ポケモンの世界に転生したけど、なぁにこれぇ (パルモン)
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ホウエン地方編
プロローグ:遊戯vs海馬


ポケモンって何歳になっても楽しいよね


 俺たちが生活している現代。

 それが過去……いや、古代の時代と呼ばれるまでの未来の世界。

 

 その世界ではポケットモンスター、通称ポケモンという生物が世界中に溢れ現代の生物がほとんど存在しない世界になっていた。

 ポケモンは人類と共存するものもいれば、野生のもの、時には人類にとって脅威となるものもいる。

 

 人類はそんなポケモンを捕獲する装置、モンスターボールを開発し、捕まえたポケモンを育てバトルしたり、共に生活したり、時にはコンサートに出場したりなど、あるゆる面でポケモンの力を借りて生活している。

 

 なぜ、こんな話をしているのか? 一言で言えば俺は生まれ変わったのだ。それも第3世代の主人公ユウキに。

 

 やだ、これヒロインはハルカ? 

 

 俺の前世はポケモンが現れる前、ポケモンはゲームやアニメで登場する架空の生物だった時代だ。

 

 もちろん俺は小さい頃からポケモンで遊び、アニメや映画も見た。

 正直この世界に自分が今いることはまだ夢じゃないかって思うほど興奮してる。夢にまで見たリアルポケモンワールド。

 

 つまり、ゲームみたいにグラフィックの向上のために連れてこれるポケモンを制限されたりなどしない、捕まえさえすればどの地方にでも連れて行けるというこの幸福! そして、実際に見て触れる祝福! 感動だ!! 

 

 それにホウエン地方は俺が好きなポケモンが勢揃いじゃないか! 

 

「よぉーし! 頑張るぞー!」

 

「ユウキ、ちょっとうるさいわよ」

 

「あ、はい、すみませんでした」

 

 母さんに叱られてしまった。

 今俺はゲームと同じくミシロタウンに引っ越して来て、引っ越しの手伝いをしている。ヤルキモノがフル稼働で家具を運び、30分ほどで完了した。

 

 ゲーム内では小さなエリアだったが、現実となると意外と大きく、家もそれなりにあった。周囲は森に囲まれており、古風な田舎といったところだろうか。なんとなく、俺の前世の実家と似たような場所だ。

 

 

 ちなみに俺は今年で16歳になる。え? 冒険に出るのが遅いって? たしかにアニメだとサトシは10歳で旅に出てるが、これは現実だ。小学生が1人旅など親が許してくれない。学校で勉強して、一般教養を身につけてからと両親に言われた。

 中学校を卒業すればポケモントレーナーになれるという流れだったが、親の仕事の手伝いをしていたため、予定より少し遅めの旅立ち、という設定で、俺が転生した時にはもう旅に出る数日前の状態だった。まぁ旅に出る前からポケモンとはいくらでも触れ合えたからいいけど。

 母さんが持っているポケモンはチルタリス、この雲のようなふわふわの羽毛は堪らん気持ちいい。

 

「チルー!」

 

 嬉しいことにチルタリスはかなり俺に懐いてくれている。作業が終わるとかまってくれと言わんばかりに顔を引っ付けてくる。

 

「待て……! そんなことされたら萌え死んじまう!」

 

「ふふっ、相変わらず仲がいいわね。せっかくだし2人で散歩でも行ってきたらどう?」

 

 確かに豊縁と書いてホウエン地方だ。自然豊かなここは空気も新鮮で風通しも良い。散歩には最適だ。

 

「よーし、じゃあ父さんのところまで行くか! チルタリス!」

 

「チルっ!」

 

「気をつけて行くのよ」

 

「了解の助!」

 

 勢いよく家を出るとドアの前に立っていた男性と正面衝突した。

 

「貴様ぁっ!」

 

「いやいやいや! ちょっと待って! 落ち着いて!」

 

 少々ぽっちゃりな体系だが、顔はそこまで太っておらず白衣に身を包んだ姿を見てすぐに誰でもあるか理解した。

 

「あれ? オダマキ博士?」

 

「なんだ、知ってるのか……って君、センリ君の息子のユウキ君じゃないか!大きくなったね!」

 

「あ、ども」

 

 俺の父さんの名前はセンリ。トウカシティでジムリーダーをすることになり、こうして引っ越してきたのだ。

 

「センリ君は今いるかな?」

 

「父さん? 父さんは今ジムにいるよ。今から向かおうと思ってたとこ」

 

「それなら丁度いい! 僕もセンリ君に挨拶しておこうと思ってたんだ」

 

 おいおい、まさか一緒に行くってか? こっちはチルタリスに乗ってのんびり行こうと思ってたのに。

 それにこれ絶対博士ジグザグマに追いかけ回されるフラグじゃん。

 

「ユウキ、いいんじゃない? 一緒に行って来なさいな」

 

「うぐっ……母さんに言われたんじゃ仕方ないか」

 

「そんなに嫌かい!?」

 

 結局博士と一緒にトウカシティに向かうことになり、まずはコトキタウンに向かう。

 コトキタウンは森を抜ければすぐに着く。ポケモンセンターやフレンドリィショップがあり、何も無いミシロタウンの住人はコトキタウンに買い物に行くことになる。

 

 森に入ると既に出口が先に見える。草むらに入るとどこからか鳴き声が聞こえて案の定ジグザグマが飛び出してきた。

 

「え? ちょ! うわぁー!?」

 

「よし、チルタリス! 博士が囮になってくれてる間に行こう!」

 

「いや待ってぇ! 違うから! 追われてるから! 囮じゃないから!」

 

 ジグザグマの突進に全力で逃げ回るオダマキ博士をこのまま放置してもいいが、それだと後先図鑑をもらえないという事態になりかねん。

 

「チルタリス、りゅうのいぶきで牽制だ」

 

「チルーっ!!」

 

 少々手加減した攻撃をジグザグマの横に出したことで、ジグザグマは驚いて森の奥に逃げていった。

 

「いやぁ、驚いた。たまに野生ポケモンに追いかけ回されることがあるんだが、今回はユウキ君がいて助かったよ」

 

 それ絶対結構な頻度で追いかけ回されてるよね? 

 

 その後すぐに森を抜けコトキタウンに着いた。コトキタウンの隣にある街がトウカシティだ。

 

 フレンドリィショップでオダマキ博士は先程助けてもらったお礼として飲み物を奢ってくれた。丁度喉も渇いていたため素直に嬉しかった。もちろんチルタリスの分も奢ってもらった。

 

 一息ついた後、トウカシティに向かい町の中央にあるポケモンジムに入った。

 

「おお、ユウキよく来たな。それにオダマキ博士も」

 

「やあセンリ君。トウカシティの新たなジムリーダーとしてこれからもよろしくお願いするよ」

 

「はい、ユウキがいつかバッチをかけてこのジムに挑んでくる日を楽しみにしていますよ」

 

 

 その後、俺をそっちのけで大人同士の会話が淡々と続いた。俺も前世の記憶があるため、中身は大人と変わらない。とはいえ、蚊帳の外にされていては退屈極まりないものだ。

 

 しばらくしてやっと会話が終わり、オダマキ博士はこの辺りでポケモンの観察を行うそうだ。

 俺はチルタリスに乗ってミシロタウンに一人で帰った。

 

「ただいまー」

 

「おかえりユウキ。お父さんと会えた?」

 

「まあ会えたけど、オダマキ博士とずっと話してて俺は蚊帳の外だよ」

 

 俺の言葉に母さんは苦笑した。明日旅に出る息子ともっと話したいとは思わなかったのだろうかと思ったが、あれはあれで父さんらしいといった感じだ。変に心配されるよりいつも通りの方が良かったのかもしれん。

 

「それにしても早いわねー。もう明日旅に行っちゃうなんて少し寂しいけど、きっといろんな人に出会っていろんなポケモンと冒険できるはずよ。あ、でも無理は禁物よ。体調には気をつけてね? それと困っている人がいたら助けてあげること。ポケモンには優しくしてね? バトルに負けたからってやつあたりしちゃだめよ? ポケモンも頑張ったんだから怒るんじゃなくて励ましてあげないとね? あとは……」

 

「ああ! 大丈夫だよ! 母さん! 心配してくれるのは嬉しいけど、俺もう子供じゃないんだから」

 

「……ふふっ、そうね。なら、明日に備えて今日は御馳走にしないとね!」

 

 母さんはそう言うと張り切って台所に向かった。

 俺は甘えてくるチルタリスを撫でながら椅子に座りテレビのチャンネルを変えた。

 

『さあ! ポケモントーナメント決勝戦です!』

 

「お、そういえば今日は決勝戦か」

 

 テレビではこう言った大会などをテレビ中継で見ることができる。ポケモンバトルは一つのエンターテインメントでもあるのだ。

 

 このトーナメントは見ておらず誰が参加しているのかも知らなかったが、決勝戦だし少し見てみることにした。

 俺が熱中してみるものは年に2回行われるポケモンリーグだ。いつか俺もあの舞台に立ちたいと毎回強く思う。

 

『では! 決勝まで勝ち抜いた両者の登場です!』

 

「誰なんだろうなぁ」

 

『まず赤コーナー! 武藤遊戯さん!』

 

「……は?」

 

 いやいや待てよ、ここはポケモンの世界だ。そんなカードゲームの主人公がいるわけがない。同姓同名だろう。全く驚かせやがって。

 

 豪快な煙が発射され、扉が開くとゆっくりと男が歩いてくる。

 

 だが、その男のシルエットはどう見てもそれだった。見間違えるはずがない。星の上半分を切り抜いたような髪型、どこでも学校の制服を着用し、その目は正に()()()()()()()()()()()

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 これどういう世界観? あれ? ここポケモンの世界だよね? だってジグザグマいたもん。チルタリスいるもん。今俺撫でてるもん。

 

『続いて青コーナー! 海馬瀬戸さん!』

 

「しゃ……社長……だと……!」

 

 予想はしたが、まさか本当に海馬とは……

 

『海馬!このデュエル、俺が制してみせるぜ!』

 

 いや、決闘(デュエル)じゃないから。これポケモンバトルだから。

 

『ワハハハ! 遊戯! 俺は貴様を倒し決闘王(デュエルキング)になる!』

 

「だぁからポケモンバトルな」

 

「ユウキ?どうしたのー?」

 

「あーいやなんでもないよ。あれ?ユウキ……遊戯……名前似てんな!どうでもいいけどぉ!」

 

 会場は二人の登場で一気にヒートアップ。夕焼けが二人のデュエリストを照らしまさに宿命の対決に相応しい場になっている。

 

『行くぞ遊戯!』

 

『こい!海馬!』

 

『『決闘(デュエル)!!』』

 

「もうツッコムのもめんどくせえ」

 

「……チルー」

 

 何故二人がこの世界にいるのかわからないが、会場は大盛り上がりだ。もしかしてこっちの世界でもあの二人は有名人なのか? この世界に来て一度も耳にしたことがなかったのだが。

 

 もしかして俺の記憶がこの世界に反映してる? いやいや、まさかな。

 

 そうこう悩んでいるとバトルが始まった。

 

『これが俺の切り札にして、最強の僕!! いけ! ブラック・マジシャン!(フーディン)』

 

「その名前で出すんかーい」

 

「チル……」

 

『ふぅん……俺はこいつだ!グリムリン(グラエナ)を召喚!』

 

 おいおい、遊戯さん最初からエースモンスター出してきたよ。てか相性悪!絶対グラエナ有利じゃん。

 

『お前がグリムリンを出すことは読めていたぜ!』

 

『なに!』

 

 読めてたならなんでフーディン出したの?かくとうタイプ出しなよ。

 

『遊戯、お前が何を企んでいるか知らんが、この相性でどう立ち向かうつもりだ?ワハハハハっ!いけぇ!グリムリン!かみくだく!』

 

『ブラック・マジシャン!避けろ!』

 

 フーディンはグラエナのかみくだく攻撃を紙一重でかわし、追撃の姿勢を見せる。

 

『今だ!かなしばり!さらに、でんじはで追加攻撃!』

 

『くっ……!貴様ぁ!』

 

 なるほど、かなしばりでグラエナの攻撃を封じた。さらにでんじはで動きを鈍らせる。これでフーディンが一方的に攻撃ができるというわけだ。

 

『これで決めるぜ!ブラック・マジシャン!きあいだま!!』

 

 フーディンの手のひらに強力な気が集められそれが球体となり具現化する。その玉を痺れて動けないグラエナに投げ飛ばす。

 

『グォォオッ!!?』

 

 効果はバツグンだ!

 

 きあいだまにより一撃でグラエナは戦闘不能になった。やはりフーディンは特攻がかなり高い。さらにきあいだまの威力もあり一撃で倒れるにも納得がいく。

 

『流石だなと言ってやりたいが、この程度問題にもならんわ!』

 

 グラエナ可哀想だなおい。

 

『見せてやる!俺のプライド、そして俺の魂!』

 

 まさか、あのモンスターを!?

 

『いでよ!青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)(ボーマンダ)!!』

 

 ボーマンダかよ。てか白くないし。

 

『くらえ!滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)(はかいこうせん)!!』

 

 ボーマンダのはかいこうせんがフーディンに炸裂、大ダメージを受けフーディンは吹き飛ばされる。

 

『ワハハハハ!強靭!無敵!最強!』

 

『何勘違いしてやがる……』

 

 フーディンはボロボロになりながらも立ち上がる。フラフラとした足取りではあるがその目に宿る闘志はまだ消えていない。

 

『ひょ?』

 

 いや、海馬がそれ言うんかいww

 

『俺のブラック・マジシャンはまだ戦闘不能になってないぜ!速攻魔法発動!狂戦士の魂(バーサーカー・ソウル)!!』

 

『まさか……!』

 

 遊戯が持っているキーストーンがフーディンに反応、フーディンはメガシンカした!

 

『これが俺とブラック・マジシャンの絆だ!』

 

 すかさず遊戯はフーディンに技を命じる。

 

『いけ!ブラック・マジシャン!黒・魔・導(ブラック・マジック)!!』

 

『ガァウゥウウ!!?』

 

 フーディンのシャドーボールがボーマンダの顔面に命中。メガシンカしたことにより威力が増大したシャドーボールは確実にボーマンダの体力を削る。

 

 しかし、相手のボーマンダも十分な育成をしている。大ダメージを受けたもののまだまだ戦えると咆哮をあげフーディンを威嚇する。

 

『ふぅん……勝ったと思ったか?』

 

『くっ……』

 

 余裕の笑みを見せる海馬は腕に巻いてるキーストーンを掲げる。

 

『見るがいい!これが最強の称号を持つにふさわしいポケモンの姿だ!』

 

 海馬の持つキーストーンがボーマンダに反応、ボーマンダはメガシンカした!

 

『わははははっ!これがブルーアイズの究極の姿だ!いでよ……我が最強の僕、青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)!!!』

 

『まさか!?』

 

 メガシンカしたボーマンダはまさにドラゴンタイプのトップを競うステータスを誇るにふさわしい姿になった。

 

『これで終わりだ!全てを薙ぎ払え!アルティメット・バーストォオ!!!』

 

『ぐあぁぁぁあ!!』

『……っ!!?』

 

 ボーマンダのりゅうせいぐんがフーディンと遊戯に命中、2人は吹き飛び地面を転がる。

 フーディンは戦闘不能になり、遊戯は傷を負いながらもなんとか立ち上がる。

 

『わははは!粉砕!玉砕!大喝采!!』

 

『……俺は負けない!俺のターン!』

 

 遊戯は腰に巻いているベルトに取り付けているモンスターボールを取り出し新たなポケモンをくり出す。

 

『見せてやるぜ……神の姿を!』

 

『なに!?遊戯……貴様まさか!』

 

 え?神?もしかして……

 

『神の召喚!!いでよ……オシリスの天空竜!!(レックウザ)」

 

『オ……オシリス……だと……?』

 

 え?レックウザさん登場早くない?まだ俺冒険出てないんですけどぉ?レックウザのイベント見らずに終わる感じこれ?ちょっと嘘でしょぉお!?仮にもエメラルドのパッケージ飾ったポケモンだよね?メインポケだよね?

 

『オシリスの攻撃!超電磁波サンダー・フォース(かみなり)!!』

 

『ボオァァ!!』

 

 レックウザのかみなりが命中、フーディンのシャドーボールを受けていたこともありその一撃でボーマンダは倒れた。

 いよいよ追い詰められた海馬、しかし、その顔は不敵な笑みを浮かべていた。

 

『いいだろう……ならば俺も神を拝ませてやる!我が絶対の僕よ……我が領域に君臨せよ!オベリスクの巨神兵(グラードン)!!!』

 

 グラードォォン!!だから展開早いって!なんでこうも看板ポケモン出てくんのぉ!もうカイオーガしかいないじゃん!絶対顔芸(マリク)が持ってんじゃん……全然ラーに連想できないけどもぉ!

