ベルが魔王の義息なのは間違っているだろうか? (クロウド、)
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幼い姫との出会い

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 【迷宮都市オラリオ】、それはこの世界の中心に存在する、地下迷宮を保有する巨大都市、いや、迷宮の上に作られた巨大都市という方が正解だ。

 

 街の中央に天高くそびえる塔、バベル。あれは、迷宮に潜むモンスターを封じる蓋のような役目をしているという。

 

 都市、ひいてはダンジョンを管理する『ギルド』を中核として栄えるこの都市でヒューマン、亜人と様々な種族が共存し生活している。

 

 その中でダンジョンに潜った成果で生計を立てている者達も少なくない、彼らはその職業から冒険者と呼ばれている。

 

「確か、じいちゃんの話だとこんな感じだったっけ」

 

 僕、ベル・クラネルは村を出る前に祖父から話された内容を思い出し少しだけ感慨深い思いをする。

 

「ここが……僕の本当の両親が夢見た場所。でも、本当ならもっと遅く来るはずだったんだよね」

 

 本当なら今の僕はこちらではまだ6、7歳。父さんの話だと、僕が作った【羅針盤】が不安定だったから時間軸がずれた、または、新しい概念魔法を誤って生み出してしまったかって話だったけど……。

 

 僕がこっちの世界に帰ってきたときじいちゃん驚いてたなぁ。まあ、数ヶ月前に行方不明になった孫が12歳になって帰ってきたんだから。

 

 さて、じいちゃんの話だとダンジョンに潜るにはギルドで冒険者登録をしなきゃいけないんだったっけ?その為には主神となる神を見つけなきゃいけない。

 

 じいちゃんは自分で決めろと言ってたけど、どうしたものか……。

 

 これからの予定を考える前に曇ってしまった眼鏡を外してハンカチで吹いていると少しばかり変わった光景が司会に映った。

 

 金髪の少女が自分と同じくらいの大きさのバッグパックを背負いフラフラな状態で街を歩いていたのだ。僕より3、4歳くらい年下だろうか?

 

 流石に同じくらいの歳の妹がいる身として気になったので、そのまま放置とは行かなかった。

 

「大丈夫かい?」

 

 僕は少女に近づき、身を屈めて彼女の視線で声をかける。彼女は一瞬、驚いたような顔で僕を見ると、掠れた声で呟いた。

 

「おとう……さん?」

 

「え?」

 

 その子はそう呟くと、そのまま体の力が抜け背中の重荷が彼女を押し潰そうとするが、その前に僕がその体をバックごと支える。

 

 ……結構、重いな。こんな子供が持てる重さじゃない。まあ、子供という時点では僕も似たようなものか。

 

「このままにしておく……というわけにも行かないよね」

 

 彼女が背負っているバックを変わりに背負い、その少女を横抱きに抱いて彼女が歩いてきた方向を見る。

 

 バックの中身は大方ドロップアイテムだろう。なら、下手にギルドに届けて換金すると変な疑いを受けかねない。となれば、彼女のファミリアのホームに届けるのが一番なんだろうけど何処のファミリアの子か見当がつかない。

 

 じいちゃんの話だと背中の紋章を見ればわかるんだろうけど……。

 

「まさか、自分より年下の女の子の背中を覗くわけにはいかないし……。」

 

 僕は周りを見渡し彼女と同業であろう冒険者風の男性に話しかける。

 

「すみません、この子何処のファミリアの子か知りませんか?」

 

「ん? ああ、『人形姫』か。その子なら【ロキ・ファミリア】の新人だよ。」

 

「すみません、何分こちらに来たのはつい最近なもので、よろしければホームの場所も教えていただきたいのですが」

 

「ああ、ここからだとーーー」

 

 僕は男性から聞いた道順を記憶し、礼を述べてから【ロキ・ファミリア】のホーム。『黄昏の館』に向けて歩き出した。

 

(それにしても……『人形姫』、か)

 

 

 

 

「ここが『黄昏の館』」

 

 たどり着いたそこは周囲の建物とは群を抜いて高く、無数の塔を連ねて作ったそこはまるで槍衾のようであり、その中央の一際高い塔には道化師の旗がひらめいている。

 

 この子の主神も心配してるだろうと思い早く送り届けようと中に入ろうとすると、門の向こうから翡翠色の髪の女性が現れた。

 

「アイズッ!」

 

 僕が抱いている少女を見て、翡翠色の髪のエルフの女性がこちらに向かって走ってきた。

 

「もしかして、この子のファミリアの方ですか?」

 

「ああ、【ロキ・ファミリア】所属、リヴェリア・リヨス・アールヴだ。君は……」

 

「僕は偶然街を歩いているとき彼女がこの大きなバックを、背負ってるのを見て心配になって話しかけたら、この子妙なことを口にして倒れてしまって……。」

 

「妙なことというと?」

 

「えっと、『お父さん』って……。」

 

 僕が告げると目の前の女性、リヴェリアさんは顎に手を当て難しい顔をしてしまう。

 

「すまない、ついてきてもらえるだろうか?」

 

「え?」

 

「私達の主神、ロキに会ってもらいたい」




12歳のベル君と8歳のアイズさん、そして、ありふれクロス。新しいだろぉ?


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ロキ・ファミリア

感想、評価をくれれば励みになります。


 リヴェリアさんに案内された部屋は誰かの執務室らしく、事務方用の机が一つ置かれておりその席には所謂、ゲンドウポーズ状態の金髪の少年、確か小人族とか言う種族だっけ。

 

 そして、隣に用意された椅子にはどっしりとした体付きの男性ドワーフ。二人共、中々見事な闘気を纏っている。()()()()()()()()()()()()()()()ってところかな。

 

 なにより、机の上に腰掛けて据わっている赤髪の女性、彼女から感じる気配は他の二人とは全く違う。

 

 なるほど、()()()()()()()()()()()()はあまり変わらないのか。

 

 この世界も思ったより面白そうだと顔には出さずに内心ほくそ笑んでいると部屋の扉が開け放たれあの少女を部屋に運んでいったリヴェリアさんが執務室に入ってくる。

 

「アイズの容態は?」

 

「……いつものやつだ、丸1日は寝込むことになるだろうな」

 

「相変わらずじゃのう……。」

 

「まあ、アイズたんらしいんやけどな」

 

「ンー、やっぱり僕等以外と潜らせたのはまだ早かったかな」

 

 リヴェリアさんの言葉に小人族の少年は困ったように笑い、ドワーフの男性も同じく困ったように顎髭を撫で、赤髪のエセ関西弁の女性は何が面白いのか笑みを零している。その女性の様子にリヴェリアさんは頭を抑えた。

 

「あの、いつものというのは?」

 

「ああ、すまない。彼女色々事情があってね、ダンジョンに潜ってはあんなふうに倒れるまで戦ってしまうんだ。今回も似たようなものだろう」

 

 遠慮がちに挙手して聞くと、小人族の少年が答えてくれた。

 

「さて、待たせて済まなかったね。僕は、【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナ。そして、そこの二人が」

 

「幹部のガレス・ランドロックじゃ」

 

「改めて、副団長リヴェリア・リヨス・アールヴだ。そして、そこの赤髪が」

 

「【ロキ・ファミリア】の主神、天界のトリックスターロキっちゅうわけや。よろしくな!」

 

「ベル・クラネルです。ついさっきオラリオに来たばかりでこちらの事情をよく知らないので不適切な発言をするかもしれませんが、ご容赦ください」

 

 自己紹介をされたので同じようにな乗り換えして一礼すると、ロキ様を含めた全員が驚いたような顔をしている。

 

