機動戦士ガンダム 死のデスティニー (ひきがやもとまち)
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PHASE-1

最近、ガンダム二次作の更新が滞っていましたので、お詫びと言ってはなんですが前にご要望があった『死のデスティニー』だけを独立させて限定的に連載化してみました。内容が内容ですので一先ずは限定公開とさせて頂いてますのでご了承くださいませ。


 屋敷が火に包まれている。夜空の漆黒が血と炎と憎しみの赤で染め上げられている。

 

《こんなことは、もう本当に終わりにしましょう! 我々は殺し合いたいわけではない! こんな大量の兵器など持たずとも、人は生きていけます! 戦い続けなくとも、生きていけるはずなのです!》

 

 街頭に設置されたモニターから、プラントのデュランダル議長による演説の映像が垂れ流されて、地球の各所では市民たちによる暴動が多発していた。

 

“ロゴスを倒せ! ロゴスを殺せ!

 奴らこそ平和と俺たち市民すべてにとっての敵なんだ!”

 

 ――と、皆一様に目を血走らせて手近にあった凶器を携えて、デュランダルが『対話に応じて頂くため』『やむを得ず公開した』彼らの素性と住所にあった屋敷を襲撃するため、自分たちを勝手な理由で死なせてきたバカな連中を皆殺しにしてやるために屋敷を包囲して数の力で押し潰しにいく。

 少数の警備兵は銃で武装しているが、構うことはない。多少の犠牲なんて奴らに殺された人々の数と、これからも殺され続けていたかもしれない死体の数を思えば今このときだけは端数として割り切れる。

 悼むのも悲しむのも、敵討ちと復讐を終えた後でいい。

 

 今はただ・・・・・・殺しまくりたい。

 それだけが暴徒と化した群衆たちの嘘偽らざる本心だったから・・・・・・。

 

「た、助けてく――ぎゃぁぁぁっ!?」

「死ね! ロゴスの悪魔め! 死んで地獄に落ちて後悔しやがれ!」

 

 また一つ、ロゴスのメンバーが所有する屋敷が落ちて、本人が暴徒たちに手で射殺される。

 彼の家族もまた同様だ。自分たちの家族を殺して得ていた金で肥え太った豚のようなガキと女など殺されて当然。いや、むしろ殺して敵を討つことだけが自分たちに奪われることなく残されていた、たった一つの権利なのだと彼らは信じて疑わずに、また一つ。また一つとロゴスの屋敷を血の海に変え、地獄の業火で焼き尽くしてから去って行く。

 

 ・・・そんな地獄を創りに来た者たちが、ここにもまた一団。

 

「オラァッ! ここがロゴスの屋敷かぁ!? 殺してやるから隠れてないで出てきやがれ悪魔共!」

 

 扉を蹴破り、建物の中へと突入する群衆。

 そこは他のメンバーの屋敷と違い、比較的近代建築様式が用いられたペンションのような外観を持つ、ロゴスメンバーが住むには異色の建物だったが暴徒たちは気にもしなかった。

 

 どうせ燃やして、殺して、壊しまくるためだけに訪れた場所なのだ。跡形もなく消え去ることが確定しているモノがどの様なモノであろうと意味はない。どうせこれから自分たちの手で壊し尽くされ殺し尽くされるだけのガラクタに変わってしまうのだから。――そう思っていた。

 

「え・・・?」

 

 しかし彼らは屋敷に突入した瞬間、意外すぎる光景に騒ぐのも叫ぶのもやめて、虚を突かれたように黙り込まされてしまっていた。

 明かされたロゴスの真実と、目の前に広がる現実の風景があまりにも懸け離れすぎたモノだったから―――

 

「ようこそ、皆さん。歓迎いたします。ご馳走を用意しておきましたので、ごゆるりとどうぞ」

 

 そう言って、ゲストを迎えるパーティー主催者のごとき丁重な態度で両手を広げて指し示してくる先にあった物は――ホール全体を敷き詰められるように並べられている、ご馳走の山。

 テーブルの上に載せられている出来たてホヤホヤの湯気を立てている、テレビでしか見たことがない酒池肉林の数々。

 その芳しい匂いに鼻腔をくすぐられ、屋敷を襲いに来た暴徒の一人が思わず「ゴクリ」と喉を鳴らす。

 

「安心して下さい。毒などは入っていません。これは所謂、賄賂という奴ですから」

「ワイロ?」

「はい」

 

 その人物――写真付きで公開された、年寄りばかりのロゴスメンバーの中で唯一の“子供”だった少女。

 銀髪と青い瞳と古風な軍服が印象的な小さな女の子は、暴徒たちの代表格をジッと見つめ返しながら自分からの要求を突きつける。

 

「こちらが求める条件はただ一つです。・・・私を見逃して頂けませんかね? もちろん無傷で。

 代わりと言っては何ですが屋敷にあるモノはすべてあなた方に差し上げますし、警備兵には拳銃一発撃たせないことをお約束させて頂きます。謝れと言うんでしたら、いくらでも謝罪いたしましょう。

 どうです? 悪くない条件だと思われませんかね? そうすればお互い誰一人死ぬことなくここから逃げ出せます。私は無駄な人死にがとてもとても嫌いなんですよ」

 

 平然と宣うロゴス最年少メンバーの言葉に、暴徒たちの代表格は言うべき言葉を見失い――次いで激高した。

 

「ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 あまりにも身勝手でバカな言い分。自分たちを無駄に殺しまくってきたくせに、今更になって主張する言葉ではなかったし、自分たちの怒りが物と金で収まるなら警察はいらない!

 

「あれだけ殺しておきながら、自分が殺されそうになったら命乞いだと!? ふざけるな!

 ベルリンでお前たちに殺された人たちの家族にも、同じ言葉を言うつもりなのかテメェらは!?」

「ええ、もちろんです。アレの担当はロード・ジブリールさんで、私には一切知らされぬまま進められていた作戦でしたからね。

 あんな馬鹿げた作戦をもし知っていたなら間違いなく止めていたでしょうし、そう思ったからこそ彼も私に内緒で事を進めてたんでしょうから、軍事部門の作戦立案が担当だった私にはどうすることもできない事案でしたからねぇ。

 可哀想だとは思いますし、愚行に巻き込んでしまって申し訳ないとは思いますけど、死人を生き返らせられる訳でもありませんのでね。ゲームと違ってお金で人は甦りませんから、どうしようもありません。

 私が遺族に言えることは一つだけ『これ以上無駄な被害を出さないようご協力下さい』と、頭を下げてお願いをする。その程度ですよ、ロゴスの持つ力なんてものはね」

 

 被っていた軍帽を脱いで顔を煽ぎながら平然とした口調で宣う、民衆にとっては勝って極まりない理屈。

 自分は知らなかったから、どうしようもなかったから、だから仕方がなかったんだ、諦めろ? ――ふざけるなっ!

 それをどうにかするのが政治家たちだろうがよ! そのために俺たちは税金を払ってお前らを養ってやってんだ! 給料分は働け税金泥棒共! できなけりゃ俺たちに金返せ!

 命を返せ! 家族を返せ! 返せないならせめて―――俺たちの手で殺されてしまえぇぇぇぇっ!!!!

 

 

「死んで地獄へ降りやがれぇぇぇぇぇっ!!!!!」

「交渉決裂ですか。残念ですよ、本当に・・・。――と言う訳なので、撃ってよし」

 

 

 自分に向かって迫り来る群衆のことなど気にもせず、軽く指を振り下ろして誰かに対して少女が何かを命令した次の瞬間。

 

 破砕音が響くとともに暴徒たちは、少女の背後にあったマジックミラーの壁が打ち砕かれて、中から現れた数十名の完全武装した兵士たちによって次々と蜂の巣に変えられていき、訳もわからないまま殺されていく哀れな殺人被害者の群れと成り果てていく。

 

 数十秒後、その場で生き残っているものが無傷の加害者たちだけになっていた頃。屋敷の周囲から喧噪の叫び声は途絶えていた。

 変わって響いてくるのは、悲鳴と絶叫と命乞いの金切り声と、そして銃声。

 

 伏せていた兵たちが合図と共に一斉に立ち上がり、屋敷を取り囲んでいた暴徒たちの背後から半包囲して退路を断ち、完全包囲の輪の中に閉じ込めてから『自ら銃を持ち敵を殺すため戦場に赴いてきた“敵”』として殲滅させていく。

 

 

「ひぃぃぃっ!? 助けて! 助けて! 殺さないでブジャ!?」

「お、お願い! 私はどうなってもいいけど、この子だけはオギャッ!?」

「わ、私は自分の意思でここに来たわけじゃないんだ! ただデュランダルに乗せられグベハァッ!?」

「お、お、お、お金! お金あげます! いくらでもお金あげますから殺さないでお願いします! 死にたくなギニャァッ!?」

 

 

 ・・・つい先ほど、自分たちのリーダー格が命乞いしてきた敵に対して、どのような返事を返したかなど彼らは知らない。知ろうとも思わないし、知る必要性すらないと確信しきってこの場所に来たのだろう。

 それが仇となり、自らの死刑執行所にリーダー格が舌でサインしてしまったことなど知る由もないまま殺されていく群衆。

 

 やがて偽装されたシャッターが開いて、屋内から装甲車まで出てくる光景を目撃させられた彼らに、抵抗する意思や勇気など残っているはずもない。 

 敵討ちの復讐という名目の元、一方的な虐殺をおこなう加害者となれることを想定して、それ以外には想定しないまま襲撃に参加してしまった感情任せの群衆たちに、数の上でも装備の面でも上を行かれた完全武装の軍隊相手に完全包囲まで敷かれた体制下で「権利と自由を守るために戦え!」と言う方が無理なのである。

 

 一人、また一人と殺されていく暴徒たち。

 安全に距離を保ったまま反撃を許さぬ統制射撃で殺し尽くしていく兵士たちのヘルメットで隠された心境は、殺されていく被害者たちが思っている以上に苦々しい。

 

 彼らとてロゴスのやり方に心から賛同しているわけではなかったのだ。直属の上司は冷徹非情だが公正であり、軍人としては非常に正しく責任感にもあふれている。

 やらされる作戦内容がたしょう血生臭すぎることは問題であっても、殺されていく連中がクズばかりなので然程の問題とは思ってこなかった者たち。

 

 だが今回のこれは余りにも―――見苦しすぎる・・・・・・。

 

「死にたくねぇよぉ――っ!! 母ちゃぁぁぁぁぁぁっんブベバァッ!?」

 

 また一人、暴徒が叫び、暴徒が射殺されていく。

 その断末魔の叫び声が彼らの不快さを一層刺激させられる。――ふざけるな、と。

 

 自分たちだって死にたくはない。愉しみで人を殺す変態になった覚えもない。

 軍人だから、命令だからやっているだけだ。

 それなのに何故、ロゴスの悪魔と同類呼ばわりされて、まとめてリンチで殺されるのが当然だと決めつけられなけりゃならないのか?

 

「畜生! お前らは悪魔だ! ロゴスに飼われて尻尾を振る飼い犬共! 地獄に落ちやがベグギャッ!?」

 

 仲間を蹴飛ばし、自分だけでも逃げ延びようとした暴徒の一人が足を撃ち抜かれ、逃げられないと悟って最期に放った恨み言を言い終わる前に頭部を吹き飛ばして射殺した兵士の一人がつぶやき捨てる。

 

「・・・俺たちが悪魔なら、お前たちは餓鬼だ。いるべき場所へ帰れ。地獄へな・・・」

 

 彼はジブリールが電源すら切らずに放置したまま避難していった屋敷の映像から、自分の同僚が民衆に殺され、死体に唾を吐きかけられる様を目撃していた一人だったのである。

 

 彼らに言わせれば、今になって殺せ殺せと喚き立てるぐらいなら、何故もっと早く殺してしまったのかと思わざるを得ない。

 戦争で儲けようなんて考えている碌でなしの集まりが、ロゴスのメンバーなのだ。普段から表の顔だけでも十分すぎるほど黒い噂は立っていた。それらを糾弾する声も当然ながら複数あったのだ。

 

 それら全てに眉をひそめながらも、結局は「どうしようもない」で終わらせてきたのは何処の何奴だ? 不平不満をため込んでも金で矛を収めてやってきたのは何処の誰様たちだった? 隣の家の家に住む反戦主義者の隣人が非道な報復を受けているのを知りながら、見て見ぬフリをして今まで放置し続けてきたのは、何処の誰で何奴らだったのか?

 

 ――答えたくないか? なら言ってやる。教えてやる。

 他の誰でもない、お前たち自身だ!! お前たちこそ殺人者の仲間たちだ!

 俺たちに地獄へ落ちろというなら、お前たちも一緒に落ちろ! それが筋ってもんだし、人の道だろうがクソ野郎共!!

 

 

 ・・・やがて残った最期の一人が、友人なのか他人なのか下半身を失った血まみれの上半身だけを抱きしめながら瞳一杯に血涙を湛えて自分を囲んで銃を突きつける兵士たちを睨み据え、この世全ての不公平と理不尽を恨む呪詛をロゴスと彼らの仲間たちへの非難の形を借りて顕現させる。

 

「――貴様ら権力者はいつもそうだ! 多数を救うために少数の犠牲が必要だったんだと自己正当化して、俺たち民衆を政治の道具として使い捨てる! だが、貴様らの親兄弟が犠牲となった少数の中に含まれてたことが一度でもあったと言えるのか!?」

「・・・・・・」

「構いません、言わせてお上げなさい」

 

 糾弾し、弾劾する彼に向けて引き金を引こうとする兵士たちをやんわりと制し、近くの兵士の腰に差してた軍用ナイフを一本借りてノンビリとした歩調で近づいてくる軍服の少女。

 

「世の中は不公平だ! 理屈に合わない! 戦争で何万人殺そうと勝ちさえすれば英雄と称えられる!

 都市を燃やして住人を虐殺しても『国家のために、平和のためには必要だった』と言えば正当化されて裁判にかけられることもない!