 

『ふっ……ここでオシリスの効果発動!召雷弾!!』

 

 普通にでんじはだよね……

 

『甘いわ遊戯!オベリスクはじめんタイプ。貴様の召雷弾など効かぬわ!』

 

『なにっ!?』

 

 あ、そこはちゃんとしてるんだ。

 

 彼らの『俺ルール』はこの世界ではないことに少しホッとした。

 

『いくぞ!ソーラービームだ!』

 

 グラードンは光を吸収し始める。だが、この勝負圧倒的にグラードンが不利だ。ひこうタイプのレックウザにじめんタイプの技は効かない。ましてはくさタイプ技のソーラービームはドラゴン・ひこうタイプであるレックウザにいまひとつだ。

 

『海馬、この勝負もらったぜ』

 

『なに……?』

 

『まだ気づかないのか?俺の真の狙いを!』

 

 そうか、レックウザは確かメガシンカの起源。未だ謎が多いポケモンの1匹だ。てか、遊戯が持ってるなら解明できんじゃね?

 

『オシリスのもう一つの効果!オシリスが場にいる限り、天気の影響を全て無効にする!エアロック!!』

 

『なにぃ……!』

 

『行くぜ海馬!』

 

 遊戯の掛け声に応えるようにレックウザが吠える。その声は空気を震えさえ、画面越しの俺ですらもその気迫に押された。

 レックウザの体が光を放ちその姿をさらなる進化した姿へと変化させる。

 

『メガシンカ!これが原始の神の姿、こい!メガレックウザ!』

 

『ギャォォオオ!!!』

 

 突き出した顎から生えた髭に粒子が流れ、バチバチと弾けるような音が響く。

 周囲はメガシンカしたレックウザの影響で乱気流が発生、中継しているカメラが揺らされて映像も揺れている。

 

『くっ……!これほどとは……遊戯ぃ……貴様ぁ!』

 

『これで終わりだ。オシリスの攻撃!ガリョウテンセイ!』

 

 レックウザは天に昇るように蛇行し一気に上昇した後、グラードンに向かって急降下して突進する。それは雷を纏った流星の如く、異常とも言える速度で敵を襲う。

 

『グオッ……オォォ……』

 

『ぐあぁぁぁ!』

 

 グラードンほどの巨体が軽々しく宙を舞い地面に叩きつけられる。その激しい突風に海馬を吹き飛ばされ地面を転がる。

 

 審判もなんとか立ち上がりグラードンの様子を見る。当然あれほどの攻撃を受けたグラードンは戦闘不能、手持ちがいなくなった海馬の負けが確定した。

 

『し、勝者!武藤遊戯ぃ!』

 

『俺の勝ちだ!海馬!』

 

『『……っ!!ワアアアア!!!』』

 

 遅れて観客が歓声を上げる。白熱したバトルの末、新たなるチャンピオンの誕生に熱狂する。

 

 その様子を画面越しに見ていたユウキはソファに体を委ね、一息ついて呟いた。

 

「……なぁにこれぇ」

 

 明日からいよいよ始まる冒険にユウキはただ天井を見上げもう一度ため息をついた

 

 




物語はまだ進まない……!


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俺のAIBOはイーブイ一択なんじゃボケ

AIBOとは遊戯王ネタでよく使われる闇遊戯じゃない方の遊戯のことを示す言葉です。闇遊戯はATMです。


 翌日。

 

 カーテンの隅から差し込む太陽の日差し。眩しいぜぇ。俺は今日からポケモントレーナーになる。そしていろんな地方を巡っていろんなポケモンと会って、俺は癒されたい。

 

 さぁ!無限の出逢いが俺を待っている!

 

「ユウキ!今日は昼から嵐みたいよ。出発は明日にしたら?」

 

 なぁにこれぇ。

 

 

 

 

 ホウエン地方編

 第1話『嵐の後に』

 

 

 

 

 朝食を食べ終え空を見ると確かに朝方の天気から急変して雲行きが悪くなってきた。旅を始めて早々に豪雨に濡らされるとかどこかの永遠の10歳ポケモントレーナーじゃあるまいし、ここは1日待って明日に出よう。焦ることはない。ここには俺の癒しのチルタリスがいる。

 

「あ、そうだ。なんなら今日博士からポケモン貰って今日一日で少しでも仲良くなろう」

 

「あ、いいんじゃないそれ?なら早めに行っておいで」

 

 母さんからの許可を得たため俺は運動できる服装に着替えて部屋のドアを開けた。

 

「チル!」

 

「お、チルタリスも来るのか?」

 

「チルッ!チルー!」

 

 頭を擦り付けてきたチルタリスを優しく撫でる。それを気持ち良さそうに肩に頭を乗せてくる。可愛い過ぎだろぉが!ちくせう。

 

 ついてきたチルタリスを撫でながら家を出てもう一度空を見上げる。空模様はどんどんドス黒くなっており早く行かないと大雨に晒されそうだ。

 駆け足で博士のいる研究所に向かう。ゲームと同じく家から研究所までは走ると2分で着く距離だ。そういえば言い忘れていたが、隣の家はハルカの家であるが、あいにく既に旅立っているためハルカルートは無さそうだ。無念。

 もちろん理由は他にもある。俺も驚いたがこの世界にはなんとサトシがいるのだ。今はサトシとの旅を終え、ジョウト地方に一人旅に出ているそうだ。まぁ、知ってるんだけどね。

 この話はハルカの弟マサトに聞いた。安定の緑のポロシャツに半ズボンの姿だったが、彼も9歳となっており、来年から取れるポケモントレーナーの資格のためにさらにポケモンについての勉強に熱を入れているそうだ。

 

 俺の予想ではあるが、マサトはジラーチやデオキシス、ラルトスなど、エスパータイプのポケモンとの縁があるため将来はエスパー使いのスペシャリストになるだろう。

 

 そうこうしているうちに博士の研究所に着いた。インターホンを鳴らすと中からどうぞと返事が返ってきたためドアを開けて中に入る。

 

「……広いなぁ」

 

 中には精密機械がずらりと並び、数人の白衣に身を包んだ研究員がパソコンを打ったり、スクリーンに映ったデータを見ながらノートに書き留めている人など、研究所らしい空気が漂っている。

 

「やあ!ユウキ君」

 

 奥からオダマキ博士が歩いてきた。その手にはモンスターボールが一つ握られている。

 

「今日ここに来たということは最初のポケモンを貰いにきたんだね」

 

 そういう博士の顔は少し引きずっているようだ。

 

「何かあったんすか?」

 

 博士は頭をポリポリとかきながら申し訳なさそうに答えた。

 

「本当に申し訳ないんだけどね、君に選んでもらおうとしたアチャモ、キモリ、ミズゴロウの三匹がみんな体調不良なんだよ。おそらく最初に風邪をひいたアチャモからみんな感染しちゃったんだよね」

 

 なるほどと俺は相づちをうつ。その報告については別に落ち込んだりはしない。なぜならば……

 

「博士、俺のAIBOはイーブイ一択なんじゃボケェい!」

 

「え?よくわかったね、このモンスターボールの中に入っているのがイーブイだって」

 

「はははっ!そのくらい当然……ゑ?」

 

「……え?」

 

「え?」

 

 その場がシンと静まりかえる。

 

「え?イーブイなの?」

 

「う、うん」

 

「本当に?」

 

「なかなか珍しいだろ?つい昨日の夜にこのイーブイが研究所に迷い込んだんだ」

 

「見せて」

 

「いいよ」

 

 博士がヒョイとモンスターボールを投げるとポカンと定番の音を立てて中からポケモンが出てくる。そのシルエットは見間違えようのない俺が望んだ姿だった。

 

「イーブゥ!」

 

 元気良く出てきたイーブイは大きな尻尾をフリフリとしながらこちらを見てる。

 

 ユウキはどうする?

 たたかう

 叫ぶ ← 

 チルタリス

 逃げる

 

「うぉぉおぉおおおおおおっ!!イー!ブッイィイ!!」

 

 ユウキはガッツポーズをして叫んだ。彼の発狂に周りの人はみんな引き気味で彼を見つめた。

 

「ありがとう!創造の神、アルセウス!全ての生き物に乾杯!」

 

「ユウキ君、少し落ち着いたら?」

 

 その後博士の説明を聞き流して勢いよく研究所を飛び出し自宅に向かう。

 

「イーブイ、これからよろしくな!モフモフモフ」

 

「イ……イブッ(ユウキ撫で過ぎだよ!)」

 

 ひたすらモフられ続けるイーブイだが、イーブイ自身無邪気で甘えん坊なため悪い気はしなかった。むしろ初対面でここまで自分を受け入れてくれる彼のもとならきっと楽しそうだと思った。

 

「やべぇ、これは想像以上のモフモフだ……今まで画面越しにひたすら撫でていたが実際に触れる日が来るとは……!ポケモンサイコー!イーブイサイコー!チルタリスサイコー!ポケモンライフエンジョイ!」

 

「イブイブ(ユウキっていっつもこんな感じなの?)」

 

「チルーチル(今日はイーブイが来てはしゃいでいるんだよ。いっつも私にイーブイの可愛さを語られていたよ)」

 

「ブイ、イーブ。イブイブイーブ(……そっかぁ、優しそうで安心した。僕実は前のトレーナーから捨てられたんだ、こたいち?が低いとかなんとかで使えないって……)」

 

「チル!?チルーチル!(そうなの!?でも、ユウキは絶対そんなことしないよ!)」

 

 ユウキはイーブイをモフりながら思った。

 

 俺、ハブられてない?

 

 

『ゴロゴロゴロ……』

 

 いつの間にか空は真っ黒に染まっており、昼にも関わらず周囲は暗くなってきた。

 家に着くとすぐに二階に上がり窓の閉め忘れがないかチェック、全ての窓が閉まっているのを確認すると再び一階に降りた。

 父はまだトウカシティにいるため今日の天気を考えると帰るのは遅くなりそうだ。

 

『ポツポツ……ザァァア!』

 

「うおっいよいよ降り出したな」

 

 まもなくして雨は大ぶりとなりあらゆる音は一瞬にして轟音に呑み込まれる。

 

 雨は、前世の俺は雨は嫌いじゃなかった。天気をテーマとしたあるアニメ映画を見てから雨にも趣を感じるようになった。独特の匂い、音、心を洗い流してくれるような感覚だ。そして全てを流すと新鮮になった心を写したかのように空は清々しく晴れるのだ。自分を祝福するように虹の橋がエールを送る。その声援に背中を押され、水溜りができた道を再び歩む。

 

 俺は今第二の人生を歩き出そうとしている。ポケモントレーナーとして全国を旅して、たくさんの人々、ポケモンに触れ合い、いずれは結婚もして子供に恵まれ、今度は子供の旅立ちを見送るのだ。残された俺は残りの人生をポケモンと妻と幸せに過ごす。

 

 ま、今はこれから見に行く世界にワクワクすっぞ。

 

 

 

 イーブイたちと家の中でゲームをしながら過ごし、昼を過ぎた。外は未だ豪雨でむしろその勢いは更に増している。

 

「すごい雨だな。今日だけで何日分やら」

 

 そんなことを考えているとドンドンとドアをノックする音が聞こえる。こんな豪雨の中わざわざ何の用だろうか?

 

 恐る恐るドアを開けるとそこには全身ずぶ濡れのオダマキ博士が睨め付けるほど真剣な表情で立っていた。

 

「は、博士!?」

 

「オダマキ博士!どうしたんですか!?」

 

 遅れて母さんが驚く。無理もない、こんな雨の中で傘も持たずにやってきたのだ。そして白衣はひどく汚れており、ズボンの端は何かに引っかけたのか破けている部分もある。

 

「た、大変だ!すぐに避難の準備をしてくれ!」

 

「避難んん!?」

 

 いや、あり得ない話ではない。これだけの雨なんだ、もしろまだここが浸水してない方が奇跡なのかもしれない。母さんはまだ理解できてないようだが、俺はそんな気がして博士の言葉を待つ。

 

「よく聞いてくれ、この近くの海で……カイオーガが出現した!!」

 

「な、なぬぅぅ!?」

 

 やはり展開が早すぎる。もうすでに昨日の時点でレックウザ、グラードンと三幻神のうちの二体が登場した。フラグは十分にあったのだ、この勢いでカイオーガも出るかもしれないと。

 

「こんな早くにカイオーガ出現イベントだと……だが、俺の手持ちはイーブイと母さんのチルタリスのみ。それにカイオーガのレベルはおそらく70だ。圧倒的なレベル差で弱らせることすらも難しいはずだ。そもそもこんな早くイベントくるか?もっと後半だろぉ?くそぉなんでだぁ?」

 

「ブイ?(大丈夫?)」

 

 破茶滅茶過ぎるぞいくらなんでも。それに今は結構ピンチでもある。この豪雨の影響で浸水する可能性もあるのだ。現に足が浸かる程の水量になっている。このままこの雨が降り続ければミシロタウンが浸水しかねないしこのままにしておくわけにもいかん。

 

「とりあえずここから避難した方がいいかも」

 

 母さんの言葉にそれぞれ頷く。大切なものを各自まとめる作業に入り、びしょ濡れのオダマキ博士はそのまま他の家に呼びかけに走った。なんだかんだ彼もいい人だなと初めて思った。

 

「ユウキ、準備できた?」

 

「おーけー、っていうかもともと今日旅立つ予定だったから荷物はまとまってんだよね」

 

「あら、それもそうね」

 

「ブイ!ブーイ(準備おーけ!みんな大丈夫かな)」

 

「お?イーブイこの状況を楽しむなんていい心臓してるな」

 

「ブイ!(違うわ!)」

 

 ポケモンは人間の言葉を理解するが、人間はポケモンの言葉を理解できない。しかし、中にはテレパシーによって人間の脳に訴えかけることで会話ができるポケモンもいるそうだ。

 

「よし、母さんも準備できたし高台に行こう」

 

 荷物を持って家を出る。外は未だどしゃ降りで傘を持っても意味が無さそうなほどなためカッパを着ている。イーブイにもポケモン用のカッパを着させて雨を凌いでいる。チルタリスは母さんのモンスターボールの中に入っている。

 

 森の中に入り傾斜を登っていく。当然地面はぬかるんでいるため気をつけないと足を滑らせかねん。

 

「ぐぼはぁ!」

 

 俺は足を滑らせそのまま倒れる。カッパのお陰で泥を被ったのは顔面だけで済んだ。

 

「ふぅん、フラグは回収した」

 

「何言ってるの?」

 

 その後は何事もなく高台に無事避難できた。顔についた泥をタオルで拭きながら周りを見渡して海の方向を探す。ミシロタウンから海の方向となるとムロタウンがある方向だ。

 

「あ!見つけた!」

 

 遠くの方に小さく建物が見える。おそらくムロタウンだろう。ムロタウンから東側の遠く離れた所にその箇所だけ一段とドス黒い雨雲がかかり大雨が降っているのだろうと予測できる。

 

「カイオーガの影響がここまで届いているとなると、やっぱり現実での伝説のポケモンは均衡を崩すほどってことか……!こりゃ、ゲームみたいにゲットなんかできんぞ」

 

 だが、胸の奥から湧き出るこのワクワク感はどういうことだろうか。やはり、自分に嘘はつけない。

 

 俺は、今この瞬間にでも相棒(イーブイ)と旅に出たい!

 

「母さん、やっぱ俺決めた!目の前に大冒険が待ってるっていうのにじっとなんかしてられねぇ!」

 

「ふふっ、ユウキならそう言うと思ったわ」

 

 母さんは俺の心中を察していたようだ。

 

「ほら、これを持って行きなさいな」

 

 ユウキはポケモン図鑑を手に入れた!

 

「いやこれ普通博士から貰うんじゃね?」

 

「博士に頼まれて預かったのよ。ユウキ君の顔は今すぐにでも旅に出たそうな顔してて朝一番に飛び出しそうだからお母さんから渡してくださいって」

 

 なんだ、博士のくせにずいぶんと気が利くじゃないか。

 

「ありがとう、母さん。俺行くよ!」

 

「母さんのことは心配しなくていいわよ。ほら、今オダマキ博士が登って来てるわ」

 

 遠くの方からドロドロに汚れた白衣を揺らしながら博士が登って来ているのが見える。

 

「ああ!最高の旅、行ってくる!よし!行くぞ!イーブイ!!」

 

「ブイブイ!」

 

 イーブイもやる気に溢れているようだ。

 肩に飛び乗ったイーブイと目を合わせ互いに頷く。家の中で一緒に過ごしただけであるが、イーブイは既にユウキを信頼しつつある。それは彼が心の底からポケモンが大好きだということが伝わってきたからだ。

 

「よっしゃー!!待ってろカイオーガ!デビュー戦はお前で決まりだ!」

 

「ブイブイ!(冗談じゃなくヤバイって!)」

 

「イーブイやる気だな!張り切っていくぜい!」

 

「ブイ──!!?(嘘でしょぉぉ!!?)」

 

 勢いに任せてユウキは下り坂を一気に駆け下りる。しかし、当然地面は雨でぬかるんでいるため滑りやすい。

 

「ぐあぁぁぁぁああ!!」

 

 ユウキは足を滑らせそのまま斜面を転がり落ちていく。

 

「行ってらっしゃい!ユウキ!」

 

 一瞬母さんが手を振っている姿が見えた。

 いや、俺今転がり落ちるんですけど。

 

「はぁ!はぁ!あれ?ユウキ君は?」

 

 遅れてオダマキ博士が到着した。

 

「ユウキなら今転がり落ちながら旅に出たわ。やっぱ若いっていいわね元気があって」

 

「それただの惨事じゃないのぉ!?」

 

 七転び八起きということわざがある。今の俺はひたすら転がるだけだが、いつか立派に立ち上がれるように頑張ろう。

 

 こうして、俺たちの旅は始まったのだった。

 

「クゥ?」

 

 ユウキが転がり落ちる様子を空から眺める一匹のポケモンは妙に彼に興味を持つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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御三家は最終的に手持ちいない率高いだろ?そりゃ最初の頃の面影がないもんな。でもな不思議のダンジョンだと話は別になる

 俺、ミシロタウンのユウキ!御歳16歳のでぇベテランだぁ!

