FEメモ書き集 (翔々)
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01.アカネイアってどんな国?

 ゲームだけだと分かりにくい設定を書いておいたり、ストーリー上の疑問に超無責任かつうろおぼえな解釈をつけてみる(予定)

 スーファミ時代にはただの戦略ファンタジーゲームだと思っていたんですが、先日DS版のリメイクを遊ぶうちに「これは戦記物としても物凄い良作なんじゃないか」と唸ってしまった。その興奮のまま書きなぐった結果がこれだよ!

 なお、好きなキャラはラング。第二部冒頭でいきなり出てきた小悪党だと思ってたら、なんとアカネイアの五大貴族のひとり(アドリア候)! おまけに第一部ではアカネイアを裏切ってドルーアに寝返り、戦後には何事もなかったかのようにアカネイアへ復帰、ハーディン皇帝の臣下の筆頭としてグルニアの全権統治を任される……小悪党なんてものじゃない、超有能ですよこのジジイ。



 Q.アカネイアってどんな国?

 A.恨みを買った大国。腐敗した貴族主義がもたらす惨劇の坩堝(るつぼ)

 

 ゲームの舞台であるアカネイア大陸の中心に建国された国家で、493年まではアカネイア聖王国。その後にアカネイア王国、アカネイア神聖帝国と改名。皇帝ハーディンの戦死、王妃ニーナの願いによって609年に消滅、アカネイア連合王国となった。初代はアドラといい、ナーガの神殿からお宝をねこそぎ奪っていった盗賊と思われる。実は年表中に2度も滅亡している。

 

 一度目は493年、メディウスによるドルーア帝国の侵攻。竜に対しての戦術が確立されていなかったため、あっさり滅亡。アカネイア王家の男系はすべて殺され、王女アルテミスだけが生存。このアルテミスの悲恋の相手がマルスの先祖(直系ではない)の若者アンリ。二人は身分の差で結ばれず、アルテミスはアカネイア聖王国の有力貴族カルタス伯を婿にとる。

 

 二度目は602年。597年に復活したメディウスを隠れ蓑に、ガーネフの悪魔的な策略が大陸を総なめにする。アカネイア王国の属国であるグルニア・マケドニア・グラの三国がドルーア陣営に付いた上に、アカネイアの五大貴族であるアドリア候ラング、サムスーフ候ベント(デビルマウンテンでおなじみ)まで離反。五大貴族で最後まで王家に付いたのはジョルジュの属するメニディ候ノア、ミディアのディール候シャノンの二家だけである。なお、他の一家ことレフカンディ候カルタス(アルテミスと婚約したカルタスの家)はお家騒動が勃発して混乱中。ここにもガーネフの手が回っている可能性は高い。

 

 マムクート・シューター・ドラゴンナイトといった最先端の兵種が揃ったドルーア陣営に為すすべなくアカネイア王国軍は連敗し、王都パレスが包囲された後に降伏。グルニアの黒騎士カミュが占領統治にあたり、王家の一族はことごとく処刑される。この時王女ニーナだけがカミュに保護され、二年後にオレルアンの王弟ハーディンへと匿われる。これがグルニアどころかドルーア陣営の滅亡に繋がる致命傷になるわけで、後に知ったガーネフは怒り心頭だっただろう。よく暗殺されなかったものだ。

 

 なお、パレス包囲の最中にアリティア王コーネリアスが出陣し、その背後をグラ王国に突かれて戦死している。王子マルスはアリティアを海路で脱出し、東の辺境国タリスへと亡命。2年後にタリスが海賊襲撃に遭うことで物語が始まるのだが、今は関係が無い。

 

 

 

 Q.なぜ各国が裏切ったのか?

 A.主家であるアカネイア王国への不満が頂点に達していたから。

 

 それぞれの国を確認してみる。

 

 

アカネイア王国

 アカネイア大陸のほぼ中央部。大陸の総人口100万人の内、1/3を有する。周囲を属国で固めたことで100年の平穏を得たかわりに、貴族主義の負の部分だけが増長した。明らかに戦力が危険水準に達している属国に対しても傍若無人にふるまい、下級貴族ですらアカネイア以外の国を蛮族・サルの群れと蔑む。傘下の国を国家として承認するかわりに朝貢を要求するが、同時に法外な賄賂をとる役人が当たり前のように存在する。

 

 政策が苛烈に過ぎるのも特徴。498年のメディウス討伐後にマムクートを奴隷にしたほか、城下町のノルダに奴隷市場を設けたり、強大な力を持ちかけた貴族を開拓者として辺境に送り込んだりと、後の滅亡の火種を自分から撒いている。

 

 

オレルアン王国

 499年にアカネイア王カルタス伯(アルテミスと結婚)の弟が平定し、その功績で建国。アカネイアから北に位置する草原地帯で、良質な馬の産地。アカネイア王国を復興した名君カルタスの血筋ということで、他国よりも扱いは上。あくまでも属国扱いなのは変わらない。左横には魔道都市カダインがある。

 

 アカネイアから頻繁に貴族が送られて内政干渉されていたが、ハーディンの決起によって地元で奴隷扱いされていた部族(ウルフやザガロ)が騎士団を結成、政治を牛耳ろうとしていた貴族達をすべてアカネイア本国に叩き返す。これが後にハーディン皇帝とパレス貴族達の確執を生んだのかもしれない。

 朝貢の義務はあっただろうが、王家の遠戚ということで軽めだった?

 

 

アリティア王国

 500年にアンリが建国。地竜王メディウスを打倒し、王女アルテミスを救った英雄としての功績が評価された。地図上はアカネイアからやや離れて左。上にカダイン、右にグラ、左にグルニア、下にドルーアと接する島国である。

 

 アンリはアルテミスとの悲恋をきっかけに妻を持たず、子供もいなかった。かわりに弟のマルセレスが継ぎ、子のマリウス、さらにコーネリアス、そしてマルスへと繋がっていく。マルスはアンリの一族ではあるが、直系ではない。にもかかわらず戦果を挙げるのだから、血の繋がりは恐ろしい。

 

 王女アルテミスを救った英雄という点から朝貢も軽かっただろうが、オレルアンよりは多いだろう。

 

 

グルニア王国

 501年にグルニア守備隊長オードウィン将軍が建国……といえば聞こえは良いが、実際はオードウィンの目覚ましい戦果を危険視したカルタスによってアカネイアから遠ざけられた結果である。国王に睨まれるよりは開拓地で国を築いた方が安全、という判断のもと、オードウィンと彼を慕う部下、さらにアカネイアに見切りをつけた有力貴族達が中心になった。大陸の最西に位置しており、右上にアリティア、右にドルーア、右下にマケドニアを睨む。

 

 最もアカネイアにむしり取られたであろう国。成り立ちからして都落ちである以上、アカネイアの貴族に蔑みの目で見られるのはおかしくない。その反骨心から富国強兵に励み、後に黒騎士カミュや優秀な将軍達を擁立することになる。ほぼすべての国民が反アカネイア派。

 

 

マケドニア王国

 503年、元ドルーアの人間奴隷アイオテが建国。地図では大陸の南、ドルーアの真下に位置する。海を挟んで左にグルニア、右にアカネイア。

 

 どうしようもない糞立地。山岳地帯という農耕には向かないハンデに加えて、上にはいつ復活するかもわからないドルーアの爆弾を抱えている。だったら林業でもするしかないのだが、グルニアにもアカネイアにも海がそびえているため地続きの有力国家がない。つまり貿易手段としてはハイリスクな航海オンリー。こんなところを任された内政官は頭を抱えたくなるだろう。それでもやってのけたマケドニア人は偉い。ただし根こそぎアカネイアが奪っていく。そりゃミシェイルも反逆するよ。

 

 ガーネフ接触時、当時の父王とミネルバはアカネイア派、ミシェイルはドルーア派だった。アカネイアへの反感を煽られただけでなく、グルニアとグラの離反計画も伝えられたかもしれないミシェイルは従わない父王を殺害、マリアを人質としてドルーアに送った。これが最終的には真田兄弟よろしく家が残る結果に繋がるのだから、ぎりぎりの所でミシェイルも悪運をもっている。

 

 補足。「マケドニアに対してアカネイアは多大な援助をした」というが、果たしてどこまで真実なのかは怪しい。なにしろ悪徳役人が常態化しているので、援助金すら届く前に横領している可能性が高い。俺達のラングならやってくれる。間違いない。

 

 

