花が告げる想い (白藜)
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普通だった私の、唯一普通でないところ

静岡県の、ちょっと田舎。海岸線沿いのバス停近く。常に潮風の吹きこむ、内浦の小さな旅館、十千万。そこの女将の三姉妹の末娘。私…高海千歌は、普通の家庭に産まれたの。学校に通いながら、家の手伝いをしながら過ごしている、ごくごく普通の女子。やりたくない宿題をやって、学校にかよって、友達と楽しく過ごす。これが私の普通で、それがみんなにとっても普通だと、そう思っていた。

 

「よーちゃん、よーちゃん!一緒に帰らない?」

 

或る六月の夕暮れ時。私はいつも通り、幼なじみで親友の曜ちゃん…渡辺曜に声をかけた。夕暮れ空で頬を赤らめるように笑った彼女は、少し困ったような笑顔を浮かべていた。

 

「あー、ごめん千歌ちゃん…今日から部活なんだ、帰るの遅くなっちゃう…あ、そうだ!千歌ちゃんも来てよ!見るだけでもいいからさ!ね、どう!?」

 

うって変わって、弾けるような笑みを浮かべる彼女。遅くなった曜を迎えに来たのであろう先輩からも、暇ならどうぞ。と言われたので、お言葉に甘えることにした。

 

 

最初の数週間、数ヵ月までは、ただ凄いなぁ、と思うだけだった。もちろん、綺麗に水に飛び込む曜のことも、他の部員の子のことも。そして、夏を迎えた頃、曜が一年生にして飛び込み競技のトップスリーに入賞を果たした。曜の笑いながら、しかし泣いている、その表情に、小さく胸がじくじくと痛んだことを、覚えている。

 

それから曜は、ますます水泳にのめり込むようになっていた。友人も増え、私と話す機会なんて学校の時には無くて、土日も部活があるし、学校から帰る時間もすっかり変わっていた。日を増すごとに、曜に抱いていた劣等感は大きくなっていった。

 

ある日の、帰りのことだ。

 

「あれ、千歌だ。」

 

後ろから、オーイ千歌ー!と呼ぶ声がした。後ろを振り向くと、見慣れた濃紺のポニーテールを揺らしながら、一人の女子生徒が近づいてくる。

赤色のスカーフ。ひとつ上の、幼なじみ。松浦果南がそこにいた。

 

「久しぶりに、一緒に帰ろっか。」

 

その言葉に、私は小さくうん、と頷いた。

 

話題は概ね、学校のことになった。授業どう?難しいでしょ?とか、そういえば部活はどうしたの?とか、相変わらず曜は運動神経抜群だね、とか。学校の様々なことにフォーカスを当てながら、果南ちゃんは私に語りかけてくる。私がうん、うん、と相づちをうって、たまにうぇー、とリアクションをとると、果南はからからと楽しそうに笑った。

 

「そういえばさ、曜ってなんかファンが多いよね。」

 

唐突に、果南ちゃんはそう言った。何の前触れもなく、本当に唐突に。私は驚いて、飲んでいた水筒のお茶を吹き出す。ごほごほと咳き込む私にハンカチを渡しながら、果南ちゃんは苦笑いをしながら続けた。

 

「今日も、何人かの女子から手紙と差し入れされてたよ。その内、ファンクラブなんかも出来ちゃうんじゃない?」

 

かんらからと、楽しそうに果南ちゃんは笑っていた。けれど、私はその話を聞けば聞くほどに血の気が引いていくような感覚がする。目眩がする。頭の奥からふつふつと何かが込み上げてくる。

 

「千歌も、ちゃんとアピールしないとさ、曜を他の娘に盗られちゃうぞー?」

 

うりうりー、と肘でイタズラをしてくる果南ちゃん。しかし、私の反応がなかったのを不思議に思ったのか、ちょっと反省したような声音で、「ごめんごめん、冗談だよー。」と言った。お詫びに、何かアイス買ってあげる!奮発しちゃうぞー?お財布からちょっと大きな硬貨をだして自慢げに笑っている。しかし、それにすら反応しなかったからか、果南ちゃんはちょっとムッとした声で私の肩をぐいっと引っ張った。

