魔法少女リリカルなのは〜暁の軌跡〜 (komokuro)
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魔法少女リリカルなのは〜暁の軌跡〜  プロローグ

またこの夢だ。

 

 

 

夢のはずなのに、まるで現実のよう。

 

 

 

僕は知らない平野に立っていた。

 

空は紅く染まり、幾多の烏が舞い踊る。黒い羽が舞う。端から見れば、幻想的にも見えなくもない。

 

鼻につく血の臭い。こんな匂いなど、嗅いだことすらないのに僕はなぜ血の匂いだとわかるのか。

 

周囲を見渡せば、死体の山。

死体達は見たこともない、独特の衣服を着ている。

共通していることといえば、皆が模様の入った額当てをしていることだけか。

 

 

 

夢のはずなに、知らないはずなのになぜ、僕はこの光景をなぜ懐かしく思うのだろうか。

 

 

 

わからない、理解出来ない。

 

 

 

唐突に、空を舞う烏たちが一斉に鳴き出した。いつものように、彼が来たのだ。

 

とある死体の山に目線を合わせると、いつものようにそいつが現れた。

 

 

 

死体の山に立つ一人の男。

 

 

 

背丈から成人なのだろということがわかる。

黒地に赤雲の模様がついた外套と、笠を身につけている。

顔は笠のせいでよく見えない。

肩には、一匹に烏が留まっていた。

その烏の瞳は特徴で、片目だけ紅く三つの勾玉模様が浮かんでいた。

 

 

彼の声が聞こえる。

 

 

「・・・.暁・・・・写輪・・・・・」

 

 

いつものことだが、やはりうまく聞き取れない。

彼が話す言葉は、常にノイズが入ったように聞こえる。

まるで、壊れかけのラジオのように。

唯一聞き取れることといえば、何かを指しているだろう固有名詞だけ。

 

そして、響く単語の声色から、男性とわかるぐらいだ。

 

彼の言葉を聞き取ろうと耳を澄ましていると、次第に頭を抱えるほどの頭痛がしてくる。

 

 

 

夢が終わる。

 

 

 

ついには、立つこともままならず僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

いったいこの夢も何度目だろう。

 

 

 

彼はいったい僕に何を伝えようとしているのだろう。

 

 

 

彼はいったい誰なのだろう。

 

 

 

 

 

ベッドから起きると、相当な汗をかいたのだろう、汗を吸った寝間着が肌につき気持ちが悪かった。

 

 

「またこの夢か・・・」

 

 

ため息をつき、ベッドから這い出るとカーテンを開けた。

 

窓の外はまだ薄暗かった、空を見上げると次第に明るくなり、鳥たちのさえずりが聞こえる。

 

ふと、庭の一本の樹木を見つめると烏がいた。

 

僕と目が合うと、一鳴きしてすぐさま薄ぐらい空の彼方に飛び去ってしまった。

 

残されは樹木には春の訪れを感じさせていた。

 

 

「もう、春か・・・・」

 

 

そう小さく呟いた少年の名前は 内葉イタチ。

 

年は、6歳、今年から私立聖祥大附属小学一年生になる。

 

 

 

 

 

間もなく、少年は知ることになる。

 

夢の意味を、そいて自分という存在を。

 

 

 

 




とりあえず完結を目指して頑張ります。
駄文ですが、よろしくお願いします。



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第1話 夢

ここ最近、妙な夢をよく見るようになった。

途中まではいつも同じ、違いを挙げるならば現れる男から聞き取れる単語ぐらいなものだ。

 

(今回聞き取れたのは、暁、車輪.の二つ、今回は少ないな)

 

聞き取れる単語は日によって変わり、多いときだと7つほど聞き取れた。

会話そのものが聞き取れればいいのだが、未だに聞き取れたことはない。

少し聴いているだけで、いつものようにひどい頭痛が始まり、そこで夢が終わってしまうのだ。

 

自分の机に向かい。そして、引き出しを開け奥に隠すようにしまってある一冊のノートを取り出した。

ノートを開くと、曜日ごとに几帳面に枠で区切られ、その日いくつの単語を聴いたか、どんな単語か、状況はと、この年では考えられほどきれいにまとめられていた。

今日の日付を書き、夢で聴いた単語を忘れないうちに書き記す。

 

(今回も同じ単語はなしか、いったい何の意味があるんだ)

 

ノートに記されは単語はすでに60を超えた。

単語から、何かを示しているだろうと考えているのだが、さっぱりわからなかった。

 

(とりあえず、考えるのはあとにするか・・・汗で気持ち悪いし)

 

相当汗をかいたのか、寝間着はランニングでもしたかの様に濡れていた。

 

(シャワーでも浴びるかな)

 

ノートを閉じ、再び引き出しの奥へと隠し自分の部屋を後にする。

浴室へと向かうために一階へ降り、リビングにさしかかると香ばしい臭いが流れてきた。

そっと扉を開けのぞき込むと、イタチの母親であるミコトがテレビつけたまま朝食の準備をしていた。

 

「あら、イタチ今日も早いのね。まだ朝ごはんはできてないわよ」

 

テレビを見れば、朝のニュースがちょうど5時半を伝えていた。

子供が起きる時間にしては早いだろう。

 

「おはよう、母さん。ちょっと早く目が覚めて、それに結構汗をかいたからシャワーを浴びようと思ってもう起きたんだ」

 

「そうなの?少し顔色が悪いわよ。大丈夫?」

 

ミコトが作業の手を止めて、イタチの顔をのぞき込んだ。

 

「大丈夫だよ」

 

「そう、熱はないみたいね。もしかして、またあの夢をみたの?」

 

イタチの額に手をあてながら、心配そうに聴いてきた。

 

「もう見てないよ。風邪引くかもしれないからシャワー浴びてくる」

 

子供らしい笑顔を振りまいて、逃げるよにしてイタチはリビングを後にした。

 

「、、、そう  」

 

ミコトは少し言いよどむ。

嘘をついていることは、母親の感からすぐにわかった。しかし、それを聴いてもイタチはうまくごまかすのだろう。

浴室へ向かう息子の背中を見送り、再び朝食の準備に取りかかった。

子供なのだから、もっと親を頼ってほしい願いつつ。

 

 

 

 

浴室に入り、お湯の栓を開く。

熱いお湯が細身の体に降り注ぎ、体が温まっていくのを感じる。

ふと鏡を見ると、年相応の男の子姿が映った。短く切りそろえられた黒髪に黒い瞳、同年代としては少し細身の体が映し出される。

顔は、美少年といってもいいほどだ。

 

(あの夢を見るのは、これで、21回目いったい何を意味してるんだ?)

 

鏡に手をつき考える。

初めてあの夢を見たのは三ヶ月前だった。

最初はイタチ自身もテレビで放送していた映画の影響だろう考えていた。しかし、同じ夢を定期的に何度も見るようになると考えが変わった。

両親にも話したことはあったが、ホラー映画やドラマの影響だろうと言われるだけだった。

だが、同じ夢の話を何度もするたびに、最初は笑っていた両親の顔は次第に曇っていった。

ついには、病院へ連れていかれ精密検査するにまでに事が発展した。結果はとくに異常なしだったが。

そんなことがあって以来、イタチは両親に夢を見なくなったと嘘をついた。

両親に心配をかけたくないいう気持ちもあったが、このことは自分で解決しなければいけないとなぜか考えていた。

 

囁くのだ、心の奥が。

 

 

 

シャワーを浴び終え、リビングに戻るとすでに朝食準備は出来ていた。

イタチは自分の席に着く。

しばらくすると父親のフガクが起きてくる。

眠そう目をこすりながら、どことなくふらついているのが見て取れる。

 

「、、、お、イタチか早いな」

 

「あ、父さんおはよう」

 

「あら、あなた大丈夫。何だかふらついているけれど」

 

「ああ・・・少し研究の内容を詰めるのにるのに時間がかかってな。結局、寝るのが明け方になってしまったよ」

 

フガクの仕事は大学教授で、聖祥大学にて研究の傍、教鞭をとっている。なお、専攻しているのは生物学である。

なお、ミコトは製薬会社勤務である。

 

「そいえばイタチ、今日も図書館にいくの?」

 

朝食を食べているイタチに、ミコトは尋ねた。

 

「ん、そうだけど」

 

イタチは最近図書館に通い詰めている。あの夢について調べることが目的だ。

彼は私立幼稚園に通っていたが、あまりの聡明さには100年に一人の天才といわれるほどだった。

大人でも理解出来ないような本を読み理解し、驚くほど論理的に行動する。

時には、大人顔負けの発言をすることもあった。そのため、同年代の子供とは折り合いが悪く、あまり友達という存在がいなかった。

親もそのことについては思うことがあるらしく、せめて勉強だけでなく友達を作ってほしいと考えている。

 

「はやく、帰ってくるのよ。もう、春といっても、まだ日が落ちるのは早いのだから」

 

ミコトは心配した瞳でこちらを見ている。

イタチは調べ物に時間を忘れ、帰るのが夜になり両親を心配させたことがあった。

一応携帯を持っているのだが、どうも熱中すると見ることを忘れてしまう。

気がつくと閉館時間で外は真っ暗、着信多数という事態になっていた。

 

「今日も朝っぱらから行くのか、春先とはいえまだ寒いぞ」

 

「早くからいった方が長く本が読めるから朝からいくよ」

 

父親の問いにイタチは答えた。

 

「そうか、、、」

 

「じゃあ、お弁当作ってあげるから持って行きなさい。でも前みたいに夜までいちゃだめよ。最近物騒なんだから」

 

テレビへ視線を向けると、連日お茶の間を賑わせているニュースを放送していた。

どうも、凶悪犯が脱走しこの町に潜伏しているらしいという内容だった。

 

「はい」

 

 

 

 

朝食を食べ終わると、イタチは自分の部屋に戻り図書館に行く準備を始める。

黒いコートを羽織、引き出しに隠してあるノートを鞄に入れる。

鏡を見て髪型を整える。

 

(そんなに、顔色が悪かったかな?)

 

そんなことを考えながら自分の部屋を後にした。

支度が終わり、玄関で靴にひも結んでいると後ろから声がした。

 

「イタチこれ、お弁当」

 

「ありがとう、母さん」

 

きれいに包まれた弁当袋を手渡した。

 

「なにか心配ごとがあればいいなさい。あなたは一人じゃないのだから」

 

「大丈夫。わかってる」

 

ミコトはすでに気づいている。イタチが夢の事で悩んでいることを、そして、親に心配をかけまいと嘘をついていることに。

イタチにはどうも問題を一人で背負い込んでしまう癖がある。

本心をいえば、イタチにはもう少し親を頼ってほしいと考えていた。

子供なのだから甘えてほしいと。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

元気よくドアを開け外に出た。

庭から空を見上げると、天気予報では晴れて春並みの気温になると伝えていた。

 

 

だが、空は、少しよどんでいた。

 



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第2話 はやて

海鳴市第一図書館

 

イタチの家から歩いて30分ほどの場所にあり、イタチの暮らす海鳴市で最も大きな図書館だ。

設計を当時の有名な現代建築家に頼んだらしく、図書館というよりは美術館に近いモダンな建物になっている。

一応、個展を開催できるスペースもあり、今日も新進気鋭の画家の個展を開催していた。

図書館に入ると、平日の朝のせいかほぼ無人だった。

イタチは目的の欄で数冊の本を手に取り、いつも座っている席へと向かう。

手にした本は古事記や民族衣装などに関する資料で、普通の子供ならまず手には取らないものだった。

席に着くと手にした数冊の本を読み始めた。

 

 

 

どのくらい時間がたっただろう。いつの間にか閑散としていた図書館にも人が集まっていた。

ふと、イタチが時計を見るとすでに昼をとうに過ぎていた。

 

(いくら調べても未だに確信に至る物はないか。キーワードから古事記が関係していると思ったが、これも勘違いか)

 

夢で聴いた単語には、「天照」や「須佐能乎」など日本神話に関係する物が混じっていたことから、それが何か関係しているのではないかと踏んだのだが、今回も特によい結果は得られなかったようだ。

イタチが最初に調べ始めたものは忍者に関係するものだった。

夢の死体達が、手裏剣やクナイを手にしていたことから、彼らは忍者もしくはそれに類する物だと考えたのだ。

しかし、さまざまな過去の資料を見ても彼らのような衣装を着た忍者は存在していなかった。

故に、そのことを調べるのをいったん止めあの男から毎度つぶやかれる単語に対象を切り替えた。

 

(焦りすぎか、また母さん達に心配されるな。……とりあえず、いったん切り上げるか)

 

イタチは内心焦っていた。

いったん作業を止め、昼食をとるために別室へと移動する。

この図書館には飲食をとるためのスペースがある。一応、簡易的な売店もあり、市営にしてはなかなか至れり尽くせりだ。

昼食を食べ終え、戻る途中にイタチは見知った少女いることに気づいた。

相手もイタチの存在に気づいたのか、満面の笑みを浮かべながらこちらに歩いてくる。どうやら、右足が悪いのか少し引きずっている。

 

