中つ国召喚 (瀬名誠庵)
しおりを挟む

本作の登場国家・勢力

要望が多かったので、取り敢えず地図とともに書いてみました。


地図(変更あり)

 

【挿絵表示】

 

日本国

ご存知主人公の国。

…なのだが、共産主義の愉快な仲間達の存在感が強いせいで若干空気となりつつある。

クワ・トイネ公国とクイラ王国の近代化に力を入れる中、在日米軍の撤退を受け、自衛隊の戦力拡大に奔走している。

首都は東京。ちなみに何故か樺太と千島列島全島が付いてきており、その点でロシアと揉めている。

 

クワ・トイネ公国

第三文明圏外国。

原作通り日本と関係を結ぶ。文明圏外国の良心。

農作物の大量輸出と豪華なODAにより近代国家への発展に邁進中。

首都はクワ・トイネ市。

 

クイラ王国

第三文明圏外国。

原作通り日本と関係を結ぶ。本来はかなり貧しい国だったのだが、オイルマネーにより貧困から脱しつつある。

 

ロウリア王国

第三文明圏外国。

原作通り亜人廃絶政策を進めているが、戦力は原作よりも強化されている。

首都はジン・ハーク。

 

台湾中華民国

何故か香港とともに中国から離れた国。

そのままの流れで分離独立し、日本やクワ・トイネ公国と関係を深めつつある。

首都は台北。

 

朝鮮民主主義人民共和国

何故かフィルアデス大陸とくっついた朝鮮半島の国の片割れにして愉快な社会主義サイドの国1号。

接続早々リーム王国に侵攻されるが、これを撃退して逆侵略し、我が世の春を迎え始めている。

半島自体が横に傾いたため、最近では『西朝鮮』と呼ばれる事が多い。

首都は平壌。

 

大韓民国

何故かフィルアデス大陸とくっついた朝鮮半島の片割れ。

北朝鮮と違い、現在も絶賛大混乱中で、在韓米軍の撤退により混乱に拍車がかかっている。

その中で政府は反日運動を行っているが、それが逆に韓国自体の経済を悪化させている。

首都はソウル。

 

アメリカ合衆国

ガチ列強その1。

複数の大陸出現と未知の勢力に対する危機感から自国第一主義に走り、現在世界各地に展開していた米軍部隊の大半を本国に呼び戻している。また軍縮から軍拡にシフトチェンジし、軍の規模を拡大させつつ未知の脅威に対する備えを行っている。

首都はワシントンDC。

 

パーパルディア皇国

第三文明圏の盟主で列強国。

…なのだが、ガチ列強国の中国に目を付けられ、早速亡国の危機に瀕している。

現在北朝鮮に接触して産業革命を開始し、国交を結んだ上で秘密条約に基づいた協力関係を築きつつある。

首都はエストシラント。

 

中華人民共和国

ガチ列強国その2にして愉快な共産主義サイドの国2号。

自身を侮ったパーパルディア皇国を属国化させるために策略を講じ始めているほか、フィルアデス大陸の利権を巡ってロシアと対立を深めつつある。

軍事力はアメリカやソ連に劣るが、それでも東アジア有数の実力を持っている。

首都は北京。

 

ロシア連邦

ガチ列強国その3にして愉快な社会主義サイドの国3号。

作中で最も地球肥大化の恩恵を受けた国で、ウラジオストックやペトロパブロフスクが年中安定して使用出来る不凍港と化した上、農耕や地下資源開発に適したエリアが増えた。

しかし一方で樺太と千島を事実上喪失し、フィルアデス大陸への進出も中国や北朝鮮に出遅れている。

首都はモスクワ。

 

現在登場時期未定の国

 

イギリス

フランス

ドイツ

イタリア

ムー

神聖ミリシアル帝国

エモール王国

グラ・バルカス帝国



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話 地球肥大化事変 前略、地球は大きくなりました

モチベ維持のために書いてみた奴です。ですので基本不定期更新です。たぶん…


この世界と全く違う何処かの空間。

そこでは、一人の女性が頭を抱えていた。

 

「…本当にどうしてこうなった」

 

女性がそう呟く中、そこに一人の男がやってくる。その男は仏教の中核を担う存在である仏そのものの姿をしており、常に後ろから眩いばかりの光を纏っていた。

 

「どうしましたか、シャマシュよ。何か悩みを抱えている様ですが」

 

「ブッダ殿か…これを見てくれませんか?」

 

シャマシュと呼ばれた女性はそう言いながら、雲をかきわけて『真下』の光景を映し出す。それを覗き見た男ー覚者(ブッダ)は、思わず目を見張る。

 

「これはこれは…面倒な事になりましたね。もしや、『彼の国』の行った行為が影響を及ぼしたのでしょうか?」

 

「それは私でも分かりません…ですが、あの国の行った事が私の儀式に何らかの影響を及ぼしたのは否定できません。それ程に影響力のある儀式なのですから…」

 

「ですが、今の我々には、下の者達に余計な介入を行う事は出来ません。今はただ、事の成り行きを見守りましょう。そしてこの事態が、中つ国に生きる全ての者達の救いとならん事を…」

 

覚者はそう言って、シャマシュとともに、()()()()()()()()()()()()()を見下ろした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2015年1月23日 小笠原諸島沖

 

海上自衛隊所属の対潜哨戒機、ロッキードP‐3C〈オライオン〉は、自身の所属する厚木基地から南に3000キロの洋上を飛んでいた。

事の発端は1週間前。突如、世界全域を眩いばかりの光が覆い、僅か数分の間、世界から夜が消えた。

そして光が消えた直後、今度は全てのGPS衛星に異常が生じ、世界各国の政府はその異常の解明に努めた。しかしその最中、地上監視衛星が捉えた映像が一層混乱を巻き起こしていた。

何と、太平洋・大西洋・インド洋の三大洋上に、幾つもの大陸や島々が現出していたのだ。

これによって世界各地の海上通商航路に空路が一部寸断され、経済的なネットワークに混乱が生じた。特に海上貿易で経済の根幹を成り立たせている日本にとっては死活問題であり、早急な現状解明に力を入れていた。

この〈オライオン〉もその現状確認のための任務についている部隊で、対潜哨戒機としての高い航続距離を買われて、小笠原諸島の南に現出した謎の陸地の調査に赴いていた。

 

「機長、陸地が見えてきました。奥に街らしきものも見えます」

 

〈オライオン〉のコックピット内で副機長がそう報告し、機長は続いて指示を出す。

 

「よし…あの市街地を空撮したら直ぐに引き返すぞ。先程のあの飛行物体が飛んできたのもこの陸地がある方向だったからな」

 

この陸地を発見する数分前、〈オライオン〉に1機の飛行物体が接近し、乗組員達を驚愕させていた。

遠目で見れば鳥の様に見えたそれは、全身を羽毛ではなく鱗で覆い、短くも鋭く尖った角に蝙蝠に似た形状の翼。まるで中世ヨーロッパの神話に出てくる伝説上の動物『ドラゴン』の様な飛行物体には人が跨っており、それがこれから向かう先にある現地勢力の航空戦力である可能性が出てきたからである。

 

「間もなく、上空に到達します」

 

副機長の言葉とともに、〈オライオン〉は都市らしき建物群の上空に差し掛かり、機長は下方を見下ろした。

そこは港湾都市で、巨大な岩のアーチによって外洋と区分された円形の湾内には、数十隻の木造帆船が錨を下ろし、桟橋や倉庫では大量の魚類や海産物、樽や木箱が積み上げられていた。建物は昔のヨーロッパ各地域で見られる石やレンガ、木材で建てられたモノで、電灯や電線の類は見受けられなかった。

 

「まるで中世ヨーロッパの街が現れたみたいですね…」

 

「ああ…」

 

「機長、レーダーに反応あり。多数の飛行物体が時速180キロで接近中」

 

窓の外に幾つもの飛行物体の群れが見え始め、〈オライオン〉はゆっくりと旋回する。

その飛行物体は、先程目撃したドラゴンそのものであったが、頭部や胴体に金属製の鎧を付けており、ただ群れを成しているのではなく、5機ずつ編隊を組んで接近しているため、本格的な戦闘行動を取る事を主任務とする部隊である事が伺えた。

〈オライオン〉は時速700キロの高速で一気に振り切り、そのまま都市部から離れる。そして厚木への帰投途中に世田谷の防衛省に向けて陸地と航空戦力に関しての情報を報告。その報告は直ぐに政府に届けられ、政府はこの陸地に対する外交使節団を派遣する事を決定した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1週間後 小笠原諸島沖

 

海上自衛隊第1護衛隊群は、〈オライオン〉が目視で確認した陸地に接近しつつあった。

 

「全く、世の中不思議な事があるものだな」

 

第1護衛隊群旗艦、ヘリコプター搭載護衛艦「しらね」の艦橋で、護衛隊群司令の安田海将補はそう言いながら、そろそろ陸地が見えてくるであろう正面を見る。

彼の飄々とした雰囲気とは裏腹に、現在の日本の経済状況はやや悪化の一途を辿っていた。

これまでの海上通商路が未知の大陸の出現で寸断され、距離自体も大きく伸びて空路自体も事実上の寸断状態に陥り、すぐに連絡が通じた台湾や韓国以外、貿易自体が事実上不可能な状況になったからである。

そのため現地勢力が好戦的であった場合に備え、外務省外交使節団メンバーはこの「しらね」に乗艦し、出来る限り穏便に現地勢力と接触して関係を結ぼうとしていた。

すると、管制員が大声で報告してきた。

 

「司令、艦長!前方より船団が接近してきます!方位001、距離1万、速度10ノット!」

 

「お出でなすったか…こちらから刺激するなよ!もし何らかの方法で停船を呼び掛けてきた場合は素直に従う事!」

 

安田が指示を飛ばす中、先頭を進む帆船から「しらね」に向けて、スピーカーらしき器具で警告が発せられた。それはあまりにも流ちょうな日本語で行われた。

 

『そこの巨大船、直ちに停船せよ!ここから先はクワ・トイネ公国の領海である!停船せねば我らに対する敵対行動と見なす!』

 

「…驚いた。奴さん、日本語で言ってきたぞ」

 

「とにかく驚いている場合ではないでしょう、司令。直ぐに外務省の人達に出番を告げないといけませんよ」

 

「そうだな。全艦停止!さらにスピーカーで本艦への接舷を相手に要請しろ!」

 

「了解!」

 

安田の指示は的確に伝えられ、護衛隊群は停止。そしてクワ・トイネ公国と名乗る現地勢力の軍船に乗る者達を「しらね」に招き入れる事となった。

これが、新たに現れた未知の大陸に住まう者達と、地球上国家の正式なファーストコンタクトとなった。




次回は基本的に未定です。2000字程度は明らかです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

通じる言葉、通じない常識

今回は外交回。
あと前回を一部修正しました。


西暦2015年1月30日 クワ・トイネ公国 マイハーク沖

 

クワ・トイネ公国北部の港湾都市マイハーク。その沖合に海上自衛隊第1護衛隊群は停泊していた。

 

「しかし、ただ驚きしかないな…」

 

安田はそう言いながら、岩のアーチの向こうに見える市街地を見つめていた。

先程の船団ークワ・トイネ公国海軍第2艦隊との接触で判明した事は、以下の通りである。

 

・1週間前に〈オライオン〉搭乗員が目視で確認した陸地は、ロデニウス大陸北東部に位置する第三文明圏外国『クワ・トイネ公国』であり、〈オライオン〉が発見した都市はここマイハークである。

・1週間前、遥か北の方より巨大な龍が現れ、哨戒に出ていたワイバーンー〈オライオン〉搭乗員が目撃したドラゴンの事であるーを圧倒的な速度で引き離した後、マイハーク上空を旋回。マイハーク守備大隊所属の飛竜騎士隊が緊急出動した直後にその巨龍はもと来た方角へ飛び去って行った。そのため現在国全域が警戒態勢に入っていた。

・公国海軍第2艦隊が付近を哨戒していたのもそれが理由であり、今回第1護衛隊群が来た方角が件の巨龍が来た方角と完全に一致していたため、警告を発した。

 

辻褄が一致したのを確認した外務省外交使節団は、件の巨龍の正体、〈オライオン〉の事を公表しつつ謝罪し、同時に〈オライオン〉がマイハーク上空を侵犯してしまった原因を説明した。そして現在外交使節団は各種資料を持ってクワ・トイネ公国の首都である公都クワ・トイネ市に向かっており、マイハーク港内への停泊が出来ない護衛隊群はその外で待機状態にあった。

 

「しかし司令、まさか本物のワイバーンを見る日が来ようとは、思ってもみませんでしたよ。しかも南のこんな近場に大陸が現出するだなんて…」

 

傍にいた「しらね」艦長の言葉に、安田も同意とばかりに頷く。

 

「まぁ本当に大変なのはここからだ。言葉が通じるとはいえ、艦内を案内していた時、文字表記は読めなかった様だからな。単純に言葉が日本語に似ているだけなのかもしれないな。とにかく、外務省の連中が交渉をうまく進めてくれるのを祈ろう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ市

クワ・トイネ公国の政治上の中心地であるここ、クワ・トイネ市。その中心地にある公城では、外務省外交使節団が公国の政治を担う閣僚達に説明を行っていた。

重量のある上にかさばる設備を運び込む必要性があった上に、万が一事を構える可能性も考慮して、第1護衛隊群には輸送艦「おおすみ」が付いてきており、LCACエアクッション式揚陸艇によってマイハーク港内の浜辺に揚陸された車両がプロジェクターや発電機、スクリーンなどの機材をクワ・トイネ市内まで運び込んでいた。

交渉決裂時を想定して89式小銃で武装した陸上自衛隊員が警護につく中、使節団長の田中はプロジェクターを使ってスクリーンに映した映像を交えながら、日本国に関する説明を行う。

 

「…中々、信じ難い事ばかりですね」

 

公国首相のカナタはそう言いながら、プロジェクターで映し出される映像を見つめる。そして田中に問いかける。

 

「貴国の詳細は分かりました。ですが、貴方がたの使用する技術が余りにも我々の常識からかけ離れているため、正直言って理解に苦しんでおります。また、見たところ貴方がたからは魔力が感じられません。ですので、如何にしてその様な文明を築き上げているのか…」

 

「魔力、ですか?すみませんが、私達にとって聞きなれないエネルギー源の様ですが…」

 

「首相、彼らは死体かと思ってしまうぐらいに魔力が感じられませぬし、これらの魔法具らしき物体からも魔力が発されておりません。恐らく嘘は言っていないと思います」

 

閣僚の一人がそう言う中、田中はテーブル上に一枚の大きな写真を敷く。それを見たカナタ達の表情が一変する。

 

「こ、これはこのロデニウス大陸ではないか!?」

 

「おい、左上を見ろ!フィルアデス大陸もはっきりと映っているぞ!おや?何か一部変だが…」

 

クワ・トイネ公国側が騒めく中、田中は説明を続ける。

 

「はい。我が国はこの様に、高空から大陸の詳細を知る技術を有しています。この様子から見るに、恐らく貴国を含むロデニウス大陸はこの星…地球に『転移』してきた、と我が国の政府は考えております。むしろ、貴国の存在自体が私達の世界にとって信じ難いのです」

 

「な、なんと…そんなおとぎ話の様な事が…」

 

閣僚の数人が目眩を覚え始める中、田中は彼らに提案を出す。

 

「ですので現在、貴国の代表使節団を我が国に招待する準備をしております。それで我が国の事をよりよく知ってもらい、国交樹立に向けた話し合いに持っていく予定です」

 

田中の言葉に対し、カナタは納得したかの様な様子で頷き、彼に答えた。

 

「…分かりました。ですが、こちらにも準備が必要です。3日以内に外交使節団を貴国に派遣いたしましょう」

 

こうして説明会と1回目の交渉は無事に終わり、2日後にクワ・トイネ公国は外交使節団を編成。

彼らは日本の用意した客船で日本に向かい、日本の文化・技術を知りつつ、東京に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2015年2月4日 首相官邸

 

首相官邸で内閣総理大臣の田山は、閣僚会議にて新渡戸外務大臣から報告を受けていた。

 

「クワ・トイネ公国の外交使節団は、ただひたすらに我が国の技術と文化に驚いてばかりだったそうです。特に社会インフラに大変興味を示していました。ただこちらも、クワ・トイネ公国の食料自給率に驚きっぱなしです。何でも公国側の資料だと毎年300パーセントは当たり前だそうで、逆にそれらを有効活用するための輸送網が不足しているそうです」

 

「となると、食料問題はまず解決出来て、代わりにこちらから輸出できるのは電気や近代的な水道設備、そして自動車に鉄道を中心とする交通インフラ辺りか…報告書によると、文明水準が中世ヨーロッパレベルだそうだからな。電化製品の輸出はもう少し待った方がいいだろうな」

 

「あと、大変驚くべき事も知りました。クワ・トイネ公国には魔法という技術…いや能力と言うべきでしょうか?そういう摩訶不思議な力が存在するそうで、実際に案内役の目の前で魔法を披露したそうです」

 

「魔法だと?それは一体どんなものなのかね?」

 

「はい…それは治癒魔法というものでして、外交使節団を案内している途中に交通事故が発生。その際怪我人が出たんですが、使節団員の一人が全治2か月レベルの大怪我をたった1分で完治させてしまったのです。これは医療業界がかなり騒然となりますよ」

 

新渡戸の説明に、田山は目を丸くする。

 

「全治2か月レベルを…!?確かにこれは医療技術がひっくり返ってしまうな…どうやら常識の齟齬も念頭に入れて交渉を進めなければならないかもな」

 

「ええ。それに、先程ようやくアメリカとの連絡が繋がる様になりましたが、太平洋のど真ん中に巨大な大陸が現れた以上は、以前の様な関係が続くとは思えませんからね…」

 

田山達はそう言いつつ、クワ・トイネ公国とどの様な条約を結び、関係を持つのかについての話し合いを進めていく。

1週間後、日本国政府はクワ・トイネ公国と国交を樹立し、ほぼ同時に貿易を開始。

この出来事は、ロデニウス大陸自体を地球のアンバランスな国際関係に巻き込んでいく事となる。




次回はホワイトハウスからお送り致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大統領の苦悩と指導者の楽観

今回は愉快な大国達にスポットを当てます。


西暦2015年3月6日 アメリカ合衆国 首都ワシントンDC

 

ワシントンDCにあるホワイトハウスでは、合衆国大統領のロバート・レイモンドが閣僚や補佐官達の前で盛大な溜息をついていた。

 

「やれやれ、ようやく日本と通信が繋がったかと思えば、余りにも距離が離れすぎている上に、中間地点に謎の大陸が現れるとはな」

 

レイモンドの言葉に、多くの閣僚が同感とばかりに頷く。

現在、北米大陸とユーラシア大陸の間には最大2万キロの距離と、アフリカ大陸二つ分にも匹敵する総面積を持つ巨大な大陸が三つ、距離的かつ物理的な壁となって存在しており、日本の戦略的な価値は大きく半減していた。

しかも監視衛星で確認したところ、日本とアメリカの間にある大陸は、現代国家に匹敵する国力と軍事力を持っているらしく、先程まで財政健全化で軍の縮小を行っていたところに対して早速の危機である。

 

「どうしますか、大統領。現在、合衆国軍の半数近くは海外に展開しております。全て本国に呼び戻すには時間が…」

 

「それは分かっている。だが不足分を新たに生産して配備するだけの余裕はない。多少時間がかかっても海外に展開している部隊を呼び戻した方がまだマシだ。距離の関係で必要性が薄れた場所から優先的に本国に呼び戻せ」

 

ここでいう距離の問題とは、本国から爆撃機が空中給油機なしでも直接攻撃ができる範囲内や、ICBMといった核戦力の影響が及ぶ範囲の事である。ロシアに中国といったアメリカと真正面から対峙する事のなくなった以上は、できる限りの戦力を未知の大陸に存在する勢力に向けたいところであった。

 

「しかし大統領、本当によろしいのでしょうか?日本は我が国にとって重要な同盟国です。貿易の面から考えても、在日米軍は残すべきかと…」

 

「今や、日本の直接的な脅威となりえる国は、東京にICBM1発すら届かせる事の出来ない場所にある。朝鮮半島は何故か日本の北西側に現れた未知の大陸と地続きになったが、今頃になって北朝鮮がおっぴろげに核戦力とICBMの放棄を宣言してきた。沖縄や横田で揉めている以上、今あの島国と半島に大戦力を振り分けている暇はない。まぁその際に生じる穴は、在韓米軍を日本に移す事で対処しよう」

 

レイモンドの自国優先的な方針に、補佐官は呆れ交じりの表情を浮かべた。

しかしそれも道理は通じている。わざわざ脅威認定されていた国が自主的に弱体化し、さらに自身のライバルである中国やロシアと真正面からぶつかり合う事がなくなったのである。如何に日本側から土地に基地維持費が出されているとはいえ、余計に戦略的価値の低い国に軍事力を割くのはただのカネの無駄遣いである。

こうして、アメリカ合衆国政府は在日米軍の殆どを本国に呼び戻す事を決定。2か月以内に海兵隊の大半や海軍第7艦隊、空軍の半数以上が本国に戻る事となった。

その代わり、在韓米軍の部隊の半数が日本に駐留する事となり、一応はアメリカの影響力が日本に残る事となった。しかしそれは事実上アメリカが日本と韓国の安全保障から手を引いた事も同義であり、これは後に日本にとって大きな災いをもたらす事となる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 ロシア連邦 首都モスクワ

モスクワの中心部、かつてロマノフ王朝が築き上げた宮殿であり、ロシア革命以後、ソビエト連邦とロシア連邦の政治の中心地として存在するクレムリン。その一室では、イワン・アンドロポフ大統領が閣僚会議で報告を受けていた。

 

「さて諸君、誠に由々しき事態が起きている。そう、サハリンとクリル列島に取り残された連邦軍の事である」

 

アンドロポフの言葉に、連邦軍上層部が険しい表情を浮かべる。

そう、未知の大陸の出現により、これまでロシアが実効支配していたサハリン(樺太)クリル(千島)列島がロシア本土の大半であるユーラシア大陸から引き離され、事実上孤立した状態となっていた。そのため現在通信の回復が急がれているが、日本列島とユーラシア大陸の間に一つの巨大な大陸が横たわっており、見通し線の確保が厳しい事になっていた。リレー通信用人工衛星の打ち上げでどうにか対策を打てる事になったが、政治・軍事の関係上、このままサハリンとクリルを放置しておくのはまずかった。

 

「余りにも遠すぎる飛び地となってしまった上に、戦略的価値も殆どなくなってしまったからな。このまま住民ごと日本にやってしまうとして、軍だけは何とか本国に戻さねばなるまい。先程から何やら、中国の動きがおかしいからな…」

 

「はい。先程から、中国は東の大陸Б(ベー)に対して艦隊を派遣し、現地勢力に接触しようとしています。衛星からの偵察写真によると、大陸Бには近世ヨーロッパに匹敵する文明水準を有した都市が幾つも確認されており、国家の存在が確定しております。また木造帆船を中心とした海洋戦力も充実している模様で、数は推定1000隻近くと見られています。これは同時期のヨーロッパ諸国海軍が所有していた戦列艦の総数を超えています」

 

「となると、中国は大陸Бを手中に納めに行く可能性が高いな。我が国も軍と外務省から外交官を派遣して接触すべきだろうな。他に何か動きはあったか?」

 

「はっ。現在アメリカは、日本に展開していた戦力の大半を本国に呼び戻しつつ、韓国に展開していた部隊の半数を日本に移している模様です。大陸A(アー)の勢力を警戒しての事かと思われます。また、大陸Бと繋がってしまった朝鮮半島では、朝鮮民主主義人民共和国が大陸Бの現地勢力と短期的な紛争に突入し、一部を占領した模様です。詳しい事は衛星通信が繋がる様にならない事には…」

 

軍や閣僚の報告に、アンドロポフはため息をつきながら首を横に振る。

 

「何か、完全に出遅れた形となったな…だが、地球自体の拡大で緯度が下がり、ウラジオストクやペトロパブロフスクが外洋に面した不凍港となったんだ。今のうちにベーリング海側の開発と太平洋艦隊の増強を進めねばならんな…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 中華人民共和国 首都北京

かつて清王朝の宮殿であり、今は共産党と中国の政治の中心地となっている紫禁城西側の中南海。その内部にある官邸では、劉国家主席が報告を受けていた。

 

「主席、東の新大陸2に存在する現地勢力…『パーパルディア皇国』及び『パンドーラ大魔法公国』との接触に成功しました。会談を行った結果、パンドーラ大魔法公国は我が国に対して外交使節団を近いうちに派遣すると回答しました。ここまでは予定通りです」

 

「そうか…謎の現象で国内が大混乱に陥り、しかも台湾や香港が我が国から消えた時は肝を冷やしたが…これで我が国の新たな陸地が手に入る事になるかもしれんな」

 

劉の言葉に、彼の部下達は笑みを浮かべる。

現在の中国の人口は13億人超。一人っ子政策でも抑えきれる事のできないその肥大化し過ぎた人口を逃がしつつ、新たな市場と自国に付き従う存在を確保しようとしていた中国にとって朗報にも等しかった。しかし補佐官は渋い表情に切り替えてから説明を続ける。

 

「しかし、パーパルディア皇国は我が国を侮っているらしく、使節団は門前払いされたそうです。また、パンドーラ大魔法公国も自身の宗主国であるパーパルディア皇国に許可をもらってから使節団を派遣すると…」

 

「…『近いうちに』とは、そういう事か。侮られたものだな。文明水準は近代ヨーロッパ程度なのだろう?であれば、確実に我が国の実力を見せつけなければならんな。直ちに空母・揚陸艦を含む艦隊を編成してパーパルディア皇国の首都に来航し、その実力差を見せつけてやれ。…ああ、攻撃はするなよ。ただ見せつけるだけでいい。如何に高慢な国でも直接我が国の軍事力を見せられたら直ぐに考えを改める事となるであろう」