グラ王国

 537年、アリティア王国でアンリが没した際のお家騒動によって分離独立した国家……というが、アリティアを危険視したパレス貴族達の謀略だと思われる。カルタスにとってはアルテミスを競った相手であり、アカネイアとは海を隔てて隣接した仮想敵国でもある。戦力はできるかぎり削いでおきたいのが本音だろう。結果、アリティアの国土は東西で真っ二つに割れた上、アカネイアに近い右半分をグラに取られたことで、アリティア王国は中央から一層遠のくことになった。

 

 この国は成り立ちからして反アリティア一色である。602年時点の国王ジオルからして、マルスの父コーネリアス国王への嫉妬で凝り固まっている。父祖の宿願であるアリティア打倒のためなら、主家であるアカネイアが滅んでも構わないと思うのも不思議ではない。ガーネフが軽く煽ってやるだけで、グラはたやすくドルーア陣営についただろう。

 

 結局コーネリアスは呆気なくグラの離反によって討たれたのだが、もう少し危機意識は無かったのだろうか。そもそもの国の成り立ちからして反アリティアの相手を信用し過ぎである。

 

 朝貢は当然のように重かっただろう。何しろアンリと違って功績が無いのだから、アカネイアも遠慮無く搾り取ったに違いない。

 

 

タリス王国

 579年、辺境の島々で争っていた部族を統一したモスティンによって建国。場所は大陸の最東、アカネイアの右。ただし首都パレスからは遠く離れており、自由港湾都市ワーレンやオレルアン南のレフカンディの方が近い。

 

 建国にグルニア将軍のロレンスが関わっている。タリスの部族の中で有力者だったモスティンに協力した縁が続いており、それが後年シーダの説得で活きる形になる。

 

 海洋国家として十分に大きくなれる下地はあるが、いかんせん辺境過ぎる。おまけに国の上、ガルダ海ではいたるところに海賊が跳梁跋扈している。ガルダ海賊を討伐してからのタリスは大手を振って繁栄しただろう。もしマルスがアリティアに帰還せず、タリス王になっていたら? 面白いIFになると思う。誰か書いて、役目でしょ。

 

 朝貢させようにも貧弱過ぎる。アカネイアの役人も大して期待しなかっただろう。

 

 

 

 以上。属国6ヶ国の半分が割れて襲い掛かってきたのである。おまけに100年間の平穏によってアカネイア軍の大半は戦争を知らない。辺境の地で蛮族と戦い続けてきたグルニア・マケドニアの軍隊は精強であり、相手は恨み骨髄に達するアカネイア。いっさいの遠慮呵責なく、地獄の光景が広がっただろう。ドルーア帝国のマムクート達の方がドン引きしたかもしれない。あるいは人間の愚かさを嘲笑ったか。

 

 




参考文献は公式サイトとアカネイア・クロニクルです。


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02.マケドニアは詰んでいる

 ミネルバ「どうしたらいいの……」 

 誰もが頭を抱えたくなる話。なにもかも戦争が悪い。



 

 マケドニアにてクーデター発生。女王ミネルバが虜囚の身となる―――。

 

 英雄戦争の序盤、マルスがグルニアの反乱を鎮めた直後に届く凶報である。驚かされたプレイヤーは多いと思うが、その原因が”急激な軍縮でリストラされた将官達の反抗”だと知った時、呆れた人も多かっただろう。

 

 マケドニアの環境がどれだけ劣悪かについては、ドルーア帝国と隣接しているという一点だけで十分に理解できると思う。密林・山岳によって国土が盆地化しており、生活するのにも苦労が絶えない。人間のコントロール下にないはぐれ飛竜に襲われる危険まである。まともな人間が好んで住める環境ではないのだ。

 

 自然、まともではない人間が人目を避けるために移住してくる。デビルマウンテンに巣食った山賊が『サムシアン』と呼ばれたように、マケドニアの海岸を拠点とした海賊『マケドニア・バイキング(別名マケドニア・シーフ)』が誕生し、甚大な被害をもたらすようになった。

 

 それほどの脅威が国内に存在するにも関わらず、ミネルバは軍の縮小を命じたのである。それも一軍の大将を務められる竜騎士ルーメルとリュッケ将軍のメンツを潰す形でだ。旧主のミシェイルは「小心者のお前に務まるわけがない」とリュッケを酷評しているが、それでも彼の元には多くの賛同者が集結した以上、能力はあると見ていい。

 

 これがきっかけでミネルバの人望の無さ、政治センスの欠如がネタにされるようになったわけだが――――ちょっと待ってもらいたい。

 

 ミネルバとて王族である。ミシェイル程の才は無いにせよ、国家元首としての教育は十分に受けたはずだ。何より女だてらにドラゴンを乗り回して何度も武功を挙げ、暗黒戦争中にはミシェイルに代わってオレルアン遠征軍を率いた武官なのである。

 

 そんな彼女が、内憂のマケドニア・バイキングの脅威を知らないわけがない。むしろ率先して排除する方向に動くのではないか。そうしなかったのは何故か?

 

 したくても出来なかったのである。

 

 

 

 

 暗黒戦争中のマケドニアの行動を確認してみよう。

 

 598年、ガーネフの策謀によってミシェイルが父王を暗殺。実権を握った彼はドルーア陣営に加わると宣言。この時点でアカネイアに課された重税は無くなり、マケドニア国民は歓喜したに違いない。ようやく独立したのだという実感に包まれたはずだ。

 

 喜んでばかりもいられない。国土から遥か先の王都パレスへの大遠征に備えるため、ミシェイルは国を挙げての準備に取り掛かる。兵士、馬、飛竜、ペガサス、それらを支える兵糧や武具、運ぶための船……国庫がすっからかんになり、ワーレンなどの商人から借金までしたかもしれない。

 

 ミシェイルはこの遠征に懸けたのだ。打倒アカネイアと、それに乗じて王国の裕福な土地を占領し、豊かな領土を持つ。それはマケドニアの全国民の宿願だった。ミシェイルは戦争の先に夢を見せることで、国力の限界を超えさせたのである。

 

 そして600年。マケドニア・グルニアを含めたドルーア帝国は、大軍でもってアカネイア王国へと侵攻を開始。二年後の602年にはパレスを落とし、当初の目的を完遂させた。神剣ファルシオンを掲げるアリティア王国も滅亡させたことでメディウスの憂いも無くなり、ドルーア陣営の勝利は揺るがぬものとなった―――。

 

 

 

 一方、ミシェイルには想定外の事態が発生していた。

 

 彼が当初の目的としていたアカネイア王国打倒は達成されたものの、パレスやワーレン付近といった目ぼしい土地は、すべてグルニアに持っていかれたのである。マケドニア軍が手に入れたのはパレスの入り口にあたるレフカンディ周辺でしかなかった。※ 

 

 これでは戦費が回収できない。もっと広大な、遠征軍を養えるだけの領土が必要だった。ミシェイルはアカネイア王国ではなく、オレルアン王国に狙いを変える。国土の広さはアカネイアに負けず劣らず、草原の大地がもたらす収穫も十分に旨味があると思われた。

 

 陸の上しか知らない馬乗り達に、空の恐ろしさをたっぷりと教えてやる。ミシェイルは遠征軍のほぼ全力をオレルアン制圧に向けるよう、現地へと号令を発する。

 

 ※……ゲーム中、マケドニア軍が主体となるマップはオレルアン・レフカンディ。後はグルニアがメインで、マケドニアのドラゴンナイト・ペガサスナイトが数部隊出現するだけ。おそらくはマケドニア軍が援軍に出しているだけなのだろう。

 

 

 

 オレルアンは想像以上に強かった。アカネイア軍を赤子の手をひねるよりもたやすく潰したことで、多少の慢心があったのかもしれない。オレルアン軍の中核を為す騎士団はドラゴンよりも機敏に動き、縦横無尽に駆けめぐった。

 

 草原という環境が彼らに味方していた。人馬を覆い隠すほどに成長した蔓草が、空からの目視でさえ敵影を見失わせたのである。ゲリラ兵と化した精鋭が死角から矢を放ち、貴重な飛竜と竜騎士が何十何百も落とされていく。

 

 多大な犠牲を払って、604年。どうにかオレルアンの主城を制圧する。

 

 そこからがオレルアンの本領発揮だった。元々が『草原の民』として遊牧生活を送っていた彼らには、城へのこだわりがない。むしろ「飛び回っている相手が一か所に籠もってくれるのは有難い」とばかりに、昼夜関係無しに攻め続けるようになった。城を落として勝ったはずなのに、むしろ攻守が逆転したのである。こんな馬鹿げた話はない。現地の軍は混乱しただろう。