「なにか?」

 

「いや、しっかりしてると思ってなぁ〜。見たところ、ベルたん十歳くらいやろ?」

 

「十二歳です、というかベルたんって……。」

 

「すまない、この馬鹿のことは無視してくれ」

 

「ちょ、母親(ママ)酷ない!?」

 

「誰が母親(ママ)だ」

 

 疲れたように息を吐くリヴェリアさん。ああ、なるほどこの人達の構図をそんな感じなのね。

 

「まずは団員を助けてもらったことに礼を言わせて貰いたい。ありがとう」

 

「いえ、それよりさっきの子アイズちゃんと言いましたっけ、あの子僕を『お父さん』って呼んだんですけど」

 

 フィンさんは僕の言葉を聞くとロキ様の方を向く、それに合わせてロキ様が一つ頷き返すと話し始めた。

 

「あの子、アイズ・ヴァレンシュタインは半年ほど前に両親を亡くしていてね……多分、君の容姿が彼女の父親とよく似ていたんだろう」

 

「そうだったんですか……あの子も……。」

 

「あの子"も"というのはどういう意味だ?」

 

「僕も実の両親はもういないんです、だから、数年前まで爺ちゃんに育ててもらったんですけど……。」

 

「なんや、何かあるんかいな?」

 

「えっと、あまり人に話すことじゃないというか……。」

 

「ええって、ええって、ウチ人やないし」

 

「おい、ロキッ!」

 

 軽薄な自分の主神を叱りつけるように怒鳴るリヴェリアさん。確かにママっぽいと思ってしまった。

 

「実は僕、昔人身売買の組織に捕まったことがあって……その時助けてもらった人の息子としてその人の故郷でつい最近まで生きてきたんです」

 

「それはまた……災難だったのう……。」

 

「いえ、そのお陰で父さんたちとも出会えましたし、今ではそれに感謝しているんです」

 

「……そうか、勝手なことを言ってすまんかったな」

 

 僕が真っ直ぐな目でガレスさんに言うと、彼は同情的な目を辞めて謝罪してくれた。

 

「アイズちゃんについてはこれ以上お礼はいりません。僕も同じくらいの歳の妹がいるので放っておけなかった、ただの自己満足みたいなものですので」

 

「ホンマにしっかりしとるなぁ〜。なぁなぁ、ベルたんウチのファミリアに入らへん?」

 

「ロキ」

 

「勧誘くらいいいやないか。そもそもリヴェリアもそれを考えてベルたんを招いたんやないんか、あの子が少しでもダンジョン以外に興味を持ってもらいたいから」

 

「それはそうだが」

 

「で、どや?」

 

 ハッキリ言って願ってもいない申し出だ。見た限りロキ様は軽薄そうに見えてもかなりのキレ者のように思える。

 

 地球の北欧神話に出てくる遊戯神ロキは邪悪な気質があると聞いたが()()()()()()そんなことはないだろう。

 

 早速、その申し出を受けようと思ったが。

 

「ちょっと待ってくれ、ロキ」

 

「なんや、フィン。ええとこなのに」

 

 それを遮ったのは団長、フィンさんだった。

 

「ベル・クラネル、君に一つ聞いてもいいかい?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

()()()()()()?」

 

 フィンさんの質問に僕だけでなく、ロキ様達も目をパチクリさせた。

 

「フィン、どいうことや?」

 

「いや、さっきから彼を前にしていると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「!!!?」」」

 

 フィンさんの言葉にロキ様達は一斉に僕の方を向く。え、なに?親指が疼く?何かの隠語か?

 

「……マジなんか?」

 

「信じられんのう」

 

「冗談、ではなさそうだな……。」

 

 僕のことをジロジロと見る【ロキ・ファミリア】の皆さん、え、ホントに何?なんなの?

 

「まあ、"百聞は一見にしかず"というし。実際に見せてもらおうか。少し付き合ってもらえるかい?」

 

「はい?」

 

 僕は状況がよくわからないまま笑顔で尋ねるフィンさんに頷くしかなかった。



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ベルVSフィン

 フィンさん達に連れられてこさせられたのは【ロキ・ファミリア】にあるおそらく訓練場と思わしき場所。的とか、訓練用の剣の入った籠みたいなものもあるし。

 

「丁度いい、今日は誰もいないみたいだ」

 

 フィンさんは槍を一本取り出して僕に向かってこういった。

 

「さぁ、それじゃあ始めようか?」

 

「いや、何を?」

 

 思わず、敬語を忘れてしまった僕は悪くはないと思う。ほら、リヴェリアさんも呆れてるし。

 

「すまないな、コイツは強い者を前にすると親指が疼くんだ。お前からそれを感じたというから、実力を試すために来てもらった」

 

 マジか。わざわざ闘気の隠し方覚えたのにこんなところで露呈するなんて。敵になったら色々不味そうだから、ホントにここのファミリアに入ったほうがいい気がしてきた。

 

 まあ、とりあえず無難な結果が残るように戦うしかないか……。

 

「ああ、そうそうこれは君の入団試験でもある、僕に勝てなければさっきの話はなしだ」

 

「はいぃ!!?」

 

 フィンさんの言葉に悲鳴に似た声が飛び出る。そんなあんまりな。

 

 リヴェリアさんとガレスさんにメディアヘルプサインを送るが、目を逸らされた。なんでだよッ!

 

 最後の希望を乗せてロキ様を見ると、こちら側にグッとサムズアップした。おおっ、助けてくれるのか?

 

「フィン、思う存分やったれ!そっちの方が面白そうや!」

 

 だから、なんでだよ!

 

 もう逃げ場ないじゃん。……やるしか、ないか。

 

 僕が覚悟を決めて顔を上げると、フィンさんは用意ができたと判断したらしく、

 

「武器はどうする? 剣や槍なら予備のものがあるけど?」

 

「いえ、自前のものがあるので大丈夫です」

 

 僕はそう言って右手の中指に嵌めてある指輪型のアーティファクト、"宝物庫"から僕専用の武器"黒傘"を召喚した。

 

「「「なっ!?」」」

 

 その光景に観戦していた三人が驚きの声を上げる。おお、凄いデジャブ。じいちゃんのときもこんな反応だったなぁ。目の前のフィンさんも声こそ上げていないが目を見開いて驚いている。

 

「……面白い手品だね、その指輪から取り出したように見えたけど?」

 

「さて、どうでしょうかね?」

 

 彼からの笑顔の質問をこちらも笑顔ではぐらかした。

 

「それにしても、傘が武器とは変わってるね」

 

「特性の傘です。下手な鈍ら以上に切れ味はあるし、振りぬけば骨くらい簡単に折れるので気をつけてください」

 

「それは本当に傘なのかい?」

 

 まあ、正確にはアーティファクトであって傘じゃない気がするけどちゃんと雨よけには使えるし傘の定義はなしてあると思う。

 

「まあ、いいか……。さて、胸を借りるつもりでいかせてもらおうか」

 

 フィンさんの発言に再び観戦席がざわつく、それはそうだろう"胸を借りる"という言葉は本来、相手が自分より強い場合使う言葉。

 

 団長ってことはおそらくフィンさんが【ロキ・ファミリア】では最強なのだろう、その彼が僕みたいな子供に胸を借りると言ったのだ驚かないほうがおかしい。

 

「先手はそちらからどうぞ」

 

「いいのかい?なら、お言葉に甘えさせてもらおうかっ!」

 

