≪雷電王≫は勇者である ―白い男の章― (姫竹猟奈)
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第4α話 せかいのてき

銀ちゃん誕生日記念に書いてみました(大遅刻)。
原作はゆゆゆ鷲尾須美の章とスチパンシリーズ特にガクトゥーン。
おはなしの舞台は原作の勇者であるシリーズの世界観、ストーリー内容や文章は原作スチパンシリーズ(特に黄雷のガクトゥーン)に寄っています。

※注意書き
初投稿ですゆえ、勝手がわからず、すっごい長文になっていますが、ご容赦くださいませ。
また、スチパンシリーズをプレイしたことがないと意味が分からない内容も含まれますので、とりあえずタグにあるタイトルの作品は読むことをお勧めします。あと、ここに出てくる「ニコラ・テスラ」は同名の別作品キャラクターや元ネタとなった歴史上の人物とは全く別人ですので、あしからず。
ゆゆゆシリーズも、スチパンシリーズも、どっちもいいぞ。それでは、どうぞ。



――神世紀4世紀。ひとが、神と戦い、神に縋る時代。

「この」世界は、この時。

まさしく滅亡しようとしていた。

 

三つの威容。異形なりし天の御使い。バーテックス。

彼らが向かう先は、人界保つ世界樹。土地神の集合体、即ち神樹。

蒼と紫の勇者なりし少女たちは、倒れ臥し。

異形の進撃に唯の単騎(ひとり)で立ち向かう赫き小さき勇者は、今まさしく血に塗れ、命を散らそうとしていた。

「帰るんだ!守るんだ!」

赫き少女が死を賭して奮戦するも―――最早この世界を繋ぎ止める楔は、ただただ破壊を待つのみと思われていた。

そう。遠き空より、稲妻が落ちる、その瞬間までは。

 

―――赫い、紅い、小さく、しかし勇壮なる少女が。赫い、紅い、血飛沫を散らしながら。異形に立ち向かう。異形に食い下がる。

「化け物にはわからないだろう!!」

傷つき、血を流し、尚も叫ぶ。

「これが…人間様の…!!」

人類種が希望する、ひかりを。

「気合いと…!!根性と…!!」

咆哮する。

「たましいってやつよォォォォォッ!!!」

剣斧を振り回す。振り乱す。怪物どもの装甲を、鮮血を放出しながら、何度でも斬りつけていた。けれど。けれど。

「ぐあ!!」

厳然たる現実は、容易に希望を打ち砕く。銃のような砲塔のようなフォルムを持つ個体が放ち続けた針の雨が、ついに赫い少女の右腕を穿ち、抉り、刳り抜き、砕いたのだ。

剣斧を握ったまま、穿たれ、千切れる、少女の右手だったもの。文字通りの、絶体絶命。

「ぐ…うああああッ…!!」

激痛が迸る。血が噴き出し、右腕があった場所は今や、灼かれているような感覚でさえあろう。だが、それでも。

「が…あっ…!!まだ…だ!まだ…ここで負けられるか!!みんなのところへ…帰る…までは―――」

少女の闘志は潰えない。けれど、それで怪物たちが攻撃を躊躇するわけでもなく。

「…!?あ…」

致命的な弾道で、射手の如きものの矢の嵐が、少女に降り注ごうとしていた―――そのとき。

 

「待たせたな」

――突如として謎の声が響く。赫い装束に身を包んだ少女は、それ以上矢に貫かれてはいなかった。少女の前面に、光の刃が円環となって電気の火花を散らしながら――自立駆動しつつ回転して――少女を、守っている!

少女の後方、旧式の極東の軍服のような、白い詰襟服に身を包み、蒼白き光を奔らせながら。男が、両腕を組み、宙に浮いていた。その腰部には機械帯(マシンベルト)。その両手には機械籠手(マシンアーム)。さながら、古き英雄のようなそのカタチが。樹海に、場違いに、顕れていた。

