居場所~戸塚彩加ルート~ (おたふみ)
しおりを挟む

1話

修学旅行の後から、八幡の様子がおかしい。

元気も無いし、自分で『腐っている』と言ってた目は、生気を失い死んだような目になっていた。時々、大岡君や大和君と一緒に教室を出て、遅れて戻って来る。

話を聞いても『大丈夫だ』『なんでもない』ばかり…。時には『俺に関わらない方がいい』とまで言う。

こんな状況なのに、由比ヶ浜さんは何も言わない…。川崎さんは話しかけてるけど…。

 

しばらくした雨の日。部活も休みになり、一旦帰宅後に買い物に出掛けた。その帰りに海の近くの公園のベンチで八幡を見かけた。傘もささず、鉛色の空を見上げる八幡が居た。近づこうとすると、うっすらと笑みを浮かべながら海の方へ歩きだした。

危ないと思い、駆けより海の数歩手前で捕まえた。

「八幡!何をやってるの!」

「…戸塚」

「しっかりして!」

「俺は…もう…」

そう言うと気をうしなった。

 

幸いにも、家までは遠くない。引きずるように家まで運び、ずぶ濡れの八幡を着衣のまま湯船に放り込んだ。気を失っているので、沈まないように注意をはらいながら、自分もシャワーを浴びた。

 

家人と一緒に着替えをする為に服を脱がすと、体中がアザと傷だらけだった…。

 

とりあえず、自分のベッドに寝かせて目が覚めるのを待った。

 

「ん…。ここは…」

「目が覚めた?」

「天使が居る…。ここは天国なのか…。違うな、俺が天国に行けるわけが…」

「八幡…」

「戸塚…」

「なんで、あんなところに…」

「どうして、死なせてくれなかったんだ…」

消えそうな声で彼が呟く。

「八幡、よかったら話してくれないかな?」

「いや…でも…」

「八幡…」

彼の手を握り目を見つめる…。彼の顔が赤くなった気がする…。

「あんまり、気分の良くない話だぞ」

「それでもいいよ」

「わかった。話すよ」

 

彼はゆっくりと話してくれた。

修学旅行の前に来た、戸部君の依頼。その後に来た海老名さんからの依頼。葉山君の現状を壊したくないとの話。そして、嘘告白。信じると言ってた奉仕部二人の言葉。妹は奉仕部二人を信じて話を聞いてくれない。戸部の告白を邪魔したと大岡君・大和君からの暴力。ほかにも、文化祭の悪い噂もあっての罵詈雑言に暴力。

「と、戸塚…、泣いてるのか…」

「八幡…、よくがんばったね」

気がついたら、彼を抱き締めていた。

 

少し落ち着いてきたので、今後の話をしよう。

「八幡は…どうするつもりなの?」

「ま、死ぬのは戸塚に止められたし、どこか遠くに行こうかなぁ」

「あてはあるの?」

「ないな。人目につかないところで…」

「この世界を捨てるの?」

「かもな。次は俺に優しい世界になってくれると、ありがたい」

「…わかった。僕もこの世界を捨てる」

僕は決意した。八幡と一緒に、ここを捨てることを。

「戸塚、何を…」

「八幡、僕がこれからする話を聞いたら、後戻り出来ないよ」

「ど、どうしたんだ、戸塚」

「この話を聞いたら、友達、クラスメイト、部活仲間、…そして家族。すべてを捨てる覚悟はある?」

「…死ぬつもりだったからな。まぁ、最後の挨拶ぐらいできればいいかな」

「わかった。これから話すことは、嘘偽りない事実だからね」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

僕は八幡を助けたい。

その為に、僕も今を捨てる。

 