 昨日は下り坂転がり落ちて服汚れたからコトキタウンのポケモンセンターで洗濯したっぞ!寝巻きでポケセン内を徘徊しつつ、自販機で食べ物と飲み物を買ったぞ!でもな、ここだけの話。泥まみれになったのは服だけじゃなくて財布もなんだ!オラ、金ないぞ!

 

 

 

 ホウエン地方編

 第2話『今日から俺は、ポケモンです』

 

 

 

「ではお気をつけて!」

 

 そうは言われても今の俺にあるのはイーブイへの愛だけだ。

 やだ、ロマンチック。

 

「さて、イーブイ君。俺らは今小銭しかないぞ。あのケチ女め、なぁにがお札なのかわからない泥を持ってこられても困りますぅだ!チクショォォオ!この時代のお札弱過ぎだろぉ!前は間違って洗濯しても乾燥させれば使えたぞ!!」

 

「イブゥ……」

 

 残金672円。

 

 

 

 俺は、モンスターボールを……買わなかった。

 

 結局カイオーガは姿を眩まし、嵐は去って俺とイーブイは何もない森の中に取り残された。なんとかコトキタウンに帰り着き泥だらけのままポケセンに入り今に至る。ちなみに汚れた床はバリヤードと俺でキレイに掃除した。

 

 家までは近い。だが、俺の余計なプライドが一時帰宅を拒絶する。だってあまりにもカッコ悪いじゃないか。あんなに勢いよく飛び出したというのに次の日の朝に普通に帰ってくるとかとんだ笑い話だ。

 

「どうしたもんか……」

 

 考え込んでいると、ポケモントレーナーと見られる人がポケモンセンターの看護師、ジョーイさんと話している声が聞こえた。

 

「ポケモンフードと、定食ください」

 

「わかりました」

 

 なんだよ、こんな時に限って嫌味のように飯頼むなよ。

 しばらくしてジョーイさんが頼まれたポケモンフードと定食を運んできた。

 

「どうぞ!」

 

「ありがとうございます」

 

 トレーナーは受け取るとそのまま席に戻っていく。

 

「ん?あいつ今金を払わんかったぞ!?」

 

 まさかと思いジョーイさんのもとに駆ける。ジョーイは走ってきた俺を驚いたように見たが、すぐにいつもの落ち着いた様子に戻る。

 

「あの、どうしましたか?あなたのポケモンを休ませますか?」

 

「いや、あの、ここって飯代前払いですか?後払いですか?」

 

 俺の質問にジョーイさんはクスクスと笑い、それを申し訳なさそうに取り繕う。

 

「いいえ、トレーナーさん。ここではトレーナーとポケモンのお食事は無料で提供しています。ポケモンセンターはトレーナーとポケモンのための施設ですから」

 

 女神。まさに女神だ。俺は今、女神に遭遇した。

 

 これだけ感激することが果たしてこれからあるだろうか?無料で飯が食える?なんですかここは?天国ですか?

 

 その後俺とイーブイは飯を済ましこれからの計画を立てることにした。

 

「なぁイーブイ。これからについてだが、まずは仲間を増やしたいと思う今日この頃なんだ。でもな、金がない」

 

「ブイ」

 

「だから、これからはイーブイのレベル上げをしようと思う今日この頃なんだ」

 

「……ブイ」

 

 ん?なんだ?イーブイの元気がないな。

 

「レベル上げに……行こうか?」

 

「ブィィ……」

 

 イーブイは戦闘に自信がなかった。なにせ、自分が捨てられた原因が能力の低さからだ。レベル上げなんてできるわけがない。

 

「さぁて、まずは野生のポケモンからだ!」

 

 いきなりトレーナーとの勝負は流石に無理だろう。だからそこら辺にいる野生のポケモンを倒して経験値を稼ごう。

 

 勢いそのまま、渋々肩に乗ったイーブイの頭を撫でてポケモンセンターのドアを出た時だった。

 

『ピギィ!』

 

「え?」

 

 何かがひび割れたような音が聞こえた。

 

 次の瞬間、目の前の景色が割れた——————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ!……ってば!……起きてよ!」

 

 誰かが呼んでいる……

 

「んぁ……?」

 

 空間が割れた瞬間、世界は暗転。体の感覚もない無の状態。だったような気がする。

 

「よかったぁ!気がついたんだね!」

 

「ここは……」

 

 俺の視界には晴天と呼ぶに相応しい青々とした空が広がっている。そして脳の覚醒と共に思考がフル回転する。

 

「気絶してたのか……?だとすると空間が割れたあれは、気絶する寸前の幻影……足でも滑らせたのか?」

 

「えーと……大丈夫?じゃないか」

 

「ん?ああ、悪い。ちょっと現状把握……ッブォォォ!イーブイ!」

 

「えっ!?ちょっ!え?」

 

 俺の視界に飛び込んで来たのは至近距離のイーブイだった。こちらを心配そうに見るイーブイの破壊力は抜群だ!なんか知らんけど今ものすごい親近感を感じる!

 

「いやぁ!ごめんごめん!まさかイーブイが出迎えてくれるなんて夢にも思ってなかったからさぁ!」

 

 その可愛いイーブイの顔を撫でようとして俺は硬直した。

 

 俺の腕じゃない。

 

 黒い毛に覆われたその手を見て思考が停止した。だが、その手は自分の意思通りに動く。偶然同じ動きをしているのではない。これは紛れもなく自分の腕だ。

 

 そしてもう一つ、イーブイが喋った。

 

「いま……喋った?喋ったよね?え?これもしかしてテレパシー?ヤベェ、イーブイと会話できるとか俺もう死んでもいい……」

 

「待って待って!死んだらだめだって!ていうか、しっかりしてよ!ユウキ!」

 

「頬を膨らませて怒るイーブイ、あぁ、尊い……」

 

「はぁ……ユウキ、わかる?僕だよ、君が最初に選んだパートナーのイーブイだよ?」

 

 ん?待てよ……この感じ……まさかとは思うが……

 

 俺はデジャヴを感じ周りを見渡す。どうやらここは森の中の少し開けたところのようだ。なるほど、だいたい予想はついた。

 

 さぁ、改めて自分の体をチェックしようじゃないか。

 

 近くにある水たまりに近寄りそこに映る自分の姿を確認する。

 

 俺は……ブラッキーになっていた。

 

「ポ、ポケモンになってるぅうっ!?」

 

 お決まりのセリフは言っておきたかったため、とりあえず叫んでおいた。

 

「お、落ち着いて!」

 

 俺の反応に心配してくれるイーブイ。もう最高かよ。

 

「大丈夫だイーブイ。なんでポケモンになったかはわからんけど、こうしてイーブイと同じポケモンになって会話ができるなんて夢みたいだよ。最もこれは夢じゃないけども」

 

 さて、これはもしかして不思議のダンジョンの主人公になってしまったということか?ポケモンの世界に転生して、トレーナーとしての物語じゃなくて、本命はこっちだったってことだろうか。

 

 そうなるとそろそろバタフリーのイベントが発生してもいいはずだが?

 

「…………」

 

(何も起きない……?待てよ……そうか、あれはゲームのストーリーだ。いわゆる作り話(フィクション)でこれは現実だ。あのままのストーリーだったら俺はチートだし、全部知ってたら面白くないしな。何しろこれは冒険、探検ものだ。まだ見ぬ財宝、秘境を求めて世界を旅する。ふっ、面白くなってきたな!)

 

「……ユウキ、なんかニヤニヤしてるけど何考えてるの?」

 

「ふっ、イーブイ。どうやら俺たちはホウエン地方とは別の場所に飛ばされたみたいだな。そして、まずはここから脱出しなければならない!」

 

 ここはすでに不思議のダンジョンの中と言っていいだろう。ストーリーこと違うがこの場所は最初に主人公が倒れていた森の中と同じと考えていいはずだ。

 

「待って……これって、もしかして不思議のダンジョン!?」

 

「え?し、知ってんの?イーブイ」

 

 衝撃の事実、つまりどういうことだ?

 

「ご、ごめん、僕まだユウキに言ってなかったんだけど、ていうか、ニンゲンの時のユウキに話しても僕たちの言葉は伝わらないからどうしようもなかったんだけど」

 

 なんかちょっとモヤモヤするな。

 

「僕は、ポケモンだけが住む場所に元々居たんだ。けど、まだ見ぬ世界を見てみたくて、決死の思いで海に出たんだ。それから1ヶ月くらい島々を渡ってホウエン地方に辿り着いた。そして、あるトレーナーに拾ってもらったんだけど、『こたいち』が低いとかで捨てられちゃったんだ」

 

 そうか……どおりでホウエン地方では見かけないイーブイが博士のところにいたわけだ。そして、この場所出身ということはアレも知っているはず。

 

「それで、1つお願いがあるんだ」

 

(きた)

 

「僕、元々救助隊をやろうと思ってたんだ。ここに戻って来た理由はわからないけど、何かの導きかもしれない。だから、ユウキ、僕と救助隊をしない?あ、救助隊っていうのは……」

 

「よし!やろう!」

 

 ユウキは即答だった。やる以外の選択肢はないし、この場所にやってきたらそれをする以外の目的もない。むしろこれこそ本当のポケモンライフというものだろう。

 

「え!?いいの!」

 

 イーブイは目をキラキラと輝かせて喜んでいるようだ。

 ああ、可愛い。

 

 ここまでの流れはだいたい検討がついていた。とはいえ、イーブイがポケダン出身とは思っていなかったが。

 

「よし、じゃあまずはこの森を脱出しよう」

 

「うん!」

 

 ここはおそらく『小さな森』だと思う。そして不思議なダンジョンということは、階段を降りたり上がったりしていくことになるだろう。そしてダンジョンを突破することでダンジョンの外に出られるはずだ。

 

 ユウキとイーブイはダンジョンから脱出するべく奥へと進んだ。

 

 

『小さな森』 B1

 

「さて、イーブイ。ダンジョンにやってきたのはいいけど、俺はポケモン初心者。技とかってどうやってだしたらいい?」

 

 ポケモンになったのはいいが、何もできないんじゃ意味がない。とりあえずここはイーブイを参考に進むのがいいだろう。

 

「技を出すコツ?うーん、改めて言われると難しいな。今ユウキが覚えている技はなんとかく感覚で分かると思うんだ。後は体の中から力を出す感じかな?ごめん、説明するとなると難しいや」

 

「いや、ありがとうイーブイ。体の中にある力を解放する感じだな。よし試してみるか」

 

 適当に壁に向かって使えそうな技を出してみる。

 

「いくぞ!あくのはどう!」

 

 全身に力を入れてそれを放出するイメージをする。

 すると、体から黒い波動が溢れ出しそれが衝撃波となって放出された。

 

「おお!意外と簡単に出せたぞ!」

 

「やるじゃん!ユウキ!」

 

 他にも技を試してみた結果、俺が今使える技は、

 

『あくのはどう』

『つきのひかり』

『イカサマ』

『シャドーボール』

 

「欲しい技揃ってんな!」

 

 遠距離技、物理技、特殊技、補助技……うん、文句ない構成だ。しかし、あくタイプとゴーストタイプだけだと少し不安要素があるな。俺はあくタイプのブラッキーだ。かくとうタイプか、むしタイプに対応できる技が欲しいところだが、あいにくブラッキーにその技の習得は難しいか……。イーブイもノーマルタイプだからかくとうタイプが弱点だ。

 

「ひこうタイプの技が欲しいところだな」

 

「僕とユウキだと難しそうだね……」

 

「まぁ、そこはなんとかなるとは思うんだけどね。ダメージを与えられたら大丈夫だろ」

 

 話が長くなってしまったが、ダンジョンを進むとしよう。

 

 10分後……

 

「うん、めちゃ簡単だったな」

 

「ユウキがほとんど倒しちゃったけどね。僕なんてまだたいあたりぐらいしか攻撃技がないからね」

 

「何言ってんだよ!イーブイのてだすけのおかげで俺の技の威力が上がったからスムーズに攻略できたのさ。やっぱ相棒はお前しかいないよイーブイ!」

 

「え?そう?……なんか照れるなぁ」

 

 可愛いなお前。

 

 —————————————————

 

 小さな森はやはり簡単に攻略ができた。と言っても俺のレベルが20もあるという特典付きという結果だが。

 

 俺たちは小さな森を突破して、イーブイの案内でとある場所まで来ている。

 

「ここがそうなんだけど……」

 

 イーブイの案内でやってきた場所は例によって基地がある所だった。わかっていたとはいえ、実際に訪れてみると子供の頃のようなワクワク感が溢れ出してくる。

 

「おぉ!いいね!」

 

「でしょ?きっと気にいると思ったんだ!これからここを僕らの基地にして探検隊をやっていこう!」

 

 ここまでの流れは把握している。さて、これからどうするかは自分次第ってやつだな。

 

「なら、このチームの名前を決めよう。そうだなぁ、ポケダンズなんてどうだ?」

 

 うん、まぁ、テンプレ通りなんだねどね。

 

「うん!いいと思う!よし、これからポケダンズとして活動開始だ!」

 

「おう!」

 

 こうして……ユウキとイーブイの探検隊としての活動が始まったのでした。

 

 

 

 ……次の朝。

 

 

 

「ん……あれ、なんかやけに地面が硬い……」

 

「ちょっとお兄さん大丈夫ですか?」

 

「えっ……?あー俺は全然大丈……は?」

 

 目が覚めるとそこはポケモンセンターの前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夢オチ⭐︎


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親元離れると親の有り難みってめちゃくちゃ痛感するよね

すみません、ポケダンの話は特別編としてたまに載せることにします。メインは普通にポケモンの世界を冒険する話にします。

ポケダンDX皆さんはやってますか?ちなみに自分は主人公イーブイでパートナーはチコリータにしました。
今はブラッキーに進化させて、パートナーもメガニウムに進化しました。
進化するとリボン消えちゃうのでそれが嫌な人はそのままをオススメします笑


 拝啓

 母さん、俺は今ミシロタウンから目と鼻の先のコトキタウンにいます。そして、お金が無くなりました。ゲームと違ってバトルに勝ってもお金は貰えないことが判明したため、これからどうやってお金を稼いだらいいんでしょうか?母さん、俺からの一生のお願いです。

 

 

 仕送りおねがいしますぅぅぅううう!!!!!

 

 

 PS お風呂上がりに置いてある耳かきは湿っている。

 

 

 

 ホウエン地方編

 第3話『お風呂上がりに置いてある耳かきは湿っている』

 

 

 

 

 

 まず初めに、俺は昨日ポケモン不思議のダンジョンの世界にいた。そして翌日ホウエン地方に戻ってきた。なぁにこれぇ。

 

 そしてもう一つ、昨日の経験値からかイーブイの言葉が理解できるようになりましたっ!喜べ!歓喜しろ!祝福しろ!讃えろ!

 もうね、最高ですか?なんですかこれは?あのですね、簡単に言うとテレパシーなんですよこれが。ほら、ポケモン映画あるあるじゃないですか。シェイミしかり、ゾロアしかり、ミュウツーしかりね。他にもあるけど、要は今それと同じ状態なんですよ。やばい、興奮がとまらねぇ!ありがとう!祝福の神シェイミ!ありがとう!ポケダン!ちゃんとDXもやったよ!次は時と闇のリメイクやりないな!

 

 

 とまぁ、そんな感じです。

 

 

 

 

 

「さて、イーブイ。俺たちは今やるべきことがある」

 

(お金稼ぎ……だよね)

 

「そう、俺たちは今、金がない!当然ポケモンセンターに行けば衣食住は大丈夫だろう。しかしな?やっぱり冒険する以上ポケセンに行けないこともある。だからその時の為にもキャンプセットは必須だ。もちろん母さんが用意してくれたものがリュックに入っているからいいものの。食料品なんかは買わねばならない。そして買うためには当然金がいる」

 

(そうだよね……)

 

 この世界で金を稼ぐ方法は普通に働くか、ポケモンバトルの大会に出場して入賞以上まで勝ち上がるか、プロスポーツで活躍するかだ。あれ、基本的には昔と変わらないか?