「う…あ…」

その姿を視認した瞬間、勇猛なりし紅の少女は、地に倒れ臥す。限界など、とうの既に超えていた。

「私は―――≪()()()()≫だ。そして―――よくぞ一人でここまで、戦ったものだ。勇者なりし少女よ。おまえもまた、正真正銘、()()()()()だとも」

「あ――――あな…たは…一体…」

途切れ途切れの呼吸で、声を絞り出す。もはや、心臓の鼓動さえ、風前の灯火に等しい状態で。赫い少女が、問う。

「白い男――――とでも呼ぶと良い。輝きを持つ少女たちよ。尊さを失わぬ少女たちよ。

お前たちの声を聞いた。ならば、呼べ。私は来よう。

絶望の空に、我が名を呼ぶがいい。

遥かなりし蒸気の世界より、この樹海の世界へと。お前たちの声に応じ、お前たちの悲嘆を聞いて。

――雷鳴と共に。私は、来よう」

男は、応える。ふるき物語の英雄の如く。御伽噺の騎士の如く。

「たた…かうって…いうの…か…?…あぶな―――」

忠告を発しようとして、赫い少女の意識が途切れる。雷電の男は、地上に降り、紅蓮の装束の少女を抱きかかえる。

「――――!!」

射手座の如きものが、男を敵性体と判断したか。赫き勇者の少女諸共に、男を貫き砕こうと、針の矢の雨を降らせる―――降らせは、するが。

「――――」

男の周囲に浮かび、自律駆動する、5本の電界の剣が。矢の雨をいなしてゆく。

男は、少女の心音が、呼吸が、止まっていることを知ると。少女の躰に、微弱な雷電を流し込む。

白い男は、あらゆる電子、あらゆる電気を自在に操る力を持つ。なればこそ、雷電から物質を練成しつつ、心臓に微弱な電流を流し、刺激することも容易い。

既に隻腕とはいえ、少女の傷口が塞がり、血は止まる―――なれば、残すは時間との闘いか。

男は、異形なりし威容のものどもを駆逐し、緋き少女の命を救うべく、樹海化―――バーテックスを迎え撃つべく神樹が生み出したこの異界を、解除せねばならない。

 

「異形なるものよ!非道なりし天の悪意よ!貴様たちの行軍は、そこまでだ。少女たちの声を、聞いた。救いを求める声を、聞いた。なればこそ――ひとを鏖殺せんとするものを、貴様たちを、私は阻む!私は砕く!我が雷電を以って、雷電の身を以って。私は、私と同じ()()()()()を!我が電光の剣にて屠り去ろう!!」

バーテックスの進路、その四時の方向より放たれる――男の、声。高らかに響く大仰な宣戦布告。異世界より降り立った電磁の王が吹く。戦の、角笛。

「我が無限の正義、受けるがいい!!≪極大雷電の神槍(マルドゥーク・ジャベリン)≫ッッ!!」

――刹那、雷撃が奔る。雷の槍が放たれる。三体のバーテックス達は、フォーメーション戦術が奏功し紙一重で回避するも―――射手座(サジタリウス)、外殻左舷下部焼失。蟹座(キャンサー)、右鋏部消滅、外殻右舷溶解。蠍座(スコーピオン)、尾部欠損。

迸る、電光。蒼い、碧い、光が。絶望に覆われた樹海の内部を照らす。

「っう・・・」

気絶していた黒い髪の少女が、その輝きと轟音に叩き起こされるかのように目を覚ます。

「な…なんなの…あれ。私たち以外に、まだ勇者が…?うっ、く…!」

傷はまだ痛む。まだ立って歩ける状態ではない。けれど、けれど。

その輝きの眩さに、顔だけは引き寄せられる。

「わ…しぃ?」

金髪の大人しそうな少女もまた、意識を取り戻す。彼女にも何が起きているのかは理解できない。

けれど、けれど。あの時。たった一人で死地に赴く、小さな一人の少女を、彼女らのともだちを。紅蓮なりし勇者を、真なりし勇者を見送ることしかできなかった、そのあと。

心の中、途切れていく意識の中、もう覚えていない夢の眠りの中で。確かに、呼んだ。誰かを、呼んだ。

 

――――樹海を、ひとすじの電光(ひかり)疾走(はし)る。蒼白き稲光が奔る。その腕に横たわるは、烈焔なりし牡丹の少女。世界への介入から20分と少しばかりが経っただろうか。チクタク、チクタク、と。鳴るべき時計は此方にはないけれど。最早、時間の猶予はない。

