルトラマンベリアル! スカルゴモラ!』

 

 

ー理巧sideー

 

場所を戻し、理巧達はというと。

 

『マスター、怪獣が出現しました。『球体型偵察機 ユートム』からの映像を表示します』

 

「なに?」

 

『えぇ!?』

 

球体にそんなことを言われて理巧とペガは驚きの声をあげ、モニターを出現させるとそこには確かに怪獣が街を破壊しながら歩いている光景や怪獣の全体像、街の地図、地盤状況等が映し出されていた。

理巧はライザーと装填ナックルとカプセルケースをベルトに付けた。

 

「なぁ、この怪獣のデータとかあるのか?」

 

『ありません。しかし、この怪獣を解析してみたところ、この怪獣からは2体の怪獣が融合したようです』

 

「・・・・詳しく言ってくれ」

 

『この怪獣は、『古代怪獣 ゴモラ』と、『どくろ怪獣 レッドキング』の細胞が融合したことで生まれたようです』

 

街で暴れる怪獣のモニターの映像の近くに、頭が三日月の怪獣、『古代怪獣 ゴモラ』と、頭は小さいが身体や腕が太い怪獣、『どくろ怪獣 レッドキング』のデータが表示された。

 

『この怪獣を詳細に分析してみたところ、2体の怪獣の遺伝子が融合しているようです』

 

「なるほどな。あんな歪な姿なのは、融合した事で変異したって訳か」

 

『名称を付けるならば、“どくろ”と“ゴモラ”で、『どくろゴモラ』にしましょうか?』

 

「なんかダサい。『スカルゴモラ』とでも呼ぼう」

 

『了解しました。怪獣名称『スカルゴモラ』にします。マスター、現場までエレベーターで向かいますか?』

 

「行けるのか?」

 

『座標を設定できます。通信には先ほどのライザーを使ってください。触れていれば会話は可能です』

 

『なにする気?! まさか、あの怪獣と戦うつもりなの!?』 

 

それを聞いたペガは引き留めようとするが・・・・。

 

「このままじゃ鷹丸さん達が危ないかもしれないんだ。僕なら、ウルトラマンなら、『怪獣を倒す事』だってできるんだろ?」

 

『可能です』

 

理巧の質問に対し、管理システムは肯定するように答えた。

 

「なら、僕が行くしかない」

 

『でも理巧・・・・自衛隊とかが怪獣を倒すかもしれないよ・・・・』

 

「自衛隊を待ってる時間なんてないし、自衛隊にどうにかできるものでも無さそうだ。ペガはここで待っててくれ」

 

『理巧・・・・』

 

「ジーっとしててもさ、何も解決できない・・・・」

 

心配するペガに、理巧は淡々と話した。

 

「中学時代、僕はジーっとしていた。ただ髪の色と目の色が他の人達と違うって“だけ”で、下らない虐めにあった」

 

『・・・・・・・・』

 

その当時を知るペガは静かに聞いていた。

 

「僕を引き取ってくれて、“家族”にしてくれて、“人間”として扱ってくれた鷹丸さん達に、僕は迷惑をかけたくなかった。だから、虐めにあっても、ジーっと耐えていれば、その内に同級生や上級生も飽きるだろう、その内教員達も諦めるだろう、そう思って耐えていた。でも、結局僕は、“何もしなかっただけだったんだ”・・・・」

 

どこか悲痛な顔になる理巧。

 

「そのせいで僕は・・・・鷹丸さん達を、大切な人達を悲しませた。でも、だから分かったんだ。ジーっとしていても、状況は何も変わらない。だったら、動くしかない。ジーっとしてても、ドーにもならないっ!」

 

その時の理巧の顔は、いつもの無気力が無くなり、強い意思と覚悟を持った、男の顔になっていた。

理巧はそう言って、現れたエレベーターへと乗り込む。

 

『理巧・・・・』

 

「心配しないで、ペガ。頼む、『レム』」

 

『レムとは私のことですか?』

 

『レム』と呼ばれた管理システムが尋ねる。

 

「あぁ、名前がないと不便だからな」

 

『レポート、マネージメントのイニシャルですね?』

 

「まぁ、そんなところだな。という訳で頼むぞレム。後、僕のことも『理巧』って呼んでくれ」

 

『分かりました、『理巧』』 

 

球体改め、『レム』は理巧に承諾の返事をする。

 

『転送を開始します』

 

エレベーターの扉を閉じて転送を開始し、『スカルゴモラ』のいる場所にまで理巧を転送した。

 

 

 

 

理巧は、エレベーターに乗って転送された場所へと到着し、エレベーターから出る。腰につけている装填ナックルに触れてレムと通信する。

 

《聞こえていますか理巧?》

 

「ああ、大丈夫だ」

 

《現在は浅草から500メートル離れた地点。スカルゴモラが進路を変更しました。進行方向に、まだ避難している人々がいます》

 

 

 

ー???sideー

 

「うわっうわっ! 逃げないと!!」

 

避難している人達の中に、『桃色の髪に花柄の瞳をした女の子』が、荷物を持って避難しようとしていた。

 

『グゥゥゥ・・・・!』

 

スカルゴモラは、その少女を見ると、スカルゴモラの目には、その少女の身体が光り輝いているように見えた。

 

 

ー理巧sideー

 

「不味いな。ここで食い止めないと、浅草に行ってしまうぞ・・・・(しかし、何で進路を変更したんだ?)」

 

《やり方、覚えていますね?》

 

レムの言葉に、理巧は思考を切り替え、基地にいるときに教えて貰ったやり方を思い出す。

 

「問題無い」

 

《『フュージョンライズ』後の名称を決めてください》

 

「・・・・ジード、『ウルトラマンジード』。そしてこのライザーは、『ジードライザー』だ」

 

理巧はフュージョンライズ後の名称を『ジード』に決め、ライザーも新たに『ジードライザー』と名付けて取り出す。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

理巧はそう言い放つと、腰のカプセルホルダーの始まりの巨人『初代ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シャアッ!

 

カプセルから青い光の線が幾つもの放たれ、『初代ウルトラマン』となった。

 

「アイ、ゴー!」

 

ウルトラマンのカプセルをナックルに装填させた後、さらにそれとは別に、『最凶最悪のウルトラマン』と呼ばれた『ウルトラマンベリアル』のカプセルを取り出し起動させると、今度は紫の光の線が現れそこから、『ウルトラマンベリアル』が出現した。

 

ウエッ!

 

同じく『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

 

装填したナックルを取りだし、ライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーのカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

そして理巧は、ジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

すると、ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く!

それと同時に、理巧の髪の毛がさらに赤く・・・・否。“緋色に光る”!

 

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

ウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、理巧は2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変えた!

 

『シャァッ!!』

 

その名を、『ウルトラマンジード プリミティブ』!

 

 



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覚悟の光 プリミティブ

ウルトラマンジードはフォームの頭文字を使って書きます。


ー???sideー

 

「あぁもうしつこいなぁ!」

 

スカルゴモラが現れた夜のビル街。

すぐ近くにはスカルゴモラが街を破壊しながら闊歩しているのに、少女は小太刀を構え、少女を追う女性陣と、ビル街を跳びながら剣劇を繰り広げていた。

追っての女性の1人があらゆるタイプの手裏剣を投げると、少女は跳んで回避し、ビルの屋上から飛び降りた。

追っての女性陣の1人が自分の足と屋上の鉄柵にワイヤーを絡ませ、バンジージャンプの要領で追撃した。

 

「っ!」

 

少女はビルの壁に設られた手刷りに逆さでぶら下がり、追撃した女性の逆手で構えた小太刀を両手の小太刀を交差する事で防ぐが。

 

「貰った!」

 

「しまった!」

 

ぶら下がっていた手刷りが崩れ、少女の体制が崩れると、女性は少女の豊満な胸元に挟まれていた“巻物”を取り上げ、別のビルの屋上に逃げる。

手に持っていた物を確認すると、それは“巻物”ではなく、“少女が着ていた制服の上着”だった!

 

「っ!? 『空蝉の術』!?」

 

驚く女性の近くのビルの鉄棒に、鉄線を付けたクナイが絡んだ。

 

「残念でした!」

 

上着を失い、赤と白と緑と黄色の横縞のブラジャーをさらした少女がロープアクションで女性にキックをおみまいした!

 

「ふんっ!」

 

「ぐぁっ!!」

 

女性をふっ飛び、着地した少女に、さらに追撃を仕掛ける女性陣。

 

「時間無いんだらぁ! 邪魔しないで!!」

 

少女は焙烙火矢を女性陣に投げつけて、女性陣は爆発に呑まれた。

少女はそのまま屋上にたどり着いた。

 

「ぃ良し! ゴール!・・・・えっ?」

 

『グルルルルルルルルル・・・・』

 

ガッツポーズを取る少女の目の前には、スカルゴモラの巨体が見え、見上げるとスカルゴモラの真っ赤な瞳と目があった。

 

「ウッソ~~・・・・」

 

唖然となる少女に向けて、スカルゴモラが無慈悲に手を上げ、振り下ろす。

 

「・・・・・・・・あっ、走馬灯・・・・・・」

 

少女は迫り来る『死』に対して、これまでの人生が過り、その中で、『綺麗な赤い髪の毛と瞳をした少年』の顔が浮かび、呆然と呟く。

 

「私、死ぬのかな?・・・・ゴメンね・・・・『りっくん』・・・・」

 

出来れば、もう一度会いたかった“初恋の人”に謝罪した少女は目を瞑ろうとしたーーーーその瞬間。

 

『シュワッ!!』

 

『グワァッ!!』

 

「っ!」

 

突然、白と黒が混ざったような光が、スカルゴモラを蹴り飛ばし、光が人の形となって、大地に降り立った!

 

銀色の身体に赤のラインと、黒の稲妻模様が走り、腕には鋭い刃のような突起物が生え、胸にはカプセルの形をしたクリスタルを付け、その目付きはかなり鋭く悪い印象を与えるが、その目の色は鮮やかな青に染まっていた。

 

暁月理巧が、『ジードP<プリミティブ>』へと変身し、大地へと降り立ち、スカルゴモラの前に立ち塞がる。

 

 

ーペガsideー

 

その様子を基地から見ているペガとレム。

 

『フュージョンライズ、成功しました』

 

『アッ! アレは・・・・!』

 

と、レムは理巧が変身に成功したことを伝えるが。理巧の変身した姿を見たペガは、その姿を見て、驚いた様子を見せていた。

 

 

ー???sideー 

 

助けられた少女は、ジードPを見上げていた。

 

「あの目の感じ、どこかで・・・・」

 

昼間に見かけたニュースのことを思い出していた。ジードPの姿は、『クライシス・インパクト』の原因、『ウルトラマンベリアル』とそっくりだった。

 

 

ー理巧sideー

 

『・・・・・・・・』

 

理巧は、変貌した自分の身体を見ていた。

 

『(僕は今、どんな格好なんだ?)』

 

『グゥゥゥ! ピギャグゥゥゥゥゥッ!!』

 

起き上がったスカルゴモラが、ジードPに向かう。

 

『ハァアアアッ!!』

 

ジードPがジャンプすると、地面が陥没し、車が吹き飛んだ。

 

『(なにっ!?)』

 

ジードPは、自分のジャンプに少し驚くが、スカルゴモラの近くに着地すると、直ぐに気持ちを切り替えて、スカルゴモラの頭を押さえようとするが、スカルゴモラは押さえようとするジードPの腕を振りほどき、ジードPの腹部に角で突き押した!

 

『ウワァッ!』

 

押し出されたジードPは、後方に倒れ、その際ビルを巻き込み、ビルを破壊してしまった。

 

『(ちぃっ、ビルを巻き添えにしてしまった)』

 

《理巧! 聞こえる?!》

 

理巧の耳に、基地にいるペガの声が聞こえた。

 

『(ペガ、どうなってしまったんだ? 建物も道路も、柔らかい。まるで砂で作ったみたいに脆いんだ)』

 

《今の君、まるで・・・・》

 

『ピギャグァァァァァァッ!!』

 

『ハッ!』

 

ペガの言葉を遮るように、スカルゴモラの雄叫びに、ジードPは再び構える。

 

『(くそっ! まだこの身体に馴れていないのに! 仕方ない、行くぞ!)』

 

飛び上がったジードPは、スカルゴモラに飛び膝蹴りを繰り出し、反撃してきたスカルゴモラの腕を回避し、肘打ちをしようとしたが、スカルゴモラの豪腕に殴られ、近くにあった、大きな池に叩きつけられ、スカルゴモラも池に入り込み、ジードPに大きな口を開けようとしたが、ジードPは回避して起き上がると、スカルゴモラに向けて、上段蹴りや回し蹴り、ジャブや拳底打ちで攻め立て、腹部にドロップキックを繰り出し、ヒラリとバク宙して片膝をついて着地する。

 

『ピギャグゥゥゥゥゥッ!!』

 

着地したジードPに、空かさず踏みつけようとしてスカルゴモラの足を転がって回避したジードPは、池の水に濡れながらも立ち上がり、爪を立てるように掌を広げ、交差するように構えた。

 

「シャアッ!」

 

「・・・・・・・・」

 

ジードPの戦う様子を、ビル屋上でブラジャーを晒した少女と、避難しようとしていた人々、そしてテレビのヘリコプターの放送で、大勢の人達が見ていた。

 

『ハァァァァァッ!!』

 

『グワッ! ギュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

ジードPはスカルゴモラの腹部にスタンプキックをし、スカルゴモラは腕を振り下ろすが、ジードPは腕を避け、スカルゴモラの後ろに回ろうとするが、スカルゴモラは大きな尻尾を振り回し、ジードPを攻撃した。

 

『うぅわっ!!』

 

ジードPは尻尾の攻撃に一回転して倒れ、池の水を巻き上げた。

 

『ピギャガァァァァァァッ!!』

 

『フッ! ハッ! ハッ!!』

 

ようやくジードPの身体に馴れてきたのか、スカルゴモラが攻め立てようとするのを、バク転で回避した。

 

『ハァッ!』

 

跳び上がったジードPは、スカルゴモラに馬乗りとなり、チョップを繰り出すが、スカルゴモラは上体を上げてジードPを振り落とした。

 

『ピギャグゥゥゥゥゥッ!!!』

 

スカルゴモラは起き上がって、ジードPに向かって、頭部の角を突き立てようとするが、ジードPがそれを受け止めると、スカルゴモラの角が赤く発光し、『スカル振動波』をジードPに直撃させた。

 

『グアァッ!!』

 

それをまともに喰らったジードPは、身体中から火花を散らして池に倒れ込んでしまう。

 

『ウグアアアアアっ!!!??』

 

倒れこんだジードPはビルの押し潰した。

 

『あぁ・・・・!』

 

ビコンッ! ビコンッ! ビコンッ! ビコンッ!

 

《理巧っ!!》

 

すると、ジードPの胸部にあるカプセル型のクリスタルである『カラータイマー』は、鮮やかな青から赤色になり、激しく点滅した。

 

『ウゥゥゥゥゥゥ・・・・!(なんて破壊力だ・・・・!)』

 

ジードPは、身体から力が抜けていく感覚を感じた。

 

《間も無く活動限界時間です》

 

『(なに?!)』

 

《この星で、ウルトラマンジードでいられるのは、およそ“3分間”。次に変身できるのは、およそ20時間後です》

 

『(20時間って、随分長いインターバルだな・・・・!)』

 

スカルゴモラは、池から離れ、街を踏み潰しながら、再び進行を開始しようとした。

 

『(ダメだ! このままでは・・・・! 何とかしなければ・・・・!)』

 

それを見て、大勢の人達が悲鳴を上げ、それを見て、ジードはどうにか立ち上がった。

 

《光子エネルギーを放射しますか?》

 

『(やり方は?!)』

 

《すでに知っているはずです》

 

『(何っ!? っ・・・・嫌、頭に浮かんだぞ!)』

 

レムの言葉に理巧の頭にある映像が浮かんだ。

 

~BGM.『GEEDの証』~

 

『フゥッ・・・・イヤァッ!!』

 

ジードPは跳び上がり、スカルゴモラの前に、人々を守るように立ち塞がった。

 

「っ!」

 

それを見て、少女はジードPを見据え、避難しようとする人達もジードPを見つめる。

 

『フッ!ハッ!』

 

ジードPは再び、両手に爪を立てるように掌を構え、水平にする。

 

『キヤァアアアアアアッ!!』

 

スカルゴモラは、角を赤黒く発光させて、角を突き立てながら、ジードPに向かって突進した!

 

『ハッ!・・・・フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・!!』

 

腕を下ろしたジードPは両手首を交差させ、全身を発光させながら、赤黒い稲妻状の光子エネルギーを両手にチャージさせ、交差させた両腕を上げると、両手を広げ、目を眩く光らせた!

 

『ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! ハァッ!!!』

 

両手に光子エネルギーがチャージされ、両腕を十字に組んで放つ、赤黒いプラズマを纏わせた青い必殺光線を、スカルゴモラに向かって発射する。

 

『デヤッ!!』

 

『ピギャッッ!!!!!』

 

チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッ!!!!

 

ジードPの放った光の奔流がスカルゴモラに直撃し、身体中から火花を散らしながら、スカルゴモラはそのまま爆発したのだった!

スカルゴモラの爆発を屋上で見ていた少女は、身を屈めて、爆風を回避すると、スカルゴモラの小さな破片が、火を纏って少女のブラジャーのサイドベルトを掠り、ベルトに小さな切れ目が生まれた。

それに気づかず少女は身を起こすと、ジードPの勝利の姿が目に入った。

 

「・・・・や、やったぁっ!!」

 

ジードPがスカルゴモラに勝利し、ビルの上の少女や、避難しようとしていた『桃色の髪の少女』も、避難しようとした子供達と喜びの声を上げた。

しかし、他の人達は、ジードPを訝しげに見つめていた。

 

『フゥッ、フゥッ、フゥッ・・・・』

 

ジードは肩で息をしながらも、見えないが、鷹丸達を守れたと思った。

ふと近くのビルの屋上を見ると、上半身には、赤と白と緑と黄色の横縞のブラだけで、豊かな胸の谷間には、なぜか巻物を挟めた少女が、その豊かな胸をダイナミックに弾ませながら、喜んでいる姿が目に入った。

 

『(・・・・・・・・露出狂か? しかしデカい胸してるなぁ。『ハルカさん』くらいはあるかも・・・・)』

 

「やった! やった! やったぁっ!!」

 

はしゃいでピョンピョン跳ねている少女のダイナミックに揺れる胸の動きに、ベルトの切れ目が大きくなりーーーー。

 

ビリビリ、ブチンッ! ブルルンっ!!

 

「えっ・・・・?」

 

『(えっ・・・・?)』

 

少女が胸元を見ると、ブラが屋上の床に落ち、挟んでいた巻物も足元に落ちており、少女の豊満な胸元が夜の屋上に晒され、たゆんっ、たゆんっ、と揺れていた。

 

「・・・・・・・・い、いやぁああああああああああああああんんっ!!!」

 

少女は悲鳴を上げながらブラと巻物を拾って、胸元を両手で隠しながら、その場を去っていった。

 

『(何だったんだ?・・・・あの露出狂は??) 』

 

ジードPはそのまま、その姿を光の粒子に変えて消え去った。

 

 

 

ーペガsideー

 

『何はともあれ、理巧が勝ったんだ!』

 

『はい。先ほどの光線は、『レッキングバースト』です』

 

レムがジードの必殺光線の名称を教えるが、ペガは気持ちが晴れなかった。

 

『でも、理巧のあの姿・・・・。まるで・・・・』

 

ペガは、『ウルトラマンジード プリミティブ』の姿の映像を、ジッと見つめた。

 

 

ー???sideー

 

夜明けを迎え、半壊し、火災が発生した街には救急車や消防車のサイレンと上空を飛ぶヘリコプターのプロペラ音がけたたましく鳴り響く街の一角の道に、ゴモラとレッドキングの『怪獣カプセル』が、白い蒸気を上げて落ちており、それを“黒いスーツを着た男”が拾い上げる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

男は、『怪獣カプセル』を握りしめながら、無表情に去っていった。

 

 

 

ー理巧sideー

 

《昨晩出現した巨大生物は、謎の巨人と格闘した末、爆発を起こし、消滅しました》

 

理巧はビルに設られたテレビから流れるニュースの声を聞きながら、鷹丸達を探していた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、鷹丸さん、ハルカさん、ナリカさん、スバルさん、どこにいるんだ・・・・?」

 

戦闘での疲労があるのに、変身が解除されると直ぐに走り回り、息も上がっていた。

ふと、テレビのニュースに目を向けた。

 

《突然現れた謎の巨人の正体も、依然として、不明のままになっています》

 

「っ! あれは・・・・!?」

 

理巧は、テレビに映された昨晩の戦いの映像に映る、ジードの姿を見ると、装填ナックルに手にして、レムと通信する。

 

「レム・・・・あれが、僕なのか?」

 

 

ーペガsideー

 

『レム。理巧の中にある、“強大な力”って・・・・』

 

『血液から『Bの因子』が確認されました。理巧はこの基地の本来のマスターと、99.9%の確立で親子関係です』

 

それは、理巧にも通じていた。

 

『親子っ!? 理巧が誰の子か、知ってるの!?』

 

『はい。理巧の父親は・・・・『ベリアル』、『ウルトラマンベリアル』です』

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・僕が、ベリアルの、息子・・・・?」

 

暁月理巧の父親は、かつて『クライシス・インパクト』を引き起こした最凶最悪のウルトラマン、『ウルトラマンベリアルの息子』であった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は、公園のベンチに腰かけると、手に握った、『ウルトラマンベリアルのウルトラカプセル』をジッと見つめていた。

 

「『Bの因子』、『BELIAL<ベリアル>』の頭文字か・・・・。ま、薄々そんな気はしてたけど・・・・」

 

『ウルトラマン』、『Bの因子』、そしてあのジードの姿、これだけのピースが揃っており、ある程度推察していても、それでもショックだった。

心に『暗雲』が立ち込めていた理巧は、装填ナックルに手を付けた。

 

《理巧、戻ってこないのですか? ペガも心配してますよ?》

 

「すまない。もう少ししたら戻るよ。ペガにも伝えておいてくれ・・・・」

 

《了解しました》

 

装填ナックルから手を離すと、理巧のスマホに着信のバイブが響き、理巧は気だるそうにスマホを見ると。

 

【鷹丸さん】

 

と表示されていた。

 

「っ・・・・鷹丸さん?」

 

理巧はスマホに出ると、鷹丸の声が聞こえた。

 

《もしもし理巧? 無事か? 怪我はしてないか?》

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

《悪いな、こっちもゴタゴタしていて電話に出られなくてさ。ハルカ達も大丈夫だぞ》

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は、顔は無表情だったが、赤い瞳には涙を貯めていた。

 

《どうした理巧?》

 

「いえ、その、鷹丸さんの声を聞いたら、何か安心しちゃって・・・・!」

 

《大丈夫なのか?》

 

「はい、僕は、大丈夫ですから・・・・!」

 

《ナリカ達にも代わるな》

 

「はい・・・・!」

 

《理巧、怪我は無い? あとアタシの苺大福どうしたの?》

 

「ナリカさん・・・・はい、怪我はありません。それとゴメンなさい、避難しようと慌ててたから、持ってこれませんでした・・・・」

 

《そっか、まぁ仕方ないわね。気にしなくて良いわよ。あ、スバルさんに代わるね》

 

《理巧、無事で何よりだ》

 

「スバルさん・・・・はい、スバルさんとの修行のお陰です・・・・!」

 

《そうか。帰ったらまた修行を見てやるからな》

 

「っ・・・・はい・・・・!」

 

《ハルカに代わるな》

 

《理巧君。怪我は無いんですね? 具合も悪く無いですよね?》

 

「はい、大丈夫です・・・・! 僕は、大丈夫です。ハルカさん達の声を聞いたら、何か、大丈夫になりました・・・・!」

 

鷹丸達の優しい声を聞く内に、理巧の頬に一筋の涙が零れていた。

 

《・・・・理巧君》

 

「はい・・・・」

 

《何か辛くなったり、苦しい時は、私達に言って下さいね。私達は、“家族”なんですから》

 

その一言は、理巧の心に生まれた『暗雲』が霧散した。 

 

「はい、ハルカさん・・・・!」

 

《鷹丸様に代わりますね》

 

ハルカは鷹丸に代わった。

 

《理巧。もう知っていると思うけど、お前の高校潰れたぞ》

 

「えっ?」

 

鷹丸からの一言で、理巧は唖然となり、涙が引っ込んだ。

 

「ちょっと待っててください・・・・」

 

《ああ》

 

理巧はコッソリ装填ナックルに触れてレムに連絡する。

 

「レム! 僕の高校が潰れたって聞いたけど!?」

 

《はい。昨日の夕方、スカルゴモラの進行先に理巧の通う高校が有りましたが、スカルゴモラが通りすぎて破壊しました》

 

「マジか・・・・。もしもし鷹丸さん。いま知りましたけど、僕の高校が破壊されたんですけど、どうしましょうか?」

 

《ああ。実はな、以前からお前を転入させようと思っていた学校が有るんだ。今の高校は破壊されちまったから、その高校に行ってくれ。話は向こうの学園長に通してある》

 

「はぁ、昨日はその手続きで出掛けていたんですね・・・・。で、その高校の名前は?」

 

《聞いて驚け。その名も『国立半蔵学院』。理巧、お前はその学院で、『忍者』を目指すんだ!》

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァッ?」

 

 

ー???sideー

 

スカルゴモラが現れて3日程が経ち、被害にあった街には復興作業が執り行われ、それまで休校状態だった各学校も、ようやく再開された。その中の1つにある学院。

 

『国立半蔵学院』。

 

矢羽状になった『半』の漢字のバックに手裏剣が描かれ、そこにカエルの手足が刻印されている校章があり。

今年で、創立100周年を迎える長寿な学院で、全校生徒はおよそ1000人のマンモス進学校として名高い『普通科』の高等学校である。

 

「ふわぁ〜! 久しぶりに帰ってきたあぁ〜!!」

 

その学院に、半蔵学院の白い制服を着て、首には赤いスカーフを纏い付け、黒髪を白い紐でポニーテールにし、顔立ちも可愛らしく整い、制服の胸元を押し上げるバストも大きく、括れは砂時計のように細く、臀部もプリンッとしており、手足は細く、制服越しでもそのナイスバディが分かる、少女がいた。

その少女は、理巧<ウルトラマンジード>とスカルゴモラの戦いをビルの屋上で見て、最後にジードの前に胸を晒した少女であった。

少女は他の男子生徒に声を掛けられそうになったので、一瞬で木ノ上に隠れ、男子生徒から「可愛い」と呼ばれ照れていた。

教室に向かおうと飛び出そうとすると、さっきの男子生徒の声が聞こえた。

 

「おい見ろよ! アイツ、スッゲェ派手な髪してるぜ!」

 

「ん? おっ、本当だ! 真っ赤かな髪だなぁ!」

 

少女は、木ノ上から男子生徒の視線を追うと、その先にはーーーーーー。

色鮮やかな赤、いや“緋色の髪の毛”をした男子生徒の後ろ姿が目に入った。

 

「(うわぁ~! 綺麗な髪の毛・・・・あれ? あの人・・・・)」

 

じ~っと、その少年を見ていると、少年が顔を振り向かせ、自分の方へ視線を送り、少女は、少年の髪の毛と同じく『鮮やかな緋色の瞳』と目があった。

 

「(えっ? まさか・・・・)『りっくん』・・・・?」

 

「・・・・・・・・?」

 

その少女、『飛鳥』は思わず呟き、暁月理巧は『飛鳥』を見て首を傾げた。

 

『社会の正義と規律を影から守る忍び・善忍』と、『最凶最悪のウルトラマンの遺伝子を持つ少年』が、邂逅した。

 

この時、『飛鳥』は知らなかった。“初恋の人・暁月理巧”が背負った“運命”と、自分と別れてからの理巧の過酷な“理不尽”を。

暁月理巧は知らない。己の背負った宿命の重さを。そして、これから出会う“少女達”との日々を。

 




ようやく、閃乱カグラ(アニメ)と本格的に混じることができます。

ー次回予告ー

半蔵学院に転入する事になった僕。でも『ウルトラマン』も『忍び』も、はっきり言って興味無いんだよね。
そんな中、またスカルゴモラが現れた。クラスメートの子犬っぽい女の子が襲われている。
けど、僕には関係ない。

次回、『閃乱ジード』

【半蔵学院とリトルスター】

ジーとしてても、ドーにもならない!


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半蔵学院とリトルスター
編入したぜ、半蔵学院


第2話スタート。


ー飛鳥sideー

 

「(えっ? まさか・・・・)『りっくん』・・・・?」

 

「・・・・・・・・?」

 

飛鳥は木の上から、『初恋の少年』の名前を呟くが、その少年は、飛鳥を一瞥すると、すぐに歩き去って、校舎の角を曲がっていった。

 

「あっ・・・・!」

 

飛鳥は人目につかないように、木の上を跳びながら追いかけたが、少年の曲がった角を見ると、少年の姿は無く、行き止まりだった。

 

「りっくん・・・・だった、のかな?」

 

よく思い返してみれば、記憶の中にいる『初恋の少年』は、『綺麗な赤い髪と瞳』をしていたが、さっきの少年は『赤』と言うよりも、『緋色』だったので、人違いだったのかと思い、自分の所属する教室に向かった。

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は角を曲がると、一瞬で跳んで、屋上に着くと、先ほど自分を見ていた少女を見下ろしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

『理巧、あの娘の事、知ってるの?』

 

理巧の足元の影から、ペガがヒョッコリと現れた。

 

「さぁね?」

 

『さぁね?って、あの娘は理巧の事知っているようだったよ?』

 

「知らんもんは知らんよ。それよりもペガ。これから霧夜おじさんの所に行くけど、ちゃんと隠れておいてよ」

 

『うん』

 

ペガが引っ込むのを確認した理巧は、2日前の出来事を思い返していたーーーーーー。

 

 

 

* * *

 

 

2日前ーーー。

 

電話を終え鷹丸達を待っていた理巧は、一度レムに連絡して基地に戻り、ペガを影に隠して、リュックを持って公園に戻り、装填ナックル以外をリュックに入れて、数十分ほど待つと、待ち人達が来た。

 

自分を拾って育ててくれた『戦部家』の家長である、『戦部鷹丸』。

鷹丸の奥さん達であり、理巧にとって師匠とも呼べる『ハルカ』、『ナリカ』、『スバル』の三人。

 

「鷹丸さん、ハルカさん、ナリカさん、スバルさん・・・・!」

 

「理巧、無事で何よりだ」

 

鷹丸達と再会を喜んでいると、ふいに理巧達に近づく1人の初老の男性。

顔は少し老けてシワが現れ、背広を着こなした精悍な顔つきだった。

 

「よぉ理巧、久しぶりだな」

 

「“霧夜のおじさん”?」

 

その人物は、鷹丸達の友人の『霧夜』。

鷹丸達とは友人関係で、中学時代最後の一年、二年間の出来事で不登校になることになった(学校側から許可されている)理巧の家庭教師をしてくれていた。

最初の頃、理巧は霧夜をまるで信用しておらず、無愛想な態度を取っていたが、霧夜は根気強く理巧と接し、少しずつ信用されるようになり、それなりに良き関係になっている。

 

「お久しぶりです。・・・・ところで鷹丸さん。“忍者を目指せ”ってどういう事ですか?」

 

「まあそれは比喩だからな。本気にしなくていい」

 

「というか、この現代社会に忍者なんているんですか?」

 

理巧がウロンげに鷹丸達を見ると、ハルカとナリカとスバルが、一瞬で露出の少し高い忍び装束を着ていた。

ハルカは黄色の、ナリカは赤、スバルは青のカラーリングで。

 

「・・・・・・・・・戦隊ヒーローのバイトでもするんですか?」

 

「アホ、違うわよ。これが私達の忍び装束なのよ」

 

一応ボケてみた理巧に、ナリカがツッコミをいれると、理巧はマジマジと三人を見た。

 

「う~~ん。つまりハルカさん達は本物の忍者、『忍び』で、その『半蔵学院』は表向きは都内有数のマンモス進学校であり、裏では忍びを育成している機関って事ですか?」

 

「本当にお前は察しが良いな。・・・・半蔵学院は、政府から要請される『要人の警護』、『反社会的組織の情報収集』等、それらを行う忍びは『善忍』と呼ばれており。逆に『暗殺』や『破壊工作』等を行うのは『悪忍』と呼ばれているのだ」

 

忍び装束を見て推察する理巧に、スバルが肩を竦めながら説明した。

 

「『善忍』と『悪忍』。・・・・ダジャレですか?」

 

「まあそこは深くツッコムな・・・・」

 

スバルの説明を聞くと、理巧は『善人と悪人』を、『善忍と悪忍』と、あまりに安直な呼称に半眼でツッコムが、霧夜が苦笑いを浮かべる。

 

「でも鷹丸さん。前から編入させるつもりだったって、どういう事ですか?」

 

「あぁ理巧。お前、学校生活疎かにしているだろう?」

 

「・・・・・・・・えぇまあ」

 

歯切れの悪い理巧の返答に、鷹丸は後頭部を掻き、ハルカ達は心配そうな顔色を浮かべ、霧夜も顔をわずかに伏せる。

中学時代に理巧が受けた『悲惨な体験』が、理巧が学校生活に消極的にさせているのは理解している。

元々理巧は高校にも通わず、中学を卒業したらすぐに働くつもりだったが、鷹丸達や霧夜の説得で、“かなり渋々”と承諾したのだ。

 

「お前が学校をあまり好きじゃないのはわかっている。だからバイトする事も許したし、これまで目をつぶってきた。・・・・だが、そろそろお前も作ってみたらどうだ?」

 

「・・・・『友達』、ですか?」

 

「いや、『仲間』だよ」

 

「『仲間』・・・・? そんなの必要なんですか?」

 

「必要かどうかは理巧君、貴方自身の目で見定めてみてください」

 

色々納得できなかったが、鷹丸やハルカ達の言うことだから不承不承ながらも、了承した。

 

「ところで理巧。お前その髪、どうした?」

 

「えっ?」

 

理巧が鷹丸の言葉に首を傾げると、ナリカがスマホのミラーアプリで理巧の頭を見せると、『赤い髪の毛』が、『緋色の髪の毛』になっていた。ついでに瞳も髪と同じ緋色となっていた。

 

「・・・・何これ?」

 

 

 

 

戦部家の家自体は無事だったが、まだスカルゴモラが歩いた影響で、周りの建物やライフラインが破壊されたので、危険の為、立ち入り禁止区域となり、鷹丸達は仕事先である“保険会社”の寮に住むことになり、理巧は理巧で、半蔵学院の寮(1人部屋)に住むことになった。

鷹丸達と別れた理巧は、霧夜に連れられて半蔵学院の寮の部屋に着くと、他に仕事がある霧夜とその場で別れた。

そのまま理巧はレムに連絡し、その部屋から秘密基地のエレベーターに乗り、基地に到着すると、実家の自室にエレベーターで赴き、ソファとテーブルを持ち込んで基地内部のホールの端に置き、ソファに座って人心地に着いた。

 

「レム。この髪と瞳はなんなんだよ?」

 

『おそらく、ウルトラマンに変身したことにより貴方の細胞が活性化したことにより、髪と瞳が変色したと推察します』

 

「唯でさえ目立っていたのに、これじゃまた目立つよ」

 

辟易としながら理巧は、空中ディスプレイに表示されたニュース速報を見ていたが、テレビは勿論、ネット上でも巨人<ジード>と怪獣<スカルゴモラ>の話題で持ちきりだったが。

 

《先日出現した巨大生物に対し、『怪獣』と言う呼称を用いることが、本日正式に決定されました。6年前に出現したとされる個体との関連は・・・・》

 

「(『6年前』・・・・確か、僕はその時・・・・)」

 

《怪獣と対峙した巨人に関しては、『クライシス・インパクト』時に撮影された存在ではないか、との見方も有ります。しかし、当時を詳細に記録した映像は残っておらず、実証するのは困難と言わざる得ません》

 

「・・・・レム、消してくれ。少し寝たい」

 

『畏まりました』

 

テーブルに置いた駄菓子を食べていた理巧は、少し眠たくなったのか、レムにニュースを消してもらった。

 

『理巧、それでどうするの? 半蔵学院の事や、ウルトラマン事とか・・・・?』

 

ペガの質問に、毛布を持ってきた理巧はソファに横になり、ペガの質問に素っ気なく答える。

 

「ん、別に、正直『忍び』も、『ウルトラマン』も、興味無いんだよな・・・・」

 

『え? 戦ったのに?』

 

「あの時は鷹丸さん達が危ないと思ったからだよ。鷹丸さん達以外がどうなろうと、僕には関係無い。それに、世間はジードに対してあまり良い感情を持ってなさそうだしな。なあレム?」

 

理巧の質問に、レムは事務的に返答した。

 

『ネットの記事によれば、理巧と『ベリアル』を同一視して、脅威と感じている人の割合いは、全体の75%、世間は貴方に、“脅えている”、と判断して良いでしょう』

 

「な。面倒な事には関わらない方が良いに決まっているよ。レム、寮にある僕の部屋の半径50メートル以内に誰か来たら教えてくれ、鷹丸さん達か霧夜おじさんだったら特にな」

 

『承知しました』

 

『・・・・理巧、折角ヒーローになれるのに、本当に良いの?』

 

「言っただろ、忍びも、ウルトラマンも、ヒーローも、興味無いって・・・・さ・・・・」

 

そのまま理巧は、半蔵学院の制服や教科書やらを届けようと、霧夜が訪れる三時間位は熟睡していた。

 

 

* * *

 

 

そして現在、校舎の中の職員室で霧夜と合流した理巧は、そのまま“教室”に向かおうとしていたが、途中で人気のない廊下に出ると、案内していた霧夜が振り向く。

 

「理巧。ちょうど良いから少し、“遁術”を見せてくれないか?」

 

「良いですけど。あれって結構集中力がいるんですよね・・・・」

 

理巧は目を閉じて集中する。すると、霧夜は驚愕で目を少し剥いた。

なんと、理巧の身体が、透き通るように見え、気配がまるで無くなり、廊下の風景と一体となったように錯覚した。

さながら風景に溶け込むカメレオンのように。

 

「(ほぉ、これはスゴいな。気配どころか己の存在そのものを希薄にし、自然と一体になったように姿をくらます。『隠遁の術の極意』とも言える境地に立っている。“あの三人”が贔屓目無しで、才のある子と称するのも頷けるな)」

 

これから行く“忍びの教室”にも、『天才』はいるが、目の前の理巧と手合わせればどうなるか、霧夜は年甲斐もなく心を踊らしていた。

 

「よし理巧。そのままの状態で俺に付いてきてくれ」

 

「(コクン)」

 

集中している理巧は頷くと、歩き出した霧夜の後に付いていった。

 

 

 

 

それから、“教室”に着いた理巧は、霧夜に、先に行けと言われ、“教室”に入ると、“先ほどの少女が金髪の少女に胸を揉まれている光景”に出くわした。

 

「(・・・・なんだこれ?)」

 

『(理巧、なんなんだろう?)』

 

あまり関わり合いたく無いと即座に思った理巧は、ちょうど少女達の輪の後方の壁に持たれると、“教室”の壁がクルリと回転し、壁から“桃色の髪を短くツーテールにした花の模様の瞳の少女”が倒れ、持っていたお菓子をぶちまけていた。

 

「(今度はなんだ?)」

 

『(あっ、あのお菓子、ペガも食べたかったやつだ)』

 

「あ~、いった~い・・・・!」

 

「はぁ、朝っぱらからなにしてんだよ『雲雀』」

 

金髪の少女に『雲雀』と呼ばれた少女は、四つん這いになってお尻をさすりながら、笑顔で顔をあげる。

 

「遅刻しそうだっからなんか勢いがついちゃって。あっ! 『飛鳥』ちゃんおかえり!」

 

「ただいま、『雲雀』ちゃん!」

 

「(さっきの娘、『飛鳥』って言うのか・・・・ん? どっかで見たような??)」

 

「昇段試験、合格したんでしょ?」

 

「うん!・・・・まぁ、試験合格目前で、目の前に怪獣が現れた時は、走馬灯が走ったけどね・・・・」

 

「えっ?! 飛鳥ちゃん、怪獣の目の前にいたの!?」

 

「おいおい大丈夫だったのか?」

 

「・・・・・・・・」

 

金髪の少女と、近くの席に座っていた“黒い長髪の少女”も、飛鳥の言葉に耳を傾ける。

 

「うん。ちょうど怪獣が手を振り下ろそうとしたとき、巨人さんが助けてくれたんだよ!」

 

「あっ! あの目がちょっと恐い巨人さんなら、雲雀も見たよ!」

 

「雲雀ちゃんも!?」

 

「(・・・・・・・・そうか、あの時の露出狂か?)」

 

理巧もスカルゴモラを倒した直後に、胸元を晒した少女が、目の前の飛鳥と呼ばれる少女であると、思い出した。

 

「無事で良かったね~」

 

「ありがとう!」

 

和気藹々と話をする一同に、冷静な声が響いた。

 

「雲雀は人の無事を喜ぶ前に、自分の心配をした方が良いぞ」

 

近くの壁に設られた椅子に、いつの間にか“白髪のツインテールに眼帯をした少女”が、干しイカをくわえてそこにいた。

 

『(あれ? あの娘いつからあそこに!?)』

 

「(ん? 『雲雀』って娘が来たのとほぼ同時にいたぞ)」

 

ペガは驚いていたが、理巧は最初から分かっていたように冷静だった。

そんな二人に、“教室”にいる少女達はまるで気づかず話を続ける。

 

「良いの良いの! 飛鳥ちゃんが無事で、雲雀は嬉しいの!」

 

「『柳生』ちゃん!? いつからそこに!?」

 

「気配を殺すのは忍びの基本だ」

 

「あ、はははは、そうだよね・・・・」

 

「はぁ、まったくどっちが上級生かわかんねぇな」

 

「でも柳生ちゃん、一年生なのに段位が私より上だし・・・・」

 

「だって柳生ちゃん、『天才』だもん!」

 

金髪の少女に呆れられながら、飛鳥は苦笑いを浮かべ、雲雀は柳生を『天才』と呼び、柳生は興味なしな態度でクールにイカをくわえていた。

 

「あ、そういえば聞いて飛鳥ちゃん。雲雀最近ね、おかしな事が起こっているんだよ」

 

「おかしな事?」

 

「うん。この前カップアイスを食べようとしたらね、“アイスが溶けちゃってたの”!」

 

「えっ? それって、ただ時間が経って溶けちゃったんじゃないかな?」

 

「違うよ~。だってコンビニで買ってすぐに開けたら、溶けてたんだよ」

 

「う~ん。コンビニの冷凍庫が故障してたんじゃないかな?」

 

「そうかな~? 雲雀が後で店員さんに交換してもらったら、冷凍庫は何とも無かったって言ってたけどな~?」

 

「(・・・・・・・・・・・・)」

 

理巧は雲雀に起こった奇妙な出来事に、少し興味を抱いた。

すると、少女達の足元にいつの間にか置かれた玉が破裂すると、煙が上がり、少女達が驚くと、煙の中から霧夜が現れた。

 

「全員、揃っているな」

 

霧夜がそう言うと、今まで我関せずだった黒髪の少女が立ち上がり、飛鳥達と並んで、ともに霧夜に礼をした。

 

「霧夜先生。おはようございます」

 

「うん。飛鳥」

 

「はい!」

 

「ご苦労だった。怪獣が出現したにも関わらず、試験合格は快挙だ」

 

「いえ、それほどでも・・・・それに、怪獣が暴れているとき、何も出来ませんでしたし・・・・」

 

「しかし合格は合格だ。更なる精進を期待する」

 

「はい!」

 

元気良く返事をする飛鳥に、霧夜は頷くが、すぐに呆れ顔になり、飛鳥達は首を傾げた。

 

「と、言いたい所だが。お前達、気が緩んでいるんじゃないか?」

 

「・・・・どういう事ですか?」

 

気が緩んでいると言われ、黒髪の少女は、目を少し鋭くする。

 

「はぁ・・・・さっきから“ソコにいる坊主”に気がつかないのか?」

 

霧夜が指差す方向を見た飛鳥達は、驚愕に目を見開く。黒髪の少女と柳生も驚愕した。

 

何故ならば、さっきまで誰もいなかった壁に寄りかかるように、『色鮮やかな緋色の髪をした少年』が無表情に立っていたからだ。

ちなみに理巧の貌は結構整っており、ハルカ達曰く、笑えば可愛い系のイケメンとの事。

 

「えっ、誰だ!?」

 

「・・・・いつからソコに・・・・?」

 

「バカな・・・・! 俺が気配を察せなかっただと・・・・!?」

 

「えっ? あの人・・・・!」

 

「うわ~。綺麗な髪の毛・・・・」

 

金髪と黒髪は驚愕し、柳生も目を剥くが、飛鳥はさっきの『初恋の人と間違えた少年』に驚き、雲雀は理巧の鮮やかな緋色の髪を見て、感嘆とした。

そんな生徒達に構わず、霧夜は理巧に近づき、肩に手を置いた。

 

「コイツは今日からこの教室でお前達と『忍び』を学ぶ事になった。俺の知人の子でな。名前は、理巧。暁月理巧だ」

 

「・・・・暁月理巧です。よろしく」

 

「えっ?!」

 

『ん?』

 

突然驚きの声を上げた飛鳥に、一同が目を向けるか、飛鳥は理巧に近づく。

 

「あの、もしかして、『りっくん』・・・・??」

 

「・・・・・・・・・・・・・どちら様ですか?」

 

「えっ? わ、私だよ! 飛鳥だよ! 小学校五年生から六年生まで、ずっと一緒だった!」

 

「・・・・・・・・スミマセン。よく覚えていません」

 

「そ、そんな・・・・! 酷いよりっくん!!」

 

「あ、飛鳥ちゃん!」

 

「おい飛鳥!!」

 

飛鳥は涙目になると、教室を出ていき、雲雀と金髪の少女が後を追い、黒髪と柳生も、飛鳥が走り去った所に目を向ける。

 

「理巧。飛鳥と知り合いだったのか?」

 

「はて? 小学校の頃の記憶って、あんまり思い出せないんですよね。中学の頃の記憶が鮮烈過ぎて・・・・」

 

「そうか・・・・」

 

理巧の身に起こった事を知っている霧夜は、それ以上言えなかった。




第2話・第1部 終了です。
次回でリトルスターと出会いたいですね。


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見学するぜ、授業

今回の話のヒロインは、雲雀ちゃんです。


数分後。飛鳥が雲雀と葛城に連れられて教室に戻ると、霧夜先生がコツンと軽く飛鳥の頭を叩く。

 

「ごめんなさい、霧夜先生」

 

「以後気をつけるように」

 

「はい・・・・(チラッ)」

 

「・・・・・・・・」

 

飛鳥はチラッと、理巧の方に目を向けると、理巧は飛鳥に近づく。

 

「えっと、その・・・・」

 

「僕と君は、小学生の頃、会った事があるんだよね?」

 

「う、うん・・・・」

 

無表情に聞いてくる理巧に、飛鳥は少し目を伏せて頷いた。

 

「・・・・じゃ、思い出してみる」

 

「えっ?」

 

「忘れたままじゃ君に悪いしね。思い出したら、忘れていてゴメンと謝るから、少し待っていてくれるかな?」

 

「あ、うん・・・・待ってるね・・・・」

 

ペコッと頭を下げた理巧に、飛鳥は戸惑いがちに頷くと、頃合いと見て霧夜先生が口を開いた。

 

「では本日の修行。1限目は『格闘術』だ。全員着替えて『修行場』に集まるように。理巧、ついてこい」

 

「はい」

 

言い終わった直前、霧夜先生は足元にドロンッ!と、煙を大きく上げて、理巧と共に消えた。

後にはむせるように咳き込む飛鳥と葛城と雲雀、目を線にして呆れる斑鳩と柳生だけだった。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「飛鳥さんの、初恋の人?」

 

「あの赤頭がか?」

 

「うん・・・・」

 

更衣室で運動服(下はブルマ)に着替えている飛鳥に、同じように着替えている斑鳩と葛城が理巧との事を聞いていた。

ちなみに3年生の斑鳩と葛城は青のブルマ、2年生の飛鳥は緑色のブルマ、1年生の雲雀と柳生は赤いブルマである。

 

「小学校五年生の頃にね。凄い綺麗な赤い髪に、赤い瞳をしていた男の子が転入してきたんだ。小学校を卒業したら別々の中学に入って、それっきりだったけど、面影が有ったし、それに『暁月』って特徴的な名字もしていたし、『理巧』って名前だったから間違いないはずなんだけど・・・・」

 

「当の本人は覚えていないと言っていますが?」

 

「それに赤い髪と瞳って、アイツの髪と瞳って、赤と言うよりも緋色のようだったぞ?」

 

「でも、あの子はりっくんだと思うんだ。記憶にあるりっくんと面影が有ったし・・・・」

 

「ふぅ~ん・・・・。そ・れ・で、『初恋の人』ってどういう事だ~♪」

 

「ひゃあんっ! ち、ちょっと葛姐ぇ!」

 

葛城が暗い顔色となった飛鳥の豊満な胸を揉みしだきながら、理巧との事を聞くが、揉みしだかれた飛鳥は身を捩って、葛城を振り払おうとするが、葛城はお構い無しに揉む。

 

「ん~♪ この素晴らしい大きさ♪ そしてこの柔らかさと弾力♪ なんならこのおっぱいで迫れば『初恋の人』も思い出してくれるかもしれないぞ~♪」

 

「そ、そうかな・・・・じゃなくて! やめてよぉ~!」

 

「やめて欲しがったら、『初恋』の事を洗いざらい話しやがれ~♪」

 

「だ、だめぇ~!」

 

「ふざけてないで、さっさと準備なさい」

 

などとこの世の天国のような光景を繰り広げている飛鳥と葛城を無視して、委員長の斑鳩は衣服を整えながら二人に注意をした。

雲雀も着替え終えると、ポォ~と、惚けた顔になっていた。脳裏に浮かぶのは、色鮮やかな緋色の髪と瞳の少年

先ほど見た、暁月理巧だった。

 

「(凄く綺麗だったな~、あの男の子の髪の毛、目も燃えているように綺麗だったな~)」

 

「どうした雲雀?」

 

着替えている柳生は、背中越しに雲雀に話しかける。

 

「あっ、その、雲雀、『格闘術』苦手だから・・・・」

 

編入した男の子の事を考えていたと言えない雲雀は、授業の事を言って誤魔化した。

 

「雲雀」

 

「なに?」

 

「がんばれ!」

 

「うん!」

 

柳生は雲雀に向き直ると、今までのクールな表情から一変して、優しい笑みを浮かべ、雲雀も元気良く頷いた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

霧夜先生に連れられて、道場のような場所に移動すると、霧夜先生と同じ運動用のジャージに着替えて、舞台のような踊り場に仁王立ちする霧夜先生を見ながら、理巧は道場の壁に寄りかかりながら座っていた。

 

「理巧、少し意外だったぞ」

 

「・・・・何がですか?」

 

「飛鳥の事だ。基本鷹丸達以外には心を開かないお前が、飛鳥にあんな事を言うだなんてな」

 

鷹丸やハルカ達以外の人間には興味を示さない理巧が。

理巧が何よりも大切にしている人達、鷹丸とハルカとナリカとスバルだけの(あと霧夜先生は知らないがペガも入っている)あの理巧が、他人である飛鳥に対してあんな思いやった行動を取ることに驚いたのだ。

 

「・・・・別に、ただナリカさんに、【女の子を泣かしたら男として最低よ。女の子にはなるべく優しくしなさい】って、教えられていたからですよ」

 

「ああ、そうか・・・・」

 

あくまで家族の人達からの“教え”だから優しくしただけだったので、素っ気なく答える理巧。

少しは『他人嫌い』が治ったのかと、期待した霧夜先生は少し肩を落とした。

 

プォオオオン! プォオオオン!

 

授業開始の法螺貝が鳴り響くと、道場の上から、運動服に着替えた飛鳥達が降りてきた。雲雀は着地に失敗して尻餅をついたが。

 

「(『内閣特務諜報部諜報一課付特殊機密諜報員養成所 通称、忍者学科』。3年の斑鳩と葛城、2年の飛鳥、1年の柳生と雲雀、か・・・・)」

 

「では、先ず『空中格闘術』だ」

 

「あの霧夜先生。暁月君は?」

 

斑鳩が挙手して、壁に寄りかかって座る理巧を一瞥した。

 

「今日は暁月は見学だ。お前達の修行を間近で見てもらう。・・・・のだが」

 

「・・・・『コンビニバイト』、まあ無難だなぁ。(キュッ)・・・・『配達作業』、学校行ってる余裕無いなぁ。(ピッ)・・・・『バーガーショップ店員』、愛想笑いは苦手だからなぁ(ピッ)」

 

当の理巧は、どこから出したのか『求人誌』を取りだし、スカルゴモラの出現で殆んどのバイトが無くなったので、新しいバイトを探し、めぼしいバイトにはマーカーで○をつけ、駄目な所にはペケをつけていた。

 

「おい理巧。バイトを探すのは修行後にしておけ」

 

「・・・・分かりました」

 

霧夜先生に注意されたが、正直忍びに1㎜も興味が無い理巧は、小さくため息を洩らすと、求人誌を仕舞った。

あまりにもやる気が無い理巧の態度に、斑鳩が不快そうに眉を寄せ、葛城はムッとした顔を浮かべ、飛鳥と雲雀は理巧をジッと見つめ、柳生は理巧に興味無しの態度だった。

それから、斑鳩と葛城が空中格闘の組み手を行い、霧夜先生が「止めっ!」と合図すると二人は着地し礼をして終えた。次に飛鳥と柳生が組み手を始めるが・・・・。

 

「くぁ~・・・・」

 

理巧は退屈そうに欠伸をかき、飛鳥と柳生の組み手をまるで興味無いと言わんばかりの態度だった。

斑鳩も葛城も、飛鳥も柳生も雲雀も、同年代から見れば圧倒的かつ暴力的なバストとプロポーションをしており、思春期の男子にしてみれば目の保養にも、目の毒にもなる光景なのだが、理巧はまるで興味無い態度であった。

 

『(理巧。他の皆が恐い目で見てるよ・・・・)』

 

理巧の影の『ダークゾーン』からペガが理巧にソッと呟くが、理巧と構わずもう一度欠伸をかいた。

 

「ふぁあ~・・・・」

 

『・・・・・・・・』

 

あまりにも不真面目な理巧の態度に、飛鳥達(特に斑鳩)は渋い顔を浮かべる。

 

「(・・・・これは不味いな。・・・・仕方ない)」

 

このままでは飛鳥達との関係が悪くなるかも知れないと考えた霧夜先生は、理巧に向き直る。

 

「理巧。雲雀と組み手をしろ」

 

「へ?」

 

「ええっ!?」

 

霧夜先生に指示され、理巧は不承不承で立ち上がり、道場の中央に移動すると、小動物のように震える雲雀と向き合った。

 

「霧夜先生、なんで転入生と雲雀をやらせるんだ?」

 

「『格闘術』に自信が無い雲雀さんに、態度の悪い転入生を倒させて、自信を付けさせようとしているのかも知れませんね」

 

「なるほどな。しかしあの転入生、運が良いかもなぁ~♪ 上手くすれば雲雀の80センチのCカップにお触りできるかもしれないし♪」

 

「そうしたら俺がヤツを潰す」

 

「や、柳生ちゃん?」

 

柳生の目が鋭く据わっているのを見て、飛鳥が冷や汗を浮かべる。

 

「初め!」

 

「・・・・・・・・」

 

「うぅ~・・・・やぁ!」

 

理巧はボゥと突っ立っており、雲雀は躊躇いがちに走りだし、拳を突き出して、理巧にせまり理巧の顔面を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー次の瞬間、なぜか雲雀が床に倒れていた。

 

「あれ?」

 

「え?」

 

「あ?」

 

「ん?」

 

「なに?」

 

「ほぉ・・・・」

 

倒れていた雲雀本人は唖然呆然となり、飛鳥達も思わずまの抜けた声を発し、霧夜先生だけは、“倒れた雲雀の腕を掴んでいた理巧”に目を向けた。

 

「(雲雀が拳を突き出して顔に当たる寸前、片手で拳を受け流して掴み、僅かに体制が崩れた雲雀の足を引っかけ返し投げをした。合気道の小手返しの応用だな。ハルカ達め、過保護なわりには、相当鍛えようだな)」

 

「(この子、スピードも動きも他の四人に比べると劣っているけど、パワーは凄いな)」

 

霧夜先生は理巧の戦闘技能に感心し、理巧は拳を受け流した時に感じた雲雀のパワーに内心驚嘆していた。

 

「い、今何が起きたの・・・・?」

 

「雲雀が回転して倒れたように見えたけど・・・・」

 

「雲雀さんが、足を滑らして倒れたのかもしれませんね・・・・?」

 

「なんだ・・・・? 俺でも何が起こったか分からない・・・・」

 

しかし端から見ていた飛鳥達には、雲雀が足を縺れさせて、勝手に自爆したように見えていたのだ。あまりにも滑らかかつ無駄の無い動きで雲雀を倒した理巧の動きに、目が追い付けなかったからだ。

 

「???・・・・・・・・」

 

当の雲雀に至っては、真っ直ぐに理巧に向かった自分が、いつの間にか自分が床に倒れている事態に、脳の理解が追い付かず、目をパチクリさせていた。

そして理巧は握っていた雲雀の手の温度が上がっている事に気づいた。

 

「(ん? この子の手、なんか・・・・熱い?)」

 

それは体温が上昇しているなんてものではなかった。まるで火が点火するかのように熱く燃えているような感覚があった。

 

「雲雀。いつまで倒れている? 早く立て」

 

「は、はい!」

 

「あっ・・・・」

 

霧夜先生に言われ、慌てて雲雀が手を払い立ち上がり、理巧から距離を取った。

 

「雲雀ちゃん! 頑張って!」

 

「マグレだ! マグレ! おもいっきりやっちまえ!」

 

「う、うん!」

 

飛鳥と葛城が声援を出し、それに答えた雲雀が、理巧に拳や蹴りで攻め立てる。

 

「はぁっ! えいっ! タァッ!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかし雲雀の攻撃はまるで当たらず、理巧はヒラリヒラリと余裕で回避しながら、雲雀の拳を観察していた。

 

「(なんだ? この子の拳、なんか、燃えているような?)」

 

すると、雲雀の握り拳が、“まるで発熱したように真っ赤になった”。

 

「っ、なんだ?」

 

霧夜先生も、雲雀の異変に気づき、飛鳥達も雲雀の拳が段々赤く発光している異常に、気づき始めた。

 

「雲雀ちゃん! その手!!」

 

「え・・・・?」

 

雲雀が飛鳥に言われて自分の手を見ると、異常に気づいた。自分の両手が真っ赤に発光すると・・・・。

 

「な、なに? これなに!!??」

 

ブォアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

雲雀が狼狽すると、両手から炎が噴射した!

 

「きゃあああああああああああああああっ!!!」

 

「っ!」

 

雲雀が悲鳴を上げるよりも早く、理巧は火を吹き出す雲雀の両手を下に向けさせ、炎を床に向け、雲雀に静かに声をかける。

 

「落ち着いて」

 

「あ、ああ・・・・」

 

「大丈夫。落ち着いて」

 

訳が分からず涙目になった雲雀に、理巧は静かに、優しく囁く。

 

「先ず心を落ち着かせて。大丈夫、深呼吸だ」

 

「・・・・う、うん」

 

「息を吸って」

 

「すぅ~・・・・」

 

「吐いて」

 

「はぁ~・・・・」

 

「もう一度」

 

「すぅ~・・・・、はぁ~・・・・」

 

雲雀が深呼吸して落ち着いてくると、手から放たれた炎が徐々に弱まり、消えた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

「おじさん・・・・!」

 

「っ・・・・」

 

雲雀が小さく呼吸しながら腰を落とすと、理巧は雲雀の両肩に手を置いて支えながら霧夜先生に呼び掛けると、霧夜先生は、ピクッ、と反応すると、何処からか消火器を取りだし、消火器を使って、床で燃える炎を鎮火させた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

怯えるように呼吸する雲雀を見て、理巧は過去を思い出していた。

昔自分も、こんな風に怯えていたとき、ハルカが優しく頭を撫でてくれたーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

「えっ・・・・?」

 

理巧はなにも言わずに、雲雀の頭を優しく撫でた。

 

「大丈夫、大丈夫だからね」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧に撫でられて、雲雀の呼吸が落ち着き、目を閉じると雲雀はそのまま眠った。それを見た理巧は、消火器で火を消火し終えた霧夜先生に向けて口を開く。

 

「おじさん。この子を保健室に連れていきます」

 

「ああ分かった。斑鳩、葛城、飛鳥、柳生」

 

『は、はい!』

 

突然の異常事態に、呆然となっていた飛鳥達も、霧夜先生に名前を呼ばれ正気にかえった。

 

「俺達はこのまま雲雀を保健室に連れていく。お前達は教室で自習をしていろ」

 

「せ、先生! 私達も!」

 

「雲雀を連れていく!」

 

「駄目だ。お前達は教室にいろ!」

 

飛鳥と柳生が申し出るが、霧夜先生に却下され、霧夜先生は雲雀を背負った理巧を連れて、ドロンッ! と煙を巻くと、『修行場』から姿を消した。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「(ギリッ)」

 

後には、愕然となる飛鳥達と、口惜しそうに歯ぎしりする柳生が佇んでいた。

 




次回。雲雀ちゃんと理巧が急接近の予感!

蛇女の人達はしばらく後です。


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助けるぜ、雲雀ちゃん

ー???sideー

 

東京タワーの展望の屋根から、黒服の男性が遠くにある半蔵学院を眺めていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その目には、半蔵学院のある地点に、“複数の光の柱”が上がっているのが見えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

男性はゆっくりと口角を上げて、手に持っている『レッドキングカプセル』と『ゴモラカプセル』を握った。

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・」

 

時刻は2時限目の授業が始まった頃。

理巧は保健室で、カーテンに閉めきられたベッドで静かに眠る雲雀を眺め、養護教諭(女性&巨乳)と話を終えた霧夜先生が静かにカーテンを開けて入ってきた。

 

「理巧、ここは養護の先生と俺が見ているから、お前は教室に戻っていろ」

 

「・・・・はい」

 

雲雀の手から出た炎の事が少し気になった理巧は、保健室を出て、人目につかないように男子トイレに入ると、装填ナックルで『基地』にいるレムに連絡する。

 

「レム。雲雀って子のあの炎。何か分かるか?」

 

実は『ダークゾーン』にいたペガが、雲雀が炎を放った時、理巧のスマホで状況をムービー撮影して、基地にいるレムに送っていた。

 

《解析の結果、雲雀と呼ばれる少女の身体から、“未知のエネルギー”が検出されました》

 

「“未知のエネルギー”? それってーーー」

 

ドシュンッ! ドシュンッ!

 

ガタッ! ゴトッ!

 

「っ・・・・」

 

理巧の鍛えられた聴覚が、保健室から、“銃声のような音と何かが倒れる音”を捕らえ、トイレを出て、急ぎ足で保健室に戻るとーーー。

 

「霧夜おじさん!」

 

霧夜と養護教諭が倒れており、容態を見ると、気を失っていた。

 

「ダ・ダ~・・・・」

 

「何?!」

 

理巧が顔を上げると、ニット帽に黒いマスクを付けた男が、理巧に拳銃を向けて引き金を引いた。

 

ドシュンッ! ドシュンッ! ドシュンッ! ドシュンッ! ドシュンッ!

 

「くっ!」

 

理巧は光る弾丸を紙一重で回避するが、如何せん狭い保健室ゆえに、あっという間に部屋の隅に追い詰められた。

 

「・・・・・・・・」

 

「ちっ・・・・」

 

男は拳銃を理巧に向けたまま雲雀のベッドの近くに移動する。理巧は何とか隙をつこうと思考を巡らせるが・・・・。

 

「ん、んん?」

 

「っ!」

 

なんと、雲雀が目ボケ眼をこすりながら、カーテンを開けて出てくると、ちょうど不審者の男の目の前に出くわした。

 

「何があった・・・・・・・・の?」

 

「ダァ・・・・」

 

「き、きゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

「っ!」

 

雲雀は思わず手を出すと、胸元が小さく光り、手から炎を放って、不審者の男を燃やした。

 

「(あの胸の光は・・・・?)」

 

「あっ!」

 

不審者の男が炎を包まれると、雲雀は手を引っ込めて、炎を消した。

するとなんと、不審者の男の姿が、明らかに人間の姿ではなかった。

全身がシマウマのような縞につつまれており、顔は釣鐘型で大きく、白黒の顔色で、口は横に大きく結ばれおり、目は赤く発光していた。

 

「人間、いや地球人じゃない・・・・?」

 

『理巧! アイツ、『三面怪人 ダダ』って宇宙人だ!』

 

『ダークゾーン』から顔を出したペガが、不審者が宇宙人である事を話した。

 

『ちぃっ! なんて小娘ダ!!』

 

ダダは懐から光線銃を取りだし、雲雀に向けて放射するとーーー。

 

「きゃあッ!!」

 

「っ!?」

 

なんと、光線を浴びた雲雀の身体が小さくなり、ダダが取り出した大きなカプセルに吸い込まれた。

 

「これは!? ペガ!」

 

『聞いたことがあるよ! ダダは『縮小光線銃』って武器で生物や物体を小さくして、捕獲することができるって!』

 

「物を小さくする銃だと!?」

 

理巧がダダが持ったカプセルが見ると、雲雀が涙目で、「助けて!」と言わんばかりに、カプセル内でガラス面を叩いていた。

 

「ダァ、ダァ~!」

 

すると、ダダは壁をすり抜けて、保健室から脱出した。

 

『理巧! 逃げられるよ!!』

 

「っ」

 

理巧は一瞬、追おうか迷った。

 

「(なんで僕があの子を助ける。あの子は僕となんの関係も無い子だ。どうなろうが僕の知った事じゃない。ここは霧夜おじさんを起こして、他の忍びの子達か、警察に来てもらった方が良いんじゃないか? わざわざ危険を侵すメリットなんて無い。そうだ、他人がどうなろうが、僕には関係が・・・・)」

 

『理巧!』

 

「・・・・・・・」

 

『他人嫌い』の理巧は、雲雀を助ける理由も、義理も無い故に、ここは霧夜を起こそうと考えたが。

 

『ジーっとしてても、何も解決できない! だよ!』

 

「っ!」

 

ペガの言葉に、理巧はハッ! となる。

 

『理巧。こう言う時こそ、『ジード』だよ!!』

 

「『ジード』、ジーっとしてても・・・・」

 

『「ドーにもならないっ!!」』

 

理巧はペガと言葉を重ねると、ダダを追って窓から飛び出して、ダダを追跡した。

 

「サンキューペガ。お陰で目が覚めた」

 

『理巧・・・・!』

 

「そうだよな。ジーっとしてても、ドーにもならないなら、行動するだけだ!!」

 

理巧はパンパンと、自分の頬を張ると、気合いを入れた。

 

 

ちなみに霧夜先生と養護教諭は、理巧がダダを追って保健室を出て2分後、雲雀のお見舞いに来た飛鳥達に看病された。

雲雀がいなくなり、柳生が理巧を追って理巧とは反対方向に走っていき、飛鳥も霧夜先生達を斑鳩と葛城に任せて柳生を追って二人は迷走するのだが、ここでは割愛する。

 

 

 

 

『ダ、ダァ、ダダ・・・・』

 

浅草の路地裏に逃げ込んだダダは、少し息を切らせながら走るが、進行方向の足元に、クナイがアスファルトに突き刺さり、そのクナイに足を取られ、盛大に転んだ。

 

『ダァアッ!!』

 

「おっと!」

 

転んだ拍子に雲雀の入ったカプセルを放り投げ、そのカプセルを追跡してきた理巧がキャッチした。

理巧はカプセル内部を見ると、雲雀が涙混じりに理巧を見上げ、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「よし」

 

『か、返せぇっ!!』

 

「・・・・ふんっ!」

 

ドガガガガガガガガガガっ!

 

『ダダァアアアアアアッッ!!』

 

理巧は襲いくるダダに、上段と中段の連続蹴りを繰り出し、ダダはボロ雑巾のようにボロボロになった。

 

『ダ・・・・ダダ・・・・!』

 

「あらよっと!!」

 

『ダァアアッ!』

 

最後に回転の入った回し蹴りがダダの腹部にめり込み、ダダを蹴り飛ばした。

 

『な、なんておっかないヤツだ・・・・!』

 

ダダはヨレヨレで逃げだし、理巧も雲雀を方を優先したので追わなかった。

 

「お?」

 

理巧の持っていたカプセルが光ると、雲雀が元の大きさでカプセルから出られた。

 

「あっ! 出られたぁ!」

 

「大丈夫かい?」

 

「うん! ・・・・えっと、暁月君で、良いかな?」

 

「ああ。雲雀、さんでいいかな?」

 

理巧がそう言うと、雲雀は首を横に振った。

 

「ううん! 雲雀のことはさんを付けなくて良いよ!」

 

「えっ? でも僕は、1度君を見捨てようと・・・・」

 

「でも暁月君、雲雀を助けに来てくれたんだよね! だったら雲雀にとって暁月君は恩人だよ! だから雲雀って呼んで!」

 

雲雀の純粋な輝きを放つ花の瞳に見られ、理巧も少したじろぎながらも、口を開く。

 

「じゃ、僕の事も、理巧で構わないよ・・・・」

 

「っ! うん! ありがとう! よろしくね理巧君!」

 

「う、うん。よろしく、雲雀、ちゃん・・・・」

 

抱きついて来た雲雀に照れながらも、理巧は雲雀の頭を優しく撫でた。

 

 

 

ー???sideー

 

理巧に叩きのめされたダダは、暗い倉庫の中で痛みに悶えながら隠れていたが、物音が聞こえ、おそるおそると、物影から出てくる。

 

『誰ダ?』

 

ダダが顔を出すと、黒服の男性が現れた。東京タワーから半蔵学院を見ていた男性だ。

 

「『光』に引き寄せられたか。・・・・研究の邪魔は控えてもらおう」

 

『あれは俺が見つけた『光』! 渡さない!!』

 

「無駄だ」

 

『っ!』

 

「『リトルスター』は、“宿主からの分離”が難しい。“分離”するのは、“宿主が祈った時だけ”だ。・・・・ウルトラマンに!」

 

『何ぃっ!』

 

ダダは断言した男性に向けて、縮小光線銃を構え、放射する。

が・・・・。

男性が手を翳すと、縮小光線の光を防いだ。

 

「・・・・・・・・」

 

『っ!?』

 

男性は一瞬で姿を消し、ダダも唖然となるが、男性はダダの背後に現れた。

 

「死ぬが良い!」

 

『ヌグォアアアアッ!!』

 

男性がダダの背後に手を翳すと、ダダの身体から紫色の稲妻が放出され、ダダの身体は粉々に砕け散り、殺害された。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は雲雀の手を取って、雲雀の異常を調べていた。

 

「熱い」

 

すると、雲雀の胸元から、“小さな光”が輝いた。

 

「これは・・・・?」

 

「???」

 

《おそらく、『リトルスター』と分析します》

 

「『リトルスター』?」

 

「えっ? 何々??」

 

装填ナックルからレムの声が響き、理巧は聞き返し、雲雀は突如聞こえた声に戸惑いながら、声が聞こえた理巧のベルトを見た。

 

《あの宇宙人は、彼女の胸の光を求めたと推察します。彼女の発火現象も、『リトルスター』による物と推察します》

 

「・・・・理巧君」

 

「やめろレム。雲雀ちゃんが不安がっている」

 

不安そうに理巧を見つめる雲雀を抱きしめる理巧。レムはそれでも話を続けた。

 

《この『リトルスター』の光が、怪獣を引き寄せます》

 

 

 

ー???sideー

 

ダダを殺害した男性は、“ダダだった肉片”を踏みつけながら、目が赤く、不気味に発光し、ほくそ笑みを浮かべる。

 

「『リトルスターの宿主』を保護したか。この状況、利用させて貰おう!」

 

男性は身体からドス黒いオーラを放ちながら、『ゴモラカプセル』を起動させた。

 

「ゴモラ!」

 

キシァアアアアアアッ!!

 

ゴモラの雄叫びが響き、『ゴモラカプセル』を黒い装填ナックルにカプセルを装填した。

 

「レッドキング!」 

 

ピギャグゥゥゥゥゥッ!!

 

次に『レッドキングカプセル』を起動させて、ナックルに装填し、『ジードライザーに似たライザー』の握り手のスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

そして、ライザーで手に持ったナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが、黄色と赤に発光し、音声が流れる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「ハァアアアアアア・・・・オォアッ!!」

 

ライザーのボタンを押して、中腰になると、ライザーを胸元に持ってきた。

次の瞬間、男性の姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『ゴモラ』と『レッドキング』の姿が現れると、2体は粒子のようになってベリアルの口の中へと吸い込まれた。

そしてベリアルの姿は、ゴモラとレッドキングの姿を組み合わせたような巨大な怪獣、『ベリアル融合獣 スカルゴモラ』へと変身した。

 

『ゴモラ! レッドキング! ウルトラマンベリアル! スカルゴモラ!!』

 

『グワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

『スカルゴモラ』が、雄叫びを上げながら、その姿を現した!

 

 

 

ー理巧sideー

 

「理巧君、あの変な人なんなの? それに・・・・」

 

雲雀が理巧の足元を見ると、理巧の影から顔だけ出していたペガと目があった。

 

『あっ!』

 

「あぁ・・・・何処から説明したら良いか・・・・」

 

ドゴォオオオオンン!!

 

『「「っ!!」」』

 

3人は振動音に目を向けると、『スカルゴモラ』が街を破壊しながらこちらに向かってきた。

 

「あっ、あれ! この間の怪獣!」

 

「『スカルゴモラ』・・・・!」

 

理巧は思わず、装填ナックルに手をかけるがーーー。

 

《フュージョンライズしますか?》

 

「・・・・・・・・しない」

 

理巧は装填ナックルから手を離すと、雲雀の手を取った。

 

「雲雀ちゃん、逃げよう」

 

「理巧君」

 

理巧は雲雀を連れて逃げようとするが、足が動かなかった。

 

「ペガ。足を離してくれ」

 

理巧の足元からペガが現れる。

 

『なにもしてないよ、ペガは』

 

「わっ!」

 

雲雀はペガに驚くが、理巧はお構い無しに声を発する。

 

「じゃ、なぜ足が動かないんだ?」

 

『それは、君の意思だ』

 

「僕の・・・・?」

 

『君はベリアルの子供。でも、君は君だ。鷹丸さん達に育てられた、暁月理巧だ』

 

「あ、あのね・・・・」

 

雲雀も理巧に話しかける。

 

「雲雀ね、よく分からないけどね、理巧君が何を迷っているのか分からないけどね、理巧君が、凄く優しい人だって分かるよ!」

 

「僕が?」

 

「うん! 雲雀と組み手した時、雲雀が火を出して怯えていた時、理巧君が大丈夫だよって言ってくれて、雲雀の頭を撫でてくれて、雲雀、凄く安心したんだよ! 理巧君は、雲雀を助けてくれた。理巧君は凄く優しくて素敵な人だって雲雀は分かってるよ!」

 

『理巧』

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ペガと雲雀に言われ、理巧の目には、“覚悟”が宿った。

理巧は、装填ナックルでレムに連絡する。

 

「レム」

 

《フュージョンライズしますか?》

 

「その前に、雲雀ちゃんを基地に避難させる」

 

《了解しました》

 

レムが返答すると、理巧達の目の前に転送エレベーターが出現した。

 

「わっ! なにこれ!?」

 

驚く雲雀に、理巧は自分のスマホを渡す。

 

「雲雀ちゃん。君はペガと一緒に避難していて、霧夜先生達の連絡先は僕のスマホに有るから、とりあえず僕と君は一緒に避難していると伝えて」

 

「理巧君は?」

 

「大丈夫だよ。僕を信じて」

 

理巧はそう言うと、雲雀の頭を撫でた。

 

「お願いするよ。雲雀ちゃん」

 

「・・・・うん!」

 

「うん。ペガ、雲雀ちゃんを頼む」

 

『任せて!』

 

ペガは『ダークゾーン』から出ると、転送エレベーターに乗り込み、雲雀に手を差し出す。

 

『雲雀ちゃん。手を』

 

「う、うん」

 

雲雀は戸惑うが、ペガの手を取って、エレベーターに乗り込み、エレベーターの扉が閉まり始める。

 

「理巧君・・・・!」

 

「(コクン)」

 

理巧は静かに頷くと、エレベーターの扉が閉まり、エレベーターは地下に沈んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧が後ろに目をやると、『スカルゴモラ』が迫ってきた。

 

ピギャグワァアアアアアア!!

 

「さて、行くか!」

 

理巧は、『スカルゴモラ』に向かって走った。

新たに覚悟を決めて。

 



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決めたぜ、覚悟!

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします!

~戦闘BGM『GEEDの証』~


ー雲雀sideー

 

「うわぁ~! なにここ!? まるでSF映画みたい!!」

 

地下エレベーターの中で霧夜先生に連絡を終えた雲雀は、ペガと一緒にエレベーターから降りると、秘密基地内部を見渡していた。

 

『レム。理巧の状況は?』

 

『モニターに表示します』

 

レムは空中ディスプレイを表示すると、スカルゴモラが街を破壊しながら歩く姿と、街の市民の避難状況と、地殻状況が表示されていた。

 

「わっ! あの怪獣がいる!」

 

『あの怪獣の個体名は、『スカルゴモラ』です』

 

「えっ?! 誰?!」

 

『私は、この基地の管理システムであるレムです』

 

「へぇ~」

 

『あっ! 理巧だ!』

 

「えっ!」

 

ディスプレイの1つに、スカルゴモラに向かう理巧の姿が映された。

 

 

 

ー理巧sideー

 

懐からジードライザーを取り出した理巧は、まっすぐにスカルゴモラを見据える。

 

「・・・・ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

理巧は、カプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シャアッ!

 

カプセルから青い光の線が幾つもの放たれ、『初代ウルトラマン』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

すぐに『ウルトラマンベリアル』のカプセルを取り出し起動させ、『ウルトラマンベリアル』の姿が出現した。

 

ウエェェッ!

 

『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く!

 

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

ウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、理巧は2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変えた!

 

『シャァッ!!』

 

光と闇の螺旋の中から、『ウルトラマンジード プリミティブ』となって、飛び出した!

 

 

ー雲雀sideー

 

「ふ、ふぇええええ~~!! り、理巧君が、あの目が怖い巨人さんだったの!?」

 

『うん、そうだよ。あれは、ジード・・・・ウルトラマンジードだよ!』

 

「ウルトラマン、ジード・・・・?」

 

驚く雲雀に、ペガが詳しく説明した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「斑鳩さん! 葛姐ぇ!」

 

雲雀と理巧を探していた飛鳥と柳生は、連絡を受けて半蔵学院に戻り、霧夜先生と養護教諭(気絶中)に肩を貸していた斑鳩と葛城と合流した。

 

「飛鳥さん! 柳生さん!」

 

「二人とも無事か!?」

 

「雲雀は何処だ!!?」

 

柳生が二人に詰め寄ると、霧夜先生がヨロヨロと顔を上げた。

 

「だ、大丈夫だ、さっき雲雀が、理巧の携帯で連絡してきてな、理巧が雲雀を助けてな、今二人も避難している・・・・」

 

「霧夜先生! 大丈夫ですか・・・・?」

 

「不覚だった・・・・いきなりやって来た黒服の男が養護の先生を人質に取ってな、俺が動けないと悟ると拳銃で撃たれて、このザマだ・・・・」

 

ピギャグワァアアアアアア!!

 

『っ!!』

 

五人が目を向けると、スカルゴモラがこちらに半蔵学院に向かって来ていた。

 

「くっ。もうここまで・・・・!」

 

「どうすれば、どうすれば良いの・・・・!」

 

斑鳩と飛鳥が歯噛みし、葛城と柳生も渋面を作る。

 

「っ、なんだ!?」

 

『えっ?』

 

自分を置いて逃げろと言おうとした霧夜先生は、空から光が差した事に気付き、飛鳥達も空を見上げるとーーー。

 

『シュワッ!』

 

『ウルトラマンジード プリミティブ』が着地し、アスファルトを砕いて地面におり、立ち上がる姿を見た。

 

「あの巨人、この前の・・・・!」

 

飛鳥は、先日見た巨人の出現に驚き、霧夜先生達も(養護教諭は気絶中)、巨人を見据えていた。

 

 

ー理巧sideー

 

『ピギャグワァアアアアアア!!』

 

『(行くぞ!)』

 

ジードはカギ爪のように手を広げ、跳び上がるとスカルゴモラの顔面に膝蹴りを浴びせる。

 

『ピギャグワァア!』

 

スカルゴモラは体制を少し崩すと、ジードは肘打ち、回し蹴り、腹部にジャブを繰り出し攻め立てる。

 

『ピギャグゥゥッ!!』

 

『シュッ!』

 

スカルゴモラは口を広げてジードに噛みつこうとするが、ジードは口を押さえた。

 

『グワァッ!』

 

『ウワッ!』

 

ジードの手を払ったスカルゴモラは、手を降って攻撃しようとするが、ジードは手を回避し、カウンターでストレートパンチを繰り出し、スカルゴモラの脳天にダブルスレッジハンマーで叩きつけた。

 

『ギャアッ! ピギャァアアアアッ!!』

 

反撃にスカルゴモラは、身体の上体を下げて、太い尻尾で振り回して、攻撃しようとする。

 

『ハッ!』

 

ジードは反転してそれを回避し、距離を空けると、スカルゴモラの身体の中央の紫色のカラータイマーを赤く発光させると、その光がスカルゴモラの上げた右足に収束され、スカルゴモラは右足を地面に叩きつけた。

するとなんと、地面から赤く燃える岩石が幾つも出現し、ジード目掛けて飛んでいった。

スカルゴモラの技、『ショッキングヘルボール』だ。

 

『ハッ!』

 

ジードは両手で円を作ると、その円が黒いオーラの障壁となって岩石を防いだ。

が、障壁に当たった岩石は弾かれ、街を破壊してしまった。

 

『(チッ!)』

 

破壊される街を見ながらジードは舌打ちをするが、障壁を解除すると、障壁に弾かれた時に生じた爆煙からスカルゴモラが頭部の赤い角を突き出しながら突進してきた。

 

『ピギャグワァアアアアアア!!』

 

『ダァアッ!!』

 

スカルゴモラのパワーに押されたジードは後方に倒れ、後ろのビルを破壊してしまった。

 

『ウワァアアアアアアッッ!!』

 

 

ー雲雀sideー

 

「あぁっ! 理巧君が!」

 

『理巧!』

 

雲雀とペガが倒れたジードを心配するが、スカルゴモラはなんと、半蔵学院に向かっていった。

 

《スカルゴモラは半蔵学院へと向かっていっています》

 

「えっ?! 私達の学校に!?」

 

 

ー理巧sideー

 

起き上がろうとするジード、しかし胸のカラータイマーが点滅を始め、力が抜ける感覚で上手く起き上がれなかった。

そんなジードに、レムからの通信が入った。

 

《理巧。怪獣は半蔵学院に向かっています。貴方への追撃より、移動を選択したようです》

 

『(なに? さっき現れた時、ヤツは雲雀ちゃんに向かって来たような感じだった。『リトルスター』の光が、怪獣を引き寄せるなら・・・・まさか!)』

 

『リトルスター』は、雲雀だけではないと推察する理巧に、レムがさらに連絡する。

 

《学院内にまだ、霧夜教諭、飛鳥、柳生、葛城、斑鳩も確認されました》

 

『(霧夜おじさんが! それに、あの飛鳥って子も・・・・)』

 

《理巧君!》

 

『(雲雀ちゃん・・・・?)』

 

レムの通信に、雲雀の声が響いた。

 

《お願い理巧君! みんなを、みんなを助けて!!》

 

『(っ!)』

 

雲雀の声で気合いが入ったのか、ジードは起き上がると、スカルゴモラに向かって跳び上がり、スカルゴモラの前に立ち塞がった。

 

『ハァッ!』

 

『ピギャァッ!!』

 

ジードは片手でスカルゴモラの下顎を持ち上げて、もう片方の手でスカルゴモラの腹に掌低を叩きつけると、そのまま押し出した。

 

『ピギャグワァアアアアアア!!』

 

『グゥッ! ウォアッ!!』

 

純粋な力比べではスカルゴモラの方が上のようで、ジードは徐々に押され出すが、ジードは腰を低くし、足を踏ん張らせ、スカルゴモラの進撃を食い止めようとした。

 

『ピギャァアアアアアア!!』

 

『アァアアアッ!!』

 

ジードの肩にスカルゴモラがかぶり付いたが、ジードは怯まずスカルゴモラを押し出そうとした。

 

 

ー飛鳥sideー

 

そしてちょうど飛鳥達の目の前では、スカルゴモラに立ち塞がったジードの背中が見えていた。

 

「あの巨人、私達を守ろうとしてくれているのかな・・・・?」

 

「何言ってんだよ飛鳥?」

 

「それは楽観的ではないですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

「いや、俺にもそう思える・・・・」

 

葛城と斑鳩、口には出さないが柳生も、ジードを訝しそうに睨むが、霧夜先生も、飛鳥に同意だった。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

「理巧君・・・・! がんばって!!!」

 

雲雀が祈るように手を組んで、ジードの勝利を願った。

すると、雲雀の胸元の『リトルスター』が光出す。まるで共にジードの勝利を祈るように。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『ピギャグワァアアアアアア!!』

 

スカルゴモラは、両手でジードの腕を押さえると、背中から放電を起こし、頭部の大きな角が赤く発光し始め、口から燃えるような炎を吐き出そうとしていた。

必殺技、『インフェルノ・マグマ』を放つ体制だ。

 

《理巧君・・・・! がんばって!!!》

 

『ッ! ハアァアアアアアアッ!!』

 

雲雀の声に反応したジードは、瞳を目映く光らせると、全身を発光させながら、赤黒い稲妻状の光子エネルギーをほとばらせる!

 

『ハァアアアアアアアッ! 『レッキングバースト』ォオオオオオオッ!!!』

 

スカルゴモラが口から炎を放つ寸前、ジードはスカルゴモラの下顎を持ち上げて、スカルゴモラは『インフェルノ・マグマ』を上空に放たせた。

『インフェルノ・マグマ』を放ち終えると、ジードは空かさず後ろに倒れると、両手に光子エネルギーがチャージされ、両腕を十字に組んで『レッキングバースト』を放った!

 

『ダァアアアアアアアアアアッ!!』

 

赤黒いプラズマを纏わせた青い必殺光線が、スカルゴモラの身体を貫いた!

 

チュドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

スカルゴモラの身体は大爆散した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「や、やったぁっ!!」

 

「ああっ・・・・!」

 

「「「・・・・・・・・」」」 

 

飛鳥と霧夜先生は、ジードの勝利に喜ぶが、斑鳩と葛城と柳生は、ジードをジッと見据えていた。しかし、その瞳に敵意は無く、飛鳥の言うとおり、本当に自分達を守ってくれたのかと疑問の色を混じらせて。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

「やったやったやったぁ!!」

 

『やったね!!』

 

雲雀がペガと手を取り合って、ピョンピョンとはしゃいでいると、雲雀の胸元の光が強く輝いた。

 

『あっ、雲雀! 『リトルスター』が!』

 

「えっ?」

 

雲雀が自分の胸元を見ると、『リトルスター』の光が雲雀から離れ、基地の天井をすり抜けた。

 

 

ー理巧sideー

 

『ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・!』

 

ジードが起き上がると、地面から小さな光が現れて、ジードのカプセルの形のカラータイマーに吸い込まれた。

 

「これは?」

 

理巧は青い細胞組織が蠢くような空間、インナースペースの中に現れた光を見据えると、レムからの通信が入った。

 

《お疲れ様でした、理巧。それは雲雀から離れた『リトルスター』です》

 

「これが?」

 

光は理巧の腰のカプセル入れに入り、理巧は1つのカプセルを取り出すと、今まで何も描かれていなかったカプセルに、真紅の身体に、頭部が横に広がったウルトラマンが描かれていた。

 

イヤァアッ!!

 

《『ウルトラマンレオカプセル』が、手に入りました》

 

「これが、新しい力・・・・」

 

ジードは飛鳥達の方を見ると、斑鳩達は警戒していたが、飛鳥と霧夜が笑顔を浮かべているのを確認すると頷き。

 

『シュワァッ!!』

 

空の彼方に飛んでいった。

 

 

 

ー???sideー

 

黒服の男性が、煙を上げながら地面に落ちている『レッドキングカプセル』と『ゴモラカプセル』を回収していた。

 

「オーバーヒートか。・・・・だが目的は達した。必要なカプセルは、まだまだ必要だな」

 

男性はジードの飛び去った方向を睨んで、不気味に笑みを浮かべる。

 

 

 

ー理巧sideー

 

あれから、基地から戻ってきた雲雀に目一杯抱きつかれ(ペガは雲雀の影に隠れていた)、雲雀に手を引かれて、飛鳥達に合流した理巧と雲雀。

二人が手を繋いでいる姿を見て、飛鳥が「ガーン」となったり、雲雀に抱きついた柳生が繋がれていた二人の手をほどき、理巧に殺意の視線を向けたり、それを見て葛城がニヨニヨと笑みを浮かべ、斑鳩が半眼で呆れ、霧夜先生は理巧に友達ができた事を喜んでいた。

 

「(半蔵学院はまた休校になったが、しばらくしたらまた再開するらしい。『リトルスター』である『ウルトラカプセル』が離れた事で、雲雀ちゃんの発火現象は無くなり、雲雀ちゃんは僕がジードである事、ペガとレム、秘密基地の事を黙ってくれる事を約束してくれた。しかし、その見返りで・・・・)」

 

秘密基地の中央でレムが見せる空中ディスプレイのデータを見ていた理巧は、不意にソファーが置かれたスペースを見るとーーー。

 

「やったぁ! 今度は雲雀の勝ちだよ!」

 

『うぅっ! これで4勝5敗だぁ~!』

 

「もう一回やるペガ君?」

 

『勿論だよ!』

 

いつの間にかペガは、雲雀が持ち込んだゲームで雲雀とゲーム勝負していた。空中ディスプレイに表示されたゲームでは、雲雀の操るカートと、ペガの操るカートがレースを始めようとしていた。

ちなみに、雲雀は他に大きめの本棚を持ち込み、雲雀の部屋に入りきらなくなった漫画やライトノベルやゲームを置いていた。壊す、汚さないなら好きに使っていいと言われている。

とりあえず理巧は二人から目を離して、レムに話しかける。

 

「レム。『リトルスター』に関する情報をもっと教えてくれ」

 

『お答えできません』

 

「何故だ?」

 

『あれ以上の情報へのアクセスは、“開発者権限”により禁止されており、プロテクトされています』

 

「開発者、か・・・・」

 

理巧は『ウルトラマンレオカプセル』を取り出し、ペガとゲームをしている雲雀を見据える。

 

「(ウルトラマンレオ。格闘能力に優れた炎の闘志をもつウルトラ戦士か、レムの分析では雲雀ちゃんの光が作用して、。カプセルは起動したのか)」

 

「理巧君! 一緒にゲームやろう!」

 

「ゴメン。これからちょっと買い物をしてくるよ。雲雀ちゃんは欲しいものある?」

 

「あっ! じゃ雲雀はお菓子!」

 

『ペガも!』

 

「はいはい」

 

理巧はエレベーターに乗り込んで、地上に戻った。

 

 

 

 

 

理巧は先ほど、鷹丸に現状報告の電話をしたら、ついでにお気に入りの作家の新刊を買ってきて欲しいと頼まれ、理巧は雲雀とのお菓子を買い終えて、その新刊、『星空のアンビエント』を買って、また基地に戻ろうと歩いていると・・・・。

杖を持った背広の男性とすれ違った。

 

「っ、あの・・・・」

 

理巧はその男性をひき止めた。その男性が、今さっき買った小説の作家であったからだ。

 

「その、“家族”がファンなんです。サインして頂けますか? “伏井出ケイ先生”・・・・」

 

「・・・・構わないよ」

 

その男性、伏井出ケイはにこやかな笑みを浮かべると、懐から万年筆を取り出し、小説の後ろのページにサインを書いた。

 

「その“家族”と言った人は、君にとって大切なのかな?」

 

「は、はい。とっても大切な人達です。・・・・多分、地球上の誰よりも・・・・」

 

「そうですか。これで良いかい?」

 

「は、はい・・・・っっ!!」

 

その時、伏井出ケイ先生から小説を受け取り、彼の目を見た瞬間、理巧は全身に悪寒が凄まじい勢いで走った。

 

「・・・・・・・・」

 

「どうしたんだい?」

 

「い、いえ・・・・あ、ありがとう、ございます・・・・」

 

理巧は伏井出ケイ先生に礼をすると、足早と去っていった。

理巧自身、なぜそうするのか分からなかった。だが、彼の全身が、逃げろと警鐘を激しく鳴らしていたのだ。

 

「(早くここから離れろ・・・・! ここから逃げろ・・・・!)」

 

理巧はまるで伏井出ケイ先生から逃げるように離れていき、伏井出ケイは、理巧の背中を眺めながら冷徹な笑みを浮かべる。

 

ピリリリリっ!

 

「おっと」

 

伏井出ケイは携帯が鳴ったので画面に表示された名前を見ると、電話に出た。

 

「もしもし。・・・・そうですか、怪獣騒動でまた計画は延期ですか。いえこちらは構いませんよ。ですが、“彼女達”が先走らないように気を付けねばなりませんね。・・・・ええ、ええ、それではまた。“道元さん”・・・・」

 

電話を切った伏井出ケイ先生の顔には、冷酷な笑みを浮かべていた。




第2章終了。次はあのウルトラマンが登場!
そしてヒロインは、柳生です!


ー次回予告ー

突如現れたウルトラマンに似た強敵、『ダークロプスゼロ』。
そしてそれを追うように現れたウルトラ戦士。彼に任せれば、僕はジードにならないで済むと思ったが、雲雀ちゃんは猛反対。
そして『ダークロプスゼロ』に対抗するために、柳生さんと模擬試合をやることに。なんでこの子は僕を目の敵にしているんだ?
仕方ない、新たなカプセルでフュージョンライズを試してみるかな。

次回、『閃乱ジード』

【ティーチャーゼロ】

燃やすぜ、勇気っ!


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ティーチャーゼロ
現れたぜ、ゼロ!


第三章スタート。

ヒロインは柳生。


~宇宙空間~

 

理巧達のいる地球近くの宙域の空間にトンネルのような『穴』が開くと、そこから一人のウルトラマンが現れた。

顔から胸まで銀色のプロテクターが覆っていき、残る腕と胸から下の赤と青と銀のハイブリッドカラーの体色。頭には二本の刃を付けたウルトラマン。

 

『無限の可能性を秘めたウルトラ戦士』ーーー『ウルトラマンゼロ』だ。

 

ウルトラマンゼロは、かつて平行世界の銀河で帝国を作り、カイザーとして君臨していたベリアルとの戦いで、『ウルトラマンノア』から授けられた白銀の鎧・『ウルティメイトイージス』で時空を越え、あらゆる平行世界に赴く事ができる。

 

『ぐっ! ああ・・・・っ!』

 

だが、実は別の平行世界では『クライシス・インパクト』から、それほどの時が流れてはおらず、ゼロも『ウルティメイトイージス』も、まだ『クライシス・インパクト』の時の戦闘の傷が完治していなかった。

『ウルティメイトイージス』は鎧からゼロの左手首に装着されたブレスレットに戻り、故障したのか火花が散っていた。

 

『ありがとよ、ウルティメイトイージス。調子が戻ったらその内直してやるからな・・・・』

 

ゼロの脳裏に、“この銀河では十数年前に起きた『クライシス・インパクト』”の情景が浮かんだ。

 

 

* * *

 

 

ウルトラマンゼロの不倶戴天の宿敵、ウルトラマンベリアルがこの平行世界の地球で猛威を奮っていた。

ゼロと父である『ウルトラセブン』。

セブンの弟子でゼロの師匠である『ウルトラマンレオ』と弟の『アストラ』。

光の国の筆頭教官『ウルトラマンタロウ』。

同じく光の国の教官『ウルトラマン80<エイティ>』。

そして光の国のウルトラ戦士候補生達(カラータイマーを持っていない)が燃え盛る炎に包まれた地球の街でベリアルの戦っていた。

他のウルトラ戦士達は、ベリアルの直属の配下である『ダークネスファイブ』と交戦しており、この宇宙の地球に来られなかった。

 

【『超時空消滅弾』、起動!】

 

【なにっ!?】

 

【ハァッ!!】

 

ベリアルが金棒状の武器・『ギガバトルナイザー』を天に突き出すと、巨大な爆弾、『超時空消滅弾』を召喚した。

 

【フハハハハハハハハハハハハハハ! 精々足掻くが良い! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!】

 

そう言ってベリアルは、燃え盛る炎の中に消えた。

ようやく駆けつけた他のウルトラ戦士達に救出されたゼロ達は、成す術もなく地球から脱出すると、地球がひび割れて爆散する姿を見る事しか出来なかった。

 

【何とかしないと!】

 

【行くな!・・・・この宇宙は、もうもたない・・・・!】

 

【親父・・・・そんな・・・・!】

 

そしてゼロ達の目の前で、地球は砕け散り、そこから生まれた時空断層に、宇宙全体を消滅しかけた。

 

 

* * *

 

 

ゼロは光の国・M78星雲のウルトラ戦士達にとって、最大の屈辱的敗北の事件である『クライシス・インパクト』の時に爆裂した筈の地球に目を向けて呟く。

 

『この平行宇宙では、あれから少し時間が経ったみてぇだ・・・・。“キングのジーさん”、久しぶりだな。俺の声が聞こえているか?』

 

 

 

ー霧夜sideー

 

そして今、逃げ惑う人達の波から、近くビルの壁に映し出されたニュース速報が放送されていた。

 

《現在台東区で巨人同士の戦闘が行われています! 皆さん、慌てず、速やかに避難してください》

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ニュースから放送を聞き流しながら、半蔵学院忍び兼教諭・霧夜先生は、眼前に繰り広げられる巨人達の戦いを見据えていた。

 

『シャァッ!』

 

『ーーー』

 

片方は、最近現れる怪獣達と戦っている『クライシス・インパクトの元凶』とされている、ウルトラマンベリアルに似た巨人、『ウルトラマンジード』。

そのジードと相対しているのは、ブロンズと黒の体色、赤いゴーグルの中心にある単眼の目をし、胸にはカラータイマーを付けた、頭には二つの刃を付けたウルトラマンに良く似た巨人、『ダークロプスゼロ』だった。

 

『シャアっ!』

 

『ーーー!』

 

ジードがダークロプスゼロの拳が顔に当たるギリギリでかわし、カウンターでダークロプスゼロのプロテクターに拳を叩きつけるが・・・・。

 

『グゥッ!(痛って。なんて硬い身体だ・・・・!)』

 

『ーーー!』

 

あまりの防御力に後ろに下がるジード、ダークロプスゼロがジードに向かって、人差し指を立てて、クイックイッと動かし、かかってこいと挑発する。

 

『(見え透いた挑発だが・・・・)シャアっ!』

 

ジードが蹴りを繰り出すと、ダークロプスゼロは足を上げて防ぎ、ジードが拳を繰り出すとその拳を払う。

 

『(っ! こっちの動きが読まれ始めたか・・・・!)』

 

対峙して分かったが、ダークロプスゼロは格闘能力に優れているとジードも見抜き、一気に片をつけないとこっちの動きを完全に読まれて不利になると理解した。

 

『ーーー!』

 

『クッ! ウワアッ!』

 

ダークロプスゼロが蹴りを放つが、ジードは腕を交差して防ぐが、蹴りの威力に押し飛ばされ、体制を崩す。

 

『ーーー!』

 

ダークロプスゼロは体制が崩れたジードの一瞬の隙を見逃さず、ゴーグルが赤く発光し、ゴーグルから発射される破壊光線・『ダークロプスメイザー』を放った。

 

『(しまった!)グワァアアアアアアアアッ!!!』

 

ジードは『ダークロプスメイザー』をマトモに浴びてしまい、仰向けに盛大に倒れ、アスファルトを砕いて巻き散らかした。

 

ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!

 

カラータイマーが赤く点滅し、タイムリミットを告げる警告音が鳴り響いた。

 

『ーーー!』

 

ダークロプスゼロは、頭の二本の刃・『ダークロプスゼロスラッガー』を持ってジードにとどめを刺そうと構えようとした、次の瞬間ーーーーーー。

 

『デャッ!』

 

ダークロプスゼロの後ろに、ダークロプスゼロと似た姿をした巨人が空から着地した。

 

『(なんだ?)』

 

ダークロプスゼロと違い、身体は赤と青と銀のハイブリッドカラーをしたウルトラ戦士、ウルトラマンゼロだ。

 

『っーーー!』

 

ダークロプスゼロは、ウルトラマンゼロに向き直り。ゼロもヨロヨロと立ち上がりながら、かつて戦った強敵、ダークロプスゼロを睨む。

 

『なんでテメェがいる・・・・! ベリアルは生きているのかっ!?』

 

『ーーー!』

 

『シュッ!』

 

ダークロプスゼロは『ダークロプスゼロスラッガー』を構えてゼロに切りかかるが、ゼロはその攻撃を防ぎ、かわし、カウンターで回し蹴りを浴びせた。

 

『シュアッ!』

 

『ーーー!』

 

ダークロプスゼロは、右腕をグッと腰に構え、左腕を横に伸ばしてL字のに構えて放つ紫色の必殺光線・『ダークロプスゼロショット』を放つが・・・・。

 

『シッ! 『ワイドゼロショット』っ!!』

 

ゼロも同じ構えからエメラルドグリーンの『ワイドゼロショット』を放ち、両者の必殺光線がぶつかり合い、一瞬拮抗するが、すぐにゼロの『ワイドゼロショット』が押して、ダークロプスゼロに当たった。

 

『ーーー!』

 

ダークロプスゼロは戦況が不利と思ったのか、ゼロに背中を見せて空高く飛び去っていった。

 

『アッ、グゥッ! いつもなら余裕なんだが・・・・!』

 

追いかけたくても、本調子でないゼロは追撃を諦めた。

 

『クッ! ウゥッ!』

 

『おい、大丈夫か・・・・?』

 

すると、ジードが顔をうつむかせながら起き上がろうとしており、ゼロが近づこうとする。

 

『ウッ、ああ・・・・』

 

『ッ!?? その目は・・・・!』

 

顔を上げたジードの顔を見て、ゼロは戦慄する。何故なら、ジードのその目は、ゼロの『永遠にして宿命のライバル』、ウルトラマンベリアルと同じだったからだ。

 

『ベリアル・・・・! いや・・・・』

 

『っ! ア、アンタは、知っているのか? ベリアル、を・・・・うっ・・・・!』

 

だが、立ち上がろうとするジードは、タイムリミットが来たのか、後ろに倒れるようにその姿を水色と紫の光に包まれ、消えた。

 

『あっ、おい待てっ!』

 

ゼロはジードが倒れた先を見ると、緋色の髪と瞳をした少年・暁月理巧が倒れていた。

 

『お前が、今のウルトラマンなのか?』

 

「・・・・・・・・」

 

「理巧君っ!」

 

『理巧っ! 大丈夫?!』

 

起き上がろうとする理巧に、雲雀とペガに手を貸されて起き上がった。

 

『・・・・仲間がいるのか?』

 

ゼロは、地球人の雲雀とペガッサ星人のペガに目を向ける。

 

『ね! 行こう!』

 

「あぁ・・・・雲雀ちゃん」

 

「う、うん・・・・!」

 

理巧達は急いでその場所を離れた。

 

『・・・・・・・・』

 

ゼロは理巧達を見据えると不意に、ビキビキッ!と建物が崩れる音が響き、そこに目を向けると、ゼロの左右にある二つのビルが崩れた。

 

『っ!』

 

 

 

ー霧夜sideー

 

霧夜先生は、自分がいる場所の近くのビルの一部が崩れ、少し大きめの破片が、避難しようとしていた黒の長髪に、天辺がパイナップルのように髪を結わえた小学生位の少女の頭上に落ちていく姿を捉えた。

 

「危ないっ!」

 

「きゃっ!」

 

忍びである霧夜は、その健脚で少女に近づき、突き飛ばすが・・・・。

 

ガシャァアンッ!

 

霧夜の回避が僅かに遅れ、霧夜は破片に押し潰されてしまった。

 

 

ー???sideー

 

そしてもう1つのビルでも、1人の少女の上に二メートル位の大きさの破片が落ちてきた。

 

「っ!!」

 

少女は咄嗟に破片に向けて手を伸ばすと、“少女の手から障壁が現れて破片を防いだ”。

 

「?!」

 

少女は自分の手を見て愕然となるが、少女が破片から離れようとすると“障壁”も動き破片から離れた。

 

「・・・・・・・・」

 

その少女は、“眼帯に隠されていない方の目”で、自分の手を呆然と見つめていた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

《データベースを参照しました。後から現れた巨人の名前は『ウルトラマンゼロ』。ベリアルと敵対するウルトラの星の戦士で、ベリアルの永遠のライバルとも呼ばれています》

 

レムからの報告を、ソファーに座っている雲雀に膝枕してもらいながら横になり、氷袋を額に当てていた理巧と、ソファー近くで座っていたペガが聞いていた。

 

「ベリアルの永遠のライバルなんだね、あのウルトラマンさん」

 

「ウルトラの戦士って事は、僕を捕まえに来たのか・・・・?」

 

「えっ? なんで?」

 

「ベリアルの息子だから、かな?」

 

「でも、理巧君はベリアルって悪いウルトラマンさんとは違うよ」

 

「でも、ウルトラマンゼロがそう思ってくれるかな?」

 

雲雀も理巧がウルトラマンベリアルと、“遺伝子上の親子”である事は聞いていたが、ペガと同じように、「理巧君は理巧君!」と言って気にしなかった。

 

『あっ、あれは? ウルトラマンゼロに似てる。親戚かな?』

 

話を変えようと、ペガが交戦していた巨人の方をレムに聞く。

 

《『ダークロプスゼロ』。かつて、ゼロを模して造られた、ロボット兵器です》

 

「通りで硬いと思った」

 

「どうするの理巧君? あのウルトラマンさんのコピーのロボットなら、凄く強い筈だよ?」

 

雲雀が少し不安そうに、膝枕した理巧を見下ろそうとする。が、80センチのCカップが邪魔で見辛そうであった。

 

「・・・・・・・・見方を変えればさ。これからはあのウルトラマンゼロってヤツが戦ってくれるから、僕がジードにならなくて済むって事だよね?」

 

「えぇっ!? 理巧君、もうジードにはならないのっ!?」

 

「元々ジードには成り行きで変身して戦っていたようなものだからね」

 

「そんなの駄目だよ! 理巧君が今まで戦ってきたのに、途中で投げ出すなんて!」

 

ウルトラマンに興味が無い理巧は、これ幸いとゼロに任せる気だったが、雲雀は理巧、ジードをヒーローと思っているのようで、理巧がジードをやめようとするのを反対する。

 

「ま、あのダークロプスゼロってヤツは格闘能力もさることながら、技もかなり多彩のようだ。今のままじゃ、どうする事もできないから、とりあえず寝る」

 

「ムゥ~!」

 

『ヤレヤレ・・・・』

 

ダークロプスゼロとジードの戦闘力は互角。だがあの頑強な装甲を破るパワーが無いジードでは勝てないと、理巧は早々に理解し、そのまま眠ってしまった。

雲雀は眠る理巧の顔を頬をプゥッと膨らませ、ペガは理巧の様子に肩をすくませるが、すぐに内職に取りかかった。

 

 

ー霧夜sideー

 

病院に担ぎ込まれた霧夜は、生死の境をさ迷っていた。周りでは医師や看護師達がストレッチャーに横たわる霧夜に呼び掛けていた。

すぐに手術室に入れられ、医師達が準備を進めて霧夜から離れると、横たわる霧夜の上に、“光”が現れ、ウルトラマンゼロの姿となった。姿は緑色のオーラに包まれた半透明状態、地球上で3分しか活動できないウルトラマンの少エネルギー状態だ。

 

『見てたぞ。アンタは自分の身を犠牲にして女の子を助けた。このまま死なせるのは惜しいオッサンだ。ちょうど俺も本調子じゃねえからな。少しの間、アンタの身体に居させて貰うぜ』

 

そう言って、ゼロの姿は霧夜の身体に重なるように倒れ、霧夜と一体になった。

 

「ん? んん??」

 

手術を始めようと準備していた医師達は、突然目を覚まして起き上がった霧夜を見て、騒然となった。

 

「不味い!」

 

忍びとして目立つのは良くないと思った霧夜は、すぐに手術室を抜け出して、病院から立ち去った。

 

「とりあえず鷹丸達に連絡を・・・・ん?」

 

病院から離れた霧夜は、“理巧の育ての親達”に連絡しようと懐をまさぐると、見覚えの無い物を取り出した。

曲線的で赤、青、銀のカラーリングがされ、額部分にはビームランプと思われるパーツがあるゴーグルのようなデザインの『ウルトラゼロアイNEO』。

 

「こんな妙な物を、持っていたか?」

 

≪妙な物ってなんだよ。それは俺にとって大事な物なんだぜ≫

 

「っ!」

 

突然頭に響いた声に霧夜は周囲を見渡すが、誰もいなかった。

 

「誰だ・・・・」

 

≪誰だとはご挨拶だなオッサン。一応アンタの命の恩人なんだぜ、俺はよ≫

 

「っ、まさか、俺の中から聞こえるのか?」

 

周囲に誰もいなく、耳ではなく頭に響いている声に、霧夜は戸惑いがちに口を開くと、声の主、ウルトラマンゼロは感心したような声を上げた。

 

≪結構勘が良いな、俺はゼロ。ウルトラマンゼロだ。瀕死の重症だったアンタを助ける為に、身体を一体化させたんだ。ついでに俺も、前の戦いで深いダメージを負っちまってな、まだ治っていない。アンタの身体に入らなければ、俺はこの惑星で長時間の活動ができないんだ。あぁだからそのつまり、お互いにウィンウィンの関係で、今はアンタの身体を借りている≫

 

ゼロの説明を聞いて、霧夜は一瞬戸惑うが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「・・・・お前は、先ほどの巨人の一体か?」

 

≪ああ。途中で見慣れないウルトラマンと、ダークロプスゼロの戦いに参戦したのが俺だ≫

 

「・・・・ウルトラマンゼロ。ウワサに聞いたウルトラマンベリアルの永遠のライバルか?」

 

≪まぁな。・・・・ん? ウワサに聞いたって、おいオッサン≫

 

「オッサンではない。俺の名は霧夜だ」

 

≪んじゃ霧夜さんよ。なんでアンタは、“ウルトラマンを知っている?”≫

 

会話の中にあった不可解な単語に、ゼロは声を上げる。この平行世界の地球は、まだ異星人と交流が盛んに行われている訳でもないし、当然ウルトラマンの存在も知らない筈、なのに何故この男性はウルトラマンの事を知っていたのか。

 

「フッ、合縁奇縁とはまさにこの事だな。ゼロ。これからお前を、“ある組織”に合わせる」

 

≪“ある組織”?≫

 

「そうだ。おそらくお前がこの地球で活動する為にも、協力を仰いでおいて損は無い筈だ」

 

≪(ひょっとしたら俺は、運良く協力者を得たのかも知れねぇな)・・・・分かった、霧夜さんよ≫

 

「霧夜で良い。お互いこれからは持ちつ持たれずの関係だからな」

 

≪分かったぜ“霧夜”。それで、その“組織”の名称は?≫

 

「『クライシス・インパクト』後の宇宙の治安維持の為に結成された宇宙人による連合組織、その名も、『AIB』だ」

 




はい、ゼロ登場。ゼロと一体となった霧夜先生。中の人的に霧夜先生が適任と思いました。


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やるぜ、修行

~半蔵学院・忍び教室~

 

「ムグムグ、な~んかここんとこ、怪獣騒動が多くないか?」

 

「そうですね。おかげで忍務も学校も何度休校になったことか」

 

「モグモグ、聞いた話だけど、もう半蔵学院の生徒の一・二割の生徒が家を無くして転校したようだよ」

 

自習や訓練の為に忍び教室に集まっていた葛城、斑鳩、飛鳥は、飛鳥が持ってきた『じっちゃんの太巻き』を頬張りながら、このところ頻発している怪獣騒動の話をしていた。

 

「柳生ちゃんはどう思う?」

 

飛鳥がみんなから少し離れた位置で腰かけている柳生に話しかけるがーーーー。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

太巻きを頬張る柳生の顔はいつもの通りのクールな貌だったが、その全身からは不機嫌なオーラを放ち、近寄りがたい雰囲気になっていた。

 

「柳生のやつ、ここのところスッゲェ不機嫌だよな・・・・?」

 

「普段から愛想の無いところがあったクールな性格でしたが・・・・」

 

「ここ数日話しかけづらい感じだよね・・・・」

 

「まあ原因は分かりきっているけどな。アタイは面白いけど♪」

 

「悪趣味ですよ葛城さん・・・・」

 

飛鳥達も柳生の様子に困りながらひそひそ話をしていた。葛城だけは面白半分だったが。

そして、忍び教室の壁が回転し、そこから絶賛柳生を不機嫌にさせ、飛鳥が気が気でない様子で見つめ、葛城の密かな楽しみで斑鳩の頭痛の要因となっている二人が入ってきた。

 

「理巧君! ほら早く!」

 

「はいはい」

 

雲雀に腕を引っ張られながら、理巧が登校するのを見ると、柳生の目付きが鋭くなり、飛鳥が何か言いたげな顔となり、葛城はまるで昼ドラを楽しむようにニヤニヤと笑みを作り、斑鳩はまた騒動が起きそうだと言わんばかりに小さくため息をついた。

 

「あっ! みんなおはよう!」

 

「おはようございます・・・・」

 

元気いっぱいに挨拶する雲雀と違って、理巧はダウナーな気持ちで挨拶した。完全に対照的な二人だ。

 

「お、おはよう雲雀ちゃん・・・・。さ、最近、りっく、理巧くんと、よく一緒にいるね?」

 

「うん! 雲雀と理巧君はお友達なの! ね!」

 

「うん、まぁ・・・・」

 

「そ、そうなんだ・・・・」

 

飛鳥としては、初恋の人が友人の女の子と仲良く一緒にいることに複雑な感情があるのだが、理巧も雲雀もその事に気づいていなかった。

 

「あっ! それ飛鳥ちゃんのおじいちゃんの太巻きだね!」

 

「う、うん。雲雀ちゃんと理巧くんも食べる?」

 

「うん! 理巧くんも」

 

「あ、うん」

 

理巧も床に座って太巻きを頬張った。

 

「(あれ? この太巻き、どこかで食べたような・・・・)」

 

「理巧君、美味しい?」

 

「・・・・まあ悪くないな」

 

「美味しいって飛鳥ちゃん!」

 

「う、うん。じいちゃんの太巻きだからね・・・・!」

 

理巧の感想をにこやかに飛鳥に伝える雲雀。しかし飛鳥は理巧と雲雀の仲睦まじい雰囲気に複雑そうな笑みを浮かべ、そんな雲雀の様子を見て、柳生の不機嫌なオーラがさらに出ていた。

 

「(お~お~。これはこれはおもしろい展開だなぁ♪)」

 

「(く、空気が重い・・・・!)」

 

葛城はワクワクと状況を面白がるが、斑鳩は空気の重圧におののいていた。

 

「そ、そう言えば! 暁月くんと雲雀さんも、このところ頻発に起こっている怪獣騒動をどう思いますか?」

 

耐えかねて斑鳩がさっきの怪獣騒動の話に戻そうとした。

が・・・・。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「あら?」

 

理巧は普段通りだが、雲雀の纏う雰囲気が少しムッとなっているように感じた。

 

「まぁ迷惑ですよね。今までのバイトが無くなるし、せっかく面接まで行ったバイト先が破壊されて無くなるし、おかげで無職&無収入になっちゃいましたよ」

 

「バイトの事しか言ってないぞ?」

 

「高校生なのだから、無収入はともかく無職ではないでしょう」

 

「あ、後ついでに何度も学校が休校になりますし」

 

「学校の事はついでなんだね・・・・」

 

ウンザリしたように答える理巧に、葛城と斑鳩と飛鳥がヤンワリとツッコミを入れる。

 

「むぅ~~~~~~っ!!」

 

「雲雀・・・・?」

 

柳生は、何故か理巧をジッと見つめて、頬を膨らませている雲雀に首を傾げていた。

 

ドロンッ!

 

すると、小さく煙が上がり、そこから忍び教室の担任、霧夜先生が現れた。

 

「みんな、自習なのに登校するとは感心だな」

 

『おはようございます!』

 

「霧夜先生、じっちゃんの太巻きですが、一緒に食べませんか?」

 

「ああ、いただこう」

 

飛鳥達が挨拶し、霧夜先生も飛鳥に進められ、『じいちゃんの太巻き』を頬張ろうとする、が・・・・。

 

「・・・・っっ??!!」

 

霧夜先生は突然身体をビクッ! と強ばらせると、バッ!と、理巧を見つめ、次に雲雀の方を見た。

 

「霧夜先生・・・・?」

 

「どうしました?」

 

「い、いや、すまない・・・・」

 

しどろもどろで理巧から視線を外す霧夜先生だが、その目には驚きと戸惑いが混じっており、改めて太巻きを頬張り、少し黙ると、理巧に顔を向けて話しかける。

 

「理巧、最近怪獣による騒動が起こると巨人が現れるが、お前はヤツをどう思う?」

 

「・・・・・・・・別に、興味有りませんね。ただ怪獣が現れるからあの巨人が現れるようですから、怪獣が出てこなくなれば巨人も出てこなくなると思いますよ」

 

「そう、か・・・・」

 

「ムゥ~~!」

 

巨人、ウルトラマンジード本人である筈なのに、自分は無関係と云わんばかりの態度の理巧に、霧夜先生は戸惑いがちに頷き、頬を膨らませる雲雀。

 

「でも、あの巨人が私達を守ってくれたよ」

 

飛鳥はジードを擁護するように口を開くが、葛城と斑鳩、そして柳生は、飛鳥に同意しかねるような顔色だった。

霧夜先生が意を決した様子で、理巧に話しかける。

 

「理巧。これから格闘訓練をやるが、お前も参加してもらうぞ。前回<雲雀との組手>はアクシデントで中断になったからな」

 

「・・・・分かりました」

 

ウルトラマンにも、忍者にも興味皆無の理巧は、嫌々ながらも承諾した。

 

「んで、誰が組手の相手をするんですか? また雲雀ちゃんですか?」

 

「あっ・・・・! 柳生ちゃん!」

 

「ん?」

 

「柳生ちゃん! 理巧くんの組手相手をしてくれないかな?」

 

「・・・・やる」

 

『えっ?!』

 

雲雀に頼まれ、すぐさま柳生は立ち上がり、理巧の前に仁王立ちした。

 

「暁月。俺と組手をしろ」

 

「・・・・・・・・霧夜先生」

 

「(柳生と組手か。・・・・前から二人の組手を見たかったし、ちょうどいいかもな) 良いだろう。理巧、柳生と組手をしろ」

 

「はぁ・・・・了解」

 

ため息は吐いた理巧は渋々と立ち上がり、霧夜先生と雲雀も立ち、飛鳥と斑鳩と葛城も立って、道場に向かった。

その際、霧夜先生はコッソリと呟く。

 

「(ゼロ、本当なのか? 理巧が、“あのウルトラマンベリアルに良く似たウルトラマンだ”ってのは?)」

 

『(ああ、間違いない。あの時、あのウルトラマンが倒れた先で、あの少年が倒れていた。それにその時あの雲雀って女の子も一緒にいたんだ)』

 

「(と言うことは、雲雀も理巧がウルトラマンだって知っていると言うことなのか・・・・)」

 

霧夜先生は、現在自分と同化している『ウルトラマンゼロ』からウルトラマンジードの正体を知らされ、どうやら雲雀もジードの正体が理巧であると知っており、ジードの仲間であると教えられた。

そうこうしている内に道場に到着し、理巧と柳生は服装を運動着に着替えて、向き合っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・あのさ。なんで君、僕に殺気を放っているの?」

 

柳生は凄まじい殺気を放ちながら理巧を冷徹に睨み、理巧も柳生の殺気には以前から気づいており、いい加減鬱陶しく感じたので訊いてみると、柳生はボソッと呟く。

 

「お前、雲雀とどういう関係だ?」

 

「どういうって、まあ、一応・・・・友達、かな?」

 

「そのわりには、よく雲雀と一緒に下校したり、二人きりで何処かに雲隠れしたりしているな?」

 

実は雲雀が秘密基地の事を知ってから、雲雀はよく理巧と一緒に下校して、その度に基地に行っていた。

そして柳生は二人の事をここ数日尾行しようとするが、毎度見失ってしまうのだ。

 

「へぇ~、最近僕と雲雀ちゃんを尾行しているヤツがいるなぁと思ってたけど、君だったんだね」

 

「(っコイツ、俺の尾行に気づいていたのか?!)」

 

柳生は理巧に対する警戒心を高めた。

そして対峙する二人から離れた位置で見ている飛鳥達は。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

「柳生だろ」

 

「柳生さんですね」

 

「柳生、ちゃんかな?」

 

「みんな柳生ちゃんが勝つと思うんだね・・・・」

 

間髪いれずに柳生の勝利を断言する仲間達に、飛鳥は苦笑いを浮かべるが、飛鳥自身も柳生が勝つと思っていた。

 

「当然だろ? 聞いたところ、あの暁月ってヤツ、段位も何にもないド素人じゃねぇか」

 

「こう言ってはなんですが、柳生さんは間違いなく“天才”です。ド素人の暁月さんが敵うとはとても思いません」

 

「雲雀ちゃんは、どうして理巧くんの組手に柳生ちゃんに頼んだの?」

 

「うん、理巧くんって、忍びに興味が無いから、柳生ちゃんと組手をすれば忍びに興味を持ってくれるかなって思ったの」

 

飛鳥達は柳生が勝利する事を確信しており、理巧が倒されて怪我しないか心配していた。

 

『(霧夜。アイツとあの柳生って子を戦わせる理由はなんだ?)』

 

「(理巧はああ見えて、“全国のくノ一達の憧れのお姉様達である三人の忍び”から師事を受けているからな。天才と呼ばれている柳生との戦い方を見れば、実力を知ることができるし、ゼロ、お前も理巧の戦いを見て、アイツの人となりを見定めて見たらどうだ?)」

 

『(なるほどな。戦い方を見ればソイツの人となりを知ることができるって事だな)』

 

「(そう言うことだ)」

 

ゼロとの話を終えた霧夜先生は、理巧と柳生の間に立つ。

 

「それじゃ組手を始めるぞ。理巧。面倒だからと手を抜こうとするなよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

目を背ける理巧に向けて、霧夜先生は理巧に向けてアイコンタクトをする。

 

「(理巧。マジメにやらないと、鷹丸達に報告するぞ?)」

 

「(っ! 霧夜おじさん・・・・! それちょっとズルいですよ・・・・!)」

 

「(何がズルいだ。鷹丸達からも、お前の学校生活がどうなっているのか聞かれているんだよ)」

 

「(えっ?)」

 

「(一応雲雀って友達ができたって伝えたら、それはもう嬉しそう喜んでいたぞ。だがこのままマジメに修行をしなければ、アイツらに報告しなければならないぞ? 鷹丸をガッカリさせたいのか? ハルカがまた心配するぞ? ナリカもきっと悲しむぞ? スバルを失望させたいのか?)」

 

「(ぐぅ・・・・・・・・!)」

 

霧夜先生は理巧に“やる気”を出させるために意地の悪い問答をした。理巧にとって鷹丸達を心配させるのは絶対に拒否する事だ。

柳生とマジメに組手をするか、鷹丸達を悲しませるか、理巧にとって、どちらがイヤなのかは火を見るよりも明らかだった。

 

「(マジメにやらせていただきます・・・・!)」

 

「(よろしい)」

 

霧夜先生は理巧が承諾するのを確認すると、片手を上げて、組手の開始を告げようとする。

 

「それでは、いざ尋常に、始めっっ!!」

 

ビュンッ!

 

ヒュンッ!

 

霧夜先生が勢い良く振り下ろすと、柳生と理巧は一瞬で飛んでぶつかり合った!

 

 

 

ー???sideー

 

黒い服を着た男性は、複数個も持った『ダークロプスゼロカプセル』の握り、ほくそ笑みを浮かべる。

 

「『ダークロプスゼロ』。“あのお方”がお造りになられたウルトラマンゼロを模して創られたロボット戦士。かつては自らの科学力を過信した愚かなサロメ星人達が、身の程知らずに利用しようとした超兵器。これで新たな実験を始めましょうか・・・・!」

 

その男性は口元に歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・嘘?」

 

飛鳥達は信じられないものを見たように唖然となっていた。

 

「ほぉ、まさかここまでとは・・・・」

 

『(なかなかやるな、アイツ・・・・)』

 

霧夜先生もゼロも驚嘆したようなため息を吐き出した。

 

一同の視線の先にはーーーーーー。

 

「くっ・・・・! かはっ! ま、まさか・・・・! こんな・・・・! ぐっ! うぅっ・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

息も絶え絶えの状態で、うつ伏せに倒れる汗まみれの柳生と、その柳生を見下ろしながら、息1つも乱れておらず、汗も流れていない理巧だった。




次回、柳生との対話イベントです。


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本気を見せるぜ、柳生さん

それは意外過ぎる展開だった。

忍び名『柳生』。一年生ながら、忍び段位は先輩である飛鳥よりも高く、技の多彩さは半蔵学園・忍び科では最も優れ、クールな性格をした『天才』だった。

その柳生と相対するのは、一週間前に編入してきた唯一の男子、暁月理巧。忍びの授業はまったくと言っていいほどやる気が無く。常に求人誌を読んでおり、不真面目と言っていいほどの男子である。

その二人が格闘の模擬稽古を始めたのだ。当然、それを見ていた飛鳥と雲雀と斑鳩と葛城は理巧が柳生にボコボコに叩きのめされる姿を想像していたのだが・・・・。

 

「くっ・・・・! うぅっ・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

目の前で倒れているのは柳生、そしてその柳生を見下ろすように平然と立っている理巧だった。

 

「え? え?? 何があったの?」

 

「柳生ちゃんが、倒れているの?」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

飛鳥と雲雀は状況が良く理解できず、葛城と斑鳩も唖然となっていた。

 

「・・・・霧夜先生」

 

「なんだ?」

 

「終わりでいいですか?」

 

「ま、待てっ! まだだっ!」

 

理巧は倒れた柳生を一瞥してから、霧夜先生に模擬稽古を終えて良いのか聞くが、柳生が立ち上がり構えた。

 

「理巧。柳生がまだやる気のようだから、続けるぞ」

 

「・・・・はい」

 

理巧はめんどくさそうに頭を掻きながら、再び柳生を向かい合う。

 

「ハァッ!!」

 

シュンっ!

 

柳生が理巧に向かって飛びかかった。が、一瞬で理巧の目の前から消えた。

 

「っ」

 

理巧はチラリと目を向けると、柳生が自分の死角から拳を繰り出していた。がーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

「くっ!?」

 

柳生の繰り出した拳を、理巧はソッとそらすと、がら空きはなった横腹部に掌底打ちを叩き込んだ。

 

「ぐあっ!!」

 

掌底打ちを叩き込まれた柳生は再び床に倒れた。

 

「柳生ちゃん!」

 

「またこれか・・・・」

 

「先ほどから柳生さんの攻撃は全ていなされ、わずかに空いた隙間に針を通すように掌底打ちを叩き込まれていますね」

 

「理巧君、凄い・・・・!」

 

飛鳥達は柳生の苦戦と、理巧の実力に驚いていた。

そして、理巧の戦闘を見ている霧夜とゼロも。

 

「(どうだゼロ? 理巧の実力は??)」

 

≪才能はある。としか言いようがねぇが、あれじゃダークロプスゼロには敵わないな≫

 

「(お前もそう思うか・・・・)」

 

≪あぁ。あの戦い方ならダークロプスゼロの攻撃を受け流し、反撃する事はできるが、ダークロプスゼロの固い装甲をブチ破る事はできない≫

 

霧夜とゼロは、理巧の戦い方では、多彩な技と格闘能力をもったダークロプスゼロと“渡り合う”事はできるが、あくまで“渡り合う”ところであり、ダークロプスゼロの防御力を粉砕し、破壊する事はできないと瞬時に理解した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は考え込んでいるように自分の拳を見つめていた。

 

「(ペガ君、理巧君は何してるのかな?)」

 

飛鳥達に聞こえないように雲雀はコッソリと、理巧の影から自分の影に移動していたペガに話しかける。

 

『(多分だけど、ダークロプスゼロとの再戦に向けて、どうすればあのもの凄く強いダークロプスゼロと戦えるか、柳生って子との模擬稽古で考えているんじゃないのかな?)』

 

「(え? 理巧君、ウルトラマンに興味なかったんじゃないの?)」

 

『(ん~。理巧って、負けっぱなしで終わるつもりないからね)』

 

雲雀は再び理巧と柳生に目を戻すと、柳生がまた立ち上がり、理巧に向かうが、今度は理巧は攻撃を回避したり、いなすだけで反撃しようとしなかった。

 

「お前! 舐めているのかっ!? 反撃しろっ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

柳生は、普段の彼女からは想像できないほど声を荒げて理巧に怒鳴る。

暁月理巧は、柳生にとってどうでもいい存在だった。興味も持たないそこらのモブの1人のような認識だった。しかし、彼は編入初日で雲雀となにやら仲睦まじい雰囲気だった。柳生は理巧と一緒にいる時、時折見せる雲雀の顔が気になっていた。

まるでそう、LIKEでは無くLOVEの感情の異性と一緒にいる乙女のような表情だった。

あんな乙女な表情をする雲雀を柳生はとても気に入らなかった。

雲雀から手合せを頼まれた時は、少し痛い目に合わせてやろうと軽い気持ちでやればこの体たらく。

理巧はほとんど攻撃せず、柳生が攻撃を受け流してのカウンター戦法ばかりで来ていた。完全に舐められていると柳生は感じていた。

 

「(技の多彩さ、スピードに動き、ダークロプスゼロに近いものがあるけど、これじゃヤツを倒す事はできないな)」

 

理巧は柳生からの攻撃を受け流しながら、頭の中では柳生をダークロプスゼロに置き換えて、ヤツとの戦闘シミュレーションをしていたが。カウンター戦法は柳生が生身の人間だから効果的で、鋼鉄の身体をした堅牢な防御力のダークロプスゼロにこの戦法は通じないと思考していた。

 

「(これ以上戦っても意味無いな。さっさと終わらせよう) っ!」

 

「っ!!?」

 

理巧がキッ! と目を鋭くした瞬間、柳生は言い様のない迫力を感じて、思わず後ずさろうとしたが。

 

「・・・・」

 

「なっ!?」

 

「速いっっ!!?」

 

後ずさった柳生に、理巧が一瞬で肉薄した。あまりの速さに、柳生どころか、スピードは半蔵学院で最速とも言われている斑鳩ですら、追えないほどのスピードに、柳生だけでなく、斑鳩も驚愕した。

 

「くぅっ!」

 

「っ!」

 

理巧は柳生の両足、両肩、両腕に掌底打ちを打ち込み、最後に腹部に両手による掌底打ちを叩き込んだ。

 

「ぐあっ!!」

 

衝撃で吹き飛んだ柳生は床に倒れる。

 

「フゥ~~・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「(ハルカ達め、アイツを過保護に育ててたのに、随分鍛えたようだな・・・・)」

 

≪スバルはともかく、ハルカとナリカもアイツを鍛えたのか?≫

 

「(ああ。10年前、世に災いをもたらした妖異集団をたった3人で全滅させた、『伝説のくノ一の三忍』とも呼ばれた3人。その3人が親身になって鍛え上げたのがあの、暁月理巧だ)」

 

≪霧夜、お前はアイツの事を知っているんだよな? どんなヤツなんだ?≫

 

「(そうだな。用心深く、他人を簡単には信じず、いつくか手札を備えて、それを簡単に見せず、切り札から奥の手まで隠すタイプだな。およそ忍びに向いている気質を備えたヤツだよ。正直飛鳥と雲雀は、簡単に他人を信じてしまうのが難点だがな・・・・)」

 

だが、そんな雲雀だから、他人嫌いの理巧が警戒を解いたとも言えるがな、と、霧夜先生は雲雀を見ながらそう思った。

 

「あっ、柳生ちゃん!」

 

雲雀がそう言って、霧夜先生とゼロも再び柳生に視線を戻すと、ヨロヨロと立ち上がる柳生の姿をとらえた。

 

「ハァハァハァハァハァ・・・・!」

 

「もうやめなよ。軽くだけど両手足に掌底を叩き込んだ。しばらくは動けないよ」

 

「ま、まだだ!!」

 

忠告する理巧の言葉を聞かず、柳生は構えた。

 

「・・・・・・・・」

 

「お、お前が俺より、強い事は、十分に分かった。だ、だが、簡単に、負けるわけには、いかないっ!」

 

「・・・・・・・・」

 

「柳生ちゃん・・・・」

 

理巧と雲雀も、立ち上がる柳生を見つめる。

 

「柳生ちゃん、どうして・・・・?」

 

「もう勝負は着いているでしょうに・・・・」

 

「そんなに暁月に雲雀を取られたのが妬ましいのかねぇ?」

 

飛鳥も斑鳩も葛城も、もう勝敗は火を見るよりも明らかな状況なのに、立ち上がる柳生に止めようと動こうとするが・・・・。

 

「イヤ、柳生はそんな理由で理巧に挑んでないな」

 

「どういう事ですか霧夜先生?」

 

霧夜先生の言葉に、雲雀達は首を傾げる。霧夜先生は柳生を指差す。

 

「見ろ柳生のあの顔を」

 

指差す方を見ると、息も絶え絶え状態の柳生。葛城は息が弾んでいる柳生の身体が揺れて、柳生の85のEカップがユサユサと揺れるのを見て、顔をにやつかせていた。

 

「ハァハァハァハァハァハァ・・・・!」

 

「柳生ちゃん・・・・笑ってる?」

 

そう、雲雀が指摘した通り、柳生のその口元には笑みが浮かんでいた。今まで『天才』と呼ばれ、勝ってきた柳生にとって、自分が敵わないな相手が目の前にいることが、純粋に嬉しかったからだ。しかしーーー。

 

「(妙な気分だ、コイツ本当に強い・・・・! だが、コイツは俺を、見ていない・・・・!)」

 

柳生は理巧の実力認めた。

おそらく自分が全力でぶつかっても理巧には勝てない。だが、目の前の理巧は柳生を見ていない。理巧は柳生を通して、ダークロプスゼロとの再戦を見ている。それを柳生は、拳を合わせることで直感していた。もちろん柳生は理巧がウルトラマンジードである事も、ダークロプスゼロの事も知らない。

だが柳生は、理巧が“目の前の柳生を見ていない”。

 

「お、俺を見ろ! 暁月理巧っ!!」

 

「・・・・??」

 

「い、今お前の目の前にいるのは、俺だ! お前が誰を見ているのか知らないが、今は、俺を見ろっ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・!」

 

柳生に怒鳴られ、理巧は少し考えるように俯かせると、無言になって、一瞬で柳生に肉薄し、始めて攻勢に出て拳を振るった。

 

「しっ!」

 

「くぅっ!」

 

『柳生(ちゃん)っ!!』

 

「≪っ!≫」

 

理巧の拳が柳生の腹部を捉え、拳が柳生に腹部に当たる。

しかしその瞬間ーーー。

 

「っっ!!」

 

「(っ! あれはっ!!)」

 

なんと!柳生の胸元からちいさな光が輝くと、柳生が思わず出した手から、亀甲形の障壁が展開され、理巧の拳を防いだ。

 

ガンっ!!

 

「ぐうぅぅっ!!」

 

理巧は柳生から距離を空けると、拳を開いて痛みを払うかのようにヒラヒラと動かした。

 

「(今彼女の胸元が光った。まさか彼女も・・・・!)」

 

「(またこの力か・・・・!)」

 

前回、ダークロプスゼロが暴れた際、崩れたビルの大きな瓦礫が落ちたとき、不覚にも逃げ遅れた柳生に突如この能力が現れて、瓦礫を防いだ。

柳生自身、この能力の事を分かっていない。偶発的だが、また発動した能力で、目の前の理巧を負かすつもりだ。

 

「さて、どうしたものか・・・・」

 

理巧は熟考しながら、柳生の障壁をブチ破る手段を考え、ふとスバルとの修行を思い出していた。

 

【良いか理巧。自分の攻撃力や武器の破壊力を上回る防御力を持った相手が現れた時、お前はどうする?】

 

【・・・・・・・・動きで翻弄する?】

 

【まあ確かにそれも手段の1つだが、攻略にはならないな】

 

【ではどうすれば?】

 

【相手の防御力を打ち砕くまで攻撃する】

 

【それってただ闇雲に攻撃するって事では?】

 

【いや、腰や身体の捻りや足の踏ん張りなどで攻撃力を高めるといった方法は幾らでもある。だが、何よりも攻勢に出るにあたって必要なのは・・・・】

 

【・・・・必要なのは?】

 

【相手に恐れず、己を力を信じる、『勇気』だ】

 

理巧はそこで思考の海から戻り、拳を握り、静かに歩を進める。

 

「・・・・・・・・僕の本気、見せるよ?」

 

理巧は拳を強く握り絞め、柳生の障壁に向かって歩く。

 

「・・・・・・・・あぁ、望むところだ」

 

障壁を張った柳生は、理巧の攻撃を防ごうと、障壁を張る手に力を込める。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

飛鳥達も、柳生が突如張った障壁に驚いたが、すぐに二人の戦闘を黙って見守っていた。

 

『「・・・・・・・・・・・・」』

 

雲雀とペガも、柳生が『リトルスターの宿主』と分かって驚愕していたが、飛鳥達同様に、二人を見守っていた。

それは、霧夜先生とゼロもそうだった。

 

「・・・・フゥ~」

 

理巧が柳生の障壁を見据えると、呼吸を整え、中腰になり、拳に力を込めるように構える。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

沈黙が稽古場を包み込む。そしてふと、誰かの喉を鳴らす音が響いた。

 

ゴクッ・・・・。

 

「っっ!」

 

理巧は柳生の障壁に向けて、拳を放った。

 

ガンっ!! ギギギギギギギギギギギギ・・・・!!

 

「うぉあっ!!!」

 

ビキッ! ビキビキビキビキビキビキビキビキっ!!

 

拳を叩きつけた理巧は腰、腕、身体全体に捻りを付けて力を込めると障壁に皹が走りーーー。

 

バカーーーーーーーーーーーーーンンッ!!!

 

「っ!」

 

理巧の拳が柳生の障壁をブチ破り、柳生の胸元に勢いが無くなった理巧の拳が当たった。

 

「・・・・・・・・フッ。僕の勝ち、だね?」

 

「・・・・・・・・ハハッ。俺の、負け、か・・・・」

 

体力の限界が来たのか、力無く仰向けに倒れる柳生。

 

「おっと」

 

が、寸前で理巧が柳生を抱き抱えた。

 

「・・・・結構楽しめたよ。えっと、柳生、さん」

 

「・・・・あぁ、俺も楽しめぞ。暁月」

 

柳生は満足そうな笑みを浮かべて、瞼を閉じて、眠った。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

柳生が目を覚ますと、保健室のベッドで横になっていた。

 

「ん? 起きた?」

 

ベッドの傍らでは、拳に包帯を巻いた理巧がパイプ椅子に座っていた。

 

「お前か・・・・」

 

「ちょっと聞きたい事があってさ」

 

「聞きたい事?」

 

「何で柳生さんは、俺に敵意を向けてきたの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧の質問に、柳生はバツが悪そうにするが、小さく口を開いた。

 

「俺は、暁月、お前に嫉妬していたんだ・・・・」

 

それから柳生は淡々と話した。

交通事故で亡くなったたった1人の妹、『望』とよく似ている雲雀の事を気にかけていた。

しかし、暁月と一緒にいる時の雲雀がとても幸せそうな笑顔を浮かべていたから、理巧に敵意を向けていた事を。

 

「そうか。それで僕に敵意を・・・・なんか分かるなその気持ち」

 

「??」

 

「僕ね。実は8歳まで孤児だったんだ」

 

「何?」

 

「暁月理巧って名前は、今僕を育ててくれている人達が名付けてくれたんだ。僕はそれまで、マトモに言葉も喋れなかったし、学もなくてね、ただ戦闘技能だけしかない感情もまったく無い、つまらないお人形のような子供だったさ」

 

「・・・・・・・・」

 

「でもそんな僕をその人達は、人間にしてくれた、家族だって言ってくれた、だから僕はあの人達が大切だし、あの人達に迷惑をかけたくないって思っているんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

柳生は理巧の話を黙って聞いていた。

 

「僕はあの人達が大切で大好きだ。だから、雲雀ちゃんと仲良くしている僕に敵意を向ける柳生さんの気持ち、少しは分かるつもりだよ」

 

「(ドキッ!)///////」

 

不意に見せた理巧の憂いを帯びた笑みに、柳生は、ドキッ!っと、胸の鼓動がときめいた。

 

「(な、なんだこの鼓動は!?)//////」

 

ドキドキと理巧を見ると早鐘のように弾む鼓動に、柳生は理巧に顔を背ける。

 

「ん? どうしたの柳生さん?」

 

「う、うるさいっ! こっちを見るなっ!/////」

 

柳生は赤くなった顔を隠すように、両手で枕を持って理巧を叩いた。

 

「なんなの一体?」

 

柳生の行動に理巧は呆れながらも、柳生の枕攻撃から回避し、雲雀がやって来るまで、柳生は暴れていた。

 

 

 

ー???sideー

 

『ダークロプスゼロの怪獣カプセル』を持った黒服の男は、ビルの屋上から、離れた場所にある半蔵学院を見据えていた。

 

「さて、次の実験と行きますか」

 

『ダークロプスゼロ』

 

『ダークロプスゼロ』

 

『ダークロプスゼロ』

 

『ダークロプスゼロ』

 

『ダークロプスゼロ』

 

男は、装填ナックルに『ダークロプスゼロカプセル』を次々と入れて、ジードライザーで読み込み、起動させた。




次回、新たなジードの姿が現れる!


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燃える勇気 ソリッドバーニング

ついに第2形態登場。


ー霧夜sideー

 

半蔵学院が放課後を迎え、一般の生徒達は下校し、飛鳥と葛城と斑鳩は、先ほどの理巧と柳生の手合わせを見て、自主練に励むため地下道場に居残り、理巧と柳生と雲雀が下校した。

それを見送った霧夜は教室を出て屋上に立ち、街の景色をながめていると、ゼロが話しかけた。

 

≪この星に、“破壊の痕”はもうすっかり見あたらないな・・・・≫

 

「“破壊”・・・・『クライシス・インパクト』の事か?」

 

≪ああ。この宇宙はかつて、崩壊寸前の状態まで追い込まれた。それを救ったのが、『ウルトラマンキング』のじーさんだ。この宇宙は、お前の身体と一緒で、もう一息で死ぬところだった。俺達ウルトラマンは、身体を一体化させることで、相手の傷を癒すことができる。しかし宇宙はデカ過ぎた。宇宙の崩壊は免れたが、キングのじーさんは、宇宙全体に拡散し、呼び掛けても返事がない≫

 

「俺達の宇宙は、『ウルトラマンキング』のお陰で存続できているのは知ってはいた。だが、『クライシス・インパクト』の影響は、この16年の間に色々起きたがな・・・・」

 

≪鷹丸達が学生時代に活躍した。『ノロイ事変』ってのがその1つなんだな?≫

 

理巧の育ての親達、戦部鷹丸とその奥方、ハルカ、ナリカ、スバルの3人が『伝説のくノ一』と呼ばれるようになった事件であった。

 

「ああ。それで、『クライシス・インパクト』の元凶である『ウルトラマンベリアル』はどうしたんだ?」

 

≪ヤツがどこにいるのか、俺にも分からない。だが、あの戦いはまだ終わっていない。『クライシス・インパクト』の戦いのドサクサで、『光の国』で開発された『強力なアイテム』が、何者かに盗まれて行方不明だ≫

 

「お前はその盗人を探しに、この宇宙に来たって言ってたな。それで、その『アイテム』ってのは?」

 

≪『ウルトラマンヒカリ』が開発した、戦況を覆しうる究極の力、無限の可能性、それは、『ウルトラカプセル』だ・・・・≫

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・それで、何で柳生さんも僕達についてくるの?」

 

「オレは雲雀に誘われただけだ」

 

学校を終えて下校する理巧は、雲雀の他に柳生と一緒に下校していた。柳生は理巧と雲雀の間に入るように歩いていた。ちなみにペガは一足先に基地に帰らせていた。

 

「(・・・・柳生さんも『リトルスターの宿主』だし、このまま秘密基地に連れていって『リトルスター』の事を調べて見るのも良いかもな)」

 

「(理巧君と柳生ちゃんが仲良くしてくれないかなぁ?)」

 

「(どうなっているんだオレは? 雲雀が隣にいて嬉しい。だが、暁月が近くにいて鼓動が激しくなっている上に、顔も何故か熱くなっている・・・・?)/////」

 

柳生は自分でも訳が分からないと言わんばかりに、自分の胸の鼓動に戸惑う。

と、町を歩く3人の周囲が、突如真っ暗になった。

 

「ん?」

 

「え?」

 

「あれ?」

 

3人が空を見上げるとそこにはーーーーーー。

 

『ーーーーーー』

 

ブロンズと黒の体色をし、頭には二つの刃を付けたウルトラマンに良く似た巨人、『ダークロプスゼロ』だった。

 

「「「うっそ~・・・・」」」

 

『ーーー!!』

 

ダークロプスゼロは理巧達の近くのビルを破壊すると、破片が理巧達に向かって飛んできた。

 

「「「っっ!!」」」

 

だが、理巧も普通の一般人から、かけ離れた身体能力を持ち、雲雀と柳生は曲がりなりにも忍び。一瞬でその場を離れると、建物の屋上に逃げ、他の建物の屋上に飛び移りながらダークロプスゼロから逃げた。

 

「アイツはこの前の巨人か! 何でこんな所にっ!?」

 

柳生が逃げながら後方から迫るダークロプスゼロを睨んでそう言った。理巧と雲雀は柳生に聞かれるのを構わず、話を始めた。

 

「理巧君! ダークロプスゼロの目的って!」

 

「ああ! おそらく柳生さんの中の『リトルスター』だろうね」

 

「っ!?」

 

柳生は理巧と雲雀の話を聞いて驚愕したように目を見開いた。

 

「どういう事だ? あの巨人の目的がオレと言うのは!? それに『リトルスター』とはなんだ!?」

 

雲雀と目配せした理巧は、柳生に向けて口を開いた。

 

「簡単に言うとね。柳生さんが出したあの障壁を生み出す力の原因だ。あの巨人、ダークロプスゼロのような怪獣は、その胸の光を狙ってやってくんだ」

 

柳生は、理巧の言葉に驚き、その瞬間、輝きだした自分の胸元を見た。

 

「この光が、怪獣を呼び寄せるのか・・・・!」

 

「大丈夫だよ柳生ちゃん!」

 

「雲雀・・・・」

 

「あんな悪い巨人さんなんて、理巧君が倒してくれるから!」

 

「えっ!?」

 

「理巧君っ!」

 

雲雀が理巧に向かって、声を発すると、理巧は頷き、ジードライザーを取り出した。

 

「・・・・ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

理巧は、カプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シャアッ!

 

カプセルから青い光の線が幾つもの放たれ、『初代ウルトラマン』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

すぐに『ウルトラマンベリアル』のカプセルを取り出し起動させ、『ウルトラマンベリアル』の姿が出現した。

 

ウエェェッ!

 

『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く!

 

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

ウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、理巧は2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変えた!

 

『シャァッ!!』

 

光と闇の螺旋の中から、『ウルトラマンジード プリミティブ』となって、飛び出した!

 

『シャッ!!』

 

飛び出したジードは、ダークロプスゼロの前に立ちはだかる。

 

 

ー柳生sideー

 

「なっ!? あ、暁月が、あの巨人だったのかっ!!?」

 

「そうだよ! 理巧君は、雲雀達を守ってくれるヒーロー、ウルトラマンジードだよっ!!」

 

「ウルトラマン、ジード・・・・!」

 

柳生は、自分達を守るようにダークロプスゼロの前に立つジードの背中を静かに見つめていた。

その時、柳生の胸元の『リトルスター』が淡く輝く。

 

 

ージードsideー

 

『(さて、リベンジといくかっ!)』

 

ジードはダークロプスゼロに接近すると、掌底打ちをダークロプスゼロの腹部に叩き込んだ!

 

『ーーー!』

 

ダークロプスゼロは、ジードの攻撃に後方に押し飛ばされた!

 

『シャッ! ヤァッ! ツァッ!!』

 

『ーーー!!!』

 

ジードは接近して掌底打ちを次々とダークロプスゼロに叩き込むと、ダークロプスゼロは内部の機械が不具合を起こしたのか、以外にダメージを受けて、徐々に動きにぎこちなさが現れた。

 

 

ー???sideー

 

「まさかこの短期間で、ダークロプスゼロと渡り合えるくらいになるとは・・・・!」

 

ジードの戦いを見ていた黒服の男は、ジードの成長を忌々しそうに睨むと、空の上に待機させていた“ヤツら”に命じる。

 

「ダークロプスゼロ達よ! エンドマークを打ってこいっ!!」

 

 

ージードsideー

 

『(こっちの手がイカれそうだが、これならなんとか・・・・)「バチっ!」グァアッ!?』

 

やはり装甲が固いせいか、手にダメージを受けているが、ダークロプスゼロは自分以上にダメージを受けていた。

『レッキングバースト』で決めようかと考えていたジードの背中に、鋭い痛みが走り、振り向くとそこにはーーー。

 

『ーーーーーー』

 

『ーーーーーー』

 

『ーーーーーー』

 

『ーーーーーー』

 

『(ダークロプスゼロだとっ!?)』

 

何と、今相対しているダークロプスゼロと同じ個体が、4体も空から降り立った。

 

『(レム、これは一体?)』

 

《残存していた試作機か、もしくは、量産化された個体と推測します》

 

4体、今相手している個体も含めれば、計5体のダークロプスゼロが、ジードに襲いかかった!

1体目のダークロプスゼロがジードに上段蹴りを放つ。

 

『ウワァッ!』

 

2体目が胸元に肘打ちを打たれ。

 

『オワァッ!』

 

3体目が回し蹴りをくらった。

 

『グワァッ!!』

 

4体目と5体目がジードに、額からのビーム、『ダークロプスゼロスラッシュ』を放った。

 

『ウワァアアアアアッ!!』

 

5体の猛攻に、ジードは倒れて、ビルを押し潰してしまった。

 

 

 

ー霧夜sideー

 

その頃霧夜は、飛鳥達を避難させ終えると、理巧(ジード)の戦いをビルの奥上から見ていた。

無論、眼下には雲雀と柳生がおり、いざとなったら二人を連れて避難するつもりだ。

 

「ゼロ、お前は行かないのか?」

 

≪様子見だ。古傷のせいで、俺の変身時間は限られている。それに、もう少しアイツを見極めたい≫

 

「(理巧。負けるなよ・・・・!)」

 

 

ージードsideー

 

『『『『『ーーーーーー!!!』』』』』

 

起き上がったジードを取り囲んだ5体のダークロプスゼロは、『ダークロプスメイザー』をジードに放った!

 

『ウワァアッ!!』

 

5つの方向から放たれた光線で、ジードはよろけ、近くのマンションを巻き込んで倒れた。

 

 

ー雲雀sideー

 

「暁月・・・・! 雲雀! ここは逃げるぞ!」

 

「いやだっ!」

 

柳生が雲雀を連れて逃げようと雲雀の腕を掴むが、雲雀は柳生の手を振り払った。

 

「雲雀は信じてるの。理巧君が、ウルトラマンジードが必ず勝つって・・・・!」

 

「雲雀・・・・」

 

「柳生ちゃんも信じて! 理巧君の、ウルトラマンジードの事を!」

 

「・・・・・・・・」

 

柳生は理巧、ウルトラマンジードを見上げた。

 

 

 

ージードsideー

 

《理巧。撤退を提案します》

 

「(それしかないのか・・・・っ、まて、声が聞こえる。僕を、呼んでいる・・・・?!)」

 

レムからの通信で撤退を考えようとした理巧だが、ウルトラマンとして発達した聴覚が、声を捉えた。

 

「ウルトラマンジード! 立って!!」

 

「何をしているウルトラマンジードっ! 立ち上がれっ!!」

 

雲雀と柳生が、自分を応援していた。

 

『(雲雀ちゃんが、柳生さんが、僕の名前を、ジードの名前を呼んでいる・・・・!)』

 

「オレに勝ったお前が! あんな鉄人形の木偶の坊に負けるなぁっ!!」

 

クールな性格の柳生が、声の限りに叫んだその瞬間ーーー。

 

コーーーーーン・・・・!

 

『っ・・・・』

 

柳生の胸の『リトルスター』が強く輝き、柳生の身体から離れ、ジードのカラータイマーに入っていき、インナースペースにいる理巧のカプセルホルダーに入ると、理巧は無色のカプセルを取り出す。

 

《『セブンカプセル』の起動を確認。新しいカプセルが2つ揃いました》

 

ダーッ!

 

カプセルには、頭にトサカをつけ、銀のプロテクターを装備した赤い戦士が現れていた。

 

《理巧。カプセルの交換を》

 

『(カプセルの交換。良し、試してみるか。・・・・ジーッとしてても、ドーにもならない!)』

 

そして理巧は、ジードライザーを構え、『セブンカプセル』を起動させる。

 

『融合!』

 

ダーッ! 

 

するとカプセルの中から水色の光の線が現れ、刃のようなトサカを頭部につけ、赤い身体に銀のプロテクターをつけた戦士・『ウルトラセブン』が出現し、『セブンカプセル』を装填した。

 

『アイ・ゴー!』

 

さらに理巧は赤い身体に獅子のような頭をした格闘戦士・『ウルトラマンレオ』のカプセルを起動させると、カプセルから赤い光の線が溢れ、『ウルトラマンレオ』が現れる。

 

ィヤーッ!

 

『レオカプセル』を装填ナックルに装填した。 

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

ジードライザーのスイッチを押した理巧は、装填ナックルを取り外し、ジードライザーで読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

鼓動のような音がすると、ジードライザーの中央カプセルに、水色と赤色が混じりあった。

 

『フュージョンライズ!』

 

「燃やすぜ! 勇気!! はぁあ!! はぁっ!」

 

そしてジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すと、中央カプセルが金色に輝く!

 

「ジイィーーーーード!!!」

 

『ウルトラセブン! ウルトラマンレオ! ウルトラマンジード!! ソリッドバーニング!!』

 

セブンとレオの姿が重なり合い、赤い鎧を纏ったような姿へと変身した。

 

『デュワッ!!』

 

赤き鋼鉄の戦士・『ウルトラマンジード ソリッドバーニング』!

 

紅蓮の炎を纏って大地に降り立つと、炎は弾け飛び、そこから、全身がアーマー状になり、頭部には三本の角をつけ、胸のプロテクターが複雑に可動して戻ると、腰、腕、肩、背面部の噴射口から蒸気を噴射させてメカニカルな姿を見せた!

 

ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

 

『ジャッ! ハァァァァァ・・・・!』

 

「うわぁ~! ジードカッコいいっ!!」

 

「新たな姿になったのか・・・・!」

 

雲雀と柳生もソリッドバーニングの勇姿に感嘆の声を上げた。

 

 

ー霧夜sideー

 

「あれは・・・・っ」

 

霧夜が身体をビクッ、とさせると、瞳の色が金色に変わった。ゼロが霧夜の身体を借りた状態で表に出るモードだ。

 

「あの姿は親父と師匠の・・・・! しかしあれは『ウルトラカプセル』の力、アイツが持っているのか?!」

 

霧夜先生、ウルトラマンゼロは、ジードを鋭く見据えていた。

 

 

ーペガsideー

 

ソリッドバーニングの姿は、基地にいるペガとレムも見ていた。

 

『これなら行けるかもっ!』

 

 

ージードsideー

 

『『『『『ーーー!!!』』』』』

 

ダークロプスゼロ達は、ソリッドバーニングに向けて構えた!

 

『ーーー!』

 

まず1体のダークロプスゼロがジードに向かう。

 

『ハァッ!』

 

ジードは迫るダークロプスゼロを片手で押し出し、背中から蒸気を噴射して、体制が崩れたダークロプスゼロに向けて、右手の噴射口から炎を吹き出すと、ダークロプスゼロの身体に叩き込んだ!

 

『ーーー!!!』

 

ダークロプスゼロはあまりのパンチの威力に盛大に地面に倒れた。

 

『(まったく痛くない。まるで鎧を着こんだようだ)』

 

次に2体目のダークロプスゼロは胸のプロテクターを展開させると、中からコアのような発射口を出して、ジードに向ける。

ダークロプスゼロの必殺技・『ディメンションストーム』を放とうとする。

 

『ハァア・・・・!』

 

ジードも胸部アーマーを展開させると、胸部アーマーに空いた6つの穴にエネルギーをチャージさせる。

 

『ーーー!!!』

 

『『ソーラーブースト』!!』

 

紫色の光線・『ディメンションストーム』と、水色の光線・『ソーラーブースト』がぶつかり合うと、『ソーラーブースト』が押しきり、ダークロプスゼロを粉砕した!

 

『ーーー!!!』

 

3体目と4体目が『ダークロプスゼロスラッガー』を取り外して、ジードに切りかかる!

ジードは頭頂部の角の刃、『ジードスラッガー』を取り外して、2体のダークロプスゼロと切り結んだ!

 

『ハァァァァァァァッ!!』

 

4つの刃を諸ともせず、ジードは背面から蒸気を噴射させ、ジードスラッガーで2体のダークロプスゼロを切りつけた!

 

『『ーーー!!!』』

 

火花が散ってよろける2体に、ジードはジードスラッガーを脚部に装着させて、脚部のブースターを点火させ、加速を加えた上段蹴りで、2体のダークロプスゼロを切り裂いた!

 

『『ブーストスラッガーキック』!』

 

2体のダークロプスゼロは紫色のスパークを迸らせて爆散した。

 

『ーーー!!!』

 

5体目のダークロプスゼロが後ろからジードに切りかかる。

 

『ムンッ!』

 

ジードは力を込めると、ジードスラッガーが独りでに外れ、回転しながら、ダークロプスゼロを切り着ける!

 

『『サイキックスラッガー』!』

 

そしてジードはジードスラッガーを腕に装着させ、ブースターで加速させてダークロプスゼロの身体を、アッパー気味のパンチで切り裂く!

 

『『ブーストスラッガーパンチ』!』

 

『ーーー!!!』

 

ダークロプスゼロは真っ二つになって爆散した!

 

『ーーー!!!』

 

最後に残った1体目のダークロプスゼロが、再び肉弾戦で攻めるが、ジードは難なく応戦する。

 

『ーーー!!!』

 

『ダークロプスメイザー』を放つが、ジードは背面飛びと背面のブースターから火を吹かせて大きく飛んで回避し、着地と同時に額のビームランプから光線を放った!

 

『『エメリウムブーストビーム』!』

 

額から放たれた光線に当たり、ダークロプスゼロを大きく仰け反って倒れた。

その隙を見て、ジードは右腕アーマーを展開し炎を上げながら、右腕を突き出し、拳から必殺光線を発射した!

 

『『ストライクブーストォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ』ッッ!!!』

 

『ーーー!!!』

 

紅蓮の炎の中に輝く緑色の光線が起き上がったダークロプスゼロの身体を焼きつくしーーー。

 

チュドォォオオオオオオオオオオンンンッ!!!

 

ダークロプスゼロは大爆散した!

 

 

ーレムsideー

 

『勝ったぁ! 凄い攻撃力だぁ!』

 

ペガはジードの勝利を喜んだ。

 

 

 

ー柳生sideー

 

「やったぁっ!!」

 

「勝ったか・・・・!」

 

喜ぶ雲雀と、柳生は思わずグッと拳を握った。

 

「ヒーローはね、必ず勝つんだよ柳生ちゃん!」

 

「雲雀は、アイツをヒーローだと思うのか?」

 

「うん! もちろんだよ! 柳生ちゃんは?」

 

柳生はジードを見上げると、薄く微笑んだ。

 

「・・・・あぁ、オレもアイツを、ウルトラマンジードを、ヒーローだと思うよ」

 

雲雀に言われたからじゃない。柳生自身がそう感じた言葉だった。

 

『シュワッチ!!』

 

戦いを終えたジードソリッドバーニングは、夕陽に向かって飛んでいった。

 

 

 

ー???sideー

 

「また1つ起動したか・・・・。だがまだ足りない」

 

黒服の男は薄く冷たい笑みを浮かべる。

 

「さて、そろそろ道元さんの計画も動く頃だな」

 

黒服の男はそう発して、その場から消えた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

柳生の身体から『リトルスター』は消え、障壁を作り出す不思議な力も無くなっていた。柳生自身は気にしてはいなかった。

これまでの情報で検討した結果、『リトルスター』の光が受け渡されて、『ウルトラカプセル』が起動したらしい事が分かったが、『リトルスター』がなんなのかはまだ不明のままであった。

そしてその翌日の半蔵学院。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

飛鳥と斑鳩と葛城は、目の前の光景に目を驚愕に見開いていた。

 

「あのさ柳生さん。なんで君が僕に膝枕しているのかな?」

 

「昨日の疲れが残っていると、雲雀がお前に膝枕しそうになったからな。雲雀が膝枕するくらいならばオレが代わりに膝枕をしてやろうと思っただけだ」

 

「いやそれどんな理屈?」

 

「理巧君と柳生ちゃんが仲良くなって雲雀嬉しい♪」

 

「べ、別に仲良くなった訳じゃ、ないから、な! か、勘違いするなよ! り、“理巧”・・・・!!//////」

 

「あれ? 僕の名前・・・・?」

 

「よ、呼んではダメか・・・・?」

 

「・・・・別に良いけど」

 

理巧がそう言と、少し不安そうな顔になった柳生は、一瞬パァッと、雰囲気が明るくなった。

 

「そ、そうか!//////////」

 

顔を赤らめながら、理巧に膝枕をする柳生に雲雀はニコニコと笑みを浮かべ、理巧はとりあえず膝枕でノンビリした。

 

「や、柳生ちゃんまで、りっくんと・・・・!」

 

「これは一体何が・・・・?」

 

「う~む、あの柳生まで落としたのかあの編入生。しかし柳生のヤツ。若干百合かと思っていたが、男もイケる両刀だったのか・・・・。天才系美少女、巨乳、銀髪、眼帯、クールビューティ、さらにツンデレまで、かなり属性盛ってんなぁ・・・・!」

 

「葛城さんは何を言っているのですか・・・・?」

 

1年生コンビが編入生と仲睦まじくしている光景に、残りの3人は唖然となっていた。

 

 

 

ー霧夜sideー

 

そしてウルトラマンゼロは今、霧夜先生と共に忍び教室に赴こうとしていた。

 

「(ゼロ。お前は理巧を捕まえるつもりか?)」

 

≪イヤ、まだアイツを見定めるつもりだ。いきなり鷹丸達の育て子を捕まえるなんて、後味悪いからな≫

 

「(そうか・・・・。ま、これからよろしく頼むな。“ゼロ先生”)」

 

≪こちらこそだ。“霧夜先生”≫

 

図らずも、ゼロも霧夜先生と同じように先生として、ウルトラマンジード、暁月理巧を見定めることになった。




柳生は理巧相手にはツンデレキャラにしました。

次回で、蛇女のメンバー登場します。


ー次回予告ー

半蔵学院忍び学科の皆に、久しぶりに忍びの任務が要請された。僕にとって初めての忍び任務だけど、正直面倒くさい。
そう言えばあの飛鳥って子の事も気になるな。
なんて考えていたら、突然の騒動が巻き起こった。
しかもなんか僕達を監視している奴らも現れたし、面倒くさい事待った無しの上に、怪獣まで現れた!


次回、『閃乱ジード』

【悪忍襲撃】

ジーッとしてても、ドーにもならない!


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悪忍襲撃
初めての忍びの任務


ー???sideー

 

まるで時代劇に出てくるような部屋で、紫色の長髪を後頭部とアップし、黒いタイトスカートにスラリとした美脚を黒いストッキングで包み、白いワイシャツの胸元を開けて豊満な胸元を晒した、20代半ばの赤い縁眼鏡を掛けた美しい女性が、お面と鎧を着て右目に刀の傷痕が残っているのが特徴的な高圧的な雰囲気を出す男性に向けて口を開く。

 

「道元様・・・・『超秘伝忍法書』の略奪を始めるのですか?」

 

道元と呼ばれる男に、女性は声には出してはいないが、その心中は静かに怒りが湧いていた。

 

「“『超秘伝忍法書』を略奪”するのは重要なる忍務だ。それに何の問題があるのかね?」

 

道元と呼ばれた男はニヤリと笑みを浮かべながら呟いた。

 

「こちらには“超秘伝忍法書の選ばれし者”が出ていません・・・・それは善忍である向こうもまた同じです!それなのに何故・・・・!?」

 

「別に超秘伝忍法書を略奪するのは、早くたって良いじゃないか?どうせやる事は同じだ・・・・それにオーナーである私の言うことが聞けないのか? 鈴音よ?」

 

「・・・・っ!!」

 

鈴音と呼ばれた女性は沸き上がる怒りをなんとか静める。そんな鈴音に、道元は話し続ける。

 

「それに、もうすでに“彼女達”には命令を下している」

 

「!?!?」

 

道元の言葉に鈴音は驚愕する。もうそんなに早く“生徒達”と道元が動いていたことに、鈴音は驚く。

 

「も、もし・・・・“あの超秘伝忍法書が合わされば”・・・・とんでもないことになるんですよ!?」

 

「安心しろ鈴音、そのために私が『管理』をするのではないか・・・・」

 

道元は勝ち誇った笑みを浮かべて、手に持っていた“2つのカプセル”を見せてそう言った。

そして鈴音はこの時に確信した。道元という外道な男が何をやらかすのかを。

 

「畏まりました・・・・失礼します(俗物が・・・・!)」

 

鈴音は内心で毒づいて、一礼してその場を去った。

 

「フゥ~、少し反抗心があるな、あの雌は」

 

道元は懐からスマホを取り出して、“ある人物”に連絡した。

 

「もしもし? 道元です。ええ。こちらも素晴らしい贈り物に感謝していますよ。こちらでも大いに役立てますからね。『伏井出ケイ先生』・・・・!」

 

道元は手元に握る、“黄色地に黒い縞模様をつけた怪獣が描かれた『怪獣カプセル』”と、“カミキリ虫のような黒い怪獣が描かれた『怪獣カプセル』”を見つめて、ほくそ笑んでいた

 

 

ー理巧sideー

 

「はい、こっちもまあ、それなりに学校生活してますよ。そんな事よりも、鷹丸さん達も変わりないんですね?」

 

《まぁね。こっちもようやく寮生活が慣れてきたところよ》

 

平日の朝方。寮の部屋でテレビのニュースをBGMに、身支度していた理巧は、携帯電話が鳴り響いているのに気づき、画面に『ナリカさん』と表示されているのを見ると、間髪入れずに電話に出て、育て親のナリカから近況報告を聞いていた。

 

「家には、まだ帰れないんですか?」

 

《ええ、まだ復興作業が終わってなくてね。ここ最近の怪獣騒動で色々なところに作業員が行ってて、私達のところでの作業も滞っているのよ》

 

「そうですか、ナリカさん達の仕事はどうですか?」

 

《大丈夫よ。怪獣騒動での損害保険の交渉とかでちょっと忙しいけど、その分給料の割り当ても良い感じだしね。あっ、そろそろ行かなくちゃ、それじゃね理巧。今度ウワサの雲雀ちゃんと柳生ちゃんを紹介しなさいよ~?》

 

「その件に関しては、また今度という事で・・・・」

 

携帯の通話を切った理巧は時計を見ると、まだ7時25分。寮から学校までゆっくり歩いても10分足らずで着くから少し早かったようだ。

 

『理巧。ナリカさんから電話?』

 

理巧の影のダークゾーンからペガがひょっこりと顔を出した。

 

「うん。丁度夜勤が終わったところだったから、電話したみたいだね・・・・」

 

ニュースではここ数週間あまりで頻繁に起こっている怪獣騒動の話題で持ちきりであり、怪獣と戦う巨人の名称を、『ウルトラマンジード』であると公表された。

 

「雲雀ちゃんが匿名でジードの名前を教えたんだよな・・・・」

 

『うん。いつまでも謎の巨人扱いじゃカッコ悪いって言ってたよ?』

 

「・・・・ペガ、少し気になる事があるから、秘密基地に行くよ」

 

『うん!』

 

「レム、基地に行くからエレベーターを頼む」

 

《はい》

 

寮の部屋に秘密基地への転送エレベーターが現れ、エレベーターに乗り込んだ理巧とペガは、そのまま基地へと向かった。

基地に到着した理巧はエレベーターを降りると、基地の指令室にはーーー。

 

「り、理巧くん・・・・!/////」

 

「な、なな・・・・!/////」

 

「雲雀ちゃん、柳生さん・・・・?」

 

雲雀と柳生が指令室で着替えていたのか、手に半蔵学院の制服を持って下着姿だった。ちなみに雲雀はピンク、柳生は白だった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「「~~~~!!////////」」

 

『あちゃ~』

 

「レム。雲雀ちゃんと柳生さんが着替えているなら、それを先に報告してくれ・・・・」

 

『聞かれなかったので答えませんでした』

 

「そうか、じゃこれからはきちんと教えてくれよ」

 

『了解しました』

 

「さてと・・・・」

 

理巧は、いつの間にか武器の番傘を持った柳生に向かって正座した。

 

「さ、やっちゃってくれ」

 

「良い心がけだな、理巧ッ!!!」

 

ドガンッッ!!!

 

柳生の番傘が、理巧の頭に振り下ろされ、凄まじい音が響いた。

 

 

 

ーナリカsideー

 

「まったく、あの子は・・・・さてと」

 

ギギギ・・・・! バチバチ・・・・!