 

「分かりました。直ちに北海艦隊に指示致します」

 

補佐官はそう言って退出し、劉は天井を見上げながら呟く。

 

「折角の好機だ。アメリカが手出しできない状況となった今、ロシアやインドが動くよりも前に、我が国の勢力を拡大していかねばな…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 朝鮮民主主義人民共和国 首都平壌

朝鮮半島は何故か、ユーラシア大陸から離れ、未知の大陸と陸続きになってしまっていた。

当然ながら韓国・北朝鮮ともに大混乱に陥ったが、韓国がひたすらに反日運動を焚きつけて混乱の矛先を日本に向けようと躍起になる中、北朝鮮は未知の大陸からの侵略者に襲撃されていた。

しかしそれは1ヵ月も前の事。この日、平壌では大規模な軍事パレードが行われていた。

民衆が歓喜の声を上げる中、何千人もの兵士や数百両の戦車が列を成して行進し、目前の宮殿では共産党指導部が満面の笑みを浮かべながらそれを眺める。

 

「いやはや将軍閣下、久々の大勝利に、全ての同志が歓喜に沸いております」

 

傍に控える重鎮クラスの党員の言葉に、北朝鮮の実質的な元首である全武恩(チョン・ムウン)党委員長は満足そうな表情を浮かべて答える。

 

「うむ。これは先の朝鮮統一戦争の時よりも非常に立派な勝利である。新たな土地や資源も獲得出来た上に、アメリカは殆どの兵力を自国に戻し始めている。先だって核兵器を『封印』したのもいい結果に導いている」

 

謎の現象と大陸出現以後、北朝鮮の行動は多くの国々をざわつかせていた。

まず未知の大陸からの侵略軍を撃退し、土地の一部を譲渡させた後に、突如、これまで手放さないとしていた核兵器・弾道ミサイルの技術・装備を放棄。それと時を同じくして、何の前触れもなく拉致被害者全員を日本に返し、当事者である日本や、核戦力を警戒していたアメリカを拍子抜けさせていた。

この突然の心変わりに多くの国々が警戒心をあらわにする中、北朝鮮は誰にも邪魔される事無く、賠償として新たに手に入れた土地の再開発を推し進めていた。それには理由があった。

 

「しかし、ぞっとしませんな。今回我が国と相対した勢力…『リーム王国』の政治は。かつての李氏朝鮮や日本統治時代の方が素晴らしいと思える程に」

 

「封建制か…まさに建国の祖たる我が祖父が打倒しようとした悪しき政体が、直ぐ近くに存在していようとはな。それと貴様、先程の言葉は絶対に公言するなよ」

 

「失礼いたしました。ですが、これで我が国の発展は飛躍する事となろうかと思われます」

 

党員はそう言って、全とともに北の方角を見る。

その先には、新たに北朝鮮が獲得した国土、リーム王国西部の大地が広がっていた。




ホワイトハウスだけじゃなくクレムリンや中南海、平壌の愉快な仲間達も加わって字数増えた(白目
次回、クワ・トイネ公国の発展回です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

求めるのは知恵と剣、求められるのは糧と土地

今回、召喚世界の状況の一端が明らかになっていきます。


西暦2015年5月11日 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ

日本と国交を樹立し、貿易を開始してから丁度3か月。クワ・トイネ公国は、これまでにもない発展を享受していた。

まず、港湾都市マイハークは付近の山地を少しずつ切り崩していきながらその土砂で海岸を埋め立て、平地を確保。そこに近代的な工業地帯に港湾設備を建設する事となった。現在はその土地は日本と台湾の租借地であるが、公国で簡単な工業製品が生産できる様になるまでの期間であるし、租借代は国内の鉄道網・道路網の整備に電気・水道設備のODAという形で支払われた。

それは南の隣国クイラ王国も同様で、こちらは国内に大量の油田やレアメタル鉱山が発見された事から、特にODAによるインフラ整備に力が入れられていた。

 

「これは非常に凄まじいな。まさかこうも早く日本の持つ文明と技術がもたらされるとは…」

 

公都クワ・トイネの公城にて、公国元首であるノギョウ選民公はそう呟く。この国の元首は民衆の代表として貴族が有力王侯の中から元首として信頼できる者を選ぶという制限君主制と大統領制を組み合わせた政体を取っており、選民公の権力は首相より下回るものの、法律の施行には選民公の判断も必要であるため、元首の専制政治と少数貴族の独裁政治を防ぎつつ、バランスのよい政治が行われていた。

 

「すでに我が国とクイラを結ぶパイプラインに道路、鉄道が完成しており、人やモノの行き来は非常に活発になってきております。また財政も常に黒字が続いている他、農業では日本製の機械を取り入れた事により生産量は増大。さらに国民の生活に余裕ができ始め、教育施設の普及も進んでおります」

 

クワ・トイネ公国の文明水準は中世ヨーロッパであるが、同時期の地球とは違い、魔法が存在する。例えば魔導波を発振して長距離通信を行う魔導通信や、土木作業等で有効に利用される土系魔法が存在する。また領主に生産物を納める時や、魔法具を修理する際に魔導師としての簡単な知識に技術も求められるため、識字率は比較的高かった。

しかし科学技術は要求する知識が魔法と全く違う事や、日本人との交流の際に文字の不適合が問題となったため、それ専用の教育施設が求められた。そしてその教育施設を支えるのは、生活に時間・金銭的余裕が生じた民衆に、黒字経済によって潤った国庫であった。

 

「日本の教育制度をベースにしているため、科学技術や日本の常識を完全に理解した技術者が出てくるまでに16年…その間に我が国は形だけでも工業化ができているため、試算では20年後には自動車と鉄道を国産化させる事ができると見られています」

 

「20年後、か…長命のエルフにとっては短い期間であるが、ヒト種やドワーフの者達にとっては遥かに長い期間だ。それでも日本には大きく劣るというのだからな…」

 

ノギョウはそう言いながら、カナタとともに変貌を進めるクワ・トイネ市の街並みを見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 クワ・トイネ公国西部 城塞都市エジェイ

 

クワ・トイネ公国有数の城塞都市であるエジェイ。その郊外の演習場に、大量の銃声が響き渡る。

木製の人型的に向けて、台湾製のM16アサルトライフルが火を噴き、的は瞬く間に蜂の巣となる。

 

「これは壮観な光景だな…まさか台湾がここまで高性能な武器を輸出してくれるとは…」

 

公国騎士団西部方面師団司令のイナサク・エジェイ侯爵はそう言いながら、騎士団兵士達の射撃訓練を眺める。

台湾との国交樹立時、クワ・トイネ公国は台湾側に対し、できる限りの武器供与を要求した。

これは日本が防衛装備移転三原則以前に、文明水準が中世ヨーロッパで近代戦を理解していなさそうなクワ・トイネ公国に対して下手に兵器を輸出し、公国を軍国主義化させてしまうのを恐れたからであった。もし下手に軍事力を付けさせてしまったら、いつかは戦争となるかもしれない恐怖が根底にあった。

しかし台湾は事情が違った。インフラ整備で『食事代』と『燃料代』を払える日本とは違い、台湾からクワ・トイネ公国とクイラ王国に向けて輸出する事のできる品々はかなり限られていた。その輸出品の幅を開きつつ、防衛技術を発展させた台湾にとって、新たな隣人に対して兵器を輸出する事は自然の流れと言えた。

勿論、あらゆる兵器を輸出するのはまずいし、そもそも工業化が始まったばかりのクワ・トイネ公国とクイラ王国にはモータリゼーションが存在していなかったため、小火器や重火器に弾薬の有償供与という形で収まった。

また、組み立てや模倣程度なら高度な専門知識が求められない範囲内のモノに限定するという形で、トラックを中心とした軍用車両の有償供与も行われ、クワ・トイネ公国・クイラ王国両国の軍事力は日増しに上がっていた。

当然ながら日本はこの動きを苦々しく思っていたが、クワ・トイネ公国が軍事力を欲しているのには理由があった。

 

「しかし、『お隣さん』のやっている事を全て開示した瞬間、手のひらを返してくるとは…」

 

「ええ…日本と台湾の両国には奴隷制は存在しないそうですから、それも我が国の状況を理解してくれるのに一役買ってくれました」

 

ノウと副官はそう話し合いながら、西の遥か先の方を見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 ロデニウス大陸西部 ロウリア王国

ロデニウス大陸最大の国、ロウリア王国は、クワ・トイネ公国やクイラ王国と違い、国民のほとんどがヒト種である事が特徴的な国である。

この国の王家は代々亜人廃絶主義を掲げており、常に多民族・多種族国家のクワ・トイネ公国やクイラ王国と衝突を繰り返していた。

そのロウリアの首都、王都ジン・ハークの演習場では、王国軍が猛訓練を繰り返していた。

 

「しかし、ここ最近で我が軍も大きくなったよな」

 

乗騎であるワイバーンの鱗の手入れを行っていた竜騎士はそう呟きながら、演習場を走る数頭の地竜に魔獣を見つめる。

現在、人口3800万人を数えるロウリアは、数か月程前から突如、パーパルディア皇国の手厚い支援を受ける様になり、魔導技術は格段に向上し、病気を原因とする死亡率が低下した事により、人口は増加の一途を辿っていた。

同時に軍事支援も手厚くなり、これまで第三文明圏の中でパーパルディア皇国のみが使役していた地竜リントヴルムが、使役・飼育方法とともにロウリアに有償提供され、さらに魔導砲やマスケット銃の製造方法も伝授される事となった。

海と空は顕著で、海軍艦船の半数近くがパーパルディア皇国製の戦列艦に竜母となり、飛竜騎士団もワイバーンより品種改良型のワイバーンロードの数の方が多くなりつつあった。

 

「最近、パーパルディアは『チュウゴク』っていう国と関係を持ち始めたそうで、そのチュウゴクの力の方が強いって話で、それが関係しているらしいぜ。あくまでも噂程度だけどよ」

 

「まぁ、ここまで軍事支援が行われているんだ。このままいけば、クワ・トイネにクイラなんて鎧袖一触なんじゃねぇか?」

 

「かもしれねぇな。そん時に『おこぼれ』にありつければいいけどな」

 

竜騎士達がそう話し合う中、ジン・ハークの中心部にあるハーク城では、国王のハーク・ロウリア33世が密偵からの報告を受けていた。

 

「陛下、皇国はほとんど中国に屈した模様です。先程、フィルアデス大陸にて活動している者より、パーパルディア皇国が中国に対して外交使節団を出したとの報告が入りました」

 

王城の一角に築かれた大きな露天風呂にて、ロウリア33世は静かに目を瞑りながら報告を聞く。そして密偵に向けて問いかけた。

 

「して、その中国とやらが我が国に対して接触してくる可能性はあるか?」

 

「今のところは…ですが、第二文明圏のムーが運用していると噂される飛行機械を中国は大量に有しているとの情報が入っている以上は、警戒は続けた方がよろしいかと」

 

「分かった。引き続き、情報を集めよ」

 

「御意…」

 

密偵の声が消え、ロウリア33世はため息をつきながら天井を見上げる。

 

「皇国の軍事支援の本格化…もしや皇国も、我が国の様な状況に陥っているのではあるまいな…?」

 

ヒト種の王の疑心が、次第に現実のものと化していた事を、今のロウリアの民で知る者はいなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2015年3月9日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント

話は2か月前に遡る。

その日、エストシラント港湾部は騒然していた。

突如、沖合に20隻程度の巨大艦からなる艦隊が現れ、皇国政府に対して会談を求めてきたのである。

この砲艦外交に対して、皇国は直ぐに軍に出動を命じ、まず最初に海軍第1艦隊と飛竜騎士団が迎撃に出た。

しかし、戦列艦隊がその艦隊に向けて砲撃を行った瞬間、『中国人民解放海軍北洋艦隊』を名乗る艦隊は圧倒的な速力で砲撃を回避し、直後に反撃。

生存者をして『かつての古の魔法帝国が蘇った』かの様な反撃が皇国軍に襲い掛かり、僅か10分で海軍第1艦隊とワイバーンロード500騎は全滅。即座にスピーカーによる音声で降伏する事を伝えた皇国側の対応を確認した中国艦隊は、人工衛星でその動向を確認しているであろうアメリカ・ロシアの反応を考慮して、そこで刃を収めた。

何せ彼らの目的は、『生きながら皇国上層部に実力差を分からせる』事であり、このまま皇都ごと殲滅して混乱を余計に起こすのは悪手であった。

外交官は上陸するや否や、皇国の第一外務局に来て会談に臨み、皇国は半ば強制的に中国に対して外交使節団を派遣する事を約束。使節団の準備が済むまで、人民解放軍はエストシラントに上陸し、皇国軍と隔絶した軍事力を見せつける一方で、節度を守って行動する事により、占領地での蛮行がよく知られていた皇国軍よりも優れた軍隊である事をアピール。中国の存在感が上がるのと相対的に皇国の名声は没落し始めていた。

そしてその翌日、エストシラント港では数十人の皇国外交官達が顔を青ざめながら走行式を迎えていた。

 

「…此度は我が国の将来がかかっている。使命を果たせよ」

 

『…ははっ!!!』

 

皇帝の言葉がかけられ、外交官達はフラッシュが焚かれる中最上礼をしてその言葉に応える。

そして外交官達は内火艇で空母「遼寧」に乗り込み、西に5000キロの位置にあるユーラシア大陸に向かって行った。

その一方で皇帝の住居にして皇国の政治の中心地であるパラディス城では、一人の青年が怒りを表していた。

 

「父上、このまま彼の国の言いなりになるおつもりですか!我が皇国の栄光がこのまま見知らぬ蛮族共に侵されてもよろしいとお考えなのですか!」

 

青年の言葉に、皇帝は顔を暗くしながら俯く。

 

「…ルディアス、貴様はあの戦いの本質を何も分かっていない。我が国は常に、関係を持つ国と接触する際に、常に武力を誇示してきた。そして中国はそれを実行してきたのだ。その力を見せられぬ者はただ侮られる。彼の国はその事を理解しているのだよ。無論、私とてみすみすこの国を中国の属国に変えるつもりはない。今も外務局は、この国の栄光のために奔走しておる。今頃は、第一外務局がその成果を出そうとしている頃であろう…」

 

皇帝はそう言いながら、北東の方向に目を向ける。ルディアスはただ悔し気な表情を浮かべ、自身の父とほぼ同じ方に目を向けた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

朝鮮民主主義人民共和国 首都平壌

平壌の外務省の一室では、二人の外交官が会談を行っていた。

 

「…では、土地を提供する代わりに、我が国の有する技術を提供してくれ、と?」

 

北朝鮮側の外交官の問いに対し、皇国第一外務局外交官のクレース・カイオスは静かに頷いて答える。

 

「貴国は我が国を超える軍事力を有していると聞き及んでおります。つい先程にも、文明国の一つであるリーム王国を下し、領土の半分を得たそうですね。かつてリーム王国と国境を接していた地域には、莫大な量の鉄鉱石に魔石が埋まっており、どれもこれも純度が高く、兵器や魔法具を製造するのに適しております」

 

カイオスの言葉に、北朝鮮外交官は暫し考え込む。現在、リーム王国西部にて鉄鉱石やチタン、ボーキサイトの鉱山が見つかっているだけでなく、現在の北朝鮮のエネルギー事情を解決できるだけの油田の開発が進んでおり、北朝鮮はアメリカや日本に邪魔される事なく、ゆるやかに経済を立て直している。そこにあのパーパルディア皇国が、北朝鮮の有する科学技術を目当てに、土地と資源を譲ってこようとしているのだ。

また、現在全委員長はフィルアデス大陸に存在する魔法技術に興味を示しているらしく、この条件は蜜の様に甘く感じられた。だからこそ、外交官はその毒見を行う事とした。

 

「では、こちらからも条件を出しましょう。貴国の東端部100万㎢とその地にある資源、住民全てを割譲しつつ、かつ我が国と国交を締結し、我が国に対して現在貴国が有する全ての技術を開示してもらいたい。でしたら、貴国の要求に対して多少色を付けた上で応じる様に提言いたしましょう」

 

北朝鮮側の要求に対し、カイオスの表情がわずかに歪む。しかし直ぐに平静を取り繕い、答えた。

 

「…分かりました。上層部に問い合わせてみます。この会談が非常に実りあるものとなる事を願います」

 

カイオスはそう言って退出し、外交官はその背中を見送りつつ呟く。

 

「…自分でも恐ろしいぐらいにさくさくと進むな。まぁ、我が国もみすみす中国に利権全てを奪い尽される訳にはいかないのでね」

 

1週間後、パーパルディア皇国は北朝鮮と国交を締結。同時に通商条約に基づき、皇国国内には北朝鮮資本の鉄道や道路、港湾設備が建設され始めた。

またその頃、ロシアもようやくフィルアデス大陸への進出を開始し、南西部の半島国家であるマール王国と国交を樹立。フィルアデス大陸の利権争いは静かに始まっていた。




次回は日本と台湾のミリタリーあれこれです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

軍拡乱舞曲①

今回はミリタリー回です。


西暦2015年7月16日 クワ・トイネ公国 ダイダル平野

クワ・トイネ公国の中では珍しい荒野に、砲声が響き渡る。荒野の一角では、数門の火砲が砲撃を繰り返していた。

 

「フム、中々に良い性能を示している様だな」

 

陸上自衛隊第一特科隊隊長の呟きに対し、隣に立つ日本製鋼工業の社員が自慢げに語る。

 

「アレらは真の意味でのFH-70の後釜となる榴弾砲です。何せ守るべき範囲が非常に広くなりましたし、中国や北朝鮮…今は西朝鮮でしたか。そういった国の存在も強くなってきましたからね」

 

地球肥大化と新たな大陸の出現、そして在日米軍主力部隊の撤退と状況が目まぐるしく変わっていく中、政府は自衛隊の戦力拡大に追われる事となった。クワ・トイネ公国やクイラ王国との国交が成立して物資に余裕ができ始めた頃に臨時国会が開かれ、政府はどうにか野党の反発に立ち向かいつつ、新たな臨時予算案を可決にまで持ち込み、自衛隊の長期に渡る防衛戦力拡大計画をスタートさせたのだった。内容は以下の通りである。

 

・陸上自衛隊の部隊増員・新部隊編成

現在の9個師団6個旅団体制から、第5・第11・第12旅団を師団に格上げした上で大幅な隊員数増員と装備の大量生産を併せ、12個師団8個旅団体制に変更。そのうち新設される第16~20旅団はクワ・トイネ公国及びクイラ王国に展開・駐留する広域治安維持部隊として配備される。

・新型主力戦車の開発と配備

先の部隊増員に合わせ、日本各重化学工業で共同開発生産する新型戦車を3年以内に開発・配備する。

これはロデニウス大陸の現在の交通網を考慮したもので、開発が進められている機動戦闘車では現地の交通インフラに対応するのが難しい事から、履帯式車両の需要を見越したものとなっている。

現在、岩崎重工・カンダ・極産・フガク・カンハツの五つの重化学工業及び自動車メーカーが計画に参加しており、新たに設けられる機甲師団や戦車連隊、これまで74式戦車を運用していた連隊に優先的に配備される事となる。

・新型火砲の開発と配備

ロデニウス大陸での使用を考慮して、FH-70りゅう弾砲の純粋な後継砲となる榴弾砲を開発・配備する。

これは現地の劣悪な道路網を念頭に、輸送ヘリによる輸送が出来る火砲が要求されたためで、現在ダイダルで試射を行っているりゅう弾砲がこれに当たる。また同時に99式自走155ミリりゅう弾砲の生産も進める事とする。

・海上自衛隊の部隊増員・新部隊編成

現在の4個護衛隊群体制から、倍の8個護衛隊群体制に上げ、在日米海軍第7艦隊が抜けた分の補完を行う。

また輸送隊及び潜水艦隊・高速ミサイル艇隊の増派も行う予定である。

・航空機搭載護衛艦4隻の建造・配備

今年より5年以内に、ロッキード・マーティン社製F-35〈ライトニングⅡ〉B型を標準搭載した、所謂SVTOL空母を4隻建造・配備する。

これは現在建造・配備が進むいずも型ヘリコプター搭載護衛艦をベースとしたもので、より固定翼機の運用能力が高い艦として建造される事となる。またこれを踏まえていずも型2隻に〈F‐35B〉搭載・運用のための改造を行う。

なお〈F‐35B〉は、開発・主要生産国のアメリカとかなり距離が離れてしまった事を受けて、日本国内でライセンス生産される事となった。

・多目的輸送艦3隻の建造・配備

今年より7年以内に米海軍ワスプ級強襲揚陸艦相当の能力を有した多目的輸送艦を建造・配備する。

ロデニウス大陸に増援部隊を展開する際の輸送能力の不足を補完するためで、LCACエアクッション揚陸挺3隻と陸自普通科1個中隊、〈F‐35B〉数機に輸送ヘリ20機前後を搭載・展開可能なものとする。

また中型揚陸艦の建造・配備も予定。

・航空自衛隊の部隊増員・新部隊編成

現在の9個航空団から新たに1個航空団を追加し、ロデニウス大陸の防空体制を強化する。

・新型主力戦闘機の開発・配備

現在、アメリカとの実務者協議によって〈F‐35〉A型・B型の日本国内でのライセンス生産が決定された他、7年以内に先進技術実証機〈X-2〉をベースとした〈F‐2〉後継機の開発・生産が進められる事となった。また現在、複数企業及び台湾との共同開発計画もスタートしている。

・新型輸送機の開発・配備

今年より7年以内に最大ペイロード60トン超えの戦略輸送機を開発・配備する。

これも自衛隊の低い輸送力を解決するためのもので、これによって陸上自衛隊の戦車や自走砲を空輸で迅速に展開する事が可能となる。

この他、これまで輸入に頼っていたミサイルや電子機器などの国産化計画も進められており、半ばアメリカから見捨てられた形となっている日本を守るための『軍拡』が滞りなく進められていた。

試射を行う『試作155ミリりゅう弾砲』を横目に、特科隊隊長は社員に尋ねる。

 

「そういえば、何やら防衛装備庁が新たな装備の開発に乗り出したらしいが、どんな計画なのだね?」

 

「あくまで噂程度ですが、新たな艦載砲の研究を進めているみたいです。国会で『対弾道ミサイル迎撃装備』という名前で予算が付けられた装備らしいのですけどね…」

 

「…先程から俺の勘が、警鐘を鳴らしているんだが、何かとんでもないモノを開発してきそうな予感しかない…」

 

何せ、空前絶後の額の予算が与えられたのだ。間違いは犯さなくても常識から外れたモノを開発してくる可能性は大いにあった。その実情をよく知る日本製鋼工業社員はただ苦笑を浮かべた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中国 ゴビ砂漠

中国北部の広大な砂漠。その一角で、眩いばかりの光が現出する。

やがてその光は轟音を響かせながら、キノコ型の雲を現出させ、空全体を紅く染め上げる。

『爆心地』から数十キロ離れた鉄筋コンクリート造りの施設内部では、数十人の男達がその雲を見つめる。やがて一人の男がゴーグルを外しながら、声を震わせた。

 

「な…なんて威力だ…ここまで轟音が聞こえてくるレベルとは…」

 

パーパルディア皇国在中大使が声を震わせながらそう言う中、隣に立つ中華人民解放軍政治将校は自慢げに言う。

 

「驚きましたか?あれが我が国の有する最大の力、『水素爆弾』の力です。貴国は大変幸運ですよ。何せ、貴国の首都があの叡智の炎で焼かれる前に『穏便に』外交チャンネルを開く事が出来たのですから」

 

政治将校の言葉に、パーパルディア皇国やパンドーラ大魔法公国の在中大使と駐在武官は恐怖に震える。

今回、パーパルディア皇国とパンドーラ大魔法公国の外交官達に向けて中国の実力を見せつけるべく、わざわざゴビ砂漠の兵器試験場に連れて行って、デモンストレーションとして久々の核実験を強行したのだが、この時人民解放軍は新兵器の実験を何度も繰り返し、軍の増強や友好国への軍事支援を推し進めていた。

 

・陸軍旧式装備の一斉売却及び人員削減による装備近代化の推進

人民解放陸軍の装備はアメリカやイギリスと比較すると旧式兵器が目立つため、これらを一斉に周辺の友好国及びパーパルディア皇国・パンドーラ大魔法公国に対して売却し、外貨や資源を稼ぐと同時に、陸軍に所属する将校・兵士を1割程退役させて、その時に生じたリソースで装備を近代化する。なお退役した兵士・将校は予備役に入らずに、第一次フィルアデス大陸移民団メンバーに家族・親族ごと組み入れる。

・新型主力戦車の大量配備による機甲師団の強化

現時点の最新主力戦車である98式戦車・99式戦車の配備を推し進め、同時に新型戦車の開発を行う。

これは前述の旧式装備一斉売却と連動しており、保有数が約4000両も減る代わりに2000両の99式戦車が配備される見通しとなっている。

・海軍10か年増強計画の発動による海軍艦艇の大量配備

軍事予算の半分が海軍につぎ込まれる事となった事によって発動が許可された計画で、10年間のうちに国産空母6隻、ミサイル駆逐艦30隻、原子力潜水艦10隻を含む200隻の艦艇を建造・配備する。

・各種揚陸艦20隻の建造・配備による水陸両用戦能力の向上

エアクッション式揚陸挺や多数の輸送ヘリ及び攻撃ヘリ、1個大隊規模の兵員と装備を搭載・展開可能なドック輸送揚陸艦16隻と強襲揚陸艦4隻を5年以内に建造・配備し、上陸作戦の近代化を図る。

また中国版海兵隊の編成・強化も併せて進める。

・空軍旧式戦闘機の売却とそれに伴う新型戦闘機の大量配備

今年より5年以内に現在中国空軍が保有している旧式戦闘機を周辺友好国に売却し、その分を〈J-20〉などの新型戦闘機に更新する。特に〈J‐7〉シリーズは第三文明圏ではワイバーンを余裕で圧倒する事が出来るため、日本や日本と関わりの深いクワ・トイネ公国やクイラ王国を牽制する事が出来ると目論んでいる。

