真・女神転生 D.D.D. -Digital Devil Desire- (J.D.(旧名:年老いた青年))
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おまけ・設定など
おまけ. 悪魔召喚プログラム(仮)


 次の話を考えるまでの手慰み(特殊タグの練習)に作った物です。
 行間の空白とか色々と雑な造りで申し訳ないのですが、これから改良できたらな、とは思ってます。
 誰かこれより上手い表示の仕方など知っていたら感想などで教えて頂けたら有り難いです……


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 ____________________________________________

 RESET;_____________________________________

 ____________________________________________

     SEI _________________________________

     CLC_________________________________

     XCE_________________________________

     CLD_________________________________

 ____________________________________________

     X16_________________________________

     M8__________________________________

 ____________________________________________

     LDX #1FFFH_________________________

     TXS__________________________________

     STZ NMITIME________________________

     LDA #BLANKING_____________________

     STA INIDSP__________________________

 ____________________________________________

   'EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH'____

   'ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI'______

   'JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI'____

   'AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON'____

   'AGLA AMEN' . . . ____________________________

 ____________________________________________

 >Devil Summoning Program has Started._____

 ____________________________________________

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Chapter.1 Digital Devil Desire
Prologue. Weapon in Trojan Horse


他の小説が行き詰まったので気分転換に書きました。
希望があれば続きますし、希望がなくても多分続くかもしれません。


 

 

 

 

 

 人間の歴史は光と影の衝突——即ち、神と悪魔の戦いの歴史に他ならない。

 

 ヒトならざる超常の力を振るい、互いの欲望(Desire)の為に彼等は争い、勝者は“神”として……そして敗者は“悪魔”として扱われる。

 それに倣うようにして我々人類も人種・宗教・国家・言語・思想によって対立し、勝者を支配者に……そして敗者を隷属させてきた。

 

 だが、幾ら言葉を取り繕おうと前者の者達における“ヒトならざる”本質は変わらない。

 

 

 

 ——だからこそ、『あえて、“神”も“悪魔”と呼ぶ』。

 

 

 

 ……ここに、一つの“もしも(if)”がある。

 

 メシア教もガイア教も存在せず、悪魔を絵空事の存在として世界が認識し、尚且つ各地で諸問題を抱えながらも大多数の人間にとっては平穏に2000年(ミレニアム)を乗り切った世界。

 

 一見すれば、本来の我々の世界とは大きく異なる結末を迎えるであろうこの世界に、“悪魔”による暗躍の影が差す。

 

 

 

 これは、そんな“悪魔”達と己の“欲望(Desire)”を懸けて立ち向かった青年達の物語である。

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

デジタル・デビル物語(ストーリー)

 

真・女神転生 D.D.D.

 

- Digital Devil Desire -

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 ——夢を、見た。

 

 

 多くの亡骸と瓦礫の上で、緩やかに滅びる文明の夢を見た。

 

 廃墟と化した街の中を無数の異形達が進軍していく。横たわる死体から鮮血の滴る肉と腑を貪り、息のある者を見つけては悪戯に嬲り、果てには隠れ潜んでいた者達を集めて殺し合わせ、その様を観ては嘲笑する……この世の地獄が其処には在った。

 

 だが、人間達も無力なままではなかった。

 一部の人間は身の回りの様々な道具で武装して異形達に反旗を翻し、囲んで袋叩きにする青年達や狭い路地に誘い込んで集中砲火を浴びせる軍隊、時には大きな群れに罠を仕掛けて一網打尽にするなどの活躍も見せた。

 しかし、どう足掻いても異形と人間の地力の差だけは埋まらない。当初は優勢になる事も多かった反乱は次第に対策を練られる様になり、人類は一度拡大した勢力圏を次々と放棄せざるを得なかった。

 

 日に日に増え続ける死傷者、目に見えて枯渇する物資、些細な原因から殺人にまで発展する生存者間の衝突。そんな絶望的な状況下に、腕に小型のコンピュータらしき機械を着けた一人の青年が現れる。

 プロテクターを纏い、剣や火器で武装したその青年は機械から異形を喚び出すとそのまま人々を襲う異形の群れへと立ち向かって行く。

 

 時には仲間の異形と協力して武力で撃破し、時には機械を通じたコミュニケーションで退散ないし協力を取り付ける。

 

 人々は、人のままでありながら異形と並び立ち向かうその姿に英雄を見る。

 

 

 ——遠い、遠い世界が見せた夢であった。

 

 

 

 

 

《center》◇  ◆  ◇  ◆  ◇《/center》

 

 

 

 

 

 『ここも遅かった様だな……早速で悪いがヴァハグン、“マハ・ラギ”を頼む』

 『ああ、任せろ契約者』

 その言葉と共に路地の暗がりで焔が爆ぜる。焔の中で踊る黒いシルエットと共に辺りへ蛋白質と脂肪の焼ける独特の異臭が立ち込めていき……そして灰の山だけが残った。

 

 『遂にここまで来てしまったか……』

 

 

 

 ——首都・東京。

 LEDとネオンで照らし出された深夜の歓楽街をコート姿の男が歩いていく。

 

 『——駄目だ。場当たり的な対処じゃどうやっても限界がある』

 男の外見は四十を過ぎた頃の長身痩躯な中年であり、まだ残暑残る晩夏にも関わらず煤けたコートを着込む異様な風体であった。周囲もその姿を不気味に思っているのか、男の進路に入るまいと雑踏の波が割れていく。

 

 『このままでは首都が……いや、下手をすれば国家が丸ごと異界に呑み込まれかねない。そうなると知れば、米国は迷いなくカードを切るだろう』

 周囲から向けられる好奇の視線など意に介す様子もなく男は独り言ちる。その足取りは重く、暗雲立ち込めるその展望は彼の瞳の色をひどく濁らせた。

 

 『——一か八か、このプログラムに賭けるしかない……のか』

 男が視線を向ける自身のコートの裏、そこにはホルスターに収められた状態で鈍く輝くコンピュータがある。勿論彼が注目するのはコンピュータ本体ではなくその中にインストールされたあるプログラム(・・・・・・・)なのだが。

 これはある種の劇薬だ。現状を打破する最大の特効薬にして、現状を回避不可能なまでに悪化させる最恐の劇毒なのだと男は考えている。だが迷っている暇などない……決断すべき刻は、既に目前へと迫っていた。

 

 男は近くのネットカフェの一室を借りると急いで事前に用意していたプログラム入りのダミーアプリを“トロイの木馬”に仕込み、逆探知対策に海外サーバーを20箇所以上経由してからネットワークの海に放流する。

 本来であればこのプログラムは贈る相手をしっかりと調査した上で直接配るべきモノなのだが、一々説明する時間さえ惜しい程の状況下で採り得る苦肉の策故に仕方がない。こうやって無差別にバラ撒きでもしなければ、こんな怪しげなアプリなど誰も説明なしには活用してくれる訳がないのだから。

 

 

 

 

 

 木馬の中に眠るのは“悪魔召喚プログラム”。文字通り、“悪魔”と呼ばれる異形を召喚して従える為のツールだ。

 このプログラムはこれからの世界、脅威に対するアドバンテージを得る為には必要不可欠な武器だ。だがそれは同時に、悪しき心の下で振るわれれば人類に仇成す凶器にもなる事を意味する。

 

 

 

 ……どうか、これを得た者が正しき心を持っている事を祈る。

 

 

 

 

 

 その呟きと共に夜の闇へと消えていった男の行方は、誰も知らない。

 

 

 

 

 



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≫001 Fake Dream, No Desire.(1)

 

 

 

 

 

 ——東京都内・私立鵬聖(ほうしょう)大学。

 

 日本(この国)においては珍しく、都市一極化とは無縁の如き首都にありながら比較的平凡な成績の学生が多く在籍するこの学び舎において。

 

 「……忠野君。何故、君の進路調査票には何も書かれていないのかね?」

 「あ、いえ、そのぉ……」

 

 俺こと忠野 護仁(ただの・もりひと)は、人生の岐路に立たされていた。

 

 

 

 受験戦争の荒波から解放されて一転して華の大学生活(キャンパスライフ)と浮かれていたはいいものの、襲い来るのは課題・課題・課題の嵐。

 生来の怠け癖が受験の反動からか遺憾なく発揮されてしまったお蔭で、成績はスカイダイビングよろしく急降下。瞬く間に俺の人生設計(そんなモノはない様なモノだが)に大きな狂いを齎す事となった。

 そこからは下手の一念、といった具合に勉学へと励み、三年生となって漸く人並みの成績へと改善するに至るのだが……ここで一つ問題が発生する。

 

 

 自分の中に、これといった進路に対する希望がないのだ。

 

 

 思えば大学に進学したのも周囲に望まれてそれに流される形であったし、進路などというのは大学生活の中で自然に見つかるだろうという根拠のない楽観があったのも事実だ。

 そんな事だから今この様に窮地に立たされている訳なのだが……まあ、ないモノはないのだしこうなったら何時もの様に適当に躱すしかないか。

 

 

 「——いやまぁ。自分もこう見えて色々考えてるんですよ、えぇ」

 語り出しと言えばこれだろう。会話にワンクッションを挟む事で弁明を考える時間を稼ぎつつ、相手に否定的な言葉を告げさせない様にする。

 見た感じ担当官は歳を食ってて、顔付きから予想するに結構陰湿なタイプかも。なら兎に角こっちからぐいぐいと押してみよう。

 「ほう? では、どうして……」

 「ど、どうして記入していないかと申しますと……色々と——そう、色々と選択肢が多くて提出期限の内に選べなかったからなんです」

 そのまま頭で考えて比較的無難に取れる言葉を選択していく。相手の話にインターセプトを掛けながら話す事で会話に積極的な姿勢をアピールしつつ、面倒な(他人の話を聞かない)奴だという印象を植え付ける事で話を短くする事を試みる。前回の対応者はこれですんなりと諦め、早めに切り上げてくれたのだが——。

 「……なら、その選択肢にどういったモノがあるのか教えなさい。貴方ももう三年生なのですから、この辺りで絞り込みを行わないと困るのは貴方ですよ?」

 

 うぐっ。

 

 流石と言うべきか、向こうも伊達で就活相談などという苦労の多いだろう業務をやってない。どうやら俺の浅はかな考えで口を衝いた言葉は墓穴を掘った様で、向こうには”悩み多き就活生”として認識されたらしい。

 

 ここで『実は何にも考えてませんでした、テヘペロ♪』などと宣えればどんなに気が楽だろうか。

 暗黒面からの誘惑は実に魅力的だ……だけど実際にやったら多分本気で殴られるんじゃないかな、グーで。

 

 「……ええ、まずは——」

 胃が痛むのを感じながら、頭の中で適当な就職先についてピックアップを始める。だが俺でも判る様な大企業ばかりをピックアップしてしまった事で相手の本気に火を点ける結果になってしまったのは割愛しよう。

 

 

 

 

 

 「はぁぁぁ……」

 相談室から一歩踏み出した瞬間、喉から凄まじい勢いで溜息が噴き出す。

 今回の担当官の爺さんは見た目とは裏腹に仕事に情熱を持っているタイプだった様で、結局一時間くらい拘束された。人と接することが苦手な俺からすると、至近距離で顔を見られながら嫌な話ばかり続ける時間は苦痛でしかないのだが……

 

 

 ……それでも相手がいい顔をされると、こっちも嫌な顔をできなくなってしまうこの性格はつくづく自分に損をさせるんだなと思う。

 「……悩んでても仕方ないよな」

 

 何はともあれ嵐は過ぎたんだ、まずはそれを喜ぼう。

 就活の日々によるストレスと今回の疲れでどこかおかしくなっていたのだろう。心が浮き足立つのを抑え切れずスキップなんて大学生にあるまじきアホな事をしながら、俺はまだ残っていた道中の学生や教師達から訝しげな視線と共に見送られていた。

 

 

 そして大学の門から一歩抜け出た時。

 「ッ……?」

 

 

 ピーンと高音の弦を爪弾いた様な、肌の粟立つ感覚が背筋を走った。

 

 

 身体をブルリと震わせながら何か嫌な予定でも忘れているのかと記憶の中を探してみたものの、特に思い当たる節もないので寒さのせいかと考えた俺はこれ以上気に留める事もなくそのまま家への帰路に着く。

 

 故に当然、気付く事などなかった。自分のスマホに、とあるアプリケーションがダウンロードされていた事など。

 

 ましてやそのアプリが、自分の運命さえも決定付けてしまうなど尚更だった。

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 翌昼、学内はちょっとした騒ぎになっていた。なんでも学内のコンピュータ端末や一部学生の携帯機器に削除不可能なアプリケーションが勝手にダウンロードされていたらしい。事務課の職員達があっちへこっちへ慌ただしく移動しているのを横目に眺めながら教室に入れば、こちらでは学生達も噂話に盛り上がっていた。

 

 

<鵬聖大学 4F 403教室>  

 

 

 「あっ、忠野!ちょっとこっち来い!」

 奥の方の席で駄弁っている集団の中の一人の手招きに呼ばれて行く。

 「どうした?」

 「いやさ、表で騒ぎになってたアプリあんだろ?“D.D.D.”……アレさ、ココどころか都内全域で同じアプリがバラ撒かれてるらしーじゃん」

 彼のスマホの画面にはSNSのニュース欄が表示されていて、そこには“都内各地で『謎のアプリ』ダウンロード、新手のテロか”という記事が大々的に載せられていた。

 「は?」

 「官公庁は兎も角、有名どころの大企業も東京に会社持ってる所は軒並みやられてるってさ」

 

 何だ、そりゃ。

 

 日本の官公庁のセキュリティがお粗末なのは兎も角、東京に本社支社を持っている中には海外資本で凄腕ホワイトハッカー付きの所もある。それが、軒並み?