 

携帯電話を懐にしまった、赤い忍び装束姿のナリカは、足元で“スクラップにしたロボット兵器”に突き刺した自身の武器である大型手裏剣を引っこ抜くと、理巧と連絡する前に制圧した“犯罪者宇宙人達”を見据える。

 

「さぁ。観念しなさいよ? アンタ達は地球外兵器を持ち込み、製造・密売した容疑が掛かっているわ。即時地球から退去処分になるわよ」

 

『キュルルルル・・・・!』

 

捕縛用の拘束具で捕縛されたセミのような頭部をした宇宙人、『セミ人間』が言い訳を並べる。

 

「言い訳は宇宙警察か、宇宙裁判所にでもしなさい、よっと!」

 

『ギュアッ!?』

 

『ギュルッ!?』

 

『ギュギュッ!?』

 

ナリカが後ろに向かって大型手裏剣を投げると、手裏剣を大きく弧を描きながら、ナリカの後ろの物陰から銃を構えていたセミ人間を蹴散らした。

 

「フッ!」

 

ナリカは蹴散らしたセミ人間達に拘束具を投げると、セミ人間達は全員捕縛された。

 

「まったく、か弱い女性に後ろから奇襲だなんて、セコい奴らね~。こちとら夜勤で少し眠いって言うのに・・・・」

 

たった一人で数十体のロボット兵器を全滅させ、武装した犯罪者宇宙人を制圧した、自称か弱い女性のナリカは、ふぁ~、と小さく欠伸をすると、犯罪者宇宙人を連行する為に来た増援部隊に指示を飛ばし、後を任せ、同じ職場の(一応)女性職員が運転する車の後部座席に座り、“仕事場”に報告の為に戻ろうとした。

眠たい目を擦るナリカは携帯が震えたのに気づき、取り出して着信を見ると、『ハルカさん』と表示されていた。出ると今日はスバルと日勤のハルカが出た。

 

「おはようハルカさん、こっちは終わったよ。鷹丸から連絡は来た?」

 

《はい。鷹丸様もゼナさんと一緒に『宇宙植物ルグス』の不法栽培をしていた人達を摘発したようですよ》

 

「まったく。こうも夜勤続きだと気が滅入っちゃうね」

 

《そうですね。ここのところの怪獣騒動が頻繁していますし・・・・》

 

怪獣騒動と出たところで、ナリカは前の運転手に気づかれないようにコッソリと話す。

 

「ハルカさん、あのウルトラマン、確かジードって言ったよね? アイツの事、どう思う?」

 

《・・・・・・・・鷹丸様もスバルも、もしかしたらと思っています。あのウルトラマンの戦い方、あの子に良く似ています》

 

「(・・・・ウルトラマンジード、戦い方や僅かな癖、戦闘モーション、あの子と良く似ているのよね、理巧と・・・・)」

 

育ての親達は、ウルトラマンジードが我が子同然に育てた少年に似ている事に首を捻っていた。

 

 

ー理巧sideー

 

理巧と柳生と雲雀とペガは、転送エレベーターから降りると、忍び教室に向かい、到着するとまだ飛鳥達が来ていないので、とりあえずトランプでババ抜きをしていた。

 

「二人とも、わざわざ基地に来て着替えなくても良いんじゃない?」

 

「ゴメンね。柳生ちゃんのぬいぐるみさん達を指令室に置いていたらちょうど良いと思って着替えてたの」

 

『ヘェ~、柳生ってぬいぐるみを集めているんだ?』

 

「まぁな、主に海洋類のぬいぐるみ、特にイカのぬいぐるみを集めている。部屋に入りきらなくなってきたから、指令室に置いても良いかと思ってな。理巧、どうだろう?」

 

理巧が雲雀から、雲雀がペガから、ペガが柳生から、柳生が理巧から札を取り合いながら駄弁っていた。

 

「まぁ良いんじゃないかな。雲雀ちゃんの本棚と漫画とライトノベルやゲームも置いているし、今さらぬいぐるみくらい構わないよ」

 

「助かる。しかし、まさかあんなSF映画みたいな秘密基地と転送エレベーターを持っていたとはな。しかも、宇宙人まで・・・・」

 

柳生が自分の持つ札を取ろうとするペガを見つめた。

 

『ん? えへへへ、理巧とはもうかれこれ理巧が中学二年の頃から一緒にいるからね』

 

「ペガくんはなんで地球に来たの?」

 

『うん。ペガは故郷のペガッサ星で家族と暮らしていたんだけど。両親から、【宇宙を旅して、大人の男になっていつか戻ってこい】と言われてね、それがきっかけで旅をするようになり地球に漂着したんだ。でも、漂着時にカプセルが壊れちゃってね、住まいも無くて、お腹も減って困っていたところを、理巧に助けて貰って、それ以来は、理巧の育ての親の人達にも内緒で、一緒に暮らすようになったんだ』

 

「ではあの造花の内職は何だ?」

 

「あの造花はね、いつかペガッサ星に帰ったとき、お母さんにプレゼントしようと作っているんだ」

 

「・・・・ペガくんは、帰りたいって思う?」

 

たった一人で故郷の星を離れて、果てしない宇宙の旅をし、別の星で生活するようになって数年。故郷が恋しくならないのかと、雲雀が聞いてきた。

 

『う~ん、ちょっと寂しいって気持ちにはなるけど、でも大丈夫! いつか絶対帰れるって信じているから!』

 

「そっか・・・・」

 

「ふっ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

ペガの言葉に雲雀と柳生は笑みを浮かべ、理巧も小さく薄く笑っていた。

 

『はい! あがりっ!』

 

「「「ん?!」」」

 

話しているうちに、ペガが持っていた持ち札は全て置かれ、ペガが1番最初にあがっていた。

 

「あ! ペガくんが1番なの!?」

 

「くっ! お喋りが過ぎたか・・・・!」

 

「おめでとうペガ」

 

『えへへ~』

 

雲雀と柳生が驚き、理巧がペガの勝利を称賛し、ペガはふんぞり返った。

 

「っ! ペガ隠れて、他の人達が来た」

 

「「っ!?」」

 

『わ、わわわ!』

 

ペガが慌ててダークゾーンに隠れ、雲雀と柳生と理巧があたかも三人でババ抜きしていたかのように姿勢を調整し終えると、忍び教室の壁が回転し、飛鳥と斑鳩と葛城が入室してきた。

 

「あ、飛鳥ちゃん! 葛姉! 斑鳩さん! おはよう!」

 

「おはよう」

 

「おはようございます・・・・」

 

「おはようございます。雲雀さん、柳生さん・・・・暁月くん」

 

「おはよう雲雀に柳生! あと暁月もな。シシシ~、二人とも今日も良い感触だぞぉ~♪」

 

「ちょっ! 葛姉!」

 

「朝っぱらからセクハラか・・・・!」

 

斑鳩は雲雀と柳生に挨拶するが、あまり授業態度が良くない理巧には、厳しい目だが、一応返答した。

葛城は挨拶してすぐ後ろから雲雀と柳生の主張の激しいバストを鷲掴みして揉みしだき、雲雀と柳生は必死に逃れようと足掻いていた。

 

「お、おはよう、りっ、理巧、くん・・・・」

 

「あぁ、おはようございます」

 

トランプを片付ける理巧に挨拶するが、飛鳥はいつものような元気が無かった。

理由は単純、『初恋の人』である理巧が自分の事を思い出す素振りがなく、クラスメートで後輩の雲雀と柳生と仲睦まじく一緒にいる光景に気落ちしていたからだ。

 

「なんだなんだ飛鳥~? 元気が無いぞ~?」

 

「あひゃぁっ! ちょっと葛姉っ!」

 

気落ちしている飛鳥を元気づけようとしてか、ただ単純にセクハラしたかったから分からないが、葛城が飛鳥の90センチのGカップバストを揉みしだいた。

斑鳩は葛城のセクハラに呆れ、葛城から解放された雲雀と柳生は犠牲となった飛鳥に内心謝意を述べながら、理巧の近くに移動した。

 

「(ねえ、理巧くん。飛鳥ちゃんの事を思い出せた?)」

 

「(なにやら段々と飛鳥の元気が無くなっていってるぞ?)」

 

雲雀と柳生は日に日に元気を無くす飛鳥を心配そうに見つめながら、理巧にコッソリと話しかけた。

 

「(・・・・・・・・・・・・)」

 

理巧は飛鳥と出会った事があると言われている小学生時代の記憶を思い出そうとするが、過去を思い出そうとすると、『凄惨な中学生時代の記憶』が浮き上がった来た。

 

「ぅっ!」

 

「理巧くん?」

 

「どうした?」

 

突然理巧の無表情な顔に苦悶の色が出てきた事に雲雀と柳生は心配そうに聞く。

 

「い、いや大丈夫だ、そう大丈夫だよ・・・・」

 

二人に手を上げて制する理巧は少し呼吸を落ち着かせようと深呼吸するが、突如教室の中心からブォワアンッ! と、煙が巻き上がり、煙が晴れると担当教師の霧夜先生が立っていた。

 

「皆、おはよう」

 

『おはようございます!』

 

「さて、授業を始めるぞ。と言いたいが、連絡事項がある。」

 

霧夜先生が、そう言うと飛鳥達は何事かと首を傾げ、理巧は興味無さげに小さく欠伸を洩らす。

 

「今日の午後の授業は、全員で学院外で忍務を遂行してもらう」

 

「学院外?」

 

飛鳥が首を傾げると、葛城が声を弾ませる。

 

「おぉー! 遂に来たぜっ! ここんとこ怪獣騒動で学院外での任務が無くなって、地下の道場で飛んだり跳ねたり座禅したり、地味~な修行ばっかりだったからな! で先生! その忍務って!?」

 

「『商店街で不良退治』だ」

 

「はぁ~~!?」

 

霧夜先生がそう言うと、葛城が目に見えてやる気を無くした。

 

「商店街に不良学生がたむろして手を焼いているらしい」

 

「不良退治?」

 

「不良さん怖い・・・・」

 

「安心しろ、雲雀は俺が守ってやる」

 

飛鳥が忍務内容に首を傾げ、雲雀が怖そうに声を上げるが、柳生が優しく声をかけた。

 

「うん! あっ、霧夜先生! 勿論理巧くんも行くんですよね!?」

 

「忍び学生である以上、理巧も勿論参加する事になっている、サボろうとするなよ理巧?」

 

「は~い・・・・・・・・チッ」

 

理巧が小さく舌打ちしたのを斑鳩だけが気づいてスッと理巧を睨むが、理巧は勿論無視した。

 

 

 

* * *

 

 

 

それから時間が経ち皆で学院外に出ようと準備をする中、雲雀と柳生がコッソリと寄って話始めた。

 

「(ねえ柳生ちゃん。この忍務で理巧くんを飛鳥ちゃんや斑鳩さんや葛姉と仲良くさせられないかな?)」

 

「(それは少し難しいな。斑鳩は授業態度が良くない理巧に良い感情を持っていないし、葛城は男にあんまり興味無いし、飛鳥に至ってはどう距離を縮めれば良いか惑っている感じだ)」

 

「(でもこのままじゃ、皆理巧くんの事を誤解しているみたいでイヤだよ・・・・)」

 

理巧が本当は優しくて誠実な人だと言う事を知らずに、少々険悪な雰囲気のクラスメート達の状態に泣きそうな声で言う。

 

「(・・・・俺としては、理巧を俺と雲雀で独占できるから今のままで良いと思うが・・・・)」

 

「(柳生ちゃん、今なんて言ったの?)」

 

「(んんっ! い、いやなんでもない・・・・)」

 

ボソッと呟いた柳生に雲雀は首を傾げるが柳生は誤魔化すように咳払いした。

 

「(とりあえず、この忍務で少しは皆との距離が縮められるように俺達でなんとかしてみるか?)」

 

「(うん!)」

 

柳生の言葉に、雲雀は嬉しそうに頷いた。



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調査開始

ー霧夜sideー

 

「そうか、やはり『ウルトラマンベリアル』の生存を立証できる証拠は簡単に見つからないか?」

 

《ああ。こっちでも犯罪宇宙人や、一般宇宙人達からもそれなりに情報を集めているが、どれも要領を得ない情報ばかりだ》

 

「そうか、すまないなスバル。仕事中にわざわざ連絡してくれて」

 

《構わないさ。ベリアルの行方は以前からAIBでも捜索中だからな。それよりも、今気になるのは・・・・》

 

「ああ。“あの学園”だな?」

 

《最近、“あの学園のオーナー”が、犯罪宇宙人と秘密裏にコンタクトを取っている情報があるからな。もしかしたら、最近の怪獣騒動にも、“良からぬ輩”が動いているかもしれない。こっちも情報をもう少し集めてみる。ゼロによろしくな。それと理巧にもな》

 

「ああ」

 

理巧達が忍務で外に出て直ぐ、『AIB』で仕事をしている理巧の育ての親の1人であるスバルから、『ウルトラマンベリアルの捜索』の進捗具合の連絡を終えた霧夜は、あまり良い成果が出ていない事に少し肩を竦める。

 

≪やっぱり、ベリアルの行方は、そう簡単には見つからないか・・・・≫

 

霧夜と一体化しているゼロも、少し落胆したような声色をしていた。

 

「ゼロ、本当にベリアルは生きているのか? 『クライシス・インパクト』で滅んだって可能性は?」

 

≪そう簡単に滅びるようなヤツなら、親父達『光の国のウルトラマン』や、俺達『ウルティメイトフォースゼロ』がとっくに倒しているぜ≫

 

「・・・・それもそうだな」

 

≪それに・・・・≫

 

「それに?」

 

ゼロの言葉を聞き返す霧夜に、ゼロは確信を込めて声を発する。

 

≪感じるんだ・・・・ヤツの、ベリアルの気配をな・・・・。ヤツはこの宇宙の何処かにいる。ジッと息を秘めて、何かを企てている・・・・!≫

 

ゼロの脳裏には、ベリアルが高笑いしている姿が、鮮明に浮かんでいた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

そしてその頃、理巧を加えた半蔵学院の忍び学生達は、浅草の商店街へと赴いた。

 

「ハァ~ァ、『VIPを極秘裏に護衛』とか、『大使館に侵入して、機密情報の入手』とかだと思ったのに・・・・」

 

「そう言う“国家的忍務”は、学院を卒業し、立派な忍びになれた諸先輩方の仕事ですわ」

 

「だからって『不良退治』はねぇだろう!」

 

葛城はつまらない忍務に愚痴り、斑鳩が注意するが、それでも愚痴る。

 

「でも逆に難しいよね? 一般相手にあくまでも忍びとして人知れず退治しなきゃならないし・・・・」

 

「だからこそ修行なのです」

 

「あぁ~はいはい・・・・」

 

飛鳥達の会話を聞き流しながら、理巧と雲雀と柳生(後ダークゾーンに隠れているペガ)は、コッソリと話をしていた

 

『(そう言えば理巧、今朝は何で基地に行こうとしたの? 雲雀と柳生の着替え騒動で聞きそびれちゃったけど)』

 

「(・・・・・・・・これ)」

 

理巧はスマホの映像を、自分の両隣にいる雲雀と柳生にも見えるように見せる。ペガは流石に往来で姿を見せるわけにはいかないから見えないが。

 

「(あっ、それ『スカルゴモラ』だね?)」

 

「(理巧がジードとして最初に戦った敵か。俺も見たことがある。しかし、コイツがどうかしたのか?)」

 

理巧は次に画面を操作すると、『ジード・プリミティブ』と『ジード・ソリッドバーニング』の映像を見せた。

 

「(ジードの写真を見せて、どうしたんだ?)」

 

「(似てると思わないかな? 『スカルゴモラ』と『ジード』が・・・・?)」

 

「(えっ・・・・?)」

 

『(どこが??)』

 

「(っ!?)」

 

雲雀とペガが首を傾げるが、柳生は理巧の言いたい事を察したのか、わずかに目を見開いて、小さく声を発する。

 

「(『プリミティブ』と、俺と雲雀の『リトルスター』が融合した、(俺と雲雀の絆の結晶である)『ソリッドバーニング』は、“2つのウルトラマンを融合させた姿”。そして、『スカルゴモラ』も、“2体の怪獣が融合した怪獣”・・・・!!)」

 

「(そう、『ジード』と『スカルゴモラ』には、共通点がある。そしておそらく、“『スカルゴモラ』は誰かが変身していた”)」

 

「ええっ!!?」

 

「「「っ!!?」」」

 

「あぁゴメン、何でもないの! 何でも!!」

 

突然大声を上げた雲雀に、前方を歩く飛鳥、斑鳩、葛城驚いて振り向くが、雲雀は慌てて笑みを浮かべながら両手を振った。

 

「「「???」」」

 

三人は再び目線を前に戻し、雲雀が理巧にコッソリと話を進める。

 

「(『スカルゴモラ』が誰かが変身しているって、どういう事っ!?)」

 

「(多分、僕がジードに変身する際、『ジードライザー』で2つのウルトラカプセルを読み込んで変身するように、その『誰か』も、『ジードライザーのようなアイテム』を使って、『ゴモラ』と『レッドキング』を融合させて変身したんじゃないか。そう思って、レムに『スカルゴモラ』が現れる際、もしくは倒された後、どこかで不審な行動をとっていた人物がいないか、当時の監視カメラの記録映像にアクセスしてもらおうと思ったんだけどね)」

 

「(なるほどな。しかし、理巧。ウルトラマンには興味ないとか言っていたくせに、真面目に捜査するなど、どう言った心境の変化が起きたんだ?)」

 

柳生が聞くと、理巧はやれやれと肩を竦める。

 

「(怪獣騒動が長く続くと、現在実家周辺の復興作業が進まなくて実家に帰れないし、バイトも中々決まらないからだよ。さっさとこんな怪獣騒動を終わらせて、穏やかな日々に戻りたいからね)」

 

「(あぁ、そうか・・・・)」

 

ここ数日の付き合いで、理巧の性格をある程度理解している雲雀と柳生は苦笑いを浮かべていた。

 

「あなた達、さっきから何をこそこそと話しているのですか?」

 

そしてとうとう委員長の斑鳩が目を鋭くしてこちらを睨んできた。

 

「あぁ! その、ね! 不良さん達って、何処にいるかなぁって!」

 

雲雀がそう言うと、斑鳩は手を顎に添えて考える。

 

「ただ闇雲に歩いても時間が過ぎるだけですね。手分けしてターゲットを探しましょう。ただ、暁月さん」

 

「はい?」

 

「貴方は今回が初忍務です。雲雀さんか柳生さんと一緒に行動をしてください」

 

「・・・・はい」

 

理巧は明らかにやる気無いんですと言わんばかりに返事をするが、雲雀が何かを思い付いたような顔を浮かべた。

 

「そうだ! 理巧くん、飛鳥ちゃんと一緒に行ったら良いんじゃないかな?!」

 

「えっ!? 雲雀ちゃん!?/////」

 

雲雀の提案に、飛鳥が顔を赤くする。雲雀は飛鳥の耳元に近づき、耳打ちする。

 

「(飛鳥ちゃん、理巧くんと少しでも距離を縮めて、理巧くんに思い出して貰おうよ)」

 

「(え、ええぇっ!!?/////)」

 

「ね! 理巧くんも良いよね?」

 

「(雲雀ちゃんは柳生さんと一緒になるだろうから効率的に考えても、飛鳥さんと一緒に行くのが良いかな? 斑鳩さんと葛城さんは三年生だから単独行動でも大丈夫だろうし)・・・・・・・・ああ。良いけど」

 

「お待ちください。そんな勝手にーーー」

 

「良いじゃねぇかよ斑鳩。ド素人の本人がOK出してるんだしよ」

 

「しかしですね」

 

「それに、恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られるぜ?」

 

斑鳩は渋面を作るが、ヤレヤレと肩を竦める。

 

「分かりました。飛鳥さん、暁月さんがサボらないように、ちゃんと見張ってくださいね」

 

「は、はい!「グラシっ」・・・・えっ?」

 

わずかに緊張を孕みながらも返事をする飛鳥の肩を、前髪で眼帯で隠れていない目を隠した柳生がグラシっと掴んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「や、柳生ちゃん??」

 

「飛鳥。雲雀がお膳立てしたのだから上手くやれよ」

 

「う、うん!」

 

「それと・・・・」

 

「えっ?」

 

顔を上げた柳生の目には、光が宿っていなかった。

 

「“抜け駆け”は、許さんからな・・・・?」

 

「は、はいっ!」

 

思わず柳生に敬礼する飛鳥。雲雀は飛鳥ちゃん頑張れと言わんばかりに見つめ、葛城ニヤケ、斑鳩は呆れたような目線を送る。

 

「・・・・・・・・」

 

しかし理巧は、そんな女子達のかしましい様子に目もくれず、高い建物を睨むように見上げーーー。

 

「ーーーーーー!!」

 

その視線の先に殺気を飛ばすと、他の建物にも振り返り、殺気を飛ばす。

 

「理巧くん、どうかしたの?」

 

「・・・・いえ、別に」

 

飛鳥がキョロキョロと辺りを睨んでいる理巧の様子に首を傾げるが、理巧は何でもないと言わんばかりの態度で歩を進め、飛鳥も慌てて後を追った。

 

 

 

 

ー???sideー

 

「ハァァッ・・・・! 見つかったかと思ったわ・・・・!」

 

理巧が睨んだ建物の屋上にいた少女は、理巧がこちらを睨み、殺気を飛ばした瞬間に咄嗟に隠れたが、理巧から放たれた殺気に全身が畏縮し、心臓はバクバクと脈打っていた。

 

「一体なんなの、あの男子生徒は・・・・?!」

 

少女はトランシーバーで仲間に連絡を入れる。

 

「こちら“ーー”。気を付けて、半蔵学院の方に得体の知れない男子生徒がいるわよ・・・・!」

 

《ーーーーーーーーーーーー》

 

「そう、半蔵学院の男子制服を着た、綺麗な赤い髪と赤い瞳をした可愛い顔をした男子生徒よ。わたしの気配を察して、殺気を飛ばしてきたのよ・・・・!」

 

《ーーーーーー》

 

「ええっ!? ーーーちゃんも、あの男子生徒に睨まれたの!?」

 

少女は自分の他に飛鳥達を監視していた“仲間”に連絡を入れるが、どうやら“仲間”の方も、理巧から殺気を飛ばされたようである事を知った。

 

「まさか、あの男子生徒は、わたし達の存在に気づいているのかしら?」

 

《ーーーーーー》

 

「そうね、なるべくならお近づきなりたく無いわね。正直負ける気はしないけど、できる限り相手をしたくないわね」

 

少女は、いや、少女の仲間も、自分達を睨んだ理巧と目が合った瞬間、全身が震えた。

恐怖か、それとも畏怖か分からないが、理巧に危険性を感じ、少女達は理巧との交戦を避けるべきと話し合う。

 

「(でも、あぁ・・・・! 何かしら? この、全身が痺れて、ゾクゾクするような甘美な感覚・・・・!)」

 

が、その少女は理巧が放った殺気から感じた、痺れるような感覚に、弱冠呼吸が弾み、頬を少し紅潮させ、太腿を擦り合わせ身をよじっていた。

 

《ーーーーーー》

 

そんな中、少女達の仲間が、トランシーバー越しに声を発してきた。

 

「ええっ!? ーーーちゃん、貴女あの男子生徒に会ったことがあるの!?」

 

《ーーーーーー、ーーーーーー》

 

「フムフム。了解したわ。伝説の忍び、『半蔵』の孫は任せるわね。では、わたしは・・・・」

 

《ーーーーーー》

 

斑鳩達を狙おうかと少女が提案しようとしたが、仲間が、“新たな指令”を言うと、少女の顔が驚愕する。

 

「何ですってっ!? 『あの男子生徒を捕獲しろ』って、そんな命令誰がっ!?」

 

《ーーーーーー》

 

「・・・・分かったわ。上からの命令では仕方無いわね。だ・け・ど、正直、あの坊やの捕獲、かなり難関だと思うわよ?」

 

《ーーーーーー》

 

「了解したわ。ーーちゃんとわたしで、“死なない程度に痛めつけて”捕まえるわね。手足の何本かは折っても、文句はないわよね?」

 

少女がそう言うと、連絡を寄越した相手も、承諾した声を出した。

 

「ウフフ、実は結構、好みのタイプなのよね~、あの坊や♥」

 

少女の眼差しの先には、理巧の後ろ姿があった。

 

「そ・れ・に♪ こんな面白そうなモノも支給されたしね~」

 

少女の手に、『蟹のような、カブトガニのような怪獣の絵が描かれたカプセル』を取り出して、弄ぶように手のひらで転がした。

 

 

ー理巧sideー

 

理巧と飛鳥は、浅草寺の境内を歩いているが、不良らしき学生はいなかった。

 

「あ、あの、理巧、くん・・・・」

 

「流石に、寺にはいないですね?」

 

「う、うんそうだね!」

 

理巧はやる気は無いようだが、一応探しており、飛鳥も何とか理巧との距離を縮めようとするが、男性経験がお世辞にも豊富ではない(むしろ皆無な)ので、困っていた。

 

「あれ?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

突然声をかけられ、飛鳥と理巧が振り返ると、丈の短い黒いセーラー服を着た、長い黒髪をポニーテールに結わえた、肌は日焼けした少女がいた。

 

「あ! 水上バスにいた!」

 

「怪獣が出たときの・・・・」

 

「また会ったね」

 

その少女は、理巧が初めて『スカルゴモラ』と遭遇し、避難した際に出会った少女だった。

飛鳥は、理巧が半蔵学院に編入した日に水上バスで出会った少女であり、理巧も怪獣から避難する時に会った少女である事をお互いに説明し、少女がなぜここにいるのかを聞いた。

 

「修学旅行で来ててね。最近頻発している怪獣騒動で交通がガタガタで帰るのが延期になっちまってな。友達と気分転換で町を歩いていたら、その友達とはぐれちまって、土地勘無いし、うちの学校携帯禁止でね」

 

「ふ~~ん・・・・」

 

「どの辺ではぐれたんですか?」

 

ボーイッシュな口調で喋る少女に、理巧は興味無く返事をし、飛鳥が聞く。

 

「えーと、何とか通りとか・・・・」

 

それから少女に付き合い、少し歩いて車が走る大通りに出た。

 

「う~ん、此処だったかな?」

 

「浅草って、通りが多いから、それだけだと難しいな・・・・。他に行きそうな所とか?」

 

「それより良いのか? 私なんかに付き合って、せっかく学校をサボってデートしてたんだろう?」

 

「~~~~~!!//////」

 

少女の言った言葉に飛鳥は顔を理巧の髪の毛に負けないほどに赤くした。

 

「デートしては訳じゃないですよ。一応立派な課外授業なんで」

 

「へぇ~、そう言えば、この辺りの学校だったんだね?」

 

「あ、う、うん! そ、そうなの! 近所のお寺を調べるって言う。でも、すぐ終わっちゃって・・・・」

 

「それで他のみんなと別れて暇してたんです」

 

忍びの任務で来ていた事を話す訳にはいかないので、それっぽい話で誤魔化す理巧と、デートを否定されて弱冠落ち込む飛鳥。

 

「そう、なら良いけどね」

 

その少女は薄く笑みを浮かべ、『ドクロのような頭部をした怪獣が描かれたカプセル』を隠したスカートのポケットをポンポンと叩いた。

 

 

ー雲雀sideー

 

その頃、雲雀と柳生は狭い裏通りを歩いていた。

 

「しかし雲雀、良いのか? 理巧と飛鳥の関係を進展させるような事をして?」

 

雲雀が理巧に恋心を抱いているのは、柳生も分かっているので(理巧以外だったら抹殺していたが)、雲雀を心配する。

 

「良いの。理巧くんと飛鳥ちゃんが仲良しになってくれたら、雲雀は嬉しいから! もちろん斑鳩さんと葛姉とも仲良くしてくれるともっと嬉しいの!」

 

「そうか・・・・。だがそれは、“競争相手”が増える事にもなるぞ?」

 

「あっそうか! う~~ん、みんなでずっと仲良く一緒にいられる方法って無いかなぁ?」

 

「(雲雀や理巧とずっと一緒か・・・・・・・いかん、鼻血が・・・・!)」

 

雲雀が頭を悩ませ、柳生は何を考えたのか鼻血を二筋垂らし、急いでハンカチで拭うとーーー。

 

「待ちなよ」

 

突如声をかけられ、二人が前方を見ると、太った身体にゴツい顔つきと木刀を持った、女子の不良が立ち塞がった。

 

「うぅっ!」

 

「・・・・」

 

雲雀は怯えて柳生の背に隠れるが、周りはいつの間にかイカつい格好と顔つきをした不良達に囲まれていた。

 

「この制服、コイツら半蔵学院ですぜ」

 

「ふ~ん、あのやたらとデカい学校ね」

 

手下の不良の言葉に、おそらくボスであろう女子の不良が柳生達を見下ろす。

 

「それがどうした?」

 

「幾らか貸してくれねぇかな?」

 

先ほどまで鼻血を垂らしていた姿とうって変わった柳生は、鋭く不良達を睨む。

 

「なるほど、お前らか。雲雀、みんなを集めろ」

 

「う、うん!」

 

雲雀は、胸の谷間から竹筒を取り出すと、クラッカーのように竹筒の紐を引っ張ると、竹筒の先から中身が飛び出し、空に大きく『集』の一文字が描かれた。



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始まったぜ、戦闘

今回、あるアイテムが持たされます。


~数日前~

 

秘密基地でこれまでの戦いのデータを、レムと共に解析している理巧。ペガは造花の内職に励んでいた。

すると、転送エレベーターが到着し、中から雲雀と柳生が出てきた。

 

『あ、柳生だ!』

 

「いらっしゃい柳生さん」

 

「ああ。これが雲雀の言っていた、理巧の秘密基地か・・・・。まるでSF映画だな」

 

さしものクールな柳生も、基地の広さと、宇宙人であるペガに唖然となっていた。

 

『はじめまして柳生。私はこの基地の管理システム、名をレムと言います』

 

『ペガはペガッサ星人のペガだよ!』

 

「あ、ああ、よろしく」

 

戸惑いがちに返答する柳生を、雲雀は可笑しそうに微笑み、理巧もチラッと見たあとに、レムに向かって声を発した。

 

「レム。雲雀ちゃんと柳生さんに、例のモノを」

 

『了解しました』

 

レムがそう答えると、中央テーブルの真ん中が窪んで沈み、また浮かんでくると、通信インカムが2つ置かれていた。片方は桃色、もう片方は桜色だった。

 

「理巧くん、これは?」

 

「それは雲雀ちゃんと柳生さん用の通信インカムだよ。ダダ星人の時のように拐われたり、怪獣に遭遇した時に迅速に連絡が取れるようにね」

 

『インカムには発信器機能も搭載されています。私を経由して理巧やお互いの連絡に使ってください』

 

 

 

~現在~

 

雲雀が上げた狼煙は『忍砲煙』。訓練された忍びのみが探知できる特殊な狼煙であり、その効果は周囲1キロメートルにも及ぶ。

それを見て、真面目に捜索していた斑鳩とサボって遊園地で遊んでいた葛城が急行する。

飛鳥と理巧も、それに気づいた。

 

「(あっ、合図だ・・・・!)」

 

「(・・・・・・・・)」

 

飛鳥が空を見上げ、理巧もチラッと目を配る。

 

「どうした・・・・?」

 

案内していた少女が、二人の様子に首を傾げる。

 

「う、ううん、何でもない! あっそうだ! 弁天山はまだ行ってなかった! 行ってみよう!!」

 

飛鳥が理巧の手を引いて、弁天山に向かい、少女は後を追おうとすると立ち止まり、空を見上げて、ニヤリと笑みを漏らすとーーー。

 

パチンっ・・・・

 

小さく指を鳴らす。

すると五重塔の天辺に、少女と同じ制服を着た少女が立ち上がって笑みを浮かべた。

 

 

 

ー柳生&雲雀sideー

 

柳生と雲雀は、睨み付けてくる不良達に構わず、インカム(桃色は雲雀、桜色は柳生)を右耳に付け、柳生はレムに連絡する。

 

「レム。理巧と飛鳥は今何処にいる?」

 

《理巧と飛鳥は、迷子の生徒の道案内をして、現在弁天山に向かっています。斑鳩、葛城は間もなくそちらに到着します》

 

「あぁ来たようだ」

 

「えっ?」

 

柳生の言葉に雲雀が後ろを振り向くと、鋭い目で不良を睨む斑鳩と、好戦的な笑みを浮かべ、上唇を舌でペロッと舐める葛城がやって来た。

 

「っ」

 

「うわっ!」

 

不良達の目線が斑鳩達に向いた隙に、柳生は雲雀を担いで、近くの家の屋根の上に跳んだ。

 

「さ~て、覚悟は良いかっ!?」

 

「な、なんだコイツらっ!?」

 

「商店街のお掃除を頼まれたーーーそう、“風紀委員”とでもご承知頂ければ・・・・柳生さん、飛鳥さんと暁月さんは?」

 

「(フルフル)」

 

葛城が拳を鳴らし、斑鳩は睨んでくる不良達に毅然とした態度を取りながら、柳生の方に目線を向けるが、柳生は首を横に振った。

 

「何やってんだアイツら?」

 

「はぁーーー問題児の暁月さんはともかく、まったく飛鳥さんまで・・・・」

 

葛城と斑鳩が呆れたため息を吐く。

 

「雲雀、人払いだ」

 

「うん! でも、理巧くん大丈夫かな?」

 

「飛鳥は少し心配だが、理巧は大丈夫だろう。それに、こんな雑魚共、理巧が出るまでもない!」

 

手合わせして、理巧の実力の高さを知っている柳生は大丈夫と言う。

 

「分かった! 任せておいて!」

 

そう言って、雲雀はこの場を離れた。

 

「嘗めやがってっ! やっちまいなっ!!」

 

『おおっ!!』

 

不良達が木刀を持って襲いかかる。が、斑鳩達は臆する様子もなく構えた。

 

「仕方ありませんわね。行きますわよ!」

 

「おうしっ!」

 

斑鳩と葛城が、不良達と交戦を始めた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

その頃理巧と飛鳥は、後ろにいる少女と河川敷を歩いていた。

飛鳥は忍び砲煙が上がった方にこっそり目線を送る。

 

「(みんな、大丈夫かな・・・・?)」

 

「これだけ探しても見つからないんだ・・・・。先に帰ったんだろう・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

少女はこっそりと、背中に“隠しているモノ”を取りだそうとし、理巧はポケットからクナイを取りだそうしていた、その時ーーー。

 

「そうかも知れないね・・・・うわっ!」

 

「「っ!」」

 

「うわわわわわっ!!」

 

飛鳥は、川にいた鴨が鴨が目の前を通りすぎ、驚いて体制を崩し川に落ちようとしていた。

 

「おっと・・・・」

 

が、落ちる寸前、理巧が飛鳥の手を引いて思わず抱き止めた。その際、飛鳥の90センチGカップが、理巧の胸元に当たり、ボニュンっ、と潰れる。

 

「あ・・・・っ」

 

「ん?」

 

「あ、ありがとう、理巧、くん・・・・///////」

 

顔を赤らめてお礼を言う飛鳥の顔を見て、胸元に当たる質量と柔らかさを無視する理巧の脳裏に、1人の女の子の影が、飛鳥と重なった。

 

「(・・・・この子、どこかで・・・・)」

 

そのまま、理巧と飛鳥はお互いを見つめて、動かなくなった。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「(えっと・・・・どうしよ・・・・??)」

 

いきなり二人の世界に入った二人を見ながら、少女はとりあえず、手にした小刀を隠した。

 

 

ー雲雀sideー

 

「すみませ~ん! この先は通り抜けできませ~ん!!」

 

雲雀は柳生達が交戦している路地裏に『工事中』の立て札とかなりだらしなく着た誘導員の作業服とヘルメットを着用して、一般人が来れないようにした。

 

「・・・・もう終わったかな?」

 

 

 

ー葛城sideー

 

葛城と斑鳩は既に、不良達を蹴散らしていた。

 

「チッ、肩慣らしにもならなかったぜ」

 

「飛鳥さん、どうしたんでしょう?」

 

「ああ。まったく、初恋の男と仲良く宜しくヤってんじゃ・・・・っ!」

 

葛城の顔に緊張が走る。今しがた倒した不良達が、ヨロヨロと立ち上がってきたからだ。

 

「うぅ・・・・!」

 

「うう・・・・!」

 

「うぁぁぁぁ・・・・!!」

 

不良達の身体から立ち上る異様な気配に、葛城と斑鳩が後方に引いた。

 

「アタイらの攻撃でまだ立ち上るだなんて・・・・」

 

不良とは言え一般人、忍びとしての訓練を受けてきた葛城達の攻撃に耐えられる筈がないはずなので、葛城達に緊張が走った。

 

 

ー雲雀sideー

 

「っ! この気・・・・!? レム。理巧くんに連絡して、何かおかしい気配がするって!!」

 

《了解しました》

 

雲雀はインカムでレムに理巧に言伝を頼んで、柳生達の元へ戻ると、不良達の何人かが、身体から異様なオーラを放っていた。

 

「みんなーーーーーー!!」

 

「雲雀?」

 

「気をつけて、この人達心が無いっ!」

 

「心?」

 

 

ー???sideー

 

雲雀達を見下ろす位置にいた少女が、雲雀を見て笑みを浮かべる。

 

「動きは鈍いのに、勘は鋭い。フフっ、臆病な小動物みたいで可愛い。でも、これからもう1つのお仕事を始めないとね・・・・!」

 

パチンっ。

 

少女は上唇を舌で湿らせると、指を鳴らすと、その場から消えた。

 

 

ー葛城sideー

 

葛城達の目の前にいた。不良達から黒いオーラが広がり、辺り一体を包み込んだ。

 

「これはまさか・・・・!!」

 

葛城が驚愕すると、黒いオーラは大きく広がり、それに包まれた人間は消え、周囲の景観がまるでローマのような風景となった。

 

「『忍結界』っ!?」

 

『忍結界』とは、忍同士の戦闘に用いる、時空を超えた特殊な戦闘空間である。

 

「てことはコイツらも?」

 

「忍?」

 

「ならばわたくし達も、本気で掛からねばなりませんね」

 

「よぉし! 『転身』だなっ!」

 

葛城がそう言うと、斑鳩達は構えた。

 

「忍務外ですが、やむ得ません・・・・!」

 

「「「「『忍転身』!!」」」」

 

四人が印を結んで叫ぶと、四人の衣服が弾け消え、別の服装に変わった。

 

斑鳩はまるで貴族のような白い制服に白いスカート、黒いストッキングに美脚を包み、腰には剣を差していた。

 

葛城はいつもの制服に胸元を大きく開けて、足にはグリーブを装着した。

 

柳生は制服に黒いマントを羽織り、武器である番傘を携えた。

 

雲雀は上着は運動用のジャージにブルマを着用した姿。

 

『忍転身』。

体内に眠る気力を、六つのチャクラから一気に放出する事で瞬時に戦闘スタイルに変化する、忍奥義の基本である。忍びは転身する事によって、持てる力を最大限に発揮する事ができるのだ。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「あ、あのさ、お邪魔して悪いけど・・・・////」

 

「えっ?・・・・あぁっ! ご、ごめんっ!!」

 

理巧と抱き合って見つめ合っていた飛鳥は、少女に話しかけられて正気に返り、理巧から離れた。

 

「あ、その、世話になったな・・・・」

 

「う、ううん! えっと、名前聞いてなかったね! 私は飛鳥!」

 

「・・・・暁月理巧」

 

「『焔』だ」

 

「焔ちゃんか。理巧くんはこれからどうする?」

 

飛鳥が話しかけると懐からスマホを取り出して、レムからの通信を気取られないようにカモフラージュした。

 

「・・・・ん。飛鳥さん、雲雀ちゃんが来てほしいって連絡が来てますよ」

 

「ええっ!」

 

「焔さんには僕が付いているから、飛鳥さんは雲雀ちゃん達のところに行ってあげてください」

 

「う、うん! それじゃ焔ちゃん!」

 

そう言って、飛鳥は急いで忍砲煙が上がった地点に向かった。

 

「(あえて殺気を送ってみたが、気がつくどころか・・・・まぁ良いだろう。もう1つの目標をここで)」

 

「所で、その“背中に隠した小刀”は、一体なんなのかな?」

 

「っ!・・・・なんの事かな?」

 

理巧がボソッと呟いた言葉に、焔は一瞬目を僅かに見開くが、理巧が何を言っているのか分からないと言わんばかりの態度を取っていたが、理巧は構わず続ける。

 

「会ったときから、背中に何かを隠したような膨らみが有るんだよね。僅かに棒のような形状見えたからちょっと気になってね」

 

「それで小刀って、物騒な考えだね?」

 

お互いに探るように問答をするが、理巧が目線を“焔の手に向ける”。

 

「気を悪くしたら済まないね。何しろ、“君の指に僅かに竹刀ダコが見えた”んだよ」

 

「っっ!?」

 

焔は自分の両手の平を見ると、僅かに竹刀ダコがあった事に気づいた。

 

「そんなタコが出来ているから、てっきり剣術か何かをやっているんじゃないかと思ったんだけど、違う?」

 

「・・・・・・・・」

 

焔は無言になると、スッと目を鋭くし、一瞬で理巧の後方に回り込むと、背中から小刀を鞘走らせ、理巧の背中に突き立てる。

 

「動くな。ジッとしていろ」

 

「誰に言ってるの?」

 

「っ!!?」

 

焔は目を見開いた。たった今目の前で刃を突き立てた理巧が、一瞬で自分の背後に回っていた。

 

「(なんだと・・・・。どうなっている? 俺はコイツから一瞬も目を離さなかった、なのにコイツは、いつの間に俺の背中に立っていたっ!?)」

 

「あのさ、君さっき建物の上で僕達を見ていたよね? 何か用なのかな?」

 

「(コイツ、やはり気づいていたかっ!?)」

 

「答えてくれないかな?・・・・・・・・じゃないと、ちょっと、過激なやり方をやるけど・・・・?」

 

「(ゾクッ!!)」

 

焔は全身が冷たく、そして痺れるような静かな声に戦慄する。

生物には危機察知能力が備わっており、人間も退化はしているが、それを本能的に感じる事ができる。

そして焔は今、自分が追い詰められている立場であると実感し、そしてーーー。

 

「(コイツ、本当に、“善忍”なのか・・・・?)」

 

声だけで分かる。後ろにいるコイツは“その気”になれば、“拷問も辞さない人間”、“殺ると言ったら殺ると言う迫力”を感じた。

 

「黙りかい? それなら・・・・?」

 

理巧は腕を動かそうとしたら、違和感を感じた。

なぜなら、“身体が動かなくなった”からだ。

 

「(・・・・状態ならびに状況確認。身体状態の確認。身体に感じる僅かな痺れから、薬品による麻痺状態。周辺状況の確認。眼前の敵対勢力、持っている武器ならびに風向きから、薬品を使っているのは眼前の相手ではない。気配探知。後方5メートルに人の気配あり、風向きから僅かに香る匂いから推察するに、後方の相手が薬品を使用していると断定する。状況から、敵対勢力と確認・・・・)」

 

理巧は動じた様子をまるで見せず、心を機械のように冷静に現象の分析をしていた。

 

「あらまあ、向こうを傀儡達に任せて来てみれば。焔ちゃん、大丈夫かしら?」

 

後方から甘くそれでいて嗜虐性を帯びた少女の声が聞こえた。焔は立ち上がり、理巧から少し離れる。

 

「済まないな、“春花<ハルカ>”・・・・」

 

「なに?」

 

理巧は焔が呼んだ、春花<ハルカ>と言う単語に、ピクリと、反応した。後ろに現れた少女は、後ろから理巧の首に手を置いて、理巧の緋色の髪を撫でた。

 

「綺麗な赤い髪ね、思わず見惚れちゃったわ・・・・。でもちゃんとトリートメントしているの? せっかくの髪の毛が台無しになっちゃうわよ?」

 

理巧の正面に回り込んできたのは、亜麻色の髪を肩口のロールさせ頭にリボンを着け、焔と同じ丈の短い制服に包み込んだ豊満なバストと、それに反比例する砂時計のように括れたウェスト、ヒップもプリンっと引き締まり、手足はとても細く、斑鳩や葛城にも勝るとも劣らないグラマラスな肢体をした美少女だった。

だが、その眼差しには、嗜虐的な印象を受ける妖しい光が宿っていた。

 

「貴女が、春花<ハルカ>さんって事かな?」

 

「ウフフ、そうよ。それにしても・・・・」

 

春花は理巧の顔をジッと見つめ、髪の毛と同じ緋色の瞳を覗きこんだ。

 

「とっても、綺麗なお目めねぇ~。まるで紅玉<ルビー>をそのまま嵌め込んだような瞳・・・・。顔も可愛く整っているし、貴方、とっても素敵よ・・・・」

 

春花は上唇を舌で舐めると、理巧に嗜虐的な笑みを浮かべる。が、理巧は

 

「・・・・1つ確認したいんだけど」

 

「何かしら?」

 

「貴女は、敵ですか?」

 

「私と焔ちゃんの目的は、貴方を捕獲することだから、敵って事になるわね・・・・っっ!!」

 

春花がそう言った瞬間、春花の全身が雷でも撃たれたように強烈な痺れと、ゾクゾクとする快感が身体中、それも細胞一つ一つに走った。

 

「じゃ、遠慮無しで良いね?」

 

ドンッ!!

 

「かっは!」

 

「春花っ!?」

 

理巧の眼差しが放たれる静かに、冷たく、冷徹に、そしてゾッとするような迫力に、春花の身体が硬直すると、理巧は痺れて動けない筈の身体を動かし、春花の腹部に掌底打ちを叩き込んだ!

 

「くっ、うぅ・・・・っ!?」

 

倒れた春花が顔を上げると、理巧が冷酷な目で自分を見下ろしている姿が映った。しかしーーー。

 

「(あぁ、か、身体が、ゾクゾクしちゃう・・・・!)」

 

春花は身体に走る得も知れない快感に、身体の痛みすらも快楽に感じているのか、呼吸が少し荒くなり、うっとりとした目で理巧を見上げていた。

 

「お前、動けなかった筈じゃ・・・・!」

 

焔は理巧に小刀を構えて、警戒心を露にする。

理巧は掌を握っては開き、握っては開きと、身体状態を確認しながら、焔の方に目線を送る。

 

「(“昔”に比べると免疫力が少し落ちたかな・・・・)ちょっと痺れたけど、この程度の薬品なら数秒くらい痺れるだけで、まるで問題無いよ」

 

「(問題無いだとっ? 春花の薬品の効力を数秒で無効化したって事なのかっ!?)」

 

焔は直感した。コイツと、理巧と戦うのは危険過ぎるとーーー。

 

「(・・・・オーナーからもらった“コレ”を使うか)」

 

焔は懐から、“水晶でできた人形”を取り出し、スカートのポケットから、“怪獣が描かれたカプセル”を取り出した。

 

「っ、それは・・・・!」

 

この時、理巧の視線はカプセルに注ぐ。それは自分が持つウルトラカプセルと非常に良く似ていたからだ。

焔はカプセルのスイッチを上げて起動させた。

 

ピギャグゥゥっ!!

 

「フンッ!!」

 

焔は人形の背中にある窪みにカプセルを嵌め込んで、人形を街の方へ投げ飛ばした。

 

「何だ・・・・?」

 

理巧のずば抜けた視力で投げ飛ばされた人形を追いかけると、人形が光り輝き、飴細工のように形を変化させて人形の大きさがとてつもなく巨大になると光が収まると、人形がその姿を変えた!

 

全身が蛇腹のような凹凸に覆われた黄色い外皮、高さを強調するように足元から頭頂部への体形は細くなっている体型、腕はとてつもなく太い怪獣。

 

「あれはまさか、『ドクロ怪獣 レッドキング』?!」

 

『ピギャグゥゥっ!!』

 

レッドキングはその太い両腕あげて雄叫びを上げた。




焔が持っていた“水晶の人形”の説明は次回で明らかになります。


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相手になるぜ、レッドキング

霧夜先生役・藤原啓治さんのご冥福を祈ります。


ー飛鳥sideー

 

『ピギャァグゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

「えぇええええええっ!? また怪獣っ!?」

 

仲間の所に向かおうとした飛鳥は、突如街に現れたレッドキングに仰天した。

飛鳥の周りの人達は突然現れた怪獣に泡を食って逃げ出した。

 

「うぇぇ~ん! うぇぇ~ん!」

 

「っ!?」

 

飛鳥の視界の端に、親とはぐれたのか、泣いている女の子の姿が入り、間髪入れずにその女の子を抱き抱えて、その場から避難した。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「(オーナーはいつからこんな人形を手に入れやがったんだ? カプセルを起動させて人形に装填し、なるべく遠くに投げ飛ばしてみたら怪獣が登場するだなんて、完全にオーバーテクノロジーだろ・・・・)」

 

「おい・・・・」

 

「(ギクッ!)」

 

怪獣を呼び出してしまった事に少々唖然となっていた焔は、理巧の静かに冷たい声を聞いて、ギクッと身体を強ばらせた。

 

「なんだったんださっきの人形は? それにあのカプセル、一体どこで手に入れた?」

 

ゴキリッ、ゴキリッ、とゆっくりと拳を握る理巧は、関節を鳴らしながら、焔を冷酷に睨んだ。

 

「いや、その・・・・それよりも、良いのかい? あの怪獣、忍砲煙が出た所に向かっているぞ? お仲間がピンチだと思うんだがな?」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は一瞬だけ、目線を焔からレッドキングに送った。

 

「っ! 春花!」

 

「っ!!」

 

焔に呼ばれて、うっとりとした目で理巧を見上げていた春花は、ハッと正気に返り、煙玉を地面に叩きつけると、ボワンッ! と理巧の周囲に煙幕が充満した。

 

「っ・・・・」

 

理巧は臨戦態勢で焔と春花に身構えるが、煙が晴れると二人の姿は無く、撤退したようだった。

 

「・・・・レム。雲雀ちゃんと柳生さんとその他の2人は?」

 

《現在、雲雀達の周囲に結界のような特殊フィールドが形成されました。こちらからの連絡がつかない状況です。さらに、レッドキングがいる地点の近くです》

 

「分かった。ペガ」

 

『なに理巧?』

 

今まで『ダークゾーン』に隠れていたペガが顔を出した。

 

「すぐに基地に戻ってて、僕はヤツの相手をする」

 

『了解!』

 

ペガは理巧の影から出て、転送エレベーターで基地に戻り、理巧はヤレヤレと肩を竦めながら、レッドキングの元へ向かった。

 

 

ー焔sideー

 

焔と春花は理巧から必死に逃げて、レッドキングの戦いぶりを眺めるのもかねて、少し高いビルの屋上についていた。

 

「まったく、とんでもないヤツが、いたものだ・・・・!」

 

全力疾走で逃げたからか、焔は肩で息を切らし、制服に包まれた87センチのEカップが揺れる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・//////」

 

春花も息を切らして、99センチのIカップを揺らしているが、それが全力疾走の疲れからか、理巧の目線と迫力から来るゾクゾクとする快感で悶えているかは、当の春花本人にしか分からないが・・・・。

 

 

 

ー理巧sideー

 

 

「ジーッとしてても、ドーにもならない・・・・!」

 

レッドキングの近くにあったビルの屋上で、理巧はカプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シャアッ!

 

カプセルから青い光の線が幾つもの放たれ、『初代ウルトラマン』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

次に『ウルトラマンベリアル』のカプセルを取り出し起動させると、『ウルトラマンベリアル』の姿が出現した。

 

ウエェェッ!

 

『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く!

 

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

ウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、理巧は2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変えた!

 

『シャァッ!!』

 

光と闇の螺旋の中から『ウルトラマンジード プリミティブ』が現れる!

 

 

 

ー雲雀sideー

 

理巧がジードに変身する少し前、雲雀と柳生、斑鳩と葛城は、異様なオーラを纏って襲いかかってきた不良達を難なく蹴散らすが、不良達の顔の皮が剥がれ落ち、その中から“血肉”ではなく、“木で出来た人形”が現れた。

 

「「「「っっ!??」」」」

 

「人形・・・・! これは・・・・?」

 

斑鳩が訝しそうに人形を睨むと、忍結界が解けて、周囲が浅草の裏路地に変わり、ホッとした四人の頭上が暗くなった。

 

「なんだ? 曇り空か?」

 

「イエ、今日の天気は快晴と・・・・」

 

《雲雀、柳生、そちらに怪獣が現れました》

 

「「え?」」

 

葛城と斑鳩が空を見上げると同時に、柳生と雲雀のインカムからレムの通信が入り、二人も頭上を見上げるとーーー。

 

『ピギャァグゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

レッドキングはその太い足で四人を踏みつけようとしていた。

が・・・・。

 

『『レッキングリッパー』!』

 

レッドキングは波状光線『レッキングリッパー』を浴びて後方に吹き飛んで倒れた。

 

「「っっ??!!」」

 

「「ホッ」」

 

葛城と斑鳩は驚いたが、柳生と雲雀は誰が来たか察して、ホッとし、笑みを浮かべた。

そんな一同とレッドキングの間に割って入り、地面にゆっくりと降り立った巨人、ウルトラマンジードだった。

 

『ジュワァッ!!』

 

「あ、アイツは・・・・!」

 

「ウルトラマン、ジード・・・・!」

 

ジードの登場に斑鳩と葛城は驚くが。

 

「さて、オレ達はジードの邪魔にならないように、離れた所に移動するか」

 

「うん!」

 

「「え???」」

 

柳生と一番慌てふためきそうな雲雀はまったく驚いた様子を見せず、冷静にこの場から離れようとしている様子に、斑鳩と葛城は唖然となった。

 

 

 

ー理巧sideー

 

《理巧。柳生と雲雀、斑鳩と葛城は別の場所に避難しました》

 

『「了解」』

 

インナースペースにいる理巧はレムの通信を聞いて、改めてレッドキングに向かって、爪を立てるような構えを取る。

 

『ピギャァグゥゥッ!! ピギャァグゥゥッ!!』

 

起き上がったレッドキングは、ジードを敵と認識したのか、両腕が交差するように動かす。

 

『・・・・・・・・』

 

ジードは構えを解いて、腕をグルンッ、グルンッと回し、首をゴキゴキと鳴らす。

 

『ピギャァグゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

『シュワァッ!!』

 

レッドキングの太い腕とジードの拳が交差し、お互いの顔面にぶつけ合った!

 

「ク、クロスカウンター・・・・!!」

 

ジードとレッドキングの戦いを眺めるために、近くのビルの屋上に避難した雲雀と柳生はのんびりと寛ぎ、スティック菓子と干しイカを食べながら、ジードとレッドキングの交戦を眺め、葛城はクロスカウンターに思わず呟き、斑鳩もジードの戦いを見ていた。

 

『ピギャァッ!』

 

『シュァッ!』

 

よろけた2体は体制を整えて、お互いの両手を握り、押し合いを始めた。

 

『ピギャグゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

『ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

『ギャッ!』

 

『グワッ!』

 

お互いに力は互角のようで、膠着状態になったが、レッドキングが、ジードの頭に頭突きを叩き込んだ!

 

『グゥア・・・・!』

 

『ピギャァッ!!』

 

頭突きの衝撃でよろけたジードの頭をレッドキングは片手で掴んで、近くのビルに叩きつけた!

 

グラシャアアアアアアアアンっ!

 

『ウァアアアアアッ!!』

 

『ピギャァグゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

さらにレッドキングはジードの頭を片手で掴んだまま、空いたもう片方の腕でジードの顔を殴りまくった。

鈍い音が辺りに響き、レッドキングはトドメと言わんばかりにその豪腕をおもいっきり振りかぶって、ジードの顔面に叩きつけた!

 

「「っ!」」

 

「「・・・・・・・・」」

 

斑鳩と葛城はジードがやられたと思ったが、雲雀と柳生は、静かにジードを見据えるとーーー。

 

『「調子に乗るなよ。レッドキング・・・・!」』

 

『ピギッ!!?』

 

なんとジードは片手でレッドキングの豪腕を片手で止めてそのまま掴み、もう片方の手で自分の頭を掴んでいるレッドキングの腕の手首を掴んで引き剥がした。

 

ギリギリギリギリギリギリ・・・・。

 

『ピギャァァァァァァァッ!!』

 

掴んだ腕に力を込めて、レッドキングの腕を握る。

レッドキングが再び頭突きを繰り出そうとするが、ジードはそれよりも早く、攻撃を繰り出した。

 

『「『レッキングロアー』!」』

 

『ピギャアッ!!』

 

口から強力な超音波を繰り出す絶叫攻撃、『レッキングロアー』を放つと、レッドキングは大きく吹き飛び、アスファルトを砕きながら倒れた。

 

『ピギャァグァァァァァッ!!』

 

レッドキングは近くのビルの両手で貯水槽を外して、大きく振りかぶって投げた!

 

『フンッ! シュワ!!』

 

しかし、ジードは両手でナイスキャッチすると、お返しとばかりにレッドキングに投げ返した。

 

『ピグゥゥっ!!?』

 

そしてなんと、投げ返された貯水槽はレッドキングの口に挟まった。

 

『ビグァッ! ビグァッ!! ピギャグゥゥゥゥッ!!』

 

レッドキングは必死に貯水槽を外そうともがく。

 

『ピギュッ!! ピギャァグァァァァァッ!!』

 

ようやく外れ、貯水槽を捨てて、喜びを表現するようにピョンピョンと跳ねるが・・・・。

 

『ハァアアアアアアアアア・・・・!!』

 

『ピギュ?』

 

レッドキングは嫌~な予感がして、恐る恐ると、ジードの方を見ると、身体から赤黒い稲妻を迸らせたジードが、広げた両腕を十字に組んで、必殺光線を放つ!

 

『『レッキングバースト』ォォォォォォッ!!!』

 

『ピギャ! ピギャ!! ピギャグゥァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアンンッ!!

 

ワタワタとするレッドキングは、そのまま『レッキングバースト』を浴びて、その勢いで空高く飛んで行き、爆散した。

 

『シュゥワッ!!』

 

レッドキングが空中で爆散したのを確認したジードは、そのまま空の彼方に飛んでいった。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

「やったね!」

 

「少し手こずったようだがな」

 

ちょうどお菓子を食べ終えた二人は、手を払いながらその場を離れようとする。

 

「「・・・・・・・・」」

 

以前はジードに懐疑的だった柳生と、怪獣が現れる異常事態に対して冷静な対応をした雲雀に、斑鳩と葛城は訝しそうに二人を見ていた。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「やった! もう大丈夫だよ!」

 

「うん!」

 

飛鳥は避難した場所でジードがレッドキングを倒した様子を見て、一緒に避難した女の子と笑みを浮かべる。

そして、女の子の母親を見つけて、女の子を母親に渡して、その場を離れた。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

日が沈み始めた浅草を雲雀達が歩いていった。

 

「不良達に紛れて、人形がアタイらを襲いに来たって言うのか?」

 

「分かりませんが、明らかなのは唯1つ・・・・」

 

「狙いは、オレ達だった・・・・」

 

「あのお人形、四人とも“気”が同じだったんだよね。まるで1人の人が動かしているように・・・・うわぁぁぁぁぁっ!」

 

不良に扮していた人形の事を話していた一同だが、雲雀が空き缶を踏んでバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。が・・・・。

 

「大丈夫?」

 

「は、はい・・・・」

 

寸前で受け止められた、その人物は、理巧を捕獲しようとした少女、春花だった。

 

「やっぱり可愛い・・・・」

 

「え?」

 

「ウフフ、それじゃぁね!」

 

春花はそのままその場を去っていった。

 

「うわぁ~、綺麗な人・・・・」

 

「どうした?」

 

「う、ううん! なんでも・・・・!」

 

「みんな~~!!」

 

そんな一同に、飛鳥が情けない声を上げて近づいてきた。

 

「飛鳥さん!」

 

「あれ? 不良は??」

 

「今頃来て何を暢気な事を・・・・」

 

「不良どころじゃなかったんだぜ。怪獣まで目の前に現れてよ」

 

「えぇっ!? どういう事?」

 

「その前に、今日の飛鳥さんの事は、霧夜先生に叱っていただかなければ」

 

「えぇ~~!」

 

「座禅くらいは覚悟しておいた方が良いな!」

 

「はぅ~~」

 

ガックリと肩を落とす飛鳥に、雲雀が声をかける。

 

「それで飛鳥ちゃん。理巧くんとはどうだったの?」

 

「えっ! 理巧、くん・・・・エヘヘヘ~~/////」

 

「「「「っっ!!」」」」

 

さっき抱き合っていた事を思いだし、頬を緩ませてにやける飛鳥を見て、四人の“女の勘”が何か有ったと察した。

 

「飛鳥。何があった? 詳しく教えろ」

 

「何か良いことでも有ったのか~?」

 

柳生が半眼となり黒いオーラを放ち、葛城はニヤニヤ顔の野次馬精神で詰め寄るのを見て、斑鳩は呆れた顔をする。

 

「もしもし理巧くん? 今どこにいるの?」

 

雲雀が携帯電話で理巧に連絡した。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「すぐ近くだよ。少し気になる事があったんだ。・・・・うん、うん、じゃこれから合流するね」

 

レッドキングが爆散した地点の近くで、理巧は足元にある、“砕けた水晶の破片”を拾い、ペガに渡す。

 

「ペガ。この水晶の成分をレムと一緒に解析して」

 

『うん。分かった!』

 

「レム。この水晶に入っていた“カプセル”は?」

 

《申し訳ありません。“カプセル”の行方は追跡できませんでした》

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧の脳裏に、焔と名乗った少女と春花と名乗った少女の姿が“何か”を知っていると考えたが、飛鳥達と合流しようとその場を離れた。

 

 

 

 

ー伏井出sideー

 

「『コピークリスタル』の成果はまぁまぁ上出来。後は“他のメンバー”が使用すれば良い・・・・!」

 

理巧がいる地点から少し離れたビルの屋上で、理巧を見下ろしながら、伏井出ケイが、ドス黒いオーラを放つ『レッドキングの怪獣カプセル』を見て、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

ー焔sideー

 

そして焔と春花は、ある建物の屋上で、“仲間達”に飛鳥達の事を報告していた。

春花は露出の激しい格好に長い白衣を羽織り、焔は黒いセーラー服に背中に幾つもの刀を背負っていた。

 

「どの子も、私の素敵な人形になれそうだったわ。フフフ・・・・」

 

「で、どうでしたの? “伝説の忍の孫”とやらは?」

 

優雅に座りながら、ドレスのような衣装を着た1人目の仲間の少女に、焔が報告した。

 

「相当の使い手だと期待してたんだがな」

 

「ようするに、半蔵学院、恐るるに足らずやな?」

 

もう1人、ラフな格好をした仲間の少女の言葉に、焔は苦虫を噛み潰したような顔に、春花は恍惚とした笑みを浮かべ、仲間達は首を傾げる。

 

「いや、ただ1人、“ターゲットでもある男子生徒”がいるが、アイツはヤバイ・・・・。正直、半蔵学院の忍び達よりも、アイツ1人と戦う方が完全にヤバいとしか言いようが無いな」

 

「ええ。彼、とっても強くて、とっても恐くて、とっても刺激的だったわ~/////」

 

「焔や春花がそこまで言うちゅう事は、相当強いんやな、その“ターゲットの男子”?」

 

「写真を見せて貰いましたが、中々綺麗な殿方ですわね?」

 

そこで、最後1人、黒いゴスロリ服を来た少女が、黒い傘を広げて、こう言った。

 

「ふん、今は泳がせておけば良いわ。『真の忍』はどちらなのか、時期に嫌でも分かるんだから。フフフ・・・・」

 

焔はオーナーから新たに貰った。仲間達は懐から『怪獣カプセル』を取り出した。

 

焔は『牛か悪魔のような風貌に、頭に剣を両手に武器を装備した怪獣』。

 

春花は『蟹かカブトガニのような怪獣』。

 

ドレスの少女は『平たい身体に腹部が五角形の形をした鳥のような怪獣』

 

ラフな格好の少女は『背中に幾つものトゲが伸びたオオサンショウウオのような怪獣』。

 

ゴスロリの少女は『鼻先に大きな角をつけた怪獣』。

 

それぞれが『怪獣カプセル』を持ち、足元に『コピークリスタル』を置いて、笑みを浮かべていた。




~『コピークリスタル』~

人型の水晶。背中にカプセルを嵌め込む窪みがあり、その窪みに起動させた『怪獣カプセル』を嵌め込むと、カプセルに内包された怪獣の生態データを読み込み、その怪獣の性質、戦闘力を全てコピーした疑似肉体を構築させるが、誰の命令も聞かず、ただ暴れるだけの怪獣となる。
デザインは『魔進戦隊キラメイジャー』の『代役ン』。

そして次回は、飛鳥が苦手な物に挑戦し、理巧との距離が縮まるかもしれない。

ー次回予告ー

子供の頃の記憶が甦る。まるで太陽のように明るく眩しく輝く笑顔の女の子の事を思い出しそうになる。
そんな僕の前に、飛鳥さんのお祖父さんが現れた。なんか僕の事を知っているような口ぶりが気になる。
そして飛鳥さんの苦手な物に克服しようとしていると、電撃を帯びた怪獣が現れた!


次回、『閃乱ジード』

【記憶の女の子】

もしかして、あの子は・・・・あーちゃん??


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記憶の女の子
過去の記憶


この話で、葛城が新たな扉を開く。


夢を見ていた。それは過去の記憶ーーーー。

 

【目障りなんだよ、その派手な髪!】

 

【目が充血してるみたいに真っ赤だわ・・・・】

 

【目立ちたがり屋なんだろ】

 

【何あの髪の毛と目、あんな目立つ格好するとか引く】

 

【生まれつきだって、聞いたわよ?】

 

【嘘に決まってんだろ、もしも本当だとしても気持ち悪いだけだよ】

 

【お前は他の生徒達との和を乱しているんだ。何で皆と同じ髪の毛にしないんだ。染めている癖に地毛だとか分かりやすい嘘を吐くな!】

 

自分達と違う異質を排除しようとする差別。

人間は差別をしたがる生き物だ。

髪の色が違う。

肌の色が違う。

目の色が違う。

民族が違う。

信仰する宗教が違う。

コミュニティに入れない存在。

自分達より知能も力も劣った存在。

暴力を振るおうが貶そうが誰も咎めない存在。

そういった存在の事を良く知ろうとせず、自分達の人生で培った“常識と言う偏見”で差別し、異端として扱う。

“差別とは、己の無知から生まれるモノ”と、海賊物語の侍も言っていたが、まさしくその通りだった。

 

そんな差別と偏見に満ちた苛酷な時代が、暁月理巧の中学時代だった。

理巧はそんな心無いヤツらの言葉を浴びせられた。

最初の頃は、育ての親である鷹丸達に迷惑をかけたくなかった。誰かと険悪な関係になりたくない気持ちで耐えていた。

だが、徐々に心は磨り減り、大人しく日々を無意に過ごす事しか考えられなくなった。

いっそ髪を皆と同じような色に染めようか、目をカラーコンタクトにして誤魔化そうか、そんな逃げの考えすら浮かんでいた。

 

【私ね、ーーーーの髪の毛やお目め、凄くキレイだなーって思うよ】

 

それは中学時代よりももっと前の記憶。

誰かが、鷹丸達以外で自分の髪と目を認めてくれた女の子がいた。凄惨な中学の記憶が邪魔で良く思い出せなかったが、その女の子の言葉が理巧の心に残り、周りからの罵声に屈する事なく、髪と目を有りのままに見せてきた。

 

「(誰だったけ、あの子・・・・)」

 

理巧は記憶の中にいる、まるで“太陽のように眩しい笑顔の少女”の名前が思い出せなかったーーーー。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ん?・・・・夢か・・・・」

 

時間は午前5時を回った頃。

理巧は秘密基地に置いておいたソファに横になっていた。

謎の二人の少女・焔と春花、そしてレッドキングとの戦闘が起こり、その時に回収した『水晶の人形の欠片』の解析していたが、午前2時頃に少し眠気が入ってしまい仮眠をとっていた。

 

『ZZZzzz・・・・ZZZzzz・・・・』

 

ソファの足元ではペガが布団を敷いて寝息を立てていた。理巧はそんなペガの寝顔(?)を見て、フッと口角を上げると、中央テーブルに忍び足で近づく。

 

「・・・・レム、解析結果を教えてくれ。ペガを起こさないようにね」

 

『了解しました』

 

小さい音量で返答したレムは、小さいモニターを理巧の眼前に展開させると、『水晶の人形の欠片』の解析結果を報告した。

 

『この欠片には僅かに、『どくろ怪獣 レッドキング』の細胞データが付着していました。怪獣のカプセルからデータを読み取り、流動的に変化し、その読み込んだ怪獣のデータから、その怪獣その物に変化したと思われます』

 

「・・・・まるで“傀儡”だな」

 

理巧は、忍務から帰還した後、霧夜先生から聞かされた『傀儡』の事を思い返していた。

 

『傀儡』ーーー即ち操り人形の事。傀儡・木偶とも呼ばれ、傀儡を自在に操作して相手を翻弄する忍術も存在し、傀儡を操る忍びを『傀儡使い』と呼ばれている。

 

「(話を聞いてみると、柳生さん達を襲った傀儡は相当の傀儡使いによって操られているって、霧夜おじさんは言っていたな。“目的”は分からないが、おじさんは恐らく心当たりがあるって雰囲気だった。そして、ほとんど同じタイミングで現れた、あの二人の少女、そしてその内の1人が持っていた『水晶の人形』と、『ウルトラカプセル』に似た怪獣のカプセル、『怪獣カプセル』と呼ぼうか、そのカプセルと人形で怪獣を出現させた。何かが動いているな・・・・)」

 

理巧はモニターに表示された焔と春花、そして『水晶の人形<コピークリスタル>』を睨んで思案していた。

 

 

 

 

翌日、半蔵学院の忍び学科の一同は、都心から離れた山で、秘伝忍法のお披露目していた。

 

「『秘伝忍法 凰火炎閃』!」

 

忍転身をした斑鳩が納刀していた刀を抜刀させると、赤い炎を纏う鳳凰を出現させ、舞い上がる炎を切り裂く。

 

「『秘伝忍法 トルネードシュピンデル』!」

 

葛城が高い丘から飛び降りて、足のグリーブを地面に叩きつけると、青い炎を纏った龍が出現させ、フットワークのように回転すると竜巻を巻き起こした。

 

「『秘伝忍法 薙ぎ払う足』!」

 

柳生は武器の番傘を広げると、巨大な烏賊が出現すると、烏賊が高速回転して大地を砕いた。

 

ーーーー『秘伝忍法』、または『召喚忍法』。

心にイメージした生物を具現化させる事で、超常的な力を発揮する忍奥義である。

 

≪あれが話に聞いた召喚忍法か・・・・。≫

 

霧夜先生と同化しているウルトラマンゼロは、目の前で高速回転する巨大烏賊を見て感嘆の声を漏らす。

 

「(どうだゼロ? うちの生徒もやるものだろう?)」

 

≪確かにな。俺達のウルトラマン中でも、俺の親父のセブンは、アギラ、ウィンダム、ミクラスってカプセル怪獣の仲間と共に戦っているし、今は亡き親父達の兄弟にも、フリーザスってカプセル怪獣と共に戦ったって聞いてるし、別の平行世界のウルトラマンである、ビクトリーとエックスも、怪獣と共に戦っているからな。忍者にもこんな能力があるだなんて驚きだぜ≫

 

飛鳥と雲雀、そして珍しく修行を見ていた理巧は、戻ってきた斑鳩と葛城と柳生を出迎え、霧夜先生は三人の成長を褒め、霧夜先生が柳生の烏賊に対して、良く分からないが、とりあえず褒めてるっぽい言葉をあげたりした。

 

「ん」

 

「あむ」

 

理巧に近づいた柳生に、理巧はイカのお菓子を取り出し差し出すと、柳生はそれに食らいつく。

 

「(理巧のヤツもすっかり柳生と打ち解けているな)」

 

≪(アイツはベリアルと関係があるのか?)≫

 

理巧の成長にも笑みを浮かべる霧夜先生は飛鳥と雲雀に向き直る。

 

「さて、理巧はまだ召喚は出来ないとしても、飛鳥! 雲雀!」

 

「「は、はい!」」

 

「どうだ? 今日こそ見せてもらえそうか?」

 

「が、頑張ります!」

 

「あのぉ~霧夜先生・・・・」

 

「なんだ雲雀?」

 

「召喚する子って、どんなのでも良いんですよね?」

 

「想像上でも実在の生き物でも構わん。ただし、本人の生まれもった特性、相性と言っても良いが、召喚はそれが大きく関わるからな。闇雲に召喚しようとしてもーーーー」

 

と、霧夜先生の話を遮るように、雲雀が声を発した。

 

「ずーと考えてやっと決まったんです! 雲雀、一番仲良しさんになれそうな子を決めました!」

 

「ほぉ、では試してみるか?」

 

「はぁーい!」

 

そう言って、雲雀はみんなから少し離れる。

 

「・・・・柳生さん」

 

「ん」

 

理巧は柳生に目配せすると、イカを食べ終えた柳生も了解を示すように頷き、理巧と前に出る。

雲雀が召喚をしようと、目を瞑って、集中する。

 

「ん~~~~~~~!!」

 

「雲雀ちゃんがいつになく真剣ッ! 一体何を召喚しようと・・・・?」

 

「仲良しさんね・・・・エロいのが良いなっ!」

 

「意味が分かりません」

 

葛城の発言に、斑鳩が呆れた声を漏らす。

 

「頑張れ、雲雀」

 

「(さて、どうなるかな?)」

 

一同に見つめられながら、雲雀は召喚忍法を発動させる。

 

「(お願い、来て!)」

 

すると、雲雀の後ろから、『巨大なピンクの体毛をしたウサギ』が現れた!

 

「うわ~! 来たー!!」

 

「ウサギっ!?」

 

「しかもピンク!?」

 

飛鳥達は召喚されたウサギに驚く。

 

「よいしょっと」

 

雲雀がウサギの背中に股がると、そのままウサギは山中に飛び込んで走り回る。

 

「スッゲェ・・・・」

 

「見かけによらない破壊力ですわ・・・・」

 

飛鳥達は、山中から巻き上がる土煙からウサギの破壊力に驚嘆し、理巧もヒュ~っと、口笛を鳴らす。

戻ってきたウサギは着地する直前に煙を上げて消え、雲雀が着地した。

 

「うわ~! 出来た出来た!! わーい! わーい!」

 

「うむ、雲雀。中々のウサギっぷりだったぞ」

 

≪なんだよウサギっぷりって?≫

 

「ありがとうございます!!」

 

とりあえず褒めてるっぽい霧夜先生の言葉に雲雀は大喜びし、その肩に柳生が、ポンっと、手を置き、理巧が頭を優しく撫でた。

 

「やったな雲雀」

 

「おめでとう」

 

「えへへ~~」

 

すっかりご満悦の雲雀に、他のみんなも近づく。

 

「ピンクのバニーか、バニーと言えばバニーガール、こりゃみんなでバニーのコスプレしなきゃな!!」

 

「いつの間にそんな物を・・・・」

 

どこからかバニースーツを取り出した葛城。

 

「装束は忍びの基本だからな」

 

呆れる斑鳩に、葛城はさも当然のようにバニースーツを掲げた。

 

「スゴいよ雲雀ちゃん!」

 

「ありがとう! 次は飛鳥ちゃんの番だね!」

 

「あっ・・・・。そ、そうだね・・・・」

 

「???」

 

理巧は飛鳥の様子を訝しそう見つめる。

 

「良し! 次は飛鳥だ」

 

「っ!・・・・が、頑張ってみます・・・・」

 

何か歯切れの悪い返答する飛鳥は、雲雀のように集中する。

 

「むむむ・・・・ぬぬぬ・・・・!」

 

飛鳥を眺める一同(葛城は何故かバニー姿)。

 

「ムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~!」

 

それから飛鳥は、こめかみを親指で揉んだり、考える人のようなポーズしたり、座禅して緑色のオーラが立ち上げていた。

 

「駄目だね、こりゃ」

 

「はぁ~~・・・・」

 

理巧の一言を聞くと、飛鳥は気を抜いて、ため息を漏らした。

 

 

ー葛城sideー

 

練習を終えた女性陣のうち、葛城、雲雀、柳生はビニールプールで水浴びをし、斑鳩と飛鳥はシャワーを浴びにシャワールームに向かった。

雲雀と柳生がのんびりしていると、葛城は水着姿で教室の隅を見ると、ビーチチェアに寝そべり、横向きになって眠っている理巧を見て近づき、少し寝顔を眺める。

 

「ZZZzzz・・・・ZZZzzz・・・・」

 

「(ふーん、普段は何考えてるか分かんねぇヤツだけど、寝顔は結構可愛いじゃねぇか。一見すると女みたいに綺麗な顔だぜ・・・・ん?)」

 

ふと、葛城が理巧の顔から視線を下に向けると、理巧の臀部、お尻、ヒップに目を向けた。

 

「じーーーーーー・・・・」

 

「ZZZzzz・・・・ZZZzzz・・・・」

 

「(コイツ、結構良い尻をしてんな・・・・)」

 

葛城はコッソリ、理巧のお尻に手を置いて撫でる。

 

「(お、おおぉ~~!)」

 

その瞬間、葛城は雷に打たれたような衝撃が走り、撫でていた手で理巧のお尻を撫で回した。

 

「(な、なんと言う素晴らしい感触! 今まで大勢の女の子のおっぱいを揉んできたが、こんなに素晴らしいお尻は初めてだぞっ!!)」

 

徐々に葛城の手の動きが理巧のお尻を撫で回し、昂ってきたのか呼吸が荒くなってお尻を鷲掴み、この世の春を謳歌しているようにご満悦な笑みを浮かべる。

 

「ハァハァハァハァハァハァ・・・・!!」

 

葛城は呼吸が激しくなり、まるでエサを目の前にぶら下げられた獣のように涎も垂らし、いまだに起きない理巧のベルトを弛ませて、ズボンを脱がそうとする。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ生尻をペロペロしても・・・・!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

知らない人が見たら通報されてもおかしくない顔になった葛城の背後に、ダークゾーンに隠れて状況を見ていたペガからの救援要請を受けた雲雀と柳生が、目元を影で隠して、番傘と掌を振り上げていた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥はシャワーを浴びながら、『召喚忍法』を使えなかった事を悩んでいた。

 

「どうして、上手くいかないんだろう・・・・?」

 

「焦る事はありません」

 

「斑鳩さん」

 

斑鳩が飛鳥の隣でシャワーを浴びる。

 

「焦りは悪戯に心を乱すだけですよ。飛鳥さん」

 

「自分の好きな物とか、心で色々思い浮かべるんですけど、全然上手くいかなくって。あの、斑鳩さんはどうやって決めたんですか? あの焼き鳥みたいな・・・・」

 

「鳳凰です」

 

「あっ! ごめんなさい!」

 

「来てくださったんです」

 

「来てくれた?」

 

「ええ、皆さんもそうだと思います。ですから必ず飛鳥さんにも来るはずです。貴女に似合った召喚獣が」

 

「はい!」

 

「大丈夫。貴女は『半蔵様』のお孫さんなんですから、自信を持って」

 

「・・・・そうですね、こんな事で落ち込んでいたら、じっちゃんに笑われちゃいますもん」

 

「そうそう。その意気です」

 

「あははははは・・・・」

 

斑鳩に言われた事に飛鳥は力なく笑みを浮かべる。

 

「それで飛鳥さん。聞きたい事があるのですが」

 

「はい。何ですか?」

 

「彼、暁月理巧さんは、一体何者なんでしょうか?」

 

「えっ?」

 

どちらかと言えば理巧を好ましく思っていない斑鳩から理巧の事を聞かれて、飛鳥は少し驚く。

 

「彼は、忍びではない。と、霧夜先生は言っていましたが、動き、技術、気配絶ち、どれも忍びの、それもかなり高度な修行をこなしてきたように見えます」

 

「はい」

 

理巧は段位も何もない素人だと聞かされた。しかし、最初に斑鳩達全員から気取られなかった陰遁術を用いり、『天才』と称された柳生を圧倒した実力、斑鳩ですら目を見張るほど速度を見せた。そんな理巧を斑鳩は訝しそうに見ていた。

 

「それに、怪獣騒動とウルトラマンジードなる者が現れ、彼が編入して半月あまりに、奇妙な出来事が続きました」

 

「奇妙な出来事?」

 

「はい。先ず、雲雀さんの身に起きた発火現象と、柳生さんが起こした障壁の出現。このところ私達の付近で起こっている怪獣騒動とウルトラマンジードの戦闘。そのどれもが、暁月さんが現れてから起きた。これまでの出来事の中心にいるのは間違いなく・・・・」

 

「理巧君・・・・」

 

「ええ。私は、暁月さんが何かを隠している。そんな気がします」

 

「で、でも理巧君は・・・・!」

 

「飛鳥さんが暁月さんを庇いたい気持ちは分からなくもないですが、私はどうにも、今までの騒動に暁月さんが、関与している気がしてならないんです」

 

斑鳩に言われて、飛鳥も理巧に対して、何かを隠している気がしてきた。

 

 

 

 

 

飛鳥がシャワールームを出て制服に着ると、自分の武器である二振りの脇差し、祖父が現役時代に使っていた武器を見て、「それを持って、精進するが良い」と言った祖父の言葉が浮び脇差しを握る。

 

飛鳥の祖父・『半蔵』

忍びの世界に知らぬ者はない手練れであり、内閣特務諜報部諜報一課内特務機密諜報員、通称特謀一課と呼ばれる忍び部隊の創設者であり、その功績を讃え、また目標とする意味でこの学院は伝説の忍び、半蔵の名前を冠していた。

 

「ん?・・・・・・・・・・・・え??」

 

飛鳥がシャワールームから出ると、教室に、血が流れていた。

 

葛城が頭から血を流して倒れ、柳生の番傘には血がベットリと付着し、雲雀の掌にも血が付着して、今まさに起きた理巧はその光景を見て、ボソッと呟く。

 

「・・・・・・・何これ?」

 

「きゃああああああっ!! 葛姐ーーー!!」

 

「どうしましたか飛鳥さん! って、これはっ!?」

 

飛鳥の悲鳴を聞いて半裸状態で教室に戻った斑鳩も、この状況を見て驚愕した。

 

「落ち着けお前達、葛城は死んでないぞ」

 

「「え?」」

 

「これ見て・・・・」

 

雲雀が指差すと、葛城は流れた血でダイイングメッセージを綴る。

 

『オトコハオシリーーーー』

 

「『オトコハオシリ』、『男はお尻』??」

 

「コイツ、寝ている理巧の尻を撫で回していたんだ」

 

「ズボンまで脱がそうとしていたんだよ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

柳生と雲雀の証言を聞いて、飛鳥と斑鳩は半眼になって葛城を見る。

 

「ふっ、暁月、お前、良い尻をしているな!」

 

うつ伏せに倒れている葛城は理巧に向かって、親指を立てた。

 

「はぁ、まぁ、どうも」

 

とりあえず理巧は一礼するのであった。

 




葛城は『男子(理巧限定)へのセクハラ』を会得した。


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苦手な物

霧夜先生がいつものごとく煙玉を炸裂させて忍び教室に登場する。

 

≪なぁ霧夜、毎度のように煙玉を使うって意味あるのか?≫

 

「(何を言うかゼロ。こういう煙玉を使って登場するのが、古き良き忍びの伝統なのだ)」

 

≪そうかぁ~??≫

 

ゼロの呆れた声を聞き流して、霧夜先生は煙が晴れて教室を見渡すとーーーー。

 

「ん?」

 

≪あん?≫

 

霧夜先生とゼロは思わず間の抜けた声を発した。

それも仕方ない。なぜなら、教室の一角では。

水着姿の葛城が頭に大きなタンコブを作って血を流し。

血が付着した番傘と拳を拭き取る水着姿の柳生と雲雀。

呆れて目を半眼にしながら葛城を見下ろす制服姿の飛鳥と斑鳩。

頬をポリポリと人差し指で掻く理巧。

 

「何が起こった?」

 

『あっ! 霧夜先生』

 

呟いた霧夜先生の声に反応して、生徒達が霧夜先生の方を向いた。

 

「葛城。お前何をしたんだ?」

 

「よくぞ聞いてくれたな先生!」

 

今さっき血を流して倒れていたとは思えない俊敏さで起き上がった葛城は、気取った態度で説明する。頭に出来たタンコブのせいでギャグにしか見えないが。

 

「アタイは今日。新たな境地に至ったのさ!」

 

「新たな境地?」

 

≪なんだそりゃ?≫

 

霧夜先生が聞き返すと、葛城は大仰な仕草で答える。頭のタンコブでギャグに見える。

 

「アタイは今まで、女の子のおっぱいを揉んできた。それはアタイのライフスタイルだった・・・・!」

 

≪珍妙なライフスタイルだな・・・・≫

 

「しかし! アタイは今まさにっ! 新たな境地の扉が開いたのだ!!」

 

聞く人によっては最低な事を言いそうになるが、霧夜先生はとりあえず聞いてあげる。

 

「女の子にはおっぱいがある。しかし男のおっぱいなんてアタイは何の興味を抱かなかった。しかし! アタイは気づいたんだ、そう気づいたんだよっ!」

 

「・・・・・・・・何をだ?」

 

≪嫌な予感しかしねぇ・・・・≫

 

嫌な予感がするが、一応聞いてやろうとする霧夜先生とゼロ先生。

 

「男、それも若い男の子には・・・・・・・・お尻があるって事をっ!!!」

 

背中に落雷が落ちたかのような、波による激しい水飛沫舞う海岸に立ったような迫力で、とんでもなくふざけたことを宣言する葛城。

 

「葛姐ぇ・・・・」

 

「ついに女子だけでなく男子にまで・・・・」

 

「理巧、葛城には気をつけておけよ」

 

「葛姐ぇって、本当にセクハラ大好きだから」

 

「・・・・良くわからんけど、了解」

 

性格エロ親父の葛城が新たなセクハラの幅が広くなり、飛鳥と斑鳩はハァ、とため息を吐き、柳生と雲雀は理巧に葛城に警戒するように言って、理巧も了承した。

 

「アタイはちょっとした興味で、暁月のお尻を触ってみた! その時衝撃が起こった! 今までの女の子のおっぱいとは違った新たな新感覚!! 暁月理巧! アタイはお前のお尻に惚れたぜーーーー!!」

 

すかさず理巧の背後に回ると、お尻部分に手をワキワキさせながら伸ばすがーーーー。

 

ゴツンッ!×4

 

「フゴッ!?」

 

しかし、そうはさせまいと柳生と雲雀だけでなく、今度は飛鳥と斑鳩が葛城の頭に鉄拳を下ろした。

 

「葛姐ぇ、流石にダメだよ」

 

「理巧が大人しいからって調子に乗るなこの悪代官」

 

「むぅ~!」

 

「葛城さん。最近は女性が男性にわいせつ行為を行うのは犯罪となっているのですよ」

 

飛鳥が苦笑し、柳生が片目を鋭く光らせ、雲雀が頬をプゥっと膨らませ、斑鳩が手を払いながら苦言を言った。

 

「くっ、アタイはまだ終わらんぞ・・・・! 暁月のお尻はアタイが必ず・・・・!」

 

「・・・・理巧、少し葛城から離れていろ」

 

「??・・・・はい。それでおじ、霧夜先生。今日の授業は終わったんじゃないんですか?」

 

理巧は状況が良く分からないが、とりあえず葛城から離れ、霧夜先生に話しかける。

 

「うむ。実はみんなに言っておく事があってな。今後もしばらくの間、外部の者との接触は厳禁とする」

 

「外部の・・・・?」

 

「傀儡の件か?」

 

『っ!』

 

飛鳥は首を傾げたが、柳生の一言で飛鳥と雲雀と斑鳩と葛城も、はっ、となる。

 

「そういう事だ」

 

霧夜先生が答えると、さっきまで倒れていた葛城が、タンコブを引っ込めて立ち上がる。

 

「ふん! あんなヤツら何人掛かってきても、アタイが返り討ちにしてやるよっ!」

 

「駄目だ!」

 

「っ!」

 

「これは“命令だ”。葛城」

 

「・・・・はぁ~い♪」

 

勇ましい葛城を一喝すると、霧夜先生は静かに目を細めて告げて、葛城も軽快に了承する。

 

「理巧。お前もどうやら狙われているようだから、あまり一人で行動をすることを控えるように」

 

「・・・・・・・・火の粉が降りかかってきたら払いますけどね」

 

「これも“命令”だぞ」

 

「最低限、守る努力はします」

 

目を鋭くする霧夜先生の視線に、理巧も目を鋭くして見据える。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

二人の視線がぶつかり合い、重い空気が教室を覆い、飛鳥達とペガも沈黙する。

 

「・・・・柳生、雲雀」

 

「は、はい!」

 

「・・・・」

 

突然霧夜先生に呼ばれ、慌てて返事をする雲雀と静かに顔を向ける柳生。

 

「理巧から目を離すなよ」

 

「はい!」

 

「了解した」

 

「ではこれにて、解散!」

 

二人が了承するのを確認した霧夜先生は、再び煙玉を使って教室から消えた。

 

 

 

ー霧夜sideー

 

教室を出た霧夜先生に、ゼロが声を発する。

 

≪あの暁月理巧ってヤツ・・・・≫

 

「(どうしたゼロ?)」

 

≪さっきお前と睨み合った時の暁月理巧の目に、ヤツの面影を見た・・・・べリアルのな≫

 

「(・・・・・・・・)」

 

≪霧夜。暁月理巧はどんなヤツなんだ? もう少し詳しく教えてくれ≫

 

「(自分に降りかかる火の粉に対しての冷徹さと、自分の大切な人達に危害を加える者達に対しては、誰よりも冷酷に、そして残酷になれる一面を持っている。まさに忍にむいた性質なヤツだよ・・・・)」

 

≪大切な人達を傷つける者に対する冷酷さと冷徹さか。だがそれは、一つ間違えば危険な一面になりかねない性質だな・・・・≫

 

「(ああ。飛鳥達と共にすごして、少しでも“他者に対する思いやり”を学んで欲しいがな・・・・)」

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は雲雀と柳生に挟まれながら、飛鳥達が理巧を男子寮へ送ろうと帰路についていた。

 

「なんでぇ霧夜先生! あんな人形なんかにびびちゃってさ!」

 

葛城は霧夜先生の命令に、まったく納得しておらず文句を言っていた。

 

「なぁ飛鳥?!」

 

「アハハハ、その時私いなかったから・・・・」

 

「あっそうか・・・・」

 

苦笑いを浮かべる飛鳥。

 

「(外部の者・・・・あの『焔』と『春花』って子達か? 彼女達の様子だと、近い内にまた現れるかもしれないな)」

 

【私と焔ちゃんの目的は、貴方を捕獲することだから、敵って事になるわね】

 

理巧は、春花の言っていた言葉から、彼女達の標的は自分だと思考していた。

 

「霧夜先生のご様子、わたくし達が襲われた件に関して、何かご存知のような、そんな気がするのですが・・・・」

 

「何か?」

 

「何の事だよ斑鳩?」

 

「それは分かりませんが・・・・」

 

前を歩く斑鳩達の会話を聞きながら、雲雀がコッソリと理巧に話しかける。

 

「理巧くん、あの時レッドキングさんが現れたのも、関係しているのかな?」

 

「多分ね・・・・(雲雀ちゃんと柳生さんには、まだ話さない方が良いな)」

 

理巧は自分が襲われたのも、その襲撃者達がレッドキングを召喚した事を、雲雀達にも話していない。悪戯に不安にさせないように理巧なりの配慮である。

そしてふと、柳生が歩みを止める。

 

「関係ない。オレ達は忍だ。“与えられた命令”を、確実にこなすだけだ」

 

「でもまたあんなヤツらが出てきたら、雲雀怖いな~」

 

「安心しろ。雲雀はオレと理巧が守る。な、理巧?」

 

「・・・・そうだね」

 

「えへへ~」

 

雲雀に対して、ニッコリと笑顔を見せる柳生。理巧も雲雀の頭を撫で、雲雀も気持ち良さそうに笑顔を浮かべた。

 

「・・・・・・・・」

 

そんな仲睦まじい三人を見て、飛鳥がなんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。

 

「んじゃ飛鳥の胸はアタイが守るっ!!」

 

それに気づいて元気付けようと思ったのか、単にセクハラをしたくなったのか、葛城が飛鳥の後ろに回り、飛鳥の豊満な胸を揉みしだく。

 

「きゃっ!」

 

飛鳥が葛城の手を払い除けようと身動ぎして体勢を崩し、街路樹にぶつかった。

 

スポッ。

 

その拍子で、街路樹の葉に止まっていたカエルがなんと、街路樹にぶつかった時にワイシャツが開け、飛鳥の90センチFカップの谷間に、スポッと入ってしまった。

 

「うぅっ! きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

 

飛鳥の悲鳴が夕焼けの商店街に響いた。

 

「カエルーーーーッ!!! カエルが私の胸にッ!!! 助けてーーーーッ!!」

 

錯乱した飛鳥は理巧の足にすがった。

 

「・・・・・・・・はぁ」

 

理巧はため息を吐くと、一瞬で飛鳥の胸の谷間にちょこんと出ていたカエルの足を摘まんで、カエルを引っこ抜いた。

 

「うわっ早業!」

 

「流石だな」

 

「ちゃっかり飛鳥の胸をお触りしてないかぁ?」

 

「もししていたら?」

 

「セクハラの罰として、アタイが暁月の尻を滅茶苦茶にっ!」

 

「葛城さん。本当に新たなセクハラに目覚めたんですね・・・・」

 

外野の言葉を聞き流しながら、理巧は摘まんだカエルを見て、目を回している飛鳥を見下ろす。

 

「雨蛙か」

 

「蛙くらいで動揺して、飛鳥さん忍としての自覚が足りませんよ」

 

「ううぅぅ、私、昔から蛙が駄目なんですよ。特に、太ももとか水かきが何とも言えなくて・・・・!」

 

「微妙に具体的だな」

 

情けない顔となって泣き言を言う飛鳥に、柳生も肩をすくませた。

 

「・・・・・・・・・・・・んん?」

 

「どうしたの理巧くん?」

 

雨蛙を人差し指に乗せた理巧が、眉を寄せた。

 

「ん~。何か思い出せそうだ、蛙を見ていると何か・・・・」

 

「えっ! それって、飛鳥ちゃんとの思い出じゃないかなっ!?」

 

「えぇっ!?」

 

理巧が何かを思い出しそうになり、それが飛鳥との思い出ではないかと雲雀が言うと、飛鳥が反応し、他の三人も理巧に視線を送り、ダークゾーンに隠れたペガも理巧の影に隠れながら聞き耳を立てていた。

 

「・・・・・・・・何か浮かびそうーーーー」

 

「あっ!!////////////」

 

理巧が記憶を探ろうとしていると、突然飛鳥が顔を真っ赤に染めた。

 

「り、理巧くん! 無理に思い出さなくて良いからっ! さぁ帰ろう! 帰ろう!!」

 

飛鳥が理巧の背中に回ると背中を押し、その場を離れようとした。

 

「どうしたんですか? やっと思い出せそうなのに?」

 

「良いからっ! 思い出さなくてっ!!/////////」

 

顔を真っ赤に染めた飛鳥の勢いに押され、理巧はそれ以上何も言えず、他のみんなも飛鳥の剣幕に黙ってしまった。

 

「(うあ~! もしかして、りっくんってば、『あの事』を思い出しちゃったの~~!)」

 

飛鳥は、何を思い出したのか、必死に真っ赤になった顔を隠しながら理巧の背中を押した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

そしてその夜。それぞれの部屋で就寝している女子達。

斑鳩は布団を敷いて、枕元に女性誌を置かれていたが、キッチリとした姿勢で眠り。

葛城が牛柄の寝間着を着て、トレーニング器具を置いた部屋でハンモックの上で高いびきをしながら眠り。

柳生は水槽が置かれ、烏賊のぬいぐるみを枕元に置き、烏賊柄の布団で眠り。

雲雀はピンクのウササンパジャマを着て、天蓋付きのベッドと周りに沢山のぬいぐるみに囲まれてスヤスヤと眠っていた。

それぞれが眠りについているが、飛鳥だけはまだ起きていた。

ネコサンパジャマを着て、ベッドに横になりながら、動物図鑑を開いて、『秘伝忍法の召喚獣』を考えていた。

 

「来てくれる、か・・・・。斑鳩さんはそう言うけど、やっぱ、具体的な動物の、イメージ、って、無い、か・・・・」

 

そして飛鳥の頭も微睡み、眠りについた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

その翌日。

斑鳩は訓練用のジャージを着て、早朝の鍛練に勤しみ、自然公園で木刀を振るっていると抜刀の構えを取る。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

瞑目して集中している斑鳩は気付かなかった。

自分の胸元に“小さな光”が輝いていた事に。

 

「ハァッ!!」

 

ズバンッ!!

 

「なっ・・・・!!」

 

斑鳩は抜刀するように木刀を振り抜くと驚愕した。

振り抜いた瞬間、斬撃が飛び出し、街路樹を一本切り裂いてしまった。

 

「・・・・・・・・」

 

斑鳩は驚愕し、周りに誰もいないのを確認すると、いそいそとその場を立ち去った。

 

 

 

ー葛城sideー

 

「ふぁああああ~~・・・・」

 

葛城はハンモックを下りると、まだ寝惚けている頭を起こそうと洗面所に向かおうとした時ーーーー。

 

ガンッ!

 

「んごっ!?」

 

葛城は唐突な衝撃に目を覚まして足元を見やると、部屋に置いたトレーニング器具の足に、自分の足の小指がぶっかっていた。

それを自覚した時、足に強烈な痛みが走る。

 

「ーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

あまりの激痛に、声にならない悲鳴を上げ、目を、グッと瞑ってしまった葛城は気付かなかった。

自分の胸元に『小さな光』が輝いていた。

 

「~~~~~~!!!」

 

葛城は小指の痛みを手で抑えようと、小指を包んだ瞬間、ポォッと、自分の手のひらが光り、小指を包むと、小指の激痛が綺麗に無くなった。

 

「ん?」

 

葛城も不思議に思って手を退けると、小指は赤くなっておらず、痛みもまったく無くなり、首を傾げていた。

 

 

 

ー伏井出sideー

 

「・・・・・・・・2つの『リトルスター』が覚醒したか。では、次のステージへと進めよう」

 

高層マンションの最上階の部屋で、伏井出ケイは『リトルスター』の覚醒を感じ、口角を上げた。




次回、飛鳥のおじいちゃん登場!


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爺さんだぜ、飛鳥さん

ついにじっちゃん登場。


ー理巧sideー

 

朝起きた理巧は、寮の部屋でストレッチをし。

五本指で逆立ちして片腕立て伏せを左右で200回ずつ。

室内用鉄棒で逆さ腹筋300回。

瞑想10分。

このところ怪獣の解析作業やらでサボり気味になっていた早朝鍛練を終えて、シャワーを浴びると半蔵学院の制服を着て、まだ朝の7時15分なので、転送エレベーターで基地に赴いた。

 

「ペガ、レム、おはよう」

 

『おはよう理巧!』

 

『おはようございます。理巧』

 

「レム。いつものを頼む」

 

『了解しました』

 

学校以外での1日の大半を基地で過ごしている理巧は、レムに、これまでの歴代のウルトラ戦士達が戦ってきた怪獣達のデータを閲覧する。

中央テーブルに付いた理巧の目の前に、小さなモニターが空中ディスプレイで表示された。

これまでウルトラマンジードとした戦ってきた『スカルゴモラ』、『ダークロプスゼロ』、『レッドキング』などの怪獣が現れても対応出きるようにする為だ。

その中で、理巧は特に目を走らせているのは勿論。“自分の父親かもしれないウルトラマンベリアル”に関わりのある異星人だ。

 

「(・・・・ベリアルと関係のある異星人は、『ダークネスファイブ』と呼ばれる五人の異星人。

『アーマードメフィラス』とも呼ばれている『メフィラス星人・魔導のスライ』。

『ヒッポリト星人・地獄のジャタール』。

『テンペラー星人・極悪のヴィラニアス』。

『グローザ星系人・氷結のグロッケン』。

『デスレ星雲人・炎上のデスローグ』か。これまでの怪獣騒動に、もしもベリアルが絡んでいるとしたら、この五人がそのうち現れる可能性があるかも知れないな・・・・)」

 

思考する理巧は眺めながら、朝食を準備するペガ。

主にご飯とインスタント味噌汁。冷凍食品のオカズを置いて、理巧とペガ用に割りばしも用意した。

 

『理巧。ご飯が出来たよ』

 

「ああ」

 

閲覧を終えて、ペガと朝食を取った理巧は、食器を片付けると、ちょうど転送エレベーターでやって来た雲雀と柳生と一緒に地上に上がり、ペガを影に隠して学院を向かった。

 

 

 

 

時刻は昼頃。

地下道場で修行を終えた一同が忍び教室に赴くと、教室に寿司屋のカウンター席が置かれていた。

 

「これは?」

 

「カウンターだよな?」

 

「お寿司屋さん?」

 

「だな・・・・?」

 

「なんで教室に?」

 

「っ! まさか?!」

 

「フフフフフフフフフフ。来たな・・・・!」

 

突然カウンター席から含み笑いが響き、理巧と斑鳩と葛城と柳生と雲雀はカウンター席から離れるが、飛鳥は席に近づく。

 

「この声!」

 

「ヌフ、ヌフフフハハハ!」

 

カウンター席から、長い白髪を後ろに結わえ、ご立派な髭を生やした和装の老人が、にこやかな笑みを浮かべて現れた。

 

「どちら様?」

 

「じっちゃん!!」

 

『じっちゃんっ!?』

 

飛鳥が喜びの声を上げると、じっちゃんと呼んだ老人に抱きついた。

 

「じっちゃん!!」

 

「こ、これ飛鳥。この間会ったばかりだろうが」

 

「飛鳥さん・・・・そのお方は、もしや・・・・!」

 

嬉しそうに祖父に抱きつく飛鳥に、斑鳩がおそるおそると訊ねるが、飛鳥の祖父が一礼する。

 

「孫が世話になっておる」

 

「半蔵様っ!!?」

 

「伝説の忍びの・・・・!?」

 

「え~!」

 

「・・・・・・・・」

 

斑鳩が膝を付いて頭を垂れ、葛城が驚いた顔で指差し、雲雀と柳生も驚いた様子であった。

 

「ん。おおっ! 君が暁月理巧くんかっ!?」

 

「ん?」

 

半蔵は興味なしの態度でいた理巧を見つけると、一瞬で理巧に近づき、両肩を掴んで、理巧の顔をジッと見つめた。

 

「っ!」

 

「うんうん。中々に立派な顔つきをしておる。一度君に会っておきたかったのじゃよ!」

 

にこやかに理巧の肩を叩く半蔵に、理巧は訝しそうに見つめ、飛鳥達は驚いたように見る。

 

「あ、飛鳥さん。暁月さんは半蔵様とお会いしたことがあるのですか?」

 

「えっ? ううん。理巧くんとじっちゃんは今日初めて会ったと思うけど。じっちゃん、理巧くんと会った事があるの?」

 

「ん。いや、“今日初めて会ったんじゃよ”。じゃが儂は以前から暁月理巧くんを知っておったんでな」

 

「えっ?」

 

「・・・・・・・・」

 

飛鳥は祖父の言葉に首を傾げ、理巧は静かに目をスッと細め、いつでも臨戦態勢を取れるようにした。

 

「おっと、いきなり済まんかったな」

 

半蔵はカウンター席に行き、腕の袖を捲し上げ、おひつに入ったご飯を出してしゃもじでほぐし、理巧達もカウンター席に付いた。

 

「な~に、みんなに昼飯をご馳走しようと思ってな」

 

「やったぁ! お寿司だ! お寿司だ!」

 

「わざわざお店まで作ったの?」

 

「お前らを驚かそうと思ってな。」

 

「さすが『伝説の忍』と称される半蔵様。お見事です!」

 

「じゃが一人でここまでやるのは、ちと骨が折れたわ。ハハハハ!」

 

斑鳩が尊敬の眼差しを向け、半蔵は笑みを浮かべた。

 

「でも、ご実家の方は?」

 

「じっちゃんは隠居みたいなもので、お店はお父さんとお母さんがやっているんです」

 

「・・・・そうですか、ご両親が」

 

両親と言う単語に、斑鳩の顔に影が差した。

 

「斑鳩さん?」

 

「あっ、いえ、良いですね、家族って・・・・」

 

「はい! 私もそう思います!」

 

にこやかに笑う飛鳥に、半蔵は太巻きを出した。

 

「へいお待ち! 『伝説の特製太巻き』だぞ!」

 

『うわーーーー!』

 

「・・・・・・・・」

 

女性陣は歓喜を上げて太巻きを頬張るが、理巧は黙々と太巻きを頬張る。なぜか、理巧の方の太巻きは少し多めに置かれていた。

 

「じっちゃん。理巧くんの太巻きだけ多くない?」

 

「いやなに、男子ならこれくらいは食べられるじゃろう。暁月理巧くん、遠慮せずに食べなさい」

 

「はぁ・・・・」

 

理巧は了承するが、全員の目を盗んで、こっそりとペガに手渡していた。

 

『ムグムグ・・・・あっ、美味しい♪』

 

「(宇宙人も認める味なのか・・・・)」

 

『ダークゾーン』に隠れているペガもご満悦にしていた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「太巻きを食す乙女は善いの~、心が洗われるようじゃ(それに、異星の人にも美味しそうに食して貰えるとは嬉しいの~)」

 

カウンター席から離れて座る半蔵は、チラッと理巧の足元にも視線を送ると、自分と向かい合うように座り、太巻きを頬張る飛鳥に話しかける。

 

「ところで飛鳥。召喚が上手くいかんと?」

 

飛鳥が気まずそうに頷く。

 

「うん・・・・。ゴメンね、じっちゃん」

 

「ん?」

 

「このままだと私、じっちゃんの名前に傷を付けちゃうんじゃか、って・・・・」

 

「そんな事どうでもええ。しかし、やはりそうなってしまったか・・・・」

 

「え?」

 

難しい顔になった半蔵に飛鳥が首を傾げる。

 

「召喚獣は“家系に影響する”事もあってのぉ・・・・」

 

「“家系”?」

 

「特に我が家のように、代々忍を営んできた者ほど、その傾向が強いのじゃよ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

カウンター席に座ったままの理巧は、飛鳥と半蔵の会話に耳を傾けていた。

 

「じゃぁ、じっちゃんは何を召喚していたの?」

 

「忍としては、古式ゆかしい物じゃが・・・・」

 

「古式ゆかしい? 家の家系って何を召喚してたのっ!?」

 

「それはの・・・・」

 

身を乗り出した飛鳥に、半蔵は神妙な顔で声を発する。

 

「・・・・『ガマガエル』じゃっ!!!!」

 

「が、ガマガエルーーーーっっっ!!!? ふ、太ももが・・・・! み、水掛けが・・・・!!」

 

「(なんとまぁ・・・)」

 

飛鳥が顔を青ざめて震え、聞き耳を立てていた理巧は半眼になって肩をすくめ、半蔵が気まずそうに呟く。

 

「幼い内から飛鳥に馴染ませておけば良かったのかもしれん。まさかカエルが苦手な娘に育ってしまうとは思わなんだ・・・・」

 

「わ、私、最初からカエルが苦手だった訳じゃないよ・・・・ただ・・・・」

 

「ん? ただ、なんじゃ?」

 

「(チラッ)・・・・・・・・」

 

「ん?」

 

「っ・・・・/////////」

 

口ごもる飛鳥は、チラリと理巧に視線を向け、理巧も飛鳥の視線に気づいて視線を返すと、飛鳥は顔を赤くして視線を外した。

 

「(おぉ~、おぉ~、飛鳥のヤツめ、修行ばかりじゃったが、中々青春しておるようじゃのぉ~。しかし、暁月理巧くんには恋敵<ライバル>は多いぞ~)」

 

半蔵は孫娘の恋愛を見抜いて、ホクホクとした笑みを浮かべたが、すぐに顔を引き締めた。

 

「何はともあれ、これも忍の試練じゃ!」

 

「(ガクッ)はあぁ、飛鳥、頑張ります・・・・」

 

「うんうん。ん? そう言えば霧夜は・・・・」

 

ボワンッ!

 

「どわっ!!」

 

断言する半蔵に、飛鳥は項垂れながら頷くと、ボワンッ!と、煙が舞い、霧夜先生が現れ、半蔵に一礼した。

 

「ご無沙汰しております。半蔵様」

 

「ぶへっ! ぶへっ! 変わらんなお前も・・・・(ゼロのヤツも面倒なヤツと同居したのぅ)」

 

 

 

 

 

 

そして、飛鳥のカエル嫌いを克服しようと、全員で校外に出て、カエル探しをした。

 

「中々見つからないなぁ」

 

「もう少し、池の方を探してみましょう」

 

「カエルさ~ん?」

 

「あの、私の事だし、皆に迷惑かける訳には・・・・」

 

遠慮しようとする飛鳥に、スルメイカを頬張る柳生が振り向く。

 

「召喚する一番の近道は、それに馴染む事だ。こんな風にな」

 

「ひえっ!! く、口で、カエルをっ!! 私、一生召喚できなくても良いです、私の敗けです・・・・」

 

「何と戦っている? あくまで例え話だ」

 

「そうですよ。飛鳥さんがカエルと親しめるよう、こうしてカエル探しをしてるんじゃないですか。頑張りましょう」

 

「あ・・・・斑鳩さん。・・・・そうですよね、皆さんのお気持ちの為にも飛鳥、頑張ります・・・・」

 

無理して笑う飛鳥。

 

「あれ? そう言えば理巧くんは?」

 

「こっちですよ」

 

「あっ、理巧くんンンッ!!!??」

 

飛鳥が理巧は何処かと見回すと、背後から声が聞こえ振り向くとそこには、肩、両腕、両手にカエルを乗せ、頭の上にガマガエルを乗せた理巧だった。

 

「見つけましたよ」

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!!!」

 

理巧の姿を見て、飛鳥が仰天したように悲鳴を上げたのであった。

 

 

ー半蔵sideー

 

「ホッホッホッホッ。暁月くんもやるのぉ~」

 

飛鳥達の様子を少し離れた池の橋で様子を眺める半蔵と霧夜先生。

 

「召喚するべきものが苦手な生き物だったとは、どうして、何度やっても上手くいかない訳ですな?」

 

「うむ」

 

「ところで半蔵様。なぜ此方へ?」

 

「うむ。暁月理巧くんの人となりを直接見たかったのもあるが・・・・霧夜よ」

 

「はい?」

 

「この歳まで生きるとな。色々な物が“視えて”しまうんじゃ」

 

「はあ??」

 

「霧夜よ。お主の中にいる“若者”と、少し話をさせてくれんかの?」

 

「っっ!!・・・・分かりました」

 

半蔵の言った言葉の意味に勘づき、霧夜先生は息を呑んで少し沈黙するが、了承すると目を閉じる。

 

「っ・・・・」

 

すぐに開いたその瞳は、金色になっていた。霧夜先生と同化している、ウルトラマンゼロと交代したのだ。

 

「・・・・久しいの。ウルトラマンゼロよ」

 

「ああ、久しぶりだな半蔵の爺さん。『クライシス・インパクト』以来だな?」

 

「うむ。人々からあの事件の記憶と記録は、AIBによって、ある程度抹消できたが、完全に消せなかった記憶や記録がまだ残っていたからのぉ」

 

「あの時、俺達ウルトラマンはこの星を守る事が出来なかった・・・・」

 

ゼロは目を伏せる、まるで慚愧するかのように。

 

「お主達だけに責は無い。まさかベリアルがあのような凶行を行うなど、誰も予想できなんだ。それよりも、今はあの少年じゃ」

 

半蔵の目線の先には、カエルを捕獲用のケースに入れる理巧がいた。

 

「爺さん。アンタから見て、アイツはどう思う?」

 

「・・・・儂は、あの少年に邪な気配を感じん。だからこそ、“見定める”つもりじゃ」

 

「“見定める”、か・・・・」

 

「うむ。あの少年が厄災となるか、希望となるか、儂は直に確かめてみたいのじゃ」

 

半蔵の理巧を見るその目は、まるで“すべてを見透かすような雰囲気”があった。

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・」

 

ある建物の一室で、豪奢な机と豪奢な椅子に座り、半蔵学院の忍達の様子を伺っていた人物の背後から、長い耳をした異形の人物が現れる。

 

『なるほど、あれが『伝説の忍』カ?』

 

「・・・・・・・・」

 

ほくそ笑みを浮かべたその人物は、手に持った『怪獣カプセル』を起動させた。

 

ピギィィィィィっ!!

 

机に置かれた『コピークリスタル』に『怪獣カプセル』を装填させると、異形の人物が『コピークリスタル』に手を翳すと、『コピークリスタル』はその場から、まるで転送されたように消えた。

 

『さて、これでどうなるのカ、楽しみにしようじゃなイカ?』

 

「ーーーーーーーー」

 

異形の人物がそう言うと、座っていた人物は足を組んで、笑いを堪えるように身体を震わせた。




次回。ウルトラ怪獣の人気者登場。


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痺れるぜ、エレキング

ーゼロsideー

 

「それで爺さん。わざわざこっちに来たのは、孫娘とあの少年の様子見だけじゃねぇだろ? 霧夜も聞いているから言ってみろよ」

 

「ウム。傀儡に襲撃されたようじゃな?」

 

「(っ、やはり、半蔵様のお耳に入っておりましたか?)」

 

「爺さんの耳にも入っていたんだな?」

 

ゼロが霧夜先生の言葉を半蔵に伝える。

 

「霧夜も気づいておる筈じゃろうが、それが何を意味するか・・・・」

 

「(・・・・・・・・)」

 

「すでに“奴ら”は動き出しておる。それにどうやら、邪な異星人も“奴ら”と手を組んでいるようじゃしな」

 

「AIBにいる“鷹丸達”にも、応援を頼むか?って、霧夜は言ってるが?」

 

「バカを言うでない。このような事で“閃忍”のアヤツらが出てきては、飛鳥達の成長の妨げになる。第一に、鷹丸達も、暁月理巧くんも、まだお互いの“秘密”を話す心構えができておらん」

 

「だが、何か起こってからじゃ遅いぜ?」

 

半蔵は上空に目をやった。

 

「・・・・イヤ、もうすでに起こるようじゃ」

 

「あん?」

 

霧夜(ゼロ)先生も上空を見ると、空の一部が小さく光り、その光りは徐々に大きくなると、光りは巨大な生物へと変貌し、自分達の目の前に現れた。

 

黄色か白地に黒模様の体色、口は横一文字に伸びて光り、眼がある部分には回転する三日月形の角がクルクルと回り、体長よりも長いしっぽをした怪獣。

『宇宙怪獣 エレキング』。

 

『ピギィィィィィっ!!』

 

「エレキングだとっ!!?」

 

「ゼロよ霧夜と代われ、飛鳥達を避難させるのじゃ。・・・・暁月理巧くんが変身しやすいようにするのじゃぞ」

 

「分かった。霧夜頼む(デュゥゥン)・・・・すぐに避難させます」

 

 

ー理巧sideー

 

「うわぁあああっ!! ま、また怪獣なのっ!?」

 

「このところ頻繁過ぎだろうが!」

 

「皆さん! すぐに避難しましょう!」

 

飛鳥と葛城と斑鳩が驚き、カエルが入ったケースを持って、避難しようとするが。

 

「ど、どうしよう理巧くん?」

 

「今変身すれば飛鳥達どころか、先生達にもバレてしまうな?」

 

「・・・・機を見て皆から離れるしかないな」

 

同じくケースを持った雲雀と柳生と理巧も、この状況をどうするべきかと悩んでいると、エレキングがズンズンと地響きを響かせながらこちらに向かってきた。

 

ボワンッ!!

 

すると、理巧達の周囲が煙に覆われた。

 

『っ!?』

 

「全員、この煙に紛れて逃げろっ! 合流場所はメールで知らせる!!」

 

全員が突然の煙に驚くが、霧夜先生の声が響いて飛鳥達がこの場を離れた事を理巧は気配で察した。

 

「飛鳥さん達の気配が遠退いた」

 

「やった! 霧夜先生ナイスだよ!」

 

「理巧。オレ達も離れる。怪獣は任せたぞ」

 

「ああ」

 

柳生と雲雀が退いたのを確認した理巧は、エレキングを睨み、エレキングに向かった。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「先生! じっちゃん!」

 

エレキングから離れたビルの屋上にたどり着いた飛鳥、斑鳩、葛城の目の前に、すでに避難していた半蔵と霧夜先生がいた。

 

「飛鳥、ずいぶん遅かったの?」

 

「柳生と雲雀も間もなく来ます」

 

霧夜先生がそう言うと、柳生と雲雀もやって来た。

 

「柳生ちゃん! 雲雀ちゃん!・・・・あ、あれ? 理巧くんは?」

 

「ああ、途中ではぐれてしまってな・・・・」

 

「えぇえっ! りっくん!!」

 

飛鳥が理巧を探しに行こうとするが、半蔵が飛鳥の肩を掴んで止めた。

 

「大丈夫じゃ飛鳥。暁月くんなら無事じゃ」

 

「でもじっちゃん!」

 

「儂を信じなさい。大丈夫じゃ」

 

優しく諭すように言う祖父に、飛鳥も一瞬不安そうに顔を俯かせるが、大人しくなった。

 

「さて、そろそろ来るかのぉ?」

 

半蔵は遠く離れた場所でこちらに向かって来るエレキングを見据えると、エレキングの足元が光り輝いたのを見た。

 

「(じっくり見させてもらうぞ。ウルトラマンジード)」

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

飛鳥達から離れた理巧は、エレキングを見据え、カプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シャアッ!

 

「アイ・ゴー!」

 

ヌェアッ!

 

『初代ウルトラマンカプセル』と『ウルトラマンベリアルカプセル』を装填ナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く!

 

『ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!』

 

光と闇の螺旋の中から『ウルトラマンジード プリミティブ』となって飛び出す。

 

『シャアッ!!』

 

降り立ったジードはエレキングに向けて構える。

 

『ピギィィ!』

 

エレキングはジードを見据えると、両手を上げてジードに迫る。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「ウルトラマンジード!!」

 

「やっぱり現れましたか」

 

「良いタイミングで現れるよなぁ」

 

半蔵、霧夜先生、柳生、雲雀はジードの正体を知っているから何も言わずに見据えるが、飛鳥、斑鳩、葛城はジードを訝しそうに見つめていた。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

『ショワッ!!』

 

『ピギィィィィィ!!』

 

ジードはエレキングと取っ組み合いを始め、エレキングの両手を無理矢理上げさせると、エレキングの腹部に両手の掌底打ちを叩き込んだ。

 

『ピギィッ!』

 

エレキングは口から三日月状のエネルギー弾、『放電光線』を連続で放った。

 

『ふっ! はっ!』

 

ジードはアクロバティックな動きで『放電光線』を回避するが、回避した『放電光線』がビルやアスファルトに当たり、爆発が起こった。

 

『アッ・・・・!』

 

ジードは破壊されたビルやらを見ると、その向こうに飛鳥達がいるのを確認した。

 

『ピギィィィ!』

 

エレキングがさらに放った『放電光線』を回避するか、光線の1つが飛鳥達の方に飛んでいく。

 

『「っ! ちぃっ!!」』

 

理巧はインナースペースで舌打ちすると、飛鳥達の前に即座に移動すると、『放電光線』を真っ向から受け止めた。

 

『ぐぁあっ!!』

 

『放電光線』で怯んだジードに、エレキングはしっぽを大きく振り抜いて、ジードの身体に巻き付かせた。

 

『ぬぅ!』

 

『ピギィィィィィ!!』

 

バリバリバリバリバリバリバリバリ・・・・!!

 

『ぐぅああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!』

 

巻き付かせたしっぽが放電し、電流をジードに流し込んだ。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「ああっ! ジードがっ!」

 

「おいおい、何で攻撃に当たってんだよ!?」

 

「分からんかの?」

 

「半蔵様?」

 

ジードが『放電光線』をわざと当たりに行った事に、飛鳥達は分からなかったが、三人以外の人達は分かっていた。

 

「先ほどの怪獣の攻撃、もしもジードが庇ってくれなければ、儂らの所に届いておったのじゃ」

 

「「「えっ!」」」

 

半蔵の言葉に、飛鳥と斑鳩も葛城は半蔵を見る。

 

「ジードはな、儂らを守ってくれたのじゃ」

 

半蔵にそう言われ、改めて飛鳥達はジードを見つめる、

 

 

ー理巧sideー

 

『「くっ、このままじゃ・・・・っ!」』

 

理巧は電流を浴びながら、頭の記憶の中から、ある少女の名前が浮かんだ。

 

『「・・・・もしかして、あの子・・・・“あーちゃん”・・・・ぐぁあっ!!」』

 

理巧は記憶に浮かんだ名前を呟くが、電流の刺激で現実に戻ると、記憶からエレキングとウルトラセブンの戦闘記録を思い返した。

 

『「っ、そうだ・・・・!」』

 

理巧は痺れる身体を動かして、『セブンカプセル』を起動させる。

 

『(融合!)』

 

ダーッ! 

 

するとカプセルの中から水色の光の線が現れ、『ウルトラセブン』が出現して、『セブンカプセル』を装填する。

 

『(アイ・ゴー!)』

 

次に『ウルトラマンレオ』のカプセルを起動させると、カプセルから赤い光の線が溢れ、『ウルトラマンレオ』が現れる。

 

ィヤーッ!

 

『レオカプセル』を装填ナックルに装填した。 

 

『(ヒア・ウィー・ゴー!!)』

 

ジードライザーのスイッチを押した理巧は、装填ナックルを取り外し、ジードライザーで読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

鼓動のような起動音がすると、ジードライザーの中央カプセルに、水色と赤色が混じりあった。

 

『フュージョンライズ!』

 

『(燃やすぜ! 勇気!! はぁあ!! はぁっ!)』

 

ジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押すと、中央カプセルが金色に輝く!

 

「ジイィーーーーード!!!」

 

『ウルトラセブン! ウルトラマンレオ! ウルトラマンジード!! ソリッドバーニング!!』

 

セブンとレオの姿が重なり合い、赤い鎧を纏ったような姿へと変身した。

 

『デュワッ!!』

 

鋼の戦士・『ウルトラマンジード ソリッドバーニング』へと変身した。

 

『ピギィィィィィッッ!!?』

 

『ジュアッ!!』

 

炎を纏ったソリッドバーニングの炎は弾け飛び、エレキングは巻き付けたしっぽに炎が点いてしまい、慌ててしっぽをほどこうとした瞬間、ソリッドバーニングは上空に飛んでしっぽから逃れると、エレキングの顔面にパンチを叩きつけた。

 

『ピギュィィィィィッ!!』

 

ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

 

倒れたエレキングを見ながら、ソリッドバーニングは蒸気を噴射させて、プロテクターのアーマーが駆動し終えて収まった。 

 

『ジャッ! ハァァァァァ・・・・!』

 

『ピギュィィィィィッ!!』

 

起き上がったエレキングは『放電光線』を放つが、ソリッドバーニングはその強固な守備力で『放電光線』を真正面から受けながら前進し、エレキングに向かった。

 

 

ー半蔵sideー

 

「ほお! あれが新たなジードの姿か! 中々男心をくすぐるのぉ!」

 

「えぇ、実に見事なメカぶりです」

 

≪なんだよメカぶりって・・・・≫

 

大人達を尻目に、雲雀と柳生も笑みを浮かべ、飛鳥達は静かにソリッドバーニングを見据える。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『『エメリウムブーストビーム』!!』

 

『ピギィィィィィィィィィィィィィッッ!!』

 

額から放たれた光線がエレキングの回転する角を破壊し、エレキングはしっぽを振り回して悶える。

 

 

 

ーゼロsideー

 

「(デュゥゥゥン)なるほどな」

 

「霧夜先生?」

 

突然前に出て、若々しい声になった霧夜先生に飛鳥達は訝しそうに見るが、霧夜先生、イヤ、ゼロは気にせず続ける。

 

「エレキングの角はセンサーの役目を持っている。あの角を失えばエレキングは目と耳を封じられたような物だ。上手くやったな」

 

 

 

ー理巧sideー

 

『デャッ!!』

 

ソリッドバーニングはエレキングのしっぽを掴むと、上空に向けて大きく振り上げた。

 

『ピギィィィィィ!!』

 

落下するエレキングに向けて、展開した右腕を突き立て、必殺技を繰り出す。

 

『フンッ! 『ストライクブースト』ォォォォ!!』

 

『ピギィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!』

 

背中から落下するエレキングに紅蓮の炎が包み込み、再び上空に上昇したエレキングはそのまま爆散した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「やったぁ!」

 

「やったやった!」

 

「ああ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

飛鳥と雲雀と柳生はジードの勝利を喜ぶが、斑鳩と葛城はジードを半信半疑なのか何とも言えない顔で見ていた。

半蔵はうむうむと満足そうに頷き、霧夜先生(ゼロ)はジードを真っ直ぐに見据える。

 

 

ー理巧sideー

 

『・・・・・・・・・・・・ジュワッ!』

 

ソリッドバーニングは飛鳥達を一瞥すると、空高く飛んで去っていった。

 

 

 

ー伏井出sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

伏井出ケイは、煙を上げる『エレキングの怪獣カプセル』を拾い、フッと笑みを浮かべる。

 

「さて、これからの展開でどれ程の愉快なものが見れるかな?」

 

そう言って、伏井出ケイはその場を離れた。

 

 

ー???sideー

 

雷雲渦巻く城の一室。

そこに飛鳥に接触し、傀儡を斑鳩達に差し向け、理巧は捕縛しようとした焔と春花、そして仲間の三人が、目に不気味な光を輝かせた鎧武者の人物に、頭を垂れていた。

 

『接触してみての感触は?』

 

鎧武者は、その不気味な風貌から声を発すると、焔と春花が報告する。

 

「はっ! 『伝説の忍』の血を引く飛鳥と言う娘と『捕縛対象』である暁月理巧と言う男、特にと思い、私が直接ちかづいてみましたが、娘の方は兎も角、男の方はかなりの手練れと見受けました・・・・」

 

「他の娘達も、私の傀儡の相手で精一杯って感じで・・・・」

 

『男の方以外は恐るに足らぬと?』

 

「御意」

 

『たかが一度の接触で甘く見てはならない。油断は即、“死”、になる。これが“忍の極意”です』

 

「「御意」」

 

鎧武者がそう言うと、焔と春花はさらに頭を垂らす。

 

『その娘達がいずれ貴女達の障害になるは必然。だが焦る必要もありません。忍の矜持を持って、深く静かに、殲滅しなさい。ですが、男の方は必ず捕縛しなさい。これは決定事項です』

 

「「「「「御意」」」」」

 

焔達が了解を示すと、鎧武者は青緑と白のドレスを着た少女に目を向ける。

 

『詠。次は貴女です。いざとなれば、『人形』も使いなさい』

 

「承知いたしましたわ。ウフッ、ウフフフフフフ」

 

詠と呼ばれた少女は、『コピークリスタル』と『平たい五角形の身体をした怪獣のカプセル』を持って、不気味に微笑んだ。

 

 

 

ー理巧sideー

 

皆と合流した理巧はそのまま忍教室に戻り、理巧と斑鳩以外は水着に着替え、飛鳥はカエルがいっぱい入ったビニールプールに足を突っ込もうとしていたが・・・・。

 

「うわぁぁぁ~!」

 

「頑張って飛鳥ちゃん!」

 

「何をどうがんばれば良いんだろう~!」

 

「大丈夫だって、カエルは噛みつかないんだからさ♪」

 

「笑い事じゃないですよぉ~!」

 

飛鳥が足を水面に近づけると、ガマガエルが跳ねて、飛鳥の足にピトッと着地した。

 

「ひぃっっ!!!!」

 

「蛇に睨まれたカエルみたいだな」

 

青ざめた飛鳥を見て、柳生が呆れたように見て呟いた。

 

 

ーゼロsideー

 

ゼロと霧夜先生と半蔵は、別室で話し合いをしていた。

 

「『蛇女子学園』。それが・・・・」

 

「うむ。ようやく判明した。“奴ら”の悪忍養成機関じゃ」

 

「やはり、悪忍の仕業でしたか。最近犯罪宇宙人達と結託している地球人に、悪忍の影があると、鷹丸達から聞いてはいましたが・・・・」

 

「修行中とは言え、飛鳥達もまた忍。向こうが仕掛けた以上、命の駆け引きも覚悟せねばならん」

 

「っ・・・・」

 

生徒達を危険に合わせたくない霧夜先生は渋面を作るが、半蔵は話を続ける。

 

「彼奴等が犯罪宇宙人達と結託した訳は分からんが、一連の怪獣騒動も兼ねて、降りかかる火の粉は払わねばならん」

 

霧夜先生の脳裏に、一人の少女の影が浮かんだが、霧夜先生はすぐに頭を垂れる。

 

「はっ。・・・・それで半蔵様は、理巧を、ウルトラマンジードをどう見ましたか?」

 

「・・・・少なくとも“悪”ではない。だが“善”と言う訳でもない。今はその狭間で惑っていると言うところかの」

 

「(ギュォンッ)惑っている、か?」

 

ゼロに代わった霧夜先生に半蔵は頷く。

 

「ウム。今はまだ静観で良いじゃろう。彼のこれからを見てからでも遅くはあるまい。それに、鷹丸達がいる間は、彼が地球の敵になることはないからのぅ」

 

 

ー理巧sideー

 

その頃の理巧達は。

 

「やっぱり駄目ぇ~! うわっ!」

 

飛鳥が片足をプールの水面につけたまま逃げようとしたが、支えにしていた足が濡れた床に、ツルッと滑り、プールに飛び込むように倒れるように入ってしまった。

そんな中、飛鳥が入った時に辺りに飛び散ったカエルの一匹が、飛鳥の後ろの椅子に座っていた斑鳩のスカートの中に入り込んだ。

 

「ふぁああああああああああっ!!」

 

「おお斑鳩! 飛鳥にお手本を見せているのか?」

 

「そうじゃありません!!///////」

 

「ほら飛鳥ちゃん。斑鳩さんみたいに楽しそうにすれば良いんだよ」

 

「楽しそうかな?」

 

「そうは見えないがな・・・・」

 

さらにカエル達が斑鳩の服の中に入り、斑鳩は素肌に感じるヌルヌルとした感触に身悶える。

 

「取って下さい! 取って下さい! 取って下さ~い!!」

 

「はぁ、仕方ない」

 

カエルが服の中で暴れて、それで悶える斑鳩を見かねた理巧が、斑鳩の服の中に手を突っ込んだ。

 

「あ、暁月さんっ!!?」

 

「大人しくしてください。変な所に触っちゃいますよ」

 

それから理巧はいつもの無表情で斑鳩の服の中からカエルを取りだそうと、手を動かす。

 

「イヤンッ! はぅっ! ぁあん! はぁっ! あ、暁月、さん! そんな! んん! そんな所に! あぅん! 手を! 手を、入れないで、下さ、んあ~!////////」

 

理巧がカエルを取り出そうと斑鳩の服の中で手を動かすが、カエルがその手から逃げて這いずり、それを理巧が追って手を動かすと言う悪循環で、斑鳩はその何とも言えない感触に悶える。

 

「うわわわわわわわ////////」

 

「ほぉ、これはこれでエロいな」

 

「理巧くんって、結構そう言う事に無頓着な所あるよね?」

 

「下心が無い分、質が悪いがな」

 

 

飛鳥は顔を赤らめて両手で覆うが、指の隙間からバッチリ見つめ。

葛城は思わぬエロ場面にご満悦となり。

雲雀と柳生は理巧の行動に下心が無い事を知っているので静かに眺める。

 

「よし。これで全部ですね」

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・・/////////」

 

理巧はカエルを全部ケースに戻すが、後ろでは斑鳩は顔を赤くし制服も呼吸も乱れて、横になっていた。

 

「うわ~! 斑鳩さんが凄い事に・・・・/////////」

 

「フッ。まぁ年下の美少年に振り回されて玩具にされるのは、女の夢って一般説があるからな♪」

 

「そうなの?」

 

「違うだろ」

 

飛鳥と葛城は斑鳩のあられない姿に見て呟き、雲雀と柳生は葛城の一般説に呆れ、斑鳩のフォローに回った。

 

 

 

 

理巧と飛鳥と斑鳩は半蔵の歓迎パーティーをする事になり、買い物に来ていた。理巧は人助けとは言え、婦女子の服の中に手を突っ込んだ罰として荷物持ちとなった(葛城が理巧のお尻にセクハラしようとしたが雲雀と柳生に阻まれた)。

 

「飛鳥さん?」

 

「じっちゃんは『伝説の忍』って呼ばれるほど凄い人なのに、私・・・・」

 

「焦ることはないと言ったでしょう?」

 

「でも、皆に面倒ばかりかけてしまって・・・・」

 

「貴女はいつも頑張っています。皆それを知っていますよ。そして、いつかその頑張りが報われる事も」

 

「斑鳩さん・・・・!」

 

「ただ・・・・さっきのは私も参りましたけど、主に暁月さんのせいで・・・・」

 

「ん?」

 

斑鳩がジト目で理巧を見ると、理巧は首を傾げる。

 

「い、良いですか暁月さん。女性の服に手を突っ込むなど、いくら人助けとは言え駄目なんですよ!」

 

「・・・・・・・・それもそうですね。ごめんなさい」

 

理巧は斑鳩の言い分に顎に手を当てて考えると、素直を頭を下げて謝意を述べた。

 

「・・・・以外と、素直に謝罪できるんですね?」

 

「相手に悪い事をしたら謝るのが礼儀だって、教わりましたから」

 

「そうですか・・・・」

 

問題児と思っていた理巧の以外な一面を見て、斑鳩は少し驚いた。

 

「ところで、飛鳥さんに聞きたい事があるんですが・・・・」

 

「えっ、何?」

 

理巧に話しかけられ、飛鳥は首を傾げる。

 

「もしかして君って、あーーーーー」

 

「もやしがお高いですわ・・・・」

 

「「「ん?」」」

 

突然の呟きに、目を向ける三人の目線の先には、青緑と白のドレスに、金色の長髪をした少女が、もやしが盛られた場所に立っていた。

 

「そう思いませんこと?」

 

「は、はぁ・・・・」

 

飛鳥は小さく首肯するが、斑鳩が飛鳥と理巧の手を取りその場を離れようとした。

 

「斑鳩さん?」

 

「外部の者との接触は厳禁だと」

 

バシュンッ! バシッ!

 

斑鳩の顔の横を何かが通過しようとしたが、理巧がそれを掴んで止めると、その手には、小さな矢が握られていた。

 

「っ、暁月さん・・・・!?」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は斑鳩に目を向けず、矢を放った相手、今会った少女を静かに見据える。

 

「もやしなんて庶民の食べ物、貴女には興味もこざいませんものね。これだからお嬢様育ちは、嫌いなのですわ」

 

その少女の右手には、ボウガンを装備し、冷徹に目を細めてこちらを睨んでいた。




飛鳥と接近させたかったけど、いつの間にか葛城と斑鳩とのフラグを立ててしまいました。



ー次回予告ー

現れた謎の忍が襲撃してきた。本当に一体何なんだ?
そして、斑鳩さんの家族関係を知ることになった。斑鳩さんって、僕と同じだったんだな・・・・。
そんな時、鳥やら、ロボやら、虫やらの怪獣が出まくった。まったく面倒極まりない事だよ。
葛城さん、斑鳩さん、二人の光を使わせてもらいますよ。


次回、『閃乱ジード』

【家族の形】

見せるぜ! 衝撃!


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家族の形
罰だぜ、斑鳩さん


さて、今回のヒロインは斑鳩です。


ー理巧sideー

 

理巧はボウガンから放たれた矢を素手で掴み、指先でクルクルと回しながら、その矢を放ったボウガンを右手首に装備し、前髪に隠れた目を冷徹な細めて、こちらを睨みながら笑みを浮かべる少女を静かに見据える。

少女は、斑鳩を見据えながら唇を開く。

 

「わたくし腹が立っておりますの。お金持ち御用達の高級な野菜が値上がりする分には、なんの不平も御座いませんのよ」

 

「はぁ?」

 

少女の言葉に、飛鳥は緊張感無く首を傾げるが、少女は構わず続ける。

 

「でも、低価格で庶民の味方のモヤシまで値上がりするなんて、どういう事ですの?」

 

「モヤシぃ? あの、そんなに物を向けられてそんな事を聞かれても・・・・」

 

「っ!」

 

緊張感が無い飛鳥と違い、斑鳩は視線を鋭くすると、理巧の指先で回っていた矢を掴み、少女に向けて投げ飛ばすと、少女の髪を掠り、少女の後ろのモヤシの札に刺さった。

 

「貴女<斑鳩>に、尋ねているのですわ」

 

「っ・・・・行きますよ。二人とも」

 

斑鳩は飛鳥と理巧の手を取り、その場を離れようとする。

 

「ちょっ・・・・斑鳩さん・・・・!」

 

「外部の者との接触は禁止です」

 

「でもあの人たぶん・・・・!」

 

「逃がしてくれそうにないですよ」

 

理巧が呟くと同時に、少女は前髪の影を濃くする。

 

「そうですの・・・・あくまでもわたくしを無視なさろうと言う気ですのね」

 

少女は、フッと肩を竦めると、バッと手を上に伸ばした。

 

「『忍結界』!!」

 

少女がそう叫ぶと、周囲の風景が黒くなり、緑色の細い草が舞う。

 

「「っっ!!」」

 

「・・・・・・・・これが、『忍結界』か・・・・」

 

「じゃぁやっぱり!!」

 

理巧は初めて見る『忍結界』を見渡し、飛鳥と斑鳩は少女の方に向き直る。

 

「貴女の目的は?」

 

斑鳩が質問すると、少女は相も変わらず冷徹に微笑んで口を開く。

 

「あえて言うなら、貴女<斑鳩>が財閥のお嬢様だからですわ。そして、もう1人の殿方には、わたくしと一緒に来ていただきたいのですわ」

 

チラッと理巧の方に目を向ける少女。

 

「理巧くんと斑鳩さんが目的!?」

 

「どういう事でしょう?」

 

「先ずはそちらの殿方の方は、わたくしの依頼主が捕獲せよと命じられたからですわ。そして貴女の方は、お父様やお母様の愛情を、いっぱい頂いて育ったのでしょうね。・・・・ぬくぬくと、ぬくぬくと、何不自由無く暖かく・・・・!」

 

フフフフフフ、と薄く笑みを浮かべて近づく少女に、斑鳩は理巧と飛鳥の前に立つ。

 

「斑鳩さん!」

 

「飛鳥さんと暁月さんは下がってください」

 

「でも・・・・!」

 

「この方の狙いは、わたくしと暁月さんです。飛鳥さんは暁月さんを守っていてください。この方の相手はわたくしが!」

 

斑鳩がそう言うと、少女の右手首に装備されたボウガンが光り、大剣の姿に変わると、柄が少女の右手に収まった。

 

「フッ!」

 

「『忍転身』!!」

 

少女が大剣を構えると、斑鳩も『忍転身』して、刀を召喚した。

 

「降りかかる火の粉は、払わねばなりません! 舞い忍びますっ!!」

 

斑鳩が刀を鞘から抜くと構えて、少女と睨み合った。

 

「・・・・『ラベンダーの爛漫』!」

 

少女が大剣を振り抜くと、ラベンダーの色の斬撃が、斑鳩に襲いくる!

 

「ふっ!!」

 

斑鳩が防御するが、衝撃波で『忍装束』が少しずつ破れ身を屈める。

 

「っ!」

 

「ふんっ!」

 

見上げた斑鳩の上に、少女が大剣を振り下ろすが、斑鳩はそれを刀で受け止めた。

 

「斑鳩さん!」

 

「・・・・・・・・」

 

飛鳥が斑鳩の名を叫び、理巧は静かに少女の動きを見極めようとする。

少女は斑鳩から離れると、空中に立つように佇み、斑鳩も目を鋭くする。

 

「なんと言う力・・・・!」

 

「そんなお上品な攻撃でわたくしに傷を付ける事は出来ませんわ! 『ローズの戦慄』!!」

 

少女は桃色のオーラを纏いながら、大剣を突き立てるように構えて、斑鳩に突っ込む!

 

「っ!」

 

が、斑鳩は大剣を受け流し、少女の上空に飛んで、刀を振り下ろすと、一瞬斑鳩の胸元に小さな光が現れ、刀から斬撃が飛び出した。

 

「お覚悟!!」

 

「っ!・・・・『秘伝忍法 ニヴルヘルム』!!」

 

が、なんと少女は斬撃を回避すると、大剣を大砲へと変化させて右手に装備すると、斑鳩に向かって発射した!

 

ドゴォオオオオオオオオンンッ!!

 

「キャァアアアアアアアアアアッ!!」

 

爆炎に呑まれた斑鳩の『忍装束』が燃え尽き、黒い下着を着用した肢体を晒して倒れた。

『転身』する忍の願望と性格、理想が具現化される『忍装束』は、物理的・精神的な大ダメージによって、崩壊または解除されてしまう。

 

「斑鳩さん!」

 

「・・・・・・・・」

 

「『秘伝忍法』を使う、余裕すら・・・・」

 

飛鳥と理巧が斑鳩に近づくと、理巧は着ていたYシャツを脱いで斑鳩に被せると、目を反らして少女の方を睨んだ。

 

「とりあえず羽織っておいて下さい」

 

「あ、暁月さん・・・・」

 

理巧を見上げる斑鳩は、今までやる気も覇気もない目をしていた理巧とは明らかに違う、まるでその瞳と同じように内なる熱が燃え上がっているような強い眼差しに目を奪われた。

 

「『善忍』とは、この程度の力ですの?」

 

「っ!」

 

襲撃してきた少女の声で、ハッとなった斑鳩は少女を睨む。

 

「そう呼ぶからには、やはり『悪忍』の手の者ですね。答えなさい! わたくし達を狙う目的は!?」

 

毅然と聞く斑鳩に、一瞬少女の目に不快な色がよぎった。

 

「その上からの物言い、ますます気に入りませんわ・・・・! ま、今日のところはご挨拶。精々お高い物でも食べて、束の間の休息をお楽しみ下さいませ」

 

背を向けて立ち去ろうとする少女に、理巧が唇を開く。

 

「1つ聞かせてください。貴女の依頼主は、どうして僕を捕獲せよと命じたのですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

立ち止まった少女は理巧に目線を向けて一瞥する。

 

「わたくしも詳しくは聞かされておりませんの。ですが、忍は任務を全うするのみ。貴方にはご迷惑でしょうけど、悪く思わないで下さいましね」

 

「・・・・・・・・」

 

そう言って少女は結界の向こうへと消えようとした瞬間、理巧は少女の背中を鋭く見つめ、少女の姿は消えた。

それと同時に『忍結界』も解除され、周りの風景も、元通りの商店街に戻った。

斑鳩が『忍転身』を解除すると、元の制服姿に戻る。しかし、その身体には少女との戦闘での傷跡が残って、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「斑鳩さん! 大丈夫ですか?!」

 

「・・・・大したことはありません。しかし、あの忍の目的が、暁月さんなのは一体?」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は少女が消えた方角を見据える。

 

「ただ、見ているしか、できなかった・・・・!」

 

そして飛鳥は、斑鳩の危機に、『初恋の人』が狙われているのに、何もできなかった自分の不甲斐なさを呟いた。

 

 

 

 

買い物を終えた三人は、帰路に付いていた。

 

「半蔵様の歓迎会と言う事で奮発しましたけど、予算範囲内で収まって、良かったですね」

 

「そうですね・・・・」

 

「フフッ、後は腕に寄りをかけるだけですわ!」

 

意気込んでいる斑鳩に、飛鳥がおそるおそる訪ねる。

 

「あの、さっきの人、斑鳩さん家が『お金持ち』だって事、どうして知ってたんでしょう?」

 

「・・・・・・・忍ならその気になればすぐに調べられる事です」

 

「相手が敵対する『善忍』なら、身元や身辺調査は基本的ですしね」

 

飛鳥がそう言うと、斑鳩の顔つきに陰りが生まれ、理巧はチラッと一瞥すると後に続く。

 

「そっか、特に斑鳩さんの家は『超有名な財閥』だもんね」

 

飛鳥は気づかないが、斑鳩の顔に何処と無く悲痛な顔色が浮かんだ。

 

「・・・・とりあえずお腹が空きましたね。早く行きましょう」

 

「あっ、理巧くん?!」

 

理巧は飛鳥の手を取って、斑鳩の先を歩き出した。

 

「(暁月さん・・・・?)」

 

一瞬、斑鳩は理巧が自分を気遣ってくれて、飛鳥の手を引いたのかと考えが過ったが、まさかですよね、と思ってかぶりを振った。

 

「理巧くん。そう言えばなんでそんなにモヤシを買ったの?」

 

「別に、あの女の子の話を聞いて、モヤシが食べたくなっただけ・・・・」

 

飛鳥は理巧が“自分のお金で買った大量のモヤシ”を見て、そう聞くと、理巧は何でも無さげにそう返した。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

「申し訳有りませんでした!」

 

「ん?」

 

≪なんだぁ?≫

 

半蔵学院・忍教室に戻った斑鳩は、葛城に手当てをし(不思議な事に、葛城が触れた箇所の傷が綺麗に無くなっていた)、霧夜先生の元に赴くと、霧夜先生に平身低頭をし、霧夜先生とゼロは訝しそうな声を上げた。

 

「言いつけを破り、外部の者と接触を・・・・! “罰”は何なりとっ!」

 

「仕掛けてきたのは向こうだ。気にするな」

 

「イエ。禁を犯す事は忍にとって最も恥ずべき行為です!」

 

「相変わらず固い奴だな・・・・」

 

≪真面目って言うんだな?≫

 

襲撃されたのだから仕方ないと、霧夜先生は言うが、斑鳩は納得しなかった。

 

「霧夜先生! 先生がそんなに緩くて規律が守れますかっ!?」

 

斑鳩がズズイっと、霧夜先生に詰め寄る。

 

「さあ先生! このわたくしに何なりと“罰”を!!」

 

「うぅ~~ん・・・・」

 

≪真面目の上にクソが付くなこりゃ・・・・≫

 

霧夜先生とゼロがどうしたものかと悩んでいるとーーーー。

 

「話は聞いたぞ」

 

斑鳩の後ろから、半蔵が屋根から舞い降りるように登場した。

 

「「半蔵様っ!」」

 

≪爺さん≫

 

「霧夜よ。斑鳩の言うことは最もじゃその忍としての使命感や良し!」

 

「っ!」

 

斑鳩は今度は半蔵に向かって平身低頭した。

 

「半蔵様。しかし・・・・」

 

「ならば、儂が斑鳩に“罰”を与えてしんぜよう!」

 

「半蔵様、御自ら!?」

 

「“罰”を? それで、一体どんな?」

 

「ウム。それはな斑鳩よ。お主はこれから・・・・『暁月理巧くんと仲良くなる』のじゃっ!」

 

「えええぇっ!!?」

 

半蔵が斑鳩に宣告した罰は、『暁月理巧と仲良くなる事』だった。

 

「は、半蔵様! な、なぜ暁月さんと仲良くならねばならないのでしょう?」

 

斑鳩は戸惑いがちに訊くが、半蔵は静かに口を開く。

 

「今日見た限りでは、雲雀と柳生は暁月理巧くんとの関係は良好のようじゃ」

 

「(良好と言うより、あのお二人は恋慕の感情を向けておりますが・・・・)」

 

半蔵の言葉を聞くと、斑鳩の脳内人間相関図では、雲雀と柳生は理巧に対してハートマーク付きの矢印を向けていた。

 

「飛鳥も少しずつじゃが、暁月理巧くんとの距離を縮めておる」

 

「(まぁ、飛鳥さんは元々暁月さんに恋心を抱いておりますし)」

 

この間の忍務で二人の距離が少し縮まった事は、斑鳩どころか全員が周知だった。

 

「葛城も暁月理巧くんと良好になっておる」

 

「(良好と言うよりも、セクハラの加害者と被害者の関係ですが・・・・)」

 

セクハラの加害者が葛城(女)、被害者が理巧(男)であるが。

 

「しかし斑鳩。お主だけが暁月理巧くんと、距離を置いておる。これから共に学ぶ学友に対して、それは善いことではない」

 

「っ・・・・それは、そうです、が・・・・」

 

まさか最近自分たちの近辺で起こっている、ウルトラマンジードと怪獣騒動に関係しているのではと、疑っている少年と仲良くしろと言われるとは思わなかった。

 

「これからお主は暁月理巧と少し歩み寄ってはどうじゃ?」

 

「・・・・・・・・分かりました。それが“罰”ならば、やって見せます!」

 

そう言って立ち上がり、斑鳩は部屋を出て行った。

 

「宜しいのですか半蔵様? あんな事を言って・・・・」

 

「よいよい。斑鳩のような堅物の乙女は、きっかけが無いと異性に歩み寄る事は出来んからな」

 

≪面倒な事になる気がするぜ・・・・≫

 

ほっほっほっ、と笑みを浮かべる半蔵に、霧夜先生とゼロはため息を吐いた。

 

 

 

 

ー斑鳩sideー

 

「んで? 暁月にどうやって近づいて仲良くなったら良いか分からないと?」

 

「はい・・・・」

 

威勢良く出た斑鳩だが、改めて考えると、同年代の異性とマトモに会話したことが皆無の自分が、どうやって理巧と仲良くなれば良いのか分からず、立ち往生していた。

そんな時、ちょうどバッタリ会った葛城に、それはもう藁にもすがる気持ちで忍教室に赴いて相談した。

 

「アタイだったら暁月のあの、キュッと引き締まり、それでいて形も美しく、見ているだけで垂涎止まらないお尻を、掴んだり揉んだりこねくったり頬擦りしたりするけどな~!」

 

「それは葛城さんだけしか出来ないコミュニケーションです。と言うよりも、その内本当にわいせつ罪で逮捕されますよ」

 

そう熱弁する葛城に、斑鳩は半眼になって言う。内心、相談相手を間違えたでしょうか? と、思ってしまった。

 

「まぁまぁ聞けって、どんなに無表情にCOOLぶっていようが、男なんて簡単でしょうもないモンだ。斑鳩、お前のその93のGカップバストと、ウエスト59、ヒップ90のグラマラスバディでちょっとお色気の忍術をお見舞いすれば、男なんてチョチョイのチョイと骨抜きにできるぜ」

 

葛城は自分の95Hカップバスト、ウエスト57、ヒップ90のグラマラスバディを惜しげなく魅せるようにポーズをとった。一瞬斑鳩は、自分よりもウエストが2センチも細い葛城を羨ましそうに見る。

 

「そう、なのでしょうか・・・・?」

 

が、斑鳩は他に名案が無いので、葛城の話に耳を傾ける。

 

「そうそう♪ と言うわけでなーーーー」

 

そう言って、葛城は何処からか“服”を持ち出した。

 

 

ー理巧sideー

 

「あ、暁月さん! お、お手伝いいたしますわ!/////」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・取り敢えず斑鳩さん。その格好は料理をするには不適切だと思うんで、着替えて来て下さい」

 

調理室で『もやし料理』を作っていた理巧は、水着にエプロンを着けた『水着エプロン姿』の斑鳩を見て、呆れ半分の目で冷たく言った。飛鳥と雲雀と柳生も、唖然とした顔で斑鳩を凝視する。

 

「クソっ! やっぱり『裸エプロン』じゃなければ反応しないかっ! 斑鳩! まだ間に合う! 今すぐ『裸エプロン』にーーーー」

 

「なりませんっ!!!!」

 

羞恥心から『水着エプロン』で妥協した斑鳩に、『裸エプロン』で攻めようと考えた葛城そう言うが、斑鳩は怒鳴り声を上げた。

 



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家族

ー理巧sideー

 

半蔵学院で半蔵の歓迎会が開かれた。

理巧はモヤシ炒め、モヤシ和え、モヤシのサラダ、モヤシの味噌汁、と、モヤシ料理を大量に作り、それらを自分のお膳台に置いていった。

 

「理巧くん、そんなにモヤシが好きだったの?」

 

「モヤシより烏賊の方が美味いぞ」

 

「・・・・今日はちょっとモヤシ料理を食べたくなってね」

 

私服姿の雲雀と柳生がモヤシ料理を置く理巧に首を傾げながら口を開くと、理巧はそう言ってモヤシ料理を台に並べ終える。

 

「//////////」

 

「あの、斑鳩さん・・・・」

 

「何も言ってやるな飛鳥。斑鳩は今、敗北の恥辱に耐えているんだ・・・・! まさか斑鳩のグラマラスバディによる『水着エプロン』に鼻の下を伸ばさないとは、 暁月理巧。とんでもなく恐ろしいヤツだぜ・・・・!」

 

「誰の提案した企画のせいだと思っているのですか・・・・!/////////」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

先ほどの『水着エプロン』を披露した羞恥心で、マトモに理巧の顔を見られず、顔を赤くして項垂れている私服姿の斑鳩に、私服姿の飛鳥がフォローしようとするが、同じく私服姿の葛城が斑鳩の艶姿に無反応の理巧(呆れの感情が圧倒的に上回ったから)に驚きを隠せなかった。

斑鳩が怨みがましい目で葛城を睨むが、葛城は明後日の方向を向いて口笛を吹いた。

 

「うむうむ、若い乙女の『水着エプロン姿』。中々素晴らしい者であった」

 

「もう、じっちゃん!」

 

ご満悦に笑みを浮かべる半蔵に、飛鳥が怒ったような声を上げると同時に、ボワァンッ!と、煙が舞い煙の中から霧夜先生が現れた。

 

「遅れてスマン」

 

≪だからよぉ、一々煙出すのはやめろよ。みんなむせてるだろうが・・・・≫

 

ゼロもすっかり呆れていた。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

生徒達から少し離れ、隣り合わせでお猪口の酒を飲んでいる霧夜先生と半蔵。

 

「んで、何があった?」

 

「先ほど、斑鳩の実家から連絡がありまして・・・・」

 

「斑鳩の?」

 

斑鳩の実家、『鳳凰財団』からの連絡に、半蔵は訝しそうな声を上げた。

 

 

ー理巧sideー

 

食事を摂る斑鳩と葛城と飛鳥、向かい側に雲雀と理巧と柳生が座っている。

葛城が飛鳥と斑鳩に話しかけた。

 

「お前らを襲った『悪忍』って、どんなヤツだった?」

 

「え~と、ヒラヒラしてました・・・・」

 

「なんだそりゃ? 暁月、お前の感想は?」

 

「・・・・・・・・彼女」

 

「ん?」

 

黙々とモヤシ料理を頬張っていた理巧は、料理を飲み込むと、先ほど出会った『悪忍の少女』の眼差しを思い出す。

 

「彼女は、まるで澄んだ泉のような目をしてましたよ」

 

「だからなんだそりゃ?・・・・んじゃ、強かったのか?」

 

葛城は理巧の言葉に首を傾げ、実力を聞いた。

 

「私、まったく何もできなくて、斑鳩さんが居なかったら・・・・! 斑鳩さん、本当にスミマセンでした」

 

「・・・・いいえ、わたくしが暁月さんを守りなさいと言ったのですから」

 

斑鳩は苦々しそうに呟く。

 

「そうか! 斑鳩が蹴散らしたのか! クッソォォォォッ! アタイもその場に居たかったぜっ!!」

 

「マトモに相手をしなかっただけです。忍は無意味な戦いは避けねばなりませんから」

 

「ちぇ~! アタイだったら本気でやっつけてやるのにな!・・・・こんな風に!!」

 

「うわぁーーーー! 何してるのぉ!!」

 

「オラオラ!! アタイが暁月のお尻に惚れたからって、寂しい思いをさせたなぁ~!」

 

葛城は飛鳥に飛びかかって押し倒すと、飛鳥の90センチFカップを揉みしだいた。

 

「いつもあんな感じなの? 葛城さんって?」

 

「うん。だから理巧くんも気を付けてね。はいアーン」

 

「アム。うん美味しい」

 

「尻を揉まれるか、最悪掘られる可能性もあるからな。ほらアーン」

 

「(掘られる???)・・・・ンム、烏賊も美味しい」

 

葛城と飛鳥のじゃれ合いを尻目に、理巧達は仲睦まじく食事を楽しんでいたが。

 

「(違う・・・・本当は手も足も出なかった、このわたくしが・・・・)」

 

本音は自分の完敗だった。斑鳩は初めて味わう敗北に、顔を俯かせていた。

が、霧夜先生が話しかける。

 

「斑鳩」

 

「っ、はい」

 

「ちょっと良いか?」

 

「はぁ・・・・」

 

霧夜先生と斑鳩は、大部屋を出ようとする。

 

「どうしたの?」

 

「あぁ・・・・なんでもない」

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

雲雀の問いに歯切れの悪い答えをした霧夜先生を、理巧と雲雀と柳生は訝しそうな視線を送る。

 

「ほぉほぉ!!」

 

「「「っ!?」」」

 

そんな三人に半蔵がズイッと、顔を寄せた。

 

「お主ら三人は仲がええのぉ!」

 

「そうなんです! ね! 理巧くん! 柳生ちゃん!」

 

「ま、悪くはないと思うね」

 

「オレはただ、雲雀が危なっかしいから守りたいだけだ」

 

「むぅ、柳生ちゃんはまた雲雀を子供扱いして!」

 

むくれる雲雀の頭を理巧がポンポンと優しく叩きながら撫でる。

 

「フムフム。仲良き事は美しきかな」

 

そう言って半蔵はさらに顔を寄せる。

 

「あれか? もう三人で一緒にお風呂に入ったりするのかのぉ?」

 

「なっ!?/////////」

 

「セクハラですよそれ」

 

「柳生ちゃんとはいつも一緒に入って、背中流しっこしまーす! 理巧くんも一緒に入って欲しいんですけど・・・・」

 

「雲雀ちゃん。流石にそれは色々とヤバイよ」

 

「///////////」

 

柳生は赤くなった顔を隠すように反らすと、脳裏に雲雀と理巧の裸体を想像して、鼻血がツーと流れた。

 

「なんじゃ。最近の若い男子がオナゴの裸体を拝みたいと思わんのか? アレかの? 今時は草食系男子と言うヤツなのか?? 儂の若い頃はそれはそれはモテモテでのぅ、毎日のようにうら若き乙女達がーーーー」

 

「だからセクハラになりますよ」

 

「もうじっちゃん! 三人に変な事を教えないで!!」

 

半蔵の後ろから飛鳥が顔を赤くして怒鳴った。

 

「違うぞ飛鳥! これはコミュニケーションと言うヤツじゃ!」

 

「流石半蔵様。分かっておられますなぁ!!」

 

「あぁああああああ!!////////」

 

飛鳥の後ろからまたもや葛城が飛鳥の豊満なバストを揉みしだいた。

 

「ホッホッホッホッホッホッ」

 

「(わざとふざけた態度を取って、おじさんと斑鳩さんから意識を反らさせたな。食えない爺さんだよ・・・・)」

 

半蔵がじゃれあう飛鳥と葛城から離れ、その後ろ姿を一瞥した理巧は、再びモヤシ料理を頬張る。

 

 

ー斑鳩sideー

 

「お兄様が、行方不明?」

 

大部屋の外の廊下で、霧夜先生から斑鳩が聞いた話は、兄・村雨が行方不明になった事を実家から霧夜先生に連絡がきて、それを霧夜先生が伝えたのだ。

 

「念のため心当たりはないかと、お前の実家から連絡が有ってな」

 

「心当たりと言われましても、兄とは話したことすら余りありませんでしたから・・・・」

 

「そうか・・・・」

 

「すみません」

 

「あっいや、念のために報告だけはしておこうと思っただけだ。“家族の事”だしな」

 

「“家族”・・・・そうですね・・・・」

 

そう言った斑鳩の顔に、曇りが浮かぶが、霧夜先生は斑鳩の実家に連絡する為に斑鳩と別れ、斑鳩も大部屋に戻ろうと襖に手をつけようとしたその時ーーーー。

 

「っ!」

 

“何かの視線”を感じ振り向くと、廊下の向こうの暗がりしかなかった。襖を開けて、葛城が『甘酒』と書かれた瓶を持って顔を出した。

 

「どうした斑鳩?」

 

「イエ、今背後に視線を・・・・」

 

「何っ!?」

 

途端に葛城の顔がキリッとなり、飛鳥と雲雀と柳生も廊下に出て暗がりの向こうを見る。

 

「・・・・誰も居ませんよ」

 

「・・・・どうやら、気のせいのようですね」

 

「大丈夫斑鳩さん?」

 

「問題ありません。さぁ、宴会の時間は後30分ですよ!」

 

「「はぁーーーーい!」」

 

手をパンパンと叩いて斑鳩がそう言うと、飛鳥と雲雀が元気良く挨拶し、三人は宴会場に戻ったが、斑鳩は廊下の向こうに目をやる。

 

「(悪忍と今の先生のお話で過敏に、わたくしとした事が・・・・)」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ただ1人、その“視線の気配”をさっきから鬱陶しそうに察知していた少年がいたがーーーー。

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は女子寮の雲雀の部屋で、雲雀と柳生とペガとゲームで遊んでいたが、そろそろ雲雀と柳生が風呂に入ろうとし、理巧とダークゾーンに入ったペガは男子寮に帰ろうと廊下を歩いていた(雲雀から一緒にお風呂に入ろうと誘われたが、丁重に断った)。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は廊下の先で、斑鳩と“先程の気配”が接触した事を察知し、その場所に行ってみるとーーーー。

 

「ーーーー俺達の『家族』のつもりか? 確かに俺にはコイツは使いこなせないさ。だけど、これは我が家に伝わる宝刀なんだ! 『血の繋がらない他人』が持ってちゃいけない物なんだよ! 『飛燕』は俺が、本当は俺が・・・・!!・・・・お前さえ! お前さえいなければ!!」

 

悔しさや憎しみを吐き出すように叫ぶ黒髪の男性。

男性の言葉の内容から、おそらく斑鳩は『養子』で、男性は『実子』であったにも関わらず、『宝刀』を継承出来なかった事への怨みであると、理巧は推察した。

それから男性は斑鳩の『宝刀』を自分の物だと言うが、斑鳩が一瞬で取り戻し、男性は鎖鎌を構えて取り戻そうとするが、斑鳩の速さにまるで付いていけず、斑鳩に簡単にあしらわれていた。

 

『(うわぁ~、斑鳩ってあんなに速いんだぁ! 全然見えないよ! 理巧は見える?)』

 

「(全然余裕)」

 

確かに斑鳩は速いが、『理巧の三人の師匠達』の方が速いので、理巧は余裕で目で追っていた。

 

「(あの斑鳩さんの、お兄さんか? あの人、口で言うほどの実力はないな。正直雲雀ちゃんにも劣っている)」

 

圧倒的に斑鳩の方が優勢。それでも男性は鎌で攻撃するが、斑鳩は余裕で回避し、部屋に置かれた信楽焼の狸の口から紐を引っ張ると、男性の足元の床が開き、男性はまっ逆さまに落ちていった。

 

「俺は絶対お前を認めないぞ!! 絶対にーーーーーーーー!!!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

それから水に落ちる音が響き、斑鳩の瞳には、涙が流れていた。

 

『(あっ、理巧・・・・)』

 

理巧は斑鳩の部屋に入ると、斑鳩にハンカチを手渡した。

 

「っ! 暁月さん・・・・!?」

 

「宴会場から変な気配があったから、雲雀ちゃん達が心配で来ていたんですけど・・・・。すみません、覗き見するような事をしてしまって・・・・」

 

「そう、ですか・・・・」

 

「斑鳩さん。明日僕は少し寄るところがあるので、修行には少し遅れます。おじさーーーー霧夜先生には許可を得てますから」

 

「え、えぇ、わかりましたわ・・・・」

 

斑鳩は理巧のハンカチを手にとって、涙を拭うと、理巧は背を向けて去ろうとした。

 

「何も、聞かないのですか?」

 

斑鳩が、先程の兄とのやり取りを詮索しない理巧を見て呟く。理巧は背中を向けたまま、静かに呟いた。

 

「・・・・“分からないんです”・・・・」

 

「“分からない”?」

 

「例え、“血の繋がりがなくても”、『家族』には変わらないと思うのに、あんな風に『他人』って切って捨てる人の事が、僕には、“分からないんです”・・・・」

 

「・・・・・・・・暁月さんは・・・・」

 

斑鳩は、どこか哀愁が滲んでいる理巧の背中に向けて声を発する。

 

「暁月さんは・・・・血が繋がらなくても、『家族』にはなれると思いますか?」

 

「・・・・・・・・僕は、血なんか繋がってなくても、お互いを大切に思いあっていれば、『家族』になれるって・・・・そう信じたいです」

 

理巧はそう言って、斑鳩の部屋から去っていき、ペガも理巧の影に隠れた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

「【血なんか繋がってなくても、お互いを大切に思いあっていれば、『家族』になれる】。・・・・わたくしとお兄様には、無理な話なのかもしれませんね・・・・」

 

斑鳩は自嘲するように呟くと、理巧のハンカチを借りたままである事に気づき、明日洗濯して返そうと思った。

 

 

 

 

ー村雨sideー

 

村雨は斑鳩の部屋から地下の川に落とされ、何とか這い上がって、這い出ようとする。

 

「クソッ! クソッ! あの女! いつか必ず・・・・っ! 誰だ!?」

 

圧倒的に敗北したにも関わらず、斑鳩への復讐を燃やす村雨の目の前に、鳥唐揚げの串を持った半蔵が現れた。

 

「お前さんの所業は学院に入った時からすべて把握しておったよ。運が良かったの。もしも、“あの少年”に目を付けられておったらその程度では済まなかったじゃろう。家に帰って素直に商いをやったらええ」

 

「どうしてそれを?! 勝手な事を言うな! 俺は(ヒュン!)っ!?」

 

怒鳴ろうとする村雨の手元に唐揚げの串が突き刺さり、村雨は黙る。

 

「このまま帰れば全ては不問に伏そう。お前の親父は言っておったぞ。【忍にするには叶わなかったが、息子には商いの才がある】、とな」

 

「っ!・・・・父さんが・・・・」

 

「忍だけが道じゃない。道は人の数だけあるのじゃ」

 

そう言って、半蔵は背を向けて歩き去る。

 

「あ、貴方は?」

 

「知らん方が身のためじゃ。ただの通りすがりの爺。そう思うてくれて構わん。アッハッハッハッハッ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そう言って歩き去る半蔵を、村雨はただ静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

それから村雨は、実家に帰ろうと思ったが、途中で足を止めて立ち止まる。

 

「・・・・いやだ・・・・! 今まで頑張って来たんだ・・・・! 俺なりに努力だってしてきたんだ・・・・! それなのに・・・・! それなのに・・・・!!」

 

幼い頃から、『鳳凰財団』の一人息子として努力をしてきた。勉強も鍛練も、どれも手を抜いた事なんて無かった。

忍としての適正が低い事は分かっていた。でも頑張っていれば、努力していれば、名刀『飛燕』に相応しい人間に、父に認められる人間になれると信じていた。しかし、現実は残酷で、結局名刀『飛燕』は、養子として迎えられた遠縁の斑鳩の物になった。

 

「こんな理不尽ってありかよ・・・・! 才能のあるヤツが手に入れて、無いヤツは諦めて別の道を行くって・・・・! そんなの理不尽だろう・・・・!!」

 

村雨は夜空を見上げて悔し涙を流した。

 

「そうですね。貴方の言うとおりですね」

 

「っ、誰だっ!?」

 

突然暗がりから声をかけてきた、フードを目深に被った人物に、村雨は警戒を抱いて鎖鎌を構える。

が、その人物は、両手を上げて、敵意が無いことをアピールした。

 

「驚かせてしまって申し訳ありません。私は貴方の力になりたいと思って来たのです」

 

「俺の、力にだと・・・・?」

 

村雨は警戒を解かず、その人物を見据えると、暗がりとフードを目深に被っており、その顔は見えなかった。

その人物は、村雨に向けて口を開く。

 

「酷いですよね? 不公平ですよね? 努力をしてきた人間が求める物を諦め、才能のある人間が望む物を手に入れるだなんて、あまりに理不尽でしょう?」

 

「っっ!」

 

警戒する村雨の耳に、その人物の悪魔のような囁きが入り、鎖鎌を握る手が弱冠緩む。

 

「私は貴方の力になりたい。貴方も見返したいと思いませんか? 貴方よりも才能のあるコソ泥や、貴方に忍を諦めろと言った人間達を見返したいでしょう? 貴方の方が優れていると証明したいでしょう??」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その呟きを聞いていると、悔しさでボロボロになっていた村雨の自尊心に染み込み、徐々に鎖鎌を握る手に力が抜けていき、鎖鎌は、ガシャンッ、と音を立てて地面に落ちた。

 

「私が貴方をプロデュースします。了承するなら、これを取ってください」

 

「ぁ・・・・・・・・」

 

差し出された『水晶の人形』と『赤と金のロボットが描かれたカプセル』を、村雨は思わず手に取った。

 

「さぁ見せてやりましょう村雨さん。貴方を貶した人間達に、貴方の力で・・・・エンドマークを打ってやりましょう」

 

その人物の口元には、歪んだ笑みが浮かんでいた。




理巧の寄るところとは? 村雨はどうなるのか??

待て次回!


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“家族”だぜ、斑鳩さん

ー鷹丸sideー

 

夜勤明けの鷹丸は、眠たげの瞼を擦って、最後の事後処理を終えると、同僚の『ゼナ』に話しかけた。

 

「『ゼナ』さん。こっちは終わりましたよ。そっちはどうですか?」

 

「とっくに終わっている」

 

『ゼナ』と呼ばれた青年は『瀬名 日出樹』。

 

「うぉっ!」

 

ゼナの顔を見て鷹丸は少し驚きの声を上げた。

ゼナはそれまでの無表情の渋い顔から、デスマスクのような顔になったからだ。

 

『6年も共に仕事をしているのだからいい加減慣れろ』

 

「すみませんつい・・・・。でも眠たげの瞼にはゼナさんの素顔は良い気付けになりますよ」

 

『そうか』

 

『瀬名 日出樹』は地球人ではない。『シャドー星人』と呼ばれる宇宙人であり、人間に擬態して地球で危険な兵器や植物、さらに宇宙生物を密売したり、地球人を補食・実験・捕獲しようとする悪行宇宙人達を取り締まる『Aliens Investigation Bureau』。直訳すると『異星人捜査局』で通称『AIB』の上級エージェント。鷹丸達も所属しており、鷹丸の先輩であり、鷹丸とはコンビを組んで捜査している。

鷹丸の女房トリオである、ハルカ・ナリカ・スバルとも同僚であるが、この三人は主に武装した悪行宇宙人達との戦闘ならびに確保を担当している。

ゼナは人間に擬態している時も無表情の渋い顔をしており、口も一切動かしておらず、会話はインカム型の装置を使う事で会話しており、基地内では本来のデスマスクのような顔になる。

 

『今も宇宙の全域から、あのべリアルに似たウルトラマンに関する問い合わせが殺到している』

 

「・・・・・・・・ウルトラマン、ジードって呼称されていますね。やっぱり他の宇宙人達も気になるんですね?」

 

ウルトラマンジードの名前が出た時、鷹丸の顔に曇りが出た事をゼナは見逃さなかったが、追及せずに続ける。

 

『何しろこの宇宙は、“ウルトラマンキングと融合した宇宙”だからな・・・・。ウルトラマンゼロもこの宇宙に来ている。『宇宙警備隊』もウルトラマンジードなるウルトラマンの存在にいずれ気付くだろうな。今は霧夜と一緒に、ウルトラマンジードの捜査もしてくれている』

 

まさかそのジードの正体が、鷹丸達が我が子同然に育てている少年だとは、鷹丸達もゼナも、まだ霧夜とゼロから知らされていない。

 

「・・・・ん?」

 

ふと鷹丸の胸ポケットに仕舞ったスマホから着信の振動を感じた鷹丸が画面を見ると、『理巧』と表示されていた。

鷹丸はその場を離れると、『AIB』の表向きに偽装している保険会社、『スマイル生命保険』のテナントビルの屋上に到着して、電話に出た。

 

「もしもし理巧?」

 

《鷹丸さん・・・・》

 

「最近忙しくて、お前の近況報告はハルカ達から聞いていたから、声を聞くのも久しぶりだよ。それでどうした?」

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は朝早く起きると、雲雀と柳生に今日は遅れて登校する事をメールで伝え終えると、“ある場所”へ向かう途中、鷹丸に連絡した。昨夜に起きた斑鳩と斑鳩の兄・村雨のいさかいが頭から離れなかったからだ。

理巧にとって、“家族”とは心の拠り所、とても暖かく、とても優しく、そして掛け替えの無い絆だと思っている。しかし、あの兄妹の繋がりを思うと、胸にモヤモヤとした感覚に襲われた。

理巧はこの気持ちを打ち明けたくて、鷹丸に連絡したのだ。理巧は昨夜の事を鷹丸に打ち明けた。斑鳩とその兄の名前は伏せておいた。

 

《そうか・・・・。それは結構難しいな》

 

「・・・・鷹丸さん。僕は、“家族”って血の繋がりが無くても、お互いを思いあっていれば家族になれると思っています。でも・・・・」

 

あの兄妹を見ると、家族の繋がりは、やはり血の繋がりが重要だと思ってしまう。

理巧にとっての家族は、鷹丸達戦部家の人達だ。

もし血の繋がりが重要なら、理巧は自身の中に宿る『B<べリアル>の遺伝子』が、ウルトラマンべリアルの遺伝子から逃れられない事を知らされる事になる。

理巧の内面の不安が伝わったのか、鷹丸は優しく声を響かせる。

 

《なぁ理巧。確かに“家族の形”にはその家庭でそれぞれの形がある。でも一つだけ確かな事があるぞ》

 

「・・・・それは、何ですか?」

 

《俺達戦部家の、俺とハルカとナリカとスバルの子供は、理巧、お前だ》

 

「・・・・・・・・」

 

それを聞いた瞬間、理巧のモヤモヤは消えていった。

 

《その兄妹が本当に、もう完全に歩み寄る事ができないなら諦めるしかないかもだけど、まだ歩み寄る事ができるなら、その手助けくらいはしてやれよ。その人もお前と同じように、“受け入れられた温もりを知る人”ならさ》

 

「はい・・・・」

 

そう言って、それから少しの雑談を終えた理巧は通話を切って、“ある少女”に会いに行った。

 

 

 

 

 

 

理巧がついた場所は裏路地の先にある、家を無くした人達、貧しい故に路地で暮らす人達が集う街、所謂貧民街であった。

平和な日本にもこういった街は存在し、そこに住む人達は細々と生きていた。中にはガラの悪い人間達もいるが、その街の一角で貧民街に住む人達が長蛇の列を作っており、その先にはーーーー。

 

「はいどうぞ。まだまだありますからね」

 

先日斑鳩を襲撃した『悪忍の少女』だった。彼女は斑鳩に向けていた敵意がまったく無く、ただ優しい笑みで貧民街の人達にお弁当を渡していた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「っっ!」

 

少女は理巧の姿を視界に捉えると、身体を強ばらせるが、理巧は何も言わずにその場から少し離れた場所に腰かけ、少女は訝しそうに理巧を見据えるが、列に並んでいた人達に声をかけられ、お弁当配りに戻った。

それから30分が経過し、お弁当配布を終えた少女は理巧の目の前に立った。

 

「こんな所に標的の殿方が来るだなんて、投降にでも来たんですの?」

 

「聞きたい事があるんで・・・・」

 

「っ!」

 

少女は理巧を睨むが、理巧は懐から取り出した“水晶体の破片”を見せると、少し驚いたのか目を僅かに見開いた。

 

「どこでそれを?」

 

「貴女の仲間の焔って女の子が投げた“水晶体”が怪獣になり、それをウルトラマンが倒した場所の近くに落ちていたんでね」

 

「・・・・・・・・」

 

「とぼけても無駄ですよ。貴女の身体から僅かに春花って女の子と同じ薬品の匂いがしているんで」

 

「そう、薬品の匂いですの。春花さんにも少し言っておかないといけませんわね。それで聞きたい事とはなんですの?」

 

「貴女達はこれをどこで手に入れたのか、この“水晶体”に嵌め込んだ『怪獣のカプセル』はどこで入手したのか、聞いておきたいと思って来たんですが、その気は失せました」

 

「あら? それは何故?」

 

少女は理巧の言った言葉が意外だったのか問うと、理巧は少女の後ろからやって来る子供達に目を向ける。

 

「こんな所で戦ったら、あの子達も巻き込んでしまうですからね」

 

「っ・・・・」

 

少女も自分に近づいてくる子供達に気づいた。

 

「詠お姉ちゃん、遊ぼう!」

 

「遊ぼ遊ぼ!」

 

「・・・・ええ、後で遊びましょう。少し待っていてくださいましね」

 

苦笑しながら子供達を遠ざけた少女に、理巧は口を開く。

 

「“詠”って名前なんですね?」

 

「ええ。それで、このまま帰らせるとお思いですの?」

 

詠と言う名の少女は、胸元、推定95センチのHカップバストの谷間から、『水晶体』と『怪獣カプセル』を取り出そうとする。

 

「ここでそれを使えば、この街の人達も巻き込みますよ?」

 

「っ!」

 

言われて詠は水晶体こと、『コピークリスタル』を取り出す手を止めた。

 

「貴女は言いましたよね? 【低価格で庶民の味方のモヤシまで値上がりするなんて、どういう事ですの】って、僕なりにその原因を調べてみました」

 

「・・・・それは?」

 

「最近の怪獣騒動ですよ」

 

「っ!」

 

詠は理巧の言った言葉に息を呑む。

 

「このところ起きる怪獣騒動によって、住む家やマンション、ビルやらアスファルトやらインフラやらの破壊され、その復興の為に経済がガタガタになりそうになり、そのしわ寄せで物価高になり、モヤシや他の食べ物が値上がりしたんですよ」

 

「・・・・・・・・」

 

顔を俯かせた詠を見て、理巧はその場を離れようとする。

 

「モヤシ、僕も食べてみましたよ。炒め物、和え物、味噌汁、ラーメンのトッピングにも使えるし、色々と料理に使える食材ですね。それに美味しいですし」

 

「・・・・そう、ですか」

 

「貴女達の依頼主が何で僕を狙うのは分かりませんが、怪獣をやたらと出せば、この貧民街の人達にも危害が及ぶ事も、少しは考えてください」

 

そう言って去り行く理巧の背中を、詠は静かに見つめていた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

兄・村雨との事で心乱れ、荒れていた斑鳩が葛城と揉めそうになったが、飛鳥が半蔵特性の太巻きを出して場を納めた。そしてちょうど理巧もやって来て、皆でオヤツとしたが、斑鳩は皆から離れ、自嘲気味に呟いた。

 

 

「天然の明るさで皆をまとめてしまう。クラスのリーダーに本当にふさわしいのは、飛鳥さんみたいなタイプかも知れない・・・・」

 

「あれは自分の事に精一杯なだけじゃ」

 

「半蔵様? いらしてたんですか?」

 

そんな斑鳩に、半蔵が話しかけた。

 

「まったく我が孫ながら、まだまだ未熟で困るわい。あのじゃじゃ馬らを統率できるのは、やはり斑鳩だけじゃよ」

 

「そんな・・・・。わたくしなどは、心が乱れてばかりで」

 

「儂はもう帰らねばならんが、飛鳥の事を頼むぞい。今の飛鳥とって、お前さん達が“家族”のようなモンじゃからのぉ」

 

「“家族”・・・・?」

 

笑い合う飛鳥達(理巧は相変わらず無表情だが)を見て、半蔵は続ける。

 

「互いに遠慮なく笑い。見も心も預け助け合う。これまさに・・・・」

 

「確かに、この忍クラスそのものが、“家族”なのかもしれませんね。このわたくしにとっても」

 

「ならば、恐れる事は何もないわい。そしてそれを、あの少年にも知ってほしい所じゃ」

 

「あの少年、暁月さんですか?」

 

半蔵は理巧を見据える。

 

「うむ。あの少年はのぅ、生まれた時から過酷な運命を背負ってしまったのじゃ。それこそ儂や飛鳥達にも想像できない程にな・・・・」

 

「それは、一体?」

 

「それを知りたければ、あの少年とも向き合って見ると良い」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

斑鳩は飛鳥と理巧を見据えると、フッと笑みを浮かべ、立ち上がった。

 

 

ー飛鳥sideー

 

 

それから斑鳩は飛鳥、そしてなぜか理巧を連れて、『秘伝忍法』の訓練を初め、最初はカエルに触れるのも駄目だったが、カエルが危ない目に合いそうになり、思わずカエル助けた飛鳥はカエルを恐れず触れていた。

そしてーーーー。

 

「・・・・・・・」

 

竹林に二刀を構えて瞑目していた飛鳥の身体から、緑色のチャクラが溢れ、背後にカエルの幻影が現れ、飛鳥の二刀に緑色のチャクラが纏った。

 

「参ります!」

 

飛鳥はカッと目を開いて、竹林を駆ける。

 

「『秘伝忍法 二刀繚斬』!!」

 

緑色の斬撃が、竹林の竹を縦横と斬り捨てた!