「八幡、僕の髪色って変だと思わない?」

「ウチの学校は進学校のクセに金髪も居るからな。銀髪でも…」

「これ地毛なんだ」

「え?マジで」

「僕はね、実は東欧のとある小国の生まれなんだ 。この髪色はそれでなんだ」

「そう…、だったんだ」

「そして、僕はその国の王族の姫なんだよ」

「え?ん?王族?…え?姫!」

「そう」

「て、ことは…」

「僕、女の子なんだ」

「待て、脳内処理が追いつかない」

彼が額に手を当ててぶつぶつ言ってる。

「戸塚は、東欧の小国の姫君…。だから、女の子…。なるほど、だから可愛いのか…」

彼に可愛いって言われると嬉しい。

「OK理解した。それで、そのお姫様がなんで日本に?」

「僕が8歳の時に軍事クーデターがあってね…。両親はその時に…」

「すまん、辛い話を…」

「気にしないで。それで、僕は従者数人と日本へ逃れたんだ」

「それなら、何故女の子であることを隠していたんだ?」

「軍事クーデターのリーダーが、僕を政略結婚の材料にしようとしていだんだ」

「なるほど。それで…」

「このことは、日本政府も知ってることだよ。学校だと、校長とごくわずかの先生だけ」

「よく今まで隠せていたな」

「大変だったけどね。それも今日までだよ」

「どういうことだ?」

「ここからが本題」

彼の目がわずかに変わった。

「去年、軍事政権が倒れて民主化になったんだ」

「なんか、そんなニュースがあったな」

「それでね、今の首相から僕に戻って欲しいって打診があったんだ」

「…」

「日本の皇室やイギリスの王族ような象徴になってほしいって」

「よかったじゃないか」

「僕は高校を卒業したら、祖国に帰ろうと思ってた」

「寂しくなるな」

「でも、時期を早める」

「ど、どうして…」

「八幡、君も一緒に行くんだ。僕の婚約者として」

「え?」

「八幡、僕は八幡のこと好きだよ」

「えっと…」

「話すことは嘘偽りないって言ったよね?」

「ありがとう、戸塚。俺もお前のこと好きだ」

「じゃあ、一緒に行ってくれる?僕の国へ」

「わかった」

「善は急げだ」

部屋の外で待機していた、従者を呼ぶ。

「お呼びですか?彩加様」

「聞いての通りだ。各方面への対処を」

「はい、かしこまりました」

「頼むね」

部屋を出る間際、従者が声をかけてきた。

「彩加様、比企谷様、ご婚約おめでとうございます。私共は、離れた部屋におりますので、どうぞごゆっくり…」

従者の爆弾発言で、僕も八幡も真っ赤になってしまった。

 

夜遅くなったが、八幡は家に帰ると言った。

「八幡、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ。帰って両親に話すよ」

「小町ちゃんには?」

「今は冷静に話せそうにないから…」

「明日は迎えに行くから、一緒に学校へ行こう」

「わかった」

「校長に国に帰る旨と八幡を婚約者として迎える旨を伝えないとね」

「な、なんか恥ずかしいな」

「そうだね」

「じゃあ、またな明日」

「待って」

振り向いた彼の頬にキスをした…。

「お、おい…」

「また…、明日…ね」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

次の日、八幡を迎えに行く。

この格好、驚くかな。

 

「おはよう、八幡♪」

「お、おはよう…」

「どう…かな?制服のスカートって初めて着るから…」

「すげぇ、可愛い…」

「良かった。じゃあ、行こうか」

彼の腕をとる。

「お、おい、戸塚」

「戸塚じゃない。ちゃんと彩加って呼んでよ」

「お、おう、彩加」

「うん、何かな八幡」

「は、恥ずかしいんだけど…」

彼の顔は真っ赤だ。

「僕たち、婚約者なんだからいいの」

「そ、そうか…」

「八幡…」

「ん?」

「その…、ご両親はなんて言ってた?」

「色々、すまなかったって。親父が泣くところ、初めてみたよ。あと、彩加にも挨拶したいってさ」

「ご両親からしたら、僕は息子さんを奪ってしまうんだよね…」

「でも、喜んでくれたよ。俺みたいなひねくれたヤツと婚約してくれてさ」

「そっか…」

「なぁ」

「なに?」

「川崎と材木座だけでも、話をしたいんだが…」

「そうだね。あの二人も八幡のこと心配してたからね」

そんな話をしながら登校すると、凄い視線だった。昨日までジャージやズボンで登下校してたのに、いきなりスカート姿になったからだろう。

視線は向けて来るものの、誰も話かけてくることはなく、そのまま校長室へ。

「失礼します」

「し、失礼しまふ」

八幡ちょっと噛んだ。可愛い。

「殿下、話は聞いております。まずは御掛けください」

「ありがとう」

ソファーに腰掛け話を始める。

「校長、急な要望を聞いていただき感謝します」

「いえいえ。それで、隣に居るのが…」

「はい。婚約者の比企谷八幡さんです」

「ど、どうも…」

「今日は私と彼の荷物をまとめに来ました」

「では、そのように。彼のご両親からも連絡は受けてます」

「はい。お世話になりました」

「校長、川崎沙希と材木座義輝という生徒を呼んでいただきたいのですが…」

「あと平塚先生も、お願いします」

校長が席を外し、二人になった校長室。

「本当に彩加はお姫様なんだな」

「そう言ったじゃん」

「いや、少しずつ実感してきたんだ」

「ちょっと急過ぎたかな」

「いや、大丈夫だろ」

彼の手を握る…。

「不安かもしれないけど、僕はずっと側に居るからね」

「ありがとう、彩加」

 