 

 「とんでもないな」

 

 「だろ?でさ……ウチの大学でも結構な割合で、スマホとかノーパソにやられたヤツも居てよ。今ウチらが持ち回りで確認取ってるんだ。お前はどう?」

 そう言いながら手招きでスマホの確認を催促され、俺はコートから自分のスマホを取り出して電源を入れる。

 「ちょっと待ってろ……あークソ、俺もやられてる」

 そのホーム画面には“D.D.D.”のアイコンと共に件のアプリがしっかりとダウンロードされていた——昨日の嫌な予感はこれの事だったか。回避のしようもないとはいえ、予め予兆を感じていてこれだと少し気分が滅入るな。

 

 

 「了解……これで学生の方は今の所、4分の1がやられてる事になるな。おお、クワバラクワバラ」

 集計係が茶化す様にそう呟くのを聞いて駄弁っていた他の面子がその頭を平手で打つ。どうやら、一人だけ騒ぎに巻き込まれていないのが気に食わなかった様であっという間に被害者の面々に揉みくちゃにされていく。

 

 

 

 ……兎も角、朝方故に人の集まり切らない大学内においては全体集計ではないので何とも言い難いのだが、学生全体の4分の1ともなるとおよそ1,000人程がこのアプリの被害に遭っている計算になる。

 

 

 ——大学も上級生達が就職活動で忙しい中にこの事件では随分と苦慮するだろうな。

 

 

 まあ、俺は事件に関して思う所はないし……精々この混乱で就活の準備期間が少しでも延びてはくれまいかなどと考えてしまったりもするのであった。

 

 

 

 

 



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≫002 Fake Dream, No Desire.(2)

 

 

 

 

 

 例のダウンロード事件から一週間が経った。

 

 

 

 大学側は依然としてこのアプリの解析に難航し、遂に情報処理科の教授やコンピ技研(コンピュータ技術研究会)をはじめとした学生の力も借り始める始末。

 

 専門業者を雇えば良いのではないのか、などといった声も挙がった。しかし、都内各地で似た様な事件が相次いでいた為に殆どのコンピュータ業者は官公庁や大企業を優先した結果……たかが無名の一私立校に回す人手がないのが現状だった。

 

 

<鵬聖大学 2F 学生食堂>  

 

 

 「やあ。ここ、いいかい?」

 学生食堂のカウンター席にてラーメン相手に孤独なグルメを気取っていた俺の、隣に現れた一人の影。見遣れば175cmはありそうなスタイルの良い優男……コンピ技研会長・朱島 実中(あけじま・さねあつ)先輩の姿があった。

 「朱島先輩ですか……どうぞ、座る人間もいないんで」

 噂をすれば影が差すとは言うが、まさか当の学生側の指揮を執っている本人が現れるとは思っても見なかった。彼は失礼と一声掛けて椅子に座ると小脇に抱えていた年代物のネットブックをカウンターに開き、反対側の手に提げていたレジ袋からコンビニおにぎりを頬張りながら作業を始めた。

 

 「例のアプリですか」

 「まあね。誰がやったかは分からないけど、就職活動が終わった身からすれば社会人になるまでのいい暇潰しにはなるよ」

 皮肉にしか聞こえないそんな軽口を叩きながら、彼の影のある紅顔はコンピュータのモニターから全く動かない。

 ダカダカと音を立てながらキーボード上に指を走らせ、白黒のモニターに現れる幾つもの文章が下から上へ流れていく。

 

 「このプログラムが面白いのはね、プロテクトの堅牢さに対して明らかに異常と思えるくらい保護領域が少ない所なんだよ。それこそ、ブラックボックス化された一部を除いてほぼ全てのデータを弄る事が出来るくらいに」

 「それは、有害アプリとしての機能をそこだけに集約しているからでは?」

 俺の回答に先輩は笑う……それは微笑みというより苦笑に近く、どうやらこの答えは彼の持ち合わせる答えと違うらしい。

 

 「それもそうだね……だけど、わざわざダミーデータと本命部分の扱いをあからさまに分けているのはどう説明しようか」

 「……破ってみせろという、挑戦状?」

 更なる質問に対する俺の答えに彼は頷く。

 「犯人が営利犯であれ愉快犯であれ、多分その推測は間違っていない……では、何故犯人はこのアプリを破らせようと思う?」

 

 

 単純に、ハッカーをスカウトする為?企業と官公庁の中にまで無差別に手を伸ばして、敵に回す様な組織に好んで入りたがる奴なんているのか?よくありそうな大義や理想なんかを持っている手合の仕業とは考え難いし、無秩序な混乱を招くだけでは人が集まらないだろうに。

 

 

 それとも喧伝が目的?いやいや、有り得ない。ならプロテクトを掛けるよりも視覚効果に訴えた方が効果的だし、電光掲示板やもっと大きな情報媒体をハッキングすればチマチマと個人攻撃するよりも圧倒的にメディア映えする筈だ。

 

 

 ……まさかとは思うが、やっぱり実は本当にウイルスか何かを仕込んでいるキャリアー?いや、それこそ先輩の言うようにプログラムそのものを表に出すメリットがない……プロテクトだって自分から破らなければ問題ないのに、それに時間稼ぎにしても目に付く位置に置かない方がよっぽど効率的だ。

 

 

 「……判りません」

 「だろうね。それで教授もボランティアも攻めあぐねててさ(下手に弄って吹っ飛んだら嫌だし)……まあ学内PCには動作感知用のプログラムを仕込んでるから、何か動いたら通知が届く様にはしてある。安心してくれ」

 それじゃ、と言い残すと彼はそのままコンピュータを抱えて食堂を後にして行った。

 

 

 この分だと事件の解決にはまだかなり掛かる……というより、下手をすれば四年次にまで響くかも知れないな。

 準備期間が延びるのは一向に構わないが、それで就活自体に悪影響が及ぶのは勘弁して欲しい。来年度の新卒と一緒に就活してね、とか圧倒的不利を押し付けてくれるなよ。

 

 

 

 ——目の前のラーメンは先輩との会話に集中し過ぎたお陰で完全に伸び切ってしまっていて、俺はゼリーみたいな食感の膨れた麺を啜る羽目になった。これも全部、事件が悪いとだけ言っておこう。

 

 

<鵬聖大学 8F 大講堂>  

 

 

 「——で、あるからして。ここの構文はこうなる……ココとココとココ、それとココを書き直して再提出だ、君」

 「うぅ、はい……」

 「次!学籍番号XXXX番——」

 

 

 午後の授業は、非常に不愉快な気分の中で進行している。

 

 

昼飯の伸びた麺が腹に重くのし掛かり、壇上に立つ教授は出した課題の内容に事細かくケチを付ける(それが仕事なのは分かっているし、期末テストに向けて見直しやすいのは有り難いのだが)タイプだったからさあ大変。胃腸が瞬く間に荒れていく光景を幻視するくらいに心身へストレスが加わるのを感じるぞ。

 

 

 「はあ……」

 腹の中でぐるぐると渦巻く負の感情と共に肺の中に溜まった息を吐くと、俺は教授から見えない様に辞書や鞄を盾にしながら少しでも現実を遠ざけるべくスマホを弄り始めた。

 そしてその画面に映る“D.D.D.”のアイコンに指を添えて、止まる。

 

 ——突然で悪いが、“カリギュラ効果”という言葉をご存知だろうか。

 嘗てアメリカで公開禁止となった事により却って有名となった米伊合作映画のタイトルから名付けられた言葉なのだが、簡潔に言えばこれは「禁止された行為に対して、反抗する様にそれを実行したいと思ってしまう心理状態」の事を指す。

 

 

 

 ——これを起動したら、どうなるだろう。

 

 

 

 

BEEP! BEEP!

 

 

 

 「げっ!?」

 「誰だ、私の講義中に機械など弄っている奴は!」

 マナーモードにも関わらず響き渡る警告音に慌ててスマホを覆い隠そうとしたが、時既に遅し。教授の怒号と共に周囲の視線が自分へと突き刺さる。

 

 

 『Caution! Caution!……

 

  不活性状態ノ“生体マグネタイト”ガ検知出来マセン……

 

  アカウントNo.ヲ確認……No.0-007108-20・確認完了

 

  該当アカウントニ“MAG・Wallet”ヲ発行……完了

 

  ……アプリケーションヲ強制終了シマス』

 

 

 アプリが突然、今時アニメでも聞かない様な片言の機械音声で訳の分からない事をベラベラ喋り出したかと思うと、これまた突然にスマホの電源を落とされた。

 

 スマホを壊されたとパニックになった俺はあの手この手で回復を試みたが、元より人並み程度にしか機械に詳しくない知識では碌な対処など望める筈もない。

 

 「——そこの君、講義中の携帯機器操作は禁止していた筈だ。学部学科と学籍番号を言いなさい」

 「は、はい……」

 そして目の前には講義を妨害した犯人(じぶん)を憎々しげに睨み付ける眉を吊り上げた教授の顔。最早言い逃れが出来る状況ではない俺は、渋々指示に従う事にした。

 

 

 

 ——畜生。昼飯の件といいスマホといいコレといい、今日はとことんツイてない。

 

 

 前回は相手の話に耳を傾け過ぎなければ避けられた事だし、今回の二つは完全に自業自得なのだが今の俺にはそんな事は関係ない。

 ただ解消されないストレスの上に更に大きなストレスを抱えた自分が腹立たしくて仕方がなかった。

 

 

 

 そんな最悪の精神状態で心が自己中心的な邪悪さに染まりつつある中、再び俺にあの弦を弾く様な予兆(・・)が訪れる。

 

 いつもは手遅れの状態から背筋を震わせるだけの、対して役に立たない直感擬きが今回は何を知らせるつもりだ。

 

 

 俺のそんな疑問に、回答は拙速を以て応えられた。

 

 

 

 ——ォォォォォォッ……!!

 

 

 

 「(何だ……こりゃ……!?)」

 最初の異変は、奇妙な耳鳴りから始まった。

 

 喩えるならば、阿鼻叫喚——苦悶や悲鳴の集合体に近い……聴く者の精神を直接に嬲り、冒し、揺さぶるが如き魔笛の音色。

 「痛ぅ……っ」「耳が……!」

 他の学生達にもこれは聞こえている様で、ある者は顔を盛大に顰めながらも講義への集中に努め、ある者は耳を塞ぎ机面に顔を伏せる事で耐え、ある者は音の出処を探ろうと辺りを見回す。

 だがそんな策を講じた所で音を防ぐ事も消す事も出来ず、それどころか次第に耳鳴りはより高く強く響いていく。

 

 

 「(頭が、割れる……!)」

 異変はそれだけに留まらない。

 

 「うわ、わあっ……!?」「地震だ、かなりデカいぞ!」「助けて、ぐえぇっ!」「ぜ、全員、速やかに机の下へっ!」

 耳鳴りに続いて起きたのは、大講堂全体を揺らす様な地震だった。それも普通の地震の様に波長の長い揺れではない、言うなればミキサーの中に放り込まれた食材よろしく俺を含む内部の人間は、その身体を盛大にシェイクされた。

 

 

 一瞬の油断から手に込めた力が緩んだ隙に、固定机の脚から冷や汗に湿る指先がぬるりと滑り抜ける。慌てて振り回した腕も抵抗虚しく空を切り、机の下からその身を落とす。

 

 

 宙に放り出される自分の身体。

 

 無力にも抗えず空中を揺蕩う、血塗れの顔を晒す学生の姿。

 

 先程までの自分と同じ様に、机の脚部へと必死にしがみ付く者達。

 

 そして、眼前に迫って来るリノリウムの床面。

 

 

 ——ああ、これは……大事故に遭う寸前で周りがスローモーになるとかいう、アレだ。

 無限にも感じられる一瞬に、俺の脳は周囲の異常な惨状を悟る。地震で天地が引っ繰り返る、なんて表現する事はあるかもしれないが……まさか文字通り天地が引っ繰り返ってしまう(・・・・・・・・・・・・・)なんて誰が思い付くだろうか。

 

 ……物語のキャラクターなんかであればこの一瞬に素晴らしいアイデアを閃いて、この窮地を切り抜けられただろうが。生憎と俺はただの一般人で、この僅かな機会さえ活かす事など出来なかった。

 

 無情にも時間は再び動き始め、猛烈な勢いで床に叩き付けられた俺の後頭部に痛烈な一撃が疾る。

 

 

 「あ、がッ……!!」

 

 

 ——最初に感じたのは、痛みと言うより、熱だった。

 じわりと湿り気を帯びた熱が患部に集中する。それと同時に瞬く間に全身を倦怠感が覆い尽くし、呼吸困難による苦しさや全身を強打した痛みに身体を捩るどころか指先さえまともに動かせない。

 

 視界と共に、思考が滲む。脳裏に浮かぶ言葉が意味を成さない文字の羅列へと変わっていく。

 ——自我が死んでいくのは、きっとこういう状態の事を言うのだろう。

 その感覚に俺は恐怖を覚えた。自分という存在が消えていく、意志を持つ生命として受け入れる事の出来ない、しかしそれから逃れられない現象に俺は無駄と知りながら必死に言葉を紡ごうとする事で抗う。

 

 

 

 

 

 ——俺は、死ぬのか?

 

 

 

 

 

 死にたくない一心で紡いだ、その言葉を最後に……俺の意識はプツリと途切れた。

 

 

 

 

 



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≫003 Fake Dream, No Desire.(3)

 メガテニストさん達、そしてメガテニストではない方々もこんにちわ。今回もご愛読ありがとうございます。
 アンケートにはちゃんと目を通してくれましたでしょうか?


 選択肢だけだと分かり難いという方もいらっしゃると思いましたので、今回の後書きに各選択肢の例を挙げておきます。



 では、本編をお楽しみ下さい……


 

 

 

 

 

 「っあ……けほ、げほっごほっ!」

 

 ……次に意識を取り戻した時、薄暗くなった講堂に居るのは俺だけだった。

 

 

 

 いや、よく生きてたな俺。

 

 死にはしなくても手足の骨折・麻痺くらいは覚悟するレベルの落ち方だったのに、身体自体は何とも……あぁ。頭に特大のコブは出来てるな、メチャクチャ痛い。

 

 

 ——それにしても、一体何が起こった?

 

 

 改めて講堂を見渡すと、床や壁には生々しい血痕や砕けた蛍光灯、散乱するノートやら上着やら鞄やらが残されており、あのイカれた出来事が夢でない事を伝える。

 しかし、俺の様な負傷者や……その、死体とか……がないのが、とても気に掛かった。

 もう、救助の手が入ったのだろうか。

 なら、何で俺は病院にでも運ばれていない?

 

 俺が気絶している間に、まるで大学が廃校になった様な静けさもそうだ。とても人が居るとは思えない。

 

 

 ——人、そうだヒトだ!窓の外はどうだろう。あれだけの地震(?)が起こったんだ、避難した人が外に出ている筈だろう!

 

 

 俺は急いで窓に飛び付いた。

 普段ならビルの立ち並ぶ街並みを一望出来る景色が待っている筈のそこには、しかし現在は全体を磨り硝子にでも入れ替えた様に白い靄に霞んだ景色しか見る事は叶わなかった。

 眼でダメなら次は音だ。続いて窓を開けようと鍵を外したが、固定されているのか押しても引いても動かない。仕方なく硝子に耳を当てて探ってみるも……返ってくるのは無音だけだった。

 

 『……お掛けになった電話をお呼び出し致しましたが、お繋ぎ出来ませんでした』

 頼みの綱のスマホは何事もなく起動こそしたものの、家族どころか警察・消防にも一切繋がらない。

 

 

 ……大丈夫、きっと下の階に誰か居る筈だ。

 

 

 痛みと肌寒さと孤独感に震える身体を摩り、立ち上がる。

 兎にも角にも、ここから出てみるしか調べる方法はない。俺は床に落ちていた自分のジャケットを着込むと、スマホのライトを点けて光の差し込まない校内を降り始めた。

 

 

<鵬聖大学 7F? 図書館前>  

 

 

 「誰か……誰か居ないのか!おぉーい!」

 

 

 一体この建物はどうなっちまったんだ!