 

「で、できた!!」

 

「すげぇ!!」

 

「うわぁ~!」

 

「中々だな」

 

「出来ましたね、飛鳥さん!」

 

「やったか」

 

「お見事」

 

斑鳩達が賞賛し、理巧と霧夜先生も小さく賞賛した。

 

「じっちゃん! 私出来たよーーーー!」

 

「ウム。よぉやった!!」

 

飛鳥にVサインをする半蔵。理巧は隣にいる斑鳩に聞いた。

 

「どうやって彼女はカエルを克服したんですか?」

 

「飛鳥さんは、本来誰にでもお優しい方です。怖いと自分で強く思い込んでしまっているために、心に“壁”を作っていただけなんです。ですから、自分の意思で触れる事が出来てしまえば、その“壁”などあっという間に」

 

「心に、“壁”か・・・・」

 

「暁月さん」

 

「ん?」

 

「貴方にも“壁”があることは分かっています。ですが、その“壁”から少し出て見てください。ここにいるのは、皆貴方の“家族”のような人達ですから」

 

「“家族”・・・・」

 

理巧は飛鳥達を見据える。理巧にとって“家族”は戦部家の人達だけ、しかし、この忍クラスの皆といる空気を、少なからず心地よいと感じている自分がいる事に気づいた。

しかしーーーー。

 

「っ!!」

 

理巧は視線を鋭くして、自分達に近づく人間を睨んだ。

 

「暁月さん?・・・・っ!」

 

斑鳩も視線を追うと、驚愕した。ソコにはーーーー。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

兄・村雨がユラリと自分達に近づいていた。

 

「え? だれ?」

 

「何だアイツ?」

 

「「???」」

 

「「・・・・・・・・」」

 

飛鳥達は首を傾げるが、半蔵と霧夜先生は目を鋭くした。斑鳩が、飛鳥達を庇うように前に出る。

 

「お兄様・・・・」

 

「えっ? お兄様って・・・・」

 

「斑鳩の兄ちゃん?!」

 

驚く飛鳥達から離れて、斑鳩は兄と向き合う。

 

「お兄様。わたくしは・・・・」

 

「俺は・・・・」

 

「お兄様?」

 

兄・村雨の様子がおかしい事に、斑鳩は気づく。

 

「俺は・・・・見返すんだ・・・・! 俺の努力を、諦めろと言ったヤツらを・・・・! この力でっ!!!!」

 

村雨は懐から、『水晶の人形』と『カプセル』を取り出すと、『人形』に『カプセル』を装填させた。

 

ーーーー!!

 

機械音のような音が響くと、『人形』は飴細工のようにグネグネと動くと、村雨の身体を飲み込み、その形を巨大にして、その姿を露にした!

 

赤の身体に金のプロテクターを纏い、右手にはナイフ、左手には鉤爪、目は緑色、どことなくウルトラマンのような姿をしたソイツはーーーー。

 

『異次元超人エースキラー』。

 

『ーーーー!!!』

 

エースキラーは雄叫びを上げるように身体を震わせた。

 

 

 

 

ー詠sideー

 

村雨が『コピークリスタル』に取り込まれると同時に、その修行場を見下ろせる山の中から、詠が状況を見ていた。

 

「ここなら街から離れて居ますし、被害は出ないでしょう」

 

理巧の言った言葉は分かる。しかし、忍は命令をこなすのみと考えた詠は、『怪獣カプセル』を起動させて、『コピークリスタル』に嵌め込んだ。

 

ピギィィィィィィィィッ!!

 

『コピークリスタル』が光ると、詠は力一杯『コピークリスタル』を投げ飛ばした。

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ゼットォォォォォォォォンン!!

 

そしてこの状況をドローンで見ていた人物も、『怪獣カプセル』を嵌め込んだ『コピークリスタル』を、転送させた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「お、お兄様・・・・!」

 

あまりの事態に愕然となる斑鳩は、『エースキラー』となってしまった兄に、ヨロヨロと近づこうとしたがーーーー。

 

『お前を・・・・お前を倒せば・・・・! 俺は!!』

 

エースキラーから村雨の声が響くと、エースキラーは左手の鉤爪を振り上げて、斑鳩に向けて振り下ろす!

 

「斑鳩さん!!」

 

「やべぇ!!」

 

飛鳥と葛城、雲雀と柳生が斑鳩に駆けつけようとしたが、それよりも早く動いていた少年が飛び出す。

 

「ジイィーーーーーーーーーーード!!」

 

すでにカプセルをスキャンさせていた理巧の身体が光に包まれると、飛鳥達の目の前で、理巧の身体が変貌した!

 

 

 

ー斑鳩sideー

 

「っっ!・・・・・・・・??」

 

斑鳩はエースキラーの腕を眼前に迫り、思わず目を瞑るが、いつまでも衝撃が来ないことを訝しんで目を開くと、目映い光が自分を包んでおり、見上げるとソコにはーーーー。

 

「う、ウルトラマン、ジード!!?」

 

『シュゥワッ!!』

 

ウルトラマンジードは、斑鳩を守るようにエースキラーの腕を防ぐ。

 

『ハァアッ!!』

 

『ーーーー!!』

 

力を込めてエースキラーを押し飛ばしたジードは、斑鳩が無事なのを確認すると、エースキラーを見据えて構えた。

 

「な、なぜ、ウルトラマンジードが・・・・」

 

「り、りっくんが・・・・」

 

「飛鳥さん?」

 

いつの間にか自分の後ろに来ていた飛鳥と葛城が、唖然となりながらジードを見上げ、雲雀と柳生はあちゃーと言わんばかりに手で頭を抑え、半蔵と霧夜先生は苦笑していた。

 

「飛鳥さん、一体どうしたんですか? 暁月さんは?」

 

斑鳩の問いに、飛鳥と葛城はジードを指差した。

 

「り、りっくんが、りっくんが、“ウルトラマンジードになった”!!」

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

ドゴオォオオオオオオオオオオオンンンッ!!!

 

「っっ!!?」

 

思わず口を半開きになった斑鳩だが、突然の地響きに周辺を見上げるとーーーー。

 

『ピギィィィィィィィィィッ!!』

 

『ゼットォォォォォォンンッ!!』

 

なんと今度は、ジードを取り囲むように、“5角形の腹部をした鳥のような怪獣”と、“カミキリ虫のような怪獣”が現れた。

 

「(デュォンン) まさかあれは! 『ベムスター』に『ゼットン』かっ!?」

 

ゼロにチェンジした霧夜先生は、驚きの声をあげる。そこに現れた怪獣は。

 

『宇宙大怪獣ベムスター』と、『宇宙恐竜ゼットン』だったからだ。

 

 




次回、『知性』と『慈愛』のフュージョンライズが登場!


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見せる衝撃 アクロスマッシャー

遂に第三のジード登場。
そして斑鳩も葛城が・・・・。


ー斑鳩sideー

 

「あ、飛鳥さん? ほ、本当に、暁月さんが、ウルトラマンジードになったんですか?」

 

「はい! この目でバッチリと見ました!」

 

「目の前でいきなり叫んだと思ったら光りに包まれて、身体が巨大になったと思ったらああなってたんだよ!」

 

理巧の変身に飛鳥と葛城はワタワタとふためきながらも斑鳩に説明した。

雲雀と柳生が目を少し逸らしているのを見て、斑鳩が近づく。

 

「雲雀さん。柳生さん」

 

「「・・・・・・・・」」

 

黙りした二人に、斑鳩は半眼になって詰め寄り、二人は目を逸らす。

 

「貴女達知ってたのでしょう? 暁月さんがウルトラマンジードだって!」

 

「あの、その、えっと・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

雲雀はしどろもどろになり、柳生は完全に黙秘を貫いた。

 

「まぁまぁ良いではないか斑鳩よ」

 

「半蔵様、しかし・・・・」

 

「その事に関しては後回しじゃ、今は暁月君の方を見るのじゃ」

 

半蔵は鋭い視線で、三大怪獣と戦おうとしている理巧こと、ウルトラマンジードを見据える。

 

 

 

ージードsideー

 

ウルトラマンジードに変身した理巧は、自分の周りを取り囲むように出現した怪獣達を構えながら睨む。

かつて『初代ウルトラマン』を敗北させた『宇宙恐竜ゼットン』。

『ウルトラマンジャック』が苦戦した『宇宙大怪獣ベムスター』。

『ウルトラマンエース』を含めた『ウルトラ兄弟』を窮地に追い詰めた、怪獣を越えた超獣、『異次元超人エースキラー』。

 

『ゼットォォン!』

 

『ピギィィィィ!』

 

『オオオオオオ!』

 

『っ! ジュワッ!!』

 

ジードはエースキラーを押さえつけようとエースキラーに向かうが、目の前にいきなりゼットンが現れ、バリヤーを張ってジードを遮る。

 

『っ!』

 

『ピポポポポポポポ』

 

バリヤーに遮られ動き止めたジードにゼットンは、一兆度もある火球『メテオ火球』を放つ!

 

『ウワァッ!!』

 

『メテオ火球』を受けて、仰向けに倒れるジード。

 

『ゥォォ・・・・!』

 

『ピギィッ!!』

 

『っ!』

 

あまりの熱さに悶えるジードに、ベムスターが踏みつけようと攻撃する。

 

『クッ、『レッキンロアー』!!』

 

ジードは『レッキンロアー』をベムスターに向けて放つが、ベムスターの腹部の5角形に吸い込まれた。

 

『クゥッ・・・・!』

 

ジードは何とか起き上がると、ベムスターが襲いかかるが、ジードは寸前で回避した。

 

『『スペシウム光線』!』

 

『ウワァアアアアアア!』

 

が、エースキラーが斑鳩の兄・村雨の声で『スペシウム光線』を放ち、ジードは光線をくらって吹き飛び、山を砕いて倒れた。

 

『クッ・・・・ウゥッ・・・・!』

 

何とか起き上がったジードに、三大怪獣が迫る。

 

『・・・・オォオオオオ!!』

 

ジードは三大怪獣に果敢に挑んだ。

 

 

ー霧夜先生(ゼロ)sideー

 

「コイツはかなりヤバイぜ・・・・!」

 

「霧夜先生。暁月のヤツ、大丈夫なのかよ?」

 

ゼロにチェンジし渋面を作っている霧夜先生に、葛城が話しかける。

 

「イヤ、かなり不利だ。光線技はベムスターに吸収され、接近戦に変えてもゼットンがテレポートで先回されバリヤーで遮られ、さらにウルトラ兄弟の技を繰り出すエースキラーの攻撃に攻めあぐねてやがる」

 

「う~む、3体の怪獣達も、まるで示し合わせたかのように見事な連携じゃ。それに・・・・」

 

半蔵はチラッとエースキラーを睨む。

 

「じっちゃん、どうしたの?」

 

「・・・・ウルトラマンジードの戦い方を良く見て見るのじゃ」

 

半蔵に言われ、飛鳥達はジードを見ると、ジードはエースキラーを取り押さえようとしているように戦い。それを他の2体に邪魔されているかのような様子だった。

 

「理巧くん、どうしてあの怪獣を取り押さえようとしてるんだろう?」

 

「・・・・もしかしてだが」

 

「柳生ちゃん?」

 

「理巧のヤツは、斑鳩の兄を止めようとしているんじゃないか?」

 

「え・・・・?」

 

柳生の言葉に、斑鳩は声を漏らした。

 

「ウム、おそらくな。あの怪獣の体内に斑鳩の兄が取り込まれておる。ウルトラマンジードの力ではヘタをすれば斑鳩の兄の命まで奪いかねん」

 

『っっ!』

 

半蔵の言葉に、一同は息を飲んだ。

 

「(理巧の性格なら、斑鳩の兄ごと敵を倒そうと考えそうだが・・・・ゼロ)」

 

「分かってる。アイツを見定める」

 

「霧夜先生?」

 

雲雀が首を傾げると、霧夜先生は一同から少し離れる。

 

「じいさん。生徒達を任せるぜ?」

 

「ウムそちらも頼むぞ」

 

「半蔵様? 一体何が?」

 

斑鳩を初め、飛鳥達も首を傾げるが、霧夜先生は懐からゴーグルのようなアイテム、『ウルトラゼロアイNEO』を取りだし、目元に合わせて、スイッチを押した。

 

「シャアッ!」

 

霧夜先生がそう叫ぶと、目映い光が霧夜先生を包み込むと、先生の身体が変貌した。

 

『え、えええーーーーーーーー!!??』

 

飛鳥達は揃って、驚きの叫び声を上げた。

 

 

ージードsideー

 

『クゥッ!!』

 

ジードはゼットンに後ろから首を両手で捕まれ、身動きが取れなくなった。正面にはエースキラーが必殺光線を放とうとしていた。

『レッキングリッパー』で先手を撃とうとするが、ベムスターによって光線技を封じられた。

エースキラーは両腕でL字を作って光線技を放った。

 

『『ワイドショット』!』

 

『クゥッ・・・・!』

 

迫り来る光線技に、理巧は思わず目を瞑ったーーーーその瞬間。

 

『『ワイドゼロショット』!!』

 

迫り来る『ワイドショット』を、別の方向から来た光線が押し返し、押し返された『ワイドショット』が、エースキラーの近くにいたベムスターに直撃した。

 

『ピギイイイイイッ!!?』

 

まったく予想していなかった光線に吸収が遅れ、ベムスターは真後ろに吹き飛んだ。

 

『「っ!? 何だ?」』

 

『『ゼロスラッガー!』』

 

飛来してきた2本の刃が、ジードの首を掴んでいたゼットンを切りつける。

 

『ピポポポポポポポ!!?』

 

『っ! ダァ!!』

 

切りつけられたゼットンの拘束が弛んだ隙に、ジードは羽交い締めから脱出した。

 

『『レッキングリッパー』!』

 

『ゼットォォォォン!!』

 

振り向き様にゼットンに波状光線を放ち、ゼットンが倒れる。

 

『ウォオオオオオオオ!!』

 

エースキラーが村雨の声で吼えながらジードに右手の武器を振り下ろそうとしたが。

 

『『ウルトラゼロキーーーーック』!』

 

『グァアアアアアアア!』

 

横から現れた巨人の炎を纏った急降下キックが炸裂し、エースキラーも倒れ、武器も落とした。

そして、その巨人は見事に着地し、ジードの前に佇んだ。

 

『「ウルトラマン、ゼロ・・・・?」』

 

『よぉ、ダークロプスゼロの時以来だなジード』

 

『「理巧、大丈夫か?」』

 

ウルトラマンゼロから、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『「っ! その声、霧夜おじさん? 何でおじさんがウルトラマンゼロと?」』

 

『「それはな・・・・」』

 

『おい、それどころじゃ無さそうだぜ?』

 

『ッ! 『レッキングロアー』!』

 

『『エメリウムスラッシュ』!』

 

ジードがゼロの後ろから起き上がったベムスターに『レッキングロアー』を放ち、ゼロはジードの背後にテレポートしてきたゼットンに向けて『エメリウムスラッシュ』を放つ。

吸収する体制を整えていない状態だからベムスターは直撃して押し飛ばされ、ゼットンも光線の威力に押し飛ばされた。

 

『ピギィィィィィ!』

 

『ピポポポポポポ!』

 

2体が離れると、ジードはエースキラーとベムスターに、ゼロはゼットンに向かい、二人は背中合わせとなった。

 

『おいジード。お前、斑鳩の兄貴をどうするんだ?』

 

『「・・・・なるべくなら、どうにかして助けてやりたいと思っている」』

 

『意外だな。お前はエースキラーごと倒すんじゃないかと思っていたぜ?』

 

ゼロがそう言うと、ジードは少し逡巡すると声を発する。

 

『「取り込まれたのがまったくの赤の他人なら、その方法も思案していたけど・・・・」』

 

『けど?』

 

『「あの人は、曲がりなりにも、斑鳩さんのお兄さんだから・・・・』

 

『へっ! そうか』

 

ゼロは右親指で口元を撫でると、笑ったような声を上げる。

 

『なら、エースキラーは任せる! ゼットンとベムスターは任せな!』

 

『「・・・・良いのか?」』

 

『あぁ! だが、俺も本調子とは言い難いんでな、なるべくさっさと斑鳩の兄貴を助けろよ』

 

『「・・・・了解!」』

 

ジードはそう応えると、エースキラーの背後に跳び、エースキラーを羽交い締めにした。

 

『ピギィィィィッ! ギュワッ!!?』

 

ベムスターがジードに迫ろうとしたが、ゼロがゼロスラッガーを飛ばして切りつけられ、ゼロの方を睨んだ。

 

『かかってきなベムスター! ゼットン! このウルトラマンゼロ様が、相手になってやるぜ!!』

 

『ピギィィィィィッ!!』

 

『ゼットォォォォン!!』

 

『ハァアアアアアア・・・・! シャァアッ!!』

 

前後から迫るベムスターとゼットンに、ゼロはスラッガーを両手に持って気合いを込めて、2体に切りかかる。

 

 

ー斑鳩sideー

 

「こ、今度は、霧夜先生がウルトラマンに?!」

 

「雲雀! 柳生!」

 

「「(ブンブンブンブンブンブンブンブン!!)」」

 

霧夜先生がウルトラマンゼロに変身し、飛鳥が驚き、葛城も雲雀と柳生に知っていたのかと聞こうとするが、二人も知らなかったので首を横に高速で動かした。

斑鳩は事情を知っているような半蔵に話しかける。

 

「半蔵様はご存知だったのですか?」

 

「まぁの。今はそれよりも、ジードの方を見るのじゃ」

 

半蔵に言われ、一同はエースキラーを羽交い締めしたジードを見据える。

 

「っ!」

 

すると、雲雀が胸の谷間から通信インカムを取り出すと、耳にあてた。

 

「斑鳩さん、ジード、理巧くんから通信が来たよ!」

 

「えっ?」

 

斑鳩はインカムを受け取り耳に当てると、ジードの、理巧の声が響いた。

 

《斑鳩さん、聞こえ、ますか・・・・!》

 

暴れているエースキラーを押さえつけているのか、少し忙しそうな声を出していた。

 

「暁月さん・・・・」

 

《この人、どうしますか?》

 

「えっ・・・・?」

 

《この人は、斑鳩さんを殺す為に、怪獣の力を使って、います・・・・! そんな人を、助けますか?》

 

「・・・・・・・・」

 

斑鳩は逡巡する。確かにあんな姿になったのは、兄・村雨の自業自得だ。記憶の中にある兄との思い出など、常に自分に、憎悪と嫌悪と嫉妬と敵意に満ちた目を向けられていた。

それでもーーーー。

 

「暁月さん、お願いします・・・・! 兄を、お兄様を、助けて下さい!!」

 

《・・・・・・・・委細承知!》

 

斑鳩は涙を浮かべながらそう叫ぶと、理巧も了承の声を上げた。

 

「斑鳩・・・・」

 

葛城が斑鳩に話しかける。

 

「無茶なのは分かっています・・・・。でも、助けて欲しいんです・・・・兄を」

 

「・・・・・・・・」

 

葛城もエースキラーを押さえつけているジードを見据えると、声を上げた。

 

「暁月! いやウルトラマンジード! 頑張れよっ!!」

 

「葛城さん・・・・」

 

「頑張って! りっく、ウルトラマンジード!」

 

「飛鳥さん・・・・」

 

「頑張れジード!」

 

「お前ならやれる!」

 

「雲雀さん・・・・。柳生さん・・・・」

 

葛城だけではない。飛鳥達も兄を助けようとするジードを応援してくれていた。斑鳩も意を決して、ジードに向けて叫ぶ。

 

「お願いします! 暁月さん! ウルトラマンジード! お兄様を、助けて下さい!!」

 

 

ーゼロsideー

 

『「ゼロ。助ける方法は無いのか?」』

 

霧夜先生もエースキラーに取り込まれた村雨をどうにか助けようと、ゼロに聞くが、ゼロは声でも渋面を作っているような感じで発する。

 

『『ルナミラクル』になれれば! 助ける事が出来るが! 今の状態じゃ! 無理だっ!!』

 

ゼロはゼロスラッガーでベムスターとゼットンを相手取りながらそう言った。

その瞬間ーーーー飛鳥達、もっと詳しく言えば、斑鳩と葛城の胸元が光り輝いた。

 

『「っ、あれは!」』

 

『おい、まさか!?』

 

 

ー斑鳩・葛城sideー

 

コーーーン・・・・!

 

「こ、これは・・・・?」

 

「な、なんだ・・・・?」

 

斑鳩と葛城の胸元から、カプセル状の光が出て、光は二人の身体から出ると、ジードの元へ飛んでいった。

 

「あ! 柳生ちゃん! あれって!」

 

「ああ。・・・・『リトルスター』だ。斑鳩と葛城にも、『リトルスター』があったんだ!」

 

「ほぉ~!」

 

「何が起こるの?」

 

雲雀と柳生と半蔵は笑みを浮かべ、飛鳥も斑鳩と葛城と同じように戸惑いがちに、光を追った。

 

 

ージードsideー

 

『ウワァァァァァッ!』

 

エースキラーを羽交い締めしていたジードはエースキラーに振りほどかれ、『エメリウム光線』を受けて吹き飛び倒れると、2つの光がカラータイマーに入り込んだ。

 

『「っ!? これは・・・・」』

 

インナースペースにいた理巧の2つの光がカプセルホルダーに入り、カプセルを取り出すと、『ウルトラカプセル』となった。

 

デャッ!

 

フワァッ!

 

1つは青い身体に剣のような角を付け、鎧のようなプロテクター胸にスターマークを付けたM78星雲の『知性』のウルトラマン、『ウルトラマンヒカリ』。

1つは深い海のような、青と銀の身体をしたウルトラマン。平行世界の地球で艦隊の娘達と共に、人類と怪獣と深海の艦隊が共存する世界を築いた『慈愛の勇者』、『ウルトラマンコスモス』。

 

《『ヒカリカプセル』、『コスモスカプセル』の起動を確認。カプセル交換が可能となりました。カプセルの交換を》

 

『「了解。ジーッとしてても、ドーにもならない!」』

 

理巧は先ず、『ヒカリカプセル』を起動させた。

 

「融合!」

 

デャッ!

 

カプセルから黄色い光の線が溢れ出て、胸にスターマークの並ぶ青いウルトラ戦士、『ウルトラマンヒカリ』のビジョンが現れて腕を振り上げた。

理巧は『ヒカリカプセル』を装填すると、今度は『ウルトラマンコスモスカプセル』を起動させた。

 

「アイ・ゴー!」

 

フワァッ!

 

カプセルから白い光の線が溢れ出て、青と銀の『慈愛の勇者』、『ウルトラマンコスモス』のビジョンが現れる。理巧は装填ナックルに収めた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

そしてジードライザーのスイッチを押して、装填ナックルを取り出すと、二つのカプセルをスキャンするとライザー中心のカプセルに、黄色と白が現れる。

 

ドクン! ドクン! 

 

『フュージョンライズ!』

 

「見せるぜ! 衝撃!! ハァアアアアアア!! ハァッ!! ジィィーーーーーーードッ!!!」

 

ヒカリとコスモスのビジョンが重なりあい、理巧と合わさる。

 

『ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス! ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!』

 

折り重なる光の直線と水流の煌めきを抜け、黄色い光と青い結晶の螺旋の中から、青い姿のジードが飛び出す。

 

『ハアァッ!』

 

『っ!』

 

エースキラーの頭上を飛び越え、静かに大地に舞い降り、その姿を見せる。

 

『ハァァァァァ・・・・!』

 

全体的にシャープでシンプル。白銀の姿に青いラインが入った姿。頭頂には青いメット部分であり、滑らかに流れるような動きで構えた。

 

青き激流の戦士・『ウルトラマンジード アクロスマッシャー』。

 

 

ー斑鳩sideー

 

『うわぁ~!』

 

「新しいジードだぁ!」

 

「青い、ジードか・・・・」

 

「なんかシャープでカッコいいかも・・・・」

 

雲雀の影に隠れたペガと、雲雀と柳生と飛鳥は、新たなジードの姿に驚嘆した声を漏らす。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

斑鳩と葛城は直感した。あのジードの姿は、今さっき自分達から出た『光』から生まれたんだと。

 

「(さて、お手並み拝見かのぉ?)」

 

 

ージードsideー

 

『『メタリウム光線』!!』

 

『ハァッ!』

 

エースはジードに『メタリウム光線』を放つが、ジードは軽やかに跳び跳ねて回避し、エースキラーの頭上を越えた。

 

『『アトモスインパクト』!!』

 

『グォォオオオオオ!!』

 

着地と同時に流れるように円を描いたジードは手を十字に組むと、光輪状の波動光線・『アトモスインパクト』を放つと、エースキラーは吹き飛び倒れた。

 

『フッ!』

 

ジードは再び軽やかにジャンプすると、ベムスターの近くに着地し、構えると、クイッ、クイッ、とベムスターを挑発した。

 

『ピギィィィィィィィィッ!!』

 

ベムスターは挑発されていると理解すると、両手をバサバサと動かして上昇し、ジードに向かって急降下する。

 

『っジード! セアッ!!』

 

ゼロは『ゼロスラッガー』を『ゼロツインソード』に変えて、ゼットンを切り裂いた。

 

『ピポポポ、ゼットーーーーンッ!!』

 

切り裂かれたゼットンはそのまま倒れ爆散した。

 

『フゥゥゥゥゥゥ・・・・『スマッシュビームブレード』!』

 

右手に形成した光の剣で迫り来るベムスターに、地面を滑るような動きで接近し、すれ違い際に斬り裂いた。

 

『ギュァァァァァァァァァァッ!!!』

 

ベムスターは真っ二つに斬り裂かれ、そのまま空中で爆散した。

 

『光の剣。あれは、ウルトラマンヒカリの技か?』

 

ゼロはジードの光の剣を見て呟いた。

 

『ウォオオオオオオオ!!』

 

『っ! ハァッ!』

 

エースキラーが起き上がり、ジードは軽やかにジャンプして、エースキラーの前に立つと、エースキラーは『M87光線』を放とうと構えた。

 

『フッ! ハァァァァァァァァァ・・・・!』

 

しかしジードはいち早く、虹色の光を放ちながら、大きく円を描くように構える。

 

 

ー斑鳩sideー

 

「暁月さん、お兄様をどうか・・・・!」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

斑鳩は祈るように手を組むと、飛鳥達もジードを真っ直ぐ見つめる。

 

 

ージードsideー

 

『『スマッシュムーンヒーリング』・・・・!』

 

ジードか両手から、虹色のオーロラのような光線がエースキラーを包み込んだ。

 

『ウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・アッ!』

 

エースキラーの身体が硬直すると、エースキラーの胸元が光り、そこから村雨が光に包まれて出てきた。

 

『フッ!』

 

ジードは光に包まれた村雨を優しく受け止める。

 

「・・・・・・・・」

 

『・・・・ウン』

 

先程の憎悪に満ちた顔ではなく、穏やかな顔で眠っている村雨を見て、安心したように頷いた。

 

『ーーーーーーーー!!』

 

エースキラーがジードに襲い掛かろうと、左手のカギ爪を振り下ろそうとした。

しかしその瞬間ーーーー。

 

『させるかよぉ! 『ゼロツインシュート』!!』

 

ゼロは、ゼロスラッガーを胸のカラータイマーに装着した強力な必殺光線、『ゼロツインシュート』を放ち、エースキラーは空中に吹き飛びながら爆散した。

 

『フゥゥ、グゥッ!』

 

それを確認したゼロは、ただでさえ傷が癒えていない状態で、強敵怪獣を相手取り、強力な光線技も使ったので、エネルギー切れ寸前となり、片膝をついてしまうが、優しく村雨を斑鳩達の所に下ろすジードの姿を見据える。

 

『フッ。コスモスの力か・・・・(『武志』。お前の力を正しく使うヤツがいたぜ)』

 

かつて共に戦った『コスモスの変身者』に呟いたゼロが立ち上がると、ジードが近づく。

 

『・・・・・・・・(コクン)』

 

『(コクン)』

 

お互いに頷きあったジードとゼロは光に包まれ、その姿を消した。

 

 

ー詠sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

詠は、斑鳩達を見下ろした後、戦闘によって破壊された山を見て渋面を作り、その場から離れた。

 

 

 

ー斑鳩sideー

 

あの戦いから2日後。病院に担ぎ込まれた兄・村雨が目を覚ましたと聞き、お見舞いにやって来た斑鳩。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ベッドに横になり、上体を起こした村雨は、ベッドの近くに置いた椅子に腰かけた斑鳩と目を合わさず、窓の外の景色を見ており、斑鳩もどう話せば良いのか迷っていた。

 

「斑鳩・・・・」

 

「っ、はい・・・・」

 

どんな言葉をかけられるか分からず、内心緊張する斑鳩に、村雨は今まで斑鳩が聞いたことの無いような静かな声で話した。

 

「昨日な。お前のクラスメートの小僧に聞いた。ウルトラマンは、お前が俺を『助けて』と言ったから、俺を助けた。そうじゃなかったら、俺ごと怪獣を倒す勢いだったってな」

 

「っ!(暁月さんが・・・・?)」

 

内心驚く斑鳩に構わず、村雨は声を発する。

 

「何で、俺を助けてなんて言ったんだ? 俺はお前を散々貶してきたのによ?」

 

「・・・・分かりません」

 

「は?」

 

「わたくしにも、分かりません。お兄様とはお世辞にも、良き関係では有りませんでしたから・・・・。ですが、あの時、お兄様を助けるかと、ウルトラマンに聞かれた時、わたくしはお兄様に、“死んで欲しくない”と思ったのです・・・・」

 

「そうかよ・・・・(・・・・こういう所が、俺との決定的で、絶望的な差か・・・・)」

 

おそらく、いや間違いなく、自分が斑鳩の立場だったら、これ幸いと言わんばかりに、“斑鳩を殺せ”と言っていた。

しかしそんな思考をしている時点で、自分は斑鳩に及ばない事を実感した。

 

「俺は・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「俺はただ、父さんに、誉めて貰いたかったんだ」

 

「お兄様・・・・」

 

「忍の適正が低い事は自分自身が良く分かっている。でも、頑張っていれば、努力していれば、『飛燕』に相応しい忍になれると、甘い幻想を抱いていたんだ」

 

それから村雨は自嘲するように呟く。

 

「父さんに誉めて貰いたかった。認めて貰いたかった。期待に応えたかった。だけど、お前が来て、父さんに認めて貰って、期待されて、そんなお前が妬ましくて、悔しくて、憎らしくて、お前を盗人と蔑んで、そんな惨めな自分を慰めたかったんだ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

斑鳩は悲痛な顔で兄を見る。

 

「だから、あの力を使えば見返す事が出来ると思ったが。結局、力に呑まれて、自分を見失っちまった・・・・」

 

「お兄様・・・・忍になることは?」

 

「あんな事をやっちまったんだ。もう忍になる資格は剥奪されたも同然だ。しばらくは病院で留置処分とされるそうだが、罪には問わないだとよ」

 

「・・・・そう、ですか」

 

「斑鳩。そろそろ行けよ。間もなく事情聴衆が始まるからな」

 

「はい・・・・」

 

斑鳩が椅子から腰を上げて椅子を片付けると、病室を出ようとドアの取っ手に手を伸ばそうとする。

 

「斑鳩」

 

「っ、はい」

 

背中越しに兄から声をかけられた。

 

「『飛燕』に、相応しい忍になれよ」

 

「えっ・・・・?」

 

斑鳩は振り向くと、村雨は相も変わらず窓の外を眺めながら声を発する。

 

「今更、こんな事を言われても、許されないと思うし、資格も無いと思うがな・・・・その、今まで、済まなかった。これからも、頑張れよ・・・・」

 

「ーーーー!!」

 

その時、自分は兄から、初めての謝罪と応援を受けた。それを自覚した時、斑鳩の胸の内から、込み上がってくる喜びの感情が涙となって瞳を潤す。

 

「は、はい・・・・! 頑張ります・・・・! お兄様・・・・!」

 

涙を流しながら笑顔を浮かべる斑鳩に、村雨は顔を向けて、憑き物が取れたような笑みを浮かべていた。

 

 

ー霧夜先生sideー

 

斑鳩が笑みを浮かべて、涙混じりに病室を出るのを確認した霧夜先生(&ゼロ)と半蔵も、笑みを浮かべる。

 

「村雨の心の内にあった負の感情は、青いジードによって浄化されたようじゃな?」

 

「これも、『ウルトラマンコスモス』の力なのでしょうね。村雨に情状酌量を与えたのは、半蔵様ですか?」

 

「ま。今までの努力してきた『忍の道』を、安易に諦めろなどと言ってしまった責任じゃよ。・・・・それに、村雨にあの『怪獣のカプセル』と『水晶の人形』を渡した者も気になるしのぉ」

 

「(デュォオン!) もしかしたらソイツが、蛇女に手を貸しているのかもしれねぇな」

 

 

ー???sideー

 

その頃、蛇女のとある部屋では、鎧武者姿の人物が自分の前で膝を折る二人の忍を見据え、命令を下した。

黒いゴスロリの格好に猫耳のようなフードを被った黒い長髪の小柄な少女。

緑色の短髪にラフな格好をした少女。

二人とも、焔達の仲間の忍だった。

 

「了解した・・・・」

 

「フフッ、漸く出番ね・・・・」

 

二人は笑みを浮かべると、懐から『コピークリスタル』と『怪獣カプセル』を手に取った。

 

 

ー伏井出sideー

 

「・・・・・・・・」

 

伏井出ケイは暗い執務室のような部屋で、『レッドキングカプセル』。『エレキングカプセル』を並べ。さらに、『ベムスターカプセル』。『ゼットンカプセル』。『エースキラーカプセル』を並べると、5個のカプセルから禍々しい黒いオーラが立ち上ぼる。

 

「『コピークリスタル』に人間を取り込ませると、あのような形になるとは、面白い実験結果が出ましたね。さて、まだまだこれからですよ・・・・」

 

伏井出ケイは、全てが計画通りと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!! なんじゃここはーーーー!? まるでSF映画だぜっ!!」

 

理巧が基地の中央テーブルで『アクロスマッシャー』の分析をしていると、転送エレベーターから、雲雀と柳生に連れられて、飛鳥と斑鳩と葛城がやって来た。

葛城が大声で叫び、飛鳥と斑鳩も声には出さないが、葛城と同意見なのは、唖然とした顔で分かる。

 

「ここが! 理巧くんの秘密基地だよ!」

 

「と言っても、最近ではオレと雲雀も入り浸っているがな」

 

「凄ーーーーい! あっ! 理巧くん!」

 

「いらっしゃい。まあ取り敢えずゆっくりしていってね」

 

『はじめまして! 飛鳥に、葛城に、斑鳩だね! ペガは理巧の友達で、ペガッサ星人のペガだよ!』

 

「え、ええ、はじめまして・・・・」

 

「うわっ! 本当に宇宙人かよ!? 都市伝説かと思っていたぜ!」

 

「はじめましてペガくん!」

 

飛鳥と葛城がペガをマジマジと見つめ、斑鳩もペガに驚きたが、すぐに理巧の近くに行く。

 

「あの、暁月さん・・・・」

 

「はい?」

 

「その、お兄様と、お話できました」

 

「そうですか」

 

「・・・・ありがとうございます。お兄様を、助けてくださって・・・・」

 

「・・・・僕は、斑鳩さんが助けてって叫んだから助けただけです。感謝されることではありませんよ」

 

「それでも、ありがとうございます」

 

「・・・・はい」

 

どことなく気恥ずかしい雰囲気が二人を包み、飛鳥達もそれを見ていた。

 

「ですが、暁月さん、イエ、これからは理巧くんと呼ばせていただきます」

 

「ん? 名前は別に良いですけど・・・・」

 

「貴方のサボり癖ははっきり言って問題です。これから忍教室の一員たる者。修行にも真面目に取り組んでもらいます」

 

「ウェ・・・・」

 

「その為にも、わたくしが、貴方の『教育係』になります!」

 

「「「「『ん?』」」」」

 

「んん??」

 

斑鳩の言った言葉に、全員が首を傾げる。

が、斑鳩は若干顔を赤らめて口を開く。

 

「理巧くん・・・・わたくしが貴方の、『お姉ちゃん』になります!!/////////」

 

「・・・・・・・・・・・・いや何で?」

 

「あっ、んじゃアタイも暁月、いんや、理巧の『姉ちゃん』になってやるよ」

 

「いやだから・・・・・・・・何で??」

 

この日、暁月理巧は『二人の姉』を得たのであった。




斑鳩と葛城が、理巧のお姉さんポジションになりましたぁ!

ー次回予告ー

修行の為に無人島にやって来た僕達。初めてのお泊まりに少し緊張する。
しかし、そんな僕達の前に、新たな二人の悪忍と二体の怪獣と新たに出現した融合獣で大混乱。そして、海の中からも怪獣が出現して、大苦戦だ。
新たな武器のお披露目といきますか!


次回、『閃乱ジード』

【怪獣列島】

ジーッとしてても、ドーにもならない!


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怪獣列島
修行の前に、掃除だぜ!


さて、修行編です。


ー理巧sideー

 

青い海。青い空。白い雲。サンサンと輝く太陽。

現在。理巧達半蔵学院の忍教室一同は、半蔵学院のクルーザーで、海を渡っていた。

 

「・・・・・・・・いや何で?」

 

クルーザーに乗り、赤いアロハシャツにショートパンツを着用した理巧が思わず呟く。

すぐ隣のテーブルでは、ソファーに座った飛鳥と葛城のペアと、柳生と雲雀のペアがババ抜きで柳生・雲雀ペアが負け、二人は葛城からデコピンを受けて痛みで悶えていた。

 

「理巧く~~~ん!」

 

「・・・・・・・・」

 

涙目の雲雀が理巧に泣きつき、理巧は雲雀と柳生の頭をヨシヨシと撫でる。

 

「酷いよ葛姉~~!」

 

「フッ。雲雀。勝負は非情なんだよ」

 

「貴様のせいで・・・・! こんなものが、あるから・・・・!!」

 

柳生が負けた腹いせに、トランプのババを捨てた。

 

「ああ! 負け続きだからって卑怯だぞ!!」

 

「面白い。肉弾戦なら負けはしない・・・・!」

 

「貴女達、静かにしなさい。」

 

後方でビーチパラソルを開き、ビーチチェアに横になり、麦わら帽子にサングラスを着用して読書をし、見るからにクルージングを満喫しまくっている斑鳩が諫めた。

ちなみに本の名は、『コズモクロニクル 伏井出ケイ』。

 

「満喫してますね、斑鳩姉さん」

 

「ごめんなさ~い・・・・」

 

斑鳩の兄・村雨との一件があってから、理巧の『教育係兼お姉ちゃん役』となった斑鳩。あと便乗して『お姉ちゃん役』になった葛城を、理巧は『斑鳩姉さん』と『カツ姐<ねぇ>さん』と呼ぶようになった。

飛鳥はソファーから立ち上がり、身体をグィ~っと伸ばす。

 

「でも潮の香りって良いよねぇ!」

 

「それじゃぁ、アタイは若い娘の匂いを嗅ごうかねぇ! クンクンクンクン!!」

 

「ちょ、ちょっと葛姉ぇ! セクハラは止めてよ!」

 

「良いよ良いよ! とても良い香りだよぉ。これならご飯は3杯は行けるねぇ~!」

 

「だったら雲雀も嗅ぐぅ! クンクンクンクン!」

 

雲雀が飛鳥の後ろから、葛城はちゃっかり飛鳥の胸に顔を挟めるように抱きついて匂いを嗅いでいた。

 

「貴女達! 静かにしなさいって言ってるでしょう!!」

 

「あっ見えた」

 

「えっ!?/////」

 

遂に起き上がって怒鳴る斑鳩だが、理巧が言った一言で、思わず胸元を隠す。

が、理巧と飛鳥達は船の行き先の方に目を向けていた。斑鳩も一同に合流して、船の行き先を見ると。

結構大きな島が見えていた。

 

「あそこが・・・・」

 

「ああ。臨海修行先の忍島だ」

 

『うわっ!』

 

「霧夜おじさん。ペガの『ダークゾーン』に隠れてたの?」

 

「中々隠密に使えるな、ペガくん」

 

『えへへへ~』

 

驚く飛鳥達の後ろに、青色のアロハシャツを着たサングラスを掛けた霧夜先生と、いつものパーカーではなく、緑色のアロハシャツを着用し、ペガッサ星人のペガにも合ったサングラスを掛けたペガが現れた。

 

「つまり、あの島でこれから皆で合宿修行なんですね?」

 

「そう言う事だ。海に囲まれた列島。修行にはもってこいだろう?」

 

そう。今回、半蔵学院の忍教室の忍達は、この忍島で、臨海修行を行うのだ。

「まぁ、アタイは皆の水着姿や、理巧の魅力的なお尻を拝めるから良いけどなぁ!!」

 

葛城はショートパンツに包まれた理巧のお尻を恍惚とした表情で頬ずる。

 

「カツ姐さん、やめてくれる?」

 

「やめん!」

 

理巧が半眼になってツッコムが、葛城が止めようとしなかった。逃げようと動こうとした瞬間、波によって船体がグワンっ、と揺れた。

 

「おっ・・・・!」

 

ボニュゥゥンッ!

 

「あん!?」

 

葛城に下半身を押さえられ、船体が揺れてバランスを崩した理巧は、前のめりに倒れて、斑鳩の93センチGカップバストに頭から突っ込んでしまい、その豊満な柔らかさと弾力に挟まってしまった。

 

「り、理巧くん! な、何をしてるんですか!? わ、わたくしも、お姉ちゃんとして、甘えたいなら前もって言ってくれれば甘えさせるのも吝かでは・・・・/////」

 

「ひや、ひかるふぁふぇひゃんまえふぁにひっへんれふか<いや、斑鳩姉さんまで何言ってんですか>?」

 

斑鳩のバストに挟まれて、くぐもった声で理巧がツッコム。斑鳩はソッと理巧の頭を抱いて、豊満な胸に押し付けた。

 

「ああ! 斑鳩さんズルい! 雲雀も!」

 

「・・・・ではオレも////」

 

フニュン。ムニュン。

 

「ひふぁりひゃん<雲雀ちゃん>? やふぅふぁん<柳生さん>?」

 

「あっ! で、出遅れた・・・・!」

 

雲雀と柳生が理巧を左右から挟むように抱きつき、雲雀は80センチCカップバストを、柳生は85センチDセンチバストを理巧の腕に押し付けたり挟んだりした。

飛鳥は出遅れたので1人頭を抱えて、下半身は葛城が、前面は斑鳩が、左右は柳生と雲雀に挟まれた理巧の最後に残った背後から、自分の90センチFカップバストを押し付けた。

 

「ふぁすふぁふぁん<飛鳥さん>・・・・?」

 

「こ、ここしか無かったから・・・・!//////」

 

「おぉ! 飛鳥も大胆になったなぁ! さてさて理巧くん? 一体誰のおっぱいが最高なのかなぁ??」

 

「ひや、ふぉのまへにふぁいほうひて<いや、その前に解放して>・・・・」

 

そろそろ息苦しくなってきたのか、理巧は斑鳩の腕を優しくタップしていた。

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

漸く合宿する宿舎にたどり着いた一同の目の前には、屋根に雑草が生え、見るからに不気味なお化け屋敷のような雰囲気の古い建物が建っていた。

 

「ここが合宿所・・・・ですか?」

 

「ああ。文化財にも匹敵する年代物だぞ」

 

「ただボロいだけでしょ?」

 

「って言うか、年季入りすぎてるって言うか・・・・」

 

「古式ゆかしい、と表現すれば・・・・」

 

「そ、そそう! それそれ!!」

 

「そうですよね、忍の修行なんですから・・・・」

 

「言い方変えても、不気味でボロいって事でしょう?」

 

霧夜先生と姉役二人に理巧は半眼でツッコム。

 

「お化け屋敷みたい・・・・」

 

「「「っ!?」」」

 

「うんうん」

 

『やっぱりそう見えるよね・・・・?』

 

雲雀の一言に、飛鳥・斑鳩・葛城は肩をビクッとさせ、理巧とペガはウンウンと頷いた。

 

「言うな雲雀。皆ソコまでは、と遠慮してるんだ」

 

「そうなの?」

 

「ここは江戸時代から、名のある忍が修行を積んできた、忍者屋敷なんだぞ。ここで修行する事を誇りに思わないでどうする?」

 

≪や、そんな由緒ある屋敷なら、掃除くらいはしておけよ≫

 

霧夜先生と一体化しているウルトラマンゼロも、やんわりとツッコミをいれた。

 

「すみませんでした先生。想像と違っていたので、つい・・・・」

 

「お化け屋敷か」

 

「言わないの」

 

「言うな」

 

雲雀の一言に理巧と柳生がツッコミ、飛鳥達も半眼で雲雀は見た。

 

『幽霊とかでるかな? ねぇ、ゼロは幽霊とか見たことあるの?)

 

「(デュォォン!) あるぜ。宇宙には死んだ怪獣や異星人達の魂が眠る『怪獣墓場』って所があってな。ソコから怨念を纏って怪獣や異星人達がワラワラと現れて自分達を倒したウルトラマンに恨み言を・・・・!」

 

『うわぁ・・・・!』

 

サングラスを外した霧夜先生の瞳が金色になり、ゼロにチェンジしてペガに低い不気味な声でそう言うと、ペガは脅えて、理巧の背後の影に隠れた。

 

「・・・・なんか、霧夜先生の顔と声が若々しくなると、スッゴい違和感がある」

 

『ウンウン』

 

前回の戦いから、ウルトラマンゼロが霧夜先生と一体化している事を知らされた半蔵学院の忍達は、未だに霧夜先生とゼロのキャラのギャップに戸惑っていた。

 

「(デュォォン!) ゼロ交代だ。・・・・それでは早速修行開始だ!」

 

「今からですか!?」

 

「早すぎるよ先生! 折角の海なんだし、先ずは水着に着替えて・・・・」

 

「早速セクハラ?」

 

「もちろん!!・・・・っておい!」

 

理巧の呟いた一言に、思わず肯定した葛城だが、すぐにビシッとツッコンだ。

 

「そうはいかん。何故なら最初の修行は・・・・」

 

「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」

 

どんな修行内容か緊張する生徒達に、霧夜先生はニヤリと口角を上げて宣言する。

 

「ここの掃除だ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・そんなに溜めて言うこと?」

 

 

 

 

それから半蔵学院生徒による掃除が始まった。

理巧とペガは屋根の雑草採り。理巧は兎も角、ペガは危険と思われるが、『ダークゾーン』を使うことで、ペガが屋根から落ちる心配はないのだ。

飛鳥と葛城と雲雀は廊下や天井の柱や縁側を雑巾掛け。

斑鳩と柳生は部屋の埃の払いや汚れの拭き取り。

斑鳩は埃の払っていると、大量の埃が落ちて、被ってしまった。

 

「ケホ、ケホ。確かに、先ずは掃除をしないと、マトモに暮らせそうにないですね」

 

「ここを全部掃除となると、夕方までかかりそう」

 

しかし葛城は、明らかにヤル気ゼロでサボっていた。

 

「あぁ~あ。折角海に来たんだから、先ずは海だよなぁ」

 

「ん? 何だろう?? あっ!」

 

と、ソコで天井の柱を雑巾で拭いていた雲雀は、“柱に彫られた奇妙な文字”を見つけた。が、手を滑らせ雑巾を落としてしまい、掃除は葛城の頭に被った。

 

「うわっ! ち、違うんだ先生! べ、別にサボっていた訳じゃ・・・・!」

 

「ごめんなさ~い!」

 

慌てて立ち上がった葛城だが、頭上から聞こえる雲雀の声に気づく。

 

「お、脅かすな! 霧夜先生かと思ったじゃねぇか!!」

 

「あ! 霧夜先生は?」

 

「釣りに行くとか言って先ほど、柳生さんと」

 

「えぇっ!? アタイ達に掃除させといて、それに何で柳生まで・・・・?」

 

斑鳩も指を立てて口を開く。

 

「今晩のオカズの確保だとか」

 

「「え?」」

 

「あ、それと理巧くんとペガさんも、先ほど屋根の雑草を採り終えて、今は山で山菜やキノコ狩りに行きましたよ」

 

「自給自足かよ・・・・。つか、山に行った二人は大丈夫かよ? 遭難してるって事は?」

 

「大丈夫でしょう。先ほどレムに連絡を取りましたら、ここでも通信や転送エレベーターが通る事ができますから、遭難したら連絡が入る筈ですわ」

 

《問題ありません》

 

斑鳩は胸の谷間から、先日レムに貰った通信インカム(白のカラー)を取り出すと、インカムからレムの声が響いた。ちなみに飛鳥と葛城も貰っており、飛鳥は緑色のカラーで、葛城は水色のカラーになっていた。

 

 

ーゼロsideー

 

その頃、霧夜先生は完全な釣り人スタイルで浜釣りをしていたがまったく釣れず、逆に柳生は海女のように海を潜り、水中に関わらず、番傘を駆使して着々と魚を取っていた。

 

≪釣れねぇな・・・・≫

 

「(不味いな。このままでは教師の沽券に関わる・・・・! ゼロ! 念力とかで魚を取れんのかっ!?)」

 

≪いや、ズルをするなよ教師・・・・≫

 

「先生」

 

「っ、な、なんだ柳生?」

 

突如海面から顔を出した柳生に話しかけられ、霧夜先生はズルをしようとしていたのを悟られたかと、肩をビクッとさせたが、柳生は鋭い視線を霧夜先生に向けていた。

 

「・・・・少し、ウルトラマンゼロと話をさせてくれ」

 

「ん? ゼロと? 何でだ?」

 

「理巧の、ウルトラマンジードの事でだ」

 

「っ!・・・・分かった。ゼロ、頼む」

 

「(デュォォン!) 俺に話があるのか?」

 

ゼロにチェンジした霧夜先生に柳生は鋭い視線で睨むと口を開く。

 

「お前は、理巧をどうするつもりだ?」

 

「まだ見定め中って所だ。アイツが『ベリアルの息子』ってだけで、すぐにどうこうしようなんて思わねぇよ」

 

「だが、お前以外のウルトラマン達が、理巧の存在を知ったらどうなる?」

 

「・・・・・・・・おそらく、危険性の高いジードを抹殺しようと考える奴らもいるだろうな。それほどまでに、ベリアルを危険視する奴らは大勢いるからな」

 

『反逆者 ウルトラマンベリアル』。ゼロがまだウルトラマンレオの元で修行していた時、牢獄を脱走して『光の国』を危うく壊滅寸前にまで追い詰めた大罪人。

その大罪人の遺伝子上の息子であるウルトラマンジードを、快く思わない、いやむしろ、排除すべき危険因子と決めつけるウルトラマンも現れるだろう。

 

「・・・・そうか、一応言っておくぞウルトラマンゼロ。オレも、雲雀も飛鳥も斑鳩も葛城もペガも、理巧を信じている。お前が理巧と敵対するときは、オレもお前と一戦交えるつもりだからな」

 

そう言って、柳生は再び海の中に潜っていった。

 

「・・・・モテモテだな。アイツは」

 

≪そうだな・・・・≫

 

ゼロと霧夜先生は、フッと笑みを浮かべていた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『理巧~! このキノコはどうかな?』

 

ペガが木の下に生えていたキノコを理巧に見せると、理巧はそのキノコを受け取って咀嚼して、ゴクリと呑み込んだ。

 

「・・・・・・・・これは毒キノコだね。常人なら少し食べたら身体が痺れてあの世行きだよ」

 

『そっか。でも理巧大丈夫なの? さっきからペガが見つけた毒キノコや、山菜と間違えた毒草とかも食べているけど?』

 

「問題無いよ。いや寧ろ、最近『毒に対する身体作り

』を怠っていたから、ちょうど良いよ」

 

理巧は山菜とキノコ狩りに乗じて、ちゃっかり危険な修行をしていた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥と斑鳩と葛城は、厨房に来ていた。江戸時代風の古式ゆかしい厨房だった。

 

「もしかして夕食は・・・・」

 

「現地調達って事か?」

 

「これも修行の内だとか・・・・。大丈夫です。お米とお味噌とお塩は、ちゃんと有るようですし」

 

「と言うか、それしか無いのかっ!?」

 

 

ー雲雀sideー

 

そして雲雀は、柱に彫られていた文字を読んでいた。

 

「『目指せスーパー忍者!』・・・・。何だろうこれ?」

 




ー注意ー
理巧の修行は極めて危険です。
理巧は幼い頃(戦部家に迎えられる前)に壮絶な訓練を受けていたので、『毒キノコ』や『毒草』や『毒薬』や『毒虫』や『動物の毒』に対して、『抗体』やら『免疫』が出来ているので問題ありませんが、普通の人では間違いなく、確実にお陀仏ですから真似しないように。
間違いが起こっても、当方は一切合切の責任は負いません、自己責任です。


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『大切な物』

ー葛城sideー

 

「どおぅりゃっ! たぁっ! おおっ! とぉりゃっ!!」

 

葛城は薪を作るために島の樹木を、その鍛え上げられた美脚、いや健脚で薙ぎ倒し、細かくへし折っていく。

 

「薪はこのくらいで十分か」

 

葛城は山となった薪の上に寝そべる。

 

「はぁ・・・・早く水着が、見たい」

 

葛城の頭の中では、斑鳩、飛鳥、柳生、雲雀。同年代から見ても圧倒的かつ、暴力的に実った瑞々しいプロポーションと豊満かつ形の美しいバストが、薄い水着に包まれた姿を想像し、顔がニヤケ、口元に涎を垂らした。

 

「うへへへへへ、さらに今日は、新しい逸材もいるしなぁ~」

 

男でありながら、自分の心を奪い、新たな境地に到達させた暁月理巧のヒップが、一体どのような水着でその姿を現すのかを想像して、葛城はさらに顔をニヤケさせる。

 

「うぇへへへへへ。トランクスタイプか? スパッツタイプか? それともまさかのブーメランタイプか? できればブーメランが好ましい!!」

 

知らない人が見れば問答無用で警察に通報されそうなほどに、顔をニヤケさせて涎を垂らす葛城だった。

 

 

ー理巧sideー

 

「っ・・・・!?」

 

『理巧? どうしたの?』

 

「いや、何か凄い嫌な気配を感じたんだけど・・・・」

 

「え??」

 

 

ー飛鳥sideー

 

その頃斑鳩は、竈に火を起こそうとし、雲雀は食器を洗って、飛鳥は食材を切っていた。

 

「白いお碗と思ったら、全部埃だったんだねぇ。飛鳥ちゃん、そのおネギどうしたの?」

 

「裏の畑に生えてたの。ちょっと朽ちかけていたけど、贅沢は言えないよね?」

 

「だよね~。・・・・ねぇ飛鳥ちゃん」

 

「ん?」

 

 

 

 

雲雀は先ほど見つけた文字の事を話し、それがあった部屋に向かった。

 

「“スーパー忍者”??」

 

「うん。そう書かれていたの」

 

「あっ! 以前ここに来た先輩が書いたんじゃないかな」

 

「あんな目立たない所に?」

 

二人は書かれていた天井の柱を見上げる。

 

「イタズラ半分かも知れないけど、見えない所にコッソリ願い事を書くだなんて、そう言う気持ち、何となく分かるなぁ」

 

「そうかぁ、お願い事かぁ! 書いた人、立派な忍になってるかなぁ?」

 

「なってると良いね!」

 

「うん!」

 

「立派な忍がどうかしたの?」

 

二人が振り向くと、ちょうど帰って来た理巧とペガがいた。

 

「あっ! 理巧くん、ペガくん。お帰り!」

 

「うわぁ! このキノコ食べられるかなぁ?」

 

雲雀が二人が背負ったカゴに入ったキノコや山菜を見て言った。

 

「ちゃんと食べられる物を集めたよ」

 

『あっ! 霧夜さんと柳生も戻ってきたよ』

 

「それじゃ、おじさんと柳生の成果を見に行くか」

 

理巧は飛鳥達を連れて、霧夜先生の方に向かった。

 

 

 

ー理巧sideー

 

そして夜。食卓には柳生が捕ってきた魚で刺身が並べられた。

 

「柳生さん、お疲れ様。はいア~ン」

 

「ア~ンムっ。ムグムグ」

 

理巧は柳生にイカゲソをアーンとさせた。

 

「霧夜先生」

 

「釣りは駄目だったが、貝を捕ったのは俺だからな」

 

≪いやそれ自慢にならねぇだろ≫

 

雲雀に話しかけられ、アサリを見せて妙な見栄を張る霧夜先生にゼロは呆れながらツッコンだ。が、雲雀は別の事を話した。

 

「“スーパー忍者”ってどんな忍なんですか?」

 

「っ・・・・」

 

「先生?」

 

霧夜先生の目が少し鋭くなったが、雲雀に話しかけられ、元に戻った。

 

「名前からして、全ての忍を超越するような、究極の忍・・・・見たいなもんじゃないかな?」

 

≪何か歯切れ悪いな?≫

 

「へぇ~、そんな忍がいたら、悪忍や悪い宇宙人なんて簡単にやっつけて、世界も平和になっちゃうかもですね!」

 

「あ、ははは・・・・そう、だな・・・・」

 

「・・・・」

 

≪???≫

 

顔を背ける霧夜先生に、理巧とゼロは訝しそうに見ていた。

 

 

 

 

 

カポーン・・・・。

 

夕食を終え、飛鳥達が風呂を入り終えたので(女性陣が入るとき、理巧は一緒に入ろうと葛城と雲雀に連れていかれそうになり、斑鳩と飛鳥と柳生が止めると言うハプニングがあった)、風呂に入浴している理巧と霧夜先生とペガ。

 

『♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪』

 

ペガは宇宙人専用シャンプーで頭(?)を洗っていた。

 

「ふぅ~。悪くないな」

 

理巧は夜空を見上げて呟いた。そんな理巧に、ゼロにチェンジした霧夜先生が話しかける。

 

「(デャォォン)・・・・よ。隣、良いか?」

 

「ウルトラマンゼロ。良いけど」

 

「固っ苦しいな、ゼロで良いぜ」

 

「それじゃ、ゼロ」

 

「おう」

 

二人は隣り合わせで、夜空の星空を見上げた。

 

「なぁジード」

 

「僕の事も、理巧で良いよ」

 

「それじゃ理巧。お前、ベリアルの息子なんだってな?」

 

「・・・・遺伝子上では、ね」

 

すでにお互いがウルトラマンである事を知ってから、これまで理巧が手にした『ウルトラマンベリアルに関する情報』を霧夜先生やゼロにも伝えておいた。

勿論。理巧には『ベリアルの細胞』がある事も。

 

「俺の親父は、お前が使うカプセルの1つのウルトラマン。『ウルトラセブン』だ」

 

「うん」

 

「お互い、父親には苦労するな?」

 

「お互いって、ゼロもウルトラセブンに苦労したの?」

 

「まぁ、俺がセブンが父親だって知ったのは、幽閉されていたベリアルが脱獄して、『M78星雲 光の国』を襲撃し、『プラズマスパーク』と呼ばれる『光の国』のエネルギーコアを強奪した通称『ベリアルの乱』が起こった時だがな。丁度俺はその時、親父の弟子である『ウルトラマンレオ』。その弟の『アストラ』。そしてキングのじいさんこと、『ウルトラマンキング』の元で修行していたんだ。もしかしたら親父は、俺が『英雄』と呼ばれた『ウルトラ兄弟』の『セブンの息子』って事で、周りの奴らから“色眼鏡で見られないようにしてくれたのかもな”」

 

「『伝説の忍 半蔵の孫』って肩書きで、肩肘張ってる所がある飛鳥さんみたいに?」

 

「そうかもな」

 

人は、偉大な事を成し遂げた人物の親族に対して、一方的な期待や嫉妬を抱き、そして期待に答えられない時は失望や嘲弄を抱く事がある。

理巧は、ジードがベリアルに似た容姿のせいで、世間から一方的な警戒や恐れを抱かれて、中学時代は周りと違う容姿のせいで一方的に異物扱いを受けてきたからよく分かる。

 

「・・・・ベリアルは、他に何をしたんだ?」

 

「聞くとかなり堪える物があるぞ?」

 

「それでも良い。僕はベリアルの事をほとんど分かっていない。だから、知らなければならないんだ、ベリアルの事を」

 

理巧の目を見て、ゼロはフゥ、とため息を吐いた。

 

「分かった。俺も大隊長である『ウルトラの父』から聞かされた事を話すぜ」

 

ゼロからの話に理巧は静かに聞き、ペガは今度は宇宙人専用ボディソープで身体を洗い出した。

 

 

 

 

 

風呂から上がって、ホカホカと身体を温まった理巧達は、女性陣の部屋を通ると、ギャイギャイ騒いでいる女性陣の聞こえた。

 

「皆、もう遅いから寝て(パシッ)・・・・危ないな」

 

襖を開けた理巧の眼前に迫った枕を、理巧は冷静にキャッチすると、枕を投げた体制の斑鳩と目が合った。

 

「・・・・・・・・斑鳩姉さん、何してんの?」

 

「あっ、いえ、これは、その、皆さんがあまりにも煩かったので、枕で対抗しようとして・・・・」

 

「・・・・全員、ソコに正座っ!!」

 

霧夜先生に怒鳴られ、女性陣は並んで正座して説教された。

 

 

 

 

 

『ZZZzzzZZZzzzZZZzzzZZZzzz・・・・』

 

そして、霧夜先生と同室で寝ることになった理巧とペガ。

布団で寝静まるペガはすでに夢の中に旅立ち、霧夜先生が理巧に話しかけた。

 

「理巧」

 

「ん?」

 

「お前は、何でウルトラマンジードとして戦うようになったんだ? お前は基本、鷹丸達以外がどうなろうが、無関心だっただろう?」

 

「・・・・・・・・『ジーッとしてても、ドーにもならない』」 

 

「何?」

 

理巧が呟いた言葉に、霧夜先生はピクリと眉を動かす。

 

「ジーっと耐えていても、ドーにもならない事があるって事を、中学時代に嫌と言うほど体験して。それから雲雀ちゃんを助けるために行動して、柳生さんを守るために戦って、それからも斑鳩姉さんの兄を助けようとして、自分でも、無関心を貫こうとしていたら、この言葉を呟くと、いつの間にか戦っていた」

 

「・・・・それは、お前にとって飛鳥達が、『守りたい大切な物』になったからだな」

 

霧夜先生の言葉に、理巧は少し逡巡して唇を開く。

 

「僕には、鷹丸さん達以外に無かった筈なのにな・・・・」

 

「俺も無かった時があった。だがな、1つ『大切な物』が見つかると、他にも大切な物が沢山出てくる。俺も、『仲間達や大切な人』ができて、それから世界が愛しくなった。大切な人達が生きる世界だからな。ま、今の俺が出来るのは、『次の世代』の奴らが、少しでも望みを持って生きて貰える事くらいだがな。ゼロになれるからって、それが俺自身の力とは思わないさ」

 

霧夜先生は薄く笑うと、理巧に顔を向けた。

 

「お前は普通とは逆かもしれん。俺達は身近な大切な人達を守りたいから世界を守りたいと思う。お前は、世界を守りながら、自分にとって沢山の『大切な物』を探していく。そう言う運命を担っているのかもな」

 

「そう、かな・・・・」

 

「そうだろうよ。俺だけじゃない、飛鳥達にだってあるんだ。理巧にも、きっと『大切な物』がこれからも生まれ、それらを守るために、戦う事ができるはずだ。お前がお前でさえいればな」

 

「僕が、僕でさえいれば、か・・・・もう寝るね。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

理巧は布団を被って、眠ろうとした。

 

≪へへっ、良いこと言うじゃねぇか、霧夜先生?≫

 

「(これでも教師だからな・・・・)」

 

しかし、霧夜先生の脳裏には、雲雀が言った『スーパー忍者』の事を考えていた。

ふと霧夜先生の脳裏に1人の少女の姿が過っていた。

 

「(スーパー忍者、か・・・・)」

 

「(んん??)」

 

眠ろうとしていた理巧は合宿所の外から、『妙な気配を2つ』ほど感じて目を小さく開いたが、すぐにそれが消えて妙だと思ったが、眠りについた。

 

 

 

 

 

翌日の海岸で、飛鳥達が自発的に忍装束を脱いで自らを追い込み、素早さと攻撃力を上げ、防御力を極端に下げた特殊な術を用いた修行・『命駆』を眺めていた。

 

「『命駆』中は敵の攻撃一発一発が致命傷となりうる! 当てても当てられるなっ!」

 

「「はいっ!」」

 

霧夜先生の言葉を、水着姿となった斑鳩と葛城が返答し、飛鳥達も修行を開始したが、理巧は周囲を鋭く見回った。

 

「理巧。見学も大事な修行だ。飛鳥達の動きを細かく見ていろ」

 

「・・・・了解」

 

「「「「「っ・・・・!/////」」」」」

 

理巧が飛鳥達に視線を向けると、現在水着姿の状態の飛鳥達は、理巧に見られている羞恥で、少し動きが固くなって霧夜先生に怒鳴られたのは、この少し先である。

しかし理巧は、飛鳥達の瑞々しい肢体に、圧倒的かつ暴力的なプロポーションと、形の整った豊満なバストに鼻の下を伸ばしておらず、今考えているのは。

 

「(スピード&攻撃力重視タイプか。

『プリミティブ』はパワーは有るけどバランスタイプだ。突出した能力の相手には分が悪い。

『ソリッドバーニング』は攻撃力と防御力重視タイプだからスピードに難がある。それをブースターで補っているがそれだけじゃ素早さを補えない。

『アクロスマッシャー』は素早さと光線技重視タイプ。パワーが弱いし、攻撃力に少し難がある。

今なれるフュージョンライズを上回る相手が現れれば、苦しくなるかもな)」

 

理巧は今自分がなれるタイプ<手札>でどこまで戦えるかを思案していた。

ちなみにペガは麦わら帽子を被って、潮干狩りをしていた。




次回、閃乱カグラで1,2を争うツルペタ娘と無感情娘(昔の理巧ほどではない)が登場し、新たな『ベリアル融合獣』と島に隠れた怪獣が・・・・!


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襲撃だぜ、悪忍

ー飛鳥sideー

 

『命駆』の修行を終えた飛鳥達は、自由時間となったので、海で遊ぶために水着に着替えていた。

 

「やっと待望の自由時間だっ! 遊ぶぞーーーー!」

 

先程よりも攻めたデザインの水着姿に着替えた葛城が喜びの雄叫びを上げた。

 

「ねぇ柳生ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「さっきまで水着で修行してたんだから、わざわざ着替えなくても・・・・」

 

「それとこれとは別だ。理巧にもなるべくなら色々と可愛い水着を見せたいとも思わないか?」

 

「ああ! そうだね!」

 

柳生の説明に、雲雀は納得したようにポンと手を叩いた。

 

「そうそ、戦う水着と見せる水着は違うんだ」

 

そう言う葛城の手には、誰かの水着のブラが握られていた。

 

「カツ姉ぇ! 私の水着返して!!」

 

「あのCOOLな理巧の無感情な顔を崩すなら・・・・トップレスってのも悪くないぞっ!!」

 

「いやぁああああああああああああああっ!!!」

 

葛城が豊満なバストを両手で隠した飛鳥の手を万歳させて、トップレスを披露された飛鳥の悲鳴が、島全体に広がった。

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧はスパッツタイプの水着にパーカーを羽織った姿で、ビーチチェアで寝そべりながら、海で遊ぶ皆を眺めていた。

水蜘蛛を使って波乗りする斑鳩。

雲雀にサンオイルを塗ってもらっている柳生。

水着のブラを持って逃げる葛城を追う飛鳥。

ちなみに飛鳥がトップレスを晒した状態で浜辺に来たときは、雲雀と柳生が理巧の両目を塞ぎ、葛城が理巧の後ろに回り込んでお尻に頬擦りしようとしたが、斑鳩に阻まれた。

 

『理巧。こういうのも楽しいね?』

 

「まぁ、ね・・・・レム」

 

すぐ隣で砂遊びをしていたペガがそう聞くと、理巧も少しフッと笑みを浮かべて答えると、レムに連絡して呼び寄せた、『球体型偵察機 ユートム』を見据えて、装填ナックルでレムに通信する。

 

《なんでしょう理巧》

 

「ユートムでこの光景を記録してくれないか? 悪くない思い出になる」

 

《了解しました》

 

「それと・・・・」

 

理巧は昨夜に感じた怪しい気配をユートムを使って探ろうとしていた。

 

ー霧夜先生sideー

 

ちり~ん・・・・。

 

そして浜辺で御座を敷いて寝そべる霧夜先生の耳に、“鈴の音”が聞こえた。

 

「っ!?」

 

≪霧夜。後ろだ≫

 

ゼロに言われて振り向いた霧夜先生の目の前に、矢文が砂浜に刺さっていた。

 

「・・・・・・・・」

 

霧夜先生は矢文に鋭い視線を向けていた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

その夕方。

斑鳩と飛鳥は夕飯の支度をしており、かまどの火に竹筒で空気を吹いていた飛鳥に、斑鳩が話しかける。

 

「飛鳥さん。霧夜先生を見かけませんでしたか?」

 

「えっ? いいえ、私は・・・・」

 

「明日の予定を確認したかったんですが。理巧くんとペガさんもいつの間にか居なくなっていますし・・・・」

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生は矢文の主からの指示で、島の断崖に来ていた。

 

≪おい霧夜。一体何なんだ? これは明らかに罠って感じだぜ?≫

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ゼロの言葉に答えず、霧夜先生は矢文の文面を見る。

 

『あの崖で 待ってます あなたの大切な 教え子』

 

文面にはそう書かれており、霧夜先生は難しい顔を浮かべていた。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

「うわぁ~! お魚がいっぱい!!」

 

川の魚を見てはしゃぐ雲雀は、背後から気配を感じた。

 

「ん。ねえ柳生ちゃん! お魚がこんなに、ん?」

 

「(ニッ・・・・)」

 

しかし、そこに立っていたのは柳生ではなく、黒いゴスロリのドレスに、フリルの付いた西洋傘を広げた、黒い長髪の小柄な少女だった。

 

 

ー柳生sideー

 

『きゃぁあああああああああああっ!!』

 

「っ! 雲雀!!」

 

海で番傘を釣竿のようにして、魚を釣ろうとしていた柳生は、雲雀の悲鳴を聞いて目を鋭くした。

 

 

ー葛城sideー

 

「たぁああああああああああああ!!」

 

葛城は健脚で木を砕き薪を作っていると、上空に弾き飛んだ木片が“何者”かに蹴り返され、葛城に向かってきた。

 

「っ!」

 

葛城は寸でで回避すると、木片は葛城の背後の木に突き刺さった。

 

「誰だ!「こっちや」っ!?」

 

後ろから声が聞こえ振り向くと、葛城の後ろの木に枝に座った少女がいた。

 

「一応命令やさかい、相手になってや・・・・ペロッ」

緑色の髪をセミロングにし、抜群のスタイルをラフな格好で包んで関西弁を喋るその少女は、ナイフを取り出して刀身を、蛇のように長い舌でペロッと舐めた。

 

「・・・・!!」

 

葛城はラフな格好の少女に鼻の下を伸ばさないで、険しい視線を向けた。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

雲雀は突然現れた少女から逃げようと川縁の岩場を駆け抜けるが、その少女に先回りされた。

 

「あっ!」

 

「へぇ~、逃げ足だけは一人前みたいね」

 

その少女は片目が眼帯で隠され、隠されていないもう片方の目で、雲雀を見下ろしながら冷笑を浮かべる。

 

「あ、貴女、『悪忍』?!」

 

「『蛇女子学園1年 未来』よ。覚えておきなさい!!」

 

『未来』と名乗った少女は、西洋傘を閉じると、その先端を雲雀に向けて突き刺そうとした。

 

「うわぁああっ!」

 

しかしそこで二人の間に割って入った番傘が、西洋傘を防いだ。

 

「っ!」

 

未来はその場から一歩引くと、番傘の主がその姿を露にした。

 

「雲雀を傷つけようとするヤツは、オレが許さない・・・・!」

 

「柳生ちゃん!」

 

柳生はいつもの冷静な瞳に、小さく闘志を燃やしていた。

 

「いつの間に・・・・! 遠慮無く掛かってきなさいよっ!!」

 

未来は舌打ちする仕草をすると、柳生に向かってそう言った。

 

「『忍転身』・・・・!」

 

柳生は忍装束に転身した。

 

 

ー葛城sideー

 

その頃、葛城は襲撃してきた少女と対峙し口を開く。

 

「アンタ、強いのか?」

 

「強い? そうありたいモンやな・・・・。ま、命令に応える為やったら強くないとアカンやろ?」

 

「上等! アタイはこの時を待ってたんだ! 『忍転身』!!」

 

ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた葛城は、忍装束を纏った。

 

「たぁああっ!!」

 

先手必勝で飛び蹴りを繰り出す葛城だが、相手の少女は一瞬で回避し、葛城の蹴りは少女の背後にあった木をへし折った。

少女はへし折られた木の上に立つと、葛城も木の上に飛び乗って、お互いに跳躍する。

 

「やぁ! たたたたたたたたたた!!」

 

「(ニヤリ)」

 

連続蹴りを繰り出す葛城の攻撃に、少女はニヤリと笑みを浮かべるとーーーー。

 

「っ!!」

 

一瞬で、葛城の忍装束が、少女のナイフで僅かに切り裂かれる。

お互いに距離を空けて着地した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

「(ペロリ)」

 

息を切らせる葛城と対象に、少女は余裕の笑みでナイフの刀身に舌を這わせた。

 

「こっちだって、かなり当てたのに・・・・!」

 

自分の攻撃がまるで効いていないと言わんばかりの少女の様子に、葛城は渋面を作った。

 

 

ー霧夜先生sideー

 

ちり~ん・・・・!

 

「っ!!!」

 

耳に入った鈴の音を感じて、霧夜先生は、ハッとなり、振り向くとソコにはーーーー。

夕焼けの空と海の輝きに照らされた、一人の少女がいた。

 

「お前は・・・・『凛』っ!!」

 

霧夜先生がその少女を『凛』と叫ぶが、その姿は一瞬で消えた。

 

≪おい霧夜。あの少女は?≫

 

「バカな・・・・凛は、もう・・・・」

 

≪おい霧夜! しっかりしろ! もしかしたらこれは、陽動かも知れねぇぞ!≫

 

「っ! 誘き出された? しまった! 生徒達がっ!」

 

呆然自失となりそうだった霧夜先生は、ゼロに怒鳴られて正気に戻ると、誘き出された事に気づいた。

 

 

ー柳生sideー

 

柳生は雲雀を抱えて、西洋傘の先端から機関銃のように弾丸を乱射する未来から逃げていた。

その際、弾丸が柳生の腕を僅かにかすった。

 

「っ! 柳生ちゃん!」

 

「心配するな! この程度・・・・!」

 

「私を舐めると、痛い目に合うわよ・・・・!」

 

未来は西洋傘を指し直すと、黒いチャクラを全身から迸らさた。

 

「シュテルプリヒ・・・・!」

 

「「っ!」」

 

未来は西洋傘を広げ、正面に構えて突撃してくるのを見て、柳生は雲雀を下ろして迎撃しようとするが。

その時、背後から聞き覚えのある声が小さく聞こえた。

 

『柳生~! 雲雀~! こっちこっち!!』

 

「っ! ペガ・・・・!」

 

「ペガくん?!」

 

二人の背後の影からペガが現れ、二人は『ダークゾーン』の中に隠れた。

 

「っ!? どこに!?」

 

突撃した未来は西洋傘を閉じると、姿を消した二人を探して辺りを見渡すが、影から柳生が飛び出してきた。

 

「はっ! きゃぁあっ!!」

 

柳生は番傘で未来の背後の服を破り、距離を空けた。

 

「や、やるわね。・・・・ふ、ふん! 今日はこのくらいにしといて上げる!!」

 

「・・・・・・・・」

 

負け惜しみを言っているような未来はソッポを向いてそう言った。柳生は静かに見据える。

 

「良いこと、次に会った時はこんなもんじゃ済まないからね!」

 

「逃がすと思うか?」

 

「まぁ、次に会えたらだけどね!!」

 

柳生が番傘を構えるが、未来をスカートを翻すと、思いもがけない物を取り出した。

 

斑鳩の兄・村雨が使ったのと同じ『怪獣カプセル』と『水晶の人形』、『コピークリスタル』だ。

 

「っ! それは・・・・!」

 

「さぁ! 出てきなさい! 『シーゴラス』!!」

 

キシャァアアアアアッ!!

 

未来は『怪獣カプセル』を起動させると、『コピークリスタル』に装填して、近くの川に投げ捨てた。

柳生と『ダークゾーン』から顔を出した雲雀とペガが川に入った『コピークリスタル』に目を向けている隙に、未来はスカートの中からなんと。

未来が馬乗りできるくらいの大きさのジェット機が現れ、未来はそれに跨がった。

 

「生きていたら覚えておきなさいよ!!」

 

未来はそのままジェット機に乗って、その場を離脱した。

柳生は逃げる未来を鋭く睨むが、すぐに通信インカムを取り出して、レムに連絡する。

 

「レム! 転送エレベーターを出してくれ! すぐにこの場を離れて飛鳥達と合流する!」

 

《了解しました》

 

「雲雀! ペガ! すぐにここを離れるぞ!」

 

雲雀とペガに向けてそう言うと、二人は慌てて『ダークゾーン』から出ると、ちょうど転送エレベーターがやって来て、三人はそれに乗り込んだ。

エレベーターが地下に潜ると同時に、川の中から、森を破壊して、鱗のような体皮に二本足で立ち、鼻先に巨大な角を生やした怪獣が現れた。

 

『竜巻怪獣』、または『津波怪獣』と呼ばれている怪獣、『シーゴラス』だ。

 

『キシャァアアアアアッ!!』

 

 

ー葛城sideー

 

『シーゴラス』が現れる少し前、葛城は襲撃者の少女に苦戦していた。

 

「うわあああああああっ!!」

 

少女の一太刀で地面に倒れそうになる葛城。

しかし、突如現れた影が、葛城の身体を抱き止めた。

 

「っと、大丈夫? 葛姐さん?」

 

「り、理巧・・・・?」

 

「ゴメン。昨夜から怪しい気配をレムにトレースして貰ってたら遅れた」

 

「ふ~ん、アンタが焔が言っとった男子かいな? あんまり強そうやないなぁ? そこの女と同じように」

 

「くっ!」

 

少女の言葉に、葛城は下唇を噛む。

 

「・・・・・・・・」

 

しかし理巧はソッと葛城を下ろすと、少女と対峙する。

 

「アンタが相手になるんか? すでに聞いてると思うけど、わし等の依頼人がアンタを連れてこい言うてな。痛い目に合うたくないなら大人しーーーー」

 

ドン!

 

「がはっ!?」

 

少女の言葉は途中で止まった。

なぜなら、一瞬で自分の眼前に現れた理巧が、自分の腹部に両手の掌底打ちを叩き込んだのだ。

少女は突然の衝撃で後ろの木を何本かへし折りながら吹き飛び、何本目かの木に叩きつけられてようやく止まり、地面に力無く落ちた。

 

「くっ・・・・!」

 

「スゲェ・・・・」

 

少女は苦悶の顔で腹部を押さえてヨロヨロと起き上がり、葛城は理巧の動きに驚く。

 

「アンタ・・・・なるほど、焔が警戒するのも分かるわ。大人しゅう見えて、とんだくわせものやな・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

立ち上がった少女は、自分を鋭く見据える理巧を見て、警戒心を高めた。

 

「ま、今回は、この辺で、ええやろな・・・・!」

 

「っ!?」

 

少女はどこからか、『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を取り出して、カプセルを起動させた。

 

ギャァアアアアアッ!!

 

起動させたカプセルをクリスタルに装填すると、空高く放り投げた。

 

「まさか・・・・! 葛姐さん。すぐに退避だ」

 

「何言ってやがる! まだアイツは・・・・あれ?」

 

理巧と葛城の視線が『コピークリスタル』に向いている間に、襲撃者の少女は姿を眩ませた。

 

「どこ行きやがった! 勝負はまだ着いてねぇぞってうわ!!?」

 

地団駄を踏む葛城を、理巧はお姫様抱っこして退避した。

 

「何しやがる理巧! お姫様抱っこだなんて少女漫画みたいなサービスなんかしている場合じゃねぇだろ?!」

 

「後ろ」

 

「あん? 後ろ??・・・・っ!」

 

葛城が理巧の後ろを眺めると目をひんむいた。

なぜなら背中に反り返った角を幾つも生やしたオオサンショウウオのような巨大な怪獣が現れた。

 

『ギャァアアアアアッ!!』

 

『液汁超獣ハンザギラン』だ。

ハンザギランは吐いた液が、森を溶かしてのを見て、葛城の顔からサッと血の気が失せた。

 

「理巧!! すぐに逃げろ!!」

 

「はいはい・・・・っ!」

 

すると上空に高く跳んだ理巧は、眼前の海を見て、目を見開く。海面が盛り上がり、そこから現れた怪獣が現れたからだ。

 

『グワァアアアアアアッ!!』

 

「『アーストロン』か!?」

 

恐竜のような姿に頭部に伸びた大きな角を付けた怪獣、『凶暴怪獣アーストロン』だ。

 

 

ー伏井出sideー

 

「ではこちらも、『新たな融合獣』を御披露目しますか・・・・!」

 

伏井出ケイは、海の上のクルーザーから、島の三ヶ所に現れた怪獣達を見据えると、伏井出ケイの身体からドス黒いオーラを放ち、『エレキングカプセル』を起動させた。

 

「エレキング!」

 

ピギィィィィィィィッ!!

 

エレキングの鳴き声が響き、『エレキングカプセル』を黒い装填ナックルに装填した。

 

「エースキラー!」 

 

ーーーーーーーーッ!!

 

次に『エースキラーカプセル』を起動させて、ナックルに装填し、ライザーの握り手のスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

そして、ライザーで手に持ったナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが、目映く発光して、音声が流れる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「ハァアアアアアア・・・・ハァアッ!!」

 

ライザーを胸元に持ってきて、起動スイッチを押した。

 

『エレキング! エースキラー! ウルトラマンべリアル! サンダーキラー!!』

 

次の瞬間、伏井出ケイの姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『エレキング』と『エースキラー』の姿が現れると、2体は青と紫の粒子となってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルの姿は、エレキングの姿をより凶暴とし、エースキラーの鎧を着込んだような外見で、エレキングの皮膚が青白い色に変色している。

体の黒い模様に所々に赤い色が混じり、胸部にはカラータイマーが存在した。巨大な怪獣、『ベリアル融合獣 サンダーキラー』へと変身する。

 

『ピギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!!』

 

『新たな融合獣』が、雄叫びを上げながら、その姿を現した。

 



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新たな武器だぜ、ジードクロー

新たな武器をお披露目!


ー飛鳥sideー

 

「何々!?」

 

「今の雄叫びと地響きはまさか!」

 

宿舎で料理の準備を進めていた飛鳥と斑鳩は、突如聞こえた大きな雄叫びと、島を揺るがすほどの地響きに、思わず外へ飛び出すと、ある意味予想通りの最悪な事態が目に入った。

 

河川のあった場所に、大きな一本角を付けた魚のような怪獣、『竜巻怪獣 シーゴラス』。

口から吐いた液で森林を溶かしながら進撃する背中に大量の角を生やした四足歩行の怪獣、『液汁超獣 ハンザギラン』。

海の中からは恐竜のような姿と頭部に大きな角を生やした怪獣、『凶暴怪獣 アーストロン』。

そして、3体の怪獣とは明らかに異質な異形の怪獣、『ベリアル融合獣 サンダーキラー』が現れたのだ。

 

「怪獣!? 今度は4体も!?」

 

「あの怪獣は・・・・!?」

 

斑鳩はサンダーキラーを見て、兄・村雨が変身した忌まわしい怪獣、エースキラーの面影が見えて険しい顔になる。

と、そこで転送エレベーターが現れ、雲雀とペガと怪我をした柳生が下りてきた。

 

「飛鳥ちゃん! 斑鳩さん!」

 

「雲雀ちゃん! 柳生ちゃん! ペガくん!? どうしたの?!」

 

「悪忍だ。悪忍に襲撃された・・・・!」

 

「アタイの方もだよ・・・・」

 

声がする方に目を向けると、理巧にお姫様抱っこされて葛城が現れた。

 

『理巧!』

 

「ペガ。雲雀ちゃんも無事で何よりだ。柳生さん、その怪我は?」

 

「大したこと無い。それよりも・・・・」

 

柳生は理巧にお姫様抱っこされている葛城に、鋭い視線を向け、雲雀も声を発した。

 

「あっ! カツ姉ぇ! 理巧くんにお姫様抱っこしてもらってる! ズルい!!」

 

「ズルくねぇよ! アタイも悪忍に襲われたんだよ!」

 

と言いながら、葛城の手はちゃっかり理巧のお尻をまさぐるように撫で回していた。

 

「カツ姉ぇ! この大変な時に何をしているのっ!?」

 

「はっ! いつの間にかアタイの手が理巧のお尻に!?・・・・せっかくだからもう少しンゴッ!?」

 

この非常事態に関わらず、理巧のお尻を撫で回そうとすると、斑鳩と柳生がゴツン! と鉄拳による拳骨を振り下ろして、葛城を無理矢理引き剥がした。

そこで、霧夜先生が戻ってきた。

 

「皆、無事か?!」

 

「とりあえず無事だよおじさん。それよりも・・・・」

 

理巧はジードライザーを取り出して、4体の怪獣を睨んだ。

 

「ああ。ゼロ、頼む・・・・(デュォォン!)ああ!」

 

霧夜先生がゼロに切り替わると、ウルトラゼロアイNEOを取り出した。

 

「皆は基地の方に避難していて! ジーッとしてても、ドーにもならない!!」

 

[フュージョンライズ!]

 

「決めるぜ! 覚悟!! ジィィィィィィィド!!」

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

「シャアッ!」

 

理巧と霧夜先生<ゼロ>の身体が光輝くと、その姿が変わり巨大化した。

飛鳥達はそれを見ると、転送エレベーターで基地の方に避難した。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

『シュワッ!!』

 

『セリャッ!!』

 

『ガァアアアアアッ!?』

 

『ギュイイイイイ!!』

 

ジードはサンダーキラーに、ゼロはアーストロンに急降下キックを浴びせ、アーストロンは仰向けに倒れるが、サンダーキラーはジードの先制攻撃に耐え、エレキングの角のような部分がクルクルと回っていた。

 

『キシャアアアアア!!』

 

『ギャアアアアアア!!』

 

シーゴラスとハンザギランが雄叫びを上げて二人に迫った。

 

『ハッ!』

 

『ツァッ!』

 

ジードはハンザギランの背後に回って、背中の角を掴んで押さえ、ゼロはシーゴラスを羽交い締めする。

 

『ギュイイイイイ!!』

 

サンダーキラーは左手のカギ爪が電撃を纏い、ジードとゼロの身体を引っ掻く。

 

『うわぁあっ!!』

 

『ぐぉあっ!!』

 

引っ掻かれたジードとゼロの身体に電流が迸り、二人はシーゴラスとハンザギランを離してしまった。

 

『キシャアアアアア!!』

 

『ギャアアアアアア!!』

 

シーゴラスが鼻の角でゼロに体当たりをし、ハンザギランが溶解液をジードに浴びせた。

 

『ぐぉああああ!!』

 

『ジード!』

 

≪理巧!≫

 

『ぐぅぅぅぅぅぅ!』

 

『ピギュイイイイイ!!』

 

サンダーキラーは溶解液のダメージで悶えるジードの頭を掴むと、電流を帯びたカギ爪でさらに攻め立てた。

 

『「くぅ、燃やすぜ、勇気!!」』

 

[ウルトラセブン! ウルトラマンレオ! ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

ハンザギランの溶解液とサンダーキラーのパワーに対抗しようと、防御と攻撃特化のソリッドバーニングにチェンジした。

 

『ガァアアッ!!』

 

アーストロンがソリッドバーニングに向かってくる。

 

『「『サイコスラッガー』!」』

 

ジードはサイコスラッガーでアーストロンとハンザギランとシーゴラスを斬りつけ倒すと、サンダーキラーにも斬りつけようとするが、サンダーキラーはカギ爪で弾き飛ばしたが、ジードはスラッガーを右手に装備して、サンダーキラーに向かった。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「レム。あの怪獣って?」

 

基地に避難した飛鳥達は、ユートムから送られてくる映像を見ていたが、飛鳥は他の3体の怪獣とはあまりにも異質な感じがするサンダーキラーをレムに解析してもらっていた。

 

『あの怪獣を解析してみたところ、あの怪獣には、『宇宙怪獣 エレキング』、『異次元超人 エースキラー』の細胞データが融合した個体と推察します』

 

「やはり! あれはエースキラーの・・・・!」

 

斑鳩はモニターに映し出されたサンダーキラーに鋭い視線で睨んだ。兄・村雨を取り込んだ怪獣故に、思うところがあったのだろう。

 

「それで、状況はどうなってんだ?」

 

葛城と柳生は、ペガと雲雀に手当てを受けている中、葛城がレムに聞いた。

 

『現在サンダーキラーは理巧との一対一の状況となり、ウルトラマンゼロはシーゴラス、ハンザギラン、アーストロンに阻まれています』

 

モニターでは、ウルトラマンゼロが3体の怪獣を相手取っていた。

 

 

ージード&ゼロsideー

 

『くっそ! 邪魔だぞテメェら!!』

 

『ぐぁっ! ぐぅっ! うぁあっ!!』

 

ゼロが3体の怪獣に邪魔されている間、ジードはサンダーキラーの怪力と電流のカギ爪の攻撃で苦戦していた。

 

『(くぅっ、なんてヤツだ・・・・! エレキングの電撃、エースキラーのパワーとタフネスがうまく融合している・・・・! 攻撃力と防御力重視のソリッドバーニングでも攻めきれない・・・・! アクロスマッシャーのスピードなら・・・・いやダメだ! アクロスマッシャーじゃ攻撃力に欠ける・・・・! 焦るな。何か、何か対抗策がある。思考を止めるな!)』

 

ジードは『ブーストスラッガーパンチ』でサンダーキラーの攻撃を防いでいるが、このままでは制限時間が来てしまう事に、内心焦りが生まれそうになるが、どうすれば良いか考察を続けていた。

 

『ピギュィイイイイイイイイイッ!!』

 

『ぐぁあっ!!』

 

サンダーキラーはカギ爪と大きめのしっぽにも電撃を纏わせ、ジードを攻め立てた。

 

『ピギュィイイイイイイイイイッ!!』

 

『うわぁああああああああああ!!!』

 

サンダーキラーはカギ爪でジードを掴むと電撃を直接浴びせる必殺技、『サンダーデスチャージ』をジードに浴びせた。

ジードは地面に倒れ、ソリッドバーニングからプリミティブに戻ってしまった。

しかし、強固な防御力を持つソリッドバーニングでなければ、今の『サンダーデスチャージ』に耐えられず、敗北していた。その点に関しては、理巧の判断は正しかったとも言えるだろう。

 

 

ー飛鳥sideー

 

『「「理巧っ!!」」』

 

「「理巧くん!!」」

 

「りっくん!!」

 

飛鳥達が、倒れたジードに向けて声を発する。

 

 

ージードsideー

 

『(くぅっ! ううぅっ・・・・!!)』

 

インナースペースに理巧はダメージに苦しみながら、昨夜霧夜先生に言われた言葉が頭を過った。

 

【お前は、世界を守りながら、自分にとって沢山の『大切な物』を探していく。そう言う運命を担っているのかもな】

 

『 (おじ、さん・・・・!)』

 

【きっと『大切な物』がこれからも生まれ、それらを守るために、戦う事ができるはずだ。お前がお前でさえいればな】

 

『(必ず、守って見せる・・・・僕の、『大切な物』を・・・・!!)』

 

ジードは立ち上がると、サンダーキラーを見据える。

 

『(それまでこの世界を・・・・壊すわけには行かないんだ・・・・! はぁ!!)』

 

インナースペースにいる理巧と連動して、ジードは手を頭上に翳した。

 

『(ジードクローーーー!!)』

 

そう叫んだジードの手に光の粒子が集まり、それは形を成していった。

二又のかぎ爪型の武器、『ジードクロー』。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「あれって、新たな武器!?」

 

『機は熟した。そう言う事です』

 

驚く飛鳥達に、レムは冷静に答えた。

 

 

ー理巧sideー

 

インナースペースにいる理巧も、ジードクローを握り締めた。

 

『(今の自分を、飛び越える! はぁっ!!)』

 

ジードクローを突き出し、トリガーを引くと、ジードクローの刃が回転し、中心ボタンを押すと、刃に赤黒い稲妻のエネルギーが充満し、ジードの目が光る。

 

『はぁぁぁぁぁぁ・・・・! 『クローカッティング』!!』

 

ジードクローを振ると、刃先から赤黒いカッター光線を数発放った。

 

『ギュイイイイイ!!』

 

『『『グワァアアアアア!!』』』

 

カッター光線はサンダーキラーだけでなく他の怪獣達にも当たると回転し、爆裂して怪獣達を倒れさせた。

 

『やるなっ!』

 

≪凄いな理巧!≫

 

『(これなら行ける!!)』

 

空かさず理巧は、ヒカリカプセルを起動させた。

 

「融合!」

 

デャッ!

 

カプセルからウルトラマンヒカリのビジョンが現れて腕を振り上げた。

 

「アイ・ゴー!」

 

フワァッ!

 

カプセルからウルトラマンコスモスのビジョンが現れる。理巧は装填ナックルに収めた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

ジードライザーのスイッチを押して、装填ナックルを取り出すと、二つのカプセルをスキャンするとライザー中心のカプセルに、黄色と白が現れる。

 

ドクン! ドクン! 

 

[フュージョンライズ!]

 

「見せるぜ! 衝撃!! ハァアアアアアア!! ハァッ!! ジィィーーーーーーードッ!!!」

 

ヒカリとコスモスのビジョンが重なりあい、理巧と合わさる。

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス! ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

折り重なる光の直線と水流の煌めきを抜け、黄色い光と青い結晶の螺旋の中から、アクロスマッシャーが飛び出す。

 

『はぁぁぁぁぁぁ・・・・!!』

 

ジードはジードクローを構えた。

 

『ギュイイイイイ!!』

 

『ハァッ! シュワッ! シャッ! デャッ! フッ! シャァアッ!!』

 

サンダーキラーは口から光線弾を放つが、アクロスマッシャーの高速移動とジードクローでそれらを切り裂いたジードは、地面を滑るような高速移動で、サンダーキラー達を瞬く間に斬りつけていった。

 

『ピギュィイイイイイイイイイッ!!』

 

『ガァアアアアアッ!?』

 

『ギャアアアアアア!!』

 

『グワァアアアアア!!』

 

斬りつけられた怪獣達は、火花を散らして倒れる。

 

『やるじゃねぇかジード!!』

 

ゼロは怪獣達から離れると、ジードと合流した。

 

『(フッ!)』

 

[シフトイントゥマキシマム!]

 

理巧は片側の刃をジードライザーでリードするように滑らせると、クローの中心を押してクローを左右に展開させる。

 

『(はぁぁぁぁぁぁ・・・・はぁッ!!)』

 

クローを突き出すと、トリガーを三回押すと、展開されたクローがドリルのように回転し止まると、理巧は中心ボタンを押して必殺技を発動させた。

青と黄色の光のエネルギーが螺旋のように集まる。

 

『ピギュィイイイイイイイイイッ!!』

 

『ギャァっ!??』

 

サンダーキラーは近くにいたアーストロンを盾にするように前に出す。

 

『っ、なんだ?』

 

が、アーストロンから少し光の粒子が漏れ出て、サンダーキラーに吸収されたのを、霧夜先生とゼロが気づいた。

 

『『ディフュージョンシャワー』!!』

 

上に突き出したジードクローから、光が放たれると、無数に分散させた光線が、まるで雨のように、流星群のように、怪獣達の頭上に降り注がれ、怪獣達の身体を貫いた。

が、アーストロンはギリギリの所でサンダーキラーから離れて、攻撃を回避できた。

 

『ピギュィイイイイイイイイイッ!!』

 

『『ギャアアアアアアアアアアッ!!』』

 

3体の怪獣はそのまま爆散していったが、アーストロンが残された。

 

『グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・!』

 

1体だけ残ったアーストロンは、まだ敵意をジード達に向ける。

 

『・・・・っ、ジード?』

 

『フッ! ハァァァァァァァァァ・・・・! 『スマッシュムーンヒーリング』』

 

ゼロが応戦しようとするが、ジードはいち早く。『スマッシュムーンヒーリング』を放ち、ジードか両手から、虹色のオーロラのような光線がアーストロンを包み込んだ。

 

『ギャゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・』

 

アーストロンの目から敵意と害意が無くなり、大人しくなると、海の中に去っていった。

 

『『シュワッ!』』

 

二人のウルトラマンは光に包まれると、理巧と霧夜先生に戻り、飛鳥達も転送エレベーターで戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

幸いなことに宿舎周辺は戦闘の被害が無かったので、一同(ペガとユートムも含む)は一室に集まり、何が起こったかを話し合っていた。

 

「理巧。なぜアーストロンを倒そうとしなかった?」

 

「レムに解析してもらったら、あのアーストロンは水晶の人形ではなく、本物の生物だったんです」

 

『それって、アーストロンはこれまで現れた怪獣と違って、召喚されたタイプじゃなかったってこと?』

 

『はい。おそらく海底で眠っていたアーストロンが、目を覚ましたと推察します』

 

ペガの問いに、ユートム<レム>がそう答えた。

 

「それよりもおじさん、襲撃してきた悪忍ってなんなの?

 

「確か、『蛇女子学園』って言ってたよ」

 

雲雀は襲撃してきた『未来』と名乗る悪忍の言った言葉を霧夜先生に伝えた。

 

「・・・・『秘立蛇女子学園』。先日半蔵様から聞いたばかりだが、我が半蔵学院に対抗して設立された、『悪忍養成機関』らしい」

 

「悪忍・・・・」

 

「養成機関だって・・・・!?」

 

「この修行中に話そうと思ってたんだが・・・・」

 

「では、以前わたくしを狙ったあの方も・・・・!」

 

「商店街の傀儡使いも・・・・!」

 

『スカルゴモラ、ダークロプスゼロ、そして今回現れた融合怪獣を除いた、これまでに出現した怪獣達は、あの水晶の人形によって召喚されていました。そして、蛇女の忍があの水晶と怪獣のカプセルを所持していました』

 

『あっ! もしかして、斑鳩のお兄さんにエースキラーのカプセルと水晶の人形を渡したのも!』

 

「蛇女だと見て間違いないだろうな・・・・」

 

斑鳩と雲雀、ユートム<レム>とペガがこれまでの不可解な襲撃と怪獣騒動が、“『蛇女子学園』が絡んでいるのではないか”と推察し、霧夜先生も同意した。

 

「アタイを襲撃したアイツ。最初っから、マトモに勝負する気が無かった気がしてさ・・・・。云いようにあしらわれちまった・・・・! あぁ~! ムッかつく!! 次会ったら逃がさねぇぞ!!」

 

「オレ達を襲ったヤツもそんな感じだった・・・・」

 

「お前らも?!」

 

「あぁ。あまり殺意は感じなかった・・・・」

 

「じゃぁ何の為に? 怪獣さんまで出したんだろう?」

 

「兎に角! 単なる挑発行為と思うのは、あまりに度が過ぎている。分かっていると言えば、ヤツらは理巧の狙っている事だ。理巧がウルトラマンジードだから狙っているのか、はたまた別の理由なのかは分からんが、決して、善忍が悪忍に屈する事はあってはならん」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

「理巧。言った通り、蛇女はお前を狙っている。今回のような独断行動は控えるように」

 

「ま、一応警戒しておきます」

 

「大丈夫です! 理巧くんは私達が守ります!」

 

威勢良く立ち上がってそう言う飛鳥の背後に、葛城がニヤリ笑みを浮かべて回り込みーーーー。

 

「当然。理巧のお尻も貞操も守り抜き、そして悪忍の娘には、次こそ絶対勝って、セクハラ攻撃してやるっ!!」

 

「きゃぁあああああああああああ!!」

 

飛鳥のバストを揉みだし、飛鳥が悲鳴を上げた。

 

「はぁ、結局それですか・・・・」

 

「アハハ、それでこそ葛姉ぇだね!」

 

「もう! 雲雀ちゃん! アン!」

 

「あっ! そろそろご飯の時間だよ!」

 

「こっちは食い気、もう少し緊張感を・・・・」

 

「今日はイカの刺身と、イカの炙り焼きと、ゲソフライだ」

 

「イカばっかかよ!!」

 

「文句あるヤツは食わなくて良い」

 

ギャイギャイ騒ぐ女子達を見て、ペガは楽しそうに見据え、ユートム<レム>はこの光景を写真に納め、理巧は小さく笑みを浮かべていた。

 

「(あの姿。なぜ敵が『凛』の事を知っているんだ?)」

 

しかし、霧夜先生の脳裏には、1人の女子生徒の後ろ姿が浮かんでいた。

 

 

 

ー???sideー

 

宿舎の外の木の枝の上に、メガネをかけた女性が、宿舎にいる少年に気取られないように、気配を絶ってその場に立ち、薄く笑みを浮かべていた。

 

 

ー伏井出sideー

 

「思わぬ収穫が有りましたね」

 

伏井出ケイは、今回の戦いで手に入れた、『アーストロンの細胞データ』から作った、『アーストロンの怪獣カプセル』を見て、不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 

 




ー次回予告ー

悪忍養成機関秘立蛇女子学園の存在を知り、皆がそれぞれの鍛練に勤しむが、葛姐さんの様子がおかしい。一体何があったんだ?
そんな中、遂に焔や春花、詠と未来、そしてあの関西系の忍び達が現れ、さらに超獣まで現れた!

次回、『閃乱ジード』

【蛇女子学園の奇襲】

ジーッとしてても、ドーにもならない!


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蛇女子学園の奇襲
どうしたんだ、葛姐さん


ー蛇女sideー

 

『蛇女子学園』。

『悪は善よりも寛大である』と言う理念を掲げ、非合法の忍。即ち、『悪忍育成』を目的とした闇の秘密教育機関。

そんな中、熾烈にして苛烈な修行で上忍へと選抜された悪忍の五人。

商店街の事件で、理巧と飛鳥(飛鳥は気づいていない)と接触した忍、『焔』。

傀儡を操っていた忍、『春花』。

斑鳩を襲撃した忍、『詠』。

島で雲雀や柳生と交戦した忍、『未来』と“上半身に包帯を巻き付けた少女”、葛城と交戦した忍、『日影』。

五人は自分達の上役である、『鎧武者の人物』の前で片膝を付いていた。

 

『集まってもらったのは他でもない。お前らに“新たな指令”が下った』

 

「新たな・・・・?」

 

焔が顔を上げると、鎧武者は真っ赤な眼光を放っていた。

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は地下道場で指立て倒立しながら、皆の修行を見ていた。

 

「たぁーーー! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

体操服&ブルマの雲雀が目を閉じて、手をグルグル振り回して、組手相手の柳生(体操服&スパッツ)に迫るが、柳生は冷静に番傘でその攻撃を防いでいた。

 

「ウリャリャリャリャリャ!!!」

 

「ちゃんと相手を見ろ」

 

柳生が雲雀を押し飛ばした。

 

「キャン! うぅ・・・・、少し休ませて柳生ちゃん・・・・」

 

「このくらいでへばってどうする?」

 

「でも恐いな・・・・またあの人達(悪忍)や怪獣さんが襲ってきたりしたら・・・・」

 

「心配するな。怪獣なら理巧やついでにウルトラマンゼロもいる。そして雲雀は、オレが守る!」

 

「あぁ~~・・・・」

 

泣き言を言う雲雀に、柳生がある意味で男らしいセリフを発し、雲雀も嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

≪俺は理巧の『ついで』かよ・・・・≫

 

「こらそこ! 休むんじゃない! 何を寝ぼけている! 実戦で敵は待ってくれんぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

ゼロのぼやきを無視して、霧夜先生が雲雀に一喝すると、雲雀は慌てて訓練に戻った。

それを見ながら、理巧は蛇女子学園の忍、焔と春花、詠と未来、そして葛城と交戦した少女の思惑を考えていた。

 

「(彼女達はまるで挑発行為のような襲撃を仕掛けている。だが、『怪獣カプセル』や『怪獣を具現化する人形』をどこで手に入れた? レムの解析では、あの人形は地球に存在しない材質で造られていると言っていた。“誰か”が・・・・それこそ雲雀ちゃんを誘拐しようとした『ダダ』のような宇宙人が関与しているのかな?)」

 

そう考えていると、葛城が道場に置かれた巨大達磨を一蹴りで真っ二つにした。

 

「葛姉ぇ! 気合い! 入ってる! ね!!」

 

天井に逆さ釣りになって刀の素振りをしている飛鳥に、真剣な眼差しの葛城が目を向ける。

 

「いつ蛇女が攻めてくるか分からねぇんだ。もっともっともっともっと強くならないと!」

 

「えぇ~? 今でも十分強いと思うけどな・・・・あぁ!!」

 

飛鳥の手からポロリと刀が落ちるが、理巧が床に落ちる寸前でキャッチした。

 

「飛鳥さん。刃物を扱って修行しているんだから、扱いには注意してくださいよ?」

 

「ご、ゴメン・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

その場で跳んで、飛鳥に刀を渡して着地した理巧は、葛城の後ろ姿を見る。

 

「(アタイは負けない! 絶対、絶対強くなる! 強くなるんだ!!)」

 

葛城の脳裏には、『幼い自分を抱っこした父の姿と、愛犬であるポメラニアンのチョコを抱いた母の姿』が過っていた。

 

「(なんか、らしくないな。葛姐さん)」

 

理巧は思い詰めたような表情で、鍛練に勤しむ葛城を見ていた。

 

 

 

 

ー蛇女sideー

 

現在、焔達蛇女子学園の選抜上忍達は、半蔵学院の制服を着て、学院に潜入していた。

屋上で眼下にいる一般生徒達を見下ろしていた。

 

「先ずは、善忍達のいる『忍クラス』とか言うのを探さないとな」

 

「でもどうしてわざわざ普通の進学校の中で忍の養成学校なんか、めんどくさいったらありゃしない」

 

「木を隠すなら森、学生を隠すなら学校って事だろう。善忍の奴らは、一々回りくどいやり方が好きなようだからな」

 

「ふん。遠回りしすぎて、迷宮の底に閉じ込められなければいいけど。それで、日影も『標的』の暁月理巧ってヤツと対峙したのよね? どんなヤツなのよ?」

 

ふと、五人の中で『標的』である理巧と接触していない未来が訊ねると、焔は渋面を作り、春花は恍惚とした笑みを薄く浮かべ、詠は難しい顔を浮かべ、そして日影は、無表情の顔の頬に一筋の汗を流しながら口を開く。

 

「アイツ、とんでもないヤツやったで・・・・」

 

日影は半蔵学院の制服の上着を少し捲し上げると、包帯を巻き付けた身体を見せた。

 

「アイツが目の前に一瞬で現れて、後ろに引こうと思うたら、身体が凄い勢いで後ろにふっ飛んでな、木々を薙ぎ倒して飛んで、最後の木に叩きつけられ、地面に倒れて、腹や背中に激痛が走るまで、何されたかまったく分からんかったわ・・・・」

 

普段から無表情と無感情な雰囲気の日影が、まるで戦慄したかのように身体を震わせてそう言って、焔達も息を飲んだ。

 

「そう言えば、焔や春花も交戦したのよね? どうだったの?」

 

未来が他の情報を得ようと訊くが、焔も渋い顔を浮かべて口を開く。

 

「ヤバいヤツだと直感した。必要とあれば拷問も辞さない凄みがあったよ・・・・」

 

「そんなに、ヤバいヤツなの・・・・?」

 

「ああ。とてもじゃないが、善忍とは思えない雰囲気があった。どちらかと言えば、私達悪忍に近いものを感じた・・・・」

 

「私は彼の目が素敵だったわ。炎のように揺らめくような緋色の瞳。でも氷のように冷徹で冷酷な光が宿っていて、今まで感じた事のない感覚が身体を走ってゾクゾクしたわ~////」

 

「わたくしは・・・・あの方は無闇に戦いを起こすタイプではないと思いますわ・・・・」

 

焔は理巧の明確な危険性を説くように言い、春花はその豊満な身体をくねらせ、頬を紅潮させてそう言い、詠は貧民街で会った時に、住民を巻き込まないようにしてくれた理巧を思い出してそう言った。

 

「ふ~ん。つまり、かなり危ないヤツって事ね?」

 

「恐らくな。いずれにしても、慎重に行くぞ。こちらも『カプセル』と『人形』には限りがあるからな」

 

焔と春花は、残った『怪獣カプセル』と『人形』を取り出していた。

彼女達の上役である『鎧武者』から貰ったこの道具。まさか怪獣を召喚する道具とは思わなかった。

しかも、最近現れた『ウルトラマンジード』と、まるで示し合わせたように現れる他の怪獣も気になるが、焔達は忍務へと戻った。

 

 

ー???sideー

 

その頃。蛇女の本拠地である城の屏風やお面が飾られた一室では、『鎧武者』の人物が、『更なる上役』に頭を垂れて報告をしていた。

 

『五人は半蔵学院の潜入に成功致しました』

 

『蛇女子学園の誇る『選抜メンバー』だ。潜入など容易かろう。問題は・・・・』

 

『はっ! 半蔵学院の『隠し校舎』。そして、隠し校舎に眠る、『超秘伝忍法書』・・・・』

 

『そこに秘匿しているのは確実なのだろうな?』

 

『それは間違いありません』

 

『疑っているわけではない。いや、寧ろ貴様だからこそ知り得た事・・・・』

 

『はっ!』

 

『だが悪忍の存在は尚深き闇・・・・。表だって行動する事は、闇を白日の元に晒す事になりかねん』

 

『それはあの子らも、重々承知しておりましょう』

 

『ふん。期待しているぞ。『鈴音』』

 

『はっ! しかし、1つお尋ねしたいのですが・・・・』

 

『何だ?』

 

『鈴音』、と呼ばれた鎧武者が、『上役』に声を発する。

 

『あの子らに、【忍クラス唯一の男子を捕獲せよ】と、命じたそうですが、その少年に何があるのでしょうか?』

 

『それはお前が気にする事ではない』

 

『・・・・・・・・はっ!』

 

『鈴音』は頭を下げてその場を去った。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

『“ヤツ”への“交渉材料”として、あの少年を狙っているのがバレそうになったな?』

 

『上役』の側に、『異形の生命体』が現れたが、『上役』は動じた様子を見せなかった。

 

 

 

ー葛城sideー

 

「チェ、居眠り位で廊下に下がらせなくて良いじゃん・・・・。しっかし良い天気だねぇ! こんな日は外で思いっきり走り回りたいよなぁ!(そう。あの頃のように、思いっきりね・・・・)」

 

座学の授業で寝ていた葛城は、忍教室のある半蔵学院旧校舎の廊下で、水の入ったバケツを両手に1つずつ持って逆さ宙吊りしていた。

 

「や、葛姐さん」

 

「ん? 理巧??」

 

宙吊りになっていた葛城に、両手に水の入ったバケツを持った理巧が現れた。

 

「何だ? お前も廊下に立ってろって言われたのか?」

 

「まぁね。座って目を開けたまま寝ていたのがバレちゃってね」

 

「お前、結構器用な居眠りしてんだな・・・・」

 

妙な感心をする葛城と向かい合うように宙吊りになった。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

二人はそのまま無言で宙吊りになっていたが、葛城が口を開いた。

 

「なぁ理巧。お前、ウルトラマンベリアルの事、どう思ってんだ?」

 

「どうって?」

 

「いや、その、なんだ・・・・一応とは言え父親の事だからよ。気になったりは、してんのか?」

 

「・・・・顔も声も何も知らないヤツが、『遺伝子上の父親』って言われても、実感湧かないですよ。正直、僕にとってベリアルは、『他人』って考えの方が強いんですよね」

 

「そっか・・・・」

 

「僕の方も、聞きたい事があるんですけど?」

 

「ん?」

 

「今日はどうしたんですか? 技が少し荒かったし、気合いが入っていると言うよりも、がむしゃらにやっているって感じで、葛姐さんらしくなかったですよ?」

 

「っ!・・・・・・・・お前になら、良いかな?」

 

理巧に見抜かれた事に息を詰まらせる葛城だが、観念したかのように口を開こうとするがーーーー。

 

「あ、ちょっと待って葛姐さん」

 

「ん??」

 

「・・・・・・・・・・・・・(ギンッ!!!)」

 

理巧は、窓の方に鋭い視線を向けた。

 

 

 

ー焔sideー

 

理巧が視線を向ける少し前、焔達は旧校舎へと到着した。

 

「他は調べ尽くしたし、後は此処<旧校舎>だけ」

 

「随分古ぼけた建物ですこと」

 

「今は使われておらず、特定文化財として残っているらしい」

 

「【関係者以外ノ立リヲ入禁ズ】。・・・・ふん。臭いわね、プンプンするわ。怪しい善忍の臭い・・・・!」

 

未来が眼帯をしていない方の目をキラリとさせ、旧校舎に向けて歩を進めようとしたその瞬間ーーーー。

 

ギンッ!!!

 

「っっ!!!?」

 

「「「「っっ!!!?」」」」

 

未来は足を止めた。いや、未来だけではない。焔も春花も詠も日影も、全員が足を止めた。

理由は分からない。しかし、分かっているのは、この先を進めば、『大口を開けた猛獣の口の中に、無防備に頭から突っ込むような危険な気配』が、全員の足を止めたのだ。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「(少し大人しくなったか)・・・・ゴメン葛姐さん。続けて」

 

「あ、ああ」

 

突然鋭い視線を窓に向けた理巧に少し困惑したが、葛城は幼い頃に起こった事を理巧に話した。

自分の両親は、『とある重要忍務』の失敗の責務を負い、『忍の掟』によりその命を持って償う事を命じられたが、両親は自害よりも、『抜け忍』として生き延びる道を選んだ。そして幼い葛城を自分達の罪に巻き込まないように残していった。

 

「じゃ葛姐さんは、自分が優秀な忍になって、両親の罪と逃亡を許してもらおうって考えて忍に?」

 

「まぁな。柄でもねぇと思うだろう?」

 

「・・・・立派ですね」

 

「あん?」

 

「僕は、ベリアルが過去に行った悪行の数々を聞いて、【あぁ録でもないヤツの遺伝子を継いだなぁ】って思ったのに、葛姐さんは両親を取り戻すために努力をしているんだから、本当に立派ですよ」

 

「っ! ばっ、バカ野郎! そんな小っ恥ずかしいセリフを真顔で言ってんじゃねぇよ!!///////」

 

顔を赤らめた葛城の顔を、理巧は小さく笑みを浮かべるが、その視線はソッと静かに、窓の、と言うより、この建物に近づいてくる連中に向けられていた。

 

 

ー焔sideー

 

「何、今の? 凄い殺気を感じたんだけど・・・・!」

 

「あぁ、あかんわ。向こうの男子がわしらの存在に気付いとるわ・・・・」

 

「このまま進めば命は無いぞ。と、気配だけで警告してるわね。まぁこのままあっさり入れるとは思ってないけど」

 

「ではどうされますの? あの殿方はわたくし達に勘づいておりますわよ?」

 

未来を除いた四人は、標的である暁月理巧からの警告だと察し、その場から先に行けなくなったが、春花が薄く笑みを浮かべる。

 

「ウフフフ。先ずは、“一番の邪魔者”を排除するのが先ね」

 

「おいおい回りくどいのは勘弁だぜ? それにどうやって排除するんだ?」

 

「大丈夫。すぐに奴らも丸裸よ。・・・・フフフフフフ」

 

 

 

ー理巧sideー

 

プゥオオオオオ~ン!!・・・・プゥオオオオオ~ン!!・・・・。

 

突然聞こえてきた法螺貝の音色に、理巧は訝しそうに目を細める。

 

「ん? これって?」

 

「あぁ、『侵入者の合図』だけど、また普通科の生徒が授業をサボって来たんだろ」

 

「そう言う事だ」

 

「「あっ、霧夜先生」」

 

二人の前に、霧夜先生が出入口へと向かって歩いて行った。

 

「葛城、理巧、もう戻って良いぞ」

 

「はい」

 

「・・・・」

 

理巧は、他の侵入者達の気配を探ろうとしていた。

 

 

ー霧夜先生sideー

≪おい霧夜、コイツらまさか・・・・!≫

 

「『傀儡』・・・・! まさか!?」

 

侵入者の生徒二人が襲い掛かって来たので迎撃した霧夜先生だが、侵入者が傀儡であると知り、旧校舎を見ると、旧校舎が結界に包まれていた。

 

 

ー理巧sideー

 

「『忍結界』か。旧校舎、いや、学院全体を結界が包み込んでいる?」

 

「理巧!」

 

「っ、柳生さん、みんな」

 

理巧が振り向くと、柳生を先頭に、飛鳥達と合流した。

 

「斑鳩姉さん。『忍結界』って、学院全体を覆い尽くせる程の規模ができますか?」

 

「・・・・1人では無理ですが、複数の忍が同時結界を張り、それを束ねれば不可能ではありませんわ」

 

「・・・・ペガやレムとも連絡が着かないか」

 

理巧は装填ナックルで基地にいるペガとレムに連絡しようとするが、『忍結界』によって遮断されているようだった。

 

「斑鳩。結界を束ねるだなんて、そんな事出来るのか・・・・?」

 

「そう言う能力を持った忍がいると、わたくし、以前書物で読んだ事があります。例えば・・・・『傀儡使い』も、その1人・・・・!」

 

「はっ! 『傀儡使い』って、もしかして、私達を襲った・・・・」

 

雲雀が驚愕したように呟く。

 

「じゃあ、これは蛇女子学園の攻撃って事?!」

 

「先ほどの侵入者も、おそらくは・・・・」

 

「霧夜おじさんを、排除する為か。随分と手の込んだ奇襲をしてくれるな・・・・!」

 

理巧は蛇女子学園の動きに、苦虫を噛んだような声を上げた。

 

「何処かに結界を束ねている忍がいるはずですわ。その忍さえ倒せば・・・・!」

 

「カチコミかよ! 上等じゃねぇかぁ!!」

 

斑鳩が状況の打破を言うと、葛城は手の関節をゴキゴキ鳴らす。

 

「皆さん! 戦闘準備を!!」

 

「「「「(コクン!)」」」」

 

斑鳩が言うと、四人は頷いた。

 

「「「「「『忍転身』!!!」」」」」

 

五人は転身して、戦闘姿になった。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は周囲を見渡していた。先ほどの気配から分かっている。今まで現れた悪忍の少女達が攻めてきたと。



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攻めてきたぜ、蛇女

蛇女子学園が張った『忍結界』に閉じ込められた理巧達半蔵学院の忍達。

 

「何処にいるっ! 出てきやがれーーーー!!」

 

「葛城さんっ!!」

 

「だがっっ!! なんだよ!?」

 

結界が張られた旧校舎内部を駆け巡ろうとした葛城を、斑鳩が声を出して止めた。

 

「ここは敵の結界内。不用意に動くのは危険です!」

 

「だからって、ここでジーッとしててもドーにもならねぇだろっ!!」

 

「葛城、それは理巧の決めセリフだぞ」

 

ちゃっかり理巧の決めセリフを使う葛城に、柳生がボソッとツッコミを入れる。

 

「イヤ、そうとも限らないかも知れないよ?」

 

「あん?」

 

理巧が声を発し、全員が理巧に視線を向けると、理巧は口を開く。

 

「敵の戦力は、奇襲を仕掛ける以上少数で攻めてきたと仮定して。今まで遭遇した三人の忍に加え、『傀儡使い』。そしておそらくもう一人か二人いたとしても五~六人くらい。こちらの人数に合う数を揃えたとして、こっちがバラバラに動い1人ずつ各個撃破って可能性が有る以上、寧ろ集まっている方が警戒がしやすい。そして、今までの挑発めいた行動をしてきた連中がこちらの本拠地とも言える場所に攻めて来た。この事から、向こうは“目的”があって攻めてきたと考えられる」

 

「“目的”って、あっ! そう言えば向こうは理巧君を狙っているんだ!?」

 

「と言うことは、理巧の側にいれば向こうからやって来るって事だな?」

 

飛鳥と柳生が納得の声を上げ、理巧はさらに言葉を続ける。

 

「まぁ僕を狙ってきたのか、本格的に半蔵学院と全面戦争を仕掛ける為に来たのかはまだ分からないけど、とりあえず今僕達は敵の結界を破る事が先決。無闇に行動すれば、逆に向こうに付け入る隙を与えるような物だよ。斑鳩姉さん。結界を破る方法って分かる?」

 

「ええ。ですが先ずは、敵の出方次第ですわね!」

 

斑鳩が『名刀飛燕』を取り出した。

 

 

ー春花sideー

 

「ウフフフフ、ショータイムの始まりよ」

 

何処かの空間にいる春花が指を鳴らした。

 

 

ー理巧sideー

 

「ん。どうやら今回はジーッとしてて良かったみたいだ」

 

理巧が視線を天井に向けると、天井から『傀儡の忍者』達がユラリと出現した。

 

「来ました!」

 

「あわわわ・・・・!」

 

傀儡が襲いかかるが、葛城が蹴り、斑鳩が斬り、柳生が番傘で防ぎ、雲雀が腕をグルグル回し、飛鳥も傀儡を切るが、如何せん数が多く、押し出されていった。

 

「っ・・・・!」

 

ふと、傀儡を相手にしていた理巧が辺りを見渡すと、飛鳥達の姿が消え、旧校舎の廊下ではなく、広大な砂漠のような空間に立っていた。

 

「ふぅ。どうやら、上手く分断しての各個撃破にされたか・・・・」

 

理巧は背後から迫ってきた傀儡を裏拳で粉砕すると、いつの間にか飛鳥達と分断されていた事に気づいた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「あれ? 皆は!?」

 

飛鳥は、夕暮れの墓地のような場所に立っていた。

 

 

ー葛城sideー

 

「っ結界が・・・・! どういう事だ!?」

 

葛城が回りを見ると、髑髏や怪物のような物が浮いている不気味な空間に立っていた。

 

 

ー雲雀sideー

 

「理巧くーん! 柳生ちゃ~ん!!」

 

雲雀はピンクでファンシーな物に囲まれた空間にいた。

 

 

 

ー柳生sideー

 

「雲雀・・・・! 理巧・・・・!」

 

柳生は雪が降る崩れたローマ帝国の闘技場のような空間に立っていた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

そして斑鳩は、見たことのある若草が舞う暗い空間に立っていた。

 

「油断していました。この傀儡は、わたくし達を分断させるための囮・・・・!」

 

「ウフフフフ、これだから育ちの良い方は・・・・」

 

「っ!」

 

斑鳩が振り向くと、半蔵学院の制服を着た詠が立っていた。

 

「やはり貴女方の仕業でしたか」

 

「ごきげんようお嬢様」

 

「その制服、学院に潜入するとは、なんと大胆な・・・・!」

 

「流石はお金持ちの学院、制服も良い生地を使っていますわね?」

 

「答えなさい! この襲撃の目的は、やはり理巧くんですか?!」

 

「その上からの物言い、気に入りませんわね。けど教えてあげても良いですわよ。このわたくしを倒せたらですけど、『忍転身』!!」

 

詠が『転身』すると、半蔵学院の制服からドレス姿に変わり、大剣を振り下ろしてきた。

避けた斑鳩は大剣から繰り出される攻撃に戦慄する。

 

「なんと言う力?! これでは受けられない!」

 

「戦うなんて汗臭くてお嫌い!? 相変わらずお上品ですこと!!」

 

詠がスカートを上げると、ソコからロケット花火なように推進火薬を付けた爆弾を発射した。

 

「あぁあああああああああああああああああっ!!!」

 

斑鳩は爆発に呑まれて叫び声を上げた。

 

 

 

ー柳生sideー

 

柳生は闘技場を駆け巡り、雲雀を探していたが、隣に未来が現れた。

 

「今日こそ本気で行かせて貰うわ。『忍転身』!!」

 

未来は半蔵学院の制服から、ゴスロリドレスへと変身した。

が、柳生は未来を眼中に入れず、走り去ろうとする。

 

「あぁっ! アタシを無視するんじゃないわよっ!!」

 

未来は持っていた傘を機関銃のように構えて、弾丸を柳生に向けて乱射した。

 

「雲雀! 何処にいるっ!!?」

 

「無視するなーーーー!!!」

 

 

ー葛城sideー

 

「コソコソしねぇで出てきやがれ!! 正々堂々と勝負だっ!!」

 

不気味な空間を歩いていた葛城の目の前に、電車の踏切が警告音を鳴らしていた。

 

「あっ!」

 

「ここにおるンよ・・・・」

 

「テメェは・・・・あの時の・・・・!」

 

踏切の向こうに、ラフな格好の転身姿だが、露になった上半身に包帯を巻き付けた日陰がいた。

 

「命令やから相手したるわ・・・・」

 

「・・・・お前が相手で良かったぜ」

 

「ふぅ~ん?」

 

「こんなに早く、この間の借りを返せるだなんてな!!」

 

ニヤリと笑みを浮かべた葛城が、日陰に飛び掛かるが、その先に電車が横切った。

 

「っっ! ドォラアアアアアアアアッ!!」

 

葛城は構わず電車に蹴りを叩き付けるが、その背後に日陰が長い舌をデロンと出していた。

 

「ふっ・・・・」

 

「っ! この!!」

 

葛城が振り向き様に蹴りを回すが、日陰は余裕で回避して、電車の上に着地する。

 

「分からんなぁ・・・・?」

 

「あぁっ!?」

 

「なんでそんなに熱ぅなんのや?」

 

「くっ!」

 

葛城の脳裏に、父母と離れ離れになった幼い頃の記憶が過った。

 

「熱くならねぇで、勝負に勝てるかーーーー!!」

 

葛城と日陰が空中ですれ違い着地するとーーーー。

 

「っ!」

 

葛城の忍装束に切れ目が現れ、首筋に日陰のナイフが突き立てられた。

 

「勝つのは、腕やろ?」

 

「いつの間に・・・・!」

 

「ホンマ、アンタの言うことは分からんわ。あの男子<理巧>の方がアンタより強そうやけどなぁ?」

 

「くぅっ!」

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

そして飛鳥は歩いていると、まるで時代劇の戦場跡のような場所に到着した。

 

「み、皆は・・・・!」

 

辺りを見渡すと、凄惨な戦場の跡しかなかった。

飛鳥はその場所をゆっくりと歩いていくと背後から声をかけられた。。

 

「元気そうじゃないか?」

 

「あぁ!?」

 

振り向くとソコには、商店街の忍務の際に出会った。焔と言う少女がいた。

 

「あの時は世話になったな」

 

「やっぱり焔ちゃん・・・・! じゃあ・・・・!!」

 

「そんなにあからさまに動揺するな。お前だって忍だろう?」

 

「で、でも、どうして・・・・!」

 

「お前の実力がどんなもんか、確かめたくて近づいたのさ」

 

「私の・・・・?」

 

「『伝説の忍の孫』ってヤツの力をね」

 

「っ!」

 

「『忍転身』・・・・!」

 

焔の身体が炎に包まれ、炎が消えるとソコには、丈の短い黒いセーラー服の忍装束を纏った焔がいた。

 

「『秘立蛇女子学園五人衆』が一人、焔。改めてよろしく」

 

「あなたが悪忍だったなんて!」

 

「あの時は刀を抜こうとしたが、“思わぬ伏兵”がいて抜けなかった。が。今日はソイツがいないので、抜かせて貰う!」

 

「っ!!」

 

焔が背中から太刀を抜くと、飛鳥も小刀二刀を構えた。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

お互い睨み合う二人。焔の太刀の刀身が、炎が揺らめいているようだった。

 

「(物凄い殺気・・・・! )」

 

気圧されていた飛鳥の眼前に、焔の太刀の切っ先が迫っていた。

 

「ぁっ!!」

 

「震えているのか??」

 

寸前で避けた飛鳥だが、焔は休む間も与えず攻めてきた。

 

「あっ! ああっ!!」

 

上着を、後ろのスカートの忍装束を切り裂かれ、飛鳥は地面に倒れる。

 

「情けないなぁ!! 『伝説の忍の孫』なんだろっ!? せめてその価値の片鱗くらいは!!」

 

「そ、そうだ・・・・! 私は・・・・!!」

 

倒れた飛鳥にさらに攻め立てようとした焔の攻撃を、飛鳥は跳んで回避した。

 

「逃がさない!!」

 

「じっちゃんの孫なんだ!!」

 

「覚悟ーーーー!!」

 

「こんな所でーーーー!!! うわぁあああああああああああああああああああああ!!!!」

 

追撃してきた焔を、飛鳥の身体が光輝くと、『命駆モード』となり、焔に二刀を振り下ろすが、焔は太刀で防いだ。

 

「ほぉ! いきなり『命駆』で来るか? 気に入った。抜いた程度の価値は見せてほしいね?」

 

だが、飛鳥の胸中はーーーー。

 

「(焔ちゃん。私・・・・貴女の事、結構いい人だって、友達になれるかもって・・・・)焔ちゃーーーーーーーーん!!!」

 

焔は刀を通して、飛鳥の気持ちが伝わったのか、少し眉根を不快そうに歪め。

 

「どこまで甘いんだよっ!!」

 

「あぁあっ!!」

 

焔が飛鳥を弾き飛ばし、さらに追撃した。

 

「命令なら例え親でも友でも容赦なく切り捨てる! それが、忍だーーーー!!」

 

飛ばされながら飛鳥は焔の一太刀を防ぎーーーー。

 

「そんな事!!」

 

着地した飛鳥の目の前から焔が消え、背後からスッと現れ、横凪ぎに斬りつけようとした。

 

「でぇやっ!!」

 

「っ!! はぁあっ!!」

 

しかし、飛鳥は焔の一太刀を回避し、背面蹴りで焔の太刀を弾き飛ばした。

 

「や、やれた!!」

 

「フフフ、フハハハハハハハハ!」

 

飛鳥が体制を整え、焔の太刀を弾いた事に喜ぶが、焔のその顔には笑みが浮かび、懐から、『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を取り出した。

 

「それって!!?」

 

それを見た瞬間、飛鳥は“最悪の事態”を想像した。

そして焔は驚愕の様相の飛鳥を見て、得意気に声を発する。

 

「これは『怪獣カプセル』って言ってな。何でも怪獣の生体データをインプットされている代物だ。そしてこれは『コピークリスタル』。『怪獣カプセル』に内包されているデータを読み込んで、怪獣へと変貌する代物だよ!」

 

ギュワァアアアアアッ!!

 

「さぁ、お前も向こうで派手に暴れてこい! 『殺し屋超獣 バラバ』!!」

 

焔が起動させた『怪獣カプセル』を装填した『コピークリスタル』を投げると、クリスタルは僅かに空いた“結界の穴”から、結界の外に放り投げ、“穴”は閉じた。

 

「焔ちゃん! 一体何を・・・・!」

 

「正直、“目標の1人”である暁月理巧は、最も厄介なヤツだ。だが、如何にヤツでも怪獣を越えた超獣が相手なら、少しは大人しくなるかもなぁっ!!」

 

焔の背中から、五本の刀が出現すると、なんと焔は右手の指の隙間に刀を二本挟み、左手には三本の刀を挟んだ。

飛鳥が蹴飛ばした刀を合わせば六本になっていた。

 

「刀が、五本・・・・!? さっきのを合わせば六本・・・・!!」

 

「さぁ、本気で行かせて貰う」

 

 

ー雲雀sideー

 

そして雲雀は、妙にファンシーな忍結界を見据えていた。

 

「この感じ・・・・、前にも・・・・あっ!」

 

突然後ろに気配を感知した雲雀が後ろを見上げると、春花が足を組んで大きな羽毛に座っていた。

 

「いらっしゃい」

 

「だ、誰・・・・?」

 

「ホント可愛いわね。まるで捕らわれた仔兎みたい」

 

ウットリと嗜虐的な視線を向ける春花に、雲雀は一歩後ろに引く。

 

「っ、うぅっ、思い出した・・・・あの時の!」

 

以前商店街で春花と出会った事を思い出した。

 

「じゃぁ、この人が『傀儡使い』・・・・!」

 

「ウフフフフ。怖がらなくても良いのよ。さぁおいで、仔兎ちゃん♪」

 

「(こ、この人をやっつけないと、理巧くん・・・・! 柳生ちゃん・・・・!)」

 

「じゃぁ、これを使いましょうか」

 

春花は豊満な胸の谷間から、『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を取り出し、カプセルを起動させた。

 

ピギュゥウウウウウッ!!

 

「ウフフフフ。私の可愛いカニちゃん。貴方も遊んできなさいな」

 

春花は起動させた『怪獣カプセル』を『コピークリスタル』に装填させると、“穴”を開けた結界から外に投げた。

 

「あ、あれってまさか・・・・!」

 

「さぁ、こっちも始めましょうか。『忍転身』」

 

春花は、白い白衣の下に極めて露出の高い忍装束を纏った。

 

 

ー柳生sideー

 

柳生は結界の端に到着するが、自分がいる結界内に雲雀がいない事を把握する。

 

「やはり雲雀は別の結界か・・・・(理巧はまぁ大丈夫だと思うが・・・・)」

 

バババババババババ!!

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・逃げ足が早い子ね! 遂に追い詰めたわよ!!」

 

柳生のいる地点に、ようやく追い付いた未来が、肩で息を切らせながら傘の機関銃をぶっ放していた。

 

「コイツを倒せば、他の結界に移動できるかもしれんな?」

 

「アタシを無視するなーーーー!!!」

 

喚く未来に、柳生が番傘を突き立てる。

 

「っ!! ふ、ふん! ようやく戦う気になったみたいね・・・・!」

 

「オレは急ぐ。とっとと倒れろ」

 

「なっ! 散々無視しといてなんて言い草よ・・・・。もう許さない! 『秘伝忍法ヴァルキューレ』!!」

 

明らかに舐めくさった態度の柳生に未来は憤慨して、スカートの裾を上げると、対戦車機関砲を取り出した。

 

「絶対、許さないっ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

怒る未来を気にせず、柳生は番傘を広げた。

 

 

 

ー???sideー

 

焔達の上役である鎧武者は、お付きの人達に鎧を脱がされながら、オーナーとの会話を思い返す、今回の作戦は『超秘伝忍法張』を盗むための“下準備”と伝えた。

オーナーの目的は、悪忍に伝わる『秘伝忍法張・陰の巻』と対となる善忍に伝わる『陽の巻』であった。伝承では“本来1つであった超秘伝忍法張一つに戻す事”であった。

 

「ふん・・・・いくら御大層な事を並べようとも、所詮眼中にあるのは“目先の欲”だけ・・・・俗物共め・・・・!」

 

その美しく成熟した豊満な肢体にシャワーを浴びながら、鎧武者の女性、鈴音はオーナーに毒づいた。

しかし、腑に落ちないのは、『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』。オーナーはあのような物を何処で入手したのか、何故暁月理巧と言う少年を狙うのか、それが皆目検討が付かなかった。

 

「あの少年・・・・一体何者・・・・?」

 

 

 

ー???sideー

 

そして、“焔達のオーナー”は、『怪獣カプセル』を起動させ、『コピークリスタル』に装填させた。

 

ギュアアアアアアッ!!

 

『では、転送』

 

オーナーの近くにいた“異形”は、変貌する『コピークリスタル』を転送させた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は砂漠で座禅を組んで瞑想し、結界内の飛鳥達の気配を探知しようとしていた。

 

「飛鳥さんは、あの焔って子と・・・・。雲雀ちゃんは、春花って人・・・・。斑鳩姉さんは詠さんか・・・・。葛姐さんは先日の女子・・・・。柳生さんは知らない気配、おそらく先日遭遇した・・・・っ!」

 

ズシィイイイイイイン・・・・!

 

ドシィイイイイイイン・・・・!

 

『ギュアアアアアアッ!!』

 

『ピギュゥウウウウッ!!』

 

集中していた理巧の背後に、右手が鎌、左手が刺付き鉄球になり、頭部に剣を付けた牛か悪魔のような風貌の怪獣と、蟹のようなカブトガニのような風貌の怪獣が現れた。

 

「『殺し屋超獣 バラバ』に『大蟹超獣キングクラブ』。『異次元人ヤプール』が生み出した、怪獣を越えた『超獣』か・・・・」

 

理巧は、ジードライザーを取り出し、『ウルトラカプセル』を起動させた。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならない!!」

 

[フュージョンライズ!]

 

「決めるぜ! 覚悟!! ジィィィィィィィド!!」

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生は倒した傀儡を見下ろしているとーーーー。

 

「学院内には、『忍感応装置』が張り巡らされている。装置の監視網を縫って潜入するのは、容易な事ではない」

 

≪・・・・・・・・ネコだぁっ!?≫

 

霧夜先生の背後の木の枝の上になんと、黒猫が霧夜先生に話しかけてきた。

ゼロは思わずすっとんきょうな声を上げるのも仕方ない。

“黒猫”はさらに声を発する。

 

「気づいている筈だ。この奇襲を“手引きした者”がいる。善忍。あるいは“善忍であった者”・・・・」

 

「っ・・・・!」

 

息を呑む霧夜先生を置いて、“黒猫”は去っていった。

 

≪おい霧夜。お前まさか知っているのか? “手引きした者”の事を?≫

 

「・・・・・・・・」

 

ズシィイイイイイイン・・・・!

 

「≪っ!?≫」

 

突然背後から現れたのは、背中を棘に覆われ黒い寸胴体型に細く小さな手をした横に広がった口をした『怪獣』。

 

≪ベムラーだとっ!?≫

 

『宇宙怪獣ベムラー』。

 

『ギュアアアアアアアッッ!!』

 

「ゼロ! (デュオオン!) こんな時に! シャアッ!」

 

ゼロにチェンジして、ウルトラゼロアイNEOを当ててスイッチを押し、ウルトラマンゼロへと変身した。

 



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ピンチだぜ、みんな

ー理巧sideー

 

ジード・プリミティブへと変身した理巧は、『殺し屋超獣バラバ』と『大蟹超獣キングクラブ』と戦闘を開始した。

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

『フッ! ハッ!』

 

バラバはジードに向けて、左手の鎌を振り回すが、ジードはすべて回避する。

 

『ジュワッ!!』

 

『ギュアッ!!』

 

『ピギュアッ!!』

 

ジードは鎌を回避した瞬間、バラバにスタンプキックで押し出すと、キングクラブが長い尻尾を振り回し、先端の鋭い針でジードを貫こうとする。

 

『フッ!』

 

『ピギュゥッ!』

 

『シュゥワッ!!』

 

が、ジードはその針を片手で白羽取りした。

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

今度はバラバは右手の鉄球を鎖鉄球のように発射すると、ジードの空いている手首に巻き付けた。

 

『クゥッ・・・・! シュゥワァッ!!』

 

上空に跳んだジードは、鎖が巻き付いた腕と白刃取りした手に引かれ、バラバのキングクラブがぶつかった。

 

『ギュアアアアアアッ!?』

 

『ピギュウウウウウッ!?』

 

そのまま重なるように倒れたバラバとキングクラブは起き上がろうとするが、バラバの武器やキングクラブの身体の刺がお互いに引っ掛かって、起き上がれないようだった。

 

『(さて、皆は・・・・)』

 

着地して鎖をほどいたジードは、起き上がるのに悪戦苦闘している超獣二体を尻目に、はぐれた仲間達の気配を探知する。

 

 

ー葛城sideー

 

葛城は日影が突き出してくる短刀を紙一重で回避していた。

 

「っ!」

 

「おっとぉ!」

 

「(何や・・・・動きが読まれ始めた・・・・?)」

 

葛城の動きが変わった事に、日影は内心怪訝そうに呟く。

 

「やっぱりな。アンタ強いけど、アタイを舐め過ぎていたな」

 

「・・・・??」

 

「アンタ、理巧に叩きつけられた傷のせいで、動きが鈍くなっていってんだよ!」

 

「っ!」

 

葛城が包帯を巻いた上半身を指差して、日影も理解した。自覚は無かったが、前日、理巧に付けられたダメージが徐々に疼き始め、それが僅かに動きを鈍くさせていたのだ。

 

「そんな怪我をしたままアタイを倒すだなんて、後悔させてやるぜ! 『秘伝忍法 トルネードシュピンデル』ッ!!」

 

葛城が具足を地面に叩きつけると、青い炎を纏った龍が出現させ、フットワークのように回転すると竜巻を巻き起こし、自身の秘伝忍法を発動させた。

 

「くっ!!」

 

日影は周りの黒い電車ごと吹き飛ばされ、地面に盛大な土煙を上げながら倒れた。

それを見た葛城が不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうだっ!!」

 

しかし、土煙から日影は何ともないような様子で立ち上がってきて、ゴキンッ、ゴキンッ、と肩を鳴らしながら歩を進めた。

 

「・・・・・・・・」

 

「っ、直撃したのに・・・・!」

 

「早いとこ諦め。あの男子なら兎も角、アンタじゃワシを倒せへんで」

 

「まだまだぁ!!」

 

葛城が蹴りを見舞うが、日影は余裕に回避し、葛城は距離を開けた。

 

「クソっ・・・・!」

 

「時間の無駄やな?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・なんで当たらねぇんだ・・・・!!」

 

「フフ・・・・」

 

「っ!?」

 

日影は一瞬で葛城の前から消えると、背後にいた。

 

「いつの間に!?」

 

「『秘伝忍法 ぶっさし』・・・・!」

 

逆手に構えた短刀に黒緑のオーラを纏わせると、葛城に向けて前進した。

 

「っ! うあっ! うおぉっ!」

 

短刀が当たる寸前で日影の手を押さえて致命傷を避けたが、技の威力に装束が吹き飛び下着姿となり倒れた。

 

「くぅ・・・・!」

 

悔しそうに見上げる葛城を、日影は冷酷な笑みで見下ろす。

 

「止めとき、アンタはワシに勝てん」

 

「まだ、だぁ・・・・!」

 

ヨロヨロと立ち上がろうとする葛城だが、日影は背を向けて去ろうとした。

 

「安心し、命まで取れとは言われとらん」

 

「くっ、アタイは負けない!! っ!!」

 

葛城は日影に向かうが、眼前に短刀を突きつけられ止まった。

 

「実力の差やねん」

 

「ぐぅ・・・・!!」

 

しかし、葛城は構わず前へ歩を進めると、日影も短刀を突きつたまま後ろに下がる。

 

「(何や、この目ぇは?)」

 

「それが何だ? アタイが負ける時は、アタイが負けたと思った時だけだぁっ!!(ここで負けたら、アタイを『立派な人』だって言ってくれたヤツに、顔向け出来ねぇぜ!!)」

 

「アホか。負けは負けやっちゅうねんっ!!」

 

日影が短刀を突き刺そうとするが、葛城を身を屈めて避けると、日影に向けて頭突きをお見舞いした。

 

「うあっ・・・・!」

 

「へへ、今のは効いたろ・・・・?」

 

「っ・・・・よくも!」

 

お互いに額から血を流し、葛城が蹴りを放つが、日影は飛んで回避して、短刀を振り向ける。

 

「っ!!」

 

「はぁあっ!!」

 

葛城の短刀と葛城の具足がぶつかり合い、爆発が起きて晴れると、葛城と装束が破れた日影が、空中でのけ反った。

 

「ぐあっ!」

 

「・・・・・・・・っ!」

 

葛城は倒れ、日影は着地したが、葛城はそれでも立ち上がった。

 

「・・・・まだ、まだぁ・・・・!」

 

が、葛城は力尽きたのか、ゆっくり倒れた。

 

「・・・・・・・・分からん」

 

額の血を拭った日影は、倒れた葛城を見てボソッと呟いた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

チュドォォォォォォォォォォンッ!!

 

詠の『忍結界』では、斑鳩が詠の攻撃で爆裂に呑まれてしまっていた。

 

「ウフフ。所詮はお嬢様、チョロいものですわ」

 

勝利を確信した詠だが、爆発が晴れるとそこには、斑鳩の装束の上着だけが焼け焦げていただけだった。

 

「っ! しまった・・・・!」

 

「たぁああああああああああっ!!」

 

「あぁああああああああああっ!!」

 

詠が上を見上げると、『命駆』となった斑鳩が炎を纏った斬撃を詠に向けて放つと、詠は斬撃を受けて装束が燃えてしまい、下着姿へとなった。

 

「っ!!」

 

「このっ!!」

 

着地して向かってくる斑鳩に、詠は武器を大剣へと切り替えて振り下ろすが、斑鳩がヒラリと回避すると、大剣の峰にスタっと着地した。

 

「覚悟!」

 

「ふん! 上から見下ろすのがよっぽどお好きなんですのねっ!」

 

にゃーーん。

 

飛燕を振り下ろそうとする斑鳩に、詠は招き猫の置物を投げると、招き猫が破裂し、中から火玉が斑鳩に向かって飛んで来た。

 

「っっ!」

 

「はぁああああっ!! てぃっ!!」

 

斑鳩は峰から反転して避けると、詠が大剣を振り下ろすが、斑鳩は飛燕を横にして防いだ。

 

「飛燕が・・・・!!」

 

「“生きていく”。ただそれだけの事が! どんなに『悔しくて惨めな事』か! そんな気持ち! 貴女には一生解りませんでしょうね!」

 

「くぅ・・・・!」

 

詠は知らない。斑鳩がどれほどの『悔しさ』と『惨めさ』を経験したのか。

だが今の斑鳩はーーーー。

 

【「『飛燕』。我が家に伝わる名刀。我が娘として、これをお前に託そう」】

 

【「『飛燕』に、相応しい忍になれよ」】

 

【「今更、こんな事を言われても、許されないと思うし、資格も無いと思うがな・・・・その、今まで、済まなかった。これからも、頑張れよ・・・・」】

 

「っっ!! だぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

「きゃああああああああああああああああっっ!?」

 

養父と義兄の言葉が過り、斑鳩は飛燕を握る手に力を込めると、大剣を押し上げて、詠を押し飛ばした。

押し飛ばされた詠は地面に倒れると、ヨロヨロと上体を起こす。

 

「まさか・・・・そんな、力で・・・・!」

 

「1つだけ、教えてあげましょう!」

 

「っ。なんですの!?」

 

斑鳩は詠を見据えながら、義兄と和解できるようになったきっかけをくれた少年の姿が、一瞬過った。

 

「わたくしは、『悔しさ』も『惨めさ』も、すべて乗り越える事ができました! たった1人の少年のお陰で! 今の自分にあるのは、これ<飛燕>を託された、『誇り』のみっ!! 『秘伝忍法 飛燕鳳閃・壱式』!!」

 

背後に秘伝動物である鳳凰を召喚すると、紅蓮の炎な斬撃が詠に襲い来る。

 

「くっ! うぅ・・・・あぁああああああああああっ!!」

 

詠は大剣で防ごうとするが、先ほどとは比べようもないくらいの炎の量を防ぎきれず、呑まれてしまった。

そして炎が止むと、『全裸状態』となった詠が身体を両手で隠しながら悔しそうに斑鳩を睨み付けた。

 

「よくも! よくもよくもッ!!」

 

「『秘伝忍法』を持ってしてもこの程度・・・・! やはり、強い・・・・!」

 

自身の必殺技をまともに浴びても大したダメージを受けていない詠に、斑鳩は驚嘆していた。

 

 

ー柳生sideー

 

そして柳生は、スカートから取り出した機関銃から弾幕を放つ未来の攻撃を番傘で防いでいた。

 

「また逃げる気? 逃げられないって言ってるでしょう・・・・!」

 

「逃げてるだけじゃない。倒したいだけだ・・・・フッ!」

 

飛び上がった柳生は『命駆』となった。

 

「あっ!」

 

「『秘伝忍法 薙ぎ払う足』!!」

 

「イカーーーーーーーーーーーーーーッッ!!?」

 

柳生は秘伝動物である巨大烏賊を召喚すると、烏賊の足が未来に襲いかかる。

 

「ァァァァァァァァァァァァァァァッッっ!!!」

 

イカ足に殴り飛ばされた未来はそのまま彼方にふっ飛んでいった。

 

「・・・・・・・・ぁ」

 

『秘伝忍法』を解除した柳生の目の前の結界が揺れると、柳生はソコから漏れた光に包まれた。

 

「っ! ここは、校舎か・・・・」

 

ズシィィィィィィィンッ!!

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

『セヤッ!!』

 

「っ!? ウルトラマンゼロ・・・・! それにあの怪獣は確か、『宇宙怪獣ベムラー』・・・・!?」

 

校舎前に出てきた柳生の目の前で、ウルトラマンゼロが、以前怪獣の事を調べていた理巧に付き合って、目に入った怪獣であるベムラーが交戦していた。

 

『「柳生かっ!?」』

 

『おっ! 柳生! 無事だったかっ!』

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

『たくっ! ちょっと引っ込んでで貰うぜっ!! 『エメリウムスラッシュ』!!』

 

『ギュワァアアアアアアアッ!?』

 

ゼロは額から放つ『エメリウムスラッシュ』を放ち、ベムラーの腹部に当てると、ベムラーは後方に吹き飛び倒れた。

 

『「柳生! 結界内はどうなっている!?」』

 

柳生は霧夜先生とゼロに、結界内で理巧達と分断され、蛇女の悪忍と交戦し、柳生は悪忍を倒し結界から出ると、雲雀のいる場所ではなく、校舎の外に出てしまった事を伝えた。

 

『「ふむ・・・・そうなっているのか」』

 

ゼロと一体となっていら霧夜先生は難しい声色を発した。

 

『霧夜。何か良い方法は無いのか?』

 

『「無い事も無いが・・・・」』

 

霧夜先生は、『かつての教え子』に教えた方法を柳生に伝えた。

 

「肉体的なダメージ・・・・?」

 

『「結界が拒絶反応を起こし、侵入者に強力な負荷をかける。死の危険すらあるほどにな・・・・」』

 

「・・・・・・・・」

 

『「・・・・・・・・」』

 

霧夜先生の脳裏に、『かつての教え子』の言葉が甦る。

 

【「結界って、心で作られるんでしょう? なら、複数の忍の心が繋がれば、より大きく結界を張れるかも!」】

 

【「思いつきは面白いが、そんな忍術聞いたことが無いな・・・・」】

 

【「やれる! ううん、いつかやって見せるよ先生! だって私、『スーパー忍者』になるんだもの!」】

 

数ヶ月後。その教え子は『傀儡忍術』の応用技として、『連動結界の術』を編み出したが、そのせいで教え子は“命を落とした”。

 

『「(そう、確かに死んだんだ・・・・)」』

 

『霧夜。呆けてる場合じゃないぜ』

 

『「っ! 柳生!」』

 

柳生が結界が張られた校舎に向かった。

 

「雲雀の感応能力は、オレ達の中で一番強い。必ずオレの心が届くはずだ」

 

『「やめろ! 理巧も今に出てくる! アイツの気配探知能力はズバ抜けている! だから・・・・!」』

 

「ここに怪獣が現れたと言う事は、理巧の方にも現れている筈だ。アイツの『足手まとい』にも『足枷』にもならない・・・・。アイツが思う存分戦えるように、雲雀は、オレが守る・・・・!」

 

『「止さないかーーーー」』

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

『しまっウワァアアアアアアアアッ!!』

 

止めようと声を上げようとした霧夜先生だが、起き上がったベムラーが口から熱線を放ち、ゼロは回避が遅れて倒れてしまった。

 

「雲雀・・・・感じろよ・・・・雲雀!」

 

柳生はゼロに構わず、雲雀に呼び掛けながら結界に近づく。

 

 

ー雲雀sideー

 

「ウフフ、そんなに怖がらなくても良いのよ。子ウサギちゃん♪」

 

「ぅ・・・・」

 

「ウフフ、ウフフ・・・・」

 

妖しい春花の雰囲気に、雲雀は及び腰になってしまっていた。

 

「な、何とかしてこの人をやっつけないと・・・・が、頑張れ雲雀・・・・! えーーーい!! このこのこのこの!!」

 

「アラアラ♪」

 

「あっ!・・・・うぅ、あうっ!!」

 

手をブンブン振り回しながら春花に突っ込むが、春花は余裕で回避し、地面に倒れた雲雀の腰に座った。

 

「ホンとはね、貴女と“お友達”になりたいのよ私・・・・」

 

「ひうっ!」

 

そう言って、春花は雲雀のお尻に手を添えた。

が、雲雀は泣きそうになりながらも、反撃しようとしていた。

 

「ひ、『秘伝忍法』・・・・!」

 

「っ!?」

 

デフォルメされた巨大ウサギが突撃してきた。

 

「うわっ!」

 

春花が離れたので、雲雀はウサギの背中に飛び乗った。

 

「『忍兎でブーン』!!」

 

「ぐぅっ! あぅっ!!」

 

『忍兎』と呼ばれた秘伝動物に蹴飛ばされて、春花は結界内で作られたケーキに頭から落下した。

役目を終えた『忍兎』は雲雀を下ろすと、そのまま走り去って行った。

 

「ありがとー!! えへへ」

 

「ありがと・・・・」

 

「ひぅっ!!」

 

振り向くと、装束が少し破れ、冷笑を浮かべた春花が仁王立ちしていた。

 

「貴女らしいファンシーでキュートな技ねぇ? お礼に蛇女の技も、教えてあげる・・・・!」

 

「いえ、け、けけけ、結構です・・・・!」

 

「っ!」

 

春花は雲雀の顔を往復ビンタし、蹴り、踵落としで雲雀を痛め付けた。

 

「もうダメ・・・・ゴメンね、みんな・・・・ゴメンね、柳生ちゃん・・・・!」

 

 

ー理巧sideー

 

『「・・・・・・・・・・・・」』

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

『ピギュワアアアアアアアッ!!』

 

ようやく起き上がれたバラバとキングクラブは、背を向けるジードに向かうが、ジードは静かに呟いた。

 

『「燃やすぜ、勇気・・・・!」』

 

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

『「『サイコスラッガー』・・・・!」』

 

ソリッドバーニングにチェンジしたジードは、頭部のスラッガーを遠隔操作して、超獣達を切りつけた。

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

『ピギュワアアアアアアアッ!!』

 

超獣達は怯むが、ジードは飛んで来たスラッガーを腕に装着した。

 

『「さっさと、終わらせて貰う・・・・!」』

 

『ブーストスラッガーパンチ』を構えたジードは、超獣達に切り込んだ。

 

 

ー雲雀sideー

 

《雲雀・・・・雲雀!・・・・感じろ、オレを!・・・・雲雀!》

 

「・・・・柳生ちゃん?」

 

《オレを呼ぶんだ・・・・お前はオレが守る! オレを呼べ! 雲雀!!》

 

倒れた雲雀の頭に、柳生の声が響き、雲雀は顔をあげる。

 

「助けて・・・・柳生、ちゃん・・・・!」

 

そう言って、雲雀は顔を落とした。

 

「ちょっとお仕置きが過ぎたかしら・・・・っ!?」

 

雲雀に近づく春花だが、突如結界が破れ、立ち止まる。

 

「なに・・・・?!」

 

目線の先には、結界を無理矢理抉じ開けようとしている柳生がいた。

 

「ま、まさか・・・・!」

 

驚く春花を尻目に柳生は結界を無理矢理破ったダメージを負いながらも、ヨロヨロと立ち上がり、雲雀の元へ向かい、雲雀は抱き起こす。

 

「・・・・雲雀・・・・!」

 

「柳生、ちゃん・・・・? 柳生ちゃん、なの?」

 

「大丈夫か?」

 

「柳生ちゃんこそ、その傷・・・・」

 

「大した事は無い・・・・」

 

「でも・・・・」

 

そんな二人に構わず、春花が声を発する。

 

「なんなの貴女? いきなり割り込んできて?」

 

雲雀を横たわらせ立ち上がった柳生が、春花を鋭く睨む。

 

「・・・・よくも雲雀を、許さん!!」

 

「私のお人形、横取りするつもり?」

 

春花がクナイを取り出すと、柳生に向けて放った。

 

「ぐぅ・・・・!」

 

「オーホッホッホッホッ!! マトモに避ける事すらできないじゃない! 無理に結界をこじ開けたら、どうなるか知らなかったの?」

 

「っ! じゃその傷、ここに来るために・・・・! ゴメンね、ゴメンね! 雲雀が柳生ちゃんを呼んだりしたから・・・・!」

 

「違う! オレが雲雀を呼んだんだ!」

 

謝る雲雀に柳生はそう言うと、番傘を召喚した。

 

「柳生ちゃん・・・・! (っ!? この気・・・・?)」

 

柳生の身を案じる雲雀は、背後から迫る気配を感知した。

 

「ご免なさいね! 私、そう言う汗臭いの大っ嫌いなの! 『秘伝忍法 DEATH×KISS』!」

 

春花が投げキッスをするようにハートマークを柳生に放つと、柳生は番傘を広げて防ごうとするが、ハートマークは番傘に触れようとした瞬間、雲雀の横を“緋色の影”が横切り、ハートマークが爆裂し、柳生を呑み込んだーーーー。

 

「ああああああああああああああ!!」

 

雲雀が悲鳴を上げ、煙が晴れるとそこにはーーーー。

 

「なっ!?」

 

「あぁ・・・・!」

 

春花が驚愕したように目を見開き、雲雀が顔を嬉しそうに綻ばせた。

倒れそうになった柳生を支え、爆裂から庇ったその人物。それは・・・・。

 

「ぅっ・・・・ぁっ、り、く・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

薄れ行く意識の中、柳生は燃えるような緋色の瞳に、氷のように冷徹な光を放つ“暁月理巧”の姿を、その目に焼き付けた。

 

 

 




次回。超獣2体をジードがどう料理したかを説明します。そして、半蔵学院の忍に追加能力が・・・・。


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お仕置きだせ、春花さん

今回で、理巧はフラグを建築します。


ーゼロsideー

 

『『ワイドゼロショット』!!』

 

『ギュワァアアアアアアアアアアアア!!!』

 

『ワイドゼロショット』をベムラーに放つと、ベムラーはその場で爆散した。

 

『良しっ! ぐぅ・・・・!!』

 

しかし、ゼロのカラータイマーが鳴り響いた。

 

『ここまでか・・・・シャァッ!!』

 

ゼロの身体が光に包まれると、霧夜先生へと戻った。

 

「理巧達は、大丈夫なのか・・・・」

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

雲雀が春花に叩きのめされた瞬間、その事をズバ抜けた感知能力で知ったジードは、ソリッドバーニングにチェンジして、『ブーストスラッガーパンチ』でバラバを切り付ける。

 

『シュゥアッ!!』

 

『ギュワァアア!』

 

バラバが鎌で応戦しようとするが、ジードのスラッガーによって破壊された。

 

『ピギュゥゥゥ!!』

 

キングクラブがジードの背後に迫るが、ジードは背面や肩から蒸気を噴射させた。

 

『ピギュアアアア?!』

 

キングクラブは蒸気をマトモに浴びてしまい、あまりの熱気に怯んだ。

 

『ジュゥアアアッ!』

 

『ピギュアアアアアアアッ!!』

 

ジードはその場で回転しながら、『ブーストスラッガーパンチ』でキングクラブを連続で斬りつけ、キングクラブは後ろへ倒れた。

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

バラバは鎖鉄球を飛ばしてジードの首に巻き付け、引っ張りながら、頭部の剣から光線を放つ。

が、ジードもバラバの方に顔を向け。

 

『「『エメリウムブーストビーム』」!!』

 

額から放たれる光線が、バラバの光線を押し返し、頭部の剣を破壊し、さらにバラバの身体を縦一線にビームを浴びせ、右腕の鎖鉄球の鎖を焼き切った。

 

『ギュワァアアアッ!? 』

 

『エメリウムブーストビーム』のダメージに悲鳴を上げる。

ジードは腕に装備したスラッガーを遠隔操作で足に移動させると、足にエネルギーを集中させ、スラッガーが赤く発光する。

 

『ピギュゥゥゥッ!!』

 

キングクラブが起き上がり、ジードに迫るがーーーー。

 

『「『ブーストスラッガーキック』・・・・!!」』

 

『っっ!!』

 

回し蹴りの要領でキングクラブの首を切り付けると、キングクラブは悲鳴を上げる事なく倒れ、そのまま動かなくなり爆散した。

 

『「っ!!」』

 

ジードはふと上空を見ると、結界に包まれた“空の一部が歪んだように見えた”。

 

『シュゥッ! ハァアアアアアアア!!』

 

『ギュワァアアアアッ!!』

 

ジードはジェット噴射でヨロヨロのバラバに接近すると、バラバを『ブーストスラッガーキック』で切り、さらに胸部も上段蹴りで切り付ける。

 

『ギュワァアアアアアアアッ!!』

 

頭部の武器も両腕の武器も破壊され、いよいよ後がないバラバに、カラータイマーが鳴り出したジードは右腕のアーマーを展開させると、バラバの腹部にその拳を叩き込んだ。

 

『「『ストライクブーストォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』」』

 

『ギュワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

腹部からソリッドバーニングの必殺光線を叩き込まれ、バラバは結界上空まで吹き飛び爆散した。

 

『・・・・・・・・』

 

ジードは爆散し、火の玉となったバラバの身体の破片を、“歪んだように見えた結界の空に向けて弾き飛ばすと、火の玉が当たった空に亀裂が入った”。

 

『「あそこか・・・・」』

 

ジードはすぐさま上空に飛び、眼前に亀裂を捉えると、変身を解除し亀裂に向けて飛び出し、亀裂に向けて拳を叩きつけた。

 

ビギビキビギビキ・・・・! ガシャーーーーーン!!

 

するとなんと、空が割れ、その先にはーーーー。

倒れている雲雀。

春花と名乗った悪忍の少女。

その春花からの攻撃を受けようとしている柳生だった。

 

「っ!」

 

それを見た瞬間、理巧は空かさず柳生の元へ駆け寄り、柳生を春花からの攻撃から庇うように抱き締めた。

そして煙が晴れると。

 

「なっ!?」

 

「あぁ・・・・!」

 

春花が驚愕したように目を見開き、雲雀が顔を嬉しそうに綻ばせた。

 

「ぅっ・・・・ぁっ、り、く・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

倒れそうになった柳生も、薄れ行く意識の中で、自分を支え、爆裂から守って理巧の姿を見据えると、理巧の名前をソッと呟いた。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は柳生をお姫様抱っこすると、雲雀の元へ歩を進めようとする。

 

「ま、待ちなさ「(ギンッ!!)」ひぃっ!!?」

 

理巧を止めようとした春花だが、理巧が一瞥した瞬間、まるで金縛りにあったかのように動けなくなった。

そんな春花から視線を外した理巧の眼は、いつものどこかやる気も覇気もない眼に戻り、柳生を雲雀の隣にソッと下ろした。

 

「り、理巧・・・・お前、どうやって、この『連動結界』を破ったんだ・・・・?」

 

柳生は、なぜ理巧がここに来たのか問うと、理巧はフッと笑みを浮かべて口を開いた。

 

「『連動結界』か・・・・。柳生さん。君のおかげだよ。この『連動結界』は、精密機械のように構築された結界術だけど、裏を返せば、僅かな歪みでも生まれれば、他の箇所にも綻びが生まれる。柳生さんが外側から無理矢理に結界が破ってくれたから、僕の居た結界に僅かな綻びが生まれたんだ。そしてその綻びを攻撃してみたら、雲雀ちゃんと柳生さんがピンチだったから少し焦ったよ。ありがとう、柳生さん」

 

「・・・・フッ」

 

理巧にそう言われ、柳生も笑みを浮かべた。理巧は雲雀の方に視線を向けた。

 

「雲雀ちゃん。柳生さんを見ていて。それと・・・・こっちは見ないようにしていてね」

 

「う、うん・・・・!」

 

春花の方に視線を向けた理巧の目に、一瞬氷のように冷たく鋭い光が走ったが、雲雀はそれに気づかず、柳生の介抱をする。

 

「・・・・・・・・」

 

「ーーーーーーーー!!」

 

理巧に睨まれた瞬間、春花の身体に戦慄が走り、萎縮してしまう。

春花は『自作の薬品』や『傀儡術』などの、所謂搦め手の戦術で相手をなぶり倒すスタイルだが、実は奇襲に来た悪忍達の中では最古参であり、経験も積んである春花は直感したーーーー。

 

「(私は今、殺される・・・・!!)」

 

自身が殺されるイメージが明確に、鮮明に、頭に浮かんでしまった。

 

「ぁ・・・・ぁあ・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・・・!!」

 

春花は、撤退しろ、逃げろ、殺されるぞ、と本能が必死に訴えており、思わず足を後ろに引かせるが、理巧が無造作に片手を上げると、その手には細い糸のような物が巻き付いており、糸を握り腕を動かしたその時ーーーー。

 

シュルシュルシュルシュル・・・・スパァァァァァァァァァァァンン!!

 

「はぅうんっ!!?」

 

なんと、春花の身体にいつの間にか細い糸が巻き付いており、春花のその豊満な肢体を縛り上げ、縛られた春花はそのまま地面に倒れた。

 

「な、どうなっているの!? 何で糸がっ!?」

 

「気づいてなかったようで安心したよ」

 

「ひっ!?」

 

顔を上げた春花の眼前には、冷酷な眼をした理巧が、自分を見下ろしていた。

 

「あなたが柳生さんに攻撃した時の爆煙に紛れて、僕はあなたの周囲に糸を括ったクナイを投げ、足元に糸による罠を仕掛けていたんですよ」

 

「あ、あなた! 糸を使う戦法なんて・・・・!」

 

「簡単に手の内を晒したりはしないでしょう? それに、隠し武器、暗器なんて忍の常套手段って言うしね」

 

「うぅっ・・・・!」

 

「あなたは自分が勝ったと言う優位性に酔いしれて、周囲の警戒を弛めてしまった。おかげで糸の罠を仕掛け安かったよ。勝ち誇った時こそ敗北に注意すべき時っていうけど、とんだ『三流』だな、蛇女子学園・・・・!」

 

「~~~~~~!!」

 

理巧の冷徹な視線に睨まれた時、春花の身体に戦慄と一緒に、いやそれ以上の甘く痺れる感覚が全身を駆け巡り、春花は身体をゾクゾクッと震わせた。

そんな得たいの知れない奇妙な快感に震える春花を見下ろしながら、理巧は昔、鷹丸から教わった手段が記憶に甦った。

 

【良いか理巧。戦いとなれば、“女の子と戦う事にだってある”。そんな時、どうやって相手の女の子を無力化する?】

 

【・・・・・・・・掌底打ちで相手を叩きのめして無力化する、ですか?】

 

【いや、できれば女の子にあまり暴力を振るう事はするな。その相手がとてつもない悪党女だったら、ある程度の暴力は仕方ないかもしれないがな】

 

【・・・・では、どうすれば?】

 

【だから先ずお前にこれから教え授けるのは、相手を拘束と捕縛する為に、『糸や紐や植物の茎とかを使った捕縄術』と、後はーーーー】

 

理巧は鷹丸の教えて貰った捕縄術を使い春花を拘束すると、春花の身体をうつ伏せにした。

 

ゴキン! ゴキン! ゴキン!

 

「~~っ!?」

 

握るように指を動かし、関節を鳴らした理巧に、春花は倒れたまま器用に後ずさる。

 

「さて、“お仕置き”、かな?」

 

理巧はゆっくりと掌を開くと、春花に向けて手を伸ばしてーーーー。

 

 

ー雲雀sideー

 

「・・・・・・・・」

 

柳生を介抱したまま、理巧達に背を向けた雲雀は、少し耳を澄ませるとーーーー。

 

「んん! あぅ! はぅあっ! ううん!! や、やめあぅんっ!! だ、ダメェ~・・・・! こ、こんなぁぁ!・・・・う、ウソ! ウソよ!!・・・・い、いや!・・・・あうんっ!! わ、わたしが、こんな、こんなぁああああああああああんんっ!!!」

 

何やら春花が艶っぽい嬌声を上げているが、雲雀は何をしているのかなぁ? と、振り向くと。

 

「良し。これくらいで良いかな?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・///////」

 

一仕事終えた後のように額の汗を腕で拭う理巧と、顔を紅潮させて激しい運動をした後のように、その豊満な肢体を激しい呼吸で揺らし、口元に一筋のヨダレを垂らした春花だった。

 

「理巧くん? 一体何をしたの?」

 

「ん~? ちょっと“お仕置き”をしただけだよ・・・・っ!」

 

理巧はいつもの無表情でそう言うが、すぐに春花から離れると、春花は身体を縛っていた糸から逃れて、口元を拭って立ち上がる。

 

「よ、よくもこのわたしに! あ、あんな激しい事を・・・・!///////」

 

まだ顔を紅潮させた春花が怨めしそうに理巧を睨んだ。

 

「まだ、やるの?」

 

「♥️♥️♥️っっ!!////////」

 

が、理巧がジロリと鋭く睨むと、春花は身体を抱き締めるように身悶え、先ほどまでの怒りと裏腹に、心に奇妙な恍惚感が渦巻き、体の芯が燃えるように熱くなる。

すぐにハッとなって理巧と雲雀を睨む。

 

「ふ、ふん! 今日の所は、これで終わらせてあげるっ!」

 

春花は耳に着けていたイヤリングを、雲雀に投げ渡した。

 

「えっ?」

 

「それは“お友達の証”。大事にしてよね」

 

「・・・・一つ、聞いておきたいんだけど」

 

「っ! な、何よ・・・・」

 

「アンタ達は、どこで『怪獣のカプセル』と『怪獣を具現化させる人形』を手に入れた?」

 

「・・・・『オーナー』から支給されたのよ」

 

「『オーナー』? 誰だそれは?」

 

「~~~~~! い、言える訳、無いでしょう・・・・!」

 

春花は理巧の視線に悶えながらそう言って、結界から消えようとしていた。

 

「この屈辱は、必ず晴らさせて貰うわよ・・・・!」

 

「その時も、“お仕置き”、してやりますよ」

 

「~~~~~!!」

 

理巧に言われた“お仕置き”の一言に、また身悶える春花は、そのまま姿を消した。

 

「・・・・雲雀ちゃん。少しここを離れるね。他のみんなの所に行ってみる」

 

「理巧くん」

 

「大丈夫。すぐに戻るよ」

 

理巧は、他に見つけた綻びを攻撃すると、そこから別の結界に出た。

するとそこには、黒いゴスロリの衣装を小柄な女の子、未来が目を回して倒れていた。

 

「ふにゃふにゃふにゃふにゃ・・・・」

 

「・・・・・・・・見た感じ、どうやら柳生さんが交戦した相手のようだ。ここはハズレか・・・・」

 

理巧は落胆したが、未来を見下ろすと怪我をしている様子が見え、捕虜として捕らえようかと、春花を拘束した糸の残りを取り出すが、その時ーーーー。

 

「無視、するなぁ・・・・アタシを、無視、するなぁ・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

未来が呟いた寝言を聞くと糸を懐にしまい、未来の手当てをした。

 

「ん?・・・・んんん!!?」

 

と、ようやく未来の目が開くが、パチパチと瞬かせた。

何故なら、標的である暁月理巧が、自分の怪我を手当てしていたからだ。

 

「な、なにしてんのよアンタ?!」

 

「あっ、起きた」

 

「起きた。じゃないわよ! 何で手当てなんかしてんのよ!!」

 

「・・・・・・・・ちょっとした気まぐれだよ。戦うって言うなら、相手になるよ?」

 

「ひっ・・・・!!」

 

冷徹に自分を見据える理巧に、未来はビクッとなり、コンディションも最悪な状態だから仕方なく手当てを受けた。

 

「・・・・・・・・無視されるって、結構堪えるよね?」

 

「えっ・・・・?」

 

「僕も経験あるよ。何もしていないのに。何もやってないのに。ここにいるのに。何で無視するの? 何でこんなことをするの? ってね。無視されるって、まるで自分が必要の無い存在。居ない者扱いされているようで、辛いよね・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

未来は理巧の言葉が虚言ではないと、何となく理解した。それは、語っている理巧の眼差しが、先ほどの冷酷なモノではなく、“当時の自分と同じ瞳”をしていたからだ。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥と焔の戦いも、佳境に来ていた。

飛鳥は、六本の刀を巧みに扱う焔の戦法に、次第に追い詰められていった。

 

「その程度か?!」

 

「くっ、まだまだぁ! 『秘伝忍法 二刀繚斬』!!」

 

「くぅ! なかなかの攻撃だな・・・・!」

 

飛鳥の放った斬撃で、焔も下着状態になった。

 

「『秘伝忍法』が通じてない!? そんな・・・・!」

 

「お前達とは鍛え方が、違うんだよ!!」

 

「あああああああああああああ!!」

 

焔は炎を纏った三本の刀の斬撃で、飛鳥を斬りつけ、飛鳥は倒れた。

 

「良く分かったろ! お前らみたいな甘い奴らが敵うはずないのさ!!」

 

「うぅ・・・・みんなは、大丈夫なの・・・・?」

 

「お前に仲間の心配をする余裕があるのか? それが甘いって言うんだよ! 頼れるのは自分だけだ!!」

 

焔の言葉に、飛鳥はヨロヨロと立ち上がる。

 

「それで、良いの・・・・?」

 

「何?」

 

「それじゃ、ずっと独りぼっちだよ・・・・焔ちゃん、本当にそれで良いの?」

 

「今度は私に説教か!? お前どこまで私を!」

 

その時、結界が歪んだ。

 

《撤退よ》

 

そして、他の結界にいる一同に、春花の声が響いた。

 

《未来や未来が相手をしていた忍のせいで結界が不安定になったわ。目的もある程度果たしたし、撤退よ》

 

 

ー理巧sideー

 

「どうやら、ここまでのようだね? 未来さん、で良いかな?」

 

「・・・・ええ」

 

春花の声は、理巧と未来のいる結界にも響いていた。

 

「次に会ったらまた敵同士になるけど、その時は容赦しない。振り掛ける敵は必ず潰すからね」

 

「・・・・望むところよ」

 

未来は立ち上がると、結界に向かって歩こうとするが、立ち止まり。

 

「・・・・礼は言っとくわ。手当て、ありがとう」

 

そう言って、未来は足早と歩を進めていった。

 

「さて、結界がそろそろ崩れるか・・・・」

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「ちっ、ここまでか・・・・!」

 

「焔ちゃん!」

 

「お前のような甘い奴が、忍を名乗るだなんて私は認めない! お前に比べれば、あの暁月理巧って男の方が忍に向いている!」

 

「理巧くんが・・・・!」

 

「お前に『伝説の忍の孫』を名乗る資格はない!」

 

「え・・・・」

 

それだけ言うと、焔は背を向けて去っていった。その時、結界が解け、飛鳥の隣に斑鳩と葛城が現れた。

 

「結界が解けたようね・・・・」

 

「逃げやがったのか?」

 

「斑鳩さん! 葛姉ぇ!」

 

そして柳生を抱えた雲雀と少し離れた位置に理巧がが現れた。

 

「柳生ちゃん・・・・柳生ちゃん・・・・!」

 

「「「柳生(ちゃん)(さん)!?」」」

 

「柳生!!」

 

「っ。ん?」

 

飛鳥達が驚きの声を上げ、霧夜先生もその場にやって来た。

すると、理巧が駆け寄ろうとした瞬間、カプセルホルダーから光が漏れ、開いて光の発生源のカプセルを手に取る。

 

「なるほど・・・・葛姐さん!」

 

「ん?! これは・・・・!」

 

理巧に投げ渡されたそれは、『コスモスカプセル』だった。

 

「カプセルを起動させて! 早く!」

 

「わ、分かった!」

 

ファッ!

