Only Art Online (ベルファール)
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GGO 1話(プロローグ)

原作主人公からスタート


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 始まりは、GGO(ガンゲイル・オンライン)にて。

 

 しかも、第3回BoB(バレット・オブ・バレッツ)が開始する前のことだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 _?_サイド

 

 今日は、どのような獲物が釣れるのだろうな。

 

 今、いる場所は、辺り一帯の荒野。

 

 主街区のSBCグロッケンから3キロほど離れたところにある高台で、愛用のウルティマラティオへカートⅡを手に、獲物を狩ろうとしている女の子をした男の子がいた。

 

「さて、今日はどんな獲物が来るのだろう」

 

 スコープ越しに今日のターゲットを探してるプレイヤー名はユン。

 

 彼女いや彼は、自分と同じように狩りをしようとしてるプレイヤーたちを発見する。

 

 ふぅ~、今回の獲物は彼らのようだな。

 

 んっ?

 

 俺はスコープ越しに1人のプレイヤーを視る。

 

 水色の髪をした女の子。

 

 このGGOは女性率が低い。

 

 何しろ、PK推奨されてるし。プロゲーマーが参戦するので、定評なGGOだぞ。

 

 よくやれるな。

 

 まあ、俺の場合は、心の中に掬う闇を少しでも和らげるため、ストレス解消目的で始めたけどな。

 

 おっと、俺のことを話し始めちゃったな。

 

 とりあえず、目の前のことに集中しよう。

 

 どうやら、向こうの狩りのターゲットはMob専門スコードロンのようだな。

 

 さて、お手並み拝見といきますか。

 

 んっ? 俺はスコープ越しだけど、あるプレイヤーの動きを見る。

 

 フードを被ってるプレイヤーだ。

 

 此奴はもしや・・・俺は少しだけ考えてから、応えを導き出す。

 

「しょうがない。援護するか」

 

 我ながら、甘い人間だな。

 

 俺はフードを被ってるプレイヤーにウルティマラティオへカートⅡの照準を合わせ、一度、深呼吸して、心を無心にする。

 

「俺は銃弾・・・無感情の弾丸・・・」

 

 いつの間にか、癖になっていた台詞を吐いた。

 

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 __?サイド

 

 意識が低すぎるのではないか。

 

 私は朝田詩乃。

 

 GGOでは、シノンで名を通してる。

 

 今、私は参加してるスコードロンに対して、思ったことは緊張感がないこと。

 

 作戦前なのに、緊張感のない会話、装備の点検すらもしていない。元々、次のBoBの有力候補であるダインについて情報を得るために潜り込んだのだけど、取り越し苦労かもしれない。

 

「おい、来たぞ」

 

「ようやく、お出ましかい、貸せ」

 

 私は愛銃のへカートⅡのスコープから覗いた。

 

「確かに、彼奴らだが、以前よりも1人多いな、補給兵か? まあ良い、全員配置につけ」

 

 ダインの言葉でメンバーが動き始める。

 

「シノン。動き始めたら、俺たちには奴らが見えなくなる。状況に変化があったら知らせろ。狙撃のタイミングを指示する」

 

「了解」

 

 私はスコープに右眼を当て、移動中の7人を視界に入れる。

 

「・・・にしても、あのマント野郎。もしかして、噂の『デスガン』じゃあないのか?」

 

 メンバーの1人が微かに緊張の声で呟いた。

 

「ハッ、まさか。実在するかよ。第一、『死銃』ってのは、小柄のギリースーツなんだろ? 彼奴はどうみても2メートルはありそうだ。バカ言ってないでさっさと配置につけ」

 

 軽い返事が聞こえるわね。私はそれを意識から外した。

 

 集中を高めながら、ダインたちが配置につくのを待っていたその時――、

 

「えっ?」

 

 私のちょうど、ギリギリ真上を一筋の線が通っていき、フードを被ってるプレイヤーの額を貫いて、ポリゴン片に姿を変えた。

 

「ッ!? ダイン緊急事態! ターゲットの1人が消滅。別のスコードロンがいる可能性あり!」

 

『なんだと!? 現在の状況は!』

 

「全員が呆けているように見える。あっ! また撃たれた、今度もさっきと同じように1人!」

 

『狙撃か? 射線は見えたか?』

 

「私のちょうど、真上から射線が見えた!」

 

『ならば、迎撃してくれ!』

 

「了解」

 

 私は割り込んできたスナイパーに迎撃する体勢を取る。

 

 スコープ越しに敵を補足する。

 

 補足したからこそ、信じられない事実が発覚する。

 

「う、嘘でしょ・・・」

 

『どうした、シノン!』

 

「あの狙撃手・・・ここから()()()()()()()()()()離れたところから狙撃してる」

 

 私の呟きにダインが

 

『シノン! 其奴の特徴は!』

 

「特徴は、長い黒髪の女のスナイパーよ!」

 

『じゃあ、間違いない! 其奴は『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』! 気をつけろ! 其奴は前回のBoBの第4位入賞者! その実力は本物だ!』

 

 よ、4位入賞・・・。

 

 私も前回のBoBには、参戦してる。

 

 そこで、上位入賞ってどれほどの実力者なのよ。

 

 さらに、ダインは

 

『さらに言えば、第1回BoBでも、3位入賞してるスナイパーだ』

 

 上位入賞できるほどの実力者というわけね。

 

 だったら、ここで、其奴を倒して、私は強くなる!

 

 私はすぐさま、狙撃体勢に入る。

 

「さあ、くるなら来なさい」

 

 その頭に風穴を開けてやるわ!!

 

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 ユンサイド

 

 へぇ~、どうやら、彼女。

 

 俺と狙撃勝負をしたいようだな。

 

「いいよ。その勝負受けてあげる」

 

 俺は愛銃のへカートⅡのスコープ越しに水色の髪をした女の子に照準を合わせた。

 

 息を吐いて、思考をクリアにする。

 

「俺は銃弾・・・無感情の弾丸・・・」

 

 引き金を引いた。

 

 俺はそこに、僅かに位置をずらして、引き金を引く。

 

 僅かなタイムラグだが、このタイムラグが勝敗を決するのを俺は知ってる。

 

 あの世界で、俺は嫌というほど体験したからだ。

 

 俺は無感情のまま、次の動きを予測する。

 

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 シノンサイド

 

 敵が撃ってきたから、私もすぐさま迎撃する。

 

 スコープ越しに敵を覗き見る。

 

 あれ? あの弾丸・・・まっすぐに私の()()()()を狙ってる!?

 

 私はブラインドを防ぐために、焦って、顔を左に逸らした。

 

 逸らしてしまったからこそ、私は2発目の弾丸を避けることができなかった。

 

 ここで私は驚いた。

 

 驚いたわけは、あの長い黒髪のスナイパーは、ここまでの先読みをしていたというの!?

 

 す、凄すぎる・・・!?

 

 2発目の弾丸を撃ち抜かれた私は、そのままポリゴンとなって消滅した。

 

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 ユンサイド

 

 俺はスコープ越しに水色の髪をした女の子が消滅したのを確認する。

 

 一方的な勝負になったな。

 

 せっかくの勝負の気が削がれた。

 

 とりあえず、戦利品でも視るとしよう。

 

 俺は戦利品リストを見るとへカートⅡがリストアップされてた。

 

 これって・・・さっきの女の子のライフルだな。

 

 俺も持ってるし。いらないから返すか。

 

 そういや、スコープが壊れていたな。

 

 ついでに、スコープも付け直してから返却しよう。

 

 その後、俺は一方的な狩りをしてから、すぐさま、ブロッケンに向かうことにするのだった。

 

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2話

原作主人公
朝霧峻
黒髪黒眼の美少年。
中性的な顔立ちをしてる男の子である。
※朝霧というのは、勝手な予想です。
 意見があれば、感想などで意見を言ってくださると嬉しいです。


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 シノンサイド

 

 今日はとても災難。襲撃のことはどうでもいい。

 

 黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)が割り込んできたのもどうでもいい。

 

 一番の災難は、私の半身である愛銃、へカートⅡがドロップされてしまった。

 

 蘇生され、それを知ったとき、この上ない地獄を味わい、お先真っ暗になってしまった。

 

 酒場のカウンターに突っ伏しながら、最後の希望であるオークションを覗いてた。

 

 レアな銃だもの、オークションに賭けられてるに違いないと思い、既に1時間。

 

 ・・・全くもって見つからない。

 

「フ、フフフフフフフ・・・」

 

 もう、私は一生強くなれないのかもしれない。一生、過去に怯え続けるのね。

 

 その時、私の左肩にツンツンと叩かれた。

 

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 ユンサイド

 

 さて、さっきの女の子を探してるけども、全く、見つからない。

 

 やっぱり、GGOの女性率が低いのが、ここに来るんだなって思えるよ。

 

 もう、ログアウトしてるのかな。

 

 かれこれ、1時間。

 

 こっちもそろそろ、リアルでやりたいことがあるからログアウトしないといけない。

 

 この酒場を最後にしよう。

 

 それにしても、店内の雰囲気が暗いな。

 

 まるで、誰かが、相当ネガティブオーラを出してるかのようなものだぞ。

 

 しかも、お客も少ない。

 

 俺は店内を見渡してると一番奥のカウンターにその、なんというか・・・彼処だけ、地獄の谷底があるように見えるんだけど・・・おや、そこに座ってる彼女は・・・

 

「あっ、彼女か」

 

 あまりの落ち込みように俺すらももの凄い罪悪感を感じてしまう。

 

 罪悪感に苛まれながら近づいていき、左肩をツンツンと叩いた。

 

 その水色の髪をした女の子。

 

 まるで、ゾンビのようにゆっくりと振り返った。

 

 この時、俺は彼女の眼を見たとき、ビックリする。

 

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 シノンサイド

 

 私はツンツンと叩かれたから絶望感を味わいながら、振り返る。

 

 そこにいたのは――、

 

 

 

 この世のものとは思えないような美少女だった。

 

 

 

 私は半ば、放心しちゃう。

 

 凜々しい顔立ちだけど、何処か守りたくなるような愛嬌を感じちゃう。

 

 10人が聞けば10人が美少女と応えると思う。

 

 でも、彼女の眼。

 

 何処か、私と似てる。

 

 それよりも、彼女は私に

 

「お前1時間前にスコードロンを襲おうとしていただろ」

 

 言葉を投げかけてきて、私は目を見開いて、勢いよく立ち上がった。

 

「あ、あんた・・・あの時の!」

 

 私はこの時、もの凄く彼女を睨んだ。

 

「返しなさい私の――」

 

「返すよ、ほら」

 

「――へカートをってへッ?」

 

 彼女はメニューを開き、私のへカートを実体化させ、返してくれた。

 

 しかも、壊されていたはずのスコープまで付けてくれた。

 

 私は彼女からへカートⅡを返してくれたことに思わず、

 

「えっと・・・なんで?」

 

 あまりにも、信じられないことを口にする。

 

 そしたら、彼女は

 

「何だ、返して欲しくないのか?」

 

 切り替えされて、私はつい、

 

「そうじゃなくて! 何で返してくれたのかって事!!」

 

 言い返した。だけど、彼女は

 

「・・・キミが、その銃で本当に強くなろうとしてるから・・・俺と同じように・・・

 

「えっ?」

 

 最後の部分が聞こえなかったけど、続けざまに彼女は

 

「それと、キミの眼が気になった」

 

「眼?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()をね」

 

「ッ!?」

 

 彼女は最後にそれだけを言って、踵を返して、その場から去ろうとした。

 

 私は彼女の言葉の真意を理解したくて、咄嗟に

 

「待ちなさいよ!」

 

 その腕を掴んだ。

 

「なんだ?」

 

「このままじゃあ、私の気が済まない、なにか奢らせなさい!」

 

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 ユンサイド

 

「――なにか奢らせなさい!」

 

 その切羽詰まった眼は俺から強いわけを聞こうとしてるな。

 

 ここで断っても、彼女は俺の情報を掻き集め、探り当てようとするだろ。

 

 しょうがない。ここは、素直に従いますか。

 

「分かったよ、ご馳走になろう。ただし、人気のないところで奢らせてもらうよ」

 

 俺はそう言って、彼女と共に、人気のない店に向かった。

 

 隠れた店にやって来た俺と彼女。

 

 彼女は店の雰囲気を視ていた。

 

「本当に人気のないお店ね」

 

「そう簡単には見つけられないところにあるからな。それで、俺に聞きたいことがあるんだろ?」

 

 彼女は俺が言ったことに正鵠を射貫かれて、黙り込んでしまう。

 

「図星か。いいよ。応えられる範囲で応えるよ」

 

 俺と彼女は互いに席に着いて、お茶を取り始める。そしたら、彼女が

 

「一つだけ聞きたいけど・・・」

 

「なんだ?」

 

 この時、俺は自分がニコッと軽やかな笑みを浮かべてたとは夢にも思わなかった。

 

 なので、彼女は

 

「ッ!?」(◎-◎;)ドキッ!!

 

 言葉を詰まらせてる。

 

 どうしたんだ? 俺は心の中で疑問を生じる。

 

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 シノンサイド

 

 な、なんて顔を浮かべるのよ!?

 

 同じ女の子なのに、見惚れてしまうじゃない。

 

 落ち着くのよ、私。

 

 一回、心を落ち着かせる。

 

 それにしても、彼女ってそんな笑顔を浮かべるのね。

 

 って!? そんなことじゃなくて・・・

 

「貴方はどうやって、その強さを手に入れたの?」

 

 私個人が最も欲してる応えの質問をする。

 

 でも、彼女は

 

「強くない。確かに技術面じゃあ、俺は高いのは認める」

 

「嘘」

 

 私は彼女の応えに反問し、言い返し、見返した。

 

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 ユンサイド

 

「嘘」

 

 彼女は俺の応えに反問し、見返してる。

 

 俺も彼女を見返した。

 

 彼女の眼の奥には、誰かに縋りたいという想いが宿っている。

 

 それは、今の俺と同じように見えた。

 

 今も取り除けていない果てなき恐怖が――。

 

 だからこそ、俺は彼女の質問の意味を知り応えた。

 

「キミが聞きたいことは心の中に掬う闇、恐怖に打ち勝つ方法だろ?」

 

「・・・・・・」

 

 彼女が固まってのを視て、

 

「図星だね。はっきり言えば、打ち勝っていないだな」

 

「・・・・・・そんな・・・」

 

 彼女は俺の応えを聞いて、自己嫌悪に陥りそうになってるので、

 

「ただし、それは、今でも恐怖と戦い続けるという意味に繋がる」

 

「・・・どういうことよ」

 

 彼女は若干、虚ろになってる瞳で俺を視てくる。

 

()の考えを聞いて、キミがどう判断するかはわからない。でも、キミがそんなことを聞くというのは、()と似た悩みを抱えてるというわけなんだろ?」

 

 コクッと頷く彼女。

 

 本当なら、俺なりの考えを話したいけど、俺の話を信じるかどうかわからないし。なにより、見届ける責任があると俺は思う。

 

 だが、これだけは言わせてほしい。

 

「本来なら、()の意見を聞いて、キミに考えさせたいんだけど・・・こればっかりは教えられない」

 

「そんな!?」

 

「・・・酷いように聞こえるけど、自分で考えるしかない。少しでもいい一歩前に進むきっかけが見つかれば、自ずと応えが見えてくる。俺はそう思うよ」

 

「分からないわよ! 教えてよ! 私をそれを手にするために・・・」

 

 今の彼女は駄々をごねる子供だな。

 

 でも、分からなくもない。

 

 俺も、いや、俺たちも何度も自問自答して、それぞれの応えを見出した。

 

 俺と彼奴だけはまだ、その応えを見出していない。

 

 だから、

 

「ならば聞くけど、キミは目の前で自分にとって大切な人が、自分が殺されかけていたら、キミは迷いなく、人を殺せる自信がある?」

 

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 シノンサイド

 

「ならば聞くけど、キミは目の前で自分にとって大切な人が、自分が殺されかけていたら、君は迷い泣く、人を殺せる自信がある?」

 

 この時、私は思わず、呼吸を止めてしまう。知っているの? 私があの血に濡れた忌々しい過去を知っているっていうの?

 

 彼女は席を立って、

 

「答えが出せたら、教えてあげる。それじゃあ」

 

「えっ、ま・・・」

 

 私は席を立って、お店を出ようとする。

 

 だけど、彼女は・・・

 

「あっ、そうだ」

 

 彼女はメニューを開いて、ネームカードを選択して、私に渡してくれた。

 

「キミもネームカードを渡してくれないか?」

 

「えっ? うん・・・」

 

 私も彼女にならって、ネームカードを選択し渡した。

 

 受け取った彼女は

 

「基本は木金土日に潜ってるから。用件があれば、連絡してほしい。それじゃあ」

 

「ちょ、ちょっと待って・・・」

 

 私は止めようとしたけど、彼女はそのまま、ログアウトしてしまった。

 

 私は伸ばした手を下げ、受け取ったカードを見る。

 

「・・・えっ?」

 

 優しいけど、口の悪いところがあると思ったけど・・・

 

「あ、あれで男なの・・・?」

 

 ちょっと待って・・・あの時、彼の笑顔に見惚れちゃった。

 

 それじゃあ、つまり、私は彼に惚れ込んだように見えるじゃない!?

 

 落ち着きなさい。私の心臓・・・私は胸に手を当てて、昂ぶる鼓動を抑えるのだった。

 

 私はもう一度、カードを見る。そこに書いてあるプレイヤー名を視た。

 

「ユン・・・ね・・・」

 

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3話

オリ主登場
柊銀華。
特徴は銀髪に碧眼の美少年。
世にいう男の娘である。


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 ?__サイド

 

 俺は目を開ける。

 

 1つ大きな伸びをして立ち上がり、部屋を出て、ダイニングにやってくるとまだ、誰もいなかった。

 

 そういや、__姉ぇはゲームの方にログインしてるんだったな。

 

 それじゃあ、先に夕食でも作っておくか。

 

 俺はキッチンに立って、夕食の準備に入る。

 

 それにしても、彼女――シノンだったな。

 

 彼女も俺と同じように、恐怖に怯え続けてるのか。

 

 ()()()をしたという恐怖に――。

 

 しかし、俺も俺だな。

 

 同じ苦しみを味わってる彼奴ら以外にこんなことを話すなんて、いや、関わるなんてな。

 

 しかも、初対面で、敵だった奴に関心を持つなんてな。

 

「ふぅ~」

 

 俺はここで、息を吐き、自分の手を視る。

 

 傍目から視れば、汚れてるように見えない。だが、俺から視れば、この手は血で汚れてるのを幻視してしまう。

 

「ハァ~」

 

 俺は息を吐いてから、

 

「さっさと夕食でも作ってしまおう」

 

 切り替えて、調理に集中するのだった。

 

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 三人称サイド

 

 それから数日間、ユンとシノンはGGOで一緒に狩りをしてる。

 

 狩りを終えたら、ユンのホーム兼整備室に案内してもらい、銃のメンテナンスをしてもらう。

 

 シノンは整備の腕前に目を見開かせる。

 

(す、凄い・・・なんて、整備の腕前・・・彼もへカートⅡを半身いえもはや、身体の一部かのように整備してる。言うなれば、それは既に肌のケアをしてるに等しい・・・まさか、ここまでとは思わなかった・・・)

 

 彼女はユンがライフルに対して、愛情とか思いやりが桁違いなのを知る。

 

 それは、まるで、へカートⅡという狙撃銃に対して、経緯や慈悲をもって傅く。

 

 一撃必殺の弾丸に等しかった。

 

 それに、シノンは整備室にある装備一式にも驚きを隠せない。

 

(『銃剣作成』スキルで作られた武器に・・・防具・・・そして、この弾・・・)

 

「ここにある全部ってあんたが作ったの?」

 

「ああ・・・ここにある全部は俺自身で造りあげたものだ」

 

「この弾も?」

 

「そうだよ。俺は拳銃から弾に至る全ては自分の手で作成する。弾に関してはプレイヤーメイドで名が知られてる。俺は狩りに於いては『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』と知れ渡っているけど、銃弾を製作する生業じゃあ、『絶対弾(ミスファイア・ゼロ)』という名でも知れ渡っているよ」

 

「『絶対弾(ミスファイア・ゼロ)』・・・不発弾(ミスファイア)を防ぐために存在するプレイヤー。GGOじゃあ、その銃弾製作者をGGO随一と言わしめてると耳にしてるけど・・・まさか、あんたが作っていたというの?」

 

「ああ、俺はレアアイテム以外は自分の手で作り上げてる。自分で製作していた方が気が楽だからね」

 

「私もあんたの弾丸を買おうかしら?」

 

「いいよ。シノンに買わせる気はない。今度のBoBには、新作の弾を使用する気だ。キミには、新作の弾を提供する」

 

「良いの? 私に手の内を明かして・・・」

 

「いいさ。それぐらい、どうとでもなる。しかも、俺とコンビを組むんだろ?」

 

 ユンの言葉にシノンは目を閉じ、

 

「それもそうね。それじゃあ、お言葉に甘えて。あんたのお手製の弾を貰うわ」

 

「ッ!?」(◎-◎;)ドキッ!!

 

 この時、ユンはクールなシノンが見せる笑顔にドキッと胸を高鳴らせるのだった。

 

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 ?_?サイド

 

 なんだ、ここ・・・スゲぇセレブ感があるんだが――。

 

 俺は柊銀華。

 

 今日は、とある政務官に呼ばれたからだ。

 

 だが、一言だけあるとしたら、場違い感がある。

 

 どうせだ。あの政務官に嫌っていうほど、金をせしめるか。

 

 俺はそんなことを思いながら、高級喫茶店に着いた。

 

 ドアをくぐれば、即座に完璧と思える店員の対応ぷりに苦手だなと身構えてしまう。

 

「おーい! ギンくんこっちこっち!」

 

「・・・・・・」

 

 空気読めよ。

 

 隣のおば様方が睨み利かせてぇんじゃねぇか。

 

 ついでに、対面してる黒髪の少年も同じように睨んでる。

 

「遅れてすまねぇな。ちょっと、予定が立て込んでてな」

 

「その予定を聞いていいかな?」

 

「教えるかよ。なんで高級官僚様に俺の予定を知る権利があるんだ?」

 

 俺は呼び出した人物に軽く睨む。

 

「当てつけと取っていいかな?」

 

「おい、止めろギン。高級官僚(それ)しかネームバリューがないんだからさ。可哀想だろ?」

 

「・・・泣いていいかい?」

 

 いい歳した大人が泣くとか誰得だよ。気味が悪ぃぜ。

 

「それで、俺たちを呼んだわけをさっさと話してくれねぇか。菊岡さんや?」

 

 俺は呼び出された高級官僚――菊岡誠二郎。

 

 俺は彼に呼び出されたわけを聞こうとする。

 

 あと、俺の隣に座ってる黒髪の少年は桐ヶ谷和人。

 

 かつて、俺と同じSAO(ソードアート・オンライン)で共に戦い抜いた戦友だ。

 

 そしたら、菊岡さんは手を組み、真剣な顔をする。

 

「キミたち2人は仮想世界での現象が現実のプレイヤーの心臓を止めることが可能だと思うかい?」

 

 俺と和人は2人揃って、口を閉ざす。

 

「遠回りしたかったが、急ぎだからね。本題を話すことにしよう」

 

「どういうことだ?」

 

 和人は言葉の意味が分からず、聞き返す。

 

 だが、俺はGGOで起きた。あの事件のことかと思い出す。

 

「此奴を視てくれ」

 

 菊岡さんは俺と和人にタブレット端末を渡す。

 

 そこには、とある人物の個人情報と思われるのが映されていた。

 

「誰だ?」

 

「先月だったかな・・・11月14日。東京都中野区の某アパートで変死体が発見された」

 

「穏やかじゃねぇな。死因は?」

 

「死因は急性心不全。死後5日半は経過して、ベッドに横たわり・・・」

 

「アミュスフィアを被ってたわけか・・・」

 

 俺はこのご時世、よくある事を漏らす。

 

「このご時世・・・よくある話だろ。こういったのはニュースに流れねぇ。関係者も表沙汰にさせたくねぇ。これもVRMMOによる侵食だな」

 

 俺の漏らしに、和人は

 

「一般論はいい。何があるんだ?」

 

 言った言い分に菊岡さんはチラリと端末を一瞥する。

 

「彼のアミュスフィアにインストールされてたのは、一タイトル・・・『GGO(ガンゲイル・オンライン)』・・・知ってるかい?」

 

「そりゃもちろん。日本で唯一プロがいるゲームだ」

 

「俺はそのゲームのプレイヤーだ・・・やっぱ、あの噂関連だな」

 

 そういうと、菊岡さんは目を見開く。

 

「驚いたな、キミがあのゲームをやってるなんて。キミがやってるOSOよりずっと殺伐としてるんじゃないか?」

 

「まあ、気晴らしにやってるだけだよ」

 

 俺はそう言うと、和人も菊岡さんと同様に驚いていた。

 

 俺は菊岡さんに当人物のプレイヤー名を聞く。

 

「それで、その人のキャラ名は?」

 

「ゼクシード。知ってるだろ?」

 

「あぁ~、基本的なことしかできずに偉そぶってた彼奴か。俺と峻が甘んじて、勝ちを譲ってあげた彼奴か」

 

「ハァ?」

 

 ここで、和人は目を見開かせ、驚きを隠せないが、この際、無視しよう。

 

「GGOじゃあ、今、変な噂が持ちきりだ」

 

「変な噂?」

 

「前のMストでゲストが落ちて、番組中断があっただろ?」

 

「ああ、アレか」

 

「その同時刻に、GGOの首都であるSBCグロッケンという酒場で変なプレイヤーがいたそうだ」

 

「変なプレイヤー?」

 

「何でも酒場のテレビに向かって、裁きを受けろだの、死ねだの、叫んで銃を撃ったらしい」

 

「・・・客観的にみれば、意味ないよな、それ」

 

「そうだね。でも同一人物でもう一件あるんだ」

 

「なに?」

 

「・・・・・・」

 

 もう一件? 他にも、変死体があったのか?

 

「10日前にスコードロン・・・ギルドのことらしいね。その集会中にリーダーである・・・薄塩たらこ? 合ってるのかなこれ」

 

「GGO最大のスコードロンのリーダーだ。確か、ゼクシードと同じBoBの参加者でもある」

 

「SAOにも、北海いくらっていたから親戚かもな」

 

「まあ、その薄塩たらこ氏が集会で檄を飛ばしてる時に乱入して突然撃ったらしい。圏内で、だよ」

 

「グロッケンの中じゃあノーダメだからな。でも――」

 

「――数秒後に落ちた。そして、現実でも」

 

「ほぼ同時刻に死んでいた、と」

 

 その場の空気が重くなるな。

 

 そういや、ゼクシードもたらこも何度か会ってる。ステータスはSTR-VIT型だったな。

 

 でも、待てよ。犯人はどうして、被害者の住所を知ってるんだ? 住所・・・GGO・・・あり得るぞ。

 

 BoBの参加登録には、リアル情報も任意記入欄があった。

 

 あと、光学迷彩マントがあるのも知ってる。

 

 峻が巫山戯半分で手に入れたのも俺は知ってる。

 

 だとしたら、この犯行は・・・可能性はあり得る。

 

 俺が思考に耽ってる中、和人と菊岡さんは話を続ける。

 

「偶然だろ」

 

「僕もそう思うよ。9割方ね。でもできないとは限らないだろ?」

 

「アミュスフィアは微弱な電気信号しか出せない。脳も焼き切れないしましてや心不全なんて無理だ」

 

「いや、でももしかしたら、本当に弾丸が飛び出して撃ち抜いたかもしれないじゃないか」

 

「あり得ねぇよ!」

 

 此奴ら・・・なに、限定的になってるんだ? こんなの簡単にわかるじゃねぇか。

 

「・・・オメエら、何で、ゲームという枠組みの中で話し合ってるんだ?」

 

「え?」

 

「どういうことだい?」

 

 俺の発言に2人が首を傾げる。

 

「GGOをプレイすれば、分かってしまう。簡単な犯行方法だ」

 

「ギンくんは分かったというのかい? この事件の犯行方法は?」

 

「ああ・・・まず、共通点はGGOじゃあ、それなりに有名であること。セキュリティーの甘い一人暮らしであることだ」

 

 俺はまず、2つの共通点を提示する。

 

 そこに、菊岡さんが

 

「1つ目はわかるとしても、2つ目は知りうることができるんだ。ゲーム内でのリアル情報を知ることは御法度のはず・・・」

 

「GGOには、光学迷彩マントというのが存在する。実際、グロッケンでも、その性能は発揮できるのを一部界隈にしか知り得ていない。リアル情報を知る方法は()()()()()()()であることだ」

 

「どういう意味だ?」

 

「BoBは参加する際、任意でリアル情報を記入欄がある。参加景品としてモデルガンが宅配で送られてくるんだ。そこに、光学迷彩マントを手にしたプレイヤーがリアル情報を知れば、犯行は成立する」

 

「なるほどね。しかし、その考えだと、共犯者がいることになるけど」

 

「そう言ってるんじゃん。バカなのか」

 

「うぐ!?」

 

 菊岡さんは高級官僚なのに、どうやら、頭の方が若干、こういった方面には鈍いようだ。

 

「凶器として使用したのは、劇薬か毒だろな。急性心不全が死因なのも話が通る」

 

 俺の考えを言ったら、菊岡さんは

 

「なるほど。そうなると、次に誰が狙われるか皆目見当がつかない」

 

「確かにね・・・BoB本戦に出場するのは、星の数いる。そこから標的対象者を探すのは人海戦術が必要。だが、逆に言えば、BoBに出場するのは間違いねぇ。本戦はネット中継で報道されるからな」

 

「じゃあ、ギンの言うとおり、その犯人はBoBに出場するのは確かということになるな」

 

 和人もそこで納得する。だが、問題はこの後だろ。

 

 なんか、やな予感がするんだよな。

 

「そこで、キミたち2人にお願いがある」

 

 やっぱ、やな予感がするんだが・・・。

 

「2人には、このプレイヤーに接触してもらいたい」

 

 そう来るよな。

 

 しかし、今回だけ、俺はパスする。

 

 そしたら、和人は

 

「接触ねぇ・・・はっきり言ったらどうだ菊岡さん、撃たれてこいってことだろ?」

 

「ははは、うんまあ」

 

「嫌だよ! さっきギンが危険性を示唆したばっかじゃないか! あんたが撃たれてろ心臓止まれ!」

 

「俺が言ったことがあたってる可能性もなきにしもあらずだ。しかし、当たっていた場合を考慮して、俺なりに条件がある」

 

「条件?」

 

「なんだい」

 

 和人と菊岡さんは俺の言葉に聞き返す。俺が出す条件は2つ。

 

「1つは俺じゃなく、峻いやユンにお願いしたい。俺は今回、()()()()でBoBに出場できねぇ。だから、俺じゃなくユンにお願いしたい」

 

「それは良いとしても、ユンくんだと勝ち残れるのか」

 

「舐めるな。俺とユンは第1回のBoB本戦で準優勝と3位を入賞し、前回は3位と4位の結果を残してるんだ。そうそう、負けるようなヘマしねぇよ」

 

「俺が言うのも何だけど、お前ら・・・相当スゲぇぞ」

 

 和人。なに、驚いてるんだ?

 

 まあいい。

 

「もう1つはオメエの部下を俺の家に警備してくれ。ユンをその日だけ、俺の家でGGOをプレイさせる」

 

 俺が言った2つ目の条件の意味を理解し、驚きの表情を浮かべる。

 

 だが、

 

「断ろうとするなよ。もし、断れば、オメエが俺に頼んだ別件用事もこの依頼も断るからな」

 

 俺は菊岡さんに軽く睨むと彼は

 

「分かったよ。キミの条件を呑むよ」

 

 菊岡さんは深々と息を吐き、俺は睨みを解いた。

 

「・・・ギンくんの条件を呑むとして、報酬はプロのトッププレイヤーと同じ金額を送るよ」

 

 彼は指を3本立てる。それに俺はコクッと頷き、和人も分かったという判断で頷いた。

 

 だが、俺はそれを

 

「菊岡さん。その報酬は俺じゃなく、ユンにお願いね」

 

「もちろん、キミへの報酬はユンくんにしておくよ。代わりにキミは僕の仕事に協力してくれよ」

 

「ああ、もちろん」

 

 そう。俺が此奴に協力を頼まれたのは、あるプロジェクトの協力である。

 

 それには、しっかりと協力するつもりだ。

 

「キリトくんに関しては此方が場所を手配しよう。ユンくんはギンくんの家ということでいいかな」

 

「ああ、それで良い」

 

「話はこれでいいかな。俺はユンにこの事を伝えねぇといけねぇからな。帰らせてもらうよ」

 

「ああ、呼び出して悪かったね」

 

「そう思うなら、今後、気をつけるんだな。じゃあな」

 

「ちょッ!? 待てよ、ギン!」

 

 俺は菊岡さんを残し、店を出た。

 

 

 

 店を出た後、俺は和人に止められた。

 

「なあ、ギン」

 

「なんだ?」

 

「あの仕事を受けた本当の理由はなんだ? それと、菊岡がお前に頼んだ別件用事っては何だよ?」

 

「・・・・・・」

 

 確かに、あの時のは、建前だ。本音は本当に重い。それに、別件用事は和人には関係ないことだ。

 

「1つ目に関してはユンや俺たちに対しての落とし前。2つ目は言えない」

 

「俺たち?」

 

「考えてみろ。あんなことを考えられるのは、殺人に手を染めてる奴にしか出来ねぇ芸当だよ」

 

「ッ! それって・・・」

 

「ご明察。犯人はラフコフのたった()()()()()()()だよ」

 

「・・・・・・」

 

「これ以上、聞こうとしても無駄だ。確かに、俺とオメエはかつて、あの世界で攻略組だった者同士。だが、オメエらは光側の人間。俺たちは闇側に近い人間だ。光と闇は相容れてはいけねぇ」

 

「・・・・・・」

 

 俺の言葉に無言になる和人。

 

「それでも知りたきゃ、覚悟するんだな」

 

「覚悟?」

 

「全てを知る覚悟だ」

 

「!!」

 

 俺はそう言って、和人と人混みの中に入ろうとした。

 

「あっ、そうだ。最後に言っておくことがある」

 

「なんだ、プレイヤー名だよ・・・犯人の・・・」

 

「そういや、聞いていなかったな。どんな名前なんだ?」

 

 俺は和人を視ながら、応える。

 

「死を呼ぶ銃と書いて・・・『死銃(デス・ガン)』だ」

 

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4話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 銀華サイド

 

 俺は菊岡さんからの依頼を貰い、湯島区にあるアパートに帰ってきて、先に部屋の中に入る。

 

 仮にも、ここは俺の家だ。

 

 隣人の彼女に迷惑をかけたくねぇなと思いながら、部屋に入るのだった。

 

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 峻サイド

 

 今日は日曜日。

 

 本来なら、GGOにログインする予定なんだけど、その前に銀華のアパートに行かないといけない。

 

 彼奴の生活はなにかと危ないからな。

 

 俺は彼奴の住まい近くのスーパーに向かおうとしていたところで、路地裏から複数の女の子の声が聞こえてきた。

 

 どこか聞き覚えのあるな。

 

 俺は確認のために、そこに行ってみると3人がなんとも遊んでいます的な女子が同じ学校の制服を着た女子に囲んでいた。

 

 この時、囲まれてる彼女の顔を見る。

 

(彼女は確か・・・)

 

 俺は彼女の顔を見て、記憶を引っ張り出す。

 

(そうだ。5月頃、銀華のアパートに来て、掃除とかしていた際、隣で耳障りに騒いでいた奴らだ。となれば、囲まれてるのは、隣に住む朝田さんかな)

 

 俺はなにかと女子力が高い。

 

 銀華の部屋の隣人である彼女。

 

 その彼女が、高校生で一人暮らしは中々のものだと思う。

 

 暮らしに関して、困ったことがあれば、訪ねてきてもいいよと言ってあった。

 

 しばらくして、銀華と一緒に宿題でもしていた時、隣から賑やかな声が聞こえたので、友達でもできたのかと思ったけど、少しして、男の声が聞こえたので、何かあると思うのとイライラしてたら、隣から訪ねられてきて、

 

「知らない人が入り浸っていて困ってる」

 

 言ってきたので、銀華が警察を呼んで、これ以上騒ぐなら訴えると言ってもらい強制退去させた。

 

 その時、男と一緒に騒いでいた女3人。

 

(流石に、これ以上は不味いな・・・)

 

 リーダーらしき女が背中の方で手を銃の形にしていた。

 

 確か、朝田さんは銃に対して、PTSDを患っていたはずだ。

 

 強制退去する際、ほとぼりが冷めるまで、銀華の部屋に入ってた。

 

 全てが終わった際、戻ってみると、床に倒れていた。

 

 この時、もの凄く焦った。

 

 眼を覚まして、事情を聞くと部屋に置いてあったモデルガンを視て、発作を起こしたらしい。

 

 あの時は、もの凄く謝られたけど、此方も知らなかったので、落ち度があると言って帰らせた。

 

「なにやってるんだ」

 

 俺はリーダーらしき女の後ろに回した手を掴みながらそう言った。

 

「ああん? ッ!!」

 

 どうやら、あっちも覚えてるようだ。

 

「テメェ・・・」

 

「なにやってるんだと聞いてる」

 

「あんたには関係ないだろ! さっさと手を離せ!」

 

「そうか。悪いが警察を呼んでな、到着するまで待ってもらおうか」

 

 そう切り替えしたら、無理矢理俺の手を振りほどき、盛大に舌打ちをしてから逃げていった。

 

「・・・大丈夫か?」

 

「しゅ、峻さん・・・ありがとうございます」

 

「お礼はいいよ。やりたくてやっただけだし」

 

 全く、俺も変わったものだな。

 

 俺は自分にとって、大切なものを傷つける奴らは絶対に許さない質だ。

 

 銀華に言われて気が付いたが、その時の俺は途轍もなく怖いとのことだ。

 

 まあ、それよりも、朝田さんが無事で良かったよ。

 

「家まで送ろうか?」

 

「あ、いえ。夕飯の材料を買わなきゃいけないので・・・」

 

「おっ、ちょうど良かった。俺も本当は買いに行くところだったんだ。まあ、ここまで行くと馴れ馴れしいかな?」

 

「正直に言うと少し・・・」

 

「それもそうだな。それじゃあ、彼処にいる彼にお願いしようか」

 

「え?」

 

 俺はそう言うと建物の影から細身の少年が出てきた。

 

「し、新川くん!?」

 

「やあ、朝田さん。それにしてもよく分かりましたね」

 

「俺が出ようとした時、そこで視ていただろ。悩んでいたようだったし。もたついてる余裕もなかったから先に行かせてもらっただけだ。知り合いなんだろ?」

 

「はい、友達です」

 

「じゃあ、後は頼むよ。報復されたくないからさ」

 

 俺は新川という男に後を任せ、その場をあとにする。

 

 道中、俺って、いつの間にか、彼女を大切な人の1人として視てるのかなと気が付いたのだった。

 

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 詩乃サイド

 

 また助けられたな、情けない・・・

 

 私はお隣の柊さんの幼馴染みの朝霧さんにまた助けられた自分に腹が立っていた。

 

 これぐらいのことを自分で対応できなければ、過去に打ち勝つことができない。

 

「朝田さん、今の人は?」

 

「え? ああ、お隣の柊さんの幼馴染みの朝霧さん。来たばっかの時に、今、通ってるスーパーとか教えてくれたの」

 

「そうなんだ・・・」

 

 なんだろう、今、新川くんの眼が鋭くなったような・・・

 

「それよりも朝田さん。買い物の後、時間ある? この間のスコードロンの話聞かせてほしいんだ」

 

「あぁ~、良いわよ。でも、買い物には付き合ってね」

 

「もちろん!」

 

 こういった形で私は新川くんと一緒にスーパーに向かった。

 

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 峻サイド

 

 スーパーで一通り、食材を調達した後、銀華の部屋に入る。

 

 鍵に関しては彼奴から借りてるからさほど、問題ない。

 

 俺はノックもインターホンもせずに中に入る。

 

 中に入れば、部屋は明るく、銀華がパソコンの画面を見ながら、なにかと格闘しているのが見える。

 

「お~い、銀華」

 

 俺は銀華に声をかける。

 

 すると、彼奴は振り返って、

 

「おぉ~、すまねぇな」

 

 いつもながらの謝罪を言ってくる。

 

「全く、そう思ってるなら、少しは自炊しろよ。お前はいつも、目の前のことに集中しすぎて、周りを忘れる悪い癖だぞ」

 

「悪ぃ悪ぃ・・・それよりも、オメエに話してぇことがあるんだ」

 

 俺に話したいこと?

 

「いったい、それは何だ?」

 

 俺はそう切り返すと銀華は真剣な表情をして、俺にある事を頼み込んだ。

 

「峻。オメエ、次のBoBに参加するんだろ?」

 

「ああ、もちろん、参加する予定だ。それがどうかしたのか?」

 

「実は、オメエにお願いあるんだ」

 

「お願い?」

 

「それは、俺の代わりに()()()()の調査をお願いしたいんだ」

 

「ある事件?」

 

 俺は銀華の話を聞き、眉を顰める。

 

「GGOにおける噂を知ってるだろ?」

 

「ああ、死銃(デス・ガン)のことか・・・其奴がどうかしたのか?」

 

「あの噂で、ゼクシードはログインしなくなったとされてるだろ? 実は、ゼクシードのアカウントを持つリアルの人間が変死体として発見されたらしい」

 

 変死体? どういうことだ?

 

「死因は急性心不全。おかしくねぇか」

 

「確かに、ゲーム中に急性心不全なるのはおかしい」

 

「そう・・・しかも、それと同じ事件がもう一件ある。薄塩たらこのことは知ってるな?」

 

「薄塩たらこ・・・ああ、前に、俺に弾作成の予約していた彼奴か・・・確か、一週間ぐらい前から連絡が来なかったから不審に思っていたんだ。彼がどうかしたのか?」

 

「其奴もゼクシードと同じように、変死体として発見された」

 

「ッ!?」(゜-゜)

 

 これには、目を見開かざるを得ない。

 

「変だと思わねぇか?」

 

「変?」

 

「だってよ・・・2人とも、死体になった時間帯はバラバラだけど、いなくなった方法が同じなんだぜ。変だと思わねぇか?」

 

 いなくなった方法が同じ・・・つまり、同一犯。

 

 それに、リアルの個人情報を知る方法なんて・・・いや、ある。

 

「BoBの出場者か!」

 

「ピンポーン。正解。此奴ら2人とも、BoB本戦の出場者。参加記入欄には・・・」

 

「個人情報を記入欄がある! そうか。それだったら、情報を知ることができる」

 

 だけど、問題はどうやって、情報を知ったか。

 

 スコープや双眼鏡だと、ゲームから弾かれてしまう。

 

 いや、あのマント。光学迷彩マント・・・あのマントだったら、誰にも視られずに双眼鏡でリアル情報を知ることができる。

 

「情報を仕入れた方法は分かった。それで・・・こんないかれた方法する奴らの目星を付いてるんだろ」

 

 銀華が俺にこんな話をするのは、なにかわけがあるはずだ。

 

「可能性いやこんなことを考えつくのは、ラフコフの生き残りの彼奴らしか出来ねぇことだ」

 

「ッ!!」

 

 やっぱり、彼奴らか・・・。

 

 確かに、こんないかれた殺害方法を思いつくなんてことができるのは、PoH、ザザ、ジョニーの3人しか思いつかない。

 

「なにより・・・あの死銃(デス・ガン)というアバター・・・あの赤い眼を見れば、誰だか予想が付く」

 

「赤眼のザザだな・・・銀華・・・悪いが、ザザだけは・・・」

 

「分かってる。だからこそ、俺はオメエに頼もうとしたんだ・・・そろそろ、この因果にケリを付けようと思ってな」

 

 銀華の真剣な顔つきで理解した。

 

 因縁にケリを付けることにしたと・・・

 

「もちろん、彼奴に関しては俺が仕留める」

 

「頼むぞ」

 

 銀華は俺に頭を軽く下げて依頼を頼んだ。

 

「あと、それと・・・この一件には、キリトも参戦するから忘れるなよ」

 

「・・・・・・」

 

 キリト・・・『黒の剣士』か・・・

 

 真実を知らない英雄か・・・

 

「分かった。覚えておく」

 

「ついでに言うと、BoBに出場する際、俺の部屋でログインしてくれねぇか?」

 

「それぐらいは構わないよ」

 

 そういった形で俺は夕食を作って、銀華と一緒に食べてから、マンションに帰ることにした。

 

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 詩乃サイド

 

 私は、新川くんと別れ帰宅した。鍵を開けたとき、ちょうど、朝霧さんが隣の柊さんの部屋から出てきた。

 

「あっ、朝霧さん。もう帰るんですか?」

 

「ん? ああ、そうだよ。通い妻みたいで大変だよ」

 

「分かります。ご苦労様です」

 

「朝田さん。ご苦労様は目上の人が使う言葉だ。俺は大丈夫だけど、他の人にとってみれば、気分を害するから気をつけないと」

 

「・・・ご忠告ありがとうございます」

 

「あの後、なにもなかったかい?」

 

「はい、大丈夫でした」

 

「なら良いけど・・・キミはもう少し、周りを頼った方が良い・・・俺が言うことじゃないけど・・・

 

「?」

 

 後半、朝霧さん。なんか言っていたけど、余計なお世話に思える。助けてもらったりしたが、いくら何でもそこまで首を突っ込んでこなくても良いと思う。私は若干、ムッとしながら言った。

 

「私は大丈夫です。なんで、そこまで心配するんですか?」

 

「君と俺に似てるからかな」

 

「貴方も何かあったんですか?」

 

「どうだろね。気が向いて、キミが聞きたくなったら話すよ」

 

 そう切り返すと彼は私に横を通っていった。

 

「あっ、そうだ。これは・・・お節介かもしれないけど・・・一応、忠告するよ」

 

 突然、此方を振り向き言った。

 

「これは、お節介だから。聞き流しても構わないけど・・・さっきの彼、気をつけた方がいいよ」

 

「え?」

 

「彼の眼には、狂愛な色があったから」

 

 それだけを言って、彼は、自宅に帰ってしまった。

 

 私はその時、どういう意味かあまり考えずに部屋の中に入っていった。

 

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 銀華サイド

 

 俺は今、ネット上におけるGGO(ガンゲイル・オンライン)の情報を集めていた。

 

 やはり、どこもかしこも、あの噂のことを空想の産物としか思えていねぇな。

 

 だけど、録音した内容の声を聞く度に、彼奴らの声に酷似してるのがわかる。

 

 これは、彼奴らにも聞いてみるか。

 

 いや、まだ、この事を話さねぇでおこう。

 

 後で、怒られてもしゃあねぇ~。

 

 俺は自分で考えた末、こう結論づけて自分がやるべきことに専念した。

 

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5話

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 峻サイド

 

 死銃(デス・ガン)・・・。

 

 俺は銀華ほどではないが、ネットの扱いにある程度できる方だ。

 

 なので、GGO界隈での噂話を調べていた。

 

 なるほどな。

 

 どれも噂の産物としか捉えていない。

 

 だとしたら、今度のBoBで、その存在を証明する気だな。

 

 念のため、俺はその時の録音した内容の声を聞く。

 

『これが、本当の力。本当の強さだ。愚か者共よ。この名を恐怖と共に刻め! 今日からこの銃は――死銃(デス・ガン)だ!』

 

 やはり、この声・・・。

 

 彼奴の声に酷似してる。

 

 しかも、ご丁寧に自分の特徴をもろに出してるじゃないか。

 

 なあ・・・

 

「『赤眼のザザ』」

 

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 __?サイド

 

「峻くん」

 

 峻と一緒に暮らしてるのは、彼の姉――朝霧静である。

 

 彼女は変わってしまった()のことを気にかけていた。

 

 SAO(ソードアート・オンライン)から帰還して以来、ずっと・・・峻は笑うことが少なくなった。

 

 笑うこともあるけど、それは作り笑い。本心から笑うことが少なくなった。

 

 原因は分からない。

 

 でも、それは、幼馴染みの銀華くんも同じ。

 

 帰還して以来、笑うことが少なくなった。

 

 OSO(オンリーセンス・オンライン)で一緒にゲームをするときも、何処か冷めたような感じが見受けられたりする。

 

 峻くんも同じで、あの事件で培った経験や動きをもとに私すらもハラハラさせる動きを見せてしまう。

 

 しかも、あの事件で知り合ったフレンドさんの技量も凄かった。

 

 でも、最初の頃は彼らも何処か冷めてた印象だったけど、私や美羽ちゃんや巧くんのおかげで、自然と笑うことが多くなった。

 

 だけど、峻くんと銀華くんはあの時のまま、ずっと冷たい。

 

 私は戻ってきてほしかった。

 

 自然と笑いあい、素の笑顔の峻くんが視たい。

 

 という私の少なからずの願い。

 

 たった1人の家族だからこその願い。

 

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 ユンサイド

 

 あれから、数日後。

 

 俺は予選当日までにエントリーを済ませてあるから。

 

 問題ない。

 

 そういや、今日、英雄キリトがやって来るんだったな。

 

 あの世界から帰還後、何処まで技術を上げたのか気になるが、そんなのどうでも良いか。

 

 俺らと彼奴らとは、水と油に近い関係だ。

 

 昔のようには戻れない。

 

 そういや、シノンもBoBには参加するって言ってたな。

 

 とりあえず、総督府にでも行こう。

 

 そこで待っていれば、何処かで出会うだろ。

 

 俺はそう思い、さっさと総督府に向かった。

 

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 三人称サイド

 

 場所を変えて、OSO(オンリーセンス・オンライン)

 

 中世の世界観を利用して、創り上げたVR世界。『ザ・シード』を利用しての世界なので、コンバートが導入されてる。

 

 場所は『ヤオヨロズ』というギルドホーム。

 

 OSOにおける最強ギルドである。

 

 そこのサブマスを務めてるのは、ユンこと峻の姉――静ことセイである。

 

 彼女は、ここ最近の峻の動きが気になって、ゲームに集中できていない節があった。

 

 そんな彼女に

 

「どうした、セイ? 元気がないじゃないか」

 

「・・・ミカズチ」

 

 彼女と同じぐらいでワインレッドの長髪の女性が声をかけた。

 

 セイは彼女に元気なさげに応対する。

 

 ミカズチはセイが元気ない理由を言い当ててしまう。

 

「ユンの嬢ちゃんのことか?」

 

「ッ!?」

 

 セイはミカズチに言い当てられてしまい、つんのめくもコクッと頷いた。

 

「やっぱりか・・・最近、嬢ちゃんの顔を見えないから。何処で何をしてるか気になってな・・・あと、セイ。お前が元気ないから。ミュウの嬢ちゃんもタクの奴も心配していたぞ」

 

 セイは元気なさそうというか本格的に精神がきており、身内や幼馴染みからも心配の声をかけられていた。

 

 すると、セイは、ここ最近のユンの日常を話し始める。

 

「ユンちゃん。最近、OSOよりもGGO(ガンゲイル・オンライン)に嵌まっていて、こっちのお店にもあんまり顔を出していないの」

 

GGO(ガンゲイル・オンライン)か・・・プロのゲーマーがやっているとされてるアレか」

 

「うん。しかも、最近、どこの誰か知らない依頼を受けて、なにか事件の調査するって言うから心配で・・・」

 

 ホロリと涙を零し始めるセイ。

 

 ミカズチやギルドメンバーから身内からここまで悲しませ、心配させるとはユン。

 

 何処でほっつき歩いてるのかとイライラを募らせた。

 

 対して、ミカズチも

 

「全く、嬢ちゃんときたら、セイを泣かせるのも大概にしろ・・・戻ってきたら、タダじゃすまないからな」

 

 悪態をつくのだった。

 

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 ユンサイド

 

 俺は総督府の地下20階にある準備室みたいな場所で、新型の弾丸の点検していた。

 

 天頂部にある巨大なホロパネルには『BoB3Preliminary』と残り時間が30分と表示されてた。

 

 ここには、屈強なプレイヤーたちが何十人もいるが、俺からしたら、お調子者といっても過言じゃない。

 

 相変わらず、殺伐とした空気が漂っているよな。

 

 俺は戦闘服には着替えて、装備はまだ出していない。

 

 本戦前に最終メンテをしておけばいいだろ。

 

 俺は1人、弾の点検をし終えたところで

 

「ユン」

 

 俺に声をかけてくる女性の声は彼女ぐらいだろ。

 

「おぉ~、シノン。遅かったな」

 

「ごめん。それよりも今、男に付きまとわれてるの、助けて」

 

 シノンにストーカー?

 

 そのストーカーらしき男はどこの誰なんでしょうね。

 

 俺に助けを求めるとは・・・。

 

「シノンを付きまとっている男ってどんな人?」

 

「黒髪ロングの女の子みたいな姿をしたネカマよ。その姿を利用して私に近づいてきて・・・」

 

 なんか、俺みたいに聞こえるんだが・・・まあ、無視しよう。

 

 すると、付きまとっている男が現れたのか、シノンは俺の後ろに逃げ込み、その男を睨みつける。

 

 俺もその男を視たが、なんか、どっかの誰かさんにそっくりだった。

 

 しかも、彼の左側の頬には真っ赤な紅葉が出来ている。

 

 俺は誰だか知らないので、シノンにならって、睨みつけながら

 

「キミが、シノンに付きまとっているネカマなのかい」

 

「ち、違うって! これは誤解だ!」

 

「・・・と、言っていますが、シノン。何か意見はありますか」

 

「ええ、大いにあります。その男は私を騙すために、女の子のふりをしていたのよ。しかも、その演技が堂に入っていたわよ。もしかしたら、女装趣味があるんじゃない?」

 

「なるほど・・・と、彼女がそう言っていますが、キミになんか弁明は?」

 

「ち、違う! アレは単なる悪戯心でやったことであって、それ以外の意図は一切ないから! 信じてくれ、頼む!!」

 

「・・・と、言っていますが、シノン・・・」

 

「どうだか・・・」

 

 シノンの冷たい態度に、俺はどうしようもないので、一応、彼に名前を聞くことにした。

 

「一応、名前を聞きたいんだけど・・・」

 

「俺は()()()。男だ」

 

 キリト・・・そうか。ギンの言っていたとおり、お前が来たんだな。

 

「そうか。俺は()()。GGOでは、最古参の方だ。何か分からないことがあったら、聞いてくれ」

 

 俺は自分の名前を明かすと、キリトという男は俺の名前に反応する。

 

「お、お前が・・・ユン・・・『黒き武弓』・・・といわれた」

 

「ッ・・・」

 

 その異名を光側の奴に呼ばれたくない。

 

 そもそも、あの事件も真相も知らず、情報と慢心してた奴らなんか呼ばれたくない。

 

「昔の話だ・・・それに、その異名で呼ばれたくない・・・忘れるな。俺は既にお前らとは違う道をいるということを――」

 

 俺は警戒を込めた視線を向けるのだった。

 

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6話

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 シノンサイド

 

「ッ!?」

 

 な、なに、今の・・・ユンから冷徹な何かが感じる。

 

 さ、殺気?

 

 げ、ゲームの中で殺気なんて出せるものじゃあ・・・。

 

「まあいい。それじゃあ、最低限のことを説明しておく」

 

 ユンはBoBに初参加のネカマナンパ野郎に大会の説明をした。

 

 説明後、

 

「シノン」

 

「わひゃあ」

 

 急に呼ばれて、奇声を上げちゃう。

 

 私はプルプルと頬を紅くして、ユンとネカマナンパ野郎を睨む。

 

「ヒィッ!?」

 

「・・・・・・」

 

 ネカマナンパ野郎は腰を退け、ユンはちょっと引き気味になってる。

 

 それでも、ユンは私に2つの小箱を渡す。

 

「前に頼まれた弾丸だ。1つはライフル弾にさせてある。もう1つは試作段階の特殊弾だ。使ったら、感想とかが聞きたい」

 

「・・・わかったわ」

 

 確かに、前に提供するって言ってたけど、本当に提供するなんて、ユンって意外とお人好しなところがあるよね。

 

「そういや、シノンとキリトはどこのブロックだ?」

 

「Fブロックだった」

 

「あんたもなの?」

 

「っていうことはシノンもFか」

 

「ユンは何処なの?」

 

「俺はAブロック」

 

「あんた凄いところを引いたわね」

 

「別に何処だろうと関係ない。第1回BoBの時だけが、スリルがあって楽しめただけだ」

 

「どういうことだ?」

 

「Aブロックは別名強者潰し。エントリーが早い。いわば、トッププレイヤーが集中するブロックなのよ。前回の優勝者のゼクシードと準優勝者の闇風もこのブロックだったらしいのよ。今回は別ブロックのようだけど・・・」

 

 それにしても、ユン。

 

 何処か冷めてる印象よね。

 

 何処か、朝霧さんにそっくりな気がする。

 

 って!? 私、なに、朝霧さんのことを気にしてるのよ。

 

 彼はお隣の柊さんの幼馴染みで、知り合いだけなんだから。

 

 なんてことを思ってたら、アナウンスが響く。

 

 始まるようね。戦いが。

 

「今度こそ、強い奴を全員殺してやる」

 

「・・・・・・」(゜Д゜)

 

「やれるものだったら、やってみな」

 

 言うじゃない。ユン。

 

 その眉間に敗北の弾丸の味を叩き込ませてあげるわ。

 

 私たちは光に呑まれて、それぞれの戦場に転送された。

 

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 三人称サイド

 

 優勝候補の1人であるユンはともかく、キリトとシノンも破竹の勢いでコマを進めていく。

 

 ユンは『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』の異名のように、初撃で仕留めてしまう。

 

 気配を偽らせて、技巧的な配慮の元、一撃で仕留める。

 

 キリトは常識外れの『弾丸を斬り裂く』という芸当を見せ、相手を驚愕させてから叩き落とす。

 

 この2人では未だに一度も銃声を鳴らしていない。

 

 ユンに至っては引き金すらも引かせずに終わらせてた。

 

 あまりの異常さに観客が静まりかえる。

 

 そんな空間に1人のプレイヤーが空中に浮かべスクリーンを見上げている。

 

 何処までも冷淡に、静かに、明確な殺意を込めて。

 

「ユン、お前は、俺が必ず、殺す」

 

 大会に闇が蠢き始める。

 

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 ユンサイド

 

 俺は強者が犇めくAブロックをどのブロックよりも最初に制覇した。

 

 俺の周りには、誰も近づかない。

 

 『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』という圧倒的なまでの力の前に不気味がってるらしい。

 

 全く、有名になるのも辛いものだな。

 

 俺はスクリーンを見やると、キリトとシノンがやり合ってる。

 

 シノンの銃撃をキリトは真っ正面から叩き潰した。

 

 シノンは驚きの余り、固まってしまい、キリトに隙を見せてしまうのだった。

 

「ご愁傷様。相手が悪かったと思ってくれ」

 

 GGOは確かに殺伐としてるが、SAOによりかはまだ、幾分マシだ。

 

 なんせ、死んでもいいゲームなんて軽すぎるからな。

 

 死があってこその生というのを肌に感じるのだから。

 

(なにより、さっきから俺の後ろに殺気を送ってる人がいるからな)

 

 俺は迷わず進んでいき、殺気の根源に辿り着く。ボロボロのローブを羽織り、フードの中には輝く濁った赤い眼が2つ。

 

「久しぶりだね。『赤眼のザザ』」

 

「・・・久し、ぶりだな。『黒き、武弓』」

 

 また、俺の異名を口にするか。

 

「いや、『死を呼ぶ、武弓』・・・」

 

「ほぅ~、そっちの異名を忘れずに覚えていたんだ」

 

「・・・お前たち、だけは、必ず、殺す。あの時の、屈辱を、お前たちを、殺して、必ず、果たす」

 

「いいだろ。お前に殺されるなら、本望だが・・・次はないと思え」

 

 俺は冷徹な瞳でザザを見返す。

 

「俺も、同じ、だ」

 

 そう言い残し、ザザは立ち去っていった。

 

(強くなったな・・・明らかにPoHクラスにはなった。気配を殺し方も殺意もレベルが上がってる。おそらく、キリトでは勝てないだろ・・・全く、相当な反復練習をしてきたんだろな。あと、()()()()()屈辱からくるものだろ・・・久々に、あっちになるしかないな)

 

 俺はSAOにおける闇の部分である()()()を使うことにしよう。

 

 もし、そうなったときは、どこか雲隠れするか。

 

 俺は闇の部分の力を受け入れてる。

 

 覚悟がないと、その力を振るってはいけない。

 

 俺は、あの世界でそう学んだ。

 

 それは、ギンたちも同じだ。

 

 その力を受け入れてるからこそ、今の実力を持ってることになる。

 

 まあ、これは、心の中の根底が人それぞれだからしょうがないか。

 

「・・・ン、ユン!」

 

「ん? うお!?」

 

 目の前に水色の美少女いやシノンがいた。

 

 どうやら、周りが見えなくなるまで、考え込んでいたのか。

 

「どうしたのよ、ボゥ~ッとして」

 

「・・・ちょっとな。それで負けた感想をどうでした?」

 

「ッ!? 何で分かったのよ!?」

 

「あれ? 俺は負けたとしか言っていないのに、どうして、シノンは負けたと認めたのかな?」

 

「ッ!!」

 

 俺に言い負かされて、シノンはプルプルと震える。

 

 すると、そこにアナウンスがかかる。

 

 どうやら、全予選が終わったようだな。

 

「明日、全てが決まるな」

 

「・・・そうね、ユン」

 

「うん?」

 

「明日は負けないわよ。あんたの額に風穴を開けてあげるわ」

 

「・・・良い度胸だ。受けてあげるよ。それ」

 

 俺はシノンにそう言ってから、その場から立ち去った。

 

 立ち去る際、キリトの横を通り、

 

死銃(デス・ガン)と思わしきプレイヤーに遭遇した」

 

「ッ!!?」

 

「付いてこい。話は短めに済ませる」

 

 俺はキリトにそう言ってから、人気のない控え室に向かう。

 

 キリトも俺の後に続いて、控え室に向かう。

 

 

 

 控え室に来たら、俺はキリトに通り過ぎる際に伝えたことを話し始める。

 

死銃(デス・ガン)に会った」

 

「本当か?」

 

「ああ、一言でいえば、()()()()()ラフコフのメンバーだ」

 

「・・・やっぱり、ラフコフか」

 

「正体は『赤眼のザザ』」

 

「ザザ・・・」

 

 フッ、キリトの顔が厳しくなるな。まあ、浅からぬ因縁なんだろな。

 

「見た感じ、強くなっていた。おそらく、PoHクラス」

 

「そんなに・・・」

 

 驚愕に染めてるな。だからこそ、これだけは言っておく。

 

「手を引け」

 

「まだ、何も言っていないぞ」

 

「同じこと。この一件は手を引け」

 

「だけど、ここまで来ちまったら・・・」

 

「ならば、覚悟を問おう」

 

「覚悟?」

 

「全てを知る覚悟だ」

 

 俺は最後にそう言って、控え室をあとにし、ログアウトするのだった。

 

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7話

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 三人称サイド

 

 昨日、BoBの予選が終わり。

 

 今日の夜に本戦のバトルロワイヤルが行われる。

 

 OSO。

 

 『ヤオヨロズ』のギルドホームでは、ある準備が執り行われていた。

 

 それは――、

 

「おーい、テーブル。ここでいいよな?」

 

「おー、そこで良いぞ」

 

 今日の夜に行われるBoB本戦を観戦するためだ。

 

 何故なら、知り合いではなく、OSOでのイベントで苦楽を共にしたユンが参戦するからだ。

 

 ユンの姉であるセイ。

 

 そして、ユンの妹であるミュウ。

 

 彼女らも、その準備に手伝ってるも、ユンのことが気が気で、集中できないところがあった。

 

 なので、姉妹2人だけは気分転換に喫茶店に行かせることにあげた。

 

 なお、観戦するのは、OSO最大ギルド『ヤオヨロズ』、生産ギルドのトップスリー、ユンの幼馴染み――タクを含めたパーティー、ミュウをリーダーにした女子パーティーそして、ギンとユンと共にSAO時代の仲間である『八帝武将』が観戦する。

 

 その他諸々、BoB本戦を観戦する予定だった。

 

 だが、ギンは観戦に来ず、連絡が付かない。顔は出しても、状況の説明がつかないからだ。

 

 ユンに至っては、店には顔を出しても、それ以上の会話を控えていた。

 

 

 

 そんな2人に、残りの『八帝武将』のメンバー。

 

 槍使いのスカーレッド通称スカー。大剣使いのアキト。戦斧使いのブラウン。棒使いのマサギ。鎌使いのスカイ。短剣使いのヒガヤ。

 

 この6人に加えて、刀使いのギン。弓使いのユンが『八帝武将』のメンバーである。

 

 閑話休題(そんなことは置いといて)

 

「それにしても・・・ギンに、ユン・・・何処で何をしてるのかね」

 

 空色の短髪の少年――スカイ。

 

「本当、どこにいるんですか? リーダーに、サブリーダーは・・・」

 

 紅髪を肩まで伸ばした青少年――スカー。

 

「ヒガヤくん、マサギくん、アキトくん。所在とか知らない?」

 

 ブロンドのロングヘアを三つ編みにしてる女性――ブラウン。

 

「知らないッす・・・先輩方の居所は・・・」

 

 プラチナブロンドで短髪の少年――ヒガヤ。

 

「俺も知らない」

 

 茶髪の青少年――マサギ。

 

「ブラウンさんの方は?」

 

 灰色の髪をした青少年――アキト。

 

「私も全然知らない。2人とも、連絡の1つも出さないもの」

 

 ブラウンも首を横に振った。

 

 どうやら、ギンとユンは仲間にも連絡をしなかった。

 

 何故かはわからない。

 

 その応えが今回のBoBではっきりすると彼らは判断したからだ。

 

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 峻サイド

 

 俺は昨日、銀華の部屋でそのまま、寝落ちし、本戦まで疲れを取っていた。

 

 起きては、銀華がパソコンの方に熱中していた。

 

 全く、銀華はいったい、何をしてるんだか・・・。

 

「おはよう、銀華」

 

「おぉ~、おはよう、峻。どうだった・・・和人さんの腕前は?」

 

「前よりかは腕が上がってるが、そこ止まりだな。ザザを相手にするのは難しいだろ」

 

「何処まで上がってた」

 

「PoHクラスに強くなっていた」

 

「フュ~、其奴はヤベぇな。今の和人さんじゃあ、難しい話だな」

 

「うん。だから、アレを使うしかないと思う」

 

「だろうな・・・俺のを使いな」

 

「良いのか? お前のを使っても・・・」

 

「構わん。俺は俺で優先してぇことがあるんだ。下手したら、OSOに戻ってこられるのがいつになるか分からねぇな」

 

 この時、俺は銀華がまるで、命を捨てるように聞こえた。

 

 まあ、彼奴がそう言うときは大抵、生きて帰ってくる。

 

「無茶だけはするなよ」

 

「分かってる」

 

 信じることにしよう。

 

 俺たちのリーダーを・・・。

 

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 詩乃サイド

 

 私はコンビニに行って、大会前の簡単な食事を買いに行った。

 

 どうやって、ユンやキリト。特にユンに勝つかを考えていながら歩いていると、新川くんに会って、話をした。

 

 話をしてる際、新川くんは『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』に会えなかったことに顔を歪めていた。

 

 確かに、ユンは極端ではないけど、人との接触を避けている。

 

「予選の映像で見られるんじゃなかった? 予選前に『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)に会える』って言ってたじゃない?」

 

「あぁ~、うん。そうなんだけどね・・・」

 

 新川くんはそこで、一度、言葉を切る。すると、バツ悪そうに

 

「『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』の二つ名しか知らないからどのブロックに出ているのか分からなくて・・・」

 

 なんともまぁ~、初歩的なミスだ。

 

 アバター名がわからないなんて・・・いえ、ユンは徹底的じゃなくても、名前を隠していたから知ってるのは、『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』と『絶対弾(ミスファイア・ゼロ)』の二つ名しか知られていない。

 

 そう思われると、私って、ユンから信頼されてることと思うと、胸が高鳴り、顔が熱くなる。

 

 ・・・あれ? これって・・・

 

「朝田さん? どうしたの? 顔が赤いけど?」

 

「え? あっ、ううん! 何でもない!」

 

「・・・そう、でも本当に残念だよ。一階でもいいから会って話がしてみたい」

 

「うぅ~ん、彼相手には厳しいんじゃないかなぁ~・・・」

 

「だよね・・・ん? ()?」

 

「あれ? 言ってなかったけ? 『黒き狙撃手(ブラック・スナイパー)』って男よ。M9000番系のアバターって言ってた」

 

 今、新川くんが固まっちゃった。

 

「・・・冗談だよね?」

 

「え? いや、本当だよ」

 

「・・・そっか」

 

「新川くん?」

 

「なに?」

 

「あ、ううん。何でもない」

 

 今、凄く怖い顔をしていた。

 

「朝田さん」

 

「な、なに・・・?」

 

「あのさ、僕と付き――」

 

「待って」

 

 ここは鋭く言葉を遮る。

 

「今、その言葉を聞きたくない。私は強くなりたいの。だから、それまでは聞けない。私が過去に勝てたら聞かせて・・・」

 

「・・・分かったよ。確かに、今、言うのは不味かったよね」

 

「ありがとう・・・」

 

 私はそう言って、家に帰路するのだった。

 

 でも、これが、最後の友達としての挨拶になるとは思わなかった。

 

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 ユンサイド

 

 俺は既に本戦参加申し込みを済ませて、地下20階で最終調整に入っていた。

 

 整備してる最中、取材陣が俺にインタビューしてくる。

 

 仮にも、俺は第1回と第2回のBoBの上位入賞者。泊が付いてる。

 

 今回のBoBでは、最有力候補として、ノミネートされてるだろな。

 

 取材陣の質問に応える中で、こんな質問があった。

 

「今回の意気込みはどうでしょうか?」

 

「当然、優勝するのみです」

 

「ここで、メンテナンスをしてるようですけど、情報公開して良いのでしょうか?」

 

「どうせ、俺の二つ名は知られているし。知られてもどうって事はありません。手の内は全部明かしていませんから」

 

「強気な発言ですね。ですが、今回のルーキーの中にも、なかなかの粒揃いだと思いますが、そこはどのように思っていますか?」

 

「特になにも・・・いや、3人ほど、興味がありますが、他はさほど、興味がありません」

 

 俺はそう応えたことで取材陣は俺から離れていく。

 

 

 

 最終メンテナンスを終えたら、俺は本戦の出場メンバー表を見て、この中で見知らぬプレイヤーを割り出す。

 

 今回のルーキーはペイルライダーとギャレット、銃士X、スティーブンいやこれは確か・・・ステルベンだったな。

 

 スカイが言っていたな。

 

 ドイツの医療用語で『死』だったな。

 

 だとしたら、此奴だな。

 

 死銃(デス・ガン)は――。

 

 フッ・・・楽しくなってきたな。

 

 俺は本戦開始が待ち遠しくなった。

 

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8話

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 シノンサイド

 