 

 恐れていた事態がやってくる。

 

 600年から続けてきた遠征が、四年目を越えた時点で限界に達したのである。敵国アカネイアを倒して重税から解放されたのに、いまだに故郷へ帰れないのだ。ほぼすべての兵達に厭戦気分が蔓延し、マチスのような貴族階級ですらまともに戦えなくなってしまった。

 

 どうにかしなくてはならない、と焦るミシェイルの元に、最悪の報告がもたらされる。

 

『アリティア王子マルスが挙兵し、オレルアンの王弟ハーディンと合流』

 

 これが何を意味するか、戦局にどう影響するのか。賢明なミシェイルには明確に想像できただろう。彼は損切りせざるを得なくなった。到底受け入れがたい、敗北の二文字を飲み込んで。

 

 

 

 空どころかマイナスになった国庫。

 激減した戦力。

 限界を超えた徴兵によって失われた労働力。

 アカネイアに弓を引いたという事実。

 

 五年間の大遠征がマケドニアにもたらしたのは、国家を破綻させる規模の大赤字であった。

 

 

 

 

 戦後のマケドニアに帰還したミネルバを待っていたのは、このどうしようもない負債の山だった。正直発狂してもおかしくない。突然領内に金山が発見されるか、あしながおじさんが融資でもしない限りは対処不能だと思われる。

 

 経営の傾いた組織が真っ先に取り掛かるのはリストラだと、太古の昔から決まっている。会社のためにならない、金食い虫で、おまけにトップのいうことも聞かずに居座る連中が真っ先に対象となる。ミネルバから見れば、リュッケやルーメルといった将官達がそれだったのだろう。

 

 将官の追放だけでなく、軍縮にまで手を伸ばした点についても触れておきたい。軍というものはとにかく金がかかる。兵だけではなく、馬にしてもそうだ。購入費用に加えて維持費までついてまわるのだから。

 

 日本の江戸時代、馬一頭が一日に食べる量は大豆と糠をあわせて5.8キログラムだった。日本産の馬は小型だったというから、アカネイア大陸の馬はさらに大きく、大量に食べる。生産力の乏しいマケドニアが用意できるのだろうか。

 

 そして、マケドニアが有するドラゴン、ペガサスの消費量は?

 

 

 

 マケドニアの財政には、一刻の猶予も残されていなかった。国内に跋扈する海賊の存在を考慮してなお、軍縮せざるを得ない事情があったのである。

 

 ……それにしても、もう少し何とかならなかったのか。

 

 



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03.ハーディンがグルニアを潰した理由・他

ハーディン「おれは しょうきに もどった!」

紋章の謎20章での暗黒皇帝のセリフ「俺はグルニアさえ潰せばそれで良かった」がのどに刺さった小骨のように引っかかる。仕事でも家庭でも心が休まらない、皇帝なのに中間管理職じみた男の苦労話。



 英雄戦争末期。パレス王宮にてマルス達を待ち構える皇帝ハーディンの前に、クーデター首謀者の聖騎士ミディアが引き立てられる。抵抗の痕も痛々しい、見るも無残な姿を一瞥する男に、ミディアが余力を振り絞って問いかける。

 

「ニーナ様をどこへやった!? 王妃を返せ!」

 

 女の名前を耳にした瞬間、皇帝のたたずまいが一変した。対峙するミディアが震え上がるほどの怒気を露わにする。

 

「ニーナだと!? あの女は、俺を裏切ったのだ!」

 

 そう叫ぶハーディンが、一瞬だけ正気を取り戻したように冷静な顔になる。やがて弁解するように、

 

「俺はグルニアさえ潰せば、それで良かった。それを、あの小僧がエムブレムなどを手にしたがゆえに……!」

 

 暗黒皇帝と呼ばれる男には似つかわしくない、後悔にも似た心情を吐露した。

 

 

 

 このマップに来るまでに、プレイヤーは第一部の知識とボア司祭の遺言でハーディンの変質の原因を知っている。妻のニーナが愛しているのは夫のハーディンではなく、グルニアの黒騎士カミュだった。彼の死後もニーナはカミュを忘れられず、ハーディンを愛することができない。傷ついたハーディンの心に、魂だけの存在となったガーネフが目を付けて、闇のオーブの虜にしたのである。

 

 闇のオーブは、持ち主の心に秘めた欲望を露わにする力を持つ。この時のハーディンのセリフは、嘘偽りなく彼の本音である可能性が高い。愛した女の裏切り、盟友マルスへの嫉妬が伝わる、本編中でも屈指の名場面だろう。

 

 が、引っかかる点が一つある。

 

『俺はグルニアさえ潰せばそれで良かった』

 

 妙ではないだろうか?

 

 ハーディンが完全に狂い、ニーナへの怒りだけに身を任せたのなら、ミディアへの返答はもっと違ったものになるはずである。故郷オレルアンを離れ、アカネイアの皇帝として政務に励み、ニーナのために生きる自分。なのに当の女は一向に振り向いてもくれず、死んだ男の影を追う一方だ。おのれ、おのれ、おのれ―――。

 

 そうではなかった。ハーディンはニーナの裏切りを愛情ではなく、グルニア討伐という政策にからめたのである。これはいったい何を意味するのか。グルニア征伐はハーディンにとってどのような位置付けだったのだろう。

 

『なぜハーディンはグルニアを潰したのか?』

 

 これが今回の考察である。

 


 

1.ニーナにカミュを諦めさせる、もしくはカミュの完全抹殺

 

 前作をプレイした人ならご存知の通り、本編にはカミュと同一人物だと思われるキャラクターが登場する。仮面で顔を隠しているものの、パラディン・槍使い・金髪・貴公子然とした振る舞い……「お前もう隠す気がないだろ」と突っ込みたくなるような一致ぶりである。

 

 このカミュと思しき人物が、グルニア領でしばしば確認されたという噂が流れる。そのことを王宮の人間……ボアか別の誰かが聞き、世間話としてニーナに伝えてしまったのかもしれない。

 

 ニーナにとっては僥倖である。カミュを故人として諦め、ハーディンを愛そうと努力し始めた矢先に、かつて恋した男が生きているかもしれないという希望を持たされたのだ。落ち着きのなくなった妻を不審に思い、夫が調べさせても無理はない。すぐに知られることとなった。

 

 ハーディンは今度こそショックに打ちのめされただろう。ようやく自分を愛するようになった女が、元に戻ったようにつれなくなった。あろうことか、その相手は前大戦で殺したはずの宿敵である。まるで幻のようについてまわる男の影が憎らしくてたまらない。

 

 殺してやる。

 行方不明になどさせない。自分の手で、確実に殺してみせる。

 

 もう二度とニーナがたぶらかされないよう、彼女の目の前で八つ裂きにしてくれよう。そうすればニーナも夢から覚めるに違いない。いつまでも恋する乙女でいてもらっては困る。いい加減に夢から醒めて、王妃としての自覚を持たせなくてはならない。

 

 これは国のためなのだ。王家の人間をことごとく処刑した罪人の首を刎ね、アカネイアが未来に向かって進む礎にする。そのためにはグルニアなど滅ぼしてもかまわない。後を任せたロレンスも老いぼれであり、ユベロ王子などは小童も同然だ。いないほうが都合も良い――――。

 

 

 

 本編プレイ中の私が考えていたのはこんなストーリーだった。

 

 なんとも愛憎渦巻く昼ドラ展開だが、物語の展開としてはありきたりだと思う。何より、ニーナがエムブレムを持ちだす理由に繋がりにくい。というわけで、この案は没。ハーディンの心情的にはありえなくもないか。

 


 

2.アカネイアの貴族達の意向に従った

 

 ハーディンは皇帝ではあるものの、アカネイアでは入り婿の外様である。一族の遠縁にはアルテミスの夫として皇帝になったカルタス伯がいるものの、直系ではないために箔が足りない。自然、どうしてもアカネイアを牛耳る貴族達からの評判は悪く、ハーディンの影響力は弱いままである。

 

 彼らの信頼を得る、ないしは君主として認めさせるには、貴族層が望む政策を執る必要があった。大陸の王者にふさわしい、名誉と実益を兼ねたものでなくてはならない。農地開拓だの税制改正だの、長期的かつ地味な政策は却下である。より派手で、かつ短期に効果の見込める行動。

 

 外征による領土拡張である。

 