また、前述の揚陸艦整備と併せ、〈F‐35B〉相当の性能を有するVSTOL戦闘機を8年以内に開発・配備する事も決定されている。

 

以上の通りの軍事拡張計画を聞かされたパーパルディア・パンドーラ両国の外交官や駐在武官達は、揃って顎が外れ、同時に彼らにどう足掻いても勝つ事は出来ないという現実を叩き付けられた。

その後、外務省にて実務者協議が行われ、パーパルディア皇国は中国軍の旧式兵器を購入する事を受け入れ、それと同時にフィルアデス大陸に第一次移民団20万人がエストシラントの地を踏んだ。

しかし、中国の目論見はそのまま進むかと思われたが、現実はかなり異なっていく事となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロシア連邦 モスクワ

 

クレムリンの大統領官邸。そこではアンドロポフが笑みを浮かべながら書類作業に取り組んでいた。

 

「いやはや、ここまで高値で買ってくれるとはな。しかも良質の石油にボーキサイトも手に入れられるとは、これは僥倖というものだ」

 

「そうですな。パンドーラにマール、リームの三か国には感謝しかありますまい」

 

補佐官も普段の険しい表情を崩してほくほくとしたものに変える。

この時、ロシアは技術支援や軍事支援を条件にパンドーラ大魔法公国やマール王国、リーム王国に対して土地の租借権や鉄道の敷設権を譲る様に要求しており、その三か国はその要求を受諾。

ロシアは早速鉄道を敷設するための機材や工業化に必要な設備を第三文明圏に持ち込み、新たな友好国の近代化を支援するとともに軍事支援も大々的に行った。陸軍のおさがりである旧式戦車や小火器が、これまで火砲も自動車も知らなかった文明圏外国の軍隊に与えられ、航空戦力もワイバーンから少しずつジェット戦闘機やヘリコプターに変わり、彼らはロシア軍軍事顧問の教導を受けて扱い方を学んでいく。

これによって旧式兵器の在庫一掃セールと外貨獲得を同時に成し得たロシアは、陸軍・航空宇宙軍の装備更新を進めつつ、海軍太平洋艦隊の改良に乗り出す事となった。

 

・新たな艦艇の建造・配備

今年より7年以内に重航空巡洋艦(空母)4隻を建造し、そのうち2隻を太平洋艦隊に配備する。

護衛艦として、改スラヴァ級ともいうべき重ロケット巡洋艦(ミサイル巡洋艦)や新型駆逐艦の新規開発・建造も開始し、潜水艦や哨戒艦艇と比べて貧弱だった水上戦力の充実を図る。

・新たな海軍専属の造船所の建設

前述の計画を進めるべく、緯度の変化で温暖となった地域に大規模な海軍工廠を建設する。どれもこれも原子力潜水艦や大型空母を建造・整備可能な規模とし、軍拡著しい中国に対抗出来る様にする。

・新型艦上戦闘機の開発・配備

新型重航空巡洋艦の開発・建造と併せ、アメリカ海軍の〈F‐35C〉相当の艦上戦闘機を今年より6年以内に開発・配備する。これは海軍のSu‐33〈フランカーD〉の後継機となるもので、ヨーロッパ方面の様子がきな臭くなっている事も考慮して進められている。

 

「我が国の迅速な行動に、中国は思いっきり面食らっている様です。それにフィルアデス大陸中西部の空き地に成立させた『西フィルアデス共和国』への支援活動も、中国の影響力を制限しております。まぁ東部は北朝鮮にやってやる事となりますが、まぁ全ての利権を中国に掻っ攫われるよりかはマシでしょう」

 

「その北朝鮮、かなりパーパルディア皇国と仲良くなっているそうだが、専制帝国主義のパーパルディアと共産主義の北朝鮮が仲良くやっているのが不気味に思えてくるな…少し探りを入れてみよう」

 

アンドロポフ達はそう話し合いながら、今後の第三文明圏の将来を他の社会主義国とともにかき乱していった。




次回は西側に目を向けます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

軍拡乱舞曲②

今回はアメリカとヨーロッパ辺りに目を向けてみます。


西暦2015年8月21日 アメリカ ニューポートニューズ

ニューポートニューズの造船所に作業音が響き渡り、ドックではクレーンがせわしなく動き回る。

そのドックの傍では、二人の男が造船所で建造されている軍艦を見つめていた。

 

「これはこれは、壮観な光景ですね。まるで第二次世界大戦の頃みたいですよ」

 

一つのドックで同時に2隻のアーレイバーク級駆逐艦が建造される様子を見つつ、アメリカ海軍の軍政上のトップである海軍長官はそう呟く。その隣ではニューポートニューズ造船所の職員が自慢げに答える。

 

「全国各地の造船所で、似た様な光景が見れますよ。まぁ陸や空も同じ事になっているそうですが」

 

この時アメリカは、非常に苦しい状況に陥っていた。

まず最初に、北のアラスカやカナダの付近に現れた謎の大陸より、これまでの生物学をひっくり返すような未知の生物群が襲来し、北米大陸北部は地獄と化した。そのため現在アメリカ本国に存在する戦力の過半とカナダ軍が迎撃に出ているのだが、生物群は中々しぶとい上に数が非常に多く、核兵器の使用が予定され始めたぐらいだ。

そしてその最中、7月末に突如、太平洋上の謎の大陸から出撃した艦隊が、ハワイに対して攻撃を行ったのだ。

直ぐにハワイに配備されていた太平洋艦隊が迎撃に移り、戦闘は2時間にもわたって繰り広げられた。その結果アメリカ軍は海軍駆逐艦2隻中破に空軍戦闘機7機の撃破という損害と引き換えに、謎の艦隊の艦艇12隻を撃沈し、航空戦力50機以上を撃墜する事に成功した。その損害に対して謎の艦隊は直ぐに撤退に移ったものの、何せアメリカ軍に軽くも損害を与える事に成功しているのである。そのため国防総省は謎の大陸に存在する勢力を敵性国家と認識した上で増援部隊をハワイに送る事とし、同時に世界中に展開していた外国派遣部隊のほとんどを本国に呼び戻しつつ、軍備拡張に乗り出す事となった。

まず、ホワイトハウスはアメリカ全土に対して戦時体制を発令し、生産手段のほとんどが軍需に投入される事となった。その目的も、じわじわとアラスカやカナダを蝕んでは、その場にいた人々を捕まえては捕食している生物群や、ハワイを攻撃して約1万人の犠牲者を生み出した謎の大陸の勢力に対抗するためと大義名分が存在していたため、反戦運動ないしそれに近しい事は起きなかった。

まずアメリカ有数の軍事企業にて、M1〈エイブラムス〉A1型・A2型の新規生産スピードが上げられ、その他の軍用車両の生産も進められる。

造船所では、アーレイバーク級ミサイル駆逐艦を中心に水上艦艇の増産が進められ、同時に量産性に適した艦艇の設計も進行される。

航空機も既存の機種で生産ラインがまだあるものを中心に、輸出に回す予定だった分までを投入する勢いで生産を進めていた。そのためF‐35〈ライトニングⅡ〉の輸出にも大きな影響を及ぼしており、これまでアメリカで生産した部品を輸送して、採用国の最終組み立て工場で完成させるノックダウン方式から、設計図とブラックボックスのみを渡して、新たな生産ラインの構築を認めさせて現地で生産させるライセンス生産方式に切り替える事となった。現に海上輸送が困難な位置にある日本に真っ先にライセンス生産権を認めさせていた。

 

「しかし長官、戦況はそれほどまでに逼迫しているのでしょうか?」

 

「うむ…信じ難い事ではあるが、君だけに話そう。謎の大陸に存在する敵国…どうにか確保できた捕虜によれば、その国は『神聖ザイレーン帝国』というのだが、彼らは魔法という地球上には存在しない技術を使って、ベトナム戦争時の我が国に匹敵する文明を築き上げているというのだ。それも、一部は当時のSF作品に出てくる様なテクノロジーも有していた。例えばレーザー光線を撃てるジェット戦闘機とかな…それでも〈スーパーホーネット〉に数以外で劣る程度だったがな」

 

「そんな…だからこちらも数で圧倒しようと?」

 

「それだけではない。お前だって今ここで建造されているのが何なのか知っているだろう?原子炉の代わりに統合電気推進システムで動く軽空母や、アーレイバーク級をベースとした新型巡洋艦、ズムウォルト級の劣化型ともいえる新型フリゲート…全て最低10隻は建造される事となるし、コストの増大も量産効果で踏み倒す予定だ」

 

「そうですか…まぁ兵器で儲かれるのは戦争が起きている時か、軍備を我が国に頼っている国が輸入を続けている間ぐらいですからね。今のうちに全社員がベガスで遊び続けられるぐらいの儲けを得ておきますよ」

 

二人はそう会話しながら、次第に増強されていく合衆国軍の『力』を見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 北大西洋

 

イギリスのアイルランドを挟んだ西側の海域。そこでは、10隻程度の艦隊が何百隻という大艦隊と戦闘を繰り広げていた。

 

「敵艦隊、3割喪失。撤退を開始しております」

 

イギリス海軍第1艦隊旗艦、空母「イラストリアス」の艦橋にCICからの報告が届き、艦隊司令のベンサム少将はため息をつきつつ真正面を見据えた。

 

「こんな即席の艦隊で、よくここまで戦えたものだよ。これでダウニングの保守党の連中も、少しは考えを直してくれる事だろうな」

 

ベンサムの言葉に、多くの将兵が苦笑を零す。

現在イギリス海軍第1艦隊が旗艦として運用している「イラストリアス」は、軍事費縮小のあおりを受けて去年に退役したインヴィンシブル級航空母艦が2番艦である。しかし、地球の肥大化と新たな大陸・勢力の出現が彼女の運命を変えた。

まず、太平洋と大西洋からアメリカ大陸を挟む様に、新たな大陸が出現した事や、北米大陸北西部に出現した大陸からの生物群と対処すべき事が山積みとなったアメリカは、世界各地に展開していた在外米軍の殆どを本国に撤収させるという大統領令を3月に発令。アメリカ欧州軍も例外でなく、少数の軍事顧問を残して殆どの実働部隊がアメリカ本国に向けて撤収してしまった。

しかしその1ヵ月後、アメリカとヨーロッパを繋ぐ北大西洋の航路にて、商船が相次いで行方不明になる事件が続発。直後、北大西洋上にある大陸より、多数の大艦隊が出現し、グリーンランドに侵攻。これを占領してしまったのだ。

『大ヴァルキア皇国』と名乗るその国は、ヨーロッパ諸国に向けて宣戦布告を発し、その頃のヨーロッパ諸国海軍総戦力を超える大艦隊を以て、イギリス、アイルランド、アイスランド、スペイン、ポルトガルに侵攻を開始した。

この軍事行動に対し、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する国々は即座に行動を起こし、まず空母ないしジェット戦闘機を運用可能な艦を持つフランス・イタリア・スペイン三国が、数で勝っていても技術力で劣る大ヴァルキア皇国艦隊の後方を攪乱。そこに陸軍や地上部隊の対艦ミサイル部隊に、空軍や基地航空隊の攻撃機による対艦ミサイル一斉発射が行われ、大ヴァルキア皇国艦隊は大損害を被って撤退。どうにかヨーロッパ全体に敵の上陸部隊が上陸する事は回避された。

しかし大陸側諸国が歓喜に沸く中、直接攻め込まれたとはいえ目立った戦果を残せなかったイギリスは不満を貯め込んでいた。

何せパッと出の野蛮国に舐めてかかられたのである。かつて太陽の沈まない国と呼ばれたイギリス紳士のプライドに火が付いた結果、イギリスは先駆けて戦時体制を発令。本格的に大ヴァルキア皇国と事を構える方に向かった。

「イラストリアス」はその戦時体制の中で、現在建造中のクイーン・エリザベス級空母と艦載機の〈F‐35B〉が間に合わないのを考慮した上で再就役が決定し、スペインやイタリアに無理を言わせて、完全に退役してから4年ぶりに艦載機として〈ハリアーⅡ〉戦闘機を再導入。そうしてどうにか空母機動部隊を復活させる事に成功したものの、やはり即席の付け焼刃である事には関わらず、現在〈F‐35B〉も搭載・運用可能な様に改造しようとの声が上がり始めているという。

 

「現在我が海軍は、ヘビーローテーション気味な状況ですからね…通商破壊や港湾封鎖といった任務の連続で、潜水艦隊は帰投時に海賊旗(ジョリーロジャー)を掲揚するのが珍しくなくなりましたし」

 

「志願兵の訓練や関係装備の生産で、それに従事している企業や造船所の株は右肩上がりだそうだ。これでロイヤルネイビーが完全復活すると言っている連中は果たして、俺らの苦労を知っているのかねぇ…」

 

ベンサムはそう呟いて、次の指示を出す。

 

「ロンドンの海軍司令部に打電。『これより帰投する。シャンパン50ケースとスコッチ1本の準備をしてくれ』とな」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2015年8月23日 ドイツ 首都ベルリン

 

「ちょっと…これは正気なの…?」

 

ベルリンの首相官邸で、ドイツ首相のジーグルーネ・ルターは微妙な表情を浮かべながら一枚の書類を見る。

大ヴァルキア皇国軍の侵攻に対し、比較的影響を受けにくいとされていたドイツやオランダ、デンマークにノルウェーも、NATOに加盟している以上は自身も軍を動かして支援を行う事が求められていた。

だが、今回は微妙に状況が違った。

何と、『NATOに加盟している国は最低限でも空母1隻にイージス艦ないしそれ相当の防空艦を保有する』という、所謂『ヨーロッパ海軍均衡化要求』が出されたのである。

これは軍事力の殆どをヨーロッパで無駄遣いしたくないアメリカと、軍縮で直ぐに大ヴァルキア皇国と真正面から殴り合う余裕がないイギリスの思惑が強く出ている要求で、特にドイツに対しては『イギリス・フランス・スペインの戦力補完のために、空母2隻とザクセン級以上の性能を有した防空艦4隻を保有し、対大ヴァルキア皇国戦に積極的に参加せよ』との通達が出されていた。つまりは『軍縮や予算難で戦力が少なすぎるイギリスやスペインの負担を減らすために、真正面から大ヴァルキア皇国と戦え』と半ば命令しているのであった。

 

「こんなヴェルサイユ条約の逆パターンを出してくるなんて…ホワイトハウスとダウニングの連中は何を考えているのよ!?」

 

「かといって、現在我が国の印象はぶっちゃけ、ヨーロッパ全体でかなり低くなっています。『70年前はヨーロッパ全体の危機の根源となった癖に、本当にヨーロッパ全体の危機が押し寄せて来た時に何もしないで平和を貪り食うお調子者』と、ある国のメディアはコテンパンにこき下ろしています」

 

冷戦終結後、ポーランドやデンマークといった『肉壁』によってロシアの影響を受けにくくなったドイツは、かなり軍縮を進めていた国であるのだが、これまで最も脅威になる存在がいないに等しかった大西洋側から、数だけは異常に多い大ヴァルキア皇国という敵が現れたのである。ここで積極的に協力しなければ、今後の国際的な立場が危ういのは目に見えていた。

 

「首相、与党内部でも現在のドイツとそれを取り巻く状況の不安定化を不安視する声が絶えておりません。ここは一つ、決断をお願いします」

 

補佐官や国防大臣からの圧力に近しい求めに対し、ルターは渋い表情を浮かべながら、彼らに答えた。

 

「…恐らく今の状況を、フリードリヒ大王やビスマルクが見たら、『ヒトラー以下の愚かな首相だ』と嗤うでしょうね…ドイツの誇りを大事に出来なかった優柔不断な政治家として…」

 

その日、ドイツはポーランドやギリシャ、トルコとともにNATOの『要求』を受諾。ドイツは憲法改正も視野に入れた軍拡を強制される事となる。しかしこの決断が後にドイツとヨーロッパ全体を救う事になるとは、この時点では誰も思いもしなかった。




次回もミリタリー関係ですが、少し趣向を変えます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

技術者の宴

サブタイトルでお察しなされた方は、少なくとも一人はいそうな気がする…。


西暦2015年8月29日 日本国防衛省

 

防衛省の防衛装備庁。かつて技術研究本部として設立されたその部署は、武器輸出三原則が防衛装備移転三原則に変わった事によって誕生し、日々自衛隊の装備開発に従事している。

その防衛装備庁の各部門責任者が一同に会するその日、防衛省職員の約半分は、それをこう呼んでいた。

 

「ではこれより、防衛装備庁第6回防衛装備研究開発会議を開始します」

 

技術者(ヲタク)の闇鍋会議』と。

そして今回の会議は、在日米軍の大半が撤退してその分自衛隊の拡充で補完しなければならなくなった状況を鑑みて、防衛装備庁にもかなりの研究開発予算が与えられており、技術者はこの予算増額に狂喜乱舞した。

技術の研究開発と理想の防衛装備(ロマン兵器)の実現に妥協を見出ださない者達にもし潤沢な予算と設備が与えられたらどうなるか。この結末に多くの防衛省経理部門担当者と財務省の半数の職員、そして自衛隊の実働部隊指揮官の大半が複雑な感情を抱いていた。

 

「さて今回の会議であるが、まず朗報を伝える。〈F-35〉に日本製の機器を使用してよいとの通達があった。むしろロッキード・マーティンが我らの研究開発に協力してくれる事となった」

 

これまでアメリカは軍事機密を守るために、〈F‐35〉シリーズの生産はアメリカ本国のみで行い、開発に協力している国もイスラエルを除いて、アメリカで製造したフレームや基本的な部品をその国に持ち込んで現地で組み立てるか、完成機をそのまま有償供与で得るといった方式で行っていた。しかし現状、それが難しい状況となったため、日本やイタリア、イギリスといった最も信用できる国に限ってライセンス生産を認めたのだった。

特に日本の場合は優遇措置が取られており、搭載する電子機器やエンジンパーツには日本独自の技術をつぎ込んでもよいとしており、これで〈F‐35〉に日本独自開発の空対空ミサイルが装備出来る様になっただけでなく、機体1機当たりの単価も引き下がっている。またアメリカに代わり、台湾に対して〈F‐35〉を輸出する存在としても位置付けられており、その点から在日米軍を撤退させる事に対するアメリカの気遣いが垣間見える。

 

「ロッキード・マーティンが協力、ですか…まぁ私達だけでは困難なところもありますからありがたいのですけど…」

 

「そう訝しむな。相手もイギリスのロールスロイスみたいな事はしたくないだろう。そしてロッキード・マーティンの協力によって、新たな戦闘機を開発する目途がついた。斎藤、説明を頼むよ」

 

進行役の言葉に対し、斎藤と呼ばれた航空技術関係者は一枚の設計図をプロジェクターでスクリーンに映す。

 

「これは、現在設計図の開発が進む『国産SVTOL戦闘機』です。〈F‐35B〉のリフトファン方式を採用しており、原型より戦術機動性と戦闘能力を上げております。具体的には機銃の増強及び搭載ミサイルの種類・搭載数の増加といったところです。現在クイラ王国にて地球上には存在しない新たな金属が発見されており、それを機体フレームに使用する予定を立てております」

 

闇鍋の最初の具材が出たところで、次に海上自衛隊開発隊群が手を挙げ、次の具材を投入する。

 

「開発隊群の平賀です。現在研究が進められている『艦載電磁加速砲(レールガン)の基礎技術に関する研究』に関連する事ですが、現在『対弾道ミサイル・航空戦力等迎撃能力を持つ電磁加速砲』及びそれを搭載する護衛艦の研究を進めております。来年度の予算案にて、電磁加速砲の実験を行う事が可能な試験艦を建造する予算が組まれる事となりますが、それに先駆けて、『新型護衛艦』の設計図をここに開示します」

 

平賀がそう言って公開した設計図。それを見た職員はその外見とカタログスペックに驚く。

 

「排水量2万トンクラス…しかも前後に電磁加速砲を装備…ほとんど戦艦じゃないか」

 

「電磁加速砲は対艦攻撃にも使用する予定が出ている上に、一撃で確実に弾道ミサイルを破壊できる様に大口径が予定されています。また、全方位に向けての効率的な対応能力を確保するために複数門を装備する事となりました。そのため耐久性も考慮してこの大きさとなりました」

 

「嘘つけ絶対戦艦復活させたいだけだろしかもそれにFCS‐3載せるんかい」

 

電磁加速砲はエネルギーと弾薬が十分にあり、かつ砲身が高熱と極度の摩耗に耐えうる耐久性があれば、速射性能はかなり高いものとなる。現にカタログスペックでは、12.7センチ砲サイズで毎分60発程度は発揮できるとされている。

しかしそのエネルギー源について、多くの職員から疑問が出てきた。

 

「しかしだ、動力はどうするんだ?ズムウォルト級ですら数発でバッテリーに溜め込んでいた電力全て使い切ると言われているんだぞ?原子力でもかなり難しそうだが…」

 

「はい、この護衛艦が使用する動力ですが、核融合炉を予定しております。現在政府が原子力発電に代わるクリーンかつ効率的に発電を行う核融合炉の実用化を目指した研究を進めていますが、クワ・トイネ公国国内で発見された新元素『オリハルニウム』によって実用化の目途が付き始めたそうです。核融合炉を動力として利用すれば、安定して出力を得ながら安全に航行・戦闘を行う事ができる様になるとみております。無論、民生品との互換性を確保してコストを抑える事も忘れずにしておきますが」

 

「だが、カタログスペックをよく見ると、電磁加速砲の口径は30.5センチだそうじゃないか。こんな馬鹿デカい大砲、今いるか?」

 

「敢えて申し上げましょう。大変必要であると。現在の戦闘の主役は航空機にミサイルですが、対抗策が存在する今はその力も無敵ではありません。例えばハワイでのアメリカ海軍と神聖ザイレーン帝国の戦闘ですが、敵艦隊は視界内に入っている敵のみながらレーザー砲による迎撃を行っており、これが損害を増大させております。この様にミサイルや航空機に対して強い存在も確認されている今、より有利に対抗できる装備として、この電磁加速砲が必要なのです」

 

平賀が説明を終えると、今度は陸上自衛隊開発実験団が説明を開始する。

 

「開発実験団の豊田です。現在岩崎重工やカンダ重工、敷島重工とともに、『汎用型陸戦装備』の研究・開発を行っております。基本コンセプトは『パワードスーツの延長線上の陸戦兵器』です」

 

豊田はそう言って、スクリーンに一枚の設計図を映し出す。それは一言で言えば『人型ロボット』であった。

 

「パワードスーツって…ほとんどモビルスーツじゃないか」

 

「いやカタログスペックをよく見て見ろ。サイズがかなり小さい。どちらかと言うとレイバーじゃないか?」

 

「基本システムはパワードスーツと同じで、武装も人間が扱う装備を拡大させたものとなります。山岳地帯やジャングル、密林地帯といった通常の車両や歩兵では行動に障害が出る地域での作戦行動を前提に設計されております。また、警察や消防に対応したタイプの開発も進められております」

 

「やっぱりそっちの方か…まぁいいがな」

 

技術者達が話を進める中、ストッパーとして参加している経理部門はただ顔を青ざめていた。

 

「…駄目だこいつら、全部通すつもりだ。下手にこういう連中に予算を渡すとこうなるというのに…」

 

経理部門の胃が痛む中、防衛省の一室ではじっくりと技術と装備の闇鍋が煮込まれるのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中華人民共和国 北京

 

さて、この様な防衛装備庁の『馬鹿騒ぎ』が日本独特のものであると考える者はそうはいない。それは何故か。

古今東西、どの有力国でも、兵器の研究開発時に必ず一人は奇抜な発想を生み出し、理想(ロマン)を現実のものとするからである。

 

「そうだ、戦艦造ろう」

 

中国共産党中央軍事委員会、装備発展部の会議室で、海軍政治委員の一人がそう言い、多くの会議参加者が首を傾げた。

 

「え、何故?」

 

「何故、今になって戦艦を?」

 

現在中国海軍が求めているのは空母に新型の防空艦であって、今や無用の長物と化した戦艦は不要の筈である。しかしその政治委員はそうは考えていなかった。

 

「現在、航空機やミサイルは発展の一途を辿っている事は理解しているな。だが、それと同時に対抗策もまた発展している。航空機には対空ミサイルや、現在開発がアメリカやイスラエルで進んでいるレーザー砲が当てはまるし、ミサイルも迎撃ミサイルやECMで対抗される事が多い。であれば、ECMの影響を受けず、確実に損害を負わせる事の出来る艦砲が有効な時も考えられよう。だが、それだけではない。すなわち『強力な海軍の象徴』としての戦艦も求められるのである」

 

「強力な海軍の象徴?それなら空母でも…」

 

他の政治委員が否定的な意見を出した途端、その政治委員は大声を張り上げる。

 

「甘ァァァい!!!甘いわ、貴様!その程度の腑抜けたモノで他国が我らを恐れるか!いいか、彼のパーパルディア皇国との接触時、連中は我が艦隊を侮って攻撃を行った!それは何故か?連中は艦砲の数で我らの強さを判断したからに他ならなァァァい!!!皇国の主戦力は戦列艦、すなわち火砲を何十門も積んだ砲艦である!露出型発射機ならともかく、VLSにミサイルを詰め込んだ軍艦を知らなかった連中が果たして、大砲を1門のみ積んだ図体がデカいだけの艦を強力な軍艦だと見なすだろうか!!!」

 

政治委員の説明には一理ある。パーパルディア皇国が中国を侮って来た原因の一つとして、技術力の違いからVLSやミサイルという存在を知らず、火砲を1門のみ積んだ様に見える近代型軍艦を脆弱な存在だと判断したからであろう。そういう意味では多少近代戦に不利となろうと、大砲を複数門装備した大型艦の方が見栄えが良いだろう。