―――赫き小さき勇者の命も。雷電の戦士が、この世界に滞在できる時間も。最早、そう長くはなかった。

 

――――男の眼前に、二人の少女が見えた。共に深い傷を負い、意識こそ取り戻したようだが―――立ち上がることができない。あの子らか。この、今は双腕の裡に横たわる、小さくも勇ましき()()()()()の戦友なりしは。

「ぎ…銀ッ――!」

不可思議なる男の腕の中で、意識なく横たわり、右腕を喪った友の姿に。二人の少女は、動揺を隠さない。

破損し怯んだ憎悪なるものどもを尻目にここまで駆けてきた、先刻バーテックスを蹴散らした男が。赫炎の服を纏う小さな勇者の少女の躰を、二人のともだちの元へと運んできた男が。二人の少女の――――蒼と紫の勇者の前に降り立ち。銀、と呼ばれた赫い勇者を、その場に横たえ。男が、白き雷電の魔人が、問う。

「黄金の魔女を介して、私を呼んだのは。おまえたちか?」

「え、ええ…多分…あなたは…誰…?」

蒼の装束を纏う黒髪の少女―――鷲尾須美が、答えと共に問を返す。

「今は――――そうだな、≪白い男≫、とでも呼ぶといい。今はもう、時間がない。ここは―――夢を渡る橋なれば。おまえたちの声、確かに聞き届けた。我が雷電の力にて、悪なるものどもを打ち倒そう」

「銀は…銀は助かるんですかッ…!?」

紫の装束の少女、乃木園子が、白い男に必死に問いかける。

「―――わからん。気休め程度に、応急処置は施しておいたが――――」

――例え応急処置を施したところで、息を吹き返す保証などない。もはや猶予はない、それだけは火を見るよりも明らかな状態だった。

「―――ゆえに、今は、お前たちが守ってやれ。私は、必ず奴らを討ち果たす」

「あの!」

問いかける。黒髪の少女は光の主に呼び掛ける。

「名前!やっぱり、教えてください…あなたの、名前…教えてください!」

≪白い男≫の貌、その眼差しは、必ずや異形の巨怪どもを滅ぼすという決意に満ちていた。そして問いの声を聞き取り―――

顔を上げ、救いが、応える。稲妻を帯びた貌が応える。

「我が名は≪電気王≫ニコラ・テスラ。だが…きっとお前たちは、私を正確に記憶することはないだろう。故に、アークエネミー、白い男、ペルクナス、雷電王。やはり、好きに呼ぶといい。我が身は救いを求める者に応え、現れるもの。世界を越え、時を越えて、私は来た。

遍く助けを求める声に、私は手を差し伸べよう!」

「ニコラ・テスラ…?」

黒い髪の少女――鷲尾須美は訝しむ。どこかで聞いたことがあるような響き故に。だが。

「ああ、だがやはり、白い男で良い。そう呼ばれてきた身だ。

それよりも――」

言って、雷電の戦士は神速にて奔り去る。瞳に捉えた、異形の敵を追って。

「き…消えた…?うっ…!」

その迅さを、消えたと錯覚しつつ。傷の痛みに須美は蹲る。

 

―――亜光速の迅さで、電気の魔人は再び三体の巨影を捉える。

予想外のチームワークによって外したとはいえ。それなりのダメージを三体全てに与えた筈だったが――

恐るべきことに。天の悪意の使者どもは、その傷をあり得ざるべき速度で――修復しつつある…!

再び三つの巨躯に立ちはだかり、雷の戦士は眼前の敵を見据える。

「醜悪なりし異形のもの。蟹、蠍、射手。星々の座を騙る悪しきものどもよ。

否、その裏に潜むものよ。神を名乗る操り手よ。

少女を苦しめ、少女を傷つけ。ヒトを殺しヒトを滅ぼし。

それでお前たちは何を成す。何が成せる」

無論、言の葉紡がぬものどもから、答えとなる声はない。だが、即座に攻撃姿勢に移った三体の挙動そのものが、彼等(バーテックス)による返答なれば!