 グルニア征伐以前からハーディンは近隣諸国を制圧し、アカネイアの国力を増大させたとあるので、これは間違いではない。ただし、もっとも現実的な目的は領土というより別にあると思われる。

 

 占領地からの略奪。

 

 乱捕りは戦の華というが、それは国家でも変わらない。自分でゼロから生み出すより、相手から奪ったほうがよっぽど楽である。なにしろアカネイアは五年にも渡ってドルーア帝国と戦争を続けた上に、王都パレスをグルニアに占領されたのだ。その間、王家の財産や秘宝はすべて持ちだされている。マルス達が取り戻したのは一部に過ぎず、巨万の富が国外に流れてしまっただろう。

 

 アカネイアの貴族層は、それらの代償を求めていた。そうした要望に応える形でハーディンは外征を続けていき、目ぼしい標的を狩り尽くしたのだ。外に無いのなら、内で探すのが道理である。名だたる将軍達を失い、引退してもおかしくはないロレンスだけが残るグルニアは格好の獲物である。ハーディンの食指がギラリと光った―――。

 

 

 

 一つ目に比べれば現実的である。が、これでは皇帝たるハーディンがアカネイア貴族達の傀儡でしかない。アカネイア王家の人間になろうとする彼が、そのようなポジションに満足するだろうか。よってこれも没。

 

 三つ目は、正反対の説。アカネイア貴族を味方にするのではなく、敵として見るものだ。

 


 

3.アカネイア貴族に対抗するための派閥を作る

 

 ハーディンにとって、アカネイアの貴族層はオレルアン時代からの仇敵である。彼の生まれ育ったオレルアンでは『草原の民』と呼ばれる部族が生活しているが、アカネイア王国は彼らを奴隷として虐げてきた。それに憤ったハーディンは『草原の民』を己の騎士団として取り込み、奴隷階級からの解放を成し遂げたのである。

 

 その事実を承認させるために、ハーディンはアカネイアの貴族達と粘り強く交渉した。幾度となく罵られ、屈辱的な目にあっただろう。そんな相手に対して、皇帝ハーディンは歩み寄ろうとするだろうか。否。

 

 彼らの存在を、徹底的に攻撃する。

 

 なぜアカネイア貴族が権力を持つのか。彼らに力があるからである。ならば貴族達に負けない、それ以上の力を持った存在が現れたら? 彼らの権力は分散し、ひいては皇帝たるハーディンの影響力が強まる。そうして五年、十年と時が立てばアカネイア貴族達は日陰者となり、新たな権力者達が成り代わる。

 

 ハーディンは精力的に働いた。オレルアンに置いた旧臣『狼騎士団』の戦力を強化しつつ、外征と略奪を繰り返して国庫を潤す。アカネイア貴族に敵対する人間を中心とした子飼いの部下達を雇い、彼らに権力を与えて対抗馬に仕立て上げる。

 

 暗黒戦争でドルーア帝国に裏切り、アカネイア王国での立場を無くしたアドリア候ラングなどは格好の人材だった。なにしろ後が無い以上、権力者に返り咲くためならどんな汚れ仕事もやってのける。まさにハーディンの欲しい駒だった。最終的には切り捨てればいいのだから。

 

 そうして集まった自らのシンパに、いよいよ領土を持たせる時が来た。アカネイア大陸の外では意味が無い。あくまでも大陸内で、かつ裕福な国を持たせなくてはならない。どこかにないか……国内を睨めば、実に魅力的な土地があるではないか。

 

 グルニア王国。

 

 有力な将軍達はすべて死に、引退同然の老将ロレンスが残るのみ。国王ルイは病死し、後には年若いユベロ王子・ユミナ王女しかいない。なにより未開の土地ではないというのが素晴らしい。開拓の段階はとっくに過ぎ、開発もほとんど終わっている。占領統治も楽に済ませられる、絶好の獲物である。

 

 ハーディンの狙いは決まった。グルニアを滅ぼして、自らのシンパに分割・割譲させる。それぞれを幾つもの小国家の王に任命して、同時にアカネイア貴族としての権力を持たせる。彼らは旧態依然たるアカネイア貴族の一員になどならず、皇帝ハーディンの意のままに動くのだ。

 

 これが一番現実的な理由だと思われる。アカネイア王国内では外様のハーディンが皇帝として振る舞うには、既得権益の主であるアカネイア貴族達を排除しなくてはならない。それを成し遂げるには、武力や暗殺といった血なまぐさい手口ではなく、五年・十年と長期的な時間をかけた政略の必要がある。

 

 強引といわれようと構うまい。属国を虐げ、民の生き血を啜って繁栄するアカネイア貴族こそが国家の癌である。癌を摘出するためなら、自分は鬼にでもなろう。それが長じては国家のため、愛する王妃ニーナの子孫のためになるのだ。

 

 いつかニーナも自分を愛してくれる。その日を近づけるために、その後の幸せのために、ハーディンは皇帝として戦うことを誓う。

 

 

 

 ―――彼の誤算は、愛するニーナこそがアカネイア貴族の象徴であるという点を失念していたことだった。

 

 ハーディンの政策は強引に過ぎた。アカネイア王国の貴族主義と真っ向から衝突し、怯むことなく改革を進める彼の姿勢は、アカネイアに暮らす貴族達を恐慌へと追いやった。自分達の権勢に脅威が迫っていることに気づいた貴族達は、助けをもとめてニーナの元へ日参する。

 

『どうか皇帝を思い留めてほしい』

『アカネイアを統べる王としての自覚を持たせてもらいたい』

『このままでは、我ら臣下が立ち行かなくなってしまう』

 

 日に日に増え続ける嘆願が、ニーナの心をひどく責める。彼女には夫を愛せないという負い目がある。強い苦言をすることもできず、皇帝派と貴族派の対立が悪化する一方のパレス王宮の片隅でひっそりと過ごすほかない。

 

 ハーディンは何故こうまで争うのだろう。必要だからそうするのは理解できる。だが、ここまで荒げることはないはずだ。幾度も戦争を繰り広げる姿は悪鬼羅刹としか思えない。どうして、どうして、どうして―――。

 

 ニーナはそこで気づく。数日前から夫のもとに出入りする商人が、怪しく黒光りする宝玉を持参してきたことに。心を虜にするような輝きに惚れ込んだハーディンが所望すると、商人は笑顔で応じた。以来、そのオーブは皇帝の懐中で鈍い輝きを放っている。

 

 あれは魔物だ。

 私の夫は、悪魔に魅入られてしまったのだ。

 

 ニーナは助けを求めるように女官のリンダを呼び、王家の秘宝『ファイアーエムブレム』を託した。このままでは、アカネイア王国は再び戦乱を引き起こしてしまう。頼るべきは、かつてハーディンと並び称されたアリティアの王子マルス。ニーナはリンダをパレスから脱出させ、マケドニアに参陣するマルスの元へと向かわせる。ひとりになったニーナは、王宮に立ち込める暗雲に心を乱されるしかなかった……。

 

 

 

 ファイアーエムブレムはアカネイア王国を象徴する秘宝であり、王家そのものといっても過言ではない。これを国外の、それも属国の王子に譲り渡すという行為が、どんなメッセージになるか。

 

『ハーディンにアカネイアを統べる資格無し』

『貴方がハーディンに代わってアカネイアを統べよ』

 

 よりにもよって、それを実行したのがアカネイア王家に唯一残された王妃ニーナである。これは完全にハーディンへの抗議表明であり、皇帝への不信を喧伝することに他ならなかった。

 

 ハーディンにしてみれば正しく裏切りである。そもそもハーディンはニーナのため、アカネイアのために、日夜心労を重ねて政務に励んでいるのだ。感謝はされても咎められることはない。それがどうしてこうなるのか。

 

 もはやハーディンの構想は破綻した。なんとしてもファイアーエムブレムを取り戻し、アリティア王子マルスを「王家の秘宝を盗んだ罪人」として討伐しなければならない。でなければ、ファイアーエムブレムを持たない自分が『王ならざる者』として討伐されることになる。

 

「おのれニーナめ! よくも俺を裏切ってくれたな! お前のために働き続けたこの俺を、逆賊として討たせるつもりか!!」

 

 ハーディンの怒りに呼応するかのように、懐中のオーブが輝きを増し続ける。彼の心に巣食った悪魔は、いつしか彼に成り代わるまでに成長を遂げるのだった。

 


 

余談.ハーディンの雄壮なる戦略

 

 もう一つ気になる点が出てきたので書いておく。

 

『俺はグルニアさえ潰せばそれで良かった』

 

 この言葉が真実である場合、当初のハーディンの戦略では、討伐はあくまでもグルニアだけに留まるものだったことになる。老将ロレンスに反乱を起こさせて殺害し、ユベロ・ユミナのふたりの王族をグルニアから引き離す。完全な空白地帯となったグルニア領土をアカネイアに取り込み、腹心達に分け与える。本来ならそこで終わる予定だったというのである。

 

 つまり、そこからの展開はハーディンの想定外。マケドニアの反乱、マルスによるグルニア解放とラングの切り捨て、隙を突いてのアリティア攻略。これらは戦略の変更を求められた結果だった。

 

「我々は嵌められたのです。グルニア征伐もマケドニアの反乱も、最初からアリティアを襲うための罠に過ぎなかったのでしょう」

 

 ジェイガンの推理は半分正解であり、半分が間違っている。

 

 

 

 では、当初のハーディンが描いていた構図とは何か?