 

葛城がカプセルを起動させると、葛城の手が淡く光った。

 

「これって、もしかして・・・・!」

 

葛城が光る手を柳生に添えるとーーーー。

なんと、柳生の身体の傷が癒されていった。

 

「これって!」

 

「リトルスター能力・・・・!」

 

「ぅっ・・・・!」

 

「柳生ちゃん!」

 

柳生の意識が少し覚醒した。

 

「どうやら、それぞれの宿主となったカプセルの力を、発現できるようになったようだね」

 

「なるほどな。へへへ、柳生。アタイに感謝しろよ? お礼としてその85のDカップおっぱいを揉みまくってやるぜ~!」

 

「あぁ、感謝する、理巧・・・・。それに、ウルトラマンコスモス・・・・」

 

「おい! アタイにも感謝しろよ!!」

 

 

 

ー雲雀sideー

 

それから柳生は大事をとって、善忍の非公式の国立医療機関である『国立忍病院』に入院した。

ベッドの上で横になる柳生に、付き添いの雲雀が話しかけた。

 

「ゴメンね、ゴメンね柳生ちゃん・・・・。雲雀の為に・・・・」

 

柳生は雲雀の手をとる。

 

「気にするな雲雀」

 

「柳生ちゃん、でも・・・・」

 

「もうケガは癒えている。心配は無い」

 

「うん・・・・あ、雨だ」

 

ふと窓の外の雨を見た雲雀は、入学式で柳生と初めて会った時の事を語り合った。

 

「そう言えば、理巧やみんなは?」

 

「今ね、今日の事を話し合っているよ。後で理巧くんも見舞いに来るって!」

 

「そうか・・・・」

 

雲雀の言葉に、柳生は口元に笑みを浮かべた。

 

 

ー理巧sideー

 

ペガも加えた理巧達は、本日の反省のような話し合いをしていると、蛇女子の強さに己の不甲斐なさで沈んでしまう飛鳥と斑鳩と葛城。

 

「ならば、もっと強くなればエエんじゃ」

 

すると突如、飛鳥の祖父、半蔵が現れた。

 

「じっちゃん!」

 

「「半蔵さまっ!?」」

 

「いらしてたんですか?」

 

「唐突ですね」

 

「うむ。『猫』が、騒ぎを知らせに来たのでな」

 

「(『猫』?)」

 

≪あの時の『猫』か≫

 

「ほれ、ペガくん。今日は主も太巻きを食するとええ」

 

『わーい!!』

 

それから一同は太巻きを頬張るが、飛鳥は焔に言われた事を、祖父に切り出せなかった。

 

 

ー霧夜先生sideー

 

そして解散した後、霧夜先生と半蔵はゼロも交えて話し合いを始めた。

 

「『秘伝忍法』すら敵わなかったか・・・・」

 

「敵は相当な修練を積んでいるものと思われます」

 

「蛇女子学園の生徒は、修行中に大怪我どころか死人も出ていると言う」

 

「っ! まさか・・・・!」

 

「未確認の情報じゃがな・・・・」

 

「しかし、彼女達が身を削り、文字通り生き残った者達だとしたら、あの年齢で理巧にも匹敵するかもしれない力も・・・・」

 

霧夜先生も、勿論理巧の実力は鷹丸達から聞いている。

すでに上忍級の理巧に匹敵する忍が五人もいるとなると、飛鳥達では荷が重い。

半蔵もそれを察したのか、声を発する。

 

「霧夜よ。『超秘伝忍法』の『継承者』を選ぶ時が来たのやも知れん」

 

「『超秘伝』・・・・」

 

≪『忍法』・・・・?≫

 

霧夜先生は神妙に、ゼロは訝しそうに呟いた。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

翌日。柳生が退院し、みんなで喜んでいると、霧夜先生が神妙な顔で口を開いた。

 

「全員揃った所で、話がある」

 

『???』

 

首を傾げる生徒達に、霧夜先生は『超秘伝忍法』の事を説明した。

それを聞いて理巧とペガを除いた女子陣は、自分が『継承者』になると騒ぎ出すが。

 

「今のお前らでは誰もその資格を有しておらん」

 

半蔵にそう言われ、口を紡ぐが、葛城は頑張って修行すればと言うが。

 

「そう簡単な話ではないぞ。『超秘伝忍法』の秘技を記した『秘伝書』は自ら、『使う人』を選ぶのじゃ」

 

「『秘伝書』が・・・・?」

 

「人を選ぶ・・・・?」

 

「・・・・・・・・」

 

「理巧くん」

 

「はい?」

 

「敵の目的は、もしかすると君に宿る、『ベリアルの細胞』なのかもしれん」

 

半蔵の言葉に理巧はピクッと反応し、飛鳥達も霧夜先生&ゼロも驚いた顔を浮かべた。

 

 

 

 

ー焔sideー

 

その頃焔達は、本拠地で上役の鎧武者に経過を話していた。

 

『奴らに『秘伝忍法』を使わせたのだな?』

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

『そしてその力より、お前達が優れているのを、分からせた?』

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

『よし。ご苦労だった』

 

「しかし、奴らを全員倒せず、標的の少年も確保できず、残った『カプセル』と『人形』も失い、その上、こちらも一人、イエ、二人が・・・・」

 

焔の言葉に、未来と春花はバツが悪そうに顔を俯かせた。

 

『此度の忍務は敵の殲滅に在らず。少年の方も急がなくても良い』

 

「ですが!」

 

『弁えよ焔』

 

「っ!」

 

『忍は与えられた忍務を確実に果たす事。それだけの存在』

 

「・・・・承知しております」

 

鎧武者の言葉に、焔は渋々と声を発する。

それから解散した広間に焔だけが残り、飛鳥の言葉が脳裏に浮かんだ。

 

【ずっと独りぼっちだよ・・・・焔ちゃん、本当にそれで良いの?】

 

「・・・・・・・・」

 

 

ー未来sideー

 

「この屈辱、あの娘! あの娘!! 絶対許さない!!・・・・・・・・それに、アイツも・・・・」

 

鏡に写った自分の怪我を見て、柳生への怒りを燃やすが、同時に理巧の顔が浮かび、若干顔を赤らめた。

 

 

 

ー日影sideー

 

「・・・・・・・・やっぱり、分からん」

 

日影も夕焼けを眺めながら、額の傷を擦った。

 

 

ー詠sideー

 

「あの高慢なお嬢様! 次は必ず! モヤシの味を教えてあげますわ!!」

 

自室でモヤシの栽培をしていた詠も、斑鳩への憤怒を燃やす。

 

 

ー春花sideー

 

「ウフフ、面白くなりそう・・・・ウフフ」

 

春花はもう片方の耳飾りと、理巧の写真を眺めがらほくそ笑んでいた。

 

 

ー???sideー

 

そして、霧夜先生と話をした黒猫が、着古した学ランと、豊満な胸にすすけたサラシを巻いた、ごわごわした黒髪の女性の足にすり寄った。

 

 

ー伏井出sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪・・・・」

 

伏井出ケイは鼻歌を口ずさみながら、チェス盤の盤上にこれまで集まった『怪獣カプセル』を並べ、その中からどす黒いオーラを放つカプセルを並べた。

『バラバ』。

『キングクラブ』。

『ハンザギラン』。

『ベムスター』。

『シーゴラス』。

そして『レッドキング』の『怪獣カプセル』だ。

 

「さて、次はどんな展開になるかな?」

 

まるで、全てが予定通り、全てが自分の意のままに動いているのと謂わんばかりの笑みでそう言った。

 

 

 

 




さて、今回の話で理巧は、春花と未来とフラグを建てました。


ー次回予告ー

『超秘伝忍法』を体得できる『継承者』となるために、飛鳥さん達は更なる修行に打ち込む。
しかし、僕達の前に昭和の番長みたいな格好の女性が現れて攻めてきた。一体何者なんだ?
そんな面倒な状況で、またもや怪獣が出現した。
この女の人も、蛇女子の忍なのか? そして、蛇女子の狙う僕の中の『ベリアルの細胞』って・・・・?


次回、『閃乱ジード』

【戦慄のハイキング】

決めるぜ、覚悟!


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戦慄のハイキング
これから、ハイキング?


ー飛鳥sideー

 

「・・・・っ、はっ!」

 

飛鳥はその夜。焔に敗北し、【伝説の忍<半蔵>の孫を名乗る資格は無い】と言われた事が夢に出て、飛び起きてしまった。

そしてその光景を、一匹の猫だけが見ていた。

 

そして、翌日の朝。

前回の蛇女子の奇襲で敗北した飛鳥達は、沈んだ顔で登校していた。唯一勝利を収めた柳生はいつも通りだったが。

 

「なんだよ皆、朝から元気ねぇ、な!」

 

そんな空気に耐えかねて、葛城が斑鳩のスカートをペロリっと捲った。

 

「きゃぁっ! か、葛城さん! 朝から何してるんですかっ!?」

 

「まぁた蛇女の連中にかちこまれた事を気にしてんのか? 次に勝てば良いだろう?」

 

「ふぅ・・・・良いですね貴女のような能天気な方は!」

 

「だ~れが能天気だ!!」

 

葛城はツンとソッポを向いた斑鳩のスカートを捲って通り過ぎた。

 

「きゃぁっ!!」

 

「ハハハハ・・・・!」

 

「ホントにもうあの人は!」

 

憤慨する斑鳩だが、葛城は顔に真剣な様相を浮かべていた。

 

「凹んでたって、奴等には勝てねぇだろ・・・・」

 

葛城も能天気な態度を取っているが、本心は敗北の悔しさがあったが、他の皆を景気付ける為にあえてふざけているのだ。

 

 

ー霧夜sideー

 

霧夜先生は、自室で始末書を書いていた。そんな霧夜の横の窓に、猫の影が現れた。

 

「先日の始末書か?」

 

「はぁ、せめて報告書と言ってくれ。俺の責任に違いないがな・・・・」

 

それから猫の影は、先日の奇襲は学園の事を熟知した者の手引きと言うが、霧夜先生は『裏切り者』などあり得ないと言う。

 

「師も薄々は気づいておろう? 『あの人』ならば・・・・」

 

「っ!!」

 

≪『あの人』ってのは、最近お前が口ずさむ、『凜』って名前の人物か・・・・?≫

 

猫が呟いた言葉に霧夜先生は身を強ばらせ、ゼロが話に入った。

 

「あぁ、だが・・・・『凜』は死んだ、忍務に失敗してな」

 

「『忍務で落命せしは忍の誇り』。だが、その屍を見るまでは諦められぬ。そして、我は見つけた」

 

「見つけた?」

 

霧夜先生の隣に、いつの間にか『猫の影の声の主』が暗闇に立っていた。

 

「その装束には、『悪忍の気』が宿っていた」

 

「『悪忍の気』だと?」

 

「我の交戦した悪忍とは、比較にならないほどの邪悪な気だった」

 

「・・・・(では、あの時現れたのは・・・・)」

 

島で会った『凜の影』を思い返していた。

 

「師なら、いや師であるからこそ、分かっておろう。蛇女子学園の娘達の技を。あれは『あの人』の使っていた無数の持ち技の応用」

 

「俺は報告だけで直接は見ていない。イヤだからこそ、俺に見られないよう画策されていたのか?」

 

「『覚悟』は有るか、師よ?」

 

「っ!」

 

「蛇女子学園はおそらく異星の者達とも手を組んでいる。“あの『閃忍』達”が手塩にかけて育てた少年<暁月理巧>は、とっくにこの戦いに臨む『覚悟』を決めている。だが師よ、あなたも教え子達を、これ以上この戦いに『巻き込む覚悟』が出来ているのか?」

 

「っ・・・・・・・・」

 

そう言って、影の人物は姿を消した。

 

「おじさん。少し良いかな?」

 

すると、それを見計らったように、理巧とペガが、霧夜先生の自室に入室してきた。

 

「・・・・理巧。お前気づいているか?」

 

「・・・・深く聞かないよ。今はね・・・・」

 

「・・・・そうか」

 

『???』

 

ズバ抜けた感知能力を持った理巧は先程の人物に気付いているが、霧夜先生から話さない限りは追及するつもりはないようだ。ペガは気付いていないが。

理巧のこう言った他人との一定の距離感を持って接するところを霧夜先生は好ましくも思っている。

 

「・・・・理巧、お前はこれ以上この戦いに関わるつもりは?」

 

「先日、半蔵のおじいさんにあんな話を聞かされなければ、じゃもう関わるの辞めます。て、言えたんだけど、そうも言えない状況でしょう?」

 

「・・・・確かにな」

 

それは先日、飛鳥の祖父、『伝説の忍 半蔵』から聞かされた話であった。

 

 

* * *

 

 

【敵の目的は、もしかすると君に宿る、『ベリアルの細胞』なのかもしれん】

 

【・・・・それって、どういう事ですか?】

 

【うむ。『さる情報筋』から得た情報によると、今までお主が相手取った合体怪獣、いや融合怪獣を縮めて『融合獣』と呼ぶべきか、その融合獣達から、お主の変身するウルトラマンジードと同じように、『ウルトラマンベリアルの反応』が合ったのだ】

 

【『ベリアルの反応』?】

 

【あっ! もしかして、ウルトラマンベリアルが変身しているのっ!?】

 

【(デュォォン)いや、それは無いぜペガ。ベリアルだったらこんな回りくどいやり方はしねぇし、もしヤツなら俺が気配を感知できない訳がない】

 

【ゼロの言うとおりじゃ。それに反応と言っても、ベリアルと同じようなエネルギー反応があったと言う事じゃからな。・・・・いずれにせよ、“蛇女子に協力し『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を与えている者”がもし融合獣と何かしら関係があるとすれば・・・・】

 

【その『協力者』さんは、僕の体内のベリアルの因子、『ベリアル因子』と呼ぶか、それを手に入れて、宇宙人達にでも売り捌くとでも?】

 

【うむ。その可能性は十二分に有る。『ベリアルの力』は善くも悪くも悪徳宇宙人達には、活用できればとてつもない利益を生む『宝物』のような物じゃ。『協力者』が蛇女子の悪忍を使って君を捕らえようとするのも、それが狙いかもしれん。暁月理巧くん。気を付けるのじゃ、蛇女とその協力者は君を狙っている以上、油断はできんぞ】

 

【・・・・・・・・】

 

それから理巧はそのまま静かに沈黙していた。

 

 

* * *

 

 

「半蔵さんが言ってた『さる情報筋』って、なんですか?」

 

「それは斑鳩達にも言っておいたが、まだお前達が知る事は出来ない。何しろその『情報筋』はかなり特殊な立ち位置にあるからな。知りたければ、キチンと卒業して、実積を積み重ねていれば知らされる事だろう」

 

「葛姐さんあたり、不満タラタラだったんじゃないの?」

 

「まぁ、飛鳥達も不満そうな顔をしていたがな。・・・・それで、お前はどうするつもりだ?」

 

霧夜先生がそう聞くと、理巧は『ジードライザー』を取り出して見せた。

 

「・・・・そんなの決まっている。この『ジードライザー』を手にした時から、『ウルトラマンジード』として戦う以上、戦いの覚悟は出来てる。それが『運命』だって言うんなら、受け入れて、立ち向かう・・・・!」

 

≪こりゃもう関わるなって言っても、聞く耳持たねぇな?≫

 

「(・・・・の、ようだな)・・・・分かった。だが、鷹丸達には・・・・」

 

「おじさん・・・・」

 

「っ!」

 

理巧の保護者達にこの事態を報告しようかと言おうとしたが、理巧が、静かに、冷たく、そして鋭い視線で睨む。

 

「もしもこの事を鷹丸さん達に言ったら、ボク・・・・本気で怒るよ? 鷹丸さん達だけには、絶対に言わないでよね?」

 

「・・・・保護者達の許可を貰わんといかんだろう。俺の立場上としても、アイツらの友人としても、お前の教師としてもな」

 

「・・・・・・・・」

 

「お前の実力は鷹丸達のお墨付きだが、“もしも”の時があったら報告するからな」

 

霧夜先生がそう言っても、理巧の目から鋭利な気配は消えなかったが・・・・。

 

『理巧、駄目だよ・・・・。鷹丸さん達だって理巧の事を心配してるんだから、ね?』

 

「・・・・・・・・・・・・分かったよ」

 

ペガが宥めると、その気配は薄れた。

 

≪ほぉ、ペガのヤツやるなぁ・・・・!≫

 

「(理巧の鋭利な気配が、鷹丸達以外の言葉で止まるとは・・・・)」

 

ゼロと霧夜先生は、ペガの以外な一面に面食らった。

 

「ん、んん! それで理巧。お前がここに来たのは、わざわざ意思表示の為だけではないだろう?」

 

驚嘆はすぐに消して、霧夜先生がそう言うと、理巧も気を取り直して、『カプセルホルダー』から、『4つのウルトラカプセル』を取り出した。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

それから、地下修練場でーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・』

 

「・・・・・・・・」

 

≪・・・・・・・・≫

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

理巧と飛鳥とペガと霧夜先生とゼロは、地下の修練場にて、それぞれの『リトルスターの宿主』となった『ウルトラカプセル』を持った斑鳩、葛城、柳生、雲雀の様子を見ていた。

四人はそれぞれの『ウルトラカプセル』を起動させた。

 

デャッ!

 

「・・・・はぁっ!!」

 

斬!!

 

『ヒカリカプセル』を持った斑鳩が、飛燕を振るうと、飛燕の刀身に光が纏い、光の斬撃が飛びだし、斑鳩の目の前にあった大岩をまるでプリンでも斬るように真っ二つにした。

 

ィヤーッ!

 

「え~い!!」

 

ボボボボボボボボボボ・・・・!

 

『レオカプセル』を持った雲雀が柳生に向かって手を伸ばすと、手のひらから火炎が放射された。

 

ダーッ!

 

「ーーーー!!」

 

カキーン!

 

『セブンカプセル』を持った柳生が手を差し出すと、手のひらから亀甲形の障壁を展開し、雲雀が出した火炎を防いだ。

 

フワァッ!

 

「よっと」

 

ポォッ・・・・!

 

『コスモスカプセル』を持った葛城は、この間の蛇女子の襲撃で負傷した小さな傷を癒した。

 

「うわぁ~! みんな凄いよ!」

 

『『リトルスター』の能力を完全に使えるようになったんだね!』

 

そう。前回の蛇女子の襲撃で春花の秘伝忍法の攻撃で重傷を負った柳生の傷を癒すために、葛城が『コスモスカプセル』を起動して回復をおこなう事ができた。

それからもしかして、『リトルスターの宿主』だった斑鳩と雲雀と柳生も、同じようにできるのではと理巧は考察し、試しにやってみればご覧の通りだった。

 

「まさかあの時の斬撃が、『リトルスター』によるものだったとは・・・・」

 

「雲雀。火を出す能力なんてちょっと恐いなぁ・・・・」

 

「贅沢言うなよ雲雀。アタイだって、本音を言うと攻撃能力系が良いと思ってンだからよ」

 

「オレもだ」

 

「いや、ある意味必要な能力だと思うよ」

 

葛城と柳生は、回復能力と防御能力に不満あり気に言うが、理巧は否定した。

 

「あん? どういう事だよ理巧?」

 

「だって葛姐さんって、防御とか考えずに攻撃一辺倒な所があるからね、常に生傷とか絶えなさそうだし、回復能力ってのはある意味ピッタリじゃない?」

 

「ぬぐぅっ!」

 

理巧の言葉に葛城は反論できず、飛鳥達も霧夜先生も「あぁ~~」と、納得したように声を漏らした。

 

「それに、柳生さんもこの間の襲撃の時のような事態があるから、防御能力は雲雀ちゃんを守る為にも必要になると思うよ」

 

「ふむ・・・・。それもそうだな」

 

柳生もすこし思案するように顎に手を置いて考えると、納得したように頷いた。

 

「斑鳩姉さんも、『飛燕の強化と光の斬撃』は相性の良い能力じゃない?」

 

「ええ。ですが、“カプセルの力に頼っている”ようで、少し複雑な気分ですけどね」

 

理巧の言葉に斑鳩は複雑そうに苦笑いを浮かべる。

 

「雲雀ちゃんも、自分の身を守る為にも、戦闘特化の能力は必要だよ」

 

「うん・・・・でもやっぱり恐いなぁ・・・・」

 

雲雀もまた、複雑そうな顔をしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そしてそんな会話をしている一同から離れた場所にいる飛鳥は、少し目を伏せる。自分には『リトルスター』の能力がない。それが僅かに焦燥感を感じていた。

 

「さて、そろそろ出発するぞ」

 

霧夜先生が手をパンパンと叩くと、一同は霧夜先生に目を向けた。

 

「先生。出発するとは?」

 

「な~に、ちょっとした“楽しいハイキング”だ」

 

『“楽しいハイキング”?』

 

霧夜先生の言葉に、理巧達は首を傾げた。

 

 

 

 

それからエースキラーとの戦闘が起こった修行場から離れた場所に行くと、とてつもなく不気味な雰囲気が漂う山を遠くから眺めていた。

 

「こ、この山を登るんですか?」

 

「ああ」

 

「“楽しいハイキング”って言うより、“危険な秘境体験”みたいな感じなんですが?」

 

「それに近いかも知れんなぁ!」

 

「近い・・・・?」

 

すでに忍転身している飛鳥達は、遠く聳える山を見て呟いた。と、そこで斑鳩が身を乗り出す。

 

「こ、これはもしや! あの『禁断の修行』といわれる?!」

 

「流石だな斑鳩」

 

霧夜先生が肯定すると、斑鳩は顔を青ざめさせた。

 

「や、やはり・・・・!」

 

「斑鳩姉さん?」

 

「どういう事だ?」

 

「数年前に一度行われ、あまりに危険過ぎる為に行われる事が無くなった修行・・・・その名も! 『這緊虞』っ!!」

 

『スッゴク無理矢理漢字にしているね?』

 

「昔のヤンキー用語みたい」

 

≪忍って奇妙な用語を作る文化でもあるのかよ?≫

 

ペガと理巧とゼロが呆れた様子で呟くが、霧夜先生が『這緊虞』を詳しく説明した。

 

「『這緊虞』とは、主に生存術を強化するため、最低限の装備のみで、極限空間を丸二日間生き残り、さらに与えられた忍務をまっとうすると言う、忍にとって最も過酷な修行の1つだ」

 

「わ、私の知ってるハイキングじゃない・・・・!」

 

「ひ、雲雀のとも違う・・・・!」

 

飛鳥はドン引き、雲雀も涙目になった。

 

「この山の頂上に、『ある巻物』を用意した。その巻物を手に入れた者を勝者となる」

 

「ウフ。全員がライバル、と言う事訳ですか」

 

「面白いじゃないか!」

 

「雲雀は普通のハイキングが良かったな・・・・」

 

「安心しろ。雲雀はオレが守る」

 

「が、頑張らなきゃ・・・・!」

 

飛鳥達(雲雀は除く)は気合いを入れるが、理巧はコッソリ逃げようとしていた。

 

「どこに行こうとしている理巧? お前も勿論参加だ」

 

が、その襟首を霧夜先生に捕まれた。

 

「あ、やっぱり・・・・」

 

「もしもの状況に備えて、通信機は持っておけよ。それでは、行けー!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

「は~い・・・・」

 

理巧達はその場から消え、山へと向かった。

 

「ペガくん。君は基地に戻って、レムと共にみんなの居場所を把握しておいてくれ」

 

『は~い!』

 

ペガは元気よく答えると、転送エレベーターに乗って基地へと向かった。

そして、霧夜先生の足元に『黒猫』が現れた。

 

「真意は不明なれど、あの6人が敵の標的なのは明らか。あの6人、その特性は評価に値するが、成長に今一つ伸びが不足せしは、師自身にある躊躇」

 

「・・・・・・・・」

 

黒猫からの言葉に、霧夜先生は黙秘をしていた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

理巧達は凧に張り付いて山の麓にいた。

 

「いきなりハードなんですけど・・・・よ、よーし! たぁっ! 『忍法 ムササビ飛空』!!」

 

『忍法ムササビ飛空』とは、特殊繊維で織られた幕を滑空翼<マント>とし、高所から地上へ降り立つ、空中移動術の一つである。

 

 

「着地、失敗・・・・」

 

麓の森に降り立った飛鳥は着地に失敗して、森の木の枝に引っ掛かっていた。

 

「よっと、あれ? 飛鳥さん?」

 

「えっ? り、りっ、理巧くんっ!?」

 

何と。飛鳥の近くの枝に、同じように『ムササビ飛空』でやって来た理巧が降り立ち、見事に着地した。

 

「・・・・どうやら、他のみんなも別々の地点にいるようだね」

 

「あの、理巧くん・・・・」

 

「ん?」

 

「その、一緒に行かない?」

 

飛鳥がそう言うと、理巧は顎に手を置いて少し考える。

 

「ま、良いよ。一緒に行こうか?」

 

「うん!」

 

二人は地面に着地して、そのまま歩き出した。

 

「それにしても、理巧くんどうやって『ムササビ飛空』を覚えたの?」

 

「・・・・師匠達に教わったんだよ」

 

「師匠達?」

 

「そう・・・・(僕って、知らず知らずにハルカさん達に『忍術』を叩き込まれたのかな?)っ!」

 

突如理巧が、バッと上空に鋭い視線を送った。

 

「?? どうしたの?」

 

「・・・・いや、誰かに見られている気配を感じたんだが」

 

「霧夜先生じゃないかな? 影で私達の事を見守ってくれているんだよ!」

 

「そう、だと良いけどね」

 

霧夜先生の気配ではない、『悪意ある気配』に、理巧は警戒した色を浮かべていた。

 

 

 

 

 

ー伏井出sideー

 

「フフフ、中々面白い趣向ですね」

 

伏井出ケイは空中ディスプレイに映し出された理巧達の状況に、ほくそ笑みを浮かべていた。理巧が感知したのは、この伏井出ケイの気配だったのだ。

 

「さて、こちらも少々楽しませて貰いましょうか?」

 

チェス盤に置かれた大量の『怪獣カプセル』の中から、1本の『怪獣カプセル』を手にとって、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

ー???sideー

 

グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・。

 

飛鳥達が向かった山の中で、異形の生物が起きようとしていた。



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這緊虞だぜ、飛鳥さん!

今回、ウルトラ怪獣のアイドル登場!


ー理巧sideー

 

忍の修行『這緊虞』へとやって来た理巧達は、それぞれに分断されながらも、目的地である山の頂上へと向かった。

 

「(1日で頂上に着くのは不可能だな。スタミナ配分を考えると、行けるところまで行ってから野営して夜間の休憩ってところか・・・・・・・・斑鳩姉さんと葛姐さんは、このまま進んでいれば夜頃に合流するな。雲雀ちゃんと柳生さんは間もなく合流できるな)」

 

「あっつ~い・・・・。本当にここ日本?」

 

理巧は、ズバ抜けた気配探知能力で他のみんなの居場所をだいたい把握していると、後方から付いてくる飛鳥の言葉に、あらためて森を見る。

熱帯雨林のようなジメジメとした湿度と気温に、頬から一筋の汗が流れた。

 

「確かに、熱帯雨林ってこんな感じ・・・・!」

 

理巧はバッと後ろを振り向き、首に巻いていたマフラーをほどいていた飛鳥に向かうと、グイッと抱き寄せた。

 

「えっ!? り、りっくんっ!? な、ななななにしてンのっ!? こ、こんなところでそんな嬉しーーーー」

 

と、頬を赤らめた飛鳥の目の前で、“上からボトボトと落ちてきた物”を見て、顔を青ざめた。

 

「こ、これって・・・・!!」

 

「ヒル、だね・・・・」

 

それは、飛鳥の指くらいの大きさはあろうかと言うほどの、環形動物のヒルだったーーーー。

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!」

 

飛鳥の悲鳴が、うっそうとした森に響いた。

 

 

ー葛城sideー

 

「さ、寒い・・・・! 本当にここ日本かよ・・・・っ!」

 

その頃の葛城は、到着した雪山が吹雪になって、視界が悪く、降り積もった雪のせいで、前に進みにくくなっていたが、突如目の前にーーーー。

 

グルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

なんと、3メートルはあろう巨大な白熊が現れた。

 

「はぃぃぃぃぃぃぃっ!? 北極じゃねぇんだぞっ!!」

 

 

ー斑鳩sideー

 

斑鳩は川の断崖にある小さな岩場を足場に頂上へ向かったいたが、断崖から吹き抜ける風の勢いに、身体が揺れる。

 

「今にも飛ばされそうですわ・・・・っ!!」

 

ふと足元を見ると、太いマムシのような蛇がチロチロと舌を出しながら、斑鳩の足に巻き付いて登ってきた。

 

「あぁっ!! (この蛇、なんて禍々しく、イヤらしい気配を・・・・!)」

 

 

ー柳生sideー

 

柳生は番傘を逆さにし、舟のようにして、川を下りながら雲雀を探していた。

 

「・・・・雲雀はこの辺りにいるな」

 

雲雀が着地した地点に近づき、辺りを見渡す柳生。

しかしその時、川の中から一匹の魚が飛び出し、柳生のスカートの一部を噛みちぎった。

 

「なっ! しまった・・・・!!」

 

次々と襲い来るように川から飛び出す魚は、ピラニアだった。

 

「ピラニアだとっ!? アマゾンかこの山は・・・・!」

 

 

ー霧夜先生sideー

 

「この『締魔破空<テイマパクウ>』は、ただの山ではない! だがお前達なら、必ずやり遂げてくれるはず!!」

 

≪んで、その『締魔破空』ってなんなんだよ?≫

 

凧飛行で飛んでいるサングラスを掛けた霧夜先生にゼロが訊く。

 

『締魔破空<テイマパクウ>』。あえて過酷な状況に陥るようなカラクリが無数に設置された特殊な修行空間である。

 

≪(こりゃウチの親父や師匠にも匹敵するかもな・・・・)≫

 

 

ーペガsideー

 

「レム。みんなはどんな感じ?」

 

『斑鳩は断崖の地点に確認。葛城は雪山の地点に確認。二人はこのまままっすぐに進めば夜間に合流します。柳生は川の地点にいますが、雲雀が向かっており間もなく合流します。理巧と飛鳥は森を抜け湖に到着します』

 

ペガは秘密基地にて、理巧達の現在位置を把握しているレムに状況を聞くと、レムは淡々と答えた。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「はぁぁ~・・・・。まさかあんなに大きくて大量のヒルと遭遇するなんて・・・・」

 

盛大なため息を漏らす飛鳥の声を聞きながら、理巧は森を抜け、大きな湖に到着した。

理巧は手のひらで湖の水を掬うと、口に運んで飲んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・うん、大丈夫だ。これなら飲み水として持ち運びができる」

 

「えっ、本当?! 良かったぁ、森を抜けるまでお水を飲み干しそうだったから助かったね!」

 

飛鳥は中身がほとんど無くなった竹筒を持ち出すと、湖の水を入れようとしたその瞬間ーーーー。

 

「っ!! 飛鳥さん!」

 

「えっ? うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

突然湖の中から出てきた巨大な尻尾が胴体に巻き付き、飛鳥は湖に引きずり込まれ、尻尾の先からとてつもなく巨大なウナギ?が現れた。

 

「ウ、ウナギっ!? ううん違う! 髭があるからドジョウだっ!!」

 

「ドジョウって最大でも20㎝なのに、こりゃ20メートル以上はある大きさだね」

 

「とか言ってる場合じゃな~い!! こうなったら! たぁあああああああああああああっっ!!」

 

飛鳥は空いている手で納刀している脇差しでドジョウの頭を盛大に殴った。

 

ーーーーゲェェェェェェェェェェ!!

 

ドジョウはそのまま目を回して湖に沈んでいった。

 

「ゴメンね、ドジョウさん・・・・」

 

「やれやれ、さて他のみんなは?」

 

飛鳥がドジョウに謝罪しているのを見た理巧は、気配探知で他のみんなの様子を探る。

 

「(・・・・葛姐さんも斑鳩姉さんは問題無く進んでいる。雲雀ちゃんと柳生さんは無事に合流したか)」

 

 

 

ー???sideー

 

ーーーーグルルルルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

『締魔破空』が展開された山に眠る異形は、自分の領地に侵入した侵入者達の気配に唸り声を上げていた。

 

 

ー飛鳥sideー

 

湖を伝って山を目指していた理巧と飛鳥は、すっかり日が落ちたので湖の近くで野営をすることにした。

身体も結構汚れたので、飛鳥はそのまま下着姿となって湖で水浴びをしていた。

 

「・・・・・・・・」

 

【お前に『伝説の忍の孫』を名乗る資格はないっ!】

 

焔に言われた言葉を思い出し、物思いにふける飛鳥。

 

ーーーーパシャン・・・・。

 

「ん?」

 

飛鳥は近くで水の音が聞こえ、不審に思って湖を泳いでその場へ向かい、ちょうど自分の姿が隠すのにちょうど良い草が生えていたので、そこで息を潜め、静かに草をかき分け、少し開けて見るとソコにはーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

「ーーーーっ!(り、りっくん・・・・!)/////」

 

理巧が裸体で水浴びをしていた。下半身は湖に沈んでいたが、上半身は水に濡れ、美しい緋色の髪と、華奢そうに見えて、細い身体に引き締まった筋肉をした肢体に付いた水滴が月明かりでキラキラし、女の自分ですら息を呑んでしまう美しさがあった。

 

「(あわ、あわわわわわわわ・・・・!)//////」

 

まぁりっくんも水浴びくらいはするよね、なんて思いながら、理巧の肢体に目が離せない飛鳥は、両手で顔を覆いながらも、指は開いて、そのままジッと理巧を見つめていた。

 

「(・・・・なにしてンだろ、飛鳥さん?)」

 

理巧も飛鳥の気配を察してはいたが、とりあえず無視したが、

 

「っ・・・・誰だ?」

 

「(ビクンッ!!)」

 

突然理巧が静かに声を発すると、飛鳥はバレたと思って身体をビクッ、と振るわせるが、理巧は飛鳥の方ではなく、別の方角にある草むらを睨んだ。

するとーーーー。

 

『キュ? キュワァッ!』

 

湖の草むらから出てきたのは、赤いギザギザの身体に1.0メートル位の体躯に、愛らしい顔と小さな手をした珍獣が二本足で立ち、挨拶するように手を上げた。

 

「(な、なにアレッ!?・・・・ちょっと可愛いかも・・・・)」

 

「『友好珍獣ピグモン』か・・・・」

 

飛鳥はピグモンに仰天するが、理巧は閲覧した怪獣のデータにあった個体であると知り、冷静にピグモンも見据えて近づく。

 

『キュワァ?』

 

「フッ・・・・」

 

理巧は静かに笑みを浮かべると、ピグモンに向けて声を発する。

 

「はじめまして。ここは君の生活圏なの?」

 

『キュワ!』

 

理巧の言葉に、ピグモンは肯定を示すように身体を揺する。

 

「へぇ、言葉は分かるんだ? ピグモンは元々それなりに知能が高いって知ってはいたけど・・・・」

 

「(あの動物、ピグモンって言うんだ・・・・)」

 

「悪いけど、少しの間この辺りで休ませてくれないかな? 明日の朝には出ていくから」

 

『キュ。キュワッ!』

 

ピグモンは了承したように身体を揺すると、少し離れ、大きな葉っぱに乗せた木の実や魚を持ってきて、理巧に差し出した。

 

『キュワッ!』

 

「えっ? くれるの?」

 

『キュゥッ! キュゥッ!』

 

「・・・・そうか、ありがとう」

 

理巧がお礼を言うと、ピグモンは嬉しそうにピョンピョンと跳ねながら去っていった。

 

「さて、夕飯も思わぬ形で手に入ったし、そろそろ上がるかな」

 

「(わっ! わわっ!! まずい!)」

 

飛鳥は水音を立てないようにその場を去った。とっくに理巧にはバレているのも気づかずに。

 

 

 

 

夜が明け、2人は霧夜先生からもらっていた地図で、山への近道となっている洞窟の中を歩いていた。

 

「理巧くん。みんなは大丈夫かな?」

 

「斑鳩姉さんと葛姐さんと合流して山を登ってる。柳生さんと雲雀ちゃんも、ジャングルを真っ直ぐに進んで山の頂上を目指している。心配は無いよ」

 

「・・・・理巧くんは凄いよね。気配探知はズバ抜けているし。天才って言われている柳生ちゃんと互角以上に戦えるし。・・・・それにウルトラマンジードとして怪獣とだって戦えるんだもの・・・・」

 

「・・・・飛鳥さん」

 

言いながら、顔を俯かせる飛鳥に、理巧は声を発すると、飛鳥は両手を前にだして振る。

 

「あっゴメンね! 別に悪気がある訳じゃ・・・・」

 

「いえ・・・・。あまり気負い過ぎなくても良いと思いますよ。師匠達曰く。【無理をしていると自分だけでなく、周りの人達にも心配をかけてしまう】、って言ってましたから・・・・」

 

「む、無理なんてしてないよ! 私は、『伝説の忍の孫』なんだから!!」

 

ーーーー笑止っっ!!!

 

「「っ!!」」

 

突然洞窟内に響いた声に、2人は身構える。

 

ーーーー『伝説の忍』。その孫にいかほどの価値があるや?

 

暗がりの向こうから現れたのは、巨大な黒猫だった。

 

「で、出たーーーー!!」

 

「デカい猫ですね・・・・」

 

飛鳥は仰天するが、理巧は半眼で巨大猫を見据える。

 

『ニャアアアアォォォォォォォォォォォォンンッ!!』

 

巨大猫が雄叫びを上げて身体を上げると、洞窟の天井に当たり、岩が落下した。

 

「っ!」

 

「よっ!」

 

2人は落ちてくる岩を回避しながら巨大猫と距離をとる。

 

ーーーー血筋など、縁の記憶に過ぎぬ! 翻弄されるなど、これ愚かなり!!

 

巨大猫が言いながら、爪を立てた腕を振るう、飛鳥は刀で防ぎ、理巧はヒラリっと回避する。

 

「ほ、翻弄されてなんか・・・・!」

 

ーーーー『血縁』が己を強くするかっ!? ならば己とはなんだっ!?

 

「っ! お、己・・・・自分・・・・」

 

巨大猫に一括された言葉に僅かに心が乱れる飛鳥。

その僅かな隙を見逃さず、巨大猫が腕を振るった。

 

「おっと・・・・!」

 

飛鳥が巨大猫の攻撃への対処が遅れると判断した理巧が、飛鳥を抱き抱えて回避した。

 

「り、理巧くん!」

 

「油断しない」

 

ーーーーほぉ、流石だな少年。貴様はどうだ? 自らの遺伝子に刻まれし『悪の刻印』をなんと思う?

 

「っ! (りっくんに刻まれた、『悪の刻印』・・・・『べリアルの遺伝子』・・・・!)」

 

「・・・・どうでもいい」

 

ーーーーなに?

 

「えっ?」

 

巨大猫の言葉に、飛鳥を地面に下ろした理巧は、巨大猫の目の前に立ってそう答え、飛鳥も目をパチクリさせた。

 

「『べリアルの遺伝子』がどうだって言うんだ? それで僕がべリアルのように、『悪の道』に堕ちるとでも?」

 

ーーーー貴様は己は堕ちないと言えるのか?

 

巨大猫の言葉に、理巧は肩をすくめながら口を開く。

 

「ま、100%そんな事は無いなんて言えませんよ。先の未来がどうなっているのかなんて、誰にも分からないですしね。でも、僕にこの名前を、『暁月理巧』って名前を付けてくれた、『家族』になってくれた人達に恥じない生き方くらいはしないと、『大切な家族』のみんなに顔向けできませんからね!!」

 

「あっ・・・・!」

 

飛鳥は理巧の言葉に、幼い頃に祖父・半蔵が言っていた言葉を思い出す。

 

【お前は父親似じゃのぉ・・・・】

 

【えっ? おとうさんに? わたしが?】

 

【お前のお父さんは、お母さんとの結婚に猛反対するワシに、『弁護士の夢を捨て、寿司屋をやる』、と言いおった。『愛する人と添い遂げるためなら、夢も金も地位もいらない。自分には、その『覚悟』しかありません』。とな・・・・。フフッ、『覚悟』だけでこの半蔵を説得しおった。見かけによらず強い男じゃよ。お前の父は。そしてそんな男を見初めた、お前のお母さんもな・・・・】

 

幼い頃に祖父・半蔵と共に見つめた父母の姿を思い出した。

 

「(そうか、『資格』なんて、どうでも良かったんだ)」

 

飛鳥は立ち上がると、理巧の隣に立った。

 

「じっちゃんがいるから、お父さんとお母さんがいるから、今の私がいる! それだけで私は!!」

 

「・・・・フッ、行ってこい」

 

「うん!」

 

理巧は飛鳥の背中をポンッと押すと、飛鳥は巨大猫に向かって走り、二刀を構える。

 

「『秘伝忍法 二刀繚斬』!!」

 

背後に召喚獣であるガマガエルの幻影を出し、緑色の斬撃を交差させ、巨大猫の額を切り裂いた。

 

『ニャアアアアォォォォォォォォォォォォンンッ!!』

 

悲鳴を上げる巨大猫。しかし、『謎の声』は響いた。

 

ーーーー『期待への重圧』。『重圧故の劣等感』。此れ即ち、矮小なる心の曇り! 曇りなど恐れるに足らぬ!!

 

声が響くと、巨大猫が霞のように姿を消す。

 

「き、消えた!?」

 

ーーーー心せよ。真に恐れるべきは、『己自身の弱さ』なり!

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は暗がりの洞窟の向こうにいる人影を睨む。

 

ーーーー少年よ。貴様も忘れるなかれ、貴様に刻まれし『悪の刻印』が、貴様に『逃れられぬ宿命』を背負うと事になる言う事を!

 

「その宿命が何であろうと、僕は『覚悟』を決めて進みますよ」

 

ーーーーならばその『覚悟』! 真の芯か見定めよう! 頂上で待つぞ!!

 

そう言って、『謎の声』の主は消えた。

 

 

 

 

そして頂上にたどり着いた理巧と飛鳥。

それと同時に、斑鳩と葛城、柳生と雲雀も、まったくの同時に着いた。

 

「かー! 同時かよ!」

 

「勝負は?!」

 

「1等賞はどうなるんだろう?」

 

「・・・・それは、あの人に聞いてみれ良いかもね」

 

理巧が指差した方を見た一同の視線の先には、頂上にあった岩柱の天辺に立っている女性に注がれた。

 

「我! 自ら現れる! 勝者の証を欲っすば、汝らの死力を尽くすが良い!!」

 

其処に立っていたのは、着古した学ランに豊満な胸をサラシで巻き、ごわごわとした黒髪の20代位の女性だった。

 

「どういう事です?」

 

斑鳩が質問すると、女性は勝者の証である巻物を突き出した。

 

「我! 『締魔破空』の最後の関門にして、『這緊虞』の目標なり!」

 

「巻物・・・・! じゃコイツを倒して」

 

「奪い取ると言う事か?」

 

「貴女は!?」

 

葛城と柳生と斑鳩がそう言うと、女性はニッと口角を上げて声を発する。

 

「我は・・・・『大道寺』!」

 

「『大道寺』だって!?」

 

「もしや貴女は伝説の、『大道寺先輩』!」

 

「葛姐さん。知ってるの?」

 

「名前だけはな。『卒業試験』には合格しているが、自らの意思で何年も留年している、伝説の超強い先輩がいるって・・・・!」

 

「そ、そんな人がいたなんて!」

 

「何年も留年・・・・。それだけでも十分伝説になるな・・・・」

 

「て言うか、女だったのか・・・・」

 

葛城の言葉に飛鳥と柳生は驚き、葛城は件の先輩が女だったことに半眼になる。

 

「何だかスッゴく男らしい!!」

 

「(・・・・て言うか、何年も留年って。あの人、歳いくつ・・・・?)」

 

雲雀が目を輝かせるが、理巧も葛城と同じように半眼になっていた。

 

 

ーピグモンsideー

 

『キュゥッ! キュワッ!』

 

ピグモンは山の麓にある地下洞窟の前でピョンピョンと慌てながら跳ね回る。

 

『グルルルルルルルルルル・・・・!!』

 

地下洞窟の奥から、竜のような風貌の黒い怪獣が這い出ようとしていたーーーー。

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「・・・・・・・・」

 

『キシャァァァァァァッ!!』

 

伏井出ケイはフッと笑みを浮かべると、『怪獣カプセル』を起動させた。

 

 

 




友好珍獣ピグモンはウルトラ怪獣のアイドルです。


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守るぜ、小さな命

ー飛鳥sideー

 

「奮っ!!」

 

「おっと」

 

大道寺は理巧に向けて拳を突き出すと、拳からの風圧が迫るが、理巧はサッと回避した。

 

「暁月理巧。貴様の覚悟が真の物か、コヤツらを相手にしてから確かめさせてもらう」

 

「そうですか」

 

理巧は大道寺の言葉を聞くと、飛鳥達から少し離れる。

それを見た大道寺が岩柱から飛び降りると、飛鳥達を見据えて声を発する。

 

「単独では肩慣らしにもならぬ! まとめて来るが良いっ!!」

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

飛鳥達はお互いを見ると、一斉に頷き、大道寺に向かって行く。

 

「渇っ!!!」

 

「「「「「うわぁっ!」」」」」

 

が、大道寺が気合いを放った衝撃波で全員吹き飛ぶ。

 

「笑止千万なり!」

 

なんとか起き上がろうとする飛鳥達を見て、大道寺がそう呟く。

 

「この力・・・・!」

 

「次元が違う・・・・!」

 

「ここまで来て、負けてたまるかっ!!!」

 

葛城と斑鳩と柳生が大道寺に果敢に挑むが、大道寺は再び気合いで吹き飛ばさ、装束がボロボロとなった。

 

「浅はかな! 忍の名が泣いているぞ!」

 

「皆の攻撃が掠りもしないなんて・・・・!」

 

「私なんかじゃ、敵うわけ無い・・・・。けど! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

飛鳥が大道寺に向けてクナイを投げるが、大道寺は難なくそれを指で掴んで防ぐ。

 

「ふん・・・・ぬ?」

 

が、自分に向かってきていた飛鳥の姿が消えて、一瞬の隙が生まれた。

 

「(逃げたら自分に負ける!)」

 

飛鳥は大道寺の頭上から刀を突き下ろすが、大道寺は紙一重で回避した。

 

「ふっ!」

 

ドンッ!!

 

「あぁああああっ!!」

 

大道寺は飛鳥の腹部に掌底打ちを叩き込み、飛鳥が吹き飛ぶ。

 

「飛鳥!」

 

「飛鳥さん!」

 

「飛鳥ちゃん! しっかりして飛鳥ちゃん!」

 

雲雀が倒れた飛鳥に駆け寄る。

 

「忍学科の生徒も落ちたものだ」

 

「「「「っ!!」」」」

 

大道寺の言葉に、全員が目を向けるとーーーー。

 

ボワアアアアアアンンン

 

突如、煙玉が炸裂し、煙が晴れると霧夜先生が現れた。

 

「その辺にしておけ大道寺」

 

「ケホッ、ケホッ、霧夜先生!?」

 

「これはどういう事だよ?!」

 

「今回の『這緊虞』を企画したのは、この大道寺でな」

 

霧夜先生の言葉に、全員が「えっ!」と驚く。

 

「後輩達の修行に、一役買ってくれたのだ」

 

「『伝説の先輩』が、なぜ?」

 

戸惑う斑鳩達に構わず、大道寺は悠然と倒れた飛鳥に近づく。

 

「ううっ」

 

「未熟な一撃なれど、我に一矢報いたこと。此れ評価に値するものなり」

 

大道寺は目を覚ました飛鳥に、巻物を手渡した。

 

「飛鳥が優勝って事か・・・・」

 

「ま、仕方ありませんわね」

 

「うん」

 

「飛鳥ちゃん、おめでとう」

 

「ありがとう! みんな!」

 

飛鳥達が喜ぶが、大道寺は再び目を鋭くし、柔軟体操している理巧に目を向けた。

 

「さて、待たせたな。暁月理巧」

 

「・・・・・・・・」

 

大道寺の言葉に、理巧もいつものやる気の無さが嘘のような眼差しで大道寺を睨む。

 

「奮っ!!」

 

大道寺が理巧に向けて気合いを放つが、理巧はその衝撃波にまるで臆することなく毅然と立っていた。

 

「ふっ。流石だな」

 

「大道寺」

 

「師よ。我はこの少年が己が運命に立ち向かっていけるか、その覚悟か真なるものであるのか、それを確かめたい。暁月理巧よ。貴様の身体に刻まれし『悪の遺伝子』に屈しない事を、己が力を持って示せ!」

 

「・・・・・・・・面倒くさいです。けど、やるしかないですね」

 

理巧と大道寺は、お互いを睨み、霧夜先生は飛鳥達を連れて後ろに引いた。

 

 

ーピグモンsideー

 

『キュワッ!! キュワァッ!!』

 

ピグモンは、麓の洞窟から這い出てくる生物に、洞窟の中に戻れ、と訴えるように鳴き声を出しながらピョンピョンと跳ねるがーーーー。

 

『ギュァァァァァァァァ!!』

 

しかし、その生物は這い出て来た。

黒い身体に白い線が走り、頭頂部に小さな角が生え、両手は鎌のような爪が伸び、背中にはしなやかそうな翼を生やした怪獣ーーーー『彗星怪獣 ドラコ』であった。

 

『キシャァァァァァァァ!!』

 

『キュワ?・・・・キュワァァッ?!』

 

ドラコを説得しようとしていたピグモンが、背後に大きな雄叫びが聞こえたので振り向くと、ドラコに向かってくる怪獣が現れた。

三日月型の大きな角に鼻の上に小さな角、腹部はゴツゴツしており、長く太い尻尾が特徴的な恐竜のような怪獣ーーーー『古代怪獣 ゴモラ』だ。

 

『キシャァァァァァァァ!!』

 

『ギュァァァァァァァァ!!』

 

野生の本能か、ドラコとゴモラはお互いを“敵”と認識したのか、戦闘を始めようとしていた。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そしてその頃、理巧と大道寺はお互いを見据える。

 

「・・・・っ!」

 

「フッ!」

 

理巧が一瞬で大道寺に眼前に迫り、拳を振るうが、大道寺は難なくその拳を掴んだ。

 

「温い!!」

 

大道寺は空いているもう片方の拳を理巧の腹部に叩きつけようとするが、理巧は地面を踏み締めて、バッ、と跳んで回避した。

 

「しっ!」

 

「ぬっ!」

 

がら空きになった大道寺の横面に蹴りを繰り出す理巧。しかし大道寺はギリギリ回避し、掴んでいた拳が緩んだのか、理巧は掴まれていた拳を引っ込め、大道寺の拳から離れ着地すると、再び大道寺に迫る。

 

「同じようなやり方では!」

 

大道寺は理巧の動きを見切ったように、顔面に向けて拳を向けた。

 

「何っ!?」

 

確実に大道寺の拳が理巧の顔を捉えた筈なのだが、なんとーーーー“理巧の姿がブレて、幾人にも増えた”のだ。

 

「(高速移動による分身! 素の身体能力だけでこれだけの分身を作り出すとは・・・・!)」

 

大道寺は迫りくる理巧の分身達の攻撃を回避するが、分身の理巧達は次々と大道寺に迫る。

 

「ええい! 鬱陶しいっっ!!」

 

大道寺は気の衝撃波を周囲を放出すると、理巧の分身達が消えたが、空中にただ1人残った本物の理巧を、大道寺は捉えた。

 

「そこかっ!!」

 

大道寺が、気を込めた拳を振り向けると、理巧は空中で身体をひねって大道寺の拳を回避し、大道寺の腕を捕まえ、さらに身体を捻らせて大道寺の足元に足払いをかけるため、大道寺の右足に蹴手繰りを叩き込んだ。

 

「くっ!!」

 

大道寺の身体が僅かによろけると、理巧は大道寺の腕を足場に跳び、空中で縦に回転すると、大道寺の頭部目掛けて踵落としを繰り出す。

 

「はっ!」

 

「舐めるなっ!!」

 

しかし大道寺は体勢を崩した状態にも関わらず、理巧の踵落としを片腕で防ぐが、あまりの威力に大道寺の足元の岩場に亀裂が走った。

 

「・・・・期待通り、イヤ、期待以上にやってくれるな」

 

「そっちも以外とやりますね・・・・」

 

大道寺は理巧を見据えると、ニヤリ、と笑みを浮かべ、理巧も肩を竦めながら声を発した。

 

ーーーーちなみに、二人が戦闘を始めてここまで、ざっと1分しか経っていなかった。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

飛鳥と雲雀と柳生と斑鳩と葛城は、理巧と大道寺先輩の戦いを唖然とした表情で見ていた。お互いに自分はおそらく、仲間達と同じくらい、間の抜けた顔を晒している事が容易に想像できた。

何故なら、先程自分達があれほど苦戦した大道寺先輩に、“まだ正式に忍となっていない理巧が、互角に戦っているのだ”。

しかも『速さ』ならば、今いる半蔵学院チームの中で最速の斑鳩ですら、二人の動きを僅かにしか捉えられない速度で。

 

「あ、アタイらが五人がかりでも敵わなかった大道寺先輩に・・・・」

 

「理巧くんは、1人で互角に・・・・」

 

「り、理巧くんって、あんなに強かったんだ・・・・」

 

「流石、と言ったところか・・・・」

 

「す、凄い・・・・!」

 

飛鳥達も、理巧が強い事は十分知っていた。しかし、伝説の先輩、大道寺先輩と互角に渡り合えるとは思いもしなかった。

二人の戦いを目に焼き付けようと思ったのか、瞬きせずに見据える。

 

「流石は大道寺。理巧が“師匠達”以外で本気を出す所なんて初めて見たな」

 

≪ハルカ達、相当鍛えたようだな?≫

 

霧夜先生とゼロも、感心した気持ちで二人を見ていた。

 

 

 

ー大道寺sideー

 

「・・・・!」

 

「っ! くっ・・・・!」

 

再び迫り来る理巧を迎え撃とうとしたその瞬間、大道寺の動作が僅かに遅れ、理巧の掌底打ちが自分の腹部に叩きつけられそうになった。

 

「しまっ・・・・!」

 

「っ!・・・・!!」

 

「なにっ!?」

 

が、その時、理巧は攻撃の手を止めて、大道寺の正面から横に走り、頂上から飛び降りた。

 

「何が・・・・!! これはっ!?」

 

一瞬理巧の行動が読めなかった大道寺だが、耳に微かに聞こえた“2つの雄叫び”で、理巧の意図を理解した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「りっくん!?」

 

「おい理巧! 何処に行くんだよ!?」

 

《大変だよみんなっ!!》

 

「ペガさん?」

 

斑鳩が胸の谷間に入れていたインカムを取り出すと、ペガの慌てた様子の声が響いた。

 

《今みんなのいる山の麓で、怪獣が2体現れたんだ!》

 

「な、なんですってっ!?」

 

ペガからの通信で、飛鳥達も驚愕したように目を開き、霧夜先生とゼロ、大道寺も目を鋭くした。

 

 

ー理巧sideー

 

「ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

頂上から飛び降り、落下しながら理巧はジードライザーを起動させ、ホルダーの中からヒカリカプセルを起動させた。

 

「融合!」

 

デャッ!

 

カプセルからウルトラマンヒカリのビジョンが現れる。

 

「アイ・ゴー!」

 

フワァッ!

 

カプセルからウルトラマンコスモスのビジョンが現れる。

理巧は2つのカプセルを装填ナックルに装填した。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

ジードライザーのスイッチを押して、装填ナックルを取り出し、二つのカプセルをスキャンするとライザー中心のカプセルに、黄色と白の光が放たれる。

 

ドクン! ドクン! 

 

[フュージョンライズ!]

 

「見せるぜ! 衝撃!! ハァアアアアアア!! ハァッ!! ジィィーーーーーーードッ!!!」

 

ヒカリとコスモスのビジョンが重なりあい、理巧と合わさる。

 

[ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンコスモス! ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

折り重なる光の直線と水流の煌めきを抜け、黄色い光と青い結晶の螺旋の中から、アクロスマッシャーが飛び出した。

 

 

 

ーピグモンsideー

 

『キュゥッ! キュワッ! キュワァッ!』

 

ピグモンは、ドラコとゴモラの戦いはやめさせようと、2体の足元で跳ねながら声を発していた。

が、2体が地面を踏みつけた風圧で吹き飛び、岩を蹴飛ばして、その岩がピグモンに襲いかかる。

 

『キュワァァァァァァッ!?』

 

ピグモンは迫り来る岩に脅えて目を瞑り、衝撃に備えるとーーーー。

 

『・・・・・・・・・・・・キュワ?』

 

しかし、いつまでも襲いに来ない衝撃に、訝しそうに目を開けると、光が自分を庇っており、頭上を見ると、ウルトラマンジード アクロスマッシャーがピグモンを守ってくれていた。

 

『キュワッ・・・・』

 

『「大丈夫かい、ピグモン?」』

 

『キュ、キュワァァァァァァッ!』

 

ジードの登場に、ピグモンは嬉しそうに跳び跳ねた。

ジードはピグモンが無事なのを確認すると、ドラコとゴモラを見据える。

 

『(彗星怪獣ドラコ』に、『古代怪獣ゴモラ』か・・・・) シュワァァァァァァッ!!』

 

ジードは『スマッシュムーンヒーリング』を2体に向けて放ったーーーー。

 

『ギュァァァァァァァァ!!』

 

『キシャァァァァァァァ!!』

 

が、2体からは敵意が消えず、敵と認識したのかジードに襲いかかる。

 

『クッ! シュァッ!!』

 

ジードは2体の怪獣に向かって駆け出した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「あ、あの子って・・・・」

 

頂上から秘密基地に移動した一同は、モニターに映し出された戦況を見ていると、飛鳥は、昨夜理巧に食料をくれたピグモンだと気づいた。

 

「(デュォォン!) レム。俺を理巧の近くに転送しろ」

 

「ならぬ」

 

「何?」

 

ジードに加勢しようとする霧夜先生(ゼロ)を大道寺が止めた。

 

「あの少年が、本当に己の運命に立ち向かえるか、この戦いで見定めるのも一興。手出しは無用だ、ウルトラマンゼロ」

 

「・・・・だが、理巧は今かなり戦い辛そうにしているけどな」

 

ゼロが見据える先を飛鳥達も見ると、ジードは足元にいるピグモンを気にかけて、戦いに集中できていない様子だった。

 

「(りっくんは、ピグモンくんを気にして戦えないんだ。・・・・私も、りっくんの力になりたい。だって、私、りっくんの事が・・・・大好きなんだもん!)」

 

コーーーン・・・・!

 

その時、飛鳥の胸元が光輝く、それは正に、『リトルスター』の輝きだ。

 

「飛鳥ちゃん!」

 

「それは、『リトルスター』・・・・?!」

 

「うわぁっ!!」

 

他のみんなが驚いているのを尻目に、飛鳥の背後の空間にワームホールが開かれ、飛鳥の姿を飲み込むと、飛鳥が基地から消えた。

 

「あれはワームホール!? まさか、飛鳥に宿った『リトルスター』は・・・・!」

 

「これは、予期せぬ僥倖だな・・・・」

 

ゼロは飛鳥の『リトルスター』を察し、大道寺もニヤリと口角を上げた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『ウワァッ!!』

 

ジードはすぐ近くにいるピグモンを巻き込まないように、ドラコとゴモラの相手をしているが、ドラコの空中からの奇襲、ゴモラの突進と尻尾での攻撃に、次第に追い詰められていく。

 

『『スマッシュビームブレード』!』

 

ジードは手首から光の剣を出現させると、それを駆使して怪獣達を斬りつける。

 

『ギュァァァァ!!』

 

『キシャァァァ!!』

 

斬りつけられた2体は後ろに引く。

 

『(この隙に、ピグモンをどうにかーーーー)』

 

「りっくーーーーん!!」

 

『(っ!? 飛鳥さんっ!?)』

 

突然声が聞こえた方に目を向けると、ピグモンの隣に、飛鳥の姿が立っていた。

 

「りっくーん! ピグモンくんは私が守るから! 思いっきりやっちゃってーーーー!!」

 

『(・・・・委細了解!!)』

 

ジードはジードクロウを取り出すと、トリガーを二回押し、全身に青いエネルギーを纏い、ジードクロウを切っ先にして回転しながら2体の怪獣に突っ込んだ。

 

『(コークスクリュージャミング!!)』

 

片方の手でジードクロウを、もう片方からは『スマッシュビームブレード』を伸ばした青い螺旋が、ゴモラの尻尾とドラコの翼を斬り捨てた。

 

『キシャァァァァァァァ!!』

 

『ギュァァァァァァァァ!!』

 

痛みに悲鳴を上げる2体。

 

『『アトモスインパクト』!!』

 

『キシャアアアアアアアアアアッッ!!』

 

『アトモスインパクト』を浴びたゴモラは、そのまま爆散した。

 

『(決めたぜ、覚悟!!)』

 

ジードはプリミティブに変身すると、ドラコの首に腕を回し、ジャイアントスイングで投げ飛ばしーーーー。

 

『ハァァァァァァァァっ!・・・・『レッキングバースト』!!!』

 

『ギュアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

ジードが放った『レッキングバースト』が、ドラコを暗雲の中まで吹き飛ばし、爆散した風圧で暗雲が吹き飛び、夕焼けに染まり始めた大空が広がった。

 

「やったぁ!!」

 

『キュワ! キュワ!!』

 

飛鳥はピグモンと手を取り合って、ピョンピョンと跳ねて喜んだ。

 

 

 

 

「ええっ!? この山って、ピグモンくん達の保護区だったんですかっ!?」

 

転送エレベーターからやって来た霧夜先生達は、ピグモンの仲間達が大勢いるピグモンの棲み家にやってくると、ピグモンの仲間達に歓迎された。

 

「ああ。ピグモンは『友好珍獣』と呼ばれるほど気性の大人しく心優しい生き物でな。しかしその手の好事家に狩猟される事もあって、国立半蔵学園で保護していたんだ。しかしまさか、ドラコのような怪獣までいたとは思わなかったがな」

 

霧夜先生もピグモンと戯れながら説明した。

そして飛鳥達から離れた大道寺が、理巧に話しかける。

 

「暁月理巧。貴様はなぜ我への攻撃をやめて、ピグモンの元へ駆けつけた?」

 

「・・・・ピグモンには、食料をくれた恩がありましたから。あのまま続けていたら、ピグモンは怪獣達に踏み潰されると思ったんで」

 

「我を倒せる状況であったにもか?」

 

「・・・・もしピグモンを見捨ててたら、僕は、“かつての自分に戻ってしまう気がしたんです”」

 

飛鳥達に聞こえないように、大道寺だけに聞こえるように呟く理巧。

目の前の消えそうな命を見捨てる。

それはかつて、“感情のない人形だった自分”。

“目の前で命が消える事に何の感慨を持たなかった自分”。

 

「僕は、目の前の命を見捨てるような人間にはなりたくない。それをしてしまえば、こんな僕を“家族”として受け入れてくれた人達と、“仲間”となってくれた人達と、向き合えなくなるから・・・・」

 

「ふっ、そうか・・・・」

 

理巧はそう言うと、飛鳥達の方に歩き、霧夜先生が大道寺に近づく。

 

「あの少年、そしてあの娘<飛鳥>、ともに相当な潜在能力を秘めている。本人達はまだ気づいていないが」

 

「やはり分かるか」

 

「潜在する強さは無意識の強さ。ゆえに諸刃の剣、ゆえに道を誤れば、二人は“あの人”と、そしてウルトラマンベリアルと同じ道を行くだろう」

 

「そうはさせんさ。・・・・(デュォォン!) それで大道寺。理巧にやられた足はどうだ?」

 

ゼロの質問に、大道寺は無言でズボンの裾を上げると、理巧が攻撃された右足に青黒く腫れていた。

 

「この通り“折れている”。正直あのまま続けていれば、我が立っていたかは分からん」

 

大道寺とゼロがそんな話をしていると、試験に合格した飛鳥が、巻物に書かれていたモノを読んでいた。

 

「【力即刀盾】。力は刀と盾である。とーーーー」

 

「それこそ、半蔵様が御自ら直筆下すった、忍の極意」

 

「えっ?」

 

飛鳥が大道寺に目を向けると、大道寺はにこやかに頷いた。

 

「飛鳥さん?」

 

「そういえば、じっちゃんが言ってた。【力とは刀と盾の対でなければならん】って・・・・」

 

「ふ~ん・・・・」

 

「さて、暁月理巧よ。我からお主に渡す物がある」

 

「えっ?」

 

「目の前の勝利よりも、足元の命を救う事を優先としたその心意気。此れ評価に値する物とする! 受けとれ! 『さすらいの風来坊』の光!!」

 

「飛鳥。お前もだ」

 

「えっ? は、はい! りっくん! 受け取って!」

 

飛鳥と大道寺の胸元から、『リトルスターの輝き』が飛び出し、理巧が受け取った。

 

セリャッ!

 

シュワッ!

 

飛鳥からはなんと、『ウルトラマンゼロ』のカプセル。大道寺からは『O-50』のウルトラマン、『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン』のカプセルだった。

 

「ゼロと、ウルトラマンオーブか・・・・!」

 

「飛鳥ちゃんのリトルスターって、ゼロさんの!?」

 

「うへぇ~、スゲェ偶然だな・・・・」

 

「大道寺先輩からは、理巧くんと同じように“二人のウルトラマンの力を1つとするウルトラマン”ですか」

 

「ある意味これも凄い偶然だな」

 

「・・・・ゼロ」

 

「俺に気遣いなんて不要だぜ。俺の力、存分に生かしてくれよ」

 

「・・・・・・・・ああ」

 

「(理巧くんも頑張ってる。自分の『運命』に負けないように・・・・。私も、もう弱音なんか吐かない! じっちゃん! 私、頑張るよ!)」

 

「(この先どうなる分からない。“僕がベリアルと同じになるか”。それとも・・・・)」

 

理巧はゼロとオーブのカプセルを握りながら、飛鳥やみんなとともに、沈む夕陽を見つめていた。

 

 

 



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急展開だぜ、事態

ー理巧sideー

 

大道寺が起こした『這緊虞』から数日。

半蔵学園の忍達は厳しさを増した霧夜先生の修行を行っていたが、1つの問題があった。

 

それはーーーー柳生が雲雀を甘やかしている事だ。

 

「今日はここまで! 柳生! 雲雀! お前らはここで補修行だ! 理巧! 二人の相手役を命じる!」

 

「は~い・・・・」

 

そう言うと、霧夜先生は煙を巻き上げて修練場から去った。

 

「補修行だって・・・・」

 

「霧夜先生ここんとこ厳しいよな?」

 

「雲雀さんも忍。いつまでも柳生さんに、庇って貰う訳にもいきません」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

柳生が雲雀を過保護にしている気持ちを知っている理巧は、柳生の気持ちも分かるがこのままでは雲雀の成長の妨げになるのもいけないとも思い、どうしたものかと悩んでいた。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生は自室に戻ると、大道寺と黒猫がいた。

 

「大道寺。理巧につけられた骨折は治ったか?」

 

「不要な心配り。この程度の負傷ならば数日で骨はくっ付く。それにしても、あの5人、各々特質は違えど、鍛練次第では相当の逸材」

 

「理巧はどうなんだ?」

 

「あやつもまた、これからの修行次第で、秘められし潜在能力を開化させる事だろう」

 

「“お前達”がいなくなって、どうなるかと思ったが・・・・」

 

「『真の忍』の気性を持つ者これ希少なり。人材無くば、これ已む無し」

 

「ま、最初は随分難儀したがな・・・・それはそうと大道寺。『蛇女の協力者』について何か掴んだか?」

 

大道寺もまた、半蔵や『AIB』とは違う視点で、『ベリアルの行方』と『蛇女の協力者』の事を調べていたのだ。

 

「不甲斐なし。まるで霧を掴むようにその姿を掴めぬ。師よ。そちらはどうだ? 村雨から何か聞いたか?」

 

斑鳩の義理の兄・村雨。『蛇女の協力者』に唆され、『コピークリスタル』と『エースキラーの怪獣カプセル』を与えられた人物。

現在は退院し、実家の『鳳凰財団』を継ぐために商業の勉強をしながら、時々事情聴衆を受けている。

 

「いや、相変わらず村雨も『協力者』についての記憶が曖昧でなぁ。『コピークリスタル』と『怪獣カプセル』を渡されてから、意識がほとんど無く、ただ斑鳩に対する嫉妬と憎悪でいっぱいになっていたようだ」

 

「おそらく、自らの素性が露見されぬよう、記憶に何らかの措置を施していたか」

 

「その可能性はあるな。『ゼナ』にも聞いてみたが、宇宙人の科学の中にも記憶操作の能力や機械を持っているのもいるらしい」

 

≪やっぱ、情報は蛇女子にしかねぇって事か・・・・≫

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

飛鳥達は先に帰り、二人の補修行を見ていた理巧は少し物思いに耽っていた。

 

『理巧。何かあった?』

 

ダークゾーンからペガが顔を出した。

 

「・・・・この間の戦いでさ、僕は、『ドラコを殺した』よなぁ、って考えてたんだ」

 

『うん』

 

「ピグモンを助けるためとはいえ、ドラコを殺すことは無かったんじゃないかなぁって思ってさ」

 

『でもさ、『スマッシュムーンヒーリング』でも大人しくならなかったし、ドラコは元々狂暴な怪獣だったんだから、あのままじゃピグモン達が殺されていたよ』

 

『アクロスマッシャー』の『スマッシュムーンヒーリング』は、明確な殺意と敵意を持った怪獣にしか効果が無い。

しかし、あのときのドラコには敵意や殺意ではなく、闘争心が暴走した状態だったので通用しなかった。

 

「確かにそうだ。でも、心の何処かでこう思うよ。『他にやりようがあったんじゃないか?』、『殺すことも無かったんじゃないか』ってね」

 

『・・・・なんからしくないね』

 

「あぁまったくだ。僕自身をそう思うよ・・・・」

 

敵対する者には容赦しない、それが理巧のスタイルだったし、その事に微塵も疑問を持っていない。

だがこんな考えを起こしてしまっている。それに理巧は戸惑いを感じていた。

 

 

ー霧夜先生sideー

 

「あの少年に意識の変化が?」

 

「ああ。ドラコを倒してから、物思いに耽る姿が見える。ゼロはこれを、【ウルトラマンがかかる悩み】と言っていた」

 

理巧の意識の変化を、ゼロは察し、霧夜先生と大道寺はその事を話し合っていると、大道寺は少し難しい顔をした。

 

「あの少年の強みは、【敵対する者に対する冷徹さと冷酷さ】。これ忍にとっても重要な素質と判断できる。それに陰りが生まれるのは、今この状況では危惧すべき事だ」

 

「・・・・確かにな。だが、鷹丸達は、理巧に【他者への思いやり】を学ばせるために、この学院に転校させたんだ。ある意味では、これは僥倖とも取れるがな。とにかく、『問題児』だった理巧が、皆に馴染んで来ている。ま、『問題児』って意味じゃ大道寺、お前を含めて全員そうなんだがな」

 

「フッ。我が卒業せぬ理由。それは師が一番理解している筈」

 

大道寺が卒業しない理由。

ーーーーそれは、『凜』と呼ばれた、霧夜先生の教え子にして、大道寺の先輩だった少女に、一度も勝利できていないからであった。

 

「だが、我が卒業する前に、凜先輩は・・・・」

 

「・・・・難度の高い忍務だった。俺は反対したんだが」

 

卒業して間もない彼女は『スーパー忍者』になると言って忍務をやらせてほしいと嘆願し、その熱意に押されて、霧夜先生は了承してしまった。

 

「あの時俺は、力ずくでも止めるべきだったんだ」

 

「故、我の卒業も無期延期とな成りし・・・・」

 

「この戦いは、ただの悪忍との抗争じゃない。最近頻繁している怪獣騒動。十数年前に起こった『クライシス・インパクト』を発端とするウルトラマンベリアルの意図が絡んでいる」

 

「そこに、ウルトラマンジードである暁月理巧との何かしらの因縁。しかし我は決着を・・・・」

 

「そして俺は、救わねばならん」

 

「我の卒業。そして、旅の終わりも近いのかもしれん」

 

そう言って、大道寺は黒猫と共に姿を消した。

 

≪・・・・霧夜、あんまり思い詰めんなよ≫

 

「・・・・分かっているさ、ゼロ」

 

 

 

ー悪忍sideー

 

そして『蛇女』ではーーーー。

 

『それで、指揮官の私を無視して、春花に指示を出したと?』

 

『善忍側の『超秘伝忍法書』の奪取は、最重要忍務。『カプセル』も『クリスタル』も底を尽きてきた以上、仕方あるまい』

 

『しかし、『超秘伝忍法書』は、『選らばれし者』がいなければ意味を成さないため、半蔵学院の生徒を、『選らばれし者』として成長させ、然る後、こちら側へ篭絡する。これぞ最善の策・・・・』

 

『奪ってからこちら側で『選ばれる者』を、育てればいい』

 

『こちらにある『忍法書』ですら、まだ『選らばれし者』が現れておりませんが・・・・!』

 

『『成果』が欲しいのだ。形としてでもな。それに、もはや手遅れだ』

 

『っ!!』

 

オーナーの言葉、鎧武者は目を見開いた。

 

 

ー雲雀sideー

 

「はぁ、柳生ちゃん、怒ってたかな? また迷惑かけちゃったし・・・・」

 

保修行が終わり、そっけない態度で帰っていった柳生に、不安そうに顔を俯かせる雲雀の頭を、理巧は優しく撫でる。

 

「大丈夫。柳生さんが雲雀ちゃんに怒ってたりしないよ」

 

「そうかなぁ・・・・」

 

「柳生さんも、おじさんに【庇う事が雲雀ちゃんの為になるのか】って言われから、ちょっと気にしているだけだよ。明日、柳生さんとちゃんと話し合おう。僕も一緒に行くからさ、ね」

 

「理巧くん・・・・うん!」

 

ようやく笑顔になった雲雀はシャワールームについて、理巧と別れ、服を脱ごうとしていると、足元に『春花のイヤリング』が落ちていた。

 

「あれ? 机に置いておいたのに・・・・」

 

不思議そうに首を傾げた雲雀は、制服を入れた籠の中に、イヤリングを置いた。

 

 

 

 

「・・・・はぁ、理巧くんはああ言ってくれたけど、雲雀、このままずっと落ちこぼれなのかな?」

 

熱いシャワーで汗を流している雲雀は、今のままじゃダメだと、自分自身も自覚し、少し涙が流れた。

するとーーーー籠の中のイヤリングが妖しく光り、雲雀の耳元に“春花の声が響いた”。

 

《あなたに“お願い”する時が来たわ。よろしくて? 私の“可愛いお人形”・・・・》

 

「・・・・・・・・!!」

 

その時、雲雀の目から光が失ったーーーー。

 

 

 

ー春花sideー

 

「ウフフ、可愛いお人形が動いてくれるわ。・・・・さぁ、あなたはどう動いてくれるのかしら?・・・・暁月理巧様♥️」

 

春花は胸の谷間から、理巧の写真を取り出すと、恍惚とした表情を浮かべ、写真の理巧の顔を撫でた。

 

 

 

 




ー次回予告ー

僕が自分自身の気持ちの変化に戸惑っていると、『超秘伝忍法書』が何者かに盗まれる事件が起こった。一体誰が盗んだのか? 正直忍法書には興味ないけど、盗人はさっさと捕まえないとな。
と、思ってたら、雲雀ちゃんの様子がおかしい。これは何かあったかも知れないな。


次回、『閃乱ジード』

【秘立蛇女子学園】

遂に来たぜ、蛇女子!


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秘立蛇女子学園
異変だぜ、雲雀ちゃん


ー理巧sideー

 

「雲雀ちゃん? いや来てないけど?」

 

その日の夜の秘密基地。最近では飛鳥のぬいぐるみや、斑鳩の参考書が並んだ棚やら、葛城のトレーニング器具などが置かれ、最初の頃に比べてかなり物が増えたその場所。

いつも通り、怪獣やら異星人について調べていた理巧(&鼻提灯を出して熟睡しているペガと、理巧と一緒に調べ物をしていたレム)の元に、寝間着姿で髪をおろした柳生が訪ねてきた。

今日の保修行で素っ気ない態度で先に帰った事を謝罪しようと雲雀の部屋に行ったが、雲雀の姿がなく。理巧の所に来たのではないかと思ったからだ。

 

「そう、か・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「いや、少し気になってな・・・・」

 

「・・・・柳生さん」

 

「ん?」

 

「霧夜おじさんに、雲雀ちゃんを甘やかすなって言われた事、気にしてるの?」

 

「・・・・まぁ、少しな」

 

普段ならクールに流す柳生だが、理巧の前では少し素直になる。

 

「ま、あんまり1人で抱え込まなくて良いと思うよ。時には、飛鳥さん達にも頼るのも良いかも知れないよ」

 

「・・・・・・・・」

 

「確かに雲雀ちゃんはちょっと臆病だけど、その臆病さが武器になることもあるよ」

 

「臆病が武器?」

 

理巧の言葉に、柳生は首を傾げる。

 

「うん。臆病って事は言い方を変えれば慎重で用心深いって事だよ。忍って職種上、警戒心が強くなければ務まらないと思う。雲雀ちゃんのソレは半蔵学院の中では最も重要な役目を果たしているし、僕を含め他の皆は結構慎重さってのが抜けてるからね」

 

喧嘩上等の葛城。

堅物な斑鳩。

能天気な飛鳥。

雲雀の事以外割りとドライな柳生。

基本的に忍の事に関しては我関せずな理巧。

この面子の中で慎重さと用心深さを持っているのは、以外にも雲雀だった。

 

「雲雀ちゃんも、切っ掛けさえあれば化けるタイプだよ。要は、雲雀ちゃんが自分に足りない部分を自分で引き出せば良いと思う」

 

「“雲雀に足りない部分”?」

 

「うん、それはーーーー」

 

理巧が続きを言おうとしたその瞬間ーーーー。

 

『警告、半蔵学院に侵入者有り。半蔵学院に侵入者有り。半蔵学院に侵入者有り・・・・』

 

「「っ!!」」

 

『な、何々っ!?』

 

レムからの警告で飛び起きたペガを余所に、理巧はすぐにスマホで霧夜先生に連絡をした。

 

「おじさん、何があったの?」

 

《ああ。侵入者が現れたようだが、別段荒らされた形跡が「ボフンッ!!」っ! 痺れ玉?! しまっぐぅ!》

 

「おじさん・・・・? 柳生さん」

 

「(コクン)『忍転身』!」

 

突然何が破裂したような音が響き、霧夜先生が倒れたような音が聞こえた理巧はスマホを切って、柳生に目を向けると、柳生も頷いてすぐに転身し、理巧は柳生とペガを連れて『転送エレベーター』で霧夜のいる地点へと向かうと、霧夜先生が倒れており、壁に作られていた保管庫のような箇所から、“何かが盗まれた痕跡があった”。

 

 

 

 

翌日の早朝。

基地で目を覚ました霧夜先生は、半蔵学院の忍達を忍教室に集めた。

 

「『超秘伝忍法書』が!」

 

「奪われたっ!?」

 

「先の奇襲以来、警備は強化している。校舎に侵入し、さらに保管庫を開く事ができるのは、俺を含め、ここにいる者だけだ」

 

「私達がそんな事するはずが有りませんっ!」

 

「分かっている。だが奪われたのは事実だ」

 

「じ、じゃ、一体誰が・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

雲雀が不安そうに声を発し、柳生はソッと目を反らした。柳生の挙動に一瞬目を向けた理巧は、霧夜先生に、いや、ウルトラマンゼロに話しかける。

 

「ゼロ。君は何も見てないのか?」

 

「(デュォォンッ!)情けねぇ話だが、俺も痺れ玉で意識を無くしちまってな。まったく、本調子じゃねぇからって情けねぇ・・・・! (デュォォンッ!)とにかく! 『本部』に連絡せねばならん。今日は全員、自室で待機するように!」

 

霧夜先生がそう言うと、その場は解散となり、理巧は男子寮の自室ではなく、秘密基地に戻っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

すでに理巧は、いや、おそらく柳生も目星は付いていた。しかし柳生の性格上、『侵入者』の事は話さないだろう。そして理巧も、『侵入者』について不審な感覚があった。

 

「・・・・レム。彼女は?」

 

『自室に待機しています・・・・いえ、彼女の自室に闖入者有り。『ーーーーー』です』

 

「やっぱりな・・・・。ペガ」

 

『? 何?』

 

「これからちょっと“危ない策”を教える。君にもやって貰わないといけない事があるけど、やってくれるかい?」

 

『・・・・うん! ちょっと恐いけど、ペガも半蔵学院の一員だもん! やってみるよ!』

 

「・・・・ありがとう。レム、君はどうだい?」

 

『私はマスターである理巧の意向に従います』

 

「良し。それじゃ・・・・」

 

理巧はペガとレムに指示を伝えると、二人(?)は了解を示し、次にメモ用紙を持ってきてペンを走らせ、中央台座の上にメモ用紙と『ある物』を置き、ペガに色々と荷物を持たせて自分の影に隠し、転送エレベーターで雲雀の追跡を始めた。

 

 

ー柳生sideー

 

柳生は『忍転身』して街の屋根を駆け巡っていた。

霧夜先生の話から部屋に待機して、数時間が経ち、飛鳥から雲雀が姿を消したと聞き雲雀の部屋に赴くと、置き手紙があり、

蛇女の春花に操られ、『超秘伝忍法書』を盗んだのは雲雀である事。

以前の奇襲で春花から受け取った耳飾りから『念波発信器』(傀儡使いが使う遠隔操作の術の受信機)が発見された。

雲雀は自責から、命に変えても忍法書を取り戻すと書かれ、柳生はいてもたっても居られず雲雀を探した。

そんな柳生の前に、飛鳥が立ち塞がった。

 

「どこに行くつもりなの!?」

 

「雲雀を探しに行く・・・・!」

 

「どこに行ったかも分からないのに?」

 

「分からなくても、絶対に探し出す・・・・!」

 

「そんな! 無茶だよ柳生ちゃん!」

 

「邪魔を、するな!」

 

「・・・・・・・・」

 

番傘を構えた柳生に、飛鳥が構えた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

斑鳩と葛城は合流するが、ふと斑鳩が、“雲雀ちゃん他にもいない人間”を思い出した。

 

「っ! そういえば、理巧くんとペガさんは?」

 

「ん? あ! そういえばアイツらに連絡してなかったな」

 

思い出した斑鳩は、胸元から通信インカムを出して耳に付け、理巧に連絡する。

 

「理巧くん。聞こえますか? 理巧くん?・・・・出ませんね」

 

「なにやってんだ理巧の奴・・・・!」

 

「待ってください。理巧くんは無気力に見えてかなりの曲者なところがあります。その理巧くんが、この状況を見越していないと思えないのですが・・・・」

 

「?? どういう事だ?」

 

「とりあえず、先ずは柳生さんを見つけましょう。そしたらすぐに、基地に向かいます」

 

 

ー飛鳥sideー

 

「どけっ!!」

 

柳生が番傘を突き出して突っ込むが、飛鳥はヒラリと番傘を回避して、柳生の後ろに回り込み、柳生を羽交い締めした。

 

「(後ろを取られた・・・・!?)」

 

「落ち着いて柳生ちゃん!」

 

「っ!! 離せ・・・・!! オレの事は放っておいてくれっ!!」

 

「柳生ちゃん!!」

 

「柳生さん!」

 

「こっちに居たのか!」

 

「・・・・・・・・」

 

斑鳩と葛城も現れ、柳生は逃げられないと覚ったのか、大人しくなり、飛鳥も羽交い締めを解いた。

 

「・・・・オレの責任だ」

 

「えっ?」

 

「昨夜、雲雀が部屋にいなかったのをオレは知っていた・・・・」

 

「っ! なんだって!!」

 

葛城が驚き、飛鳥と斑鳩も驚いた。

 

「侵入者の話を聞いたとき、その事を、思い出した。でも、雲雀を疑うなんて、オレには出来なかった・・・・!」

 

自分がちゃんと雲雀を見ていたら、この事を皆が話していたら、こんな事態にならずにすんだかも知れない無いと、柳生は顔を俯かせる。

 

「それは当然でしょう? もし同じ立場だったら、わたくしだって・・・・」

 

「ああ、雲雀が操られるだなんて、誰も気付かなかったしな・・・・」

 

「それだけじゃない・・・・! オレがずっと雲雀の側にいたら、こんな事にはならなかった・・・・! オレの、せいで、雲雀は・・・・っ!!」

 

涙ぐむ柳生の肩に飛鳥が手を置いた。

 

「違うよ、柳生ちゃん」

 

「っ・・・・」

 

「柳生ちゃんのせいなんかじゃ、絶対にない」

 

飛鳥の視線を追うと、斑鳩と葛城も口を開く。

 

「悪いのはお前じゃねえ。雲雀を操ってこんな事をした、蛇女の奴らだ」

 

「もし責任が有るんだとしたら、わたくし達全員にあります。柳生さん、忘れてませんか?」

 

「???」

 

「わたくし達は・・・・『仲間』なんですよ」

 

「『仲間』・・・・」

 

「そうだよ! 雲雀ちゃんが心配なのは皆同じ! 柳生ちゃんだけじゃないんだよ!」

 

「・・・・・・・・!」

 

柳生は目を潤ませた。

 

「それに、雲雀さんの居場所なら、もしかしたら分かるかもしれません」

 

「何・・・・?」

 

「気づかねえか? アタイらの中で“一番の曲者小僧の姿”がないってよ」

 

「っ!」

 

「りっくん!」

 

「ええ。先程レムと連絡が付きました。基地に来て欲しいそうですよ」

 

斑鳩がそう言った瞬間、転送エレベーターがやって来て、四人はエレベーターに乗って基地に向かった。

 

 

 

 

「りっくーーーん! ペガくーーーん!」

 

「おーい! どこだーーー!」

 

「理巧・・・・! ペガ・・・・!」

 

基地に来た一同は姿が無い理巧達を探して基地内部を探したが、斑鳩は中央台座に置かれた物が目に入り、それを手にとった。

 

「これは、置き手紙でしょうか・・・・?」

 

斑鳩は置き手紙を開いて見ると、理巧の字で書かれた文章に目を走らせる。

 

「シミュレーションルームにはいなかったよ!」

 

「菜園ルームにもいなかった・・・・!」

 

「おい! バスルームにもいなかったぜ!」

 

「なるほど・・・・」

 

三人が中央ルームに戻ってくると、ちょうど置き手紙を読み終えた斑鳩が声を発した。

 

「斑鳩さん?」

 

「皆さん。理巧くんの置き手紙です」

 

「「「っ!」」」

 

三人が斑鳩に視線を向けると、斑鳩は置き手紙に書かれていた“策”を読み上げた。それを読み上げると、三人の顔に光明が見えたような笑みが浮かんだ。

 

「飛鳥さん」

 

「っ、はい!」

 

「理巧くんの“策”を成功させるためには、貴女が要になります。時間もおそらく少ないでしょうが、やれますか?」

 

「勿論です! 理巧くんと雲雀ちゃんを助ける為にも、やってみせます!!」

 

「その意気です。最後に理巧くんから飛鳥さんに、こう綴られていますよ」

 

「えっ?」

 

首を傾げる飛鳥に、斑鳩は最後の文面を読み上げた。

 

「【無理をさせるけど、よろしく頼むよ。『あーちゃん』】、ですって」

 

「・・・・『あーちゃん』、それって、りっくんが私の事、子供の頃に呼んでいた・・・・!」

 

「理巧の奴、思い出したのか・・・・?」

 

「こりゃ、是が非でも成功させなきゃな!」

 

「うん!!」

 

気合いが入った飛鳥の様子を見て、斑鳩が三人に向かってこう言った。

 

「今までわたくし達が奇襲を掛けられてきましたが、今度は、わたくし達が奇襲を仕掛けてやりましょう!!」

 

斑鳩の言葉に、一同は力強く頷いた。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

半蔵学院を離れた雲雀は、春花に与えられたメモに従って電車を乗り継ぎ、都会から離れ山の中の鬱蒼とした森を歩いていた。

 

「・・・・この先のはず・・・・!」

 

森を抜けると不器用な空が広がり、崖の上から下を見下ろすと、まるで戦国時代の城塞都市が広がっていた。

 

「ここが、『秘立蛇女子学園』・・・・! うわっ!!」

 

すると、雲雀の足に縄が巻き付き、引っ張られて倒れる。

 

「何者だっ!?」

 

おそらく蛇女の下忍だろう二人の女子がそこにいた。

 

「あ、あの、私は!」

 

「くせ者め!」

 

「さては善忍のスパイかっ!?」

 

「ち、違うよ! 『春花』さんに会わせて!」

 

「なにっ!?」

 

「『春花様』ぐぁっ!」

 

雲雀を捕まえた忍の少女の1人が、突如声を上げると気を失ったように倒れた。

 

「っ!? お、おいどうし「悪いけど、大人しくしてくれないかな?」 なっ!?」

 

もう1人の女子の背後に少年が現れ、雲雀の捕らえた縄を奪い、女子の喉元に鋭く削った鉛筆の先を突き立てた。

 

「えっ・・・・ウソ・・・・」

 

「静かにしてくれる。鋭く削った鉛筆は喉を貫く事もできるよ。こんな事で死にたくないでしょう?」

 

「(・・・・コクコク・・・・!)」

 

雲雀に聞こえないように少女の耳元で静かに囁きながら、鉛筆の鋭い先を肌にチクッと触れさせる理巧の声は、酷く冷酷で、冷血で、冷徹に響き、少女は抜けそうに腰と震える足を抑え、失禁しそうになるのを必死に堪えた。

 

「や、雲雀ちゃん」

 

「理巧、くん・・・・!」

 

雲雀の方に向けたいつものやる気が抜けた貌の暁月理巧の登場に、雲雀は目に涙を溜めて、戸惑いと嬉しさが混じったように呟いた。

 

 

 

ー春花sideー

 

豊満な肢体にシャワー浴びていた春花に、伝声管が降りてきた。

 

《は、春花様・・・・!》

 

「どうしたの?」

 

《その、学園の伺う怪しい娘と男を見つけまして・・・・》

 

「娘に男?」

 

《は、はい。その二人が、春花様に会わせろと・・・・》

 

「そう。お部屋に連れてきてちょうだい」

 

《し、しかし! 規則では侵入者を見つけたら先ず学園に報告を!》

 

「・・・・私が連れてきて、って言ってるのよ」

 

《っ! し、失礼しました! すぐに連れていきます!!》

 

シャワーを止めた春花の声を静かにして呟くと、連絡をしてきた女子が慌てて伝声管を引っ込めた。

 

「ウフ。思ってたより早かったわね。それに、貴方も来てくれていのね。暁月理巧様♥️」

 

理巧の顔を、燃えるように美しい緋色の瞳の中に宿る冷徹な光、その瞳で自分を見下ろす理巧の顔を思い出すと、春花の身体が火照りだし身体を少し捩らせた。

 

 



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やって来たぜ、蛇女

ー理巧sideー

 

「ここで待っていろ・・・・」

 

案内した(された?)忍の女子は、理巧に気絶させられた友達を肩に担いで、そのまま去っていった。

床に座った雲雀は意を決して、隣に座る理巧に話しかけた。

 

「理巧くん、どうして雲雀がいなくなるって分かったの?」

 

「・・・・昨夜、柳生さんが基地に来て、雲雀ちゃんが部屋から居なくなったって言って、その時警報が鳴り響いたから、もしかしてと思ったんだ。そして案の定、雲雀ちゃんは連中、と言うよりも、あの『春花』って忍にハメられたと思ってコッソリ着いてきたんだ」

 

「あの、理巧くん・・・・」

 

不安そうに上目遣いになる雲雀の頭に手を置いて、グイッと自分に抱き寄せ、小さく囁いた。

 

「うわっ!////////」

 

「分かってる。雲雀ちゃんは悪くない。悪いのは雲雀ちゃんを利用したヤツだ。柳生さんも、きっと他の皆も分かってくれるよ」

 

「・・・・・・・・」

 

抱き寄せられて顔を赤くした雲雀だが、理巧の言葉を聞いて少し悲痛な顔になる。

 

「でも、雲雀のせいで・・・・」

 

「責任を感じているなら、『忍法書』を取り戻そう。そして皆に謝ろう。ボクも一緒に謝る。だから、自分をあんまり自分を責めないで、雲雀ちゃんが辛そうにしていると、ボクもなんか辛い気分になるからさ」

 

「っ・・・・! うん・・・・! うん・・・・!!」

 

「アラアラ、随分とロマンチックな雰囲気ねぇ?」

 

甘酸っぱい雰囲気の二人を茶化すように言って、髪をタオルで包み、その豊満な肢体にバスタオルを巻き付けた春花が自室にやって来た。

 

「わ! わわ! 理巧くん見ちゃ駄目!!」

 

「(ハルカさんと同じ名前だけど、慎みってものが無いのか?)」

 

雲雀は豊満な春花の肢体を理巧に見せまいと、慌てて理巧の両目をふさいだ。

 

「いらっしゃい。・・・・ごめんなさいね、本当にウチは乱暴な子が多くて困るわ。可哀想に、こんなに汚れちゃって・・・・」

 

そう言って春花が雲雀の口に舌を出して口づけしようとするが、雲雀が顔を反らした。

 

「あら。まだ口づけはしたくない? なら、身体を綺麗にしましょう。勿論、貴方も来てくれるでしょう? 暁月理巧様♥️」

 

理巧に向けて熱っぽい視線を送る春花に雲雀は、えっ? と、目をパチクリさせ、理巧はそんな春花に冷めた視線を送るが、春花は理巧の視線にゾクゾクッと身体を震わせた。

 

 

 

 

三人で泡風呂に入浴する事になった。流石に三人も入るスペースが無く、理巧と雲雀は向かい合う形で風呂に入った。

理巧の隣には、魔性の色気を放つ春花のワガママな裸体が、正面には小柄だが出る所をしっかりと出た雲雀の凶悪な裸体があり、並の男ならば鼻血を吹いて失神してしまいそうな光景だ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかし理巧は、あまり気にしていないように毅然とした態度で、無駄な贅肉の欠片もない細い身体に、引き締まった筋肉を無駄なく付けた身体を惜しげなくさらしていた。

 

「あら、華奢そうに見えていたけど、以外に素敵な身体をしてたのねぇ」

 

「~~~~~~!!///////」

 

春花はうっとりとした目で理巧の身体をねぶるように見つめ、雲雀も理巧に何度も一緒にお風呂に入ろうと誘ってきたが、いざ一緒に入ると気恥ずかしさが出てしまっていた。話を変えようと雲雀が春花に話しかけた。

 

「あ、あの・・・・」

 

「ああ、気にしないで、私も入浴中だったの」

 

「は、はい・・・・」

 

「私の話したこと、ちゃんと分かってくれたのね。それに、まさかこの人まで連れてきてくれるだなんて、嬉しいわ」

 

春花が泡を両手に掬うと、フッと雲雀に吹き掛けた。

 

「・・・・(チラッ)」

 

「・・・・・・・・」

 

雲雀が理巧を一目見るが、理巧は瞑目した。

 

「・・・・もう、半蔵学院には、居場所がないから。でも、本当に半蔵学院の私が、蛇女子学園に転校なんか・・・・」

 

雲雀がそう言うと、春花は満足そうな笑みを浮かべて、雲雀に近づく。

 

「大丈夫。貴女もこの方も決して悪いようにはしないわ。だから、安心してこの私に身を委ねなさい」

 

春花は両手にそれぞれ、理巧の雲雀の頭を優しく掴んで、自分の胸元に押し当てた。

 

「(ウフフ。『オーナーの秘密指令』だなんてどうでも良かったのよ。私はこの子達が欲しかっただけ)」

 

春花は歪んだ気持ちを隠そうとせず、笑みを浮かべて二人をさらに抱き寄せた。

 

「(理巧くん・・・・)」

 

「(慌てないで、チャンスを待つんだ)」

 

「(了解)」

 

が、当の二人はアイコンタクトで、『忍法書』を取り戻す機会を窺っていた。

 

 

 

 

 

 

それから春花に連れられて屋外に出ると、灯籠が幾つも置かれた広い荒野についた。

 

「ここが『訓練場』。蛇女は悪忍の膨大な財力で、能力の有りそうな生徒を日本中からスカウトしてくるの。ウフフ、その分ハズレも多いけれどね」

 

少し離れた場所に、傷だらけの武器が捨て置かれていた。まるで、“ハズレの烙印を押された生徒達の墓標”のように。

 

「これは珍客だな」

 

「はっ!」

 

「・・・・・・・・」

 

背後から聞こえた声に振り向くと、焔、詠、日影、未来、今まで襲撃してきた蛇女の悪忍達が揃っていた。

 

「誰や思ぅたら、半蔵学院の忍にターゲットの男子やんか?」

 

「警備担当は、懲罰物ですわね」

 

「この子達は、今日から蛇女子学園の生徒よ。私がスカウトしてきたの♪」

 

『っ??』

 

春花の言葉に、焔達が驚いたような挙動をする。

 

「スカウトって、男子のボクが蛇女子にですか?」

 

「ああ安心して、貴方は私の大切なお客様だから」

 

「・・・・そうですか」

 

「はぁ~ぁ、また春花姉様の悪いクセが。・・・・ま、その男子の方は別に良いけど・・・・」

 

未来と詠は、理巧に対して少々熱っぽい視線を送るが、焔と日影は若干の警戒心を込めた視線を理巧に送った。

 

「まぁボクとしては、いい加減狙われ続けるのがイヤになったって理由なんですけどね」

 

「・・・・ほぉ、それで大人しく来たって事か」

 

「ええ。それに、『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』。あんなものを誰が持ってきたのか、少し興味が出たんでね」

 

理巧の妙に静かな雰囲気が、焔達が身体を強ばらせる。春花だけは恍惚とした笑みを浮かべていたが。

 

「お前が春花の客人ならば、直ぐにオーナーに会わせる訳にはいかんが、問題は・・・・」

 

焔が雲雀に目を向け、近づく。

 

「本気なのか?」

 

「・・・・ほ、本気です! もう半蔵学院には戻れませんから!」

 

「そうか。では、今からお前は私達の仲間だ」

 

「えっ?!」

 

「どうした?」

 

「どうしたって・・・・」

 

妙に簡単に仲間認定された事に、雲雀は若干戸惑う。

 

「雲雀を疑わないの?」

 

「疑うって、何を?」

 

「今まで敵だった者を、簡単に受け入れすぎる。貴女そう思ってるんでしょう?」

 

未来が口を開き、焔が続ける。

 

「善と言うのは窮屈で差別的だ。悪は善よりも寛容なのさ」

 

「それが善忍と悪忍の違いなのですわ」

 

「もし、雲雀が裏切ったら、どうするの?」

 

「ま、一度裏切ったモンは、また裏切らんとは限らんわな」

 

日影が武器のナイフを取り出して呟き、雲雀が不安そうに顔を俯かせる。

ここで焔達に不信感を持たれれば、『忍法書』の奪還は難しくなる。

がーーーー。

 

「やれるものならやってみれば良いさ」

 

「えっ?!」

 

「悪は来るものは拒まない。だが全ては、自己責任だ」

 

焔達がちょうど横を通りすぎていく、タンカーで運ばれる傷だらけの忍の少女を見てそう言った。

 

「(自己責任、か・・・・)」

 

理巧の脳裏に、『幼少時代の過酷な記憶』が過った。

 

「まぁ、お前よりも厄介そうなヤツがいるからな。そっちの方を警戒するさ」

 

焔は警戒の色を濃くしながら、理巧を見据えていた。

 

「あれ? 僕?」

 

「お前は危険だ。が、どちらかと言えば私達に悪忍に近い気配があるからな」

 

「僕って悪忍寄りなのか」

 

「まぁ何はともあれ!」

 

未来が話に割って入り、理巧を見上げる。

 

「言っておくけど、私を無視したら許さないからね」

 

理巧は未来を見下ろしながら、ソッと頭に手を置いて、優しく撫でた。

 

「大丈夫。未来さん、で良いかな。無視したりなんかしないよ」

 

「~~~。気安く撫でるんじゃないわよ・・・・////」

 

とか言いつつも、理巧に大人しく頭を撫でられ、顔を赤くする未来。

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!」」」」」

 

未来の様子から、雲雀も含んで焔達も何かを察した。

が、それを未来と理巧の間に割って入ったのは、詠だった。

 

「そ、そう言えば暁月さん! 貴方モヤシは美味しいって言ってましたわよね!?」

 

「ええ、言いましたよ。美味しいですよねモヤシ」

 

「でしょ!! モヤシと言うのはですわね・・・・!!」

 

それから詠がモヤシについて熱弁し、理巧は真面目に応対していた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

未来と詠の様子から、二人が理巧に好意を持っているのは明白だった。それを見て何故か雲雀の心が静かに、燃えるような感覚が沸き起こっていた。

 

「良かったな詠さん。モヤシ話に付きおうてくれるヤツが現れ・・・・っ!」

 

日影がふと雲雀を見ると、前髪が目元を隠した雲雀の背後に、紅蓮の炎が燃え上がっているような幻覚が見えた。

 

「なんや、あれ・・・・?」

 

「これは、ちょっと予想外ね・・・・」

 

「まさか詠と未来が・・・・。それに、この娘にもこんな一面が・・・・」

 

焔と日影と春花も、理巧を中心に起こった展開に、少し引きぎみになっていた。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

修行の時間となり、屋内に戻った雲雀は蛇女の制服を着て春花に連れられると、何人もの忍装束を着た悪忍の少女達が、和室の忍教室で授業を受けていた。

ちなみに理巧は焔達に修行相手として連れていかれた。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、生徒が多いなって、半蔵学院は6人しか生徒が居ないのに・・・・」

 

春花はフッと笑みを浮かべると、雲雀を案内しながら口を開く。

 

「善忍のように、“血筋”を重んじるような考えは悪忍には無いもの。“お金の為”、“世間の目から逃れる為”、入学してくる事情は様々だけどね。焔ちゃんって、元々“善忍の家系”でね、本来なら“貴女達のクラスメートだった筈”」

 

「じゃ、どうして悪忍に?」

 

「当然貴女は知っているでしょうけど、善忍の忍学校である半蔵学院は、“過去に違法行為をしていない者しか入学資格を得られない”」

 

「“違法好意”?」

 

「“人を刺したそうよ”」

 

「ええ?!」

 

「あの子には、悪忍になるしか選択肢が無かったわけ。

未来は虐められっ子だったらしいわ。世の中全てを虐め返す為に悪忍の道へ。

日影ちゃんは子供の頃から戦場で育ち、戦闘マシンである事を余儀なくされたし。

貧民街で育ち、貧しさから両親を亡くした詠ちゃんは、世の中の仕組みその物を憎んでいる」

 

春花の口から聞かされら焔達の悪忍へと至った経緯を聞く。

 

「この蛇女子学園の中から、自分達の力でのし上がって認められたのが、私達5人って訳、貴女達とは、前提から違うのよ。・・・・いえ、1人例外がいたわね」

 

「それって、理巧くん、ですか・・・・?」

 

雲雀は、理巧の事だと何故か分かった。

春花と交戦した時の理巧から、普段の暖かくも優しい雰囲気と打って変わった、氷のように冷たい雰囲気が頭を過ったからだ。

 

「ええ。あの人はおそらく私達に近い物がある。初めてあの人の目を見たとき、全身がゾクゾクと震えるような快感があったわ。あの人は『悪の素質』を持っていると、あの人ならば“悪忍の頂点”にすら立てる、そんな確信さえあるほどにね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

雲雀は春花の言葉に、顔を俯かせて黙った。

『悪の素質』。それは理巧の体内に宿る『ベリアルの細胞』が、深く関わっていると思ったのだ。

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧は岩場の修行場で、焔達四人を相手取っていた。

左右の手の指に挟んだ3本、両手合わせて6本の刀を振り抜く焔の攻撃を余裕で回避していた。繰り出される斬撃は命を刈り取るような鋭さを宿す。

 

「(鋭い剣撃。が、両手に3本もの刀を装備しているが故にーーーー)」

 

「なっ!!? がはっ!!!!」

 

「(懐に入ってくる攻撃には、対応が遅れる・・・・!)」

 

焔が両手の6本の刀を交差するように振り下ろすが、理巧は刀の切っ先がギリギリに掠る程の距離で回避すると、一瞬で焔の懐に入り込み、拳底打ちを焔の腹部に叩き込んだ。

叩き込まれた焔は空気を大量に吐き出すと、そのまま地面を転がった。

 

「やっぱアンタやるなぁ?」

 

「ウフフ・・・・!」

 

その焔と入れ替わるように日影と詠が飛び出してくるが、理巧は目の前の二人ではなく、自分の後方に意識を向ける。

 

ガンッ!!

 

日影と詠の攻撃を回避すると、二人の攻撃が地面を砕き、土煙が舞うが、理巧は二人よりも、後方にいた未来に向かっていた。

 

「ーーーー!!」

 

未来は傘に仕込んだ機関銃を理巧に放つが、理巧は蛇行して回避する。

 

「なんで当たんないのよっ!」

 

「(機関銃の命中精度は低い。銃口と目線と指先の動きでどこを狙っているのかはすぐに分かる)」

 

「うわっ! (ベシンッ!!) あだっ!!」

 

未来の眼前につくと、理巧は脳天チョップを振り下ろして未来は痛みで踞る。

 

「っ!」

 

「しっ!!」

 

背後から日影がナイフを振りかぶるが、理巧は寸前で回避すると、日影の脇の下に拳底打ちを叩き込んだ。

 

「生憎ワシには通じんわ・・・・!」

 

日影にニンマリと笑みを浮かべ、ナイフを繰り出すが、理巧は日影の攻撃の合間に拳底打ちを何度も脇の下に叩き込んだ。

 

「せやから、ワシには・・・・!?」

 

その時、日影は声を出せなかった。声を出そうにも肺の中から空気が無くなり、声を続けられなくなったからだ。

 

「か・・・・ぁ・・・・!!」

 

日影は呼吸ができなくなり、身体が空気を求めて動きを静止してしまった。

 

「(いくら頑丈でも内臓は少しずつダメージを受ける。しかも彼女の戦闘スタイルでは常に動き回る、脇の下から受けるダメージは肺から少しずつ空気を抜く。生き物に取って空気が取れなくなれば数分は生きてられない)」

 

常人ならば一撃で身体が動けなくなる攻撃に何発か耐えただけでも、日影の頑丈さの証明になっている。

理巧はさらに両手による拳底打ちを日影の胸に打ち込んだ。

 

「かはっ!! はぁ! はぁ! はぁ! はぁ・・・・」

 

地面に転がった日影は、大量の空気が肺の中に入り込み、荒い呼吸で動けなくなった。

 

「はぁっ!!」

 

すかさず詠が大剣を振りかぶるが、理巧の身体に斬り込まれたと思ったがーーーー理巧の身体が霞のように消えて、大剣がスカッと空を斬った。

 

「えぇっ!?」

 

仰天した振り下ろした大剣の上に、理巧がヒラリと降りてた。詠が斬ったのは、理巧の残像だったのだ。

 

「う、そ・・・・」

 

唖然となる詠の胸に理巧が腰の回転を加えた拳底打ちを叩き込み、詠は悲鳴を上げる間もなく吹き飛んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は手をパンパンと払いながら、倒れた焔達を見据える。

 

「くぅ・・・・っ!」

 

「痛たた・・・・!」

 

「かな、わん、な・・・・!」

 

「はぅぅ~・・・・」

 

焔達も痛みに堪えながら、ヨロヨロと立ち上がり、理巧に向けて再び武器を構えた。

 

「(なるほど、この修行場の雰囲気から、蛇女子学園は完全なる実力重視の校風。そんな学園で半蔵学院と敵対する為に選別されているだけに、焔さん達もそれ相応の実力だな)」

 

あまり目立つのは良くないが、理巧にとってそれは都合が良かった。

何故なら、“この学園に潜入しているもう1人の仲間の事を悟られないように立ち回る”のが、理巧の目的だったから。

 

「(さて、調査は任せるよ・・・・ペガ)」

 



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探るぜ、蛇女

注意:蛇女子メンバーのキャラ崩壊有り。


ー理巧sideー

 

理巧は手をパンパンと払い、衣服に付いた土埃も払っていると、春花と雲雀が修行場にやって来た。

 

「理巧くーーーーん!」

 

「あ、雲雀ちゃん。蛇女の制服、結構似合ってるね」

 

「ありがとう。理巧くんの方は・・・・」

 

雲雀が制服の事を褒められて笑顔を浮かべる雲雀が辺りを見回すとーーーー。

理巧にコテンパンに叩きのめされた焔、日影、未来、詠が死屍累々と倒れていた。

 

「アラアラ。全滅だなんて情けないわねぇ。相手はたった一人じゃない?」

 

「そ、そんな事、言われた、って・・・・」

 

「こ、こっちも、全力、だったの、ですのよ・・・・」

 

「ホンマ、敵わん、わ・・・・」

 

「く、クソ~~~~~・・・・」

 

息も絶え絶えの四人がそう言って、起き上がりたくても、疲労困憊で起き上がれない状態になっていた。

 

「・・・・・・・・仕方ない」

 

理巧が拳を握り、指の関節をゴキゴキと鳴らしながら、うつ伏せに倒れる焔の背中に手を置いてそのままーーーー。

 

「ふあっ!? な、なん、うあっ!? お、おう! な、何して! んああああああんっっっ♥️」

 

「ほ、焔・・・・?!」

 

「な、ななななな! 何してるんですの暁月さん!!?」

 

「えっ、マッサージですけど?」

 

「マッサージ・・・・?」

 

「ええ。流石にこのままじゃ他の忍生徒達の的になりますから、マッサージで疲労回復させようと思いまして」

 

「う、ウソをんあっ! や、やめあぁっ! や、やめへぇぇぇぇ・・・・♥️♥️」

 

最初は抵抗しようとした焔だが、段々全身の疲労処か、身体の力が抜けてしまうような、癒されるようなマッサージの快楽に、顔が弛緩し、舌をトロンッと出し、口元に一筋の涎が零れた。

 

「・・・・流石は暁月理巧様。私もあのゴッドハンドマッサージで陥落させられたわ・・・・//////」

 

「えっ?」

 

春花の言葉に、雲雀は首を傾げながら聞き返すと、春花は疼く身体を静めるように身体をさすりながら声を発する。

 

「そう。あれは私が半蔵学院の襲撃で暁月理巧様に拘束された後、私も全身くまなくマッサージされて、そのなんとも言えない痛みと快楽の奔流に敗北したわ・・・・!」

 

そして理巧のあの冷酷な眼差しにも、精神が屈服しかけたのは心の内に秘めておく。

 

「・・・・さて、次は日影さんかな」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・んぁ♥️」

 

全身の疲労が抜けたと同時に、全身の筋肉の力まで骨抜きにされたように、息も絶え絶えの焔は、うつ伏せのまま火照った身体を静めようとした。

 

「ふん。焔さんは惨めな姿を晒したようやけど、ワシはそうはならんで・・・・」

 

~数分後~

 

「ん~~~~っ♥️♥️ ん~~~~~~っ♥️♥️♥️」

 

日影は目元に涙が溢れ、口元を両手で抑えて全身に走る強烈な快楽に必死に耐えており、普段の日影からは想像できないような姿を仲間達に晒した。

 

「う、ウッソ~・・・・!」

 

「あの日影さんが、あんな姿を見せるなんて・・・・!」

 

「暁月理巧様。本当に恐ろしいお方・・・・!」

 

「(理巧くんのマッサージって、そんなに気持ちいいのかな)」

 

「お、お前、どうやって、そんな技術を・・・・//////」

 

まだ火照りが抜けていない焔が、日影の肩を肘でマッサージする理巧に聞くと、理巧はなんでもないように話した。

 

「ん? ちょっと育ての親に教わってね」

 

 

* * *

 

 

【ちょっと理巧。全然効かないんだけど?】

 

【・・・・難しい】

 

【後でコツ教えてやるからな理巧】

 

【風呂、上がったぞ】

 

【もうすぐ晩ご飯ですよ~!】

 

ナリカとのゲーム勝負に負けてマッサージする事になったが、上手くできない理巧に夕刊を読んでいた鷹丸が苦笑いを浮かべ、スバルが風呂から上がって来て、ハルカが晩御飯を持ってきた。

 

 

* * *

 

「(こ、これ、何やねん、ワシ、こんなん、知らん・・・・うぅ♥️♥️♥️//////)」

 

日影は全然知らない快楽に戸惑いながら、地面に顔を突っ伏した。

 

「さて、次は・・・・」

 

「よ、詠お姉ちゃんよ! お姉ちゃんから先にお願い!!」

 

「ちょっと未来さん! 何て事言うんですの!!」

 

「私よりお姉ちゃんの方が胸やらお尻やら色々大きいんだから! 私より疲労が凄いはずでしょ!!」

 

「そんな事をおっしゃって! 本当は未来さんだってボロボロでしょうに!!」

 

「それじゃ詠さんで・・・・」

 

「えっ!? あ、暁月さん! そんな事いきなり! わ、わたくしにも心の準備が・・・・!! あ・・・・ッッ、ふぁあああん! ら、らめぇぇぇぇぇ!♥️♥️♥️」

 

詠も嬌声を上げて、理巧の手管に身悶えた。

そして最後に未来。未来の方は靴を脱がせて足つぼマッサージを行った。

 

「ひゃぁああぁっ! しゅ、しゅごいっ!! こ、こんなのはじめてぇぇぇっ!!♥️♥️♥️」

 

全員のマッサージを終えた理巧は、一仕事終えたように額の汗を拭うと、雲雀と春花と合流する。

 

「それで、何かあったの?」

 

「え、ええ。これから私達の先生に二人を紹介しようと思ってね・・・・」

 

「そうですか。じゃ行きますか?」

 

「ええ」

 

「うん!」

 

春花に案内されながら、理巧と雲雀は歩き出した。

 

「あの理巧くん、今度雲雀にもマッサージして・・・・//////」

 

「良いよ」

 

「あ、それなら私もお願いするわ♪」

 

「別に良いですけど」

 

「「「「・・・・//////」」」」

 

焔達がようやく身体を動かせるようになるまで、十数分かかってしまい、それまで他の生徒達が襲撃してこない事を柄にもなく神に祈った。

 

 

 

 

「お待たせ」

 

それから燭台の蝋燭が薄く照らす薄暗い部屋で、上座のような場所に春花が『鎧武者』を連れてやって来た。

上座に座り、理巧と雲雀を見据える。

 

「『鈴音先生』よ。私達の教官様」

 

「・・・・暁月理巧です」

 

「ひ、雲雀です!」

 

『半蔵学院から寝返るとは、にわかに信じられんな』

 

「前例が、無いわけではありませんわ。寝返ったことで、優秀な忍になる可能性だってあるでしょ?」

 

春花は理巧と雲雀の肩に手を置いて、自分の胸元に引き寄せた。

 

『・・・・・・・・暁月理巧』

 

「はい」

 

『貴様は『オーナー』が所望しているが、今は引き渡す事はしない。だが、貴様の行動しだいでは・・・・分かるな?』

 

「・・・・肝に命じておきます」

 

『鈴音』と呼ばれた鎧武者は、目線を鋭くして理巧を睨む。

 

『その眼、似ているな。“あの忌々しい3人に”・・・・!』

 

「(ピクッ)」

 

鈴音の言葉に理巧は僅かに眉を動かした。

 

『・・・・春花。その二人はお前に任せる』

 

「御意」

 

『雲雀と言ったな?』

 

「は、はい!」

 

突然声をかけられた雲雀は緊張する。

 

『善忍から悪忍になるには『覚悟』が必要だ。“身も心も捨て去る覚悟がな”』

 

「身も、心も・・・・?」

 

そう言って、鈴音は部屋から退室すると、春花が口を開いた。

 

「鈴音先生も、元は善忍なの」

 

「えっ!?」

 

「元善忍?」

 

「これはトップシークレット。あなた達に教えるのは、そう言う人もいると言うのを知って欲しいからよ」

 

雲雀は鈴音先生が元善忍と聞いて、以前島で見つけた単語が過った。

 

「(元善忍・・・・まさか、あの人は・・・・?)」

 

理巧も理巧で、鈴音先生に対して、心当たりがあった。

 

 

ー???sideー

 

鈴音先生は、御簾の向こうにいる『オーナー』に報告をしていた。

 

『編入生? こんな時期にか?』

 

『生徒からの推薦です。忍としての能力も認められます。ただしその生徒は・・・・』

 

『『リン』。生徒の管理はお前の仕事だ』

 

『承知しました・・・・』

 

『不満か? 私がお前に相談もせず独断でコレ<秘伝忍法書>を入手した事が?』

 

『その事ではありません。前にも申し上げた通り、ただ入手するだけでは無意味。愚行にしかなりません』

 

『勘違いするなよ鈴音。貴様誰のお陰でここにいられると思っている? 善忍として忍務に失敗し、死にかけていた貴様を拾い、ここまで取り立ててやったのは私だ』

 

『心しております・・・・』

 

『分かっているなら良い。では、半蔵学院にいる標的の少年、暁月理巧の捕獲の方も任せるぞ。何しろあの少年、貴様にとっては忌々しいあの『閃忍』達が手塩にかけた愛弟子だからな?』

 

『・・・・・・・・失礼致します』

 

鈴音先生はそう言うと、その場から消えた。

 

『あの雌狐め。段々反抗的な態度が露になってきたな』

 

鈴音先生に毒づく『オーナー』の近くに、異形の生命体が現れた。

 

『あの女。裏切るんじゃなイカ?』

 

『あり得るな。その時は頼りにさせてもらおう。『イカルス星人』よ』

 

『くくく。任せて貰おうじゃなイカ。あぁそれと、『AIB』がコソコソと動き始めている。奴らの目を逸らしておいた方が良いんじゃないイカ?』

 

『そうだな。あの『閃忍』共も相当に目障りだからな。・・・・イカルス星人、奴らへの対処は・・・・?』

 

『すでに始めているに決まっているじゃなイカ』

 

イカルス星人は、笑いを堪えるように呟いた。

 

 

 

 

 

ー鈴音先生sideー

 

鈴音先生は、塔の天辺から細い三日月を見上げていた。

 

『この私を利用し、今の地位を得たのは貴様ではないか・・・・! もはや猶予は有らんな。この月下を、血に染めなければならぬ時が来たようだ・・・・』

 

そう言って、鈴音先生はその場から消えた。

 

 

 

ー柳生sideー

 

ようやく落ち着きを取り戻した柳生は、霧夜先生に謝意をのべ、霧夜先生は「飛鳥達に感謝しろ」と言いながら、地図を広げて蛇女の居場所を模索しながらお茶と煎餅を頬張る飛鳥達を見据る。

柳生も飛鳥を見て口を開く。

 

「あの時のオレは、頭に血がのぼって手加減できなかった・・・・。そのオレの本気の突きを、飛鳥にかわされた。蛇女の悪忍でもかわせなかった突きを・・・・」

 

「飛鳥の腕も飛躍的に向上している、と言う事か?」

 

「そう言う事になると思う」

 

霧夜先生は、以前大道寺から言われた『飛鳥の潜在的な強さ』が頭に過った。

 

「諸刃の剣、か・・・・(チリ~ン・・・・)っ!」

 

そう呟いた霧夜先生の耳に、鈴の音が聞こえた。

 

「どうした?」

 

「いや、用事を思い出した。俺が戻るまで待機だ。“基地に籠っている理巧達にも伝えておけ”」

 

“理巧達は雲雀の行方を探すために基地に籠っている”、と霧夜先生は斑鳩達に聞かされていた。

霧夜先生が忍教室から去るのを確認すると、柳生は飛鳥達に近づく。

 

「・・・・霧夜先生の様子、どうでしたか?」

 

「・・・・理巧の見立て通り、何か隠してるな」

 

理巧の置き手紙に、霧夜先生が隠し事をしている事が記されており、理巧が雲雀と一緒に蛇女に行っている事も伏せるように書かれていた。

 

「それで、レムからの連絡は?」

 

「うん。ペガ君が送ってくれた蛇女の写真だよ」

 

飛鳥がスマホを取り出して画像を見せると、時代劇に出てきそうな城塞と、和風の城内、そこで修行する悪忍らしき少女達と、理巧と模擬戦をしている焔達の画像が送られていた。

理巧のスマホは既に蛇女に奪われ飛鳥達と連絡は取れないーーーーと見せかけて、実はペガに、蛇女の内部情報を飛鳥達に教える為に『ダークゾーン』で潜入調査をして貰っているのだ。

 

「しっかし、ペガにこんな危ない役割をさせるとはなぁ」

 

「ペガ君自身も承諾したようですし、それにこの内部調査は『ダークゾーン』が使えるペガ君にしか頼めないのも仕方ないでしょう」

 

「敵の城内の見取り図が『解る』のと『解らない』のとでは、襲撃作戦の成功の確率が違うからな」

 

「でも、もし蛇女が怪獣を持ち出したらどうしよう? 理巧君、“ジードになれないんだよ”」

 

飛鳥の言葉に、斑鳩達も渋面を作った。なぜなら理巧は、“ジードライザーと一本だけ抜かれたカプセルホルダーと装填ナックルを半蔵学院に置きっぱなしにしてきたからだ”。

 

「とりあえず今わたくし達は、ペガ君から送られた写真から、城内の見取り図を作っておきましょう」

 

斑鳩が地図を裏返しにして、写真から見取り図を書き記した。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生は、音を追っていると、夜の人気のない五重の塔へとたどり着いた。

 

「音はこの辺りからだ・・・・」

 

≪おい霧夜。これは罠かもしれないぞ≫

 

「分かっている。だが・・・・」

 

ーーーーチリ~ン・・・・。

 

鈴の音に振り向くと、鎧武者姿の鈴音先生が立っていた。

 

「っ、貴様は?!」

 

『蛇女子学園忍講師、鈴音・・・・』

 

「鈴音・・・・?」

 

『半蔵学院、忍学科教師霧夜。手合わせ願おう・・・・!』

 

「っ!」

 

鈴音先生が刀を持ち出すと、霧夜先生も刀を逆手に構えた。

 

「ふっ!」

 

『はっ!』

 

二人は空を跳んで交差し、そのまま地面に着地した。

 

「くっ! あえて、俺に太刀筋を見せたか・・・・!」

 

霧夜先生は左肩を抑えて、背後にいる鈴音先生に視線を向けた。

 

ーーーービキビキ・・・・ガシャァン! たゆん・・・・。

 

鈴音先生が起き上がると、胸元の鎧が音を立てて砕けると、その豊満な胸元が揺れ、頭の鎧も砕け、その素顔が露になった。

 

「『凛』!」

 

そこにいたのは、紫色の髪の毛をアップさせ、かつての教え子の少女が妖艶な大人の美女になった面影があり、赤い縁なし眼鏡をかけた、『凛』だった。

 

「うふふ。顔を見たら、ちょっと試してみたくなったの。たった一太刀でばれてしまうだなんて。フフっ、流石は私の師匠」

 

「『教え子』の太刀筋を忘れる物か・・・・」

 

「くっ・・・・!」

 

≪ん?≫

 

『教え子』と霧夜先生が言うと、鈴音先生、いや凛は口元をギリッと、不愉快そうに歪め、ゼロだけがそれに気づいた。

 

「そうそう! 『教え子』と言えば、あなたの『教え子』は蛇女子学園のお預かりの身となりました」

 

「っ! 雲雀は、やはり蛇女に・・・・!?」

 

「お互い今は責任者同士。報告するのが筋ですから」

 

「何故だ凛!? 何故お前が悪忍に?!」

 

「その答えは・・・・!」

 

凛は紙を巻き付けたクナイを霧夜先生に投げつけると、霧夜先生はそれを二本の指で掴んだ。

 

「そこで教えてあげる!」

 

「・・・・蛇女の地図?」

 

「待ってるからね。霧夜先生・・・・!」

 

凛は煙玉を使って、その場から消えた。

 

「凛・・・・!」

 

霧夜先生の声は、夜の暗闇に虚しく消え、辺りには静かな鈴の音だけが残響を響かせた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「あひぃぃぃぃぃぃんん♥️♥️♥️ り、理巧様♥️ もっと、もっとしてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!♥️♥️♥️」

 

その頃理巧は、春花の自室で、うつ伏せになった春花に

かなり強烈な全身マッサージを繰り出して身悶えさせていた。

 

「これ以上は結構痛いですけど?」

 

「いいの♥️ 痛くしていいの♥️」

 

「痛いのがいいんですか? それならおもいっきり・・・・!!」

 

「あぅうううううんんんんん♥️♥️♥️♥️」

 

「~~~~~//////」

 

春花は顔が蕩けるような笑みを浮かべた。その淫らに悶える姿に、雲雀は顔を赤らめて手で顔を覆い隠すも、指の隙間からジ~っと見つめていた。



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動くぜ、状況

すみません。書いている内に今回の怪獣戦闘は無しになりました。


ーイカルス星人sideー

 

イカルス星人は、空中ディスプレイを展開すると、金で雇っておいたチンピラ宇宙人達に指示を飛ばす。

 

『よし。準備を始めようじゃなイカ。さっさとその地点の怪獣達を起こしておけ』

 

《了解》

 

イカルス星人に雇われたチンピラ宇宙人達は、“指定された場所で眠っている怪獣を起そうとしていた”。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

同時刻。

目の前に突如として現れたかつての教え子・凛。

ずっと忍務で亡くなっていたと思っていた少女が、妖艶な大人の女性に、それも悪忍達の教師となって、現れた事実に、霧夜先生はしばし呆然となるが。

 

≪霧夜≫

 

「分かっている。・・・・隠れてないで出てこい」

 

霧夜先生が後ろに向かってそう呟くと、物陰から飛鳥達が現れた。

 

「ば、バレてました・・・・?」

 

「流石先生、だね♪」

 

「・・・・俺は部屋で待機してろとい言った筈だが?」

 

「申し訳ありません。先生が尋常ならざる雰囲気でしたので、つい・・・・」

 

「ふぅ・・・・。理巧か? 俺の様子に気を付けろとか言ったんだろう? まったく。勝手に雲雀に付いていって蛇女に潜入までしやがって・・・・」

 

霧夜先生の言葉に、飛鳥達がピクッと肩を揺らした。

 

「霧夜先生。知っていたのか? 理巧が蛇女に行っていると?」

 

「まぁな。アイツの育て親達から、『理巧と連絡が付かない』って連絡があったからな」

 

「それだけで、ですか?」

 

「お前達は知らないだろうが。理巧が育て親からの連絡を無視するなど、絶対にあり得ない。今日1日でまるで姿も連絡も寄越さないから、もしかしてと思ってはいたが。お前達の反応で確信になったよ。さて、何はともあれ、蛇女の居場所が分かった」

 

霧夜先生は、先ほど『凛』、いや、蛇女の教師の『鈴音』から貰った地図を飛鳥達に見せた。

 

 

 

 

 

忍教室に戻った一同は、地図に記された一点を見据える。

 

「ここが蛇女な本拠?」

 

「随分と山ん中だなぁ!」

 

「文化遺産保護の名目で、立ち入り禁止区画となっている場所だ。 おそらくは、悪忍の息のかかった役所か企業の仕業だろう」

 

「霧夜先生! 蛇女子学園に行かせてください!」

 

「おお! 雲雀達を助けるんだ!」

 

「・・・・それはできん」

 

飛鳥達が意気揚々と言うが、霧夜先生は許可しない。

 

「っ何故だ?」

 

「先生!」

 

柳生と葛城に向けて、斑鳩が口を開く。

 

「事は簡単ではありませんわ。悪忍の秘密施設へ、善忍のわたくし達が乗り込めば・・・・」

 

「斑鳩の言うとおりだ。善忍と悪忍の全面抗争に発展する可能性もある。忍はあくまで社会に潜む『影』。『影』が身勝手な抗争を始めれば、この国そのものを揺るがしかねないからな」

 

「どうして善忍だけ遠慮しなくちゃいけねぇんだよ! 悪忍だって攻めてきたじゃないっすか!?」

 

悪忍と善忍の全面抗争は避けねばならない。しかし、葛城の言い分も一理ある。

 

「(確かに、悪忍側が暗黙了解を破るとは思えん。・・・・あの襲撃が蛇女の独断だとすれば・・・・『凛』、お前の目的は何なんだ?)」

 

「このままりっくん達を放ってはおけません!」

 

霧夜先生の熟考するが、飛鳥の声で我に帰ると、斑鳩たちも飛鳥と同意と云わんばかりの視線をし、どうしようかと悩んでいるとーーーー。

 

「陰と陽。これぞ世の理」

 

突如、飛鳥の祖父、半蔵が現れた。

 

「じっちゃんっ!?」

 

「半蔵様・・・・」

 

「陽無くば、陰もまた存在せん。逆もまた然りじゃ」

 

「悪忍との戦いは、無意味だと・・・・?」

 

斑鳩の言葉に、腰を下ろした半蔵が口を開く。

 

「いや、奴らのやり方は非合法、悪じゃ。悪に対抗する力の盾として、我ら善忍の存在は必要不可欠」

 

「そんな難しい事はどうだって良いっす! アタイ達は・・・・ん?」

 

葛城は、立ち上がった柳生を見て言葉を中断した。

 

「場所は分かった。『策』も立ててある。オレは行くつもりだ」

 

「柳生ちゃん」

 

「行くが良い」

 

『っ!?』

 

てっきり止める為に来たのかと思った半蔵の反応に、一同は驚く。

 

「これはあくまで、『学生同士のいさかい』じゃ」

 

「学生同士の・・・・」

 

「では、我々<教師>は関与しないと?」

 

「無論。子供のいさかいに大人が出るわけにはいかんからのぉ」

 

「しかし! それでは・・・・!」

 

「全ての責任は、この半蔵が負う。誰にも文句は言わせぬ!」

 

「半蔵様・・・・」

 

「じっちゃん!」

 

「よっしゃ! 『伝説の忍 半蔵様』のお墨付きだぜっ!」

 

「はぁ、どうして貴女はそう能天気なのでしょう?」

 

「へへへ」

 

呆れる斑鳩の肩を、葛城がポンポンとたたく。

半蔵は立ち上がり、柳生に話しかけ、その頭にポンっと手を置いて撫でた。

 

「ほっほっほっ。『仲間』くらい助けられんで何の忍か。のう? 柳生よ」

 

「はい・・・・」

 

≪どうするよ霧夜? 俺はどちらかと言うと半蔵の爺さんに賛成だぜ?≫

 

「(・・・・しかし)」

 

≪飛鳥達だって、無策に行こうって訳じゃねぇんだ。師匠なら、弟子達を信じて、任せてやっても良いんじゃねぇか?≫

 

「・・・・・・・・半蔵様の御命と在らば、了解致しました」

 

「「先生!」」

 

「そう来なくっちゃ!」

 

「と、言う事で、ワシからの差し入れじゃ!」

 

半蔵が『特性太巻き』を取り出すと、飛鳥達が歓声を上げて頬張る。

がーーーー。

 

「それはそれとして・・・・」

 

「「「「ん??」」」」

 

霧夜先生がニヤリと笑みを浮かべると、飛鳥達は妙にイヤな予感がした。

 

 

 

ー葛城sideー

 

葛城と斑鳩は隣合うように、廊下に逆さ宙吊りになった。

 

「あ~ぁ、理巧の勝手行動を黙っていた事と、勝手に教室を出たからって、何もこんな時まで・・・・」

 

「これも修行の内です」

 

「おぅおぅ出た出た♪」

 

「何です?」

 

「べ~つに~・・・・「葛城さん」ん?」

 

「敵地に乗り込む以上、何が起こってもおかしくありません。頼りにしてますからね」

 

「へぇ、斑鳩もそういう事言うんだ・・・・」

 

初めて会ったときと随分丸くなったなぁと、葛城は内心思った。

 

「お互い、上級生としての責任もありますでしょ?」

 

「アタイなんて、最初から頼りにしてんだぜ?」

 

「え・・・・」

 

「気合い入れていこうぜ。委員長」

 

「ええ!」

 

上級生の二人は手を叩きあった。

 

 

ー柳生sideー

 

上級生二人と別の廊下で同じように宙吊りになっている柳生と飛鳥。飛鳥が柳生に話しかける。

 

「柳生ちゃん」

 

「?」

 

「りっくんに雲雀ちゃん。絶対に助けだそうね!」

 

「・・・・理巧が付いていてくれている。雲雀は安全だろうが、必ず二人とも助けだす。オレだけじゃなく、こんなに頼れる仲間がいるからな」

 

「そうだよね! 私達みんながいれば、絶対に大丈夫だよ!」

 

「・・・・ああ!」

 

下級生達も、それぞれに決意を胸に夜を迎えた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

夜の蛇女子学園の廊下。

そこには蛇女の悪忍達が警備に動いており、まさに鉄壁の警備態勢であった。

が、蛇女の居場所は極秘故に、侵入者など現れた事がなく、警備をする忍達には僅かな気の弛みがあった。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そしてその真上の天井を這いずる影、ペガの『ダークゾーン』に潜んでいるペガと、春花をマッサージで眠らせた理巧と雲雀の存在に気づく筈もなく、三人は息をひそめて、『強い気配』がいる最上階、『超秘伝忍法書』が隠されていそうな場所に向かっていた。

 

「・・・・うまく行ったようだね」

 

「ペガ君の『ダークゾーン』のおかげだよ」

 

『へへへ♪』

 

ひっそりと小声で会話する一同は、御簾の向こうから声が聞こえ、耳をすませた。

 

「裏切るつもりか!?」

 

「っ!」

 

「・・・・(し~)」

 

御簾の向こうから聞こえる野太い男の怒鳴り声に、雲雀が小さく悲鳴を上げそうになるが、理巧が雲雀の口を人差し指で抑えて止め、静かにするようにジェスチャーすると、雲雀が小さく頷き、再び三人は耳をすませ、続いて『鈴音』らしい女性の声が聞こえた。

 

 

ー鈴音sideー

 

鈴音は喚き始めた“オーナー”の態度など意に返さず答える。

 

「仰る意味がわかりません」

 

「半蔵側にこの蛇女の位置を教えた事が、裏切りではなくてなんだと言うのだ!?」

 

「・・・・『超秘伝忍法書』は、入手しただけでは無意味。『選ばれし者』が有ってこそ、その意味を成すと申した筈です。この私は、その手助けをしたまで・・・・」

 

淡々と説明する鈴音だが、オーナーの声は苛立ちを隠そうとせず声を張り上げる。

 

「わざと半蔵の生徒を呼び込み、戦うように仕向けた、というのが?!」

 

「御意。忍の学生は未完成、故にその力も未知数だからこそ、“『超秘伝忍法書』を継承する器”になり得るのです。『陰』のみならず、『陽』の秘伝書もこちら側にある以上、『陽の継承者』、即ち善忍の忍学生を呼び込むのは必然」

 

ーーーーガシャァンッ!!

 

『「「っ!」」』

 

御簾の向こうから、ガラスを床に叩きつけ壊れる音が響くと、オーナーがヒステリーを撒き散らすように、また怒鳴り声を響かせた。

 

「正気かっ!? ここを知られた事が、“上層部”の耳に入れば・・・・!」

 

明らかに保身の為の責任逃れを喚くオーナーの醜態に、鈴音は毅然とした態度で返す。

 

「自らの功を焦り、独断専行したのは貴方でしょう」

 

「なにっ!」

 

「首を晒すなり、逃げるなり、ご自由に為されば良い。止めは致しませんゆえ」

 

鈴音は、もはや問答する相手ですらないと云わんばかりに、その場を去ろうとする。

 

「~~~~!! こやつめ、ヌケヌケと! 裏切り者の鈴音を捕らえよ!!!」

 

オーナーが叫ぶと、鈴音の周りを何人もの忍生徒達が現れ、手に持った棒で鈴音を抑えた。

 

「(・・・・・・・・ふっ)」

 

しかし鈴音の口元には、ニヤリと笑みが浮かんでいた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「(みんながここに来るのかな?)」

 

「(そのようだね。ペガ、みんなに内部の情報は?)」

 

『(バッチリだよ!)』

 

「(良し。とりあえずここは一旦引こう。忍教師である鈴音さんと、蛇女のオーナーの間に亀裂が生まれた。これで蛇女の統制は僅かに乱れる。僕たちはその隙を見て、『超秘伝忍法書』を奪取しよう)」

 

「『(了解)』」

 

ハンドシグナルで会話を終えた三人は、再び『ダークゾーン』で部屋から脱出した。

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥達は半蔵学院訓練場の合宿所にて、盃を地面に割る出陣式をやった。

もっとも、片付けが大変だからプラスチック製の盃なので割れず、なんとも締まらない出陣式だったが。

改めて、横一列に並んだ四人に霧夜先生が声を発する。

 

「斑鳩!」

 

「はい!」

 

「葛城!」

 

「おう!」

 

「飛鳥!」

 

「はい!」

 

「柳生!」

 

「はい・・・・!」

 

「理巧と雲雀とペガくんの救出と、『超秘伝忍法書』の奪還の為、秘立蛇女子学園に潜入せよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「ただし最重要忍務は、全員生きて帰ってくる事だ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

霧夜先生の言葉に、四人は笑みを浮かべて返事をすると、近くにいた半蔵が声を発する。

 

「あくまで、『子供のいさかい』、じゃからの」

 

「総員! 転身せよ!」

 

「「「「はい! 『忍転身』!!」」」」

 

「出動!!」

 

転身した四人に霧夜先生が叫ぶと、四人は合宿所の近くの小滝からハングライダーで飛んでいった。

そして最後に残った飛鳥は、焔に惨敗した時の事を思い返していた。

 

「(敵地、か・・・・。まともに勝てた事も無いのに・・・・)「飛鳥よ」っ! じっちゃん!」

 

「忘れるでないぞ。『本当の強さ』を」

 

それを言われ、飛鳥は胸の谷間から、以前の『這緊虞』で勝ち取った半蔵の巻物に記された『力即刀盾』を見ると、半蔵がそれを得たのが飛鳥だと言う事に喜んだ事を伝え、飛鳥はその巻物を半蔵に預かってもらって、飛んでいった。

 

「(怖くなんかない! 私は、じっちゃんの孫! そして、半蔵学院の忍なんだ!!)」

 

空で仲間達と合流し、編隊を組んで空をかけていった。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

それを見届けた霧夜先生(&ゼロ)と半蔵に、大道寺が現れた。

 

「事は単純ではない・・・・」

 

「大道寺」

 

「凜の事じゃな? 蛇女の位置を我らに教えたのは、おそらく凜の独断。事が知れれば、処分は免れぬ。じゃからこそ、お主らも追って蛇女に向かうのじゃろ?」

 

「っ! お見通しでありましたか・・・・」

 

「お主ら二人が揃い、凜が絡んでおると有らば、せんない事じゃ。ほうっておく訳にはいくまいて」

 

「ご慧眼の限り。我、他にも不穏な事実を入手せり」

 

「不穏?」

 

「悪忍の忍学生。これ、すべからく『外法』が掛けられている由!」

 

「っ!?」

 

「外法じゃと!?」

 

「然り。さらに、怪獣達の活発な動きと融合獣なる異形の怪獣。これ即ち、『ウルトラマンベリアルの配下』の仕業なり」

 

「なに!?」

 

≪ベリアルの配下?!≫

 

「左様。その正体は掴めなんだが、おそらく、その『配下』が蛇女に手を貸し、尚且つ『光の国』より暁月理巧が『ジードライザー』と名付けた道具と、『ウルトラカプセル』を盗み出した下手人と推察する」

 

「これまでの蛇女による怪獣召喚は、やはり『異星』の力、それもベリアルの手の者か・・・・」

 

半蔵の脳裏に、かつての記憶が鮮明に甦る。

十数年前、孫の飛鳥が生まれる少し前に起こった、宇宙崩壊の危機である『クライシス・インパクト』の記憶が・・・・。

 

「っ鷹丸?・・・・失礼」

 

と、そこで霧夜先生が、内ポケットからスマホを取り出すと、画面に理巧の育ての親である『戦部鷹丸』の名前が表示され電話に出た。

 

「鷹丸。どうした・・・・・・・・・な、何だとっ!?」

 

「「っ!」」

 

霧夜先生の様子から、半蔵と大道寺も何事かと目を向けた。

 

「分かった。すぐに向かう(ピッ!)・・・・たった今、鷹丸から連絡があり。『AIB』の怪獣監視地区で、“卵の状態だった『古代怪獣ツインテール』が突然孵化したようです”」

 

「なんじゃと?!」

 

「師よ。確かその怪獣がいる地区の近くには、それなりに大きな町があったな?」

 

「ああ。それに、“孵化したツインテールに釣られて、『地底怪獣グドン』も現れました”」

 

「確かグドンの好物は、“孵化したばかりのツインテール”であったな」

 

「孵化したばかりの怪獣は餌を求めて町に向かう、好物の餌を求めて向かっているもう1体の怪獣。もし2体が町で出くわせば、町や町民達に甚大な被害が出るぞ・・・・!」

 

半蔵の言葉を首肯しながら、霧夜先生は『NEOウルトラゼロアイ』を取り出す。

 

「はい。俺はこれからゼロと、2体がかち合う前に、ツインテールを町から遠ざけ、グドンもまとめて倒します」

 

「うむ」

 

「師よ。この時期に突如2体の怪獣の出現。何か策略めいた臭いがするが・・・・」

 

「それでも行くしかない。行くぞゼロ! (デュォォン!) ちゃちゃっと片付けてやる。シャァッ!!」

 

『NEOウルトラゼロアイ』を装着してウルトラマンゼロに変身し、空を飛んで行った。

 

「・・・・大道寺よ。この状況も、主の申した『ベリアルの配下』が関わっているのう?」

 

「おそらく」

 

「やれやれ。どうやら理巧くんと飛鳥達は、ベリアルと関わる運命のようじゃな」

 

半蔵は顎髭を撫でながら、“瞳を金色に光らせると、その瞳に理巧の状況が映し出されていた”。

 

「この少年は、とてつもなく険しい宿命の道を進まねばならぬようじゃな・・・・」

 

半蔵は瞑目した。

年若い少年の先行きにせめてもの幸運が在らんことを祈るようにーーーー。




ー次回予告ー

遂に半蔵学院と蛇女子学園の最終決戦が幕を開いた。果たして、僕たちはこのいさかいを終わらせる事ができるのか? でも、鈴音先生・・・・いや、凜さんの目的は一体何なんだ? そして蛇女子のオーナーこと道元も動き出す。

次回、『閃乱ジード』

【決戦 半蔵VS蛇女子】

決戦だぜ、みんな!


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決戦 半蔵VS蛇女子
悪者か、焔達?


今年も『閃乱ジード』をよろしくお願いします。
今年最初はゼロがバトル。


ーゼロsideー

 

深夜の山に囲まれた場所で、2体の怪獣が戦っていた。

 

『グギャアアアアア!!』

 

『ギュワァァァァァ!!』

 

黒い大きな角を持ち、両腕に長いムチを振り回す『地底怪獣 グドン』。

シャチホコのように頭が下で、小さなトゲが並んだ鞭がついた尾を高く上げた怪獣、『古代怪獣 ツインテール』。

生まれたばかりのツインテールは腹を空かせ、近くの町に向かおうとしていたが、生まれたてのツインテールが大好物のグドンが現れ、そのまま交戦状態に陥り、辺りを荒らしながら戦っていた。

 

『グギャアアアアア!!』

 

『ギュワァァァァァ!!』

 

『止めろテメェら!!』

 

『グギャアア!』

 

『ギュァァァ!』

 

グドンに『ゼロキック』を繰り出したウルトラマンゼロはそのまま1回転して、ツインテールにもキックを浴びせ2体は大きく倒れると、土煙を上げて倒れる。

 

『シャァッ!!』

 

起き上がった二体がウルトラマンゼロを敵と認識し、ゼロは構えるとグドンに正拳突きを繰り出し、ツインテールにもローキックを浴びせた。

 

『グギャアアア!!』

 

『ギュァァァ!!』

 

グドンは両手の鞭を振り回し、ツインテールも尾の鞭を振り回しゼロへと迫る。

 

『ちぃっ! 鬱陶しい! 攻撃だぜっ!』

 

本調子ならば余裕で対処できるが、今の状態では苦戦していた。

 

『うぉ!?』

 

『ギュワァァァァァ!!』

 

回避していたゼロの両腕にグドンの鞭が巻き付き、動きを抑えられ、がら空きとなった背中にツインテールの鞭が叩きつけれた。

 

『グァアっ!!』

 

『グギャアアアアア!!』

 

グドンは頭の角を振りながら、ゼロに攻撃を仕掛けようとしたが・・・・。

 

≪ゼロ!≫

 

『分かってる! 『ゼロスラッガー』!!』

 

頭に装備したゼロスラッガーを遠隔で操作すると、グドンの角を弾き、背後のツインテールを斬りつける。

 

『ギュワァァァァァ!?』

 

ツインテールが怯んで後方に退くと、ゼロはグドンに顔を向ける。

 

『『エメリウムスラッシュ』!!』

 

『グギャアアアアア?!』

 

ゼロが額から放たれた光線によって、後ろに吹き飛ぶグドン。

 

『フッ! シュワッ!』

 

『ギュワァァァァァ!!』

 

戻ってきたスラッガーを両手に持って、トゲ付きの鞭を振り回しながら自分に迫るツインテールを迎撃した。

 

『グギャアアアアア!!』

 

起き上がったグドンが身体を平身させて、頭の角をゼロに向けて突き立てながら突進してくる。

 

『「ゼロ!」』

 

『応よ! シャッ!』

 

霧夜先生が叫ぶと、ゼロはグドンの角が背中に突き刺さりそうになる寸前、後方に大きく反転し回避すると、グドンはゼロと相対していたツインテールにぶつかり、2体は縺れ合って倒れた。

 

『グギャア?! グギャアアアアア!!』

 

『ギュワァァァァァ!! ギュワァァァァァ!!』

 

2体はそのまま起き上がろうとするが、お互い暴れ合って動き辛くなっていた。

ピコン・・・・ピコン・・・・と、カラータイマーが鳴り響き、ゼロはゼロスラッガーをカラータイマーに合体させてーーーー。

 

『これで終わりだっ! 『ゼロツインシュート』!!』

 

『『ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!』』

 

ーーーーチュドォォォォォォォォォォンン!!

 

ゼロが必殺光線を放つと、2体は仲良く爆散してしまった。

 

『ぃ良し! これで終わりーーーー『ギュグワアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』 ん? ウォアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?』

 

『「ぐぁあああっ!!」』

 

一瞬気が抜けたゼロに、何処からか雄叫びが聞こえると、渦を巻くように回転する青い光線がゼロに当たり、ゼロと霧夜先生は叫び声を上げて倒れた。

 

『な、なにが・・・・!?』

 

『「ゼロ・・・・あそこだ・・・・!」』

 

薄れいく意識の中、ゼロと霧夜先生が目を向けると、暮明の中に大きな影がおり、背を向けてその場を去ろうとしていた。

 

『あの影は・・・・? くぅ!』

 

『「ぬぅ・・・・!」』

 

ゼロはカラータイマーが鳴り終えると、光に包まれ霧夜先生に戻り、霧夜先生は上体を起こすと、巨大な影を見上げようとするが、その影は忽然と消えていた。

その影は、以前交戦した“『宇宙怪獣ベムラー』にそっくりだった”ーーーー。

 

 

 

 

ー雲雀sideー

 

夜が明け、雲雀は蛇女の制服に着替えると、ちょうど理巧が入室してきた。

 

「雲雀ちゃん」

 

「理巧くん」

 

理巧は少し不安そうに震える雲雀の身体をソッと優しく抱き、雲雀も理巧の身体を抱き寄せる。

そんな中、理巧は雲雀に静かに耳打ちする。何処に監視の目があるか分からない故の伝達方法だ。

 

「(もうすぐ飛鳥さん達が来る。いざとなったらこっちも派手に暴れる準備をしておこう)」

 

「(・・・・・・・・)」

 

「(恐い?)」

 

「(うん・・・・)」

 

生来争い事を好まない雲雀は、この状況に恐怖を抱いている。しかし理巧はその事を咎めようとせず優しく声を囁く。

 

「(雲雀ちゃん。どうしても恐くて堪らないって時に、自分を奮わせる魔法の言葉を教えるね)」

 

「(えっ?)」

 

「(それは、ーーーーーーー)」

 

「(それって・・・・)」

 

「(本当に駄目だと思ったりしたら、この言葉を使って)」

 

そう言って理巧は、雲雀から身体を離す刹那の瞬間、素早く雲雀の襟元に、『あるモノ』を潜ませて雲雀と部屋を出ると、ちょうど春花がやって来て蛇女子学園を案内された。

相変わらず空は淀んだ雲に覆われ、昼間なのに夜のような暗さがある不気味な雰囲気で、灯籠の明かりが屋外を照らしていた。

そこで見せられるのは、少しでもミスをすれば血を流してしまう蛇女の苛烈にして壮絶な修行内容に雲雀を戦慄するが、理巧は冷静に眺めていた。

 

「な、仲間が、あんな怪我したのに誰も介抱しないなんてーーーー「何を言ってるんだ?」えっ!」

 

背後の声に振り向くと、焔と詠が立っていた。

 

「“仲間とは忍務を遂行する為にいるんだろう”? 故障した者など、なんの役にも立たんだろうが」

 

「ウフ。ヌクヌクと育ったお嬢様はこれだからいけませんわ」

 

焔は仲間は道具と言わんばかりに、詠はお淑やかに微笑みながら嘲笑するような物言いをする。

背後から聞こえる教官の怒号と生徒の悲鳴のような声に雲雀は辛そうに俯くと、焔は理巧を見据える。

 

「暁月理巧。お前もソイツと同じ意見か?」

 

「・・・・・・・・昔は、“仲間”って概念すら持ってなかったですね。コレはまだ動くのか? コレはもう動かないのか? それぐらいとしか考えてなかったですね」

 

「理巧くん・・・・」

 

「ウフフフフフフ。やっぱり暁月理巧様はこちら側の人間のようね? 蛇女の修行は厳しいわ。だからこそ、上を目指して必死になるの。一流の忍になるためにね。午後は校舎内で座学よ」

 

そう言って、春花は屋外に設られた木に隠したカラクリを起動させて、校舎内に入る扉を開けた。

 

「(どう思う雲雀ちゃん?)」

 

「(考え方は違うけど、この人達も目標に向かって頑張っているんだと思うよ・・・・)」

 

「(やり方は違うが、目指す物は同じって事か)」

 

二人は春花に呼ばれ、校舎内へと戻っていった。

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

そして夕方。飛鳥達は、蛇女子学園を遠くから見渡せる場所から、敵の本拠地を見下ろしていた。

 

「あそこが、秘立蛇女子学園ってわけか!」

 

「二人があそこに・・・・!」

 

「ここで日が沈むのを待ちましょう。飛鳥さん。奇襲には貴女の力が必要ですが・・・・」

 

「大丈夫です! やって見せます!!」

 

飛鳥達は、理巧が残しておいた『ウルトラカプセル』をそれぞれに握った。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

そして理巧と雲雀は、何故か蛇女の露天風呂に入っていた。

 

「何で男の僕まで?」

 

「ウフフ、裸の付き合いって言うのも必要なのよ♪ それでみんなはまた惨敗って訳ね」

 

湯船に浸かる春花は、疲れきった焔と詠と未来と日影を見てそう言う。座学の後で再び理巧に模擬戦を挑み、物の見事に敗北したのだ。

 

「な、なんで、あんなに強いのよ・・・・!」

 

「ホンマに、敵わんわ・・・・」

 

「あ、暁月さん、本当にこの間まで一般人だったんですの・・・・?」

 

「動きや、技やら身のこなしやら、相当高度な修行を積んでいたのが分かるぞ・・・・!」

 

ボロボロの身体をほぐす四人は理巧を見てぼやく。

 

「(みんなが来る前に、『秘伝書』を取り戻さないと・・・・)」

 

「なんやぁ? 暗い顔して」

 

「あ、あのね! 鈴音先生ってどんな人なのかなぁって・・・・」

 

「ま、ええ先生やな」

 

「とっても厳しいけど、私達の力を信じてくれてるし」

 

「モヤシに興味が無いのが玉に傷ですけど、このわたくしを、ここまで立派に育ててくれたんですもの」

 

蛇女子のメンバーは鈴音先生を信頼しているようだが、鈴音先生が“裏切り者”として捕らえられた事を知らされていないようだ。

 

「なんだお前。半蔵学院の先生が恋しくなったのか?」

 

「お戻りなってもいいんですのよ。ですが、暁月さんは流石に無理ですわね。オーナーがご要望ですもの」

 

「そんな・・・・!」

 

「ま、そりゃそうだ」

 

理巧はオーナーが捕獲せよと命じたターゲット。おいそれと逃がすわけがなかった。

 

「みんな。私の可愛い雲雀と暁月理巧様をイジメないで。まだ新人さんなんだから・・・・」

 

「ふわっ!」

 

「はい春花さん調子に乗らない」

 

春花が雲雀の胸に手を回そうとするが、理巧がアイアンクローで止めた。

 

「あら、理巧様、ちょっと過激ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・//////」

 

ギリギリと音を鳴らし、苦しそうだが、どこか恍惚としたような声を漏らす春花。

 

「・・・・思ったんだけど、春花お姉さま。理巧と一緒にいるときキャラ変わってない?」

 

「そうですわね。基本Sな方なのに暁月さんが相手だとMになっているような・・・・」

 

「・・・・そう言えば、暁月と初めて会った時からヤツに対してあんな風だったな・・・・」

 

「・・・・アホくさ」

 

四人は集まって春花の変貌にヒソヒソと会話をする姿を、雲雀は横目で見据える。

 

「(春花さんも、根っからの悪い人とは思えない。他の人達だって、悪忍になるしか選択肢が無かったから悪忍になっただけで本当はーーーー)」

 

 

 

 

『理巧。飛鳥達が来たよ』

 

「良し。それじゃ雲雀ちゃん。“こっちはみんなが潜入し易くしてくるね”」

 

「うん。気をつけて」

 

風呂を上がってしばらくすると、焔達はオーナーに呼ばれた為に天守閣へと向かったのと同時に、ペガからの報告をうけた理巧は、『ダークゾーン』に入り影の中を移動し、雲雀もこっそりと春花達の後を追った。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

『焔以下4名、御呼びによって参上つかまつりました』

 

雲雀は『秘伝書』があると思うオーナーがいる部屋につづく階段に身を潜め『コモリ緞帳』と言う特殊加工された布で景色に同化して隠れ、聞き耳を立てていると焔の声が聞こえた。

 

 

 

ー春花sideー

 

「鈴音先生が裏切った・・・・!?」

 

「どういう事ですの?!」

 

驚いたような声をあげる焔と詠に、オーナーの野太い声が響いた。

 

「鈴音は半蔵学院にこの場所をもらした」

 

「どうして、先生がそんな事を?」

 

「(アラアラ、私の真似って訳?)」

 

驚くメンバーと違って、春花は含み笑みを浮かべていた。

 

「不覚だった。“鈴音が半蔵学院出身だった”のを忘れていたのではなかったのだが・・・・」

 

「やっぱり・・・・」

 

「あの噂は本当だったのですわね・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「先生が・・・・(善忍だった・・・・)」

 

驚く焔達に、オーナーはさらに言葉を紡ぐ。

 

「ここを知った半蔵の奴らは、おそらく奇襲を掛けてくるだろう。お前達の手でこれを迎撃し、一人残らず殲滅せしめるのだ!」

 

「「「「「御意!!」」」」」

 

「これは我が学園だけでなく、悪忍存亡の戦いと心掛けよ! 敗北は許さん!」

 

「無論!」

 

焔の返答にオーナーは、フッと笑みをこぼす。

 

「しかし、“標的である暁月理巧は必ず捕獲するのだ”。生きておれば良い。手足を引きちぎってもここに連れてこい」

 

「はっ!」

 

「その意気やよし。これぞ忍としての本懐である。仮にもお前達が敗北した折りには、即『軛の術』を発動させる!」

 

 

 

ー雲雀sideー

 

「(『軛の術』って、確か術者の意のままに術を掛けられた人の精神を操る下法だって、前に霧夜先生に聞いた・・・・!)」

 

雲雀はさらに耳をすませる。

 

 

ー焔sideー

 

「誇りある秘立蛇女子学園を代表する忍衆。よもや不満はあるまい?」

 

「“背水の陣”。と言う訳ね」

 

「ふん! お戯れを。我らが敗ける事などですあり得ません!」

 

「せやな」

 

「むしろ、多少張り合いがあると言う物ですわ」

 

「所詮。私達は『軛の術』からは逃れませんものね」

 

オーナーの言葉に頷く焔達。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

みんなに知らせねばと考えた雲雀が駆け出すと、柔らかく弾力のある塊にぶつかり、ボヨンッ! と音を鳴らして下がると、目の前に立っている人物を見て驚愕した。

春花だったからだ。

 

「っ!」

 

「あら、どうしたの。こんなところで?」

 

「あ、あの・・・・その・・・・り、理巧くんがトイレから戻らなくて探してたら、道に迷っちゃって・・・・」

 

「へぇ~。こんな最上階にまで迷い込むなんて。雲雀、そんなに方向音痴だった?」

 

「あ、あはははは・・・・そうなんです」

 

「ウフフ、そう。それで・・・・全部聞いちゃった訳?」

 

「っ!」

 

春花が暗い笑みを浮かべると、縄で雲雀を縛り上げた。

 

「ごめんなさいね。貴女に邪魔されると、色々困るの」

 

「やっぱり貴女、敵のスパイとして送り込まれたのね。わざわざ標的の暁月まで連れてきて」

 

「あらあら、随分と手の込んだ作戦だったのですわね。これは拷問物かしら?」

 

「最初に言ったろ。“全ては、自己責任だ”」

 

「うぅ・・・・」

 

雲雀の考えは最初からお見通しだったようだ。

 

「そんで、暁月さんは何をやってんや?」

 

「ま、大体想像付くけど」

 

『何っ!? 何者かが警備の忍達を倒しているだと!!?』

 

オーナーの金切り声が響くと同時に、焔達は理解した。その“何者か”が誰なのかを。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ぐぁっ・・・・!」

 

「あっ・・・・!」

 

「うぁ・・・・!」

 

理巧は、屋外で警備に当たっている蛇女の教官や生徒達を次々と当て身で気絶させると、持っていた武器を全て抜き取り、両手を後ろに回して裏で両指を合わせて結束バンドで拘束した。

 

「・・・・・・・・・・・・ペガ」

 

『うん!』

 

瞑目して集中した理巧は他の忍達の居場所を探知すると、ペガの『ダークゾーン』に再び入って、次の場所に向かっていった。



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来たぜ、みんな!

ー飛鳥sideー

 

「おい。蛇女子の方が騒がしくなってきたぞ」

 

「どうやら理巧が動いたようだな?」

 

「では、確認しますよ」

 

完全に夜の世界となった蛇女子学園を望遠鏡で覗いていた柳生と葛城が、何やら慌ただしく動きまくる蛇女の忍達を見据えながら言うと、斑鳩が作戦内容を話した。

 

「理巧くんが立てた作戦は、先ず自分が雲雀さんの護衛と、ペガさんによる蛇女子学園の内部構造の情報収集。時が来たとき“理巧くんが蛇女子の内部をかく乱し”、“わたくし達は飛鳥さんの『リトルスター能力』を使って奇襲”。理巧くんが陽動として他の蛇女子の忍達を相手にする間、わたくし達が天守閣にあるオーナーの部屋に置いてある『超秘伝忍法書を奪取』。奪取を終えたら各々に通信インカムを用いてレムに連絡。転送エレベーターで脱出。これで良いですわね?」

 

「「「(コクン)」」」

 

斑鳩の言葉に飛鳥と葛城と柳生も頷いた。

今回の作戦。理巧は飛鳥の『リトルスター能力』、『テレポート』が必要と書いていた。飛鳥の能力は、飛鳥自身が転送先をイメージできなければテレポートできない事は、前回の『這緊虞』の後で行った実験訓練で実証済みである。

蛇女子内部の情報をペガが隠し持っていたスマホのカメラで撮影し、それをレムに転送し、その写真から内部構造を構築し、飛鳥達に伝送し、飛鳥に最も最短のコースをイメージして転送する為だ。

 

「飛鳥さん。準備は?」

 

「万全です!」

 

「(コクン) 理巧くんが派手に外で暴れれば、それを鎮圧するために忍の多くは理巧くんの方に向かいます。すでに蛇女子の方もわたくし達が奇襲を仕掛けてくるのを知られておりますから、外で戦う理巧くんには忍学生や教官達が向かい、内部の守りはおそらく・・・・」

 

斑鳩と葛城と飛鳥と柳生の脳裏に、詠と日影と焔と春花と未来の顔が浮かんだ。

 

「焔ちゃん達が、待ち構えている!」

 

「上等だぜ! 今度こそ借りを返してやるッ!」

 

「雲雀を操り、『超忍法書』を盗ませたのが奴らなら、報いを受けさせてやる・・・・!」

 

「ええ。ですが、もしもの時は、『これ』を使いましょう。理巧くんもその為に残してくれたのでしょうから」

 

斑鳩と葛城と柳生は胸の谷間からそれぞれの『リトルスター』だった『ウルトラカプセル』を取り出した。

 

「アタイの能力は『回復』だ。みんなが怪我したら治してやるよ!」

 

「オレの能力は『防御』。雲雀を護るには十分だな」

 

「攻撃系の能力は、わたくしと雲雀さんだけですが、なるべくなら使いたくありませんわね」

 

「でも、焔ちゃん達も本腰を入れて守りに来るから、用心の為に持っていてって、りっくんが残してくれたんだから!」

 

「ええ。理巧くんの危惧も分かります。いざとなれば使いましょう・・・・。では、飛鳥さん。お願いします!」

 

「・・・・はい!」

 

イメージの為に瞑目する飛鳥。少し間を開けると、目をカッと開き、力強く頷くと『ウルトラマンゼロカプセル』を起動させた。

 

ーーーーセャァッ!!

 

ゼロの声が響くと、飛鳥の眼前に『ワームホール』が展開され、飛鳥達は『ワームホール』に飛び込んだ。

 

 

 

 

ー雲雀sideー

 

その頃、捕らえられた雲雀は春花に連れられ、座敷牢に閉じ込められた。

 

「ここで大人しくしててちょうだいね」

 

「春花さん達、負けたら死んじゃうの・・・・?」

 

「ええそうよ」

 

自分達が死ぬと言うのに、微笑みを崩さない春花に雲雀はさらに言葉を紡ぐ。

 

「そんなの可笑しいよ! 間違ってる!!」

 

「『軛の術』は、蛇女子学園に入学する際、全員『あの方』に掛けられてるわ」

 

「全員・・・・!」

 

「本来は、退学や脱走した学生が学園の存在を外部に漏らそうとした時に発動させる術なの。でも『あの方』は、術の発動条件を自由に変更できる」

 

「そんな恐ろしい術を掛けられて、恐くないの!?」

 

「ウフフフ。“死を恐れる者は、忍務の失敗を恐れぬ者”。・・・・でしたわよね、先生・・・・?」

 

春花が目を横に向けると、雲雀の座敷牢の隣の牢に、“鈴音が捕らえらていた”。

 

「っ・・・・」

 

「先生・・・・!?」

 

雲雀も、鈴音の存在に気づいた。

 

「どうやら理巧様が派手に暴れているわ。貴女のお友達も、無事に潜り込んだようね」

 

「皆が!?」

 

春花は恩師に向かって口を開く。

 

「これも先生の思惑通り?」

 

「・・・・・・・・」

 

沈黙する鈴音を置いて、春花は言葉を続ける。

 

「まぁ良いわ。こっちの方がちょっと面白そうだもの♪」

 

「ダメだよ!」

 

「?」

 

「戦って負けたら、春花さん達死んじゃうんでしょう!?」

 

「大丈夫。私達が負けるなんてあり得ないもの」

 

「そうかしら?」

 

春花の言葉を否定する鈴音に目を向ける。

 

「あら先生、お話しできるんじゃない」

 

「半蔵学院を、“霧夜”を甘く見ない方が良いわ」

 

「っ!」

 

「生徒が負ける度に、その敗因を精査し、弱点を補い、持てる長所を伸ばしている筈。それも確実に・・・・」

 

「じゃぁ私達は、“半蔵学院の子達を育てるために戦って来たってこと”?」

 

「フフフ・・・・。貴女達は私の最高の忍生徒よ。相手にも、それに見合う相手になって貰わなくてわね」

 

「・・・・貴女の『目的』は、何なの?」

 

「・・・・・・・・」

 

再び沈黙する鈴音を、雲雀はジッと見つめると、春花が話しかけてきた。

 

「ウフ。『目的』は何であれ、先生は私を『地獄』から救ってくれた恩人だものね」

 

「え? 春花さん!?」

 

雲雀は春花の言葉に首を傾げそうになるが、笑みを浮かべる春花を見て、嫌な予感を感じた。

 

「安心して、次会うときこそ、雲雀を私の本当の『お人形』にしてあげる♪」

 

歪な笑みを浮かべる春花は、そのまま去っていった。

 

 

 

 

ーオーナーsideー

 

《現在、半蔵学院の生徒とおぼしき侵入者と交戦中! 相手はたった1人です!》

 

「馬鹿なっ! たった1人のくせ者に外の者共は手こずっているのかっ!? ええい! この無能共めがっ!」

 

オーナーは外の忍の報告を聞いて焦り出し、ヒステリックに喚き出す。

外に現れたくせ者はおそらく陽動。だが、たった1人に蛇女子学園の忍が苦戦しているなど、報告ではすでに半分近くの忍達がやられている。このままでは蛇女子学園の威信に傷がつく。

 

「一体何者なのだ!?」

 

《侵入者は、“赤い髪と赤い瞳をした男”です!》

 

「なにっ!?」

 

報告を聞いてオーナー、『道元』は懐に入れておいた標的としている少年、暁月理巧の写真を見ると、侵入者はこの少年ではないかと推察した。

 

「・・・・貴様らは侵入者を捕らえろ! 多少の手荒い手段を用いても構わん! “死んでなければ良いのだ”! 焔達を除いた生徒達も使えっ! 何があっても侵入者を捕らえろっ! 城内の守備は焔達に任せる!!」

 

くせ者が半蔵学院にいる暁月理巧ならば、“ヤツ”への交渉の道具として必要故に、捕らえる事を優先した。

そして標的が囮となっているならば、他の忍達は今自分が持っている蛇女子が所持する『超秘伝忍法書 陰』と、先日半蔵学院から奪取した『超秘伝忍法書 陽』が狙いなのは明白だった。

 

「この学園を造るために費やした時間と費用は膨大なものだ。この失態が上層部に知れれば、築き上げてきたこの地位どころか、命まで・・・・。かくなる上は、二つの『超秘伝忍法』を完成させ、“ヤツから支給されたモノを使えばいい”。いや、暁月理巧を利用して、“ヤツ”が所持する『カプセル』と『クリスタル』の製造方法を手にいれれば、悪忍組織処か、この世界を我が手中に・・・・!」

 

道元は、『協力者』から送られた『6本の怪獣カプセル』と『大きめのコピークリスタル』と、“イカルス星人から送られた物”を見据え、標的の理巧を使っての企みを考えてほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「さてと、そろそろ飛鳥さん達が潜入した頃かな。こっちもそろそろ本腰って所かな?」

 

理巧が周りを見渡すと、蛇女子の忍、教官や焔達以外の生徒達が武器を構えて理巧を取り囲んでいた。

 

「陽動役1人に随分と集めたな。蛇女子学園は以外と臆病、いや、その傲慢さこそが最大の弱点だな」

 

理巧が言い終わると、取り囲んでいた忍達が、一斉に理巧に飛びかかった。

何人かが爆弾を理巧に向けて投げ放つとーーーー。

 

ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!・・・・。

 

夜の蛇女子学園に爆裂音が鳴り響いた。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

そして理巧の予想通り、斑鳩達は『ワームホール』から飛び出ると、蛇女子学園の天守閣のある城内に潜入し、廊下を走っていった。

 

「たくっ! 天守閣に直行で向かえなかったのかよ飛鳥!」

 

「ゴメン! この廊下が一番イメージしやすかったから!」

 

なんて言い合っていると、行き先に煙幕爆弾が放たれ、煙が巻き起こり四人が立ち止まり煙が晴れると、広間があり、先に続く通路の前に1人の少女がいた。

 

「ウフフ。いらっしゃいませ」

 

「貴女は!」

 

「手厚くおもてなしさせていただきますわ。半蔵学院の、お嬢様方。ウフフフ・・・・」

 

斑鳩と因縁ある悪忍、詠が大剣を構えて淑やかに微笑んだ。

 

「ここまで来れた事を誉めて差し上げますわ!」

 

「わたくし達は仲間と、『超秘伝忍法書』を取り返しに来ました。邪魔立てするなら、容赦は致しません!」

 

斑鳩の言葉に、飛鳥達も構える。

 

「他人の家に土足で踏み込んでおいてその横暴な物言い・・・・。流石お金持ちの娘ですわ! 次は札びらで頬でも叩きますか?!」

 

詠は大剣を振り上げて斑鳩に斬り込むが、斑鳩も飛燕でその一撃を受け止める。

 

「フフフフフ・・・・」

 

「くぅ・・・・!」

 

つばぜり合いとなる二人だが、斑鳩が飛鳥達に叫ぶ。

 

「ここはわたくしが押さえます! 皆さんは先に向かって下さい!」

 

「そんな・・・・!」

 

「お前1人を置いて行けるか!」

 

「もしかして、わたくしを嘗めていらっしゃいます?!」

 

「いいえ、だからこそです! 『忍結界』!!」

 

「っ!」

 

斑鳩はそのまま詠を連れて、自分の戦闘空間へと転移した。

 

「斑鳩さん!」

 

「斑鳩!」

 

「・・・・先を急ごう」

 

ただ1人、柳生は先へ行こうとした。

 

「おい柳生!」

 

「斑鳩は負けない・・・・!」

 

「「っ!」」

 

振り向いてそう言う柳生の瞳には、少し前までには無かった、『仲間への信頼』があった。

 

「・・・・そうだな! アタイがアイツを信じないでどうすんだ! よし行くぜ飛鳥!」

 

「はい!」

 

3人はレムが構築した地図をスマホで見て、城内を警戒しながら進む。

 

「こりゃ迷路だな。ペガとレムが地図を作ってくれてなかったら迷ってたぜ。兎に角今は先に進むしかねぇ!!」

 

 

 

ー雲雀sideー

 

春花の気配が無くなったのを確認した雲雀は、鈴音に問いかけた。

 

「あ、あの・・・・。半蔵学院出身って本当なんですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

「どうして悪忍に?」

 

「・・・・・・・・」

 

沈黙を続ける鈴音に、雲雀は忍島で見つけた落書きの事を話す。

 

「忍島に行ったこと、ありますよね? 【目指せスーパー忍者! 頑張れ私!】。天井の柱に書いたの、貴女ですよね!?」

 

「・・・・・・・・どうして?」

 

ようやくこちらに目を向けた鈴音に、雲雀は話す。

 

「分かりません。・・・・でも、貴女を見たとき、急に見えたんです。あの落書きが・・・・」

 

「・・・・ふ」

 

「???」

 

少し悲しげに微笑む鈴音。

 

「朧気ながらも『透視術』を覚醒させるまでに育てていたとはね・・・・。流石、我が師」

 

「そ、そんな凄い術、雲雀教えて貰った事なんて・・・・!」

 

「“忍術は心の技”。心の成長が技を生み、技の強さが心の強さとなる」

 

「え・・・・?」

 

鈴音は立ち上がり、身体からチャクラを放出させると、牢屋を破った。

 

「鈴音様! 何をうあっ!」

 

見張りの為に残っていた忍を一蹴した鈴音の姿は、口をマスクで隠し、首には長いマフラーを、上半身を胸当て一枚、下半身は忍装束、腰にボロボロのマントを巻き、刀とクナイを構えた『忍転身』の姿だった。

 

「鈴音、先生・・・・」

 

「欲する物有らば、命駆けで取りに来なさい! それが忍・・・・!」

 

そう言って、鈴音が消えると、雲雀は倒れた忍の近くに落ちてあった、牢屋の鍵が目に入った。

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥を先頭に通路を走る3人。

 

「「うわっ!?」」

 

「えっ!?」

 

だが、葛城と柳生の足元が突如下がり、二人は下の階に落ちてしまった。

 

「な、何だこれ・・・・! だ、ダメだ!」

 

「罠か・・・・!」

 

葛城は何とか這い上がろうとするが無理だった。

 

「葛姉ぇ! 柳生ちゃん!」

 

「来るな飛鳥!!」

 

「えっ!?」

 

降りようとする飛鳥を柳生が止めると、二人の視線の先には、日影と未来が現れた。

 

「飛鳥。悪いけど、後はお前1人で頼むわ。どうやらこれ以上うえに登られたら、よっぽどマズイみたいのようだしな!」

 

「行け!」

 

「葛姉! 柳生ちゃん!」

 

「馬鹿! なにしてやがる! 何のために理巧が1人で陽動をしてんだ! 何のために斑鳩がタイマン張ってると思ってんだ!」

 

「・・・・みんな・・・・っ!」

 

理巧も斑鳩も、雲雀と『超秘伝忍法書』を取り戻すために自分にできることをしている。

それを自覚した飛鳥は、前を見据えて走り出した。

 

 

 

ー葛城sideー

 

飛鳥が走り出したのを確認した葛城は、日影と未来をキッと睨む。

 

「やぁだ。1人上に残しちゃったじゃない」

 

「仕掛けが間に合わんかった。あの飛鳥言う忍。思ってたより足が早い」

 

「って、他人事みたいに・・・・!」

 

「へっ! やっぱり潜んでやがったか!?」

 

「まぁ良いわ。アタシ、あの子にリベンジしたかったし!」

 

柳生を指差す未来。

 

「とりあえず、コイツらだけでも始末しとこうか・・・・」

 

「言ってくれるじゃねぇか!」

 

ナイフを取り出す日影に、葛城は拳を構える。

 

「最初に見たときから、アンタが気に入らなかったのよ!!」

 

「雲雀は何処にいる?」

 

未来を眼中に無いと言わんばかりの柳生に、日影はやれやれと肩をすくめるが、無視された未来は当然・・・・。

 

「アタシを無視するなぁっ!!」

 

怒り心頭だった。が、それも無視して。

 

「葛城!」

 

「ああ!」

 

柳生は未来に、葛城は日影に近づくと。

 

「「『忍結界』!」」

 

それぞれの戦闘空間へと転移した。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

そして飛鳥は、最上階に向かって駆けていくと、最期の階層でその子がいた。

 

「1人か・・・・」

 

「焔ちゃん!」

 

「もう少し残っているものと思っていたのにな」

 

「雲雀ちゃんは無事なの!?」

 

「牢屋に入ってるよ。盗み聞きがバレてな」

 

「っ・・・・やっぱり雲雀ちゃん、1人で忍法書を取り替えそうと・・・・」

 

ボソッと呟く飛鳥だが、『忍転身』し、背中に六本の刀を召喚した焔を見て、気を引き締める。

 

「先に進みたいなら、私を倒すんだな・・・・『半蔵の孫』!!」

 

「『忍結界』!!」

 

六本の刀を持って構える焔と、二本の小太刀を構える飛鳥が戦闘空間を展開させた。

 

「飛鳥! 舞い忍びます!!」

 

「ふっ! 面白い!」

 

刀を構える両者が、眼前の相手を見据えた。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

そして雲雀も、牢屋の鍵を取ろうと手を伸ばすが、その鍵は突然現れた手によって奪われた。

春花だ。

 

「残念♪ 音がしたんで戻ったら、案の定ね」

 

「春花さん! お願い、ここから出して!」

 

「出てどうするの?」

 

「みんなに伝えないと! 蛇女の人達が戦いに負けたら術で殺されちゃうって!」

 

「それで?」

 

「え?」

 

「私達に勝たなければ、貴女達の目的も果たせないわよ?」

 

雲雀の言葉を春花が否定する。目的、『超秘伝忍法書』の奪取を諦める事だ。

 

「でも、こんなの忍の使命と関係無いよ!」

 

「ウフ。確かに関係無いわ。私達の居場所はここ<蛇女子学園>だけだもの。前に言ったでしょ? みんな色んな事情があってここに来たって」

 

「さっき言ってた『地獄』って、じゃぁ春花さんも?」

 

雲雀の問いに、春花は薄く笑みを浮かべて口を開いた。



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タイマンだぜ、皆!