 

 ウチの学校は何処の階段も一階まで直通で繋がっていたのに、七階から下が初めから存在しなかったみたいに塞がってやがる。

 お陰で別の階段を探すハメになったし実際まだ探しているが、彷徨っているこの七階もフロア全体がメチャクチャだ。

 

 だいたい、今俺の目の前にあるこの図書館は元々三階にあった筈だろう!慌てて来た道を戻っても大講堂はそのままだったのに……それに、図書館の上へ続く様に繋がった吹き抜け階段は、確か五階の就活支援センター前にあった物とそっくり同じ——まるで初めからこうなっていた様に……継ぎ目も壁の塗装も違和感一つない事が、逆に不気味さを煽った。

 

 

 「外に出れば、外に出れば判る筈だ……」

 

 

 

<鵬聖大学 5F? 中央廊下>  

 

 

 目覚めてから一時間ほど経っただろうか。

 

 あれから二フロアを降りてみて分かった事は、この場所はとんでもなく居心地が悪いという個人的意見だけだった。

 標高の高い山みたいに空気は薄いし、厚手のジャケットを着込んでる状態でも身体が震えてくるし、窓から入ってくる光が上階よりも弱くて灯りで照らしてる所以外は全くと言って差し支えないほど視界が通らない。

 おまけにいつもの大学と部屋や通路の配置が異なるから、気を抜くとすぐに現在地が分からなくなってしまう。

 スマホだってバッテリーが潤沢にある訳じゃない。このままライトを使い続けていればその内真っ暗闇の中を延々と彷徨う事になるかもしれないと思うと、背筋がゾッとする。

 

 「俺は大丈夫、俺は大丈夫、俺は大丈夫……」

 自分で自分を慰めるのは虚しい気もするが、この暗闇の中ではこうして喋ってでもいないと不安でどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 

 

 

   ◇  ◆  ◇  ◆  ◇   

 

 

 

 

 

 ……や……、来な…………

 

 

 「!誰か居るのか!」

 暫く階段を探して五階のあちこちを探し回っていた時、遠くから僅かに聞こえて来たのは人の声。

 地獄に仏とはまさにこの事だろうと俺は先ほどとは打って変わって軽い足取りで声の主の下へと走り出した。

 

 

 ……早……、こっ……だ!……

 

 ……待っ……嫌、置い……いで!……

 

 ……死…なら一…で……でくれ!……

 

 ……ふざ……な!……野郎、ここ……けろ!……

 

 

 ……しかし、声の主——いや、声の主達の下へと近づいて行くにつれてだんだんとその言葉の端々に不穏な空気が漂い始める。

 何故言い争ってるんだ?それにバタバタと、走り回っている様な足音……暗くて危ないのに、何でわざわざ……?

 

 

 

 「ひっ、ひいいぃやああぁっ!!」

 「待って、待ってよユウヤぁっ!」

 

 十メートルは離れているだろう廊下の先で男女の二人組が横から飛び出して来るのを見て、俺は咄嗟に近くにあった背の高い観葉植物の陰へ飛び込んだ。

 

 尋常ならざる怯えを見せた彼ら……その原因はすぐ後ろから追って来ている者達だった。

 

 

 「7・〆、_9-!」

 「$0#_-!」

 「+$4"、+$4"!」

 見た目としては、欠食児童達の全身に墨を塗って額に角を生やしたらそっくりだと言えば判りやすいだろうか。

 浅黒い肌に暗闇でも爛々と光る赤い眼、ぼこりと膨れた腹に針金の様な細い手足、おまけに腰蓑姿の怪物集団ときた。そりゃ俺だって逃げ出すわ……

 

 

 

 だがこの時、俺は気付いていなかった。彼らの怯え様は、その見た目からにしても明らかに異常であった事に。

 

 

 「『="=』!」

 「ぎっ、あっ!お、俺の腕、でで、で……!」

 「なっ……!」

 俺は、生まれて初めて自分の目を疑った。

 あのよく分からない小人の集団が変な礫を飛ばしたかと思うと、それを受けた男の腕をまるで魔法みたいにポンと氷漬けにしてしまったのだ。

 腕を押さえて暴れる男。女は床にへたり込んで目の前の光景を否定しようとただ頭を振るばかり。そして、その様を見て三匹の怪物は嗤う。

 

 「ひっ!」

 「いいい、嫌だ、止め……あが、おごっ」

 そして怯え竦む女の目の前で、再び礫の集中砲火を食らった男の身体をあっという間に氷が覆い尽くし、そして出来上がった氷像が床に倒れると……先程まで息をしていたその身体は、呆気なく砕け散った。

 

 

 「いや、嫌……やだ、止めて、嫌……!」

 「_☆*_"-°|?」

 「$♪+¥7*・.*"_、6"22」

 「+$!+$!」

 怪物達は残された女学生を取り囲むと、何語かも分からない言葉で囃し立てる。

 

 まるでネズミを甚振る猫の様な光景に、俺は隠れてみることしか出来なかった。出て行けばそれこそあそこでバラバラになって転がっている男の二の舞になるしかないからだ。

 

 

 

 「「「☆44"¥7-°!!」」」

 

 「嫌、嫌っ、止めっ離してっ、誰か……誰か、助けてええ゛ああ゛あ゛ぁっ!!」

 

 

 

 そして大合唱と共に、無数に集る怪物達が目の前の女学生をグチャグチャに引き裂いた。

 

 遠目には駄々を捏ねる子供のぐるぐるパンチにも劣る様な動きで、それを受けた人間が瞬く間に大量の血と挽肉のミート・パティへと変わっていく。目の前で人間二人が命を落とした光景に俺は今にもおかしくなりそうな頭を必死に抱えながら息を潜める事しか出来ない。

 怪物達はその間にもバラバラにした二人の周りでべちゃべちゃがりごりと音を立てている。考えたくはないが——奴ら、人間を食っている……!

 

 

 

 何だあの化け物は……何なんだよ、この状況は!

 

 

 

 巨大地震で気絶して、目が覚めたら化け物だらけで迷路になった大学から脱出だ!?巫山戯んな、どこの三文小説の世界だっつの!

 

 

 俺は嫌だ……氷漬けにされるのも、バラバラにされて喰われるのも嫌だ!

 死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない!

 

 「5@4"!?」

 「(ヒッ!?)」

 食事中だった怪物の内の一体が突然声を上げて頭を持ち上げる。俺は慌てて頭を引っ込めて、鉢植えから体がはみ出さない様に縮こまった。

 

 「_"♪%4?」

 「7$"÷4☆__+_☆4"」

 「+$!149%☆+$4"!」

 「(頼む頼む頼む、気付くな気付くな気付くな気付くな……!)」

 その縋る様な祈りとは逆に、怪物達は食事を止めると一斉に俺の方へ向かって駆け出してきた!

 

 

 

 「……畜生、これでも食らえ!」

 駄目だ、もう逃げられない——そう判断した俺は、身を隠していた観葉植物の鉢植えを怪物目掛けて蹴り出した。

 それ自体は重さのせいか思ったよりも床の上を滑っていく事こそなかったが、怪物達は突如目の前にデカデカと飛び込んで来た置き物に面食らって大きく体勢を崩してくれた。

 

 

 

 その隙を見逃す事なく転げ回っている怪物達にも、幾らか欠けてしまった二人分の死体にも目もくれず……縺れそうな脚に鞭打つと床を蹴って走り出す。

 俺は生き残るぞ!絶対に死んでたまるか!化け物がなんだ、迷路がなんだ、意地でもここから脱出してやる!

 

 

 

 

 




 こちらがアンケート各項目の例文です、参考程度にどうぞ。



①次回予告

 複雑怪奇な迷宮と化し無数の魑魅魍魎が跋扈する大学内を、駆け抜けるのは一人の影。

 彼の者の願いは唯一つ、生き延びる事。

 この世界で嘗て最も手近に在りながら今や手の届かぬ代物となったそれを追い求め、男は手を伸ばし抗う術を掴む。

 たとえその先に待ち受けるのが、己の望みを彼方へと遠ざけてしまう修羅の道であろうと。


 次回
Run Devil Summoner, Run the Program.



※この予告は事前の説明なく変更となる場合もございます、ご了承下さい



◇  ◆  ◇  ◆  ◇



②登場人物紹介
[忠野 護仁]ただの・もりひと
所属:鵬聖大学 経営学部3年生
身長:168cm 体重:64kg
好きなもの:娯楽全般
嫌いなもの:退屈、義務感
 本作の主人公。
 今までの人生を事なかれ主義によって様々な困難から逃げ続けた結果、特定の何かに対する情熱や将来への明確な展望がイマイチ欠けてしまった青年。
 そんな自分へ焦りを覚える程度に常識はあるが、生来の怠け癖が強い為に追い詰められないと仕事が出来ない駄目人間。一方、追い詰められた時には予想以上の爆発力を秘めている……かもしれない、とは本人談。


◇  ◆  ◇  ◆  ◇



③登場悪魔のアナライズ図鑑
----------------------------------------
Lv4 幽鬼 ガキ
<ステータス>
HP:33 SP:19
力6 知5 魔3 耐6 速4 運3
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
????????????????
<性格・口調>愚鈍・??
<忠誠タイプ>???型
<習得スキル>
[引っ掻き]……敵単体に技属性のダメージ(小)
[ブフ]……敵単体に氷結属性のダメージ(小)
----------------------------------------


◇  ◆  ◇  ◆  ◇



④主人公パーティのステータス

Day.1 05:26 p.m.

?/? MOON 

0ħ 0(+295)MAG  

Party Member:1/6

----------------------------------------
Lv1 人間 モリヒト
HP:25/25 SP:17/17
力5 知6 魔4 耐5 速6 運4
物理攻撃:5  銃弾攻撃:6  物理防御:8
魔法攻撃:14 魔法防御:13
 命中 :19  回避 :23
 会心 :2.5%
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
---弱弱耐------耐耐--
<アライメント>
 Law or Chaos:11/50
 Good or Dark:-20/50
  中庸にして悪 (Neutral - Dark)
<装備>
 武器:なし
 銃:なし
 弾:なし
 頭:なし
 胴:フライトジャケット(物防+3 氷耐性・火弱点)
 足:スニーカー(回避+4)
 装飾:なし
<習得スキル>
 なし
----------------------------------------
D-COMP Stock:0/5

 Activated Program:None
----------------------------------------
1.No Data
2.No Data
3.No Data
4.No Data
5.No Data
----------------------------------------


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≫004 Run Devil Summoner, Run the Program.(1)


 今回、悪魔召喚プログラムのシーンが挿入されています。
 開始はページ表示から4分後に設定しておりますが個人の読書スピードに差異がある関係上、表示が早い・遅いなどの不満があるかもしれませんがご了承下さい。


※12/13 一部設定に基づき表現・能力を修正
※1/1 アナライズ図鑑の表記を修正


 

 

 

 

<鵬聖大学 3F? 学生窓口前ホール>  

 

 

 「ぜっ、はあ、ぜえ、はあ……っ!」

 怪物に追われて追われて追われまくって、満身創痍になりながらも……遂に外と繋がる場所へ辿り着く。

 

 

 道中は壮絶な戦いの連続だった。

 ドブの匂いを纏ったヘドロがへばり付いて窒息させようとしてきたり、小さな壺に入ったグレイそっくりの怪物は電撃を辺りに巻き散らし、頭の膨れている黒い小鳥は口から瘴気を噴いた。かと思えば妖精のような奴はカマイタチを飛ばしてくるし、青白い空飛ぶマスコット人形に衝撃波を叩きつけられたりもした……そうそう、あの黒小人の怪物達にも散々追いかけ回された。

 

 

 そのお陰で指先や耳は黒小人が飛ばしてくる礫の冷気で真っ赤に染まり、着ていたジャケットは外側の生地が小鳥の吐いた瘴気で崩れてボロボロ、無茶な回避や受け身で身体のあちこちには痣と擦り傷だらけだったが……それでも薄氷を踏む様な道のりの上で、何とか命だけは助かっている。

 

 

 

 この学生窓口前には、同じ階にある図書館を利用する一般の来館者の為があった……いや、今も正しく同じ場所へ繋がっているかは分からないが、それでも外に通じる場所に出られたのは幸運だ——最悪の場合、そこから飛び降りてでもこの建物から出たいと思う程に、地獄を見てきた。

 

 硝子扉の先に見える靄の向こうの光が眩しい。そんな当たり前のことにさえ喜びを見出した俺は満面の笑顔で自動ドアを抉じ開けようとした——しかし、その扉が動く事はなかった。

 「?お、おい、どうした?」

 

 片側のドアに手を当てて渾身の力を込めながら引く、引く、更に引く。引いて駄目ならと内側へと向けて蹴り込んでみたりもした、だが扉は枠へ張り付いた様に微動だにしない。

 段々と心に焦りが入る。命辛々ここまで降りて来たんだ、こんな場所で死ぬなんて嫌だ……そう半狂乱になりながら近くのパイプ椅子を硝子に何度も叩き付けるが、そこにはヒビ一つ入らない。

 

 

 「クソックソッ!嘘だろ、そんな!開け!開けよッ!」

 何度も何度も叩き付けて、息も上がり、それでも自動ドアが無傷のまま沈黙する様を見て……俺は遂に嗚咽しながら床へへたり込んでしまう。

 

 

 頭の中が意味のない疑問と絶望で溢れ出す。

 

 目の前に“外”が見えるのにそこへ繋がる扉が、まるで何かの力が働いているとしか思えない様に閉ざされている……それどころか、薄いガラス製の扉があれだけの衝撃に晒されてヒビ一つ入らない光景に脳が現実の認識を拒んだ。

 そして一度安心しきってしまった心も、もうこれ以上命を危険に晒す事を選べる状態ではなくなってしまった。

 

 「嫌だ、俺は諦めねぇ……絶対諦めるもんか……!」

 一縷の望みを懸けて、ボロボロになったズボンのポケットからスマホを取り出す。

 此処まで灯りとしてしか使って来なかったそれは今やバッテリーの殆どを使い果たしており、再び点灯すればあと十分もしない内にその役目も終えることになる。

 

 震える指先でパスワードを打ち込んでロックを解除し、ホーム画面を開いた所で緊急通報を押せば良かったと思い直すが今回は時間が惜しい。急いで電話の緊急通報欄から[警察 110]のボタンを押し、些細な音も聞き逃すまいとスピーカーに耳を押し当てた。

 

 『prrrr……はい、こちら練馬警察署で「助けて下さい!今変な奴らに襲われてるんです!」——ちょっ、ちょっと落ち着いて!落ち着いてゆっくりと話して下さい!何ですって?』

 漸く繋がった電話に言葉が逸り、向こう側から諌められる。俺は高鳴りを抑えながら慎重に話し出した。大学に閉じ込められている事、学生が何人も殺されている事……そして、人を食う怪物がいる事。

 

 『……分かりました。では、其方に警察官を送ります。どうか気を強く持っていて下さい』

 何処まで本気にしてくれたかは判らない。だが、警察ならどうにかしてくれるかもしれないという根拠のない希望に縋るくらいに俺の心身はボロボロだった。

 ふとバッテリー残量を見れば、残りは既に5%を下回っている——俺は、間一髪で賭けに勝ったんだ……!