 

「無論、ただ艦砲を積むだけでは足りん。現在我が国でもレールガンの開発が進んでいる。それの大口径型を装備した艦を複数隻建造するのだ!レールガンには対空戦能力も求め、航空機や空母から海戦の主役を奪還する勢いのある性能を有した最強の戦艦を造り上げる事こそ、新たな大陸を制覇する鍵となる!」

 

「…駄目だこの人、予算の事を考えていない」

 

経理担当の職員は、こっそりとそう呟いた。

後にこの政治委員の打ち出した『戦艦建造計画』は、特に政治的圧力や他の官僚の根回しがなかったにも関わらず、海軍増強計画の中で採用される事となる。

なおその頃、陸軍部門や空軍部門でも、地球の肥大化で現時点でタダ働き状態のロケット軍から回された予算を使い、少しずつ己の技術的野望を叶えようとしていた。




次回、ついに…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 第一次世界再構築戦争 喧嘩祭り、開幕

今回よりついに戦闘回が入ります。
しかし、ブログ版の※欄、かつてあずきバーでにぎやかだったあの頃が懐かしい…。


西暦2016年3月2日 日本北東部 岩手県より東に300キロの地点

航空自衛隊第3飛行隊に所属する戦闘機〈F‐2〉は、周辺海域の哨戒飛行を行っていた。

岩崎重工がアメリカのF‐16〈ファイティング・ファルコン〉をベースにして開発したこの戦闘機は、単発エンジン機ながら半径500キロ圏内を国産空対艦ミサイル4発抱えながら飛行・戦闘を行う事が出来るという高い性能を有しており、三沢基地を拠点とする第3飛行隊に所属するこの2機は、隊の中でも優れたパイロットが駆っていた。

 

「アルファ2、そろそろ帰投時間だ。今回も異常が無かったな」

 

『そうだな。このまま平和な時が続けばいいんだがな』

 

2機のパイロットはそう話し合いながら、三沢への帰途に付き始める。

その時であった。突如、レーダー画面に反応が現出し、パイロットは顔をしかめる。

 

「何だ?この反応は…」

 

パイロットの一人がそう呟いたその直後、三沢基地の管制塔より、管制員の鋭い声が飛び込んできた。

 

『っ、東より飛行物体が多数接近!IFFに反応なし、識別データ照合…これは、神聖ザイレーン帝国戦闘機!』

 

その叫びとともに、真上から黄緑色の光が降り注ぎ、2機は急旋回して回避する。直後に4機の戦闘機が急降下して現れ、その後に続くかの様に新たに8機の戦闘機が現れる。

 

「ちっ、面倒な相手が増えた!こちらアルファ1、神聖ザイレーン帝国とおぼしき部隊の戦闘機に奇襲され、現在交戦中!至急救援求む!」

 

『管制塔よりアルファ2、現在第1のアルファ3とアルファ5、第2から第3飛行小隊が緊急発進を行っている!アルファ1とアルファ2は直ちに現空域より離脱せよ!』

 

「了解!っても相手も一応超音速で飛べるみたいだから、難しいぞこれ!」

 

2機は投下式増加燃料タンクに入っている燃料全てを使い切る勢いで加速し、マッハ2近くの速度で三沢の方に向かう。敵戦闘機はそれを追い掛け、こちらもマッハ2近くの超音速で追撃する。〈F‐2〉はやや小刻みに左右に揺れながら飛び、敵の照準から離れようとする。敵はミサイルを持たない代わりに、亜光速のレーザービームを発射してくると米軍経由の情報で知っていたからである。

やがて5分後、三沢の方から13機の機影が見えてきて、2機の〈F‐2〉は急上昇する。そして射界から味方が離れたのを確認してから、13機中12機が一斉に空対空ミサイルを放った。

1機当たり2発ずつ、合計24発放たれた99式空対空誘導弾は、マッハ4という超音速で敵戦闘機に突き刺さり、一瞬で全ての編隊を粉砕する。しかし直後、新たに30機程度の編隊が蒼空の何もないところから現れ、編隊は一斉にレーザーを発射して、〈F‐2〉編隊は一斉に散開してこれを回避する。

 

『ちっ、数に任せた物量戦を仕掛けてくる気か!これは長丁場になるぞ!全機、ある程度落としたら直ぐに後退するぞ!連続出撃は覚悟しておけよ!』

 

別の編隊の隊長がそう叫ぶ中、三沢より南西に700キロ程離れた東京の首相官邸では、田山達政府閣僚が報告を受けていた。

 

「海上自衛隊の哨戒機からの報告によりますと、現在岩手から宮城、福島にかけての沖合300キロ地点に、総数200隻を超える神聖ザイレーン帝国軍海上機動艦隊が展開し、速力20ノットで接近しているとのことです。また、三沢に所属する第3飛行隊が、神聖ザイレーン帝国軍戦闘機の奇襲を受け、現在交戦中との事です」

 

「まさかアメリカだけでなく、我が国にも攻撃を仕掛けてくるとは…彼の国の上層部は一体何を考えているのだ?ともかく、緊急閣議を開いて防衛出動を命じなければならん。今となっては出遅れた感があるが、手続きのない戦争は絶対に避けなければならん」

 

田山はそう言って、これからの日本に降りかかるであろう困難を憂いた。

数分後、緊急閣僚会議が開かれ、戦後初の防衛出動が命じられるとともに、岩手・宮城・福島・茨城四県に対して緊急避難勧告が発令された。

しかしこの戦争は、日本以外の別の場所でも起き始めていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2016年3月7日 中華人民共和国 北京

中南海の国家主席執務室で、劉はその報告を聞いて愕然となった。

 

「我が国の第二次大陸移民団が、謎の勢力に襲われただと…?」

 

「はっ…1時間前、東シナ海を航行していた第二次移民団第2陣の船団10隻は、我が国より南東1000キロの地点にある大陸より出現したとおぼしき船団に襲撃され、全船拿捕された模様です。我が船団には海警局の執法船が護衛についておりましたが、こちらも撃沈ないし拿捕された模様です…」

 

「また、その勢力は南の東南アジアにまで勢力の拡大を図っている模様で、フィリピンやベトナムに対して攻撃を開始している模様です…」

 

中国側呼称では東シナ海、パーパルディア皇国側ではベリアーレ海と呼ばれているこの海域には、中国海軍はおろか、中国海警局にすら太刀打ちできない程度の海軍力しか持たない島国しか存在しなかった。唯一、南東の大陸には近代的な軍艦を有する勢力が確認されていたが、これまで何の動きも見せてこなかったため、ずっと放置していたのである。

そしてパーパルディア皇国と最初の接触を果たしてから1年経って、最悪の形で接触してきたのである。これで怒りを覚えぬ者はいないであろう。

 

「直ちに軍を動かす準備を開始せよ。パーパルディア皇国に対する介入はしばらく停止だ。生意気にも我が国に対して手を出してきた不埒者は処罰しなければならん!」

 

「ははっ!」

 

「それと今回はロシアやインドを思いっきり巻き込め!相手がそんな無礼な態度で接してきたのなら、こちらも大国流に盛大に歓迎してやれ!」

 

劉の命令は即座に中国人民解放軍の中央軍事委員会に通達され、外務省もロシアとインドをこの戦争に巻き込むための外交的努力を開始する。

後世の歴史書にて、『地球が争いに包まれた年』と呼称される事となる世界同時多発的地域戦争、『第一次世界再構築戦争』が始まりを告げた瞬間であった。




次回、相手国側よりお送りします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覇を求めし国々

今回はオリジナル国家ばかり…ですが、しっかりと原作勢と絡み合ってきます。


西暦2016年3月17日 太平洋上 神聖ザイレーン帝国 帝都オリュンピアス

太平洋上に現れた大陸に文明を築く国、神聖ザイレーン帝国。その大陸の西側に築かれた帝都オリュンピアスは、繁栄に満ちていた。

漆黒の石材によって建てられた五階建ての建物が建ち並び、道路にはゴミ一つすら落ちておらず、巨大なドームに構築されている市場では、加工済みの食材が市民に売られている。

路面電車に似た公共交通機関によって人々が行き来する街には、警察や消防などの特殊車両以外の車は見当たらず、黒色に染められた街並みと合わせて地球の人々に一種の違和感を抱かせる。

古代ギリシャ・ローマの街並みを黒く塗り潰したかの様な街並みの郊外、広大な敷地の中に幾つもの絢爛豪華な建物が建てられたパルテニア宮殿では、帝国皇帝にしてこの国の国教であるスカイシー教皇のポセイドン・ギリサ3世がマイクロフォンの前で聖典を読み上げていた。

 

「…であるからにして、我が世は成り立った。これにて本日の聖典音読を終える。あまねく全ての同胞に神の祝福あれ」

 

音読を終え、ギリサ3世は一息ついてからマイクロフォンから離れる。するとそれを待っていたかの様に数人の男達が寄ってきた。

 

「お疲れ様でございます、陛下。本日も大変素晴らしい音読でございました」

 

「世辞はよい。それよりも対外遠征の現況報告を頼む」

 

ギリサ3世の問いに対し、閣僚を務める枢機卿達は渋い表情を浮かべる。

現在、神聖ザイレーン帝国は『布教区』と定めていた植民地の大半を転移現象という予想だにもつかなかった異常現象で喪失し、新たな布教区に資源の獲得を目指して、対外遠征を開始していた。しかし現在、その成果は非常に芳しくなかった。

やがて、枢機卿の一人が意を決して口を開く。

 

「現在、我が軍は東部の新たな諸島への侵攻を諦め、西部にて発見した島への侵攻を開始しておりますが、かなり芳しくない模様です。神に愛されておらぬ者どもの癖に、東部の敵と同じ兵器を有している様で…」

 

「確か、『神の手紙』や叡智教典にも載っていない兵器だそうだな。全く、我らが神を侮辱しているかの様な者どもで致しがたいな」

 

神聖ザイレーン帝国には、神が直接ザイレーンの先祖達に授けたとされる技術データ『神の手紙』に、それらの基本原理を詳しく記した叡智教典が存在する。神聖ザイレーン帝国はこれらの資料をもとに技術と文明を築き上げており、スカイシー教の聖典や叡智教典に載っている技術のみ開発・利用する事を戒律として定めている。

しかし今回彼らが相対している敵は、叡智教典にも記されておらず、それでいて神が授けた叡智よりも遥かに優れているとしか見えない技術で対抗してきているのだ。これはザイレーンの人々にとって許されざる事であった。

 

「視界外から狙えて、ほぼ永久に追尾してくる実弾兵器に、複数の攻撃機を迎撃可能な高い防衛システム…光線砲や防御障壁を有していない分際で、この様な神の叡智を侮辱するかの様な兵器を使用してきているとは…!」

 

「私達も信じられませぬが、現在奴隷兵以外にも教団騎士の被害が遥かに高いものとなってきております。これ以上の損失は軍全体の弱体化をもたらしてしまう可能性が高いです」

 

彼らにとって、帝国成立当初からスカイシー教を信じていなかった被征服民の犠牲は問題ではなかった。しかし、純粋なザイレーン人かつスカイシー教徒である帝国軍教団騎士の損害は無視出来なかった。

 

「対策はどうしても必要となるな…一度儀式で我らが神に異端の力を奪い取る赦しを得た上でその対策を進めねばなるまい。1000年ぶりにその儀式を執り行う事となろうとはな…」

 

ギリサ3世はそう憂いながら、今後の侵攻・布教計画をどの様に進めていくかを悩むのだった。

その一方で遥か北方の大陸。そこでは、数十人のグループが1隻の艦船に接触していた。

 

「…ほう、では貴方がたは我らに協力すると?」

 

白と黒の二色に分かれた翼が特徴的な男の問いに対し、グループのリーダーは静かに頷いて答える。

 

「ええ。貴方がたはこの大陸で何か、近くの国々を攻める手筈を整えておられる様だ。幸い、我が国も同じ敵を相手に相まみえている。それに、貴方がたは帰ろうにも帰れない状況となっている…違いませんかな?」

 

グループのリーダーの言葉に、男は顔を歪める。

 

「…すでにそこまで調べをつけていたか。…分かりました、貴方がたの協力を受け入れましょう」

 

男の答えに、グループのリーダーは笑みを浮かべる。そして彼らは、大陸の奥地に向かって進んでいった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2016年3月20日 大ヴァルキア皇国 皇都シュヴァンバーグ

 

北大西洋上に現出した大国、大ヴァルキア皇国。

この国に住まう者達は、かつて彼らの国が存在した世界で隆盛を極めていた超科学文明の遺した遺産で、超科学文明が滅んだ後は生物兵器が変じて生じた新人類や、自然エネルギーを有効的かつ超物理的に使用する能力『魔法』を使った文明との争いを繰り返していた。

そしてこの世界への転移後、彼らは付近を通行していた商船を拿捕して地球の事を知り、新たな資源や自分達の文明の拡大先を求めて戦争を起こしたのだが、先行きはかなり不透明となっていた。

皇都シュヴァンバーグの街並みは彼らが独自に築き上げた文明と彼らの理想や憧れを象徴する様な景観で、ビルは無機質なセラミック製の超高層建築物が多く、そのビル同士を細いチューブ型のトンネルが繋ぐ。その内部には車輪を持たない車が走り、空中には葉巻型の船が行き交っている。

しかし先進的な部分が多い一方で、都市の中心部はかなり異なっており、ビルの表面には蔦や木々が故意的に植樹され、道路と歩行者用道路の間には自然の木々が列を成す様に植えられている。道路を走るのも車輪のない車だけでなく、車輪があり、しかも数頭の馬によく似た生物が4頭揃って引く、馬車タイプの乗り物もあった。

そのちぐはぐな印象を持たせる都市の中枢、古代マヤ文明のピラミッドを思わせる宮殿では、数十人の男女が会議を行っていた。

 

「諸君、現在我が国はやや苦しい状況に置かれている」

 

大ヴァルキア皇国宰相の言葉に対し、閣僚会議に出席する者達は揃って顔を俯ける。

その参加者の殆どは人そのものの姿をしていたが、肌は陶器の様に毛穴といった僅かな歪みのない滑らかなもので、瞳には光が無い。髪や唇も人工物の様な雰囲気を出しており、人が見れば彼らはまるで人形の様であった。

 

「我が国と東の大陸…ヨーロッパ地域の国々との戦争は、非常に拮抗した状況に置かれている。それも、我らが物量で押しているからであるという事だ。これは非常に不味い」

 

やや電子的な声ながらも苦悶と焦りの混じるその言葉に、閣僚の一人が不安を露にする。

 

「ですが閣下、ヨーロッパ諸国との講和を目指そうにも、既に全世界に向けて植民地化宣言と人口整理宣言を出してしまったのですぞ!しかも南西のナヴィシア王国は、我が国に対して攻勢に出る予兆が確認されております!下手に矛を収めてしまえば、今度は軍事的かつ経済的に疲弊した状況下でナヴィシアと刃を交える事となりますぞ!」

 

彼らと長らく対立関係にあった国の不穏な動きに、多くの閣僚が頭を悩ませる。

すると、女性閣僚が提案を出してきた。

 

「現在、我が国が戦端を開いているのは東のヨーロッパ諸国です。西のアメリカという国とはまだ一度も刃を交わしておりません。そちらに外交使節団を派遣し、どうにか外交チャンネルを確保するというのはどうでしょうか?この世界の肉身人(サピエンロイド)は、比較的話が通じるみたいですし」

 

「肉身人との戦いで肉身人ごときに講和の仲介を頼む事になろうとは…屈辱の何物でもないぞ!」

 

金属的な肌を持つ男の叫びが響く中、宰相は暫し瞑目する。そして目を開いて決断した。

 

「…直ちにアメリカに対して外交的接触ができないかどうか確認してみてくれ。とにかく相手にこちらの話を聞いてもらえるかどうかで今後の方針を定めよう。東部戦線は引き続きヨーロッパ諸国との戦闘状態を維持しつつも、攻勢はしばらく停止しておく様に。その間に現有戦力で東部戦線に投入している部隊の3割をナヴィシアとの国境ラインに持っていく。これは政府としての決断である。最後にこれを国の方針とするのは、我らが陛下だ」

 

1時間後、皇国政府は皇帝に対し、今後の国家戦略方針案を上奏。皇帝も現在の拮抗状態は国家財政や軍全体の士気に悪影響しか与えないと判断し、外交による平和的な解決の糸口を探す事となった。

しかし大ヴァルキア皇国が改めてヨーロッパ諸国との会談のテーブルに着く事が出来る様になるまでには、さらに数か月の期間を要した。

しかし皇国外務省は決して怠慢していたわけでもなく、一つでも味方を増やすべく、南西の新たに見つかった大陸に対して外交的接触を行う事に成功。大ヴァルキア皇国は南西に発見した大国『ムー』と関係を結んだ。




次回、再び日本サイドに戻ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一次沖縄沖海戦①

そろそろ日本国召喚要素が消えそうで怖いので、原作サイドの出番が増えます。


西暦2016年4月2日 日本国 首相官邸地下

 

神聖ザイレーン帝国との戦争が始まって一ヶ月。田山は首相官邸地下の会議室にて、連日自衛隊の報告に耳を傾けていた。

 

「現時点で敵が受けた損害は、艦船70隻余りに航空機300機余り。東日本に攻め入った艦隊のほとんどは本国の方へ撤退していきました。対して我が方の受けた損害は、護衛艦2隻の被弾及び〈F-2〉〈F-15J改〉がそれぞれ3機ずつ被弾した程度です。死者は護衛艦乗組員で7名、負傷者で戦闘に復帰できない者は6名です。なお死者・負傷者に対してのメディアの反応は比較的おとなしめです」

 

アメリカ経由の情報で、神聖ザイレーン帝国軍の凶暴性はネットを中心に日本のあらゆる人々に知られていたため、マスコミや世論は自衛隊に対して批判的なコメントを行わずにいた。

何せ、病院やショッピングモールといった人が最も集まるエリアを集中的に攻撃し、上陸した陸戦部隊は軍人・民間人区別なく攻撃し、文化財も容赦なく破壊するのだ。そんな野蛮をこの世に表現したかの様な連中からこの国を現在進行形で守っている彼らの事を悪く言えばどうなるのか、問われるまでもなかった。

 

「して、神聖ザイレーン帝国の技術で何か分かった事はあるのかね?一応米軍経由で情報が届いているかもしれんが…」

 

田山の問いに対し、防衛装備庁の職員はレジュメをめくりながら説明を始める。

 

「はい。彼らの技術は基本的なところでは既存の物理学や法則にしたがっている事が分かっています。ですが、武器システムやセンサー、エンジンとおぼしき機構の中心部はこの地球に存在する技術とは全く別のモノで構成されています。一応クワ・トイネ公国より魔法技術研究のために招いた魔導師に協力してもらったところ、その部分には魔法技術が使用されている事が判明しました」

 

会議室の壁面に据え付けられているモニターに、敵の戦闘機の残骸を撮影した写真が投影され、職員は指揮棒を片手に説明を進める。

 

「まず神聖ザイレーン帝国軍戦闘機…米軍コードFF‐16〈フェイク・ファルコン〉のエンジンですが、1ヵ月前に国交を結んだカルアミーク王国より出土した機械…『魔光呪発式空気圧縮放射エンジン』と構造が非常に似ておりました。また機体自体も、カルアミーク王国やクワ・トイネ公国内の遺跡で発見された石板に書いてあった航空機…制空型天の浮舟〈エルペシオ〉に酷似している箇所が散見されました。つまりは地球に転移してきたロデニウス大陸やその他の島嶼の遺跡に遺されていた古代文明の技術と、何らかの繋がりがあるという事です」

 

職員の説明に、多くの官僚が愕然となる。すると文科大臣が目を白黒させながら問いかけてきた。

 

「すると何だ?敵はロデニウス大陸やカルアミーク王国と何らかのかかわりがあると?しかも中世ヨーロッパレベルの国の遺跡に遺されていた戦闘機の残骸と似ているという事か!?」

 

「正確に申し上げますと、それらの国に遺されていた、古の魔法帝国の遺跡の技術とです。しかも炭素測定法によりますと、古の魔法帝国の遺跡は地球史換算で約2万年前に作られたものであるという事が判明いたしました」

 

職員の説明に、多くの閣僚がけげんな表情となる。それはそうだろう。現在自分達が相対している敵が、中世ヨーロッパの文明水準であった世界にある数万年前の古代遺跡に遺されていたモノと同じ技術を以て攻撃してきているというのである。しかし資料の内容からして嘘ではない事は自明であった。

 

「現在、文科省や歴史研究に造詣の深い者、クワ・トイネ公国の古代史に詳しい者とともに共同研究調査チームを立ち上げて調べを進めていますが、とにかく神聖ザイレーン帝国軍は決して侮らない方がいいと私は断じます」

 

そこで説明は自衛隊統合幕僚監部の自衛官に切り替わり、映像が切り替えられる。

 

「まず、撃破した輸送艦艇をサルベージしたところ、搭載されていたのは人員輸送用のトラック型車両や装甲車型車両以外に、全高10メートル程度の人型兵器でした。これは黒い大理石質の物質や有機物、少数の金属で構成されたパワードスーツタイプの兵器で、腕部には魔石や複数の希少金属を触媒とした固体レーザー砲が装備されていました。またエネルギーを薄く展開して実弾や爆風を防ぐバリア展開装置もあり、これが戦車としての役割を果たすと見られています」

 

「パワードスーツタイプか…だが実際の戦闘能力はどうなんだ?巷で聞く話によると、人型陸戦兵器は余り使い物にならないと聞いているが…」

 

「その事ですが、残念ながら10式戦車と対等に渡り合えるだけの性能を有しています。戦術機動性は非常に高く、バリア式防御システムも人間の使う手持ち式の盾と同様の取り回しが出来る様に出来ており、レーザー砲は10式戦車の装甲を溶断出来るだけの熱量と威力を有しています。少なくともミサイルによる支援が受けられる状況下以外では相対したくない強敵です」

 

「10式戦車と対等に、か…厄介だな…説明を続けてくれ」

 

「はい。艦船は基本的にトリマランタイプやカタマランタイプの船体を持つ艦が多く、武装は基本的にレーザー砲やエネルギー兵器のみでした。しかしどれも視界内戦闘にて非常に効果を発揮するものであり、我が方が取れる戦術は視界外からのミサイル攻撃しかありません。それでも艦の喫水線上はバリア式防御システムで威力を減衰させられますし、近付こうにも対空兵装は長射程高精度のレーザー砲というものでした。米軍のレポートでも、『対艦ミサイルは高頻度で撃墜され、近距離からミサイルを発射しようとした機もレーザー兵器で撃墜された』とあります。動力については、現在も解析を進めている最中です」

 

「次に航空戦力ですが、先述の〈フェイク・ファルコン〉以外にも、近距離で高エネルギー爆弾を投下して攻撃する爆撃機も確認されており、全体的な戦闘能力はベトナム戦争時のアメリカ軍といったところです。というのもレーザー砲や高エネルギー兵器を搭載している割にはレーダーやセンサー、電子対抗手段が非常にお粗末なもので、折角のロングレンジ攻撃が可能な兵器を有効的に活用できていないからです。以上の事から、敵のレーザー兵器とバリア式防御システムに対する対策が必要であると考えます」

 

説明が終わり、一同は揃って頭を抱える。しかし、これで成すべき事は定まって来た。

 

「電磁加速砲を主装備とした大型護衛艦に、非対称戦・市街地戦用人型陸戦兵器…まさかこんなバカげた計画を有効的に活用せねば勝てない存在が出てくるとは…」

 

田山が呆れ混じりにそう呟いたその時、会議室に据え付けられているスピーカーから、自衛官の悲痛な叫びが飛び込んできた。

 

『た、大変です首相!沖縄県近海に神聖ザイレーン帝国軍の艦隊が突如現れました!規模は凡そ100隻、沖縄本島に向けて進行中です!』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 沖縄本島南東沖

 

神聖ザイレーン帝国海軍第3魔導艦隊は、沖縄本島から南東400キロ沖合の海域に展開していた。

 

「やれやれ、陛下の御命令とはいえ、ただ日本のあらゆる海域に出るだけとはな…」

 

艦隊旗艦、戦艦「ガイスト」の艦橋で、艦隊司令のクラゲン提督はつまらなさそうに呟く。

帝国海軍第3魔導艦隊は、ギリサ3世の勅命を受けて、日本近海に連続出現する『だけ』の任務に就かされていた。

これは日本の一戦線に対する投射戦力の少なさに目をつけた軍上層部が、自衛隊の迎撃能力を飽和させるための大胆な陽動作戦であり、ある程度自衛隊の戦力が四方八方にばらけたところを見計らって、最も手薄となった地点に大部隊を投入し、逆転を図るというものであった。

しかし、『神の手紙』によってもたらされたザイレーン艦の能力だからこそなしえる事とは言え、クラゲンはこの任務を退屈に思っていた。

 

「だが、このまま帰るのもつまらぬな…制空艦隊に打電。艦載機を発艦し、一番近い島に適当に魔光弾を落としてやれ。訓練ついでだ。それに攻撃があった方が連中は食いつきやすいからな」

 

クラゲンの命令に、多くの将兵が表情を歪める。すると、副官の一人が困惑気味に彼に問いかけた。

 

「よろしいのですか?陛下からの勅命はあくまで日本近海でのランダムな転移航行…直接的な戦闘は最低限控えよと…」

 

「問題ない。艦載機は被征服民の連中がパイロットとして乗る奴のみを攻撃に向かわせる。純粋なザイレーンの騎士の機はそのまま艦隊直掩にしか使わんよ。さっさと攻撃の準備を行え」

 