ー斑鳩sideー

 

夕暮れの渓谷のような戦闘空間にて、斑鳩と詠は刃を交える。

 

「結界に呼び込んでの一騎討ち・・・・。余程自信がお有りなのかしら? っ! やぁああああ!!」

 

「うっ!」

 

詠の大剣による一撃を、斑鳩が飛燕で防ぐが、あまりの威力に押し飛ばされる。

それでも自分を鋭く睨む斑鳩に、詠は激情を押さえられないように口を開く。

 

「貴女をホント一々不愉快ですわね! ずっとずっとそうでしたわ!!」

 

「ずっと・・・・?」

 

「・・・・あの高い丘のお屋敷・・・・!」

 

「っ!」

 

詠の言葉で斑鳩は察した。

実家となった鳳凰財団の屋敷のある丘の下には、貧しい貧民街が広がっていた。

 

「わたくし達貧しい者達は、ずっとあのお屋敷に見下されながら育ったのですわ・・・・」

 

詠の脳裏に浮かぶのは、ボロボロの衣服、汚れた身体、ボサボサの髪の毛、履き物すらなく裸足で地面を踏みながら惨めに生きてきた。

しかし、その屋敷の人間達が、社団法人に多額の寄付をしているニュースを見かけた時、斑鳩の姿を見た。ちょうど本家に養子として迎えられた時の事。

いかにも自分達と違ってヌクヌクと贅沢な生活をしているような綺麗な姿をした斑鳩が丘の屋敷のお嬢様だと気付いた。

ニュースの中では鳳凰財団の総帥が、「恵まれない子供達を救う」などと言っているが、自分達の足元の貧しい者達に見向きもしない癖に偽善を並べる金持ちの言葉に、激しい怒りを覚えた。

そんな詠を蛇女子学園がスカウトし、この場にいる。

 

「両親は誰の助けを得ること無く! わたくしを育てるために命を削り! 死んでいきましたわ!!」

 

激しい激情がチャクラとなって詠の身体から漏れ出て、大剣を振るうが、斑鳩は防ぎつばぜり合いとなる。

 

「善忍? 笑わせないで下さいませ!『善忍の善』は、『偽善の善』! 貴女と貴女の家族は、その代表ですわ!!」

 

大剣を振り下ろす詠の力に、飛燕の切っ先が折れてしまった。

 

「・・・・・・・・」

 

斑鳩の頭からも、血が静かに流れる。

 

「・・・・『秘伝忍法 ニヴルヘイム』!!」

 

右腕に装備した大筒から砲撃を放ち、斑鳩の足元が砲撃によって土埃が舞い上がる。

 

「・・・・・・・・」

 

土埃が収まると、斑鳩が折れた飛燕を構えて毅然と詠を見据えていた。

 

「なっ!? 直撃の筈ですわ・・・・!」

 

驚く詠に構わず、斑鳩はゆっくりと歩を進める。

 

「命を代償にしてまで貴女を慈しんだ家族の愛・・・・」

 

「・・・・??」

 

「その欠片程でもあれば、わたくしもあれほど苦しまずすんだものを・・・・」

 

周りから見れば、確かに斑鳩は裕福な人生を歩んでいただろう。しかし、裕福でも、そこには『家族の愛』が無かった。

 

「ちょっと! 何を仰ってますの!?」

 

「ですが!」

 

ーーーーデヤッ!

 

斑鳩が『ヒカリカプセル』を起動させると、黄色い光が飛燕の刀身に纏い光の刃となった。

 

「わたくしも、負けるわけには参りません!!」

 

斑鳩は忍装束を脱ぎ捨て、『命駆けモード』へとなり、全身からチャクラを放出した。

 

 

 

 

 

 

ー葛城sideー

 

リングが置かれた宇宙空間にて、葛城と日影が戦う。

 

「へっ! 斑鳩の真似みたいで気にくわないけどな!」

 

「どうでもええ・・・・アンタを、倒すだけやさかい。それにしても、何でそんなにワシと戦いたいんや?」

 

「お前を倒さねえと、アタイはアタイに納得できねぇんだよ! アタイは誰にも負けられねぇんだ!」

 

「1つ、忠告しといたるわ」

 

「忠告・・・・?」

 

「戦いながら喋ると、舌噛むで?」

 

「・・・・余計なお世話だ!」

 

カーン!

 

空間からゴングの音が鳴り響くと、葛城が日影を捕まえ、力比べに入る。

 

「くっ・・・・!!」

 

「(・・・・この目ぇや)」

 

自分に闘志を向ける葛城の目を見ながら、日影の脳裏に浮かぶのは、明くる日も明くる日も行う忍として訓練の日々。恐怖も悲しみも怒りも、そんな感情は命取りになる故に、感情を捨て去り、ただ冷静に標的を仕留めれば生き残れる世界だった。

 

「(あぁ・・・・そう言えば、暁月さんが言うてたなあぁ・・・・)」

 

それは、理巧との模擬戦後に、ふと出た会話の内容だった。

 

【暁月さん。アンタは“感情って分かるか”?】

 

【・・・・昔の僕は、“感情なんてまるで無かった”】

 

【ほう・・・・】

 

【ただ命令されるまま標的を仕止める。そこに恐怖も悲しみも怒りもなく、只々命令されるがままに動くお人形さんだったよ】

 

【アンタ、儂と似とるなぁ】

 

【確かにね、だけど日影さん。アンタはただ、“忘れているだけだよ”】

 

【“忘れている”?】

 

【そう。貴女は僕と戦っている時、自覚は無いかも知れないけど、“楽しそうに笑っていたよ”】

 

【え?】

 

その後他の仲間達に聞いてみるとーーーー。

 

【お前、楽しそうだったぞ】

 

【ええ。楽しそうでしたわよ】

 

【あんなに楽しそうに戦う姿、初めて見たわよ】

 

【ウフフ♪】

 

仲間達も、“自分は理巧との模擬戦を楽しんでいる”、と言われた。

 

「(暁月さんとの模擬戦。何や、またやりたいなぁって思うてたなぁ・・・・。それに、この目ぇを見とると、忘れてしまったモンが・・・・)(ドゴンッ!!) ぐぅっ!!」

 

呆然とした日影に、葛城の蹴りがお見舞いされ後ずさる。

 

「何ボヤッとしてんだ!」

 

「・・・・なんや、暁月さんとやり合った時とは違った、“気に入らん感じ”・・・・。気に入らん? 儂にそんな感情まであったんやな・・・・」

 

「何をブツブツと言ってんだ! かかってこい!」

 

「言われんでも、やったるわ・・・・! 『秘伝忍法 ぶっさし』!」

 

「来やがれ!!」

 

影が射した笑みを浮かべた日影が『秘伝忍法』を放つが、葛城も迎え撃つ。

 

「「くぅ・・・・!」」

 

ぶつかり合った二人は、衝撃で忍装束が引き裂かれ、下着姿となる。

葛城はリングロープに、日影はコーナーポストに叩きつけられる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

息も絶え絶えの二人は、お互いを見据える。

 

「儂は敗けへん・・・・! 暁月さんにも、まだ勝ってへんからな・・・・!」

 

「はぁ、そうか、理巧と戦ったのか、あの気まぐれ坊主、アタイ達との模擬戦は、のらりくらりと逃げてやがった癖に・・・・!」

 

二人は立ち上がり、『命駆けモード』となってぶつかり合う。

 

 

ー霧夜先生sideー

 

昨日の2体の怪獣との戦闘の後、突然の奇襲で負傷した霧夜先生とウルトラマンゼロは、大道寺先輩に肩を貸して貰いながら、蛇女の天守閣が一望できる場所で状況を見ていた。

 

 

 

ー柳生sideー

 

雨が降りしきる空と御神木のような木が置かれた湖がある空間で、傘のマシンガンを乱射する未来と、その弾幕を回避する柳生。

 

「ふん! 漸くアタシを無視できなくなった訳ね!」

 

「・・・・オレは守りたい者を守る。それだけだ」

 

「っ! 『守りたい物』が、アタシに無いと思ってるのっ!?」

 

「?」

 

「アタシだって・・・・!」

 

未来は柳生に自分の過去を話した。

元々は未来は立派な善忍の家系だったが、中学の頃にイジメを受けていた。

机には暴言が刻まれ、自分は泣いてるにも関わらず、皆から笑われ、無視されていく悪質な行為を受け、見て見ぬ振りをされて生きてきた。

未来はそれが許せず、もう二度とあんな思いはしたくない、見たくない。だから見なければ良いと思い、未来は眼帯をし、悪忍の道を選び蛇女にやって来て、自分に仲間が、居場所ができた。

 

「アタシにだって、あるんだからっ!!」

 

話を終えると、未来は身を翻して柳生に蹴りを放つが、寸前で回避され、柳生は未来に話しかける。

 

「・・・・分かった」

 

柳生は静かに、チャクラを放出する。

 

「なに? 何が分かったって言うの・・・・っ!」

 

「ォォォォ・・・・はぁっ!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

柳生の一撃に、未来は装束が少し破れる。

 

「お前が何を守りたいのか分からん。知るつもりもない。だがその為に、お前が戦っていると言うのなら・・・・」

 

「アタシを、無視しないって、事・・・・?」

 

「でなければオレ自身を否定する事になる」

 

「そうこなくっちゃ!・・・・って喜んでどうするのよ!!」

 

ヨロヨロと立ち上がった未来は柳生の言葉に喜んだ自分自身にツッコミをいれた。

 

「・・・・1つ聞いておきたい事があるのだが?」

 

「ん? 何よ?」

 

「お前は、雲雀や理巧に何か良からぬ事をしていないか?」

 

「雲雀って子の方は、春花お姉様の方が何かしてるかも知れないけど、理巧の方は・・・・まぁ、一緒にお風呂に入ったくらいぃっ!!?」

 

未来は顔を赤らめながらの発言を途中で止めて、顔を青ざめた。

何故なら柳生の身体から漏れるチャクラが、途端に黒いモノに変わったからだ。

 

「そうか・・・・一緒に、風呂か・・・・!!」

 

柳生の片方の目から、殺気が放たれる。

 

「な、何かヤバそう・・・・ひ、『秘伝忍法 ヴァルキューレ』!!」

 

スカートから機関砲を出して、掃射する。

柳生は番傘で防ごうとするが、あまりの威力に番傘を撃ち抜き、柳生の装束も破られる。

 

「っ!」

 

ダァー!

 

『ウルトラセブンカプセル』を起動させ、障壁で防御する。

 

「なにそれっ!?」

 

未来は機関砲を消すと、ナイフを取り出し、傘の先にくっつける。

柳生もその隙に、飛んでいった番傘を掴み、仕込み刀を取り出す。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 

二人の刃がぶつかり合う。

 

「やるな・・・・!」

 

「貴女こそ・・・・!」

 

 

 

ー理巧sideー

 

その頃の理巧はーーーー。

 

「ふぅ・・・・少し時間をくったかな」

 

余裕の態度で地面に倒れる悪忍達を見据えながら、パンパンと爆弾で舞い上がり、衣服に付いた土埃を払っていた。勿論、爆弾を放った忍達は全員仲良く気を失っているが・・・・。

 

「ん?」

 

理巧はピクッと、肩を震わせ振り向くと、槍を持った3人の鎧武者達が近づいてきた。

 

「コイツか?」

 

「オーナーのご所望だ」

 

「必ず捕らえよう」

 

近づく鎧武者達の姿に気づいた忍生徒の一人が、顔を青ざめて声を発する。

 

「さ、『三鬼者<サンキシャ>』っ! 脱走した生徒を始末する死神部隊が動いた!?」

 

驚愕する忍生徒を無視して、三鬼者と呼ばれた鎧武者達は、懐から煙玉を取り出して地面に叩きつけると、ボワンッと、煙が周囲に蔓延した。

 

「ケホッ! ケホッ! ケホッ・・・・グゥッ!!」

 

忍生徒は咳き込むと、急に苦しそうに悶える。

イヤ、その生徒だけじゃない。他の生徒や教官達も咳き込んだ後に、苦しそうに悶えた。

 

「・・・・・・・・“毒か”」

 

理巧は匂いと身体の痺れから“毒物”であると判断するが、鎧武者達は理巧に目掛けて槍を突き刺そうと迫る。

 

「っ・・・・!」

 

理巧は痺れる身体を何とか動かして回避するが、僅かに切りつけられ、傷口から血が流れる。

 

「本来なら動けなくなる即効性だが、まだ動けるか」

 

「だが、我らが調合した痺れ毒は、傷口からも染み込む」

 

「やがて貴様の身体は動かなくなる」

 

「・・・・・・・・(状態確認。呼吸ならびに傷口から身体の内部に毒物が侵入。手足の痺れを確認。春花さんの調合した“薬物”とは違う製法で精製された“毒”と断定・・・・)」

 

理巧は身体の状態を調べると、春花の調合した薬ではない事を確認するが、そんな理巧に構うことなく、三鬼者は理巧に槍を突き出す。

 

「お前はオーナーから、捕らえよ、と命令が下っている」

 

「しかし、ただ捕らえただけではこちらの面子が立たん」

 

「たっぷりと恐怖を刻んでやる」

 

「拷問好きか・・・・。いいんですか? アンタらの毒で他にも被害が出てますけど?」

 

理巧は足元で苦しんでいる忍達の事を言うが、三鬼者の3人は同時に鼻で息を吐く。

 

「問題無し」

 

「無様に敗北したのだ」

 

「どちらにしろ、命は無い」

 

3人は、たった1人に全滅させられた忍達を気にせず、迫ってきた。

 

「・・・・これは、面倒だな」

 

理巧はフゥと息を吐き、痺れる身体を引き摺って攻撃を回避する。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

「私の父は大病院の院長でね」

 

「お父さん・・・・」

 

「世間的な評判は兎も角、多額の脱税によって残したお金で、幾つもの医療ミスを揉み消すような、最っ低な人間・・・・」

 

その声と表情からは、父親への侮蔑の感情が現れていた。

 

「父はたまにしか家に帰って来ない人だったわ。理由はよくある話・・・・」

 

家庭ではなく仕事、それもお金を稼ぐことしか興味がない人間であったようだ。

 

「母はその不満をぶつけるように、私を溺愛したの。・・・・“溺愛”、イイエ違うわ。私は母の、単なる着せ替え人形だったのよ。中学生になっても、母の異常な溺愛は続いたわ。私は黙って耐えていたけれど、次第に私自身も、何処か壊れてしまったんだと思う。『全て消せば自由になれる』。そう思って自暴自棄となった私を、スカウトするつもりで見張っていた鈴音先生に救ってもらって、私はここにいるの」

 

「・・・・・・・・」

 

あまりの話に、雲雀は愕然となり、春花は牢屋の鍵を開ける。

 

「私達は死ぬのなんて怖くないの。だって、既に一度死んでるような物だもの」

 

「っ! どうして?」

 

「貴女達が本当に勝てるかどうか、先ずは私で試してみたらどう?」

 

春花はゆっくりと牢屋の中に入ってきた。

 

「どうしたの? さぁ、かかってらっしゃいな!」

 

「・・・・『忍転身』!」

 

雲雀の姿は、蛇女の制服から忍装束へと変化する。

 

「(柳生ちゃん。雲雀、頑張るから!)『忍結界』!!」

 

牢屋から、ファンシーな戦闘空間へと変わる。

 

「あらあら」

 

「春花さん達に掛けられた術って、戦いに負けちゃうと直ぐに発動しちゃうの?」

 

「う~ん。ちょっとニュアンスが違うわね」

 

「え?」

 

「“術を掛けた者が負けたと認めた時に発動するの”。ほら、勝ち負けって以外と微妙な時ってあるじゃない?」

 

「じゃぁ、その人に術をかけさせなければ良いんだ!」

 

「どうやって・・・・さっきも言ったけど!」

 

雲雀の言葉に、春花は好戦的な笑みを浮かべて身構えて、一瞬で雲雀の頬を張り、蹴り飛ばす。

 

「あぁっ!」

 

「貴女! 私達に勝てること前提で!」

 

「きゃぅっ!」

 

「物を考えすぎじゃない?」

 

蹴り飛ばされた雲雀は転がり倒れるが、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「でも、理巧くん、なら・・・・」

 

「まぁ確かに、理巧様なら私達全員を倒せるかも知れないけど、貴女じゃねぇ」

 

「ううん・・・・大事なのは、“勝つ事じゃない”、“負けない事”、相手にも、そして・・・・自分にも!!」

 

「っ!!」

 

顔を上げた雲雀の目に、気圧される春花。

その一瞬の隙に、理巧に渡された『レオカプセル』を起動させる。

 

「レオさん! 力を貸して!」

 

イャー!

 

「(理巧くんから教えてもらった、魔法の言葉)・・・・『燃やすぜ、勇気』!!」

 

ボォォォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

「ウソ・・・・!? きゃああああああああああああああああああああああ!!!」

 

雲雀が突きだした掌から炎が放出され、春花の身体を呑み込んだ。

 

「春花さん!!」

 

雲雀が炎を消すと、装束がボロボロに焼け、身体も少し焼けた春花がフラフラと立っていた。

 

「か、火遁の術を、隠していたなんて、ゆ、油断、したわ・・・・」

 

そのまま倒れる春花を見て、雲雀は念話を送った。

 

『みんな! 聞いてみんな!!』

 

 

 

 

「雲雀!?」

 

『戦っちゃ駄目!』

 

「戦うなですって?」

 

『蛇女のみんなは戦いに負けちゃうと命を失っちゃうの!』

 

「命を・・・・!」

 

「失う、だと?」

 

『そういう術を掛けられてるの! だから、戦っちゃ駄目!』

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「そんな!!」

 

「(なんて強い念話だ。本当にあの雲雀なのか?)」

 

「焔ちゃん! 負けたら、命を失って!?」

 

「正しくは、『軛の術』って言うんだがな」

 

「っ!! 焔ちゃん達は、それを承知の上で戦っているの!?」

 

焔の言った術に、飛鳥は愕然と聞くが、焔は当然と言わんばかりに続ける。

 

「当然だろ。“失敗すれば死”。これぞ忍として有るべき姿だ」

 

「そんな・・・・! そんな事・・・・!」

 

飛鳥の持っていた二刀にチャクラが放出される。

 

「間違ってるよ!!」

 

刀だけでなく、全身からチャクラを放出する飛鳥。

 

 

ー斑鳩sideー

 

「なんと言う非人道な・・・・!」

 

「大丈夫ですわ。わたくし達が負ける事なんてあり得ませんし」

 

斑鳩もチャクラを放出する。

 

 

ー葛城sideー

 

「マジかよ・・・・」

 

「気にすな」

 

「そんなやり方有るかよ!? 冗談じゃねぇ!!」

 

葛城も。

 

 

ー柳生sideー

 

「全く、あの子ったら余計な事を・・・・ん?」

 

「雲雀・・・・雲雀が無事だった!」

 

「ちょっと! 私へのリアクションは!?」

 

雲雀優先の柳生に、未来はツッコミを炸裂させる。

 

「無視しないって言ったばかりじゃない!」

 

「(キッ!)」

 

「っ。な、なに?」

 

「お前達と、戦う訳には行かなくなったな・・・・」

 

柳生もまた、チャクラを放出した。

 

 

ー雲雀sideー

 

雲雀は忍兎を召喚し、その背に乗って駆ける。

 

「一番上にいる人を捕まえて! 術を解けるのは、その人だけなの! 忍法書もソコに・・・・あっ!」

 

なんと、先ほど倒した春花が追ってきて、前方に回り込んだ。

 

「全くお喋りさんね。『秘伝忍法 DEATH・KISS』!!」

 

「うあああああああああ!!」

 

ハートマークの爆弾を浴びて忍兎と忍結界が解け、牢屋に戻る。嗜虐的な笑みを浮かべる春花は倒れた雲雀に近づく。

 

「今度こそ、本気でお人形にしてあげる。ウフフ」

 

 

 

ー斑鳩sideー

 

「『秘伝忍法 飛燕鳳閃・壱式』!!」

 

「あああああああ!!」

 

赤と黄色が混じった十字の斬撃が詠の装束を破った。

 

 

ー葛城sideー

 

「『秘伝忍法 トルネードシュピンデル』!!」

 

「ぐぁっ!!」

 

カンカンカーン!

 

独楽回転し竜巻を起こし、その遠心力を込めた蹴撃を日影に叩み、終了のゴングが鳴り響いた。

 

 

ー柳生sideー

 

「『秘伝忍法 薙ぎ払う足』!」

 

「またコイツかぁぁぁぁぁ!!」

 

召喚された烏賊に叩きのめされる未来。

 

 

ー斑鳩sideー

 

「いつの間に、こんな力を・・・・」

 

斑鳩の攻撃浴び、ボロボロとなり、直ぐに戦うことはできなくなった。

 

「忍術とは心の技。私達が戦うべきは、貴女達に外法を掛けてまで戦わせようとする。もっと邪悪な何か。おそらくそれこそ、理巧さんが追っている存在・・・・」

 

「理巧さんが、追っている?」

 

「貴女達に『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を譲渡した人物。それこそ、理巧さんが危険を犯してまでここに来た理由なのです。そしてそれを感じた時、持てる力が、善忍としての矜持に応じたのです」

 

「ふん。要するに善忍はお人好しって事ですのね」

 

下を向いて、吐き捨てるようにそう言う詠に、斑鳩は真っ直ぐな目で見つめる。

 

ドゴォォォォォン

 

「「っ!」」

 

突如床が破壊され、ソコから理巧が飛んできた。

 

「「理巧さん!」」

 

「あ、斑鳩姉さん。詠さんも」

 

「り、理巧さん、貴方、死神部隊は?」

 

「ああ、大したことない奴らだったよ。毒は少し効いたけど、ちょっと我慢すればなんて事なかったしね」

 

毒に強い体質をしている理巧は、三鬼者の毒をすぐに体内で解毒し、三鬼者を瞬時に制圧したので駆けつけたのだ。最短コースで床を突き抜けるやり方で。

理巧と合流できた事に微笑む斑鳩は、改めて詠を見据える。

 

「貴方が見たというあのテレビ番組・・・・あれは、父が『養子』を迎えた事を世間に知らせる事が目的でした・・・・」

 

「っ!? 『養子』って、まさか貴女は・・・・!」

 

「身寄りを無くした不幸な子を引き取った篤志家としてのアピール。・・・・その実は、適正に欠ける『息子の代わり』として、忍の家系を引き継がせる為・・・・。私にあるのは、忍として生きる使命のみ! そこに、家族との愛情など露ほども無かったんですが、半蔵学院の皆様が、家族となってくれました」

 

斑鳩は隣にいる理巧を見ると優しく微笑む。 

 

「っ!!」

 

詠は罪悪感が湧く。憎んでいた金持ち偽善者。今までずっとそう思っていた。

だが彼女は養女だった真実に、詠に衝撃を与えた。

理巧が詠に近づき、詠に視線を合わせる。

 

「詠さん。誰にだって、貴女のように辛い思いをして生きてるんだ。裕福に生きてる人、貧しく生きてる人、平凡に生きてる人、だが、その裏では辛く苦しい物語があるんだ」

 

「だから、何ですの・・・・?」

 

「だから、貴女がまた、辛く苦しい思いをしているときは・・・・僕が助けにいく」

 

「え?」

 

緋色に輝く眼差しはとても透き通っており、嘘や虚言を言っているようには思えなかった。

 

「貴女の根っこは、口だけの偽善を放つ奴らと違う。本物の気高い優しさがあった。でなければ、貧民街の人達の為に、身銭を切ることなんてしないだろう?」

 

「なぜ、その事を・・・・」

 

「あの時、詠さんと出会った街で、住んでいる人達が教えてくれたんだ。詠さんは忍務で得た給金を、貧しい人達の為に使ってくれているってさ。そんな善行をしている人間が救われず、影に隠れてそんな人達の命を利用しふんぞり返っている塵クズ野郎が美味しい思いをするだなんて、許せる物じゃない。だから、貴女や貴女の仲間達が助けて欲しい時、救って欲しい時、絶対にその手を掴む。約束するよ・・・・!」

 

理巧の言葉を聞き、詠は真剣な目で理巧の瞳を見つめる。

その緋色の瞳には、今まで耐えてきた苦しみや、自分で自分を縛ってたものが、少しずつ剥がしていく神秘な輝きがあった。

 

「僕達は進む。貴女達を、助ける為に」

 

立ち上がった理巧は斑鳩と顔を見合わせて頷くと、そのまま駆け出していった。

 

「どうして・・・・どうしてそんな話をするのよ・・・・どうして助けるなんて言うのよ・・・・そんな事、言われたら、貴女を・・・・貴女達を、憎めなくなっちゃうじゃない!!!」

 

今まで堪えていたものが溢れ、涙が頬に伝わり、詠の慟哭が廊下に響いた。

 




『三鬼者<サンキシャ>』
モデルは『戦国BASARA』の『三好三人衆』。実力は殺人経験豊富の為、焔達よりも上。ただし、あくまで三人&オリジナル毒物を使えば上だが、一対一だとそれほど脅威ではない。
理巧はすぐに解毒を終えると三人の顔面を殴り飛ばし、中和薬付きの面を砕き、三人は自分たちの毒物で痺れて動けなくなった。


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見つけたぜ、悪党!

ー理巧sideー

 

ドゴォォォォン!!

 

「うわっ! なんだ!?」

 

「っ! 理巧、斑鳩?」

 

斑鳩と一緒に最短コースで屋根をぶち抜いた理巧は、ちょうど戦闘を終えた葛城と柳生と合流し、二人に倒された日影と未来もそこにいた。

 

「あ、葛姐さん。柳生さん」

 

「お二人とも、ご無事でしたか?」

 

二人と合流したタイミングで、釣り階段が下りた。

 

「・・・・一体、誰がや?」

 

「(鈴音先生か。何の思惑があるかはこの際置いておこう・・・・)柳生さん。雲雀ちゃんはおそらく地下の牢屋にいるから、僕が開けた穴から降りていけるよ」

 

「っ良いのか?」

 

「雲雀ちゃんが心配なんでしょ? ここから先は、僕達でどうにかなるからさ」

 

「柳生さんは雲雀さんの元へ」

 

「心配すんなよ! 行ってこい!」

 

「・・・・恩に着る」

 

仲間達の言葉に少し瞳を潤う柳生は、その顔を隠すように踵を返して、雲雀の元へ向かった。

 

「・・・・暁月さん。あんたまで、なんでや? 善忍だからか?」

 

「・・・・“僕は忍じゃない”」

 

「えっ? あんた、忍じゃないって? じゃ何で半蔵学院の忍学科にいるのよ?」

 

忍として高い戦闘技術を持つ理巧が『忍じゃない』、それに二人は疑問を感じた。

 

「そんな事はどうでもいいさ。僕はただ、気に食わないから。それだけだよ。焔さんの命を、春花さんの命を、詠さんの命を、日影さんの命を、未来さんの命を、隠れてコソコソしているだけの臆病者ごときが握っている。それがとてつもなく気に入らない。だから、ソイツをぶっ飛ばしに行く・・・・!」

 

そう言った理巧は、斑鳩と葛城を引き連れて、上へと向かった。

 

 

 

 

ー道元sideー

 

その頃、蛇女子学園のオーナー・道元は、怪しい光を放ち始めた『超秘伝忍法書・陽』と『超秘伝忍法書・陰』を見据えて、ほくそ笑みを浮かべる。

そんな道元の隣に、イカルス星人が現れる。

 

『上々といった所カ?』

 

「フフフフ。ああ上々だ。陰と陽、2つの秘伝書が娘らの闘気に反応しあっている。あと少し、あと少しで・・・・フフフハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

 

ー焔sideー

 

飛鳥と刃を交える焔。

飛鳥の思わぬ成長ぶりに、しだいに焔が押されていき、頭から血を流した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

「「はぁっ!!」」

 

二人が再びぶつかり合い、飛鳥が地面に倒れる。

 

「あぁっ!」

 

倒れる飛鳥に、焔が三本の刀を突き立てようとする。

 

「覚悟しろ! 半蔵の孫!!」

 

「っ・・・・!!」

 

「っ!」

 

しかし、追い詰められた飛鳥の顔を見た瞬間、焔の脳裏に、“かつての自分の姿が過った”。

 

 

 

 

 

 

【私を利用したの・・・・先生!? どうして?!】

 

【善忍の継承者を炙り出して消す。それが俺の使命だからな】

 

淀んだ瞳で歪んだ笑みを浮かべる『初恋の人』に、焔は絞り出すように声を発する。

 

【その為に、私にだけ、あんなに親切にしてくれたの?】

 

【お陰で無駄な苦労をせずに済んだよ】

 

【あなたの事を信じてたから、私の秘密、忍だって事も教えたのに・・・・!】

 

【信用させてから裏切るのが良いんだ!】

 

【っ!】

 

【できれば、淡い恋心とかを抱かせてからな!】

 

その瞬間、焔の中で“何か”が音を立てて砕けた。

『初恋の人』がクナイを自分に突き刺そうとした時、焔の目の前は血に染まった。

 

 

 

 

焔はその思考を振り払うように刀を振りおろす。

 

「名のある家柄に生まれ、人を疑う事を知らずに育ったお前に! この私が負ける筈無い!!」

 

が、飛鳥は寸前で回避した。

 

「フゥ!!」

 

「(こうなったら・・・・!) ハァァァァァァッ!!」

 

飛鳥は『命駆けモード』となり、チャクラを全方位に放射した。

 

「ぐぅあっ!!」

 

そのあまりの威力に焔は装束が破れ、地面に転がるが、すぐに起き上がる。

 

「少しは成長した見たいじゃないか・・・・!」

 

「っ・・・・・・・・」

 

飛鳥は印を結ぶと、焔を結界の外に弾き飛ばした。

 

「くっ、小癪な!」

 

焔は飛鳥を追った。

 

 

 

ー鈴音sideー

 

蛇女の天守閣の屋根の上に立つ鈴音。

 

「そう、秘伝書の元へ集まりなさい。そして・・・・」

 

「これがお前の望んでいたことか?」

 

その鈴音の背後に、霧夜先生が現れる。

 

「2体の怪獣と戦って消耗している身体を押してまで、自分の生徒は心配みたいね?」

 

「俺がウルトラマンゼロと融合しているのは、既に知っていたようだな?」

 

「フフフフ、先生がウルトラマンと融合しているって知った時は驚いたわ。そして暁月理巧、おそらく彼が、ウルトラマンジードって事にもね。それで、生徒達を助けに来たの?」

 

「いや、俺はお前に会いに来たんだ。凛」

 

「・・・・これは、証明よ。忍務に失敗し、死にかけた時、本当の強さとは悪にある。私はそう悟った。それを証明したかったの。貴方の生徒に勝つ事でね」

 

「中途半端に仕掛けてきたのは、うちの娘らを鍛えてくれたって訳か・・・・」

 

霧夜先生の言葉に、鈴音は一瞥し、再び視線を外す。

 

「僅かな時間で貴方の生徒達は、驚くほど強くなった。流石だわ、霧夜先生」

 

鈴音はさらに言葉を紡ぐ。

 

「『超秘伝忍法書』に選ばれた生徒達をぶつけ合わせ、私の生徒が勝利した時、私が目指した『スーパー忍者』が完成する筈だったけど、『陽の秘伝書』がこちらに来てしまった」

 

「すると、秘伝書を奪ったのは」

 

「私利私欲に走った、学園オーナーの『道元』が独断で生徒達にやらせたのよ」

 

「馬鹿な! 『陰』と『陽』を1つにするのは、忍最大の禁忌だ!」

 

「経緯は不本意だけど、これで決着を着ける事ができるわ」

 

「・・・・・・・・」

 

愕然となる霧夜先生に、鈴は続ける。

 

「私と貴方の生徒の誰かが秘伝書を継承し、そして戦うのだから・・・・」

 

「・・・・生徒達を止めないと!」

 

去ろうとする霧夜先生の足元に、鈴音がクナイを投げ指した。

 

「“子供のいさかい”、なんでしょ? 結果が出るまで、ここで一緒に鑑賞しましょう。霧夜先生。ウルトラマンゼロ」

 

≪どうやら、こっちの動きも折り込み済みって訳か。霧夜、足元を見ろ≫

 

「・・・・っ!」

 

霧夜が足元を見ると、大道寺の猫が足にすり寄っており、視線を向けると、天守閣の鯱に大道寺がいた。

 

「大道寺・・・・!」

 

鈴音も大道寺を見て険しい視線を向けた。

 

「彷徨の果て、斯様な再会、まさに嘲笑を聞くが如し!」

 

「貴女は可愛い後輩だったわ。まだ私に勝ちたいって言うの?」

 

「否! この戦い、勝つのは我に在らず! 我らの後輩なり!!」

 

 

 

ー理巧sideー

 

「っ! 二人とも、後ろ!」

 

「「っ!」」

 

理巧が叫ぶと、後方から火の玉が飛んできて、三人は回避して後ろを見ると、小型砲筒を付けた詠がいた。

 

「ウフフ、逃がしませんわよ♪」

 

「詠さん。アンタもしつこいね?」

 

「暁月さんは、しつこい女は嫌いですか?」

 

「諦めないで挑む根性のある優しい女性は、好みですけどね。日影さんも根性ありますね」

 

「そらおおきに」

 

「「っ!」」

 

前方には、おそらく隠し通路で先回りしたであろう日影もいた。

 

「お前ら! 負けたら死ぬんだぞ! どうして平気なんだよ!?」

 

「儂らが死ぬことなど、アンタらにはなんも関係あらへん。そう思うやろ、暁月さん?」

 

「ええ関係ありませんね。でも、気に入らないからぶっ潰す。それだけで十分なんですよ戦う理由は!」

 

理巧の言葉に同意するように、葛城も立ち上がる。

 

「ああ、理巧の言うとおりだ。アタイがムカつくからムカつくんだ!!」

 

叫ぶ葛城の身体からチャクラが放出される。

日影は葛城の目を見て、不快そうに顔を歪める。

 

「その目ぇや、その目ぇを見ると、何や知らんけど、儂の知らん儂が何処からか首をもたげて来る。何やこれ? 感情を表に出したら戦士になれんのや! そないに感情むき出しで、儂に向かってきよって!!」

 

たまらず叫んだ日影が葛城に襲いくる。

 

「へっ!急にキレやがって!」

 

突きだしてくる日影の腕を取って、一本背負投をするが、日影はヒラリと着地する。

 

「分からん! 分からん分からん分からん!!」

 

「けどさ、そういうアンタも嫌いじゃないぜ。よっぽど人間らしい」

 

「ふっ」

 

「葛城さん!」

 

「応! 霧夜先生直伝! ふっ!!」

 

斑鳩と合流し、葛城が煙玉を床に叩きつけると、ボワンっと、煙が廊下を覆った。

 

「ケホッケホッ、古典的な手を・・・・!」

 

「行き先は分かっとる! 今度こそ逃がさへん! ん?」

 

日影がチラッと見ると、顔を俯かせている詠を見た。

詠の脳裏には、先ほどの会話が浮かぶ。

 

【貴女や貴女の仲間達が助けて欲しい時、救って欲しい時、絶対にその手を掴む。約束するよ・・・・!】

 

「・・・・・・・・」

 

「詠さん? どないした?」

 

「っ、いいえ、別に・・・・日影さんこそ、そんなにやる気を出したお顔、理巧さんとの模擬戦以外で初めて見ましたわ」

 

「っ!・・・・そう、か?///////」

 

顔を赤らめる日影に優しい笑みを浮かべる詠は、去っていった理巧の姿を見つめるように廊下の向こうを見る。

 

「暁月理巧さん。不思議なお方ですわね、ヌクヌクと育ったようなお坊ちゃんに見えるのに、時おりわたくし達以上に、過酷な事があったかのような雰囲気を出しています」

 

「・・・・せやな」

 

二人は改めて、三人の追跡に戻った。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

ピシャンッ!

 

「うぅっ!!」

 

雲雀は春花が持っている鞭の攻撃に脅える。

 

「もう諦めちゃうの? 少し抗ってくれないと、虐め概が無いわ」

 

「・・・・ぜ・・・・き・・・・!」

 

「ん?」

 

「燃やすぜ、勇気!!」

 

「っ!!!」

 

ィヤー!

 

雲雀が『レオカプセル』を起動させると、手のひらから放たれる炎を春花が後ろに退いた。

 

「まったく、危ない道具を持っているのね」

 

炎が収まると、雲雀は炎を出した手の熱を払うように手を振った。

 

「それで終わり?」

 

「終わり、じゃないよ! だって雲雀には、友達がいるんだもん!!」

 

雲雀が叫ぶと、牢屋の天井を番傘をドリルのように回転させて突き破ってきた柳生が現れた。

 

「柳生。舞い忍ぶ!」

 

「柳生ちゃん!」

 

雲雀は柳生を見て涙を貯めて喜ぶ。

 

「ふん。やっぱり来たわね」

 

「雲雀は返してもらう」

 

「そうは往かないわ。私のお人形にするんだから!」

 

春花の鞭が柳生の胴体に巻き付いた。

 

「くっ・・・・!」

 

ガガガガガガガガガガ!!

 

今度は壁に穴が空いて、そこから傘に仕込んだ機関銃を構えた未来が現れ、銃口を雲雀に向けた。

 

「フフフ、逃がさないんだから!」

 

「っ!」

 

「雲雀!」

 

「あら未来ったら、これからが楽しい所だったのに」

 

「春花様だけ独り占めしようったって、そうはいかないんだから!」

 

「・・・・だから、こんな事してる場合じゃないんだから!!」

 

「ふっ!!」

 

立ち上がった雲雀と柳生は『命駆けモード』となって、春花と未来を吹き飛ばし、互いの手を取り合った。

 

「柳生ちゃん!」

 

「雲雀・・・・!」

 

「「『秘伝忍法』・・・・」」

 

「ウサギさん、お願い」

 

「蹴散らせ・・・・!」

 

牢屋をぶち破って忍兎と烏賊が現れ、雲雀と柳生は忍兎の背中に乗り、烏賊がドリルのように回転し、天井をぶち破って最上階へ向かった。

 

 

 

ー春花sideー

 

春花と未来は、ぶち破った穴を見上げながら、二人が見せた『合体秘伝忍法』に驚いていた。

 

「『合体秘伝忍法』ですって・・・・?」

 

「あんな事、可能なの?」

 

「・・・・忍とは、心の技・・・・」

 

「えっ?」

 

「よく鈴音先生が仰ってたわ。あの二人、不可能を可能にするほど、心の底から仲良しって事かしらね?」

 

「・・・・ちょっと、良いかも」

 

「そうね・・・・」

 

羨望の眼差しを向けると、ハッと、お互いを見た。

 

「っお、追うわよ未来!」

 

「うん!!」

 

 

 

ー理巧sideー

 

「っ。あーちゃん<飛鳥>、最上階に着いたようだ。斑鳩姉さん、葛姐さん、少し先に行くよ」

 

「分かりました」

 

「すぐに追い付くぜ!」

 

二人の言葉に理巧は頷くと、おもいっきり足を踏ん張らせると、ベコッ! と床を蹴りつけて、一瞬で二人よりも遥か先へと進んだ。

 

「理巧ってさ、あんなにスゲェのに何で忍じゃねぇんだ?」

 

「何かあったのかも知れませんね」

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥が最上階に到着すると、そこに焔がいた。

 

「焔ちゃん!? どうして?!」

 

「つくづく甘い奴だな。順路が1つだけだと思うか」

 

焔がチャクラを放出すると、背後に赤い蛇が現れる。

 

「『秘伝忍法 魁』!!」

 

焔が片手の三本の刀を突き立てて突っ込む。

 

「『秘伝忍法 二刀繚斬』!!」

 

背後です緑の蛙が現れた飛鳥の交差斬撃を、焔がもう片方の三本の刀で切り裂き、飛鳥へと斬り込み、飛鳥もそれを受け止めようとしたその瞬間ーーーー。

 

「はいお二人さんソコまで!!」

 

ガキンッ!!

 

「り、りっくん!?」

 

「邪魔をするな暁月っ!」

 

そこには両手に持ったクナイで焔と飛鳥、二人の刀を止めた理巧だった。

 

「焔さん、アンタ分かってるのか? アンタはオーナーの道元に利用されているだけなんだぞ?」

 

「関係ない! 忍として、忍務に殉ずる。これぞ忍の本懐だ!」

 

「はっ! 小物野郎の手のひらの上で踊り狂って殉ずるのが本懐って、忍ってのは随分と易いもんだね?」

 

次の瞬間、部屋の奥から激しい音を立てて“何か”が現れた。

 

「なっ!」

 

「ん?」

 

「あれは・・・・」

 

「選ばれし者達、そして暁月理巧よ。よくぞ来た」

 

三人が現れたものを見ると、巨大な人型のパワーローダーを着用した道元が現れた。

 

「道元様!?」

 

「道元って・・・・?」

 

「蛇女のオーナー、つまり、焔さん達のボスって事。それにあのメカ、レムのデータで見たことがある。確か、『チブル星人』って言う三本足のタコのような異星人が使う、『チブローダー』ってパワーローダーだ」

 

「フフフフ、よく知っているな。これこそ私の切り札。『チブローダー』を私専用に改造した鎧、『ドウローダー』だ!!」

 

道元はイカルス星人に秘密裏に造らせた鎧。両肩に備わったミサイルランチャーとレーザー砲、両足にはガトリング砲とキャノン砲、両腕には鞭と大剣を備えた『ドウローダー』を見せた。

 

「もしかして、この人が雲雀ちゃんの言っていた?」

 

「うん。焔さん達に『軛の術』を施した術者だ」

 

黒幕の登場に、理巧と飛鳥は目線を鋭くした。

 

「焔よ。その二人を連れて私の元へ来るのだ。この『超秘伝忍法書』の導きと共に!」

 

道元は光を放つ『超秘伝忍法書』を見せた。

 

「この二人と・・・・? 道元様! どういう事です!?」

 

「そこの少年には、ある人物との『交渉道具』としての価値がある。そしてお前とその飛鳥の二人は、依り代として『超秘伝忍法書』の『陰の巻』と『陽の巻』。この2つの力を私の手中に収めるためにな!」

 

「な、なんだって!? そんな事が許される筈が・・・・ぐぅっ!!」

 

言葉の途中で、焔が苦しそうに蹲る。

 

「抗ってはならぬ!」

 

「焔ちゃん!」

 

「術を発動させたのか? やはりアンタは! 焔さん達を利用していたんだな!?」

 

「ふん! 元より蛇女子学園は、私の野望の足掛かりに過ぎん! 私は『超秘伝忍法書』と『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』。この力で悪忍、いや、全ての忍を超越し、この世界の、この宇宙の頂点に君臨するのだっ!!」

 

「組織を、裏切るつもりか・・・・!?」

 

すると、半蔵学院の皆が、隠し通路から蛇女の皆がやって来た。

春花と未来と詠が、焔に駆け寄る。

 

「道元様?」

 

「これってどういう事?」

 

戸惑う蛇女の仲間に、焔が説明する。

 

「道元は、自分の欲望の為に、私達を・・・・! そして、悪忍組織を裏切った・・・・!!」

 

「「えぇっ!?」」

 

「やっぱりそう言う事だったのね?」

 

驚く詠と未来だが、春花だけは笑みを浮かべて道元を睨む。

 

「なんかややこしいけど・・・・?」

 

「要するに、標的は道元って事や」

 

日影が葛城の肩に手を置いて簡潔に言うと、葛城も笑みを浮かべる。

 

「ああ、覚悟しろよおっさん! その悪趣味な玩具もろとも、叩きのめしてやるぜ!!」

 

葛城の言葉に一同がチャクラを迸らせる。が・・・・。

 

「皆、ちょっと待ってくれ」

 

「りっくん?」

 

理巧が前に立って、全員を止めると、道元にゆっくりと歩み、道元の前に立つと、見上げながら口を開く。

 

「道元、アンタさっき言ったな? 僕の事を『交渉道具』って?」

 

「ああ、そうだ」

 

「アンタが交渉しようとしている相手って・・・・・・・・ウルトラマンベリアルか?」

 

「っ、ウルトラマン、ベリアル・・・・!」

 

「それって、アタシ達が生まれる少し前に起こった・・・・」

 

「ええ、『クライシス・インパクト』を引き起こした元凶ですわね・・・・」

 

「貴女方も知っているのですか?」

 

「まぁな、儂ら悪忍側でも、ベリアルの存在は最も危険視しとるんや。儂らの中では、鈴音先生が覚えておるらしいで」

 

斑鳩の言葉にそう答えた日影。

飛鳥達と焔達は、再び理巧と道元を見ると、道元はくっくっと笑いをこぼす。

 

「なるほど。貴様は私がベリアルの情報を知っていると思い、この蛇女子に来たと言う訳か・・・・!」

 

「そうだ」

 

「フフフフ、所詮お前も焔達と同じように、“奴”の手のひらの上で踊っていると言う訳だ・・・・!」

 

「(“奴”?)」

 

「答えは・・・・これだ!!」

 

道元が『ドウローダー』の腕についた鞭で、理巧を絡め取ろうと振り下ろすが、理巧は寸前で回避する。

 

「・・・・・・・・」

 

「貴様はただの『交渉道具』だ! この私に質問しようなどと、分不相応な事をするでないわ!」

 

「そうかい」

 

「それにな! “貴様の『育て親達』は、私にとって目障り極まりないのだ”!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・あ?」

 

『育て親達』の事を言われ、理巧の心が途端に、冷えていった。

 

「知っているぞ! 貴様は八つの頃まで文字処か! 言葉すら満足に発せない! 感情もまったく無い! 文字通り傀儡のような子供だったそうだな!?」

 

『っ!!?』

 

道元の言った事に、それを知っていた柳生以外、とりわけ焔達は驚いた。まさか、目の前の少年にそんな幼少時代があった事に驚いたのだ。

 

「そんな憐れで惨めな貴様を! あの忌々しい小僧共が拾い! 育てたそうではないか!! 」

 

「・・・・・・・・・・・・それで?」

 

『っ!』

 

声を発した理巧から、酷く冷たい声と、肌にビリビリと突き刺さるような暗い空気が、飛鳥達と焔達の身体を硬直させる。

 

「何かと目障りな奴らを黙らせる為にも! 貴様は私の『道具』となって貰おうか! 貴様を人質にし! あの忌々しい小僧共をたっぷりと苦しめて「黙れ」ん?・・・・っっっ!!!!!??」

 

理巧を見た道元は、理巧の顔を見て息を詰まらせる。

飛鳥達と焔達からは、理巧の後ろ姿しか見れないが、これだけは全員共通で理解した・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は今、かつて無いほどに、怒っているとーーーー。

 

ドゴンッ!!!

 

「ぐぁあああああああああああああ!!!!」

 

一瞬、コンマ数秒にも満たない僅かな刹那。

理巧は道元の『ドウローダー』を蹴り飛ばした。

部屋の奥に吹き飛んだ道元は、そのまま壁に激突する。思いの外、道元の奥の部屋の造りが頑丈だった為か、壁が大きく凹んだ。

 

「ぐぅっ、な、何が・・・・ひぃっ!」

 

道元は、ゆっくりと歩く理巧の姿を見て、小さく悲鳴を上げた。

自分に向かってくるのは、自分の半分くらいしか生きていない小僧の筈だ・・・・だが、目の前にいるのは“少年”ではなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その燃えるような緋色の瞳は鋭利に鋭く、氷のように冷酷。その輝きは虚無のように完全な闇となっていた。

それを一言で表現するならば、このたった一言。

 

『死』だったーーーー。

 




ー次回予告ー

道元、お前は決して犯してはならない領域を犯した。絶対に許さない。お前がどんなに命乞いをしても、後悔しても許さない。
機械の鎧だろうが、超獣だろうが、融合獣だろうが、相手になってやる。
飛鳥さん。斑鳩姉さん。葛姐さん。柳生さん。雲雀ちゃん。焔さん。詠さん。日影さん。未来ちゃん。春花さん。終わらせるぞ、この戦いを!!

次回、『閃乱ジード』

【野望、潰える刻】

飛ばすぜ! 光刃!


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野望、潰える刻
キレたぜ、道元


私は帰って来た!


ー霧夜先生sideー

 

『霧夜先生!!』

 

「っ、ペガくん?」

 

突如、転送エレベーターが霧夜先生達がいる屋根に現れると、理巧が外の悪忍達を片付けた後で基地に避難したペガが慌てた様子で霧夜先生に駆け寄り、ユートムから映し出された映像をスマホで霧夜先生に見せると、ちょうど道元が理巧の蹴りで吹き飛んだ光景が映し出されると同時に、凄まじい衝撃で城全体が揺れた。

 

「な、何が起こったの?」

 

「フム・・・・暁月か」

 

「ペガくん、これは一体・・・・?」

 

『あの道元って人が、“理巧の育ての親の鷹丸さん達に危害をくわえる”って言ったんだ!』

 

「なに・・・・!?」

 

ペガの説明で霧夜先生の顔に焦りが生まれた。

 

「不味い事になったぞ!」

 

≪霧夜。何が不味いんだ?≫

 

「・・・・理巧の一番の逆鱗。それは、“鷹丸達に危害を与える事”だ。こうなった理巧は下手をすると、“道元を殺してしまう”・・・・!」

 

頬に汗を流した霧夜先生の態度に、ペガ以外の人達がピクリっと反応した。

 

「子供のいさかい、じゃなかったの?」

 

「そんなレベルの話ではない。なぜ理巧がこれまで忍の学院に入学できなかったと思う?」

 

「そんなの、あの閃忍達が許さなかったからでしょう?」

 

「それもある。だが、一番の原因はそれじゃない」

 

「どういう事だ師よ?」

 

「・・・・かつて理巧は中学生時代に、かなり凄惨なイジメに一年半以上あっていた。イジメをおこなっていた生徒達は退学処分にされたが、ソイツらは理巧への報復として理巧を拉致し、ナイフや鉄パイプとかで理巧をリンチにしようとした。それだけなら理巧も正当防衛で多少懲らしめる程度で許していたが。奴らは、『鷹丸達にも危害を及ぼす』、と言ったんだ。それで理巧の奴はソイツらを“全治一年の重体にしたんだ”」

 

「「っ!」」

 

鈴音と大道寺も、息を呑んだ。

 

「何とか事なきを得る事ができたが、例えそんな事情があったにしても、そんな危険性を持った理巧を忍の学院に入学させるのに善忍の上層部が難色を示してな。高校一年間は入学を保留されていたんだ」

 

≪(なるほどな。それにしても理巧のあの目、“ベリアルを彷彿させるぜ”・・・・)≫

 

ゼロは画面に映し出された理巧の顔を見て、“宿敵の面影を感じた”。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧の頭と心は以外と冷静だった。

腸は怒りで煮えたぎっていると言うのに、思考も感情も極めてクリアな状態だった。ただ、目の前に不様に尻餅ついているこの生物<道元>をーーーー“いかに解体するか”、それを静かに考えていた。

 

「き、貴様、こ、この私を、よくも・・・・!!」

 

道元は脅える感情を何とか押さえつけて、『ドウローダー』を動かし起き上がらせると、両肩や両足に取り付けた武装を一斉射撃をさせた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は迫り来るレーザーを回避し、ミサイルやマシンガンの弾丸やキャノン砲の弾をクナイで切り裂き、一瞬で道元の眼前に現れた。

 

「う、うぉあああああああああああ!!!」

 

道元は半ば錯乱したように両腕に装備した剣や鞭で攻撃するが、理巧は冷淡に両腕をクナイで切り落とした。

 

「バ、バカな!?」

 

「・・・・・・・・」

 

「ひぃ・・・・っ」

 

眼前に現れた理巧に小さく悲鳴を上げる道元。そしてーーーー。

 

グワシャァァァン!!!

 

道元の『ドウローダー』のコックピットを拳で粉砕し、この中にいる道元の顔面に、理巧の拳が叩き込まれた。

 

「はべんっ!!」

 

道元は小さく悲鳴を上げ、鼻の骨が折れる音と肉が潰れるような音が耳に入り、視界が真っ赤に染まり、後ろに倒れそうになるが、瞬時に背後に回った理巧が全身のバネを使った後ろ回し蹴りを叩き込み、両腕を失った『ドウローダー』ごと道元を部屋から飛鳥達や焔達のいる広間に叩き出した。

 

『うわぁあっ!!』

 

飛鳥達と焔達の声が上がり、ゆっくりと出口に向かうと、切り落とした『ドウローダー』の両腕が火花を上げて爆発した。

 

ドガァアアアアアアンッ!!

 

部屋が爆発に呑まれたその瞬間、理巧は道元の机を盾にして爆炎から逃れるが、壁の一部が破壊され、『黒い塊』が蛇女子から吹き飛んでいった。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は一瞬、ソレを視線で追うと、合流した時に斑鳩に渡されたジードライザーを握ってレムに連絡をする。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「っ!」

 

飛鳥は息を呑んだ。いや飛鳥だけではない。周りの仲間達や蛇女の忍達も同じように息を呑んだ。

今さっき部屋から叩き出され、鼻が潰れて鼻血を流している道元にではない。

爆発によって道元がいた部屋が炎に飲み込まれ、一瞬理巧を助けにいかねばと思ったが、炎に呑まれた部屋から出てきた理巧の雰囲気に圧巻されたのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

顔は影が入り見えないが、緋色の髪が後ろの業火に映え、同じく緋色の瞳は妖しい光を放ち、静かな威圧感で『ドウローダー』から這い出た道元を冷酷に見下ろすその姿は、まるで地獄からやって来た修羅の如くであった。

 

「・・・・道元」

 

「ひっ、ひっ、ひひぃぃっ!!」

 

「お前は決して犯してはならない領域に、その穢らわしい足で踏み込んだ。惨めに命乞いしろ、無様に泣きわめけ、見苦しく這いずれ、どんな醜態をさらそうが、お前は赦さない。痛覚を持って来たことを後悔しろ。自分の吐いた唾がどれほどの物を汚したか、その身や心にも刻み込んでやる!」

 

「ひいいいいいいいいいい!!!!!」

 

理巧の底冷えする程の声でゆっくりと階段を下っていき、半ば錯乱気味の道元は恥も外聞もなく悲鳴を上げた。

 

「こ、こうなれば・・・・!!」

 

道元は懐から『陰と陽の超秘伝忍法書』を取り出すと、忍法書が宙に浮く。

 

ーーーードクン・・・・!

 

「えっ?」

 

「んっ?」

 

飛鳥が陽の超秘伝忍法書と、焔が陰の超秘伝忍法書と同じ光に包まれると、2つの忍法書が広間を覆うほどの光を放った。

 

「(忍結界か)ーーーー逃がさん・・・・!」

 

理巧は道元と飛鳥と焔を追った。

 

 

 

ー雲雀sideー

 

光が収まり、雲雀達が目を開けると、理巧と飛鳥と焔、そして道元の姿が消えていた。

 

「理巧くんに飛鳥ちゃんに焔さんがいない!?」

 

「まさか・・・・!」

 

「結界に取り込まれた・・・・はっ!」

 

全員が天井を見上げると、忍装束を着こんだ絡操人形達が逆さまに立っていた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「これは・・・・!」

 

「忍結界、だと?」

 

「・・・・・・・・」

 

暗い空間に閉じ込められた三人の目の前に、2つの忍法書を持った道元の幻影が現れた。

 

《もはや貴様らは私の術中。見せてやろう! 我が秘伝忍法! 『怨楼血<オロチ>』!!》

 

道元の幻影が消えると、地面を砕いて炎を纏った六本の首の怪物が現れた。

 

「『大蛇』と言うよりも、芋虫の化け物だな」

 

理巧が両手にクナイを持ち、焔と飛鳥も武器を構えた。

 

 

ー斑鳩sideー

 

日影が人形の一体にナイフを突き刺すと倒れ、人形の刺された箇所に機械と火花が上がっていた。

 

「なんだコイツら!?」

 

「コイツらはただの忍やない。護衛用の絡操忍者や」

 

「『絡操』!? っ!」

 

斑鳩に迫っていた絡操忍者を、詠の大剣で真っ二つにした。

 

「ご、誤解しないで下さいませ! 別に貴女を助けた訳ではありませんわ!////」

 

「うふ。今戦うべきは、わたくし達ではありませんものね!」

 

「分かってるなら宜しいですわ!」

 

振り向き様に、絡操人形を数体切り捨てる。

 

「う~りゃーーーー!!」

 

未来が仕込み傘の機関銃で絡操忍者達を蜂の巣にするが、絡操忍者の口からレーザーが放たれ、傘を弾き飛ばせる。

 

「うわっ!」

 

「っ!」

 

それを見た柳生が自分の番傘を未来に投げ渡した。

 

「っ! はぁあっ!!」

 

「っはぁ!」

 

未来が柳生の番傘で絡操忍者を突き刺し、柳生は未来の傘を手に取って絡操忍者を真っ二つにした。

 

「やるじゃない!」

 

「当然だ」

 

「やっぱり可愛くない!」

 

背中合わせで話し合う二人を、春花と雲雀が見ていた。

 

「ウフフ。面白いわね」

 

「柳生ちゃん!」

 

雲雀が柳生の元へ行こうとするが、その手を春花が握って止める。

 

「春花さん?」

 

「力は温存しておきなさい。貴女には別の仕事があるわ」

 

「えっ?」

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧達は自分達に迫る怨楼血の首を回避しながら長い首筋を小太刀と三本の刀とクナイで切り裂く。

 

「はぁあ!!」

 

「うぉお!!」

 

「しっ!!」

 

が、切り裂かれた傷はあっという間に再生された。

 

「切りがないな」

 

《我が『怨楼血』に抵抗など無意味だ》

 

道元の声が響くと、焔が怒りを吐き出すように声を発した。

 

「・・・・よくも、この私を、利用したなぁーーーーーーっ!!!」

 

過去のトラウマがフラッシュバックした焔に、『怨楼血』の胴体らしき部分に現れた道元が鼻を隠すように手を置いて口元に笑みを浮かべて口を開く。

 

「笑止千万! フフフフ、貴様が利用されたのは、自らの愚かさに他ならぐぁあああっ!」

 

「っ! 理巧くん!?」

 

今度は道元の片耳を理巧が投げたクナイで切り落とした。

 

「・・・・ホントに、不愉快な生き物だな」

 

冷酷に道元を睨む理巧は、クナイにくくりつけた糸を操作して投げたクナイを戻す。

 

「・・・・ふふふ、はははははは! 」

 

が、焔は自嘲するように笑い声をあげた。

 

「焔ちゃん?」

 

「・・・・」

 

「なるほど、これが『悪』。“利用する”にも“される”にも感情次第、これが運命<サダメ>とするなら・・・・『悪の運命』に舞い殉じる!! それだけだ!! うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」

 

六本の刀を構えた焔な身体が炎に包まれる。

 

「ぬぉ!」

 

「道元!! 貴様も道連れだぁあああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

「っ!」

 

「・・・・」

 

刀を振り上げる焔の腕を飛鳥が抱きつき、もう片方の腕を理巧が片手で押さえた。

 

「飛鳥!? 暁月理巧!?」

 

「簡単に命を捨てちゃダメだよ!」

 

「あんな“廃棄物野郎”と心中だなんて、割りに合わなさすぎだろうが!」

 

「元より悪忍に拾われた身だ! 今さら命など惜しむものかっ!」

 

「きっと『仲間』が助けてくれる!」

 

「『仲間』・・・・」

 

「焔、アンタにもいるだろうが、信頼できる『仲間』が少なくても四人はな!」

 

「っ!」

 

焔の脳裏に、詠が、日影が、未来が、春花が浮かんだ。

 

 

 

ー斑鳩sideー

 

斑鳩達が漸く絡操忍者を片付けた。

 

「これで全てですわ」

 

「後は、あの三人だな・・・・」

 

一同は、忍結界が展開された黒い渦を睨み、春花が口を開く。

 

「あの結界は、『陰・陽の2つの超秘伝忍法書』の力によるもの。私の作った『連動結界』よりも、遥かに強固。でも、私たち全員の力ならば或いは・・・・!」

 

春花の説明を聞いて、未来が柳生に話しかける。

 

「貴女以前<半蔵学院襲撃>、私達の『連動結界』を破って、侵入したことが・・・・」

 

柳生は未来の話を聞きながら雲雀に近づく。

 

「あの時、結界に入れたのは、俺の力じゃない。雲雀の力だ!」

 

「えっ?」

 

「言ったでしょ。“力を温存しておきなさい”って」

 

「春花さん?」

 

「貴女は皆の気持ちを受け止め、三人に伝えるの。きっとそれは大きな力になる筈」

 

「“大きな力”・・・・」

 

雲雀に全員が集う。

 

「忍結界!」

 

春花が黒い渦の結界に、己の忍結界をぶつける。

 

「これは!?」

 

「異なる結界の異操作を利用して、不安定にするわ!」

 

「雲雀!」

 

「うん!」

 

雲雀が印を結んだ。

 

「まさか貴女方と共闘するとは思いませんでしたわ」

 

「詠さん」

 

「勝負はお預けだな?」

 

「せやな・・・・焔さん!」

 

「飛鳥さん! 理巧くん!」

 

「飛鳥! 理巧!」

 

「焔さん!」

 

「焔ーーーー!」

 

「飛鳥・・・・! 理巧・・・・!」

 

他の皆も印を結び、三人に呼び掛ける。

 

「理巧くん! 飛鳥ちゃん! 焔さん! 聞いて! 皆の声を!!」

 

雲雀の声が響くと、斑鳩、葛城、柳生、そして雲雀の胸の谷間から、『ウルトラカプセル』が飛び出していった。

 

「あれは・・・・!」

 

「へっ! どうやらアイツらも力を貸してくれるみたいだな!」

 

「頼むぞ! 光の戦士たち!」

 

「理巧くん達を、助けて!」

 

四本の『ウルトラカプセル』が忍結界に入っていき、天井を突き破って、二本の『ウルトラカプセル』も忍結界に入っていった。

 

 

ーペガsideー

 

『うわっ!』

 

「ん?」

 

ユートムから送られてくる映像を見ていた霧夜先生達だが、ペガが基地から持ってきてパーカーのポケットに入れていた『初代ウルトラマンカプセル』と『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオンカプセル』が飛び出し、屋根を突き破っていった。

 

「これは?」

 

≪力を貸そうとしているんだ、理巧にな!≫

 

 

ー理巧sideー

 

何とか自暴自棄になりそうだった焔を止めたが、怨楼血の長い胴体に飛鳥は捕まり、焔も捕まった。

 

「あーちゃん! 焔! くぅっ!!」

 

二人を助けようとするが、理巧も捕まってしまう。

 

「りっくん!! 皆・・・・あぁ!」

 

「ここで私が、倒れたら、アイツらに、会わせる顔が、ない・・・・!」

 

「ちぃっ! 道、元・・・・!《理巧くん・・・・!》っ!」

 

理巧達の耳に、自分たちの名を呼ぶ、仲間達の声が響いた。

 

《理巧くん! 飛鳥ちゃん! 焔さん! 皆を、皆を感じて! 皆を呼んでーーーー!》

 

「感じる・・・・皆を!」

 

「そうか! 皆が私達を助けようとしているんだ!」

 

「仲間達が・・・・!」

 

飛鳥た焔は頷き合うと、印を結び、精神を集中させる。

 

「まだ、終わってないな」

 

「忍学生と道具風情が・・・・!!」

 

()()()()()()()()()()()()()》》》》》》

 

暗い空間に仲間達の声が響くと、白い光が溢れ、白い光となった仲間達が、飛鳥と焔に集い、二人の身体に入った。

 

「皆・・・・!」

 

「あぁ・・・・!」

 

「あっ!」

 

さらに六つの光が現れ、飛鳥の胸の谷間から『ゼロカプセル』が飛び出し、七つのカプセルが理巧の周りを囲んだ。

 

「力を、貸してくれるのか、ウルトラの戦士たち・・・・!!」

 

シェアッ!

 

ィヤーッ!

 

デュワッ!

 

デヤッ!

 

フワァッ!

 

セリャッ!

 

シュワッ!

 

七つの『ウルトラカプセル』が起動すると光り輝き、『初代ウルトラマンカプセル』を除いた六つのカプセルが理巧の身体に入ると、理巧と飛鳥と焔の身体が白い光に包まれた。

 

「皆が、私の中に・・・・!」

 

「激しく、そして暖かい・・・・!」

 

「そうか、これが・・・・!」

 

「皆の思いが力に、そして私を守ろうと、そうか、分かったよ、じっちゃん・・・・っ!」

 

「っ!」

 

「光の戦士達が僕に言う、『邪悪に打ち勝て!』。『仲間を守れ!』。『己の運命を覆せ!』って・・・・っ!!」

 

カッ!と目を見開いた三人は、道元と三本首となった怨楼血を鋭く見据える。

 

「ぬおおおおおおおおお!! っ! 『秘伝書』がっ!?」

 

二つの『超秘伝忍法書・陽』が飛鳥の胸な谷間に、『秘伝忍法書・陰』が焔の胸の谷間に入るとーーーー。

 

「っ!!」

 

「っ!!」

 

焔の髪と瞳が真っ赤になり、髪が炎となった。

飛鳥の身体も赤く燃えるように輝き、二刀の小太刀が緑色のチャクラが放出される。

 

「さぁ覚悟決めろよ、道元!!!」

 

シェアッ!

 

理巧は『初代ウルトラマンカプセル』を手に取り起動させると、青い光に身体が輝き、カプセルを握った拳から、ノコギリ状の光の輪を作り出した。

 

「『超秘伝忍法 紅』! ハァァッ!!」

 

「『超秘伝忍法 半蔵流乱れ咲き』!!」

 

「ジーっとしてても、ドーにもならねぇ! 『八つ裂き光輪』!!」

 

焔の炎を纏った六本の刀が、飛鳥の小太刀二刀流の乱舞が、理巧の光輪が、怨楼血の首を切り裂いた。

 

「「「はぁああああああああ!」」」

 

「そ、そんな馬鹿なっ!!!」

 

「「「はぁぁっ!!!」」」

 

「ありえぇええええええええんんっ!!」

 

三人の刃が、道元の身体を切り捨てた。

 

 

ー霧夜先生sideー

 

「善忍と悪忍が、手を取り合った・・・・!」

 

鈴音は思いがけない展開に驚いていた。

 

「これぞ、新たな忍の可能性! それを我等の後輩達が見せてくれた!」

 

大道寺の言葉に、霧夜先生もフッと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

黒い渦の結界からボロボロの道元が落ちてくると、飛鳥と焔に肩を貸した理巧が結界から出てきた。

二人を下ろすと、飛鳥と理巧の元に半蔵学院の仲間達が、焔の元に蛇女の仲間達が集った。春花は力をかなり消耗したのか、近くの柱に寄り掛かりながらも、焔に親指を立てていた。

 

「っ!」

 

「お、おのれぐがぁ! げはあぁっ!!」

 

理巧は道元が動いたのを察し、瞬時に道元に飛びかかり、道元の胸元に拳を叩き込んだ。骨が幾つも折れた音が響き、道元は口から血を吐いた。

 

「逃げられると思っているのか道元?」

 

「ご、あぁ・・・・!」

 

「りっくん!」

 

「殺しはしないよ。だが、コイツには聞きたいこぐぅっ!!」

 

道元を見下ろす理巧の身体が、突然、金縛りにあったかのように動けなくなった。

 

「うぁあっ!」

 

動けなくなった理巧の身体が宙に浮くと壁に叩きつけられた。

 

「りっくん!」

 

「「「「理巧!」」」」

 

「「理巧くん!」」

 

「「理巧さん!」」

 

「理巧様!」

 

叩きつけられた理巧は床に落ちそうなるが、斑鳩と葛城と日影が受け止めた。

 

「くっ、何が・・・・っ!」

 

理巧と飛鳥達と焔達が道元に目を向けると、道元に肩を貸した“異形の生物”が目に入った。

 

『まったく、目も当てられない姿じゃなイカ?』

 

「『異次元宇宙人 イカルス星人』だと・・・・!」

 

「異星人、ちゅうことかいな」

 

「っ! 皆さん! ソコから離れてください!」

 

『っ!』

 

斑鳩の声に、柳生が飛鳥に肩を貸して、焔に詠が、春花に雲雀と未来が肩を貸して理巧の側に退いた。

 

「イ、イカルス星人、もっと早く・・・・!」

 

『ふん。助けに来ただけありがたいと思って欲しい所じゃなイカ? さて、ここからどうするのカ?』

 

「・・・・・・・・ふふふ、そうだなーーーー」

 

ニヤリと笑みを浮かべた道元は、懐からクナイを取り出す。

 

「最終、手段だ!!」

 

ズリュッ!!

 

「なっ!?」

 

『えっ!?』

 

『・・・・・・・・へ?』

 

なんと、イカルス星人の腹部に、道元のクナイが突き刺さったーーーー。




次回。敗北を悟りヤケクソになった道元が、“暴君”を呼び寄せた!


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最終局面だぜ、暴君怪獣

ー伏井出ケイsideー

 

「フフフフフ。道元も遂に最終手段を使いますか。ならば、こちらも参戦させていただきましょう」

 

蛇女子学園を一望できる丘の上で、状況を静観していた伏井出ケイは身体からドス黒いオーラを放ち、ジードライザーを取り出すと、“ベムラーの『怪獣カプセル』を起動させた”。

 

「ベムラー!」

 

ギュワァァァァァ!!

 

ベムラーの鳴き声が響き、『ベムラーカプセル』を装填ナックルに入れた。

 

「アーストロン!」 

 

グワァァァァァァッ!!

 

次に、以前ジードとの戦闘で手に入れたアーストロンの生態エネルギーから作り出した『アーストロンカプセル』を起動させて、ナックルに装填し、ライザーの握り手のスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

ライザーで手に持ったナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが目映く発光して、音声が流れる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「ハァアアアアアア・・・・ハァアッ!!」

 

ライザーを胸元に持ってきて、起動スイッチを押した。

 

『ベムラー! アーストロン! ウルトラマンべリアル! バーニング・ベムストラ!!』

 

伏井出ケイの姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『ベムラー』と『アーストロン』の姿が現れると、2体は緑と黄色の粒子となってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルの姿が変貌した。

ベムラーの姿がより刺々しく凶暴となり、体色は青くなり、頭部には真っ赤になったアーストロンのように大きな角が伸び、大きな口から剥き出しなった牙や両手両足の爪も血のように真っ赤に染まり、胸部には血管のように広がるカラータイマーがある巨大な怪獣ーーーー。

 

『ギュグワァァァァァァァァァァァッッ!!!!』

 

その名を、『ベリアル融合獣 バーニング・ベムストラ』。

 

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・」

 

「な、何なの・・・・!?」

 

理巧が鋭い視線を向け、飛鳥が戸惑ったような声を上げ、他の皆も飛鳥と同じく愕然としているが、それも仕方ない。

なぜなら、道元が自分を助けてくれた『異次元宇宙人イカルス星人』に、クナイを突き刺したからだ。

 

『ど、道元、な、何を・・・・?!』

 

「フフフフ、なぁにそんなに脅える事はない。元々お前はこの時の為に生み出したようなもの、だからなぁっ!」

 

ザシュッ!

 

『イガァッ!!』

 

道元はクナイを引き向き、四つん這いになって痛みに苦しむイカルス星人の背中に、さらにクナイを突き刺した。

 

「・・・・」

 

「あっ!」

 

「ぅっ!」

 

「やりやがった!」

 

「ぁぁ!」

 

「雲雀、見るな!」

 

「道元!」

 

「なんて、事を!」

 

「えぐぃなぁ」

 

「ぅぇ」

 

「ソコまでやるとはね」

 

理巧は鋭い視線で見据え、飛鳥達と焔達も、道元の凶行におののいた。

 

「・・・・道元、どういうつもりだ?」

 

理巧が静かに声を発し、道元は口元を歪めて嗤った。

 

「くくくく。元々コイツは、こうするつもりだったからなっ!!」

 

『グハァッ!!!』

 

イカルス星人に突き刺したクナイを乱暴に引き抜くと、イカルス星人の身体が崩れ落ち、砕けた水晶とカプセルだけが残った。

 

「っ、『コピークリスタル』に『怪獣カプセル』? あのイカルス星人も『コピークリスタル』で生まれたのか?」

 

「そうだ! このイカルス星人に使っていた『コピークリスタル』は特別製でな! お陰でコイツ自身は自分をイカルス星人であると思い込み、他の異星人達との交渉役や『ドウローダー』といった私専用の兵器を造らせたのだ! だが、ことこの状況になってはなぁ!!」

 

道元は懐から、『コピークリスタル』を取り出した。だがそのクリスタルは、焔達が使っていた物よりも、大きなサイズとなっており、背中の窪みも大きく、その中に

 

『殺し屋超獣バラバ』。

 

『大蟹超獣キングクラブ』。

 

『液汁超獣ハンザギラン』。

 

『宇宙大怪獣ベムスター』。

 

『竜巻怪獣シーゴラス』。

 

そして『どくろ怪獣レッドキング』の『怪獣カプセル』が並んで装填され、そして『異次元宇宙人イカルス星人』のカプセルも装填された。

 

「(バラバ、キングクラブ、ハンザギラン、ベムスター、シーゴラス、レッドキング、そしてイカルス星人・・・・)まさか、この怪獣達は!?」

 

「もう何がどうなろうが知った事かっ! 貴様ら全員、この場で葬ってくれる! さぁ現れろ!『暴君怪獣タイラント』!!」

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

「っ! こ、これは!」

 

ユートムから送られてくる映像を見ていた霧夜先生達も、道元の突然の凶行に目を見開き、道元が『コピークリスタル』を取り出すのを見た。

 

≪この怪獣達やイカルス星人の組み合わせ・・・・やべぇっ!≫

 

『理巧っ!!』

 

ゼロは最悪の可能性を推察し、ペガは転送エレベーターを使って理巧達の元へ向かった。

 

 

ー理巧sideー

 

「皆、離脱するんだ!!」

 

理巧の一声に、全員が動こうとした瞬間、なんと道元が持っていた『コピークリスタル』が飴細工のようにグネグネとうねると、そのボディが一気に膨張した。

 

「ふはははははははははははは!! あぁあはははははははははははは!!!!」

 

高笑いする道元を飲み込みそしてーーーー。

 

「なぁっ!?」

 

「あっ!」

 

「っ!」

 

「ち、ちょっと!」

 

「マズイっ!」

 

なんと、焔と詠と日影と未来と春花も膨張した『コピークリスタル』に飲み込まれてしまった。

 

「焔ちゃん!」

 

「なっ!」

 

「おい!」

 

「くっ!」

 

「春花さん!」

 

「しまった!」

 

理巧達が内部に取り込まれた焔達を助けに行こうとするが、膨張していく『コピークリスタル』が段々怪獣の形に変貌していき、内部に潜入できず、徐々に壁と怪獣の肉体に挟まれそうになる。

 

『理巧、皆っ! こっち!』

 

「ペガ!」

 

ペガが転送エレベーターで現れ、6人はすぐに入り込み脱出した。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生と鈴音と大道寺も、怪獣の肉体が屋根を突き破りそうになり、咄嗟に離脱して蛇女の屋外訓練場に着地した。すでに他の蛇女の生徒と教官達は理巧が制圧し、気絶したまま屋外訓練場に縛り上げられていた。

そして天守閣を見ると、異形な怪獣が城を破壊して現れた。

 

シーゴラスの頭。イカルス星人の耳。ベムスターの胴体。バラバの両腕。レッドキングの両足。ハンザギランの背中。キングクラブの尻尾。それらのパーツが備えた合体怪獣ーーーー『暴君怪獣タイラント』。

 

『ヒャアアアアアアアっ!!!』

 

「(デュォン!)やはりタイラントかっ! あの野郎トンでもねぇ怪獣を作り出しやがって!」

 

「(これがウルトラマンゼロと入れ替わった先生?)・・・・ウルトラマンゼロ、タイラントとは一体何だ?」

 

「歴代ウルトラマン達に倒された怪獣達や宇宙人の怨念が合体して生まれた合体怪獣だ。これまで蛇女の忍達が呼び出した『コピークリスタル』の怪獣達は、コイツの素材となる怪獣達だったんだ!」

 

「道元が特殊な『コピークリスタル』を使って、誕生させたって事だね?」

 

霧夜先生の近くに転送エレベーターが現れ、脱出した理巧達が出てきた。

 

「お前ら、無事だったか!」

 

「霧夜先生!」

 

「ワリぃが今はゼロだ」

 

「じゃゼロさん! 焔ちゃん達があの怪獣の中に取り込まれちゃったんです!」

 

「っ! 何ですって!?」

 

飛鳥の言葉に鈴音が反応し、斑鳩と雲雀が飛鳥に続いた。

 

「以前、わたくしのお兄様が『エースキラー』と言う怪獣のカプセルの入った『コピークリスタル』を持ったまま、怪獣に取り込まれた事がありましたわ」

 

「道元って人も、あの怪獣さんに取り込まれちゃって、蛇女の皆も巻き込まれちゃったの!」

 

「っ!!」

 

『ヒャアアアアア!!!』

 

鈴音は今まさに地面に足をついて、雄叫びを上げるタイラントを見上げた。

 

「あの野郎! 敗けそうだからヤケクソになってややこしい事をしやがって!!」

 

「悪あがきをしてくれる。理巧。斑鳩の兄の時のようにアクロスマッシャーで片付けてしまえ」

 

葛城と柳生が、蛇女の城を破壊しながら暴れるタイラントを見て悪態を吐き、柳生の言葉に頷いた理巧がカプセルホルダーから『ヒカリカプセル』を取り出し、起動させようとした。

 

「融合!」

 

カチッ・・・・。

 

「・・・・えっ?」

 

『どうしたの理巧?』

 

「いや・・・・融合!」

 

カチッカチッカチッ・・・・。

 

理巧が再びカプセルを起動させようとスイッチをあげるが、『ヒカリカプセル』が起動しなかった。

 

「どうしたのりっくん?」

 

「・・・・『ウルトラカプセル』が、起動しない?」

 

『えええぇっ!!?』

 

理巧の言葉に、ペガだけでなく、飛鳥達も驚き、ゼロ(&霧夜先生)や大道寺と鈴音も目を見開く。

理巧は他のカプセルを起動させようとするが、『ベリアルカプセル』を除いた『カプセル』が全て起動できなくなっていた。

 

「レム。何が起こっているんだ?」

 

『スキャンします』

 

ユートムからレーザースキャナーが照射され、他のカプセルをスキャンした。

 

『スキャン完了。『ベリアルカプセル』を除いたウルトラカプセルは、“現在エネルギーが減少し、変身不能状態となっています”』

 

「っ、あの時か・・・・」

 

道元の忍結界の中で駆けつけたカプセルのエネルギーを受けた事を思い出した。

 

「レム! もしかして、りっくんはジードに変身できないの!?」

 

『現在カプセルはエネルギー回復の為に機能停止状態となっています。変身可能になるまで、後8分34秒の時間が必要と報告します』

 

「つまり、それまで変身できないって訳か・・・・」

 

たった8分。

だが、この状況ではまるで何時間にも感じるような絶望感が一同を包むが、さらに厄介な状況が現れた。

 

『ギュグワァァァァァァァァァァァァァ!!』

 

タイラントとは反対方向から、ベムラーによく似た怪獣が現れた。

 

「(あの怪獣のシルエット。まさか、あの時俺を攻撃した奴かっ!?)」

 

「今度はなんだよっ!?」

 

『スキャン完了。新たに出現した怪獣は、『宇宙怪獣ベムラー』と『凶暴怪獣アーストロン』の融合獣です』

 

ゼロは前回の戦闘で自分に不意討ちをかけた怪獣であると判断し、葛城が毒づくのをレムは淡々と説明する。

 

「(っ! ベリアル融合獣? 道元かイカルス星人がベリアルの協力者ならば、今までの融合獣は奴らの内どちらかが変身していたと思っていたが、あの二人はタイラントに取り込まれている。では、あの融合獣に変身しているのは・・・・)」

 

「おい理巧!」

 

「っゼロ?」

 

「ボケッとしてる場合じゃねぇぞ! 怪獣達は俺が相手をする! 行くぞ霧夜!!」

 

≪ああ!≫

 

「シャアッ!」

 

ウルトラゼロアイNEOを取り出して装着し、ウルトラマンゼロへと変身した。

 

『ヒギャアアアアアア!』

 

『ギュグワァァァァァ!』

 

『へっ! 行くぜぇ!』

 

ゼロはゼロスラッガーを両手に持って、タイラントとバーニング・ベムストラと交戦を開始した。

 

 

ー理巧sideー

 

「りっくん、焔ちゃん達は大丈夫かな?」

 

「・・・・レム。焔さん達の生体反応をキャッチ出来るか、タイラントをスキャンしてみてくれ」

 

『了解』

 

ユートムはレーザースキャナーでゼロと戦うタイラントをスキャンする。

 

『生体反応を確認。6人の反応はタイラント頭頂部に確認しました』

 

「そうか。ありがとう」

 

そう返事をした理巧は軽く柔軟体操を始める。

 

「りっくん?」

 

「何をしているのですか?」

 

「・・・・雲雀ちゃん」

 

「なに?」

 

「焔さん達に、僕の意思を飛ばす事ができる?」

 

「・・・・やってみる!」

 

雲雀が印を結んで念じると、理巧が雲雀の肩に手を置き、目を閉じて意思を焔達に飛ばす。

 

「(焔さん! 詠さん! 日影さん! 未来ちゃん! 春花さん! お願い! 聞こえたら返事して!)」

 

≪・・・・く、苦しいわ・・・・!≫

 

≪なんや、これ・・・・!≫

 

≪ダメですわ・・・・!≫

 

≪た、助けて・・・・!≫

 

≪もう、終わりだ・・・・!≫

 

五人の苦悶の声が聞こえた。

 

「(何を弱気な事を言ってるんだよ? 蛇女子学園の悪忍が情けない)」

 

雲雀を通して、理巧が焔達に言う。

 

≪あ、暁月・・・・!≫

 

「(アンタら、いつ死んでも良いみたいな事ほざいていたけどさ。こんな終わり方で良いわけ?)」

 

≪だ、だけど・・・・!≫

 

≪どないせぇ言うんや・・・・≫

 

≪どうしようも、ないわ・・・・≫

 

「(散々道元に利用され、今度は怪獣の中で捕らわれ、アンタらの悪忍としての『矜持』は、こんな形で終わって良いはずが無いだろう)」

 

≪で、ですが、どうすれば・・・・≫

 

「(助けに行く)」

 

≪な、何だと・・・・?!≫

 

「(助けに行くって言ってるんだ)」

 

≪何故、私達を、助ける?≫

 

「(・・・・・・・・)」

 

理巧の脳裏に過るのは、自分が育ての親達の姿が浮かんだ。

ーーーーあの人達に誇って貰える『人間』になる。それが、暁月理巧の戦う理由。

 

「(アンタらを見捨ててしまったら僕は『人間』じゃなくなるからだ)」

 

≪それは・・・・?≫

 

「(足掻けよ悪忍達。詠さん。アンタが死んだら貧民街の皆はどうなる?)」

 

≪!?≫

 

「(未来ちゃん。アンタは自分を虐めた奴らを見返す事もできずに終わって良いのか?)」

 

≪・・・・い、いやだ!≫

 

「(春花さん。アンタは道元に利用されたまま終わるのか?)」

 

≪それは、確かにイヤね≫

 

「(日影さん。アンタはまだ感情を知らないだけだ。僕がこれから教えてやるよ)」

 

≪・・・・ホンマに?≫

 

「(ああ。そして焔さん、足掻けよ。僕が必ず助ける。だから、簡単に諦めるな!)」

 

≪・・・・・・・・助けて、くれるのか?≫

 

「(ああ。覚悟決めて、命懸けでね!)」

 

≪・・・・・・・・たす、けて・・・・助けて! 暁月理巧!!≫

 

「・・・・・・・・委細承知!」

 

理巧はカッと目を開けると、大道寺に向き直る。

 

「大道寺先輩」

 

「ん?」

 

「こんな事態になった以上、もう学生同士のいさかいなんてレベルを越えてます。力を貸してくれますか?」

 

「フッ。この我を使うか?」

 

「それで彼女達を助けられるなら」

 

「良かろう。貴様の策に乗ってやる!」

 

「(コクン)斑鳩姉さん! 葛姐さん! 柳生さん! 雲雀ちゃん!」

 

「「はい!」」

 

「「応!」」

 

「四人は大道寺先輩と一緒に融合獣を足止めをしておいてくれ! 無理はしないでくれ。1分ほど時間を稼いでくれるだけで良いんだ!」

 

「わかりましたわ!」

 

「おうよ!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

斑鳩達は頷くと、大道寺先輩と共に、バーニング・ベムストラの方へ向かった。

 

「あーちゃんは此処で他の悪忍達を守って「私も行く! 」 え・・・・?」

 

「焔ちゃん達を助けに行くんでしょ?! だったら私も行く!」

 

「(これは説得するよりも連れていった方が良いか)・・・・分かった。でも、自分の身は最低限守ってくれ」

 

「うん!」

 

「それで、貴女はどうする? 鈴音先生」

 

「っ・・・・」

 

鈴音は理巧の視線に目を伏せた。

 

「鈴音先生! 焔ちゃん達が・・・・!」

 

「良いあーちゃん。話している時間も惜しい」

 

「でもりっくん!」

 

「今大事なのは、一刻も早く焔さん達を救出する事だ。違うか?」

 

「それは、そうだけど・・・・」

 

「自分の生徒達を助けようと考えられない教師に、無駄な時間を割くつもりはない。行くぞ!」

 

「あぁっ! りっくん!」

 

そう言って、理巧はタイラントに向かって跳び、飛鳥も後を追った。

 

 

ー鈴音sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

鈴音は跳んでいった理巧達の背中を見る。

裏切り者である自分が、今さら善忍と共に戦うなんてできない。だが、焔達の事も見過ごせない。鈴音は、ジレンマに陥った。

 

 

ー理巧sideー

 

理巧はそれぞれの『秘伝忍法』でバーニング・ベムストラを抑えている斑鳩達を見ると、ゼロに向かって叫ぶ。

 

「ゼロ!! 僕が言うタイラントの部位にツインソードでおもいっきり斬りつけてくれ!!」

 

『なに?!』

 

≪何をするつもりだ理巧?≫

 

「説明している暇は無いんだ! とりあえず斬りつけたらタイラントを押さえつけてくれ! 焔さん達を助けるっ!!」

 

≪何だと?!≫

 

「おじさん! ゼロ! 頼むよ!!」

 

『・・・・へっ! やって見せろよ!』

 

≪ゼロ!≫

 

『生徒達が根性見せようとしてんだ! だったら俺達は、信じてやろうぜ!』

 

≪・・・・分かった≫

 

「レム!」

 

《焔達の反応を検知。タイラントの右首筋46度》

 

「分かった! ゼロ! 右の首筋46度だ!」

 

『ぃ良し! フッ! セェェェヤァッ!!』

 

ザシュッ!

 

『ヒギャアアアアアアッッ!』

 

タイラントの攻撃を回避したゼロは、ツインソードで右の首筋を力一杯斬りつけると、傷口が出来上がった。

 

『ハァッ!!』

 

『ヒャアアアアア!』

 

ゼロはタイラントの両腕を捕まえ、タイラントを押さえた。

理巧は飛鳥を連れてタイラントの身体を跳び登り、傷口の近くに到着すると、懐から縄を取り出し、自分の腰に巻き付け、長い余りを飛鳥に渡す。

 

「あーちゃん。レムが引き上げろと合図を出したら、おもいっきり引っ張ってくれ」

 

「りっくんは?」

 

「・・・・こうするのさ!!」

 

「えぇっ!?」

 

なんと、理巧はタイラントの傷口から体内に飛び込んでいった。

 

 

 

ー焔sideー

 

「ぐぅぅぅっ!!」

 

「ぁぁぁぁ!」

 

「うぅ・・・・!」

 

「~~~!」

 

「ぅあ・・・・」

 

そして焔達は、流動するタイラントの体内にて苦悶の声をあげていた。

5人は離れないように手を取り合って抵抗しようとするが、『コピークリスタル』に中に流れる7体の怪獣達の『負のエネルギー』の奔流に飲み込まれ、段々と深い沼に沈んでいくような流れに自分達は抜け出せないんだと思ってしまっていた。

 

「(これで、終わりなのか・・・・?)」

 

焔はこれまでの自分の人生を振り返ってみると、利用される人生だったと思う。初恋の人に利用され、道元に利用され、最後は怪獣に取り込まれて終わり・・・・。

 

「(本当に、終わりなのか・・・・。イヤだ・・・・!

誰か・・・・誰か助けて!!)」

 

ーーーーガシッ!

 

「(っ!!)」

 

救いを求めて手を伸ばした焔の手を、誰かが掴んだ。

焔は手を掴まれた感触に上を向くと・・・・。

 

「・・・・・・・・」

 

「あ、暁月・・・・!」

 

強い意志を持った瞳をした理巧だった。

その時、焔の胸元に『小さな光』が出ていたーーーー。




次回、光刃が出てきます!


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飛ばせ光刃 トライスラッガー

ー理巧sideー

 

「(・・・・見つけた!)」

 

タイラントの体内に潜り込んだ理巧は、今にも奥深くに堕ちていきそうな焔を見つけると、その手を掴み、掴んだ手の逆の手に、詠や日影、未来と春花がいたのを確認した。後、未来の足首を掴んでいる“ゴミ”がいたが。

 

「(レム。あーちゃんに合図)」

 

《了解》

 

装填ナックルにトンツーでレムに指示を出した。

 

 

ー大道寺sideー

 

斑鳩達は必死に足止めをするが、まるで相手にされず、バーニング・ベムストラは口から渦を巻くように回転する青い光線を口から『ペイルサイクロン』を放った。

 

ガリガリガリガリガリガリ!!

 

光線が大地を抉るが、全員雲雀の忍兎に乗ってギリギリ回避し、バーニング・ベムストラの頭上を跳んでいた。

 

「し、死ぬかと思ったぜ!」

 

「実際、死にそうだったがな」

 

「1分でも良いから時間を稼いでくれと言われましたが、このままでは・・・・!」

 

「容易く弱音を吐くな後輩達!」

 

「「「「大道寺先輩!?」」」」

 

いつの間にか忍兎の頭の上に立っていた大道寺に、斑鳩達は驚くが、大道寺はそれを気にせず、忍兎から降りるとチャクラを全力で込め螺旋回転した蹴りを繰り出すーーーー。

 

「『秘伝忍法・天地鳴動螺旋脚』!!!!」

 

ドゴォォォォンッ!!

 

『ギュワアアアアアアアアアッ!!』

 

全身全霊渾身の一撃をバーニング・ベムストラに叩き込むと、流石に脳震盪でも起こしたのか、その巨体をふらつかせる。

 

「今だ!!」

 

「「『秘伝忍法!!』」」

 

「「『合体秘伝忍法』!!」」

 

斑鳩と葛城が鳳凰と龍の一撃を、柳生と雲雀は烏賊と兎の合体技を、それこそまさに全力全開で、ふらつくバーニング・ベムストラにぶつけた。

 

ズシャァアアアアアアアアアアアンン!!

 

「よし! よくやったぞ!」

 

「「「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」」」」

 

大道寺も斑鳩達も、力を大半にまで注ぎ込んだ攻撃で肩で息をするほどに消耗していた。

バーニング・ベムストラが暫くは起き上がれないようだった。

 

《全員、聞こえますか?》

 

「レム?」

 

大道寺を除いた一同の通信インカムに、レムからの交信が届いた。

 

《現在、理巧が蛇女子の忍5人と他1名を救助しているのですが、飛鳥1人では引き上げられないので、応援を要請します》

 

「後輩達、融合獣は我が引き受ける! 主らは蛇女の者達を救いに行け!」

 

「大道寺先輩!」

 

「早く行け! あの者達を助けたいと望むならば!」

 

「「「「(・・・・コクン!)」」」」

 

大道寺の言葉に頷いた斑鳩達は、ゼロが押さえつけているタイラントに向かって、忍兎を走らせた。

 

「さて、と」

 

『グルルルルルル・・・・!』

 

大道寺が振り向くと、バーニング・ベムストラが目を覚まし、唸り声を上げながら起き上がってきた。

 

「後輩達にああ言ったのでな、相手をしてもらうぞ!」

 

その時、大道寺の黒い長髪から、金色の髪が見えていた。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「お、重い~~!!」

 

『飛鳥、頑張って!!』

 

レムから合図を受けた飛鳥は、理巧達を引き上げようとするが、6人半の人数分の重量(未来は体型が小柄だから半分扱い)と首を振るタイラントの動きに邪魔され引き上げられずにいた。ペガも一緒に引っ張っているが、それでも引き上げられず、逆にタイラントの体内に引き込まれそうになっていた。

 

「「「「飛鳥(ちゃん/さん)!!」」」」

 

そこに斑鳩達が駆けつけ、それぞれの召喚獣達が、タイラントの首を固定させ、斑鳩達が飛鳥とペガと共に縄を握った。

 

「一気に引っ張りましょう!」

 

「気合い入れろよお前ら!」

 

「言われずとも!」

 

「絶対に助けよう!」

 

「皆・・・・うん!」

 

『それでは! 皆声を合わせて、せ~の!!』

 

『よいしょー!! よいしょー!! よいしょー!!』

 

全員が呼吸を合わせて縄を引いた。

 

 

 

ーゼロsideー

 

『ヒャァアアアアア!!』

 

ピコン! ピコン! ピコン!・・・・

 

『この! 大人しくしてやがれ!!』

 

ゼロは暴れるタイラントの両手を押さえて動きを止めるが、カラータイマーが点滅を始め、徐々に力が抜けていった。

 

『くそっ! 後少し! 後少しだ!』

 

『「このままでは!《力を貸すわ。先生》・・・・っ! あれは!」』

 

霧夜先生に呼び掛ける声と共に、教え子達の元へ向かう影があった。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「あ!」

 

理巧達を引き上げようとする飛鳥達だが、さらに引き込れる力が強くなり、タイラントの体内に呑まれようとしたその瞬間ーーーー。

 

ガシッ!!

 

「っ!」

 

誰かが縄を掴んだのを感じた飛鳥達が後ろを振り向くと、ソコにはーーーー。

 

「す、鈴音先生!?」

 

凜こと、鈴音先生が縄を掴んでいた。

 

「・・・・今さら、善忍と仲良くするつもりはないわ。でも、あの子達は私の生徒達。先生として、あの子達を助ける事には協力するわ!」

 

「はい!」

 

『それではもう一度! せ~の!!』

 

『よいしょー!! よいしょー!! よいしょー!!』

 

ペガの号令で、6人は呼吸を合わせて縄を引っ張ると、タイラントの傷口から、理巧の背中が出てきた。

 

「りっくん!!」

 

「プハッ! 皆!! ラストスパートだっ!!」

 

『せーの!! よいしょーーーー!!!!』

 

理巧の声でさらに力を入れて引っ張ると、焔達5人(+ゴミ)が勢い良く出てきて、理巧がゼロに剥けて声を発する。

 

「ゼロ!!」

 

 

 

ーゼロsideー

 

『よっしゃ!! 『エメリウムスラッシュ』!!』

 

『ヒャァアアアアアアアアアア!!!!』

 

ゼロは理巧達が焔達を救出し、召喚獣達が消えたその瞬間、『エメリウムスラッシュ』をタイラントの顔面に放ち、タイラントは後方に吹き飛んだ。

 

『「ゼロ!」』

 

『おっとぉ!!』

ゼロはタイラントから振り落とされた一同を空中でキャッチすると、優しく全員を地上に下ろしーーーー。

 

『ぐぅあっ!』

 

エネルギーが限界となり、変身が解除され、霧夜先生に戻った。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「おじさん・・・・!」

 

「くっ、すまん、ここまでのようだ・・・・!」

 

ドゴォンッ!!

 

『っ!?』

 

すぐ近くに、何かが落下してきたようでそこに目を向けると、大道寺が倒れていたが、“髪の毛が金色になっていた”。

 

「だ、大道寺先輩!?」

 

「金髪になった!?」

 

「いや、今はそれどころではない」

 

驚く一同に大道寺が親指で差すと、バーニング・ベムストラが、ヨロヨロと起き上がろうとするタイラントから“灰色のエネルギーを吸収していた”。

 

「あれって、何をしているの?」

 

「分からんが、今にも奴らは動きだすぞ」

 

「・・・・レム。カプセルの回復率は?」

 

《後2分と52秒です》

 

差し引き3分。しかも一同の後ろには気を失っている蛇女子の生徒と教官達がいるので逃げ回れない。

しかもーーーー。

 

「ぁ・・・・!」

 

「くっ・・・・!」

 

「身体が、思うように・・・・!」

 

「動けない・・・・!」

 

「ど、どうして?」

 

「飛鳥は『超秘伝忍法書』の力を使った反動だろう。他の者達は『秘伝忍法』の乱発で、もう力が残っておらん(かく言う我も、今の状態では少し厳しいか・・・・!)」

 

飛鳥達もそうだが、焔達もかなり消耗しており、霧夜先生もゼロも戦うエネルギーがほとんど無い。大道寺も直ぐには戦えない。マトモに戦えるのは余力の残っている理巧と鈴音のみ。

ついでに未来の足を掴んでいた『ゴミ』こと道元は地面に降りる際に未来に蹴られて離れ、気を失っており問題外。

 

「・・・・やるしか、ないか」

 

理巧が2体の怪獣に向かって歩き出そうするのを焔が声をかける。

 

「暁月、お前、戦うのか?」

 

「それしかないでしょう。鈴音先生。みんなの事、頼みますよ」

 

「変身できないのに、戦うと言うの?」

 

「変身できなくても、できる事をやりますよ。今僕にできる事をね」

 

タイラントとバーニング・ベムストラに向かおうとする理巧の手を焔が握った。

 

「暁月・・・・」

 

「焔さん?」

 

「お前、何で戦うんだ、あんな怪物達と・・・・」

 

理巧から聞いたが、理巧はまだ正式に善忍と言う訳ではない。なのに、悪忍である自分達を助けたり、あんな怪獣達と戦おうとするのが、焔には分からなかった。

 

「・・・・ジーっとしてても、ドーにもならない」

 

「え?」

 

「まぁ僕の座右の銘みたいな物ですよ。ジーっと大人しくしてても、状況はドーにも変わらない。ならば、自分で行動する。これを曲げたくないから僕は戦うんだ」

 

「りっくん」

 

「暁月・・・・」

 

「ま、信じてみてくださいよ。ドーにかしてみるからさ」

 

「暁月、私はお前に助けられた。お前なら、信じて見ようと思う」

 

かつて初恋の人に裏切られた。それでどこか他人を信じられなくなった焔。

だが、目の前の少年なら信じられると心から思った。その時ーーーー。

 

コーーーーン・・・・!

 

焔の胸元に光が溢れた。

 

「ほ、焔!」

 

「焔さん、胸に光が!」

 

「えっ?」

 

「ほ、焔ちゃんまさか!?」

 

焔の胸元の光が焔から離れると、理巧の元に向かい、理巧はその光を手に取った。

 

シュワッ!

 

額に縦長の水晶、胸元にO字のカラータイマーを付けたウルトラマンオーブのような姿に、ウルトラマンセブンとウルトラマンゼロを合わせたような姿をした智勇双全のウルトラマン。

 

《『ウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガー』のウルトラカプセルを確認しました》

 

「『ウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガー』?」

 

「(デュォン!) 成る程、ソイツか・・・・」

 

霧夜先生と交代したゼロがそう言い、一同はゼロに向く。

 

「ゼロ、これは?」

 

「ソイツはお前と同じように、二人のウルトラマンの力を融合させる。『ウルトラマンオーブ』が、俺と親父の力を融合させた姿だ」

 

《スキャン完了。『ベリアルカプセル』とのフュージョンライズが可能です》

 

「オーブと親父と俺、そしてベリアルの力を融合させた。新たな力だ!」

 

「よし。ありがとう焔さん」

 

「・・・・さん付けは止めろ。呼び捨てでいい////」

 

『(あっ、あれは落ちたな・・・・)』

 

頬を赤く染める焔を見て、理巧を除いた一同は察したように半眼となった。

 

『ギュグワァァァァァッ!!』

 

『ヒャァアアアアアッ!!』

 

なんて少し和んでいる一同は、2体の怪獣の雄叫びで現実に戻る。

 

「さてそれじゃ、ジーっとしてても、ドーにもならない!!」

 

理巧が2体の怪獣を見据えて、『ジードライザー』を構えると、その手に持った『ウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガーカプセル』のスイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シュワッ!

 

カプセルから空色の光の線が幾つもの放たれ、『ウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガー』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

カプセルホルダーから『ウルトラマンベリアル』のカプセルを持って起動させると、『ウルトラマンベリアル』の姿が出現した。

 

ウエェェッ!

 

『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、空色と紫の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「飛ばすぜ、光刃!! ハァアアア・・・・っ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマンオーブ・エメリウムスラッガー! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! トライスラッガー!!]

 

エメリウムスラッガーとベリアルの姿が重なり合い、2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変えた。

 

『シュゥァッ!!』

 

青と赤の光の螺旋の中から、『ウルトラマンジード トライスラッガー』が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

大地に降り立ったその姿は、全身アーマー状だが、腕と足にはセブンやゼロのようなプロテクターを装備し、頭部や胸部は赤で、体は青を基調とした姿、頭部には三本のスラッガーを装備した姿。

 

光の刃の戦士・『ウルトラマンジード・トライスラッガー』。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「新しいジードの姿だっ!」

 

「ちょっと恐いけど、カッコいい!!」

 

「理巧とベリアル、ゼロとその父親の融合した姿か・・・・」

 

「さらにウルトラマンオーブの力が加わっている姿ですね」

 

「計5人分かよ、コイツは強力だぜっ!」

 

『理巧! 行っけーーーー!!』

 

「あ、アイツが、理巧が、ウルトラマンジードっ?」

 

「暁月さんが?!」

 

「うっそ~ん!」

 

「ホンマかいな・・・・」

 

「どうりで私達が怪獣を出すと、タイミング良くウルトラマンが現れると思ったら」

 

「これが、ウルトラマンジード」

 

「新たなる力か・・・・」

 

「理巧。頼んだぞ」

 

≪コイツは半端じゃねぇぞ!≫

 

一同は新たに現れたジードの姿を見て、勝利を確信した。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『ジュゥワッ!!』

 

『ヒャァアアアアアッ!!』

 

『ギュグワァァァァァッ!!』

 

構えるトライスラッガーのジードにタイラントとバーニング・ベムストラは襲いかかるが、ジードはタイラントの鎌の攻撃を回避すると、連続で拳をタイラントに叩き込んだ。

 

『シュワッ!』

 

『ヒャァアア!!』

 

『ギュワァッ!!』

 

拳による攻撃で倒れたタイラントと入れ替わるように、バーニング・ベムストラが赤く大きな角でジードに向けて振り下ろすが、ジードはその角を掴み、

 

『オオオオオオオオ!!』

 

『ギュグワアアアアアッ!!』

 

なんとバーニング・ベムストラの身体を持ち上げて投げ飛ばし、その巨体は土煙を上げて倒れる。

 

『ヒャァアアアアアッ!!』

 

『ギュグワァァァァッ!!』

 

タイラントは口からの火炎放射・『デスファイヤー』を放ち、起き上がったバーニング・ベムストラも『ペイルサイクロン』を放った。

 

『シュ! シャァッ!!』

 

ジードは、頭に装備した3本のスラッガーを射出させると、2本のスラッガーが火炎放射と光線の前で高速回転すると、まるで小さな盾のようになる。2体の怪獣の攻撃がスラッガーに当たると、『デスファイヤー』は塞がれるが、『ペイルサイクロン』はまるで反射されたように屈折し、残った一本のスラッガーに向かうとスラッガーが高速回転して反射し、『ペイルサイクロン』をバーニング・ベムストラに跳ね返った。

がーーーー。

 

『グワァァァァァッ!!』

 

バーニング・ベムストラが倒れると、ジードは二本のスラッガーを操作して、タイラントに切りつける。

 

『ヒャァアアアアアッ!!』

 

怯んだタイラントが火炎を止めると。

 

『ジードクロー!』

 

ジードはジードクローを片手に、三本のスラッガーをもう片方の手の指に挟めると、タイラントに切りつける。

『『スラッガーダンシング』!!』

 

踊るような動きでタイラントを切り裂くと、さらに攻め立てる。

 

『見よう見まね! 『魁』!!』

 

『ヒャァアアアアアッ!!』

 

指に挟めたスラッガーで突撃し、タイラントを吹っ飛ばすと、タイラントの背後に一瞬で回り、ジードクローでその背面を突き刺した。

 

『ヒャァアアアアアッ!!』

 

『見よう見まね、『ぶっさし』!』

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

『やった! 凄いパワーだ!』

 

「あのスラッガーの持ち方、焔ちゃんみたい!」

 

「ちょっと! それにあれって焔と日影の『秘伝忍法』じゃない!」

 

「理巧さん、いつの間に・・・・!」

 

「もしかして、焔ちゃん達と模擬戦している内に覚えちゃったのかしら?」

 

「あんにゃろ! アタイらとはのらりくらりと模擬戦拒否していたくせに! 何と言う浮気行為!!」

 

「浮気とは違うでしょう」

 

「暁月さん・・・・」

 

「理巧・・・・」

 

周りが騒ぐ中、焔と日影はジード<理巧>をに熱を帯びた視線で見上げる。

 

 

ー理巧sideー

 

『フッ!』

 

理巧は3本のスラッガーをタイラントに投擲すると、スラッガーは回転しながら、タイラントの周りを旋回して切りつける。

 

『『ファントムスラッガーダンシング』!』

 

そして右拳に赤黒い稲妻が迸り、スラッガーに向けて放った。

 

『ハァァァァ・・・・『リフレクトスラッガー』!!』

 

スラッガーに当たった光線は3本に拡散し1本はタイラントに、2本は他のスラッガーに当たり反射してタイラントの身体を貫いた。

 

『ビャァアアアアアアアアアアッ!!』

 

ドガァアアアアアアアアアアアアアンン!!

 

3本の光線に貫かれたタイラントはそのまま爆散した。

 

『ギュワァァァァァッ!!』

 

そこにバーニング・ベムストラも起き上がってきた。

 

ピコン! ピコン! ピコン!・・・・

 

ジードのカラータイマーが鳴り響く。

 

《理巧。全ての『ウルトラカプセル』のエネルギーが回復しました》

 

『「良し、一気に終わらせる! 燃やすぜ! 勇気!」』

 

[ウルトラマンジード! ソリッドバーニング!!]

 

ソリッドバーニングへとチェンジした。

 

『フンッ! 『ストライクブースト』ッッ!!』

 

『ギュワァァァァァッ!!』

 

ジードは右腕部アーマーを展開して、バーニング・ベムストラに近づくと、体制を低くして、拳を上げて『ストライクブースト』を放つと、バーニング・ベムストラの巨体が空に吹き飛ぶ。

 

『「見せるぜ、衝撃!!」』

 

[ウルトラマンジード! アクロスマッシャー!!]

 

バーニング・ベムストラを追って、アクロスマッシャーにチェンジすると。

 

『『スマッシュビームブレード! ジードクロウ!』』

 

ジードは2つの武器持って、高速で空中のバーニング・ベムストラを斬りつける。

 

『グゥウワアアアアアッ!!』

 

『『アトモスインパクト』!!』

 

『アトモスインパクト』でバーニング・ベムストラをさらに上空に吹き飛ばす。

 

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

 

[ウルトラマンジード プリミティブ!]

 

プリミティブにチェンジしたジードは地面に着地すると、赤黒いスパークを発生させて力を込める。

 

『フゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・!』

 

『ギュグワァァァァァッ!!』

 

バーニング・ベムストラが落下してくると、両腕を十字に組んで、赤黒い稲妻をスパークさせて放つ必殺の光波熱線。

 

『『レッキングバースト』ォォォォォォォッ!!』

 

『ギュグワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

最大までチャージされて放たれた光線を浴びたバーニング・ベムストラの身体を吹き飛ばし。

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

爆散し、夜空に大きな花火となった。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「やったぁ!!」

 

「凄い理巧くん!」

 

「当然だがな」

 

「派手に決めたな!」

 

「流石です」

 

「さらに強くなったな」

 

「うむ。見事なウルトラぶりだ!」

 

≪なんだよそのウルトラぶりって・・・・≫

 

半蔵学院側はジードの勝利を喜ぶ。

 

「あれが、ウルトラマンジード・・・・」

 

「それに変身する、暁月理巧さま」

 

「アタシ達、凄い奴を狙ってたのね・・・・」

 

「ホンマに、敵わんなぁ」

 

「そうね、本当に惚れ惚れしちゃうわ~♥️」

 

「・・・・ウルトラマンジード、暁月理巧、か」

 

蛇女子学園側も、ジードの勇姿をあげていた。

 

『・・・・シュウワッ!』

 

ジードはそのまま空高く飛んで行った。

 

「・・・・わざわざ飛んで行かなくても良いと思うけど」

 

「(デュォン!) まぁあれはウルトラマンのお約束みたいな物だな」

 

飛んで行ったジードを見上げて飛鳥が呟くと、霧夜先生と交代したゼロがそう言った。

すると、霧夜先生の懐から、バイブ音が聞こえてきた。

 

「おっと・・・・ん? 『ゼナ』か。こちらゼロだ。どうした?・・・・そうか、なるべく早く来てくれよ」

 

「どうしたんですかゼロさん?」

 

「ああ。宇宙人問題の専門組織が、ようやく重い腰をあげたんだよ」

 

ゼロは意味深な笑みを浮かべていた。




次回。第一章完結。


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第一章完結。新たな始まり

第1章完結。次回から第2章です!


ー理巧sideー

 

2体の怪獣と戦闘した場所から500メートル離れた所で変身を解除した理巧は、『ドウローダー』の両腕の爆発で道元の部屋から飛び出した『黒い塊』、いや『黒い金庫』を見つけた。

 

「・・・・これ、使えるな」

 

理巧は『黒い金庫』の中身を少し見て、それを転送エレベーターを使って秘密基地へと運んだ。

 

 

 

 

皆がいる筈の、もはや建物としての体裁を失った蛇女子学園に戻った理巧は、その場所で忙しなく動き回っている『黒服を着用した異星人の一団』と、その一人であろう渋い顔をした鉄面皮の地球人らしき男と何かを話している霧夜先生と、その話を聞いている飛鳥達と焔達を見つけた。

 

「みんな」

 

「あっ、りっくん!」

 

「その人達は?」

 

「『AIB』と呼ばれる、異星人達による警察組織みたいなモンだとよ。異星人と癒着していた道元を捕らえに来たみたいだぜ」

 

「霧夜先生によると、以前から道元にはその疑いがかけられていたそうなんですが、中々尻尾が掴めなかったそうですわ」

 

「それが今回の騒ぎで明らかになってな。その組織が動いたようだ」

 

「・・・・もっと早く動いて欲しい所だね」

 

全部終わったタイミングで来た組織に、理巧は冷めた目でそう呟くと。大道寺が口を開く。

 

「そう言うな。飛鳥達が蛇女に出陣したのと同時に、AIBが監視していた怪獣の卵が羽化し、その怪獣を補食しようと別の怪獣が現れてな。師とゼロが退治したのが、その事件の後始末に時間がかかってしまい、漸く来られたのだ」

 

「えっ? 飛鳥ちゃん達が蛇女に来るときに怪獣が現れたんですか?」

 

「うむ。その時、怪獣を羽化させようと成長促進剤や補食しようとする怪獣をおびき出していたのが、イカルス星人が金で雇ったチンピラ宇宙人だったのだ」

 

「なるほど。つまりあのゴミ<道元>が裏で糸を引いていたって訳ですね。それでヤツは?」

 

「先ほどAIBが護送していった。ほぼ意識が無い状態だったがな。しかし、『悪忍上層部に無断で『超秘伝忍法書』を強奪』。『善忍に対しての不可侵条約の違反』。『異星人と結託しての怪獣騒動』。これらの行為による責任を取らされ、しばらくはショバには出てこれないだろう」

 

「そうですか・・・・・・・・ん!?」

 

大道寺の話を聞いていた理巧は、突然バッ!と振り向くと、ソコにはAIBの職員らしき異星人達が蛇女子の生徒達や教官達の手当てをしていた。

 

「りっくんどうしたの?」

 

「いや、今覚えのある気配を4つほど感じたんだけど・・・・気のせいかな?」

 

「戦いの後の疲労で神経が過敏になっているのだろう。気にする事はない」

 

「そうです、ね。あ、そう言えば大道寺先輩。地毛は金髪だったんですね?」

 

「む。まぁな・・・・」

 

ゴワゴワした黒髪ではなく、サラサラとした金髪となった大道寺に見る理巧達だが、大道寺はチラッと理巧が振り返った先に隠れている『四人の職員』を一瞥すると、四人は「ありがとう」と言っているようにジェスチャーをしていた。

 

「理巧。戻ったか」

 

渋い顔の職員と共に、霧夜先生が近づいてきた。

 

「おじさんその人は?」

 

「彼はAIB日本支部の幹部、『シャドー星人のゼナ』だ」

 

「え? シャドー星人? 地球人にしか見えないですよ?」

 

飛鳥がそう言うと、ゼナの顔が渋い顔から、デスマスクのような顔に変貌した。

 

「うぉ」

 

『うわぁっ!!?』

 

「これで分かって貰えたか?」

 

驚く理巧や飛鳥達を見てデスマスクは渋い顔に戻ったゼナは、まったく口を動かしていないのに、声だけを発していた。

 

「・・・・それで、蛇女の皆はどうなるですか?」

 

「蛇女子学園の生徒達は利用されていただけだが、参考人としてしばらくはAIBで保護させて貰う」

 

「そんな待ってください!」

 

「春花さん達は何も悪くないよ!」

 

「確かに怪獣を呼び出したり、わたくし達善忍と戦いを起こしましたが!」

 

「それもこれも全部、あの道元ってオッサンの命令だったんだ!」

 

「情状酌量はあると思うが?」

 

飛鳥達が弁護するが、ゼナは淡々と話し出した。

 

「これでもかなり譲歩している。だが、この娘達が命令とは言え怪獣を召喚し、その時に出た損害を考えれば、この処分が妥当だ」

 

「でも・・・・!」

 

「良いんだ。飛鳥」

 

「焔ちゃん・・・・!」

 

「わたくし達がやった事を考えれば、投獄されないだけましですわ」

 

「ま。負けたんやから、こんくらいはしゃぁないな」

 

「他の皆の身の安全も保証してくれようだしね」

 

「このあたりが良い落とし所ね」

 

焔だけでなく、他の蛇女の皆も同意のようだ。

 

「・・・・りっくんは、どう思う?」

 

飛鳥がさっきから黙っている理巧に問うと、理巧は冷静に声を発した。

 

「確かに、命令とは言え焔達がやって来た事は無罪放免って訳にはいかないよ。それに、おじさんとゼロが何も言わないって事は、信頼できる組織って事だよね?」

 

「・・・・まぁな」

 

「でも・・・・」

 

そう言った理巧の眼差しは、道元に見せた冷酷な輝きを発しながらゼナを一瞥する。

 

「もしも、焔達に妙な事をやらかしたら、AIBだろうがなんだろうが、許しませんからご理解を」

 

「・・・・善処しよう。“ウルトラマンジード”」

 

ゼナも理巧の視線に動じず、理巧の事を“ウルトラマンジード”と呼称した。

 

「流石に知ってましたか」

 

「AIBを甘く見るな」

 

≪本当はここに到着した時に理巧がトライスラッガーに変身したのを見たからだけどな≫

 

「(それを言うなよゼロ)」

 

そしてゼナは焔達と鈴音を連れて行こうとする。

 

「凜!」

 

「・・・・少し、時間をちょうだい。これからの事を考えたいから」

 

「・・・・分かった」

 

「凜先輩。我との決着はいずれ」

 

「ええそうね。じゃ、さよなら先生」

 

鈴音は霧夜先生と大道寺に挨拶を交わしていると、焔達も飛鳥達に話をする。

 

「じゃぁな。飛鳥」

 

「うん! またね焔ちゃん!」

 

「詠さん。貴女の育った街の人達が、少しでも助けられるよう、わたくしから家の方に頼んでみます」

 

「・・・・信じてあげますわ。斑鳩さん」

 

「ちゃんとケリをつけてやるからな! いつでもかかってきな日影!」

 

「ほな、そん時に相手して貰うわ、葛城」

 

「いい! 今度はアタシを無視すんじゃないわよ柳生!」

 

「一応覚えておく未来」

 

「ちょっとお別れだね、春花さん」

 

「ウフフ、次に会った時は、私の物にしちゃうからね雲雀」

 

それぞれにライバルとなった相手と挨拶を交わした後、焔達が理巧に近づく。

 

「理巧。お前にも世話になったな」

 

「ま、こっちも良い経験になったよ」

 

「・・・・所で理巧。お前、あの半蔵学院の奴らの誰かと、恋仲になっている奴とか、好いてる奴とかいるのか?」

 

『っっ!!』

 

焔の一言に、他の蛇女選抜メンバーと飛鳥達もピクッと肩を揺らす。

 

「ん? 恋仲の人はいないな。好きって言うならLIKEの方だけど」

 

「「「「「(ガクッ)」」」」」

 

「「「「「(グッ!)」」」」」

 

飛鳥達は肩を落とし、焔達は小さく拳を握りお互いに目配せをすると、焔はさらに理巧にソッと近づき・・・・。

 

「そうか・・・・それじゃ、少し善忍共を出し抜いてやるか」

 

「は?・・・・ンムっ」

 

「ンン・・・・♥️」

 

「「「「「あーーーーーーーー!!!」」」」」

 

なんと焔が、理巧と唇を合わせ、キスをした。

飛鳥達が悲鳴を上げるのと同時に遠くから、「ウチの子に何してくれてンのよーーーー!!」と聞いた事のある声が聞こえたが、理巧は焔が唇を離した瞬間、詠が両手で理巧の頬を挟みーーーー。

 

「はんん♥️」

 

「(詠さん?)」

 

今度は詠が理巧の顔を自分に向けさせると、唇を合わせた。

また飛鳥達が悲鳴を上げ、「理巧くん! そんな口づけだなんて・・・・早すぎますよ!」と遠くから声が聞こえた。

 

コーーーーン・・・・!

 

詠は唇を離すと、詠の胸元からリトルスターの光が現れ、理巧の手に宿った。

 

「これは・・・・「理巧様♥️」 ん? 春花さング?」

 

次に理巧の背中に抱きついた春花が理巧の顔を自分に振り向かせるとーーーー。

 

「んん、レロ♥️」

 

春花はさらに舌を絡ませた。そして「良い度胸だな小娘共・・・・!」と、静かな怒りを含んだ声が遠くから聞こえた。

 

コーーーーン・・・・!

 

すると今度は春花の胸元からリトルスターの光が出てきて理巧の手に。

 

「は、春花姉様ズルい!」

 

「ほなワシも」

 

未来が理巧を春花から引き剥がすと、日影がその長い舌を理巧の唇に入れるようにキスはした。

 

「ズル・・・・っ! ん!? ズズッ! ふぇ、ひぅぁ♥️」

 

だが、理巧も反撃と日影の舌を吸い込むようにし、さらに甘噛みなどで日影の顔がトロンっとした。するとまたも遠くから、「流石は俺の子だ! 一気に五人もガールフレンドを作ったかっ!!」と声が聞こえた。

 

「何ディープキスなんてしてんのよ! だ、だったらアタシだって!!」

 

未来が日影から理巧を引き剥がし、自分の唇に理巧の唇を合わせた。

 

「んんん、ンチュ♥️」

 

コーーーーン・・・・!×2

 

そして日影と未来からもリトルスターの光が現れ、理巧の手に収まった。

 

「「「「「いつまでやってんのっ!!」」」」」

 

フリーズしていた飛鳥達が舌を絡めそうになっていた未来と理巧を引き剥がした。

 

「ほ、焔ちゃん! な、何してんのっ!?」

 

「フッ。これからは忍としてだけでなく、こっちの方でもライバルだな!」

 

飛鳥が驚愕した声で叫ぶと、焔達は理巧と口づけした唇にソッと触れると、飛鳥達に宣戦布告した。

 

「お前達半蔵学院がモタモタしていると、私達がソイツを、暁月理巧を貰うぜ!!」

 

そしてゼナに連れていかれた焔達の布告に、飛鳥達は小さく肩を揺らした。

 

「・・・・どうやら、新しい因縁が生まれたようだな」

 

≪“ギンガ達もそうだったが”、理巧も女難の運命を背負っているのかよ?≫

 

そして当の理巧はーーーー。

 

「フム。蛇女子学園は積極的なんだね」

 

『理巧。なんとも思わないの?』

 

存外冷静な理巧にペガが聞くと。

 

「んー? 良く育ての親の人達も、夜こういう風にキスしたり、その先をしていたからね。結構馴れた」

 

「(鷹丸。夜の情事を息子に知られてるぞ・・・・)」

 

霧夜先生は遠くで明後日の方向を向いている四人を一瞥した。

そして理巧は、詠。春花。日影。未来の四人から現れた四つの『ウルトラカプセル』に目を落とし、霧夜先生を通してゼロも視線を向ける。

 

ディヤッ!

 

シュァッ!

 

シャッ!

 

ヤー!

 

詠からは『超古代の勇者・ウルトラマンティガ』。

 

日影からは『闘志の戦士・ウルトラマンダイナ』。

 

未来からは『大海の光・ウルトラマンアグル』。

 

そして春花からは『ウルトラマンレオの弟・アストラ』の『ウルトラカプセル』を受け取った。

 

≪師匠の弟のアストラ。そして、『ルクス』と『ハヤト』と『傷無』の力を手にしたか・・・・≫

 

恩師の弟と、かつて『十勇士』として共に戦った三人の少年の顔を浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから何日か過ぎ、飛鳥が昇段試験を合格して、柳生と同じ段位となり、半蔵学院が『夏休み』を迎えようとしていた。

まだ霧夜先生が来ていない忍教室では、理巧と飛鳥の子供の頃の話で盛り上がっていた。

 

「アハハハハハハハ!! 飛鳥がカエル嫌いになった理由って!」

 

「子供の頃、理巧くんと遊んでいたら、小学校近くの小池に飛鳥さんが落ちて・・・・!」

 

「その飛鳥ちゃんの顔にカエルさんが引っ付いちゃって・・・・!」

 

「飛鳥が、その・・・・“お漏らしをしてしまったからか”・・・・プッ」

 

「うわーーーーーん!! だから言いたくなかったのに!!」

 

「その後、僕があーちゃんを背負って家まで送ったんだよね。まさかそれでカエルが苦手になっていたとは」

 

「だって! あの時目の前についた水かきと太ももが恐くて! それで・・・・/////」

 

と、そこでーーーー。

 

ボワァアアアン!

 

いつもの霧夜先生の煙玉が炸裂し、いつもの通り六人が噎せていると、霧夜先生が現れた。

 

「霧夜おじさん。焔達は?」

 

「・・・・AIBからの報告では、彼女達は昨日から姿を消したようだ」

 

「えぇっ!? 焔ちゃん達がっ?!」

 

「あぁ。蛇女子学園でウルトラマンベリアルと関わりがあったのは、どうやら道元1人でな。その道元も、ずっとAIBの息がかかった医療機関で治療を受けていたが突如行方を眩ませた」

 

「悪忍の上層部が回収したんだろうね」

 

「たぶんな。それで理巧。お前は道元が、『ベリアルの配下』だと思うか?」

 

「・・・・いや、奴は使い捨ての駒だったんでしょう。『ベリアルの配下』は別にいる」

 

「? 何故そう思う?」

 

「僕は融合獣は道元が変身していると思っていた。だが、道元がタイラントに取り込まれた後に融合獣が現れた。ベリアルが変身していたなら、ゼロが気づいたんじゃないかな?」

 

「(デュォンッ!)確かにな。だが、あの融合獣からは、ベリアルの気配が感じられなかったし、ベリアル本人が変身してたんなら、斑鳩達に簡単に足止めされる筈がない」

 

「これは道元に『コピークリスタル』や『怪獣カプセル』を渡し、さらに融合獣に変身していたのはベリアルでも道元でもなく、『第三者』がいるって事なんだ」

 

「じゃぁ・・・・!」

 

「うん。まだ終わっていないって事だ」

 

「うむ。斑鳩と飛鳥、柳生と雲雀は一時帰省するんだったな?」

 

「はい。改めて、お義父様やお兄様に、貧民街の皆さんの援助をお願いしたいので」

 

「私は、もう一度じっちゃんに鍛えて貰おうと」

 

「オレも雲雀も、一度帰省して修行してくる」

 

「頑張ります!」

 

「んじゃアタイは理巧と二人っきりでしっぽりと! 手取り足取り腰振り模擬戦と行こうかっ!!」

 

自主トレで残る葛城は理巧に飛び掛かるが、ヒラリもかわされ壁に激突した。

 

「悪いけど葛姐さん。僕は今日は予定が有るんで模擬戦はまた今度ね」

 

「(デュォンッ!)何かあるのか?」

 

「・・・・育ての親の人達と、久しぶりに夕食を、ね」

 

「ふっ。そうか。・・・・いずれにしても、ベリアルの脅威が抜けていない今、各々の能力アップをしっかりとしておけ!」

 

『はいっ!』

 

「(さて、鷹丸さん達との時間まで少し余裕があるな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー焔sideー

 

「さて、バイトでも探そうか・・・・」

 

焔達は現在。街から離れた郊外にある、天文台近くの森にある洞窟で生活していた。

悪忍の重鎮である道元に反旗を翻した焔は、組織にいる事ができず『抜忍』。つまり善忍からも悪忍からも狙われる立場となってしまった。最初は焔だけ抜忍となろうとしていたが、詠に日影、未来と春花も一緒に抜忍となり、襲撃者から身を隠すためにこの洞窟に来て、五人で生活していた。

しかし、悪忍として忍務をしていた時は依頼等の報酬で生活していたが、抜忍となれば依頼なんて来るはずがなく、自分達で生活しなければならなかった。

金銭的な管理と炊事は詠がしているが、「モヤシが至高ですわ!」と言って主食はモヤシと野草で生活する事になり、バイトで生計を成り立たせたくとも、未成年の焔達では割りの良いバイトも見つからず苦労していた。

 

「随分苦労しているようね」

 

そんな一同が住む洞窟に、客人が現れた。

 

『鈴音先生!?』

 

恩師である鈴音だ。鈴音もあの後悪忍の教官職に残り、現在は焔達の後任となる選抜メンバーを鍛えていたが、時おり、教え子である焔達の様子を見に来ていた。

 

「貴女達に伝えておく事ができたの」

 

「伝えておく事?」

 

「貴女達に悪忍上層部から、『暁月理巧を悪忍側に引き込め』と命令がくだったわ」

 

『えぇっ!?』

 

鈴音の言葉に焔達が驚愕の声をあげた。

 

「どういう事ですの先生。わたくし達に理巧さんを籠絡しろって事ですの?」

 

「仮つまんで言えば、ね」

 

「わしらは抜忍やろ?」

 

「“表向きは”、ね」

 

「表向き?」

 

「そう。現在暁月理巧は善忍側にいるが、今回の独断専行と蛇女子学園の生徒達と教官達との戦闘行為。さらに道元に全治10ヶ月の重症を負わせた事により、『半蔵学院の忍生徒として在席しているが、善忍としての適正に欠けると見なされ、善忍と認められない』、と善忍上層部は判断したの。悪忍上層部は蛇女を1人で制圧し、選抜メンバーである貴女達をも凌ぐ実力を持った忍が善忍側にいるのは、後に悪忍側にとっての脅威と考えた。だが今なら善忍ではない彼を悪忍に転向する事ができる。しかし、悪忍側から彼に接触すれば善忍側との不可侵条約に触れる」

 

「なるほどね。抜忍となった私達なら、暁月理巧様と接触しても問題は無いから、私達に命令が降りたのね?」

 

鈴音の話を春花が端的に言うと、鈴音は頷いた。

 

「お前達がこの忍務を引き受ければ、それなりの給金は支給せれるし、悪忍側からの刺客も収まる」

 

「なるほどなぁ。しかし、理巧さんを籠絡かぁ」

 

日影がチラッと周りを見ると、春花は嬉しそうに鼻歌を歌い、未来と詠も頬を染め、焔も若干顔を赤らめた。

 

「みんなやる気あるみたいやなぁ」

 

「そう言う日影さんも、満更でも無さそうですわよ」

 

「っ、そうか?////」

 

日影も両手を頬に当てると、体温が上がっていっていたのに気づいた。

 

「まぁ、奴には悪忍の素質があるとは思いますが、良く上層部がそんな命令を出しましたね?」

 

焔がそう言うと、鈴音が口を開いた。

 

「まぁ、上層部も今回のあらましを聞いて思い立ったからな。・・・・それで引き受けるか?」

 

鈴音の言葉に、焔達はお互いの顔を見合わせると、全員鈴音に向けて顔を向けーーーー。

 

 

 

 

ー鈴音sideー

 

鈴音は焔達の洞窟から離れると、天文台の近くに転送エレベーターでやって来た少年・暁月理巧と出会った。

鈴音も、理巧もお互い示し会わせたように出くわした。

 

「焔達には?」

 

「悪忍からの刺客は来ないと伝えておいた。これであの子達の身の安全は少し保証されたわ」

 

「それは上々。上手くいったみたいで何よりです。“道元もちゃんと約束を守ったようですね”」

 

「・・・・貴方が、“道元が隠していた自身の不正行為の証拠を渡してくれたお陰よ”」

 

そう。理巧はあの戦いの後、レムに鈴音を捜索してもらい鈴音と接触し、『黒い金庫』の中にあった道元の今まで上層部に隠れて行った不正行為の証拠を渡した。

『人身売買』。

『組織の金の横領』。

『上層部に無断で悪忍と関わりのある政治家との裏取引き』。

『犯罪宇宙人を使った違法兵器の製造』。

『宇宙ケシの実を使った薬物の売買』。

『宇宙植物ルグスの栽培』等々。

叩けば叩くほどの埃を鈴音に渡し、これらを使って鈴音は、悪忍用の医療機関で治療を受けている道元に、これらの証拠物を上層部に知られたくなければ、焔達の身の安全の保証と、『黒い金庫』に隠していた大金を焔達の生活費として使わせる事を条件とし、戦々恐々とした道元はこれを承諾。そして『暁月理巧を悪忍に引き込め』と言う極秘忍務を上層部に進言したのだ。

 

「良くこんな事を思い付いたものね」

 

「“理由作り”ですよ」

 

「“理由作り”? っ!」

 

理巧を見た鈴音は思わずゾッとした。その時の理巧の瞳に、冷酷な光が宿っていたからだ。

 

「僕にとって、鷹丸さん達に危害を加えると言った時点で、“道元を始末する理由”になります。ですが、道元がいないと“焔達が危険だ”。だから、道元が生きていると焔達が安全だから、道元を“始末できない理由”を作る為です。幸い僕は正式な善忍と言う訳じゃないですから、こういった“やり方”ができるんですよ」

 

善でも悪でもない自分の立ち位置に危機感を抱かず、逆に利用する強かさ、鈴音は理巧に『悪忍の素質』を見た。

 

「(確かに。この少年には悪忍の資質があるわね)・・・・暁月理巧」

 

「ん?」

 

「一応、生徒達の力になってくれた礼をするわ」

 

鈴音は理巧に向かって『カプセル』を投げ、理巧がそれを掴むと。

 

シュワッ!

 

『ウルトラマン80カプセル』が渡された。

 

「鈴音先生。これは?」

 

「数日前に私の身体から出てきた『ウルトラカプセル』よ。これで少し借りを返したわ」

 

そう言って、鈴音はその場から消えた。

 

「まだまだ、終わりそうもないな」

 

「お~い! 理巧ーーーー!」

 

自分を呼ぶ声に振り向いた理巧の目の前に、戦部鷹丸とハルカとナリカとスバルがやって来て、理巧は飛鳥達も焔達も見た事もない屈託の笑みを浮かべる。

 

「(そうだ。この人達との日々を汚そうとする者がいるなら、僕は善だろうが悪だろうが利用してやる。例えそれが、『遺伝子上の父親』と戦う事になってもな!)」

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「さぁ、序章<プロローグ>はここまで、本番と参りましょうか!」

 

伏井出ケイはチェス盤の上に置かれた、『タイラントカプセル』等の『怪獣カプセル』を見て、不気味な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

ー第1章 新たな光の誕生・完ー




第1章終了。これはまだまだ、理巧と飛鳥達と焔達、そして霧夜先生とゼロの、ベリアルとの戦いのスタートライン前だったんです。


ー次回予告ー

夏休みの間に久しぶりに全員揃った僕達は、伏井出ケイと言う小説家の講演会の警備と言う忍務を受けた。だが何故だ? 伏井出ケイを見ると身体が震える。
そして伏井出ケイが『カプセル』を見せた時、それは僕の『逃れられない宿命』と『拭えない過去の影』が、ゼロの『ベリアルとの長き因縁』が浮上した。
おじさん! ゼロ! これは罠だっ!

次回、閃乱ジード。

【第2章・宿命の始まり サクリファイス】

滾るぜ! 闘魂!


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幕間・焔紅蓮隊

第2章開幕の前に、ちょっとした幕間です。


ー焔sideー

 

世間の学生が『夏休み』を迎え始めた頃。

元蛇女子学園の悪忍で、現在は抜忍として活動している焔、詠、日影、未来、春花の五人は『焔紅蓮隊』を名乗り、洞窟でのサバイバル生活をしていた。

以前は蛇女子学園の選抜メンバーとして活躍していた彼女達は、忍務で支給される金銭(1人三十万円)で生活していたが、蛇女のオーナー・道元の裏切り行為により、焔が道元に離反し、蛇女にいられなくなったので抜忍となろうとした。そんな焔に仲間達も一緒に付いてきて現在に至る。

そんな彼女達が、食料として野草を探している時ーーーー。

 

「あ、天文台だ」

 

未来が開けた場所にある潰れた天文台を見つけ、ちょっとした興味で見に来た。

焔達が生活する洞窟からおよそ数百メートル離れた場所にあった。

 

「ちょっと遠くに来ちゃったわね」

 

「ですが、こんな所に天文台があったなんて知りませんでしたわ・・・・」

 

「ま、ワシらが洞窟にこもったのは夜頃やったし、ワシらがバイトに行く方向とは逆やったからな」

 

「おい。そろそろ戻るぞ・・・・っ!!」

 

焔がそう言った瞬間足元が光りだし、五人は即座にその場から退くと、地面からエレベーターのような箱が現れ、五人はいつでも武器を構えられるように身構え、エレベーターの扉が開くとーーーー。

 

「さぁて、復興は何処まで進んでいるかなぁっ、と・・・・」

 

見た事ありすぎる色鮮やかな緋色の髪の毛と、炎のように輝く緋色の瞳をした顔立ちの整った少年が出てきた。

 

「「「「「理巧(様/さん)っ!?」」」」」

 

「ん? あれ、蛇女の皆さん。奇遇だね」

 

「いやいやいやいや! 奇遇じゃないだろう!」

 

「り、りりりり理巧さん!? あなた今、どこから出てきたんですの?!」

 

「ん? あぁ、この天文台の地下って僕の秘密基地みたいな物でね。半蔵学院の皆の溜まり場にもなっているんだよ」

 

「「「「「はぁっ!!?」」」」」

 

理巧の言葉に、焔達は揃って首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃ改めて。ようこそ、僕達の秘密基地へ」

 

『あっ! 焔達だっ! ペガはペガッサ星人のペガ! 一度会った事あるよね?』

 

『はじめまして、焔。詠。日影。未来。春花。私はこの基地のメインコンピューター『レム』と言います』

 

理巧に連れられて入って来たのは、SF映画のような施設に、漫画やゲームや難しい書物が並んだ本棚。海洋類や動物のぬいぐるみ。トレーニング器具。そして畳やちゃぶ台。ソファーにテーブルが置かれた大広間だった。

 

「天文台の地下深くに、こんな秘密基地を隠していただなんて・・・・」

 

「理巧さん。あなたはもしかして、お金持ちだったりしますの?」

 

詠の瞳に物騒な光が宿る。どうやらお金持ち嫌いが反応してしまったようだ。

 

「そんなのじゃないよ。この基地の管理人とも言えるレムが、僕をマスターつまり所有者と認めちゃってね。ま、ここにはウルトラマンに関する情報や怪獣のデータがかなりの量で収められているし、菜園ルームやシミュレーションルームにトレーニングルームもある上にシャワー付きお風呂にトイレもあるし、テレビとかは空中ディスプレイ等々、かなり快適に過ごせる基地なんだよね」

 

「いや、確かに快適そうだけど・・・・」

 

「そんな所にワシらを連れてきて良かったんか?」

 

「問題無いよ。別に僕は善忍だとか悪忍だとか抜忍だとか関係無いしね。ま、ここは中立地帯な場所だと思ってくれ」

 

「ふぅ~んそう、善忍の子達は了承しているの?」

 

「いやまだだけど、まぁ焔達なら大丈夫だろう」

 

「大丈夫だろうって、そんないい加減「くぅぅ~っ」~~~~!/////」

 

焔が声を発しようとした瞬間、どこからか可愛らしい音が鳴ると焔は顔を恥ずかしさで赤らめ、自分のお腹を押さえると、他の皆からも空腹を訴える音が鳴り、日影を除いた三人もお腹を押さえた。

 

「・・・・ペガ。これから焔達と食事に行くけど、一緒に行くかい?」

 

『・・・・ペガは良いや。今日は基地でゲームやりたいし』

 

「分かった。レム。ペガのゲームの相手と、あと葛姐さんが来たら、所用で出掛けたって言っておいてくれ」

 

『了解しました』

 

ペガとレムに指示を飛ばす理巧。焔が代表で口を開く。

 

「い、良いのか? 私達あんまり金は無いぞ」

 

「構わないよ。この間バイキングの店の半額券が手に入ってね。葛姐さん以外のみんなは帰省しているし、有効期限が今日までだから丁度良いよ。“僕が奢るから”」

 

「「「「「っっ!!」」」」」

 

“奢る”、“バイキング”と聞けば、焼肉だけでなく寿司やデザートやらが食べ放題。蛇女を離れてから文化的食物をほとんど食べていない焔達に取ってそれはとても魅力的な話でありーーーー。

 

「「「「「ごちそうさまです!」」」」」

 

理巧の話に乗った。

 

 

 

 

都内にあるバイキング店。夏休みの昼時であるのもあって店内は若者や家族連れの客で賑わっていたが、ある一団のいる席に注目が集まっていた。

蛇女のと違った制服を着こんだ焔達。おそらく補習か部活帰りの学生とでも思われているが、それだけではない。山のように皿がテーブルの上に所狭しと置かれてているが、それだけでもない。

焔も詠も日影も春花も、とても美麗な容姿に加え、制服の上からでも分かる程の豊満なバストとグラビア顔負けのプロポーション。

焔と詠は男性受けの良さそうな容姿。

日影は少々危ない雰囲気が一部の男性に受け。

春花は一番豊満で、何処か嗜虐的な雰囲気がM系の男性にモテそうだ。

未来も容姿は良く、小柄でスレンダーな体型は世のロリコン達が狂喜乱舞するようである。

そんな一団の中心にいる理巧も、その派手な髪の色と瞳と整った顔立ちが女性の目を引く。

傍目から見ると、イケメン男子とその取り巻きかガールフレンドの女の子達にしか見えない。

焔達は女性陣から羨望の視線を、理巧は男性陣からは嫉妬の視線を受けていたが、焔達は久々の肉類やら魚介類やらを食い溜めするかのように口に運び、理巧は少々食べた後、焔達の食事を静かに眺めながらコーヒーを飲んでおり、そんな視線を気にしていなかった。

 

「皆良く食べるね」

 

「久々の文化的食物なんだっ!」

 

「ここで食べておかないと次いつ味わえるかっ!」

 

「あぁ、お肉やお魚がこんなに美味しいだなんて・・・・!」

 

「なんや、ジ~ンと来る感覚があるわ・・・・」

 

「日影さん、。それって、久しぶりの贅沢な食事に感動しているんじゃないの?」

 

「そうか、これが『感動』っちゅう感情か・・・・」

 

「それよりも皆さん! お肉やお魚ばかり食べ過ぎですわ! お野菜、特にモヤシを食べてください!」

 

焔と未来は持ってきた食材を口に運び。春花は食事に感動し。理巧に指摘された感情を自覚した日影。詠は山盛りのモヤシメインの野菜を皆に食べるように言った。

 

「・・・・デザートは何が良いですか?」

 

「チョコレートケーキ!」

 

「ショートケーキ!」

 

「チーズケーキを!」

 

「アイスを頼むわ」

 

「全種類を持ってきて下さいませ!」

 

とりあえず理巧は全種類のデザートを持ってくるのであった。

一同が店を出ると、店主らしき初老の男性が店の扉に、『派手ナ見タ目ノ男子高校生ト黒イ制服ノ女子高生達オ断リ』と出禁の張り紙が張られた。

 

 

 

ーペガsideー

 

『ペガ』

 

『ん、なにレム?』

 

『何故理巧と一緒に行かなかったのですか?』

 

基地内でゲームをしていたペガとレム。レムが1日の大半を理巧の影で一緒に行動しているペガが、今日は理巧に付いていかなかった事に疑問を抱き聞いてみると、ペガが声を発する。

 

『うん。きっと理巧、焔達と何か“話”があったんだと思う。ペガが一緒に行ったんじゃ少し話しづらいと思うんだ』

 

『それは、何故ですか?』

 

『あんまり、悪巧みしている姿を見せたくないからじゃないかな?』

 

『ペガは、それで良いのですか?』

 

『ペガは理巧を信じてる。理巧が悪巧みをする時は、きっと鷹丸さん達だけじゃない。ペガや飛鳥達、それにレムの事を思っての行動だと思うから』

 

『理解しました。では私も、理巧を信じましょう』

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「さて、お腹も膨れたようですし、話を始めようかな?」

 

バイキング店を出た理巧達は焔紅蓮隊のアジトの洞窟にやって来ると、理巧が話を始め、焔達は少々緊張した。

 

「実は君たちに、“協力関係”を結びたいんだ」

 

「「「「「協力関係?」」」」」

 

「そう、少しこちらが得た情報を話すね」

 

それから理巧は、自分の情報を焔達に話した。

道元に『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を渡し、焔紅蓮隊だけでなく、“蛇女を利用していた人物”がいたことを教えた。

 

「それってさ、そのーーーーアンタの父親のウルトラマンベリアルじゃないの?」

 

「確かにその可能性もあるけどね、ウルトラマンベリアルと因縁深いウルトラマンゼロ曰くーーーー」

 

【道元は小物だ。あんな小物野郎なんかとベリアルが手を組むとは思えねぇ。恐らく『ベリアルの配下』か『協力者』が、ヤツに『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を渡したんだろ】

 

「つまり、その正体の分からない『誰かさん』が、私達を、蛇女を利用してくれた張本人って訳ね?」

 

「そうです」

 

「ですが、AIBが道元から聴衆しているのでは?」

 

「いや実は、“道元は『誰かさん』の記憶を失っているんだ"」

 

「っ、記憶を失ったってどういう事だ?」

 

「AIBの聴衆によると、目を覚ました道元は『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を誰かから貰ったか、その記憶が全て無くなっていたんだ。スマホの履歴も調べられたが、そのデータも消されていた」

 

「その『誰かさん』が消したのね。念の行った事だわ」

 

「それで、ワシらと協力したいっちゅうのは?」

 

「その『誰かさん』は恐らく僕がターゲットです。蛇女を使ってあんな手の込んだ事をやらかしたヤツが、いずれ僕の元に姿を現すでしょう」

 

「なんでそんな事が分かるのよ?」

 

「さもなきゃ、道元が僕を『交渉道具』として生かしておく必要性も、わざわざその『誰かさん』が道元に『怪獣カプセル』と『コピークリスタル』を渡す理由がない」

「そう、ですわね。道元の性格上、利用価値が有るからこそ、理巧さんを狙ったのですから」

 

「そう。そして、もしもそんな人物が現れた時、僕達に協力して欲しいんだよ。ソイツを・・・・」

 

ソコで理巧の目に冷酷な光が走ったのを、紅蓮隊全員が捉え、そしてーーーー。

 

「始末する為に」

 

ーーーーゾッ。

 

そう呟いた理巧を見た瞬間、焔達は身体が震えた。

理巧が善忍としての適正に欠けると善忍上層部に言われたと鈴音先生から聞いていたが、それを納得してしまう。

 

「始末と言っても命を奪う行為ではないさ。ただ悪さができないように捕縛し、AIBに引き渡す為だよ。まぁその際に協力して欲しいんだ」

 

「善忍上層部やAIB、雲雀達がいるでしょう?」

 

「今回の蛇女とのいさかいを見て分かった。善忍上層部は悪忍との不可侵条約を気にしてマトモに機能しなかったし、AIBも確固たる証拠が無いと動けない。杓子定規な組織は柔軟性に欠けるのが欠点だ。が、今は悪忍サイドではなく、善忍サイドでもない抜忍の焔達なら、組織のしがらみに囚われずに動くことができる」

 

「組織に囚われない野良犬の特権ってヤツね。でも、理巧様だってこれが知られたら不味いんじゃないの?」

 

「僕は正式な善忍ではないし、例え正式な善忍であっても単独で我を通すには、色々な手札が必要になる。その為に、焔達の協力が必要だ」

 

「・・・・私達のメリットは?」

 

「君たちを利用した道元をさらに利用していた黒幕に借りを返せる。だけじゃ無理があるよね」

 

「確かに借りを返せるが、それだけで危ない橋を渡る訳にはな」

 

「それじゃ、こちらからも“依頼料”を出すし、時おり今日みたいにご飯を奢るよ?」

 

ちなみにこの依頼料は道元の隠し財産である。すでに鈴音先生に渡しているが、実は鈴音先生に渡したのは7割(それでも0が7つ入る金額)で残りの3割(0が6つ付く金額)を隠し持っていた。これを知るのは理巧と、その金を隠しているレムだけである。

 

【『隠していて良いのでしょうか?』】

 

とレムが聞くと理巧は。

 

【所詮道元が非合法で稼いだ汚い金だ。前途有望な若者達の為に使われれば少しは綺麗になるだろう】

 

と言って焔達への食事代と依頼料として使用しているのだ。

焔達としても『暁月理巧を悪忍側に籠絡せよ』と秘密忍務を受けているので、理巧と接触する機会が手に入るのは願ってもない。

がーーーー。

 

「・・・・悪くないが、もう1つ」

 

「何かな?」

 

理巧が聞くと、焔の目に、いや、同じように立ち上がり忍転身した紅蓮隊の目に物騒な光が走る。

 

「私達と、手合わせ願おうか!」

 

忍転身した焔が片手の三本刀を理巧の眼前に突き立てるが、理巧は泰然とした態度で口を開く。

 

「手合わせすれば、こっちの話に乗るって事で良いのかな?」

 

「ああ! 私達蛇女を利用してくれたヤツを探し、捕縛もしくは始末の依頼、受けようじゃないか! 裏切るなよ?」

 

かつて『初恋の人』に裏切られた焔がそう言うと、理巧は口元をニッとにやつかせて言う。

 

「君たちが裏切らない限り、僕も君たちを裏切らないから、安心してくれ」

 

そう言って立ち上がった理巧は転送エレベーターをレムに出してもらうと、そのまま紅蓮隊と乗り込み、基地のトレーニングルームへと向かった。

手合わせの結果はーーーー理巧の勝利。

 

「皆さらに腕を上げたね。ちょっと本気になったよ」

 

「「「「「う、うぅっ・・・・」」」」」

 

「それじゃ、疲れが取れるマッサージをしようか」

 

「「「「「え?!」」」」」

 

それから、トレーニングルームに焔紅蓮隊の矯声が響いたのであったーーーー。




次回、第2章開幕。


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第2章 宿命の始まり サクリファイス
突然の忍務


第2章開幕!


ー???sideー

 

ソコは理巧達のいる宇宙とは違う時間軸にある平行世界の宇宙。

その星の海の世界で、一際強い輝きを放つ緑色の惑星があった。その惑星にある文明も、まるでエメラルドのような水晶の建物が並び、高度な文明を築いていた。

この星こそ、ウルトラマンゼロ。並びにウルトラマンベリアルの故郷であり、宇宙警備隊がある『M78星雲 光の国』だった。

『クライシス・インパクト』と言う最悪の敗北をした宇宙警備隊は、多くの戦士達がその時の傷の治療を受けていた。

 

『・・・・・・・・』

 

そんな中、1人のウルトラ戦士が空を見上げていた。

赤いマントを羽織り、赤い身体に銀のプロテクターを纏い、頭には刃のようなトサカを着けたウルトラマン。ゼロの父『ウルトラセブン』だ。

 

『セブン』

 

『ヒカリか?』

 

そんなセブンに話しかけたのは、宇宙科学技術局の『知性のウルトラマン ウルトラマンヒカリ』だった。

 

『セブン。ゼロの身を案じているのですか?』

 

『・・・・ゼロはもう一人前の戦士だ。だが、まだ傷が完全に癒えた訳ではない。『銀十字軍』の話では、あの負傷の影響で『ストロングコロナ』にも『ルナミラクル』にもなれんそうだ。それに、『ウルティメイトフォースゼロ』の仲間達も現在治療中だ』

 

ゼロが結成した宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』の仲間である。『炎の戦士 グレンファイヤー』。『鏡の騎士 ミラーナイト』。『鋼鉄の武人 ジャンボット』。『ジャンボットの弟 ジャンナイン』。彼らもウルトラ戦士達に協力して『ダークネスファイブ』と戦い、その時に負傷をしてしまい、『銀十字軍』で療養していた。

 

『はい。ですので、私はこれからゼロの力になってくれるだろう。“彼らの世界"に向かいます』

 

『ウム。頼んだぞヒカリ』

 

と、セブンとヒカリが話し合っていると、二人の背後から、“巨大な影"が現れ、二人に話しかけた。

 

『ーーーーーーーー』

 

『っ! 貴方は!?』

 

『珍しいな。お前が此処に来るとは?』

 

『ーーーーーーーー』

 

『何? お前もヒカリと同行したいだと? しかし・・・・』

 

『ーーーーーーーー』

 

『・・・・分かった。大隊長やゾフィー兄さんには私の方から伝えておく。彼を頼むぞ、ヒカリ』

 

『はい!』

 

ヒカリはそう返事をすると、ヒカリは『その人物』と共に、光の国を飛び立っていった。

 

『ゼロ。お前は今、何をしている?』

 

遠い遠い別の銀河に旅立った息子に、セブンはボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

伏井出ケイは赤い照明に照らされた洋室のような部屋にいた。虚空に浮かんだビジョンが浮かんでおり、ウルトラマンゼロとゼロと同化している霧夜先生が映されていた。

 

「遂に『オープニング』。ようやく『駒』の配置は整いました。が、予想外の『一手』が道を塞いでしまった。“ゲームにバグは付き物"。早く取り除けば、済む話です。全てを無に帰す虚空のカス・・・・ゼロ」

 

机に置かれたチェス盤の駒を動かしながら『何者』かと会話をしていた。

 

「面白くなってきましたね」

 

ゼロの姿を見据えながら、ニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「りっくん! 正直に言って!」

 

「何が?」

 

夏休みが始まって1週間。半蔵学院の忍教室。

それぞれの実家から戻ってきた飛鳥、斑鳩、雲雀、柳生。

自己鍛練や理巧との手合わせで鍛えていた葛城(飛鳥達が帰ってきてからは四人のおっぱいを揉みまくっていた)。

いつものように理巧の影にいるペガ。

ユートムでこちらを観察しているレム。

そして、いつもはまったく手を付けない忍の歴史書を読んでいる理巧に、飛鳥達が詰め寄っていた。

 

「私達が帰省中に、基地のトレーニングルームとシミュレーションルームを誰かが使った跡があるんだけど?!」

 

「僕が使ったからだよ。たまには鍛練しないとね」

 

「シミュレーションルームの使用履歴を調べると、“五人分"のデータが増えていたが?」

 

「誤作動じゃないの?」

 

「雲雀達のぬいぐるみさん。配置が少し変わっていたよ?」

 

「あぁ、基地を掃除していた時に、ちょっとぬいぐるみさん達に触ったからね」

 

「菜園ルームに何故か、モヤシが置かれていたのですが?」

 

「モヤシって美味しいから加えたんですよ」

 

「シャワールームに、アタイらとは違う色をした長い女の髪の毛があったんだけどよ? 緑色とか亜麻色とか」

 

「外を歩いているときに付着したんじゃないの?」

 

「・・・・りっくん、正直に言って。“焔ちゃん達の居場所知ってるでしょ"!!」

 

理巧と接点のある緑色と亜麻色の髪の毛の女性など、日影か春花くらいしかいない。理巧が秘密基地に焔達を迎えているのではと、五人全員の女の勘が働き、理巧に問い詰めていたが、理巧は知らぬ存ぜぬの態度を取っていた。

強行手段に出ようとする飛鳥達だがーーーー。

 

ボワァァァァァァァン。

 

もはやおなじみと言ってもいい霧夜先生の煙幕が教室に充満し、煙が晴れると霧夜先生がいた。

 

「みんな久しぶりだな。夏休み中に良く来てくれた」

 

「けほっ、けほっ、霧夜先生・・・・」

 

「早速だが、お前達に特別忍務を与える」

 

「特別忍務?」

 

「おいおい! まさか蛇女を操っていた『黒幕』が見つかったのか?! それとも、遂にウルトラマンベリアルの潜伏場所でも見つけたのかっ!?」

 

「いや、そんな重要な情報を学生のお前達に報せる訳ないだろう。明日お前達には、『ある小説家の講演会の警備』に当たってもらう」

 

葛城が嬉々として訊くが、霧夜先生が言った言葉で、ガクッと肩をおとした。

 

「何だよ、せっかくの夏休みでみんな揃ってやる忍務が、『小説家の講演会の警備』って、んな地味~な忍務なのかよ・・・・」

 

「葛城さん。これも立派な忍務ですよ」

 

「だが先生。わざわざ忍のオレ達が出払わなければならないのか?」

 

「・・・・確かに『小説家の講演会の警備』など、普通の警備会社の仕事だが、上層部からの命令だ。無下にはできん。俺も参加するよう言われているから、全員準備をしておけ」

 

霧夜先生もこの忍務に違和感を感じているが、それでも上層部からの命令なので仕方なく受け入れた。

 

「霧夜先生。その警備する小説家さんって誰なんですか?」

 

「あぁ、名前は・・・・『伏井出ケイ』と言う小説家だ」

 

「っっ!!!」

 

『伏井出ケイ』。その名を聞いた瞬間、さして興味ないと言わんばかりの態度だった理巧が、ガタッと動いた。

 

「理巧?」

 

「「「「「??」」」」」

 

理巧の突然の行動に、霧夜先生と飛鳥達も首を傾げた。

 

「伏井出、ケイ・・・・!」

 

「誰?」

 

「最近名が売れているSF小説家ですわ。わたくしも読んでいます」

 

斑鳩が『コズモクロニクル 伏井出ケイ』と記された小説を取り出した。

 

≪ん?!≫

 

その時、霧夜先生と同化しているゼロが、その小説の表紙に描かれている絵を見て、過去の戦いの記憶が過った。

 

≪(あれは俺と、『アークベリアル』!?)≫

 

そう、その表紙に描かれていたのは、別世界の宇宙で銀河帝国を築いたベリアルとの戦い。その時に得た『イージス』を纏った『ウルティメイトフォースゼロ』と、『超銀河大帝 アークベリアル』の戦いの様子だった。

 

≪霧夜! ちょっと交代だ!≫

 

「ん、どうしたゼ(デュォオオンッ!) 斑鳩! その小説を読ませてくれ!」

 

「ゼ、ゼロさん?」

 

「どうしたのゼロさん、そんなに慌てて?」

 

「その小説、少し気になる。読ませてくれないか」

 

「え、ええ。構いませんわ」

 

「ありがとよ。それじゃ明日に向けてみんな今日は解散だ!」

 

そう言うと、ゼロも煙玉を出して床に叩きつけ、そのまま煙に紛れて姿を消した。

 

「ど、どうしちまったんだゼロは?」

 

「わからんが、こっちもどうした理巧?」

 

「い、いや、何でも、ないよ・・・・!」

 

いつもの理巧らしくない。何やら怯えたような声に、飛鳥達は心配する。

 

「りっくん! そんなに震えているのに、何でもないなんてありえないよ!」

 

「そうだよ! どうしたの?」

 

「言わねぇんなら、アタイが無理矢理にでも聞いてやるぜ! とりあえずお前の素敵なお尻を思いっきり愛でーーーー」

 

ゴキンッ!×2

 

「お、おぉお・・・・!」

 

瞬時に理巧の背面に回り込んで、理巧の尻を揉みしだこうと手をワキワキと動かす葛城だが、その思惑を見抜いていた斑鳩と柳生が、すぐに葛城の背後に回ると、飛燕(納刀状態)と番傘を振り下ろして撃沈させた。

 

「理巧くん。何か不安な事があるなら言ってください。何でも1人でやろうとするのは、理巧くんの悪い所です」

 

「オレ達を仲間だと思っているなら相談しろ。力になる」

 

「・・・・みんな、ありがとう。でも、僕自身、何でこんなに怯えているのか、分からないんだ」

 

『えっ?』

「とりあえずはさ、明日に備えて、今日はもう休もう」

 

 

 

 

その晩。基地に集まった飛鳥達。飛鳥は洗濯物を畳み、ペガはその隣で造花の内職をし、雲雀と柳生は夕食を作り、斑鳩と葛城はシャワールームから戻ってきた。

 

『はぁ~あ、ペガも小説書けたらなぁ。造花より儲かるのに・・・・』

 

「あ! それなら伏井出先生に教わってみたら? 才能をあやかれるかも!」

 

『ペガ書く! 小説書く!』

 

なんてみんながそれぞれに過ごしている中、理巧は斑鳩から借りた『銀河戦艦エルシェード』、『星空のアンビエント』等、伏井出ケイの他の小説を読み終えると裏表紙に載った伏井出ケイの姿を見る。

 

「・・・・・・・・」

 

伏井出ケイ。

理巧が半蔵学院に編入し、雲雀と仲良くなった次の日。

彼のファンである鷹丸から新作の本を買ってきてほしいと頼まれ買っていった際に、偶然出会い、サインを貰った相手だ。

その時、その人の顔を見た瞬間、言い様の無い恐怖感が身体を襲い、理巧はすぐさま逃げるようにその場を去った。

 

「(何故僕は、あの時伏井出ケイから逃げたんだ?・・・・嫌、あの時、あの人の目を見た瞬間、何かが頭を過ったんだ。そう、まだ僕が“鷹丸さん達に拾われるずっと前、思い出したくもない『拭えぬ過去』"・・・・!)」

 

理巧は、八歳から前の事を極力思い出さないでいた。それは忌むべき過去の記憶。

来る日も来る日も常に『死』と隣り合わせだった日々。

自分の心が磨耗していく地獄の戦闘訓練。

遂に『感情』が消失し、言われるがままの行動しかできなくなった自分。

そんな自分を、“自分達"を冷酷に見下ろす『誰か』の視線。

 

「っくん・・・・りっくん!」

 

「っ! あ、あー、ちゃん・・・・?」

 

「どうしたの? もうご飯だよ?」

 

「え、あ、あぁ・・・・」

 

言われて回りを見ると、すでにテーブルの上に食事が置かれ、斑鳩達とペガも、定位置に座っていた。

 

「ゴ、ゴメン、ちょっと考え事をしていた。すぐに戻るよ・・・・」

 

そう言って、理巧は飛鳥と共に皆と食事に向かった。

 

「(今度の忍務で、何か分かるかもしれないな・・・・)」

 

 

 

 

 

 

そしてその翌日。『特別講演会 伏井出ケイの世界~星々のアンサンブル~』と看板が立った講演会会場で、民間の警備会社の警備員と別に私服を着て警備にあたる理巧達と、いつものスーツ服の霧夜先生がエントランスの警備をしていた。

 

「(鷹丸さん。講演会のチケットが取れなくて行けなかったから、羨ましがってたな~)」

 

伏井出ケイのファンである鷹丸は(理巧は知らないが)AIBの捜査官として多忙である為、今日の講演会に来れなかったのだ。

 

「たくっ、本当に退屈な忍務だぜ・・・・」

 

「ボヤイても仕方ありませんわよ葛城さん」

 

理巧と飛鳥。柳生と雲雀。葛城と斑鳩。そして霧夜先生(&ゼロ)が組を作って、それぞれの場所で警備に当たっていた。端から見れば、柳生と雲雀、葛城と斑鳩は伏井出ケイのファンの子達。理巧と飛鳥はカップル。霧夜先生もファンだと思われる。

余談だが、理巧の恋人役を誰がやるかは、厳選なくじ引きで決まり、飛鳥に決まった時は飛鳥は勝利に喜び、他の四人は悔しがっていた。。

 

「2万年早いぜ! あ、これは印象的なキャラクターのゾーアの決め台詞でしてね」

 

ボヤイている葛城に注意する斑鳩の近くで、客の1人が小説のキャラの真似をしていた。

結構大きな声で言っていたようで、霧夜先生とゼロの耳にも入った。

 

≪二万早いぜ、か・・・・≫

 

「(どうしたゼロ?)」

 

≪いや、やはり気になってな≫

 

「(ふむ。本当に、お前とベリアルの戦いが書かれていたのか? 伏井出ケイの小説に?)」

 

≪ああ。間違いない・・・・≫

 

霧夜先生とゼロが会話していると、周りの客達から黄色い歓声が上がり、そちらに目を向けると、伏井出ケイが何人かのスタッフと共にエントランスに来た。

 

「あれが伏井出ケイ先生なんだね」

 

「みたいだね・・・・ん?」

 

飛鳥と理巧がコッソリ会話していると、伏井出ケイが近づいてきた。

 

「はじめまして。こんなに初々しいカップルが私のファンだなんて、嬉しいですよ」

 

「あ、はい! ありがとうございます!」

 

「どうも」

 

飛鳥は元気よく挨拶するが、理巧は警戒した面持ちで素っ気なく答えるが、伏井出ケイはにこやかな笑みを浮かべたまま。

 

「是非とも、本日の講演会を楽しんでください」

 

「はい!」

 

そう言って、伏井出ケイは他のお客さんと話をするために離れようとし、飛鳥はまた元気よく返答するが、伏井出ケイは理巧に一瞬不穏な眼差しを送り。

 

「では、また後で」

 

「っ! え、えぇ・・・・」

 

理巧は得たいの知れない悪寒に震えながらも返答した。

 

 

 

ーゼロsideー

 

ゼロが伏井出ケイを見ていると、伏井出ケイの足元から、ダークゾーンを展開したペガが伏井出ケイの足を掴もうとしたその瞬間ーーーー。

 

『うわっ!』

 

伏井出ケイは足元にいるペガと目が合うと、ニヤリと笑みを浮かべて、そのままペガを気にせず会場に向かった。

ペガはその不気味な雰囲気に身体が震えていた。

 

「(ペガくん?)」

 

≪霧夜! 交代しろ!≫

 

ーーーーデュォオン!

 

霧夜先生とチェンジしたゼロが、ペガに小さな声で話しかける。

 

「おい、アイツ今、お前と目が合っていたぞ」

 

『あの人、なんか恐い! や、やっぱりペガ、先に帰ってるね!』

 

「あ、ちょ・・・・!」

 

そう言ってペガはダークゾーンに沈んでいった。ペガが帰ったのを見た理巧は、飛鳥達から離れ、ゼロに近づく。

 

「おじさん、いやゼロ。ペガはもう帰ったのか?」

 

「理巧。あの小説家、人間じゃない」

 

「っ、その根拠は?」

 

理巧が目を鋭くして訊くと、ゼロは懐から、斑鳩から借りた『コズモクロニクル』を取り出し、表紙を理巧に見せる。

 

「伏井出先生の本?」

 

「この本に書かれているのは、俺の戦いだ」

 

「ゼロの?」

 

「始めは偶然かと思ったが、表紙の絵、ベリアルがアークベリアルになった時の姿だ。この本の内容も台詞も、俺とベリアルの戦いを見たとしか思えない!」

 

「・・・・その本で、ゼロの役割は?」

 

「この本の中で、俺は悪役だ」

 

「・・・・・・・・」

 

ゼロの話を聞いて、理巧の眼差しがさらに鋭くなる。

が、講演会開始のブザーが鳴り響き、飛鳥達が理巧達に近づく。

 

「りっくん! 先生! もうすぐ始まるよ!」

 

「早く! 早く!!」

 

飛鳥と雲雀に急かされるが、二人は会話を続ける。

 

「良いか。ハッキリするまで警戒を怠るな。お前の状態が本調子で無いとしてもな」

 

「(見抜かれていたか・・・・)だが、あの人を警戒する理由は?」

 

「『戦士の勘』。って言えば、納得できるか?」

 

「・・・・その勘、宛にさせてもらう。あーちゃん達にも、インカムを装備させるよう伝えておくよ」

 

「ああ。霧夜と交代する(デュォオン!)」

 

理巧とそう会話をすると、再び霧夜先生と交代した。

 

「理巧。なにがあったか分からんが、いざとなればゼロがいる。無茶はするなよ」

 

「善処します」

 

二人は会話を止めて、飛鳥達と共に会場内の警備に向かった。




次回、遂に黒幕の正体が!


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現れたぜ、黒幕!

遂に黒幕の正体が発覚。


ー理巧sideー

 

理巧は飛鳥達を集め、ゼロが感じた伏井出ケイの不信感と宇宙人である可能性はあると伝えると、全員に通信インカムを装着するように言った。

 

「理巧さん。伏井出ケイ先生が宇宙人と言うのは本当なのですか?」

 

「確証は無いが、ペガの存在に気づいて何も言ってこない。それに何かあの人、怪しいんだ」

 

「でもりっくん。宇宙人だからって警戒する事無いと思うよ」

 

「うん。ペガくんみたいに良い宇宙人さんかも知れないよ?」

 

「雲雀ちゃんだって一度ダダ星人って奴に誘拐されそうになったでしょ。宇宙人にだって、悪い奴はいる。道元に手を貸していたチンピラ宇宙人だっていたくらいだしね」

 

「確かにな」

 

「一応警戒はしておくか」

 

「ええ」

 

柳生と葛城と斑鳩は同意してインカムを耳に着ける。雲雀も一応インカムを着ける。が、飛鳥はーーーー。

 

「私は、伏井出先生を信じるよ。きっとあの人も良い宇宙人さんで、話せば分かりあえるよ。宇宙人さんだからって敵だなんて、そんなの決めつけだよ」

 

飛鳥は伏井出ケイを信じると言って、インカムを着けず、そのまま警備に戻った。

 

「ちょっとあーちゃん・・・・」

 

「飛鳥さんは優しいのが美点ですが、簡単に他人を信用し過ぎて、警戒心が薄い所がありますね」

 

「飛鳥の忍としての致命的な弱点だな」

 

やれやれと肩を落とす斑鳩と柳生の言葉に同意するように、小さく溜息を吐く理巧も、仕方ないから自分達で警戒しようと決め、全員が警備に戻った。

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

演会は問題無く進んでおり、理巧達はバラバラの席に座りながら警備についていた。

伏井出ケイが自分の作品の事を話していたが、その物語は、ウルトラマンベリアルに都合の良い内容だった。

 

「正義の名の元に、輝きの騎士団を操り、宇宙の全てを支配したバルブ王に、勇者アガムは戦いを挑みます。しかし返り討ちに合い、反逆者として追放される。これが私のデビュー作、『コズモクロニクル~闇よ輝け~』のオープニングです」

 

それを聞いていたゼロは舌打ち混じりに不愉快な声を発する。

 

≪ベリアルの都合の良いように書き換えやがって!≫

 

「やはり、あの男が・・・・」

 

霧夜先生がコッソリゼロと会話しているが、講演は続いた。

 

「所で、初期三部作の中で人気の高いキャラクターと言えば、誰でしょう?」

 

「『輝きの騎士 ゾーラ』!!」

 

伏井出ケイのファンの1人の男性が立ち上がり、大声で叫び、他のファン達が笑い声を挙げる。

 

「ハハハ、そうです。悪役にも関わらず、ゾーラの人気はとても高い。勇者アガムと幾度も激しい戦いを繰り広げます」

 

≪『ゾーラ』・・・・俺の事だな≫

 

「(おそらくな)」

 

「ところがゾーラは、3作目、『コズモクロニクル~闇を美しく~』で、“死んでしまいます"」

 

「≪えっ!? 死ぬ?!≫」

 

霧夜先生とゼロが同時に声をあげて、近くのファンに静かにするように注意を受けた。

 

「(・・・・どういう事だ?)」

 

それを聞いていた理巧も、警戒心を更に上げる。

 

「そこで本日は、彼に代わる新しい『輝きの騎士』を考えてみたいと思います。そして、次の作品に登場させましょう」

 

伏井出ケイがそう言うと、会場から拍手が上がる。

 

「では、皆さんの中からどなたか1人、舞台に来ていただけますか? その方をモデルに、『輝きの騎士』を、作ってみます」

 

すると、会場から多くの人間が挙手すると、伏井出ケイは1人の男性を指名したーーーー。

 

「そちらの男性の方・・・・」

 

霧夜先生だった。

 

「っ!」

 

「是非此方に・・・・」

 

その時、伏井出ケイの目に怪しい光が宿ったのを、霧夜先生とゼロは勿論、理巧と感応能力が高い雲雀も感じた。

 

 

 

ー柳生sideー

 

「うぅ・・・・!」

 

「雲雀? どうした?」

 

「や、柳生ちゃん・・・・。あの人、理巧くんの言うとおり、何か恐い・・・・!」

 

「っ!」

 

柳生が直ぐ様インカムで理巧に連絡する。

 

「理巧・・・・!」

 

《分かっている。だが、ここで騒ぎを起こすのはマズイ。一般人が多いんだ。・・・・おじさんとゼロが動くようだ。みんな、何が起きても良いように、準備をして》

 

飛鳥を除いた柳生達は、了解と返事をした。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

≪面白れぇじゃねぇか。霧夜、身体借りるぜ≫

 

「(分かった。油断するなよ)」

 

霧夜先生からゼロに替わると、ゼロは席から立ち、他のファンの人達が拍手をする中、舞台へと向かった。

 

 

ー理巧sideー

 

「頑張って!」

 

呑気に拍手する飛鳥だが、理巧は警戒心を解かずに舞台を睨んだ。

 

 

ーゼロsideー

 

舞台に立ち、伏井出ケイと向き合うゼロ。

 

「ありがとうございます。お前は?」

 

「フン。霧夜だ」

 

「ウンウン。では霧夜さん。先ず、握手を・・・・」

 

「フッ」

 

握手を求めて手を差し出した伏井出ケイの手を、ゼロは掴んだ。すると、伏井出ケイは観客に顔を向けて声を発する。

 

「私はいつもこうして想像します。目の前の人の手の感触。匂い。息づかい。そこからどんなキャラクターが生まれるだろうか、失礼・・・・」

 

伏井出ケイはゼロの耳元に顔を近づけ、小さな声でーーーー。

 

「“やっと会えましたね。ウルトラマンゼロ"」

 

「≪っっ!!≫」

 

ゼロと霧夜先生が伏井出ケイの横顔を睨む。

 

「動かないで、このままで」

 

「お前は何者だ・・・・!?」

 

「これから“ある事"が起こります。貴方は決して動いてはいけない。私に従ってください。良いですね?」

 

「≪っっ・・・・・・・・≫」

 

ゼロと霧夜先生の勘が言った。「コイツは危険だ」と・・・・。

伏井出ケイはゼロが動かないのを確認すると、顔を離し、観客に作り笑みを浮かべた。

 

「う~ん、成る程。貴方は学校の先生ですねぇ。普段は厳しくも優しい先生だ。あ! 新しい登場人物は、学校の先生にしましょう。彼は何が切っ掛けで、『輝きの騎士』となるのか・・・・」

 

伏井出ケイの様子に、ゼロと霧夜先生、そして理巧と飛鳥を除いた四人が見据える。

 

「何か、アイディアはありませんか?・・・・フフッ、いきなり聞かれても困りますよね。ではこうしましょう。私は、貴方の『敵役』です。そして貴方にこう脅す・・・・『動くな。動けばこの建物ごと集まった人間を吹き飛ばす』」

 

≪「「「「「「っっっ!!」」」」」」≫

 

冷酷な雰囲気となった伏井出ケイに、ゼロ達に緊張が走る。

 

「『焼き尽くす』」

 

「お前はどうなる?」

 

「迫真の演技良いですねぇ。勿論!・・・・『私は無事です』」

 

「目的は何だっ!?」

 

「『目的は、お前だ!』」

 

そう言って、霧夜先生を、正確に言えば、ウルトラマンゼロを指差した。

 

「(おじさん、いや、ゼロかっ!)」

 

理巧は身構え、それを見た斑鳩達も身構える。伏井出ケイは霧夜先生を指差したまま続け、指差した手をきつく握る。

 

「『お前の中にはゾーラの魂が宿っている。その魂を、肉体ごと滅ぼしてやる!』」

 

「・・・・・・・・!!」

 

ゼロが目を険しくすると、それを愉快そうに嗤う伏井出ケイ。

周りの観客達は完全に演技だと思って楽しんでいた。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「ね、ねぇりっくん。何かおかしくないかな?」

 

流石に飛鳥も、ゼロと伏井出ケイが演技をしているように見えなくなってきたのか、理巧にソッと話しかける。

 

「おかしいどころじゃない。僕達はどうやら、『罠』に嵌められたようだ・・・・!」

 

理巧は険しい視線を伏井出ケイに向け、飛鳥は他のみんなを見ると、斑鳩も葛城も、柳生も雲雀も、苦い顔色で伏井出ケイを睨んでいた。

 

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

伏井出ケイはにこやかな笑みを浮かべて、観客達に目を向ける。

 

「でもみなさんご安心を、『逆転の一手』を用意しています・・・・」

 

「なっ!」

 

≪っ!≫

 

「あ、あれって?!」

 

「まさか!?」

 

「マジかよっ!?」

 

「ウソっ!」

 

「くっ!」

 

「やっぱり、ヤツが・・・・!!」

 

そう言って、伏井出ケイが取り出した『カプセル』を見て、ゼロと霧夜先生、飛鳥達が驚愕し、理巧は確信を得た。

それはーーーー『シビルジャッジメンター ギャラクトロン』の『怪獣カプセル』だったからだ。

 

「これは、次の作品に出すアイテムの模型です」

 

観客達はよもやそれが本物と思わず、感嘆の声をあげる。

 

「これを使う事で、平凡な先生が『輝きの騎士』に変身ができます」

 

伏井出ケイがそう言うと、観客達はさらに大きな声をあげる。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「もしかして、伏井出先生が、本当に・・・・!」

 

「あぁ。間違いない。ヤツが蛇女を、道元を操っていた『黒幕』だっ!!」

 

理巧がそう叫ぶと、伏井出ケイはニヤリと笑みを浮かべ、ギャラクトロンの怪獣カプセルを起動させた。

 

『キュォォン!!』

 

伏井出ケイがスーツの上着を翻すと、装填ナックルにギャラクトロンのカプセルを装填させるとーーーー。

 

「ジ、ジードライザーっ!?」

 

そう。理巧と同じジードライザーを取り出し起動させるとーーーー。

 

「さぁ、新しい騎士の、誕生です」

 

「やめろぉぉぉっ!!」

 

「っ!!」

 

『っ!!』

 

ゼロが叫びと同時に、理巧と飛鳥達が席から立ち上がり、ステージに向かって飛び出そうとするがーーーー。

 

[ギャラクトロン]

 

ジードライザーの中心のカプセルが緑色の光が発光し、理巧のライザーとは違う音声が響き、目映く輝くと、伏井出ケイがライザーを虚空に突き出す。すると光が会場を包むほどに輝く、理巧達や周りの観客達が目を瞑り、光が収まって目を開けると。

 

《理巧っ! みんなっ! 外を!!》

 

ペガからの通信で外を見ると、緑色の光が天に昇り、魔法陣が展開されると、ソコから白いボディに長い髪を束ねた人型の竜のような容貌をしたロボット怪獣、『シビルジャッジメンター ギャラクトロン』が現れた。

 

『キュォォン!!』

 

瞳と腹部が赤く発光し、起動すると、ソナー音のような声を発した。

腹部から破壊光線・『ギャラクトロンスパーク』を放つ、当たった地点から魔法陣が展開され、連鎖して爆発が起こった。

 

チュドォォォォォォォォォンン!!