 

 

 

BEEEEEEP!

 

 『Danger! Danger!

  悪魔ガ多数接近中!

  至急、交戦ニ備エヨ!』

 

 「ぎゃあっ!!」

 

 

 

 胸に抱えていたスマホから突如爆音の様なアラート音と機械音声が流れ、思わず握っているそれを放り出してしまう。

 床を滑っていくスマホ。そしてその先から——怪物の群れが現れた。

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 妖精 ジャックランタン が 1体

 妖精 ジャックフロスト が 1体

 外道 スライム     が 5体 出た!

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 『ヒホ?ニンゲンがこんな所で何してるホー?』

 「ば、化け物が喋った!?」

 もう駄目だと思い観念しかけた時、突如怪物側から話しかけられて——実際には床に落ちたスマホを通した音声であり、怪物自体は訳の分からない言葉を喋っているのだが——驚きのあまり本音がポロリと溢れ出る。

 

 『ムムッ、化け物だなんて失礼ホ!オイラには“ジャックフロスト”って名前があるんだホ!』

 俺のそんな発言に気を悪くしたのかズズイ、と壁際に追い詰められた俺に更に詰め寄ってくるジャックフロストと名乗った雪だるまの怪物。

 

 

 

 「——ひいっ!止めろ、俺に近付くな!」

 可能性の話ではあるが、ここで謝るなりすればすんなり許してくれたかもしれない。しかし怪物達に殺され、食われた者達を見てきた俺は恐怖から咄嗟に腕を振るってその怪物を遠ざけてしまった。

 俺の邪険な態度に相手はみるみる目の色を変える。

 

 何かヤバいモノが来る!

 

 襲って来る悪寒に慌てて追い詰められていた自動ドアの前から横へ飛び退く。

 

 

 『ヒホ!?まるで悪魔をバイキンみたいに……失礼過ぎて腹が立つホ!そんな失礼なニンゲンにはおしおきだホー!”マハ・ブフ”!』

 その言葉と共にホールで吹き荒れる雹の嵐……残念ながら俺の脚では、その脅威から逃れる事は出来なかった。

 

 

 「ぎ、ゃああ、ああぁっ!!」

 礫の命中した肩や脚から、身体が、どんどん凍っていく!

 生きたまま凍らされていく痛みと恐怖に堪らず悲鳴を上げて、俺は床に倒れて転げ回った。既に身体の三割近くを氷が覆い、自分の身体に食い込んだ氷が流れる血と共に凄まじい勢いで体温を奪っていく。

 

 『そこでスライム達のエサになるがいいホ!ヒホホホホー!』

 「あ゛ああ゛あっ、ぐうぅぁっ、ぃぎぎぎぃっ……!」

 痛みと寒さでそれどころではないと言うのに雪だるま野郎はテーブルの上で短い足をぶらぶらさせながら嘲笑う。カボチャ頭は俺の事など気にしていないとふわふわ浮かびながら雪だるまと談笑し始め、その足下からはあの人食いヘドロが這いずって来ている。

 

 速さこそないものの、俺の身体は満身創痍を通り越して最早瀕死に近い。

 出来る限り距離を離そうと捥いて這うが、凍りついた手足は枷の様に俺の動きを阻害する。

 『う、うぉれの、えものおぉぉぉ』

 『ま、ま、まぐねたいとおおぉぉ』

 「お前らも喋るのかよ……って、マグネ、タイト……?」

 ヘドロの怪物が発した、何処かで見聞きした覚えのある単語。

 

 

 

 ——不活性状態ノ“生体マグネタイト”ガ検知デキマセン……——

 

 

 

 ……まさか、あのアプリ!学校中にばら撒かれた“D.D.D.”、あのアプリとこの事態に何か関係があるのか!?

 

 普段だったらこんな突飛な考えは浮かぶまい。しかし低体温症でまともな判断の出来ない俺の脳はその奇跡のようなアイデアに対して疑問も持たず自分のスマホを血眼になって探させた。

 

 果たしてそれは、自分の倒れている場所から十数歩先……ヘドロの怪物達の向こうに放り出されていた。

 

 

 「クソッ……!」

 氷は未だに侵蝕を続けていて既に右肩のものはその下の腕全体にまで及んでいる。だが片手しか使えなくても、スマホのホームボタンに指さえ届けば後はボイスコマンドであのアプリを開ける。半分以上氷で覆われた身体を引き摺り、床を這いながら転がっていったスマホに向かった。

 しかしそうしている間にも周囲からヘドロの怪物達が集まって来て、俺に次々とのし掛かる。

 

 

 「ぐ、ぁあああ゛っ」

 生命力が無理矢理吸い出される猛烈な嫌悪感に身体が拒否反応を起こす……畜生、コイツら俺のエネルギーを吸っていやがる!

 

 ヘドロの重さと吸われるエネルギーで這っていくスピードがみるみると鈍る。だがいつもの様に諦める訳にはいかない。

 

 

 

 俺はまだ死にたくない……

 

 

  ……いや、違う……

 

 

   ……俺は、生きる……

 

 

    ……生きるんだ!

 

 

 そして永遠にも思える時間を耐え抜き、漸く凍傷寸前の指先がホームボタンに触れた。ピポン、というボイスコマンドの受付が開始された音を聞いて、俺は震える喉で精一杯に声を張り上げた。

 「“D.D.D.”を、起動、してくれ……!」

 『了解しました。“D.D.D.”アプリケーションを起動します……』

 それから流暢なスマホの音声案内から一転、あのアプリで聞いたノイズ塗れの無機質な音声案内へと切り替わる。

 

 

 『USERノ状況を確認シマシタ……緊急措置トシテ“生体マグネタイト”ノ抽出ヲ開始……完了。

  コレヨリ、“悪魔召喚プログラム”ヲ実行シマス……』

 

 

 悪魔、召喚……?

 遠退きそうな意識を振り絞り、その言葉の意味を考えようとして——。

 

 

 

 

 

--------------------

 ____________________________________________

 RESET;_____________________________________

 ____________________________________________

     SEI _________________________________

     CLC_________________________________

     XCE_________________________________

     CLD_________________________________

 ____________________________________________

     X16_________________________________

     M8__________________________________

 ____________________________________________

     LDX #1FFFH_________________________

     TXS__________________________________

     STZ NMITIME________________________

     LDA #BLANKING_____________________

     STA INIDSP__________________________

 ____________________________________________

   'EL ELOHIM ELOHO ELOHIM SEBAOTH'____

   'ELION EIECH ADIER EIECH ADONAI'______

   'JAH SADAI TETRAGRAMMATON SADAI'____

   'AGIOS O THEOS ISCHIROS ATHANATON'____

   'AGLA AMEN' . . . ____________________________

 ____________________________________________

 >Devil Summoning Program has Started._____

 >Calling WILD BEAST - HELL HOUND. ___

 ____________________________________________

--------------------

 

 

 

 

 

 ——スマホの中から、炎が迸った。

 

 その炎は余波で俺の凍りついた身体を溶かすと同時に俺の周りに集まっていたヘドロの塊みたいな奴と凍らせた下手人の雪だるまみたいな奴へ直撃、あっという間に霧散させてしまう。

 

 『アオーン!オレサマ マジュウ ヘルハウンド!トテモ ツヨイ アクマ!』

 「悪、魔……?」

 未だ混乱する思考の中で状況を理解できかねていた俺の前へ爆ける火の粉と共に現れたのは……暗闇の如き漆黒の毛並みを持ちながらその耳まで裂けた口には紅蓮の炎を湛えた、まさに“悪魔”と形容すべき大型の犬だった。

 

 

 『よくもフロストを!これでも食らえホー!』

 「ッ、危ない!」

 奥にいたカボチャ頭が手に持つランタンから炎を飛ばすのを見て慌てて警告するも、大型犬は俺を背後に庇ったまま動かない。

 

 『ガァ! オレサマ 炎 キカナイ サイキョー!』

 しかし着弾したヘルハウンドは屁でもない様子で炎を振り払うと一瞬でカボチャ頭に肉薄、その喉元に食らいつき一撃で破壊した。

 

 クルリとこちらへ顔を向ける犬……いや、コイツも名乗りを信じるなら……“魔獣 ヘルハウンド”。

 一瞬“次は自分の番か”などと不穏な考えが頭をよぎったが、牙を剥くでもなくチャカチャカと床を鳴らしながらヘルハウンドは俺の傍まで寄って来て、一言。

 

 

 『ガァァ!サマナー!オマエ ヨワイ!』

 

 何だとこの野郎。

 

 

 まさかの罵倒である。思わず先程までの醜態を棚に上げて掴みかかりそうになったが……言動はどうあれ、あの化け物共を倒したのはこの魔犬だ。下手に喧嘩を買えばさっきの炎か牙で返り討ちに遭うのは目に見えていたので買い言葉は心中に留めておく。

 

 『オレサマ オマエ マモッテヤル!オマエ マグネタイト ヨコセ!』

 ヘルハウンドが前脚で示すスマホの画面には“ヘルハウンドは100 MAGを要求している 提供しますか?Y/N”というポップアップ表示。俺が恐る恐るYESを選択すると、身体から何かが抜け出ていく感覚。まさかMAGって生命力的な奴だったのか!?

 『コンゴトモヨロシク……アオォォーン!』

 「あ、ああっ!ちょっと、待ってくれ!オイ!」

 遠吠えを上げると止める間も無くスマホの中?へ帰っていくヘルハウンド。

 「ぐぅぅぅ……」

 あぁ、クソ。身体から最後の活力が抜けてしまったお陰でもう冗談抜きに動く事も出来やしない。

 

 

 

 

 

 このまま、ここで寝たら……死んじまう……でも、俺……もう……

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 「……こりゃ驚いた。化け物が出た時もどうしようかと思ったが、まさか“化け物を操る奴”に出逢っちまうとはな」

 倒れ伏す忠野の下に訪れた、一人の影。

 それは無造作に彼の脚を掴むと、引き摺りながら元来た道へと引き返していった……

 

 

 

 

 




 アンケートは12/11(水) 13:00現在、③の得票数が最も多いので今回はアナライズ図鑑に決定しました。
 なお、誠に勝手ながらこのアンケートの最終決定は第十話投稿直前までとします。
----------------------------------------
Lv1 外道 スライム
<ステータス>
力4 知1 魔2 耐5 速3 運3
HP:29 SP:16 CP:1/30m
物理攻撃:11 物理防御:15
魔法攻撃:3  魔法防御:5
 命中 :24  回避 :18
 会心 :1.875%
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
耐耐-耐弱弱弱弱弱---弱耐--
<性格・口調>愚鈍・マッド
<忠誠タイプ>レベル差型
<習得スキル>
[体当たり]……敵単体に打撃属性のダメージ(小)
[吸血]……敵単体に万能属性のダメージ(小)+HP吸収
----------------------------------------
Lv5 妖獣 ヘルハウンド(仲魔)
<ステータス>
力6 知3 魔4 耐6 速6 運5
HP:33 SP:22 CP:25/30m
物理攻撃:18 物理防御:18
魔法攻撃:6  魔法防御:7
 命中 :43  回避 :37
 会心 :3.125%
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
--耐-耐----弱--弱耐--
<性格・口調>獰猛・ケモノ
<忠誠タイプ>レベル差型
<習得スキル>
[噛み付き]……敵単体に技属性のダメージ(小)
[アギ]……敵単体に火炎属性のダメージ(小)
[マハ・ラギ]……敵全体に火炎属性のダメージ(小)
----------------------------------------
Lv8 妖精 ジャックフロスト
<ステータス>
力6 知5 魔7 耐6 速7 運8
HP:33 SP:31 CP:64/30m
物理攻撃:19 物理防御:18
魔法攻撃:10 魔法防御:10
 命中 :61  回避 :52
 会心 :5%
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
--弱-弱吸--弱耐------
<性格・口調>陽気・ヒーホー
<忠誠タイプ>物欲型
<習得スキル>
[ブフ]……敵単体に氷結属性のダメージ(小)
[マハ・ブフ]……敵全体に氷結属性のダメージ(小)
----------------------------------------
Lv10 妖精 ジャックランタン
<ステータス>
力6 知7 魔9 耐6 速8 運8
HP:33 SP:37 CP:100/30m
物理攻撃:19  物理防御:18
魔法攻撃:13  魔法防御:12
 命中 :64   回避 :61
 会心 :5%
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
--弱-吸弱--耐弱------
<性格・口調>陽気・ヒーホー
<忠誠タイプ>物欲型
<習得スキル>
[アギラオ]……敵単体に火炎属性のダメージ(中)
[ミラクルパンチ]……敵単体に打撃属性のダメージ(極小〜大)
----------------------------------------


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≫005 Run Devil Summoner, Run the Program.(2)

 

 

 

 

 

<鵬聖大学 1F 守衛室>  

 

 

 「——よォ、目が覚めたか」

 

 

 ……今日はまさしく厄日だ。

 昼飯の麺は伸びるし、教授に吊し上げ食らうし、挙げ句の果てに怪物と殺し合いまでさせられて、よく分からん狼みたいな奴にも目を付けられて気絶して、そんで野郎の顔がドアップの最低な寝覚めと来た。

 

 「クソ、痛ぇ……」

 身体を起こせば全身から悲鳴が上がって口から悪態が飛び出る。どうやら寝かせられていたベッドは随分とマットレスが薄かったらしく、俺が呻きながら背骨を鳴らす光景に目の前の男が失笑する。

 

 「……何だよ」

 「あぁ、いや。こうして見ると、とてもあの化け物共を返り討ちにした奴とは思えなくてな」

 そう言って笑いを抑える男を改めて見る。

 ソイツはオールバックに纏めた黒髪とパーカーにカーゴパンツ姿、身長は俺よりも低い癖に顔はやや老け気味で無精髭を拵えた……何というか、かなり濃い印象の人物だった。

 

 

 「俺は法学科の四年、黒沢 巽(くろさわ・たつみ)だ。よろしくな」

 「……経営学科、三年。忠野、護仁……」

 手を差し伸べられたので遠慮なく掴ませてもらい立ち上がると、着いて来なと言われてその後に続く。

 

 

 「おぅい、奴さんが目覚めたぜ」

 部屋を跨ぐと、そこは壁一面にモニターと機械設備が並ぶ狭い部屋——恐らく守衛室であり、先ほど寝ていたのは併設された仮眠室だったかと理解した。

 

 

 部屋に居たのは、俺を連れた黒沢含めて四人。

 「いやぁ、随分と大変だったね……無事にいられただけでもよかった、よかった」

 最初に俺は声を掛けたのは、モニターの前に座っている六十は過ぎた老教授。確か名前は……出間(いずま)、だったか。

 