「おお、イタチくんやないか、久し振りやなぁ」

 

「数日前にも会った気がするが?」

 

イタチはジト目で少女を見る。

 

「まあまあ、男の子が細かいこと気にしてたらあかんで」

 

イタチと同い年の栗色の髪の少女・・・八神はやてだった。

 

 

 

はやてと出会いは一ヶ月ほど前になる。

 

「えらい難しそうな本やけど読めるん?」

 

イタチが本を読んでいると突然後ろから声がした。

振り返ると、イタチと同い年位の栗色の髪の少女が立っていた。

 

「ああ」

 

そう呟くと、すぐに視線を戻した。

イタチは内心少し驚いた。同じくらいの子供が話しかけてくる事など今までなかったからだ。

早熟の天才故に、なかなか同年代とかみ合わずさらにイタチがまとう奇異な雰囲気が他者を遠ざけていたためだ。

 

「ちょ……、そっけないなぁ~。あ……私の名前は八神はやてや。」

 

「……うちはイタチだ」

 

本から目線を外さずに答える。

イタチ的には関わらないでほしいと思ったが、なんとなく自己紹介を返してしまった。これが悪手だった。

 

「イタチ………イタチって…くく。変わった名前やなぁ」

 

「く、名前のことは僕も気にしてるんだ、ふれないでくれ!」

 

はやての言葉に珍しく感情を表に出したイタチは内心しまったと思ったが、これではやても離れ集中出来ると考えた。今のイタチには初対面の相手にかまっていられるほど心の余裕がなかった。

余談だが、イタチは名前に少しコンプレックスを持っている。イタチは自分の名前が世間的に見てちょっとずれていることに気はわかっていた。

このことを、何度か聞こうとしたことがあったが未だ聞けていない。さすがに、そんなことを聞かれたら両親は気まずくなるだろうとイタチは考えていた。

 

「あ~もうそんなに怒らんといてよ。短気やなぁ」

 

「別に怒ってる訳じゃない。それで、何?今忙しいんだけど」

 

はやてはイタチをたしなめる。少しは驚いたようだが、離れる気はないようだ。

 

「あ~えっと。なんやったけな?忘れたわ」

 

「はあ~~」

 

ため息をつきつつ再び、目線を本に戻そうとする。

 

「あ~もう。無視せんといて、ちょっとくらいおしゃべりしてもええやないか」

 

「はぁ~図書館では静かにと教わらなかったのか」

 

いつのまにか、周りの視線がこちらに集まっていた。

 

「……そうやな……静かにせんとな」

 

その後、はやてから一方的に話題を振られ続けたが、イタチは素っ気なく返すだけだった。ある程度するとはやては諦めたのか帰って行った。

こんな態度とったのだ、もう会うことはないと考えていたが、

 

「イタチくん、またおおたな」

 

すぐに期待は裏切られこの図書館来るたびにはやてに会うようになった。そして、執拗に話しかけてきた。

理由はわからないが、はやてはイタチの事を気に入ったらしい。最初のころは素っ気ない態度をとっていたイタチだったが、少しずつはやての話に耳を貸すようになっていった。

ついには、イタチにとって初めての友達と呼べる位置にまではやてはなっていた。

 

 

 

イタチは先ほどの席に戻ると再び本を読み始めた。

はやてもいつの定位置のごとくイタチの隣に座る。

 

「で、今日は何の本読んどるん?」

 

「日本神話に関する本だ」

 

はやてがイタチの読んでいる本をのぞき込んだ。そこには、はやての知らない未知の言語が広がっていた。漢字が書いてあるため日本語のようだが、どれも見たこともないものだった。

絵本程度しか読んだことのないはやてにはさっぱり理解出来なかった。はやてはそっと目をそらす。

 

「は・はは・・・また今回もえらい難しいもん読んどるなあ。私にはさっぱりわからんは、とかこれ何語の本や日本語やないで」

 

「これは、れっきとした日本語の本だぞ。ただ、戦前の本だから言い回しが古かったりもう使われてない漢字が会ったりするだけだ」

 

「前からずっと思うとったけど、イタチくんはいったい何に関して調べてるん?」

 

「いろいろだよ。いろいろ」

 

イタチは素っ気に態度でかえす。

 

(相変わらず、教えてくれへんなぁ。友達なんやから教えてくれてもええのに)

 

イタチはまだはやてに夢の事を話してはいなかった。初めての友達を失うのが怖かったのかもしれない。

まあ、はやてがこの程度の事では離れては行いかないだろうが。

 

「ま~ええわ。でも、いつかは教えてな」

 

「ああ………」

 

そういうと、はやては持っていた本を読み始めた。

それから、いつものように時より談笑したりして時間は過ぎて行った。

 

 

 

はやての携帯が鳴る。どうやらいつもの家政婦が来たようだ。はやての両親はすでに他界していた。近しい親戚も居ずどうしようかというとき、聞いたことも見たこともない父親の友人が支援に名乗り出たそうだ。医者から家政婦の手配までしてくれたらしい。毎月、きちんと手紙もくるそうだ。お礼の言うためにせめて一目会いたいと思っているらしいが、相手方が多忙なのかまだあった事もないらしい。

 

「お、お手伝いさんからメールや。しゃあないなぁ~私先に帰るんけど、イタチくんはまだいるん?」

 

空はまだ明るかったが、後一時間もすれば日は落ちるだろう。

 

「もうすぐ帰るよ。また、母さんたちに心配かけると嫌だし」

 

「そうやな。最近なんか物騒やから早く帰ったほうがええで」

 

「ああ。わかったよ」

 

はやてが帰る姿を見届けると、再び書籍に目を移す。

 

(時間的にはもう少し入れるか)

 

そう考えつつ本に熱中するあまり結局日も落ち、辺り一面暗闇が包んでいた。

 

(結局、夜になったなあ、また母さん達を心配させるな)

 

そんなことを考えていると、誰かが肩をたたいた。

イタチが振り向くと、ため息をつく母親の姿があった。

 

「はぁ~~~イタチ・・・夜までには帰ってきなさいって言ったでしょ。まったく」

 

「あれ、母さん仕事は?」

 

イタチの額に冷や汗が浮かぶ。

 

「いろいろあって早く終わったのよ。それよりも帰るわよもう」

 

「いや、あと、もう少し」

 

「ん!」

 

顔は笑顔なのに額には青筋が立っていた。

あの笑顔の先に何があるのかはすでに経験済みだ。

 

「帰ります・・・」

 

イタチは観念し、静かに帰り支度をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

二人は手を繋ぎながら、帰路につく。

今日は空が曇っているため、道を照らすのは町の街灯だけだった。

無言で歩くイタチに母親は突然切り出した。

 

「それにしても、今日はやたら警官が多かったわね。逃亡犯なんだか知らないけれど捕まったかしら?」

 

「ん?」

 

「朝のニュースで言ってたじゃない。何かの犯人が逃げてるって」

 

イタチは朝のニュースでそんなことを言っていたことを思い出した。

確か、殺人犯で3日前から逃亡しているという事件だったはずだ。

 

(警官が多かったのはそういう理由か)

 

図書館へ向かう最中確かに町の至る所に警官がいた。そして、住民に何か見せて聞き込みしている用だったが、そういう理由があったのかと納得する。

 

「心配してきてくれたの」

 

「ええ、もしかしてと思ってね」

 

「3日も逃げてるんだから、たぶんこの町にはもういないよ」

 

「そうかもね」

 

これだけの規模で見つからないのだ、もう遠くに逃げたのだろうイタチは考えた。

 

「夢についてなにかわかった」

 

唐突に母親は切りだした。イタチは答えない。

 

「朝も言ったでしょ、もう少しは親をたよりなさい」

 

「ごめん。母さんこのことは、どうしても僕一人で解決しないとだめな気がするんだ」

 

イタチはうつむいたまま静かに答えた。この問題にこれほど執着する理由はイタチでも未だわからなかった。

 

「そう………」

 

母親は悲しそうに静かに呟いた。かすかにイタチの手を握るミコトの力が強くなるのを感じた。

二人は街灯照らされた道を帰って行く。そして、ついにイタチは答えを得る。

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 答え

手を繋いだ二人は無言のまま、薄暗い帰り道を歩いていた。イタチは俯いたままだ。

沈黙を破ったのは母親だった。

 

「そういえば、あれだけ警官がいたのにもう姿が見えないわねぇ」

 

あれほど、昼間にいた警官の姿が今はまったく見えなかった。それどころか、人っ子一人いない。完全に無人だ。

周りの民家は全て電気が消えておりまるでゴーストタウンのようだ。

 

「もしかして、もう捕まったんじゃないかな」

 

「そうだといいけれどね」

 

その時、奥のブロック塀物陰で何かが動いた。

 

「ん……?猫……かな?」

 

「どうしたのイタチ」

 

「いや、あそこで何かいたような」

 

「やあね~脅かさな・・・」

 

母親の言葉が突然途切れた。握られていた手が離れるのをイタチは感じた。

 

「え……母さん?」

 

鈍い音が響と母親はイタチから10メートルほどのところに倒れていた。

 

「か……母さん!」

 

イタチはすぐさまミコトへ駆け寄よった。母親を抱き起こすと手に生暖かい液体が触れたのを感じた。血だ。

イタチの手は真っ赤に染まっていた。

 

「あ…あああ……」

 

イタチの顔から血の気が引いていく。

 

「ふむ……どうやら人違いだったか」

 

突然声が響く。低い、どこか不気味な声だった。よどんだ雲の隙間から月明かりが漏れる。

イタチは声のした方振り向くとそこには異様な姿の優男が立っていた。身につけている黒いスーツはぼろぼろで、左腕を怪我をしているのだろうか布が巻かれ紅く滲んでいた。髪型だけはしっかりとオールバックに決めているところをみると、そこだけは男の譲れないところなんだろう。

開かれた口の犬歯は月明かりに照らされ人間しては異様に長いく見えた。まるで、吸血鬼のように。

 

「く、だ……だれ」

 

イタチはすぐに助けを呼ぼうと声を張り上げる。

だが、叫び終える前にイタチは男に蹴り飛ばされブロック塀にぶつかる。

 

「くは……」

 

イタチから嗚咽が漏れた。

男はイタチからは5メートル以上ななれていたはずが一瞬で距離を詰めたようだ。常人が見たら男が瞬間移動でもしたのかと思うだろう。

倒れたイタチは身悶えた。どうやら、肋が折れたようだ。今まで味わったことのない痛みが全身を駆け苦悶の表情を浮かべる。

 

「辞めてもらえないか。せっかくここまで逃げれたと言うのに。母親にならわなかったのかな?夜になる前に家に帰りなさいと」

 

男は髪をかき上げながら言う。

その言葉にイタチは後悔した。

 

(そうだ・・・僕が・・僕が・早く帰らなかったから・・こんなことに。あんな夢のことなんて調べなかれば・・・こんな・・・・こんな・・・)

 

自責の念が脳裏を巡る。

 

「私はこう見えても博愛主義者なのだが、今の私に記憶操作なのどしている暇がない。己が不運を呪ってくれ」

 

優男は顔を手で覆い隠しながら、一歩一歩近づいてくる。

静かに、確実に近づいてくる死の音にイタチは目をつむった。

 

(く…くそ…………)

 

 

 

 

 

 

「何をしている?」

 

 

 

 

 

 

そのとき声が聞こえた。聞いたこのある声だ。

目を開くと周りがいつの間にかあの夢の光景に様変わりしていた。

町並みは消え、野原が広がり、空は紅く烏が中を舞う。しかし、今回は倒れている死体はなかった。鼻につく血の匂いもない。

そして、傷の痛みもなかった。

 

「ここは……夢の…………」

 

「思い出せ。自分が何者であったかを、でなければ死ぬ事になるぞ」

 

声の方を見るとあいつがいた。

いつものように黒地に赤雲の模様がついた外套と、笠を身につけて男が居た。

男から放たれる言葉はいつもと違いはっきりと聞こえた。

 

「何を言ってるんだ。おまえは!」

 

イタチは腕を振り抜き男に向かって叫んだ。

 

「思い出さなければ死ぬぞ。また、母さんを殺すのか?」

 

「何を…また…………どういうことだ?」

 

突然現れ母親を襲った男、血を流し倒れる母親、訳のわからない言葉を吐く夢の男、すでに思考はパンク寸前だった。

男は笠に手をかけると笠を外した。初めて男の顔が現れたる。その顔はどことなくイタチに似ているように感じた。

 

「思い出すんだ、自分が何者であったかを」

 

そう言うと男の紅い瞳の模様が変化を始める。三つの勾玉模様が三枚刃の手裏剣へ。

 

「!」

 

その瞬間、イタチの脳裏に様々な情景がよぎった。

 

四人の顔が掘られた岩抱いた町・・・

 

木の葉のマークが掘られた額宛して様々な術を使う忍・・・

 

紅い瞳、写輪眼を持つ一族、うちは一族・・・

 

うちはの自分と同じ名前、同じ顔をもつ少年、その軌跡・・・

 

そして、赤髪螺旋の浮かんだ紫色の瞳を持つ男・・・

 

暁・・・

 

それには、全ての答えが詰まっていた。

 

(・そうか、だから・・僕は・・いや俺は・・・この夢に固執していたのか)

 

 

 

周囲は現実へ回帰する。刹那の出来事であったが、イタチにはとても長い時間に感じていた。

イタチは静かに立ち上る。

 

「おや、立ち上がれるとは」

 

俯いているために男にはイタチの顔がよくみえない。

イタチは静かに顔を上げる。閉ざされた瞳が静かに開かれた。

 

「な・なんですかすれは・・・」

 

そこにあったのは紅い瞳だった。

夢の男が持っていたものと同じ紅い瞳。

黒かった瞳は赤く染まり。黒い勾玉模様が一つ浮かんでいた。

瞳を見た男は身震いした。

 

(な……体が動かない!)

