「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について (羽虫の唄)
しおりを挟む

「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの性欲がヤバすぎる件について

続けたい。




 クラスメートの性欲がヤバい。

 

 それを知ったのは何時のことだったか、記憶が確かならば、きっと◯曜日のことである。

 

弘原海(わたつみ)の『個性』って何が出来んの?」

 

 そう訊ねてきたのは円場クン。

『個性 空気凝固』の彼とは模擬戦闘訓練でチームを組んだ仲だ。

 放課後を利用した訓練の反省会には全員が参加しており、あのチームは凄かった、あの場面ではどうすればよかったか、などの会話が絶えず行われている。

 

「そーいやそうだね」

「訓練では使ってなかったっぽい……」

 

 敵チームでオレたち2人をコテンパンにした取蔭サンと柳サンが続けて言うと、周囲数名も反応し、オレ–––弘原海 ありすの『個性』に興味を示し始めた。あっという間に包囲される。

 

「弘原海、個性把握テストの時も使ってなかったよな?」

「増強系? それとも発動系か?」

「気になりマース!」

「ん」

 

 悲しき陰キャの性。矢継ぎ早の質問攻めにあわあわしだすオレ。キモい。

 ……否ッ。決めたはずだ、無個性でイジメを受けた中学時代、()()()()()()雄英に受かったあの日に併せ陰キャを卒業するのだと……! 

 モテるんだろ弘原海 ありす! お前の原点を思い出せ! 

 

「え、えと、オレの『個性』は–––サキュバス!」

 

 ……教室の空気が固まる。アレ、円場クン個性使った? 

 

「エロいことなら大体出来ます–––?!」

 

 

 弘原海 ありす

 個性 サキュバス! 

 エロいことなら何でも出来るぞ!

 

 

 口で説明するより見せた方が早い為、個性を発動。

 雄英指定の男子用制服に包まれていた細身の体はアイドルもビックリの豊満さとスレンダーさを手に入れ、お世辞でも美形とは呼べない顔面はすれ違った人全員が振り向く様な美しさに整った……ハズ。

 鏡がないと自分の姿は確認できないので、個性を発動してもきちんと出来ているのか不安になる。個性自体、譲渡されてからまだ数ヶ月なので慣れていない部分があるのだ。

 

 閑話休題。

 

 視線を一点に凍り付いた教室の空気。そりゃそうだ、見た目栄養不足のオタクが突然、男の妄想をそのまま具現化した姿になれば–––その上、性的な(エロい)ことに秀でていると告白されれば、誰だってそうなるだろう。

 しかし。

 しかしながら、凍り付いたのは何も皆だけではない。この状況を生み出したオレ自身もそうなっているのだ。

 

「……」

 

 視線の先、黒髪セミロングの美人女子。

 

「ん?」

 

 *小大 唯:性欲 100/100*

 

 彼女の頭上に浮かぶ謎の文字及び数値。

 ……何か、クラスメートの性欲がやばすぎる件について。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは無個性だったオレが個性を授かり、最高かどうかはわからないけどヒーローを目指–––そうとして、性欲がヤバすぎるクラスメートに振り回される。

 そんな感じの物語だ。

 

 

 




ー姦ー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートの感度がヤバすぎる件について

続いた。


予想外にお気に入り登録や評価・感想を頂けましたので、これを機に短編から連載へ、文章量もボリュームアップしました。
不定期更新になると思われますが、よろしくお願いします。



 クラスメートの感度がヤバい。

 

 それを実際に体験したのは何時のことだったか、記憶が確かならば、きっと×曜日のことである。

 

弘原海(わたつみ)の『個性』は結局何が出来るんだ?」

 

 そう訊ねてきたのは回原クン。

『個性 旋回』の彼とは昼食を一緒にする仲だ。

 午前中に行われたクラス委員長決めの際、副委員長に任命された彼は決意表明(?)で「『個性』だけで弘原海の人格まで判断するのは良くないことだ」と発言。今後の高校生活ぼっち待った無しのオレに救いの手を差し伸べてくれた人物である。

 

「エロいことって言われても、漠然としすぎててなあ」

「まあ、確かに」

 

 両隣でそれぞれカツ丼と拉麺を頬張る、泡瀬クンと鱗クンが苦笑いしつつそう漏らした。オレの『個性』は……まぁ、淫魔(サキュバス)なんて名を冠しているのだから、エロいことに特化しているなんてことは一目瞭然ではある。

 が、具体的にどの様なことが行えるかはイメージが難しい。

 ……難しい。何度も言うが、イメージは非常に難しい。

 

 催淫? 強制発情? 感度3000倍……? 知らない子ですね。

 

 ヒーロー飽和社会と言われる現代だが、一方で情報飽和社会とも称されている。その気になればネットの海で、誰もが幾らでも識ることが出来てしまうものだ。

 サキュバスと聞いても上手くイメージが出来ていないらしい3人。後ろめたさからススス、とオレは視線を逸らす。

 見ないで……、汚れたオレを見ないで……! 

 

「そ、そうッスね。えぇと–––」

 

 既に半分ほど食べ進めていた野菜炒め定食(特盛り)を摘む手を止め、『個性』を発動。

 ボンッ、と音を立てて分かりやすく膨らみを持ったオレの身体を前に、回原クンたちは慌てて目を逸らしたり、咳払いをしたり、と。まあ、絵に描いた様なドスケベボディを前に年頃の男子としては至極当たり前の反応である。

 

「正直なこと言いますと、相手を強制的に発情状態にする毒液を分泌出来ますし、魅了(チャーム)を使えば相手の意思に関係なく意識をオレにだけ向けさせられますし、肉体改造で感度3000倍とかも可能だと思います」

 

 ……オレの説明に青ざめた顔で泡瀬クンたちはゆっくりと、昼飯ごと距離を取り始めた。それに苦笑いしつつ、

 

「でも、そもそも人間は万年発情期の生き物ですし、魅了の発動条件が滅茶苦茶デカイ大声なんでそりゃ意識向けざるを得ないだろうし、感度3000倍もあくまで自分に対してのことなので……」

 

 だから、まあ、何と言うか。

 

「オレの個性、()()()()()女体化するくらいなんですよねぇ」

 

 対面に座る回原クンが、難儀な個性だな、と呟く。

 勿論他にも出来ることはあるが、そう馬鹿正直に全て言う必要はないだろう。多弁は銀沈黙は金、だ。

 

 *回原 旋:性欲 19/100*

 *泡瀬 洋雪:性欲 26/100*

 *鱗 飛竜:性欲 21/100*

 

 ……4人の頭上には例の数値が、(さなが)らゲームのステータス表の如く現れている。

 つい最近に判明したサキュバス状態の補助能力である、数値化された他人の性欲の視覚化。回原クンたち以外にも、ぐるりと食堂内を見渡せば様々な数値が視界に飛び込んでくる。

 

「うーん……」

 

 唸りつつ、視線を正面……回原クンの方へ。

 具体的に言えば、その後ろ。彼の斜め後ろの方。

 

「う、うぅ〜ん…………?」

 

 視線のその先–––テーブルの一つに固まった女子グループ、その内の一人。目を凝らし、目を凝らし……。

 

 *小大 唯:性欲 100/100*

 

「どうした弘原海! なんでいきなり頭を抱えるんだ?!」

 

 貴方の性的興奮度が分かりますだなんて、口が裂けても言わないし言えないことだ。そしてそれは同時に、誰にもこの苦しみを相談することが出来ないということでもある。

 

 分からない、分からない……! 

 サキュバス状態のオレを見た3人でさえ30に満たない数値なのに対し、それの4倍近いって何!? そもそも今はランチタイムの筈、エロ要素なんて皆無じゃないか……! 

 

(–––いや待て、あのグループは白昼堂々猥談で盛り上がっている……?)

 

 その考えに至り、慌てて小大さん以外の女子に目を向けるが……、

 

 *塩崎 茨:性欲 3/100*

 *拳藤 一佳:性欲 9/100*

 *角取 ポニー:性欲 5/100*

 

「弘原海大丈夫か! どこか具合が悪いのか!?」

 

 もうこれ以上見たくないと『個性』を解除し、組んだ腕の中に顔を埋める。

 もはや小大サンではなく、オレの方がおかしいとさえ思えてきてしまう。年頃の男女なんてそんなものなのか? 小大サン以外が落ち着きすぎているだけなのか……? 

 

 ……いやでも、それにしたってあの数値はおかしい。

 

 100/100。つまりMAXということ。それが意味することは、彼女はこうしている今現在も酷い欲求不満状態に陥っているということだ。

 

(と言うか、この前から数値に変動が見られないけど、MAX状態ってそんな我慢できるものなのか……?)

 

 小大サンを心配している時、ふとした疑問が生まれてしまう。

 性欲–––人間が生きていく上で必要とされる三大欲求の内の一つであるソレは、そう称されるが故にストレスもその分溜まりやすい。極度のストレスに晒され続ければ、心身共に何らかの異常・支障をきたしてきてしまうものだ。

 つまり何が言いたいかというと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………。

 

「……ん? 何か垂れて……え! これ、血!?」

「も、もしかして反動があるタイプの『個性』だったのか!?」

「おい弘原海……!? 泡瀬そっち持て、リカバリーガールのとこまで運ぶぞ!」

「だ、大丈夫ッス! 大丈夫ッス!!」

 

 昼食もそっちのけでオレを担ぎ始めた回原クンたちを慌てて止める。

 もうやだ! もうやだ、これだから男は! クラスメートで何てことを妄想してるんだオレは、これだから男ってやつは! もういっそ女になり–––あ、なればいいじゃん。……嗚呼、性欲値が視界にッ! 

 キャパオーバーを起こした脳は溜まった熱量を鼻から排出することを選択し、オレはその対処に追われポケットテイッシュで垂れたテーブルも含め、それらを拭っていく。

 

 ……と、そんな時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––––––––––––––––––––!!!!!』

 

「な、なんだァ!?」

 

 誰の声か、鳴り響く突然の警報音に対する疑問。大音量のサイレンの後、設定されていたであろう機械音声が異常事態を知らせる。

 

『セキュリティ3 が 突破されました

 生徒のみなさん は すみやか に 屋外 へ 避難して下さい』

 

「セキュリティ3……!?」

「校舎内に侵入者じゃなかったっけッ!?」

「お、おい早く逃げろ!」

 

 何処とも言えないその声に、次の瞬間には–––それこそ雪崩が如く食堂内の人間が我先にと出口へ向けて動き始めた。

 

「いってぇ!」

「さすっがは雄英、対処が迅速……!」

「迅速すぎてパニックになってんだろコレー!」

 

 あっという間に人の波に飲まれ、回原クンたち3人とは離れ離れになってしまう。彼方此方から似た内容の悲鳴が上がり、それがまた別の悲鳴と怒号にかき消されていった。

 突然の出来事に、呆然としていたオレも例外ではなく、人に揉みくちゃにされあっちを行ったりこっちに戻ったりと忙しない。

 都内の電車通勤の人の気持ちをこんな場所で体験することになろうとは、絶対に登下校には電車は利用しないと心に固く誓った。

 ……と。

 

「ん!?」

 

 聞き慣れたわけではないが、人の波の中から聞こえたその声に、反射的にそちらを向く。

 

「おい人転んだ! 危ねえって、押ーすーなァ!!」

 

 足を(もつ)れさせたか、人とぶつかりよろめいたか。人と人との隙間から見えたのは、体勢を崩したクラスメートで–––

 

小大サンッ!!

 

『個性』を発動。魅了の効果が乗せられたオレの声を聞き、周囲の人間は視線を俺の方に向けたまま体を石像の様に硬直させる。その隙を突き、幾分か膨らみを持ったものの、抜群の柔らかさとなった身体を滑らせ彼女の方へ向かう。

 小大サンが完全に倒れこむ寸前、その体をなんとか受け止めることに成功し–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、誰かが発した「大丈ー夫!!」の声に、原因がマスコミであることが判明。落ち着きを取り戻した食堂では、既に掃除等の作業も終わり先ほどの騒動はすっかり影も形も残ってはいない。人ももう疎らなものとなり始めていた。

 オレと小大サンは取り敢えず近くにあったイスに腰を下ろし、どことも言えず視線をぼうと泳がせている。

 

「……」

「……」

 

 お互い会話も無く、しばらくそうしていると、向こうの方から拳藤サンと柳サン……それから、回原クンたちが駆け足でこちらへと向かって来た。

 拳藤サンたちは小大サンの方へ、回原クンたちはオレの方へ。

 

「唯、大丈夫だった?」

「ん」

「弘原海無事だったか?」

「ハイ」

 

 隣の女子ズの会話にほんの少しだけ意識を向けつつ、回原クンの問いかけに答える。小大サンは立ち上がると、拳藤サンたちと一緒に食堂出口へと向かい歩き始めた。

 

「皆、怪我もなくて何よりだったよ。……泡瀬が鎧の『個性』の人にタックルされたけどな 」

「良いのを鳩尾に食らっちまったぜ……」

「ハハハ、災難でしたね……」

 

『……? 唯、大丈夫? なんか顔赤いし息荒いよ?』

『本当だ』

『ん』

 

「いやぁ昼食食い損ねたなー。まだ腹減ってるよ、俺」

「ランチラッシュ先生に頼んだらサンドイッチとか貰えないかな?」

「ちょっとこの腹具合で午後の授業はキツイよな」

「そうッスね……」

 

『本当に大丈夫? なんか震えてるし、内股……あ。も、もしかしてトイレっ?』

『それなら私、『個性(ポルターガイスト)』で揺らさずに運べるよ』

『レイ子、お願いできる?』

『いいよー』

『ん……』

 

「……回原クン」

「ん、何だ?」

 

 食堂から出て行った小大サンたち。

 その姿が完全に見えなくなったところで、オレは回原クンに声をかけた。

 

 

 

「–––今すぐオレの脳天ブチ抜いてもらってイイッスか?」

 

 

 

「「「何言ってんだ弘原海!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありありと思い出されてしまう、受け止めて暫くして、何故か小大サンが僅かに身震いしたこと。オレの胸に埋まった彼女の顔が、何故か表情そのままで見る見る内に紅潮していったこと–––。

 

 

 

「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートだが、性欲だけでなく感度もヤバすぎるらしい。

 

 

 




小大ファンの方、申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートが色々ヤバすぎる件について

原作と違い、襲撃事件の際にはA・B合同で授業を受けていたものとして扱っています。今回はその翌々日からスタート。
バトルにしようか原作通りにしようかで悩み、結構時間がかかってしまいました。


今後の展開について、アンケートを設置してみました。宜しければ、ご意見お聞かせください。




 クラスメートが色々とヤバい。

 

 事の発端は記憶を確かめるまでもない、オレにとっても雄英にとっても、ある種一つの節目となった、△曜日のことである。

 

「–––おはようござ……」

「無事だったか弘原海(わたつみ)ィ!」

 

 何時もの時間帯より少し遅めの登校。教室に入るや否や、殴りかからんばかりの勢いで駆け寄ってきたのは鉄哲クン。

『個性 スティール』の彼はかなりの熱血漢であり、行動全てに全力を尽くしていると言っても過言ではない性格の人物だ。こちらの身を案じる鉄哲クンだが、オレが何かを言う前に他のクラスの面子が詰め寄って来た為、彼に言葉を返すことは叶わず。

 

「怪我はもう大丈夫なのか?!」

(ヴィラン)と戦ったんでしょーっ?」

「皆心配してたんだぜ、誰も弘原海のケー番もLINEも持ってないからさぁ」

 

 止めろ取り囲んで一気に来るんじゃない、陰キャのメンタルでは耐えられん。後、連絡先に関してはすまんかった円場クン。

 

 1対1ならまだしも、多人数が相手となるとオレは『素』が出てしまいしどろもどろになりわたわたしてしまう。キモい。

 あわわわわ、とキモさ全開で対処に追われて居ると、詰め寄って来たクラスメートの中から聞き慣れた声が発せられた。

 

「ん……!」

 

 何時もと比べ、僅かながら力の込められた声。その表情も異なっていて、こちらを心配そうに見つめている。

 

「あー……。問題ないッスよ! 怪我もリカバリーガールのお陰ですっかり治りましたから!」

 

 言いながら、『個性』を発動。

 オレを心配してくれているクラスメートたちを安心させようと、すっかり完治したことをアピールし–––

 

 

 

 

 

 *小大 唯:性欲 105/100*

 *感度「激高」*

 *状態「興奮」*

 

 

 

 

「すいませんやっぱ大丈夫じゃないです(吐血)」

「「「弘原海ィ–––ッ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日起きた、A・B合同での人命救助(レスキュー)訓練中の(ヴィラン)襲撃事件を受け、雄英は臨時休校日を設けた。その間家族から鬼の様な安否確認の連絡が来たものだが、負傷したのは我らがブラドキング先生含めた教師陣が大半であり、生徒からも出たものの後遺症や命に問題はないので、そこまで騒がなくともよかったりする。いや、心配されるのは素直にありがたいが。

 生徒から出た負傷者は2名。うち1人は、A組の緑谷クン。詳細は不明だが両脚と手の指がバッキバキだったらしい。

 怖っ。

 

 そして、もう1人がオレである。

 

 当時の状況としては、ワープ系の『個性』を持った敵により散り散りにされた後、その先で一緒に転移させられた小大サンを人質に取られ、それを助ける為に敵と交戦……我ながらかなりの無茶をしたものだ。

 先に断っておくと、『個性』が『個性』なのでバトル漫画の主人公の様なことは出来ず、ひたすら魅了や吸引性睡眠(どピンクの)ガスで動きを止めながら小大サンと逃げ回った感じである。最後の方はスタミナ切れを起こして数の暴力にあったわけだが、間一髪の所で雄英教師陣が駆けつけてくれたのだ。

 

 九死に一生を得るとは正にあのこと。

 敵の攻撃でボロボロになっていたオレは、緊張の糸が切れ、大粒の涙を流しながら抱きついてきた超絶美少女(小大サン)の感触や匂い諸々にキャパオーバーを起こして気絶した。

 真面目に死ぬかと思った瞬間である。……増強型敵に「ボ」された時より死を意識した。

 

 とまぁ、そんな経緯があったわけなのだが。

 

 

 

 *小大 唯:性欲 105/100*

 *感度「激高」*

 *状態「興奮」*

 

 

 

 何 か 色 々 増 え た ん で す け ど ? 

 

 いや、もう、この際だから性欲以外も確認出来る様になったことはどうでもいい。どうせ危機的状況を経験したことによる『個性』がPlus Ultraしたとかだし。

 

「–––雄英体育祭が迫っている!」

「「「学校ぽいの来たァあ!!」」」

 

 襲撃などまるで無かったかの様な騒ぎっぷりを周囲は見せる。ブラドキング先生復帰早いとか、襲撃に遭ったんだから今年は控えようよなど様々な声が上がる中、オレは1人恐怖に震えていた。

 ……何? 105/100って何? 臨界点突破しちゃってるんですけど。

 

 クールビューティに相応しいその見た目に反し、内面がエラいことになっているクラスメートにひたすら恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤバいクラスメートに怯えようが、体育祭とか言う陽キャの為にある様なイベントに怯えようが、クラスメートの性欲・感度は下がらないし、体育祭の開催日は刻一刻と迫り来る。

 

 ならばどうするか。

 答えは単純明快(かんたん)。性欲が高いなら–––下げればいい。

 ……体育祭はどうしようもない、最悪仮病で休む。

 

 突然だがここで少し、オレの『個性』について説明したいと思う。

 基本的な女体化を始めとして、相手の意識をこちらに向け体の自由を奪う魅了の声。相手を興奮・発情させる淫毒液。一呼吸分で即座に意識を失う強力な睡眠ガス……。

 薄い本展開待った無しのエロいことが何でも出来るのがこの『個性』だ。

 

 –––と、言うのは実は間違いである。

 

 サキュバスが持つ本来の能力は()()()()だ。

 女体化は勿論、翼や角・尾状器官。相手の体の自由を奪う特殊な声を可能とするように声帯を。興奮・発情効果を持った分泌液や、即効性に優れた睡眠ガスを生成……。

 つまりはこういうことである。

 

 弘原海 ありす

 個性 サキュバス! 

 エロいことなら何でも出来る–––様に、肉体を改造するぞ! 

 

 ……雄英体育祭に備え、個性訓練に励む雄英生の数々。そんな中オレがしていることと言えば、誰もいない屋上で、独り女体化して分泌した淫毒液の瓶詰め作業である。……何やってんだろ。

 現在の行為に唐突な虚しさが湧かないわけではないものの、ここで手を抜くわけにはいかない。

 何故かは分からないが(本当に何故かは分からないのだが)性欲が人の何倍も強く、オマケに体の感度もクソ高いクラスメート。気軽に人に相談出来るものではなく、尚且つその事実を知っているのはオレだけ……。

 ならば、すべきことは必然的に一つ。

 

「よし…………。–––出来た」

 

 小瓶に詰められた、輝く宝石をそのまま液体にしたかの様に、煌めく青。

 ズバリこれは–––鎮静薬だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレから数日が経過し、個々人の個性訓練も本格的なものとなってきた頃。オレの下に、とある資料が届いていた。

 

「鎮静の効果を確認……。依存性、中毒、摂取量制限……。経口摂取? ……気化条件。–––よし、よし!」

 

 一言で『個性』と言ってもその種類は千差万別、人の数だけ『個性』があり、中にはオレの様に何がしかを生み出すことが可能なものもある。

 今回オレが利用したのは、そういった『個性』の一次・副次生成物を調査・研究してくれる機関だ。この前生み出した鎮静薬の効果を確かめる為、雄英経由で頼み込んだのである。

 個人で受ければ高額となってしまうのだが、こういった部分を負担してくれるのは本当にありがたい。

 

 昼休み。すっかり快復したブラド先生から受け取った検査結果に、一通り(言うまでもなく超入念に)目を通した後、駆け足で人目の少ない場所へ。

 十分に人目がないことを確認してから、『個性』発動……先日の物と全く同じ鎮静薬を、尻尾の先端(スペードマーク)から分泌。ソレを小瓶に詰め–––。

 

「後は実際に確かめるだけか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みももう少しと言った時間。

 食堂でそのまま時間を潰したり、中庭で駄弁ったりする生徒が大半だが、B組教室では疎らではあるが数名の生徒が。

 ……お目当ての小大サンこそいないが、先に他の人物で効果を確認すればいいだけである。

 オレはサキュバスの状態となり、早速1人の男子へと近づいた。

 

「円場クンちょっといいッスか?」

「んぉ? なに–––な、なんだ弘原海っ?」

 

 声をかけた彼の声は少し上擦っている。まあ、意図的にオレがシャツのボタンを多めに開けているからなのだが。

 

「すいません、実は()()()()()()()に祝い品で香水を渡そうと思ってるんですけども、いかんせん、センスが無いものでして……」

「へ、へぇ」

「でですね、ちょっとレビューと言うか問題なさそうか確認をしてもらいた–––おっと」

「わ、わあーっ、馬鹿! その格好で屈むんじゃねえ!」

 

 ポケットから取り出した小瓶をわざと落とし、それを拾う為に体勢を落とせば、円場クンは慌てた様子で視線を逸らす。そのままだと彼からは胸の谷間が丸見えになるからだ。

 

 *円場 硬成:性欲 31/100*

 *感度「並」*

 *状態「興奮」*

 

 よしよし、十二分に興奮している。

 軽く謝りながら胸元のボタンを締め、改めて円場クンの手に軽く香水–––に、見立てた鎮静薬を吹きかけた。香りを確かめる円場クンだが、彼の性欲値はと言うと……。

 

 *円場 硬成:性欲 8/100*

 *感度「並」*

 *状態「冷静」*

 

 なんということでしょう(劇的ボイス)。淫魔のマッチポンプによって、30を超えていた彼の性欲値はあっという間に一桁となり、状態も興奮から冷静に早変わりです。

 ……これで実際の効果は確認することが出来た。後は小大サンに渡すだけである。

 

「うーん。俺もよくわからないけど、いい匂いだと思うぞ? ってか、こう言うのなら女子に聞いた方が良いんじゃね?」

「それもそうですね。早速聞いてみます、ありがとうございました円場クン–––あ。拳藤サンちょっと良いですか?」

「ん、なに?」

「実は–––」

 

 その後も男女数名で確認し、いよいよ放課後……勝負の時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全ての授業を無事終え、迎えた放課後。

 個性訓練の為に訓練施設の利用許可を取りに行く数名を見送りつつ、オレは機が訪れるのを狩人が如く待ち続けた。

 そして–––、

 

「こ、小大サンちょっといいッスか?」

「ん」

 

 小大サンが上手く1人となり、尚且つ人目も少ない場所で声をかけることに成功。声をかけられた彼女はこちらを振り向き–––こう見ると、本当に非の打ち所がない完璧な美少女なのだが、いかんせん中身が欲求不満の感度6000倍と来たもんだ。初めて彼女を見た時の様に、純真な目で見ることは出来ない。……言わずもがな悪い意味で。あぁ、いやそういう悪い意味ではなく。

 

「すいません呼び止めちゃって。実は渡したいものが–––」

 

 –––その時オレに、電流が走った! 

 

 ……謎のナレーションが突如頭の中で響き、小大サンに鎮静薬を渡そうとしたオレは動きを止める。

 ちょっと待とう。冷静に考えたらこの状況–––色々ヤバくね? 

 

(そこまで親しくない異性にプレゼントとか完全に一目惚れの()()じゃねェかぁぁあッ! しかも香水て!!)

 

 今の自分の状況を客観的に見てしまい、へぎゅりと音を立て、可笑しな表情のまま硬直。テンパって思わずサキュバス状態になってしまうほどだ。

 ぐぁ、顔が熱い……! 

 

「ん?」

 

 *小大 唯:性欲 105/100*

 *感度「激高」*

 *状態「興奮」*

 

 訝しげにオレを見る小大サン。その頭上には、あいも変わらず、あのあり得ない数値が並んでおり……。

 えぇい、構うものか! 背に腹は代えられん。これで小大サンはある程度普通となるし、オレも一々彼女のことで精神衛生を心配する必要はなくなる! 

 プルスウルトルァ! 

 

「じぃ、実はプレゼントがありまして! この香水なんですけど……!」

「……ん」

 

 僅かな間を置いてから、彼女はオレが差し出した香水を受け取った。

 

「良ければ使ってください! 是非とも、ハイ、是非とも使ってください! それでは〜!」

 

 所々声を裏返しつつ、逃げる様に……いや、実際に逃げ出す。

 恐ろしく熱を持った顔を気にする余裕も無く、そのままノンストップで家まで走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 小大サンの性欲を落ち着けることばかりを考え、いらん所で怪我を負ったオレは、ぐったりしながら登校。完全に渡す際の内容を失念していた……。

 …………まあ、それでもやり遂げたことは確かである。

 

「弘原海おはよう。昨日のクイズ番組見た?」

「……あー。見ました見ました。最後寝落ちしちゃったんですけど、あのクイズ①と②どっちでしたか?」

「ああ、アレ? えっと確か–––」

 

 力の無い、乾いた笑いを浮かべつつも、やり切ったことに変わりはないのでよくやったと自分を褒めていると、昨晩放送されたテレビの話題を鱗クンから振られた。結構人気な番組でオレもよく見ているのだが、彼に言った通りに最後だけ見逃してしまったのだ。

 オレの質問に鱗クンは記憶を辿り始める。

 

『あ、唯オハヨー』

『ん』

 

 と、そんな時オレが入って来たものとは逆のドアから小大サンがやって来た。それに気づき、早速オレは『個性』を発動。

 さてさて、どうなってるかな……? 

 

 

 

 

 

 *小大 唯:性欲 120/100*

 *感度「超高」

 *状態「発情」

 

 

 

 

 

「–––確か②だったかな?」

「んでじゃクソがァああああっ!!!」

「ええっ、そんなにキレること!?」

 

 

 

 

 




主人公「やべえよ、やべえよ…!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

「ん」と「ね」と「(単語)」しか言わないクラスメートが…

こんなペラッペラな作品ですが、多くのお気に入りや幾つもの高評価、ランキングに載るなど、感謝の極みです。


アンケート設置しました。宜しければご意見お聞かせ下さい。




 クラスメートの行動でオレがヤバい。

 

 その事態に陥ったのはついさっき。

 具体的に言えば、小大サンの尋常ならざる性欲値その他諸々を視認し、オレが雄叫びを上げて直ぐのことである。

 

「……アレ? 唯、その()()–––」

 

 そう声を漏らしたのは拳藤サン。

『個性 大拳』の彼女はB組の委員長で–––って、そんなこと言ってる場合じゃない。

 ホームルーム前の僅かな時間。荷物を整理し終え、特定のグループで固まり談笑に花を咲かせていた彼ら彼女らの視線は1人の女子生徒へと注がれている。

 具体的に言えば、青い内容物が収められた香水を自身に吹き付け始めた小大サンへと。

 

 ……いや、なにをしとんねん。

 

 

 

な に を し と ん ね ん 。

 

 

 

 思わず似非関西弁となる程の衝撃がオレを襲う。

 知人から「洋画で訛りが強いシーンを高確率で関西弁にされる俺たちの気持ちが分かんのかおォん!?」と早口で捲し立てられ、気安く使わない様にと心に誓っていたにもかかわらず、だ。

 

 –––拙い、非常に拙い。

 

 小大サンが徐に吹き付けた香水改め鎮静薬は、元々知人に祝い品として渡す予定の物として扱い、効果を確かめる為、クラスの数名に実際に確認を取ってしまっている。

 想像して見て欲しい。知人に渡すと言っておきながらその実相手は、間違いなく美少女に分類されるであろうクラスメートであり、しかも渡したのは菓子類やアクセサリーならまだ兎も角、香水ときた。

 もう、どこからどう見ても一目惚れのアレでアレしたアレですありがとうございます。

 

「ぃ、いゃぁの、これは……っ」

 

 クラス中の視線はゆっくりと、小大サンからオレへと向けられ始め、誰に問いただされた訳でもなく形にならない弁明が口の隙間から溢れていった。

 何だ、どうしたらいい。–––混乱極まり、ただただ硬直するだけのオレに、意外なところから救いの一手が差し出される。誰あろう、小大サン本人からであった。

 

 彼女はオレの傍へとやって来ると、

 

「ん」

「……、?」

「ん」

 

 何、え、何? 

 ずぃっと詰め寄ったかと思えば、小大サンは自分の首元をオレに向けて–––え、な、本当に何だ。クソ、こういう時本当にコミュ障であることを恨めしく思う。

 ……いやでも、「ん」だけで相手の思考を判断出来るものなのだろうか。よく小大サンと居る拳藤サンなどは問題無い様に見えるけれど……。

 

「–––ん!」

 

 意図を読み取れず、沈黙するオレ。

 次の瞬間、まるで痺れを切らしたかの様な小大サンの声が耳に届き……おや、なんだか軽い衝撃と一緒にやわらかなかんしょくとちんせいやくにまじってやわらかなにおいがこれはこだいさんがだきついて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––あれ?」

 

 ふと気づけば、目の前には食べ慣れた野菜定食・特盛りが。……おかしい。今朝から昼食に至るまでの記憶がすっぽり抜け落ちている。いつの間に食堂にやって来たんだ……? 

 

「やっるじゃーん、弘原海ィ〜!」

「奥手そうに見えるけど意外と積極的じゃんね!」

「どこに惚れた……とか。訊いても……?」

 

 対面に小大サンの形でオレはテーブルの端に着いており、お互いの隣には取蔭サン、小森サン、柳サンの3人が居り、何やら賑やかしい。

 3人からのテンション高めな声に、自分でも分かる位に表情が死んでいく。いやまぁ、元々ある程度死んでるけど。ハイライト先輩に至っては4才の頃に完全に絶命したけども。

 

『–––あの野郎これ見よがしにイチャつきやがってよォ……!』

『許せねえ、許せねぇぞ……ッ!』

『爆発四散してしまえ』

 

 背後から放たれる鱗クンを除いたB組常識人四天王(泡瀬クン・円場クン・回原クン)の、殺意や怨念その他諸々が込められた呪詛の言葉を背で受け止めるオレ。

 ……に、

 

「ん」

 

「「「ひゅウー!」」」

『『『あ゛あぁああ゛あぁ゛ぁあ!!』』』

 

 対面に座っていた小大サンが「あーん」したことにより、歓声と悲鳴が同時に発せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣に小大サンを添え、オレは廊下に居た。

 いつの間にか食堂から移動している辺り、またもや記憶が抜け落ちた様である。

 

「おやおやぁ? もうすぐ授業だけど良いのかい弘原海。……まぁ体育祭前に彼女を作る余裕があるんだから大丈夫なのかな?!」

 

 通りがかりの物間クンからの言葉を受け流しつつ、オレは隣の小大サンへと視線を向けた。

 黒髪のセミロング。整った顔立ちの正しく美少女は、言葉を発する訳でもなく、その見ていると吸い込まれそうな黒い瞳で此方を見つめ返している。

 ……オレは彼女から目を反らすことなく、『個性』を発動。

 

「ん」

 

 

 

 *小大 唯:性欲 120/100*

 *感度「超高」*

 *状態「発情」*

 

 

 

 

 仰け反った。顔を覆って仰け反った。

 サンでシャインな芸人何某もかくやと言う程、最早頭と両足での3点ブリッジである。いっそ叫んでやろうか。

 

(……意味が分からなすぎるッ! 雄英高校(最高峰)御用達の研究機関に然るべき成分調査までしてもらった上で、実際に効果も確認したというのに……ッ!)

 

 クラスメートを無断で人体実験紛いに付き合わせたことに対して後ろめたさだとか、全て吹き飛ぶレベルの理解不能さである。

 

 周囲からは何かと囃し立てられたり妬まれたりしているが、オレはそもそも小大サンに告白した覚えはない。

 それにはっきり言って、個性で幾らでも美人(♀)になれると言っても、元のオレは完全に不細工の部類に属する人間だ。敵襲撃事件こそあったが、小大サンとは良くも悪くもクラスメートの間柄と言える。……それがたかだか香水のプレゼント1つ送った程度で恋仲に発展するだろうか? 

 いいや否。ならば必然的に導き出される答えは1つ。

 

(狙われている……? 狙われているのか……!?)

 

 –––いや、ね? そりゃあ小大サンの様な超絶美少女と恋人関係になれれば間違いなく勝ち組の仲間入りを果たせるだろう。

 

 

 

 *小大 唯:性欲 120/100*

 *感度「超高」*

 *状態「発情」*

 

 

 

 だがしかし、オレに付き纏うエロステータスの視覚化(コイツ)が現実へと引き戻す。

 性欲(エロ)に引っ張られ忘れがちだが、臨界点突破と言うのは全くもって笑えないことだ。考えてみて欲しい。これが例えば他の欲求だったら? 例えば、そう、食欲。

 

 食欲の臨界点突破–––即ち、空腹を超えた飢餓。

 歴史の授業でも時折ふれる、『飢饉』による惨劇。人間同士の共食いは、文字通り地獄そのものの筈だ。

 

 さて、これを踏まえた上で考えよう。

 小大サンと付き合い、なんかいい感じとなり()()()()()()場合のことを。

 

(こ……、殺されるッ!)

 

 思わず身震いを起こし、隣の彼女から距離を取る。サキュバスなのに腹上死の未来待った無しだ。

 

 君のことで頭がいっぱい。主に恐怖で。記憶が飛ぶ程には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小大サン、別れましょう」

 

 放課後、帰路。

 オレが暮らすアパートと小大サンの家とは同じ方向らしく、2人並んで歩いていると、その途中名前も知らない公園に差し掛かったオレは、そこで意を決して彼女へと告げた。

 何の脈絡もなく放たれた別れ話に 、小大サンは一瞬動きを止めると。

 

「ん。え、んっ?」

 

 ……まぁ、普段から表情に変化が見られない上、「ん」と「ね」の一言か、本当に時々「(単語)」を呟く程度の彼女の慌てた様子はなかなかにレアである。

 

「ああいえ、突然スイマセン。実はですね、えぇっと……」

 

 少なくとも此方は付き合っているつもりはないのに、別れ話とは、何だか変な気分だ。

 

「なんと言いますか。あの香水はあの、本当に深い意味はなくてただのプレゼントでして、ハイ。いやプレゼントに香水ってのも変だとは自分でも思うんスけど……、だからなんと言うか、その気はなかったというか。いえ小大サンは美人だと思いますけど、だからこそ自分とは釣り合わないというかなんというか–––」

 

 あの香水は()()()()()()()()()効果があり、敵襲撃事件で恐怖を覚えたであろう小大サンの為に用意したもの。それがオレの思い付いたシナリオである。

 まぁ……嘘は言ってない……、かな。うん。

 

「…………ん」

「……勘違いさせてしまって、スイマセンでした」

「…………ん」

 

 オレの言葉に、僅かな間を入れつつ、小さく呟く小大サンを見て、彼女はオレが思っている様な邪な気持ちなどなかったのではないか? と、思わなくもない。

 

 ……しかし悲しいかな。弘原海 ありすと言う『元・無個性』の人間は十余年の人生の中で歪みながら育って来た。何も周囲からの影響や環境だけの所為にするつもりはないが、それでも染み付いた他者に対する条件反射的な警戒から、好意と言うものを素直に受け取ることが出来ない。

 

「–––あの、でも。これからもまぁクラスメート(友達)として仲良くやっていければなぁ、と思っていたり……」

 

 必殺・これからも良い友達でいましょう発動である。

 これさえ言っておけば何とかなる筈だ。

 

「–––ん!」

 

 先程と比べ、小大サンの声には、少しばかり活力が満ちた気がした。オレの必殺技は功を奏したらしく、思わずほっと胸を撫で下ろす。

 いやぁ〜、一時はどうなることかと思えたが無事解決出来て何よりだ。まだB組に対しての事情説明が残っているものの、大元が解決出来たのだから、そう慌てる必要もないだろう。

 

 そんなことを考えていると、すっと缶ジュースが隣から差し出された。

 

「ん」

「え、あ。良いんですか?」

 

 どうやら、公園内にあった自販機からわざわざ購入してくれたらしい。女子に奢らせてしまったなぁ、と苦笑しつつも、こういった好意を無下にするのもまた失礼であると小大サンから素直に受け取る。

 

 プルタブを開け、一口。

 

「スイマセン奢ってもらって。今度何かお礼に–––」

「–––“解除”」

 

 へ? と、聞きなれない言葉にオレの口から間の抜けた声。

 同時に現れる、淡い色をした立方体の……これは、クッション? 

 ……どうして突然クッションが目の前に? 

 

「“解除”」

 

 合掌の様に両掌を合わせた小大サンがまたもや呟き、今度は彼女の傍に–––キャリーケース? 

 

『個性 サイズ』。それが小大サンの個性であり、内容は、生物を除いたあらゆる物体の大きさの変換。液体の様に明確な形状を持っていなかったり、極端に巨大だったり極小でない限りは、彼女は大きくも小さくも出来る。

 

 のは、知っているが。……だからと言って何故それを今やるのだろう。それに、クッションとキャリーケースには一体何の意味が? 

 

「あの、小大サン? 一体どうし–––」

 

 –––ましたか。

 そう言おうとして、言おうとしたオレの体に、異変が訪れた。

 

「え–––。()れ? な、に。ねむ……く–––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポゾッ。

 独特な音を立て、その体躯がクッションに優しく受け止められた。

 

「ん」

 

 動かないことを–––()が十分に効いたことを確認した彼女は、人の目に着かない内に素早くキャリーケースに少年を詰め込んでいく。

 丁寧に丁寧に、しかし恐るべき速度で。

 

「ん」

 

 きゃらきゃら。

 ……音を立てながら、小大 唯は帰路へ着く。




※小大さんがやったこと。

1.缶ジュースを(見えない様にしながら)個性で大きくする。
2.大きくした状態で穴を開け、そこから睡眠薬投入。
3.個性を解除。穴も一緒に小さくなる。
4.>>バレない<<


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

小大 唯:原典(オリジン)

今話についてですが、



なんかもう、いろいろすいませんでした。




 並木の大通り。端が剥げた横断歩道。歩道橋を渡り、次第に住宅街へと–––。

 

 何時もの、通い慣れた登下校道。

 艶やかに光るセミロングの黒髪。凛々しく整った美しい顔立ち。正しく美少女と呼ぶに相応しい少女・小大 唯。

 何時もの道を何時もの様に進む彼女は何時も通りで、しかしその手には、少々大きめのキャリーケースが引かれていた。

 

 アスファルトの上を転がる度、きゃらきゃら、と独特の音が奏でられる。その中身は側から見れば不確かだが、それなりの重量があるらしく彼女の顔には汗の粒が浮かんでいる。

 それすらも、彼女の美しさを引き立たせる要素の一つになっているが。

 

「ん」

 

 ガタコッ、と段差に差し掛かり音を鳴らす。

 

 

 

「んっ」

 

 

 

 カツカツ、と靴底を鳴らし、道を進んで行く。

 

 

 

 

 

「ん()

 

 

 

 

 

 曲がり角。

 僅かに早足となり。

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

 

 

 

 家まで、もう少し。

 ほら、遠くに屋根が見えて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––んふはっ、えひ! ひ、うふぁは! ふへ、いひぇっ! んへへへへへへっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓は爆発するんじゃないかと錯覚する程に早鐘を打ち、そこから送り出される血液はマグマの如く熱を持って全身を駆け巡る。

 全身が震え、汗が止まらない。他の誰かに聞かれるかも知れないのに、気色の悪いにやけ面と笑い声を止められない。

 

 

 嗚呼、やってしまった。やってしまった! もう後戻りなんて出来はしない! はなっからするつもりもない!! 

 

 

 

 –––ヤる。ヤり尽くす……! 

 

 

 

 既に目前となった我が家までの、数瞬と呼べる短い間。彼女は過去の情景を(おも)い出す。

 

 原点–––オリジンを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……物心付いた時から人見知りが酷く、会話をすることが恐ろしく苦手であった。面と向かい合うことが出来ず、言葉を発するのにとても労力を要してしまう。それが原因で一時期クラスメートから嫌がらせを受けていたこともあった。

 

 そんな彼女でも例に漏れず、当たり前の様にヒーローを目指した。

 

 –––とある日のこと。記憶が確かであれば、それはきっと、□曜日のこと。

 

 少女は1人ゴミ拾いに勤しんでいた。

 (ヴィラン)を倒し、災害から人々を守るプロヒーローに比べれば何とも地味な行為だが、割れ窓理論の事前防止に繋がる立派な行動である。昨今のヒーローは派手さばかり求めていけないとは、今朝のニュースの評論家の言葉だ。

 

 タバコの吸殻。空き缶。ペットボトル。よく分からない菓子袋か何かの成れの果て。

 軍手とトングを使い、乱雑に袋の中へと突っ込んでいく。分別は後ほど行う予定であり、取り敢えずゴミを拾う作業を黙々と続けていく。

 –––と。

 

 都内には珍しい雑木林。草陰に隠れた、少し大きめのゴミ……いや、本、だろうか? 

 

 誰かが読み終えたものを捨てたのだろうそれを、少女は深く考えずに引っ張り出し、そして–––。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 人間、不測の事態に陥ると息を吸いながら悲鳴(こえにならないこえ)をあげるのだと、この日彼女は知った。

 草陰の所為で不明瞭であったその本は、自分が引っ張り出したことでその全貌をはっきりと、見せつけるが如く曝け出す。

 

 

 

 乱れる体躯。

 迸る体液。

 余すこと無い一面の肌色。

 そう。–––エロ本であった。

 

 

 

 用が済んだか好みでなかったか、はたまたかつてお世話になった自身の様に、次の誰かに託したものか不明なそれは、網膜から侵入し、少女の頭の中でこれでもかと暴れ回る。

 まるで熱病に侵されたかの様に、顔が熱い。頭がクラクラする。気のせいか、鼻から何か流れている感覚もした。

 

 お父さんとお母さんの不思議な力で赤ちゃんは生まれてくると信じ、男子の下着(シャツ)姿を見ただけでオーバーなリアクションを取る、そんな年頃の少女が成熟した男女の裸を見てまともで居られるはずも無く–––。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 直前まで行っていたゴミ拾いなど既に頭から抜け落ち、小大少女は軍手に包まれたその小さな手で……あろうことかエロ本を読み進めていってしまったのだ。

 ページを捲る度、その肌色を刮目する度、彼女を猛烈な衝撃が蹂躙していく。一体この男女が何をしているかなど、一欠片も理解は出来ない。それでもページを捲る手は止まらず……どころか早まってさえ居た。

 

 そして『その時』は訪れる。

 

「–––––––♡ッ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………その後のことは覚えていない。

 気づけば自分の部屋にいて、ベッドの上で目が覚めた。

 

 –––ポケットの中に、個性で小さくなったエロ本と共に。

 

 それからと言うもの、少女は取り憑かれた様に日々を生きていく。

 勉強に勤しみ、運動に励み、言葉を発せずとも苦手だったコミュニケーションに尽力していった。委員会などの責任者に率先して立候補し、学校行事があれば徹底して参加し、人一倍どころか、二倍三倍と働いた。

 そんな一生懸命な彼女を見て、周囲は次第に輪となり繋がっていく。小学校を卒業する頃には、性別クラス、果てには学年生徒教師問わずの人気者となっていた。

 

 そして中学校。変わらずの人気者はここでもその力を遺憾無く発揮し、本格的に身なりにも気を使い始め、洒落っ気が出たこともあり、とうとう男子生徒間で非公式のファンクラブが出来上がる始末である。

 

 何故そうまでするのか、彼女の原動力は一体なんなのか。

 ……それは決して、人々を救う最高のヒーローになるとか、そんな高尚なモノでは無い。

 

 

 

 

 

 –––モテたい。

 –––エッチなことがしてみたい! 

 –––どろっどろで濃厚なドスケベなことをしたい! 

 –––あの本みたいに! 

 

 

 

 

 

 小大 唯の行動理念は、ただひたすらにそれだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっふへ、うひひ……」

 

 込み上がってくる笑いを彼女は堪えることが出来ない。

 

 

 ……ついに念願が、悲願が成就する……! この日、この場所、この時ッ! 

 ヒャアもう我慢できねえ! 小大の小大は既にコダイマックス! 小大 唯、イキまァ〜す! 

 

 

 意気揚々、ガチャリと玄関を開け–––

 

「あら唯、お帰り」

「んふぉ!?」

 

 ……思わず変な声が出た。

 何時もならばまだ仕事で帰宅していない母に出迎えられた彼女は、危うく心臓発作を起こすところであった。

 

 

 危ない、母の存在を忘れていた……! 

 

 

「何だか随分と大きな荷物ねえ」

「ん」

「……お母さん手伝う?」

「ん!」

 

 よいしょよいしょと2階の自室を目指し、キャリーケースを運ぶ。その最中心配そうに訊ねられるが、生憎とコレは母と言えども触らせられない大切なもの。

 

 

 母者よ驚くな、コレには私の彼ぴっぴが入っている。そしてこれから彼ぴゅっぴゅしてもらうのだ。

 

 

 そんなことを考えながら奮闘し、漸く到着。しかしこの疲労感ですら今は心地が良い。

 部屋に入った彼女は滝の様な汗を拭いもせず、緊張と興奮で震える指でキャリーケースを開k

 

「–––それじゃあお母さん行ってくるからね」

「んん゛っ!」

 

 今度こそ心臓が破裂したんじゃないかと思いながら飛び上がる。戸締りよろしくね、という母の声は次第に遠ざかっていった。

 

 

 あ、危ない……! また母を忘れていた……! 