現代地球の人々から見たら狂気の沙汰とは思えない発言。しかしこれが現在のザイレーン人の常識であり、臣民養成施設で子供達に教えられる事でもあった。

その10分後、国家運営のために歪に歪んだ宗教思想のもと、空母より第一次攻撃隊200機が発進。一路、沖縄本島に向けて西進した。




次回、戦闘が加速する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一次沖縄沖海戦②

今回は短く、かつ濃密です。


西暦2016年4月2日 沖縄県那覇市 那覇空港

那覇空港は日本でも珍しい軍民共同空港の一つである。

空港ターミナルの付近に設営されている航空自衛隊基地では、南西防衛区域を担当する那覇基地に配備されている第9航空団が出撃準備を終えていた。

 

「久々に緊急アラートが鳴ったと思えば、ザイレーンの連中が直接攻めてきたのかよ!本当に懲りないな!」

 

第9航空団第204飛行隊所属のパイロットはそうぼやきながら、乗機のF-15DJ〈イーグルJ改〉に乗り込み、機体は次々と滑走路に展開する。

〈イーグル〉は滑走路を走って加速し、次々と大空に舞い上がって東の方角へと向かっていく。すでに上空には第603飛行隊のAEW(早期警戒機)である〈E-2C〉が展開しており、近代化改修によって〈E-2C〉の得ている情報を現在進行形で獲得する〈イーグル〉の編隊は、まだ敵が視認出来ていない状況下で直ぐに安全装置を解除する。

直後にヘルメットに直接装着され、機体自体の各種センサーとケーブルで接続しているJHMCSヘッドマウントディスプレイにレーダーで捕捉した敵編隊の光点が現出する。そしてそのうちの二つに各個が当てはめられ、〈イーグル〉の装備するミサイルがその光点(目標)に向けて飛翔・命中する様にセッティングされる。

 

「敵編隊、200機中先発の20機を捕捉…完了」

 

『陸上自衛隊より、SAMの配置が完了したとの報告があった。余る分はわざと向かわせろ』

 

「了解。全機攻撃準備…ブラボー1、FOX2!」

 

編隊を率いる隊長機の命令一過、10機の〈イーグル〉より1機当たり2発ずつ、合計20発の99式空対空誘導弾(AAM-4)が発射され、20キロ先の敵編隊に向けてマッハ4の超音速で突き進んでいく。

誘導追尾システムが発射母機とAEWである〈E‐2C〉からの管制情報からミサイル自体のアクティブレーダー式センサーに切り替わると、次の捕捉していない敵機にロックオンを定める。ヘッドマウントディスプレイから敵機を示す光点が20程消えたところで再び捕捉が行われ、再びAAM-4が放たれる。

 

「…時代の流れとは本当に恐ろしいものだな」

 

明確に『敵』を視認せずに、ただレーダーやセンサーから送られてくる情報のみで戦う現代の戦いに、パイロットは何とも言えぬ感情を抱く。しかし、相手は音速のミサイルよりも圧倒的に速い亜光速のレーザーを撃ってくる戦闘機である。出来る限り敵機の回避困難な攻撃を受けずに迎撃し、沖縄に住まう全ての人命を守り抜くためには効率的に、かつ無慈悲に敵機を『処理』するほかない。

すでに敵編隊は散開し始めていたが、速度も挙動も空対空ミサイルから逃れるには遅く、さらに20の反応が消失する。やがてヘッドマウントディスプレイを使わずとも視認できる距離にまで接近し、隊長は命令を下した。

 

「全機、突撃せよ」

 

10機の鋼鉄の(イーグル)偽りの隼(フェイク・ファルコン)に向けて急接近を開始し、同時にレーダーで相手を捕捉した機から、増加燃料タンクを吊り下げているパイロン部に装備している04式空対空誘導弾(AAM-5)を発射する。

マッハ3の一撃は瞬く間に敵戦闘機に食らいつき、直撃からの炸裂が主翼やエンジンを吹き飛ばす。何機かが反撃しようと向かい、レーザー砲を放つ。しかし照準系が甘いためか、マッハ2の超音速で飛ぶ〈イーグル〉に完全に食らいつく事が出来ず、逆に〈イーグル〉の持つオフボアサイト能力で発射された04式空対空誘導弾が、急旋回して追撃してくる敵戦闘機に向かって突撃し、文字通り返り討ちにする。

何機かが逃走にかかるが、そこに増援に来た〈イーグル〉が10機到着し、再び視界外からの99式空対空誘導弾の無慈悲な攻撃が降り注ぐ。わずか5分の空中戦で敵戦闘機は80機が撃墜され、残る120機中40機は混乱しながらも沖縄本土に向かう。

だがようやく海岸線を超えて沖縄本島上空に入った瞬間、展開を終えていた陸上自衛隊第15高射特科連隊所属の03式地対空誘導弾や11式短距離地対空誘導弾が迎え撃ち、敵戦闘機は次々と地対空ミサイルの餌食と化していく。

 

「圧倒的だな。だが今の自衛隊に求められているのはこういう戦いなんだよな…」

 

飛行分隊隊長はそう呟きながら、沖縄の青い海に墜ちていく敵機を見送る。残り80機は逃走を開始したが、ここで後顧の憂いを断たなければ完全に守り切ったと言う事の出来ない自衛隊は手を抜かず、直ぐに増援の〈イーグル〉が追撃に向かう。

5分後、第9航空団に所属する〈イーグル〉30機と陸上自衛隊第15高射特科連隊は、沖縄を攻撃しようとした神聖ザイレーン帝国軍第一次攻撃隊200機全機を迎撃・撃墜。戦後初の大規模空中戦は日本側が勝利を収めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ぜ、全滅だと…!?」

 

第3魔導艦隊旗艦「ガイスト」の艦橋に敗北の報告が届き、クラゲンは愕然とした表情を浮かべて立ち尽くす。

いかに被征服民とはいえ、かなりの場数を踏んできたエースパイロット揃いの攻撃隊200機が、戦況報告で僅か30機程度と言われている日本の戦闘機に蹴散らされ、しかも島上空に入った瞬間に視界外からの攻撃で多数が撃墜されたというのである。この時点でクラゲンは自身の本国帰投後の身の振り方よりも先に、これからどの様に動くべきか悩まなければならなかった。

 

「200機全てが撃墜されたとなると、本艦隊に所属している空母に残るは約400機…しかし第二次攻撃隊を編成している間にも敵は補給を終えて迎撃態勢を整えているでしょうし、そもそも敵には視界外から魔力ではなく別の方法を以て探知する技術があるようです。恐らく今は本艦隊を捕捉して攻撃を仕掛けてくるやもしれませぬぞ」

 

「そんな、蛮族のお伽噺や聖書の伝説にも出てこない様な事が起きてたまるか!?とにかく逃げるぞ!全艦転移航行準備!別海域に逃げて本来の任務にー」

 

クラゲンが新たな指示を出そうとしたその時、対空管制員の一人が大声で叫んだ。

 

「っ、何かが超音速で接近してきます!すでに迎撃困難エリアに侵入されました!」

 

「何!?もう少し詳しく説明をー」

 

クラゲンが管制員から詳しい情報を聞き出そうとしたその時、「ガイスト」の艦橋は光と炎に包みこまれた。




次回、タイトル通り『海戦』が開幕します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一次沖縄沖海戦③

自衛隊戦力は西暦2015年~2016年時のものに準じています。


西暦2016年4月2日 奄美諸島沖 海上自衛隊第4護衛隊群

 

海上自衛隊第4護衛隊群は、沖縄に侵攻してきた敵艦隊を迎撃すべく、急いで奄美諸島沖に展開し、攻撃準備を整えていた。

 

「航空自衛隊第9航空団、敵艦隊より発艦した攻撃隊の迎撃に成功したとの事です。損害はなし。それに対して敵の損害は攻撃隊全滅との事です」

 

第4護衛隊群旗艦のヘリコプター搭載護衛艦「くらま」に報告が届き、護衛隊群司令の宮本は安堵した表情を浮かべる。

 

「流石だな。そろそろ福岡の築地に配備されている第8航空団が新田原基地経由で沖縄上空に展開し、対艦攻撃を仕掛ける頃だ…全艦、対水上攻撃用意!」

 

宮本の命令とともに、艦対艦ミサイルを装備する護衛艦7隻が前進し、ミサイル護衛艦「ちょうかい」や〈E‐767〉からのレーダー情報をもとに目標を振り分けていく。

これまでの戦いで、旗艦ないし大型艦レベルに損傷を与えると戦意を喪失して撤退に入る事が分かっており、今回もその手で叩く事にしている。無論万が一撤退しなかった場合に備え、現在第1潜水艦隊が付近に展開を進めている。

 

「しかし、相手がミサイルやレーダー、魚雷に潜水艦を知らなくて本当にありがたいですよ。おかげでどうにか数的劣勢であるにも関わらず対等に戦えている」

 

「だが、その安心もアドバンテージもずっと続くとは限らない。現在相手の本国でそれに対処するための技術が開発されているかもしれん。これまで1か月間、相手にこちらの手の札を晒し過ぎたからな。慢心なく普通に訓練通りの作戦行動を果たそう」

 

宮本は部下の慢心を諫めつつ、次の報告を待つ。

そして通信士が、宮本達に新たな報告を行った。

 

「司令、戦況確認を行っている〈E‐2〉より報告です!第8航空団第6飛行隊は敵艦隊旗艦クラスへの攻撃に成功し、大型艦3隻、空母2隻、中型艦4隻に損害を与えたとの事です!」

 

〈F‐2〉と93式空対艦誘導弾(ASM‐2)が成果を上げた事が分かり、宮本は静かに笑みを浮かべつつ尋ねる。

 

「そうか…敵はまだこちらを捉えていないんだな?」

 

「はっ。ザイレーン艦のレーダー装置は、電波以外のエネルギーを使って探知しているそうで詳細は不明なのですが、何故か我が国の兵器には全く反応しないとの事です。恐らく今もどこからどの様に攻撃してきたのか分からないのでしょう」

 

「…無様だな。一応畳み掛けるぞ。大型艦1隻以外に対してSSMを全て叩き込め!対水上戦闘始め!」

 

宮本の命令一過、7隻の護衛艦から1秒間隔でRGM‐84『ハープーン』や90式艦対艦誘導弾(SSM-1)が発射され、合計56発の破壊の槍が神聖ザイレーン帝国軍艦隊に向かう。マッハ1の必中の槍は低高度を突き進みながら敵艦隊に接近し、そしてザイレーン艦隊の主力艦に直撃していく。

軽装甲艦なら一撃で仕留める事の出来る威力を有する艦対艦ミサイルは、着弾と同時に炸裂して武装や上部構造物にダメージを与えていく。

 

「敵艦隊、大型艦7隻、空母4隻、中型艦3隻に命中を確認。護衛艦艇はかなり混乱をきたしている模様です」

 

「一応〈F‐2〉のミサイル攻撃が来た方角とは別の方角から接近する様にプログラミングしておいて正解だったな。ほとんど目視に頼っている様では、相手のレーザー砲も宝の持ち腐れだったな。とにかく接近するぞ」

 

全ての艦対艦ミサイルを撃ち切り、残された対艦兵装が艦砲だけとなった第4護衛隊群はゆっくりと敵艦隊との距離を詰めていく。いかに1発辺りの威力が小さくとも、レーダー連動式FCSによる射撃管制を受けて砲撃を放つ護衛艦の主砲であれば、視界外距離でも正確に武装を潰せるぐらいの精密性と威力があるし、危なくなればガスタービンエンジンにモノを言わせて急速離脱する事も出来る。

やがて敵艦隊との距離が30キロを切り始めたその時、「くらま」のOPS‐28対水上捜索レーダーに反応があった。

 

「司令、敵艦隊より大型艦1隻が速度10ノットで接近してきます。その他の艦艇は停止したままです」

 

「1隻だけだと?反撃してくるには妙だし、そもそもこちらを探知出来ていないかもしれないというのに…」

 

宮本達が首を傾げる中、ついに水平線に1隻の艦が現れ、第4護衛隊群に緊張感が走る。しかし直後、宮本達の頭の中に男の声が響いて来た。

 

『日本艦隊、私の声が聞こえるか?』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神聖ザイレーン帝国海軍第3魔導艦隊に所属する戦艦「ゴストー」の艦橋では、一人の男が瞑目しながら必死になって『何か』を行っていた。

 

「…これが相手に届くといいのだが…」

 

艦隊旗艦「ガイスト」が敵の攻撃で戦闘不能になった事を受けて、旗艦代理を担う事となった「ゴストー」は、第3魔導艦隊の運命を委ねられ、艦長達の間でどの様に動くべきか議論が行われた。

しかし結果的にどうにもならない事から、司令代理を任されたシャーチ艦長は降伏を決断し、魔法能力である念話にてコンタクトを取った。

 

「艦長、間もなく日本艦隊と接触します。どうしますか?」

 

「距離が10キロになった時点で主砲を全て最大仰角にし、機関を停止させろ。相手側の降伏作法は知らぬが、武装を向けていない事や動かない様子からでも理解してくれるだろう」

 

シャーチの命令に従い、「ゴストー」は第4護衛隊群との距離が10キロを割ったところで停止。全ての武装を真上に上げて降伏の意を示し始めた。

数分後、1隻の軍艦が「ゴストー」に接近し、互いの距離が4キロを切ったところでその軍艦は停止。そして1隻のボートが降ろされ、「ゴストー」に向かって行く。

ボートは「ゴストー」の真横に位置し、代わりに「ゴストー」から出されたボートと接舷すると、日本側のボートに乗っていた乗員はそのボートに乗り移り、そうやって「ゴストー」に乗艦する。そしてシャーチは甲板に移動し、日本側の将兵と対峙した。

 

「どうも初めまして。私は神聖ザイレーン帝国海軍第3魔導艦隊の司令代理を務めるシャーチと申します。我が方の連絡要請に応じてくれた事に感謝いたします」

 

「日本国海上自衛隊第4護衛隊群の司令を務める宮本です。わざわざあんな予想だにもつかない方法で交信してくるとは…一体どういう了見なのでしょうか?」

 

日本語が何故か通じる事に首を傾げつつも尋ねる宮本に対し、シャーチは肩をすくめながら答えた。

 

「見ての通りですよ。第3魔導艦隊は貴国に対して降伏致します。旗艦や主力艦が何も出来ぬまま一方的に叩き潰され、航空戦力も多数が消滅したとなれば、これ以上の作戦続行は不可能です。ですので全艦艇乗組員及び艦載機パイロットの身柄の保証を要求致します。それと現在、上空には着艦場所を喪失した直掩の艦載機が展開しています。燃料の関係もありますので全ての艦載機の貴国への着陸を要求致します」

 

シャーチは神聖ザイレーン帝国の軍人の中では標準的な人物であるが、それは『全国民の中で』という話であり、『軍人として』は他人とやや違っていた。

上層部が蛮族と蔑む相手であろうと軍人や己の守るべきもののために抗う者には敬意を払い、異端だろうと頭ごなしにその思想や信仰心を否定せず、質・量ともに劣るにも関わらずかつての世界で最強を名乗った自分達と対等に渡り合った者達を勇敢な者達として称賛していた。そのため軍上層部からは『軍才しか能の無い愚者』『将の地位にいるのが不思議な異端者』と呼ばれていたが、完全に自分達以外の存在を侮らない性格・行動が彼を救っていた。

宮本の方も、米軍から聞くザイレーン帝国人のイメージとはややかけ離れた存在に拍子抜けしつつも、彼の出した要求に少し悩む。

 

「全ての機、ですか…分かりました。航空自衛隊の監視下のもと、付近の空港及び飛行場への着陸を認めるよう進言します。それが無事に遂行されるまで貴艦隊は我が艦隊の監視下となりますが、よろしいですね?」

 

「…すでに覚悟はしております。この判断で多くの同胞が救われん事を切に願います」

 

そう言うシャーチの目には、余りにも圧倒的に劣勢な状況下に置かれる事となった戦いに対する諦めの感情がこもっていた。

その日、後に『第一次沖縄沖海戦』と呼ばれる事となるこの戦いにおいて、第3魔導艦隊は主戦力の3割に当たる戦艦11隻、空母6隻、巡洋艦7隻を撃破され、戦艦1隻に巡洋艦17隻、駆逐艦54隻、補給艦4隻の残存艦艇はわずか8隻の日本艦隊の前に膝を屈した。

これによって神聖ザイレーン帝国軍の、総戦力の実に3割が喪われた事となるのだが、彼らの挫折と悲劇はまだこれからであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どういう事だぁぁぁぁぁ!!!」

 

神聖ザイレーン帝国帝都オリュンピアスのパルテニア宮殿にギリサ3世の怒りの叫びが響き渡る。

無理もない。精鋭の中の精鋭として知られていた第3魔導艦隊がわずか8隻の軍艦と30機程度の戦闘機相手に敗北を喫したという情報が、佐世保で武装解除・抑留された「ゴストー」から送られてきたのだから。その後に特殊強行偵察機からの情報で完全に敗北を喫した事が確認されると、ギリサ3世の怒りは有頂天に達した。

 

「神から愛されしこの国とスカイシー教の主神たる我らが神に仕える騎士が、実弾などという古臭い武器しか持たぬ蛮族に膝を屈するとは一体どういう事だぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ですが陛下、第3魔導艦隊のクラゲン提督は敵の攻撃によって戦死し、指揮を引き継いだのは異端者であるシャーチの奴であります。あの腑抜けは常に蛮族を我らと同格の存在として扱っている間抜け、今ならすぐにでも予備の艦隊を差し向けて異端ごと蛮族の『集落』を消し去ってみせましょう!」

 

第3魔導艦隊の降伏という誰しもが予想だにしなかった展開に対する緊急帝前会議にて、急進派の将軍がそう言い張る。今ここにいるのは、スカイシー教を信じる純粋なザイレーン人のみが真の人にして唯一の支配者であると考える者達のみで、軍の主力部隊が圧倒的劣勢に陥っている今も尚、日本やアメリカの事を侮っていた。

 

「とにかく、各都市に対して生産能力の向上と徴兵・志願の増加命令を通達しよう。この国は号して2億の信徒に倍以上の隷属民が住まう国だ。その生産能力を以てすれば、如何に我らの知らぬ力で作り上げた兵器を有していようとー」

 

ギリサ3世が自慢げに語ったその時、窓の外が一瞬だけ眩い光に包まれる。それからわずか数秒後に、轟音と暴風が建物全体を叩き付け、窓ガラスは連続して割れる。同時に襲い掛かった地揺れに多くの閣僚が椅子から転倒し、ギリサ3世も頭を机にぶつけながら床を転げまわった。

 

「な、何がおきた!?一体何がー!?」

 

ギリサ3世達が混乱しながら辺りを見回す中、一人の兵士が血相を変えながら会議室に入室し、大声を張り上げた。

 

「へ、陛下一大事でございます!オリュンピアス北東部の海軍基地と北西部の陸軍駐屯地、南西部の軍事都市ザラミスが謎の大爆発を受けて蒸発致しました!さらに南東のアチネにアメリカの大軍が総攻撃を開始し、敵軍はそのまま本土へ上陸を開始しました!」




次回、『裁き』。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星条旗の落とし前

今回はアメリカの本気回です。
しかしそろそろ原作側サイドと魔帝関係の話書きたい…


西暦2016年4月2日 アメリカ合衆国 国防総省

 

国防総省の地下にある会議室。そこには、レイモンド達アメリカ政府閣僚や合衆国軍上層部の姿があった。

 

「良いか、皆。これは復讐ではない。この争いを終わらせるための反撃である。そのために再びルシフェルの炎を使った悪行と呼ばれつつも、確実に終わらせろ」

 

「了解」

 

レイモンドの言葉に従い、アメリカ軍を構成する統合軍の一つであるアメリカ北方軍司令が、会議室よりマイクを通じて作戦司令部に命令を伝える。

 

「大統領より命令が下された。『オペレーション・リベリオンガード』発動せよ」

 

命令が下され、まず最初に神聖ザイレーン帝国東部沖合1000キロの海域にオハイオ級戦略原子力潜水艦が3隻展開し、それぞれ人工衛星による偵察で確認した敵軍の重要拠点に狙いを定める。同時にハワイより空母4隻を基幹とする機動部隊が展開され、その後に強襲揚陸艦4隻とドック型揚陸艦10隻からなる海兵隊が続く。

そして命令が下されたその時、オハイオ級よりそれぞれ1発ずつ、UGM-133『トライデントⅡ』SLBMが発射され、一つの都市を地図から消し去る規模の威力を持つW76核弾頭を載せて目標地点へ飛んで行く。

5分後、人工衛星は、一つの中規模都市に匹敵する敵の軍事基地三つが、光と爆風に呑み込まれる瞬間を観測。命中と現時点でかなりの脅威となると目されたオブジェクトが消滅した事を確認した。

 

『敵太平洋側軍事基地の殲滅を確認。これでハワイの部隊に対応出来る敵軍部隊はかなり減りました』

 

「本来なら反対側の方にも撃ち込みたかったが、あの大陸規模から考えて直ぐに我が国の方に回す事は出来ないだろうし、何より放射能が日本の方に行ったら行ったで面倒だからな。第二段階への移行を開始せよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 ハワイ 太平洋艦隊旗艦「ジョン・C・ステニス」

 

ペンタゴン(国防総省)より命令が下されました!直ちに攻撃を開始せよとの事です!」

 

今回の作戦で動員される太平洋艦隊の旗艦を担う空母「ジョン・C・ステニス」の艦橋に報告が届き、艦隊司令のラドフォード中将は指示を下す。

 

「間もなく空軍が敵の航空基地及び駐屯地に爆撃を仕掛ける。それと同時に攻撃隊を発進させよ。敵艦隊はミサイルの雨でしっかりと叩き潰せ!この戦いに奇策など不要なり!」

 

4隻のニミッツ級航空母艦より、空対艦ミサイルを満載したマクドネル・ダグラスF/A-18F〈スーパーホーネット〉が発艦し、すでに待ち構えているであろう敵艦隊への攻撃に向かう。その遥か上では、ハワイを経由して展開したE‐3C〈セントリー〉に先導されて60機の戦略爆撃機と200機の戦闘機、そして20機のC‐5〈ギャラクシー〉大型輸送機の大編隊が続き、核兵器による確実な殲滅の必要性が低いと判断された敵基地上空へと複数のチームに分かれながら向かう。

そしてハワイに近しい基地上空に展開した空軍攻撃部隊は、それぞれの基地に向かって攻撃を開始した。

高空からGPS誘導爆弾が連続で落とされ、滑走路や格納庫を次々と叩き潰していく。陸軍駐屯地に向けては、〈ギャラクシー〉の貨物庫から落とされるMOABが投下され、連続して投下される超大型爆弾の炸裂は漆黒の石造りの建物を粉微塵にしていく。

戦闘機が何機か上空に展開して迎撃しようとするが、〈セントリー〉の管制を受けたF‐22〈ラプター〉とF‐15E〈ストライク・イーグル〉が襲い掛かり、視界外からAIM‐120『AMRAAM(アムラーム)』を放って一方的に撃墜していく。対空砲もまるで相手が見えていないかの様にデタラメに四方八方に砲火を撃ち上げており、それもMOABの爆風で吹き飛ばされていく。

海上では、緒戦での戦訓を活かして視界外からの大量の対艦ミサイルによる飽和攻撃が徹底され、AGM‐84『ハープーン』にトマホークSLCMの飽和攻撃がザイレーン艦隊に襲い掛かる。

ザイレーン艦隊はレーザー砲を撃って迎撃するが、いかに弾幕を張っているとはいえ四方八方からミサイルが飛んでくる状況下では迎撃能力が飽和されるのは避けられず、防空網に穴が生じ始める。そしてその穴に向けて〈スーパーホーネット〉がハープーンを発射し、ハープーンは1隻の中型艦の真横に直撃する。

1隻が沈黙して対空砲火の穴が広がり、さらに他のミサイルがそこに集中する。そして被弾して沈黙する艦艇が増えるとともに弾幕の密度は薄くなっていき、戦局は次第にアメリカ海軍に傾いていく。

 

「敵艦隊、抵抗が小さくなっていきます!さらに付近の敵軍航空戦力は殲滅されたとの事です!」

 

「よし…揚陸艦隊に命令!直ちに付近の浜辺に海兵隊を展開し、橋頭保を確保せよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ジョン・C・ステニス」よりゴーサインが出され、それと同時に浜辺に接近していた揚陸艦からAAV7水陸強襲輸送車が発進する。AAV7は一端横隊列を組んでから煙幕を張り、浜辺に向かって前進する。そして浜辺に乗り上げると直ぐに海兵隊員がAAV7から降車し、周辺の制圧に取り掛かる。それを待って今度はLCACが発進し、各種車両ないしM1A1エイブラムス戦車を載せて浜辺に向かう。付近の砲台とおぼしき施設はAV‐8B〈ハリアーⅡ〉の爆撃と駆逐艦の艦砲射撃で破壊され、LCACは無事に上陸を果たす。

海兵隊に所属するエイブラムスは、数人の歩兵に護衛されつつ前進し、道路を進んでいく。基地が爆撃で破壊された影響か、抵抗らしき抵抗はほとんど存在せず、海兵隊はそのまま市街地へと進んでいく。

 

「何だよ、全く抵抗がないじゃねぇか。ここにいるのは武器一つ持たない奴らばっかりだぜ」

 

市街地内部で混乱に陥り、ひたすらに祈る仕草を取る民衆を遠目に、海兵隊員はそう呟く。すると上官が話しかけてきた。

 

「しかし、軍があんなに野蛮な連中なのだから国民性が関係していると思っていたが…単純に軍で教えている事がクソったらしいだけだったのかね?ともかく進駐して混乱を収めるぞ。とりあえず言語は日本語にそっくりだそうだ。意思疎通の手段があるだけマシだな」

 

「んだよ、結局1発も撃たずに終わるのかよ。海軍と空軍、〈ハリアー〉の連中が羨ましいぜ」

 

こうして、アメリカ側呼称『リベリオンガード作戦』による戦闘はわずか2時間で終わり、アメリカ軍は神聖ザイレーン帝国の地方都市アチネを占領し、橋頭保を築き上げる事に成功したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2016年4月9日 神聖ザイレーン帝国 帝都オリュンピアス パルティア宮殿