 総督府には、ネカマ野郎のキリトと一緒に来ていたけど、中は既にお祭り騒ぎね。

 

 後、キリトに本戦での注意事項と私が知らないプレイヤーネームを聞かれてから、話が終わり。

 

 私は本戦開始時まで、ユンからもらった私の最適なアイテムを胸に抱えこむ。

 

 ユンに打ち勝つためには、ユンの力を頼る。

 

 矛盾してるようだけど、それでも良い。

 

「とにかく、絶対に勝つからね、ユン!」

 

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 三人称サイド

 

 それぞれの思惑が裏腹に、死の闇が蠢こうとしている。

 

 思惑が交錯し、今、第3回BoB本戦が開始する。

 

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 ユンサイド

 

 転送された場所は都市廃墟地帯か。

 

 ここだと、なにかと不便だな。

 

 巨大な廃墟に隠れるのは良いんだが、それだと逃げ場がない。

 

「移動するか」

 

 俺は移動開始しようと思ったところで、不意に後ろから悪寒を感じ、回避する。

 

 ()()()()()()――。

 

 ばらつく銃弾全弾回避する。

 

「・・・はい?」

 

「残念」

 

 俺はピンッと弾を放る。

 

 その弾は、現在、俺だけしか製造できない特殊弾の1つ――炸裂弾(グレネード)

 

「派手に散りな」

 

 弾に地面に着地した瞬間、

 

 ドカーン

 

 派手な爆発音が周囲に木霊する。

 

 あと、デカい土煙も上がってる。

 

「さてと、退散するか」

 

 俺は森林エリアに向かって走り出す。

 

 そこで、偶然、シノンに遭遇することも気づかずに――。

 

 

 

「それにしても、新型のグレネード弾。あれほどとはな・・・もうちょい、改良の余地があるな」

 

 俺は新型の特殊弾の威力に自分でも冷や汗をかいてしまった。

 

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 三人称サイド

 

 始まって30分が経過した。

 

 開始早々に、バカでかい爆発音と煙に誰もがビックリした。

 

 だが、こんなことをできるのは、彼しかいないことをルーキー以外は全員、知ってる。

 

 絶対弾(ミスファイア・ゼロ)――ユン。

 

 彼が制作特注品の特殊弾。

 

 一発だけでも数十万Gはする一品だ。

 

 威力に関しても彼らは知ってるので、アレだが、今回のはそれを優に超えていた。

 

 また、とんでもないものを製作しやがったと誰もが冷や汗を流す。

 

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 シノンサイド

 

 スタートから3回目のサテライトスキャン。

 

 確認してみたら、2人のプレイヤーがタイミング良く此方に走りきていた。

 

 名前を視れば、ユンと出会うきっかけになったスコードロンのリーダーのダイン。

 

 私は冷静に此方に来るときに通るだろう鉄橋にへカートⅡを向ける。

 

 状況から見て、ダインが追いかけられてるようね。

 

 だから、意識が追いかけられてる方に集中してる。

 

 その隙に不意打ちを叩き込む。

 

 そういえば、追いかけてるのは誰なのかしら。

 

 私は追いかけてるプレイヤーの名前を視ると

 

「ペイルライダー・・・」

 

 あのネカマ野郎(キリト)が聞いてきた初参戦プレイヤーの1人。

 

 どんな装備で、どんな姿なのかは分からないけど――

 

「どんな奴だろうが、私の標的に変わらない」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、鉄橋を見据える私だった。

 

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 三人称サイド

 

 場所を変えて、ALO(アルヴヘイム・オンライン)

 

 日向の世界を生きるキリトたちがいるVR世界。

 

 イグドラルシティのキリトと彼の彼女兼奥さんのアスナの部屋にて。

 

 しかも、そこには、キリトとアスナの娘のユイ、鍛冶屋リズベット、竜使いシリカ、キリトの妹でもあるリーファ。そして、ギルド『風林火山』のリーダーのクラインがいた。

 

「それにしても、お兄ちゃん映りませんね」

 

「そうね、キリトくんだったら、開始早々から暴れると思ってたんだけどなぁ~」

 

「そうです! パパなら、敵の背後から不意打ちしまくりです!」

 

 そう言って、ユイはアスナの肩の上でシャドーボクシングをする。なんとも、微笑ましい光景だった。

 

 だが、1つだけ気になることがあった。

 

「・・・にしてもよぅ~」

 

「なにが?」

 

「本戦参加者にユンってネームがあるだろ。そのネームで思い浮かぶのが、『黒き武弓』ユンを思い出すよな」

 

「でも、同一人物じゃないと思うけど・・・」

 

「まあ、ついな・・・」

 

「『黒き武弓』・・・『八帝武将』・・・確か、彼らは攻略組だったけど・・・」

 

「うん・・・あの時を境に疎遠になってしまったの。今になって、思えば、どうして、疎遠することにしたのかが分からなくて・・・」

 

「あの時、俺たち攻略組の大半が彼奴らを吊り上げて、悪者扱いをしちまったからな。疎遠になってもおかしくねぇ。だけど、アスナさんの言うとおり、何で、疎遠になったのかがわからねぇんだ」

 

 アスナとクラインは元攻略組の一員として、ギンたち『八帝武将』が、攻略組と疎遠する形で攻略し始めるのかが分からなかった。

 

 その中で知らないシリカとリーファ。

 

 リズベットはアスナから話を聞いてたのと『八帝武将』の1人――ブラウンとは仲が良かったので、その存在は知ってる。

 

 なので、シリカが

 

「あのぅ~、『八帝武将』って何なんですか?」

 

 と質問をしてきた。

 

 その質問にアスナが応える。

 

「『八帝武将』というのは、攻略組の中で最強といっても過言じゃない小規模ギルド。リーダーが『抜刀術』というユニークスキルを持ってたギンくん。サブリーダーも『射撃』というユニークスキルを持ってたユンくん。彼らを含めた8人のプレイヤーを『八帝武将』って呼んでたの」

 

「武器に扱いに関してはメタといってもおかしくねぇほどにヤバくてよ。プレイヤー技量に関しては・・・」

 

「団長やキリトくんと渡り合えてたと思う」

 

「そんなに・・・?」

 

 リーファはキリト以上の実力者がいたことに驚いた。

 

「でも、彼らを攻略組から摘まみ弾いたのが私たち攻略組だったの」

 

「どうしてなんですか?」

 

「まあ、理由は様々だ。1つは彼奴らの実力が異常だったこと。もう1つはギンの策略について来れなかったこともあった」

 

「策略?」

 

「ギンくんは攻略組の中で随一の頭脳を持ってたの。攻略会議でも、私の策なんか弱点なんか諸々言われ、彼が提示した策が攻略で見事に嵌まったの」

 

「あの時以上に俺たちはギンを敵に回しちゃいけねぇ思っちまったんだよ」

 

「どうして、敵に回しちゃいけないと思ったの?」

 

「それは、私たちがギンくんの掌の上で踊っていたって後々、気が付いたから」

 

「「「・・・・・・」」」

 

 攻略組であったアスナとクラインの言葉を聞いて、リーファたちはゴクッと背筋を凍らせた。

 

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 三人称サイド2

 

 さらに、場所を変えて、OSO(オンリーセンス・オンライン)

 

 『ヤオヨロズ』ギルドホームにて。

 

 ギルドホームにある大広場で、ミカズチを含めるOSOプレイヤーたちは、GGO(ガンゲイル・オンライン)BoB(バレット・オブ・バレッツ)本戦を観戦してる。

 

「しかし、ユンの奴が、あんな大会に参加してるなんてな」

 

「そうだよね。ユンくんってこういったのに向いてなさそうなイメージなのに・・・」

 

「ユンっちが、殺伐としてる大会に出てること自体がビックリ」

 

 上から順番に、クロード、マギ、リーリーの3人。

 

 OSOにおけるトップ生産職の面々であり、ユンとは生産職フレンドとしてイベントなんかで一緒にする人たち。

 

 スクリーン映像でユンの勇士を観戦することにした。

 

 だが、最初にユンが派手に爆発をした時は誰もが目を見開かせたものだった。

 

「それにしても、ユンくんが開始早々に派手に爆発させるなんて驚いたよね」

 

「一瞬、魔法でも使用したかと思った」

 

「でも、GGOって殺伐とした銃の世界なんでしょう。魔法なんてものがあるの?」

 

 リーリーの質問にアキトが

 

「いや、ない。GGOは魔法といった概念がない。彼処は世紀末の世界を舞台にしてるって話。銃の世界だったら、閃光弾とかがあってもおかしくないだろ」

 

「なるほど」

 

 とリーリーはアキトの言葉を聞いて、納得するのだった。

 

 

 

 観戦してる最中、ミュウのパーティーメンバーの1人のヒノが指を指しながら、

 

「うわ、あの人凄いね。身のこなしが軽い!」

 

 言った。

 

 それは、カウボーイの格好をしたプレイヤーとライダースーツにフルフェイスヘルメットをしてるプレイヤーである戦いである。

 

 それをミュウのパーティーメンバー一同が

 

「「「「「そうかな?」」」」」

 

 声を重なる。

 

 彼女らはこれ以上にヒガヤの身軽さを目の当たりにしているからだ。

 

 なので、どんな人が見ても見劣りしてしまう。

 

 だから、ヒガヤが

 

「あのなぁ~、俺やギン先輩たちと比べたらダメだと思うぞ。俺たちはある意味、人間止めてるところがあるから」

 

 まっとうなツッコミにミュウたちは目線を逸らすのだった。

 

「あ、決まったみたい」

 

 再び、画面に視線を移すとカウボーイの格好をしたプレイヤーが地面に沈み、DEADのタグが付けていた。

 

 とどめを刺したライダースーツにフルフェイスヘルメットのプレイヤーが立ち去ろうとしたとき

 

「あっ」

 

 誰かが発したかはわからないがスクリーンの中では、さっきのプレイヤーが狙撃されたようで横に倒されていた。

 

 腕には、1本の細いピックのようなものがスパークしていた。

 

「スタンしてるようだな」

 

 ギンとユンの幼馴染みでもあるタクがそう漏らす。その瞬間、スクリーンが一瞬動いたときにまるで、幽霊のようなボロマントのプレイヤーが立っていた。

 

「いつの間に・・・」

 

 ブラウンは素直な感想を口に出す。ボロマントは手に構えていたスナイパーライフルをしまい、腰のホルスターから拳銃を取り出す。

 

 銃マニアのスカイがさっきのスナイパーライフルに見覚えがあった。

 

「アレは、沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)か?」

 

「知ってるの?」

 

 彼に話しかけたのは、『素材屋』という検証マニアとして知られてる生産職の女の子のエミリ。

 

 彼女はスカイに今のライフルを知ってるという意味で聞き返した。

 

「ああ、『アキュラシー・インターナショナル・L115A3』。最大射程が2000メートル以上、専用サプレッサーが標準装備してる対人狙撃銃だ」

 

「サプレッサー?」

 

「サイレンサーのことだ。そして、狙撃手が視ることができず、狙撃音が聞こえないことから付けられた名称が沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)なんだ」

 

「とんでもないものを持ってるんだね」

 

「だが、あのライフルがメインウェポンの筈なのに・・・どうして、ハンドガンを取りだしたんだ?」

 

 というスカイの至極全うな質問を口走る。

 

 その時、1つの閃光がボロマントを撃ち抜かんと通るがボロマントは身体を逸らし躱す。

 

「おいおい・・・」

 

「彼奴強いぜ・・・」

 

 上からフレイン、ミカズチの順に口を漏らす。

 

 フレインはOSO(オンリーセンス・オンライン)における殺人ギルドのリーダーで、生粋の戦闘狂(バトルジャンキー)

 

 そんな2人にマサギが

 

「うわぁ~、スゲぇ~、プレイヤー技術」

 

 マサギすらも技術の高さに舌を巻いた。

 

 だが、マサギいや『八帝武将』たちは難しい顔をする。

 

 うなじの後ろ辺りにチリチリとした嫌な予感がよぎっていたのだ。ボロマントは身体の前で十字を切る。そして

 

 パァン

 

 乾いた銃声音が1つ。直後に倒れていたプレイヤーは起き上がり、ボロマントにショットガンを押し当てるがいつまでたっても銃声は響かない。代わりに

 

 ドサッ ジジジジ・・・

 

 撃たれたプレイヤーは再び、倒れ消滅した。

 

「なに、今の・・・」

 

 スクリーンの中のプレイヤーは拳銃をカメラに向けて言い放つ。

 

『これが、俺の、死銃(デス・ガン)の、力だ。俺は、再び、お前らの、前に、現れる。また、始まる。イッツ、ショウ、タイム』

 

「「「「「「・・・ッ!?」」」」」」

 

 『八帝武将』の彼らは今の口調と最後の言葉を聞いた瞬間、強張らせる。

 

 さらに、ガラスの割れる音が響き渡る。

 

 セイの隣に座っていたスカーがグラスを落として、立ち上がった。その顔は少々、驚きに満ちていた。

 

「マジか・・・」

 

「スカー・・・今のって・・・」

 

「間違いない。さっきの口調と最後の言葉から分かることは1つ。奴は笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のザザだ」

 

 スカーの言葉に聞き返したヒガヤも残りの『八帝武将』の面々も嫌なものを思いだした顔になるも、

 

「そういうことね」

 

 ブラウンがようやく、なにか理解したような言葉を漏らす。

 

「どうしたの、ブラウンさん?」

 

「さっきの言葉を聞いてから、顔が強張っていますけど・・・」

 

「マミさん、ミニッツさん。私は大丈夫。それにしても、厄介なことになったわね」

 

「なにがです?」

 

 ミニッツはなにが起きてるのかを聞き返す。

 

 ブラウンは眼を閉じ、少しだけ考えてから立ち上がる。

 

「マサギ! 説明頼める?」

 

「分かってる。ブラウンは?」

 

「ALOに行くわ。もしかしたら、()()()()()()()を話さないといけない気がするからね」

 

 彼女が言ったことにアキトが

 

「1つだけ彼奴らに伝えて欲しいことがある」

 

「分かってる。私たちの総意でしょう。もちろん、伝えるわ」

 

「頼むぞ」

 

 マサギたちは頷いてから、ブラウンはメニューを開き、すぐさま、ログアウトをした。

 

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9話

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 三人称サイド2

 

 ブラウンがログアウトしたことで、ようやく、フレインが

 

「おい、マサギ。笑う棺桶(ラフィン・コフィン)ってのは何だ?」

 

 という質問がここにいる全員の総意だった。

 

 マサギもハアと1回溜息をついてから、

 

「分かった・・・話す」

 

 1回。間を置いてから、話し始めた。

 

「今から、話すのは、SAO(ソードアート・オンライン)の闇の象徴だ」

 

「闇の象徴?」

 

 ミカズチが言い返す。

 

「ああ、そもそも、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)というのは、SAOにおける()()()()()のことだ」

 

 マサギが言ったことにここにいるミカズチらOSOプレイヤーたち全員が凍りつく。

 

 彼らとて知ってる。

 

 SAO(ソードアート・オンライン)

 

 VRMMO史上、最も危険なデスゲームと化したからだ。

 

 HPが0になれば、『死ぬ』という絶対的な不文律が生まれてしまったからだ。

 

 だが――、

 

「だが、ラフィン・コフィンいやラフコフは、何十何百のプレイヤーを殺した。俺やギンたちも一緒に組む前のパーティーメンバーは奴らに殺された」

 

 マサギの言葉を聞いて、『八帝武将』以外のプレイヤーたちは嫌な気分に陥っていた。

 

 中には、気分を害する者もいた。

 

「俺たち『八帝武将』は攻略組の小規模ギルド。人数が少なかったが、質の高い実力者が集まってた。だが、俺たちには、裏の顔として『八煌断罪刃』というPKK専門の非公式ギルドを設立した」

 

 マサギは続きの説明をしようとするも、今度はヒガヤが話す。

 

「最初は、ギン先輩とユン先輩の2人が声をかけてもらったんだ。『これ以上、被害者を増やしてはならない。復讐だけで生きるような惨めな生き方をするか。罪を背負う覚悟で殺人者からの恐怖を守るために殺す覚悟があるか』って声をかけられたよ。同じ痛みを知るもの同士。誰かを悲しませたくない・・・自己犠牲のようにラフコフや犯罪者たちの抑止力となることを選んだ」

 

「・・・ヒガヤくん」

 

 ミュウが心配そうにヒガヤに寄り添う。ヒガヤはミュウの頭を撫でる。

 

「俺たちの仲間意識が強いのは、そこからくるんだ。誰も失いたくない。仲間を失いたくないという想いから・・・連携なり、技術を高めた。今の俺たちの強さは、その副産物だよ」

 

「そうだったんだやな・・・ヒガヤのその実力の訳がようやく理解したわ」

 

「最終的には、攻略組が討伐作戦を行うことになったけど・・・」

 

「けど・・・何なんです?」

 

 リレイはヒガヤに続きを聞こうと促すもヒガヤは当時のことを思い出し、憤怒の表情が露わになってる。

 

 その表情にミュウたちは目を見開かせた。

 

 なので、アキトが説明することにした。

 

「その討伐作戦の結果は攻略組が彼らを抹殺したことになってる。だが、それは、俺たちが、いや、ギンが茅場昌彦に情報操作を頼み、俺たち『八煌断罪刃』がたった3人の生き残して、他を抹殺させたという真実を闇に葬らせたんだ」

 

「アキっち!?」

 

「・・・嘘でしょう」

 

「何故、情報操作をした?」

 

 リーリーとマギは真実を知り、酷く動揺するも、クロードは何故、情報操作をしたのかが疑問だった。

 

 その応えは

 

「それは、攻略組という連中が、ただの未熟な英雄の集まりに思えたからだ」

 

「未熟? どういうことだ?」

 

「実は、討伐作戦を表向きに攻略組が解決したことになってるのは、理由があった。それは、討伐作戦の本当の狙いにギンが気が付いたからだ」

 

「本当の狙い?」

 

 マギがアキトに、その本当の狙いを尋ねる。だが、それをスカーが応えた。

 

「俺たち攻略組を犯罪者、殺人者にさせるのが目的だった」

 

「・・・ッ!?」

 

 あまりのことに口を押さえるプレイヤーまで出てきた。

 

「ギンはそれに気が付き、進言した。『ラフコフの隠れアジトの情報の出所を調査してくれないか』って・・・でも、攻略組の連中は早く、討伐しようと躍起になっていて、ギンの言葉は聞く耳がなかった。逆に、一部のプレイヤーから俺たちはラフコフと繋がってる疑惑までされて、攻略組からも、討伐作戦からも外された」

 

「疑惑って・・・じゃあ、ユンちゃんやギンくんが笑わなくなったのって・・・」

 

「おそらく、疑惑とつるし上げのせいで、笑うことがなくなった。中坊だったギンとユンに大人でもあるプレイヤーからの妬み、嫉み。あと、彼奴らはユニークホルダーだったから。余計に他のプレイヤーからの罵詈雑言を叩かれたから。心に傷を付くのが普通だった」

 

「・・・だった?」

 

 セイの問い返しにスカーは頷いて応えた。

 

「ギンとユンは心が強かったのか分からないけど、外された後の策に驚かされたよ。それは、攻略組の彼らにいずれ、心に癒えない傷を刻み込もうとしたからだ。俺たちは反対しなかった。俺たちも干されてしまった身だ。少なからず、俺たちなりに復讐したかったのは事実だ」

 

 スカーの話を聞いて、ミカズチは漏らす。

 

「とりあえず、討伐作戦から外されたお前たちはどうしたんだ?」

 

 その問いにマサギが応えた。

 

「討伐作戦開始する数日前、ユンの店に、当時、SAOにおける最強ギルド『血盟騎士団』の団長だったヒースクリフ。まあ、その正体は茅場昌彦だけど、彼は俺たちに極秘という形で依頼された。ギンはそれを承諾したとき、恐ろしいことでも考えついたんだろ。あの時、彼奴は不敵な含み笑いをしていたからな」

 

「ギンの嬢ちゃん・・・どんなことを考えたんだよ」

 

「まあ、それはこれを聞いた後に話す。まず、俺たちは依頼通りにラフコフのメンバー全員を皆殺し、抹殺したよ。いや、正確に言えば、リーダーと最高幹部プレイヤー以外を抹殺した。当時、ラフコフの中で、最も危険だったのは、リーダーだったPoHと最高幹部だったジョニー・ブラックとザザだけだった。後は抹殺し、3人に尋問した。ギンはPoHにこんな質問をした。それは――

 

『ラフコフの隠れアジトの情報を密告したのテメェだろ? PoH?』

 

 という質問だった。その質問の答えが

 

『Wow・・・『剣帝』分かってたんか?』

 

『ああ、隠れアジトの情報が分かったとき、俺は分かったんだ。テメェが密告して、俺たちに人殺しを体験させようと考えたことにね』

 

『流石、キリトの次に殺してぇ野郎だ。見抜いていたか・・・』

 

『英雄気取ってる彼奴らに絶望を叩き込ませようって考え・・・手下共を殺し合わせる扇動の手腕には見事の他ねぇな』

 

『それで、どうするんだ? 俺たちを殺すのか?』

 

『いや、俺。今、面白ぇことを考えたんだよ。その話を聞いてからでも、遅くはねぇだろ?』

 

 その時、ギンが言ったことには、俺すらも目を疑ったよ。ギンはギンなりに攻略組に対しての復讐を企てたことに――

 

 その話を聞いたPoHは高笑いをしてから

 

『テメェの方がいかれてるじゃねぇか?』

 

『それで、どうする? この策はテメェがいなくても出来ることだが、このまま死ぬのは、ヤダだろ?』

 

『良いぜ。その策を乗ってやろうじゃねぇか。どうする、オメエらは?』

 

『うっひょ~、まだまだ人を殺せるんならいいぜ。ひゃっひょ~!!』

 

『俺も、それで、構わ、ない・・・』

 

『よし。成立だ。だが、生かされてることに生き恥を忍んで生きるんだな』

 

 ――こうして、ラフコフの討伐戦はヒースクリフの情報操作の元、攻略組が解決したことになり、真実を闇に葬った・・・これで分かっただろ。ギンがおっかないことに考えていたことに――」

 

 マサギらの説明を聞いて、ギンたちのブラックな部分と彼らが『攻略組』に形を変えた復讐を企てていたことを知るミカズチたち。

 

 そんな彼らにマサギは

 

「呆れるだろ? 人の人生をこけにされ、命じゃない別の方法による復讐を企てているんだからな」

 

「いや、その気持ちは分からなくもない」

 

「・・・だな。むしろ、よく我慢していた方だと思ったぜ」

 

 ミカズチとフレインはマサギらの気持ちを理解してくれた。

 

 それは、他の皆もそれなりに理解してくれたのだった。

 

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10話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 その頃、ALOではというと――。

 

 ボロマントのプレイヤーがラフコフの1人である事を思い出した。

 

 思い出したのだが、ここで可笑しなことが生まれる。

 

「ねぇ~、クラインさん・・・」

 

「アァ~、俺も今、ふと思ったんだが、ラフコフの奴らが()()()()んだ?」

 

 という疑問が生まれていた。

 

「うん。確かに、あの事件は私たちが解決したってことになってるし。笑う棺桶(ラフィン・コフィン)は壊滅したって・・・情報屋のアルゴさんが――」

 

 アスナも今になって、あの事件のことを思い出した。

 

 その後、クラインがそれを知らないリーファやリズベット、シリカにそのわけを話し、アスナが依頼主にリアルで連絡を取り合うため、一時的にログアウトした。

 

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 ユンサイド

 

 なるほど。

 

 そういった手法でペイルライダーをあの世に送ったというわけか。

 

 だとすれば、これはゲームだな。

 

 殺人という名のゲームをな・・・

 

 さてと、移動するか。

 

 狙いはおそらく、シノンだな。

 

 全く・・・命を賭してまで守り切ろうとする俺たちも、大概だな。

 

 だろ・・・ギン。

 

 

 

 俺は都市廃墟側の鉄橋から一部始終を見た後、1人で都市廃墟方面に走り出した。

 

 それは考えたからだ。シノンと合流したキリトが都市廃墟に来るのじゃないか考えついていたからだ。

 

 なので、先回りして、Sterben(ステルベン)さんはどこにいるのか――

 

「ん?」

 

 俺は経年劣化で一部が崩れてる壁から外の光景が眼に映る。

 

 そこには、水色の髪をした女の子プレイヤーが倒れ、その傍らにはボロマントのプレイヤーが立っていた。

 

「チッ!?」

 

 あの野郎!? ちゃんと守りやがれ!!

 

 ボロマントのプレイヤーは拳銃をシノンに向けて十字を切ったのを確認した。

 

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 シノンサイド

 

 私、いったい、何をやっているんだろう・・・

 

 ネカマ野郎(キリト)の見立てではスタジアムの上にいる銃士Xが死銃とのこと。

 

 だけど、本当に存在してるのだろうか?

 

 GGOにいる全プレイヤーがその存在を信じていないでしょうね。

 

 私も信じていないプレイヤーの1人。

 

 何故なら、アミュスフィアを購入したとき、耳に蛸ができるほど、安全性について説明されたから。

 

 ゼクシードと薄塩たらこの件だってネット上に死亡説があがっても、その内容は暇人が暇つぶしのために考えたようなもの。

 

 だから、ネカマ野郎(キリト)が言いだしたときは最初はどうかしてると思ったけど、ユンもこの件に一枚噛んでるって言われたときは思いとどまった。

 

 彼との出会いは敵同士だったけど、今じゃあ、コンビを組んでるほどの付き合いになってる。

 

 彼奴と一緒にいると、銃への思いやりが否応なく分からされる。

 

 曖昧な情報もしっかりと調べ上げてから、行動してる節がある。

 

 だからこそ、ユンが死銃調査に加担してるということは実在してることに他ならない。

 

 そのため、ネカマ野郎(キリト)を倒すことをいったん止めて、調査に協力することにした。

 

 だが、銃士Xが死銃だったら、協力する義務もない。

 

 ネカマ野郎(キリト)が倒した所で背後から狙撃で仕留める・・・手筈だった。

 

 

 

 そして、今、私は地面に倒れたまま、動けずにいる。

 

 HPバーの下には麻痺状態が表示されてた。

 

「な、んで・・・?」

 

 何処から撃たれたのか? 銃声も全く聞こえなかった。

 

 その時、私の視界の正面が不自然に揺らいだ。

 

 その揺らぎは次第に人の形になっていき、ボロマントのプレイヤーが現れた。

 

 そして、そのプレイヤーの懐から一丁の拳銃を取り出す。

 

「あ・・・・・・ああっ!!」

 

 何で? 何で、あの銃が今、ここに!?

 

 私の罪の象徴である黒星(ヘイシン)が目の前にあるの!?

 

 身体から力がなくなる。意識がはっきりしない。耳に血流の音がごうごうと響いてくる。なにも考えられない。

 

 ボロマントの奥から見える赤い眼がこぼれ落ち、黄色く濁った瞳孔の開ききった眼に変わる。

 

(ここにいたんだ。私を殺すために追ってきたんだ。ずっと隠れて、私に復讐するために・・・)

 

 私には、もう抗えるだけの力も意志も残っていなかった。

 

 もう意識のほとんどが手放してる。

 

 もう私はあの銃から放たれる本物の死を与える弾丸を待つだけだった。

 

 キンッ!!

 

 私は死を与える弾丸が来るのを待っていたけど、一行に、その弾丸が来ず、近くでなにか金属が落ちた音が聞こえた。恐る恐る、目を開けてみると、そこには、1つの弾丸が転がっていた。

 

 どうして、思ってたけど、最後の手向けに、ボロマントが残してくれたかもしれないと思い、衝撃が来るのを待っていたけど・・・

 

 プシュ――――――――!!

 

「え?」

 

 あの弾丸はボロマントが残してくれたのじゃなく、誰かが意図的に放り投げたというの!?

 

 しかも、煙を吐き出してる。

 

(スモーク? でも、いったい誰が・・・)

 

 突然、私の身体が誰かに抱えられた。

 

「おい! シノン大丈夫か?」

 

「ユ・・・ン・・・」

 

 ユンだった。

 

 なんだか、彼にフォローされると、現実の朝霧さんに思えてくる。

 

 あの人もいつも、私を助けてくれたり、フォローしてくれたりしていた。

 

「くっそ・・・シノン! 捕まってるんだぞ! 愛銃も手放すな!」

 

 そう言われ、私は必死にユンにしがみついた。

 

 ユンは私を抱えたまま、壁を蹴って、宙返りする。

 

「さてと、ひとまず、身を隠しますか」

 

 って、あんたもあのボロマントと同じマントを持ってるのね。

 

 彼は私を抱えながら、姿を消して、移動を再開する。

 

 本当に用意周到よね。

 

 彼って・・・

 

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 ユンサイド

 

 さてと、ザザから一応は撒けたと思う。

 

 じゃあ、ひとまず、バギーにでも、乗って、逃げますか。

 

 あと、呼吸が浅く短くなってるシノン。

 

 何やら、トラウマでも引き起こしたのか。

 

 まあ、とりあえず――、

 

「落ち着け、シノン」

 

 暗がり閉ざされた世界に囁くように語りかける。

 

「大丈夫。俺ができるかぎり守ってやるよ」

 

 俺はこの時ほど、優しい表情を浮かべたことがないだろう。

 

 シノンもギュウッと抱きついてきた。

 

 なんか、彼女がネコのように見えてきた。

 

 と、その時、

 

 ゾクッ・・・

 

「チッ・・・」

 

 俺はシノンを抱えたまま、ジャンプして道路に降り立つ。

 

 今の軽い発射音からして、あの銃だろな。

 

「全く・・・随分と執念深いものですね、ザザ」

 

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 シノンサイド

 

「――ザザ」

 

 ザザ? ユン、あの死銃のことを知ってるの?

 

 すると、ザッ、ザッ、ザッと歩いてくる音が聞こえてくる。

 

 怖い、嫌だ、恐いなどの感情に支配されそうになるけど、ユン()に抱かれていると、恐怖の波が静まっていく。

 

 そして、姿を現したボロマントのプレイヤー。

 

 彼がザザと呼んでるプレイヤー。

 

「戦場で、会うのは、久しぶりだ、な・・・八煌、断罪、刃『死を呼ぶ、武弓』・・・ユン」

 

「屈辱による復讐という殺意が洩れてますね」

 

「ほざけ、ここで、殺す」

 

「やってみな」

 

「ッ!?」(◎-◎;)ドキッ!!

 

 な、なに、彼の不敵な笑み。

 

 胸の高鳴りが治まらない。

 

 顔が熱くなる。

 

 って、なにを考えてるのよ!? こんな危険な状況下で!?

 

「お得意の、弓がなければ、逃げ腰なのか」

 

「お前のような奴に弓を使うまでもない」

 

「減らず、口を」

 

 ボロマントのプレイヤーは黒星を此方に向けてくる。

 

 恐怖で心臓が跳ね上がる。でも、彼の手が私の手を強く、そして、優しく握ってくる。

 

 彼の手からの温もりが私を包み込んでくる。

 

 温かい。

 

 ユンの方を向くと、その眼は逃げることがない眼。なにかを信じてる眼に見えた。

 

 引き金にかけた指が動く。私は目を瞑ってしまう。

 

 その瞬間、

 

 バシュウ――――――――!!

 

「!?」

 

 目を開けると目の前が紅く染まっていた。

 

 HPがレッドゾーンかなと思ったけど、そうじゃない。これは煙。

 

 でも、ユンはスモークグレネードを投げた様子はない。

 

 その時、私の耳に重低音の音が響いてきた。私が音の正体に気づく前に私はユンに抱えられた。

 

「ユン、シノン、乗れ!」

 

 ネカマ野郎(キリト)だった。彼がバギーに乗ってきた。

 

「遅い!」

 

 ユンは私を抱えたまま、バギーに乗り込み、フルスロットで走り出した。

 

 後方を視れば、なにを考えてるのかわからない赤い眼の男が佇んでるだけだった。

 

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11話

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 ユンサイド

 

 俺、シノン、キリトは砂漠地帯に存在するスキャンを回避できる洞窟の中に身を隠してた。

 

「一応、助けてくれたことには感謝する。あの状況じゃあ、シノンを守り切れそうになかったからな」

 

「嫌な予感がしたから。焦ってそこに向かったんだよ。バギーを見つけたのは、運が良かったの一言だ」

 

「そっか。まあ、感謝しよう」

 

 キリトは俺を見て、

 

「なあ、ユン」

 

「なんだ?」

 

「あの討伐戦での作戦会議の時、ギンが言ったあの言葉の意味を教えてくれないか?」

 

 俺は一瞬だけ、目を開かせ、キリトを視る。

 

 彼の眼には、覚悟のある眼をしていた。

 

 それを見た俺は、確認のため、ある事を聞き返す。

 

「確認のために聞く。全てを知る覚悟は出来てるか?」

 

「ああ・・・俺は、この事件を依頼されたときから、ずっと、ギンやお前の言葉が頭の中から離れられないんだ。昨日からずっと考えたけど、俺いや俺たちは、お前やギンにとんでもないものを背負わせちまったんじゃないかって思ってしまう。だから、教えてほしい。あの事件の本当のことを教えてほしい!」

 

 見た目が女に近いのに、男らしく言い切ったな。

 

 仕方ない。話すしかないか。

 

「先に言っておきたいことがある。今から話す真実を知って、お前がもし、逃げるようだったら、躊躇わず殺す」

 

「分かった」

 

 キリトが応えたことで、俺は真実を話すことにした。

 

 陰謀策略に張り巡らされた討伐戦の真実を――。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 アスナが依頼主である菊岡誠二郎を電話でALOにダイブするように頼み込んでから、数分の後に、アスナとリズベットの友人でもあるブラウンから連絡が来て、『話したいことがある』と書かれた文に彼らは迎え入れることにした。

 

 そして、部屋のドアをノックされ、ドアが開いた瞬間、

 

「遅~い!」

 

 リズベットのこの一言が、ブラウン以外の全員の心の代弁してくれた。

 

「これでも、セーブポイントから全力で飛んできたんだ。ALOに速度制限があったら、メンテ確実だよ」

 

 入ってきたのは、クリスハイトことキリトとユンに、死銃(デス・ガン)事件を依頼した菊岡誠二郎その人である。

 

「なにが起きてるの?」

 

 アスナが危機が迫るように言ってくる。

 

 クリスハイトは口籠もってから思案する様子を見せた。

 

「何から何まで、ちょっと時間がかかるかも・・・正直、何処から話せば良いか・・・」

 

「誤魔化す気!!」

 

 アスナが怒鳴ってきたので、代わりに

 

「なら、説明役。私が代わりにやります」

 

 キリトとアスナの娘のユイが買って出てくれた。

 

「では、僭越ながら――」

 

 彼女が調べ上げたことを全て話した。

 

 死銃(デス・ガン)と名乗るプレイヤーの登場。

 

 撃たれた2人のプレイヤーの死亡。

 

 そして、先ほど、撃たれたプレイヤーが既に死亡していると話した。

 

 ユイの説明を聞いて、クリスハイトは

 

「これは、全く、驚いたな。これだけの短時間で、それだけの情報を集め、結論に持ってこさせるのは、仮想科でアルバイトしてみないかい?」

 

 この状況で感心の声をあげるも、アスナの睨みで慌てるも

 

「この期に及んで、誤魔化す気はないんだ。お嬢さんの言ったことは全て・・・事実だよ」

 

 クリスハイトの真剣な顔で応えたことにクラインが

 

「おい! クリスの旦那・・・ってことはなにか? あんたは、その殺人事件のことを知ってて、キリトをGGOに向かわせたのか!?」

 

 詰め寄ろうとしたけど、クリスハイトは

 

「ちょっと待ってくれ。クライン氏。殺人事件ではない」

 

「な、なんだと・・・?」

 

 ここで、今まで黙ってたブラウンが割って入る。

 

「そうね。確かに、それは不可能。アミュスフィアじゃあ、毛ほどの傷も与えられない。そもそも、脳と関係ない心臓による死因じゃあ、殺人事件の線は薄いってことでしょう」

 

 彼女の言い分にクリスハイトは

 

「そ、その通りだ。その話は僕とキリトくん、そしてギンくんの3人でたっぷり議論したから間違いない。でも、ギンくんはこの事件の犯行方法を全部見抜いてくれた。ゲーム内での銃撃ではなく、リアルから直接、毒物を注入されたという結論に至った」

 

 そこまで言われてしまい、クラインは椅子に座らざるを得なかった。

 

 そこにリーファが

 

「クリスさん。貴方はどうして、お兄ちゃんをGGOに行かせたんですか? 貴方も感じているんじゃないですか? あの死銃(デス・ガン)って奴が、なにか恐ろしい秘密を隠してるって・・・」

 

 言い分に彼は小さく頷き、アスナが

 

「クリスさん。死銃(デス・ガン)は、私たちSAO帰還者(サバイバー)よ。しかも、最悪と言われたレッドギルド――笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の元メンバーだわ」

 

 それを聞いて、クリスハイトは驚きを隠さず、

 

「ちょっと待ってくれ!? そのギルドに関して、夏でキリトくんから聞いた時、既にメンバー全員抹殺したって聞いてる。アスナくんが言ったことは矛盾してる!?」

 

「だから、私たちも驚いてるのよ。()()()()()()()()()()()けど・・・」

 

 アスナが言ったことに、ブラウンが

 

「フフッ・・・」

 

 笑うのを堪えてる。

 

 そこにリズベットが

 

「ブラウン。なにがおかしいの?」

 

 ブラウンが笑ってることに聞き返す。

 

「なにがおかしいって・・・当然でしょう。自分らにとって、不都合な過去を忘れようとしてる愚か者たちを憐れんでるのよ」

 

「あんた、それでも、『鉄壁』と言われたブラウンなの!?」

 

「『鉄壁』ね・・・じゃあ、その『鉄壁』である私やギン、ユン、『八帝武将』の皆をつるし上げ、討伐隊や攻略組から外させたのは、どこの誰だったのかしら?」

 

 ブラウンが言ったことにアスナとクラインは眼を逸らす。

 

「でも、良かったよね。()()()()()()に嵌まらずに、人殺しをせずに済んだんだから」

 

「え?」

 

「PoHの策略?」

 

「どういうことなんだ?」

 

 アスナもクラインも、当時、討伐隊として参列してた。

 

 だからこそ、PoHの策略という意味が分からずにいた。

 

「真実はもっと残酷よ。貴方たちが思ってるほどにね」

 

 ブラウンの含み笑いに、クリスハイトは

 

「話してもらうと嬉しいんだけど・・・」

 

「国家公務員としてSAO事件に関する情報を知っておきたいのは分かるけど・・・ここは覚悟を問いたい?」

 

「覚悟?」

 

「全てを知る覚悟。全てを知ったとき、果たして、貴方たちは今のままでいられるのか。その覚悟を問いたいのよ」

 

 ブラウンはアスナを睨む。

 

 ブラウンの睨みにアスナは

 

「話してくれる。貴方たちが背負ってしまったことの全てを」

 

 言い放った。

 

 それにブラウンは

 

「いいよ、話してあげる。でも、先に言っておくわ。もし、真実を知って、謝罪なり、逃げるなりしたら、私が貴方を殺す」

 

 ブラウンの睨みにアスナは

 

「分かった。約束する」

 

「それじゃあ、話しましょうか。陰謀策略が張り巡らされた討伐戦の真実をね」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ユンサイド

 

「――これが、討伐戦における真実だ」

 

「・・・・・・」

 

 俺は、あの事件の真実を包み隠さず話した。

 

 それを聞いたキリトは生気が抜けたような顔になってた。

 

「呆れるだろ。俺たちをつるし上げた攻略組のキミたちを守ったのが俺たちだったとは皮肉だろ?」

 

「・・・・・・」

 

 返答もなし。それもそうか。

 

 俺たちをつるし上げたの中にキリトもいた。彼は便乗していなかったが、止めようとしなかった。

 

 そんなキミが英雄と呼ばれてることが許せなかった。

 

 俺たちはキミたちから謝罪なんかを貰いたくない。

 

 貰えば、俺たちの誇りが失ってしまうからだ。

 

 それに俺が進む道は茨の道。

 

 己を傷つけてもなお、生き続ける道だ。

 

 そんな俺やギンたちに、キミたちがとやかくいう資格はない。

 

 俺はそう思って、キリトを視る。

 

 キリトは顔を伏せ、

 

「俺たちは・・・ギンやユン・・・『八帝武将』の彼らに申し訳ないことをした・・・今更、謝ったってお前たちが許されるはずがない。だが、これだけは言わせてくれ!! お前たち『八帝武将』に人殺しさせてしまって、本当にすまない!!」

 

「・・・・・・」

 

 俺はキリトのせめてものの謝罪になんともいいにくい顔になる。

 

「それぐらいで勘弁してやる。ただし、俺たちに人殺しさせてしまったことへの責任は背負い続けろ。途中で死ぬような真似をしたら、俺は許さん。いいな?」

 

「ああ、そのつもりだ・・・俺やアスナ、クライン、エギルも・・・あの時のことは一生忘れない。今更、お前たちと関係を取り戻そうと思わない」

 

「ならいい。そこまで分かってるなら、俺から何も言わない。だが、お前が言った謝罪に関してはギンたちに伝えておく」

 

「ああ・・・そのつもりだ。それよりも、あっちはどうする気だ?」

 

 俺とキリトは洞窟の奥を見やる。奥には、シノンがいる。

 

 今の話を聞いてただろうから――、

 

「俺に任せてくれないか」

 

「良いのか?」

 

「ああ、俺にしか出来ないことだ」

 

「それもそうだな。俺が見張ってるよ」

 

 この時、俺はキリトの顔を見る。

 

 その時、思わず、フッと笑みを零す。

 

 随分と精悍な男らしくなったじゃないか。

 

 俺はそれを感じとって、シノンのもとに歩み寄った。

 

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12話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

「――これが、討伐戦における真実よ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 ブラウンは真実を包み隠さず語った。

 

 その真実を聞いて、アスナとクラインは生気が抜けたような顔になる。

 

 リズベットとシリカは、あの討伐戦にはそんな真実があるとは夢にも思わなかった。

 

 対して、クリスハイトは

 

「それが、真実だとしたら、キミたちは我々の目を欺いたことになる。それだけの考えをギンくんができるとは思えないけど?」

 

 といった質問を切り返すもブラウンは

 

「詳しいことはユンしか知らないけど、ギンは生まれ持った天才だった。普通の人間が考えつかないことを平気で考えついてしまう。ギンが天才だったのは、SAOでパーティーを組んでたときから、薄々気が付いていたけど・・・ユンから簡単に説明されたときは、凄いと思ったよ。まるで、()()()()()()()()だって思ったからね」

 

「神に選ばれし少年ね・・・その言葉は同意するよ。何しろ、ギンくんは人類が到達すべき数百年に1人の天才だと思わされたからね」

 

「実際、会っての感想かしら?」

 

「ああ、彼の頭脳はもはや、常人の域を超えてる。いわば、人類の叡智といってもおかしくない」

 

「そうだね。ギンの頭脳は人類の叡智そのもの。でも、私は貴方と話す気はない。アスナ。貴方の応えを聞きたい」

 

「・・・・・・」

 

 アスナはブラウンから語られた真実を知って、自問自答を繰り返す。

 

 繰り返すけども、

 

「私たちは忌々しいことを()()()()としていた。笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のことを、貴方たちのことを・・・」

 

 顔を伏せてるけども、零れてくる涙の滴。

 

 その零れた涙の滴を視るブラウン。

 

「それでも、これだけは言わせて・・・ブラウンやギンくんたちに人殺しさせてすみません」

 

 アスナの涙の謝罪にブラウンは言いづらい顔になる。

 

「わかったわ。それで許してあげる。でも、忘れないで、私たちにさせた責任は背負い続けなさい。自殺するような真似をしたら、私が貴方たちを殺してあげるわ」

 

「うん。私もキリトくんも一生忘れない。でも、今でも友達でいられるよね?」

 

「それぐらいは許してあげる。何かあったら、連絡して。できるかぎりのことはするから。あと、このことは私から、皆に伝えておくから」

 

「うん・・・」

 

 ブラウンはアスナに歩み寄り、彼女の頭を撫でるのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ユンサイド

 

 暗い洞窟の最奥部、そこには申し訳ない程度に水たまりのような場所があり、少しばかりひんやりしている。

 

 その水たまりの手前の岩壁に1人の少女がへカートⅡと共にもたれ掛かってる。

 

 だが、そこには、山猫のような獰猛さがなく、ただただ怯えてる女の子だった。

 

「・・・シノン」

 

 俺の言葉にシノンは緩慢に首を動かし、此方を見る。

 

「大丈夫じゃないよな」

 

「・・・えぇ、情けないことにね」

 

 彼女は力のない笑みを浮かべる。その笑みは俺にはとても痛々しく思ってしまう。

 

「ユンは? 入り口の方でなにか言ってたようだけど・・・」

 

「聞いてたんだろ? アレが、俺や銀華たちが背負い続けてるものだ。それを話しただけだよ」

 

「・・・そうだったのね」

 

 そこで、一度、会話は途切れた。緩く、寄る辺のない沈黙だ。

 

「・・・ねぇ、ユン」

 

「なんだ?」

 

「聞いてもらってもいい? 私の・・・過去を・・・」

 

 そこには、俺と同じように話して楽になりたいという思いが見え隠れしていた。

 

「・・・いいよ」

 

 俺は肯定する形で、聞くことにした。

 

「・・・私ね、人を殺したの」

 

 やはりか、前に彼女の眼を見たとき、俺と同じ眼をしてるのを感じた。

 

 ただひたすら、抗う力を求めてた。

 

「小さいときに、交通事故でお父さんを亡くしてね。お母さんが精神障害になったの。それから、私はお母さんを守らなきゃ! って思ってて、強引な訪問販売とか追い払ってたの。それで、ある日に郵便局に行ったんだ。精神障害っていっても重度ってわけじゃないからそれくらいは出来てたんだ。そしたら、その郵便局に変な男が入ってきたんだ。黒眼が左右で違ってたしおかしいと思ったの」

 

 その言葉で、なんとなく、麻薬でもやってるんだろうと思った。

 

「その男は受付のカウンターまで行った後、お母さんを突き飛ばして、懐から銃を・・・ボロマントが持ってた黒星を、取りだして・・・」

 

 震えてる。

 

 おそらく、フラッシュバックしてるのだろう。

 

 俺はシノンの右手を優しく掴み、

 

「大丈夫。ゆっくり、話せば良い」

 

 言い聞かせる。

 

 でも、シノンは一瞬だけ、身体を強張らせる。

 

 おそらく、引き金を引いたのは、この手なんだろう。

 

 彼女は深呼吸してから、

 

「局員の1人を撃ったんだ。その後、金を詰めろって言ってお母さんに銃を向けたんだ。『早くしないと撃つ』って・・・」

 

 幼いときに、そんな恐怖を感じたんだな。

 

「もう無我夢中で、男の手に噛みついて、取りこぼした銃で撃ったんだ、2回。衝撃で肩は脱臼し、歯も折れていたかったけど、それ以上に足元に広がった血とお母さんの目が怖くてね・・・気絶しちゃったんだ。それから、私は銃の絵や写真を見る度に、吐いたり、気絶したりするようになっちゃった」

 

 シノンは自分の過去を話し終えて、力が抜けたのか脱力して、俺に寄りかかった。

 

「そうか」

 

 俺はもうそれしか言えなかった。

 

「・・・うん」

 

 言葉少なく、シノンは返す。

 

「・・・俺のことはさっき、聞いたんだろ?」

 

「う、うん・・・」

 

「俺も人を殺した。キミ以上に人を殺してる・・・」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 シノンサイド

 

「――キミ以上に人を殺してる・・・」

 

 ユンも私と同じように人を殺したんだ。

 

「俺とキリトはSAO帰還者(サバイバー)だ。それはシノンも気が付いていたんだろ?」

 

 コクッと私は頷いた。

 

 これには、驚くも納得する。ユンとネカマ野郎(キリト)はあまりにも、仮想世界に慣れている動きに――。

 

「俺は銀華と一緒に、その世界で生き残ることにした。その時、気の合うパーティーメンバーもいた。でも・・・」

 

「?」

 

「その気の合うパーティーメンバーは殺された。SAO最大の殺人ギルド――笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の手によって・・・」

 

「嘘・・・」

 

 殺人ギルド・・・本物のデスゲームの中で、それは間違いなく、最大の罪。

 

「生き残った俺と銀華は失ったメンバーにショックし、心が荒んだ。俺の場合は自殺しようと思った」

 

「――」

 

 これには、私も驚く。ユンは失ったショックで自殺しそうになっていたなんて・・・。

 

「だけど、銀華は荒んでいく俺を助けてくれた。『今、ここで、お前が自殺しても、殺された彼奴らは許してくれねぇ。生きよう・・・これ以上の犠牲者を出さねぇために・・・』・・・と言ってくれた。俺はそれをきっかけに泣くことをしなくなった。それからは、仲間をラフコフに殺された者たちに声をかけていき、同じ痛みを理解し合える者たちで結成した『八帝武将』という小規模ギルドで最前線で攻略をした」

 

 そこから、立ち直ったんだ。

 

 でも、それじゃあ、どうして、ユンは人を殺したって言えるの?

 

「『八帝武将』というのは、攻略組としてあるギルドだけど、裏で、俺たちは『八煌断罪刃』という非公式ギルドとして、犯罪者や殺人者たちを殺した。殺戮者の恐怖から守るために、俺たちは彼らを殺めた。銀華は人を殺める前に俺たちと誓い合ったことがある。『人を殺すことは世間では悪だろう。強制しねぇ。誰かを守るために人を殺め、それを背負える覚悟のあるか』って・・・俺はそれに誓った。俺は殺した人たちのことを忘れないし。それを背負って生きていくことを決めた」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

 私はユンが強いのは、自分の両肩に背負っていこうと想いと覚悟があったことを知った気がした。

 

 だからこそ、つい、こんなことを言っちゃう。

 

「・・・戦うの?」

 

「ああ、死銃(デス・ガン)の正体であるザザは、俺がケジメを付けないといけない」

 

「・・・強いね。ユンは本当に強いよ」

 

 私よりも辛い過去を持っていて、折れそうになっても、前を向いて歩いてる。

 

「私には無理だよ・・・」

 

 あの時、あの銃を向けられただけでなにも出来なくなってしまう私とは大違いだ。

 

「バカか、今も十分に戦ってるだろ」

 

 ユンの言葉に眼を瞬かせる。

 

 私が戦ってる? そんなはずがない。もし、戦ってるなら、あの時、意地でも反撃していた。

 

「俺とシノンは似た者同士。苦しみというのは、抗って抗い続ける証。俺と同じように茨の道を歩いているんだ。そのだったら強い。自信もっていいと思う」

 

 ユンはそう言ってくれるけど、自信が持てない。

 

「・・・まだ、自信が持てないのか?」

 

「・・・うん」

 

「それじゃあ、最初に出会ったとき言えなかった。俺の考えを言おう」

 

「・・・うん」

 

「それは、誰かを守りたい、守られたい、支えたいといったものが見つければ良い」

 

「守りたい、守られたい?」

 

「ああ、俺は一度、銀華に守られた。だからこそ、俺や『八帝武将』の皆は銀華を守ることを決めた。今は、他の誰かを守りたいんだよ。そして――」

 

 ユンはそこで、一度、言葉を切り、私を視た。

 

「俺、朝霧峻がシノンを守り続けよう」

 

 私はその言葉に固まった。え? 今、朝霧峻って言った? じゃあ、ユンって、朝霧さんだったの!?

 

 それよりも、今、守り続けたい? 継続なの? 今だけじゃなく、それって・・・過程をすっ飛ばしたぷ、プロポーズ!?

 

 も、ものには順序というものが・・・

 

「おーい、シノン?」

 

「は、は、はい! ふちゅちゅか者ですがお願いします!」

 

「・・・・・・」

 

 ユンは無表情になって、私の額にデコピンしてくる。

 

「い、痛い!?」

 

「こんな状況でそんなことを言うなよ。まあ、俺が遠回しに付き合ってくださいと言ってしまったから。慌ててしまうのもわかる」

 

「なら、なんで言ったのよ!!」

 

「それは、シノンの笑顔を視た時に一目惚れした・・・その所為かな」

 

「な!?」

 

 急に顔が、ところではなく、全身が紅く染まる。

 

 私もユンに、いえ、朝霧さんに惚れているかもしれないと思ってた。いつかは私から告白するものだと思ってたけど、まさか、予想外だった。

 

 思考がさっきまでとは違った意味で働かない。

 

 黙りこくってしまう。

 

「まあ、シノンが俺のことが好きという応えを知れて良かったよ。返答は後日で・・・って・・・ついさっき、応えたな」

 

 溜息をつかない!!

 

「アァ~、このことがOSO(オンリーセンス・オンライン)にいる皆からなんか言われそうだ」

 

OSO(オンリーセンス・オンライン)?」

 

「俺がホームでやってるゲームのことだよ。これがバレたら、弄られそうだ・・・ちょっと憂鬱」

 

「災難ね」

 

 私はユンに思わず、同情しちゃった。

 

 でも、彼が私を好いてくれて嬉しい!!

 

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13話

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 ユンサイド

 

 俺とシノンが互いの気持ちを確認し合ったあと、見張ってるキリトの所に向かうのだが、やけにゲッソリしているな。

 

「まあ、聞こえていたんだろ」

 

 俺は分かりきってることを口にする。

 

「ああ、お前ら声デカいんだよ・・・」

 

「え?」

 

「やっぱな・・・」

 

「こっぱずかしいことを大声で言うなよ・・・」

 

「学生のくせに結婚前提で付き合ってる人が言えるのか?」

 

「うっ・・・まあ、確かにそうだけど・・・」

 

「あんたも人のことを言えないのね」

 

「ああもう! いいだろ!」

 

「切り上げた」

 

「あんたから始めたのに」

 

「そこ! 五月蠅い! 息合わせるな!」

 

 キリトはゼーゼーと息絶え絶えになってるな。

 

「ハア、もう良い。とりあえず、報告しとくぞ。ついさっき、スキャンがあった。写ってるのは俺たちと闇風だけだ。彼奴は残ってるのは確定だろうから5人だな。ただ全員足しても2人足りないんだ」

 

「おそらく、1人はペイルライダーだろ。姿を隠してたけど、俺も確認していた。もう1人は探してる最中に殺ったんだろう」

 

「そうか・・・分かった」

 

 彼は一瞬、唇を強く噛んだ。

 

 自分の視ていないところで起きてしまったことに悔いてるんだろう。

 

「ザザは俺がやるとして、問題は闇風だ」

 

「乱入されたら厄介だし。ザザのターゲットでもある可能性だってある。彼奴に接触する前に倒せれば良いんだが・・・」

 

「なら、それは私がやるわ」

 

「・・・・・・」

 

 俺はシノンを視る。

 

 彼女は少しだけ震えてるが、彼女の眼を見れば、このまま逃げたくないという眼をしてるので、

 

「分かった。じゃあ、頼む」

 

「任せなさい!」

 

 勝気な笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、キリトは闇風を誘導しろ。闇風は俺を倒してるが、一番、警戒してるのは俺だ。俺を最後に倒すだろう」

 

「ああ」

 

「さて・・・」

 

 俺は1回深呼吸して、集中を高める。

 

 冷徹な殺気を出すためだ。

 

「「ッ!?」」

 

 俺のいきなりの変わりようにシノンとキリトが背筋を凍らせた。

 

「じゃあ、全員生き残ること。特に俺とシノンはな」

 

「ええ」 

 

「ああ、分かった・・・ん? ユン」

 

「何だ?」

 

「お前何処からログインしてるんだ?」

 

「アパート住まいの銀華の部屋からだ」

 

「どういうこと?」

 

「俺たちはこれを正式な依頼だから安全な場所を提供されてるんだが、ギンがそれを断って、ユンを自分のところでログインするって言ってきたんだ」

 

「俺は銀華の言うことを聞いただけだ。やはり、銀華にキツく言うべきだったかな」

 

「ユン?」

 

「怒るな。言いたいことはこの大会を終えてからだ」

 

「わかったわ。逃げたら、思いっきりやるからね?」

 

 俺は既にシノンに尻敷かれてるようだな。

 

 あと、これ、絶対にマギさんとかミカズチとかタクから思いっきり弄られるな。

 

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 三人称サイド2

 

 OSOの『ヤオヨロズ』のギルドホームにて。

 

 そこでは、ミカズチら含めたOSOプレイヤーたちが、終盤になってきたBoBをスクリーンで視てる。

 

 視てるんだけど――、

 

「しかし、嬢ちゃんの奴・・・あの水色の髪の女の子と仲良くなっていないか?」

 

「・・・言えてる」

 

 ミカズチとフレインはユンとシノンが仲良くなってることにニヤついていた。

 

「それにしても、ユンの奴・・・砂漠のど真ん中に立ってるぞ」

 

「ユンお姉ちゃん・・・眼を閉じてる」

 

「何をする気なの・・・ユンちゃん」

 

 身内として心配するタク、ミュウ、セイの3人。

 

 だけど、今、ユンがしてることにヒガヤたち『八帝武将』の彼らが気づく。

 

「アレは・・・もしかして・・・『超感覚(ハイパーセンス)』」

 

「なんや、それ?」

 

 コハクが思わず、聞き返す。

 

「SAOには、システムに設定されたスキル以外のスキル――『システム外スキル』が存在したんだ」

 

「なにを言うとるんや。そんなのが存在したら、ゲームバランスが崩壊するでぇ」

 

「もちろん、そんなのができるのは、トッププレイヤーでもごく一部のプレイヤーだけしか扱えないスキルだ。俺やユン先輩たちも使える。『超感覚(ハイパーセンス)』っていうのは、人間の第六感といえるものだ。自分の意志で研ぎ澄ませるというものだ。有り体にいえば、高精度の勘だよ」

 

 次に、スカーが

 

「今のユンは聴覚、視覚、嗅覚、味覚を遮断したと思う。前進を触覚にしないと狙撃には対応できないというわけだ」

 

「でも、OSOでプレイしてるとき、一度もそんなことをしていなかったと思うけど・・・」

 

「それだけの相手だということだろ・・・しかも、ユンだけにしか扱えないスキルがある」

 

「ユンだけにしか扱えないスキル? 何なの・・・それ?」

 

空間認識(スペース・アイ)・・・ユンだけしか扱えないシステム外スキル。今、思えば、ユンが射撃スキルを持ってたのも頷ける」

 

空間認識(スペース・アイ)・・・?」

 

「わかりやすく言えば、広い視野を有してることだ。普通の人間の視野は両眼で60度、片眼で120度が限度だ。だが、ユンの場合は片眼の視野が馬並みの視野を有してる。しかも、それを空を飛ぶ鷹のように多角的でかつ、俯瞰なく見える」

 

「う、馬並みって・・・あっ?」

 

 ここで、セイは小さい頃のユンのことを思い出す。

 

 子供の頃、公園で缶蹴りとかしてるとき、ユンが鬼の時は、いつも、場所をあんまり動かずに居場所を言い当てるところがあったのを思い出す。

 

「そういえば、ユンちゃん。子供の頃、かくれんぼしたときも迷わず、私やミュウちゃん、タクくんの位置を見破ってた」

 

「あぁ~、そういえば、ユンだけは鬼させないようにしていたな。彼奴ほど、逃げられる場所がなかったのを覚えてる」

 

 セイとタクは昔のユンを思い出す。

 

「そのおかげで、俺たちは奇襲とかされなかった。逆にいえば、ユンが敵に回れば、正面から攻めるしかないということだ」

 

 ゴクッと誰かが息を呑む。

 

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 シノンサイド

 

(速いわね、動きも厄介)

 

 私とネカマ野郎(キリト)は闇風を相手にしてる。

 

 闇風はダッシュスキルをフルコンプしてる。また、歴戦のプレイヤーとしても技量も申し分ない。

 

 事実、普通は障害物を楯にして止まって、走るのがセオリー。

 

 だけど、闇風は障害物を使うも止まることなく、曲線を描くように動いてる。

 

 でも、ユンが言うには、

 

『ああいった動きをする人は急な障害には対応しづらい。そこを突けば良い』

 

 なんて言うけど

 

「そう簡単に起きないわよ!!」

 

 なんて呟いた。

 

 でも――、

 

 ゴォン!!

 

 突然、捌くにそびえ立つ塔の1つが崩れた。

 

 おそらく、流れ弾が命中したのね。

 

 だけど、崩れた位置が、私と闇風の間・・・これじゃあ、狙撃のチャンスが・・・いえ、今、絶好のチャンスになった。

 

 一瞬だけど、闇風の動きが止まった。

 

 本当にユンの言うとおりになったわね。

 

 私は闇風を仕留めるために集中する。

 

 極限にまで研ぎ澄まされた感覚が時間の流れを遅くさせる。

 

 私と闇風を結ぶ見えない弾道予測線は落ちてくる瓦礫の隙間から一直線に突き刺さる。

 

 サークルが常に小さく、捉えているのは彼の頭のみ。

 

 私は一瞬の躊躇いもなく、引き金を引く。

 

 弾丸は無数の瓦礫に触れることなく突き進み、闇風の頭を捉える。

 

 スコープ越しに闇風と眼があった。

 

 驚愕もあったが、すぐに弛緩し、口が動く。

 

「見事」

 

 弾丸は闇風の頭を上半身ごと吹き飛ばし、DEADタグが表示された。

 

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 三人称サイド

 

 スクリーン越しから視ていたミカズチら含めたOSOプレイヤーたち。

 

 彼女らはシノンの神業的な狙撃に息を呑む。

 

「す、スゲぇやないの」

 

「流れ弾で落ちた瓦礫の隙間を縫うように放たれた狙撃・・・」

 

「し、しかも・・・瓦礫に触れることなく一発で仕留めた技量」

 

「相手はおそらく、アジリティー特化型のステータス。それを僅かに止まった一瞬を付くかのような狙撃・・・」

 

「もはや、トッププレイヤーの1人」

 

「私も流石に彼処までのことはできない」

 

 ミュウらのパーティーメンバーはシノンのプレイヤー技量に感服した。

 

「ふむ。もし、彼女がOSO(オンリーセンス・オンライン)にやって来たら、遠距離だと弓だ。もしかしたら、範囲を無制限にすると、ハリネズミされちゃいそう・・・」

 

 ガタガタと震え出した。

 

 ミカズチはスナイパーであるシノンが次に狙ってる相手は、ユンの進行方向に滑らし、相手を見つけてるのを視る。

 

 彼女が仕留めようと照準を合わせる。

 

 スクリーンだからわからないが、対象にされてる相手には、ラインが見えてる。

 

 互いに引き金に力をかけ、同時に引き金を引いた。

 

 互いの弾道はほぼ一直線。

 

 そのまま接触するかのように見えた。

 

 女の子の方はスコープに直撃し、相手はライフルが破壊された。

 

「ははっ、マジか・・・スナイパーとしての腕前は彼女が上だったようだな」

 

 それには、マサギも

 

「ああ、これは、彼女を湛えるしかない。後は・・・ユン。お前が仕留めろよ」

 

 彼らはユンの勝利を願った。

 

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14話

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 ユンサイド

 

 見事だ、シノン。

 

 キミはGGO最強といっても良いぐらいのスナイパーだ。

 

 俺の眼に捉えたザザのライフルは粉々に砕け散った。

 

 彼奴の装備が黒星(ヘイシン)だけとは思えない。

 

 いつでも、ナイフで応戦できるように近づく。

 

 俺はナイフを抜こうとしたところで――

 

 ゾクッ・・・

 

 背筋に悪寒が走る。

 

 ザザが滑るような速度で砕けた銃身の一部から銀色の棒を抜き取る。

 

 いや、アレは・・・エストック!?

 

 俺は身体の力を抜いて、後方に退避する。

 

 そのおかげで、ザザからの銀閃を回避できた。

 

 俺は刃渡り30センチほどのナイフを抜き、掴み部分を回しながら、

 

「なるほど・・・持ってたんだ。『銃剣作成スキル』」

 

「ほう、やはり、知って、いたか」

 

「伊達に初期の頃から、この世界にいないし。俺も持ってるからな・・・そういうことか。あのライフルが重りになっていたのか」

 

「そうだ。女が、銃を、壊して、くれたからな。重りが、なくなった」

 

「こっちも愛銃をストレージに放り込んでる。今までは、新作の弾の威力を確かめただけだ」

 

「相、変わ、らず、用意、周到、だな」

 

「それにしても・・・どれだけ鍛えたんだよ。結構、強くなったな」

 

「お前に、屈辱を、与えられた。だから、殺す」

 

「・・・だろうな。こい」

 

「いく、ぞ!」

 

 ザザは殺意を纏って、エストックを俺へと放った。

 

 さあ、最後の戦いを始めよう。

 

 

 

 俺とザザ。互いの前身から殺気が迸ってる。

 

「シッ!!」

 

「フッ!!」

 

 2つの剣閃が幾度もなく交差し合う。

 

 その中で、ザザは疑問が生じてる。

 

 それもそうだな。近接があんまり得意分野じゃないのに、ここまで応戦できるのが不思議なんだろ。

 

「あり得ないという顔だね」

 

「どういう、ことだ・・・貴様は、近接戦闘が、苦手のはず・・・」

 

「それは合ってる。俺のナイフテクは()()()に扱える程度・・・だけど、俺以上に()()を扱えるのがいるだろ?」

 

「!!」

 

 どうやら、ザザはようやく、俺にナイフテクを教えてもらった人を思い出した。

 

「ヒガヤ、か」

 

「その通り。俺はヒガヤから短剣の扱いを教わってもらった。そのおかげで、俺のテクは()()()まで腕が上がったよ」

 

「ぐっ!?」

 

「それに、俺はお前の動きを忘れていない。対処法はいくらでもできる」

 

「おも、しろい、見せて、みろ」

 

「言われなくても・・・」

 

 俺は息を吐き、自分の身に纏う殺気が、徐々に冷たくなっていく。

 

 ただただ冷たい。絶対零度の殺気。

 

 空気を斬り刻んで表出するのは冷徹だ。

 

「ッ!?」

 

 気づいてるようだ。俺の冷徹な殺気に――。

 

「シッ!!」

 

 ザザは身体を低く沈み這うように俺に肉薄する。

 

 そのまま、エストックで俺を貫こうとしてるようだ。

 

 だけど――、

 

「なに!?」

 

 俺は、そんな攻撃を意図も容易く躱した。

 

 当然、俺はそう来るのを()()()()()

 

 この状態の俺は殺気すらも利用し、弄ぶというのを銀華から言われた。

 

『オメエのそれは、厄介なものだ。下手したら、相手に一生の屈辱を味わわされることになる・・・何故なら――』

 

 まあ、そんなのは関係ないか。

 

「さあ、ここからは俺の力を見せてあげる。お前はなにも出来ずに屈辱を味わいな」

 

 そうして、俺の一方的な蹂躙が始まった。

 

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 三人称サイド2

 

「なによ、これ・・・」

 

 ALOの一室でキリトの仲間であるアスナはポツリと呟く。

 

 それは誰にも応えられない。

 

 SAOにいた者ですら目の前のスクリーンから感じる絶対零度の殺気に身震いし息を呑む。

 

 それほどまでにユンのアレは常軌を逸していた。

 

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 銀華サイド

 

 俺は、自分の部屋にいて、固定型のパソコンのモニターから、Mストが配信してるBoBを見ているも、

 

「アァ~、これ、もう勝負付いちまったじゃねぇか」

 

 俺はモニター越しにユンを視てる。

 

 彼奴がアレを使用しちまったら、勝てる奴なんて、俺かPoHぐらいなものだ。

 

 何しろ――、

 

「殺気すらも弄び・・・()()()()()()()()()()()ら・・・誰だって、心が折れる」

 

 俺はハアと思わず、息を吐いてしまった。

 

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 シノンサイド

 

 う、嘘でしょう・・・。

 

 私はユンから保険のために貰ってたスコープを付けて、ユンと死銃(デス・ガン)の戦いを見届けてる。

 

 だけど、嘘でしょう。

 

「常に一定距離を・・・保ち続けてる」

 

 あ、あり得ない・・・どうやったら、常に同じ距離を保ち続けるの。

 

 それに、ユンから感じられる。この冷たいのはなに・・・殺気なの?