 

「・・・・・・・・」

 

その様子を見て、伏井出ケイは笑みを深くした。

 

「みんな逃げろっ!!」

 

理巧が叫ぶと、観客達が泡食って逃げようとする。

 

「落ち着いて! こっちに来るかもしれません! 落ち着いて!」

 

いけしゃあしゃあと叫ぶ伏井出ケイに、ステージについた理巧達。

斑鳩が飛燕を抜刀しようとし、葛城を蹴りこもうと踏み込み、柳生も番傘を構えようとするが、ゼロが3人をひき止めた。

 

「何でだよ!?」

 

「録られてるんだよ。講演会の記録用のカメラで!」

 

「流石は察しが良いですねウルトラマンゼロ。勇ましいだけしか能の無いお嬢さん方とは年季が違う。今ここで私を倒せばあの怪獣は止まるかもしれない。しかし貴女方は、著名で善良な小説家に危害を及ぼした。『悪忍』になりますねぇ?」

 

「「「っ!!」」」

 

伏井出ケイの言葉に、3人は武器と構えを解いた。

 

「伏井出先生、貴方が、焔ちゃん達を利用した黒幕なの?」

 

「・・・・プッ、フフフフ・・・・おやおや? ここまで状況を見てまだそんな事にも気づかないとは、少々、いやかなり察しの悪いお嬢さんですねぇ? それでも伝説の忍の孫なのですか?」

 

「~~~~っ! 忍(ガシッ)っ!! りっくん・・・・! 」

 

明らかな嘲弄の笑みを浮かべ、侮蔑の笑いを堪えているような伏井出ケイの様子に、飛鳥は漸く、理巧とゼロの言っていた事が正しかったと理解し、怒りや恥ずかしさで顔を赤くして、二刀を取り出し忍転身しようとするが、理巧に肩を捕まれて止められる。

 

「ここで忍転身なんてしたら、忍の存在が明るみに出る。それに、どうやら敵だらけのようだ・・・・」

 

理巧が観客がいなくなった観客席に視線を向けると、空中にディスプレイが展開され、ソコには会場から脱出できず騒いでいる観客達と、その観客達の後方に控えている他の警備員達が映されていた。

すると警備員達の顔が一瞬、異形の顔に変わった。ピット星人にゴドラ星人、ボーグ星人にシャプレー星人と言った異星人達だった。

 

「あ、あれって・・・・!」

 

「あぁ言い忘れていました。ここにいる警備員はみんな、私が雇った宇宙人のみなさんです。あなた方が私に危害を加えれば、彼らが観客のみなさんに何をするか、そんな事も解らないほどの程度の低い知能を持っていない事を祈りたいですね?」

 

「っ~~~~~!」

 

今度は無関係の観客達を人質にした伏井出ケイに、飛鳥達は悔しそうに歯噛みするしかなかった。

伏井出ケイはそんな一同を見ると、懐から今度は、1つの『コピークリスタル』を取り出し、ソコに新たな『怪獣カプセル』を起動させる。

 

「あぁ言い忘れていましたが、記録用のカメラは全て、あなた方だけを撮していますから、私の姿は映されていないのですよ。だから、こういう事もできる・・・・!」

 

「『コピークリスタル』!!」

 

『ピギュゥゥゥ!!』

 

「フフフ・・・・」

 

伏井出ケイは『コピークリスタル』を転送させると、ギャラクトロンの頭上に、新たな怪獣が現れた。

円盤のような形から、長い金の機械の身体でとぐろを巻いた龍の頭をした怪獣・『宇宙竜ナース』。

 

『ピギュゥゥゥ!!』

 

ナースが鳴き声を上げると、円盤形態のまま円盤下部から破壊光線を放ち、街を破壊する。

 

「さらに、登場です」

 

伏井出ケイはさらに2つの『怪獣カプセル』を取り出した。1つは『ダークロプスゼロ』、もう1つは、金色のロボットが描かれたカプセル。

 

「っ! 『キングジョー』かっ!?」

 

[ダークロプスゼロ]

 

伏井出ケイはダークロプスゼロのカプセルを装填ナックルに入れ、ライザーで読み込むと再び虚空に突き出すと、光が飛び出し、ギャラクトロンの隣にダークロプスゼロが現れ、『ダークロプスゼロスラッシュ』で街を破壊する。

 

「まだまだですよ」

 

[キングジョー]

 

今度はキングジョーのカプセルを装填し、『宇宙ロボット キングジョー』を召喚した。

 

『ーーーーーーーー』

 

キングジョーはグワンッ、グワンッと、駆動音を鳴らしながら、破壊光線・『デスト・レイ』を放った。

 

「よ、4体のロボット怪獣・・・・!」

 

「なんだよ、この滅茶苦茶っぷりはよ・・・・!」

 

「くっ・・・・ゼロ行こう! 奴らをスクラップにするんだ!」

 

「~~~~!」

 

理巧がそう言うが、ゼロは動けずにいた。

それを見て伏井出ケイが口を開く。

 

「どうやら『戦士の勘』が言うんでしょう。あの怪獣達は強い。今の彼の力では戦っても勝てる訳ないと。さあどうします?」

 

「~~~~!」

 

伏井出ケイの言葉がその通りのようなのか、ゼロは拳をきつく握る事しかできなかった。

 

「・・・・ゼロ。奴らは僕がガラクタにする!」

 

「おっと、お待ちを」

 

「っ!」

 

そう言って、駆け出そうとする理巧だが、伏井出ケイの声にビクッと身体を震わせつつも振り替える。

 

「幾つか“条件"を出しますよ。それを貴方が守らなければ、観客がどうなるか・・・・分かりますね?」

 

「っ・・・・“条件"はなんだ?」

 

「これから貴方は一つの形態で戦ってください。それも、蛇女の忍達から回収した『ウルトラカプセル』での新たな形態で」

 

「・・・・良いだろう」

 

「りっくん!!」

 

「「理巧くん!!」」

 

「「理巧!!」」

 

何のつもりか分からないが、理巧は伏井出ケイの“条件"を飲むと駆け出し、窓を蹴破って外に飛び出し、ジードライザーを取り出した。

 

「明らかにこれも罠だろうが・・・・! ジーっとしてても、ドーにもならない!!」

 

理巧は伏井出ケイの思惑が気になっていたが、『ジードライザー』を構え、カプセルホルダーから、『ウルトラマンレオカプセル』のスイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

ィヤーッ!

 

カプセルから赤い光の線が幾つもの放たれ、『ウルトラマンレオ』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「(春花さん。使わせてもらう!) アイ・ゴー!」

 

カプセルホルダーから『アストラカプセル』を持って起動させると、青い光の線が幾つもはなたれ、『アストラ』の姿が出現した。

 

ヤー!

 

『アストラカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、赤と青の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「滾るぜ、闘魂!! ハァアアア・・・・っ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマンレオ! アストラ! ウルトラマンジード!! リーオーバーフィスト!!]

 

ウルトラマンレオとアストラの姿が合わさり、燃えるよつな赤い光の戦士となった。

 

『イヤァーッ!!』

 

赤い炎の中から、『ウルトラマンジード リーオーバーフィスト』が飛び出した。

 

 




次回、これまで全勝してきたジードが遂に・・・・!


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滾る闘魂 リーオーバーフィスト

新しいフュージョンライズ登場。


ー理巧sideー

 

街で猛威を振るうロボット怪獣達の前に、炎を纏ったウルトラマンジードが現れた。

赤と銀と黒の体色に、融合素材となったウルトラマンレオやアストラのような剥き出しに鍛えられた身体。

頭部は逆立った髪か、炎を思わせる形状となり、腕には手甲と包帯を着けている。手甲にはレオ兄弟の腹部に描かれている紋章があり、左手にレオの紋章、右手にアストラの紋章が書かれている。

 

『イヤーッ!』

 

叫びを上げて構えるその姿、熱き闘魂の戦士・『ウルトラマンジード リーオーバーフィスト』。

 

『ーーーー!』

 

『ピギュゥゥゥ!』

 

『キュォォン!』

 

『グワン! グワン!』

 

4体のロボット怪獣達はジードに向かって行くと、先ずはナースがジードに目から破壊光線で攻撃するが、

 

『ハァッ!』

 

ジードは俊敏な動きで光線を回避すると、ナースの目の前に現れ、頭部を掴むと、そのままナースの顎に膝蹴りを叩きつけ、さらに肘打ちを叩き込む。

 

『ピギュゥゥゥ!』

 

ナースはジードの身体に巻き付こうとするが、

 

『イヤーッ!』

 

巻き付かれる前に、ジードはナースの頭部を掴んだまま回転してナースの身体を振り回し、空高く投げ飛ばした。

 

『ピギュゥゥゥ・・・・・・・・!!』

 

『グワン! グワン!』

 

続いてキングジョーが迫り来ると、両手を上に挙げて、ジードを捕まえようと振り下ろすが。

 

『フッ! グゥゥゥゥ!! ヤァッ!!』

 

キングジョーの腕を両手で押さえ、力比べをしていると、ジードは跳び、キングジョーに両足で蹴りをぶつけ、キングジョーの身体を後方に退かせ、反転跳びで着地すると、次にギャラクトロンに迫る。

 

『キュォォン!』

 

ギャラクトロンは後頭部から伸びた大きな鉤爪の付いた『ギャラクトロンシャフト』を振り回し、ジードを攻撃するが、ジードは跳んでそれを足場にしてさらに高く跳び、ギャラクトロンの真っ正面に回り込む。

 

『キュォォン!』

 

『フッ! ハッ! ヌッ!』

 

ギャラクトロンは次に、左腕の回転式の大剣・『ギャラクトロンブレード』でジードを攻め立てる。

が、ジードは紙一重で回避し、ギャラクトロンの左腕を受け止める。

 

『ーーーー!!』

 

ジードの後方に回り込んだダークロプスゼロが、背後からジードに、『ダークロプスゼロスラッシュ』を放った。

 

『っ! ヤーッ!』

 

『っ、キュォォン!』

 

が、いち早く察していたジードは、ギリギリで回避すると、光線がギャラクトロンに当たり、ギャラクトロンの巨体を押し飛ばす。

 

『ーーーー!』

 

頭部のスラッガーを取り外し両手に構え、ジードに斬りかかるダークロプスゼロ。

 

『イヤーッ!!』

 

ダークロプスゼロのスラッガーを使った攻撃を、ジードは防ぎ、払いながら、ダークロプスゼロと格闘戦を繰り広げる。

その後ろから、キングジョーが迫り来る。

 

『グワン! グワン!』

 

『フッ! ヤーッ!』

 

ジードはダークロプスゼロの攻撃を払うと、キングジョーに蹴りをぶつけ、2体の怪獣に挟まれながらも、果敢に戦う。

 

『キュォォン!』

 

ギャラクトロンが目から閃光光線を放つのを見たジードは、光線が放たれた瞬間、捕らえようと迫るキングジョーの身体を身軽に受け流すと、光線はキングジョーに当たった。

 

『グワン! グワン!』

 

キングジョーは吹き飛び倒れる。

 

『イヤァッ!!』

 

『ーーーー!!』

 

ジードは後ろ回し蹴りをダークロプスゼロに叩き込み、ダークロプスゼロを退かせると、両腕に力を込める。

 

『フッ! ハァァァァァァァ・・・・!』

 

ジードの両手に描かれたレオ兄弟の紋章が光ると、炎が燃え上がり、ジードは一瞬でギャラクトロンに接近し、ギャラクトロンは『ギャラクトロンブレード』を横凪ぎに切り払うように腕を回すと、ジードは剣をギリギリで回避し、カウンターで両手の拳をギャラクトロンに叩き込んだ。

 

『『ブラザーズインパクト』!!』

 

『キュォォン!』

 

ギャラクトロンは魔法陣を展開して防御するも、技の威力に魔法陣ごと倒れる。

 

『ーーーー!!』

 

ダークロプスゼロが後ろからスラッガーで斬りかかる。

 

『イヤァァァァッッ!』

 

その動きを読んでいたジードが、拳でスラッガーを弾き飛ばした。スラッガーを失ったダークロプスゼロは拳を構えて、ジードに接近し連続で拳を繰り出す。

 

 

『イヤタァッ!!』

 

が、ジードはその拳を連続蹴りで応戦した。

『ーーーーーーーーーーーー!』

 

『イヤタタタタタタタタタタタタタ!! イヤァッ!!』

 

『ーーーーーーーー!!』

 

競り勝ったのはジードであった。さらに攻め立て、ダークロプスゼロの拳に押し返し、ダークロプスゼロの身体に、炎のようなエネルギーを纏った連続キックをぶつけ、飛び蹴りでフィニッシュを決めるリーオーバーフィストの必殺技。

 

『『バーニングオーバーキック』!!』

 

『ーーーー!!』

 

ダークロプスゼロは全身に火花を飛び散らせながら、爆散した。

 

『キュォォン!』

 

『グワン! グワン!』

 

『ピギュゥゥゥ!』

 

ギャラクトロンとキングジョー。そして戻ってきたナースがジードを見据えて迫り来る。

 

『フン! イヤァッ!!』

 

ジードは残りの怪獣達へと向かい、跳び蹴りを繰り出した。

 

 

 

ーゼロsideー

 

「ぃよっしゃッ! 先ずは一体目!」

 

「レオ兄弟の融合形態だけに、とてつもない格闘能力だな」

 

空中ディスプレイに映し出されたダークロプスゼロを粉砕したジードの映像に、一先ず笑みを浮かべる飛鳥達だが、ゼロは油断なく伏井出ケイを睨む。

 

「う~ん、格闘戦特化の形態ですか・・・・。暑苦しいですが、中々に王道ですね」

 

見せ物を見るような笑みで言う伏井出ケイ。

 

「伏井出ケイ。お前は大人しくしているつもりか!?」

 

「フフフッ、そうですね。このまま見物も良いですが、それだけでは面白くありませんね。・・・・では、新たなゲストの登場です」

 

「「「「「「≪っ!!≫」」」」」」

 

伏井出ケイが新たに出したカプセルを見て、一同は目を見開いた。

それは、蛇女との戦いで現れた合体怪獣・『暴君怪獣タイラント』だった。

 

「これは、蛇女子学園の生徒の皆さんのお陰で完成された『怪獣カプセル』です。いや~、彼女達は実に良い働きをしてくれましたよ」

 

ジードライザーや装填ナックルと同じアイテムに、二本の『怪獣カプセル』。

これらの情報から導きだされる可能性に、ゼロと霧夜先生と飛鳥達が、ハッ! となった。

 

「しかし、私が突然居なくなってしまっては、場が混乱するかもしれませんねぇ。ですので、宜しくお願いしますよ。『ザラブ星人』さん」

 

伏井出ケイの背後から、ツリ眼と星形の口が特徴的な顔が胴体一体となっている宇宙人が現れた。

『凶悪宇宙人 ザラブ星人』だ。

 

『ーーーー!』

 

ザラブ星人が両手で顔を覆うと、その身体が何と、伏井出ケイへと変身したのだ。

 

「なにっ!?」

 

「では、私は少々失礼します。あぁ安心してください。私からの指示はザラブ星人さんに連絡するのでそれに追従してください。・・・・それができない場合は、解っていますよね?」

 

ジードの戦いが映し出された空中ディスプレイの画面が半分別の場面に変わった。

ジードの戦いを見ている、会場から脱出できない観客達と、その観客達の後ろで控えている警備員の姿に変身した伏井出ケイに雇われた宇宙人達だ。

 

「「「「「「≪っ!!≫」」」」」」

 

ゼロと霧夜先生、飛鳥達はそれを理解し、歯噛みするしかできなかった。

 

「フッフッフッ。ご理解いただけて幸いです。では・・・・」

 

そう言って、伏井出ケイの身体を光のリングが幾つも包み、伏井出ケイの身体を転送させた。

それを見た後、飛鳥が伏井出ケイに変身したザラブ星人に話しかける。

 

「・・・・ねえ! ザラブ星人さん! 何でこんな事に協力するの?! 貴方達だって危険なのに!?」

 

『お金の払いが良いからに決まっているでしょう。それに安心してください。私達は転送装置でこんな所から直ぐに逃げられますから。ここに集まった観客の皆さんがどうなろうが、知った事ではありません』

 

「どうして・・・・!」

 

『余計な事をくっちゃべると、解りませんか?』

 

飛鳥がザラブ星人を説得しようと声を張り上げるが、慇懃無礼な態度で取り合わないザラブ星人は笑みを浮かべて、ディスプレイを指差すと、観客達の後ろにいた警備員の1人か、こっそり地球の物ではない拳銃を取り出し、ジードの戦いに夢中になっている観客の1人に銃口を向ける。

 

『1人くらいなら良いですかね?』

 

「っ! やめろっ!!」

 

ゼロが声を張り上げると、ザラブ星人を更に笑みを深くし、耳に付けたインカムで指示を出すと、宇宙人は拳銃をしまった。

 

『これでご理解できましたか? 余計な事をすれば、貴方達が不利になるだけだと言う事が?』

 

ザラブ星人の言葉に、飛鳥達は悔しそうに顔を歪めた。

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「さぁ、真打ちの登場です!」

 

転送された伏井出ケイは会場の屋根の上に立つと、身体からドス黒いオーラを放ち、ジードライザーを取り出すと、“ゴモラの『怪獣カプセル』を起動させた”。

 

「ゴモラ!」

 

キシャアァァァァァ!!

 

ゴモラの鳴き声が響き、『ゴモラカプセル』を装填ナックルに入れた。

 

「タイラント!」 

 

ヒャアァァァァァァッ!!

 

次に、『タイラントカプセル』を起動させて、ナックルに装填し、ライザーの握り手のスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

ライザーで手に持ったナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが目映く発光して、音声が流れる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「ハァアアアアアア・・・・ハァアッ!!」

 

ライザーを胸元に持ってきて、起動スイッチを押した。

 

『ゴモラ! タイラント! ウルトラマンべリアル! ストロング・ゴモラント!!』

 

伏井出ケイの姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『ゴモラ』と『タイラント』の姿が現れると、2体は黄色と灰色の粒子となってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルの姿が変貌した。

 

頭部は強化されたゴモラ、ベムスターの翼を大きくしたような翼を生やし、尾先にはバラバの武器のようであり、体色はダークグレーと赤に統一され、まるで西洋のドラゴンのような容貌。胸部には血管のように広がるカラータイマーがある怪獣ーーーー。

 

『キヒャァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!』

 

新たな融合獣、『ベリアル融合獣 ストロング・ゴモラント』。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

ジードは左右からキングジョーとギャラクトロン、前方から迫るナースと交戦していると、背後に嫌な気配を感じ、振り向くとーーーー。

 

『キヒャァァァァァァァァァッ!!』

 

ドゴォオンッ!!

 

『うわああああああっ!!』

 

突然、背中を襲った衝撃に、ジードは吹き飛んだ。

 

『「な、なんだ!?」』

 

『キヒャァァァァァッ!!』

 

ジードが起き上がり、後ろを振り返ると、現れた融合獣、ストロング・ゴモラントが雄叫びをあげていた。

 

『「融合獣・・・・。伏井出ケイ、お前かっ!?」』

 

ジードの言葉に答えず、ストロング・ゴモラントは火炎攻撃・『ハイパーデスファイヤー』を口から放つと、ジードはバク転しながら起き上がり、火炎をかわしていく。

 

『ピギュゥゥゥ!』

 

『「っ! しまった!」』

 

ほんの一瞬、気がそれたジードの隙を狙って、ナースがその長い身体でジードの身体に巻き付き、ジードを締め付け、さらに電流を流す。

 

『ぬぁあああああッ!!』

 

『グワン! グワン!』

 

『キュォォン!』

 

今度はキングジョーの身体が頭部と腕、胴体、腰、両足のパーツが分離し、ギャラクトロンの右腕の砲台も分離すると、キングジョーがジードの四方を、ギャラクトロンの右腕がその上を取ると。

 

『ピギュゥゥゥ!』

 

ナースが離れた瞬間、4体のキングジョーのパーツの光線が、ギャラクトロンの右腕の砲がジードに襲い掛かった。

 

『ぐぅあああああああっ!!』

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

「りっくんっ!!」

 

「「理巧っ!!」」

 

「「理巧くんっ!!」」

 

≪理巧!≫

 

「っ!・・・・」

 

飛鳥達が悲鳴のような声をあげ、霧夜先生とゼロも悔しそうに顔を歪める、

 

『はい。・・・・・・・・了解』

 

伏井出ケイからの連絡を受けたザラブ星人が、ゼロに顔を向けると、ゼロは感情を押し殺したような声をあげる。

 

「俺は何をすれば良い・・・・?」

 

『察しが良いですねウルトラマンゼロ。では、雇い主からの指示を伝えます。・・・・《ギャラクトロンが貴方目掛けて光線を放ちます。その直撃をーーーー受けてください》、と』

 

「・・・・・・・・!!」

 

ザラブ星人がニンマリと伏井出ケイの貌で凄絶な笑みを浮かべてそう言った。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

ピコン、ピコン、ピコン・・・・

 

『「くっ、リーオーバーフィスト。格闘戦に攻撃力とスピード重視の速攻タイプ・・・・それ故に、防御力が極端に低いのが、弱点か・・・・!」』

 

カラータイマーが点滅を初め、キングジョーは再び合体し、ギャラクトロンとナースと共にストロング・ゴモラントの隣に立つと、ストロング・ゴモラントが鼻先の角から光が発光し。

 

『ムッ!? ぐぉあああああああああああっ!!』

 

突然ジードの身体が浮き上がると、地面に叩きつけられ、強力な重力に押し潰すストロング・ゴモラントの必殺技・『グラビトロプレッシャー』だ。

 

『くっ・・・・うぅっ・・・・!』

 

起き上がろうとするジードの両肩をキングジョーが掴んで立たせ、ナースが再びジードの身体に巻き付いた。

 

 

 

ーゼロsideー

 

窮地に追い詰められていっているジードの映像を見せて、ザラブ星人が伏井出ケイの言葉を伝える。

 

『《悩んでいる時間はありません。答えを遅らせれば教え子であるジードは死んでしまいますよ!》』

 

≪~~~~!! ゼロ・・・・!≫

 

「・・・・・・・・受けてやるよ!」

 

ゼロがザラブ星人の、伏井出ケイの提案に乗ると宣言した。

 

ーーーーパチンッ。

 

それを聞くとザラブ星人が指を鳴らし、出口の扉が開いた。

 

『《だれもがウルトラマンジードの戦いを見ています。貴方の死を見届ける者はいません。1人寂しく、逝きなさい》・・・・との事です』

 

「・・・・・・・・」

 

ザラブ星人が出口を指差す。ゼロは懐からNEOウルトラゼロアイを取り出して握り、出口へと歩き出した。

 

「「「「「ゼロ(さん)っ!!!!」」」」」

 

飛鳥達が呼び掛けるが、ゼロは無言のまま歩みを進める。

ーーーーそれが、自分の死への道だと分かっていても。

 

 

 

 

 

 

 

ーヒカリsideー

 

ウルトラマンヒカリと、ヒカリに同行したウルトラマンが、ジードのいる宇宙に到着した。

 

『ここが、ウルトラマンキングが融合した宇宙ですか・・・・?』

 

『・・・・・・・・』

 

『どうしました?』

 

同行したウルトラマンが地球を指差すと、ウルトラマンの優れた視力でヒカリが地上を見ると、現在地球で戦っている見たことの無いウルトラマン、イヤ、ウルトラマンベリアルに良く似たウルトラマンを見つけた。

 

『っ! ベリアル!?・・・・いや、違うのでしょうか?』

 

『・・・・・・・・』

 

ヒカリと同行したウルトラマンは、ベリアルの面影のある謎のウルトラマン、ジードを見据えていた。




次回、ゼロが・・・・。


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あばよ、霧夜・・・・

ジードの危機にゼロは・・・・。


ーゼロsideー

 

ゼロは外に繋がる通路を駆け出し、外に出ると、ナースに巻き付けられたジードと、それを三方から囲むギャラクトロンとキングジョー、そしてストロング・ゴモラントを見据える。

 

『「こ、の・・・・ぐぅぅっ!!」』

 

ジードを見るとゼロは、ウルトラゼロアイNEOを握る霧夜先生の手が震えているのに気づく。

 

「霧夜。震えているのか?」

 

≪・・・・すまない≫

 

「ふっ、そりゃそうだな。けどよ、もう少し付き合ってくれ!」

 

≪ゼロ・・・・≫

 

ウルトラゼロアイNEOを見据えて言うゼロに、霧夜先生が声を発する。

 

「安心しろ。お前は死なせない! 飛鳥も! 雲雀も! 柳生も! 葛城も! 斑鳩も! 当然理巧もみんな!!」

 

再びジードを見ると、ジードはナースから脱出しようと足掻くが、ナースの締め付けは更にキツくなる。

 

『ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

ジードが苦しそうな声をあげると、ギャラクトロンがゼロの方に目を向ける。

 

 

 

ーペガsideー

 

ギャラクトロンの行動から、狙いがゼロである事に気づいたペガ。

 

『理巧っ! 霧夜先生が、危ない!!』

 

 

 

ー理巧sideー

 

ペガからの通信で、理巧も霧夜先生に目を向ける。

 

『「ゼロ・・・・! おじさん・・・・!!」』

 

 

 

ーゼロsideー

 

ゼロの眼前に立ったギャラクトロンの右腕の2つの砲口から、光が溢れ、ゼロへと発射された。

 

「ふっ!!」

 

ゼロは、ウルトラゼロアイNEOを突き出して、砲撃を防いだ。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

すると、霧夜先生の身体から、ウルトラマンゼロが、霧夜先生を守るように現れ、身体の主導権が霧夜先生に戻る。

 

「ゼロっ!!」

 

『ぬぅううううううううううううううっっ!!! 霧夜! 良く! 耐えて、くれたな!』

 

「ゼロ?・・・・ゼロ!!」

 

光が溢れ、霧夜先生の身体が後ろに吹き飛び、地面に転がると、ウルトラゼロアイNEOも煙を上げて地面に転がった。

 

『「はっ!!?」』

 

「うぅ・・・・あっ! ぐぅぅぅぅっ!」

 

霧夜先生は痛む身体を引きずりながら、ウルトラゼロアイNEOに手を伸ばすがーーーー。

 

なんと、ウルトラゼロアイNEOが、石となってしまった。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「ゼロ、さん・・・・?」

 

「ウソ・・・・?」

 

「くぅっ・・・・!」

 

「ちくしょう・・・・!」

 

「そんな・・・・!」

 

飛鳥達も、今起きた現実に呆然となった。

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

『「さようなら。ウルトラマンゼローーーーあはははははは・・・・!」』

 

ストロング・ゴモラントの体内で、伏井出ケイが笑い声を上げた。

 

 

ー理巧sideー

 

『「ゼ、ゼロ・・・・!」』

 

理巧は、自分の中で沸き上がる感情に一瞬戸惑った。理巧にとって第一は鷹丸達。第二は親友のペガ。これは絶対に揺るがない物であり、それ以外は割りとどうでも良かった。

だが、半蔵学院に来て、それ以外のどうでも良かったモノが、段々大切になっていった。勿論それは、ゼロもーーーー。

 

『「・・・・・・・・うぅ! うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」』

 

ーーーーゴキンッ!!

 

ジードは雄叫びを挙げながらーーーー何と、左肩の関節を外して、ナースの拘束から脱出した。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!』

 

左肩の関節を外し、片腕と脚だけしか戦えない状態になりながらも、4体の怪獣達と戦う。

 

『『バーニングオーバーキック』!!!』

 

炎の蹴り技をギャラクトロンに叩き込もうとするが、ギャラクトロンは魔法陣で防御する。

 

『「それが・・・・どうしたっ!!!」』

 

が、更に炎の出力を上げたジードの蹴りにギャラクトロンは魔法陣ごと吹き飛ばされる。

 

『「ギャラクトロンをあそこまで・・・・! まさか、怒りが力を底上げしているのか?」』

 

伏井出ケイも、ギャラクトロンに攻め勝ったジードに驚愕する。

 

『「・・・・伏井出、ケイーーーーーーーーーーーー!!!」』

 

『「っっっ!!!?」』

 

こちらに振り向いたジードを見て、伏井出ケイは息を呑んだ。

片腕の肩の関節を外し、ウルトラマンゼロが死んだ事で冷静さを失い、遮二無二に暴れているだけ、こんな小僧に何を恐れるのか。

だが、自分の方に振り向いたジードを見た瞬間、伏井出ケイは不覚にも、そしてーーーー“不愉快にも"、ジードの姿が重なった。

 

ーーーーウルトラマンベリアルと。

 

『「こ、この・・・・紛い物がっ!!!」』

 

『キヒャァアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

伏井出ケイの怒りの雄叫びと、ストロング・ゴモラントの咆哮が重なると、ストロング・ゴモラントは翼を広げて、ジードに突進する。

 

『おおおおおおおおおおおお・・・・!! イヤーーーーッッ!!!』

 

カラータイマーの点滅によるパワーダウンをものともしないジードは、全エネルギーを込めた『バーニングオーバーキック』でストロング・ゴモラントとぶつかる。

 

ドゴォオオンッ!

 

ストロング・ゴモラントの鼻先の角から放たれる『グラビトロプレッシャー』とジードの紅蓮の蹴撃のエネルギーが強烈な火花を散らすと、その反動で2体は弾き飛ばされる。

 

『ヒャァアア!!』

 

『うぉあっ!!』

 

ジードは倒れ、ストロング・ゴモラントも倒れるが、その姿が粒子状となって消えた。

 

『ピギュゥゥゥ!!』

 

『ヒュォォォン!!』

 

『グワン! グワン!』

 

が、ジードに向かって、ナースとギャラクトロンとキングジョーがゆっくりと迫ってきた。

 

『くっ!』

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥達は、ゼロがやられた光景を見た後、ザラブ星人から退室を許可され、大急ぎで霧夜先生の元にたどり着くと、倒れている霧夜先生と石となったウルトラゼロアイNEOを見つけた。

 

「「「「「先生!! ゼロ(さん)!!」」」」」

 

5人はジードを見ると、3体の怪獣がジードに迫り、絶対絶命の状況になっていた。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン! ピコン!

 

『「もうすぐ、限界時間か・・・・だが、まだまだぁっ!!」』

 

ジードは片腕をぶら下げたまま、3体の怪獣に蹴りで攻撃する。

離れた地点で変身が解除された伏井出ケイ、冷静に戻ったのか薄ら笑みを浮かべる。

 

「若い、若いですねぇ、ウルトラマンジード。さて・・・・」

 

ーーーーパチン

 

伏井出ケイが指を鳴らした。その時。

 

『「おおおおおおおおおおおおっ!!!」』

 

ジードの蹴りが3体の怪獣に当たった瞬間、怪獣達の動きが止まった。ギャラクトロンは目と腹の光が消え、キングジョーも両腕をぶら下げ、ナースはそのまま倒れた。

 

『「な、何が、起こった・・・・? ぬっ!」』

 

ジードは遂に制限時間となり、光の粒子となって、変身が解除された。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「怪獣達が、止まった・・・・?」

 

「あっ! 理巧くんがっ!」

 

突然止まった怪獣達に戸惑った声を漏らす飛鳥に、雲雀が指差すと、ジードが光の粒子となって消えた。変身可能時間が過ぎたのだ。

 

 

ー理巧sideー

 

「っ・・・・くっ! ぐぅおぉあっ!!」

 

ーーーーグギンッ!!

 

変身解除された理巧は、疲労の身体を動かし、外した関節を戻して、機能を停止したように動かなくなった怪獣達を見上げる。

 

「一体・・・・なんなんだ・・・・?」

 

「どうやら、見逃されたようだな」

 

「っっ!!」

 

理巧は背後から聞こえた声に臨戦態勢で振り向くと、そこにはーーーー2メートルは優に越える巨体に外套を羽織った、白髪の長髪をした老人だった。

が、理巧はその老人から放たれる、『歴戦の強者の気配』を敏感に察知する。杖を持っている所に気づき良く見ると、右足を負傷しているようだ。

が、外套に隠されたその身体からは、溢れんばかりのパワーが秘められているような雰囲気があり、そしてまるで隙が無い佇まいが、理巧に警戒心を持たせた。

 

「何者だ? アンタは・・・・?」

 

「ふん。先ほどの姿。ウルトラマンレオとアストラの力を融合させた物だな?」

 

「っ!」

 

理巧は更に警戒心を高める。

 

「中々のモノだが、お前はまだ彼らの力の半分しか引き出せていない」

 

「なに?」

 

「レオ兄弟は、我が兄弟が育てた弟子達。その力の全てを引き出せるようになれば、お前はより強くなれるだろう」

 

「アンタ、一体何者だ・・・・?」

 

「・・・・・・・・ただの、死に損ないさ」

 

巨体の男が理巧を見下ろすと、一瞬その姿が変わった。

鍛えぬかれた山のような筋肉と、頭頂部に伸びた大きな角をした光の戦士にーーーー。

 

「あっ、あなたは・・・・!?」

 

「私の名はーーーー『ウルトラマンゴライアン』。お前を鍛えてやる、ウルトラマンベリアルの面影がある、新たな光の戦士よ・・・・!」

 

かつて、M-78・光の国から『宇宙警備隊』が生まれる前にいた。ウルトラ兄弟の他の兄弟達が、ウルトラマンジード、暁月理巧の前に現れた。




最後に出てきたウルトラマンは、真船一雄先生の『ウルトラマンSTORY 0』に出てくるウルトラマンです。

ー次回予告ー

ゼロが消えてしまった。だが、悲しみと悔しさに打ちひしがれる暇は俺達にはない。理巧は己の力を高める為に、残りの時間で修行に向かい。飛鳥達も自分にできる事をしている。
ゼロ。俺も信じているぞ! お前が必ず戻ってくる事をな!

次回、『閃乱ジード』

【運命を越えろ】

俺に限界はねぇ!


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運命を越えろ
終われないぜ、僕達


事実上、敗北したジードと仲間達、彼らは立ち上がれるのかっ!?


ー霧夜先生sideー

 

『シビルジャッジメンター ギャラクトロン』、『宇宙竜 ナース』、『宇宙ロボット キングジョー』が機能停止したのを見た霧夜先生と飛鳥達、近くの公演会場から騒がしい声が響き、全員がそっちに顔を向けると、会場から大勢の観客達が出てきた。

どうやら解放されたようだ。ホッとする一同の目の前に杖を付いた伏井出ケイが、黒い笑みを浮かべて現れた。

 

「物語をよりエキサイティングにする要素として、ヒーローには強い悪役が必要なんですよ・・・・」

 

「「「「「っっ・・・・!!」」」」」

 

「待てお前達、一目がある・・・・!」

 

伏井出ケイに敵意を向けて攻撃しようとする生徒達を霧夜先生が止めた。観客達が伏井出ケイに気づいて近づいてきたからだ。

 

「では、またいずれ・・・・」

 

見下した笑みを浮かべた伏井出ケイは、観客達の元へ歩を進め、その背中を憎々しげに睨む事しか、飛鳥達にはできなかった。

 

「っ・・・・ゼロ・・・・! 俺を助ける為に・・・・!!」

 

霧夜先生は、石となってしまったウルトラゼロアイNEOを辛そうに見つめた。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

それから二時間程の時間が経ち、理巧と合流した一同は基地に戻り、飛鳥と雲雀と斑鳩が理巧の治療を行い、柳生と葛城は取り敢えず買い置きのパンや飲み物をお盆に乗せて持ってくる。

空中ディスプレイでニュースを映すと、ナース、ギャラクトロン、キングジョーの周りをマスコミや自衛隊のヘリコプターが飛び回っている映像が映された。

 

《突如出現した3体の怪獣達は、ご覧の通り、現在を停止しており・・・・》

 

治療を終えた霧夜先生はレムに身体の検査をしてもらい、ディスプレイに表示された身体の状態をレムが報告した。

 

『霧夜先生の体内から、ウルトラマンゼロの反応は検出されません』

 

『それじゃ・・・・ゼロは、死んじゃったのっ?!』

 

『或いは、検知できない程、エネルギーが低下しているのかと思われます』

 

レムからの報告に、一同が渋面を作った。

 

「っ! アイツ・・・・!!」

 

柳生が険しい声をあげ、全員がディスプレイを見ると、伏井出ケイがニュースに出ていた。

 

《ファンの皆様には怪我をした人もなく、それだけが幸いでした。あの時、ウルトラマンが来てくれなかったからと思うと・・・・。彼こそヒーローです。ありがとう。本当にありがとう》

 

「っっっ!!!!!」

 

自分が怪獣達を呼び出し、さらにファンの人達を人質に取ってゼロを殺した張本人に、ファンの無事を喜んだり、ジードをヒーロー扱いしてお礼を言う伏井出ケイに、腹の底から煮え立つような怒りが込み上がり、葛城は持っていたお盆を伏井出ケイに投げつけるが、ディスプレイを通過して後ろの壁に当たり、お盆が割れてしまった。

が、当然そんな程度で葛城の怒りは収まるはずがない。

 

「あの野郎! ぶっ飛ばしてやるっ!!」

 

「葛姉ぇ! 待って!」

 

「付き合うぞ葛城・・・・!」

 

「柳生ちゃんまで!?」

 

憤懣が収まらない葛城が伏井出ケイの元に行こうとし、静かに怒りを滲ませた柳生が同行するが、飛鳥と雲雀が二人を止めた。

 

「止めんな飛鳥っ! あんなふざけた事を言われて、このまま泣き寝入りだなんてできっかよっ!!」

 

「それは! そう、だけど・・・・!」

 

「雲雀止めるな。オレはここまで虚仮にされて、黙っていられない・・・・!」

 

「柳生ちゃん!!」

 

「行って、どうするのですか?」

 

「なに?」

 

憤る葛城と柳生に、理巧の外した左肩に包帯を巻き終えた斑鳩が、努めて冷静な声色で口を開いた。

 

「まんまと罠に嵌まり、人質を取られ何もできず、むざむざゼロさんを消されてしまった。わたくし達に何が出きると言うのですか? それに、あの男がその気になれば、怪獣達が活動を開始してしまう恐れもあります。理巧くんが変身できないのに迂闊な事をするべきではありませんわ」

 

「良く冷静でいられるな斑鳩? お前悔しくないのかよっ!?」

 

「っ、悔しいに決まっているのでしょうっ!!!」

 

葛城の言葉に、斑鳩が怒りを吐き出すように声を発し、葛城だけでなく、飛鳥達も肩をビクッとさせた。

 

「ですが! 今、義憤に駆られて動いたとしても、ゼロさんが戻る訳ではありません・・・・! わたくし達は、敗北したのです・・・・。伏井出ケイ、ただ1人によって・・・・!」

 

「~~~~!! ちぃっ!」

 

「っ!」

 

「くっ・・・・!」

 

「うぅっ!」

 

斑鳩が絞り出すように発した言葉に、葛城は悔しそうに舌を打ち、飛鳥は息を呑み、柳生も渋面を作り、雲雀は目に涙を滲ませた。

以前、蛇女に敗北したが、あれは修業をすれば挽回できる敗北だった。

だが、今回はそれとは明らかに異質な敗北。自分達は何もできず、成り行きを見ている事しかできず、そしてジードは見逃され、ゼロは消された。

グウの音も、言い訳もできない完璧な、そしたあまりにも屈辱的な大敗。

ムードメーカーの葛城、ここ一番で皆を引っ張る飛鳥、リーダーである斑鳩、天才の柳生、癒しの雲雀、五人は未だ嘗て経験した事の無い敗北感にうちひしがれそうになった。

 

「・・・・確かに、僕達は敗けた」

 

だが、それまで黙っていた理巧が口を開くと、一同は理巧を見据える。

 

「だけど、このままじゃ終わらないし、終われない。ゼロが消されてしまっても、ヤツがーーーー伏井出ケイが召喚した怪獣達や融合獣の脅威が去った訳じゃないんだ。悲しむのも、悔しむのも、嘆くのも、後で幾らでもできる。今は、自分達にできる事をやるんだ」

 

理巧の緋色の双眸はまだ死んでおらず、強い光を宿し、決然としていた。

 

『理巧。それでどうするの?』

 

「強くなる。今の状態じゃ、新たな融合獣に勝てない。だから僕は、強くなる」

 

「当ては、あるのですか?」

 

「一応ね。おそらく怪獣達が活動を起こすのは、僕のインターバルが終えて変身可能となった時だ。その僅かな時間で、僕は出来る限り自分を鍛える」

 

立ち上がった理巧は転送エレベーターに乗り込む。

 

「っ! りっくん!」

 

「皆、伏井出ケイが何をしてくるか分からない、僕の特訓が終わるまで、頼むよ」

 

そう言って理巧はペガと共に転送エレベーターで地上へと向かった。

 

「・・・・・・・・今、自分にできる事をやる」

 

「確かに、アタイらもこのままじゃ終わらないよな?」

 

「ええ勿論。終われませんわ!」

 

「理巧が特訓を終えるまで、オレ達も出来る限りの事をする・・・・!」

 

「っっ、泣くのも、悔しむのも、後回しだよね!」

 

飛鳥が顔をあげると、葛城と斑鳩もお互いを見て笑みを浮かべ、柳生も冷静となり、雲雀も目の涙を拭ってフンッと気合いを込める。

 

「斑鳩さん、先ず何をすれば言いかな?」

 

「そうですわね。・・・・レム、街の監視カメラ等にアクセスできますか?」

 

『可能です。怪獣達との戦いで電線などが断線しましたが、予備電源に切り替わっているカメラにアクセスできます』

 

「では、そのカメラの映像から、伏井出ケイの所在を洗いましょう。彼が変身するような素振りを見せたとき、直ぐにわたくし達が捕縛します。皆さん、理巧くんが変身できるのは明日の午後14時。レムは映像で確認を、わたくし達はカメラに映っていない死角から、伏井出ケイの動きに目を光らせましょう!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「ああ!」

 

五人は新たに決意を固めると、迅速に動き出した。

 

「(さっきまで敗北感に呑まれそうになった全員の目に生気が戻った。理巧、お前は自覚していないだろうが、間違いなくお前は既に、この善忍クラスの柱になっているぞ)」

 

霧夜先生は静かに微笑むと、転送エレベーターが戻ってきて、エレベーターからペガが出てきた。

 

「ペガくん。理巧は?」

 

『山の方に向かった。特訓を始めるから、ペガは飛鳥達に協力してって頼まれたんだ』

 

「そうか・・・・」

 

『理巧から霧夜に伝言!』

 

「ん?」

 

『【ゼロはこれまで、確率の低い奇跡を引き起こしてきたのを過去のデータから分かっている。だからおじさん、その0<ゼロ>じゃない万分の一か、億分の一とも言える僅かな可能性を、信じてほしい】、だって!』

 

「・・・・・・・・」

 

「霧夜先生!」

 

「っ、お前達」

 

霧夜先生が理巧からの伝言に、黙っていると、飛鳥達が声を発する。

 

「ゼロさんはきっと戻ってくるよ!」

 

「根拠の無い言葉なのは重々分かっていますが・・・・」

 

「それでもさ! 先生も信じてくれよ!」

 

「確率は絶望的かも知れないがな・・・・」

 

「でも、雲雀達は信じるから! 先生も、ゼロさんが戻ってくるって信じて!」

 

「お前達・・・・」

 

霧夜先生は懐から、石となってしまったウルトラゼロアイNEOを取り出し、ジッと見つめた後、再びしまい、飛鳥達に指示を出した。

 

「・・・・俺はこれから、善忍上層部とAIBに、伏井出ケイが怪獣の黒幕、ならびにウルトラマンベリアルとな関係もある事を伝えてくる。お前達も、伏井出ケイを探すのは良いが、決して先走るな。ヤツは油断できる相手ではないようだからな」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

『うん!』

 

『了解しました』

 

飛鳥達とペガとレムの返事を聞いて、霧夜先生は頷くと、転送エレベーターに乗って地上へと向かった。

 

 

 

ー鷹丸sideー

 

「そうか、そっちは大丈夫なんだな。うん、うん、ああ分かった。やってみろよ」

 

ロボット怪獣達の監視をしていたAIBの職員であり、暁月理巧の育て親『戦部鷹丸』が、理巧との連絡を終えると、鷹丸の妻の『ハルカ』、『ナリカ』、『スバル』 の三人が近づく。

 

「理巧くんは、何と言ってましたか?」

 

「あぁ。理巧が少し怪我をしたが問題はないってさ。今は自分にできる事をやるって」

 

「敗北して、ゼロまでやられて、気落ちしてはいないようね?」

 

既にウルトラマンジードの正体が、我が子同然の理巧である事を知っている。

 

「まぁ、これで戦えなくなるようなヤワな子に育てたつもりはないがな」

 

「そうだな。・・・・それじゃ、息子が頑張っているなら、俺達も気合い入れないとな!」

 

「「「はい/うん/ああ」」」

 

理巧の親達は職務に専念した。後にやってくる霧夜先生から伏井出ケイの正体を知らされ、驚愕するのは少し先の事である。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・打てる手は打っておいた。残り時間は16時間。後は・・・・」

 

善忍の修業場にやって来た理巧は、スマホの電源を切ると、少し歩き、目の前に背を向けて鎮座する巨漢の老人を見据える。

 

「本当に、強くなれますか? ウルトラマンゴライアン?」

 

「それは、お前次第だ」

 

そこにいるのはかつて、『光の国』が『宇宙警備隊』を結成する前、ウルトラマン達が超人になって間もなくの頃の時代ーーーーウルトラ6兄弟と兄弟の絆を結んだ五人のウルトラマンの1人、『剛力の戦士・ウルトラマンゴライアン』と、本人から聞かされた。

 

「さて・・・・」

 

ゴライアンは懐から球体のカプセルを取り出し、それを起動させると、カプセルが開き、ソコから光が溢れた。

 

「っ!」

 

理巧とゴライアンを包み込んだ光が消えると、2人の姿が消えていた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・ここは?」

 

光に包まれた空間。だが、理巧とゴライアンはお互いの姿を視認できていた。

 

「ここは、ゼロが『シャイニングウルトラマンゼロ』に変身した時に使える『シャイニングフィールド』も模して、『ウルトラマンヒカリ』が開発した特殊フィールドだ。外の時間で15時間経っている頃には、こっちでは3ヶ月程の時間が経過する。本来ならば傷が癒えていないゼロを養生させる為の物だったのだが仕方ない。この3ヶ月の間にお前を鍛える」

 

ゴライアンの言葉に理巧は決意を込めて頷くと、ふと思った疑問点を話した。

 

「ゴライアン。レムのデータベースには、貴方の名前が無かった、それは何故だろうか?」

 

「・・・・『宇宙警備隊』が結成される前、『光の国』が壊滅寸前まで追い詰められた大戦が起こってな。他の兄弟達は戦死し、私自身もその大戦の『首謀者』と戦いーーーーこの通り、右膝が使い物にならなくなってな。それからは、戦死した兄弟達が安らかに眠れるように、墓守のような事をしていた。おそらくそのデータには、『宇宙警備隊』所属のウルトラマンのデータしか無かったのだろう」

 

「なるほど。・・・・貴方にとって、ウルトラマンベリアルはどんな奴だったんだ?」

 

ウルトラマンベリアルの事を聴くと、ゴライアンは悲しそうな目となり、ゆっくりと口を開いた。

 

「『ウルトラの父』が私達兄弟の親父ならば、ベリアルは私達の兄のような存在であった。粗野で口は悪かったが、強く、本当に強く頼れる、私達の兄貴だった。特に私は、彼が提唱する『力を持って宇宙の平和を成す』と言う考え方を完全に間違っているとは思わなかった」

 

それには理巧も一理あると思っていた。確かに力を使う事は危険性を伴うが、力なき正義はただの偽善とも考えているし、平和を維持するためには力は必要だとも思っている。

 

「しかし、その為に無益な殺生をするやり方には同意できなかった。だが、それでベリアルを孤立させてしまったのかもしれないな・・・・」

 

「ゴライアン・・・・」

 

「さて、話はここまでだ。少年よ、お前には私の持つ『剛力』だけではない、我が兄弟が編み出した『技』と、胸に宿した『心』を教える!」

 

「っ!」

 

理巧の目に奇妙な光景が映った。ゴライアンの背後に、四人のウルトラマンの影が見えたからだ。

 

「『氷結の剣士 ウルトラマンザージ』。『灼熱の戦士 ウルトラマンカラレス』。『次元の戦士 ウルトラマンフレア』。そして、『粉砕の拳闘士 ウルトラマンドリュー』。我が兄弟の心と技と力。お前に授けるっ!」

 

「・・・・はいっ!」

 

理巧は気合いを込めると、ゴライアンとの修業を開始したーーーー。

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

「・・・・っ」

 

霧夜先生は善忍上層部への報告を終え、怪獣達を遠くで見上げていると、苦虫を噛み潰したような渋面を作った。

上層部はこう言った。【伏井出ケイが怪獣騒動とウルトラマンベリアルと癒着している確固たる証拠が無い以上、伏井出ケイを調査する事はできない】と言われてしまった。自分達が目撃したと言っても、目撃情報ではなく、写真や映像等の情報でなくては証拠にならないと言われ、上層部は話を聞いてくれなかった。

霧夜先生は、今思えば『講演会の警備』だなんて忍務自体に、疑問点が浮かんできた。

 

「(上層部は理巧達だけでなく、俺も忍務にも参加するように指示を出していた。さらに警備員は全て異星人だった。あまりにも都合が良すぎる。・・・・まさか・・・・!)」

 

霧夜先生は『もしもの可能性』が頭に過ったが、すぐに頭を振るい、鷹丸達に連絡しようとしたが。

 

「少し宜しいですか?」

 

「ん?」

 

自分に話しかけてきた青年に、霧夜先生は訝しそうに見つめる。

 

「何でしょうか?」

 

「貴方に聞きたい事があるのです。ウルトラマンゼロの相棒」

 

「っ! お前は、何者だ?」

 

伏井出ケイの仲間と思った霧夜先生は一瞬で距離を取り、クナイを構える。が、青年は両手を上げて敵意が無いことを示した。

 

「申し遅れました。私の名は、『セリザワ・カズヤ』。貴方と同じ、ウルトラマンと融合した者です」




次回、セリザワ隊長との出会いが霧夜先生に何をもたらすのか?


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強くなるぜ、特訓

修業内容は少しはしょります。


ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生は、『セリザワ・カズヤ』と名乗った青年と、缶コーヒーを片手に公園のベンチに座っていた。

 

「セリザワ殿、こんな形で、貴方と出会うとは思いませんでした」

 

「俺もです。そして・・・・申し訳ありません。俺達が駆けつけた時には・・・・」

 

「いえ、・・・・ゼロは、消えたと思いますか?」

 

「・・・・私の住んでいた地球では、ゼロの父親、ウルトラセブンを初め、多くのウルトラ戦士達が地球の平和を守るために戦ってきてくれました。その戦いの中で、ウルトラマンが倒されてしまったり、敵対異星人に捕らわれたり、絶体絶命の窮地に立たされる事は少なくありませんでした」

 

「そう、なのですか・・・・」

 

「ですが、その都度、我々地球人が助けたり、ウルトラマンが奇跡を起こし、彼らは甦り、立ち上がり、そして、守ってくれました」

 

「・・・・・・・・」

 

「俺もまた、地球を守りたいと思い、防衛チームに志願しました。しかし、怪獣との戦いで命を落としかけましたが、あるウルトラマンに助けられ、九死に一生を得たのです」

 

語っていくセリザワの言葉を霧夜先生は漏らさず聞き入れた。

 

「そのウルトラマンは、とある怪獣に大切な人達を殺され、復讐鬼になってしまいました。ですが、私の地球を守りに来た『光の国のルーキー』や、私が目をかけていた部下や、その『ルーキー』を信じる少女達の呼び掛けで、俺は自分を取り戻し、そのウルトラマンも自分を取り戻しました」

 

「そうだったん、ですね・・・・」

 

「ウルトラマンは、例えどんな事になっても、信じる人達がいる限り、その想いを裏切らない、その人達の希望となる存在です。そしてそれは、貴方とゼロにも言える事です」

 

「・・・・私に、なれるでしょうか、『希望』に・・・・。かつて教え子を守れなかった私に・・・・」

 

教え子、凜の事を心配するあまり、試験最終日に、

“試練をクリアできなければ二度と忍になることが出来ない”。

と言う事情から、教え子の背中を狙う傀儡を裏で倒す手助けをしてしまい、その結果、『調子に乗ると油断してしまう』という弱点を抱えたまま上忍になってしまった凜は、『とある任務』で殉職してしまった。が、その時に道元に拾われ、鈴音先生として蛇女子学園の教師となったのだ。

 

「俺にできた事が、貴方にできない筈はない。貴方も俺と同じ、『ウルトラマン』なのだから」

 

「私も、『ウルトラマン』・・・・」

 

「この地球にも、ウルトラマンがいるのですね? それも、ベリアルの面影のあるウルトラマンが」

 

「はい・・・・」

 

「俺は彼がどんな人物で、何故ウルトラマンとなったのかは分かりません。ですが、彼がウルトラマンとなった事は、『運命』だったのだと思います。そして、俺がそうだったように、貴方も・・・・」

 

「・・・・・・・・(コクン)」

 

セリザワの言葉に、霧夜先生は力強く頷く。

 

「貴方は、ウルトラマンの力で、何をしたいのですか?」

 

「・・・・・・・・」

 

霧夜先生は懐からウルトラゼロアイNEOを取り出し、ジッと見つめる。

 

「守りたい・・・・! もう、失いたくない・・・・! ゼロよ、俺には、二万年早すぎると思うか?・・・・それでも、やってみたいんだ! 大切な、大切な教え子達を! 皆を守るって事を!!」

 

そう言って握る手を強くすると、ウルトラゼロアイNEOの中心が一瞬光ったのを確認したセリザワは立ち上がると、霧夜に『有るもの』を渡した。

 

「霧夜殿、これを」

 

「っ! これは・・・・!」

 

それを見た瞬間、霧夜先生は目を見開いた。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ぐあぁあああああああああっ!!」

 

特殊フィールドの中で修業していた理巧は、地面を何度もバウンドして転がると、漸く勢いが無くなり、地面に倒れる。

 

「ぐぅっ!! つぅっ!!」

 

飛鳥達が見たら驚くだろう。何故なら、蛇女の忍をたった一人で制圧した理巧が、全身がボロボロになり、肩で荒く息を吐き、ヨロヨロと立ち上がり、見るからに疲弊しているのだ。

 

『どうした? この程度で終わりか?』

 

理巧の眼前に現れたのは、登頂部に角が伸びたしなやかに鍛えられた身体をしたウルトラマン、『粉砕の拳闘士 ウルトラマンドリュー』だった。

ドリューの後ろには、ウルトラマンタロウのように大きな角をしたウルトラマン、『灼熱の戦士 ウルトラマンカラレス』。

プロテクターを着けた『氷結の剣士 ウルトラマンザージ』。

一番小柄なウルトラマン、『異次元の戦士 ウルトラマンフレア』。

そして一番の巨体をした『剛力の戦士 ウルトラマンゴライアン』が控えており、四人のさらに後方には、“鎮座した人間体のゴライアンが手に持つアイテムから光を放っていた”。

 

~10分前~

 

修業を開始する前に、杖を置いて片足で立った人間体のゴライアンが懐から、『ブレスレット』、『バッジ』、『メダル』、『剣』を取り出し、さらに自身も外套をあげると、『ベルト』を出した。

 

【それは・・・・?】

 

【かつて、私や亡き兄弟達が超人になる為に使ってきた道具。お前も変身する際に用いるだろう?】

 

【(『ジードライザー』のような物か・・・・)】

 

【今から、この道具の中にある私と兄弟達の『記憶』を呼び出す】

 

【記憶を・・・・?】

 

【そうだ。この道具に秘められし『戦いの記憶』を具現化させる。その『記憶』と戦うのだ】

 

【“『記憶』と、戦う”・・・・】

 

【『記憶』と思って甘く見るな。その具現化された『記憶』にいるのは本物と大差ない強さを持った物だ。並大抵の事ではあるまい。だが、私は口頭で説明するのは苦手でな。実戦でお前を鍛える】

 

【・・・・・・・・】

 

【怖じ気づいたか?】

 

ゴライアンの言葉に、理巧は決然と答える。

 

【いえ、やって下さい】

 

【良かろう・・・・ぬぅん!】

 

ゴライアンが力を込めると、全身から光のエネルギーが迸るとアイテムが光輝きーーーーソコから、光の玉が飛び出し、五人のウルトラマンへとその形を変えた。

 

【(っ! 彼らが、歴史の裏に隠されたウルトラ戦士達・・・・!)】

 

五人から発せられる『強者の気配』が理巧を嫌が応にも身構えさせた。

 

【少年。君は、ウルトラマンのようだな】

 

【私達を呼び出した言うことは、私達に鍛えてもらいたいのか?】

 

【へぇ、良い面構えしてんじゃねぇか】

 

【んじゃ、誰がこのルーキーを鍛える?】

 

【・・・・私が行こう】

 

ドリューが前に出て理巧と対峙し、組手を始めた。

 

 

~現在~

 

 

そして組手をしていると、その技の威力に理巧は何度も地面に膝処か、全身を叩きつけられた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・!」

 

理巧はドリューの拳に押されてしまっていた。

 

「(なんて威力なんだ・・・・! 徒手空拳なら大道寺先輩と同じだけど、威力が桁違いだ・・・・!)」

 

『(フム。確かに才も素質も備えてある。自己鍛練も行っているようだ。だが・・・・)少年。お前はこれをただの訓練と思っているのではないか?』

 

「っ!」

 

ドリューの言葉に、理巧は息を詰まらせた。それを肯定と取ったドリューが、さらに言葉を紡ぐ。

 

『確かに才はある。それもかなり上物のな。だが、お前は心構えが半人前だ』

 

「心構え・・・・?」

 

『『常在戦場』。常に己は戦地にいると心に構えよ。己が死に体と思えば、相手が如何なる技を用いていても、心静かに対処できる・・・・。お前はその心構えを感覚として、既に知っている節が見える』

 

「っ!」

 

更なる言葉に、理巧は息を呑んだ。確かに、己を死に体として扱う術を理巧は知っている。

かつて自分は、他人の命にも、自分の命にもまるで執着せず、いつ死んでも良いような考えで、『凄絶な地獄の中』にいた。

 

「(・・・・そうか、あの感覚だ。鷹丸さん達に拾われて、生きる事に執着するようになってから忘れていた感覚・・・・!)」

 

理巧は瞑目すると、ドリューも構えをしたまま待つ。ゴライアン達も、静かに見守っていた。

 

「・・・・・・・・」

 

ソッと目を開いたら理巧は構え、ドリューも改めて気を引き締めると、二人はダッと駆け出し、飛び蹴りを繰り出した。

 

『イヤァアアアアアアアアアアッ!!』

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

ドリューと理巧の蹴りがぶつかり合うと、先ほどと違い、理巧は吹き飛ばされず、空中でドリューの蹴撃と拮抗していた。

 

『ヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

拮抗したパワーが、バチバチっ、と火花を散らせていると、ついにそのパワーが小さな閃光を起こし、ドリューと理巧が呑まれた。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

光が収まると、二人は背中を向けて静かに佇んでいた。

 

「ぐぅぁあっ!!!」

 

理巧は片膝を地面に付いて、痛みを堪えるような声を漏らす。その理巧に、ドリューは背中越しから声を発する。

 

『・・・・・・・・『常在戦場』。常に己は戦地にいる事を忘れるな、若き光の戦士よ。・・・・グハッ!』

 

ドリューは片膝を付かず、そのまま倒れた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・ありがとう、ございました、ウルトラマン、ドリュー・・・・!」

 

荒い呼吸をしながら、理巧は静かに倒れ、気を失った。

 

 

 

ーゴライアンsideー

 

『どう見る。この新入り?』

 

『まだ荒削りな部分はあるが、良い素質を持っている』

 

『ドリューと相討ちまで持ち込んだんだ。十分合格点をあげてもいいんじゃないか?』

 

ゴライアンとカラレスとフレアが、ドリューを相手に相討ちにまで行った理巧を称賛した。

 

『・・・・・・・・』

 

『ザージ?』

 

倒れた理巧に近づくのは、ウルトラセブンのようなプロテクターをつけた『氷結の剣士 ウルトラマンザージ』であった。

 

『・・・・皆、この少年の次の修行、私にやらせてくれ』

 

『ほお、光の国随一の剣士のザージの目にも止まるなんて、よっぽどの奴なんだな!』

 

『それでは、ザージの次は私が鍛えよう』

 

 

 

 

それから、目を覚ました理巧は、ザージ。カラレス。フレア。そしてゴライアンに鍛えられた。

ザージにてーーーー。

 

『『加速<リモート>』』

 

「くっ・・・・!(斑鳩姉さん、いや、ナリカさんよりも速い!)」

 

両手に氷の刀を携え、幾つもの残像を見せながら加速するザージを相手に、理巧はザージから貰った氷の剣を持って挑む。

カラレスにてーーーー。

 

『星の声に耳を傾けよ。我らの力は使い方を誤れば恐ろしい結果を生む。何故この力を持ったのか、何のために使うのか、星の生命を感じ、学ぶのだ』

 

「・・・・・・・・」

 

瞑想する理巧に、カラレスが星の声を、生命を感じる訓練をした。

フレアにてーーーー。

 

『俺の動き! 見極めて見ろよっ!』

 

「ぐっ! あっ! がはっ! ぬぅあっ!!」

 

身体の一部を光の粒子に変えた遠距離から攻撃する異次元戦法に苦戦した。

ゴライアンにもーーーー。

 

『フンッ!!!』

 

「ぐぁああああああああああああっ!!!」

 

ゴライアンの圧倒的なパワーによって、理巧は吹き飛ばされる。

 

『良いかボウズ。ただ振り回すだけの力は暴力と変わらねえ。それを忘れるな』

 

「は、はい・・・・!!」

 

光の戦士達との修行。特殊フィールドの中では既に2ヶ月半以上の時が流れたーーーー。

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

そして、、外の世界では既に理巧の再変身まで後一時間を切った頃。

無人の広場で伏井出ケイは、ギャラクトロン。ナース。キングジョーを遠くから見上げていた。

 

「さぁ、次の段階へ・・・・ん?」

 

伏井出ケイが背後に気配を感じて振り向くと、飛鳥。斑鳩。葛城。柳生。雲雀が駆けつけた。

 

「おやおや、半蔵学院のお嬢さん方。良くここが分かりましたね?」

 

「伏井出、ケイ・・・・!」

 

「あなたが現れるのは予想できました。町中の監視カメラにアクセスし、カメラに映らず、怪獣達の様子を見れる場所を絞って、調査したのです・・・・!」

 

「これ以上、好き勝手にさせん」

 

「絶対に、止めるもん!」

 

葛城と斑鳩、柳生と雲雀が鋭い視線で伏井出ケイを睨むが、飛鳥が前に出て声を発する。

 

「伏井出ケイ、さん・・・・。貴方はどうして、こんな事をするの? こんな事をして、一体何になるって言うの?」

 

飛鳥はここまで来てまだ、伏井出ケイと対話をしようとする。仲間達は飛鳥の性格を理解しているので、静かに見守る。

 

「・・・・・・・・」

 

伏井出ケイは少し黙ると、口をゆっくりと開き、まるで宣言者のように両手を広げる。

 

「貴女は、宇宙の広大さを知っていますか?」

 

「えっ・・・・?」

 

「宇宙がどれ程広いのか、どれ程大きいのか、どれ程深いのか、知っていますか? 考えた事がありますか?」

 

「え、えっと・・・・」

 

「考えた事が無いでしょう。所詮無限とも言える宇宙の中の、ちっぽけな星のちっぽけな島国で、“下らない忍者ごっこ遊び”をしている程度で満足している“劣等な存在”には、決して理解できないでしょうねぇ」

 

「(ピクッ)“下らない、忍者ごっこ”・・・・!?」

 

自分達の目指す『忍』を侮辱された事に、飛鳥達を瞳に、怒りが宿る。

 

「おや、怒りましたか?・・・・まぁ、この崇高な考えを、月よりも先の星に行った事のない低次元な貴女方に理解できないのは当然とも言えるでしょう。まぁ、そんな貴女方でも、多少の役には立ってくれましたけどね。例えば、タイラントの『怪獣カプセル』をつくりだす事とか」

 

タイラントの怪獣カプセル。それを聞いて、飛鳥達は肩を揺らす。

 

「タイラントの、カプセル・・・・?」

 

「そう、『暴君怪獣 タイラント』のカプセルを造り出すのには、その素材となった7体の怪獣が必要。『コピークリスタル』は疑似生命体として怪獣を生み出す事ができ、ウルトラマンジードがその怪獣を倒すことで、疑似とは言え、その怪獣達が恐怖を、憎悪を、怒りを、それらにより、より強力で、より強大な力を宿す暴君怪獣を生み出す事ができました。そして私がそのエネルギーから、『怪獣カプセル』を造り出したのです」

 

「ではまさか! お兄様に『コピークリスタル』を渡したのも、蛇女子学園の道元と手を組み、カプセルとクリスタルを渡したのも!」

 

「ええ。全ては、“『コピークリスタル』の実験と暴君怪獣を作り出す為”だったんですよ。あのような『出来損ない<村雨>』や、分不相応の野心を抱いた『愚か者<道元>』。社会から爪弾きにされた『負け犬達<焔達>』ごときが、この崇高な使命に協力できた。寧ろ感謝されても良いくらいですよ!・・・・ふふふふ、ははははははははははははははははははははっ!! あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」

 

高笑いをあげる伏井出ケイに、飛鳥達は拳をきつく握り締め、『忍転身』をしようとしたその瞬間、

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

伏井出ケイの背後から襲い掛かる、“五人の少女達”が現れた。

それはーーーー。

 

「焔ちゃんっ!」

 

「詠さんっ!」

 

「日影っ!」

 

「未来っ!」

 

「春花さんっ!」

 

「「「「「ぶっ潰すっ!!」」」」」

 

怒りが宿った瞳をした『焔紅蓮隊』が、伏井出ケイにそれぞれの得物を叩きつけた。

 

ドゴォオオオオオオオオオンンッ!!

 

五人の攻撃を回避した伏井出ケイは指を鳴らした。

 

「では、始めましょうかっ!」

 

パチンッ!

 

ーーーーギュゥオンッ!

 

『ピギュゥゥゥッ!!』

 

『グワン! グワン!』

 

『キュォォォンッ!!』

 

ナース。キングジョー。ギャラクトロンが再び起動した。




次回、ジードのリベンジと・・・・。


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甦れ、ゼロ!

ゼロが復活し、新たな力を手にする!


ー理巧sideー

 

飛鳥達が伏井出ケイを発見したのとほぼ同時刻。

特殊フィールドが消えると、服やらがボロボロになっているが、その瞳には苦難を乗り越えた強い意志が宿った理巧を、ウルトラマンゴライアン達が見据える。

 

『これで、我々の訓練は終わりだ。若き光の戦士、お前の名は?』

 

「暁月理巧・・・・ウルトラマンジード、です」

 

『常在戦場。これを心掛けよ』

 

『我々の力は使い方を誤れば災いとなる。これを忘れるな』

 

『星に生きる生命を感じ、それらを護る為に戦え』

 

『お前の力は、強さは、その為に有るんだからな』

 

『お前は一人じゃねえ、それを忘れるなよ』

 

『『『『『行け、ウルトラマンジード! 我らの新たな兄弟よッ!!』』』』』

 

五人の光の戦士達は粒子となって、ずっと後方で座禅していたゴライアンの持つ、アイテムへと戻っていった。

 

「・・・・・・・・ふぅ~」

 

「ゴライアン」

 

「これで、我が兄弟達の心と力を、お前に託した」

 

「はい」

 

「暁月理巧」

 

「っ」

 

始めて理巧の名を呼ぶゴライアン。

 

「お前は一人ではない。人も、ウルトラマンも、皆一人では生きていけない。だからこそ、仲間や兄弟や大切な人達との繋がりが、己を強くし、己を動かすのだ」

 

「・・・・・・・・」

 

「お前にもあるだろう。大切な人達が、仲間が、その人達との繋がりが・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は目を閉じると瞼の裏に、鷹丸にハルカ、ナリカとスバルがいた。昔はこの人達だけで良かった。だが、今自分には多くの仲間達の姿が映った。

焔が。詠が。日影が。未来が。春花が。鈴音先生が。大道寺先輩が。斑鳩が。葛城が。柳生が。雲雀が。半蔵が。ペガが。霧夜先生が。ゼロが。そしてーーーー飛鳥がいた。

理巧は、その人達と目に見えないが、しかし確かに存在する繋がりーーーー絆があった。

 

「はい・・・・!」

 

「うむっ!」

 

理巧の迷いない言葉に満足気に頷くゴライアン。だが、二人は遠くから感じた邪悪の気配を察知する。

 

「どうやら動き出したようだな」

 

「ええ。手は打っておきました。後は、僕とおじさんと、ゼロ次第だと思います」

 

「うむ。では行け! 光の戦士、ウルトラマンジード!」

 

「はいっ! ジーッとしてても、ドーにもならない!!」

 

[フュージョンライズ!]

 

「決めるぜ! 覚悟!! ジィィィィィィィド!!」

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

走り出した理巧は、ウルトラマンジードに変身して、空を飛んだ。

 

「若者が飛ぶ。お前も遅れる訳にはいかんぞ、ゼロよ・・・・」

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「焔ちゃん! 蛇女のみんな! 一体どうして!?」

 

「久しぶりだな飛鳥。言っておくが、私達は蛇女子学園を離れてな。今や『抜け忍』となったんだ」

 

「「「「「『抜け忍』っ!?」」」」」

 

「これからは、『焔紅蓮隊』と名乗らせて貰う。そしてここにいる理由は、夏休みに入ってすぐに理巧と出会ってな。私達蛇女を裏で操っていた黒幕の捜索に、手を貸してやっていたのさ」

 

「まさか、著名な小説家さんが黒幕だったなんて・・・・」

 

「誰も思い付かんなぁ」

 

「さっきの話は全部聞かせて貰ったわよっ!」

 

「覚悟は決めてるわよね?」

 

瞳に物騒な輝きを放つ焔紅蓮隊。

 

「くっくっくっ。分かっていませんね。ここでも私の部下達が目を光らせていますよ? 下手な真似をすれば・・・・」

 

「確かに、その通りですわね」

 

著名な小説家。それも昨日テレビで怪獣騒動に出くわした人間に女子高生が危害を与えれた。マスコミが喜びそうなネタである。

だが、飛鳥達も同じ轍は踏まない。

 

「だから、とっくに対処させて貰いましたわ!」

 

斑鳩が指差すと、気を失って拘束された異星人達の縄をペガが握って手を振っていた。

 

『へっへ~!』

 

「なるほど、既に捕まえていたのですか・・・・」

 

「それに、ちゃんと来てくれるヒーローがいるんだよっ! 」

 

『シュゥワッ!!』

 

『グワンッ!』

 

ウルトラマンジードが、キングジョーに蹴りを叩き込んで横に倒した。

 

『シャッ!』

 

「ほお、ウルトラマンジードですか。しかし、彼はあの怪獣達に敗北したのでは?」

 

「・・・・りっくんを、ウルトラマンジードを、甘く見ないでっ!」

 

 

 

ージードsideー

 

『「リベンジと行くか・・・・!」』

 

理巧はカプセルホルダーから、『ウルトラマンレオカプセル』のスイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

ィヤーッ!

 

カプセルから『ウルトラマンレオ』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

カプセルホルダーから『アストラカプセル』を起動させ、『アストラ』の姿が出現した。

 

ヤー!

 

『アストラカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、赤と青の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「滾るぜ、闘魂!! ハァア・・・・っ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマンレオ! アストラ! ウルトラマンジード!! リーオーバーフィスト!!]

 

『イヤァーッ!』

 

前回敗北したリーオーバーフィストに変身したジードに、キングジョーは4体の宇宙船に分離し、ジードを中心に取り囲むように回ると、光線で攻撃する。

がーーーー。

 

『「(葛姐さん、少し技を借りる・・・・・・・・常在、戦場!)」』

 

ジードは取り囲んだキングジョーの宇宙船の光線が当たる寸前、身を低くして回避すると、その場でエアートラックスをするように回転し、竜巻を巻き起こした。

 

『はぁああああああっっ!!!』

 

ジードの起こした竜巻に呑み込まれた宇宙船達はその気流に流され、ひとまとめにされるとジードが足に炎を燃え上がらせ、地上から回転しながら必殺の蹴撃を叩き込む。

 

『『スクリューオーバーキック』!!』

 

ーーーードガァアアアアアアアアアンンッ!!

 

ひとまとめにされた宇宙船を貫通し、粉砕した。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「あれって、アタイの『秘伝忍法 トルネードシュピンデル』!?」

 

「それを応用した技のようですね。以前も焔さんと日影さんの秘伝忍法を応用したりしましたが・・・・」

 

「理巧さん。技のコピーがえらい上手いなぁ」

 

「この短期間で、動きや技のキレが増している・・・・!」

 

「アイツ、どんな特訓してきたのよ?」

 

全員が理巧の新たな成長に驚いていた。

 

「なるほど。確かに成長したようですね」

 

伏井出ケイは無表情でそう呟いた。

 

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

霧夜先生はセリザワと共に、融合獣とロボット怪獣達と戦うジードを見つめる。

 

「ゼロ、見てるか? 理巧はさらに強くなった。家族以外はどうなろうと知った事じゃないと言っていたアイツが、家族以外の為に強くなった。ウルトラマンの後輩が頑張っているんだぞ。いつまで眠っているつもりだっ! ウルトラマンゼロっ!!」

 

霧夜先生は、ウルトラゼロアイNEOを握り締めながら、ゼロに向かって叫んだ。

すると、ウルトラゼロアイNEOの中心の宝石が光輝きーーーー。

 

≪流石は俺の相棒。中々パンチの効いた起こし方だな・・・・!≫

 

「ゼロ!」

 

「戻ったか」

 

≪世話をかけたな、セリザワ。いや、『ヒカリ』≫

 

「あぁ。行ってこい!」

 

≪あぁ、行くぜ、霧夜・・・・!≫

 

「ああ!」

 

霧夜先生はウルトラゼロアイNEOを目に当て、スイッチを押した。

 

「シャッ!!」

 

すると、霧夜先生の身体が光り輝き、ウルトラマンゼロへと変身した。

 

『シュァッ!』

 

ゼロはジードと交戦していたギャラクトロンを蹴り飛ばし、ジードの近くに着地した。

 

『俺はゼロ。ウルトラマンゼロだっ!!』

 

『「ゼロ・・・・!」』

 

ジードがゼロに駆け寄る。

 

『「随分と、遅い登場だね?」』

 

『へっ、良く言うだろ? 主役は遅れてやってくるってな!』

 

『「ふっ・・・・それじゃ遅れた分、活躍してもらうよ!」』

 

『ったり前だっ!!』

 

『「よし行くぞ!」』

 

二人は構えると、ギャラクトロンとナースに向かった。

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「ゼロさんっ!」

 

「やったぁ! ゼロさんが復活した!」

 

「ふっ・・・・」

 

「よっしゃぁ!」

 

「ええ!」

 

「まさか甦ってくるとはな・・・・!」

 

「理巧様から聞いたときは、駄目かと思っていたけど」

 

「ホント、しぶといわよね♪」

 

「の、ようやな」

 

「後は、この殿方を捕縛すれば終わりですわっ!」

 

「「「「「『忍転身』!!」」」」」

 

飛鳥達が忍転身すると、焔達と並んで武器を伏井出ケイに向けて構えた。

が、伏井出ケイは余裕の態度を崩さず、笑みを浮かべて忍達に向けて口を開いた。

 

「絶体絶命、ですね。・・・・しかし、1つ確認しておきたいのですが・・・・皆さん。どうして、ここにいるのがーーーー“伏井出ケイだと思ったのですか?”」

 

『えっ!?』

 

一同が肩を揺らすと、“伏井出ケイ”は身体を震わせながら笑い声をあげる。

 

「はははははーーーーハハハハハハハハハ!!!』

 

なんと、伏井出ケイの姿が、『ザラブ星人』へと変わった。

 

「「「「「ザ、ザラブ星人っ!?」」」」」

 

「なにぃっ!?」

 

「まさか!」

 

「やられたわね・・・・!」

 

「偽者やったんか」

 

「それじゃ、本物は何処よっ!?」

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

そしてここは、ジード達の戦いが一望できるビルの屋上にあるカフェテラス。

そこで客もスタッフもいない無人の場所で、椅子に腰掛けテーブルに置いた紅茶を優雅に飲みながら、伏井出ケイが観戦し、歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「良いですねえ! こんなに楽しめるゲーム、いまだかつて無かった!・・・・では、こちらも」

 

伏井出ケイはギャラクトロンのウルトラカプセルを起動させると、装填ナックルに入れてライザーに読み込ませた。

 

[ギャラクトロン!]

 

音声が鳴ると、ライザーを天にかざし、光が空に吸いまれると魔法陣が展開され、新たなギャラクトロンが現れる。

 

「さらに・・・・!」

 

伏井出ケイは、新たな重厚なロボット怪獣が描かれた『怪獣カプセル』を取り出し、装填ナックルにいれ、ライザーに読み込ませた。

 

[インペライザー!]

 

「はぁっ!」

 

新たなギャラクトロン、ギャラクトロン2の近くに、ライザーから発射された光から新たな魔法陣が展開され、そこから重厚なロボット怪獣が現れた。

『無双鉄神 インペライザー』だ。

 

 

ージードsideー

 

『キュォォォォン!』

 

『ーーーーーーーー』

 

ギャラクトロン2が『ギャラクトロンスパーク』を、インペライザーは駆動音を響かせながら、両肩のビーム砲『ガンポート』を放つと、ゼロとジードに当たった。

 

『危ねえ!』

 

『おっとぉ!』

 

突然の攻撃にジードとゼロは回避すると、ギャラクトロン2とインペライザーが降り立った。

 

『こっちは任せたぜ!』

 

『「そっちは任せる」』

 

ゼロはギャラクトロン2とインペライザーに向かい、ジードはギャラクトロンとナースに向かう。

 

 

 

 

ーセリザワsideー

 

「っ・・・・!!」

 

セリザワは拳を握った右腕を胸の前にかざすと、変身アイテム『ナイトブレス』が出現し、左手に持った『ナイトブレード』をブレスに差し込むと、ナイトブレスから放たれる青い光に包まれ、セリザワの姿が光の巨人へと変身した。

 

『シュッ!』

 

巨人は飛び出して、ナイトブレスから現れる光の剣『ナイトビームブレード』で、ギャラクトロン2とインペライザーを斬り、二体の攻撃を止めた。

 

『シュアッ!!』

 

ジードとゼロの前に立つその光の巨人こそ、知性のウルトラマン、『ウルトラマンヒカリ』だった。

 

『ヒカリっ!』

 

『「セリザワ殿っ!」』

 

『「あっ・・・・」』

 

『・・・・・・・・』

 

ヒカリはジードを一瞥すると、ゆっくりと声を発する。

 

『共に戦おう、ウルトラマンジード』

 

『「っ!・・・・はい!」』

 

ヒカリはインペライザーと戦い、ジードは体術を用いてギャラクトロンとナースと戦い、ゼロはギャラクトロン2のブレードを受けて、ビルを砕いて倒れる。

 

『うわっ! あぁ!!』

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「あ、あのウルトラマンって!」

 

「ウルトラマン、ヒカリ・・・・!」

 

飛鳥達も(ヒカリのリトルスターだった斑鳩は特に)、ウルトラマンヒカリの登場に驚きを隠せなかった。

 

『これは少々マズイですねぇ。では・・・・』

 

ザラブ星人はそう言うと、瞬間移動でペガの隣に現れた。

 

『うわっ!!』

 

『邪魔ですよ坊や!』

 

ザラブ星人は、飛鳥達の方にペガ投げ飛ばす。

 

『うわぁあああああああああ!!』

 

『ペガ(君)!!』

 

飛鳥達が受け止めると、焔達がザラブ星人を逃がすまいと駆け出す。がーーーー。

 

『では、皆さん。ご機嫌よう』

 

ザラブ星人はそのまま捕まった仲間達と共に、焔達の間合いに入るギリギリで転送され、その場から消えてしまった。

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「・・・・宇宙警備隊のブルー族ですか。余計なゲストにはご退場願いましょう」

 

立ち上がった伏井出ケイは、身体からドス黒いオーラを放ち、ジードライザーを取り出すと、ゴモラの『怪獣カプセル』を起動させる。

「ゴモラ!」

 

キシャアァァァァァ!!

 

『ゴモラカプセル』を装填ナックルに入れる。

 

「タイラント!」 

 

ヒャアァァァァァァッ!!

 

『タイラントカプセル』を起動させ、ナックルに装填しライザーのスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

ライザーでナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが目映く発光して、音声が流れる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「ハァアアアアアア・・・・ハァアッ!!」

 

ライザーを胸元に持って、起動スイッチを押した。

 

[ゴモラ! タイラント! ウルトラマンべリアル! ストロング・ゴモラント!!]

 

伏井出ケイの姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『ゴモラ』と『タイラント』の姿が現れると、2体は黄色と灰色の粒子となってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルの姿がストロング・ゴモラントへと変貌した。

 

『キヒャァァァァァァッ!!』

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『『『「「っ!!」」』』』

 

ウルトラマン達が4体のロボット怪獣と戦っていると、さらにストロング・ゴモラントが現れた。

 

『「伏井出、ケイ・・・・!」』

 

『やっぱり現れやがったか!』

 

『この者が、私の造ったライザーとカプセルを盗んだ犯人か・・・・!』

 

『「・・・・レム。そっちにいる伏井出ケイは?」』

 

≪ザラブ星人が変身した偽者のようです。既に逃走しました≫

 

『「そうか・・・・」』

 

ジードは構え、ヒカリはゼロに話しかける。

 

『ゼロ。今こそ、君の“新たな力”を使う時だ! 霧夜殿!』

 

『「うむ!」』

 

ゼロのインナースペースにいる霧夜先生は、懐から取り出したのはーーーージードライザーと装填ナックルだった。

 

『それは・・・・!』

 

『『ニュージェネレーションカプセル』。ゼロ専用のパワーアップアイテムだ! 君に力を授けるため、後輩達が力を貸してくれたのだ』

 

さらに霧夜先生の懐から、

『遥か未来の戦士 ウルトラマンギンガのカプセル』。

『地底世界の勇者 ウルトラマンビクトリーのカプセル』。

『電子の勇者 ウルトラマンエックスのカプセル』。

『さすらいの風来坊 ウルトラマンオーブ オーブオリジンのカプセル』が飛び出し、カプセルから四人の若者達の幻影が現れた。

 

『っ! 輝・・・・! ジーク・・・・! 士道・・・・! ガイト・・・・!』

 

ウルトラマンギンガと共に戦う『希堂 輝』。

ウルトラマンビクトリーとなって戦う地底人『ビクトリアン・ジーク』。

ウルトラマンエックスと共に戦う『五河 士道』

ウルトラマンオーブとして戦うO-50の戦士『ツルギ・ガイト』。

 

《ゼロ。負けるなよ》

 

《お前なら、大丈夫だろう》

 

《諦めるなんて、2万年早いぜ!》

 

《ゼロさん。俺達後輩の力、お貸しします!》

 

『さぁ行け!』

 

後輩達とヒカリの言葉に、ゼロはインナースペースに具現化し、霧夜先生と視線を合わせる。

 

『(コクン!) 行くぞ霧夜!』

 

「(コクン!) 応っ!!」

 

二人は頷くと身体を1つにし、ジードライザーを後輩達の幻影がカプセルに戻ると、『ギンガカプセル』を起動させる。

 

『「ギンガっ!」』

 

ショオラッ!

 

空色の光が幾つも現れ、『ウルトラマンギンガ』の姿が現れ、『ギンガカプセル』をナックルに装填すると、『オーブ オーブオリジンカプセル』を起動させた。

 

『「オーブっ!」』

 

デュワッ!

 

白い光が幾つも現れ、『ウルトラマンオーブ オーブオリジン』の姿となった。

ジードライザーでナックルのカプセルを読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーのスイッチを押すと、空色と白の光が混ざり合った粒子が、ウルトラカプセルへと変化した。

 

[ウルトラマンギンガ! ウルトラマンオーブ オーブオリジン! ニュージェネレーションカプセル・アルファ!]

 

ウルトラマンギンガとウルトラマンオーブ オーブオリジンが向き合い、中心に二人のマークが描かれたカプセル『ニュージェネレーションカプセル・α』。

 

『「ビクトリーっ!」』

 

テアッ!

 

『ビクトリーカプセル』を起動させると、黄色の光が幾つも現れ『ウルトラマンビクトリー』となりナックルに装填する。

 

『「エックスっ!」』

 

イィィィーッ! サァァァーッ!

 

最後に『エックスカプセル』を起動させると、緑色の光が幾つも現れ、『ウルトラマンエックス』となりナックルに装填した。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーのスイッチを押すと、黄色と緑色の光が混ざり合った粒子が、ウルトラカプセルへと変化した。

 

[ウルトラマンビクトリー! ウルトラマンエックス! ニュージェネレーションカプセル・β!]

 

ウルトラマンビクトリーとウルトラマンエックスが向き合い、中心に二人のマークが描かれたカプセル『ニュージェネレーションカプセル・β』。

ウルトラゼロアイNEOとジードライザーを合体させると、『ニュージェネレーションカプセル・α』を起動させた。

 

『「ギンガ! オーブ!」』

 

ショオラッ!

 

デュワッ!

 

ギンガとオーブオリジンが向き合うように現れた。

次に『ニュージェネレーションカプセル・β』を起動させる。

 

『「ビクトリー! エックス!」』

 

テアッ!

 

イィィィーッ! サァァァーッ!

 

ビクトリーとエックスが向き合うように現れる。

そして、『α』と『β』の『ニュージェネレーションカプセル』をナックルに装填し、ライザーで読み込んだ。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

 

『「俺に限界はねぇっ! ハアァッ!!」』

 

霧夜先生(inゼロ)は、合体させたジードライザーをウルトラゼロアイNEOで変身するように眼前に持っていき、

 

[ニュージェネレーションカプセル! α! β!]

 

ウルトラマンゼロの姿が、新たな姿へと変わっていくーーーー。

 

[ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

『ハァアアッ!!』

 

銀を基調とした紫の体色。両肩に銀の突起をつけ、胸のカラータイマーの回りにカプセルのような水晶を付け、頭部のスラッガーが四本以上なり、頭部のビームランプも大型になり三つとなった。

 

『俺はゼロ・・・・。ウルトラマンゼロビヨンドだ』

 

若きウルトラ戦士達の力を受け、『最強の戦士』は限界を『ビヨンド<超越>』した。

 



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限界超越 ゼロビヨンド

ー飛鳥sideー

 

「ゼ、ゼロさんが・・・・!」

 

「新たな姿、パワーアップしたのかっ!?」

 

飛鳥達も、焔達も、顔を驚愕に染めながら、『ウルトラマンゼロビヨンド』を見つめた。

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

『「・・・・!!!」』

 

ストロング・ゴモラントに変身した伏井出ケイは、新たな姿となったゼロを身体をワナワナと震わせながら、不愉快そうに、不快そうに、忌々しそうに睨んでいた。

 

 

 

ーゼロsideー

 

『「凄いな、ゼロ」』

 

『見事だ』

 

ゼロビヨンドの左右に並んだジードとヒカリを、ゼロビヨンドが声を発する。

 

『ジード。ヒカリ。行くぜ!』

 

『「ああ!」』

 

『うむ』

 

『ピギュァアアアアアア!!』

 

ナースが円盤形態となって、上空から攻撃しようとする。

 

『奴は任せろ! シュァッ!』

 

ヒカリがナースを追って飛び上がり、ジードはギャラクトロンとストロング・ゴモラントを。ゼロビヨンドはギャラクトロン2とインペライザーを見据える。

 

『シャァ!』

 

『イヤー!』

 

『『キュォォォンン!!』』

 

『ーーーーーーーー!!』

 

『キヒャァァァァァァ!!』

 

アスファルトを踏み砕きながら駆け出した二人は、4体の怪獣と交戦した。

 

 

 

ーヒカリsideー

 

『ハァッ!』

 

ヒカリが『ナイトビームブレード』を展開し、光刃を発射する『ブレードショット』をナースに放った。

 

『ピギュゥゥゥゥゥ!!』

 

ナースは円盤形態のまま破壊光線を放ち、ヒカリを寄せ付けないようにする。

 

『フッ! グゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ヌゥワッ!!』

 

破壊光線をブレードで防ぐが、後方に吹き飛ぶ。

 

『ピギュゥゥゥゥッ!!』

 

ナースが勢いを着けて、とぐろをほどいてヒカリに向かって口を開けると、

 

『っ! シュァアアアアアアアアアアアッ!』

 

ヒカリはナースの口をギリギリで回避すると、『ナイトビームブレード』で、ナースの口から胴体、そして尻尾の先まで切り裂き。

 

ーーーーバチバチ、ドガァアアアアンッ!!

 

ナースの身体が爆散するのを見ると、そのまま急降下し、ブレードでストロング・ゴモラントを切る。

 

『キヒャァアアア!!』

 

『ヒカリ!』

 

『うむ!』

 

ジードはヒカリと協力して、ストロング・ゴモラントとギャラクトロンと戦う。

 

 

 

ーゼロsideー

 

ギャラクトロン2とインペライザーと戦っていたゼロビヨンドは、頭部から4つの光のスラッガーを飛ばし、ギャラクトロンとギャラクトロン2、インペライザーとストロング・ゴモラントを切り裂く。

 

『『クワトロスラッガー』!』

 

『『キュォォォンン!!』』

 

『ーーーーーーーー!』

 

『キヒャァァァァ!!』

 

4体が怯み、スラッガーを頭部に戻すと、ジードに声を張る。

 

『ジード。決めるぜ!』

 

『「委細承知! ヒカリ!!」』

 

『うむ! こちらは任せろ!』

 

ジードはストロング・ゴモラントをヒカリに任せると、ギャラクトロンに向けて、紅蓮の連続パンチを放った。

 

『「ハァアアアアアアアッ!! 『ブラザーズインパクト』!!」』

 

ギャラクトロンの機械の身体を的確に、正確に打ち続け、ギャラクトロンは火花を散らせながら、空中に打ち上げていく。

 

『うぉおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

ゼロビヨンドがギャラクトロン2に紫色のエネルギーを纏った拳を、目にも止まらぬ連続パンチ『ゼロ百烈パンチ』を繰り出し、同じく空中に打ち上げていく。

 

『『ハァアアアッ!!』』

 

二人は二体のギャラクトロンを炎と光の拳で上空に殴り飛ばすと、ギャラクトロン達は空中でぶつかり合った。

二人は一瞬でギャラクトロンより上に飛び、ギャラクトロン達に急降下キックを繰り出した。

 

『『ジードキック』!』

 

『『ゼロキック』!』

 

二人のキックで、ギャラクトロン達は地面に叩き込まれた。

 

『ーーーー!!』

 

インペライザーが駆動音をあげながら着地したゼロビヨンドに向けて、砲撃攻撃を仕掛ける。

 

『ふっ!』

 

ゼロビヨンドはクアトロスラッガーを出現させ、組み合わせ、二刀流の『ゼロツインエッジ』で、放たれる弾丸を全て切り裂きながらインペライザーに肉薄し通り抜けると、ゼロツインエッジで一瞬の内にバラバラに切り捨てた。

 

『俺の刃を、刻み付け!』

 

ーーーードガァアアアアアアアアアアアンンッ!!

 

『キュォォンッ!!』

 

インペライザーを撃破すると、ギャラクトロン2がゼロビヨンドに向かってくる。

 

『これで決める!』

 

ゼロビヨンドの周囲に、八つの紫色の光球を出現させ、一斉に光線を放ってギャラクトロン2を撃ち抜く最強の必殺技ーーーー。

 

『『バルキーコーラス』!!』

 

ギャラクトロン2は光球から放たれる光線を、バリアで防ぐが、その威力を防ぎきれず、その鋼鉄の身体が粉砕された。

 

ーーーードガァアアアアアアアアアンンッ!!

 

ギャラクトロン2は、それを防ぎきれず爆散した。

 

『キュォォンッ!』

 

『ふっ・・・・!』

 

ギャラクトロンがジードに迫るが、ジードは構えようとせず悠然と立ち、静かに右足にエネルギーを集中させる。

 

『キュォォンッ!!』

 

ギャラクトロンが腕を振り上げたその時ーーーー。

 

『ヤァッ!!』

 

まるで居合い切りのように振り向き際に、ギャラクトロンの身体を上段蹴りで砕く。

 

『ーーーー!!』

 

ギャラクトロンは駆動音を出しながら火花を散らし、

 

ーーーードガァァアアアアアアアアアアンン!!

 

そのまま爆散した。

 

『ふっ!』

 

『うぁあああああああああっ!!』

 

『っ! ヒカリ!』

 

『「っ!」』

 

ヒカリがストロング・ゴモラントの『ハイパーデスファイヤー』を浴びて、ビルを巻き込んで倒れる。

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン! ・・・・。

 

ジードとヒカリのカラータイマーが点滅し始めた。

 

『キヒャァアアア!!』

 

ストロング・ゴモラントがゆっくりと迫ってくる。

二人よりも後に登場したゼロビヨンドは、まだエネルギーがあるので自分がストロング・ゴモラントの相手をしようとするが、ジードが前に出る。

 

『「ゼロ。おじさん。ヒカリ。コイツは、僕にやらせてください」』

 

『「理巧・・・・」』

 

ジードが静かに、それでいて絶対に譲らないと言わんばかりの闘志を出して、ストロング・ゴモラントに向き合う。

 

『・・・・分かった。やってみろ』

 

『「お前の命駆け、見せてもらうぞ!」』

 

防御力を捨て、攻撃と運動能力と速さに重点を置いたリーオーバーフィスト。まさにその姿は、理巧の『命駆』と言える形態だった。

 

『キヒャァァ・・・・!』

 

『はぁぁぁぁ・・・・!』

 

ストロング・ゴモラントは、『グラビトロプレッシャー』を放つ態勢をとり、ジードは全身の炎のエネルギーを、両足に集中させる。

 

『キヒャァァアアアアアアアアッ!!』

 

ストロング・ゴモラントが、黒い重力の奔流にした『グラビトロプレッシャー』を放つ。

 

『・・・・っ、ハァァァァ・・・・イヤァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

ジードは真っ直ぐに重力の奔流に向かうと飛び上がり、両足蹴りの態勢となり、螺旋状に回転すると、その勢いは凄まじく、まるで炎の弾丸となり、重力の奔流を貫き、ストロング・ゴモラントにまで到達し、その巨大な角を二つとも砕いた。

 

『ギビャァァアアアアアアアアッッ!!!』

 

ストロング・ゴモラントは大きく吹き飛び、仰向けに倒れる。

 

『はぁっ! フゥゥゥゥ・・・・!』

 

後方に反転飛びをして着地したジード。

 

『アイツ、あの巨大な融合獣を蹴り飛ばしたぜ』

 

『「見事だ!」』

『(コクン)』

 

三人が頷いていると、ストロング・ゴモラントが再び立ち上がろうとしていた。

 

『俺との連携技で行くぞジード!』

 

『「連携技?」』

 

『その姿は、俺の師匠の『ウルトラマンレオ』と、師匠の弟である『アストラ』の融合形態ならば、できる筈だ!』

 

『「・・・・あぁ、やってみよう!」』

 

ジードがゼロビヨンドの前に立つと、片膝を付いてしゃがみ、ジードとゼロビヨンドが両腕を横に伸ばすと、ジードが上に伸ばし、その両手に背後に立ったゼロビヨンドが両手を添えた。

 

『キヒャァァアアアアアアアアアアアッッッ!!』

 

ストロング・ゴモラントは口から『ハイパーデスファイヤー』を放つ。

 

『っ! シュアァァァッ!!』

 

ヒカリは両手を十字に組に、右腕が前になるようにかまえて放つ光線技『ナイトシュート』を放ち、『ハイパーデスファイヤー』を相殺した。

そして、ゼロビヨンドとジード。二人が放つ新たな技、紫と赤が混ざった必殺光線ーーーー。

 

『『「「『ビヨンドオーバーフラッシャー』ッッッ!!!」」』』

 

必殺光線はストロング・ゴモラントの身体に当たり、

 

『ギヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!』

 

二人の合体光線により、ストロング・ゴモラントの身体に皹が走っていき、その皹から光が溢れ出てーーーー。

 

ーーーードガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッッッ!!!

 

火柱のような炎を立ち上げながら爆散した。

その際、一機のUFOがストロング・ゴモラントの炎の中から、1つの影が飛びだし、回収するとその場からワープして立ち去った。

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

『やったぁーーーー!!』

 

「うん!」

 

「わぁっ!」

 

「フッ」

 

「よっしゃぁッ!」

 

「ええ!」

 

「っ!(グッ!)」

 

「素敵だわ♥️」

 

「完全勝利よ!」

 

「ホンマ構わんな」

 

「素晴らしいですわ!」

 

半蔵学院と紅蓮隊は、ウルトラマン達の勝利を喜びあった。

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

ゼロとジード、ヒカリはお互いの顔を見て頷き合うと、光輝く太陽を見上げた。

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「ふんっ! 面白い・・・・!」

 

そしてUFOの中。

伏井出ケイは鼻で笑いながらも、貌は不愉快そうに映像に映るウルトラマン達を睨んで呟く。

足元には、証拠隠滅の為に抹殺したザラブ星人達の死骸が転がっていた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『それでは、連れも宇宙で待たせているから、私は『光の国』に戻ろう』

 

戦いが終わり、森に移動した一同は、地球を去ろうとするウルトラマンヒカリの見送りに来た。

 

「世話になった。セリザワ殿。いや、ウルトラマンヒカリ」

 

『いや、私も君と、君達と会えて良かった。ゼロ。後輩達の力、大切に扱えよ』

 

「(デュォォン!) 分かってるさ。それよりも、グレン達は?」

 

『ウム。お前の仲間達はまだ、銀十字軍で治療と修理中だ。まだ暫くは戦線復帰はできんだろう』

 

「そうか・・・・。そっちの宇宙の状況はどうなっている?」

 

『まだ『クライシス・インパクト』から1ヶ月あまりしか経っていない。他の戦士達も治療中であったり、宇宙警備隊が弱っている隙に勢力を伸ばしている宇宙犯罪結社を止めるために出ていたりしている。当分は増援も期待できないだろう』

 

「分かった。こっちは俺と霧夜。そして、ウルトラマンジードで守っていくさ!」

 

「ふっ、ああ!」

 

理巧が頷くと、飛鳥が前に出て、ヒカリに話しきかける。

 

「・・・・ウルトラマンヒカリさん。お聞きしたい事があるのですが?」

 

『ん?』

 

「やっぱり、ジードライザーを『光の国』から盗み出したってーーーー伏井出ケイ、何でしょうか?」

 

『おそらくな。しかし、1つ奇妙な事があるのだ』

 

「奇妙な事?」

 

『『宇宙科学技術局』から、君達が呼称するジードライザーが盗まれた時、監視映像を確認したが、映像は残されていなかった。他のデータが盗まれたのではないかと調査してみると、五つの平行宇宙の座標データが入力されていた』

 

「ヒカリ。それはまさか・・・・」

 

『そうだ。その平行宇宙では、『ダークネスファイブ』が別々の平行宇宙で、それぞれの作戦を遂行していたのだ!』

 

「っ!」

 

『ダークネスファイブ』ーーーーウルトラマンベリアル直属の精鋭部隊。理巧が警戒していた五人の凶悪宇宙人達である。

 

「そんな凄い人達が、別々の平行宇宙で悪さをしていたの?」

 

「しかし、それの何処が奇妙なんだ?」

 

飛鳥と焔の質問に、ヒカリが答える。

 

『その平行宇宙に駆けつけたゼロの仲間達や光の戦士達に聞いてみると、確かにそれぞれの宇宙で『ダークネスファイブ』が作戦と、“我々ウルトラマンを迎撃する用意をしている途中だった”と報告を受けたのだ。しかし、今思えば、あのデータには違和感があった』

 

それを聞いて、理巧がピクリと反応し、顎に手を当てる。

 

「それは、確かに奇妙だ・・・・」

 

『何処がなの理巧?』

 

「もしそのデータを入力していたのが、伏井出ケイで、光の国の戦力の分散させるのが目的であるなら、なぜ“迎撃態勢が途中の時に誘き出したんだ”?」

 

そう言うと、頭の良い斑鳩と、奸知に優れる春花が思案するような素振りをし、

 

「確かに奇妙ですね。わたくしが敵の立場であれば・・・・」

 

「折角相手の戦力を分散させて誘き出したんだから、“迎撃態勢を完璧にして迎え撃つ”のが定石。なのに、“途中の状態で誘き出した”。・・・・確かに違和感があるわね」

 

『うむ。私は光の国に戻り、ゾフィー隊長や他の皆と協議しようと思う。・・・・いずれにしても、この宇宙と、この地球の事は任せるぞ、ゼロ。そして、新たな光の戦士ウルトラマンジード、暁月理巧!』

 

「っ・・・・はい!」

 

「応!」

 

『(コクン)・・・・シュゥアッ!!』

 

そう言って、ウルトラマンヒカリは空高く飛び去っていった。

全員がヒカリに向かって手を振り、それを終えると、柳生が口を開いた。

 

「それにしても、伏井出ケイは今どうしているんだろうな?」

「ヤツにとっては、これまでのジードの戦いは、『コピークリスタル』の実験と、『タイラントの怪獣カプセル』の生成の為だった。蛇女子と半蔵学院の戦いも、その為に利用したんだろうな」

 

柳生の言葉にゼロが答える。理巧と霧夜先生は勿論。自分達の命駆の戦いを利用されていた事に、飛鳥達と焔達は眉根を寄せる。

 

「これまで影に隠れていたヤツが表に出てきた。これで、漸く始まったんだ。伏井出ケイ、もといーーーーウルトラマンベリアルとの戦いがね・・・・!」

 

空を見上げる理巧のその目には、この空の向こうで哄笑をあげている父<ベリアル>を見据えているようだった。

 

「りっくん・・・・」

 

「理巧・・・・」

 

飛鳥と焔が理巧の左右から、理巧の手を握ると、理巧は左右に目をやると、飛鳥と焔だけでなく、斑鳩に葛城、柳生に雲雀、詠に日影、未来と春花、そしてゼロと霧夜先生にペガ、そしてユートム越しだがレムもいた。

 

「だが、ここにいる皆がいれば、どんな敵が来たって蹴散らして行けるさ!」

 

『うん!』

 

『ああ!』

 

『はい!』

 

理巧の言葉に、全員が頷いた。その目に、希望の光を灯してーーーー。

 

 

 

 

 

ーヒカリsideー

 

『ゴライアン・・・・』

 

『うむ』

 

宇宙でゴライアンと合流したヒカリは、そのまま開発した『次元転移装置』を使い、『光の国』へと帰還しようとした。

が、その時、ゴライアンが星の海を見上げて呟く。

 

『あの少年は、貴方の思い通りにならないかも知れんぞ・・・・・・・・兄貴』

 

闇に堕ちてしまった兄貴分に向かってそう残したゴライアンは、ヒカリと共に帰還していった。

 

その時ーーーー宇宙空間に僅かな切れ目が生まれ、赤黒い暗黒の空間に、1人のウルトラマンが切れ目からその顔を見せて、声を発する。

 

『ふん! この私を誰も止められんさ。ゴライアン・・・・』

 

ジードの眼をさらにつり上げ、真っ赤に染め、身体は黒に染まり、両手はかぎ爪となっている巨人ーーーーウルトラマンベリアルだった。

 




今回出てきた『ビヨンドオーバーフラッシャー』はウルトラマンレオとアストラ、レオ兄弟が放つ『ウルトラダブルフラッシャー』を参考にしました。
次回、新たな忍達が登場しますが、残念ながらアニメの情報だけしかないなので、オリジナルが入るかもしれません。


ー次回予告ー

伏井出ケイの行方を探るために、共闘する事になった僕たち半蔵学院と焔たち紅蓮隊。調査と生活と訓練を共にする事で、お互いに歩み寄る関係になっていく。
しかし、そんな僕達の目の前に、新たな忍達が現れ、焔達悪忍と仲良くなるな、と言ってきた。
えっ? ウルトラマンベリアルの関係者の疑いがある僕を抹殺する??

次回、『閃乱ジード』

【正義・死塾月閃女学館】

ジーッとしてても、ドーにもならない!


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正義・死塾月閃女学館
捜索だぜ、皆!


さて、新しい忍が登場回です。


ー伏井出ケイsideー

 

「では、私に協力してくれるのですね?」

 

「・・・・・・・・(コクン)」

 

美しい日本庭園が見える屋敷の一室。襖の影によって顔が見えない老人に、伏井出ケイが問いかけ、老人はそれに頷いた。

 

「ーーーーーーーー」

 

老人が何かを言うと、伏井出ケイは『コピークリスタル』と『怪獣カプセル』を取り出し、その老人に献上した。

 

「これらを献上します。全てはーーーー正義の為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『グワアアアアア!!』

 

『キュアアアアア!!』

 

『シュワァッ!!』

 

『セェヤッ!』

 

その日、胸に血管のような管が広がっている怪獣『超古代怪獣 ファイヤーゴルザ』と、巨大な目玉に手足が生えた異形な怪獣『奇獣 ガンQ』が、ウルトラマンジードとウルトラマンゼロと戦っていた。

 

「こっちです!」

 

「みんな避難して!」

 

「急げ!」

 

「ここは危険です!」

 

「早く逃げろ!」

 

飛鳥達は避難誘導をし、

 

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

 

焔紅蓮隊も、不承不承ながらも、避難誘導をしていた。

 

『キュアアア!』

 

『シュッ! はぁあっ!!』

 

ガンQは目玉から光線を放つが、ジードはそれをジードクロウで防ぐ。

 

『グワアア!』

 

『フッ! シャァアアアアアアアア!!!』

 

ファイヤーゴルザは『強化超音波光線』で攻撃しているが、ゼロは軽快なフットワークで回避すると、拳をファイヤーゴルザに連続で叩き込む。

 

『グバァアッ!!』

 

ファイヤーゴルザはその拳の威力に吹き飛び、アスファルトを砕きながら倒れた。

 

『よし! 霧夜!』

 

『「ああ!!」』

 

霧夜先生が、『ギンガカプセル』を起動させる。

 

『「ギンガっ!」』

 

ショオラッ!

 

空色の光が幾つも現れ、『ウルトラマンギンガ』の姿がとなり、『ギンガカプセル』をナックルに装填すると、『オーブ オーブオリジンカプセル』を起動させた。

 

『「オーブっ!」』

 

デュワッ!

 

白い光が幾つも現れ、『ウルトラマンオーブ オーブオリジン』の姿となり、ジードライザーでナックルのカプセルを読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーのスイッチを押すと、空色と白の光が混ざり合った粒子が、『ニュージェネレーションカプセル・α』へと変化した。

 

[ウルトラマンギンガ! ウルトラマンオーブ オーブオリジン! ニュージェネレーションカプセル・アルファ!]

 

『ニュージェネレーションカプセル・α』を装填する。

 

『「ビクトリーっ!」』

 

テアッ!

 

『ビクトリーカプセル』を起動させ、黄色の光が幾つも現れ『ウルトラマンビクトリー』となりナックルに装填する。

 

『「エックスっ!」』

 

イィィィーッ! サァァァーッ!

 

『エックスカプセル』を起動させ、緑色の光が幾つも現れ、『ウルトラマンエックス』となりナックルに装填した。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーのスイッチを押すと、黄色と緑色の光が混ざり合った粒子が、『ニュージェネレーションカプセル・β』へと変化した。

 

[ウルトラマンビクトリー! ウルトラマンエックス! ニュージェネレーションカプセル・β!]

 

ウルトラゼロアイNEOとジードライザーを合体させると、『ニュージェネレーションカプセル・α』を起動させる。

 

『「ギンガ! オーブ!」』

 

ショオラッ!

 

デュワッ!

 

ギンガとオーブオリジンが向き合うように現れ、次は『ニュージェネレーションカプセル・β』を起動させる。

 

『「ビクトリー! エックス!」』

 

テアッ!

 

イィィィーッ! サァァァーッ!

 

ビクトリーとエックスが向き合うように現れ、『α』と『β』の『ニュージェネレーションカプセル』をナックルに装填し、ライザーで読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

 

『「俺に限界はねぇっ! ハアァッ!!」』

 

霧夜先生は、合体させたジードライザーをウルトラゼロアイNEOで変身するように眼前に持っていき、

 

[ニュージェネレーションカプセル! α! β! ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

『ハァアアッ!!』

 

ゼロビヨンドへと変身した。起き上がったファイヤーゴルザは、雄叫びを上げてゼロビヨンドに迫ってくる。

 

『グワアアアアア!!』

 

『一気に終わらせてやる。『ゼロツインソード』!』

 

ゼロビヨンドは『ゼロツインソード』を持つと、スッと高速で移動し、ファイヤーゴルザとスレ違ったその瞬間ーーーー。

 

『『ツインギガブレイク』!』

 

ツインソードにエネルギーを流し、紫色エネルギーを纏って巨大化させると、ファイヤーゴルザの身体にZの文字で切り裂いた。

 

『グワゥッ!?』

 

『俺の刃を刻み込め・・・・!』

 

ドガァアアアアアアアアアアンンッ!!

 

静かに呟いたゼロビヨンド。その後ろでは、ファイヤーゴルザが静かに倒れ、爆散していった。

 

『・・・・・・・・』

 

ゼロビヨンドはジードの方に視線を向けるとーーーー。

 

『シュァッ!』

 

ジードクロウで光線を弾くと、波状光線を放つ。

 

『『レッキングリッパー』!!』

 

『キュアアアア!』

 

レッキングリッパーで吹き飛んだガンQが起き上がる隙に、ジードクロウのトリガーを二回押すと、全身に闇の力のエネルギーを纏い、ジードクロウを切っ先にして螺旋回転しながら突っ込んだ。

 

『『コークスクリュージャミング』!!』

 

『ギュワアアアアアッ!!』

 

ガンQのその巨大な眼を貫いた。

ジードは振り向くと、両腕を十字に組んで、赤黒い稲妻をスパークさせて、必殺光線を放った。

 

『『レッキングバースト』ッ!!』

 

放たれた光線を浴びたガンQはーーーー。

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

そのまま爆散した。

 

『『シュァッ!』』

 

二人のウルトラマンはそのまま、空高く飛び去っていった。

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

ジードとゼロの戦いの様子を、ビルの屋上から眺めていた五人の少女達がいた。

身なりの良い灰色の制服に身を包んだ、制服の上からでも豊満な胸と非常に整ったプロポーションの良さが分かる上に、顔立ちも非常に整っている少女達、だが、1人般若面を被っている少女がいた。

 

「あれが『クライシス・インパクト』で現れたと言うウルトラマンゼロ。そして、ここ最近現れたウルトラマンジードか」

 

「うむ。こうして間近で見たのは初めてじゃな」

 

「う~わ、マジイカしてるし~。ウルトラマンゼロの紫色のオニュ~の姿も超クールでイカしてるし~。ウルトラマンジードもコワカッコイイし~!」

 

「うん! カッコいいよね! 私、ゼロさんもカッコいいけど、ジードさんがカッコいいと思う!」

 

「ええ~! ジードもカッコいいけどさ~。ゼロも負けてないし~!」

 

「・・・・・・・・」

 

般若面の少女とおかっぱ頭の少女がゼロとジードに定めるような視線を向けながら会話していると、金髪のギャルのような少女と雲雀のような小動物な雰囲気の少女が、ゼロとジードの話で盛り上がっている間、灰色の髪を肩口まで伸ばし、白い大きなリボンを付けた清楚な雰囲気の少女が、ウルトラマン達を、正確に言えば、ウルトラマンジードをジッと見据えていた。

 

「ーー。どうした?」

 

「・・・・いえ、では行きましょう。私達は確認しなければなりません。半蔵学院にいる、“唯一の男子”を・・・・」

 

少女の言葉に他の四人も頷くと、五人は音も立てず、その場から姿を消した。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

霧夜先生が2体の怪獣の事を上層部に報告に向かっている頃。

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

理巧は基地の空中ディスプレイに地図を表示させ、鋭い視線で見据える。その両隣に飛鳥と焔が控え、二人も画面を睨む。近くではペガが内職をしていた。

そんな一同に、レムが声を発した。

 

『理巧。伏井出ケイの自宅を調査しに向かった柳生と雲雀、未来と春花から連絡が来ました』

 

「繋げてくれ」

 

《理巧様。伏井出ケイの自宅であるマンションに来てみたけど、やっぱり帰っている気配は無いわ。と言うよりも、ほとんど使われた形跡が無いようだから、やはりこの部屋はダミーね》

 

春花の報告に、飛鳥と焔は落胆し、ペガは残念そうにため息ももらした。が、理巧は想定内のようだったのか、あまり気落ちしていないようだ。

 

「やはりな。他の皆は?」

 

《何か手掛かりが無いか探っているけど、望みは薄いわね。・・・・あっ、今AIBの局員らしき人が来たのが見えたわ》

 

「すぐに戻ってきてくれ。痕跡は残すなよ」

 

《了解》

 

春花との通話を切ると、今度は伏井出ケイの本を出版している出版会社の調査に向かった斑鳩と詠に連絡を入れる。

 

「斑鳩姉さん。詠さん。そっちはどうですか?」

 

《収穫無し、でしたわ。やはり一ファンの高校生に、情報を簡単に教えてくれないようですわね》

 

《斑鳩さん。今AIBの方達が来ましたわ》

 

《っ。理巧くん》

 

「すぐに戻ってきてください」

 

《了解しましたわ》

 

そして次に、裏ルートから調査を行っている葛城と日影に連絡する。

 

「葛姐さん。日影さん。伏井出ケイの目撃情報は?」

 

《ワリィ全滅だぁ。日影の紹介で宇宙人関連にも精通している情報屋を片っ端から当たってみたけどよ。全然情報が入らなかったぜ・・・・!》

 

「そうか・・・・。AIBがそっちにも向かっているかも知れないから、二人とも戻ってきてくれ」

 

《ああ》

 

《はいな》

 

二人が通信を切ると、丁度柳生達が戻り、少しして斑鳩と詠が、最後に葛城と日影が戻ってきて、ペガや飛鳥と焔が皆にドリンクを渡し、一息つくと全員で情報整理を行った。

 

「皆、情報収集お疲れ様」

 

「と言っても、ほとんど情報は集まらなかったけどね」

 

「あの野郎・・・・! 何処に雲隠れしやがったんだっ!?」

 

春花が肩をすくめると、葛城が握り拳をもう片方の手に叩き、苦虫を噛んだような声をあげるが、それは他の皆も同じだった。

前回の戦いで伏井出ケイがウルトラマンベリアルの配下で、半蔵学院と蛇女子学園の戦いを裏から手を回していた黒幕である事が分かり、利用されていた借りを返したい元蛇女子学園の焔紅蓮隊と、これまでの怪獣騒動の元凶を捕縛したいと考える半蔵学院の間で利害が一致し、現在中立地帯として機能している理巧の秘密基地を中心に、協力して伏井出ケイの捜査を行っていた。

 

「ここまでしても情報が入らんとはな・・・・」

 

「やっぱりさ。“理巧の言うとおりなんじゃない”?」

 

日影と未来の言葉に、飛鳥達は渋面を作った。

 

話は、ウルトラマンヒカリが地球を離れ、皆でゼロ復活のお祝いをしている時に遡る。

 

 

* * *

 

 

【うわっ! 焔ちゃんの作った酢豚、スゴく美味しい!】

 

【(モグモグ)素材も均一に切られ、火が良く通っているし、素材の調和も取れている。味付けは濃い目だけど悪くないな】

 

【ま、これくらい楽勝だな】

 

焔が以外な女子力を見せ、

 

【詠さんの料理は、モヤシを重点的にしたモヤシ炒めですが、これも中々の味ですわ・・・・!】

 

【(シャキシャキ)それぞれの食材がお互いを引き立てている焔の料理と逆に、モヤシを主役にした料理だね。味付けも繊細だ】

 

【ウフフ♪ モヤシは至高にして究極の食材ですわよ!】

 

詠は相変わらずモヤシ信仰者で、

 

【・・・・未来の料理は、マグロの頭をそのまま焼いた物だな】

 

【何よぉ! アタシの料理は食べられないって言うの!?】

 

【(バリバリ)マグロの脳はトロより美味しいって聞くし、目玉はDHAが豊富だって聞いたけど、中々乙な味だね】

 

未来が火炎放射機で豪快に焼いたマグロの頭の丸焼きを、

 

【は、春花さん、これって何の料理なの?】

 

【私が特性に調合した薬膳スープ。食べれば元気溌剌よ!】

 

【む、向こうで葛姉ぇと日影さんが死にかけてるんだけど・・・・?】

 

【あっ・・・・あぁ・・・・こ、ここまで・・・・なの、か・・・・アタイ、は・・・・】

 

【・・・・・・・・】

 

口の端から春花が作った毒々しい紫色のスープを滴ながら死屍累々と倒れる葛城と頭に血管マークを浮かべながら倒れる日影。ちなみに日影は食べる専門との事で料理は不参加。

 

【(ズズズ・・・・)】

 

が、理巧は黙々と春花特性の薬膳(毒膳?)スープを飲んでいた。

 

【り、理巧くん大丈夫なの・・・・?】

 

【ん。炭酸入りのスープって感じだね】

 

が、毒に対して凄まじい耐性が出来ている理巧には、コーラかサイダーのスープでも飲んでいるようなモノであった。

 

【流石は理巧様♥️ 今度は媚薬でも入れちゃおうかしら?】

 

【そんなの作ってどうするの?】

 

【決まってるじゃない。興奮した理巧様を布団の中に入れてそのまま寝んごろりで既成事実を・・・・】

 

【【いけませぇん!!】】

 

と、春花の言葉を遮るように、斑鳩と詠が大声をあげた。

と、その瞬間、電話が来たので中座していた霧夜先生が戻ってきた。

 

【・・・・・・・・】

 

【あ、おじさん。どうかした?】

 

難しい顔をする霧夜先生に理巧が話しかけると、霧夜先生は唇を開いた。

 

【・・・・先ほど善忍上層部から、“伏井出ケイは無罪放免と知らせを受けた”】

 

【『っっ!!??』】

 

霧夜先生から聞こえた言葉に、その場にいた全員が肩を震わせ、理巧はスッと目を細め、思考するように顎に手をやった。飛鳥が霧夜先生に向けて口を開く。

 

【どう言うことですか先生!? 上層部が伏井出ケイを無罪放免にしたって!】

 

【・・・・ギャラクトロンの怪獣騒動に、伏井出ケイが関与していないと上層部は判断したようだ】

 

【それってどう言うことだよ!? アイツが怪獣を召喚したのは先生だって見ただろう!?】

 

【ああ。だが、伏井出ケイは“ザラブ星人達に脅されてそれを行った”か、変身能力を持ったザラブ星人の偽者ではないかと、上層部は言い出した】

 

飛鳥達も焔達も訳が分からないと言った風に眉根をよせるが、理巧はーーーー。

 

【おじさん。もっと詳しく教えて】

 

【・・・・上層部は変身能力を持ったザラブ星人が、伏井出ケイの姿に成りすまして今回の騒動を引き起こしたと考えた。奴は、ギャラクトロンを召喚した伏井出ケイは、ザラブ星人が変身した偽者であると判断したようだ。飛鳥達が発見した伏井出ケイもザラブ星人の偽者だったしな】

 

【ですが! ベリアル融合獣に変身していたからで!】

 

【それを、伏井出ケイがベリアル融合獣に変身した姿を、誰か見たか?】

 

【『・・・・・・・・』】

 

全員が見ていなかった。

 

【決定的な証拠が無い以上、伏井出ケイをベリアルの協力者と断定する訳にはいかない。伏井出ケイは行方不明になっているし、ザラブ星人によって拉致監禁されたか、抹殺されたのではないかと上層部は言い。さらに、ウルトラマンベリアルと言った宇宙人問題はAIBの領分であり、我々忍が動く案件ではない。と、言って、俺達半蔵学院にも、これ以上怪獣問題に関わるのを禁ずると命令がきた】

 

【そんな!】

 

飛鳥が前に出ようとするが、理巧がスッと、片腕を飛鳥の前に出して止めた。

 

【りっくん?】

 

【・・・・・・・・もしかしてだけどさ、おじさん】

 

理巧が何かを言いそうになったが、霧夜先生は片手をあげてその言葉を止めた。

 

【理巧。それ以上の言葉は、この場にいる全員に混乱を招くかも知れんぞ?】

 

【・・・・・・・・】

 

【お前の言いたい事も分かる。だが・・・・】

 

【ここまで皆関わってしまったんだ。今さらだよ】

 

【『・・・・・・・・』】

 

飛鳥達を見ると、全員が覚悟を決めた貌となっていた。

それを見た霧夜先生は、肩をすくめる。

 

【・・・・わかった。理巧、お前の考えを言ってくれ】

 

【・・・・伏井出ケイは、“善忍上層部と通じている”】

 

理巧の言葉に、焔紅蓮隊は「やっぱりな」と言いたげな顔となり、飛鳥達は、表情に驚愕の様相を浮かべた。



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気合い入れようぜ、皆

お久しぶりです。


ー理巧sideー

 

飛鳥が基地に持ち込んだ畳やクッションや理巧が持ってきたソファに座る一同。

飛鳥達善忍側は、改めて理巧が言った【・・・・伏井出ケイは、“善忍上層部と通じている”】と言う言葉を思い出し、少からずの動揺をした。

善忍上層部がウルトラマンベリアルの配下である伏井出ケイと手を組んでいる等と、そう簡単に受け入れられる事ではないので、当然とも言えるが。

 

「りっくん。どうして、伏井出ケイが善忍上層部と手を組んでいると思うの?」

 

「・・・・奴は、伏井出ケイは悪忍の道元と手を組んで、『コピークリスタル』の実験をしていた事は、皆も知っているよね?」

 

理巧の言葉に、全員が頷いた。

 

「伏井出ケイは善忍でもなければ悪忍でもない。つまり、僕のように両陣営に接触する事ができる。そして、道元にやったように、【『コピークリスタル』を譲渡するから、自分に協力しろ】って言っているのかも知れないな」

 

「成る程。『コピークリスタル』が手に入れば、怪獣の力が使える。悪忍の事を快く思わない善忍側からすれば、悪忍を始末する戦力が手に入るって訳ね?」

 

春花が理巧の言葉を紡ぐと、理巧は頷き、続ける。

 

「焔達で集めてくれた情報の中に、善忍側の一部には、悪忍側を潰したいと思っている『過激派』が動いているって情報があった。唯でさえ前回のーーーー道元の馬鹿がやらかした不可侵条約を無視した騒動で、悪忍側の立場が少し悪くなっている。『過激派』から言わせれば、これを機に悪忍側の力を更に削ぐ、あわよくば始末しようと考えるだろう」

 

「マウントを取ったら一気に攻め立てるのは、喧嘩の常套手段だな」

 

理巧の話に、焔が分かりやすく解釈する。

 

「そんな・・・・! 『クライシス・インパクト』を起こしたベリアルの仲間に、これまでの怪獣騒動を起こしてきた張本人に協力するだなんて!!」

 

「これは霧夜先生<おじさん>から聞いたけど、善忍上層部は、『怪獣騒動はあくまでAIBの領分であり、自分達が口を出す問題ではない』、と、上層部は怪獣騒動には関しては全くの無関心の態度のようだよ」

 

「・・・・私ら悪忍上層部もそうだったが、善忍上層部も、今現在の怪獣騒動よりも、お互いの長年の因縁にケリをつける方に躍起になっているようだな」

 

飛鳥が戸惑うような声をあげるが、理巧と焔は目の前の脅威よりも、長年の因縁を優先する両陣営の上層部に呆れたようなため息を漏らす。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

その場にいる全員、ペガやレムですら、重い沈黙をしてしまっていた。

 

「ああ、くそっ! ここで上層部の不満を貯めて込んでも、ドーにもならねえだろっ!」

 

葛城が堪らず立ち上がり、全員に渇をいれる。

 

「葛姉ぇ・・・・」

 

「アタイらが今すべきは! あのムカつく伏井出ケイの野郎は見つけて、ぶっ飛ばすのが最優先だ! 上層部への不満や愚痴なんざは二の次だ! 腑抜けた態度をしたヤツは! アタイがお仕置きしてやらぁ!!」

 

すると葛城は、すぐさま近くにいた日影の後ろに回り込み、その85センチのEカップの胸を揉みしだいた。

 

「ちょっ、葛姉ぇ!」

 

「おおっ! 平均よりはやや劣るがやわらかく! そして肌にまとわりつくようなこの揉み心地!! これぞまさに人をダメにする乳!! ああ、いつまでも揉んでいても飽きがこない!! これはアタシの乳だ!!」

 

「ワシの胸はワシのものやろが・・・・」

 

日影が文句を言うが、葛城はそれを無視して、日影の胸をさらに揉みしだいた。

 

「ああ素晴らしい!! なんて素晴らしい!!」

 

葛城が腕を動かす度に日影の胸は、フニャリフニャリとと形を変えていく。男ならば鼻の下が伸びるか、鼻血で垂れ流しそうな桃源郷のような光景だが、理巧は何してんだか、と言わんばかりに呆れ、他の皆もそれに呆れたように半眼となっていた。

 

「いよしっ! ここはいっちょ景気付けに、模擬戦でもやって! スカッとしようじゃねえかっ!!」

 

「スカッとしたいのはアンタの方やろ」

 

ご満悦な顔となった葛城がそう叫び、日影が乱れた衣服を整える。いきなり模擬戦やろうと言われ、皆あまりやる気が出ないような態度だったが、次の葛城の発した言葉を聞くとーーーー。

 

「じゃ勝ったヤツは賞品として! 『理巧と二人っきりでデート権』をプレゼント!!」

 

「「「「「「「「「っ!」」」」」」」」」

 

「他に、『理巧と一緒にお食事権』!」

 

「「「「「「「「「っ!」」」」」」」」」

 

「『理巧と一緒にお風呂!』」

 

「「「「「「「「「っ!」」」」」」」」」

 

「『理巧を抱き枕にして夜一緒にお寝んね権』!」

 

「「「「「「「「「っ!」」」」」」」」」

 

葛城が出す理巧を賞品とした権利に、善忍組も悪忍組もピクッ! と肩を揺らした。

 

「最後に『理巧との模擬戦する権利』なんてどうだっ!?」

 

「「「「「「「「「いや、それは別にどうでも良い」」」」」」」」」

 

「て言うか、僕聞いてないけど?」

 

「固い事言うなよ理巧~。皆に気晴らしの為に、ちょ~っと協力してくれよぉ~」

 

「いや、それで誰が喜ぶ訳?」

 

『理巧、理巧』

 

「ん?」

 

拝むように手を合わせて懇願する葛城に、半眼になって呆れる理巧にペガが飛鳥達と焔達に向けて指差し、理巧も目を向けると。

顔を赤らめてニヤけたり、涎を垂らしたり、鼻血を垂らしていたりする一同の姿があった。

 

 

ー飛鳥sideー

 

「(り、りっくんと、デート・・・・!!////)」

 

飛鳥の脳裏に、一緒に街を歩き、動物園や遊園地を行ったりする光景が目に浮かぶ、理巧は女性をリードするタイプじゃなさそうだし、ソコは自分がエスコートをすれば、と考える。

 

ー日影sideー

 

「(暁月さんと、デートな・・・・なんやこれ? 顔が熱いわ・・・・////)」

 

日影は理巧と二人っきりでのんびり過ごす事を考えると、顔が凄まじく熱くなっているのに戸惑った。

 

ー未来sideー

 

「(理巧と、デートか・・・・////)」

 

未来は理巧とデートをしている光景を考え、子供の頃に読んだ少女漫画のような展開を想像して、顔を赤くして頬を緩めていた。

 

ー焔sideー

 

「(・・・・まぁ模擬戦も捨てがたいな。蛇女にいた時は敗けっぱなしだったし。それに、模擬戦の後に一緒に風呂に入って、飯を食べて、その後は、一緒にーーーーベッドの中で・・・・////)」

 

焔もプランを考えながら段々顔を赤くしていった。

 

 

ー詠sideー

 

「(理巧さんと、お食事をして、モヤシの素晴らしさをもっと知って貰うチャンスですわ!・・・・そしてその後は、デザートとしてわたくしを・・・・!////)」

 

理巧と食事で、さらにモヤシの良さを伝えようと考える詠。お食事の後の事まで考えていた。

 

 

ー雲雀sideー

 

「(理巧くんとお風呂!)」

 

雲雀は前からやりたかった理巧と背中の洗いっこをやりたいのか、嬉々とした様子だった。

 

 

ー柳生sideー

 

「(理巧と雲雀とお風呂・・・・! いや、雲雀も入れて、さらに理巧と雲雀とベッドの中で・・・・!!////)」

 

柳生も、理巧の他に雲雀も入れて三人でお風呂に入り、さらには三人でベッドで川の字となる姿、勿論真ん中は自分で左右に理巧と雲雀をはべらせている光景を想像し、さらにその先まで考えていると、顔を赤くして鼻血を両方の鼻の穴からドクドクと流していた。

 

ー斑鳩sideー

 

「(り、理巧さんと、二人っきりでお風呂! さらにベッドで・・・・!//// い、いけませんわ! わたくしはは委員長で理巧くんのお姉ちゃんなのです! そのようなふしだらで破廉恥な事を・・・・! で、ですが、お姉ちゃんとして、“色々なお世話”をするのも必要でしょうし・・・・!!////)」

 

柳生と同じくらいに顔を茹で蛸のように赤くし、鼻血をドクドクと垂れ流し、はぁっ、はぁっ、はぁっと鼻息荒くしていた。

 

 

ー春花sideー

 

「・・・・・・・・・・・・ウフフフ」

 

春花は脳内で、ベッドに横たわった理巧の身体をどうやって味わうか、はたまたベッドの上で荒縄で縛られた自分の身体を、理巧にどうやって弄んで貰おうかと考えていた。

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・ねぇペガ。これって、僕が賞品にならないといけない流れ?」

 

『・・・・理巧がそう思うなら、そうなんじゃない』

 

『状況を解析すると、そうしなければ暴動が起こります』

 

ペガとレムの言葉に、理巧は小さくため息を吐いて肩を落とすと、後ろから葛城がニヤニヤと笑みを浮かべて、『賞品』と書かれたタスキを付けられた。




次回、半蔵学院VS焔紅蓮隊の勝負です。


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模擬戦だぜ、皆

ー???sideー

 

「本当に、こんな廃れた天文台にいるのかの?」

 

「情報では、ここで間違いない筈です」

 

「つーか、こんな映えそうもない場所を隠れ家にするとか、センス無さげ~」

 

「・・・・・・・・」

 

「(モグモグ・・・・)」

 

街から離れた郊外にある潰れた天文台に来た少女達は、近くの林に隠れながら天文台を見張っていると、突如天文台の目の前の地面から、エレベーターが上がってきた。

 

「「「「「っ!!?」」」」」

 

少女達が警戒心をあげると、エレベーターの中から半蔵学院の五人の善忍と蛇女子学園の五人の悪忍が出てきて、最後にーーーー“目的の少年が出てきた”。

大量のバスタオルを持ち、『賞品』と書かれたタスキを付けて・・・・。

 

 

 

ー理巧sideー

 

『忍転身!』

 

「それじゃ、対戦カードはくじ引きで決めるよ。壱~伍のくじがあるから、同じ番号の子達で対戦ね」

 

善忍組と悪忍組が忍転身して、それぞれの衣装に変わるのを確認した理巧は、番号が書かれたくじを出してそう言った。

 

「えっ? 前と同じ相手じゃ駄目なの?」

 

「それじゃ面白みがないよ。別の相手と戦えば戦闘経験の幅が広がるってモノだよ」

 

飛鳥の問いに理巧が答えると、全員がなるほどと呟き、全員がくじを引いた。

そしてーーーー。

 

壱番:葛城VS春花(チーム1の巨乳対決)。

 

弐番:柳生VS日影(クールビューティー対決)。

 

参番:雲雀VS未来(チームのマスコット対決)。

 

肆番:飛鳥VS詠(剣使い対決)。

 

伍番:斑鳩VS焔(リーダー対決)。

 

と、なった。

 

「はいそれじゃ、最初葛姐ぇさんと春花の対決ね。では二人とも、準備よろしく」

 

「応よ!」

 

「は~い」

 

二人が向き合うように立ち合った。

 

「どっちが勝つかなぁ?」

 

「葛姉ぇの方が強いと思うけど・・・・」

 

「確かに、体術等は葛城の方に分があるが・・・・」

 

「あの葛城さんの顔・・・・雑念に、イエ、邪念に完全に捕らわれていますわね」

 

 

 

 

ー葛城VS春花ー

 

「それじゃ、いざ尋常に・・・・初め!」

 

理巧が宣言すると、葛城と春花は構えて、お互いを見据える。

 

「(げへへへへへ! なんと言う行幸! 実は前から春花の99センチのIカップの豊乳には興味津々だったんだよなぁ! あれだけ巨大なのに形は整っているし、弾力と柔らかさはかなりの物と見たぜぇ! 模擬戦にかこつけて揉みまくっちゃる!!)」

 

顔は不敵な笑みを浮かべているが、内心は涎を垂らしまくりながら手をワキワキと動かしているのが丸分かりだったが、まあ、それも仕方ないとも言える。

成人女性並の高身長に加え、豊満なバスト、砂時計のように括れたウェスト、安産型のヒップ、スラッと伸びた手足をし、太ももの肉付きも良く、ボンッキュッボンッ! と擬音が聞こえる程のグラマラスボディの持ち主である春花。さらに転身した装束は扇情的な格好に白衣と言う性癖が弾けそうな衣装だ。女ですら感じる色気が葛城のセクハラ親父の性分を激しく刺激した。

 

「ーーーーうふふっ♪」

 

対面する春花は葛城の心中などお見通しと言わんばかりに、ツツーッと、豊満な自分のバストに指を這わせると、目を細めて蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

「(揉んで、みる?)」

 

「うっひょぉおおおおおおおおおっっ!!!!」

 

春花の無言のメッセージに、辛抱たまらんと言ったような顔で春花に飛びかかった葛城。春花はそれに笑みを浮かべたまま、白衣から試験管を取り出し、キャップを外すと中身を葛城に浴びせた。

 

「うっ・・・・・・・・うぅ~~~~~ん・・・・」

 

葛城は飛びかかったポージングのまま、地面に落下し、そのまま眠ってしまった。

戦闘能力で言えば、紅蓮隊の中では最弱な春花。だが、自製の薬品や傀儡等を使った、所謂搦め手を駆使する戦術を得意とし、正々堂々と正面から戦うのが得意な葛城にとって、相性の悪い相手と言えるのだ。

 

「葛姐ぇ、葛姐ぇ」

 

理巧が葛城をツンツンと突っつくと、うつ伏せに倒れた葛城を仰向けにすると、笑みを浮かべ、口元に涎を垂らし、鼻から鼻提灯を膨らませながら眠っていた。

 

「うん。壱番勝者、春花!」

 

「いよしっ!」

 

「先ずは一勝ですわ!」

 

「流石春花お姉様!」

 

「楽勝やな」

 

「ウフフ。暗器も忍の武器よ♪」

 

蛇女の仲間達に賞賛される春花。理巧は葛城を善忍側まで引きずっていき、そのまま横たわらせ、また中心に戻っていった。春花に聴くと、数十分は寝てしまう薬品を嗅がせたので、しばらくは寝ているだけであった。

 

「じゃ、次は柳生さんと日影ね」

 

「ああ」

 

「はいな」

 

アホな敗北をした葛城の事は取り敢えず一旦無視しといて、一同は再び試合を再開した。

 

 

ー柳生VS日影ー

 

キン! キン! キン! キン! キン!

 

「柳生ちゃん頑張れー!」

 

「日影! ぶちのめせー!」

 

柳生は番傘を、日影はナイフを持って、高速移動をしながらぶつかり合い、二人の武器がぶつかり合う音だけが聞こえていた。まあ斑鳩や詠や理巧は二人の動きを捉えていた。

 

「はぁっ!」

 

「っ!!」

 

空中で柳生は日影の眼前で番傘を広げた。虚を突かれた日影が一瞬動きを止めると、番傘を置いて背後に回った柳生が、クナイの刃を日影の首筋に当てた。

 

「柳生ちゃんの勝ちだ!」

 

「いや、相討ちだ」

 

「えっ!?」

 

 

が、飛鳥が理巧の判定に首を傾げ、二人の様子を良く見ると、日影のナイフの先端が、柳生の脇腹にソッと当たっていた。

 

「弐番、引き分け!」

 

「・・・・引き分け、か」

 

「アンタ、以外とやるな」

 

「そっちもな」

 

お互いに離れると、小さく笑みを浮かべ離れていった。

 

 

 

ー雲雀VS未来ー

 

「うぉりゃああああああああああ!!!」

 

「きゃーーーーーーーー!!」

 

未来のマシンガンの攻撃に、雲雀は涙目になり、悲鳴をあげながら逃げ惑っていた。

 

「雲雀さん! 逃げてもどうにもなりませんわ!」

 

「反撃して雲雀ちゃん!」

 

「そ、そんな事言われても!」

 

雲雀を助けようと動こうとする柳生を押さえる斑鳩と飛鳥が声をあげるが、雲雀は完全に逃げ腰になっていた。

 

「ふふっ! これで二勝目よ!」

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!

 

「きゃーーーーーーーー!!」

 

マシンガンが放たれ、土煙がまき起こり、雲雀の姿が消える。

 

「ふん・・・・ふぅ!」

 

攻撃を止めた未来が、傘の銃口に息を吹くと、倒れているだろう雲雀に目を向け、土煙が晴れるとソコにはーーーー雲雀の姿がなかった。

 

「えっ?!・・・・何処にっ!」

 

「未来!」

 

「上ですわ!」

 

「っ!」

 

「『秘伝忍法 忍兎でブーン』!!」

 

「ウソっ!? どわああああああああああああああ!!!」

 

忍兎に乗って突撃してきた忍兎に轢き飛ばされ、きりもみ回転しながら大きく弧を描いた未来の身体が地面に叩きつけられると、未来は目をグルグルの渦巻きにしながら気を失っていた。

 

「きゅ~~~~~ん・・・・」

 

「参番勝者、雲雀!」

 

「やったぁ! 雲雀が勝ったぁ!」

 

「逆転勝利だよ雲雀ちゃん!」

 

「お見事です」

 

「やったな、雲雀」

 

「えへへへへへ・・・・」

 

雲雀はピョンピョン跳ねながら喜び、他の皆も喜んだ。・・・・葛城はまだ寝ていたが。

未来は焔達に介抱されていた。

 

 

 

 

ー飛鳥VS詠ー

 

「はぁあああああっ!!」

 

「ふっっ!!」

 

飛鳥が小太刀二刀流で攻め立て、詠が大剣を持ってぶつかり合っていた。

小太刀二刀の方が小回りが効く分、詠よりも優位に見えるが、詠も大剣を自在に操り、飛鳥と互角に渡り合う。

 

「っ! つぁあっ!!」

 

「あぁっ!」

 

何回か刀を交えている内に、詠の大剣をあげるように切り込むと、飛鳥は小太刀を交差して防ごうとするが、詠のパワーに負けて、両手が上がり、胴ががら空きになってしまった。

 

「はぁあっ!!」

 

「あぁあっ!!」

 

その胴に、詠が全身の捻りを使った回し蹴りをぶつけ、飛鳥は肺から全ての空気を吐き出したかのような声をあげると、地面に転がった。

 

「貰いましたわ!!」

 

詠か追撃をしようと跳び上がり、飛鳥に向けて大剣を振りかぶり、秘伝忍法を仕掛けた。

 

「『秘伝忍法 シグムント』!!」

 

「っ! まだまだぁ! 『秘伝忍法 二刀繚斬』!!」

 

ガバッと起き上がった飛鳥も秘伝忍法を繰り出し、二人の技がぶつかると、一瞬の閃きが走った。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

飛鳥と詠、二人は少し離れた位置で背中合わせになり、静かな時が流れる。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・・・・・・(スッ)」

 

斑鳩達(葛城は除く)と焔達(目を覚ました未来も含む)に、緊張が走り、息を呑むが、理巧が静かに手をあげるとーーーー。

 

バリッ!×2

 

「かはっ!」

 

「くはっ!」

 

飛鳥の装束の腹の部分が破れるが、少し体制を崩しながらもこらえ、詠の装束も音を立てて破れ、その豊麗な肢体を晒しながら詠は倒れた。

 

「肆番勝者、あーちゃ、いや、飛鳥!」

 

「・・・・ぁぁっ」

 

『飛鳥(ちゃん/さん)!!』

 

安堵した笑みを浮かべた飛鳥が膝から崩れると、斑鳩達が駆け寄った。

 

「な、何とか勝てたよ・・・・本当に、強いね、詠さん。斑鳩さん。後は・・・・」

 

「ええ・・・・相手は紅蓮隊のリーダー焔さん。相手にとって不足なしですわ。そして、絶対に勝ちます。勝ってーーーー賞品の理巧くんを必ず手に入れましょう!」

 

「唯でさえ紅蓮隊のヤツら、理巧の唇奪ってアタイらよりリードしているからなぁ。ここらで追い付かないと不利だものなぁ」

 

「ちょっ、葛姉ぇいつのまにっ!? って言うか、私の胸を揉まないでぇ~!!」

 

いつの間にか起きていた葛城が、飛鳥の後ろに回り込み、バストを揉みまくっていた。

因みに理巧は持ってきていたバスタオルで、詠の身体に被せていた。

 

 

 

ー斑鳩VS焔ー

 

そして迎えた最終戦。斑鳩と焔の戦いは理巧曰くーーーー。

 

「おぉ~。さながら無双系ゲーム・・・・」

 

と言わんばかりに激しい物だった

 

「はぁああああああああああああ!!」

 

「おおおおおおおおおおおおおお!!」

 

斑鳩の『飛燕』が、焔の六刀が、凄まじい速度で振るわれ、激しい火花を散らせながらぶつかり合う。

手数では焔が上だが、斑鳩は間合いを詰めるように接近し、両手が塞がっている焔の動きを制限するように戦い、つばぜり合いを広げた。

 

「(流石は焔さん! 伊達に『陰の秘伝忍法書』に選ばれた訳ではありませんわね!)」

 

「(ただのお嬢様かと思ったが、中々に強かな戦い方をするじゃあないか!)」

 

焔は少しでも間合いを開けようと動くが、斑鳩はピッタリと焔との間合いを詰め、次々と飛燕を振る。理巧は除けば、半蔵学院の最速の斑鳩だからできる戦術である。がーーーー。

 

「くっ!(焔さんの動きが良くなってきた?)」

 

「(懐から突いてくる攻撃。そんなの理巧に散々されてきたんだよっ!)」

 

蛇女に潜入していた理巧との手合わせで、斑鳩と同じ戦法で何度も敗北の苦汁を舐めさせられた分からない。その経験が役立っていた。

 

「ふっ、はぁぁっ!!!」

 

「く・・・・!」

 

焔が両手の刀を交差させた攻撃を連続で放つと、斑鳩は少し間合いを開けてしまった。

 

「っ! しまった」

 

「貰ったぁ! 『命駆』っ!」

 

焔が『命駆』モードになると、秘伝忍法を繰り出す。

 

「『秘伝忍法 紅』!!」

 

「きゃぁあっ!!」

 

火炎の刃を受けて、斑鳩の装束が破れた。

 

「くっ・・・・! 『命駆』!!」

 

斑鳩も『命駆』モードになると飛燕を構え、焔も最後の攻撃を仕掛けようと構える。

 

「・・・・『秘伝忍法 凰火炎閃』!」

 

「・・・・『秘伝忍法 魁』!」

 

火炎の斬撃と紅蓮の突撃がぶつかり合い、猛烈な火花を散らす。

 

「まだまだぁ! 『魁』!」

 

「なっ!?」

 

何と焔は、もう片方の三本の刀を突き出してきた。そしてーーーー。

 

「『魁』! 『魁』! 『魁』! 『魁』! 『魁』ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

「ああああああああああっ!!!」

 

『魁』は片方の手に握った三本の刀を突き出して相手に突撃する技。それをまるでラッシュするように左右の腕を交互に出す連続使用で、斑鳩を打ち破った。

 

「あぅっ!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

地面に倒れる斑鳩、『秘伝忍法』の乱発による体力の消耗で肩で息をする焔。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧が斑鳩に駆け寄ると、斑鳩は戦闘不能と判断し、

 

「伍番勝者、焔! よってこの試合、二勝二敗一引き分け!!」

 

理巧の宣言に両陣営が、「あぁ~」、と落胆したのであった。

 

 

 

 

そして全員が葛城のリトルスター能力で回復すると、お互いの健闘を称え合っていた。葛城は勝負の結果に不満てんこ盛りで、春花に詰め寄ろうとするが、春花は日影を差し出して逃げた。

 

「でも残念だなぁ、りっくんとのデートとかこれでご破算にだよね・・・・」

 

飛鳥の言葉に、肩を落とす一同。

が、そんな中、理巧は静かに口を開いた。

 

「まぁその件については取り敢えず置いといてーーーーそろそろ出てきて貰えないですか、ねぇ!」

 

理巧が近くの林にクナイを投擲すると、林の中からガサガサと音が響き、飛鳥達と焔達に緊張が走る。伏井出ケイの刺客か? と思ったが、林から現れたのは、灰色の上品な制服を着用した少女達だった。

 

灰色の髪を肩口まで伸ばし、後ろを白いリボンで結わえ、水色の綺麗な瞳をし、一瞬理巧は、「季節外れの冬の妖精か?」と思うほどの清楚で優美な涼やかな雰囲気をした育ちの良さそうな少女。

春花を上回る高身長に、長い黒髪を赤いリボンでサイドテールに結わえ、その顔には何故か般若面を付け、全身から落ち着き凛々しい雰囲気がある少女。が、理巧は何故か其が上っ面だけの物ではないかと感じた。

青い髪をおかっぱとも言えるボブカットヘアに青い瞳をし、花の髪飾りを付けて、見るからに生真面目な雰囲気をした少女。理巧は何かを抑えているような感じを、その少女に感じた。

長い金髪に赤い瞳、髪にはドクロの髪飾りを付け、今時ギャルと言っても良い軽薄でチャラい雰囲気をした少女。だが、理巧は見た目に反して鍛えている事を見抜いた。

茶色の髪をツインテールにし、瞳は青く、雲雀のような小動物な雰囲気のある可愛らしい少女。雲雀ちゃんと同じタイプだな、と理巧は思った。

 

「・・・・92センチのGカップ。96センチのIカップ。90センチのFカップ。95センチのGカップ。86センチのEカップ」

 

少女達は制服の上からでもスタイルの良さが分かり、制服の胸元を押し上げる豊満なバストをしていた。早速葛城が少女達のバストサイズを目測で計測する。

少女達の制服には、雪の結晶をバックに『月』の漢字が書かれ、上から月の文字を囲うように蜘蛛が足を伸ばしている校章を付けていた。

 

「あの制服に校章は・・・・まさかっ!?」

 

「『死塾月閃女学館』・・・・?」

 

斑鳩と春花が目を鋭くして睨み、理巧はその少女達を見据える。

 

「私達の存在に気づいていたとは、油断できない方のようですね」

 

リーダーのような灰色の髪の少女が前に出て、理巧を鋭く睨む。

 

「・・・・それで、君達も忍のようだけど、一体何のご用で?」

 

「単刀直入に申し上げます。私達の目的は・・・・あなたです。暁月理巧!」

 

『っ!!』

 

理巧を指差してそう言うと、飛鳥達と焔達が肩を揺らす。理巧は平静に少女の言葉を返す。

 

「どういう事ですか?」

 

「あなたが、私達善忍の敵、私達の地球を、いえ宇宙を滅ぼしかけた最悪にして最凶の悪・・・・『ウルトラマンベリアル』と縁のある者だからです!」

 

「・・・・・・・・」

 

少女の言葉に、理巧はスッと目を細める。

 

「悪の因子を持つ者は、生かしておきません! 『忍転身』!」

 

「「「「『忍転身』!!」」」」

 

少女達が『忍転身』をすると、制服からそれぞれの装束に変わると、リーダーの少女が持っていた扇を理巧に向けて突きつける。

 

「私達は『死塾月閃女学館』! 悪は絶対に許しません!!」




遂に現れた月閃女学館。次回は、彼女達と理巧の勝負です。


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正義執行

ー理巧sideー

 

「悪の因子を持つ者は、生かしておきません! 『忍転身』!」

 

「「「「『忍転身』!!」」」」

 

突然現れた少女達が『忍転身』すると、その忍装束に変わった。

 

リーダー格の少女は白と水色に花柄が付いた着物を着崩し、豊満な胸元の上部分と肩を剥き出しになり、シミ一つない新雪のように白い肌を出し、両手に扇子を持っていた。

長身の般若面の少女は、長いマントに鎧を着け、胸元の上部分が見え、波打った長大の槍と大きな包丁を持っていた。

おかっぱの少女は動きやすいように改良された青い着物に、自身の数倍は大きな手甲を装備し、ガチンガチンを擦り合わせた。

ギャル系の少女は水着のようなボンテージの衣装に、黒いマントを羽織り、骸骨を着けた大きめのキャペリンハットを被り、自分の身長を越える円盤型の大鎌を持っていた。

小動物のような少女は、胸元が開いた黄色い可愛く、ウェイトレスのような衣装に、足には白と黄色のニーソックスを履いており、何故かフライパンとバケツも持っていた。

 

「私達は『死塾月閃女学館』! 悪は絶対に許しません!!」

 

リーダー格の少女が、扇子を理巧に向けてそう言ってきた。が、理巧は何食わぬ顔をしていた。

 

「『死塾月閃女学館』?」

 

「半蔵学院にも負けない歴史を持つ忍育成に特化した善忍の学校ですわ。ですが一般人もいる我が校と違い、高等部や中等部の生徒全員が忍だと聞いてますわね」

 

「つまり、善忍のエリート校みたいなの?」

 

「そんな所ですわ」

 

理巧と雲雀に斑鳩が簡単に説明した。

 

「ふぅ~ん。所で質問何だけど」

 

「何ですか?」

 

リーダー格の少女は理巧に鋭い視線を向けたまま問い返した。

 

「アンタ達の名前は? 名を名乗らずに戦う何て、ちょっと失礼なんじゃない?」

 

理巧がそう言うと、月閃の忍達は一瞬ポカンとなるが、リーダー格の少女が扇子を下ろして、コホン、と咳払いをして頭を下げた。

 

「こ、これは失礼しました。如何に悪とは言え、礼節を欠いておりました」

 

「えぇ、名乗るのぉ? メンドイんだしー!」

 

「文句を言うでない。確かに失礼じゃ」

 

ギャル系の少女が面倒臭そうに言うが、おかっぱの少女が老人口調で注意した。

 

「(リーダー格とおかっぱさんは、どうやら根っからの真面目さんみたいだな)」

 

理巧は少しそう思うと、先ずはリーダー格の少女が名乗りをあげた。

 

「死塾月閃女学館三年生、忍名『雪泉』と言います」

 

「同じく三年生、忍名『叢』」

 

「二年生の『夜桜』じゃ」

 

「チョリース。あたし一年生の『四季』だしー」

 

「みのりは、一年生の『美野里』だよ」

 

「それで、月閃の皆さんが何でりっくんを狙うんですか?」

 

飛鳥が月閃の忍達にそう問うた。

 

「・・・・知れた事、その少年があなた方半蔵学院にやって来てから、半蔵学院を中心に、過去に例が無いほどの怪獣騒動が多発するようになりました」

 

リーダー格の少女、雪泉が改めて扇子を理巧に向けて構え直す。

 

「それで?」

 

「我々月閃女学館の調査によると、あなたはあの忌まわしき事件、『クライシス・インパクト』の首謀者、ウルトラマンベリアルと関係のある人物だと言う事が分かりました」

 

「・・・・我らの星、いや、銀河すらも滅ぼそうとした最悪の存在、ウルトラマンベリアル。その縁のある人物が、半蔵学院にいると聞いた」

 

「時を同じくして、怪獣騒動の多発と、『光の国』から別のウルトラマンが登場し、さらにお主は蛇女子学園をたった一人で制圧したと聞いた」

 

「一人で、って言うけど、あの時は焔達選抜メンバーはいなかったし、一番の使い手である鈴音先生もいなかったからだと思うけど?」

 

「でも私達、一度も理巧様に勝てなかったけどねぇ」

 

「鈴音先生も、【やり合ったら多分、手足の一本か二本は使えなくなっていた】って言ってたけどねぇ」

 

後ろでコッソリと春花と未来が何か言っているが無視する。雪泉はさらに、焔達元蛇女子学園の選抜メンバーを指す。

 

「悪忍育成機関である蛇女子学園を、たった一人で制圧したその功績は認められますが。貴方はなぜ、彼女達と行動を共にしているのですか? しかも、半蔵学院の生徒達まで巻き込んで」

 

「違います!」

 

雪泉の言葉を飛鳥が否定する。

 

「私達は焔ちゃん達と友達だから一緒にいるんで「いや別に友達じゃないぞ」えええぇぇぇぇ!?」

 

「えええぇぇぇぇ!?」

 

飛鳥の言葉の途中で焔が否定し、飛鳥が驚きの声を上げ、雲雀も声を上げ、柳生と斑鳩と葛城も、えっ?、とした顔になった。

 

「私達は理巧に会いに来ているだけで、お前達と仲良くする気はない。お前達は二重の意味でライバルだからな」

 

「まあ、確かにそうですわね」

 

「別に仲良しやないしな」

 

「結果的に一緒にいるだけだし」

 

「で・も。“こっちの方”では私達が一歩リードしているけどねぇ」

 

焔の言葉の詠に日影、未来が同意し、春花は唇を人差し指でなぞりながら、蠱惑的な笑みで理巧を見据える。

 

「「「「「ううぅっ!!」」」」」

 

その仕草の色っぽさと、確かに遅れを取っている事を自覚し、飛鳥達は悔しそうな顔になる。

半蔵学院側と蛇女子学園側の忍達が雪泉達そっちのけで火花を散らしているが。

 

「それで、君達は僕を始末したいの?」

 

「・・・・その通りです。悪の芽は早めに摘んで置かなければなりません」

 

理巧と雪泉達は話を戻し、雪泉が理巧に向けた言葉に他のメンバーも頷いて、それぞれの武器を構える。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧はしばし彼女達を見据えると、

 

「作戦ターーーーイム!」

 

手をT字にした。スポーツでタイムを示すサインである。

 

「・・・・認めましょう」

 

「ありがとう」

 

雪泉がタイムを認めたので、礼を言ってから、飛鳥達半蔵学院、焔達紅蓮隊の皆と円陣を組んでヒソヒソと小声で作戦会議を始めた。

その時、四季と呼ばれた少女は立っているのが疲れたのかしゃがみ、美野里は“バケツからお菓子を出して食べていた”。

 

「どうすれば良いかな?」

 

「見た感じ見逃してくれなさそうよ」

 

「話し合いで解決できないかなぁ?」

 

「それは無理やな」

 

「あの雪泉って子と夜桜って子、斑鳩姉さんから柔軟さと融通を抜いたように見えるし。他の三人も先の二人程じゃないけど、敵意を向けているし」

 

「おい理巧。斑鳩に柔軟と融通なんてあったか?」

 

「ちょっと葛城さん。それはどういう意味ですか?」

 

「はいはい。内輪揉めは後よ」

 

「つまり斑鳩よりも堅物と言う訳か。面倒だな・・・・」

 

「確かに面倒くせえなぁ。おい理巧。いっちょ軽く揉んでやったらどうだ?」

 

「何やら、お高く止まっている雰囲気が癪に障りますわ」

 

『理巧。あの子達どれくらい強い?』

 

雲雀と未来がどうするか聞き、飛鳥は話し合いを提案するが、日影と理巧が無理を示す。葛城と斑鳩が言い合いになりそうなのを春花が止め、柳生と焔が面倒くさそうに理巧をけしかけようとし、詠は雪泉達から出るお行儀の良いお嬢様な雰囲気に不愉快を隠さず、円陣の影からペガが理巧に向かってそう言った。

 

「・・・・恐らくだけど、雪泉って子と叢って子、それに夜桜って子は、焔と詠さんと日影、斑鳩姉さんか葛姐さんくらいだね。四季って子はあーちゃんくらいかな。美野里って子は多分雲雀ちゃんくらいだ」

 

「結構やる奴らって事か・・・・」

 

「それでどうするのりっくん?」

 

「ま、本人達もやる気になっているみたいだし。それにーーーーちょっと試してみたいから、お相手しましょ」

 

そう言って、理巧は少し柔軟体操をしてから、雪泉達に向き直る。

 

「覚悟は決めましたか?」

 

「覚悟? 決める必要があるのかな?」

 

雪泉の言葉に理巧は手をプラプラさせながらそう答えると、雪泉達は眉をピクンと動かすと、それぞれの武器を構えた。

 

「その驕り。後悔させてあげます!」

 

雪泉がそう言って飛び出すと、他の四人も後に続いて理巧に迫ったーーーー。

 

 

 

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

そしてその頃、霧夜先生は半蔵学院の自室にて、鷹丸と連絡を取り合っていた。

 

「・・・・そうか。そっちでも伏井出ケイの行方は見つけられなかった・・・・」

 

《ああ。全く痕跡が見られないんだ。恐らく何者か、AIBでも手が出せないような相手に匿われているんじゃないかと思う》

 

「かも知れんな。こっちでも理巧達も独自に調査をしているが、あまり成果は出ていないようだ。スマンな。善忍上層部が非協力的なせいで、お前達に負担をかけてしまう」

 

《気にしないでくれ。何か情報が入ったら連絡するから、理巧の方を頼む》

 

「分かった」

 

電話を切ると、自室に黒猫とーーーー大道寺が現れた。

 

「大道寺か。そちらで情報は?」

 

「不甲斐なし。裏の裏の情報を探っては見たが、成果は得られなんだ」

 

≪たくっ、何処に消えやがったんだ≫

 

大道寺も独自に調査をしていたのだが、結果は惨憺たるものであったようだ。

 

「師よ。伏井出ケイの情報はようとして掴めなかったが、一つ気になる情報が入った」

 

「気になる情報?」

 

「・・・・月閃女学館が動いた。近い内に、暁月に接触してくると思われる」

 

「っ! 遂にか・・・・。ここまで怪獣や宇宙人騒動が多発していれば、遅かれ早かれとは思っていたが」

 

「然り。現在の月閃の選抜メンバーは全員、伝説の抜け忍、黒影様の養子として育てられた娘達ばかりだ」

 

「と言う事は、過激な正義理論を教え込まれている可能性があるな」

 

≪霧夜。黒影って、何者だ?≫

 

「・・・・端的に言えば、光の国にいた頃の、“ベリアルのような考え方をした御仁”だ」

 

≪成る程な。そりゃあ面倒くさそうだ。んで、ソイツの養子達が理巧に仕掛けてくるって事だな≫

 

「ああ。既に理巧に喧嘩を売っている可能性もあるな」

 

「・・・・暁月は、大丈夫なのか?」

 

最近の理巧の様子を知らない大道寺が少々心配気味に聞くが、霧夜先生もゼロも、微塵も心配していないような声で、

 

「大丈夫だ。少し見ていない内に、理巧は腕をあげている」

 

≪その選抜メンバー、今頃どうなっているかな≫

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ぐぅっ!!」

 

叢が理巧の掌底を受けて、木に叩きつけられる。

 

「叢! はぁあっ!!」

 

夜桜が手甲で殴ろうとするが、理巧はその腕をいなし、合気道の技の要領で投げ飛ばし、地面に叩きつけた。

 

「かっは!?」

 

「何コイツ!? メチャメチャ強いしっ!?」

 

「狼狽えないでください四季さん! これなら!!」

 

雪泉が扇子を振るうと、氷の氷柱が地面から伸び、理巧に襲い掛かる。

 

「おっと」

 

理巧はすぐに飛んで回避すると、木の枝に立つ。

 

「ふっ!」

 

「せやぁっ!」

 

叢と四季が巨大包丁と大鎌で理巧を挟み込むように斬りかかる。がーーーー。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は片手にクナイを持つと、先に迫っていた叢の包丁の刃を自分に当たる直前に受け流して滑らせると、四季の大鎌にぶつけた。

 

「なっ!?」

 

「ウソっ!?」

 

大鎌と包丁が絡み合って、一瞬二人の動きが止まった。

 

「しっ!」

 

「ぐぁ!」

 

「あぅっ!」

 

理巧は二人の腹部に肘鉄を当てると、叢と四季は意識が朦朧となり、武器から手を離し、枝からまっ逆さまに落ちていく。

 

「叢さん! 四季さん!」

 

「いかん!」

 

「ああ!」

 

雪泉と夜桜が落ちていく二人を受け止めようとしたが、それよりも早く、理巧が二人を空中で抱えて、スタっと着地した。

 

「・・・・・・・・」

 

そして二人は優しく地面に横たわらせ、武器の方もソッと地面に置いた。

 

「貴方・・・・私達を嘗めているのですか?」

 

「何で?」

 

「わざわざ助けるなど、侮辱に等しいぞ・・・・!」

 

雪泉と夜桜は、敵である筈の自分達を助ける理巧に、不快な感情を感じていた。

 

「・・・・別に、怪我されると気分が悪いと思ってね」

 

「くっ! ふざけるな!!」

 

夜桜が両手の手甲で乱打をするように振るうが、理巧はその攻撃をヒラリヒラリと回避し、夜桜の眼前にまで来た。

 

「なっ!? くぅううう!!」

 

夜桜が拳を叩き込もうとした、理巧は回避しようとせず、またいなすのかと思われた。

がーーーー。

 

パシッ。

 

「な、なんじゃと・・・・!?」

 

何と、その理巧の体躯よりも巨大な手甲の拳を、理巧は片手で掴み止めた。

 

「・・・・本物の剛力の拳は、こんな物じゃないさ」

 

グシャァッ!!

 

掴んだ拳に力を込めると、手甲を砕いた。

 

「ななっ!?」

 

理巧の腕はお世辞にも逞しいとは言えない。細腕な方と言っても良いのに、鋼鉄の手甲を握力だけで破壊した事に夜桜は驚きを隠せずにいると。

 

「はい」

 

ドン!

 

「かぁっ!?」

 

理巧は愕然となる夜桜の腹部に掌底打ちを叩き込むと、夜桜は肺の中の空気を全て吐き出したような声を漏らし、目を覚ました叢と四季の近くまで吹き飛び転がった。

 

「よ、夜桜っち・・・・!」

 

「夜桜まで・・・・!」

 

理巧は自分の拳を握ったりして、自分の状態を確認する。

 

「(やはり、ゴライアン達との修行で、以前よりも相手や周りの動きが良く見えるようになっているし、パワーやスピード、反射神経に技の精度が上がっている)」

 

ウルトラマンゴライアン。カラレス。ザージ。フレア。ドリュー。古強者の五人との修行が、理巧の心技体を引き上げていたのだ。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「り、りっくん、強い・・・・!」

 

「いや、私達と戦った時よりも強くなってるぞ・・・・!」

 

飛鳥達と焔達は、蛇女子の時よりも格段に強くなった理巧を見て、驚いていた。

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「な、なんと言う強さ・・・・!」

 

「あわわわわわ!」

 

雪泉は苦虫を噛んだような顔になる。美野里に至っては完全に脅えており、涙が浮かんでいた。

 

「・・・・これで退いてくれる?」

 

理巧がそう言うが、雪泉はくっ!と、歯噛みすると、扇子を構えた。

 

「退く訳ありません! ここで逃げては、『あの方』のようになれません!」

 

雪泉が言った『あの方』と言う言葉に、理巧は少し気になったが、雪泉が扇子を振るうと、再び地面から氷の氷柱が隆起して、理巧に迫るが。

 

「よっ!」

 

「まだですっ!」

 

雪泉が舞を踊るように扇子を振ると、氷の氷柱が次々と隆起して理巧に襲い掛かる。

 

「はっ! それっ! ほいっ! おっと!」

 

ヒョイヒョイと回避していくが、

 

「っ! 囲まれたか」

 

辺りを見れば氷の氷柱が自分の周囲を取り囲んでいた。

 

「これでおしまいです」

 

動きを封じた理巧に、雪泉が扇子を構える。

 

「っ!」

 

ボワァアアアアアアンン!

 

「なっ!? 煙玉なんて古典的な!」

 

理巧が煙玉を地面に叩きつけると、煙が辺りに充満した。

 

「しかし、そのような子供騙しで逃げられません」

 

雪泉煙の向こうで動く人影を見つけると、跳んでその人影に迫る。

煙を抜けて見つけたのは、理巧だった。

 

「貰いましたっ!!」

 

「っ!!」

 

雪泉が理巧に向かって扇子を振り下ろした。その時ーーーー。

 

グワシャァンッ!!

 

振り下ろした扇子が砕いたのは理巧ではなく、雪泉が出した氷柱だった。理巧に見えたのは、氷に映された影だったのだ。

 

「なっ!? こ、これは・・・・!」

 

ーーーーこっちだよ・・・・。

 

ーーーーいやいやこっち・・・・。

 

ーーーー実はここ・・・・。

 

ーーーーここだったりして・・・・。

 

「っっ!?」

 

雪泉は辺りの氷柱全てに映った理巧の姿に、完全に惑わされていた。

 

「(私の術を逆手に取った!?) 己ぇっ!!」

 

雪泉は辺りの氷柱を手当たり次第に破壊するが、どれも理巧ではなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・!」

 

「ーーーー残念」

 

「はっ!?」

 

背後に理巧の声が聞こえ、雪泉は振り向こうとしたが、それよりも早く、理巧は雪泉に当て身を叩き込むとーーーー。

 

「きゃぁっ!」

 

雪泉の身体から力が抜け、扇子を落としてその場に力無く倒れようとするが、理巧が抱き抱え。

 

「よっと!」

 

煙が晴れると理巧は、抱えた雪泉を夜桜達の方に運んで下ろした。

 

「くぅっ!」

 

「雪泉までも・・・・!」

 

「やっべ~、冗談抜きでコイツ強すぎ・・・・」

 

「う、うぅ・・・・!」

 

叢と夜桜、四季がリーダーがやられた事に驚き、意識が戻った雪泉が悔しそうな声をあげていた。

 

「さて、残るは・・・・ん?」

 

理巧はある木を見ると、その木の影に隠れて、脅えている美野里を見つけた。

 

「ちょっと」

 

「ひゃああああああ!!」

 

理巧に声をかけられ、美野里は涙目で驚くと、距離を空ける。

 

「あのさ。もう降参しない?」

 

「し、しないもん! みのりだって、月閃の善忍何だから、悪は許さないよ! えぇ~い!!」

 

美野里は理巧に向かって迫り、拳を振るうが、理巧は難なく回避すると美野里の首根っこを掴んだ。まるで子犬か子猫でも摘まみあげるように。

 

「は、離して! みのりは子供扱いしないで「お菓子でも食べるかい?」食べる♪」

 

懐からチョコバーを差し出すと、リスの耳と尻尾を生やし、尻尾をブンブン振っているように見える美野里は笑みを浮かべて受け取り、リスのようにサクサクと頬張った。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「りっくん、手懐けちゃった・・・・」

 

「プロだな・・・・」

 

「流石は理巧だな・・・・」

 

「ええ。小動物の扱いには慣れているわね」

 

『ん?』

 

「え?」

 

「誰が小動物よ! 誰が!」

 

飛鳥達と焔達が、美野里を手懐けた理巧に苦笑いをしながら感心していると、春花はペガと雲雀と未来を見て、そう呟いた。ペガと何故かウサミミと尻尾を生やしたように見える雲雀は首を傾げ、猫耳と尻尾をピンっと立てたように見える未来が、シャー! と声を荒げた。

 

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「くっ、うぅ・・・・!」

 

雪泉は重い身体を起き上がらせ、再び理巧に向けて扇子を向ける。理巧は片手で美野里を持ち上げたまま、雪泉は見据える。

 

「まだやるの?」

 

「と、当然です・・・・! この程度で、正義を執行できなければ、『あのお方』のようには、なれません・・・・!」

 

「『あのお方』?」

 

「そうです・・・・あなたのような悪を撃ち破る『光の戦士』・・・・“ウルトラマンジード様”には!!」

 

「・・・・・・・・・・・・えっ?」

 

『え・・・・・・・・』

 

雪泉の言葉に理巧と、飛鳥達も焔達もペガですら、唖然となり、フリーズしてしまった。

それを好機と見た雪泉は理巧に真っ正面から向かい、美野里は逃れようともがいた時、唖然となってしまった理巧はバランスを崩れ、

 

「うわっ!」

 

「貰いまし(ツルン)あら!?」

 

何と、雪泉は先ほど自分が破壊していた氷柱の一部が足元に転がっており、それに足を滑らし、理巧の体当たりする形で倒れてしまった。

 

「きゃうん!?」

 

「うわむぐっ!?」

 

「あ、んんっ!?」

 

その時、理巧と共に倒れた美野里が小さな悲鳴を上げ、理巧と雪泉はくぐもった声を漏らしていた。

土煙で見えなくなっていたが、それが晴れるとソコにはーーーー。

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』

 

「「「えぇええええええええええええええええええええええええてえええっ!?」」」

 

その場にいたほぼ全員が驚きの声を上げた。美野里は目を回していた。

倒れた理巧とその理巧を押し倒すように倒れた雪泉がーーーー。

 

「ん・・・・!」

 

「ん、んん、んむ・・・・!//////」

 

キスをしていたのであった。




ー次回予告ー

僕を悪の存在として命を狙う月閃女学館の少女達。また面倒くさい事になったなぁ。しかし、そう簡単にくれてやる程、この命は粗末にできないんでね。仕方ないから相手になってやろうじゃないの!
それで、雪泉さん? また何の様なのさ? えっ? 唇を奪った責任として、雪泉さんと結婚しろだってっ!?


次回、『閃乱ジード』

【理巧のデート】

あれ? 何かあーちゃん達と焔達から殺気が・・・・!