校長が三人を連れて戻ってきた。

「戸塚、比企谷…」

「八幡、戸塚殿」

「校長、これはどういう…」

「僕から話します」

「平塚先生は、僕の事情をご存知ですよね?」

「まぁ、聞いてはいたが…」

「川崎さん、材木座君。僕はとある国の王族なんだ」

「え?」

「戸塚殿?」

「それに、女の子なんだよ」

「待って、戸塚…。お姫様ってこと?」

「そうだよ、川崎さん」

「八幡!我らの目に狂いはなかったぞ」

「うぜぇ、材木座」

「今朝、スカート姿の戸塚と比企谷が腕を組んで登校したって噂になってたから…。そしたら、二人とも教室には来てないし…」

「うん。僕は学校を辞めて国に帰るんだ。八幡を連れてね」

「ちょっと待ってよ」

川崎さんが狼狽している。無理もない。

「八幡は昨日、死のうとしてたんだ…」

「比企谷…それって…」

「あぁ、本当だ」

「八幡!何故我に話してくれぬ!」

「悪かったよ。それを彩加が止めてくれたんだ」

「僕は前々から八幡のことが好きだった。昨日の夜、死ぬぐらいなら、僕の婚約者として国に行こうって言ったんだ」

「俺も彩加が女だったらって思ってたからな。その話を受けた」

「そう…なんだね…」

「川崎と材木座は、なんだかんだ言っても、俺のこと心配してくれてたからな。最後に挨拶したかったんだ」

「比企谷…」

「八幡…」

平塚先生が声を出す。

「戸塚と比企谷の婚約はわかった」

ん?小声で結婚したいって言った?

「なぁ、比企谷。何故死のうなんて考えた。私だって、教師のはしくれだ。何故私に言ってくれなかった」

「平塚先生、すいません。あの時は、もう余裕がなかったのかもしれません。我慢して我慢して…、気がついたら海に向かって歩いてました」

「比企谷、すまなかった。お前の異変に気づいてやれなかった」

平塚先生が土下座をする。

「や、止めてください」

「だが…」

「もういいんです」

「すまん、すまん、比企谷…」

平塚先生は涙でボロボロだ。

 

平塚先生が落ち着くのを待って、八幡が事情を話した。

 

「比企谷、本当にすまなかった」

「それで、奉仕部の二人は居ないんだね」

「我に力になれることがあれば…」

「もういいんだ。そのおかげで彩加と結ばれた訳だしな」

「でも、アイツらは許せない。平塚先生…」

「うむ、それなりの処罰は受けてもらう」

「それはお任せしますが、明日以降にしてください」

「今日やれば、君に謝罪させることも可能だぞ」

「騒ぎになると面倒なので」

「君がそういうのなら…」

「比企谷、未練はないの?」

「無いといったら嘘になるが、川崎と材木座と平塚先生と話せたから、もう充分だ」

「そっか…」

「ねぇ、川崎さん、材木座君。一緒にお昼食べない?」

「いいのかい?邪魔して」

「わ、我もいいのか?」

「八幡のベストプレイスで食べようよ。あそこなら人目につかないし」

「購買でパン買わないとな」

「八幡、僕お弁当作ってきたんだ」

「彩加の手作りか?」

「うん。八幡の為に作ったんだ」

「ありがとう、彩加」

「なんか、もう夫婦みたいだね」

「ぐぬぬ、八幡…」

昼休みの約束をして、川崎さんと材木座君は教室へ戻った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

四人でベストプレイスで昼食を食べる。最初で最後の光景。

楽しい時間も長くない。

「比企谷、戸塚、見送りに行くから」

「わ、我も行くぞ」

「ありがとな、川崎、材木座」

「またね、川崎さん、材木座君」

二人が教室に戻るのを見送る。川崎さんの目に涙が見えたけど、黙っておこう。

最後下校時間まで空き教室を貸してもらえたので、そこで時間を潰す。

その間は、今までの八幡の話を聞いた。

中学時代の告白とその後、入学式当日の事故、奉仕部での出来事、文化祭。そして、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんへの憧れ…。そして憧れてた人達からの拒絶。心が痛くなるような話も彼は、もうどうでもいいという。僕に辿り着くまでの過程だと思えばなんてことはないと言った。彼のことを益々好きになってしまった。