 なのに俺たち民衆が家族を殺された復讐したら殺人鬼扱いか! 反逆者呼ばわりか! お前らの方がよっぽど人殺しじゃないか! 殺人鬼じゃないか! 戦争犯罪人と呼ばれるべきなのはお前たちの側じゃないのか!

 どれだけ俺たち民衆を殺しまくって犠牲をだそうと、勝ちさえすれば英雄と呼ばれる世の中全部が間違っている!!!」

 

「なら、あなたが世の中の誤りを正して見せなさい」

 

 スパッと、刃物が肉を切る音が聞こえて、ブシャー!と噴水のように水分が吹き出す音が響き、頸動脈を切られて事切れた男の死体を軽く蹴飛ばすと、持っていた上半身だけの死体がゴロリと横に転がり落ちる。

 

 ――そして出てくるのは、死体で隠して見えなくしていた、男の腹に巻かれた大量のTNT火薬。

 ライフルで死体ごと撃ち抜いていたら今頃どうなっていたかと怯える兵士たちに向かって、軍服姿の少女は軽く肩をすくめて見せる。

 

「夜中に子供のいる家を囲んで「正義正義」と騒ぎたて、社会批判をしたがる大人のやる事なんて、この程度のものです。

 世の中が間違っていると思うなら、自分が正しいと信じる在り方に変えてしまえばいいだけのこと。

 やるべきことも成そうともせず、他人にされたことばかりを批判して、自分が今やっているのがテロでしかないと言う現実を見ようともしない口先だけの詭弁家が唱える正しい世の中なんてご都合主義社会に決まっているのですからね・・・バカバカしいですよ、こんな人の自己陶酔にまじめに取り合って心中させられるなんて言うのはね」

「・・・・・・」

 

 無言のまま、気持ち悪いものでも見るかのように男の死体を距離を置いて見下ろしていた兵士たちの元に、やがて数機の軍用ヘリが到着する。

 

「セレニア様、お迎えに上がりました。遅れて申し訳ございません、離陸を邪魔しようとする暴徒どもの駆除に手間取ってしまったものですから・・・」

「構いませんよ、多少の遅れは想定の内です。――皆様方は?」

「全員、ヘブンズ・ベースを目指して逃走中とのことであります。ジブリール様からも、一刻も早く合流して欲しいとの嘆願と言いますか、悲鳴が届けられておりました。詳細はこちらに」

「結構です。では行きましょうか。今のところ他に行ける場所もなさそうですからね」

『ハッ! 承知しました!!』

 

 それぞれが分かれて所定の移動用ヘリに搭乗し、南極にある地球連合軍の一大拠点ヘブンズ・ベースを目指して機を浮上させていく。

 ロゴスを見捨てるにしろ何にしろ、今のままでは部下たちを降伏させてあげても報復の対象として生け贄代わりに殺されかねない。なんとか彼らの今後の生活保障と命の安全を確保してあげるのが上に立つ者、指揮官としての義務と責任というものだろう。

 

 やがて機が一定の高度まで浮上すると警告が発せられてくる。この屋敷がある国の政府がプラントに寝返るため、手土産となるロゴスメンバーの身柄を要求してきたのである。

 

『――プラント側に引き渡されるまでの間、貴殿と部下の方々の安全は我が国が責任を持って保証する。

 貴官らにも人として良心があるはず。自らに非なしと主張するならば尚のこと、国際法廷の場で自らの潔白を主張し、正義と真実の名の下、公平な裁きにより無罪を勝ち取るべ――』

「対艦ミサイルを発射してください。目標はこの国の国防拠点です。位置は事前に入力しておいたデータがあるはずですから、Nジャマーは障害になりませんよ」

「了解。発射します。ファイヤ」

 

 黙々と命令を実行し、政府所有の建造物を破壊させた軍服の少女はマイクを手に取り、途中から沈黙したままの相手に返事を返してやる。

 

「黙って私たちが逃げるのを見て見ぬフリしなさい。今まで通りと変わらず最期のお勤めです。そうすればこれ以上は撃ちません。言い訳も用意してあげますよ」

『・・・・・・』

「はぁ・・・、判りました。じゃあ――私の言うこと聞かないと自暴自棄になって市街地を無差別爆撃しちゃうぞー。無辜の市民に大勢の戦争被害者を発生させたくないなら、無駄な抵抗はやめて私たちを通しなさーい。本当に撃っちゃいますからね~? なんならもう一発いきますか~?」

『市民を人質にするとは何と非道な連中だ! ロゴスとはやはりそう言う奴らだったと言うことだな! やむを得ん! 市民を守る義務がある我々としては諸君らの逃亡を見逃してやらざるをえんだろう! だが、心得ておけ!

 非道な手段で自らの過ちを正当化しようとする者たちは、いずれ必ず正義の刃で裁かれる運命にあるのだということを! この屈辱は忘れない! いずれまた戦場で決着を付け――』

 

 ブチンッ。

 

「失礼、セレニア様。周波数を間違えて、ラジオが放送していたバラエティー番組に合わせてしまっていたようです。調整し直しますので、この国の制空権を出るまで今しばらくお待ちくださいませ」

「・・・別にいいですよ、消しておいたままで。どうせバラエティー以外に放送してても茶番でしょ? 同じようなもんですから聞かなくていいです。あと適当にどうぞ」

「了解。適当に任務を遂行いたします」

 

 適当な指示だけを出して横になり、低い天井を見上げる軍服の少女。

 目をつむって考えてみるのは、この戦争の行く末のみ。

 

 

 一体、このバーレスクはどのような三文芝居で幕を閉じるよう脚本には書かれているのだろう・・・? もうすぐ地球に降りてきそうな脚本家殿に訊ねてみたい・・・。

 

 そんなことを考えながら、彼女の乗った軍用ヘリの一団は市街地上空を平然と通過していきながら、政府所有の建物だけを攻撃して治安機関を黙らせていく。

 

 国民を守るための軍隊が政府しか守らなくなった世界の末路を眼下に見下ろしながらヘリは飛んでいく。

 

 何が正義で、誰が悪なのか?

 その答えを知るものは誰もいない。

 

 ただ、それを知りたいと望み希求する群衆たちだけが、満天の星空の下でひしめき合いながら怒号と悲鳴を叫び合い続けている・・・・・・。



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PHASE-2

 鉛色の雲に空を覆われたアイスランド沖に、大小無数の艦船が浮かんでいた。

 ヘブンズベース・・・前大戦において壊滅したアラスカ基地に代わる連合軍の指令本部に逃げ込んだロゴス残党を拿捕するためザフト地上軍と連合から脱退した艦船群とが合流した大同盟艦隊による総攻撃が行われようとしていたのである。

 

 

「要求への回答期限まで、あと5時間・・・・・・」

 

 ミネルバの艦橋において、タリア・グラディス艦長が時計を確認しながら呟きを発する。

 ・・・もともとザフト軍の中でもインパルスガンダムを有する艦として中心的な役割を果たすようになっていたミネルバは、ロゴス討伐のため地球へと降りてきたデュランダル議長が座乗艦に指名したことから名実ともに同盟艦隊の総旗艦としての地位を与えられていた。

 

 その船の艦長である彼女は、開戦初期のように若造として侮られることもなくなり、尊敬の念と憧れと・・・それと同質同量の嫉妬と妬みを向けられる立場に今ではなっている。

 

「やはり、無理かな?」

 

 そんな彼女にゲスト席からお声がかかる。振り返った先にプラント最高評議会議長デュランダルが困ったような笑顔を浮かべて席に座り自分を見つめてきていた。

 彼は今回の作戦開始に先立ち、ジブラルタル基地を出発するおり「ヘブンズベース」に対して降伏勧告を通達していたのであるが、未だ何の回答も返されないままなのである。

 

『最後まで諦めることなく平和的解決の道を探り続ける』とする、彼の政策方針に則った行動ではあるものの、艦橋から見上げれば民間のヘリコプターが空を飛び、氷の海には明らかに軍属とは思えない船舶の姿があちらこちらに見受けられ、さらにはテレビの生中継により今回の壮大な包囲殲滅戦の経緯が世界中に放送されながら戦うことになる状況を客観的視点で見たならば。

 

(・・・まるで子供のゴッコ遊びよね・・・)

 

 と、不味い皮肉の一つも浮かんできてこざるを得ないのが現状におけるグラディス艦長の立場であり、素直にそうとは言えず沈黙を返さざるを得ないのもまた彼女の難しい立場というものでもあった。

 

「戦わずにすめば、それがいちばん良いのだがね・・・・・・」

 

 やりきれない表情でひとりごちながら、一瞬だけ議長が考えていたのは別のこと。

 ・・・先日、ロゴスメンバーの情報を公開して市民を暴徒化し、テレビ中継による演説で煽り立てることで襲撃させたときのことだ。99パーセントまで計画通りに推移していた計算に、たった一点だけ黒ずんだ不快なシミが付けられていた。

 

 ロゴスの中で最年少メンバーの屋敷を襲撃した暴徒たちが返り討ちに遭い、逆に全滅させられてしまったのである。

 そこまでは想定の範囲内であり、選択肢の変更で対処できる程度の誤差でしかなく、むしろ被害者たちを悼む想いが、対ロゴス連合軍にあらたな憎しみと正義の炎を宿してくれると敵自らが掘った墓穴に祝杯を挙げたくなったものだが、現場の映像を見せられた瞬間、そんな想いは1ミクロンの塵も残さずこの世からきえてなくなってしまった。

 

 ヒドかった。余りにも酷い有様だった。それこそ、こんなものを誰かの目に触れさせてしまえば折角燃え上がった対ロゴスへの怒りと憎しみの炎に冷や水をぶっかけられることは間違いようのないほどに凄惨すぎる光景。

 

 それは、ロドニアにあった研究所を見たことがある者でさえ吐き気を堪えられなくなるほど悲惨すぎるスプラッター映像がごとき現実の光景。

 串刺しにされて野晒しにされた一般市民の死体を切り刻み、被害者たち自身の血文字で綴られていた文章にはこう記されていた。

 

『我々をこうしたいのなら、こうされる覚悟を持って攻めてきなさい』

 

 ・・・デュランダルは映像を見たその場で証拠隠滅と、この件に関しての徹底した情報管制を敷かせるよう厳命した。

 

(あんな真似が出来てしまう人間が、ロゴスにいたとは予想外だった・・・可能であれば、余計な小細工を労する時間的余裕を与えず一気呵成に攻めかかり殲滅してしまいたいのが本音なのだがね・・・)

 

 そう思いながら、彼もまた本音を口に出す訳にはいかない立場にある身である。

 今は個人的感情で先走っていいときではない。

 このあと数時間後には、新しい世界を始めるための狼煙となる戦闘がはじまるのだから・・・・・・

 

 

 

『こちらヘブンズベース上空です! デュランダル議長の示した要求への回答期限まで、後三時間と少しを残すところとなりました』

 

 上空を旋回しながら戦況を撮影し、コメントまでしてくれる親切なマスコミを乗せたヘリコプターが同盟艦隊直上を飛行しながら全世界に向けて生中継を行っている。

 

『――が、未だ連合軍側からは何のコメントもありません。

 このまま刻限を迎えるようなことになれば、自ら陣頭指揮に立つデュランダル議長を最高司令官としたザフト、および対ロゴス同盟軍によるヘブンズベース攻撃が開始されることになる訳ですが・・・・・・おや? あれは―――』

「・・・? なんだ・・・?」

 

 アナウンサーによる実況解説の声が途中で止まり、不審げな呟きが発せられるのを艦内放送で垂れ流しにされていたものを聞き流していたデュランダルの耳にも入る。

 卑劣極まるロゴスらしい通告抜きでの先制攻撃でも仕掛けてきてくれたのかなと、艦隊後方の安全圏内に旗艦を配置していた彼は気楽にそう考えていたのだが、実際に目にした光景はやや意表を突くものであった。

 

「・・・光?」

 

 デュランダルが目にしたもの、それは雲に向かって照射された光だった。より正確に表現すれば、鉛色の雲をスクリーンにして映し出される、どこかの国で撮影された何かの映像。

 それは映像だけで音は付属していなかったが、ヘブンズベース側から流されてきた音声により映像の内容と一致してリアリティと説得力が付与されていた。

 

 その映像の第1シーンは、こういうセリフから始まる。

 

 

『――気をつけろ、ステラ! そいつはフリーダムだ! 手強いぞ!!』

 

 

「な・・・にぃぃ・・・・・・っ!?」

 

 

 その映像を見せられ、その音声を聞かされたとき。デュランダルはその一言だけを呟くのがやっとの心理的窮状に追い込まれていた。

 

 それはロゴスを炙り出すために彼が使ったのと同じ、燃えさかるベルリンの映像。

 ――そのノーカット版が、今全世界に向けて同時生中継がなされている前で無料再放送で垂れ流されている。

 ジブリールの屋敷を占拠した部隊が回収したはずの映像が、自分たちが突入するより大分前にロゴスメンバーが全員で観戦していたその映像を、どこかの誰かが録画させ続けていたもの。

 

 それが今、ザフト軍の手で連合政府が秘匿し続けてきたロゴスという真実を公開された市民たちの前に、連合軍の側からも提供できる真実として情報公開されたことにより・・・・・・一つにまとまりかけた世界に再び大混乱をもたらそうとしていたのである。

 

 憎しみという名の友情で結ばれた対ロゴス同盟軍の絆は、真実によって軛を打たれ、亀裂を入れられてしまった。

 事実を公開された議長としては、自身が隠していたフリーダムとアークエンジェルの存在について何らかの納得のいく説明を味方になってくれた者たちに対してしなければならない。

 事実を上回る真実性を持った『虚構』によって、彼は自らのついた嘘を正当化して事実に対抗しなければならなくされてしまったのである。

 

 偽りの団結によって結ばれた、憎しみの同盟軍の絆に亀裂が入るまであと残り三秒・・・・・・

 

 

 

 

 悪い意味で盛り上がりだした対ロゴス同盟艦隊を横目に見ながら、対極に立つヘブンズベース内のロゴスメンバーは白けた気持ちで、一人の若者を眺めていた。

 盛り下がるメンバーの中で、一人だけ心の底から楽しそうに嬌笑を上げ続けている若者。

 ブルーコスモス盟主、ロード・ジブリール。

 彼は自らが選んで軍事部門を一任していた少女の手腕に、心からの拍手喝采を送りながら、憎むべき宿敵デュランダルの晒す醜態振りを見下しながら大声出して笑い転げていたのである。

 

「ふはははははっ! 見てください皆さん! ご覧ください皆様方! あのいけ好かないデュランダルと、奴の口車に乗せられてノコノコこんな所まで出張ってきたお調子者の寄せ集めどもが右往左往していますよ! どちらの方が正しくて真実なのかと、怒鳴り散らしながらね。近来にない名喜劇だとは思われませんか?」

「ハッピーエンドで終われなければ、喜劇とは言えんじゃろうな」

 

 若者の先走りを窘めるように、皮肉るようにロゴスの一人である老人が葉巻に火を付けながら軽い口調で嫌みを言った。

 もっとも、今このときのテンションが絶好調にあるジブリールに対して、たかだか嫌み一つで効果が上げられるなら苦労しない。

 彼は「フッ!」とせせら笑うとモニターの一つに映し出された、愛娘とも呼ぶべき最愛の少女型敵対勢力自動殲滅マシーンに対して心からの笑顔を向けて言葉を発する。

 

「見事だ! セレニア君! これで敵の団結はバラバラ・・・正義の味方や神のような人間などいないのだという事実を額縁付きで我々から教えてもらえた民衆は、偽りの絆を保つことなどもはや出来はすまい・・・」

『・・・どーも。お褒めいただき恐悦の至りです』

 

 いつも通り、やる気を感じさせない口調と態度は今まで彼を苛つかせることが多かったものだが、こうなってみるといかなる窮状に追い込まれても冷静さを失わない落ち着き払った名将の素質が彼女にあったことを証明するもののように思えてくる。

 

 ――やはり自分の目に狂いはなかった! 彼女を抜擢した自分は正しい!