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理巧のデート
求婚されたぜ、僕・・・・


忍名・雪泉。

善忍育成機関・月閃女学館の三年生。善忍であった両親を殉職により亡くし、叢に夜桜、四季に美野里と言った他のメンバーと共に祖父である『黒影』に育てられた。

祖父の意思である『悪を強く憎み、善のみの世界を作り上げる』と言う理念を継いでおり、それを正義だと信じている。そんな雪泉にとって、まさに正義の体現者のような存在が現れた。

それがーーーー『ウルトラマンジード』だった。

過去に類を見ない異常なまでの巨大生物、怪獣の出現。その度にウルトラマンジードは現れ、その圧倒的な強さで怪獣達を倒してきた。その姿に、雪泉は自分の理想とする、それこそ子供の頃に憧れた『正義のヒーロー』がソコに立っていた。

 

【いつか私も、ウルトラマンジード様のように・・・・!】

 

雪泉は今まで以上に修行を積極的にしてきた。修行を頑張るリーダーの姿に、叢達も触発されていった。

そんな雪泉達に、悪忍育成機関・『秘立蛇女子学園』が、同じく善忍育成機関・『半蔵学院』と交戦した事を聞いた。しかも、蛇女を制圧したのが、半蔵学院に特待生として編入した『たった一人の男子高校生』によって、その少年の名はーーーー『暁月理巧』。

祖父・黒影からその存在を知らされ、雪泉は、凄い少年と思うと同時に、彼がもし悪忍側に引き込まれれば、最悪の悪となると考えてた。

そして黒影から、

 

【暁月理巧を討伐せよ。奴は、あの忌々しき巨悪『ウルトラマンベリアル』と縁ある者だ。放置すればいずれ必ず、強大な悪となる可能性がある。討伐が不可能ならば、捕獲するのだ】

 

そう指令を受けて、暁月理巧をコッソリと監視していると、何と、蛇女子学園の生徒と交流をしている事が分かった。

これは悪の存在だと判断し、仲間の叢、夜桜、四季、美野里と共に挑んでみれば、想像を遥かに上回る圧倒的な実力で、自分達を叩きのめした暁月理巧に、雪泉は最後の勝負を挑んだが、

 

「んん!? んむ! んちゅ!?」

 

「んん・・・・」

 

色々と奇妙な偶然が重なり、現在自分は暁月理巧とーーーーキスをしていた。

自慢ではないが、雪泉は物心ついた時から善忍になる為に厳しい修行を積み重ねてきた。別に恋愛に興味がない訳ではない。雪泉とて女の子だ。素敵なお嫁さんに憧れる気持ちはある。

が、恋愛を現を抜かしている立場ではない為、これまでそう言った事を経験した事がない。

つまり、恋愛経験0なのだ。

 

「んん~~~~!! ぷっはっ!」

 

「はっ!」

 

漸く唇を離し、引き締まった美尻を地面に着かせた雪泉は、その体制のまま器用に後ずさった。

 

「あわ、あわわわわわわわわ!!///////」

 

恋愛経験0の雪泉が、男性と、しかも自分と同い年の少年とキスだなんて、脳の処理能力がキャパオーバーをし出し、

 

「はわ、はわわわわわわわわ!!///////」

 

顔どころか、身体の色白な肌が熟れ立てのトマトか塗装したばかりの郵便ポストのように真っ赤に染まり、頭から湯気が立ち上がり、目はグルグルと渦巻きを巻いて、言葉もマトモにでないほどに狼狽えていた。

 

「・・・・あの」

 

「ひょわっ!!!???//////」

 

理巧が話しかけると、雪泉は奇妙な悲鳴を上げて、さらに後ずさると、起き上がった叢と夜桜と四季の近くに到着した。

 

「う、うぅ・・・・///////」

 

「ゆ、雪泉?」

 

「だ、大丈夫、かの?」

 

「ヒュ~♪ チューなんてしちゃうなんて、雪泉っちったら大胆~♪」

 

「~~~~~~~っ、ふ、ふふ、ふにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!////////////」

 

ニヤニヤ顔の四季にそう言われ、雪泉はさらに奇妙な悲鳴をあげて、顔をさらに真っ赤にし、若干涙が滲み、両目がバッテンに顔を両手で覆い隠した。

 

「お、お~い」

 

「っっっっ!!!???/////////」

 

理巧の顔を指の隙間から覗く、が、すぐに指を閉じて顔を背けた。ワナワナと身体を震わせながら、雪泉は口を開く。

 

「しぇ・・・・!」

 

「しぇ?」

 

「責任<しぇきにん>、取って下しゃ~~~~いッ!!!!////////」

 

と、そう叫んで、雪泉はその場から逃げ出した。

 

「あぁ、雪泉っち!」

 

「っ!」

 

四季と叢が雪泉の後を追い、夜桜が目を回している美野里を回収する。その際、理巧をキッと睨む。

 

「今日はここで終わりにしてやる。しかし、忘れるでないぞ! 悪の因子の貴様は、我ら月閃女学館が、必ず討つ!・・・・・・・・ほれ美野里、しっかりせんか」

 

「うきゅ~~ん・・・・」

 

そう言い残し、夜桜は美野里をおぶって、雪泉達の後を追った。

 

 

 

ー理巧sideー

 

「う~んまた面倒な事になったなぁ。・・・・ん? 何だ? 背中から複数の殺気がーーーー」

 

『り、理巧! 逃げてっ!』

 

背後に行列な殺気を複数に感じた理巧が首を背後に向けるとーーーー十人の鬼が立っていた。

飛鳥。斑鳩。葛城。柳生。雲雀の半蔵学院の五人が、焔。詠。日影。未来。春花の焔紅蓮隊の五人が、顔に禍々しいーーーー先ほどの叢のような鬼面よりも恐ろしい修羅面を被り、全身から殺気と怒気が混ざったオーラをユラユラと放ちながら、理巧を見下ろしていた。

 

「(あ、これ死ぬかも・・・・)」

 

理巧は死を覚悟した。

 

「りっくん・・・・いきなりキスってどういう事?」

 

「自分を始末しに来た奴とチュウとは、やってくれるじゃあねえか?」

 

飛鳥と焔が、まるで地獄の底から響くような声を発する。

 

「お姉ちゃんは許しませんよ、理巧くん・・・・!」

 

「わたくしの唇のはじめても捧げたと言うのに・・・・!」

 

仮面越しで妖しい目の光を放つ斑鳩と詠が、飛燕と大剣を持ち出した。

 

「どさくさに紛れてあの92センチのGカップバストとイチャコラかコラ? 何でアタイも交ぜない!?」

 

「変やなぁ、何か腹の底から、グツグツと煮たってくるわ。・・・・あぁ、これが怒りちゅうやつか」

 

葛城がズレた怒りを抱き、日影が怒りの感情を知った。

 

「許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん・・・・!」

 

「浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者浮気者・・・・!」

 

ご丁寧に片目に眼帯を付けた修羅面を被った柳生と未来が、番傘と洋傘を構えて、呪詛の言葉を連続で呟き続ける。

 

「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「アラアラ理巧様ったら、ちょっとおイタが過ぎるんじゃなぁ~い?」

 

雲雀は能面越しでも膨れっ面をしているのが分かり、春花に至っては懐から怪しい色をした薬が入った試験管を幾つも取り出していた。

 

「・・・・・・・・ふぅむ」

 

理巧は少々唸りながら腕を組むと、サッと煙玉を地面に叩きつけ、

 

ーーーーボワァアアアアアアアアアアアン!!

 

煙で視界を封じてすぐ、その場から逃げた。

 

『むわぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!』

 

「さよなら~」

 

追いかけてくる十人の修羅から、理巧は死ぬもの狂いで逃げた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

少しして、霧夜先生が基地に来て、理巧が月閃女学館と対峙した事を伝えられた。

 

「そうか。やはり月閃女学館が来たか」

 

「うん、まあね。今日は追い返す事ができたけど、近い内にまた来るだろうね」

 

「ふむ。過激な正義思考の黒影殿の教えを受けた娘達だ。このままおめおめと引き下がるとは思えん。理巧。単独行動は控え、なるべく皆と行動共にしておくと良いだろう」

 

「・・・・面倒臭いけど、仕方ないか」

 

「うむ。・・・・ところで、お前はどうして逆さ宙吊りになっておるのだ?」

 

「聞くに呆れる、語るに阿保らしい事が起こってね」

 

霧夜先生は、縄で簀巻きにされ、逆さ宙吊りになって天井から吊るされている理巧を半眼で見る。

宙吊りにされた理巧には焔の刀や日影のナイフや柳生の番傘が刺さり、その下では飛鳥達と焔達が修羅面を被ったまま武器を手に持って見上げていた。

端から見ると、江戸時代の刑罰か、邪教崇拝の生け贄にされそうになっている光景だ。

 

「あのさ皆。あれって事故みたいなモンだし。もう下ろしてくれないかなぁ?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『皆、もうコレくらいで許してあげようよ・・・・!』

 

『私の中で拷問めいた真似はやめていただきたいです』

 

理巧が聞いてみるが、十人の修羅達はまだ許してくれそうにないようだ。ペガとレムが必死に飛鳥達と焔達を宥めている。

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

東京の某所のホテルのスイートルーム。そこを拠点としている月閃女学館の善忍達は、理巧に付けられた傷の手当てをしていた。

 

「・・・・・・・・/////////」

 

そんな中、手当てを終えた雪泉は窓の近くに置かれた椅子に腰掛けて月を見上げ、自分の唇にソッと手を触れて、仄かに顔を赤くした。

 

「はぁ・・・・/////////」

 

「あぁぁぁぁもう! 最悪! つか、アイツ何なんだし!? あんなに強いとか聞いてないし!」

 

「っ!」

 

理巧とのキスの感触を思いだし、艶かしい吐息を漏らした雪泉は、四季の怒声にハッとなると、姿勢を正した。

 

「ボヤクな四季。しかし、あれほどの実力を持っていたとは・・・・」

 

「正直、今の我らでは相手にならない・・・・」

 

「うぅ・・・・」

 

夜桜、叢、美野里も、圧倒的過ぎる理巧の強さに、夜桜と叢(お面越しだが)苦虫を噛んだような渋面となり、美野里はほぼ涙目になっていた。

 

ーーーーピリリリリリリリリリリリリリリ!!

 

「「「「「っっ!!」」」」」

 

そんな空気の中、雪泉のスマホが鳴り響き、雪泉達はビクッと肩を揺らした。

この着信音は、祖父・黒影からの着信だったからだ。

恐る恐ると、雪泉が部屋に設られた椅子にスマホを置き、ハンズフリーで通話状態にした。

 

《雪泉。叢。夜桜。四季。美野里》

 

「「「「「っ!」」」」」

 

スマホから聞こえる厳格な声に、五人は身体を緊張しながらも、スマホに向かって横一列に並び、片膝を突いて頭を垂れた。

スマホの向こうにいる人物、『黒影』は厳かな声色で五人に声を発する。

 

《一部始終を見せて貰った。思いの外、件の少年は手強いようだな》

 

「っ! はい、お爺様」

 

“一部始終”と言う事は、自分が暁月理巧にキスしてしまった事を知られたのではないかと、雪泉は声を固くする。

 

《お前達五人を圧倒するとは、増援を送る事を視野に入れなければならんーーーーが、あれほどの力を有している少年を倒すのは簡単だが、惜しいとも言える》

 

「お、お爺様?」

 

《・・・・古来より、くノ一は魅了による籠絡こそその本領とも言われてきた》

 

「えっ?」

 

《雪泉。叢。夜桜。四季。美野里》

 

「「「「「っ、はっ!」」」」」

 

《よいか、かの少年、暁月理巧をーーーー》

 

「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」

 

黒影が次に発した言葉を聞いて、雪泉達は数秒程、沈黙すると・・・・。

 

「「「「「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!???」」」」」

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ふぁ~ぁ」

 

その翌日の朝、理巧は珍しく半蔵学院男子寮の自室で起きた。

夏休みになってからは、もっぱら地下基地で寝泊まりして、怪獣やら宇宙人やらの情報を勉強したり、菜園ルームの野菜や果物の様子を見に行ったりしていたのだ。

が、昨日の雪泉とのキスから、基地で寝ようとしていたら、葛城と春花が夜這いを仕掛けてきてゆっくり眠れなかったから、男子寮に避難したのだ。

ちなみに夜這いをしてきた葛城と春花は簀巻きにして基地に放置している。

顔を洗い、歯を磨き、軽めに朝食を終えた理巧が、寮を出て少し歩き、人目がない公園に着くとーーーー。

 

「・・・・昨日のリベンジですか? 月閃の人達」

 

今朝から男子寮の外で自分を監視している気配を察していた。

理巧の目の前に、五人の影が降りてきて、理巧が少し身構えた。

がーーーー。

 

「え?」

 

理巧が間の抜けた声を漏らす。なぜならば雪泉が、白無垢の花嫁衣装で現れたのだった。

 

「えっと、雪泉さん? 一体何のおつもりで?」

 

「あ、暁月理巧、さん・・・・//////」

 

「はい?」

 

「あ、あなたは私の唇を、奪いましたね?//////」

 

「え、ええ」

 

「不慮の事故とは言え、結婚前の女性の唇を奪ってしまった以上、あなたには・・・・責任を取って頂きます・・・・//////」

 

「責任?」

 

顔を赤くした雪泉が、叢と夜桜が足元に敷いた蓙に座り、楚楚とした動作で、理巧に向けて頭を垂れた。

 

「あ、暁月理巧、さん・・・・せ、責任を取って、わ、わわわわ、私と・・・・!//////」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は何やら嫌な予感がして堪らなかったが、後ろで四季と美野里が逃げられないように回り込んでいた。

 

「わ、私と・・・・・・・・結婚してくださいっ!!!//////」

 

「・・・・・・・・マジで?」

 

理巧が後頭部に大きな汗を流しながら、呆気に取られてしまった。




求婚された理巧。次回はデート回だ。


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デートだぜ、月閃女学館

お久しぶり!


ー理巧sideー

 

「それじゃ行きますか、雪泉さん?」

 

「・・・・・・・・は、はい」

 

理巧は月閃の制服に着替えた雪泉と一緒に、渋谷にデートに来た。そうーーーーデートに来たのだ。

親の鷹丸達が聞けば、お赤飯を炊きあげるくらい喜ぶだろう。

が、そんな2人の後方ではーーーー。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

ーーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・!

 

『あわわわわわわわ・・・・』

 

飛鳥達半蔵学院、焔達焔紅蓮隊が、凄まじい怒気を放ちながらそんな二人を見つめ、ペガと叢と夜桜、四季と美野里がそんな十人の怒気を近くで感じて怯えていた。

さて、どうしてこんな状況になったかと言うと話は数時間前に遡りーーーー。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

【わ、私と・・・・・・・・結婚してくださいっ!!!//////】

 

【・・・・・・・・マジで?】

 

事の始まりは数時間程前。

雪泉の突然の求婚に呆気に取られてしまった理巧。

 

【『ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』】

 

と、そんな一同に響く声に顔を向けると、飛鳥達と焔達が来ていた。

 

【あれ? 皆?】

 

【け、けけけけけ、結婚って、どういう事なのっ!?】

 

【そ、そうです! ま、まだ理巧くんは結婚できる年齢ではありませんよっ!】

 

【アタイはまだ理巧のお尻をたっぷり味わっていないんだぞ!】

 

【許さん・・・・! 絶対に許さん・・・・!】

 

【ダメダメダメダメ! 結婚はダメだよぉ!】

 

【先に唾を付けたのは私ら紅蓮隊だぞ!】

 

【後からしゃしゃり出てきて何を言ってるんですの!】

 

【・・・・・・・・】

 

【理巧は絶対に渡さないわよ!】

 

【事故でのキス一回で結婚なんて決められたくないわね】

 

半蔵学院の善忍と紅蓮隊の悪忍が反対の意見を出して猛抗議だった。日影は何も言わないでいたが、その目には凄まじい怒気を放っている事に、理巧は気づいていた。

 

【し、しかし、私達月閃としても、このまま引き下がる訳にら、いかないのです・・・・!】

 

【り、りっくんは、どうするの・・・・!?】

 

【ふ~む。そうだなぁ・・・・】

 

理巧は鞄からチョコバーを取り出して中身を袋から少し出すと、月閃の美野里に向かって差し出す。

 

【っ・・・・!】

 

美野里はそれを見ると、パァッ、と笑顔を見せる。その場にいた全員が、彼女にリスの耳と尻尾が生えたように見えたのは、おそらく目の錯覚ではないだろう。

 

【・・・・・・・・】

 

【(キョロキョロ、キョロキョロ)】

 

理巧はチョコバーをフリフリと、まるで小動物に見せるように振ると、美野里の視線と顔がチョコバーに釘付けになる。

 

【(チョイチョイ)】

 

【(パァッ!)】

 

理巧がもう片方の手でおいでおいでと手招きすると、美野里は理巧に近づき、チョコバーに顔を近づけ、スンスンと臭いを嗅ぐと、理巧がチョコバーを差し出し、美野里は口に入れてサクサクと頬ばる。

 

【う~ん、おいしぃ~】

 

【うん。良い子良い子】

 

頬を緩ませて頬ばる美野里の頭を理巧は優しく撫でていた。

 

【『って! 何調教してんの(されてるの)っっ!!』】

 

他の善忍と悪忍達が同時にツッコミを入れた。

 

【まぁこれは半分冗談としても、いきなり結婚とかどうしたの? 昨日は僕を始末するって言っていたのに】

 

【・・・・昨日、私達の祖父、『黒影』から、あなたを善忍側に引き入れろ。と、命が下りました。そ、それで、あなたを月閃の人間とする為に、私が、この身を捧げるつもりです!】

 

【・・・・一応だけど、僕、半蔵学院の生徒だから、善忍側じゃないの?】

 

理巧がそう言うと、雪泉はキッと飛鳥達と焔達を睨み付ける。

 

【悪忍と馴れ合うような忍を、私達は善忍と認めるつもりはありません!】

 

とキッパリ言った。

 

【そんなムグーーーー】

 

【飛鳥さん、抑えてください】

 

【話が進まねぇから黙っとれ】

 

飛鳥は文句を言いそうになったが、斑鳩が口を両手で塞ぎ、ちゃっかり葛城は、飛鳥の90センチ・Fカップを両手で掴んで揉んだ。

 

【・・・・それで、僕を善忍側である月閃女学館に引き入れようと?】

 

【ええ。ですが、正規のやり方で半蔵学院が納得するのも怪しいです。あなたは学院側としても、危険性はありますが有能な忍でありますからね。失うのは惜しいと考えるでしょうから】

 

雪泉の話を聞いて、斑鳩と柳生と春花がコッソリ話す。

 

【そうなのか?】

 

【まぁ理巧くんが以前、独断専行して蛇女に潜入したのは問題ですけど。それでも蛇女をたった1人で制圧したのは確かですからね】

 

【問題児であるけれど、それでも強力な戦力である事は間違いないからね。学院処か、善忍上層部も頭を悩ませているんでしょう】

 

と、三人の会話を聞き流しながら、理巧は話を続ける。

 

【つまり、僕が雪泉さんと結婚すれば、月閃に編入とはいかなくても、一応善忍側に引き入れる事ができるから、結婚しようって事ですか?】

 

【え、ええ・・・・ウルトラマンベリアルの関係者と疑われているあなたを、近くに置いて監視しようと言う思惑はあります。しかし、このままでは月閃女学館と半蔵学院の間で軋轢が生まれる可能性があります。『不可侵条約』を破った悪忍側が発言力を弱っている内に、善忍同士でいさかい等をしている場合ではないと、上層部は判断したようです】

 

【・・・・・・・・・・・・】

 

理巧は頬をポリポリと人差し指で掻くと、一度飛鳥達や焔達を一瞥し、

 

【二度目の作戦ターーーーイム!】

 

【認めます】

 

雪泉が認めたので、また円陣を組んで話し合いを始めた。

 

【りっくん。断るよね? 断るんだよね!?】

 

【断らなかったら今すぐお前を拉致って、私以外の女のお婿に行けない身体にしてやるからな!】

 

【・・・・・・・・断る前に、とりあえず彼女と少し行動しようと思うんだ】

 

【ホンマかいな】

 

【お前、あの92センチ・Gカップの色白美少女と本気で結婚するつもりか? ならその前に、お尻の初めてをアタイに捧げてからーーーー】

 

【そうじゃないよ。・・・・タイミングが良いと思わない?】

 

【タイミング?】

 

【何ソレ?】

 

理巧の言葉に首を傾げる一同に、理巧は詳しく説明する。

 

【僕達と蛇女子のいさかいは夏休み前に終わり、僕達は伏井出ケイの捜索で忙しいって時に、まるでこの状況を見計らったかのように、善忍のエリートである月閃女学館が動いた。この流れを偶然の一言で片付けるのは、少し乱暴だと思う】

 

ソコまで言って、何人かがハッとなった。

 

【まさか・・・・!】

 

【伏井出ケイは、月閃女学館に身を寄せている!?】

 

『【っ!!】』

 

詠と斑鳩の言葉に、残ったメンバーも驚いた。伏井出ケイが、善忍側に隠れているのではと、以前理巧が言った推察が、現実になったように感じた。

 

【で、でも理巧くん! 伏井出ケイさんは悪い人だよ! そんな人を月閃が匿うなんて・・・・】

 

【いや雲雀ちゃん。さっき雪泉さんが言っていただろう。『『不可侵条約』を破った悪忍側が発言力を弱っている』って】

 

【っ! つまり、今悪忍側は立場が弱くなった状態。そんな状況で、『コピークリスタル』や『怪獣カプセル』を所持する伏井出ケイが善忍側がいれば、隙を見て怪獣を召喚し、悪忍組織に大打撃を与える事ができる・・・・!】

 

【そう。霧夜おじさんが言うには、彼女達の祖父『黒影』は過激な正義を掲げているって聞いたからね。そう言った思想をした人間程ほど、どんな手段でも使う危険性があるし、伏井出ケイ自身は悪忍側じゃないから善忍側にいてもおかしくない。雪泉さん達がこの事を知っているかどうかは今はまだ分からないけど、僕が接触していれば、伏井出ケイか、『黒影』って人が何かしらのアクションを起こすと思う】

 

【そ、それじゃ、りっくん結婚するの・・・・?】

 

飛鳥が、いや他の皆が不安そうな顔となる。

が、理巧は小さく苦笑いをして口を開く。

 

【な訳ないでしょう。でも、伏井出ケイの手掛かりが来たんだ。こっちも捜索に行き詰まっていたし、せっかくのチャンスをフイにしたくない。・・・・と言う訳で】

 

円陣から離れた理巧は、律儀に待っていた雪泉に向けて口を開く。

 

【雪泉さん。僕はまだ結婚できる年齢ではないし、僕達まだお互い昨日今日と出会ったばかりですし、まだお付き合いでお願いします】

 

【お、お付き合い、ですか? そ、それは、いずれ私とーーーー】

 

【あ、いえいえ、まずはお付き合いをして、お互いの事を知ってから、結婚するかどうかを決めたいと思っているのでーーーーとりあえず雪泉さん】

 

「は、はい」

 

【僕とーーーーデートしませんか?】

 

『【は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!??】』

 

 

 

 

* * *

 

 

 

そして現在に至る。

とりあえず浅草の町に赴いた理巧と雪泉は、雷門の出店で人形焼を食べる。傍目に見ると、夏休みに制服デートをしているカップルのように見えているのか、不審に想われなかった。

 

「これが人形焼、ですか。美味しいですね。それに、可愛い」

 

「ええ。いけますよ」

 

『(モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ)』

 

そんな二人から離れた位置で、飛鳥達と焔達、夜桜達も人形焼を頬張っていた。

今度はアパレルショップに行き、服を選ぼうとする。

 

「雪泉さんって、どんな服が良いですか?」

 

「えっ、わ、私は和服系が好きですから、こう言った派手な服は・・・・」

 

「勿体ない!」

 

「「(ビクッ!)」」

 

二人の間に入ってきたのは、ショップの店員らしき女性だった。女性は雪泉の手を取って熱弁する。

 

「勿体ない! 非常に勿体ないですよお客様! 花も恥じらう女子高生の乙女が! オシャレな服に興味を持たないだなんて! 勿体ないお化けが出てきますよ!」

 

「えっ? えっ?」

 

「こんなに素晴らしい素材なのに! 夏休みで彼氏とのデートが制服デートって! 青春っぽいですけど色気不足です! 当店でお洋服を見繕いましょう!」

 

「ちょっ、ちょっと待っーーーー」

 

「彼氏さん待っていてくださいね! 今彼女さんを魅力的にしてあげますから!」

 

「はぁ・・・・」

 

雪泉を無視して、女性店員は何着か服を持って、雪泉ごと試着室に入っていった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

もしかしたら月閃の者ではないかと警戒した理巧は、待っているフリをしながら、持ち前の聴覚で試着室の会話を聴いていた。

 

「はぁ~、お客様お肌綺麗ですねぇ~、シミ1つ無いまるで新雪のような白い肌。それにこぉ~んなに胸が大きく形も整っていて、ウェストはこぉ~んなに細くて、お尻もこぉ~んなに小さくて綺麗な形をしているのに、和服で隠してしまうなんて勿体ない!」

 

「ちょっ、ちょっと何処を触っているんですかっ!?」

 

「大丈夫です! お客様は天井のシミでも数えていて下さい! 私が綺麗に可愛くしてあげますから!」

 

「や、やめっ! 私、そっちの趣味なんてありませんから! は、初めては好きな人とって・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は武士の情けで聞かなかった事にしてあげた。

 

 

 

 

 

そしてアパレルショップを出た理巧の隣には、肩を出した白いワンピースを客用し、白いキャペリンハットを被り、まるで深窓の令嬢を思わせる格好になった雪泉だった。

ワンピースの胸元には豊満な胸の谷間が僅かに見え、ワンピース越しから見える抜群のプロポーション、清楚な服装に色気が入り、道行く男性だけでなく、女性まで見惚れてしまう上品な美しさがあった。

 

「注目の的ですね?」

 

「~~~~~~!!///////」

 

隣に立って歩く理巧にそう言われると、雪泉は顔を真っ赤にして俯く。

ちなみに、服の料金は理巧が立て替えた。

 

「屈辱です・・・・! こんな格好・・・・!//////」

 

「そうですか? 結構似合ってますよ。可愛いですし」

 

「~~~~~~!!////////」

 

雪泉はまた顔を真っ赤にして俯いた。

 

「・・・・雪泉さんは、納得しているんですか? 僕と結婚するって事に?」

 

「・・・・・・・・お爺様からの忍務でもありますし、それに、あぁあなた、私の唇を、奪ったではないですか・・・・!///////」

 

「まぁソコは確かに少しは責任感じていますけど。雪泉さん自身、結婚するなら、好きな人としたいでしょう? こんな忍務で人生の伴侶を決めるだなんて、悲しいと思いますよ?」

 

「それは・・・・」

 

雪泉も少し言葉を濁す。そんな雪泉に、理巧は言葉を続ける。

 

「まぁ、雪泉さんが『黒影』って人の為に行動する気持ちは分かりますよ。僕も養子の身なんで」

 

「えっ?」

 

「実の父親の事は話でしか、しかも悪い方の話しか聞いた事が無いし、母親に至っては名前すら知らない。そんな僕を実の息子のように大切にしてくれた。だから、『黒影』の為に忍務をこなそうとする気持ちは分かる。でも、雪泉さん自身を大切にして欲しいって思うんだ。結婚ってさ。やっぱりお互いにちゃんと想いあった人とした方が良いと思う」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧の言葉に、雪泉は少し顔を俯かせた。

 

「・・・・・・・・それでも」

 

「ん?」

 

「それでも、私はお爺様から与えれた忍務をこなしたいです」

 

「そっか。それじゃ僕が言うには、1つかな」

 

「えっ?」

 

雪泉が首を傾げると、理巧は雪泉の前に出て、不敵な笑みを浮かべるように唇を上げて口を開く。

 

「女の子の忍、くノ一は色仕掛けによる籠絡も技術の一つと言いますからねーーーーオトしてみてくださいよ」

 

「ーーーー!! 望む所です!」

 

その不敵な態度に雪泉は視線をキリッとさせ、理巧もニヤリと笑みを浮かべると、雪泉の手を取った。

 

「ひょわっ!?///////」

 

突然の行動に、雪泉は顔を真っ赤にして奇妙な声をあげた。

 

「それじゃ行きましょう! デートはこれからなんですから!」

 

「ひゃ、ひゃい・・・・////////」

 

借りてきた猫のように大人しくなった雪泉の手を引っ張って、理巧は先へと進んだ。

 

 

 

 

ーペガsideー

 

『ふぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!!!』

 

『「「「うわぁ~~~~~」」」』

 

それを見ながら、飛鳥達と焔達が悔しそうに、羨ましそうに歯ぎしりをしていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

そして、その理巧と雪泉の様子を映像で眺めている二人。

 

「・・・・これは、あなたのお孫さんには少々荷が重いのかも知れませんね?」

 

「・・・・ふん。雪泉が難しいならば“他の娘達に任せるのみよ”」

 

何処かの日本庭園が広がる屋敷で、『伏井出ケイ』と『伝説の抜け忍 黒影』がそんな会話をし、『黒影』は、“雪泉の仲間達”を見て、そう呟いた。




次回、理巧が他の月閃生徒と!


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連続デートだぜ、月閃女学館・叢と夜桜

さて、お次は叢と夜桜とデート。少しエロくなったかも・・・・。


ー理巧sideー

 

雪泉とデートして翌日。

 

「えっ? 今度は他の月閃の人達とデート?」

 

「え、ええ」

 

飛鳥達と焔達と基地に行こうとする理巧の前に、再び雪泉達月閃メンバーと現れ理巧は、また雪泉とデートかと思ったら意外な言葉を発せられて、少々面食らった。雪泉自身、歯切れの悪い上に、少々残念そうな言い様をしている。

 

「(・・・・『黒影』って人が、雪泉さんだけでなく、他のメンバーと交際させろって指示でも来たのかな?)」

 

理巧としても、デートを断る事はできるが、ここで伏井出ケイに繋がる唯一の手掛かりを失う訳にはいかない。

 

「雪泉さんは、納得しているんですか?」

 

「・・・・お爺様からの命令です。多少不満はありますけど、構いません」

 

「それで良いならいいですけど。それで、誰が」

 

「我だ」

 

ソコに現れたのは、長身に黒髪サイドポニーの般若面を被った少女、叢だった。

叢は何故か、斑鳩に対して敵意のような物を向け、詠も一瞥したように見えたのは、理巧だけだった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そして、理巧が叢とデートする事に、雪泉は何故か、その豊満な胸がモヤモヤしているように感じていた。

 

 

 

 

 

 

そして理巧は今度は叢とデートする事になり渋谷に赴いた。のだがーーーー。

 

「・・・・それで、今日は君とデートする事になったんですけどね叢さん」

 

「・・・・・・・・何だ?」

 

「・・・・そのお面、外してください」

 

「な、何っ!?」

 

月閃の制服に般若面を被った叢を道行く人々が奇異な物を見るような目で見られスマホで撮影されそうになったり、さらには警察に呼び止められた回数6回、理巧は渋谷の公園にて、お面を外せと言った。

 

「(フルフルフルフル!!)」

 

叢がイヤイヤと云わんばかりに首を横に振った。

 

「あのね、流石に目立ちますよ。忍って目立たないように行動するんでしょう? こんな街中でそんな般若面被って歩いていたら、目立ちますよ悪い意味で」

 

「・・・・し、しかし、でも・・・・」

 

叢が両手の人差し指をツンツンと合わせながら気まずそうな様子になった。理巧の言う事が正しい事は叢自身も分かっている。が、それでも面を外す気はないようだ。

 

「それじゃーーーー実力行使ですね」

 

「?・・・・・・・・っっ!!?」

 

首を傾げた叢だが、理巧のその手にいつの間にか持っていた般若面を見ると、慌てた様子で顔に手を当て、自分の顔から般若面がなくなっている事に気づいた。

 

「あわ! あわわわわわわ!!」

 

叢は両手で顔を隠そうとするが、それより早く、背中に般若面を隠した理巧が叢の両手を掴んであげさせ、顔をジッと見つめた。

 

「わわわわ! み、見ないで、下さい・・・・!! ご、ごめんなさい! 我のような不細工な顔を見せてしまって! 本当にごめんなさい!!」

 

先ほどまでの威圧的な態度が消え、まるで怯えた子犬か子猫か小兎のように震えて謝罪する叢。これが彼女の本性なのだと、理巧は確信する。

力を込めて逃れようとする叢だが、理巧の腕はビクともせず、足で攻撃しようにも、爪先を理巧が踏んで動けなくした。

せめてもの抵抗で目を閉じて顔を背けるが、理巧はたっぷり見た後に口を開いた。

 

「・・・・・・・・何だ。顔に傷でもあるのかと思ったら、結構可愛い顔してるね」

 

「えっ・・・・?」

 

理巧に言われた言葉が意外だったのか、叢は目をパチクリさせて、自分の顔をジッと鼻の先がくっつくほどの距離で見つめる理巧を見た。

 

「ひょわっ!//////」

 

叢は理巧と目を合わせられず、ギュッ目を閉じるが、恐る恐ると僅かに目を開いて、理巧の顔と目を見る。

 

「(う、うわぁ~・・・・////// 改めて見ると、暁月さんって凄い綺麗な顔・・・・!////// 女の我ですら見惚れてしまいますぅ・・・・!////// 少女漫画のイケメンキャラみたいぃ・・・・!////// あぁ、こんな綺麗な顔をした殿方と、我みたいな不細工が一緒だなんて・・・・////// あっ、ダ、ダメ・・・・! 何か変な気持ちに・・・・//////)」

 

年下の美少年に無理矢理迫られている自分の状況に、叢は奇妙な動悸と、顔が茹で上がっていくのを感じた。

理巧は叢の心情なんて全く気にせず、あとほんの数センチで唇が重なってしまう位に顔を近づけると、さらに叢の心臓が早鐘のように動き、顔が赤く染まり、思考が段々と虚ろになっていく。

理巧はソッと、叢の首筋に小さく息を吹き掛けながら、耳元に囁く。息を吹き掛けた際、叢の顔はトマトもかくやと云わんばかりに真っ赤に染まり、身体をピクッピクッと身震いし、呼吸も荒くなり、太腿を擦り合わせる。

 

「それで、叢さんの行きたい所や、好きな物を教えてくれないかな?」

 

「(耳元・・・・らめぇぇぇぇ!//////) わ、われは、マンガをかくにょがしゅみれすから、アニメ系のおみしぇに・・・・しゅきなのは、おもち、れす//////(訳:我は、漫画を書くのが趣味ですから、アニメ系のお店に・・・・好きなのは、お餅、です)」

 

「了解。ありがとうございます」

 

理巧が顔と手を離すと、叢はすっかりヘロヘロになって、膝から崩れ落ちた。

 

「は、ぁ、ぁぁ・・・・//////」

 

「ほら叢さん。とっとと行きますよ。ここからなら池袋の『マンガイト』が近いですから」

 

「・・・・・・・・//////」

 

すっかり放心状態になった叢に、理巧は小さく息を吐くと。

 

「失礼」

 

「ふぇ・・・・? ひょわっ!?」

 

理巧が叢をお姫様抱っこすると、正気に返った叢は珍妙な悲鳴を上げて、顔処か全身が真っ赤に染まった。

 

「それじゃ、行きますよ」

 

「ひゃ、ひゃい・・・・//////」

 

そのまま般若面の事も忘れて、叢は理巧になすがままになったのであった。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

『はぁ~、はぁ~、はぁ~・・・・//////』

 

『あわわわわわわわ//////』

 

『皆、理巧達はどうしたの?』

 

「ねえ柳生ちゃん? 何があったの?」

 

「何も見えないよ夜桜ちゃん!」

 

その、何とも言えない過激な光景に、飛鳥達や焔達、雪泉達も顔を赤くして目を血走らせ、鼻息荒くしたり、両手で顔を覆いながら指の隙間から覗いたりしていた。

因みにあまりに過激な光景だったので、ペガの両目を飛鳥が、雲雀を柳生が、美野里を夜桜が塞いでいた。

 

「り、りっくんってあぁ言う処があるの?」

 

「アイツ今のうちに調教してとかないと将来トンでもねえ女誑しの女泣かせになるぞ・・・・!」

 

飛鳥に焔は、理巧に恐ろしさを感じていた。

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「・・・・・・・・」

 

そしてその夜。

ホテルに戻った叢は、椅子に座り、漫画がビッシリと入った紙袋を何個も足元に置き、般若面を被ったまま虚空を見上げていた。

 

「お~い、むらっち~」

 

四季が声をかけても、眼前に手を振っても動かずにいたので、気付けに般若面を外してやると、頬をうっすらと赤く染め、まるで恋い焦がれる乙女のような目で何の反応もせず、それ処かーーーー。

 

「・・・・暁月・・・・理巧、様・・・・//////」

 

理巧の名を様付けで呟いて放心状態になっていた。

 

「あ、ダメだしこりゃ。籠絡するつもりが、逆に籠絡されちゃってるし」

 

「なんと言う事でしょう・・・・」

 

「叢ちゃん・・・・」

 

すっかり理巧に焦がれる叢を見て、雪泉と四季と美野里は小さく息を吐いた。

が、ただ一人、夜桜はーーーー。

 

「不甲斐なし・・・・! 全く以て不甲斐なしなんじゃ!! 『忍転身』!!」

 

夜桜が忍転身すると、両手の手甲を叩き合わせてホテルから出ていこうとする。

 

「よ、夜桜さんどちらへ?」

 

「もうこんなまどろっこしいやり方なんぞしてられん! ワシが叩きのめしてくれるっ!」

 

「えっチョイ待ちなって夜桜ちん! アタシら五人がかりでアッサリのされちゃったのに、一人で勝てる訳無いじゃん!!」

 

「あの時はヤツの力を侮り、見誤っただけじゃ! ヤツの動きは既に見切った! ワシは負けとらん! 必ず勝つ! これ以上仲間を椨らかされてたまるかっ!」

 

「た、椨らかされてません!//////」

 

顔を真っ赤にした雪泉が説得力皆無な顔でそう言うと、夜桜は部屋を出ていった。

 

「どうしよう雪泉ちん?」

 

「と、とりあえず、暁月さんに連絡を! 夜襲だなんて正義とは言えません!」

 

「あ、じゃ美野里が理巧くんに連絡するね。えっと・・・・・・・・あっ、理巧くん?」

 

「「いつから番号交換してたん(ですか)!?」」

 

美野里が理巧の番号を知ってる事に、雪泉と四季は驚愕した。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ふぅん。成る程。ありがとう美野里ちゃん。此方で相手をして、明日の朝には帰らせるから、安心して待っててよ」

 

理巧はスマホの通話を切ると、男子寮の自室の窓から外に出ようとする。

 

『理巧。行くの?』

 

「ああ。軽く運動してくるから、先に寝てて良いよ」

 

ペガにそう言い残し、理巧は窓から飛び出て、周りの家々の屋根を跳んでいると、後ろから追っている人間の気配を感じる。振り向くまでもない、夜桜だ。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は夜桜が追い付くくらいの速さに速度を緩めながら、町外れの廃工場の中へと入っていく。勿論、中や周囲に人の気配はない。

 

「ここならいいでしょう。出てきなよ」

 

「・・・・・・・・」

 

理巧が呟くと、自分の正面数メートルの地点に、転身姿の夜桜が降り立った。

 

「夜分の突然の訪問、改めて失礼する」

 

「あのさ。僕を始末するつもりのようだけど。この間負けたんだし「負けとらん!」・・・・ん?」

 

「ワシを殺さなければ負けと認めんっ! ワシはまだ生きておる! じゃからまだ、負けとらんのじゃ!」

 

夜桜が全身から闘気を放出し、そしてーーーー。

 

「『命駆』!!」

 

転身していた着物が弾け飛び、純白の下着姿となった。防御を捨て、攻撃と速さを重視した『命駆』モードである。

B90(Hカップ)・W53・H82。手足に無駄な脂肪が欠片もなく、腰回りも括れており、胸とお尻の豊かさをより強調しているようにも見えた。

並の男ならばこの姿に鼻の下を伸ばすか、鼻血を噴いて倒れるか、前屈みになる処だが、ソコは理巧である。夜桜でそうなるなら、とっくに飛鳥達や焔達の『命駆』でそうなっている。

 

「・・・・・・・・」

 

平然とし、軽い柔軟をしていた。

 

「・・・・行くぞ」

 

「(スッ・・・・クイクイ)」

 

構える夜桜だが、理巧は片手を上げて手招きするだけだった。

 

「っ! はぁぁっ!!」

 

舐められてると思った夜桜が一瞬で理巧に近づくと、その顔面に手甲を乱打を叩きつけようとした。が。

 

「(ヒョイヒョイヒョイヒョイヒョイヒョイ・・・・)」

 

理巧は紙一重で回避(無論余裕)していた。

 

「くぅ! あぁああっ!!」

 

夜桜が乱打のスピードを上げるが、理巧は後ろにステップしながら回避を続ける。

 

「お前! ワシを舐めているのかっ!?」

 

「先ずは君から攻撃してきて良いだけだよ」

 

「己ぇっ!!」

 

夜桜が乱打のスピードを上げるが、その拳が理巧に僅かに届かなかった。

そして理巧は考えていた。

 

「(さてと、下手に攻撃して怪我されるのはダメだし。かといってわざと負けるのも彼女は納得しないだろうし、勝っても負けを認めないだろうな。・・・・となれば、手段は1つ・・・・)」

 

「はあっ!!」

 

「っ!」

 

夜桜が地面を殴ると、小さなクレーターが生まれ、足場が一瞬で無くなった事でほんの少しだけ無重力が発生し、理巧はバランスを崩す。

 

「貰ったぁっ!!」

 

夜桜が手甲を振りかぶり、理巧の顔面に叩きつけたーーーーかに見えたが、理巧の姿はまるで陽炎のように消えた。

 

「っ! 残像じゃとっ!?」

 

「その通り」

 

「はっ!」

 

夜桜が背後から声が聞こえ、顔だけ向けると理巧が背後にピッタリと付いていた。

 

「しまーーーー(ドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュドシュ!) ぬぁっ!」

 

理巧が夜桜の背面を貫手で突くと、夜桜はクレーターの底に俯せに倒れた。すぐに身体を動かそうとするが、身体から力が入らない。

 

「こ、これは・・・・!?」

 

「身体の神絡系とツボを突いた。暫くは指一本も動かせないよ」

 

「くっ、くくっ・・・・!」

 

「さて、僕がここでとどめを刺せば君は死ぬ。だが、降参するなら、見逃して「舐めるなっ!」ん?」

 

「ワシは正義の為に戦う月閃の善忍! そのような脅しに屈したりせん!!」

 

「・・・・・・・・」

 

と、勇ましい夜桜に理巧は少し困った。ここで彼女が気絶するほど痛め付けても、彼女は敗北を認めないだろうし、下手に怪我でもさせたら雪泉達からの心象も悪くなるし、かと言って放置もない。折角来た伏井手ケイの手掛かりなのだ。どうにか彼女が敗北を実感するように精神を屈服させる方法は無いものかと思考を巡らせていた時。ふと、酔っ払った鷹丸が言っていた事を思い出す。

 

【良いか理巧ぅ、男だろうが女だろうがなぁ、共通するものがあるんだよ】

 

【ん?】

 

【それはなぁーーーーーーーー】

 

鷹丸がそう言った後、ナリカに殴られたが、理巧はそれを利用しようと考え、夜桜の背中に馬乗りする。

綺麗な曲線を描く背中に地面に付いて潰れてはみ出る横乳、キュッと引き締まったウェストと小柄な桃のようなお尻、並の男ならばこれだけでも興奮するだろうが、理巧は至って平然だった。

 

「(ゴキッ! ゴキッ!)」

 

「な、何をするつもりじゃっ!?」

 

「知ってる? 人間ってさ、恐怖や苦痛に耐える精神力を持ってるけど・・・・快楽には抗えないってさ」

 

「っ!?//////」

 

夜桜は理巧の言葉に何を想像したのか、戦慄した顔を真っ赤に染めた。

 

「や、やめろっ! やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

夜桜の叫びを無視して理巧は夜桜の背中に手をのばしたーーーー。

 

 

 

 

 

 

「んぁっ! あぅ! はっ! はぁぅ! んん! んぁあああっ!!//////」

 

夜桜は艶っぽい嬌声を上げる夜桜は、理巧にマッサージを受けていた。背中や肩や太ももと言った箇所に指を這わせ、揉むようにこねる度に、夜桜は何とも言えない快感が全身の細胞から神経にまで響く。

 

「や、やめぇ・・・・////// やめ、る、のじゃぁ・・・・!////// お、おかひく! おかひくなりゅぅっ!!///////」

 

呂律が回らなくなりそうになる夜桜に、マッサージをしている理巧が、耳元で囁く。

 

「やめて欲しかったら、参った、私の敗けですって、言えば良いけど?」

 

「(フルフルフルフル!!)」

 

夜桜はギュッと瞼を塞ぎ、目元に涙を溜め、下唇を噛みながら快楽に耐え、首を横に振って拒否する。

 

「んじゃ。次はこっちかな?」

 

理巧は夜桜の靴と靴下を脱がし、素足の裏に人差し指を立てて、押し込んだ。

 

「ひぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!!///////」

 

痛みと共にくる気持ち良さに、夜桜は動けず、身体を身悶える。

理巧が指を離すと、漸く終わったのかと一安心しそうになる夜桜(だが、何故か残念な気持ちがあるように感じた)。

 

「さて。準備運動はここまでにして、本番といくか」

 

「・・・・・・・・え?」

 

理巧の発した言葉に、夜桜は絶望(そして何故か期待)が混ざった複雑な顔になる。

 

「(ゴキゴキッ! ゴキゴキッ!)焔達にもやったけど、三分で気を失っちゃったんだよねぇ~。日影さんですら八分で気を失ったけど。・・・・夜桜さんは、何処まで耐えられる、かな?」

 

拳を握り、関節を鳴らしながら凄絶な笑みを浮かべる理巧に、夜桜は恐怖(そして何故か期待)が過り、必死に逃げようとするが、身体はピクリとも動いてくれず、理巧が手を伸ばすと、これから起きる凄まじい快感に耐えるように下唇を、それこそ唇を噛みきるつもりで噛んだ。

その瞬間ーーーー。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!////////////」

 

想像以上に強烈な快感に、夜桜は声にならない悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

「ほい。終了っと」

 

理巧が手を離して夜桜の背中から離れる。そして夜桜の状態を見てみると。

 

「・・・・ぁ・・・・んぁ・・・・////////(ビクッ、ビクッ、ビクッ)」

 

僅かに潤んだ瞳は虚ろで半開きになり、声も発せず、口の端からは涎が一筋垂れており、完全に骨抜きにされているのが分かった。

 

「お~い」

 

「・・・・・・・・////////」

 

返事がない。ただの屍のようだ。みたいな事を考えているが、ちゃんと生きている。

 

「日影さんでも八分は耐えられたけど、彼女は五分か。存外大した事ないな、と」

 

理巧が夜桜を仰向けにすると、気を失ったせいか『命駆』モードが解除され、月閃の制服に戻り、理巧はお姫様抱っこをして跳んでいった。

 

 

 

 

ー夜桜sideー

 

「・・・・・・・・はっ!」

 

夜桜がガバッと跳ね起きると、ソコはホテルの部屋ではなく、何処かの部屋のベッドだった。

 

「ここは・・・・ん?」

 

ふと、身体に違和感を感じてベッドから降り、少しストレッチをすると、いつも90センチ(Hカップ)で悩んでいた肩こりが無くなり、肩が羽のように軽くなっていた。さらに身体の端々の疲労まで無くなったかのように感じた。時間は午前五時。理巧との戦いが午後八時頃だったから、どうやら一晩寝てしまったようだ。

 

「何が起こったんじゃ? むっ!」

 

ベッドの近くのソファでは、異星人っぽい見た目の生物が鼻提灯を出しながら寝ており、そのすぐ近くでは、標的の暁月理巧が座って寝ていた。

 

「はっ!」

 

そして夜桜は思い出した、あの屈辱と快楽が混ざった体験を。

 

「くぅっ・・・・!//////」

 

顔を赤らめ、弱冠内股になりながら、理巧は恨めしそうに睨み、寝込みを襲おうかと思ったが、善忍のプライドがソレを赦さなかった。

 

「・・・・・・・・」

 

夜桜は近くの机の上に置かれたメモ帳を見ると、ボールペンで丁寧な字を書く。

 

【ベッドをお借りして申し訳ありませんでした。よく眠れましたありがとうございます。しかし、ワシはまだ敗けた訳ではないのであしからず。追伸 今度は絶対ワシが勝つからなっ!!】

 

そう書き残すと、夜桜はベッドを敷き直し、理巧に一礼してから、窓から朝日が昇り始めた外に出ていった。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧も、夜桜が起きた瞬間に目を開けて律儀な人だと思いながら苦笑した。

 

 

 

 

 

 

ホテルに戻った夜桜は、自分を待っていて寝てしまった雪泉達に小さく微笑み、毛布をかけながら、雪泉達の朝食を作る。

 

「・・・・んんっ///////」

 

と、その途中、理巧のマッサージの感覚を思い出し、身体に起こった奇妙な疼きに悩むのであった。




次回は四季と美野里です。


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連続デートだぜ、月閃女学館・四季と美野里

四季と美野里で、デート回は終了です。そして、理巧の意外な弱点が・・・・!


ー飛鳥sideー

 

「う、ウソ・・・・!?」

 

「ば、馬鹿な・・・・!」

 

「こ、こんな事が・・・・!」

 

「まさか、ですわよね・・・・!」

 

「マジ、かよ・・・・!?」

 

「信じ、られへんわ・・・・!」

 

「・・・・!」

 

「あ、あり得ない・・・・!」

 

「ええ~・・・・!?」

 

「まさか、ね・・・・!」

 

「四季さんが・・・・!」

 

「あの暁月理巧さ・・・・いやいや、暁月理巧を・・・・!」

 

「追い詰めている、じゃと・・・・!?」

 

「四季ちゃん、凄い・・・・!」

 

飛鳥達と焔達だけでなく、雪泉に叢、夜桜に美野里も驚愕に目を見開いたが、それも仕方ない。

何故ならーーーー暁月理巧が、月閃の四季の足元で、倒れているのだから。

今まで理巧は圧倒的な実力を見せてきた。天才と呼ばれた柳生を一蹴し、焔達選抜メンバー五人を叩きのめし、鈴音先生が不在だったとは言え、蛇女子学園をたった一人で制圧したあの理巧が、先日圧倒した相手の足元で倒れているのだ。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「っ・・・・! くっ・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は足元をふらつかせながら、立ち上がろうとした。

がーーーー。

 

「うわっ!」

 

突然足が滑り倒れてしまった。端から見ても、無様としか言いようがない。理巧の強さを知っている人間達から見れば、あまりにも信じられない光景だ。

四季はそんな理巧に、苦笑いを浮かべ、人差し指で頬をポリポリと掻きながら口を開く。

 

 

「あぁ・・・・その、理巧ちん・・・・その、さ。無理しなくて良くね?・・・・そのーーーー“ローラースケートくらいで”・・・・」

 

 

四季は、デート場所であるスポーツやアミューズメントを楽しめるレジャー施設・『スポッシュ』でローラースケートをしているのだが、理巧がローラースケートの乗り方を知らず、さっきから滑って転んでを繰り返していた。

 

「うわっ!?(ドテン!)」

 

「これで連続八回転がり・・・・」

 

またもや滑って転んでしまった理巧に、四季は苦笑いを浮かべるしかなかった。

事の発端は数時間前ーーーー。

 

 

* * *

 

 

今日は夜桜が夜襲を仕掛けてきたので四季とデートする事になった理巧。当然、飛鳥達や焔達もその場に来て夜桜が理巧と夜襲、嫌、夜のデート(嘘は言っていない)の事を教えた。

 

【夜桜ちゃんと夜のデート!?】

 

【おいコラ理巧! 夜のデートってなんだコラ! アタイに黙ってあんなB90(Hカップ)・W53・H82のナイスバディちゃんと宜しくしやがったのか!?】

 

飛鳥と葛城が代表して詰め寄るが、理巧は至って平静に答える。

 

【別に変な事はしてないよ。ただーーーー背中とか太腿とか足の裏を、マッサージしてあげただけ】

 

【【【【【【っっ!!!!】】】】】】

 

理巧が両手をゴキッゴキッと鳴らすと、焔達紅蓮隊と、雲雀の顔が、驚愕と戦慄が交ざった顔になる。

 

【アレをやったのかっ!?】

 

【アレをやったんですの!?】

 

【アレをやったようやな・・・・!?】

 

【アレをやっちゃったのっ!?】

 

【アレをやったのねっ!?】

 

【アレをやっちゃったんだね理巧くん・・・・!?】

 

【まぁね】

 

理巧が答えると、焔達と雲雀は同情の目を夜桜に向ける。

夜桜は身体を少し抱きながら退く。

 

【アイツ、まだ後遺症が残っているようだな・・・・】

 

【儂ですら八分で気ぃ失ってもうた技や。少し残っておってもしゃぁないな】

 

【何言ってるの? 日影ちゃんも五分辺りで意識が半分以上飛んでたじゃない】

 

【そう言う春花お姉様は後遺症で半日以上動けなくなってけどね】

 

【仕方ありませんわ。理巧さんのマッサージって本当に足腰が立たなくなってしまいますもの・・・・!】

 

【雲雀は見てただけだけど、本当に凄いマッサージだったよ】

 

【【【【そんなに凄いの(か/ですか)? 理巧(くん/りっくん)のマッサージって・・・・?】】】】

 

【【【【(・・・・・・・・ゴクリ)】】】】

 

焔達や雲雀の様子から、逆に少し興味が出てきた飛鳥達。そして同じく興味がでできた雪泉達。

話が脱線しそうになったので、理巧が手をパンパンと叩く。

 

【あのさ、それで今日は誰とデートすれば良いの?】

 

【あ、はい。本日は四季さんとデートしてもらいます】

 

【よろ~】

 

【宜しく】

 

ギャルっぽい見た目の四季と、どちからかと言うとクール系の理巧が並んで歩いていき、勿論、飛鳥達と焔達と雪泉達も付いていった。

そして、道を歩いていくと、レジャー施設・『スポッシュ』に着いた。

 

【ここは?】

 

【スポーツとかで遊べる『スポッシュ』つーんだ。前からちょっと来てみたかったんだよねー。つー訳で、今日はあたしとスポッシュで勝負ね!】

 

【勝負?】

 

【そ! あたしは夜桜ちんみたいに真っ正面から堂々と戦って勝てるって思ってないし、でも黒影さまにアンタを落とせって言われてるし、スポーツで勝負すれば少しはあたしにも勝機はありそうじゃん?】

 

【ふぅん】

 

【あたしが勝ったら、月閃に婿入りしてもらうよ。んで負けたら・・・・】

 

【それじゃ僕が勝ったら、四季さんは僕の言う事を一つ聞いてもらうって言うのは?】

 

四季の提案に、理巧がそう返した。

 

【お、良いねぇ! 何だったら、あたしのカ・ラ・ダ♪ 好きにしちゃっても良いよぉ~】

 

四季は自分のB95(Gカップ)・W54・H83のグラマラスバディを魅せるようなポーズをとった。

 

【まぁソコは勝ってから決めるとして、僕もこう言うレジャー施設って始めてだから、ちょっと楽しみだな】

 

【へぇ~そうなん】

 

そう言って、二人がレジャー施設に入り、先ずはボウリング。

 

【それ!】

 

【・・・・ふむ。こうやれば良いのか。はっ!】

 

四季は馴れた手つきで決めていき、理巧も四季のやり方を見て、すぐにストライクを決めていき、最終的には理巧がストライクを数本差で勝利を収めた。

 

【あぁん! 悔しい!】

 

次はビリヤード。四季を胸元を少し開けて豊かな谷間を見せ、スカートの裾をわざと短くして、スラリとした脚を晒し、ビリヤードのキューを構えると前屈みになり、胸元が潰れ、スカートの中身が見えそうで見えない状態になった。

 

【『おおっ!』】

 

その場にいた何人かの男が、鼻の下を伸ばすが、理巧は馴れないビリヤードで三回失敗をして、敗北した。

 

【二度突きに足を地面から離した、ビリヤードは細かいルールがいっぱいだな・・・・】

 

【いや、あたしの艶姿は無視?】

 

自分に女としての魅力が無いのか、と四季は勝負に勝ったが謎の敗北感を感じた。

 

【甘いな。理巧はアタイ達のようなナイスバディ&グラマラスボディ、そして未来のようなロリロリボディを見ても平然としている男だぞ。あの程度のお色気攻撃で攻略できるか】

 

【そうそう。理巧様に色仕掛けは通用しないわよ】

 

物影に隠れていた葛城と春花がセクシーポーズを取りながらそう言った。

 

【ロリロリボディで悪かったわね!】

 

【【まぁまぁ】】

 

未来がシャー!と、怒っており、焔と詠が宥めていたが。

そして次にダーツ。これは手裏剣と同じ棒手裏剣で鍛えたテクニックを四季が披露し、トリプルやシングルブルに刺さり高得点を稼ぐ。

 

【ふっふ~ん。どうよ!】

 

【ふぅ~ん。棒手裏剣のような物か・・・・ほい!】

 

理巧が投げたダーツは全て、ボードの中心、ダブルブルに命中した。

 

【うっそぉっ!?】

 

これには四散も驚愕し、理巧の勝ちになった。

 

 

 

* * *

 

 

 

そして現在、ダーツが理巧の勝利に終わり、次にローラースケートにし、いざ滑ろうとしたらこうなっているのだ。

 

「いや~、理巧ちんがローラースケートができないって、意外な弱点だし」

 

勝負している内にスッカリ理巧と馴染んだのか、理巧に“ちん”と付け、ローラースケートに苦戦している姿に苦笑する。

 

「・・・・! これって、簡単そうに、見えて難しい、な」

 

プルプルと生まれたての小鹿のように震えながら、漸く立てるようになる理巧。

 

「おぉっ!」

 

何か謎の感動を感じ、パチパチと手を叩く四季。

 

「だ、だが・・・・ここから歩くのは・・・・!」

 

「あぁほら、手ぇ貸したげるから」

 

「あ、ありがとう・・・・!」

 

理巧は両手を出した四季の手を取り、ゆっくりとだが、滑っていく。

 

「そうそう、足元を滑らせるように歩いて」

 

「う、うん・・・・」

 

端かは見ても、デートしているカップルに見える。

 

「理巧ちん段々上手くなってんじゃん」

 

「あぁ、四季さんのお陰・・・・あっ、四季さん!」

 

「えっ?(ドンッ!)きゃっ!?」

 

「うわっ!」

 

四季が後ろの壁に気付かなかったのか、壁に背中からぶつかり、前のめりに倒れそうになる。いつもの理巧ならサッと支える事ができるが、足のローラースケートで動けず四季を抱き止めそしてーーーー。

 

ーーーードテーーーーン!

 

二人共倒れてしまった。幸い四季は理巧が抱き締めるように受け止めたので四季に怪我は無かった。

 

「いたた、あっ、理巧ちん!」

 

「いつぅ~、背中少し打ったかな?」

 

「うわっ・・・・!//////」

 

目を開けた四季の目の前には、理巧の顔があった。突然の状況に四季は顔を赤くした。

 

「四季さん、怪我は?」

 

「あ、あぁ、大丈夫これくらい!」

 

四季がバッと起き上がると、理巧の手を引いて起き上がらせようとする。がーーーー。

 

「(ツルンっ)うわっ!」

 

「えっ!? きゃぁっ!?」

 

ーーーードテン!

 

理巧のスケートが滑ってしまい、四季を巻き込んでまた転倒した。

 

「(ボニュン!)えっ? ボニュンって・・・・っ//////」

 

倒れた四季が見たのは、自分の豊乳で顔を押し潰した理巧だった。

 

「ム、ムゴムゴ・・・・(く、苦しい・・・・)」

 

「ご、ごめん! (ツルン)嘘っ!?」

 

慌てて起き上がろうとした四季だが、今度は四季が足を滑らせ体勢を崩した。

 

「うぅ・・・・えっ? (ムニっ)ふご!?」

 

「あん!」

 

ーーーードテン!

 

そして今度は何とーーーー四季の股間を、理巧の顔面に騎乗する形で倒れてしまった。

 

「ふご、ふごふごふご・・・・?(ちょっ、何なのこれ・・・・?)」

 

「ちょ、ちょっと! あん! く、口動かしふぁ! だ、駄目だっうぁんっ!」

 

理巧が顔と口を動かし度に、四季は艶っぽい嬌声を上げて身悶えた。

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「こ、これが、ラッキースケベ展開・・・・!?//////」

 

叢が驚嘆したような声を漏らし、他の皆も顔を赤くし、アワアワとしていた。

 

 

 

ー理巧sideー

 

漸く起き上がり、スポッシュから出る二人は少々気まずい雰囲気になっていた。

 

「・・・・勝負は引き分けって事で良いかな?」

 

「う、うん・・・・//////」

 

何とも言えない空気の中、理巧が口を開く。

 

「僕、スポッシュって始めてだったから、今日は凄く楽しかったよ。ありがとう四季さん」

 

「ああ、うん//////。そう言えばさ、あたしに勝ったら、何をお願いするつもりだったの? まさかエロい事考えてた?」

 

「いや。少しだけ、焔達への敵意を収めて欲しいなぁって思っただけ」

 

「えっ?」

 

理巧の言葉に四季は一瞬唖然となるが、すぐに引き締める。

 

「それは無理。アイツら悪忍だし」

 

「そうだよねぇ。ま、すぐにそうして欲しいとは思わないけど。一つ忠告」

 

「ん?」

 

「人伝に聞いた事だけど。昔、力を持って悪を滅ぼすって考えを持った男がいた。月閃とーーーーいや、黒影って人と似た考えのな」

 

「ソイツどうしたん?」

 

「その考え方を周りに否定されて、孤立して、道を踏み外してしまった。悪を憎むのを悪いと言わないけど、行きすぎた考え方は不幸への道となると、僕は思うよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

四季は少し先に行った理巧の背中を、ジッて見つめていた。

 

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

二人の会話は聞き取れなかったが、四季とのデートはこれで終わった雪泉達は思った。

 

「四季さんも終わりましたね」

 

「最後にトラブルがあったが、良い感じではないか?」

 

「しかし、次は・・・・」

 

雪泉と叢と夜桜は、次に理巧とデートする娘を見て、半眼になる。そうーーーー美野里を見て。

 

「任せて! 美野里が理巧くんを絶対落としてみせるから!」

 

「・・・・そうですね。頑張って下さい美野里さん」

 

「・・・・お前なら大丈夫だ」

 

「・・・・美野里。任せたぞ」

 

頑張るぞー! と両手を上げる美野里を見て、オチが見えたのか、雪泉達は暖かい目と優しい声で応援し、飛鳥達や焔達も生暖かい視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。予感は的中した。

 

「・・・・何て言うか、ですね」

 

「・・・・あの二人の様子を見ると」

 

「・・・・デートと言うよりもじゃ」

 

「・・・・・・・・ペットとご主人様のお散歩じゃん」

 

美野里を除いた月閃メンバーの視線の先にはーーーー。

 

「理巧くん待ってぇ~!」

 

「ほらほら美野里ちゃん、こっちだよぉ~」

 

はしゃぎながら理巧と“鬼ごっこ”をしている美野里だった。その様子はあたかも、飼い主とじゃれているペットのようであった。

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

理巧とデートする為に森林公園にやって来て、ソコで鬼ごっこを繰り広げてはしゃいでいる美野里(16歳)は、犬の尻尾が付いていれば千切れんばかり振り回しながら楽しんでいた。

 

「あぁん! 理巧くん捕まらないよぉ!」

 

「頑張れ美野里ちゃん。ほらほら、お菓子があるよ」

 

「っ!」

 

中々理巧が捕まえられず、泣き言を言いそうになる美野里だが、理巧がチョコレートスナックを出すとまた動き出し、理巧に飛び付いた。

 

「うわっと、捕まっちゃったね」

 

「えへへ~、捕まえた♪」

 

「捕まえたご褒美に、はい」

 

「わ~い! モグモグ・・・・美味しい~!」

 

チョコレートスナックを食べさせてもらいながら頬を緩ませる美野里。

 

「理巧くんおかわり!」

 

「待て」

 

「あう・・・・」

 

スナックチョコをもっと欲しいとねだる美野里だが、理巧が制止するように手を突き出すと、ショボンとした顔で止まる。

そして、理巧がチョコレートスナックを自分の口に咥えると。

 

「良いよ」

 

「(パァ!) はむ!」

 

『ああああああああああああああ!!』

 

遠くで何人かの女性陣の悲鳴が上がるがしょうがない。今理巧は、口移しで美野里にお菓子を食べさせたのだ。が、ギリギリ唇は当たっていない。

 

「美味しい?」

 

「うん! 美味しい! 理巧くんと遊ぶの凄い楽しい!」

 

「そう」

 

美野里は座る理巧にお姫様抱っこするように抱きつくと、スリスリと頬を擦り寄せた。

 

「随分懐いてくれたけど、僕一応敵視されている身なんだけど?」

 

「でも理巧くん優しいよ」

 

「優しい?」

 

「うん! 頭を撫でてくれた時、凄い暖かい感じがしたの! 雪泉ちゃんもあんなに可愛い感じになっていたし! 叢ちゃんの顔を見て、可愛いって言ってくれたし! 夜襲をしてきた夜桜ちゃんを無傷で帰らせてくれたし! 四季ちゃんも楽しそうだったよ! だから美野里、理巧くんが大好き!」

 

そう言って美野里が理巧に思いっきり抱きついた。

 

「・・・・ありがとう美野里ちゃん。でも、黒影って人の命令は聞くの?」

 

理巧がそう聞くと、美野里は少し辛そうに顔を俯かせた。

 

「うん。美野里、理巧くんの事大好きだけど、黒影おじいちゃんの事も大好きなの、だからおじいちゃんの命令は聞こうと思うの。でもね、理巧くんとこれからも仲良くしたいから、理巧くんが、美野里じゃなくても、雪泉ちゃん達の誰かと結婚して、月閃に来てくれたら、美野里は嬉しい」

 

「・・・・そっか。でも、僕にも筋ってのがあるからね。そう簡単に結論は出す訳にはいかないんだ」

 

「うん分かってるよ。だから今はーーーー」

 

美野里はそう言うと、ピョンっと理巧から離れて立つと、手を差し出した。

 

「美野里、もっと理巧くんと遊びたいし! いっぱいお話したい! だから、遊ぼう!」

 

「・・・・うん」

 

美野里の手を取ると美野里が引っ張って、さらに遊びだした。

 

 

 

 

 

 

 

ー黒影sideー

 

その頃、何処か分からない屋敷の和室で、空中ディスプレイに表示された暁月理巧と雪泉達のデートの様子を見ている黒影と伏井出ケイ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ふむ。中々良いですねぇ。青春ラブストーリーと言った様子ですねぇ。ですが、そろそろ別の展開をするべきですね? “黒影殿”?」

 

伏井出ケイの言葉に、“黒影”はコクンと頷いたその時、“黒影”の影がウゾウゾと蠢くとーーーー影の中から、“異形の存在達”が現れた。




理巧はボウリングと言った遊びのスポーツを知らないで育ちました。後、美野里は理巧と懐いています。
そして次回は、理巧達の前に“あの存在達”が現れます。



ー次回予告ー

月閃女学館の雪泉さん達とデートを続けている僕。伏井出ケイが月閃にいるならば、このまま何もない訳ないと思う。そして突然異形の怪物が襲いかかってきて、僕は月閃の皆と一緒になり、あーちゃん達や焔達と離ればなれになってしまった。
そんな僕と月閃の皆は、『六年前のある場所』にたどり着き、ソコで怪獣達まで現れた。月閃の皆に知られるけど、仕方ないか!

次回、『閃乱ジード』

【襲撃、妖魔】

進むぜ、彼方!


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襲撃、妖魔
異形の襲来


遂に、忍達の敵が現れます。


ー伏井出ケイsideー

 

光も射さない暗闇の世界。ソコに立っている伏井出ケイは地面からウゾウゾと這い出て来る、“異形の怪物”達を見てほくそ笑む。

 

「・・・・愚かな忍達のマイナスエネルギーによって生まれた憐れな存在。しかし、これらも使い用はありますね。では・・・・一つ新たな展開の為の火付け役をして貰いましょう」

 

ーーーーパチンっ!

 

ーーーーギシァァァァァァァァァァァァァァァ・・・・ッ!!

 

伏井出ケイが指を鳴らすと同時に、“異形の怪物”達は不気味な雄叫びを上げるのであった。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「(あ、これ夢だ・・・・)」

 

その日、理巧は夢を見ていた。

夢と自覚したのは、怪獣が暴れたか、人類が愚かな戦争でもしたのかと思われる、破壊の限りを尽くされたかのようなビルの数々。大きくめくれ上がったアスファルト。ビルの破片に潰され、燃えている車。真っ黒な雲に覆われた曇天の空。

そして広い道路には破壊されたビルの破片、それも理巧の身の丈を越える破片が道路のアスファルトを貫いてに突き刺さり、ボロボロで僅かに血すら付いている半蔵学院の制服を着た理巧は、その破片に寄り掛かるように座り込んで空を見上げていた。

あまりにも非現実的な状況に、理巧はこれは夢だと直感した。

 

「(あぁもう最悪。こんな夢を見るとか、僕ってば中二病、いや、この年なら高二病か、それにでも患ったのかな?)」

 

夢の中でも冷静な理巧。ふと、足元にある割れたガラスの破片に目を向ければ、自分の姿がーーーー“闇のように真っ黒に染まったウルトラマンジードの姿になって映っていた”。

 

「(はっ・・・・遠くない未来で、僕は闇にでも堕ちて、地球を破壊するって啓示なのかな?)」

 

自嘲する理巧は、早く覚めろ~、と呑気に空を見上げてそう思っている。と、ソコで。

 

『何してるんだ理巧?』

 

「(えっ・・・・?)」

 

夢の中の自分に声をかけるその声。それを耳にした瞬間、理巧はその方向に目線処か、顔や全身を向けた。ソコに立っていたのは、鷹丸だった。

鷹丸は理巧に近づくと、手を差しのべた。

 

「(鷹丸、さん・・・・)」

 

『そんな所で黄昏てないで、早く来いって! ナリカが腹減ったってゴネてるぞ』

 

「(・・・・・・・・訂正。悪くない夢だ・・・・!)」

 

夢だと分かっていても、理巧は鷹丸の手を握ると立ち上がった。

その際、ガラスに映っていた闇に染まったジードが、まるで闇が剥ぎ落ちたかのように元の姿に戻っていたが、理巧は気づいていない。否、そんな物は二の次か三の次と言わんばかりに鷹丸に手を引かれながら歩み出すと、徐々に歩みが早くなっていく。

 

『早くいくぞ! 皆待っているんだからな!』

 

「(は、はい!)」

 

鷹丸に手を引かれながら走る理巧の目の前には、荒廃した世界でなくなっていく。崩れたアスファルトは花や萌えぐような草原が広がる大地へと変わり、破壊されたビルは消え遠くには山が見える丘へと変わり、曇天の空は透き通るのような青空へと変わった。

 

「(っ・・・・! ハルカさん・・・・! ナリカさん・・・・! スバルさん・・・・!)」

 

そして草原にシートを広げて二人を待っていたのは、鷹丸の奥方の三人だった。その時、理巧の身体が、まるで10~11歳くらいの子供の姿へと変わると鷹丸と一緒に、三人に向かった。

が、その時ーーーー三人の背後に『黒く巨大な影』が現れた。

 

「(っ! ハルカさん! ナリカさん! スバルさん! うあああああああああああっっ!!!)」

 

理巧が叫び声を張り上げると、『影』の足元から頭頂部分に到達すると、その『影』の頭に渾身の力を込めた拳を叩きつけた。

 

「(っ! コイツ、は・・・・!?)」

 

その瞬間、理巧の視界が真っ白に染まっていくが、その僅かな瞬間に『影』の正体を見て、驚愕した。何故ならーーーー。

 

『ピギャグゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!』

 

 

 

 

* * *

 

 

 

「っ!!」

 

「ん? 理巧、どうした?」

 

「んん~・・・・?」

 

男子寮の自分の部屋で飛び起きた理巧。その両隣に雲雀(パジャマ姿)と柳生(パジャマ姿)が、眠そうに瞼を擦りながら起きる。何故ここに二人がいるのかと言うと、最近月閃女学館の相手ばかりしている理巧の疲れを癒す為に『お布団の妖精』となって癒しに来た、と言う体でイチャつきに来たのだ。

時計を見ると、午前5時半頃、季節的に太陽が登り始める時間帯だ。

 

「いや、何でもないよ。ちょっと早朝の訓練をしてくる。柳生さんと雲雀ちゃんはまだ寝てて良いよ」

 

「・・・・あぁ」

 

「分かった~・・・・」

 

柳生は訝しそうにしていたが、取り敢えず頷き、雲雀はまだ眠いのかすぐに眠りの世界にダイブした。

二人が眠るのを確認した理巧は、顔を洗ってトレーニングウェアに着替えて外に出ると、ランニングをしながら夢の事を整理していた。

 

「(あの時、何で夢の中にーーーースカルゴモラが現れたんだ? いや、それよりも気になる事がある。僕はもしかしたら、昔会ったのか? スカルゴモラに・・・・伏井出ケイに?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時刻は9時頃。秘密基地のある展望台に集まった一同(ペガは本日基地にてお留守番)。

 

「ふぁ~ぁ、さて今日も月閃の皆とデートかなぁ?」

 

欠伸混じりに理巧がそう言うと、飛鳥達と焔達は不満そうな顔になっていた。

 

「りっくん。伏井出ケイさんの居場所を探る為に月閃とのデートを許しているけど」

 

「伏井出ケイの居場所は分かったのかよ?」

 

「・・・・そうだなぁ、雪泉さん達とのデートもそれなりに面白かったけどねぇ。でもま、そろそろ雪泉さん達の上のヤツらも痺れを切らして動き出すかもね」

 

「待つしかないと言うのも、もどかしいですわね」

 

「コソコソしちゃって! 本当にムカつくヤツ!」

 

斑鳩と未来がそう言う。他の皆も似たり寄ったりだ。そんな中、葛城が話題を変えようと声をあげた。

 

「ま。果報は寝て待てって言うしな。アタイらは待ってやろうぜ。・・・・その前に理巧さんや?」

 

「・・・・なに?」

 

下卑た笑みを浮かべる姉貴分に、理巧は嫌な予感がして半眼になるが、構わず葛城は何処から出したのか、五着のバニースーツを取り出した。

 

「折角だからよ! このバニースーツをあの五人に着せてやってくれ!」

 

「・・・・何で? 嫌だよ」

 

「頼むよぉ~。潤いが欲しいんだよぉ~。最近お前がデートで忙しくて構ってくれないしさぁ~。目の前に色白美少女に長身ヘタレっ娘、オカッパのじゃ娘にエロいギャルに幼い系美少女。しかも全員巨乳と豊乳の眼福パラダイスなのにお手つき禁止されてるんだぜぇ~。蛇の生殺しじゃねぇかよぉ~」

 

土下座までして拝み倒そうとする葛城に、理巧や飛鳥達や焔達はここまでやるのかと、呆れを通り越して感服しそうになる。

 

「な! あの四季ってのはノリが良さそうだし! 美野里って子はお前に懐いているからOKしてくれそうだし! 叢ってのはこう、背中からお面を取り上げて、抱き締めるようにして、理巧が耳元で見たいって甘く囁いてやればイチコロだろうし! 三人がやると言えば雪泉と夜桜も仕方なくやるかも知れないだろっ!?」

 

「それで、葛姐さんは五人の艶姿や揺れるおっぱいを観察しまりたいって?」

 

「その通り! そしてあわよくばモミモミとーーーー『半蔵学院の恥部!!』(ガンッ!!)うきゃんっ!!」

 

手をワキワキさせながら涎を垂らし、イヤらしい笑みを浮かべる葛城の脳天に、半蔵学院組が鉄拳を振り下ろした。

そして、斑鳩が話を戻そうと咳払いをする。

 

「兎も角、本日のデートで理巧くんがあの五人の中で誰を選ぶのか決めさせられるかも知れませんわよ」

 

斑鳩がそう言うと、葛城がガバッと起き上がり、飛鳥達と焔達が円陣を組んで話を始めた。

 

「や、やっぱり雪泉さんかな? りっくんって年上が好きそうだし、凄い綺麗だったし、りっくんと・・・・キ、キスもしちゃったし・・・・」

 

「馬鹿! キスで結婚するってなら、私達紅蓮隊にだって権利があるだろうが!」

 

「それでは、叢さん、でしたでしょうか? 殿方はああいう隠れた美少女を好むと、本で読んだ事がありますし・・・・」

 

「確かにあり得ますわ。彼女自身も理巧さんに骨抜きにされているようでしたわ・・・・(でもあの方、何処かで見た記憶が・・・・)」

 

「もしかしたら大穴で夜桜って事はねぇか?」

 

「そらないやろ。戦りあったヤツとの恋愛やなんて・・・・うん。多分ないな」

 

「それじゃ四季じゃない? 男ってエロいJKギャルが好きだって聞いた事があるわ!」

 

「いや、理巧はああいうタイプは選ばんだろう」

 

「それなら、理巧様は保護欲がそそられる美野里って娘かしら? 雲雀がそうだしねぇ」

 

「え? どういう事春花さん?」

 

等と好き放題言い出す飛鳥達と焔達に、理巧はヤレヤレと言わんばかりに肩をおとした。

 

「ん、来たか」

 

と、思案していると、雪泉、叢、夜桜、四季、美野里の五人がやって来た。

 

「おはようございます」

 

「あ、お、おはようございます暁月さん///////」

 

「っ///////」

 

「ふん///////」

 

「やっほ~」

 

「おはよう理巧くん!」

 

雪泉と叢(仮面越し)は顔を赤らめ、モジモジしながら返事をし、夜桜も顔を赤くしながらプイッとソッポを向いた。四季と美野里は明るく返事をしたが。

 

「で、今日のデートの予定は何ですか?」

 

「あ、はい、その・・・・私達五人と、既にデートはしていますからーーーー本日は私達五人とハイキングをと」

 

「へぇハイキング。それは楽しそうだ(まぁた『這緊虞』みたいなのにならないと良いけどーーーー)っっ!!」

 

「うぅっ!?」

 

不意に、理巧と雲雀の身体がビクッと震えると、理巧は身構えて辺りを見回し、雲雀は脅えるように近くにいる柳生の背に隠れた。

 

「あの、暁月さん? いかがなさいました?」

 

「どうした雲雀?」

 

雪泉と柳生が二人の行動を訝しむと、他の皆も首を傾げた。が、理巧は目線を鋭くし、臨戦態勢を取った。

 

「・・・・・・・・・・・・何かくる」

 

「えっ?」

 

「人間・・・・? いや違う、宇宙人の気配でもない・・・・! しかし、この妙な、嫌な気配は一体・・・・!」

 

「み、皆! 何か来るよ! とっても恐くて、とっても嫌な気配がする何かが!」

 

『っっ! 『忍転身』!!』

 

理巧と雲雀の言葉を聞いて、半蔵学院(雲雀も遅れて)と紅蓮隊が転身すると、全員が武器を構えて、理巧と同じように臨戦態勢を取って陣形を組んだ。

 

「な、何があったのですか?」

 

雪泉達月閃女学館は、一拍遅れて転身すると、周囲を警戒する。

感知能力に優れる理巧と雲雀は瞑目し、感知範囲を広げる。

 

「・・・・15ーーーー20ーーーー30、35・・・・!」

 

「まだ増え続けているよ! あぁ! 近くまで来てる!」

 

理巧が敵の数を数え、雲雀が焦ったような声を発した。

 

「何処や・・・・?」

 

「つか、本当に何か来てんのか?」

 

「二人の感知能力はズバ抜けているわ。その二人が感知したなら、本当でしょうけど・・・・」

 

「まさか、空に?」

 

日影が鋭い視線を向け、葛城が疑わしげに言うが、春花は二人の感知能力の高さを言い、飛鳥が上空に顔を向ける。

しかし理巧は、感知能力をさらに高める。

 

「(近くにまで来ている・・・・! 二十メートル以内にいる! しかし、姿が見えない! 遁術を使っている気配もない! 上空にも気配がない! とすれば残るは!)」

 

理巧が地面に四つん這いになって地面に耳を当てた。するとーーーー。

 

 

 

 

 

ーーーーズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズルズル・・・・!!

 

 

 

 

 

「っ! 下だっ! 真下にいるぞっ!!」

 

地中から、何か大きな物が身体を引きずり動いている音が聞こえ、理巧が声を張り上げた瞬間。

 

ーーーードゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!ドォゴォォォォォォンン!!

 

「何だぁーーーー!?」

 

突然地面から何かが飛び出し、焔が大声で叫んだ。

土の中から現れたのは、一言で言えば、蜘蛛のようだった。しかし、サイズが桁違いに大きく、異形の形をしていた。

 

「く、蜘蛛ぉっ!?」

 

「いや、明らかに普通の蜘蛛じゃないっしょ!」

 

「見れば分かるわっ!」

 

美野里と四季が驚き、夜桜が声を発した。

 

『キャァァァァァァァァァァ!!』

 

蜘蛛の怪物達は奇声を発しながらその鋭い前足と牙で襲いかかってくる。

 

「っ! 散!!」

 

理巧がそう言うと、飛鳥達と焔達はすぐに散開し、雪泉達も一拍遅れて散開したが、送れた美野里が蜘蛛の怪物に襲われそうになる。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「美野里さん!」

 

「「「っ!」」」

 

鋭い前足を突き立てられそうになり、美野里がやられそうになるのを見て、慌てて戻ろうとする雪泉達だが間に合わない。美野里も目を瞑ったが。

 

「!」

 

理巧が寸前で美野里をお姫様抱っこで抱えて回避した。

 

「ぁ・・・・」

 

「大丈夫だよ、美野里ちゃん」

 

「うわぁ~ん、理巧く~ん!」

 

笑みを浮かべる理巧に泣きながら抱きつく美野里。理巧はキッと蜘蛛の怪物達を睨むと、カプセルホルダーから、ウルトラカプセルを取りだし、それぞれのリトルスターだった飛鳥達や焔達に投げ渡した。

 

「皆!」

 

『っ!』

 

全員がリトルスターを受けとるのを確認すると、理巧は声を張り上げる。

 

「身の安全を最優先にするんだ! いざとなればソレを使ってくれ! コイツらに手心を加えてはならない!」

 

『了解!』

 

「(コイツらは地面の下からやって来た。・・・・まさか!)」

 

全員が返答すると、理巧は美野里を近くにいた夜桜に渡して、蜘蛛の怪物達の攻撃を回避しながら、装填ナックルを使って雪泉達に気づかれないように声をひそめてレムに連絡する。

 

「レム。コイツらは地中から攻めてきたが、基地は大丈夫なのか!?」

 

《イエ。こちらに攻めては来てはいないようです》

 

「そうか。だが油断するな。基地にシールドシステムがあったな。それで基地を守っていてくれ」

 

《了解しました》

 

「シールドの強度は?」

 

《データ上では、『宇宙恐竜 ゼットン』の火球に耐えられる強度です》

 

「分かった」

 

《理巧! ペガはどうすれば良い!?》

 

理巧とレムの会話に、ペガが入ってきた。

 

「ペガは今は出ないでくれ。状況に応じて外に出て、『ダークゾーン』を使って皆をサポートして」

 

《うん!》

 

通信を終えると、理巧は再び周囲を見る。

まずは半蔵学院は。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

「しっ!」

 

「オラぁっっ!!」

 

「ふっ!」

 

「え~い!」

 

飛鳥が小太刀二刀流で斑鳩が飛燕で切り捨て、葛城が蹴りを叩き込み、柳生は雲雀を守りながら番傘で迎撃し、雲雀も怯えながらも戦う。

次に紅蓮隊を目を向けると。

 

「そらっ!」

 

「たぁっ!」

 

「・・・・!」

 

「はっ!」

 

「おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

焔と詠が斬り捨て、日影が死角からナイフを突き立て、春花が傀儡を操って押さえつけると、未来が傘に仕込んだマシンガンで攻撃する。

次に月閃は。

 

「はぁっ!」

 

「っ!」

 

「とぉぉぉっ!!」

 

「りゃぁぁっ!!」

 

「そ、それ!」

 

雪泉が氷で凍らせ、叢が大太刀を、夜桜が手甲を叩きつけると四季が大鎌で首を刈ると、美野里も手裏剣を投げて援護する。

 

「(この怪物達は僕達だけじゃなく、雪泉さん達も狙っている? 一体何が目的で・・・・っ!)」

 

と、ソコで理巧は新たに現れた異形に目を見開いた。色彩を失ったかのような真っ白い肌、無造作に伸びた長い髪、氷の如く冷酷な瞳。雪泉と似た格好をしていたがそれはまるで、おとぎ話に出てくるーーーー『雪女』のようであった。

 

『フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

 

「なっ! うわぁあああああああっ!!」

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

雪女が息を吹き出すと、凄まじい吹雪が舞い上がり、理巧だけでなく、飛鳥達に焔達に雪泉達を、諸ともに吹き飛ばしてしまった。

 




襲撃された理巧達は!?


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分断されたぜ、皆!

ー理巧sideー

 

「(身体の状態を確認。右手、異常なし。左手、異常なし。右足、異常なし。左足、異常なし。頭部及び胴体、共に異常なし。周囲状況を感知・・・・・・・・敵対対象の存在、無し)」

 

気がついた理巧は身体が負傷していないのを確認し瞼を開き、周囲を見回すと。

 

「ふむ。分断されたか・・・・」

 

雪女のような異形が放った猛吹雪により吹き飛ばされ、気がつけば理巧は鬱蒼とした森の中にいた。圏外になっているスマホの時計を見ると、異形達との戦いから吹き飛ばされるて気がつくまで、およそ数分しか経っていないと確認できた。

 

「ペガ。レム。聞こえる? 現在位置と皆の居場所は?」

 

装填ナックルで通信するが返事がない。それどころか、ノイズが響いていた。基地で何かあったか、落下の衝撃で不具合が起きたか、通信を妨害されているのか、判断の難しい処だが、ここで大人しくしている訳にはいかない。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は身を屈め、片膝をついて瞑目し、自分の感知能力の範囲を地下にまでギリギリ広げ、全員の居場所を探る。

 

「・・・・・・・・っ」

 

理巧は近くにいる人間達と、その人達と交戦する先ほどの異形達の気配を探知した。

また地面からの奇襲を警戒して、木の枝に跳び、枝を足場にしながら駆け出す。

森の樹々を通り抜ける理巧が見つけたのは、十数体の蜘蛛の異形達に囲まれ、襲われている月閃女学館の面々だった。

 

「あっ!」

 

雪泉達も気づいたようで理巧に顔を向けると、理巧は一本の木を足場にして強く踏みつけて蜘蛛達に奇襲を仕掛け。

 

ーーーーシュバッ!

 

『ギィィィィィィッ!?』

 

すれ違い際に、クナイ二本で蜘蛛達を一気に二体も細切れにする。

 

「暁月理巧・・・・!」

 

『っ!』

 

月閃の一同が目を見開くが、それに構わず理巧は、一瞬で姿が消え、また姿を現したら、残り蜘蛛達を一掃された。

 

「ふぅ~・・・・」

 

自分達が苦戦した蜘蛛達を一瞬で全滅させた理巧の実力に、雪泉達は息を呑んだ。

 

「月閃の皆だけ、か。あーちゃん達と焔達は?」

 

「・・・・私達も、 気づいたらこの森に吹き飛ばされていました」

 

「ふぅん。・・・・それにしても、あの程度の蜘蛛の怪物達に苦戦するのはおかしい、よね?」

 

理巧は雪泉の左腕を抑えているのを見て、一瞬でその腕を掴み袖を捲ると赤く腫れていた。ソッと優しく押してみると、

 

「っ!」

 

雪泉は顔をしかめたのを見て理巧は確信した。

 

「雪泉さんは左腕の骨にヒビが入っているね。後はーーーー」

 

理巧が他の月閃の子達を見ると、叢が顔を両手で隠すのを見て、一瞬でその手を掴んでどかすと、素顔が晒されていた。

 

「ひょわっ!?ーーーーり、理巧さ、いや、あ、暁月、さん、み、見ないでくだしゃいっ!////////」

 

「ふむ。お面は?」

 

「落下の際に太い木の枝にぶつかっちゃってさ。割れちゃったっぽいよ」

 

四季が四つに割れた鬼面を見せた。それを見て理巧は、赤く腫れている叢の左足を見て優しく押す。

 

「つぅ~っ!」

 

「叢さんは左足にヒビか」

 

「お面が壊れちゃってテンパってさ~、叢っちったら着地に失敗したんだよねぇ~」

 

「あぅぅぅ~、面目ないです・・・・」

 

「お面が無くなったし、これが本当の“面目ない”ってか?」

 

「誰が上手い事を言えと?」

 

四季がカラカラ笑い、叢は少し情けない顔になり、理巧がツッコム。

そして、人の顔くらいの大きさの葉を見つけ、それを取り、木に巻き付いた蔦を少し取り、目の穴を作って葉っぱのお面が出来上がり、お面の端に蔦を付け、お面を叢の顔に被せると、後ろで蔦を結んで固定した。

 

「急場しのぎだけど、これで我慢してくれ」

 

「あぁ。これで大丈夫(スポッ)はぅぅっ! 四季さん、止めてください!/////」

 

「良いじゃん、叢っちこんなに可愛いのに隠すなんて勿体ないじゃん」

 

「四季さん」

 

お面を付けて落ち着いた口調になるが、四季がお面を外すとまた子犬のようになるが、見かねた雪泉がお面を取り上げて、叢に渡し、再度お面を付けた叢は四季を睨む。そして理巧は次に、夜桜に近づく。

 

「く、来るな!」

 

が、夜桜は敵意むき出しで理巧に向かって手甲を突き出そうとするが、理巧は構わず尻餅をついている夜桜の右足を掴み持ち上げた。

その時ーーーー。

 

「くぅぅぅぅぅぅっ!」

 

夜桜が痛みに悶えていた。

 

「夜桜さんは右足の骨にヒビか」

 

「夜桜ちゃん、美野里を庇って、地面に落ちちゃったの・・・・! その時に足を・・・・!」

 

泣きそうになる美野里を慰めるように、理巧は美野里の頭を優しく撫でる。

 

「兎にも角にも。ここにいても仕方ないし、とりあえず歩こう」

 

「歩こうって、道は分かるんですか?」

 

「探知した際、僕達の他に何人かの気配がした。おそらくあーちゃん達だろう。先ずは皆と合流する事を先決にしよう(・・・・それに、あーちゃんに渡した『ゼロカプセル』を使えば、帰れる可能性がある)」

 

理巧の言葉に、月閃の皆が頷き、足を負傷した叢と夜桜を他のメンバーが支え、理巧が先導した。

 

「(っ、何人かの気配が消えた。早速、あーちゃん達も動いたかな?)」

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「うぇ~、びしょびしょ~・・・・」

 

理巧が月閃の忍達と合流したのと同時刻、飛鳥と焔、斑鳩と詠の四人は運が良いのか悪いのか、大きく深い川に落下しており、ずぶ濡れになりながら全員が川岸に這い出た。

特に忍装束がドレス姿であった詠は、ドレスが濡れてすっかり重くなったのか、特に疲れたようだ。

 

「落下先が川だったのは、不幸中の幸いでしたわね」

 

「だが、完全に理巧達と分断されてーーーークシュン!」

 

「それよりも、早く転身を解除しましょう。ずぶ濡れの服よりはマシですわ」

 

濡れた装束の水分を絞る斑鳩と焔、季節は夏だが、突然水に叩き込まれた焔が小さなくしゃみをし、装束を解除しようと詠が言うと、四人は周囲を警戒しつつ転身を解除し制服に戻るが、濡れた身体が制服を濡らしてしまい、張り付いてしまう。しかし、先ほどよりはマシと思い、四人は改めて状況を確認した。

 

「吹き飛ばされながら周囲を見ましたが、どうやら皆、バラバラになってしまったようですわね」

 

「飛鳥。通信機はどうだ?」

 

「・・・・ダメ。レムと連絡が通じないよ」

 

「スマホもーーーー圏外ですわね」

 

「このまま何もしないでいられませんわよ。何とか基地に戻る事はできませんの?」

 

詠がそう言うと、斑鳩は顎に手を当て思考すると。

 

「・・・・あっ! 飛鳥さん。理巧くんから『ゼロカプセル』を渡されていましたよね?」

 

「あっ、そうか!」

 

飛鳥が胸の谷間から『ウルトラマンゼロカプセル』を取り出すと、基地の指令室をイメージし、カプセルを起動させる。

 

「・・・・・・・・見えた!」

 

ーーーーセャァッ!!

 

起動させると同時に、飛鳥の前にワームホールが形成された。

これで基地に戻る事ができると安堵した。その時にーーーー。

 

『ギィィィィィィィッ!!』

 

「「「「っ!!」」」」

 

不気味な、そして人間とはとてもじゃないが思えない声が聞こえて四人が振り向くと、先ほどの蜘蛛の怪物達が雄叫びを上げて向かってきていた。

 

「うわあぁっ! 出たぁっ!」

 

「ここで無駄な戦闘をする訳には参りません! すぐに退避しましょう!」

 

「くそっ!」

 

「焔さん、行きますわよ!」

 

詠に引っ張られ焔がワームホールを潜ると、斑鳩は谷間から『ヒカリカプセル』を取り出して起動させる。

 

ーーーーデャッ!

 

「ーーーーはあぁっ!!!」

 

すると、納刀されていた飛燕が淡く光り、斑鳩が抜刀すると、光の斬撃が放たれ、先頭にいた何匹かの蜘蛛を切り捨てると、蜘蛛達は霞となって消えた。

 

「斑鳩さん!」

 

「ええ! 飛鳥さんも!」

 

斑鳩がワームホールに飛び込むと、空かさず飛鳥も飛び込み抜けると、見慣れた基地とペガとレムがいた。

 

『飛鳥!? 斑鳩!?』

 

「飛鳥! すぐに閉じろ!!」

 

「う、うん!」

 

驚くペガを気にする余裕なく、焔が叫ぶと飛鳥はワームホールを閉じようとした。

 

『ギィィィィィィィッ!』

 

『うわぁぁぁぁっ!』

 

が、小さくなっていくワームホールから、蜘蛛の怪物の前足をネジ込んで、無理矢理入ろうとしてくる。

 

『飛鳥。ワームホールを閉じてください』

 

「う、うん!」

 

飛鳥がワームホールを完全に閉じると、蜘蛛の怪物の足が千切れ、基地の床に落ちると霞となって消える。

 

『換気システム、フル稼働』

 

レムがそう告げると、基地の換気システムが起動して、霞を基地から吸い出された。

 

『ふぅ~・・・・』

 

まるで怪獣・アクション映画のキャラのような体験をし、飛鳥達は基地に戻れた安心感から、少し安堵の息を吐いた。

 

『皆! 無事だったんだね! 理巧は?』

 

「ゴメン。バラバラになっちゃって、私達四人だけだったの」

 

『そっか・・・・でも、飛鳥達だけでも無事で良かったよ! 今レムが、皆が吹き飛ばされたコースから、落下地点を割り出していたんだ!』

 

「そうですか。ではペガくん、悪いのですが、温かい飲み物とタオルをお願いできますか? 川に落ちてしまって冷えてしまって・・・・」

 

『うん!』

 

ペガが元気良く返事をすると、すぐにタオルを持って来て、温かい飲み物を持ってこようとキッチンに向かった。そして飛鳥達はとりあえず、基地に置いてあるジャージを取りだし、少し濡れた制服を脱いでペガが持ってきたタオルで身体を拭き終えると、ジャージに着替えた。

 

「それでレム。理巧や他の皆からの連絡は?」

 

『現在、妨害信号により全員の居場所は分かりません。ですが、バイタル状態は正常のようです。しかし、月閃女学館のメンバーの様子は確認できません』

 

焔の問いにレムがそう応え、空中モニターに地図が表示され、理巧や飛鳥達や焔達のアイコンが表示されていた。吹き飛ばされる途中で全員のアイコンが消えてしまった。おそらく敵の妨害範囲に入ってしまったからだろう。

今は吹き飛ばされたコースと雪女の異形の息吹きと本日の天気の風圧から、全員の位置を計算している最中だったようだ。

 

「・・・・・・・・わたくし達が川に飛ばされましたから、おそらくこの地点でしょうね」

 

「と言う事は、皆も同じ風圧で吹き飛ばされて、近くにいた人達が固まったとしたら・・・・」

 

斑鳩が僅かな記憶から自分達の落下地点を示すと、飛鳥が他の皆の地点をおおよそに表示すると、理巧と月閃の忍達は近くに、柳生と雲雀、未来と春花が一組となり、その少し離れた位置に葛城と日影が一組で、理巧と月閃の忍達は葛城と日影から少し離れた位置にいると表示された。

 

『皆ぁ! ココアが入ったよ!』

 

丁度ペガが暖かなココアを淹れて持ってきた、四人は礼を言いつつココアを飲むと、冷えた身体が温まるのを感じた。

 

「ふぅ・・・・人心地つきましたけど、他の皆さんが心配ですわね」

 

「あぁ。だから今は、皆の落下予想地点を早く掴まないとな。アイツらも大人しくしていないで、もう動いているだろうし」

 

詠と焔が、表示された地図を見据えながらそう言った。

 

「斑鳩さん。霧夜先生に連絡を入れた方が良いかな?」

 

「そうですわね。連絡しましょう」

 

飛鳥と斑鳩は、霧夜先生に連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

ー柳生sideー

 

飛鳥達が川から這い出た頃、柳生達は。

 

「・・・・・・・・どうやら、止まったようだな。雲雀、大丈夫か?」

 

「う、うん・・・・らいひょうふ・・・・」

 

「やれやれ、だわ・・・・あら、未来は何処かしら?」

 

「ここ。ここよ」

 

並んでうつ伏せに倒れていた柳生と雲雀と春花の下から未来の声が聞こえ、視線をそちらに向けると、丁度三人の豊満な胸に潰される形で未来が倒れていた。

 

「あら未来。私達のおっぱいが恋しいの?」

 

「バカ言ってないでささっと退いてよ! その無駄にデカい脂肪の塊! もぎ取ってやるわよっ!?」

 

頭に大きな血管を浮かばせながら未来が怒鳴ると、三人がヨロヨロになりながら起き上がり、まだグルグルする頭を振って元に戻そうとしていた。さて、なぜ四人がこうなっているのかと言うと。

雪女のような怪物の息吹きで吹き飛ばされた直後、柳生は隣にいる雲雀を抱き寄せ、すぐさま『セブンカプセル』を起動させ、球体状のバリアを張った。ギリギリまでバリアの範囲を広げ、仲間達も救出しようとしたが、近くにいた未来と春花しか助けられず、そのまま吹き飛ばされ、山の急斜面に落下し、球体状になったバリアが急斜面で転がり、そのまま四人はバリアの中でシェイクされながら転がっていった。そして漸く木々の間にバリアが挟まって止まり、現在に至ったのだ。

柳生がバリアを解除すると、転がって破壊した道が無惨に残り、後は鬱蒼とした森であった。

 

「・・・・ここって何処だろう?」

 

「未来」

 

「ああもう、分かってるって!」

 

春花が豊満な胸の谷間から望遠鏡を取り出して渡すと、未来が忍装束のゴスロリドレスのスカートを捲ると、未来が馬乗りできるくらいの大きさのジェット機が現れて跨がった。

 

「秘伝忍法! 『ラントクロイツアー』!!」

 

未来がジェット機・ラントクロイツアーに乗って上空に飛び、旋回しながら周囲を見回すと、三人の元に戻る。ラントクロイツアーはスカートにすっぽり入ると、手品のように消えた。

 

「東に二キロの地点に、観測所みたいな物があったわ。それとーーーー小さくだけど、基地のある天文台も見つけたわ」

 

「と言う事は、ソコまで遠くに吹き飛ばされていなかったっと言う訳か・・・・」

 

「ここから南南東に向かって八キロ~十キロの距離ね」

 

「私達の足なら、走れば二十分で到着できるわね」

 

「あっ、そう言えば観測所の辺りで、葛城と日影っぽい人影があったわ」

 

「えっ!? 葛姉ぇに日影さんがっ!?」

 

「本当に二人か?」

 

「あんな派手な金髪と緑髪、そうそういるようなもんじゃないでしょう?」

 

仲間の二人だけでも見つかって、少し安堵する四人。

 

「それでどうする? 先に二人と合流する?」

 

「そうだな。あの二人ならば大丈夫だとは思うが・・・・」

 

「っ! 皆!」

 

「「「っ!」」」

 

雲雀が脅えた声をあげると、柳生と未来と春花は、雲雀もいれて四人で背中合わせになって周囲を警戒すると。

 

『キィィィィィィ・・・・!』

 

蜘蛛の怪物達がゾロゾロと沸いて出てきた。

 

「・・・・この分だと、葛城達の方にも現れていそうだな?」

 

「そうね。未来、ここから二キロに日影達がいるって言ってわね?」

 

「うん」

 

「このままオレ達でコイツらを蹴散らしながら十キロ近くの基地に戻るか。近くにいる葛城達と合流し、戦力を増強してから進むか・・・・ま、それならばーーーー」

 

『ギィィィィィィィッ!!』

 

柳生が言い終わる前に、蜘蛛の怪物達が襲いかかってきた。そしてーーーー。

 

ーーーードガァァァァァァァァンンッ!!

 

「『秘伝忍法 忍兎でブーン』!」

 

雲雀が召喚した忍兎に四人が乗り込み、春花が全員が離れないように指先の糸で身体を忍兎に固定させ、未来が後方の蜘蛛達に傘のマシンガンで迎撃する。

 

「雲雀! このまま葛城達と合流だ!」

 

「うん!」

 

四人は忍兎に乗って、森の中を駆け巡った。

 

 

 

 

ー葛城sideー

 

「おいててて、たくっ、ヒデぇ目にあったぜ・・・・」

 

「どうやら観測所のようやなぁ」

 

未来がラントクロイツアーで空を飛ぼうとするのと同時に、鬱蒼とした森から漸く出られた葛城と日影は、丘の上にある観測所を見つけた。

人がいるならば助けを呼べるかもしれないし、無人だったとしてもここが何処だか分かる情報があると考え、観測所に向かおうとした。

がしかし、その瞬間、二人は足をピタッと止める。

 

「・・・・・・・・どうやら」

 

「簡単には、いかへんようやなぁ」

 

グリーブとナイフを構える二人。

 

「「っ!」」

 

『ギィィィィィィィッ!!』

 

二人が跳ぶと同時に、二人がいた地点の地面から蜘蛛の怪物が飛び出る。

 

「「はぁっ!!」」

 

が、葛城は蜘蛛の怪物に急降下キックを、日影がナイフを突き立てて蜘蛛の怪物を消滅させた。すると今度は周囲の地面から無数の蜘蛛の怪物達が出てきた。

二人は背中を合わせながら迎撃態勢をとる。

 

「やれるかよ、この数?」

 

「あと一体増えとったら、少しキツいな」

 

「はっ、そん時はアタイがその一体をやってやるよ」

 

「何や? それまで体力持つんか?」

 

「試して、見るか!?」

 

「見せて、貰うわ!」

 

二人はバッと飛び出すと、それぞれの秘伝忍法を繰り出した。

 

「『秘伝忍法 クロスパンツァー』!」

 

「『秘伝忍法 おおよろこび』!」

 

葛城がグリーブで一体の蜘蛛に踵落としを繰り出し倒すと、その衝撃で周りの蜘蛛が吹き飛ぶ。

日影がナイフを大振りに振ると、広範囲の斬撃で切り裂いていった。

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そして、何処かの場所で、空中ウィンドウに映された理巧と月閃達、葛城と日影、柳生達の様子を不気味な笑みを浮かべて見ていた伏井出ケイは、二つのコピークリスタルに『甲殻類の怪獣の怪獣カプセル』と『翼竜の怪獣の怪獣カプセル』を装填した。

 

ーーーーピャァァァァァッ!

 

ーーーーキシャァァァァッ!

 

そして、二つのコピークリスタルがグネグネと動くとその形を変貌させていく、伏井出ケイはパチンっと指を鳴らし、二つのコピークリスタルは別の場所へと、転送された。




分断された理巧達、そして葛城と日影はどうなるのか!?


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思い出したぜ、六年前!

今回、理巧の過去を少しだけ見せます。


ー霧夜先生sideー

 

さて、理巧達が森を歩き始めた頃、AIBの鷹丸達からの連絡を終えた霧夜先生のスマホに、斑鳩からの電話を来て、今の自分達の現状を聞くと、目を驚愕に見開いていった。

 

「何!? 蜘蛛の異形や雪女のような異形に襲われ、全員が分断されただと!?」

 

《はい。基地にはわたくしと飛鳥さん、焔さんと詠さん他には、ペガくんとレムしかおりません。理巧くん達とも連絡が取れない状態ですわ》

 

「(・・・・蜘蛛に雪女の異形・・・・まさか、いや、そんな事はありえん!)」

 

斑鳩の話から聞いた蜘蛛の怪物と雪女から、霧夜先生は“ある存在”の事を連想したが、すぐに違うと首を振って否定した。

 

「とにかく斑鳩。俺もすぐにソッチにーーーー」

 

《怪獣の出現を確認しました》

 

《『ええっ!?』》

 

「ーーーー何っ!?」

 

通話越しからのレムの発言に、斑鳩達だけでなく、霧夜先生も驚愕した。

すると今度は、AIBからの専用通信機が鳴り、それに出る。

 

「怪獣かっ!?」

 

《おっ、察しが良いな。あぁ、◯◯市の△△町の港に、二体の怪獣が現れたんだ》

 

「くっ、こんな時に・・・・いや、まさか狙ってきたのか?」

 

鷹丸の言葉に苦々しく顔を歪めそうになる霧夜先生は、あまりにも怪獣の出現のタイミングが良すぎる事に、訝しそうな顔色となった。

 

「まさかと思うが。鷹丸、少し待ってくれ。ーーーーレム。理巧はこの事を察しているか?」

 

《イエ、理巧が察していればすぐにジードに変身しています》

 

「と言う事は、現在動けるのは俺達か・・・・お前達、怪獣は俺とゼロで片付けておく。お前達は理巧や葛城達に柳生達ーーーーそして月閃女学館の忍達の捜索に当たってくれ」

 

《『了解!』》

 

通話を切った霧夜先生は、再度鷹丸の通信に出た。

 

「鷹丸。現れた怪獣はなんて言う怪獣だ?」

 

《『宇宙海獣 レイキュバス』に『超古代竜 メルバ』だ。急いでくれ!》

 

「ああ。行くぞゼロ!(デュォンッ!) 応よ!」

 

霧夜先生はゼロに変わり、ウルトラゼロアイNEOを取り出し、目に押し当てた。

 

「シェァッ!!」

 

ウルトラマンゼロへと変身すると、二体の怪獣が出現した場所へと向かって飛び立った。

 

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

雪泉達月閃女学館は、先行する理巧の後を追いながら、鬱蒼とした森を歩いていた。

 

「あぁもう! 理巧っち! ちょい背負うの手伝ってよ!」

 

「・・・・僕が近くにいるのが気に食わない人がいるから無理だよ」

 

美野里と一緒に夜桜に肩を貸していた四季が手伝ってと言うが、理巧に対して敵意を隠さない夜桜がいるので、理巧は雪泉達から距離を取っているのだ。

 

「・・・・・・・・」

 

「雪泉」

 

「何ですか叢さん?」

 

「妙ではないか? 我らの歩く道、枝に引っかかる事も、獣や虫、さらに先ほどの怪物共の気配すらない・・・・」

 

「ぁ・・・・」

 

雪泉は叢の言葉にハッとなると、前方を歩く理巧が、飛び出した枝を折ったり、蛇とか虫を追い払っており、足元にある石とかも足で蹴り飛ばし、雪泉達が歩きやすいようにしていた。

 

「暁月、さん・・・・」

 

「っ! 止まれ」

 

理巧が止まるように言うと、雪泉達はその場で止まった。すると理巧は、一瞬だけ瞑目して感知モードに移行し、すぐに元に戻る。

 

「約数百メートル先に、さっきの怪物達の気配が夥しい数にある。それに紛れて、葛姐さんと日影さんの気配もする」

 

「戦っている、と言う事ですか?」

 

「葛姐さんの性格上、敵陣の中で大人しくしている筈がない。十中八九交戦中だろうね」

 

理巧は軽く柔軟をすると、月閃の皆を一瞥した。

 

「ここからは全力疾走するけど、着いてこられる?」

 

「「「っ!」」」

 

雪泉と四季と美野里が渋面になる。負傷した夜桜と叢を担いで全力疾走するのは難しいからだろう。

 

「足手まといに、なるつもりはない」

 

「片足だけでも、ついていってやるわい!」

 

が、仲間達の心情を察したのか、二人は毅然と片足で立ち、問題ないと言わんばかりに跳ねて見せる。がーーーー。

 

「「(ビキッ!) ぐぅ・・・・っ!!」」

 

片足でピョンピョンと跳ねた振動で、ヒビの入ったもう片足が悲鳴をあげたのか、痛みで顔を歪める二人。

理巧はハァと息を吐くと、一瞬で叢と夜桜を片手で担ぎ上げた。

 

「なっ!?」

 

「ぬっ!?」

 

「うわぉ」

 

「わっ!」

 

「あ、暁月さん・・・・?」

 

月閃と忍達が唖然となる。

 

「な、何をするのじゃ貴様!」

 

「あ、暁月殿、このような・・・・!」

 

「めんどくさいからこのまま運んで、いく!!」

 

ーーーードゥっ!!

 

「「うわぁぁぁぁっ!!」」

 

「「「うっそぉっ!?」」」

 

凄まじい踏み込みで土煙をあげながら、理巧は森を駆けていき、雪泉と四季と美野里も驚愕しに目を見開いた。

 

「叢っちも夜桜っちも、色々な箇所が実ってるから結構重い筈なのに・・・・」

 

「理巧くん、凄く速~い・・・・」

 

「と、取り敢えず、追いかけましょう!」

 

雪泉達も遅れながら疾走した。

 

 

 

 

森を駆け抜け、脱出した理巧(全然余裕)の目の前には、目測で四十匹以上の蜘蛛の怪物に囲まれていた葛城と日影だった。

二人とも装束が少し汚れたりボロボロになっている所を見ると、かなり善戦していたが、数の暴力に押し潰されそうになっていたようだ。

 

「葛姐さん! 日影さん!」

 

「っ! 理巧!」

 

「理巧さん・・・・と、月閃の者やな」

 

理巧がそれぞれの手で抱えていた叢と夜桜を丁重に降ろすと、一拍遅れて全力疾走で来たせいか、肩で息をする雪泉達も駆けつけた。

 

「・・・・フッ!」

 

勢いを付けた理巧が駆け出すと、両手にクナイを持ち、蜘蛛の怪物達の間を駆け抜け、葛城と日影の元に到着した。

すると。

 

ーーーーザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!

 

『ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!』

 

理巧が駆け抜けた後に、蜘蛛の怪物達が切り捨てられ、黒い霞となって消滅した。

 

「お見事」

 

「流石やな」

 

葛城と日影がニッと笑いながら言うと、理巧は警戒を少しも抜かず、蜘蛛の怪物達を睨みながら口を開く。

 

「余計なお世話だった?」

 

「ま、少し助かったぜ」

 

「ちょいと飽きてきた所やったからな」

 

「気配から残り二十四体、一人八体で一気に終わらせよう!」

 

「「おうよ!/ああ!」」

 

三人がチャクラを練ると、一気に攻め立てた。

 

「『秘伝忍法 トルネードシュピンデル』!」

 

「ダイナさん。力借りるわ」

 

シュアッ!

 

「・・・・『瞬閃』」

 

葛城の竜巻の脚が凪ぎ払い、日影の『ダイナカプセル』を起動させると、手の平に拳大の光球を生み出し野球のように投げ飛ばして打ち破り、理巧は一瞬姿を消すと、閃光のような光が怪物達に走り、細切れに切り裂かれていった。

 

『ギィャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!』

 

蜘蛛の怪物達は、霞のように散っていった。

 

「ふぅ~・・・・」

 

「漸く片付いたか・・・・」

 

「二人共、大丈夫?」

 

怪物達が消えると、疲労感から葛城と日影がその場に座り、理巧が声をかけた。

 

「はっ、余裕余裕!」

 

「最近運動不足やったからな、丁度ええストレス発散やったわ」

 

「ふっ・・・・所で葛姐さん、負傷者がいるから、治療をお願いできる?」

 

理巧が親指で月閃女学館の面々を指すと、葛城は豊満な胸の谷間から、『コスモスカプセル』を取り出して頷いた。

 

「おう、任せておけ。治療費はアイツらのおっぱいで払ってもらうぜ♪」

 

「ぶれんなアンタ」

 

「アタイにとっちゃ疲労回復の万能薬よ♪」

 

嬉々として月閃の元に行く葛城を、日影も理巧も呆れながら見ていた。

と、ソコで不意に、理巧が丘の上にある観測所を見上げたその時。

 

ーーーードクンッ・・・・!

 

「・・・・!!」

 

理巧の心臓が激しく脈動し、頭に記憶が沸き上がってくる。

 

「(な、何だ・・・・! こ、この感覚は・・・・!?)」

 

ーーーーキィィィィィィィィィィン・・・・!

理巧は自分に起こった異常に戸惑うと、次に激しい頭痛が襲いかかった。

 

「うっ!」

 

「理巧さん?」

 

手をワキワキさせながら雪泉達を治療する葛城の姿に呆れていた日影が、突然片足を着いて頭を押さえた理巧に、訝しそうに眉根を寄せた。

 

「ぐっ・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「っ、理巧さん・・・・!」

 

『っ!』

 

苦悶の叫び声をあげて蹲る理巧に、日影は駆け寄り、葛城や雪泉達も気づいたのかすぐに駆けつける。

 

「(こ、これは・・・・!)」

 

理巧は心配そうに自分の名を呼ぶ葛城達の声に気づかず、脳裏にある記憶が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『シェァッ!!』

 

『キシャァァァァァァァッ!!』

 

『ピュギャァァァァァァッ!!』

 

現場に到着したゼロは海老か蟹のような甲殻類の身体に左右非対称の鋏をもった怪獣、『宇宙海獣 レイキュバス』と、刃のような翼を持った巨大な鳥の怪獣、『超古代竜 メルバ』と交戦を開始した。

 

『一気に終わらせようぜ、霧夜!』

 

『「ああ!」』

 

霧夜先生が、『ギンガカプセル』を起動させた。

 

『「ギンガっ!」』

 

ショオラッ!

 

空色の光が幾つも現れ、『ウルトラマンギンガ』の姿がとなり、『ギンガカプセル』をナックルに装填すると、『オーブ オーブオリジンカプセル』を起動させる。

 

『「オーブっ!」』

 

デュワッ!

 

白い光が幾つも現れ、『ウルトラマンオーブ オーブオリジン』の姿となり、ジードライザーでナックルのカプセルを読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーのスイッチを押すと、空色と白の光が混ざり合った粒子が、『ニュージェネレーションカプセル・α』へと変化した。

 

[ウルトラマンギンガ! ウルトラマンオーブ オーブオリジン! ニュージェネレーションカプセル・アルファ!]

 

『ニュージェネレーションカプセル・α』に変化すると、次に『ビクトリーカプセル』を起動させる。

 

『「ビクトリーっ!」』

 

テアッ!

 

黄色の光が幾つも現れ『ウルトラマンビクトリー』となりナックルに装填し、『エックスカプセル』を起動させる。

 

『「エックスっ!」』

 

イィィィーッ、サァァァーッ!

 

緑色の光が幾つも現れ、『ウルトラマンエックス』となりナックルに装填した。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ライザーのスイッチを押すと、黄色と緑色の光が混ざり合った粒子が、『ニュージェネレーションカプセル・β』へと変化した。

 

[ウルトラマンビクトリー! ウルトラマンエックス! ニュージェネレーションカプセル・β!]

 

ウルトラゼロアイNEOとジードライザーを合体させると、『ニュージェネレーションカプセル・α』を起動させる。

 

『「ギンガ! オーブ!」』

 

ショオラッ! デュワッ!

 

ギンガとオーブオリジンが向き合うように現れ、次は『ニュージェネレーションカプセル・β』を起動させる。

 

『「ビクトリー! エックス!」』

 

テアッ! イィィィーッ、サァァァーッ!

 

ビクトリーとエックスが向き合うように現れ、『α』と『β』の『ニュージェネレーションカプセル』をナックルに装填し、ライザーで読み込む。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

[ネオ・フュージョンライズ!]

 

『「俺に限界はねぇっ! ハアァッ!!」

 

[ニュージェネレーションカプセル! α! β! ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

『ーーーー俺の刃を刻み込め・・・・!』

 

ゼロビヨンドへと変身するとゼロツインソードを構え、レイキュバスとメルバに切り込んだ。

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

空中モニタで状況を見ている伏井出ケイは、ニヤリと笑みを浮かべると、理巧達のいる場所から離れた森に転移した。

 

「因果、ですかねぇ。さあ、次はお前だ」

 

ーーーーキシャァァァ!

 

ほくそ笑む伏井出ケイは、コピークリスタルに起動させた怪獣カプセルを装填し、力一杯投げ飛ばすと、コピークリステルが怪物へと変貌した。

金のラインが入った黒い体に、両手は鎌のようになっている怪獣、『宇宙戦闘獣 超コッヴ』。

 

『キシャァァァァァァァッ!!』

 

「ーーーーでは、因縁の再会と行きましょう!」

 

伏井出ケイは次に、『ゴモラカプセル』を起動させた。

 

「ゴモラ!」

 

キシァアアアアアアッ!!

 

ゴモラの雄叫びが響き、『ゴモラカプセル』をナックルに装填した。

 

「レッドキング!」 

 

ピギャグゥゥゥゥゥッ!!

 

次に『レッドキングカプセル』を起動させて、ナックルに装填しスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

ライザーで手に持ったナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが、黄色と赤に発光し、音声が流れる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

ライザーのボタンを押すと、伏井出ケイの姿がベリアルの前にゴモラとレッドキングの姿が現れると、2体は赤と黄色の粒子となって、ベリアルの口の中へと吸い込まれた。

そしてベリアルの姿が、『ベリアル融合獣 スカルゴモラ』へと変身した。

 

[ゴモラ! レッドキング! ウルトラマンベリアル! スカルゴモラ!!]

 

『ピギャグワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

スカルゴモラが、雄叫びを上げながら、その姿を現し、超コッヴの隣に出現し、理巧達のいる観測所へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

暁月理巧は幼少期に壮絶すぎる訓練を八年間も受け、殺しの技術や人体の破壊方法からあらゆる毒に対する抗体能力を得る為に、毒を常に摂取し続け、肉体的にはその頃から、柳生にも匹敵する実力を持っていたが、心は摩耗し、否、心など失われてしまい、言語も文字もろくに知らない、命令を遂行するだけの『人形』になっていた。

そんな理巧を戦部鷹丸と、その三人の妻、ハルカ、ナリカ、スバルの四人が拾い、二年間で少しずつ心が生まれ、『人形』から『人間』になっていった。

小学校に通い出した暫く経ち、家族五人でハイキングに来た。そしてその時にやって来た場所が、今理巧達がいる観測所だった。一家団欒の幸せな時間が過ぎていくかと思われたソコから、突如現れたのはーーーー。

 

【ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!】

 

何と、姿は曖昧だが、『怪獣』が出現し、観測所に向かって闊歩した。観測所には当時職員達がおり、彼らが危険にさらされていた。

ハルカとナリカとスバルが飛び出し、手裏剣やクナイや刀を使って『怪獣』を止めようとするがその行く手を止められず、逆に三人が危険にさらされる。

 

【ハルカ! ナリカ! スバル!】

 

【ぁ・・・・】

 

離れた所に避難した鷹丸と理巧。劣勢に三人に鷹丸が声を張り上げるのを見て、理巧も声をあげた。

理巧は人の『死』に無関心だった。

凄惨な幼少期に、人が死ぬ光景を何度も見てきたが故に、『命』の重大さをまるで知らなかった。しかし、目の前の三人が死ぬと思ったその瞬間、理巧の身体が動いた。

 

【理巧!?】

 

【【【っ! 理巧(くん)ッ!!】】】

 

鷹丸から離れ、ハルカ達を通りすぎ、『怪獣』の足を飛び登りながら、曖昧な『怪獣』の姿が鮮明に見えてきて、その『怪獣』に拳を叩きつけた瞬間、その『怪獣』の全貌をーーーー。

 

【ピギャグワアアアアアアアアアアアッ!!!】

 

それは、『スカルゴモラ』だった。

拳を叩きつけられえスカルゴモラが頭を振るうと、理巧はそのまま57mの高さから落下していく。

 

【【【理巧っ!】】】

 

【理巧ーーーー!!】

 

と、ハルカ達が声を張り上げ、鷹丸が叫ぶと、鷹丸の身体が“金色の光に包まれた”。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

「おい理巧! 大丈夫か!?」

 

「どないしたんや?」

 

「・・・・・・・・はっ!」

 

意識を取り戻した理巧は、自分に声をかけている葛城と日影、そしてその近くで自分を心配そうに見ている雪泉達の姿があった。

頭を軽く振った理巧は、口を開く。

 

「ここは・・・・六年前に、怪獣が現れた場所、だ・・・・」

 

「あん? それって、良く『クライシス・インパクト』の特番にも言われているアレか?」

 

「何で理巧さんが知ってるんや?」

 

「・・・・僕は、当時ここに、いた・・・・! ここで僕は、怪獣と出会っていたんだ・・・・!」

 

「「何っ!?/何やて?」」

 

『っ!』

 

全員が驚きに目を見開いたその時ーーーー。

 

『ピキャグワァァァァァッ!!』

 

『キシャァァァァァァァッ!!』

 

観測所の向こう側から、スカルゴモラと超コッヴが現れた。

 

「怪獣っ!?」

 

「何ッ!?」

 

「嘘じゃろう・・・・!」

 

「何でこんなトコに出てくんだしっ!?」

 

「うわ~ん!」

 

月閃の皆が驚愕するが、理巧と葛城と日影はスカルゴモラを、否、伏井出ケイを見据えた。

 

「融合獣ちゅう事は、ようやっと出てきたな」

 

「あの野郎! ここで会ったが百年目だっ!」

 

日影と葛城は漸く現れた伏井出ケイに敵愾心剥き出しで睨むと、理巧は立ち上がり、ジードライザーを取り出すのを見た。

 

「良いのか理巧? バレちまうぞ」

 

「やっと見つけたんだ。ここで奴を取っ捕まえる。後の事はその時に考えるさ」

 

「ほな。持っていきぃ」

 

「ウルトラマンとベリアルしかねぇんだ。無いよりマシだろう」

 

葛城と日影からそれぞれのウルトラカプセルを受け取った理巧は頷き、雪泉達の横を通り過ぎながら、ジードライザーを構えた。

 

「・・・・ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

カプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

シャアッ!

 

「アイ・ゴー!」

 

ヌェアッ!

 

『初代ウルトラマンカプセル』と『ウルトラマンベリアルカプセル』を装填ナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させる。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

『えっ!?』

 

そして、雪泉達は見た、理巧の身体が、自分達の知る『巨人』へと変貌していくのを。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!]

 

光と闇の螺旋の中から『ウルトラマンジード プリミティブ』となって飛び出す。

 

『シャアッ!!』

 

ジードは地面に下り立つと、スカルゴモラと超コッヴに向かって構えた。

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「えっ?・・・・えっ??・・・・ 」

 

「う、嘘・・・・」

 

「い、今のは、見間違い、では・・・・」

 

「ば、バッチリ見ちゃったし・・・・」

 

「り、理巧くんが・・・・」

 

雪泉達は戸惑いに愕然となりながらウルトラマンジードを見上げていた。

 

「エエんか?」

 

「エエんじゃねぇの?」

 

日影と葛城はどうにもでもなれ、と言わんばかりに達観としていた。そんな中、雪泉が口を開く。

 

「あ、暁月理巧、さんが・・・・・・・・ウルトラマンジード様ーーーーーーーーーーーー!!!???」

 

この時、雪泉は人生で一番の大声をあげた。




次回、新たなフュージョンライズが出ます!


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進め彼方へ マイティトレッカー

ー柳生sideー

 

『キシャァァァァァァァッ!!』

 

『ピキャグワァァァァァッ!!』

 

葛城達のいる地点に向かう途中、忍兎の背に乗っていた柳生達は、超コッヴとスカルゴモラの姿を捉えた。

 

「柳生ちゃん! 怪獣だよ! しかも一匹は融合獣だよ!」

 

「と言う事は、伏井出ケイか!?」

 

「痺れを切らして漸く現れたようね」

 

そして次に、ウルトラマンジードが現れ、二体の怪獣の戦いを始めた。

 

『シュアッ!』

 

「理巧か! 良し。オレ達も急いでーーーー」

 

と、ソコで、柳生の視界の端で捉えた異形が目を入った。

 

「っ! 雲雀。方向転換だ」

 

「えっ?」

 

「あれを見ろ」

 

忍兎を急停止させ、全員が柳生の視線の先に目を向けると、自分達を吹き飛ばした雪女の異形がおり、何やら全身からオーラを放ちながらその場に留まっていた。

 

「ーーーー成る程。どうやらあの怪物が、この場所の通信障害を起こしているようね?」

 

「前にアタシ達が半蔵学院を襲撃した時の方法と同じね」

 

「じゃあ、あの怪物さんをやっつければ飛鳥ちゃん達と連絡が取れるの?」

 

「・・・・試してみる価値はあるな」

 

柳生達にもお互いに頷くと、雪女の異形へと向かった。

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「あ、あぁ・・・・そんな・・・・! 暁月理巧さんが、ジード様・・・・!?」

 

「・・・・・・・・」

 

「(ぎゅぅぅぅ~)あいたたたたた! 四季さん! 何で私のほっぺをつねるんですかっ!」

 

「痛いって事は、これ夢じゃないって訳・・・・?」

 

「ご自分のほっぺをつねって下さい!」

 

唖然となる雪泉の頬を、同じく唖然となった四季がつねり、一応正気に戻った。

 

「あ、暁月理巧が、ウルトラマンジード・・・・!?」

 

「わ、ワシらが憧れていたウルトラマンジード様が・・・・!」

 

「スっゴ~い! 理巧くんがウルトラマンジードだったんだぁ!」

 

実は雪泉にも負けず劣らずに、ウルトラマンジードに尊敬と憧れを抱いていた叢と夜桜は愕然となり、美野里は憧れのヒーローが懐いていた相手であった事を素直に喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

『シュアッ!!』

 

『ピギャグワァッ!』

 

『キシャァァァッ!!』

 

ジードはスカルゴモラと押し合いをすると、後ろから超コッヴが鉤爪を振り下ろそうとする。

 

『はぁっ!』

 

『キシャゥゥ!!』

 

が、後ろ蹴りで腹部を蹴ると、超コッヴは怯んで後ろに退く。

 

『ピギャグワァアッ!』

 

片足になり、踏ん張りが半減したジードに、スカルゴモラは力を込めて押し出す。

 

『うわっ!!』

 

押し出されたジードは地面に削りバランスを崩しそうになる。

 

『シャァッ!!』

 

地面についている片足に力を込めて跳ねると、そのまま身体をのけ反らし、スカルゴモラに踵落としを叩き込む。

 

『ピギャグゥゥッ!』

 

一瞬怯んだスカルゴモラの腕から脱出し、踵落としをした足でスカルゴモラの顔を蹴って、スカルゴモラから離れる。

 

『『レッキングリッパー』!!』

 

『ピギャグアァッ!』

 

技を放ってスカルゴモラを引かせると、超コッヴが額から光弾を放って、ジードを攻撃する。

 

『っ!ーーーーぐぅっ!!』

 

回避しようとしたジードだが、何故なのか、その場を動かず、腕を交差した防御の姿勢で、光弾を受けた。

 

『くぅ・・・・『レッキングロアー』ッ!!』

 

『キシャァァァッ!?』

 

ジードは防御を解いて、口からの衝撃波で超コッヴを後退させると、再び構えて、超コッヴとスカルゴモラと交戦した。

 

 

ー葛城sideー

 

「な、何故ジード様・・・・いえいえ! あ、暁月理巧は、かわさなかったのですか」

 

「んなの決まってんだろうが」

 

「ワシらに攻撃が当たると思って、動けなかったんや」

 

ジードの後ろに葛城と日影、雪泉達がおり、ジードは一同を守る為に、防御に入っていたのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「おらっ!」

 

ーーーーボニュンッ!!

 

「きゃぁっ!!? な、なにするんですか! 葛城さん!」

 

「いつまで!」

 

ーーーームニュンッ!!

 

「んあっ!?」

 

「なぁっ!?」

 

「呆けてやがる!」

 

ーーーーフニュンッ!!

 

「あんっ!?」

 

「ひゃぁっ!?」

 

呆けている雪泉の胸を両手でグワシっと掴んだ後、片手で他のメンバーの胸を揉んで正気に返した葛城は、月閃の一同に向けて声を上げた。

 

「とっととここから離れるぞ!」

 

「理巧さんの邪魔になるで」

 

葛城と日影に連れられ、雪泉達はその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

ー柳生sideー

 

そして柳生達はーーーー。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・」

 

「これは、強敵、ね・・・・!」

 

「へ、へっくちゅんっ!」

 

『フゥゥゥ・・・・』

 

雪女の異形は思いの外手強く、木に隠れた柳生と未来は肩で息をし、同じく木に隠れた春花と雲雀。

雪女の異形は口から冷気を纏った吹雪を吹き出し、木を盾にしているが、四人は寒さを防ぐ事ができず、身体をガタガタと震わせていた。

 

「さ、最後の、手段だ、皆、聞け・・・・!」

 

柳生が作戦を口にすると、三人はコクリと頷き、一二の三と、柳生は左に、春花が雲雀と右にと、左右に別れる。雪女の異形がどっちを攻撃するか迷っていると、未来が木の影から飛び出し、傘のマシンガンを連射すると、雪女の異形は口からの冷気を強める。

 

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 皆! 今よっ!」

 

「春花!」

 

「ええ!」

 

雪女の異形の首が未来に向いている隙に、柳生達が左右から雪女の異形へと向かっていく。

 

『っ!!』

 

が、雪女の異形は両手を柳生と春花と雲雀に向けると、そこからも吹雪を放出し、三人を動けなくした。

 

「ぐぅ! くぅ・・・・!」

 

「さ、寒い・・・・!」

 

「うぁぁぁぁっ!」

 

が、その時、春花の隣にいた雲雀が吹き飛ぶと、身体がガランっと崩れ、雲雀の顔を肌が捲れ、木の人形になった。

 

『っ!』

 

雪の異形が目を見開くと、柳生が上に向かって叫ぶ。

 

「雲雀! 決めろ!」

 

「『秘伝忍法 お尻がドーン!』」

 

『っ!?』

 

ーーーードォォォォォォォォォォンンッ!!

 

突如、雪女の頭上から雲雀がヒッププレスをし、雪女を押し潰した。

 

「やったな、雲雀」

 

「うん!」

 

そう。これが柳生の作戦である。春花と一緒にいたのは、春花の傀儡人形を雲雀に変装させた物で、本物の雲雀は木に登り、上から奇襲するという物だ。

 

「ヒッププレスで潰すって」

 

「雲雀の大きなお尻の勝利ね」

 

「むっ! 雲雀、そんなにお尻大きくないもんっ!」

 

春花と未来が、雲雀の尻を見て、ニヤニヤするが、雲雀がプンスカと怒りながら声を上げた。

 

「まぁまぁ、大きいお尻は安産型って言うから、理巧様との子供は、丈夫な子が生めるわよ?」

 

「えっ? 雲雀と理巧くんの、子供・・・・?」

 

春花の言葉に、雲雀は少し考えると、自分と同じ髪の毛と理巧に似た瞳をした子供を抱いている自分と、その子供を見て笑みを浮かべる理巧の姿を想像した。

 

「えへへへへへへへ」

 

「雲雀。満更ではない想像している場合ではないぞ。理巧と雲雀の子供なんて、きっと天使のような子なのだろうが、今はそれ所ではない(ボタボタボタボタボタボタボタボタ・・・・)」

 

「いや、妄想して鼻血を流してるアンタが言っても説得力皆無よ」

 

キリッとした顔つきだが、柳生の鼻から止めなく流れる血を見て、未来が半眼でツッコム。

と、ソコで。

 

《ぎゅう・・・・ちゃん! ひ、ば・・・・ちゃん!》

 

《み・・・・い! ・・・・る・・・・か!》

 

『ん?』

 

突然の声が響き、柳生と雲雀は胸の谷間からインカムを取り出した。

 

《雲雀ちゃん! 柳生ちゃん! 聞こえる!?》

 

《春花! 未来! 返事をしろ!》

 

インカムから、飛鳥と焔の声が響いていた。

 

「飛鳥ちゃん! 無事なのっ!?」

 

「焔!?」

 

《あぁ良かった! 皆大丈夫!? 私と焔ちゃん、斑鳩さんと詠さんは基地にいるよ! 通信が突然回復したと思ったら、りっくんと融合獣や怪獣が戦っているのを見て驚いたよ!》

 

どうやら柳生の見立て通り、あの雪女の異形が通信妨害の結界を張っていたようだ。そしてその異形を倒したから、回復したようだ。

 

《お前ら! すぐにエレベーターを送るから、すぐに戻ってこい!》

 

焔が言うのと同時に、柳生達のすぐ隣に、転送エレベーターが現れた。

 

『(コクン!)』

 

四人はお互いを見て頷くと、すぐにエレベーターに入っていき、基地へと降下していった。

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

《理巧。聞こえますか?》

 

『「ん? レム? 通信が回復したの?」』

 

《はい。柳生と雲雀、春花と未来が、ここら一帯を覆っていた結界を作る異形を撃破したようです。基地には飛鳥と焔、斑鳩に詠がいます。柳生と雲雀、春花と未来もたった今基地に戻りました》

 

『「よし。それじゃ葛姐さんと日影さん、雪泉さん達も基地に入れてくれ」』

 

《宜しいのですか?》

 

『「この際だ! 足元にいられても危ないしね!」』

 

《了解》

 

『「よし。それじゃ、丁度試してみたかった融合をーーーー使ってみるか!」』

 

理巧は『ウルトラマンダイナカプセル』を取り出して起動させた。

 

『「融合!」』

 

シュァッ!

 

カプセルから水色の光の線が幾つもの放たれ、『ウルトラマンダイナ』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

『「アイ・ゴー!」』

 

カプセルホルダーから『コスモスカプセル』を持って起動させると、白い光の線が幾つもはなたれ、『ウルトラマンコスモス』の姿が出現した。

 

フワッ!

 

『ウルトラマンコスモスカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

『「ヒア・ウィー・ゴー!!」』

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、水色と白の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

『「進むぜ、彼方! ハァアアア・・・・っ!」』

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

『「ハァッ! ジイィーーーーード!!」』

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマンダイナ! ウルトラマンコスモス! ウルトラマンジード!! マイティトレッカー!!]

 

ウルトラマンダイナとウルトラマンコスモスの姿が合わさり、新たなる光の戦士となった。

 

『ショワァッ!!』

 

青と白の中から、ブルーメタリック身体に赤の手袋とブーツと金のプロテクターを纏い、顔には横にV字状のパーツが目の上部を覆っている姿。

かつてウルトラマンゼロと共に戦った『闘志の戦士 ウルトラマンダイナ』。『慈愛の勇者 ウルトラマンコスモス』の力を一つにした、勇気の炎と優しさの月の戦士『ウルトラマンジード マイティトレッカー』が飛び出し、V字のパーツを左手の親指であげるようなポーズを取ると直ぐに構え、怪獣達と戦い初めた。

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

葛城と日影に連れられ、避難しようとしていた雪泉達の前に地面から、転送エレベーターが現れた。

驚く雪泉達を葛城と日影が半ば無理矢理エレベーターに放り込むと、扉が閉じて降下していき止まって扉が開くと、SF映画のような部屋に着いた。

ソコには他の半蔵学院の忍達と、元蛇女の悪忍が揃っており、空中のディスプレイには、先ほどと姿が変わったウルトラマンジードがいた。

 

「あれって、新しい姿か!?」

 

《はい。ウルトラマンダイナ。ウルトラマンコスモスの力で変身した、新たなフュージョンライズです》

 

「何や。ワシらのやったカプセルで新しいフュージョンを見つけとったんかいな」

 

葛城と日影が小さく笑みを浮かべると、雪泉達はその姿に目を奪われた。

 

 

 

 

ージードsideー

 

『キシャァァァッ!!』

 

超コッヴがマイティトレッカーに両腕の鉤爪を振り上げて襲い来るが、

 

『ハァッ! シャァッ!!』

 

マイティトレッカーはその爪を両手で受け止め、逆に上に万歳させるように受け流しながら、超コッヴのボディをがら空きにし、両手を擦り合わせ、三日月型の刃のエネルギーを生み出した。

 

『「『ルナビームスライサー』!!」』

 

『キシャァァァッ!?』

 

エネルギーの刃を受けて、超コッヴは後ろに吹き飛ぶ。

 

『ピギャグゥゥゥゥッ!!』

 

スカルゴモラが雄叫びを上げると、炎を纏った岩が幾つも現れ、マイティトレッカーに迫り来る。

 

『フッ! 『ムーンライトソルジェント』!!』

 

が、マイティトレッカーは腕を円月を作るように回してから十字に組むと瑠璃色の光線『ムーンライトソルジェント』が発射され、岩を全て打ち砕き、スカルゴモラの身体に当たった。

 

『ピギャグワァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

光線を受けたスカルゴモラは、そのまま身体が仰向けに倒れそして・・・・。

 

ーーーーチュドォォォォォォォォォォォォンンッ!!

 

火柱を上げて爆散した。

 

『「あーちゃん! 焔! 斑鳩姉さん! 詠さん! 伏井出ケイの確保を頼む!」』

 

()()()()()()》》

 

ーーーーピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン! ピコン!・・・・。

 

他の皆よりも余力があり軽傷な四人に伏井出ケイの捕獲を任せ、カラータイマーが鳴り始めたマイティトレッカーは超コッヴに目を向けた。

 

『キシャァァァッ!!』

 

超コッヴは額から光線を放つが、

 

『ハァァァァ!』

 

マイティトレッカーは両手が真っ赤に発光すると、超コッヴの光線を全て殴り飛ばしながら接近すると。

 

『オオオォォォォォォォォォォォォッッ!!』

 

『ギジャァァァァァァァァァァァァッッ!!』

 

超コッヴの身体に連続で拳を叩き込み、最後に超コッヴの顎にアッパーカットを叩き込んだ。

 

『キシャ・・・・!!』

 

倒れた超コッヴがヨロヨロと起き上がろうとする瞬間、マイティトレッカーの両手を前に付きだし、マイティトレッカーの前でエネルギーを放出し炎の塊を形成してように腕を回していく。

 

『「ハァァァァァァァ・・・・『フレイムコンプレムションウェーブ』・・・・!!」』

 

マイティトレッカーの収束したエネルギーを超コッヴに打ち込んだその時ーーーー。

 

『ギジャァァァァァァァァァーーーー』

 

超コッヴは炎のエネルギーを受けると同時に、後ろに異空間が生まれ、呑み込まれて超圧縮されてしまった。

 

『フゥゥゥゥ・・・・』

 

マイティトレッカーは構えを解く。

 

『シュッ!』

 

身体を光に包んで、元の理巧の姿に戻ると、装填ナックルで通信する。

 

「こちら理巧。あーちゃん。伏井出ケイは?」

 

《ゴメン! スカルゴモラが爆発した周囲を探しているけど見つからないよ!》

 

「・・・・そう簡単には捕まらない、か。ーーーー分かった。もう少し捜索して見つからなかったら、基地に戻ってきて」

 

《分かりましたわ。理巧くん、月閃の皆さんはどうしますか?》

 

「・・・・悪いと思うけど、僕の事をそれなりに話すよ」

 

《それは、下手をすれば彼女達と、本格的に敵対する可能性も十分ありますわ・・・・》

 

『憧れのヒーロー』の正体を知れば、彼女達は少なからずショックを受ける。それを心配する理巧だが、斑鳩は、黒影の過激な正義論を教え込まれた彼女達がどう動くのか予想しており、それを危惧していた。

 

「でも、隠しておく訳には、いかないからさ」

 

《・・・・りっくん》

 

「ん?」

 

《もし、雪泉さん達がりっくんの敵になっても、私達はりっくんの味方だからね。1人で抱え込まないでね!》

 

「・・・・うん」

 

理巧は頷き、通信を終えると同時に、転送エレベーターがやって来て、乗り込んで基地へと到着すると、雪泉達月閃の忍達と対面した。

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『『バルキーコーラス』!!』

 

『キシャァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

『ピギュァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 

ーーーードゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!!

 

と、その頃、ゼロビヨンドはレイキュバスとメルバに最強光線を放ち、二体の怪獣は爆散した。

 

『フゥゥゥゥ・・・・』

 

『「ゼロ! たった今柳生から連絡が入った。理巧達が見つかったようだ」』

 

『よし! 直ぐに行こうぜ! シュアッ!』

 

ゼロビヨンドは直ぐにその場を飛び立ち、理巧達の元へと向かった。

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「フフフフフ・・・・」

 

スカルゴモラが爆散した瞬間に、ゼロビヨンドが戦っていた場所にテレポートした伏井出ケイは、『レイキュバス』と『メルバ』、そして、仔蜘蛛の異形が回収してきた『超コッヴ』の『怪獣カプセル』を握り締めながら、唇の端を歪めて笑みを浮かべていた。

 

「さぁーーーー次のステップですね」

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

「り、理巧さ・・・・暁月、理巧・・・・! 貴方が、ウルトラマンジード様が・・・・あの忌まわしい最悪の悪、ウルトラマンベリアルの・・・・息子?」

 

基地から出て天文台に戻り、理巧から放たれた言葉に、絶句する月閃の一同を代表して、雪泉が震える声で問うてきた。

 

「・・・・あくまで、“遺伝子上の”、ですけどね。僕がそれを知ったのは、ジードとして初めて戦った後ですけど」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「皆さん、行きますよ」

 

沈黙する月閃のメンバーに雪泉がそう告げると、他のメンバーも、雪泉と一緒にその場を去ろうとする。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は何も言わず、その背中を見送る。ふと、雪泉が立ち止まる首だけ振り返り、険しい瞳で理巧を睨む。

 

「次に会った時を覚悟しておいてください。私達月閃女学館は、貴方をーーーー“ウルトラマンジード”を抹殺します!」

 

雪泉はそう宣告すると、月閃女学館はその場から姿を消えた。

 

「・・・・まぁ、こうなったら、仕方ないか」

 

理巧は何処かやりきれないといった気分で、後頭部をかいた。

 

 

 

 

ー黒影sideー

 

そしてここに、暁月理巧の正体を“事前に知っていた”黒影は、タブレットに表示された理巧の姿をジッと見据える。

 

「・・・・似ている・・・・“あの子”に・・・・」

 

黒影は暁月理巧の姿に、“一人の少女の姿が重なった”。

ただ1つ違うのは、暁月理巧のーーーーその燃えているような緋色の瞳は、絶望の色に染まっておらず、光と闇、相反する二つが同時に存在しているような、不思議な輝きを放っていた。

 

「もしや・・・・この少年、ならば・・・・!」

 

黒影は、先日伏井出ケイから提供された『ガンQ』と『ファイヤーゴルザ』の『怪獣カプセル』と、『コピークリスタル』を見つめ、何かを決意するように呟いた。




マイティトレッカーの他の技はイメージで作りました。
そして次回で、月閃編を終わらせたいと思います。


ー次回予告ー

月閃の皆に僕の正体、そして、ジードとベリアルを関係を知られた。今まで通りに行かなくなるだろうな。えっ? 貧民街が潰される!? 一体どうして!? 雪泉さん達も関わっているって、一体どうなってるんだ?
そしてアンタはーーーー黒影だって!? 僕に、何を証明して欲しいんだ? そんな事言っている間に、新しい融合獣と・・・・なにッ!? 黒影が合体怪獣になった!?
何を証明して欲しいのか分からないけど、貧民街の人達を守るしかないか!

次回、『閃乱ジード』

【正義の証明】

挑むぜ! 神秘!


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正義の証明
正義とは?


ー雪泉sideー

 

《ーーーーそうか。件の少年、暁月理巧がウルトラマンジード。そしてウルトラマンジードは、あの最悪中の最悪、ウルトラマンベリアルの息子、か・・・・》

 

「・・・・お爺様、是非わたくし達に、暁月理巧の討伐の許可を!」

 

雪泉がスマホ越しにいる黒影に、理巧の討伐の赦しを得ようとした。理巧は半蔵学院に籍を入れている生徒だ。そんな事をすれば、最悪月閃女学館と半蔵学院の間で抗争が起きる。悪忍サイドが道元の事で大人しくしている状況で、内部分裂を起こしている場合ではないと言うのに、雪泉はそんな事お構い無しに発言する。

雪泉の意見に夜桜が同意するように頷くが、四季も美野里は気乗りしないのか、渋面を作って黙り。叢はあの日から仮面を外さず、口数もかなり減らして喋らない。

 

《・・・・・・・・叢よ》

 

「っ・・・・はっ」

 

《お前の実家が、今度工場にする場所を知っているか?》

 

「はい」

 

《ソコに行け。ソコに暁月理巧が必ず現れる》

 

『っ!』

 

《そしてーーーー彼への対処は、個々の判断に任せる》

 

『えっ?』

 

雪泉達は少し目を見開いた。

暁月理巧がウルトラマンベリアルの息子と分かったのだ。黒影であれば即座に討伐指令を出しても可笑しく無い筈なのだから当然だ。

 

「お爺様・・・・何故討伐を命じないのですか?」

 

《・・・・・・・・・・・・・・・・》

 

「奴は、暁月理巧はウルトラマンベリアルの息子です! 『クライシス・インパクト』を知る黒影様は、ベリアルの驚異を誰よりも知っている筈では無いのですかっ!?」

 

雪泉の質問に沈黙する黒影に、夜桜が声を張り上げた。

 

《・・・・もう一度言う。個々の判断で、かの少年を見極めよ。ーーーーかの少年は“滅ぼすべき悪”か、それとも・・・・》

 

「お爺様?」

 

《・・・・以上だ》

 

黒影はそう言って、通信を切った。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

黒影の言葉に、雪泉達は少し戸惑った。そんな中、美野里が口を開く。

 

「どう、すれば、良いかな?」

 

「ーーーー決まっておる」

 

その問いかけに答えたのは、予想通りと言うのか、夜桜だった。

 

「我ら月閃女学館は『悪』を許しはしない。例えウルトラマンジードであろうとも、それは揺らぎはしない!」

 

「で、でも、ウルトラマンジードさんは、これまで怪獣から人々を守ってくれたよ?」

 

「ーーーーそれでも」

 

美野里の言葉に、雪泉は躊躇い混じりに声を発した。

 

「彼は、暁月理巧はーーーーウルトラマンジードは! あの“最悪の悪”、ウルトラマンベリアルの息子なのです、“倒すべき悪”なんです・・・・! そして、『悪』を討つ事こそ! 私達月閃女学館の『正義』なのです!」

 

「うむ!」

 

「・・・・・・・・(コクン)」

 

「・・・・・・・・」

 

雪泉の言葉に、夜桜は力強く頷き、叢は一瞬躊躇ったが小さく頷く。が、美野里はオロオロすると、俯いてしまった。

 

「・・・・・・・・あたし、いち抜~けた」

 

そんな中、四季は小さく息を吐いてから立ち上がると、手をヒラヒラとさせて雪泉達に背を向けた。

 

「なっ!? 四季さん!」

 

「四季! どういうつもりじゃ!?」

 

「黒影様も言ってたっしょ? 【個々の判断で、かの少年を見極めよ】ってさ、あたし理巧ちんの事嫌いじゃないし、ウルトラマンジードのファンでもあるし、嫌いになるのはもう少し『推し』を観察してからにするわ」

 

「何を言っておるのじゃ四季! 奴は、暁月理巧はーーーーウルトラマンジードは『悪』じゃ! 倒すべき『敵』なんじゃっ!!」

 

夜桜が怒鳴るが、四季はそんな剣幕を意に返さなかった。

 

「夜桜ちん、何でそんなに理巧ちんに当たりが強い訳?」

 

「そんなの、奴が『悪』じゃからに決まっているからじゃ!」

 

「いやいや、そんなんじゃなくて、もっと個人的な考えってぇのがカランでンじゃないの?」

 

「何・・・・?」

 

夜桜は四季の言葉に首を傾げると、四季は改めて口を開いた。

 

「ーーーー夜桜ちんはさぁ。ただ単純に、“自分を軽くあしらった理巧ちんが気に入らない”だけじゃん?」

 

「ーーーーな、何をっ!?」

 

四季の言葉に、夜桜は図星を突かれたかのように目を見開き、身体を揺らし息を呑んだ。

 

「軽くあしらわれたって事はさ。それがあたしらと理巧ちんとの実力の差って事じゃん? 夜桜ちんはソレを認めたくなくって、駄々をこねてるだけなんじゃないの?」

 

「っ! 四季っっ!!!」

 

挑発されたと感じたのか、夜桜はカッとなって思わず『忍転身』して、手甲で四季に殴り掛かろうとした。

がーーーー叢が羽交い締めし、雪泉も夜桜の腰に抱きついて止めた。

 

「止せ夜桜!」

 

「落ち着いて下さい夜桜さん! 美野里さんも止めて下さーーーー美野里さん?」

 

何と、それまで俯いていた美野里も立ち上がると、四季の方に歩いていった。

 

「四季ちゃんは、どうするの?」

 

「んー、見極めよって言われたし、もうちょい理巧ちんを観察しようかな? 美野里ちんは?」

 

「・・・・美野里も、理巧くんが本当に悪い人なのか、ちゃんと確かめたい!」

 

「「「美野里っ!?」」」

 

あの気弱な美野里が反対意見を言った事に、雪泉達は驚いて目を見開いた。雪泉達の反応に意を返さず、美野里は四季に近づく。

 

「四季ちゃん、行こう」

 

「・・・・そだね、んじゃね皆~」

 

四季は雪泉達に背を向け、手をヒラヒラと振りながら、美野里と共にホテルを出ていった。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

夜桜は美野里と四季の行動に唖然となり、身体から力が抜け転身が解除されると、雪泉と叢も拘束を解き、夜桜は力なくその場に腰を落とした。

雪泉も叢も、夜桜と同じ心境なのか、二人が出ていった扉を呆然と見ているだけであった。

 

 

 

 

 

ー黒影sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

黒影の脳裏に、十数年前に起こった『クライシス・インパクト』の情景が、次々と甦る。

破壊され、燃え盛る地上。

黒い雲に覆われ曇天となる空。

世界は今まさに終焉を迎えようとしているような光景。

 

【フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!】

 

そしてーーーーそんな壊滅されていく世界の中心で哄笑を上げているウルトラマンベリアル。

その圧倒的なまで強さと存在感が、否が応もなく、黒影の脳裏に強烈に焼き付けられていた。

黒影は、自分の手にある『コピークリスタル』と、『五つの怪獣カプセル』を見つめていると、背後からーーーー伏井出ケイが姿を現した。

 

「いよいよあなたも、その『力』を試す時が来たようですね?」

 

「・・・・ワシの事も、蛇女子学園の道元と同じように『実験体』にすると言う訳か?」

 

「いえいえ、“道元ごとき小物”では、そのクリスタルの力を制御する事はできませんでしたが、あなたならばソレができると私は確信しているのです。『伝説の抜け忍 黒影様』」

 

「ふん」

 

伏井出ケイの言葉に、黒影で鼻で息を吐いた。

 

「私も力をお貸しします。共にウルトラマンジードを倒そうではないですか!」

 

伏井出ケイは大仰に両手を広げてそう言うと、黒影はクリスタルを持ってその場から離れていった。

 

「(毒蛇のように陰湿な男め。ワシを利用しようとしているようだが、簡単に利用される程、この黒影も耄碌しておらんわ!)」

 

黒影も伏井出ケイを欠片も信じていない。紳士的な笑みを浮かべてはいるか、その瞳の奥はーーーー汚れて濁ったドロ沼のような悪意に満ちている事を見抜いていた。

 

「(・・・・・・・・しかし、利用されていると分かっているがーーーーワシは確かめねばならん。あの少年を、暁月理巧を・・・・!)」

 

黒影は何かを決意するように、目を鋭くした。

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

黒影が去った後、伏井出ケイは唇の端をつり上げながら、歪んだ笑みを浮かべた。

 

「ーーーーそう、あなたも存分に踊っていただきますよ、”骨董品の忍者“」

 

黒影の考え通り、伏井出ケイにとって、黒影もまた『コピークリスタル』の『実験動物<モルモット>』程度の存在としか見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

そしてその夜。

理巧は天文台の上で、鷹丸と電話で話をしていた。

 

《え? 『正義』って何かって?》

 

「はい・・・・」

 

《う~む、まさか理巧の口からそんな哲学的なセリフが出るとは思わなかったな。振り掛かる火の粉は何であれ蹴散らす! ってスタンスじゃなかったのか?》

 

「そうだったんですけど、ちょっとした『出会い』がありまして、『正義』って、一体何だろうなぁって思っちゃって・・・・」

 

理巧の問いに鷹丸は少しの間ウウム、と思案するように唸り声をあげ、およそ数分後に、声が返ってきた。

 

《ーーーー俺はさ、自分の享楽やエゴの為に、自分じゃない誰かを笑いながら傷つける奴を『悪』と呼んで、そんな人達を守る人間を『正義』と呼ぶな》

 

「笑いながら人を傷つけるのが『悪』。人を守るのが『正義』、ですか・・・・」

 

理巧の脳裏に、蛇女で戦った道元<ゴミ>の事が浮かんだ。

 

《だがな理巧。それはあくまで俺の考える『正義』だ。世の中には色んな人がいて、人の数だけ『正義』と『悪』がある》

 

「人の数だけの『正義』と『悪』・・・・」

 

「一重に『悪』と呼ばれている奴らだって、蓋を開ければ、そうじゃない奴もいるだろう?」

 

「ええ」

 

理巧は、生まれた環境、生い立ち、巡り合わせで『悪』の道を行くようになってしまった、焔達の事が思い浮かべた。

 

《理巧よ。お前にも自分の『正義』と、自分が許せない『悪』か存在している筈だ。それを少し考えてみたらどうだ?》

 

「僕にとっての『正義』と『悪』・・・・」

 

理巧は少し目を閉じて考えた。

理巧にとっての『悪』は勿論ーーーー鷹丸にハルカ、ナリカとスバル、理巧にとっての『大切な人達』に害をなす存在だ。それは絶対に揺るがない。そしてソレらから大切な人達を守るのが理巧にとっての『正義』だ。

だが・・・・理巧にとっての『大切な人達』の中に、鷹丸達以外の姿が浮かんできた。

最初に浮かべだのは、自分の『親友』であるペガだった。次に『仲間』であるレム、霧夜、ウルトラマンゼロ、大道寺先輩、鈴音先生、半蔵のお爺さん。

そしてーーーー焔が、詠が、日影が、春花が、未来が、斑鳩が、葛城が、柳生が、雲雀が、飛鳥の姿が浮かび、更にその他に、月閃の五人の姿も。

 

「・・・・鷹丸さん」

 

《ん?》

 

「“『大切な人達』がいっぱいいるのって、結構大変ですね”」

 

《・・・・・・・・》

 

理巧の言葉に、鷹丸は一瞬無言になった。少し前、半蔵学院に行く前は、鷹丸達以外の他者なんてどうでも良いと思っていた理巧が、『大切な人達』がいっぱいいる、と言ったのだ。鷹丸は、息子の成長に笑みを浮かべたような声を発する。

 

《そうだな・・・・でも、幸せな事だぞ。そう言う事はさ》

 

「そう、ですね」

 

《まぁ、それなりに『答え』が出たんなら、後はどうにかなるだろう》

 

「はい」

 

《それじゃまたな。その内俺達もお前の『クラスメート』達に会いに行くかも知れないからな》

 

「えっ?」

 

《じゃ》

 

そう言うと、鷹丸は通話を切った。

 

「・・・・・・・・・・・・鷹丸さん達が、皆に会いに来るか・・・・とりあえず、葛姐さんと春花がオイタをしないように釘を打っておくか」

 

「理巧ちーーーーん!」

 

「理巧くーーーーん!」

 

「ん?」

 

天文台の下に視線をやると、四季と美野里が手を振っていた。

 

「二人とも、一体どうしたの?」

 

「「暫く泊めて下さーーーーい!」」

 

「え?」

 

二人の言葉に、理巧は思わずポカンとした顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~ん。僕を始末するかは個々の判断に任せる、か。黒影って人、悪には容赦がない人って聞いていたから以外だなぁ」

 

「だしょ? あたしらも思いがけない展開に、マジで驚いたよ。ま、理巧ちんと戦わずにすんで、ちょい良かったって感じだけどねー」

 

「うんうん!」

 

基地でちゃぶ台(前に理巧とペガだけの頃に使っていた)を取り出し、その上でコンビニ弁当を食べる四季と美野里から、詳しく情報を聞いている理巧とペガ。

 

「あの~。四季ちゃん、美野里ちゃん・・・・」

 

「そんな離れた所で食事しないで、此方で食べれば良いのでは?」

 

理巧達から少し離れた場所で、長机を囲いながら食事を摂っている飛鳥達半蔵学院と焔達紅蓮隊の面々が、半眼になって頬にタラリと汗を垂らしながら、飛鳥と斑鳩が此方で一緒に食べようと言うがーーーー。

 

「あ、悪いんだけどさ。あたしも美野里ちんも、理巧ちんと戦うのはまだ検討中だから戦わないけど、悪忍と馴れ合うつもりはないから」

 

「美野里達、『悪』は許さないから・・・・!」

 

「そんな・・・・!」

 

「別に良いだろう」

 

「わたくし達も、馴れ合うつもりはありませんし」

 

「まぁ戦るつもりなら相手になったるわ」

 

「でもこの基地は中立地帯だしねぇ」

 

「理巧様に対するあなた達と対応が決まるまでは、お互い不干渉って事で良いでしょう」

 

飛鳥が四季と美野里の言葉に反対しようとするが、紅蓮隊は別段気にした風もなくそう返した。

 

「って言うか、あの二人の反応が善忍の悪忍に対する本来の反応なんだよ。寧ろお前らの方が変わっているだけだからな」

 

「「えぇ・・・・?」」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

焔が半眼になってそう言うと、飛鳥と雲雀が目をパチクリさせ、斑鳩と葛城と柳生が苦笑した。

 

「まぁそれは置いておいてさ。二人は何処で寝る? この基地で寝るなら布団とか出すけど?」

 

「えぇ~、それならさぁ・・・・理巧ちんの部屋に泊めてくれない?」

 

「ん?」

 

「ふぇっ!?//////」

 

『ブッ!!』

 

四季がしなだれるように理巧に寄りかかって、その豊満な95センチのGカップをフニュン、と押し付けた。

並の男ならば鼻の下を伸ばすか、恥ずかしがって生娘のように慌てふためくだろうが、ソコは理巧である。別段狼狽の様子を見せず、平然としていた。

 

「まぁ、僕は別に構わないけど」

 

『駄目に決まってるでしょっ!!!』

 

その場の大半の忍達に却下され、四季と美野里は基地でテントを張り、理巧はその近くで寝ると言う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その翌日。

 

「理巧さーーーーん!!」

 

「ん・・・・?」

 

突然基地のフロアに、詠の声が高らかに響いた。

 

「ふぁ~・・・・どうしたの詠さん、こんな朝早く・・・・」

 

『うぅ~・・・・』

 

「何、睡眠不足はお肌に悪いんだけど?」

 

「ZZZ・・・・」

 

理巧とペガは微睡み、テントから顔を出した四季と美野里も眠たそうに目を擦る。

 

「あぁ、朝早くから申し訳ありません。ですが、一大事なのですわ!」

 

「一大事?」

 

「はい! わたくしが良くご飯とかを配膳している貧民街の事は、理巧さんもご存知ですわよね?」

 

「ええ。ご存知ですけど・・・・」

 

詠は蛇女に在籍していた頃から、忍務で出た報酬金で貧民街の人達に配膳等を配るボランティアを行っており、今現在も、理巧からの報酬金やアルバイト代を使って続けていた。

 

「その貧民街が、土地開発の為に潰されそうになっているのですわっ!!」

 

「えっ・・・・な、なんだってッ!?」

 

詠からの話を聞いて、理巧は眠気が一気に吹き飛んで、驚愕に目を見開いて大声を上げたのであった。

 



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それが正義か、月閃!?

ー黒影sideー

 

「ーーーーかの少年が来る、か・・・・」

 

貧民街のとある建物の屋上にて、黒影は町を一望しながら、件の少年が来るのを待つ。

 

ーーーードクン・・・・!!

 

「ぐっ、うぅっ・・・・! この、オンボロの心臓め・・・・! あと少しもってくれ・・・・!!」

 

黒影は自分の胸を押さえて苦しそうに蹲り、懐から薬の入ったケースを取り出して、中からカプセル剤を二つほど手の平に乗せて飲み込むと、少ししてから心臓が収まった。

 

「ーーーーかはっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

段々と薬の効き目が短くなっている事に、黒影は物憂げな顔となる。

 

ーーーーブゥゥゥン、ブゥゥゥン、ブゥゥゥン、ブゥゥゥン・・・・。

 

「・・・・半蔵か」

 

黒影がスマホを取り出すと、液晶に半蔵が映し出され、電話に出た。

 

《久方ぶりじゃのう黒影よ?》

 

「・・・・何のようだ?」

 

《何のようはないじゃろう? 昔は儂の妻である『ジャスミン』を取り合った仲ではないか》

 

「ふん。それで、本題は何だ? 今の儂の孫達のやっている事は既に半蔵学院の教師からーーーーいや、お前自身の『目』で、既に見ているだろう?」

 

黒影が空に鋭い視線を向けていた。雲一つ処か、ドローンの影すら見えない透き通った青空を。

 

《・・・・お主がこれからやろうとしている事に、チョイと旧友として聞いておきたいと思うてな》

 

「・・・・・・・・」

 

《・・・・何をする、いや、あの少年に何をさせるつもりじゃ?》

 

「・・・・あの少年ならば、止められるかもしれん。救ってくれるかもしれん。・・・・儂の『正義』に染まってしまった孫達を、『憎しみ』に囚われている『あの子』を、あの少年ならば・・・・それを、見極めたいのだ・・・・!」

 

《あの少年は儂やお主が思っているよりも、その背中に重い物を背負っている。これ以上重荷を背負わせるつもりか?》

 

半蔵の声色に、僅かな怒気が滲む。

 

「それでも儂は、あの少年にすがらなければならない。儂の命も残り少ないのでな・・・・」

 

《黒影・・・・》

 

「半蔵よ。お前もいずれあの少年と再び対面しなければならぬ日が来るだろうな」

 

《・・・・・・・・》

 

「儂は先に行かせて貰おう。あの少年が、儂の愛する『孫娘達』を託せるに足る者なのかを、な・・・・」

 

黒影はそう言うと、半蔵との通話を切って待つ。

かの少年ーーーー暁月理巧が来るのを。

 

 

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

詠からの報せを受けて、理巧はすぐに顔を洗って歯を磨いて服装を整えると、ペガを影に入れ、四季と美野里も連れだって詠と共に地上に戻ると、地上で待っていた焔達の他に、丁度飛鳥達も集まってきて、全員で貧民街へと赴いた。

 

「つーかさ。その、貧民街だっけ? ソコってどゆとこなん?」

 

「貧民街は、主にお金が無くて住む場所が無い人達、職や家庭を失った人達、ストリートチルドレンと呼ばれる様々な事情で家が無い子供達に、ここ数年では地球に移住して来ましたけど、表だって住めない宇宙人の方達も集まって来た小さな町ですわ。世論的や治安的な問題から、国から見て見ぬ扱いを受けている陸の孤島とされていたんですの」

 

「ワシらも時々、宇宙人関連の情報が欲しい時には、貧民街に住んどる情報屋に会いに行く時があんねん」

 

貧民街を知らない四季に、詠が丁寧に説明し、日影も補足した。

 

「その貧民街は、この前わたくしの実家のお義父様やお兄様によって、街の改築や食料や衣服の配布等を行い、さらに仕事を紹介したり、子供達に礼儀や勉強を教える寺子屋を作ったりで支援を繰り広げ、少しずつではありますが貧民街の皆さんの生活が楽になったんですの・・・・! それなのに・・・・!」

 

斑鳩が悔しそうに歯噛みしながらそう言うと、理巧が会話を変えた。

 

「それで、その貧民街を潰そうとしているのは何処の誰?」

 

「ええっと・・・・確か、『大狼財閥』と呼ばれるお金持ちがーーーー」

 

「「『大狼財閥』っ!?」」

 

お金持ち嫌いの詠が怒りを孕んでその財閥の名を口にした瞬間、それを遮るように四季と美野里が大声を上げた。

 

「どうしたの四季ちゃん、美野里ちゃん」

 

「てか、『大狼財閥』って何?」

 

「わたくしの実家である『鳳凰財閥』のライバルですわ。確か、向こうも裏では由緒ある忍の家系で、わたくしの実家が忍の養子としてわたくしを引き取ったのに対抗して、忍の養子を向こうも入れたと聞いた事がありましたわ」

 

「その養子の子なーーーー叢っちだよ」

 

『えぇっ!?』

 

大声を上げた四季と美野里に飛鳥が首を傾げ、雲雀が斑鳩に問い、斑鳩がそれに応えると、四季が言った言葉に全員が驚いた。

 

「えっ? 叢さんって黒影の子じゃ無かったの?」

 

「ーーーー叢ちゃん。元は貧民街出身で、お父さんとお母さんが死んじゃって、それから黒影おじいちゃんに引き取られたの。でも、大狼財閥の人達に引き取られて、美野里達の中だとおじいちゃんとの思い出があんまり無いんだ」

 

「叢って奴、結構ヘビーな人生送ってんのね・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「どうしたの詠ちゃん?」

 

「えっ、あ、いえ・・・・!(あの時、叢さんと理巧さんがデートしている時に見せた叢さんの素顔、何処かで見た記憶が・・・・)」

 

「(ーーーー叢さん。大狼財閥の養子だったのですわね。・・・・そう言えば、以前パーティーで・・・・)」

 

詠は叢の素顔を見てから、何処かで会った記憶があり頭をひねり、斑鳩は何かのパーティーで両家が顔を合わせた時に会った叢の事を思い出していた。

 

「(・・・・とりあえず、おじさんにも連絡しておくか)」

 

そんな中、理巧はスマホを取り出すと、一応霧夜先生に連絡を入れておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、そんな事があったが、漸く貧民街にたどり着いた一同は、重機が何台も横並びになり、所々にうっすらと泥汚れやペンキの飛沫を付けた、ガテン系の服装に厳つい顔とガラの悪い、いかにも身体を張って働く男の威圧感に満ちた作業員達と、以前来た時よりも多少綺麗な服装と綺麗になった街並みを守るように、貧民街の住人達が女子供も交じって、作業員達が来られないように横並びでスクラムを組み、肉のバリケードを作りながら、作業員達が来られないようにし、両者の睨み合いが行われていた。

 

「皆さん!!」

 

『詠嬢ちゃん/詠ちゃん/詠お姉ちゃん!!』

 

住人達は詠を見ると、顔を喜色に染めて近づいてきた。蛇女から去ってからも、詠はバイト代や理巧や鈴音からの支給金を工面しながら、貧民街の住人達の力になっていたのだ。

そんな詠だから、住人達からの信頼はとてつもなく厚いのだ。

 

「一体何が起こったのですの?」

 

「何がもどうも、俺らにもさっぱりだぜ! 突然『大狼財閥』の傘下の工事会社が、この街を開発するから俺らに出ていけって言い出しやがったんだ! やっと『鳳凰財閥』のお偉いさんが、俺らの生活を良くしてくれてるのにこんなのって横暴じゃねえか! ここにはこの街しか帰る場所のねえ奴等や、住む場所がねえ奴等も大勢いやがんだ! 出ていけなんて冗談じゃねえっ!!」

 

詠が聞くと、リーダー格である壮年の男性が憤懣たる口調で話し出した

住人達の後方でジャンク品でバリケードが作られ、その影から、コッソリとこちらの様子を伺っている異形達がいた。遠目だが分かる。恐らく貧民街に住む宇宙人達だろう。住人達は自分達だけではなく、彼らの為にも戦おうとしているのだ。

そんな中、作業員達の中から、肩に上着を乗せた体格のいい男性、恐らく親方でろう人物が前に出ると、リーダー格の男性も前に出て、お互いにガン飛ばしながら話をする。

 

「悪いか此方としても仕事なんでね。大人しく退いてはくれねえか?」

 

「冗談言ってんじゃねえ。俺らの街をぶっ壊されてたまるか」

 

「どうしてもか?」

 

「男なら拳骨でかかってこいや」

 

「ふん。面白い!」

 

「親方やっちまえ!」

 

「ーーーーふん! ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんっ!!」

 

親方が上着を部下に持たせ、肩をコキコキと鳴らすと、両腕を上げて力を込めると、力こぶを作って大胸筋を膨らませそして、

 

ーーーービリビリ、ブチィィィィンッ!!

 

力を込めた筋肉がシャツの胸元を弾き、土木建築で鍛え上げた大胸筋を晒した。

 

「うわっ! 凄い筋肉っ!」

 

「流石身体を張って働く男・・・・!」

 

雲雀と未来が目を見張った。

 

「ーーーーふっ」

 

「やれぇ旦那ぁ!」

 

旦那と呼ばれたリーダーも筋肉に力を込めると、

 

「んっ! んんんんんんんんんっっ!!」

 

ーーーービシャァァァァァァァァンッ!!

 

シャツ全体を筋肉の盛り上がりで引きちぎった。

 

「ふっふ~ん」

 

「な・・・・」

 

フフンと鼻を鳴らす旦那に、親方や後ろの作業員達も目を見開いた。

 

「でぇえっ!? あのおじさんもっ!?」

 

「旦那のおじ様。実はボディビルダーの世界チャンピオンだったんですの。詐欺にあって借金を全て返済したら家を失って、奥様とお子さんと一緒にこの街で暮らしているんですの」

 

旦那の後ろに奥さんらしき女性(斑鳩クラスのバストサイズ)がやれやれと言わんばかりに声を発する。

 

「アンタ、そのシャツ一番のお気に入りだったんじゃないのかい?」

 

「あっ・・・・」

 

奥さんに言われて、バツの悪い顔になる旦那。

 

「フフフフフーーーーフンッ!」

 

「っ!」

 

親方が旦那に腹パンすると、旦那は目を見開きながらもニコリと笑みを浮かべる。

 

「ヒヒヒヒヒーーーーヌンッ!」

 

「ぉっ!ーーーーへへへへへ・・・・」

 

旦那もお返しと言わんばかりに腹パンすると、親方は再び笑みを浮かべ・・・・。

 

「オラッ!」

 

「うぉっ!」

 

今度は顔面を殴ると、旦那は後ろに引くがすぐに建て直し、

 

「とぉっ!」

 

「はぐっ!」

 

親方に殴り返した。

 

「っ! ラァッ!」

 

「ぐぉっ! とりゃっ!」

 

「がっ!」

 

『やれやれ親方っ!』

 

『気張れ旦那っ!』

 

親方と旦那の殴り合いが一層激しくなり、両陣営が応援の声が上がった。

 

「おぉ~、生のステゴロなんて初めて見たぜ」

 

「ワシの知る地下格闘場とかではよぉ見たけどなぁ」

 

「どうしよう? 止めた方が良いかな?」

 

「オレ達が出てステゴロを止めて、業者の奴等を追い出す事は出来るだろうが」

 

「それじゃ根本的な解決にはならないでしょうね」

 

「じゃぁどうするの?」

 

葛城と日影が殴り合いを見て、雲雀と柳生、春花と未来がそう話していると。

 

「・・・・解決方法としては、『大狼財閥』がこの開発から手を引けば良いんだけど」

 

「上が手を引くなら下請けも退散するしな」

 

「それじゃ、今から『大狼財閥』の人達と話し合いに行けば!」

 

理巧と焔が解決方法を話し合い、飛鳥が『大狼財閥』の元へ行こうとする、が。

 

「待って下さい飛鳥さん」

 

「斑鳩さん・・・・」

 

斑鳩が飛鳥の肩を押さえた。

 

「『大狼財閥』が起こした事なら、『鳳凰財閥』の娘として、わたくしが会いに行った方が良いのかも知れません。いきなりアポ無しで行くのはリスクが高いですから」

 

「ーーーーあっ、もしかしてソレかもよ、斑鳩姉さん」

 

理巧が何かを察したように声を上げると、斑鳩達の目が理巧に向けられる。

理巧はそれに臆する事なく推察を述べる。

 

「この貧民街は、『鳳凰財閥』によって改革がされていった。この事は、政財界の人達に知れ渡っている」

 

「ーーーーええ。確かに、そちら方面の方々からお義父様や時期財閥の代表であるお兄様の評判は上がっていると、この間聴きましたわ」

 

「でも、そんな話を聞いてライバルである『大狼財閥』としては、面白くない」

 

「っ! まさか『大狼財閥』は、『鳳凰財閥』の評判が上がったのが気にいらないから、その要因となった貧民街を潰そうと考えたって事ですの!?」

 

「まだ推察の域だけど、ライバル視している人達がチヤホヤされると、向こうからしたら気に食わないと思うからね」

 

理巧達が話し合っていると、殴り合っていた両者が、顔面を腫れ上がらせ、ゆっくりと近づき拳を上げながら最後の一撃を放とうとする。

 

「こ、この・・・・!」

 

「さ、最後、だ・・・・!」

 

と、その瞬間。

 

 

 

「ソコまでっ!!」

 

 

 

ーーーーグギッ!・・・・ドサッ!