 

 ハーディンはアカネイア王国内で孤立している。あさましくも権力にしがみつくアカネイア貴族を一掃するには、彼自身の権力を強めなくてはならない。それには腹心達を小国家の王に仕立て上げるのと同時進行で、国家間の新体制をまとめ上げる必要があった。

 

 アカネイア神聖帝国。皇帝ハーディン。

 アリティア王国。国王マルス。

 オレルアン王国。国王ハーディン兄。

 マケドニア王国。女王ミネルバ。

 グラ王国。女王シーマ。

 タリス王国。国王モスティン。

 グルニアに建国予定の小国家群。

 

 これらの十数ヶ国からなる、新生アカネイアのトップとしてハーディンが君臨する。ほぼすべての国家が皇帝の縁戚・腹心・盟友で構成された、極めて堅固な結びつきの一群である。ドルーア帝国に尻尾を振ったグルニア・マケドニアのような属国を出すまいという、ハーディンの意思が明確にうかがえる。

 

 なんとも雄壮な戦略である。『草原の狼』ハーディンらしい、現実に則した政策ではないだろうか。

 

 王妃ニーナの投じた一石が、彼のすべてを瓦解させたのは、もはや皮肉という他あるまい。

 



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04.暗黒戦争における派閥争いとマルスの苦労

派閥争いってやーね、というお話。

マルスの強みは個人の戦闘力ではなく、派閥の調整力と政治センスだと思う。例えるなら三国志の劉備。あるいは高祖劉邦。今回ミディアさんは敵対っぽくなりましたが、彼女は彼女で苦労人。


 

「いい加減にしろというのだ!」

 

 なみなみと注がれた麦酒を一息に飲み干しざま、ハーディンは不満をぶちまけた。叩きつけられた木杯が音を立てて破砕する。マルスがかわりのコップを差し出すと、再び半ばまであおった。

 

「アカネイアの貴族ども、よりにもよってニーナ王妃の威光を借りて、とんでもないことをほざいたものだ」

「ミディア殿が代表でしたね」

 

 王都パレスを解放して以来、ドルーア帝国打倒を掲げるニーナの元には各地から続々と有力者が馳せ参じるようになった。亡国とはいえ、旧都を奪還したアカネイア王家の正統なる後継者という威名が持つ力は大きい。マルスやハーディンの名前ではこうも集まるまい。あっという間に万を超える将兵が揃うと同時に、前々から危惧されていた問題が浮上するようになった。

 

 派閥の主導権争いである。

 

「あの小娘、捕虜の時はいかにも殊勝な態度をとっていたものを、いざ自分の兵が戻ってきた途端に化けの皮が剥がれ落ちたな! 軍全体の指揮権の統一だと? もっともらしいことをいいながら、我らをダシに自分の失態を帳消しにしたいだけだろうが!」

 

 ミディアの出自はアカネイア五大貴族であるディール候シャロン家である。マルスやハーディンよりも王女ニーナに近く、暗黒戦争当初は主戦派筆頭としてドルーア帝国軍と戦っていた。が、同じく五大貴族であるアドリア候ラングの離反によって軍が総崩れとなり、虜囚の身に落ちた。彼女が囚われている間に戦局は動き、ようやく拮抗状態にまで持ち直したのである。

 

 彼女の立場は微妙だった。開戦当初から戦っていたのに捕虜となり、何もできない内にパレスが解放されたのだ。このままでは面目が丸潰れであり、なんとしても手柄を挙げる必要があった。

 

 だからといって、従属国でしかないアリティアの王子風情(正式に王として任命されていないのでさらに権威が低い)やらオレルアンの王弟(こちらも王ではないのでマルスと同格)の下につくのはアカネイア貴族としての立場上よろしくない。これはミディアの意思というより、ミディアが所属するアカネイア貴族派閥の総意といった方が正しかった。

 

『アカネイア王国の正統後継者たるニーナ王女が率いる軍なのだから、その指揮権は直下のアカネイア王国軍が持って当然である』

 

 今朝の軍議にて、そんな発言が危うく通ってしまいそうになった。慌ててマルスとハーディンが待ったをかけ、ニーナや他の有力者達と粘り強く交渉し、やっとの思いで却下にまで持ち込んだのである。どうしようもない時間の無駄だった、とハーディンは怒りを隠しきれない。よくもこの忙しい時にくだらない派閥争いを起こしてくれたな、と罵りたかった。マルスが制止しなければ危うかっただろう。

 

「ジョルジュ殿は、別の意見をお持ちのようです」

「む……」

 

 マルスの指摘に、ハーディンの苛立ちが多少まぎれる。稀代のスナイパーの名前は、確かにハーディンの脳裏に刻まれていた。

 

 アカネイアの射手ジョルジュ。彼もまたアカネイア五大貴族のひとり、メニディ候ノア家のものである。ミディアと同じく開戦時から軍を率いてドルーア陣営と戦い続け、パレス解放以前からニーナの元へ参じている。

 

 彼の立ち位置はミディアとも違う。貴族ではあるが、どちらかといえば軍人気質が強く、合理性を優先するところがある。今朝の軍議でも意見を保留していた。

 

「同じアカネイア貴族でも、ジョルジュ殿は軍の在り方については僕達寄りの意見を持っているのだと思います。彼にミディア殿の牽制を依頼してはどうです?」

「……確かに。我らでは反感を買うが、ジョルジュ殿の意見なら影響力を持つか」

「そうです。何より、彼は()()()()()()()()()()()のですから」

 

 マルスの含みを持たせた言い方に、ハーディンは口端を歪ませた。温厚篤実な王子らしくもない皮肉に、彼も憤りを覚えているのだな、と察することができたからだ。

 

『俺が戦っている間に、お前は何をしていた?』

 

 ジョルジュの性格ならそんな言葉は使うまい。だが、面と向かうだけでも、ミディアの脳裏には間違いなくよぎる。名誉を重んじる者ほど、上位者には何も言えなくなる。ミディアを牽制するのにジョルジュ程の適任者はいないと思われた。それでアカネイア貴族の突出が防げるのだ。

 

「ハーディン殿はジョルジュ殿に接触を。僕はミネルバ王女と再度詰め合わせをしてきます。こんなところで時間を潰されるわけにはいきません」

「承知した―――――マルス殿」

 

 立ち上がりかけた盟友に、ハーディンは頭を下げた。

 

「貴公がいてくれたことに感謝する。ともにニーナ様の支えとならんことを」

 

 マルスは頷きをもって返した。それ以上はハーディンの矜持を傷つける、と判断したからだ。おそらく、それは正しかった。

 

 


 

 

(酷いものだ)

 

 自身の幕舎に戻ったマルスは、ミネルバを待つ間にひとり考えを巡らせた。アベルやカイン、ジェイガンといった士官達は練兵に忙しい。従者が茶の用意をするのに礼をいい、両手でカップを受け取る。丁度いい温度だった。

 

 アカネイア解放軍。

 

 ニーナ王女を錦の御旗として集った勢力は万単位。その蓋を開けてみれば、各国の利権争いが水面下で進行する火薬庫同然だった。今日のミディアの一件など、氷山の一角でしかあるまい。彼女を責めるつもりはない。立場が違えば、自分もハーディンもやらかしかねないのだから。

 

 自分が率いる亡国となったアリティア派閥。

 ハーディンのオレルアン派閥。

 ニーナの下で利権を拡げようとするアカネイア貴族派閥。

 マケドニアから亡命したミネルバの派閥。

 グルニアから離反した将官達の派閥。

 大陸の知を司る魔道都市カダイン派閥。

 