 

会議室は重い空気に包まれていた。

 

「…現状報告を頼む」

 

ギリサ3世の言葉に対し、将軍の一人が顔を青ざめながら答える。

 

「…まず謎の大爆発により帝都守備隊が配備されていた陸軍基地及びザラミス海軍基地は消滅。3個師団30000人と関連装備、艦船400隻に艦載機2400機を喪失しました。さらに南部各所の駐屯地並びに空軍基地も破壊され、航空機は合計2000機近くを喪失しております。さらにアチネは敵艦隊の強襲によって陥落し、敵はそこを橋頭保にして侵攻を開始。西部方面軍の主戦力を動員して防衛ラインを構築いたしましたが、兵器の質・戦術の相違によりどうにか拮抗状態を維持するのみです」

 

「現状の残存兵力は、余りに絶望的です。すでに700隻近くの艦船と6000機以上の航空機を喪失し、被害が最も少ない陸軍も謎の爆発や敵軍の猛烈な爆撃によって10万人近くを喪失しております。よって現在我らに遺されている戦力は陸軍20個師団20万人に機甲鎧2000台、艦船300隻弱、航空機500機程度です。どうにか付近の工業地帯を動員して兵器補充に努めていますが、敵軍の爆撃でその生産能力が落ちており、逆転が難しい状況となっております」

 

閣僚や将軍達の報告に、ギリサ3世はただ頭を抱えるしかなかった。

何せ、他国と隔絶した技術力と軍事力、そしてスカイシー教という統一された強固な思想を以て全世界を征服し、ザイレーン人を中心にした秩序ある神に愛されし国を築き上げようとしていた。

しかし現実は彼らの想像と展開をひっくり返した。結果、軍事力や生産能力の殆どを喪失し、帝国は完全に日本とアメリカに追い詰められていた。

 

「…どうしてだ、どうしてこうなった…!?我が国は最強の神に愛されし大国であった筈だ!スカイシー教の教えと救済を信じぬ蛮族共が、我らより優れた存在だなんて認めぬぞ!」

 

ギリサ3世がそう叫ぶ中、何処からともなく一人の青年の声が響いて来た。

 

『怠慢だな。そんなちゃちな覚悟と判断で全ての国を敵に回したと言うのか。それで全信徒の指導者を名乗るなど片腹痛いわ』

 

「っ、誰だ!?」

 

ギリサ3世達がその声に戸惑う中、突如、会議室の扉が開かれ、数十人の武装した兵士が雪崩れ込んでいく。そして同時に一人の青年が入ってきて、ギリサ3世はその青年を見て驚愕する。

 

「き、貴様はラヴァナ司教の!何をしにー」

 

「決まっていますよ。この下らない争いを終わらせ、そして国全体を新たなステージに進ませるための『改革』です。そして真の指導者…いえ、『先導者』の復活を」

 

青年はそう言いながら、後ろからやってきた一人のスーツ姿の男に目を向ける。

 

「…これで、よろしいですかな?」

 

「お見事です、ハリス・ラヴァナ閣下。商談通り、貴国が合衆国や日本国と無事に和平を結べる様に働きかけましょう。商売は何より競争相手と平和があってこそ成り立つものですからねぇ」

 

その日、オリュンピアスにて一部司教のクーデターが勃発し、皇帝以下帝国首脳部は拘束。

直後に教団・国家方針改革派のラヴァナ司教を臨時元首とする革命政府が樹立し、帝国全軍に対して戦闘停止命令が下された。

それと同時にアメリカ側も戦闘を停止させ、半年以上にも及ぶ戦いは呆気なく終結を迎えたのだった。

また同時期に、大ヴァルキア皇国もアメリカとの接触に成功し、グリーンランドにてアメリカやヨーロッパ諸国との会談のテーブルに着いた。そしてようやく平和を手に入れるための話し合いを行う事が出来たのだった。

しかし二つの国が地球側の世界との諍いを終えたその頃、インド洋とベリアーレ海では新たな戦いが起きていた。




次回、中国・ロシア・インドのターン。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅旗の早計と列強の困惑

今回辺りで戦争回は終わる予定です。
そして色々とフラグや伏線を設置していきます。


西暦2016年9月9日 ベリアーレ海上

 

日本や朝鮮半島以外のユーラシア大陸と第三文明圏の間に生じた海洋・ベリアーレ海。

そこでは何十隻もの大艦隊同士が激しい海戦を繰り広げていた。

しかし、戦況はかなり拮抗していた。

 

「くそっ、何だあの怪物は!何が『圧倒的に我が軍に劣る連中』だ!普通に厄介な連中じゃないか!」

 

中国海軍北洋艦隊旗艦「遼寧」艦橋で、政治将校は悔しげな表情を浮かべて叫ぶ。

その目前で中国海軍北海艦隊とロシア海軍太平洋艦隊。純粋な戦力では海上自衛隊数個護衛隊群に匹敵する戦力を持つこの艦隊と相対するのは、ベリアーレ海中部に出現し、中国の第二次フィルアデス大陸移民団を運ぶ船団を襲った艦隊。この艦隊を殲滅するべく、中国は「遼寧」を中心に8隻の駆逐艦、16隻のフリゲート、6隻の潜水艦、6隻の揚陸艦、6隻の補給艦からなる43隻の海軍連合艦隊を、ロシアは巡洋艦1隻と駆逐艦3隻、フリゲート2隻、潜水艦5隻、補給艦2隻からなる太平洋艦隊13隻を派遣し、大陸の一か所に向けて総攻撃を仕掛け、橋頭保を確保しようと目論んだ。

しかしその攻撃に対して迎撃してきた敵艦隊は、中露連合艦隊と対等に渡り合っていた。

人工衛星で確認したところ、その勢力の有していた艦艇には大型空母や潜水艦らしき兵器が確認されており、一応中露両国は念には念を入れて、現時点で地球最大の火力を持つ兵器の使用を行った上で、主力部隊を投入する事を決定した。

しかし、中露二国は完全に相手を侮っていた。なんと、相手は潜水艦や地上基地から発射された弾道ミサイルの8割を撃墜し、2割も都市を重点的に守る謎の障壁で耐えきったのである。そのため自然的に従来戦力で片を付けてから作戦を進める事となったのであるが、そこでまたもや中露両国はつまずく事となった。

洋上を何十発もの艦対艦ミサイルが飛翔し、敵艦隊に向かって行く。それに対して敵艦隊は同じミサイルや光の弾幕で迎撃し、半数以上のミサイルを撃ち落とす。それを突破したミサイルも、艦自体が謎の障壁で守られている様で、YJ-62艦対艦ミサイルが直撃しても1発や2発程度では防がれ、超音速で突き刺さりに行くロシア艦隊のSS-N-22『サンバーン』やSS‐N‐12『サンドボックス』でようやくその障壁を貫通して致命傷を与える事が出来た。

敵の攻撃手段も強力で、敵艦船はミサイルのみならずレーザー砲らしき装備も有しており、それが中露連合艦隊の損害を拡大させていた。

一方で空中戦では、Su-33〈フランカーD〉と〈J‐15〉が、敵艦隊より出撃したジェット戦闘機と激しい格闘戦を繰り広げており、元々の中露両国の海上戦力の少なさもあって拮抗状態となっていた。

 

「大校、もうすぐ弾薬が底を突いてしまいます!相手が潜水艦を持っている以上、このまま揚陸艦を後方で待機させるのは危険過ぎます!どうか撤退を!」

 

拮抗に耐えかねて「遼寧」士官の一人が意見具申する。政治将校はその意見に顔をしかめるが、言っている事は正論であった。すでに三度後方に後退して補給を行い、何度も総攻撃を仕掛けたのであるが、中継補給基地に残っている燃料・弾薬は本国の再生産分が届くよりも先に欠乏しそうな状況となっていた。

その本国も軍事費が予想よりも嵩みはじめており、財政に少なからずのダメージが入り始めているため、そろそろ落としどころを考え始めていた。

 

「…分かった。確かに相手は我らよりかなり強い。それを認めた上で下がらねばならんか。直ぐに司令部と中央軍事委員会に問い合わせよう」

 

1時間後、殆どの弾道ミサイルが迎撃されたという信じ難い事に衝撃を受けた中国は、即座にロシアや後方支援担当のインドと会談を行い、全部隊を撤退させてこれ以上の被害拡大を防ぐ方針で行く事となった。

その際、移民団を乗せた船団を襲ったという事実から中露は安全保障理事会の開催を求め、外交的な勝利を得る事に躍起になるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ベリアーレ海上 ヴェルタ連合王国

さてその中露両国を退けた大陸の勢力、ヴェルタ連合王国。その連合首都であるバルテレスでは、多くの首脳陣が頭を抱えていた。

 

「どうにか敵を退けたはいいものの、まさか『あの連中』と同規模の軍事力を有していたとは…」

 

公爵の一人が顔を青ざめながら呻き、他の諸侯も揃って頷く。

この国は複数の貴族領土が『とある事情』から連合を組み、有力者の中から指導者として最も信頼出来る者を連合王国国王として選出するという政治形態をとる国で、軍事力もその『とある事情』から高水準なものとなっていた。

しかしそんな彼らでさえ、中露艦隊の事を全く侮っていなかった。むしろ、不味い敵に手を出してしまった事を悔やんでいた。

 

「だから私は反対したのだ!見知らぬ国のとはいえ、不用意に接触してあまつさえそれを鹵獲するなど!」

 

「仕方ないであろう、海軍の者共が一見したところ貧弱そうに見えたというのだからな!まさか『誘導弾』を装備していたとは…」

 

「どうする?どうにか言語解析が済んだ相手の通信内容によると、どうやら何か複数の国を巻き込んで我らを攻め滅ぼしにかかるかもしれないらしいぞ!これ以上敵を増やすと、現在の我らの戦力でも余る事にー」

 

そう、先程彼らの持つ軍は中露連合艦隊や弾道ミサイルの雨を防ぎ切っていたのだが、その時点で現在彼らが持つエネルギー・資源・弾薬の半数近くを損耗していたのだ。再補充はできるもののそれは比較的長いスパンをかけて行われるものであり、中露連合軍が思っているよりも無敵の存在ではなかった。幸い敵側も相手の事を過大評価して侵攻をためらい始めた様だが、それでも彼らの心労を慰める程度にはならなかった。

諸侯達が議論をぶつけ合う中、一人の男が片手を出して黙らせる。そして皆に告げる。

 

「このまま言葉のみでぶつかり合っても何の解決にもならぬ。報告書によれば、ここより東には『ニホン』とかいう国があるらしい。その国を介して我らに味方してくれるであろう存在を探すのだ。もし味方に回す事が出来た国が、現在我が国と衝突している国との関係が悪い国であれば、好都合とは思わぬか?」

 

この国のトップである連合国王の言葉に、諸侯ははっとした表情を浮かべる。連合国王は言葉を続ける。

 

「直ちに出せる範囲内で使節団を派遣し、有力国を味方に引き入れろ!そして再びの侵攻の隙が出来ぬ様に外交的対策を万全に講じるのだ!亡国の危機が生まれぬ様にしろよ」

 

「ははっ!」

 

諸侯達が連合国王に対してそう答える中、彼は静かに呟いた。

 

「…全く、『ラヴァーナル』の様な国が複数存在する世界なぞ…一体誰が想像できようか…?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

同日 インド洋上 中央世界 神聖ミリシアル帝国

 

インド洋上に生じた巨大な大陸。その殆どを占める大国、神聖ミリシアル帝国の首都ルーンポリスでは、外務大臣のペクラスが外交官達からの報告に目を白黒させていた。

 

「…アガルタとトルキアが、北の国々と接触しているだと?」

 

「はい。どうやら北の方に新たな国家を確認した模様で…ですが、未だに第二文明圏や第三文明圏との連絡が復活しない限りは、新たな関係先を探す他ありませんし、その点で我が国はアガルタとトルキアに一歩先んじられました」

 

現在、神聖ミリシアル帝国を中心とする中央世界各国は、これまで関係の深かった国々との連絡が完全に途絶えた状態となっており、早急な現状確認と資源不足が関わる問題の対策に追われていた。

その中、北の隣国であるアガルタ法国とトルキア王国が、北に出現した謎の国と接触する事に成功しているとの報告が入ってきたのである。そして同時に彼らは、ようやくこの中央世界が完全にかつて存在していた世界と全く別の世界に来てしまった事を悟ったのだった。しかし気付いた時には第二文明圏の科学技術と第三文明圏の良質な魔石を得る事が不可能となっており、それで多くの国々が頭を悩ませる事となっていた。

 

「こんな神と『彼の国』にしかできぬと思われてきた事がいともたやすく起きるとは…とにかく、我が国も急いで新たな関係先を確保しなければならん…資源もそうだが、何より我が国の進める『世界戦略』に影響が出るからな…」

 

神聖ミリシアル帝国上層部が頭を抱えていたその頃、その南方の大陸群。その中の一つの大陸にある都市。

そこでは、二人の男が会話を交わしていた。

 

「…すると、貴方がたは我が国に対して出来る限りの支援を行うと?」

 

初老の髭が特徴的な男の問いに対し、グラサンの似合うスーツ姿の男は頷く。

 

「ええ。貴方がたも見ましたでしょう?我が社の『製品』を…我が社は貴国の事を新たな『お客様』として考えております。我が社の製品はきっと、貴方がたの助けとなりましょう」

 

スーツ姿の男の言葉に、初老の男は顎鬚をなでながら考え込む。そして彼に答えた。

 

「多くの者が不本意に思うでしょうが…分かりました。こちらから政府上層部に掛け合ってみましょう」

 

「ありがとうございます。無事に商談が成立できる事を切に願っております」

 

二人の男は立ち上がって握手を交わし、彼らの『商談』は終わる。

これから1週間後、神聖ザイレーン帝国という脅威を鎮める事に成功したアメリカは再び在外米軍の展開を開始し、同時に安全保障理事会で中国・ロシアのフィルアデス大陸での専横を牽制。そしてヴェルタ連合王国と国交を結んで安全保障条約を締結し、これ以上の中露二国のやりたい放題を防止する事に注力していった。

それと同時期に大ヴァルキア皇国もようやくヨーロッパ諸国と講和条約を締結し、こうして半年近く続いた『第一次世界再構築戦争』は終わりを告げたのだった。

しかしようやく平和が戻ってきたとはいえ、その『影』に当たる部分では幾つもの火種がくすぶり続けたままとなっていた。そしてその火種も、全てがほぼ同じ要因・根源から派生したものであるとは知らずに。




ちと色々飛ばし過ぎたかなぁ?
次回、年月すら飛ばしますが、その辺りで原作イベントの回収に向かいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 ロデニウス戦役 開幕、ロデニウス戦役

今回、新章開幕と同時に原作回収となります。


西暦2029年3月4日 クワ・トイネ『王国』 首都タバタシティ

 

クワ・トイネ『公国』が日本と国交を結んで14年。この国は未曽有の発展を遂げていた。

主な国道はアスファルトで舗装された道路となり、交通機関もかつての馬車から鉄道へと変わり、識字率も急激に向上したおかげで工業化も進展。日本の支援により技術面や生活水準だけでいえば西暦1970年代レベルにまで発展していた。

たった十数年で総合的な文明水準が400年以上も発展した公国は、憲法制定により公位を王位に替え、定期的に行われる選挙で国王を定めるマレーシアやバチカン市国の制度をモチーフにした立憲君主国へと変貌し、近代国家としての発展を推し進めていた。

 

「しかし、14年前が遥か昔に思えてくる程の発展度だな。日本様様といったところか」

 

新たに築かれた近代首都タバタシティの首相官邸で、カナタはそう呟きながら、ビル群の建ち並ぶ街並みを見つめる。

日本の手厚い支援下での近代化・工業化政策は急速に進行しており、まず識字率は70パーセントにまで向上し、農作物以外に国産の工業製品もアルタラス王国やフェン王国、シオス王国といった早期に日本と関係を結んだ国々との貿易でよく売れていた。

おかげで生活水準は非常に向上し、1年前には国内に建設された自動車工場の操業が開始され、国内向け自動車の普及も進んでいる。隣国のクイラ王国も同様で、石油やレアメタルによってもたらされた富を使って砂漠地帯の再開発に力を入れている。水魔法や土魔法を使った灌漑や、木の精霊の力を借りた植樹・緑化政策が功を奏し、食料問題や産業の多様化で改善の兆しが見られ始めている。人口は医療技術や生活水準の向上の恩恵を受けて増加し、クワ・トイネ王国は14年前は1000万人程度だったのが今や1500万人に迫り、クイラ王国もわずか400万人程度だったのが600万人近くにまで増えている。ともに順調に発展を遂げていた。

 

「まさしく神のもたらした恵みが我が国とクイラを潤している。しかし…」

 

ここまで発展を遂げたとはいえ、カナタにはどうしても捨てきれない懸念が存在していた。西の隣国、ロウリア王国である。

この国も14年の歳月の中で発展を遂げていたのだが、その発展の様子が見られるのはアルタラス王国やシオス王国との交易の際にハブ港として使われる港湾都市ハーク・ポートぐらいで、地上の国境線辺りでは特に大きな変化は見られなかった。しかし軍事力を順調に増強しているとの報告も入っており、そう簡単に侮る事は出来なかった。

 

「…嫌な予感がする。念のために国王陛下に奏上してから西方師団に警戒を厳にする様に伝えよう」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロウリア王国 首都ジン・ハーク

 

クワ・トイネ王国とクイラ王国が急激な発展を遂げていたその頃、西のロウリア王国も発展を進めていた。

パーパルディア皇国の手厚い支援により王国軍は近代化され、武装はこれまでの槍や弓矢から銃などの小火器へ変わり、部分的にであるが工業化も進展。そのため『軍事力』だけでいえばかなりの高水準を有していた。

その首都たるジン・ハークの中心部、ハーク城の会議室では、数年前に逝去した前国王より王位を引き継いだハーク・ロウリア34世を中心に、会議が開かれていた。

 

「これより、会議を始めさせていただきます。まずは国王陛下よりお言葉がございます」

 

進行役を務めるマオス宰相の言葉とともに、ハーク・ロウリア34世は一同に向けて語り掛ける。

 

「前国王たる我が父が亡くなって5年…我が国は列強パーパルディア皇国からの手厚い支援を受け、ここまで発展した。今や我が国の軍事力は14年前とは比べ物にならないぐらい発展している。しかし、その発展に実際に貢献したのは今ここにいる全ての臣下と現場指揮官達である。まずは貴様らの努力に対して礼を言おう」

 

「おお…何というありがたいお言葉…」

 

頭を少し下げながらそう語ったハーク・ロウリア34世の言葉に、多くの閣僚や将軍が感動に震える。そしてハーク・ロウリア34世は着席して言葉を続けた。

 

「では、会議を始めよう。パタジン将軍、此度の作戦内容を頼む」

 

求めに対し、ロウリア王国軍総司令官を兼任する首都防衛騎士団団長のパタジン将軍は、自身の鍛え抜かれた肉体に纏う銀色の鎧を輝かせながら、テーブルを構成する巨大な石板の前に立ち、表面に刻み込まれている文様に触れる。

直後、石板に光の線が走り、瞬く間にロデニウス大陸全体の地図が浮かび上がる。これは大昔に、かつて彼らの世界を支配していた大国『古の魔法帝国』が遺した石板型地図で、原理は未だに判明していないものの、何らかのシステムで大陸全体の地形や街の状況等を映し出す機能を有していた。そして如何に原理が分かっていなくとも、それを利用する方法は分かっており、パタジンは幾つかの文様に触れて操作を行い、幾つもの立体映像の駒を現出させる。

 

「まず、クワ・トイネ王国・クイラ王国両国の国境線に陸軍100万人を展開し、作戦開始予定日とともに侵攻を開始。まずは国境付近の町を全て陥落させ、中継地点とします。同時に陸軍主力のうち50万人をクワ・トイネ王国西部方面軍の根拠地にして王国西部にある唯一の城塞都市エジェイ周辺に集結させます。それと時を同じくして、海軍主力艦隊を出撃させ、総数4400隻の大艦隊と20万人の将兵という物量戦術によりクワ・トイネ王国のマイハーク港を陥落させます。これでクイラ王国は海上輸送路を喪失し、自然と干上がるでしょう」

 

駒がせわしなく動いて作戦内容を視覚化させ、閣僚達はその様子を見る。

 

「航空戦力は作戦序盤より全機動員します。現在我が国が保有するワイバーンはほとんどが改良型のロード種に発展型のオーバーロード種となっており、さらにパーパルディアより輸入した『機械飛竜』も存在します。これでクワ・トイネ王国の航空戦力を完全に排除する事が可能でしょう。制空権確保後、早急にエジェイを総攻撃で陥落させ、侵攻ルートを確保。それからはそのまま敵の首都まで一直線です」

 

ロウリア王国軍を示す赤い馬型の駒はそのままクワ・トイネ市まで突き進み、やがてクワ・トイネ王国とクイラ王国全体が赤く塗り潰される。すると閣僚の一人が尋ねてきた。

 

「しかしだ、クワ・トイネ王国とクイラ王国とやらは日本に台湾とかいう国から支援を受けているという。その国の援軍を考慮しなくてもいいのか?」

 

「ご安心を。諜報部やパーパルディア皇国からの情報によりますと、その2か国は軍事支援に消極的な様子で、せいぜい台湾がクワ・トイネ王国に銃を提供している程度と聞いております。また兵士の数も非常に少ない様で、こちらが総数200万人であるのに対してあちらは総数50万人程度…この程度ならば数の暴力で一方的に蹴散らせます。またこちらの諜報部がかなり苦戦しているという情報が閣下達のお耳に入っている様ですが、その数の少なさから来る貧弱さを隠し通そうと必死になっているのでしょう。何、我らの大軍でその徒労を無駄なものにしてやりますよ」

 

パタジンの自信に満ち溢れた言葉に、一同に笑みが零れる。そしてハーク・ロウリア34世は席から立ち上がって宣言した。

 

「よし…余はここに、ロデニウス大陸統一作戦の実行を命ずる!この大陸より全ての亜人を廃絶し、我らヒト種の万年王国をこのロデニウス大陸に築き上げるのだ!」

 

『ははーっ!!!』

 

閣僚や将軍達はそろって頷き、ここに、新たな戦争の開幕が宣言されたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2029年3月11日 日本 東京 首相官邸

 

その日、首相官邸では緊急閣議が開かれていた。議題はもちろんロウリア王国の軍事行動である。

 

「諸君、ついにロウリア王国が軍事行動の準備を始めた。しかもかなり大規模だ」

 

日本の新たな内閣総理大臣である富水の言葉に対し、閣僚達に緊張が走る。続いて防衛大臣が説明を始める。

 

「人工衛星からの情報によりますと、現在クワ・トイネ王国とクイラ王国両国との国境線付近に最低50万人規模を収容可能な野営地と仮設の飛行場らしき施設が確認されており、ロウリア王国国内の各都市及び城塞より多数の将兵や車両の移動が確認されました。それらの部隊はこの野営地に集結を進めており、どう見ても侵攻作戦を準備している様にしか見えません。また洋上には2000隻以上の艦船の集結も確認されており、海上からの侵攻も計画している様子が伺えます」

 

「経済産業省です。現在、ハーク・ポートへの我が国や台湾、クワ・トイネ王国、クイラ王国船籍の船舶入港が禁止された状況となっております。恐らく情報漏洩を警戒しての措置でしょう。ですがこれにより交易活動に影響が生じています」

 

経済産業大臣からの報告が挟まれ、国交省大臣も顔をしかめる。防衛大臣は再び説明を再開する。

 

「現在のクワ・トイネ王国軍の規模は、5個師団4万人に車両2000台、哨戒艇数十隻にレシプロ式軽攻撃機十数機、ワイバーン500騎と全て現在の文明・技術水準の範囲内で国防を果たせる程度のものです。しかも戦車や口径40ミリ以上の火砲は供与されておらず、生産も禁止しています。恐らく初撃は耐えられても防衛線は直ぐに崩壊する可能性があります」

 

ロウリア王国はこの14年間、ただひたすらパーパルディア皇国とだけしか関係を持たず、軍事力の強化に励んでいる事は人工衛星からの報告で知っていたし、一応はクワ・トイネ王国の租借地に駐屯地を設けて、ロウリア王国軍という『テロリスト』から穀倉地帯を守るための安全保障体制を構築していた。

しかし、彼らは今そこに、『どうせロウリア王国の軍事力では自衛隊に勝てないだろうし、むしろ戦争を起こさせないためにクワ・トイネ王国の軍事力は最低限のものであらせよう』という慢心と争いに対する怯えがあった事を自覚する。しかもロウリア王国側には人権の考えがないらしく、すでに数件程ロウリア王国軍がクワ・トイネ王国側に対して散発的に攻撃を仕掛け、死者を出している。

恐らく、ここで彼らは決断するしかないだろう。それがどんな反発を引き起こし、どのような結果をもたらすのか分からなくても。でなければー。

 

「…現在、我が国に存在する在日米軍は旧在韓米軍だった部隊のみとなっている。しかもアメリカはクワ・トイネ王国の事を左程重要視していない。それに安全保障条約も14年前とは大きく違ったものとなっている。純粋に食料と資源の輸入が困難になる問題が生じる上に、我が国の新たな国際関係の中でどの様に存在感を示すのか、それも重要となっている。直ちにダイダルに駐屯する外地派遣部隊にクワ・トイネ王国軍支援命令を発令せよ。さらに自衛隊全部隊に対して防衛出動を命令し、第三文明圏外国共同安全保障条約に基づく自衛隊派遣を決定する!」

 

富水の下した決断に対し、全ての閣僚が頷く。

翌日、日本国政府はロウリア王国の侵略的行為を批難すると同時にクワ・トイネ王国・クイラ王国両国に対する自衛隊派遣を発表し、自然と日本が参戦する事となった。また同じ安全保障条約に入っている台湾も同様の動きを示し、台湾軍の派遣も決定的となる。