 

下校時間を過ぎて静かになった教室で荷物をまとめる。これを玄関まで運べば従者が取りに来てくれる。この教室ともお別れだ。

「ねぇ、八幡」

「ん、どうした?」

「なんか、感慨深いね」

「彩加はそうかもな。おれには良い思い出なんてないから…」

「じゃあ、良い思い出にするために…」

彼に駆け寄りキスをした。

「お、おおおおおお、な、なななななな!!」

「誰も居ない教室でキスなんて、リア充みたい…でしょ?」

「可愛いな、ちくしょう」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

作業を終えて、最後に職員室に挨拶をしに行く。

「平塚先生、お世話になりました」

「比企谷、何かあったらいつでも言ってくれ。地球の裏側からでも飛んでいくからな」

「貴方はルパンですか…。ありがとうございます。結婚式にはチケット送るので、パスポート準備しておいてください」

「まさか、生徒に先をこされるとは…。元気でな」

「先生も…」

 

校門を出て、帰りは手を繋ぐ…。数日前には考えられなかったことだ。

しばらく歩いていると、声をかけられた。

「あれ~、比企谷君だ」

「げっ!雪ノ下さん」

「『げっ!』とは失礼ね。隣に居る娘は誰かな?」

「こんにちは、雪ノ下さん。八幡、行こう」

「雪乃ちゃんに隠れて浮気とは。ダメだぞ」

「雪ノ下は関係ないですよ。嫌われてはいても好かれてはないでしょうから」

「そんなことないよ。雪乃ちゃんは不器用だから」

「まぁ、どうでもいいですけどね。とりあえず、このことは明日までは誰にも言わないでください」

「それって、私にメリットはあるのかな?」

「たぶん、面白いことになります」

「ふ~ん。わかった」

「あと、俺と彩加に深入りすると、貴方では手に負えなくなるので、やめた方がいいですよ」

「それは、私への挑戦かな?」

「いえ、忠告です。彩加、行こう」

「では、ごきげんよう。雪ノ下さん」

 

雪ノ下さんと距離が出来たら、八幡は大きくため息をついた。

「あの人の相手は疲れる」

「なんか凄い人だったね」

「もうそれも終わりだ」

「うん、そうだね」

 

そうこうしてると、八幡の家に着いた。

「じゃあ、深夜3時に迎えに来るからね」

「なんか夜逃げみたいで、すまないな」

「荷物は必要最低限で。残りは使いが取りに来るから」

「わかった」

彼の頬にキスをして、その場を後にする。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

深夜3時。

八幡の家の前に来た。

玄関先で八幡とご両親が待っていた。

「お待たせ」

「いや大丈夫だ。紹介するよ、ウチの両親だ」

「比企谷八幡の父です。八幡を救ってくれただけでなく、婚約まで…」

「比企谷八幡の母です。息子をどうかよろしくお願いいたします」

「戸塚彩加です。八幡さんは私が責任をもってお預かり…、いえ、幸せします」

「まるでプロポーズだな」

「僕の覚悟だよ。お義父様、お義母様、落ち着いたら、また来ますので、その時にお話しいたしましょう」

「親父、お袋、今までありがとう。行ってくる」

「あぁ、行ってこい!」

「体に気をつけてね」

 

八幡の両親に別れを告げて、車で都内に向かう。

「2、3日はホテル住まいになるけど、我慢してね」

「何かあるのか?」

「天皇陛下と首相に挨拶をね」

「そっか…」

「テレビとか出ちゃうかな?」

「かもな」

「八幡も行く?」

「いや、ホテルで留守番してるよ」

「うん、待っててね」

 

それから、慌ただしく公務をこなし、出国の時が来た。

 