 

男は恐怖した。イタチの瞳見た瞬間まるで金縛りに遭ったかのように体が動かなくなったからだ。

イタチは歩き出し、倒れている母親に寄る。

 

(腕、それに肋も数本いってるか、内蔵が損傷している可能性もある。早急に処置が必要か)

 

「く……あなた何者で「だまれ!」

 

男が何とかひねり出した言葉はイタチの一言で遮られた。

イタチは立ち上がり男に近寄る。

 

(なんなのだ・・・この子供はもしや、同族だとでも言うのか)

 

男は必死に体を動かそうとするが、無駄なあがきだった。

立場すでに逆転していた。

 

「教えてもらうぞ、全てを」

 

「な…に…………」

 

(幻術・写輪眼)

 

術式構成。トリガーを引き、イタチは男の瞳を見る。

すると、男の目はうつろい。焦点が消える。まるで催眠術にかかっているようだ。

 

「おまえは何者だ?」

 

「夜の……一族」

 

「夜の一族とは?」

 

「吸血鬼」

 

「なぜ、逃げていた?」

 

「月村の令嬢の誘拐しに失敗した、や・・やつらも同族だ。だが、失敗し俺だけがなんとか生き残った。みんな、あの男達に倒された」

 

「あの男とは?」

 

「わからない。小太刀を二本武器にしていた。剣士だった」

 

「最近の騒ぎの原因はおまえか?」

 

「そうだ、やつ・・らは表の力も使い私を追い詰めそうとした」

 

「そうか……」

 

イタチが質問を終えると男は人形のように倒れた。完全に気絶しているようで、動く気配はなかった。

 

「ふぅ~~」

 

イタチは息を吐と瞳がいつもの色に戻る。

 

(この程度で、これほど疲労するとは修行を始めたころと同等のチャクラ量か)

 

今、イタチのチャクラはないに等しかった。チャクラとは術を使用するためのエネルギーで、身体と精神エネルギーの事を言う。

「身体エネルギー」とは、人間の身体を構成する膨大な数の細胞一つ一つから取り出すエネルギーで「精神エネルギー」は、修行や経験によって蓄積したエネルギーのことをいう。

なんの修行もしない状態イタチはこの量がほぼない。むしろ、術を発動できるだけあってよかったようなものだ。

さらにこの瞳、写輪眼は展開しているだけでもチャクラを消費する。

 

(ん?人の気配がする。近いな。増援か、だが奴は一人といっていたな。ということは奴の仲間を倒した男達か?)

 

感覚を研ぎ澄ますと人の気配がする。

周囲を見回す。倒れた男。血を流す母親。優先すべきは母親だ。怪我の状態がひどく早く病院に連れて行かなければならない。

だが、もし相手が敵だったらとイタチは考える。チャクラはすでになく。術も、写輪眼も使えない。無理をすれば一回くらい使えるかもしれないが、その後倒れてしまうだろう。

 

(天に、祈るしかないか…………天か…)

 

イタチの脳裏に一人の男の顔が浮かぶ、赤髪螺旋の浮かんだ紫色の瞳を持つ男。

 

「長門」

 

イタチは母親に寄り添う形で横になる。ごまかしていた折れた肋骨痛みが響く。

 

「父さんこっちだ!」

 

かん高い声が聞こえる。もうすぐそこに迫っていた。

 

「大丈夫か……ん?どうなってるんだ?それより、救急車だ。父さん!」

 

どうやら、イタチは賭けに勝ったようだ。

しばらくして、救急車が到着しイタチたちは運ばれていった。

 

「いったい何があったんだ?」

 

イタチを発見した男・・・高町恭也は思う。

あの吸血鬼は気絶していた。第三者がいたのだろうか、だがそんな気配はしなかった。

見上げた夜空には、雲の隙間から赤い月が輝いていた。

 

 

 

 



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第4話 追憶

俺はこの世界の人間ではない。

 

俺の居た世界はここまで科学が発展してはいなかった。俺の世界の中心は忍で回っていた。。

この世界で忍者と呼ばれるものだ。

こちらとは違い、チャクラという力を使い超常的な術を使えた。血統が重要視される術もあった。

俺は忍五大国の一つ、木の葉隠れの里のうちは一族の出身だった。うちは里を作った一族の一つで里の主な警備を任されていた。

俺の仕事は木の葉の暗部。暗部は里の秘密警察のような組織で諜報や裏切り者を消すことを主な仕事にしていた。

俺の一族、うちはは里を作った一族なのだが年々扱いが悪くなっているのを俺は感じていた。

そして、ある日を境にそれは如実になった。

里に、九尾の妖狐といわれる化け物が襲来したのだ。それにより里は甚大な被害を受けた。

九尾を手なずけられるのは写輪眼を持つうちはだけ、そのためあらぬ疑いをかけられていた。

暗部による監視が強まり、一族も里の辺境に居場所を移された。

ついには、そんな立場に耐えかね。

父さんが…うちはの当主が里にクーデターを計画した。

俺が暗部に入ったのは父さんの命令だった。父さんが里中央の情報を知るために……スパイだった。

だが、俺は父さんに従う振りをして、里に一族の情報を流した。

俺にはこれから起こる惨劇がわかっていた。血で、血を洗う内戦だ。下手をすれば共倒れ。里自体がなくなってしまうかもしれない。

幼い頃にあった大戦の光景が目に浮かんだ。

俺は友人とあらゆる手を尽くしクーデターは止めようとした。その中で、この事件には黒幕がいることをつかんだ。

だが、全てが遅かった。そして、上層部から俺にある極秘命令が言い渡された。

 

 

 

うちは一族の抹殺

 

 

 

俺が命令に難色を示しすことを知り、上層部は一つの条件を付けた。

 

弟は助けてやろう。

 

向こうでは、俺には幼い弟がいた。なかなか素直じゃないところもあったがかけがえのない弟だった。

苦渋の決断だった。さまざまな手を尽くしたが、クーデターはもう止められない。だが、命令に従えば弟だけは助かる。

 

 

考えた末。俺は命令に従った。そして、あるシナリオを書いた。

 

 

里を作った一族うちはを滅ぼした大罪人うちはイタチを、弟のサスケが討つ。

弟は英雄になるだろう。一族の汚名も晴れる。

だが、結局俺は自分を過信しすぎていただけだった。

 

 

俺を倒した弟は、俺の予想を裏切り黒幕…マダラに感化され里に牙を向いた。俺はマダラの配下、カブトの術により生ける屍として戦争の道具にされた。

だが、最後の最後にサスケに俺の思いは伝えられた。サスケは里を許さないと言っていたが大丈夫だろう。

あちらにはあの少年がいる。

俺に仲間の大切さを教えてくれたナルトという少年が、彼ならきっとサスケを正しい方向へ導いてくれるだろう。

 

 

 

「ふ~~思い返してみればなかなか波乱に満ちた人生だったな」

 

イタチはいつもの草原で赤い月を見げる。手を空に掲げると一羽のカラスが泊まった。

カラスの頭をそっとなで、誰もいない草原の先に視線を移す。

 

「姿を現したらどうだ」

 

イタチの声にいつもの男がどこからともなく現れる。笠はかぶっていなかった。顔もはっきりとわかる。

 

「もう俺の姿はいいだろう。元の姿に戻ったらどうだ、長門」

「ふふ、そうだな。これ以上この姿をとる必要はないか」

 

男が微笑むとボンっという音と煙が男を包んだ。煙が晴れるとそこには赤髪で螺旋模様が浮かんだ薄紫色の瞳を持つ優男……長門 が姿を現した。

長門とは一族を抹殺し、里を抜けたあとに出会った。

彼は「暁」というテロ組織を率いていた。構成員のほとんどが里を追放された者や、莫大な懸賞金がかけられた犯罪者だった。

おかげで十人程度の小規模組織であったが、大国が恐るほどの戦力を保持していた。

イタチは長門の思想に感化されたところもあるが、うちは抹殺の黒幕の存在を感じ組織に入った。

性格破綻者が多い組織のため構成員とはなかなか折り合いがつかなかったが、長門とだけは唯一馬があった。

 

「久しぶりだな長門。聞きたいことは山ほどあるが、まず確認するがこの状況はおまえの仕業だな」

「ああ、俺もいろいろと予想外だったがな」

「予想外?」

 

何が予想外だったのだろうと考えつつもイタチは話を聞き続ける。

腕に留まっていたカラスはいつの間にかイタチの肩に移っていた。

 

「輪廻転生の術を覚えているか?」

「輪廻眼を持つおまえだけが使える術で、死者を生き返す転生忍術だったか」

 

長門はイタチ同様、特殊な目を持っていた・・・「輪廻眼」イタチの世界の忍の開祖「六道仙人」が唯一持っていたとされる目だ。

これを持つ物は創造神とも破壊神とも言われるほどの絶大な力を得るらしい。

 

「ああ、そうだ。」

「聞いた当初は大蛇丸の術を知らなかったから眉唾物としか思っていなかったがな。いったい何時使った?そんな時間はなかったと思うが」

「俺が封印される時だ。」

 

イタチと長門の死後始まった大戦の戦力として二人は生ける屍として蘇生されていた。

 

「穢土転生の術」…生者を寄り代として死者の個人情報物質を使い現世に死者を蘇生させる。

蘇生させると言っても生き返すわけではなく、ゾンビ状態で蘇生される。そのため、致命傷を受けても即座に再生する。

さらに、対象の頭に札を埋め込むことで精神と身体を制御することもできる禁術だ。

 

二人はこの術で操られ、ナルトという大戦の目標確保のために動かされていた。だが、イタチはとある術により身体のコントロールを取り戻し長門を封印した。

封印されるとき長門は意識を取り戻していたが、身動きが取れない状況だった。

 

「だが、印を結んでいる様子はなかったが?印を結ばなければその術は発動しないだろう」

「輪廻眼のなせる技だ。前にいっただろう。俺とお前の目があればできないことはないと」

 

長門は自身の輪廻眼を指さした。

 

「確かにそんなことを言っていたな。だが疑問がある。おまえの話した術は対象を生前も姿で生き返すはずだ。俺は見てのとおりこの姿、さらにここは俺たちのいた世界じゃない。どういうことだ?」

 

今いる世界がイタチがいた世界ではないことはわかっていた。

記憶が戻ったからと言っても、それまでの記憶がなくなったわけではない。これまで生まれて知った知識を総動員しても元の世界の痕跡すら出てこない。

故に、この世界はイタチのいた世界ではないのだろうと考えていた。

 

「俺は術の別の可能性に至っていた。元の姿ではなく、新たな命として再び生を受ける。そのような事が出来るのではないかと。まあ、まさか別世界でおまえが生まれるとは俺も思わなかったが。それに記憶まで失っているとはな。俺の思念がおまえの中に残っていた事が今回は幸いしたな」

 

「輪廻眼にそんな事が出来たのか……だが、なぜ俺に」

「イタチ、おまえ……長くなかったのだろう?」

「知っていたのか!」

 

その答えにイタチは驚いた。

生前、イタチは病にかかっていた。どんな医者に見せても首を横に振るだけ、投薬による多少の延命としか言われなかった。

弟に殺されるまで生きなければならないイタチは投、薬によりなんとか命をつないでいる状態だった。

そのことは長門しかり、誰にも悟られていないと考えていた。

 

「通常の輪廻転生では生前の状態で蘇生される。よって、おまえの病は治らない。だからこの可能性にかけたのだ。

俺も予想な面もあったが、この結果は良かったのかもしれない。この世界は俺たちの世界に比べれば平和だ。」

 

長門は空を見上げた。月はいつもと同じく赤く輝いていた。

すると、突然長門の身体が光り始めた。

 

「長門!」

「どうやら時間のようだ」

「何を言って」

「言っただろう。俺は所詮おまえの中に残る残留思念に過ぎない。今までおまえの中に入れたこと自体が奇跡みたいなことだ」

 

腕が、足が、光の粒子となって次第に消えていく。

 

「待て長門!まだ、全てを答えてもらっていない!なぜ俺を生き返した!」

 

イタチの叫びに、長門は静かに答える。

 

「ふふ、単なる俺の気まぐれだ。暁の中で俺の理想を本当に理解してくれたのはおまえと小南だけだった。それに、俺にはおまえが何か心残りがありそうに思えていた。ただそれだけの理由だ」