 

「って、千歌!?なに、この汗…それに、顔!何でそんなに青ざめてるの!?」

 

「ごめ、かなんちゃん…気持ち悪くて…」

 

そういうと彼女は、「少し待ってて、さっきのコンビニで塩飴とスポドリ買ってくるから!千歌はここで大人しくしてて!」

 

道の小脇にある小さな屋根付きのベンチに私を寝かせ、逆方向の上り坂へと走っていく。果南の背中が遠退き、小さくなっていく。その姿が見えなくなり、辺りに誰もいなくなった頃、私は表し様のない嘔吐感に襲われた。

耐えられず、私は思いっきりはいた。何故か口の中に胃酸の酸っぱい匂いはしなかった。私が最後に見たのは、私が吐いたであろう場所にある、小さな白いものだけだった。

 



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走れ果南

熱中症かもしれない。すっかりと青ざめた顔になっていた少女…高海千歌をみて、松浦果南は二つの選択肢を持っていた。ひとつは、今来た道を千歌をつれて戻り、コンビニで休息を取らせること。軽い熱中症なら、これで良い。しかし、もっと深刻なものだったら?ここからコンビニまでは普通に歩いても二十分、体調の悪い千歌を歩かせるなら、もっと…下手したら倍の時間がかかる。その間に千歌の病状が悪化したらどうする?それでもし最悪の事態になってしまったら、どうする?そう考えた瞬間に、果南は射られた矢のように、弾かれるように走り出した。勾配のきつい上り坂だ。いつもはグチグチいいながらも友達と話ながら上っている坂だが、今ばかりは坂上にあるコンビニを、そしてさらにそこから上にある学校を恨めしく思った。

 

足が重い。たかだか二キロメートルの道のりだが、学校終わりかつ夏場となると、駆け上がるのはだいぶ困難になる。それは例に漏れず果南もそうだ。けれど彼女には止まれない理由があった。

 

もう少し。

 

肺が酸素を求める。頭がガンガンと痛み、脳が警鐘を鳴らす。しかし、果南は止まらなかった。

 

コンビニへ駆け込み、塩タブレットとスポーツドリンクを購入した果南は、暫しの休息を得た。しかし、長々と休んではいられない。妹分の千歌が待っている。

 

乳酸がたまって動かなくなりそうな四肢を叩き、己を奮い立たせる。立て、松浦果南。少しの無茶くらい余裕だろ!

 

滑り降りるように、長い坂を下っていく。胸ポケットにいれていた連絡用のガラケーを開き、救急に連絡を入れた。

 

「もしもし、消防で」

 

「救急です!」

 

食いぎみに言って、千歌の容態と今から応急処置をすることを言う。そして、住所を言おうとしたあたりで、ぶつんと嫌な音がした。

 

充電切れ…いや、寿命のようだった。肝心なときに役に立たない携帯だ。邪魔な荷物になり下がったそれを棄て、私は走るスピードを上げた。呼吸が変だった。掠れてしまった喉で無理矢理空気を吸い込み、酸欠ぎみだった体をたたき起こした。

 

帰りは数分でついた。ベンチにいる千歌はひどくぐったりとした様子になっている。汗の量がひどく、脱水症状なのは火を見るよりも明らかだった。

 

「千歌!千歌!千歌!」

 

何度か呼び掛けると、千歌はようやく反応した。かなんちゃん、とちいさく呼び掛ける声に、果南は思わず泣きそうになった。

 

「千歌!これ、飲んで!」

 

ゆっくりとスポーツドリンクを飲ませ、浅かった呼吸が戻り、虚ろだった瞳は僅かに生気を戻す。塩タブレットを一粒口に含ませて、それを飲み込んだのを確認してから千歌を抱き起こして背中に背負う。ふと思いだし、千歌に携帯があるかを聞くも、今日は家だと言った。私は塩タブレットとスポーツドリンクを一口だけもらい、背負った千歌にその二つを持たせてから、もう一度走り出した。