 零細の規模も加えれば、シーダについてきたタリス派閥やワーレンの意向で動く商人派閥などもあげられる。これらの勢力が少しでも強い主導権を握らんと、それぞれ虎視眈々と狙っているのである。アカネイア貴族はもっとも警戒すべき勢力だった。なにしろ規模が大きい上に、複数の意見が確立されてしまう。

 

 ミディアを筆頭とする主戦派は、軍権の掌握にやっきなこと以外は問題なかった。ニーナが『マルスとハーディンの指揮下で戦いなさい』と命じれば、内心はともかく従うのだから。

 

 問題は非戦派、穏健派とでもいうべきグループである。失われた国土を奪還するよりも、取り戻した領土を回復させる方が大事だと本気で考えている節があった。

 

『国家が甚大な被害を被っている。これ以上の戦争の継続は害悪である』

『王都パレスは奪還できたのだから良しとすべきだろう。今こそ停戦に移行する時だ』

『ドルーアは論外にしても、グラやマケドニア・グルニアとは交渉の余地がある』

 

 冗談もたいがいにしろ、とマルスは思う。連中の内心が手に取るようにわかった。

 

(アカネイア王家の領土は奪還しました、属国の領土は関係ありません、で済ませるつもりか)

 

 とんでもない話である。そんな意見が通ってしまえば、アリティアの解放など水泡に帰してしまう。何のために旗揚げしたのか、数多の血を流してきたのか、何の意味も無くなってしまうではないか。

 

 今は少数の意見でしかない。だが、見過ごしてはならない。パレスを奪還したことによってもたらされた束の間の平穏は、アリティアにとっては埋伏の毒蛇に等しかった。

 

 どうすれば、その意見を封殺できるか。

 

(勝つことだ)

 

 戦果を挙げる。目先の勝利ではない。圧倒的な、誰もが認める大戦果を挙げるのだ。

 

(勝ち続ける。敵将をひとり残らず討ち果たし、城砦のことごとくを落とす。軍の勢いを限界まで加速させて、止まらせずに進み続ける。『この辺が潮時だ』なんて思わせてはいけない。アカネイア貴族達を最後の一戦まで賭けのテーブルから離さない。でなければ、最悪アリティアは僕達の手に戻ってこない)

 

 停戦は損である、勝てるだけ勝とうじゃないか――――。

 

 他でもない、穏健派閥にそう思わせるのだ。それが全体の意見となり、軍そのものの方針となる。

 

(酷い話だ)

 

 手中の杯をあおった。乾ききった喉が、もっとよこせ、と叫んでいる。

 

(でも、やるしかない)

 

 幕舎の外から、竜のいななきが響いた。

 



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05.ペラティ戦の裏側とアカネイア経済崩壊の幕開け

マルス&タリス王「戦争中だから是非もないよね!」
ハーディン皇帝「やりやがったなこの野郎」(#^ω^)ピキピキ

マルスが黒く見えるのは間違いなくタリス王の薫陶だと思われる。



 

 暗黒戦争中、ペラティ王国で奇妙な戦闘が行われた。

 

 ――—マルスの加わったアカネイア王国軍はレフカンディ城砦を攻略後、補給のために自由港湾都市ワーレンに駐留した。完全中立を宣言する都市に守られる形で休養をとっていたところ、グルニアの主力軍団が強襲。無数の騎兵・重装歩兵による包囲殲滅作戦が開始された。

 

 からくも突破した王国軍が逃げ込んだ先は、東方のペラティ王国。地竜王メディウスと同じマムクート(竜人族)である火竜マヌー王が治める国であり、こちらもワーレン同様に他国の干渉を拒絶する方針をとっている。許可なく侵入されたと怒るマヌー王の指揮の下、ペラティ軍が襲い掛かる。

 

 奇襲とはいえ、小国でしかないペラティ王国軍はアリティア・タリス・オレルアン連合軍に完敗。拠点を制圧され、マヌー王は討たれることになる――――。

 

 

 やっている内容は普段と変わらないのだが、前後がおかしいことに気づいただろうか?

 

 当時の王国軍はワーレン包囲戦から撤退中で、ペラティには逃げ込んだだけである。ワーレンで補給したとはいえ、グルニアの精鋭部隊と一戦した直後で疲弊しており、軍勢を整えなくてはならない。そこをペラティ軍に奇襲される形となった。

 

 攻撃されたのだから反撃するのは当然である。

 だが、そこまでする必要があったのか?

 

 他国の干渉を拒絶するペラティ王国にしてみれば、突然やってきたアカネイア王国軍は侵略者も同然である。排除しようと動いてもおかしくない。ニーナに付き従うアカネイア王家の人間なら、そのあたりの事情を理解している筈である。マルス達に説明し、襲ってきたペラティ軍を軽く追い散らしてから、粛々と後にする。本来ならそのはずである。

 

 にもかかわらず、マヌー王は殺された。

 

 明らかに侵略行為である。たまたま避難した先で襲われたから、では断じてない。最初からマヌー王を殺害し、ペラティ王国を占領するつもりだったとしか思えない。

 

 パレス攻略中に後方を突かれないため? 言い訳にしても苦しい。そもそもペラティは開戦当初からアカネイア王国・ドルーア連合のどちらにも与せず、不干渉を貫いていた。パレス奪還の段階になってまで反旗を翻す可能性は限りなく低い。

 

 アカネイア王国軍は、何が何でもペラティ王国を滅ぼし、マヌー王を排除したかったのだ。それも侵略という形ではなく、マヌー王から襲撃されたという大義名分を得た上で。

 

 なぜマヌ―王は討たれたのか?

 


 

 マヌー王を殺すことでメリットがある国はどこだろうか?

 

 アカネイア王家ではない。そもそもペラティの成り立ちからして、大陸の流刑地として使われる島なのだ。罪を犯した奴隷や政治犯にその家族、難民や土地を放棄した棄民など、アカネイアの反乱分子を押し込んだ最悪の支配地域である。

 

 誰がこんな拠点を管理したいと思うのか。アカネイア王国の役人なら忌避して当然である。まさしく貧乏籤といっていい。わざわざ管理してくれるマヌー王を滅ぼす理由がない。

 

 ワーレンならどうか。完全中立を掲げる都市にしてみれば、いつ牙を剥くかわからない国がそばにあるのは恐ろしい。海運業を営む以上、ペラティ海賊に狙われたことも一度や二度ではないだろう。襲撃を逃れるために、多額のみかじめ料を支払っていても不思議ではない。

 

 だとしても、理由に乏しい。マヌー王が仕切るおかげで最低限の秩序が成り立っている以上、マヌー王を排斥すればペラティは完全な無法地帯と化してしまう。そうなれば、真っ先にワーレンが海賊達に蹂躙されるのは目に見えている。

 

 アリティア・グラ・オレルアン・マケドニア、どこにとっても遠い海の向こうの利権である。まったく関係がない。ペラティが存在しようとしなかろうと構わないが、争いごとに巻き込まれるのは困る。その程度の認識である。

 

 

 

 アカネイア王国の枠組みで考えれば、どうあってもペラティとマヌー王は切り離せない。支配システム上の必要悪といっていい。アカネイア王国とペラティ王国の双方、暗黙の了解という形で契約が成立しているのである。マヌー王自身がそれを理解しているからこそ、アポイントも無しにやって来たマルス達を攻撃したのだ。

 

 大戦後にアカネイアが勝つなら、戦前同様の密約を継続するように承認させる。

 ドルーアが勝つなら、私達もアカネイアと一戦交えたではないか、と売り込む。

 

 つまり、どう転んでもいいように一戦する必要があったのだ。要はシナリオの存在するプロレスである。派手にガツンとぶつかった後、適当なところで切り上げればいい。後々こじれないよう、重要な人物が死ななければなお良し。それでペラティ王国は存続し、マヌーも王のままでいられる。最初から出来レースなのだ。

 

 ところが、蓋を開けてみればマヌー王は返り討ちにされた。「自分を生かしておくだろう」という彼の目論見は外れ、拠点の城ごと撃滅されてしまった。ブックが反古にされたのである。彼は死の瞬間まで信じられなかっただろう。どうして自分がこんな目に遭うのか、最後までわからなかったに違いない。

 

 マヌー王は切り捨てられたのだ。旧時代のシステムである彼は、新時代のシステムに否定され、幕を降ろされたのである。

 

 では、そのシステムを担うのに都合の良い国はどこか? ペラティが空白地帯となることで、もっともメリットのある国は?