 

「長門……」

「イタチ、生きろ……」

 

その言葉最後に長門は光の粒子となって空に消えていった。

残ったのは誰もいな草原。イタチはただ、空を見上げて立ち尽くしていた。

 

 

 

 

イタチが静かに目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。消毒薬のにおいが鼻につく。

ベッドから起きると、胸の傷がひどく傷んだ。

 

(く……そういえば肋が折れていたな。長門……おまえを封印した後、俺はサスケに全てを伝え俺はもう想い残すことはなかったというのに……)

 

窓の外に目を向けるとは、朝日が差し始めていた。

イタチの心には長門の最後の言葉か響いていた。

 

「生きろ……か」

 

 



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第5話 これから





イタチは考えていた。これからのこと、これからの人生を。

 

今まで里と弟を存在理由に考え生きてきたイタチ。それがない今のイタチはまさに空っぽだった。

イタチは起きている時は常に、病室から見える町並み眺めていた。見えるのはこの世界に生まれてからよく知っている町並み。

一族の根絶やしにし、数多の命を奪ってきた自分が今一度生を謳歌するのはやはり気が引けた。

長門の生きろという言葉が心に響く。

 

(俺はこれからどう生きればいい……)

 

考えた結果、残ったものはやはり家族だった。

襲われた母親の様態は出血は酷かったものの、そこまで重傷というわけではなく。

むしろ様態はイタチよりはいいそうで、早期に退院できるそうだ。

襲われた吸血鬼に関して新聞などで調べてはみたが、犯人が捕まったという情報は一切なかった。

さらに、あの日を境に事件そのものがなかったかのような扱いになっていた。意図的な情報操作が感じられた。

 

(確かやつは月村と言っていたな)

 

この街、海鳴市で「月村」といえば一軒しかない。

資産家で有名で、イタチの母親が務める製薬会社も月村が関係していた。

それにイタチには気になることがあった。それはイタチが目覚まして数日たった日のことだ。

男女の刑事がイタチを訪ねてきた。

あのような事件に巻き込まれたのだから、事情聴取はあるだろうと考えていたが訪れた刑事にイタチは疑念をもった。

年齢は三十代半ばに見えたが、うまく変装していることがイタチはわかった。

男性からはただならぬ雰囲気を感じ、女性からは常人では聞こえないだろうがイタチには機械の駆動のような音が聞こえた。

内容は簡単な事情聴取だった。女性の方が質問をし、男性はただ静かにイタチを見つめていた。

犯人の顔や姿などを聞かれたが、イタチは何もわからず気づいたら病院だった答えた。

相手はイタチのあまりの冷静さに少し疑問を持ったようだが、聴取が終わると静かに帰って行った。

 

(刑事は月村の関係者だろう。月村と吸血鬼に関して調べる必要があるな)

 

あの吸血鬼の話から、今回襲われたのは偶然だったとイタチは考えている。しかし、母親が月村系列の仕事している限り標的になる可能性があると考えていた。

イタチは母親の仕事内容までは聞たことはないが、もし月村の中枢に関係する仕事をしているならば襲われる確率は上がるはずだ。

イタチは早急に力を取り戻すために行動を開始した。

入院は全治3ヶ月以上といわれたが、イタチはたった一週間で退院した。これには医師も相当驚いていた。

少ないとはいえイタチにはチャクラがる。医療忍術という治療用の術もあるがイタチは使用出来ない。だが、原理は知っている。

チャクラを使い肉体を強化、活性させ傷を癒す。それでこの短期間で回復したのだ。

両親から人が変わったようだと言われたが、あのような事件に巻き込まれたのだからしょうがないと思われていた。

 

 

 

 

退院後、イタチは吸血鬼や月村について調べようにも大きな壁が立ちはだかった。

 

一つ目が情報源、前世では優秀な忍と言われようが今のイタチは6歳の子供、チャクラがあれば術を行使して裏世界に入り込むことができただろうが今はそれすらできない。

 

二つ目は……文化レベルの違いだ。こちらの世界の科学技術は下手をすればイタチの世界の何十世代も上を行く。イタチにとってはすべてが未知の技術だ。

前の感覚でどこかに潜入などしようものなら、即座に捕まってしまうだろうと考えている。

 

三つ目は……門限ができた。あの事件で両親が以上に過保護になり、自由に行動できる時間が減っていしまった。

 

「はぁ~、とりあえず知識面もだがチャクラがなければ話にならないないか。写輪眼も開眼初期状態だしな」

 

珍しくため息つきつつ、イタチは今後のことを自室で考えていた。

写輪眼の性能は成長する。初期は勾玉模様が一つだけだが、最大三つまで増える。増えるごとに性能も各段に上がっていく。

海鳴市は山と海に囲まれた街だ。森に入れば人目もつかない。

深夜に行けば誰にも見つからないだろう。

そんなことを考えつつ、修行しつつ一ヶ月の月日が流れ、イタチの小学校入学の日となった。

クラス分けを見ると何の因果か月村の名前があった。さらに学校で意外な出会いもあった。

 

「イタチくん!」

 

廊下で不意に声を掛けられ振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたはやてがいた。

どうやらはやても同じ学校だったようだ。相変わらず、足が悪いのか松葉杖を持っている。

 

 

「イタチって、名前が別のクラスにあったからまさかと思うたが、やっぱりイタチくんか。えっらい久しぶりやなぁ~最近図書館こんから、なにかあったかと心配したはわ。ん?イタチくんなんか雰囲気変わった?」

「はやても同じ学校だったのか」

「あれ?前えゆうてへんかったけ?」

「ん?そうだったか?」

 

イタチは腕を組みつつ過去の記憶を思い出すと、確かに図書館でそのような会話をしていたことをおぼろげながら思い出した。

あの時のイタチは夢のことを考えるのが全てで、はやての会話にただ相槌を打つだけだったためあまり覚えていなかった。

 

「で、なんで最近図書館こんの?」

「家ことで少しごたついてな。行く時間がなかったんだ」

「ふ~~ん。あ、なあ。今日一緒に図書館いかへん?前、私が本でわからんこと教えてくれるって約束したやろ?覚えとる?」

「すまない。今日は予定があるんだ」

「え~~少しくらいええやん。てか、なんかしゃべり方が少しかたっくるしくなったなぁ」

 

イタチはそっと人差し指と中指をはやての額に当てた。

 

「許せはやて……また……」

 

言葉が詰まった。

脳裏に前世の最愛の弟の姿が浮かんだ。

いつもそうだった。イタチは約束を破る時や、忙しい時はそうやって弟に許しをこいていた。

今思い返せばもっと弟にかまってやるべきだったのかもしれない。そうすれば、弟は間違いを犯さなかったのかもしれない。

きょとんしているはやてから、手を下ろした。

はやてのほほが赤く染まっていた。

 

「いや。ついて行こう」

「む~~女の子にそないなことしたらあかんで」

「ああ、すまない。ついな」

「ほんま雰囲気かわったなぁ。ほんまに何があったん?」

「秘密だ」

「も~~またや。秘密。秘密て」

 

イタチは苦笑しながら怒るはやてを見つめて居た。

 

 

 

 

学校生活はイタチにとって退屈極まりないものだったが、こんな平和な生活に少し新鮮味を感じていた。

前世は忍者を育成するアカデミーと呼ばれる学校に行ってはいたが、学ぶ内容は主に戦闘術がメインでこんなにゆったりとした学園生活ではなかった。

それに、アカデミーも飛び級で七歳には卒業してしまった。そのあとは実戦に次ぐ実戦。

心休まる日はなかった。

 

(平和とはこういうことを言うのだろうな……)

 

授業中、窓の外を見ながらイタチは思った。

イタチの友好関係だが、相変わらず近寄りがたい雰囲気からクラスで仲の良い友達いず、話すのは休み時間にやってくるはやてだけだった。

はやての方は持ち前の明るい性格から友達は多いそうだ。

 

 

 

 

それから半年の荒行で、なんとか影分身の術を使えるようになった。

影分身の術は分身とは違い実体をもつ分身だ。さらに、分身が消えるときそれが体験したことや目撃したことが、術者の記憶と経験になるのでスパイ活動に強力な効果を発揮する。

ただし、この術は、分身にチャクラを均等に分ける必要があるため、正確なチャクラコントロールが必要とされ会得難易度が高い。

この術のおかげで、いつでも気兼ねなく修行が出来るようになった。現代の技術でも分身と本体を見分ける事が難しいことも実証済みである。

 

「せめて、少しは体を作ってい置けばこれほど時間はかからなかったのだな。チャクラ量も生前には程遠いか。戻すまでに何年はかかるか」

 

三日月が夜空に輝く森の中で、イタチは空を見上げながら呟いた。

イタチが立っているのはこの森に生える杉の天辺、周りは木々がうっそうと生い茂り彼方に街の光がきらめいている。

 

一度あることは、二度ある。

 

月村の家があそこにある以上、また吸血鬼がこの街に現れるかもしれない。

 

「早く、戻さないとな」

 



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第6話 接触

修行を初めてすでに一年がたった。あの事件以降吸血鬼の襲撃はない。

学校では相変わらずはやて以外の友達はいない。ただ、クラスメイトのアリサという金髪の少女だけは定期的にイタチに突っかかってきていた。

どうやらイタチの成績が気に食わないらしい。イタチの成績は常に学年一位。アリサの成績も同列一位と並んでいる。そのことでどうやらアリサにライバル視されているらしい。

この前テストで一点差でイタチが勝った時など。

 

「今回は調子が悪かっただけよ。わかる!今回調子は悪かっただけなの。だからあんたに負けたわけじゃないんだからね!」

 

などと聞いてもいないこと目尻に涙をためながらを話して消えていった。イタチは特に気に様子もなく毎回聞き流している。

とまあ、そんな事が定期的にありつつもイタチの平和な学園生活が続いている。

 

 

 

 

ある晴れた日の休日、木漏れ日が漏れる森の中でイタチはいつものように修行していた。

服装は黒いTシャツに黒い短パンと黒一色。

最近、両親を説得してようやく自由に外出できるようになったおかげで、こうして昼間に堂々と修行ができるようになった。

まあ、影分身ができるようになってからあまり関係ないのだが。学校生活も本体は受業を受け、分身は修行するという二重生活が半年前から続いている。

円状の的の書かれた丸太に手製のクナイが連続で突き刺さる。クナイと言ってはいるが、見た目は薄い鋼鉄のヘラだ。

 

「だめか……」

 

腕を組みつつイタチは呟いた。

数本のクナイは見事に円の中心を射抜いているのだが、よく見ると数ミリずれていた。

このクナイはイタチ自ら削り出したものだ。深夜に工場に忍び込み、工作機械を拝借して制作したものだ。

だが、所詮素人が制作したもの。精度にばらつきがあった。こういうものは、精度が均一でないと修行に支障が出る。

イタチは優秀な忍だが、道具作りの達人とまではいかない。

前世では、道具関係は優秀な裏の職人から買っていた。しかし、今のイタチにはそんな伝手はない。ネット通販で仕入れようと考えてはみたが、物が明らかに殺傷用ではなく鑑賞も主に作られているものがほとんどだったためあきらめていた。

一年の修行により、そこそこチャクラは増えてきたものの全盛期には程遠い。

 

「やはり、専門の職人が作ったものがほしいな。とわ言え、この世界ではこんなものを作る職人は知らないしな。どうしたもか」

 

前世の世界より進んだ銃器を使うことも考えたが、消炎反応やらなんやらと科学的に調べる方法が現代には多いことを知り、結局慣れ親しんだものに落ち着いた。

 

「ん?」

 

一羽のカラスがイタチの肩に止まった。

このカラスはイタチの使役している。口寄せ動物だ。

口寄せの術は血で契約した生物を好きな時・好きな場所に呼び出す術で諜報戦や戦闘などで活躍する。だが、このカラスは少し特別だった。

カラスの左目に写輪眼が埋め込まれていた。もちろんイタチのものではない。

この写輪眼は前世の親友、うちはシスイの目だ。シスイはイタチとともにクーデターを止めるために奔走し、志半ばでイタチに目を託して死んだ。

このカラスが現れた時、イタチはとても驚いた。初めは口寄せの実験にと普通のカラスと契約し、呼び出してみたらこいつが現れたのだから。

これも長門の力なのかはわからないが長門には感謝している。一部とはいえ前世の親友に会えたのだから。

 

 

 

 

 

いつもの修行場からの帰り道、海が見える街道を歩いていると見知った二人組が目の入った。

 

「あれは、月村とバニングスか」

 

どこかへ遊びに帰りだろうか、何かが入った紙袋を持って二人仲良く歩いている。

イタチはあの二人が仲が良いことは知っていた。あともう一人、高町というツインテールがトレードマークの少女とよく学校で仲く話しているのを見かけていたからだ。

 

「月村か……」

 

チャクラが増えたこの一年、月村について調べようと何度か試したことがある。変化の術で屋敷の近くに行ってみたり、口寄せの術で使役しているカラスを送ってみたりしていた。