 言うが早いかフィンさんは身を屈めて足に力をため、地を蹴って僕に突っ込んで来た。横薙に振るわれる槍を黒傘で受け止める。そこから二撃、三撃と連撃を繰り出してくるが黒傘で全て払い落とす。

 

 蹴りなどを交え、不意打ちを狙ってくるが逆に発勁で弾き飛ばした。

 

「クッ!」

 

 フィンさんは槍を地面に突き立てて威力を相殺し、着地する。あの身のこなし槍だけではなさそうだ。

 

「やるね、ここまで遊ばれたのは久しぶりだよ」

 

「僕としては遊んでるつもりはあまりないんですが……この試験ってどうやれば終わりなんですか?」

 

「ンー、そうだね僕に『参った』と言わせられたらかな?」

 

 わかりやすい挑発だ、要するに自分に負けを認めさせる実力を主神と幹部達に見せたいわけだ。

 

「そうですか、なら……。」

 

 僕は隠していた魔力の一部を解放した。それと同時に空気が張り詰めるのを感じる。

 

 もう宝物庫まで見せたんだ。どうせバレるなら、見せてやる。

 

 一度ポンっと地面を蹴ったあと足に力を込め、【縮地】を使用して一気にフィンさんとの距離を詰めた。

 

「ッ!」

 

 彼の目には一瞬で僕が目の前に現れたように見えただろうが、僕はただ早く動いただけだ。

 

 そして、その状態から防御の遅れたフィンさんの槍を上空に弾き飛ばす、フィンさんは後ろに飛ぼうとしたが足に力を入れた瞬間足元が崩れ、浅い小さな穴ができ足を取られる。

 

「何っ!?」

 

 体制を立て直そうとしたスキに黒傘の鋒を首元に突きつけた。

 

「チェックメイト、ってやつですかね?」

 

「……ハハハ、『参った』ね。これは」

 

 唖然としながら笑みを崩さないフィンさん。取り敢えず、降参宣言は受けたので黒傘を宝物庫にしまう。

 

 ふと、観戦していたロキ様達の方を見てみると皆驚愕とか唖然と言う言葉がよく似合う顔をしていた。

 

 ……やっべ、やっちまった。

 

 いやいや、でもアーティファクト殆ど使わずに戦ってるんだしかなり加減したと思うんだ。やっぱり、向こうで肉体スペックを上げすぎたのが原因か?それとも、黒傘の身体強化が強すぎたのか?

 

 チクショウ、これじゃ父さん達が悪ふざけで考えた『バクウサギ二世』っていうあだ名もあながち否定できないじゃないか!

 

 そもそもバクウサギ二世ってなんだよ!?僕はシア母さんほどバグってないぞ!?あの人ドンナーの弾丸は普通にキャッチするし、父さんが改良したシュラーゲンでも避けられるようになってるし、天在使っても勘だけで目の前に現れるし、言ってて思ったけどやっぱあの人とんでもねぇ!

 

 そんなズレたことを考えていると背後から誰かに肩を掴まれた。恐る恐る振り返ってみると、さっきまで糸目だった目を見開いた赤髪のトリックスター様が……。

 

「そんじゃ、キリキリ吐いてもらおか?」

 

「…………はい」

 

 流石、神様。僕はその言葉に頷くしかありませんでした。



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入団

感想ください


「別の世界に迷い込んだことがあるだと?」

 

「……はい」

 

 訓練場から、再びフィンさんの執務室に連れてこられた僕はリヴェリアさんの圧力に屈してゲロっていた。いや、だってこの人怖いんだもの……。

 

「なにか失礼なことを思わなかったか?」

 

「とんでもありません」

 

 なんて人だ、勘までいいなんて……。

 

「まあまあ、リヴェリア。まずは彼の話を聞いてみようじゃないか」

 

「そやそや、ウチもその世界について興味がある」

 

 フィンさんとロキ様が視線で話してくれと訴えてくる。

 

「僕が迷い込んだのはトータスと呼ばれてる世界で、こちらの世界とは違いたった一柱の狂った神を信仰していた世界」

 

 僕はその神のことを思い出し、本気で胸糞が悪くなってくる。そのせいで、魔力の一部が放出される。

 

「お、おい……。」

 

「あっ、すみません」

 

 リヴェリアさん達が僕の魔力に当てられて顔を青くしていたので慌てて魔力の放出を止めた。いけないいけない、感情のコントロールがまだまだ未熟らしい。

 

「どうしたんじゃ、一体?」

 

「いえ、ただあの狂った糞野郎を思い出したら胸糞が悪くなっただけですよ」

 

 清々しいまでの笑みを浮かべて言うと皆さんが若干引く。

 

「よっぽど嫌いなんだね、その神のことが……。」

 

「ハハハ、好きになれると思いますか?世界そのものをボードゲームか何かと勘違いして種族同士の戦争を起こすような変態カス野郎を?」

 

 青筋を浮かべながらそう尋ねるとフィンさん、「あっ、いや、すまない……。」と言って引き下がった。

 

「確かにそりゃ狂った神やな……。ん?でもさっきベルたん『信仰していた』って言ってたような」

 

「はい、僕の父さんと母さんがブチ殺しましたから。真相を知っている人にあの糞神を信仰してる人はいないと思いますよ?」

 

「ええ……。」

 

 ロキ様が身の危険を感じたように両手で自分を抱きしめる。

 

 取り敢えず僕は全てを語った。

 

 6歳の頃トータスの商業都市フューレンで父さん、南雲ハジメに現妹であるミュウと一緒に助けられたこと。

 

 父さんもまたトータスとは違う世界から盤上を盛り上げるための駒として召喚されたこと。

 

 元の世界に帰るためにその世界にある七つの【大迷宮】を攻略して【神代魔法】を集めていたこと。

 

 そして最終決戦で見事、狂った神を打ち倒し父さん達の世界、地球へ帰還したこと。

 

 僕は父さんに憧れ、あの人のように自分の力で元の世界へ戻る道を選んだこと。

 

 偶然にも僕に与えられた天職は父さんと同じ"錬成師"だっこと。

 

 10歳から【大迷宮】に挑戦し12歳になって全ての迷宮を攻略し、概念魔法を付与したアーティファクト"羅針盤"と"ゲートキー"を使いこの世界に帰ってきたこと。

 

 しかし、どういうわけか僕が作ったアーティファクトで帰ってこれたのは僕が行方不明になってから数ヶ月しか経っていなかったこと。

 

 そして、最後に帰ってきた僕に祖父が打ち明けてくれた正体のこと。

 

 それを語ったとき、ロキ様達は驚愕を顕にした。

 

「……()()()、やと?」

 

「そう、僕の祖父はかつてオラリオの双璧を成した【ゼウス・ファミリア】の主神、ゼウスです」

 

 かつて1000年もの間オラリオ最強の地位を維持した【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の片割れ。その片割れが僕のじいちゃんの正体だと聞かされたときは僕も驚いた。

 

「じいちゃんが僕を育てたのは【ゼウス・ファミリア】の主戦力であった両親のような英雄になってほしいということと、願わくば自分の子供たちである【ゼウス・ファミリア】の命を奪った黒竜を倒して仇をとってもらいたいという願いから」

 

 僕がこのことを語ると、ロキ様は視線を鋭くして僕に尋ねた。

 

「ジブン、ゼウスを追放するきっかけを作ったウチを憎んだりしてないんか?」

 

「……いいえ、じいちゃんから聞いた話では仕方ないと思います。オラリオのような闇を抱える都市では絶対的な力を持つものが上にいなければいけない。その力を主戦力を失ったじいちゃんのファミリアには既になかった、それだけのことです」

 

「そうか」

 