 

 そんなものじゃない。

 

 この絶対零度の冷たさ・・・なにより・・・なにかを弄んでるみたい・・・

 

 こんなの常軌を逸脱してる。

 

 ユンにこんな一面があるなんて・・・

 

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 三人称サイド

 

 OSOのギルドホームにて。

 

 スクリーンから視てるミカズチら含めたOSOプレイヤーたち。

 

 彼らはユンとボロマントのプレイヤーの戦いを視てる。

 

「ゆ、ユンくん?」

 

「アレが・・・ユンっちなの?」

 

「相手を手玉にとっている」

 

 普段の彼からは信じられない冷徹な殺気と技量に驚きを隠せずにいるマギ、リーリー、クロードの3人。

 

 それを見ているフレインは

 

「なんて野郎だ。相手の動きを手に取るように読んでいやがる。トビア・・・気が付いたか?」

 

 フレインは同じギルドメンバーのトビアに話を振る。

 

「はい、気が付きますよ。常に一定の距離を保つなんて・・・技量云々よりも力の差を見せつけられていますよ」

 

「ああ、攻撃しようものなら、相殺するか回避し、距離を取ろうとすると、タイミングをずらして、同じ距離を保つ。まさに、今、あのボロマントは、ユンの掌の上に踊らされてるということだ」

 

「相手は怒濤の刺突をしてきますけど、ユンはそれを見切り、回避してる。相手からしたら、弄ばれて、頭が熱くなるでしょうね」

 

「現に、怒濤の勢いで刺突していやがるからな。息も荒々しく吐き、攻撃の手を緩めねぇ。だけど、ユンがそれを常に一定の距離に攻撃を避け続けてる」

 

「おや?」

 

 ここで、トビアがスクリーン越しにボロマントのプレイヤーの動きが止まったのを確認する。

 

「気が付いたようだな」

 

 フレインの言葉にミカズチが

 

「そりゃ、ユンの嬢ちゃんに同じ距離を保たれたら、誰だって認めたくないぞ。今頃、あのボロマントは頭に冷水ぶっかけられてるだろうな。私ですら、そう思っちまうからな」

 

「違ぇねぇ」

 

 フレインはミカズチの言葉に同意しミカズチと一緒に笑い出す。

 

「・・・ユンちゃん」

 

 セイはユンの心配をしていた。

 

 知らない間にユンが何処か遠いところに行ってしまわないかと心配していた。

 

「・・・ユンお姉ちゃん」

 

 ミュウもミュウで、ユンのことを案じていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ユンサイド

 

 冷徹なる俺は、息絶え絶えになってるザザを見て、声をかける。

 

「どうした、息が切れてるじゃないか?」

 

 俺の技量の前に手玉を取られてるザザ。

 

 彼は気が付いたな。

 

 圧倒的なまでの技量の差に。

 

 常に一定の距離を保たれていることに。

 

「終わらせようか」

 

 俺の宣誓を聞いて、ザザは

 

「ふ、ざける、な・・・巫山戯る、なァアアア!!」

 

 怒りの咆吼を上げる。

 

 どうやら、怒りで我を忘れたようだ。

 

 怒りで洗練さが欠けてる攻撃なんて躱すに値する。

 

 だが、俺は――

 

「手加減はしない」

 

 ナイフから繰り出される無数の銀閃。

 

 その銀閃が、ザザの身体に無数の傷を付ける。

 

 それでも、突き進むザザに、俺は眼を細めた。まるで、近づいてくる獲物を待ち構える捕食者のように、悠然と砂漠に地を付けて待っていた。

 

「もう、逃がさんぞ」

 

 至近距離まで接近してきたザザがトドメを刺そうとする。

 

 嬉々として突き出されたエストックが、俺に迫るも俺は眼を細めたまま微動だにしない。

 

 何故なら、俺の首に触れる寸前――ザザの首が宙に投げだされた。

 

 胴だけとなったアバターは左斜めに倒れ込んでいった。

 

 俺は眼を閉じ、息を吐いて、冷徹な殺気を緩める。

 

 左側には死亡タグのついたザザの胴体。

 

 首は俺の足元にある。

 

 俺は首だけのザザに話しかける。

 

「聞こえてるかどうかわからないが、一応、言っておいていく。PoHに関しては銀華の獲物だ。この上ない屈辱を味わった気分はどうだい? お前は俺に負けたんだよ」

 

 俺はそれを最後にザザの首に背を向け、ナイフを納刀し、シノンいやキリトの元へ進んでいく。

 

 久しぶりにアレを使ったから、身体中が痛い。

 

 すると、前から足音がした。

 

 音の方に顔を上げるとキリトが走ってきた。

 

「ユン・・・お前・・・そんなに強かったのか?」

 

「アレは切り札。おいそれと使えるものじゃない。とにかく、疲れた」

 

「そうだな。とりあえず、勝利を喜びあ――」

 

 『――喜び合おうか』と言おうとしたんだろうけど・・・

 

「油断大敵・・・女の子の恨みは一生付きまとうものだ」

 

 俺は狙撃されたキリトに忠告を言っておいた。

 

 そして、狙撃した人物が俺のもとにやってくる。

 

「よし。これで更衣室での借りは返せたわ」

 

 怖い。

 

 女の子の着替えなんか覗きたくない。

 

 ブラウンのを1回視て、半殺しにされたから嫌でも思い出す。

 

 それよりも、今は

 

「今回ばかりは助かった、ありがとう」

 

「礼には及ばないわよ。私だって助けられたんだし」

 

 顔を紅くして、プイッとそっぽを向くシノン。

 

 可愛げあるな。

 

「さて、どうする? このままじゃあ、BoBが終わらない。シノンが俺に勝てる保障があるなら話が別だけど」

 

「大丈夫よ、ちゃんと考えてあるわ。はいこれ」

 

「ん?」

 

 シノンから渡されたのは、見覚えのあるつや消しの黒い球体。

 

 しかも、しっかりと10秒にセットして、起動してる。

 

「第1回のお土産グレネードか!?」

 

「あら、分かってるじゃない」

 

 シノンはそう言って、俺に抱きついてきた。

 

 俺の手からグレネードが離れないように。

 

 しかも、とびっきりのいい笑顔で。

 

「巫山戯るなァアアア――――――――ッ!!」

 

 俺の渾身の叫びが木霊しながら、俺とシノンは仲良く視界を白く染め上げた。

 

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 三人称サイド

 

 第3回BoB(バレット・オブ・バレッツ)優勝者――Yun&Sinon。

 

 これが表示されたとき、ミュウとセイは

 

「ユンお姉ちゃんが優勝しちゃった!!」

 

「そうね。でも・・・無事で良かった」

 

「ひゃ~、スリルある大会だったぜ」

 

「おーし、今から、ユンの嬢ちゃんの優勝祝して宴だ!!」

 

 ミカズチの宣誓にマサギたちも乗っかった。

 

 OSO(オンリーセンス・オンライン)

 

 『黒き武弓』なり『幼獣の保母さん』ユン。

 

 彼いや彼女がBoBで優勝したという情報はOSOに大々的広まった。

 

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15話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 峻サイド

 

 ピピッと被ってる機械から音が鳴り、自分の感覚が数時間ぶりに現実と感覚が再接続する。

 

 俺はゆっくりと瞼を上げ、起き上がる。

 

 部屋の中には、銀華が俺を見守ってくれてた。

 

 慎重になったけど、気が抜けたように息を吐いて、ナーヴギアを外す。

 

「ッ・・・」

 

 やっぱり、無茶したぶん、ツケが来てるな。

 

 幻肢痛が身体に走る。

 

「ッ・・・」

 

「やっぱ、無茶したな」

 

 俺に水分補給のためにペットボトルを渡してくれた。

 

「オメエのアレは身体を傷つける。あんまり、それを使わねぇことだ。それに、オメエ、アレを使ったのいつぶりだ?」

 

「1年ぶりに使ったから。身体が追いついていなかった」

 

 俺はゴクッとペットボトルの中身を飲んでると――、

 

 ガシャン!!

 

「「!!?」」

 

 いきなり、外から音が響いた。

 

「何だ?」

 

 銀華は、その音に訝しげるも、俺はある可能性に至った。

 

「シノン!」

 

 俺は立ち上がって、狭い部屋を駆け足で走り、ドアを勢いよく開ける。

 

 すると、隣の『朝田』と書かれた標識の前に2人の黒服が帽子を被った特徴のない少年を拘束していた。

 

 銀華も俺の後に付いてきて、

 

「テメェらは、菊岡さんの・・・」

 

「はい。我々は仮想課から派遣された者です」

 

 声の方向に顔を向けるとちょうど、階段を上がってきた新たな黒服にそう応えた。

 

「此奴は・・・」

 

「5時間ほど前から、このアパートの前を徘徊していたのです」

 

 BoB本戦が開始した時間帯。

 

 つまり、此奴は、その時間帯から徘徊していたのか。

 

「こんな、クソ寒ぃ時期にかよ」

 

「はい。そして、つい先ほど、この部屋に押し入ろうとしていましたので取り抑えました」

 

「ご苦労様。後で、温かいものでもやるよ。それで・・・此奴が、死銃(デス・ガン)の片割れか」

 

「・・・だな。しかし・・・」

 

 此奴は・・・何処かであった気がする。

 

「ユン・・・? そこにいるの?」

 

 この声は・・・

 

「ああ。キミは無事か、シノン?」

 

 その瞬間、

 

「お前がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「な!?」

 

「此奴・・・いきなり、喋りやがったぞ」

 

 銀華の言うとおり、いきなり、取り抑えられていた少年が叫びだした。

 

 おい、近所迷惑だろう。

 

「消えろ! 朝田さんの前から消えろぉ!」

 

「え・・・? その声、新川くん?」

 

 シノンがドアを開ける。

 

「ああ! 朝田さん! もう大丈夫だからね! すぐにこんな奴ら消してあげるから!」

 

「し、新川くん? なに・・・言ってるの?」

 

 おい、シノンが思いっきり、引いてるぞ。

 

 すかさず、銀華が

 

「此奴・・・頭痛ぇねぇか?」

 

「俺もそう思う」

 

「黙れ朝田さんにまとわりつく害虫共が! お前らは朝田さんに相応しくないんだよ! さっさとこの世界から消えろぉ!」

 

「近所迷惑だ」

 

 あまりの発言に、俺は呆れた声をあげる。

 

 少年は拘束から逃れようと身を捩らせ暴れる。

 

 その最中、帽子が落ちた。

 

 ここで、俺は少年の正体を知る。

 

「お前・・・あの時の・・・」

 

 帽子が落ち、露わになった顔は、少し前にシノンが不良まがいな女子3人に囲まれてたときに視た少年だった。

 

「お前みたいに人を脅すことでしか勝てない奴らは朝田さんに相応しくないんだ! 朝田さんは強いんだ!」

 

「相応しいとか相応しくないとか・・・キミが勝手に決めつけるなよ。それは本人が決めることだ」

 

「それに強ぇって言っても、テメェ個人が決めてることだ。彼女が強ぇのかは彼女自身が決めることだ」

 

 銀華の言葉はもっともだと思う。

 

 強いだの、弱いだのと決めるのは、自分自身で決めるしかない。

 

 だけど、この少年は、まるで、押しつけてるように見える。

 

 シノンはようやく、前を歩き出そうとしてる。

 

 それを邪魔させるのは酷な話だ。

 

 だけども、少年は恍惚の表情を浮かべ、

 

「朝田さんは日本で唯一銃で人を殺した人なんだから!」

 

「え・・・」

 

 シノンの顔色がサァッと白くなる。

 

 俺はここで、ザザが黒星(ヘイシン)を使用していたのかが分かった気がする。

 

「キミだな。死銃(デス・ガン)として、黒星(ヘイシン)を選んだのは、シノンの辛い過去を利用したってとこかな」

 

「おいおい、人の過去を貪り、利用するとか、屑とかゲスの極みだぞ」

 

 俺と銀華の言葉を聞いて、シノンは

 

「じゃあ、新川くんが、死銃の仲間なの・・・?」

 

 その言葉に新川は軽く目を見開き、さらに恍惚とした表情を浮かべる。

 

「流石、朝田さんだね。そこまで分かってたんだ。そうだよ! 僕はね! 朝田さんに憧れて、あの死銃を作ったんだ! 朝田さんの強さの象徴を自分で使うために!」

 

「あ・・・」

 

「シノン!」

 

 シノンは身体をふらつかせへたり込んでしまいそうになる。それを俺が間一髪で抱きとめる。

 

「薄汚い手で朝田さんに触れるなぁ!!」

 

「薄汚ぇのは、テメェも一緒だろ。彼女の部屋に勝手に侵入して、彼女を殺そうとしたんだぞ。テメェだって、人のこと言えねぇよ」

 

「黙れ! お前らみたいな人殺しが朝田さんに触れてんじゃねぇ! 消えろ! さっさとこの世から消えろ!」

 

 銀華の言葉を聞いておらず、叫ぶも俺や銀華は、ある部分に引っかかった。

 

「待て、何で俺や銀華が人を殺したのを知っている・・・?」

 

「そんなもの、兄さんに聞いたに決まってるだろ、殺人者!」

 

 その言葉で、俺はカチリとパズルのピースが嵌まる。

 

「そうか。お前、ザザの弟か!」

 

 その言葉に銀華は目を見開き、新川は嘲笑を浮かべる。

 

「ああ、そうだよ! だから、僕は知ってるぞ。お前らが、あの世界で殺し合って、生かされた屈辱を与えたと! 最低な屑野郎だな!」

 

「ザザの方が自分の快楽のために人を殺しまくった。最低な人だぞ」

 

「それがどうした! 問題なのはな、お前がそんな薄汚い手で朝田さんに触れていることなんだよ!」

 

「ならば・・・テメェは触れていいってのか?」

 

 銀華の切り返しに

 

「当然だろ! 朝田さんに触れて良いのは僕だけなんだ! 朝田さんは僕のものなんだ!」

 

 その言葉で、俺の頭はカチンときた。

 

「ふざ「巫山戯ないで!!」けん・・・な?」

 

 突然、俺の腕の中から大声が聞こえた。

 

 さっきまで顔が青白かったシノンが顔を怒りの表情に染め、新川を睨んでいた。

 

「ユン、柊さんのことをなにも知らないで語るな!」

 

「朝田・・・さん?」

 

「私は知ってる! ユンがどれだけ苦しんでるのかも! それを受け入れて、前に進んでいることも!」

 

「朝田さん・・・なに、言ってるの?」

 

「私はユンに教えられた! 罪悪感が拭えないことを、強さの意味も!」

 

「ッ!!」

 

 ここで、銀華が俺の方に視てくる。

 

 俺は話したという意味を込めて頷いた。

 

「それに、私は新川くんの物じゃない!」

 

「は? え?」

 

「私は私のもの、そして、」

 

 そこで、シノンは一度、区切りを入れて、ありったけの想いを込めた。

 

「私はユン、朝霧峻のものよ!」

 

 ああ・・・うん。凄く嬉しいんだけど・・・

 

「おぉ~・・・お幸せにぃ~」パチパチ

 

「銀華。彼奴らに言いふらすなよ!」

 

 銀華の拍手にシノンこと朝田詩乃さんは顔を真っ赤にしてる。

 

「朝田・・・さん?」

 

「ッ~~~!! とにかく! 私は新川くんのものじゃない! というよりも人をもの扱いにしないで!」

 

 あと、新川はなにが起きてるのか分かっていないようで、呆けた顔をしていた。

 

「え? あ? は、あ、あはは」

 

 そして、ついに

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・嘘だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 現実を認識できない叫びを上げて、彼は気を失った。

 

「全く、人騒がせな人だ」

 

「同感、近所迷惑だろが・・・」

 

 こうして、死銃(デス・ガン)事件は終わりを迎えた。

 

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16話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 事件から2日ほど経過した。

 

 峻は今、友人と一緒に詩乃が通ってる高校に向かってる。

 

 しかも、リムジンで――。

 

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 峻サイド

 

 本当に、亜麻さんには感謝する。

 

 だけど――、

 

「だけど、迎えにリムジンで迎えるのは、どうかしてると思うんだが・・・」

 

「良いじゃない。峻くんが彼女が出来たんじゃん。どんな娘か視てみたいのよ」

 

「それって、ただ・・・興味があるとか、弄りたいとかの理由ですか?」

 

「・・・・・・ち、違うわよ」

 

「なんですか? 今の間は? あと、うまく応えていません!」

 

 俺はブラウンこと亜麻いや柳桐亜麻に怒鳴る。

 

 一応、リムジンは高校から離れたところに止めてある。

 

 迎えの際、連絡が来るように頼んであるも、時間的に下校してもおかしくない。

 

「・・・絡まれたりして」

 

 得体の知れない呟き、俺は窓の外を眺めていた。

 

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 詩乃サイド

 

 ここに呼び出されるのは、もう何回目になるだろう。

 

 私は、あの3人組に呼ばれ、学校の中でも特に人気のないところに来ていた。

 

「よぉ、朝田ぁ」

 

 待つこと10分。ようやく、遠藤たちが来た。

 

 本当なら帰っても良かったけど、私はここでケジメを付けようと思ってた。

 

「この後、カラオケに行くんだけどさぁ、ちょおっと足りないんだわ。とりあえず、こんだけくんない?」

 

 そう言って、遠藤は2本指を立てる。

 

 遠藤たちがお金をせがむときの基本単位は万。つまり、2万円。ちょっとで済む金額じゃない。

 

 いつもなら、そんなお金はないと言って、現金全部を持っていかれるのが常だった。

 

 でも、今日は違う。私はせめてものの精神的防壁としてつけていた弾丸にも耐えられる素材で出来た伊達眼鏡を外し、遠藤たちにありったけの想いを込めて言い放った。

 

「あんたたちに、渡すお金なんか、1円たりともない!」

 

 キッパリと言い切った。すると、遠藤は顔を歪め憎々しげに言う。

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ朝田ぁ」

 

 一転して嘲笑を浮かべた。

 

「そんな朝田にプレゼントで~す。今日は兄貴からアレを借りてきました~」

 

 遠藤はジャラジャラとストラップが付いた鞄を漁り1つの銃を取りだした。

 

 アレは、1911ガバメント。米国産の拳銃。もちろん、モデルガンだけどね。でも、私にとって視れば、恐怖の象徴ともいえる。

 

「ほらほら、どうしたんだよ。朝田の大好きな銃だぜぇ? 感動のあまり、ゲロるなよ!」

 

 品のない笑いをするものね。そんな笑い声も今の私には血流の音で遠く聞こえる。

 

「ゆっくり見ていけよ。今回は邪魔する奴らはいないんだからよぉ」

 

 確かに、峻はいない。私は1人。1人。ひとり・・・

 

「ついでに味わって行けよ。お前が撃った銃をよぉ」

 

 ゆっくりと銃口を私の方に向けてくる。動悸が早くなる。目を瞑り耳を塞ぎたくなる。逃げ出したい。でも――

 

『バカか、今も十分に戦ってるだろ』

 

 あの時、ユンに言われたことが頭に過ぎる。

 

(そうよ、戦ってるんだ。だったら、逃げたらダメ!)

 

 自分に叱咤し、遠藤たちのにやけた顔を睨み続ける。

 

 指が引き金にかかり、そして・・・

 

 カチッ

 

「あ?」

 

 カチッカチッ

 

「は!? 何で出ないんだよ!」

 

 私はフゥ~ッと息を吐く。分かっていたとしても、緊張するものは緊張する。

 

 遠藤はなお、苛立たしげに引き金を引こうとする。

 

 私は歩み寄り、手を押さえ銃を奪い取る。

 

「1911ガバメントか、お兄さん渋い趣味をしてるわね」

 

 遠藤たちはあまりの事態に呆気にとられる。

 

 今まで、酷い拒絶反応を起こしていた私が平然と銃を握っているのだから当然か。

 

「さてと、これでいいかな?」

 

 私は捨ててあった空き缶を胸辺りまである壁の出っ張りに置いた。

 

「この銃はね。こことここのセーフティーを解除しなきゃ撃てないのよ」

 

 カチリ、カチリとセーフティーを解除して、照準を空き缶に合わせる。

 

 初弾は勘でいくしかない。この銃の癖がわからないから。

 

 でも、その想いとは裏腹に私の身体は銃の使い方が刷り込まれているようだった。

 

 バスッ、カンッ!

 

 見事に命中したわね。私すらも驚いちゃう。

 

 でも、おくびに出さずに私は飄々と言い放つ。

 

「・・・あら、運が良いわね」

 

「な、な・・・」

 

 彼女たちは口をバカみたいに開けて呆然とする。私は振り返り彼女の許へ歩き出す。

 

「ひっ・・・」

 

 少し傷つくけど、いい気味ね。彼女の前でセーフティーを戻し、グリップの方を渡す。

 

「堪能させてもらったわ。いい銃ね。でも、人に向けるには危ないわ」

 

 私は鞄を拾い上げ、彼女たちの間をすり抜ける。立ち去る直前、私は振り返って

 

「じゃあね、さよなら」

 

 と言った。

 

 

 

「ッハァ!」

 

 詰まってた息が呼吸を思い出す。

 

 まだ耳元には、血流の激しく流れる音が聞こえてくる。でも――、

 

「乗り越えられた・・・」

 

 ようやく、一歩前に進めた。

 

 小さな一歩かもしれないけど、私にとってみれば、大きな一歩。

 

 そして、峻や柊さんたちに近づけた気がした。

 

 軽くなった気持ちを押さえぬまま、また一歩踏み出した。

 

 

 

 踏み出したら、私はスマホに登録した峻の電話番号にかける。

 

 迎えに来ると聞いてた。

 

 でも、迎えに来る際、電話してと言ってた。

 

 どうしてかしら?

 

 待ち合わせとしては良いわね。

 

 そしたら、峻が電話に応じてくれた。

 

「もしもし・・・」

 

『あっ、詩乃か。今から、下校するところか?』

 

「ええ、それで、何処に待ち合わせれば・・・」

 

『それだったら・・・おい! お前ら、邪魔するな!』

 

 どうやら、峻の周りにはお友達でもいるのかしら?

 

『すまない。__というところで待っているから歩いて、そこまで来てくれないか』

 

「わかったわ」

 

 私は電話を切って、そのまま、待ち合わせの場所に目指して歩き出した。

 

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 銀華サイド

 

 全く・・・此奴らは・・・

 

 俺は今、深く溜息をしてる。

 

 それは、幼馴染みの峻をリアルの『八帝武将』メンバーが弄ってるからだ。

 

 ストッパーでもあるブラウンこと亜麻も弄る側に回ってるので、ストッパーがいない。

 

 峻が「詩乃が学校をあとにした」と聞いたので待つことにするも、此奴らはいつまで、弄るつもりだ?

 

 なんか、リア充ってのは良い物だね。

 

 俺は少しだけ、ふてぐれてしまう。

 

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 詩乃サイド

 

 私は今、自分の目を疑ってる。

 

 峻からの待ち合わせ場所に来たのだけど――。

 

 そこには、場違いのリムジンがあったから。

 

 どうみても、待ち合わせ場所は間違っていない。

 

 それで、峻はどこにいるのかしら?

 

 私はキョロキョロと辺りを見渡してたけど、何処にも、峻がいなかった。

 

 私は先に来ちゃったのかしらって思っちゃった。

 

 だけど――、

 

 ガチャッ

 

 リムジンのドアが急に開き、そこから出てきたのは――、

 

「来たか、詩乃」

 

 峻だった。

 

「え?」

 

 これには、私も驚きを隠せない。

 

 どうして、峻がリムジンから出てきたの? もしかして、良家だったのかしら?

 

「おーい、詩乃? ボゥ~ッと突っ立ってないでくれ」

 

「ハッ!? ごめん。でも、どうして、峻がリムジンから!?」

 

「あぁ~、それは・・・」

 

 峻は説明しようとしたところで、

 

「おーい、峻。その話は中で話そうぜ。さっさと目的地に向かおう」

 

 中から柊さんが顔を見せてくる。

 

「そうだな。じゃあ、詩乃・・・入ってくれ」

 

「え、ええ・・・」

 

 私は峻のお招きに応じて、リムジンの中に入る。

 

 中に入れば、柊さんの他に、6人の男女がいた。

 

 私はふかふかの椅子に座り、その隣に峻が座ってくれた。

 

 ちょっと、それは嬉しかった。

 

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17話

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 三人称サイド

 

 峻と詩乃がリムジンに乗り込み、運転手が運転して、銀座に向かうことになった。

 

 

 

 銀座に向かうまでの間、自己紹介することにした。

 

「じゃあ、まずはお互いにしようじゃねぇか」

 

 銀華が筆頭に声をあげる。

 

「まず、俺だな。改めて、俺は柊銀華。日英露のクォーター。銀髪碧眼なのは、曾祖父母がイギリス人とロシア人なんだ」

 

 銀華の名前紹介をしたら、

 

「次は、俺だ。俺は比津賀谷東四郎。俺はまだ中坊だ。よろしく」

 

「俺は司馬蒼汰。峻とはゲーム繋がりで知り合ったものだ。よろしくな」

 

「自分は九重雅樹。この中じゃあ、年上に入る。何かあったら、自分か暁斗、宗治に頼んでくれ。まあ、女の子だったら、亜麻がいいかな。とりあえず、よろしく」

 

「雅樹が名前だけ紹介されたけど、俺は響暁斗。雅樹と同じように年上だから困ったときは頼みを聞くよ」

 

「俺は紅河宗治。まだ大学生だけど、勉強に関しては俺に聞いてくれ。ある程度は教えてやるよ」

 

「じゃあ、私ね。私は柳桐亜麻。名字からわかると思うけど、柳桐家の孫娘よ。困ったときは私に頼んで、私が匿ってあげるから」

 

「じゃあ、最後に、俺は朝霧峻。皆とはSAOでの繋がり。何故か、俺は皆から愛されてる。今はOSO(オンリーセンス・オンライン)というVRMMOでプレイしてるんだ」

 

 銀華たちの自己紹介を終えたら、今度は詩乃が自己紹介する。

 

「私は朝田詩乃と・・・いいます。一応、峻とはGGO繋がりで知り合いました・・・あと、峻とはつ、付き合っています///」

 

「詩乃・・・もうそれは、とっくにバレてる」

 

「え!?」(゜Д゜)

 

 詩乃は峻に指摘され、呆然とする。

 

 ちなみに峻が言ってることは正解と言うかのように頷く銀華たち。

 

 知られてしまったことに詩乃は顔を赤面して、峻の胸の中に顔を隠すのだった。

 

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 峻サイド

 

 俺たちはリムジンで銀座まで来たら、俺と詩乃だけは降りて、銀華たちはビルの駐車場で待機することになった。

 

 以前、銀華と和人が呼び出された喫茶店に来てる。

 

 あんまり来たくない。

 

 場違い感があると思ってしまうからだ。

 

 だが、事件の顛末を知る必要もあるので、仕方なくという感じだ。

 

「行こうか、詩乃」

 

「ええ、エスコートよろしくね」

 

「お任せを、詩乃お嬢様」

 

 といった感じで俺と詩乃はビルに入っていった。

 

 

 

 店内に入った後、俺と詩乃は既に来ていた菊岡という人と和人と合流し、適当に注文を取った。

 

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 三人称サイド

 

「はじめまして、僕は総務省総合通信基盤局の菊岡といいます」

 

 名刺を手渡した。

 

「は、はじめまして・・・朝田詩乃です」

 

 おずおずと名刺を受け取りながら、会釈する詩乃。

 

 そして、菊岡は大きく頭を下げた。

 

「この度は、此方の不手際で朝田さんと朝霧くんの命を危険に晒してしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

「い、いえ・・・ちゃんと助けていただきましたし・・・」

 

 詩乃は慌てて、頭を下げるも、峻は

 

「それよりも、事の顛末を話してくれ」

 

「ああ、もちろんだよ。でも、その前に・・・」

 

 ちょうど、そこに頼んだ品が運ばれてきて、デザートを味わうことにした。

 

 その後、菊岡は鞄の中から極薄のタブレットを取りだした。

 

「まず、死銃(デス・ガン)本人である新川昌一のことだけど、彼は幼少期から身体が弱かったそうだ。中学を卒業する頃までは入退院を繰り返してたらしい。その所為で、父親は早々に見限り、弟の新川恭二を跡継ぎしようとしたそうだ。自らも勉強を教えて一方で昌一のことは顧みなかった。期待されないことに追い詰められた兄と期待されることに追い詰められた弟ではないかと聴取における父親の弁だ」

 

 ここで、菊岡はコーヒーで口を湿らせた。

 

「それでも、兄弟仲は悪くなかったそうだ。昌一は高校を中退してから精神の慰撫をMMORPGに求め、それは、弟の恭二にも伝播した。やがて、兄はSAOの虜囚となり、その間、父親の病院で昏睡していたが・・・生還してからは、彼をある種の英雄になったそうだ。それは――」

 

「――自分が、ザザとして、どれだけのあの世界に恐怖させたのかでも語ったんだろう?」

 

「まさしくね」

 

「・・・何処まで行ってもそこ止まりだな」

 

「だが、それは、虐められていた恭二にとって、嫌悪ではなく、開放感や爽快感になっていたそうだ」

 

「あの・・・」

 

 ここで、詩乃が口を挟んだ。

 

「それは、新川くん・・・いえ、恭二くんが話したんですか?」

 

「いや、これは全て、兄の供述に基づくものです。昌一は取り調べに聴かれたことは全て素直に話してるらしい。反対に、弟の恭二は黙秘を貫いている」

 

「・・・そうですか」

 

 峻はこの時、こう思った。

 

(おそらく、あの時、詩乃に完全否定されて、魂という行き場をなくしたのだろうな)

 

 

 

 その後、これまで、どのような情報を手に入れたのか、どんな風に家宅に侵入できたのかを聞いた。

 

 そこで、和人が

 

「VRMMOの闇かもしれないな。現実が薄くなっていく」

 

 呟いた。

 

 これに、峻は同感するも、彼はある見解に至っていた。

 

 和人の意見に菊岡は

 

「ふむ・・・キミは・・・キミの現実はどうなのかな?」

 

 切り返しに

 

「・・・あの世界に置いてきたものは確かに存在する。だから、その分、今の俺の質量は減少してる・・・と思う」

 

「そうか・・・」

 

 和人の言葉が終わると、今度は峻に視線を向ける。

 

 どうやら、先ほどの問いは峻に向けられたものだった。

 

「確かに、和人の意見は同意しますが、俺としては、現実と仮想も1つの世界に思えるんです。1つの世界で文明を築き上げるのも、考え方も、その世界に住む人の()は、どんな世界でも同格だと思っています」

 

 彼の応えに菊岡は

 

「・・・なるほど。キミは仮に仮想世界の住民が、我々と同じように行動して、文明を築き上げたとしても、そこにとって、そこは自分の世界だと言えるのかい?」

 

「・・・少なくとも、俺はそう思います。人の魂すら弄ぶ最低な人だったら、分かりませんが・・・」

 

 ここで、峻は銀華が、菊岡に協力する真の意図に気が付いた。

 

(・・・この男・・・まさか、アレを完成させる気か? 銀華が完成させ、()()()()()()・・・あの研究を・・・)

 

 そして、菊岡は詩乃へと視線を移した。

 

「私は・・・この世界が唯一の現実です。もし、ここが、仮想世界で作られた文明だとしても、私にとっては・・・現実です」

 

 菊岡は詩乃の言葉を黙って聞き、和人は少しの間、目を見開いたまま固まったが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「今のシノンの言葉、この事件に於いて、唯一の価値ある真理かもしれないぜ。ちゃんとメモったか?」

 

「ちょっと、からかわないで!」

 

(そうか。詩乃はしっかりと応えを持ったんだな。その応えをもっと早く聞けば、銀華がアレを自ら封印することもなかったのに・・・)

 

 峻は詩乃の応えを先に聞けなくても悄げるのだった。

 

「いや、全くその通りだね。記憶に刻んでおくよ・・・話が逸れたね。そもそも、死銃計画というのは、RMT(リアルマネー取引)で透明化できるマントを手に入れたことが原点だったそうだ」

 

「それを使って、情報収集していたのか。ほぼストーカーだな」

 

「うん。そうだね。そして、ある日、弟の恭二が、自分のキャラクター育成に行き詰まってることを打ち明け、ゼクシードの広めた偽理論に引っかかったらしい」

 

「ザザは、ゼクシードの粛正のために弟にリアル情報を教えた」

 

 峻はなんとなくの推測を口にして、菊岡はそれに頷き、話を続ける。

 

「その後も、2人は綿密に議論を重ね、最終的には、使用する薬品と道具を揃え、犯行に及んだそうだ」

 

 犠牲者として、ゼクシードと薄塩たらこの時は、噂や都市伝説扱いにされてしまい、業を煮やして、新たな犠牲者として、ペイルライダー、ギャレットそしてシノンを狙ったそうだ。

 

 ここで、和人が

 

「だが、複数を殺すのに大きな障害があった」

 

「そうだ。死銃(デス・ガン)の動きに合わせて、現実側も移動しなければならない」

 

「そこで、3人目の協力者。金本なる人物が加わったというわけか・・・」

 

「金本は昌一の古き友人いやSAO時代のギルドメンバーだったそうだ。プレイヤーネームはジョニー・ブラック。聞き覚えは?」

 

 菊岡の問いに峻が応える。

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)で、ザザとコンビを組んでた毒ナイフ使いで、スカイが叩き潰した人だ」

 

「金本は、自宅に近いペイルライダーとギャレットを実行することになった」

 

「それで、全員捕まったのか?」

 

「え、いや・・・」

 

「おい・・・金本は捕まっていないのか」

 

「いや~、申し訳ない!」

 

「謝って済む問題じゃない」

 

「本当にごめんなさい」

 

 菊岡が頭を深く下げる。

 

「だが、今は、現在、逃走中の金本は全国指名手配にしている。捕まるのは時間の問題だよ」

 

「・・・だといいがな」

 

「あの・・・」

 

 ここで、詩乃が質問する。

 

「新川くん・・・恭二くんは、これから、どうなるんですか?」

 

「う~ん・・・」

 

 菊岡は短く捻る。

 

「彼は16歳なので、少年法による審判を受けることになるんだが・・・亡くなった人数が人数だからね。家裁から検察に逆送されることになると思う。精神鑑定も行われ、結果次第では、医療少年院へ収容されることになるだろう。なんせ、2人とも、現実というものを持っていないというわけだから」

 

「いえ、そうじゃないと思います」

 

 詩乃は菊岡の意見を否定する。菊岡は視線で先を促した。

 

「お兄さんは分かりませんけど・・・恭二くんは・・・GGO(ガンゲイル・オンライン)だけが現実だったんだと思います。この世界を捨てて、あの世界を真の現実だと、決めたんだと思います」

 

「厳しいようだが、それはただの逃避では?」

 

「世間一般からすればそうだと思います。でも、ネットゲームというのは、エネルギーを注ぎ込みすぎれば、娯楽から、その、最強を目指して、凄いストレスの温床に変わると思っています」

 

「ゲームで・・・ストレス? それは、本末転倒というものじゃ・・・」

 

「はい、恭二くんは文字通り転倒させたんです。2つの世界を・・・」

 

「それは・・・」

 

 ここで、峻がすかさず、

 

「強くなりたいからだろうな」

 

 告げ口をした。詩乃は峻の言葉にゆっくりと頷く。

 

「そうね・・・プレイヤーは皆、そうなのかもしれない・・・ただ強くなりたい」

 

 詩乃は顔を上げ、菊岡を正面から見る。

 

「あの、恭二くんには、いつから面会できるようになるんでしょうか?」

 

「えぇ~ッと、送検後もしばらくは拘置所にいるから・・・鑑別所に移されてからになりますね」

 

「そうですか――私、彼に会いに行きます。会って、私が今までなにを考えていたか・・・今、なにを考えているのか、話したい」

 

 菊岡は、珍しく、本心からの微笑を浮かべた。

 

「貴方は強い人だ。ええ、是非、そうしてください。詳細は後ほど、メールで送ります」

 

 そう言って、チラリと時計を覗き、

 

「申し訳ないが、そろそろ行かなくては。閑職とはいえ雑務に追われていてね」

 

「手間をかけて悪かったな」

 

「あの、ありがとうございます」

 

「それと、峻くん。キミからギンくんに伝えといてほしい。プロジェクトの詳細は後日、メールで送ると・・・」

 

「分かった。銀華に伝えておく。くれぐれも銀華の足を引っ張るなよ」

 

「もちろん、そのつもりだ」

 

 菊岡は立ち上がり、伝票を取ろうとして、動きを止めた。

 

「ああ、そうだ。峻くん。実はキミに『赤眼のザザ』こと新川昌一から伝言があるんだが、聞くかい」

 

 和人と詩乃の視線が峻に集まる中、峻は

 

「・・・聞かせて」

 

「ありがとう・・・『お前からくれた屈辱は忘れない。この屈辱は、いつか、倍にして返す。イッツ、ショウ、タイム』・・・以上だ」

 

 菊岡はそう言って、支払いを済ませて、あとにした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 峻サイド

 

 なんか、疲れたな。

 

 身体を動かしたわけでもないのに・・・

 

 それにしても、銀華が菊岡に協力するプロジェクト。

 

 おそらく・・・()()だろうな。

 

 彼奴自ら封印した。あの研究を――。

 

「なあ、シノンたちはこれから時間があるか?」

 

 和人が唐突にそんなことを聞いてきた。

 

「別にないけど・・・」

 

 詩乃は露骨に警戒したような様子で応えた。

 

 まあ、詩乃はあんなことがあったばかりだし・・・警戒するのはわかる。

 

「ちょっと、紹介したい人がいてな・・・ユンはどうだ?」

 

「せっかくのところだけど、俺には、銀華たちが待ってるんだ。彼奴らと帰るよ」

 

 少しだけ、銀華に聞きたいことが出来たしな。

 

「そっか・・・じゃあまたな」

 

「まあ、次に会える機会があればの話だけど・・・」

 

 俺はそう言って、ビルの地下駐車場へと向かって、リムジンに乗って、そのまま、帰路した。

 

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OSO 1話(プロローグ)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 峻サイド

 

 死銃事件から、もう1週間が経過した。

 

 俺、朝霧峻は一時だが、平和な時間が訪れるはずだった。

 

「えぇ~ッと、これはこうするの()()ちゃん」

 

「は、はい」

 

 そう。

 

 今、俺と静姉ぇが住んでいるマンションの一室にもう1人。

 

 住まうことになった人物がいる。

 

 それは、詩乃だ。

 

 彼女はジョニーに襲われる可能性を考慮して、菊岡に頼み込んだらしい。俺と静姉ぇが住んでいるマンションの住所をどうやって、知った。

 

 いや、聞かないでおこう。

 

 聞いてはいけない気がする。

 

 あと、この1週間で変化がもう1つだけある。

 

 それは、銀華が俺と静姉ぇが借りてる一室の隣の一室で暮らすことになった。

 

 理由は俺の負担を軽減するためらしい。

 

 全く、俺の負担を軽減するんだったら、自分で家事ぐらいしろよ。

 

 彼奴はそれができるのにしていないのだ。

 

 

 

 ついでに言えば、静姉ぇに俺が詩乃と付き合ってるのを話した。

 

 静姉ぇもなんか、嬉しそうに俺に抱きついてきた。

 

 何でも、昔の俺に戻ってくれたとのことらしい。

 

 俺って・・・そこまで、笑っていなかったのか?

 

 こればっかりは俺には分からないものだ。

 

 

 

 それと、詩乃は俺の静姉ぇに挨拶をした後、交互に俺と静姉ぇを視て、

 

『あんた。本当に姉弟なの? 姉妹じゃないの・・・』

 

 その時、心に致命傷を負った。

 

 知り合いからは、そう言われても、付き合ってる彼女から言われると心にくるものだなというのを覚えた。

 

 

 

 そして、今はというと――。

 

 大きな食卓を3人で囲む。食卓には詩乃が作ったありがたい朝食が並んでいる。

 

 朝食だけは、詩乃が作ることになってる。

 

 何故なら、俺の女子力の高さに圧倒され、屈辱的な敗北を味わって、負けじと女子力を向上することにしたらしい。

 

「「いただきます」」

 

「どうぞ」

 

 口に運びよく咀嚼し、味わう。

 

 なお、俺の女子力の高さは和人を通じて、仲良くなった明日奈にも伝わったらしい。

 

 らしいが多いのは、確かな情報じゃないからだ。

 

 食費に関しては、俺が管理してるので、安心してくれ。

 

「・・・どう?」

 

「うぅ~ん。本当に上達した。これなら、峻くんのお嫁さんでもいける」

 

「堂々と言わないでくれ、静姉ぇ」

 

 変化といえば、俺の日常だけではなく、詩乃にも変化があった。

 

 今まで、1人で過去と向き合っていたから。人に甘えることが苦手らしい。

 

 だからなのかな・・・

 

 吹っ切れたのか、俺と一緒にいるときだけ、遠慮がない気がする。

 

 しかも、微笑みつきでだ。

 

 これには、心臓が悪い。

 

 ここで言い返そうにも、静姉ぇがOSOで言いふらしそうだから。

 

 言わないでおくことにした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 静サイド

 

 うぅ~ん。

 

 峻くんが彼女を持ったなんてビックリしちゃった。

 

 初めて会ったときは、クールでボーイッシュな女の子に思えたけど、峻くんと2人きりの時だけ、とことん甘えてるのを視て、峻くんだけにデレるのね。

 

 お姉ちゃんとしては高いポイントよ。

 

 

 

 今、現在はというと。

 

「OSO?」

 

「詩乃ちゃんもやってみない?」

 

 朝食を食べさせてくれたから。私が洗濯物をしていた。

 

 その中で、ふと、ミカズチが誘ってみたらと言うのを思いだして、話を振ってみた。

 

「う~ん、それ、亜麻にも誘われたのよね」

 

「亜麻ちゃんが誘われていたんだ」

 

「ええ。でも、こう・・・」

 

「今、やってるGGO(ガンゲイル・オンライン)に比べたらって感じ?」

 

「正直に言っちゃえばね」

 

 それもそうね。峻くんの話だと、ゲーム内のお金をリアルのお金として還元できるのが、GGOの特徴。

 

 それを生活費にしてるってプレイヤーもいるぐらい。

 

 詩乃ちゃんはそこに身を投じてきたから、他のゲームの誘いとなるとちょっと、身を引いてしまうのも分かるわね。

 

 でも・・・

 

「詩乃ちゃんに()()()()を教えてあげます」

 

「良いこと?」

 

「ええ。確かに、OSOは自分だけの強さを目指すためにあるけど、私や峻くんのようなトッププレイヤーも沢山いる」

 

「峻や静さんもOSOのプレイヤーなんですか?」

 

「そう。でも、GGOの銃とは違って、魔法とか弓とかがあるわ。戦略的に視れば、GGOよりも遙かに多彩ね」

 

 思うんだけど、詩乃ちゃんって、雰囲気的にネコだけど、山猫に近いと思うのよね。

 

 すっかり、眼がバトルジャンキーになってるし。

 

「それに・・・」

 

 私はいったん、洗い物の手を止めて、詩乃ちゃんを視る。

 

 彼女は可愛らしく此方を見てる。可愛いわね。

 

「実は、峻くん。OSOでは、トップクラスに近い生産職でお店を持ってるの。こっちだと、なにかと問題があるから厳しいけど、あっちだと、峻くんと一緒に同居が可能よ」

 

「やるわ」

 

 あら、即答ね。

 

「良かった」

 

「え? 私応えてたの?」

 

 無意識なのね。

 

「とりあえず、やるってことで決まりね」

 

「ええ、でも、私、どんなゲームか知らないので、そこは、お姉さんに任せなさい。でも、詩乃ちゃんは得意な武器だと弓だけど、そこに関しては峻くんに聞いてね。峻くんはあっちでは弓を扱ってるから」

 

「ハァ~」

 

 私は洗い物を片付けて、机の上にあるパソコンを起動させる。

 

 最近のパソコンって立ち上がりが早いから助かるわ。

 

「サイト?」

 

「公式サイトよ。1回、それを見ていて」

 

 私は詩乃ちゃんを椅子に座らせて使ってもらう。

 

「へぇ~、結構、個性的なプレイヤーがいますね。静さんはどんなプレイヤーなんですか」

 

「私は、純魔法職よ。峻くんは多彩で弓を扱える生産職。あと、もう1人妹がいるんだけど、その娘は聖騎士(パラディン)を目指してるそうよ」

 

「もしかして、3姉妹なんですか?」

 

「小さい頃はそう呼ばれていたわ」

 

「そうなんですか。あれ? ここに、イベントが間近って書かれてありますけど・・・」

 

「もうすぐ、冬の大規模イベントを控えてるのだけど、その前に大型アップデートがあるの。今は、アップデート中よ」

 

「へぇ~、この『センス』というのが他のゲームで言うスキルなんでしょうか?」

 

「そう! OSOプレイヤー全員は『センス』の構成によって、自分だけの強さを目指してるの! その点でいえば、峻くんや銀華くんは、一種の極みに至ってるわね」

 

「峻に柊さんが?」

 

「銀華くんは幼馴染みで、OSOをプレイしてるけど、今じゃあ、初心者プレイヤーに教え回ってるの」

 

「自分が培った技術を教えてるのかしら?」

 

「ええ、峻くんも生産以外だと弟子を教えてるそうよ」

 

「彼奴って・・・意外と人気者なのね」

 

 詩乃ちゃんは、今、ここにいない峻くんのことを呟いてた。

 

 そこに・・・

 

「ただいま」

 

 ちょうど、タイミング良く峻くんが帰ってきた。

 

「お帰りなさい・・・あんた。その紙袋はなによ?」

 

 本当。峻くんの手には、紙袋を持ってる。

 

「ああ、この中身は、OSOのソフトと訳の分からないものが入ってる」

 

「なにが入ってるのよ」

 

 そうよね。気になる。

 

「まあ、これは、亜麻たちからの優勝したときの祝い品みたいなものだから。後で確認するよ」

 

「そうだったの」

 

 私は少しだけほっとした。

 

「それと、峻くん。詩乃ちゃん、OSO(オンリーセンス・オンライン)をやるみたいよ」

 

「そっか・・・となると、装備などの素材集めをしないといけないな」

 

「・・・止めないのね」

 

「止める気はない。やりたい理由なんて俺絡みなのは分かってるから」

 

 分かってたのね。

 

「だけど・・・今、アップデート中だから。ログインできるのは、今日の夕方だ。それまでの間にキャラクターを作成しておかないと・・・」

 

「そこは、私がやってあげるから大丈夫よ」

 

 付き合ってるけど、節度を守ってほしい。

 

「じゃあ、お願いするよ、静姉ぇ」

 

「任せて」

 

 そんな感じで、私は詩乃ちゃんのアカウント作成を手伝ってあげた。

 

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2話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 詩乃サイド

 

 私は夕方にアップデートがOSO(オンリーセンス・オンライン)の準備することにした。

 

 ゲームをインストールしたら、アミュスフィアに接続して、そのまま、ベッドで横になって、そのまま、設定に回した。

 

 時間的に2時間は経ってた。

 

 お昼は峻が用意してくれるので、キャラエディットをカメラで撮影し、少しだけ弄ってから、お昼にした。

 

 キャラエディットに関して言うと、非常に時間がかかるものらしい。

 

 でも、そうでもしないと大変なことが起きるらしいと峻から聞いたけど、それがどういう意味なのか。

 

 私はログインしたときに気が付くのだった。

 

 

 

 その後、お昼をしながら、OSOについての講義を受けてた。

 

「それで、詩乃ちゃんはセンスをどう構成するつもり?」

 

「詳しいことがわからないので、教えてくれませんか」

 

「そうね。峻くん、教えようか」

 

「そうだな」

 

 一通り、食べ終えた峻は私に講義してくれた。

 

「静姉ぇから聞いてるかもしれないが・・・センスっていうのが、才能だ。その才能を持っているとそれに関する行動に補正が掛かったり、それに関する行動が可能になる。たとえば、剣センス持ちが剣を持てば、補正が掛かったり、『スキル』や『アーツ』などの必殺技を使えたりする」

 

「つまり、職業制じゃないのね」

 

「そうだ。だから、自由に持ち帰られる。センスを使っていれば、成長して、効果が増強したり、派生センスに進化したりすることができる。ただ、一度に持てるセンスは最大10個まで。大体のセンス構成だと、単一武器なら、武器センス1つに、防具センス1つに、ステータスセンスが2つか3つだな。残りは補助要員の魔法センスとかを取ってる人もいるし。凄い人だと、武器センスだけという人もいる」

 

「峻は生産職だって、静さんから聞いたけど・・・」

 

「確かに、俺はSAOのアバターをそのまま、OSOで使用してるからセンスに関してはそのまま引き継いでる。普段は戦闘用と生産用にセンスは分けてるつもりだ」

 

「峻くんと一緒にパーティーを組むときは、後方から弓矢でしっかりと支援してくれるのよ」

 

「そのほとんどは、一撃で仕留めてしまうけどな」

 

「・・・SAO帰還者(サバイバー)って比較的にハイレベルなのね」

 

「詩乃。それは、一部のプレイヤーだけだ。俺や銀華みたいな人がそうそういない」

 

「まあ、センスについて、分からないことがあったら、私や峻くんに聞いてね」

 

「はい」

 

 センスか・・・どう組み合わせるかで、強くなれるのかが問題ね。

 

 とりあえず、攻略サイトとかに載ってるかもしれないから。それを見てから峻と静さんに聞いてみよ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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 峻サイド

 

 18時にアップデートが終わる。

 

 18時になったら、速攻でログインして、店の在庫を調べて、ポーション作成に入らないといけないな。

 

 いや、その前にシノンを出迎えに行かないといけない。

 

 ここからは前途多難だな。

 

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 ユンサイド

 

 18時になって、早速、ログインした。

 

 ログインされる場所は、OSOにおける俺の店『アトリエール』である。

 

 俺は閉じた目を開けると、広がるのは、木目のある天井とほのかに感じる木の香りだった。

 

 俺のホームは第一の街から南の方にある農地地帯にある。

 

 元々、ポーションとか作成して売っていたからか。

 

 農地がある場所を欲してたから南部の農地を買い取って、そこに店を構えた。

 

「さてと、もう詩乃いやシノンが準備を終えて、第一の街にいるはずだから。迎えに行くか」

 

 俺は店舗部にやって来たら、お腹に鋭い頭突きが繰り出された。

 

 こ、この頭突きは・・・

 

 俺はゴホゴホと噎せながら、目線を下にすると、白い馬いやユニコーンの幼獣。

 

 足元には、赤黒い狐いや空天狐の幼獣がいる。

 

 空天狐はスリスリと俺に甘えてくる。

 

 まあ、それもそうか。

 

 今まで、リゥイとザクロに構っていられなかったからな。

 

 んっ? あぁ~、この白馬・・・ユニコーンの幼獣がリゥイで、赤黒い狐・・・空天狐の幼獣がザクロだ。

 

 夏のイベントで相棒にした幼獣だ。

 

 そういや、もうそろそろ、リゥイが成獣になるな。

 

 おっと、今はそんなことをしてる暇じゃない。

 

「リゥイ、ザクロ、一緒に来てくれないか。お前らに会わせたい人がいるんだ」

 

 2匹とも、早く早くという促してくる。

 

 全く・・・。

 

 その前に、店の在庫を確認する。

 

 おぉ~、結構売られてるな。

 

 在庫はもう半分も・・・・・・

 

「半分もないじゃないか!?」

 

 ま、不味い。相当に売られたようだ。

 

 これは、シノンを迎えに行ったら、すぐにポーション作成に入らないといけないじゃないか!!

 

 

 

 ということで、俺はリゥイとザクロを連れて、シノンの迎えにいった。

 

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 シノンサイド

 

 キャラネームを終えて、私は慣れしたんだものとは全く別物の空気を感じとり閉じていた目を開いた。

 

「うわぁ~・・・」

 

 燦々と照りつける太陽が私の目の前の景色を色鮮やかに見せた。

 

「これがOSO・・・」

 

 GGOのあの埃っぽい退廃的な近未来名世界ではなく、中世を思わせるファンタジーな世界に私はしばらく見とれていた。

 

 惚けた様に視ていたら、少し遠くから他のプレイヤーのクスクスといった笑い声が聞こえて、私はハッとした。

 

 VRMMOの特有の少し過剰な感情表現が私のアバターの顔を薄らと紅く染める。

 

「峻・・・いえ、()()はまだかしら・・・」

 

 気恥ずかしさを誤魔化すかのように独り言を呟く。

 

 

 

 でも、私の呟きが周囲のプレイヤーたちが僅かに反応する。

 

 それにしても、寒いわね。

 

 初期装備だから・・・肌に触れる部分から寒さが直に伝わってくるわ。

 

 そういえば、センスを獲得すれば、初期装備がもらえるのよね。

 

 早速、センスを獲得したら、ついでに初期装備をもらえたからOKね。

 

 それにしても、寒い。

 

「早く、ユン来ないかな」

 

 私はユンが来るのを待っていた。

 

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 ユンサイド

 

 ひぇ~、寒ぃ~。

 

 寒冷ダメージがここまでとは思わなかったな。

 

 ログインした最初は気づかなかったが・・・これは、寒いものは寒いな。

 

 急いで、シノンの所に向かうか。

 

「『付加(エンチャント)』――スピード」

 

 俺は久々にセンスの『付加術士』を使用する。

 

 久々の速度アップだ。

 

 感を戻さないとな。

 

 あと、リゥイにもエンチャントをかけてあるので問題ない。

 

 それにしても、寒ぃ~!!

 

 俺は駆け足で街に向かった。

 

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3話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 シノンサイド

 

 うぅ~、寒い。

 

 このままじゃあ、凍え死にそう。

 

 でも、街の中じゃあ、死に戻りもできないから余計ブルブル震えちゃう。

 

「早く・・・ユン・・・来てぇ~」

 

 寒そうに呟いてると、

 

「うぅ~、寒い。早く、クロっちのところに行こう。うぅ~、久しぶりに()()()()に会いたいなぁ~」

 

 え? 今、この少年・・・ユンって言ったわね。

 

 もしかして、ユンのことを知ってるの?

 

「ねぇ~、ちょっと、聞いていいかな」

 

「うん? なに?」

 

 灰色の髪をした少年。

 

 見たところ、中学生に思えるんだけど・・・

 

「さっき、ユンのことを知ってるようだけど、彼とは知り合いなの?」

 

「ユンっちは僕と同じ。生産職だからだよ。それでお姉さんは誰?」

 

「私は()()()よ。今日から、OSOをプレイすることにしたの」

 

 私は自分の名前を明かした。

 

 すると、どうしたのかしら。

 

 少年がアワアワと驚いてるようだけど、どうしたのかしら?

 

「も・・・も、もしかして・・・GGOってゲームで・・・ユンっちと一緒に・・・優勝した人・・・?」

 

「? えぇ~、そうだけど・・・それがどうかしたの?」

 

 私は急に驚いちゃった少年に戸惑っちゃう。

 

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 ユンサイド

 

 やっと、第一の街に到着した。

 

 久しぶりだな。OSOに帰ってきたって感じるよ。

 

 と、そんなことより、シノンに会わないとな。

 

 あと、とにかく、寒ぃ!!

 

 俺は街中を歩き出した。

 

 

 

 街を歩いてたとき、ふと、思ったことがある。

 

 なんか、素通りするプレイヤーたちが俺を視て、ヒソヒソと話してる。

 

 聞き耳を立ててみるも、内容が

 

『あぁ~、『保母さん』が帰ってきた』

 

『しかも、殺伐としてるGGOから帰還よ』

 

『噂によれば、BoB(バレット・オブ・バレッツ)で同率だが、本戦で優勝したって聞いてるぜ』

 

『・・・ってことは、立派な凱旋帰還じゃねぇか』

 

『スゲぇ~』

 

『ああ・・・ますます、ユン様を敬いたくなる』

 

 などといったのが聞こえた。

 

 最後らへんなんか、俺への宗教ができそうな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 どうやら、俺がBoBで優勝したことはOSOプレイヤーには周知されてるな。

 

 発信源がクロード辺りだと思う。

 

 彼奴・・・意外と情報通だしな。

 

 それよりも、シノンだ。

 

 

 

 俺は水色の髪をした女の子を発見した。

 

 おっ、見つけた、シノン。

 

 一緒にいるのは、リーリーかな。

 

 とりあえず――、

 

「おーい、シノン!」

 

 俺は、水色の髪をした女の子――シノンに声をかけた。

 

 シノンは呼ばれたかのようにキョロキョロする。

 

 あっ、この時になって、俺は大事なことを思い出した。

 

 今の俺って・・・男じゃなく、女だったことに――。

 

 

 

 なので、シノンは俺に気づかず、代わりに反応したのは、

 

「ユンっち! 久しぶり!」

 

 俺に飛び込んできたリーリーが俺を呼んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 シノンサイド

 

「おーい、シノン!」

 

 今、私を呼ばれた気がする。

 

 声からして、ユンだと思う。

 

 私はキョロキョロと辺りを見渡してるけど、ユンらしき人物がいない。

 

 いるのは、こっちに近づいてくる()()()()()()()()()

 

 

 

 でも、その女の子に反応したのは、私と話してた灰色の髪をした少年だった。

 

()()()()! 久しぶり!」

 

 灰色の髪をした少年が黒髪ロングの女の子に抱きついた。

 

 すると、彼女が抱きつかれたことに驚きながらも

 

「久しぶり、リーリー」

 

「本当だよ、ユンっち。今日はこっちにいるの?」

 

「しばらくはこっちにいるつもり。GGOからの依頼が来ないかぎり、比較的、こっちにログインするつもり」

 

 依頼って・・・そうね。ユンは絶対弾(ミスファイア・ゼロ)という異名があるから。

 

 弾製造依頼が来るというわけ・・・それじゃあ、私もBoBとか勘戻し以外はこっちにいようかしら。

 

 それよりも、今、リーリーって灰色の髪をした少年は黒髪ロングの女の子をユンって呼んだわね。

 

 もしかして、ネカマとして素質が・・・

 

 いえ、違うわね。

 

 彼のリアル姿は紛うごとなき女の子だって思えるほどの男の子。

 

 本当に実在するのかと思わせる存在――男の娘。

 

 そしたら、黒髪ロングの女の子が私を視て、

 

「遅れて悪いな、シノン」

 

「あんた、本当にユンなの・・・もしかして、へんし――」

 

「違う!! 紛うことなきユンです! 決して、変身願望とかありません!」

 

「・・・・・・」

 

 そこまで、力を込めて言ってくるとは思わなかった。

 

「このキャラはキャラ作成の際、撮影した写真をそのままにしたための事故みたいなものだ」

 

「なんとも、災難なことね」

 

 これには、同情するしかなかった。

 

 すると、灰色の髪をした少年が

 

「ねぇ、ユンっち。今から、クロっちのところ行かない。この後、臨時の生産職のお茶会があるんだけど・・・」

 

「それは構わないが・・・」

 

 ユンは私を視てくる。もしかして、新規プレイヤーのためのチュートリアルとかで時間を割いてしまうことを考えてるのでしょうね。

 

「大丈夫よ。チュートリアルに関してはするつもりないから。そもそも、私に必要なのかしら?」

 

 私は含み笑いをして言い返すと

 

「いらないな。それじゃあ、俺とシノンも行くよ。マギさんとクロードに自己紹介しないとな」

 

「うん。それよりも、さっきから寒いから早く行こう」

 

「お、おう。そうだな」

 

「そうね。案内よろしく」

 

「了解」

 

 私はユンの手を握って、彼と灰色の髪をした少年の案内で、次なる目的に向かった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ユンサイド

 

 俺、シノン、リーリーはクロードが経営してる『コムネスティー喫茶洋服店』に駆け込む。

 

「久しぶり」

 

「ただいま~」

 

「こんにちは」

 

 駆け込むと店内には、紅茶とコーヒーの香りと、給仕姿の男女のプレイヤーが出迎えてくれる。

 

「ユンさん、お久しぶりです。それと、いらっしゃいませ」

 

「あら、新しいお客さんね。しかも、新規のプレイヤー?」

 

「そうだろう。カリアン。すまないが、オーナーにリーリーさんが来たと伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

 店の雰囲気に合わせたシックな色合いのクラシックタイプのメイド服姿で出迎えて、クロードに伝えていった女性プレイヤーがカリアンさん。

 

 そのカリアンさんに指示したのが同じ色合いのウェイター服を着た優しそうな青年がラテムさんだ。

 

 俺はシノンに2人を紹介してた。

 

「ラテムさんとカリアンさんはこの喫茶洋服店の喫茶店部門で活動してる、ちょっと、特異的なプレイヤーだ」

 

「いろんなプレイヤーがいるのね」

 

「まあな。ラテムさん。彼女はシノン。今日から、OSOをプレイするんだ」

 

 俺はシノンの紹介するとラテムさんは

 

「ほぅ~、GGO最強の女スナイパーが、OSOに来るとは夢にも思わなかった。あの日、観戦してたけど、中々スリルのある戦いだったよ」

 

 これには、俺もえっとなる。

 

 シノンも俺と同じように呆けた顔をしてた。

 

「私のことを知ってるの?」

 

「もちろん、BoB本戦を『ヤオヨロズ』で観戦したし。ユンさんも高度なプレイヤーテクニックに惚れ惚れしたよ」

 

「い、いや~・・・それほどでもないよ」

 

 こうも褒められると照れちゃうな。

 

 それよりも、今日の服装はこの前とは違うな。

 

 長袖やロングスカートになっており、肌寒さの対策をしてるようだ。

 

「久々に街に来たから分からなかったけど、服装が変わったな」

 

「今日、ログインしたら、寒いじゃない。実は、前にクロさんが冬物の給仕服を急いで引っ張り出してきたのよ」

 

「クロードって、いつも、コスプレ服を量産してるかと思ったけど、今回だけは感謝のようだな」

 

「そうですね、感謝です」

 

 そう言って、長袖に包まれているラテムさんを視て、温かそうで良いなぁ~って思ってしまった。

 

 

 

 その後、カリアンさんが戻ってきて、彼女の案内で向かったのは、お茶会に使われている部屋だ。

 

 そこに到着した俺、シノン、リーリーを、同じ生産職の鍛冶師マギさんと裁縫師クロードが待っていた。

 

 だが、2人とも、俺が来たことにビックリしてた。

 

「久しぶり。マギさん、クロード」

 

「久しぶりだな。しばらくはこっちにいるのか?」

 

「まあな」

 

「ゆ、ユンくん・・・ひ、久しぶり・・・」

 

「久しぶりですね、って!? マギさん、なんか顔色悪いですよ!」

 

「それは、この中で一番露出の多い服装をしてるからでしょう」

 

「シノンよ。それは言ってはいけない」

 

 俺はシノンに忠告を言うのだった。

 

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4話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ユンサイド

 

 俺たちは席に座る前にクロードがマギさんに問いかけた。

 

「マギもその装備じゃあ、流石に辛いだろ。新しい装備を用意したから着たらどうだ? そして、クツシタを返せ!」

 

「どうせ、クロードのチョイスだと、コスプレ系に決まってるから、嫌よ」

 

 力のない声で応えるマギさんは、クツシタを強く抱きしめて拒否する。

 

 そこに、俺が寒冷ダメージ対策に水属性耐性を付与する『属性軟膏』を用意して、マギさんの腕に塗る。

 

 もちろん、シノンにも塗った。

 

「おっ!? なんか、寒さが和らいだ気がする。ユンくん、ありがとね」

 

「ありがとう、ユン」

 

 元気を取り戻してなによりだ。

 

 だけど――、

 

「ゲームだからといっても女性が身体を冷やしてはダメだと思うんですけど・・・」

 

「えっと、でも、やっぱり、クロードに変な服を着せられるのはちょっと・・・」

 

「なにが、変な服だ」

 

「マギさん・・・」

 

 俺は、冷徹な声音でマギさんの名前を呼ぶ。ただ、それだけでマギさんは、たじろぐ。

 

「だって、1人だけコスプレするのは、恥ずかしいじゃない」

 

「俺とシノンも一緒に着替えますから。ついでに、シノンのために弓使い用の胸当てを用意してください」

 

「ちょっと、私を巻き込まないでくれる?」

 

 ジロリと睨んでくるシノン。

 

 シノンよ。だって・・・

 

「お前だって、寒がってたじゃないか」

 

「・・・・・・」

 

 彼女はプイッとそっぽ向いてしまった。

 

 すると、クロードがマントを靡かせて立ち上がった。

 

「良く言った! さあ、お前たちに俺から少し早いが、最高の温もりと可愛さをプレゼントしてやろう!」

 

「彼処まで力説するものなの・・・」

 

 シノンが呆れかえっていた。

 

 クロードはそう言って、インベントリから取りだした服を俺たちに突き出してくる。

 

「わ、わかったわよ」

 

「色合い的に私は良いと思うけど・・・」

 

「まあ、俺やマギさんの服を作成したのは、クロードだからな。様々な状況に対してデザインされ、用意してあるからな。今回は冬服使用なんだろう」

 

 俺、シノン、マギさんは、受け取った装備を確かめる。

 

 っていうか、いつの間にシノンも用意してあったんだ!?

 

「フッ、前々からシノンという彼女がこの世界に来ることは何となく想像していたのだ」

 

「だから、前もって準備してあったのか・・・それよりも、俺とシノンがBoBで優勝したのが周知されてるのは、お前の仕業か!?」

 

「フッ、俺だけではない」

 

「え?」

 

 クロードだけではない・・・だと・・・

 

 俺は、情報を拡散させたのは、クロードだと思ってた。

 

 だが、そこにマギさんが

 

「実は、ミカズチやタクくん。アキトやブラウンちゃんがリークさせたのよ」

 

「彼奴ら~!!」

 

 これには、俺の怒りMAX!!

 

 

 

 まあ、それよりも、新しい装備だ。

 

 黒のインナーが首元まで覆うようになり、白い外装のコートもお尻までだった長さが膝裏まで届く長さになっており、前方に向かって斜めに短くなってる。前からに視るとミニスカートっぽく、後ろからだとロングスカートに見える。

 

 さらに外装コートのフードの縁には、黒いモコモコが付いており、暖かそうだ。

 

 他にも、素足をなるべく寒気に晒さないためのハイソックスや、右手を保護する毛糸の指ぬき手袋まで用意された冬服VERSIONのオーカー・クリエイターだ。

 

 シノンの装備は俺の同じだが、色合いが、薄い緑色だな。

 

 見た目は俺と同じだが、色で分けてるようだ。

 

 マギさんの装備は、革のつなぎに黒い蛇革のレザージャケットの組み合わせだ。

 

 胸を強調する硬い革の装備に腕を保護するレザーグローブは、何処かライダースーツっぽい。

 

 リーリーの服装には特に大きな変更点はなく、毛糸の帽子や手袋、そして、白いタイツを穿いているくらいだ。

 

「なんか、意地張ってた私がバカみたいに思えるできの良さになんだか悔しい」

 

「うわぁ、モコモコで暖かそう」

 

「俺の装備は、なんかスカートっぽく見えるんだけど。あと、なんでハイソックスなんだよ。ズボンでいいじゃん」

 

「その格好だと、ズボンは似合わないわ。それよりも、比較的、色が違うだけでお揃いじゃん」

 

「そう言われてみればそうだな」

 

 俺はそう言うも、それぞれの防具を手にとって、確かめるが、そこでクロードが1つ事実を投下する。

 

「ああ、言っておくが、リーリーの防具以外は、防寒処理が不十分だからな」

 

「じゃあ、何で出すんだよ!」

 

「デザインだけは、随分前から出来ていたんだが、防寒処理のための素材が足りなかったんだ」

 

「それで、何で、未完成の防具を着せるのよ」

 

 マギさんの疑問は当然であり、俺とシノン、リーリーも同じように頷く。

 

 それに対して、クロードは、淡々と説明する。

 

「ユンと彼女は別だが・・・実は、今回、お前たちを呼んだのは、アップデートにおける『寒冷ダメージ』対策として、この防具を完成させるためだ」

 

 クロードは、一度、言葉を切る。

 

「本来は、少しずつ素材を揃えていくつもりだったが、アップデートの日時が決まってしまっては、急いで作る必要があるだろう。ならば、お前たちにも素材を集めてもらおうと考えたわけだ」

 

「ふぅ~ん。まぁ、そういうことならわかったわ。それで、なにを集めれば良いの?」

 

「それは、この一覧に書いてある」

 

 クロードが取りだした紙に書かれた素材とその収集場所を視て、俺たちは眉を顰める。

 

 俺はシノンにエリアについて説明しながら視てる。

 

「見事にバラバラだな。いくつか手持ちの素材があるが、何しろ、こっちもポーション作成に入らないといけないから。後で、キョウコさんに送り届けるよ」

 

「ユンっちは久しぶりの帰還だしね。僕のところにも、何種類かあったから同じく提供するよ」

 

「私のところは、1種類だけね。防具の補強に使う革がちょうど持ち込まれたところの」

 

 俺はともかく、リーリーとマギさんは在庫ありと伝えた素材を一覧から除外していくと、最終的には2種類の素材が足りないことが判明した。

 

「それじゃあ、この素材を5人でどう分担して収集するか決めるか」

 

 紙に残った必要な素材は、『蚕蜘蛛(シルキー・スパイダー)の糸』と『雲綿毛』の2種類である。

 

「これが採れる場所って・・・」

 

 俺は、収集可能な場所を思い出す。

 

 1つ目は鉱山ダンジョンに出現するボスMOBのアラクネの通常ドロップであり、俺、シノン、マギさんの防具を完成させるのに、最低でも18個は必要だ。

 

 周回要因だな。

 

 2つ目は、第二の街近郊の森の奥に出現する通常の敵MOBがドロップするアイテムであり、そのエリアに辿り着くまでにも、ボス戦闘がある。

 

 つまり、両方ともボス戦闘が避けられない。

 

 結果、『蚕蜘蛛(シルキー・スパイダー)の糸』はクロード、マギさんの2人になり、『雲綿毛』は俺、シノン、リーリーの3人になった。

 

 シノンには第二の街に行かせるためにボス戦をしないといけなくなるがまあ良いだろ。

 

「その前に、今更だが、お互い自己紹介するとしよう」

 

 俺がマギさん、クロード、リーリー、そして、シノンに言うと4人はそれもそうだね。納得し、1回自己紹介に入る。

 

「私はマギ。OSOでは、トップの生産職の1人よ。得意分野は鍛冶職だから。防具のことに関しては私に頼んでね」

 

「俺はクロード。見ての通り、裁縫専門としてる生産職の1人だ。キミの服に関しては俺が見繕う」

 

「僕はリーリー。木工専門の生産職だよ。弓に関しては僕が用意してあげる。ちなみにユンっちの弓は僕が鋳造してあげたんだ」

 

「俺が服を見繕った」

 

 3人の自己紹介を終えたら、今度はシノンが

 

「私はシノン。既に知ってるようだけど、GGOから来たプレイヤーよ。しばらく、こっちにいるからよろしく。得意な武器は弓だから。リーリーには、早速、弓の注文をお願いする形になるわね」

 

「あと、防具に関しても頼むぞ」

 

 俺はマギさんとクロードに頼むと

 

「お姉さんに任せなさい!」

 

「フッ、また、俺のコレクションが増えるというものだ」

 

 シノンはマギさんやクロードを見て、

 

「個性豊かね」

 

「この世界のプレイヤーは皆そうだ。ちなみに言うと、銀華たちの装備もマギさんたちが受け持っているんだ」

 

「彼らの装備もそうなの?」

 

「ああ、ギンくんたちね。彼らはいつも、私の店でお世話になっていますから」

 

「ついでに言うと、俺の洋服店でも世話になってる。良いアイディアを提供して貰ってる」

 

「僕も素材集めには、いつも手伝ってくれるよ」

 

 とギンたちとの関係性をシノンは知ることになった。

 

 

 

 なお、クロードに現在の服を預け、防寒などの処理を済ませ、返してくる。

 

 あと、シノンに渡された服はGGOのそれを思わせる服かと思いきや、緑を基調とした軽装だった。

 

 左腕は黒く、右腕は緑と黒、赤を混ぜた服だった。

 

 これには、俺も・・・

 

「うぐっ、」

 

 心にダメージを負った。

 

「まさか・・・ここまで可愛くなるとは・・・思わなかった」

 

「ちょっ!? ちょっと、なに、敗北感を味わってるのよ!!」

 

 シノンの驚きの声と俺の悲痛なる声が木霊した。

 

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UW編 1話(プロローグ)

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 ?_?サイド

 

 これは、ある物語における1つの始まりである。

 

 

 

 とある村。

 

 2人の子供が村を駆けていた。

 

 1人は銀髪碧眼の少年。

 

 1人は金髪碧眼の少女。

 

「ギン~! 早くしなさいよー!」

 

「ちょっ!? 待てよアリス~!」

 

 手にパイを入れた籠をぶら下げてギンと呼ばれた少年がアリスと呼ばれた少女に手を引かれながら走っていた。

 

 というより、引き摺られていた。

 

 

 

 そんな様子を村人たちも微笑ましげに見ている。どうやら、この村では見慣れた光景らしい。

 

「アリス・・・いつものことながら、皆視てるぞ・・・」

 

「うぅ~・・・! ぎ、ギンがいつも考え事しながら走ってるからでしょう!」

 

(いや、これはどうみても、既に12歳の男女が手を繋いでいるからじゃねぇのか?)