だが、有益な情報は得られなかった。得られたのは、月村の屋敷がまるで城塞のように迎撃装置や監視カメラ仕掛けられ、侵入することが困難だと分かったくらいだ。

イタチがしばらく遠目で二人を眺めていると、二人の前方から黒塗りのバンがやってきた。

黒塗りのバンは二人の横に止まったと思うと、突如急発進する。

バンが過ぎ去ったあとには二人の姿は忽然と消えていた。さながら、映画のような光景だ。

 

「まさか、白昼に堂々と誘拐をするとはな。まったく、映画じゃあるまいしセオリーがなってないな。月村が誘拐されたとなると例の件か。バニングスも資産家の令嬢だからそっちの線もあるが

さて、どうするかな……」

 

イタチは街路樹に視線を向ける。

そこには一匹のカラスが止まっていた。

 

 

 

 

廃墟のとなった工場。すでに設備は錆びつき、二度と動かされることはないだろう。

地権者も解体コストから放置され、完全に忘れ去られている。時折、不良グループがたまり場にしていたのか色とりどりのスプレーでの落書きが見える。

すすがとアリサは縛られた状態でイスに座らされていた。

場所は工場の倉庫部分。昔はたくさんの荷物があったようだが、今はただ薄暗い広い空間が広がるだけ。

すすがはすでに目を覚ましていたが、アリサは隣でまだ眠っている。倉庫にただ一つある出入り口から誰かが入ってきた。

 

「すみませんねすずかお嬢様。こんなような錆びれたところにお越しいただいて」

 

きっちりとスーツを着込んだ優男がすすがに非礼を詫びながら近づく。

口元から鋭い犬歯が見えることから、彼も吸血鬼なのだろう。

 

「あなたたちが無理やり連れてきたんじゃない。アリサちゃんは関係ない!解放してあげて!」

「まあ、これからの保険というやつですよ。あなたのお姉様がおとなしく我々の要求を飲んで頂けさえすれば、すぐにでも解放いたします。

それに、大声で叫ばれてはご友人が起きてしまいますよ。知られたくないでしょう?大事な友人に自分は化け物だったと」

「う……」

 

吸血鬼の言葉にすずかはアリサを見た。

誘拐された時に嗅がされた薬が、よくきいているのかアリサは起きる気配がない。

すずかは自分が吸血鬼だと言うことを友人にも秘密にしていた。一族の掟ということもあるが、ばれれば今のような友人関係では居られなくなるとわかっているからだ。

すずかは俯いたまま、口を閉ざす。

 

「まあ、もうしばらくお待ちください。時期に別の者がお迎えに上がりますので」

 

 

 

「年増もいかない少女相手に、真昼間から誘拐とはセオリーがなってないな」

 

 

 

 

薄暗い倉庫に声が響いた。

 

「「!」」

 

すすがと吸血鬼は声のした方を向くと一人の男が立っていた。

身長は170台後半、黒髪で黒地に赤い雲の模様がついた外套を着込んでいた。

その男で一番特徴的なのは瞳だろう。

紅い瞳。それには勾玉模様が一つ浮かんでいた。

 

「誰だ。」

 

吸血鬼が叫ぶ。

 

「その質問に答える意味はあるのか?ここにいる以上、お前たちの敵以外ありえないだろう」

「外にいた部下たちはどうした!」

「彼らには眠ってもらった」

「馬鹿な、十人以上いたのだぞ。それを、音もなくやってのけたというのか」

 

すぐ外には十数名の部下たちが配置されていた。

だが、彼らからは何の音さたもない。多少抵抗したのならこちらに何かが聞こえるはずだった。

 

「それができるからここにいるのだが」

「クソ!」

 

吸血鬼はスーツの懐から銃を取り出し赤い目の男に銃身向け引き金を引く。

だが、銃口から火が噴くことはなかった。

なぜなら、銃そのものが吸血鬼の手から離れ、はるか後方に飛んでいったからだ。

軽い金属音がむなしく響く。

 

「なにが…」

 

吸血鬼が後方の銃を見ると、鉄のヘラのような物が刺さっていた。

前にいる男が投げたに違いないのだろう。だが、吸血鬼には相手が手を振る動作も、飛んでくる物も目に入らなかった。

吸血鬼はゆっくりと男に向き直る。男は現れた時と同じくただ直立していた。

 

「戦闘中によそ見とはな」

「なに!」

 

男は静かに右腕を胸元まで上げると、指を鳴らす。

パチンという音とともに男の姿がたくさんのカラスとなって飛散した。

 

「なに!」

「え!」

 

これには、吸血鬼もすずかも驚いた。

人間がまるで手品のように、消えたのだから仕方ないことだろう。

 

「さて、終わりにするか」

 

男の声がどこらともなく響く。

 

「どこだ!どこへ行った!」

 

吸血鬼はあたりを見回しながら叫ぶ。

叫び声は、倉庫中に木霊している。だが、男の姿は見えない。

 

「ここだ」

「な!」

 

声の方を振り向くと、吸血鬼のすぐ目の前に男の顔があった。

赤い瞳が目に入る。

 

幻術・写輪眼

 

「!!」

 

写輪眼による幻術で吸血鬼は意識を失い崩れるように倒れた。

男はすすが達に近づくと、二人の拘束を解く。

 

「これだけの騒ぎの中寝ているとは、すごい神経だな」

 

アリサはまだ眠っていた。

 

「たぶん、人には強い薬だったんだと思います。ええと、あの、あなたはいった。あ!もしかして、恭也さん達の関係者ですか?」

 

すすがの質問に答える前に、一羽のカラスが飛んできて男の肩に止まった。

すすがは入ってきたカラスを不思議そうに見つめる。

 

「意外と早いな」

「え?」

 

こちらに誰か迫ってくる足音が聞こえる。

 

「すずか!大丈夫か」

「すずかお嬢様!」

 

現れたのは胴着姿の青年とメイド姿の女性。

明らかに場違いな二人だが、まとう気配は明らかに有段者の気配だった。。

胴着姿の青年は赤い瞳の男とすすがを視線に収めると、先手必勝とばかりに二刀の小太刀で切りかかった。

突然のことにすすがは驚いたが、男は冷静にそれをよける。

青年はすすがを守るように間に立ち小太刀を男に向ける。メイドも男の後ろで構えをとっている。

 

「恭也さん!ノエル!違うの!この人は私たちを助けてくれたの」

「なんだと!」

 

すずかが青年、恭也の胴着をつかんで彼を止める。

 

「まず人質を優先する。その判断は間違ってはいなが相手の力量を確かめることが先決だと俺は考えるがな」

「なに!これはお前がやったのか!お前は何者だ!」

「今はそんなことよりその子を病院に運ぶことが先ではのいのか?」

 

男はアリサをを指差した。

薬で眠らされているとはいえ、万が一があるかもしれない。

 

「く、確かにそうだな」

「では、あとはまかせたぞ」

「何!」

 

男は振り向くと、後ろにいたメイドのことなど気にもとめずに横切り出口へと向かう。

後のことは、すべて恭也たちに任して帰るつもりらしい。

 

「お待ちください!」

 

メイドが声を張り上げた。

 

「なんだ?」

 

男は脚を止めた。

 

「わたくし月村家にてメイド長をしておりますノエル・K・エーアリヒカイトと申します」

「それで、それがどうした?」

「今回の状況についていくつかお聞きしたいことがあります」

「今からか?」

「いえ、受けて頂けるならそちらのご都合のよい時間帯で構いません。ただし、場所はこちらで指定させていただけないでしょうか」

 

ノエルも要求が通るとは思ってはいない。

目的はただ、相手の脚を止めるため。この事件に何かしら関わりがある以上調べなくてはならない。もし、この一方的な要求が通らなければ、最悪相手を捕縛しなければならなかった。

相手の力量を恭也が測る時間を稼ぐ為にノエルは声をかけたのだ。

男が前を向いているため、表情は見えないが考えているらしい。

 

「このカラスで連絡する」

 

男がそう言うと肩にとまったカラスが飛び立ちすずかの肩に止まった。

すずかは突然のことにぽかんとしつつカラスを見つめた。男はそう言うとそのまま、帰ってい行った。

 

「恭也様、彼に勝てますか?」

「わからない。俺でも実力を測りきれなかった」

 

去って行く男の背中を見つめながら恭也は男について考えていた。

 

 

 

 

廃工場から離れた森の中男が印を結ぶと、ボンという煙とともに姿が変わる。

現れたのは、イタチだ。

 

「接触するには早い気もするがまあいい」

 

イタチは今回の事で月村に接触するつもりだ。

 

「再び吸血鬼が現れた以上早急に情報を得る必要があるな」

 

全盛期に満たないイタチにとっては賭でしかないが、情報が何よりもほしかった。

イタチは空を見上げる。

時はすでにオレンジ色に染まっていた。

 



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第07話 会合

年代を感じさせる調度品と、この年代の女の子らしい小物がが置かれた部屋ですずかは机に伏しながら物思いにふけっていた。

部屋の照明は机のスタンドライトのみ、今日は月齢的には満月なのだが厚い雲が空覆い隠し月明かりすら入ってはこない。

 

「あの人は誰なんだろう」

 

すずかは思う。

三日前、私が誘拐されたとき現れた紅い目をした青年。

お礼を言いたかったが、結局言わずじまいで消えてしまった。

 

「はぁ~~」

 

このため息も何回目だろう。

顔を上げ目の前置かれた鳥籠を見つめる。鳥籠にはカラスが一羽、自分の羽を丹念に毛繕いしている

ふと、カラスはすずかの視線に気づいたのか、首をかしげながらどうしたのという表情を見でこっちを見てきた。

 

「はぁ~~」

 

ため息をつくたびに幸せは逃げるというが、いったいどれらい私から幸せは逃げて行ったのだろう。

カラスはただただ、すずかを見つめていた。

 

 

 

 

「さてと…。とりあえず考えられるかぎり準備はしたけれど、どうしたのものかしらね~」

 

この家の主・月村忍が一同に振り向き言う。ここは月村家の応接室、大きな長机の両脇には前回の事件の関係者全員が座っていた。

メイド長のノエル、なぜかところどころ傷だらけ高町恭也、その父親、高町士郎そして眼鏡をかけた娘の高町美由紀。

座っている全員は神妙な面持ちだ。

 

「万が一のためにありったけのトラップもこの部屋に仕掛けたし~~センサー共々もこれ以上ないくらい完璧よ!どんな相手が来てもスイッチ一つで確実に殺れるわ!」

 

忍が自身満々に全員に言う。しかし、外野はそうは思っていないようだ。

 

「俺はやはり反対だ。実力もわからない奴をこの家に呼ぶのは!」

「でも、今回のトラップは自信作よ!恭也だって身に染みてわかってるでしょ」

「ああ……」

 

恭也は今回、忍の仕掛けたトラップの実験台にされた。相手の実力が未知数であるため、手始めにこの中で一番実力のある恭也が実験台にかり出された。

結果は見事に恭也をズタボロして忍は満足している。

 

「恭ちゃん大丈夫」

「ああ、怪我はないから大丈夫だ」

「怪我がないと言うことは非殺傷設定も完璧ね!」

 

美由希なねぎらいに恭也はよわよわしく答えつつも忍は非常に自慢げだ。

すると、応接室のドアが開き、すずかが鳥籠ろ抱えて同い年くらいのメイドと一緒に入ってきた。

 

「ファリンありがとう」

 

ファリンと呼ばれたメイドは一礼をして出ていく。

すずかは長机に鳥籠置き空いている席に着いた。

鳥籠のカラスは周囲を気にせずにのんきに毛づくろいをしている。なかなか神経が図太いカラスだ。

 

「それにしてもカラスか。ハトならわかるんが」

「確かに珍しいよね!某妖怪漫画みたい。伝書カラスなんて」

 

恭也と美由希はカラスを見ながらい言う。

 

「カラスは意外と頭がいいんだぞ」

「そうなの、父さん?確かにテレビで都会のカラスはいろいろと学習するって見たけど」

「まあ、確かに知能は高いが伝書バトの代わりにする話は聞かないけどね。僕も伝書ガラスは今まで見たことはないかな」

「ゴホン。では皆さん、もう一度状況を説明したいと思いますがよろしいでしょうか」

「ああ。話がそれたね。すまい」

「いえ」

 

ノエルが士郎の話を静止し状況の説明に入る。

 

「昨日、預かっていたカラスが外へと飛び立ち、戻ると手紙を持ってまいりました。

内容は簡潔にこちらに来る時間のみ。手紙の素材も何処にでも紙で指紋等は付着してはおりませんでした。

ああ、このカラス自体もこの国に普通に自生している物で、CT等を取りましたが体内に不審な物はありませんでした。

こちらも同じように了解のむねつげ、カラスを送り返したというわけです」

「気になったんだけど?用が済んだのに、このカラス戻ってきたのかい?」

「はい。たぶんですが何かこちらからの追加用件があった時用でしょうか。期日がわかった以上、こちらもおもてなしをしなければなりません。

皆様には作戦どうり所定の位置について、対象が不穏な動きをした場合即座に対処をお願い致します。

この部屋に仕掛けられたトラップの位置は間違わない様にお願い致します。

皆様が引っかかられたら洒落になりません」

「ああ、その点は大丈夫だろう。しっかりと確認したしね」

 