 

 ・・・愛娘をウソ偽りなき本心から褒め称えながら、同時に自分自身の先見の明を自画自賛する器用さを発揮させながら、それでもジブリ―ルの有頂天振りは止まらない。

 

「しかし、空に浮かぶ雲に光で映像を映し出す演出か・・・・・・アルミューレ・リュミエールの光波防御帯技術の応用に、こんな使い道があったとは思いもしなかったな。今度は私もなにかの折に採用してみたいほど美しい技術だよ、セレニア君」

『であるなら、まずは今を乗り越えることに全力を尽くすといたしましょう。“今度”を迎える前に死んでしまったら堪りませんからね』

「乗り越える・・・? ハッ! 何を言っているのかね、セレニア君。我々は攻めるのだよ。奴を、今日ここからね。

 そのためにこそ君が立案した万全の迎撃作戦であり、誘い込まれた獲物を捕らえるためのトラップなのだろう? ――私は君を信頼しているのだよ・・・セレニア君。

 君“は”、私の信頼を裏切らないでほしいのだがね・・・?」

 

 ベルリンで失敗したファントムペインのネオ・ロアノークを引き合いに出して脅しをかけるように言ってくるジブリ―ルだったが、事この少女相手には糠に釘だ。

 軽く肩をすくめて見せて、いつも通り覇気に欠ける返事を返してくるだけである。

 

『失敗したときの処罰はご自由に。責任者とはそう言うものですからね。別に責任逃れをする気はありませんし、逃げるつもりもないですので適当にどうぞ。

 今は失敗したときのことより、勝つための準備に全身全霊を傾けたい時ですのでね』

 

 老人たちとは違う表現で皮肉を返してくるセレニアに、ジブリ―ルはまたも「フッ!」と鼻を鳴らす。

 

『とにかく皆様方は待っていらっしゃれば宜しいのですよ。映像を見せられた敵軍が右往左往している姿をご覧になりながら、ノンビリと葉巻でも吸いながらごゆっくりと・・・ね?』

 

 ゴホッ、ゴホッ、と。一部のロゴスメンバーから咳き込む声が聞こえてくるのをさり気なく無視するため、VIPルームに同席していた連合軍の高官がジブリ―ルとセレニアに確認とも報告とも判然としない言い方で話しかけてくる。

 

「・・・デュランダルは映像を我々が加工したデマであると味方に説明し、我が方に対しても映像が真実であることの証明と、偽の映像で人心を惑わす悪辣さを糾弾する通信を呼びかけ続けてきておりますが、如何いたしましょう?」

『完全無視です。好きなだけ吠えさせてお上げなさい。飽きたらそのうち勝手に攻めてきますよ。その為に来た人たちですからね。手ぶらじゃ帰れませんし、議長さんの立場がそれを許してくれないと思いますから。

 ――ああ、でも最初に届けられてた降伏勧告にだけは返事をしておいてください。“拒否します”とね。

 “この上は武人らしく正々堂々剣によって雌雄を決しましょう。約束の刻限まで互いに英気を養い、悔いの残らぬ戦をすることを連合の名においてお約束いたします”・・・とかも付けちゃっていいかもしれません。言っても損にならない社交辞令は言っとくべきです』

「・・・了解しました。先方にはそのように通信を送り返し、それ以外の通信はすべて聞き流すよう担当者には通達しておきます」

 

 礼儀正しく述べながらも、その高官の表情は露骨すぎるほど「エゲツねぇ~・・・」と書かれていたが、声に出してなければ問題にはならない。それが大人の社会で守るべきマナーという名のルールと言うものである。

 

 

 

『おそらく敵は、脱走艦は出すことなく一応の団結は保ったまま攻撃を開始すると思われます。その際には引きつけて撃つを味方に徹底しておいてくださいね? わざわざ要塞に立てこもっている側から好き好んで地の利を捨て、出戦を仕掛ける必要性もとくにありませんから。

 デストロイ三機が出れば、通常の機体でアレに対抗できないことは既に知ってるザフト軍としても対抗できる数少ない駒、インパルスを出してくるでしょう。あるいは開戦から結構経ちますし、そろそろ新型の高性能機を完成させている可能性もありますから、性能的に我が方が有利とも限りません』

 

 

『なので待ち戦です。敵艦隊と機動戦力を分断させて各個に撃破するオーソドックスな手法でいきますよ。各員は油断することなく、落ち着いて指示に従ってください。そうすりゃ簡単には死にませんし、死なせないよう私もできる限り努力しますから。

 ――我が方は現在のところ負けていますが・・・・・・まぁ、チェックをかけられただけでチェックメイトはまだされていません。諦めるにはまだ早いでしょう。

 それでは皆さん、自分が死なないように頑張って戦かってくださいね。以上』



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PHASE-3

「――時間だッ!!」

 

 ミネルバの艦橋でデュランダルは座席から立ち上がって宣言した。

 彼が指定して敵が受け入れた開戦時間がようやく訪れ、両軍からの攻撃が開始されたのである。

 

 ――敵の手で秘匿していたウソを暴かれた彼は、ここに至るまで味方してくれた同盟軍各位に対して『今はロゴスを討つことが何よりも優先』『戦い終わった後に正式な説明と謝罪を約束する』・・・という論法で不承不承ながらも納得させて引き下がらせていた。

 そのお陰で同盟軍から今のところ脱落者は出ていなかったが、デュランダルを見る彼らの視線に厳しいものが混じってしまうのは仕方のないことであっただろう。

 

 刻限を迎えたヘブンズベースから、一秒の狂いもなく撃ち出されるミサイルの雨を目視した瞬間に、ザフト、対ロゴス同盟軍も敵の動きに呼応して動き出す。

 

「我らもただちに攻撃を開始する! ミサイル発射! 降下揚陸隊を発進準備させろ!」

「――コンディションレッド発令! 総対戦用意!!」

 

 グラディス艦長が事務的な表情の仮面で、言いたいこと聞きたいことの山にフタをしてから、議長の攻撃開始命令に従い同盟全軍に個別の指示を下し出す。

 

 ――誰が間違っていて悪いにせよ、とにかくは勝って生きて帰ることが先決だ!

 

 艦長として部下たちの命を預かる者の立場が言わせた攻撃命令。それに従って同盟軍先頭集団からモビルスーツ隊が発進されていき、敵部隊と正面からぶつかり合う。

 刻限を守って正面からぶつかり合うオーソドックスな始まり方をした戦闘は、両軍共に有利でも不利でもない形での開戦だったが、すぐにザフト軍モビルスーツ隊の方が優位に立ち始めた。

 

 当然だ。個人の能力がものを言う戦い方で、コーディネーターがナチュラルに後れを取るわけがない。不意打ちでもされない限り、正面決戦でザフト軍が連合側に圧勝するのは必然的帰結と言っていい。

 敵も遅まきながら事実を認識できたのか、次々と機首を翻して元来た道を尻尾を巻いて逃げ帰り始める。

 ある意味では、潔く良い退き方と言えないこともなかったが、威勢よく掛かってきた割には「口ほどにもない」感は拭えない。ザフト軍のパイロットたちも、やはりそう思った。

 

「よぉし、今だ! 撤退する敵の背後から食らいつき、敵要塞に肉薄しろ! 追撃戦だ! 急げ!」

 

 議長からの命令に、今度はグラディスは即応せずに振り返る。

 

「議長、それでは作戦が――」

 

 成り立たなくなる――そう続けようとした彼女の言葉を議長は穏やかな笑顔で手を上げることで制止させる。

 

「わかっているよ、艦長。私もこの攻撃で敵要塞すべてを攻略させようなどとは考えていない。

 だが、降下揚陸部隊が軌道上から降りてきたときに挟撃できるよう、敵要塞の一角を橋頭堡として確保しておくことは無駄にならないだろう?」

「・・・・・・」

 

 グラディス艦長は用心深く沈黙を保ち、軍帽をかぶり直すフリをしながら敵要塞の見える窓の方に身体ごと視線を戻す。

 ・・・議長の言ってることも間違いではない。たしかに敵の砲手も逃げてくる味方ごと敵を撃つのはためらわざるを得ないはずだ。

 あるいはロゴスやブルー・コスモスなら躊躇うことなく撃ってくる可能性もあるが、それを言い出したら切りがない。何でも有りになってしまう。それでは作戦もクソもない。

 

 ――それに・・・だ。

 

(・・・何より議長の求心力が低下してしまっているのが大問題だわ。ここは何も言わずに彼の命令に従って作戦を成功に導くことに貢献する以外にないわね・・・)

 

 そう思い、彼女は自分の不満を納得させた。・・・と言うよりも、納得させざるをえない状況に置かれていた。

 デュランダルが嘘をついていたのは事実だし、彼女も彼には言いたいことや聞きたいことが山のようにあるが、それでも彼が失脚してもらっては困ると言うのが同盟全軍にとっての素直な本音だったからである。

 ――彼が抜けた穴を埋められる人材が他にいないからだ。同格の第三人者はいくらでもいるが、第一人者は彼しかおらず、第二人者にいたっては一人もいない。彼が責任を取って引責辞任をした後に、せっかく築いた連合からの脱退組とプラント本国とを結びつけられる存在は残念ながら今のプラントには皆無だ。今までの状態に戻すことなら可能だが、今の友好関係は維持できない。

 

 どれほど怪しく疑問に思える部分が数多かろうとも、デュランダルはザフト軍と対ロゴス同盟軍を纏め上げたカリスマなのは事実だったから・・・・・・

 

 

 

 

 一方その頃、ヘブンズベース司令室。

 

「味方の第一陣が、敵の追撃部隊を引き連れて全速力で撤退してくるのを確認しました。背後の敵部隊、イエロー・ゾーンを突破」

「予定通りだな・・・。よし、セレニア司令の作戦案に従って避難口に指定されたMSハッチを開け。各モビルスーツ隊は所定のハッチから到着した順番に逃げ込んでくるよう命令を伝達しろ。余計な色気は出さずまっすぐ逃げ帰ってくればそれでいいとな」

「ハッ、了解しました。伝えます」

 

 オペレーターからの返事を聞きながら、司令官は軍帽を脱いで顔を煽ぐと、何かを諦めたような表情でポツリとつぶやきを発していた。

 

「・・・偽装銃座による十字砲火の火線上に敵を呼び込む誘い水役、ごくろーさん・・・」

 

 

 

 斯くして戦況は一変させられる・・・・・・。

 

 逃げる敵を追って追撃していたザフト軍の水陸両用モビルスーツ隊は、正面から撃たれないよう細長い列に並んで敵要塞に肉薄していたのだが、ヘブンズベースの砲手たちは作戦通り、敵の細長い脇腹めがけて集中砲火を浴びせ損害を与えた。

 

 さしものザフト軍パイロットたちも、柔らかい脇腹を突かれるとは思っておらず体勢を立て直すため前進を止めて集結し直したところ、今度は基地の地上部分から対潜ミサイルが雨のように撃ち出され、爆発深度を設定されていたそれの被害から逃れるため『コンピューターで予測しやすい正確な回避機動』を取ってしまい更なるダメージを追加で受けさせられてしまう。

 

 モビルスーツが従来の既存兵器を圧倒したのは、敵の攻撃をかいくぐり急速接近してくる複雑な機動を可能ならしめた圧倒的な機動力あってこそのものであり、狙った場所に自分から突っ込んでくるだけでは単なる鉄の的に等しい。

 

 傷だらけになりながらも何とか戦場を離脱して、敵要塞の射程距離外まで逃げ延びてきた彼らは死者数こそ少なかったが、無傷で生き延びれた者の数は更に少なくなっており、そこへ偽りの後退を止めて反転し総反撃するため自分たちの方へ向かってくる連合軍の水中用モビルスーツ部隊を目にしたことで自分たちが罠に誘い込まれたという事実に気づかされ唇を噛みしめながら全速力で元来た道を引き返し始める。

 

 そんな彼らの左右から、来るときには岩場に隠れてエンジンを切り、黙って通してやった連合軍モビルスーツ隊が次々と機体を再起動させて逃げるザフト軍に左右から中距離射撃用の魚雷をつかった挟撃を開始する。

 

 近づいてくればまだしも、水中戦で中距離では当てずっぽうで魚雷を撃ちまくり牽制するぐらいしか出来ることがないザフト軍水中部隊は、『今は敵を倒すよりも逃げる方が先決だ』と判断して攻撃される中をまっすぐ突っ切る道を選択した。

 

 やがて味方の窮地に慌てて駆けつけてきた援軍と合流して安全を確保した頃には、敵軍は既に要塞内へと逃げ帰ってしまった後であり、ピエロを演じさせられるだけで終わったザフト軍パイロットたちはヘルメットを床に叩きつけて怒りに身を震わせた。

 

 

 その頃、同盟軍臨時総旗艦ミネルバの艦橋では。

 

「何ということだ、ジブリールめ!」

 

 デュランダルが語気荒く敵将を罵る声を響かせていたが、誤解である。

 今おこなわれた作戦に於いてジブリールは何もしていない。ただ敵の無様さを眺めながら笑い転げていただけである。

 だが、そんなロゴス側の人事事情など知るはずもないデュランダル配下のザフト軍将校が、焦った声で口を挟む。

 

「議長、これでは・・・!」

「ああ、わかっている――やむを得ん! 彼らにもただちに戦闘を開始してもらおう! デスティニー、レジェンド、インパルスを発進させろ!」

「・・・!! 議長! それでは作戦が・・・っ」

「わかっている・・・っ」

 

 苛立たしげに艦長の声を遮ると、彼は立ち上がってミネルバの窓に歩み寄りながら諭すような声で言ってくる。

 

「君の言いたいことは分かっている。確かにそれが道理だろう・・・。だが、このまま我らが負けてしまったら世界はどうなる?