 

 

 性格はおっとりこそしているものの、娘のプライベートを考え閉じたドア越しに会話を行った母に、彼女はただただ安堵する。これがノックも無しに開け放たれ様ものならば第一次小大家家庭内戦争勃発は必至だ。

 

 駄目だ、一旦落ち着こう。

 そう考え、汗を拭い呼吸を整え、母を玄関まで見送る。–––その姿が目視出来なくなったと同時、亜音速で玄関を施錠。

 冷静に、努めて冷静に。彼女は家中の鍵という鍵を閉め、火の元を確認し、全てのカーテンで窓を遮蔽。

 最後に自室のドアを閉じ、鍵を回して。

 

「……ん、ん♡」

 

 嗚呼、長かった–––いよいよこの時が来た。

 

 どろりと熱の篭った、妖しい双眸の先。

 部屋の中央に鎮座する、キャリーケース。

 震え、言うことを聞かない指を駆使し、何とかソレを開くことに成功する。

 

 –––まるで溢れる様にして中から現れた、自身のクラスメート。その表情は安らかなもので、まるで、眠っているかのよう。

 ……まぁ実際に眠らせたわけなのだが。思いっきり一服盛ったのだが。

 

 自分がしたことを思い出した彼女と言えば、だってしょうがないじゃない、と誰に聞かれたわけでもなく、心の内で言い訳を始めていく。

 

 

 そもそもが、このクラスメートが悪いのだ。

 そうだ! 私は悪くない、全部悪いのはこの淫魔なのだ! 

 隙あらば何かと豊満なドスケベボディで挑発し、常日頃から人を誘惑し続けて来たこの淫魔が悪い! ムラムラさせやがってよぉ! 

 その上媚薬かと思ったら普通の香水だったし、勘違いさせるだけさせといて挙げ句の果てには「別れましょう」「その気は無かった」だぁ!? 逃がすわけねぇだろ、小大 唯からは逃げられないんだよ! 私をママにするんだよっ!! 

 

 

  お 前 は 何 を 言 っ て い る ん だ 。

 ……その一言を発する人間は、残念ながらこの場に居ない。

 最も、居たとしても今の彼女にはきっと届かないのだろう。それ程まで貪欲に、目前の男体へと彼女の意識は集中していた。

 

「ん、んっ。んぅ……っ」

 

 緊張と興奮からか、小刻みに震える指先は言うことを聞かず、だが焦る様子は無い。

 時間ならたっぷりと有る。普段から出張の多い父に加え、母も都合で明日の昼まで帰ってこないのだから。なんら焦る必要はない。寧ろ、楽しまなくては。

 

「ん……っ」

 

 暫くして、少年が雄英指定の制服の上から着ていた、オーバーサイズのパーカーを完全に脱がし終える。さも当たり前の様に彼女はそれに顔を埋めた。そこに一切の迷いは無い。

 

「–––ふぁ♡」

 

 ()ぅ、と鼻孔を優しく刺激する仄かな匂い。だらし無く表情を崩した彼女は彼シャツならぬ彼パーカーと洒落込んでから、今度は制服を脱がし–––先程同様に顔を埋める。

 

「ふあぁ–––♡」

 

 とろんと瞳は力無く虚空を見つめ、紅潮した顔はだらし無く緩み切り、口の端からはよだれを一筋垂らす始末。恍惚、とはこの様な状態を指すのだろう。

 ふんすふんすと鼻を鳴らし、匂いに惚けること数度。彼女は次のフェーズへと移った。

 

「……ん、んん」

 

 ボタンを1つ外し、都度その露出面積が増していく肌色に、思わず悶えから声が漏れる。もじもじと体を忙しなく動かしながら手を動かし、ようやっとの思いで脱がす頃には、すでに息も絶え絶えであった。

 荒く息を繰り返し、上を下着一着のみの格好になった少年を視姦しつつ、これまでの様に顔を埋め–––

 

「ッ♡?!」

 

 瞬間、衝撃。

 

「–––ッ♡! –––♡ッ!!」

 

 キャリーケースの中で篭った熱でかいた汗の匂い。肌着に近いこともあってか、先2つとは比べ物にならない程刺激が強い。鼻孔から全身を巡り、そうして満たされた体は内側から痺れに似た感覚を発した。

 

「–––––ぶはっ! はぁ、はぁ、んくっ、はぁ……」

 

 一体何時までそうして居たのか、酸素を求めた体が意思に関係なく強制的に行為を中断させる。

 ……荒く乱れた呼吸の最中、どろりと濁った視線が未だ眠りに在る少年を凝視した。舐る様なねっとりとした視線が這い、僅かに思考。

 

 

 –––どうなっちゃうんだろう。

 

 

 それは少しの恐怖と、それを遥かに上回る期待。

 シャツだけで『これ』だったのだ。直接肌に接していた下着では、一体自分はどうなってしまうのか? 

 そんなことを考えながら、ゆっくりゆっくり、震える手が少年をあられもない姿に変えていく。

 1分、5分、10分……長い長い時間をかけて行われた脱衣により、彼女の手元についぞその1枚が降臨した。

 

「……」

 

 ……逡巡。その後、意を決した表情を見せた彼女は決行する。恐怖など既に無い、壁は超える為に在る。

 いざ、Puls Ultra–––! 

 

「あ」

 

 一息に吸い込んだその匂いはやはり比べ物にならず、彼女の想定を遥かに超えて衝撃を与えた。強すぎた刺激に反応らしい反応を見せることが出来ないまま、硬直。

 そして彼女は徐に右手をパンツ

 

 

 

 

 

 〜〜〜不適切な表現が御座いました。しばらくお待ち下さい〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––んほおおぉお゛っ♡♡♡♡♡!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜我々は何も見ていないし聞いてもいない。いいね?〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小大家で火災報知器の警報とスプリンクラーが誤作動を起こしてから少し。妙にツヤっとした小大少女は、今までが嘘だったかの様な落ち着きを見せていた。

 

 

 –––今ならなんだって出来る気がする。もう何も怖くない–––! 

 

 

 世間一般ではこれをフラグと呼ぶ。

 

 若干内股気味な彼女は這々の体で少年へと寄ると、迷うことなくベルトへと手を伸ばした。……伸ばしたものの、言わんこっちゃない、ピークに達した震えは高周波ブレードもかくやと言う程のものと化している。

 

「ひぃっ! へひっ! ひぃっ……!」

 

 悲鳴にも近いおかしな呼吸を繰り返しながら、必死の形相でベルトを緩め、ボタンを外し、極度の緊張からトイレに駆け込んで胃の中身を全て吐き出し、ファスナーを下げ、またトイレへ。

 彼女が部屋に戻り少年を–––所謂、半脱ぎの状態にする頃には既に日は完全に落ちていた。パチリ、と照明が灯される。

 

 幾らか華奢ではあるが引き締まった異性の肉体。処理をしているのかそれとも個性の影響か、その体には体毛と呼べる体毛が一切なく、それが逆に肌色の面積を多くすることにより、返ってエロスさを醸し出していた。

 

 ……腰を覆う、ボクサータイプの、最後の一枚。

 

 ゴギュリ。……どっか骨折れた? と心配になる大きさの音を鳴らしながら、生唾が飲まれる。

 

「ふー……ッ! ふー……ッ! ふー……ッ!」

 

 野良猫の様に音を立て、にじり寄っていく。

 指先が、パンツと肌に隙間を作る。

 ……えぇい間怠っこしい! 臆するな、()け–––っ! 

 

 がばっ! と凄まじい勢いでパンツが剥がれ、当たり前のことだが、露わになったその下が彼女の目前に現れた。

 

「……」

 

 硬直。

 

「……」

 

 滝の様に発汗。

 

「……」

 

 最早その色は赤を超え、黒さを帯び始め–––。

 

「…………おッ、おち、おちん(ブバハァッ)」

 

 禁断の一言(ラスト・スペル)を自身の鼻血の噴出音でセルフモザイクをかけるという器用な芸当を見せた少女。乱雑に拭われた赤は随分とワイルドな跡を残した。

 アドレナリンの放出により即座に止血がなされ、どこぞの天才少年もびっくりの速度である。ある程度、熱と一緒に血が抜け出たことで意識はクリアなものとなり、彼女に冷静さを齎した。

 

 

 –––ヤる。ヤり尽くす。

 

 

 改めて、決意を胸に。

 そうして彼女は自らの衣服に手を伸ばし–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––小大 唯は目を覚ました。

 

「…………」

 

 目 を 覚 ま し た 。

 

「んん!?」

 

 文字通り、ベッドから飛び起きる。

 

 

 馬鹿な、あれが全て夢? あんなにもリアルだったのに? 

 そ、そんなことあっていいはずが無い! 許されるはずが無い!! 

 

 

 彼女は嘆き、怒り、そして絶望した。

 予てより思い描いていたどろっどろで濃厚なドスケベでエチエチのエチな高校性活の始まりは、ただの淫夢だったのだから。今でもありありと思い出される、匂い、色、感触、全てが虚しい幻想へと変わり果ててしまったことで、ただ静かに涙を流す。

 

 ピピピ、と目覚ましのアラーム。

 何とも生気の感じられないゾンビ染みた動作でそれを止め、彼女は学校へ行く為の準備を始める–––。

 

 

 

 

 …………まぁでもエロかったことに変わりはないので、催した彼女は取り敢えずいっぱt[運営パンチ]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唯、おは–––どうしたの? 元気ないね」

「ん……」

 

 声をかけて来た、スパンキングされたい女子No. 1改めクラスメートの拳藤 一佳に俯き加減で挨拶を返す。

 聞いておくれよマイフレンド、と思いながら溜息を小さく吐いた彼女は–––

 

『弘原海、おはよ……っ!?』

 

 教室、後方。

 そのざわめきは先ず小さなもので、男子生徒の1人が息を飲んだことから始まった。近くの者がそれを聞くと何事かとそちらを視認し、同じ様に息を飲み、それがまた–––と教室内に伝播していく。

 

「え……?!」

 

 もちろん彼女たちも例外では無く、周囲と同じ様に『そちら』を見て、そして同じ様に驚愕した。

 隣のサイドテールが似合うクラス委員長が声を漏らす。

 

 

 

 夜空の星々の様に細かな煌めきを放つ漆黒の髪。

 照明の光を返し艶やかな光沢を見せる柔和な肌。

 服の上からでも見て取れる、豊満な極上の女体。

 返ってその蠱惑さを引き立てている異形の部位。

 

 

 

『今まで』と比べることすら烏滸がましい、格段に、格別に、桁外れに淫猥さを増した淫魔(サキュバス)の肉体。

 いや、肉体だけではない。纏うオーラ、放たれる色香全てが遥かに進化している。

 

「えあ、わた、弘原海……?」

 

 目を反らせない、反らすことが許されないクラスメートたちは揃って魅入り、その中で震える声が隣から放たれれば。

 

「拳藤サン、おはようございます」

 

 ニコリ、と微笑み。

 ひらり、と手を振り。

 

 ……たったそれだけの動作で彼の周囲数名の男子が力尽き、女子でさえも胸を押さえ苦しみだす始末。それ程までに美しく、そして淫らであった。男子生徒指定の制服で露出度は抑えられているのに淫とは、これ如何に。

 

「ん……っ!」

 

 気付けば彼女は駆け寄っていた。特に理由などなく、本当に気づいたら、と言った具合である。

 その美しさに惹かれたのか、はたまた、堪え切れずにむしゃぶりつきたい欲求から無意識に動いてしまったか。

 

「–––ん?!」

 

 さて。そんな彼女に対して弘原海少年と言えば、微笑みを浮かべたまま徐に屈み混み、彼女の片足を掴み取ったではないか。

 突然のことに驚いたのは小大少女の方である。

 

 

 ……まさかヤっちゃいますか? 

 皆が見てる前でI字バランスでヤっちゃいますか? もう常識改変でクラスメートは手中に収まっちゃってる感じですかご主人様ァはあん♡!! 

 

 

 高鳴る鼓動、紅潮する頬。

 そして–––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パァンっ、と言う肉がぶつかる音。

 

 その動作に無駄は1つとして存在せず、素人目に見て分かるレベルで洗練されていた。

 感嘆から、誰かが息を飲んだのが聞こえる。

 

 

 

 捲れるスカート。乱れる制服。

 

 

 

 本当にそれは、とてもとても見事な–––

 

 

 

 

 

 –––––ドラゴンスクリューであった。

 

 

 

 

 

「唯ィイーッ!??」

 

 某アニメなんて目じゃない回転数と跳躍を見せたクラスメートに委員長の悲鳴が放たれ、頭部から角を生やした留学生も続いて「What the f◯ck!?」と思わず叫ぶ始末。

 

「唯が、唯がァー!」

「ゆいゆい大丈夫!? 返事して!」

「んほぉ……」

 

 ダメだこりゃ! と女子数名から声が上がる一方。

 

「と、突然何てことをするんだ弘原海!」

「女子相手にかけていいレベルの技ではなかったですぞ!?」

「五月蝿え、捨て置けそんな変態女」

 

 DV彼氏だあー! と今度は男子から声が上がる。

 

 その後、ホームルームの為に現れたブラドキングの指示の元、小大少女は保健室へと運ばれた。

 

 

 

 

 

 迫る開催日。それは雄英体育祭まで残り僅かとなった、☆曜日の出来事である。




Q.何があったの?
A.意識を失う(前話参照)直前に個性を発動。睡眠薬をある程度分解し、小大さんが行為に及ぶギリギリで意識を取り戻し、睡眠ガスでHENTAIを撃退。+α、危機的状況に陥ったことで個性がパワーアップ。


アンケートありがとうございました。
主人公がんほる方もある程度形になっていますので、今後、タイミングを見て投稿したいと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その①

この作品について、活動報告にてネタやご意見の募集を開始いたしました。
長文、一言でも問題有りませんので、お気軽にコメントをいただけますと幸いです。

それでは雄英体育祭、スタートです。




 嘗てのオリンピックに代わる祭典、ヒーローを志す者ならば絶対に外せないイベント……。

 

 いよいよ開催された、雄英体育祭。一般の方も交えた観客席には多くのプロヒーローがスカウト目的で訪れており、自己アピールに臨む生徒は科目問わず、どこかピリついた緊張感に包まれていた。

 

「せんせー。俺が一位になる」

「やると思ったァ!」

 

 そんな中行われた生徒代表による選手宣誓。

 自意識・自信共に過剰と言われても仕方がないその発言に誰かが声を上げ、それに続いて野次や罵詈雑言が次々と飛ばされていく。

 凄いな、あのA組の……何だ、バックフォー見たいな名前の人。一瞬で殆どの生徒のヘイトを集めたぞ……? 

 

(人前でやるってのが凄いよなぁ。オレには一生かかっても無理だ)

 

 ミッドナイト先生から第1種目である障害物競走を告げられ、各々スタート位置に着く周囲に合わせ、跳んだり四肢をブラブラさせたり軽く体を動かしながらオレは思考する。

 

『覚悟しとけよあの野郎……』

『敵はB組にいるってこと教えてやる』

『ふしゅる……。ふしゅ……、ふしゅる……』

『ヒャッヒャ、切り刻んでやるぜェ……!』

 

 B組男子から向けられる殺気を全身で浴びながらオレは天を仰いだ。

 ……本当、どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 選手入場前の、控室でのこと。

 物間クンが何やら、優勝という最終目的を果たすには先ずA組の分析から–––第1競技では敢えて順位を落とさないか、みたいなことを提案している中、オレはと言えば……。

 

 

 

 *小大 唯:性欲 137/100*

 *感度「超高」*

 *状態「発情」*

 

 

 

 控え室の角にて目前の変態女改め、クラスメートの小大サンをひたすら睨みつけていた。心許ないが無いよりはマシだと、サキュバス状態の時に現れる羽を盾代わりにしているオレに対し、彼女は近づきたいがオレが警戒しまくっている為に足踏みしている状態である。

 

 誰が近寄らせるか……! 普通に怖かったからな! 目覚めの一発で見た恍惚の表情トラウマレベルだったからな! 逃げ帰った後、布団の中で震えてたからな! 何ならちょっと泣いてたからな!! 

 

 忘れたくとも忘れられない、先日起きた出来事を思い出し、思わず体が身震いを起こす。

 薬盛られた挙句誘拐されるとか、美人だろうとやったことは犯罪者のソレだ。それは間違いない。…………のだが、彼女が()()()()()()()()原因にオレが関わっている可能性は無いわけではない。もし誰かが客観的にこれ迄を見ているのならば、必ずしもオレの所為では無いと断言してくれるかもしれないが、一方でゼロでは無いとも言うかもしれない。

 

 力には責任が伴う。『問題無く解決出来る』確証がないままオレは独断で決行し、そして失敗したのだ。まぁその後ろめたさからと言うか、小大サンが今回しでかしたことは、誰にも喋るつもりは無い。……いや自分でしたことには最後まで責任持てよと突っ込まれそうだが、そうしたくとも彼女に対する恐怖がオレの中で勝ってしまっている、どうしようもない。

 

 なので、これからは不干渉の姿勢を徹底させてもらう。

 近寄らせん、近寄らせんぞォ……! 

 

 ……あ、そうそう。そう言えば、今回の件でどうやらまた個性がパワーアップしたらしく、内容としてはサキュバス状態のクオリティの上昇と、それから–––

 

 

 

 *欲求:「( °∀°)o彡゜おっぱい! おっぱい!」*

 

 

 

 性的なことが頭に付いてしまうが、酷く限定的であるものの、相手の思考を目視で確認可能となった。そして目の前の美少女の頭の中が男子中学生……下手をすれば、小学生並みの思考回路しか有していないことが分かり、若干視線に憐れみの色が加わり始めてしまっていたりする。

 何がおっぱいか。自分のでも揉んどけ。

 

「–––皆! そろそろ時間だよ!」

 

 物間クンの提案に数名を除き、クラスの大半が乗ったところで拳藤サンの声が響き渡り、オレたちはそのまま会場に入場することとなった。本当は嫌だが、個性を一時的に解除して。

 控え室を後にし、大いに湧き上がる観客から拍手や声援と言った爆音を浴びながら、クラス・科目ごとに別れ–––ある程度–––整列する。

 

「……ん」

 

 にも関わらず、何処ぞの小大サンはあろうことかオレの片腕に体丸ごとで抱き着くと言う行動に移った。瞬間的にクラス内外問わず男子生徒の視線と殺気が集中。

 

「んぐっ」

 

 それを感知し即座に拳を彼女の脇腹に叩き込み引き剥がすが、その所為で今度はクラス内外問わず、女子生徒から視線と殺気が集中した。

 側から見ればただの暴力野郎だろうが、生憎とオレは自分の身を守っているだけである。故にオレに非は一切無い。

 

 ……そんなことを考えたところで事情を知らない周囲のヘイトが下がる訳も無く。

 嗚呼もう、如何してこんなことに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スタァ–––––––トッ!!!』

「「「死ねェエ–––––ッ!!」」」

 

 参加人数に対してメチャクチャ狭いスタート地点。

 3つのランプの点灯と同時に放たれたのは、開始の合図と、オレに向かってくる幾人もの怒号である。

 

 何か、もう、こうね。そこまで包み隠さずに言われると逆に清々しさを覚えるよ……! 

 

 さて、プロヒーローに自己アピールを行うのに最適な場所(タイミング)であるにも関わらず、オレの抹殺を最優先事項とした、一部のB組男子+αたち。残念ながらオレの個性は戦闘向きとはお世辞でも言えないモノだ。なので、必然的に取るべき手段は限られてくる。

 

 個性を発動。飛びかかって来た先頭の1人–––円場クンを、サキュバス状態へと変態し、エロスの権化と化した自身の肉体で優しく受け止める。オマケに彼の耳元でリップ音を奏でてやれば、あ〜ら不思議。

 

『なぁに蹲ってんだ円場ァ……』

『さっさと立てやオイ……』

 

 先程までのヘイトは何処へやら。茹で蛸の様に紅潮し、無言で五体投地に移行した円場クンを数名が取り囲み爪先で小突き始めた。

 仲間割れを始めたその隙をつき、何故かは知らないが凍り付いている地面を慎重に、しかし迅速に駆けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1関門であったロボ・インフェルノは先頭集団が粗方片付けていた様で、他から出遅れたことで逆にスムーズに進むことが出来た。

 

「ん」

 

 さて第2関門、ザ・フォール。無駄に大げさな名前であるが、要は規模の大きな綱渡りである。

 

「ん!」

「……何ですか、小大サン」

 

 早くも不干渉の決意が無駄になったが、如何して小大サンはオレと一緒になって立ち止まっているのだろうか。早く進めばいいのにと疑問に思っていれば、彼女はこちらの手を取り、次いでもう一方の手で張り巡らされたワイヤーを指差す。

 ……意図が読めないので、サキュバス状態となり彼女の欲求を確認。

 

 

 

 *欲求:「2人一緒、初めての共同作業。……つまり初夜! S○X! Hurry up now!」*

 

 

 

「」

「ん!」

 

 絶句して固まるオレを余所に、表情こそ変動は無いが、意気揚々と駆け出した小大サン。

 ……あああああ、太めのワイヤーだけどそんな勢いつけて行ったら危ない–––。

 

 あまりのことに、一瞬、意識が飛んでいたオレは何とか気力を振り絞り、踏み止まった。しかし、静止する間も無く駆け出していた彼女は案の定、(たわ)んだワイヤーの上で足を滑らせてしまい–––股間に思いっきり一撃を受けることとなった。

 男だったら悶絶必至の出来事に、思わず内股となるオレ。そして小大サンは……。

 

「–––んお゛ぅ……っ♡♡!」

 

 もうあの人最強なんじゃないかな。

 

『『『追いついたぞ弘原海ィー!!』』』

 

 後続から聞こえてきた声に、跳躍。羽をバタつかせながら間際に小大サンを引っ掴み、少し手間取ったものの第2関門突破–––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––さぁいよいよ最終関門だァ! 地雷の場所は分かりやすくなってっから、目と脚酷使し(つかっ)て行けェ〜!』

 

 第3関門に辿り着くと同時、プレゼント・マイク先生の声が会場に響き渡る。相変わらずの声量だ。

 最終関門は地雷原。其処彼処で起こり続けている爆発音に身を強張らせつつ、足下を見ながらゆっくり進む。

 

(ちょ、超怖ぇ……! 人間が吹き飛ぶとか結構な威力だな!?)

 

 ボッカンボッカン音が鳴る度、視界のどこかで人が跳ね飛ばされていく様子に恐怖を覚え–––同時に、余りにも遠い先頭集団に焦燥感に駆られていく。

 

(拙い、拙いぞ……! 振るい落とされるのが何位からか分からない以上、なるべく上位を狙わないといけないのに……!)

 

 雄英体育祭は、第1競技・第2競技・第3競技と続いていく中、1競技ごとに参加人数が限られていく。どの程度迄が参加出来るかは事前に伝えられていない為、今の自分の順位が可なのか不可なのか、ハッキリと断言することは不可能だ。

 だがそれでも1つだけ、先頭は()()()()()()()事実が、十二分にオレから冷静さを奪っていく。

 

(どうする、考えろ……!)

 

 地雷原を突っ切ろうにも爆発から即座に体勢を立て直せはしない、結局タイムロスに繋がってしまう。だがそれを理由に今のペースのまま進んでいては、第1競技で脱落してしまう可能性が出て来る……! 

 

「くそッ、先頭のところまで一気に追いつきたいのに……」

 

 –––そんな呟きをオレが零した時であった。

 

「”大”」

 

 傍から聞こえてきた小さな呟き。思わず、そちらへと視線を向けて–––向けて? そこに居たのは? 

 

「–––ばっかオメェ予め調整されてる地雷大きくしたら威力とかも増すだろうがああああ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––デ、ク、ゥア!」

 

 地雷の爆風を逆手に取り、先頭へと躍り出た()の背後から、聞き慣れた、苛立った声が聞こえた。

 

「俺の前を、行くんじゃねェッ!!」

 

 両手から、設置された地雷に劣らない爆発を生みながら迫り来るかっちゃん。彼と並んだ位置に居た轟君も、後続を考慮し控えていたであろう地面ごと地雷を凍結させる手段を取り始めた。

 終盤となり加速した2人に対して、僕は既に爆風の勢いも死につつある。くそ、どうにかしないと–––! 

 

 ドグワァアンッ!!

 

「え!?」

「あァ!?」

「……!?」

 

 その時後方から放たれた、特大の爆発音に、三者三様、それぞれの反応を僕らはして……。

 

 

 

「–––……ァァぁあああアアアアあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」

 

 

 

「えっ、ちょ、コッチに来る–––っ?!」

 

 瞬間、衝撃–––。

 

 物凄いとしか表現しようが無い速度で飛んできた2人の男女は、僕たち3人を巻き込みながらゴールを通過した。




クッソ今更ながら主人公のステータスです。

弘原海(わたつみ) ありす
Height:165
好きなもの:野菜料理全般

・見た目
ボサ髮で四白眼のヒョロガリ。目の下に隈というかひたすら擦った痕の様なものがあり、ハイライト先輩が絶命していることもあって、伊達眼鏡で隠している。
格好は雄英指定の制服の上に、オーバーサイズのパーカー。制服とパーカーの背にはジッパーが付属しており、変態時に羽が外に出せる仕組みになっている。尻尾はスボンの隙間から出している。

・個性 サキュバス
自分の肉体を改造し、エロいことに特化させることの出来る個性。
中学3年の時に、とある人物より譲渡されたもの。まだ不慣れな部分があり、時々サキュバス状態への変態に失敗してバグる。


「おだればかさしとめ(※ヤバい失敗した)」
「なんて?」


大体こんな感じです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その②

前話にて描き忘れてしまいましたが、小大さんは主人公にフられたことも都合良く夢であったと思っています。


アンケート設置しました。宜しければ、ご意見お聞かせください。





 雄英体育祭第1種目、妨害ありの障害物競走。

 ゴール目前で発生した、緑谷クンによる爆豪クン・轟クン先頭2人が見せていたデッドヒートの飛び入り参加。

 本来ならば避けるべき地雷を敢えて利用した追い上げを見て、観客席からの歓声と拍手は大いに賑わい–––

 

 

 

 直後、爆発。

 

 

 

 先程緑谷クンが起こしたものの倍……いや、それ以上の規模と衝撃、そして音。最早(ヴィラン)による襲撃事件の再来が選手観客問わず脳裏によぎった。

 

「ぎぃやァあああ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

 

 しかし残念。

 正解は、小大サンの個性(サイズ)で地雷を殺人級に巨大化させたことによるスーパーブーストである。

 

「ん」

 

 1人目–––事態の原因である小大サンがオレに激突。

 

「ぐォ!?」

 

 2人目–––小大サンと共に爆豪クンに衝突。

 

「う……!?」

 

 3人目–––2人を巻き込みながら轟クンに突進。

 

「わ、わああぁ!?」

 

 最後の4人目。

 トップに躍り出て居た緑谷クンを巻き込むもオレたちの勢いは止まることは無く、飛び、転がり、或いは跳ねながらゴールまでの残り僅かとなった距離を進んでいった。

 

 まず緑谷クンがゴール。

 続いて轟クン。

 次いで爆豪クン。

 ジャイロ回転を行いながら小大サン。

 そしてオレは–––開いていたゴールのゲートに体当たり。

 

「ぉ……う、ごぇ……ッ?!」

 

 ゲートが……! 縦に……! 顔面、肋骨、肺……! そして股間が……! 

 

『ここで1人目ゴォール! 妨害アリの地獄のレースを1位で生き残ったのは意外にもこの男、緑谷 出久だァ! 続いて2位に轟、3位爆豪! そして大・大・大爆発で怒涛の追い上げを見せたB組の小大と弘原海(わたつみ)がそれぞれ4、5位にランクィイン!』

 

 プレゼント・マイク先生の解説と観客席からの歓声と拍手を聞きながら、思考する。

 

(サキュバス状態、間に合って……良か……)

 

 ……いや本当、間に合ってなかったら確実に潰れてたぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫かなあの人……』

『い、痛そ〜』

『当然の報いだ』

『チッ。元の姿でぶつかれば良かったものを……』

『ざまぁみろ』

 

 第1種目終了後、恥骨を抑え蹲っているオレに対して、周囲からは同情と罵声が発せられていた。後半言いたい放題だなぁオイ。

 

「だ、大丈夫か弘原海……?」

 

 既にミッドナイト先生が第2競技……騎馬戦の説明を終え、チームを組み始めている中でも痛みを堪え続けるオレを見かねた鱗クンが声をかけてくるが、未だ引かぬ痛みの所為でろくに返事を返すことが出来ない。

 

「こ……、ころひゅ……! ぜったいころひゅうぅ……っ!」

「ああ、うん。駄目そうだな」

 

 絶対(ぜって)ぇ許さねえあの野郎……ッ! 

 この騎馬戦でギッタンギッタンにしてやるかんな!! 

 

 と言うわけで早速チームを組もう。相変わらず男子からのヘイトが凄いものの、目の前の鱗クンはそこまでオレに対してヘイトを向けては居ない。彼の様な人間を引き込めれば取り敢えず騎馬が組めない事態に陥ることは無いだろう。

 ちなみに小大サンはオレの暴力(断じて違う)から守ると言う名目の下、拳藤サンや取蔭サンに引き取られて行った。

 

 や っ た ぜ 。

 

「一緒に小大のヤローをぶちのめそうぜ鱗クン! お前騎馬な!」

「ええ……。キャラが凄いことになってる」

 

 不干渉なんて甘いこと言ってられないんだよもう。こうなったら徹底抗戦あるのみ! 

 ……しかしながら意気込むオレに反し、鱗クンはその首を横に振るった。

 え……、何故? 君はそこまでオレに憎しみを向けては居ない筈じゃ……。

 

「ごめん弘原海–––」

 

 そう、先に断りを入れてから彼は続ける。

 

「敵襲撃事件の時、俺は–––B組は殆ど自分の身を守ることで精一杯だった。……A組やお前は敵に立ち向かったのに、俺たちは怖くてそれが出来なかった」

 

 いやあの、オレもビビリまくってたんですけど。ビビリ過ぎて逆に動けた感じなんですが。

 

「今のままじゃ、俺は俺が目指すヒーローには絶対になれない。–––だから挑ませてもらう。勝つぞ、弘原海」

 

 まるで少年漫画のキャラクターの様な台詞を残し、彼は去っていく。

 

 ……いやあの、待って? 勝つぞとか言われてもどうすりゃいいの。そもそも敵襲撃事件の時だって結局オレ、ボコボコになってただけだよ? 

 

 どうやら今の状況を甘く見ていたらしい。

 例えヘイトを向けられていなくとも、それはそれで先程の鱗クンの様に優勝を狙っていることになる。本気で勝ちに行くのならば、個性の相性やポイントなんかも考慮しなくてはならない。

 

 オレの個性の詳細を知らない他クラスはもちろん、B組のメンバーはヘイトの所為で論外だ。や、やばい。下手をすると堂々1位の緑谷クンよりも孤立している……! 

 

 そんな感じで本気でぼっちの可能性を考慮し始め、騎馬戦のチーム分けの時間も残り僅かとなったその時だった。

 

 

 

「–––弘原海ー! 一緒に組もうぜー!」

 

 

 

 手を振り、そう言いながら駆け寄ってきてくれたのは、頭部が吹き出しとなった男子生徒–––吹出 漫我クン。自ら進んでチームを組もうと言ってくれた彼に対し、オレは知らず内に涙を零していた。

 

 コレガ……ココロ……? コレガ……ナミダ……? 

 

「良いの吹出クン? オレ、確実に狙われるよ……?」

「そんな感情が芽生えたロボットみたいに泣きながら言うなよ……」

 

 しかし意外である。自分としても、小大サンに対して暴力を振るっている姿はただのDV野郎でしか無いとは思うのだが、彼は他の様に気にしないのだろうか? 

 そう思っていると、

 

「弘原海さ、小大のこと嫌って……というか怖がってない? よく分からないけど、見ているとなーんか違和感があるんだよね」

 

 うーん? と唸る彼の姿は正しく救世主に他ならない。

 マジでか吹出クン……! 見たままで判断せずに、どうしてそうしているかを考えているとは……! オレの真の友達は、どうやら君だった様だ!! 

 

「と言うか皆弘原海のこと妬んでるけど、それって自分がモテてないこと教えてるだけだよな。もっと大人になればいいのに、余裕無さすぎない? 流石に」

 

吹出(アイツ)も殺すぞ』

『『『イエッサー』』』

 

 勘違いだったらしい。さては敵だなオメー。

 

「で、どうする? あと1人は必要だけど」

「吹出クンのお陰で壊滅的に困難になったスけどね」

 

 しかしどうするか。ルール上、騎馬と騎手は最低3人でないといけないのだ。頑張れば、肩車の要領で彼を騎手にしてオレがフィールドを駆け回ることも出来なくはないものの–––

 

「ん」

「ヒェッ(即死)」

「え待って、そんな真っ白になる程なの?」

 

 背後から発せられた声に思わず心配停止に陥ったオレ。それを見ていた彼の吹き出し(表情)は「!?」マークになるが、小大サンの本性を知っている身としては当たり前の反応である。

 と言うか何でこっちに来た。拳藤サンたちは何をやってるんだ、目ぇ離しちゃダメでしょ! 

 

『–––さあ、もうすぐ試合開始よ! 準備はいいかしら!?』

 

 審判のミッドナイト先生が無慈悲に試合開始迄のカウントダウンを始めてしまう。既に組み分けが終わっている他のチームから誰かを引き抜くのは不可能だろう、つまり、この面子で戦わなくてはならない。

 

「どうする、このままやるか?」

「〜〜〜ッ。仕方がない、やるっきゃないでしょもう!」

 

 メチャクチャ嫌だけどな! 

 

「にしても、見事に非戦闘向きで固まっちゃったな」

「ね」

「……弘原海、何か作戦は有る?」

 

 吹出クンの言う通り、サイズ変更をする対象がこの場に無い小大サンはもちろん、オレも戦闘向きの個性とは到底言えないだろう。だが、あくまでこれは騎馬戦だ。ハチマキを取ることが目的であるのならば、オレは兎も角、2人の個性はかなり強い。

 

「ええと、そうですね–––」

『位置につきなさい! 第2種目開始するわよ!!』

「–––––て言う作戦どうッスか?!」

 

 ミッドナイト先生が合図代わりに鞭を鳴らす中、騎馬役と騎手を決めながら2人に作戦内容を伝えるも、あまり良い返事は貰えなかった。

 

「それ、今以上にヘイト集まりそうじゃない?」

「ん……」

「あ、あれ? 皆の個性を最大限活かしたいい作戦だと思ったのに……!?」

 

 予想外に難色を示す2人に困惑する。

 ……いや小大サン、少なくともヘイトの根源であるあんたはその反応はしちゃダメだからな? 

 

「まぁいい、やろう! どうせなら1位を目指そうぜ2人とも!」

「ん!」

「もちろん!」

 

 先頭騎馬の吹出クンに、騎手の小大サンと並んで声を返す。

 さぁいよいよ–––騎馬戦、開幕だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……おい騎手(小大サン)尻を振るな。




年末は忙しいんじゃー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外編】TS淫魔「それでもオレは、ヤってない(白目)」

久しぶりやでー(Tofu)





「……あぁは〜ン?」

 

 誰に聞かせるでもなく似非外国人じみた声を漏らしたのは、どこか爬虫類を連想させる三白眼が特徴の少女、取蔭 切奈だ。

 通路の角から僅かに顔を覗かせ、気分はさながら家政婦は見たである。

 

 彼女の視線の先。そこには2人のクラスメートが居た。

 

 1人は頭部に双角を生やした小柄な少女。ヒーローの本場・アメリカからの留学生、角取 ポニーである。

 もう一方は、個性のおかげで–––どちらかと言えば悪い意味で–––話題に事欠かない、弘原海(わたつみ) ありす。クラスからの認識が最近あやふやになりつつあるが、一応男である。

 

 

 

『……–––、–––』

『–––…………。–––、……–––?』

『–––––、–––……』

 

 

 

 距離が離れている為に2人が何を話しているかは分からないものの、その様子はしっかりと確認可能だ。

 俯き加減で話す角取に、何か確認を取る様な仕草をした弘原海。に、彼女の顔は仄かに赤く染まり出し、モジモジと体を動かしてから–––小さく首を縦に振った。それを見た弘原海は少し困った表情で笑いつつ、揃ってどこかへと移動を開始する。

 

「こいつは面白くなってきたじゃん……!」

 

 主に、何かしらを恥じらっていた角取の様子に彼女の中の()()()()が大きく反応。これを逃すだなんてとんでもないとばかり、取蔭は個性を発動した。

 

 〝個性〟「トカゲのしっぽ切り」

 

 自分の体を細かく分割、且つ、その部位を自由自在に操ることが出来る彼女は、2人に気付かれることなく追跡を開始する。

 そうして訪れたのは仮眠室。彼らが入室したのを物陰から見届けてから、取蔭はドアの前へと移動。にししし、と笑いながら聞き耳を立て–––

 

 

 

『–––こんなビッグなものが、今から私のナカに……!』

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––ァゥ……、自分で広げて見せますカ……? 恥ずかしいデス……』

 

 

 

「(ぬぅおああああ!!)」

 

 

 

『–––あ、アっ! は、入って来て……ンン!』

 

 

 

「(ふんぐうううう!!)」

「……え、何やってんの?」

 

 鍵がかけられた仮眠室のドアの前で孤軍奮闘を見せていた取蔭。そんな彼女の元に現れたのは、駄弁り仲間の柳 レイ子であった。

 若干引き気味で訪ねた柳だが、悠長に事情を説明している暇は無い。

 

「(手伝って、早く!)」

「……なんで小声?」

「(んぎぎぎぎぎ!!!)」

 

 首を傾げる柳だが、取蔭の様子から只事では無いと感じたのだろう。ぴたり、と彼女はドアに耳を貼り付けた。

 

 

 

『–––そ、そこダメです弘原海サ、ぁん……! お、奥に……奥に当たってまひゅぅ……♡』

 

 

 

「(ポニイィィイイイイイイイ!!)」

「(弘原海オマエええええッ!!)」

 

 中から聞こえたクラスメートの艶を帯びた声に一切合切を理解した彼女は取蔭に倣いドアをこじ開けようと取っ手に指をかけ、それだけでは足りないと個性の「ポルターガイスト」も発動する。

 花も恥じらう女子高生とは言えど、2人はヒーロー科の生徒。詰めに詰め込まれた訓練の日々を過ごす彼女らにより、次第に仮眠室のドアが軋んだ音を発し始めた。

 

 

 

『–––で、デる!? あン♡! あぅ、デちゃうんですか……♡!?』

 

 

 

「「((させるかああああっ!!))」」

 

 –––ギッ、と。憤怒に駆られた乙女たちによって嫌な音が発せられる。

 

 

 

『–––……? なんか外が騒がし–––』

 

 

 

 不意に聞こえた角取の喘ぎとは別の声。

 同時に開け放たれる–––否、吹き飛ばされる仮眠室のドア。

 

 

「「弘原海ィアッ!!!」」

「?! キャァアァアアアっ!?」

「っ()ネェア–––––ッ!!?」

 

 放たれた怒号に悲鳴が返される。

 取蔭と柳の2人の視線の先、備えられたソファの上に彼女は居た。

 

 

 

 

 

 ……耳かき棒を持った弘原海に膝枕された状態で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弘原海サァン。ナニ、聞いてマスカー?」

 

 ある日のこと。重力に逆らわず机に身を任せイヤホンから聞こえる音に意識を集中していると、肩をトントンと叩かれる。イヤホンを外しながらそちらを見れば、角取サンが興味深そうにこちらを見ていた。

 

「ああ、コレですか? 耳かき動画……ええっと何だっけ。ASMR(アスマー)? ってやつです」

 

 Autonomous Sensory Meridian Response. 縮めてASMRと表記されることが多い。

 簡単に説明すると、何がしかの音で聴覚を刺激された時に脳が感じる快感のことだ。今オレが聞いていたのはひたすら耳かき音をループ再生したものである。

 

 この緊張(ゴリゴリ)感……たまらねぇぜ(K1)。

 

 さて。そんなオレの説明を聞いた角取サンであるが、何やら神妙な表情で「oh……」と呟いていた。どうしたのだろう? 

 

「弘原海サァン、ショージキに答えてくだサイ。……さもなくば命はありまセーン」

 

 オレは一体何をされるのだろうか。

 

「–––アノー……。耳かき、は()()()()のデスカー?」

「? まぁ、個人差はあるでしょうけど……。大抵はスッキリして気持ちが良いと思いますよ。これはあくまで音だけッスけど」

「Hmm……」

 

 オレの返答に唸る彼女。その意図が読めず首を傾げたオレに、角取サンが説明をする。

 彼女の地元–––或いは、欧米–––では耳かきをあまりしないんだそうだ。何でも、炎症等を懸念して医者があまり推奨しておらず、角取サンにとっては『耳かき=医療行為』に似た方程式となっているらしい。

 国が違えば文化も違うと言うやつだろうか。

 

 その後、日本人も実際はやり過ぎらしいなどの会話を交わし–––そんな会話もしたなあ、と思える程度に日数が経過した頃だ。

 

「わ、弘原海サァン……」

 

 廊下にて、雑踏に紛れて聞こえた自分を呼ぶ声に振り向くと、そこには角取サン–––なのだが、何だか様子がおかしい。

 顔はほんのりと赤く、何だかモジモジと体を忙しなく動かしている。具合でも悪いのかと心配するも違うらしく、一体どうしたのだろうと思った時だった。

 

「……アノ! 耳かきヲ、してくれまセンカーっ?」

 

 ……話はこうである。

 

 角取サン自身元々耳かきに興味(関心?)はあったのだが、いきなり未経験の自分でするのは恐ろしい。が、一度くらいは経験してみたい……と悶々としていたところ先日の会話が有り、思い切ってオレに頼んだとのことだ。

 

「いや、オレじゃなくて拳藤サンとかに頼んだ方が良いんじゃ……」

「は、恥ずかしくてお願い出来ないデース!」

(よく分からん)

 

 確かにオレは異形型の(女体化する)個性だが一応男である。間違いを起こすつもりが無いとは言え、その辺、彼女はしっかり考えているのだろうか……。

 クラスメートからの認識に不安を覚えるところだ。

 

 そんなことを考えつつ「あれ、でも耳かき棒……?」「買って用意あるマス!! (集中線)」角取サンと仮眠室へ。保健室も考えたがわざわざ耳かきの為に使用許可を貰うのもなぁ。

 取り敢えず、先にソファに腰掛け膝に頭を預けてもらう様に促す。

 

「フツツカモノですが、よろしくお願いしマース!」

 

 期待と不安からか奇っ怪なことを言う角取サンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––そんな感じに現在(いま)に至る。

 

「うん。なんかゴメン」

 

 オレの説明を一通り聞き終えると、取蔭サンが気まずそうに言葉を漏らした。2人はオレと角取サンの対面のソファに座ってこちらを見ている。

 いや、別に彼女は悪くない。あんなピンク一色の声を出されたら誰だって勘違いするはずだ。

 

「–––あー……。そ、それじゃあ反対側……入口の所からやっていきますね〜……」

「ォ、お願いしま–––あひぃ♡」

 

 そしてそれをこれから目の前で実践しなくてはいけないんだよなぁ……。

 本音を言えば辞退したい気持ちでいっぱいである。しかし、オレの腹を見る形で頭を預けている角取サンに腰を掴まれているので、辞めるに辞められないのだ。絶対に離さないと言う強い意志を感じる……! 

 

 一体何が彼女をそうさせるのだろうか。戦慄しつつ、耳かき棒を動かす。

 先ずは入口の細かなものを剥がし取り、そこから段々と奥の方を目指して進めていく。角取サン曰くちゃんとした耳かき自体は今回が初めてらしいが、ドライタイプの耳垢が薄く瘡蓋(かさぶた)の様に張り付いているだけで、そこまで目立って汚い訳ではない。ないのだが……。

 

 

 

「ふぅっ、ふうぅ〜……っ! あ、あァ……。–––ッあ!」

 

 

 

 うん、キツい。

 耳垢を剥がす度に体をビクビクと震わせ艶かしい声を吐き出す角取サンに、オレが今しているのは本当に耳かきなのだろうかと疑問に思ってしまう。

 

 耳かきとは、一体? うごごご……! 

 

「……」

「……」

 

 –––何がキツいって、角取サンの喘ぎ声もそうだが取蔭サンと柳サンからの視線が兎に角キツい。そちらを見なくとも分かる冷ややかなそれに、全身がじっとりと嫌な熱を持ち始めた。

 は、早いとこ終わらせよう。これ以上はオレの精神が持たない。

 

「お、奥に大きいの有るので〜……。痛かったら言ってくださぁい……」

 

 粗方細かなものを取り終えたところで、一際大きな耳垢を発見。これさえ取って終えば後は問題無いと思われる。そういう訳で早速–––怪我をさせない様に慎重に–––対象を剥がし取る作業を始めた。

 ゆっくりと耳かき棒が耳奥に入って行き–––その先端が、耳垢の裏側を捉えたところで一息に掻く。

 

 –––かりっ。

 

「お゛っ♡」

 

  止 め て く ん な い 。

 

 到底、女の子がしてはいけない低く野太い声に、オレは自分の感情をひたすら殺すことに専念した。

 耳かきをするだけの機械と化したオレに対し角取サンもこれ以上だらし無い声を出すまいと、強く、強く歯を食いしばり始める。

 段々と吐息の熱で腹部に湿っぽさを覚え始めた頃、短い様で途方も無く長かった耳かきを終えることが出来た。

 

 本当に長かった……。途中から無間地獄かと錯覚していたレベルである。

 

「あ……。はァ、う…………」

「……ポニー?」

「……ド、る……ズ……」

 

 恐らく「Don't look at me, please.(私を見ないで下さい)」みたいなことを言っているんだろうけど、オレの膝の上で蕩け切った表情で喘ぐばかりであり、柳サンの問いかけにはまともに答えられないでいた。

 

「……」

「……」

「……」

 

 対面に座る2人の視線から逃れようと顔を下に向けるも今度は恍惚の表情を晒す角取サンと目が合ってしまい、忙しなく顔と視線を動かし続けること暫く。取蔭サンが徐に立ち上がり–––

 

「………………先生呼んで来る」

「待って違うから! お願いだから待って!」

 

 慌てて取蔭サンに制止の声を発するも、まるで汚物を見る様な目を向けられる。

 

「何が違うんだよこの変態! 個性使ってまで女子にやらしいことするフツー!? レイ子、個性(ポルターガイスト)で金縛っといて!」

「ち、違うもん! 個性使ってないもん!!」

 

 言い訳無用! と、取蔭サンと討論を交わしていると、ふと、柳サンが控えめに挙手をした。一旦中止してそちらを見る。

 

「……豆知識。人は(くすぐ)ったさを感じる部位を、性感帯として()()が可能……」

「突然ナニ言い出すんだアンタは」

「良いから、最後まで聞いて……。–––で、擽ったい≒神経が多く通っている、或いは敏感。……元々耳には神経が多いし、その中には性に密接に関わるものもあるって……聞いたことがある」

「……つまり?」

 

 取蔭サンに先を促され、柳サンは続ける。

 

「ポニーは私たちと違って今日が初めての耳かきらしいし、慣れていなかったせいで過敏な反応を見せた……ってことだと思う」

 

 彼女の説明を聞いても、取蔭サンは微妙な反応でこちらを見る。いや、気持ちはわかるけどさ……。

 

「–––と言うわけで、弘原海。私も耳かきして……」

「「ゔぇっ!?」」

 

 突然の柳サンに思わず取蔭サンと山羊の様な声を出してしまう。

 

「これで私が平気だったら、弘原海の無実が証明されるでしょう……? –––後、丁度、耳が痒いから……」

 

 そう言いながらふよふよと漂う彼女は角取サンを退け、「よろしくー」と一言添えてから自身の頭をオレの膝に乗せて来た。彼女の提案は有難いが、本当に良いのだろうか……。

 

 不安に思いつつ、取蔭サンに睨まれながらオレは耳かき棒を柳サンの耳へと–––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––数分後。

 

 

 

 

 

「–––、へひぃっ♡! ほお゛ぉ〜……っ♡♡♡!!」

 

 

 

 

 

 –––そこにはすっかり出来上がった柳サンの姿が有った。

 

「お前は耳かきに媚薬でも塗ってんのかああああああああああああっっっ!!!!」

「叫びたいのはこっちの方じゃボゲェえええええええええええいっっっっ!!!!」

 

 何、本当に何なの!? 何か仕込まれてるこの耳かき棒!? 