ノエルの説明を聞き、士郎は息子達に視線を向ける。

 

「では、皆様宜しくお願い致します」

「お願いね~~」 

 

この後高町家の面々は所定の位置へと向かう。残ったのは、忍とすずかとノエル。

時間はこくこくと過ぎ、そうすぐ相手の指定した時刻になる。すずかは隠れていなさい、とさんざん恭也達に言われたが本人が直接お礼を言いたいと言い、頑としてその場を動かなかった。

時間になると突然カラスが鳴き出した。カラスはここまで訓練出来る物なのかと関心する。

 

「来たようね」

「来たようですね」

 

忍とノエルは互いを視線を合わせた。

 

(みんな、お願いね)

 

 

 

 

夜道を一人の青年が歩いていた。

黒い外套を身にまとい、顔はフードでよく見えない。

変化の術で姿を変えたイタチだ。

イタチが立ち止まると、眼前には数メートルはある鉄柵の門が城門のようにそびえ立っていた。

 

(さて、何が飛び出してくるか)

 

門が静かに開くと、奥から一つランプの明かりが近づいてくる。

案内役の月村家のメイドのノエルだった。

 

「こんな時間にすまないな」

「いえ、それよりも」

 

ノエルはイタチの全身をくまなく見回す。

その視線に気づいたイタチは

 

「武器になるものもってきてはいないが、信頼は出来ないか」

「はい。すいませんが一応確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

「構わない」

 

ノエルはイタチを警戒しつつランプを地面に置き、念入りにボディーチェックを行う。

フリルの付いたスカート裏から金属探知機まで持ち出し入念に調べている。

 

「ん?」

「どうした?」

「こちらは?」

 

ノエルがイタチの外套を探っていると、片手に収まるぐらいの小さな黒い巾着と一枚の写真が出てきた。

ノエルは巾着が気になったようだ。

 

「単なるお守りだが」

「そうですか?一応、中を拝見しても」

「お守り中身を空けると、効力がなくなるというのだがな」

「万が一といこともありますので。こうなるとわかっていたのならば持ってこなければよかったのでは?」

「大事なものなのでな」

 

中を開けると四つ折りの紙が入っていた。

紙には墨でミミズが這ったような文字が書かれ、中心に円と円の中に刃という漢字が書いてあった。

これといった怪しいものもないので、確かにただのお守りなのだろうとノエルは考えた。

 

「満足か?」

「はい、失礼いたしました」

 

お守りをイタチに返すとノエルは屋敷の中へと案内をする。

お互い無言のまま広い中庭を屋敷へと進んでいく。

 

「昨日はありがとうございます。あなたがいなければお嬢様達はどうなっていた事か」

 

青年の前を歩くファリンは静かに礼を言った。

 

「こちらの目的が偶然おまえ達の事件と重なっただけだ。礼を言われる筋合いはない」

「そうですか……ですが、言わせてください。すずかお嬢様を助けていただきありがとうございました」

 

ノエルの礼を聞きつつイタチは別のことを考えていた。

 

(このメイド、やはり人形か。一瞬写輪眼で確認したが、チャクラの類は見えなかった。最近映画でみたアンドロイドか?いや、遠隔操作の人形ということもありえるな。

やれやれ、電子的なものはこの目では見れなからな。文明の違いを感じるな。チャクラによる忍術が発展しなければ俺たちの世界もこうなっていたのだろうか)

 

中庭をしばらく歩くと、眼前に豪邸が姿を現した。

建物は煉瓦造りの西洋風建築でよくテレビで紹介される北欧の豪邸のようだった。屋敷に入りイタチは応接室に通された。

そこには、すずかが椅子に座りその横に忍が立っていた。

長机にはイタチがすずかに与えたカラスが入った鳥かごが置かれている。カラスは主が現れたというのに特に気にせず、毛繕いをしている。

ノエルはイタチに忍と対面する席に案内すると、自らは忍の横に立つ。

ここでイタチはかぶっていたフードを脱ぐ。黒髪、黒目の青年が姿を表した。

 

「ん?」

「あれ?」

「なんだ?」

 

ノエルとすずかは不思議に思った。

あの時、瞳の色は特徴的な紅い色だったはずだ。

 

(あの時、瞳の色は紅かったはず。カラーコンタクトの類でもつけていたのでしょうか?)

 

ノエルはイタチの瞳を気にしつつ相手の出方を伺う。

イタチは対面する形で前に立つ人物が、この館の主なのだろうと察した。

 

「私はこの家の主、月村忍よ」

「月村すずかです」

「さて、私達が名乗ったのだからあなたも名乗るべきじゃないかしら」

 

忍がイタチに視線を向ける。

 

「シスイだ」

 

イタチはかつての親友の名を言う。

今の姿もかつての友人の姿に変化している。

 

「まずお礼言わせたもらうわ。すずかを助けてくれて本当にありがとう」

「あ、あの、危ないところを助けてい、いただきありがとうございます」

 

忍の礼とともにすずかが少しかみつつ小さく頭を下げた。

うまく話せなかったことが恥ずかしかったのか、すずかの頬は赤く染まっていた。

 

「礼を言われる所以はない。たまたま俺の目的と重なっただけだ」

「目的?もしよければ私たちに教えてくれないかしら」

 

忍はいぶかしげにイタチを見つめた。イタチは押し黙ったままだ。

忍の問いにイタチは答えず、壁に掛かった時計の進む微かな音が空気を重くする。

1分ほど経ったのだろうか?当事者達にはそれ以上に感じられていた。

沈黙を破りイタチが静かに口を開いた。

 

「俺はとある男を探している」

 

イタチは懐から一枚の写真を取りだした。

そこには、一人の男が映っていた。

まるで、蛇を思わせる人相の男だ。彼は前世だイタチに因縁のある男だった。

 

「先ほども見ましたが、蛇みたいな人相ですね」

「そうね。それよりなんだかオカマぽい」

 

ノエルと忍がなにやら酷いことを行っているがイタチかまわずに話し続ける。

オカマという部分に懐かしみを覚えたが、今はこちらが優先だ。

 

「この男は『大蛇丸』と呼ばれているらしい。実際の名前はわからない。俺が確認した情報によると夜の一族が何らかの形で繋がっているということだ」

「だから、私たちの一族の事件に首を突っ込んでいたのね。もしかして、一年前の事件も?」

「ああ…そうだ。それでだが」

「残念ながらこの男については何も知らないわ」

「同じ一族のおまえ達なら何か知っている考えたか無駄足だったか」

 

イタチは写真をしまうと目を瞑り手で顔を覆った。

 

(まあ、知っている訳もないのだがな。むしろ、知っていたら面倒だったな。さてと、ここからか…)

 

何せこの世界には存在しないのだから。

 

「それより、あなたが何者か話してはくれないかしら?」

「こちらの目的は話した。そこまで話すいわれはないな」

「残念ながら、はいそうですかで返すわけにはいかないよ」

 

イタチは目を静かに開け忍に目線を合わせた。

空気が重くなった。すずかの顔色がだんだんと青くなるのが見える。

 

「私たち夜の一族には掟があって、私たちの存在を知ったものをそのままにしておく訳にはいかないのよ」

「ではどうする?この場で俺を殺すか?」

「いいえ。そこまではしないわ。あなたには忘れて貰う。私たちのことを。でも、あなたが自分の正体を言うというのなら…」

「くだらないな。丸腰で来たと言うことは、逃げる算段がついているということだ。どうせ、昨日の男もどこかに隠れているんだろう?」

 

忍の言葉を遮ぎりイタチは言う。

 

「どうかしら?そう、残念ね。でもあなたはわかっているでしょ?自分が罠の中に飛び込んで来たことくらい」

「さあな?どれだけの罠を仕掛けようと俺には意味はない」

「そう…じゃあ思い知るがいいわ。私の自慢のトラップ達を!」

 

忍は何かのリモコンのような物を取りだしイタチへ向ける。すずかは驚き籠を抱え机の下にもぐる。

イタチはだからどうしたいう。冷静な表情で忍を見つめている。

 

「そういえば。最後に質問をいいか?」

「て、ちょっと。タイミングが悪いわね。で、何かしら?」

「いや、記憶を消すと言ったがどうやるのかと思ってな?SF映画見たいに銀色の記憶を消す機械でもあるのかと思ってな」

「映画の見すぎよ。いいえ。単に私と目を合わせるだけよ……このようにね」

 

忍の瞳が一瞬で赤く染まる。

イタチは突然意識が飛びそうになり、長机に勢いよく手をついた。

 

「視線を合わせておいてくれてありがとう。手間が省けたわ。ノエル申し訳ないけれど…「興ざめだな」え…?」

 

イタチが静かに立ち上がった。

顔はうつむいたまま

 

「あなた、私の力が効いて…」

 

言い終わる前に忍は身体に違和感を覚えた。身体が金縛りに遭ったように動かないのだ。

顔を上げたイタチに全員が目を見張った。瞳の色が変わっていた。

赤い瞳にそして、特徴的な勾玉模様が一つ

 

「く、何をしたの。それに…あなた私達と同じ…」

「残念だがおまえ達とは違う。それに、この程度の瞳術では俺には通用しない。」

「お嬢様に何をした!」

 

痺れを切らしたのか、ノエルはメイド服のスカート裏に隠していた投擲用のナイフを瞬時に取り出すとイタチに投げつける。

空気を切り裂いて一本のナイフが飛翔する。が、イタチは椅子から瞬時に飛びのき壁際に寄った。

 

(交渉はこれで終いか……まぁこうなることは分かっていたが……

それにしても夜の一族、うちはと同じく紅い目を持ち瞳術を使うか…まぁ、写輪眼ほどではなっ!)

 

イタチは瞬時に天井を向く。

二本の小太刀を構えた恭也が天井を破り、それをイタチへと振るうがすでに姿はない。

 

「な!」

「意表を突いたと思っているだろうが、気配を消すのがまだあまいな。部屋に入ったときからバレバレだ」

 

恭也は後頭部をつかまれたと思った刹那、高級な絨毯にキスをする。

衝撃で恭也の手元から離れた小太刀を手に取り、イタチは身をひるがえす。

 

「恭ちゃん!」

 

今度は、美由希が勢いよく床からせり出し、恭也からイタチを離すために刀を振るった。

イタチは奪った小太刀を振るう。

 

「へ?」

 

軽い金属音がしたと思ったら、美由希の持つ刀は柄から20センチ先がなくなっていた。

美由希もまさか刀が切られるとは思いもよらなかったようだ。その非常事態に一瞬隙を作ってしまった。

その隙をイタチは見逃すはずもなく。美由希の後ろに回り込むと、のど元に小太刀を突き付け拘束した。

 

「動くな!そのリモコンもしまってもらおう。壁の後ろにいるものも出てきたらどうだ?」

「く!」

「やれやれ、やっぱり気づいていたのかい」

 

動かない忍からリモコンを奪い取ったノエルは動きを止め、壁の裏側に隠れていたのか。

壁が回転すると士郎が現れた。

 

「確かにこいつらよりはましだがまだまだだな」

「手厳しいね」

「さて、では帰らせてもらおうか」

 

美由希を拘束したままイタチは部屋のドアに目線を送った。

 

「まって!」

「?」

 

忍の叫び声にイタチは目線を向ける。

忍はまだイタチの術にかかり、リモコンを向けた体勢で止まっていた。

 

「ああ…忘れていたな」

「え?」

 

そういうと、突然術が解け忍が盛大にしりもちを付いた。

 

「いた!」

「じゃあな」

「ま、待ちなさい…」

「なんだ?」

 

忍がおしりを摩りながら立ち上がる。

 

「あなた、私たちと手を組まないかしら」

「なに?」

「忍!何を言っている!」

 

床に倒れていた恭也は忍の話を聞き立ち上がった。

 

「恭也は黙ってて。あなた聞いた感じだと今まで一人で行動してきたのでしょう。もし私たち以外に一族を知っているのかしら?