 「……フン」

 もう一人はレザージャケットにジーンズの全身黒尽くめな茶髪の女。名前は思い出せないが人相は覚えており、確か不良として有名な人物だった筈だ。

 袖の下から伸びる、女性にしては武骨な手には血の滴るナックルダスターが嵌め込まれていて……これまで何を殴って来たのかは容易に想像が付いた。

 

 「ううう……」

 そして最後の一人は部屋の隅に体育座りで縮こまったまま、声にならない嗚咽を漏らす黒髪の少女……元より異性の名前を覚えるのは苦手だったが、顔も見えないのでは判断のしようもない。

 

 

 「黒沢……サン」

 「黒沢でいい……この階の生き残りは、これだけだ。他は上に逃げたか……死んで、喰われてる」

 黒沢の歯に衣着せぬ物言いに、黒髪少女の押し殺した嗚咽が強さを増す……彼女も、目の前で人が死ぬのを見た口か。

 生き残るのに必死だったとはいえ、改めて冷静になってみると……人の死に対する感覚が麻痺しつつある自分は、置かれている状況に心を呑まれつつあるのを自覚しなければならないのかもしれない。

 

 

 「あの化け物共は、普通の人間には到底太刀打ち出来ない——俺の見た限りじゃ、そこのゴリラ女がバカみたいに殴りまくって、ようやくチビっこいのを一匹殺せたぐらいだ。俺達が同じ事をやろうとしても返り討ちに遭ァイっ!?いいいいっ痛ぅあぁっ……!」

 「くたばれ、クソ沢」

 ゴリラ女と名指しした茶髪から説明途中で尻にボレーキックを叩き込まれ、床に沈む黒沢。

 真面目な話の最中に茶化す様な事を言うから当然と言えば当然だが、相手が相手だけに勇気があると言うか無謀と言うか……俺は黒沢という男に対して尊敬とは似て非なる感覚を覚えかけた。

 

 

 「痛たた……ま、まあ、そんな訳で、だ。俺達も他の面子を集めたいと思っても出来ないから此処で篭城するしかなかったんだが……」

 

 

 

 

 

 そこに、と彼が話を続ける。

 

 

 

 

 

 「お前みたいな、化け物を操る人間が居たのには驚かされたがね」

 「……なっ!?」

 俺が驚きのあまりに椅子から立ち上がるよりも早く脚払いで姿勢を崩され、再び着席させられると同時に両肩を強く押さえ付ける二本の腕。

 

 

 

 俺の背後で圧を掛けているその下手人は、先程黒沢の尻を蹴り飛ばした茶髪だった。

 

 

 「悪いな岩動(いするぎ)

 「黙ってろアホ沢……ほら、コイツのスマホだ」

 岩動と呼ばれた彼女が俺のポケットを(まさぐ)ってスマホを取り出すと、黒沢が放り投げられたそれを危うげなく受け取る。

 

 

 コイツら、スマホから悪魔を喚び出した事を知ってる?まさか、俺が悪魔を召喚してる所まで見てたってのか?

 

 「そのまさかだ。俺としちゃ逃げ遅れた奴を助けに行ったつもりだったんだが、化け物を喚び出したンなら話は別だ……」

 俺が座らされた正面に椅子を置き、此方を鷹の様な鋭い眼差しで見据える黒沢。その手には先端に電極の付いた警棒——スタンガンが握られていた。

 

 

 マズい、マズいマズいマズい!

 どうやら誤解されてる様だが、俺に否定出来る材料が全くないのはマズい!

 このままじゃ無実の罪を自白させられるか集団リンチにでもされかねない!

 肩に置かれている手には血塗れのナックルダスターが鈍く光る……目の前のスタンガンも怖いがこっちはもっと怖い!やっとの思いで地獄から抜け出せたのに死ぬなんて最低だ!

 

 

 黒沢の後方で背を向ける他二人はまるで、これから起きる出来事に顔を背けるかの様にその表情を見せない。

 

 

 

 「洗いざらい、吐いてもらうぜ」

 

 その言葉と共にガチガチと鳴り響く自分の咬合音が、嫌に耳奥に張り付いた。

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 「フゥン……その“悪魔召喚プログラム”とやらがその化け物、いや、『悪魔』だったか。ソイツらを呼び出したってのかい」

 「そんなオカルトで眉唾物な話……っても、今この状況こそが既にオカルト話の領分なんだがな。まぁ……参考程度にはなる、か」

 十数分後、俺は文字通り『悪魔』『マグネタイト』『D.D.D.』『悪魔召喚プログラム』に関して知っている事を洗いざらい吐いてしまった。

 死にかける目に遭ったと言っても、いやむしろその死にかけた経験があるからこそ……無駄に痛い目に遭うのは御免だというのが本音だった——

 

 

 

 「こっちはてっきり拷問でもされるかと思いましたよ……!」

 

 

 

 ——だったのだが、全てを話して用済みとなった筈の俺は、殺されもしなければ傷付けられる事もなかった。

 

 

 そう、先程の流れは全て演技だったのだ。

 

 当初は悪魔を召喚した俺をこの事態の首謀者と睨んでいた両名だったが、その悪魔に半殺しにされる様な奴が本当にこんな大それた計画を実行に移せたのかという部分で二人の間に疑問が生じた。

 そこで、俺が反抗的な場合や本当に首謀者だった場合に備えて急遽芝居を打つ事にしたのだとか。

 ビビって喋れば御の字、喋らなくても『ちょっと』痛い目に遭わせ(後遺症にならない程度に拷問す)ればその内喋り出すだろう、と。

 

 

 「ククク……冗談、この緊急時にわざわざ戦力を減らす様な真似はしないさ。それに……」

 黒い笑顔でサラリと、とても冗談に聞こえない発言をする黒沢の頭頂部に拳骨が落ちる。

 「このバカ沢が下衆な真似をしたら、アタシが叩きのめしてる」

 無論その拳を振り下ろしたは岩動——岩動 嘉美(いするぎ・よしみ)先輩(当然だがナックルダスターは外している)だ。

 しかし、フンと鼻を鳴らして拳を構える姿は——噂に聞く様な、喧嘩に慣れた不良というよりも……どちらかと言われれば正統派のスポーツ選手に近く思える。

 

 「フゥーッ……この通り、おっかない姐さんに睨まれてちゃ悪役(ヒール)も命懸けだしな」

 「は、はぁ……」

 殴られた黒沢は口元を緩めたまま懐から取り出した煙草を咥えて一服する。

 そして彼は吐き出した紫煙の輪を吐息で吹き消しつつ後頭部から指を二本立ててケラケラと戯けてみせた。

 

 

 ——それは、周囲を取り巻く理不尽に対する彼の反抗心の表れか。或いは、この狂った状況で少しでも皆に安らぎを与えようとする彼なりの気遣いだったかもしれない。

 

 

 「ふふふ、はははっ」

 黒沢の戯ける様な態度へ出間教授が思わず失笑し、そこから守衛室の中に少しずつ笑いが広がっていく。

 

 

 

 「「「ははははは……!」」」

 

 

 

 だから、少しだけ。

 

 

 この平穏な時間に浸ってしまえる事に、泣きながら俺も笑った。

 

 

 

 

 




 今回は悪魔が登場せずパーティステータスの目立った更新もないので、名前の挙がった登場人物紹介をさせて頂きます。


[黒沢 巽]くろさわ・たつみ
所属:鵬聖大学 法学部4年生
身長:165cm 体重:65kg
好きなもの:ミリタリー関連、動物全般
嫌いなもの:不誠実・横柄な人間
 気絶していた忠野を助けた人物。
 他に有力な人物が居ない為に現状では実質的な守衛室組のリーダーであり、拠点としている守衛室に生存者を集めつつ慣れないムードメーカーとしての役割も担う苦労人。
 表向きは飄々とした三枚目として振る舞っているが……?

[岩動 嘉美]いするぎ・よしみ
所属:鵬聖大学 経営学部4年生
身長:173cm 体重:68kg
好きなもの:格闘技、孤独
嫌いなもの:セクハラ
 大学内では有名な不良学生。
 守衛室組の中で唯一の武闘派であり、身に付けている総合格闘技を駆使して低レベルの悪魔であれば拳だけで殺せる程の実力を持つ。
 元々は教育学部生だったが、暴行事件を起こした結果として学部を異動することになったと噂されている。

[出間 倫夫]いずま・みちお
所属:鵬聖大学 教授
身長:161cm 体重:80kg
好きなもの:和菓子、家族
嫌いなもの:なし
 80を越える高齢でありながら教壇で元気に講義を行う体力を持つ、この大学の名物教授。
 講義の合間に交えるユーモアのセンスや分かりやすい内容解説に高い人気を持ち人生相談にも応じるなど、様々な学生から慕われている。



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≫006 Run Devil Summoner, Run the Program.(3)




 新年明けましておめでとうございます!

 今年もコンゴトモヨロシク……という事で、今回は他メンバーの召喚回です。


 ……とは言っても、大晦日中に仕上げる為に一人分だけなんだけどね。正月は地域のマラソンに出て、その後で日頃の不摂生に噎せながら炊き出しの豚汁を啜ってると思うので応援よろしくね!



※1/1 アナライズ図鑑の表記修正


 

 

 

 

 

 「君の持つ、その“悪魔召喚プログラム”。それを大学からの脱出……延いては校内に取り残された者達の救出の為に、是非とも活用させて欲しいんだ」

 

 テーブルに置かれた俺のスマホを囲んで話し合う中でそう諭す様に俺へ告げてきたのは黒沢でも岩動先輩でもなく、まさかの出間教授だった。

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 「……で、この“悪魔召喚プログラム”。アンタはこれからも使っていく気?」

 尋問紛いの歓迎会が終わり、返却されたスマホを確認していると唐突に岩動先輩が俺にそう問い掛けて来た。

 

 

 「……ええ。俺には、これしかありませんから」

 彼女の言葉の意味は分かってるつもりだ。

 これで召喚されるのは、俺達の命を脅かす“悪魔”そのもの——対抗手段として最も強力な切り札ではあるが、それと同時にいつ暴発するか判らない核爆弾の様なもの。

 

 本当にそんな物に命を賭けられるのか。彼女は、そう問いたいのだろう。

 

 だが生き延びる為に手段を選んでいられないのは、此処までの道程においてはっきりとしている。悪魔は普通、生身の人間が武器もなく対抗できる存在ではないのだ。

 

 ならいいけど、と俺の答えに興味を失った彼女は部屋の隅に蹲ったままの名も知らない少女の元へ向かう。

 

 

 

 一人手持ち無沙汰になった俺は、とりあえずスマホから“D.D.D.”を起動する事にした。これに命を懸けると決めた以上、一刻も早くその扱いについて習熟する必要がある。

 

 

 

▼  △  ▼  △  ▼  △  ▼

 

 

Digital Devil Dominator:Ver.2.08

 

08:41 p.m.

6/8 MOON 

GP:11/100

 

 CPU Usage:0.80/2.39(GHz)

 Memory Usage:0.33/2.00(GB)

----------------------------------------

 >D-COMP

  >Lv.6 妖獣 ヘルハウンド

 >Applications

  >悪魔召喚プログラム

  >エネミー・ソナー

  >MAG・ウォレット

 >System Drive

  >USB(F:)

   >None

 >Help

 >Quit

 

 

▲  △  ▲  △  ▲  △  ▲

 

 

 

 ……“D.D.D..”の画面は期待していたよりもずっと——個人制作の無料スマホゲームよりも遥かにシンプルで、余計な情報をなるべく取り入れない様な造りだった——あぁいや、その事に文句を言いたいのではなく。

 

 これじゃ……急拵えで装飾するまでの時間が足りなかったか、さもなくば、まるで機能が使えるだけで充分(・・・・・・・・・・・)と言わんばかりだ。

 少なくとも、見た目からはこれを使って楽しもうなんて感想は絶対に出て来ない。

 

 

 

 ——コレをバラ撒いた犯人は、どちら側だ?

 

 あの“悪魔”達はコレを介して出現したのか、“悪魔”達に対抗する為にコレが生まれたのか。

 先に産まれたのが鶏だろうが卵だろうが、そんな事はこの機器的状況の前にはどうでもいいのは分かっている。だが考えずにはいられない……俺がコレを使う事で、どちらか一方の側に転ぶ可能性があるのかもしれないと。

 

 

 僅かに迷って、少しでも情報を得ようと思った俺は>Helpの欄をタップした。

 

 切り替わる画面——そこには『先輩デビル・バスターによる悪魔退治に関するヘルプ』のタイトルロゴ。

 俺は慌てて他の四人を呼び集めると小さな画面の中の情報を共有しながら必死に文面を読み漁る。

 

 

 

 

 

 俺達の前に何処からともなく突如現れ、そして命を脅かす“悪魔”達。彼らは各々で現界する目的こそ違うものの、共通して現世に留まる為に必要な生体エネルギー……“マグネタイト”を求めて人間をはじめとする動物を襲って補給を試みるという。

 

 更に“悪魔”は“マグネタイト”による実体化という特殊な形で存在している……つまりは半分エネルギー体の様な状態である為、普通の人間が傷付ける事は困難。人間が体内に“マグネタイト”を溜め込み、“霊格”を高めた状態で戦う方法もあるが、最も簡単なのは“悪魔”同士で争わせる方法である。

 

 人類の敵とも思える行動を起こす一方で、人間と同じ様に大多数と物事の考え方が違う“悪魔”も存在する。人間を襲う事に消極的だったり、積極的に交流を試みてきたり、ただ“マグネタイト”や物欲を満たす事に執心していたり……そういった“悪魔”を“仲魔”として味方に付ける事こそ、“悪魔”達との戦いには重要である。

 

 本アプリに搭載された“悪魔召喚プログラム”には手始めに低級の“悪魔”一体と契約してあるが、彼らと信頼関係を築くのはこれを読む君自身だ。上記の通り、彼ら“悪魔”とて人間と同じ様に各々の性格は違い、それぞれに意思を持つ生物だ。それを理解し絆を育む事が、これからの助けになるであろう。

 

 

 デビル・バスター O.K.

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 「——どう、だろうか」

 そして、冒頭に至る。

 

 ざっと目を通した限りでは、その意見に反論できる内容はない。

 “悪魔”相手に人間は無力であり、岩動先輩の様に生身で対抗出来るのは一握り程度の人間のみ。そして“悪魔”達はに立ち向かう為には“悪魔召喚プログラム”を使って同じ“悪魔”を使役する必要がある。

 

 「でも……でもですよ?あのヘルプには“悪魔”とは契約してあるだけで命令を聞くかは別問題だと書いてあったんですよ?」

 

 内部の“悪魔”とプログラムを使用する召喚者の間に特別な契約は存在しない……つまり俺がアイツを召喚した時に襲われなかったのは、偶々目の前に明確な敵がいて俺よりもソイツらを優先した……完全に運だったと証明された訳だ。

 

 「それで、もしも俺達に襲い掛かったら「君が居るじゃないか」——へ?」

 出間教授は俺の悲観に溢れた言葉を遮り、続けて話す。

 曰く、他四人の召喚に際して対象とする“悪魔”が敵対的な行動を取った場合、俺が召喚した“悪魔(ヘルハウンド)”で守ればいい、簡単な事だと。

 

 

 

 ……冗談だろ?