 

 未だ蕩けている角取サンと、びっくんびっくん(主に腰の)痙攣を繰り返す柳サン。変わり果ててしまった姿のクラスメート2人だが、どちらもオレが生み出したと思うと背筋に寒気を感じずには入られない。

 

「今度と言う今度は許さないからね! ホラ、キリキリ歩く!」

「くそぅ、冤罪だ! オレは何もしていないのに……!」

「黙って歩け!」

 

 取蔭サンは制服の上着を突然脱いだかと思えば、個性により分離した両手を駆使し、脱いだ上着でオレの両腕を拘束する。昨日授業で学んだばかりの『身近なもので行う(ヴィラン)の捕縛方法』をこんなところで実際に体験する羽目になるとは、一体誰が予測できようか。

 

 新世界の神を目指した全国模試1位よろしく粉☆バナナと叫ぶも、オレを連行する取蔭サンは既に聞く耳持たず。

 そのまま彼女に引き摺られ、仮眠室を後にした。

 

「アゥ……。Just a moment–––待ってください、デース……」

 

 –––の前に、角取サンが立ちはだかったことでそれは遮られる。

 

 頬は上気し、整っていた金髪は汗で肌に張り付き、内股の脚は細く震え、とろんと潤んだ瞳は虚空を覗いていた。

 正常な状態でないことは誰が見ても明らかであるが、そんな状態でも彼女は言葉を紡いでいく。

 

「ワタ、ツミ……サァンは、悪くありまセーン……」

 

 角取サン……! 

 オレは思わず声を零し–––

 

「むしろぉ–––えへっ! こんな()()()()ことを教えてくれマァシタ……。切奈サァンも、ほら、ほらぁ……♡!」

「正直に言って弘原海。今ならまだギリで許せるから」

「分かりました、正直に言うッス。メチャ怖い」

 

 口の端から涎をだらしなく垂らし、アヘアヘしながらこちらに近づく様は下手なホラー映画を遥かに上回る恐怖を与えて来た。取蔭サンと2人揃って、じりじりと後退を始める。

 

 –––ガシッ! 

 

 ……と、突然そんな音と一緒になって両足に何かが纏わり付いた。

 

「ぴゃいぃっ!?」

 

 慌てて足下に視線を移せば、自分の口からは甲高く情けない悲鳴が漏れる。

 

 そこには–––ある意味予想通りに–––柳サンが居た。双眸とその口を、きゅうと音が聞こえそうな程に三日月状に歪ませて。

 恐らくこれがホラー映画であれば次の瞬間には暗闇か水中の中にオレは引き摺り込まれていただろう。

 

 そう思わせるだけの気迫を顔面に張り付かせている柳サンは、目にも留まらぬ速さでオレの体を駆け上って来た。

 アナコンダかな? 

 

「いひっ、いひひ……っ! 1人だけ……仲間外れは、可哀想だもんね〜……。–––ね。切奈も()として上げてよ、弘原海のぉ、超絶(スゴ)テ・ク・で♡」

 

 どうしよう、オレがとんでもない屑野郎に聞こえる。

 

 蛇の様に絡み付きながらそんなことを宣う柳サンだが、反論をする前に彼女の個性によって身動きを取れなくされてしまった。取蔭サンの方を見れば、彼女は彼女でオレの様に角取サンに絡み付かれながら、個性の(ホーン)(ほう)に翻弄されている。

 

「あでっ!!」

「ぎゃっ?!」

 

 4人で揉みくちゃになりながら、半ば叩き付けられる形でソファに追い込まれたオレは、最終的に2人にした時と同様、取蔭サンに膝枕をする形となった。

 

「く、くそ! こんな所に居られるか! 私は部屋に帰る–––って、だだだだだ!? 痛い痛い痛いたいたいたいたいぃ!!?」

 

 ポルターガイストで体の動きを封じられているオレの所為で抑えられている頭だけを残し、首から下を離脱させた取蔭サンであったが、超反応を見せた角取サンにマーシャルアーツを極められ、痛みに悶えている隙に柳サンに追撃を仕掛けられ……。

 

 ……あの、すいません。さっきから2人が人間離れした動きをしているとか突っ込む所は多々有るんですが取り敢えず、クラスメートの生首を抱えている絵面が猟奇的過ぎるんでどうにかしてもらえないでしょうか。

 

「–––えぇい、こうなったらさっさと終わらせる!」

 

 動こうにもギチギチと音を鳴らすだけに終わったオレは意を決し、しかし膝上の取蔭サン(頭)は「はぁ!?」と–––まぁ、当たり前だが声を荒げる。

 

「や、止めろこの変態! そんなことさせるわけないでしょ!?」

「オレは何もしてない、信じてくれ!」

「2人のことあんな風にしといて–––」

「デュラ蔭サン!」

「デュラ蔭!?」

 

 思わず飛び出した奇妙な単語に驚くが、オレの真剣な眼差しに彼女も覚悟を決めてくれたらしい。

 分かった、と、短く頭につけてから。

 

「……弘原海を信じる。なんで2人がああなったかは分からないけど……ホントにただの耳かきなんでしょ? だったら何にも問題無

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぎゅううう♡♡ へっ、ほへっ♡ ……ぉお゛♡♡! おねが、もう抜い……くひぃっ♡♡!? やめ゛ッ! あだまお゛がぢぐなる゛♡♡!! ほぉ、っおおお゛おお゛お゛お♡♡♡!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––て言うことがあった」

「お、おう」

 

 オレが吐露した先日の出来事に、吹出クンは微妙な反応を示した。

 

 

 

 

 

 

 因みに視界の端では件の3人組がこちらに熱っぽい視線を向けている。

 ……その手に耳かき棒を持って。




4ヶ月経っての投稿にヒロインが登場しないっていう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外編】TS淫魔「(´・ω・`)」

投稿が遅れた上に、こんな酷い出来具合となってしまい申し訳ない…。



脳姦編、前編となります。それではどうぞ。


 突然のことだった。予兆も前触れも無く、ある日を境に世界は一変してしまった。

 

 今となっては思い出せない、日常会話の何かをきっかけに個性(サキュバス)を発動しソレを目にした瞬間、激しい恐怖と混乱に襲われる。呼吸は乱れ、身体は震え、ドクドクと激しく脈打つ心臓に反比例し、体温は氷の様に冷えていく。

 

弘原海(わたつみ)?」

 

 オレの異変に気付き、それまで駄弁っていた鱗クンが訝しげに声をかけて来た。–––一歩後退り、オレは彼から距離を取る。

 

「んぁ? どした?」

「む。弘原海、顔色が悪いようだが」

「何だァ?」

 

 鱗クンに続き、円場クンが。庄田クンが。鎌切クンが。

 彼らが順に声を発する度、恐怖で引き攣った声をか細く漏らしながらオレは、一歩、また一歩と後退る。

 いよいよ様子がおかしいと悟った鱗クンがこちらに近づいて–––それが引き金となり、オレの精神は遂に限界を迎えてしまう。

 

 

 

 

 

 何度も心中で自分に言い聞かせた。

 見間違いだと、何かの間違いだと。だって彼らは友達なのだから。友達なのだから、決して()()()()()をする筈がないのだと–––。

 そんなオレを嘲笑うかの様に、しかし現実はソレを突き付けた。

 

 

 

 

 

 *鱗 飛竜–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––––オカズカウント(オレをオカズにした回数):2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デャァアッス‼︎ ダァシェリァアアッス‼︎‼︎

 

 

 

 

 

 

 奇声を上げながら清掃用具ロッカーに額を打ち付け始めたオレに、周囲からは恐怖から来る悲鳴と混乱した声が発せられる。

 

「ひぃ、何やってんだ弘原海!」

 *円場 硬成・オカズカウント:5*

 

「ち、血が出ている! それ以上はいけない、止めるんだ!」

 *庄田 二連撃・オカズカウント:2*

 

「オイィ、何してンだやめろォッ!」

 *鎌切 尖・オカズカウント:3*

 

「ン゛ーッ!! んン゛ーッ!!」

 

 周りから止めろと言われるが止めて欲しいのはこちらの方である。

 

 なんだオカズカウントって馬鹿じゃないの!? クラスメートで致すなよ、っていうか個性発動してない時普通にオレ男だぞ!?

 

 ガンガンと激音が鳴るに連れ足下には額から滴る血で赤い水溜りが出来始め、その頃にトドメの一撃が放たれる。

 

「ん!」

 *小大 唯・オカズカウント:458

 

「アンタに至っては何なんだァああああッ!!!」

「ん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先日はどうもすいませんでした。いや、ほんと…」

 

 あれから数日経った現在、オレは先日の奇行について一人一人に謝罪を述べている。一通り終え、今は最後の2人である拳藤サンと塩崎サンたちであり、彼女たちにもこれまで通りに「クトゥルフのやり過ぎによるリアルSAN値直葬による奇行」と説明を行った。

 …自分でも何ともふざけた理由だとは思っているが、こんな感じであっても今の所、全員納得してくれている。

 

「いややり過ぎたからってああはならな」

「君のような勘の良い委員長は嫌いだよ」

「アッハイ」

 

 納得してくれている。

 

 …はぁ、と小さく溜息を発しながらオレは教室の隅へと視線を向けた。そこではオレの頭突きによって凹んでしまったロッカーの扉を、泡瀬クンと凡戸クン(プラモ好き)の2人がトンテンカンテンと修理作業を行ってくれている。…その姿を視界に入れながら、個性を発動。

 

 

 

 *泡瀬 洋雪・オカズカウント:4*

 *凡戸 固次郎・オカズカウント:1*

 

 

 

 …はぁ。と、再度溜息。オレのその様子を見て、塩崎サンが控え目に手を挙げつつ「どうされましたか」と訊ねて来るも、オレは彼女に何も答えることは出来ない。どうしたもこうしたも無い…と語れたらどれだけ楽だろうか。

 

 〝個性〟「サキュバス」

 他人のエロステータスの視覚化や、自身の肉体を絵に描いた様なドスケベボディにするなどの性的な能力に特化したこの個性。真面目であったり、普段のほほんとしている庄田クンや凡戸クン…あまり()()()()()()()()()が湧かない人物でも致す程度には影響力が強い。

 オレ本人としては異性の物だろうがドスケベボディだろうが、所詮『自分の身体』でしかないのでどうとも思わないのだが…。

 

 だがしかし、そう思っていても現にこうして影響が–––いや、寧ろこれは既に被害と言えるだろう。ある程度慣れてきたとは言え、年頃の男子高校生にとってこの肉体美はやはりキツイ。

 早急な対応が必要だ。

 

「あー…。時にお2人方。少し質問と言うか相談なんですが、ちょっとイメチェンをしたいと思ってるんですけど、どう言うことから始めれば良いとかって分かりますかね…?」

 

 さてさて。人は第一印象が重要とされるが、服装であったり髪型などの変更で、その印象はある程度の操作が可能である。…なのだが、残念ながらオレはそう言ったことに疎く、精々ポニーテールにするのが関の山。

 なので、そう言ったことには強いであろう女子からアドバイスを頂こうと言う考えである。

 

 どうすればいいだろうかと訊くオレに対し、塩崎サンが訊ねて来た。

 

「具体的にはどの様にイメージチェンジを行おうと考えていらっしゃいますか? それによっては、対応も変わって来ますが…」

 

 ふむ、と彼女の言葉に思考する。

 兎にも角にもエロくないことが目標だ。それこそ正に–––

 

「–––えぇっと、そう。取り敢えず清楚っぽく…」

 

 

 

 

 

 *欲求:「「「そのおっぱいで清楚は無理でしょ」」」*

 

 

 

 

 

 オレが言った瞬間目前の2人どころかクラス中の欲求(心の声)が一致した訳だが、キレてないッスよ?

 

 努めて笑顔を意識するも、ビキビキと言う蟀谷(こめかみ)からの音は自分でも分かってしまう位には酷かった。

 そんなオレの様子から何かを察したらしく、少々引き攣った表情で拳藤サンが言う。

 

「あ、あー! 清楚、清楚ね! そういうことなら、唯がぴった」

「あんなエロ同人の竿役(ゴブリンとかオーク)みてーな奴を清楚とか頭おかしいのか」

「弘原海の唯に対するその評価は何なの!?」

 

 思わずと言った具合に拳藤サンはそう叫ぶのだが…。いやだって、ねぇ?

 ちらり、とオレは件の小大サンへと視線を移す。

 

 

 

 

 

 *欲求:「そんな、いきなり言葉攻めだなんて……っ。だ、だめ! 皆が居るのに……っ! ひぐぅッ♡!」*

 

 

 

 

 

(近寄らんどこ)

 

 と、表情をピクリとも動かすこと無く心中でアヘアヘしている彼女に戦慄している時だった。

 フ…と、教室が暗闇に包まれ、突然のことにざわめきが生まれる。何だ何だと混乱していると–––音を立てて教室のドアが開かれた。注がれた全員の視線の先、そこに居たのは…。

 

「–––話は聞かせてもらったわ!」

 

 そこには、柱の男たちを連想させるポージングをとったミッドナイト先生・取蔭サン・小森サンが–––それぞれの手にヘアスプレーやメイクブラシを持ち、光に照らされて立っていた。

 

 ………暗幕とスポットライト、どこから持ってきたんだろう。

 

「イメチェン–––ってことなら、ミッドナイト先生は勿論、あの2人は…とっても心強いよ」

 

 変な物を見る目を3人に向けていると、突然後方から声をかけられた。ビクッとしながらそちらを見ればそこには柳サンが居り、手にしたスマホの画像をこちらに見せてくれる。拳藤サンや塩崎サンたちと共に、何だろうかと覗き込む。

 

「ホラ。私服の2人」

「うわっ、めっちゃ気合入ってる」

「まぁ、これは…凄いですね」

「おおぉ…。黒色クンとか鎌切クンみたいッスね」

「えっ、あの2人こんな感じなの? 見たい見たい」

「ちょっと待ってください。…えぇっと、あった」

「え、凄い…」

「この前街中で見かけて、思わず撮っちゃったスね。…これはあれですか? バンド系ってやつですかね」

「いやぁ、これは…ビジュアル系だと思うよ」

「なるほど」

「普通にかっこいいな黒色…」

 

 そんなやり取りを挟みつつ。

 

「そういう訳だから、あの3人にしてもらうと良いと思うよ。–––あと弘原海、耳かき()て?」

「断る(鋼の意思)」

 

 トロ顔で耳かき棒を取り出した柳サンは、とても残念そうな顔で「そう…」と呟き、ふよふよとどこかへ漂って行った。

 そのタイミングで、オレは(未だポーズを取っていた)3人へと近づく。

 

「あー、それじゃあ、よろしくお願いします…?」

「善は急げって言うしねー! ホラホラ早速するよ、ホラホラ! 今なら向こうの空き教室使えるからホラ!」

「いやぁ〜、弘原海がぁ〜どうしてもって言うから〜さぁ〜! 仕方なぁ〜く、そう、仕方なぁ〜く! –––ほら早くするノコ!」

「さぁさぁいらっしゃいな! 安心して、優しくするから!」

 

 …もしかしたら彼女たちはオレで遊びたかっただけだったのではなかろうか。そう思いながら、よいさよいさとまるで祭りの神輿の様に3人に運ばれ教室を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先ずはメイクからするノコー♪ …何だこのモチモチスベスベはぁーッ!』

『いや、そういう個性だし』

『んじゃ次は髪型をー♪ …何だこのサラサラツヤツヤはぁーッ!』

『いやだから、そういう個性だし』

『…因みに弘原海君、カップって幾つかしら?』

『…○姉妹(Qカップ)ッスね』

『『『………なん…だと……ッ!?』』』

『いやあの、個性でだからね??』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––そんなことがあり、十数分後。

 

「これが…(オレ)…?」

 

 用意された鏡に映る自分を見て、思わずそんな言葉が零れ出る。その程度にはオレの雰囲気は何時もと異なっていた。

 

「どんなもんよー!」

「会心の出来栄エノキー!」

 

 やり切った表情を見せる取蔭サンたちだが、確かに普段のオレとは比べ物にならない程ガラリと印象が変わっている。

 

 

 

 小森サンに…こう、なんかナチュラルだかパーティクルだかのメイクを受け、全体的に明るく清涼感溢れる感じに仕上げてもらい。

 取蔭サンに髪型を、パーマをかけたわけではないのだが何と言うかふわぁ〜っとした感じにどうにかしてもらい。

 最後にミッドナイト先生が用意した水色のワンピースだとかブーツサンダル? で仕上げてもらい…何かこう、こう。(語彙力)

 

 

 

 兎に角、要望通り…いやそれ以上に清楚且つ爽やかに仕上げてもらったオレは暫く鏡に釘付けとなってしまい、その様子を見ていたミッドナイト先生は頬に手をあてがいながら。

 

「本当なら化粧のやり方だとか教えてあげたいんだけどね、貴方一応男だから…」

「…うーん。でもここまで印象操作出来るなら、ちょっとこれからやってみようかなぁ…」

「その言い方止めて弘原海」

「印象操作て」

 

 そんな会話を行いながら、オレたちはB組の教室へと戻る。

 部屋へ入るなり、オレを見たクラスメートたちは感嘆の声を発していった。

 

「「「おおー…」」」

 

 その反応に少々照れつつ、髪をかき上げて耳に掛けて見せる。

 

「「「おおーっ」」」

 

 少し大きくなった周囲の声を聞き、今度はその場でくるりと回転。ふわりとワンピースが舞い上がった。

 

「「「おおー!」」」

 

 パチパチと拍手を交えつつ周囲から笑顔を向けられ、気分はさながら新世紀の少年である。

 十分に視線が注がれる中、仕上げとばかり、オレはその場で小さく跳躍を行った。

 

 

 

 –––ぽいんっ、と言った具合に胸が弾み、視線を向けていた男子諸君の頭もぽいんと縦に連動して動く。

 

 

 

「き、気にしないで弘原海!」

「弘原海は悪くないよ、大丈夫!」

 

 彼らの反応に思わず両手で顔を覆いその場に蹲ってしまい、そんなオレを慌てた様子で小森サンたちが慰めてくれる。尽力してもらったと言うのにこんな結果となってしまい、彼女たちには申し訳無さでいっぱいである。

 

 やはり胸か、胸なのか…ッ! 3桁超えの癖に重力に逆らって綺麗な球なのは自分でも凄いとは思うけども、そんな露骨に見られていたか…ッ!!

 

 禍々しいオーラを放ちながら蔓を蠢かす塩崎サンに怯える男子+α(と小大サン)を見ながら、よろよろと力無く立ち上がる。

 ふぅむ。一体全体どうしたものか…。

 

「個性でどうにか出来ないかなぁー…」

「いや個性の所為でこうなってんでしょ?」

 

 思わず呟いたオレの言葉に、取蔭サンが反射的に口に出す。まぁ彼女の言う通り、個性の所為なのだが。

 うーんと唸り続けるオレを余所に、側では小森サンたちがオレの個性についての会話を広げていく。

 

「弘原海の個性って異形型?」

「増強でしょ? 異形だったら常時女になってる訳だし」

 

 小森サンの疑問に取蔭サンが答えるが、残念ながら不正解だ。少々特殊であるがサキュバスはあくまで異形ベースの個性であり、その証拠にサキュバス状態でA組の相澤先生の「抹消」を受けても、男に戻ったりはしなかったりする。

 異形型ベースの増強、と言えば分かりやすいだろうか。

 

「変身すると何が出来るんだっけ」

「えーと、声で相手の動きを止めたり…?」

 

 取蔭サンの疑問に今度は小森サンが答えるも、他に何かあっただろうかとこちらに視線を寄越したのが気配で伝わって来たので、そちらを見る。

 

「–––他には睡眠ガスの生成だとか、媚薬の分泌とかッスかね。基本的には肉体改造する個性で–––」

 

 

 

 

 

 –––––(´・ω・`)?

 

 

 

 

 

 –––教室の空気が固まった。オレが媚薬と言ったから–––ではない。

 …………ちょっと待とう。何だ、今の自分の発言に途轍もなく違和感を感じるぞ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––他には催眠ガスの生成だとか、媚薬の分泌とかッスかね。基本的には()()()()する個性で–––』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––ねぇ弘原海」

「言うな…」

「弘原海、ねぇって」

「何も言うな…!」

 

 自分のアホさ加減に呆れ果てているオレに、心底不思議そうな表情で彼女らは言う。

 

「「よく分かんないけどその肉体改造でどうにかすれば良いんじゃないの…?」」

 

 口から波動砲じみた咆哮を放つことをやっとの思いでオレは堪えた。

 

 馬鹿! ほんともう、馬鹿! 何だオレの頭は飾りで空っぽなのか!? 受け継いだとは言え今はもう自分の個性なんだぞ!!?

 

 怒りで顔を真っ赤にするオレを、とても残念な物に対する目で見つめる周囲。そんな中でオレは両手をその豊満な乳房へとあてがった。

 

「フンッッッ!!」

 

 力任せに手を押し込むや否や、ボンッと音を立ててあんなに大きかったオレの胸は多少の膨らみを残し跡形も無く消え去る。–––そしてそれと同時に男子が膝から崩れ落ちた。

 

 

 

『そんな、嘘だこんなこと…!』

『神よ、俺が一体何をした! 何故こんな非道な仕打ちを…!』

『明日からどうやって生きていけば…!?』

『へ、へへ…! ドジっちまった…! 悪いお前ら、先に逝ってる、ぜ……』

『馬鹿野郎、お前1人で逝かせるかよ…ッ』

『俺たち、友達、だろ…?』

 

 

 

 なにやら熱い友情ドラマが繰り広げられているが、知ったことではない。

 

 

 

 *欲求:「明日からどうやってイキていけば…!?」*

 

 

 

 男子に混じって小大サンもなにやらほざいているが、知 っ た こ と で は な い 。

 

「よし、成功!」

「そんなこと出来るんだったら最初からしろよ!?」

「うるせえそんなのオレが一番思ってんだよ! –––召喚(サモン)吹出 漫我(コミックマスター)!」

 

 呆れながら言う拳藤サンに怒鳴り返しながら友人の名を呼ぶと、頭部が吹き出しとなった男子生徒が「しゅた!」と声に出しつつ側に訪れる。

 男子でありながら *カウント:0* の表記を頭上に持っている彼は数少ない頼れる同性だ。…一応先に断っておくと、別に性欲が無いわけじゃなく、あくまで吹出クンの場合全て創作意欲(スケッチブック)の方に向いているだけである。

 

「スマン吹出クン! ボーイッシュ + メガネ + スレンダーで参考画像を頼む!」

「\ボクニマカセテ!/」

「御三方! オレの変態が終了次第今のラインナップに合わせたコーディネートをお願いします!」

「大船に乗ったつもりでいなさい!」

「「おっしゃ任せろー!」」

 

 その後も胸に続き、吹出クンが用意してくれた画像を参考にして臀部や脚に改造を施し、肉体が完成すればミッドナイト先生たちによる飾り付けが行われていく。

 そして–––。

 

「「「おおお…!」」」

 

 姿見に映るショートヘアの少女。快活さを覚えるスポーティな肉体を備えた中性的なその美貌に、オレだけでなく先生たちや吹出クンも思わず声を漏らしていた。

 

「我ながら何だこの美少女…!?」

「は? 綺麗すぎるんだけど?(半ギレ)」

「ふ、普通に可愛いノコ…」

「フォオオオ! 筆が進む進むゥ!」

「えちょ、こんな可愛い生命体が存在して良いの!? ヤバい食べたい

 

 隣に居る倫理担当の教師の口から信じ難い発言が聞こえた気がするも、きっと気のせいだろう。そうに違いない。

 ミッドナイト先生から距離を取るオレは戦慄を覚えつつも、今後多少は安泰に近付いたであろう学校生活に想いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『………』』』

 

 因みに背後では、最早屍と化した彼らが床に転がっている。




後編は早めに投稿出来るよう頑張ります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外編】TS淫魔「(´;ω;`)」

早めに投稿出来なかったし後編じゃなくて中編になるし文字数がどんどん増えていくし綺麗にまとめられないしアルバトリオンは全く倒せないしFPS初心者ながらも意を決して初めて見た虹6の難しさに心が折れた作者の様々な思いがサブタイの顔文字に込められています。

少々作品と関係があるのか微妙ですが、アンケート設置しました。よろしければご意見お聞かせ下さい。


 …朝。

 

弘原海(わたつみ)、おは–––」

 

 登校を済ませ席に着き携帯でニュースを眺めていたオレに、前の席である鱗クンが挨拶を…して来たかと思えば、オレが返す前に言葉を詰まらせ儚げな表情となり視線を床へと落とした。

 

「–––馬鹿だなぁ俺。弘原海はもう、居ないのに…」

「勝手に人の存在を消すな」

 

 皆には新しくなった個性発動時の外見に、オレはエロステータス(カウント数)に慣れる為、普段であれば訓練中などでしか使わないサキュバス状態を暫くは日常的に使うことにした。ら、早速こんな具合である。

 辺りを見渡せば、「ああ、もう…居ないんだ…」みたいな表情をした鱗クン以外の男子たちと視線が交錯した。

 本当おっぱい好きだな君ら。

 

 さてさて、そんなこんなで迎えたボーイッシュ生活1日目。男子諸君はおっぱいロスの所為もあるだろうが、今の所彼らのエロステータスに変動は見られず、この段階では特に影響は無い様だ。

 然し油断は出来ない。今後の様子次第、と言った感じである。

 

「(まぁ中々にエロスは抑えられてると思–––止めろフラグになるっ) …あ、拳藤サン! この前のプリント記入終わったんでお願いします」

「–––あっ、う、うん。それじゃ、預かっとくよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––ボーイッシュ生活2日目。

 

「あぁ、塩崎サン。さっき先生が探してましたよ」

「はひっ。ありがとうございますっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––ボーイッシュ生活3日目。

 

「すいません角取サン、ここの文法を教えて貰いたいんですけど…。–––角取サン?」

「オ…オゥ! そ、ソーリー! なんでショーか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––ボーイッシュ生活4日目。

 

「うーん、取蔭サンの索敵能力相変わらずハンパ無いな…。なんかコツとかあったりしまス?」

「………」

「…取蔭サン?」

「–––うぇあ?! あ、うん! なにっ??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––ボーイッシュ生活5日目。

 

「柳サン、この前オススメされた映画見ましたよー。メッチャ怖かったッスね」

「うん…。う、ウラメシかったでしょ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––ボーイッシュ生活6日目。

 

「………」

「…何か、顔についてますかね小森サン」

「………はぅ」

「小森サン? おーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––あ、あの!」

 

 それはボーイッシュでの学校生活が7日目に突入した日のこと。

 昼食を終え円場クンと一緒に教室へと戻ろうとしていると、背後から突然声をかけられる。そちらを向くと、そこには黒髪のツインテール女子と虎柄模様の髪をした2人の女子生徒が居た。制服からして、普通科である。

 

「あのあの、わたっ、わたたしふつっきゃのEぐゅみつきしまっまま…っ!」

 

 頑張れツッキー! と、噛み噛みな女子生徒・ツッキーさんを励ます虎柄女子。

 なんぞや、と午後の訓練内容は何だったかなと思い出しながら次の言葉を待っていると、数度の深呼吸の後–––ツッキーさんはずぃっとオレに白地の封筒を差し出してきた。

 

「…あの! こ、これ読んで下さい–––!」

 

 お返事待ってます。

 封筒を受け取ったオレに、顔を真っ赤にした彼女はそんな言葉を残して友人と一緒に足早に去って行った。

 

 …ふむ。

 

「いやぁ。都市伝説だとばかり思ってましたけど、本当にこういうのあるんスね–––うわ怖っ」

 

 振り返ったオレが見たものは、凄まじい形相で突き立てた中指をこちらに向けている円場クンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ弘原海」

「「「ちょっと屋上行こうや…」」」

 

 さて、普通科女子から手紙を受け取ったその日の放課後。席に着いていたオレを取り囲む形の回原クンたちに誘われるも、そのままホイホイ着いて行けば待ち受けているのは火サス的な展開だけだろう。

 

 彼らの形相は正に怒り心頭の言葉がぴったりであるが、大方、先日からのオレに対するクラスの女子の反応と今回の手紙が原因だと思われた。と言うかそれしかない。

 

「嫌だわこの子ったらホントにもー(棒)」

「いやぁモテモテで羨ましい限りだぜ本当によお…ッ!」

「秘訣とか有ったら是非とも教えろやがれテメェこの野郎ッ!!」

 

 青筋を浮かべた鱗クンから始まると、回原クンや泡瀬クンがそれに続き、あっという間に周囲を嫉妬に身を焼かれた男たちの悲しき怨嗟の声に包まれてしまう。

 

 なんなんだこの状況と思いながら彼らの言葉を聞いていれば、まぁ酷い。

 やれ弘原海(オレ)の癖にだとか、やれ個性のお陰なのに…などなど。

 

 

 

 ばしんっ。と、音が響いた。

 余りにも聞いていられない彼らの言葉に、机に向けてオレが掌を叩きつけた音である。

 

 

 

 突然の音に皆が体を震わせたことで僅かに静寂が生まれ、オレはその隙を突く。

 

「…そうだな。確かに君らの言う通り、オレの外見はあくまで個性のお陰だよ。けど、個性だって身体機能の一種だ」

 

 オレは受け継いだから特殊なケースだけど、とは心の中だけで言いながら。

 

「筋トレと同じなんだよ。オレは自分の個性をただ使ってるんじゃない、鍛錬と研鑽を出来るだけ重ねて使ってるんだ…」

 

 こちらが放つ気迫に怯えたか、誰かが飲み込んだ唾液の音がやけに大きく聞こえる。

 

「嫉妬して好き放題言ってくれてるが、君らは何かしたか? トークスキルを磨いたか? ファッションを少しでも勉強したのか?」

 

 答える者は、居ない。

 

「なンにもしてねぇのに他人(ひと)に恨み辛みをぶつけるのは間違ってるだろ? –––判ったら出直して来い、クソ童貞共!!」

 

 ……言ってやった。多少口汚くなってしまったが、そこは目を瞑って貰いたい。

 確かに、友人と言えど–––いや、友人だからこそ? –––チヤホヤされていることを知るのはあまり良い気分とは言えないだろう。だがしかし、だからと言って「自身がそうでない」ことから生じる鬱憤をぶつけて来るのはお門違いもいい所だ。故に、オレは出直して来いと言ったのである。

 

 さて、思いの丈を力任せに吐き出したオレの言葉を聞いた皆はと言うと–––。

 

 

 

「「「うぇぐ…っ!」」」

「泣かせてしまった!!」

 

 

 

 いや、そんな泣く程のことだったかな!? 

 

「う、うぐ…っ! そ、そうだよな。弘原海は自分の個性(実力)でモテたってのに、そいつを勝手に妬むのは違うよな…。うう、こんなんだから俺はモテないんだ……」

「ああああもうそんな泣かなくても! ホラ、回原クンこの前中庭で写真撮ってたら女子に話しかけられて楽しそうな感じだったじゃないッスかっ。あんな感じでいいんスよきっと!」

 

 回原クンはカメラが趣味なのだが、実際クラスでも彼の撮影技術は話題に上ったりする。単純にその時はカメラで撮影していた回原クンを珍しがっただけなのだろうが、ある日目にした彼らの様子は確かに良い雰囲気であった。

 なので自信を持ってと彼に言おうとして。

 

「なぁ回原」

「「「ちょっと屋上行こうや…」」」

 

 残念ながら回原クンが連行(ドナドナ)されてしまったのでそれは叶わず。

 

 不可抗力的な別れをしたオレに、話しかけて来る男子が居た。金髪を気障ったらしく整えた–––物間クンである。蛇足かもしれないが、彼も吹出クンと同じく*カウント:0*の同性だ。

 

「やぁ弘原海、モテモテじゃないか! その調子でB組の知名度をA組よりどんどん上げてくれよ。…まぁそんな冗談はさてお「え?」え?」

 

 物間クンの言葉に手刀を構え近づいていた拳藤サンが声を漏らし、その反応に物間クンが背後へと視線を動かす。

 

「………いや。僕だって流石に他人の恋慕を慮る位の常識はあるんだけど? 君らは僕をなんだと思っているんだ…」

 

 その言葉に今度はオレが「え?」と声を漏らし、彼はオレと背後の拳藤サンたちへと交互に視線を巡らせた。

 

「んん゛っ! ま、まぁ冗談はさておき。…その手紙は結局どうするんだい?」

 

 …ふむ、と。その言葉に思案する。

 既に確認済みの手紙の内容だが、まぁその…オレに対しての熱い想いがひたすら綴られていた。うん。

 自分でも微妙な表情になっているんだろうなと思いながら–––視界の隅で聞き耳を分かりやすく立てているB組姦し3人組(取蔭サン・柳サン・小森サン)の姿を認めつつ–––物間クンのその問いに答える。

 

「いやまぁ、断るッスよねぇ普通に」

「あー…。ま、そうだよな。小大居るし」

「え?」

「「「え?」」」

 

 オレが声を漏らすと物間クンと女子が声を揃えたのだが、一体如何したのだろうか。皆が見せたまるでオレと小大サンが付き合っていること前提の様な反応はなんなのだろう。不思議だぁ。(真顔)

 

 

 

 

 

「–––––––ん?

 

 

 

 

 

 

 –––ここ数日の間、雛鳥或いはスタンドが如くオレに付き纏い荒い息を放っていた小大サンが背後から耳元に向かって声を発しでだだだだだだだ! か、肩! 肩砕ける!! 指食い込んでるッ!! 

 えぇい、オレは暴力には屈しんぞ!!! 

 

 ギシギシィ…ッ、と肩を軋ませながら。

 

「こんなのモテた内に入んないッスからね…。悪いけど、断らせてもらいます」

「いやいや、ここ暫くのお前に対する反応からモテていないは無いだろ」

「いやあの、逆に聞きますけどどこをどう見たらモテてると思うんですか?」

「…謙遜も行き過ぎれば嫌味にしかならないぜ? 弘原海」

 

 オレの問いかけに、物間クンは少々()()()様子でこちらを見てくる。

 

 …確かに、ここ暫くのオレはモテモテだったのだろう。クラスの女子からは日常的に見惚れられ、今日に至ってはこうしてラブレターを貰うにまで至った。

 が。然し、だ。

 

「さっきも言いましたけど、個性も身体機能の一種です。でも…でもさ、物間クン。

 

 

 

 –––キグルミを着ている貴方が好きですって言われて嬉しいかい?」

 

 

 

「あの…………ごめんな弘原海…」

 

 個性を解除し素の状態となったオレが言うと同時、視界に映っていた女子たちの表情がスンと真顔になり、物間クンは途轍も無く渋い顔で頭を下げてくれた。いや、別に謝って貰いたいわけじゃなかったんだが…。

 

 

 

 

 

 *欲求:「キグルミプレイとはまたフェチズムの深い」*

 

 

 

 

 

 アンタ(小大サン)(だぁ)っとれい。

 小大サンの心の声に腹立たしさを覚えつつ、個性を発動し直し物間クンと2人乾いた笑いを発していく。

 ははははは……。

 

 ………………はぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*柳 レイ子・オカズカウント:3*

*塩崎 茨・オカズカウント:4*

*小森 希乃子・オカズカウント:1*

*取蔭 切奈・オカズカウント:2*

*角取 ポニー・オカズカウント:2*

*拳藤 一佳・オカズカウント:1*

*小大 唯・オカズカウント:607*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デャ(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇声を上げながらの頭突きによって教室のドアを吹き飛ばしたオレは、フラフラと覚束ない足取りのまま通路を進んでいた。

 長い時間をかけて辿り着いたのは職員室。ノックをした後、ドアを開けて中へと入る。

 

すいません。びーねん13くみのわたつみです

「どこだよ」

 

 スナイプ先生からのツッコミに反応する気力もオレには既に残されておらず、ふらりふらりと目的の人物へ向かう。今のオレを客観的に見れば宛ら幽鬼の様な見た目となっているのかもしれない、なんて頭の片隅で考えながら。

 

ハウンドドッグせんせいちょっとおじかんいただけますか

「ああ。どうした」

 

 訊ねたのはハウンドドッグ先生。我らが雄英の生活指導担当教員である。オレに声をかけられた彼は視線を作業中であった机の上からこちらへと移した。

 目線がしっかり合ったところで、オレは声を発する。

 

 

 

すいませんおっぱいさわらせてください

 

 

 

 …さて。ここでハウンドドッグ先生について少し説明しておこう。

 兎に角この先生、冗談が通じない。ある日目撃した場面を一例として挙げさせて貰えば、

 

『ねぇねぇセンセー! ちょっとモフモフさせ』

あ゛?(威圧)』

 

 –––と言った具合だ。クラス・学年問わず恐れられている先生である。

 ただ勘違いしないで欲しいのが、あくまでも彼は生活指導担当教員として職務を全うしているのであって、決して生徒を嫌っているわけではないのだ。生徒が規律を重んじ常日頃から礼儀を考えられる様にと敢えて自分が嫌われ役となって居るのである。

 …とは、我らがブラドキング先生の言葉。ハウンドドッグ先生の毛並みの素晴らしさと一緒にいつの日か説明してくれた。

 

 まぁ少し話が長くなってしまったが、言いたいのはハウンドドッグ先生が厳しいと言うことだ。そんな彼に「おっぱい触らせてください」などと言えばどうなるかなど火を見るよりも明らかである。

 

「………何があった」

 

 …然しながら。オレに返ってきたのは怒声でも叱責でもなく、低い唸り声でも無かった。

 

「何があった、言ってみろ」

 

 近場にあった空席に座るよう促されたオレは、力無く腰を落とす。言ってみろ、とは言われたがそう簡単に切り出すことは難しく、数度分の深呼吸を行う。その間も静かに待ってくれているハウンドドッグ先生。

 …意を決し、オレは語り出す。

 

「……ヒーロー科の生徒は良くも悪くも他科から注目を集めやすいです。その過程で、個性がどんなものなのか話題に取り上げられることもあるかと思います」

 

 それは「かっこいい」や「かわいい」と言った好印象だけでなく、「扱い辛そう」や「ダサい」と言ったアンチ的なものも含まれる。と言うか、断然そちらの方が多いはずだ。先も述べたとおり、ヒーロー科は()()()()()()注目されているのだから。

 

「オレの個性は……まぁ、こんなんです。自分でも話題性が抜群であることは理解しています」

 

 〝個性〟「サキュバス」

 性的なことにとことん特化し、エロいことなら何でもできる個性。

 そして–––そして。

 エロいこと、或いは準ずる行為を行うか、またはそう言った事態に陥ると()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「–––今から。一週間と少し前の、ことでした。とある生徒に呼び出しを受けまして…」

 

 言いたくないどころではなく、思い出すことすら忌避してしまう、記憶ならぬ忌憶を無理矢理思い出す。

 

 此度の騒動の要因を。

 

 強化され(増え)てしまった個性(エロステータス)の原因を。

 

 

 

 

 

「呼び出された場所に行ったら…居たんですよ。男子生徒が。–––––––お金持って

 

 

 

 

 

 はっきりと、確かに。

 オレの言葉に職員室の空気が凍りつく。

 

 ……嗚呼本当。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「気持ち悪すぎてその時は逃げたしたんですけど…っ、ついさっき、本当についさっきそこで、その男子に『すいません足りませんでしたよね』って会った瞬間言われるしぃ…ッッッ!」

 

 そういうことじゃねえっつの、と怨嗟の込められた声を発した時だ。

 

「もういい」

 

 背後から誰かに頭を撫でられ、そちらを向けば、そこにはブラキン先生が居て–––。

 

「もういい。何も言うな」

 

 その無骨で大きな掌から伝わってくる熱に、オレは目頭が熱くなることを抑えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴォオ゛オ゛オ゛ル゛ル゛ル゛ヴヴゥ゛……ッッ!!!」

「–––(ヒュパンッ)」

 

 

 

 

 その背後では、凄まじい形相のハウンドドッグ先生と、舌舐めずりをしながら鞭を鳴らすミッドナイト先生が職員室を後にしている最中だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてその後。

 雄英でもこう言うことってあるんですね、気付いてやれなくてすまなかったな、先生の所為では、いやいや俺が、いえいえオレが、とブラキン先生と謝り合戦を繰り広げて暫く経った頃に2人が職員室へと戻って来た。

 完全に蛇足だろうけども、一応説明しておくと彼らは謎の赤い液体を身体に付着させてなどはいなかった。まぁ、そこは教師。指導と称して生徒を血祭りに上げるなんてことは常識的に考えて有り得ないのである。

 …なのでミッドナイト先生の瞳孔がかっ開いているのはオレの気のせい。

 

 心なしか鼻息の荒くなっている彼女から目を逸らしつつ、オレはハウンドドッグ先生へと声をかけた。

 

「では改めまして、ハウンドドッグ先生おっぱい触らせて下さい

「どうしてそうなル゛ヴヴゥ゛???

 

 こちらの両肩を掴み、猟犬モードへ移行しつつある先生に慌てて返す。

 

「まま待って下さい、ちゃんとした理由がありますから!」

 

 オレの言葉に一応話を聞く体となってくれたので、咳払いを挟んでから。

 

「今回の事件が起こる以前からも、少々周囲からの目が気になっていたので試験的にこの一週間と少しの間個性で外見を変えてみたりしたんですが…。残念ながら余り効果がある様には見えなかったです、ハイ」

 

 実際は効果が無いどころか寧ろ悪化する始末である。限り無く唯のイケメン(ボーイッシュ)であった為に男子はカウント数に変動が見られなかったが、結果的に今度は女子勢を欲情させてしまうとは一体誰が予想出来ようか。

 …いやでも見た目が変わっただけでこうなるかね? 自分の身体から何か出ているんじゃないかと疑うレベルである。*1

 

「そこでオレは思い付きました。どう足掻いても周りを刺激してしまうのであれば、それを()()させてしまえば良–––」

「「「待て、早まるな」」」

 

 言った瞬間に目前のハウンドドッグ先生以外にもブラキン先生を始めとした、近場の教師たちに一斉に止められる。

 落ち着け落ち着け、そういう意味じゃないから! 

 

「ち、違います! オレが言いたいのはリラックスです! 昂りだとか興奮をリラックスで解消出来ないかってことです!」

 

 例えば性欲を運動で発散する方法がある様に、オレを見て気分が高揚してしまった周囲を何かしらの方法で落ち着かせてしまおうと言う考えだ。

 何時ぞやに小大サンへ試した鎮静薬もあったのだが、最終的に彼女の性欲をブーストさせると言う最悪の結果となったので却下である。思うに、あれは発散や解消ではなく『抑圧』に近かったのではないだろうか。理由を定かにする術は無いが、無理矢理押さえつけられた反動でああなってしまったのではないだろうかと考えている。

 

 閑話休題。

 

「視覚からの情報だけでは効果が薄いのは、これまでの経験で理解出来ています。だったらその他の五感を–––具体的に言えば、触覚と嗅覚! この2つをオレの個性でリラックスさせます!」

 

 意気揚々と語るも、先生方は首を捻るばかりだ。

 まぁこれだけで何をするか理解するのは難しいだろう。なので、手っ取り早く()()()ことにした。個性を発動。何時もの様に女体化が始まり、悪魔じみた角や翼が現れ–––る、代わりに。

 

 頭頂部からは尖った三角の耳が。

 そして尾骶骨付近からは大きな毛の塊が。

 

「触られても直嗅ぎされてもモーマンタイ! 言うなればこれは健全なエロス–––そう、モフモフです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、参考までに胸毛(おっぱい)触らせて下さい先生」

「………腕だったら良いぞ」

 

 尻尾のクオリティ向上の為にオレが頼み込むと、とても微妙な表情ながらもハウンドドッグ先生はモフモフさせてくれた。

 

 

 

 

 *欲求:「………俺も頼めば触らせてくれるだろうか」*

 

 

 

 

 

 犬好きなブラドキング先生の欲求は見なかったことにする。

*1
作者「出てるよ」 TS淫魔「ゑ?」




DOKKAEBI可愛すぎませんかね。使いこなせませんが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【番外編】TS淫魔「(° ∀ 。)」

うけとって! 1万文字よ!