 ロキ様は神の特権である子供の嘘を見抜く力で僕が嘘をついていないと判断したらしく満足げに頷いた。

 

「さっきの戦いで僕の足元を崩したのも、君の仕業だね?」

 

「はい、靴底に仕込んだ魔法陣で地つなぎで錬成を行ってフィンさんの足元だけ土を脆くして穴にしたんです」

 

「便利だな」

 

「それだけじゃないですよ、【錬成魔法】だけでなく【生成魔法】を組み合わせれば。黒傘のような、アーティファクトも作れます」

 

 あの黒傘は【大迷宮】、【オルクス大迷宮】の創作者オスカー・オルクスが使っていたとされる武器を僕が蘇らせたものだ。

 

「さっきから言っているアーティファクトとはなんだ?魔道具(マジック・アイテム)とは違うのか?」

 

「まあ、似たようなものですけど、簡単に言えば上位互換でしょうね。僕の【生成魔法】で無数の技能を付与していますから」

 

 この黒傘には身体強化の他にいくつもの魔法が付与されている。

 

「鍛冶師泣かせもいいとこじゃな」

 

「まあ、元々鍛冶職用の天職ですからね」

 

「さっきの指輪は?」

 

「【空間魔法】と【生成魔法】の合作である宝物庫です。その名の通り、色んなものを入れたり取り出したりできます」

 

 宝物庫から黒傘を取り出して実践してみせた。

 

「正直な話、僕みたいな化け物を抱え込むのはそちら側としても不利益を被ると思いました。だから、出来れば信頼を得てから話したかったんです」

 

「そんな言い方をするもんやないで?」

 

 ロキ様はそう言ってくれるが僕の力は正直、この世界でもおそらく勝てるものがいないくらいの力、ハッキリ言って異常だ。

 

【神代魔法】に至ってはこの世界の定理すら覆す危険な代物だ。おまけに、僕の体はユエ母さんの秘術によって神の使徒に等しいスペックを得ている。

 

 こちらの世界に帰ってくるためとはいえ、僕は人間をやめたのだ。これを、化け物と言わずしてなんと呼ぶのか。

 

「だったら、聞いてみようかやないか。そんじゃ、ベル・クラネルの入団に賛成の者、挙手〜」

 

 ロキ様が間延びのする声でそう言うと、まずロキ様本人、続いてフィンさん、リヴェリアさん、そして、ガレスさんと手を上げていく。

 

「えっ、全員?」

 

「何故お前が驚いている?」

 

「いや、だって、僕みたいな存在厄介なだけじゃ……。」

 

 てっきり断られると思っていた僕は理由を聞きたくなった。

 

「ンー、正直な話。君を抱え込むリスクよりも、君を引き入れたときのメリットと、他の派閥に入られたときのデメリットをふるいにかけた結果なんだよね」

 

「無数のアーティファクトを生み出せる錬成師としての腕、この世界にはない【神代魔法】という武器、なにより【大迷宮】という実戦経験からなる技量。これだけの人材を余所にやるほうがどうかしている」

 

「リヴェリアはトータスとか言う世界の魔法について興味があるからじゃろう?」

 

「……ない、とは言わん」

 

 フィンさんの解答にリヴェリアさんが補足し、ガレスさんの指摘にリヴェリアさんはそっぽを向いて答えた。

 

 あと話していないのはロキ様だけなのでその視線は自然とそちらへ向く。

 

「ウチの場合は簡単やろ?面白そうやからや。別世界に漂流したことがある子供なんて長い神生で一度会えるかどうかもわからないんやで?そんなの手放すわけないやないか」

 

 本当に楽しそうに話すロキ様。

 

 神々にとって派閥の運営は子供達と関わる『娯楽』の一種でもあるとじいちゃんは言っていた。流石は遊戯神というべきか。僕みたいな化け物を面白いの一言ですませられるのだから。

 

 でも、そんなことが言えるこの人(神)になら僕の力を預けてもいい気がしてきた。

 

 だけど、その前に……一つだけ問いたいことがあった。

 

「ロキ様、一つだけ聞いてもいいでしょうか?」

 

「なんや?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「ないっ!」

 

 僕の質問にロキ様は即答した。

 

「そんなつまらん世界ウチかて願い下げや。子供ってのは()()に生きてるからこそ面白い生き方をする。それを見守るんがウチ等の楽しみなんや。

 笑うこともできない不自由な世界に価値なんてあるわけもないやろ」

 

 【魂魄魔法】を宿した"黒眼鏡"が彼女の言葉に嘘はないと告げている。……うん、やっぱりこの人はあの狂った神とは根本が違う。

 

「それで、なんなんこの質問?」

 

「僕が憧れている七人の英雄が、生まれるきっかけになった言葉ですよ」

 

 僕は椅子から立ち上がりロキ様の前に片膝をつき、胸に手を当てて跪く。

 

「神ロキ。この身、この力、全て貴女に預けましょう。例え地獄の底だろうと貴女の眷属として戦うことを、ここに誓います」

 

 彼女に預けよう、僕が培ってきた力の全てを。

 

「そんな仰々しいもんやんなくてもええんやけどな……。まあええ、その誓い確かに聞き入れた」

 

 苦笑いを浮かべながらも僕の誓いを認めてくれる。

 

「ようこそ、【ロキ・ファミリア】へ。歓迎するで、ベルたん」

 

 差し出されたその手を、僕は確かに握り返した。



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ステイタス

「んじゃ、早速恩恵刻むとしよか」

 

「はい、お願いします」

 

 入団を認めてもらえた僕は、恩恵(ファルナ)を授かる為にロキ様の部屋に通された。

 

 恩恵とは、言わばこの世界における成長の起爆剤だ。モンスターを倒すことで得る経験値(エクセリア)を得てランクアップすることで魂を昇華し神に肉薄するためのもの。

 

「そう固くならんでええって。取り敢えず、上脱いで背中向けてや」

 

 ロキ様に言われたとおりコートを脱いでその下のシャツも脱ぐ。

 

「こりゃすごいな……。」

 

「あはは……やっぱりそうですかね?」

 

 僕の上半身を見ての第一声にロキ様が顔を引つらせながら声を漏らした。ロキ様が見ているのは僕の上半身全体に出来た無数の傷、中には胸を貫通したあとの傷まである。

 

「これって、例の【大迷宮】でか?」

 

「そうです。勿論、内側は【再生魔法】で修復してあるので生活に負担は全くありませんが、やっぱりこれは僕が【大迷宮】に挑戦した数少ない証明の一つですから簡単には消さないんです。

 それに、自分が強さに溺れないように戒めも兼ねて」

 

「……そうか」

 

 ロキ様は優しい手付きで背中に出来た傷跡を撫でる。

 

「こうして見ると、改めて思うわ。……頑張ったんやなぁ」

 

 優しいロキ様の言葉にちょっと泣きそうになった。

 

 この傷は僕が最後の大迷宮、【オルクス大迷宮】に挑戦した際油断して最下層のボス、ヒュドラによって胸を貫かれた際の傷跡だ。

 

 あのときは【再生魔法】で内側だけ応急処置して表面はそのままだったので残しておいた。あのときのような失態を二度と起こさない為にこの傷は一生の恥として残しておくと決めた。

 

 ロキ様の前の椅子に腰を下ろし背を向ける。

 

「そんじゃ、これから恩恵刻むけど後悔はせんか?後戻りはできんで?」

 

「僕は既に貴方に力を預けると誓った身後悔はしません。それに、後戻りできないことなんて僕にとっては今更ですよ」

 

 そう、僕の力のように。

 

「そやな……野暮なこと聞いたわ。今度こそ、いくで」

 

 そう言うとロキ様は再び僕の背中に触れた。彼女の指から流れる熱い感覚。神の血によるステイタスが刻まれていっている証拠だ。

 

神聖文字(ヒエログリフ)】で刻まれるそれは世界に新たな眷属が生まれたという報告でもある。

 

「うわぁ……。」

 

「え、何かありましたか?」

 

「いや、予想はしとったけどこれは……。」

 

 思わせぶりなことを言うとロキ様は近くにあった紙に僕の【ステイタス】の写しを走り書きしていく。

 

 ……。

 

 ………。

 

 ……………。

 

「……長くありません?」

 

「しゃあないやろ!ウチかてこんな疲れる【ステイタス】の写し始めてや!」

 

 若干キレ気味にそう言われた。そんなにヤバいの僕の背中の文字?