「グスン。比企谷、戸塚、またね」

「八幡、彩加姫、また会おう」

「川崎、泣くなよ。美人が台無しだぞ…。イテテテッ!足踏むなよ」

「八幡…」

「笑顔が怖い」

「戸塚も気をつけろよ。比企谷は天然だから」

「川崎さん、ありがとう。わかってるよ」

「材木座、俺は天然なのか?」

「うむ、我にもわからん」

「落ち着いたら、一旦帰ってくるからな」

「その時は、また四人で会おうね」

「じゃあ、行くな」

「川崎さん、材木座君、色々ありがとう」

「元気でね」

「息災にな」

「では姫、参りましょうか」

「やめてよ、八幡」

 

八幡は、言葉が違う国に来たが、生き生きしていた。一生懸命勉強し、半年もしないうちに日常会話なら、問題なく話せるようになった。

 

そして、3年の月日が経ち、結婚式をすることになった。

国をあげての式に、最初は戸惑っていた八幡も国民が喜ぶならと頑張ってくれた。

 

日本からは、八幡の両親と小町ちゃん。川崎さんに材木座君に平塚先生が来てくれた。

昔馴染みにも祝福されて、僕はとても幸せだ。

 

八幡も、毎日彩加と居られて幸せと言ってくれる。それに公務もしっかりやってくれる。外交交渉なんかは、大臣が舌を巻くほどだ。

 

そして、幸せがもうひとつ。

 

僕のお腹には新しい命が宿っている。

 

あの時、八幡を助けられて本当に良かった。あの時、真実を話せて本当に良かった。比企谷八幡に出会えて本当に良かった。

 

 

やはり、僕の青春ラブコメは間違っていなかった。

 




―――――――――――――

『珈琲』と『書記ちゃんの恋』をお待ちのみなさん、あと1話で終わらせますので、もう少々お待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

八幡と彩加が捨てた世界。そして…

二人が学校を辞めた次の日からは、大変だった。

『ヒキタニが戸塚に女装させていた』『同性婚の為に学校を辞めて海外に行った』などの噂が流れた。

しかし、二人が所属していたクラスだけは違った。

 

平塚から語られる真実。

チェーンメール、千葉村、文化祭、修学旅行…。相模は自分は悪くないと喚き、葉山はみんなの為に、仕方なかったと繰り返し、戸部・海老名は青ざめ、大和・大岡は仲間の為に行動した比企谷に対し暴力という恩を仇で返す行為に自らを省みて項垂れて、由比ヶ浜は『ヒッキー、ごめんない』と言いながら、ずっと泣いていた。

三浦は自分の仲間のしでかした行為に怒り、比企谷に対して申し訳ない気持ちで歯ぎしりをしていた。

川崎は、携帯で撮った四人の画像を見ながら、比企谷が一人で抱えていた問題の大きさに感心していた。そして、比企谷の今まで見たことのない優しい笑顔と戸塚の幸せそうな顔に少しだけ嫉妬していた。

 

お通夜のような一日が終わり、葉山、戸部、海老名、大和、大岡は生徒指導室へ、由比ヶ浜はおぼつかない足取りで奉仕部へ向かう。

 

先に居た雪ノ下雪乃に説明を求められたが、由比ヶ浜も気持ちの整理がついておらず、支離滅裂で伝わらない。

 

遅れてきた平塚に事情を聞き愕然とする雪ノ下。自分がやったこと、出来なかったことによって比企谷を追い詰めてしまっていたことを…。

そして、平塚に奉仕部の廃部を言い渡される。

 

二人で呆然としていては何も出来ないと、自らに言い聞かせ由比ヶ浜を引っ張り比企谷家へ向かう。

 

ただ、比企谷に謝りたい。許してもらえないかもしれないが、謝りたかった。

 

比企谷家に着くと妹の小町が出迎えてくれた。

小町に事情を話すと彼女も血相を変えて兄である八幡の部屋に飛び込んだ。

 

しかし、部屋には誰も居らず、段ボールが数個あるだけだった。

 

小町が両親に連絡しても、繋がらず、途方に暮れている。

 

雪ノ下は姉の陽乃に力を借りようと連絡をする。

しかし、返ってきた返事は『出来なかった』と。姉曰く、国家権力に阻まれたとのことだった。

 

比企谷の両親の帰りを待たせてもらい、八幡の居どころを聞こうとしたが、『今は話せない』の一点張りだった。それは、妹である小町にも同じ答えだった。

 

比企谷の両親から八幡の写真を貰い帰路に着く二人…。いつか会えると言った両親の言葉を信じて、会える日を、会って謝ることが出来る日を待ち望んだ。

 