 

 

もう、止まるな。夕方の酷暑の中を走りながら、果南は自身にそう唱え続けた。千歌に負担をかけまいと気を使って走り続けたせいか、全身が警鐘を鳴らす。止まったらもう動けないだろうことは、十分にわかっている。あとは、この坂を上るだけ。それさえ終えれば、病院は目と鼻の先なんだ。折れそうな心を叱咤し、果南はラストスパートと言わんばかりにスピードを上げた。大好きな妹分を、千歌を、守るために。

 

 

意識が朦朧とする。何度、膝を付いてしまおうと考えただろうか。辛い。苦しい。もう止めてしまいたい。思考がどんどんと曇り、ネガティブなものになっていく。千歌は今、どんな状況になっているのだろうか。

分からない。わからないけれど、いち早くこの坂を上りきらなければ、千歌が危ないんだ。それだけは分かっていた。

 

自動ドアが開く。暇そうな顔をしていた受付の人の表情が一気に曇った。事情を聴くために駆け寄ってきた受付の人の肩を強く握って、懇願する。千歌を、助けてください。お願いです、と。

 

「大丈夫よ、二人とも助けるわ。」

 

力強く頷いたその人をみて、気が抜けたのだろう。そこからのことは、覚えていない

 

 

 



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滴は月明かりに照らされて

目が覚めると、知らない天井だった。月並みな表現ではあるが、事実そうだ。見覚えのない天井に困惑しながら、体を起こす。真っ白の壁、床。そして、僅かに漂う、消毒液の匂い。そこが病室と分かるのに数瞬、自分の状況を把握するまで数秒かかった。ふと、人の気配。右側のベッドを見ると、そのベッドの上と、私と千歌のいる真ん中側に一人、大人の人影が立っていた。志満さんだ。

 

「志満さん、志満さん。」

 

左手に繋がれた点滴棒を杖がわりにして、私は志満さんへと歩いた。右手でとん、とん、と肩を小突いて見ると、恐らく眠っていたらしい志満さんは目を覚ました。泣き疲れた表情だった彼女は、私の顔を見るなり、涙で瞳を濡らした。目尻から溢れた涙が真っ白の白磁の床へと落ちていく。

 

「バカ!」

 

気がつけば私は、志満さんの腕の中で抱かれていた。ふらつく体をかかえるように抱き込んだ志満さんの肩は、ちいさく震えていた。

 

「お医者様に聞いたわ。夕方に、千歌を背負って走ってきたって。なんで、そんな無茶をしたの。」

 

「それ、は…千歌が、危ないって思って、そうしたら…頭が真っ白になっちゃって…」

 

「真っ白になったから、なに?千歌を、担いで、走ってきた。なんで救急を呼ばないの。」

 

「それは、私のガラケーが壊れてて…千歌も、今日は忘れたって…私が、助けなきゃって。」

 

「…あなたの方が、重症だったのよ。千歌は軽い熱中症で済んだけど、あなたはもっとも危険な状態だった。下手をしたら、あなたが死んでしまっていたのかもしれない。」

 

「でも、悩んでたら千歌が」

 

「そんなことは分かっているの!分かっているけど、どうしても、頭をよぎった。これで、あなたが死んでしまったら?千歌だけが生き残って、あなたが死んでしまったら?あなたを想う人は、いったいどうすればいいのよ!」

 

肩を握る手が、いっそう力強くなる。震えていた。怒りでじゃない。恐怖と、安堵。怒った声なのに、優しさが滲み出ていた。

 

「わたしね、千歌が大事。けど、それと同じぐらいにあなたも大切なの。千歌はあなたのことを姉のように慕っているし、あなたが千歌を妹のように思っているのは知っているわ。それと同じように、私も、あなたを妹のように思っているの。」

 