 

「はあはあ、出来たで……。」

 

 少し息が上がっているロキ様から【ステイタス】の写しを受け取る。

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:I 0 耐久:I 0 器用:I 0 敏捷:I 0 魔力:I 0

《魔法》

【錬成(+鉱物系鑑定)(+精密錬成)(+鉱物系探査)(+鉱物分離)(+鉱物融合)(+複製錬成)(+圧縮錬成)(+高速錬成)(+自動錬成)(+イメージ補強力上昇)(+消費魔力減少)(+鉱物分解)】、【全属性適正(+雷属性効果上昇)(+雷属性耐性)】、【複合魔法】、【生成魔法】、【重力魔法】、【空間魔法】、【再生魔法】、【魂魄魔法】、【昇華魔法】、【変成魔法】

《スキル》

【魔力操作(+魔力放射)(+魔力圧縮)(+遠隔操作)(+身体強化)】、【気配感知(+特定感知)】、【魔力感知(+特定感知)】、【気配遮断(+幻踏)】、【高速魔力回復】、【剣術(+斬撃速度上昇)(+抜刀速度上昇)】、【縮地(+爆縮地)(+重縮地)(+震脚)】、【先読(+投影)】、【限界突破】、【言語理解】、【使徒化】、【英雄憧憬】

 

「うわあ……。」

 

 紙にビッシリとかかれた自分の【ステイタス】にロキ様と全く同じ反応をしてしまった。

 

「トータス版の僕の【ステイタス】の丸写しじゃん……。」

 

「やっぱそうなん?普通魔法って多くても三つだけのはずなんや……。だけど、さっきの話からしてベルたんって、多分……。」

 

「有に百を超える魔法が使えるでしょうね」

 

「ああ!聞きたくなかった!」

 

 ロキ様が両耳を抑えてベッドに転がってしまった。

 

「アレ、でも……。」

 

「……どうかしたん?」

 

「いや、見たことないスキルが増えてて」

 

「どれや?」

 

 ロキ様がガバッと起き上がって僕の隣から【ステイタス】の写しを見る。ちょっと近い。

 

「この【英雄憧憬】っていうのなんですけど……。」

 

「どれどれ」

 

 ロキ様が再び僕の【ステイタス】を調べる。

 

「なになに……【英雄憧憬】、『自身が英雄と思う人物を思って戦うとき成長値アップ』。間違いない!こっちで発現したレアスキルや!」

 

「マジですか!?」

 

 いや、ありがたいけど……僕の体はこれ以上の進化を求めているっていうのか?

 

「いやあ、まさかここまでヤバイ【ステイタス】だったとは……。こら、他んとこにやらんで良かったわ。でも、不思議やなぁなんでこっちの世界の人間であるはずのベルたんがこっちの【ステイタス】よりトータスの【ステイタス】に引っ張られるんや?」

 

 ロキ様の疑問に僕は写しから顔を上げて答えた。

 

「……これは、僕の推測なんですけど。僕は偶然トータスに迷い込んだんじゃなくてあの狂った神、エヒトに召喚されたんじゃないかって思ってます」

 

「そんなことしてソイツになんの意味があんねん?」

 

「多分、僕の体はトータスの【ステイタス】に適応できる素質があった。だから、新しい駒として戦わせるつもりだったけど、父さん達というもっと面白い駒を見つけたらから用済みになった……いかにもあの糞野郎が考えそうなことですよ」

 

「聞けば聞くほど、同じ神として胸糞が悪くなる奴やなぁ」

 

 ベッドの上で胡坐をかきながら憤慨したように腕を組むロキ様。激しく同感なので僕も頷く。

 

「そういや、【英雄憧憬】にあるベルたんの憧れる英雄って誰や?さっきの話からして、やっぱ父親の『魔王』っちゅうやつか?」

 

「勿論、父さんや母さん達、僕を生んでくれた両親も僕の英雄ですが。同じくらい尊敬してる人達がいるんです」

 

 ロキ様は顎に手を当てう〜ん、とうなると閃いたように僕に指差して答えた。

 

「ああ、あの時言ってた七人の英雄のことか?」

 

「はい、【大迷宮】を作った"解放者"の皆さんです」

 

 "解放者"。エヒトの策略により世界を滅ぼそうとした反逆者の汚名を着せられ戦うこともできずに敗北をきすことになった者達。

 

 だが、彼等が残した【神代魔法】によって父さんはエヒトを打ち破ることができ、地球にも帰還することができた。勿論、僕もだ。

 

「【生成魔法】のオスカー・オルクス。

 【空間魔法】のナイズ・グリューエン。

 【再生魔法】のメイル・メルジーネ。

 【魂魄魔法】のラウス・バーン。

 【昇華魔法】のリュースティス・ハルツィナ。

 【変成魔法】のヴァンドル・シュネー。

 そして、そのリーダー。ゴーレムに魂を宿してまで戦いの結末を見届けようとした【重力魔法】のミレディ・ライセン。

 全員が僕にとって憧れで、英雄なんです」

 

 だからこそ、僕は彼らの試練を真っ向から受けると決めた。父さんのアーティファクトがあればもっと楽に攻略できただろうが僕はそれをしなかった。

 

 使徒の力を得たのも【羅針盤】を動かすのに魔力が足りなかったのが一番の理由だったし。

 

「宝物庫や黒傘も元々、オスカーさん達が作ったものですし。この眼鏡もオスカーさんに憧れて作ったんです」

 

「え?その眼鏡アーティファクトだったん?」

 

「ああ、はい。戦闘中には光って目くらましになりますし、暗闇でもよく見えるし、それに、他のアーティファクトと連動し遠くの映像も見ることが出来る代物です」

 

「それだけで、一財産やな……。ん?それってつまり使いようによってはどこでも覗けるってことか?」

 

「使いませんからね、そんなことに!オスカーさんへの冒涜ですよっ!」

 

 ロキ様の心外な言い方に僕は眼鏡を庇うようにロキ様から一歩距離をとった。

 

「はぁ〜ん。まあ、ベルたんも男の子やしとやかくはいわんわ。でも偶にウチも誘ってな?」

 

「だからしないって言ってんだろうが!」

 

 ロキ様のわかってる、わかってるみたいな態度に流石にキレ気味に言うが、ロキ様はどこ吹く風だ。

 

「ああ、そうそう。ベルたん【変成魔法】って何処まで肉体に干渉できるん?出来たら、その……ウチの胸を大きくしてですね……。」

 

「アンタ人の英雄をどんだけ冒涜する気だ!?」

 

「お願いや〜!もう宴の度に無乳神って言われるのは懲り懲りなんや〜!そもそもジブン、ウチに力預けるって言ってくれたやん!」

 

「意味が違うわっ!自分の都合のいいように解釈してんじゃねぇ!」

 

 やらないと言っているのに人の足にしがみつくロキ様をなんとか振りほどこうとするが全く離れない。なんだ、このパワーは?地上じゃ神の力は使えないんじゃなかったのか!?