「怒りでしか動かぬもの、怒りと憎悪のみに任せて、駆動するものども、か。

ならばその問いに意味はない。我が雷電は、今度こそ、その異形を屠るのみ」

 

――――三体のバーテックスが白い男の姿を認識・捕捉するや否や。射手座を象るもの――サジタリウス・バーテックスの禍々しい口腔より、邪悪の雨注が放たれる。

「思いの外、速いな――」

が、言葉とは裏腹に。男の影は、瞬時に座標を変える。

「――だが、無駄だ。私の速度は、電光なれば」

虚しく空を切る矢の雨。だが。

「―――!」

紙一重の反応。一瞬の演算処理。大雷電回避。それを雷電の身に強いるほどの、鮮やかな不意打ち。

「…なるほど」

虚を突いた針の反射。紅の勇者を苦しめた、サジタリウスと―――蟹の如きもの、キャンサーの連携攻撃。

「―――ッ!」

そして間髪入れずに振るわれる蠍騙るものの毒尾が。先刻破壊されるも、不完全ながらも修復し、鈍器の役割を取り戻したその尾部が迫る。

「――ッ…!!≪荷電粒子の神槌(トール・ハンマー)≫!!」

瞬時に雷電回避により威容の圧殺攻撃を躱す。間髪を入れぬ反撃も、無理な距離と角度の手前、決定打とはなり得ない。

「―――ふむ、多少はやるか」

距離を取り、まるで他人事のように彼の戦力を分析する。僅か10秒にも満たぬ攻防の中で、電気の魔人は、バーテックスの優位性を初めて認定する。

 

「なるほど、確かに。この威容、再生力に連動陣形(フォーメーション)。このままでは、埒が明かんな」

再び迫る、「この世界」の終焉。危機的状況。

けれど、けれど。

「実際のところ、この場に我が身を引き入れた地の神が、この世界を壊し得る災厄と定義した存在。あながち誇張でもないらしい。だが―――」

ペルクナスはどこまでも、余裕の態度を崩さない。

何故ならば――

「電界の剣さえ揃えば、私に対する全ての抗戦は無為に帰す」

男の周囲に展開する、蒼白き電光の刃が――ひとつ、増える。否、断じて否。増えたのではない。減ったものが再充填(リスポーン)されたのである。

そして―――

「来たか。ならば、我が大鎧にて、刹那の裡に滅ぼすまで。機械帯(マシンベルト)、最大駆動」

機械帯(マシンベルト)に電界の剣が…深淵の鍵が装填されてゆく。トール。ヴァジュラ。レイ=ゴン。ユピテル。そして、ペルクナス。神々の残骸の銘を持つ鍵が、すべて、すべて、機械帯(マシンベルト)に装填されたその刹那。神樹の内部から黄雷が光り。白い男が立っていた場所に、天の使い魔とはまた異なる、新たな威容が顕現していた。

「地の神々の拘束結界の解除に手間取ったが。これでもはや、万に一つも、貴様たちに後れを取ることはありえまい。行くぞ――――――ニコラ・テスラ、超電磁形態、起動する」

 

―――それは、鋼鉄の巨人だった。それは、白銀の騎士だった。刹那の間に、迸る膨大な黄雷の煌めきが―――何かを形成するようにヒト型へと収束していき―――鋼鉄の巨躯が、雷電の輝きの中から姿を顕していき―――雷の光を纏う、巨大戦闘人形が、其処には立っていた。

その四肢は鋼鉄であり、その四肢は白銀であり、その四肢は雷電そのものである。迸る雷電は絶えず鎧の周囲を舞って、白銀の装甲には黄金の意匠。数十フィートを超す鎧を纏い、樹海の天井を貫く雷を更に多く纏い。巨大な騎士が。電気騎士(ナイト・オブ・サンダー)が、其処にはあった。

それでも、まだバーテックスの威容には程遠いと思われた。だが。

拡大変容(パラディグム)、開始。展開――――」

 

――――雷電、伴って…電気騎士が拡大する。白銀の体が変容する。その体躯、すべてが彼の鎧なればこそ!自在に拡大させ得る。数倍、十倍の巨躯へと変容を果たし―――巨大とはいえバーテックスに比すれば矮小であったその全高は、今や、バーテックスと互角かそれ以上の威容を誇るまでとなっている―――!!