 今ここでヤツらを討たねば戦争はなくならない。この世界がロゴスの物になる前に我々の手で終わらない負の連鎖を断ち切らなければならないのだよタリア・・・っ!!」

「・・・・・・」

「糾弾もいい、理想もいい。――だが、すべては勝たなければ意味がない。“古から全ては勝者のものと決まっている”・・・そんな歪んだ信念の持ち主たちをここで撃ち逃す訳にはいかないのだよ、タリア・・・っ。どうか分かって欲しい・・・」

 

 返答に窮するグラディス艦長。そんな彼女に決断を促したのは、意外なことに議長でもシン・アスカたちエースパイロットでもなく、単なるオペレーターの一人がもたらした報告によってであった。

 

「・・・!! ヘブンズベース地表部分に高熱源反応を確認しました! これは・・・まさか!?

 ベルリンの悪魔です! あの巨大モビルスーツが出現しました! 同型機を五機確認!」

「ええぇぇーっ!? アレが、五機も!?」

 

 ミネルバ副長のアーサー・トラインが、艦長の代わりに言いたかった言葉を叫んでくれた。

 まったく、何てことだろうか! たった一機でベルリンの町を壊滅させた悪魔が五機も同時に現れるだなんて悪夢としか言いようがない。

 このままでは降下部隊が来るまで持ちこたえることさえ危ういだろう。

 

 ――ならば・・・・・・っ。

 

「シン、準備できてる? 出撃よ! 無理を言って悪いけど、なんとかアレを足止めしないと戦線が崩壊してしまうわ! 急いで!」

『わかってます艦長! 行けます! 行かせてください! 早く発進をっ!』

 

 艦内モニターに映し出されたシンに呼びかけ、即答を得た艦長。最前の攻撃を自分の目でも見たのだろう。怒りに赤い瞳を燃やして逆に出撃許可を求めてくる。

 

 ・・・だが、彼ほどの怒りと憎しみをレイとルナマリアは共有できていなかったようである。

 彼女らも十分早い反応速度で機体に乗り込み、発進準備を進めていたのだが、スタッフの方が彼らの尋常ではなく素早い反応に対応しきれなかった。

 レジェンドとインパルスの発進には、まだわずかに時間が必要となる・・・っ。

 

(――どうするか・・・!? シンだけでも出撃させて敵を足止めできるなら、やらせてみる価値はあるかも知れない・・・っ、けど・・・っ!)

 

 悩む艦長。

 その悩みを議長が一言で一刀両断する。

 

「頼む」

 

 それで全てが決した。

 デスティニーがミネルバから発進していき、少し遅れてインパルスとレジェンドも大空へと飛び立ち出撃していく。

 

 

 ――この出撃順序の変更は、あきらかに敵の作戦立案者の計算を狂わせるものであり、未だデスティニーとレジェンドの存在を知りようもない“彼女”を倒すため議長の一言によって変更が決まった決断は大きな役割を果たすことが出来た可能性もあっただろう。

 

 

 ・・・ただし。それはデュランダルが事前に呼びかけて集まってもらっていたマスコミ船に、どこよりも早く真相と正確な情報をお届けする親切な名も知らぬ小国から派遣されてきた零細艦隊の同盟軍参加を拒否していた場合に限っての話である・・・・・・

 

 

「・・・二機の発艦を確認しました。作戦が始まる前に議長から渡されていた敵味方識別コードによれば、敵機体のコードは“インパルス”と、“レジェンド”だそうです」

「よし、随行してきているマスコミ船に今すぐリークしろ。大至急だ。急げよ」

「ハッ! 急いでチクリに行って参ります!」

 

「・・・・・・悪く思わないでいただきたい、議長・・・。我々はあなたを裏切る訳ではない・・・。あなたに言われたとおりの行動をしているだけです。

 その結果、全世界同時生放送されているテレビの映像と音声を受信した一人が、ロゴス最年少メンバーだったとして、どうして我々が責められねばならぬ道理がありましょうか・・・?

 我々の小国は、こういう風にして生き延びねばならぬのですよ・・・たとえ乞食と蔑まれようとも、正義の騎士として死ぬわけにはいかんのです。

 我々は何としても生き延びねばなりません・・・我々を乞食と呼んで蔑みながら死んでいった大国の勇者たちが死ぬ姿を見届けるためにね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 そして、そんな小国から情報をリークされた、どこよりも早く新鮮な情報を視聴者に流すことで誰よりも多くの視聴率を得たいと願う人気テレビ局の生放送を受信した船の艦橋で、こんな会話が交わされていたことを世界はまだ知らない。

 

 

「インパルス発進を確認しました。情報通り・・・いえ、情報よりも二機多いようです」

「・・・ミネルバ隊のエースさんたちは三人だったはずですから、機体数だけは前と同じになったわけですか・・・。

 海軍の人たちは数さえそろっていると安心できるとかなんとか聞いたことありますけど、相手があの“ミネルバ”と“インパルス”じゃあ不安にしかなりませんね~。やっぱり新型機が与えられて乗り換えたってことなんでしょうか?

 だとすれば、図体がデカくてウスノロな分デストロイの方が不利・・・時間との勝負になりましたねぇ。こっちが片付く前にデストロイが全部倒されてしまったらゲームオーバーですよ。シンプルなゲームじゃないのは面倒くさいですよね・・・」

 

「ま、いいでしょう。どのみち私たちのやることは変わりませんからね。

 ――全艦浮上、アップトリム最大。浮上しながらミサイル発射管注水開始、海面に出る寸前に一斉射して、こちらに敵の目を向けさせなさい。

 それで光波防御帯技術を積んだ工作船の映し出す映像に意識を集中させなさい」

 

「・・・ああ、それから偽装艦が見た目だけ本物と同じくしただけで中身空っぽのガランドウ船だと敵にバレたら終わりですので、絶対に全艦同一速度で敵に近づいて心理的に圧迫させることを徹底しておくこと。突出したら全滅させられますからね、気をつけなさい。

 一定間隔ごとに配置した本物だけが、ウチの分艦隊がもつ全戦力なんて敵に知られたら一巻の終わりです。工作艦による映像でカモフラージュしながら近づいていき、内部崩壊を誘うのが主目的であることをくれぐれもお忘れなきように」

 

 

「さぁ・・・敵の皆さんにモビルスーツのない艦隊がどうなるか教えてあげに行くとしましょうか。攻撃開始です。ファイエル」



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PHASE-4

「クソッ! なんなのだ!? これは! 一体!?」

 

 ザフト軍の、ナスカ級高速戦闘艦《ボルテール》の艦橋に怒声が轟く。

 今では白服をまとう隊長にまで出世したイザーク・ジュールが、オペレーターから伝え聞かされたヘブンズ・ベース攻略戦の戦況に憤り、怒鳴り声を上げていたのである。

 

「味方は何をやっている!? 敵に先手先手を読まれて・・・これでは無駄に損害が増すばかりじゃないか!!」

 

 バンッ!と、掌を戦術モニターを映し出させていた机にたたきつけて大きな音を立てるイザーク。

 傍らに立つ副官と言うより女房役のディアッカ・エルスマンも正直、心情的には上官でもある親友の意見に賛成なのだが、声に出しては諫めなければならない立場でもあり、本心を殺して皮肉じみた諫言のみを口に出す。

 

「・・・つっても、しょうがないじゃん? ここでいくら怒鳴ってみたところで今から地上に助けにいけるわけでもないんだしさ。オレ達はオレ達で、やることやるしかないでしょ?」

 

 彼らは今、衛星軌道上に集結を完了させたザフト軍宇宙艦隊から、ヘブンズベース攻略部隊を支援するためモビルスーツ部隊を降下させるという目的でこの場に来ている。その部隊の降下準備が完了していない現状においては出来ることは準備を急ぐよう指示するだけ・・・それが現実の作戦指揮というものだろう。

 

「その程度のことは言われんでもわかっている! 降下部隊の準備を急がせろと言っているだけだ!!」

 

 親友に対して、先ほどよりさらに大きな声で怒鳴り返してそっぽを向くイザーク・ジュール。

 実際、彼もディアッカに言われた程度のことは理解した上で言った言葉であり、諫めてくれる女房役あってこその“甘え”であった。それが理解できているからこそ、周囲も彼の短気と感情論を受け入れられている。怒鳴り散らしはしても指揮官としての冷静な判断力までは失わないヤツだと解ってくれているから・・・・・・。

 

 

 ――だが、結果的に見てこのとき彼らの下した判断は間違っていたことが、しばらくして判明させられる。前大戦経験者であるイザークやディアッカを含む彼ら全員は、このとき忘れていたのだ。

 

 こちらが敵を滅ぼすため、味方の被害を可能な限り少なくするため準備万端ととのえてから出撃させようと努力している時。

 ――敵もまた、同じことを同じように迎撃準備を余念なく進めているものだという当たり前の現実を、彼らはこのとき一時的に失念していたという苦い現実を・・・・・・。

 

 その油断と思い上がりが、一機残らず全滅させられた降下部隊という分かり易い結果によって彼らに苦い教訓を与えさせられることになるのである・・・。

 

 

 

 

 

 一方、地上のヘブンズ・ベース攻略部隊内においても味方の置かれた状況に憤って叫び声を上げている一人のザフト軍兵士がいた。

 最新鋭機《デスティニー》のパイロット、シン・アスカである。

 

 レイとルナマリアを置いて先に単独出撃していた彼は、デスティニーの圧倒的性能にモノを言わせて迎撃に出てきた敵部隊を次々と撃破しながらヘブンズベース上空へと向かっていた。

 

「クソォッ!! コイツらぁ!!」

 

 ・・・もっとも。彼の場合は一方的にやられてばかりの味方に不甲斐なさを感じる気持ちは微塵もなく、ただただ仲間たちを『身勝手でバカな理由』で殺しまくってくる悪い奴らロゴスと、その手先たちの理不尽な暴力に対しての殺意と憎しみだけがそこにある・・・。

 

 ――この時、彼は自覚していない。

 自分が今戦っている敵からすれば、自分こそがデストロイなのだという事実をだ。

 

 自分たちを追い詰めて、大勢で取り囲んで逃げ道を塞ぎ、「撃て」と命令されたから必死の思いで出撃してきただけの自分や仲間たちを殺戮しながら無傷のままで突き進み、命を捨てて抵抗しても掠り傷一つ追わせられない彼こそが。

 ――敵にとっては『赤い翼を持つ悪魔のような大量殺戮者』でしかない事実を、この時の彼には理解できない。したくない――

 

「もう好きになんかさせるかァッ!!」

 

 右手に持ったMA-BAR73/S高エネルギービームライフルを連射して数機がかりで迎撃に出た敵のウィンダム部隊を羽虫のように落としまくり、多くの犠牲を払いながらも火線を掻い潜り抜けて一矢報いようとした一機を腰部に据えられたM20000GX高エネルギー超射程砲で撃ち貫き爆散させ、通常兵器しか保有しない量産機ウィンダムを独特の軌道を描いて飛来する特殊武装RQM60Fフラッシュエッジ2ビームブーメランで二機まとめて両断しながら、“味方を一方的に蹂躙している黒い巨人を倒すため”先を急ぐ《デスティニー》とシン・アスカ・・・。

 そして、敵に多くの無駄な犠牲を払わせながらもヘブンズベース上空に到着した彼の眼下で、黒色で禍々しい姿をした敵の巨人《X1デストロイ》の圧倒的火力と防御力の前に数機まとめて爆散させられていく味方の最期の姿が目に映る。

 

「コイツぅっ! くっそぉ!!」

 

 自分が出撃した目的――『倒すべき敵』の姿を前にして、彼の感情は激しく燃え上がり激情となる。

 

「お前たちは・・・っ、お前たちも・・・・・・っ!!」

 

 だが、その心にデストロイへの憎しみと怒りはあっても、ベルリンで出撃したときのようなパイロットまでも憎む気持ちはわずかもなく、むしろ哀れみと同情と・・・・・・殺すことでしか救うことができない自分の無力さから来る罪悪感がそこにある。

 

 ――思い出されるのは、ステラ・ルーシェの名を持つ少女。

 ベルリンでデストロイのパイロットだった女の子。自分が『守る』と約束しながら死なせることしか出来なかった悲運の少女。

 遺伝子操作を忌み嫌う連合・ブルーコスモスが、薬やその他の様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。戦うためだけの人間。

 一定期間内になにか特殊な措置を施さないと身体機能を維持できなくされてしまった哀れな戦争の被害者たる子供たち・・・・・・。

 

 シンが『守るために』『死なせないために』手に入れた《デスティニー》の力では、『殺すことでしか』守れないし救うことも出来ない『強さが無意味になる存在』・・・・・・

 

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!」

 

 はたして、その罵倒は誰に対して向けられたモノであったのだろうか?