 

 それから、戻るのが遅い僕達の様子を見に来たリヴェリアさんのゲンコツが落ちるまで僕達の攻防は続いた。



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ダンジョン探索

「さあ、これからダンジョンに潜るが準備はいいか?」

 

「はいっ!」

 

「…………。」

 

 無事に恩恵を与えられた僕はフィンさん達幹部陣の監修のもとダンジョンに潜ることを許された。下手にアーティファクトを使って戦われるのを、危惧されたのだろう。

 

 こちらの世界では初のダンジョン探索になる。

 

 昨日の夜、ほぼ徹夜でアーティファクトの点検を行った。まあ、朝迎えに来たリヴェリアさんに見つかってゲンコツ喰らったけど……なんであの人使徒並の体得た僕の防御突き破ってあれほどの衝撃を与えられんだよ。

 

 んで、まあ予想はついてたけどその探索にアイズちゃんがついてきた。

 

 なんというか、こうしてみると刃物みたいな娘だな。まるで斬るものを自ら探す飢えた妖刀……ってのがしっくりくる。

 

『ベルたんにはアイズたんとパーティを組んでもらう、ええか?これは決定事項や』

 

 いくら僕の容姿が彼女の親に似ているとはいえなにかあるのだろうということはすぐにわかった。

 

 だが、込み入った事情に思えたので今は深く聞こうとしなかった。

 

 取り敢えず仲良くなることから始めようと挨拶を試みたが、

 

『僕は、ベル。よろしくね』

 

『…………(プイッ)。』

 

 そっぽを向かれてしまった。あのときの僕の心の傷は結構深い。なにせ、その場で人の目も気にせず四つん這いになったほどだ。

 

 今も視線を合わせようとすると逃げられるし……。

 

 僕はティオ母さんみたいに幼女に冷たくあしらわれても興奮しないっていうのに……。

 

「先は遠そうだな」

 

 リヴェリアさんが耳元で囁く。

 

「僕、彼女に嫌われるようなことしましたかね?」

 

「さあ、なにせ昨日初対面の相手だからな」

 

 参ったなぁという気持ちで頭をかく。

 

「さあ、出発するぞ……!」

 

 先を行くリヴェリアさんの後を追い、僕達はダンジョンに潜った。

 

 ……の、だが。

 

「僕がやることがない……。」

 

 アイズちゃんが現れるモンスター片っ端からたたっ切ってるから僕のやることがない。お陰で既に七階層まで潜るは目になった。

 

「『戦車の正位置』、但しブレーキがぶっ壊れてるな」

 

「なんだ、それは?」

 

「見てのとおり、タロットカードですよ。勿論、アーティファクトなのでカードによって役割が違いますが」

 

 シア母さんみたいに天職による占いはできないが、何故か僕の占いはよく当たる。尋ねできたリヴェリアさんにそう答えるが、答え終わる前に視線が前に向いた。

 

「ベル、そろそろ準備をしろ」

 

「ああ……来ましたね」

 

 僕の【気配感知】に反応が出た。結構な数だな。

 

 現れたのは群れをなして現れた巨大な赤い蟻のようなモンスター。

 

「アレは確か……キラーアント?」

 

「知っているのか?」

 

「じいちゃんが残してあったファミリアの資料を記憶してるだけですよ」

 

 確か甲殻が硬くて、ピンチになると仲間を呼ぶ厄介なモンスターだった気が……。

 

「アイズちゃん、ここはリヴェリアさんの魔法で一気に……。」

 

「ッ!」

 

「って聞くわけないよね……。」

 

 さっきと同じように無策に突っ込んでいく少女。流石にあの数を捌ききれるわけがない、僕は腰のホルスターに収めてあったそれを抜く。

 

 そして、ドパンッという破裂音とともに胸を貫かれたキラーアントが消滅する。

 

「向こう見ずにも程ってものがあるだろ」

 

 僕の右手に握られた無骨な形のリボルバー式拳銃の銃口から白煙が上がる。

 

「ベル、それは……。」

 

「父さんの武器を僕がトレースした代物です。少なくとも矢より早く、ノーモーションで放てて威力があります」

 

 父さんが初めて作ったアーティファクト、電撃を纏わせることで電磁加速砲の役目を果たすその銃の名はドンナー。

 

「あの子が捌ききれない分は僕がやります」

 

「……任せたぞ」

 

 隣に立つリヴェリアさんに僕は頷き返す。あの女の子が僕らの静止を聞くような子じゃない。

 

 リヴェリアさんは、高火力の魔法を使う魔道士だ。あのこのように前線で戦う彼女がタイミングを合わせなければ魔法を使うことができない。いや、使っても巻き込まれるだけだ。

 

 なら、直線以外で確実に狙えるこれが一番彼女のサポートに向いている。

 

 そこから僕達はなんとかあの子を止めようとしたが、静止を全く聞かず突っ込むだけの彼女に必死についていった。

 

「どうします?もう十階層ですよ」

 

 僕は狭い通路の中で空中から攻撃を仕掛けているバッドバットを撃ち落としながら、リヴェリアさんに尋ねる。

 

「ああ、そろそろ戻るべきだろう。アイズ、今日はここまでだ」

 

「……まだ、いける」

 

 インプを切り裂いて被った血塗れの姿で肩で息をして、しかし、戦意はかけらも失っていない目で僕らに言うアイズちゃん。

 

「どうみても、キャパシティオーバーだ。今やめなきゃ明日に響くだけだよ?」

 

「……関係っ、ない!」

 

 ダメだ、こりゃ……。

 

 仕方ない、気が向かないけど闇属性の魔法で意識を刈り取るしか……。

 

『ガアァァォァォォァァァ!!!』

 

 その時、モンスターの叫び声がダンジョンに響いた。

 

 しまった、この娘に気を取られて【気配感知】を怠った。

 

 先を見るとその声の主が暗闇から現れてくる。

 

 現れたのは豚の顔と人の体を持つ巨体のモンスター。オーク。確か、十階層では強い部類に入る筈だが……。

 

 僕がドンナーを構え直すとそれより先にアイズちゃんがオークに向かって突っ込んでいった。

 

「なっ!」

 

「戻れ、アイズッ!」

 

 今のあの子にアレと戦う力が残っているとは思えない。

 

「チッ!射線に入ってて狙えない……!」

 

 この狭い通路であの巨体に真っ直ぐ向かっているんだ。狙うのは簡単だが、あのチョコマカ動いているアイズちゃんを巻き込みかねない。

 

 ドンナーをホルスターに戻し宝物庫から黒傘を取り出す。が、その間にアイズちゃんは案の定オークの反撃をくらい首を捕まれ持ち上げられていた。

 

「世話が焼ける子だなっ!」

 

 僕は黒傘を展開し、オークに向ける。すると、傘が一瞬光ると凄まじい暴風がオークを吹き飛ばした。

 

 ーーーアーティファクト 黒傘六式 大嵐

 

「おいっ、これではアイズまで……!」

 

「リヴェリアさん、キャッチお願いします」

 

「なにっ?」

 

 彼女の視線の先にはいつの間にかダンジョンの地面から生えていた鎖がアイズちゃんに巻き付き吹き飛ぶのを止めていた。

 

 ーーーアーティファクト 錬鎖

 