「…ふ、ふふ。ふふふっ。だめよこんなの…。今日から私はここに住む、梃子でも動かないからね…。–––ンはァん♡

 

 時は放課後、場所は職員室。周囲の興奮を解消させる為に発案したモフモフ化であるが、その結果はご覧の通りである。尾骶骨付近から生やした計9つの尻尾(モフモフ)に、顔…どころか上半身ごと埋もれたミッドナイト先生の反応は些か過剰ではあるが、一応脱力(リラックス)している様なので、結果は成功

 

「…Hmm. やっぱり俺は⑤番だな!」

「えぇー?! 絶対今の方が良いわよ! ⑨よ、⑨!」

「私ハ②番ヲ推サセテモラオウ」

「うーん。僕は硬めの⑥番ですね、やっぱり」

「–––⑦番だな。アレが最も触り心地に優れていた」

「……おいイレイザー。他クラスと言えど生徒であることに変わりは無いぞ。自分の猫好き(好み)を押し付けずに公平に判断したらどうだ? 毛質等バランスに優れた①番で決まりだ」

「その言葉そのまま返すブラド。お前の方こそ犬好き(好み)を押し付けるな」

 

 –––とは、残念ながら言えなかった。

 ハウンドドッグ先生の毛質を参考にしたものをVer.①とし、その後意見を取り入れ尻尾を覆う毛の長さであったり太さや硬さを調節していったのだが…ご覧の有様である。先生方の間で意見が見事に割れてしまったのだ。

 

「見事に意見が割れたねぇ。まァ俺も③番推しなんだけど…」

 

 互いが互いに意見をぶつけ合い収拾がつかず喧々囂々な様子を見て、セメントス先生が苦い顔をしつつ話しかけてきた。うーんと唸る彼は討論の為にミッドナイト先生が離れた尻尾の1つを撫でながら訊ねる。

 

「それより弘原海(わたつみ)君。随分と()()()なったけど大丈夫かい…?」

「あいや、変態に一々エネルギー使うんですよね。まぁお腹が減るくらいなんで大丈夫です」

 

 サキュバスの肉体改造は結構エネルギーを消耗してしまう。恐らく今のオレは小学生低学年程度の背丈までになっているはずだ。ガチャタイプのベルトで助かった。

 

 …にしてもどうするか。段々とヒートアップし始めた教師陣–––から視線を外し、オレはとある教員机を見る。

 

「………クフゥ〜ン」

 

 そこには真っ白に燃え尽き、机に突っ伏してしまったハウンドドッグ先生が。どうして彼がああなっているかと聞かれれば…まぁ、オレの所為である。参考として先生の腕をモフモフさせてもらったのだが、触るや否やか細く堪える様な遠吠えを発し、終わる頃にはあの様な感じとなってしまったのだ。

 どうやら今回の騒動で何かしらの能力が発現してしまったらしい。…動物系の異形型を刺激してしまう能力だろうか? 暫時的に『快楽堕とし(ムツゴロウさん)』とでも呼んでおこう。

 

 先生の尊い犠牲を無駄にしない為にも、必ずしや性差年齢問わずリラックスさせるモフモフを完成させてみせる–––と、意気込んでいるものの…。うぅむ、どうしたものか。

 

「…長すぎず、短すぎず。太すぎず、細すぎず。それでいて柔らかすぎず、硬すぎず…か。難しいなぁ」

 

 セメントス先生と一緒に首を捻る。全てに於いて『丁度良い』–––そんな理想のモフモフを一から生み出すとなると、その労力は計り知れない。何か参考となるものが有ればいいのだが…。

 

「–––やぁ! 犬でも熊でもない、その正体は校長さ! 済まないがオールマイトは居るかな?」

 

 …さて。そんな時職員室へとやって来たのは、我らが雄英高校の根津校長先生である。本日も彼の毛並みは美し

 

「「「ッッッ!!」」」

 

 ズドンッ! と次の瞬間、職員室に炸裂音が響き渡る。

 何事!? …突然の音に体を震わせながら視線を巡らせたオレが見たものは…。

 

 –––先ず、個性の「操血」を駆使しつつ突撃するブラドキング先生。校長は突然のことに驚きつつも拳法家の様な構えをとっさに取り…然し、マイク先生が発した超音波じみた高音に身を強張らせてしまい接近を許してしまう。

 数歩分の間合いにまで接近をしたブラドキング先生。それに続くのは得物である捕縛布で天井から奇襲をかける相澤先生。それを確認した校長は側の机に置かれた紙束をばら撒き、目くらましを行う。それだけでなく、いつの間にか手に握っていたボールペンを飛び道具として射出する。

 それを防いだのはいつの間にか包囲網を展開していたエクトプラズム先生の分身と、指弾の要領でスナイプ先生が打ち出した筆記用具類。それを見て次弾を用意しようとした校長だが、その体が不自然な方向に動き体勢を崩してしまう。正体は13号先生のブラックホールと、その吸引力に乗って校長を包み込んだミッドナイト先生の眠り香だ。眠気を誘われふらついたところを、遂にブラドキング先生と相澤先生の手によって拘束されてしまった。

 

 ………いや。あの、うん。なにやってんの?

 

「く…っ! 突然どうしたと言うのさ皆!」

 

 本当にね。

 

「校長、是非ともお力添えを」

「生徒の為です」

「貴方の力が必要なんですよ」

 

 ブラキン先生と相澤先生を筆頭にして、次々に先生方が口を揃えていく。…えー、そんな彼ら彼女らの欲求なのだが…。

 

 

 

 

 

 *欲求:「「「これで根津校長を合法的にモフることが出来る…ッ!!」」」*

 

 

 

 

 生徒をダシに使わないでいただきたい。

 

 教師陣の心中に苦い顔となりながら、校長先生にオレの方からかくかくしかじかと経緯を説明する。弱めだったらしく説明を終える頃には彼はしっかりと目を覚ましており、だが拘束はされたままだ。

 

「ま、まぁそういうことなら思う存分触ってくれて構わないのさ! 言ってくれればこんなことせずとも良かったのに…」

 

 教師陣には些か懐疑的であったものの快諾してくれた校長先生。彼の言葉にしからば早速–––とオレはその小さな御腕の毛を堪能しようとして。

 

「–––あ、でもオレが触ると…」

「いいえ、大丈夫よ弘原海君」

 

 ハウンドドッグ先生の件を思い出し寸前で動きを止めたものの、オレの様子を見て問題無いとミッドナイト先生が言う。

 なんと。この短期間で何かしらの対策を取って…? 

 

「根津校長が承諾した音声はしっかりと録音したから」

 

 それは一体何が大丈夫なのだろうか。さっきから様子のおかしい先生方に恐怖を覚えずにはいられない。

 

「…し、失礼しまーす」

「待って待ってなに? 君が触ると何が起き–––うひゃあ?!」

 

 触れるや否や、彼の口から甘い声が発せられた。早急に終わらせる為にも、迅速に特徴点を捉えつつ並行して尻尾の毛質を変化させていく。

 

「ま、待つんだ弘原海くん! 一旦止め–––ひんっ! く、何だこれは。一体何が…っ! く、ふうぅっ?!」

「–––サテ、デハ我々モ」

「…待って!? 君たちが私を触る必要性は無いよね!? それから弘原海君は本当にね、少しでいいから手を止めて–––あひんっ!」

「何を言うんですか校長。何事も多角的な思考が大切です」

「イレイザーの言うとおりですね。ある一方から見ただけでは物事の正確な判断は行えない。生徒の補助は教師として当たり前のことです」

 

 何だかそれっぽいことを口にしながら集団で彼の体を弄り(意味浅)始めた先生たち。オレの影響で敏感になっているらしきその体はあっという間にもみくちゃにされていく。

 

 むにむに。わしゃわしゃ。モフモフ。なでなで。

 

だ、だめだ…っ。気持ちよくなってなんか…! う、うぅ…っ! 

 

 …次第に校長先生の声に隠しきれない艶が帯び始める。それを聞いてオレは–––

 

 

 

 –––(思考)を、OFFに(放棄)した。

 

 

 

「アッ–––––––––––!!!」

 

 

 

 

 

 放課後の職員室に響き渡る声。

 一つ言えることがあるとすれば、先生の触り心地は素晴らしかったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––そんなこんなで戻って来たB組の教室。

 校長先生の尊い犠牲を(もと)にして遂に完成した究極とも言えるモフモフ。何時もの悪魔じみた姿を〝デモンフォーム〟として、今の姿は〝キュウビフォーム〟とでも名付けよう。そんなことを考えながら教室の扉を開け新しくなった姿を披露したオレは–––。

 

「重桜のやべーやつだああ!!?」

 

 上記の様な悲鳴を泡瀬クンからいただくことになった。

 いや獣王(ライオン)じゃなくて狐なんだけど。

 

「どうしたァ?! 別人どころか別個体になってンぞォ!?」

「角や翼をどこへやってしまわれたのですか!?」

「と言うか、それ以前に! めっちゃ小さくなってる!」

「私よりもshortデース!?」

 

 オレの変貌ぶりに皆は面白いぐらいに混乱しているので、一旦落ち着かせる為に説明を始める。

 

「背が縮んでいるのは変態にエネルギー消耗しただけッスから、皆さん落ち着いて–––」

「もっとのじゃロリっぽく!」

「縮んでおるのは変化にちと妖力を使いすぎてしもうてな。まぁ問題は無いから安心するのじゃ」

「ヨシっ」

 

 円場クンからの要望に応えてみたが、何がヨシ? 

 一応佇まいもそれっぽくしていると、拳藤サンが此方に近づき訊ねて来た。小学生程度の背丈までに縮んだオレの視線に合わせる為に腰を屈めてから彼女は、

 

「問題が無いなら良いんだけど…。にしても、随分と思い切ったイメチェン(?)したね」

「…お主らの視線が喧しいからのう

 

 呪詛の込められたオレの声に、拳藤サンは背後へと視線を巡らし–––男子たちは揃って綺麗に彼女から顔を背けた。…どうして拳藤サンや女子の皆は自分は関係無いと思っているんですか? (電話狐)

 

 …っと、いかんいかん。責任を皆にだけ押し付けては駄目だ。あくまでも彼ら彼女らはオレの個性の被害者なのだから。

 咳払いを挟んでから、オレはどうしてこの姿となったかの説明を始める。

 

「こほんっ。…えと。皆の視線がどうこう言いましたが、オレも自身の個性の影響を考慮せずに、普段の距離感のまま接してしまったりしていました。なので…少し謝罪も踏まえて、今回オレはこう言った姿になりまして」

 

 ふやんふやんと尻尾を揺らすオレを見て、拳藤サンが声を漏らす。

 

「それじゃあ、弘原海は…私たちの為に…?」

「…ッスね、ハイ」

 

 苦笑いしながらオレが首肯すると、彼ら彼女らは俯いたり視線を逸らしたりと言った反応を見せた。()()()()()()()()()()…それは皆が一番分かっているのだ。

 仄かに沈んでしまった空気を払拭する為に、オレは甲高いロリボイスで、わざとらしくのじゃロリ口調で放つ。

 

「まぁ面倒な話はここまでにしようではないか。–––ホレ! お主らの為に折角整えたのじゃ、思う存分撫でるが良いぞ♪」

 

 意気揚々。オレは尻尾を彼らへと向けて–––

 

「「「………っ!? (ガタタッ)」」」

「いやケツじゃねーよ尻尾をだよ。何を慄いてんだ君らは」

 

 …やっぱりオレが悪いんじゃなくてそういう目で見る皆が悪いんじゃないかなぁ。自然と臀部を突き出す形となってしまったのは悪いと思うけども、なんか釈然としない。

 

 

 

 

 

 *欲求:「………っ!? (ガタタッ)」*

 

 

 

 

 

 オメーはこっち来んな小大サン。

 

 天敵である小大サンに警戒しているオレに、話しかけて来る女子生徒。小森サンだ。

 

「弘原海、ホントに触ってもいいノコ?」

「ええ、いいッスよ。さっきも言いましたけど、謝罪も含めて触られること前提で作りましたので」

「わーい!」

 

 オレの言葉に、それまで視線を尻尾に向けて釘付けとなって居た彼女は、早速とばかり駆け出して来た。そしてその手が尻尾の一つに触れる。

 

 –––ドサ。

 

「………え?」

 

()()()()()()()()()()()()()小森サンを見て、拳藤サンが惚けた声を零した。突然の出来事に、教室中の視線が一点に集中する。

 

「き、希乃子? どうし…ひぃ!?」

 

 近づき、詳しく見えなかった小森サンの顔を直視した彼女は思わず悲鳴を上げていた。

 それもそうだろう。–––なにせそこにあったのは、この世のありとあらゆる柵から解放されたかの様に穏やかな笑顔だったのだから。

 …説明を求む、とこちらを見る皆の目が語る。

 

 

「–––まぁ何と言いますか。中途半端が一番いけないと言いうか。その…本気を出しすぎた結果、完成度が高すぎて、触った人の意識を刈り取る様になってしまったんです……」

 

 興奮や昂りをリラックスで発散させると言った当初の目的は何処へやら。出来たのは究極「すぎる」モフモフだったのだ。

 ………まぁ何が言いたいかというと。

 

 

 

「触るンなら覚悟しろよ? –––わりィが。こっから先は一方通行だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …さて、言わずもがな最初にモフモフの餌食となったのは完成に尽力してくれた先生方である。まず手始めに、マイク先生。

 

「…白雲」

 

 何かしらを呟いた彼は、どこか遠くを見つめたまま一筋の涙を零すとそれっきり動かなくなってしまった。

 続いてはエクトプラズム先生・スナイプ先生・セメントス先生の3名。触れた瞬間に意識を刈り取られ膝から崩れ落ちた彼らは最もスタンダードな症例である。

 

「「らめぇえええッ♡♡♡!!」」

 

 続いた被害者は数少ない女性教員であるミッドナイト先生と13号先生。アヘ声をぶちかましつつ頭部以外の装甲がパージした彼女たちの体を、大慌てで隠そうと着ていたパーカーと制服の上を投げ付けている間。

 

「「ぐわぁぁああああ!!?」」

 

 いつの間にやら復活を果たしていたハウンドドッグ先生と根津校長は、見えざる巨大な拳の一撃を受けたかの様に職員室の壁まで吹き飛んで行った。

 いよいよオレ1人では手に負えなくなったその頃に、最後であり最も酷い具合となったのが–––ブラドキング先生と、そしてA組の相澤先生である。

 オレの尻尾に触れるや否や、2人は

 

「「あなたトトロって言うのねっ!」」

 

 と、甲高い悲鳴を上げて気絶。…したかと思えば、次の瞬間には2人の頭上から謎の光が差し込み、何とそのまま上昇を始めたのだ。彼らを現世に留めるのにひどく苦労してしまった。

 

「–––どうしたんだい? 何だか騒がしいけど…いや、本当にどうしたんだい!?」

 

 –––事態が収束したのは、職員室にオールマイト先生が来た頃である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、そんなことがありまして」

 

 オレが吐露した職員室での出来事に、吹出クンや物間クンたちが乾いた笑いや微妙な反応をした。まぁ仕方がないだろう。オレが彼らの立場だったら同じ様な反応になるはずだ。

 

「あふんっ」

 

 …ドサリ、と背後で音が鳴る。これで通算15回目。今オレの尻尾の犠牲となったのは取蔭サンである。尻尾に触り易い様に背もたれを胸側にして座っているオレの周囲は、正しく死屍累々の有様だ。

 

 物間クン・吹出しクン・拳藤サン・塩崎サン・鉄哲クンの5人は尻尾には触れずに無事残っており、後は全員意識を刈り取られている。常識人四天王の様にただ気絶をする者も居れば庄田クンの様に物言わぬオブジェクトと化した者もチラホラ見受けられた。

 …再三注意したにも関わらず尻尾に触れた宍田クンと角取サンは揃って仲良く壁に向かって吹き飛び、そのまま力尽きた。何故触れたし。

 

「うぅ。どうしたらオレは普通になれるんだ…?」

「……ま、まぁ? 皆幸せそうだから良いんじゃない? あは、あはは…。–––うん。ごめん」

 

 拳藤サンが必死にフォローしてくれるものの、最終的に俯き加減で謝ってしまう。何だかなぁ。

 

「–––、んぅ」

 

 –––近くで安らいだ表情のまま寝入っていた小大サンが声を発したので、すかさずその口腔へ指先から分泌した睡眠液を放り込む。

 因みに彼女、唯一オレの尻尾に耐えた人物であり…然し、その時の様子としては。

 

 

 

『–––はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁ…っ! –––んんっ!』

 

 

 

 –––と、荒い呼吸を繰り返しながら堪能していたかと思えば、突然尻尾の一つを自分の股に挟みそのまま腰をカクカクさせ始めたのである。咄嗟に睡眠液を飲ませてしまったオレは悪くない。

 その時は()()()()()別のことに気を取られていたから良いものの、周囲の視線を全く気にせず性欲の僕となるのは止めてもらいたい。本当になんなんだこの人。

 

 そんなことを考えるオレの後ろでは、地に伏した取蔭サンを塩崎サンが運んでいるところだった。壁を背にする形で楽な体勢を取らせる彼女を手伝いたいのだが、如何せん、エネルギーを消耗し省エネ状態となった現在ではろくなことが出来ない。

 申し訳なく思い、塩崎サンに声をかける。かけようとして、

 

 

 

 *–––性欲 79/100*

 

 

 

(–––うん?)

 

 何だ。今、異様に高い性欲値が視界に映った気がするぞ? 

 頭に無数のハテナを浮かべるオレに、塩崎サンが声を掛けて来た。

 

「弘原海さん。申し訳ないのですが、少々私も撫でさせていただいても宜しいでしょうか?」

 

 そう申し出た彼女に他の4人が驚いた様子を見せ、その反応に塩崎サンが恥ずかしそうに俯いた。

 

「うっ。あの、いえ…。その。とても触り心地が良さそうで、その…」

「…気持ちは分からなくもねぇが……。こいつらのこと見てよく触る気になったな、塩崎」

 

 鉄哲クンに言われ、居心地が悪そうにする塩崎サン。まぁこちらとしては特に問題は無いので構わないのだが、彼の言うとおり、よく触る気になったな…。

 

 はて、先程の性欲値は一体誰のものだったのだろうか。小大サンにしては低すぎるしなぁ、などと考えながら塩崎サンへ尻尾を向けようとオレは体勢を変え–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *塩崎 茨:性欲 79/100*

 *感度「中」*

 *状態「興奮」*

 *属性「お姉様目百合科ロリ属」*

 *欲求:「ああいけません弘原海さんその様なあどけない表情と可愛らしいお姿で私を誘惑なさらないで下さいいけません堪えるのです茨弘原海さんは級友なのですよですが弘原海さんも弘原海さんですどうしてそんなに無防備でいらっしゃるのですかまるで誘っている様ではありませんか誘っているのですか誘っているのですねと言うことは後ろから抱きしめても旋毛(つむじ)の匂いを好きなだけ嗅いでも思わず頬ずりしてしまっても良いということですよねああもう撫で撫でしたい一緒のお布団で眠りたいずっと抱きしめていたいいいいあああああああああああああああ」*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ………ふぁっ!? 塩崎サン–––いや本当に塩崎サンか今オレの目の前にいるのは!? 小大サンじゃなくて!? どうした!? どうし…どうした!? ど、どうした!!? 

 

「–––それでは弘原海さん。失礼します」

(め、目が据わっていらっしゃる…ッ!)

 

 小大サン級の変態が爆誕し、尚且つそれが今目の前に居ると言う恐ろしすぎる状況に体が硬直してしまい動けない。

 何、オレの所為? 幼女の姿が彼女の性癖にブッ刺さってしまったの…? 

 暴かれてしまった彼女の内面に恐れ慄いていると、ぽんっ、と言う音がぴったりな力加減で彼女の手がこちらに触れる。

 

「…うふふっ」

 

 普段であれば聖女もかくやと言う彼女の微笑みが変態(ロリコン)のそれにしか見えない。

 

「あの、塩崎サン? 撫でるなら尻尾を…。それ、オレの頭なんスけど…?」

「ああなんて柔らかい。…ふふっ、髪もサラサラで…。ほっぺたもこんな、うふふ…っ」

 

 一瞬でも触ればそれだけで意識を持っていく尻尾を触らせようとするも…駄目だ聞いちゃいねぇ。トリップしてやがる。

 

「塩崎サン? 塩崎サン聞いて? ちょ、一旦手を止め…。塩崎サっ、あのちょっ! –––あ、そこ良い……(陥落)」

 

 や、やだ。塩崎サンったらテクニシャンだわ…。

 

 妖しく笑う塩崎サンに頬や頭を散々撫でられること暫く。自分でも分かる位に上気しており、顔が熱い。塩崎サンは一旦手を止めたもののまだ満足していない様で、こちらに向けて手をわきわきしていた。

 く…っ! 撫で撫でなんかに負けない!! 

 

 無意味であるとは理解しているものの火照った体でオレは身構え、それと同時に塩崎サンの手がこちらに–––

 

 

 

 

 

「–––––私は正気に戻った!」

 

 

 

 

 

「えっ? ………きゃあっ?!」

 

 突然発せられた悲鳴の後、ズボっと言う音がオレの頭部から聞こえてきた。

 

 

 

 …………………ズボ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––一瞬何が起きたのか分からず、少年少女らの間に流れていた空気が固まる。

 

 突如奇声を発して起き上がったのは、それまで安らかな表情で眠りに就いていた小森少女。彼女は自身の意識を刈り取った究極のモフモフに向かってそのまま駆け出し、結果体当たりじみた一撃を塩崎が受けることとなった。

 然し問題なのはそこではなく…小森に突撃される前、彼女が弘原海の頭を撫でようとしていたことが拙かった。両手を前にしていた状態で、突然予期しない衝撃が背後から。結果どうなったかと言うと…。

 

「いやァ–––––っ!!」

「「「うわぁ–––––!?」」」

 

ズッポリと両手がケモミミに挿入されてしまっていた。

 塩崎の金切り声を皮切りに、惨状を目の当たりにした鉄哲たちの叫びが木霊する。

 

「尻尾尻尾尻尾尻尾おおぉおー!!」

「ちょ…落ち着け希乃子ォ!」

「オイ! 早く抜いてやれ塩崎ッ!」

「ててて、手首が引っかかって…?!」

「大丈夫か弘原海ぃい!!」

 

 間に居る塩崎などお構いなしにモフモフの塊に向けて前進を続ける小森を拳藤が止めに入り、鉄哲の言葉にパニック気味の塩崎が返した。その間に吹出が安否を確認するも、耳を塞がれていて聞き取ることが出来ないのか当の本人からは返事が無い。

 

 

 

 

 

「–––––––俺は正気に戻った!」

 

 

 

 

 

 え? と物間が声を漏らし…直後、先程の小森の行動をなぞる様に、今度は鱗が突然立ち上がりそのまま弘原海に向けて突撃を開始する。

 背後からぶつかられた衝撃で小さな体は前へと押し出され、その分塩崎の両手が奥へと進んでしまった。

 

「ふぎ…ッ!?」

 

 と、体を跳ねさせて弘原海が悲鳴を漏らす。

 塩崎もその様子に小さく悲鳴を上げ、顔を青くしながらも何とか手を引き抜こうと躍起になる。拳藤が小森を抑え、鉄哲が鱗を抑えるこの状況、はたから見ずとも十二分にカオスであった。

 

「し、塩崎サン落ち着いて…。ゆっくりで大丈夫ですんで、と、兎に角早く抜いて下さいぃ」

 

 大丈夫なのか早くして欲しいのか微妙な言葉を聞き塩崎も急ぐが、これまた綺麗に嵌ってしまっておりなかなかどうして抜ける気配が無い。

 

 

 

 

 

「–––––––私は正気に戻った!」

 

 

 

 

 

 ごずっ、と三撃目。起き上がった柳が突撃し、心なしか抜けかけていた塩崎の手がまたもや奥へと。

 

「くびゃっ、えべ…っ! ひゅっ、ひゅう…っ!」

 

 –––この辺りから弘原海の反応が異色さを帯び始めた。言葉になってない声を漏らしながら、涎や涙に鼻水と様々な体液を漏らすその様に、いよいよ塩崎のパニックもピークを迎えつつあり目に涙を浮かべその顔は蒼白に染まっている。

 

 そんな間にも次第に周囲では再起動を始める人影が増えつつあり、拳藤たちは身構えた。

 

「何だこれゾンビ映画か!?」

「言ってる場合かよ、来るぞ!」

 

 鉄哲と物間のやり取りの直後、幽鬼の様に不安定な動作を繰り返していた彼ら彼女らが一斉に–––お馴染みとなった台詞と共に–––動き出した。

 全員正気云々言っているが、その目に光は灯っておらず一様に不気味な笑顔を浮かべている。どこぞの裏切り王が証明している様に、やはり正気に戻ったと自分で言う人間は正気に戻っていないのだ。

 

「だぁーもう落ち着「あぎゃっ!」けお前ら!」

「物間、凡戸の個性コピーし「いっひっ、はぁっが!」て動き止められないか!?」

「駄目だ凡「びゃ、おえ゛っ」戸まで近づけない! 吹出! お前の方で「あ、はぁー! じ、ぎぎぎぃ…!」似た様な擬音は出せないのか!?」

「僕の個性だと範囲「やめ゛っ、耳だめ!」的には無理だぞ!?」

「無い「お゛っおぉ゛! おぐゴリゴリじないでッ! やめれ゛っ♡!!」よりはマシだ!」

「 や め て 弘 原 海 聞 き た く な い ! 」

 

 合間合間で聞こえてくる声に、遂に耐えきれなくなった拳藤が悲鳴を上げながら個性の「大拳」でクラスメートを薙ぎ払い始め、それを見た彼らも形振り構わず後に続いた。

 性差も関係無いとばかり顔面だろうと容赦無くぶん殴っていき、モフモフに取り憑かれた者も残り数名となった時である。

 

 

 

 –––()()()()、と言う耳を塞ぎたくなる不気味な音が、確かに聞こえてしまった。

 

 

 

「ひ」

 

 振り向き、ソレを見て、誰かの悲鳴が漏れ出る。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡」

 

 まるで壊れたラジオの様に、小刻みに、同じ抑揚で、喘ぎ声を繰り返す–––ぐりゅんぐりゅんと()()()()()あり得ない方向に動かし続ける狐っ娘。

 ごぽぽっ、とその口と鼻からは胃の内容物が一定のリズムで逆流を繰り返し、蠢き続ける眼球の縁からは次第に涙に混じり赤い液体が漏れ出し始めた。

 

「わ、わあぁ…!」

 

 拳藤が慌ててそちらへ駆け寄り、他3人が残りのクラスメートを叩き潰す。

 塩崎は既に放心状態であり、虚ろな表情のまま口の開閉を繰り返すだけだ。拳藤は彼女の両手を掴み、足を弘原海が座っていた椅子へかけて力任せに引っ張り–––ズリュリ、と音を立ててその耳から漸く両手が引き抜かれる。赤とも茶色とも言えない不透明な粘液が糸を残した。

 

「わ、わたつ」

 

 ガンっ! …と、音。

 

 安否を確認しようとした拳藤を、壁に向かって顔面が叩き付けられた音が遮った。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡」

 

 喘ぎ声を発しながら、もう一度頭突き。

 もう一度。もう一度。もう一度。–––そうして6度目をしようと背を逸らし…そのまま背面に倒れ、股間からはしょわあああと音が鳴り、湯気と共にアンモニア臭が次第に立ち込める。

 

 

 

「…–––––はぁ」

 

 

 

 …その様子を見て、とうとう塩崎が意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––沈んでいた意識が浮かんでいく。

 –––五感が本来の感覚を取り戻していく。

 

「…う、うぅん……?」

 

 瞬きを数度。自分が横になりどこかに寝かされていること、顔に何かを被せられていることを次いで理解していく。未だ冴えない頭で何とか思考を巡らし、何が起きたのか理解する為に記憶を辿る作業を始めた。

 うぅ、頭がクラクラする…。

 

 取り敢えず、現状を把握する為にもオレは顔にかかっていた布…だろう、を摘んで退けた。

 

「ん」

「…、?」

「ん」

 

 –––直後に頭上から聞こえてきたクラスメートの声。かなりの時間をかけて、オレが摘み上げたものが彼女の–––小大サンのスカートであることを理解する。

 

(…わぁ、ア◯ガミで見たことあるやつだあ)

 

 股枕と言う単語を頭に浮かべながら馬鹿みたいな感想を抱いたオレは、すぐさま意識を引き戻しつつ。

 

「えぇ、なにしてるんスか…」

「ん」

「いや、んじゃなくて」

「ん。–––大丈夫?」

 

 …彼女の言葉に、苦笑いしながら答える。

 

「あー、まぁ。大丈夫…ッスかね、多少は」

「ん」

「心配ありがとうございます。…はぁ。クラスメートの前で漏らすとか恥ずすぎる…。服も着替えさせられてるし、リカバリーガールに後でお礼言っておかないと」

 

 断片的な記憶を辿った結果、何とも恥ずかしすぎることを思い出してしまい、思わず声が漏れてしまった。制服からジャージになっている辺り、恐らく、今は席を外しているらしいリカバリーガールが着替えさせてくれたのだろう。

 

「ん。–––このくらい、当たり前」

「おい待てアンタが着替えさせたんか」

 

 変なことしてないだろうなと問い質すも、返って来るのは「ん」の一言のみ。してないよな? 何もしてないんだよな…?? 

 怪しんだところで確かめる術も無く、何も起きてないことを祈るばかりだ。

 

 その後小大サンから事の顛末を聞き、皆ある程度なら落ち着きを取り戻したことが判明する。…うぅむ。こんな騒動を起こしてしまったのだ、今後は〝キュウビフォーム〟は封印か…。トホホ、折角頑張ったのに。

 

 がっくりと気落ちしながら時計を見る。–––っておい、もうこんな時間かよ! 

 

「うわぁ早く帰らな–––ぐえぇっ?!」

 

 さて。慌てて立ち上がろうとしたオレだが、小大サンが股を閉じオレの頭を挟み込んだことで妨害されてしまう。

 

「うぐぐぅ…っ! な、何ですか小大サン、てかぐるじっ」

「ん」

「いやだからんじゃなぐでえぇぇえ…っ!」

 

 呼吸が出来なくなる程ではないにせよ息苦しいことに変わりはなく、こちらを見下ろしている小大サンの意図を読み取る為、彼女のエロステータスへと視線を巡らせた。

 

 

 

 

 

 *欲求:「2人っきり、保健室、放課後。何も起きないはずがなく…」*

 

 

 

 

 

 逃 げ ね ば 。

 

「–––()()()()

 

 と、その心中に戦慄している間に、普段のクールさが一瞬で霧散してしまう妖しい笑みを浮かべる小大サン。

 ヒィッ、トラウマが! 彼女にお持ち帰りされた時のトラウマがががががが!! 

 

「こだ、小大サン! そろそろ帰らないとまずいですよホラ! 帰りましょ、ねっ? …ねっ!?」

「えへっ、えへへっ! んん〜っ♪!」

「話聞こう!? 会話しようぜ、きっと楽しいから!! …お、おい止めろボタンに手をかけるな!! ノゥッ、ノォ–––ウッ!!?」

 

 –––と、こちらをしっかり拘束しつつ自身の制服のボタンを彼女がはずし始めた時である。

 

「おーい。大丈夫かー?」

「弘原海ー、ごめんねほんとー…って」

「「あ」」

 

 保健室にやって来たのは、拳藤サンと小森サンであった。組んず解れつ(一方的に)なオレと小大サンの様子を見て動きを止めた2人は–––次の瞬間、爆発音と共にその顔面を茹で蛸の様に赤くさせる。

 

「うわあああああ!! ごめえええぇぇぇぇ……」

「待って行かないで委員長ォオオッ!!」

 

 ドップラー効果を起こしながら爆速で保健室を後にしてしまった拳藤サン。小森サンも数瞬遅れた後、か細い悲鳴を上げてから入口へと駆けて行ってしまう。

 

「ひゃあぁ…っ!」

 

 お願い、待って…! エネルギー不足の今のオレでは小大サンに対応出来ないんだ…! 

 そう思ったところで、羞恥に襲われている彼女が戻って来てくれるはずも無く–––

 

 

 

 パタムッ (←小森サンが扉を閉める音)

 

 ガチャンッ (←小森サンが鍵をかけた音)

 

 とすっ (←小森サンが椅子を持って来て近くに座る音)

 

 

 

「………さ。続けて?」

 

 

 

 

 

!!?!?!? 

 

 

 

 

 

「こんな機会滅多に無いノコ! 2人の情事を見せてもらうノコ! 是非とも! 後学の為にも!!」

「何言ってんの!? 何言ってんの!? メモ帳取り出してないで早く助けてよ!! 馬鹿なの!? 」

「弘原海! 女の子に恥をかかせたらダメキノコ(意味深)だよ!!」

「その親指をにゅってするのを止めろ貴様ァ!!」

 

 女の子がそんな卑猥なハンドサインするんじゃありません! 

 

「ん。–––それじゃあ、続き。…シよ?」

「おい馬鹿しか居ないのかここには!? 続きも何もなんも始まってねぇンだよこの…っ! くそ、力強…っ!? ちょっと小森サン本当に助けてっ、やだちょっと待って! あ゛─ッ♡!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




〜今回発動した主人公の能力一覧〜

『キュウビフォーム』
もふもふ! モフモフ! もっふもふもふ! モフモフモフモフ!!



と言う訳でめっちゃ長ったらしくなった脳姦編、これにて終了です。詰め込みすぎて疲れた…。

次回からは本編の再開を予定しております。もっと綺麗にまとめられる様になりたいですね……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その③

なぁ、信じられるか?
2020/08/01。イラストを…貰えたんだ…! (泣き喜び)
この場を借りて、今回イラストをいただきました春風駘蕩 様[https://syosetu.org/?mode=user&uid=32243]はじめ、お気に入りや評価、感想、ありがとうございます!!



忘れている人が大半だと思いますので、ここまでのざっとしたあらすじ。

小大さんとのせいしをかけたたたかいで辛くも勝利を収めた主人公。ヘイトを稼ぎつつ第1競技を上位陣でゴールし迎えた第2競技・騎馬戦。果たして無事に乗り越えることが出来るのか?


『–––さぁ(Hey)、起きろイレイザー! 15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに1()5()組の騎馬が並び立った!!』

『………中々、面白ぇ組が揃ったな。–––? 待て、何でブラドがここに居る?』

『聞きたいのは俺の方だ、突然呼ばれた』

『よくぞ聞いてくれたぜ! 理由は簡単、病み上がりだからだ! イレイザーみてーにミイラマンじゃないとは言え、USJでの怪我は完治してねぇからな! そんな状態でパトロールには回せないだろ?』

『「操血」…血液の循環を操作して無理矢理怪我の再生を早めたな? リカバリーガールからそれ止めろって言われただろ』

『まぁ生徒(リスナー)を不安にさせたくねぇって気持ちは分かるけどな』

『…むゥ』

『–––と言うわけで、解説にブラドキングを加えて実況していくぜ第2種目! さァ上げてけ鬨の声! 血で血を洗う雄英の合戦が、今!! 狼煙を上げる!!!』

 

 –––実況席からのプレゼント・マイク先生の声に合わせ、次第に観客席からの声も熱を持ち始め、歓声が大きなものと化していく。

 

『いくぜ残虐バトルロイヤルカウントダウン!! …3!』

 

 そうして始まるカウントダウン。改めて気を引き締める為、オレはチームである2人に声をかけた。

 

「吹出クン!」

「ああ!」

『2!』

 

「小大サン!」

「ん!」

『1!』

 

「–––行くぞッ!」

『START!!!』

 

 戦いの火蓋が切られる。合図と同時、一斉に騎馬が動き出し、そして。

 

 

 

 

 

「ねえ」

 

 

 

 

 

 ––––––()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 鈍い痛み–––()()に、意識がクリアなものとなる。四方八方から放たれる大歓声に包まれている筈なのに、オレを中心にした僅かな範囲だけが嫌な静寂に覆われていた。…それこそ正に、時間が止まってしまったかの様に。

 

(何だこれ、何が起こった??)

 

 混乱で思考は散らばり、答えを纏めることが出来ないオレには、自分が置かれた状況をゆっくりと咀嚼することしか出来ない。

 何で、何で。

 

 

 

 –––何で小大サンがオレの上に跨っているんだ? 

 

 

 

 

 

 *欲求:「……Let's party!!!!!!」

 

 

 

 

 

「男女平等パンチッッッ!!」

「んぐごっ!」

 

 据わった目でこちらを見下ろして来る彼女に拳を叩き込み退かすと、状況を理解する為に周囲を見渡し…それと同時にあり得ない言葉を耳にする。

 

『さぁ残り時間も3分となった! 気張っていけよお前らァ!!』

(…は? 3分!?)

 

 あまりのことに言葉にならない。騎馬戦開始以降の十数分間の記憶が全く存在していないのだ。

 

「ってぇ?!」

 

 ふと聞こえた声に振り返れば、そこには尻餅をついたらしい体勢の吹出クンが居る。数度周囲を見渡すと、その後彼もオレと同じ様に困惑した。

 

「あ、あれ? 残り3分、何で!? ポっポイントも!?」

「何が…ッ」

 

 巨大モニターに映し出された『0P』の文字。

 呆然としか出来ないオレたちに、近くを通る騎馬が声を発する。

 

「ハッ、ヒーロー科つっても大したことねぇな」

「止めてやれよ。あいつらB組だぞ?」

「–––ああ! A組と違ってヴィラン相手にビビって動けなかったヘタレ集団か。どうりで!」

 

 …恐らく今の騎馬は普通科だ。先日の襲撃事件から注目の的であるヒーロー科だが、その大半はアンチ的なものが占めており、そこに『A組と異なり咄嗟に動くことが出来なかったB組』と言う情報が加わればどうなるか。

 結果は今の様な具合である。

 

「…おっ。辛辣ゥ〜」

「…へーへー、そーですよ。ヒーローっぽくないB組ッスよ」

「–––B組のBはビビリのB!」

「自虐ネタ止めろ。…と言うか、相手はチンピラレベルでも明確に殺害意思持ってたんだぞ? ビビって当たり前だろ馬鹿じゃねえのか。そもそもひとに〝個性〟を使っちゃいけません、って言われて育って来たのにいきなり攻撃手段に使えるかフツー。倫理観どうなってんだよ…アレ? そう考えるとA組ってヴィランなんじゃ……」

「なにそのトンデモ理論」

 

 吹出クンと軽口を叩き合う最中にも–––当たり前だが–––時間は進んで行き、残り時間は直に3分弱。2分と少しとなってしまった。

 

 

 

「–––––っ」

 

 

 

 …それは歯を食いしばった音か、それとも握られた拳の音か。定かでは無いものの聞こえた小さな音。その正体は、顔を俯かせた小大サンである。

 襲撃事件当時オレと同じ場所に飛ばされた彼女は真っ先に人質として拘束され、加えて小大サン自身の個性も戦闘向けとは言えないので仕方がないと言えば仕方がないのだが、先程の言葉は確かに彼女にとって刃物の様な鋭さを持っていたに違いない。

 

 ヴィランと遭遇した–––プロの世界を目の当たりにしたあの日から、はっきり言ってB組の空気は最悪の一言に尽きる。

 A組に対しての劣等感に苛まれる中、直接的では無いが先程の様な陰口を叩かれて迎えることとなった体育祭。拳藤サンが士気を高めようとするもどこか上滑りを起こしていて、オレたちは空元気に似た雰囲気に包まれていた。

 

 それ程までに、ヴィランを前にして動けなかったと言う事実は重い。

 ヒーローを志す者として最悪の一歩と言えよう。もしあれが将来のプロの現場だったら? もしも…誰かが、命を落としていたら? 反論をしたくても、それ以上に自分自身に対する様々な思いから声を出すことが出来ない–––。

 

 きっと。

 今の小大サンは、その様な心境となって居るのだろう。

 

 

 

 

 

 *小大 唯:性欲 137/100*

 *感度「超高」*

 *状態「発情」*

 

 

 

 

 

 ………多分。

 

 視界に飛び込んで来た彼女のエロステータスに微妙な顔になりつつ、オレは思考を巡らせていく。

 現在のポイントのばらつき具合、把握出来ている個性とその使い方、オレたちの個性で出来ること、当初の作戦は使えなくなった、残り僅かな時間で出来ること–––。

 

「後、2分。…イけるか?」

 

 そう呟いてから、オレは2人に新しく考えた作戦を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––取られた、2本!」

 

 爆豪にハチマキを奪取された物間の言葉に、騎馬の少年が呻き声を漏らした。

 

「拙いな、4位だ。圏内ギリギリだぞっ?」

「すまない()()君…! 何としてもこの1本は死守する!」

「取り敢えず逃げの一手か…」

 

 駆け出す物間チームと、それを追う爆豪チーム。終盤に来ての盛り上がりを早速実況しようとしたプレゼント・マイクは–––。

 

『…な、何やってんだあの騎馬ァ!?』

 

 とあるチームを見てしまい、思わず叫び声を上げていた。何事だとブラドキング・イレイザーヘッドがそちらに視線を巡らし、彼と同じくそのチーム–––より正確に言えば、メンバーの1人の姿を認めた。

 

 さらりと伸びた光沢を放つ髪。艶を帯びた肌と、性差問わず見た者を虜にしかねない美貌と極上の肉体。

 

 

 

 

 

 –––手っ取り早く言おう。

 〝個性〟「サキュバス」で美少女に変貌を遂げた少年によって、脱衣ショー(ストリップ)が行われていた。

 

 

 

 

 

『ファッ!!?』

『ブラドの口から変な音が!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上は特サイズのスポーツブラ。下はボクサーパンツ姿となったオレは、(可能な限り)見せつける様に意識しつつ脱ぎ捨てたジャージを吹出クンへと渡す。

 下着姿となりアホみたいな注目を集めているオレに、吹出クンが慌てた様子で確認を取って来た。

 

「わ、弘原海(わたつみ)! 本当にやるのかい!?」

「当たり前! あれだけ言われて黙ってられるほど、心は広くないんでね!」

 

 動く度に激しく自己主張を行う乳房を鬱陶しく思いつつ。

 

「さっきも言いましたけど、この後オレは使い物にならなくなりまス! 頼みましたよ、2人とも! …た、の、み、ま、し、た、よッ!!」

「ん…、ん!」

 

 顔を真っ赤にして鼻血を垂らしていた小大サンは、オレの怒鳴り声に漸く反応を見せた。頼むぞ本当…! 

 不安に思いながらも、時間も残り少ない。意を決してオレは息を吸い込み–––

 

 

 

–––あんッ♡!!!

 

 

 

 全力で喘いだ。

 いや何をしているんだと思われるかもしれないが、聞いた相手の動きを止める魅了の声は、喘ぎ声だとその効果が増すのである。事実、耳をしっかり塞いでいた小大サンたち以外、フィールドに居る騎馬はその全てが動きを止めており、何なら観客席にも一部効果が及んでいるのが分かった。

 

 硬直によって訪れた静寂に合わせ、一息に視線を巡らし–––目当ての人物を見つけ、オレは声を発する。

 

「【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()】!」

 

 自分でも思う位に良く通った声を聞くと、彼–––宍田クンの瞳からは光が失せ、それと同時に獣化。こちらへと猛スピードで駆け寄って来た彼の背にオレたちはしがみつく。この頃に魅了の声の効果が解除され、同時に宍田クンとチームを組んでいた鱗クンが声を張り上げるも、当の本人は反応を見せない。

 

「高ポイントは!」

「轟・爆豪・緑谷・物間…一番近いのは爆豪と物間のところだ! …あれ? 物間のトコの先頭騎馬、誰だ?」

「オッケー先ずは爆豪クンからだ、頼んだ宍田クン!」

 

 推定重量150kg前後であろうオレたち3人を乗せつつも、全く意に介していない様な速度で宍田クンは駆け、あっという間に爆豪チームの騎馬へと近づいた。

 

「ンだテメ–––」

 

 と、騎手の彼が言う前に。

 

「【()()()()()()】!!」

「ハァ? 何言い出してんだアイツ「おう、分かった」…へ? お、おい爆豪何しt」

 

 ズドムッ!! と轟音は自陣に向けた爆豪クンの掌からだ。彼が自爆する直前に奪ったハチマキを小大サンに渡しながら、横を通り過ぎる合間に宍田クンの速度を活かし、物間クンからもハチマキを奪い取る。

 

「んなぁ、弘原海!?」

「ハーッハッハッ! 悲しいけどこれバトロワなのよねええぇぇー!」

 

 などと台詞を残し、次に向かうのは轟クンと緑谷クンのチームだ。

 

(残り僅か、出し惜しみはしない!)

 

 早速とばかり、引き剥がされない様にしっかりと宍田クンの背中にしがみつきながら、空いた片手を–––パンツの中に突っ込む。

 

「「「えっ」」」

 

 とは。同じチームの2人か、周囲の他チームからか、実況席の先生方か、観客席からか。…まぁ全部だろうが。

 そんなことを考えながらもオレは突っ込んだ指先でパンツの中を弄っていく。

 

「–––んッ。ふうぅ…

 

 思わず漏れ出た声に、慌てた様子で吹出クンが言う。

 

「いやちょちょちょ!! なにしてんだぁ弘原海!!」

「いや、大丈ぶ、ぅう…。ちょっとだけ時間下さ、はァい…っ!

『はいストップストップ! やめてこれ全国放送ゥー!!』

 

 オレの行いにマイク先生が悲鳴を上げるも、構うことなくオレは指を動かし続けもっと奥へ奥へと進ませる。

 

あ゛ッ、もう少しひぃ…! –––で、出るぅ♡!!

 

 ブバッと言う噴出音と共に小大サンが割とシャレにならない量の鼻血を出すのと、喘ぎながらオレがソレを()()()()()のは、ほぼ同時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、な、ななななななっ!!?」

 

 見目麗しい美少女が、然し突然行い始めた美少女らしからぬその様子を見て顔を赤黒く染めているのは緑谷である。直前まで繰り広げられていた轟たちとの戦闘の際に纏っていた覇気は何処へやら、だ。

 羞恥から両手で覆った上で顔を逸らした緑谷は兎も角、その他の面子はしっかりと–––鼻息を荒げている上鳴は除いて–––謎の行動を取りながらこちらに近づいて来る少女に身構えている。

 

(何をする気だ)

 

 そう、轟が思考したのとほぼ同時。

 喘ぎ声と共に、ソレが姿を現した。

 

 

 

「–––剣?」

 

 

 

 誰が漏らしたかその言葉のとおり、美少女のパンツの中から剣が引き抜かれた。

 刃渡りは目測で凡そ50cm程度。中世ヨーロッパなどで用いられたダガーに分類されるであろうソレは、ギラリと陽光を反射する。

 

 ふぅ、と息を吐き額に滲んだ汗を拭う少女。

 そして、

 

「くたばれぇええええっ!!」

『「「投げたァ–––ッ!?」」』

 

 実況席のプレゼント・マイクと、選手たちの声が思わず重なった。笑えない速度で放られた剣は風切り音と共に真っ直ぐに轟チームへと迫り来る。

 

「! 防御を!」

 

 先頭騎馬である飯田の声に轟は直ぐさま氷壁を展開。分厚い逆氷柱が生み出された。

 が、

 

 

 

 そんなもの関係無いと言わんばかり、剣はその速度のまま氷壁を通り抜け。

 –––ぞぶっ、と言う鈍い音が聞こえた。…聞こえて、しまった。

 

 

 

「八百万ッッッ!!」

 

 反射的に轟は、投擲線上に居たクラスメートの名を叫ぶ。視線を巡らせたその先。変わり果てた姿となった彼女がそこには居た。

 

 

 

「いやぁああああ見ないで!! 見ないで下さいィいいいいいっ!!」

 

 

 

 –––具体的に言うと、パンツ丸出しとなった姿で。

 

『パターン白! 清楚です!』

『公衆の面前で女子をあられもない姿にしやがって、恥を知れ! (チラッ、チラッ)』

『なんて酷いことを、許せねえ!! (ガン見)』

『貴様卑怯だぞ!! (前屈み)』

 

「もらいっ!」

「ッ!? しま–––っ」

 

 呆気に取られ真顔となっていた轟は、周囲から聞こえて来た他チームの–––主に男子–––からの声に混じって発せられたそれに、漸く我に帰る。そのまま緑谷チームからもハチマキを奪った例のチームが「【()()()()()()()】!!」と叫ぶと、獣じみた巨体の生徒を除いた3人が植物で出来た巨大な要塞に包まれた。

 

「拙いぞ轟君、このままでは!」

「チッ。…八百万、個性で早く穿くもン出せ! 直ぐに向かうぞ!」

 

 飯田の声に舌打ちを交える轟。…然し、彼の予想に反する言葉が返される。

 

「〜〜〜っ、いいえ! このまま向かって下さい轟さん! 残り時間も僅か、今は1秒も無駄に出来ませんわ!!」

 

 八百万の言葉に思わず振り返り–––振り返り切る前に顔を前に戻す。自身よりも勝利を優先した彼女だが、一瞬、ちらりと見えたその顔は真っ赤に染まっており、尚且つ目にはうっすらとだが涙さえ溜まっていた様に思えた。

 こんな公衆の面前で、しかも世界的に注目されているビッグイベント故の全国放送である。悩む轟に、今度は上鳴が声を張り上げた。

 

「そうだぜ轟! このまま行った方が良いって! パンツ丸出しになった八百万の覚悟を無駄にすんな!!」

「 か み な り さ ん ! ! 」

「い、いやちげえよ?! 切島じゃねーけどホラ漢気っつーか、いや八百万は女子なんだけど…とにかく違うって!!」

 

 慌てて否定をする上鳴は一旦置き、飯田が話しかける。

 

「轟君、準備を! …この後俺は使えなくなる。頼んだぞ!」

「飯田…?」

「一気に接近する、皆行くぞ! –––トルクオーバー、レシプロバースト!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––あー、んんっ! あ、あー! …『ピカーッ』!」

 

 塩崎サンによって生み出された蔓の要塞の中、暗闇を照らす為に吹出クンが個性で光源を生み出す。独特な輝きにより互いの姿を確認することが出来たところで、オレは彼らに声をかけた。

 

「と言うわけで、後は任せたッス2人とも(ビグビグッ、ビグンッ! ビグンッ!)」

「打ち上げられた魚の様に!!」

 

 先程からオレが行っていたのは催眠術。エロ同人でお馴染みの要素だが、凄まじく体力を消耗してしまう。1回行う度に大体2000kcal消費すると思って貰えばいい。*1

 

「弘原海…! お前の努力は絶対無駄にしない! よっしゃ、やるぞ小大!」

「ん!」

 

 ハチマキを巻く小大サンの横で、()()()()()を吐き出す吹出クン。準備を終えて騎馬を2人が組み終えるのと殆ど同じくして、蔓の要塞が崩された。

 先ず、爆発音。

 

「このクソモブがァあああッッ!!!」

 

 爆破でこじ開けた穴から向かって来た爆豪クンチームに、ハチマキを奪われる。

 

黒影(ダークシャドウ)!」

「アイヨ!」

 

 続いてこちらからハチマキを奪ったのは緑谷クンチームの先頭騎馬の人から伸びた影っぽい生命体。

 

「–––やってくれるじゃないか弘原海!」

 

 次いでハチマキを奪ったのは、その影っぽい生命体から現れた人物。黒色クン–––? 違う、物間クンか! (ビグンッ! ビグンッ!)