言うのもなんだけれど、私たち月村家は一族の中でも高位に属するの。だから他の一族の情報を得ることも容易いわよ」

「……」

「あなたは私たちに戦力を提供する代わりに、こちらは情報を提供する。悪くない相談じゃないかしら?」

 

静寂の中時が進む音だけが聞こえる。

イタチは目を瞑ると呟いた。

 

「わかった」

 

イタチは美由奇ののど元から小太刀を離し解放した。

美由希は大きくため息をつくと恭也のそばによって行った。

イタチは倒れた椅子を起こすと、もう一度席へとつく。

 

「では、契約内容を決めようか」

「ええ」

 

忍はイタチの対応にほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

契約内容は解決に言うと以下になった。

 

1・イタチの素性については詮索はしない

 

2・武器、情報等の提供を月村が行う

 

3・イタチの戦力の提供

 

 

 

この他に、細かな補足事項が付いたが特に気にすることでもなかった。

 

「こんなとこかしらね」

「妥当だろうな」

「連絡の方法はどうしましょうか」

「そいつに、頼む」

 

籠の中のカラスを指差した。

カラスは一同の視線を浴び、首をかしげている。

 

「いや、あのね。さすがにそれはないでしょう。確かに賢いというのはわかるけれど。手間がかかるでしょ。連絡先の番号とかないの?」

「素性が知られるものは。持たない主義だ」

「いまどき、それはちょっとないんじゃないかしら」

 

忍はイタチの言葉にため息を吐いた。

 

「いいわ。こちらで連絡用の携帯を貸し出すわ」

「必要ない」

「GPS等の発信機なんてつけないわよ。もう、約束は守るわ」

「……わかった」

「ノエル今すぐ準備して」

「はい、忍お嬢様」

 

携帯を受け取り全て終えた時にはすでに丑三つ時を過ぎていた。

イタチは来た時を同じくノエルに案内され屋敷を後にする。

 

「では、またいずれ」

「ああ、あの男にはあやまっておいてくれ」

「はい」

 

そう言うとイタチは歩き出した。

その、後ろ姿をノエルは見えなくなるまで見つめていた。

ある程度屋敷から遠ざかると、イタチの姿は何羽ものカラスとなって飛散に彼方へと飛んでいく。

それぞれがルートを変えつつ飛んでいく先はいつもの森。

森に生える杉の天辺にイタチはいた。

先ほどまでの月村家にいたイタチは鳥分身。保身に保身を選んだ結果。

イタチにはすでに分身を解除したことによる経験の伝達が来ていた。

カラス達はイタチの周りを旋回する。

ぐるぐるとぐるぐると

 

「想定内か……これで情報と武器を得ることが出来るか……」

 

イタチは手を前に出すと、一羽のカラスが携帯を手に置いた。

 

 

 

 

 

一同はイタチがノエルに案内され去っていくのを窓から眺めていた

 

「忍何を考えてるんだ」

「あら恭也元気ね。顔大丈夫?」

「ああ、骨にまでは達してはいない」

「僕も恭也と同意見だよ。今回のことはさすがにまずいと僕は思うね」

 

士郎は恭也の意見同意した。

 

「彼、まだ実力を隠してるね。はっきり言って。僕の全盛期以上かもしれないなぁ~」

「父さん以上!」

 

士郎の戦力分析に恭也驚いた。

 

「それより、美由希大丈夫かい」

「は~~」

 

士郎は悲しそうにため息を吐く美由奇に振り向いた。

 

「大丈夫か?美由希」

「う~~恭ちゃん。私の刀が~~」

「まさかよね。私も驚いたわ」

「僕も見てなかったけど驚きだね」

 

美由希は負けたショックより、自分の刀を切られたことに悲しんでいた。

 

「でも、彼は信用できると思うわ」

「その根拠はなんだ?」

「女のカンよ!」

 

親指を立てた手を二人に向け忍は言い切った。

二人はお互いに顔見合わせ、は~~とため息を吐いた。

 

(ノエル、私たちの一族所在をできる限り探して)

(わかりました)

 

高町家の呆れた様子を見つつ、忍はノエルに指示を出した

 

 

 

 

一方すずかは

 

「この子忘れられてる」

 

自室で眠るイタチのカラスを見つつ呟いた。

すずかは再び話し合いが始まるお緊張の糸が切れ眠ってしまっていた。

しかも、鳥籠を抱きかかえたままだったことからそのまま放置されたのだ。

 

「またシスイさん来るからその時でいいよね。赤い瞳シスイさんも私たちと一緒なのかな……」

 

すずかの言葉にカラスは首を捻った。

それぞれの思想の中夜は過ぎてゆく。

 

 

 



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第08話 依頼

 あの夜の会合の後、イタチの生活が特に変わったということはなかった。

 いつもの様に本人は学校に行き、分身は修行をする。全盛期にはほど遠いが、写輪眼を常に発動していることが苦にはならないレベルにはようやく達していた。

あのとき、忍から渡された携帯はGPS等の探知の可能性を考えて分身に持たせ、逐一森の中を移動している。バッテリーが切れそうになれば、コンビニで買った電池式の充電器で充電する。

なかなかの出費だが、ため込んだ月々の小遣いを切り崩して凌いでいる、

 

「あれから3日、今日も特に連絡はなしか」

 

 森の中で切り株に座るイタチの分身が呟いた。

 

「分解してみたが、特にGPS等は組み込まれていなかったしな。まあこちらにわからない様にシステムに細工がしてあるのならばお手上げだがな。

それにしても、意外とあっさりとこちらに協力してくれたな。まぁ、何か向こうにも意図があるのだろう」

 

 もともと月村家とは何とか協力関係を結ぶつもりだった。

 幼く、ほとんどの力を失っているこの身体ではできることが限られている。

イタチが上を向くと、片目に写輪眼が埋め込まれたカラスと目が合った。

 

「そういえば、あいつをすずかに預けたままだったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから特に何事もなく一週間が過ぎた。

 学校ですずかの様子をうかがっては見たが、特に何かが起きているわけではなさそうだ。

 今日もいつもの修行メニューをこなしていると、突然連絡用の携帯が鳴った。

イタチは、瞬時に術で姿を変え電話にでる。

 

「なんだ?」

 

「例の物が用意できたわよ。それと、悪いんだけど早速お願いしたいことがあるのだけれど」

 

「仕事の依頼か?」

 

「ええ……そんなところよ。突然で悪いんだけれど今日此方に来れるかしら」

 

「ああ、問題ない。時間は前回と同じでいいのか?

「え、ええ。前回と同じ時間でお願い。じゃあ宜しくね」

 

 ピッという音とともに通話を切る。

 前回の契約時、武器等の提供を約束させイタチはリストを渡していた。

忍からはいいままで武器の調達をどうしていたのと聞かれたが、イタチは知り合いが廃業したおかげでこの手の物が手に入らなくなった誤魔化した。

忍この返答に疑問を抱いていた様だが、特に追求はなかった。

 

「さて、ここからか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、時間になった。

 前回と同じように分身を向かわせる。

 月村の屋敷に着くとノエルがライトを持ち待っていた。目線が合うと門が開く。お互いに会話はなく、ノエルは後ろを振り向き屋敷へと向かう。

前回の事がまだ尾を引いているからか、明らかな警戒の気配を感じた。

 イタチはノエル後を追いながら呟いた。

 

「前回は済まなかったな」

 

「いえ、しかたがない事です。それに忍お嬢様があなたを信頼すると言われました………私はそれに従うだけです。

ですが!どうか忍お嬢様の信頼は裏切らないでください」

 

「ああ…」

 

 広大な庭を抜け屋敷に入る。

 前回はあまり気にしなかったが、豪華なシャンデリアが吊された吹き抜けのエントランスは、この家の財力を誇示していた。

隅々まで掃除されているらしく塵一つない。

 イタチはエントランス見回しながらふと考えた。

 

「どうされました?」

 

 何か気になることでもあったのだろうか?イタチの視線に気づいたノエルはイタチに問いかける。

 

「いや、前回来たときも思ったが、俺が来るたびに使用人に暇を出しているのか?これだけ広い屋敷なら在中の使用人がかなりの数は必要だろう。

それとも外部のサービスと契約しているのか?この屋敷は大きさの割に人の気配が少な過ぎると思ってな」

 

「月村家のプライベートの問題です。お話することは出来ません」

 

「そうだな」

 

「なぜそうお考えに?」

 

「単に疑問に思っただけだ。前回来たときあまりにも人の気配がしなかったからな」

 

「そうですか」

 

 こうは言ってはいるが、この屋敷に使用人いや人といっていいのかわからないが、その役割を持つ物が二人しかいないことをイタチはすでに知っている。

 カラスを使い調査したが、庭仕事でさえ外部の人間を雇った形跡がなかった。

 

(やはり変だな。なぜ、これだけの資産があるのに戦力があの程度なんだ。金でいくらでも依頼することが可能だろう。

信頼しているもの以外手元に置きたくないか、何か理由があるかだが……)

 

 イタチが思考を巡らせてると、上から聞きなれた声が聞こえた。

 

「あっシスイさん。こんばんは」

 

 見上げるとエントランスから延びる階段の上にすずかが立っていた。

 すずかはイタチに挨拶をしながら階段を降りてくる。

 

「もう時間も遅い。明日の学校に遅刻するぞ」

 

「このくらいぜんぜん平気です」

 

「はぁ~~すずかお嬢様。この前寝坊しかけた事をお忘れですか?」

 

「う~~余計なことは言わないでよ。ノエル」

 

 ノエルに痛いところを突かれたのか、膨れながら言うすずかに、イタチは会合の翌日の学校で受業中にアリサがすずかを必死に起こしている姿を思い出した。

 

「前回はすまなかったな。怖がらせてしまった」

 

「あのくらい大丈夫です。慣れてますから」

 

「そうなのか?」

 

 ノエルの方をイタチが向くとノエルが気まずそうな顔をしていた。

本当のようだ。

 あのようなことが日常的にあるとすれば、やはり警備を見直した方がいいと思うのだが。

 

「あの、シスイさんから預かってるあの子を。そろそろ返そうと思うのですけど」

 

「ああ……そう言えばそうだったな…ん?」

 

 何かに気づいたのか、すずかが降りてきた階段の先を見上げた。

 

「どうされました?」

 

 イタチの視線の先を同じく見たげたノエルに、悲鳴の様な声が聞こえてきた。

 

「まって、まってくださ~~い」

 

 なにやら少女の悲しそうな声が聞こえる。どうやらノエルは正体がわかったのか顔を顰めた。

すると、上階から見覚えのあるカラスが飛び出した。そして、すずかと同年代くらいのメイドが必死に追いかけている。

 

「ファリン!!」

 

 あのメイドの名前なのだろう、ノエルは叫びつつ頭を抱えた。

 カラスはファリンの声を無視し、急降下するとすずかの肩に優しく留まった。

そして、首を左右に振るとのんきに毛繕いを始める。

 

「すずかちゃん。は~~は~~ごめんなさい!その子がまた籠から抜け出しちゃってて」

 

「ファリン!それより気を付けなさい!」

 

 明らかにふらついて階段を降りてくるファリンにノエルは叫ぶ。

 

「これくらい、は~大丈夫です~~」

 

 ファリンは忠告を聞きつつも、は~は~と息を上げながら危なげに階段を降りてくる。

大丈夫じゃないだろう!全員はこれから起こることが何となく想像が出来た。

 

「「あっ!」」

 

そして、案の定足を踏み外した。

 

「へ?」

 

「「ファリン!」」

 

 ファリンの目に映る景色はまるでスローモーションのように流れていく。

 

(あ、私またやっちゃった……あ~~またねいさまに怒られる)

 

 ファリンは静かに目を瞑った。

自身が特異なことをしっているせいか、意外と頭は冷静だった。

 

(あれ?おかしいな)

 

 いつまでも痛みが来ないことに疑問を浮かべる。それになんだか不思議な感触がする。

ファリンは静かに目を開けると、知らない顔が表れた。

 

「やれやれ」

 

「……?……どちら様ですか?」

 

 ファリンの眼前には見覚えのない顔が表れた。黒髪と黒目の青年。それにものすごく呆れた顔をしている。

最初は恭也かと考えたがよく見れば違う。

 そういえば、今日これからお客様が来るのだと言うこと思い出したところで、横から叫び声が聞こえた。

 

「ファリン!あなたって子はいつもいつも……」

 

 ノエルの怒りに満ちた声で、ようやく自分の置かれている状況を理解した。

ファリンはいつの間にかエントランスで、イタチにお姫様だっこされていた。

 

「あっ…ご、ごめんなさ~~い」

 

「ファリン大丈夫」

 

 イタチの腕から下ろされるとすすがの心配そうな顔が見えた。

 すずかの肩に留まったカラスは、明らかに顔を背け自分は関係ないという感じだ。

 

「気を付けろ、その年でこの高さから落ちたら怪我ではすまないぞ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ごめんさないではないでしょう。ファリン!」

 

 ファリンをしかりつけながらも、ノエルは考えていた。

 

(明らかに人間が出せる速度超えている。御神流に似たような技がありますがあの技以上です。

やはり彼は底が見えない。いくら忍お嬢様言われたことですが、私は彼を信頼することは出来かねます)

 

 そんな事を考えているノエルを尻目に、イタチは別のことを考えていた。

 

(この少女も人形か、見たところ外部に操縦者もいない。この世界の技術には驚かされるな。

サソリおまえがこれを見たらどう思うのだろうな)

 

 サソリ……暁のメンバーで自身が完全な人形になることを願った人形遣い。

 

 身体の一部以外を人形へと変えた男。

 

 イタチはあまり話すことはなかった男だった。

 

「まったく…」

 

 イタチは昔を懐かしみつつも、すずかの肩に留まった元凶へと視線を向けた。

視線に気づいたカラスはぷいっと横を向いた。

 

「はぁ~~最近この子。勝手に籠からぬけだすんです、おかげで大変です」

 

 ぷんすか怒るファリンに目もくれず、カラスは毛繕いを続けている。

 

「迷惑をかけているな。今日には連れて行く」

 

「いえ、確かにファリンに対してはいたずらをするんですけど、私たちの言うことはちゃんと聞いてくれるし。

ウチの猫たちとも仲がいいみたいで、子猫の面倒も見てくれますし。そんな悪い子じゃないです」

 

 いいところもあるとすずかのフォローが入ると、カラスはあからさまに胸を張った。

なかなか感情表現が豊かだ。イタチもこのカラスがここまでの物だとは思わなかった。それでも迷惑を掛けていることには変わりない。

 

「そうか……まあいろいろと迷惑をかけたな。ほら、帰るぞ」

 

 イタチの声にまたもカラスは、ぷいっと首を振った。

イタチは苦笑しつつ、

 

(おかしいな?なぜ、血の契約を結んだ口寄せ動物がなぜ俺の命令を聞かない?世界が違うために、契約に何かのイレギュラーが出ているのか?)