 

「と、いうわけでバイトします」

 

「イブゥ……」

 

 テレパシーではないが、イーブイの反応からやれやれと言っているのがはっきりとわかった。

 そして、ポケダンでの戦闘が経験値になったのか、昨日まで戦闘に自信がなかったイーブイも少しだけ、自信をもってくれたようで何よりだ。まぁ、俺の冒険はあくまでゆらりと流れるままに、気楽に流浪に旅をすることがメインだ。別にイーブイに戦いを強制するつもりはないし、なんならその可愛さだけで充分だ。

 

 しかし、もっとゲームらしくポンポンと行きたいところだが、これは現実。金が無いと何もできないのは昔から変わらない。

 

 

 まずは先に進みたいためトウカシティに移動。池がいくつかあり、確かここで釣りをするとヘイガニが出るんだっけ?サトシの手持ちポケモンだったから俺もヘイガニ釣ったなぁ。使わなかったけど。

 

 とりあえずトウカシティについたのでポケセンに入る。なんとなくパソコンにログインしてみると一通のメールが届いていた。

 

 差出人は母からだった。

 

 拝啓

 ユウキからのメール見ました。やっぱり坂を転がり落ちたものね。だいたい想像ついたわ。とりあえず大きな怪我がなくて安心。あと、父さんが旅に出る祝いとして3万円くれました。このメールに同封されてるから、このメール閉じたら届くようにしてあるわ。あと、私からの仕送りで2万円送るわね。旅はいいものよ。いろいろ大変なこともあるけど、その分得られる感動も大きい。お母さんも昔を思い出したわ。チルタリスともその時の冒険で出逢ったのよ。

 話が長くなってごめんなさいね。じゃあ、改めて行ってらっしゃい!ユウキ!たまにはメールちょうだいね。ユウキの冒険の話、待ってるわ

 

 

 

 

 俺は、そのメールを読み終えると自然と涙を流していた。こんなにも母の愛を感じたことは人生で初めてだった。

 

「ブイッ……イブゥ……」

 

 俺の肩に乗って一緒にメールを見たイーブイも泣いている。あれ?ポケモンって文字読めたっけ?

 

 兎に角、メールを閉じるとパソコンの台からメール通り5万円が転送されてきた。それを大事に財布にしまい、父と母の気遣いに再び涙した。

 

「……ありがとう。母さん、父さん。俺、頑張るよ」

 

 メールでありがとうとだけ返信をしてパソコンを閉じる。

 

 俺は涙を拭いてイーブイと目を合わせる。

 

「さぁ、冒険に出ようぜ!イーブイ!」

 

(うん!行こう!ユウキ!)

 

 こうして、バイトをすることなくユウキとイーブイの冒険は幕をあげたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




めっちゃ短いですが、なんか切りが良かったのでここで区切ります。

現在描き溜めをしているので更新は少し待って下さい。
それと今後の展開についてご希望があれば感想の方で言ってくだされば、取り入れていきたいと思います。
例、遊戯と対戦。遊戯王MADのようなぶっ壊れた内容。伝説、幻のポケモンとの出会い。ポケモン映画で出てきた街に行くなど。

尚、今後のネタバレになりますが、タグに入っているポケモン以外でお願いします。


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ポケモンの世界の食料ってどうなってるんだろうね?やっぱ…ポケモン?

ポケモンソードでもブイズパーティーの作者です。

キャンプで誰かが寝ている状態だと毎回スクショしてます笑
でも大体イーブイかブラッキーかニンフィアなんですよね。

ちなみにイーブイはlet's goイーブイ特典の6Vイーブイです。
特性にげあしと気付いた時は泣きそうになりました。リーグ制覇後、速攻でとくせいカプセル使いました。


 この世界の海はとても綺麗だ。まるで沖縄の海のように。透き通る水の中をポケモンが泳ぐ姿が見える。あ、テッポウオだ。あ、オクタン……ぐぼはぁぁぁあ!!

 

 オクタン砲をくらい全身真っ黒に仕上がりました。

 

 

 ホウエン地方編

 第4話『なんだかんだでジムチャレンジやってみようと思います』

 

 

 

「うーみーは広いな、大きいなぁー、なーんとーかなーんとぉかぁー」

 

 日本にいた頃、小学校で習った歌だが最初のところしか覚えていない。

 

 全身オクタンの墨により真っ黒になったままの俺は船の一番前に座り風をめいいっぱいに浴びながらうろ覚えの歌を歌っている。荷物は客用の席に置いてあるため無事だ。

 何かと全身汚れがちなこの世界での生活。何かしら対策を考えなければならないかもしれない。

 

 あ、そうだ。俺は今トウカシティを過ぎた後、浜辺にある船着場に行きムロタウンに向かっている。

 え?一つ目のバッチはどうしたって?もちろんもってないさ。今回ムロタウンに行く理由は一つ、カイオーガ出現後の様子見だ。現地の人に話を聞くのが一番だろうし、もしかしたらアクア団とかいるかもしれない(関わるとは言ってない)

 

「少年、あれがムロタウンじゃよ」

 

「おお、実際に見ると本当に浜辺の上にあるだなぁ。あれがいしの洞窟かな?本編だとダイゴがいるんだよな」

 

 ゲームで、バトルリーグでの彼とのポケモンバトルは手に汗握る戦いだった……レベル70はまじで焦った。レックウザもはがねタイプには相性悪いし、俺最初のポケモンキモリだったからなぁ。

 

 ムロタウンに着いて船から降りる。ここにも船着場があり、他にも何隻か船が停泊していた。

 

 まずは恒例のポケセンにレッツゴー!タンッタンッタラタン!

 

 昼食を済ませてからポケセン内の人たちにカイオーガについていろいろ聞いてみた。

 

「カイオーガ?知らないポケモンだな。……えっ!?前の大雨ってそのポケモンのせいなのか?恐ろしいな……」

「知らない名前ね。あ、そういえば昨日青いバンダナを身につけた集団がここに来たわ。その時に確かそのカイオーガって名前を言っていたような……」

 

 お、有力な情報を入手したぞ。やっぱりアクア団はここに来たようだ。しかし、昨日か……あの嵐の中ここまで来るなんて流石だな。

 

「おや?お兄さん、その背中に乗っているのはイーブイかね?」

 

 なんか見知らぬおじさんに話しかけられた。

 

「ええ、そうですよ。珍しいでしょう?あげませんよ?おじいさんのきんのたま貰ったってあげませんよ?」

 

「いやいや、そうじゃなくてな。私はポケモンに特別な技を教えてやるんだが、これにはトレーナーとポケモンが固い絆と愛で結ばれとらんと習得できないんだよ。見たところお二人は相当の絆と愛を感じる。どうかね?私から技を教わってみらんかね?ほれ、これが技の一覧表だ。この中から好きな技を選んでみなされ」

 

 おじいさんから受け取った紙を見て俺は震えた。

 

(どうしたのユウキ?もしかしてとんでもない技なの!?)

 

「ああ、とんでもない技だイーブイ。お前やっぱレッツゴーしてんな!」

 

(え?)

 

 紙に書いてある技は、

 めらめらバーン

 いきいきバブル

 びりびりエレキ

 

 

「相棒技じゃねぇか!最強かよ!」

 

「おほぉ、これの魅力がわかるかね?」

 

「ええ、わかります。わかりますとも。とりあえず全部教えてください。いいか?イーブイ?」

 

(もちろん!いろんなタイプの技を覚えれば戦闘に有利だしね!)

 

 その後、三つの技を習得したイーブイは得意げに尻尾をフリフリ振っている。やだ、可愛い。

 

 しかし、相棒技を覚えられるとか正直言ってチートなんだが?確定やけどに威力90とか強過ぎじゃね?他の技も確定まひに、HP回復。これもう勝ち確ですわ。てか、図鑑でイーブイの様子見てみたけど、普通にステータスはレッツゴーイーブイ仕様なんだが。

 

「イーブイ、お前を捨てたトレーナーはとんだ節穴だぜ。お前は強いし、可愛いし、性格も穏和。もうね、最高だよ」

 

(え?なんか照れるなぁ……)

 

 イーブイの頭をわしゃわしゃと撫でながらポケセンを一旦出る。正直イーブイだけでも十分攻略できそうなんで、ジム戦に挑もうと思います。

 

「イーブイ、ジム戦にチャレンジしてみないか?あれさ、ジムリーダーに勝つとバッチと金が貰えるんだよ。しかも5万円。今のイーブイなら難なく勝てると思うんだが」

 

(うん!行こうユウキ!ボクもなんか自信出てきた!)

 

「素晴らしい!よし、じゃあ一旦来た道戻ってトウカの森を抜けるぞ!」

 

(おー!)

 

 勢いそのまま船着場に行くと、行きに乗ってきた船が丁度他の客を乗せてキンセツシティ方面に向かっていってしまった。

 

 

 なぁにこれぇ。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「はい、というわけでいしの洞窟にきました。意外と明るいのでびっくりしました」

 

 カイオーガの情報もないため、船が戻ってくるまでの間にこの洞窟でレベル上げをすることにした。ちょうど水タイプ技のいきいきバブルを覚えたので、いわタイプの多いこの洞窟はレベリングに最適だ。

 

 

「イーブイ!いきいきバブル!」

 

「ブイ──!!」

 

 どこから出るのかイーブイの周囲に水が沸き起こりそれを激しく相手にぶつける特殊技だ。まぁ、イーブイはいろんな遺伝子があるわけだし、全てのタイプの技を使えてもなんら不思議ではないのだが。

 

 イーブイはレベル12に上がった!

 

 図鑑に表示させるレベルが上がった通知を見ながら、切りがいいところで洞窟を出た。

 

「いやーやっぱイーブイ最高だよ。しかしどうやって水タイプ技出してるんだ?」

 

「んーなんて言うか、ユウキが昨日あくのはどうを出した時と同じ感じかな?でも戦闘の時だけ水を出せるんだけど、何もない状態では無理かなぁ」

 

 なるほど、流石にこれで火、水、電気のキャンプに使えそうなものが揃ったと思ったが、そう上手くはいかないか。

 

 まぁ、それこそいろんなポケモンと協力し合うのが旅の醍醐味でもあるってもんだ。

 

「ちっ!しぶとい奴だ!大人しく捕まれ!」

 

「ん?なんだ?」

 

 洞窟から出ると浜辺の方で何やら揉め事が起こっているようだ。青いバンダナにあの紋様……間違いないアクア団だ。二人組のアクア団はポチエナとドガースをくりだし、一方的にあるポケモンに攻撃していた。

 

 そのポケモンを見た瞬間俺はイーブイを抱き抱え二人組に向かって走り出していた。

 

「イーブィイ──っ!!めらめらバァァアンン!!」

 

「ブイっ!」

 

 炎を纏ったイーブイが全力で二人組みに体当たりをする。ポケモンの世界の人間は頑丈過ぎるのが特徴だ。多少やり過ぎるぐらいがちょうどいいだらう。

 

「あちちちっ!!貴様ぁ!何をする!」

 

 攻撃されて弱っているポケモンの前に立ち塞がりユウキはものすごい険相で怒鳴った。

 

「てめぇらこそ何してんだぁこらぁ!?『ニンフィア』さんに何してくれてんだあぁぁぁあ!!」

 

 ユウキのブチギレ具合に大人の二人ですらたじろぐ。

 

「くっ……このアクア団に楯突いたこと後悔させてやる!いけ!ポチエ—」

「めらめらバーン!!からのびりびりエレキィィイ!!」

 

「ぐぁぁあ!!」

「し、痺れるるるるるる!」

 

 二人をボコボコにした後、二人は命乞いをしてきたため仕方なく見逃してやった。流石に人殺しはまずいしな。

 

「ニンフィア!大丈夫か!?」

 

「フィ……」

 

「かなり弱っている。これはやばいぞ!」

 

 ユウキはニンフィアを抱きかかえると急いでポケセンに走った。

 

 

 タンタンッタラタン!

 

 

 

「はい、あなたが預けたポケモンは元気になりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 なんとか間に合い無事に元気を取り戻したニンフィア。やばい、ニンフィアがこんな至近距離に……!可愛いぃい!

 

「フィアっ……」

 

 先程のことがトラウマなのか酷く怯えているようだ。無理もない、あんな怖い思いをしたら人間を信用できなくなるだろう。

 

「ブイブイ、ブイ」

「フィア……」

 

 イーブイが励ましてくれているそうだ。しかし、こういうのはゆっくり時間をかけて徐々に取り払ってあげるべきだろう。

 

「どうだ?ニンフィア、落ち着くまで一緒に過ごすか?」

 

「フィ……」

 

 ニンフィアはイーブイの説明もありゆっくり頷いた。そもそもホウエン地方にブイズは結構珍しいはずだ。博士だってイーブイは珍しいと言っていたしな。となると、おそらく行き場のないニンフィアをあいつらが狙ったのかもしれない。全く捕まえるにしてももっと優しくはできんのか。

 

 とりあえず、今日はポケセンで過ごすことにした。ニンフィアがあまり外に出たがらないため落ち着くまではここで待つことにしよう。

 

 

 

 翌日。

 とりあえずニンフィアを抱き抱えてポケセンを出る。すると丁度船着場におじいさんの船が帰ってきた。

 

「お、ナイスタイミングだ。なぁ、ニンフィア。俺とイーブイはこれからあの船に乗ってトウカの森に行くんだ。ニンフィアはどうする?どこか行くあてがあるか?」

 

「フィア……」

 

(どうやらないみたいだね)

 

 イーブイがテレパシーで伝えてくれる。アニメのニャースにしろ、ポケモンの言葉を通訳してくれると本当に助かるな。

 

「いたぞ!昨日のガキだ!」

 

「ほへ?」

 

 あーこれはどうやら面倒なことになったようだ。のんびりとした旅をしたかったのにどうも俺はアクア団に目をつけられてしまったようだ。

 

「昨日はよくもやってくれたな?今日はその礼をしに来てやったぞ」

 

 昨日ボコボコにした二人組みの男がこちらを睨んでいる。

 

「いやいやいや、子供相手にガチになり過ぎじゃないっすか?てか、ニンフィアにあんな仕打ちしてたんだ。ぶちのめされて当然だろ?俺のブイズへの愛を舐めんなよこのやろー」

 

 あ、いかん。つい挑発にのってしまった。

 

「はっ!珍しいポケモンを捕まえようとして何が悪い?ポケモントレーナーさんよ?お前らも同じことをしてんだろ?」

 

「…………」

 

 確かに否定はできない。口籠るユウキにアクア団の男は鼻で笑う。

 

「なんだ?言い返せないのか?そりゃそうだよなぁ。ほら見ろ、そのニンフィアの怯え様をよ。お前の自己満でそのニンフィアをどうにかできるのか?」

 

「くっ……」

 

「はははっ!いい面だ!さて、それじゃあ昨日の分、しっかり返させてもらうぜ!行け!グラエナ!」

「よし!出ろ!ゴルバット!」

 

 まじかぁ、こいつらポケモン強化してきやがった!レベル差やばいだろこれ!イーブイしかいないんだけども!?

 

 ニンフィアは怯えて動けないでいるため、そっと後ろに隠れさせる。

 

「大丈夫だニンフィア。絶対にお前を守るからな」

 

「フィア……」

 

「いけるか、イーブイ?相手は手強いぞ」

 

(やれるだけやってみる!)

 

「ああ、頼むぜ!」

 

 

 

 アクア団の二人組が勝負をしかけてきた!

