ゴブリンスレイヤー 〜蛇の転生〜 (JOKER1011)
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プロローグ

「私はお前を息子だと思った事はない。しかし、一人の戦士して一人の男として尊敬している。」

 

「あの時の私がお前だったら‥あんな過ちは起こさなかったかもしれない。」

 

その視線はパトリオットに向けられていた。

 

一人の老人が同じく老人‥いや老人のように老けた男の肩を借りてある場所を目指す。

 

「ボスをこの手で殺した時から死んでいた。」

 

そして目的の墓にたどり着き、老人のような男‥ソリッドの肩から離れ、崩れるように膝をつく。

 

彼の名はビッグボス。アウターヘブン蜂起、ザンバジーランド騒乱を引き起こした人物。

 

今、彼は死に瀕している。

 

「ボス、あんたが正しかった。世界を変える事でなく、ありのままの世界を残すために最善を尽くすこと‥」

 

「他者の意思を尊重し、そして自らの意思を信じること‥」

 

「それが‥あんたの遺志だった。」

 

ビッグボスはソリッドの手を借りずに一人で立ち上がる。

 

「やっと‥あの時の行動の意味‥あなたの‥あんたの勇気の真実が分かった。」

 

そう言うと、ゆっくりと右手が上がり、敬礼をした。

 

ビッグボスもまた、一人の戦士として、男として。

 

彼は師であるボスの行動が理解できなかった。

 

そして決定的だったのは、ピースウォーカー事件。

 

ザ・ボスのAIを搭載したピースウォーカーが突如核ミサイルの発射を止めて歌い出し、自らを湖に沈めたときだった。

 

その行動を見て、当時のビッグボスはザ・ボスが銃を捨てたとひどく失望し、決別することを誓った。

 

だが、違ったのだ。このことに気がつくのに50年もかかってしまった。

 

ビッグボスはソリッドの手を借り、師の墓にもたれるように座り、葉巻を咥える。

 

しかし、ライターに火を灯す力は残っておらず、咥えた葉巻も落ちてしまった。

 

落胆したように頭を墓に預けたとき、目から一筋の涙が流れた。

 

「ボス‥蛇は一人で‥」

 

「いや、蛇はもういらない。」

 

ソリッドはその姿を悲しげな顔で見つめると、落とした葉巻を咥え火をつけ少し吸うと、それをビッグボスに咥えさせた。

 

ビッグボスはゴホゴホと咳き込みながらも葉巻を口から離し、ポツリとつぶやいた。

 

「いいものだな。」

 

そう呟くとビッグボスは静かに息を引き取った。

 

ポトリと手から葉巻が落ちる。

 

ソリッドは静かにそれを見ていた。

 

風でオオアマナが揺れる。ソリッドは知らないが、あの時のように。

 

ソリッドの戦いは終わった。これからはソリッドは銃を捨て、静かに生きていくだろう。

 

しかし、ビッグボスには、それが許されなかった。

 

彼の魂は天に昇る途中で消えた。ワームホールに飲まれたかのように。



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2話

チュンチュン

 

男は木にもたれかかっていた。そして目を開ける。

 

「死んでなかったのか‥」

 

確か、俺は‥とりあえず水だ。水が飲みたい。

 

ビッグボスはヨロヨロと歩きながら川を目指す。

 

そして水を飲もうと膝をついた時、驚いてしまった。

 

「若返ってる‥何故だ?それに今気づいたが声もだ‥」

 

「体を動かしてみた結果で推定するに‥俺の体は29歳。スネークイーター作戦の時と同じ。装備は‥」

 

何故か持っていたバックパックを確認する。

 

「服装はオリーブドラブか。ええとM1911にコンバットナイフ、M16ライフル、閃光手榴弾に、ダンボール、双眼鏡、ナイトビジョンゴーグル‥お!葉巻だ。」

 

俺はとりあえず一本咥え、火をつける。

 

フー

 

「やはり葉巻はいいものだ。」

 

葉巻の風味を堪能していたスネークだが、重大な事を思い出す。

 

ここはどこなんだ?と。

 

よっこいしょ。と立ち上がり、歩き出す。

 

どうやらここは森のようだな。

 

何故だ、何故人間に遭遇しない。

 