 事実をあらためて認識した瞬間に彼の頭は冴え渡り、激情は一気に冷却されて冷静さを保ちながらも敵への憎しみは失われていない。

 新型エンジンを最大出力で稼働させて、赤い翼状のビーム光を背部にまとわせたデスティニーにMMI-714アロンダイト対艦刀を構えさせる。

 

「こんなことをする・・・こんなことをする奴ら、ロゴス!!」

 

 そして、すべての元凶たるロゴスを討つため、目の前に立ち塞がり彼らを守ろうとする黒い巨人X-1デストロイを倒してでも先へ進む決意を固めさせる。

 

 すべての責任はロゴスにあると信じて。すべての悲劇の原因はロゴスにあると信じて。

 ステラも、ハイネも、マユも、父さんも母さんもみんなみんな、戦争なんかで死ぬ必要のなかった良い人たちが死んでしまったのは、自分たちの身勝手でバカな理由で世界を戦争に巻き込もうとするロゴスこそが・・・・・・すべての原因!!

 

 

「許すもんかぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

 

 

 叫んで、機体をデストロイに向け加速させるシン・アスカ。

 デストロイ一号機に乗る生体CPUスティング・オークレーが彼に気づいて迎撃しようとするが、如何せん。

 出力と口径が大きすぎるデストロイの射撃武装は迎撃に向いておらず、斜角の自由も利かないため、デストロイと比べれば遙かに小型であるデスティニーには掠り傷一つ追わせられないまま容易に懐の内側へと入り込まれてしまう。

 

 敵が狙いづらいよう急降下しながら接近して、鈍重な敵の目の前まで到達したら逆に急上昇をかけてからアロンダイトを振り下ろす!!

 

 

 今まで積もり積もった行き場のない怒りと憎しみをすべて込めて彼は叫び、斬撃を放つ!

 すべての戦争の元凶であるロゴスを討ち、世界を平和にするために!! 二度と戦争を起こす必要のない平和な世界を築くために!

 今まで払ってきた犠牲を無駄にしない為にも! 戦争で死んでいった人たちの為にも!!

 

 たとえ、その為にデストロイに乗せられた哀れな被害者の少年少女たちを殺すことになろうとも、彼らのような犠牲者を二度と出さずに済むため! 戦争を終わらせるため!! ロゴスを討つのだ!! 絶対に! 何があっても! 誰を倒すことになったとしても!!

 

 

『ロゴスさえ討てば戦争は終わり、平和な世界がやってくる――』

 

 

 ディランダル議長の言葉が彼の脳裏によみがえり、そしてまた――彼は“すがる”。

 

 彼は気づいていない。自分が彼の言葉を『信じたわけではない』という事実に。

 ただ、それが真実なのだと『信じたいから信じただけ』でしかない自分自身の真実に。

 

 正義の味方や神のような人間がいて欲しいと願った彼に、『自分がそうだ』と言ってくれた人がいて。

 

 悪の軍団や魔王のような人間たちがいて、そいつらさえ倒せば世界が平和になるような、分かり易い悪党たちがいて欲しいと願った彼に、『ロゴスこそがそうだ』と、その人が世界が隠してきた真実を教えてくれたから。

 

 そうであって欲しいと願ったから。

 それが真実であってくれたら良いと願い求めたから。

 

 だから彼を信じた。彼の言葉にすがりついた。

 それが彼にとって最も都合がよかったから・・・・・・。

 

 だから信じた。

 自分の夢が、理想が、信じ貫きたい正しさこそが『正しいのだ』と言ってくれた人間の甘言を。美辞麗句を。自分にとって都合のいい言い分を。

 すべては自分の願望を全肯定してくれたから!! だから―――ッ!!!

 

 

「お前たちなんかがいるから!! 世界はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 だから、だからこそ。

 ―――世界は彼の“甘え”を許容してくれる人間ばかりは用意してくれないのだ。絶対に・・・・・・。

 

 

『・・・迂闊な人ですねぇ~。飛んでるんですから、下にも目をつけとかないと撃たれちゃいますよぉ~?』

 

 

「――!? 反応! 真下か!?」

 

 突然、コクピット内に全方位チャンネルによる誰かの声が届けられたと思った次の瞬間に、今度は危機を告げる警報が鳴り響いてシンの意表を突く。慌てたシンが機体に再度の急上昇をかけさせる!

 

 今自分が飛び上がってきたばかりの位置に、雪を上からかぶせてエンジンを切った敵機が隠れ潜んでいたのである!

 その敵がビームライフルの安全装置を外して、急上昇させたデスティーが切り下ろしのため急降下に移った瞬間を狙い澄まして待ち続けていたタイミングに発砲してきた以上、彼のとるべき選択肢は斜め上への急上昇しか他にない。

 

 なまじ、刃渡りがデカすぎる対艦刀のアロンダイトは斬撃パターンの数が少なく、切り払うか、切り下ろすか、振り上げるか、あるいは切っ先を突き出しながら突撃するかの四パターンだけしかなく、どれも途中で横合いから邪魔が入り止められてしまうと、いったん後退して距離をおいての仕切り直しが要求される武装だからだ。

 

(チクショウ! せっかくここまで来たって言うのに!!)

 

 不条理な敵の奇襲に怒りの声を心の中で絶叫しながらも、彼は声に出しては何も言わない。

 言えなくなっていたからだ。

 いくらナチュラルと比べて頑丈に出来ていようと、コーディネーター用の特別機であるデスティニーで急上昇をかけ急降下に移らせた直後に再度の急上昇をかけさせたのでは機体はよくてもパイロットの体が保たない。

 猛烈なGが負荷としてシンの肉体に与えられ、彼はその衝撃を耐え抜くために歯を食いしばって我慢しづけるしかなかったのだ。

 

 翼の力も借りて、残り二機のデストロイからの追撃も回避して安全圏まで後退することに成功したデスティニーのコクピットの中でシンは、口の中にかすかな血の味を感じて舌打ちした。

 

 そして、ヘルメットのバイザーを上げてから「ペッ!」と、口内に生まれた異物を吐き出した。

 それは高Gに耐えるために全力で噛みしめた末に折れ砕け散った、自分の奥歯の残骸だった・・・。

 

 彼は自分で自分を傷つけさせた敵に、さらなる怒りと闘志を燃えたぎらせながら、先ほど自分を待ち構えて撃ってきた敵に、相手と同じ全方位チャンネルで呼びかける。

 

「誰だ!? 俺の邪魔をするヤツはァッ!!!」

 

 これから殺そうとしている敵に対して、「殺してやるから出てこい!」と告げているのと同義な質問。答えるバカな敵などいるはずがない。――本来ならば。

 

 

『――シン・アスカさんですねェ・・・?

 ザフト軍の赤服エースパイロットで、元はインパルスに乗っていた方の・・・。

 そして、ステラ・ルーシェさんを我々に返していただいた優しい男性・・・』

 

 

 本来ならば返ってくるはずのない、敵からの返事。

 だがこの敵には、返事を返すべき目的があった。

 返事をするため、相手に問わせなければいけない理由があった。

 

 

『はじめましてェ~、私は大西洋連合第八一独立機動群、通称《ファントム・ペイン》所属の・・・まっ、要するにブルー・コスモスが浚ってきたナチュラルの子供改造してロゴスの私兵集団として使ってた部隊の一員であり、ステラさんの元同僚ってヤツでしてねェ~。あなたに一言お礼を申し上げたくて待たせていただいてましたァ~。』

 

 

 そう、すべては『与えられた任務』を果たすために。

 デストロイを護衛して、敵に落とされないよう直援機として周囲に潜み、近づいてくる敵は『足止めして時間稼ぎに徹する』という任務を果たすために。

 

 

『ありがとうございました、シン・アスカさん。あなたのおかげで我々はベルリンを焼くことが出来ました。あなたが協力してくれたからこそ、ベルリンの虐殺は行うことが出来たのです。

 感謝しますよ、憎しみと怒りで敵を殺しまくるオレ達の同胞よ。アンタはオレ達の英雄だ。ベルリンを殺戮した最大の功労者で血まみれの英雄サマだ。

 どうだ? いっそのことオレ達の側につかないか? 歓迎するぜ、アンタはこっちの方が似合うと思うしな。

 自分が悪いと思った奴らを命令とか無視して撃って、自分が良いと思った奴らを組織の都合とか無視して生かして殺して、全部自分で決められる特権。

 善悪の基準を自分一人で決めちまって良い神の立場・・・それがアンタの望み求めていた至上価値のはずだ。今ならそれが手に入れられる、与えてもらえるし奪い取ることだって出来る。

 なぁ、一緒に来いよオレ達とさァ~。ロゴスとかデュランダルとか、安全な場所から命令出すだけで人に人を殺させまくる戦争指導者どもとか全部ぶっ殺してやってさァ~。自分たちが正しいと思ったことする権利ってヤツを、力尽くでもぎ取ってやってオレたち哀れで可哀想な被害者な子供たちのための世界創りに行こうぜよォ~? なァ~? きっと愉しいと思うぜェ~。どうするよォ~? え~?

 デュランダルに言われた通りに敵を殺しまくって褒められまくって最新鋭機まで与えてもらえたザフト軍のエースで、戦争指導者デュランダルの私兵シン・アスカさまよゥッ!!』

 

 

 ・・・ザフト軍が大々的に流している英雄シン・アスカのプロフィールをネタに使って、嫌がらせの『口先三寸』で精神面から攻撃することで一秒でも長く時間を稼ぐ。

 

 それが彼に与えられた上司からの命令。その為の人選。その為にこそ行わせておいた敵のエースパイロット、シン・アスカの身辺調査だったのだから・・・。

 

 

 

 

 

「――薄らデカい上に鈍くさくて、しかも乗ってるパイロットは自我を奪われたモビルスーツを動かすための生体部品でしかないデストロイを狙ってくるなら、敵の進路を限定することはある程度までは可能です。

 その為の策を授けておいた彼が上手くやってくれているなら、多少は時間が稼げているはず……私たちはその間に、私たちの作戦を遂行しますよ。

 インパルスの発進は確認できましたか?」

「ハッ! 先ほどミネルバからの発進を確認しました! 未確認の新型も同時に発進した模様であります!」

「・・・おそらくそれが敵の切り札的最高戦力と見て良いと思われます。敵の主力が留守の間に、敵本体を襲いますよ。『背水の陣・調虎離山』です。

 こんな時代でもノスタルジーはたまには良いモノですからね・・・第二幕上演開始!!」

「ハッ! ホログロフィー用工作艦、第二幕を上映開始いたします!」

 

 

 

 ・・・こうして戦いは再び変化の刻を迎える。

 連合軍の最後衛に配置されていた艦が、後輩から迫り来ていた敵艦隊による危機を味方に伝え、デュランダルが必死に統制を取り戻すため『今ロゴスを討たなければ!』と唱え続けている中で。

 

 ――灰色の雲で覆われた空に、その時の映像が静かに映し出されていく・・・・・・

 

 今度の映像は望遠レンズで撮影されていたモノらしく、音声はない。

 だが、そんなモノは必要なかった。そんなモノのあるなしなど問題にならないくらいに衝撃的な映像が。隠されていた真実が。無音の中で大空に映し出されていたからである・・・・・・。

 

 

 ――それは、どこかの島国の映像だ。

 どこかの島国にある瀟洒な洋館の映像であると同時に、その洋館がザフト正規軍が今次大戦から正式採用した最新鋭機《アッシュ》部隊によって取り囲まれて一方的に砲撃を受けている映像でもあり、そして攻撃を受けたのか撮影途中で途切れる映像でもあった――

 

 

「ば、バカな・・・そんなバカなこと有るわけがない・・・ッ」

 

 その映像を撮影していたカメラマンの“サクラ”が、デュランダル議長に招かれたテレビ局スタッフのリポーターの相方だからついてきただけの戦災で家族を失って困窮していた下っ端スタッフが、生中継しているカメラにも聞こえてしまう位置から呻くような声で『真実だけ』を大声で口にする。

 

 

「あれは・・・あの映像に映し出されていた砂浜はオーブの砂浜だぞ!! なんでザフト軍がオーブの民間人を攻撃してるんだ! おかしいじゃないか! 議長は・・・デュランダル議長は最後まで平和的解決を望んでいた平和な世界を目指している人じゃなかったのか!!

 だとしたら俺の家族は! 息子は! 父さんや母さんや妹たちは!!