 本来、触れていなければ使えない【錬成魔法】を感応石を通じてピンポイントで錬成ができたり、遠隔操作できたりする代物だ。

 

 僕が黒傘の持ち手に繋がった鎖を引っ張ると地面に埋まっていた鎖が浮かび上がり空中で静止したアイズちゃんを引っ張りリヴェリアさんのところで落ちるよう操作した。

 

 ポスっと言う音とともにリヴェリアさんの胸にとアイズちゃんが落ちてきた。どうやら、気絶してしまったらしい。

 

「いつの間に鎖を張っていた?」

 

「大嵐を使ったときには仕込んでありましたよ、あの暴風で僕の足元に注意を払える魔物なんていませんから」

 

「オークはどうした?」

 

「黒傘の大嵐は敵の錯乱用の魔法、死んではいないのでもうそろそろ……。」

 

『ガアァァォァァァァ……!』

 

 ダンジョンにオークの咆哮が響く。吹き飛ばされた怒りか、はたまた本能的にコケにされたことに気づいているのか。

 

 まあ、どっちでもいい。

 

「悪いが、遊んでやるつもりはねぇんだ」

 

 黒傘で地面を叩くと凄まじい勢いでヒビが入っていく。錬鎖を通して高速でこのあたりの地盤を弱くしていた。思ったより階層の厚みがあったので下の階層にまでは届かなかったがアレがスッポリ落ちる程度の深さは作れたはずだ。

 

「ダンジョンから生まれて、ダンジョンに飲まれて死ぬんだ……本望だろう?」

 

『ガァァァァァァ……!!!?』

 

 そのまま蟻地獄のような足場に吸い込まれ絶叫を上げるオークを見下ろして、

 

「【錬成】」

 

 再び地面を元の強度に戻し、蓋をした。

 

 先程の耳を裂くような咆哮が嘘のように静けさがあたりを支配する。

 

「……リヴェリアさん、今日はもう帰りましょう。アイズちゃんが気絶してしまったら、これ以上の探索は意味がない」

 

 その静けさを破ってリヴェリアさんに話しかけると彼女は唖然としていた顔から何がおかしいのか口元を抑えてクスッと笑った。

 

「なんですか、急に……。」

 

「いや、お前は思っていたより激情家だったのだなと驚いていただけだ」

 

「激情家?」

 

 失礼な、僕はかなり理性的で通ってるはずだ。父さん達に比べたら……。

 

「気づいてないのか?お前、戦闘中口調が変わっていたぞ?」

 

「口調、が……?」

 

 リヴェリアさんの言葉に僕は口元を抑える。

 

 あまり実感はない、戦闘中は手先の作業にばかり集中力が行っていて言葉遣いなんてものもほとんど気にしてないというのが本音だ。イチイチ何を言ったかなんて覚えてない。

 

「まあ、いい。帰るぞ」

 

 リヴェリアさんの言葉にモヤモヤしたものを感じながら僕はその後ろに付いていった。



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中庭での一幕

「ふう、リヴェリアさん今日も飛ばしてきたなぁ〜」

 

 初ダンジョン探索から数日、僕はリヴェリアさんの座学口座が終わりホームの中を歩いていた。流石に覚えることが多いらしく戦闘面以外でのダンジョンや派閥についてのことまで教え込まれた。

 

 運がいいことに僕は元々容量はいいほうだ。鉱石の種類を覚えるよりは簡単だしね。

 

 ふと、芝生のある中庭を通りかかると一人無心で剣を振る金髪の少女、言うまでもなくアイズちゃんが目に映った。

 

 つい先日の危なっかしい戦いで今日はダンジョンに行くことを禁止されているから、素振りで気を紛らわせているんだろう。

 

 彼女のダンジョンでの戦闘の様子を何度か見て理解した。彼女がダンジョンで戦う理由は……()()だ。

 

 戦うアイズちゃんから確かに発せられたモンスターへの憎しみ、そしてあの年で両親を亡くしている。そこから導き出される結論は簡単に想像できる。

 

 僕は袖にしまってあるタロットカードを一枚引く。

 

「『月の正位置』。不安定、トラウマ、潜在する危険、か」

 

 これ以上ないくらいピッタリなカードだな。

 

「朝から素振りかい?」

 

「…………。」

 

 タロットをしまって近づき、そう尋ねるがアイズちゃんは僕の言葉に無視を決め込む。

 

「たまにはこうやって大の字になって寝転んでみるのもいいものだよ?」

 

「………いい。」

 

 芝生に寝転びながらそう訪ねても彼女はただひたすらに剣をふるだけだ。

 

 ユエ母さんと出会う前の父さんのストイックさとどっこいどっこいだな。

 

 はあ、仕方ない。今はちょうど誰もいないし……。

 

 僕はアイズちゃんに手を翳して【重力魔法】を発動する。

 

「ッ!?」

 

 いきなり体が浮かび上がったことに驚いてアイズちゃんは体をジタバタさせるが、そんなものは意味がない。

 

 そのまま僕の隣に僕と同じように、仰向けに大の字になった状態でポサリと落ちてくる。

 

 一泊置いてガバっと起き上がったアイズちゃんは目をパチクリさせながら僕を見下ろす。

 

「今、何したの……?」

 

「さあ?でも、こうして寝転んでいれば僕が口を滑らせるかもしれないよ?」

 

「…………。」

 

 僕の返しに少しブスリとしたが、やはり僕のこの魔法が気になるのか言われたとおり寝転ぶ。

 

 やがて、彼女の無機質な表情がゆっくりと穏やかな表情へと変わっていき、彼女の目に光が宿っていく。

 

「どうだい?」

 

「っ!…………気持ち、いい」

 

 そっぽを向きながらも素直に答えてくれた。多分、【ロキ・ファミリア】に来てからの半年、こんなことをしたのは初めてだったろう。今日も天気もいいし、とても気持ちいいだろう。

 

 子供らしいこんなことをするのは随分久しぶりだろう。

 

「……君が戦う理由は大体察したよ」

 

「ッ!?」

 

 僕の言葉にアイズちゃんの目が一瞬の驚愕の後、元の暗いものが宿って目に戻っていく。

 

「全く……その歳でなんて目をしてるんだ君は」

 

 隣で寝転ぶ少女の頭を優しく撫でてやる。最初ビクッとしたがこの娘はなんの抵抗もなく頭を撫でられる。全く、折角のきれいな髪が痛みまくってるじゃないか。

 

 僕は幼少期は殆どトータスでの思い出が強いし、地球に行ってからも自分からはミュウと違って趣味に走ろうとはしなかったそんな暇があったら技術を磨くって息巻いてたし。

 

 だから、だろうなぁ。この子が妙に気になるのは。勝手だけど過去の自分と何処か重ねているんだろう。

 

 僕の場合は父さんたちが偶に息抜きに色んなところに連れて行ってくれたけど団長達も仕事上そんないつも構ってはいられない。

 

 子供は本来、『背負われる』存在だ。その小さな体に重荷を『背負える』ようになったとき人は大人になる。無理に背負おうとすれば僕のように手に負えない力を得るか、それとも重荷に押しつぶされるか、二つに一つ。

 

 あの【ライセン大迷宮】で読んだ手記に記された言葉が酷く頭をよぎる。

 

『子供が笑えねぇ世界になんの価値がある?』

 

 ミレディ・ライセン。貴方がその言葉に心が動いた理由があの娘を見てると、よく理解できる。

 

 全くもってそのとおりだ。

 

「……僕はね、君が心の底から笑えるようになってほしいって思ってる」

 

「心の……底から」

 