それから、5年の月日が流れ、町で八幡らしき人物を見たとの情報が二人の元へ届いた。

 

二人は八幡らしき人物が居たと聞いたサイゼリアへ駆け込む。

そこには、川崎、材木座、八幡と、銀髪の長い髪の女性、そして銀髪にアホ毛が立った子供が居た。

 

「雪ノ下、由比ヶ浜…」

「アンタたち…」

「材木座、二人に話したのか?」

「いや、我は話しておらん」

「その様子だと、川崎も話してないな」

「あぁ。アンタたち、何しに…」

「川崎さん、落ち着いて。八幡も会おうか悩んでいたんだから」

「ちょうど良かったよ。二人にも話をしたかったからな」

「比企谷、アンタのお人好しは変わらないね」

「ほっとけ」

 

広いボックス席に移動して、話を始める。

「雪ノ下、由比ヶ浜、急に居なくなって、すまなかった」

八幡の謝罪に困惑する二人。

「あ、謝らなければならないのは、私達の方で、その…、ごめんなさい」

「ヒッキー、ごめんなさい」

「なんで、お前らが謝るんだ?」

「八幡、彼女たちは、修学旅行の件を…」

「ああ、あれか。あれは俺がちゃんと説明しなかったのがいけないんだ。お前らは悪くない」

「八幡ったら…。だってさ二人とも。良かったね」

「比企谷君、そちらの女性は…」

「私たちのこと知ってるみたいだけど…」

「あぁ、だいふ髪伸びたからね。戸塚彩加だよ。久しぶり、二人とも」

「俺、彩加と結婚したんだ。そして、コイツが愛の結晶だ。ご挨拶は?」

「こ、こんにちは…」

「え?比企谷君が結婚…。で、相手が戸塚君で、戸塚君は男の子で…」

「え?どうやったら男同士で子供が…」

「あ~、説明すると長くなるんだが、彩加は女だ」

「え?」

「え?」

「ダメだ、比企谷。一から説明してやれ」

「面倒くせぇ」

「八幡、ちゃんと説明しないと、帰りにMAXコーヒー買わないよ」

「彩加、俺が日本に来る楽しみを奪うな。わかったよ」

「日本に来る?」

 

八幡と彩加で、あの日の出来事や彩加の複雑な事情、今までを説明した。

 

「そう…だったのね…」

「ま、彩加と結ばれたから結果オーライなんだけどな」

「なんか、二人とも凄いね…」

「それで、姉さんが調べてもダメだったのね」

「一応、釘は刺したんだけど、調べようとしたのね、あの人…」

「それはそうと、王家の人がこんな所に居ていいのかしら?」

「お前、サイゼリアをこんな所呼ばわりするな」

「八幡のサイゼリア好きは、置いといて」

「置いとかれるのね…」

「今回は比企谷のご両親に、この子を会わせに。お忍びでね」

「年に一回ぐらいは帰ってきてるからな」

「次に帰る時は雪ノ下も由比ヶ浜もちゃんと呼ぶからな」

「いいのかしら…」

「比企谷がいいなら、私はいいよ」

「我もな」

 

蟠りもなくなり、帰る時間となる。

「ほら、お姉ちゃんたちとオヂサンにバイバイは?」

「バイバイ、お姉ちゃん、オヂチャン」

「我、オヂチャン?」

「比企谷君、貴方格好良くなったわね」

「ヒッキー、格好良くなったよ」

「そうか?まぁ、お前らも美人に…イテテテッ!足を踏むなよ」

「八幡?」

「だから、笑顔が怖いよ、彩加」

「彩加さん、この男は天然ジゴロだから気を付けなさいね」

「なんでだよ」

「ヒッキー、自覚して」

「雪ノ下と由比ヶ浜の言う通りだぞ」

「川崎まで…」

「チッ!リア充爆発しろ」

「聞こえてるぞ、材木座」

「八幡、そろそろ」

「名残惜しいけど、飛行機の時間もあるから。お前ら、またな」

「えぇ、また」

「ヒッキー、またね」

「次は京華にも会ってあげてね」

「また会おう、友よ」

 