 

 少年は口からそれを言わずに抑えている。ギンの苦労をアリスが知ることはないだろう。

 

「ハァ~、静かに過ごしたいものだ」

 

 そんなギンの切実な願いを聞いたのか、アリスがなにか閃いたのか急に立ち止まる。

 

 ギンが

 

「ふげッ!?」

 

 悲鳴をあげてアリスにぶつかるが、アリスは体勢を崩すこともなく、むしろ、ギンを抱きとめた。

 

「ねぇ、ギン。今度一緒に森へ遊びに行きましょう!」

 

 そんな彼女の提案を聞いて、彼は彼女の意図を察して、

 

「いいよ。それじゃあ、今度、()()()()で行こうか」

 

 ギンはアリスが言おうとしてる意図を理解し、応えたら、

 

「ふぇッ!?」

 

 察せられたアリスはギンの返しに驚き、顔を真っ赤にした。これには、ギンも「おや?」と首を傾げ、

 

「もしかして・・・キリトとユージオと一緒が良かったのか?」

 

「・・・・・・2人きりが良い」

 

「良かった」

 

 ホッと胸をなで下ろすギン。

 

「全く・・・察しすぎよバカ」

 

「・・・悪かったな」

 

「ッ!!」

 

 アリスは自分の小声が聞こえてしまったことにさらに顔を真っ赤にし、

 

「ほら、早くギガスシダーに行きましょ。2人がお腹を空かせてるわ」

 

 林檎並みに真っ赤にしてる彼女は、先ほどよりも、ややヤケクソ気味にギンの首根っこを引っ掴み、再び、引き摺りながら歩み出した。

 

 その様子をやはり、周りの村人たちは微笑ましげに見守っている。

 

 

 

 それから、十数分後、2人はギガスシダーの前に辿り着いた。

 

「おーい! 遅いぞ2人とも、俺たち腹減って気絶するかと思ったぞ」

 

「あはは・・・ところでアリス、顔赤くない?」

 

 漆黒の髪をした少年はキリト。

 

 亜麻色の髪をした少年はユージオ。

 

 2人がギンとアリスに声をかける。

 

「な、何でもないわよ!」

 

「へぇ~・・・・・・その割には、顔が真っ赤だぞ?」

 

 悪戯心があるキリトがアリスを揶揄うように言うが、赤面したアリスの睨みにより、ビクッと身体を震わせた。

 

「ギンは随分とぐったりしてるね、大丈夫かい?」

 

「ユージオよ・・・この状況を見て、大丈夫に見えるか?」

 

「あはは・・・ごめん、やっぱり、さっきの言葉はなしね」

 

 首根っこを掴まれ引き摺られながらここまで来ていたギンを見て、ユージオは

 

(アァ~、いつものことか)

 

 思いつつ、苦笑しながら声をかける。

 

「っていうか、そろそろ飯にしないか? 真面目に腹減りすぎて天命が減少しそうだ・・・」

 

「うん、俺も腹減った」

 

「・・・・・・ギンのバカ・・・・・・察しすぎよ」

 

「あぁ~・・・えぇ~ッと。あはは、それじゃあ食べようか」

 

 ギガスシダーの前に座り、パイを頬張る。

 

 4人の子供たち。

 

 漆黒の髪をした少年。

 

 亜麻色の髪をした少年。

 

 金髪碧眼の少女。

 

 そして――、

 

 銀髪碧眼の少年。

 

 4人は生まれも死ぬときも一緒。

 

 そう信じていたが、そんな彼らを引き裂くかのように、ある事件が起きてしまった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 __?サイド

 

 その事件が起きる数時間前。

 

 それは、お昼時のこと。

 

 何故、美味しいものを急いで食べることに疑問が生じた。

 

 そこにキリトがなにかを思いついたかのように呟く。

 

「氷だ」

 

「「は?」」

 

「アホだろ」

 

 まさかの言葉にギン、アリス、ユージオは呆気にとられるが、キリトはあまり気にしていないように様子で言葉を続ける。

 

「氷があれば冷やせる」

 

「言いてぇことは分かるけど、そんなの何処にあるんだ? 王都の市場にさえ・・・・・・アァ~、そういうことか」

 

「ふふふふ・・・分かったようだなギン」

 

 ギンが氷を手にする場所の居所に気づき、キリトの眼に嫌な光が浮かんだのを視て、3人は溜息をつく。

 

 大方、彼がこのような光を浮かべるのは、大変よろしくないことをしでかすときだからだ。

 

「『ベルクーリ』の話を知らないか?」

 

「『北の白い竜』の話だろ?」

 

 キリトの言葉に、ギンが補足する。

 

 その補足でアリスとユージオは納得した。

 

「アレか。内容は確か、洞窟の中に剣があって、それを欲しくて近寄るけど、守護者のような竜に追い返されたっていうベルクーリただ1つの負け話だよな?」

 

「うん。それによれば、氷は入り口の近くにあるって書いてあったから簡単に手に入るんじゃないかって思ったんだ」

 

 キリトにしては、的を射た考えであるが問題は――、

 

「本当に存在してるかだぞ・・・っつうか、それは300年前の話じゃねぇか」

 

「それを含めて、確かめるのが冒険だろ?」

 

 ギンの言葉には面倒くさいから行きたくねぇのが本音だった。

 

 それを見越してのかわからないが、キリトの眼には楽しそうな意志が浮かんでいる。

 

「面白そうね」

 

「アリス。止めようよ。それに『禁忌目録』で果ての山脈に行くことは禁じられているはずだよ」

 

「まあ、行く目的によっては変わるけどな」

 

「ギンの言う通りよ。掟の正確な文章は『大人の付き添いなく、子供だけで北の峠を越えて遊びに行ってはならない』と書かれているけど、今回は皆で行くんだから遊びではなく仕事として考えるべきだわ」

 

「その捉え方だと、外からじゃなく、中から行くって聞こえるんだが・・・」

 

「うん。その通り!」

 

「だろうと思った。諦めろ・・・ユージオ。もう止められねぇ」

 

「うん・・・僕も今、そう思った」

 

 ギンとユージオは諦めの境地に至った。

 

「じゃあ、次の安息日に行きましょう。遅れたら昼食抜きよ」

 

「「了解しました」」

 

「はいはい・・・」

 

 キリトとユージオは元気よく返事をし、ギンは半ば諦めの返事をしたが、アリスは

 

「ギン!」

 

 怒鳴りつけてくる。

 

「了解しました」

 

 ギンは改めて、返事をした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ?__サイド

 

 安息日当日。

 

「遅い」

 

 キリトが不満そうに腕を組み、片足で地面をリズムよく叩いていた。

 

 それを見ながら、ギンとユージオは仕方ないなぁっといった感じで苦笑してる様子。

 

 これはもう、日常茶飯事のようだ。

 

 キリトも心の狭い男ではなく、ただ、お楽しみの時間が遅くなることに少々不満げだった。

 

「おいおい、レディーには、いろんなことをしねぇといけねぇんだよ」

 

「そうだよキリト。この程度で文句を言ってると村の皆から嫌われるよ」

 

「むぅ、それは困る」

 

「だったら、大人しく待っていようぜ」

 

 ギンはそう言ったので、キリトは渋々納得したら、遠くから金色の光が見えてきた。

 

「来たね」

 

「怒ろうか」

 

「勝手にしろ」

 

 ユージオの言葉にそれを確認したキリトが悪戯小僧の表情を浮かべ、ギンは初志貫徹を貫いてたら、待ち人が来たり。

 

「「遅い!」」

 

「2人で言わないでよ! セルカと準備していたら遅くなったのごめんなさい」

 

「気にするな。ただの悪戯心でやったキリトに文句を言え」

 

「おい!? ギン!?」

 

「ふぅ~ん、そうなの・・・キリト。後で、お話しね」

 

「ヒィッ~!?」

 

「これに懲りて、女の子をあまり弄るなよ」

 

 締まらない形で4人は出発するのだった。

 

 

 

 村の北の出入口から『果ての山脈』へと歩き出し、森を抜け、川辺を歩いていた。

 

 お昼を食べ、休憩を取っていた。

 

 休憩を取っていたところでユージオが

 

「ねぇ、ギン」

 

「ん?」

 

 寝転がってるギンに声をかける。

 

「『天職』のことなんだけどさ。『衛士』になりたいとは思わないの?」

 

「いいや、全然・・・俺は根っからの『剣士』だ。他の『天職』になりたくねぇよ」

 

「剣の腕なら、ジンクに勝ってるのに不公平とは思わないの?」

 

 ジンクというのは、現衛士長の息子のことである。

 

 性格は他者を見下すので、誰にも好かれることがない人間性の持ち主だ。

 

 村での変わりない生活の1つだった。

 

 文明すらも発展していないということではなく、伝統を重んじすぎてることである。

 

 世襲制度が貫き続けてるからだ。

 

 ユージオが言いたいのは、変わりのない日々で一生を終えるのかが怖いのだろな。

 

「今更、言ったところでなんら変わらねぇよ。剣の腕が優れていようが、村の皆から信用されていなければ、誰も衛士長としてついてこねぇよ。だけど、それをダシにされるのはヤダな」

 

「・・・()()()()()()()()ってなんだろう」

 

 ユージオの呟きはアリスの悲鳴に掻き消されて、ギンの耳には入ってこなかった。

 

「「アリス!?」」

 

 起き上がって、声をした方へ顔を向けると、アリスが川縁で両手を抑えて震えていた。

 

 嫌な予感に駆られた2人が急いで駆け寄る。

 

「アリスどうしたの!?」

 

「水が冷たいの」

 

「は?」

 

「水が冷てぇ・・・」

 

「だから、水が冷たすぎて反射的に声を出しちゃったの!」

 

「・・・脅かすなよ」

 

「・・・・・・」

 

 ユージオは安堵の息を盛大に吐き出し、ギンはアリスの両手を見ると、余程冷たかったのか紅くなっていた。

 

 ギンはその手を握ると、心地よいひんやりとしたものが伝わってくる。

 

「あう・・・///」

 

 無意識に触っていたようで、顔を真っ赤にしたアリスに気づかず、ギンは少し考えてから川を覗き込む。

 

 透明感のある水色が穏やかに流れている以外には、目立った様子がない。

 

「ん?」

 

 一瞬、水面でなにかが光ったように見えたギンは覗き込んだ。

 

 水面の反射でよく見えないが、水面近くまで貌を近づけると、なにかが沈んでいるのがなんとか見えた。

 

「どうしたの? ギン」

 

「ユージオ。悪ぃけど、俺の脚を抑えてくれねぇか? ちっと試してぇことがある」

 

「良いけど、何をするの?」

 

「こうするんだよっと」

 

 ギンは左手を川に突っ込んだ。

 

「ッ!?」

 

 あまりの冷たさに顔を顰めるけど、腕をさらに水の中へと入れていく。

 

「ッ!?」

 

 今度は底に沈んでいるなにかに触れると先ほどとは違う冷たさを感じた。いや、感じたというより、刺されたというのが正しい。

 

 痛いと思うほど掴んだ掌に冷たさが伝わってくる。

 

「おりゃぁあああ!」

 

 ギンは左手で持ち上げたのは――剣だった。

 

 ユージオとアリスはギンの握ってるものに視線を向けた。

 

「剣・・・だよね?」

 

 薔薇を象った透き通るような薄青色の柄と同じ色の鞘に柄頭。

 

「・・・・・・」

 

 ギンは剣を見て思案した。

 

 思案してから、彼はこう呟いた。

 

「この剣は、相当前から沈んであったと思う。自然にここまでながされてきたか人為的に投げ入れられたものなのかだ」

 

「どうして、そう言えるの?」

 

「俺とユージオ、キリトが村の中でも上位の筋力をしてるのは知ってるな?」

 

 ギンの質問にアリスは頷く。

 

「『竜骨の斧』を1年間を振り続けたユージオと、剣を扱う俺なら分かるんだ。此奴はそう簡単に触れるものじゃねぇ」

 

「じゃあ、これは、自然にここまでどこからか流れてきたの?」

 

「その線はねぇな。俺が片手でやっと持ち上げたところだ。余程の大雨じゃねぇと流れることはねぇ。だとすれば、誰かが投げ込んだとしか考えられねぇよ」

 

 途轍もない重量だが、これを投げ入れる人間なぞ。並みの人間じゃないからだとギンは推察した。

 

「抜いてみるか」

 

「大丈夫?」

 

「なんとかなるだろ」

 

 右手で鞘を掴み、左手で柄を掴み一気に抜き去る。

 

 シャリーン!

 

 綺麗な音が木霊する。

 

 3割方軽くなった刀身を視る。

 

 ソルスを反射させて優美にも可憐にも見えるが、不思議と豪華すぎない。

 

「不思議な材質だね。ガラスでもましてや鋼でもないなんとも表現しづらいよ」

 

「ユージオ。此奴はもしかしたら、『神器』かもしれん」

 

「・・・なんだって?」

 

 『神器』。それは神が自ら創り出した。或いは、神の武器そのものを指し示す。

 

 それには、そこにあるだけで圧倒的な存在感を放ち、全てをひれ伏せさせるような圧迫感があった。

 

「あながち間違いじゃないだろうね。だってここにあるだけで周囲の気温が下がっているんだもん」

 

「俺の左手も霜焼けになりそうだ」

 

 抜き出した剣を鞘に戻してその場に座り込む。

 

 ギンは手にしてる剣を見て、思ったことは

 

(何故、ここにある。何故、これほどの存在感を放てる)

 

「・・・『青薔薇の剣』」

 

「ギン、今、なんて言ったの?」

 

「『青薔薇の剣』かなって思っただけだ」

 

「『ベルクーリと北の竜』に出てくるあれかい?」

 

「青いし薔薇を象った装飾があるから。そう思っただけだ」

 

 あり得ないとばかりにユージオとアリスは表情を浮かべている。

 

 だが、本心では、そうあって欲しいと願ってるのだろう。

 

 お伽噺に出る剣をギンたちが見つけたことになるからだ。

 

「持ち帰るのは止めておこう。持って帰るにも労力と時間が必要だからな。沈めておけば誰も気づかねぇよ」

 

 ギンは言葉通りに剣を元の場所に戻してから、キリトを叩き起こし、4人は果ての山脈へと足を向けていた。

 

 

 

 果ての山脈に向かってる最中、先の剣について話してるギン、アリス、ユージオの3人。

 

 キリトはギンに叩き起こされて、恨めしそうな視線を向けてた。

 

 その視線を無視して歩いてると、ポッカリと空いた穴が目に飛び込んできた。

 

 奥は暗くて数メートルしか目で確かめることができない。

 

 どれだけ奥に続いてるのかわからないが、3人とも短いとは思っていなかった。

 

「なんだか怖いね」

 

「別世界に行くような感じがする」

 

「間違っていねぇだろ。『果ての山脈』を挟んだ先は『ダークテリトリー』なんだからさ。早く氷を見つけねぇと夕方までに帰れねぇな」

 

 そう言って、さっき摘んでおいた草穂をアリスに渡す。

 

 それを不思議そうに視てるユージオとキリトの前で、アリスがなにかを呟く。

 

「システムコール・ルミナスエレメント。アドフィア」

 

 術式を唱えると草穂の先に光が発生した。

 

「「おぉ~」」

 

「じゃあ行くぞ」

 

 ギンはアリスから光を受け取り、3人の前に立ち、洞窟に入っていく。

 

 

 

 特にこれといった特徴がなく、岩を自然が長い年月掛けて削ったとしか思えない様子しか見当たらない。

 

 クシュン!

 

 ユージオがくしゃみをしたことで全員の足が止まった。

 

「寒ぃな」

 

「そういや前々からそう思ってたんだよ」

 

 腕をさすりながら呟くキリト。

 

「「じゃあ、早く言え(なさい)よ」」

 

「そこまで言わなくても良いだろ!」

 

 ギンとアリスの言葉に心外だとばかりにキリトが憤慨するが、2人は知ったことかとばかりにその言葉を無視した。

 

 

 

 そんなこんなで奥に進んでいくと、4人は目を疑うのを視た。

 

 それは、氷に埋もれた竜の骨が散乱していたからだ。

 

「な、なんだよこれ・・・竜が死んでる?」

 

「病気なの?」

 

「いいや。此奴は誰かに殺された後だろ」

 

 ギンが近くに落ちていた骨を拾い上げ、見せる。

 

 3人はそれを見て、暗い表情を浮かべた。

 

 あまりにも痛ましいことに目を背けたのだ。

 

「・・・これは、刀傷だな。相当な優先度の剣じゃねぇと斬れねぇな」

 

 ギンは骨の具合からそこまで推察した。

 

 

 

 その後、籠の中に氷をできる限り入れたが、道を覚えていなかったので、片方ずつの歩いて行くも、先に行った道が運命を変えることになった。

 

 4人は『ダークテリトリー』側の出入口に出てしまい・・・そして――。

 

 ギンとアリスの左手と右手が僅かに『ダークテリトリー』の地面に触れてしまったのだ。

 

 4人は村に帰るも、アリスはギンの服の裾を掴みながら、

 

「ねぇ、ギン。このまま何処か逃げよう?」

 

「逃げるって何処に?」

 

「『公理教会』から。お父様から、お母様から、セルカから、村の皆から。なによりキリトとユージオから。これ以上迷惑を掛けられない」

 

「いいよ。自分の罪科は自分で償う。それに、アリスに何かがあったら、俺が守ってやるよ」

 

 ギンからその言葉を聞いて、ドキッと胸を高鳴らせるアリス。

 

「うん・・・ありがとう・・・///」

 

 そう言って、別れ際にアリスがギンの頬にキスして、そのまま帰った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ??_サイド

 

 翌日、村に整合騎士がやって来た。

 

「我はノーランガルス北域を統括する『公理教会整合騎士』デュソルバート・シンセシス・セブンである。アリス・ツーベルク及びギン・ライラックを『禁忌目録』禁止条項抵触により捕縛及び尋問の後処罰する。村の長よ、咎人を縛せよ」

 

 という声が響いた。

 

 彼が伸ばした手には拘束具が2つ握られている。

 

 アリスを結ぶものとギンを結ぶものだ。

 

 ギンは自らの罪を償うために自ら前に出る。

 

 アリスは集団の中央にいたため、引きずり出された。

 

 そんな2人にガスフトが慣れぬ手つきで拘束具を巻いていく。

 

 ギンは騎士に進言する。

 

「すまねぇが、さっさと行かせてくれねぇか。頼む」

 

 ギンの頼みを聞いた騎士は頷き、拘束具の先を飛竜の首にしっかりと繋いだ。

 

 そのまま、飛竜の背に上がり、離陸準備をする。

 

 飛竜が羽ばたき、2人の脚が地面から離れていった。

 

 

 

 これが、この章の始まり。

 

 全てを始まり、終わりへ向かって行く。

 

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2話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 時は、2026年7月前のことである。

 

 それは、OSOにて。

 

 場所は『ヤオヨロズ』のギルドホーム。

 

 この日は最近、顔を見せないギンのことを知り合いのプレイヤーたちで話し合っていた。

 

「最近、ギンを見かけないな」

 

 スカイがそう言うとユンが

 

「リアルでは、俺、セイ姉ぇ、シノンが毎日、チャイムを押してるけど、反応がなかった」

 

「うん。新学期になってから、ギンくん。音信不通になった気がする」

 

 リアルのことに詳しいユンとセイが情報を教えるとタクが

 

「部屋の中に入ったのか?」

 

「鍵に関しては俺が持ってるから中に入ってるが、ここ最近、帰ってきた形跡がなかった。床にホコリが薄らと積もっていたからな」

 

 今度はミュウが

 

「ユンお姉ちゃん。ギンさんには、連絡したの?」

 

「セイ姉ぇの言ったとおりに音信不通なんだよ」

 

 ユンの言葉にセイたちは手がつけようのない状況だった。

 

 そこに、シノンが、

 

「実は、何だけど・・・私・・・もしかしたら、ギンがいる場所に心当たりがあると思う」

 

 という言葉にセイやブラウン、ミカズチたちが反応する。

 

 彼らの視線がシノンに集中する中、シノンはある説明をし始める。

 

「実は、これは、キリトやアスナに会ったときの話になんだけど、キリトは菊岡っていう人に怪しげなアルバイトをされたの。新型のフルダイブマシン。ブレインマシンインナーフェイスって聞いた」

 

「新型フルダイブマシン?」

 

 ブラウンが聞き返し、シノンは頷く。

 

「会社名はラース。キリトの話によると、現行のフルダイブマシンとは全然違うって言ってた。しかも、その世界に関してのことは機密保持のために、その世界での記憶が一切合切遮断されてるって話よ」

 

「記憶って・・・それってあり得るの?」

 

「もしかして、オーグマーようなもの」

 

「キリトの話によると、()()()()()()()っていう経路を遮断してるから思い出せないって言ってた」

 

 シノンが言ったことの中に出た言葉にユンは目を見開き、動揺する。

 

 だけど、それを気づかずにヒガヤとミュウが

 

「フラクト・・・?」

 

「なんですか・・・それ」

 

 聞き返してしまう。

 

 すると、ユンは動揺しながら、

 

「魂のことだ・・・シノン・・・そのフルダイブマシンって・・・ソウルトランスレーター(STL)って言わなかったか?」

 

「え、えぇ、そうだけど・・・ユンは知ってるの?」

 

 シノンの聞き返しに、セイたちの視線がユンに集中する。

 

 視線が集中する中、ユンは

 

「知ってる」

 

 応えた。

 

 これには、シノンも動揺し、目を見開かせてしまう。

 

 ここで、ユンはラースの目的そして菊岡の目的を理解した。

 

「そうだとしたら、ギンはケリを付ける気か」

 

 ユンは力強く拳を握る。

 

 血が滲むほどに――。

 

 そこからはユンとシノンが順序よく説明に入る。

 

 だが、ほとんどはユンが話すことになる。

 

「今から、話すことはトップシークレットだと思って聞いてくれ」

 

 機密事項の重要性を言ってくるユンにミカズチやシノンらは頷いた。

 

「シノンが、キリトから聞いたのは、このことだろう。『人の心は何処にあるのか』って・・・」

 

「ええ・・・その通りよ」

 

「実は、俺も同じようにその質問をされたことがあるんだ。()()()()()()()からね」

 

 これには、えっと呆けてしまうシノンたち。

 

 それは、何故、9歳の時にギンがそれをユンに質問したのかだ。

 

「当時の俺は、シノンと同じように『頭』って応えたんだ」

 

「正確に言うと、『脳』ね」

 

「じゃあ、脳の何処にあるんだってことになる。脳というのは脳細胞の塊だ。今度は脳細胞の何処に心が存在すると思う」

 

 ユンからの難しい質問に理解が追いつかなくなっていく。

 

 それでも、ユンは話を続けていく。

 

「脳細胞を含める構造を支える骨格がある。それを『マイクロチューブル』というらしい。チューブ、つまり、中空の管のことなんだが、その中には封じ込められてるものがある」

 

「なにが封じ込められているの・・・ユンちゃん」

 

「光だ。光・・・光子の揺らぎ・・・それこそが人間の心だそうだって昔、ギンが教えてくれたんだ。当時の俺は難しすぎて理解できなかったけど、SAOから帰還後、もう一度、ギンが話してくれたことや論文を読み返し、ようやく、理解したんだ。彼奴が発明したのが、とんでもないものだって・・・そして、その光の集合体をギンは魂と仮定し、こう名付けた――『フラクトライト』」

 

「『フラクトライト』」

 

「うぅ~、話が難しすぎて、頭がこんがらがっちゃう」

 

「・・・だろうな。俺も初めて聞いた時は同じだったから。それで、そのソウルトランスレーター・・・通称STLは、人の魂を()()()から読み取ることが出来るんだ」

 

「双方向? 一方方向じゃないのか、ユンの嬢ちゃん?」

 

「ミカズチや皆が知らないだけで、俺たちはアミュスフィアを通じて、視覚や聴覚などの情報を()()()()()()()仮想世界を体感させてるんだ」

 

「意外に知らない事実・・・」

 

「そうよね。ユンちゃんがそんなことを知ってるなんてビックリ」

 

「STLというのは、人の魂に短期的に書き込むことで、視覚や聴覚などの情報を知ることができる。まるで、そこが()()だと思い込ませるほどに・・・」

 

 ユンの言葉を聞いた者たち全員、背筋を凍らせた。

 

「・・・より正確に言うと、STLが見せる世界は現実に近い夢みたいなものなんだ」

 

「夢?」

 

「例えるなら、長い夢を見ることがあるだろう。目が覚めたとき、2、3時間ぐらい夢を視ていたように気がするけど、実際は、ほんの数分間しか夢を見ていないんだ。STLというのは、それと同じような現象を起こさせることが出来る」

 

「えぇ~ッと、ユンくん。もうちょっとだけ詳しく教えてくれない」

 

「マギさん。こればっかりはそう理解するしかできない。何しろ、これは『量子脳力学』に関することでもある。人が数分しか夢を視られないなら、数倍の時間の夢にさせる体感させることがSTLだ。シノン・・・キリトは、その世界の名前とか聞いていないか」

 

「それは聞いてるわ。その世界の名前はUW(アンダーワールド)って言ったらしい」

 

「なるほど。じゃあ、ここまでは前置き。次は菊岡たちがやろうとしてる真の目的を話そう」

 

 ユンは今までの説明を前置きと言ったことにミカズチらはえっとなる。

 

「今のが前置き!?」

 

「おいおい、今までの話だけでも頭がこんがらがってるのに、まだ続きがあるのか」

 

「ミカズチ。許してくれ。これは、ギン自身が自ら封印した研究でもある。人類が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことなんだ」

 

「人類が数十年かけて到達できる研究?」

 

「ユンさん。その研究とは何なんですか?」

 

 ルカートが研究を質問した。

 

「人間の知性・・・所謂、人工知能・・・ギンはそれを発明したんだ」

 

「人間の知性・・・そんなの開発できるの?」

 

「従来の方法では無理。これは、STLを用いて使用しないと開発できない」

 

「でも、ユン。現実にも人工知能はあるよな」

 

「それは、トップダウン型の人工知能。これは、プログラムに知識と経験を積ませて、学習させることで本物の知性に近づけることなんだ。だが、これの欠点は学習したことがないことには対応ができないのが難点。そこで、ギンが開発したのは、ボトムアップ型の人工知能。これは、人間の脳・・・つまり、脳細胞1000億個が連結し合って生態器官を人工的に再現させ、知性を発生させる考え方だ。ギンはそれを僅か7歳の時に、気が付き、独自でSTLを開発させ、論文にまでさせた」

 

 ユンの説明途中でスカーが

 

「だが、ユン。ギンはどうして、7歳の頃にそんなことが考えついたんだ。それは、普通の子供じゃない」

 

「ギンは生まれたときからの天才だったんだ。彼奴は()()()()()()()()だと俺は今でも思ってる」

 

「神に選ばれし少年?」

 

「それはどういうことだ、ユン?」

 

「ギンの頭脳は『神の頭脳』。超人的な叡知を持って、普通の人間には考えつかないことを考えつくことができる。それが、ギンの異能なんだ」

 

「確かにギンは、俺たちとは考え方が違うのは理解していたが・・・なるほど。『神の頭脳』か・・・まさに、天才的所行だな」

 

 スカーは憑きものが落ちたかのようにスッキリした面持ちになる。

 

「話を戻すけど、菊岡たちも人間の脳と同容量データを保存できるものも発明してるだろ。ギンと同じことをしてるとすれば、おそらく、人の魂の複製にも成功してるはず・・・」

 

 ここでも、えっと驚きを隠せない表情を浮かべる。それでも、ユンは話を続ける。

 

「だけど、普通の人だったら、そこで、気が付くんだ。人の魂の複製と真の知性には、途方もない溝が存在してることに――」

 

「途方もない溝?」

 

 アキトが聞き返しにユンは頷く。

 

「その溝は何なのかというと、普通に魂を複製しても、複製した魂は複製されたことを認めないんだ。だが、ギンはその溝すらも難なく突破した。丸ごとコピーするのではなく、一から作り直したんだ。生まれたばかりの新生児の魂をコピーして――」

 

 今までの話だけでも、気分を害する者たちが出てきた。

 

 そこに人道的な部分が配慮していなかったことに――。

 

「ギンはまず、新生児の魂をコピーした後、それを育てる環境を創り上げた。それが今、俺たちがいるVRMMOだ。ギンはそれをSTL専用に作り替え、実験を開始した。彼奴が一からそこまでのことをしたんだ。もはや、普通の人間だったら、とっくの昔に精神が壊れてしまうだろう。だが、『神の頭脳』を持つギンは常識に囚われず、研究に没頭してたよ。研究のためにギンは3つの世界を設けた。現実社会と同じような世界、魂のバランスを守る世界、そして、魂を食い合わせる世界を創り上げた。現実と違うのは、時間加速を1万倍に設定したことだ。結果的にいえば、成功した」

 

「それって・・・1つの文明シミュレーションじゃない」

 

「そうだ。どの世界も独自の文化形態を確立させた」

 

「それを完成させたんなら、どうして発表しなかったの。自分自ら封印までして・・・」

 

「研究してる中で、ギンはある事に気が付き、自分の才能に嘆いた」

 

「なにを気が付いたの?」

 

 ブラウンの聞き返しにユンはこう応えた。

 

「それは、ボトムアップ型の人工知能を人を殺せる兵器として利用されること」

 

「兵器・・・」

 

 ようやく、ここでギンの人間としての良心が残っていたことに気が付く。

 

 そこで、ミカズチは

 

「ギンの嬢ちゃんは、今まで、ずっと、それを隠し続けたのか」

 

「俺も秘密を知るものとして、その全容を知ってる。封印した研究を現にこうして、復活したのは、菊岡が絡んでることが理解できる。彼には、人間としての良心がないからだ。だけど、彼はギンのことを何にも理解していない」

 

「どうして?」

 

「ギンは魂のことに関しては専売特許であること・・・それがギンの最大の利点だからだ」

 

 ユンはフッと口角を上げて、そう言った。

 

「シノン。このことをアスナに伝えてほしい。菊岡たちがやろうとしてる真の目的も全てを話してほしい」

 

「それは良いけど、1つだけ聞きたいことがあるの」

 

「ん?」

 

「ユンはそれを知ってるということは、その計画に協力したということだよね。しかも、それを隠し持ってる」

 

 核心を突く質問にユンは頷き、

 

「確かに、俺もその計画に協力した。そして、その論文データも俺が預かってる」

 

 ユンは正直に協力したことを明かした。

 

「そして、最後に言うとしたら、ギンがこの研究を始めた理由は両親を亡くしたことにある」

 

 ギンがそれを始めたきっかけを言ったユンに、幼馴染みであるセイ、ミュウ、タクは暗い表情を浮かべた。

 

「ギンくんは死んだお父さんとお母さんに会いたくて・・・」

 

「・・・ギンさん」

 

「全く・・・自分で自分を傷つけてるじゃないか」

 

「だからこそ、ギンは自分なりにケジメを付けるつもりなんだ。菊岡たちの目的を頓挫させるために・・・命を賭けて――」

 

 ギンの覚悟を知ったセイたちは少々辛い表情を浮かべた。

 

 そこにシノンが

 

「それじゃあ、私はアスナにこのことを話してくれるわ」

 

「何処で話す予定?」

 

「一応、エギルさんのところよ」

 

「じゃあ、私たちも一緒に行くわ。これはもう、私たちが隠せる規模じゃないから」

 

「わかったわ」

 

「じゃあ、俺も一緒に行こう。俺の口から説明した方が良いだろう」

 

 という感じで、ユンもシノンと一緒にアスナたちの所に向かうことになった。

 

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3話

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 三人称サイド

 

 ギンとアリスが公理教会に連行してから6年という月日が経過した。

 

 見習いだった頃のギンとアリスは今じゃあ、立派な整合騎士になった。

 

 アリスが30番目の騎士で、ギンは完全無欠、完成された0番目の騎士として・・・。

 

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ギンサイド

 

 全く、俺が完全無欠の0番目の騎士とはな。

 

 俺はリアルワールドの人間なのに整合騎士か。

 

 だけど、シンセサイズの秘技の時は驚いた。

 

 咄嗟に、記憶を・・・いや、()()()()()()()()()()()とはな・・・アドミニストレータ様々だぜ。

 

 おや? どうして、俺はシンセサイズされても、リアルの記憶が無事な理由か。

 

 簡単だ。

 

 魂に関して、俺以上に扱えるものがいねぇんだよ。

 

 元より、STLの開発は俺が開発したんだ。

 

 魂いや魂魄を制御する術は俺しか出来ねぇ。

 

 なので、フラクトライトの修正から免れたことになる。

 

 

 

 だが、今、困っていることは俺専用の神器がねぇことだ。

 

 現在、50階にある広場で俺は成り立てなので、実力を測ろうと同じ整合騎士であるイーディス・シンセシス・テン。イーディスとやり合うことになった。

 

「自己紹介したけど、イーディス・シンセシス・テン。キミの力を見せてもらうよ。ギンくん」

 

「胸を借りさせてもらいますよ。イーディス」

 

「ふふ~。遠慮せず思いっきりかかってきて」

 

「元より、そのつもりだ」

 

 俺は口角を少しだけ上げてからクラス38の剣を持った。

 

 逆にイーディスの神器は刀身が黒い刀だった。

 

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 三人称サイド

 

 50階にいるのは、整合騎士になったばかりのギン、アリスに、先輩整合騎士のイーディス。そして、整合騎士長のベルクーリがいた。

 

 現在、ギンの実力を測るためにイーディスが相手をしてるのだけど――。

 

 これには、誰もが目を疑ってしまうほどだった。

 

「はあああッ!」

 

「フッ!」

 

 数回の剣戟があるも、ギンの剣は力のある剣かと思いきや、剣を巧みに使い込ます技巧な剣を見せた。

 

 それは、既に剣の腕なら、イーディスを軽々とあしらってしまってた。

 

「うっそ~。私以上に剣を扱いこなしていない!」

 

「そうか。こっちはもうキミの速さに目が慣れたとこなんだけど・・・」

 

「え?」

 

 ここで、イーディスは呆けてしまった。

 

「もしかして、私の剣筋が見えるの?」

 

「見えるよ」

 

 ギンは事実を正直に話す。

 

 それには、ハァ~ッと息を吐かれてしまった。

 

 ベルクーリはギンの動きから顎に手を当てて熟考した。

 

(ギンの動き・・・明らかに戦い慣れしてる。俺と同等いやそれ以上の経験をしてる。それも生死を賭けた戦いを・・・さもねぇと、あれほどまでの心意を放てん)

 

 ベルクーリはギンの実力よりも彼が放つ心意に興味を抱かれていた。

 

 

 

 そして、ギンとイーディスとの勝負に決着がついた。

 

 勝者はギン。

 

 彼は剣を鞘に納め、イーディスに手を差し伸べた。

 

「うっ・・・参りました。それにしても、凄いね。流石、0番目の騎士だけはあるよ」

 

 彼女はその手を取って、ギンを褒め称えた。

 

 なお、アリスはギンの戦う様を視て、心を打たれたのか胸を高鳴らせていた。

 

 そこに――、

 

「見事な戦いぶりでした。ですが、お前は本気を出していませんでしたね」

 

 凜とした女性の声が聞こえてきた。

 

 兜を被っているが、彼女も整合騎士でファナティオ・シンセシス・ツー。

 

 整合騎士副騎士長でもある彼女が、途中からだが、ギンとイーディスの勝負を見ていて、思ったことは、ギンが本気を出していなかったことだ。

 

 おそらく、それが不愉快に思ったのだろう。

 

 それには、ベルクーリも

 

「ああ、そうだなぁ。ファナティオの言うとおりにギンの坊主。お前さん本気を出していなかったな。いや、出せなかったというのが正確だな」

 

「ッ!?」(--;)

 

 僅かにビクつくギン。

 

 ハアと息を吐き、降参の意を込めて話し始めた。

 

「確かに閣下の言うとおり・・・俺は本気を出せなかった。別に性別云々じゃねぇから安心しろ。ただただ、使った得物が扱い辛かっただけだ」

 

「それだけの理由で本気を出せなかったのですか」

 

 ファナティオは兜で表情が見えないが、ムッとしてるのは雰囲気があった。

 

「しゃあねぇだろ。俺の好きな武器は刀。つまり、イーディスが持ってる剣が向いてんだよ」

 

 ギンは自分の得意な武器を言ったら、ベルクーリは

 

「そういや、暁星の望楼に、イーディスの嬢ちゃんと同じ剣があったな」

 

「ああ、最高司祭様が扱いに難してる、あの剣ですね」

 

「閣下。まさか、彼にあの剣を使わせようとするのですか」

 

 ファナティオはベルクーリに上階にある剣のことを問いかけた。

 

「ああ、いつまでの彼処に安置してあるのも可哀想だし。最高司祭様も元老長も安心するだろ。っつうわけでファナティオ。ギンを暁星の望楼まで案内してくれねぇか」

 

 ベルクーリの指示を受けられたファナティオは

 

「かしこまりました。では、付いてきなさいギン」

 

「分かりました。ファナティオ殿」

 

 ギンはそう言って、ファナティオと一緒に暁星の望楼に向かった。

 

 

 

 その後、アリスの実力を試された。

 

 試された後、剣の指南としてベルクーリに頼み込み、イーディスには神聖術の指南を頼んだ。

 

 そして、アリス、ベルクーリ、イーディスの3人はギンとファナティオが気になって、95階の『暁星の望楼』に向かったが、そこでは、ギンとファナティオが剣を交えていた。

 

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 ギンサイド

 

 俺はファナティオ殿と一緒に暁星の望楼という場所に向かった。

 

 だが、場所が95階にあるとは思わなかったぜ。

 

 望楼の中心部にあるテラス席。

 

 そこにある台座と一振りの剣。

 

 いや、アレは・・・刀だな。

 

 するてぇと、ファナティオ殿が

 

「彼処にある剣は『神穿剣』。最高司祭様の話では、『セントラル・カセドラル』があるこの土地に、1本の銀木犀の樹木と周りに広がる白妙菊の草原があったそうだ。創世神ステイシア、太陽神ソルス、地母神テラリアがもたらした神をも殺す大災害にすらも耐えきり、その大災害すらも取り込んで、1本の剣に拵えたそうだ」

 

「はへぇ~、痛みと共にある剣というわけか」

 

 まるで、俺みてぇじゃねぇか。

 

「これまで、閣下や私を含め、何人ものの騎士が抜こうとしたが、抜けずに終えた剣だ。貴様が抜けるかわからないが、試してみるか」

 

 ファナティオ殿。

 

 言葉の裏には、貴様には抜けられることはないと物語ってるぞ。

 

 まあ良い。

 

 俺は白銀の鞘に収まってる白銀の刀に歩み寄り、その柄を掴んだ瞬間、

 

 ドクン

 

 急に俺の身体が脈動した。

 

 脳裏に流れ込んでくるこの光景は地獄ともいえる大災害だった。

 

 全てを燃やし尽くす炎熱地獄。全てを凍らせる極寒地獄。全てを穿つ雷雨。全てを斬り裂く竜巻ならぬ暴風。全てを腐らせる猛毒、富栄養。干からびかせる陽光。様々な大災害の光景が俺の脳裏に流れ込んでくる。

 

 辛かったろう。痛かったろう。

 

 大丈夫。

 

 俺が一心に怒りと哀しみを受け止めよう。

 

 だから、俺の剣になってくれ。

 

 俺はそう念じて、白銀の刀を鞘ごと台座から抜いた瞬間、脈動が治まる。

 

 俺は試しに刀を抜いてみると、刀身が透き通るように滑らかな刃。

 

 フィーリングをした。

 

 した感触から馴染む。

 

 まるで、生まれたときから一緒にいるかのように感じてしまう。

 

「決めた。俺は此奴を扱うぜ」

 

 少しだけ口角を上げると、ファナティオ殿が

 

「まさか、本当に貴様が神穿剣を抜くとはな・・・」

 

「俺も驚いてますよ。それじゃあ・・・」

 

 俺は鞘を腰に納め、刀の鋒をファナティオ殿の方に向ける。

 

「何のつもりだ」

 

 ファナティオ殿は俺に向けて睨んでる。

 

「いえね。俺とイーディスの勝負で俺が本気を出していなかったことに不服そうだったので・・・本気でオメエに相手をしてあげようかと思って・・・」

 

 澄まし顔で言う俺にファナティオ殿は

 

「良いだろう。その挑戦・・・受けて立つ」

 

 彼女も剣を抜刀する。

 

 俺は白銀の刀――『神穿剣』を下ろし、自然体の構えをする。

 

 これが、いつもの構え。

 

 自然体のまま、相手を動きに反応しやすいよう、長年の戦いの経験から辿り着いた構えだ。

 

 

 

 そして――、

 

「行くぞ」

 

 ファナティオ殿が俺に斬りかかってきた。

 

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4話

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 三人称サイド

 

「なっ・・・なにが起きてるんですか・・・・・・ギンとファナティオ殿がこんな所で斬り合って・・・」

 

「私もなにが起きてるのか分からない」

 

 アリスとイーディスは暁星の望楼で斬り合ってるギンとファナティオを視ていた。

 

 これには、流石のベルクーリも頭をかいてしまうのだったが、ギンが持ってる白銀の刀を視て、

 

「やっぱり、坊主が、あの剣を持つか」

 

「小父様。ギンが持ってる剣が、さっき話してた」

 

「ああ、俺たち整合騎士全員が手にしようとして拒絶された剣だ。最高司祭様の話だと、この世界の始まりの大地に咲いていたとされる銀木犀の樹木と白妙菊の草原が、あの剣の原型。その剣の記憶には、人智を超えうる大災害を取り込んだとされてる剣だ。創世神ステイシア、太陽神ソルス、地母神テラリアがもたらした大災害・・・その痛み、怒り、哀しみ、憎しみなどがあの剣に込められてると聞かされた。神をも穿つ剣という意味から『神穿剣』と呼ばれている」

 

「神をも穿つ剣・・・それがギンの手に渡った」

 

「でも、問題はそこじゃない。騎士長」

 

「ああ、速さと重さ。いや、それを形にしてる自分こそが最強といえるだけの自信。その自信を裏付けるほどの生死を分けた数多の実戦経験。それが今、坊主を築き上げてる。何処でそれを体得したか知らねぇが、少なくとも10人以上は屠ってるな」

 

「屠ってるって・・・騎士長。それはつまり、ギンは禁忌目録を違反してることになりますよ!」

 

「確かにそうだが、まあ、これ以上、俺たちが推察しても話が纏まらねぇだろう」

 

「そ、それはそうですけど・・・」

 

「それよりも、今、目の前の斬り合いを見届けようぜ。アリスの嬢ちゃんはさっきからずっと、斬り合いを視るのに集中してるからな」

 

 イーディスはアリスを視る。

 

 彼女はギンとファナティオ。特に、ギンの動きをしかと目に焼きつけようとしていた。

 

 

 

 数度となく剣を交わってるギンとファナティオ。

 

 剣を交わってる中でギンはファナティオの正体をなんとなくだが気が付いた。

 

(この人・・・まさか・・・いや、そんなのどうでも良いか)

 

「フッ!」

 

 ギンは神穿剣を1回鞘に納めて、抜刀の構えをする。

 

 

 

 それは、対峙してるファナティオも見届けてるアリスたちも眉を顰める。

 

 ギンが剣を納め、抜刀の構えをするからだ。

 

 アリスとイーディスはあの状態から斬りかかろうとしてるのか疑問してる中、最古参のベルクーリとファナティオは

 

(ふむ。あの構えになった途端、坊主の気迫そのものが増したな)

 

(おそらく、一撃で斬り伏せる自信があるということ・・・)

 

 長年の経験から、それを見抜いた。

 

 ギンの僅かな動きで「来る」と勘付いたファナティオ。

 

 ギンは駆け出したのと同時に神穿剣を抜き放った。

 

 抜き放たれた一閃。

 

 その一閃に斬られたと分かってるファナティオ。

 

 だけど、斬られたという感じがなかった。

 

 なかったのも当然だ。

 

 ギンが斬ったのは――、

 

 ディン、カラーン

 

 真っ二つに斬り裂かれたファナティオの兜であった。

 

「悪ぃ~けど、兜斬らせてもらったぜ」

 

 ギンはファナティオの後ろにいて、振り返り様にファナティオの素顔を視る。

 

 それは、イーディスもアリスすらも彼女の素顔は初めて見たからだ。

 

 対して、ギンはファナティオの素顔を視て

 

「此奴は驚いた。綺麗な面してるんだな」

 

 彼から視たファナティオの素顔は美人のそれだった。

 

 だが、ファナティオはギンに素顔を視られたことに

 

「視たな。貴様・・・」

 

 憤りを放っている。

 

 ギンはファナティオが女であろうと関係なく睨みながら

 

「オメエと剣を交えてる中で女であることは分かっていた・・・分かっていたからこそ、俺は抜刀の構えをした。あの構えは全力でやるときにしか出さねぇよ」

 

 ギンが言ったことにファナティオは目を僅かに見開かせる。

 

「それに、俺は相手が女だろうと全力でやるつもりだ。女という理由で手加減したら、相手に失礼だし。手加減して負けたら、一生の恥だしな」

 

「恥を背負うぐらいなら、全力でたたき伏せるというわけか!」

 

「そうだ。戦いに性別云々の理由は持ち込まねぇ。手を抜いちまったら、俺の剣士としての誇りを汚しちまうことになるからな」

 

 ギンは戦いに理由など持ち込まず、獅子は全力を尽くすことを第一に考えてる男だ。

 

 ファナティオはギンの本心を聞いたのか。

 

 剣を鞘に納め、

 

「どうやら、私の負けのようだ。貴様は今までの男と違って、全力で相手をしてくれるとは・・・」

 

「負けを認めるか・・・っていうより、俺の抜刀の速度に追いつけなかったというのが応えか」

 

「そうだ。貴様の真の剣筋を確かに視させてもらった。貴様の実力は閣下を除けば、最強であろう」

 

「そうか。俺は、まだ若輩者だよ」

 

 ギンはそう言って、神穿剣を鞘に納めた。

 

 

 

 なお、アリスとイーディスはギンの抜刀の速度に目が追えず、ファナティオの兜を斬ったことに気づかなかった。

 

 だが、アリスはギンがファナティオと仲良くなったことに心なしかムッと不機嫌な視線を送った。

 

 しかも、アリス本人は自分が不機嫌なことに気が付いていなかった。

 

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 アリスサイド

 

 何でしょうか。

 

 ギンが、ファナティオ殿と話してると心がモヤモヤしてきます。

 

 今の私はもの凄く不機嫌です。

 

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 ギンサイド

 

 ん?

 

 なんか、もの凄く不機嫌ですっていう視線を感じるんだが・・・

 

 目線を視線が感じた方に向けるとアリスがムッと俺を視ていた。

 

 怖ぇ・・・。

 

 これは、アリスに逆らわねぇ方がいい気がする。

 

 俺はこの時ほど、アリスが怖いことを知った気がした。

 

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 三人称サイド

 

 アリスは50階から上階へ向かう昇降盤近くにいた。

 

「ふぅ~・・・いつになったら、1人前の整合騎士になれるのか・・・ギンはもう1人前の騎士として、任務についたというのに・・・これでは彼に追いつけないではないか」

 

 不機嫌と元気なさげに呟いてると

 

「あの、何階をご利用でしょうか?」

 

 アリスはハッとなって、昇降盤の方に視線を向け、少々驚いた表情で

 

「えっ!? あ、貴方は昇降係殿・・・申し訳ない。少しボゥ~ッとしておりました・・・」

 

 と、ここでアリスは

 

「そういえば、先日、イーディス殿にご案内いただいたときに立ち寄らなかった層がいくつかありましたね」

 

 思い出し、

 

「上は何階まで行けるのですか?」

 

「はい。この昇降盤は、80階の雲上庭園まで参ります」

 

 アリスをそれを聞いて、上機嫌に

 

「雲上庭園・・・それはきっと天界のように美しいのでしょうね?」

 

 聞き返すも昇降係は

 

「存じ上げません。私が知ってるのは、この昇降洞だけでございます」

 

「そ、そうですか・・・」

 

 少々驚いてから

 

「では、その雲上庭園まで頼みます」

 

「かしこまりました」

 

 お願いしたのだった。

 

 

 

 そして、アリスは80階の雲上庭園にやって来た。

 

 庭園の光景に心を躍らせた。

 

「ここが、雲上庭園・・・本当にカセドラルの中なのだろうか。ああ・・・なんて美しいのでしょう。想像していた景色とは違いますが、これは・・・心が安らぐ」

 

(この場所をギンにも教えたいものです・・・って!? 私・・・何故、こんな時にギンのことを気にかけてるのですか。これじゃあ、まるで、私はギンのことを・・・)

 

 この時、アリスは自分の心が昂ぶってる意味が分からずじまいだった。

 

 だけど、庭園にある木に視線を向けた。

 

「あの木はなんでしょうか。とても良い香り・・・でも、花は散ってしまってるのね」

 

 アリスは木の方へ歩み寄っていき、木を見る。

 

「どうしてでしょう・・・この散ってしまった花に、何故、こんなにも心を動かされるのか・・・」

 

 耽っていると

 

「此奴は、金木犀の木だな」

 

 急に別の声が聞こえたので、思わず、

 

「お、小父様!?」

 

 大きく反応してしまう。

 

 そこに現れたベルクーリ。

 

「よぅ、邪魔して悪いな」

 

「いえ、そんな・・・小父様もよく此方にいらっしゃるのですか?」

 

「たまにな。この時期にはいつも花を咲かせてるから見に来たんだが・・・」

 

 彼は金木犀の木を視て

 

「少し遅かったみてぇだな。残念だ」

 

「この花は咲くべき時を知っていて、自らの使命を終えたからこそ、その実を散らしているのですね。ならば、本来悲しむ撃ことではないはずなのですが・・・何故か、寂しさを覚えてしまいます。このような感情は整合騎士には不要なものなのに」

 

 悄げてしまうアリス。

 

 だが、アリスが言った言葉にベルクーリが大きく反応し、

 

「おいおい、誰がそんなこと言った? 整合騎士だって、嬉しかったり悲しかったりするだろ」

 

「ですが、我々は人界を守護する身。そのような感情は・・・」

 

「違う。もしそれだけの存在ならば、感情も痛覚も持たない人形でいいだろう? ところが、俺たちはそうじゃない。だとしたら、持っているこの感情にも意味があるはずさ」

 

「感情にも、意味が・・・」

 

「まあ、俺の持論だけどな。ギンも花が散っていたのを視た時、思いっきり悄げていたものだからな」

 

「ギンがですが?」

 

「ああ・・・だから、花が散って、寂しいと思うなら、思う存分寂しがれ」

 

「・・・はい。ありがとうございます、小父様」

 

 アリスは金木犀の木を見て、

 

「金木犀、いつかお前たちが咲いているところを私にも見せてくださいね」

 

 祈ったら、木がアリスの心意に呼応したかのように急に咲き誇ったのだ。

 

 これには、アリスもベルクーリも驚きを隠せない。

 

「えっ、これは・・・!? 散っていた金木犀が咲いている・・・!」

 

「こりゃあ・・・神聖術どころか・・・奇跡ってやつか。きっと、金木犀がお前さんの心に応えたんだな」

 

「・・・ありがとう、金木犀の花たち。とても美しくて、良い香り」

 

 ベルクーリはアリスと金木犀を交互に視て

 

「もしかしたら、この金木犀は、お前さんが来るのを待っていたのかもしれないな」

 

 彼は顎に手を当て

 

「だとすると、これは・・・」

 

 考え始めたので、アリスは

 

「どうしたのですか、小父様」

 

 聞き返す。

 

「いや・・・ちょっと思いついたことがある。また明日な、嬢ちゃん」

 

 と言って、上階へ向かう扉に足を向けるベルクーリ。

 

「あっ、はい! また明日、よろしくお願いします!」

 

 アリスは急に挨拶したのだった。

 

 

 

 そして、次の日。

 

 50階の広場でベルクーリを待っていたアリス。

 

 そこにベルクーリがやって来て、アリスに声をかけた。

 

「よぅ、嬢ちゃん。時間通りだな」

 

 アリスはその言葉に反応して、

 

「はい、小父様。今日もよろしくお願いします!」

 

 すると、ベルクーリは金色の剣をアリスに渡す。

 

「その前に・・・この剣を使ってみろ」

 

「金色の剣、ですか? これはいったい・・・」

 

 訝しむアリス。

 

「いいから、振ってみろ」

 

 ベルクーリは急かす。

 

 アリスはその剣を受け取って、

 

「では・・・」

 

 フィーリングした。

 

 試しぶりをした感触が

 

「!! この剣は・・・まるで重さを感じない」

 

 驚きを隠せずにいた。

 

 ベルクーリは納得した表情で

 

「思った通りだな。それは、昨日の金木犀だ」

 

「金木犀・・・この剣が、ですか?」

 

「ああ、昨日の様子を見てお前さんとあの木の相性が良いんじゃないかと思ってな。最高司祭殿に頼んでみたんだ」

 

 それを聞いて、アリスは

 

「ええ、確かに、私の手にピッタリです。まるで誂えたかのように・・・」

 

 ここで、アリスはあることに気が付いた。

 

「しかし、小父様! あの木を切ってしまったのですか!? 健気に花をつけていた、あの木を」

 

 おっとなるベルクーリ。彼はしっかりと

 

「いやいや、勘違いするな。あの木が、その剣の姿になっているだけだ。庭園に戻って念じれば、ちゃんと元の姿に戻る」

 

 それを聞いて、アリスはほっとした。

 

「そうですか・・・良かった」

 

 ここで、ふと思ったのは、

 

「しかし、最高司祭様は、そのようなこともお出来になるのですね」

 

「まあな、アレは・・・伊達に最高司祭じゃねぇってことだ」

 

 ベルクーリは気を取り直して、

 

「とにかく、これからはその剣で戦ってみろ」

 

「はいっ! では、早速、お手合わせをお願いします、小父様!」

 

「おう、かかってこい!」

 

 といった感じでアリスは稽古に励むのだった

 

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5話

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 ギンサイド

 

 整合騎士になってから、数日。

 

 俺は今、最高司祭様の命令で、貴族が禁忌目録違反をしていねぇかを調査の依頼が来た。

 

 面倒くせぇな。

 

 何で、整合騎士の俺がこんなことをしねぇといけねぇんだ。

 

 まあ、気にしたら、負けだな。

 

 たまには、教会に帰るか。

 

 アリスが甘えてきそうだし。

 

 いや、アリスが俺に好気的な視線を向けてくるのは知ってた。

 

 よく、ファナティオと意見交換をする際、不機嫌な視線を送ってくる。

 

 おかげで、アリスと二人っきりの時だけは逃げようにも逃げられねぇんだよな。

 

 

 

 とにかく、最高司祭様の言うとおり、貴族の跡取りを殺さず、ノーランガルス帝立修剣学院に入学した。

 

 偽造住民登録までしてもらい、平民として降り立った。

 

 季節でいうと春だな。

 

 穏やかでなによりだ。

 

 普段はカセドラルの中で生活してるから。

 

 日の光を浴びた生活は懐かしく思える。

 

 

 

 そういや、イーディスが北の果ての山脈の洞窟を調査した際、ゴブリン族が使用してたとされる剣が発見されたって話だったな。

 

 しかも、村周辺にあったギガスシダーも折られていたという話だ。

 

 協会に反旗を翻す奴がいるかもしれねぇな。

 

 大方、本音をいえば、そっちの調査なんだろ、最高司祭様。

 

 

 

 話によれば、王都に住む住民は剣術と簡単な神聖術の試験をパスすれば、入学が許可されるって話だ。

 

 軽々と門を潜って、任務を始めることにした。

 

 

 

 なんだが――。

 

「フン!!」

 

 相手の男が強烈な剣を叩き込まれる。

 

 しっかし、スゲぇ剣だな。

 

 重いし、速さもある。

 

 ハイ・ノルキア流の剣かと思いきや、我流で来るとは思わなかったぜ。

 

「ぐっ! くそっ!」

 

 俺は片手で受け止めるので精一杯だ。

 

 こんなのベルクーリの剣以来だ。

 

 俺は相手の重い剣を自分の剣を斜めにして、受け流し、玉砕覚悟で先輩の懐に入る。

 

 全く、得意分野じゃねぇ剣で振るのは嫌な気分だぜ。

 

 剣の柄を左手で握り、左腰へと溜め込みながら走り込む。

 

「ハアァ!!」

 

「甘い!!」

 

 力を込めて、前に斬り出した剣を、相手は両手で上から叩きつけるかのように振るった剣でねじ伏せる。

 

 巧みに剣を扱いこなす。

 

 それは学びてぇものだぜ。

 

 だけど、なんて想いの籠もった剣だ。

 

 おそらく、自分こそが最強だと自負してるからだろうな。

 

 だが、俺も完全無欠にして最強の整合騎士だ。

 

 負けられねぇんだ。

 

 力と力が拮抗してる。

 

「その程度か。その程度では、この俺には勝てないぞ!」

 

「分かっていますよ。ランス先輩」

 

 

 

 俺が今、相手をしてるのは、ランスことランス・ギネビア。

 

 学院の中で3席の成績を収める猛者だ。

 

 学院内での噂じゃあ、剣の腕だけは最強といっても過言じゃねぇほどの実力者とのことだ。

 

 この1年。

 

 ベルクーリとは違った意味で重い剣を放つ剣士は初めてだ。

 

 寸止めとはいえ、数本しか取れねぇというのは屈辱的だな。

 

 まだまだ、精進できるということだ。

 

「最後なんで、先輩も本気で来てください」

 

「言われなくてもそのつもりだ」

 

「本気で倒してやる」

 

 俺は右脚を後ろに下げ、抜刀の体勢に入る。

 

 先輩も先輩で構える。

 

 俺と先輩が同時にスキルを発動させる。

 

 俺は僅かに抜刀しそうになったとき、刀身を紅いライトエフェクトが満たしていく。

 

 それと共に、甲高い音が修練場に響き渡る。

 

「それこそ、この俺が待ち望んでいた技だ!」

 

「行くぜ!」

 

「こい!」

 

 俺と先輩は同時に地を蹴って、単発技を繰り出した。

 

 俺が抜刀術を用いて繰り出した技は『アインクラッド流単発技《絶空》』。

 

 対して、ランス先輩は『ハイ・ノルキア流《天山烈波》』。

 

 どちらも威力は高く、並大抵の攻撃では防ぎきれねぇ技だが、目の前に起きてることが異常である。

 

 修練用の木剣で抜刀術を披露するとはな。

 

 全く、この世界はつくづく、俺を楽しませてくれる。

 

 俺と先輩の剣は互いに押し込もうとせめぎ合い、膨大な熱を発してる。

 

 いくら、最高級の白金樫製とはいえ、これほどとなると相当な天命を削るはずだ。

 

 力の大きさだったら、整合騎士である俺の方が完全に上だ。

 

 だが、先輩も想いも伊達じゃねぇってことだろ。

 

 先輩は最強である自負と必ず、主席を取るという強ぇ想いが籠もっていやがる。

 

 だが、俺も最強の整合騎士である想いとアリスと一緒にいたいっていう想いで先輩の剣と拮抗してる。

 

「ハアァァァァ!」

 

 力を込める、想いを乗せる。

 

 そして――、

 

 バッ、キャーン!!

 

 先輩の剣を俺の剣をへし折った。

 

 へし折れた剣の鋒は俺の後方の床に落ちた。

 

 すると、そのタイミングで

 

「そこまで! この勝負ギン初等練士の勝ちとする!」

 

 そう締めくくったのは茶髪の男性――ウェイン・マーゴリー上級修剣士だった。

 

「「ありがとうございました」」

 

 お互いに『騎士の礼』をした。

 

「強くなったものだ。これで心置きなく最後の試験に臨める」

 

「最後しか勝てねぇようじゃ。まだまだすよ」

 

「ずっと負けてたら、俺の存在意義が分からなくなってしまう」

 

「そりゃ、そうですね」

 

 俺も先輩も笑みを零すのだった。

 

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 三人称サイド

 

 夕食を終えたギンは学院の先生の目を盗んで、学院内の誰も知られていない場所に移動した。

 

 周りに誰もいないことを確認してから、ギンは闇夜に隠れる者に声をかけた。

 

「イーディス、俺だ」

 

「もう、こんな夜更けでしか会えないなんて酷いものね、ギン!」

 

「不機嫌そうになるな。ほら、此奴が北域の果ての山脈における調査書だ」

 

 ギンは懐から便箋をイーディスに渡し、彼女は便箋に入ってる2人の人物の経歴を見る。

 

「あれ? 名前だけね。平民出なの?」

 

「ああ、俺も最高司祭様に、命じられた通りに平民としてこの学院にいるんだからな」

 

「ふ~ん。とにかく、この2人が要注意人物というわけね」

 

「ああ、このことは最高司祭様、元老長、閣下、副騎士長様に伝えておいといてくれ」

 

「分かった」

 

「それで、そっちはどうだい? アリスは今も不機嫌か?」

 

 ギンは、カセドラルにいるアリスのことを気に掛ける。

 

 すると、イーディスは

 

「一言で例えるなら、不機嫌ね。騎士長との稽古に励んでるけど、ギンがいないから日に日にフツフツとしてるわ。今じゃあ、ファナティオと馬が合って、愚痴を話してるそうよ。私にも愚痴を言わされたんだからね」

 

「お、おう・・・任務を終えたら、アリスの言うことを聞かねぇといけねぇようだな」

 

 ギンはヤンデレになりそうなアリスを想像して、愛想つかないようにしようと決めたのだった。

 

「あと、教会の外の貴族には飽き飽きしてる。最高司祭様や元老長に言っても無理だろうな」

 

「そこまでなの。これじゃあ、もし、東の大門が崩壊したとき、人界を守り切れるかどうか」

 

「それはおいおい、考えよう。とりあえず、イーディスはこのことを上に報告してくれ。俺はそろそろ、部屋に戻るよ。じゃあ」

 

 ギンはそう言って、自分の寮の部屋に戻っていった。

 

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6話

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 ギンサイド

 

 俺には、幼馴染みがいる。

 

 いや、この世界での幼馴染みだな。

 

 それは、キリトとユージオだ。

 

 入学当初は彼奴らが修剣士学院で再会するとは想わなかったが、その時になって理解した。

 

 キリトとユージオがゴブリンを返り討ちにし、ギガスシダーを切り倒したのだと・・・。

 

 はてさて、彼奴らがどうやって、禁忌目録を違反するのか興味が湧いちまうぜ。

 

 それで、今日は安息日。

 

 俺は今、キリトとユージオと一緒に行動してる。

 

 明日が、上級修剣士の剣術試合がある。

 

 ランス先輩とウェイン先輩が出るから応援するけど、あの2人はおそらく、部屋で瞑想でもしてるんじゃねぇかなと俺は思ってる。

 

 そういや、キリトはソルティーナ先輩の傍付きだったな。

 

 次席でメリハリのある実力者だ。

 

 ユージオの傍付きであるゴルゴロッソ先輩は見た目通りに筋肉マニアだから座禅とか筋トレしてるんだろな。

 

 まあ、皆、全力を尽くすことだろうよ。

 

 整合騎士である俺には関係ねぇことだけど・・・。

 

 とにかく、問題だけは起こしたくねぇな。

 

 という思いで、学院に来たんだが、中々に面白ぇ奴や流派があって、今でも満足してる。

 

 そんなわけで1ヶ月ぶりの安息日を堪能することにした。

 

 

 

 したのだが、強面の店主が額に青筋を浮かべて、立っていやがった。

 

 怖ぇな。

 

 

 

「視ろぃ、この有り様を!」

 

 濁声と共に俺を除いたキリトとユージオが萎縮する。

 

 俺は何で、萎縮しねぇかって・・・デュソルバートの方が怖ぇに決まってるだろうが・・・。

 

 そして、机の上に、ガランガランと音を立てて、四角い石版がいくつも投げ出された。

 

 厚さが2センチ以下にまで薄くなっていやがる。

 

 見たところ、砥石のようだな。

 

 あれって・・・確か・・・

 

「東国特産の砥石『黒煉岩』じゃねぇか。どんなに扱っても3年は持つとされてる」

 

「おぉ~、銀髪の坊主、知ってるじゃねぇか。そうだ。此奴は普通3年も保つのに、1年で6個も欠損したわい」

 

「す、スゲぇ~、出費だ」

 

 これには、俺も顔を引き攣っちまう。

 

 

 

 その後も、店主も怒りの愚痴を散々聞かされ、店主はカウンターの下から両手を使って白い布にくるまれた物体を取りだした。

 

 ゴトンと重量感のある音を響かせてカウンターの上に置かれた。

 

 布越しにも伝わってくる。

 

 此奴は『神器』だ。

 

 しかも、俺たち整合騎士にも劣らねぇほどの剣だ。

 

 それよりも、金は大丈夫なのか?

 

 キリトは安息日の時、目を離すと買い食いを平気でやる阿呆だぞ。

 

 貯金なんてわりかしねぇと思うんだが・・・

 

 俺は最高司祭様から渡された金銭があるから問題はねぇ。

 

 想いを抱きつつ、キリトの試し振りを見届ける。

 

 片手剣縦斬りによる風圧を肌で感じとる。

 

 やっぱ、キリトは重い剣を振る方が似合ってる。

 

 アインクラッドの時よりもさらに強くなってるようだな。

 

 守るべき者が出来たようだな。

 

 

 

 その後、剣の代金に関してはキリトが試し斬りしたことで無料となって、大満足のように蜂蜜パイを食っていやがる。

 

 帰り際に

 

「帰ったら、俺は試し振りしようと思うから先に部屋に戻ってくれるか?」

 

「視たかったけど、僕はゴルゴロッソ先輩と話をする予定だったから気にしないで。キリトの気が済むまで振ってなよ」

 

「俺は視ていくよ。部屋に戻っても寝てるだけだし。それとも相手になってやろうか?」

 

 俺の提案にキリトとユージオは眼をパチクリさせた。

 

 だけど、キリトが悪戯小僧のような笑みを浮かべたので、心配は杞憂に終わりそうだ。

 

「喜んで、お願いしようかな。俺より上の剣術を持つギン初等練士」

 

「喜んで、相手をしようじゃねぇの、キリト初等練士。じゃあ、部屋から剣を取ってくるから先に行ってろ」

 

「了解~」

 

 俺はユージオと一緒に寮の自室に向かった。

 

 自室から愛剣――『神穿剣』を手にして、キリトが待つであろう空き地へと足早に向かった。

 

 俺とキリトは人に魅せるような剣術じゃねぇ。

 

 誰かを守るために使う剣術だ。

 

 キリトはアスナたちだろうが、俺はアリス。そして、幼馴染みのユン。『八帝武将』のスカイたちを守らねぇといけねぇんだ。

 

 そのために、俺は日々、鍛錬に明け暮れている。

 

 

 

 俺は初めから圧倒的に強かった。

 

 だからこそ、完全無欠にして最強の整合騎士である0の数字を与えられた。

 

 今、俺が持ってる『神穿剣』。

 

 数ヶ月ぶりだったか教会にいるアリスと同じように不機嫌そうに重みが伝わってきやがる。

 

 怒るなよという感じで柄を撫でると大人しくなった。

 

 いつもは、ヤンチャだが、真面目な剣だ。

 

 だけど、主の俺と一緒にいねぇとアリスのようにすぐに不機嫌になる。

 

 全く、困ったものだ。

 

 足早に空き地へ急いだ俺。

 

 キリトのことだから、人気のないところに向かうはずだ。

 

 連続技を扱うのはファナティオか『ダークテリトリー』の暗黒騎士だけという話だ。

 

 ファナティオに関しては『神穿剣』をもって以来、何度か斬り合ってる。

 

 俺に負かされて以来、腕を上げようと邁進した。

 

 

 

 おっと、キリトを発見した。

 

「キリト、みっけ」

 

「おわぁ! いきなり、声かけるなよなぁ」

 

「おや、かの『黒の剣士』さんも急な声かけには弱ぇとみえますな」

 

「言うじゃないか、『剣帝』」

 

 睨み合ってしまう俺とキリト。

 

「じゃあ、始めようか」

 

「ああ、そうしようぜ、ギン」

 

 フゥ~ッと息を吐いた瞬間、俺から放たれた気迫が周囲の木々を揺らした。

 

 キリトも俺の変化に気が付いて、集中力を上げた。

 

「行くぜ」

 

「おう」

 

 俺は剣を抜き水平に構え、キリトは剣を高く掲げる。

 

 ライトエフェクトが刀身に灯りだした瞬間、

 

「ハアァァァァ!」

 

「セアァァァァ!」

 

 俺は『絶空』、キリトは『スラント』を使用する。

 

 ライトエフェクトが激しく光り、刀身の接触点からこれでもかというほどに火花が零れる。

 

 俺とキリトは互いに実力を知ってる。

 

 かつて、アインクラッドで嫌というほど剣を交えた。

 

 試し斬りだろうと、俺とキリトにはそんなのを忘れるほどに――。

 

「ギンは『絶空』か」

 

「キリトこそ『スラント』じゃねぇの」

 

「お互い、手の内を読まれてるようだな」

 

 鍔迫り合いになるも、すぐに解除し、距離を取って、次のソードスキルに入る。

 

 俺は刀の連続技『緋扇』。キリトのは・・・アレは・・・『ホリゾンタル・スクエア』か。

 

「ハッ!」

 

「ッし!」

 

 キリトは4連撃に対して、俺は5連撃。1撃は決められる。

 

 俺はキリトの攻撃を捌き、5連撃を決めようとする。

 

 決めようとするも、不意に人の気配を感じとって、動きを止めた。

 

 俺が止めてしまったことで、キリトに優位にさせてしまう。

 

 キリトが左肩に担ぐように剣を引く。

 

 アレは・・・5連撃以上のソードスキルだ。

 

 だが、見たところ、5連撃以上は出来ていねぇようだ。

 

 それなら、どうにか対処ができるが、問題は・・・

 

 俺は隠れてみてる先輩に眼を向ける。

 

 もちろん、大半をキリトに向けてるがな。

 

 そして、キリトが動いた。予備動作ナシとは本当に成長したようだな。

 

 俺は少しだけ口角を上げるも、今回ばかりはキリトに譲るとしよう。

 

 俺はバックステップを取って後方に下がる。

 

「うおっ!」

 

「ッ!」

 

 鼻先を微かに掠め取る。

 

 振り下ろされた鋒が地面に突き刺さる。ダメージ軽減を阻止するため、地面に食い込んだ剣を背後に振り抜いた。

 

 その際、泥が僅かに俺にかかったが、もっともな問題にさしかかった。

 

 まあ、今回はオメエさんに譲るよ、キリト。

 

 俺は神穿剣を納刀する。

 

 ん? どういうことだって、キリトは気が付いていなかったが、俺たちの背後には、1人の男がいたんだ。

 

「ごめんね、キリト」

 

 俺はキリトに謝罪した。

 

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7話

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 三人称サイド

 

 現在、修剣学院大修練場にて。

 

 キリトはリーバンテイン主席と対面してる。

 

 理由は制服を汚してしまったという懲罰をするからだ。

 

 ちなみにギンはリーバンテイン主席の気配に勘付いて、キリトに懲罰を促せたのもあるが、それはそれ。これはこれだ。

 

 だが、問題はそのことが学院内に知れ渡ったことだ。

 

 そういうことでギンとキリトはユージオからお叱りを受けていた。

 

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 ギンサイド

 

 俺はユージオのお叱りには問題ねぇ。

 

 だが、アリスに関しては容赦がねぇ。

 

 彼奴・・・俺が無茶なり、問題な理を起こすと、無表情でヘッドロックなり、鯖折りなりと苦痛じみたことを平気でやってくる。

 

 何でも、ファナティオがアリスに教え込んだらしい。

 

 おのれ、ファナティオめぇ!!