 

「行け、轟君!」

「ああ…!!」

 

 轟クンが続き、その後も様々なチームによりハチマキの争奪が行われていった。

 そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『TIME UP! 色々あったが、そんじゃ早速上位5チーム見てみよか!!』

 

 プレゼント・マイクの声が響く中。それにいち早く、そして唯一気づいたのは…緑谷でも、爆豪でも、轟でも、物間でもなく–––鱗であった。

 1本だけだがハチマキを奪取した彼が、残骸となった蔓の要塞から抜け出す時にちらりと視界の隅に捕らえたのは…。

 

(–––『スパッ』?)

 

 それはクラスメートの吹出が生み出したであろう擬音。鈍色で角張った塊に、彼は途轍も無く違和感を覚える。

 何の為の擬音なのか。まるで切断音。…切断? だとしたら何を切った? 一体、何を–––。

 

「–––っ!? し、しまった!?」

 

 そこまで思考を巡らせたところで、鱗は手元の()()()()()()()()()()()()を見た。

 

『1位…アレ!? 小大チーム!!?』

 

 驚いた様子のプレゼント・マイクの声。

 それに重なるのは、

 

 

 

「–––解除!」

 

 

 

 小大の声に合わせ、殆どのチームが持っていたハチマキ–––を、真似た()()()()()()()()()()()()のサイズが切り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––小大・吹出・弘原海(小大チーム)、獲得ポイント1000万超え!

*1
3時間程の水泳やランニング等の運動による消費エネルギーに匹敵。




細かい説明は次の話でする予定です。
書きながら原作読み返していたんですけど、やっぱりヒーロー科40人とお情けレベルの+2人は贔屓かなと思い人数等の変動が行われています。しなくても良い様な気もしますが…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その④

待たせたな。(滝汗)



メンタル回復の為に9927歳のサメちゃんを視聴したところ、見事にどハマりしてしまい投稿が遅れてしまいました。UBIUBI〜。

トーナメントの対戦相手は、アンケートで300票越えを果たした心操と爆豪、それから+αを予定。今話では1回戦目、vs心操の下準備となっています。それではどうぞ。





後書きに主人公が現在使える能力を簡単にまとめてみました。


 …先ずは、ストリップ紛いの行動に加え催眠術やパンツの中から剣を出現させると言った奇行で周囲の注意(しせん)をオレに集中させる。

 その隙に上位陣から奪ったハチマキを小大サンの「サイズ」で縮小。『ハチマキは首から上』のルールに抵触しない様にそれらを彼女の()に結び付けつつ、オレのジャージの白ライン部分を吹出クンの「コミック」を利用して裁断。ダメ押しに小大サンの個性で大きさを整えれば…あっという間にダミーハチマキの完成である。

 

 こうして他チームと–––1000万ポイント抜きにしても–––圧倒的な差を出したオレたちは、終盤で見せた大逆転劇に盛り上がった観客から拍手と共に喝采を受けつつ、英気を養う為に昼食へと向かうのであった–––。

 

 

 

 

 

「けろっ。…残念だけどそうは問屋が卸さないわ」

「ねーねー、選ばせたげる。海と山どっちが良い?」

「よくもヤオモモに恥じかかせてくれたねアンタ」

「どうするコイツ、処す? 処す?」

「覚悟は出来てるんよねぇB組の人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––あ、起きた?」

 

 ふと、声。

 首を動かし辺りを見回すと、地べたに腰を下ろした状態で此方を見る骨抜クンの姿を認めた。かいていた胡座を崩して立てた片膝に手を置いた彼に、オレは尋ねる。

 

「んぁ、えーと…。これは今どういう状況ッスかね?」

「昼休憩が終わってレク前に第3種目(トーナメント)の組み合わせをクジで決めるところ」

「どうもありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 彼の言葉を聞きながら、騎馬戦終了後、A組女子から受けた[編集済み]や[削除済み]を最後に途絶えている記憶を思い出したことで身震いを起こしつつ、オレはふと疑問を口にした。

 

「ところで骨抜クン、B組の雰囲気がピリついてるんスけど…何か有りました?」

 

 視線の先に見えるのはある程度纏まった状態でミッドナイト先生の説明に耳を傾けているクラスメートたち。しかしどうにも、見慣れたB組の面子たちが他と比べ–––最終種目に臨んでいるであろうその心情を比較しても–––妙に()()を感じるのだ。剣呑、と言い表せるかもしれない。

 ………え、もしかして公衆の面前で女子のパンツ露出させたオレの所為?

 

 自分で訊ねておきながら内心で焦り始めたオレに、小さく息を吐いた骨抜クンが答えた。

 

「昼休みの時にちょっとね」

 

 そう切り出すと。

 

「騎馬戦の時、物間は–––多分、騎馬を組んでいた他科の個性で–––真っ先にB組を潰したんだ。『それじゃあ作戦通りに』って言って、それに()()()()()俺たち以外殆どやられてたよ」

 

 骨抜クン含む鉄哲チームであった鉄哲クン・泡瀬クン・塩崎サンの4人は、開会前に物間クンが提案していたクラスぐるみでの作戦に個人で挑まないと意味が無いとの理由で不参加だったなそう言えば。

 

「勿論そんな事すれば周りから怒りを買うのは当たり前。鎌切辺りは『ふざけてんのか』って言いながら胸ぐらに掴みかかってたよ」

 

 …そりゃあまぁなぁ、と言うのが話を聞いた素直な感想である。

 皆で力を合わせようと提案しておきながら、したことと言えば裏切り行為以外の何物でもないのだから、鎌切クンの反応も当たり前だ。マラソンのスタートダッシュをぶっちぎるのとは余りにも規模が違い過ぎる物間クンの行いを知り、B組の雰囲気が剣呑となっていることに納得

 

「–––そうしたら、物間が言ったんだ」

 

 –––したのだが、骨抜クンは更に話を続けた。

 うん? まだ話は終わっていないのか?

 

「『ふざけているのはどっちだ』…って」

 

 …彼の話を纏めると、こうだ。

 

 ヒーロー飽和時代と呼ばれる現代、生存競争の激しいヒーロー社会では蹴落とし合いが常だ。言うなれば、クラスメートであったとしても将来的な商売敵–––つまりは敵である。()()()()()()なんて到底考えられることでは無い。…まぁ、実際の現場では即興でチームを組む場合もあるのだが…。

 何にせよ、誰もがそう言った気概でこの場に立っている。それなのにB組はどうだろうか。個人の力で臨んだ骨抜クンたちを除き、その殆どがA組との差から『ヒーローとして当たり前の精神』を忘れ、皆で仲良く手を繋いで挑んでしまっている。そんなものは、戦う戦わない以前の問題だ。

 

 昼休み。普段のひとを小馬鹿にする皮肉屋とは別人の様に真剣な表情で、物間クンは語ったらしい。

 

 –––戦う戦わない以前の問題、か。気持ちで負けているというやつなのであろう。物間クンなりの「もっと気高く『飢え』なくては…ッ!」発言がどうやら有ったらしい。

 

「そんなことが…」

「うん。それのお陰かな、皆の目付きが変わったのは。–––さ、クジ引きだ。最終種目頑張れよ、弘原海(わたつみ)

 

 そう言いながら、立ち上がった骨抜クンは地面を柔化。バッドエンドオリマーの様に生首だけを出していた状態のオレを引っこ抜く。

 

 

 

 

 

「–––物間も」

 

 

 

 

 

 次いで、オレの隣に植えられていた物間クンも。

 

「まぁそんなことがあった訳だけど、俺は兎も角裏切られた皆の気持ちが治るかって言われたら別だし。それはそれ、これはこれ」

「物間クンェ…」

 

 大丈夫かおい。白目剥いてるぞ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––あんただよな? 弘原海 ありす、って」

 

 さてその後。

 A組の尾白クンやB組からは庄田クンが辞退を申し出たりと色々あったものの、第3種目の組み合わせが決まりレクリエーションに移ろうとした時である。突然背後から飛来した声に、オレは肩を震わしていた。び、びっくりしたぁ!

 

 鼓動を早まらせながら声の方向を見ると、そこには『気怠げな』と言う表現がぴったりな隈の目立つ少年が。…あ、もしかして1回戦目の対戦相手か…?

 声をかけられ反応をしないのも失礼である。彼の問いかけにオレはそうだと言……おうとして。

 

「ツインインパクト–––解放(ファイア)!」

 

 瞬間、衝撃。

 突如脇腹に迸った凄まじい一撃により、腰を起点にくの字に体を折り曲げ空中で数度回転をする。

 

「駄目だ弘原海。彼に応えぐぼぁっ! い、いやそうだな。先ずは突然すまなうごぉっ!? 待つんだ弘原海、先程の行動には理由があべしっ! 彼の個性はぶべらっ! た、頼む重要なことなんだ! 恐らくトリガーとなるのがひでぶッ! 話を聞きうわらば!! ちょ、待、ごはぁあああッ!!!

 

 人を撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ。

 オレはひたすら庄田クンの顔面に向けて拳を叩き込み続けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3種目出場者はレクリエーション参加は自由らしく、それならば体力温存も踏まえて見学に回っていよう。

 

 …と、思っていたのだが。

 

「と言う訳でアンタら2人、チア手伝いな」

「「断る」」

 

 今現在、オレと、それから物間クンは何故かチアガール姿の取蔭サンたちに呼び出され、上記の様な言葉を頂くことになっていた。どういうことだってばよ。

 

「あのねぇ、アンタたち空気悪くしたんだからこの位はしなさいよ! 弘原海はA組の! 物間はB組の!」

「酷い言い草だなぁ、僕はB組のことを思ってしたことなのに!!」

 

 と、いつも通りな物間クンを横目に。

 

「と言うかそもそも、何で皆さんそんな恰好しているんですか?」

 

 オレの問いかけに、目前の彼女は分かりやすく眉間へとシワを寄せると、背後の–––オレがパンツ丸出しにしてしまったポニーテールの女子生徒・八百万サンへ視線を移した。

 

「あー…。相澤センセーからの言伝で、午後は女子全員チア衣装で応援しなくちゃいけなかったらしいんだけど…。なんか、それが嘘情報だったらしくて…」

 

 取蔭サンのその言葉に申し訳なさそうに頭を下げる八百万サン。の、背後で何やら、チャラ系金髪男子と小柄で葡萄みたいな髪型の男子とがサムズアップを行っているのを認める。

 どうやら彼らが原因らしく、鵜呑みにしてしまった八百万サンがヒーロー科の女子ズに発信してしまった様だ。

 

 むぅん。厳正なイメージが強い相澤先生が重要情報を伝言で済ますとは思えないし、普通に考えれば気付きそうなものだけれどなぁ…。

 何て考えていると、突然隣の物間クンがここぞとばかりに声を発する。

 

「あれあれあれぇ、普通に考えれば直ぐに分かることだと思うんだけどなぁ! A組は僕らより優れている筈なのにおかしいよ!? 他クラスにも迷惑をかけて恥ずかしくないのかい? 僕だったら恥ずかしくて人前には出られないけど、随分と面の皮が厚いみたいだねぇ!!」

(わぁ、活き活きしていらっしゃる)

 

 …クラスメートと言えど引くレベルの彼の言葉を聞いた八百万サンは、

 

「…………………誠に………申し訳、ありま……………せん……でした…………」

 

 その一言と共に、隅っこの方で膝を抱えて動かなくなってしまった。彼女の周囲だけ空間が黒く染まっているのは、目の錯覚ではないだろう。

 クラスメートが慌てて声をかけるも、ピクリとも反応することの無いその様子を見た取蔭サンがオレたちの方へと振り返り、こちらの肩に手を置いた。

 

「やれ」

「アッハイ」

 

 肩から聞こえたミシリと言う音に、反射的にオレは返事をする。

 

 羞恥心? プライド? 何だソレは食えるのか?

 

「ほら–––、弘原海はやるってさ。…物間も見習いなよ」

「する訳ないだろ! やってもコピー出来るのは5分だけなんだし!」

「5分()出来るなら心配ないノコ」

「えぇい寄るな! 僕は、男なんだ!」

 

 諦めの悪い物間クンをジリジリと追い込んで行く柳サンたちを見ながら、オレは個性を発ど–––

 

 

 

『…う、ぐがっ、ヤオモモよりもデカっ、ガ! グゥギゴガガガガガガギギィゴグギ、ギギ……ッッッ!!!』

『響香ちゃんしっかり!』

『深呼吸、深呼吸して!』

『駄目よ、自分を見失わないで!』

 

 

 

 ………???????

 

「–––チア衣装どうするか。八百万あんなんだし。…にしても、相変わらずデカイな」

 

 向こうの方で何やら黒い翼を生やしそうな勢いの女子生徒に混乱しているオレは、拳藤サンの言葉によって意識を引き戻される。きょ、極力向こうの方は見ない様にしておこう…!

 

「あ、あー。でしたら大丈夫ッスよ。この剣–––よいしょっと。情報をコピーして、切り付けた服の見た目を変えることも出来ますので」

 

 言いながら、騎馬戦の際に使用したダガーをパンツの中から取り出す。……止めろよ、そんな目で見るなよ。

 

「弘原海さぁ、そーゆーの。止めた方がいいよっ?」

 

 取蔭サンが言うと、拳藤サンもそれに賛同した様子で何度も首を縦に振る。

 彼女たちの反応は最もだし、オレも世間体があるからその意見には思う部分があるのだが…しかしだ。オレの個性はその性質上、エロいことなら何でも出来る(エロくないと何にも出来ない)ものなので…。

 

「そうは言いましても、こうしないと取り出せなくて…」

「い、いやだからって…。公衆の面前で、あんな、その…」

 

 尻すぼみになりながら顔をどんどん赤くしていく拳藤サンたち2人を見て、オレは慌てて声を出した。

 

「いやちょ…ッ?! か、勘違いしないで下さい! 違いますからね!? 別にオナニーしてませんからね!?

「ォ…、オナニーとか言うなバカ!!」

 

 バゴスッ! と個性で数倍に巨大化した拳で殴打され、後方へと派手に倒れる。

 

「–––えぇい、オレにどうしろってンだ! 人が精一杯個性で出来ることを真剣にやってるってのに文句ばっかり言いやがってよォ!! 良いのかゴラ! ああ分かったよ非エロで取り出してやるよ! お茶の間が阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは必至だけどなァあああああ!!!」

 

 ストレスが限界値まで溜まったオレは半泣きになりながらジャージの下に手を滑り込ませ、その指先を()に運ぶ。と、ジャージ越しに「プチップヂチ…ッ! メリメリィ…ッ!」と言う耳を塞ぎたくなる不気味な音が小さく、しかし確かに発せられ、慌てた拳藤サンたちが「やめて、やめて!」と駆け寄って来た。

 

 不貞腐れながら、鏡面仕上げが施されたかの様に輝く刃部分を、彼女たちが着ているチアガールコスチュームへと向ける。すると『ぺかーっ』と言った具合に淡く発光し–––その状態でオレが着ているジャージを切り付ければあら不思議。ドスケベボディなチアガールの完成である。

 

 

 

 

 

 *欲求:「その格好はッ! 最早ッ!! ◯ックスなのではッッッ!!!」*

 

 

 

 

 

 唐突に視界に飛び込んで来る小大サンのエロステータス。黙っているのに五月蝿いとはこれ如何に。

 

 ホラー映画のワンシーン並みに見開かれ、血走ったその両目を無視しながら、オレは気取られない様に物間クンの背後へと忍び寄り–––一息に剣を振るう。

 

「–––ほぅら。衣服を刈り取る形をしているだろう?」

「ぐぅあ゛あああああァあ゛あ!!?」

 

 野太い絶叫と共に膝から崩れ落ちるのは、チアガール姿となった物間クン。

 なんだかんだ静かにしていれば顔は良いのだし、そこまで酷いことにはならないだろうと思っていたのだが…アレだな。首から下がゴツすぎて悲惨の一言に尽きてしまう。細マッチョが通用するのは男だからなんだな…。

 

「ほら、いい加減覚悟を決めなよ。それともこれ以上痴態を晒す?」

「ぐ、ぐっ、ぐううぅ…! –––あぁ分かったよ! やれば良いんだろうやればさぁ!」

 

 腕を組みながら訊ねた小森サンを、忌々しげに睨みつつ唸っていた彼は、覚悟を決めた様子で–––諦めたとも言う–––立ち上がり、オレの肩を苛立った様子で(はた)く。

 パシンと言う小気味の良い音の後、ボンッと彼の肉体に女体化が施された。

 

 金髪は前髪の一部が伸びたハンサムショートとなり、筋肉質であった身体はスラリとしたモデル体型に整えられる。最後に控え目な角や翼が各部位から出現し、あっという間に物間クン(♀)が完成した。

 全体的に、むっちりとしたオレと異なり彼の場合はスタイリッシュと言った感じの見た目である。

 

 そんなことを考えるオレを他所に、顔を羞恥で赤くしながら。

 

「ああもう、何だって僕がこんな、こと、を………?」

 

 

 

 –––すぅ、と。その顔色が、青くなる。

 

 

 

(ああ…見たな?)

 

 〝個性〟「コピー」。文字通り相手の個性をコピーし、5分間好きに扱える様になる彼の個性は…オレの「サキュバス」の副次能力も丸ごとコピーした訳で。

 

 

 

 

 

 *欲求:「うぅわエッロ、手足長ぁ…。って、イカンイカン相手は物間…」*

 

 

 

 

 

 つまり、今の彼には取蔭サンのその心中も包み隠さず見えてしまっていることになる。勿論あの人も、そしてこの人のエロステータスも。そして–––

 

「…ひぃっ!?」

「ん?」

 

 言 わ ず も が な 小 大 サ ン の ス テ ー タ ス も 見 え て い る わ け で 。

 

 …周囲から訝しげな視線を向けられつつガタガタと震える物間クン。オレは静かにその肩へ手を置くと、彼は飛び上がりながらこちらを見る。

 

「…なぁ分かっただろ? どうしてオレが小大サンにあんな態度を取るのか。–––怖ェんだよ…!」

 

 オレの言葉に、色違いメタモンの様な顔色と表情になった物間クンは壊れたロボットの様に首を上下に激しく振り続けた。

 意図せず、思わぬ形で味方を手に入れることとなったオレだが…うーん。ショックの所為で超振動物体と化してしまった今の状態ではなぁ…。

 

「えーとすみません。具合が悪い様なので、ちょっと物間クンをリカバリーガールの所に連れて行きますね…」

「う、うん。…どしたの?」

「1割くらいは取蔭サンの所為ッス」

「何でッ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて。こうして始まったレクリエーション。

 締めとなる第3種目前の余興とは言え、個性をフル活用して行われる大玉転がしや借り物競争は大いに観客たちを盛り上がらせていた。

 

『『『(じー…)』』』

 

 オレ含める、A・B組も本場チアガールたちの横でボンボンを振りながら跳ねたり飛んだりしているものの、やはりそこは素人。本場の人間と比べるとやはり見劣りしてしまう為、あまり注目を集めてはいない。

 

『『『(じー…)』』』

 

 とは言え、こうして体を動かすことで第3種目前の緊張を紛らわすことは出来るだろう。変に肩肘張り続けた結果、本番で本領を発揮出来ずに終わってしまうこと程悲しい結末は無いだろう。

 

『『『(じー…)』』』

 

 と言うわけで。オレも今だけはチアガールとして、外聞を気にせずに好きな様に体を動かすことにした。

 幼少期なら兎も角、変に羞恥心の身に付いた15歳であるが、それがかえって妙な高揚感を生み出している。偶にはこう言うのもアリだな。

 

『『『(じー…)』』』

『『『(じー…)』』』

『『『(じー…)』』』

 

 ………ふぅ。

 

 

 

 

 

「–––砕け散れ塵芥が如くッ!!!」

「「ああっ!!」」

 

 

 

 

 

 周囲から注がれる視線等に遂に我慢の限界が訪れ、オレはローアングルから構えられていた小大サンと葡萄頭の男子生徒のスマホを八つ当たり気味に蹴り砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––ヘイガイズアァユゥレディ!? 色々やって来ましたが、結局これだぜガチンコ勝負ゥ!!』

 

 セメントス先生によって作られた、2つの台形を重ねた形状の闘技場(バトルフィールド)。プレゼント・マイク先生の言葉に中てられ、観客席からの歓声や熱気は四方から噴き出す炎の熱とは比べ物にならない程の物と化している。

 

『頼れるのは己のみ! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだァ分かるよな!? 心・技・体に知恵知識! 総動員して駆け上がれッ!!』

 

 残り僅かとなった通路。震える体を落ち着かせようと–––落ち着けるわけも無く、結局は数度の呼吸を繰り返すだけに終わった。

 …泣いても笑ってもここが最後。出来ることを、全力でやるだけだ。

 

 –––よしっ。

 

『さぁ()っていくぜ1回戦! 出来ればメデイアも考えて手加減してほしいぜヒーロー科・弘原海 ありす!!』

 

 えぇ…。

 

(バーサス)!! ごめんまだ目立つ活躍無し!普通科・心操 人使!!』

 

 オレの対戦相手は普通科の男子生徒。紫の頭髪をライオンの(たてがみ)の様に広げた彼は、オレと比べて10数cm分は背が高く、こちらも鍛えているとは言え微妙な感じである。見た感じ彼は筋肉質と言うわけではないのだが、もしかしたら着痩せするタイプかもしれないし。

 

 それに最も警戒すべきなのはその強力過ぎる個性だ。

 実際にその術中に嵌ったオレ自身の感じや庄田クンの情報から考察出来たのは、凡そ2つの特性。『彼の言葉に反応したらアウト』と、『外部からの衝撃でその効果が解除される』この2点。

 後者は、遮蔽物も何も無く1対1のこの状況では期待出来ない。なので、前者…兎に角反応しない様にしなければならない。反応さえしなければ、多分オレが勝てる。

 だがそれは言い換えれば、相手は反応さえさせれば確実に勝てるということ。何をしてくるか分からない以上、下手に動くとかえって悪手か…?

 

「–––分かるかい弘原海 ありす。これは心の強さを問われる戦い」

 

 などと、思考を巡らしていると突然話しかけられ、思わず声を発しそうになってしまい慌てて口を噤む。

 危ない危ない、落ち着け落ち着け…!

 

「強く思う将来(ビジョン)があるならなり振り構ってちゃダメなんだ…」

『そんじゃ早速始めよか! レディィィイイイイイ』

「あの()()()はプライドがどうとか言ってたけど! …チャンスをドブに捨てるなんてバカだと思わないか?」

 

 

 

 

 

 それを聞いて、オレは。

 

 

 

 

 

「ンだとてめェ––––––––––」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、勝ちだ」




 〜主人公が現在使える能力一覧〜

『変態』
 自分の肉体を改造してドスケベボディになったり媚薬や睡眠ガスを生成する基本的な能力。改造を行う度にエネルギーを消耗するので、やり過ぎるとどんどんロリ化していく。

『欲視』
 相手のエロステータスを視覚情報化する。

魅了(チャーム)
 大声を出すことで聞いた人間の動きを停止させる。声の大きさや喘ぎ声にすることで、効果が増加。

『快楽堕とし(?)』
 恐らくは発動しているであろうとされる能力。膝枕で耳かきを行う、動物系の個性を持った人物に触れる、〝キュウビフォーム〟の尻尾に触れさせる等の特定の行動で発動。文字通り相手が快楽堕ちする。

『催眠術』
 相手を自分の命令に従わせる。
 但しエネルギーの消耗が半端無いので連発すると普通に死にかける上、人によってかかり具合にバラツキが有るなど使い勝手は悪い。

野球剣(エロスカリバー)
 相手が身に纏っている衣服のみを切断する剣。衣服以外はあらゆるものをすり抜ける。情報をコピーし切り付けた衣類の見た目を変換することも可能。
 因みに収納(物理)であり、『下着の中に手を入れて』以外の方法で取り出そうとすると、臍付近の肉を[編集済み]の範囲まで引き裂いて取り出さないといけなくなる。

魔性(フェロモン)
 相手を性的に興奮させる効果のある特殊なフェロモンを全身から分泌。変態を行った際に肉体が、いわゆるドスケベボディと違い標準的・一般的なものとなるとその効果が上昇する。

 尚、この能力については主人公及び雄英側は把握出来ていないものとする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その⑤(心操 人使:イグニッション)

何 だ こ れ は 。


『–––オイオイどうした、大事な緒戦だしっかり盛り上げてくれよ!? 開始早々、弘原海(わたつみ)完全停止–––!!』

「ああああ弘原海! 忠告したじゃないか!!」

 

 プレゼント・マイクの実況の後に聞こえて来たのは、恐らくは同じB組であろう生徒の声。視線を巡らせれば…騎馬戦の際に()()した男子生徒が頭を抱えているのを認めた。

 

 視線を戻し–––目前へ。

 

「お前は…恵まれていて良いよな」

 

 思わず零れ出た言葉を覆い隠す様に、瞳に光の灯っていない対戦相手の少年へ命令を行う。

 

「–––振り向いてそのまま、場外まで歩いていけ」

 

 ふらり、と。

 その体が揺れ動くと背後に向き、そのまま歩を進め始めた。

 

「分かんないだろうけど。こんな個性でも夢見ちゃうんだよ…」

 

 誰に聞かせるわけでも無いその呟きは、今まさに果たされようとしている普通科によるヒーロー科への下剋上に盛り上がる歓声に掻き消される。

 

 心操 人使、〝個性〟「洗脳」

 自身の問いかけに応じた者を従順にさせる–––()()()()()()()個性。

 

「さぁ負けてくれ」

 

 場外ライン目前まで移動したその背中に向け、心操は言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実況席。1試合目からまさかの普通科生徒による、現役ヒーロー科生徒を完封と言う予期せぬ出来事にプレゼント・マイクは自然とその実況に熱を込めていた。

 …のだが。

 

「全っっっっっっ然目立ってなかったけど! ひょっとして彼やべえ奴–––ヒィ! ちょっと待てそれ以上にやべえ奴が俺の直ぐ横に! 落ち着けブラド、ヒーロースーツも相まって赤鬼(レッドオーガ)みてーになってるぜ!? 誰かイワシの頭と柊持ってきてェッ、それか炒った豆!!」

 

 そう叫ぶ彼の横では、シュゴォオオオオ…ッ! と謎のオーラを纏いつつ表情を険しく歪めているブラドキングが居た。更にその横に居るイレイザーヘッドは現在対戦している弘原海・心操2名の簡易データを取り出すと、それらを眺めながら鬱陶しそうに椅子ごと距離を取っている最中である。

 

「ぐぬゥ…! 冷静に対処出来ていれば勝てていた戦いだったぞ弘原海…ッ!」

 

 と、語るブラドは放っておき。

 

「……心操自身、体力テストの結果は『並』ってところだ。個性の攻略さえ出来ていりゃあ、確かに勝てていたな」

「ぐぬぬぬゥうっ!!」

「Hey イレイザー! 煽んな煽んな! これ以上はブラドが人間辞めちまう!」

「別に煽ってはいないだろ」

 

 吊り上がった目尻が輪郭からはみ出そうな勢いのブラドキングから距離を取りながら、実況に戻るマイク。触らぬ神に祟りなしである。

 

「ああーっと、弘原海ジュージュン! これは成ってしまうか下剋じょ…んん?」

 

 …と、その時。

 不意に、マイクが間の抜けた声を漏らした。それを訝しんだブラドとイレイザーの両名は視線を巡らせる。彼らの視線の先、ライン際。そこでは弘原海が最後の1歩を踏み出そうとしていた。

 

 –––片手の指先に、極彩色(どピンク)の焔を灯しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な………ッ!!」

 

 –––その距離の為、観客席では轟音として認識されたそれは『衝撃』として心操に襲いかかり、彼は思わず踏鞴を踏むこととなる。

 

「体の自由は利かない筈だ、何したんだッ!!」

 

()()()()()()()()()()()–––その起点となるのは、焔が灯された指をデコピンの要領で弾いた少年。衝撃波だろうか。服はボロボロに崩れ、その足下の闘技場部分は砕け抉れていた。

 …心操の叫びに答える代わり、前を向いていたその顔がぐりんっと振り返る。

 

(〜〜〜〜〜ッ、答えない…! ネタ割れたか–––いや、個性については予め分かっていた筈。どうにかもう1度口を開かせるしか…!)

 

 1歩。

 こちらに近づいた少年の頭髪が艶を帯びると同時に腰付近までの長さとなり、その相貌は傾国と評するに相応しい美しさへ、肉体は性差関係無く万人を虜にするであろう魔性のものへと切り替わり、次いで翼や角・尾と言った異形の部位が出現を始める。

 

「指動かすだけでそんな威力かァ、羨ましいよ…!」

 

 その個性の関係上『反応させれば』良い為に相手の神経を逆撫でる言動に自然となりがちであったが、口から発せられたのはどこか自虐の感じられる嫉妬を含んだ言葉だった。

 

「俺はこんな個性のおかげでスタートからすっかり遅れちまったよ」

 

 発現してから今日に至るまで、悪事に有効利用が出来る個性として間接的に、時には直接的に評価を下されて来た。…ヴィラン向きの個性として。

 

「…何とか言ったらどうなんだ」

 

 それでも諦め切れない夢があった。手から炎は出せず、空も飛べないし、岩をも砕く超パワーだって無い。

 それでも。例えどんなに無様だとしても、ヒーローになりたいと言う夢は諦められなかった。諦めたくなかった。

 

お前みたいな(恵まれた)奴には分からないだろ!!」

 

 …だけど結局は、こんな結末(このザマ)で。

 

「誂え向きの個性に生まれて、望む場所へ行ける奴らにはよッ!!!」

 

 

 

 直後、目前の少女の服が弾け飛んだ。

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 纏っていた雄英指定のジャージは大小様々な大きさの布切れと化して少女を中心にドーム状に展開。A組の観客席から上がった『神よ感謝ァッ!!』と言う叫びと同時にそれらは少女に向けて収束し、目にも留まらぬ速さで互いが互いと組み合わさることで衣服を形成していく。

 

 出来上がったのは、黒を基調としたエナメル質の衣服に加え白で統一されたカフスや襟の装飾…いわゆる、バニースーツと呼ばれるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 但し、頭に『逆』の一文字が付くタイプの。

 

『『『ぶふぉッ!!?』』』

 

 と、実況席の3名が噴き出すのを皮切りに、会場は一気にパニックとなる。

 

『『生きてて良かったァーッ!!』』

 

 と、A組の観客席から2人分の歓喜の声が上がる一方。

 

『ん(ブバハァッ!)』

『唯ィァアッ!!?』

 

 B組では凄まじい量と速度で鼻血を噴出した美少女にクラスメートが悲鳴を上げていた。

 もちろん報道機関の人間も、

 

『ちょ、カメラ! カメラ止めろォ!!』

 

 …と言った具合で慌ただしい。

 至近距離でそれを眺めることとなった心操やミッドナイトは逆にリアクションらしいリアクションを取れず、石像の様に体を硬ちょk「え。言う程かしら…?」硬直させている。

 

 確かに界隈で有名な逆バニーであるが、少女の場合は紐に近いとは言えパンツも履いているし胸にもハートマークのニップレスもしっかり付けている為、辛うじて今回の雄英体育祭の映像が成人指定される心配は無い…と、思われた。

 ………………ご丁寧に下腹部には()()()()()()()()()()()()()()()()()がオマケで描かれてはあるものの。

 

「な、なん…っ」

 

 漸く反応を見せることの出来た–––とは言っても、ろくに意味を持たない音の様な言葉を吐き出すだけの心操。その目前の少女はバニー耳の代わりに悪魔じみた双角を生やした頭を数度振る。首からこきりっ、こきりっ、と小気味の良い音が発せられた後に、すぅと息が吸い込まれた。

 それから–––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––オレの〝個性〟は「サキュバス」!! エロいことなら何でも出来るッ!!」

 

 声が、轟いた。

 

「発情効果の有る媚薬の生成も! 一瞬で眠らせる睡眠ガスも! 相手を意のままに操る催眠術だって!!」

 

 お、おう。とどこからか声が発せられる中で、もう一度、より深く長く息が吸い込まれる。

 

「時間停止ッ!!」

 

 叫びながらどこからか–––本当にどこから取り出されたのか、頭上へ放られた剣が秒針が鳴る様な音と共にその場に縫い付けられる。

 

「ラブドールッ!!」

 

 ズニュルリンっ、と下腹部の淫紋から、ケモミミと尻尾を生やしたバニラホワイトの毛髪の少女–––を、模した精巧な人形が()()()。生まれたそれは、地面に落ちるとその衝撃によって関節を折り曲げた不気味な姿勢のまま放置された。

 

 その意図が読めずに硬直していた実況席のプレゼント・マイクがこの辺りで漸く意識を取り戻し、慌てた様子で声を発する。

 

『ぉ…! OK、OK リスナー! ナイスな自己アピールサンキューな! でも世間の目ってモンがあるからその辺にしとこか! 一応コレ全国放送だか「◯ックスしないと出られない部屋ァッ!!」お願いやめてェ!!

 

 ガゴンっ! と重厚な音を立てながら巨大な立方体が出現。「◯ックスしないと出られない部屋」と言う文字群がその壁面を電光掲示板の様に流れていく。

 

 さて。

 唐突に始まった個性アピールであるが、それを間近で見せられている心操はと言うと。

 

(お、俺はこんな奴に負けたのか…ッ!?)

 

 その反応も至極当たり前であった。

 当時の雄英高校入試試験の際、戦闘能力重視の試験内容に彼の個性は全く通用せず…いや、逆になんでコイツはここまでふざけた個性で合格したんだ…?と、憤怒に駆られつつ内心で首を傾げる。

 

「–––今。ふざけてるって思っただろ」

 

 –––そんな彼に、静かな声が発せられた。

 目前の、凄まじい恰好の少女だ。吸い込まれそうなその瞳にパステルカラーに輝くハートマークを浮かべた彼女は、心操が何かしらの反応をする前に続ける。

 

「ああそうだよ、オレの個性はふざけてる。自分でだってそう思うよ」

 

 けどな、と。

 

「◯ックスしないと出られない部屋はこんな脱出条件だ、単体のヴィランの捕縛にゃ持ってこいだ。催眠術ならヴィランだけじゃなくてパニックになった人の避難にも使える」

 

 –––その言葉を聞き、ピクリと反応を見せる心操。

 

「ここに居る全員、本気でやってる…!」

 

 きっとその『全員』は、体育祭に臨む雄英生だけでは無く、観客席に座るプロヒーローたちも含まれているのだろう。個性の種類は千差万別。その中には様々な扱いや評価を受けるものがある。

 

「どんなに見映えが悪くても、どんなに馬鹿にされても、–––何度()()()()()()って言われてもッ!!」

 

 ………あ、と。

 心操の口から、自然と声が零れ落ちる。

 

 

 

 

 

「ふざけてるって、腹ァ抱えて笑ってろ。…お前らが嗤うこの個性で! オレはヒーローになるッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 歓声は無い。拍手も無い。そんな静寂の中、握り締めた拳に焔を灯しながら少女は声高らかに宣言をして見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––手とは不思議なもので、握ればそれは誰かを傷つける為の拳となり、開いた掌では誰かを優しく包むことが出来る。とは言っても…その握った拳は誰かを守る為に振るうことも出来れば、逆に開いた掌で人を傷つけることも可能だろう。要は、使い方である。

 握れば拳開けば掌。個性だって、きっとそうだ。

 

 こんな個性のおかげでと心操クンは自分の力を卑下に扱ったが–––オレから言わせれば、十二分に素晴らしいものである。

 その初見殺し具合から対ヴィランとしてもそうだし、オレが言った催眠術の様にパニックに陥った際でも役立てることが出来る筈だ。返答さえさせれば良いのだから。

 …でもきっと。それを言ったところで聞き入れられることは無いのだろう。…彼はオレの言葉を受け入れることが出来ない。

 

 だって彼の言うとおり、オレは恵まれた人間だから。

 

 ヒーローになれると、無個性でも笑わずに夢を聞いてくれた誰かが居てくれた。

 頑張れよと激励を添えて、個性(チカラ)を渡してくれた先代が居てくれた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから。

 …………だから。

 

 オレに出来ることなんて、1つだけなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すいません救けて下さァい口と体が勝手に動いてんですけどォぉおおおおおおおおおおッッッ!!!??

 

 

 

 

 

 いや知らねえから時間停止とか! 何時の間にオレは石仮面で吸血鬼になったんだよ! シないと出られない部屋とか何さ!? 全部肉体改造の範疇超えちゃってるでしょーがァあああアあ!!!

 

 

 

 

 

 *心操 人使:性欲 17/100*

 *感度「良」*

 *状態「興奮(弱)」*

 *性感帯「特筆点無し」*

 *開発可能部位「乳首・首筋・左耳」*

 

 

 

 

 

 視 界 が 喧 し い !!

 知りたくない、知りたくないからそんな情報! 見せられても困るから!! どうなってんの本当!!

 

 …い、いや、心当たりはある。試合開始直後に心操クンの個性にまんまとかかって残り1歩で場外判定を食らおうしていた、正にその時だ。

 –––なんか来る時に通った通路に、無数の人影が居て。その内の1人と目が合った瞬間に…こうである。

 こ う で あ る 。

 

 何だこれは? 何だこれは?? なん、何だこれは!?

 

 誰だったのあの人たち!? 大半は分からなかったけど目を合わせたの見覚えあったよ、先代だったよね!? え、何!? 歴代「サキュバス」の継承者? 先代死んでるのに!!?

 や、やめてくれよ柳サンに勧められてよくホラー映画は見てるけど、あくまでフィクションだから楽しめるんだよああ言うのって。リアルはダメだって! お願いだからオレに今取り憑いた霊的サムシングは今直ぐ体の主導権返して天に昇ってくれ!! 早よッ!!

 

『ふざけてるって、腹ァ抱えて笑ってろ。…お前らが嗤うこの個性で! オレはヒーローになるッ!!!』

 

 おう感動的な台詞ありがとうな! だが無意味だ!!

 …ちょ、やめろ拳を構えるな! よく分かんないけどその炎みたいなの纏った超パワー怖いんだよ! 絶対反動的なのあるやつじゃん!

 この、クソ…ッ! 唸れオレの精神力! 幽霊なんかに負けてんじゃねえぞ!! 左手(だけでも良いから)動けェ–––ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––––心操君場外、弘原海君2回戦進出!!」

『…緒戦からナントモ濃いぃ試合になったが、これだけは言わせてくれ! –––色々ゴメン弘原海! そうだともここに居る全員が本気で戦ってる、戦って来た! 皆さんどうか両者を称えてクラップユアハーンズ!!』

 

 …主審ミッドナイトの声に遅れて訪れたプレゼント・マイクのハイな声により、心操の揺れていた意識が次第に定まったものとなっていく。

 ハッと慌てて起き上がれば…自分は場外、残った対戦相手は抱き抱えた精巧な人形を()()()()つつ、己が纏っていた衣装を剣で切りつけ元のジャージに戻している最中であった。

 

 試合終了の決め手となった凄まじい拳…が、放った『衝撃』を思い出しつつ、闘技場に戻りお互いに礼をすると–––そのまま観客席に戻る為に通路へ向かった心操は背後から声を聞く。

 

「………–––––、–––」

 

 聞き取れなかったその言葉に足を止めて振り返り。

 

「…何?」

「–––心操クンはさ。どうしてヒーローに…?」

 

 …実際は今の今まで奪われていた体の主導権が戻ったことで思わず声が漏れただけで、今の質問も咄嗟に捻り出しただけなのだが…そんなことは露知らず、心操は憮然と答えた。

 

「………憧れちまったもんは、仕方ないだろ」

 

 その言葉を最後に、彼は今度こそ後にしようとして–––。

 

 

 

「かっこよかったぞ心操!」

 

 

 

 ふと、頭上から声。

 観客席から身を迫り出した普通科の生徒たちがクラスメートの彼を褒め讃えた後、あちらこちらからチラホラと、プロヒーローたちが心操の個性の素晴らしさやそんな彼を普通科に編入させた雄英に対する評価などが発せられ始めた。

 

「…結果によっちゃ、ヒーロー科編入も検討してもらえる」

 

 覚えておけよ、と彼は背中を向けて続ける。

 

「今回は駄目だったとしても、絶対に諦めない…! ヒーロー科入って資格取得して…、絶対お前らより立派なヒーローやってやる…!」

 

 その力強く決意に溢れた宣戦布告に、傍で聴いていたミッドナイトは恍惚の表情で身を震わせたりしていて…。

 実際、その言葉に少女もうかうかしていられないと気を引き締める部分が有ったのだろう。表情を引き締め、返事をしようと

 

 

 

 –––ビュゥと、風が吹いた。

 

 

 

「おわぶっ」

 

 突如吹いた風は勢いが強く、思わず心操は体勢を崩しながらおかしな声を出す。

 

ひ–––––っ

 

 …気のせいか、何か聞こえた気がしたので彼は背後へ視線を運んだ。そして、見た。

 見てしまった。

 

 

 

 

 

 何かこう、顔を真っ赤にして涙と鼻水と涎と汗を流している淫魔を。

 

 

 

 

 

「はびゃああああああああっっっ♡♡♡♡♡!!!??」

 

 

 

 

 

『………え。何今の』

 

 悲鳴を上げてドサリと倒れた淫魔を見て、プレゼント・マイクのその言葉が発せられた。




〜今回発動した主人公の能力一覧〜

『時間停止』
そのまま。多分11秒くらいの間で時間を止められる。

『淫紋』
凝ったデザインのハートマークが下腹部に出現する。
だけ。

愛玩人形(ラブドール・レトリーバー)
犬っぽい擬人化美少女…の、人形を生み出す能力。

◯◯しないと出られない部屋(プライベートボックス)
条件を満たさない限り脱出不可能な巨大な立方体を出現させる。因みに内部は外部の影響を受けず温度・湿度が一定に保たれ、ベッド、エアコン、冷蔵庫、携帯充電器、テレビ、トイレ、バスルーム、その他諸々が完備されている。

『欲視の魔眼』
欲視が強化された状態のもの。
視認出来る対象のエロステータスの項目が大幅に増し、その見た目にも変化が現れ、瞳の中にパステルカラーのハートマークが浮かび上がる。
神様だって殺して見せる人は関係がない。

感度6000倍(オーバードウェポン)
岩をも砕くスーパーパワーを手に入れる。
発動後は、全身性感帯化+感度6000倍+強制発情のオマケ付き。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その⑥

前回のあらすじ。

心操「こんな力…!」
淫魔「君の! 力じゃおっへぇ♡!?」



そんな内容だったにも関わらずお気に入り件数が4000件を突破致しました。偏に皆様のお陰です。評価、誤字報告、感想などなど、改めまして、ありがとうございます。

今話はvs小大さん前編。ちょっと短めです。


 悲鳴が上がり、その身体が崩れ落ちる–––。

 

弘原海(わたつみ)君!?」

 

 その尋常ならざる悲鳴を聞き真っ先に動いたのは、過激なコスチュームに身を包んだ18禁ヒーロー・ミッドナイト。すぐさま駆け寄り、その体をすんでのところで彼女は受け止めた。

 

「弘原海君、大–––––」

 

 ミッドナイトの視線は即座に異常の原因を探る為、その体にくまなく巡らされる。

 まず始めに、黒さを感じる程に紅潮した頬。潤んだ瞳。滲む汗。

 

「–––––丈–––––」

 

 震える体。やけに帯びている熱。

 そして順を追う様にして視線は最終的にその()()()へと…。

 

「–––––夫だからね! もう大丈夫よ!!」

 

 爆速、と言う表現がぴったりな速度で駆け出したミッドナイト。お姫様抱っこの状態で抱えられた少女は振動を受ける度に艶を帯びただらし無い声を漏らしていたものの、ミッドナイトの努力の甲斐有り、その様子が地上波に放送されることは何とか防がれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに。

 

「………この人って増強型でしたっけ?」

 

 …と、この時のミッドナイトを画面越しに見た『速すぎる男』と称されている若手ヒーローがそう呟いていたりするのだが…それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、色々と–––本当に色々とあった第1回戦。最後に見せた少女の様子に異常事態だと悟ったブラドキングは思わず実況席から飛び出し、最短・最速で様子を伺いに複数用意されている簡易救護室の1つへと訪れていた。彼の背後には同じ考えであろう、彼が受け持つヒーロー科・B組の生徒たちが幾人か引っ付いている。

 救護室の入り口に立つミッドナイトの姿を認めたブラドキングが、声を発した。

 

「ミッドナイト! 弘原海はぐぼあっ!?」

「「「先生–––っ!?」」」

 

 …のだが、そんな彼はミッドナイトが振るった鞭の強烈な一撃を顔面に喰らい、大きく吹き飛ぶこととなる。突然のことに生徒らは悲鳴を上げた。

 

「ごぶ、突然、何を…ッ?!」

 

 混乱するブラドキングだが、そんな彼に答えること無く、18禁ヒーローは鞭を振るうことで地面に一筋の線を作り出す。

 

「ココカラ先ハ、何人タリトモ進マセナイワ…!」

 

 凄まじい形相と妙な片言に怯え、生徒の1人が「先生が新劇の2號機みたいに…!?」と声を漏らした。

 理由は定かではないが、今の状態の彼女には近づかない方が身の為だろう。少し距離を取るブラドキングたち。

 

「わ、分かった。取り敢えず、弘原海は大丈夫なのかっ?」

「…正直何とも言えないわね。恐らくは個性の反動でしょうけど、少し様子を見る必要が有ると思うわ」

 

 その言葉に、「なにッ」と声を漏らしつつブラドは一歩分近づき–––

 

「オオオオォォオオ…ッ!!!」

「お前は一体どうしたんだ!?」

 

 表情。姿勢。果ては纏うオーラすら怪物じみたミッドナイトを不気味に思い、心配ではあるものの彼女が付いているし問題は…多分、無いだろう。そう判断を下し、彼は生徒らと共にその場を後にした。

 

 ………曲がり角を迎え、その数名分の姿が完全に見えなくなる。その後数度、上下左右前後を–––恐ろしさを感じる速度で–––確認するミッドナイト。周囲に誰も居ないことを確かめた彼女は、ひたり、と救護室の扉の前に屈むと片耳をあてがう。

 

 

 

…–––––っ♡?! 〜〜〜〜〜ッッッ♡♡♡!!!