 

 

「グラエナ!かみくだくだ!」

「よけろ!イーブイ!」

「イーブッ!」

 

 イーブイはかみくだくを後方に宙返りしながら避ける。

 

「めらめらバーン!」

 

 そして着地と同時に地を蹴って炎を纏ったたいあたりを決める。

 

「グォオオッ!?」

 

「よし!いいぞイーブイ!」

「ブイブイ!」

 

 大ダメージかつやけどを負ったグラエナは怯んで動けない。ここは追い討ちだ。

 

「もう一押しだ!めらめらバーン!!」

 

「ブイィイ──っ!!」

 

「グオオォアアっ!!」

 

 追い討ちのめらめらバーンが決め手となりグラエナは戦闘不能になる。しかし、なんだこの違和感は。

 

 ユウキがもう一人の男の方を見るとゴルバットの姿が見当たらない。

 

「くそっ!どこに!?」

 

「ちょうおんぱ!!」

 

「ぐあぁぁっ!」

「ブイッ!?」

 

 上空から放たれたちょうおんぱをくらい視界がふらつきバランスを失う。立っていられず頭から倒れこみ、頭に痛みを感じる。

 イーブイも焦点が合わずフラフラとしている。

 

「ははっ!やはり所詮はガキだな。一体に集中して周りが見えていない」

 

「く……そっ……」

 

「ふん……ゴルバット、エアカッター!」

 

 ゴルバットから放たれたエアカッターはなす術のないイーブイを襲う。

 

「ブイ──っ!?」

「イ……イーブイっ……」

 

 視界がぼやけ強烈な吐き気が襲う。やはり現実でポケモンの技をくらえばただでは済まない。現にアクア団の二人組みも火傷の跡が残っていたままだった。

 

「フィアーっ!」

 

 ニンフィアの声が聞こえる気がする……ああ、このまま終わってしまうのだろうか。守ってやるなんて言っといてこんなあっけなく……

 

「さて、ガキの相手はこれくらいにして、さっさとあいつを持って帰るぞ」

 

「フィッ!?」

 

 ニンフィアは怯えて動けないままだ。畜生……何もできねぇ……

 

「イィ……ブイッ!」

 

「あ?なんだまだやろうってか?」

 

 イーブイは気力で立ち上がり男たちに威嚇する。

 

「へっ、ボロボロじゃねぇかっよ!」

 

「ブゥっ!?」

 

 男は無慈悲にイーブイを蹴飛ばした。

 

「ぁ……」

 

 イーブイは砂浜の上を転がり動かなくなった。

 その瞬間プチンとユウキの中の何かが切れた。

 

「ぉ……ぉおおおおっ!!!」

 

「なっ!?お前!どうやって—ぐぁっ!」

 

 全力疾走からの全力で男を殴り飛ばす。男は歯が折れ地面を転がる。

 

「てめぇ!」

「ぶっ!」

 

 もう一人の男の反撃で顔面を殴られフラフラと後退するが、その目に宿る闘志は消えていない。

 

 ユウキは一か八かの勝負に出る。

 

「くらえぇ!あくのはどう!!」

 

 ポケダンの時のように内なる力を絞り出すイメージを放つ。

 するとユウキの体から黒い気を纏った衝撃波が放たれる。

 

「ぐほぉっ!」

 

 それは男の腹を抉り、くの字になって吹き飛ばす。

 ちょうど倒れているもう一人のアクア団のところに転がりそいつは気を失った。

 

「な……なんだお前……人間か……?くそっ!」

 

 男は気を失ったもう一人の仲間を連れて逃げ出した。

 

「もう……無理……」

 

 ドサっと仰向けに倒れ意識が朦朧とする。

 

「フィア!フィアっ!!」

 

 泣きそうな目で駆け寄ったニンフィアが視界に入る。ああ、まじでかわぇ……イーブイは無事だろうか……

 

(ユウキ!大丈夫!?)

 

 ボロボロながらも走ってきたイーブイが心配そうに覗き込んできた。

 

 良かった……無事か……てか……イーブイとニンフィア揃ってこんな間近で……見られる……とか……幸せ過ぎて……死……ぬ……

 

 ユウキは目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 タンタンッタラタン!

 

 

 

 気がつくと白い天井が視界に入り、それがポケセン内と理解すると周囲を見回す。

 

「イーブっ!」

「フィアー!」

「ごふっ!あっ……幸せ……」

 

 イーブイとニンフィアが抱きついてきたことによる幸福感で再び昇天しかけるが、なんとか気合いで持ち堪える。

 

「ってあれ?体全然痛くない……殴られた痕も消えてる……」

 

 目の前にあった鏡に映った自分を見ると傷痕は一切無く、殴られて腫れているはずの頬も何もなかったかのようだ。

 

(見たこともないポケモンがユウキを助けてくれたんだよ)

 

「見たことないポケモン?」

 

 まだ泣いているニンフィアを撫でながらイーブイに質問する。

 

(えっとね、ものすごい速さで現れてボクとユウキの傷を癒してくれたんだ。赤と白の模様のポケモンでね、ユウキより少し小さいくらいの大きさだったよ)

 

 物凄い速さで傷を癒して……赤と白色のポケモン……まさか……

 

 心当たりはある。だが、確証がない。

 

「そうか……いつか会えたらお礼を言わないとな。それにお前らが無事で良かったよ、マジで。もしイーブイ死んだら俺アクア団全員殺すから」

 

(目が本気だよユウキ……)

 

「ああ、俺は本気だ」

 

 兎に角、二人とも大丈夫そうでよかった。まぁ、人間よりもポケモンの方が何倍もタフだしな。

 

 ニンフィアの体はまだ震えている。優しく、そっと撫でてやる。少しでも落ち着いてくれたらいいんだが……

 

「ふはは、ニンフィア、約束は守ったぞ?もうあいつらも流石に懲りただろうし、お前も自由に生きれるぞ」

 

「フィア……」

 

 顔を上げたニンフィアは目をウルウルさせておりまだ涙が頬を伝っている。そっとその涙を拭ってあげて頭を撫でる。

 それでやっと落ち着いたのか、今度は甘えるようにユウキの胸に顔を埋める。

 

 やだこれ、キュン死しちゃう。

 もう我慢ならん!

 

 ギュウッとなるべく優しくニンフィアを抱きしめ、もう大丈夫だからと声をかける。するとまた泣き出してしまった。

 

(ありがとうだって)

 

 イーブイが通訳してくれた。一瞬抱きしめられたのが怖くて泣いてしまったのかと焦った。

 

 しばらくニンフィアが泣き止むまで抱きしめていた。イーブイも声をかけてくれてようやく泣き止んだ。

 

「フィア、フィア!」

 

「ん?」

 

(一緒について行きたいって言ってるよ。ボクは賛成だけど、ユウキはどうする?)

 

「是非!」

 

 もちろん即答だ。ベッドの横に置かれていた自分のバックからトウカシティで20個買ったモンスターボールを1つ取り出す。

 

「これからよろしく頼むぜ、ニンフィア」

 

「フィア!」

 

 ニンフィアは笑顔でモンスターボールの中に入りウインウインと音立て、カチンと捕獲完了の音がする。思えば始めてモンスターボールでポケモンをゲットした。

 

「〜〜〜っ!ニンフィア、ゲットだぜ!」

 

「ブイブーイ!」

 

 新しい仲間が加わりユウキは心に誓った。

 

 決めた。俺はブイズパーティーで旅をする!

 

 そしてもう一つ、俺を助けてくれたポケモンに会ってしっかりとお礼をする!

 

 

 

 

 新たな目標を胸にユウキはもう一眠りし、船を乗り過ごしてしまいもう1日ムロタウンで過ごすのであった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ブイズはみんな可愛い(確信)


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イワーーーーーーーーーークッ!!!

書き溜めする余裕がないので、出来上がり次第投稿していこうと思います。

そして今回の展開はタイトル通りです。

誤字報告ありがとうございます。誤字は多い方かと思いますのですみません。


 ただ今ムロタウンの船着場からトウカの森前にある船着場につきましたー。新しく仲間になったニンフィアちゃんも一緒です。ちなみに二人ともモンスターボールよりも外にいるほうがいいそうなので基本的にずっと外に出しています。

 っていうかニンフィア可愛い過ぎだろっ!なんだよ好きなトレーナーの腕にリボン状の触覚を巻いて歩くとか図鑑にあったけど今まさにその状態!まさに至福、まさき至高のひと時。俺もう人生に一切の悔いなし。

 

 ホウエン地方編

 第5話『見せてやるよぉ……神の姿をなっ!』

 

 

 トウカの森に入ると思った以上に薄気味悪くて怖い。イーブイは頭の上から俺の腕の中に場所を移し、ニンフィアは怯えて腕に巻きつけている触覚の締め付け具合が増している。ちょっと血止まっちゃう!

 

 こんなところさっさとおさらばだ。小走りで森の中を進みひたすら真っ直ぐに進む。

 出口が見え光が差し込み104番道路が見える。確か104番道路にはフラワーショップがあった気がするな。そんでジョウロを貰うわけだが、正直きのみはどこでも売っているのがわかったため下手に必要はないだろう。オレンのみなんて一つ20円だぜ?普通に食料、おやつとしてたくさん買ったわ。

 

「うおっ太陽が眩し……あ、曇ってるわ」

 

 空はあいにくの曇り空。そういえば船でトウカの森近くにある船着場に向かう時少しずつ空が曇ってたな。

 

 まだ雨が降りそうなほどではないが、遅からず雨は降るだろう。

 またびしょ濡れになるのは勘弁願いたいためさっさと104番道路を抜けてカナズミシティのポケセンに行こう。

 明日はジム戦に挑戦だ。既にムロタウンのポケセン内にあるパソコンから申請は済ませてある。

 

 

 104番道路移動中……

 

 

「フィンフィンフィア♪」

 

 ちくしょおっ!可愛すぎて萌え尽きる!

 

 やばいんだけど、ずっとニンフィア俺の腕に触覚巻きつけて隣歩いてるんですけど。周りの人が微笑ましい顔で見てるんですけど。なんか鼻歌みたいなの歌ってるんですけど!!あ、こっち見上げて微笑んだ。だめだ、可愛すぎてどうにかなる。

 

「お!君!バトルしよう!」

「あん?」

 

 ニヤニヤが止まらない雰囲気をぶち壊した如何にも好青年ですぅ、的な少年が勝負をしかけてきた!

 

 まぁ、ジム戦前の実戦練習と思えばいいか

 

「はぁ……ったくしょーがねーな!ニンフィア、いけるか?」

 

「フィム!」

 

 やる気に満ちて目尻が上がった顔も可愛い。やっぱ可愛いは正義ですわ。

 

「よし!決闘(デュエル)!あ、間違った」

 

 うむ、どうやらテレビで見た遊戯と海馬の試合が根強く残ってしまっているようだ。まぁ、前世でも遊戯王はやってたしな(OCGではないです)

 

「よし、行くぞ!キノココ!」

 

 ニヤニヤが止まらない雰囲気をぶち壊した如何にも好青年ですぅ、的な少年はキノココをくりだした!

 

「キノ!」

 

 どうせトウカの森で捕まえたばかりのポケモンを使ってみたいだけだろ。おっと俺もニンフィア仲間になったばかりだった。

 俺は既にポケモン図鑑でニンフィアのステータス、技構成を確認済みである。感想を一言で言うなら、俺の仲間になるブイズみんな強くね?

 

「キノココ!どくのこな!」

「おいふざけんな。俺の可愛いニンフィアを状態異常……ましては毒状態にしようとかまじで万死に値するぞ?」

「いや、あの、これ勝負だか——」

「ニンフィア!ハイパーボイス!」

 

 キノココが飛びついてきて頭から毒の胞子を撒き散らした瞬間、後方に飛び去ったニンフィアがハイパーボイスで反撃、強力な衝撃波と圧力は毒の胞子を吹き飛ばし、同時にキノココにダメージを与える。すかさず追撃の指示を出す。

 

「ニンフィア!マジカルフレイム!

「フィーッア!」

 

 巴の炎が螺旋を描きながら意思を持ったかのようにキノココを追尾し、ハイパーボイスを受けまだ地面を転がっているキノココの頭上から追い討ちをする。

 

「キノー!?」

 

 ボフンと直撃と同時に爆発を起こしキノココが宙を舞う。勝負ありだ。

 

 ドサッと鈍い音を立てて落ちたキノココは当然戦闘不能になった。バトルが始まって僅か1分の出来事だった。

 

「フィア!」

「やったな!ニンフィ—っブホォ!?あ、幸せ……」

 

 勝敗が決まるとこちらにダッシュで駆け寄ってきたニンフィアが飛びつき俺の言葉を遮断する。だが、いい。これはいいぞぉ!

 

 褒めて褒めての言わんばかりに尻尾をブンブン振ってクリクリの大きな目でこちらを見つめている。もう、たまりゃん!

 

 なでなでなでなでなでなでなでなで

 

 思うがままにニンフィアを撫でくり回すが、ニンフィア自身むしろ嬉しそうにされるがままにされている。もうそれがたまらん。おれの寵愛に満足するニンフィアをギュッと抱きしめクルクルとその場を回る。

 

 たかが、少年Aという脇役の中の脇役の脇役に勝っただけでこの喜びよう。まるで10年間ぶりの再会と言わんばかりの舞に勝負をしかけたニヤニヤが止まらない雰囲気をぶち壊した如何にも好青年ですぅ、的な少年はただ困惑するばかりだった。

 

 

 

 104番道路移動中……

 

 

 

 はい、着きました。カナズミシティです。ジム戦は明日というわけで最初は恒例のポケセンにレッツゴー!

 

 タンタンッタラタン!

 

 ポケセンで昼食を済ませた後、適当にのんびり過ごす。ミシロタウンと比べるとここは都会というほどではないがそれなりに発展した雰囲気がある。と、言ってもただマンションなどの建物が多いだけだが、田舎者のユウキにとっては高い建物が多いだけで都内の雰囲気を感じる。

 

(うわー!建物多いねユウキ!)

 

 イーブイも同じく高い建物をひたすらに見上げていた。ニンフィアは人気の多い場所に緊張して今はユウキに抱かれている状態だ。どうもこのニンフィア、ユウキ以外の人には一向に懐く気配はない。怯えてしまうこともあり、敵意を丸出しにして近付こうならサイコショックが炸裂する。

 

 別に俺自身としては自分にだけ懐いてくれるニンフィアに少し優越感に浸っているが、もしもアニメみたく誰かと一緒に冒険することがあれば苦労することは目に見えている。

 

 しばらく街を観光した後木陰にある長椅子に座り、バックから袋を取り出す。20個で150円のマゴのみが売ってあったためおやつにと買っておいたのだ。

 

 膝の上にニンフィアとイーブイが乗り袋からマゴのみを3つ取り出し、二人に一つずつ渡す。

 

「いただきまーす」

(いただきまーす)

「ニーンフィアー」

 

 三人で一緒にきのみを頬張る。うん、なかなか甘みがあってうまい。旅を始めてよくきのみを食べるがこれがなかなか飽きない。豊富な種類にそれぞれ味が異なるのだ。激辛のものも激苦のものも激酸っぱいものといろいろだ。

 

 俺が今まで食べた中で一番好きなのはこのマゴのみだ。味としてはいちごに練乳をかけたような味だ。そりゃ美味いよな。

 

 2つ目のマゴのみを取ろうと袋に手を伸ばしたその時だった。

 

『ビュンッ!』

 

「ほへ?」

 

 目の前にあった袋が消え、風がビュウと吹いた。

 一瞬何かが通ったような……

 

 ユウキは袋に手を伸ばした姿勢のまま思考が停止して固まっている。

 イーブイとニンフィアも暫し固まっていたがイーブイがいち早く我に返った。

 

(ユ、ユウキ!さっきのだよ!この前ユウキを助けてくれたの!)

 

「まじかぁ!全然見えんかったけど……やっぱポケモンの動体視力やばいな」

 

「……フィッ……フィ……」

 

 あれ?ニンフィアちゃんなんかすごく泣きそうな……

 

「ブィヤァァァァア!!」

 

 案の定ニンフィアは大泣きした。

 

「どほわぁっ!?ニンフィア!?あーよしよし、きのみ食べたかったんだよな?また買うから……な?」

 

 まさかここまで泣くとは思わなかった……案外涙脆いのかもしれんなこの子。でもそういう一面を見られるのも懐いてくれている証拠かもね。

 

 

 てなわけで、再びきのみを売っている出店でマゴのみとモモンのみを購入。結局きのみを奪ったポケモンの手掛かりは見つけることができず、気付けばジムの近くまで来ていた。

 

「ん?ジムの中が騒がしいな……ちょっと行ってみるか」

 

 ジムの中から歓声が聞こえてきた。どうやら今日もジム戦をやっているらしい。相手がどんなポケモンを使うのか把握したいというのもあり、観戦することにした。

 

 ゲームと違ってジム内は大きなドーム型になっており観客席が囲むように設置されている。構造としては野球のドームを想像してほしい。大きさはもっと小規模であるが、ポケモンバトルが人気を集めているだけあり、一つ目のジム戦でもそれなりに観戦する人は多い。ここで未来のチャンピオンの予想でもするのだろうか。

 

 観客席に着くと中央のバトルフィールドでは両者が対立していた。

 

「おい……またか……」

 

 ユウキがそう言ったのはバトルフィールドにいる二人がどちらも知っている顔だからだ。知っていると言ってもユウキが一方的に知っているだけだが。

 

「ククク……さぁ、最後の一体をだすんだなぁ!」

 

「くそッ……俺は最後まで諦めてねぇ!」

 

 一方は灰色の髪にエジプト感のある服装。一方は茶髪のとんがり頭で奴と同じ制服を着ている。

 

 そう、マリクと城之内だ。

 

 まじか……ここでマリクってことは三幻神揃っちまうじゃねぇか……

 

 レックウザ(オシリス)グラードン(オベリスク)、そしてカイオーガ……あれ?確かカイオーガってまだ捕まってなかったはずじゃ……

 

 ちなみに今のバトルフィールドの状況は城之内が残り一体、マリクが手持ち三体とどう見てもマリクの優勢だ。

 

「行けぇ!イワーク!」

 

「フフ……せっかくの舞台だ。貴様には真の地獄を味あわせてやるよぉ」

 

 不敵に笑うマリクは場にいるベトベトンをモンスターボールに戻して新たなモンスターボールを取り出す。

 

「お?あれは……プレシャスボール!?」

 

(プレシャスボール?)

 

「あのボールはな……映画やイベントで……ってイーブイたちにはわからんか……えっとな、要は特別なボールでめちゃくちゃ貴重なボールだ」

 

(へー?)