 

 あと、もし、これが、イーディス経由でアリスに知れ渡ったら、俺、生きてる気がしねぇ。

 

 俺は思い出すだけで寒気がするわぁ~。

 

 俺はそんなことを思ってた。

 

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 アリスサイド

 

 ハァ~。

 

 早く、ギン。任務から帰ってこないでしょうか。

 

 イーディスはいいですよ。

 

 ギンからの報告を聞けるのですから。

 

 ハァ~、ギンに会いたいな。

 

 

 

 しかし、私はイーディスから報告でギンが少々問題を起こしたことに苛立ちが募りました。

 

 全く、ギンは私がしっかり、手綱を握らないとなにをしでかすか溜まったものじゃありません!!

 

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 三人称サイド

 

 懲罰に関していえば、アズリカ女史によって、止められたが、引き分けに終わったことは唯一の事実だ。

 

 ギンは観客席からランス先輩とウェイン先輩と一緒に見ていた。

 

 先輩方はキリトの連続剣に中々の興味を覚え、「いずれ、相まみえたい」と口にしていた。

 

 

 

 その後、キリトの傍付きであるリーナ先輩の提案で、『引き分けおめでとうの会』をそれぞれの上級修剣士と一緒にワインを開けることになった。

 

 お酒に慣れてるのが、ギンとランス先輩のみで、キリトとリーナ先輩はギリギリ大丈夫だが、ユージオとゴルゴロッソ先輩は酔いつぶれてしまう結果になった。

 

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 ギンサイド

 

 俺は今、学生寮から離れた誰にも気づかれねぇ場所に来てた。

 

 それは――、

 

「全く・・・キリトを相手にすると、ついつい・・・本気を出しちまいたくなるな」

 

 俺は愛剣の『神穿剣』を抜き、軽く素振りした。

 

 まあ良い。

 

 それよりも・・・

 

「気配を隠すなら、もう少しだけ修行した方が良いぞ・・・イーディス」

 

 俺は闇夜に隠れてる彼女の名前を呼ぶ。

 

 するてぇと、

 

「やっぱり、バレてたか」

 

 闇夜から現れたのは、東方の任務に行ってたはずのイーディス。

 

 しかも、騎士の鎧を着込んだままだ。

 

「全く、鎧だけはどっかに隠せよ。それとオメエ、一時帰宅か」

 

「いいえ。元老長たちの目を盗んで、王都にやってきたの」

 

「呆れた」

 

「でも、今日は良い物を見せてもらった」

 

「良い物?」

 

 はて、彼女が良い物を見たのはいったい何だ?

 

「ギンが、少々問題を起こしたの。この眼で見ちゃった」

 

「なっ!?」

 

 お、おい・・・マジで言うてんのか!?

 

「しかも、それをアリスに伝えちゃった」

 

 や、止めろよ。

 

「一時帰宅したら、アリスに半殺しにされちまうじゃねぇか!?」

 

「そもそも、ギンが問題を起こさなければ、アリスにこんなことを伝えなかったんだよ」

 

「ごもっとも・・・」

 

「だから、一時帰宅の際は、アリスにうんと叱られなさいな」

 

「今から、憂鬱だよ」

 

 ハァ~ッと思わず、溜息をついちまうのだった。

 

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 三人称サイド

 

 三月末、卒業試験が行われ、セルルト・ソルティーナ先輩が主席で卒業し、ゴルゴロッソ・バルトーは4位。ランス・ギネビアは3位。友人であるウェイン・マーゴリーは5位という結果で幕を閉じた。

 

 卒業式後、ギンは先輩方に「腕を上げて、再び、剣を交えよう」と誓い合った。

 

 

 

 ギンは卒業式後の次の日。

 

 検定試験を4位という成績を収めた。

 

 もちろん、()()()()()だ。

 

 整合騎士であるギンは本気を出す相手を決めてる。

 

 それ以外には不用意に本気を出す気はない。

 

 検定試験終了後、一路、ギンは公理教会の方に一時帰還する。

 

 それは、新しい整合騎士が召喚されるからだ。

 

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 ギンサイド

 

 一時帰還する俺。

 

 一時帰還すると、速攻でアリスからのお叱りを受けてしまう。

 

「あ、アリスよ・・・このままじゃあ・・・・・・俺の右腕が折れちまう」

 

「むしろ、折りなさい! いえ、折ってあげます!」

 

「り、理不尽だぁ!」

 

 い、痛ぇえええええ!!

 

 ほ、骨が軋むぅ~!!

 

 あ、アリスよ。無表情でニコニコと笑わねぇでくれ。

 

 余計に怖ぇと思っちまう。

 

「あ、アリス・・・今日は新しい整合騎士が召喚される日だ。俺はそのために一時帰還をしたんだぞ」

 

「わ、分かっています」

 

 おっ、照れ隠しに拗ねるアリスも可愛ぇな。

 

 

 

 その後、俺は一時帰還したことを閣下と副騎士長様に報告したところで、新しく召喚された整合騎士が姿を現した。

 

 見目麗しい男性だった。

 

 彼は俺とアリスのもとにやって来て、

 

「私はつい先ほど、天界から召喚された整合騎士――エルドリエ・シンセシス・サーティワンと申します」

 

「そうか。俺はギン。ギン・シンセシス・ゼロだ。ギンと呼んでほしい」

 

 俺はエルドリエに自己紹介すると、次にアリスが

 

「私はアリス・シンセシス・サーティ。アリスと呼んでほしい」

 

「分かりました。アリス様、ギン様」

 

 様って呼ばれるのは気恥ずかしいが、しゃあねぇことだろな。

 

 俺は一回息を整えてから、

 

「召喚された身で若輩だからな。誰か師匠をもって、腕を磨いた方が良いぞ」

 

「分かりました。ギン様」

 

「じゃあ、俺は任務地に向かいます」

 

 俺はそう言って、アリスとエルドリエと別れた。

 

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 アリスサイド

 

 ギンがすぐさま、任務地に向かってしまいました。

 

 エルドリエが私に質問を投げかけてきた。

 

「アリス様。ギン様はご多忙なのですか」

 

「ギンは最高司祭様から潜入任務を任されています」

 

「潜入任務ですか。私よりも若く、もう任務を・・・」

 

「ええ、私も正式になって、まだ任務についていない身なので喜ばしいことです」

 

 私は遠ざかっていくギンを視て、少しだけ笑みを零す。

 

「それで、エルドリエ。お前は誰を師匠にする気ですか」

 

 私の問いにエルドリエは思案なさってから、

 

「ギン様に教えを請いたいものです」

 

「そうですか。ですが、ギンは任務から一時帰還をしてる間だけですが、よろしいですか?」

 

「構いません。私はギン様のご指導を受けたいのです」

 

 エルドリエの眼を見て、私は

 

「分かりました。そのことは私の口からギンに伝えておきます。ですが、ギンの帰還してくるまでの間は私が貴方を指導します。よろしいですね」

 

「では、早速、指導に入りましょう」

 

「ありがとうございます、アリス様」

 

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8話

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 三人称サイド

 

 ランス先輩方が卒業してから、時が流れた。

 

 現在、ギン、ユージオは若干、困惑していた。

 

 現実逃避ではなく、困惑してるのだが、自分ら以上に緊張してる生徒がいるからだ。

 

「ユージオ上級修剣士殿、ご報告します! 本日の清掃滞りなく完了いたしました!」

 

「お疲れ様、ティーゼ」

 

「ギン上級修剣士殿、報告します! 本日の清掃終わらせました!」

 

「ご苦労さん、ラゴン」

 

 灰色の制服を着込んで、僅かな幼さが残る紅髪の少女と金髪の少女が、キビキビという言葉を体現したかのように報告してくれた。

 

 実際、ユージオは当時のことを思い出し、ギンはというと・・・

 

「・・・・・・」(-_-)゜zzz…

 

 ソファの上で寝てるのだった。

 

 ユージオは読み古した『神聖術』の本から顔を上げて彼女らを労う。

 

「ごめんよ、ロニエ。いつも、終わる頃には戻ってくるようには言ってあるのに・・・ギンはただただ、眠りたいだけだけど・・・」

 

「い、いえ、報告を完了するのが、傍付きの任務ですから!」

 

「ギン先輩はいつものように眠っていますね」

 

「ギンは寝るときはとことん寝てるよ。でも、起きるときはすぐに眼を覚ますから問題ないんだけどね」

 

「なるほど。つまり、私が報告を終えたからギン先輩は寝たのですね」

 

 ユージオはラゴンらと一緒にギンのことで話してると、急にギンが眼を覚まして、

 

「ようやく、帰ってきたぜ」

 

 彼がそう言うと、窓から何故か、キリトが姿を現した。

 

「キリト上級修剣士殿、ご報告します! 本日の掃除終了しました!」

 

「はい、ご苦労さん」

 

「あのね、キリト。彼女たちはお前の何倍も忙しいんだから。掃除が終わるまでに戻ってきてあげなよ」

 

「無駄だろ、ユージオ。キリトの自由奔放は生まれつきだ。直せるようで直せねぇぞ」

 

「酷くないか、ギン!」

 

「それで、何故、窓から顔を出すんだ」

 

「東3番通りから帰ってくるのは、この窓が最短距離なんだよ」

 

「ほれ、視ろ、ユージオ。此奴の自由奔放は生まれつきだって・・・」

 

「うん。それは言えてるかも・・・」

 

「ユージオも酷くないか!」

 

 ギンとユージオから見放され、キリトが怒るも2人は無視して、彼が来たところを思い出した。

 

 

 

 その後、蜂蜜パイを3つほど回収し、残りをロニエ、ティーゼ、ラゴンにあげた。

 

 3人はそのまま、寮に速攻に帰ったのだった。

 

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 ギンサイド

 

 全く、疲れるものだぜ。

 

 イーディスからの報告でエルドリエが俺の弟子になったこと。

 

 その弟子をアリスが鍛えこませてることだ。

 

 こっちはこっちでラゴンを鍛えねぇといけねぇから板挟み状態だよ。

 

 

 

 まあ、それも俺が上級修剣士になっちまったからな。

 

 しっかりと役目を果たさねぇとな。

 

 俺は整合騎士である以上、『帝国剣武大会』にでなくても良いんだが、キリトとユージオがいる以上、同調せざるを得ない。

 

 まあ、彼奴らが問題を起こした際に、正体を現すとするかねぇ。

 

 全く・・・0番目の騎士の俺がこうして、後輩育成をしてるんだからな。

 

 

 

 それにしても、ラゴンの剣を重みのある鋭きものだ。

 

 だが、速さが足りてねぇな。

 

 『ハイ・ノルキア流』の剣だけど、アレはあれで速さがねぇのが難点だ。

 

 だけども、ラゴンはラゴンで完成されてた剣だ。

 

 アレを壊すのは難儀だが、それじゃあ、『剣帝』の名折れだ。

 

 しゃあねぇ。ラゴンには、数多の剣筋を叩き込ませるとするかねぇ。

 

 

 

 そういや、明日は『神聖術』の試験だったな。

 

 俺やユージオはともかく、キリトは『神聖術』を特に嫌っていたな。

 

 彼奴って根っからのピュアファイターだからな。

 

 俺は『神聖術』を鬼道や魔法のように考えてる。

 

 そのおかげで、『神聖術』を問題なく扱える。

 

 さてと、ユージオは今頃、修練場で剣の修練に励んでおるだろうから。

 

 俺も自己修練に励みますかね。

 

 俺は神穿剣を手に、誰もいねぇお気に入りの場所に向かうのだった。

 

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 三人称サイド

 

「ハアァァァ!」

 

「フッ」

 

「な!?」

 

 上段から斬り下ろしを下段から斬り上げて木剣を弾き飛ばす。

 

 弾き飛ばされたことに驚くラゴン。

 

 足を滑らせる流れで、ラゴンの懐に入ったギンは彼女のおでこに軽くデコピンした。

 

「痛っ!」

 

 負けたことに対する悲鳴を上げた。

 

「これで、まず、1本だな」

 

「ムゥ~」

 

「負けず嫌いなところはいいが、攻撃が一直線すぎる」

 

「うぐぐぐ」

 

 プイッとふてぐされるラゴンに、ギンはハアと頭をかきながら、

 

「安心しろ。オメエには、俺が今まで叩き込まれた剣を叩き込ませるから」

 

「ギン先輩」(☆。☆)

 

 眼をキラキラさせるラゴン。

 

 ギンはその前に確認事項を聞いてくる。

 

「それで、明日の準備は終えてるのか」

 

「はい。既に終えております」

 

「ならいい。それじゃあ、1回だけ、オメエさんも視たことがねぇ剣を見せてやる。しかと目に焼きつけな」

 

「はい!」

 

 ギンは木剣を右手に持って、ラゴンに近づく。

 

 ラゴンは木剣で受け止めようとするも、ギンはすんでの所で右手から木剣を放す。

 

「え?」

 

 ラゴンはこんな状況下で、剣を手放したことに目を見開く。

 

 だが、それが隙となった。

 

 手放された木剣を左手で掴み、斬り上げる。

 

 斬り上げた木剣はすんでの所でラゴンの首に止まった。

 

 ハアハアと息を絶え間なく吐いてるラゴン。

 

 ギンは力を抜いて、木剣を納めながら、

 

「今のも剣術の1つだ。相手の呼吸をずらし、隙を突く剣だ」

 

「今のが・・・・・・そう、なんですか。対応、できません、でした」

 

「始めて見た奴は大概そうだ。だが、こういった剣を知っておいといた方が良いと思うぞ。案外、正攻法すぎるのも逆に読まれやすいものだからな」

 

「はい。勉強になりました」

 

「なら良し。本日の修練は今をもって終了する」

 

「ご教授ありがとうございました!」

 

 一礼して、修練場をあとにするラゴン。

 

 彼女を見送るが、ギンはその場に残る。

 

 それは、自分の自主練に入るからだ。

 

 自分の剣筋を確かめることにした。

 

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 ギンサイド

 

 明日、ラゴンたちの親睦会がある。

 

 それ自体は問題ねぇが、キリトが根っからの女性と話すのが苦手だ。

 

 だったら、何故、アスナと話せたんだよ。

 

 いや、最初の頃はよく口喧嘩してたものだな。

 

 俺もアスナとは口喧嘩していたな。

 

 まあ、俺は女の子と話せる方だ。

 

 静さんも美羽ちゃんがいるから問題ねぇけど、彼奴は女性と話すところ、視たことねぇな。

 

 まあ良いか。

 

 明日、俺は日当たりの良いところでお昼寝でもするかな。

 

 決めたら、神穿剣がカタカタと震えた。

 

「しゃあねぇな。オメエにも明日は日の光をたっぷり浴びさせてやるよ」

 

 愛剣に言った。

 

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9話

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 三人称サイド

 

 次の日。

 

 予定通り、親睦会が行われた。

 

 ロニエ、ティーゼ、ラゴンが用意したランチを口にして、ギンが用意した紅茶を飲んでると、ティーゼが質問を投げかけてきた。

 

「失礼だと思いますが、ユージオ先輩方はどのような関係だったんですか? 詳しくお聞きしたいんです」

 

 という質問にユージオが

 

「前にも話したとおり、僕とギンは幼馴染みなんだ。8年間離ればなれだったけど。キリトは2年前から一緒にいる相棒だよ」

 

「ギン先輩とは何故、離ればなれだったんですか?」

 

「えぇ~ッと・・・」

 

 ユージオはなんて言えば良いのか分からなかった。

 

 ギンに目配せすると彼は

 

「事情があって、別々に暮らしてたんだ。詳しいことは聞くなよ」

 

「詮索はしません! 再会できた際はどうでした?」

 

「俺は全然、むしろ、ユージオがこの学院にいたことにビックリしたわ」

 

「僕も同じだよ。まさか、学院でギンと再会できるとは思ってもいなかったから」

 

 ユージオは当時のことをティーゼたちに話した。

 

 

 

 話し終えたら、ラゴンが質問する。

 

「あの、キリト先輩とユージオ先輩の流派は『アインクラッド流』と聞きましたが、ギン先輩は流派は何なんですか?」

 

「ん? 俺か? 俺は『我流』だ」

 

 ギンが応えたことにラゴンだけじゃなく、ロニエとティーゼもピシッと固まってしまう。

 

 我流。つまり、自己流である。

 

 この世界の剣術流派は多数存在するが、ギンの場合はそれがない。なのに、ソードスキルが発動できるのだ。

 

 ここで、キリトが思わず、呟いてしまう。

 

OSS(オリジナルソードスキル)か」

 

「なにそれ、キリト?」

 

「自分で技を編み出すんだ。『ハイ・ノルキア流』のように流派を生み出す」

 

「じゃあ、ギンは自分だけの流派を編み出したということなの」

 

「ああ。だが、それは、夥しいほどの修練をしないといけない。何故なら、『セルルト流』を編み出したように1から編み出すようなものだからな」

 

「そっか。でも、『アインクラッド流』と同じように1からつくりあげるなんて凄いよ」

 

 ユージオがギンを褒めるとラゴンが

 

「ギン先輩! 私にも先輩の流派を教えてください!」

 

 眼をキラキラさせて見つめてくるラゴンにギンは

 

「とっくの昔に、基礎から叩き込んでるよ」

 

「え?」

 

「指導時間を使って、オメエには、剣とは、武器とはなにかから剣術の基礎を徹底して叩き込んでるところだ」

 

 ギンは今までの指導時間中に自分の技を叩き込ませていた。

 

「じゃ、じゃあ、ギン先輩は既に私に先輩の流派を教えてもらってたのですか!」

 

「そうだ。だから、そう眼をキラキラさせんな」

 

 ギンは眼をキラキラさせてるラゴンに注意した。

 

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 ギンサイド

 

 食後の休憩を終えてから、ラゴンたちから、別の指導生の変更申請を頼み込んできた。

 

 なので、俺はこう呟いた。

 

「その上級修剣士は『禁忌目録』のグレーゾーンをやってるんだろよ」

 

「グレーゾーン?」

 

「つまり、『禁忌目録』の禁止事項に抵触しねぇギリギリのことやってるわけだ」

 

 こうなったら、俺が動かねぇといけねぇな。

 

 そうなると、こういった関係はいつまで続くか分からねぇぞ。

 

「それで、その指導生は誰だ?」

 

「ウンベール・ジーゼック次席上級修剣士殿です」

 

 奴さんか。

 

 となれば、主席の彼奴も同罪だな。

 

 全く、貴族としての尊厳どうなんだろうね。

 

 

 

 その後、ユージオの話だと、ユージオはウンベールを勝ち越した。

 

 負けた腹いせに傍付きにあたるのかよ。

 

 無駄に高ぇ自尊心だこと。

 

 問題を解決しようとすれば、禁忌目録を違反することになる。

 

 その際には、俺が力尽くで止めねぇといけねぇな。

 

 

 

 ラゴンたちは『自分たちよりも下の立場の者たちに同情するな。同じ立場であると考えろ』という家訓を親から教え込まれてるようだが、上級貴族はそうはいけねぇ。

 

 そのわけも大体は分かる。

 

「欲望だよ。人間が持ってる欲望だ。ウンベールもライオスといった上級貴族は支配欲で下級貴族を支配してぇんだろうよ。ついでに言えば、『禁忌目録』の絶対性だ」

 

 俺が言ったことにラゴンが

 

「『禁忌目録』の絶対性?」

 

「そう。まあ、理解できねぇかもしれねぇけど、頭の片隅に置いておきな。完璧とか絶対とか永遠とか存在しねぇんだよ。陳腐な言い回しになるが、それは事実だ。なればこそ、人は完璧に憧れ。それを真似ようとするとか。『禁忌目録』は絶対であり、逆らっていけねぇとされている」

 

「? 『禁忌目録』は絶対なんだから、逆らう方がおかしいと思うけど・・・」

 

「それはユージオの考えだ。キリト、キミはどうなんだい?」

 

 俺はキリトに話を振ってみると

 

「俺は『禁忌目録』は絶対とは思えないな。禁止されていなくても禁止だと思うし。逆に禁止していても、時には、それを破らないといけない気がするんだ」

 

「それが、キリトの考えだ。じゃあ、俺の考えはというと、完璧や絶対に何の意味がある。なにもない。なにも、なに1つだ。俺は完璧に嫌悪する・・・完璧ということはそれ以上はない。そこに人の考えも立ち入っちゃいけねぇんだ。結論からいえば、完璧、絶対というのは絶望なんだ」

 

「どうして、絶望なんて言い切れるの、ギン?」

 

「ならば、我々、人というのは、何故、死というのがある?」

 

「そ、それは・・・」

 

「考えたことがねぇだろ。人というのは、可能性を秘めた種族なんだ。誰もが想像しねぇことを模索しようとする。だが、そこに『禁忌目録』という絶対なる縛りがあるせいで、その考えを断ち切ってるんだよ。だから、俺は完璧や絶対というのを絶望と捉えてだよ」

 

 俺はそう締めくくって、自分の考えを言い切った。

 

 まあ、俺の考えは理解しづれぇだろうな。

 

 おそらく、キリト辺りなら気が付くと思うけど・・・。

 

 それはそれ。これはこれだ。

 

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 三人称サイド

 

 その後、キリトとユージオ、ギンはライオス、ウンベールに忠告に入るも、彼らはうんともすんともという反応だった。

 

 だが、帰り際にギンは

 

「一応、忠告した。もし、貴殿の傍付きが怪我をしたら、教官たちが動くし。最悪の場合は、()()()()()()()()が裁くことになるが・・・」

 

 という意味深な言葉を言って、ギンは自室に帰っていく。

 

 キリトとユージオ並びにライオスとウンベールも理解できない、間抜けな表情になった。

 

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 ギンサイド

 

 夜更けの時間帯。

 

 俺は学院の誰にも知らねぇ場所に来ていた。

 

 そこには、定時報告に来てたイーディスがいるからだ。

 

「え? 上級貴族の歪があった!?」

 

「ああ、此奴は最高司祭様が『公理教会』と帝国との関係性が離しすぎてたのが問題だな。やっぱり、教会の在り方を変えねぇといけねぇ気がする。キミはどう思う、イーディス」

 

「私はそう言うのは分からないけど、騎士長は教会の在り方に気にしていたわね」

 

「閣下もそう思うよな」

 

 閣下も俺と同じ考えをしてるようだな。

 

「それと下手をしたら、明日にでも、俺の正体を明かさねぇといけねぇ気がする」

 

「えぇ~ッ!? それって、つまり、騎士であることを明かすことだよね!?」

 

「ああ、そうなる。一応、露出婆(最高司祭様)肉団子(元老長閣下)に伝えといてくれ」

 

「ギン。嫌味と本音が逆になってるよ」

 

 おぉ~、いけねぇな。

 

「つい、逆になっちまった」

 

「言い切っちゃったよ」

 

 イーディスからのジト眼。痛ぇな。

 

「まあ、事件になったら、迎えに()()()が来そうだな」

 

「う~ん。私も北域に関しては疑問があるから。私が代わりに行っても・・・」

 

「無理だ。あの肉団子が命令してくるから逆らえねぇよ」

 

「ついには、嫌味で言っちゃった」

 

「うるせぇ。じゃあ、後日、肉団子から報告がなければ問題ねぇが・・・」

 

「あったら、どうなるの?」

 

 イーディスの聞き返しに俺は

 

「あったら、騎士団が半壊する可能性があることを考えとけ。そうならねぇ為にカセドラルにいる連中に伝えてくれ。キリトとユージオが脱走したら、容赦なく殺せとな」

 

 キリト。

 

 テメェがそこまでの実力しかねぇんだったら、そこまでの男だったというわけだ。

 

 逆に俺の考え通りになったら、最後は彼奴に任せそうだな。

 

 俺はフッと微笑を漏らすのだった。

 

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10話

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 三人称サイド

 

 それから、月日が経過して、5月になった頃。

 

 いつもなら、午後4時の鐘が鳴ったら掃除するロニエたちがやってこない。

 

 キリトは窓から、ギンは正面玄関からラゴンたちを探しに行き、ユージオは部屋で待機していた。

 

 その後、ユージオの部屋の下にウンベールの傍付きがやってきて、事情を説明し、ユージオはライオスたちの部屋へと向かう。

 

 その後、キリトが先に戻ってきて、ウンベールの傍付きからの事情を聞いて、すぐさま、愛剣を手に、部屋へと駆け出した。

 

 最後にギンが戻り、事情を聞いて、部屋に入る。

 

 ギンは傍付きに寮に戻りなさいと命じたら、彼は自室に入り、着替えることにする。

 

 修剣学院の制服ではなく、()()()()()()()()()()に――。

 

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 ギンサイド

 

「こうなったか・・・」

 

 俺は若干、悄げてる。

 

 これから起きるであろう()()を止めるのではなく、犯罪者を裁かねぇといけねぇんだから。

 

「気が滅入るよ」

 

 俺は久々に蒼き服に、白銀の鎧を身に纏う。

 

 一応、マントで隠すか。

 

 さらにマントで鎧を隠し、ライオスたちの部屋へと向かう。

 

 愛剣を手に――。

 

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 三人称サイド

 

 ライオスたちの部屋では、ユージオがウンベールの片腕を両断し、キリトがライオスの両腕を両断した。

 

 ライオスが「天命が」だのとうめき上げてると急にドアが開かれて、

 

「そこまでだ」

 

 感情のこもっていない冷たい声音が部屋中に轟いた。

 

 キリトとユージオ、ラゴンたちは部屋に入ってきた人物がそんな声音を出したことに驚いてた。

 

 そう、その声音の主は、紛れもなく、ギンだったからだ。

 

 

 

 ギンは部屋内の状況を把握してる。

 

 喚いているライオスを視て、

 

「五月蠅い。システムコール・ジェネレート・ルミナス・エレメント フォーム・エレメント ダブルロープ・シェイプ」

 

 彼が『神聖術』を唱えると2本の縄が出現し、喚いているライオスの両腕を縄で縛った。

 

「簡易的な処置だ。後で、医者に診てもらいな」

 

「貴様も仲間入りするのか!」

 

「仲間じゃねぇよ。俺はオメエらを処断しに来た」

 

「平民風情がぁ!」

 

 片腕を失ったウンベールが叫ぶもギンは

 

()()として命じる。大人しくしろ」

 

 冷たい声音でウンベールに命令をするも、

 

「騎士だと!? 平民風情が、騎士と名乗るな! 『公理教会』に知られたら、連行されるぞ!」

 

 喚く。

 

 だが、ギンはマントを取り払い、宣言した。

 

「俺の名はギン。セントリア市域統括『公理教会整合騎士』第3位。ギン・シンセシス・ゼロだ。これより、『整合騎士』特権にて。テメエらを処断する!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ユージオサイド

 

 今、ギンはなんて言った?

 

 『整合騎士、ギン・シンセシス・ゼロ』だって?

 

 どうして、整合騎士が学院にいるの? 何故、ギンが整合騎士なんだい? 僕たちの前に立っているのは、本当にギンなの?

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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 三人称サイド

 

 キリトとユージオ、ラゴンたちはともかく。

 

 ギンが自分の正体を高らかに宣言したことにウンベールと床で喚いてるライオスの表情がみるみる真っ青になっていく。

 

 それもそうだ。

 

 『公理教会』に仕えてる騎士団、『整合騎士』

 

 それは上級貴族であっても教会の権威には覆せないからだ。

 

 騎士の鎧を着込んでるギンはライオスとウンベールら全員に聞こえるようにしゃべり出す。

 

「今、ここで、誠心誠意謝罪し自分の罰を受け入れるのだったら、教会には連行しねぇ。どうする? 連行され、処断を受けるか、謝罪し、自らの過ちを受け入れるか」

 

「・・・私、ウンベール・ジーゼック上級修剣士次席はこれまでの行いを反省し、自らの処分を受け入れる覚悟でございます」

 

「自分、ライオス・アンティノス上級修剣士主席も深く反省し処分を受け入れます」

 

 ライオスとウンベールは疑うようなことはしない。

 

 すれば、自分らの首が飛ぶのを理解してるからだ。

 

「騎士顕現をもって、両名の処罰は俺が決める。それまで沙汰を待て」

 

「「仰せのままに」」

 

「こ、これはいったいどういう状況ですか!?」

 

 このタイミングでアズリカ先生と学長が到着した。

 

 ギンは先生らに事情を説明し、ライオスとウンベールを懲罰房に連れて行き、その後、ラゴンたちを縛っている縄を愛剣で断ち切る。

 

 手足が自由になっても、3人は動こうとはしない。

 

 いや、できない。

 

 あと、職務上、ギンはキリトとユージオの方に向いて、

 

「キリト上級修剣士、ユージオ上級修剣士。オメエらは明日、教会に連行する。それまで、懲罰房で、迎えが来るまで待機せよ、以上だ」

 

 ギンはそれだけ言ったら、今度はラゴンのもとに歩み寄る。

 

「・・・ラゴン」

 

「先輩!」

 

 ギンは彼女を見て、無表情から優しげな表情になる。

 

「悪ぃな。今まで、正体を隠してて・・・」

 

「いえ・・・私は今でも・・・先輩を・・・」

 

「それだけで十分だ」

 

 ギンは最後に優しげに言ったら、不意になにかが現れた。

 

 ギンはそれを見て、ラゴンの耳を塞いだ。

 

「ユージオ、ロニエたちに聞かせるな!」

 

 キリトが叫んで、ロニエたちの耳を塞いだ。

 

『シンギュラー・ユニット・ディクティド アイディー・トレーシング・・・コーディネート・フィクスト リポート・コンプリート』

 

 宙に浮かんだ人のような仮面が口を開いて、心の奥をざらりとしたなにかで撫で回すかのように不快な声で呟いて、現れたかのように消えた。

 

 ギンはハアと息を吐いてから、部屋を出て行くのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド2

 

 それは、事件が起きる数時間前のことだった。

 

 セントラル・カセドラル95階『暁星の望楼』にて。

 

 

 

 そこには、アリスがいて、彼女の背後から抱きつく形で飛び込んできたイーディス。

 

「只今、アリス! 久しぶりにあえて、嬉しいなッ!」

 

 アリスはすぐに離れて、

 

「お帰りなさい、イーディス殿。でも、久しぶりというほどでは・・・」

 

「えぇ~、だってひと月も会ってなかったんだよ! この前会ったのは、まだ少し寒い時期だったし」

 

「そ、そうですね・・・それで、辺境はどうですか?」

 

「・・・あんまり良いとは言えないわね。いろんなところで、ダークテリトリーの奴らが動いてる。まあ、あの洞窟じゃ、大群は通れないから、まだ敵の規模は小さいけど・・・四方から一斉に襲われたら、防ぎきれないかもしれない・・・かな」

 

「小父様も、同じように仰っていました。それで頭を悩ませているようです」

 

「で、ベルクーリはいるの?」

 

「いえ、今は東の大門を見に行っておられます。帰りは少し先になるとか」

 

「そっかー、いないのかぁ」

 

「ですので、副長のファナティオ殿がお待ちです。帰ったら、すぐ会議を開く、と張り切っておられました」

 

「・・・ですよねぇ~。しょうがない、報告してくるかぁ」

 

「その会議、私も同席してよろしいでしょうか。辺境の様子は、私も知っておきたい」

 

「もっちろん歓迎よ! アリスがいてくれたら、憂鬱な会議も楽しくなるわ。あと、ギンがいれば、もっと楽しくなるんだけどなぁ~」

 

「そうですね・・・」

 

 アリスは少し悄げるも切り替えて、

 

「では参りましょう」

 

 そう言って、アリスとイーディスは会議に向かった。

 

 

 

 会議を終えて、夜時。

 

「ハァ~、やっと終わったぁ~。ファナティオったら、あんなに張り切らなくても・・・」

 

「小父様が留守を任せる、と仰ったからでしょう」

 

「・・・まあ、分かりやすくて良いけどね」

 

 イーディスは機嫌を取り戻し、

 

「さーてと、会議も終わったし・・・お風呂にでも行こうかな」

 

「そうですか。では私は・・・」

 

 嫌な予感を感じたアリスは逃げようと動こうとするも、イーディスがすかさず、

 

「アリス、一緒に入ろー!」

 

 捕まえる。

 

「なっ、何故ですか!?」

 

「だって、辺境からここまで飛びっぱなしで休む間もなく会議で、疲れちゃったんだもん! それに、ギンに再会したとき、お風呂に入ってたのをアピールできるよ」

 

「・・・分かりました。一緒に入りましょうか」

 

 騒いでると、

 

「なーにを騒いでるんですかぁ! ここは神聖なるカセドラルですよッ!!!」

 

 偉そうな声が轟いた。

 

 そこに姿を現したのは、過度に気取った服装をしてる肉団子であった。

 

 これには、イーディスも

 

「げ、チュデルキン!」

 

「げ、とはなんですか!」

 

 過度な演出をするチュデルキン。

 

「全く、最高司祭様がお休みだというのにキャンキャンと騒いで・・・」

 

 すると、アリスが

 

「元老長・・・それでどうかされたのですか」

 

「閣下をつけなさい! 全く何度言ったら・・・・・・まぁいいでしょう。サーティ、お前に仕事ですよ」

 

「仕事、ですか?」

 

「北セントリアの修剣学院で、よりにもよって、殺人未遂事件が起きたそうです」

 

「さ、殺人未遂事件!? まさか・・・」

 

 これには、アリスとイーディスも驚きを隠せない。思わず、アリスが距離を取る。

 

「まさか!? お前、このアタシを疑ってるんですかッ!」

 

「い、いえ・・・決してそのようなことは。しかし、まさか、王都で殺人未遂など・・・」

 

「北セントリアの修剣学院・・・」

 

 アリスが驚き、イーディスは考え込む。

 

「しかも、下手人はギンが危険視してた2人です。なお、これは、ゼロからの報告でもあります」

 

「ギンが!?」

 

「ですので、明日一番で修剣学院へ行き、その下手人をギンと一緒に拘束してくるんです」

 

「う~ん。ギンがいるなら、大丈夫ね」

 

「分かりました。しかし、私やギンとて、整合騎士の端くれ。よもや、学生などに後れを取るようなことはありません」

 

「そうね。ギンの実力は整合騎士の中で最強。彼を負かすとは思えないし・・・」

 

「いいですか、くれぐれも殺すんじゃありませんよッ!」

 

「承知しました。必ず、生きたまま捕えてきます」

 

「・・・ふん! それじゃあ、頼みましたよ!」

 

 チュデルキンはそう言って、この場を去った。

 

 

 

 残ったアリスとイーディスは

 

「・・・全く、彼奴の態度には相変わらず腹が立つなぁ」

 

「・・・アレも仕事のうちなのでしょう」

 

「アリスは我慢強いわねぇ~。違うわね、ギンのことになると我慢強くなれないものね」

 

「なっ!? それは言わないでください!」

 

「でも、気をつけて行ってきてね。あと、ギンの手綱をしっかり、掴むんだよ」

 

「無論です。ギンは私がしっかりと躾けいたしますので安心してください」

 

「そうだよね。アリスは大丈夫でも、ギンとエルドリエあたりだと、やらかしそうだし」

 

 イーディスが言ったことにアリスはクスッと笑みを零す。

 

「ということで、今日はゆっくりと休まないとね!」

 

 気を取り直したイーディスがアリスに詰め寄り、

 

「さ、お風呂に行こー!」

 

 アリスはきょどって、

 

「ま、またその話を! 私は入りません!」

 

 ということがあった。

 

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11話

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 三人称サイド

 

「キリト修剣士、ユージオ修剣士。貴方方に会わせなければならない方がいますついてきなさい」

 

 アズリカ先生に言われて、中庭にやってくるキリトとユージオ。

 

 その間、ギンは学院の教員たちとずっと話してたらしく、一睡もしてないとのことだ。

 

 そして、中庭には、整合騎士であるギンがいた。

 

 そこに、全身を覆う艶のある三角形の鱗。毛繕いがキチンとされている毛並みも赤褐色に輝いてる。

 

 法と秩序の守護者たる『公理教会整合騎士』が駆る、人界最大にして、最強の霊獣である飛竜が目の前にいた。

 

 さらにそこに、空より降り立ってくるもう一騎の飛竜。

 

 キリトとユージオは降り立ってくる騎士とギンに、声をかけた。

 

「北セントリア帝立修剣学院所属、ユージオ上級修剣士です」

 

「同じく、キリトです」

 

 2人が宣言したことでギンはキリトとユージオを見る。

 

 ついでに降り立ってくる飛竜を視て、ハアと息を吐いてた。

 

「元老長の決定とはいえ、キミが来るとはな・・・()()()

 

 飛竜から降りて、ギンの隣にやってくる金髪碧眼の騎士。

 

 騎士はキリトとユージオを視て、

 

「セントリア市域統括『公理教会整合騎士』――アリス・シンセシス・サーティです」

 

 宣言した。

 

 

 

 宣言したら、

 

「・・・アリス・・・? キミなのか・・・? アリス・・・なのか・・・・・・?」

 

 ユージオは目の前の騎士の名前を呟きながら、前に出る。

 

 キリトが手を出して、ユージオを止めようとするも、その手がすり抜ける。

 

「アリス・・・?」

 

 ユージオが一歩踏み出し、騎士の肩に触れようとしたとき、ユージオは吹き飛ばされた。

 

 ギンの手によって――。

 

「ユージオ!」

 

 キリトがユージオを起こす手伝いをしてる。

 

 ギンの手には、愛剣を手にしていた。しかし、抜身ではなく、銀張りの鞘に収められてる。

 

 キリトはギンのそれを見て、

 

(あの一瞬でユージオを殴ったのか!?)

 

 驚愕してると、

 

「全く、アリスの代わりに俺が殴り飛ばしただけでも感謝しろ。言っておくが、俺たちには、テメェらの天命を7割減少させる権利があるんだ」

 

「ギン、何故、私の代わりに彼を殴り飛ばしたのですか?」

 

「あの状況だと、なにかと問題があったからな。キミの代わりに俺がやったまでのことだ」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 アリスはギンに感謝の意を述べる。

 

 

 

 その間、キリトはユージオに問いかける。

 

「あれが、()()()なのか?」

 

 その問いにユージオはコクッと無言をで頷く。

 

「とりあえず、今は指示に従おう。公理教会の中ならそれなりのことは知ることもできるはずだ」

 

 キリトの提案にユージオは頷く。

 

 すると、アリスは

 

「修剣士キリト、修剣士ユージオ。其方らは私とギンが公理教会に連れて行き、しかるべき罰を受けるでしょう」

 

 言ったら、ギンとアリスはキリトとユージオに拘束具をつける。

 

 アリスがユージオを、ギンがキリトを連行する。

 

 ギンは赤褐色の飛竜の顎を撫でる。

 

「1年ほど、世話できなくてごめんな、紅炎」

 

 と言って、飛竜の脚に鎖を括り付ける。

 

 そこに

 

「「「騎士様!」」」

 

 声がした方向には、ラゴンたちがいた。彼女らはキリトとユージオの剣を持ってきていた。

 

 神器級の剣を持ってこれるだけでも相当なものだ。

 

 ギンは心意を使って、ロニエとティーゼから剣を回収する。

 

「この剣は整合騎士が預からせてもらう」

 

 ギンは心意の腕を扱って、アリスに剣を渡す。

 

 彼女は、意図も容易く、心意を扱えるギンにムッとしてしまう。

 

 だが、彼女は拘束具の荷物入れに剣を仕舞い込んだら、

 

「1分だけ、会話を許可します」

 

 ギンは後輩にして、弟子でもあるラゴンに近寄る。

 

「ギン先輩・・・」

 

「めそめそするなとは言わん・・・だが、そのままだと、自分の剣を失うぞ」

 

「先輩・・・」

 

「迷ったときは、俺の教えを思い出せ。擦れば、自ずと道が見えてくる。焦らずに修練すれば、強ぇ剣士になってるはずだ」

 

 それを最後にギンは『紅炎』の背を跨がり、手綱を握る。

 

 『紅炎』は翼を広げ、羽ばたく準備に入る。

 

 地響きを立てて、走り込み、一際強く踏み込んだ瞬間、ギンの愛竜の『紅炎』とアリスの愛竜の『雨縁』が宙に舞った。螺旋をかいて、空へ舞い上がるにつれて、建物が遠くなっていく。

 

 ギンは未練を残さず、『セントラル・カセドラル』に向けて、一直線に飛翔した。

 

 ギンは隣にいるアリスを視ると、凜としてるが彼にしか分からないことだが、

 

(不機嫌そうだな)

 

 気が付いて、白亜の塔へと向かった。

 

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 ギンサイド

 

 俺はキリトとユージオの身柄を見習い共に預けて、そのまま、最高司祭様の所に向かった。

 

 

 

 最高司祭様のところへ来ると

 

「任務達成ね、ギン・シンセシス・ゼロ」

 

「ありがとうございます、最高司祭様」

 

 片膝をつき、頭を垂れ、無感情の声を出した。

 

「1年間とはいえ、私の裏の任務にまでしっかりと果たしてくれた。中々のものよ」

 

「ありがとうございます」

 

「任務達成の褒美として、しばらくの休暇を与えるわ」

 

「寛大な報酬に感謝しますが、それは、もう少し後でよろしいでしょうか」

 

「どうしてかしら? もしかして、今回の咎人のことかしら?」

 

「はい。茶髪の方はどうかと思いますが、黒髪の方はなにをしでかすか分かりません。なので・・・」

 

「いいでしょう。ギン。貴方が、騎士たちに命じて、咎人共を始末なさい。いえ、こう言った方がいいかしら・・・()()()()()()()

 

 やはりか・・・

 

「気が付いておいででしたか」

 

「ええ、貴方の言動、行動を観察していましたが、騎士団に変化がありましたから分かります。なので、貴方に聞きたいことがある。貴方はこの世界のどうする気なの?」

 

 最高司祭さまの問いかけに俺は

 

「俺は外界の卑劣な神とは違います。この世界の存続を願います。なので・・・」

 

 ここで、俺は自分でも気づかないほど、企みのある表情を浮かべてしまう。

 

「卑劣な神に絶望を与えようと思っています」

 

 この時の俺の言葉にレース越しだが、最高司祭様は背筋を凍らせていただろう。

 

「おっかないことを考えてるわね。分かりました。貴方は私とは違う考え方で世界の存続を願ってるのですね」

 

「そういうことです」

 

 俺はそう言って、部屋をあとにした。

 

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 三人称サイド

 

 最高司祭様の部屋から戻ってきたギンは、そのまま会議室にやって来た。

 

 そこでは、今回の咎人に対する会議が執り行われていた。

 

 会議室に入ると、席に座ってるファナティオたちがギンに視線を集中した。

 

 ギンはそのまま、自分の席に座り、

 

「会議が今から、始まるのかい?」

 

「ええ、今から、行うところです」

 

 ギンの問いにファナティオが応えたら、

 

「我が師が、今回の未遂事件の犯人を捕えたのですな」

 

「正確に言えば、未遂を防げなかったのが難点だけど・・・」

 

 ハアと息を吐くギン。

 

「しかし、ギンのおかげで、殺人事件を未遂に納めたのです。貴方が気にするところではないかと思います」

 

 アリスがギンの助けに入る形で言葉を述べた。

 

 その言葉にギンは

 

「まあ、過ぎたことだし。しゃあねぇだろうが、問題は・・・咎人共が、牢屋を脱走する可能性があることだ」

 

 これから起きることを告げるギンにデュソルバートが

 

「しかし、ギン殿。それは、あり得るのですか?」

 

「茶髪の奴は難しいだろうが、黒髪の奴が問題だな。彼奴だったら、それぐらい考えそうだからだ」

 

 ギンはキリトなら、それぐらいのことを考えそうだと口にすると、ファナティオが

 

「前に、ギンが報告した要注意人物のことか」

 

「ああ、最高司祭様の命令で調査したから間違ぇねぇ」

 

「では、どういった配置すればよろしいだろうか」

 

 ファナティオは騎士の配置を考えてるとギンが

 

「俺としては、エルドリエ。オメエさんは咎人共が牢屋が出てきた際、迎撃に当たれ。四肢の2、3本へし折っても構わん。デュソルバート殿は飛竜に乗って、空から援護。まあ、エルドリエが始末できたら、御の字だ。もし、取り逃がしたら、カセドラル3階にある武器庫付近で待機、迎撃しろ」

 

「分かりました。我が師」

 

「了解した」

 

「ファナティオ殿は『四旋剣』を連れて、50階で待機、上階に行かせるな」

 

「了解した。だが、その配置で良いのか、もっと別の配置を考えた方が・・・」

 

「咎人共の愛剣は神器級だ。だとしたら、武器庫にやってくるのは自明の理。閣下の手を煩わせるわけにはいかん。俺とアリスは80階の雲上庭園で待機しておく。そこまで登ってきたら、俺が叩き潰そう」

 

 僅かに闘志を沸き上がってるギン。

 

 その闘志に息を呑むアリスたち。

 

 最強の整合騎士――ギン。

 

 彼の手を煩わせるわけにはいかないと彼女らは頷き合ったのだった。

 

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12話

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 三人称サイド2

 

 ところ変わって、OSO。

 

 ブラウンがアスナと通じて、情報のやりとりをしてる。

 

 ブラウン経由でこんな情報が流れ込んできた。

 

「キリトが行方不明か・・・」

 

 スカーの呟きにブラウンが頷く。

 

「ギンに続いて、キリトまでも・・・」

 

「そして、アスナさんは神代凜子教授の力を借りて、菊岡がいるところに向かったと・・・」

 

 アキトとマサギの呟きにブラウンは又もや頷く。

 

「菊岡の野郎しかキリトを治療できないか」

 

「脳細胞の治療に関しては現代医学では治せない。だけど、STLを使用すれば、脳の治療に役立つとギンは言っていたからな」

 

 スカイは信用できない菊岡しか頼れないのと、脳の治療方法にSTLを使用するという利点があるというユンの言い分。

 

 どちらも正しいので、なんとも言えない。

 

「ギン先輩が菊岡って奴に協力してるんですよね。いったい、何のために・・・ギン先輩が協力するときは、協力者を絶望の淵に叩き込まされるんですよ」

 

 ヒガヤの言葉に苦笑を浮かべるユンたち。

 

 何故なら、今まで、ギンと一緒にいて、絶望を味わわされた者たちの顔を見ているからだ。

 

 そしたら、ユンは

 

「まあ、時間が来るまで待機しよう。それか、時間が来るまで、各自、腕を磨いてくれ。もしかしたら、俺たちの力が必要になるかもしれないからな」

 

 そう言って、ブラウンたちは納得した。

 

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 三人称サイド

 

 場所はUWに戻って。

 

 ギンは90階の大浴場で疲れを解してから、80階の雲上庭園で一眠りしていた。

 

 安らぎを与える庭園で昼寝をしてるギン。

 

 そんな彼に、アリスは剣を金木犀の木に変えて、ギンを自分の膝に寝かせた。

 

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 アリスサイド

 

 私はふと、こんなことを思った。

 

 こうやって、寝てるところを視ると、年相応の顔になるのですね・・・ですが、彼は何故、無茶をするのでしょうか?

 

 私の脳裏に映るのは、自分の限界以上に動き、鬼気迫るもの気迫を出すギン。

 

 気迫そのものが隠しきれていますが、僅かに洩れる気迫には、鬼気迫るものを感じとれます。

 

 こうして、寝てる姿を見ると、ギンは私と同じように少年なんですね。

 

 時折、女の子のように見えてしまうのが悔しいです。

 

 クッ・・・女の私よりも女の子に見えるギンが綺麗に思える。

 

 なんだか、自信が失います。

 

 

 

 私は後ほど、知るのでした。

 

 彼は自分の才能に押し潰されそうになっていたのを――。

 

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 三人称サイド

 

 咎人が捕縛してから、数時間後のことだった。

 

 エルドリエが咎人共と交戦して敗北したとのこと。

 

 それは、カセドラルにいる整合騎士全員の耳に周知された。

 

 雲上庭園で一眠りしていたギンと膝枕をしていたアリスの耳にも届いた。

 

 それでも、ギンは眠ったままだった。

 

 それはおそらく、敵が来るまで無駄な体力を温存させるためだとアリスは思ったからだ。

 

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 三人称サイド2

 

 キリトとユージオが、愛剣を回収して、上階へと進んでる最中。

 

 

 

 OSOにて。

 

 時が来るまで、各自、腕を磨いている最中。

 

 ユンはなにかを気にしてるところがあった。

 

 なので、シノンがユンに声をかけた。

 

「ユン、どうしたの。何やら、気にかけてることがあるように見えるけど・・・」

 

「ん? アァ~、ギンのことだよ」

 

「ギン?」

 

「彼奴、また、()()()()()()()()()()()()()()()か心配なんだよ」

 

「自分の才能に押し潰される? どういうこと?」

 

 シノンはユンの隣に座って、その話を聞くことにした。

 

 ユンは自分の隣に座ったシノンに顔を向けながら話し始める。

 

「前に話してたと思うけど、ギンは10歳の時、自らの研究を封印したって・・・」

 

「え、ええ・・・研究してる最中、あることに気が付いて、自分の才能を・・・嘆いた・・・」

 

 ここで、シノンは1つの可能性に至った。それは――、

 

「そう。ギンは自らの研究を封印せざるを得なかった」

 

「封印せざるを得なかった・・・ユン。10歳の時、何があったの?」

 

 シノンは10歳の時、何があったのかを尋ねた。

 

 ユンは忘れない記憶を思い出すかのように話し始める。

 

「10歳の夏頃、俺はギンの家に向かった。いつものように遊びに向かったんだ。だが、チャイムを鳴らしても反応がなかった。仕方なく、俺はギンから渡された家の鍵で中に入り、ギンの部屋に向かった。ギンの部屋に入ったとき、ギンが部屋の床で倒れてたのが見つかった」

 

「どうして倒れてたの」

 

「病院に運ばれ、医師から原因を聞かされた。原因は過度なストレス。主に精神的な苦痛によるものだと診断された」

 

「精神的な苦痛・・・それが、自分の才能を嘆いたことになる」

 

「大きすぎる才能は時として、相手だけではなく、自分にも襲いかかる」

 

「才能が自分にも襲いかかるって・・・どういうこと?」

 

「医師がギンのことを調べてくれたんだ。調べてくれた結果・・・ギンには、超人的な頭脳を持ってることが知れた。それが『神の頭脳』だったんだ」

 

「その才能が自分を追い詰めてしまったというわけね」

 

「そうだ。それ以来、俺はギン(彼奴)をサポートすることを決めた」

 

「ユン。貴方にだって、自分がしたいことがあったんじゃないの」

 

「もちろん、あった。だけど、俺は視たかったんだ。好きなことに没頭していた彼奴の楽しそうな顔を・・・」

 

 ユンに隠されたギンへの想い。それを知って、シノンは

 

「友達思いなんだね」

 

「うるせぇ。あと、もう1つだけ理由がある。それは、ギンの暴走を止めるためにあるんだ」

 

「暴走?」

 

「ギンは退院後、ストレス発散のために、自分にちょっかいかけてきた奴ら全員、絶望の淵に陥れてた。俺も最初の頃はわからなかったが、後々になって、分かったことがあった。皆がギンを頼りに頼って、彼奴に過度なストレスを与えていたんだって・・・」

 

「その過度なストレスを発散するために、ちょっかいかけてくる人に八つ当たりしたわけ・・・」

 

「ああ・・・だから、俺がギンに頼ってくる皆の間に立ち、中間職に近い形で皆の頼みを聞くことにしたんだ。ギンの負担を減らすために・・・ギンもそれを分かっていたから、なにも言えなかった。環境が変わっても、俺とギンの立ち位置が変わらなかった。だけど、1度だけ、ギンが本格的に暴走したことがあった。それが、SAO。俺たち『八帝武将』が一生かけて背負うことになった事件だ」

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐作戦・・・」

 

 シノンはギンが本格的に暴走した事件を、形を変えて、聞いてたからだ。

 

「そうだ。あの時・・・いや、それ以前から、攻略組はギンの知能に頼り続けてた。頼り続けてたからこそ、過度なストレスが溜まり、討伐作戦において、つるし上げ、干されたことで、過度なストレスの臨界点が突破し、暴走した。暴走した八つ当たりを笑う棺桶(ラフィン・コフィン)で発散させたんだ」

 

「酷いものね。利用するだけ利用して、見捨てたんだから」

 

「まあな。でも、ギンに対する負荷が減ったから俺としても良かった。だけど、代わりに俺たち『八帝武将』はOSOでタクたちに救われるまで癒えない心の傷を負ってしまった」

 

 シノンはユンの話を聞いて、

 

「つまり、私がユンの心の傷を癒してあげたというわけだね」

 

「俺はシノンの心の傷を癒してやったけどな」

 

 ユンとシノンは互いに笑みを零したら、

 

「だからこそ、ギンが心配なんだ。まあ、俺としては菊岡に絶望の淵に追い込ませるのは嬉しいけど・・・」

 

「胡散臭いからね。菊岡誠二郎は・・・」

 

 2人は菊岡の胡散臭さを揶揄していた。

 

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13話

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 三人称サイド

 

 キリトとユージオがファナティオを倒し、上階へ続く昇降盤に乗って、雲上庭園に向かってる最中。

 

 ギンは目を覚ました。

 

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 ギンサイド

 

 うぅ~、なんだぁ~。

 

 この柔らかな感触は・・・。

 

 それにしても、長いとこ、眠りについていたようだな。

 

 久しぶりだな。

 

 安心して眠れていたのは・・・。

 

 俺は眼を覚まし、目の前の光景を見る。

 

 って!? なんで、目の前にアリスがいるんだ!?

 

 しかも、顔が近ぇ!?

 

 頭の感触からして・・・まさか・・・ひ、膝枕・・・・・・

 

 リアルの男共が願い続けてるアレだよな・・・。

 

 しかも、アリス。

 

 瞑想してるから俺が起きたことに気がついていねぇな。

 

 なんでだろうな。

 

 アリスが近くにいると、こうして、心が落ち着くのは・・・。

 

 だけど・・・覚悟を決めねぇといけねぇようだな。

 

 俺はそっと、起き上がり、こっそりと移動する。

 

 アリス、すまねぇな。

 

 俺はこの道しか進めねぇんだ。

 

 荒れ狂う荒野を突き進む道しかねぇんだ。

 

 許してくれ、アリス。

 

 謝罪の念を込めて、上階へと上がっていく。

 

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 三人称サイド

 

 ギンは階段を上っていき、90階の大浴場を通っていき、95階の暁星の望楼を通り過ぎ、99階に来ていた。

 

 だが、そこには、厄介な奴がいた。

 

「おや? 0号! お前ぇなんでこんな所にいるのですか!? 猊下に言われて、騎士団に指揮を執らせたのですよ。さっさと遂行しなさァァァァァ!!」

 

 そう、元老長チュデルキン。

 

 彼の高圧的な態度がギンのストレスの臨界点を突破させた。

 

「・・・黙れ、肉団子」

 

 ギンは無表情かつ途轍もなき冷たい声音と眼でチュデルキンを視る。

 

「なんですかぁ!? その眼は!!」

 

「・・・うるせぇな」

 

 チンッ

 

 たった1音だけ、この広間に音が鳴った。

 

 そして、数秒後――。

 

「ホアアアアッ――――!? これ・・・ハァァ・・・アアアアア・・・」

 

「本当に喧しい奴だ・・・」

 

 チュデルキンは臨界点を突破したギンの神速の抜刀術によって、サイコロのように粉々の肉塊にさせられ、ギンは最高司祭様の部屋に続く回廊を死守するためにギンはここに来ていた。

 

 ギンはハアと息を吐き、

 

(ここまで来れる実力だったら、相手してやるよ。キリト・・・いい加減、オメエさんとケリを付けようじゃねぇか)

 

 ギンは瞑想し、力の枷を解放する準備に入った。

 

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 三人称サイド2

 

 雲上庭園にやってきたキリトとユージオはアリスと交戦し、キリトとアリスは交戦の際、崩落した壁から外に弾き飛ばされてしまう。

 

 ユージオは単身、上階へと上がっていき、90階の大浴場で整合騎士長ベルクーリと交戦し、辛くも勝利を収める。

 

 そして、キリトとアリスは外壁から95階の暁星の望楼へ向かうことになった。

 

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 アリスサイド

 

 ハァ~、災難です。

 

 咎人と一緒にカセドラルから投げ出され、外壁を登り、テラスには、何故か、『ダークテリトリー』にしか見かけられないミニオンがいたのです。

 

 私は問題なく、対処できましたが、キリト(咎人)の方は見事に珍妙な剣術ですね。

 

 そういえば、ギンの剣術も珍妙といえば、珍妙でしたね。

 

 私との立ち会いの際も様々な武器の戦い方をしてもらいました。

 

 特に、デュソルバート殿の弓に関しては凄く、彼は矢を掴み取って、デュソルバート殿の弓で反撃されました。

 

 まるで、鏡のように――。

 

 エルドリエに関しては、たまに帰ってきたときだけ、鍛えていました。

 

 剣が鞭のように扱える剣。

 

 ギンはそれを連接剣、蛇腹剣と言って、それをまるで、鞭のように扱いこなせていました。

 

 エルドリエの神器は『霜鱗鞭』。「神器を十全に扱えるようにするため、連接剣を使いこなしてみせよ」と言っていました。

 

 そのおかげで、エルドリエの実力も上がってたの見て取れました。

 

 ギンはあらゆる武器を巧みに扱えてました。

 

 小父様の話によれば、彼のような存在が天才であると言っていました。

 

 確かに、私もそれは同じように感じとれます。

 

 いつか、私はギンの隣に立って、一緒に進んでみたい。

 

 彼と背中合わせで戦いあってみたいという想いがあります。

 

 

 

 ですが、今は、夜が明けるまで待つとしましょう。

 

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 三人称サイド

 

 テラスで休憩していたキリトとアリス。

 

 キリトからアリスの本当の正体を話し、最高司祭様と名を持たぬ神を戦うと誓って右眼を失った。

 

 右眼を失った痛みで気を失ったアリス。

 

 そのアリスを背負って、キリトはカセドラルの外壁を登り続けた。

 

 

 

 その頃、ギンはというと――、

 

「もうすぐだな」

 

 声を漏らした。

 

 そして、ギンは自分の手を見る。

 

 その手は血に塗れた手でもあり、自分の苦しめ続ける戒めの手でもある。

 

「俺の運命は・・・どうなるのだろうな・・・」

 

 ギンは手を握って、

 

「吉と出るか、凶と出るか・・・運命の分かれ道だな」

 

 フッと思わず、笑みを零す。

 

 

 

 遅くない未来にギンとアリス。

 

 『剣帝』と『光の巫女』相まみえる日が近かった。

 

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14話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 キリトはアリスを背負って、カセドラルの外壁を登り、95階の暁星の望楼に辿り着いた。

 

 キリトは気を失ってるアリスを見る。

 

「まだ眼を覚まさないな・・・・・・仕方ない。なんとか担いで上がるか」

 

 ハアと溜息をついてたら

 

「ふぅ~ん、まさか、本当に塔の外壁を登っている人がいるなんてね」

 

 突然の声にキリトは

 

「誰だ!」

 

 叫んだ。

 

 その叫びに姿を現したのは、灰色の髪をした整合騎士。

 

 そう、イーディスである。

 

「誰だって・・・それはこっちの台詞だよ。でも、聞かれたからには、応えてあげないとね。たとえ、相手が不審者だったとしても」

 

 いったん、間を置いて、説明に入る。

 

「アタシはイーディス。イーディス・シンセシス・テン」

 

 イーディスは溜息をつきながら、

 

「それにしても、外壁を登ってくるなんて普通じゃないわよ、不審者くん」

 

 だが、キリトは

 

(シンセシス・テンということは、此奴も整合騎士か。でも、あまり敵意を感じないな)

 

 イーディスはキリトを視て、

 

「まずはキミの素性を聞かせて・・・」

 

 だが、ここで、キリトの後ろに気絶してるアリスを視る。

 

「まさか・・・そこに倒れているのは、アリス?」

 

「あ、ああ、彼女はちょっと事情があって怪我を・・・」

 

 キリトは戸惑いながら応えるも、イーディスは

 

「黙れ」

 

 呟いた後、

 

「アリスを手にかけた罪・・・その血で贖ってもらうぞ! アリスの仇・・・必ず取ってあげるからね!」

 

 なにか、誤解をしたまま、アリスの敵を取ろうとしていた。なので、キリトは

 

「だから、アリスは死んでないって! ただの怪我・・・」

 

 事情を説明しようとするもイーディスは

 

「言い訳はいらない!」

 

 叱咤して、

 

「システムコール ジェネレート・サーマル・エレメント!」

 

 熱素が収束し、

 

「燃え尽きなさい! フォーム・エレメント・アローシェイプ・・・」

 

 矢の形状になったところで、キリトは慌てながら、

 

「や、止めろ! 俺が避けたら、アリスに当たるぞ!」

 

 と言ったところで

 

「えっ!?」

 

 『神聖術』を解いた。

 

 キリトはそれにホッとし、

 

「・・・よかった、止めてくれて」

 

「お前のために止めたんじゃない。こうなったら、奥の手を使わせてもらうわ」

 

 イーディスは神器を抜こうとしてるところで、

 

「待ってくれ! キミも、アリスの友達なんだろう!? 多分だけど、俺たちは戦いを避けられるはずだ!」

 

 イーディスは神器に手を掛けたまま、

 

「戦いを避けられる? カセドラルに侵入し、整合騎士を倒したお前と?」

 

「そ、それは事情が・・・」

 

「そして、なにより! お前はアリスを傷つけた! こんなことがギンに知れたら、彼が怒りを露わにする。たとえ、他のなにを許しても、その罪だけは許さない」

 

 イーディスの怒りの発言にキリトは

 

「違う、アリスを傷つけたのは、俺じゃない!」

 

「だったら、誰だというのだ! 整合騎士すら来ることが困難な塔の外壁で、お前以外に誰がアリスを傷つける!?」

 

 言い返しにキリトは口籠もる。

 

「そ、それは・・・」

 

(『禁忌目録』に背いて、自らの右眼を潰したなんて言えない・・・)

 

 だが、イーディスはキリトが思ってることとはわからず、

 

「・・・やはり、応えられないだろう。だが、礼を言うぞ、不審者」

 

「俺に、礼を?」

 

 キリトはイーディスの言葉の意味が理解できなかった。

 

「アタシの完全支配術を完成させるには少し時間が必要なんだ」

 

 キリトはそれを知って、驚く。

 

「お前と話してる間にそれが完成したよ! 今度こそ、罪を償わせてやる!」

 

 と言って、キリトはイーディスと戦うのだが、キリトはイーディスの剣を自分の剣で受け止めようとしたが、剣をすり抜けて、斬り裂いた。

 

「今のは・・・?」

 

 キリトは先のアレに苦悶しながら、言葉を漏らす。

 

 それをイーディスが説明する。

 

「アタシの剣は、ソルスの光が一切届かない。湖底の岩から生まれた。この剣の記憶は、闇と影。影を捕えることは、いくらお前でもできないだろう!」

 

「くっ・・・! こうなったら、此方から仕掛けるしかない!」

 

「良い判断だわ。でも・・・あまり、整合騎士を舐めないことね」

 

 そのまま、戦うのだった。

 

 

 

 何度か斬り合って、

 

「攻めてもダメ、受けることはできない・・・どうすれば・・・」

 

 苦戦してるキリト。

 

「流石のお前も観念したようね。大人しく首を差し出せば楽に死なせてやるわ」

 

 降伏するように促すも、キリトは

 

(考えろ・・・奴の剣は剣や衣服はすり抜ける。でも身体には傷が・・・)

 

「・・・そうか!」

 

 ここで、なにか閃かせた。

 

「なにをブツブツ言ってるの。さあ、これで最後よ!」

 

 キリトに斬りかかろうとするイーディス。

 

 だが、キリトは澄まし顔で

 

「それは・・・どうかなッ!」

 

 呟いた瞬間、

 

 

 

 突如として、真上から鉄槌が落とされたかのように重苦しいなにかがキリトとイーディスの身体にのしかかった。

 

「なっ!?」

 

「なによ、これ・・・」

 

「俺が聞きたいよ・・・いや、待てよ・・・・・・前にこんなの感じたことがある・・・これは・・・・・・」

 

 キリトは今、感じてる重苦しいなにかを頭総動員して思い出そうしてる。

 

 そして――、

 

「思い出した!」

 

 目を見開かせ、

 

「これは、()()()()のギンだ」

 

「ギン・・・この重苦しいこれが・・・ギンだっていうの!」

 

「ああ、俺は昔、こういったのを感じたことがある。その発生源はギンだった! 間違えない!」

 

「昔って・・・お前・・・ギンと昔会ったことがあるというの!」

 

「ああ、彼奴とは、何度か戦いあってる。だから、彼奴の雰囲気を知ってるんだ!」

 

 キリトはそう叫んだら、イーディスは

 

「とりあえず、ひとまず、休戦ね。こんなのを放ってるのがギンだって信じられない。それに、これをアリスが知ったら、どうなるか・・・」

 

 キリトに提案すると

 

「そうだな。ギンを相手にするには、休戦するほかないが、アリスがそれを知ったらというのはどういうことなんだ?」

 

「アリスはギンに惚れ込んじゃってる。カセドラルで彼を見かけたときは見つめてしまう。彼を目標に剣を磨いてるんだから」

 

「マジか・・・そうだとしたら、途方もない目標だな」

 

「えっ? どうして、そう言えるの?」

 

「ギンは『剣帝』と呼ばれている。この世界だったら、最強と呼ばれてもおかしくない。何しろ、()以外に負けたことがないんだからな」

 

「えぇ~ッ!? ギンって、そんなに強いの!? それよりも、ギンに勝ったことがあるというの!?」

 

「あぁ~、いや・・・あの時は運良く勝てたんだよ」

 

「運も実力のうちよ」

 

「仰るとおりです」

 

 キリトはイーディスの言い分に納得したのだった。

 

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 ギンサイド

 

 俺は、99階で眼を閉じていた。

 

 端から見れば、精神統一に見えるだろうが、実際は違う。

 

 俺は内なるもう1人の自分と対話をしてた。

 

 聞こえてるんだろ、頼みがある。

 

『なんだ、この()に声をかけるなんて・・・主人格の()はどうかしたのか?』

 

 今の俺じゃあ、キリトには敵わねぇ。

 

 オメエの()が必要だ。

 

『それは、構わない。だが、良いのか。()になったら、アリス(彼女)が悲しまないのか?』

 

 俺の脳裏にアリスの顔が浮かんでくるも、振り払い――。

 

 構わねぇ。俺は俺なりに守りてぇものがあるんだ。そのためなら、この俺を犠牲にしても構わん。

 

 主人格である俺の言葉を聞いて、もう1人の自分は

 

『分かった。一時の間。僕がやろう。僕にも守りたい者があるからな』

 

 俺はもう1人の自分と意識を交換するのだった。

 

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15話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 キリトとイーディスは一次休戦をしたところで、

 

「う・・・ううん・・・ここは・・・私・・・どう・・・」

 

 アリスが眼を覚ました。

 

 彼女は自分の状況を理解する。

 

「キリト・・・お前、まさか・・・私を背負って・・・ここまで・・・?」

 

「そうよ、アリス」

 

 キリトに問いかけたアリスの問いを一緒にいたイーディスが応えた。

 

 アリスはキリトと一緒にいるイーディスに何故、ここにいるのか聞くと

 

「ついさっきまで、この不審者と相手をしていたんだけど、上からのしかかる重苦しい圧に休戦するしかなかったのよ」

 

「そういえば、先ほどから感じられる。この圧はいったい、誰が・・・?」

 

「そこの不審者くんが言うには、ギンしかあり得ないって言ってたわ。アタシはそれを信じられないけど・・・」

 

「ギンが・・・ですが・・・」

 

 アリスは信じられない顔をしていた。

 

 

 

 その後、アリスは自信の右眼を失ったわけをイーディスに話し、一度、ユージオと合流するために、90階の大浴場へと向かった。

 

 大浴場に向かった後、氷付けになっていたユージオとベルクーリを助け出した。

 

 極寒地獄になっていた大浴場を視て、

 

「これは・・・ユージオ・・・・・・お前がやったのか?」

 

「う、うん」

 

 ユージオは顔がなんとか天命を回復させたけど、顔色が悪かったので、気を持たせるために喋った。

 

「記憶解放術を・・・使ったんだ・・・」

 

 ユージオのそれを聞いて、アリスやイーディスが反問する。

 

「無謀にも程があるよ!」

 

「記憶解放術は使い方を誤れば、命を落としかねなかったのですよ!」

 

「あはは・・・」

 

 これには、ユージオも苦笑を浮かべる。

 

 ベルクーリはアリスの右眼を視て、

 

「そうか。アリスの嬢ちゃんは俺が破れなかった右眼の封印を破ったんだな」

 

「はい、小父様」

 

「・・・となれば、俺がお前さんに教えられることはねぇな」

 

「そんな、私はまだ、小父様から学びきれておりません!」

 

「嬢ちゃんならできるさ・・・ギンと・・・一緒に、この歪んだ世界をあるべき形へ導くことが・・・」

 

 ベルクーリはキリトを視て、

 

「おい、小僧。嬢ちゃんらを頼むぜ」

 

「分かってる」

 

 キリトは頷いた。

 

 ベルクーリは床に腰を下ろす。

 

「俺はここで休むとするよ・・・おい、そういや、ギンの小僧が見当たらねぇが・・・」

 

「小父様・・・ギンは・・・今・・・」

 

「騎士長。ギンはおそらく、99階にいると思う」

 

「そうか。最後の関門にして、最強の敵とはな・・・」

 

 ベルクーリはギンを最大の敵として認識するも

 

「まあ、俺はここで休んでることにするよ。茶髪の小僧との勝負でガス欠だしな」

 

 言ったのだった。

 

 

 

 その後、ベルクーリの介護するためにイーディスはベルクーリと残り、キリト、ユージオ、アリスは上階へと上がっていったのだった。

 

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 アリスサイド

 

 クッ・・・上階へ向かってく最中に感じられる。

 

 この重苦しい圧。

 

 息をするのも困難に思えるほどに圧が上から放たれています。

 

「キリト・・・上に行くのに、こんなに呼吸しづらかった」

 

「それは、私も同じように感じます。上へ向かえば向かう度に、身体が重く感じてしまいます」

 

 私もユージオも、こんな重苦しい空気を感じたことがありませんのに、キリトは

 

「敵意も、悪意もなく、ただ、敵を倒すことに集中してる空気・・・・・・こんな空気を放つ彼奴の底知れなさを改めて、感じてしまう」

 

 彼はギンのことを知ってるかのような呟き、悔しいです。

 

 キリト・・・お前は私の知らないギンを知ってるのですから。

 

 

 

 私たちは99階へ続く階段を上りきり、99階へやってきたところで、会いたかった人物がいた。

 

「ギン・・・」

 

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 三人称サイド

 

「ギン・・・」

 

 アリスは目の前の人物に声をかける。

 

 蒼い服の上に白銀の鎧を身に纏い、白銀の刀を携えてた。

 

「・・・来たか」

 

 ギンは振り返り、アリスたちを視る。

 

 アリスとユージオはギンの雰囲気から前の彼とは全然違うのを感じとれた。

 

 それは、今のギンの瞳が深き碧眼と薄い碧眼のオッドアイだったからだ。

 

 なので、アリスは思わず、こんなことを言ってしまう。

 

「お前は・・・誰なのですか・・・?」

 

 その問いに対して、ギンは

 

「誰って・・・()はギン。ギン・シンセシス・ゼロ」

 

 ギンは正直に応えた。

 

 その応えにアリスは

 

「お前はギンではない! 私の知ってるギンは優しく、無茶をする男だったはずです!」

 

 アリスの荒げる言葉にギンは

 

「なるほど。それは、()()()の僕のことだね」

 

 アリスはギンの返答に目を見開かせながら、

 

「主人格・・・何なんですか・・・それは・・・・・・」

 

「ふむ、そうだな。そう返されるとは思っていなかった。まあ、仕方ない。少しだが、僕のことについて説明しよう」

 

 そのまま、ギンは自分のことを説明する。

 

「僕はギンという少年の別人格だ」

 

「別人格・・・」

 

「そうだ。僕という存在が生まれたのは、主人格の僕が神に等しき才能を持ち、多大なる精神的苦痛で追い詰められたことによって、誕生した存在だ。僕の存在証明は僕を利用するだけ利用して、見限った人たちに絶望を与えること。それだけしか証明できない存在だ」

 

 ギンの別人格の証明が他人を絶望に陥れるという非道な男だとということに・・・。

 

「僕というのは、主人格の僕が、多大なる精神的苦痛を蓄積し、臨界点を突破したときに表に出ることができる」

 

 ギンは別人格の出現条件を口にするも、

 

「だが、今回のことに関しては、主人格の僕が、別人格たる僕に身体を受け渡したことになる」

 

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 アリスサイド

 

「だが、今回のことに関しては、主人格の僕が、別人格たる僕に身体を受け渡したことになる」

 

 プツン

 

 この時、私の中のなにかがキレた音がした。

 

 身体を受け渡した・・・それは、つまり・・・

 

「逃げたと同じじゃないですか!」

 

 声を荒げる。

 

 私の苛立ちには、隣にいるキリトとユージオすらも退いていました。

 

「ここは、私に任せてください」

 

「あ、アリス・・・大丈夫?」

 

「ええ・・・この大馬鹿者には、説教しないと分からないようですからね」

 

「ヒィッ!?」

 

 私の苛立ちにキリトが思わず、大きく退きましたね。

 

「ユージオ、ここは退がろう」

 

「うん・・・僕もそう思った」

 

「アリス・・・俺は別人格のギンとやり合ったことがあるから。助言するけど、別人格のギンは恐るべきは()だ。小手先は通用しない。真っ正面から力で押し切るしかない。彼奴の眼は少し先の未来が視える」

 

 少し先の未来・・・

 

 なんとも、意味が分からないことを・・・

 

「あと、剣を抜いていないと思うな。既にギンは剣を抜いてると思って戦え」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

 ギンの瞳が私を射貫くように見据えてくる。

 

「せっかくの助言を無駄しない方がいい」

 

「口調も変わるのですね。私の知ってるギンは小父様のように男らしさのある口調でしたけど・・・」

 

「それは戦いに関係ないものであろう。僕の力をキミに見せてあげる」

 

 本当に無性に苛ついてきます。

 

 今のギンの発言も、考え方も、なにもかも気に入りません。

 

 今、私のうちに秘める想いは怒りのみ。

 

「お前のような大馬鹿者は私がこの手で説教します!」

 

「それは、怖いですね」

 

 私は剣を抜き、ギンと対峙する。

 

 この大馬鹿者には、言葉ではなく、剣で説教するほかありません!