 アイズちゃんは自分の胸に手を当てて僕の言葉を反芻する。

 

「復讐とか、憎しみとか、そんなものぜ〜んぶっ、忘れて、心の底からただ『楽しい』、『嬉しい』って言って笑えるようにね」

 

「そんなこと……できるわけない……。」

 

「そんなことはないよ。君がそれを望んでいる以上できない事はないさ」

 

「そんなもの、望んでないっ!私が望んでるのはっ……!」

 

 アイズちゃんは立ち上がって僕を怒気を孕んだ厳しい目で見下ろす。だけど、僕は言葉をやめない。

 

「そんなことはないさ。君だって、出来るならーーー()()()()()()()()()()?」

 

「ッ!」

 

 アイズちゃんが息を呑むのが聞こえる。目の前の少女は反論する言葉が思いつかないようで歯を噛む。

 

「今すぐに笑え、なんて無茶言う気はないよ。だけど、僕は君がいつか……本当の意味で笑顔になれる日が来るって信じてる」

 

 体を起こして真っ直ぐな目で僕はアイズちゃんを射抜く。

 

 ミレディ・ライセン、オスカー・オルクス、ナイズ・グリューエン、メイル・メルジーネ、ラウス・バーン、リュースティス・ハルツィナ、ヴァンドル・シュネー。

 

 貴方達、解放者の意思を継ぐなんて傲慢なことは言わない。だけど、せめて……目の前にいるたった一人の少女を、憎しみから解き放つ"解放者"を名乗るくらいは、許されてもいいだろう?

 

 そこから僕達は暫く何も言わずにそこに寝転がっていた。

 

「ねえ……さっきの力について教えて?」

 

「……さぁて、なんのことかな?」

 

 僕がとぼけてみせるとアイズちゃんは目を見開く。

 

「さっき教えてくれるって言った」

 

「僕は寝転べば教える"かも"とは言ったけど教えるとは言ってないよ?」

 

 僕がそう言うとアイズちゃんは顔を赤くして頬を膨らませた。うわっ、リンゴみたい。

 

「むぅ〜〜〜! 嘘つきっ!」

 

「残念、こういうのは嘘じゃなくて賢いっていうんだよ」

 

「ズルい!ズルい!ズルい!」

 

 片目だけ開けてみてみるとアイズちゃんはふがーと言う擬音がつきそうな様子で両手を上げていた。今度は威嚇する小動物みたいだ。

 

 こうやって感情を表に出せるなら笑顔になれる日もそんなに遠くないんじゃないかな。なんて考えていると、いきなりかけていた"黒眼鏡"をかっさらわれた。

 

「なっ!?」

 

「教えないと返さない」

 

「ちょっ、返しなさい!」

 

「いやっ!」

 

 流石に子供相手に【身体強化】やら無理矢理とったりするのは気が引けたので普通に取り返そうとするが、流石子供。すばしっこい、眼鏡を奪われないように動き回った。

 

 そこから僕とアイズちゃんの目まぐるしい攻防が始まった。

 

「ハァハァ……やるじゃないか、アイズちゃん」

 

「ハァハァ……貴方、こそ」

 

 結局、眼鏡を取り返すことができず僕らは互いに疲れて再び大の字になって寝転ぶ。凄まじい攻防の果て、お互いにお互いを変な形で認めてしまった。

 

「……何をやっているんだ、お前達は?」

 

「なんや、一緒になってお昼寝か?」

 

「これはロキ様に皆さん……こんな姿で申し訳ないです」

 

 現れたのは呆れ半分、意外半分な表情で現れた首脳陣の皆さん。それに、相変わらずの笑顔を浮かべるロキ様。

 

「いやあ、アイズちゃんに息抜きをさせようと思ったら何故か眼鏡を奪われてしまいまして……取り返そうとしていたらこのザマです」

 

「ホントに何をやっているんだ……。」

 

「まあまあ、リヴェリア。アイズのこんな姿そうそう見られるものじゃないよ?」

 

「よい傾向じゃろう」

 

「そやそや、お昼寝するアイズたん……かわえ〜な〜!ウチらも寝転ぼうや〜!」

 

 僕らの隣にゴロンと転がるロキ様。

 

「おい、ロキ。……全く、仕方のない」

 

「いいじゃないか、偶にはこいうのも」

 

「そうじゃな、儂らも最近忙しかったのでこういうのもよいじゃろう」

 

 そして、その隣に団長、ガレスさん、リヴェリアさんと寝転ぶ。

 

 しかし、眼鏡どうやって取り返すか?ん?何かが引っかかるな……あっ、そうか!

 

「ひょっとしてアイズちゃんが僕にそっけなかったのって眼鏡のせいかい?お父さんが眼鏡かけてなかったからとか?」

 

「………(ビクッ)。」

 

 この反応、図星か。そういえばあの時、眼鏡外してたからなぁ……。

 

「なんや、アイズたん眼鏡嫌いなんか?そういや前にリヴェリアが眼鏡かけたときも……。」

 

「それ以上言えばどうなるか理解しているのなら言うといい」

 

「……なんやったかな〜。」

 

 一体、何があったんだ?まあ、地雷臭がするから聞かないけど……。

 

「こんなことするのはいつぶりだろうね?」

 

「うむ。偶にはよいじゃろう」

 

 団長とガレスさんもすっかり体の力を抜いている。さっきも言ってたけど最近執務で忙しそうだったもんな。

 

「で、アイズちゃん。いつになったら僕の眼鏡返してくれるんだい?」

 

「……秘密を教えてくれるまで」

 

「……まさか見せたのか?」

 

「どのみち、パーティを組んでたらそうなるでしょう?アーティファクトまでいくつか見せちゃってるんだし」

 

 リヴェリアさんのジト目に正論で返した。少し不満そうだったがそれ以上は言わなかった。

 

「はあ、仕方ない。どうせ長い付き合いになるんだ。さっきの言ったことが達成されたら話してあげるから、眼鏡返してね」

 

「……………。」

 

 寝返りを打ってまたそっぽを向いてしまったが、小さく頭がコクリと動いたのを見て承諾してくれたように思う。

 

「約束ってなんだい?」

 

「ああ、それな。ウチが説明したるわ」

 

「……なんでロキ様がそれを知ってるんですか?」

 

「そら、さっきから聞き耳立てとったから。カッコよかったでぇ、十二歳の子供の言葉とはとても思えんかった。なんやったっけ?『君だって……』」

 

 ドパンッ!

 

 僕は話そうとしたロキ様の言葉を遮って発砲した。見事避けられたが。(非殺傷用の硬質ゴム弾です)

 

「チッ!」

 

「な、何すんのや!?」

 

「残念です、神ロキ。まさかこんなにも早く誓いを破ることになるなんて」

 

「何言ってんのん!?」

 

「あんな黒歴史を聞かれたとあっては仕方ない……貴方を殺して僕も死ぬ!」

 

「落ち着け、ベル!覚悟決め過ぎや!わかった、話さんから!」

 

 必死でそう言うロキ様に仕方なくドンナーをホルスターに収めた。

 

「そこまで言われるとねぇ」

 

「気になるのう」

 

「ああ、なんと言ったのだベル?」

 

「他人に言うくらいなら、自殺するレベルで恥ずかしいセリフです……。」

 

 真っ赤になっているであろう顔を覆って再び寝転んだ。シリアスで言ったときならまだしも……素面で言われると死にたくなる。

 

 さて、眼鏡が駄目じゃコンタクト作んなきゃなぁ……。でもそれじゃ光らせるのは難しいか?名前はどうするか?ブラック・グラス?我ながらダセェな……。



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