 

二人を止めるような声が響くと同時に、両者の拳が双方の顔面に突き刺さり、嫌な音を響かせながら、二人は仰向けに倒れた。

しかし一同の視線は、そんな二人ではなく、突然声を響かせた人物へと向けられた。

そう、叢を先頭に、左右に雪泉と夜桜が毅然とした足取りでこちらに向かって歩いてきた。

 

「あれが『大狼財閥』のお嬢様かよ・・・・!」

 

「こけおどしで恐い面なんて被りやがって、俺ら貧民とは面<ツラ>も合わせたくないってか!?」

 

「けっ、流石はお高くとまりやがってよ!」

 

「・・・・しかし、周りのお嬢ちゃん達も含めてだがーーーー詠ちゃんばりに良い乳してんなぁ」

 

『それは確かに』

 

『コラ!』

 

『あてッ!』

 

貧民街の人達が叢に対して厳しい視線と悪態を吐いている。が、一人が叢の豊満な胸元を見てそう呟くと、他の男衆も叢や雪泉や夜桜の豊満な胸元を見て鼻の下を伸ばしそうになるが、女性陣に頭を殴られた。

そして、彼らをさがらせながら、理巧達が前に出ると、飛鳥と柳生の後ろに隠れている四季と美野里がいた。

 

「っ・・・・!」

 

「ーーーー暁月、理巧・・・・!」

 

「どうも・・・・」

 

気まずそうな空気を発する叢に代わって、雪泉と夜桜が前に出て険しい視線を向けるが、理巧はどこ吹く風と言わんばかりに挨拶する。

 

「・・・・何をしに、ここに来たのですか?」

 

「ここの人達と詠さんが友好関係にあるし、何やら上流社会のキナ臭い悪巧みが動いているようなんで、開発工事に反対しようと思って駆けつけたんですよ」

 

「・・・・ここの開発は『大狼財閥』がちゃんと手続きを踏んでやっておるのじゃ。邪魔をすると言うのか?」

 

「邪魔、ねえ・・・・一つ聞きたいんだけどさ。何でアンタらが出張ってくるの? まさか、『大狼財閥』のご令嬢として、住民を説得に来たとか?」

 

「・・・・そうだ。ここは開発がもう決まっている。直ちに立ち退いて貰う」

 

その言葉を聞いて、詠が目を険しくさせて忍転身しようとするが、焔と日影が止めた。

それに構わず、理巧が話をする。

 

「あのさ、一つ聞きたい。ーーーーそれが君達の掲げる『絶対正義』ってヤツなの?」

 

「「「っ!」」」

 

理巧の言葉に雪泉と夜桜と叢が息を詰まらせる。と、理巧の後方にいる四季と美野里が「ごめん」と言いたげな顔で手を合わせていた。恐らく彼女達が言ったのだろう。

 

「ここに住んでいる人達はさ、大概が悪事をやって身を破滅させた人もいるけど。悪い人達によって住む場所を失った人達や、家族を失ったり家族からの暴力から逃げてきた子供達。ーーーーそれだけじゃなく、マトモに表を歩けない事情を持った人達の『帰る場所』何だよ。その人達からこの場所を奪うのが、君達の『正義』なのか?ーーーー答えろよ、月閃女学館」

 

「「「っっっ!!!???」」」

 

『っ・・・・!』

 

理巧から発せられた圧倒的な重圧<プレッシャー>に、雪泉達は畏縮された。周りの一般人の作業員達なんて、気絶した親方を除いてほぼ全員が白目を剥き、中には泡まで吹いて倒れてしまった。

ただ、丁度理巧の後方にいる住人達は突然倒れていっている作業員達を訝しそうに見ているだけであった。

 

「り、理巧くん・・・・恐い・・・・!」

 

「理巧っちって、怒ると結構恐いタイプ?」

 

「一応言っておきますけど・・・・」

 

「あれでもまだ半分くらい怒っているレベルだ」

 

「本気でキレた理巧の迫力はあんなモンじゃねえからな」

 

「「ーーーーウソ・・・・」」

 

美野里と四季もすぐ近くにいるので後ろ姿だけだが、理巧から発せられる迫力に畏縮してしまっていた。

が、飛鳥達も焔達も、これ以上の迫力を出していた理巧を知っている。そうーーーー理巧にとって、命より大事な育ての親達に危害を加えると言った道元<愚か者>を始末しようとした理巧を・・・・。

さて、そんな後方の話を聞いていない理巧は、一歩歩を進めると、雪泉達は畏縮されてしまい動けなくなってしまったのか、足の甲を杭にでも貫かれたみたいに、その場から動けずにいた。

 

「ーーーーここに住んでいる人達が、アンタらの、嫌、黒影って人が掲げる『絶対正義』ってのに反するような真似でもしたのか?」

 

「そ、それは、仕方ない事だ。“大人の決めた事”、なのだから・・・・」

 

「ワシらは叢の家に頼まれたのじゃ。ワシらの『正義』にここの人達が反していた訳ではない・・・・」

 

「私達だって、こんな事をしたい訳では・・・・」

 

「言い訳するな」

 

「「「っ!!」」」

 

自分達の意見を理巧はバッサリと切り捨てた。

 

「大人の決めた事? お爺さんである黒影さんの『絶対正義』? ・・・・じゃアンタらの『意志』は? 『正義』はこの状況を良しと思っているのか?」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

理巧の言葉に、雪泉達は言葉を発せなかった。理巧はゆっくりと手を眼前まで持っていくと力強く握りしめた。

 

「ここの住人達の居場所を、帰る場所を奪う事が『正義』だって言うのなら・・・・そんな『正義』ぶっ壊してやるよっ!」

 

理巧の迷い無い姿勢と、瞳に宿る光、それはまさに『正義の光』に満ちていた。雪泉達だけでなく、飛鳥達と焔達も息を呑んだ。

 

「・・・・叢さん、夜桜さん」

 

「「(コクン!)」」

 

雪泉が視線を送ると、叢と夜桜は頷き、三人は同時に印を結んで声を発した。

 

「「「『忍結界』っ!!」」」

 

「っ」

 

『なっ!?』

 

三人を中心に展開された雪景色の結界が展開され、貧民街や住人達に作業員達の姿が消えた。

 

「アンタら・・・・」

 

「我等は、黒影様の『絶対正義』に従う・・・・!」

 

「住人達の事は、今は取り敢えず置いておく・・・・」

 

「私達の最初の目的を果たします・・・・!」

 

「「「『忍転身』!」」」

 

三人が転身すると、それぞれの武器を理巧に向けた。

 

「「「暁月理巧! 『絶対正義』の名の元に、あなたを排除する!!」」」

 

「・・・・かかってこいよ。だが、手加減はしない。自分の『意志』と『正義』を持っていない半端者にくれてやる程、この命はソコまで安くなんでね!」

 

三人に向けて、理巧もクナイ二本を構えた。



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己が心から生まれる義心、それが正義

かなり杜撰に作ったと思いますが、どうぞ。


ー飛鳥sideー

 

「りっくん達が!」

 

「『忍結界』に閉じ込められたか!」

 

突如姿を消した理巧と雪泉に叢に夜桜。飛鳥達は『忍結界』に行ったと察した。追いかけたくても、こちらから干渉はできない。

周りをみると、貧民街な住人達に、作業員の人達が訝しそうに周囲を見回していた。

 

「ど、どうしよう四季ちゃん・・・・!」

 

「・・・・しゃーなし! ウチらは作業員の人達を抑えるから、飛鳥っち達は住人の人達を抑えてちょ」

 

「それで良いんですか?」

 

斑鳩が首を傾げるた、四季は手をパタパタと振る。

 

「モーマンタイ! モーマンタイ! 理巧っち達が戻って来たらそん時考えりゃよきよ!」

 

四季が美野里と一緒に作業員の人達の方に行くと、詠を筆頭にして、飛鳥達と焔達が住人達の方に向かった。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!! 『秘伝忍法・豪鉄・破覇<ゴウテツ・ババ>』!!」

 

先ず勇んでパイルバンカー付きの手甲で殴りに来るのは夜桜。

が・・・・。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は繰り出される右フック、左フックの全てをスレスレに避けていく。完全に間合いを読まれてしまっていた。

 

「くっ! ふっ! はっ! つぁ! ああぁぁぁぁっ!!」

 

必死にその拳を届かせようと夜桜は全力で手甲を振るうが、理巧の前髪すら掠めずにいた。

 

「夜桜さん! 離れてください!」

 

「っ!」

 

雪泉の声を聞いて、夜桜は苦々しい顔をしてワンステップで後方に跳ぶと、入れ替わるように雪泉が扇子を振るう。

 

「『秘伝忍法・誘い雪影』!」

 

一瞬溜めて扇子を左から右に振って攻撃し、理巧の身体を凍結させた。

 

「よしっ!」

 

「何がよし?」

 

「はっ!?」

 

雪泉の背後に理巧がいた。凍結させた方を見ると、丸太だった。変わり身の術である。

 

「っ!」

 

「うっーーーーあぁっ!」

 

理巧が掌底打ちを放とうとするが、雪泉はその間際に回避しようと後ろに飛ぶが、“空気の塊”のような物が腹部に叩き込まれ、口から息を吐いて吹き飛び地面をゴロゴロと転がる。

 

「ーーーー掌底打ちで空気を叩き、その衝撃波で空気を塊として打ち出す中距離用掌底打ち、『空掌』、とでも名付けようか・・・・」

 

「雪泉さん! くぅっ!! 『秘伝忍法・益荒女猛衝<マスラメモウショウ>』!!」

 

理巧に向かって突撃する夜桜が、さらに前方に飛び込んで両腕で地面を抉るように手甲を突き出し、理巧の顔を捉えた。

が、手甲が当たった瞬間、理巧の姿が陽炎のように消えた。

 

「はっ・・・・!」

 

夜桜は回避されたと察し、背後などを警戒するが。

 

「頭上注意」

 

「っ! かっはっ!?」

 

理巧は上におり、夜桜の後ろ首に踵落としを叩き込むと、夜桜は白目を剥いて倒れた。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・!!」

 

理巧が目を向けると、叢が槍と巨大な肉切り包丁を理巧に向けて振るう。

 

「・・・・・・・・」

 

「ーーーー!!」

 

が、他の二人と同じように、すっかり間合いを見切られ、その刃は掠りもしない。

 

「・・・・ねぇ、叢さん。あの貧民街ってさ。君の故郷でもあるんだよね?」

 

「っ・・・・!」

 

「それなのに、この場所を壊す事に賛成なのか?」

 

「・・・・・・・・大人が、『大狼財閥』が決めた事、我にどうこう、できる事では、ない・・・・!」

 

般若面越しの声は、か細い声が聞こえる。それを聞いて理巧は優しさを混じらせた声を発する。

 

「そんな今にも泣き出しそうな声をしているのに、何を言ってるんだ?」

 

「ーーーーっ! わ、我は、泣いてなんか・・・・!」

 

「ーーーーその顔で言っても、説得力無いけど?」

 

「っっ!!??」

 

理巧のその手には、叢が着けていたお面があった。

そしてその顔はーーーー今にも泣き出してしまいそうで、クシャクシャになっていた。

 

「か、返して、返して下さい・・・・!」

 

涙を流しながら叢がお面を取り戻そうと両手に持っていた武器を手離して手を伸ばす。

が、理巧がその手を掴んでグイッと、自分に引き寄せる。あと少しでお互いにキスをしてしまいそうな距離になる二人。

 

「っ!~~~~~~!/////」

 

叢は顔を赤くし、両の瞼にうっすらと涙を浮かべ、顔を逸らそうとするが、理巧は空いているもう片方の手で叢の顎を掴み、自分の向かせる。

 

「正直に言え“叢”。お前は実家の判断に賛成なのか? 反対なのか? 僕の目を見て答えろ」

 

「っ!・・・・」

 

仕方ないと割りきったつもりだった。しかし、いざ現場に行くと、貧民街の人達が自分に向ける冷たい視線が、叢の心に突き刺さり、抉り、削いでいった。

だが、理巧のその緋色に輝く瞳に、自分を責める色は無かった。塞き止めていた感情が、ダムの決壊のように砕けると、溢れ出てくる。

 

「・・・・・・・・・・・・イヤ、です・・・・! あそこには、辛い事もあったけど、楽しかった思い出も、いっぱいある・・・・! 壊したく、ないです・・・・!」

 

涙を流す叢から力が抜けると、そのまま理巧にすがるように抱きついた。

 

「・・・・・・・・」

 

理巧は何も言わず、叢の頭を撫でてあげると、叢は戦意が喪失したように力が抜けていた。

 

「っ!」

 

と、その時、理巧は後方から敵意を感じて、叢を抱き抱えて横に回避すると、

 

ーーーードゴォォォォォォンッ!!

 

「暁月理巧! また叢さんをたぶらかしおってっ!」

 

夜桜であった。手甲で理巧を背後から殴りかかってきたようだ。

理巧は叢から離れると、夜桜と対峙する。

 

「ーーーー今度はアンタか、夜桜さん? また負けたいの?」

 

「負けとらん! わしはまだ生きておる! わしを殺さん限り、わしは負けを認めーーーー」

 

「っ!」

 

ーーーーパンっ!

 

「っ!?」

 

夜桜の眼前に一瞬で移動した理巧は、その頬をひっ叩いた。

 

「な、何をすーーーー」

 

ーーーーパン!

 

「っ!?」

 

再び顔を向けた夜桜のもう片方の頬をも叩く。

 

「“たかだか一回敗けた程度で、簡単に命を捨てるとかほざくな”。そんな安っぽい『命』なのか? アンタは?」

 

「~~! 煩い! わしは負ける訳にはいかんのじゃ!」

 

「そんな甘ったれた考えで戦ってるのか?」

 

「あ、甘ったれた、じゃと!!」

 

夜桜が両手の手甲のパイルバンカーを引くと、理巧に叩きつけようとする。理巧が迎撃しようと、両手を掌底打ちの構えを取った。

 

「(無駄じゃ! 触れた瞬間、パイルバンカーが叩き込まれ、ヤツの腕を破壊する! わしの勝ちじゃ!)」

 

夜桜が勝利を確信したかのようにニヤリ、と笑みを浮かべた次の瞬間ーーーー。

 

「っ!」

 

「なっ!?」

 

理巧は両手の掌底を夜桜の手甲の正面からではなく、内側に入らせ、夜桜の両手を開かせるように側面に掌底打ちを打ち込むと、夜桜の両手が開かれた。

 

ーーーーバシュゥゥゥゥゥゥンッ!!×2

 

標的を失った両手のパイルバンカーが宙に打ち込まれる。

 

「パイルバンカーは確かに強力な武器だが、それはあくまで正面に対してだ。側面からの攻撃には隙が生まれるし、そんな大仰な仕掛けが施されていれば当然、手甲の強度はーーーー脆い!」

 

ーーーービキビキビキビキビキ・・・・!

 

側面から打たれた掌底の衝撃に、夜桜の手甲にヒビが走った。

 

「っ!」

 

夜桜が急いで両手を引っ込めて下がろうとするが、右肩腰を理巧が掴み、身体を捻らせて柔道の背負い投げのように夜桜を投げて地面に叩きつけた。

 

「おりゃっ!」

 

「ぐはぁっ!!ーーーーうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

地面に叩きつけられた夜桜だか、投げられた勢いが止まらず、その場で回転してしまった。

回転が収まると、忍装束が破れ下着姿を晒し、揺れる視界と頭が少し収まると、自分を見下ろす理巧がいた。

 

「(・・・・あぁ、敗けた・・・・)」

 

言い訳のしようもない。掌底打ちで両手が完全に麻痺し、全身も悲鳴を上げている。暫くはマトモに身体が動かないだろう。今トドメを刺されれば自分は間違いなく死ぬ。

 

「・・・・殺せ・・・・こんな体たらくを晒してまで、生き抜きたいとは、思わん・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

夜桜は恥を晒したくないのか、理巧に殺せと言う。が、理巧はそんな言葉を無視して夜桜の胸元に上着を被せた。

 

「・・・・何の、つもりじゃ・・・・!?」

 

「ーーーーこの程度の負けで捨てるような安い命なんて、奪う価値もないと思っただけさ」

 

「今ここでわしを殺さねば! わしは何度でも貴様の命を狙うぞ・・・・!」

 

夜桜がそう言うと、理巧はフッと、笑みを浮かべて言葉を発する。

 

「何度でも来なよ。負けてもアンタは生きてる。ならこの敗北を『糧』にして強くなって来な。また負けても、その度に強くなれば良い。いつでも相手になるよ」

 

そう言って、理巧は次に待ち構えていた雪泉に向かう。

叢が夜桜に付き添うが、夜桜は理巧の背中を見る。

近くにいるのに遠くーーーー本当に遠い所にいるその背中を・・・・。

 

「(ーーーー強くなる・・・・! 必ず強くなって、追い付いて見せるぞ・・・・!!)」

 

倒れたまま下唇を少しかじって、悔し涙を流す夜桜は、理巧の背中をジッと見据えていた。

そして理巧はーーーー雪泉と対峙した。

 

「雪泉さん・・・・」

 

「暁月理巧・・・・!」

 

理巧はやれやれと言わんばかりに見据え、雪泉は敵意と使命感がごちゃごちゃになったような視線を理巧に向けた。

 

「・・・・どうしてもやるんですか?」

 

「・・・・当然です。あなたはウルトラマンベリアルの息子・・・・! 滅ぼさねばならない『悪』なのです・・・・!」

 

「それはあなたの『意志』ですか? 黒影の『意志』ですか・・・・?」

 

「勿論。お祖父様の『意志』でもあり『正義』です! 私の『正義』は、お祖父様と共にあります・・・・!」

 

「・・・・それはあなたの『正義』じゃない。黒影の『正義』。あなた達は、『黒影の複写<コピー>』に過ぎない!」

 

「私達が・・・・?」

 

「黒影様のーーーー」

 

「『複写<コピー>』・・・・?」

 

雪泉だけでなく、叢に夜桜も思わず声を発した。

 

「あなた達は『自分の正義』を持っていない。黒影の、『他の正義』を翳しているに過ぎない。そんな『正義』は『正義』じゃない。ーーーー『紛い物』だ」

 

「っ! 『紛い物』ではありません! 黒影様の、お爺様の『正義』に、間違いなど在りません!」

 

雪泉が声を荒げて冷気を纏う扇子を構えると、その豊満な胸元に、“カプセル状の光”が出て、扇子が冷気の他に、バチバチっと、電流が迸る。

 

「(あれは・・・・)」

 

理巧は一瞬、その電流に目を向けるが、ソコに隙が生まれ、雪泉が扇子を振りだす。

 

「『秘伝忍法・霜袖・破魔流<シモソデ・ハマリュウ>』ッッ!!」

 

雪泉が扇子を振りかぶると、前方に幾つもの氷柱(しかも電流まで流れている)が発生し、理巧に襲い掛かる。受ければ凍結するであろう。

 

「すぅぅぅぅぅ・・・・はぁぁぁぁぁ・・・・」

 

しかし理巧は静かに構え、瞑目すると、深く息を吸い、長く吐き出しながら、『灼熱の戦士 ウルトラマンカラレス』の教えを思い出す。

 

【『感じろ。風の息吹。水の流れ。炎の揺らめき。大地の鼓動。稲妻の閃きーーーーそれは全ての動きを感じ、その流れを内に流すのだ』】

 

「(この忍結界は彼女達の領域<テリトリー>。しかし、氷の動き。稲妻の迸り。それらを流れーーーー掴む!)」

 

カッ、目を見開いた理巧が飛び蹴りの態勢となり、ドリルのように回転すると、空気の回転摩擦により、両足に炎を纏い突き進む。ーーーーまるでそう、炎の弾丸となって。

『粉砕の拳闘士 ウルトラマンドリュー』が得意とする技だ。

 

「ハァァァァァァァァァ・・・・!!」

 

「っ! きゃぁあああああああああああああああああああっっ!!」

 

炎の弾丸となった理巧の蹴りは氷柱の隙間を針の穴を通すように貫き、雪泉は炎の弾丸を受けて装束と扇子を焼き破り、豊麗な肢体を晒して倒れる(勿論下着姿)。

 

「うっ・・・・! くぅっ・・・・!」

 

身体に凄まじいダメージを受けて、雪泉はボロボロの身体をあげて、再度理巧に構える。

 

「まだ、戦うのか?」

 

「ーーーーわ、わたくし達は、お爺様の忍務を、お爺様の『正義』を・・・・!」

 

満身創痍の状態でも戦おうとする雪泉に、理巧は唇を動かした。

 

「“ある男”に聞いた昔話をしてあげるよ。ーーーー昔々、力を持って悪を滅ぼすって考えを持った男がいた。月閃とーーーーいや、黒影って人と似た考えをした。だけど、その考え方は憎しみの連鎖を産み出し、更なる悲劇を生むと周りに否定された。男は孤立して、更なる力を持って周りを納得させようとしたが、結果、道を踏み外し、悪の道に堕ちてしまった」

 

「その男と、お爺様が同じだと言うのですか・・・・!?」

 

「まぁ聞きなよ。次の言葉は、“ある人”に教えて貰った言葉だ。『優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。例えその気持ちが何百回裏切られようと。 それが私の最後の願いだ』、ってね。僕は、例え『悪』とは言え、優しさを失わず、慈悲を持つ事も大切だと感じた。ーーーー『悪』を許す気はない。だが、『悪』とは言え、無慈悲に命を奪うのは『正義』とは言えないよ。『正義』って言うのは、誰かから教えられる物じゃない。自分の心から湧き出る正しい心、義心から生まれる物だと思う」

 

何故だろうか、雪泉も、叢も、夜桜も、その言葉が心に染み渡った。

 

「ーーーーその、その言葉を言ったのは、誰なのですか・・・・?」

 

「ーーーーウルトラマンゼロの大先輩、『ウルトラマンエース』だ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

雪泉が顔を俯かせると、理巧はソッと近づき、話をする。

 

「雪泉さん。『自分の正義』を持ってきなよ。『黒影の正義』じゃない。『雪泉さんの正義』で僕を『悪』と判断したなら、この命を奪いに来ても良い。でも、雪泉さんが迷っているなら、この命はまだ奪わせないよ」

 

「わ、私は、迷ってなんか・・・・!」

 

「技の練度とか動きとかで分かるよ。雪泉さんも迷っていたって事が、ね」

 

「ーーーー!」

 

雪泉は、その光と闇が混合したような、不思議な輝きを放つ理巧の緋色の瞳に見据えられ、戦う意志が折れたのか、腰を落とした。その瞬間、忍装束から月閃の制服に戻ると、『忍結界』が消滅し、元の貧民街に戻っていた。

 

「あっ、戻ってきた!」

 

「勝敗はーーーー見ての通りか・・・・」

 

飛鳥達と焔達、そして四季と美野里も、ほぼ無傷の理巧と、制服に戻った叢と夜桜と雪泉を見て、終わったと思った。

しかしその時ーーーー。

 

 

 

「ーーーーどうやら、儂の目論みは半分を達成されたか」

 

 

 

『っ!』

 

と、和服姿の老人が現れ、一同はソチラに目をやり、雪泉がその老人の名を呼ぶ。

 

「黒影お爺様・・・・!!」

 

「っ! あの人が!?」

 

「伝説の抜け忍、黒影・・・・!」

 

黒影は雪泉達を一瞥すると、僅かに笑みを浮かべながら声を発する。

 

「四季。美野里。自らの意思で判断したお前達は、合格だ」

 

「「へ?」」

 

「儂の『正義』に捕らわれず、この少年を見定めようとした。お前達二人は成長したと言えよう。雪泉に叢に夜桜は、少し残念だったが」

 

「お爺様。それは一体・・・・?」

 

「この少年から聞いただろう。かつて儂と同じ『正義』を掲げた者の話を」

 

「は、はい」

 

「その者の名はーーーー『ウルトラマンベリアル』」

 

『っっ!!?』

 

黒影と同じ『正義』を掲げていたのが、『最強の悪』と言われたウルトラマンベリアルと知り、月閃の五人は目を見開いた。

 

「儂と同じ『正義』を持っていれば、お前達も最悪、ベリアルのように道を踏み外してしまう。儂はそれを止めたかった。お前達には、『自分の正義』を持って欲しかった。だが、儂の言葉では、お前達は止まらんだろう。だから、その少年と出会い、お前達が儂の『正義』から脱却させる事を望んだ」

 

「だから、お爺様は理巧さんと私達を接触させた・・・・?」

 

「さもなければ、可愛い孫娘達をたらすような男と関わらせる訳無かろうて」

 

『・・・・ぽっ///////』

 

「わ、わしはたらしこまれては・・・・!///////」

 

「いや夜桜。お前は十分その少年に心を奪われておるぞ」

 

「~~~~///////」

 

雪泉と叢と四季と美野里が頬を赤くし、夜桜は否定しようとするが、無駄だった。

苦笑していた黒影が、顔を引き締め、理巧に顔を向ける。

 

「ーーーー暁月理巧」

 

「はい?」

 

「この度は、儂の勝手な考えでお主を迷惑を掛けたの。じゃが、迷惑ついでにもう一つ頼まれて欲しい」

 

「それは?」

 

「儂と、戦って欲しい」

 

『っ!?』

 

「・・・・・・・・」

 

「お、お爺様! 戦うとは・・・・!」

 

「儂には時間が無い。しかし、心残りがある。その心残りを、儂は暁月理巧。君に託したいと思っている。迷惑だとは思うが、儂にとっては大切な事なのだ」

 

その真摯な眼差しに、理巧はやれやれと肩を落としながら応える。

 

「ーーーー分かりました。ソコまで言うなら、相手をしますよ」

 

「感謝する。しかし、戦いの内容はーーーーコレだ」

 

黒影が懐から出したのは、『大型のコピークリスタル』だった。

 

「なっ! それはーーーー!?」

 

「暁月理巧。いや、ウルトラマンジードよ。見せてくれ。お主が、あの娘の『希望』になってくれか・・・・!」

 

黒影が『コピークリスタル』を掲げると、クリスタルが光り、水飴のように形を変えると、その形を巨大化し、黒影を飲み込み、異形の生物へと変貌させた。

 

「お爺様!」

 

「「黒影様!」」

 

「「黒影おじいちゃん!」」

 

月閃が叫びを上げるが、そのクリスタルは怪獣へと変わり、理巧が声を張り上げた。

 

「あれはーーーー『超合体怪獣 ファイブキング』っ!?」

 

頭部と胸部が『超古代怪獣 ファイヤーゴルザ』、額と背中の翼と尾が『超古代竜 メルバ』、左腕が『奇獣 ガンQ』、右腕が『宇宙海獣 レイキュバス』、下半身と合体している『宇宙戦闘獣 超コッヴ』。以前道元が変身した『暴君怪獣タイラント』と同じ、合体怪獣ーーーー。

 

『『『『『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!』』』』』

 

『超合体怪獣 ファイブキング』である。

ファイブキングは、5体分の怪獣の雄叫びを上げると、暴風が吹き荒れ、貧民街が吹き飛びそうになる。

 

「・・・・お爺様、何故、こんな・・・・?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

雪泉達が茫然自失となるが、理巧は前に出る。

 

「りっくん! 戦うの!?」

 

「・・・・向こうからのご指名だから、ね」

 

理巧が見上げると、ファイブキングはジッと理巧を見据え、そのまま動かなかった。

 

「雪泉さん。叢さん。夜桜。四季ちゃん。美野里ちゃん」

 

『・・・・・・・・』

 

「必ず、連れ戻すから」

 

『っ!』

 

理巧がそう言うと、雪泉達の目に光が戻り、五人は理巧の背中を見た。

 

「・・・・ジーッとしてても、ドーにもならない!」

 

理巧は、カプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

ーーーーシャアッ!

 

カプセルから青い光の線が幾つもの放たれ、『初代ウルトラマン』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

すぐに『ウルトラマンベリアル』のカプセルを取り出し起動させ、『ウルトラマンベリアル』の姿が出現した。

 

ーーーーウエェェッ!

 

『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ーーーードクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!]

 

ウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、理巧は2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変える。

 

『シャァッ!!』

 

『ウルトラマンジード プリミティブ』となって、ファイブキングの相対した。

 

『『『『『ーーーー!』』』』』

 

『シュワッ!』

 

ファイブキングとジードがぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

貧民街の一角でジードとファイブキングの戦いが行われるのを見ていた伏井出ケイは、ライザーを取り出すと、ベムスターのカプセルを起動させた。

 

「ベムスター!」

 

ピギュゥゥゥゥゥゥッ!!

 

ベムスターの鳴き声が響き、『ベムスターカプセル』を装填ナックルに入れた。

 

「ゼットン!」 

 

ピポポポポポ、ゼットーンッ!!

 

次に、『ゼットンカプセル』を起動させて、ナックルに装填し、ライザーの握り手のスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

ライザーでナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが目映く発光して、音声が流れる。

 

『フュージョンライズ!』

 

「ハァアアアアアア・・・・ハァアッ!!」

 

ライザーを胸元に持ってきて、起動スイッチを押した。

 

『ベムスター! ゼットン! ウルトラマンべリアル! ベムゼード!!』

 

伏井出ケイの姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『ベムスター』と『ゼットン』の姿が現れると、2体は緑色と紺色の粒子となってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルの姿が変貌した。

ゼットンの姿だが、頭部から赤く鋭い瞳が睨み付け、両腕の鉤爪がベムスターの腹部にある五角形の噴射口のような物があった。

 

『ピギュポポポポポポポポッッ!!』

 

新たな融合獣、『ベリアル融合獣 ベムゼード』が、参戦した。




次回。神秘に挑む姿で、悪を斬れ!


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挑め神秘! ムゲンクロッサー!

ージードsideー

 

『『『『『ーーーー!』』』』』

 

ファイブキングがレイキュバスの鋏でジードの首を狙う。

 

『シュワッ! ヌゥオオオオオオオオオッ!!』

 

ジードはその鋏を回避してその腕を取り、民間人のいない所に投げた。

 

『『『『『ーーーー!』』』』』

 

『グゥゥゥゥッ!!』

 

『きゃぁぁぁぁっ!』

 

『おっ! 見えた(ゴンッ!)あでっ!』

 

が、ファイブキングは羽を羽ばたかせ上昇した。その時の暴風で、ジードは腕で顔を守り、飛鳥達に焔達、そして雪泉達のスカートが盛大に捲れ、下着が丸見えになり、男衆は鼻の下を伸ばすが、すぐに女衆に殴られた。

その巨体から想像できない速さで旋回する。

 

『『『『『ーーーー!』』』』』

 

次に、ガンQの目玉から光線を放った。

 

『ふっ、はぁっ!!』

 

ジードはバク転で回避する。その時ーーーー。

 

ーーーーバチィッ!!

 

『グァアアアッ!!』

 

背後から火球が飛んできて、ジードの背中に当たり、ジードは倒れてしまう。

 

『っーーーーハッ!』

 

『ピギュポポポポポポポ!』

 

後方を振り返ったジードが見たのは、ベムスターとゼットンが融合したような、『融合獣ベムゼード』だった。

 

『「伏井出、ケイ・・・・!」』

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

「伏井出ケイっ!?」

 

「しかも新しい融合獣じゃねえかっ!」

 

避難誘導をしていた飛鳥達と焔達は、ベムゼードを見上げてそう言った。ただ、雪泉達月閃の忍達は戸惑いがちだったが。

 

「あの、飛鳥、さんでしたか? あの怪獣は一体?」

 

「あの怪獣は、ウルトラマンベリアルの配下である伏井出ケイって小説家さんが変身した怪獣が融合した融合獣だよ!」

 

「ふ、伏井出ケイ・・・・? あの人気小説家の?」

 

「ソイツが、お前ら月閃の敵であるウルトラマンベリアルの手下なんだよ! ついでに、私ら蛇女と半蔵学院の対決を裏で糸を引いていて、お前達の爺さんに怪獣の力を与えたのもヤツだ! 伏井出ケイが、蛇女の事件やこの騒動の黒幕なんだよ!」

 

「っ! そんな・・・・!」

 

「わ、わしらは、伏井出ケイとやらに、利用されていたのか・・・・!」

 

「黒影さまが、あんな風になったのも・・・・!」

 

「うぅっ・・・・!」

 

叢と夜桜と四季が驚愕し、美野里は怪獣になってしまった黒影を見上げて涙を潤ませた。

 

 

 

 

 

 

ー黒影sideー

 

『「伏井出、ケイ・・・・! 手を、出すでない・・・・!!」』

 

『「おや、流石は『伝説の抜け忍 黒影様』。ファイブキングに取り込まれながらも、意識を失わず操るとは、大した精神力ですね。タイラントにあっさりと取り込まれた道元ごときとは、やはり格が違う。ーーーーご安心を。私はあなたの邪魔をする存在の、邪魔をするだけですから!」』

 

ベムゼードは火球を上空へと放出するとーーーー。

 

『セヤッ!』

 

空から舞い降りたウルトラマンゼロが、両手に持ったゼロスラッガーで防ぎ、火球を切り捨てた。

 

『「ゼロ。おじさん」』

 

『よっ。ソッチに向かう途中で、レムから連絡があって変身してやって来て見れば、まさかファイブキングと融合獣が現れるとはな』

 

『「黒影様、何故このような真似を・・・・!?」』

 

霧夜先生が苦々しい声で問いかけると、ファイブキングに内部にいる黒影が問い返した。

 

『「霧夜、か・・・・。悪いが、こうして怪獣を、制御するだけでも・・・・! かなりの神経を、磨り減らす・・・・! 儂の目的はその少年・・・・! 暁月、理巧・・・・ウルトラマンジードのみじゃ! 邪魔立てするな・・・・!!」』

 

『『『『『ーーーー!!』』』』』

 

ファイブキングが雄叫びを上げると、ジードへと猛進した。

 

『「ゼロ! この人は僕が!」』

 

『「理巧っ!」』

 

『シュワァッ!』

 

ジードは構えると、ファイブキングの両碗の攻撃を回避し、後ろに回り込んで尻尾を掴んで引き付ける。

 

 

 

ーゼロsideー

 

『「おじさんとゼロは! 伏井出ケイを頼む!」』

 

『おい! たくっ、しゃぁねえなぁっ!!』

 

『ピギュッ!』

 

不意討ちで攻撃してくるベムゼードの鉤爪のような腕から回避しながら回し蹴りを叩きつけるゼロ。

 

『来いよ伏井出ケイ。テメエには借りが山のようにあるんだからな!』

 

『「くくくく、良いでしょう! お相手になってあげますよ!」』

 

『ハァッ!』

 

『ピギュポポポポポポポ!』

 

ゼロとベムゼードが、ぶつかり合った。

 

『『エメリウムスラッシュ』!』

 

『ピギュポポ!』

 

光線を放つゼロだが、ベムゼードは左手にあるベムスターの腹部の五角形で、吸収した。

 

『なにっ!?』

 

『ピギュポポポ』

 

驚くゼロに構わず、ベムゼードは一瞬で姿を消すと、ゼロの背後に現れ、その鉤爪でゼロの背中を裂いた。

 

『グァァァァッ!!』

 

突然の攻撃によろめくゼロ。

 

『「ベムスターの吸収能力に、ゼットンのテレポート能力と火球攻撃か・・・・!」』

 

『こうなったらーーーー霧夜!』

 

『ピギュポポポ!』

 

『うわっ!?』

 

ゼロの眼前にベムゼードが現れ、攻撃を繰り出していく。

 

『ビヨンドになる隙は与えませんよ!』

 

『くぅ・・・・っ!』

 

距離を空けたくても、テレポートで一瞬で距離を詰められ、ビヨンドに変身する暇を与えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

『シュアッ!』

 

『『『『『ーーーー!』』』』』

 

ジードが飛翔すると、ファイブキングも後を追うように飛翔し、そのまま超速の空中戦を繰り広げる。

 

『「黒影さん。あなたは道元と違って、利用されている訳ではないようですが、何故こんな戦いを?」』

 

『「問答は、不要・・・・! 儂に見せろ・・・・! 貴様の持つ、“運命を覆す、力”を・・・・!」』

 

『「・・・・・・・・」』

 

『『『『『ーーーー!!』』』』』

 

『っ! うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

黒影との問答はずっとこの調子である。どうしたものかと思考をするジードに、ファイブキングのファイヤーゴルザとメルバの瞳から光線を放ち、ジードに腹部に当たり、落下すると、土煙を巻き上げた。

 

『『『『『ーーーー!!』』』』』

 

急降下したファイブキングが、ジードを踏み潰そうとする。

 

『っ! ハッ!』

 

が、ジードは寸前で回避すると、

 

『『レッキングリッパー』!』

 

光の刃を放つが、レイキュバスの鋏で切り裂かれた。

 

『っ! ウォォォォォォォォォォ! 『レッキングバースト』ーーーー!!』

 

速攻で仕留めようと、ジードは必殺光線を放った。

が。

 

『『『『『ーーーーーーーー!!!!』』』』』

 

ファイブキングがガンQの目玉で光線を吸収するとーーーーそのままジードへと跳ね返した。

 

『っ! グァァァァァァァァァッ!!』

 

『レッキングバースト』を跳ね返され、一瞬反応が遅れたジードは光線を受けて、盛大に後ろに倒れ、地面をガリガリと削る。

 

ーーーーピコン、ピコン、ピコン、ピコン・・・・。

 

『グゥッ!ーーーーウゥゥゥゥ・・・・!』

 

カラータイマーが鳴り出し、苦しそうに立ち上がろうとする。

 

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「りっくん!」

 

『理巧(くん/さん/さま)!』

 

避難誘導をしていた飛鳥達と焔達が、倒れたジードを見て、思わず叫び声を上げた。

 

『っ!』

 

呆然と見上げていた雪泉達月閃も、思わず肩を揺らした。

 

「・・・・ジード、さま・・・・!」

 

雪泉が、理巧の言葉が頭に過った。

 

【必ず、連れ戻すから】

 

「・・・・・・・・がい・・・・す・・・・お願い、します・・・・!」

 

「雪泉?」

 

「お願いします! 暁月理巧ーーーーウルトラマンジード! お爺様を・・・・お爺様を連れ戻して!!」

 

いつもはクールな雪泉が、涙を流しながら目を赤くし、頬を僅かに紅潮させながら、ヨロヨロと起き上がろうとするジードに向けて叫んだ。

 

「・・・・っ!ーーーーこんなの、邪魔だぁっ!!」

 

叢は雪泉の行動に面食らったが、すぐに正気に戻ると、般若面を放り捨て、

 

「ーーーー“理巧様”! いえ、ウルトラマンジード! 立ってください!」

 

「叢さん・・・・、っ、暁月理巧! ワシを倒したお前が! そんな無様を晒すなっ!!」

 

「りくっち! ウチと美野里っちはアンタを見極めてんだよ! 見せてよ! アンタの『正義』を!」

 

「頑張って理巧くん! 頑張って! ウルトラマンジード!!」

 

「雪泉さん・・・・月閃の皆・・・・!」

 

つい先ほどまで、理巧の命を狙っていた雪泉に叢に夜桜が、理巧を応援する姿に、飛鳥は驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。

次の瞬間ーーーー。

 

ーーーーコーン・・・・!

 

「「「「「えっ・・・・?」」」」」

 

荘厳な鐘の音色と共に、月閃の五人の胸元から小さな光が灯ると、ジードのカラータイマーに吸い込まれるように飛んでいった。

 

「あっ、あれって!」

 

「『リトルスター』かっ!?」

 

飛鳥と焔、そして他の忍達も、目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

『「っ! 『リトルスター』?」』

 

理巧の手に、五つの『リトルスター』が飛んできて、カプセルの姿を現す。

 

ーーーーシュワッ!

 

雪泉の身体から出たのは、初代ウルトラマンに似ているが、胸元に〈宇宙警備隊〉のエリート証である『スターマーク』を着けた、〈宇宙警備隊〉の隊長、『ウルトラマンゾフィー』の『ゾフィーカプセル』。

 

ーーーーフッ!

 

叢からは、ゼロを銀と青のカラーにした、月と奇跡が融合した『ルナミラクルゼロ』の『ルナミラクルゼロカプセル』。

 

ーーーーセェヤァッ!

 

夜桜からは、ゼロを銀と赤のカラーにした太陽と剛力が融合した『ストロングコロナゼロ』の『ストロングコロナゼロカプセル』。

 

ーーーーディヤッ!

 

四季からは、『大地の光 ウルトラマンガイア』の強化態、『ウルトラマンガイアV2』の『ウルトラマンガイアV2カプセル』が。

 

ーーーーシャァッ!

 

美野里からは、『光の国の若き戦士』、『ウルトラマンメビウス』の『ウルトラマンメビウスカプセル』が。

 

「これは・・・・」

 

《理巧。雪泉達から、『ウルトラカプセル』がもたらされました》

 

「雪泉さん達が・・・・?」

 

《スキャンします。ーーーーーーーー『ルナミラクルゼロ』と『ウルトラマンティガ』。並びに、『ウルトラマンゾフィー』と『ウルトラマンメビウス』。『ウルトラマンメビウス』と『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン』。『ウルトラマンガイアV2』と『ウルトラマンヒカリ』で、新たなフュージョンライズが可能になりました》

 

『「そうか。ーーーーならば! 詠さん! 叢! あなた達から貰ったカプセルで、決めさせてもらう!」』

 

理巧は『ジードライザー』を構え、カプセルホルダーから、『ウルトラマンティガ』のスイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

ーーーーディヤッ!

 

カプセルから紫色の光の線が幾つもの放たれ、『ウルトラマンティガ』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

『ウルトラマンゼロ・ルナミラクルカプセル』を持って起動させると、蒼い光の線が幾つも放たれ、『ウルトラマンゼロ・ルナミラクルゼロ』の姿が出現した。

 

ーーーーセヤッ!

 

『ルナミラクルゼロカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ーーーードクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、紫と蒼の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「挑むぜ、神秘!! ハァアアア・・・・っ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し紫色に輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマンティガ! ルナミラクルゼロ! ウルトラマンジード!! ムゲンクロッサー!!]

 

ウルトラマンティガとルナミラクルゼロの姿が合わさり、光を纏った戦士となった。

 

『セィヤッ!!』

 

紫と青の光の螺旋の中から二刃の剣を携えた、新たなウルトラマンジードが飛び出した。

 

『フゥゥゥ・・・・!』

 

スラッガーを持つ頭部、青と紫のボディライン、ティガの右胸にプロテクターと左胸から左腕にかけて装着された装甲。そしてその手には、二刃の剣『ゼロツインソード・ネオ』を構えた新たなフュージョンライズ。

神秘の剣士・『ウルトラマンジード ムゲンクロッサー』。

 

『シュァッ!』

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『おおっ! 理巧のやろう! また新しいフュージョンライズを会得しやがった!』

 

『ゼロ! コレを使ってくれ!』

 

ジードがゼロに目を向けると、カラータイマーから『光』を射出し、それがゼロのカラータイマーに吸い込まれると、霧夜先生の手に渡った。

 

『「っ! これはーーーー」』

 

それは、『ストロングコロナゼロカプセル』だった。

 

『おおっ! 『ストロングコロナ』の『ウルトラカプセル』かっ!?』

 

『それを使えば、ゼロの使えない力も使えるかも知れない!』

 

『よぉしっ! 霧夜!』

 

『「あぁっ!」』

 

ゼロの言葉に呼応するように、霧夜先生は、『ストロングコロナゼロカプセル』を起動させると、真紅の粒子が出て来て、『 ストロングコロナゼロ』となると、装填ナックルに入れてライザーでスキャンした。

 

ドクンッ!

 

[ストロングコロナゼロ!]

 

『「はぁっ!」』

 

ライザーのボタンを押すと、粒子がインナースペースが溢れる。

 

『ピギュポポポポポポポ!』

 

ベムゼードはこれまでの戦闘でゼロの光線技から奪ったエネルギーを右手から放出し火球を放つ『トリリオンインフェルノ』を放つ。火球が当たり、ゼロの身体が焔に包まれる。

が、その焔がゼロに吸収されるように吸い込まれると、

 

『セヤァァァァァァァァァッ!!』

 

焔の中から真っ赤に燃えるウルトラマンゼロが飛び出し、炎を纏った拳でベムゼードを殴り飛ばした。

 

『ピギュポポポポポポポッ!?』

 

その姿は、負傷で変身できなくなっていた、『ストロングコロナゼロ』であった。

 

『「これは!? 『ウルトラカプセル』のエネルギーで変身したのかっ!?」』

 

『ーーーーへっ! ブラックホールが吹き荒れるぜっ!!』

 

ーーーーギュィィィィィンン!!

 

ストロングコロナゼロが両拳を叩き合わせると、エレキギターのような音が鳴り響いた。

 

『フッ! ハァァァァァァァァッ!!』

 

ストロングコロナゼロは、ウルトラゼロランスも持って、ベムゼードに斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

新たなフュージョンライズへと至ったジードと新たな姿となったゼロを見て、飛鳥達は笑みを浮かべる。

 

 

 

 

ージードsideー

 

『「ーーーーそれが、お主の力、か・・・・。敵であった者ですら、自らの味方に変え・・・・更なる可能性を生み出していく・・・・暁月理巧よ・・・・! ウルトラマンジードよ・・・・! さぁ、これが最後だ! この儂を、黒影を、越えてみよ!!」』

 

『『『『『ーーーー!!!』』』』』

 

黒影の滾りに呼応するように、ファイブキングも雄叫びを上げて、ジードへと迫る。

 

『フッ! シュア!』

 

ジードはゼロツインソード・ネオを構え、ファイブキングの鋏と斬り結ぶ。

 

『ハッ! シュァァッ!!』

 

『『『『『ーーーー!?』』』』』

 

鋏の刃を避けたジードは、ガンQの目玉に×字に切ると、ファイブキングを悲鳴を上げる。

 

『『『『『ーーーー!!』』』』』

 

ファイブキングは鋏でジードの剣を掴むと、大きく振り、ジードから剣を振り飛ばす。

 

『っ!』

 

『『『『『ーーーー!!』』』』』

 

ファイブキングが両目から光線を放つ。

が、ジードの姿が陽炎のように消えた。

 

『「何っ!? 残像、いや幻影かっ!?」』

 

驚く黒影は上空を見ると、いつの間にかジードは放り飛ばされたゼロツインソード・ネオを掴み、

 

『ーーーーシェァッ!!』

 

『ーーーー!!?』

 

防御しようとするレイキュバスの鋏を急降下で斬り落とし、さらに返す刀でガンQの腕も切り落とす。

 

『ーーーー!?』

 

『『ガルネイトバスター』』

 

『ピギュポポポポポポポ!!』

 

後ろに後退したファイブキングは、ゼロ距離で放たれたストロングコロナゼロの必殺技を受けて後退したベムゼードと背中合わせにぶつかる。

 

『「決めるよ! ゼロ! おじさん!」』

 

『「あぁ! 俺に限界はねぇっ! ハアァッ!!」』

 

霧夜先生は、合体させたジードライザーをウルトラゼロアイNEOでゼロビヨンドに変身した。

 

[ニュージェネレーションカプセル! α! β! ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

『『ゼロツインソード』!』

 

『『ゼロツインソード・ネオ』!』

 

ゼロビヨンドはゼロツインソードを、ジードがゼロツインソード・ネオを持つと、何と、ジードが三人に分身して、ゼロビヨンドと共に、二体の怪獣を挟み込むように摺り足で移動し、

 

『『マジカルトライデントスラッシュ』!』

 

『『ツインギガブレイク』!』

 

二体に近づくと、四つの閃光が閃き、一人に戻ったジードと、ゼロビヨンドは立ち位置が逆になり、二体の怪獣を背にした。

そして、ファイブキングの身体に『G』の文字が、ベムゼードの身体に『Z』の文字が刻まれていた。

ゼロの剣の刀身にベムゼードが映り、ジードの剣の刀身にファイブキングが映る。二人は刃に映る怪獣達を一瞥し。

 

『俺達の刃をーーーー』

 

『刻み込め・・・・!』

 

ゼロビヨンドとジードがそう言うと、文字を中心に亀裂が凄まじい勢いで走っていく。

 

『「ここまで、ですね・・・・!」』

 

ベムゼード、否、伏井出ケイが逃げようとした次の瞬間ーーーー。

 

『「ーーーー『忍法 封殺の術』!!」』

 

『「っ!? ぐぅぅぅぅっ!!」』

 

ファイブキングの体内、印を結んだ黒影から光の鎖がファイブキングの胸元を貫いて、ベムゼードに入り込むと、体内にいた伏井出ケイを捕らえた。

 

 

 

 

ー黒影sideー

 

ファイブキングが鋏を失ったレイキュバスの腕で、ベムゼードの身体を捕まえると、背中の羽を羽ばたかせる。

 

『「黒影!?」』

 

『「逃がさんぞ、伏井出ケイ・・・・! 貴様はここで、儂と一緒に死んでもらう!」』

 

『「っ! 黒影様!」』

 

『何っ!?』

 

『「どういう事だ?」』

 

「お爺様!」

 

「「「黒影様!」」」

 

「おじいちゃん!」

 

近くにやって来た雪泉達や飛鳥達に焔達、雪泉達が飛翔するファイブキング、黒影に叫びを上げた。

ドンドン上昇していく二体の怪獣の体内で伏井出ケイが逃れようともがくが、黒影は印を結んだまま力を込めるのを止めない。

 

『「貴様! まさかこの為にっ!?」』

 

『「そうだ! 貴様が儂を利用しようとしているのは百も承知! しかし! 儂もただでは利用されん! この老い先短い命と引き換えに、貴様も道連れにしてくれるっ!!」』

 

『「ふざけるなっ! このーーーー老いぼれふぜいがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』

 

『「っ!」』

 

と、その時、伏井出ケイの“背中が光り”、黒影の拘束から逃れると、ベムゼードのカギ爪で、黒影のいる地点に貫こうとしたその時ーーーー。

 

『「黒影さん!!」』

 

『「暁月っ!?」』

 

何と、黒影の身体を、“人間サイズになったジード”が助けた。

 

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

今にも爆散しそうなベムゼードと共に、同じく爆散しそうになファイブキングが上昇していく。

 

『「このままじゃ・・・・!」』

 

『理巧! お前の今のフュージョンライズは、ルナミラクルゼロとフュージョンしている! その力をフルに使えば、黒影のじいさんを救えるかも知れねえ!』

 

『「っ。分かった! シェァッ!」』

 

ジードがファイブキングを追って飛び立つと、二体が爆散する寸前だった。

 

『フッ!』

 

力を込めると何と、ジードの身体が徐々に小さくなっていき、自分が付けた『G』の字の傷口から、ファイブキングの体内に入っていき。

 

『「黒影さん!!」』

 

「っ! 暁月っ!」

 

黒影を片手で掴み、その地点にベムゼードの腕が通った来た。

ゼロツインソード・ネオで体内からファイブキングの身体を貫いて脱出した際、一瞬、ベムゼードと、伏井出ケイと視線が合った。

 

『「貴様・・・・!」』

 

『フッ』

 

そしてそのまま、巨大化しながらジードが離脱するのと同時に。

 

ーーーードガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!

 

二体の怪獣が大爆発を起こした。

 

 

 

 

ー雪泉sideー

 

「っ! お爺様! 理巧さんっ!!」

 

「ーーーー大丈夫」

 

爆発を見て、焦燥した貌になる雪泉の肩に飛鳥が手を置いて、安心するように言うのと同時に。

 

『ーーーーシュァ』

 

ジードがゆっくりと降り立つと、片手をソッと下ろすと、その手の平に黒影が横たわっていた。

 

「お爺様!」

 

「「「黒影様!」」」

 

「おじいちゃん!」

 

『フッ』

 

雪泉達が手の平から黒影を下ろすと、ジードのカラータイマーから『コスモスカプセル』が葛城に手渡された。

 

『「葛姐さん。治療を頼む。あーちゃん達と焔達は周辺を捜索。伏井出ケイを探してくれ」』

 

「分かった!」

 

ーーーーフワッ!

 

『うん!/了解』

 

葛城が早速カプセルを起動させると、手の平に光が溢れ、その回復の光を黒影に当て、飛鳥達と焔達は散開して伏井出ケイの捜索に向かった。

 

『シュァ!』

 

『セヤッ!』

 

ジードとゼロは、作業員や住人達が戻ってくるのを見て、正体を隠す為に飛んで言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「皆!」

 

「無事かっ!?」

 

「理巧! 先生!」

 

理巧と霧夜先生が横たわる黒影を治療する葛城と、それを見ている雪泉達月閃に駆け寄った。

 

「葛姐さん。黒影さんは?」

 

「駄目だ! 悔しいがアタイだけじゃ手が足りねえ! 他にも回復の術が使える奴とかいないと!」

 

「・・・・理巧。『ルナミラクルゼロ』は、コスモスの力を宿している」

 

「! そうか。叢!」

 

「ひゃ、ひゃい!/////」

 

お面を投げ捨てたのを思い出した叢が、理巧と顔を合わせるのも恥ずかしそうにしていたが、理巧が『ルナミラクルゼロカプセル』を持たせて起動させた。

 

ーーーーセヤッ!

 

起動させると、葛城のように手の平に光が宿った。

 

「っこれって・・・・」

 

「それで黒影さんを助けられる。早くするんだ」

 

「っ! はい!」

 

叢も葛城と共に、光を黒影に当てた。

それから少ししてーーーー。

 

「うっ・・・・うぅっ・・・・」

 

「お爺様!」

 

「雪泉・・・・皆か・・・・儂は、生き恥を晒したか・・・・」

 

「黒影さん」

 

「暁月、理巧・・・・儂を助けた、のか・・・・?」

 

「雪泉さん達の大切な人を、僕が見捨てる理由がなかっただけです。それに、何でここまでの事をしたのか、まだ聞いていなかったですから」

 

「・・・・先ほども言った通りだ。このまま、雪泉達が、儂の『正義』に依存させるのは、彼女達の未来を、歪ませてしまう。それに、儂も知っている、ウルトラマンベリアルが『悪』に堕ちた理由を、な」

 

「っ!・・・・何故、あなたがそれを?」

 

「『クライシス・インパクト』の最中、儂はある人物に教えられた・・・・儂とウルトラマンベリアルは、辿った末路は違えども、僅かに運命の歯車が違ければ、儂がベリアルになっていた事を、な・・・・ソコにいる霧夜と一体化した、ウルトラマンゼロの父、ウルトラセブンからな」

 

「(デュオン!) ーーーー親父がっ!?」

 

霧夜先生からゼロに変わり、雪泉達はギョッと、するが、黒影は笑みを浮かべる。

 

「久しいなウルトラマンゼロよ。面倒事をかけてしまったな。この街の住人達にも・・・・」

 

「・・・・安心しな爺さん。ここに来る前に〈AIB〉と話を通してな。この街を『異星人交流区域』にする事の許可を貰っていたんだ」

 

「えっ? それじゃ・・・・」

 

「ああ。〈大狼財団〉も開発から手を引くだろうよ」

 

それを聞いて、叢はホッとしたように肩を落とした。

そしてそれを見てから、黒影は一瞬キリッと顔つきを引き締め、理巧に話しかけた。

 

「暁月理巧。儂は伏井出ケイがあれでくたばったとは思えん」

 

「でしょうね。また闇の中に隠れたのでしょう」

 

「うむ・・・・暁月理巧。伏井出ケイの捜索に、我が孫達を協力させてくれぬか?」

 

『えっ?』

 

「良いんですか?」

 

「きゃつをこのままにしておけば、いずれ災いをもたらすだけでなく、ベリアルも必ず現れるだろう。それにだ」

 

「?」

 

「雪泉の唇を奪い。叢と美野里の心を奪い。あまつさえ夜桜と四季に不埒な真似をしたのだ。相応の責任を取ってもらう」

 

「あぁ、知ってたんですか」

 

『/////////』

 

目が据わり、ファイブキングよりも凄まじい威圧感を放つ黒影に理巧は苦笑し、雪泉達は顔を真っ赤にした。

 

「雪泉。叢。夜桜。四季。美野里。これから彼の元で、『己の正義』を見つけよ。その時こそ、お前達は本当に一人前の善忍だ」

 

『はい!』

 

「それと、他の女子<おなご>達にも負けるでないぞ」

 

『・・・・・・・・はい//////』

 

黒影の言葉に、力強く頷いたり顔を真っ赤に染めて頷く月閃であった。

 

「理巧。お前って結構女難な体質だよな!」

 

「自分でもそう思うよ」

 

葛城がにやけながら言う言葉に、理巧も霧夜先生とゼロも苦笑した。

 

「暁月理巧。近くに来てくれ」

 

そして、黒影が顔を近づけた理巧に、耳打ちする。

 

「・・・・実は、雪泉達の他に、儂には孫がいるのじゃ。それも、お主と似た境遇のな」

 

「えっ?」

 

「その子もいずれ、お主に会いにくる。頼む。あの子の、『光』になってくれ」

 

「・・・・・・・・できる限りはします。その子の名前は?」

 

「・・・・『雪不帰』、だ」

 

「分かった。ゆっくり休んでください」

 

「ああ。休ませて、貰うよ」

 

ゆっくりと寝息を立てる黒影から離れ、理巧は青空を見上げた。

 

「(・・・・伏井出ケイ。ウルトラマンベリアル。そして、黒影さんのもう一人の孫『雪不帰』。これから、さらに厳しい戦いが待っているだろう)」

 

そして、理巧は顔を下に向けると、雪泉達の姿を見据える。

 

「(だが、新たにできた仲間がいれば、きり抜けられるな)」

 

 

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

伏井出ケイは自分を捜索している飛鳥達と焔達を尻目に、転移ゲートを開いて逃げようとする。

 

「・・・・そろそろ、本格的な対決と行きますか」

 

ニヤリと笑みを浮かべる伏井出ケイの手に、『ゼットン』と『キングジョー』のカプセルが握られていた。

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そしてここに、貧民街を一望できる丘の上、暁月理巧の関知範囲のギリギリ外から、ウルトラマンジードの戦いを見て、暁月理巧を見下ろしている1人の女性がいた。

年の位は二十代前半、死者を思わせるような色白な肌と、肌の色と対照的な黒いドレスを纏い、ドレス越しでも分かる豊満な胸元と、豊麗な身体付き、端正な顔つきもあるがその目は闇のように真っ暗になっている。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

女性は暁月理巧を見据えると、自分と同じような、『闇』を宿しているが、それに負けない『光』を宿した不思議な輝きに目が離せずいた。

 

「・・・・・・・・・・・・//////」

 

何故だろうか、暁月理巧の事を見ていると、女性は頬が熱くなるのを感じた。。胸の鼓動か高鳴るのを感じた。呼吸が僅かに乱れているのに気づいた。

 

「・・・・???//////」

 

その女性は気づいていない。それがーーーー『一目惚れ』である事に。自分は暁月理巧にーーーー心奪われている事に。




ー次回予告ー

半蔵学院。焔紅蓮隊。月閃女学館。多くの仲間が出来て、僕の周りは、いつの間にか随分賑やかになった。・・・・ふと、思ってしまう。こんな日々がいつまでも続いて欲しいと。しかし、運命という歯車は、否が応にも僕を戦いへと誘う。

次回、閃乱ジード。

【ジードアイデンティティ】

咲かすぜ! 騎士道!


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ジードアイデンティティ
咲かすぜ騎士道! フォトンナイト!


遂にこの回に来ました。


ー伏井出ケイsideー

 

その日。伏井出ケイは担当編集者の男性と次回作の打ち合わせの為に屋外カフェに来ていた。

 

「先ず・・・・ある男が、ある国から『カプセル』を奪うのです」

 

担当編集者は、伏井出ケイの話をボールペンを使って手帳に記していく。

 

「ーーーー強大な力を秘めた『カプセル』を・・・・」

 

「以前の講演会で、参考にするアイテムをお持ちでしたね?」

 

その講演会は、ウルトラマンゼロを一時的に殺した事件であった。

 

「『カプセル』を起動させるには、"特別なエネルギー"が必要だった。ーーーー宇宙に拡散し、惑星や生命を循環させるエネルギーが。男はそれを集める為、『ある物質』を作ります」

 

「物質・・・・?」

 

顔を上げる担当編集者に伏井出ケイはあくまでにこやかに続ける。

 

「男はソレをーーーー『カレラン分子』と命名しました。しかし『カレラン分子』は、生命の中でしか安定して存在できなかった・・・・」

 

伏井出ケイが話を続けようとするが、それを遮るように担当編集者のスマホがバイブで震える。

 

「ーーーーすみません。直ぐに戻ります」

 

担当編集者はボールペンと手帳をテーブルに置いて席を外す。それを見送ると、伏井出ケイは瞑目した。

その瞬間、伏井出ケイの意識が別の空間へと繋げた。暗黒の空間と形容してもいいその空間に佇む伏井出ケイの目の前にーーーーウルトラマンベリアルが伏井出ケイを見下ろしていた。

 

『・・・・報告を聞く』

 

ベリアルが声を発する。

 

「先日で十九の『ウルトラカプセル』の起動を確認しました。必要な数を超えました」

 

『流石は私の息子だ。ソコまでの働きをしてくれるとはな』

 

「・・・・・・・・・・・・ええ、とても」

 

ベリアルがジード、暁月理巧を称賛すると、伏井出ケイは何やら苦々しい声色で応えた。

 

 

 

 

ー鷹丸sideー

 

「どうだ?」

 

そして〈AIB〉の地下基地にて、暁月理巧の養父である戦部鷹丸と同僚で相棒のシャドー星人ゼナがおり、鷹丸がモニターに映された伏井出ケイを解析している局員に話しかけた。

 

『モルフェウスAからDに動きはありますが、微弱で追跡不能です』

 

『っ! タレバーンに特徴的な波長を観測。追跡します』

 

と、別の局員が宇宙空間が映された別のモニターを追跡すると、宇宙の一部分が赤く染まっている箇所があった。

 

『探知完了まで後八十四秒』

 

ゼナはモニターに映る伏井出ケイを見据えて声を発する。

 

『さあ、お前は何処に思念を送っている?』

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

『『ストルム星人』よ。お前の正体に気づいた者がいるようだ。気配がするぞ』

 

「っ!」

 

ベリアルにそう言われ、伏井出ケイは周囲を睨む。

 

 

 

 

 

ーゼナsideー

 

ーーーーブー! ブー! ブー!

 

と、警報が基地に鳴り響く。

 

『タルバーン波、消えていきます!』

 

『まだだ! 待ってくれ!』

 

局員の報告を聞いて、ゼナが声を発した。

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「っ!」

 

瞑目していた伏井出ケイが、目をカッと開き、周囲を見ると、担当編集者が戻ってきて席に座る。

 

「ーーーーお待たせしました」

 

「・・・・先ほどの話の続きをしましょうか」

 

「っ、是非!」

 

担当編集者がボールペンを持って手帳を開く。

 

「男は『カレラン分子』を散布し、生命体の体内で高密度エネルギーの養殖を行うようにした。人々や惑星を循環するエネルギーはーーーー」

 

説明しながら、担当編集者の頬に、一滴の汗が流れているのを、伏井出ケイは捉えた。

 

 

 

ー鷹丸sideー

 

そして、後少しで探知が完了しようとしており、鷹丸とゼナの視線は、二つのモニターを行ったり来たりだった。

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

伏井出ケイは席から立ち上がると、ゆっくりと担当編集者に近づき、

 

「あ、あの、何を・・・・!」

 

担当編集者の上着の内ポケットを捲ると、何かの小さな機械、否、盗聴器があり、伏井出ケイはそれを握り潰したその瞬間ーーーー。

 

「うわぁあっ!!」

 

「あぁっ!!」

 

カフェにいた何人かの客が、耳を抑えて悲鳴を上げた。

悲鳴を上げた客はその姿を、異形の姿、異星人の姿になっていた。悲鳴を上げていない客達は、異星人の客に目を見開いて驚きていた。

そんな周囲に構わず、伏井出ケイは担当編集者が思わず胸ポケットに差したボールペンを、否、ボールペン型の監視カメラを睨んだ。

 

 

 

 

ー鷹丸sideー

 

「しまった、バレてる! 総員退避!」

 

《フン!》

 

モニターの伏井出ケイが凄むと、基地の機械が盛大な火花を散らせ、モニターも消えた。

 

『うわぁっ!!』

 

鷹丸達は、激しい火花と小さな爆発で倒れた。

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイー

 

『逃げて!』

 

「あ、はい!」

 

〈AIB〉の局員の宇宙人が、担当編集者を逃がそうとする。

 

『あっ!』

 

が、一瞬で先回りした伏井出ケイが、杖で局員を殴り気絶させた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・はぁ、新作の執筆は中止です。ーーーー今まで、ありがとうございました」

 

伏井出ケイが、殺意を込めた目で担当編集者を見据えた。

と、その時ーーーー。

 

「っっ!!」

 

ーーーーカキン! カキン! カキン!

 

伏井出ケイが明後日の方向に目を向けると、自分に向かって飛来してきた物を杖で弾き飛ばすと、飛来してきた物はアスファルトに深く突き刺さり、その姿を露にした。

手裏剣だった。

 

「この手裏剣はーーーーあなた方ですか。十年前、『クライシス・インパクト』によって生まれた時空の亀裂からこの時代にやって来た異形の忍軍団、〈ノロイ党〉を討ち破った『伝説の閃忍』・・・・!」

 

担当編集者と気絶させられた局員を保護し、伏井出ケイから距離を取って、他の局員達に預けて退避させたのは、鷹丸の三人の妻にして、暁月理巧の養母である三人、ハルカ。ナリカ。スバルであった。

 

「「「・・・・!」」」

 

三人は、黄色、赤、青の忍装束を纏い、それぞれ大型クナイ、大型手裏剣、長刀を構えた。

 

「・・・・成る程、面白いですねぇ・・・・!」

 

伏井出ケイが、ニンマリと歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

『シュゥワッ!!』

 

『ヌゥンッ!!』

 

そしてその頃、ウルトラマンジード・プリミティブは、隻眼の野武士のような風貌に日本刀のような剣を持った宇宙人と戦っていた。

野武士宇宙人が剣を振るうが、ジードはその剣をジードクロウで防いでいく。

 

『ヌゥンッ!!』

 

『ハァッ!』

 

野武士宇宙人が剣を横薙ぎに振るうが、ジードは大きく後ろに反転跳びをすると、後方にあった大型高層ビルを飛び越えて回避した。

 

『フッ!』

 

『・・・・・・・・』

 

野武士宇宙人とジードの間に大型高層ビルにより隔たれていた。

 

『(これでヤツの剣も届か・・・・っ!)』

 

ジードは一瞬気を抜きそうになるが、全身の細胞が退けと警報を鳴らした気がして、トン、と後ろに跳んだその瞬間ーーーー。

 

『キェェイッ!!』

 

ーーーーズバァァンッ!!・・・・ズズズズ、ズシャァァァァァン・・・・!

 

ジードと野武士宇宙人の間を隔てていたビルが斜めに切り捨てられ、ビルはゆっくりと滑り落ちて崩れると、袈裟斬りにしたような構えの野武士宇宙人がソコにいた。

 

『「スッゴ・・・・! やるじゃないの、『宇宙剣豪ザムシャー』、だったな』」』

 

『・・・・貴殿も噂通りの腕だな、ウルトラマンジードよ。嬉しいぞ。このような銀河の辺境の辺境とも言える星で、貴殿のような強者と刃を交えられるとは・・・・!』

 

ジードと、ザムシャーと呼ばれた宇宙人は、お互いに笑みを浮かべるのであった。

 

『「それにしても、何で僕に挑むのさ? 誰かに倒してくれって依頼されたのか?」』

 

『拙者、修行中の身。この銀河の辺境の地球にいるウルトラマンジードと言う光の戦士がいると風の噂を聞き、是非手合わせをしてみたいと馳せ参じたのだ!』

 

ーーーーさて、何故ザムシャーとジードが戦っているのかと言うと・・・・。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

黒影との戦いと月閃女学館との騒動も終わり、黒影は〈AIB〉の医療によって心臓の病を治療されたが、暫くの入院と伏井出ケイとの事で事情聴取を受けるようになった。

が、雪泉達は今だ理巧との関係を続けるようになり、今日は展望台で、飛鳥達半蔵学院、焔達紅蓮隊との三竦みの模擬戦をしていた。

組み合わせはーーーー飛鳥VS焔VS雪泉。斑鳩VS詠VS叢。葛城VS日影VS夜桜。柳生VS未来VS四季。雲雀VS春花VS美野里。

理巧とペガは観戦をし、それぞれの模擬戦が白熱していったその時、

 

ーーーーズズゥゥゥゥンン・・・・!

 

展望台から見える街の中心に、突如『宇宙剣豪ザムシャー』が仁王立ちで現れた。

 

【『拙者の名はさすらいの剣豪『ザムシャー』! ウルトラマンジードよ! 拙者と是非勝負していただきたいっ!!』】

 

と、ウルトラマンジードこと、理巧に挑戦をして来たのだ。別に破壊行動は取っていないのだが、巨大な異星人がその場に鎮座しているだけで人々に取っては迷惑極まりない。

飛鳥達も焔達も雪泉達は、理巧に戦いを任せようとするがーーーー。

 

【ーーーーイヤだよ。面倒臭い。ゼロとおじさんに任せた】

 

と、ウルトラマンベリアルか伏井出ケイの刺客でもなければ、レムのユートムで調べて貰って、『コピークリスタル』から生まれた疑似生命体でもない。完全に無関係の異星人である。

そんなヤツを相手にするつもりはないと、理巧はゼロと霧夜先生に任せて昼寝をしようとする。

飛鳥達や焔達が何とか理巧をやる気にさせようとするが、今一乗り気になれない理巧。雪泉達が首を傾げていると。

 

【理巧は基本面倒くさがり屋だから、気分が乗らない時はトコトン動かないんだ】

 

と、説明した。

雪泉達も理巧に戦うように説得するが、それでも理巧は動かない。どうしたものかと悩んでいると、AIBに行っていた霧夜先生から連絡が入り。

 

【理巧。あの異星人がいる所、“お前の家の近くだぞ“】

 

【(ピクッ)】

 

霧夜先生の言葉に、理巧がピクリと反応を示した。

 

【あのザムシャーって異星人が焦れて暴れ出したら、折角復興が進んで来たお前の家の周辺が、また破壊されて立ち入り禁止にされてしまうかもなぁ?】

 

【ーーーージーッとしてても、ドーにもならない! ジーーーーーードッ!!】

 

と、速攻でウルトラマンジードになってザムシャーと戦い始めた。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

 

そして、ジードが戦っている間に、避難誘導を終えた半蔵・紅蓮隊・月閃の面々は近くのビルの屋上に登り、ジードとザムシャーの戦いを見ていた。

 

「りっくん、ちょっと苦戦してるね」

 

「ああ。流石は剣豪を名乗るだけあるな。一太刀一太刀のキレが凄まじいぜ」

 

「あの高層ビルを一太刀で斬り捨てるとは・・・・! 宇宙には、これほどの使い手がいるのですね・・・・!」

 

「ーーーー今回の相手は、伏井出ケイと無関係の方なのでしょうか?」

 

「分かりませんわよ。彼に雇われたっという線もありますわ」

 

飛鳥と焔と雪泉は、ビルを斬り捨て、更にジードと互角以上に渡り合うザムシャーの剣技に称賛していた。

夜桜と斑鳩は、ザムシャーが伏井出ケイと関係があるのか思案し、他のメンバーもジードとザムシャーの戦いを興味深そうに見ていたり、近くに伏井出ケイがいないか見回していた。そんな中、雲雀も未来と美野里は、キョロキョロと下を見回していた。

 

「? どうした雲雀?」

 

「う〜ん。理巧くんのお家がこの近くにあるって霧夜先生が言っていたから、何処にあるんだろうって思って・・・・」

 

『!』

 

その言葉に全員が反応した。面倒くさがり屋な理巧がザムシャーの挑戦を受けたのは、この当たりに理巧の実家があるからなのだ。

 

「ーーーーそう言えば、私達りっくんと結構濃い付き合いをしてきたのに、理巧くんの家とか知らなかったね・・・・」

 

飛鳥の言葉に、まだ付き合いの短い月閃の五人以外は少し顔を俯かせる。確かに、理巧の事はある程度知っているが、理巧の家族については、良く知らないからだ。

 

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

『うわっ!!』

 

ジードはザムシャーの剣技をジードクローで受けていたが、遂にジードクローを弾き飛ばされてしまう。

 

『キィェエイッ!』

 

ザムシャーが脳天切りをしようと太刀を振り下ろすが、

 

『ハァっ!!』

 

ーーーーパシッ!

 

『っっ! 白刃取りだとっ!? 我が『名剣 星斬丸』を受け止めるとは!』

 

が、ジードが真剣白刃取りをし刀、星斬丸を止めると、ザムシャーが驚いたほんの刹那の隙をジードは突く。

 

『『レッキングロア』!!』

 

『ぬぉぉおおおおおおおおっ!!』

 

両手が塞がったジードが口から放つ波状攻撃でザムシャーを太刀ごと吹き飛ばした。

 

『フッ!』

 

ザムシャーが起き上がってくる前に、新たなフュージョンライズで対抗しようとする。

 

『「新しいフュージョンライズを試すには、丁度いい相手だ」』

 

理巧は『ジードライザー』を構え、カプセルホルダーから、『ウルトラマンガイアV2』のスイッチを押して起動させる。

 

「融合!」

 

ーーーーデュワッ!

 

カプセルからレモン色の光の線が幾つもの放たれ、『ウルトラマンガイアV2』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」

 

カプセルホルダーから『ヒカリカプセル』を持って起動させると、黄色の光の線が幾つも放たれ、『ウルトラマンヒカリ』の姿が出現した。

 

ーーーーデャッ!

 

『ヒカリカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ーーーードクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、レモン色と黄色の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「咲かすぜ、騎士道!! ハァアアア・・・・っ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し黄色に輝き、理巧の身体も黄色に輝く。

 

[ウルトラマンガイアV2! ウルトラマンヒカリ! ウルトラマンジード!! フォトンナイト!!]

 

ウルトラマンガイアV2とウルトラマンヒカリの姿が合わさり、理巧の姿が変わっていく。

 

『メッッ!!』

 

金色の光の螺旋の中から花弁が舞い、そのは中から新たなウルトラマンジードが飛び出した。

 

『フゥゥゥ・・・・!』

 

体色は銀・赤・紫・青とカラフルに彩られ、頭部は角が三つになっているようになり、身体の各所には鎧を取り付け、胸には〈ウルトラの星〉に多大な貢献をした者に与えられる最高の名誉勲章である『スターマーク』を付け、白い白衣のようなマントを靡かせると、ソコから赤い花弁がヒラヒラと舞い散らせるその姿は、ザムシャーが武士とするならば、正にーーーー光と花の騎士・『ウルトラマンジード フォトンナイト』。

 

『『フォトンビームブレード』・・・・!』

 

ジードが右腕に装備したブレスレットから光の刃を伸ばし、構えた。

 

『ムゥ・・・・新たな姿となったか』

 

ザムシャーが起き上がると、再び星斬丸を正眼に構えた。

その構図は正に、東洋の武士と西洋の騎士のようであった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

両者構えたままだがその姿には微塵も隙が無く、周囲には息をするのも苦しい重い緊張感が漂っていた。

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・(ゴクン)』

 

その緊張感は、遠巻きで見ていた飛鳥達にも感じており、誰もが固唾を呑んでいた。

 

 

 

 

ージードsideー

 

そしてーーーーザムシャーが斬って崩れ落ちたビルの上部から、一つの破片が落ちる。

 

ーーーーガラン・・・・。

 

『っっ!』

 

『ッッ!』

 

その僅かな音で、二人が動いた。ザムシャーもジードも、摺り足のように滑るように動きすれ違い際、刀と光刃がぶつかり交わった。

 

『セヤッ!!』

 

『キエェェイッ!!』

 

ーーーーズバァンッ・・・・!!

 

一瞬の閃光が走ると、お互いに背を向けたジードとザムシャー・・・・が、ザムシャーのその手には、星斬丸の刀身が半分無かった。

 

ーーーードス・・・・!

 

星斬丸の半分の刀身が、近くのアスファルトに突き刺さる。

 

『わ、我が星斬丸が・・・・!』

 

幾つ物戦場を共に駆け抜けた相棒とも言える愛刀が折られた事に、ザムシャーは愕然となってしまった。

そして、その隙を見逃すジードではない。

 

『ハァァァァァ・・・・『ナイトストリーム』!!』

 

上げた左腕に右腕を合わせ、光がチャージしながら頭上にまでゆっくりと動かし、交差した腕を眼前に下ろし、右腕を突き出すと、光線がヤイバのように真っ直ぐ放たれその際に花弁がジードの周りに舞い散り、ザムシャーに当たった。

 

『ヌゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

倒れたザムシャーはその鎧に守られ、爆発はしなかったが、最早戦える状態では無くなっていた。

 

『ガっ! グゥゥゥッ!!』

 

だが、ボロボロになりながらも、起き上がったザムシャーは正座する。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ジードがゆっくりと近づくと、ザムシャーは顔を上げてフォトンナイトを見上げる。

 

『無念なり・・・・!・・・・斬れ。生き恥を晒すつもりはない』

 

『「・・・・・・・・・」』

 

ザムシャーが斬れと言うが、ジードは背を向けてその場から去ろうとする。

 

『待て! 拙者に生き恥を晒せというのかっ!?』

 

『「あのね。僕はアンタを殺すつもりはないよ。それに、アンタまだ修行中の身だろう? もっと腕を上げてきなよ。また相手になってやるさ」』

 

『し、しかし・・・・!』

 

『「前に、アンタのように生き恥を晒すくらいなら殺せと喚いていた子がいましてね。同じ事を言わせてもらうけどーーーー【この程度の負けで捨てるような安い命なんて、奪う価値もないと思っただけさ】」』

 

ジードがチラッと、飛鳥達のいる所に目を向けると、夜桜がバツが悪そうに目を背けていた。

 

『・・・・・・・・』

 

『「それにーーーー正直言うと、これ以上戦うと、"傷口が開いてしまう"」』

 

『?ーーーーっ!』

 

ザムシャーがジードの左脇腹を見ると、斬られた傷があった。ザムシャーの星斬丸による負傷だ。

 

『「お互い。もっと腕を研いてから再戦しよう」』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

ザムシャーはゆっくりと立ち上がると、突き刺さった星斬丸の折れた刀身を拾うと懐にしまい、刀は鞘に納めた。

 

『・・・・必ずや再戦をしよう。ウルトラマンジード』

 

『「ーーーーああ、ザムシャー」』

 

お互いに背中を向き合わせたまま、ウルトラマンジードは空へと飛び立ち、ザムシャーは光の輪に包まれると、その場から去っていった。



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調査のゼロ、妖魔の事情

ー理巧sideー

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

時刻は18時。理巧は基地に戻ると、ザムシャーに斬られた傷を針と糸で脇腹を縫い合わせると、痛みに弱冠悶える。

 

「おいおい理巧。アタイの『コスモスカプセル』か、叢の『ルナミラクルゼロカプセル』で治療すれば良いだろう?」

 

葛城が自分で治療する理巧に苦笑しながら言う。

 

「あまり、そう言う能力に頼ってばかりだと、自己治癒力が落ちてしまうし、命を顧みなくなるのはイケないと思うから、治療できる事は自分で、と思ってさ・・・・! ふぅ」

 

「存外、ストイックな所がありますね、理巧さん」

 

「だけど、今回の傷はあと数ミリ深く入っていたら、内蔵が溢れていたくらいよ」

 

「危ない勝負をするのは感心しませんよ理久くん」

 

雪泉に春花が苦笑し、斑鳩が苦言を言いながら、治療を終えた理巧に上着を羽織らせる。

 

「今回は、勝負をしないとこっちがやられていましたよ」

 

《傷は大きく深いです。理久の回復力を持っても、後に二十一時間四十七分はかかります。あくまで安静にしていればですが》

 

「理久にそれだけの傷を付けるとは、あのザムシャーという侍、それほどの使い手だったか・・・・」

 

理久の傷口の状態をレムが詳しく報告し、叢がザムシャーの実力に驚いた。

 

「傷を早く治すなら、栄養のある料理を食べるのが良いじゃろう」

 

「それじゃ! りっくんに美味しい料理を作って上げればいいよね!」

 

「と言うことで! 理久さんにはこれからわたくし特性のモヤシ料理をたっぷり作ってあげますわ!」

 

夜桜が言うと、飛鳥が元気よくそう返し、植物プラントの菜園ルームからモヤシを籠一杯に入れてきた詠がそう言った。

 

「なあ詠。最近菜園ルームのモヤシのスペースが広くなってないか?」

 

「もう五分の一がモヤシに占領されとるわ」

 

同じく菜園ルームから野菜を持ってきた焔と日影が半眼になってそう言った。

事実、最初は菜園ルームの小さなスペースだけだったモヤシのスペースが詠が基地に入り浸るようになってから徐々に広がっていったのだ。

 

「まぁ食費の節約になるから良いけどね。それに最近、斑鳩姉さんとかが料理の勉強を詠さんに教えてもらっているけど、どうして?」

 

「えっ、それは、その・・・・////」

 

斑鳩が頬を赤らめて言い淀む。『理久に手料理を振る舞いたい』という考えているので、今は黙っているのだ。そんな斑鳩の反応に、葛城がニヤニヤとしていると、ふと基地の隅に視線を向けると、雲雀と柳生、未来と四季と美野里が何やら話し合っているのが見えた。

何やってんだ思い、話しかけようとしたその時、転送エレベーターから、神妙な顔をした霧夜先生がやって来た。

 

「ーーーー理久。少しいいか?」

 

「ん? どしたの?」

 

「実はーーーー先ほど〈AIB〉から話が来てな・・・・」

 

霧夜先生は、基地に置かれたロッキングチェア(理久がおふざけで中古屋で買ってきた)に腰掛けながら話し出す。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

ー霧夜先生sideー

 

時間は、理久がザムシャーとの戦いを終えた頃。

霧夜先生は〈AIB〉にて、ハルカとナリカとスバルに伏井出ケイを任せ、担当編集者を保護し、彼の証言も使って伏井出ケイの捕縛を進言しに善忍上層部に行ったが、相も変わらず『宇宙人問題に我々善忍は干渉しない』の一点張りの上層部に僅かに苛立ちを感じていた霧夜先生は、鷹丸とゼナが使う〈AIB〉の車の後部座席に座り、基地のある展望台の近くにまで運んで貰っていた。

スマホを見てみると、鈴音先生‹凜›からの連絡が入っており、悪忍上層部に伏井出ケイの捕縛もしくは抹殺を進言しているが、伏井出ケイの事は善忍の動きを抑えてからと言われ、悪忍上層部も聞く耳を持たない状態であった。

因みに、伏井出ケイはハルカ達と僅かな間だけ戦うと、すぐに転送装置を使ってその場から逃げたようだ。

 

【結局、善忍上層部も悪忍上層部も、協力しないの一点張りか】

 

【ああ。お互いに不毛な睨み合いが忙しいようだ】

 

【たくっ、古い考えに縛られた大きな組織ってのは、思考が頭でっかちで動きが鈍重な、老害な木偶の坊だな】

 

善忍と悪忍の両方の上層部のくだらない睨み合いに霹靂する鷹丸。ゼナはヤレヤレと肩を竦めながら霧夜先生にガラス板、否、液晶しかないタブレットを取り出すと、ソコに表示された、伏井出ケイの映像と宇宙空間の座標を見せた。

 

【伏井出ケイの正体は『ストルム星人』。捕まえるのは困難と判断し、諜報に徹する事にした】

 

【この座標は《霧夜。俺に変わってくれ》ゼロ? 分かったーーーー(デュオン!)ーーーー銀河座標、銀経二百十三度、銀緯マイナス十三度?】

 

【ああ。アイツらは『超光速思念体通信』を行う事ができる】

 

【ストルム星人が発した電波を、五百二十三種類のあらゆる手段で観測・計算した結果、その場所が割り出されたんだ】

 

霧夜先生、もといゼロが訝しそうに見ていたデータを、ゼナと鷹丸が詳しく説明した。

 

【ここに『黒幕』がーーーーもしかしたら、ベリアルがいる】

 

【(コクン)】

 

ゼナの言葉に、鷹丸も頷いた。

 

【・・・・何故俺に、こんな重要な情報を見せる?】

 

【・・・・調査にして欲しいからだ。ウルトラマンゼロ】

 

【ふっ・・・・ウルトラマンジードに頼んだらどうだ? 鷹丸からの頼みだと言えば、アイツは文句も見返りと打算も抜きで引き受けてくれるぜ?】

 

【いや、俺もハルカ達も、まだ理久に自分の職業を打ち明ける心の準備がな・・・・】

 

理久の性格をある程度把握したゼロがそう言うが、鷹丸がバツの悪い顔をして顔を背け、ゼナが話をする。

 

【ウルトラマンジードは、つい先ほどのザムシャーとの戦いで負傷している。それに、我々の組織内でも、彼の見解は割れているのだ。まだ全幅の信頼を寄せる訳にはいかない、と】

 

 

 

 

* * *

 

 

 

霧夜先生は鷹丸の事を交えず、〈AIB〉からの調査依頼を理久達に説明した。

 

「とまあ、その調査をする為に、俺とゼロは暫く地球を留守にすると、教師という立場上お前達にも言っておこうと思ってな」

 

「そう言う事でしたら、わたくし達も文句はありませんが・・・・」

 

「〈AIB〉の人達、りっくんの事を疑っているんですか!?」

 

「善忍上層部も悪忍上層部も、怪獣騒動が多発しているのに、まぁだお互いの腹の探り合いが忙しいってか!?」

 

斑鳩が霧夜先生の話に納得するが、飛鳥と焔、否、斑鳩を含めた他の皆も、それぞれの温度差はあれど、各々の上層部の能天気さと言うか、現実を見てなさ具合と言うか、憤然としていた。

 

「上層部の事は一先ず置いておいて、おじさん。ーーーーウルトラマンベリアルがそこにいるの?」

 

理久にとって、上層部の腹芸も、〈AIB〉の思惑も、正直どうでも良いが、霧夜先生とゼロがこれから赴く座標の方が気になったようだ。

 

「・・・・もしかしたら、だがな。理久。ザムシャーと戦って次の変身までは?」

 

「・・・・あと十八時間は掛かるってさ」

 

「そうか。まぁ、本当にベリアルがいるかどうかは分からないが、調べてみる価値はありそうだ。が、伏井出ケイが何かアクションを起こしてくる可能性も十二分にある。理久。変身可能時間になるまで、傷の療養に励めよ。他の皆も、気を抜くんじゃないぞ」

 

『はい!』

 

霧夜先生の言葉に、理久以外が力強く頷いた。が、理久は一つだけ気がかりとなっている事を霧夜先生から聞くために口を開く。

 

「おじさん。この間僕達が遭遇した、異形の怪物達。おじさんは心当たりがあるんじゃないの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ーーーー『妖魔』。

それは『忍結界』内にて、忍が流した血を糧に現世に誕生すると言われている人間とは違う種族の異形の者達。

古来より、人間に仇なす存在として言い伝えられ、何人も善忍たちが妖魔退治で命を落としたと、霧夜先生は全員に伝えた。

 

「ふぅん。それじゃ、伏井出ケイは妖魔を支配下にしているって事か・・・・」

 

「可能なのですか? 霧夜先生」

 

雪泉の質問に、霧夜先生は応える。

 

「・・・・不可能ではない。十年前、遥か過去の時代から現代を侵略に来た『ノロイ党』による『ノロイ党事件』。忍の世界や一般の世界に起こった大事件。その際、『ノロイ党』は当時の忍達の血から生まれた妖魔達を自分達の軍勢に加えていたからな」

 

「『ノロイ党』・・・・?」

 

その単語に、理久はピクリと反応すると、斑鳩がコホンと咳払いをして、詳しく話す。

 

「霧夜先生が言ったように、十年前、『クライシス・インパクト』によって生まれた時空間の亀裂よりやって来た邪悪な集団『ノロイ党』。当時の忍達も戦いましたが、『クライシス・インパクト』によって多くの忍が殉職し、さらにまだ数年しか経っておらず人材も不足していました」

 

「男性の忍は悉く殺され、くノ一達は奴らに殺されるか嬲り物にされていたそうですわ」

 

因みに、当時学生だった鈴音先生‹凜›と大道寺先輩も、『ノロイ党討伐』の忍務について戦っていたのだが力及ばず、後少しのところで嬲り物にされそうになっていた時に、霧夜先生と半蔵に助けられた。

しかし、スーパー忍者を目指していた鈴音先生‹凜›にとって、この敗北は深い傷となってしまい、その傷を埋めようと霧夜先生に無理を言って『特殊忍務』に付いたが、その時に行方不明となり、道元に拾われ、蛇女子学園の忍となったのだ。

 

「そして、その『ノロイ党』を壊滅させたのが、『伝説の閃忍』と呼ばれる三人のくノ一だ。彼女達は未だ全国のくノ一達の憧れの忍とされている」

 

詠と叢が補足をすると、理久はその『伝説の閃忍』に心当たりがあったが、言わないでおいた。

 

「ーーーーま、妖魔が伏井出ケイの戦力になっているなら、これからさらに気を引き締めながらならない。修行を怠るんじゃないぞ」

 

霧夜先生の言葉に善忍・悪忍が頷いた。

すると理久は、カプセルホルダーから、二本のウルトラカプセルを取り出すと、霧夜先生に投げ渡す。

 

「おじさん。ゼロ。持っていきなよ」

 

「ーーーーおっと、これは・・・・!」

 

ーーーーセェヤァッ!

 

ーーーーフッ!

 

渡されたのは、『ストロングコロナゼロカプセル』と、『ルナミラクルゼロカプセル』だった。

 

「・・・・理久」

 

「向こうで何が起こるか分からないんだ。これくらいの手助けはさせてよ」

 

「(デュオン)・・・・ふっ、サンキュー理久。この二つがあれば百人力だぜ!」

 

霧夜先生はゼロに変わると礼を言った。現在ゼロの最強戦力は『ゼロビヨンド』だが、『ストロングコロナゼロカプセル』と『ルナミラクルゼロカプセル』に内包されたエネルギーを使う事で、『ストロングコロナゼロ』や『ルナミラクルゼロ』へと変身が可能になった。

これで、未だ本調子ではないゼロの戦力が上がる。

 

「(デュオン)ーーーー皆。修行は怠るなよ。特に理久。お前も少しはやる気を出して訓練に取り組め。偶には飛鳥達と模擬戦をしたりな」

 

「は~い。まぁこの怪我じゃぁ今日明日は無理ですけど」

 

ヒラヒラと手を振る理久に、やれやれと息を吐いた霧夜先生が基地を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地を出た霧夜先生。そしてそれを見送ろうと、理久に飛鳥達に焔達、そして雪泉達もやって来た。

 

「皆。伏井出ケイが何か仕掛けてくるかもしれん。十分に警戒しておけよ」

 

『はい』

 

「おじさんも気をつけなよ。ベリアルがいるにしても、いないにしても、警戒はしないに越した事はないんだからさ」

 

「あぁ。行くぞゼロ」

 

霧夜先生はウルトラゼロアイNEOを懐から取り出して、目に当てスイッチを押した。

 

「シャッ!!」

 

すると、霧夜先生の身体が光り輝き、ウルトラマンゼロへと変身すると、宇宙へと飛び立った。

 

『シュァッ!』

 

 

 

 

 

ー理久sideー

 

「・・・・ねえ、りっくん」

 

そして理久はその夜。皆で晩御飯を終え、傷の治癒に集中していると、飛鳥が話しかけてきた。

 

「ん・・・・? どうしたの?」

 

「今日、ザムシャーさんと戦った地区って、りっくんの家があったんだよね?」

 

「あぁ。そうだよ」

 

「・・・・りっくんの家族って、今どうしているのかなぁ? って思ったんだけど、どんな人達なの?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

飛鳥の言葉に、理久は周りを見ると、他の皆も聞き耳を立てていたりしていた。ペガに視線を向けると、『そう言えば皆に、鷹丸さん達の事。話してなかったよね?』と視線が送られた。

 

「(・・・・・・・ハルカさんとナリカさんとスバルさんが『伝説の閃忍』かも知れないというのはヌキにして、話をしても良いかもな)ーーーーまぁ良いけど。そうだなぁ、僕は八歳以前の記憶は朧気だけど、それから先の事を話すよ。僕を養子として育ててくれたのが、旦那さんで父さんの鷹丸さんと、母さんである"三人の奥さん"」

 

『ぶっ!?』

 

"三人の奥さん"という所で、飛鳥達は全員思わず吹き出してしまった。

 

「さ、三人っ!? りっくんの養母さんって、三人もいるのっ!?」

 

「うん。三人とも若くてね。僕とは・・・・一番上の母さんは十五歳くらい、二番目の母さんは十二歳くらい。一番下の母さんは七歳くらい離れていてね。近所だと歳の離れた姉弟と思われていたよ」

 

「いやいやいやいやいやいやいや! ソコじゃねぇよ!」

 

「三人も奥さんがいるだなんて! 重婚じゃないですか! 犯罪じゃないですかっ!」

 

焔と雪泉が勢いよくツッコんだ。

それに続くように、他の皆もヒソヒソと話しだした。

 

「マジかよ。理久って結構爛れた環境で育ったのか?」

 

「どうりで理久くんが次から次へと女の子を無自覚にオトシていっている筈ですわね」

 

「三人も奥さんがいるその養父に悪影響を受けていたか」

 

「でもでも、理久くんが優しいから、きっと良いお父さん何じゃないかな?」

 

「貧民街でも、モテる男性もしくは女性には複数の方と結婚しているような様子でいますし」

 

「そら大家族やな」

 

「理久が妙に女の子の裸体に慣れていたのも、そのお母さん達が影響してるかも」

 

「そうじゃなかったら、こんな女の子だらけの空間で平然としていないわね」

 

「し、しかし、三人も奥方を・・・・/////」

 

「不純じゃ! 不潔じゃ! 淫猥じゃ!!/////」

 

「う〜む。理久っちも何人も女の子を侍らかせっかも? あっ、ウチらがそれか」

 

「どんなお父さんとお母さん達なのかな?」

 

他のメンバーもヒソヒソと理久の家族がどんな人達なのかコソコソと話をしていた。

 

『因みに、理久を鍛えてきたのも、その三人の奥さん達なんだよ』

 

『え"っ!?』

 

忍少女達がまたもや目を見開く。あの! 最強の大道寺先輩ですら「本気でやらねばこちらが死ぬ」と言わしめ、蛇女子選抜メンバーの焔達を総ナメにし、蛇女子学園をほぼ一人で制圧し、善忍のエリートである月閃女学館の雪泉達にも圧勝した。もう鬼のように強い理久を鍛えた三人の奥さん達に戦慄したのだ。

 

『(理久くんのお母さん達って、ゴリラみたいな人達なの?)』

 

と言わんばかり乃視線を送ってきた。

 

『何か鷹丸さん達。最低男やゴリラ女って言われてるよ?』

 

「まぁ鷹丸さんの方は傍から見るとそう思われるし、ハルカさん達の方は後々面白そうだから黙ってよう」

 

ペガとコッソリとそんな話をしている理久。

 

 

 

 

 

 

 

ー鷹丸sideー

 

「ーーーーへっきしゅんッ!」

 

「「「ーーーークシュンっ!」」」

 

その頃、伏井出ケイとの戦いで少し負傷したハルカとナリカとスバルの治療をしていた鷹丸は、奥さん共々盛大なクシャミをしていた。




次回、伏井出ケイと対面する!


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遂にご対面だぜ、伏井出ケイ!

ー理巧sideー

 

ゼロが飛び立って翌日の昼。理巧は飛鳥達と焔達と雪泉達とウィンドウショッピングに来ていた。

 

「焔ちゃん達、お洋服とか買っておいた方がいいよ。いつもジャージで過ごしてるって言うし。りっくんとデートする時とかに備えてね」

 

「うるさい!・・・・でもまぁ、少しは服とか選んでおくか」

 

「よぉし! んじゃ日影も着替えて見ようぜぇ! このチャイナドレスとか! ミニスカメイドとか! ミニスカポリスとか!」

 

「アンタの趣味全開やな」

 

「いや、お巡りさん。我は怪しい者では・・・・」

 

「おい夜桜。叢が警察に職質されてるぞ」

 

「あんな怖いお面付けて街を歩くから」

 

「はぁ・・・・回収して来ます」

 

「四季さん! 美野里さん! 最近雲雀さん達と蛇女の悪忍と何か話していると思ったら、新作のゲームを買いに来ていたのですか!?」

 

「ふぇぇ〜ん!」

 

「良いじゃん雪泉っち。偶には息抜きは大事っしょ?」

 

「未来さん。バイトの量を増やしたと思ったらゲームを買う為だったんですの?」

 

「だって、最近ネットゲームで『紫忍者』ってネームの奴がいて、ソイツに負けないように訓練しようと思って・・・・」

 

「雲雀さん。幾ら理巧くんが優しいとは言え、あまり基地にご自分の私物を置くのは感心しませんわよ」

 

「でもでも、雲雀、未来ちゃん達と一緒にゲームしたいなぁって・・・・」

 

「女三人寄れば姦しいと言うが、十五人もいれば五倍姦しいな。ペガ、悪いけど『ダークゾーン』に買った物入れてくれる?」

 

『良いよ♪』

 

それぞれが姦しくも、楽しげな会話を繰り広げ、理久はペガの『ダークゾーン』に、買った物を収納していた。

買い物をそれなりに終えて、基地に帰ろうとする一同。

だがーーーー。

 

「・・・・んっ? あーちゃん、焔、雪泉さんこれ?」

 

「え?」

 

「は?」

 

「??」

 

ソコで理巧は、飛鳥と焔と雪泉の顔を交互に見ながら、素っ頓狂な声を上げた。斑鳩達に詠達、叢達も飛鳥達を見て訝しそうな顔をする。

飛鳥と焔と雪泉の額に、まるでライト光機のようなマーカーが、付けられていたのだ。

三人も、理巧久の反応に戸惑い首を傾げた。

 

「・・・・っ! 三人とも!」

 

と、その時ーーーー三つの方向から殺意を感じた理巧は三人を突き飛ばした瞬間。

 

ーーーーバシュッ! バシュッ! バシュッ!

 

今し方まで三人がいた地点に、五百円玉くらいの大きさの円形の穴が、地面にプスプスと煙をあげながら開いていた。

 

「「「なっ!?」」」

 

『っっ!!?』

 

飛鳥と焔と雪泉。そして斑鳩達に詠達、叢達も異常事態に目を見開き、手に手裏剣やクナイを持って周囲を警戒して身構える。

 

『理巧! あそこ!』

 

「なっ!?」

 

『はぁっ!?』

 

ペガが示した方向を見て、理巧も忍達も目を見開いて驚いたがそれも仕方ない。

何故なら、追っていた敵がーーーー伏井出ケイが、ベンチに座り優雅に本を読んでいたのだから。

 

「・・・・やっと見つけたよ」

 

『伏井出ケイ!! っ!!』

 

理巧が伏井出ケイに近づき、忍達も動こうとするが、足元に光線が飛び、三つの穴が作られ、思わず動きを止めた。

 

「半蔵学院のお嬢さん達! 抜け忍のお嬢さん達! 並びに月閃女学館のお嬢さん達! スナイパーがあなた達を狙っています。それでも動くなら・・・・」

 

伏井出ケイの声が少し距離がある忍達の耳に届くが、周囲の人達には聞こえていないようだ。恐らくそう言う事ができる装置でも使っているのだろう。

伏井出ケイは視線を母親と手を繋ぎながら、もう片方の手で風船を持っていた女の子に向けると、女の子が持っていた風船に光線が発射され、風船が割れて女の子が泣く。

 

「・・・・!」

 

『ーーーーっ!』

 

理巧が視線を鋭くし、忍達が目を見開く。

それを見て伏井出ケイは次に、可愛らしい赤ん坊を抱いた奥さんと、ベビーカーを押す旦那さんに目を向けると、ベビーカーの左右のタイヤが二つの光線で破壊され、夫婦が何だ何だ? とベビーカーを見る。

 

「もしもあなた方が逃げようとしたり、『忍結界』を展開しようなどと余計な行動をしようとするものなら、スナイパーはここにいる無関係な市民を撃つように言ってあるんですが。それでも、やりますか?」

 

「や、やめて!」

 

「貴様ぁっ!」

 

「なんて卑劣なっ!!」

 

飛鳥は顔面蒼白になり、焔と雪泉が顔を強ばらせる。他の皆もそれぞれ苦い顔や憤怒の顔になるが、動く訳にはいかず、そのまま立ち往生してしまう。

 

「・・・・くっ!」

 

「ーーーーまだ殺しはしない。君が対話に応じなくなるのは困りますからね」

 

伏井出ケイの言葉に、理巧は顔を顰める。

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

忍達の後ろ、伏井出ケイに見えないようにして、『ダークゾーン』からペガが顔をヒョッコリ出した。

 

『皆・・・・』

 

「ペガくん。こっちに来てたの?」

 

『助けがいると思って・・・・』

 

飛鳥達と焔達と雪泉達は、ペガの姿を伏井出ケイやスナイパー達に見えないように配置する。

 

「スナイパーは三人いるが、何とかできるか?」

 

『レムが位置を見つけてくれている。やってみるよ!』

 

「ペガくん。コレを持って行って」

 

春花がコッソリ懐から、自作の薬が入った三つの試験管をペガに投げ渡した。

 

『わっとと! ありがとう春花!』

 

何とか三つとも手にしたペガが、『ダークゾーン』の中に入っていった。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

伏井出ケイが、理巧に話しかけてくる。

 

「十六歳か・・・・早いなぁ・・・・。“君が『研究施設』で訓練励んでいたのが、まるで昨日の事のようだ”」

 

「っっ!!」

 

伏井出ケイの言葉に、理巧はーーーー“八歳以前の記憶が、次々と蘇ってくる”。

まだ意識が覚醒する前、自分を見つめる『冷酷な瞳』。

あらゆる痛みに耐えれる頑強な肉体を作る拷問。

食べさせられる食事も水も、全てが即死性の毒。

常に『死』と隣合わせの訓練。

今朝方、隣にいた人間が、昼頃には死体になっているのが当たり前の日常。

人が肉片になってしまう光景が当たり前。

毎日毎日、心が摩耗していくような日々。

己の心が空虚になっていくような感覚。

そしてーーーーそれらが炎に包まれて無くなっている光景。

 

「ーーーーまさか、アンタが・・・・!」

 

記憶にある『冷酷な瞳』が、伏井出ケイに重なる。

 

「ーーーー殺す前に話しておきたかった。八年前、君が育った『研究施設』を滅ぼし、君を野に放ったのはーーーー私だ」

 

「っ、やっぱり、か・・・・!」

 

僅かに動揺する理巧の顔を見て、伏井出ケイは嘲弄の笑みを浮かべながら続ける。

 

「フフッ、いい反応だ。絵描きがいたらその間抜け面を書かせていたのになぁ!」

 

「お前は何者だ?」

 

「私の事よりも、自分が何者なのかのを心配したまえ」

 

「・・・・・・・・」

 

伏井出ケイは、動揺する理巧を面白がっているような笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

ーペガsideー

 

『・・・・・・・・』

 

『〜〜〜〜!』

 

ペガがスナイパーの1人を見つけた。『宇宙帝王』を自称する『バド星人』だった。

 

『・・・・よし!』

 

ペガは、バド星人の背後に回ると、春花から貰った試験管の一つを手に持って、バド星人に向けて投げつけた。

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「私の目的は、起動した状態の『ウルトラカプセル』の収集だ。しかしカプセル起動に必要な『リトルスター』は、ウルトラマンにしか反応しない。ソコで私は『ベリアル様』に提案した」

 

「『提案』?」

 

「【カプセル起動を促す存在を作ってみてはどうか?】、と」

 

「っ、まさか・・・・!」

 

雪泉が、否、何人かが、目を見開く。

 

「ベリアル様の遺伝子を預かり、『研究施設』で、“ウルトラマンになり得る生命体を作った”。ーーーーそれが、君を含んで・・・・ざっと百人以上だよ。ーーーー『No.〇七九号』、だったね?」

 

「っ!」

 

『っっ!!??』

 

忍達は驚愕に目を見開いた。

ーーーー理巧は・・・・暁月理巧は、“人工生命体”だったという事だ。

理久自身、凄まじい動揺で言葉を失うが、何とか堪えて言葉を発する。

 

「・・・・・・・・・・・・思い出したくも、懐かしいと欠片も思えない名前だ。アンタの話が本当ならーーーー僕は、イヤ僕達は、『ウルトラカプセル』を起動させる為に、あんな訓練という名の拷問を受けていたのか?」

 

「ベリアル様の力を受け継ぐには、並大抵の肉体と精神力ではとても耐えられない。肉体の限界を超えた訓練は他の試験体が死んでいったが、君は生き残り『超人』になったんだ。感謝して欲しいくらいだね? だが、肉体は幾らでも鍛えられても、精神はそうはいかなかった。だから、唯一生き残った君を野に放ち、ソコで精神を鍛えようと思ったんです。ーーーーあの道元‹ゴミ›に拾われれば、使い捨ての道具になっていただろう。ーーーーあの黒影‹骨董品›に拾われても、つまらない正義漢気取りになっていただろう。ーーーーあの戦部家‹人間達›の元に拾われたのは、行幸とも言えますね?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は、呼吸が段々荒くなっているのに気づき、何とか落ち着かせようと浅く深く息をする。

伏井出ケイはそんな理巧の様子を滑稽と見るように、ニヤついた笑みて言葉を発する。

 

「君はーーーーウルトラマンジードとして、『正義の味方』にでもなっていたつもりだったのだろうが」

 

「(ーーーーイヤ、それは全っっっ然思っていない。寧ろ面倒事をやるハメになったと思っているから・・・・)」

 

途端、理巧の動揺がかなり収まり、気持ちが冷静になる。

 

「戦ってあげていたのだよ。私が」

 

「(こっちは別に戦って欲しいと思ってないんですが? アンタが面倒を起こすから相手していただけだし・・・・)」

 

理巧は内心半眼になり、少し呆れながら思うが、伏井出ケイは構わず続ける。

 

「私が、君がウルトラマンになるように誘導していた。君に『リトルスター』を譲渡した人間達は、つくづく愚かだと思わないか?」

 

「は?」

 

「私は今日、君の持っている『ウルトラカプセル』を、全て受け取りに来た。君の仲間が余計な事をしたせいで、早急に必要になったんだ」

 

「(仲間・・・・〈AIB〉か。どうやら、おじさんとゼロの向かった座標に、ベリアルがいる可能性が、これで一気に高くなったな・・・・)」

 

思案する理巧に構わず、伏井出ケイはあくまで表面上はにこやかに話す。

 

「お体の完全なる復活とは行かなくとも、ベリアル様が新たな拠点へと向かうには十分過ぎる程揃っている。さぁーーーー渡しなさい」

 

伏井出ケイが手を差し出すと、理巧は努めて冷淡に応える。

 

「ーーーーアンタさ、馬鹿か? そんな事言われて、ハイ渡しますと言うと思ってる?」

 

「言いますねぇ。ですが、渡さぬなら君の友達を撃つ」

 

「・・・・ふん。アンタの弱点が一つ分かったよ」

 

「ん?」

 

「アンタは周りの人達を、取るに足らない低レベルな存在としか見ていない。ーーーーそんな、道元‹ゴミ›と同レベルの傲慢な考えだから、簡単に足元を掬われる!」

 

理巧が装填ナックルを握ると、レムの声が響く。

 

《理巧。全てのスナイパーを無力化しました》

 

 

 

 

 

 

ーペガsideー

 

『フン!ーーーーこれで、おしまい!』

 

『『『ZZZ・・・・ZZZ・・・・ZZZ・・・・』』』

 

ペガは、理巧が伏井出ケイの話を聞きながら時間を稼いでいる間に、春花から貰った強力睡眠薬入りの試験管をバド星人達に投げつけて浴びせて、三人仲良く眠らせると、全員から武器を奪い、ロープでこれまた三人仲良く縛り上げた。

 

《お見事です。ペガ》

 

『へへっ。理巧や皆のおかげだよ!』

 

試験管の投擲と、気配を殺すやり方、縄を使った拘束術は、理巧や飛鳥達、忍の仲間達に教えてもらっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「(コクン)ーーーー皆!」

 

『(コクン!)』

 

ーーーーシュバッ!

 

飛鳥と斑鳩と葛城、焔達紅蓮隊、雪泉と叢と夜桜が、伏井出ケイを包囲するように展開し、柳生と雲雀、四季と美野里はペガの方に応援に向かった。

 

「形勢逆転、かな?」

 

囲んだ一同が武器をコッソリと構え、いつでも動けるように構えている。が、伏井出ケイは余裕の態度を欠片も崩さなかった。

 

「クックック、残念だ。君が『ウルトラカプセル』を渡していれば、この静かな街がーーーー瓦礫の山と化す事は無かったのになぁ!」

 

ベンチから立ち上がった伏井出ケイのその手には、ライザーが握られていた。

 

「っ、やめろ!」

 

『っ!!』

 

「はぁっ!!」

 

止めようと動き出す理巧と忍達だが、伏井出ケイがライザーを握っていない手から黒いエネルギーを放出しながら振るうと、

 

「ぐっ!」

 

『ああっ!!』

 

そのエネルギーに、理久は後退し、飛鳥達は倒れてしまう。

 

「“〈光の国〉からライザーとカプセルを盗んだ時”、君と戦うのは宿命となっていたのだよ」

 

「(〈光の国〉から盗んだ・・・・?)」

 

理巧は伏井出ケイの言葉の一部に反応するが、伏井出ケイは気にせず、身体から黒いオーラを漂わせながら薄く笑みを浮かべ、目を瞑って呟く。

 

「ーーーーベリアル様。私に力をお貸し下さい・・・・!」

 

カッと目を開いたその目は赤く光り、身体のオーラが伏井出ケイを包み込んだ。

そして伏井出ケイは、キングジョーのカプセルを起動させた。

 

「キングジョー!」

 

ーーーーピー! グワシ! グワシ!

 

キングジョーの駆動音が響き、『キングジョーカプセル』を装填ナックルに入れる。

 

「ゼットン!」

 

ーーーーピポポポポポ、ゼットーンッ!

 

次に、笑みを濃くして『ゼットンカプセル』を起動させて、ナックルに装填し、ライザーの握り手のスイッチを押す。

 

「これでエンドマークだ!」

 

ライザーでナックルをスキャンする。

 

ドクンッ! ドクンッ!

 

ナックルのカプセルのエネルギーを読み込んだライザー中央のカプセルが目映く発光して、音声が流れる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「ハァアアアアアア・・・・ハァアッ!!」

 

ライザーを胸元に持ってきて、起動スイッチを押した。

 

『キングジョー! ゼットン! ウルトラマンべリアル! ペダニウムゼットン!!』

 

伏井出ケイの姿が『ウルトラマンベリアル』の姿へと変わり、ベリアルの前に『キングジョー』と『ゼットン』の姿が現れると、2体は緑色と青色の粒子となってベリアルの口の中へと吸い込まれ、ベリアルの姿が変貌した。

ゼットンにキングジョーのパーツが食い込んだような様はまるで、『サイボーグ化したゼットン』といえる姿。角や両腕の爪はカイザーベリアルを思わせる赤く禍々しいものになっていた。ベリアルの胸部のカラータイマーは首元にある。

 

『ピギュポポポゼットーンッッ!!』

 

新たな融合獣、『ベリアル融合獣 ペダニウムゼットン』が誕生した。

 

「りっくん!」

 

「・・・・皆、避難誘導を頼む。アイツは、伏井出ケイはーーーー僕がやる! これは僕の意志だ!」

 

理巧はジードライザーを構えると、カプセルホルダーから『ウルトラマン』のカプセルを取り出し、スイッチを押して起動させる。   

 

「融合!」

 

ーーーーシャアッ!

 

カプセルから青い光の線が幾つもの放たれ、『初代ウルトラマン』の姿が現れ、カプセルを装填ナックルにいれる。

 

「アイ・ゴー!」  

 

すぐに『ウルトラマンベリアル』のカプセルを取り出し起動させ、『ウルトラマンベリアル』の姿が出現した。

 

ーーーーウエェェッ!

 

『ベリアルカプセル』をナックルに装填し、ジードライザーのスイッチを押して起動させた。

 

「ヒア・ウィー・ゴー!!」

 

装填したナックルを取り外し、ジードライザーにスキャンさせる。

 

ーーーードクンッ! ドクンッ!

 

ジードライザーの中央のカプセルに、青と紫の光が交差するように交わる。

 

[フュージョンライズ!]

 

「決めるぜ、覚悟!! ハァアアアっ!」

 

理巧はジードライザーを掲げて胸の前でスイッチを押した。

 

「ハァッ! ジイィーーーーード!!」

 

ライザーのカプセルが回転し赤く輝き、理巧の身体が青く輝く。

 

[ウルトラマン! ウルトラマンベリアル! ウルトラマンジード!! プリミティブ!!]

 

ウルトラマンとベリアルの姿が重なり合い、理巧は2人のウルトラマンの姿を合わさり、その姿を変える。

 

『シャァッ!!』

 

『ウルトラマンジード プリミティブ』と『ペダニウムゼットン』が、その姿を露わにする。

インナースペースにいる理久に、レムが通信を寄越す。

 

《地下基地を準備し、ジードライザーとカプセルを置いたのは、彼のようです》

 

『「・・・・レム。確認させて欲しい。君は『敵』か? それとも、『仲間』か?」』

 

《ーーーー現在のマスターは理巧。裏切る事はありません》

 

『「そうかーーーー僕は、お前達の手駒なんかじゃない!」』

 

理巧、ジードがそう言うと、ペダニウムゼットン、伏井出ケイが応じる。

 

『「ならば見せてみろ! お前が何者なのかを!」』

 

『「レム。民間人の避難はっ!?」』

 

《現在、飛鳥達が行っていますが、まだ逃げ遅れている人達が多くいます》

 

『「コイツを相手に被害が出ないように戦わなくちゃいけないか! キッツイなぁもう!」』

 

『シュアッ!!』

 

『ゼットン!』

 

ジードとペダニウムゼットンが、ぶつかりあった。



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大敗だぜ、ウルトラマンジード

遂に激突した理久と伏井出ケイ。二人の戦いの行く末は!?


ージードsideー

 

『シャッ!』

 

『(グワシッ)ゼットーン!』

 

ジードとペダニウムゼットンが組み合い、そのまま押し合うようにその場に留まる。足元のアスファルトは亀裂が凄まじい勢いで広がっていき、アスファルトが砕けたせいか建物が倒壊していく。

 

『ゼットーン!!』

 

『グゥゥゥッ!!』

 

体格の差か、ペダニウムゼットンがジードを押し出すが、ジードは一瞬飛鳥達に目を向けると、腰を落とし足の踏ん張りに力を込めて、ペダニウムゼットンを止めた。

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

ーーーーうわぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

ーーーーきゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

「皆さん急いで! 急いで避難して!」

 

「コッチだ! 慌てるんじゃあないぞ!」

 

「皆さん押さないで下さい!」

 

「あっ! 怪我はありませんか!?ーーーー無事なら安心しました。早く避難を!」

 

「どうしましたの!? えっ、お母さんとハグレたんですの!?」

 

「見つけた! 我が連れてくる!」

 

「おい大丈夫か爺さん! 背中に乗りな! アタイが運んでやるよ!」

 

「アンタどないしたんや? え? 足を怪我した? 肩貸したるわ」

 

「泣くでない! 男の子じゃろ? グッと堪えて、生き残る事を考えるんじゃ!」

 

「皆無事かっ!?」

 

「あっ柳生に四季! スナイパー達は!?」

 

「ペガっちが『ダークゾーン』に放り込んだし!」

 

「春花さんどうしたの!?」

 

「雲雀! 美野里! ペガくん! 手を貸して! 妊婦さんよ!」

 

「ええっ!? 大変だぁ!」

 

『急いで避難させよう!』

 

ジードとペダニウムゼットンが押し合いをしている間、ジードの後方では、飛鳥達半蔵学院。焔達紅蓮隊。雪泉達月閃女学館が、悲鳴を上げて逃げようとしている民間人を誘導していた。

飛鳥と焔と雪泉が誘導し、斑鳩と詠と叢が転んだ子や迷子になった子を避難させ、葛城と日影と夜桜が怪我をした人達を手助けして避難させ、柳生と未来と四季も避難誘導に参加し、雲雀と春花と美野里とペガが妊婦さんを運んでいく。

その場はまさにーーーー紛争地帯のような光景だった。

 

 

 

 

 

ージードsideー

 

『「(ーーーーちっ。まだ派手な立ち回りをする訳にはいかないな)」』

 

ジードは後方の行われている避難誘導を気にするが、今はペダニウムゼットンを押える事に集中する。

 

『シェァっ!』

 

ジードは押し合いでペダニウムゼットンを押し出すと、すぐにペダニウムゼットンの頭を掴み、その後ろ首に肘鉄をたたきつける。

 

『ピギュギュ、ゼットーン!』

 

『ウワっ!』

 

が、ペダニウムゼットンは頭を上げると、ジードにストンピングで距離を空ける。

 

『ハっ! ハっ! ハっ! ハァっ!!』

 

すぐにジードが拳や膝蹴りで連続攻撃するが、ペダニウムゼットンはその巨体から想像できない機敏な動きでジードの攻撃を全て捌いていく。

 

『ゼットーン!』

 

『グゥアッ!』

 

ペダニウムゼットンが、ジードの左脇をその赤いカギ爪を付けた拳を突き立て、捻るように動かす。

 

『ウゥっ!!』

 

『「確かここでしたよねぇ? "ザムシャーなどと言う虫けら”に負わされた傷があるのはぁっ!」』

 

『ぐっ! ああああぁぁぁぁぁっ!!』

 

痛みに悶えるジードが引き剥がそうとするが、ペダニウムゼットンが脇腹に何度も拳を叩きつける。

 

『グァっ! ウッ! アッ! アァっ!!』

 

激痛で動きが緩慢になり、インナースペース内の理久の脇腹から、傷口が開き始めたのか、ジワリと血が衣服に広がり始める。

 

『ゼットォォォォォンッッ!!』

 

『ウワァァッ!!』

 

ペダニウムゼットンは裏拳のように腕を振るうと、ジードは吹き飛び、すぐ後ろにあったビルを巻き込んで倒れる。

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

『っっ!』

 

巻き込んだビルの破片の幾つかが、飛鳥達のいる地点まで飛んでくる。

 

「はぁっ!」

 

「とりゃっ!」

 

「ふっ!」

 

飛鳥。焔。雪泉の三人はすぐに動き、二刀小太刀と六刀と扇子で、コンクリートの破片を破壊する。

他の皆も、それぞれの武器で破片を破壊した。

 

『くぅぅ・・・・っ! アッ!』

 

ジードに目を向けると、無事な飛鳥達がコクリと頷き、それが避難が完了した事を伝えた。

 

『(コクン)・・・・ハァっ!』

 

[ウルトラマンジード!! フォトンナイト!!]

 

『メッ!ーーーー『フォトンビームブレード』!』

 

ジードは姿を『フォトンナイト』に変えると、周囲に花弁が舞い散らせ、右腕から光の刃を伸ばし、さらにジードクロウを左手に持った。

 

『シュッ! ハッ! ヤッ!』

 

『グワシッ、ゼットーーン!』

 

ジードがビームブレードとジードクロウを振るい、ペダニウムゼットンもその両手のカギ爪を振るいジードの弱所になっている左脇腹を攻めようとするが、ジードは華麗な剣技と優雅な動きでその爪を弾いていく。

そんな攻防の最中、ペダニウムゼットンの内部の伏井出ケイが声を張り上げる。

 

『「ウルトラマンジード! ベリアル様に似たその姿を私に殴らせるのは不愉快だったぞ!」』

 

『「そんなの僕の知った事か!」』

 

『「お前は創られた『模造品』だっ!!」』

 

『グァァッ!!』

 

ペダニウムゼットンがジードの後方にテレポートすると、両手から赤いレーザー光線を発射し、ジードが武器を交差させて防ぐが、あまりの威力にビルを何本か巻き込んで倒れる。

ペダニウムゼットンがテレポートでジードに近づくと、その首を両手で掴んで立たせる。

 

『「ベリアル様の恩寵を受けるのはお前ではない! 私だ!! 私の方が優れている!! だからこそベリアル様は私に! "フュージョンライズできる力をお与えくださったのだ"!!」』

 

『ウワァっ!!』

 

掴んでいた腕を振り回し、ジードを投げ飛ばす。ジードは回転して地面に倒れる。

 

『クゥ!』

 

『グワワワ・・・・ゼットーン!』

 

ジードは武器を構えてペダニウムゼットンと横に移動すると、ペダニウムゼットンは眼前を遮るように立つ二本のビルを破壊しながら、ジードに迫り、カギ爪の腕で攻撃する。

 

『フッ! セヤッ!!』

 

しかし、ジードはビームブレードとジードクロウを駆使して、その腕を捌いていく。

だがーーーー。

 

『ゼットーン!』

 

『うおぉっ!!』

 

力を込めた拳の一撃でビームブレードが砕け、ジードクロウが弾き飛ばされてしまった。

 

『クッ!ーーーーハアァ!!』

 

『グワワワ!』

 

ペダニウムゼットンが体当たりを、ジードが全身のバネを使った回し蹴りを繰り出しぶつかるが、お互いに反動で後方に引く。

 

『グワワワ、ゼットーン!!』

 

ペダニウムゼットンが、両肩の角から赤い電撃を放ち、眼前に円状のエネルギーを生み出す。

 

『フッ!ーーーーハァァァァァァ・・・・!』

 

ジードも光線技の構えを取り、周囲に花弁が舞う。

 

『ゼットォォォォォォォォンン!!』

 

『『ナイトストリーム』!!』

 

ーーーービビビビビビビビビビビビ・・・・!!!

 

ジードの光線とペダニウムゼットンの電撃光線がぶつかり合い、それによってエネルギーが飛び散り、周囲に爆発を生み出していきながら、二体は円を描くように動く。

 

『「お前は自分が『救世主』か何かだと思っていたようだがそれは違うぞ! お前が存在しなければ街も蛇女子学園も破壊されずに済んだのだ!!」』

 

『「怪獣が出るのは、僕のせいだとでも言うのかこの元凶!」』

 

『「元凶はお前だ! 自分の存在が! 決意が! 如何に大勢を不幸にしているか自覚すると良い!! 今から証明してやろう!ーーーー全力でこい!!!」』

 

インナースペースにいる伏井出ケイの顔が、ペダニウムゼットンと重なる。

 

『ピギュゥゥゥ・・・ゼットォォォォンン!!!』

 

『「(ズキン!) ウグゥッーーーーオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」』

 

ペダニウムゼットンが電撃光線の出力を上げると、脇腹が痛み出し、ドクドクと血が流れ、出血で意識が朦朧となる理久も、歯を食いしばって光線のパワーを上げ、ジードと重なった。

 

ーーーービビビビビビビビビ・・・・ヒュゥゥンン、ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンっ!!!!

 

二つのパワーがぶつかり合い、二体や周囲を巻き込む程の大爆発を生んで、爆炎に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

瓦礫の山と粉じんが舞い上がるその場に、衣服がボロボロになり、脇腹から血を流した理久が気を失って倒れていた。しかも傍らには、カプセルホルダーが倒れた拍子に開いたのか、『ウルトラカプセル』が何本かが落ちてしまっていた。

 

「ーーーーハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・!」

 

と、粉じんの中から、同じように衣服がボロボロになった伏井出ケイが、ヨロヨロになりながら、近づいてくると、落ちていたカプセルを拾うと、気を失っている理久を見下ろしながら嘲弄の笑みを浮かべた。

 

「ーーーーハハハハ、無様なものだな!!」

 

さらにカプセルを奪おうと、理久の右脇腹のカプセルホルダーに左手を伸ばしたーーーーその瞬間。

 

ーーーーガシッ! 

 

「なっ!? (バキッっ!!) ぐばぁッ!!?」

 

理久の左手が伏井出ケイの腕を掴み、グイッと引き寄せると、その横面に右手の拳を叩き込んだ。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

伏井出ケイは地面を何度かバウンドすると、地面に落ちていた大きなコンクリートの瓦礫に叩きつけられた。

 

「ガハッ!・・・・あっ、あああああっ・・・・!! ごばぁっ!ーーーーき、貴様ぁ!!」

 

殴られた左側の頬の骨にヒビが入り、首の骨にもヒビが入った感覚があり、凄まじい激痛に襲われ、口の中を盛大に切ったのか血が溢れて吐き出す。

伏井出ケイが怨嗟と怒気に満ちた目を理久に向けると、そこには。

肌色から生気を失いそうになり、ボロボロの身体をユラリと起き上がらせ、最早死に体同然の身である筈なのに、僅かでもコチラに近づけば、命を奪うと言わんばかりの凄みを放つ理久の姿があった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

呼吸は小さく浅い。薄く開かれた目は焦点があっていない。今にも倒れそうであり、立っているのが不思議なくらいに状態である。先程の攻撃は本能のようなものであったのだろう。今なら簡単に命を奪える筈なのだ。

 

「っっっ!!!」

 

しかし、伏井出ケイは一瞬見えた。否、見えてしまった。理久のその姿が、その面影が。

 

ーーーーウェェェッ!!

 

ーーーーウルトラマンベリアルを彷彿させたのだ。

 

「ま、幻だ! き、貴様如きがっ! 『模造品』ふぜいがぁっ!! 惑わせるなああああああああああああっっ!!!」

 

伏井出ケイが先程見えた面影を幻影と決めつけて杖を持ち上げると、理久に突き刺そうと突進しようとする。

 

「これでエンドマークだぁぁぁぁっ!!!」

 

しかしーーーー。

 

ーーーーバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュっっ!!

 

「っっ!」

 

足元に銃弾が放たれ、伏井出ケイは突進を止めた。

 

『りっくん!/理久(くん/さん/様)!!』

 

飛鳥達と焔達と雪泉達が理久を守るように立ち塞がった。

 

「ーーーーちぃっ・・・・!!」

 

多勢に無勢と思ったのか、忌々しげに顔を歪めると、粉じんに紛れて、伏井出ケイはその姿を消した。

 

「りっくん!」

 

伏井出ケイが姿を消すと、全員が理久に駆け寄る。無意識状態の理久はそのまま立ち往生し、動けずにいた。失血はいつの間にか収まっていたが、傷口は開いたままである。

 

「クソっ! 理久悪いが、カプセルを使うぜ!」

 

ーーーーフワッ!

 

葛城が『コスモスカプセル』を使って治療する。

そして気絶しながらも理久は、小さく口を動かした。

 

「・・・・ぼ・・・くの・・・・せい、なの、か・・・・」

 

『っ!』

 

その言葉に一同は、フォトンナイトとペダニウムゼットンの光線の撃ち合いでできたクレーターを見ながら、悲痛に顔を歪めるのであった。

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

そしてその頃ウルトラマンゼロと霧夜先生は、〈AIB〉から貰った座標地点に到着した。

 

『そろそろ、目標地点だぞ』

 

『「さて、鬼が出るか、蛇が出るか・・・・」』

 

『ーーーー見ろ』

 

『「ん?」』

 

二人の視線の先には、宇宙空間に裂け目のような大きな『穴』が開いていた。

 

『「これは!?」』

 

『異空間への入り口だ。ストルム星人の波動は、ここに向かっていたらしい。ーーーー行くぞ!』

 

『「ああ!」』

 

ウルトラマンゼロは、『穴』へと突入した。

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

そしてその夜。

飛鳥達が、気を失った理久を運んで基地に戻ると、理久がこんな状況を見越して予め用意していた『輸血パック』を取り出し、医療の知識がある春花が輸血を始めた。

理久の顔色から生気が戻り、レムが基地にあった『人工呼吸器』や『バイタル測定機』等による検査によりチェックによると、バイタルも安定していってるのを見て、とりあえずホッとする一同。

 

「ありがとう春花さん」

 

「ふぅ・・・・こういう時、自分が医者の家の人間である事が良かったと思うわ」

 

礼を言う飛鳥に、春花はやれやれと苦笑する。

そして次に、〈AIB〉にスナイパー達を引き渡しに行った斑鳩と詠と叢が戻ってくるが、まだ意識が戻らない理久を心配そうに見つめていた。

 

「まさか、理久くんが『人工生命体』だったなんて・・・・」

 

「しかも、ウルトラマンベリアルのコピーとして造られた、か」

 

「理久くん、大丈夫かな・・・・?」

 

「自分の今までが、あの伏井出ケイの手の平の上だと知らされたからな」

 

「キツいですわね」

 

「ウチだったら、自暴自棄になってるし・・・・」

 

斑鳩と柳生、美野里と焔、詠と四季がそう言うと、周りの皆も同じ気持ちなのか、何とも重い空気に包まれる。

 

『ーーーー報告です。天文台に手紙が届いています』

 

『手紙?』

 

突然のレムからの報告に、一同は首を傾げる。

 

『天文台地下基地宛となっています。何者かに、この施設の存在が察知されたようです』

 

少し怪しいのだが、飛鳥が焔と雪泉と共に手紙を取りに転送エレベーターに乗って地上に戻ると、天文台に置かれた一通の手紙を見つけ、手に取ると達筆で書かれた文字を見た。

 

「ーーーーえっ? この字って・・・・じっちゃん?」

 

それは飛鳥の祖父・半蔵の文字であり、飛鳥は目をパチクリさせた。

 

 

 

 

 

 

ー伏井出ケイsideー

 

伏井出ケイは『超光速思念体通信』の空間で、ベリアルに片膝を突いて頭を垂れるが、その表情には狼狽の色が濃く浮かんでいた。

そんな男に、ベリアルは冷淡な声を発する。

 

『お前には失望している』

 

「・・・・間もなくウルトラマンゼロがソチラへ。どうかその前にと! こうしてカプセルを!」

 

『"誰がそんな命令を出した?"』

 

「っ!」

 

伏井出ケイが弁解を言うが、ベリアルはそんな言葉に何の意味がないと言わんばかりに吐き捨てる。

 

『拠点を知られたのは、お前の失態だ。それに"私の息子"ならば、放っておいてもまだまだ多くのウルトラカプセルを回収してくれていただろう。それを待たず、独断で行動した挙句、お前が"私の息子"から回収してきたウルトラカプセルはーーーーたったの六個。"私の息子"が所有するウルトラカプセルの半分も回収できていなかったではないか』

 

「!!!!」

 

『そして、その無様に負傷した顔と惨めに汚れた衣服。それだけで、お前が"私の息子"にしてやられたのが良く分かる。ーーーーやはり"私の息子"の方がお前ごときよりも遥かに優れているようだ』

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

ベリアルが理久の事を『私の息子』と呟き称賛する度に、伏井出ケイの腸には、理久に対する言いようの無い憤怒と嫉妬と憎悪が満ち満ちていき、拳を握り締めすぎて血が流れ、歯を食いしばり、口の中の傷が開いたのか、口元から血がタラリと流れる。

しかし、ベリアルはそんな伏井出ケイの心境に気づいているのかいないのか、さらに冷酷な言葉を浴びせてくる。

 

『拠点を悟られた失敗。勝手な行動を取った失敗。“私の息子”から十分な数のウルトラカプセルを用意できなかった失敗ーーーー』 

 

ベリアルは次々と罪状を言うと、一拍置いて、

 

『万死に値する』 

 

判決を下した。

 

『ーーーーしかし、その罪を贖う機会を与えよう。命を捧げる『覚悟』はあるか?』

 

「ございます!」

 

伏井出ケイは縋るように言った。それを聞いてベリアルは、ほくそ笑んだように返す。

 

『ならば、ウルトラカプセルを自らに打ち、力を解き放て』

 

「わ、私の身体に? しかし!」

 

狼狽える伏井出ケイに、ベリアルが言葉を続ける。

 

『お前はストルム星人。体内の『位相反転器官』が、ウルトラカプセルのエネルギーを邪悪な物へ変質させるだろう』

 

「・・・・・・・・お望みであれば・・・・!」

 

そう言って、伏井出ケイは『超光速思念体通信』を切った。恐らくコレが、最後のチャンスであると、伏井出ケイには分かっていた。

 

『ウルトラマンゼロの方はーーーーコチラで遊んでやろう』

 

ベリアルは眼前に、大型のコピークリスタルを二つ。怪獣カプセルを二つ浮遊させてほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーワイワイ・・・・!

 

ーーーーガヤガヤ・・・・!

 

「・・・・・・・・!!」

 

ジードとペダニウムゼットンの戦いから翌日の昼前の街。

人々が行き交う大通りの真ん中に、伏井出ケイは佇み、六個のウルトラカプセルを握りしめた手を震わせる。

 

「(このカプセルの力を使いこなせれば、ベリアル様は私を、認めて下さる! あの『模造品』なんかよりも!!!)」

 

伏井出ケイは握り締めた六個のウルトラカプセルを自分の胸元に押し込むと、六個のカプセルは伏井出ケイの体内へと入っていった。

 

「うぅっ!! ぐぐっ!!・・・・がああぁっ!!」

 

体内に入れたカプセルのエネルギーに、伏井出ケイは身体を悶えさせると、髪などが乱れ、身体からエネルギーが迸り、顔を歪めていく。

 

「が、ああああああああああああああっ!!」

 

苦しみ悶えるその姿に、周りの人間達は何だ何だと視線を向けてくる。

 

「ぐぅううううううううううううううううううつっっ!!ーーーーベリアル様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ご覧くださいませぇぇぇぇぇぇっ!! 私の方がぁぁぁぁぁぁ! あんな『模造品』などよりもぉぉぉぉぉぉ! 優れておりますぅぅぅぅぅぅっ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」

 

伏井出ケイが雄叫びを上げると、大きく目を見開いた眼には、エネルギーが充満して真っ赤に光り、身体め真っ赤に発光して後、周囲に漆黒の暗黒のエネルギーが覆い尽くしそしてーーーー。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

周囲の人達が逃げると、漆黒の暗黒のエネルギーに包まれた伏井出ケイの身体が膨張し、大きくなって肉の塊へと変貌していくと、その身体がーーーーペダニウムゼットンへと変貌した。

 

『ピギュルルル、ゼットォォォォンン!!』

 

ペダニウムゼットンを見て、人々は益々混乱し、逃げ惑っていく。

 

『ゼットォォォォォォォォンン!!』

 

ペダニウムゼットンは頭や肩の角から電撃光線を放ちながら、街を破壊していった。

 

 

 

 

 

 

 

ー理久sideー

 

ーーーーペダニウムゼットンが再び現れた。

奪われたカプセルは、『ウルトラマンカプセル』。『ベリアルカプセル』。『レオカプセル』。『ダイナカプセル』。『メビウスカプセル』。『ヒカリカプセル』の六つ。

最悪な事に、フュージョンライズに必要なカプセルが全て奪われてしまった。

理久は造られた『模造品』。フュージョンライズに必要なカプセルが無ければウルトラマンジードになれない。

基地の中で、飛鳥達はディスプレイに映し出された街の状況に目を見開かせ、未だ意識が戻らず眠った状態の理久は、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ペダニウムゼットンの猛威を知る事なく、眠り続けていた。




自分の正体を教えられ動揺し、負傷を抉られ失血多量で意識朦朧。さらに飛鳥達の避難を気にして本気になりきれなかった。
コレが理久の敗因です。




ー次回予告ー

僕は一体何者なんだ? 僕の運命は何処に向かえば良いんだ? 半蔵のお爺さんから送られた一通の手紙に導かれ、僕は自分を支えてくれるかけがえの無い『大切な物』を、そして『生命の価値』を知る事になる。 超えてみせるさ。この運命という大瀑布を! その先にある光を掴む為に!!

次回、『閃乱ジード』

【僕の名は】

守るぜ、希望!


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僕の名は
会いに行くぜ、半蔵お爺さん


大敗をきっした理久。そんな中、ゼロと霧夜先生にもピンチが!


ー理久sideー

 

理久は、真っ暗い空間をトボトボと歩いていた。

 

「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

何故そんな空間を歩いているのか分からなかった。しかし、ふと立ち止まったその瞬間、理久に向かって幾つもの小さな光が集まってくる。

そしてーーーー。

 

ーーーーオォォォォォォォ・・・・!

 

「(っっ!!)」

 

理久の周りに集まった小さな光から、唸り声が響いてくると、光の中に顔が浮かんでいた。

その顔は、理久と同じように、『研究施設』で育ち、死んでいった人間達だった。

 

「(君、達は・・・・)」

 

ーーーーナゼ、オ前ダケ、生キ残ッタ・・・・!

 

ーーーーワタシ、達ハ、死ンダ、ノニ・・・・!

 

ーーーーオ前ハ、選バレタト言ウノカ・・・・!

 

そして唸り声に混ざって聞こえる怨嗟の声。

 

「(ぼ・・・・僕、は・・・・!)」

 

理久は、自分の周りを渦巻きながら唸り声を上げ続ける『光』達に、理久はその場で両膝を突いて、蹲る事しか、できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥達は、街を破壊し尽くしそうとする融合獣を基地の空中モニタで見ていた。

 

『キングジョーと、ゼットンが融合した個体と思われます。名称は、〈ペダニウムゼットン〉』

 

「あの野郎! 昨日の今日で性懲りもなく!」

 

「このままでは街が・・・・! ソコにいる人々が・・・・!」

 

レムの報告を聞きながら、焔と雪泉はモニタのペダニウムゼットンを鋭く睨んだ。

他の忍の仲間達やペガも同じだった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ただ一人、飛鳥は、未だ眠っている理久に悲痛な視線を向けていた。

が、そんな思考を塗りつぶそうとするかのように、レムが更に報告をする。

 

『ペダニウムゼットンの体内に、異常な量のエネルギーを観測。奪われた六個のウルトラカプセルがペダニウムゼットンの体内に存在しているようです』

 

「なんですって!?」

 

「奪われたカプセルが全て!?」

 

「ヤツの体内に何が起こっているのじゃ!?」

 

『ーーーー不明です』

 

斑鳩と春花が驚き、夜桜の問いにレムが不明と応える。

 

「今なれるフュージョンライズは!?」

 

『残されたカプセルで可能なフュージョンライズは、『ムゲンクロッサー』のみですが、『ルナミラクルゼロカプセル』は現在、ウルトラマンゼロが所持しています』

 

叢の言葉に、レムはペダニウムゼットンが表示されたモニタの隣に、全てのフュージョンライズの姿と、必要なカプセルを表示されたモニタを表示すると、奪われたカプセルが、各ライズに必要なカプセルの片方だったり、両方だったりとかくフュージョンライズが『ライズ不能』と表示された。

ただ1つなれる『ムゲンクロッサー』も、『ルナミラクルゼロカプセル』がなくて『不能』扱いである。

 

「ウルトラマンゼロは、霧夜先生はまだ戻らないのか?」

 

『ーーーーウルトラマンゼロの帰還は不明です』

 

柳生の問い掛けに、レムは無情とも言える言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

そしてその頃。

ウルトラマンゼロは、赤黒い雲の中としか言いようの無い風景に支配された異空間の中を飛んでいた。

 

『ーーーーちっ、ベリアルの野郎! 何処にいる!?』

 

『「しかし、何と言う広い空間・・・・ゼロ!」』

 

『あぁ!ーーーーそこだ! 『エメニウムスラッシュ』!!』

 

背後から悍ましい程の気配を感知したゼロが、『エメニウムスラッシュ』を放つと、赤黒い異空間の中にあるソレに当たると、正体不明のソレが姿を現した。

 

『「デ、デカい・・・・!?」』

 

霧夜先生が驚愕に目を見開いたが、それも仕方ない。

姿を現したソレは、170mmもあるウルトラマンゼロの四倍近くはある体躯。目測だがゼロの身体は膝に届く程度。

四足の下半身に長い尻尾。背中にその山のような巨体に負けない大きさの羽を広げ、その上半身はまるで恐ろしい悪魔のようであった。

 

『こ、コイツは・・・・! 『傷無』がーーーーウルトラマンガイアとウルトラマンアグルが! 仲間達と共に倒した、『根源的破滅招来体』! 〈根源破滅天使ゾグ〉!!』

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

ゼロの声に応えるように超巨大怪獣、〈根源破滅天使ゾグ・第二形態〉は、異空間全体が震える程の金切り声を発する。

と、さらにゾグの背中に立つ、もう一体の怪獣が現れた。

 

『キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

翼のような形状の背中の巨大な突起物と、ゾグと同じ金切り声を思わせる不気味な咆哮を上げ、腹部には六つの目玉のような模様のような器官が存在していた。

 

『今度は『ガイト』が! ウルトラマンオーブが戦った〈大魔王獣マガオロチ〉かよ!?』

 

『「なんて事だ・・・・! どいつもこいつも強力そうな怪獣ばかりだな・・・・!」』

 

『ああ! コイツら一体だけでも地球を僅か数日で滅ぼせる驚異だぜ!!』

 

『「コピークリスタルと怪獣カプセルで生み出された存在か?」』

 

『だろうな。さもなければ、この二体がこんな所にいるとは思えねぇ!』

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

『キュアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

ゾグ・第二形態が口や両手から波動球を放ち、マガオロチが口から放つ雷撃光線『マガ迅雷』を放った。

 

『うおっとぉっ! いきなり攻撃とはな! まだゴングは鳴っちゃいねぇだろうがっ!』

 

『「ベリアルなりの! ゴング代わりか! 歓迎のクラッカーって事だろう!」』

 

『へっ! 上等だ! ならその歓迎にーーーー精々ド派手に応えてやるぜぇーっ!!』

 

ゼロは構えを取ると、ゼロスラッガーを飛ばし、マガオロチに切りつけていき、『エメニウムスラッシュ』でマガオロチを牽制。

続いて、ゾグ・第2形態の周りを飛びながら、『ワイドゼロショット』をあびていく。

 

『キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』

 

『キュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』  

 

しかし、この二体の強力怪獣達には、あまり通じていないようであった。

 

『ちっ・・・・霧夜。気合い入れて行くぜっ!!』

 

『「無論だ!」』

 

『『「ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」』』

 

二人の声を重ね、強力怪獣達に立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

ーペダニウムゼットンsideー

 

『ピギュルルルルルルル・・・・ゼットォォォォン!!』

 

ペダニウムゼットンが頭や肩の角から赤い電撃を放ち、力を貯め込むと、両腕から火球、『ペダニウム・メテオ』を放った。

 

ーーーードゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンンっ!!!

 

何と、前方にあった山一つを軽々と消し飛ばしてしまった。

だがーーーー。

 

『(バチッバチッ! バチッっ!!) ゼットォォォォォォォォンン!?』

 

何と、ペダニウムゼットンの身体から電流がスパークすると、ペダニウムゼットンの巨体が後方に吹き飛び、ビルを巻き込んで倒れ込んでしまい、そのまま動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

飛鳥達はその光景を見て、目を見開いた。

 

「な、何だぁ?」

 

「自分の攻撃で、吹き飛んだんでしょうか・・・・?」

 

『ーーーー超高圧縮不可により、神経系、及び脳の一部が焼き切れたようです。現在、自己修復中。暫くはこのままです。ーーーー大道寺から連絡が入りました。繋げます』

 

焔と雪泉が呟きに、レムが応えると、ペダニウムゼットンが映し出されたモニタの隣に、大道寺先輩の顔が映し出された。

 

《ーーーー皆、聞こえているか?》

 

『大道寺先輩!』

 

《ソチラの状況は把握している》

 

「先輩。今まで何を?」

 

「伏井出ケイを追っていたんじゃなかったんすか?」

 

斑鳩と葛城が聞くと、大道寺先輩は顔を僅かに顰めながら応える。

 

《ーーーーすまなかったな。言い訳をするつもりは無いが、伏井出ケイを独断で調査していた事で、『善忍上層部』に呼び出されてな。先程まで取り調べの為と言う体で軟禁されていたのだ》

 

『えっ!?』

 

大道寺先輩は上層部に無断で、独自に伏井出ケイを捜索をしていたが、遂に上層部の耳に入ってしまい。査問会に呼び出され、ほぼ軟禁生活をさせられていたのだ。

 

《しつこく取り調べを受け、もう物理的に出てやろうかと思った矢先、〈AIB〉がお主達が捕まえたバド星人のスナイパー達から、伏井出ケイがこれまでの怪獣騒動。蛇女子学園での道元の黒幕が発覚し、そして黒影様からのお達しで開放されたのだ》

 

「おじい様が・・・・!」

 

「そ、それで、私達に連絡をしてきたのは?」

 

「上層部が漸く動き出したんですか?」

 

雪泉が驚き、飛鳥と斑鳩が僅かに期待した目を向けるが、大道寺先輩はハァ、とため息を吐いてから、苦々しく応える。

 

《上層部はそれでも、宇宙人問題や怪獣問題は〈AIB〉の管轄であり、関与はするな、と言ってきたのだ。鈴音先生‹凜先輩›の方でも、悪忍上層部は同じ意見だそうだ》

 

『〜〜〜〜〜〜〜〜!!』

 

大道寺先輩の言葉に、善忍側も悪忍側も、上層部の怠慢な考え方に苛立たしげに顔を歪めた。

 

《ーーーー実はな。〈AIB〉からの要請で、今現れている融合獣のいる地域の避難誘導の応援要請が来たのだ。警察や自衛隊は、先日のザムシャー‹侍宇宙人›やペダニウムゼットン‹融合獣›との戦闘被害での救援活動で手が足りないのだ》

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

飛鳥達は一瞬理久に目を向けてから、迷っていた。

避難誘導や救援活動には行きたい。悪忍である筈の焔達ですら、あのペダニウムゼットンとの戦いでの大惨事を見た後だと、知らんぷりできない。

しかし、こんな状態の理久を放っておいて行く事はできない。

どうしたらと思うとーーーー飛鳥が、顔を上げて声を発した。

 

「ーーーー皆。行こう。困っている人達を助けに」

 

『飛鳥(さん/ちゃん)・・・・』

 

「ーーーーりっくんなら大丈夫だよ。こんな事で負けるような人じゃないって、私達皆が知ってる筈だよ。りっくんは必ず起きて、必ず駆けつけてくれる。私達ができる事は、りっくんが思いっきり、存分に戦えるように、避難や救助をする事だよ!」

 

飛鳥の言葉に、全員が目を合わせ、フッと笑みを浮かべると、力強く頷いた。

 

『レム』

 

『了解。他のユートムを機動させ、避難者や救助者の捜索をします』

 

ペガの言葉にレムが応えた

そして、各人が、眠っている理久に代わる代わる挨拶をしてくる。

 

「理久くん。起きて、怖い怪獣さんをやっつけたら、また美野里と遊ぼうね」

 

美野里が。

 

「理久っち。またスポッシュ行こ♪ ローラースケート、ウチが教えたるし☆」

 

四季が。

 

「ワシを何度も倒した男が、こんな事で折れるなど許さんのじゃ」

 

夜桜が。

 

「・・・・理久、様。漫画では、こ、こんな時、主人公は苦難を乗り越えるのが、王道です。だから、頑張って下さい」

 

仮面を外して叢が。

 

「理久くん。あなたは私の唇を奪った責任をまだ果たしていないんですからね」

 

雪泉が。

 

「理久様。一応医学知識がある者として言っておくけど、起きてすぐに無理をしないようにね。まぁ無駄だと思うけど」

 

春花が。 

 

「理久。早く起きてよ。新しく買ったゲーム、アンタも一緒にやってにやってくれないとつまらないからさ・・・・」

 

未来が。

 

「理久さん。アンタにはまだ教えて欲しい感情をいっぱいあるんや。はよ起きてや」  

 

日影が。

 

「理久さん。起きたらわたくしが腕によりをかけて、美味しいモヤシ料理を作りますからね」

 

詠が。

 

「理久。お前なら大丈夫だと信じてるからな。さっさと起きて、あのムカつく伏井出ケイを蹴散らしてやりな」

 

焔が。

 

「理久くん。雲雀達ね。理久くんがジンコーだろうとなんだろうと、理久くんが大好きだからね!」

 

雲雀が。

 

「オレは何も言わん。理久。お前は立ち上がれるヤツであると知っているからな」

 

柳生が。

 

「理久。帰ってくる前に起きてなかったら、アタイがそのお尻を味わってやるからな!」

 

葛城が。

 

「理久くん。わたくし達は『家族』ですわ。あなたは一人ではないんですのよ」

 

斑鳩が。

 

「・・・・りっくん。私のじっちゃんから手紙が来ていたの。きっと、りっくんの力になってくれるよ。・・・・だから、起きて。皆が、私が、りっくんを待っているんだから・・・・」

 

飛鳥は理久の枕元に、半蔵からの手紙をソッと置いてから、皆と共に転送エレベーターで上へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー理久sideー

 

飛鳥達が転送エレベーターで去っていくと、ペガは理久に向けて声を発した。

 

『ーーーー理久。起きてるんでしょう?』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ペガの声に応じるように、理久はソッと目を開け、上体を上げた。

 

「・・・・いつから気づいてた?」

 

『何となくね。多分、何人かも気づいていたと思うよ』

 

「そうか・・・・」

 

『いつから起きてたの?』

 

「ペダニウムゼットンがまた現れた、って処からかな・・・・」

 

『・・・・大丈夫なの?』

 

「・・・・正直、結構堪えた・・・・」

 

それは、ペダニウムゼットンに、伏井出ケイに負けた事では無い。自分の出自の事であった。

すると、理久のお腹から、クゥ〜、と腹の虫がなった。

 

『何か持ってくる?』

 

「・・・・カロリーが不足している。買い置きの菓子パン、何個か持ってきて」

 

『うん』

 

ペガが菓子パンを何個か持ってくると、理久は全て食べきった。疲労と体力の回復にカロリーがとても高い菓子パンを摂取しているのだ。

すぐにカロリーをエネルギーに変換した理久は、寝そべっていたソファーから起き上がると、身体の状態をチェックする為に、軽くストレッチをする。

 

「・・・・・・・・・・・・ん。問題無し」

 

理久は半蔵からの手紙を手にすると、手紙を広げ、書いてある文字に目を走らせていく。

すると、転送エレベーターに向かうと、ペガが話しかける。

 

『半蔵のお爺ちゃんの所に行くの?』

 

「ーーーー手紙には、【話したい事があるから、家まで来てくれ】って書いてあった。【時間が無いから、できるだけ早く】、ともね」

 

『お爺ちゃん、何で呼び出したんだろう?』

 

「さぁね。だけど、あの人には少し疑問を抱いていたんだ。ーーーージーッとしてても、ドーにもならない」

 

エレベーターに乗り込む理久とペガに、レムが声をかけた。

 

『ーーーー理久。ペガ。いってらっしゃいませ』

 

『いってきま〜す!』

 

「・・・・あぁ。いってくる」

 

そう応え、理久とペガは転送エレベーターで地上に向かった。

 

 

 

 

 

 

飛鳥の実家である寿司屋の近くに転送エレベーターで到着した理久は、手紙に書かれていた住所を頼りに町を歩いた。

と、その時ーーーー。

 

「か、返して・・・・! 『べべたん』を、返して・・・・!」

 

『うっひょ〜♪』

 

ゴスロリ風のドレスに身を包み、フワリとした長い紫色の髪と、髪とお揃いの紫色の瞳をし、雲雀や美野里と同じくらいの背丈をした。理久と歳の近そうな女の子だった。

女の子は数人の、チンピラ風の格好をした大柄な男達に囲まれ、何やらその一人が、青紫色の熊のようなぬいぐるみを持っており、その女の子はぬいぐるみを取ろうとピョンピョンと飛び跳ねており、その度に男達から下卑た笑みが浮かぶ。

その理由はーーーー。

 

ーーーーバルン! バルン! バルン! バルン!・・・・。

 

その女の子の、ゴスロリ風の服装に包まれているが、その胸元は、春花処か、大道寺先輩すらも凌駕する圧倒的な質量をした豊満過ぎる胸部をしており、それが飛び跳ねる度にダイナミックに揺れる。

背丈が低い分、さらにその大きさが強調されており、その気弱な小動物な雰囲気が、チンピラ共の嗜虐心を刺激しているようだ。

 

「ねぇねぇお嬢ちゃん。そんなにこのぬいぐるみを返して欲しいならさぁ」

 

「ちょっと俺らと向こうで楽しまない?」

 

「大丈夫大丈夫。恐い事なんて何にも無いからさ」

 

「いや、寧ろ、凄く楽しい事だよぉ」

 

下卑た笑みを浮かべるチンピラ共に、理久は半眼で呆れていた。

 

『理久! 助けないと!』

 

「・・・・はぁ、めんどーーーーっ!」

 

と、ソコで理久は目を見開いてチンピラ共、否、その少女に目を向けた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

少女は顔を俯かせて、何も言わず黙っている。チンピラ共は諦めたのかと思い下品に笑い合っているが、理久の直感がーーーー警鐘を鳴らした。

 

「(あの子ーーーーヤバい!)」

 

理久はすぐにチンピラ共の一人からぬいぐるみを一瞬で取り上げると、少女にぬいぐるみを見せる。

 

「ーーーーもう大丈夫だよ」

 

「・・・・えっ? 『べべたん』?」

 

少女を顔を向けると、理久はなるべく笑顔を作って、ぬいぐるみ、『べべたん』を渡した。

 

「あっ・・・・あの・・・・」

 

「テメェ何しやがる!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理久が鬱陶しそうにチンピラ共に振り返る。

 

「げっ、イケメンかよ。ムカつく」

 

「うほっ、美少年♪ 俺こっちでも良いぜ」

 

チンピラ共の一人が何か不穏な事を言うと、仲間のチンピラ共が若干距離を取った。

 

「帰りなよ」

 

「えっ・・・・でも・・・・」

 

「大丈夫だから、さぁ帰りなよ」

 

少女は戸惑いながら、その場を去った。

 

「おい待てよ!」

 

「あのさぁ。あんな女の子にダサい真似なんて止めたら? と言うか寧ろ、命拾いしたねアンタら」

 

「あぁっ!?」

 

チンピラ共の一人が視線を鋭くし、他の仲間達も拳を構えたりすると、理久の胸ぐらを乱暴に掴んで、路地裏に連れて行く

 

「おいテメェ。その綺麗な顔面、グチャグチャにしてやんよ!」

 

「ーーーーあっそう。こっちも少しムシャクシャしてからね。ーーーーちょっと憂さ晴らし、させてもらうよ」

 

路地裏に付いた瞬間、チンピラ共の視界がすぐに真っ暗になり、目を覚ますと、何故か気絶する前の記憶が綺麗に無くなり、チンピラ共の顔と身体が凄まじく痛み、何故か壁やアスファルトに叩きつけられた状態になっていた。

 

「はへ?」

 

顔面が潰れたチンピラ共の一人が、歯が何本か無くなった口から、間の抜けた声を発していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後、全くの無傷&服に汚れすら付いていない理久は、飛鳥の実家の寿司屋に辿り着き、店の前にはスマホで誰かとの電話を終えた半蔵が立っていた。半蔵は理久に気づくと、朗らかな笑みを浮かべながら手を振った。

 

「やぁ暁月くん!」

 

「半蔵のお爺さん。僕が来るのを分かってたんですか?」

 

「うむ。君がついさっきまで生死の境を綱渡りしていた事もな。ここに来る直前に可愛らしく胸がとてつもなく豊満な美少女をチンピラから守った、嫌、チンピラ達を守った事ものう。ーーーーずっと見ておったよ。君が、“ウルトラマンジードとして戦い始めた時から”、のう」

 

「っ・・・・!」

 

理久の視線が弱冠鋭くなった。

ーーーーこの目だ。

理久が半蔵に対して妙な違和感を感じていたのは。まるでこちらをずっと監視してきたような奇妙な『違和感』。それが理久が半蔵に対するほんの僅かな疑心。

半蔵はそんな理久の胸の内を見透かしているかのように笑みを浮かべると。

 

「まぁ立ち話もなんじゃ。家に来なさい。あぁ飛鳥の父と母は今夫婦で旅行を行かせておるよ。儂の女房もちと出かけておるから安心しなさい。さぁさ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

理久は少し警戒しながらも、店に案内されると、カウンターには太巻きの材料と調理具が置かれていた。

 

「・・・・これは?」

 

「どうじゃろ? 飛鳥達が頑張っておるから、太巻きでも作ってやろうではないか。君が生死の境を綱渡りしている間、ずっと看病してくれていたからのう」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「どうじゃ? ペガくんも?」

 

『えっ、えぇっ!? えっと、その、ペガ、この中に・・・・』

 

半蔵が『ダークゾーン』にいるペガに話しかけたが、ペガは遠慮して影の中に隠れた。

 

「ふふふ。シャイじゃのう」

 

「・・・・半蔵のお爺さん。回りくどいのを抜きにします。ーーーー何で知っているですか? 色々な事を」

 

理久が聞くと、半蔵はフッと笑みを浮かべて応える。

 

「ーーーー数ヶ月前、君がウルトラマンジードとして戦い始めた時かの。儂は妙に感覚が鋭くなり、女房の『小百合』も不可思議な力を得たのじゃ」

 

半蔵は次に、自分の胸元を叩く。

 

「このーーーー胸に『光』が宿った。それが原因じゃな」

 

「『リトルスター』・・・・!」

 

理久の反応に、半蔵は笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「儂は、“見たい物が見れるようになった”。女房の『小百合』は、“命を削る忍術で命を削らなくなった”。儂の能力を詳しく教えるとな。ここから一歩も動かずにず~と遠くまで、銀河の果ては勿論、お主らが住んでいる地下基地も見れるぞ」

 

「プライバシーの侵害って知ってます?」

 

「はははは! ついこの間葛城と四季と春花に夜這いされそうになって、三人仲良く逆さ磔にした事も知っとるよ」

 

「お孫さんに言いましょうか?」

 

「それは勘弁してくれ」

 

等といいながら、太巻きを作る理久と半蔵。

 

「おぉ! 流石は器用じゃのう」

 

「少し前に寿司屋でバイトしてたんで。ーーーーそれよりも、僕を呼び出した理由はなんです?」

 

「ーーーー今君は、伏井出ケイに敗北し、自分の『本当の姿』を見失っておるじゃろう? だから手紙でここに来て貰ったのじゃよ」

 

「『時間が無い』って書いてあったのは、なぜです?」

 

「そうでも言わんと、君はこの老い先短い可哀想な老人の元には来んじゃろう?」

 

「老い先短い・・・・後、十数年は元気に生きてそうな気がしますけどね」

 

「ホッホッホッホ。まぁ、飛鳥の花嫁姿を見て、曾孫の顔を見ずでは、死んでも死にきれんよ」

 

「(曾孫の代まで生き続けるつもりなのかこの爺さんは・・・・?)」

 

朗らかに笑う半蔵に、理久は目を半眼にし、呆れながら見つめていた。




寺田農さんのご冥福を祈ります。


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知るぜ、生きる意味

理巧は立ち上がれるのか?


ーゼロsideー

 

異空間でゾグ・第二形態とマガオロチと交戦を始めたウルトラマンゼロと霧夜先生。

 

『霧夜!』

 

『「ああ!」』

 

ゼロの掛け声に霧夜先生は頷くと、『ストロングコロナゼロカプセル』を起動させた。

 

ーーーーセェヤァッ!

 

装填ナックルにカプセルを入れると、ライザーで読み込む。

 

[ウルトラマンゼロ! ストロングコロナゼロ!]

 

『ブラックホールが! 吹き荒れるぜぇぇぇッ!!!』

 

ーーーーギュィィィィィンン!!

 

身体が銀の身体が赤に染まり、金のラインが走り、スラッガーも金色に染まった姿、『ストロングコロナゼロ』にタイプチェンジしたゼロは、マガオロチへと向かうと両手の握り拳を叩き合わせ、エレキギターのような音を響かせる。

 

『キュァァァァァァっ!!』

 

『『ストロングコロナアタック』!!』

 

炎を纏ったパンチとキックの連続コンボで、マガオロチを殴り飛ばした。

 

『キュァァァッ!?』

 

『っ! 次だ!』

 

『「良し!」』

 

ーーーーフッ!

 

[ウルトラマンゼロ! ルナミラクルゼロ!]

 

次は『ルナミラクルゼロカプセル』を起動させ、装填し読み込ませると、赤から青に、スラッガーも青に染まったクールな印象を受ける姿、『ルナミラクルゼロ』へと変わると、ハープの音が鳴り響く。

 

『俺のビックバンは、もう止められないぜ!』

 

『キャァァァァァァっ!!』

 

ゾク・第二形態が波動球を撃ち出すが、ゼロはシュン、とその場から一瞬消えると、ゾク・第二形態の頭上から急降下しながら光のゼロスラッガーを作り、無数に分裂させると、それを発射した。

 

『『ミラクルゼロスラッガー』!』

 

無数のスラッガーがゾク・第二形態の巨体を切りつけていく。

がーーーー。

 

『キャァァァァァァっ!!』

 

コピークリスタルから生まれた偽物とは言え、流石は『根源破滅天使』。スラッガーでは決定的なダメージには程遠い。

 

『キュァァァァッ!!』

 

さらにマガオロチも戻ってきた。

 

『くっ!』

 

ゼロは苦々しい声を漏らしながら、果敢に二体の強力怪獣と戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー理巧sideー

 

「ーーーーふむ。中々苦戦しているようじゃの。流石のゼロと霧夜も、暫くは帰れそうにないのう」

 

そして、地球の飛鳥の実家の寿司屋で巻寿司を半蔵と共に作っている理久。半蔵が上を、否、『リトルスター』の力てゼロ達の様子を見ているだろう、肩を竦めながら声を発し、理久はふとした疑問を口にした。

 

「所で半蔵さん」

 

「うん? 何かのぉ?」 

 

「善忍組織と悪忍組織。この両組織は何で伏井出ケイとベリアルに対して、不自然な程に消極的と言うか、無関心と言うか、まるでーーーー関わらないでいようにしているような感じがあります」

 

「・・・・何故、そう思うのじゃね?」

 

理久の疑問に、半蔵は少し声色を固くして尋ねる。一応、両組織の不毛な睨み合いと言う『建前』があるが、理久も妙な確信を込めて応える。

 

「似てるんですよ。中学時代。虐めを受けていた僕の姿を、“見て見ぬふりをしていた人達”に、“自分達に飛び火してこないように関わらないようにしていた人達”に、ね」

 

そう。中学時代に虐めを受けていた理久だが、何も学校中の人間全員が理久を虐めていた訳では無い。理久の容姿が気に入らなくて、一方的に目の敵にしていた教師や生徒は、全員合わせてほんの十人にも満たない数だったが、それでも、主任教師だったり、親が有力者だったり、腕っぷしが強い奴等(斑鳩の兄・村雨以下)だったりと、かなり学園カーストの上位にいる連中だった。

そんな奴等に目を付けられたくないから、理久に関わらないで日和っていた教師や生徒達の態度を両組織から感じたのだ。

半蔵は、理久の指摘を聞くと、ふぅ~、とため息を吐いてから、一旦作業を止めて口を開いた。

 

「全くもって情けない話なのじゃがな、理久くん。君の推察通りじゃ。善忍組織も 悪忍組織も、伏井出ケイの調査や捜索に手を貸さん理由はーーーー“ベリアルが生きている事を、認めたくないから”、じゃ」

 

「・・・・それって、ベリアルをーーーー“恐れているから”、ですか?」

 

理久の言葉に、半蔵は小さく首肯すると話を続けた。

 

「今の両組織の主だった幹部達の大半以上は、十数年前の凄惨な悲劇、『クライシス・インパクト』を経験してきた者達ばかりじゃ。故に、飛鳥達よりも、凛や大道寺よりも知っておるのじゃ。ーーーーベリアルの強大さを、その恐ろしさを・・・・」

 

半蔵は、かつての『クライシス・インパクト』の情景を思い出しているかのように目を閉じた。

 

「ーーーー故に、彼らは認めたくないのじゃ。向き合いたくないのじゃ。ウルトラマンベリアルが生きている『事実』を。彼奴がこの星に目を付けている『現状』を。いずれまたこの星に現れる『可能性』を、な。だから、その『現実』に目を向けたくないから、ベリアルの配下と思われる伏井出ケイと関わり合いたくない。〈AIB〉と協力すれば、ベリアルの存在がより鮮明に浮かび上がってくる。だから『善忍と悪忍の長きに渡る因縁』、と言う『建前』を使って、関わらないようにしているのじゃ。ようはーーーー恐いのじゃよ」

 

「・・・・それを悪いとは思いませんよ。それだけ、ベリアルの力が恐ろしいって事なんですから」

 

理久はやれやれと肩を落とした。そして、まるで自嘲するかのように呟く。

 

「ーーーーま。ビビっているなら、僕も似たようなものですから、あんまり強くは言えませんけどね」

 

そう言って、再び作業続ける理久。

 

「ーーーー理久くん。君は畏れているのかね? 伏井出ケイを、ベリアルを?」

 

「かも、知れませんね。・・・・僕は、一体何故、何の為にーーーー生きているんでしょうね?」

 

理久は作業の手を止めず、何処か遠くを見つめながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

ー飛鳥sideー

 

理久が半蔵と巻寿司作りをしている頃。

飛鳥達半蔵学院組。焔達紅蓮隊。雪泉達月閃女学館組は、大道寺先輩の指揮の元、伏井出ケイ、ペダニウムゼットンから市民を避難誘導していた。

警察や救助隊、さらにAIBとも協力していると、飛鳥は倒れたまま動かないペダニウムゼットンに目を向けた。

その時ーーーー。

 

『ーーーーーーーーーーピポポポポポポ、グワン! グワン! ゼットォォォン!!』

 

「ッ! ペダニウムゼットンがっ!」

 

「活動をっ!!」

 

「再開したっ!?」

 

飛鳥、焔、雪泉が言うのと当時に、ペダニウムゼットンが『ペダニウム・メテオ』を放とうとする。

 

「ーーーー皆ぁっ!! 逃げてーーーーっっ!!」

 

飛鳥の叫びと共に、『ペダニウム・メテオ』か放たれ・・・・。

 

ーーーードゴオオオオオオオオオオオオオオオンンっっ!!

 

飛鳥達の上空を横切った『ペダニウム・メテオ』が、街の一を破壊し、その衝撃によって巻き上がった土煙が津波のようになり、飛鳥達が呑み込まれた。

 

 

 

 

 

 

ー理久sideー

 

ーーーーォォォォォンン・・・・!

 

と、ソコで理久達は、遠くから聞こえる爆発音に気づき、さらに店全体が少し揺れた。地震ではない。遠くで爆発が起き、その余波で店が揺れたのだ。

 

「っ」

 

理久はすぐにスマホのテレビを見ると、ペダニウムゼットンが起き上がり、再び破壊活動をしながら移動しているのが分かった。

すると、半蔵が声を発する。

 

「ーーーーふむ。どうやら儂の『リトルスター』に気づいたのかも知れん」

 

「え?」

 

「これまではバリアーのお陰で隠し通せていたが・・・・限界かも知れんのぅ」

 

「・・・・・・・・」

 

理久がペダニウムゼットンの進路方向に目を向けると、確かに、この店に近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理久は、出来上がった巻寿司を弁当箱に詰め込むと、半蔵さんをリヤカーに乗せ、弁当箱を持たせ、リヤカーを引っ張りながら走る。

 

「頑張れよペガ!」

 

『よいしょ! よいしょ! よいしょ!』

 

台車の後ろでは『ダークゾーン』にいるベガも、リヤカーを押していた。

 

「すまんのぉ。流石の儂も寄る年波には勝てんわい。ーーーーお礼に儂の『リトルスター』の力、『千里眼』で、何か教えてやろうかのぉ? 何か見たい物はあるか?」

 

「ーーーーそれじゃ幾つか! 避難誘導に行っているあーちゃん達はっ!?」

 

「うむ。・・・・・・・・どうやら融合獣の攻撃に巻き込まれたようじゃが・・・・。おぉ。全員無事じゃ。髪も服も土煙で汚れまくっておるが、全員五体満足じゃよ。他には何が聞きたいのじゃ? できるだけ答えてやるぞい?」

 

「そうですか! それじゃーーーー僕の『父親』、『ウルトラマンベリアル』は今、何処にいますか?」

 

「うぅ〜む・・・・“この宇宙から、少しズレた場所におるのう”。ーーーーん! ゼロの奴が、ベリアルのすぐ近くまで接近しているぞ」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

ーゼロsideー

 

『キュァァァァ!!』

 

『キャァァァァ!!』

 

『うおっ!?』

 

マガオロチとゾク・第二形態と激戦を繰り広げていたゼロだが、『コピークリスタル』によって作られた疑似生命体とは言え、流石は魔王や破滅を冠する怪獣達、一筋縄ではいかない。

 

『だがなぁ! 霧夜!!』

 

『「ああ!」』

 

霧夜先生は、ジードライザーをウルトラゼロアイNEOに合体させて。

 

『「俺に限界はねぇっ! ハアァッ!!」』

 

霧夜先生は、合体させたジードライザーをウルトラゼロアイNEOでゼロビヨンドに変身する。

 

[ニュージェネレーションカプセル! α! β! ウルトラマンゼロビヨンド!!]

 

『『ゼロツインソード』!』

 

ゼロツインソードを持って高速で移動すると、マガオロチとゾク・第二形態に斬りつける。

 

『キャアアアアアアアアアアアアっ!!』

 

『キュアアアアアアアアアアアアっ!!』

 

斬りつけられた二体怪獣が悲鳴を上げる。

 

『俺に勝とうなんざ! 二万年早いぜっ!』

 

 

 

 

ー理久sideー

 

「【二万年早いぜっ!】って、言っているのぅ」

 

「ーーーーそれじゃ、ベリアルには近づいているって事てすね」

 

「近い内に、君は『父親』と会うじゃろうのう。戦って君が負けてしまっては、この世界は今度こそ終わってしまう」

 

ーーーードガァアアアアアアアンン!!

 

「「っ!」」

 

『あっ! ペダニウムゼットン!!』

 

『グワン! グワン! ゼットーーン!!』

 

後ろを振り抜くと、ペダニウムゼットンが近くにまで迫って来ていた。

 

『危ない!』

 

ペガが叫ぶと当時に、ペダニウムゼットンがレーザー光線を放つと、理久達の近くにある建物の外壁を撃ち、爆発を起こした。

 

ーーーードゴォォォォォォォォォンン!!

 

「「うわぁっ!!」」

 

爆発に巻き込まれた二人はその場で倒れる。

 

「半蔵さん!」

 

「大丈夫じゃ! 弁当箱も無事じゃ!」

 

理久が半蔵に駆け寄ると、リヤカーは半壊し、タイヤもひん曲がり、もはや使い物にならない状態であった。

 

『ペガ、別の物を持ってくるね!』

 

「頼むペガ!」

 

『ダークゾーン』にいたペガは攻撃を回避し無傷であったので、リヤカーに代わる乗り物を探しに行く。

がーーーー。

 

『グワン! グワン!』

 

ペダニウムゼットンが、半蔵の『リトルスター』に反応したのか、ゆっくりとこちらに近づいてきていた。

 

「くっ・・・・!」

 

「ーーーー理久くん。戦うのじゃ」

 

「しかし、今の僕には、『カプセル』が・・・・!」

 

『カプセル』が無ければ、ジードになれない。理久は戦えない事を悔しく感じていると、半蔵は理久の両頬に手を置いて、自分と顔を突き合わせた。

 

「しっかりしろっ! 暁月理巧! 鷹丸の奴が、何故お前に『暁月』と言う名を! 『理巧』と言う名を付けたと思っておる!?」

 

「っ!ーーーー鷹、丸さん・・・・」

 

鷹丸の名前を聞き、理巧の目に光が宿る。半蔵はそれを見て、優しく笑みを浮かべて続ける。

 

「ーーーー『暁』とはの、夜の世界を強い光で照らす『太陽』の事じゃ。お主に、『太陽』のように人々を照らす存在になって欲しいと言う想いを込めたのじゃ」

 

「太陽・・・・」

 

「ーーーーじゃが。人々の中には、太陽の強過ぎる光の中では背を向けてしまう。それ故に『月』なのじゃ。『月』とは、暗い夜の世界を優しく包み込んで照らす光なのじゃ」

 

「月・・・・」

 

「ーーーーそして『理巧』とは・・・・」

 

「正しい筋道を、真っ直ぐ進む子になって欲しいって想いを込めて・・・・」

 

理巧は、半蔵の言葉に続くと、半蔵は大きく頷いた。

 

「そうじゃ。お主はこれまでその強く、温かい程の太陽のような光で飛鳥達を照らしてきた。そして優しく、気高い月の光で、焔達を暗い世界から光に導いた。黒影の正義に染まってしまった雪泉達もまた、お主によって救われたのじゃ」

 

「僕が・・・・」

 

「何の為に生きているのか、それは生きる者達が多かれ少なかれ考える『一生の問題』じゃろう。しかし、お主には、お主の事を想い、お主を愛している皆がおる! その手には、その心にはーーーー何があるのじゃ!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

理巧は、自分の両手を見る。

鷹丸から、名前を貰い。

ハルカ、ナリカ、スバルから、愛情を貰い。

ペガから、勇気を貰い。

霧夜先生から、仲間を作るチャンスを貰い。

飛鳥達や焔達や雪泉達から、絆を貰った。

 

「(僕は、皆からいっぱい『大切な物』を貰っていたんだ・・・・!)」

 

ーーーードガァアアアアンン!!

 

ペダニウムゼットンがゆっくりと近づき、地響きが響く。

 

「っ! 理巧くん、逃げよ。黒影も老い先短い命を使って彼奴を討とうとした。次は、儂の番じゃ。この爺の命でも、足止め程度はできるじゃろうてーーーー」

 

半蔵がペダニウムゼットンに向かおうとする。

が、理巧がその手を握って止めた。

 

「・・・・せない・・・・」

 

「理巧くん・・・・」

 

「死なせない・・・・! 半蔵さん! アンタが死んだら、あーちゃんが泣くんだ! 奥さんや娘夫婦も泣くぞ! アンタの命は! あんなヤツの為なんかに使わせる訳にはいかないんだ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

「アンタにだって! まだ見届けたい事があるだろう!? あーちゃん可愛いから、すぐに男できるぞ! あーちゃんの花嫁姿も! 曾孫だって生まれたら! その子を見る事すらできないんだぞ! 諦めるなよ! ウルトラマンなんかになれなくたって! 僕がーーーーアンタを守るっ!!」

 

普段はやる気を見せない理巧が、目に薄っすらと涙を浮かばせながら、そう伝える。その瞳に宿る『光』に、半蔵は足を止めて。

 

「理巧くん・・・・・・・・確かにのう。儂も、飛鳥の花嫁姿や、いずれ生まれるかも知れん曾孫の顔を拝まずに、くたばるのはゴメンじゃのう・・・・」

 

半蔵はそう言うと、懐から巻物を取り出し、理巧に渡した。

 

「これは?」

 

「巻物の中に書かれている印を押せ、そうすれば刀や爆弾と言った武器が出てくる。ーーーーやれるかの?」

 

「ーーーーやります。僕は皆から皆から、かけがえの無い物を貰ってきた! ウルトラマンになれなくても、僕が、あなたを、あーちゃん達も、この星も、皆を守って見せる!」

 

「ーーーーうむ。理巧くん。生きていれば、誰しも必ず『壁』にぶつかる時がある。大抵の人間は乗り越えられず、回り道をして別の道を行く。そして、今お主の目の前に聳え立っているのは『壁』などと甘い物ではない。近づく物を下に落とし砕くーーーー『大瀑布』じゃ」

 

目の前に立つペダニウムゼットンを見据えて言う半蔵に、理巧は視線を鋭くする。

 

「この『大瀑布』に打ち勝てないようじゃ、ベリアルには届かない。って事ですね?」

 

「うむ。儂にできるのは、ほんの少しの助言だけじゃ。後は、お主次第じゃ!」

 

そう言うと、半蔵が理巧に“幾つかの助言”を与えると、理巧は力強く頷いてからダッと駆け出し、ペダニウムゼットンの巨体を飛び昇り、ペダニウムゼットンの眼前に到達した。

 

『ピポポ・・・・ゼットーン!?』

 

「ーーーーうぉぉらぁあああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」

 

ーーーーバキィィィンン・・・・!!

 

ペダニウムゼットンが理巧の姿を捉えると、一瞬動きが止まった。その隙に、理巧は渾身の、それこそ全身全霊全力全開の力を込めた拳を叩きつけた。

 

『ゼ・・・・ットン・・・・!』

 

ペダニウムゼットンは僅かに身体をよろけさせ後退りする。

 

『ピポポ・・・・!!』

 

すぐに体制を整えたペダニウムゼットンが辺りを見回すと、近くのビルの避雷針の上に立つ理巧を見つける。

 

「(・・・・・・・・感じる。ドス黒い『悪意』を・・・・ソコにいるな。伏井出ケイ・・・・!!)」

 

理巧は手招きするようして、ペダニウムゼットンに、否、その内部にいる伏井出ケイに向けて声を発する。

 

「ーーーー来いよペダニウムゼットン・・・・嫌、伏井出ケイ。ウルトラマンになれないただの人間、暁月理巧が、相手になってやるよ!」

 

その緋色の瞳に宿った、静かに、しかし熱い炎が、ペダニウムゼットンを見据えた。

 

『ピポポポポポポポ、ゼットォオオオオオオンンッ!!』

 

ペダニウムゼットンが、伏井出ケイが、雄叫びを上げると、理巧のいるビルに向けて、『ペダニウム・メテオ』を放ったーーーー。




次回。変身できない理巧が、ベリアル融合獣に単身戦いを挑む。


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