 ザフト軍との戦闘に巻き込まれて死んでいった俺の家族たちの恨みや憎しみは誰に対してぶつければいいと言うんだ―――――――ッ!!!!」

 

 

 

 ――その誰でも視ようとと思えば視ることが出来る民需放送を垂れ流しながら聞いていた潜水艦のブリッジにいたクルーたちの視線が一斉に、自分たちを率いる新司令官セレニアに集まってくるのを目視で認識させられながらセレニアは軽く肩をすくめて、こう答えるのみ。

 

 

「・・・こちらが買収したにせよ、敵の謀略で招かれたにせよ、敵の軍事工廠内に忍び込んで新型機を強奪するまでやってのけた私たちロゴスが保有する特殊部隊です。

 オーブの笊と言うより枠みたいに穴だらけな国境監視網ぐらい合法非合法問わずいくらでも潜り抜けられるぐらいはできますよ。

 戦争で家族を奪われた哀れな男性に真実を教えて自分たちのために利用するぐらいのことも含めて、別に敵の専売特許って訳でもないですしね。

 ――では、下準備が整ったところで私たちも始めるとましょうか・・・・・・全艦、第二戦速、攻撃開始。撃ちはじめて下さい」

 

 

 こうして、ザフト軍にとっての終わりが幕を開けた。

 開けられてしまったのである・・・・・・・・・。

 

つづく

 

 

オマケ『オリジナルキャラクター設定紹介』

フェイ・ウォン(ファントム・ペイン隊員)

 大西洋連合第八一独立機動群、通称《ファントム・ペイン》所属のパイロットであると同時にセレニア子飼いの部下でもある青年。

 ガンダム系の機体に乗ってはいるが、実はブーステッドマンでもエクステンデッドでもなく、簡単な処置を施しただけで改造までには至っていない強化ナチュラル。モビルスーツを操縦できているのは単なる偶然で適正を持っていたからに過ぎない(切り裂きエドなど、一部にはそういうナチュラルが実在しており、その内の一人という設定)

 

 もともとエクステンデッドは、ブルー・コスモスの前盟主ムルタ・アズラエルが設立させた施設で開発されたブーステッドマンの技術を、彼の死とともに没落した組織の再興すると同時にジブリールが継承し発展させていったモノだった。

 その継承時の混乱でいくつかの施設が記録ごと忘れ去られてしまっていたのだが、セレニアがその内の一部を分け前として接収していたため彼の存在が誕生することに繋がっていくことになる。

 

 プラント非理事国の生まれで、エネルギー不足と貧困故に勃発していた内戦の最中、危険な国内から脱出しようとプラント理事国行きの船に密航していたところをブルー・コスモスのテロに対するコーディネーター側からの報復攻撃に巻き込まれて吹き飛ばされた母親の胎内から引きずり出されて生を受けたという複雑すぎる生まれの事情を持っており、兵士として生きてくる以外に生きる道を許されてこなかった。

 その後、セレニアに見出されて施設へと招かれ、簡単な強化処置を終えてからファントム・ペインに配属された。ステラたちとは部署が異なり、どちらかと言えばスウェン・カル・バヤンたちの方と面識がある。

 

 地獄の中を生き残ってきたため、今では人の血を見なくては収まりのつかない性格になってしまっており、改造されようがされなかろうが人が殺せる戦争が出来るなら誰にだって付くつもりでいる。

 主義主張や民俗宗教その他諸々はどーでもいいことだと感じている人物で、コーディネーターだろうとナチュラルだろうと、流れる血が赤ければそれでいいとさえ断言してしまえる程の危険人物。

 

乗っている機体名は《カミナシ》

 前大戦時の《カラミティ》《フォビドゥン》《レイダー》の三つの機体の特徴を併せ持たせた特殊戦タイプの機体でありながら攻撃力が低く、フェイズシフト装甲が基本のガンダムタイプを相手取るにはビーム兵器が不足している代わりとして、騙し討ちのような武装で時間稼ぎに特化させた武装が選出して装備されている。

 

 

 ・・・あくまで殺すこと、敵に血を流させることのみに特化して、手段や経過にこだわりを持たないフェイにとって、敵を殺すよりも先に殺されてしまったのでは殺せなくて愉しめないからこそ、この機体を悦んで受領した経緯を持っている。

 

 ある意味で、シンが罵る『身勝手でバカな理由で人を殺す悪そのもの』な男なのだが、そんな自分を自覚しており、普通の人間が持つべき倫理観が崩壊していることも解っていて、それでも『殺さなければ我慢できないからこそ殺している男』であり、人殺しは悪いことだと理解した上で『心の底から愉しんで殺っている』人物でもある。

 

 

 ――尚、機体名には当初ジブリールが別の名前を付ける予定になっていたのだが、パイロットがエクステンデッドではない特殊な事情もちナチュラルのフェイが選ばれたことから仕様が一部変更となり、その際にセレニアが識別のために変えさせたという経緯が存在している。

 が、一方で連合軍兵士たちの間では『形式主義が苦手なセレニアが神話系の名前ばかりから引用したがるザフト連合双方の首脳陣に付き合い切れなくなったからテキトーな名付け方に変えたかっただけではないのか?』という噂話が実しやかに囁かれていたりもする…。



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PHASE-5

久方ぶりの更新となります。なんか間が開きすぎたせいでアイデアが溜まり過ぎちゃったせいか混乱気味になってしまいましたので決着は次回以降に持ち越しました。
情報量が多すぎて削り過ぎたため説明不足な部分が出ているかもしれませんが、今の私的には最善を尽くしたつもりでおります。では次回にでも!


 シン・アスカが敵のパイロット、フェイ・ウォンの思わぬ言葉によって衝撃を受け立ち竦まされていたのと同じ頃。

 彼は知らなかったが、最前線より遠く離れた『絶対安全なはず』の最後方にある大本営は、思わぬ苦戦のただ中に叩き落とされていた。

 

 突如として敵の大艦隊が出現して背後を襲われ、集まった各国指揮官たちには自分たち対ロゴス同盟軍が罠にはまって挟撃されたように映っていたからである。

 

「落ち着いてください! これは敵の陽動作戦です! 乗せられてしまえば我々は本当に全滅させられてしまうのですよ!?

 もっと冷静に敵を見て、正しい判断をお願いしたい!!」

 

 怒号と悲鳴と対応を求める声が飛び交う、文字通りの戦場へと一変してしまったミネルバの艦橋にデュランダル議長の叫び声が木霊する。

 それは崩れかかった軍の統制を回復するため、後方を含めた連合軍全体に届くよう全てのチャンネルを開いてデュランダル自身が呼びかけていた、正確な分析と正しい判断に基づく適切な応急処置方法。

 

「連合加盟国から離反して我が軍に参加を表明してくれた皆様方を失った敵に、短期間でこれだけの数の艦艇を揃えるなど不可能です!

 敵の大半は偽装艦です! その証拠に敵は同一速度でゆっくりとしか接近しておりません! 嘘がバレないために必死だからです!」

 

 その指摘は正しく、敵の作戦を完全に看破していたところは、流石に嘘と真実を武器として使ってロゴスを追い詰めたプラント最高評議会議長の手腕と称すべきものがあっただろう。

 

「敵は追い詰められています! ここを我々が耐え凌ぎ、味方のMS部隊がヘブンズ・ベースを攻略すれば本拠地を失った艦隊は抵抗を諦め降伏する道を選ぶに違いないのです!」

 

 その予測もまた正しく、事実として背後に現れた敵艦隊を率いる指揮官セレニアは、「もしそうなった時にはそうするよう」副司令官たちには指示を出した上で出撃してきている。この時のデュランダルは、この戦いが始まって初めてセレニアの作戦を完全に見抜いて上回ったと誇ってもよかったのかもしれない。

 

 ―――しかし・・・・・・。

 

「あと少しなのです! ここでロゴスを討てなければ戦いは続き、今まで流してきた全ての同胞たちの血と犠牲は無駄になる!

 今少しの我慢でロゴスは倒れ、犠牲は報われ、争いのない平和な世界が皆さんの手に入るのです! どうか皆さん、落ち着いて私の指示に従ってください。

 平和な世界を手に入れるために、誰も戦争の犠牲にならなくてすむ世界にするために! 今一息! 皆様方の力を私に貸していただきたい!!」

 

 誠実な思いと、切実な危機感。理想実現のために、勝つために、自分たち自身が生き延びるためにも嘘は何一つ吐かない必死の呼びかけと、正しく適切な指示。

 

 ―――だが、この時。彼の正しい指示は、味方に対して徹底しなかった。

 今まで吐き続けてきた嘘が、彼の語る『正しい言葉』から説得力を奪い去ってしまっていたからである・・・。

 

 今までの嘘はまだ許せた。世界と民衆を彼が騙していたのは確かだったが、別にその嘘で“自分たち個人個人が命の危険に”さらされた訳でもない。騙されたのは世界であり、騙されたせいで死んでいったのは民衆たちがほとんどだった。

 指揮官たちや国家主権者たち、人々の上に立つ者たちにとっても騙されたのは許せないし賠償責任と説明とを求める気持ちに嘘はなかったが、別に彼らの誰かがデュランダルの嘘で殺されたという事例はない。

 

 だが、今は違う。明確に自分たちの命が危険にさらされている状況に陥らされている。

 真実は貴く、政治家が国民を騙すために嘘を吐いていたことを許すべきではない。――まして政治家の嘘を信じて“自分が死ぬかもしれない時”には尚更だ。

 

 正しい判断のように聞こえるが、また何か隠しているのではないか? まだ何か言っていない部分があるのではないか?

 彼だけが知っている真実を自分たちに隠して、何かの秘密を独り占めしようとしているだけなのではないだろうか・・・?

 

 たとえば―――『自分たち連合の裏切り者国家をロゴスに売り渡す見返りとして、プラントに有利な条件での和平交渉をまとめるための材料に利用しようとしている』―――とか。

 

 なまじ配属された国の違う各軍から離脱した義勇艦隊を無差別に味方として迎え入れてしまったことが、ここに来て徒となってしまっていた。

 各参加者たちには全体の規模が把握できておらず、連合軍全体がどれほどの艦艇を保有していたのか、連合から寝返っても戦犯として処罰される恐れがない程度には奥の院がのぞける立場になかった彼らには確認する術がなく、デュランダルの語る言葉が真実であると判断する材料が不足していたのだ。

 敵艦隊の頭上に投影されていた映像が切り替わり、前回流された内容が大音量とともに再び再上映され始めたという事情もある。

 対ロゴス同盟軍の憎しみによって結ばれた偽りの握手は、実際の脅威という目に見える真実の登場によって砂の城よりも脆く崩れ去り、他人や世界よりも自身の安泰だけを求めて敵前逃亡を図るエゴイズムに取って代わられる寸前にまで追い詰められていたのだった。

 

 

「そんなものですよ、人々にとっての真実なんて代物の価値はね。

 ――今の人々が連合を見限り、デュランダル議長を支持している理由が分かりますか?」

 

 今回の作戦計画について実行面での責任者に説明するとき、セレニアは相手に自分の意図について開陳している。

 

「今まで我々が隠していた真実をデュランダルが民衆に公開したからでありましょう。民衆という生き物は昔から権力者の隠していた不正だの陰謀だのが大好きなのが定番でしたから」

「違いますよ。彼が、私たちロゴスを殺してくれるからです」

 

 民衆に対して露骨すぎる偏見でもって決めつけた相手さえ、思わずギョッとさせれてしまった回答を、セレニアは眉一つ動かすことなく普通の口調で詳しく解説してくれた。

 

「人々が議長に対して送っている声援は、私たち人々を殺して苦しめてきたロゴスと連合に対する憎悪と反感が裏返しになってるだけに過ぎません。

 彼が信頼を裏切って人々を無駄死にさせるだけの為政者になったときには、たちまち彼を称えるバンザイの叫びは『独裁者を吊せ!』に一変するでしょう。

 民衆は民衆の都合で支配者たちを支持し、裏切り、断罪して処刑する。――そんなものです、民衆の心理なんてものはね。この作戦は、その時に使える民衆側の武器を与えてあげようというだけの代物に過ぎませんよ」

 

 ・・・実のところ、デュランダルの隠していた真実と嘘のストックなら他に幾つかなら確保してある。それを使わずに二つだけ公開したのは、それ以上は必要なかっただけのことだ。

 真実を教えてもらう側の民衆が、それ以上は必要としていないから。だから提供してやっても意味がない。

 

 重要なのは、人々が議長に不審を抱いたときに使える『口実』を与えておくことだった。

 彼らが議長の命令に従いたくなくなったとき、「お前だって俺たちを騙して利用してたじゃないか!」という正当性と証拠を全ての人々に持たせておくことだけだった。

 あとは彼らそれぞれが勝手にやることだろう。サボタージュする者もいれば、敵前逃亡する者もいるかもしれないし、裏切る者も出てくるかもしれない。

 

 

 ・・・それだけでいい。それだけ人々の心に隙間があれば乗じられる自信が自分にはある。

 だから公開する真相は、2つか3つで十分すぎるのだ。どうせ民衆は最初にすこし騒ぐだけで、すぐに飽きる。飽きて次の真実を求め出す。

 一人だけで真実と正しさを貫き通すことには勇気と力がいるけど、皆で貫くなら怖くない。勇気百倍、正義と正しさのヒーローマンになれるのが民衆という生き物なのだから。

 そんな連中にストック全てを出し尽くすなんて調べるのに掛かった費用と手間の無駄遣いでしかない・・・・・・。

 

 

 

「デスティニーの動きはどうか!?」

「先ほどまでと変化なし! 敵基地の頭上に到着してから動きを停止したままです! 連絡もつきません!!」

「レイたちのレジェンドとインパルスは!?」

「デスティニー支援のため発艦させてから三分が経過しました! 到着予測時間まで残り二十三秒!」

「く・・・ッ! 私としたことが敵に策に乗せられてしまうとは・・・ッ!!」

 

 歯がみして、デュランダルは悔しがる。

 シンだけを先行出撃させてしまった先の命令が悔やまれてならない。

 

 もともと彼の理想実現のため最重要の駒として用いるつもりだった、あの少年は能力的にキラ・ヤマトを超えてもらう必要があったが、精神的には自分かレイに依存してくる程度に弱いままで居続けさせる必要が存在していた。

 だからこそ彼はシンに対して、ザフト軍の綺麗な面だけを見せて、戦争の醜悪な部分はすべて連合とロゴスの責任に押しつけさせ、彼が正しいと信じて行う行動をすべて許させ、他者が彼を裁けば擁護し、この上ない後ろ盾となって彼の信じる正義も理想もすべて全肯定してスポイルし続けた。

 

 そうすることでシンの中に、自分を神のように崇めて信じて疑わなくなるよう誘導して、洗脳してきたつもりであったが・・・どうやら敵の中に余計な“真実”を彼に語る者がいたらしい。

 自分たち自身は綺麗なものしかないように見せ続けてきたから、自分たちにも薄汚い醜悪な側面がある事実を突きつけられると今のシンでは逆上して理も正義もなく斬りかかっていくことは出来ないだろう。『今はまだ』

 

(やはり、レイだけでも共に出撃できるまで思い止まらせるべきだったか・・・ッ。あの二人はもともとシンを補完させるために作り出したタッグだった。まだ一人で戦わせるには早すぎたと言うことか!)