 

 

 

 …聞こえてきたのは、小さな小さな()()

 それを聞く、ミッドナイトはと言うと。

 

「嗚呼〜ダメ、ダメよ弘原海君…! そんな声出されたら、私…! –––んぁ❤︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––お待たせしちゃったわね、私が居なくなって寂しかったかしら男子たち!? で・も・大・丈・夫♪ こうして戻って来たから安心してね? さぁさぁ第2回戦! 早速始めまくっちゃうわよォーっ!!』

 

 うおおおおー!! と言った具合にミッドナイトの言葉に雄叫びを上げる観客席の男衆。一部に至ってはウェーブまで起こす始末である。

 

『1回戦目から注目を集めてるわね、良いことよ! あの時の啖呵で意外とファンになっちゃった子も多いんじゃない? 弘原海 ありす!!』

 

 対するはぁ〜…、と『タメ』の後。

 

『そのクールな美貌に惑わされちゃダメよ! どうしてって? 綺麗な花は棘の他にも毒を持っているんだもの! 1回戦でまさかの相手を()()、小大 唯!!』

 

 両者の紹介を終え、2人が息を整えたのを認めるミッドナイト。そうして彼女は片手を掲げ–––

 

『2回戦–––STARTッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイと言うわけで2回戦が来た。(ヌルっ)

 

『何であの人はあんな元気なんだ』

『知らん』

『俺の仕事…』

 

 そんな感じの実況席の3人方の会話を聞きつつ、視界の隅で()()()()()()()()()()()()()()()なミッドナイト先生を捉えるオレは、意識はしっかりと真正面の小大サンへと集中させる。

 

 さてと。心操クンとの戦いの後から今の今に至るまでを救護室で過ごしていたオレ–––理由? 聞くな–––は、残念ながら1回戦を全て観戦出来ていなかった。その為、先ほど先生が述べた小大サンによる瞬殺…その方法が分からない。

 対戦相手はA組の上鳴クンだったらしいけれど…。本当、一体全体どうやったんだ? 電撃を扱えるその個性の強さから、時折B組内でも話題に上がっていたりしたのだが…。*1

 まぁ方法が分からない以上、オレがやれることは1つだけだ。

 

(何かされる前に–––っ!)

 

『おっと開始と同時に弘原海駆け出すゥー! どうやら速攻を』

 

 

 

 \うるせーぞ山田ー!/

 \引っ込めー!/

 \ミッドナイトさんの邪魔すんじゃねぇー!/

 \\\や・ま・だ! や・ま・だ!///

 

 

 

『…いや、そりゃ何に対するコールだよリスナー!? て言うか御先祖サマが連綿と受け継いで来た苗字をdisリに使うなよ! 俺と俺の親族と全世界のヤマダさんに謝りやがれェ!!』

 

 会場中が妙なテンションに包まれている中で響く、マイク先生の声。その最中にもオレはどんどんと彼女との距離を縮めて、行き–––?

 

「な、ぁ…?!」

 

 思わず、驚愕から間の抜けた声が漏れる。

 出せる限りの速度で駆けたオレであるが、唐突に小大サンの姿が目の前からかき消え–––、いや! ()()()()()()()()()()()()()()のか!?

 

(くそ、どうやったんだ!?)

 

 小大サンと言えば、これまでの訓練からそのイメージは後方支援に向いたサポーターとしてクラス内では固定されており、言い換えれば彼女に対して『動ける』と言ったイメージを持っていないのが仇となった。

 何処へ、と急いで視線を巡らし、漸く背後に小大サンが居ることに気づき、慌ただしく距離を取る。

 

「お、わわっ?」

 

 と、その時にズボンがずり落ちそうになり慌てて引っ掴んだ。個性発動後に肉体が–––肉付きが増す為、予めジャージのサイズはある程度余裕を取ったものにしているのだが…にしてはおかしい。こうならない様に紐はしっかりと結んでい、る…………アレ?

 

 …冷や汗を流しながら、オレは小大サンを個性を発動しながら見る。

 

 

 

 

 

 *欲求:「–––これで脱がせやすくなった」*

 

 

 

 

 

 ち ょ っ と 待 っ て 嘘 で し ょ こ の 人 ?

 

 今、雄英体育祭よ? 将来の為にプロヒーローへ自己アピールを行う絶好のチャンスですよ? 皆が皆、性別も科も関係無く我武者羅(がむしゃら)に頑張っている最中なんですよ?? それなのに、オレのズボンを剥ぎ取りたいが為だけにこの戦いに臨んだと???

 

 …ビキリ、と言う不気味な音がオレのこめかみから鳴る–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 –––訳が無いんだよなァなんだこの人怖いよ! 超怖ぇ!! こんな場面でも欲望真っしぐらとか頭おかs、おかしいですねウン!!

 

 余りの恐怖に思わず後退り…、それと同時。それまで何時の間にか抜き取っていたオレのズボンの紐を摘んでいた彼女は一息に駆け出し–––あっという間に目前、どころか懐へ。

 

(まずッ!?)

 

 そう思ったところでもう遅い。兎に角場外に押し出されない様、両脚に力を込めその場で踏ん張る。ついでに合わせてスボンもしっかりと掴んで。

 そんなオレに対し、小大サンが取った行動はと言うと…。

 

 

 

 –––ずもにゅん、と片方の乳房が大胆に鷲掴みにされる。

 

 

 

 なるほど、下半身側(ズボン)へ注意を向けさせた隙に無防備になった上半身(おっぱい)を狙う、と…。

 馬鹿かな?

 

 …と、平時であればそう言った思考を巡らせることがオレは出来たのだろうが、この時だけは少々異なっていた。と言うのも…。

 

ンぅひゃあぁ…っ♡!

 

 小大サンの、加減の施されていない力任せな行為がなされた乳房から全身に向けて走る()()()()。表現しようが無い感覚に襲われたオレの口からは思わず甘ったるい声が漏れてしまい–––。

 

 こうなのだ。心操クンとの戦闘後–––ピークこそ過ぎたものの–––妙に火照った体はあり得ない程に敏感となってしまい、少しの刺激でも反応し…正直なことを言えば衣擦れだけでもピクピクと小刻みに震えてしまう程だった。

 

『え』

 

 と、実況席から息を飲む音。

 これでは1回戦目と同じになってしまう。なのでオレは喘ぎ声を誤魔化しつつ。

 

あ♡、–––ああぁアあ゛…ッ!」

 

 片方の角を掴み–––。

 

「おるぅあああ゛あ゛あ゛ッッッ!!!」

「「『折った–––!!?』」」

 

 実況席、観客席、審判の先生方から悲鳴が上がり、オレの側頭部からは鮮血がぴゅうぴゅうと言った具合でリズム良く吹き出していく。

 

『スプラ–––ッタ! 突然どうした弘原海ィー!?』

「お気になさらず…! 気合を入れ直しただけですッ!!」

 

 段々と闘技場とオレの頭、それから顔面がべったりと血に染まっていく。が、角を捥いだ激痛は確かに()()()の役割を果たしてくれた。

 気持ちを引き締め、オレは改めて身構える。

 

 

 

 

 

 *欲求:「ワンスモアァアアアアッ!!!」*

 

 

 

 

 

ほお゛っ♡!?

 

 直後、反対側の乳房に衝撃。

 何と言う煩悩の塊だろう。きっと108では収まりきらないであろう彼女の欲に慄くオレの視界は激しく明滅しているものの、そんな中でも震える手をなんとか角へと運ぶ。

 

「んなあ゛ぁアあ゛あ゛ッッッ!!!」

『また折ったー!!』

 

 ぶしゃあぁ…ッ! と音を立てる赤黒い噴水。

 

 –––いい加減、ここまでされると頭に来ると言うもの…! こっから先は一切のおふざけ無しだこの野郎ッ!!

*1
上鳴は犠牲となったのだ…。




今後、ガチ戦闘とかどうやって書けばいいんだ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その⑦(小大 唯:エクスタシィ)

祭りの熱気にあてられてテンション高くなって変なこと口走ったりしますよね。
しますよね?


 –––その戦いは熾烈を極めた。

 片や性特化、片や大きさの変換。互いが互いに戦闘向きでないが為に、己が肉体に有無を言わせる肉弾戦になるのは必然的であった。

 

 その頭部から血を噴き出しながら拳を放つ弘原海(わたつみ)。対する小大は身を屈めることでそれを避けカウンターで掌底を自己主張の激しい乳に向けて打つ。

 太くだらしのない声を短く漏らしつつも、すぐさま気を引き締め直し膝蹴り。を、小大はまるで羽が舞うかの様な軽やかな動作でそのむっちりとした太ももから臀部までをナメクジの様に粘着質な手つきで撫でながら躱し。

 ふにゃりとした悲鳴を零し、腰から崩れ落ちそうになる…のを何とか堪えた弘原海。追撃を恐れた彼–––現・彼女–––は急いで振り返る。そうして目と鼻の先に居た小大によってクリンチに持ち運ばれつつ性に目覚めた思春期の中学男子が泣きながら裸足で逃げ出すレベルの淫語を吐息と共に囁かれ–––。

 力の抜けた体を思い通りにすることは簡単である。即座に押し倒し十字固めを仕掛けた小大はその腕にどことは言わないがぐりぐりと押し付けながら訊ねた。

 

「ん。–––降参?」

 

 完全に腕を伸ばされた状態で十字固めから逃れるのは至難–––不可能とも言えるだろう。

 誰もが勝負ありと判断したその状況の中、弘原海は苦しげに言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 い い 加 減 に せ ん か い ! 」

 

 ドスッ! とタップの代わりに折れた角を力の限り彼女の足に向けて突き刺し、小大サンは突如としてふくらはぎに襲いかかった痛みに小さく悲鳴をあげながら拘束を解除する。

 

『ひぃっ!』

『うわぁ、マジか…!』

『相手女の子なのに!』

 

 蹲り、脂汗を流しながら突き刺さった角を引き抜く小大サン。その痛々しい姿に観客席からは疎らにオレを批難する声が発せられ–––それを聞き、反射的にオレは叫び声を上げていた。

 

「うるっせぇわピーチクパーチクギャースカギャースカ外野が騒ぎやがって!! あんたらプロのくせしてヴィランの見た目が美少女だったら手加減すんのかあ゛ぁんッ!?」

 

 割とガチ目にブチギレつつ叫ぶ。

 現場を知らない学生の身とは言えヒーローに臨む気持ちは真剣なものなので、プロヒーローたちのその言葉は結構怒りを覚えるものだった。

 オレが目指しているものは少なくとも、自身の責務も忘れて相手の美貌に見惚れ、失態を犯す様な暗愚魯鈍な存在ではない。

 

 …これは蛇足だが、第1回戦のラスト、爆豪クンと麗日サンの試合でも似た様な状況が起こりその時に相澤先生から一言が有ったらしい。いや、そんなことあったんならもう少し自分の言動考慮してプロヒーローの皆さん。咄嗟のこととは思うけどもさ。

 

 そんなことを考えながら、オレは小大サンの方を見る。

 

 

 

 

 

*欲求:「ふふ、なかなか…! この痛みも悪くない…!」*

 

 

 

 

 

 なんだこの…美少女っつーか微少女っつーかもはや(かび)少女じゃねぇか!

 

 人が真剣に臨んでいると言うのにこれである。怒りで頭に血が上り、心なしか噴き出る血の勢いが僅かに増した様にさえ感じられた。

 堪らず目前の彼女に向けて言い放つ。

 

「アンタもだぞ小大サン…! 巫山戯るのも大概にしとけよ、こちとら真剣にやってんだ! ()()()()U()S()J()()()()()()()()()()()()?! やる気が無いならとっとと失せろ!!」

 

 正直な話、騎馬戦で他科から煽りを受けた際に彼女が悔しそうにしていたのを見た時は、安堵に似た感情を覚えていたのだ。外見に反して内面がこんなでも、ヒーローに対する思いはちゃんと有るんだな、と。…だと言うのに!

 

 …と言うかそもそも、どうして誰も彼女の行いを問い質さないんだ?

 何、現実改変起きてる? 小大サンの外見に見惚れて皆認識出来てない? EuclidかKetel分類なのにSafe認定ですか? 何この傍迷惑すぎる存在。

 これでオレが何かすれば全部エロ方面に捉えられるのだから納得がいかん。堪らず歯軋りを行ってしまうが、きっとオレは悪くない筈だ。

 

「––––ごめん」

 

 声。

 一瞬それが小大サンのものと気付かず、慌てて出処を探ってしまった。

 漸く対戦相手である彼女のものだと理解し、そちらを見–––

 

 

 

 

 

 *小大 唯:性欲 1/100*

 

 

 

 

 

「–––本気でやる」

 

 –––多分この時のオレは間違い無く目玉が飛び出ていたと思う。それほどまでの衝撃だったのだ。

 だから反応が遅れ、ズボンを掴み裾を上げた小大サンが靴下を履いていない–––()()であることを認めても、すぐに動くことが出来なかった。

 

「大」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バゴォンッッッ!! と言うのは、試合会場の壁に巨大化した靴が勢い良く衝突した音である。靴飛ばしの要領で飛ばされたピンク色の可愛らしいシューズは、但しその個性によって全くもって可愛らしくない攻撃と化した。

 

『ここで小大、第1回戦で上鳴を瞬殺した技を繰り出したぁ! しかし弘原海、ギリギリでこれを回・避ーっ!!』

 

 プレゼント・マイクの実況が観客を賑わせる中、渾身の横っ跳びを行った弘原海は打ち付けた顔面のことなど気にも留めず、大慌てで起き上がる。が、さすがに小大の方が早かった。

 

「大」

 

 速度は音速。空気を引き裂き炸裂音を生み出したのは、巨大化し鞭として振るわれた()()()()()。顔面に受けた一撃は肉…までは行かずとも、その皮膚を裂き、赤を滴らせた。

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!?」

「小」

 

 声にならない声を上げ激痛に苦しむ弘原海に接近した小大は、その衣服に触れ個性を発動。無理矢理縮められた衣服に動きを阻害され体勢を崩すものの、倒れてなるものかと気概を見せる弘原海。

 

「解除」

 

 しかしそれは小大が許さない。

 踏ん張ろうとしたその足下に現れるのは、いつの間にか仕掛けられていた靴下。盛大に滑ったことで体を強かに打ち付けた弘原海に向け、止めの一撃が放たれた。

 倒れたその体の上に投げられた、もう一方のシューズ。

 パンっ、と言う掌を合わせる音の後–––。

 

()大」

 

 –––ズン!!! と。先程とは比べ物にならない大きさとなったそのシューズが、その質量を持って襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––人は見かけによらねえってのはまさにこのことだァ! 流れる様な攻撃に弘原海手も足も出せずゥ!!』

 

 …いや本当に、マイク先生の実況の通りだ。マジで手も足も出せなかった。

 

「………ん、ぅ」

 

 個性の反動だろうか。垂らしていた一筋の鼻血をジャージの袖で拭う小大サンの額には汗が浮かんでおり、その顔にも疲労が見て取れる。

 

 何と言うか、凄まじく恥ずかしい。小大サンに向けてあれだけ言っておきながらこの有様である。物の見事に翻弄され、今はこうして身動きが取れない状況に追い詰められてしまった。

 

((なっさ)けねぇ…! –––だけど!)

 

 そう、だけどここで諦めるのは違う。

 

 さて状況を纏めよう。…纏めるまでもないけど。

今現在オレは無理矢理服のサイズを縮められた上で、巨大化した靴によって片腕と腹から下を下敷きになっており、脱出はほぼほぼ不可能に近い。

 たかが靴だ–––と言いたいところだが、残念ながら大きさが倍になれば重さも倍、と言える程世界は単純ではない。オレにスーパーパワーが備わっていれば話はまた別なのだが…。

 ………いや、心操クンとの時に超パワーは使ってたけど、アレはオレじゃないと言うかもし使えたとしても使いたくないと言うか…。

 ま、まぁ兎に角だ。何とかしてこの状況を打破しなくてはならない。さてどうするか。

 

 魅了の声–––動きを止めたところで意味無し。

 睡眠ガス–––眠らせても脱出出来なければ意味無し。

 催眠術–––控える様にとリカバリーガールからドクターストップ。

 野球剣(エロスカリバー)–––いやどうしろと。そもそもが取り出せねえ。

 

(…ム、閃いた!)

 

 脳をフル回転し考えを巡らせていたオレは『とある方法』を思い付く–––が、直後にリスクの方も考えてしまい表情を歪める。

 

 とある方法…まぁそう大したものではなく、「サキュバス」の基本能力である肉体改造で全身から()()–––鰻が纏っている粘液–––を分泌して摩擦をゼロにし脱出しようと言う考えだ。最初はナイスアイディアと思ったものの、この作戦だと…靴底と服が引っかかって下半身クールビズになってしまうリスクがある。小大サンのお陰で服のサイズが縮んでいるとは言え、万が一もあるしなぁ…。

 

 ……いや。確かに世間体は大事だ。

 けれど、ここで手段を持っているのにも関わらずそれを試さないで終わるのは違うだろう。あの小大サンが文字通りに本気で戦ったのだ、それなのにオレが本気で応えない程失礼なことは無い。–––ので!

 

(覚悟決めろよオレぇ…ッ!)

 

 すぐさま体内でヌタを生成。小大サンに気付かれない様に、先ずは彼女からは見えない下半身の方から分泌させる。

 

「弘原海君、これ以上の続行は…」

 

 審判のミッドナイト先生が戦闘不能の判断を下そうとするが、それに待ったをかけ。

 

「すいません、まだやれます…!」

 

 下半身側を十二分に塗れさせた上で、上半身の方も何時でも分泌出来る様に準備を万全にする。

 

「…ん」

 

 オレの言葉に、構えを取る小大サン。

 彼女のその姿を見たオレは拘束されていない腕で闘技場の床を掴み、それと同時に準備していたヌタを放出して脱しゅ–––

 

 

 

 

 

『–––––まさか弘原海、『アレ』を使うつもりか!?』

 

 

 

 

 

 …。

 ………。

 ……………。

 

 …………え。突然ナニ?

 今のは……黒色クン?

 

『知ってンのか黒色!?』

『ああ…。1度だけ見たことがある。だが、アレは…!』

『え、何? なんかヤバいの??』

『確かにこの状況を覆すことは可能だろう。しかし…嗚呼、口に出すことすら憚れるッ』

 

 B組の観客席の方から聞こえて来るのは、そんなクラスメートたちの会話。

 え、え? 何、え? 見た目は…まぁ確かに良くはないけど、そんな慄きながら言う様なことじゃ…? え? と言うか黒色クンは何で知ってんの? 人前でやったことないんだけど…。

 

 –––混乱するオレを余所に、彼の一言から始まった妙な空気がどんどんと伝播して行く。

 

「ん……っ」

 

 先ずは小大サンがより一層警戒を強めた。

 –––うん、やめて?

 

「フォローは任せて。何かあれば私たちが救けるから、貴方は思う存分にヤりなさい!」

 

 ミッドナイト先生が頼もしい言葉をくれる。

 –––ねぇ、やめて?

 

『どーやら奥の手が有る様だが、一体何を見せてくれンだあ弘原海〜ッ!!』

 

 お い や め ろ 。

 

 

 

「………………………………………………うおおおおおおおお–––ッッッ!!!」

 

 

 

 我ながらなんと情け無い精神力だろうか。あらゆる視線と興味が集中したこの状況、最早ヌタ塗れになる程度では済まされ無いと思われる空気感に耐え切れず、オレはヤケクソ気味に雄叫びを上げる。

 

(………アイツ、アトデ、シバク)

 

 –––脳裏に黒づくめのクラスメートの姿を思い浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおお–––ッ、お、ごっぽぇげほ! ……っゔぉえ!」

 

 –––カラン! と唐突に発せられた硬質な音の正体を探ろうと、視線を巡らせる観客…及び生徒や教師陣。

 

『ンだ、ありゃあ…?』

 

 実況席のイレイザーヘッドの疑問の声がスピーカーを通して会場に響く。

 

 一点に向けて注がれる視線。巨大化したシューズの下敷きとなった美少女、その先。

 ピンク色の棒状の部分と、その先端に備えられたメタリックに輝く大きな三日月の装飾、それに囲われるクリスタルで出来たハートマーク…。

 手っ取り早く言えば、幼女向けアニメに登場する魔法少女の魔法のステッキ(変身ツール)が転がっていた。–––唾液か胃液に塗れた状態で。

 

 

 

『〝守護(まも)って☆天使(エンゼ)ちゃん!〟でホーリーエンゼルから受け取ったラブピーステッキ…!? 完成度たけーなおい』

『止めとけ吹出。周りがドン引いてる』

『〝守護(まも)って☆天使(エンゼ)ちゃん!〟、ホーリーエンゼルのギブするラブピーステッキ…!? クオリティーたけーデスネおい』

『『『ポニー?!』』』

 

 

 

 そんな会話がB組内で行われる中で、ひゅうひゅうと喉を鳴らしながら少女が動く。

 拘束を免れた右腕で件のステッキを掴み取った弘原海はそれを小大に向ける。と、その先端に魔法陣–––何とも凝った–––が生み出された。回転しながらその大きさを増していくそれが、一定の大きさに達した時である。

 

 –––どぴゅっ。

 

『『『いや音』』』

 

 実況席の3名は見事に声を揃えつつ()()()()()()()を探し–––すぐに見つけた。

 場所は小大の腹部。…無数のイボや血管を浮かび上がらせた、粘液塗れの触手を。

 

『わぁー』

 

 蛇の様な芋虫の様な、海鼠(ナマコ)の様なナメクジの様なそれにプレゼント・マイクが万歳じみた声を漏らす間にも、弘原海による触手射撃は続けられた。どうやらそれなりに勢いがあるらしく一撃受ける毎に小大の体がじりじりと後退を行って行く。

 気ッ色悪いことこの上無いがそれだけでなく、射出された触手群は互いが互いと組み合わさることで拘束具に似た役割を持ち始め次第に小大の動きを阻害していった。なかなかどうして厄介な攻撃である。

 

 その見てくれに虫嫌いなプレゼント・マイクは顔を青くしているが仕事を放棄したりはせず、己の役割を務めた。

 …否、正確には務め()()とした。だが、出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 –––触手に纏わり付かれた小大の服が溶け始めているのに気づいてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 服が溶け、肌が露出し始めている。

 それに気づいた観客たちは一斉に声を荒げた。

 

『さ、最低っ! 女の敵じゃん!』

『ちょっとカメラ止めなさいよ! 何撮ってんの!?』

『止めさせろ雄英–––ッ!』

 

 次々と発せられる–––その殆どが弘原海に対する批難の声。やっていることがやっていることなので、彼ら彼女らの反応は至極当然と言えるのだが…。

 これ以上は小大もそうだが、弘原海の立場が危うくなってしまう。いや、もう十分に最悪な部分まで来てしまっているだろう。マイクは慌てて声を出す。

 

「おォい、これ以上はヤバイ–––」

 

 –––そうして彼が、見たものは。

 

「………教えてくれ、2人とも…ッ! 俺は一体、どうすれば良い…ッ!!」

 

 あてがった手に己の頭を握り潰さんばかりの力を込めながら、ブラドキングは問いかける。

 

「分かっている、今起きていることが1人の少女を辱めていることぐらい…ッ! だが、ここで止めてしまえば俺は、…俺は弘原海(あいつ)の覚悟を、決意を! 踏み躙ってしまう…ッ!!」

 

 …思い出される、第1回戦での『宣言』。

 その個性の性質上どうしても世間からの印象が悪くなり–––現に、こうして周囲を敵に回してしまっている弘原海。それでも彼が自身の行いを止めようとしないのは、その言葉に–––覚悟に嘘偽りがないからだ。

 

 弘原海を切り捨てるか(止めるべきか)小大を見殺しにするか(止めないべきか)

 

 ブラドキングは、苦渋の決断を迫られていた。

 

「………ったく、馬鹿野郎が。頭を抱える暇が有るなら、先ずはあいつらのことを見てやれブラド」

 

 そんな彼を見てイレイザーヘッドが声を発する。

 

「やり過ぎだと思うのなら止めればいい。だが、踏み躙りたくないのであれば()()()()()()。…2人ともまだやる気だ」

 

 言われ、見る。

 片や、脇や腹部だとか太腿を大胆に露出しつつも、押し出されてなるものかと拘束を解こうとし。

 片や、心無い罵詈雑言を浴びせられ続け、血涙を流すも一切手を緩めずに勝利を掴み取ろうとし。

 

「借りるぞ」

 

 言いながら彼は、実況用のマイクを手繰り寄せた。

 

「好き放題言うのもそこまでにしとけよ。お前ら1回戦目で何聞いてたんだ?」

 

 冷ややかな–––だがそれでも、状況が状況だ。今回ばかりは観客席からは反論の声が湧き上がる。

 

『だからって物事には限度があるだろーが!』

「…逆に聞くが、一言でも小大は()()()()()()()?」

 

 –––その一言で、物の見事に全員押し黙った。

 

「ヒーローになればこうした状況でヴィランと戦うこともある…」

『滅茶苦茶多いわよ!』

「説得力のある言葉ありがとうございますミッドナイト。…言うのは易い。プロの現場を知らない学生の身で、それが出来る奴は少ないだろう」

 

 ギリギリでパンクと表現が可能な小大。彼女に纏わり付いていた触手群はその背丈よりも大きなものと化し、拘束と言うよりも引っ張り出そうと蠢いている。

 それを力任せに毟り取りながら躍起する小大と、一切手を緩めない弘原海。彼らは既にイレイザーヘッドたちの会話など聞こえていない様であった。

 

「ヒーローとしちゃあ卵も卵だ。だが教師として、大人として。俺はこいつらのこと()()するよ」

 

 一呼吸挟む。

 

「分ったなら黙って見てろ。そいつらの–––目標(ヒーロー)に対する気概ってやつを………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなものは無い!!」*1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナカッター!!? とマイクが叫び、ブラドとイレイザーは完全に動きを停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と–––ドメッ!」

 

 イレイザーのフォローを台無しにした弘原海が宣言する。

 どぴゅるっ、とふざけ切った効果音と一緒になって大き目の個体が射出され、それが最後の一押しとなり、小大が遂に場外へと押し–––引っ張り–––出される。

 

「小大さん場外!」

 

 勝敗を言い渡すミッドナイトは数枚のバスタオルを抱えながら小大の元へ駆け出す。1回戦目のことを考慮して用意していたものだが功を奏した。…使用する対象は予想とは違ったものの。

 試合終了にも関わらず拍手は起こることはなく…恐ろしい程微妙な空気の中、勝者となった弘原海はと言うと。

 

「…ハーイコッチオイデー」

 

 悲しいまでの棒読みでステッキを振るい、小大に纏わり付いていた触手の塊を自身の元へ引き寄せていた。血涙を流しながら笑顔を貼り付けるその様子は何とも痛ましい。

 

 色々と色々と色々と色々と起こってしまったが、それでも決着が着いたことだけは確かであった。結果はどうあれ、勝負は終わったのである。後は選手が退場するだけ–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「–––くひっ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にする、だけなのに。

 小大の介抱に当たっていたミッドナイトは突如背後から聞こえて来た声に勢い良く振り返り、彼女は見た。

 

 

 

 巨大な靴を持ち上げ引き摺り出した主人に群がる触手の群れを。

 

 

 

「………ちょっと待って消えて無くなる感じじゃないの!?」

 

 ミッドナイトの悲鳴に「ソンナツゴウノイイワケナイジャナイデスカー」と言う棒読みが祟り神の一部と化しつつある少女から発せられる。

 何十何百…下手をすれば千と数百にも及ぶ「ふあ♡?!」群にその体のどこと「あぅ♡!」言わず満遍無く這い回わられながらも必死に「はーっ♡ はーっ♡」体を動かし、腰を抜かしかけ足を内股気味にしつつも触手と共に「んお゛ッ♡」何とか通路へその体を滑り込ませた弘原海であった。

 

(健気ッ!!)

 

 ほんの少し瞳を潤ませながら、ミッドナイトは急いでその後を追い–––同じく心配だったのだろう、バスタオルを巻いた小大もそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザザ–––ザザッ、ザ……ザザ。

 –––それは通路に3人が消えてすぐのことである。体育祭の進行や警備の情報を伝達する為雄英教師が備えているインカムに、唐突にノイズが走った。

 緊急事態かと実況席のプレゼント・マイクたちはインカムから聞こえてくる音に意識を集中させる–––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『–––何で2人とも来ちゃったのもぉおおお、お゛っ?!♡』

『あんなの見せられたら誰だって心配する…ウヒィ♡!?』

『ん! …ん゛ん♡?!』

『と、取り敢えずどうすれば良いのコレ弘原海君!』

『い、いや終わるまでどうにも…。自動(オート)なんでコレ…ほへぇっ♡!? ちょっと待って何でオレだけ同時ぃ♡!?』

『うっそおおおォ!? …や、やだ待ってスーツの中に入って来ィいン♡!?』

『んん゛っんんん゛ッ♡♡!』

『おっほ♡ これヤッベ♡!!』

『変な声出すにゃあミッドナイトっほぉお゛♡♡!?』

『ん、だめ、これ……だめッ♡!』

 

 

 

『『『–––んあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ♡♡♡!!!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 彼らの反応は様々である。

 ある者は天を仰ぎ、ある者は頭を抱え、そしてまたある者は力無く額を机に打ち付けた。

*1
*欲求:「触手プレイだなんていい趣味してますねぇ、ほらほら一緒に楽しもうぜぃ!!」*

「そんな趣味(もの)は無い!!」




〜今回発動した主人公の能力一覧〜

魔法(んほぉ)のステッキ』
触手量産装置。因みに収納(物理)。

触手(ワーム)
機動力は無いがそこそこの筋力を持った、衣服を溶かす粘液を纏う生命体。数が揃うと融合し巨大な個体を形成する。
捕らえた人間の身体を包み込むと全自動で隅々まで披露具合をチェックし、状態に応じて、按摩、指圧、手揉み、垢擦り、オイル、カイロプラクティック等の健全マッサージを行う。
超テクニシャン。



ありえないほどひどくてものすごくひどい(映画タイトル感)
と言うわけで色々と本当に色々と酷いvs小大さんでした。

次回、黒色 支配:デッドエンド! お楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その⑧

どういうことだライドォン…。
年が明けてるじゃねぇかライドォン…!

大変お待たせしてしまい申し訳ありません。
しかしご安心を。厳しい修行によって界王拳を会得した為に、今話では小大さんのヒロイン力が1.03倍に跳ね上がっています。


※前回のあらすじ
触手によるど健全エチエチマッサージ。


 鉄哲には弘原海(わたつみ)と言うクラスメートが居る。件の彼は「サキュバス」なる淫魔の名を冠した──と、表現するとどことなく大層なものに聞こえるから不思議だが──特異な個性の持ち主だ。

 

 一言で言えば性特化。分かりやすく説明すれば、エロいことなら何でも出来る個性。

 

 例として挙げるならば雄英体育祭前の自主訓練。未だ敵連合の襲撃事件が世間を騒がせており、B組が隠し切れないナーバスな空気を纏っていた頃。

 

『頼む弘原海! 身体だけじゃねぇ、精神力も鋼にしてぇんだ俺は!』

 

 男の欲望をそのまま形にした肉体美を前にしても動じることのない精神力・集中力が手に入れられれば、それだけで飛躍的成長を遂げられるはず。襲撃事件当時、恐怖で動けなかった鉄哲はそう考えて頭を下げて頼み込み…彼の熱意に負けた…負けてしまった弘原海は共に訓練を行い…。

 

 結果。

 何時もの女体化に加えて一定面積以上の衣服が自動で弾け飛び、動く度に随所から「だぷんっ♡」やら「むちぃっ♡」と言った()()()()()が発生し、尚且つそれらが解除不可能に陥った淫魔が爆誕してしまった。

 

 土下座に移行する鉄哲の前では同じく訓練をしていたB組女子ズによってバスタオルが用意されるものの、上記の効果からそれらは翼で自身の肉体を何とか隠そうとしている弘原海に触れた瞬間布切れと化していく。

 何とも悲しい光景だった。頼んだ鉄哲はもちろん、それに応えようとした弘原海にも、誰にも悪意が無かったのだから尚のこと質が悪い。

 

 とまぁ、こんな感じでエロいことなら何でも出来てしまう…と言うより、()()()()()()()のが弘原海の個性である。

 身体能力の延長線上にあるとされるのが個性だが、どうにも抑えが効かない、別ベクトルなピーキーさを持ったチカラだ。

 

 …と、そこまで思考を巡らせた鉄哲はくるりと首を動かすことでとある人物を視界に留める。灰がかった銀髪に、最大の特徴点である黒一色の体。

 黒色 支配。クラスメートだ。

 

「…黒色」

 

 彼の近くまで移動した鉄哲は、その肩に手を置き、

 

「正直に言え。お前さっきの試合でテキトー言っただろ」

 

 さっきの試合、と言うのは第2回戦にて行われた弘原海と小大との試合である。結果としては弘原海の勝利であったが、その試合内容は………こう、うん。アレでアレがアレだった。

 早々に決着がつけばまた違ったのかもしれないが、どちらも戦闘向きでないことが災いしてか、凄惨なこととなってしまい。また、小大がかなりの美少女であることと、そんな小大に対して取った弘原海の選択もいけなかった。

 

 そう、選択。しかしながら、先程の鉄哲の回想でもあったが、個性柄、全力を出すと大抵自分が被害を被ってしまうが為に普段から一定以上の実力を出さない弘原海である。だが先の試合ではクラスメートも知らない『奥の手』で勝利をもぎ取り、そしてその『奥の手』を黒色だけが知っている()()()発言をしていたのだが…。

 

 くどいが、弘原海は普段から出力をセーブしており、尚且つ全力を出した場合には目も当てられない(※男子はガン見必須な)ことになる。

 ブラドキング──と言うか本人も? ──でも彼の個性の全貌を把握出来ているのか怪しいにも関わらず、黒色だけが知っているなんてことは果たしてあり得るだろうか?

 

「どうなんだ」

「…」

 

 鉄哲が訊ねるも、当の本人はゆっくりと目を横にずらす。

 

「──聞いてンのかァ? 黒色ォ」

 

 ──と、鉄哲とは反対サイドから鎌切に野太い腕を回されたことで、黒色は呻き声を漏らした。身長・人相・言動全てにおいてB組ヤンキーランキング堂々1位の威圧は流石の一言である。

 とうとう観念したのだろう、追い詰められたその口から途轍も無く小さな返答が発せられた。

 

 

 

「…………………はい」

 

 

 

 ゴガッ! と(くろがね)のアッパーが放たれる。

 

「だと思ったぜどーすんだこの状況!?」

「完全にお前のアレの所為でアイツ全力出しちまっただろォが!」

「渾名が一時期フーゴになりかけた弘原海さんだぞ!? こんな人前であんなことするわきゃねえと思ったらやっぱり!!」

「そもそもお前だけが知ってたら2人っきりで訓練したことになるだろーが、なんだそのうらやま案件はッ!」

 

 鉄哲や鎌切に続き回原たちが捲し立てるも、最後の円場は「今そう言う話してねェ」と鎌切によって締め落とされた。その口から白いナニカが吐き出されていくのを確認しつつ周囲に向けて耳を澄ませば…。

 

『さっきの試合は…ちょっとなぁ』

『思いきれる部分は評価出来るが…』

『一応ヒーローも人気商売だから、あの子は望み薄かなぁ…』

 

 …何かトラブルでもあったか、未だ戻らない主審のミッドナイトの代理を雄英教師たちが工面しているその最中。先程行われた試合内容についてプロヒーローたちが話し合っているものの、その内容の殆どが弘原海についてである。──ただしマイナス的な意味で、だが。

 

 確かにやったのは弘原海である。しかし、あれだけ周囲に盛り上げられておいてそれに応えないことが出来るか、と問われれば鉄哲たちは微妙な表情を見せるだろう。

 人々の期待に応えるのがヒーロー。今回のパターンが微妙とは言え、常日頃の授業でそう言った部分を学んでいるのだから。

 

「──兎に角お前はさっさと弘原海に謝って来い! 控室か医務室にいるだろうから!」

「断る」

 

 びびってんじゃねぇ!! と冷や汗を流しながら即答する黒色に男子たち…だけでなく、女子たちの声も数人分重なる。

 その後も促されるが梃子でも動かなさそうな黒色。謝罪の精神が無い、と言うよりはこれだけのことをしでかしてしまった為、どうなるかが分からな過ぎて恐怖でいっぱいいっぱいなのだろう。普段の言動では大層なことを宣っているが、根は小心らしい。

 ならば何故あの場面であんなことをしでかしたのだろうか。B組は心の中で一致する。

 

 そんなこんなで。

 取り敢えず弘原海が戻ったら全員で土下座させる方針に固まった彼らは、次の試合が開始されるのを待つことに。

 

 ──5分経過し、パトロールの休憩時間であった13号が代理にあてがわれる。

 

「ミッドナイト先生戻って来ないね?」

「ねー」

 

 ──更に5分経過すると、先ずは小大が戻って来た。

 

「ん」

「唯おかえ…まっ眩!? なにッ!? 唯の肌が光り輝いているッ!!?」

 

 どう言う訳か、元々透き通ったきめ細やかな肌質の彼女は発光体が如く光を放ちながらB組席へと戻って来た。どう考えても試合後に何かあったのだろうが…その経緯を訊ねようとするも、その美しさの前に全員が慄いてしまう。

 

「………とぶぶぶぶぶぶぶぶbbbbbbbbbbbb」

 

 ついでに、そんな美しさ4割増しの小大を見た物間がひっそりとバグっていたりする。

 

 ──更に更に5分が経過すると、ミッドナイトが復帰した。

 

「…ぅうふぅあはははうひははひゃはっ!! 全身がっ!! お肌どころか五臓六腑も毛細血管の1本1本細胞全てが若返って活力に溢れてりゅのほおぉおおおーっ!!!」

 

 だるあぁっ!! と、恍惚の表情で涎を垂れ流し爆速で駆けるミッドナイト。13号の甲高い悲鳴が会場に木霊する。

 

 ──更に更に更に5分が経過すると、試合が終了して次のものへと移る。

 ──更に更に更に更に5分が経過。

 ──更に更に更に更に更に5分が経過。

 ──更に更に更に更に更に更に5分が経過。試合が終了し、次のものへ。

 

「………お、おい? 戻ってこねぇぞ…?」

 

 いつまで経っても1人だけ戻らないことに、不安に思った鉄哲がとうとう声を漏らした。

 因みに黒色は緊張等によって痛む腹を抑えている。

 

「拙い」

 

 その後も待つが、やはり弘原海は戻って来ず…。そうして幾らか経った頃、吹出が声を発した。彼の方へと全員の視線が集中する。

 

「こ、これは拙いパターンだ! きっと弘原海には黒色を制裁する気力すら残っていない!」

 

 頭を抱えて叫ぶ吹出に合わせ、周囲の視線が黒色へと注がれれば。

 

「…胃が。ゴフッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………死んでいた。

 何が、ではなく。

 あらゆるものが、死んでいた。

 

『が…ガンバレ弘原海! ガンバレ!!』

 

 観客席から飛ぶクラスメートからの応援。

 しかしそれは、正常な機能を果たしていない聴覚が拾うことはなく、もし仮に拾えたとしてもその先の脳が停止しているのだから誰のものか、どう言う意味なのかは理解出来ないだろう。

 

 始まった第3回戦、その1試合目。

 対戦カードはA組から爆豪・B組から弘原海の組み合わせ…なのだが、試合開始前にも関わらず片方は真っ白を通り越してまっさらになってしまっており、既に重力に逆らうことすらままなっていなかった。

 物理法則に反し光を飲み込んでいる穴の様な瞳は左右で別方向を向き、その黒々以外の全てが白か向こう側を見せる透明と化した少年。それを見る黒色も同じく真っ白になって「オレ…オレ……ナンテコト…」と呟いている。

 

 これは始めて良いのだろうか? と主審のミッドナイトがオロオロし、観客席からもまばらに同情の声が発し始めていた。

 …と、

 

「──ンだぁ、そのザマは…」

 

 弘原海の現状を思えば、同情の1つや2つ、与えられて当たり前だろう。

 個性とは身体能力の延長線上。その個性はその個性のことしか出来ず、そして少年はその個性で出来ることを一生懸命真剣に行い…そうして得たのは、世間からの冷たい評価のみ。こうして重圧に潰れてしまっても仕方がないだろう。

 

 しかし、目の前の。対戦相手の爆豪はそれを許さない。

 

「俺が目指すのは()()()()1位だッ。全力の敵をぶち殺して初めて価値が生まれンだよ!」

 

 完璧主義者の彼は意味が無いと叫ぶ。

 今の状態の弘原海など、爆豪からすれば路傍の石ころにすら劣る存在でしかないのだ。

 

「戦うつもりがねぇなら『此処』に立つなッ! ………()()()に、立つんじゃねェッッッ!!!」

 

 ──その言葉を聞いて、透けていた少年に『色』が戻り始める。

 少しずつだが四肢に力が戻り始め、ゆっくりとだが立ち上がっていく。

 …そして。

 

 

 

「………ふぉんぐ…っ!」

 

 

 

 めっちゃ涙を流した。

 突然の行動に驚いたのは爆豪である。

 

「『周りのことなんて気にせず今は俺との試合だけに集中しろ』だと!? どれだけスポーツマンシップ精神に溢れてるんだ君は、聖人君子か何かかっ!?」

「耳腐ってんのかテメェ!!」

「おいやめろ、これ以上優しい言葉を投げかけるな! …泣いちまうだろうが!!」

「もう泣いてんだろうが、ヴォケ!!」

「………え、えぇ〜っと! そ、それじゃあ第3回戦──スタート!」

 

 ──兎にも角にも。コントの様なやりとりを挟みつつ、ミッドナイトの宣言通り、試合開始である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして始まった第3回戦。爆豪クンの優しさに感極まるも、勝負は勝負。真剣に臨まなければならないので、オレは気を引き締めた。…引き締めたのだが。

 

「くたばれゴラァ!!」

 

 ドゴンッ! と腹に響く爆音と衝撃、それから体全身に走る激痛。

 

 その試合内容は一方的の一言に尽きた。

 爆豪クンの高過ぎる運動能力(反射神経と動体視力)に追いつけず・引き剥がせず、彼に接近しようと我武者羅に動くも、悉く爆破によって迎撃されてしまう。

 

 そもそも、個性の相性が最悪なのだ。

 

 魅了の声で動きを止めようにも息を吸い込んだ瞬間に爆破で抑えられ、仮に発せられたとしてもそれは爆発音で効果を失ってしまい。ならばと睡眠(どピンクの)ガスを吐き出すも、今度は爆風によって吹き飛ばされ…。

 

(クソったれ、分かっちゃいたが強すぎるぞ! オレの個性だとそもそも相手にならねぇ!)

 

 催眠術は使おうにも、今の体力的に使うと真面目に危ない、最悪倒れる。倒れなくともドクターストップをかけて来たリカバリーガールから怒られてしまう。

 …と言うか使っても効果なさそうなんだよなぁ。爆豪クン騎馬戦でやられてるから完全に警戒しちゃってるし…。

 

 持っている手札は役に立たず、切り札なんて始めから持っておらず。

 

 ──うん。これは…、

 

 

 

(………諦めちゃって良いかな、もう!)

 

 

 

 いや、まぁ。確かにヒーローたる者どんな状況下であっても諦めてはいけない。

 が、そもそもオレは卵であるし(←クズ)時には諦めも大事じゃないかな?(←クズ) 自分の力量も見極められずに戦って、その結果戦況を悪化させるなんて馬鹿まっしぐらだし?(←クズ) そもそも今オレ本調子じゃありませんしぃ?(←クズ)

 

 うんうん、頑張った頑張った(←クズ)と自分で自分を褒めていると、視界の中で爆豪クンが動き出した。既に何度も受けている彼の爆破に、条件反射的に体が竦む。

 

(うん、うん! オレは良くやったよ良くやったって! そりゃヒーローは結果が全てだし努力したけど助けられませんでしたーなんてオレも駄目だとは思うけどもそれでもさと言うかそうだからこそ結果よりも過程に目を向けてもらいたい訳ですよ結果が実らなきゃ努力じゃないと皆さん言いますけどね努力は立派な努力と言いますかうおお爆豪クンが迫り来る来てます来てますコッチ来るなそうだオレは頑張ったよ良くやっただからここで諦めたって少しくら

 

 

 

 

 

『──ありす!』

 

 

 

 

 

「…ッ!?」

 

 突如聞こえて来た声に身を屈めれば、ゴッ! とすぐ側から爆発音が熱と共に発せられた。

 …そっと、声の主を確かめる為に視線を巡らせる。

 

 場所は…B組観客席。

 立ち上がって不安そうにこちらを見ている彼女、は…。

 

『──頑張れ!』

 

 黒髪セミロングの誰もが認めるであろう、美人なクラスメート。しかし小大サンのその美貌ではなく、オレの視線は彼女の頭上に釘付けとなっていた。

 そこに浮かぶのは無数の文字や記号で構成された彼女のエロステータス。サキュバスの個性を待つオレにしか見えない、個人の知られざる情報である。

 

 

 

 

 

 *欲求:「」*

 

 

 

 

 

 ──サキュバスの副次能力の1つである『欲視』は、その名前の通りに相手の欲求を見ることが可能である。

 ただし、それはその対象者の欲求が一定の強さのものでないとならないと言う条件が存在するのだ。

 …つまり何が言いたいか、というと、小大サンはつまり…欲求に何も表示されていない彼女はその…オレのことを純粋に応援してくれているということで。

 

 …な、なんか調子狂うなぁ。

 

『…お、おお! そうだ弘原海、頑張れ!』

『アゴ狙えアゴぉ!』

『ドギャーンとやっちゃえ弘原海ぃ!』

『アッハッハ! 1位になるとか何とか言っておいて未だに勝てていないけどどうしたのかな爆豪くぅーん!?』

 

 小大サンに続き、拳藤サンが、鉄哲クンが、吹出クンが、物…は違うか。兎に角クラスメートたちが声援を重ねてくれた。

 み、皆…!