 

 何度呼ぼうとも言うことを聞かないカラスにすずかが提案を出した。

 

「あの!シスイさん、もしよければなんですけど。この子、私がこのまま預かってもいいでしょうか?」

 

「え~~すずかちゃん本気!こんなやつ」

 

 すずか提案にファリンは驚愕の声を上げる。カラスの方は、よほど嬉しかったのか羽をバサバサと動かしている。

しかし、ファリンと目が合った瞬間カラスはプイッと首を振った。

 

「な!こいつ!」

 

「ファリン!」

 

 馬鹿にされて怒り心頭なファリンをノエルがなだめる。

 カラスの仲に明確にファリンは下だと序列が出来ているようだ。

 

「いや…しかしな……」

 

「大丈夫です!ちゃんと面倒は見ますから!」

 

 肩に乗ったカラスはすずかの頬に頭を擦りつけている。

イタチが視線を向けると、またもや首を振った 。イタチは左手を顔にあてため息をつく。

 

「すまないがもう少しこいつ頼む」

 

 もともとは口寄せ動物だ最悪どうにでもなる、イタチはとりあえず問題を頭の隅に追いやった。

 

「はい!あ、そういえばこの子名前はあるんですか?」

 

「いや、特につけてはいない。よければ付けてやってもいい」

 

「私が付けても良いんですか?」

 

 きらきらした瞳ですずかはイタチの顔を見つめた。

 

「俺が付けるより、君が名付けた方がよさそうだからな」

 

 イタチがカラスを見れば首を縦に振っていた。本当に感情表現が豊かなやつだ。

 

「じゃあ、良い名前をつけてあげるね」

 

 すずかがそうカラスに言うと、よほどうれしかったのかかぁ~と一声鳴いて羽をばたつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後で名前を教えますと言ったすずかと、恨めしそうにカラスを見つめるファリンと別れ案内された部屋に入ると忍が待っていた。

 そこは応接間の様で、中央に大きなテーブルと左右にソファーのみが置かれているだけだった。

夜のためか窓は厚手のカーテンで締め切られ、壁に絵画等も掛かってあらず、無地の壁紙のみがのぞかせている。

 テーブルの上にはイタチが指定した武具、クナイ、手裏剣が並んでいた。ざっと100はあるだろうか。

その前に忍が立っている。

 

「こんな時間に悪いわね。指定どうりそろえたわよ」

 

「ああ………それより隠れていないで出てきたらどうだ」

 

 イタチの叫ぶと壁の一部が回転する。そして、道着に身を包んだ恭也と美由希が表れた。

二人とも怪訝な表情をしている。まあ、わからなくもない。前回あんな事があったのだ。

 

「この屋敷はカラクリ屋敷か?それよりもおまえ達、もう少し気配を消すすべを身につけた方がいい。丸わかりだ」

 

「く、言わせておけば」

 

 いきなりのイタチの指摘に、恭也は苦虫をかみ殺した表情をした。

 

「まあまあ、恭ちゃん。落ち着いて、試したわたし達も悪いんだからさ」

 

 怒りに震える恭也を美由希が、頭をたたきながら宥める。

 

「そうよ。恭也。今更喧嘩してもしょうがないでしょ。それよりどうかしら。あなたのために作られた特注品よ!」

 

 忍が自慢げに言い放った道具に目を向ける。

 イタチはテーブルに並べられた武具からクナイを手に取ると、重さを確かめ刃先を見る。

険しい瞳で品質を確かめるイタチに忍は唾を飲み込んだ。

 

「いい物だ。このレベルの物はそうやすやすみつからなかっただろう?」

 

 クナイをテーブルに戻し忍に素直な感想を述べた。

こちらで見かけた物は工芸品の域をでず、実用に耐えうる物ではななかった。

 

「ふぅ。よかったわ。今時こういう物をちゃんと武器として作れる人はなかなかいないからね」

 

 安堵の表情を浮かべる忍を尻目に、イタチはある物に気がついた。

 

「ん?これは」

 

 イタチは置かれた刀を手に取った。

見たところ刀と脇差しの中間程度の長さで、日本刀独特の反りは少なく直刀になっている。

 俗に言う「忍刀」だった。

 

「あ~~それ。リストにはなかったんだけど。あなたってリストを見る限り忍者って感じでしょう。

忍者ならやっぱり忍刀!って思ってね!恭也の小太刀もうまく扱っていたし~~絶対様になると思うわ!いいえ、なんと言おうと絶対使って貰うわよ!」

 

 忍は目を輝かせてイタチに詰め寄った。

突然の変貌にイタチは高町兄姉に振り向く。

 

「おい、こいつはいつもはこんな感じなのか?」

 

「ああ……」

 

「まぁ、こんな感じかなぁ~」

 

 二人は困った顔をしつつも肯定した。

 

「ゴホン、忍お嬢様」

 

「あっごめんなさい。私ったらもう。いつもの癖で」

 

「あまり刀は使わないんだがな。あって困るものではないからなありがたく貰っておく」

 

「そういえば自己紹介あのときしなかったわね。あの目つきが悪い方が高町恭也で眼鏡の方が高町美由希よ。この忍刀も恭也達が使う小太刀も同じ人物が制作しているわ。

今時、実践用の刀剣をまじめに制作している人なんてほんの一握りだからね。制作者は自然と同じ人物になってしまうわね。

あと、制作者が驚いていたわよ。刀で刀をこれほど滑らかに切るなんてって」

 

 忍の熱弁を聞き流しつつイタチは忍刀を引き抜き刀身見つめる。

微かにチャクラを流すと、刃全体に染み渡っていく。

 

(これはチャクラ刀か。この世界もチャクラ使える者がいるのか?それとも偶然の産物か)

 

 チャクラ刀とはチャクラ流し込んで切れ味を上げる事の出来る刀のことだ。

そんな事を考えつつ刀身を仕舞う。

 

「気に入ってもらえたかしら?」

 

「ああ。問題はない」

 

「よかったわ」

 

「それで、これだけではないのだろう。依頼の話を聞こうか」

 

 イタチは横目で忍を見ると、忍は口元をつりはげて言った。

 

「ええ、じゃあ場所を移しましょうか。はいはい恭也怖い顔しないで向こうに行くわよ」

 

「おい、忍!誰が怖い顔だって引きずるな~!」

 

 恭也は忍に引きずられながら部屋を後にした。

その後ろ姿を苦笑しながら追うノエルと美由希を見つつ、イタチはなんだか先が追いやられると思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内された部屋はまるで秘密基地のようだった。

 大画面の液晶モニターがいくつも壁に掛けられ、街中の監視カメラの映像が映されていた。

なるほど、これで全ての街の様子を伺えしれるようだ。

 また、それを制御するための物なのか、明らかに家庭用ではないまるで大型冷蔵庫のようなスーパーコンピューターがいくつも置かれていた。

忍はモニターの前に立つと話し始める。

 

「どうやら、すずかを誘拐した連中の残党がこの町にまだ隠れているみたいなの。今回、みんなにはそいつらをを捕まえてほしいの」

 

「潜伏先は此方になります」

 

 ノエルは壁のモニターに場所を表示した。場所は山奥の別荘の様だった。

 この街は、山には温泉が沸くため観光用の温泉街がある。

この別荘も観光業に付随する目的で建てられた物だろう。

 

「この情報はどこから。前回の誘拐犯か?」

 

「誘拐犯は結局何も話さなかった。いいえ、それよりも何も知らなかったという感じかしら。

その後、街中の人間を一から詮索したの。結果、この別荘を借りている人間に不審な点が出たのよ」

 

 夜の一族には記憶を操作する術があるの知っていたが、今のまでの忍の言ったことに疑問を感じた。

 

「情報は確かなのか?」

 

「ええ。間違いないわ。念には念を入れて調べた結果、私たちの一族の一派がいるらしいのよ」

 

 自信満々に言い放つ忍に、イタチはあごに手をあて考える。やはりおかしい。

その様子が気になったのか美由希が声をかけた。

 

「あの~シスイさん?どうしたんですか?何か気になることでも?」

 

「いや。あれから10日以上経っている。誘拐が失敗した以上、この場から撤退するのが普通じゃないかと考えてな」

 

「確かに。そうですね」

 

「ええ。私たちもそう思ったんだけど、もしかしたら裏をかいてもう一度誘拐のチャンスを狙っているのかもしれないわ。

どちらにしろ、彼らをこのままこの街に置いておくことは出来ない以上、早急になんとかしてほしいのよ」

 

「その前に、おまえ達の一族について詳しく聞きたいのだがな」

 

 疑問を感じることはあるが、もしかしたら自分も知らない一族の特性があるのかもしれない。

それが、何か鍵になるのではと辺りをつける。

 

「それは向かう途中で話すわ。時は一刻を争うわ。急がないと逃げられるかもしれない」

 

(何かあるな)

 

「わかった忍」

 

 恭也は忍に何も疑問を思っていないのか、特に何も追求はない。

 

「では、いつもどうり私が車を出します」

 

 ノエルが立ち上がる。

どうやら、このまま話が進んでしまいそうだ。

 

「おい!おまえ。行くぞ」

 

「恭ちゃん。シスイさんだよ」

 

 強い口調で外に向かう恭也を、美由希はたしなめつつ後う。

イタチはやはり何か引っかかるのか、恭也の呼びかけに答えずモニターを見つめながら考えている。

 

「俺一人で行く」

 

「何?」

 

 突然イタチは呟いた。その答えに恭也が足を止め、怪訝そうにイタチに振り返った。

 

「俺一人で行くといったんだ。聞こえなかったか。はっきり言っておまえ達では足手まといだ」

 

「何!」

 

 恭也はイタチに詰め寄ると胸ぐらを掴んだ。

 

「ちょっと恭也!」

 

「恭ちゃん!」

 

 胸ぐらをつかまれながらイタチは冷静に話を続ける。

 瞳は紅くなっていた。

 

「短気的だな。おまえ達の実力は前回に見せて貰った。あの程度の状況に態様も出来ないようでは、不足の自体には態様できないだろう」

 

「俺は今まで何人も奴らと戦っている!」

 

 怒りを含んだ叫び上げる恭也を無視しつつも話は続く。

 

「たまたまおまえより実力が劣っていたに過ぎないのだろう。それに今回はフォーマンセルのチーム行動だ。

今まで4人でのチーム行動をしたことがあるのか?連携はわかっているのか?俺の実力をしっかりと理解しているのか?」

 

 美由希とノエルに視線を向けるが、二人とも視線を逸らした。

 

「おまえ達は俺に不満を持っている。実力的に俺がこのチームの先頭行くことになる。おまえは俺の指示に従えるのか?

チームでの任務はチームワークが物をいう。一つの間違いがチーム全体を危険にさらす。下手をすれば誰かが死ぬことになる」

 

「くっ!」

 

 痛いところを突かれたのか、恭也はイタチから乱暴に手を離すと扉へ向かって歩き出した。

そして、ドアノブに手をかけ立ち止まった。

 

「ついてこい!俺の実力を見せてやる!」

 

「ちょっと!恭也!そんな時間は!」

 

 忍は恭也に叫ぶが、

 

「忍。鍛錬所を借りるぞ」

 

 恭也は勢いよくドアを開けこの屋敷にあるのだろう、鍛錬所へと向かっていった。

忍とノエルもその後すぐにを追って行った。

 去りゆく恭也に、ふとイタチは懐かしさを感じた。そういえば弟ともこんなことがあったなと。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや。少し…な」

 

「すいません。恭ちゃんが。でも、シスイさん。あなたも失礼だよ。今は言い争っている時じゃないのに」

 

「………」

 

 窘める様に言う美由希の顔を覗きこむイタチに美由希は不思議そうな顔をした。

 

「いや。これでいい」

 

 そう言うとイタチは恭也の後を追った。

その表情は何かに気づいた様な微かな変化があった。

 

「ん?」

 

 美由希はよくわからなかったが、眼鏡の位置を直しみんなの後を追った。

 



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