 

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16話

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 三人称サイド

 

 チンッ、ガッキンと金属音が響く。

 

 部屋の中には、ぶつかり合う火花を散らす2つの剣。

 

 それを握るのは、2人の騎士。様子を見守る2人の剣士。

 

 だが、それは異様なものだった。

 

 金色の騎士は剣を抜いてるのに対し、白銀の騎士は剣を納刀したままだ。

 

「せぇええいいいい――――ッ!」

 

「フッ!」

 

 一見、互角のように見えるが、よく視るとアリスの方が押されている。

 

「キリト・・・同じ整合騎士なのに・・・ギンの方が上に見えるのはいったい・・・」

 

 ユージオは2人の戦いを視て、そう評価した。

 

 今まで、戦ってきた整合騎士の中で、ギンとアリスの実力は今の自分らよりも高いのは明白な事実。

 

「確かに、アリスの剣の腕も、剣筋もトップクラスだ。特に、剣筋に至っては俺でも敵うかどうかわからない。だが、ギンはそれを凌駕してることになる。剣の腕も、剣筋も、生死を分けた実戦経験も・・・全てに於いて、アリスよりも上なんだ。あと、これは、憶測なんだが・・・」

 

 キリトは部屋の隅にある謎の肉塊。血溜りもあり、剣で斬られただとわかる斬り筋があった。

 

「彼処にある肉塊。ギンはきっと、誰かを殺したんだと思う」

 

「ここに来る際、アリスは元老長がいないって言っていたから」

 

「ああ、おそらく、ギンが、その元老長を殺したんだろう。その所為で、ギンの権限もそれなりに上昇してるはずだ」

 

 キリトはそう推測した。

 

 

 

 結論からいえば、ギンとアリスの実力に差があった。

 

 ギンは既に整合騎士の中で最強と位置してもおかしくない実力と、それを形作る心意で補強されてる。

 

 アリスはまだ未発展途上といえど、まだまだ、ギンの足元にも及ばない。

 

 現に、別人格のギンは、自らの異能(システム外スキル)を使用していない。

 

 

 

 キン、キン! 金属音が鳴り響く。

 

 キリトとユージオが戦いを見守る中、ギンとアリスの戦いは続いた。

 

「ここまでの実力とは思いませんでした」

 

「ふむ。確かに、キミの潜在能力、身体能力はずば抜けてる。おそらく、整合騎士の中で随一だろう。だが、まだ、僕には程遠い」

 

 クッと苦悶するアリス。

 

 だが、事実だった。

 

 今のアリスでは、ギンの相手になるのかわからない。

 

 それほどまでに力の差があったからだ。

 

ー強い・・・ギンがこれほどまでに強いとは思わなかった・・・なにより、ギンの抜刀の速度が尋常じゃなく速い! 私の眼では補足できないほどの速さ・・・キリトは一度、勝ったことがあるといいましたが・・・・・・どうやって勝てたのかと聞きたいものですー

 

 アリスはギンに勝てる目処を考えていた。

 

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 ギンサイド

 

 フッ・・・アリスとか言ったな。

 

 まさか、ここまでの剣を切り結ぶとは思わなかった。

 

 これは、主人格の僕も戦いたくないというほどだ。

 

 彼女の秘められてるポテンシャル。

 

 そして、自分でも気づいていない秘められた才能。

 

 これは、僕も気が抜けなくなってきたな。

 

 仕方ない。僕も使わざるを得ないな。

 

 別人格たる僕だけの異能――天精眼(ウラノス)を・・・。

 

 だが、そろそろ、お別れに近いかな。

 

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 三人称サイド

 

 ギンの変化に気が付いたアリス。

 

 今以上に警戒心を上げる。

 

 ギンの瞳には、リングが浮かび上がっており、雰囲気も先とは全然違った。

 

「じゃあ、見せてあげよう。僕の異能を・・・」

 

「ッ!?」

 

 警戒心を上げてるアリス。

 

 

 

 そこから、別人格のギンの異能に翻弄されるアリス。

 

 苦悶の表情を浮かべながら、

 

(こっちの動きを完全に見切られてる・・・これが、キリトが言っていた未来を視るということですね・・・)

 

 ギンの力を目の当たりにしたアリス。

 

 ハアハアと息を吐いてるアリス。

 

 対して、ギンは未だに息一つ乱していない。

 

 これほどまでの力の差を実感して、ユージオは次元の違いを目の当たりにする。

 

 逆にキリトは

 

「あの時よりも、さらに強くなっているのか!?」

 

 驚きの声をあげる。

 

 だが、ギンはというと――、

 

(もう満足したな。相手はキリトじゃなかったが、これほどまでの高揚感を久しぶりに味わえた。もうここいらで良いだろう・・・()()()()()

 

 何やら、満足のいく結果を得たような感じだった。

 

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 ギンサイド

 

 お別れだな。

 

『え?』

 

 主人格の()は僕の言ったことに驚いてる。

 

 僕は久々に楽しめた。

 

 この僕すらも本気で倒しにかかる剣士いや騎士は初めてだったが、大いに満足できた。

 

『違う! 俺は自分の身体をオメエに渡そうと・・・』

 

 なにをしんみりしてるんだよ。

 

 僕は本来、存在してはいけない存在だ。

 

 それに、彼女を守るのは、僕ではなく、キミだ。

 

『無理だ。俺には出来ねぇ・・・俺は最終的に彼女を・・・アリス・・・』

 

 主人格の()が立案した計画の最終目的・・・。

 

 それを思っただけで、酷く苦しんでる顔を浮かべる。

 

『俺はもう・・・表には出たくねぇんだ』

 

 確かに、彼女を悪しき人間から守るためにそうするのはわかる。

 

 だが、それで、彼女は・・・もとより、自分が納得できるのか?

 

『できるわけねぇだろ!! 俺はガキの頃からアリスのことを・・・・・・』

 

 なら・・・もう分かってることだろ。

 

 ったく、お前は察しが良すぎるから、彼女への好意を無碍にしてるんだぞ。

 

『・・・ッ!? 分かってるよ・・・それくらい・・・』

 

 なら、いい。

 

 お前はよく頑張ったと思う。

 

 求めたかったものを手に入らず、その空っぽになったものを幼馴染み、あの世界で仲良くなった仲間たち。そして・・・思わず、見惚れてしまう女の子で埋めたんだ。

 

『・・・・・・』

 

 だから、もう迷う必要なんてないんじゃないか。

 

 それに、お前は最強の整合騎士――ゼロ。

 

 それ以外にも、お前には、誰にも譲れないものがあるじゃないか。

 

 誰もが憧れた最強の剣士――『剣帝』という異名を。

 

『――――』

 

 ようやく、主人格の()の瞳に覚悟が決まったようだ。

 

 僕が後押しをした。これで、安心して消えれるというものだ。

 

『いくのか?』

 

 ああ、これからは、キミの頭脳と僕の眼が必要になる。

 

 キミも気が付いてるんだろう。

 

 菊岡たちの計画は国外に秘密裏に洩れてることに・・・

 

『ああ、気が付いてた。この世に完璧ってのがねぇからな。おそらく、最終負荷実験の際、なにかが起こるのは分かってた』

 

 そのためにも、僕は消える。

 

 ありがとう。キリトにリベンジは出来なかったが、彼女と楽しめた。

 

 これほどの高揚感はない。

 

 ありがとう・・・。

 

 別人格の自分は主人格の自分にお礼を言って、消えていった。

 

 

 

 消えていった別人格の自分を視て、俺は

 

(全く、迷ってばっかだったな俺は・・・けど、もう迷わねぇ・・・アリスは俺が守らねぇとな)

 

 ようやくだが、俺も前に進める気がするぜ。

 

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17話

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 アリスサイド

 

 ッ!?

 

 な、なんですか。

 

 急にギンの雰囲気が変わりました。

 

 さっきまで、身体を貫かせるだけの威圧感があったのに、今は、穏やかで、心が安らぐ。

 

 ですが、うちに秘めてる迫力はそのままです。

 

 それよりも、気になるのは・・・この寒気はいったい・・・

 

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 三人称サイド

 

 別人格が消えて、主人格に戻ったギン。

 

 だが、ただ、戻ったわけではない。

 

 本来、開花させる才能が人格を分けて、開花してしまった。

 

 それが、再び、1つになった。主人格に返上したことで、ギン本来の力を取り戻したことになる。

 

 アリスが寒気を感じとれたのは、その所為だと思われる。

 

 

 

 アリスが寒気に手が震えてる中、ギンは感覚を確認していた。

 

 確認して分かったことを口にし始めるギン。

 

「なるほどな。これが、先を見通す眼か。いや、元々、見えていたものが見えるようになったというのが正解だな」

 

 言葉を漏らした。

 

 

 

 たった、それだけで、ゾクッと背筋を凍らせるアリス。

 

 キリトとユージオもギンの変わりように驚いてるも、ギンの吐露した言葉だけで背筋を凍ったこと自体。

 

 自分らの本能が叫んでる。

 

 此奴には勝てないと叫んでる。

 

 

 

 ギンは身震いするアリスを視る。

 

 アリスはギンの瞳を視る。

 

 透き通る碧眼。だけど、瞳の中には、別人格のギンが使用していたリングが浮かび上がっていた。

 

 アリスはそれだけで理解する。

 

(今のギンは、今まで一緒にいたときと同じだけど・・・今まで、感じたことがない・・・この寒気はいったい・・・ギンから放たれる圧倒的な力・・・いえ、存在感・・・とにかく、今の私では・・・ギンには勝てない)

 

「勝てねぇと思った瞬間、自分の可能性を捨てたことになる。そんなんじゃあ、俺を超えられねぇぞ、アリス」

 

「ッ!?」

 

 見透かされたことにアリスは言葉を詰まらせる。

 

「オメエさんの覚悟と俺に対する想いはその程度だったのか?」

 

 この言葉がアリスを刺激させた。

 

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アリスサイド

 

「オメエさんの覚悟と俺に対する想いはその程度だったのか?」

 

 イラッ

 

 何でしょうか、無性に苛ついてきますね。

 

 私がギンに対する想いはその程度ですって・・・

 

「巫山戯てるのかしら? 巫山戯てるのだったら、良い度胸ですね。お前を負かして、骨の髄まで説教しないといけませんね」

 

 この時の私は自分でも気づかないほどの冷たい声音を言っていたようです。

 

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 ギンサイド

 

 あれ?

 

 俺、もしかして・・・アリスを怒らせた?

 

 声が怖ぇほど、冷てぇんだけど・・・

 

 それに、彼処にいるキリトとユージオがガクガクと震えてませんかねぇ~。

 

 しゃあねぇ。

 

 って!? アリスの口からウフフフ・・・って、不気味な笑い声が聞こえるんだが・・・。

 

 あっ、これ、俺、後で死ぬかも・・・

 

「今更、謝ったって許しませんから。覚悟をしてください」

 

 本気で殺す気満々やん!!

 

 それも仕方ねぇな。

 

 アリスをこんな風にさせたのは俺のせいだから。

 

 大人しくやられとくか。

 

 まあ、全力を出すけど・・・それに、俺も今の力を何処までいけるか分からねぇしな。

 

 あと、アリスを相手に手を抜く気はねぇけどな。

 

 俺はフッと微笑を漏らした。

 

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 三人称サイド

 

 ギンはここに来て、剣を抜く。

 

 アリスは怒りに怒りまくったせいで、冷静になってしまった。

 

 そして、ギンはアリスにこう言った。

 

「見せてやるよ。俺の本気を・・・剣を極めに極めた技を・・・」

 

 スッと剣を構え、

 

「『心刃合錬斬』」

 

 ギンの神器である『神穿剣』の刀身がライトエフェクトを出した。

 

 そのライトエフェクトが徐々にギンを取り込んでいく。

 

 それには、キリトも、ユージオも、そして、アリスすらも驚きを隠せない。

 

 ライトエフェクトに取り込まれていくギンは説明する。

 

「『心刃合錬斬』・・・この技は武器と己を1つにして斬りかかる剣技だ。この技の神髄は武器を己と一体化させること。つまり、この技に至るには、武器を己の身体の一部にさせねぇといけねぇ」

 

 ここに来て、アリスは思い出す。

 

 ギンから剣の修行を受けたときに言われたことを思い出す。

 

『剣に頼りすぎだ。剣を身体の一部にせよ。神器と心を通わせてるんだ。己自身が強くなれねぇと本当の意味で俺を超えられねぇぞ』

 

 その言葉が今でも脳裏にこびりついてる。

 

 そして、今、ライトエフェクトがギンを包み込み、『神穿剣』と1つになった。

 

 それは、鎧すらなく、本当の意味で剣と使用者を1つにさせた姿だった。

 

「行くぞ」

 

 地面を蹴って、駆け出したギン。

 

 そこには、既に斬ることだけしかない存在していない。

 

 剣と一体化したギンが繰り出した一閃。

 

 斬られたと実感するアリス。

 

 だが、身体をみても、鎧も服にも斬られた後がなかった。

 

 パラパラとライトエフェクトがギンから剥がれていく。

 

 剥がれていく中、ギンは剣を鞘に納刀していく。

 

 ギンはフゥ~ッと息を吐く。

 

「疲れた。どうだい・・・俺の本気の一閃を受けた感想は?」

 

「今、私は斬られたと思いました」

 

「ああ、斬ったよ。眼帯をな」

 

 アリスはギンに言われて、右眼を触ると、黒い眼帯がないことに気が付いた。

 

 

 

 外野で視ていたキリトとユージオは改めて、ギンの実力を目の当たりにした。

 

「キリト・・・もしかしてだけど・・・修剣学院での剣術試験・・・ギンは手を抜いていたのかな」

 

「ああ、そうとしか言えないだろう。アリスの皮膚や鎧、服すらも傷がなく、ただ、眼帯のみを斬るなんてとてもじゃないが俺にはできない。流石は『剣帝』。化物としか言えない」

 

「『剣帝』・・・?」

 

 ユージオはキリトが漏らした言葉が分からず、首を傾げた。

 

 

 

 ギンは神器を鞘に納め、アリスに近づいていく。

 

「この勝負、俺の勝ちだな」

 

 イラッ

 

「今のオメエじゃあ、俺に勝てねぇぞ」

 

 イラッ

 

「俺はアリスだけは()()()()()()んだよ」

 

 ブチッ

 

 

 

 この時、アリスの中で再び、なにかが切れた。

 

「お前・・・」

 

「ん?」

 

「お前は・・・」

 

「あれ?」

 

「お前は・・・私を愚弄する気ですか!!」

 

 バチィン!!

 

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 ギンサイド

 

 バチィン!!

 

 頬に鋭ぇ感覚が伝わってくる。

 

 マジか、俺、今・・・アリスにビンタされたのか・・・

 

「ギン・・・」

 

「ヒィッ!?」

 

 や、ヤベぇ~。

 

 アリス・・・笑顔を浮かべていやがる。

 

 でも、目が笑ってねぇ~・・・

 

 俺、思わず、禁句でも言っちまったのか!?

 

「どうやら、お前には、説教しないといけませんね」

 

 ヤベぇ~よ。アリスの背後になんかが顕現していやがる。

 

 俺は一歩後ろに下がった。

 

「人がキレてるときに逃げようとは良い度胸ですね。話す内容が増えてなによりです」

 

 マジィ~ですよ。これは・・・一応、念のために聞いてみる。

 

「も、もしかして・・・俺・・・禁句でも言っちまったか?」

 

「ええ、言いました。私はしっかりと覚えていますよ。さらにそれ以上言ったら、長々と説教されたりというわけですか?」

 

 ヤベぇ~、これは腹をくくらんといけねぇ奴だ。これ以上、なんか言ったら、逆鱗に触れちまう。

 

 今なら、キリトがアスナに敵わねぇのがわかる気がするぜ。

 

 俺はこれ以上にねぇほど焦った。

 

 

 

 なお、目線だけキリトとユージオに向けると、あの2人は苦笑を浮かべた。

 

 助ける気全くナシだな。

 

 その後、俺はアリスからの説教を受ける羽目になった。

 

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18話

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 三人称サイド

 

 長いようで、短い説教。

 

 このあとに控える最高司祭との戦いがあるので、アリスは

 

「ひとまず、ここまでとします」

 

「・・・・・・」Ω\ζ°)チーン

 

 魂が抜け落ちてるギン。

 

 それを見ていたキリトとユージオは苦笑を浮かべ、説教が終わるのを待っていた。

 

 キリトに至ってはギンを昔の自分と重ねてしまい、心の奥底でアスナに逆らわないようにしようと決めたのだった。

 

 

 

 説教後――。

 

「この上が最高司祭がいる部屋だ」

 

 ギンはここに来た目的であるアリスたちにそのことを伝えると、

 

「この先に、アドミニストレータがいるのか」

 

「時に、キリト・・・ユージオ。オメエさんらが、最高司祭(露出婆)に会いに来たのは、なんかわけがあるんだろう」

 

 ギンはキリトにここまでくる目的を聞く。

 

 キリトはギンの問いに

 

「それは・・・」

 

「回りくどいのナシだ。じゃあ、()()()に言っていいんだよな?」

 

「止めてくれぇ~!!」

 

「じゃあ、さっさと話せと言いてぇところだが・・・その話は・・・あの婆を倒してからな」

 

 ギンがそう言ったら、アリスらは頷き、最高司祭様がいる部屋の扉を開いた。

 

 

 

 ギィィッと重い音を響かせながら扉が開く。

 

「やはり、来たのね・・・ギン」

 

「やあ、最高司祭・・・テメエを斬らねぇいけねぇようだ」

 

 扉の向こう側に、薄い紫色の髪を靡かせながら全裸の女が振り返る。

 

 この女こそ、『公理教会最高司祭』。

 

 この『アンダーワールド』の神を名乗ってる女だ。

 

 だが、彼女は戦いに来たキリト、ユージオ、アリスではなく、ギンのみを視ていた。

 

「貴方・・・前、私にこう言ったよね。『外界の卑劣な神に絶望を与える』って・・・それは、つまり、この世界の存続を願ってる人の言葉と同義で良いよね」

 

「そうとって貰って結構。俺とテメエとでは守りてぇ方法が違ぇんだよ」

 

「そうね。それで、そこにいる貴方たちは私に挨拶しにきたように見えないけど・・・」

 

「最高司祭様・・・1つ報告があります」

 

 優雅な仕草の最高司祭にアリスが1歩前に出て宣言する。

 

「我ら誉れ高き整合騎士団は本日を以て崩壊しました。たった2人の叛逆者たちの剣によって・・・そして、私も貴方に刃を向けます。私はこの世界の歪んだ秩序を正す。ギンと共に・・・ッ!」

 

 アリスが剣を引き抜き、最高司祭に向ける。

 

 そんなアリスを最高司祭は一瞥すると、愉快そうに嗤った。

 

「アハハハッ! そう、そういうことなのね! アリスちゃん、貴方・・・分かっちゃったのね」

 

 ひとしきりに笑った後、笑みを浮かべながら、ひやりとする声で言った。

 

「まあ良いわ、掛かってきなさい。私のお人形さんたちと、いずれ、お人形になる子たちだもの。これくらいの戯れは許すわ」

 

 愉悦と余裕が入り混じった表情を浮かべてるもギンは

 

「良く言うわ。俺らのことなんか不必要と考えてる奴が言える台詞か」

 

 ハハハッと苦笑じみて言い返した。

 

 それは既に最高司祭の考えを読み切っていたことに起因する。

 

 最高司祭はギンの言葉に眉を顰める。

 

 そんな中、キリトはユージオに声をかける。

 

「ユージオ、カーディナルからもらった短剣はまだ持ってるな?」

 

「うん、しっかり持ってるよ」

 

「じゃあ、ユージオは隙を見つけたら、すかさず、それを使ってくれ。そんで、ギンとアリスは俺と一緒にユージオが突き入る隙を作るぞ!」

 

「ハイハイ」

 

「了解」

 

 キリトにそう言われて、ギンとアリスは駆け出した。

 

 少し遅れるようにユージオが駆ける。

 

 そんな彼らに最高司祭は

 

「愚かしいわね。ギンは既に私の状態を見抜いてるというのに・・・」

 

「自分の眼で確かめねぇと納得いかねぇ質でね」

 

「そうなの・・・」

 

 最高司祭はギンの言葉を聞いて、呆れた顔をする。

 

 

 

 その後、キリト、ギン、アリスがなんとか、動きを封じ、ユージオが短剣を最高司祭の胸元に突き立てる。

 

 これで、決着がつくかと思われた。

 

「なにッ!?」

 

 確かに、ユージオの短剣は最高司祭に当たっている。

 

 それでも、最高司祭は多少驚いたような表情を浮かべるだけだった。

 

「この短剣・・・そう、貴方たち・・・あのおちびさんに会ったのね。ついこの前、メタリック属性に対する耐性をつけたのだけど、正解だったわね」

 

 メタリック。つまり、金属耐性を得たということだ。

 

 これで、最高司祭は金属で構成された剣では斬れないということになる。

 

「それより・・・良いの? 離れないと――――死ぬ・・・・・・ッ!?」

 

 最高司祭は「死ぬわよ」と言い切ろうとしたところで、背筋を凍らせ、本能的に危険と判断し、すぐさま、ユージオから距離を取った。

 

 いきなりの行動に、キリト、ユージオ、アリスは驚きを隠せない。

 

 だけど、最高司祭は3人に眼を向けておらず、ギンだけに眼を向けていた。

 

「まさか・・・そんなものまで・・・用意していたとはね・・・」

 

 苦悶の表情を浮かべる最高司祭。

 

「ほぅ~、本能的に理解したようだな・・・()()()()はテメエの身体に傷を付けることできるということを・・・」

 

 ギンが今、手にしてる神器『神穿剣』。

 

 その剣からドロドロとこぼれ落ちてくる黒いなにか・・・最高司祭はそれを見た瞬間、すかさず、距離を取ったのは、その剣の秘められた能力に身の危険を感じたからだ。

 

 最高司祭につられて、キリトらもギンの方を視ると、ギンが持つ神器から溢れ出てる黒いなにか・・・アレは、この世ならざるものだと思い込ませてしまうほどの異質な力を放ってた。

 

 今なお、『神穿剣』には白銀の輝きを失って、黒く淀んでいる。

 

 窓すらもないのに荒々しい風が吹く。

 

 

 

 ギンは途轍もない冷たさを放つ瞳と表情を浮かべ、

 

「最高司祭・・・いや、アドミニストレータ・・・・・・テメエはもう終わりだ」

 

 ギンの瞳に浮かぶリング。

 

 既に天精眼(ウラノス)が発動させてた。

 

 ギンは五感を研ぎ澄ませ、アリスを一瞥した。

 

「この剣を使うのは初めてだからな・・・あんまし、他の奴らに見せたかねぇんだけど・・・しゃあねぇか。その前にアドミニストレータに聞きてぇことがあるんだ」

 

「なにかしら?」

 

「俺やキリトは向こう側の人間だ。向こう側には、向こう側の考えがある。テメエにはテメエの考えがある。だから、聞きてぇんだよ」

 

「なにが聞きたいのかしら・・・まさか、自分らの方が偉いと言いたいのかしら?」

 

「まさか、この世界の人間の方が遙かに文明が進んでると思えるよ。近ぇ将来、俺とキリトが住んでる世界よりも発展することは間違ぇねぇからな。俺個人の見解だが、勝者とは、世界がどうではなく、どうあるべきかついて考えねぇといけねぇんだと俺は思ってる。つまり、テメエは俺と同じように世界をどうあるべきについて、深く考えてたんだろう」

 

「その考えは優れた人間じゃなきゃ考えつかないものよ。貴方はつまり、自分は優れていると自負してるのかしら」

 

「買いかぶりすぎだ。俺はただの整合騎士の1人に過ぎねぇんだからな」

 

「アハハハッ! 貴方は自分を過小評価してるようね。貴方のような存在を時に世界は天才と呼ぶのよ」

 

「なるほど。確かに、世界に於いて、俺を含めた優れた人間のことを天才と置き換えても良いだろう」

 

「じゃあ、その天才に聞きたいわ。向こう側の人間は、より上位者によって、創造された世界だと常に意識し、世界がリセットされないよう、上位者が気に入る方向に努力してるのかしら?」

 

 アドミニストレータの問いにギンは

 

「まさか、人間というのは、間違いを繰り返す生物にして、無限の可能性を秘めた生物だ。だけど、戯れに、世界と命を創造させておいて、気に入らなければ、消去する人間もいる・・・キリト・・・オメエはどう思うんだい」

 

 ギンはキリトに話を振ると

 

「どうって・・・言われても、俺は・・・自分ができるかぎりのよりよい方に努力するしか・・・」

 

 キリトはそう応えた。

 

「なるほど・・・それも1つの考えだ。つまり、人というのは、千差万別。いろんな考えを持ってるんだよ」

 

「いろんな考えというけど、貴方だって、この世界の創造主たちに手を貸してるけど、最終負荷実験に関してはどう思ってるのかしら?」

 

「アレは、創造主たる菊岡たちの念願の目的物を目的の場所に移動させるために用意させたもの実験だ。しかも、自分らの欲望のために、この世界の幸せを考えねぇ連中だ。だからこそ、アドミニストレータの存在すらも気が付いていねぇ・・・まさに、無能だな」

 

「この世界の創造主たちを無能というとはね」

 

「事実だろ。神のように上から見てるだけじゃあダメだ。自分の目で見て、人がどのように抗ってるのか、どんな欲求を持ってるのかを視ねぇと分からねぇだろ。実際にキリト・・・この世界の人たちと触れあってどう思った」

 

「いろんな人がいるんだなと思った。一途な思いだったり、堅物だったり、友達思いだったりと・・・俺やギンが棲んでる世界となんら変わらなかった」

 

「そう。触れあうことで分かることがある。だが・・・」

 

 ここで、ギンは一拍おき、天精眼(ウラノス)でアドミニストレータを睨む。

 

「だが、このような純粋無垢にして、永劫な世界は、もはや、停滞した世界に等しい。そのような世界を俺は断じて許さねぇ。テメエが正義というなら、俺はそれを悪と断じて斬り捨てるのみ!」

 

 ギンの叫びに等しい言葉を聞き、アドミニストレータは

 

「アハハハッ! そう、それが貴方の応えなの。どうやら、貴方と私とでは、考え方そのものに違いがあったそうね。でも、貴方が私を斬り捨てるというのなら、何処まで愚かで愚弄なのか、その身を以て味わってもらいましょう。おいでなさい、私の人形にして忠実な僕! 魂なき殺戮者よ! 『()()()()()()()()()()()()』!」

 

「「「「なっ!」」」」

 

 アドミニストレータの口から放たれた無慈悲極まりない宣言に、整合騎士であるギンとアリス。キリトとユージオは驚愕を隠せない。

 

 何故なら、『リリース・リコレクション』は武装完全支配術を超える記憶解放術。

 

 だが、彼女の周りには、武器になるものが存在しない。

 

 なのに、彼女は記憶解放をした。

 

 なにを記憶解放したというのだ。

 

(ハッ!? まさか・・・)

 

 ここで、ギンはすぐに理解して、黒いなにかがそれに呼応する。

 

「目覚めの時だ」

 

 黒く淀んだそれは『神穿剣』から抜け落ちていき、ギンの足元に渦巻いてる。

 

 彼の呟きに応じて、黒いなにかが形を成していく。

 

 

 

 それと同時にこの部屋にある全ての柱に取り付けられてる大小様々な黄金色の剣が、宙を舞って、形を成していく。

 

 その形は人間の倍以上の4本もの脚を持つ巨体だった。

 

 もはや、剣などではなく、怪物としか形容できない。

 

 そして、最後に何やら、結晶らしきものが怪物に取り込まれ、謎の模様が浮かび上がった。

 

 その模様が光を放ったかと思いきや、激しい閃光を放つ。

 

 紫の光は、怪物の全体を舐めるように広がっていき、全体を覆うと、刃に鋭さが取り戻されたかのようになってた。

 

 触れれば、何でも切り裂けるだけの力があるのを感じとれた。

 

 キリト、ユージオ、アリスそしてギン。

 

 アリスは怪物に対して、あり得ない表情を浮かべる。

 

「・・・あり得ない。同時に30もの武器に対して、これほど大掛かりな術式を使役できるなどと術の理に反してる」

 

 言葉を吐露してる中、アドミニストレータは

 

「ウフフ・・・アハハハッ! これこそ、私が望んだ力。決して逆らわず、私の命令通りに動いてくれる人形。純粋なる攻撃力をもつ最強兵器。名前は・・・そうね・・・『ソードゴーレム』としておきましょうか」

 

 ギンとキリトはその名前を聞いて反応する。

 

「剣の・・・自動人形・・・」

 

「巫山戯んのも大概にしろ」

 

 ちょうど、そのタイミングでギンの手元に『神穿剣』と対をなす形になった黒き刀。

 

 その剣が今、ギンの手に渡った。

 

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19話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 ギンが黒き刀を手にしたのを視て、アドミニストレータは

 

「剣の1本1本が神器級の優先度を誇ってるこの『ソードゴーレム』に勝てるかしら? とは言っても、先に始末しないといけないのは、やはり、貴方ね、ギン」

 

 ギンに鋭い視線を向ける。

 

 対して、ギンは黒き刀の刀身を視ている。

 

 艶があり、透き通るかのような濡れ鴉の黒。

 

 周りから視れば、無視してるかのように見えるが、ギンからしたら、天精眼(ウラノス)があるので、眼に映らなくても、見えてるのだ。

 

 だが、それを知らないアドミニストレータはギンに無視されたことが神経逆撫でにされ、

 

「戦いなさい! あの銀髪の坊やを亡きものにするのよ!」

 

 主人の命令をひたすら待ちわびたかのように・・・剣の怪物の心臓部の結晶が強烈に瞬いた。

 

 

 

 直後、金属音と咆哮を轟かせながら、4本の脚がギンに向けて突進を開始した。

 

 ギンに迫り来る4本脚の剣の怪物。

 

 そのギンを守ろうと動き出したアリス。

 

「やあぁぁぁぁぁッ!!」

 

 永劫不朽の名を冠するアリスの神器『金木犀の剣』と剣の怪物の腕が火花を散らし、衝突する。

 

 しかし――

 

 ガッキン!

 

 音を立てて、剣を弾かれた。

 

 弾かれた衝撃でアリスは体勢を崩す。

 

『―――!!』

 

 ゴーレムの不協和音の金属音を鳴り響かせながらアリスへと剣の腕を振り下ろす。

 

 剣を弾かれ、身体を仰け反らせるように体勢を崩したアリスに回避は不可能・・・だが

 

「ぐっ!?」

 

 その刃が届く前に、別の誰かの身体を貫いた。

 

 それを目の前で見てしまったアリスは、目を見開いてしまう。

 

「ギンっ!」

 

 何故なら、目の前で自分が愛する人が胸を貫かれたからだ。

 

「いや・・・嫌アァァァァァァァァァ――――!!」

 

 悲痛な叫びを上げるアリス。

 

「アハハハッ! まさか、そこの子リスちゃんを守るために身を挺するとは呆れを通り越して笑ってしまうわ」

 

 ギンの愚行なる末路にアドミニストレータは笑い上げている。

 

 アリスは剣を落とし、焦燥したかのような顔でその場に座り込み、無気力状態に陥る。

 

「うぁぁぁぁぁあっ!!!」

 

 一連の流れを視ていたキリトは恐怖を誤魔化すように悲鳴に近い雄叫びをあげながら『ホリゾンタル』を発動させ、ゴーレムの腕に斬りかかるものの、呆気なく弾き飛ばされてしまう。

 

 ユージオは戦慄した。この中で一番強いギンがゴーレムに呆気なくやられてしまったことにだ。

 

 たった数秒で手も足も出ずにやられたからだ。

 

 それでも、アドミニストレータは未だに笑い続けてる。

 

 だが、そのタイミングで

 

「――ッ!?」ゾクッ

 

 背筋を凍らせるなにかを背後から感じとれた。

 

 悪寒を感じとったアドミニストレータはすぐにバッと下にしゃがみ込んだ。

 

 それが、あと、数秒遅かったら、彼女の首と胴は離ればなれになっていたことだろう。

 

 何故なら、ちょうど、アドミニストレータの首があったところに黒い一閃。

 

「いや~、見様見真似だったけど・・・上手くいったようだな」

 

 その声を聞いて、えっとなるアリス。

 

 それは、ユージオも、倒れ伏してるキリトも同じだった。

 

 宙に浮くように立っている銀髪碧眼の少年。

 

 蒼色の服を着込んでる少年は彼しかいない。

 

 そう、ギンだ。

 

 彼は最初にゴーレムにやられていたのに、無傷でアドミニストレータの首を取ろうとした。

 

 

 

 これには、アドミニストレータもアリスらも何故、ギンが無傷でいるのかに驚きを隠せない。

 

 だけど、このタイミングでユージオの頭の中で弾けたような声が聞こえてきた。

 

 

 

 その後、漆黒の仔蜘蛛が自身の何万倍ものの大きさになって、剣の怪物に向けて、暴れ始めてた。

 

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 アリスサイド

 

 蜘蛛?

 

 いえ、それよりも・・・ギンが生きていた・・・

 

 私の脳裏には、彼の胸を貫かれた光景が拭いきれません。

 

 お前は何処まで無茶をすれば、気が済むのですか・・・

 

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 ギンサイド

 

 ん? 蜘蛛だな。

 

 なんで、こんな所に蜘蛛が・・・

 

 いや、それよりもアリスは・・・無事だな。

 

 無事とはいえ、目の前で好きな人が死にかければ、精神の1つが崩壊してもおかしくねぇな。

 

 しゃあねぇ。

 

 あとで、説教なり、甘えなりを聞くとしましょうかね。

 

 

 

 俺はアドミニストレータに斬りかかろうとしたところで、脳内に声が聞こえてくる。

 

『ギン、貴方は少しだけ休んでいなさい! 貴方の力はこの先、必要だから!』

 

 チッ、どうやら、この声の主は俺の現状を理解していやがる。

 

 しゃあねぇが、この声に従ってやるとするか。

 

 宙に浮いてる俺はアリスの傍に降り立つ。

 

 途端、アリスが俺の顔をペタペタと触ってきた。

 

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 アリスサイド

 

 私の傍に降り立ったギン。

 

 私は隣にいるのが本当にギンなのか確かめたくて、彼の顔を触り始めた。

 

 彼はいきなりのことで驚くも、私の手をどかそうとはしなかった。

 

 むしろ、私の耳元にこんな言葉を囁いた。

 

「悪ぃ~、心配かけちまったな」

 

 本当に・・・お前は・・・私を何処まで心配させれば気が済むんですか・・・

 

 私はこの時ほど、涙を零してしまいました。

 

 戦ってる最中なのに――。

 

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 三人称サイド

 

 アリスがギンに抱きついてる感じを見てるユージオ。

 

 彼は二人を見て、

 

(本来の記憶が失っても、根底にある部分は変わらない。2人が本当の意味で仲良しなのは・・・うぅ~ん、こんな状況だけど・・・失恋しちゃったかな)

 

 フッと思わず微笑を漏らすも、頭の中に流れ込んできた声に従って、昇降盤に短剣らしかものを刺すと、強烈かつ目映い閃光が部屋中に迸る。

 

 その光はゴーレムですら動きを止めてしまう。

 

 

 

 その後、カーディナルと呼ばれる少女が姿を現し、ゴーレムを吹き飛ばした。

 

 ギンはそれを見て、

 

(アァ~、なんだ、その手があるじゃねぇか。久しぶりに此奴の完全支配術を使えばいいじゃん)

 

 ここに来て、自分の神器の完全支配術を使用すればいいということに気が付いた。

 

(『神穿剣』の完全支配術・・・前に使用したとき・・・あまりの威力と支配領域に驚いて、使用するのを誤っちまうんだよな。だから、こういった空間で使うと・・・ここにいる全員死んじまうな。間違ぇなく・・・)

 

 ギンは自身の完全支配術の恐ろしさを理解してるからこそ、使用するタイミングを考えてた。

 

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 ギンサイド

 

 ふむ。参考にさせてもらったとして・・・それにしても、あのちびっ子がカーディナルシステムか。

 

 どうやら、『ザ・シード』縮小版から生まれたカーディナルシステムのようだな。

 

 見たところ、サブといったこところだな。

 

 バグとかを消去し、メインの修正させる仕事。

 

 つまり、アドミニストレータがメインで、彼処にいる彼女がサブだな。

 

 彼女はキリトの傷を癒したら、俺とアリスのところにやって来て、治療術式を施してくれてから、アドミニストレータの方に向きつつ、

 

「其方ら、よくやった。よいか、けっして、儂の後ろから動くではないぞ」

 

 なんてこと言ってるけど、悪ぃ~けど、其奴は無理な話だ。

 

 なんせ・・・

 

「人を平気で殺戮兵器に変えちまう奴に甘さは不要だ」

 

 俺は小声で呟いた。

 

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20話

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 三人称サイド

 

 カーディナルが登場したことで、アドミニストレータはこの空間を断絶させた。

 

 ギンはカーディナルの前に立ち、アドミニストレータに剣を向ける。

 

 カーディナルはギンに「儂の後ろにおれ」と言ってくるもギンは

 

「無理だ。人を殺すことが出来ねぇサブシステムが喚くな。剣の怪物に使われてる材料を知れば、オメエはあのゴーレムに手を出すことが出来ねぇ・・・」

 

 ギンの言ってる意味が理解できないカーディナルだが、アドミニストレータだけはギンの言葉を理解できた。

 

「あら、ギンは既に気が付いちゃったのね」

 

「当然。同じ研究者だ。その考えは嫌でもわかる。ざっと視たところ、あのゴーレムには、100人以上は使っていねぇか」

 

 ギンの問い返しにアドミニストレータは

 

「良いところね。正確にいえば、300よ」

 

 300という言葉とギンが言ったことを総合すると、

 

「300・・・じゃと? 貴様・・・まさか?」

 

 カーディナルもギンと同じ見解に至ったようだ。

 

 そのタイミングでゴーレムが不協和音の声をあげて、復活してくる。

 

 ギンは当然だろうという顔をしてる。

 

「300人か・・・随分と酷ぇことをするんだな。人の構造データを剣の怪物の構造データに変えちまうなんてよ」

 

 ギンの言葉とは真逆にカーディナルは

 

「貴様・・・! 300人もの民を犠牲にして、その兵器を創り上げたというのか!? 本来、貴様が守るべき民をッ!!」

 

「犠牲・・・? ハハハ! 違うわよ、おちびちゃん。ギンが言っていたでしょう。構造データを書き換えたって・・・そう、これは有効利用よ。そもそも、この世界は近いうちに、身勝手な外界の神たちが『ダークテリトリー』を利用して、滅ぼそうとしてるのよ。それを覆すための兵器。わかる? 人命が尊いのなら、世界の守るために有効利用されることを喜ぶべきなのよ!」

 

 アドミニストレータはそう言って、指を鳴らすと、2体目のゴーレムが姿を現した。

 

 それには、アリスとユージオも意気消沈となりかける。

 

 だが、ギンは――、

 

「面白ぇ・・・斬り甲斐があるってもんだ」

 

 こんな状況下で好戦的な笑みを浮かべる。

 

 2体のゴーレムがギンたちに襲いかかろうとした。

 

 鋭利な刃が縦横無尽に襲いかかれば、ギンたちは一瞬にして、命を散らすことになるだろう。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 何故なら――、

 

「これは・・・」

 

「どうなってるんじゃあ・・・」

 

「なあ、ユージオ・・・これって・・・」

 

「凍ってる? でも、僕じゃない。第一、僕でもこれを凍らせることはできない」

 

「じゃあ、いったい・・・誰が・・・」

 

 そう、2体のゴーレムが突如、凍らされた。

 

 神器としての機能もモジュールとしての機能も全て、停止されてる。

 

 これには、アドミニストレータも驚きを隠しきれていないけど、それを実行した人物の特定は出来た。

 

「それが・・・貴方の神器の能力なのね、()()

 

 彼女の言葉を聞いて、アリスたち全員がギンに視線を向ける。

 

 全員の視線が集中されてるギンは

 

「ふむ。どうやら、ほんの一部解放しただけで、この威力か・・・俺が調整しねぇと・・・俺すらも死んじまうな」

 

 検証してるかのような呟きをする。そして、

 

「ああ、そうだよ。このゴーレム共を凍らせたのは『神穿剣』の記憶の一部だ」

 

「あれで、記憶の一部・・・・・・その神器だけは、この私ですら、難儀したのよ。よく手懐けたものね」

 

「そういや、ファナティオ殿もそう言ってたな」

 

 ギンは『神穿剣』を見る。

 

 刀身からは冷気が洩れていた。

 

 アリスはギンの剣を見て、

 

「これが・・・『神穿剣』の武装完全支配術・・・・・・人智を超えうる大災害を取り込んだとされる神器。つまり、これの氷は、その大災害の1つなのですね」

 

 術式の規模と威力に戦慄する。

 

 この状況でキリトはアリスに聞き返す。

 

「人智を超えうる大災害・・・それはなんだ?」

 

 という質問にアリスは話し始めようとする。

 

 ユージオもそれを聞くことにした。

 

 だが――、

 

「『神穿剣』は、創成期以前の時代・・・人界の全土に広がっていたとされる銀木犀の樹木と白妙菊の草原。それが、この剣の原型だ。ステイシア、ソルス、テラリアがもたらした神をも殺せる大災害・・・・・・全てを燃やし尽くす炎熱地獄。全てを凍り尽くす八寒地獄。全てを穿つ雷霆。全てを斬り裂く大竜巻。全てを腐らせる猛毒、富栄養。干からびかせる陽光。数多の大災害を取り込んだ姿が、この剣だ」

 

 ギンの説明を聞いて、ゴクッと息を呑んでしまうキリトとユージオ。

 

 アリスは大災害のそれを聞いて、顔を青くさせる。

 

 アドミニストレータ、カーディナルですら、想像を絶したのか顔を引き攣らせる。

 

「この剣の記憶には、銀木犀、白妙菊そして、数多の大災害の記憶。それは大自然の記憶ともいえる。属性は天相従臨。天候そのものを支配してしまう圧倒的な力・・・基本的な力だからこそ、それは圧倒的な力となる」

 

「基本的・・・?」

 

 アドミニストレータは凍りついたゴーレムを視て、基本的な力とはいったい何という顔をしていた。

 

「まあ、この剣は未熟なもの。痛みの記憶を理解できねぇ奴には手を貸さねぇ質でな。俺にしか懐かねぇようだ。離れた帰還が長ぇとアリスと同じように拗ねちまう」

 

「誰が・・・お前の神器と同じように拗ねるんですか!?」

 

「拗ねるだろうが、俺が修剣学院から一時帰還したとき、思いっきり拗ねてただろう」

 

「・・・・・・」

 

 アリスはギンに言い負かされて、プイッとそっぽを向く。

 

「まあ、一応、現時点の効果範囲は()()()()だ。将来は、この世界全域の天候を支配してぇものだけどな」

 

 ギンの口から出てきた効果範囲の広さにキリト、カーディナル、アドミニストレータは目を見開かせる。

 

 その意味を理解できた彼とカーディナル、アドミニストレータのみだった。

 

 四方三里。それは、つまり・・・半径12キロ。

 

 その支配領域は『王都カセドラル』の空を覆ってしまうものだ。

 

「さて、もう話すこともねぇだろう」

 

 ギンは軽く剣を振るうと氷となったゴーレムを氷塊となって瓦解する。

 

 軽く振るっただけで瓦解させたギンの剣筋の云々よりも実力には目を見張る。

 

 こうなったら、アドミニストレータは本気でギンを止めないといや、殺さないといけない。

 

 自分の目的を頓挫されないために――。

 

 なので、彼女は細剣を出し、ギンと対峙する。

 

「貴方はここで殺すわ、ギン」

 

「俺も同じだよ」

 

 互いにそう言ってからギンの刀とアドミニストレータの細剣がぶつかり合う。

 

 今まで聞いたことがない轟音と共に、互いの剣が火花を散らし、空間を歪ませる。

 

 アドミニストレータはギンを真の脅威と認定して、殺そうとしてる。

 

「この小僧がっ・・・!!」

 

 細剣に力が込められるも、抑え気味な状況から拮抗状態に陥るも、ギンは不敵に笑みを漏らし、

 

「良いのか? 細剣に力を集中させてよ?」

 

 ギンは右の黒き刀をアドミニストレータの顔に突き刺そうとする。

 

 アドミニストレータは咄嗟に躱すも、体勢を崩された。

 

 崩された瞬間、ギンは右の剣の軌道を変え、アドミニストレータの右腕を肩から斬り落とした。

 

 だが、彼女の細剣に蓄積された莫大なリソースが爆発しようとするも、ギンの左の剣を通して、刀身が凍っていく。

 

「いくら、優れた機能だろうと、凍らせればただの鉄くずだ」

 

 パキ、パキ、パッキャーン

 

 凍らされた刀身はギンの剣によって真っ二つに折れた。

 

「ぐっ!?」

 

 右腕を斬られたアドミニストレータは一度、距離を取る。

 

「やはり、その黒い剣はメタリック耐性に効果ないようね。その剣・・・『神器』のようだけど、なにを素材してるのかしら? 私もその剣だけは知らないわ」

 

「この剣は『死告剣』。素材は概念が結集して誕生した剣だ。元々は俺じゃなく、もう1人の俺が持つべき剣だったものを俺が使うことした。属性は・・・そろそろ、効果が発揮される頃だ」

 

「え?」

 

 ドクン

 

 この時、アドミニストレータの身体が脈動する。

 

 彼女は自分の身体の変化に気が付き、ウィンドウを開く。

 

 開いた瞬間、天命が減少しだしたのと、自分の不死性が消えてることに知る。

 

「ギン!! お前!! 私の体に何をした!?」

 

「この剣――『死告剣』の属性は『死』。この剣が完全支配状態で斬られた対象に死の概念が付与される。しかも、それは(フラクトライト)そのものに付与される。不死性だろうと関係ねぇんだよ」

 

 ギンの言葉を聞いて、アドミニストレータは顔を醜く歪め、唾を飛ばしながら、喚き散らす。

 

「たかが、生まれて十数年の小僧がこの世界の神に向けて・・・決めた!! お前たちいや、ギン!! お前だけはこの手で殺す!! この世界の管理者はこの私で十分よ!!」

 

 叫びを聞いたギンは冗談交じりにこんなことを言った。

 

「死なくして命なく、死があるこそ生きるに能う。テメェの不老不死と永劫というのは、もはや、眠りそのもの。テメェの存在を作りだしたのは、俺たちリアルワールド人の責任だが・・・この世界に生じた悪よ。テメェの狂愛こそ、テメェを排斥するものだ」

 

 ギンは右の黒き刀の鋒をアドミニストレータに向け、

 

「この刀は幽谷の淵より、暗き死より馳走したもの・・・・・・その天命を剥奪させよう!!」

 

 最後の口上としては締めくくるものだった。

 

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21話

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 三人称サイド

 

 曰く、それは戦いという名の死合いだ。

 

 人智を超える戦いに、キリト、ユージオ、カーディナルそしてアリス。

 

 彼らは見届けることしか出来なかった。

 

 

 

 ギンとアドミニストレータ。

 

 既に超人の域に到達してる怪物ともいえよう。

 

 片や、整合騎士で。

 

 片や、最高司祭だ。

 

 ギンが握る刀。

 

 『神穿剣』と『死告剣』

 

 刀を持てば、彼に勝てるものなしといわれた実力。

 

 アインクラッドが生み出してしまった剣の皇帝。

 

 見届けてるキリトはこんなことを呟く。

 

「『剣帝』ギン・・・アインクラッドが生み出した史上最強の剣士」

 

「『剣帝』?」

 

「数多の剣士たちの頂点に立つ存在。俺の敗北以外、常勝不敗神話を築き上げた伝説の剣士」

 

 キリトの言葉を聞き、アリスたちは目を見開かせる。

 

 キリトの敗北以外、ギンは無敵を誇っていた。

 

 この時、キリトはある噂でしかない伝説を思い出す。

 

(アインクラッドで共に戦ったとき、ギンいや『八帝武将』の彼らがいれば、犠牲のなき、ボス攻略を成し遂げられた。ギンの策と実力があったから、俺やアスナたちは生きられた。全く、ギンが前に立つと自ずとやる気に満ちあふれていくことがあった。彼奴はアスナとは違う魅力があった。だからこそ、俺もアスナたちもギンについて行きたいと思った)

 

「全く、ギンがいると不思議と彼奴に任せたくなっちまうな」

 

 不思議と彼を頼りたくなってしまうのを吐露してしまう自分がいた。

 

 

 

「『剣帝』ギン」

 

 名乗り上げた瞬間、彼の言葉が心意となって包み込む。

 

 その姿は蒼と銀で彩る着物と袴であった。

 

 かつて、数多の敵を屠り、頂点に君臨したプレイヤーそのものだった。

 

 彼が駆けだした瞬間、アドミニストレータは感情に身を任せ、顔を醜く歪めせた。

 

 

 

 彼女が放たれるソードスキルはかつて、アインクラッドで使用されたものだった。

 

 しかし、ギンはその全てを天精眼(ウラノス)を用いて躱しきってしまう。

 

 先を見通せる眼を持つギンを相手にすること自体が烏滸がましいものだが、彼女がそれを知ることは一生ないからだ。

 

 何故なら――、

 

「悪ぃ~な。全てを凍り尽くす八寒地獄の能力には、空間すらも凍らせるのを言い忘れてた・・・・・・まあ、でも・・・既に凍っちまっちゃあ話にならんがな」

 

 ギンはそう言って、キリトたち以外の者を凍らせた。

 

 凍らせたのはアドミニストレータ・・・ただ1人。

 

「呆気ない幕切れだったな」

 

 ギン自身がそれを言ってしまうほどにつまらない死合いになってしまった。

 

 ギンは形すらも残さないように右の刀を振るって、氷塊となったアドミニストレータを瓦解させた。

 

 

 

 ギンとアドミニストレータの人智を超えた熾烈な殺し合い。

 

 それを見届けていたキリト、ユージオ、アリス、カーディナル。

 

 キリトにしか聞き覚えのない言葉があったが、そんなのはキリト以外の彼らには粗末なことだった。

 

 ギンに知らない一面があったとしても、触れ合えた。肩を並べ、見届けたのが事実だった。

 

 アリス個人の願いはギンが帰ってきて、共に過ごしたいという一途な願いだった。

 

 

 

 激しい剣戟、吹き荒れる剣圧。

 

 離れていても、感じさせる絶対なる強者の気迫。

 

 その全てが、この戦いの異質さを物語っていた。

 

 

 

 そして、その幕切れが、『神穿剣』の能力によって、凍らされ瓦解した。

 

 耳が痛くなるほどの静寂の中で、瓦解した氷塊が粉々に砕け散る音が静かに響く。

 

 

 

 剣を鞘に納めるギン。

 

 フゥ~ッと息を吐いてから、アリスたちの方へと歩いていく。

 

 アリスたちの数メートル前に歩いてくると

 

「終わらせてきたよ」

 

 少々困った顔で言ってきた。

 

 だけど、戦いが終わったことを実感したアリスは疲れを無視して、ギンに飛びついた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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 ギンサイド

 

「お、オォッと!?」

 

 俺が只今に近ぇ言い方をしたら、破顔したアリスが俺に飛びついてきた。

 

 正面から来ても、アリスの体重が襲いかかってきただけなので問題ねぇが・・・。

 

「随分と甘えん坊になったな・・・アリス」

 

「悪いんですか?」

 

「いいや、全然・・・」

 

 むしろ、女の子らしくて改めて、惚れそうだ。

 

 俺とアリスの仲睦まじい空気感の中、キリトが

 

「なあ、本当に終わったんだよな」

 

「ああ、『死告剣』に斬られた対象はフラクトライトにまで概念が付与され、死ねば、死神に持っていかれてしまう」

 

「じゃあ、本当に死んだんだな」

 

「ああ・・・」

 

 俺はアリスの頭を撫でながら話してる。

 

 話してる中、アリスは俺にますます抱きついてきた。

 

 俺とアリスの空気感にキリトは

 

「いやはや、若々しくいい関係ですなァ~」

 

 ニヤニヤと言ってきた。

 

 これには、俺もカチンときて、

 

「いや~、()()()の言葉は重いですなァ~」

 

 ここで、知られざる事実を暴露してやった。

 

 

 

 すると、キリトが俺を睨み、俺もキリトを睨んだ。

 

 バチバチと火花が散っているも、俺とキリトは互いに息を吐いてから

 

「アリス・・・少し退いてくれるか」

 

「ギン・・・?」

 

 俺の声音が低くなったのを感じたのか、一瞬だけ首を傾げるも、「わかったわ」と退いてくれた。

 

 俺は前にコンソールを開いたことがあったので、場所を知ってる。

 

 その場所に来て、コンソールを出して、操作する。

 

 その時、警告音が鳴り響き、俺の目の前に日本語のダイアログが表示される。

 

 カーディナルも俺の操作を見届けていた。

 

 彼女だったら、実力行使で菊岡たちにコンタクトを取り合おうとするだろう。

 

 

 

 まあ、無視させてもらう。

 

 次の瞬間、世界のなにもかもが遅く感じるような感覚に陥る。

 

 これは、フラクトライトの加速倍率を等倍に固定されたからによるものだ。

 

 俺は画面を操作して、別のウィンドウが出現する。

 

 虹色のメーターが跳ねたり、落ちたりしてる。

 

 しかも、()()()にだ

 

 

 

 ん? どういうことだ!? どうして、自衛隊の基地内からマシンガンの銃声音が聞こえるんだ。

 

 まさか・・・!?

 

 俺はすぐさま、操作して、現実との交信を切った。

 

 

 

 俺が交信を切ったことにキリトが俺に近寄り、首元を掴んだ。

 

「ギン! なんで、今切ったんだ!! 俺は菊岡に言いたいことがあったんだぞ!!!」

 

「誹りなどは後でいくらでも言ってくれ。だが、問題はそこじゃねぇんだ!!」

 

「なにが、問題なんだよ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()かだ!!」

 

 俺の怒号にキリトは冷水をぶっかけられたような顔になる。

 

「よく聞け、キリト。このコンソールは現実との交信ができる。だけど、場所は自衛隊の基地内と連絡が取り合っている。コントロールルームはメインとサブと両方存在し、このコンソールはサブに繋げられるんだ」

 

「まさか・・・菊岡は・・・」

 

「ああ、菊岡誠二郎は自衛官の1人。その基地内で銃声音が聞こえたこと自体がおかしかったんだ」

 

「向こうでなにか起きてることというわけか・・・」

 

「そうだ。少し、時間をおく。その後にサブコントロールルームから交信する」

 

 といった感じでキリトを落ち着かせた俺。

 

 すると、そこにカーディナルが俺の下に歩み寄って

 

「話を聞かせてもらえるだろうか」

 

 言ってきた。

 

 だが、それは今じゃねぇな。

 

「それは、もう少しあとにしてくれねぇか。厄介なことが複数に起きてる」

 

 とりあえず、情報を整理しよう。

 

 ふと、疑問に思ったことがある。

 

 ひとまず、それを聞くことにしよう。

 

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22話

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 三人称サイド

 

 ギンが咄嗟に交信を切ってから時が経過した。

 

 ギンはコンソールを操作して、現実の時間を表示する。

 

「銃声が聞こえたのが、14:07頃か・・・今は、現実にして大体30分は経過したな・・・」

 

「最初に起動したとき、フラクトライト加速倍率とか表示されたが、アレはどういうことなんだ?」

 

「この世界の時間のことだ。この世界は現実の1000倍の加速度で時が経過してる」

 

「でも、お前が交信を切ったから加速倍率は・・・」

 

「実は、ここに裏技があって、交信を切っても、加速倍率を等倍に固定したままに出来るんだよ」

 

「なんつうことをしていやがる!?」

 

「だが、これのおかげで、リアルからの落とされても、これだったら、逃れられるんだからな」

 

「・・・・・・なんか、菊岡たちが憐れに思えてきたよ」

 

「誹りとか言わなくていいのか?」

 

「もちろん、言うさ」

 

 ギンとキリト。

 

 こういったところで意気投合する。

 

 ギンはコンソールを操作して、交信相手をサブコントロールルームに変更して、交信をとる。

 

 画面ウィンドウが30分ほど前と同じようになり、ギンは

 

「もしもし、聞こえますか? 無能、役立たず、ロクデナシ・・・」

 

「酷い誹りようだ」

 

 ギンは叫んだら、

 

『中からの呼び出しです。サブコントロールルームからの呼び出しを知ってるのはギンくんだけですっよ!!』

 

『なにぃッ!?』

 

「おぉ~、繋がったぁ~。よぅ~、脳みそ固まってるバカ集団」

 

 菊岡の驚愕の声が聞こえるも、ギンは無視して、罵りを続ける。

 

『ギンくん、そこにもしかして、キリトくんもいるのか!?』

 

「いますよ、ついでに彼からテメェに言いてぇことが山ほどあるようです」

 

『その誹りは後で、いくらでも受けるよ』

 

「じゃあ、今はそっちの状況を教えてくれ。なにが起きた。30分ほど前にそっちに交信したが銃声音が聞こえたからすぐさま切っちまったけど・・・」

 

『ああ、その判断は非常に助かる。実は――』

 

 その後、菊岡からのリアルにおける状況を聞くことにした。

 

 一緒にいるキリトはともかく、ユージオ、アリス、カーディナルは全然理解できない状況だったが、1つだけ言えるのは、危機的状況であることは確かなようだった。

 

 

 

 現実の状況を聞いて、ギンはいくつかの質問を投げかける。

 

「状況は理解した。じゃあ、いくつか質問するぞ。まず、スーパーアカウント並びにハイレベルアカウントのロックは済ませてた?」

 

『人界側のハイレベルアカウントはロックしたっす』

 

「ダークテリトリー側はどうした?」

 

『そっちはしていないっすね』

 

 それを聞いて、ギンは檄を飛ばした。

 

「バカが!! 敵にそれを気が付いたら、ダークテリトリー側から例の物をもってかれるぞ!!」

 

『そうっすかね』

 

「敵のレベルが判明していねぇ以上、人界とダークテリトリーのハイレベルアカウントのロックは基本だぞ。的になにもさせねぇのが常識だ」

 

『認識不足だったっす。じゃあ、最終負荷実験を利用して()()()を回収されたら・・・』

 

「少なくとも、敵の狙いは間違ぇなくアリスだろうな」

 

 この音声とギンとの会話を聞いたアリスは「・・・私?」と首を傾げてる。キリトとユージオそしてカーディナルもアリスに視線が集まる。

 

「次だ。状況はこっちが芳しくねぇ。人界側のスーパーアカウントを解放させろ。比嘉さん。そっち他に誰がいる」

 

『こっちには、凜子先輩に()()()さんがいるっす』

 

 今の名前を聞いて、キリトが大きく反応する。

 

 ギンもここであることが閃いたようだ。

 

「じゃあ、明日奈を呼んでくれ。彼女に伝えてぇことがある」

 

『わかったっす』

 

 音声が切り替わって、男性の声から女性の声に変わる。

 

『ギンくん・・・久しぶりだね』

 

「再会の挨拶はまたの機会ということにして、明日奈に頼みてぇことがある」

 

『頼み?』

 

「キミはブラウンとシノンと連絡が取れるのは知ってる。彼女らに頼んで欲しいことがある」

 

 ギンは一度、間を置いてから話し出す。

 

「シノンには、六本木にあるラース本社に向かってソルスのスーパーアカウントを使用させろ。テラリアが持ってる神器は片刃長剣だ。それに合いそうな人をそっちで決めてくれ。ブラウンを経由して、ユンに伝言を頼む」

 

『ユンくんに伝言?』

 

「「例の物を起動させてくれ」と言えば、彼奴はすぐに理解でき、準備に入ってくれる。状況が状況だ。ユンたち『八帝武将』を来させろ。明日奈もそちら側で戦力を集めて欲しい。ただし、先言って忠告するが、アンダーワールドにはペインアブソーバーがねぇから。それを加味して伝えておいといてくれねぇか」

 

『分かった』

 

「こっちはこっちでできる限りの戦力を集める・・・あと、菊岡・・・そっちに内通者がいる。見つけ出し、始末を頼む」

 

『・・・・・・分かった』

 

「じゃあ、交信を切るぞ」

 

 ギンはコンソールを操作して、交信を切った。

 

 切ったことで、フラクトライトの加速倍率が1000倍にまで戻った。

 

 ギンは一回、深呼吸してから、

 

「整合騎士団を立て直す」

 

 彼はそう言って、下の階へと続く昇降盤から降りていこうとするタイミングで、

 

「おっ、ギンの坊主。ここにいたのか・・・」

 

「閣下」

 

「何があった」

 

 ベルクーリが昇降盤から登ってきたからだ。

 

 ギンはベルクーリに状況の全てを話した。

 

 

 

 話した後、ギンはベルクーリと一緒に50階の『霊光の大回廊』にて。

 

 整合騎士を掻き集めてから事情を話す。

 

 ギンが最高司祭アドミニストレータを倒したこと。

 

 民の半分を剣の殺戮兵器に変えるという恐ろしい計画を進めていたこと。

 

 元老院もチュデルキン1人で運用していたことを話した後、ギンは

 

「文句の1つ言いてぇ気持ちだろうけど、今は半壊した整合騎士団を立て直し、人界四帝国近衛軍の再編、再訓練を急ピッチで行う。罪人に関しては俺が刑を決めておいたから安心しろ」

 

 ギンは一度、全員を視てから

 

「いいか! 俺たちがすべきことは『人界の守護』。それを全うしろ! 動けるものは東西南北へ飛び交い、ダークテリトリーの情報収集! 残りは集まった近衛兵の訓練にあたれ! なお、時間の隙間を利用し、個人の実力を上げろ! 2人の修剣士に敗北されて悔しいなら腕を磨け! 以上だ!」

 

 檄を飛ばし、整合騎士たち全員颯爽となって動き出した。

 

 

 

 動き出す際、ファナティオとデュソルバート、エルドリエはというと――。

 

「いよいよ、世代交代ですかね」

 

「――と言いますと」

 

「ギンが主体となって、整合騎士団をよりよい物になるということだ」

 

「ギンの才能は前々から気が付いていましたが・・・このような緊急時に動いてもらってくれてほどほど助かります」

 

「我が師。無茶だけはなさらないでほしいものです」

 

「それは言えてますね」

 

「確かに・・・」

 

 といった感じで、それぞれ各々準備に入った。

 

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23話

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 三人称サイド

 

 あれから1ヶ月が経過した。

 

 事務系統はギンが主体に、ことが進んでいた。

 

 ギンの手際の良さには、アリスを含めた騎士も近衛兵たちすらも一目を置いてしまうほどのものだった。

 

 だが、休むのがあまりのバラバラにアリスがキレてしまい、彼女からの説教とアドミニストレータから長期休暇をもらってたことを、ベルクーリたちに知られた途端、ギンに強制的に休暇を取らされてしまった。

 

 監視のためにアリスと一緒に休暇を取らせることになった。

 

 人界最強の切り札となるギンの休息を優先ということでキリトとユージオにはフィゼルとジゼルが監視することになりました。

 

 といった感じで、ギンは紅炎を、アリスは雨縁に乗って、一時的に王都を去ったのだった。

 

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 三人称サイド2

 

 一方、その頃、OSOにて。

 

 明日奈からの連絡をブラウンを経由して、ユンたちの耳に入った。

 

「それにしても、ギンからの連絡が来たかと思ったら・・・」

 

「まさかの手を貸して欲しいという強制招集とは・・・」

 

「今、ユン先輩がリアルで準備してるんっすよね」

 

「そう。ユンの準備ができ次第、私たちもアンダーワールドに向かうことになるわ」

 

「そういや、シノンさんもギンの指示で六本木にあるラース本社に向かってるんだよな」

 

「その話だ。だが、ギンがそう言ってくるということは人界側の戦力が足りないことを言ってる。そうじゃなきゃ、ギンが言ってこない」

 

「それで、ギン先輩がいるオーシャンタートルを襲った奴ら・・・何者なんっすかね」

 

「十中八九、外国の秘密軍隊ね。一番、あり得るのは・・・米国」

 

 ブラウンの言葉を聞いて、スカイたちも半ば納得せざるを得なかった。

 

 後は、ユンの準備が完了し次第、UWに向かうことになる。

 

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 アリスサイド

 

 休暇を貰ってから4ヶ月。

 

 私とギンは今、ルーリッド村にほど近い。

 

 大きく開けた土地に家を建てて暮らしています。

 

 

 

 村にやって来ても、私とギンは受け入れて貰えず、路頭を彷徨うところを木々に隠れて私たちを追いかけてくれた妹のセルカがガリッタ爺さんに会わせてくれた。

 

 彼の指示に従い、木を斬って建てた家はこじんまりとだが、しっかりとした小屋になった。

 

 白金樫できた小屋なので、余程の強風がこない限り壊れないと自負してる。

 

 窓からの景色は絶景なもので、心が安らぐ感じがした。

 

 ギンもいつの間にかぐっすりと眠りについてしまってる。

 

 彼の寝顔はいつ見ても年相応だと思ってしまいます。

 

 いくら、彼が天才だとしても、まだ私と同じだというのを実感します。

 

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 峻サイド

 

 俺は今、銀華に言われた例の物を準備に取りかかっている。

 

 まあ、一応、保険を兼ねて、前々から密かに準備をしていたから。

 

 半日あれば、完成できる。

 

 後は、亜麻たちがどれくらい、味方を集められるかに賭けるしかないな。

 

 人数に関係なく、データとしてはもう完成する。

 

 銀華が考案した()()()()()()のデータを――。

 

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 ギンサイド

 

 今のところ、世界になんら変化は起きていねぇな。

 

 全く、天精眼(ウラノス)を使えば、人界とダークテリトリーの全域隅々まで見渡せちまう。

 

 まあ、現状、両方からの援軍はナシだな。

 

 未だに敵側の動きが見えねぇ以上、大人しく骨休めだな。

 

 家事に関してもアリスから通告を貰っちまったし。

 

 大人しく、自然に身を任せて、休むとしよう。

 

 時が来るまで休もう。

 

 最近、身体を動かし続けていたからな。

 

 身体を休めるためにも良いだろう。

 

 あと、アリスに首輪を付けられそうだぜ。

 

 だけど、今の幸せを充実するのも悪くねぇな。

 

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 三人称サイド

 

 数日が経ったある日。

 

 夕食中だった。

 

 突然、外から雨縁と紅炎の声が聞こえてきた。

 

 2人は外に飛び出して、空を見上げる。

 

 紅炎は相手が誰なのか知った瞬間、声を出さずに眠りについた。

 

 代わりに雨縁が甘えるような声をあげた。

 

 

 

 空で翼をはためかせていたのは、飛竜。

 

「アレは・・・」

 

「・・・滝刳」

 

「だとしたら・・・エルドリエか」

 

 滝刳は地に足を付け、飛竜から降りてきたのは、やはり、エルドリエだった。

 

「やっぱ、オメエか。なんのようだ、エルドリエ」

 

「休暇中のところ、申し訳ございません、我が師ギン様」

 

 

 

 彼を中に迎え入れ、アリスが粗茶を用意してもらってから、

 

「任務中だったのか」

 

「はい。最近、北方でゴブリンだのオークだのが出現するという情報が入りました」

 

「洞窟の方は確認したのか?」

 

「はい。北や南、西の洞窟は騎士長の指示で崩落させましたので・・・」

 

「性懲りもなく掘り返すこともあり得るな。この一大事に戦力が削ぐというのが、向こうの狙いかもしれねぇな」

 

「副騎士長も同じ考えに至りました。そのため、私が確認しに参りました」

 

「それで、闇の軍勢の動きは確認できたのですか?」

 

 アリスの問いにエルドリエは

 