 

 

 

 タリス王国である。

 

 


 

 タリスはアカネイアで最も新しい国である。ガルダ海にポツンと出来た弱小国家。名も無き部族の勇者モスティンによって建国され、アリティア王子マルスを保護した辺境の島国。

 

 この国がなぜ辺境と呼ばれるか。大陸の王都パレスから遠く離れているからである。タリスが建国されるまでは、流刑地ペラティが辺境の代名詞だった。そのペラティよりもさらに遠方の国、それがタリスである。

 

 タリスから見たペラティは障害物でしかない。この無法の島国があるせいでワーレンとの交易も円滑にいかず、中央の経済圏から弾かれてしまう。さながら道を塞ぐ大岩である。

 

 この島さえなければ、タリスはさらに発展する。島そのものはあってもいい。問題はマヌー王という支配者の存在だった。この男が持つ影響力を完全に排除し、大陸におけるペラティという国の在り方を根底から変えてしまえば、タリスは中央への足掛かりを手に入れる。

 

 とはいえ、タリスは小国である。謀はあっても実行するだけの力がない。ペラティ攻略の旨味を共有する存在が必要だった。

 

 それこそがワーレンである。この都市から見ても、ペラティは邪魔だった。大陸中の犯罪者を詰め込んだこの島のせいで、北部のガルダ海の恩恵がまるで受けられないのだ。ここさえ排除してしまえば、タリスを通してガルダ海の海上利権を享受できる。両者は密約を結ぶに至った。

 

 タリス・ワーレンによるペラティの実効支配。

 

 アカネイア大陸東側で水面下に計画された国家間プロジェクトである。かくして筋書きは作られ、物資は整えられた。あとは実行に移せる力量の持ち主がいるかが問題だった。モスティンとワーレン商人達は、食い入るように戦況を見極めようとする――――

 

 アカネイア王国軍がワーレンにやってきたのは、ちょうどその時だった。

 

 

 

 王家の生き残りであるニーナがお飾りである以上、軍権を握っているのはマルスとハーディンである。ニーナと接触する必要はない。むしろ、取り巻きに内政官がいては邪魔をされる恐れがあった。近づくだけ無駄である。

 

 ではハーディンはどうか。ニーナを第一に考えるハーディンは、戦略もそれに従う。からくも包囲を抜けて弱ったニーナを攻撃するマヌー王は憎むべき敵である。そこに他意は存在しない。しかしニーナがマヌー王の排斥を躊躇すれば、ハーディンも取りやめてしまいかねない。こちらも頼むに足りなかった。

 

 マルスが選ばれるのは必然だった。消去法でもマルスしかいない。彼にとってのタリス王は大恩人であり、将来の舅である。その人の頼みなら否などいおうものか。ましてや、相手のマヌー王は戦争を仕掛けてきたのだ。死んでから文句をいう口はない。

 

 タリス王モスティンが絵を描き。

 ワーレンの大商人が力を貸し。

 アリティア王子マルスが実行する。

 

 かくしてペラティ国王マヌーは滅ぼされた。彼の敗因は、目の前の敵が誰であるかを見誤ったことにある。ニーナ率いるアカネイア解放軍は、彼の知っているアカネイア王国軍ではなかった。旧時代の既得権益を破壊する集団だったのである。

 


 

 以下、余談。

 

 ワーレンとタリスにとって、ペラティは障害である。これは間違いない。ペラティという島の形状からして、ワーレンをガルダ海から覆い隠すように作られている。まるであつらえたように最適な形状だった。

 

 この島国が存在するせいで、アカネイア大陸における東側の開発は進まず、流通も滞ってしまう――――――。

 

 違うのではないか?

 

 アカネイア王国がペラティ王国の存在を黙認したのは何故か。ペラティが大陸の流刑地だからである。では、なぜその流刑地が発展著しいはずの港湾都市ワーレンの付近に選ばれたのか。

 

 ワーレンの発展を妨げるためだとしたら?

 

 港町ワーレンはアカネイア王国の都市でありながら、中立を宣言する自治体である。自治のために税を払いこそすれ、アカネイア王国の思い通りにはならない。独自の私兵集団を抱え、他国とも積極的に交易する、商人による都市国家である。

 

 大陸の支配者としては面白くない。自国の領土にそんな存在があってはたまらないからだ。それでも毎月莫大な税が納められるので、しかたなく認めざるを得ない。

 

 これ以上発展されては困る。

 が、税が無くなられても困る。

 

 ペラティ王国とは、そんなアカネイア王家の要求を満たすために建てられた、仮想敵国ワーレンを監視するための傀儡国家だったのだ。障害になって当然である。そのために作られたのだから。

 

 ペラティの存在意義はもう一つある。

 

 アカネイア大陸を構成する諸国家のうち、有力国家のほとんどは西側に集中している。アリティア・オレルアン・グルニア・マケドニア・カダインである。これらの国々はアカネイア首都パレスにとっての地方であり、開発途上国といっていい。発展のためには、どうしてもパレスやワーレンといった先進都市の力を借りざるを得ない。

 

 そうなるようにアカネイア王家が仕向けたのだ。

 

 アカネイア大陸の流通経済は、西側諸国を中心に消費されるように形成されている。ワーレンという一大貿易都市が東側ではなく、西側に注力せざるを得ないよう、ペラティ王国という障害物を設置したためである。

 

 これではいつまでたっても東側が発展するわけがない。というより、アカネイア王家にとっては東側が発展してもらっては困るのである。ワーレンひとつでも面倒なのに、似たような都市国家が形成されてしまっては管理が難しくなる。ペラティはその抑止力を具現化した存在だった。

 

 タリス建国時、アカネイア王家の内政官は危機感を覚えたに違いない。が、あまりの小規模さに呆れただろう。「この程度なら脅威足りえない」と一笑に付したかもしれない。

 

 ドルーア帝国復活による混乱の最中、ペラティ王国は消滅した。これが何を意味するか、ニーナ率いるアカネイア王国軍の中で理解している者はいなかっただろう。敵将でも数えるほどしかいない。経済を理解できる知性の持ち主―――ガーネフとミシェイルのふたりだろうか。

 

 アカネイア大陸における流通経済の革新である。

 

 ペラティ王国という重石で抑制管理されていた東側の流通経済は、タリス・ワーレンによるガルダ海上利権によって急激に活性化する。経済の中心が西側から東側に移行することになり、王都パレスを脅かす小国家群の発生に繋がっていく。

 

 アカネイア王家が大陸経済の管理権を失い、やがては自壊する。その萌芽である。

 

 

 

 タリス王モスティンがどこまで先を見通したのかはわからない。だが、彼は自分の手を汚すことなくペラティという障害を排除し、自らの国の発展を約束させた。謀将ここに極まれり、である。

 

 そして、そんな彼の薫陶を受けたマルスもまた、謀将のひとりとして名を馳せることになる。世間の風評を味方につけながら。

 



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06.アカネイアうろ覚え年表

 ファイアーエムブレム メモリアルブック アカネイア・クロニクルを参考に作成。注意としてネタバレだらけ&出典自体の年・月・日が明確にされていないので時系列がわからない。

 この辺は妄想を膨らませやすいようにとの配慮かもしれない。



前4,000年頃 竜族が大陸を支配。トップは神竜族(チキやナーガの種族)

・竜族そのものは何万年も前から存在し、高度な文明を築いていた。

・人間は木っ端も同然。何の力も無い。

 

 

前1,000年頃 竜族全体で出生率低下、知能劣化。竜石による人化=竜人族が誕生

・知能の劣化が進むと”はぐれ飛竜”などと同類になる。

・各竜族の長老達が話し合った結果の竜人族。

・”マムクート”は人間による竜人族の蔑称。

 

 

前740年頃 竜人化を拒む竜達が暴走。神竜王ナーガが人類を守護する

・まだ人類に打つ手無し。

・暴走を主導したのが地竜族。地竜の王族のひとりメディウスは反対し、竜人化した。

・地竜のすべてはドルーアに封印され、その番人としてメディウスが指名された。

 

 

前500年頃 ナーガ没。自身の牙から神剣・聖玉盾を作り、ラーマン神殿に封印する

・剣=ファルシオン。盾=五つのオーブを散りばめた盾=ファイアーエムブレム。

・ナーガの寿命は5,000年。

・娘のチキは既に生まれている。ガトー・チェイニーなどが後事を託された。

 

 