帰りの飛行機の中、彩加が声をかける。

「八幡、良かったね」

「ん?なにがだ?」

「雪ノ下さんと由比ヶ浜さんのこと、気になってたんでしょ?」

「彩加には隠せないか。そうだな、俺が心を許していた数少ないヤツらだからな。本当のことを話せずにアイツらの前から姿を消してしまったから、申し訳なくてな」

「そっか…。ねぇ、どちらかから告白されてたらどうした?」

「さあな、アイツらにそんな気持ちは無かっただろうし、もし告白されても逃げてただろな」

「朴念仁、鈍感、八幡」

「俺の名前を同列にしないで。小町か?小町から、その罵倒を教えてもらったのか?」

「うん。でも、なんであの時、僕を受け入れてくれたの?」

「なんでだろうな?」

「もう…」

「理由なんて必要か?俺と彩加が愛しあってる、充分だろ」

「そうだね。…ねぇ、八幡」

「ん?」

「もう一人…、子供が欲しいな」

「俺も考えてた」

「じゃあ、帰ったら…」

「そうだな」

 

 

 




―――――――――――――――――

葉山グループのその後?知りません。
戸塚が可愛いければ、いいんです(笑)

戸塚ルート完結です。
お付き合い、ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

苦悩し続けた優しき者

三浦だけでも救いをという声に、お応えして救済話です。
興味のある方はどうぞ


その再会は偶然だった。

「川…崎…」

「ん?三浦?」

高校卒業以来の7年ぶりの再会だった。

「元気そうだね、じゃあ、私は…」

「待って!」

「ん?」

「ちょっと…お茶しない?」

三浦の目は、何かすがるように感じられた。

川崎は時計を確認して言った。

「待ち合わせがあるから、少しだけだよ」

「ありがと…」

適当な喫茶店に入り席に座る。

飲み物が運ばれ、一口飲んでから、川崎が切り出す。

「アンタ、なんか話しがあったんじゃないの?」

「えっと、その…ヒキオ…比企谷は元気なの?」

「それ、アンタに関係あるの?どうして私に聞くの?」

少し突き放すような言い方をする。

三浦はうなずき、弱々しい声で話し始めた。

「教室でさ、ヒキオと戸塚と携帯で撮った写真…見てたよね」

「見られてたのか…」

「ヒキオは、あーしが居たグループのせいで、ヒドイ目にあってた…」

飲み物を口にしながら、川崎が聞き入る。

「あーしは、それに気づけなかった…。何も出来なかった…」

三浦の目から涙がこぼれる。

「アンタ、直接なにもしてないんだから、気にすることないんじゃないの?」

「でも、でも…、ヒキオにヒドイことした連中の近くに居たあーしが止めなきゃいけなかったのに…」

三浦が川崎の目を見る。

「あーしは、それが出来なかった…。だから、ヒキオにゴメンて言いたかった…」

「三浦…。アンタ、良いヤツだね。この後時間ある?」

「あ、あるけど…」

「待ってな」

川崎が席を外し、どこかへ電話をし戻ってくると。

「三浦、行くよ」

「行くってどこに?」

川崎はニヤリと笑い…。

「比企谷に会わせてやるよ。謝りたいんだろ?」

「そ、そうだけど…」

「アンタも運が良いね。アイツらが帰って来てるタイミングで私に会うなんて」

「帰って来てる?」

「それは、お楽しみだよ」

三浦と共に、川崎はある場所へ向かった。

 