「丸1日かけて洞窟の周囲を飛び回りましたが、ゴブリンおろかオークの1匹も見られませんでした。洞窟の方も視ましたが、岩は天井にまで塞がっていました」

 

 エルドリエの話を聞いて、ギンは

 

「何やら、やな予感がするな」

 

 少し考えをしてから、

 

「東の大門の方は?」

 

「報告によりますと天命値が少しずつですが、減少しています。およそ、見積もっても、近日中には・・・」

 

「崩壊するというわけか・・・こっちの戦力は?」

 

「近衛兵だけで、3000近くが限界でした」

 

「しゃあねぇか。最高司祭による隔絶があったせいで、教会と四帝国に深ぇ痼りが残っちまったからな」

 

「そう言われてしまえば、なにも言い返せぬのが我らの責任」

 

「整合騎士も少ねぇんだろう」

 

 ギンの核心を突く言葉にエルドリエは痛快なる表情を浮かべた。

 

「仰るとおりです。整合騎士の数は合計32名。そのうち、記憶に異常がある者への処置。その処置から眼を覚まさぬのが10名。覚醒してるのが22名。さらにカセドラル、中央の管理に4名。果ての山脈に4名が回されており・・・」

 

「差し引きして14名か」

 

 苦悶の表情を浮かべるギン。

 

 アリスも同じように苦悶する。

 

「我が師とアリス様は休暇のところですが、もうそろそろ・・・」

 

「ああ、近々、そっちに戻る予定だから安心しろ」

 

「分かりました。では、私は失礼します。休暇の最中、申し訳ございません」

 

「いや、いい。そっちの状況が知れて良かったよ」

 

 ギンはエルドリエにお礼を言って、彼は滝刳に乗って、王都へと帰っていった。

 

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24話

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 三人称サイド

 

 その日の夜中のことだった。

 

 村の方から煙が上がってるのを視えた。

 

「村の方から煙が上がってるぞッ!?」

 

「彼処にはセルカやお父様が!?」

 

「アリス!」

 

「ええ!」

 

 ギンとアリスは各々の装備を身につけていた。

 

 アリスは金色の鎧と『金木犀の剣』を。

 

 ギンは白銀の鎧と『神穿剣』、『死告剣』を。

 

 2人はそれぞれの愛竜に乗って、村へと急行する。

 

 

 

 上空から村の状況を確認する。

 

 村の北側の出入口の周辺に火の手が上がっていた。

 

「アレは・・・」

 

「ゴブリン」

 

 2人は互いに敵の存在を確認する。

 

 上空からみても、村人たちは塀を作って、ゴブリンの侵攻を食い止めているも、

 

(南側は敵がいないのに・・・)

 

(何故、逃げねぇんだ)

 

 というのが、2人の心境だった。

 

「雨縁」

 

「紅炎」

 

「「呼ぶまでここで待機(していろ)」」

 

 2人はそう言って、愛竜の背から飛び降りた。

 

 

 

 村の中央では、村長と誰かが村人たちにゴブリンたちへの死守を敢行するよう指示を出してる。

 

 そこに上空から落ちてくるかのように舞い降りてきたギンとアリス。

 

 土煙を上げ、村人たちは眼を閉じる。

 

 土煙がはれてくるとそこにいたのは、ギンとアリスの2人がいた。

 

 アリスは前にでると、村長のガスフトは情が出るも目を伏せる。

 

 アリスも一瞬だけ、哀愁を出すもすぐに切り替えて、

 

「ここでは、奴らを押さえることが出来ません。南の通りから全住民を避難させてください」

 

 凜とした声音で話を持ちかけるも

 

「バカを言うな! 屋敷を・・・いや、村を捨てて逃げられるか!」

 

「今なら、まだ、ゴブリン共に追いつかれることなく逃げられます。家財と命、どちらが大事なのですか?」

 

 アリスの言い分に押し負けられた肥えた男は口籠もるも、ガスフトは

 

「広場で円陣を組めというのが、衛士長ジンクの指示なのだ。この状況では、村長の私でもそれに従わないといけない。それが帝国の法なのだ」

 

 言い分には、アリスはなにも言えなくなる。

 

 ギンはアリスを見て、

 

ーまだ、心の何処かで覚悟が定まっていねぇな。5ヶ月前は教会を反するために戦うと決めたけど、今はなんのために戦えばいいのかわからねぇんだー

 

 そこに割って入ったのは

 

「姉様の言うとおりにしましょう」

 

「・・・セルカ」

 

 アリスの妹のセルカである。

 

 彼女の必死の訴えを受けたガスフトは目を見開くも、又もや、肥えた男が甲高い声が響く。

 

「子供が知ったような口を叩くな! 村を守るんじゃ!」

 

 この時、ギンとアリスの中でピキッとなにかがキレる音がした。

 

 そして、肥えた男を睨みつける2人の視線を気が付き、こんな言葉を飛ばす。

 

「分かったぞ・・・お前らがこの村に奴らを呼んだんじゃな、アリス! ギン! 昔、果ての山脈を越えて、闇の国に汚されたのじゃ。この2人は恐ろしき悪魔の手先じゃ!」

 

 ギンとアリスはここで息を吐いて、凜とした声音で

 

「騎士の名において、衛士長ジンクの命令を破棄します。この広場に集う村人全員。武器を持つものを先頭にして、南の森に避難するように命じます」

 

 ギンはここで、アリスの覚悟が定まったのを感じとる。

 

 だが、アリスの言い分に反論するのは、又もや、肥えた男だった。

 

「騎士とはなんじゃ。そんな天職、この村にはないぞ。ちょっと、剣が使えるからといって、王都の騎士様になんて言われるか」

 

 と言ったところで、ギンとアリスは互いにマントを投げ捨て、高らかに宣言する。

 

「私の名はアリス・・・・・・セントリア市域統括『公理教会整合騎士』第4位、アリス・シンセシス・サーティ!」

 

「同じく、俺の名はギン・・・・・・セントリア市域統括『公理教会整合騎士』第3位、ギン・シンセシス・ゼロ!」

 

 毅然とした声が鳴り響く中でも、剣戟に負けないほどにあたりを支配する。

 

 

 

 セルカはアリスに近づき、アリスは隠してた責務を話すも、セルカは信じてると言い返した。

 

 ガスフトは眼をパチクリさせたが、すぐに切り替え、毅然とした声を轟かせた。

 

「御命令、確かに賜りました! 全員、南門へ向けて走れ! 先頭に怪我人と女、子供。それに続いて男、最後尾に武装した者たちが殿を務めよ!!」

 

 村長の声が響き、それに村人たちが応じる。

 

 その後は早かった。皆がテキパキと行動に移した。

 

 

 

 ギンとアリスに声をかけたガスフトとセルカ。

 

 2人は頷いてから愛竜の名を呼んだ。

 

「雨縁!」

 

「紅炎!」

 

 

 

 塀を破ってゴブリン共が村に侵攻する。

 

 侵攻するゴブリン共を夜空から青白い炎が2つ放たれて、それがゴブリン共を焼いていった。

 

 北から来るゴブリンとオークはアリスが担当し、ギンは村人たちの避難誘導に回った。

 

 

 

 侵攻してくるゴブリンとオークの大軍を相手にアリスはある事を誓う。

 

「これから先は私自身が求めるもののために戦う。妹と父母を守るために・・・・・・そして、ギンが守ろうとしてる世界を彼と共に守っていくために――戦う」

 

 誓った瞬間、彼女の右眼が心意によって復活する。

 

 

 

 雄叫びを上げて、侵攻するゴブリンとオークの大軍。

 

 迫り来る大軍の中、アリスは

 

ーありがとう、ギン。私はもう大丈夫。私は貴方の背中ばっか追いかけたけど・・・もう追わないわ。だって、私と貴方は隣り合わせにいる。そして、私と貴方が求めるもののために・・・前に進むわー

 

「我、人界の騎士、アリス。私がここにいるかぎり、お前たちが求める血と殺戮は決してこない。今すぐ、洞窟を通って、お前たちの国に帰るが良い!」

 

 剣を高く上げ、

 

「『エンハンスアーマメント』」

 

 懐かしき、武装完全支配術を行使する。

 

 吹き荒れる金木犀の花たちが空を舞う。

 

 彼女に襲いかかってくるゴブリンとオークの大軍も、広がっていく花たちを視て驚きを上げてる中、

 

「吹き荒れろ・・・花たち!!」

 

 舞い落ちてくる金木犀の花が雨のように降り落ちた。

 

 血飛沫を上げるゴブリンとオークの大軍。

 

 花たちが刀身に戻ったところで彼らは倒れ込んでいく。

 

 アリスは剣を納め、帯剣したら、叫んだ。

 

「これは、人界を隔てる壁。例え、我らが朽ちてもここを守り通してみせる! 選びなさい! このまま、前へ進み、地に伏すか、後ろへ引き下がって、闇の国に逃げ帰るか」

 

 凜とした叫びにゴブリンとオーク共は恐れを成して逃げ出した。

 

 これによって、ルーリッド村は守られたのだ。

 

 

 

 翌日、ギンとアリスはセルカに見送られて、そのまま、東の大門へとそれぞれの愛竜に乗って向かったのだった。

 

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25話

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 三人称サイド

 

 ギンとアリスはそれぞれの愛竜で東の大門まで来ていた。

 

 2人は大門に刻まれている英文を読む。

 

「DESTROYED AT THE LAST STAGE?」

 

 アリスの慣れない発音にギンは意味を訳す。

 

「『最終段階で崩壊する』・・・だ。最終負荷実験(FINAL LOAD TEST)・・・この段階に入ったら、命懸けで防衛しねぇといけねぇな」

 

「よく分かりませんが・・・危険な状況というわけですね」

 

「そう解釈してかまわん。とりあえず、このことを閣下に報告するぞ」

 

「はい」

 

 ギンとアリスは互いに頷き合ったところで、大門に亀裂が入っていき、今にでも崩壊しそうな段階に陥っていた。

 

 2人は愛竜を指揮して、ダークテリトリー側を視る。

 

 既に敵軍が大門に向かって侵攻してるのが遠くから見て取れた。

 

「敵が来ていますね。ギン・・・貴方の眼で見えますか?」

 

「ああ・・・結構いるぜ。ゴブリンに、オークに、巨人に、オーガ・・・今、見えるだけでも相当な数だ」

 

「指揮官とか分かりますか?」

 

「ちょいと待ってな」

 

 ギンは天精眼(ウラノス)を使用して、敵軍の状況を把握する。

 

「第1陣が、平地と山のゴブリンと巨人。第2陣が暗黒騎士、拳闘士、術士、オーク、オーガだな・・・・・・指揮官は・・・・・・ッ!?」

 

 ギンは天精眼(ウラノス)を通して、目を見開かせた。

 

 それは――、

 

「ヤベぇ~な・・・」

 

「どうかしましたか、ギン?」

 

「敵の指揮官が暗黒神ベクタだ」

 

 焦燥してるギンの言葉にアリスは驚きに目を見開かせ、

 

「暗黒神ベクタ・・・貴方やカーディナルの話によれば、この世界の神は存在しないと言っておりましたが・・・」

 

「ああ、ステイシア、ソルス、テラリア、ベクタはスーパーアカウントとしてカテゴライズされてる。どうやら、リアルでの襲撃犯がベクタを利用してきたのは、間違ぇねぇ事実だ」

 

 ここで、ギンは天精眼(ウラノス)でベクタの顔を見る。

 

 その顔に見覚えがあったからだ。

 

(彼奴は・・・・・・サトライザー・・・なんで、彼奴がこんなところに・・・・・・)

 

 ギンは訝しげたが、そのまま、一路は人界軍の野営地に向かったのだった。

 

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 三人称サイド2

 

 人界軍の野営地では、整合騎士たちが近衛兵たちの訓練の指示にあたっていた。

 

 その野営地に2匹の飛竜が降りてくる。

 

 紅き飛竜となれば、彼しかいないのは誰もが分かっていたことであった。

 

 飛竜から降りたのはギンとアリスの2人。

 

 両名の元に馳せ参じたのは、弟子でもあるエルドリエであった。

 

「師よ! アリス様! よくぞ、お戻りに!」

 

「エルドリエか・・・閣下はどこにいる、ヤベぇ~ことが起きた」

 

「何かあったのですか?」

 

 エルドリエの問いかけにアリスが応える。

 

「先ほど、東の大門を見てきました。門が崩壊し、闇の軍勢が押し寄せてくるまで、もはや、猶予がありません」

 

「敵はおそらく、50000に対して、此方は先日、お話ししたとおりの数しかおりません」

 

「嘆いてもしょうがねぇ・・・ひとまず、俺の眼で敵の構成が大体読め、指揮官も分かった」

 

「本当ですか、それはなによりの収穫です」

 

 有益な情報を仕入れたギンにエルドリエは「流石、我が師」と褒め称えた。

 

 

 

 そこに1人の中年男性がやってきた。

 

 腰に携えた無駄な装飾など一切ない鋼色の大剣。

 

 他の騎士たちと違い、騎士の服ではなく、薄い青色の着物。同じく薄い青色の髪をした男性。

 

「よぅ、ギンの坊主に、アリスの嬢ちゃん。思ったより、元気そうでなによりだぜ。少し、休暇は取れたか?」

 

「おう、閣下。ご健勝でなにより・・・」

 

「小父様、ご無沙汰しています」

 

「おう。それで、ギンの坊主。敵の指揮官が分かってのは本当か?」

 

「ああ、厄介なことになったのは確かだ」

 

「その話は軍議の時に話してくれねぇか」

 

「分かった。ひとまず、俺とアリスを休ませる天幕に案内してほしい」

 

 といった形でギンとアリスはそれぞれの天幕に移動したのだった。

 

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 三人称サイド3

 

 場所が変わって、OSOにて。

 

 『八帝武将』のメンバーであるヒガヤ、スカイ、スカー、アキト、マサギ、ブラウンは、近づく戦いに向けて、修練に当てていた。

 

 

 

 その心意は既に整合騎士長――ベルクーリ以上の心意を放っていた。

 

 『八帝武将』の彼らは知らない。

 

 自分らが途轍もなく、異常であることを・・・。

 

 彼らの才能はアインクラッドという鋼鉄の城にて完全に開花された。

 

 生まれて時折、才能の発露兆候が見られた。

 

 片や、神なる頭脳と先を見通す眼を・・・。

 

 片や、空を支配する眼を・・・。

 

 といった超人的な才能を持った人が開花した。

 

 人は彼らをこう表した――『超人』と・・・。

 

 

 

 リーダーとサブリーダーがそれぞれ準備してる中、残りの彼らは来たるべき戦いに備えて、腕を磨いていた。

 

 それを見ていたセイやミュウ、タクらは彼らが腕を磨いてる意味が分からずにいた。

 

 そんな彼らのもとにユンがログインし、彼らの前に姿を現した。

 

 ヒガヤたちはユンが来たことで、いよいよかという顔つきになる。

 

「ユン先輩! 準備が出来たんですか?」

 

「準備できた。全く、ギンの頼みだからしょうがないけど・・・」

 

「仕方ありません。それで、戦力の増強しないといけませんよね」

 

「そこは仕方ないが、こっちは質で勝負するしかないと思う」

 

「だよなぁ~。セイに殺し合いをさせろというのが酷な話」

 

「そうだとしても、敵が此方と同じ考えをしたら・・・」

 

「所謂、世界大戦だな」

 

「しかも、ペインアブソーバーがないんだろう。俺らはともかく、ミカズチや他の奴らが耐えきれるとは思えない」

 

「並みの精神力ではいずれ、力尽きます。下手をしたら、命の危機に直面するでしょう」

 

「こっちはシノンと俺たち『八帝武将』だけ・・・対する、アスナのところは何人来るかわからない以上、下手に人数を増やすのは危険な行為だ」

 

「こうなれば、私たちだけで行きましょう」

 

 ブラウンの言葉にユンたちは頷き、OSOをログアウトする。

 

 そして、彼らは動き出した。

 

 UWという戦場に向けて・・・。

 

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26話

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 ギンサイド

 

 さてと、明日に備えて、寝るとするか。

 

 ベッドに横になって、一息を付こうとしたとき、天幕の出入口から人の気配がしたので、天精眼(ウラノス)を使用して、外を見る。

 

 そこにいた人物は俺に所縁のある人物だった。

 

 鎧は既に脱いであったので、そのままの格好で天幕の外に出た。

 

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 三人称サイド

 

 ギンが天幕の外に出ると、夕食を持ってきてくれたラゴンがいた。

 

「あ、あの、騎士様・・・・・・お夕食をお持ちしました」

 

「そう、畏まらなくていいぞ、ラゴン」

 

「いえ、わ、私は一介の修剣士。先輩は整合騎士ですから」

 

「先輩って・・・オメエさん、既に学院でいた頃の上下関係になってるじゃねぇか」

 

「い、いえ・・・私はその・・・」

 

「立ち話のなんだ・・・中に入れ」

 

「は、はい・・・」

 

「そこに隠れてるランス先輩もウェイン先輩もどうですか?」

 

 ギンは天幕で死角になってるところに隠れてる2人の先輩に声をかける。

 

 すると、すかさず、姿を見せるランスとウェインの2人。

 

「バレてたか、ギン」

 

「バレますよ。俺だって整合騎士。気配の1つや2つ感じとれます」

 

「それができるのは、先輩くらいじゃあ・・・」

 

「ん? そうか?」

 

 ギンは首を傾げるも、ラゴンは苦笑を浮かべてしまうのだった。

 

 

 

 天幕の中で、ギンらは夕食を食べていた。

 

 食べている最中、

 

「ギン先輩は整合騎士の数字でゼロと言っていましたが、ゼロとはいったい・・・」

 

「完全無欠にして最強という意味らしい。まあ、俺は整合騎士の中で最強といわれてるが、ベルクーリの方が強ぇと思ってるよ」

 

 ギンはそう言ってるも、整合騎士たちに鍛えられてるランスとウェインの2人は

 

「いえ、騎士様たちの会話を聞くかぎり、ギンの方が最強と仰ってました」

 

「それに、咎人として扱われてるキリトとユージオに会ってきたが、彼らも彼らで強くなってるようだが・・・」

 

「彼奴らは俺を除いた整合騎士をなぎ倒してきたからな。それぐらいの実力は既に持ってるよ。あと、『武装完全支配術』も習得してるようだしな」

 

「ギン先輩! その『武装完全支配術』とはなんですか?」

 

 ラゴンの質問に

 

「神器級の武器の記憶を解放する超高等神聖術。普通の神聖術や流派のソードスキルとは威力が違ぇんだ。俺の『神穿剣』も、ユージオの『青薔薇の剣』も、キリトの黒い奴いや、彼奴の話だと『夜空の剣』だったな。アレも神器なんだよ。能力はそれの原型となったオブジェクトによって変わるんだよ」

 

「神器か・・・整合騎士が持つとされる超強力な武器・・・」

 

「それを持ってるとはお見それしましたよ、ギン」

 

「いや、整合騎士の中でも神器を持ってるのは、俺や閣下を含めた上位騎士のみで、下位騎士は神器を持っていねぇんだ」

 

「それは何故なんですか?」

 

「相性っつうもんがあって、自分らにあう神器がなかったり、逆に相性が良すぎて、権限が追いついていねぇもんもいるんだ」

 

「整合騎士の中でも優劣があるのか」

 

「そういうわけで、俺やアリス、ユージオ、キリトといった神器を持ってる奴がいるのが戦力なのが嬉しいんだ」

 

 ギンはそう締めくくって、夕食を終えるのだった。

 

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 峻サイド

 

 さてと、行くか。

 

 銀華の助けに――。

 

 俺は準備して量産型STLデータを自分のアミュスフィアに送り込み、東四郎やエギルたちにもデータを回しておいといた。

 

 静姉ぇには、書き置きを残しておいとこう。

 

『俺と詩乃はギンの助けに行ってくる』

 

 って書いておいといた。

 

 俺はそのまま、OSOのプレイヤーアカウントをコンバートせずにダイブする。

 

 俺が準備したのは、コンバートせずに今、自分が使ってるアカウントをそのまま使用できる設定にしておいといたからだ。

 

 まあ、臨時用だから使用後は破棄するように頼んでおいといた。

 

 データ取りも兼ねてるけどな。

 

 そういった感じで、俺は銀華がいる世界へと向かった。

 

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 三人称サイド

 

 翌日、野営地内を歩いていたギンはアリスと合流し、軍議が行われるところへ向かっていた。

 

 向かう最中、ベルクーリとファナティオに会い、アリスは何やら、ファナティオとちょっとばかし言い合いになり、ギンとベルクーリは無視して、軍議が行われるところに向かった。

 

 

 

 軍議が行われる最中、ファナティオが陣頭の策を告げる。

 

「この4ヶ月というもの。あらゆる作戦を見当してきましたが、結局の所、現状の戦力を押し戻すことは困難だと思います。故に我々は――」

 

 ファナティオは指で地図を指し示す。

 

「東の大門と続く幅100メル、長さ1000メルの峡谷で戦い抜かなければならない。重心陣を置き、敵の突撃をひたすら受け止め、削りきる。これを作戦の基本方針とします。ここまでで何か意見がありませんか」

 

 ファナティオが作戦の基本方針を告げたところで、エルドリエが手を挙げ、意見を述べる。

 

「敵軍には、大弓を装備するオーガの軍団、より一層危険な暗黒術士部隊がいます。これらの対応にはどう対処するつもりですか」

 

「これは、危険な賭ですが・・・」

 

 ファナティオは一度、アリスを視てから話し出す。

 

「峡谷の底は昼でも陽光が届かず、地面には草木1本も生えていません。つまり、空間神聖力が薄いのです。改選前に我らがそれを根こそぎ消費すれば、敵軍は強力な術式が使えないのも道理」

 

 その意見に響めきが広がる一同。

 

「無論、それは此方とて同じこと・・・しかし、此方には、神聖術士が100名ほどしかいません。術の打ち合いとなれば、向こうの方が消費するのは、自明の理」

 

 その意見にギンが

 

「なるほど。それは名案だな。傷ついたものは治癒術だけに限定して、触媒を用いれば、天命の回復はできる。だが、俺は奴らが最も非道なことをしてくる可能性が高ぇと踏んでる」

 

 ギンが言った意見にベルクーリが反応する。

 

「生け贄か」

 

 その応えにギンは頷く。

 

 そこにアリスが

 

「問題はそこにあります。ファナティオ殿。如何にソルスとテラリアの恵みが薄いといえど、あの谷には、長い年月に蓄積した神聖力があります。それをいったい、誰が根こそぎ消費させるというのですか」

 

「おるぜ」

 

 アリスの問いにギンが応える。

 

 彼は既にその問題を解決する人を知っていたからだ。

 

「アリス、オメエだ」

 

「私ですか・・・」

 

「自分でも気が付いていねぇようだが、オメエさんの力は俺と同じように既に整合騎士の範疇を超えてる」

 

「私の力が貴方と同じなのですか」

 

「そうだ。オメエさんだったら、既に天と地を裂く神の力を持っている」

 

 ギンはそう言ったら、ファナティオは彼の意見に同意するかのように頷く。

 

 すると、ベルクーリが

 

「ギンの坊主。オメエさんの眼で既に敵軍の構成と指揮官は判明してるんだろう、話してくれ」

 

「分かった」

 

 ギンは前に立ち、敵の詳細を話し始める。

 

「闇の軍勢の勢力図は、第1陣に平地と山のゴブリンに、巨人が配置され、第2陣には、暗黒騎士、術士、拳闘士、オーガ、オークが配置されてる。そして、問題が敵の指揮官が・・・()()()()()()ということだ」

 

 ギンも言葉から漏らされた情報に響めきを広がる一同。

 

 その意見にベルクーリが

 

「なるほどな。シャスターの小僧の気配がしねぇ代わりに、途轍もなく冷たい心意を感じたのはそういうわけか」

 

「信じられません、神の復活など・・・」

 

「だが、カーディナルという嬢ちゃんの話だと、この世界の神は存在しないんだよな」

 

「普通はな・・・だが、これは、俺やキリトにしか分からねぇことだが・・・外界の人間がこの世界にやってきたというのが確かだな」

 

 ギンが言ったことにベルクーリはこんな反応する。

 

「そういや、カーディナルという御方の話によれば、キリトとギンは外界から来たと言っていましたが、外界というのはなんなのでしょうか」

 

 ファナティオの問いにギンはこう応えた。

 

「閣下や副騎士長は今更かもしれねぇが、俺たちがいる人界の外には、ダークテリトリーがあって、さらに、外側には、俺やキリトが住まう世界というだけの話さ。今更、俺が言ったって、閣下や副騎士長はなんとも思わねぇだろう」

 

「まあ、そう言われたら、そうだな」

 

「そう言われてしまえば、なにも言い返せませんね」

 

「そういうことだ。だが、ベクタが復活したとしたら、面倒くせぇことになった」

 

「なにか知ってるというわけだな」

 

「ベクタには、『魂の干渉』というのがある。人の魂を一時的に停止させ、記憶を消して、自分の手下にさせる能力。言うなれば、『無限に手下を増やすことができる能力』だ」

 

 ギンがベクタに関しての情報を話すとベルクーリは

 

「敵さんの親玉がそんな化物だと相手しづれぇが、まあ、そこはおいおいと考えていこうぜ」

 

「そうですね。我々の配置に関しては――」

 

 配置の場所を話してから、解散となった。

 

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27話

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 ギンサイド

 

 暗黒神ベクタ。

 

 そして、それを使用してるプレイヤーの顔。

 

 あの顔はどうみても、サトライザー本人だった。

 

 奴に関しては俺とユンが一番知ってる。

 

 彼奴は闇。

 

 ブラックホールそのもの。

 

 全てのものをあまつさえ、取り込んでしまう厄介な男だ。

 

 一度、相手にした俺だから分かること。

 

 奴の心意とベクタの能力が掛け合わされれば、間違ぇなくヤベぇ~ことになるな。

 

 俺はこの戦いの先を見据えていた。

 

 まだか・・・まだ、増援は来ねぇのか?

 

 俺は内心苛立つも、今は戦いのことで集中するか。

 

 俺は息をついてから、その時が来るまで待った。

 

 

 

 俺の配置は第1陣の一番前。

 

 つまり、最前線にて。

 

 敵をなぎ倒していくというわけだ。

 

 さてと、久しぶりの殺し合いだな。

 

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 三人称サイド

 

 戦争が始まった。

 

 ファナティオの号令のもとに開戦の一声で火蓋が切られる。

 

 

 

「行くとするか」

 

 ギンは崩壊する大門の近くに立ち、剣を向き、

 

「『エンハンス・アーマメント』」

 

 武装完全支配術を行使する。

 

 刀身から漏れ出したのは、冷気ではなく熱気。

 

 途轍もなき炎が漏れ出した。

 

 その熱は天をも焦がすほどの熱気を放っていた。

 

 ギンが剣を振るった瞬間、炎はたちまち、消滅した東の大門の代わりの門となって、闇の軍勢の動きを封じた。

 

 なにもかも、灰燼となせる凄まじき炎。

 

 それは既に神をも殺せるほどの炎と熱気を放っていた。

 

「『炎上壁』・・・これで、敵さんも捨て身や特効覚悟で進まねぇといけねぇな」

 

 燃え盛る炎の壁が門となって、闇の軍勢の動きを封じる。ギンはファナティオに向くと、彼女は次の段階に入って欲しいと頷いたので、ギンは心意を使用して、上空に躍り出る。

 

 炎の壁には、巨人族が1人分の高さで通れるだけの穴を3つほど開けた。

 

 彼はそのまま、上空に躍り出て、空を歩きながら、敵軍の上空にまでやってきて、瞑想に入る。

 

 彼が瞑想に入って、次の段階の準備に入った。

 

 

 

 戦争の最初の犠牲者はゴブリンたちだった。

 

 ギンの炎ほどではないが、デュソルバートの劫火によって、戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 ファナティオ、デュソルバートは敵の指揮官である長を倒し、左翼の方は多少なりとも問題はあったが、先日、ギンやキリトの励ましを受けたレンリが敵の長を討ち取った。

 

 ギンとしては嬉しいかぎりであった。

 

 そして、今、瞑想していたギンが動き出す。

 

 それに呼応して、戦場の空一帯に雪雲が覆われていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 キリトサイド

 

 ッ!? この心意は・・・

 

「ギンか」

 

 俺とユージオは補給部隊を一任してる。

 

 ギンの話だと、「俺が敵だったら、真っ先に補給部隊を潰しにかかってる」って言っていた。

 

 それにしても、戦場というのはよく理解してるようだな。

 

 昔からそうだ。戦いや戦場というのをいち早く察知して、対策を取るのがギンの凄み。

 

 それにしても、ここまで雪雲が覆わせるとは・・・

 

「キリト・・・これって・・・」

 

「ああ・・・これが、ギンの力なんだろうな」

 

「これが、ギン先輩の力なんですか」

 

「格の違いを思い知っちゃいますね」

 

「・・・だな」

 

 流石に俺も度肝抜かれるぞ。

 

「相手にしていなくて良かった。大門が炎の壁にさせたのもギンの仕業だろ・・・・・・全く、たった1人で戦況を持ってこさせるとは・・・もはや、人間じゃねぇな」

 

 戦場の流れを人界軍側に持ってこさせるほどの力。

 

 スーパーアカウントだろうと相手取ることが出来る怪物こそがギンなのだと、俺は改めて実感する。

 

 俺も戦場というのは心得てるし。殺し合いというのを分かってるつもりだ。

 

 だが、実際に、人をこの手で殺すというのはかなりくるな。

 

 それをギンらはやり通していたというわけか。

 

 全く、彼奴らを英雄と呼ばないで、誰が英雄と名乗れぬものか。

 

 彼奴こそ、史上最強の英雄だ。

 

 俺は今でも、ギンが英雄だと信じていた。

 

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 三人称サイド

 

 戦場の空一帯を覆う雪雲。

 

 時間帯は既に夜なのに、月明かりすらも届かせないほどの分厚い雪雲だった。

 

 時を同じくして、暗黒術士団もミニオン総出で人界軍を全滅させようとするけど、ベルクーリの『時穿剣』の武装完全支配術で全滅させた。

 

 

 

 敵の指揮官であるベクタと暗黒騎士(ヴァサゴ)はというと――、

 

「スゲぇな、敵には天候すら支配する奴でもいるのか?」

 

「さあな・・・だが、空を支配してる奴なら、彼処にいるぞ」

 

 ベクタは上空を見上げ、ヴァサゴもそれにつられて、上を見上げる。

 

 上空には、白銀の鎧を身に纏い、白銀の刀を手にする1人の少年いや男の娘。

 

 ヴァサゴは、その男の娘に見覚えがあったからだ。

 

 彼は目を見開き、言葉を漏らす。

 

「おいおい、マジかよ・・・あの顔、あの髪、あの気配・・・・・・ありゃ、『八帝武将』の『剣帝』・・・・・・()()じゃねぇか」

 

 人物名を漏らしたことでベクタに変化があった。

 

「彼奴か・・・」

 

「知ってるのか、bro?」

 

「ああ、GGOで相手したことがある・・・彼奴は強かった。いや、彼奴らだな」

 

「彼奴ら・・・・・・そりゃ、もしかして、()()じゃねぇか」

 

「そうだ。あの二人に関しては手合わせしたことが分かったことがある。アレは敵に回してはいけない人種だ。唯一、俺ですら、()()()()()()()()()()()()()()()ほどの存在感を放っていた」

 

「へぇ~、broがそこまで、評価するほどか・・・・・・やっぱ、彼奴ら『八帝武将』は別格だな」

 

「そういうヴァサゴはギンとユンには面識があるようだが、何処で知り合った?」

 

「アァ~、一度、殺し合った仲だからな。()()()で・・・」

 

 ヴァサゴは昔、やっていたゲーム名を口にすると、

 

「なるほど。同郷という奴だな。まあ良い。しかし、先手を取られたな」

 

「ああ、確実に後手に回されて・・・いや、探りを入れてきてるな」

 

「我々の目的をか」

 

「あぁ~、彼奴はこの俺が認めるほど、頭がキレる。敵の俺たちの考えすら見通してしまうだろうぜ」

 

「そうだな。奴こそが最後の関門になることは間違いない」

 

「なら、どうする、bro?」

 

「前進しようにも、後退しようにも、彼奴の支配下から逃れられないだろう」

 

「だったら、やらせておけばいいというわけか」

 

「そうなるな」

 

 ベクタとヴァサゴはそう結論づけた。

 

 暗黒界人を犠牲にするという考えで・・・。

 

 

 

 敵陣上空を覆う雪雲。

 

 それを従わせてるギン。

 

 その彼が一度だけ、心意を解放させる。

 

「俺の『神穿剣』の冷気は最強。全ての水は俺の武器。全ての空は俺の支配下だ」

 

 彼の碧眼が見通してる敵陣。

 

 敵はギンの位置を発見して、迎撃しようにも、距離的に無理だと豪語してる。

 

 そんな彼らを無視して、ギンは心意で強化された完全支配術を行使し始める。

 

「ハァアアアアアア――――――――ッ!!!!!!」

 

 声をあげ、心意を極限まで上げていく。

 

 彼の心意に呼応して、雪雲が渦巻き始める。

 

 

 

 彼の心意の高まりに気が付いた整合騎士たち。

 

 そして、キリトとユージオの2人。

 

 渦巻く雪雲を視ながら、

 

「キリト! この心意は!?」

 

「ギンのだ!」

 

「雲が渦を巻いている」

 

「先輩・・・こんなことあり得るんですか?」

 

 ロニエとティーゼすら、目の前で起きてることに驚きを隠せない。

 

 

 

 心意を極限にまで上げたら、

 

「『氷天万華葬(ひょうてんばんかそう)』」

 

 刀から解き放たれた心意が渦巻く雪雲の中心部に注ぎ込まれていく。

 

 すると、注ぎ込まれた部分を中心に雲が広がっていく。いや、穴を開けていき、穴から降り落ちてくるのは、大量の雪であった。

 

 降り落ちてくる雪に敵軍は暗黒術なり、素手なりで払おうとしたとき、雪に触れた瞬間、氷の華が咲き始めたのだ。

 

 降雪に触れて、凍っていく仲間を視て、隊列を崩す敵陣。

 

 そんな彼らにギンは死への手向けとして教えたのだ。

 

「『氷天万華葬(ひょうてんばんかそう)』・・・・・・雪に触れたものを瞬時に華のように凍りついていく・・・・・・一万にも及ぶ氷の花が咲き終える頃には、テメエらの天命は消え失せることになるだろう」

 

 大地に広がり、天へ昇っていくかのように連なっていく氷の塔。

 

 

 

 たったこれだけで、数千にも及ぶ闇の軍勢の命を奪い取ったギン。

 

 もはや、それは神の所行に等しき行為であり、そこに人間味がないともいえる。

 

 その時のギンは神とも思えてしまうほどの存在感を放っていたと記載しておこう。

 

 

 

 そんな彼は敵陣を睥睨し、踵を返すようにアリスがいるであろう地点に向かった。

 

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28話

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 アリスサイド

 

 これほどとは・・・。

 

 私は初めて、ギンの心意の凄さを目の当たりにした。

 

 この世界を覆い尽くすほどの膨大かつ深い谷底にいるかのような感覚は初めて――。

 

 

 

 そして、万物全てを凍り尽くす氷。

 

 その氷の前には、生きてることすら許されない。

 

 これほどの広域かつ膨大な術式は初めて見ました。

 

 

 

 私も、進軍してくる暗黒術士部隊とオーガの部隊を大規模術式にて、亡き者にした。

 

 数多の命を屠っていく罪は私の両肩に背負ってみせる。

 

 でも、耐えきれるものなのかわからない。

 

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 三人称サイド

 

 ギンは宙から舞い降りるかのようにアリスのもとにやってくる。

 

 だが、愛竜の雨縁から転げ落ちるかのように倒れかけるもそれを迎えに来てたファナティオとイーディスが抱きかかえるのが見えた。

 

 開戦して数時間とはいえ、長時間に及ぶかのように精神が削られてた。

 

 それは、ギンの眼から見てもはっきりとわかるものだった。

 

(結構、精神的に来てるなぁ~。女の子の両肩にはあれだけの命を背負うのは難しすぎる。アレじゃあ・・・いずれ、崩壊するなぁ~。なにより、アリスは命を慈しみ、優しき心を持ってる・・・・・・それを菊岡共は・・・・・・)

 

 ギンはこの世界を生み出した菊岡たちへの絶望を与えたくなったという心境だった。

 

 

 

 地に降り立ったギン。

 

 彼はイーディスに肩を貸されてるアリスの元へ歩み寄っていく。

 

「派手にやったな」

 

「・・・ギン」

 

 アリスはギンがやって来たのと声に気が付き反応した。

 

 反応しても彼女から覇気を感じられない。

 

(やはり、精神的に来てるなぁ~・・・ただでさえ、アリスは命に対する慈しみの心を持ってるんだ。そんな彼女にこれほどの十字架を背負わせるのは酷な話だ・・・・・・とにかく、少しでも、体力と気力を回復させよう)

 

「副騎士長は?」

 

「騎士長のところに報告に向かったわ」

 

 ギンの問いにイーディスが応えてくれた。

 

「ならば、イーディス、アリスを少しだけ休ませてくれ。かなり疲労してる。今夜からもさらに過激になることだと予想されるからな」

 

 ギンは敵陣の方向に振り向き、僅かに睨む。

 

 それにアリスが反応する。

 

「いえ・・・私はまだ・・・行けます」

 

 空元気で応えるも、ギンからの厳しめな言葉が飛ぶ。

 

「無理するな、夜間の襲撃もある。休めるときに休め! それに、オメエさん、疲労困憊だぞ。閣下もオメエを視たら、「休め」と言ってくるぞ」

 

「・・・・・・分かりました」

 

 アリスは渋々、イーディスに肩を貸しながら、天幕の方へ向かった。

 

 

 

 ギンはアリスを見届けてから、今回に於いて、敵側の根本を見据える。

 

(敵は人界に侵攻し、俺たちと同じように裕福な生活を送りてぇだけなんだな。まるで、地球の歴史を再現してるわけだ)

 

 ギンは顔を上西、透けた夜空を視る。

 

(この世界は正解ばかりの世界だ。俺やキリトが住んでる世界とは全然違う。人は間違いを犯して、前に進む種族だ。それをアドミニストレータは是としなかった。だから、間違いのねぇ純粋無垢かつ正しい世界を創ろうとした。菊岡は自分こそが完璧だと思ってるんだろうな。だからこそ、失敗する・・・・・・俺も1度は失敗をした。失敗したからこそ、これからの世界に貢献することを選んだ。その所為で、俺は普通のフラクトライトじゃなくなったけどな)

 

「この戦争は価値観と心の相違だな」

 

 ギンは呟いて、敵の残存兵がいないのか確認することにした。

 

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 アリスサイド

 

 なにも言い返せなかった。

 

 ギンは私の身を案じて、休息を取るようにと言われた。

 

 いつも、彼は私のことを見てくれてる。

 

 私はいつか、ギンと背中合わせで戦いたい。

 

 でも、今なら、ギンの実力の裏付けるものが分かります。

 

 小父様が言っていたとおり、幾星霜の戦いを経て、あの強さを身につけた。

 

 いつかは、追いつかないといけない。

 

 私はそう思っています。

 

 今は、貴方が私を守ってください・・・・・・ギン。

 

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 三人称サイド

 

 時間的には、夕暮れの時間帯。

 

 ギンは1人。

 

 天幕から離れて、夜空の星々を視ていた。

 

 アリスは精神的な疲労から回復して、イーディスと一緒にベルクーリのところに来ていた。

 

「少しは気が楽になったか、嬢ちゃん」

 

「はい。ギンは私や皆のことをよく見ています」

 

「まあ、ギンの坊主は俺たちのことを視て、考えてたからな」

 

「それで、敵の目的が『光の巫女』である私を狙ってると・・・」

 

「ああ・・・しかも、最大の強敵としてギンの坊主を指名された。奴さんらは、ギンの力を脅威に感じたらしい。いや、奴さんらというより、敵の大将・・・暗黒神ベクタがギンの坊主を消し、アリスの嬢ちゃんを狙ってるという感じだ」

 

 ベルクーリが言ったことにイーディスが

 

「確かにギンの実力は整合騎士として枠を超えてる。神聖術に関してはアリスもギンのそれに匹敵してる」

 

「ああ、そこで、ギンが次に考えた作戦は人界軍の3割を遊撃部隊として、ダークテリトリーの南部に進行し、敵戦力を分断。或いは、敵が全軍で動けば、背後から挟撃して数を減らせとの話だ」

 

「よくそんな策が思いつくわね」

 

「全くです・・・ですが、それがギンの凄さかもしれません」

 

「あと・・・暗黒術士が非道なる行動に出る予兆が見て取れたと坊主が言っていてな。坊主が単独で侵攻すると言ってきたそうだ」

 

 ギンの単独行動にアリスとイーディスは驚きを隠せない。

 

「何故、ギンが単独行動を!?」

 

 アリスが詰問すると、

 

「これは、ギンの意志だそうだ」

 

「そんな・・・」

 

 アリスは目を見開き、イーディスは彼女の心境を察する。

 

 だが、ベルクーリは

 

「ここからは俺の推測だが、ギンの坊主には、何か隠してると思ってる」

 

「騎士長。なにかとは?」

 

「さあ、そこまでは俺も分からなかったが、考えとか力とか、何かを隠してるのは分かった」

 

 彼はそう言ったのだった。

 

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 ギンサイド

 

 夜空の星々は綺麗だな。

 

 あの城から見えた星も綺麗だったな。

 

 策に関しては閣下に伝えた。

 

 大なり小なり。

 

 味方の損害を減らすためなら、本望だしな。

 

 だが、俺の意志としては、アリスを守らねぇといけねぇという想いがある。

 

 それは、彼女が俺たちの世界に必要だからじゃねぇ。

 

 俺自身の意志だ。

 

 俺がアリスに惚れて、恋したからだ。

 

 ヤベぇ~な。

 

 彼奴の顔を思い浮かべると心が落ち着かねぇ。

 

 今の今まで、よく心を落ち着けたな。

 

 いや、()だからこそか・・・。

 

 だけど、相手がベクタにしてサトライザー。

 

 彼奴をフラクトライト()ごと消滅させるには、()()を返上しねぇといけねぇな。

 

 ザ・シードが、世界が、神が、生み出した『神器』・・・足りねぇ。

 

 『死』の概念を神器にした刀・・・足りねぇ。

 

 アレを捨てるのか・・・足りねぇ。

 

 それでも、足りねぇ。

 

 だったら、奴を倒してぇ心意と自分を支えるだけの心意が必要だ。

 

 だが、仮にそれが必要だとして、もし、それを成し遂げたら、協力してくれた奴だけじゃなく――

 

「俺自身のフラクトライトも消滅するな・・・」

 

 言葉が木霊するのだった。

 

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29話

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 三人称サイド

 

 ギンは愛竜の紅炎に乗り、単身で敵陣に突入する。

 

 その後、アリス、ベルクーリ、レンリ、シェータ、イーディスらがそれぞれの愛竜に乗り、遊撃部隊を引き連れて、南方に向かうだが――。

 

「これは・・・」

 

「スゲぇな・・・まるで、世界が違う」

 

「僕らの完全支配術とは次元が違うのを感じます」

 

「・・・・・・」

 

「うわー、遠くからみても、ヤバそうだと思ったのに、近くから見ると、ここまでとは思えないよ」

 

 彼らが視てるのは、全てが凍り尽くされた世界そのものだった。

 

 それぞれの愛竜が寒さで凍えてるのが、手綱から手に取るように分かった。

 

 

 

 アリスが自分のことを高らかに宣言したら、ベクタは全軍で遊撃部隊を追うことにした。

 

 

 

 アリスらは南方へ移動してるところで

 

「見つけました」

 

 アリスが見晴らしの良い高台で紅炎に餌と水を与えてるギンを発見した。

 

 彼はアリスたちが来たのに気が付き、公園に休んでるように指示させた。

 

 

 

 アリスたちが降りたち、ギンは出迎えもせず、アリスの怒号を受けることにした。

 

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 ユージオサイド

 

 僕とキリトは補給部隊に回された。

 

 実のところ、咎人である僕たちが戦闘部隊に回されると部隊の志気が下がるかもしれないから補給部隊に回された。

 

 ・・・で、今、僕たちは前線から離れた位置にいるんだけど・・・。

 

「キリト、どうかしたの?」

 

 キリトが葉もない林を見渡していた。

 

「なるほど・・・夜襲にもってこいのポイントだな」

 

「夜襲? ギンが言っていたこと?」

 

「ああ、彼奴は頭がキレる。夜襲への対策を考慮してるんだろう。視ろ、緊急用の土嚢の数。アレは、南進しながらという策を真っ向からなくす策だ」

 

「どういうこと? 作戦じゃあ、南進しながら迎撃するというのが作戦でしょう」

 

「俺も最初はそう思ったが、ギンの策は味方すらも驚かすことばかり・・・むしろ、この策は既にバレてると踏まえての策だな」

 

 既にバレてる? キリトの言ってることが分からない。

 

「まあ、わからないだろうと思うけど・・・それよりも外に出て、見回りに行こうぜ」

 

「もう・・・分かったよ」

 

 僕とキリトはロニエとティーゼあとギンの傍付きだったラゴンと一緒に補給馬車から外に周囲の警戒にあたった。

 

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 キリトサイド

 

 南進するって策をギンが俺に伝えた際、彼奴は地図を見ながら、俺にこんなことを教えた。

 

『敵の指揮官は相当に頭がキレるはずだ。その際、俺の南進するっていう策は十中八九バレてる。そのため――』

 

 彼奴は簡易的な光球でダークテリトリーの林部分を指した。

 

『ここいらに、夜襲部隊を配備されてる可能性が高ぇ』

 

『じゃあ、ここに補給部隊を置かせるんだ』

 

『敵を誘い込み・・・挟撃する』

 

 彼奴の不敵な含み笑いは怖かったなぁ~。

 

 まあ、彼奴の策略家は健在だな。

 

 

 

 さてと、周囲の警戒にあたるか。

 

「ロニエ、俺が教えたことを覚えてるな」

 

「はい。「眼だけに頼るな、全体を感じろ」ですね」

 

「そうだ」

 

 ロニエはしっかりと俺の教えをしっかりと学び、眼を閉じ、足を止めた。

 

 俺も彼女に習って、超感覚(ハイパーセンス)を行使する。

 

 

 

 ん? 微かに肉を斬り裂く音・・・、しかも、微かに聞こえる枯れた草をかき分ける音。

 

 この音は徐々にこっちに近づいてきてるな。

 

「そこにいる奴、出てこい! 居るのは分かってるんだ」

 

 腰に帯びた『夜空の剣』を抜剣し、ロニエを後ろに退避させ、枯れ草の方に声を出す。

 

 俺も俺で、半年前とは強くなったと思うぜ。

 

 心意で己を強化したんだからな。

 

 俺は声を出した方に警戒するも、()()()()()()()()が聞こえてきて、動揺を隠せなかった。

 

「AH・・・? 懐かしい気配を感じてみれば、『()()()()』様じゃねぇか」

 

「・・・ッ!?」(^^;)

 

 此奴・・・なんで、俺のSAOでの呼び名を知ってるんだ!?

 

 俺の眼の前に現れたのは、ボロいマントを羽織った男だった。

 

 此奴の顔・・・何処かで視たことがある。

 

 1回、揺さぶってみるか

 

「俺のことを知ってるようだが・・・どうやら、()()の読み通り、夜襲部隊が来てるようだな」

 

 俺が思わず、ギンの名前を口滑ってしまったかのように言うと、ボロマントの男は

 

「Wow・・・やっぱ、『剣帝』様いたのか! 『八帝武将』の『剣帝』様がよぅ~!!」

 

 どうやら、ギンのことも知ってるようだな。

 

 俺とギンの共通なのは、()()()()の仲。

 

 つまり、此奴も・・・元SAOプレイヤー。

 

 

 

 この時の俺は生理的な嫌悪感が走る。

 

 あの邪悪で狂った笑顔。

 

 俺は何処かで、この男と会ったことがある。

 

 いや、所々の流暢な英語・・・・・・まさか!?

 

「お前・・・・・・まさか・・・・・・()()()か?」

 

 俺は眼の前のボロマントの男のかつてのネームを言い当ててみる。

 

 すると、男は奇っ怪で嬉しそうな笑いを上げる。

 

I()t()´()s() s()h()o()w() t()i()m()e()! 久しぶりじゃねぇか、()()()!!」

 

「・・・ッ!? いや、ダメ元で言ってみたんだけど、当たっちまったな。だけど、久しぶりだな、PoH。ユンから真実を聞いて、お前が生きてるとは思いしなかったよ」

 

「AH・・・あの討伐戦か・・・・・・俺にとっちゃあ、屈辱の他にねぇんだけどな」

 

「ギンに欺かれて、全滅と生かされた屈辱か」

 

「Aa~、彼奴だけは、この手でぶっ殺さねぇと気が済まねぇんだよ」

 

 怒りに孕んだどす黒い殺意。

 

 その殺意には、俺の後ろにいるロニエもビクビク怯えていた。

 

 

 

 俺はロニエを安心させるように言葉をかけてから、

 

「まあ、お喋りはここまでだ。お前は俺を殺したいんだろ?」

 

「Aa・・・オメエを殺し、さらし首にしたのを『剣帝』や『閃光』に見せつけてぇんだよ」

 

「悪趣味なことだ」

 

 赤い光が、夜空の剣に宿る。

 

 アインクラッド流の1つ『シャープネイル』だ。

 

 だが、こんなの彼奴だったら、難なく躱しちまうだろうな。

 

 

 

 案の定、PoHは短剣で受け止め、押し切ろうとしたはずの剣が左に移っており、左からの薙ぎ払いを受け流し、右下からの斬り上げを逸らした。

 

「やっぱ、俺の太刀筋を覚えてるか」

 

「腕が上がってるじゃねぇか。『黒の剣士』様! 面白ぇ!」

 

 相変わらず、何処までも狂気的な笑みだな。

 

 まあ、此奴にとって、アレが普通なんだろうな。

 

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 三人称サイド

 

 補給部隊が、敵の夜襲部隊に一戦交えてるという情報を、林に身を隠していた迎撃チームの耳に入った。

 

 ベルクーリはその情報を聞いて、

 

「まさか、俺たちの南進を見抜いて、ここに兵を伏せさせていたとはな」

 

「いや、むしろ、それで良い。既に敵が俺たちの策がバレるのは百も承知。こっちに来させてあげたんだからさ」

 

「ん? どういうこと?」

 

「俺が単独で出たのは、あからさまに、こっちが南進するの露見させるため・・・夜襲するであろうポイントも最初から分かっていた。だから、補給部隊にキリトとユージオを置いたんだよ」

 

 ギンが言ったことにゾッとするベルクーリ、アリス、レンリ、イーディスの4人。

 

 まるで、全てを見通したかのような言い方だ。

 

 自分の策を囮に相手の策を利用し、相手を此方に引き寄せたかのような配置。

 

 策略家同士による戦い。

 

 見えない攻防がギンとベクタの間で行き交ってる。

 

 ギンは少しだけ考えた。

 

「じゃあ、部隊を少しずつ後退しろ。俺とアリスは補給部隊の増援に向かう。閣下とイーディスは北からの敵の迎撃を」

 

「ですが、敵の拳闘士団は5000に迫っています」

 

「大丈夫。それを組み込んで策を講じたんだからな」

 

 ギンの含み笑いにアリスはなにか言おうとしたが、ベルクーリが行くように急かされたので、補給部隊の増援に向かうことにしたギンとアリスであった。

 

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30話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 キリトサイド

 

 俺は今、PoHと剣を交えてる。

 

 そして、彼奴の後方から夜襲部隊がゾロゾロと現れてきた。

 

「やっぱ、ギンの予想通り・・・ガッ!?」

 

 不味い、俺の剣が彼奴の短剣で弾かれるとは、彼奴も彼奴で腕を上げてるじゃねぇか。

 

 俺の土手っ腹に彼奴の蹴りが入り、補給馬車近くまで蹴り飛ばされた。

 

「グゥッ!?」

 

 PoHが俺を殺そうと徐々に近づいてくる。

 

 

 

 その瞬間、空から煌びやかな光と共に栗色の女の子が現れた。

 

 いや、アレは――、

 

「アスナ・・・・・・?」

 

 俺の喉から掠れた声が出る。

 

 

 

 PoHも俺に習って、空を見上げると

 

「・・・・・・おいおい、アレは・・・『閃光』じゃねぇか・・・!?」

 

 彼奴もアスナのことを口にしてる。

 

 

 

 アスナ、いったい、何をしようとしてるんだ。

 

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 三人称サイド

 

 突如として、出現した栗色の女の子。

 

 彼女が手を振りかざし、

 

「ラァ~♪」

 

 音色と同時にオーロラが発生する。

 

 発生したオーロラが巨大な渓谷へと様変わりする。

 

 人智を超えうる大災害。

 

 それも連続に3回の実行した。

 

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 キリトサイド

 

 これが、ステイシアの力だというのか。

 

 

 

 俺はアンダーワールドで過ごしてる中、現実での生活や仲間たちのことを忘れたりはしていない。

 

 此方にいるギンも然りだ。

 

 また、彼奴と同じ戦場で立てるという喜びがあった。

 

 そして、PoHもアスナが起こした渓谷に落ちていったのをこの眼で見た。

 

「アスナ・・・アスナ!!」

 

 俺は半ば、譫言のように天に立ち、渓谷を創り上げる神業を披露した彼女の名前を呼ぶ。

 

 約2年半。俺の中に押し込めていた想い人への焦がれが爆発した。

 

 

 

 俺の声が切羽詰まっており、余裕すらなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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 ギンサイド

 

 俺はアリスと一緒に走りながら、天精眼(ウラノス)で状況を確認してるんだが・・・

 

「アァ~、一番視たくねぇもんを視てる気分だぜ」

 

「どうしたんですか、ギン?」

 

「知らねぇ方が良いぞ」

 

「?」

 

 アリスが疑問符を浮かべ、首を傾げてるのも可愛いな。

 

 おっと、今は補給部隊の方に急がねぇとな。

 

 

 

 ・・・にしても、キリトの奴。見事にアスナに抱きついていやがるな。

 

 まあ、分からんでもねぇけど――。

 

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 三人称サイド

 

 アスナが渓谷を起こしてから、30分後のことだった。

 

 渓谷を境に人界軍と闇の軍勢が睨みを利かせていた。

 

 夜襲もしづらい状況下。

 

 しかも、人外なる神業をもたらした彼女と一緒にやって来たキリト。

 

 それらを視た教会の関係者は2人に対して、ある種の警戒と緊張感が走る。

 

 うち2名を除いて・・・。

 

 

 

「援軍として来るの遅くねぇか!」

 

「しょうがないでしょう! 準備に手間取ったんだから!」

 

 ガミガミと口喧嘩を始めるギンとアスナ。

 

 その口喧嘩を視てるのは、アリス、キリト、ベルクーリ、イーディス、レンリ、シェータらに加えて、ユージオとロニエ、ティーゼ、ラゴンも加わっての話し合いの場を設けたんだけど・・・。

 

「おい、坊主。あれ止めなくて良いのか?」

 

 ベルクーリはギンとアスナの口喧嘩を視て、キリトに話しかける。

 

「いつものことだ」

 

「アレが、いつもなのか・・・」

 

「ギンとアスナは作戦会議の時になると、ことあるごとに口喧嘩をする。互いに策を出しあいながら言い合ってる。止めようとしたら、『外野は黙ってろ/て!』と息を揃えて、黙らせるんだよ」

 

「つまり、止めようにも止められねぇんだな」

 

「ついでに言うと、アリスってアスナと似てる気がするんだよな」

 

 キリトは思わず、禁句を口にしてしまうと、

 

「ちょっと、キリトくん! 私と彼女が似てるってどういうことよ!」

 

「私が彼女に似てるのか詳しく教えなさい!」

 

「アリスとアスナは怒り出したときが一番似てるんだよ!」

 

 アスナとアリスがキリトに詰問しようとしたところで、ギンがすかさず、指摘したことで、アリスも参戦し、そのまま発展するところをベルクーリが止めてくれたことで事をなきに終えた。

 

 だけど、ギンとアスナが口喧嘩するのは相変わらずだったと記載しておこう。

 

 

 

 話し合いの場にて。

 

 アスナは自分らの情報を惜しみなく話そうと重々しい口調で口を開かれた。

 

 そこから先は信じがたい真実を突きつけられる。

 

 一部はカーディナルから話されていたが、アンダーワールドの外、リアルワールドの存在。

 

 ギン、キリト、アスナはその世界から来たということ。

 

 今の戦争はリアルワールド人がアリスを狙って、引き起こしたことを話した。

 

 ベルクーリたちは話には聞いてたが、予想斜め上だったことにアリスとユージオは

 

「そんな・・・キリトとギンが別世界の住人だったなんて・・・」

 

「すまないな、ユージオ。アリス。今まで騙してた」

 

「い、いえ、なんとなく。ギンには底知れない何かがあるのは、半年ほど前に察しがついていましたが、今は情報が多すぎて混乱してきた」

 

 彼らにとってみれば、予想外のことだったろう。

 

 整合騎士の面々すら、それを隠せれないのだから。

 

 そこで、アリスはギン、キリト、アスナの3人にこんな質問をした。

 

「貴方たちは何処で知り合ったのですか」

 

 という質問に3人は一度だけ顔を見合わせ、ギンが応えることにした。

 

「『アインクラッド』という空に浮かぶ鋼鉄の城だ」

 

 ギンは端的な事実を告げた。

 

 その事実には、キリトとアスナは頷く。

 

 アリスらは空に浮かぶ城と荒唐無稽な言葉に疑問が生じるも、ギンは

 

「無理に理解しようとすんな。余計に頭をこんがらがるだけだ。とにかく、俺とキリト、アスナはその城で、形式的な協力体制を取っていた」

 

「まあ、形式的っていうよりかは、周りが勝手にそう呼ばれただけだ」

 

「よく言うぜ、キリト。オメエは一番の有名人だったからな」

 

「そりゃ、お前らもだろう」

 

 ギンはキリトのことを有名人扱いで言うと、逆にキリトもギンのことを有名人扱いしてきた。

 

 それには、アスナも

 

「そうよね。ギンくんは私たちのような実力者の間じゃあ有名よ。不敗神話を築かせてくれた史上最強集団の皇帝って呼ばれたんだから」

 

「ハッ!?」

 

 これには、流石のギンも驚きを隠せない。

 

 まさか、自分が不敗神話を築かせてくれた皇帝扱いだからだ。

 

「だって、ギンくんはあの城にいた頃、敗北、敗走、敗戦すらしたことない常勝不敗じゃない」

 

「マジで・・・俺って・・・そこまで有名だったの?」

 

「本人が気づいていないとは・・・」

 

「これだから、天才は・・・」

 

 アスナはギンの天才ぷりにゲンナリする。

 

 彼らの会話を聞いてたアリスらはギンの凄さを改めて、認識した。

 

 ギンは常人じゃあらず、超人であると――。

 

 ふと、ユージオは質問する。

 

「キリト。さっき、キミはギンに『お前()』って言ったよね。それは、ギンを含めた集団がいたということよだね?」

 

「良いところをつくよな。そうだ、ギンの他にあと7人がいるんだが、其奴らとギンの組織を『八帝武将』って言って、一騎当千にして、天才が揃った集団だ。実力に関していえば・・・アスナ・・・どれくらいだった?」

 

「少なくとも、私やキリトくんよりも頭1つ上で、ユンくんがさらに強く、ギンくんが圧倒的に強かったと思うよ」

 

「俺もそう思う。ギンが間違いなく最強だった。剣の腕も技量も俺以上に上だった。しかも、ギンには、全てを見通す眼を持ってる。戦場で最小限の犠牲で抑え込ませるだけの頭脳。なにもかもが、常識の埒外にいた」

 

「ギンくんに勝てる人なんていなかったんだから」

 

 キリトとアスナの2人によるギンの褒めっぷりに彼はそっぽを向いた。

 

 その話を聞いたアリスはギンの規格外を改めて、再認識したのだった。

 

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31話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 話し合いの最中、キリトはあることを口にした。

 

「ギン、アスナ。これはお前たちの耳に入れといて欲しいんだけど・・・」

 

「どうしたの、キリトくん?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 キリトは1回、間を置いてから告げた。

 

「アスナが警告に突き落とした騎士の正体・・・・・・実は、PoHだったんだ」

 

「ッ!?」

 

「ッ!!」

 

 ギンとアスナは互いに目を見開くも、アスナは凍りつき、ギンは微かに口角を上げる。

 

「キリトくん・・・それは間違いないの?」

 

「ああ、間違いない。彼奴のアカウントは見たところ、ハイレベルアカウントだったけど、彼奴の口調は流暢な英語に、俺やアスナ、ギンの呼び名を言っていたし。しかも・・・」

 

「彼奴の決め台詞だろ・・・・・・『It's show time』・・・あんなの言うのは、彼奴ぐれぇしかいねぇよ」

 

「でも、ギンくん。PoHは!?」

 

「ああ、野郎は俺が生かしてやった。まあ、彼奴にとってみれば、屈辱だろうけどな」

 

「ああ、PoHはギンに対して、怒りを孕んでいたよ」

 

「上等。俺の手で彼奴の息の根を止めてやるよ」

 

 底知れない自信。

 

 ギンはいつも以上に滾ってるように見えた。

 

 自信に満ちたギンの顔を見て、キリトとアスナは

 

「いつになく、気合いが入ってるな」

 

「それこそ、ギンくんというものよ」

 

 納得するのだった。

 

 

 

 話し合い後、皆、それぞれの天幕に向かうのだが、アリスは寝間着になって、ギンの天幕に来ていた。

 

 ギンも寝間着になって、瞑想による精神統一をしていた。

 

 アリスが天幕の中に入ると

 

「俺のことを知って、言いてぇこと、聞きてぇことがあるのか?」

 

 目を開けたギン。

 

 彼の透き通る碧眼がアリスを見つめる。

 

 彼女は見つめてくるギンの瞳を見つめ、

 

「はい。キリトとアスナの話を聞いた際、いくつか、疑問がありました。まず、ギンはアインクラッドという場所で生死を分けた戦いをしてきました。貴方は怖くなかったのですか?」

 

 という質問にギンは

 

「怖ぇさ。今でも・・・だけど、それを言い訳に逃げたかねぇんだ」

 

「それは何故?」

 

「何故か・・・その疑問には、明確な解答はねぇ。ただ、それは、俺の意志で決めたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが心意となって、最強に至ったと思う」

 

「では、何故、負けないと誓ったんですか?」

 

 といった質問に

 

「俺は一度、仲間を失ったんだ」

 

「え?」

 

「アインクラッドでパーティーを組んでいたんだ。俺には、幼馴染みがいた。其奴は生き残ったけど、残りのメンバーは殺人者に殺されちまった。その時、俺は誓ったんだ。どんな手を使っても仲間を守り切ると・・・大切な幼馴染みを、新たに仲間にした『八帝武将』の皆を守り切るために誓った。二度と負けねぇという強ぇ意志に、諦めねぇと誓って走り続けてる」

 

「そうだったのですね」

 

「そう。そして、今、俺はアリスを守りてぇんだ。どんな手を使っても、悪しき者の手から守り切る! ()()な」

 

 ギンがこの場で、アリスを守り切ろうとする強い意志。

 

 諦めず、前に進んでいく心意が今のギンのあるべき姿だと知ったアリス。

 

 だが、彼女はギンが一生かけて守り切ると言ってきたことに動揺してた。

 

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 アリスサイド

 

 今、ギンは私を守ると言ってきました。

 

 しかも、一生。

 

 それは、つまり・・・・・・私と一緒に歩んでいきたいという想いからくるもの。

 

 私もギンが他の女と一緒にいるだけで心がモヤモヤしていた。

 

 でも、約半年。

 

 彼と一緒に過ごしていて、こんな生活が一生過ごせたら良いなって思う自分がいた。

 

 

 

 ギンが好き。

 

 この想いは今も積もりに積もってる。

 

 もし、この想いを抱いたまま、死んでしまったら、悔いが残ってしまう。

 

 それだけは絶対嫌。

 

 それぐらいだったら、今、私の想いを全て、彼にぶつけた方が良い。

 

 

 

 私は正面からギンに自分の想いをぶつけようと思います。

 

「ギン・・・私は、貴方のことが好きなんです!」

 

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 ギンサイド

 

「ギン・・・私は、貴方のことが好きなんです!」

 

 この時、俺は一瞬だが、息を止めた。

 

 心も酷く動揺してる。

 

 アリスが俺のことが好き?

 

 確かに彼女は俺がイーディスやファナティオと話してるとき、不機嫌そうに睨んでくるのも、彼女が俺に好意的な視線を向けてるのも知っていた。

 

 俺だって、アリスに思わず、目が行ってしまう。

 

 アリスのことはガキの頃から見惚れていた。

 

 彼女が菊岡の目的物だとしても、関係ねぇなく、守りてぇと思っちまう。

 

 この想いだけは今も昔も変わらねぇ。

 

 たとえ、世界が違っても、俺とアリスの間にそんなものがねぇ。

 

「俺もさ・・・アリスのことが好きなんだ。俺の身と心の全てはオメエに捧げてぇくれぇにな・・・」

 

「ギン」

 

「たとえ、死んだとしても、俺はオメエを探しに舞い戻ってくる」

 

「私も死んだときは貴方を探しに再び、舞い戻ってくるでしょう。でも、もし・・・・・・お互いに死ぬようなときがあったら・・・・・・」

 

「ああ・・・・・・旅立とう。手を取って、新たな世界へ・・・・・・」

 

 

 

 俺は暖かな彼女の手を取る。

 

 その温もりを忘れねぇために・・・。

 

 

 

 アリスのために、()()を捨てるのなら、本望だ。

 

 これなら、胸を張って、前に進める。

 

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 三人称サイド

 

 ギンとアリス。

 

 お互いに告白しあい、一緒に暖を取った。

 

 

 

 それが、最後かのように――。

 

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 三人称サイド2

 

 OSOでは、というと――。

 

 ユンとシノンは先んじて、UW(アンダーワールド)に向かったが、ブラウンを含めた残りのメンバーはOSOに一時的に残り、ミカズチたちを集めて、今、起きてる現状を全て話した。

 

 自衛隊が新兵器を開発してること。

 

 現在、米国の軍或いは大企業が襲撃してること。

 

 そして、ギンが戦力が欲しいことを――。

 

 

 

 全てを話した上で、ミカズチらは

 

「ハァ~、こんな時間帯に呼び出してみれば、そんなことが起きてるとはな・・・」

 

「ギンくん。無茶ばっかりするよね」

 

「それで、ユンお姉ちゃんやシノンさんは既に、そのUW(アンダーワールド)に向かったんだよね?」

 

 ミュウがブラウンたちに問いかけると

 

「ええ、ユンはギンに頼まれて、用意してもらった量産型STLのデータをアミュスフィアのダウンロードし、この世界のアカウントをコンバートせずに使い、シノンちゃんはギンからの指示で六本木のラース本社に向かって、神様アカウントを使用するって話が付いてるわ」

 

「だとしたら、私たちも――」

 

「いえ、ここは皆さんの覚悟を問います」

 

「覚悟?」

 

 タクがブラウンの言葉を聞き返す。

 

「命を賭ける覚悟」

 

「命って・・・」

 

UW(アンダーワールド)はペインアブソーバー。つまり、痛覚遮断がありません。あの世界で死ぬほどの痛覚を受けたら、実際に現実の自分が死ぬことを考慮して、増援として向かうことになります。それでも、増援に向かう覚悟がありますか?」

 

 ブラウンは最後に問いかけた。

 

 ブラウンの言葉を聞いて、ミカズチは

 

「私は行くぜ。ギンの嬢ちゃんには、助けられっぱなしだしな。ここいらで、恩返ししてやるよ!」

 

「私も行くわ! いくら、ギンくんが強くても、多勢に無勢でしょう。だったら、助けるに決まってるじゃない!」

 

「ギンさんは私の幼馴染みだもん。ここで助けないと逃げた幼馴染みに成り下がっちゃう!」

 

「愚問だぜ、ブラウン。俺も助けにいくさ。ユンだって、そう思って、助けに行ったんだろう? 彼奴には、助けられてもらった恩がある。ここで返せないようじゃあ、男じゃない!」

 

 セイ、ミュウ、タクの順に言ったことで、周りが便乗していき、戦うという覚悟を見出した。

 

 セイたちの覚悟を視て、ブラウンは

 

「ありがとう、皆」

 

 頭を下げるのだった。

 

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32話

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 三人称サイド

 

 夜明け間近、ホラ貝の音に眼を覚ました整合騎士たち。

 

 

 

 ベルクーリがいる所に来たら、既に、イーディスら、他の騎士たち、キリト、アスナ、ユージオも集まってきていた。

 

 なんと、敵は綱を伝って、峡谷を乗り越えようとしてる。

 

 ベルクーリは思い切ったことだと口にしてるが、ギンからしたら、

 

「愚策も愚策じゃねぇ」

 

「どういうことです、ギン?」

 

「アレじゃあ、俺たちを綱渡りしてる奴らに釘付けにしてるようなものじゃん。真の狙いをこっちに気づかせねぇためだろう」

 

「では、皇帝ベクタの真の狙いはいったい?」

 

「そんなの決まってる。ベクタの能力を利用したリアルワールドから増援だよ」

 

 ギンの口からもたらされたベクタの真の狙い。

 

 それを聞いて、アスナは

 

「ギンくん。こっちの援軍に関しては今、ユイちゃんとブラウンさんにやってくれてるみたい」

 

「十分だ、それに・・・()()だけ真っ先にやってきた奴がいるけどな・・・」

 

「え?」

 

 イーディスが少々驚きの言葉を露見したところで、夜明けの空に走る複数の光。

 

 その光は一条の光となって、綱を断ち切った。

 

 

 

 ギンたちの上を通過したということは遠距離攻撃をしたことになる。

 

 ベルクーリたちはいったい、誰がという心境の中、ギンは

 

「正確無比な射撃・・・綱を一発で断ち切ってしまうほどの技量・・・」

 

 言葉を漏らし、キリトとアスナはタラリと汗を流す。

 

「今のって・・・」

 

「まさか・・・」

 

 2人は射撃した人物の正体を知ったところで、ギンの背中合わせに降り立った黒髪の美少年。

 

 手にしてるのが弓であることから彼が矢を放って、綱を断ち切ったことになる。

 

 少年のいきなりの登場には、流石のベルクーリたちも驚きを隠せない。

 

 対して、ギンは

 

「早ぇ登場だな。準備が整ったのか?」

 

「そうじゃなきゃ、そうそう早く来ないよ、ギン」

 

「それもそうだな。じゃあ、いつも通りに行きますか、俺が前。ユンが後ろ。いいな?」

 

「了解」

 

 といった阿吽の呼吸ですぐさま、動き出したギン。

 

 弓に矢を携えるユン。

 

 

 

 ここに今、『剣帝』と皇帝を支える武将の1人『黒き武弓』が後方支援する形で動き出した。

 

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 アリスサイド

 

「凄い!」

 

「うん、本当に凄い!」

 

「此奴ぁ~、参ったなぁ~」

 

「小父様?」

 

 小父様はギンと今、私たちと一緒にいる黒髪の彼を交互に見て、感慨深くなってる。

 

「この2人の坊主共は互いに信頼してるのがわかる。他人に背中を任せるなんてことは早々にできるものじゃねぇ。しかも、ギンの実力と渡り合えるだけの弓使い。こう言っちゃあ、デュソルバートには悪ぃが、弓使いとしての腕前は完全にこの坊主の方が上だ」

 

 デュソルバート殿以上の腕前!?