 次にこの中の誰かが召喚した“悪魔”が友好的かどうかどころか、俺にはあの魔犬が次も協力してくれるという保証さえない。

 

 

 俺一人なら……俺一人の命で済むなら、別に問題ない。これまでの道程も含めて、どうせ自分の人生。それに責任を持つのは仕方がない事だと割り切れる。

 

 ……だけどそこに他人の命が懸かるなら、俺には無理だ。俺の判断一つ、やり方一つで他人の命が動く責任感に俺は間違いなく耐えられない。

 

 

 「……大丈夫、全ての責任は私が取る。それに私が死んだとしても、君を恨まないと誓おう」

 君は力を貸してくれるだけでいい、と教授の決意に溢れた双眸が俺を見つめる。

 

 

 

 「……分かり、ました」

 

 

 

 俺は……そんな彼に、嫌な顔をする事が出来なかった。

 

 

<鵬聖大学 1F 西側廊下>  

 

 

 「——じゃあ、俺からだ」

 

 

 諸安全性を鑑みて場所は移り、守衛室すぐ外の廊下。

 

 

 黒沢の掛け声と共に、彼のスマホから光を伴って小さな影が飛び出した。

 

 『んん〜?キミがボクをよんだサマナーかな?』

 その姿は空飛ぶ壺に入ったリトルグレイ。

 以前上階で遭遇した時の能力は確か、電撃だった筈——俺は警戒心を込めながら脂汗の滴る手でスマホを構える。

 

 『キミキミ、話しかけてるんだからムシするのはダメ!分かってるの?』

 「っ、あ、ああ。悪かった……ゴメン、なさい?」

 黒沢は少しの間だけ“悪魔”に話しかけられている事に呆けていたが、不機嫌になりそうな気配を察したのか慌てて謝罪した。

 

 

 『へぇ!オトナってみんなイジっぱりって聞いてたのに、サマナーさんは素直なんだね!おもしろーい!』

 幸いにも悪魔はその態度に機嫌を良くしたらしく、嬉しそうに暫く壺ごと宙を跳ね回ると……突然、黒沢の胸元に勢いよく飛び込んだ。

 

 「お、面白いって——うげぇっ!?」

 「なっ——!?」

 ドゴッ、という音と共に黒沢が数メートルほど吹き飛ぶ。突然の凶行に反応しきれなかった俺は遅れてヘルハウンドの召喚を試みたが……その光景を目にした瞬間、止めた。

 

 

 『エヘヘ♪ボク、キミが気に入っちゃった!』

 「お、お助けぇ〜!」

 なんと、倒れた黒沢の上で悪魔の壺が転がり回っているのである。その姿はまさしく飼い主にじゃれる大型犬……いや、被害を考えれば肉食獣の如く。

 壺の硬い表面でローラーをかけられた黒沢の顔や首など目に見える肌は既に痣だらけとなっている。

 

 

 ………………。

 

 

 『ふふふふっ!ボクは“妖魔 アガシオン”!コンゴトモ、ヨロシクね!』

 何とか宥め賺しはしたが、未だ興奮冷めやらぬ壺悪魔……“妖魔 アガシオン”は、男二人による決死の説得の末にスマホの中へと帰って行ってくれた。

 

 何だか俺の時とは随分違う様な……同じ相手と死闘を繰り広げた側からすると何とも言えない理不尽な気分を今回は味わってしまった。

 

 

 

 「なあ忠野——これメチャクチャ痛いんだけど」

 「……スイマセン」

 黒沢先輩、止めに入ってたら多分仲魔に出来なかったと思うので結果オーライって事にしてくれませんか……ダメ?

 

 

 

 

 




----------------------------------------
Lv3 妖魔 アガシオン(仲魔)
<ステータス>
力2 知5 魔5 耐3 速5 運4
HP:23 SP:25 CP:9/30m
物理攻撃:9   物理防御:9
魔法攻撃:8   魔法防御:7
 命中 :35   回避 :38
 会心 :2.5%
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
弱弱----耐-----耐耐--
<性格・口調>冷静・子供(男)
<忠誠タイプ>物欲型
<習得スキル>
[ジオ]……敵単体に電撃属性のダメージ(小)
[プリンパ]……敵単体に中確率で<混乱>付与
[九十九針]……敵単体に射撃属性のダメージ(小)
----------------------------------------


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≫007 Fight to Survive, with Digital Devils.(1)



 長らくお待たせ致しました。
 就活中に加えてスランプに陥っていた中での文章なのでかなりガタガタですが、どうぞお楽しみ下さい。




 

 

 

 

 

 「骨は折れて……ないけど、結構な怪我になってるねぇ」

 「ケホッ、あー……マジっすか」

 

 黒沢の負傷という幸先の悪い形で始まった悪魔との会話(トーク)だが……そこから多くの知識を実際の経験として学べた事も、また事実だった。

 

 

 『ねぇねぇサマナーさん。アタシ、おはなしをきかせてほしいな〜♪』

 「ふむ……ああ、いいとも。ならこんな話はどうかな——」

 まず、悪魔の要求には可能な限り応える事。

 心理学における——他人に何か施しを受けたら自分もお返しをしなければと思う、だったか?——返報性の原理は悪魔にも同じことが言える様で、兎に角悪魔を喜ばせる事は必須事項だ。時には絶対に呑めない要求なんかも飛び出してくるだろうが、そこは……上手くやるしかない、とだけ。

 

 『——け、契約するから命だけは勘弁してくれぇぇっ』

 「フゥーッ、フゥーッ……チッ、いいだろう」

 続いて、一度敵対してしまった場合でも痛めつける事で向こうから命乞いさせる方法もあるという事。

 この時は岩動先輩が悪魔のセクハラ要求(生気を直に吸わせろって奴)を食い気味で拒否った事から敵対した訳だが……まあ、うん。

 見てるこっちからしても完全にエロジジィだったからなぁ……むしろこのまま殺してくれた方が平和なんじゃないかと思わなくもなかったが、これも戦力増強の為だと教授と黒沢が宥めたお陰で悪魔は命拾いした。

 

 「……その……えっと……っ」

 『ん〜?——えへへ!……よろしくね♪』

 そして最後に、悪魔によっては特に対価の要求もされず一方的に契約を結ばれる事もあるという事。

 これに関しては本当に訳が分からない。唯一の例で双方の会話が全然聞き取れなかった上に、その内容がそもそも成立しているかすら不明だ。悪魔にとって基本的に人間は餌という認識じゃないのか?

 

 

 まあ大分端折ったがそうした紆余曲折を経て、結果的に俺達はそれぞれの悪魔——出間教授は“妖精 ピクシー”を、岩動先輩は“夜魔 ザントマン”を、そして黒髪少女は“悪霊 ポルターガイスト”を——仲魔とする事に成功した。

 

 

 

 

 

鵬聖大学 1F 北側廊下  

 

 

 「いやぁ、しかし——こう言うのは不謹慎かもしれないが……年甲斐もなく、ワクワクしてしまうねぇ。ウン」

 しかしそれに伴い、戦力確認がてら全員で周辺の悪魔と戦ってみようなどというのは……些か軽率が過ぎやしないだろうか?

 更にその提案者が最年長の出間教授なのだから、これまた問題だ。

 

 ——確かに戦力の確認は大事だ、いざと言う時に連れている悪魔が盾にもならないんじゃ困る。

 

 

 「だけど、なあ……」

 なるべく気取られぬ様に流し目で、他のメンツを見遣る。

 

 

 最後尾で身構えながら周囲に意識を巡らせる岩動先輩。

 中央で身体を縮こませながら歩く少女と、その隣で刺又(サスマタ)を杖代わりに付き従う出間教授。

 そして最前列でヘルハウンドを連れた俺の隣に居る、リュックを背負って地図作りに勤しむ黒沢。

 

 

 ビビりまくれとまでは言わないが、この集団が些か緊張感に欠けている事が——俺には、酷く不快に映る。

 とは言っても、彼らとて充分に警戒している筈だ。だからこれは単に俺が助かったとはいえ一度死にかけたから、精神的に過敏になっているのだろう。

 

 「……ッ!前方・悪魔1・無警戒」

 頭の中でモヤモヤした気分を抱えていると突如隣の黒沢がそう言って腰からスタンガンを抜き放つ。

 慌てて自分の武器である廊下に配備されていた消火器を構えながら指差す先、通路の分岐点へ視線を向ける——そこには確かに、上階で俺を散々追っ掛け回してくれた黒い小人が一匹で背を向けて立ち尽くしていた。

 

 先にヘルハウンドを出している俺が対処すべきかと思い前に出ようとしたところで黒沢が手で制する。どうやら先陣は彼が切る様で、早速スマホから召喚を始めた。

 「他は周囲を警戒してくれ……行くぞ、アガシオン。まずは奴に“ジオ”を頼む」

 『まかせて〜……そりゃっ!』

 

 

 了解の声と共に、暗い廊下を電撃が迸った。

 

 

 俺は物理学に詳しい訳じゃないが、空気中での放電には高い電圧が必要だという事は知っている。見た感じ、廊下を照らす小規模な雷と言っても過言ではないその攻撃はとても生身で耐えられるとは思えない。

 当然、無防備な背後からその直撃を食らった相手もその異様に細い手足を痙攣させながら黒い煙を吐き出したが……倒れない。

 

 

 『何だテメェら……喧嘩売って来やがって、死にてぇようだな!』

 「全員広がれ、戦闘開始っ!」

 先制攻撃を受けた黒い小人を中心に周囲からワラワラと悪魔達が集まり始める。

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 幽鬼 ガキ    が 3体

 凶鳥 オンモラキ が 2体

 地霊 ノッカー  が 2体 出た!

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 『コイツらをミンチにしちまえ!』

 「総員、召喚準備!俺・岩動・忠野で前衛になる!」

 襲い来る瘴気はヘルハウンドが、電撃はアガシオンが受け止め、その機に乗じて他の三人が召喚を行う。

 「ヘルハウンド!炎を頼む!」

 『マカセロ サマナー!』

 「ぶちかましな、ザントマン!」

 『こうなりゃ、やぶれかぶれじゃああ!』

 廊下を押し流す炎の波で黒い小人が総崩れとなり、その中をザントマンの砂袋による殴打で次々と仕留めていく。

 

 『がんばれー!“ディア”ー!』

 『ケケケ、“イルゾーン”……』

 出間教授のピクシーが前衛二体の傷を癒し、少女のポルターガイストが白い霧で電撃を放って来た小人達を翻弄する。

 

 

 このまま押し切れば、勝てる!

 守衛室に助けられるまでの間に散々と嬲り痛めつけてきた相手が、今は此方の繰り出す悪魔達と対等以上の戦いを繰り広げている。俺はその事実に湧き上がる興奮から思わず身を乗り出す内に——、

 

 「危ない忠野!伏せろ!」

 『くらっちゃえ、“エイハ”!』

 

 ——上から瘴気を撒き散らす一匹の黒い鳥を見逃してしまった。奴らはヘルハウンドの炎で消滅した様に見えていたがその実、煤塗れの天井で息を潜め攻撃の機会を待っていたのだ。

 

 

 直上から黒鳥の吐き出した瘴気の弾丸が襲い掛かる。

 

 避ける?——否、前にバランスを崩したこの体勢からでは幾ら身体を捻ろうと避ける事など出来ない。

 消火器で受ける?——否、消火器はガス圧で消火剤を撒く道具だ。もし至近距離でコレが破裂した場合、俺は大怪我を負う事になる。

 身体で受ける?——否、未知の攻撃に自分の身体を曝すなんてそれこそ本末転倒だ。もしアレが毒や呪いなんかで治療出来なかったら?苦しみながら死ぬなんてゴメンだ。

 

 つまり……この中で一番軽傷で済む可能性があるのは“消火器で受ける”しかない。

 

 

 「うおおぉぉぁあああァッ!!」

 こうなったらヤケクソだ、来やがれ畜生!

 

 俺が片手で軌道上に消火器を掲げ、その裏からもう片方の腕で顔面をガードすると同時に——『瘴気が防御(消火器)をすり抜けた』。

 

 驚きのあまり僅かに思考が遅れ、そして視界一杯に広がるその瘴気が牙を剥く髑髏の形を取ると飛来してきた勢いのままに両腕を飲み込んだ。

 「あっ……ぐぁああぁっ!」

 瞬間、強烈な寒気と痺れが腕を襲う。

 

 ヘドロ共の吸収攻撃に似て非なる、まるで体内の目に見えない魂的な部分をメチャクチャにされている感覚が腕の中で荒れ狂うのを感じ……俺は堪らず悲鳴を上げた。

 

 

 「クソッ!これでも食らえ鳥公!」

 『え?——きゃあ!!』

 俺が床に転がると同時に黒沢が下手人である鳥型の悪魔へスプレー缶の様な何かを投げ付け、それが甲高い音を立てて爆発した事でその衝撃が敵の全身を強かに打ち据える。

 

 「下がるぞ忠野。教授はピクシーを呼び戻して治療準備!」

 「相分かった。来なさいピクシー!……“ディア”を、彼に頼めるかい?」

 蹲っている俺の首根っこを掴み後方へと引き摺る岩動先輩と、袖を素早く捲り黒ずんだ両腕を露わにさせる教授に、そこへ回復魔法を掛けるピクシー。

 

 

 「ぐううっ……す、すみません!」

 「礼なら後で聞いてやる、とっとと残りを始末するよ!」

 感謝の意を伝える間も後悔する間もなく、岩動先輩によって前線へと復帰させられた俺はそれから皆と一緒に悪魔達に指示を出し、群れの撃破に成功したのだった。

 

 

 

 とは言え、完全な勝利には程遠い。

 

 「はぁ、はぁ……」

 「くっ、ふっ、ふう……」

 「ぜーっ、ぜーっ……」

 

 十対八と数は此方の優勢ではあったが前衛を務めた三人の体力・精神の消耗は激しく、負傷者(言うまでもなく俺の事だ)を出した事でこれ以上の探索は中止。一度撤退して回復と情報整理に努めるという所で意見は一致した。

 

 

 

<鵬聖大学 1F 守衛室>  

 

 

 「腕はどんな具合だね?」

 「最初は強い痺れや寒気を感じてましたけど、感覚は大分戻って来ました」

 

 守衛室に戻ってから、未知の魔法を食らった俺は教授と先輩方から念入りに検査された——攻撃を受けた直後なんかは皮膚が黒く変色していた為に、毒や病気なのではと疑われていたからだ。