前10年頃 何者かがラーマン神殿を荒らして神剣・聖玉が消失

・十中八九、盗掘の犯人はアカネイアの初代国王。あるいはその一派。

・神剣等が盗まれたことでドルーアの封印が衰え、約600年後の地竜族復活の引き金となる。先祖の因果が子孫の仇。

 

 

アカネイア暦元年 アドラ1世がアカネイア聖王国(1~493)を建国

・「神に託された」と称して三種の武器(剣メルクリウス・槍グラディウス・弓パルティア)、王家の象徴として五聖玉の盾を所持する。

・アカネイアによる人間の勢力拡大のスピードは凄まじく、竜人族への迫害も同時に行われた。この頃から竜人族をマムクートと呼ぶようになり、宝石を持った奴隷として扱い始める。

・これに激怒したメディウスがドルーアに竜人族を集結させる。

 

 

490年 ドルーア帝国建国(490~498)。解放戦争(第一次ドルーア戦争)開始

・“ドルーアの地の番人メディウス”が“地竜王メディウス”となる。

・対空経験の乏しい人間の軍隊では成すすべなく、アカネイアは連戦連敗。

 

 

493年 王都パレス陥落。アカネイア聖王国滅亡

・皆殺しにされた王族で唯一アルテミス王女だけが生き残り、開拓都市アリティアに避難。

・アカネイア貴族のカルタス伯がリーダーとなって解放軍を結成する。

・アルテミス王女が開拓民の青年アンリと恋仲に。

 

 

498年 アンリによって地竜王メディウス討伐。解放戦争終結

・ガトーに認められたアンリが神剣ファルシオンを受領した。“個の英雄”といわれる程の武勇で、メディウスとは七日七晩の死闘を繰り広げたとされる。

・戦後のゴタゴタ発動。アカネイア貴族達の政治的判断により、アルテミス王女は恋人アンリと引き離され、解放軍リーダーのカルタス伯と結ばされる。

・カルタス伯を王としてアカネイア王国建国(498~602)。

 

 

499年 オレルアン王国建国(499~608)

・カルタスの弟マーロン伯が即位。パレス北方の草原地帯を平定し、北の備えとなる。

 

 

500年 アリティア王国建国(500~602)

・アンリ即位。アンリ1世となる。神剣ファルシオンを代々伝える。

 

 

501年 グルニア王国建国

・解放戦争で功績を挙げた守備隊長オードウィン将軍が即位。実質的には王都パレスから遥か遠くへ左遷されたような形である。これが約100年後にグルニア王国の将軍達がドルーアに与する原因になったと思われる。

 

 

503年 マケドニア王国建国

・解放戦争で奴隷達をまとめて戦い続けた奴隷戦士アイオテが即位。約7年に渡るゲリラ戦の中、アイオテは両手・両足・両目・両耳を失ったという。彼の武装であるアイオテの盾が代々伝えられていく。

 

 

537年 アンリ没。相続問題によるグラ王国建国

・アルテミス王女を愛したアンリは生涯結婚せず、次の王は弟マルセレスとなった。これに反発した勢力が離反し、領土の左半分をアリティア王国、右半分をグラ王国とされた。

→グラが王国としてアカネイアに認可されただけでなく、その領土の配置にもアカネイア貴族の明確な意図がある。王都パレスに近い右半分にグラを置き、アリティアを離したということは、アリティアを仮想敵とみなしている?

 

 

不明 

・グルニアの後の将軍ロレンスが東方へ。

・パレスの北東にあたる辺境の島国で、部族の青年モスティンが活動開始。

・ロレンスとモスティンが意気投合。

 

 

550年 カダイン魔道学院設立

・神竜族の生き残りであるガトーが設立。

・モスティンが辺境の部族を統一。

 

 

579年 タリス王国建国

・モスティンが即位。

 

 

588年 マルス誕生

 

 

不明 シーダ誕生

・年表によってはモスティンが相当高齢で設けた娘である。お爺ちゃん頑張った。

(仮に537年からロレンスと活動していたなら、当時15歳として589年には67歳! マルス亡命の602年時には80歳なので、さすがに無理だろうと思われる。カダイン設立前の549年を活動開始としたら589年には55歳。ギリギリ可能か。これだと602年時68歳)

 

 

597年 メディウス復活

・おそらくガーネフは活動開始済。

 

 

598年 ドルーア帝国再興

・ウェンデル、マリクを追い落としたガーネフによってカダインが掌握される。

・アカネイア王国に反発するグルニア王国軍部がドルーア帝国と同盟。

・アカネイア王国の重税に不満を爆発させたマケドニア王子ミシェイルが国王に。先王オズモンドが変死。

 

 

600年 暗黒戦争開始(第二次ドルーア戦争)

・ドルーア連合によるアカネイア侵攻。ペガサス・ドラゴン・シューター・竜人混成の新しい戦争形態にアカネイア王国軍は対応できなかった。

 

 

602年 アリティア王国滅亡

・アリティア王国軍を率いる4代国王コーネリアスが、王都パレスに迫るドルーア連合とメニディ川で対峙。アリティア騎士団は背後から同盟国グラに強襲されて敗北し、コーネリアスが戦死する。同時にアリティア本土もグラの奇襲によって陥落し、王女エリスが人質に。残された騎士団数名と共にマルス脱出。14歳。

・王都パレス陥落。王女ニーナを除く王族全員が処刑される。グルニア軍司令官カミュがニーナを保護。

 

 

不明 流浪の末にタリス王国がマルスを保護。シーダと出会う

 

 

604年? マルス挙兵

・年表だと604年。概要だと605年になっている。とりあえず604年とする。

・ドルーアからの召喚命令を拒否したニーナがオレルアンへ亡命。逃亡幇助でカミュが司令官を剥奪、投獄される。

・オレルアンの対マケドニア反乱軍がゲリラ戦に移行。

・アカネイア義勇軍の蜂起失敗。ミディア・トムス・ミシェラン等が虜囚の身に。

・アリティア解放軍(マルス)とアカネイア解放軍(ニーナ・ハーディン)が同盟。

・ペラティ王国滅亡。

 

 

605年 ドルーア帝国滅亡

・パレス解放。

・アリティア解放。

・グルニア黒騎士団敗北によりグルニア陥落。

・マケドニア陥落。

・神剣ファルシオンを取り戻したマルスによりメディウス封印。ドルーア帝国滅亡。

 

 

606年 ハーディンがアカネイア第24代国王即位

・ハーディンとニーナが入籍。

・アカネイアによるグルニアの占領統治開始。ラングによって重税が課される。

・戦後の治安回復のためにアリティアがグラを併合。すぐにアカネイアへと返還され、先王ジオルの娘シーマを女王としてアカネイアの傀儡国家となる。

・ミネルバによってマケドニアが統治されるも、軍部縮小によって治安悪化、将軍達との軋轢が深まる。

・タリスの周辺部族が反乱を起こす。

※マルスはまだアリティア国王ではない。

 

 

607年 英雄戦争開始

・アカネイア王国あらためアカネイア神聖帝国誕生。周辺の弱小国家を併合するための外征がたびたび行われる。

・ハーディンが皇帝即位。

・ロレンスが反乱。アリティア王国軍が遠征に駆り出される。

・マケドニア王国にてリュッケ将軍がクーデター。ミネルバが囚われる。グルニアから続けてアリティア王国軍が駆り出される。

・マケドニア西・ホルム海岸にてグルニア王子ユベロ・王女ユミナをマルスが保護。これを反乱とみなしたアカネイア軍がアリティアを急襲。同時にカシミア大橋にて追撃されながらカダインへと進軍。

・マーモトード砂漠・フレイムバレル・氷竜神殿を越えてガトーと再会。大ワープで一気にアリティアへ。

・グラ陥落。

・アドリア峠にてオレルアン軍と戦うも、オレルアン王の仲裁で終了。オレルアンの全権がマルスに移譲される。

 

 

608年 英雄戦争終結

・王都パレス陥落。ハーディン戦死。

・魔王ガーネフ打倒。

・暗黒竜となったメディウスを封印。戦争終結。

 

 

609年 英雄王の時代

・マルスとシーダが結婚。正式にアリティア王国第5代国王に即位。アリティア・タリスは同君連合となった。

・“アカネイア神聖帝国皇妃ニーナの強い希望に応えて”マルスがアカネイア連合王国を統べる。

 




・『アカネイアの最後の王妃の願いで』がポイント。

・私の脳内だといまでこそ英雄王といったらギルガメッシュが出てくるけど、スーファミ時代はマルスだったんだなぁ……


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