 

『ヒャァ公衆の面前で名前呼びとは良い御身分だな弘原海さんよォ──ッ!』

『羨ましいなぁオイオイオイオイオィイ!!?』

『いけ爆豪! だいばくはつッ!!』

『[規制対象]ッ!! [放送禁止]ッッッ!!』

 

 続いて泡瀬クンが、回原クンが、鱗クンが、円場クンが嫉妬を弾けさせる。

 み、皆…!? こんな時くらい普通に応援してくれたって良いんじゃないかな…!?

 

『何やってんだ爆豪ォーッ! お前の実力だったらあのチンチンをイライラさせるバルンバルンボディを包む邪魔くせぇジャージなんてあっちゅーまに吹き飛ばせんだろォーがッ! さぁやれ今すぐやれハリィハリィハリィハリ』

『──耳郎、君に決めた! ばくおんぱっ!』

 

 …今なんかA組席からすごい音したけど大丈夫?

 高性能爆薬で作る野菜ジュースのCM*1を何故か思い出しつつ、ここに来て漸く爆豪クンへと意識を引き戻す。

 …取り敢えず、愛想笑いを浮かべてみた。

 

「…何笑ってんだ」

 

 あっすみません。

 取り敢えず笑って誤魔化そうとするのは日本人の悪い癖だな。

 

「あ、あぁ〜いや。待っててくれるなんて優しいなぁー…と思って」

「…ハッ。別にテメェが劇的に強くなるわけでもねぇ。そのくれぇ待ってやるわクソ。…それとも何だ。 応援されりゃあ奇跡パワーで強くなるとでも思ってんのか?」

 

 苛立った様子で彼は続ける。

 

「ンなもん起こるわけねぇだろ。分かったらさっさと死ね、クソモブ」

「口悪いなぁ…」

 

 ゴバッ! と言った直後に右腕が振るわれ爆発が襲いかかるも、何とかそれを回避して慌てて距離を取る。

 

(…爆豪クンの言った通り、急に強くなんかなったりはしない。相変わらずオレの手札は通用しないし切り札も無い。勝ち筋は全ッ然見えねぇ!)

 

 …ああ、けど。

 

(──()()でだけはやっぱり負けたくないんだよ。応援とかと無縁だった人間からするとさ!!)

 

 頑張れ、と。背後から送られる、クラスメートたちからの声援(と怨嗟の声)。

 それを聞くと、不思議と力が漲ってくるのは錯覚だろうし、何とも騙されやすい人間だと自分でも思う。

 

 ──さぁ状況を纏めよう。纏めるまでもないが、纏めて、整理して、それから()()()()()()()()()()()

 

(魅了の声は駄目。昏睡ガスも、催眠術も)

 

 …だがッ。

 

(勝てるかどうかは分からない。…だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 ある作戦を思い付き、思わず口角をほんの少しだけ吊り上げる。取らぬ狸の皮算用だが、この作戦が上手くいけば、完璧主義者で自尊心の塊の様なその表情を崩すことが出来るかもしれないのだからそれも仕方のないことだろう。

 作戦は思い付いた。そしてそれを成功させる為には…、

 

(兎に角、彼に触る必要がある! それをするにはどうすれば…ッ)

 

 爆破によって生じる爆風・爆音でオレの大半の能力は封じられてしまう。もし仮に近づけたとしても、その時は持ち前の運動能力で撹乱されてしまい意味が無い。

 ならば、どうするか。どうすれば、オレは彼に触れられる? ここさえクリア出来れば後はどうとでもなる筈だ。考えろ、考えろ…!

 

(──…『時間停止』)

 

 不意に。

 上下前後左右四方八方から襲い掛かる熾烈な攻撃を避ける内に、オレの脳裏にとあるものが浮かび上がった。

 

 それは、心操クンとの戦いの最中に発現した(させられた)能力。オレが使った訳ではないが、オレの持つサキュバスに本来元々備わっていたであろうチカラ。

 

(まだオレが個性(サキュバス)をキチンと扱い切れてないから、今の今まで使えなかった…どころか、その存在すら知れなかった)

 

 そう考えるのが妥当だろう。大きすぎる力は破滅しかもたらさない。そうならない様に自然とセーブがかかっていたのかも知れない。

 

 しかし、今なら。もしかしたら。

 

 何の根拠も無い自信だが、もはや他に妙案が思い付かない。ならばやるしか無い!

 

「黙って棒立ちかァ!? 随分と余裕だなオィ!!」

 

 真上からの爆破をモロに喰らい、叩きつけられる。激しく咳き込むが、オレはそれでも意識を集中させる。

 

(止まれ…)

 

 頭の中に、時計のイメージ。

 

(止まれ…ッ)

 

 それと同時に、爆豪クンが石の様に固まるイメージを浮かべて念じる。

 

(止まれ…ッ!)

 

 容赦無く爆破を連続で浴びせられたことで、視界が歪み思考が散らされる。それでも何とか意識を保ち、念じ続ける。

 

(止まれ…ッ!!)

 

 ──カチ、と。

 一瞬。何かが自分の中で組み合わさる感覚を覚え。

 

「──いい加減トドメ刺してやる。吹き飛べクソがァ!!」

 

 迫り来る一撃。

 ここで出来なければ、それまでだ。

 

「止ま─────れぇッ!!!」

 

 カチリ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───ガゴンっ!!

*1
野菜より進んだぃ野菜を。これぞ勇者のちかはぁw




因みに最新刊を見ながら書いてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その⑨(弘原海 ありす:ライジング)

※前話の主人公がトラウマを抱えている様な描写を削除しました。今日日、背負ってる系なんて皆見飽きてるのよ!


そして今回、TS豪を期待してくださっていた方申し訳ありません。作者の中の上条さんが「テメエはガチバトルを描きたくねぇのかよ…!」とそげぶしたので今回はガチバトルです。まぁ出来はナオキですが…。
書いてみた感想としましては、



もう2度とやらねぇ。


 …、

 ……、

 ………、

 

 …プロヒーローに成ってからと言うもの、それなりに修羅場をくぐって来たミッドナイト。冗談でも比喩でも何でもなく、文字通り火の中水の中土の中敵陣の中、多種多様な場面を駆け抜けて来た。

 今でこそ教師を務めているものの未だそう言った対応をすることだってある(と言うか先日、襲撃事件があったばかりだ)。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女の研鑽の重ねられた思考回路は瞬時にそれを理解し、まず顔面筋が極限まで引き攣ることから始まると、後はドミノ倒し式に顔面が蒼白になり全身から嫌な汗の噴出を始めてしまう。

 ミッドナイトの目が捉えたもの。ガゴンっ! と音を立てたそれは…。

 

 ──黒くて。

 ──大きくて。

 ──硬そうで。

 ──そして何より壁面に電光掲示板の様にある文字群を流していて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──○ックスしないと出られない部屋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやだぁぁああああああ!!!』

『クソがァあああああああ!!!』

 

 

 

 ズドガガドドドガバゴーンッ! と爆豪が暴れているのであろう、悲鳴と怒号が発せられた後、『部屋』の内部から凄まじい爆破音が響いて来た。それに合わせる様にして会場のそこら中から悲鳴が上がり、それは雄英側も例外ではなく。

 

『イレェエイザァアァァアアアアアッッッ!!!??』

『うるせぇ今視る…! ──くそ、発動者本人を視ないと意味が無い! 個性で出現させたとしても『アレ』自体はただの物体だ!!』

弘原海(ぉうるわたつむぃい)ぃ──ッッッ!!!』

 

 手始めにプレゼント・マイクが腹の底から悲鳴を上げ、それに続いたイレイザーヘッドが非情な現実を解説し、最終的にブラドキングが自身の生徒の名を奇妙奇天烈な声音で呼んだ。

 阿鼻叫喚に会場が包まれる中、それに負けず劣らずの声量で放たれる、爆豪及び弘原海2人の会話。

 

 

 

(まる)ックスだから! 明言はしてないから、(まる)ックスだからッ!!』

『まるっくすまるっくすうるせェわ! 良いからさっさと出せやクソモブッ!!』

 

 

 

 爆豪の怒声が『部屋』内部から響くと即座に弘原海が在らん限りの大声で『ろくー! シーックス!』と叫ぶ。ついでに──壁でも叩いているのか──6()()ほどゴンゴンと言った音も発せられた。

 フ…と、不思議なことにあれだけ存在感を放っていた『部屋』がその行為で瞬く様にして消失し、直後に内部に居た爆豪たちの姿が現れる…と同時に爆破音。青筋を無数に走らせた爆豪が弘原海に容赦なく襲いかかったのだ。

 

「おいおいおいィ…、随分と舐めた真似し──」

 

 悪鬼羅刹を体現したかの様な様相の爆豪。

 しかし彼の言葉は最後まで続かない。

 

 

 

 

 

『──…は、早漏(はや)すぎる…!』

「シてねェわクソがッッッ!!!」

 

 

 

 

 観客席から飛来したトンデモ発言に思わず噛み付く爆豪だが、流石に今のは仕方がないと言えるだろう。因みに凄まじい表情で口汚く放送禁止用語を連発する爆豪を見る弘原海は、ちょっと刺激しないでと冷や汗を流しつつ内心で毒づいて居たりする。

 

「あ゛ぁクッッッソが…! ただで済むと思うなよテメェ…ッ!」

 

 怒り心頭、怒髪天。刺刺(とげとげ)しい毛髪を闘気で逆立てた爆豪が弘原海に向けて駆け出した。

 

 

 

 

 

 ──ガゴンっ!

 

 

 

 

 

「「『また出た!?』」」

 

 思わず揃う全員の声。当の本人である弘原海は慌てつつも迅速かつ的確に対処する。…爆豪が恐ろしいから。

 

 

 

『ソックス!! 靴下ー!』

 

 

 

 言い終わると同時にフ…、と消失する『部屋』。ソックスの綴りはSOXではなくSOCKSだが、英単語でなくとも対応するらしい。

『部屋』が消失して現れたのは、ブチギレつつ笑顔を浮かべて淫魔の胸ぐらを掴み上げている爆豪だ。

 

「いい加減にして下さいよォ〜クソモブ君よォ〜……ッ!!」

「ちょ、違う待って! わざとじゃな…!?」

 

 

 

 

 

 ──ガゴンっ!

 

 

 

 

 

『演出ご苦労ォオオォオオッ!! クソモブ君よォオオオオオオオオッ!!!』

『ヘックスッ!! 六角形ぃぃいいい!!!』

 

 

 

 雄叫びの後に『部屋』が消失。悪魔じみた姿の弘原海よりも悪魔じみた爆豪が現れた。と、同時に振われた右腕が爆破を生み出し弘原海を吹き飛ばす。

 踏ん張ったことで派手に吹き飛ばされるも場外にはならず、ラインより少し手前で停止した弘原海。彼は若干涙目であるが、制御出来ない自身の個性の所為かそれともその被害に遭っている爆豪の怒り具合かは不明である。

 多分両方なのだろうが。

 

「もォダメだわ、欠片も残ると思うなよテメェ──ッ!!」

 

 背面に向けた両掌から起こした爆発を推進力に変換。〝爆速ターボ〟と言う爆破の力を利用した、立体的な高速移動を可能とする爆豪の得意技の1つである。

()()()()()()()()()()。弘原海に向けて飛んでいた爆豪は掌の向きを調整することで、その突撃に()()()()()()()()()

 

榴弾砲(ハウザー)──……!」

 

 

 

 

 

 ──ガゴンっ!

 

 

 

 

 

『テメェは何がしてェんだ!?』

 

 

 

 あの爆豪クンをあそこまで取り乱すことが出来たのは立派に誇れることじゃないだろうか、とは体育祭後の弘原海談である。

 

 最早慣れすら感じさせる早さで中から『ファーックス!!』と大声。若干、数文字分にだけ力が込められていた気がしたものの…それを言及する者は1人も居なかった。今の弘原海の心境を思えば、殆どが同情ばかりだから…ではなくて。

 

 

 

『………? あり? 『部屋』が消えな──ォあは(吸い込み)」

 

 

 

 奇妙極まりない声。だがそれも仕方が無い、何故ならば壁面を流れる文字群が──

 

 

 

 

 

──ックスしないと出られない部屋

 

 

 

 

 

『男女が同じ空間にいるんだ、それは最早セックスッッッ!!」

 

 ──だろう!! と『部屋』が消失するのに少し遅れて弘原海の咆哮が轟いた。公衆の面前・全国放送での暴論中の暴論中の超暴論である。

 後には静寂だけが取り残された。

 

『な…ッ、なんだとっ? そ、それじゃあ今オイラは…!?』

『──障子、お前に決めた! ばくれつパンチっ!!』

 

 …その為、A組から聞こえてたそんなやりとりと謎の破壊音と悲鳴がまぁ響くこと響くこと。

 今度こそ静寂が訪れる。痛々しく、物悲しく、そして重苦しい静寂が。

 

「………ふ、ふはははははっ!」

 

 と、突然高笑い。弘原海である。

 

「随分な怒り様じゃないかぁ爆豪クン! そんな冷静さを欠いた状態でオレに勝てると思ったら大間違いだぜ!?」

 

 …さもこれまでのアクシデントの数々が意図的であるかの様な発言を聞き、そう言う路線で行くのねとミッドナイトがほんの少し涙ぐみ、内心で色んな方面にめちゃくちゃ謝りまくってんだろうなと思考を一致させたB組メンバーが交代交代で黒色にかけていたプロレス技のテンポを早めて行く。

 

 彼ら彼女からは位置的に確認出来ない弘原海は目から滴る汗を拭い取りつつ、改めて構えた。本格的に仕切り直したい彼は表情を真面目なものに切り替えつつ、

 

「…来いよ爆豪クン。こっからが本番だ。君が言う端役(モブ)の全力見せてや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドンッ!! と言う轟音が観客たちの肩を震わせる。

 セリフの途中だろうが何だろうが容赦無く一撃を放った爆豪にB組席辺りから男らしくねぇぞと聞こえて来た気がするが、彼から言わせれば──例え爆豪でなくとも、だからどうしたと言うかもしれない。

 今は真剣勝負の最中である。何故わざわざ悠長に相手の話に付き合わなければならないと言うのか、実際にヴィランを目の当たりにして同じことをするのであればそれは既に馬鹿を通り越して愚者としか呼べない筈だ。

 

「──あァ?」

 

 …そんな思考を行なっていた爆豪は、唐突に間の抜けた声を漏らす。それもそうだろう、爆煙が晴れたそこに…吹き飛ばされずに、微動だにしていない弘原海が居たのだから。

 先程と変わったところと言えば、靴を脱ぎ四つん這いとなっているぐらいだろう。それ以外、爆豪が爆破を行う前とは特に変わっていない。

 それはつまり、先の一撃を耐えたと言うことで…。

 

「………ンだァクソが。何しやがったゴラァ!!」

 

 バゴン! ドガン! と立て続けに苛立ちを隠そうともせずに爆破を行う爆豪。しかし晴れた爆煙が露わにするのはやはり、両手足を地に付けてその場に留まり続ける弘原海の姿だ。

 

 舌打ち。その後にもう1度爆破…をする直前で弘原海が横に移動し、それを回避。

 と言っても完璧では無く、纏っていたジャージの左足部分が大胆に吹き飛ばされ、その肉厚な脚部が大胆に露出してしまう。

 

(鱗…?)

 

 ふと、爆豪の視界がそれを捉えた。扇情的な肌を覆う、深い色合いの、文字通りの鱗。見れば露わになった左脚以外にも、手先や首元・翼部分などにチラホラと似た物が認められる。

 四つん這いの体勢に加え、肌を覆う鱗。それらを見た爆豪が脳裏で立てていた仮説を決定的なものに変えたのは、びたりと音を立てて地面につけられた野太い尾である。ズボンとその下のパンツを(結構ギリギリで)ずらして現れたのは、もともと生えていた淫魔らしい形状と異なり、びっしりと鱗に覆われ…先端に向かうに連れて細くなっていく代物。その見た目は深く考えずとも爬虫類のそれであり…、

 

「──ファンデルワールス力か!」

「人が精一杯考えた作戦をそう簡単に看破しないでもらいたいねホント!」

 

 ガギャリ、と叫びながら生成した鋭利な爪で地面を掴み一息に駆け出す弘原海。爆豪からだと確認が難しいが、大型爬虫類を連想させる動きの弘原海の掌や足裏には独特の形状が見られた。

 

 ファンデルワールス力。手っ取り早く言えば、微細な突起を特定の配置で組み合わせることで分子間に引力が発生する作用のことである。身近なところではヤモリが壁面を登ることに利用されている、と言えば分かりやすいだろうか。

 〝個性〟「サキュバス」。その能力の最も基本的な肉体改造が、爆豪の意表を突く。

 

「チィ…ッ!」

 

 張り付いているならばその地面ごと吹き飛ばしてやる、とばかり、彼は麗日戦で見せた下から掬い上げる様な爆破で持って強化コンクリートの床を抉る。

 しかしそれを考慮しいない程、弘原海も馬鹿ではない。ファンデルワールス力の吸着力を利用して慣性を減衰させ、急激な方向転換で死角へと潜り込んで行く。

 独特なフットワークに翻弄される爆豪。なまじ、反射神経に優れ先読みも瞬時に行なってしまうが為に却ってそれが隙を生んでしまった。

 

 

 

『うきゃー♡! 弘原海後でその尻尾見して貸して触らせてーっ♡!』

 

 

 

 …そんな時にそんな野次(?)が飛んでくる物だから思わずずっこける。今ガチバトルやってるから黙っててね取蔭サン(キョーリュースキー)捥ぐよ? と言わんばかりの視線を送る弘原海。

 に、爆破を放つ爆豪。ファンデルワールス力のお陰で吹き飛びこそしないが、逆にその所為で連続で浴びることになる。

 

「ごふっ!? 容赦無いな!?」

「何で手加減しなきゃなんねェ!」

 

 それもそうだ、と後転した弘原海が再度死角に潜り込む為に駆け出した。この少しの間に変則的な動きに段々と慣れ始めている爆豪に、心底嫌気が刺した表情をしつつ拳を振るう。…と見せかけて睡眠効果を持つ毒液を爪先に生成して狙うも、その悉くが避けられていった。

 どうやら本命は見透かされているらしく、その表情に隠すことなく苦渋の色を浮かべる弘原海。

 

「ッらァ!」

 

 ドムッ! ともう何度目かも分からない爆破。

 違いがあるとすれば、先程からその狙いが…。

 

(野郎、顔面狙いやがって…!)

 

 悪態を口に出すことすら難しい。

 幾分か威力は下がったが出の早い攻撃は顔面に向けて。弘原海の繰り出す魅了の声や睡眠ガスを封じる以外にも、その攻撃は単純に弘原海から酸素を奪っていく。実に効果的と言えた。

 

 殴る。

 防がれる。

 蹴る。

 いなされる。

 爪を振るう。

 避けられる。

 こちらの攻撃は決定打にならず、対して爆炎は容赦無く体力を確実に削っていく。

 

(えぇいくそ! こんなもんどうしろって…ッ!)

 

 一息つく間も無く動き続けていた為、いよいよ酸欠の兆候が出始めてきた。既に始めの頃にはあった動きのキレも見られず、避けるのにも精一杯であり、次第に被弾数も増していく。

 

 

 

 

 

『──頑張れ、負けるな!』

 

 

 

 

 

 だと言うのに、そんな激励が鼓膜を震わせて。

 

(〜〜〜…ッ! ほんッッッと、オレってばチョロイン!)

 

 男だけどナ! と心中でそんな言葉を発しながら一歩を踏み込む。顔面に向けられた爆破をマトモに喰らいつつも、更に一歩。

 

「うぜェ…、いい加減くたばれクソッ!!」

 

 青筋を浮かべた爆豪が迎撃する為に爆破を連発する。

 ドガガガガガンッ!! と凄まじい音が会場に響いた。

 

「(ぐゥう…!!)」

 

 呻き声を巻き上がった炎と煙と轟音にかき消されながら、一歩。

 その様子に重心を少し落とし、次いで足の開きを前後に大きくした爆豪が連続爆破の速度を早める。もっと早く出来るんかい、と言う弘原海の悪態じみたツッコミが発せられる前に吹き飛ばされた。

 轟音に轟音が重なり、爆音に爆音が連なる。

 

『オイオイ…流石に……』

 

 観客か実況席の誰かは不明だが、誰かが漏らした声すらかき消す勢いだ。直撃を受け続ける弘原海がどうなっているかは想像に難くない。

 ──にも関わらず、その激音の最中に発せられた硬質な音が、確かに爆豪の聴覚を刺激した。爪でも地面に突き立てたかと判断した彼の苛立ちが加速する。

 

(ッソが。何で倒れねェ…!)

 

 既に彼我との差は歴然だそれなのに諦めず立ち向かってくるその様に、爆豪は自分でも制御不能に陥りそうな程感情を昂らせた。

 どうしてここまで苛立つのか──その原因に、今戦っている相手に無意識の内に()()()()()を重ねていることに気付き………、

 

 

 

 

 

 ぬっ、と。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「!!」

 

 これが、ダガーを取り出してから投擲された様な状況であればまた対応も違ったかもしれない。衣服以外切断出来ない事前情報は既にあるのだ、例え顔面に向かってこようとも一切臆することなく…寧ろそのまま顔面で受けまでして見せたかもしれなかった。それが出来るのが爆豪と言う少年である。

 

 しかし、今は違う。

 

 どうしようもなく働いてしまう反射。唐突に現れた『危機』に体は意図せず爆破を中断して回避に専念してしまい、そして漸く生まれた決定的な隙を逃す筈もない。爬虫類じみた腕が、遂にその胸ぐらを掴み上げた。

 そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あ!」

 

 ──誰が漏らしたか、煙が晴れ露わになった戦況を見て、声が上がった。

 

 結果は………爆豪が立ち、その目前で倒れる弘原海。

 

「う──ぐ…! か、ふぅ…ッ!」

 

 もぞもぞと蠢く様は芋虫か。必死に起きあがろうとする弘原海だがその下半身にはろくに力が込められていないことが瞭然であり、腕を動かすだけでも精一杯なことが伺える。

 構えを取っている爆豪に、駆け寄って来たミッドナイトが手を向けることで制した。

 

「あ、ぐゥ! くそ、まだ…!」

 

 掠れた瞳を未だ対戦相手(爆豪)に向け続けるも、これ以上の続行は不可能だろう。

 

 及ばなかった。

 諦めずに居ても、届かなかった。

 …その事実が非情に突き刺さる。

 

『──うおぉー! よくやったぞ弘原海ー!』

『ナイスファイトー!』

『ん!』

 

 …そんな時に聞こえて来た、B組席からの…クラスメートたちからの声。弘原海が悔しそうに顔を俯かせる。

 疎らに起き始めた拍手は次第にその大きさと数を増していった。

 

『…ィヤハ! 色々あったが中々手に汗握る戦いだったんじゃネーノ!?』

 

 その状況を認め、『締め』に入り始めたプレゼント・マイクの声がスピーカーから発せられる。それに合わせて、ミッドナイトが勝敗を宣言する為に右手を掲げた。

 

「弘原海君! 戦闘──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【()()()()】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズヴァヂッ!! と響いたのはミッドナイトが振るった鞭が爆豪の腕を掠めた音だ。これに驚いたのはプレゼント・マイクである。

 

「えァ!? 何してんだミッドナイトぉ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げた彼に答えたのはブラドキングだ。

 

「騎馬戦で見せた催眠術か、考えたな!」

「いや、でもこれアリぃ!?」

 

 次にイレイザーヘッドが。

 

「ミッドナイトはただ()()()()()()だけだ…。まだ勝敗はついちゃいないさ。…ま、その辺はセメントスの判断に任せるが」

 

 どーなのセメントス! とインカムに向かうマイク。そうして返って来たのは『ここで止めるのは野暮では?』の一言。

 

「………つー訳で試合続行だぜリスナー共! まだ勝負はついてねーぜ、声出して盛り上がってけぇーッ!」

 

 会場を盛り上げる作業に移ったマイクを横目に、ブラドキングたちが会話を始める。彼らの視線の先では、プロヒーローの戦闘能力を遺憾無く発揮するミッドナイトとそれを相手取る爆豪。それから、その背後でよろよろと立ち上がろうとしている弘原海の姿があった。

 

「…止めなくていいのか? 婆さん(リカバリーガール)からドクターストップがかかってただろ?」

「──セメントスも言っていただろう、本人が諦めていないのに中断させるのは野暮なことだ」

「それであいつが倒れてもか」

「そうだ」

 

 ふん、と2人は同時に鼻を鳴らす。

 ヒーロー志望と言えどまだ15歳の子供である。『大人』として接する為、生徒の意思を尊重させすぎるきらいのあるブラドキングとはどうも反りの合わないイレイザーだ。人間関係的には良好な部類ではあるものの。

 

「責任なら俺が取る! 存分にやれ弘原海、ヒーロー科はA組ではなくB組であることを教えてやれ!!」

 

 がははは、と笑うブラドキングからうるさそうに距離を取るイレイザー。その視線の先で、漸く立ち上がった弘原海が駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………説教だけで済むと思うんじゃないよ』

 

 唐突にインカムから聞こえて来た声の低さに、ブラドキング以外の2人も肩を震わせたのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビリっ、とスーツを破き露わになった肌から眠り香を放つミッドナイト。それが周囲に広がる前に爆風で吹き飛ばした爆豪だが、弘原海の接近を許してしまい彼が吐き出した睡眠ガスが即座にその意識を奪い去った。悪態を吐かせる暇さえ与えない。

 

「──あぁ〜…。両足どころか全身生まれたてのバンビぃ…」

 

 素人目に見ても悪い顔色の弘原海は、体を不自然に震わせつつ、眠りに落ちた爆豪の腕を掴み引きずり始めた。彼の──今は彼女だが──横のミッドナイトは、光の灯っていない空な瞳で虚空を見つめたままぼうと立ったままである。

 ズリズリ…、ズリズリ…。既になけなしの体力を催眠術で消費した弘原海は、亀の様な鈍間さで爆豪を引きずって行き、場外まで残り半分程。

 

 

 

 

 ──ズドンッッッ!!

 

 

 

 

「が…っ?!」

 

 直後、爆発。何が起こったのかと霞む視線を動かせば…。

 

「──ごほっ。あァクソが、クソモブが…!」

 

 咳き込みながら立ち上がったのは、爆発の中心点に居た爆豪。青筋を浮かべる彼の掌を見る弘原海は立ち上がろうとするも上手くいかないのか、ガクガクと両膝を震わせながら舌を打った。

 

「くそ、()()()…!」

 

 「背中痛ーっ!?」と吹き飛んだ後の落下の衝撃で催眠術から抜け出したミッドナイトの悲鳴を聞きつつ、()()()()()()()()を注視する弘原海。睡眠ガスを吸い込む間際、咄嗟に用意したのであれば相当な思考速度と判断力である。

 

「──テメェは、絶対に潰す…!」

 

 怨敵に対する様な恐ろしい眼光が爆豪の両目から放たれる。

 …しかしながら、それを受ける弘原海の反応は酷く奇妙なものであった。

 

「いやぁ、無理だよ」

 

 ニタリ、と。

 耳元まで裂かんばかりに口角を不気味に吊り上げる弘原海。異様な笑みであってもその美貌が害されることは無く、それが返ってその不気味さを際立たせている。

 

「あ゛ァ!?」

「だって触ったから」

 

 苛立った爆豪が声を荒げるも、弘原海が態度を崩すことは無い。

 未だ立ち上がることすら出来ていないにも関わらず、どこか余裕さを見せるその様子に、どこからかブチリと何か野太い物が千切れた様な音が発せられた。

 

「訳分かンねェな。…テメェ見てるとイラつくンだよクソが!!」

 

 そう言って彼は右手を突き出す。

 直後に爆発が容赦無く放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃。音にするなら、(ごんっ)

 

「…来いよ爆豪クン」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「端役の全力見せてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──セメントス!!」

『言われなくとも!!』

 

 少しの間意識が曖昧で、気づけば目前では爆豪・弘原海の()()が爆破を用いて戦闘を繰り広げていた。即座に状況把握に努めたミッドナイトは弘原海が既に限界間際であることを理解し…、

 

「両者そこまで! これ以上は──ッ」

 

 

 

 

 

「「まだだッ!!」」

 

 

 

 

 

 眠り香を、生き物の様に動く強化コンクリートを。怒号と同時に放った爆破でそれぞれがそれぞれを吹き飛ばした。

 

 ──ッッッドン!!! と背面に向けて爆破を行なった弘原海が不出来なペットボトルロケットの様に…ただし決して笑えない速度で接近して来る。

 重心を落とし両足を開く。両手に許容限界ギリギリの量で爆破液を溜める爆豪。その表情は獰猛極まり無い、肉食獣を思わせる笑み。

 

(俺の個性をコピーした? …違ェな、あのコピー野郎みたく単純じゃねェ。俺のニトロを『作り』やがったのか…!)

 

 漠然と、弘原海の個性の能力の1つである肉体改造を理解し始めた爆豪。

 〝個性〟「爆破」はあくまでも()()()()()()()()を生成する個性だ。ニトロそのものでないのならば、ある程度は同じ個性によって類似したものを作り出すことは出来るだろう。

 

 ──迫り来る、お互いの必殺の間合いに入るまでもう僅か。これまでの片手ではなく、両手を持って相手を迎え撃とうとする爆豪。

 そして──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガゴンっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪 勝己は天才である。

 

 頭脳はもちろん常人離れした身体能力に加え、桁外れの戦闘センスはクラス内外評価されていた。…人より秀でているが故に傲慢さが膨れ上がってしまったきらいこそあるものの。

 

 爆豪 勝己は、天才である。

 

 故に、

 だからこそ、

 そうであるが為に。

 

 

 

 ──()()に気づいた瞬間、背筋を凍りつかせた。

 

 

 

 思えば違和感を覚えるべき場所は多々あった。

 何故一々単語を言い換えたのだとか、どうして突然それまで制御出来ていなかったのに以降は出現しなくなったか、だとか。

 

(──待て、何で『さっき』…!)

 

 今更ながら気づいた爆豪の脳裏に思い出される、とある場面。『出られない部屋』などとふざけきった物を出現させた、その一幕。具体的に言えば、その脱出条件が明確なものとなった時。

 

 

 

『男女が同じ空間に居るんだ、それは最早セックス──(フ…)だろう!!』

 

 

 

 そう、この時。

 思い出した爆豪の中で、違和感が加速して行く。

 

 どうしてその時は気にもかけなかった? あからさまな異常があったと言うのに…!

 

(──何であの時、()()()()()()『部屋』が消失しやがった!?)

 

 …もし単語に反応する仕掛けなのならば、それ以前はどうして一言分、クッションを挟まなくてはならなかったのか。

 …まるで、最後だけ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(や、ろう…ッッッ!)

 

 つまりは、ブラフ。あれら全てが爆豪を油断させる為の演技。

 

 ふざけた文字群を壁面に流しつつ、爆豪の爆破を連続で浴びてもビクともしなかったソレが瞬く間に消失。迎撃の為に一際大きな一撃を放った爆豪は反動で僅かに両腕が反れ、対照的に、盾代わりに展開された『部屋』から現れたのは、既に両腕を構え終えている弘原海。

 そして──。




〜今回発動した主人公の能力一覧〜

『ドラゴフォーム』
ドラゴン娘になる。これ自体は肉体改造を利用しているだけだが、やはりそこはサキュバス。本人の意思に反して自動生成される尻尾の所為で半ケツになりかけたりなどオートでスケベな目にあってしまう。



後半駆け足すぎるのできっとどこかで手直しすると思います。
漸く体育祭の終わりが見えてきた…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雄英体育祭 その後

アイン! 頼む! (最新話を)届けさせてくれ!!



アンケート設置しました。よければご意見お聞かせ下さい。


「──それではこれより表彰式に移ります! 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

 全ての試合が消化され体育祭も残すは閉会式を兼ねた、1位・2位、それから同着の3位2名を合わせた4名の生徒へメダルを授与するだけとなった。

 ミッドナイトが声を張るのに合わせ、遠方で影が跳躍する。独特なシルエットは弧を描き表彰台付近へと──

 

「我

「「「………、」」」

 

 …締まんねぇな、とミッドナイトとオールマイトがモロ被りしたことで訪れた静寂の中で誰かがそう呟けば、ぐふっとダメージを負うNo. 1ヒーロー。

 

 さて気を取り直し。

 

 打ち合わせ不足だったか、なんて考えながら表彰台の方へと向くオールマイト。彼の視界に飛び込む4人の生徒たちの様子はそれぞれだ。

 拘束具を破壊しかねない勢いで暴れる爆豪。澄ました顔で視線を合わせる轟。隣の悪鬼羅刹ぶりを発揮する爆豪を見て慄く常闇。それから…。

 

「さぁ、先ずは3位からだ!」

 

 んん゛ー!! と、オールマイトの声に反応する様に爆豪が拘束具の下からくぐもった唸り声を放った。贈呈するメダルをミッドナイトから受け取る頃には、その暴れ具合が最早ヴィランのそれに匹敵しており、テレビ放送して大丈夫なのコレ? と彼は内心でちょっぴり心配になっていたりする。

 

「──さて!」

 

 お゛ぅん゛む゛る゛ぅがァーッ!! と、既に人語の領域から逸してしまう爆豪の怒声。それを華麗にスルーしてオールマイトはメダルを贈呈──しようとして。

 

「…ごほん」

 

 咳払い1つ。

 困った様子のオールマイトを見て行動に移ったのは、3位の台に腕を組んで立っていた常闇である。彼は視線を己の隣へと向けた。そこには先程から多々説明が入った拘束された爆豪…ではなく。

 

 

 

 常闇の隣。彼と同じく3位の台に乗っているのは──巨大な()()であった。

 

 

 

 内部には8分目辺りの量まで色の濃い液体が満ちており、更にその液体内部に雄英指定のジャージやシューズ・伊達眼鏡やらが浮かんでいる。

 それらを確認した常闇は拳を握り、水槽の側面を数度叩いた。ごんごんッと硬質な音が発せられた後、変化が訪れる。

 

 先ず初めに、水槽全体──厳密に言えば内部の液体──が振動。したかと思えば、次の瞬間には液体が間欠泉の様に隆起した。…様に思える勢いで、実際には液体が『人型』を作り上げたのだが。

 ゔぉるんっ! と人型の胸に備わった双球が反動で暴れ狂う。

 

「デッッッッッk「黙っていろ黒影…ッ!」ギャー!」

 

 自分の半身にチョークスリーパーを仕掛ける常闇の横では、モチャモチャと音を立てながら人型が自分の体の中に取り込まれてしまったジャージ(上)を引き摺り出している最中だった。何とか着ようとするものの上手くいかず、最終的には諦めて放り捨てると同時、目前のオールマイトへと整えた表情を向ける。

 スライム娘キタコレー、と観客席からの謎の歓声を拾ったオールマイトは、

 

「先ずは、3位おめでとう弘原海(わたつみ)少女──おほん、少年! ナイスガッツだったぜ………うんそうだね、手短に終わらせるからもう少しだけ頑張って!」

 

 早口になる彼の目の前では、ガゴンっ、と出現させた()()()()()()()()()()()()『部屋』に力無く倒れ込むスライム…もとい弘原海の姿が。べちゃりと音を立て、そのふざけた文字群を流す壁面に溶けた体が張り付いてしまう。

 

 ──さて。何故弘原海が今現在こんな状態になっているかであるが………そろそろいい加減説明しよう!

 

 第3回戦の爆豪との試合にてこの淫魔、最後の最後でエネルギーが切れてしまい身体を維持出来ずにスライム化。突然人が液状に弾けると言うド級のトラウマ映像をお茶の間に流したのである!

※そしてついでに、何だかんだでイケメンな爆豪を己のスライムボディで濡れ透けの餌食にしたことで幾人ものお嬢様・お姉様方を覚醒させると言うコラテラルダメージも発生させているのだ!

 

 その後サポート科担当のパワーローダーの協力によって巨大強力スポイトで回収された弘原海はA組の八百万に創造してもらった水槽をB組の小大がサイズを変え、そこに叩き込まれて今に至る感じである。

 因みに試合続行を(率先して)許可したブラドキングはリカバリーガール監修のもと石抱きの刑に処された。

 

 取り敢えず要点を纏めて表彰へとオールマイトは移る。

 

「正直に言えば、君に対する評価は賛否両論だと思う。中には個性だけで君の人格まで判断する心無いものも含まれるだろう」

 

 しかし、と挟み。

 

「一方で、君の言葉や姿に心を動かされた者もきっと居る筈だよ、少年。道のりは決して楽な物では無いが、どうか挫けずに頑張ってほしい」

 

 ──そこまで語ったオールマイトが見たのは、ニッと笑顔を浮かべた弘原海だ。上等とでも言わんばかりのその顔を見て「良い表情だぜ!」と自然と彼は笑みを浮かべた。

 …実際のところは人型を維持するのがやっとで鼓膜を生成出来ていない弘原海が適当に反応を示しただけなのでその言葉は何1つとして届いていないのが真実である。

 

「よく頑張った。──さ! それではメダルを…」

 

 そんなことは露知らず、メダルを弘原海へと運ぶオールマイト。そして…、

 

 

 

 すっ (←メダルを首にかける音)

 

 ぶちッ (←重みで食い込んだ紐が首を切断する音)

 

 ドボンッ (←千切れた頭が水槽に落ちた音)

 

 

 

「弘原海少年ンンンンンッ!!!」

 

 ド級のトラウマ映像(2回目)が生産され力の限り叫ぶオールマイト。なんだか基本的にハプニングやらパニック状況しか生み出していない弘原海は心中で嘆きつつ、人型を形成し直して大丈夫とアピールする。

 

 ──その後としては大体問題無く進行された。オールマイトからの有難いお言葉──現役No.1ヒーローなので比喩ではなく割とガチ──を受け、常闇は御意やら轟は清算云々。最後の爆豪は1位を取ったもののやれクソモブに遅れを取っただの半分野郎には舐められただの騒いでいたが、オールマイトがえいえいと無理矢理メダルを咥えさせることで黙らせた。

 

「怒った?」

「○×△※〒$%*<@#ッッッ!!!」

 

 何故か無駄に煽りつつ。

 

「さァ今回は『彼ら』だった! しかし皆さん、この場の誰にも()()に立つ可能性はあった! 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

 

 一呼吸挟み。

 

「…てな感じで、最後に一言! 皆さんそれではご唱和下さい!!せーの──」

 

 

 

 ──こうして長い様で短かった体育祭が終了した。

 最後の最後でNo.1ヒーローの掛け声と観客のそれが揃うことは無かったことを、ここに一応記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英体育祭後に設けられた2日分の休日。

 を、八百万さんの豪邸さにビビり散らしながら謝罪したり尋ねた爆豪家で「メンドくせェことしてンじゃねェボケ!(※要約:気にしなくて良いよ)」と門前払い(爆破属性)を受けたりあれだけのことをしてしまったのできっと顔も見たく無いでしょうから失礼とは存じ上げますが電話対応させていただきますと小大家に電話で謝罪をすれば娘も気にしていないから君も気にしないで良いさと小大父から寛大な言葉を受けどうして親がコレで娘がああなのかと頭を悩ませて消化。

 

 迎えた登校日は生憎の雨。まるでオレの心の様である。

 

「皆おはよう。本日のヒーロー情報学だが事前に伝えていた通り………おい、大丈夫か弘原海」

「大丈夫に見えんのかコラ」

「えっごめん」

 

 思わずブラキン先生に乱暴な口調で返してしまう。失礼しました。

 今日の授業は「休日中にある程度形にしておくと良いぞ」と体育祭後に伝えられていた通り、コードネーム…つまりは自分のヒーロー名を決めると言うヒーロー志望としては夢の膨らむ内容である。──が、体育祭でやりにやらかした身としては数日で気持ちを切り替えるなんて不可能な訳で。

 

 ごほん、と咳払いをした先生が再開する。

 

「本日の授業では自身のヒーロー名を考案してもらう! 今後名乗り続け世に認知されればプロ後もそのまま名乗る場合も充分ある。適当なものは付けない様にな!」

 

 と言うわけで早速フリップボードを配ろうとしたブラキン先生──を、挙手した拳藤サンが質問することで遮る。

 

「先生すいません。前に言ってたドラフト指名については…」

 

 彼女の質問に、少し慌てた様子で謝罪を挟むブラキン先生。どうやら忘れてしまっていたらしい。

 ドラフト指名。先日の雄英体育祭にて、将来的に即戦力として採用出来るかどうかを判断したプロヒーローから来る指名である。まぁ簡単に言えば興味を持たれているかどうかだ。

 先生が操作すると、ハイテク黒板に今回の指名状況が表示される。上は千近い数百件から下は1桁まで様々。自分の指名件数を見たクラスメートたちは口々に感想を述べていく。

 

 さてそんな中、オレはと言うと…。

 

 

 

 弘原海:1

 

 

 

 …うん。…うん、想定していたのは指名件数ゼロだから、最悪ではない。雄英体育祭で──同着ではあるものの──3位と言う順位を勝ち取ったにも関わらずこの件数。やはり世間的にもプロヒーロー目線でも、オレの個性はアレと言うことである。大丈夫、大丈夫。想定よりはマシだから、皆オレのことをチラチラ見たりせずに自分たちのことで盛り上がってくれ…。

 

 …多分本当はもっと指名されていたんだろうけど、その多くが()()()()()()()()()ものだったのは想像に難くない。きっと先生が事前に取捨選択をしてくれたのだろう、ご迷惑をおかけしますとブラキン先生に謝罪の念を込めた視線を向ける──。

 

「弘原海はチアガールから来ていたな」

「ゼロじゃねーかッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁそんなこんなでヒーロー名決めである。もうこんなのは無理矢理にでも切り替えて行かないとやってられないぞちくしょう。

 

「ブラドはネームセンスが無いわけじゃないんだけど、親身になって考えすぎるから一人一人に時間がかかっちゃうのよね。…と言うわけで私が来たわよ! さあさあじゃんじゃん考えちゃいなさい!!」

 

 ミッドナイト先生を加え、ヒーロー名考案に努める。

 …と言ってもオレの場合はもう考えて…と言うよりももう決まっているので、特に何かをする訳ではなく。ささっとフリップボードに書き込んだ後は、周囲に耳を傾けたりしてみる。

 円場クンや角取サン辺りが深みにハマったらしく早速頭を抱えていたり、黒色クンからは「ダーク…漆黒……。いや、ここは敢えてのホワイト…?」と言った具合の呟きも聞こえて来た。多分周辺の人たちがフォローをすると思うので酷いことにはならないと思うのだが。

 

 

 

 

 *欲求:「小大 ありす」*

 

 

 

 

 

 ふと巡らせた視界に唐突に飛び込んで来る文字。余りの恐怖に漏らすかと思った。

 …と。

 

「──そろそろオーケーかしら? それじゃあ出来た人から発表してね!」

「え゛っ、発表形式っすか?!」

 

 突然のミッドナイト先生の発言に回原クンが声を上げ、そんな彼に当たり前でしょうと眉根を下げる先生。

 

「プロになったら嫌でも人前で名乗っていくのよ? たかだか教室で二十余人。こんなところで恥ずかしがってどうするの」

 

 彼女の言い分は最もである。…が、それでもやはり出辛いのは変わりなく、互いに顔色を伺うこと数分。トップバッターは意外な人物が飾った。

 

「──それじゃあ私からいくノコ!」

 

 1人目はまさかまさかの小森サン。溌溂とした声と共に勢い良く挙手をした彼女はタッタッタッ、と小走りで教壇へ進み──フリップボードを開示(オープン)した。

 

「私のヒーロー名は…〝ニョキーニョコニョコ〟、ノコ!!」

「「「言い辛い!!?」」」

 

 ものの見事に全員の声が揃う。なんともきゃ○ーぴゃむぴゃむ感が溢れる名前を思い付いたな。…ん、ぴゃむぴゃむだよな? あれ、ぱむぱむ? ん? あ、ばみゅばみゅか。……違ぇわぱみゅぱみゅだ。

 オレがアハ体験をしている最中ミッドナイト先生から、インパクトはあるけど流石に言い辛いからもう少し考えてごらんと諭され、小森サンはむむむと唸りながら席に戻って行った──その途中。

 

 バチコン、と彼女はオレたちに向けてウィンクを放つ。

 

(??? どうして小森氏は我々にウィンクを…)

(…ハッ! まさか希乃子は後の私たちが発表しやすい様に自ら…!?)

(そ、そんなの…)

 

 

 

(((惚れてまうやろー!!)))