 しかしピクシーからの回復魔法や治療後の経過で徐々に元の肌色へと戻っていく確認が取れてからは“見た目はどうあれ治るもの”として判断され、晴れて俺は自由の身となったのだった。

 

 

 

 「取り敢えず今回の情報を纏めよう」

 そうして全員が揃った所で、出間教授を司会に改めて作戦会議が始まった。

 

 

 「じゃあ、まずアタシから……最後の乱戦で弱ってきた奴に止めを刺した時だが、前に殴った時と比べて妙に拳の通りが良くなってた」

 「確か悪魔と生身で戦うのにマグネタイトで“霊格”がどうの、だったか?要は悪魔を倒して、マグネタイトを奪って、強くなる。今はそれでいいんじゃないか」

 俺が合流する前は生身で悪魔と戦っていた岩動先輩は、今回の戦いで何かに気付いたらしい。それに対して黒沢は出発前に読んだ例のデビル・バスターを名乗る人物からのヘルプから引用して仮説を立てる。

 “マグネタイト”……生き物が活動する為の生命エネルギーであり、悪魔が現世に現れる為の必需品であり、人間を強くする謎の力。これが俺達の命綱になるのか。

 

 

 「次は私でいいかね?魔法についてなんだが——一応それぞれ悪魔の種類と魔法の種類、命中した数や負傷箇所等から……どの程度攻撃すれば悪魔を殺傷ないし撃退出来るかを試算してみたものだ」

 続いて出間教授の置いた革張りの手帳には、戦った悪魔達の絵と共に俺達の攻撃や魔法が一部で脱落こそすれど事細かく記されていた。

 特に目を惹いたのは、俺を最初に襲った黒い小人はヘルハウンドの炎がよく効いたという記述で『あの時に召喚出来てたら……』などと、ついついたら・ればな事を考えさせられた。

 「あの乱戦でよくここまで出来ましたね、俺達は悪魔への指示で手一杯でしたよ」

 「君達が前線で頑張ってくれていたからこそさ……それに、私もまだまだ若い君達には負けられないからね」

 黒沢からの惜しみない称賛にも教授の表情は微笑みから崩れない——確かに、教授の講義が人気だった理由は単なるエンターテインメント性だけではなくあの人柄にも大勢惹きつけられたのだろうな。

 

 

 「最後に俺だな。これは此処から戦闘を行った場所までの地図なんだが、下手に通路が入り組んでたお陰で——」

 「うわ小っさ、よく読めますねソレ」「身長低いからって地図まで小さくしなくていいんだぞ黒沢」「さっきあんな事を言ったばかりだが、この歳になると眼も悪くてね。だからその、もう少し大きい方が見やすいかな……」

 最後の黒沢の番になって、彼の言葉を遮る様に無数の発言が挟まれた。因みに左から順に俺、岩動先輩、出間教授である。

 

 彼の出した学生手帳のページで元の大学が全部収まるサイズに描き起こしているからか全体的に通路も広場も小さく描かれており、通路に至っては線で簡略的に表現しているせいで側から見たら寝ぼけた時の講義ノートにしか見えない。

 

 

 

 「——ゴホン、これが改めて描き直した地図だ。通路が入り組んでたり緊張していたせいで気付かなかったが、俺達は直線距離だと殆ど守衛室から離れていなかったんだ」

 

 守衛室に残されていた業務日誌の空白を使って新しく描き直した地図では、元の校内図とは似ても似つかない形となっていた。

 格子模様を描きそれぞれ端から端まで見渡せていたシンプルな通路は、まるでパソコンの配線図並みにゴチャゴチャしたものへと変わり。本来そこにあった筈の部屋が消えて、代わりに別階にあった筈の部屋が配置される……まるで滅茶苦茶に弄り回した後の知育玩具の如く。

 

 「計算だと……ええと。24×14だと対角線の長さが28で、歩幅は165×0.45で74センチだから……28×74で約21メートル、だな。これでもなるべく一定の方向に向けて道を通ったつもりだ」

 「21メートル……」

 一歩間違えば命を落とす様な戦闘一回で21メートル。

 大学の敷地は幅だけでも200メートル近く……いや。内部がこれだけ滅茶苦茶なら、その情報だってアテにならない。きっと外側だって……

 

 

 

 「……ああ、そうだ!」

 「?どうした忠野、何か——」

 「警察ですよ!ほら俺、此処で喋ったでしょ!“警察に連絡した”って」

 

 

 

 そうだ、警察だ。

 

 

 幾ら内容が荒唐無稽でも、緊急性のある通報があった場合は現場へ必ず警察官が派遣される筈だ。大学の外部に異常があれば警察だって応援を呼ぶだろうし、内部であの悪魔達を見れば絶対に——!

 

 

 

 ——もしも、悪魔の恐ろしさを知らない彼らが、既に内部に入ってしまっていたら?

 

 ——そして、俺と違って外部との連絡が取れない状態にさせられていたら?

 

 

 

 「あ、いや、そんな——」

 「お、おい。急にどうした……?」

 その発想に至った俺は、瞬く間に顔から血の気が引くのを感じ取った。

 俺の電話が通じたのは決して幸運なんかじゃない、外部からもっと人間を引き寄せる為の罠だ……俺はまんまと、奴らの擬似餌代わりにされたんだ!

 

 

 

 

 

 自分の仕出かした事の重大さに頭を抱える中、遠くから余りにもか細い銃声が鳴った。

 

 

 

 

 




----------------------------------------
Lv2 妖精 ピクシー(仲魔)
<ステータス>
力2 知3 魔4 耐3 速4 運5
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
------耐耐--耐弱-弱--
<性格・口調>陽気・子供(女)
<忠誠タイプ>物欲型
<習得スキル>
[ガル]……敵単体に疾風属性のダメージ(小)
[ディア]……味方単体のHPを回復(小)
[疾風斬]……敵単体に剣撃&疾風属性のダメージ(中)
----------------------------------------
Lv4 夜魔 ザントマン(仲魔)
<ステータス>
力4 知6 魔4 耐4 速4 運5
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
------弱耐----弱耐-耐
<性格・口調>陰気・年配
<忠誠タイプ>レベル差型
<習得スキル>
[ジオ]……敵単体に電撃属性のダメージ(小)
[ドルミナー]……敵単体に中確率で<睡眠>付与
[ソニックパンチ]……敵単体に打撃属性のダメージ(小)
----------------------------------------
Lv2 悪霊 ポルターガイスト(仲魔)
<ステータス>
力2 知2 魔4 耐4 速5 運4
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
-耐-無弱-耐----耐弱-無弱
<性格・口調>陰気・子供(男)
<忠誠タイプ>物欲型
<習得スキル>
[ザン]……敵単体に衝撃属性のダメージ(小)
[イルゾーン]……敵単体に中確率で<幻惑>付与
[ムド]……敵単体に中確率で暗黒属性の<瀕死>付与
----------------------------------------
Lv4 幽鬼 ガキ
<ステータス>
力6 知5 魔3 耐6 速4 運3
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
---耐弱耐------弱耐--
<性格・口調>愚鈍・不良
<忠誠タイプ>レベル差型
<習得スキル>
[引っ掻き]……敵単体に戦技属性のダメージ(小)
[ブフ]……敵単体に氷結属性のダメージ(小)
----------------------------------------
Lv3 地霊 ノッカー
<ステータス>
力4 知5 魔3 耐5 速4 運3
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
------弱---弱耐-耐--
<性格・口調>陽気・年配
<忠誠タイプ>伴れ合い型
<習得スキル>
[グライ]……敵単体に重力属性のダメージ(小)
[突撃]……敵単体に打撃属性のダメージ(小)
----------------------------------------
Lv4 凶鳥 オンモラキ
<ステータス>
力4 知4 魔4 耐5 速5 運5
<耐性>
剣打技銃火氷衝電核水風重光闇神精
---弱耐----弱--弱耐--
<性格・口調>陰気・子供(男)
<忠誠タイプ>物欲型
<習得スキル>
[エイハ]……敵単体に暗黒属性のダメージ(小)
[羽ばたき]……敵グループに戦技属性のダメージ(小)
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≫008 Fight to Survive, with Digital Devils.(2)


 これまで次話を期待されていた読者様方へ、更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。

 言い訳をさせてもらうとすれば、仕事の忙しさと難しさで余裕がなく、また書いてない期間も伸びていて少々スランプに陥っていました。

 仕事の折を見ながらの投稿なのでこれからも不定期な更新になりますが、コンゴトモ ヨロシク……




 

 

 

 

 

<鵬聖大学 1F 106教室>  

 

 

 「ふっ、ふっ、ふうっ……!」

 何なんだ、あの化け物は……!

 

 

 通報を受けて来てみれば人間なんて何処にも居らず、不審に思って敷地外に止めていたパトカーへ応援を呼びに行けば突然門から外へ出られなくなった。お蔭で碌な装備もなしに相方と二人、この化け物だらけの大学に取り残された。

 それからはひたすら校内を逃げ回って、隠れて、追われて、追われて、追われて……。

 

 おまけについ先程、犬だか狼だか分からん猛獣に腕を噛まれて重傷を負った相方——前腕の肉をごっそり持っていかれて止血も役に立たない状態だ、早く病院に連れて行かないと——を助ける為に拳銃を撃ってしまった。

 

 

 ——勿論『拳銃を撃ったら昇進出来なくなる』なんて噂話を信じてる訳じゃない……というよりも、命の危機に晒されている中で今更昇進なんて気にしていられる訳がない。

 

 

 問題なのは撃たれた猛獣も怯みはしたが死には至っておらず、逆に興奮させた挙句に銃声を聞き付けた怪物共で部屋の外が鮨詰め状態になっている事だ。

 

 対してこっちはバリケードで対抗しているものの、相方の銃も合わせて残りはたったの九発……こうしている間にも相方の顔からは生気が抜けている。

 

 「68$1€_!」

 「+$4"!○_+_☆;°|!」

 「「「066666!!」」」

 

 扉の向こうから響き渡る怪物達の狂笑。相方の暗がりでも分かるくらいに蒼白くなった顔色と、痛みを抑える深呼吸から少しずつ短く浅いものへと変わっていく呼吸音……それらがまるで俺達の残り時間を示すかの様に聞こえてくる。

 

 

 

 こんなのは現実じゃない。

 

 だけど全身の感覚がこれを現実だと訴えてくる。

 

 気が狂いそうだ……いや、もう狂ってるに違いない。

 

 右手に握ったままの銃を震わせながら、ひたすらに無線を飛ばす。

 

 

 

 「助けて……助けてくれ……誰か、本部……応答して下さい……誰か……」

 

 

 無線からの返事はない。

 

 

 そして不意に、部屋の中を満たす様な浅い呼吸音がいつの間にか止まった事に気付いた。

 

 

 自然と、無線マイクを握る手に力が籠る。

 

 肩にズシリと掛かる重さも、冷たく濡れた鉄臭い制服も、周囲を包む様な怪物達の囁きも。全てを受け入れる事を拒む萎んだ心を狂気で奮い立たせ、唾を飛ばしマイクに向かって吼える。

 

 

 

 「畜生!畜生、畜生、畜生!しs……」

 ……違う、相方はまだ生きている(・・・・・)。絶対に生きているんだ、二人で生きて出て行くんだ。絶対に、絶対に……

 「いや、重傷者1名……繰り返す、重傷者1名だ!化け物に囲まれて、屋内の一室に立て籠もっている!誰か応答しやがれ、バカヤローッ!早くしないと、二人とも化け物に殺されるんだぞ!——俺はまだ、こんな場所で死ぬなんてゴメンなんだよクソッタレェ!!」

 

 

<鵬聖大学 1F 守衛室>  

 

 

 「救出は、無理だろうな」

 頭を抱えたままの俺に、銃声の先を見つめる黒沢の諦めた様な言葉が突き刺さる。

 何も考えずに縋りついた罠で人間を死地に追い遣った事は、いやそんな事、この非常事態に、だから……

 

 「“俺のせいじゃない”、ってか?」

 

 心を読まれたかの如きその言葉に心臓が飛び跳ねた。頭上からの視線に恐る恐る顔を上げ、そこで呆れた顔で此方を見下ろす黒沢の顔が見えた。

 

 「別に俺は、お前に『責任取って助けに行け』とか『今から一緒に助けに行こう』なんて言うつもりは更々ないよ」

 今の状態じゃ行った所で精々が三途の川の連れ合いを増やすだけだしな、と軽く彼は言ってのけ、周囲の痛々しい視線を飄々と受け流しながら煙草を——吸おうとして空になったパックをくしゃりと握り潰しポケットへと突っ込む。

 

 

 

 「ま、かと言って……警察官の為に、他の奴へ『他の人を助ける為に君達を危険に晒すけど大丈夫?』なんて言えるか?それとも俺達の生存率を維持する為に警察官に『呼んだ手前で悪いけど、救助は諦めてくれ』とでも言うつもりか?」

 「何が、言いたいんです」

 自分でもかなりクズな事をしている事は判ってる——自分に降り掛かっている責任から逃げて、そのストレスで当たり散らしているだけだという事を、自覚はしているのだ。

 だが自覚しているからといって自制できるかと問われればそれはまた別の問題であって……黒沢の長ったらしい言葉が癇に障って苛立った俺は、彼を睨み付けながら強い口調で答えを迫る。

 

 

 だが彼はそんな虚勢に余裕を崩す事すらなくしっかりと視線を交わしながら淡々と言葉を返した。

 

 「『ヒーローとは、自分の自由に伴う責任を理解している人間を云う』……選ぶからにはお前が自分自身の責任を負えって事さ」

 

 

 お前はどっちを選ぶ?——生死不明の一人か、この場で確かに生きている四人か。

 

 

 人数を示す両手の指の向こうで、酷薄な笑みを浮かべながら彼の双眸が俺を射抜く。

 

 

 ……思えば誰かから明確に選択を迫られたのは、これが初めてだったかもしれない。

 “そうしなければならない(強制)”という一本道か、“そうしてくれるだろう(期待)という外部からの入力。誰もが自分の意見を求めず、他人が敷いたレールの上でひたすら前に流されるままの生き方に……不安を感じる事こそあれ、俺は不満を抱く事もしなかった。

 

 だが今は違う。誰かに流されて行動した所で誰も責任を取ってはくれないし、後悔する時間だって惜しいくらいに俺達は逼迫していて……だからこそ——

 

 「お、俺は……やっぱり、助けに行かなきゃ、と、思うんです……すいません!」

 

 ——俺は、自らの安心の為に(・・・・・・・・)他人を助ける事を選んだ。善意からの行動でも何でもない、己の信頼向上と心の安定という報酬を求めた打算的なものではあるが、それでも……今の俺に必要なのは行動だった。

 

 制止の声も聞かず、俺はスマホ片手に部屋を飛び出した。

 傍らにはその恐ろしげな姿も段々と慣れ始めてきたヘルハウンドが召喚者に追従する。

 「護衛任せた、ヘルハウンド!」

 『アオーン! マカセロ サマナー!』

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 一方、部屋に残された者達は出て行った男に対して四者それぞれが愕然・感嘆・憤懣・困惑の表情を浮かべていた。