 

 自分が近くに来れない時にはレイが、シンにとっての精神安定剤になるよう調整する。そして大きく事態を動かさなければならない時には自分自身が赴いて全面的なオーバーホールを行う。

 それが彼ら二人で考え出されたシン・アスカという名のデュランダル体制を支える最強兵器の作り方。それが完了していないうちに厄介な邪魔者に介入されてしまった。何重の意味でも腹立たしい!

 

「“アリゾナ”と“ペンシルバニア”を東アジア共和国艦の前に出してスペースを開けさせ、その隙間から彼らの艦を本隊と合流するために移動。“キャリホルニア”はそのまま待機。現状維持を厳命せよ。下手に動けば味方にぶつかって沈没すると付け加えておやりなさい!」

「りょ、了解しました艦長!」

 

 タリアもまた、艦の命令権を持たないデュランダルの越権的な発言に対して特権乱用と苦言を呈する余裕もなく、各部署への指示に忙殺されていた。

 只でさえ今までにない大軍勢を率いての大遠征。敵勢力最大の軍事拠点とはいえ、たった一つの基地を攻略するためには過剰なまでの兵力を統率しながらも実際に前線で戦っているのはモビルスーツ部隊ばかりで艦隊は後方に控えたまま開戦からこっち動いていない。

 

 狭い海峡内に味方艦が足の踏み場もないほどひしめき合ってしまって、動くに動けない状況下で後背からの襲撃に対処するなど、いくらタリアが経験豊富な艦長とはいえ出来ることにも限度がある。

 今の状況下では、その場しのぎの対処法的な指示を行い続けるだけの作業に没頭せざるを得ず、今は一刻も早く自由な行動を可能にしないと動くことさえままならないまま敗走する味方に巻き込まれかねない。

 

「それからデスティニーとの通信回復を急がせろ! ヘブンズ・ベース直上に到着しているシンが攻撃を再開してくれれば味方も勢いを取り戻せる!!」

「やっていますが、敵の妨害が激しすぎて我々の腕ではとても・・・」

「く・・・っ、電子戦とは時代錯誤な!!」

 

 タリアが解決しようと悪戦苦闘している問題は幾つもあったが、その内の一つが最善に到着した直後から、シンのデスティニーと連絡が途絶したことで。

 これはセレニアの指示より、要塞の利を生かし持ちうる限りの情報士官を総動員してミネルバからデスティニーに発信されている通信の全てを妨害するため電子戦を仕掛けさせていたことが原因で生じている事態だった。

 ザフト軍が前大戦初期において核攻撃を不可能にするため地上へ撃ち込んだ無数のニュートロンジャマーにより電波障害が発生してレーダーや無線などの電波装置が大幅に使用を制限されて久しい昨今だが、もともとニュートロンジャマーによる電波障害は予想外に発生した偶然の産物であり、ザフト軍がはじめから想定した上で撃ち込んだというわけでもない。

 そのためザフト軍には、ニュートロンジャマーによりレーダーが無力化された状況下での戦術に熟練している反面、対電子戦の経験者がほとんどいないという目立ちづらい欠点を抱え込んでもいたのである。

 またヤキン・ドゥーエ会戦や、サイクロプスによるアラスカの自爆、連合軍による核攻撃などで大人の軍人たちを大勢失わされたザフト軍は戦後、大規模な少年兵たちの徴募と増員をおこなっている。

 大人不足に陥った軍隊が少年兵によって数の補充をおこなうとき、その教育課程で無駄と判断された部分は今まで使っていた教科書から削られるのは歴史の必然である。

 まして数の差を質で補うコーディネーターの軍隊ザフト軍の戦艦に、余剰人員などいるわけもなく、当然のようにオペレーターも一人しか連れてきていない。

 数百人単位で電子戦を仕掛けてきている連合軍の数の暴力に対して、たった一人のオペレーターで対電子戦をおこなうのは不可能に近く、他の者に頼ろうにも電子戦について知ってる者から探さなければならない状態ではどうにもならない。

 それでも可能な限り呼びかけを行って人員を集めさせて入るものの、艦と艦との距離が近すぎる自陣営の状況下では人員を移送することさえままならない。

 

 とにかく今は、艦の自由を回復するしかない。

 そう考えることで自分を納得させ、最善を尽くすしかなくなっている。それが今のタリアの実情だった。

 

 

 逃げるのに邪魔だからと昨日まで手を取り合っていた者たち同士が互いを罵倒し、罵り合い、その中で一部に人々が賢明に崩れゆく組織の屋台骨を支えようと苦闘している努力を無為にさせていく・・・・・・。

 

 ・・・・・・それら人間の浅ましさ醜さが形となって現出され、人の本性がぶつかり合い挽きつぶし合う戦場の光景というものは多くの人たちにとっては、あまり見ていて気持ちがよくなる景色ではなかったであろう。

 

 

 ――だが、世の中には例外というものが存在しているのが常である。

 敵軍の無様すぎる醜態と、人間の浅ましさ愚かさこそが人の本性としてぶつかり合う戦場を俯瞰した映像を笑い転げながら楽しそうに見物できる人物も中に入る。

 

 たとえば、このロード・ジブリールという見た目と肩書きだけは紳士風の人物は、その代表例と呼ぶべき存在だったと言えるだろう。

 

 

「素晴らしい! 素晴らしすぎるぞセレニア君! まさに芸術的と言って良いほどに!!」

 

 

 大声で賞賛して激賞して、絶賛する言葉を惜しまない彼は、先ほどまで笑い転げすぎて浮かんだままになってしまっている目尻の涙を拭いもせぬまま、血走らせた眼で戦場を映すスクリーンを睨み付けるように凝視して、心から嬉しそうにけたたましく笑い転げる作業に再び舞い戻っていく。

 

『・・・・・・・・・』

 

 もはやロゴスメンバーの老人たちには付いていけない若者の暴走というより、狂態と読んだ方が正しく思えてきたジブリールの姿に吐息すら漏らす気がなくなって、ただ黙然とお茶をすするか葉巻を吸うかのどちらかしか動かなくなって久しい。

 そんな彼らの存在など綺麗サッパリ忘れ去り、ジブリールはこの世の春を謳歌していた。

 今この瞬間こそが彼の人生の中での絶頂期。今を心の底から喜べなければ彼の人生に華はない。

 

 あらためて自分だけでも逃げだそうとしていた艦の一隻が味方に衝突して、自分自身は無事で済んだが、衝突された艦の方は航行に重大な損傷を受けたらしく退艦準備を始めさせている姿が映った。

 ジブリールの瞳がキラリと光る。自分の出番が訪れたことを彼は敏感に察知して、主演男優らしく颯爽と登壇して良いところを掻っ攫ってやろうと基地司令官に上から目線で尊大な口調で声がけを行いに赴いてくる。

 

「君、敵から逃げ出そうとしている艦たちに向かって通信回線を開く準備をしてくれたまえ。人の上に立つ者の義務として、私が直接彼らに正しき本道へ回帰するよう説得してやろうと思うのだよ」

 

 大見得切って胸を反らし、今まで笑うばかりで何もやってこなかった自分のことなど過去の出来事として忘れ去り、その大らかな心を持って裏切り者共にも寛大な処置を施してやろうという器を見せつける。

 ――無論、罪を許してやるために必要な手土産として、デュランダルの首ぐらい取ってくるのが支配者に対しての礼儀というものではあったが、その程度のことは礼儀知らずのコーディネーター共を背中から撃ってでも持ってくるのが一度は王を裏切った謀反人として当然の義務であるだろう。

 

「ま、ちょっとはもののわかった人間ならね――すぐに見抜くはずだ。あんなデュランダルの欺瞞は。

 たとえ、それが出来なかったもののわからない愚かな人間であろうとも、今の惨状を見せられれば流石に気づけるだろう。ヤツの支配する世界などになったら、今のヤツらにとっても居場所はすでにないことぐらいはね・・・・・・」

 

 二度の裏切り、連合とロゴスを見限ってプラント側に回っても尚、危なくなったら自分だけでも生き延びるため逃げ出そうとする浅ましさ。

 その姿を眺めてジブリールは内心、苦笑する。

 まぁ所詮こういった連中は、世界のことより自身の安泰が重要なのだ。誰だって自分が一番かわいいものだ。決まっている。

 なればこそ、そういった愚かな民衆共を正しく導いてやる指導者は、鞭だけでなく時に寛大さという飴をチラつかせて優しくあやしてやらねばならない義務がある・・・・・・。

 

「まあ、何にでも見込み違いということはある。ロアノークたちがミネルバを討ってくれていれば、彼らも今回のような軽挙妄動にはしる気にはなれなかったろうからね・・・。

 仕える相手を選ぶチャンスを与えてやろうと思うのだよ」

「は、はぁ・・・。それが・・・そのぉ・・・」

「・・・・・・?? どうした? なにか私に意見でもあるのかね?」

 

 今の今までセレニアの言うとおりにしか動こうとしなかった従順な基地の副司令から曖昧な反応を返されて、ジブリールは僅かに両眉を寄せて顔をしかめ、不機嫌そうな表情を浮かべたが彼の場合はただの癖であり、見た目ほど不快だったわけではなく意外に思った程度だったが見知らぬ人間が見て察せれるほど判りやすい愛嬌は持っていない。

 

「も、申し訳ありませんジブリール様ッ! じ、実はその・・・セレニア司令よりジブリール様からそのご命令をいただいた時には、しばしお待ちいただくよう言付かっておりまりして、私ごときの判断ではそのえーとぉ・・・」

「なに? セレニアからの命令だと?」

 

 その返事を聞いてジブリールは、今度はハッキリと不快さを表す八の字に眉を寄せる。

 彼は確かにセレニアの軍事面における作戦指揮能力を高く評価してはいるが、だからといって自分の命令を無視するよう先んじて部下に命じておくなど許しがたい越権行為と呼ぶべき増長だろう。

 これは少し、身の程というものを教えてやった方が今後の彼女のためにもなるかもしれない・・・そうとまで考えていたとき、恐縮して頭を下げたままだった副司令から、眉の角度を正常に戻すだけの言付かっていた“続き”を聞かされる。

 

「し、司令はこう仰っておられました。“もし今しばらくの猶予をいただければ、より愉快な光景をご覧いただいてから登壇できます。主役は劇の一番最後のフィナーレを飾るものだと相場が決まっているものです”・・・とのことで御座いましで、そのあのえーとぉ・・・」

「・・・なるほど・・・。フフフ・・・やはり持つべきものは自分の身の程を弁えている部下と言うことだな・・・。ふふ、愛い奴だよ本当にね・・・」

 

 そして、急下降しかけていた機嫌を一気に急上昇させ、楽しそうな笑顔で自分の席へと戻っていく。

 

「・・・・・・ん?」

 

 そして戻る途中で、モニターの一つに映し出されていた光景を目にして完全に機嫌を直し、鷹揚な気持ちで開戦から始めて貴賓室のソファへと向かうと深く座り込み、満足の吐息と言葉を同時に放っていた。

 

「たしかに、私の判断は浅慮すぎたようだな。命令は取り消させてもらおう、セレニア君。

 しかし・・・フフフ・・・、あまり大人をからかうのは感心しないぞ? 劇で一番盛り上がる瞬間にサプライズを持ち込むにしても度が過ぎているからな。私でなければ君を危険人物として粛正してしまうような映像だぞ? これはね・・・・・・ハハハ・・・ハァーハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 ヘブンズ・ベースの地下深くで狂人が一人芝居にうつつを抜かし、開戦から始めて同席する羽目になってしまったロゴスメンバーの老人たちを迷惑がらせていた時も尚、基地の外側の海上では激戦が続いていた。

 

 タリアが適切な指示を飛ばしているとはいえ、恐怖と混乱によって通信が入り乱れ、矛盾した指示が飛び交う状況に陥りかけていた同盟軍の惨状にあっては彼女一人だけできることは限られている。

 それでも圧倒的な大軍勢に比較すれば微々たる数の逃亡艦が出そうになる程度の被害ですんでいるのは、彼女だけではなく連合からの離脱組の中にも有能な指揮官や艦長が少数ながら存在しており、議長の話を聞くよう味方に呼びかけ、正しく対応して軍の秩序を回復するため尽力していた者たちが存在してくれていたからこその功績だった。

 

 

「敵の中心で偽装艦を率いている艦に向けてミサイルを発射しろ! 敵の大半がダミーでしかないことを目に見える形で証明すれば日和見共の混乱は一挙に収まる!! 目に見える姿ごときに惑わされて狼狽え騒ぐ醜態を見せるなぁ!!」

「りょ、了解しました艦長!!」

 

 慌てて指示を伝えに走る、先ほどまで小うるさかった副官を舌打ちと共に見送って、筋骨隆々でヒゲ面の艦長は渋面を作る。

 彼らの国は連合加盟国ではあったが、席次は低く扱いも悪かった。前大戦でも今次大戦でも損な役割ばかりを押しつけられて嫌気がさしていたために国を捨てることに抵抗感は少なくて済んだのだが。

 

(――まさか、こんな所で死にそうな目に遭うとは思ってもみなかったぜ・・・。これは選択を誤っちまったのかもしれねぇなぁ・・・)

 

 そう思い、後悔もしたが今さら過去の戻るわけにもいかない以上、今を生き延びて明日へと希望をつなぐ以外に彼らにとっても道はない。

 そのためにもデュランダル議長とザフト軍への信頼を少しでも回復してやることは必要だったのだ。たとえ信用できなくなっていたとしても、連合とロゴスに対抗できる勢力は彼以外にはおらず、一度は裏切り弓引いた自分たちが帰参したところで連合が元通りの地位と扱いを回復してくれるほどお優しい支配者どもであった記憶など一秒たりとも存在しない以上は議長に味方してロゴスと連合を倒して分け前をもらう。それ以外に自分たちが生き延びて栄達する道はない。・・・・・・そう腹をくくっている彼だった。

 

「オラァ! そこのスカンジナビア艦! 無秩序に退こうとするんじゃねぇ! 順番守って列に並んで行儀よく秩序だって後退して陣形を再編しろ! この渋滞の中でバラバラに逃げようなんてしちまったら収拾つかなくなって却って死ぬぞ! 死にたくなきゃ軍隊らしく秩序を守りやがれェい!!」

 

 不甲斐ない醜態をさらす味方を罵りながらも的確な指示を飛ばしてやり、後退しながら敵への砲撃を同時に行わせる優れた手腕も見せつけてやる。

 連合から捨て駒扱いされた下っ端人生の長い彼は、自分自身を戦場の酸いも甘いも嗅ぎ分けられるベテランなんだと自負していた。それが出来なければ今までの人生で何度死んでいたか判らないほど彼の人生は苦労に満ちていたからだ。

 

(苦労知らずのエリート共には分からねぇことでも俺には分かる! それが分かるからこそ俺は生き延びてこられたんだからな! 肩書きだなんだと偉そうな顔したところで、実際の現場じゃ役に立たないんだってことを教えてやr――――)

「か、艦長ォォォッ!!!」

「なんだァッ!?」

 

 怒鳴り声で応じて、悲鳴を上げた部下を叱咤してやろうと振り向いた彼は絶句して立ち竦み動きと思考の全てを止める。

 艦橋の肉視鏡から見える外の景色いっぱいに、敵の偽装艦以外の実物潜水艦から発射された対艦ミサイルを含む雨のようなミサイルの雨が目前まで迫ってきていて回避するには遅すぎるタイミングになってしまった後だと気づかされたからだった。

 

「嘘だ・・・たかが一隻の戦艦相手にこんなに大量のミサイルを撃つわけがな―――」

 

 彼の放った人生最後の叫び声は、残念ながら誰の耳にも届くことはなかった。

 より大きな怒声で味方に危機を伝えるオペレーターの悲鳴が彼らの鼓膜を占領し尽くしていたからである。

 

「ミサイル群接近、本艦に向かって急速接近中!!