目尻が熱くなっていくのを感じる。泣いちゃダメだ、心配をかけたのはこっちなんだから。自分に必死に言い聞かせ、徐々にしゃくりあげ始めた声を必死に隠す。視界がぼやけて、志満さんがいま、どんな顔をしているのか分からなかった。

 

「だから、ありがとう。」

 

 

えっ、そう声が漏れた。

怒られると、思っていたから。

 

 

「千歌を助けてくれて、無事でいてくれて、ありがとう。」

 

 

震えた声。涙に濡れた、柔らかい声に、気がつけば私も泣いていた。心に押し止めた色々が、こぼれた。怖かったんだ。苦しかったんだ。辛かったんだ、自分が本当に正しかったのか。

 

「こわ、かった…!つらかった…!苦しそうにする千歌に、私じゃ気休めになる言葉しか言えなかった!走っているときに、何度も意識がもうろうとした!怖かったんだ。このまま、私と千歌は死んじゃうんじゃないかって…!」

 

私の独白を、志満は頷きながら聞いてくれた。結局私は、眠るまで泣き続けてしまった。



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優しさに包まれて

千歌ちゃんと果南ちゃんが入院した。その事を聞いたのは、部活の練習が終わって暫くしてから…つまり、家に帰ってから、暫くしたときだった。ご飯を食べて、お風呂にはいってさっぱりとした気持ちで、私は部屋でくつろいでいたんだ。

 

携帯をちょいちょいといじって、私は適当な音楽をかけた。近所迷惑にならないように、もちろん小さな音で。

ぐっ、ぐっ。体を伸ばしたり、前屈したり。今では慣れたものだけど、水泳の後のこの体解しをやらないと、翌日は妙に体が重い。いつもの日課だからついでに、とストレッチをこなしていると、階下からママの声が響いた。志満ちゃんから電話よ、早く来なさい。そう言われて私は、携帯をもって下に降りた。

 

「はい、もしもし…」

 

志満さんからの電話だなんて珍しいな、何かあったのかなと電話に出た。疲れたような声だった。掠れていて、所々で憂いを含ませた息を吐く。そして、衝撃の一言が放たれた。

 

あっけにとられた私に、志満さんの声が優しく響いた。今日はもう遅いから、明日にでも来てあげて。千歌も、きっと喜ぶわ。

 

そう告げると、夜分遅くにごめんなさいね、それじゃあ。と電話が切れる。受話器をそっと戻した私は、逃げるように自分の部屋へと戻った。

 

「千歌ちゃんと果南ちゃんが、入院、した…」

 

志満の言葉を反芻して、じくじくと胸が痛んだ。大切な幼馴染が、すきな人が苦しい思いをしていただろう時に、なにもできなかった自分を呪った。

 

その夜は、いつまでたっても眠ることができなかった。

 

 

「曜ちゃん!朝よー!」

 

ひどく眠い。結局寝付けたのは深夜二時。今は六時だから、結局は四時間しか眠れていないのだ。

「うん、すぐ行くぅ…」

パジャマを脱いで、適当なウェアを着て、寝ぼけ眼を擦りながら階下へと降りていく。洗面所へ行くと、ママとはちあった。

 

「あら、おはよう。…寝付けなかったのね、クマが酷いわ。心配だものね、千歌ちゃんのこと。」

 

ママは優しい声音で目の下のクマを親指の腹で擦って、優しく微笑んだ。手櫛で私の髪を優しく解かしながらママは言う。

 

「今日は学校、休みなさい。千歌ちゃんのお見舞い、行きたいでしょう?」

 

送って上げるから、用意しておきなさい。そう言うと、ママはキッチンへと向かった。

 

洗面台で顔をぱしゃぱしゃと洗ったあとに、リビングへと向かう。ママは温かいご飯とお味噌汁、昨日作った晩御飯のハンバーグを焼いてくれていた。朝からハンバーグは重いんじゃない?そう言うと、ママは優しく微笑んだ。

「元気を出すのには大好物を食べるのが一番でしょう?おっきいの、焼いてあげるからね。」

 