 

 しかも、ギンと連携が取れるとなれば、その実力は既に我々、整合騎士と同等以上の実力を秘めてることになります。

 

 

 

 世界の外には、ギンやキリトといった実力者がまだいるというのですか!?

 

 突如として現れた黒い光の柱の束。

 

 その敵をギンとユンという黒髪の美少年の2人だけで殺していく。

 

 勇ましきギンの姿が私の眼と心に焼きついていく。

 

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 三人称サイド

 

 突如として、来訪してきたベクタ側の増援。

 

 その数は30000強。

 

 その30000にも及ぶ敵兵をギンとユンの2人だけで屠っていく。

 

 だが、そこに人界軍側の増援がやってきた。

 

 まずは、6つの強烈な光。

 

 その光が30000の軍勢に飛び込み、蹴散らしていく。

 

 見た目は軽装だったり、重装だったりと様々だが、手にしてる武器は、鎌、剣、短剣、戦斧、槍、棒の6つ。

 

 そして、刀と弓が合わされば――。

 

 揃ってしまった。

 

 アインクラッドが生み出した史上最強集団――『八帝武将』。

 

 その彼らが全員、出揃ったことになる。

 

 

 

 その後、シノンとキリトの義妹のリーファなどが、人界軍側の増援としてやって来て、米国や中国、台湾、韓国プレイヤーたちと混戦になる。

 

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 ギンサイド

 

 随分と混戦になったな。

 

 これじゃあ、指揮も執りようがねぇな。

 

 それに、ああも、こんな殺気を放たれちゃあなぁ~。

 

「殺気を隠すなら、もうちょい、隠しやがれよ。俺とも因縁をつけてぇんならな」

 

 俺は夥しい死体の上に立ち、呟くと

 

「Ah・・・こちとら、テメェを殺したくてうずうずしていたんだからなぁ~」

 

 耳元に聞こえてくる低い声。

 

 その声には、怒りや恨みの声が渋々感じとれた。

 

 俺の前に現れるのは、ボロボロの外套。地面にめり込む数センチ上で止まった友切包丁(メイト・チョッパー)

 

 顔に青い刺繍。少し浅黒い褐色肌。

 

「久しぶりだなぁ~、PoH。その姿でやってきたということは俺を殺してぇということだろう」

 

「もちろんだ。テメェに与えられた屈辱的な敗北を、絶望的な勝利に変えて、拭ってやるぜぇ!!」

 

「上等。掛かってきやがれ!!」

 

 俺は心意でSAO時代の服装になって、PoHと応戦した。

 

 

 

 この時は、知らなかった。

 

 アリスがベクタいや、サトライザーの手に落ちてたことに――。

 

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 三人称サイド

 

 OSOのミュウやセイたちは、血の臭いや、肉の切る感触にジワジワと精神を削っていた中。

 

 その時、戦場に駆け巡る、途轍もなき殺気の応酬。

 

 その殺気の根幹を視てみると、そこでは、ギンとPoHが殺し合ってるのが見えた。

 

 その殺し合いを見て、今、自分たちがしてるのは、ゲームであって、ゲームじゃないという認識したのだった。

 

 

 

 だが、今、熾烈な殺し合いをしてるのが、ギンとPoHだけではなく、アリスを連れて、脱出を図ろうとしてるベクタことサトライザーとベルクーリも熾烈な殺し合いをしていた。

 

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 ユンサイド

 

 ギン!!

 

 彼奴、今・・・PoHとやり合ってるのか。

 

 ギンの戦いに邪魔する気はないが、よりにもよって、PoHとはな・・・。

 

 

 

 それよりも、俺は空間認識(スペース・アイ)でシノンの位置を把握する。

 

 彼女は今、アリスっていう彼女の方に向かってる。

 

 だが、ベルクーリというお爺さんと相手をしてるのがサトライザーなんだよ。

 

 彼奴、何故、こんな所にいる!?

 

 かつて、やり合った男の名を思い出す。

 

 

 

 厄介な相手だな。

 

 あの男を相手にした俺だからわかる。

 

 彼奴は危険の類な怪物だ。

 

 それは、今後の人類や世界に危険を及ぼすほどの存在だ。

 

 あの男だけは、今、この手で始末しないと不味い!!

 

 

 

 それに、ミュウやセイ姉ぇにタク・・・皆の顔に疲れが出始めてる。

 

 無理もない初めての殺し合いだ。

 

 かなり、精神を削られてるに違いない。

 

 さらに、ここに増援となると、間違いなく、こっちに不利だ。

 

 どうする?

 

 

 

 俺はこの状況を打破する方法を考えようと模索しながら戦ってると、研ぎ澄まされた感覚があるのを感じとった。

 

 これは・・・冷気。

 

 なんで、いきなり、冷気が流れこんでくるんだ?

 

 

 

 戦場に突如、流れ込んできた冷気。

 

 その冷気には、俺すらも動揺が隠せなかった。

 

 すると、

 

「『エンハンス・アーマメント』」

 

 この声はギン。

 

 しかも、今のは、なんかの詠唱。

 

 魔法に近い詠唱だ。

 

 

 

 そしたら、俺の眼前に映ったのは、俺に襲いかかってくる敵が氷づけにされていたのだった。

 

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33話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 ギンとPoHの戦場では、人界軍と増援部隊を亡きものにしようと続々と参戦してくる闇の軍勢側の増援。

 

 このままでは、人界側に不利と思ったギン。

 

 あと、アリスの心意が感じられなくなったことがきっかけとなって、ギンはブチッとなにかが吹っ飛んだ。

 

 それが、ギンが持つ神器――『神穿剣』の武装完全支配術を使用させるきっかけとなった。

 

「『エンハンス・アーマメント』」

 

 

 

 八寒地獄。

 

 

 

 寒さを具現化された地獄。

 

 それは、魂すらも凍らせるほどの極寒地獄へと化した。

 

 対象となったのは、敵の増援部隊の全て――。

 

 そう、全てを凍り尽くした。

 

 

 

 それを見たユンやミュウ、セイ、タクらは今、眼前の光景が変わったことに驚きを隠せずにいる。

 

「どうだ、PoH?」

 

 着物と袴姿になってるギンは腰に携えてる黒き神器――『死告剣』を抜いて、

 

「命すらも凍らせる冷気を目の当たりにした感想は?」

 

 

 

 ジャリッ、ジャリッ

 

 凍りついた地面をブーツで歩いていくギン。

 

 だけど、彼が言ったことに返答ができない。

 

 何故なら、PoHすらも凍りつかされ、その命を絶とうしたからだ。

 

 だが、ギンはそれを許さない。

 

 仮想世界での死を現実の死として置き換えるために、

 

「死への手向けとして聞いておけ。俺の右手に握ってる刀は『死告剣』。死の概念が結晶化された神器・・・・・・この剣に斬られたものは、フラクトライトそのものに死の概念が付与され、現実としての死と変貌する」

 

 『死告剣』を凍らされたPoHに突き刺すギン。

 

 突き刺され、凍られされてるPoHの身体が徐々に亀裂が入っていき、氷塊へと瓦解した。

 

 

 

 アンダーワールドで死んだPoHは、現実世界でも二度と眼を覚ますことはない。

 

 『死告剣』を鞘に納めたギンは『神穿剣』を振るうと、凍りつかされた敵の増援部隊を瓦解させた。

 

 

 

 その後、彼はユンたちのところに歩み寄り、

 

「ご苦労さん・・・少し休め」

 

 休ませるように促すも、ユンは

 

「俺は大丈夫だが、ミュウやセイ姉ぇにタクはもう、限界だ」

 

「そうか・・・辛ぇだろうな。それでも、立ち上がって、前に進めるのなら、問題ねぇよ」

 

「それにしても、お前の刀・・・凄いな、チートの部類だぞ」

 

「『神穿剣』のことか、此奴は俺の神器。OSOだったら、『レジェンダリー・ウェポン』級だな」

 

「・・・だろうな。俺はミュウやセイ姉ぇたちを視てる。お前はお前のやるべきことをしろ」

 

 ユンはギンにそう言ったら、ギンは

 

「分かってる・・・・・・俺にだって、オメエと同じように支えてぇもんができたからな」

 

 彼はそう言って、ユンから離れる。

 

 その際、アキト、スカイ、ヒガヤ、マサギ、スカー、ブラウンと目が合い、互いに頷き合ってから、ギンは自分の愛竜の名を呼んだ。

 

「紅炎!!」

 

 彼の元に馳せ参じてきたのは、紅き飛竜。

 

 彼は背に跨がって、

 

「紅炎、南方へ向かってくれ」

 

 彼は愛竜にそう指示したら、紅炎は翼をはためかせて、南方へと飛んでいった。

 

 

 

 飛竜に乗って、南進したのを見届けるユンたち。

 

 まさか、ドラゴンに乗って、移動するとは夢にも思わなかったのだろう。

 

 なお、ギンが飛竜に乗って、移動したのを視たミュウは

 

「竜騎士だ!! 今度、ギンさんに乗せてもらえないか、聞いてみよう!!」(☆。☆)

 

 疲弊してるのに、眼をキラキラさせていた。

 

「ギンくんもそうだけど、ユンちゃんやスカーもあんなに強かったとは思わなかった。まだまだ、頑張らないと・・・」

 

「そうですね、セイさん。それにしても、疲れた。今なら、ユンが彼処まで強くならないといけない意味が分かった気がした」

 

「そうだな。必死だったんだろうな、嬢ちゃんも、マサギたちも何がなんでも守り切る。負けないという意志が、今の嬢ちゃんたちを築かせたんだ。私もこれから、精進しないとな。まあ、人生楽しまないとな」

 

「そうね、ミカズチ」

 

 敵の増援も来なくなったことで、少しばかりの休憩をとることにしたミュウたち。

 

 彼らの休憩を邪魔しないように、ユンたち『八帝武将』全員で見張ることにしたのだった。

 

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 ギンサイド

 

 この心意は・・・閣下。

 

 閣下の心意が徐々に弱まってる。

 

「急げ、紅炎!!」

 

 俺は急かすように言うと、スピードを上げてくれる紅炎。

 

 

 

 アリス・・・無事でいてくれ!!

 

 俺は鬼気迫る思いで南進してるのだった。

 

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アリスサイド

 

 うぅ~

 

 私は確か、暗黒神ベクタと対峙して・・・。

 

 彼の心意に触れて、気絶してしまって・・・。

 

 

 

 私は朧気な意識で状況を確認しよう周囲を見渡す。

 

 見渡した際、私の眼に映ったのは、今にも死にそうな小父様でした。

 

「小父様ッ――――――!!」

 

 私は思わず、大声を上げて、小父様に駆け寄り、すぐさま、治癒術を掛けようとしますも、小父様は首を横に振り、

 

「今、この辺のリソースを消費されるのは、ちぃっとばっかし困る・・・それに、俺はもう限界だ」

 

「そんなこと・・・そんな・・・・・・」

 

 私はこのまま、死んでいく小父様を見頃しにしろというのですか。

 

 それだけは嫌です。

 

 小父様には、まだまだ教えてもらいたいことがいっぱいあります。

 

「私には・・・・・・まだ・・・小父様から・・・」

 

「泣くんじゃねぇ・・・アリスの嬢ちゃん・・・感じねぇか・・・・・・こっちに向かってくる・・・オメエさんを守ってくれる最強の騎士がよ・・・」

 

 小父様に言われて、私は北の方から此方に向かってくる1つ、途轍もなく大きな心意を感じとれます。

 

 これは、間違いありません。

 

 ギン・・・・・・彼が私を守りに来てくれた。

 

「だからよぅ・・・嬢ちゃん・・・・・・泣くんじゃねぇ・・・いつかは・・・・・・嬢ちゃんが守らねぇと・・・いけねぇ時期が・・・来るんだ」

 

「私が守らないといけない時期・・・」

 

「ああ・・・ギンの坊主は・・・若ぇのに・・・それに気が付いて・・・守ろうとしてるんだ・・・・・・今度は嬢ちゃんが守る時期だぜ・・・・・・彼奴と一緒に守りてぇもんを守る・・・・・・んだ・・・・・・」

 

「小父様?」

 

 小父様は私の膝の上で息を引き取っていく。

 

 熱も徐々に冷えていく。

 

 私はこの時、小父様の死を受け入れるのに長く時間が経った気がした。

 

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ギンサイド

 

 ッ!?

 

 閣下の心意が消えた。

 

 

 

 俺は紅炎に急がせて、アリスが微かに見える位置までやって来たら、紅炎の背から飛び降りて、アリスのもとに駆け寄る。

 

 アリスの膝の上で息を引き取った閣下の姿があった。

 

 だが、顔は清々しいまでに眠っていやがる。

 

 これじゃあ、オメエの死を悲しめねぇじゃねぇか。

 

 俺は閣下の前に座り、手を合わせて、合掌する。

 

 オメエさんの意志は俺が受け継ごう。

 

 いや、俺だけじゃねぇ。

 

 アリスや他の整合騎士たちに受け継がれていく。

 

 受け継がれる意志。

 

 時代のうねり、人のうねり。

 

 俺たちは自分の守りてぇもののために戦うんだと・・・。

 

 それにしても、ベクタが消えたということは奴さんは再び、現れてくるな。

 

 俺は閣下の傍らに落ちてる時穿剣を手に取る。

 

 もう天命がねぇが、この剣に籠もってる想いを、俺の『死告剣』に宿らせれば、閣下の想いは、俺の剣の中でまだ生きられる。

 

 だが、今の俺じゃあ、『死告剣』を十全に扱えねぇな。

 

 そもそも、この刀は、もう1人の俺が使ってた刀だ。

 

 それを、主人格の俺が扱うには、俺の命、フラクトライトを代償にしねぇと扱えねぇだろうな。

 

 俺は今になって、自分の最後がここだと予感した。

 

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34話

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 三人称サイド

 

 ギンが『時穿剣』を自分の神器に取り込まれていくのをアリスは視た。

 

 それは、ベルクーリの遺志を汲み取って、敵を討ち取ろうとしてる。

 

 『死告剣』に取り込まれていく『時穿剣』。

 

 形が変わらなくても、力の大きさが前よりも増してるのが肌からわかる。

 

 ギンは『神穿剣』も抜いた。

 

 そこで、彼は決意する。

 

(ここで、全てを出し尽くさねぇとアリスを守り切ることが出来ねぇ!! そのためなら、俺は冠位(グランド)を捨てる!!)

 

 ギンは『神穿剣』すらも『死告剣』の力の糧にしようとしたとき、アリスがその腕を掴んだ。

 

 

 

 彼は彼女の顔を見る。

 

 その顔は彼の目的を知って、止めようとするのではなく、

 

「私も・・・私のフラクトライトも使ってください」

 

 力を貸そうという言葉だった。

 

 それには、流石のギンも動揺を隠せない。

 

「アリス・・・オメエは俺のために全てを擲つというのか!?」

 

「ええ、貴方が私のために命を擲ってまで守ろうとしてる・・・でしたら、私も、貴方を守らないといけません」

 

「だが、良いのか。オメエはフラクトライトを含めて、全てを俺に託すということは死ぬことと同義ということだぞ。それは、閣下だって許さねぇはずだ」

 

「いいえ、小父様は守りたいもののために命を賭けて守りなさいと言います。ここで、私の命が失っても、私の意志は騎士団の誰かに受け継がれていきます」

 

「そうか・・・・・・じゃあ、死ぬときは一緒に死のうぜ」

 

「ええ」

 

 互いに微笑んでから、ギンとアリスは互いの神器を『死告剣』の糧にさせる。

 

 それは、フラクトライトそのものも糧にさせる方針だ。

 

 ギンはアリスに先んじて、こう言った。

 

「先に言うけど、アリスのフラクトライトは俺のフラクトライトの糧になる。それは、俺が『死告剣』を扱えるようにするため。神器は『死告剣』と『時穿剣』を協力に結びつけるために使われる。そして、『死告剣』を記憶解放したものは斬ったものも斬られたものもフラクトライトに死の概念が付与される。つまり、分かるな」

 

「ええ、私は貴方の力の糧になれば、私も貴方の剣によって、命を落とすということですね」

 

「そういうことだ」

 

「分かりました」

 

「ならいい」

 

 

 

 その後、アリスは光の粒子となって、ギンの中に取り込まれていく。

 

 ギンは巻き込んですまないという申し訳なさがあったが、それを振り切って、神器の統合に専念する。

 

 統合した『死告剣』は透き通るほどの艶のある黒。

 

 鈍く光る黒光り。

 

 属性は既に概念の域に到達し、神に近しい力を得た。

 

 

 

 それは、ギンも同じであった。

 

 アリスのフラクトライトを取り込んだことで、金銀が入り混じり、金木犀と銀木犀の柄が刺繍された着物と袴姿になり、もみ上げ付近が金色のメッシュへと変わっていた。

 

(ありがとう・・・アリス)

 

 ギンはフラクトライトとなってまで、力を貸してくれる彼女に感謝しきれない想いを告げた。

 

 

 

 ちょうど、そのタイミングでサトライザーが姿を現す。

 

 ギンとサトライザー。

 

 かつて、GGO(ガンゲイル・オンライン)、第1回BoB(バレット・オブ・バレッツ)にて。

 

 一戦交えた仲だ。

 

 互いの手の内を知ってる。

 

 互いのフラクトライト()としての考え方が違っていた。

 

「久しぶりだな、サトライザー。こうして、相手をするのは、BoB以来だな」

 

「そうだな。あの時、貴様は俺の本質を見抜かれたな。貴様も私の邪魔をするのか?」

 

「悪ぃな。アリスは俺の女だ。俺の女を奪おうとするなら、テメエが殺すだけだ」

 

 ギンは天精眼(ウラノス)でサトライザーを見る。

 

「見たところ、剣で斬ることが出来ねぇようだな」

 

「そうだと言ったら・・・」

 

「生憎、俺の剣はただの剣じゃねぇんだよ」

 

「ところで、アリスはどこにいる? 俺の記憶が正しければ、ここら辺に倒れていたと思うのだけどね」

 

「アリスに関しては遠いところにいるよ」

 

「つまり、ここから南にある『果ての祭壇』に向かったということか?」

 

「まあ、そうだな。だが、テメエはそこに行くことはねぇよ。俺がここでテメェを殺すんだからな」

 

 そう言って、ギンはサトライザーに斬りかかるかの如く駆け出した。

 

 今、ここに、BoB初代王者を決める戦いが始まった。

 

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 キリトサイド

 

 俺は今、アスナを連れて、『果ての祭壇』に向かってる。

 

 心意で飛行ユニットを作って、アリスの所に向かった。

 

 ユンの話によると、ギンが先にアリスの所に向かったと聞いてる。

 

 だけど――、

 

「アスナ・・・感じとれるか」

 

「うん。ここまで、大きくて深い力は始めて・・・」

 

 そうだ。南進するすればするほど、ギンかアリスのどちらかもわからない心意がどんどん重くデカくなっていく。

 

 これが、ギンのものなのか、アリスのものなのかもわからないほどに・・・

 

 そして、それは今、戦ってるのもわかる。

 

 ユンの話によれば、

 

『おそらく、今、ギンが相手にしてる奴はサトライザーだ。あの男に関しては本質を見抜いたギンしか相手にできない。あの男は生きながらにして死んだ人間だ。フラクトライトを取り込んで、自分の欲望を満たそうとする。いわば、ブラックホールのような男だ。そんな奴には、真っ正面からたたき伏せるしか方法がない』

 

『サトライザーとはどういった関係なんだ?』

 

『第1回BoB本戦でやり合ったんだ。俺はその時、ギンにやられたけど、1度だけ、サトライザーと一戦交えてる。その時の感想で言うと、奴は危険な奴だと認識した。ギンも一戦交えただけで危険な相手だと判断したらしい。だから、これだけは言っておく。もし、奴とやり合うことになったら、初めから全力でいけ! そうでないと、お前は現実として死ぬことになる!』

 

 まさか、ギンとユンはGGOで1回戦ったことがあるとはな・・・

 

 こう思うと、彼奴らは経験値の差を見せつけてる気がするぜ。

 

 

 

 おっ、ようやく、見えてきたな。

 

 俺とアスナの眼でようやく、ギンとサトライザーの戦いが見えてきた。

 

 だが、俺たちが見たものは、気味の悪い闇と優しげな光との戦いだった。

 

 サトライザーという奴はGGOプレイヤーに見える奴だな。

 

 それよりも問題なのは、ギンだ。

 

 彼奴の服装が変わってる。

 

 金と銀が入り混じる着物と袴姿。

 

 所々に木犀の華が刺繍されてる。

 

 あと、彼奴って、メッシュしていたのか。

 

 もみ上げ部分が金髪になってる。

 

 いったい、どうなってるんだ!?

 

 俺はギンの身に何があったのか分からなかった。

 

 

 

 だが、ギンの奴・・・

 

 どうやって、宙に浮いてるいや()()()()んだよ。

 

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35話

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 三人称サイド

 

 ギンとサトライザー。

 

 2人の戦いは常軌を逸していた。

 

 サトライザーの禍々しい剣とギンの『死告剣』がぶつかり合う。

 

 サトライザーが伸ばす気味の悪い闇が押し寄せてくるも、ギンは瞬間移動したかのように奴の背後を取って、一閃する。

 

 一閃しようとするも、気味の悪い闇がギンに襲いかかるも、ギンは再び、瞬間移動して退避する。

 

 ギンは禍々しさに身を包んだサトライザーを一瞥する。

 

(ますます、気味悪くなってんな・・・それにしても、あのドス黒い奴はヤベぇな・・・近づきすぎるのも危険だな)

 

 ギンはあの闇について考察する。

 

(あの闇は野郎の心意で間違ぇねぇな。俺やアリスといった整合騎士のものとも、キリトらが放つ心意とも別。ブラックホールのような奪い取ることに特化してる心意・・・・・・まあ、元から、野郎はブラックホールのような男だったから。今更といっても過言じゃねぇな)

 

「全く、ブラックホールのような野郎だな」

 

「・・・・・・」

 

 サトライザーは表情を動かしていない。

 

 それには、ギンも

 

「全く・・・テメェは初めて会ったときから不思議に思ってたんだよ。テメェから匂ってくる血の匂い・・・それは、他人を殺して、他人の魂を取り込むことしか考えられねぇって・・・・・・前から思ってたんだが、腐ってるよな?」

 

「・・・・・・」

 

「反応ナシか・・・・・・これ以上、話しても無意味なようだし」

 

 ギンが話すのも止めたところで、サトライザーに変化が起きた。

 

 その姿は異形。

 

 全身が闇に覆われ、翼を生やした人型の怪物に変貌していく。

 

(理性を失い、人を辞め、力を追い求めた野郎の成れの果てか)

 

「それだったら・・・こっちも・・・『エンハンス・アーマメント』」

 

 ギンが『死告剣』の武装完全支配術を使用した。

 

 ギンもギンで次の段階に入った。

 

 ここになって、サトライザーが口を開く。

 

「力が満ち溢れている・・・圧倒的な全能感・・・・・・ギン・・・お前の全てを喰らいつくそう」

 

「やってみな」

 

 完全支配術した『死告剣』を振るうギン。

 

 サトライザーはそれを闇で防御しようとするも、軽く振るった一閃で闇の防御を吹き飛ばした。

 

 それはつまり、ギンの力もさらに上昇したことになる。

 

(元から、俺は規格外だったからな。さらにそこに規格外なアリスのフラクトライトを取り込んたんだ。ステータスが飛躍的向上するのは自明の理だな)

 

 ギンは今の自分の力加減具合を確認した。

 

 

 

 ギンとサトライザーの戦いを見ていたキリトとアスナは次元の違う戦いを視てるような気がした。

 

「す、凄い・・・」

 

「俺も初めて見た・・・・・・ギン(彼奴)って、彼処までの力を出せるんだな」

 

「うん・・・私たちとは既に次元が違うという認識されちゃう」

 

 顔を引き攣らせ、次元の違う領域の戦いを見届けることにした。

 

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 ギンサイド

 

 ん?

 

 どうやら、キリトとアスナが俺とサトライザーの戦いを見届けに来てるようだな。

 

 

 

 アリス。

 

 ありがとう、オメエさんの力が俺を強くさせてくれてるみてぇだ。

 

 本来なら、俺1人でカタを付けねぇいけねぇんだけど、オメエはそんな俺に力を貸してくれた。

 

 もし、勝ったら・・・・・・いや、これはフラグだな。

 

 そんなのは勝った後で考えればいい。

 

 とにかく、奴さんもそろそろ限界だな。

 

 俺はサトライザーの状態を天精眼(ウラノス)で見切った。

 

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 三人称サイド

 

 この戦いが次元の違う領域に見えるのは、ひとえにギンの異能たる眼が一役買っていた。

 

 天精眼(ウラノス)

 

 先を見通す眼。

 

 全てを見通す眼。

 

 その眼がサトライザーの動きを見切ってしまうのだ。

 

 

 

 ギンは刀1本に対し、サトライザーは6枚の翼に剣がある。

 

 奴の攻撃の全てが、ギンの天精眼(ウラノス)によって、全て、見切られ、躱しきってしまう。

 

 だが、ギンは意を決したのか、とどめを刺すかのような眼をして、

 

「サトライザー!!」

 

 ギンの口から迸る獅子の咆哮。

 

 彼が今、奴と相対するのは、()()の存在故か?

 

 それとも、アリスを守りたいという男だからか?

 

 その応えは――きっと、両方だ。

 

「我、アリスを守り切るため、己が冠位(グランド)をここに返上する!! 『リリース・リコレクション』!!」

 

 彼の左手に握られていた『死告剣』から黒い光が周囲を覆っていく。

 

 

 

 その光が収まっていくと、見届けていたキリトとアスナの表情に何度目かの驚きの表情が浮かんでいた。

 

 それは、サトライザーも同じで、変貌には驚きを隠せない。

 

 黒き長い髪、上半身と両手、顔の眼まで覆う包帯みたいなもの、そして黒い心意が揺らめいている袴のようなものを履き、黒く揺らめく羽織を羽織った姿をしていた。

 

 しかも、彼の瞳が碧眼から紅眼へと変化している。

 

 ギンが目を見開かせるだけで、衝撃波が周囲に広がっていき、その衝撃波を受けたサトライザーは身体が硬直する。

 

 斬るという想いが篭もった眼光と気迫を受けて、身体が硬直したのだ。

 

 長い黒髪が揺れる中、ギンは説明に入る。

 

「『死告剣』の記憶解放・・・・・・俺自身が『死告剣』と一体化するんだ」

 

 ギンの左腕からは死の概念のオーラが漏れ出し立ち上っていた。

 

「『死告剣』の記憶解放・・・・・・此奴を使えば、斬った対象のフラクトライトだけじゃなく、俺は、いや、()()()のフラクトライトは消滅する」

 

 ここで、()()()という意味がわからないキリトたち。

 

「今の俺の中には、()()()のフラクトライトもある。つまり、『死告剣』の記憶解放したことにより、俺とアリスは死の概念が付与され、死ぬことになる。よって、アリスを誰にも手の届かねぇ場所に連れて行くことをさす」

 

 ギンが飛躍的に強くなった理由を知ったキリトとアスナ。

 

 ギンが死ねば、同時にアリスも死ぬことになる。

 

 

 

 サトライザーもギンの中にアリスがいることを知り、それを止めようとするも、身体のいうことが聞かなかった。

 

 

 

 範囲内いやこの世界の全てのリソースが集まっていき、全て力へと変えていく。

 

 その力が1本の刀を形作っていく。

 

 形作っていく最中、ギンはサトライザーに向けてこう言った。

 

「テメェは、俺以外の誰にも斬られねぇ。誰にもだ!! 俺以外に、この刀を扱える者がいねぇ! 俺以外に、テメェを討ち取る者はいねぇ! 俺は俺の意志でテメェを斬る!」

 

 形作られた黒き刀を手にし、天に掲げる。

 

 ギンはサトライザーを見ながら、不敵に、凄絶に笑う。

 

 天に昇っていく死の力の奔流。

 

 

 

 この時、ギンの脳裏に浮かんだのは、昨夜の一時のことである。

 

『ギン・・・もし、死んだら、私を探しに来てくれますか?』

 

 という質問に

 

『もちろんだ。やっと、俺の心を癒やせる人を見つけた。俺はキミを見捨てたりしねぇ。たとえ、死んでもオメエさんを探しに星の果てまで行く』

 

 ギンは応えた。

 

 その応えにアリスは

 

『私も、貴方と隣にいたい。私の想いは今でも積もり続けています』

 

 と言い返して、ギンとアリスは互いに抱き合い、口を重ねた。

 

 2人の鼓動が早くなり、煩くなるほど大きくなり、身体が熱くなるほど燃えたぎっていた。

 

 2人が顔を合わせようとすると、気がおかしくなってしまうほどに荒ぶっていた。

 

 

 

 回想が終えると、ギンは刀を強く握る。

 

 

 

 1人の少年が、1人の愛する少女を守るために、最強の一撃を放つ。

 

 想いが生み出した刀を掲げる。

 

 それは、敵を討つという心意と支える心意が統合した漆黒の刀。

 

「――行くぞ、サトライザー!」

 

 生者が冠位(グランド)にいたったのに、捨てることを選んだ男は叫ぶ。

 

「この一撃をもって、全てを終わらせる」

 

 この戦争にて。

 

 死んでいった数多のフラクトライトの想念が結集していく。

 

 結集した一撃をもって、サトライザーを斬る。

 

 それだけだった。

 

 

 

 憎悪もなく、怒りもなく、敵意もなく、殺意もなく――、

 

 数多の想念によって放たれる――。

 

死告天使(アズライール)

 

 振り下ろされた漆黒の刀。

 

 振り下ろされた瞬間、世界が一変する白黒に変貌した世界。

 

 北の方へ伸びていく黒い斬撃。

 

 それは、今なお、戦塵が登る戦場まで伸びていく。

 

 

 

 黒い斬撃がサトライザーを真っ二つにするかのように両断され、異形の姿になってた身体が徐々に崩壊していき、黒い斬撃が天に昇っていったところで、白黒の世界から色彩のある世界へと戻っていく。

 

 地に降り立ったギン。

 

 途端、左腕部分以外を残して、包帯みたいのが崩壊していき、上半身が露わになる。

 

 ギンは自分の左手を見て、時間がないのを気が付く。

 

 

 

 終わったとやりきった感を出す彼のところに駆け寄ってくるキリトとアスナの2人。

 

「終わったよな?」

 

 声をかけてくるも、ギンは

 

「ああ、終わった。だから、オメエらはさっさと外に出ねぇといけねぇな」

 

「え? でも、ギンくん、貴方は!?」

 

「悪ぃが・・・俺はここまでだ。フラクトライトの崩壊が始まってる」

 

 ギンの身体の至るところから罅が入っていく。

 

 しかも、その罅から光の粒子が漏れ出している。

 

「なあ、ギン? アリスは本当にお前の中にいるのか?」

 

「ああ、彼女は俺のフラクトライトと1つになってる。自我があり、意識もある」

 

 ギンはそう話してるうちに、心意が纏っていた黒い袴が消え、金銀が入り混じった着物と袴姿に戻ってた。

 

 さらに、その手には、『神穿剣』と『金木犀の剣』が握られてた。

 

 剣を鞘に納めたギンは、意識とフラクトライトを分離させた。

 

 分離したもう一方のフラクトライトは徐々にアリスの形を形成するも、彼女のフラクトライトは光の粒子となって、消滅する寸前であった。

 

「ごめんな、アリス・・・・・・俺の我が儘のために命を散らすことになっちまって・・・」

 

「いえ、私は十分に生きました」

 

「悪ぃな、俺たちの世界で行けば、いろんな事が知れたのによ」

 

 悲しげな表情を浮かべるギン。

 

 そんな彼にアリスは

 

「いえ、これから先、何処へでも行けます。この世界とは違う絢爛な世界はいくらでも・・・・・・」

 

 励まされてしまい、ギンは

 

「それもそうだな」

 

 そう言ったとき、身体が光の粒子となり、天高く昇ろうとしていく。

 

 アリスも身体が光の粒子となる。

 

 

 

 2人のフラクトライトは金木犀と銀木犀の華たちに守られ、天高く昇っていく。

 

 光の中では、ギンとアリスが互いに手を繋いで、新たな世界に旅立った。

 

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36話

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三人称サイド

 

 ギンとアリス。

 

 2人のフラクトライトは昇天され、新たな世界に旅立ったかと思いきや、独特の浮遊感があった。

 

「起きてください」

 

 急に声をかけられたので、重たい瞼を開ける。

 

 目を開けてみると、純白の部屋。そこにいたのは、紅髪紅眼の少女がいた。

 

「オメエは確か・・・」

 

「お久しぶりですね、銀華さん」

 

 ギンは面識があった。

 

 それは、アインクラッド時代に遡る。

 

 

 

 突如として、ギンの眼の前に姿を現した紅髪紅眼の少女。

 

 彼女から、こう言われた。

 

『貴方は、生まれながらにして超人の領域にある』

 

 その時のギンは変な奴という印象だったが、少女はギンを視ながら言ったのは、

 

『貴方は、冠位(グランド)に至る人間。人間でありながら、桁違いの力と頭脳を持つ人間』

 

 ギンは最初、少女が言った言葉の意味がわからず、聞き返した。

 

『テメェは何者だ、冠位(グランド)とはなんだ?』

 

『普通の人間とは次元の異なる人間。それは、生まれながらにして決められ、人間の頂点に立つものをさす』

 

『それは、つまり、俺の『神の頭脳(ゴッドブレイン)』などが該当するのか』

 

『そう。貴方は、冠位(グランド)の資格を持って生まれた人間。貴方に、冠位(グランド)の力を与える。そして、後の世に現れる人類を脅かす敵を戦うことになる』

 

『俺が、人類を脅かす敵と戦うだと?』

 

『ええ、それは、ボトムアップ型人工知能を巡る戦いで起きる』

 

 その時のギンは、少女の言葉を聞いて、目を見開かせた後、

 

『分かった。その力を貰おう・・・・・・だが、俺の判断で、いずれ、その冠位(グランド)を返上するかもしれねぇけど、そんときはどうするんだ?』

 

『なにも、ただ、貴方が世界によりも、個人のために、その力を振るうのだったら、それはそれで構わない。私はただ、人類の幸せを願ってるだけよ』

 

 少女をそう言って、ギンに冠位(グランド)の力を与えた後、姿を消したのだった。

 

 

 

 その時のことを思い出してたギンは少女を見て、こう言い返した。

 

「俺がしたことになんか不服でもあったのか?」

 

「いいえ、私はただ、貴方たちをここに呼び寄せたのは、再び、人類を脅かす敵が現れることを予見したのです」

 

「だから、俺に、再び、冠位(グランド)として戦ってくれと?」

 

「そうでもあって、そうでもない」

 

「じゃあ、なんだ?」

 

「私は、人類の幸せを願うだけの存在だった。だけど、貴方という人間を視て、不思議と一個人への幸せを願うようになった」

 

 少女は今までの自分に違和感を持ち、迷ってる表情になる。

 

 そんな彼女にギンは

 

「なに、非人間じみたことを言ってるんだ。オメエだって、人間の姿をしてるんだぞ。感情があって、普通じゃねぇか」

 

 諭されて、少女は頬を膨らませる。

 

「なんだか、人間の貴方に言われるのは不服です」

 

「ああ、そうかい。それで、俺を・・・いや、俺とアリスをどうする気なんだ? オリュンポスの神々の1人――ペルセポネー様」

 

「気が付いていたのね。私が冥界の女神であることを・・・」

 

「なんとなくね。俺は神とかは信用していねぇけど、神話の類は好きだったからな。最初にあったときは、神に近しい野郎だと思ってたけど、今、死んだ身になったところで、オメエさんが姿を現したということは、そうなんだろう」

 

 ギンの応えに少女は

 

「正解です」

 

「それじゃあ、俺が聞きてぇことは1つ。サトライザーは死んだのか?」

 

「はい。貴方が彼に与えた死の概念がフラクトライトに付与され・・・さらに、実験のために殺された怨霊たちの手によって、酷たらしい最後を迎えました」

 

「自分の欲望のために手を染めた男の末路か・・・・・・嘆かわしいものだぜ」

 

「なお、UW(アンダーワールド)は限界フェイズに入りました。キリトさんとアスナさんは、その世界に残り、貴方たちの意志を受け継ごうと決めたようです」

 

「彼奴らは彼奴らなりに頑張ろうとしてるんだな」

 

「はい。なので、貴方たちはもう一度、生を受けて、あの世界で幸せを謳歌しませんか」

 

 少女はギンと彼の背中から覗き込むように視てるアリスに生き返ることを望むのか聞いてくる。

 

「俺はともかく、アリスはどうする? 彼女は現実としての肉体がねぇんだぞ」

 

「それくらい、私たち神々がどうとでもなります」

 

「神ってなんだってありなんだな」

 

 ギンはそんなことを呟いてると、アリスが

 

「ギン・・・・・・この娘はいったい誰なのですか?」

 

「ん? ああ、この娘は俺に冠位(グランド)の力を与えてくれた女神様だよ」

 

冠位(グランド)? 女神というのは、ステイシア様やソルス様のようなものなのですか?」

 

「いいや、俺の故郷におけるリアルワールドの神々の1人だ」

 

「? 意味が分かりませんが・・・」

 

「その話はあとで話そうじゃねぇの? それよりも、俺とアリスが死んでから現実ではまだ、数分しか経っていねぇようだ。それだったら、世界に変革でも起こして、俺とアリスを生き返らせる気か?」

 

 ギンの返答に少女は

 

「そうよ。ただし・・・アリスさん。貴方はあの世界では、肉体がありません」

 

「はい」

 

「なので、私たちオリュンポスの神々が貴方を人間として生き返らせます」

 

「? どういうことですか?」

 

「今は分からなくていいです。そして、貴方は銀華と同じように、いずれ、人類を脅かす敵を相手にしないといけないでしょう。なので、貴方にも、冠位(グランド)の力を与えます。詳しい話はそこにいる彼から聞いてください」

 

「ハァ~、分かりました」

 

 アリスは少女が言ってることが理解できず、渋々頷くのだった。

 

「では、お二人とも、利き手を出してください。貴方たちに冠位(グランド)の力を与えます。その力を生かすも殺すも貴方たちの自由です」

 

「分かった」

 

「分かりました」

 

「では、貴方たちに幸せな人生にご加護を・・・・・・」

 

 少女はそう言ってる間に、2人の意識が途切れていく。

 

「オリュンポスの神々、八百万の神々、北欧の神々・・・数多の神々が貴方たちの幸せにご加護を・・・・・・」

 

 最後にそう言って、2人の意識が途切れた。

 

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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 銀華サイド

 

 知らねぇ天井・・・いや、知ってる天井だな。

 

 ここは、オーシャンタートルの天井だな。

 

 身体を起こしてみるも、メチャクチャ怠ぃな。

 

 全く、再び、俺に()()を渡すなんて、向こう側の彼らも候補者を見つけるのは大変のようだな。

 

 

 

 ん? 隣のSTL8号機が稼働を終えた。

 

 台の上に寝てる女性用の診察着。

 

 しかも、長ぇ金髪。

 

 薄暗ぇ部屋だから分からねぇが、あの輝かしい金髪から推測できる。

 

「アリスなのか」

 

 俺は無気力な身体に鞭を打って、ゾンビのように、プルプルとしながらゆっくりと動く。

 

 

 

 グゥッ!? 思った以上に身体にくるものだな。

 

 しゃあねぇか、長時間もUW(アンダーワールド)にログインしていたんだ。

 

 身体が、脳と神経とシンクロしていねぇ。

 

 意識があるのに、無気力とはこのことだな。

 

 俺はSTL8号機のところにやって来て、愛おしいアリスの肌に触れる。

 

 肌から伝わる温もり。

 

 この世界の住人として生きてることを現してる。

 

 

 

 あっ、アリスが眼を覚ました。

 

 彼女は俺を視て、

 

「ギ・・・ン・・・」

 

 ゆっくり瞼を開け、起き上がるアリス。

 

 俺は弱々しい身体に鞭を打って、彼女を支える。

 

「ああ、俺だよ、アリス」

 

 俺はこの上なく、優しげな表情を浮かべた。

 

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37話

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 三人称サイド

 

 その後、第4STL室にやってきた菊岡たち。

 

 彼らは銀華を視て、完敗と降参と言わんばかりに両手を挙げる。

 

 だが、問題はアリスの方で、データ上の存在が、人間として生まれ変わってることに驚きを隠せない。

 

 なお、アリスに関しては、安岐ナツキ二等陸曹が視たら、本当に人間として生まれ変わったらしい。

 

 

 

 その間、菊岡たちは銀華に質問するも、銀華は

 

「アンダーワールドのことに関しては暴露しねぇよ。俺の脳の容量は常人のそれじゃねぇからな」

 

「これだから、天才は・・・」

 

 銀華の『神の頭脳(ゴッドブレイン)』は超人的な頭脳を持ち、超速情報処理演算能力を兼ね備えてる。

 

 これは既に超人。

 

 比嘉は羨ましそうに銀華を視てる。

 

 銀華は加速する思考の中、ある事を提示する。

 

「これで、ボトムアップ型人工知能を造りあげる方法は確立したんだが、ここまで、世界を動かしたんだ。これじゃあ、おいそれと人工知能を製造することが出来ねぇ」

 

「まあ、肝心のアリスをキミが消滅させ、奇跡が起きて、1人の女の子として生き返ってしまった。これで、プロジェクトはパアだ」

 

「だけど、STLに関しては公表した方がいいでしょう。何しろ、このVRマシンを設計したのは俺だ。俺が責任を持って、世間に公表しますよ」

 

「世間に名乗り出る気になったのかい。人類が数百年かけて、この考えに到達すると言われる才能を公開することを・・・」

 

「もう、俺の存在も世間に知られた方が良いだろう。STLを開発した責任者としての自覚はありますから」

 

「そうか。後で、アリスくんと同じように精密検査をした後、2人とも、自宅に帰すよ」

 

「それじゃあ、俺は時が来るまで原稿なりの準備をしておきますよ・・・・・・ああ、それと、処分されていねぇナーヴギア全部頂戴」

 

「なにに使うんだい?」

 

()()()()()()に流用してやるんだよ」

 

 銀華が言ったことに菊岡と比嘉は驚きを隠せない表情になり、

 

「なにぃぃぃいいいいいいいいいい――――――――!!」

 

 叫んだのだった。

 

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 銀華サイド

 

 俺とアリスは自衛隊のヘリに乗って、東京港区にあるヘリポートまで送られ、ラース本社が手配してくれた車に乗って、俺の家にまで送ってもらった。

 

 未だに、俺が帰省してることを知らねぇ峻たち。

 

 帰ったら、袋叩きだな。

 

 今なら、峻の気持ちが理解できそうだぜ。

 

 アリスに至っては、視たことねぇ景色や乗り物に心を躍らせていた。

 

 

 

 等間隔に設置されてる街頭。

 

 この辺りは住宅が多いも、少し離れれば、マンションなどの集合住宅が密集してる。

 

 僅かに洩れてくる人々の喧騒に俺は戻ってきたと再認識する。

 

 

 

 久々に我が家である自分の部屋にやってくるとなると、感慨深ぇな。

 

 それに、隣人の彼奴からの文句の1つが聞こえそうだ。

 

 とりあえず、中に入るか。

 

 俺はアリスを部屋に招き入れようとするも、突然、ドアが開かれ、男にしては細ぇ手で喉を握られる。

 

「おい、峻・・・このままじゃあ、俺が死んじまう・・・・・・」

 

「じゃあ、今、死ね」

 

「酷ぇ!?」

 

「何日も部屋を開けてた罰だ。掃除するこっちの身になれ!!」

 

「すいませんでした・・・・・・」

 

 死にかけそうになってる俺にアリスが

 

「貴様は何者だ!」

 

「このバカの幼馴染みだ」

 

「そんな戯言――」

 

「アリス。此奴はマジで、俺の幼馴染みだ。それにオメエさんもUW(アンダーワールド)で会ってるはずだぞ」

 

「え?」

 

 アリスは俺に言われて、峻の顔を見る。

 

 「あっ!」と気が付いた。

 

「お前は、あの時、ギンの背中を任せていた」

 

「ユンこと朝霧峻。それで、このバカな幼馴染みにして、キミの彼氏さんが柊銀華」

 

 おい、峻。

 

 俺とアリスはまだ、付き合い始めたばかりだぞ。

 

 アリスにそんなことを言ったら、

 

「私は・・・ギンの彼女・・・・・・」(#^_^#)

 

 視ろよ、トリップしてるじゃねぇか。

 

 峻は俺とアリスを部屋に入れずに、隣の住まいに引っ張られる。

 

 しかも、力尽くでだ。

 

 っつうか!? オメエ、そんな力あったのか!?

 

 俺とアリスは隣の朝霧家の玄関に引きずり込まれる。

 

 引きずり込まれたら、玄関で靴を脱いで、中に入ったら、思わず、えっとなった。

 

 

 

 何故なら、峻と静さん、詩乃の住まいに亜麻たち八帝武将の皆がいた。

 

 皆、俺とアリスを視たら、嬉しそうに抱きついてきやがった。

 

 いや、俺に抱きついてきた。

 

「銀華先輩!」

 

「おい、銀華・・・お前、死んだって聞いてたから」

 

「追悼していたんだぞ」

 

「それがなんだよ・・・」

 

「生きてたなら、すぐに連絡しなさいよ、バカ!」

 

「峻と同じように大馬鹿野郎!!」

 

 皆から罵詈雑言に俺は思わず、

 

「悪ぃな、オメエら・・・」

 

 謝罪の言葉しかなかった。

 

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 アリスサイド

 

 リアルワールドというのは、私が思っていたのと全然違っていた。

 

 目覚めたばかりの私は、ただ驚くことしか出来なかった。

 

 アンダーワールドとは違った建物や衣服。見たことがない物体の数々。

 

 多くのリアルワールド人たち。

 

 肌から伝わる僅かな熱気。

 

 セントリア市域とは違った人の賑わいを感じられた。

 

 でも、それよりも、私にとって、大切だったのは、愛すべきギンの温もりだった。

 

 車という奇妙な乗り物を乗ってた最中、ずっと、彼の手を握っていた。

 

 唯一同じなのは、愛しのギンが私の隣にいてくれること。

 

 それが、私の心を満たしてくれる。

 

 私はそれだけで、幸せだった。

 

 

 

 そして、今、私の眼の前で喜び合ってるギンと彼の仲間たち。

 

 でも、顔を見たとき、アンダーワールドで私たちの味方をしてくれた頼もしき戦友。

 

 共に喜び、悲しみ、楽しみあえる友を持つのは素晴らしいのだと実感した。

 

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 三人称サイド

 

 銀華は亜麻たちに帰還の報告と謝罪をしてから、今後のことについて、話し合った。

 

「近ぇうちにSTLについて、世間に公表しねぇといけねぇんだ」

 

 銀華が筆頭に話を進め始める。

 

 お茶の準備には、詩乃と静、アリスが用意してくれた。詩乃とアリスは年齢的に同じぐらいだからすぐに仲良くなった。

 

 何でも、アンダーワールドで既に知り合った仲らしい。

 

 互いに好きな人が違ったので、すぐに仲良くなったそうだ。

 

 

 

 彼女たちを無視して、話を進める。

 

「まあ、あんなことがあったんだ。国としても防衛省が秘密裏にプロジェクトをしてたのを知って、対策を取るだろうよ」

 

「そのために、ラースがSTLを世間に公表することを打って出たというわけね」

 

「元々、STLを開発したのは銀華だ。マスコミが納得するのかが問題だな」

 

「それについて、おいおい考えればいい。今は、アンダーワールドとSTLの実権を俺に回す方法を考えねぇとな」

 

 銀華は展望を切り出すと、暁斗が

 

「あの男のことだろうから。また、ボトムアップ型人工知能を開発に取りかかるのかもしれないからな」

 

「そのことで・・・」

 

 すると、亜麻が

 

「そのことで、私・・・お祖父ちゃんとお父さんに話したら、『是非とも、うちが出資したい』って言ってきたんだ」

 

 スポンサーの確約が真っ先に手を挙げてきた。

 

 それを聞いて、銀華は

 

「よく動いたな、成一さんは・・・」

 

「何でも、お祖父ちゃんは銀華のことを盟友として視てるから。銀華や他の皆が動いたら、喜んで『手を貸してあげる』って言ってきたの」

 

 亜麻はそう応えたら、宗治は銀華に

 

「それで、STLをどのように使用する方針だ。それぐらいは先に教えてもらってもいいだろう」

 

「現状、脳の治療の一環として使用するつもりだ。STLのことについては峻から聞いてるんだろう」

 

「ああ・・・聞いてるが・・・そういうことか」

 

「医学を志してる宗治は話が早くて助かる。現在でも、脳死というのは減少していねぇのが現状だ。STLを医療に用いれば、現代医療を革新に近づけると思ってな」

 

「確かにそれなら、マスコミも、医療業界に大きな革新が訪れる。だが、俺としては、もう1つある・・・・・・蒼汰。独自で研究開発してるナノマシンの製造はどうだ?」

 

「大部分は完成に近づいた。近々、論文を出そうと思ってる」

 

 蒼汰の報告を聞いて、宗治は

 

「それだったら、STLを、そのようにして発表した方が良いな。医者を志す俺の意見だけど・・・」

 

 そう言ったら、暁斗たちが

 

「財政面に関しては俺に任せてくれ。少しでも、出費を抑える方法を工面しておく」

 

「じゃあ、私は各メディアに事業に賛同しないか話を持ち込んでみるわ」

 

「俺はマスコミの情報収集にするよ」

 

「俺は皆の健康管理にするよ」

 

 それぞれの役割を口にした。

 

 

 

 彼らの話を聞いてた詩乃、アリス、静の3人は

 

「こうして思うと、峻ってなにかと万能だよね」

 

「ギンは皆を引っ張っていく統治者で、それについて行く仲間たち」

 

「そして、亜麻ちゃんが皆を支えてるわけね」

 

 呆けてしまうのだった。

 

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38話

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 三人称サイド

 

 それから数日後のことだった。

 

 柳桐家いえ財閥が新事業を打って出るとメディアに公表した。

 

 情報の根回しに、東四郎が一役買っていた。

 

 

 

 その新事業に、マスコミが大きく動かした。

 

 1つは、防衛省が秘密裏にやっていたプロジェクトの公表とSTLを開発させた天才少年。

 

 もう1つは、現在、開発途中とされてるナノマシンの大部分を完成させたという天才少年。

 

 この2つが日本という国で記者会見をすることになった。

 

 論文発表会も別日に執り行われることになった。

 

 

 

 全世界が注目する記者会見。

 

 会見の内容はマスコミも視聴者たちも釘付けにさせる内容。

 

 人類の繁栄。現代医療の革新。

 

 誰もが予想もつかないことに聞き入ってしまう。

 

 会見後、質問が殺到する中、出資すると声をあげた柳桐家の次期当主にして、次期財閥主となる柳桐亜麻。

 

 STLを開発した柊銀華。

 

 ナノマシンの大部分を完成させた司馬蒼汰。

 

 この2人は『もちろん』と了承した。

 

 

 

 その後の論文発表会でも、世界中の研究者たちが声を出せずに脱帽する有り様。

 

 

 

 その発表会に追い打ちをかけるかのように、次々と名乗りを上げていく八帝武将の面々。

 

 

 

 ある記者がこんなことをぼやいた。

 

 8人の天才少年たち。

 

 彼らが同時期に出揃ったことが奇蹟の所業。

 

 世間は彼らのことをこう評した――『キセキの世代』と・・・。

 

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 アリスサイド

 

 あっという間の出来事でした。

 

 ギンが自分の研究を発表、会見した後、瞬く間に情報が水のように拡散していきました。

 

 ですが、当の本人は

 

「これぐれぇは最初から分かっていた。後は、世界がどう反応するかだな」

 

 と言っていますが、アレを分かりきっていたとは、やはり、貴方は天才ですね。

 

 そんな彼に恋し、付き合ってる私も有名になりましたね。

 

 

 

 彼と一緒に数多くの場に赴きました。

 

 本音を隠し、思惑を腹に潜ませ、化かし合う人たち。

 

 私のわからないリアルワールドの事情はギンと一緒にいることで理解していき、その者たちと話すも決して、心地の良いものではありませんでした。

 

 有名になって、普通に接してもらえないのが、こんなに億劫になるとは思いもよりませんでした。

 

 ですが、ギンと一緒にいる分、心が癒され、楽になっていきました。

 

 住まいに帰ってから、隣に暮らしてる詩乃とお互いに愚痴を話し合い、スッキリしていきました。

 

 

 

 とりあえず、キリトとアスナが帰還後、彼らは私とギンが生きてたことに驚き、伝言として、セルカがディープフリーズで時が来るのを待ってくれることを選んでくれました。

 

 その後、私はギンが今、プレイしてるOSOという世界にダイブすることにしました。

 

 最初の頃は、ギンが女の子になっていたことに動揺し、女の私よりも女の子っぽかったので、敗北感を味わってしまいました。

 

 それでも、やはり、剣の腕では、ギンの方がやはり、上だというのを実感しました。

 

 共に、世界を見て回ってる最中、ギンの力量を隣で視ていましたが、凄まじかったのを印象に覚えています。

 

 やはり、ギンは私が超えるべき目標だと再認識しました。

 

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 ギンサイド

 

 俺は今、コロシアム会場に来ていた。

 

 それはな・・・

 

『さあ、皆さん! 今日は久々に帰還した『剣帝』ギン! そんな彼女を相手にするのは、彗星の如く、登場した金色の騎士! その両雄が今、相まみえようとしています!!』

 

 熱狂的な実況していやがるぜ、マギさん。

 

『なお、解説には、クロードが担当してもらうよ』

 

 クロードもなに、解説に入っているんだよ!?

 

 

 

 などと思いながら、俺は控え室で待機していた。

 

 待機していた中、俺は同行してくれたヒガヤを睨む。

 

「ヒガヤ、オメエの仕業だろ?」

 

()()関わっていないですよ、ギン先輩!?」

 

「俺は、ね・・・」

 

 ここで、主犯格がミカズチやクロード辺りだと推測した。

 

 外からは大歓声。

 

 今か、今かと観客が大騒ぎだな。

 

「ハァ~、ここで逃げたら面倒くせぇことになるな」

 

「素直に諦めてください、ギン先輩。皆、先輩の剣を見たがってるんですから」

 

「分かったよ・・・俺も相棒を試す良い機会だからな」

 

 俺は壁に立てかけてある相棒。

 

 白銀の刀を手にして、コロシアムに向かう。

 

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 三人称サイド

 

 ギンがコロシアム会場に出てきた瞬間、大歓声が上がる。

 

 現OSO最強プレイヤーといわれても過言じゃない『剣帝』ギン。

 

 その彼に挑むのが、煌星のように登場したアリス。

 

 この両雄が今、決闘(デュエル)という形で相見えるのだった。

 

 

 

 なだらかな風に仰がれる銀と蒼の着物と袴にブーツを履く銀髪ロングを結わえ、碧眼の瞳から絶対なる強者の気迫を出してる美少女――ギン。

 

 向かい側から歩んでくるアリス。

 

 陽の光を浴び、煌びやか輝く金色の髪。

 

 青空よりも澄んでいて、凜としたまっすぐな碧眼の美少女。

 

 

 

 皇帝に挑戦する者に相応しい騎士が登場した。

 

「悪ぃな、アリス。こうなるとは思っていなくてな」

 

「いえ、私は貴方との戦いにのみ、意識を集中しているので」

 

「其奴は嬉しい」

 

 リングに上がって、言葉を交わしてから、互いに剣を抜き、構える。

 

 ギンは愛刀である『神穿剣』を。

 

 アリスは愛剣である『金木犀の剣』を。

 

 それぞれ構える。

 

 ギンとアリス。

 

 2人が持つ剣に、一部の観客は目を疑った。

 

 これは、キリトとアスナの愛娘のユイが頑張ってくれたおかげだ。

 

 ギンもギンで、アスナとキリトの義妹のリーファそして、キリトにアンダーワールドに使った装備なり、アカウントなりをプレゼントしておいといた。

 

 もちろん、シノンにも、ソルスのアカウントをプレゼントしておいといた。

 

 

 

 とにかく、『神穿剣』と『金木犀の剣』は、OSOでは、伝説級の武器にカテゴライズされる。

 

 当然、『武装完全支配術』や『記憶解放術』は使えない。

 

 それを抜きにしても、2人の実力は圧倒的に強い。

 

『カウントダウンスタート!』

 

 実況のマギが高らかく宣言する。

 

 それと始まると同時にギンはハアと息を吐いてから、思考をクリアする。

 

 紅髪紅眼の少女から授かった冠位級(グランドクラス)同士の戦いだ。

 

 気を抜いてはいけないとすぐに判断したからだ。

 

 

 

 距離的にある程度あるので、スタートと同時に駆け寄らないといけないだろう。

 

(勝率でいえば、俺が優勢。だが、アリスは根っからの努力家。才能を持ちながらの努力家。まあ、それは、俺を目標にしてるからだろうな)

 

 ギンは自然体の構えでいて、アリスも毅然と立ち、剣を下げたまま、此方を見てる。

 

 両者ともに、絶対な自信を持っているようだ。

 

『試合開始!』

 

 マギのアナウンスが聞こえる前に、決闘開始の合図がなった瞬間、アリスが駆けだした。

 

 初撃をとる計算だ。

 

 だけど――、

 

 ガッキン!

 

 甲高い音が響き渡る。

 

 白銀の刀身と黄金の刀身がせめぎ合ってる。

 

「随分と腕を上げたね」

 

「片手で受け止めるとは・・・やりますね」

 

「片手の方がしっくり来るだけだよ」

 

 ギンは剣を弾き返して、距離を取ろうとする。

 

 取ろうとするも、アリスが距離を取らずに横薙ぎに迫る剣を振るう。

 

 振るわれる剣をギンは天精眼(ウラノス)を使用して、間髪入れずに防ぐ。

 

「ッ」

 

 僅かに左手が痺れる。

 

(重ぇ・・・相当鍛えこんでる。俺がリアルにいる間、OSOでシノンとか、強者共と相手をしていたな)

 

 ギンはアリスが勝つために鍛えこんだのを、剣を通して理解した。

 

 僅かに隙が生まれたので、アリスはすかさず、突きを放つ。

 

 突きを剣で受け止め、突きの反動を利用して、距離を取ろうとするも、アリスをそれを許さず、左斜め下から斬り上げてくる。

 

 ギンは息を吐き、脱力し、刀を逆手に持って防ぐ。

 

「容赦ねぇな」

 

「死合いといえど、負けたくありません」

 

「負けず嫌ぇで良いことだ」

 

「こういう人は嫌いですか?」

 

「いいや、全然、むしろ、好みなタイプだ」

 

 自分から振ってきたくせに、ギンの反応に僅かながら照れるアリス。

 

 その隙を逃さず、刀で斬り上げて、距離を取るギン。

 

 今度は追われることなく、ギンとアリスに3メートルほどの距離が出来た。

 

 

 

 開始早々から激しい戦いを繰り広げるギンとアリスに、観客は歓声を止め、見入ってしまう。

 

 距離を取ったところで、再び、ざわついた。

 

『嫌~、開始早々、白熱の展開になるとは思いしれませんでした!』

 

 実況のマギがそう言うと、解説のクロードが

 

『互いに、最初から全力を出してる様子。だが、それでも、『剣帝』ギン。彼の実力は流石としか言えない』

 

 見解を述べた。

 

 ギンの方が余裕を持ってるかのように思えるが、実際のところ、そうでもない。ギンは左手の僅かな痺れを見て判断する。

 

(此奴はガチで行かねぇとやられるな)

 

 一度、深呼吸してからギンとアリスの表情が引き締まる。

 

 2人の周辺の空気が変わる。

 

 重く、鋭い圧がヒシヒシと伝わってきた。

 

 2人して、口角を上げ、剣を構える。

 

「行くぜ」

 

「行きます」

 

 同時に声を発し、駆け出した。

 

 

 

 それぞれ、全てを出し尽くして、斬り合ってる。

 

 勝つためなら、どんな手を使って、もぎ取る。

 

 この2人は筋金入りの負けず嫌い。

 

 似た者同士にして、バカップルである。

 

 リアルでは、そう認識してもおかしくなかった。

 

 火花が散り、斬り合ってる最中に見せる2人の表情。

 

 真剣でありながらも楽しんでいる2人。

 

 

 

「ははっ」

 

「フフッ」

 

 

 

 互いに笑みが零れる。

 

 剣と剣が切り結んでいるのに、一行にHPゲージが減少していない。

 

 いや、ミリ単位では違うだろうが、目に見えた感じで減っているとは感じられなかった。

 

 

 

 この戦いは単なる勝ち負けではなく、競い合えるという高揚感にギンとアリスは支配していた。

 

 強者同士のぶつかり合いが、戦う者を高揚させ、観客すらも、熱狂させる。

 

 

 

 ――剣舞を視ていた。

 

 

 

 この戦いを見た者はそういうだろう。

 

 高揚に浸ってるギンとアリス。

 

 2人して、自分がどう動こうとか考えていない。

 

 ここまで積み重ねた戦闘経験値が直感として、身体が反応してる。

 

 ゲームでよく言うだろう、攻撃こそ最大の防御であると――。

 

 そう言わんばかりの怒濤の攻め方をしてる2人。

 

 

 

 その2人の攻め方にマギは

 

『おおっと!! 両者ともに怒濤な攻め!! もはや、防御や回避は無意味かのような攻めをしているぞ!!』

 

 そこに、クロードが

 

『ふむ、攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの攻め。もし、これが、時間無制限の試合だったら、お互い、果てるまで斬り合い続けるでしょう。ただし――』

 

『この試合は時間制限があります。両者とも、時間を把握してるのでしょうか!?』

 

 

 

 マギの言い分ももっともだ。

 

 だが、ギンとアリスは互いの体内時計で時間を正確に把握していた。

 

((これで、最後だ!!))

 

 同時にアーツモーションに入る。

 

 どちらもデフォルトではなく、独自に進化した構えに入った。

 

 アーツによるエフェクトが刀身を包んでいく。

 

 ギンの刀とアリスの剣が同時に白銀と黄金色に輝きを増す。

 

 2人同時に剣を走らせたところで、終了のブザーが鳴った。

 

 

 

 ブザーが鳴ったところで、2人の動きが止まる。

 

 お互いに首筋に剣を添えられた形で勝負が付いてしまった。

 

 それはつまり――、

 

『試合終了ー!! 結果は・・・まさかのドロー!!』

 

 引き分けという結果に観客は動揺が走る。

 

 絶対なる強者。皇帝とまで言われるギンを引き分けさせた彼女――アリス。

 

 彼女の名は、OSOの歴史に語りつがれることになった。

 

 

 

 フゥ~ッと息を吐くギン。

 

(まあ、こんなのも良いな)

 

 なんて思いつつ、『神穿剣』を鞘に収め、アリスに手を伸ばす。

 

 アリス自身も満足のいく結果だったらしく、ギンの手を取った。

 

 その構図は絵となり、それをスクショするプレイヤーがわんさかいたとのこと。

 

「まさか、ここまで成長してるとはな・・・」

 

「私もです・・・ですが、ここまで楽しめるとは思いも知りませんでした」

 

「それもそうだな」

 

 フッと笑うギンに、アリスも朗らかに笑うのだった。

 

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OSO2 1話(プロローグ)

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 三人称サイド

 

 8月1日。

 

 世間では、夏休みに入ったのだが、天才たち『キセキの世代』の彼らにとってみれば、ちょっとした佳境に陥っていたかと思いきや――。

 

「アァ~、疲れたぁ~」

 

「ギン! 昼間からダラダラなのもいけません!!」

 

 テーブルに突っ伏してる銀華。

 

 そんな彼を指摘するアリス。

 

 部屋もきちんと清潔に保ってる。

 

 銀華は基本的に家事スキルは普通にできる方だ。

 

 なので、アリスと役割分担する形を取った。

 

 あと、銀華は菊岡たちからアンダーワールドの実験を貰って、状況把握に努めている。

 

 状況把握してる最中、古き時代からいる整合騎士たちから新時代の整合騎士たちへ世代交代をすることになる。

 

 なにより、アンダーワールドの文明の進化には、彼でも目を見張ったからだ。

 

 なので、彼はアンダーワールドにログインして、そのまま、古き時代の整合騎士。銀華にとってみれば、かつての同胞たちに声をかけ、此方の世界に来ないかと話を持ちかける。

 

 その話を聞いたファナティオ、エルドリエなどのかつての同胞たちは了承し、銀華がデータ化して、OSOの世界にアーカイブさせた。

 

 正確に言えば、銀華のメモリーデータにダウンロードさせたのだ。

 

 なお、キリトいや和人にも、ユージオ、ロニエ、ティーゼのデータを送っておいといた。

 

 それと、今、OSOは長期メンテナンスのせいで、ゲームが出来ないことに嘆いていた。

 

 あと、エルドリエやイーディスたちはオーグマを通じて、生活を過ごしていた。

 

 ベルクーリに関しては、フラクトライトデータの残滓を探すのに時間がかかり、なんとか、フラクトライトの蘇生に成功し、今は、拡張現実の中で、生きることにした。

 

 今じゃあ、ベルクーリはリアルワールドを自分の眼で視て、堪能することにした。

 

 

 

 ついでに言えば、アリスは帰還者学校に通わせている。銀華と同じ学校に通えるということで彼女が喜んだのだった。

 

 さらに、ついでに言えば、2人とも、とっくの昔に夏休みの宿題を終わらせている。

 

 アリスに関していえば、銀華が付きっきりで教えてもらったことで終わらせたのだ。

 

 なので、こうして、だらけていた。

 

 なので、アリスに叱られる形になってる。

 

 イーディスですらも、唖然としてる。

 

 銀華がだらけるとは思わなかったからだ。

 

「だってよぅ~、外がこんなにクソあちぃだぞ。だらけちまうよ」

 

「若いうちからだらけてどうするんですか? 貴方には貴方のやるべきことがあるでしょう?」

 

「それをある程度終わらせたし」

 

 銀華は自分のすべきことを終えたのを口にする。

 

「全く、貴方は・・・」

 

 頭を押さえてしまうアリス。

 

 だけど、銀華は

 

「まあ、ここでダラダラしてたら、アリスに愛想尽かされそうだから。仕事はしますよ。そろそろ、亜麻と暁斗から、経済面と協力する企業の確保の連絡が来るだろうからな」

 

 彼はそう言って、自分の部屋に戻るのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アリスサイド

 

 全く、ギンは・・・。

 

 私はハアと溜息をついてしまうと

 

「ギンって意外と子供っぽいところがあるよね」

 

「アレが普通なのだ。彼は気を張り詰めて過ぎてた。その反動が来てもおかしくない」

 

「イーディス殿に、デュソルバート殿・・・」

 

 ギンが少々心細い私のために、アンダーワールドから私たちが生きてた時代の仲間を此方の世界に連れてこさせてくれた。

 

 おかげで、小父様にも会えたことに私は涙を零した。

 

 今は、OSOという世界で一緒に見て回っています。

 

 OSOの世界でも、ギンの名前は有名で、そこらかしこで彼の名前が挙がれば、最強集団の名前が声を上がっていく。

 

 小父様とイーディス殿はユンとの再会した際、性別の違いに驚いていた。

 

 ギンの性別が違ったことにすら、目を疑ったのだ。

 

 彼の性別が違ったことには、小父様たちも思わず、笑ってしまった。

 

 この私ですら、最初は驚いたけど、胸の感触を知ったとき、思わず、笑みを零し、女性としての敗北感を味わいました。

 

 

 

 今では、ギンを含めた天才たち8人はギルドという組織を作って、派遣に近い形で別の組織と提携してると聞いています。

 

 ソルス様をしていたシノンも彼らのギルドに所属し、派遣として人との交流を図ってるとのこと。

 

 なお、その組織でのリーダーはもちろん、ギンで、彼以外がリーダーになることはまずないとユンたち彼らはそう言った。

 

 何でも、ギンほどの統率者は早々にいないと口にしてる。

 

 確かに私も、ギン以上の統率者はいないと断言しても良い。

 

 なんせ、ギンは私の彼氏なのだから。

 

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 三人称サイド

 

 銀華は、亜麻や暁斗からの連絡が来て、今後の目処が付いたところで、OSO運営からの通達が来た。

 

 なので、もう1つのパソコンの画面に開発部からの動画を流した。

 

 内容は新センスの発表とかがあった。

 

 その中で、銀華が気になったのは、銃系統のセンスだった。

 

(銃系のセンスは武器依存によるものだけど・・・精度が勝負になるからな。弾の製造とかで峻から頼まれるだろうな)

 

 彼は峻からの依頼を受けるだろうなと考えていた。

 

 他には、期間限定クエストの復刻。

 

 それは、銀華など、参加していないプレイヤーのために用意したようなものだ。

 

 後は、スターゲートの追加などがあった。

 

 まあ、銀華は、動画を一通り見た後、残りの仕事を済ませるために指を走らせた。

 

 峻から、夕飯を一緒に食べないかという誘いが来るまで仕事に専念していた。

 

 

 

 次のお昼頃、メンテナンスが早めに終わって、先にOSOにログインした銀華。

 

 ログインして、すぐにアイテム欄を確認すると、運営からの配布アイテムで10万G、SP10ポイント、『エクスペリエンス・オーブ』10個配布されていた。

 

 あと、アップデートでの追加要素を確認してから、彼は街にくり出した。

 

 

 

 アップデート前にOSOに帰還したときは、誰もが目を見開かせた。

 

 『剣帝』ギン、帰還したというニュースはすぐさま広がっていき、トップ界隈では、リベンジマッチを申し込んできた。

 

 当然、ギンが全員、返り討ちにしたため、無敗神話は今なお、健在中ということになる。

 

 しかも、ギンとアリスの試合が大盛況。引き分けであって、無敗神話に綻びを与えたアリスも今じゃあ、トッププレイヤーの仲間入りを果たした。

 

 これによって、アリスに手を出すバカ共も減ったということになる。

 

 

 

 そんなこんなで、街にくり出したギン。

 

 彼は移動しながら、センス取得に入る。

 

 『寒冷耐性』、『炎熱耐性』、『銃』のセンスを取得する。

 

 耐性センスは勝手にレベルが上がるのでいいが、銃に関しては向き不向きがある。

 

 一部のプレイヤー並びにGGOプレイヤーは難なく扱いこなすだろう。

 

 

 

 その後、ギンはアリスらと合流し、復刻クエストに勤しむことにした。

 

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感想と評価のほどを