 

 しかし、あのボールに入っているのはなんだ?幻のポケモンか?この場合は絶対ラーの翼神竜のはずだが、カイオーガは捕まっていないとなると……

 

 ここでユウキは気付いた。

 

「……そうか!俺がイーブイやニンフィアを捕まえたのと同じだ!別にホウエン地方のポケモンにこだわる必要はない!そうなると適任のポケモンは——!」

 

「ハハハハハッ!この会場にいるやつらに神の姿を拝ませてやる!そして畏れおののけ!神の前にひれ伏すがいいぃ!」

 

 マリクがプレシャスボールを投げるとプレシャスボール特有の虹色のエフェクトがかかりその中からポケモンが現れる。

 

「さぁいでよ!ラーの翼神竜!(ファイヤー)」

 

「ですよねー」

 

 思った通りこちらの世界の『ヲー』はファイヤーのようだ。

 

 そして、イワークとファイヤーという構成。絶対にイワーク瞬殺だ。なに?ほのお、ひこうタイプのファイヤーにいわタイプのイワークならワンチャンあるかもしれない?ふっふっふ……わかる人にはわかるんだよなぁ?

 

「イワーク!いわなだれ!!」

 

 イワークは岩石の尻尾を振り下ろし地面を砕く。その衝撃で飛び散る砕かれた瓦礫を体を回転させ尻尾で薙ぎ払うことで相手にふき飛ばす。

 

 なるほど、現実ではこういう風に繰り出すのか。

 

「ラーよ!天を舞え!炎纏いし不死鳥となりて!」

 

「ふつうにまもるね」

 

 ファイヤーはまもるを使っていわなだれを防ぐだけだが、その時に全身に炎を纏うという演出までしている。

 

「フハハハハ!死ねぇ!城之内!業火に焼かれて灰になるがいい!」

 

 どうやらお待ちかねのシーンが再現されるらしい。

 

「ゴッド・フェニックス!!(もえつきる)」

 

 ラー(ファイヤー)は雄叫びをあげると上空で炎を全身から溢れ出させる。その様子はワンピースでいう火柱だ。

 会場が炎に包まれファイヤーから発せられる熱風が会場の人々に緊張感を与え、城之内は正にこれから地獄を見るという恐怖の色に染まっている。

 

 そしてその炎は意思を持ったかのようにイワークと城之内に纏わりついたと思ったのも一瞬。次の瞬間、爆ぜた。

 

「イワ────────クッ!!」

 

 豪炎が城之内とイワークを巻き込み火柱を立てて燃え上がる。これ、ソリッドビジョンじゃないからね?ガチの炎ってことマリクさんわかってる?城之内君本当に灰になっちゃうよ?

 

「かっ……はっ…………」

 

 炎が収まると爆発の中心地にいた城之内は灰にはならなかったものの原作同様丸焦げになってその場に倒れ込む。ありゃ死んだかな?

 

「し、勝者!マリク・イシュタールっ!!」

 

 会場にドッと歓声が巻き起こる。どうやらここにいる全員城之内の心配をしていないようだ。鬼かこいつら。

 

 遅れてジムに救護班が駆け込み城之内を担架に乗せて病院へと運ばれて行く。ちなみにポケセンはポケモンの治療はできても人間の治療はできないので間違えないように。

 

 観戦後知ったのだが、どうやらここのジムリーダーは城之内君らしく、明日から代わりの者が務めるそうだ。

 そして、マリクはなんとチャンピオンを目指すポケモントレーナーだそうだ。いやもう、なんでまだバッチ1個目なんだよ笑

 

 汗をタオルで拭きながらジムを出る。火照った体を冷やすためにフレンドリィショップでアイスを買った。もちろん、イーブイとニンフィアの分もだ。

 

 フレンドリィショップの横にあるベンチに座ってアイスを頬張る。

 

「んーま!やっぱバニラ味に限るなぁ」

「ブーイ」

「フィアァ……」

 

 イーブイは俺の片手で体を抱き抱えられながら器用に足で棒もって舐めている。ニンフィアは膝の上に乗りリボン状の触覚をつかって食べている。うん、やっぱ可愛いと何してても絵になるなぁ。

 

 しかし、なんか妙に視線を感じるような……

 

 結局特に何も起こらずアイスを食べ終わり、そのままポケセンに帰った。借りた部屋に戻り荷物を降ろす。汗をかいたためイーブイとニンフィアを連れてシャワー室へ向かう。

 

 シャワー室で先にイーブイとニンフィアの体を洗う。一応腰にタオル巻いているのは、イーブイは男の子だからいいとして、ニンフィアは可憐な女の子だ。流石にゴシゴシと体を洗うたびに揺れるいちもつが目の前にあると神妙な気持ちになるだろう。

 

 体を洗ってさっぱりした後、再び部屋に戻ると向かいのベッドに人がいることに気づき会釈する。

 

「あ、どうも——ゑ?」

 

「ほぉ?」

 

 共同部屋であるため他のトレーナーがいることはべつに普通だ。しかし、今目の前にいる男は普通ではなかった。

 

「このマリク様と同じ部屋とはなぁ?」

 

 

 

 …………なぁにこれぇ。

 

 

 

 

 

 




城之内「デジャブを感じた」


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温泉街に来た以上男にはどうしても譲れないものがある。それが例え自身の評価を下げることになろうとも、代々男たちはその危険な橋を渡ってきたのだ

ニンフィアの特性はフェアリースキン
イーブイはてきおうりょくです。

ちなみに現時点での二匹のレベルは、
イーブイLv.34
ニンフィアLv.38

ひたすらそこらへんにいるトレーナーとバトル『させられた』結果です。


 圧勝……そう、圧勝だった。

 

 あまりにも一方的にボコる展開だったため、こいつら本当にジムリーダーかと思うほどだった。いや、ジムリーダーは本気出せば強いことはエメナルドの殿堂入り後のジム再戦で思い知った。そう、彼らは言わば、程よくチャレンジャーに苦戦させて負けるという役割であり、ポケモンリーグに挑むに相応しいかを見極める立場であるのだ。当然力が足りなければ、ジムリーダーに勝てない。だが、俺たちには少々難易度が低すぎたようだった。

 相棒技を駆使するイーブイにレベルが38あるニンフィア。相性の悪さとか関係なしにゴリ押しで倒せてしまう。

 

 ちなみに先日のマリクと同じ部屋だった件、特に何も起きませんでした。

 

 ホウエン地方編

 第6話『温泉イベントと言えば、あれだろぉ?』

 

 

 

 

 俺は現在、3つのバッチを手に入れフエンタウンに向かうべくりゅうせいのたきに来ている。

 神秘的な雰囲気がこの場所は所謂鍾乳洞であり、ホウエン地方の観光スポットとしても有名である。

 

 しかし俺は周囲を警戒しながら慎重に進んでいた。野性のポケモンに出会わないようにとかそんな理由ではない。イーブイとニンフィアで十分対応できる。俺が警戒理由はただ一つ、ここはアクア団とマグマ団のイベントが発生する場所であるからだ。

 とはいえ、グラードンは海馬が持っているため実質本格的な活動をしているのはアクア団だけだと思っている。だってマグマ団頑張る意味ないじゃん。

 

「っ!二人共、ストップ」

 

 イーブイとニンフィアを制止して、息を潜めら。案の定アクア団とマグマ団がいるではないか。

 

 

 そして何故か海馬がいる。

 

 その海馬と話をしているのはマグマ団リーダーのマツブサだ。その隣で腕を組み、マツブサの話を不機嫌に聞いているのはアクア団リーダーのアオギリだ。

 

「海馬君、我々の計画には君の持つグラードンが必要なのだ。是非とも我々に協力してほしい」

「おいお前、こんな奴の話など聞く必要はない。世界に必要なのは海、恵の雨だ。干からびた大地をカイオーガの力を使い復活させ、水に困っている人々を救うのだ」

 

 この二人がやろうとしていることは別に悪いことではないのだ。それぞれのやり方で世界に救いの手を差し伸べようとしているのだから。しかし、問題はそのやり方だ。彼らは知らないのだ。伝説とも呼ばれるポケモンの力を、伝説と呼ばれる所以たるものを。

 

 しかし、海馬はそんな話に興味を持つはずもなく……

 

「貴様らの理想とやらに興味はない。俺は俺の戦いのロードを突き進むのみ!そしてそれを邪魔する者には容赦しない」

 

 どうやらゲームの本編は海馬がいる限りどうにでもなりそうなため、俺が首を突っ込む必要はなさそうだ。

 

 その後、海馬に勝負を挑んだマツブサがボコボコにされ、それを見たアクア団リーダーのアオギリが満足そうに去るという形になった。そして、計画を進めることが実質不可能になったマグマ団は姿を消したそうな。

 

 

 そんなことはさておき、えんとつやまを南に降り遂に俺はフエンタウンにやってきた。待ち遠しくかったぜぇ!何故こんなにもワクワクしてるかって?決まってるだろう!フエンタウンは温泉で有名な場所、さらに温泉内はなんと、『混浴』なのだ!いいか、『混浴』なんだよ!大事なことだから二回言ったぞ。

 

 まずは恒例、安定のポケセンにレッツゴー!

 

 タンタンッタラタン!

 

 部屋を借りて、荷物を下ろす。観光名所ということもあり部屋の大きさもなかなかだ。角の4箇所に二段ベッドが設置されており、カーテンで仕切っている構造だ。

 温泉が多数あることからポケセン内にいても微かな硫黄の匂いがし、早く温泉に入りたい衝動に駆られる。

 火山を降ってきたこともあり、汗ばんだ肌をスッキリさせたいのもあるが、俺がこのフエン温泉に一目置いているのにはもう一つの理由がある。

 

 それが、混浴だ。

 

 定番のイベントだよなぁ?そしてここは日本じゃない異世界。だったらイモる必要なんてない。己の欲望に忠実にいこうじゃないか。

 

 ポケセン内から露天風呂に行けるため、足早に更衣室に向かい颯爽と着替える。当然混浴なため俺の下半身にはタオルが巻かれている。

 

「げへへへへ、さぁショータイムだ」

 

(ユウキがとんでもなくヤバイ顔してる……)

「フィ……」

 

 下心丸出しのユウキに2匹とも呆れ顔である。

 そんなことは御構い無しにユウキはズカズカと木で作られた道を進みモクモクと湯気を立てていい感じに視界が悪い温泉に着く。側方にある体を流すため、樽に入ったお湯を頭から豪快に被る。その水しぶきを受けるイーブイはしかめ面をつるが本人は妙に興奮した様子で気付いていない。

 

 全身を流した後、イーブイとニンフィアにもお湯をかけ、待望の温泉へと足を踏み入れる。程よい熱さに感動を抑えながらユウキは温泉内を目を細めて見渡す。

 

「ふふ……」

 

 不敵な笑みを浮かべるユウキの先には数人の女性の姿が——

 

「BBAっ!!」

 

 温泉内にいる女性は全員老婆だった。

 

「誰がババァじゃ!このクソガキャア!ぶっ殺したろか!?」

 

「すいまっせぇぇえんん!!」

 

 ユウキはそれは見事な土下座を披露しました。

 

「ィブゥゥゥ」

「フィァァア」

 

 2匹は気持ち良さそうに温泉に浸かっている。

 

「うっ……グスッ……俺の……ロマンがぁ……」

 

 一方でユウキは、泣いていた。

 

 土下座の後、老婆方は全員温泉を出て行ってしまい、一人と二匹の貸切状態になっている。

 イーブイとニンフィアはどこからかユウキが持ってきた浮き輪を身につけているため沈むことはない。

 

 チャポッ

 

「はっ……!」

 

 その音は誰かがこの温泉に入ったことを知らせるものだった。一瞬の期待をするが、先程のBBAたちのこともありすぐに肩を下げるユウキ。

 

「…………」

 

 しかし、無言で入ってきたその人を見た瞬間、ユウキは全身の血液が急速に頭に登るような、血の巡りが急行したかのように顔を赤くし、消えかけた期待は確かなものになる。

 

 綺麗な赤髪は肩にかかるか、かからないかぐらいの長さ。なだらかな撫で肩に均整のとれた手足。体に巻かれた白いバスタオルから垣間見える艶のある白い肌はまさに妖艶。

 

 ゴクリと、喉を鳴らし息を潜める。しかし、堂々と両膝を石垣に乗せ、偉そうな上役のような体勢でその女性を凝視する。

 

「……!」

 

 その女性はこちらをに気付くと少し驚いたような表情を見せる。しかし、声を上げることがない様子はここが混浴だと知っているからの態度だろう。

 よくわかってるじゃないとユウキは内心感心しつつ、その艶やかな身体を撫でるように見る。今のユウキは、ただの変態……いや、前世のスケベな性格がそのまま出ている。

 

 ユウキは満足げに口角をニヤつかせていると、湯気が風に乗せられ女性の全体像がハッキリと見えた。

 その瞬間、ユウキの全身の血の気が引いた。ユウキは勘違いしていたのだ。その女性が大人の女性であると。

 湯気ではっきりと見えていなかったこともあるが、その子はどう見ても自分より年下の少女だった。

 

 よりによってユウキは歳下の少女に下心丸出しの目線を送っていたのだ。当然その視線に相手も気付いている。ユウキは温泉に浸かっているにも関わらず、全身に寒気が走り背筋が震える。

 前世ならこの行為はセクハラと呼ばれ通報されてもおかしくない状況だ。そしてポケモンの世界にも警察はいる。もうユウキに逃げ道はないのだ。

 

「…………」

 

 少女は未だに沈黙を守ってこちらを見ている。その表情は今彼女が何を考えているのかわからない、ただこちらを見ているのだ。

 

 ヤバイ、何かしらアクションを起こさなければ。

 

「ど、どうも」

 

 変な上ずった声がなんとも情けないと自負しつつ、この場を乗り切る方法を全力で考える。

 ふと、目線をずらすと少女の横でこちらの修羅場に気付かず呑気にここから見えるフエンタウンを眺めている二匹が目に入った。

 

(こんちくしょぉぉ!何二人で黄昏てんだ……!いや、待てよ……そうだ!)

 

 ふと思いついた作戦。というよりただ開き直ったと言える。そう、ここでたどたどしくしている方が余計に危険なのだ。ならば、堂々とここから立ち去ればいいのだ。

 

 ザパァッと勢いよく立ち上がると少女はビクッと怯える。ユウキは御構い無しにイーブイとニンフィアの方に向かう。

 

「さて、イーブイ、ニンフィア。そろそろ上がるか」

(え?もう?)

「フィア?」

 

 目を丸くする二匹を抱き抱えて石段に向かう。

 

「あ、あのっ!」

 

 ピタリとユウキの動きが止まる。

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 緊張から思うように発言できない。

 

「えっと……その……」

 

 モジモジとこちらを上目遣いで見る少女、あれ?ヤバイ、破壊力ヤバイ!