白銀の―――巨大な、騎士―――その頭部には巨大な翠の宝玉が。その周囲は眩い輝きが。巨いなる鎧を纏い、樹海を疾走する雷を更に多く纏い、巨大な騎士が、バーテックスに立ちはだかる。

これは鋼鉄であり、鎧であって機械人形ならぬものではあるが―――演奏席にて電光の鍵盤を奏でる≪白い男≫によって―――雷電の神経が通った戦士と化している!

「すぐに終わらせてやる」

騎士の内部―――その演奏席にて、雷電王は意識を研ぎ澄ます。そして―――電磁浮遊によって、樹海のソラを舞う騎士が。発光し、膨大な電力を収束してゆく。

天の悪意の具現が、バーテックス達が、脅威を察知して鋼鉄の騎士へと狙いを定める。

射手座象りしものが、死の針の雨を降らせるが―――騎士に、サジタリウスの攻撃が通じている様子はない。

それも当然の帰結ではある。なぜなら――二万枚ほど重ねられた不可視の雷電防御膜が、死の矢を弾いているからに他ならない!

「いかなる質量も。いかなる熱量も。我が大鎧を砕くこと、能わず!」

やがて全身から電光を迸らせ、騎士の瞳が光り輝く。輝き。その光輝、大雷球となりて!

射手座の魔に照準を定め。射出する!撃ち砕く!

「≪交差雷電の鳳(オルタネイト・バスター)≫ッ!!!」

雷球が命中した刹那に、瞬時に射手座騙るものは砕け散る!粉砕。完全なる破壊。粉々となった白き怪物質の破片だけが、雪花のごとく舞い散るのみ。

間髪入れずに、蟹座の御使いなりしものに、騎士がその矛先を向ける。

「受けよ―――≪輝光なりし帝の一閃(ギガ・ユピテル・バスター)≫ッッッ!!!」

雷光に呑まれる、キャンサー・バーテックス。光の条が消えゆくと、蟹を騙る邪悪は、跡形もなく消え果ていた――――

 

「すごい…私とわっしーが跳ね返されたあのバーテックスを…一撃で…?」

安全地帯から様子を見守っていた紫装束の金髪の少女――乃木園子は驚愕の表情を隠さなかった。夢で出会った男の圧倒的な強さに。その無敵性はまさしく、自分を、そして友を…須美と、何より瀕死の銀を。嘆願した通りに救ってくれるに相応しいものなればこそ。

 

次いで蠍座が騎士に、毒尾を以て襲い掛かるも。それは、あらゆる抵抗が無意味であると識った後の、自暴自棄にも映る攻撃でしかなく。

「―――おまえに与えられる慈悲は無い。我が鋼鉄にして雷電の鎧、我が無限の正義。貴様らに破れるものかよ」

瞬時に大剣を生成し、騎士の剣が蠍の尾を薙ぐ。離れ際に、続けざまに、放たれる、浮遊する白銀の盾4枚を以ての自律駆動斬撃―――死の舞踏(ダンス・マカブル)によって。蠍が怯む、その隙を―――雷電の身は、見逃さない。

「終わりだ――――≪電位雷帝の剣斧(ヴァジュラ・ブレード)≫ッ!!!」

風よりも速く!閃光の如き圧倒的速度で、全てを薙ぐ勢いで、騎士が猛然と突貫する!その斬撃、正真正銘、雷の剣なれば――――!!

「――――!!」

両断。騎士が着地すると同時に!蠍座の名を冠する悪なるものは、その躯体を縦ふたつに割られ――――爆炎、爆風、爆音と共に。塵芥となりて砕け散った。

「か…勝った…?」

「すごいわ―――」

園子、須美は、俄かには信じがたい、しかし夢のような光景を。戦闘区域の樹海化の解除が始まってようやく、実感できたのだった。

 

「――――時間、か」

須美、園子の無事を、そして生死の淵にある銀の肉体の無事を確認した≪雷電王≫の身体が。樹海化が解除され、「世界」の風景が戻るにつれ、薄らぎ、電子の光となり、消えてゆく。

「――――!?これって?」

≪勇者の世界≫から、白い男が消えゆくことに気付いた須美。

「――――ああ、どうやら、この“世界”からの退去が始まったらしい。私は、()()()()()()()()()()()()()()()()だ。夢見の橋、夢歩きの寄り道によって、私が誓った“正義”を成すべく。私は、一時的にここにいるに過ぎない―――もっとも、私の存在を許容する世界など―――いや、今のはなんでもない。ともかく、私は、ありていに言えば、おまえたちにとって()()()()()()()なのだ。故に、時間が過ぎれば、ただ去るのみだとも」