 

 

 

 ──後のアイドルヒーロー〝シーメイジ〟。そして彼女のファンクラブ誕生の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──私のヒーロー名は〝バトルフィスト〟! ちょっと安直かもだけど…」

 

 とまぁ、小森サンのおかげ(そんなこんな)で尻込みしていた最初と異なり、我先に我先にと自身の考えたヒーロー名を発表していくクラスメートたち。時々再考を受ける人も居たが、決定していないのもオレを含めて残り数名までとなっていた。

 今は拳藤サンが発表を終えたところである。次に誰か来るかな、と暫く待ってみたものの特に誰も発表に移らなかったので──満を持してオレの番とさせてもらおう。

 フリップボードを脇に抱えて教壇へと向かう。

 

「自分でも会心の出来だと思います。良い感じにオレらしさを出せたと言うか…」

 

 教壇に立ったオレは、オレのヒーロー名はと語ってから一息にフリップボードをオープンした。

 

「〝快楽絶頂イクイクマン〟で」

「弘原海君!」

 

 ミッドナイト先生が悲鳴を上げる。

 ちょっと過激すぎたか、では次だ。

 

「〝激シコびゅるびゅる丸〟」

「弘原海君!」

 

 これも駄目な様だ。それではとっておきを。

 

「〝キンタマン〟」

「弘原海君!」

 

 3つとも悲鳴をいただいたところで、視線を手元のフリップボードから皆の方へ向ける。

 

「どうしたんスか皆さん。捨て身のギャグッスよ? 笑えよ

「笑えるかぁ!!」

 

 言った瞬間、鉄哲クンが立ち上がらんばかりの勢いで声を荒げたので、いい加減ちゃんとしたものを発表するとしよう。

 

「冗談ッス、冗談。それじゃあちゃんとしたものを…」

 

 言いながらフリップボードに書き直す。その間隣のミッドナイト先生は「ああ良かった。自暴自棄になったかと思ったわ…!」と心底安堵した様子で呟いていたりした。

 すいませんちょっとした出来心ですなどと心中で頭を下げながら、書き終えたフリップボードをオープン。ほいっとな。

 

「…ん?」

 

 さて。書かれたヒーロー名を見て、真っ先に声を出したのは小大サンだった。ただし首を傾げ眉を顰めていることから、オレのヒーロー名を彼女が不思議に思っているのは一目瞭然である。小大サンだけでなくちらほらと他数名のクラスメートも似た様な反応を見せていて、ブラキン先生も「これは?」と訊ねてきた為説明を始める。

 まぁヒーローっぽい以前に名前っぽくないからなぁ。

 

「えーとまぁ、ちょっと自分で考えたわけではなくてですね。まぁー…()()()()()()()名前でして」

(──名乗るとしたらこれしかないもんなー…)

 

 …当時のことを思い出し耽っていると、何かを察したらしくミッドナイト先生が静かに「思い入れがあるのね」と声をかけて来る。

 それにより意識を引き戻したオレは──では、改めて。

 

「オレのヒーロー名ですが──」

 

 一呼吸分置く。

 今日から『これ』が、オレのヒーロー名だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〝ハイエンド〟で」




コメディのはずがホラーになってしまったでござる(´・ω・`)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

職場体験 その①

シリアス「ば…馬鹿な。どうしてお前が…、お、お前は──!」

コメディ「『お前は死んだはずだ』…なんて。頼むからそんな台詞は吐いてくれるなよ、シリアス」

シリアス「──お前は確かに死んだはずだァ!」

コメディ「…悪いが、下ネタ(やつ)との決まりでね。──我々は例外無くお前をぶち殺すことに決めている」

シリアス「あ、ああ…。──あああああああああああ!!」



と言うわけでシリアスさんは匣にしまわれました。


 ──月並みだが、光が有るからこそ影が差す様に、あらゆる物事はプラスマイナスが取れる様に出来ているのかもしれない。

 

 職場体験当日。

 雄英体育祭の熱も仄かに引き始め世間が落ち着きを見せ始めている中、反比例する様にして話題(ニュース)に取り上げられ始めた『ヒーロー殺し・ステイン』なるヴィラン。既にこれまでにも17人に及ぶ犠牲者が生まれており、恐ろしいのはその中にA組の飯田クンの実兄…ターボヒーロー・インゲニウムが含まれていることだ。雄英体育祭が行われていたその裏で、他クラスとは言え身近な場所で誰かが犠牲になったかと考えると…何とも気持ちを落ち着かせることが出来ない。

 

「──伸ばすな芦戸、はいだ」

「アッハッハ! そんな今時小学生でも言われない様な注意を受けるとか!!」

「君はこんな時でも平常運転なのね」

 

 だと言うのに物間クンと言えばこんな具合である。相澤先生から注意を受けたA組の芦戸サンに向けて口撃を開始した為、拳藤サンが手刀を放つよりも前に個性を発動して耳元でリップ音を奏でてやった。いつも彼女に任せっきりだし、偶にはね。

 ビクゥッ! と肩を跳ねさせた後(中腰になって)黙りこくる物間クン。そんな彼を呆れた様子で注意してからブラキン先生は、

 

「ヒーローコスチュームは持ったな? …それではくれぐれも失礼の無い様に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言うわけで始まった職場体験。コスチュームが収められた21のナンバリングが施されたケースを抱えつつ、時間まで待機する。

 

「あー、泡瀬クン向こうなんだ。いってらっしゃーい」

「お、おう」

 

 お馴染みのヘアバンダナをしたクラスメートを見送った。人によっては目的の電車まで時間があるので、残った数人は談笑に花を咲かせている。

 

「鉄哲クンはフォースカインドのとこでしたっけ? いってらっしゃーい」

「…くぅ!」

 

 オレの見送りを聞いた鉄哲クンは何かを堪えるかの様な表情で手をふり返し、電車へと乗り込んだ。気のせいか、その頬には一筋の光る何かが滴っていた様に思える。

 クラスメートを全員見送り──A組の人も居なくなった──1人だけ残ったタイミングでブラドキング先生に声をかけられた。

 

「…良いのか? あれは完全に勘違いしていたぞ」

「あ、やっぱりですか」

 

 先生の言葉に顔を引き攣らせる。オレに対するクラスメートたちの反応が微妙だったので不審に思ったのだが、やはり皆オレが職場体験先を確保出来なかったと思っているらしい。実際にはとあるヒーローが期日ギリギリに承諾してくれたので問題ないのだが…。

 本当、都合をつけてくれた先生方には頭が上がらない。

 

「──にしても遅いな。指定の時間は既に過ぎ………ムゥ!」

 

 と、突然先生が声を張るのと、駅構内に広がっていた雑踏の一角が()()()のはほぼ同じタイミングであった。

 

 

 

 チュドンッッッ!! と轟音が炸裂する。

 

 

 

(まさか──ヴィラン!?)

 

 喉が干上がった。白昼堂々とした犯行に体を緊張させながらブラドキング先生と音のした地点へ急ぐ。

 

 果たしてそこに居たのは…!

 

 

 

「──よぉ、お前が雄英の弘原海(わたつみ)か!?」

 

 

 

 ピンと立った耳。褐色の肌。シルクの様な長髪。ラビットヒーロー・ミルコが、そこには居た。………仄かにクレーター状に陥没した地に伏すボッコボコに顔面を腫した大男の上に立って。

 

 …どう言う状況?

 

「え、えーと…?」

 

 状況を理解出来ずに惚けるオレを余所に、今回職場体験を請け負ってくれたミルコはその個性に反し肉食獣の様に獰猛な笑顔を向けながらこちらへ歩み寄って来る。

 

「よし、さっさと行くぞ! …あ、先生コイツよろしく。さっき向こうで強盗してた」

「え? あ、おう?」

 

 ミルコから強盗をしていたらしい大男を受け取りつつ、

 

「そ、それじゃあコスチュームに着替えて来ま──」

「遅いな、現代っ子か! ヴィランは待っちゃくんねぇぞ!」

「イ゛ェアアアアア!?」

 

 ガッ! と彼女がこちらの首根っこを掴むと、視界が一気に立ち並ぶビル群より高い位置に切り替わる。な、何だこの新手の恐怖アトラクションはァ───ッ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は特に名前も知らないホテルの1つ。

 物凄い速度で物凄い上下運動を物凄い回数味わうことになったオレが訪れたそこは、ミルコが仮宿として利用している場所らしい。特定の事務所を持たずまた、サイドキックも雇用していない独自の活動体系を取っている彼女はこうした仮の拠点を同じヒーローや協力機関から利用させてもらっているとのことだ。

 今日日、事務手続きも踏まえ全てを熟す、完全に単独活動のヒーローは彼女だけと言っても過言では無いだろう。

 

「──先に断っとくが頼まれたから受け入れただけだ、私ゃ指導なんてするつもりはないぞ」

 

 調子を確かめる様に一度その場で伸びを行うミルコ。

 

「取り敢えずヴィランは見つけ次第蹴っ飛ばせ、(プロヒーロー)が許可する! 学校の情報学やら何やらで大抵のことは学んでんだろ? だったら今回は実戦で適当に学んでいけ、分かったか?」

 

 …そこまで言い終えたミルコはくるりとこちらへ振り返る。何の反応も示さなかったオレに、「聞いてんのかぁ現代っ子!」と少し声を荒げる彼女。…しかしながら、オレの姿を視界に捉えた瞬間彼女は口を一文字に結び、押し黙った。

 

 …少し訂正しよう。厳密に言えば、オレ、ではなくて、ケースからヒーローコスチュームを取り出したオレ、を見てミルコは押し黙ってしまう。

 

 恐らく取るべきリアクションとしては、プロヒーローがヒーロー免許を所有していない身分の学生にヴィランとの戦闘及びそれに併せた個性の使用許可を行うにはそうするに足る状況云々かんぬんな感じのものなのだろう。もしかすれば、そう言って実際の現場で活動することに対して尻込みするオレに、ミルコがプロヒーローの観点からためになる何かを述べたのかもしれない。

 が、それはあくまでもifの話。実際には…、

 

「………お前()()着るのか?」

 

 なんだかんだ言ってバニー服に似た装いのミルコだが、そんな彼女も疑問を口にしてしまう程にオレのコスチュームは『酷い』。だがしかし待て。オレの記憶が確かならばコスチュームは動きやすさと目立たなさを重視でデザイン性皆無のパーカーとズボンのはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──すいません、少しお時間をいただきます」

 

 断りを入れ、ポケットから携帯を取り出して電話帳を開く。

 連絡先は雄英高校。更に言えばそのサポート科の──。

 

『はい、もしもし』

 

 数度のコールの後に聞こえて来た声の主は、サポート科の担任を熟す傍ら、設備の用意やサポートアイテム・コスチュームの開発を行なっているパワーローダー先生…ではなく。

 脳裏に、職場体験の数日前にコスチュームの改良を頼む為サポート科の工房へ訪ね、その時にオレを出迎えたある女子生徒の姿が浮かび上がった。確か名前は…、

 

「どうも発目サン。先日コスチュームの改良をお願いしに伺った弘原海ッス。パワーローダー先生はいらっしゃいますか?」

『はい、はい! パワーローダー先生でしたら数日前から出張中ですので──何用でしょうか? 実は只今私のドッ可愛いベイビーが最高の瞬間を生み出そうとしてますので手短にお願いします! おほーベイビー!』

 

 …、

 

「少し質問なんですが、オレがコスチュームの改良をお願いしに伺ったのって何時でしたっけ?」

『え? はぁ…確か4日前デスね!』

「パワーローダー先生が出張したのは?」

『4日前デスね!』

「オレのコスチュームを受け取ったのは?」

『私デスね!』

「…最後にもう1つだけいいッスか?」

『はい。なんでしょう?』

 

 

 

 

 

「──オレのコスチューム誰が改良した?」

『貴方の様な勘の良い方は大好きですよ♡』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反射的に行った催眠術によって、発目サンはそのまま自分の発明品(ベイビー)たちを自らの手で破壊し始めた。

 意外なことに電話越しだと意識が残った状態で体だけが催眠状態になるらしく、電話の向こう側からは『ひぃ私のベイビーが! いや、いやぁああああっっっ!!』と言う悲鳴が通話を終了するまで発せられ続けることになった。これは大発見である。サポートアイテムに音声変換機も良いかもしれない。

 

「「………、」」

 

 で。

 そんな経緯が有り勝手に改造──と言うよりも、最早別物を1から用意したらしき代わり様のコスチュームに身を包んだオレは、ミルコと揃って無言になっていた。

 

 それも仕方のないこと。それ程までに今のオレの恰好はアレであった。

 

 コスチュームは大雑把に言えば競泳水着である。材質はビニール…いやラテックスか? 詳細は分からないがそれらに近しいものであり、個性発動(サキュバス変態)時に出現する翼や尾を考慮してか背面がほぼほぼがら空き仕様だ。

 流石にこれだけだと防御的観点からおざなりと言われかねないのか同材質のサイハイソックスやアームガードが付属されており、それと何の為に存在するのか分からない用途不明のクッッッソ長いマフラーも用意されていた。何だよこれ無限バンダナか??

 

 ──いや、うん。これだけだったら、ギリギリでちょっとフェチズムを刺激する感じの恰好で済むかも知れないが…そうなっていないからオレたちは黙っているわけで。

 

 ………柄が。その、柄、がさ。完全に素肌に蛍光色のマイクロビキニなのよね。

 その上なんかこう、さ。良い感じの肌色とさ、小麦色を使い分けている、所為で、さ。凄い大胆な露出で日焼けした見たいになっていて、さ。布面積で言えばミルコと同程度のはずなのに、何故かオレの方が遥かにスケベなんだけど?(絶望)

 

「「………、」」

 

 ──沈黙が、重い沈黙が場を支配している。

 

「………無理に着なくて良いと思うぞ」

 

 ひたすら慎重に言葉を選んでくれたであろう彼女の優しさが沁みる。

 

「………いや、この程度の羞恥心に耐えられない様じゃ、ヒーローは務められません。…このまま行きます」

 

 自分でも分かるくらいに顔に熱を集めるオレの言葉を聞き、ミルコはただ静かに頷いて。──そうしてオレは、痴女まっしぐらの恰好で外へと躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──炎が歩いていた。

 

 色は紫黒。その勢いは激しく、キャンプファイヤーなどの轟々と言う表現よりも、手筒花火と言った方が良いかも知れない。

 双眸と思しき真紅の光以外は曖昧な輪郭しか判別不能なそれに、道行く人々は数度視線を向けるもそれ以上の──例えば撮影を行うと言った──ことはしなかった。誰もがあの炎に関われば最後、「さあ、怖がる必要はない…」の一言と共にDESTROYEDされると本能的に理解したのだろう。

 

 歩く炎の正体は弘原海だ。彼女(かれ)がこうなっている大部分はどこぞの発明バカの所為であるが、それとは別にサキュバスの欲視が作用してしまったことも原因である。

 己の恰好の所為、と言い聞かせるには余りにも向けられる欲望が下衆で無遠慮で卑俗過ぎた。

 

 もういっそのことヴィラン蹴っ飛ばさせるか、折角交戦・個性使用許可出したんだし…と考えるミルコであるが、彼女自身がヒーロービルボードランキングにてトップ10入りすることと現在の弘原海がエンデヴァーと(別ベクトルで)匹敵する勢いの炎の化身となっている為、両者を恐れてか全くと言って良い程ヴィランと出会わない。

 抑止力として作用出来ているのでヒーローとしては良いことなのだが。

 

「──あの〜…」

 

 どうしたもんか、と弘原海がどう言った境遇にあるかは最低限知っているミルコが頭を指で掻いた時である。不意に、横合いから声をかけられた。

 おうコラこちとらいつでもブチコロおっけいじゃぼけとばかりに首を動かす弘原海が捉えたのは、チェック柄のサマーコートで身を包んだ女性である。ほんの少しボサついた髪を適当に後ろで結え大きな黒縁丸メガネをかけた…言い方は悪いが、洒落っ気の見られない草臥れた社会人と言った風体だ。

 

「失礼ですが雄英の…弘原海と言う方、ですかねー」

 

 恐る恐る、と言った感じで確認を取る女性。に、弘原海は炎を滾らせながら頷くことで応える。

 ──すると次の瞬間、弘原海は女性に手を取られた。突然のことに面食らう弘原海(炎)に、女性は疲労感の伺える顔に笑顔を浮かべて見せる。

 

「いやぁ、運が良いです。直接話しをしたかったんだけどまさか本当に会えますとは…」

 

 そう始めに言うと。

 

「私は誤井(ごい) 漆度(しつど)と言いまして。この前の雄英体育祭を見てからというもの、どうにも君のファンになってしまいましてね」

 

 女性の言葉に首を傾げる弘原海。

 そしてこいつは何時まで燃えてるんだと考えるミルコ。

 

「痺れましたよー、『ふざけた個性と嗤っていろ』と叫ぶ君の姿。…ここだけの話、実は私の個性も世間に受け入れられ辛いものでしてねー。だからかなぁ、あの時の君の言葉が胸に突き刺さって忘れられなくなってしまいまして」

 

 …ゆったりとした女性の語りを聞く内、次第に弘原海の炎が勢いを弱めていった。

 

「今までは自分が世間に受け入れられないのは個性の所為だーって思っていたんですけど…あの時の君の言葉にハッとしまして。自分よりも若い子があんな大人数の前で、しかも全国放送ですよ? 凄いなー、とか、カッコいいなーと思って…」

 

 言いながら視線を手元…繋いでいる自身と弘原海との手に向けていた女性・誤井は、そこで顔を上げて、にっと花の様な笑顔を照れながら見せる。

 

 

 

「──ありがとう()()()()! 君のおかげで元気が出ました!」

 

 

 

 ──笑いながらのその言葉には、文字通り嘘偽りは一切無い。似非とは言えど読心を行える弘原海が1番それを理解出来た。

 

「──…あ、あり。が、ど……っ」

 

 だからこそ。

 

「あり、がど…う、うぅ…! ありが、ど…っございま…ッ!」

 

 一瞬でも堪えることなんて叶わず、吸い込まれそうな大きな瞳をした目から大粒の涙をこぼし落とす弘原海。終いには隠すことなく涙と鼻水を垂れ流して大声で泣き始めた為に誤井は慌て、その傍らでミルコは乗せた手で弘原海の頭を──ナデナデ、と言うよりはペシペシと叩く様に──撫でる。

 

 もう直ぐ昼時と言った時間帯。淫魔の泣き声がわんわんと響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレの涙腺を天元突破させた誤井サンに謝罪と一緒に別れを告げ──去り際にも頑張ってなんて激励を添えてくれちゃうもんだから、漸く落ち着いていた顔面を超絶ぐしゃぐしゃにしながら別れることとなった。祭りではぐれたよつばやお父さんに怒られたつむぎちゃんなんか目じゃ無いくらい涙を流したぞオイ。

 

「んじゃ、パトロール再開するぞ」

あ゛ぴゃ゛(ラジャ)

「大丈夫か」

「あ゛ぃ゛」

 

 こちらの事情を把握しているらしきミルコ。彼女に気を遣わせてしまっていることを察知し、気合を入れ直す為にも顔を拭ってから両頬にビンタを食らわせる。…勢い付け過ぎた、痛い。

 

「──よし! すいませんご迷惑おかけしました、もう大丈夫です!」

「おう、さっさとヴィランを蹴り殺しに行くぞ!」

 

 信じられるか? これトップランクのプロヒーローの発言なんだぜ?

 因みに彼女の欲求(エロステータス)も良い感じ(?)にヴィランを蹴り飛ばすことしか考えていない辺り、根っからのバトルジャンキーなのかも知れない。

 

「そんじゃあ先ずは──」

 

 

 

 

 

『『『ぎゃァー! 変態ーッ!!』』』

 

 

 

 

 

 遠くから聞こえて来た悲鳴に、ミルコの赤眼が輝いた様に思えた。

 それどうやったんです?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悲鳴の元へとミルコと共に急行。そこで見たのは…。

 

「誤井サ──誤井様!」

 

 誤井様!? とオレに名前を呼ばれた誤井サンが目を丸くして驚きの声を上げる。

 いかんいかん、オレの中で彼女の存在がかなり高位の位置に居ることが態度に出てしまった。

 

「何の騒ぎだ…?」

「誤井サン、これは…?」

 

 ミルコとオレは揃って首を傾げる。

 目前で広がっているのは、ボディスーツを纏った──恐らくは彼らがこの喧騒の元凶たるヴィランだろう、ガタイの良い2人と恰幅の良い1人の3人組が、広い街道を滑る様にして移動しており…その後ろを大勢の人が年齢性別問わず追いかけると言う、何とも不思議な光景だ。

 思わず誤井サンに確認を取ると、彼女は何故か自身の腰付近を神経質そうに撫でながら、

 

「いやぁさっきぶりですねー。あんなヴィランも居るんだなぁ、早い話が彼らは下着泥棒ですよ」

 

 そう彼女が答えるのとほぼ同時。

 

 

 

『『『ははははは! 我ら、疾風怒濤三兄弟!!』』』

 

 

 

 高らかに名乗りを上げた疾風何某たちは、そのまま個性だろうその滑走じみた移動速度を保ちながら真っ直ぐにオレたちの方へと向かって来た。地味に結構な速度である。

 先ずは先頭を駆けていた『1』のナンバーを持った男。

 

「俺がめく…へぶぉ!?」

 

 誤井サン曰く下着泥棒らしいヴィランの男は、数あるヒーローの中でも足技を用いた近接戦闘では頂点に近いミルコの一撃になす術無く吹き飛ばされる。その健脚が放った左背足の回し蹴りだが、素人目に見てもその洗練さが窺える攻撃で意識を刈り取らずも行動不能にするミルコの絶妙な力加減か、それともそんなミルコの蹴りをまともに食らっていながら未だ意識を保っているヴィランを褒めるべきなのか迷うところだ。

 

 というか、そもそも彼は競泳水着(オレ)バニー(ミルコ)の何をめくるつもりだったのだろうか。果たしてそれは永遠の謎である。

 

「ぬ、ぬぅ…流石はヒーロービルボードチャートにてトップ10入りを果たしているだけのことはある…敵ながら天晴れ!」

(ヴィラン)はお前の方だろ下着泥棒、蹴っ飛ばす!!」

 

 わぁ良い笑顔。直接向けられたわけでは無いにも関わらず、思わず体が竦んでしまった。それ程までに彼女のそれは『凄絶』である。

 しかしそんなミルコを前にしてもヴィランは怖気付く様子は無く…何だ、その余裕とも取れる態度はどこから湧いてくるんだ…?

 

「しかしぬかったなヒーロー! 我らは疾風怒濤三兄弟! 三位一体の怒涛のコンビネーションを捌き切れるかな!?」

「「「食らえミルコ、進化したスリップストリーム脱衣──名付けて!! スリップエクストリーム脱衣・零式!!」」」

 

 ネーム力ぅ…ですかねぇ…。

 …何で改良元が存在するのに零が付いたんだよ。何でもかんでも零って付ければ格好良くなると思うなよ?

 

「──う!?」

 

 呆れるオレだが、しかしその技名に反し効果自体はあったらしい。

 側から見た限りでは、特定の方向に3人が若干動いた後無駄にポージングを取っただけとしか認識出来なかったが、それなのにミルコは呻き声を発しその手を自身の腰へと…まるで先程の誤井サンの様な動作を行った。気の所為かその頬は僅かながら朱に染まり、若干内股気味でもある。

 何故? …と、オレの疑問は他でも無い疾風怒涛(ryが答えてくれた。

 

「ふっふっふ…。スカートでないからと油断をしたな? 甘い!」

「既に以前の我らとは一線を画している! 今の我らに抜き取れぬ下着など皆無だ!」

「我ら疾風怒濤三兄弟! そこにパンツがある限り、我らはどこにでも駆けつけよう!!」

 

 そのセリフを最後に、ミルコのものらしき下着を──コスチュームの都合上()()()()()ものになるのは必然なんだろうな──手にし、颯爽と駆けていく疾風(ryたち。残されたミルコは怒り心頭であり、羞恥ではなく怒りでその顔面を赤黒く染めていく。

 

「い・い・な・あァ〜ッ、生意気だァ……ッ!」

 

 歯を剥き出しにするミルコ。──ここでオレは彼女に声をかけた。

 

「ミルコサン、ここはオレが」

「あ?」

 

 怖ぇーよ。

 

「個性的に、あのヴィランたちならオレの方が相性が良いはずです。それに…流石に今のミルコサンを向かわせるのも、男としてちょっと…」

 

 苦笑いしながら言えば僅かに逡巡した様子を見せた後、ミルコは腕を組み、顎で疾(ryが駆けて行った方向へ視線を促す。…これは許可を取れたと言う認識で良いのだろう。

 それでは、早速。

 

 ──意識を集中させ、視線を落とし足元へ。そこには極彩色の焔が灯る両脚がある。

 

 タンっ、と。一歩を踏み出した次の瞬間に、オレの視界が凄まじい速度で切り替わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴダンッッッ!!!

 

「「「ぬぅ…ッ!?」」」

 

 衝突音。正体は、痴女そのものの服装(に見える格好)をした淫魔である。疾風怒濤三兄弟たちを追った弘原海は彼らを通り越し、その()()()()着地したのだ。

 唐突な登場に声を発することになった彼らだが…極彩色の焔を灯す弘原海を見て、何事か、得心のいった面持ちとなる。『1』の数字を飾った男が語る。

 

「ふむ、そのコスチューム…なるほど。先程はマイクロビキニのみを身につけているかと思ったが──」

 

 一呼吸挟む。

 

「──どうやらそれ自体はボディスーツに近いと見た。ならば下着も履いているな、貴様!」

「ほほう、ならば話は変わってくる。…引くなら今だぞ、我らは子供とて容赦せん!」

 

 続く『2』の男。彼らにも何かしらのポリシーがあるらしく、あくまで取るものは下着のみ。裸体を拝みたいわけではない様だ。

 対して弘原海は彼らの発言を静かに聞くだけで、何かしらの反応を見せることはしない。──交戦の意思あり。引く気は無いらしい。

 

「良い覚悟。…ならば全力を持って応えよう!!」

「「「我ら疾風怒濤三兄弟!! 食らえ、スリップエクストリーム脱衣・零──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………誤算が有ったとすれば、彼らの中で弘原海が訪れた理由が『ヒーローとしてヴィランを倒しに来た』と、無意識の内に定義されていたことだろう。

 もちろん、それも有る。だがしかし、今回は違った。彼はヒーローとしてでは無く、弘原海 ありすと言う一個人として疾風怒濤三兄弟の前に現れていた。

 

 

 

 ──ありがとうヒーロー! 君のおかげで元気が出ました!

 

 

 

 たった1人。されど1人。本人にその気はなくとも、弘原海の心に寄り添い支柱とも呼べるべき存在と化した女性。彼女の言葉にどれだけ弘原海が救われたか。その言葉に、どれだけ弘原海が報われたか。そしてそんな彼女に彼らは手を出してしまっていた。

 

 …そう。疾風怒濤三兄弟はただタイミングが悪かった。本当に、その一言に尽きてしまう。

 

「──、」

 

 幾重にも巻かれ、蜷局の様に首に鎮座するマフラーに遮られながら、淫魔は何かしらを声に出した。

 

 変化は直後に訪れる。足元──弘原海の『影』からナニカが躍り出た。

 

 のっぺりとした黒で平面的なそれは──一言で表すなら、鮫。

 

()()

 

 刹那、疾風怒濤三兄弟の体が食い千切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わざわざ振り返らずとも、職場体験初日からして何とも濃いぃ1日であった。

 

 発目サンのお陰でコスチュームはこんなになるわ、変な3人組のヴィランと出会うわ…あの後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は警察に引き渡され、取られた下着も無事に各々へ返却されたらしい。誤井サンからもお礼を言われ、ヒーローとしてこれほど喜ばしいことは無いだろう。(ミルコも何だかんだで褒めてくれた)

 

 さて、初日の内容としてはそんな感じであり──この際だ、感度6000倍(オーバードウェポン)の話しはよそうじゃないか──1日目のパトロールを終えたオレたちはとあるヒーローの事務所に訪れており…そしてそこでクラスメートの鱗クンと出会ったオレは、彼と取っ組み合いを繰り広げていた。

 

 こうなった経緯としては以下の通り。とあるヒーロー…ドラグーンヒーロー・リューキュウの事務所へミルコと共に宿泊を頼みに訪れたオレは、そこでリューキュウともう1人、雄英高校が誇る『ビッグ3』とか呼ばれている先輩生徒と一緒になっていた鱗クンの姿を認める。

 そこからは早い。彼も彼でオレの職場体験先がミルコと知らなかった為、お互いがお互いをカメラで激写。『鱗クンが両手に花だゾ〜』やら『【速報】弘原海がミルコを侍らせてる』などと一文を添えつつB組のグループラインに送ったことで、それまで行われていた職場体験の報告会は(主に男子の)嫉妬と殺意に満ち溢れた呪詛の放出場と化した。

 

 …小大サンの『殺す』の一言を見た瞬間、反射的にグループを脱退してしまったオレは悪くない。

 

 悪いのはこのおさげ男子である。えぇい鼻の下伸ばしやがって! 普段からオレと小大サンの関係性で散々いじっといて、裏ではこそこそとスタイル抜群のクールビューティ系お姉さんと天然属性持ち先輩のサンドイッチを楽しみやがってこの、控えめに言ってくたばれ!!

 …何、お前こそ褐色男勝りバニーといちゃつきやがってだと? そんなんじゃないわい! バトルジャンキーどころか中身バーサーカーだぞ! 一緒にいるだけで疲れるわ!!

 

 

 

 …まぁ、そんなこんなで。

 鱗クンとのポカポカフレンドリータイムを堪能したオレは、リューキュウ事務所のシャワーで1日の汗を疲れと一緒に洗い流し、就寝するのであった。

 

 

 

 …鱗クンの野郎本気で殴りやがって。情けなんてかけずに金的狙うんだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広がる炎に炙られても、その体から確実に熱を失いながら()()は言う。

 

 

 

──私の〝個性〟の話さ、少年。

 

 

 

 突き出された拳から伝わる、自身のナカにチカラが送り込まれてくる感覚。

 

 

 

──冠された名は「淫魔(サキュバス)」! エロいことなら何でも出来るッ!!

 

 

 

 もう、幾度と無く見て来たその光景(ゆめ)。忘れることなど出来ない──許されない、オレの、弘原海 ありすの原点(オリジン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──1人が培い別の誰かへ。「サキュバス」はそうして聖火の如く引き継がれて来た! 誰かの(オカズ)に成ります様にと、幾人もの紳士/淑女たちが紡いで来た性なるチカラだッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………本当。最後の最後で涙が引っ込むのやめてほしい。




〜今回発動した主人公の能力一覧〜

屠虚鮫(トコジョーズ)
痛みだけを対象に与える影っぽい何かで出来た鮫。与えた痛みで対象がショックによる絶命や発狂はしないので、お手軽にリョナプレイが行える。


前話にて主人公のヒーロー名の件で混乱を招いてしまいましたので、謝罪も踏まえ、ほんの少しですが主人公が個性を受け取った場面を入れてみました。

…余計混乱を招いた気がする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

職場体験 その②

〜数行で分かる主人公過去編〜


のっぺらぼう「私と友達にならないか」
主人公「な ん だ こ の オ ッ サ ン !」


痴女「先っぽだけ…先っぽ、ねね、先っぽだけだから…!」



お久しぶりでございます。大分時間がかかってしまいました…。

短期間で定期的に投稿してる人って本当に人間なのでしょうか。ボブは訝しんだ。


< 小大

 

小大

『ねえ』21:42

 

小大

『写真』21:42

 

小大

『ねえ』21:42

 

小大

『ねえ』21:42

 

小大

『無視???????????』21:43

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の連続ハテナがすっごく怖いと思いました、まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──よぉ、ヴィランだなァてめー!」

 

 頭上に陽光が近づき始めた昼時。唐突に響いたその声が男の肩を大きく震わせた。

 男は擦れたジーンズにシャツと地味目な恰好。ただしそれは、人の印象に残らない様に『意識して作られた』見た目である。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()男が振り向き見たのは──あるヒーローの姿だ。

 

 ピンと立った耳。褐色の肌。シルクの様な長髪。

 そのヒーローの名前は…。

 

「ミ、ルコ…ッ!? 何でこんなところに…!!」

「蹴っ飛ばす!!」

 

 くそ! と、有無を言わせない彼女の言葉に乱暴に吐き捨ててから男は駆け出す。〝個性〟か、静止していた状態からは想像も出来ない速度で男の体が動き、その為に振われたミルコの鋭い蹴りは空を引き裂くだけに終わった。

 即座に追走が始まる。

 

「待てこら!!」

 

 文字通り、脱兎の如く。

 男の個性では加速には優れても、トップスピードはミルコに軍配が上がった。彼女の手がその背中に追い付く──

 

「ッ?! ちぃ…!」

 

 ──間際、男の体が真横に移動する。トップスピードをそのままに移動した為、側から見ればかき消えた様に思えたかもしれない。恐らくは急発進と急停止のハイブリッド…いや、単純に「制動力」と言った具合だろうか。

 ヴィランの男の個性にあたりを付けながら、ミルコは彼が入った路地裏へと潜り込む。錆びと乾いた土埃と、所々から発せられる正体不明な異臭に顰めっ面になりながらも男の背を追いかけて行った。が、

 

(──よし、よし! これなら逃げ切れる!)

 

 内心でほくそ笑む男が見るのは、どんどんと距離の離れていくミルコの姿である。

 狭い上に入り組んだ路地は、急発進と急停止で対応が可能な男には有利であるが、なまじ速度が出てしまうミルコにとっては自滅の可能性がある為、逆に速度を落とさなければならない状況を生んでしまっていた。勝利を確信した男は路地裏から大通り──人混みを利用出来る場所へと躍り出る。

 

 

 

 ダンッッッ!! と、衝突じみた着地音が響いたのはその時だ。

 

 

 

「逃げ切れると思ってんのかァ、ヴィラン野郎!!」

 

 獰猛に、かつ凄絶に。

 裂ける様な笑みを浮かべながら言うミルコに、男は急停止。追い付けないと判断し、即座に追走経路を『上』に変更したミルコが目前へ着地したのだろう。そう思考する傍で、頭をフルに回転させ新たな逃走経路を導き出そうとする男は兎に角ミルコから距離を取る為に真後ろへ振り返り──

 

 そこで、目と鼻の先に()()()()()があることを認めた。

 

「は?」

 

 と言う声はもう出せない。

 鼻腔を擽った…『ミルコ』がまるで蝋燭の火を吹き消す様に吐き出した(ガス)の香りを最後に、男の意識は寸断される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ぜぇぜぇはぁはぁ、と折った膝に手を付き肩で息をするオレと異なり、先程睡眠ガスで眠らせたヴィランの男を引き摺るミルコは息切れ1つ起こした様子は見られない。

 

「こンくらいで息切らすな貧弱め! ヴィランは待っちゃくんねぇぞ!」

 

 どこか楽しげな表情の彼女はそう言うが、朝起きてからのパトロールに加えて既に2件分ヴィランを追いかけ回したりと動きっぱなしである。疲労が溜まって当たり前…だと思うのだが、彼女のそのスタミナは一体どこから来るのだろうか。

 甚だ疑問でしょうがない。

 

 さて、側から見れば()()()()2()()()()()()になっているのだが…もちろんこれはオレがサキュバスで作り上げた状況だ。

 野球剣のコピー機能でオレのコスチュームをミルコの物にした上で、『他者変身』と言う…文字通り他人の外見を真似る能力を………うんまぁ、体育祭を経て「サキュバス」が成長した結果様々な副次能力が目覚め、この『他者変身』もその内の1つである。今こうして使いこなせる様になる前の発現段階ではなんやかんやあったわけだが……、それはまた別の機会と言うことで。

 

 ミルコに変身している理由としてはヴィランの撹乱及び抑止力を目的としている。トップヒーローであるミルコが様々な場所で目撃されれば、それだけでヴィランは警戒して活動を控えると考えてのことだ。

 …まぁこうして合流しているところを見られると駄目なんだけど。

 

(にしても──)

 

 と、考えながら見るのは汗を拭った自身の掌だ。広げた両手は仄かに灯った焔に包まれており──ただしその色は極彩色(どピンク)ではなく深い青色をしている。

 

 身体能力を飛躍的に上昇させる感度6000倍(オーバードウェポン)だが、いかんせん、使用後の反動が大きすぎるのでどうにか出来ないかと試行錯誤*1を繰り返したところ、その出力を「青」→「紫」→「赤」→「極彩色」の4段回で調整が可能となり、反動を抑えることに成功した。

 因みに反動の段階としては、「全身正座後の痺れ()」、「全身こむら返り()」、「何も無ければ1/10回位は耐えられる()」、「無☆理(極彩色)」だ。

 

 で、今は1番低出力の青。

 と言っても、下手な増強個性に匹敵はしていると思うのだが…にも関わらず、ミルコの身体能力とスタミナに敵う気がしない。

 …何だウサギっぽいことが出来る個性って。()()()の部分に何か別のものが含まれているんじゃないかと思うのはオレだけか?

 

「──ミっ、ミルコが2人?!」

 

 …ふと聞こえて来た声にびくりと肩を跳ねさせる。長く留まりすぎたか、と思ったオレが声の方を向いて見たのは…。

 

「──えーと、峰田クン? …と、Mt.レディサン」

「今注目の期待の新人ヒーローの私よりもこのエロガキの方が先に名前が出てくるのはどうして? 私はついで??」

 

 何故オレは顔面を鷲掴みにされているのだ。

 

「ぐげほ…っ。と言うか峰田クン、この数日でエロガキ認定されるとかなにしてんスか君…」

「何かとローアングルで撮影しようとしてくるわよ」

「よっしゃヴィランだな?」

 

 アイアンクローから解放されたオレの言葉にMt.レディが答えると、ミルコが笑顔でその健脚をぐるぐると回し始めた。

 そこ、そういうことしない。峰田クンが貴女のVラインに釘付けだから。

 

 

 

 

 

 *峰田 実:性欲 43/100*

 *欲求:「野心家な全身タイツのチャンネーに褐色筋肉バニーが2人もだぁ…!? どいつもこいつもオイラのチンチンをイライラさせやがって…!!」*

 

 

 

 

 

 もしかして彼のコスチュームの下半身部分は()()()だったりするのかもしれない。そして隣のクラスまでその悪名を轟かせている峰田クンですら、その性欲値が小大サンの1/3にも満たないこの事実。

 なまじ人よりも色々と見えてしまうが故に、オレは戦慄を覚えた。

 

 状況説明を兼ねた休憩で体力回復に努めるオレ現在──服装コピー解除&流石にあのコスチュームは公序良俗に触れるかもしれないのでジャージに変更済み、ついでに他者変身も解除──の横では落ち着かない様子で、今にも飛び出してしまいそうに体をソワソワさせているミルコの姿が。

 

「──ほら、スポドリどーぞ。若いからって無茶通そうとするんじゃないわよー」

「あ…ドモ」

 

 Mt.レディが差し出してくれた某メーカーのスポーツ飲料水を有り難くいただく。

 …あぁ、汗だらけで水分を求めていた火照った身体の隅々に行きわt

 

「にしてもデカいわね(ずむゅっ♡)」

 

 

 

 

 

 ゴッッッッ!! ッッッッッドン!!!!

 

 

 

 

 

 …オレの拳を腹に受け、エキサイトな竹トンボの様に吹き飛んでいくMt.レディ改めセクハラ野郎。

 さてこの状況、思わず反射的とは言えプロヒーローを殴ってしまったことか、別に個性を使っていないにも関わらず叩き出された超出力か、はたまた普段から小大サンのセクハラから逃れている内に鍛えられてしまった己の反射神経か、それとも視界の端に映る葡萄頭の目の開き具合に驚けば良いのか悩むところである。

 

 未だ蹲り腹部の痛みに苦しむ彼女。その傍に歩み寄るのはミルコである。

 

「ごぶっふ、がふぉお…! ンの、乙女のぶはッ。乙女のお腹をををを…!」

「同性でもセクハラって成立するからな?」

 

 腕を組みながら言い放たれた冷たい一言に、びくりと肩を跳ねさせるMt.レディ。今注目の新人ヒーローが体験学習中の未成年(学生)に手を出したとなればそりゃあもう面白いことになるのは確実だ。

 ごべんなしゃいぃ…、と漏れ出た弱々しい声だが咄嗟でも手を出したオレも悪いので同じく謝罪を述べる。…と言うか、アレだな。何だかミルコのオレに対する態度が庇護対象に向けるそれになりつつある気がしてならない。ヒーロー志望なんだけどな…。──いや、まぁ、まだ卵だしプロヒーロー相手に対等に接してもらうことを望むのは自惚れか、流石に。

 

 …いやでもなぁ。接しの感じがどうもこう、あの、ほら。…ねぇ?

 

 頼りない以前に『これまで』があるから、問題を起こさせない・巻き込ませない様にしているミルコの心の内を察してしまい、自分の情けなさに軽く凹む。頑張らないとなぁ…。

 

 ──と、若干卑屈気味に己を鼓舞した瞬間であった。

 

 

 

 

 

『『『ぎゃァー! 変態ーッ!!』』』

 

 

 

 

 

 どこからともなく聞こえて来た──そしてつい先日聞いた様な気がする内容の──無数の人が放つ悲鳴の塊。

 

「──おっしゃ行くぞ。私ら(ヒーロー)の出番だ」

 

 凛々しい表情でミルコが語る。

 それで、その目を光らせるやつってどうやってるんですかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な………?!」

 

 そう声を出したのは、峰田クンだろうか。

 

 ()()()()()()()

 普段であれば適度に往来が存在して雑踏が生まれているであろうそこには、1人の男性を中心に広い人の輪が出来上がっている。輪の中心に居るのはメタボリックな腹が目立つ中年男性だ。一目で喧騒の原因と見て分かる彼は、たった一言、『異常』と称する他ない有様となっている。

 

 身に付けているのはスポーティなハーフパンツ。ランニングシューズも履いていることから、その腹囲を気にかけて有酸素ランニングにでも勤しんでいたのかもしれないと予測が立てられる。

 さて、今述べたのは主に下半身。…もうお分かりだと思うが、彼の上半身。そこを見て、周囲の人々は先程の悲鳴を上げたのだ。

 が、

 

「これは…どう見てもやばいわね…!」

 

 身構えるMt.レディの声に反応したのか、男性が力無く両腕を上げ、身体の向きをこちらに合わせる。その様は幽鬼か、はたまたゾンビか。

 新人と言えど既に何件もの事件を解決しているプロヒーロー。そんな彼女を戦慄させた男性の恰好。上裸か、それとも卑猥すぎるプリントTシャツ? …いいや違う。

 

「花…?」

 

 出た声は震えていた。

 そう、花。正確に言えばショクダイオオコンニャクなる世界一大きな花弁を開き悪臭を振り撒くことで知られている奇異な花。それの幾分かサイズの小さな物が、男性の上半身から生えているのだ。()()()()()()()()()

 

「ヤバいな」

「ですね…!」

 

 人相など悍ましすぎるその有様に隠れて判別不可能。

 そんな彼の有様を見て呟くミルコに、Mt.レディが賛同するも、すぐさま彼女に否定の言葉を放つミルコ。違ェと語った彼女に、Mt.レディだけで無く、峰田クンも視線をそちらに向けた。

 

「違うって、何がだよ? ど、どう見たってあんなの正気じゃないだろお?!」

「うるせぇぞ、いいから目ぇ離すな」

 

 ぶっきらぼうな言い方により一層混乱する2人。…傍のオレは、ミルコに言われるまでも無く、先程から目を逸らさずにいた。

 

「──ヤバいのは()()()()()()()…」

 

 不気味な様相の男性が一歩踏み出したのに合わせ、ミルコが呻く様に声を出す。

 レディと峰田クンの視線は怪物と化した男性へ。ミルコは男性の他に、もう1人へと。…そうしてオレは、男性のことなど忘れて、その『もう1人』へと視線も意識も注ぎ続けてしまう。

 

 薄い薄い、刃物の様に裂けた笑みを浮かべるそれは。

 その双眸で歪みに歪んだ三日月の如く弧を描くそいつは。

 まるで操縦桿の様に男性へスマートフォンを向ける()()()()

 

 

 

 

 

「──誤井、サン…ッッッ!?」

 

 

 

 

 

 ドンッ!! と言う音はミルコが『跳んだ』意外にも、男性の体が弾かれる様に動いたことでもあった。驚愕を露わにするオレの前で状況は動き、知性の感じられない動作で両腕を振るった男性を飛び越えたミルコが、その健脚で踵落としを振るう─が。

 

「ポチッとな」

 

 標的をミルコミルコからその後方に位置していたオレたちに変えたのか、クリーチャーそのものの男性が体当たりを仕掛けたが、足掛けで転倒させ、ここぞとばかりに(無駄に長い)マフラーでその体を拘束し無力化を図る。

 そんな最中にふざけた調子の声を聴覚が拾った。トップヒーローの攻撃を避けることすらしない誤井サンは、しかしその攻撃を液晶をタップすると言うその1つの動作だけで持って封じてみせる。

 

 ぢゃどッ!! とミルコの踵落としを阻んだのは、彼女の前に現れた2人の男女。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「人の体組織の変換と強制命令…ッ!!?」

「そんなご大層なものじゃないですよー」

 

 攻撃を防がれたことでミルコは一旦飛び退き、互いの触手で互いを引き寄せ盾の役割を果たした男女にMt.レディが悲鳴を上げるが、やはり軽い調子でそれを否定する誤井サン。

 傍にて、ぐじゃぐじゃと蠢く触手クリーチャーのことなど意にも介さずに、彼女は手元のスマートフォンを何やら弄っている。最早、鼻歌混じりで。

 

「……それよりそこに居て良いんですかねー君ら。私の〝個性〟の詳細も分かっていないのに、その影響を受けている人物の側に居るんですよー今?」

 

 ──ゾァ。

 言い様の無い寒気が背筋を襲い、即座に「離れろ!」とミルコが叫ぶも…、

 

「──うわ!?」

 

 叫んだのはMt.レディだった。植物クリーチャーと化したメタボな男性が、その上半身を覆う花弁から無数の虫の大群を放ったのである。

 

(ま、ずい──ッ!?)

 

 例えば、このメタボな男性と先程の男女。誤井サン──()()の制御下に置かれる条件が、この虫による物だったりすれば? …最悪の展開を想像して、喉を干上がらせながら彼女に襲い掛かる虫をどうにかしようとするも、既に群れはどうしようもない程に彼女に接近を果たして居て…くそ、駄目だ間に合わない!!

 

 そうして、蜂とも蠅とも言えない奇妙な虫の群れの数匹がレディの体に留まり、その腹の先端から生えた微細な針を躊躇無く突き刺した瞬間であった。

 

 

 

 

 

「──ひ、ふひゃあ♡!?」

 

 

 

 

 

 …、

 ………、

 ………………、?

 

 う、うん? 何故喘ぎ声??

 あれ? 今ってなんかシリアスな場面じゃ無いの? こう、ヒーローを応援するファンを装った人物が実は極悪なヴィランだったー…なんて感じの、この後ガチシリアスマジバトル的展開が繰り広げられていくアレじゃないの??? あ、あれ?????

 

 顔を真っ赤にしながら──内股となりつつ──虫を追っ払うMt.レディ。

 そんな彼女を見て首を捻るオレとミルコ。峰田クンはまんじりと彼女の様子をなんとも下卑た笑みを浮かべて鑑賞中である。もうここまで来ると賞賛して来たくなるね。

 

たひゅけ♡、見てないで助けてよぉーん!?」

 

 現在進行形で襲われていたMt.レディの悲鳴(?)に慌てて意識を引き戻すと、飛び交っていた虫の大群に掌を向け、どろっとした甘い匂いを放つ粘液を生成。

 体育祭でコピーに成功した爆豪クンの──ではなく、単純に昆虫が好む匂いと高い粘性を持った物だ。それを地面に塗りたくれば、あっという間に標的を変えた群れは突入と同時に粘性に囚われ脱出が不可能となり次第に力尽きていく。

 

 ふにゅうぅ、と奇怪な声を漏らしその場にへたり込むMt.レディ。

 と、それを見た誤井は高らかに笑い声を放った。おぉう、突然。

 

「あーはっはぁー! 期待の新人ヒーロー様がだらしないですねー!?」

「ぅン、だとこのやろぉん…!」

 

 声蕩けてますけどあの。

 

「さぁて、ではでは改めて自己紹介と行きましょうかー。──おほん! ご機嫌麗しゅう、ヒーローの方々! 私の名前は〝パピヨンマスク〟! 本日デビューと相成りました新人ヴィランですどうぞよろしく!!」

 

 それまで付けていた黒縁丸眼鏡の代わりに、その名前ともなっている深紅のパピヨンマスクを装着すると同時、纏っていたサマーコートのボタンを外したことでその下に隠れていた紐みたいな()()()()()()()()を大胆に露わにする誤井…改め、パピヨンマスク。

 

「──私の〝個性〟は「エロゲーム」。エロゲームに出てくる設定・要素を()()()()()()()()個性ッ!! …よくあるでしょう、一般人(NPC)がいきなり敵性モブ化してピンチになるシチュエーションって!! さぁさぁ、ヤりましょうよヒーローの皆さん? 私は逃げも隠れもしませんからー!!」

 

 ………こうして、戦いの火蓋が…。

 

 

 

 

 

 ───…う〜ん。

*1
んお゛ッ、ほぉお゛お゛〜♡! お゛っ♡ お゛っ♡ あ゛ぅ、ひぎゅい、いっイひ♡! ほぉ゛♡ おほぉお゛おお〜〜〜っ♡♡♡♡♡♡♡!!!




〜今回発動した主人公の能力一覧〜

『他者変身』
相手の見た目に変身する。+αで別の能力も同時に発動していたりするものの…それはまたの機会に。



〜オリキャラ紹介〜

誤井(ごい) 漆度(しつど) 敵名:パピヨンマスク

〝個性〟「エロゲーム」
エロゲームの設定・要素を現実に引き起こす個性。
…と言うとチートっぽいが、実際には「自分で制作して」尚且つ「かなりの知名度が出た」エロゲームのものでないと現実に引き起こすことが出来ない。


と言うわけでオリキャラ出ました。ようやくコイツを、出せた…ッッッ!!!
実は主人公並みに主要キャラだったり。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。