 

 ユウキが何かに目覚めかけていると意を決した少女は勢いよく頭を下げた。

 

「ごめんなさいっ!!」

 

「…………はっ?」

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「ま、まさか……お前、ラティアスなのかっ!?」

 

 場所は変わって再びえんとつやま登山道。話があるとここに来た時は鉄拳制裁でもされるのかと緊張していたが、人気のない場所に来ると、少女は自身の正体を晒した。

 少女は光のベールに包まれた後、なんとラティアスの姿になっていたのだ。

 

「私、ずっとあなた方を追いかけていたのです」

 

 そして普通に喋っている。

 

「イーブイと同じテレパシーならとにかく、人間の言葉を話せるなんてな」

 

「……驚かないのですか?」

 

「いや、だってもうイーブイに慣れてるしな」

 

 それに昔、ポケモンのアニメだとニャースが必死に人間の言葉を勉強して話せるようになってたしな。要はポケモンだってその気になれば人間の言葉を使えるというわけだ。

 

「まあ、とにかくさ。さっきお前、俺に謝ってきただろ?別に俺たちについて来たことに怒ったりなんてしないぜ?」

 

 ラティアスは首を横に振り、申し訳なさそうに口を開いた。

 

「あなた方のきのみを奪ったのは私なんです……」

 

「フィアッ!?」

 

 ニンフィアは犯人が目の前にいることに驚き、ユウキを見上げる。しかし、まあまあとユウキに抱き抱えられることで落ち着いた。

 

「なるほどね……でもなんで奪ったんだ?」

 

「それは——」

 

 と、ラティアスが言いかけた時、『グゥー』と盛大な音を立ててラティアスのお腹が鳴った。

 

「はははっ!なんだお腹空いてたのか。その様子だと楽に食べれてないんだろ?ほら」

 

 そう言ってユウキはバックから袋を取り出す。その中には様々なきのみがたくさん入っている。

 

「で、でも……」

 

「いいんだよ。腹、減ってるんだろ?」

 

 きのみを受け取ったラティアスはパァっと笑顔になりオレンのみを頬張っる。

 

「……うっ……うっ……」

「お、おい……」

 

 オレンのみを頬張ったままラティアスは泣き出してしまった。もしかして、オレンのみが傷んでしまっていたのだろうかと心配するユウキにラティアスは首を横に振る。

 

「こんなに優しくしてもらったの……初めてで……」

 

 その後、落ち着いたラティアスは自身の話をしてくれた。もともと、ラティアスと言えば兄弟であるラティオスがいる。しかし、不慮の事故で兄のラティオスを失くしてしまったラティアスは一人彷徨っていた。

 ラティアスが人間の言葉を話せるのは、兄であるラティオスも人間の言葉を話せたからだと言う。何故、ラティオスが人間の言葉を話せたかはわからないままになってしまったが、兄は人間のことがかなり気に入ってしたそうで、その影響かもしれない。

 

 独りになったラティアスはホウエン地方を巡り、食べ物を恵んで貰おうと偶に人の前に現れたそうだ。しかし、人の言葉を使うラティアスに人々は奇妙に思い、誰も近寄らなくなってしまったそうだ。

 

「そんなある日、あなたとイーブイを見かけたのです」

 

 ラティアスはその少年を見た時、とても驚いたそうだ。ポケモンの言葉を理解し、イーブイと意思疎通ができるユウキにラティアスは心惹かれた。彼ならば、こんな自分でも接してくれるかもしれないと。しかし、ラティアス自身、人間に対しての信用が無くなりかけていたこともあり、しばらく観察していたそうだ。

 

 そしてわかったこと。それはユウキがポケモンに対してあまりにも優しすぎることだった。ポケモントレーナーは野生のポケモンとバトルをして自身のもつポケモンのレベル上げをすることが基本であり、それ自体は別に悪いことではない。

 しかし、倒したポケモンを放置している者がほとんどあるのだ。それに対してユウキは野生のポケモンとバトルした後、戦った野生のポケモンのケアをし、戦ってくれてありがとうときのみをあげていたのだ。

 

 そんなユウキの優しさに甘え、ラティアスは空腹に耐え切れず、彼からきのみを奪ったのだ。きっと許してくれるだろうと。

 結果、後悔と罪悪感、そして彼に謝りたいとこうして彼の前に現れたのだった。

 

「……本当にごめんなさい。なんでも言うことを聞きます。どんなことでも受け入れる覚悟です」

 

 下を向くラティアスの表情は見えないが、震えている様子からきっと自分にはそれ相応の罰が下されるのであろうと怯えているのがわかる。

 

(どうするの?ユウキ)

「フィア……」

 

 二匹が心配そうにこちらを見る。

 

「……よし、わかった」

 

 ユウキはバックからあるものを取り出す。

 それにラティアスはビクッと震えるがそれを見た瞬間目を丸くした。

 

「もし良かったら、俺と一緒に旅をしないか?」

 

 そう言ってユウキが差し出したのはモンスターボールだった。

 

「い、いいんですか……?私なんかで……?」

 

「幻のポケモン、むげんポケモンのラティアス。旅のお供には最適じゃないか。それにさ、俺、ポケモンに乗って空飛ぶの好きなんだ」

 

 母さんのチルタリスに乗って空を駆けた時のあの感動は忘れもしない。

 

 ラティアスはクシャクシャな笑顔で頷くとモンスターボールにコツンと頭を当てる。赤いオーラと共にモンスターボールの中に吸い込まれ、手のひらの上でウインウインと音を立てる。そして——

 

 カチン

 

 捕獲完了の音がなり、たった今ラティアスが仲間になったのだ。

 

「うぉおお!ラティアス、ゲットだぜ!」

「ブイブーイ!」

「フィアーっ!」

 

 幻のポケモン、ラティアス。ユウキはそんなポケモンが今自分の仲間になったことに震え、鳴り止まぬ鼓動と嬉しさで申請するつもりだったジム戦をすっかり忘れましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ニンフィアだけ話せない?それはどうか許して下さい。


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父vs息子

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「……よく来たね。ユウキ」

 

 男の名はセンリ。ユウキの父にしてトウカジム、ジムリーダー。ノーマルタイプのポケモンを操り、多彩な技構成、戦闘スタイルを使いこなし、確実な勝利を掴む。

 ジムチャレンジャーにとって登龍門となる5つ目のバッチ。

 その高い壁を越えようとする一人のチャレンジャーが門を叩く。彼の名はユウキ。センリの息子にして、ここまで手持ち三体で勝ち抜いてきた父親譲りの鬼才を持つ者。今、息子が父を超えんと挑むこのジム戦を一目見ようと大勢の人が駆けつけた。

 ジム戦でスタジアム満員という稀に見る光景にジムリーダーのセンリですら少し緊張の色が見える。そしてセンリが選び抜いた3体のポケモンが入っているモンスターボールに今一度頑張ろうと声をかける。

 

 センリとユウキはある約束をした。それは———

 

 鍛え抜いた3体のポケモンで()()()()をしよう。

 

 ホウエン地方編 前編 最終話

 第7話『センリとユウキ、真剣勝負』

 

 フエンタウンで4つ目のバッチを手に入れた後、ユウキはラティアスに乗って一度実家に帰った。4つ集めたバッチケースを見て母は嬉しそうに微笑んだ。そして、次のバッチが父と息子の勝負であるためとびっきりのご馳走を用意してくれた。

 翌日、朝は軽くイーブイたちとトレーニングを積んで昼食をとった後、ユウキはトウカシティのジムへと向かった。

 

 そして現在に至る。

 会場は今、静寂に包まれている。それは両者から伝わる極限までに高めた闘志が周囲に余計な雑音を立たせられない雰囲気を醸し出しているからだ。

 

(ふん……これほどまでの戦意、おもしろい。話題のルーキーとやらの実力を見させてもらうぞ……鬼才、ユウキ……!)

 

 海馬もこの会場に来ており二人の行く末を見守る。各地のジムリーダーも集まり、武藤遊戯本人も来ている。それほどまでにユウキの噂は広がっているのだ。

 

『さぁ、両者が向かい合い勝負の時を待ちます。こちらまで伝わるピリピリとした空気が会場を包んでいます!ジムチャレンジャーの登龍門、トウカジム、ジムリーダーのセンリVSセンリの息子にて鬼才と呼ばれる今話題のルーキー!ブイズ使いのユウキ!今、勝負の幕が上がります!』

 

「フィア……」

 

 ユウキの腕に巻きつけている触覚の締め付け具合が増し、ニンフィアは緊張して震えている。無理もないこんなにも大勢の人がいる中でバトルをするのだ。ユウキ自身も胸の高鳴りが収まらない。

 

「大丈夫だニンフィア。俺はお前を信じてる。だから、お前も俺を信じてくれ」

「フィーフィア」

(一度抱きしめてほしいって)

 

 イーブイの通訳に頷く。無論、ニンフィアと過ごした時間は短くない。ニンフィアが伝えたいことはだいたいわかるようになっている。

 

 ユウキは片膝をついてニンフィアを抱きしめる。

 

 すると会場の特等席に座っている海馬が立ち上がり、合図を送る。

 

「磯野!デュエル開始の宣言をしろぉ!」

 

 サングラスにスーツを着た男、磯野がシュピッと手を挙げ高々とバトル開始の宣言をする。

 

「デュエル開始ぃぃい!!!」

 

「全力で行くぜ、父さん!」

「ああ、俺を超えてみろ!ユウキ!」

 

 ジムリーダーのセンリが勝負を挑んできた!

 

「いけ、マッスグマ!」

「頼むぞ!ニンフィア!」

 

 両者のポケモンがスタジアムにくりだすと、会場は一気にヒートアップする。

 

「遠慮はしない!マッスグマ!すてみタックル!」

 

「力には力だ!ニンフィア!ハイパーボイス!」

 

 マッスグマの猛突進に対しニンフィアは特性により、威力とタイプが変化しているハイパーボイスで迎え撃つ。

 

「グゥゥッ……!」

 

 マッスグマはハイパーボイスの衝撃波を食らいながらもそのままニンフィアに突っ込む。

 

「フィアァっ!」

 

「大丈夫か!?ニンフィア!」

 

 ダメージは受けたもののハイパーボイスの威力もあり勢いは弱っている。

 ニンフィアは空中で回転し体制を整えて着地する。

 

 流石父さんの鍛え上げたポケモンだ。ハイパーボイスは威力も高く、ニンフィアの特性もありタイプはフェアリーになり、威力も上昇している。それでも真っ向から突き破ってくるとはな。

 

「マッスグマ!あなをほる!」

 

 考える暇もなくセンリは次の攻撃を仕掛けてくる。

 父さん得意の奇襲攻撃だ。

 

「それは読んでいたぜ、父さん!ニンフィア!触覚で地面からの振動を感じ取るんだ!」

 

 ニンフィアは触覚を地面に触れさせ、目を閉じる。地面から微かに伝わる振動を逃がすまいと集中する。

 

『ボコっ!』

 

「フィア!」

 

 地面が抉れた瞬間、ニンフィアは飛び上がり回避する。しかし、地面から這い出たマッスグマはニヤリと口角を上げる。

 

「そうか!しまった!」

 

 これは誘導だ!ジャンプすることで身動きが取れない空中に誘き出したんだ!

 

「くそっ!ニンフィア!ハイ——」

「すてみタックル!!」

 

 当然この機を逃すセンリではない。マッスグマの持つ最高威力の技を命令する。

 

「フィアァァァアっ!!」

「ニンフィアっ!!」

 

 マッスグマの追撃に対応が間に合わなかったニンフィアはもろに受け、体をくの字形に曲げ突き飛ばされ地面を転がる。何度も地面に打ちつけながらやっと勢が止まるもニンフィアは立ち上がらない。

 

 審判の磯野が近くに寄りジャッチする。

 

「ニンフィア!戦闘不能!」

 

 観客からの歓声が沸き起こる。

 

 ユウキはニンフィアに駆け寄り抱き抱え、元の位置に戻る。

 

「フィ……」

 

 ニンフィアは申し訳なさそうに涙を流す。

 

「ありがとう、ニンフィア。ゆっくり休んでくれ。それとごめんな、俺の経験不足だ」

 

 ニンフィアは黙って首を横に振り、頭をユウキの胸の中に埋める。

 それを見たユウキはフッと表情を崩し、ニンフィアをモンスターボールの中に入れた。

 

「悪くない動きだった。だが、まだまだ経験が足りないな」

 

 センリは腕を組み、次に駆り出されるポケモンを待っている。

 

 当然ユウキもまだ諦めたわけじゃない。腰からモンスターボールをとりだし、頼むぞと声をかけ投げる。

 

 ユウキがくりだしたポケモンを見た観客は先程の歓声は無くなりどよめいていた。当然だ。ユウキが出したポケモンは……

 

「あ、あれって……もしかして!伝説のポケモンじゃ……!」

「俺知ってるぞ!あのポケモンはラティアスだ!」

「まさか……!」

 

 そう、ラティアスだ。

 

「え、ちょっとすごく騒ついてるんですけど!?」

「落ち着けラティアス。お前は結構珍しい分類に入るからな。みんなが騒ぐのも無理ないさ」

 

 会場の雰囲気に縮こまるラティアスに声をかけつつ、相手のマッスグマの様子を伺う。攻撃してこない様子からセンリを見るとどうやらセンリも驚いていたようだ。

 

「ほう……ラティアスを仲間にしたか。そうこなくてはな!」

 

 父は嬉しそうに気合を入れ直す。

 

「マッスグマ!はらだいこ!」

 

 マッスグマは吠えると全身の毛が逆立ちオレンジ色のオーラに包まれる。

 

 はらだいこは自身のHPを半分削ることで攻撃を最大値まで引き上げる技。ニンフィアからのダメージを受けている分、今使うのは正に諸刃の剣。しかし、それはセンリの切り札であり、攻撃は最大の防御を実現させる戦略だ。

 

「ラティアス!気をつけろ!一撃がかなり重い、攻め急ぐな!」

「うん!」

 

 マッスグマの体力は残り僅か、一撃をなんとか与えたいところだ。

 

「ラティアス!自慢の速さを見せてやれ!飛び回って翻弄するんだ!」

 

「速いっ!」

 

 ラティアスの飛び回る速さは閃光と言えるほどスタジアム内を縦横無尽に駆ける。

 

 マッスグマはなんとかラティアスを視覚で捉えようと必死だ。すると当然動きは止まる。しかし、遠距離技ではきっと避けられてしまう。ならば、取る手段は一つ!

 

「今だラティアス!はがねのつばさ!」

 

 死角をついたラティアスはその速さを上乗せした強烈な一撃をマッスグマに与える———

 

 

「そこだっ!!マッスグマ!すてみタックル!!」

 

 が、センリは読んでいたのだ。この戦法ならユウキがどこから攻撃を仕掛けてくるのかを。

 そしてセンリに全ての信頼を任せたマッスグマとの信頼関係があるからこそできる死角に対する反応——

 

 それはユウキとセンリの実戦経験という大きな差だったのだ。

 

 両者の攻撃が激突、爆発を起こし突風が吹き荒れる。

 

「くっ……!ラティアス!」

 

 ボフンと煙から出てきたのはラティアスだ。しかし、ラティアスは傷だらけで、きりもみ回転をしながらこちらに吹き飛んでくる。

 

「ぐぉおお……っ!!」

 

 それをユウキは正面から受け止めラティアスの負担が減るように、踏ん張るのではなく、あえて後方に飛び一緒に飛ばされる。そしてラティアスを庇った結果ユウキは背中を強く打ち付けた。

 

「ぐっ……!」

 

「ユ……ユウキ……」

 

 ラティアスは自身を庇ってくれたユウキを意識が遠のく中見つめることしかできなかった。

 

 一方でマッスグマも当然無事ではない。横たわるマッスグマは立ち上がる気配はない。

 

「両者、戦闘不能!」

 

「よくやってくれた、マッスグマ。休んでくれ」

 

「すまん、俺のミスだラティアス」

 

 モンスターボールに戻してユウキは立ち上がる。残るは一体、頭の上から、ユウキの手の上に飛び乗ったイーブイが頷く。ユウキも同じく頷き、全てを託す。

 

「さぁ!ユウキ側は残るは一体!それに対しセンリは残るは二体だぁ!やはりジムリーダーの威厳か!?それとも、ここからの逆転劇か!?」

 

「頼むぞ!イーブイ!」

「ブイ!」

 

「いけ!バクオング!」

「バァァアグ!」

 

 父さんのバクオングの威圧感半端ねぇぇ……

 

「悪いが、ここで決着をつけさせてもらおうか!バクオング!ばくおんぱ!!」

 

「イーブイ!まもる!あと耳を塞げ!!」

 

 イーブイに命じると同時にユウキは耳を塞ぐ。会場の観客も皆同じように耳を塞ぎこむ。

 

 バクオングが息を大きく吸ったその直後。

 

「バァァアアグゥゥゥウウアアアっ!!!!!」

 

 凄まじい爆音と衝撃波が会場全体を襲い、地面は抉れ、空気がビリビリと振動しているのを全身で受ける。

 

「ほぅ……俺のバクオングのばくおんぱを凌がれたのは随分と久しぶりだな」

 

 バクオングの周りは大きなクレーター状になっており地面もあちこち地割れを起こしている。

 

 あれ?バクオングってこんなに強かったっけ?やっぱポケモンバトルに関してはゲームの知識関係ないな。

 

「イーブイ!大丈夫か!?」

「ブイブイ!」

 

 まもるのお陰で無傷のイーブイがこちらを向いて元気よく返事をする。

 

「よし!イーブイ!ビリビリエレキ!」

 

「ハイパーボイスだ!」

 

 ビリビリエレキはハイパーボイスによって簡単に打ち消されてしまい、さらにその衝撃がイーブイを吹き飛ばす。

 

「ブィィイイっ!?」

「イーブイ!持ち堪えろ!」

 

 イーブイは空中でなんとか体制を整え着地する。

 

「イーブイ!かげぶんしん!」

 

 多数の分身がバクオングに取り囲まんと攻める。

 

「ならば、ばくおんぱだ!」

 

 観客が再び耳を塞ぐ。

 

 衝撃波が会場を揺らしイーブイの分身を一瞬で消し去る。

 

 が、後ろに控えていたイーブイが攻撃の終わり際にバクオングに突っ込む。

 

「バクオング!ほのおのきば!」

 

 隙を見せない攻撃にイーブイは間に合わず攻撃をくらい、その場で爆ぜる。

 

 誰もがセンリの勝利を確信した。

 

「イーブイ!ビリビリエレキ!!」

 

「バグァゥウっ!?」

 

「なに!?」

 

 突如地面から飛び出したイーブイがビリビリエレキを放ち、バクオングを麻痺させる。

 

 海馬は腕を組んだままユウキの戦略に鼻を鳴らす。

 

「フン……小賢しい真似を」

 

 そう、イーブイは先のバトルでマッスグマが使った穴を通ってバクオングに奇襲を仕掛けたのだ。最初のばくおんぱにより地面が抉れたことによりバクオングの側にあった穴は塞がったものの、それは土が被さっただけに過ぎない。イーブイが分身を一体残し攻めさせた際、本体は穴に潜り、残った一体が本体のように見せかけて攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、当然センリはその攻撃に対応するだろう。ユウキが狙っていたのはそこだった。いくら強いポケモンでも攻撃のモーション中による不意打ちは避けられない。よって分身に攻撃し、隙が生まれるその瞬間を狙ったのだ。

 

 痺れたバクオングにすかさず追撃を仕掛ける。

 

「イーブイ!メラメラバーン!」

「グオォっ!」

 

「くっ!バクオング!ハイパーボイス!」

 

 が、バクオングは痺れて行動できない!