「そんな―――待ってください!まだ、私たち、あなたに恩を返せてないのに―――!!」

≪白い男≫の顕現。その実情を知り、須美は恩義を返せない事実を嘆く、ものの。

「でも、わっしー。こういう時は、ありがとう、って。伝えるだけでも、良いと思うんよ」

「――――うん…それも、そうね…」

園子の言葉に、須美も不本意ながらも納得し。

「助けていただいて、本当に、ありがとうございました!!」

「――――はは。それで十分だとも。そも、私に恩を返す前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()。だが―――とにかく、まずは、友達を病院に連れて行きなさい。彼女は、この私が認めた、()()()()()のひとり―――そう、真なりし勇者なれば、な」

「はい!!」

「銀、待っていて…!必ず助けるから――――!!」

近くに病院があることを確認し、救急車を呼ぶ須美と園子。ふと、須美が、先刻まで背の高い白い男が存在していた場所に目をやると。

そこには、もう、誰もいなかった。

 

「ニコラ・テスラ――――狂気なりし≪雷電王≫。幻想の戦士にして鋼鉄の男。≪結社≫最大の“大敵”。夢渡る道に招かれ、黄金の魔女に導かれ。貴様も、この世界を訪れたか。勇者の世界。バーテックス。そして―――天の神。――――はは」

樹海化が解けた街の物陰に、右目を眼帯で覆った、黒衣纏う長身の男が。黒い髪を持つ、影だまりの如き黒い男が――――きっと、樹海化が展開されていた時からなのだろう。一部始終を見て、不敵に、笑っていた。

 

「――――ねえ、わっしー。そういえば、私たちを助けてくれたおじさん…どんな人だったっけ?」

「――――そういえば、帝国海軍の軍服みたいな白い服を着た男の人が、助けてくれたような気がするけれど…気のせいだったのかしら?なんだか、ゆめ、みたいな―――」

病院に向かう救急車、銀の次なる戦いに付き添うその途上。園子と須美は、そんな会話を、交わした。

つい先刻、無限の正義を果たすべく救援に顕れた、≪雷電王≫を名乗る白い男についての記憶は。既に、霧の向こうの出来事の如く。

 

「――――三ノ輪銀は…たとえ命を取り留めたとしても、もう、お役目を果たせる状態に戻ることは…」

「――――ふむ。仕方ありますまい。此度は神樹様のご加護がありましたが。もはや現行の勇者システムでは、限界ということでしょうな…」

生死の境を彷徨う重体者を出したことは、すぐさま、大赦にも報告が行き渡った。大赦―――それは即ち、勇者たちと勇者システムの運用を管轄する政治機構・宗教組織にして、天の神なりし存在の脅威から人類を守るべく結成された、人類最後の防衛戦線。須美、園子、そして銀が在学する神樹館小学校の教員、≪安芸先生≫もまた、大赦の構成員であった。電話越しに状況報告を行う彼女の耳に告げられた、大赦の意思が示すものは。希望か、絶望か―――

「バーテックスの知性の向上、そして更なる侵攻に備えるためにも。勇者システムの改修、そして、その運用テストを、近々行います。残る二人には、担任である貴方がお伝えなさい――――」

「――――はい。承知いたしました」

この先に、勇者たちを待つものは――――

 

「――――あの子たち、大丈夫かしら?これで良かったの?」

「――――わからん。今回は時間もなかった手前、助けられたのか、今となっては確信も持てぬからな。だが―――」

雷電の男が、夢の空間に戻る。黄金の魔女と呼ばれし紫苑の髪の少女が、男に問いかける。夢を渡り、夢の道を歩きながら。二人が、言葉を交わす。

「――――それでも、私は、声が聞こえたのならば。無限の正義を成すため、時の牢獄を出たあの日の誓い(わがせいやく)を果たすために。この腕を、伸ばす。伸ばし続けるのだろうよ」

「――――うん。なら、それでいいと思う。その腕が、雷の剣だとしても。その身が、どんな世界にも居られない、幻想(おとぎばなし)だとしても。()()()()()()()()()()()()にはさせないって誓ったのは、貴方だから」