こうして、その後の第三文明圏の運命を変える出来事の始まりとなるロデニウス戦役は幕を開けたのだった。




次回はギムの戦いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギム会戦

今回は陸上戦です。


西暦2029年3月31日 クワ・トイネ王国西部 ギム

クワ・トイネ王国の西部に位置するギムの街には、クワ・トイネ王国陸軍西部方面軍の国境守備隊が集結していた。

 

「隊長、哨戒に出ていたワイバーンより報告です!現在敵軍は国境線沿いに集結を終えており、目算でも50万人以上が集結しているとされます」

 

ギム守備隊司令部で部下の報告を聞いた守備隊隊長のモイジは、ダイダルより派遣された陸上自衛隊第44連隊隊長の大内田幸樹一等陸佐と顔を見合わせる。

 

「かなりまずい事になりました。数だけで我らの10倍以上…東からの増援がない限りかなり厳しい戦いを強いられる事になります」

 

モイジの言葉に、大内田も同感とばかりに頷く。

現在ギムに配備されている守備隊は、小銃や軽機関銃を主装備とした歩兵1個連隊2000人に、重機関銃を装備した装甲車10台と各種トラック20台。重火器も重機関銃以外では61ミリ迫撃砲に、国産の対魔獣攻撃用バズーカ砲程度。

陸上自衛隊第44普通科連隊も同規模で、普通科隊員2000人に96式装輪装甲車を始めとする各種輸送車両200台。武装も89式小銃やミニミ軽機関銃、M2重機関銃に81ミリ迫撃砲がメインであり、少なくとも装甲車両を持たない武装勢力相手には無敵を誇れた。

 

「噂によると、相手は地竜リントヴルムを配備しているそうです。リントヴルムの導力火炎放射とワイバーンの導力火炎弾は塹壕戦にとって脅威となります。ここは持久戦ではなく輸送車両による市民の避難を行いながらじりじりと後退しつつ、敵の猛攻を食い止める作戦しかないでしょう。ですが…」

 

「数が余りにも多すぎる、か…いつの間にか後方に回り込まれるという展開も嫌ですしね…直ぐに増援を要請して面での侵攻に耐えうる様にしなければなりませんね」

 

現在、クワ・トイネ王国国内に治安維持活動補助のために配備されている陸上自衛隊部隊は、第16から17旅団の2個旅団で、隊員数4000人強、火砲200門、車両600台、各種ヘリコプター40機が配備されている。しかし近年のロウリア王国軍航空戦力の発展を受けて、〈T‐4〉練習機をベースに設計図を改良し、文明圏外国の技術力でも部品の確保が出来る設計が施された練習機兼攻撃機の岩崎AT‐1〈ヒナ〉を開発し、クワ・トイネ王国空軍機械飛竜訓練中隊に配備。少しずつロウリア王国との軍事力の差を縮めつつあった。

しかし、偵察機や諜報部隊からの情報によれば、ロウリア王国軍はどこから入手したのか不明な装甲車を多数保有しており、曲がりなりにも機械化を実現させている事が判明。早急な戦略の練り直しを迫られる事となった。今も人工衛星やアメリカから導入した無人偵察機を使って偵察・情報収集活動を行っているものの、ロウリア王国は出来る限り外部からの情報漏洩を避ける形で軍拡を進めており、自衛隊と言えども実際のロウリア王国軍の軍拡状況を確認する事が出来なかった。

 

「今我々が現在の装備で出来る事は、侵攻のスピードを出来る限り遅らせて市民の避難の余裕を確保する事のみでしょう。それまで弾薬に戦線が持てばいいのですが…」

 

大内田はそう言いながら、敵が準備を整えているであろう地平線の向こうを見つめた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

深夜 ロウリア王国軍前線司令部

 

前線司令部の置かれているテントでは、十数人の将兵が酒を酌み交わしながら笑い声を上げていた。

 

「間もなく侵攻作戦が開始されますな。もしこれで戦勝を上げる事が出来れば、閣下には莫大な土地とその恵みが入りますな」

 

ロウリア王国東部征伐軍の指揮官の一人であるアデムの言葉に、上官であるパンドールは自信ありげに頷く。

 

「国王陛下はクワ・トイネ王国の首都を陥落させた者は一兵卒でも貴族の地位と領地を授けると言っておられる。此度は新兵器が目白押しだからな。楽にギムを落とす事が出来よう」

 

パンドールはそう言いながら、天幕や仮設の屋根で隠された『それ』を見やる。するとアデムがニタニタと笑みを浮かべて言う。

 

「しかし、パーパルディア皇国もかなり大盤振る舞いしてくれましたな。新たに皇国が開発したという『機械地竜』に『連発式歩兵銃』…対するクワ・トイネ王国軍の軍備では歯が立たないでしょう。これで亜人共を殲滅出来るのかと思うとゾクゾクしますねぇ」

 

「とにかく、我らのやる事は国王陛下の定められた事を実行するだけだ。引き続き準備を進めてくれ」

 

夜はたちまち更けていき、この時点でギムの目前には40万人以上の軍勢が集結。『その時』は着実に近付いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2029年4月1日 ギム西部

 

夜が明け、朝日が大地を照らす頃。監視塔から国境線を監視していた兵士は、その地平線上でうごめくのを目撃する。そして大声で叫んだ。

 

「て、敵が来たぞ!数は、地面が3に敵が7!繰り返す、地面が3割に敵が7割だ!とてつもない大軍で来たぞー!」

 

兵士からの報告に、大内田とモイジは表情を堅くしながら遠くを見る。しかしその時、対ワイバーン警戒用の対空監視レーダー班が叫んだ。

 

「隊長、こちらに向かって高速で何かが接近してきます!数は4…いえ8!速度は約900キロ、ワイバーンではありません!」

 

「何?直ぐに目視で確認せよ!」

 

大内田が命じた直後、轟音が響き渡ると同時に遠くの城壁が炸裂に吹き飛ばされ、煙が立ち上る。聞き慣れぬ轟音にクワ・トイネ王国軍兵士達がたまらず耳を塞ぐ中、大内田は真上を見上げて愕然となる。

 

「なっ、ジェット機!?何故ロウリアがジェット機なんていうモノを持っているんだ!?」

 

「隊長、敵が来ました!ですが、リントヴルムらしき生物の中に、戦車の姿を確認しました!しかもかなり多いです!」

 

部下の隊員の報告を聞いて、大内田は地平線の向こうより来る敵の軍勢を見る。そしてその数の多さに愕然となる。

分厚い金属製の鎧に身を包んだ地竜を先頭に、旧ソ連のT-55に酷似した戦車が後に続く。その背後には無数の歩兵や魔獣の姿があり、その軍勢は瞬く間に地平線を埋め尽くしていく。

 

「な、なんて数だ…しかも戦車やジェット機を装備しているなんて…」

 

「と、とにかく応戦だ!横に薄く長い列を形成しつつ遅滞戦術で時間を稼ぐ!絶対に国民を守り抜くぞ!」

 

この日、ロウリア王国軍100万人はクワ・トイネ王国及びクイラ王国に向けて侵攻を開始。ロデニウス戦役最初の戦闘は夜明けとともに始まった。




次回も続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

撤退戦は侵攻戦よりも難しい

西暦2029年4月1日 ギム東部

 

陸上自衛隊・クワ・トイネ王国陸軍混成部隊は、車両を使った移動や地雷の敷設による遅滞戦術を使い、後退しながらロウリア王国軍と交戦していた。

 

「撃て撃て!弾薬がある限り撃ち続けろ!弾幕を途切れさせるな!」

 

「迫撃砲、撃ちまくれ!足が止まる程度でも十分効果はあるぞ!」

 

「畜生、地雷用粘土爆薬が足りなくなってきた、うん!ちと後方に行って作り直してくる!」

 

仮設の塹壕にて数十人の歩兵が横になり、89式小銃や65式歩槍を構えて引き金を引き続ける。対魔獣用バズーカ砲や84ミリ無反動砲、01式軽対戦車誘導弾が吼え、迫りくる敵の大軍に命中していく。

ロウリア軍は分厚い金属板を鎧の様に装着した地竜リントヴルムを先頭に置き、リントヴルムは金属板で銃撃を弾きながら接近する。その背後にはかつて旧ソ連が開発したT‐55戦車に酷似した戦車が続いており、戦車は砲撃を放って塹壕を吹き飛ばす。しかし塹壕はひだの様に何重にもわたって構築されており、その合間にある隙間を通って陸自隊員にクワ・トイネ陸軍歩兵は後方へ移動していた。

しかも土塁の目前には対戦車地雷が仕込まれており、これを踏んだリントヴルムは粉々に吹き飛び、一瞬だけ侵攻スピードが緩む。後方の土塁に木製の盾を張って補強した城壁上からは、クワ・トイネ国産の76ミリ榴弾砲が砲撃を放ち、なけなしの火力を以て敵軍の侵攻スピードを遅らせていた。

 

「第4班、弾切れです!これより後退します!」

 

「パンツァーファウスト、敵戦車に向けて攻撃!もうすぐ航空支援が到着する!それまで耐えきるんだ!」

 

念のためにと装備されていたLAMや、L16・81ミリ迫撃砲が火を噴き、真上から降ってくる迫撃砲弾がリントヴルムを木端微塵に粉砕し、LAMの形成炸薬弾頭が戦車を破壊する。

それでも多勢に無勢で、混成軍はじりじりと後ろに下がりながら後退して、応戦を行う。

 

「ギム市民の避難状況はどうだ?」

 

「どうにか8割は鉄道とトラックによる輸送でエジェイ以東にまで避難させる事が出来ました!残り2割はまだです!今陸自の輸送ヘリが急行していますが、それでも間に合うかどうか…」

 

部下の報告にモイジの顔が青くなり始めたその時、別の兵士が無線機からの通信を聞きながら報告してきた。

 

「隊長、空軍がここに向かって急行しているとの事です!先発隊がギム上空に到着するまであと5分!」

 

「ようやくか…装甲車と93式SAMはワイバーンの迎撃を行え!我らもエジェイまで後退するぞ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よし、行くぞ!敵もジェット機を持っているとの事だ。気を抜かずにかかれ!」

 

『了解!』

 

AT‐1〈ヒナ〉のコックピット上で、王国空軍第1機械飛竜訓練中隊隊長のオート・マールパティマは部下達にそう言いながら操縦桿を握りしめる。

10機の〈ヒナ〉は、航空支援要請を受けていち早く出撃し、主翼下にMk82・227キロ無誘導航空爆弾2発と自衛用の19式空対空誘導弾2発を抱え、巡航800キロの速度で二つのV字編隊を組んで飛んでいた。

既に目前には何百騎ものワイバーンの編隊が見えていたが、今の彼らに後退するという選択肢はなかった。

 

「まずは味方に当たらない様に適当な場所に爆弾を投下する!ワイバーンとの相対速度を考慮しつつ、確実に敵軍の真上に落とせよ!」

 

10機はそれぞれ2機編隊に散開しながら降下し、一気に加速してロウリア王国軍の真上に到達する。そしてリントヴルムの真上に向けて航空爆弾を投下した。

迫撃砲やグレネードランチャーとは比べ物にならない炸裂がリントヴルムを吹き飛ばし、近くにいた戦車にも幾らかのダメージを与える。爆弾を投下して身軽になった〈ヒナ〉は急旋回し、襲撃してきたワイバーンとの交戦を開始する。

現時点で〈ヒナ〉が装備しているのは、91式携帯地対空誘導弾をベースにした19式近距離空対空誘導弾2発に、胴体内に装備された20式20ミリ多銃身機銃1門で、飛行訓練のみならず戦闘訓練も行える様にするため、多少の格闘戦が行える様に出来ていた。それでも純粋な戦闘機には及ばないため、常に2機編隊を組んで行動し、できる限り一撃離脱方式で戦う様に教えられていた。

〈ヒナ〉は導力火炎弾を撃てる様に炎を溜めているワイバーンの頭部に向けて空対空ミサイルを発射し、ワイバーンは頭部が吹き飛ばされて墜落していく。ミサイルを撃ち切った機は格闘戦に持ち込み、背後に回って機銃を浴びせ、竜騎士ごと粉々にする。

空中戦は10分にも及び、31騎のワイバーンが撃墜されたところで通信が入る。

 

『第1機械飛竜訓練中隊に告ぐ。ギム市民の避難作業が完了した。直ちに後退し、再出撃の準備を整えられたし』

 

「避難作業が完了したか…よし、全機後退するぞ!一気に敵を振り切れ!」

 

〈ヒナ〉10機はエジェイの方向に向けて全速力で飛び、ワイバーンの編隊を振り切る。するとロウリア王国軍のジェット機が襲い掛かってきたが、これもどうにか回避して逃げに徹する。

その数分後、ロウリア王国軍はギムに進駐したが、その時はすでにもぬけの殻であり、逆に市街地各所に仕掛けられたブービートラップに苦しめられる事となった。

開戦から1週間。ロウリア王国軍東方征伐軍は数千の犠牲を払いつつもクワ・トイネ王国西部を占領し、ギムに戦線司令部を設置。エジェイ攻略作戦の計画を練り始めたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2029年4月21日 クワ・トイネ王国 マイハーク

 

マイハーク港のある地区。そこには、日本本国より輸送艦3隻を引き連れて派遣された海上自衛隊第1護衛隊群と、同じくクワ・トイネ王国救援のために派遣された台湾中華民国海軍第61任務群の姿があった。

 

「しかし、ロウリア王国軍には驚かされましたな。まさか戦車やジェット機を隠し持っていたとは…」

 

第1護衛隊群旗艦の航空機搭載護衛艦「あまぎ」艦橋で、艦長の山本が驚嘆の含まれた言葉を発する。隣にいた第1護衛隊群司令の宗像志郎二等海将も同感とばかりに頷く。

 

「全くだな。だが敵艦隊がこちらに向けて接近しているという情報が入ってきている。そろそろ命令が下される頃だろう」

 

宗像がそう言ったその時、通信士が報告してきた。

 

「司令、自衛艦隊司令部より入電!『ロウリア王国艦隊、台湾南部沖合に展開。台湾艦隊とともにこれを迎撃せよ』以上です!」

 

「来たか…全艦、出撃する!目標、台湾・ロデニウス大陸間海峡!マイハークに一歩たりとも近寄らせるな!」

 

『了解!』

 

第1護衛隊群は即座に機関を始動し、タグボートに誘導されながら港湾の外に出ていく。そして台湾海軍第61任務群とともに西に向かって進んでいった。




次回、海戦です。原作とは少しだけ違った展開となる予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勃発、ロデニウス沖海戦

今回は海戦回です。


西暦2029年4月22日 クワ・トイネ王国北部沖合

 

ロウリア王国海軍東方征伐艦隊4400隻は、マイハークを攻略して20万人の海兵を上陸させるべく、巡航16ノットの速力で東へ進んでいた。

艦隊の大半は、全長60メートル程度の木造砲艦だが、そのうち2割強はオイルタンカーに幾つもの砲門を備え、甲板上に野砲を並べた様な形状の戦列艦で、残りは30騎程度のワイバーンを搭載した全長200メートル程度の大きさを持つ竜母であった。

 

「壮観な光景だ。実に美しい」

 

艦隊旗艦「偉大なるロウリア」号の艦橋で、艦隊司令のジョズ・シャークン海将は誇らしくそう呟く。

現在彼が乗る戦列艦は、国産の25口径15.2センチ榴弾砲20門と戦列艦の様に側舷に並べた50口径12.7センチ単装砲80門の計100門を装備し、対空砲も37ミリ単装対空機関砲や23ミリ単装機銃を合計50丁装備している。惜しむらくは命中率と速射性能を向上させる近代型射撃管制システムと自動装填装置の技術が伝わっていない事であるが、それでも1隻あたり片舷50門の火砲という大火力は侮りがたく、半径10キロ圏内にいる敵艦はたちまち砲弾の雨で吹き飛ぶ事であろう。

 

「閣下、マイハークに到着するまであと16時間です。クワ・トイネ軍の妨害もありませんし、このまま楽に行けそうですね」

 

「気を抜くな。この先に敵艦隊が展開しているのかもしれんのだぞ?このまま周囲に目を配りながら進み、この圧倒的な戦力を以て確実に勝利しなければならない。警戒を厳にして進め」

 

シャークンは部下を戒めて真正面を見据える。

するとその時、水平線の向こうから何かが現れ、奇妙な羽ばたき音を立てながら接近してくる。それは奇妙な形状をした空飛ぶ乗り物で、ロウリア王国艦隊上空に展開するや否や、大音量の音声で呼び掛けてきた。

 

『私達は日本国海上自衛隊です。貴艦隊は現在クワ・トイネ王国の領海を侵犯しています。直ちに反転し、撤退せよ!撤退せず、私達に攻撃を仕掛ける動きを見せれば、侵略行為と見なして迎撃します!』

 

「に、日本国だと?奴らめ、今になって参戦してきたのか!」

 

正確に言えばギムでの戦闘の時点で事実上参戦しているのであるが、それを知らないロウリア海軍将校は忌々しそうに叫ぶ。その隣でシャークンは、険しい表情を浮かべながら上空に浮かぶ飛行物体を見つめる。

すると、数隻の戦列艦や砲艦から対空砲火が上がり、飛行物体はそれに驚いたかの様に逃げ始める。その様子を見たシャークンは、即座に指示を下した。

 

「竜母全艦に命令。直ちにワイバーン全騎を展開し、周囲を捜索。敵艦隊発見後は直ちに当該地点に集結し、一斉攻撃する様に命じろ。そして念には念を入れて、陸上基地の機械飛竜騎士団に応援を要請。我が国の圧倒的な国力と軍事力の差を見せつけてやれ!」

 

「ははっ!」

 

シャークンの命令はすぐに竜母に伝えられ、薄い金属製の鎧を身に纏ったワイバーンが、甲板上に施された風魔法術式の補助を受けて離艦する。そしてわずか10分で1000騎近いワイバーンの大編隊が展開されたその時、洋上監視員が大声を上げた。

 

「司令、何かが高速で接近してきます!迎撃不能!」

 

「何か、だと?もう少し詳しくー」

 

曖昧な問いに対してシャークンが問いただそうとしたその時、水平線の彼方から幾つもの光弾が現れ、それらは目にも止まらぬ速さで艦隊前衛の艦艇に直撃し、炸裂。十数隻の戦列艦と砲艦をこの世から文字通り吹き飛ばした。

 

「な、何だ今のは!一体どこから攻撃を!?」

 

謎の大参事にシャークンが戸惑う中、レーダー監視員がパーパルディア皇国製レーダーを見つめ、画面上に映った光点を見て叫んだ。

 

「提督!東より艦船が多数接近!30ノットの高速で我らに向かってきます!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

第1護衛隊群 旗艦「あまぎ」CIC

 

「SSM、全弾命中を確認。大型艦6隻と中型艦18隻に命中した模様」

 

CIC管制員の報告に、宗像は表情を変えずに静かに頷く。

 

「あちらが愚直に対空砲火を行ってくれたおかげで、先制して打撃を与える事が出来る状況になった。恐らくこれで相手は怯む筈だ」

 

僚艦が飛ばした対潜哨戒ヘリ〈SH‐60K〉の報告を受けた第1護衛隊群と台湾海軍第61任務群は、そのアクションを戦闘行為と見なし、即座に攻撃を開始する事を決定。その挨拶として艦対艦ミサイルによるカウンターアタックを実行した。

今や在庫のみとなった90式艦対艦誘導弾と現在の主力艦対艦ミサイルである17式艦対艦誘導弾、台湾製の雄風Ⅲ艦対艦ミサイルがロウリア艦隊に向かって飛翔し、前衛を構成していた艦艇を叩き潰す事に成功した。

 

すると、レーダーモニターで相手艦隊の動向を見ていた管制員が、緊張した面持ちで宗像に報告してきた。

 

「敵艦隊、進行を止めません。さらに200メートル級大型艦より多数の光点が出てきております。恐らくワイバーンを搭載した竜母がワイバーンを展開しているものと思われます」

 

「さらにロウリア王国上空を偵察飛行する〈E‐767〉より入電。ロウリア王国内の飛行場とおぼしき施設より多数の小型ジェット機が発進するのを確認したとの事です。現在そのジェット機の編隊は本艦隊に向けて進んでいる模様」

 

「…やはり、戦闘を止めぬか。全艦、直ちに対空戦闘に入れ。さらにCAP機はロウリア王国のジェット機部隊を牽制しつつ程々にかき乱せ。これより航空隊を全機上げて、制空権を完全に奪い取る。戦いは数のみではない事を思い知らせてやれ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あまぎ」飛行甲板上

 

『全機、スクランブル!敵編隊が本艦隊防空網外縁部に到達するまであと20分!』

 

「おら行くぞ野郎共!トカゲ共を全部叩き落としたれ!」

 

航空管制員のアナウンスが響き渡る中、すでに待機していた海上自衛隊第11航空隊所属のパイロット達は、急いで「あまぎ」甲板上に駐機していた艦載機の〈F‐35JB〉に乗り込んでいく。

〈F‐35JB〉はその名の通り、ロッキード・マーティンF‐35B〈ライトニングⅡ〉の日本仕様で、海上自衛隊からの要求を満たすべく電子機器に日本製の機器を使用しており、国産空対空ミサイルや国産空対艦ミサイルを装備・運用する事が出来る様になっている。それまでは全てアメリカ製のミサイルないし関係装備を輸入・ライセンス生産する方針だったのだが、アメリカが神聖ザイレーン帝国との戦争で輸出どころの話でなくなったため、〈ライトニングⅡ〉のA型とB型自体日本でのライセンス生産という形になったのがいい方に転がり込んだ形となっていた。

 

「スパロー1、クリアフォア・テイクオフ!」

 

〈F‐35JB〉1機目がブラスト・ディフレクターにジェットを叩き付けながら甲板上を滑走し、艦首より斜め上に突き出た形となっているスキージャンプ台の坂を駆け上がって揚力を確保。そしてリフトファンと斜め45度に傾けた可変ジェットノズルの推進力を使ってスキージャンプ台から飛び上がり、蒼空に舞い上がる。すでに敵艦隊・航空戦力との真正面からの殴り合いが決まっている上に相手には高性能のレーダーがない事から、胴体内ウェポンベイに搭載している6発の04式空対空誘導弾のみならず、機体下には25ミリガトリング砲ポッドや、99式空対空誘導弾の後継機である23式空対空誘導弾2発、04式空対空誘導弾2発の計10発の空対空ミサイルを装備したビーストモードで戦いに挑んでいた。

その後も次々と〈F‐35JB〉は展開し、わずか10分で8機の〈F‐35JB〉が展開を終える。その後も艦載機の発艦は続き、先に出た機は急上昇して西の方へ向かっていく。

そして10分後、後の世にいう『翼竜の落日』がロウリア王国軍飛竜騎士団に襲い掛かる事となる。




次回、対空戦闘。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

翼竜の落日

サブタイトルでお分かりですね?