 

「まだまだぁ!メラメラバーンだ!」

 

 イーブイの連続の攻撃、バクオングは堪らず片膝をついて息を荒げる。

 

「いっけぇぇえ!イーブイ!とっておきだ!」

 

 イーブイが特別なのは、相棒技を覚えるだけではない。なんと技を5つ覚えることができたのだ。

 

 適応力により威力が倍になったとっておきはバクオングを倒すのに十分だった。吹き飛んだバクオングは目を回し戦闘不能になった。

 

「バクオング戦闘不能!」

 

「おい!すげぇぞあのイーブイ!」

「ああ、センリさんのバクオングを倒すなんてな……」

「技を5つ使ったぞ!」

「今の戦いの中で覚えたんじゃないのか!?」

 

「戦いの中で更なる進化を遂げ、格上の相手すらも凌駕する……」

 

 海馬はチラとある方向を見る。そこには黙ってバトルを見つめる遊戯の姿がある。

 

(貴様は今、この戦いに何を感じている?)

 

 

「やるな!ユウキ!ここまで追い込まれるとはな……どうやらお前の成長は俺の予想を遥かに上回るようだな」

 

 センリはバクオングをボールに戻し、最後の一体をくりだす。

 

「俺のエースポケモンだ!いけ!ケッキング!」

 

「父さんのケッキング……強敵だ」

 

 ドシンと着地したケッキングは威嚇することもなく、こちらの出方を伺っている。

 

「あいつの攻撃は一撃必殺だ。イーブイ気をつけろよ」

(任せて!)

 

「ケッキング、でんげきは!」

 

「マジか!?イーブイ!まもるだ!」

 

 ケッキングや先制攻撃はまさかの必中技だ。高速の雷がイーブイを襲うが間一髪まもるで防いだ。

 

「今だイーブイ!メラメラバーン!」

 

 火傷にすれば攻撃力は半減する。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

「惜しかったな、ユウキ!」

 

「え!?」

 

 ケッキングにメラメラバーンが当たる寸前、イーブイは鷲掴みにされた。

 既にケッキングは行動できるにしても早過ぎる。いや、センリのエースを飾るだけはあるのだ。弱点を克服するための努力はしているはず。完全にユウキの思い込みだったのだ。

 

「ケッキング!ちきゅうなげ!」

 

 飛び上がったケッキングは空中で回転し、その遠心力を利用し思い切りイーブイをぶん投げる。

 イーブイは成すすべなく地面に叩きつけられる。

 

「エボッ……!」

「イーブイィィ!!」

 

 鈍い音を立ててバウンドしたイーブイは痙攣を起こしている。

 

「トドメだ!」

 

「なっ!?」

 

 空中から降下してくるケッキングが迫ってきている。

 

「ギガインパクト!!」.

 

 この状態であの技をくらえばイーブイの命に関わる!

 

 ユウキは考えるよりも早く体が動いていた。

 

 イーブイにギガインパクトがあたる寸前、ギリギリイーブイを抱え前方宙返りを決めたユウキによってイーブイは危機を逃れた。

 

 静まり返る会場の中、ユウキは手を挙げて宣言した。

 

「……参りました」

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「はい、あなたのポケモンはみんな元気になりましたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 トウカジムに挑んでから2日後、無事怪我が治ったイーブイを抱えユウキはポケモンセンターを後にした。

 

「あ、お帰りなさい」

 

「ただいまー」

 

 実家に帰ったのはジム戦前だ。ジム戦後、足をくじいたイーブイをすぐにポケセンに連れて行き、2日の入院をした後本日無事に退院した。

 

「すまんなユウキ。俺も熱くなり過ぎたみたいだ」

「いいよ父さん。真剣勝負って言ったのは俺なんだし」

 

 今家には家族全員揃っている。ニンフィアとラティアスは最初は緊張していたが、ユウキの父と母ということもありすぐに打ち解けることができた。

 束の間の家族団らんの時を過ごし、話題はユウキに今後についてになった。

 

「なあユウキ」

 

「ん?なんだよ父さん、そんなかしこまった顔して」

 

 センリのバトルの時見せる険しい表情に思わず息を吞む。

 

「お前にはもっといろんな世界を見て、もっといろんなポケモンや人と出会ってほしい。何しろ、ユウキはブイズを極めたいんだろ?それだとホウエン地方は少し厳しい。だから、ここに行ってみてはどうだ?」

 

 そう言って渡された物は一枚のチケット。そこに書かれていたのは……

 

『ミナモシティ 船乗り場 ガラル地方行き』

 

 これはなんだかワクワクすっぞ!

 

 ユウキの本来の目的は楽しい旅。センリはそんなユウキのことを考えた上での提案なのかもしれない。

 

「ジム戦は、お前がもっと成長してからのお楽しみだ。まあ、楽しんできなさい」

 

「ありがとう、父さん」

 

 こうしてユウキの新たなる冒険の舞台が決まったのだった。

 

(なんか今のユウキじゃ相手にならないみたいな感じだね)

 

 それは言わないでくれ、イーブイ。

 

 

 




というわけで、次からガラル編です。


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ガラル地方編
きたぞ、ポケモンど真ん中!


作者はソードをプレイしてブイズパーティー作ってまったり楽しんでいます。

※ ポケモンレジェンド、ダイパリメイク、どっちも楽しみですね


「おぉ!見えたぞ!ガラル地方!」

 

 そこは、まだ未知なる冒険の舞台———!

 

 ガラル地方編

 第1話『自由気ままなガラルの旅、はっじまっるよー!」

 

 

 

 

 

 

 俺は、ポケモンの世界に転生した。それも、ポケットモンスターエメラルドの主人公のユウキにだ。そしてホウエン地方での旅は一旦中断し、新たなる冒険の舞台、ガラル地方にやってきた。

 

 父がくれたチケットはこの一枚でガラルまで通すことができる優れものだ。有り難やぁ。

 

 まず、ホウエン地方にあるミナモシティにある船乗り場からカロス地方に向かう。そこからミアレシティの近くにある空港に乗りガラル地方付近にある街まで飛ぶ。ほんで、その街からそらとぶタクシーに乗りガラル地方のテーマパークとも言えるシュートシティに来たのだ。

 簡潔にまとめたが、かなりの長距離移動だった。もうね、お尻死んじゃう。

 

「すっげぇ〜〜!遊園地みたいだな!」

 

 今俺はアーマーガアと呼ばれる大きな鳥ポケモンの石像が中央に鎮座している噴水?(水が湧き出てないからわからない)がある広場に立っている。

 

「ブイブイ!」

 

 頭の上に乗っているのは俺のAIBOのイーブイ。技を5つ覚え、let's goイーブイと同じく、相棒技を使える。ほんで、テレパシーによってポケモンとユウキにだけ会話ができる有能。基本ボールに入りたがらない。

 

「フィア!フィア!」

 

 リボン状の触角を俺の腕に巻きつけはしゃいであるのはニンフィア。俺が手に入れた2匹目のポケモンであり、すぐ泣くし、めっちゃ甘えん坊だ。可愛い。基本ボールに入りたがらない。

 

「クゥー!」

 

 俺の隣で目を輝かせているのはなんと伝説のポケモンラティアスだ。俺が手に入れた3匹目のポケモン。普通に言葉を話す。が、今は人目が多いためなるべく話す時は小さい声で、基本はそれっぽい鳴き声を頼むと伝えている。基本ボールに入りたがらない。

 

 1人と3匹はとりあえず長旅の疲労を癒すためポケモンセンターに向かう。

 

 タンタンッタラタン!

 

 やはりどの地方に来てもポケモンセンターは安定というか、第2の家というか、そんな安心感がある。個室を借りてくつろいでいると、既にイーブイとニンフィアは寝てしまったようだ。まぁ、この移動時間ずっとはしゃいでいたからな。

 

 部屋に置かれているガイドブックを見てみると、表紙には「きたぞ!ポケモンど真ん中!」というキャッチコピーが大きく載っている。確かにガラルの全体地図を見たときイギリスのような形をしていたため、ど真ん中という意味もなんとなくわかる。

 ガラル地方はポケモンバトルが盛んな地方だ。よくテレビでもトーナメントなどの大会の放送を見ていた。ポケモントレーナーならば、誰もが一度は訪れたい地方ランキング1位と言われるほどで、俺もなんだかんだ行きたいとは思っていた。

 

「ユウキ!ワタシここ行きたいです!」

 

 人語を理解できるラティアスは人間の姿に変身?しており、どこからどう見ても普通の女の子で、誰もその正体がポケモンとは思わないだろう。そんなラティアスはカフェらしい店のチラシを見て目を輝かせている。

 

「おぉ、これは……!」

 

 チラシを見たユウキは鼻息を荒くし、ラティアスに即答で行くと言うのであった。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

「きたぞ、バトルカフェに!」

 

 チラシで見たカフェの前にやってきたユウキは不敵な笑みを浮かべている。

 

「ブイブイ(なんかユウキ変じゃない?)」

 

「ワタシがここに行きたいって提案したんですが、それからなんだか様子が変なんですよ」

 

「さぁ、いざ!バトルカフェへ!」

 

 ドアを開けるとカランカランとカフェらしいドアの音がなり奥のカウンターにいるお洒落な服装の体格が大きな男性が笑顔でいらっしゃいとこちらに声をかける。

 

 木で作られた落ち着いた雰囲気のある店内に思わず感嘆の声が出る。しかしそれはラティアスたちだけで、一番楽しみにしていたユウキは何を探しているのか必死に店内を見渡している。が、本人はなにかを察して黙り込むとそのまま外に出ようとしだした。

 

「ちょちょっ!待って下さいよ!今来たばかりなのになんで帰ろうとしてるんですか!?」

 

 人間の姿のラティアスがユウキの腕を掴んで必死に店内に引きずりこむ。流石ポケットモンスター、人間の力はポケモンの前にはあまりにも無力だった。

 

「……ない」

「え?」

 

 ユウキがぼそりと何かを呟いたがいまいち聞こえない。

 

「いないんだよ……」

「いないって……?」

 

 体をプルプルと震わせ、振り絞るようにユウキは言った。

 

「表紙に載ってた超絶可愛いメイド服の女の子がいないんだよぉお!」

 

(((うわぁ……)))

 

 ユウキの発言にラティアスたちだけでなく、店内の客、オーナー、全員が引いた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 場所は戻ってポケモンセンター。

 

 借りていた部屋に置いていた荷物を持ってユウキたちはバトルスタジアムへと向かう。

 先ほどのバトルカフェで聞いた話だが、なんでも今日はポケモンリーグの開会式らしい。ガラルでのポケモンリーグはホウエン地方と似ており、各地方にあるジムリーグを突破し、バッチを集め、全てのバッチを集めた者が、このシュートシティのバトルスタジアムでトーナメント形式のリーグ戦をするそうだ。このポケモンリーグは全国生放送が企画されており、もし出場できれば母さんたちも見れるというわけだ。これは参加するしかないな。

 

 スタジアムに着くと出店やら、なんやらお祭り騒ぎだ。こういう雰囲気は前世から好きだし、この焼きトウモロコシの匂いがより引き立ててくれている。ていうか、ポケモンの時代にもトウモロコシはあるんだな。

 開会式は夜になってからと聞いたため、ユウキたちは出店を回ることにした。

 

「ブイブイ!」

「ん?なんだイーブイ、わたあめ食べたいのか?」

 

 わたあめを目にしたイーブイがブンブン尻尾を振っているが、俺の頭の上に乗っかっているため、背中にバシバシ尻尾を打ち付けられている状態だ。

 

「フィィ……」

 

 うむ、まだ人馴れしていないニンフィアには少しきつかったかもしれないな。仕方ない、ラティアスに小遣いあげて近くの人気のないところで休憩するとしよう。

 

「ラティア……ラティ、俺とニンフィアはあっちの公園の方で休んでるからイーブイと適当に過ごしてくれ。あ、戻ってくるとかに焼きトウモロコシと、りんご飴お願いな」

 

 ポケモンとはいえ、今は人間の姿であるラティアスはとりあえずラティと呼んでそれっぽくしている。小遣いを貰ったラティアスは嬉しそうにイーブイを抱き抱えて人混みの中に消えていった。

 

「フィア……」

 

 どうやらニンフィアは自分のせいで俺が楽しめなかったんじゃないかと思っているようだ。

 

「気にすんなよニンフィア。人馴れするのもゆっくり時間をかけていけばいいさ」

 

 ニンフィアの頭を撫でてやると感極まったのか、涙をウルウルと溜めて俺の胸に顔を埋めた。なにこれ、可愛い。そしてニンフィアの肌触りが気持ち良すぎてずっと撫でてられるわ。

 

 スタジアムから南に進むと建物ばかりの都会の雰囲気から一転、木々に囲まれた落ち着いた雰囲気の公園に着く。ここでニンフィアと、イーブイたちを待つ。

 静かな方ではあるが、スタジアム方面からは賑やかな音が遠くで聞こえてくる。

 

「フィー」

 

 気持ち良さそうに撫でられるニンフィア、マジ天使ですわ。

 

「あ、なかなか可愛いニンフィアやね」

 

「ん?」

「フィア?」

 

 声をかけられ見上げるとなんとまぁワイルドな髪型の少女が立っていた。その足下には一目でわかるピカチュウ族のポケモンがいる。

 

「そのポケモン……」

 

「ん?……ああ、この子はモルペコ。アタシの相棒ばい」

 

「……ばい……だと……?」

 

 このイントネーション、これはまさか博多弁なのか……?神かな?

 

「あ、まだ自己紹介してなかっちゃね。アタシはマリィ、この子はモルペコ。よろしく」

 

「俺はホウエン地方から来たユウキ。ホウエン地方でチャンピオンに勝つためにガラル地方に修行しに来たんだ」

 

「へー、ホウエン地方かぁ。だったらカブさんと同じ出身ってことやね」

 

「カブさん?」

 

 知らない名前だ。でも、このガラル地方でも同じ地方出身で有名な人がいるんだなぁ。

 

「確かにカブさんがガラルに来たのは少し昔の話やし、知らんでもしかたなかね。カブさんはエンジンシティのジムリーダーでジムチャレンジャーの鬼門とも呼ばれとる人よ」

 

 マリィの話によると、明日からジムチャレンジのエントリーが始まるそうだ。今日はその前夜祭みたいなもんで、ガラルのチャンピオン、各ジムリーダーがここシュートスタジアムに集い開会式を行うそうだ。

 

「そのジムチャレンジってのは誰でも参加できるのか?」

 

「確かできるはず。スマホロトムから申請して、スタジアムの受付でトレーナーカードを貰えば参加できるばい。あんたがジムチャレンジに参加するならアタシたちはライバルになるね!」

 

 おぉ、ライバルか!ゲームじゃ理不尽な対応で無理やりバトルさせられたりとかトラウマがあったけど、最近のシリーズでは一旦断ることもできるようになって良心的だ。もちろん、バトルしなければストーリーは進まないが。

 

「ほほぅ、ライバル。いいね。こうして会ったのも何かの縁だと思うし天辺を目指してお互い頑張ろう」

 

「もちろん!」

 

 マリィと握手をしてお互いの健闘を祈った。その後マリィは兄が待っているとスタジアムの方に向かった。

 

「兄か……なかなかインパクトのある子だったけど、妹キャラのライバルとか燃えてくるな!」

 

「フィー……」

 

 ニンフィアがジト目で見つめてくる。これはまた可愛いが変な誤解をされてるようだ。

 

「いやいや、変な意味はないぞ。今後のバトルが燃えてくるって意味だからな?他意はないぞ?おい、やめろ、そんな目で俺を見るなぁ!」

 

「ブイブーイ!」

 

「あ!いたいた!焼きとうもろこしとリンゴ飴買ってきましたよー」

 

 ニンフィアと戯れあっているとイーブイとラティアスが帰ってきた。ラティアスが腕にぶら下げている袋からは焼きとうもろこしのいい匂いがしてくる。やはり祭りと言えばこの匂いだ。

 

「お、ありがとう二人とも。それじゃさっそく」

 

 俺は焼きとうもろこし、ニンフィアにはリンゴ飴を渡した。触角で器用にリンゴ飴を持ち、初めて見る食べ物を恐る恐る舐めた。

 

「……っ!!ファ!」

 

 甘いリンゴ飴に面白い声を出してニンフィアは夢中で舐めている。

 微笑ましい。

 

「あ、そうだ。さっきマリィって子に会ってこれから始まるジムチャレンジの話を聞いたんだ」

 

 俺ら先程の出来事を二人に伝えた。

 

「へぇーこの地方はバトルが盛んなのですね。ガラル地方に来たのもユウキの修行もありますし、いいと思いますよ!」

 

「なら決まり!イーブイ、ニンフィア、そしてラティアス。俺たちでチャンピオン目指そう!」

 

「ブイ!(おーう!)」

「フィア!」

「はい!」

 

 4人で手を重ね、激励の掛け声をあげた。

 

 俺たちで目指すはチャンピオン。どんな強敵がいるか、オラワクワクすっぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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