 対応不能! 数が多すぎる!! ――い、イヤだァァァッ!? 助けてくれぇぇっ!!」

 

 

 

 

 

「敵戦艦、撃沈を確認しました。生存者はなしの模様です」

「そうですか」

 

 潜水艦の狭苦しいブリッジ内で、のんびりと艦長席に座りながら副長からの報告にうなずきで返し、続いて確認のために艦長の方へと顔を向けるロゴス軍の少女指揮官セレニア。

 

「味方の混乱を静めようと叫んでいた敵艦は、今沈めたので最後でしたっけかね? 艦長さん」

「はい。少なくとも敵艦隊が発信している意味不明な通信内容の中で、意味ある言葉を使って指示を飛ばしていたことが確認できた艦は今沈めたヤツであります。司令官閣下」

「そうですか。・・・敵将が誰かは存じませんが―――」

 

 ふぅ、と深く息をついてから頭に乗せた軍帽を脱いで団扇のように仰ぎながら、セレニアは今まで自分たちが沈めてきたコチラの作戦を看破して正しい対応を指示していた離反者たちグループの艦艇、その全てのキャプテンたちのことを評して言った。

 

「アホな人でしたねぇ~。右往左往する大勢の味方の中で数少ない秩序だって動く人が、その集団の秩序をかろうじて保っている支柱であることくらい、素人やバカでも分かりそうなものでしょうに。オマケに全てのチャンネル開いて大声で指示出してたんじゃ、誘導弾で狙ってくれと言ってるようなものですよ。ド素人のバカな典型例としか言い様がない愚行でしたよ」

「ですが、秩序を失った軍隊が無秩序に壊乱するのを防ぐためには誰かがやらなくてはいけないことでもあります。彼らは彼らなりに軍人としての職責を全うしていたと、軍艦乗りの私としては褒めてやりたい気持ちにならざるをえません」

「その結果、数少ない秩序を保って行動できる自分だけが死んで、混乱して足を引っ張り合う味方だけが無数の残されてもですか? 本末転倒だと私なんかは思うんですけどねー」

 

 そう言われてしまうと艦長としては反論に窮するしかない。軍人として、軍事ロマンチシズムに傾倒する評価基準は忌むべきだとは思うが、やはりロマンを感じてしまうのは避けられない自分自身を実感させられたようで微妙な心地にさせられてしまうより他ない。

 

「軍人の最期として、美しい死に様だったと思うのは無能の現れと言うことですか・・・」

「立派だったし、美しかったとは私も思いますよ? 美しいだけだったとも思いますけどね。

 プライドを優先して玉砕覚悟の抵抗をするのも美学ではあるのでしょうけど、ただ美しいだけで意味は全くありません。

 生き残っていれば何かチャンスが生まれるかもしれないものです。諦めずに抵抗を続けるためならプライドなど捨てて構わないと言える人じゃないと私は尊敬する気になれないタイプですからね~」

 

 気楽な口調で言い切られた艦長は、戦術指揮官と戦略を見ることができる戦略家との違いをあらためて思い知らされながら、自分は絶対ソチラ側にいけそうにないなぁ―との思いを新たにしていたところ、ようやく部下の一人から待ちに待った報告が届けられた。

 

 鉄のプレートに焼き付けられたそれを見た艦長は、ようやく安心した表情で肩の荷を下ろし、セレニアにプレートを手渡しながら今までの心労を振り返るように慨嘆する。

 

「Sフィールドに潜ませていた小型艦から中継装置を経由して報告がもたらされました。例のアレが到着したそうです。速度と進行方向ともに変わらず。目標海域への到着はタイムスケジュール通り、今から二分後になるそうですよ・・・」

「ようやくですか。最初から分かっていたとはいえ、やはりハラハラさせられましたねぇ。アレが到着するより先に私たちが全滅させられてたら意味なくなっちゃうところでしたし」

「まったくです。オマケに自然現象ですからコチラからは急がせることができない以上は、あちらの到着時間にコチラが合わせるより他に手はなし。

 無駄話でもして不安を押さえつけないと発狂するところでしたが・・・これで私たち全員の

心労もやっと報われるというものです」

「ですね~。本当に全くそうですよねぇ~」

 

 にわかに和やかムードに包まれ始めたセレニア分艦隊の旗艦艦橋。

 それに比例したわけではないが、ようやくタリア指揮するザフト艦隊も秩序を回復させ、お荷物な離脱艦に道を空けてもらい、レイたちもどうやらシンと合流できたことを確認して、さぁこれから敵と本腰入れて戦ってやるぞと、クルーたちが溜まりに溜まった鬱憤を晴らすためにも活気づいていた丁度そのとき。

 

(・・・変ね。敵の動きが鈍すぎる・・・。こちらが反撃態勢を整えるのが終わるまで速度を変えないだけでなく、砲撃まで今まで通りを繰り返していたのは何故・・・?

 まるで、“何かを待っているかのような”、この停滞ぶりは一体・・・・・・)

 

 その疑問をタリアが抱き、不思議に思いながらも反撃を命じようとしたのもその瞬間。

 同盟軍艦隊の側面――連合軍からはSフィールドと呼称されていた海域――に近い位置に配置していたザフト艦の一隻から、妙なものを発見したとの報告が届けられた。

 写真付きだったため、その妙な物の姿をタリアは実物同然で確認することができ、先ほどより更に不審さを増した声音と表情で其れに付けられた名前を呟くことしかできなくなっていた。

 

 

「・・・・・・海に浮かんだ・・・氷?」

 

 

 

「艦長! 艦隊の再編作業が完了したとの報告がありました! 連合からの邪魔な居候どもを退かす作業も完了したとのことです! いつでもいけます!」

「よーし! ヤツらに今までの借りを万倍にして返してやるぞ! 地ベタにへばり付くだけでは飽き足らず、海の底まで逃げ隠れしやがってた連中に思い切り熱いのかましてやれ!」

「それと艦長、Sフィールドの向こう側から流れてきた例の物については、先ほどミネルバに報告しておきました」

「そうか。まぁ、たしかに危険でないとはいえ障害物であることは確かだからな。俺たちはともかく離脱組の戦艦たちにとっては厄介だろう。注意を喚起し特に超したことはない」

 

 

 そう言って彼らが余裕を持って笑い合っているのは、『流氷』についてだった。

 遠くの海から流れてきたらしい、氷の大群が自分たちの艦隊が陣を構えているこの海域にゆっくりと流れてきている光景を見つけたから一応報告しておいたのだ。

 海に浮かぶ氷の塊に過ぎない石っころだろうとも、物によっては結構大きい物も混じっている場合があるのだ。同じ海に浮かぶ巨大建造物として戦艦たちが警戒しなきゃいけないのは理解できる。

 

「後顧の憂いはそれで全て解決したな? なら後はクソッたれなロゴスの奴らを降伏させるか全滅するだけだ! 地ベタにも海でもなく、穴蔵に引きこもって俺たちの宇宙まで支配しようとしたモグラ共に目に物見せてやれ!」

『応ッ!!』

 

 だが、生憎とザフト軍に潜水艦はあっても戦艦はない。ならば流氷を警戒すべきなのは連合からの離脱組だけで、自分たちザフト軍は敵と戦って倒すことのみに集中すればそれでいい・・・・・・

 

「では・・・攻撃開始! 我らに天の加護を! ザフトのために!」

『ザフトのために!!!』

 

 クルーたちがそう叫んで、艦を発進させようとしていたザフト軍潜水艦の一隻の表面に、流氷の小さな一つが「コツン」と音を立ててぶつかってきたのは、その時であり。

 

 

 

 

 ―――その直後に水柱をあげて大爆発を起こした流氷と共に、潜水艦と乗組員たちの全員は自分たちに何が起きたかも分からないまま、対ロゴス同盟軍に危機を教えてやるための狼煙の材料として天へと打ち上げられて消滅していった。

 

 

 

 誰もが唖然として沈黙のうちに見上げるしかなかった、その光景を只一人、計画者であり実行を命じた側の少女が頬杖をつきながら静かな声で、説明と終劇とを同義語として紡ぐ声が海のなかで呟かれていたことを知る者は少ない。

 

 

 

 

「海を漂っていた適当な流氷に推進器を取り付けて質量弾にしてみました。海なので海上からは見えづらいと思いますし、折角でしたので何割かには氷の中に爆弾を埋め込んであります。

 どれが誰に当たるかは運次第の確率論兵器ですけど、沈んだ艦は潜水艦にとっても邪魔になるでしょうね。

 まぁ、頑張って生き延びてくださいザフトの皆さん。応援しております。

 ――では、出番の終わった私たちは後退。本気で敵軍と正面衝突したら全滅するだけですので逃げますよ? ちゃんと偽装艦は敵艦隊に向けて特攻させるのを忘れないでくださいね?

 車も氷も無人の中身空っぽ潜水艦も一度火を入れちゃったら、止めるよりも爆発させた方が綺麗な花火になりますからね~。リサイクル、リサイクル~♪」

『・・・・・・はぁ。イエス・マァ~ム・・・・・・』

 

 

 いい加減、慣れてきた潜水分艦隊の旗艦クルーたちの心労だけは終わりそうにない―――。

 

つづく

 

オマケ【今話の中でシン・アスカVSフェイ・ウォンが交わしてた会話】

 

「なん・・・だっ、て・・・・・・?」

 

 ザフト軍のエースにして最新鋭機デスティニーを与えられたパイロット、シン・アスカは、フェイ・ウォンと名乗った敵の言葉に衝撃を受けていた。

 

 自分がベルリンを焼かせた人殺し・・・? 人殺し・・・・・・ヒトゴロシ!?

 

「――違うッ!!!」

『違わねぇよ!!!』

 

 反射的にシンは叫び返し、叫んだ直後に怒鳴り返され、その気迫に気圧された彼は思わず黙り込まされてしまう。

 

『お前も俺とおんなじなんだよ。だから言ったろうが、アンタとは気が合いそうだってな。

 その高性能な新型機を与えてもらうために今まで何人の敵を殺してきた? 敵の死体で山を築いた報酬によって手に入れた新しい機体で、次はどれだけ人を殺したい? 世界を平和にするために!

 自分の好きな奴らを殺した憎ったらしい奴らを敵として殺しまくって、嫌いな奴らのいなくなった世界を作り上げるために! 自分に都合のいい優しい奴しかいない世界を手に入れるために! 一体これからアンタはあと何千人殺せば気が済むんだろうなぁ!? えぇ!? シン・アスカさんよゥッ!!』

「違う! 俺は・・・・・・俺はァァァァッッ!!!」

 

 ひたすらに軍人という職業の持つ『人殺し』としての側面を強調して語り続けるフェイの糾弾に、シンは呻くばかりで動くことのできない精神へと追い詰められていく。

 それは知らず知らずのうちに刷り込まれていた、シンが持つ心の弱さの一つを突かれた結果だった。

 自分の家族を殺した連合軍と戦う『自分たちザフト軍は正義の軍隊』・・・そのイメージを肯定してやるため、ザフト軍の綺麗なところだけを見せて、連合軍は汚いだけを見えるように調整し続けた結果として気づかぬうちに抱かされてしまっていた『ザフト軍は正義のヒーロー』というザフト軍の制服を纏った彼の願望。

 

 戦争による痛みしか人に教えられないアスラン・ザラを教師という名の鞭として起用して、同世代の少年レイ・ザ・バレルを友達として飴の役割を担わせて、飴と鞭とを使い分けながら甘やかしてスポイルさせ続けた。

 自分が正しいと信じて行って、それを叱られた時には彼をかばい、より上位にある者がそれを許し、彼の正しさを保証する。

 インパルスという彼の求めていた『力』として与えてやり、憎むべき敵は殺しても悪ではない状況を作り上げ、成果を出せば結果論によって問題行動を免罪して、より大きな力と地位を与え続ける・・・・・・。

 

 そんな環境に置かれ続けては、どんな英明な子供であろうとスポイルされてしまうのは当然の結実でしかない。

 肉体能力や知能においてナチュラルを遙かに上回るが故に、成人として認められる年齢が早いコーディネーターといえども、人としての心である『精神年齢』まで一足飛びに大人になれる訳ではないのだから当然のことなのだから―――。



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