西暦2029年4月22日 クワ・トイネ王国北部沖合

 

ロウリア王国空軍機械飛竜騎士団200機は、海軍東方征伐艦隊からの報告を受けて、北東の方角に向けて巡航800キロの速度で飛んでいた。

その中の1機、メルサMRS-1〈フレスコル〉のコックピット内で、機械飛竜騎士のマルティアは真正面を見据えて呟く。

 

「しかし、パーパルディアは非常に恐ろしい兵器を作ったものだ。まさかミリシアルと古の魔法帝国しか有していないとされていた天の浮舟を魔法なしに作り上げるとはな」

 

〈フレスコル〉はパーパルディア皇国の国立軍事技術設計局の一つであるメルサ航空機設計局が開発したジェット戦闘機で、外見はかつてソ連空軍が保有していたMig‐17〈フレスコ〉に似ているが、後部のジェットノズルの形状がMig‐21〈フィッシュベッド〉のそれに似た形となり、主翼もただの後退翼ではなく翼端に追加燃料タンクを装備可能なクリップトデルタ翼で、外見のみならずエンジンや武装も大きく変更されており、性能はかなり良いものとなっていた。

技術上の問題や軍事技術流出の関係上から、空対空ミサイル装備や皇国仕様のレーダーは装備されていないが、それでも皇国側セールスマンをして『ガハラ神国の風竜3騎分の実力』と唄われる性能はそのままであり、クワ・トイネ王国のワイバーンを殲滅するには十分であった。

 

「…いやいかん。このまま慢心せずに掛かろう」

 

マルティアが自身の慢心を諫めたその時、機械飛竜騎士団長の一人が魔信機を通して話しかけてきた。

 

『諸君、これより本編隊は東方の亜人共とそれに加担する蛮族の船団を滅するために向かっている。我らロウリア王国軍の正義の鉄槌を奴らに叩き付けてやろうではないか!』

 

団長の一人がそう言ったその時、突如、前方を飛んでいた20機が突如、何処からともなく飛んできた光の槍に貫かれ、一瞬で火だるまとなって撃墜される。

 

『っ、全機散開!周囲を探せ!』

 

『な、何だ今のはー』

 

突然の出来事に混乱が起きる中、遥か上空より10の黒い影が現れ、続いて放たれた光の槍がさらに20機を叩き落とす。後続の爆撃機〈マンドレク〉も爆弾を捨てて回避行動に入るが、〈F‐35JB〉の04式空対空誘導弾は正確に主翼を貫き、撃墜数を増やしていく。

 

「くそっ、このままやられてたまるか!」

 

マルティアは必死に操縦桿を引いて旋回させ、必死に37ミリ機関砲を撃つ。その時1発が敵戦闘機の胴体に直撃するが、〈F‐35JB〉は何事もなかったかの様に飛び、マルティアは舌打ちする。

 

「チッ、何てタフな奴だ!せめて皇国仕様で採用されているという誘導魔光弾があれば…!」

 

直後、激震が彼を襲い、マルティアは後ろを見て愕然となる。胴体部の一か所に大きな穴が生じ、そこから煙が噴き出していたのだ。どうやら敵機の銃撃を受けたらしい。

 

「くっ、被弾したか!しかも燃料が漏れているとなると…帰るしかないか…」

 

多くの機が追いかけまわされる中、マルティア機だけは損傷を理由に帰還に入る。

しかしそれが彼の運命を変える事となろうとは、誰も思いもしなかったであろうし、後にその運命を知る事になったのは後の世にもマルティアただ一人だけであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神聖ザイレーン帝国とアメリカ・日本の戦争後、世界の艦艇技術と設計思想、そして戦略は大幅な変換を余儀なくされた。

神聖ザイレーン帝国の艦船が装備していたレーザービーム兵器『魔導光線砲』に、実弾兵器や光学兵器の威力を減衰させる防御バリア、そして万が一損傷しても別の場所に文章を繋げて機能を回復させる文章式術式回路は、ミサイルの様な(命中率と成形炸薬による貫通能力にステータスを振っている)兵器の価値を落とし、さらに(回避能力やデコイ・ECMなどで精密誘導兵器から逃れる事により、装甲を不要のものとした)現代の軍艦を瞬く間に時代遅れにした。

何せ、敵艦からの妨害を全く寄せ付けず、亜光速で突き刺さってくる回避困難な大出力エネルギー攻撃など、こちらも十分な距離を取って亜光速で回避するか、そのまま艦自体で受け止めて耐えるしかなくなったからだ。

また、ベリアーレ海上のヴェルタ連合王国も同様の技術を装備している事が判明し、世界各国の軍艦設計者はそれらの技術を導入する事に躍起になった。

その結果、海上自衛隊は14年という長い戦間期の間で、次世代の軍艦の姿の一つを現実のものとした。

 

「レーダー、捕捉しました!先頭の列のワイバーンに優先的に振り分けます!」

 

ふじ型大型護衛艦「ふじ」のCICに管制員の報告が響き、艦長の八島はモニターを見つめながら命じる。

 

「すでに対空戦闘命令は出ている!僚艦とのデータリンク・共同交戦ネットワークにて捕捉目標の重複を解消してから攻撃を開始せよ!」

 

その命令と同時に、単横陣となって並んでいる4隻の護衛艦より、一斉に艦対空ミサイルが発射される。

すでに海上自衛隊護衛艦の標準装備となっているフェーズドアレイ式多目的レーダーで捕捉した目標に向けて、射撃指揮装置やミサイル専用イルミネーターで誘導される艦対空ミサイルが超音速で飛翔し、わずか数分後、上空に数十の白い火球が生まれ、百以上の黒焦げになった物体が海面に向けて墜落していく。

 

「敵編隊、124機の撃墜を確認!続いて第二射、後続の編隊に命中し、78機を撃墜!また敵編隊後方にて「あまぎ」の艦載機が攪乱を行っております!」

 

「30機程度が第一防空ラインを突破してきました!これよりESSMによる迎撃にかかります!」

 

「ふじ」の甲板上に装備されたMK41VLSのハッチが開き、次々と発展型シースパロー艦対空ミサイルが発射される。フェーズドアレイレーダー式イルミネーターから発振される誘導波に従い、何十もの艦対空ミサイルがワイバーンを次々と粉砕していく。艦対空ミサイルの防空ラインも突破したワイバーンや、〈F‐35JB〉に遊ばれながらもようやく現場海域上空に到達したジェット爆撃機が接近してきたその時、「ふじ」の前方に装備された1基の巨大な砲塔が吼えた。

弾道ミサイルやザイレーン艦に確実な致命傷を与えるべく開発された、24式60口径30.5センチ連装電磁加速砲の超音速の砲撃がワイバーンを貫き、同時に空中で炸裂して、ワイバーンはその炸裂によって生まれた衝撃波の壁に激突する。さらに艦首側に装備されたOTO62口径12.7センチ単装砲が砲撃を開始し、毎分40発の連射速度によって生み出される弾幕がワイバーンや敵ジェット爆撃機を撃ち落としていく。

その砲撃を潜り抜けたワイバーンもいたが、日本国産のCIWSである18式近接防御火器システムの近接防御型艦対空ミサイルと30ミリガトリング砲の餌食となる。台湾艦隊も艦対空ミサイルや対空砲火でワイバーンを撃ち落としていき、制空権をじわりじわりと奪っていく。

やがてはっきりと敵艦影を目視でも捕捉できる様になってきたその時、日本・台湾連合艦隊の対艦攻撃は再開された。

〈E‐767〉からの情報をもとに、竜母に対して優先的に艦対艦ミサイルを振り分け、「ふじ」の艦対艦ミサイル専用VLSから17式改艦対艦誘導弾が発射される。17式改艦対艦誘導弾はマッハ1の音速で敵竜母に突っ込み、次々と撃沈ないし航行不能に追い込んでいく。

その間にも第1護衛隊群と第61任務群は、接近してくる敵機に向けて艦対空ミサイルを撃ちまくり、大量のワイバーンやジェット爆撃機の残骸が海面に音を立てながら墜落していく。そして20分後、上空には1騎のワイバーンもなく、同時にロウリア海軍艦隊の竜母は全滅。制空権は完全に日本・台湾連合艦隊のものと化す。

 

「敵機、全機撃墜!」

 

「よし、このまま押し込め!全艦、ありったけの弾薬をぶつけろ!」

 

宗像の命令に従い、「ふじ」を先頭に対艦攻撃ができる護衛艦が全面に出て砲撃を開始する。そこからロウリア艦隊の地獄は始まった。

戦列艦は甲板上に並んだ榴弾砲を斉射して応戦するが、前方を走る「ふじ」は、ザイレーンとヴェルタの技術を基に開発した『人工重力式防御力場』で砲撃を跳ね返し、逆に30センチレールガンを放って戦列艦を一瞬で破裂させる。砲艦も動き回って臼砲や機関砲を撃ちまくるが、護衛艦は敵の有効射程外から艦砲を撃ちまくり、砲艦は全て返り討ちにされる。

 

「ぜ、前衛艦隊の損耗率、50パーセントを突破!指揮と統制が乱れております!」

 

通信士の報告に、シャークンは静かに目を閉じて俯く。その表情に自信の色は見えなかった。

 

「…もはやこれまでか。後衛は直ちに反転し、撤退を開始せよ。本艦はこれより撤退のしんがりをつとめる。総員直ちに退艦せよ」

 

シャークンの命令に、その場にいた一同は声を詰まらせる。数は未だに相手を圧倒しているとはいえ、たった1発で撃沈ないし航行不能にされ、制空権も完全に喪失した状況下では、これ以上の戦闘はただ損害を拡大させるだけであろう。

シャークンの命令は即座に全艦に通達され、艦隊の一番後方にいた艦から優先的に転進していく。前衛も急いでロウリア側に向かい始め、戦況は一変し始める。

その最中、「偉大なるロウリア」号も必死に砲撃を放って日本艦隊を食い止めようとするが、この時の海上自衛隊護衛艦は、全艦が『人工重力式防御力場』を装備しており、砲撃の半数は瞬く間に弾かれていく。唯一護衛艦側から攻撃が飛んでくる時に力場が弱くなるのだが、それも一瞬の事であり、せいぜい相打ちを狙う事しかできなかった。

やがて「ふじ」の30センチレールガンが「偉大なるロウリア」号を貫通し、側舷砲の弾薬が誘爆を起こす。

戦闘不能となった「偉大なるロウリア」号は、燃料や弾薬の誘爆に遭いながら傾き始め、多くのロウリア艦が戦意を喪失して戦闘をやめる。そこで日本・台湾連合艦隊も戦闘を停止し、ロウリア側に撤退を開始したロウリア艦隊を見送りつつ、救助作業を開始した。

こうしてロデニウス沖海戦は日本・台湾連合艦隊の圧勝に終わった。日本・台湾連合艦隊はほぼ無傷で膨大な弾薬のみを浪費しただけに比べ、ロウリア王国海軍東方征伐艦隊は2000隻近くの艦船と2000騎以上のワイバーンを喪失し、空軍もジェット機を200機近く失うという大損害を負った。

この海上・航空戦力の大規模喪失はロウリア軍の戦略にも大きく影響を与え、陸軍主力部隊は2か月近くの停滞を余儀なくされる事となった。

しかしその時、日本と台湾はすでに次の手を打っていた。




次回、再び陸戦。ただし原作と大きく違う展開となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エジェイ攻勢

再び陸戦回。


西暦2029年6月24日 クワ・トイネ王国 エジェイ

 

戦争が始まって3ヵ月半。クワ・トイネ王国の西の守りである城塞都市エジェイの城壁前には、幾つものテントが張られ、何百両もの車両が集結していた。

 

「池田司令。特科連隊、所定の配置に付きました。空自もすでに準備を整えているそうです」

 

隊員の報告に対し、陸上自衛隊第7師団司令の池田二等陸将は表情を変えずに頷く。

 

「まだクワ・トイネ王国軍の準備が整っていないからあと30分待つように。今回の作戦の主役はクワ・トイネ陸軍だからな。それに相手が自棄を起こしてクイラの方に突っ込んでも困るからな」

 

ロデニウス沖海戦後、日本はロウリア王国から制海権を奪取するのと同時に、陸上自衛隊北部方面隊に所属する第7師団と第11師団を追加派遣する事を決定。さらに制空権も奪取するべく航空自衛隊北部航空方面隊所属の第2航空団をダイダル基地に派遣。同様に台湾も陸軍1個旅団と空軍1個飛行隊を自衛隊・クワ・トイネ軍のバックアップ担当として派遣・展開し、2か月の間に十分な反攻作戦が行える様に準備を整えていった。

ただしこの戦争の主役はあくまでクワ・トイネ王国軍であり、自衛隊と台湾軍はただ彼らの舞台を整える事に注力するだけである。そのためこの作戦の一番の『目玉』はクワ・トイネ王国に譲る事が決定している。

 

「偵察機より報告!ロウリア王国軍陣地にて動きあり!陸軍主力部隊は前進の準備を進めている上に、後方の飛行場には多数のワイバーンと航空機が発進準備を整えているとの事です!」

 

空自の第501飛行隊から情報を受けた隊員からの報告を聞き、池田はようやく司令部天幕に入って来たクワ・トイネ陸軍西部方面団司令のノウと頷き合い、指示を出した。

 

「直ちに空自に合図を出せ。まずは制空権の奪取を行う。敵飛行場の完全破壊が確認され次第、我らも攻撃を開始する」

 

「はっ!ダイダル・コントロール、攻撃許可が下りた!直ちに敵航空戦力の殲滅にかかれ!」

 

エジェイ連合軍司令部から出されたゴーサインに従い、ダイダルの飛行場から〈F‐15DJ〉に〈F‐35JA〉が飛び立ち始める。胴体下や兵器倉内、主翼下には空対空ミサイルやレーザー誘導爆弾が搭載されており、〈F‐15DJ〉が空中の敵を、〈F‐35JA〉が陸上の飛行場と駐機している航空機を攻撃する事となっていた。

総数40機の攻撃隊は、マッハ1程度の巡航速度で西進し、偵察機からの情報に従ってロウリア王国軍飛行場上空に展開する。すでにエジェイに攻勢を仕掛けるために展開していたワイバーンや〈フレスコル〉は、視界外からの空対空ミサイルで瞬殺され、同時に〈F‐35JA〉はレーザー誘導爆弾を投下し、滑走路ごと多くの戦闘機が粉砕される。近くの雑草を刈り取って魔石を等間隔に配置し、魔方陣に近しい滑走路が設けられたワイバーン用飛行場からワイバーンが緊急発進したが、真上からの機銃掃射によって蜂の巣にされ、滑走路上に並べられた魔石も粉砕されると同時に反応を起こして爆発する。

爆発は大地から発せられる魔力と反応して誘爆を呼び、炸裂の炎が拡大する。そして付近の格納庫や弾薬庫にまで及び、巨大な火柱が聳え立った。

 

「第2航空団、敵飛行場への攻撃に成功!敵航空戦力の封じ込めを確認した模様!」

 

「クワ・トイネ陸軍全軍、攻撃準備完了しました。いつでも突撃を行う事が出来ます」

 

各所からの報告が届き、池田は1分だけ目を閉じて瞑目する。そしてカッと目を見開き、命令を発した。

 

「全部隊、攻撃を開始せよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「攻撃、始めー!」

 

特科連隊長の命令と同時に、各所に潜んで準備を整えていたFH‐70牽引式りゅう弾砲や99式自走りゅう弾砲、MLRSなどの陸上自衛隊や台湾陸軍が保有している火砲が火を噴き、前進を開始していたロウリア王国軍の大部隊に大量の15.5センチ砲弾と対地ロケット弾が降り注ぐ。

炸裂の嵐がロウリア王国軍主力部隊を覆い尽くし、混乱が巻き起こる。その様子はエジェイの城壁上からもよく見えた。

 

「ロウリア王国軍第5エリア、壊滅を確認」

 

「よし…戦車連隊、突撃を開始せよ。一点突破からの後方攪乱で敵を総崩れにする!」

 

特科連隊の砲撃で更地のみになったロウリア王国軍陣地の一角に向けて、10式戦車を中核とする戦車連隊が突撃を開始する。ロウリア王国軍は混乱しながらも応戦に入り、突撃してくる自衛隊に向けて機関銃や迫撃砲を放ち、リントヴルムや戦車も直ぐに所定の配置に向かう。

しかし10式戦車の複合装甲の前には無力で、即席の歩兵陣地は120ミリ滑腔砲の砲撃で歩兵ごと吹き飛ばされる。リントヴルムや戦車も、反撃のために移動する途中に10式戦車に狙われ、たちまちAPFSDSの餌食となっていく。

エジェイに向かっていた主力部隊の混乱は即座にギムの前線司令部に伝えられ、パンドールは顔を青くしながら参謀達と会議を開いていた。

 

「これは大変不味い事になってきた…まさかエジェイ方位陣地の一角がこうも容易く崩されるとは…」

 

この時ロウリア王国軍は、2か月程かけてエジェイより15キロの地点に三日月型の陣地を構築し、半包囲する形で総攻撃を行おうと画策していたのだ。

しかし、陸上からの総攻撃と同時に敵航空戦力を殲滅する筈の飛竜騎士団や機械飛竜が敵の先制攻撃で叩かれ、それと同時に敵はロウリア王国軍の保有する火砲全てを超える射程距離を持つ火砲で陣地の一角を粉砕。そこに機械地竜を中核とした突撃部隊を突入させ、三日月形の陣形を分断したのだ。

そこから先は自衛隊側のターンであった。手薄な後方に回り込んだ機甲部隊は、特科連隊の長距離砲撃で混乱を来し、陣形が薄くなった地点に向けて突撃を繰り返し、50万以上の将兵で構成された陣地をずたずたに引き裂く。そして複数の小規模なグループに分裂したところを狙って、機甲部隊は各個撃破戦術に切り替えた。

元からロウリア王国軍の装備よりも威力の高い兵器を持つ自衛隊は、最も弱い部分を念入りに突いて全体の規模を縮小させ、数的劣勢を瞬く間に覆す。少数ながら機動性と火力の高い突撃にロウリア王国軍は翻弄され、気付けばエジェイを包囲しようとしていた50万の大軍勢は、砲撃の雨と突撃の連続によってたちまち20万程度にまで縮小していた。その20万も師団は愚か一部隊として大隊規模を維持しているのは指で数える程しかなく、部隊再編を行う暇も全くなかった。

 

「…このままでは不味いですな。閣下、私は一度王都に戻り、増援を要請してまいります。先程入った情報ではクイラ王国方面もかなり苦戦して兵力の大部分をこちらに向かわせる事が出来ない模様なので…」

 

同じ様に顔を青ざめていたアデムはそう言って司令室から退出し、それを見送ったパンドールは険しい表情を浮かべながら呟く。

 

「斥候からの情報では、敵はたったの2万程度だという。なのにそのたった2万で50万の大軍勢を翻弄するとは…!」

 

パンドールの叫びに対し、副官達も顔を青くして俯く。

その時、外から轟音が響き渡り、同時に一人の兵士が顔を青くして飛び込んできた。

 

「か、閣下!敵襲です!クワ・トイネ軍が直接ここに攻めてきました!閣下は早くここからお逃げ下さい!」

 

「なっ!?は、早過ぎるぞ!敵はエジェイ攻撃部隊と交戦していた筈ではないのか!?」

 

パンドールが錯乱状態に陥る中、市街地を何十両もの装甲車が走り回り、ロウリア王国軍兵士は必死に銃を手に取って応戦するが、それでも台湾陸軍方式訓練を綿密に叩きこまれたクワ・トイネ陸軍兵士の手を煩わせる程度であった。

2時間後、ギムのロウリア王国軍戦線司令部はクワ・トイネ王国陸軍機械化大隊の奇襲を受け、応戦の甲斐なく降伏。それと時を同じくしてクワ・トイネ王国に侵攻していた部隊の残存兵20万も降伏し、後にエジェイ会戦と呼ばれる陸上戦はクワ・トイネ王国・日本・台湾連合軍の圧倒的勝利に終わったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「エジェイの陸上自衛隊第7師団より入電!ロウリア王国軍クワ・トイネ王国侵攻部隊を撃破したとの事です!」

 

首相官邸の地下にある会議室に、自衛隊からの一報を受けた政府補佐官の報告が響き渡り、多くの閣僚が感嘆の声をあげる。

 

「おお、あの大軍相手に勝つ事が出来たのか…」

 

「我が方の損害は非常に軽微なり。またクワ・トイネ陸軍は当初の予定通り、ギムに居座っていたロウリア王国軍現場指揮官を捕らえる事に成功したとの事です!」

 

戦勝報告に多くの官僚が沸き立つ中、自衛隊の最高司令官である富水は一つも表情を変えず、小声で呟く。

 

「これで陸上でも有利に運ぶ事が出来た…後は、この事とロウリア王国の戦争理由を国際会議の場に持ち込み、同時に黒幕達の動きを封じるだけだ…」

 

富水はそう言いながら、受話器を手に取る。そしてある場所に連絡を取り始めた。

 

「直ぐにホワイトハウスに繋げてくれ。電話会談を行いたい…今の大統領なら、前向きに動いてくれるはずだ」




次回、終戦。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終結、ロデニウス戦役

次回予告にてお知らせが一つあります。


西暦2029年6月25日 アメリカ合衆国 ワシントンDC

 

ホワイトハウスでは、アメリカ合衆国大統領のジョンストン・ブラックウッドが補佐官達と話し合っていた。

 

「日本と台湾、クワ・トイネ王国が我が国に対して、ロデニウス大陸で起きている戦争に対する介入を要請してきた。これについてどう思うか諸君?」

 

ブラックウッドの問いに対し、補佐官の一人がタブレット端末を片手に説明を始める。

 

「ロウリア王国はかなり前から、国民感情とは異なる亜人廃絶政策を行っており、周辺国に対してかなり人種差別的な発言を繰り返しております。インド洋に現れた大陸…ミリシエント大陸のエモール王国も同様の発言を行っていますが、あちらは状況が違い過ぎて比較にはなりません。神聖ザイレーン帝国戦の時に墜ちた我が国の権威を取り戻し、かつ国連の機能を完全に復活させるためにも、我が国が動いて国際的な世論の下でこの戦争を終わらせねばならないでしょう」

 

神聖ザイレーン帝国との戦争が終結して14年。アメリカは再び中東を中心に在外米軍の展開を始めていたが、北米大陸周辺の状況が未だに不安定な事もあり、その規模は小さかった。その中でロシアと中国が好き勝手に動き回っており、ブラックウッド自身もそろそろアメリカの世界に対する影響力を復活させようと考えていた。

 

「それともう一つ。日本国政府より、安全保障理事会にて中国とロシアのフィルアデス大陸に対する干渉・進出政策を停止させてほしいとの要求もありました。パーパルディア皇国からも同様の要請がありましたし、そろそろあの二ヵ国に再び釘を刺しておいた方がよろしいかと」

 

「皇国もそろそろ中露の干渉から逃れたいだろうしな…いいだろう。直ちに国連安全保障理事会にてロウリア王国に制裁を行うべきかどうか話し合ってから、同時に国連総会でロシアと中国の動きを封じてやろう」

 

数日後、国連安全保障理事会にて、ロウリア王国の人種差別政策及び対外侵略行為に対する非難決議を採択し、多国籍軍派遣による武力制裁が議決された。同時にロウリア王国をパーパルディア皇国経由で支援していると見られているロシア・中国に対するフィルアデス大陸への過度な干渉に対する非難決議も国連総会で採決され、1ヵ月以内にアメリカを中心とした多国籍軍が治安回復の名目で派遣される事となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

中華人民共和国 北京

 

「してやられたな…」

 

中南海の国家主席執務室で、国家主席は忌々しそうに呟きながら外を見る。補佐官は顔に汗を垂らしながら答える。

 

「アメリカはすでに1個空母打撃群をベリアーレ海艦隊としてヴェルタ連合王国に展開し、ヴェルタ連合王国の監視を兼ねて我が国の牽制を行っております」

 

神聖ザイレーン帝国という目の上の瘤が解決したアメリカは、そこでようやく本来の対立相手である中国・ロシア対策に本腰を入れ始めていた。

まず手始めに、第三文明圏で魔物という共通の敵を持つトーパ王国と国交を結び、フィルアデス大陸への進出口を確保。そこから日本や台湾と国交を結んでいるクワ・トイネ王国にクイラ王国、アルタラス王国といった文明圏外の国々とも関係を構築し、小規模ながら米軍施設を建設していた。

そのため第三文明圏外はほとんど西側諸国の支配地域と化し、これ以上のロシア・中国のフィルアデス大陸への進出を妨げていた。

無論、ロシア・中国側はこのアメリカの行動を警戒していたが、これまで軍事行動らしき事をしてこなかったので、対応は後回しにしていた。だが最悪な事に、安全保障理事会にてロシアと中国はロウリア王国の制裁(フルボッコ)に賛成してしまっていた。

 

「たかが皇国より圧倒的に劣る国に制裁を与えるだけだったが、『旧ソ連軍製に酷似した兵器を多数保有している』という理由で我が国にも制裁が及ぶ事となろうとは…!」

 

「そしてロウリアに支援していたパーパルディアと、各種協定を結んでいる西朝鮮はしらばっくれていますし…これはまずい事になりましたね…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2029年8月3日 ロウリア王国 王都ジン・ハーク

 

ハーク城の大広間では、ハーク・ロウリア34世をはじめとする王国首脳の面々が顔を青くしながら話し合っていた。

 

「まさか、日本と台湾の参戦から、あんな化け物共の参戦も招く事となろうとは…」

 

パタジンの呻きに、多くの閣僚が同感とばかりに頷く。

7月に入り、アメリカ・イギリス・日本・台湾四国の連合艦隊が北部のハーク・ポート沖合に展開し、視界外からのミサイル攻撃や多数の艦載機による遠距離空爆によって、ロデニウス沖海戦でボロ負けしたばかりの東方征伐艦隊とハーク港の海軍基地を壊滅させると、今度はジン・ハークの城壁や王都防衛騎士団駐屯地を爆撃。当然ながら士気はガタ落ちし、厭戦気分がこの場に満ち溢れていた。

 

「…相手から何か言って来たか?」

 

ようやく口を開いたハーク・ロウリア34世の問いに対し、マオス首相は顔を暗くしながら答える。

 

「…我が国の降伏勧告受諾と、クイラ王国に展開している軍全部隊の戦闘停止及び撤退です。それを受け入れねば、ジン・ハークはロデニウス大陸の地図から消える事となる、と」

 

その答えに対し、多くの閣僚が思った。

かつて古の魔法帝国や魔王軍と対峙した数万年前の祖先達は、この様な空気の中で必死に生存の道を探していたのか、と。するとハーク・ロウリア34世はパタジンに尋ねた。

 

「…パタジンよ、現在動員可能な軍の規模は?」

 

「…陸軍は現在、王都護衛騎士団と西部に配置している軍のみ自由に動かせます。ですが、相次ぐ敵の爆撃により複数の工業都市や城塞が破壊され、人員のみで約20万人、装備も工業都市の爆撃により不足が目立ち始めております。海軍は基地自体が破壊され、艦船も全て喪失。…空軍はどうにか200機程度を稼働状態で置いていますが、滑走路が破壊されている上に敵機との性能が隔絶しており、制空権は完全に喪失しております…」

 

悔しそうな表情を浮かべながら報告するパタジン。その苦悶の表情を見たハーク・ロウリア34世は、小さくため息をつく。そして顔を真正面に向けて決断した。

 

「…直ぐに電気型無線通信機で降伏を伝えよ。これ以上国土と民が荒らされるのは見るに堪えぬ。余の首一つで国が生き残るのならば、喜んでその首を彼らに差し出そう」

 

「へ、陛下…」

 

国王の決断に、多くの閣僚が涙を流し、拳を握り締める。

1時間後、ハーク・ポートに上陸し、王都に向けて進行を開始していた陸軍主力部隊に対して降伏勧告の受諾が伝えられる。そして多国籍軍はジン・ハークに無血入城したのだった。

こうして、ロウリア王国の野望から始まったロデニウス戦役は、多国籍軍の介入によってロウリア王国の敗北という形で終結を迎えた。

ハーク・ロウリア34世と亜人廃絶政策を進めていた関係者は『人道に対する罪』で逮捕され、ロウリア王国自体は国連が設置した『ロデニウス大陸安定化実行委員会』の管理下に置かれたのだった。

戦争は確かに終わった。しかし、大国の介入によって終わったはずのこの戦争は、後に第三文明圏を中心とした大戦争の種火である事を、当時の誰も知る由がなかった。




次回以降は本当に不定期となります。というのも次回は14年の間の神聖ザイレーン帝国とアメリカの様子を書く予定となっており、確実に矛盾のない話を書き上げるためにその余裕を確保するためです。
多分1週間以内にできるかと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。