 

 

 「——何で行かせた、クソ沢」

 まず口火を切ったのは憤懣の表情を浮かべていた岩動だった。その非難の矛先は勿論、忠野に発破を掛けた黒沢である。

 「行かせた(・・・・)?まるで俺が嗾けたみたいな言い方は止してくれよ」

 「事実だろうが。お前だって、この場所で一人になる事の意味くらい判ってるだろ」

 「……なら、お前も一緒に行ってやればァ?“ヒーロー”さん?」

 怒涛の剣幕で凄まれてなお、言われた張本人は感嘆の表情から嬉しそうに口角を三日月に吊り上げつつ小馬鹿にした口調で彼女に言葉を返す。

 

 一瞬、ピシリと空気がひび割れる様な錯覚をその場の全員が覚えた。そしてそれが激怒を通り越して無表情となった岩動から放たれる“怒気による圧力”によるものだと気付いた時には、既に彼女は机に乗り上げながら黒沢の胸倉を掴んでいた。

 

 

 「おちょくるのも大概にしろよ、お前」

 

 

 二人の視線が僅かの間、交錯する。片や冷たい瞳を憤りで燃やし、片や濁った瞳を嘲りで湛えて。

 

 

 実時間にしてほんの二、三秒。岩動は歯軋りしながら胸倉を掴んでいた手を強引に振り下ろし……もういい、とだけ呟くとそのまま彼女も守衛室を後にした。

 

 

 

 

 

 半数が退出し、僅かに広くなった室内で笑みを浮かべていた黒沢は……一転して表情を崩すと怒らせていた肩を下ろした。

 「悪役(ヒール)も大変なお仕事……なんてのは、慰めにはならないかな?」

 「……???」

 訳知り顔の出間に対して、この場で唯一素性の判っていない少女——経営学科1年生の董 美里(ドン・メイリィ)は状況を理解できていないのか部屋の隅で元の雰囲気へと戻った黒沢を見つめながら頭に無数の疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 なんの事はない、全ては黒沢の演技に過ぎなかったのだ。

 

 

 

 彼は彼で、警察官を助ける為に前の二人の思考を誘導していたのだ……というのも彼も忠野同様、全くの善意ではなく戦力の拡充という打算ありきでの行動である。

 

 その為にやや自己中心的な傾向のある忠野には罪悪感を刺激しながら責任感とすり替える事で自発的な行動を促し、一方で冷静を気取りながらその実直情型の岩動に対しては徹底的に神経を逆撫でして煽り倒す事で理性の軛を緩め忠野の援護へと走らせた。

 

 その神憑り的な話術の代償として彼に対する二人の評価はかなりの底値……片方に関しては最早最底辺にまで落ち込んでいるが、その事実は自己評価の低い彼にとっては何の辛苦にもならなかった。

 

 

 

 「……しかし、ボブ・ディランとは。君にしては柄でもない言葉選びだね」

 「……アイツ自身が選んで動く事が大事なんですよ、こういうのは。岩動もあの分ならきっと張り切って暴れてくれますから」

 出間は苦笑いと共に黒沢に言葉を投げ掛け、彼はそれに自嘲を含んだ言葉で応えながら出口のドアノブへと手を掛ける。

 

 

 

 

 

 「それに俺は、ロックならチャック・ベリーの方が好みですよ——『Go Johnny, GO! GO!(それ行けジョニー、いざ征かん!)』ってね」

 振り向き様に見せたその表情は、悪戯心に満ちた少年の顔をしていた。

 

 

 

 

 



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≫009 Fight to Survive, with Digital Devils.(3)

 拙作を楽しみにしていただいた読者の方々へ。
 長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。


 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 幽鬼 ガキ    が 3体 出た!

 外道 スライム  が 1体 出た!

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 「こんっ……のおぉっ!!」

 『ガアアッ!“マハ・ラギ”!』

 

 『ギャヒィイイィィッ……!』

 

 両手で振りかぶった消火器の横凪ぎ攻撃が複数の【幽鬼 ガキ】に炸裂し、その小柄な肉体を撥ね飛ばす。そこにゴウッと音を立ててヘルハウンドから噴き出す魔の炎が俺を器用に避けつつ、襲い来る悪魔達ごと広い廊下を舐めていく。

 

 

 「ああもうクソッタレ!お前が背中に乗せてくれりゃ一々止まらずに済むだろうに!」

 『ガアアッ! サマナー セナカ アズケルニハ マダマダ ヨワスギル!』

 塵になった悪魔達を尻目に、俺とヘルハウンドは互いに罵り合いながらも共に廊下を走っていく。

 

 

 今更ながら黒沢の挑発にまんまと乗せられた形になっている——そう気付いてはいるが、やはり飛び出した手前「やっぱり止めます」なんてのはあまりにも格好が付かない。

 これも込みで俺に発破を掛けたとしたらアイツ、トコトン性格が捻くれてる大悪党だろ……

 

 『マグ、マグネタイトぉおぉぉ』

 「うるせぇクソバカ!そんなに食いたきゃこれでも喰らって、ろッ!」

 苛立ちを交えた渾身のかち上げ攻撃が【外道 スライム】のヘドロ体を宙に打ち上げ、そこに五体の捻りと遠心力を籠めて打ち込まれたノックが奴をリノリウムに広がる三日月型の染みへと還す。

 

 

 「ウオオオオオォォッ!!!」

 最初に完膚なきまでの敗北を喫した悪魔を相手に、仲魔と共にとはいえ易々と屠っていく事に違和感など皆無。徐々に高揚していく気分のまま、雄叫びと共に敵中へと飛び込み消火器を振り回して暴れ狂う。

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 凶鳥 オンモラキ    が 3体

 悪霊 ポルターガイスト が 2体

 妖魔 アガシオン    が 2体 出た!

 

 タダノたちは うしろからおそわれた!

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 『このこのこのーっ!』

 「くっ——ぅグッ!?」

 飛来する悪魔の鉤爪を振り上げた消火器で受けた瞬間、バシュウウウ、という気の抜けた噴出音と共に視界を覆う“白の壁”に思わず目を瞑る——消火剤と高圧の気体を蓄えた鉄の容器が爪を突き立てられた事で内側から掛かる圧力に耐え切れず破裂したのだ。

 

 しかし破損した消火器から辺りに消火剤が撒き散らされ、周囲の視界を僅かに塞いだ事で敵陣から抜け出すチャンスが出来たのは幸運でもあった。

 俺は顔を乱雑に拭い、すっかり軽くなって武器としての体を為さない消火器を下手人である【凶鳥 オンモラキ】に投げつけると仲魔の下へ素早く滑り込む。

 

 「——ヘルハウンド、まだやれるか?」

 正気を取り戻すと同時に、ぶわりと全身の毛穴から汗が噴き出し先程までの高揚感と疲労感がひっくり返った俺はヘルハウンドの隣で片膝を突きながらそう問うと、その獰猛さを隠そうともせず牙を剥きながらも荒い息遣いで応えた。

 

 『グルルル……オレサマ ツカレタ サマナー ドウダ?』

 

 ——最初は弱いだのなんだの散々馬鹿にしてくれた癖に、ちょっと一緒に戦ったくらいなのにこっちの心配して来るとか……急なデレとか元から期待してないんだがな。美人とかなら兎も角、見た目は完全に猛獣だし誰も得しないだろこう云うのは。

 

 

 ……否。今はそんな事、どうでもいい。

 

 この場を生き延びて、少しでも早く目的を達成して、生きて戻る。

 

 

 「俺もお前とどっこい、って所さ……しょうがないが一旦仕切り直しだ、突破するぞ」

 

 

 

 もう一踏ん張り、宜しく頼む。と背中を叩いて鼓舞する。

 

 

 

 『……アオオオーーーーン!!』

 通路に轟く咆哮、それに続く衝撃波。

 

 

 

 正に“電光石火”。

 

 黒紅の稲妻と化したヘルハウンドが悪魔達(点と点)を繋ぐ様に奔り、華が散るが如くマグネタイトの淡い光が弾けた。

 

 廊下の中央部が一気に拓け、周囲の悪魔が退いたタイミングを見逃さず俺は我武者羅に走る。

 後ろから奴等の罵声と魔法が飛んで来るが、知った事か……少し前までは一撃を受けただけで半身が凍りつき、防いだ腕は感覚を失うまでに至ったそれらも今では霊格(レベル)が向上した為か急所を守りながら回避に専念すれば十二分に耐える事が出来た。

 疲労も限界の所で全力を出し切ったのだろう、少し先で待っていたアイツ(ヘルハウンド)が光と共にスマホへ戻るのを確認しながら廊下を突っ切っていく。

 

 

 地図もなく、もう殆ど目的の場所は判らない、ただ己の方向感覚に従いながら走る。

 

 そしてその道すがらで目に付くのは死体、死体、死体。床や壁を彩る黒ずんだ血の華、臓物と骨の絨毯、肉塊の中に僅かに原型を残す手足。

 

 大部分が食い荒らされていたとはいえ、中でもまだ残っていた“人間らしき”死体から最期の抵抗に使ったと思しき壊れかけの裁ち鋏を千切れた腕ごと拾い上げ、強張った指を毟り奪い取る。

 

 その勢いで放り捨てた腕を見て、僅かに視線だけが逡巡するも足は止まらない。この程度であれば、身体を止める事もないと冷え切った思考が心とは別の判断を下す。

 

 

 

 鼻を突く噎せ返る様な血腥さも、視界に映る平和とは程遠い惨劇も、耳にこびり付く悲鳴や断末魔の残響も、気付けば既に肉体が反応する事が少なくなっていた。

 

 心は怯え・痛み・悲しむが、体はまるでそれらと繋がっていないかの様に自然体に——自然体過ぎる程に動いてしまう(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 死にたくない、生きていたい(その為に地獄を許容する)

 

 それが人間として当然だ。

 

 ——生きていなければ、恨み言の一つだって言えはしないのだから。

 

 

 

 

 

<鵬聖大学 1F 教室棟エリア>  

 

 そうして暫く進む内に、見覚えのある場所に出て来た。

 最奥が全面ガラス張りになった一本道の廊下と左右に並ぶ教室の扉と、先程までの迷宮然とした道程に比べてここは以前の大学の様相を多分に残している。

 

 「101、102、103……」

 各部屋の扉に挿入されているルームプレートから見るに、一階教室棟エリアの一部がここに配置されたのだろう。俺は独り言ちながら、それでも仲魔が行動不能な今は警戒は緩めずナイフの様に鋏を握り締めて一歩一歩を着実に進む。

 

 

 「があ゛あ゛あ゛ああっ!!」

 「ヒッ!?」

 

 105教室悲痛な叫び声から続け様に銃声と思しき短い爆発音が三度響き、すぐ先の扉から二つの人影が飛び出して来た。

 

 突然の事態に驚いた俺は慌てて飛び退き鋏を突き付けるが——今までとは別の意味で一線を画すその光景に判断に戸惑う。

 

 まず第一に、目の前で揉み合っているのは同じ警察官の服装をした二人の人間だ。

 片方は馬乗りになりながら相手の首を締め上げていて、もう片方は仰向けの状態で拳銃を手に握りながら相手を引き剥がそうと踠いている。

 

 「ぎぎぎぎっ……!」

 「くっ……ぉぉおお……!」

 

 何が原因でそうなったのか、お互い血塗れな上に猛烈な勢いで暴れており双方共に正気を失っているのかすら判断が付かない。

 

 

 「ッ、うう、クソ……ぅわあっ!?」

 そうして手を(こまね)いている内に拳銃が更に火を噴き、弾丸は馬乗りになった警官の肩を掠めて天井に突き刺さった。

 

 

 ——拙い状況だ。

 

 

 銃を取り上げようにも位置が悪く、下手に手を出せばそのまま撃たれかねない……かと言って馬乗りになっている警官を引き剥がせば、これもまた自由となった下敷きの警官が銃口を何処へ向けるか判らない。

 

 そんな緊迫した状況の中で唐突に、馬乗りになった警官が頭を退け反らせる。

 

 頭突きでもする気か?という考えは、彼が大笑いする様に口が開いた瞬間に消え失せた。その口の中から覗く黄色の乱杭歯が嫌な輝きを放つ。

 

 待て。待て待て待て——!!

 それが活性化したMAGの光だと気付いた俺は慌てて駆け出すも——一歩間に合わず、ぞぶりと音を立てて歯が肩に突き立つ。

 「——ッあ゛あ゛あ゛あっーーーっ!!」

 「ウウウオアアーーーッ!!!」

 ブチブチと肉を食い千切る嫌な音と共にドロップキックが警官……いや、警官もどきの顔面を捉え、数メートルの距離を吹き飛ばす。

 

 

 「ゔーーっ、うゔゔーーっ、ううーーっ……」

 「し、しっかり……気を、意識を保って!頑張って下さい!」

 強かに床へと打ち付けてしまい痛む身体を気にする間もなく噛まれた警官の方の様子を窺う。

 しかし彼の瞳は焦点が合わずグラグラと揺れ続け、口からダラダラと泡混じりの涎を垂れ流しながら譫言のように呻くだけ。肩の傷口はあまりにもグロテスクで、見ている方の頭がおかしくなるくらいに血が溢れ出していて……痛みで失神出来ていない事が地獄に思える様な状態だ。

 

 「死なせて堪るか……!」

 応急処置の為に自分が着ていたロングTシャツを脱いで帯状に巻き、厚くなった部分を肩の傷へと宛てがいそのまま襷掛けのように反対側の脇へ両腕部分を回してきつく縛る。

 シャツには汗が染み込んでいて不衛生な上に固定も甘いが、他に適切な道具も回復魔法もない今の状況でこれ以上は手の施しようがなかった。

 

 そしてそうした不足のツケは警官本人へと向かい、3分と経たず彼の顔色はみるみると血の気を失い呻き声の一つさえ上げず呼吸も浅く短いものへと変わる。

 

 

 死。

 

 

 猛烈な“死”のイメージが、出血を抑える為に患部へ押し当てた掌から滴る血液と共に脳裏へとこびり付く。そして、同時にこれ以上の打つ手がない事も理解してしまった。

 

 此処まで来るのでさえ命懸けだったのに、怪我人を抱えながら戻るのは無理だ。唯一の仲魔であるヘルハウンドは回復魔法を使えない上に満身創痍で、戦闘に耐えられる状態とは言い難い。

 

 

 冷たい汗が頬を伝う。

 

 

 間に合った筈なのに——自分の僅かな油断と迷いが一人の人間を死に追いやってしまいつつあるという現実が重石の様にじわじわと心を圧し潰していく。

 

 

 

 「畜生……畜生、畜生畜生畜生!どうすりゃ——どうすりゃあいいんだよっ、俺はっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——俺は余りにも……無力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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