少女の問いに、男が応え。男の答えに、少女は頷き。

「ああ。そうとも。―――そして、なればこそ。私は、次の戦いに赴こう。いずれは戻らねばなるまいが、な。時計鳴らす、かの者を、月の王(チクタクマン)を阻むべく。黒雲覆うかの世界に」

「――――うん。でも、それにはもう少し時間があるでしょ?今は、また次の人助けに行かないと」

「ああ、そうだな――――」

戦いは、もう少し続く。何の因果か、()()()()()()始めた、黄金の魔女と呼ばれし少女。雷電の戦士と、そして≪一輌だけの地下鉄≫と、少しの仲間も引き連れて。

誰かが願い、誰かが叫び、誰かの声が届いたのなら。彼等は手を差し伸べて、旅はもう少しだけ続くだろう。

 

「絶望の空に、我が名を呼ぶがいい。雷鳴と共に。私は、来よう」

 

 

 

 




長文お目汚し失礼いたしました!
やっちまったぜ…

しかし、ある7月10日、ツイッターで銀ちゃんの命日を偲ぶ人たちを見て、色々辿っていくうちに目にした、「#三ノ輪銀を救い隊」という、「こうであったらいいのにな」っていう趣旨のタグ。
銀ちゃんの早すぎる死を悼む人々が小話を書いていたというその様子を見て、創作意欲が抑えられずプロットを創り…まあ、多忙とか鬱病ピンチとの闘いとか風邪とかで大遅刻!したわけですが、こうして銀ちゃんの誕生日を記念して投稿させていただきました。

なぜスチパンシリーズをクロス相手に選んだかといえば、私自身がスチパンシリーズも好きだったのと、3体のバーテックス、あの絶望的状況から、もしクロスだとしても銀ちゃんを救えるとしたら―――と考えたときに真っ先に浮かんできたのが、雷電王閣下だったからです。
ちなみにスチパンシリーズ歴はそんなにないにわかですので、色々間違ってたりオリジナル解釈で辻褄を合わせたりしているかもしれないが、そこはご容赦のほどを…
まあ、ゆゆゆの方でも独自解釈で辻褄合わせたりしてますが、幻想なりし雷電の身たるテスラおじいちゃんなら普通にバーテックスに攻撃通るよなとか、設定考証らしきものはしてます。

ちなみにテスラおじいちゃんたちはこのお話の時空においてスチパン版アヴェンジャーズ的なことをしてる設定なんですが、これは完全に妄想です!はい!
基本Mさんは単独で別行動してて物陰や高いところから眺めつつ、本当にヤバくなったら出てくるとか妄想してました。ネオンちゃんも車掌さんに乗せてもらって、旅に同行はしてる、だからおじいちゃんも存在を保ててる設定なのですが、世界からの修正のみならず「世界観の修正力」もはたらくので、ウルトラマン宜しく、おじいちゃんはほんの短時間しか単独では降り立てないことにしています。

あと、なんでも許せる人向けタグをつけといてなんですが、生存IFを書くこと自体の賛否は、私には答えが出せません。ただ、誰かが助けに来てくれる、こういう夢があっても、別にそれ自体は悪くないかな的なのが、「銀ちゃんの誕生日だから」ということで特別に作用したわけです。
本音を言えば、年端もゆかない子どもが戦って死ぬのはやっぱり悲しいし、それも銀ちゃんみたいないい子だとなおさらでは、あります。
でも、銀ちゃんの死によって意味づけられたもの、銀ちゃんの尊い犠牲の先に齎されたものも、確かにあるのだとは思います。メブのことや、にぼっしーのこととか。
それゆえ、本作では、救出はされたが搬送中というところで終わってますし、勇者としてのお役目に戻ることは残念ながら叶わない、という設定を、苦肉の策として採用いたしました。なんか変なこと後書きに書いてすみません。

――――というわけで、本文に加え後書きでも長文失礼いたしましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。
改めて、本作は11月10日、三ノ輪銀ちゃんの誕生日に向けて書かれたクロスオーバーIF二次創作となりましたが、作者の都合により当日からは大遅刻となりましてすみませんでした!
感想などお待ちしております。
良き青空を!&勇者たちに、拝!


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