その頃、比企谷家では…。

「ヒッキー、子供達は?」

「小町と雪ノ下さんがディステニーに連れて行ってる」

「比企谷君、それを早く言いなさい」

「何、行こうとしてるの雪ノ下」

「あの子達とパンさんよ。天使二人にパンさんなんて、夢のコラボレーションよ」

「まぁまぁ、雪ノ下さん。もうすぐ川崎さんも来るから」

「そ、そうね。姉さんには、写真を沢山撮るように連絡するわ」

「小町も雪ノ下さんも、うちの子供達を可愛がり過ぎ」

「八幡も、そんなこと言わないの。お陰で友達と水入らずに出来るんだから」

「だってよ彩加、うちの両親より可愛いがってるんだそ。その両親なんかスネて温泉行っちゃったし…」

「お義父さんとお義母さんには、悪いことしちゃったね」

「大丈夫たろ。帰ってきたら、遊んでくれるから」

「そうだね」

「ヒッキー、中二は?」

「編集さんにカンズメにされてる」

「本当にラノベ作家になったんだね…」

「アイツは意外と出来るヤツなんだよ」

そうすると、呼鈴がなった。

「ん?川崎か?」

「僕が出るよ」

「彩加、頼む」

部屋に入って来たのは、川崎と三浦だった。

「三浦…」

「優美子…」

「三浦さん…」

「ひ、ヒキオ!!」

三浦が八幡に抱きつく。

「うわっ!」

「ヒキオ、ゴメン、ゴメン。あーし、あんなことになってるなんて知らなくて、何も出来なくて、ゴメン!」

「三浦は何も悪くないじゃないか、謝ることなんてない」

「でも、でも…」

泣きながら、八幡に抱きつく三浦。

「…八幡?」

「こ、恐いから睨むな。不可抗力だ。三浦、とりあえず離れてくれ。俺が死んじゃうから」

「ヒキオ!死んじゃダメだし!」

「逆効果だった!死なないから、離れろ!許す!許すから!」

 

八幡から離れた三浦は由比ヶ浜に涙を拭ってもらっている。

「結衣はヒキオのこと知ってたの?」

「何年か前にね。優美子とも疎遠になってたから…」

「そっか…。結衣や雪ノ下さんも許してもらえたんだね」

「えぇ」

「元々、八幡も恨んでいた訳じゃないからね。はい、三浦さん、お茶」

「あ、ありがとう…。結衣、誰?」

「あぁ、やっぱり、そうなるよね。僕、戸塚彩加だよ」

「え?戸塚!!」

「そうだよ。久しぶり」

「なんか、髪長いし、元々可愛いかったけど、さらに…」

「あ~、三浦。俺と彩加は結婚したんだ」

「え?それって、海老名が好きな…」

「違うぞ」

「えっと、僕は女だったんだよ…」

「え?え?え?」

「ヒッキー、優美子にちゃんと説明してあげて」

「面倒くせぇ」

「八幡、ラノベ輸入禁止にするよ」

「おい、俺の楽しみを奪うな。わかったよ」

 

三浦に一から説明する。

「なんか、ヒキオも大変だったと思うけど、戸塚も凄い人生だったね」

「事実は小説より奇なりだよ」

「あっ!小説です思い出した!ウチのが、来れなくてゴメンね」

「まっ、仕方ないだろ」

「川崎さんが気にすることではないわ」

「中二は仕方ないね」

「川崎、結婚してるの?」

「川崎さん、三浦さんに説明してあげて」

「面倒くせぇ」

「俺のモノマネはやめろ」

「似てたでしょ?えっとね、今は『川崎』じゃなくて『材木座』なんだよ」

「材木座?どこかで聞いたことあるような…」

「写真見せてやれよ」

「えぇ~、恥ずかしいよ」

と、言いながら、スマホの写真を三浦に見せる。

「わかんないし」

「アイツ痩せたからな。川崎、高校の時に撮った写真あっただろ?」

「あれね。はいよ」

「え?あ?コイツ?さっきの写真と全然違うし。別人じゃん」

「そ、私が死ぬ気でダイエットしたら結婚してやるって言ったら見事にね」

「中二、変わったよね」

「材木座君、見違えたわ。外見も小説も」

「アイツとはネットでやり取りしたからなぁ」

「八幡たら、パソコンの画面見ながら、怒ってたもんね」

「すまん、うるさかったな」

「大丈夫だよ」

「で、今は締め切り間に合わなくてカンズメだけどな」

「そうなんだ…」

「三浦、そういえばあの時のグループはどうしてる?」

「あのあと、疎遠になっちゃったから、わかんない。結衣とも久しぶりなくらいだから…」

「葉山君ならわかるわよ」

「葉山?どっちでもいいが、一応聞く」

「姉さんの下で、馬車馬のように働いてるわ」

「なにそれ恐い」

 

 

時間も遅くなり、解散になる。

「そろそろチビ達も帰ってくるな」

「そうだね。ねぇ、八幡?」

「ん?」

「三浦さん、良い顔して帰ったね」

「アイツは優しいヤツだからな。それにオカンだし」

「何それ…」

「なぁ、彩加」

「なに?」

「本当に、彩加に助けてもらって良かったよ」

「また言ってる。僕だって、八幡に助けられてるし、こんなに幸せにしてもらってる」

「そうだな。俺も彩加に幸せにしてもらってる」

「あの子達にもね」

「そうだな」

「彩加、愛してるよ」

「僕も愛してる。八幡」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。