「…ん、ありがと、ママ。」

 

数分、ぼうっとテレビを眺めていると、香ばしい匂いと、ご飯の甘い香りが漂ってきた。「曜ちゃん、ご飯よ。」とママは笑う。美味しい匂いに引き摺られて、お腹の奥がきゅんとした。

 

「いただきます!」

 

 

ハンバーグを平らげて、寝癖直しと歯磨きを済ませる。ママは顔に薄く化粧を施して、スーツを着込んでいた。行こうか。優しく微笑むママに頷いて、私は車に乗り込んだ。

 

「私、今日はパートだから。帰りはバスで帰ってきてね。」

 

病院の駐車場で、ママはそう言った。お昼ご飯と、お見舞いの品にって五千円を私に手渡すと、颯爽と去っていった。

 

 

「えぇっと、ここの病室で…あってる、よね?」

 

302号室。受付で聞いた番号を思い出しながら、私は動悸収まりきらぬ胸に手をあて、すうっと息を吸った。

 

「千歌ちゃん、果南ちゃん、おはヨーソロー!」

 

あくまで普通に、元気よく。暗い私なんて、私『らしく』無いから。

 

病室のドアを開けると、問診を終えたらしい二人が、病院食を食べている所だった。二人とも左腕に点滴をつけているけれど、他に特に異常なところは無さそう。ホッと息を吐いた。

 

「あれ、曜?学校は?」

 

もぐもぐと白ご飯を咀嚼していた果南ちゃんが、口を隠しながらそう言った。千歌ちゃんも素早く口をもぐもぐと動かして、一息吐いてから「そうだよ、学校は?」と言った。

 

「あははは…二人が入院したって、昨日聞いて…ママが、今日は学校休んでお見舞いに行きなさいって。ああこれ、買ってきたからあとで食べようよ。」

 

ここに来る経緯を説明すると、果南ちゃんが苦笑いをしていた。面目ない…と呟く声が聞こえて、千歌ちゃんも少し俯いてしまって、これじゃあなんだか私がいじめているみたいな雰囲気じゃあないか。

 

「ホントだよ!もう…二人が入院したって聞いて、気が気じゃなかったんだから!」

 

私は敢えて怒ったふりをした。二人を見て、じわりと滲んだ涙を隠すためだ。二人はますますシュンとして、病室には静寂が満ちた。

 

私の洟を啜る音だけが響いて、徐々にしゃくりあげる声が大きくなる。千歌ちゃんも果南ちゃんも、私の様子に気がついたのか、顔を上げた。今の顔を見られたくなかった。涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃだ。昨晩から泣き続けて腫らした。弱虫の顔が見えてしまっている。今にも嗚咽がこぼれそうなのを耐えていると、ふわりと優しい暖かさに包まれた。

 

「ごめんね、曜。心配かけちゃったよね…」

 

やさしい匂いが私を包む。病衣からほんの少しだけ匂い立つ消毒の匂いと、嗅ぎ慣れた果南ちゃんの匂い。優しい、声音。優しくきゅうっと包み込まれるように抱き締められて、とうとう私の心の堰が切れた。涙が溢れて、二人の顔がぼやける。心配だった。二人とも、私の『タイセツ』だから。

 

「ばか、ばかっ!死んじゃったら、どうするつもりだったの…!二人とも、死んでたかもしれないんだよ!?私、嫌だよ!千歌ちゃんが死んじゃうのも、果南ちゃんが死んじゃうのも、どっちもやだよぅ!ばか!ばか!ばかぁっ!」

 

我ながら、何て情けないんだろうか。生きててよかった。その一言が言えずに、私は素直になれない子供のように泣きじゃくった。

 

「ごめん、ごめんね。」

 

果南ちゃんは、ただただ優しく、私の背中をさすってくれた。泣きつかれてしまった私はそのまま眠ってしまい、あろうことか眠ってしまった。覚えているのは、前後にあった、暖かい、感触だけ。



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