もうかなり歩いたぞ。一人遭遇したっていいじゃないか。

 

だめだ、弱気になるな。

 

うん?あれは‥洞窟か。

 

足跡‥?真新しいな。数からして4人。あと恐らくだが男1人に女3人。だが古い足跡は‥なんだ?裸足だ。しかも‥指の数がおかしい。

 

普通の足跡の方に出会えたらいいが‥

 

そう思い、洞窟内に入った。

 

洞窟内でスネークはハンドガンとナイフを構える。

 

この構え方も懐かしい。

 

しばらく進んでいると、話し声が聞こえてきた。

 

「ほら遅れてる!もう少し早く歩いてよ!隊列を乱さないで!」

 

「あ、はい。ごめんなさい。」

 

なんだ、あの服は‥どこかの教会の人間と‥魔女でいいのか?

 

 

「!? 今何か音が!」

 

「は?誰が後ろに来てるってのよ?」

 

バレた!?

 

ギッ!

 

俺は背中に嫌な視線を感じた。俺は恐る恐る後ろを振り返った。

 

それは目の前にいた。全身緑色で、棍棒やナイフを持った明らかに人間じゃない集団が俺を見ていた。

 

「ギギィ!!!」

 

「な!?」

 

敵‥ゴブリンというのだが、その一体がスネークに襲いかかる。

 

すぐにハンドガンをしまい、ナイフ一本だけにする。

 

そして棍棒を持つ手首を掴み、地面に叩きつける。

 

「グギャ!」グチャ!

 

嫌な音を立てて、ゴブリンの首の骨が折れた事がわかる。

 

「え!?だ、誰!」

 

そう神官のような女性が叫んだ瞬間、ゴブリンたちは何匹かスネークに来たが、多くは神官達に殺到する。

 

まるで最高の獲物を見つけたかのように。

 

「ゴブリン!?」

 

ゴブリンというのか、あの生物は。

 

しかし、魔女が神官の前に立ち、なにやら呟くと杖から炎が飛び出した。

 

「うおっ!」

 

スネークは飛び前転で回避すると1匹に当たり、炎上した。

 

そして、続いて唱えようとした時、ゴブリンが眼前に迫っており、押し倒された。

 

押し倒された痛みに顔を歪めるが、あることに気づく。

 

杖がない!

 

よく見るとゴブリンに奪われていた。

 

「返しなさい!その杖は!」

 

ゴブリンはニヤッと笑う。そして。

 

バキッ!

 

真ん中から真っ二つにへし折ってしまった。

 

「貴様!」

 

魔女は押さえつけているゴブリンを振り払おうともがくが、それがいけなかった。足が偶然にもゴブリンの左頬に炸裂してしまった。

 

蹴られたゴブリンは呆気にとられるが、すぐになにかを取り出した。

 

マズイ!ナイフか!

 

スネークはすぐに自分に来た最後のゴブリンの首をへし折ると、ハンドガンを取り出して、撃った。

 

ドォン!

 

レーザーサイトが付いていて、助かった。

 

放たれた鉛玉はまっすぐゴブリンの側頭部に吸い込まれ、血飛沫という名の赤い花を咲かせた。

 

「大丈夫か!」

 

今頃になって前を歩いていた二人が急いで戻ってくる。

 

剣士と‥武闘家‥か?

 

まあ、いい。こんな狭い場所だ。接近戦ができる奴がいれば‥

 

「でえぇい!」

 

剣士は剣を抜くと大ぶりで振り始めた。

 

「な!?おい!こんな狭いところで!」

 

ガキン!!

 

スネークが叫んだ瞬間、洞窟の岩壁にぶつかり剣が止まってしまった。

 

その剣に気を取られた瞬間、ゴブリンが今度は剣士に殺到し数の暴力により押し倒された。

 

「今行く‥」

 

「伏せて耳を塞げ!」

 

スネークは叫ぶと腰からM16ライフルを抜き、剣士に群がるゴブリン達に向かって発砲した。

 

的確にヘッドを撃ち抜かれ、ゴブリン達は静かになる。その隙に剣士の方へ走り、背負うとすぐに神官達の方へ走った。

 

だが、武闘家の伏せていた時間が長く、今度は武闘家にゴブリン達のヘイトが向いてしまった。しかも、デカイ‥だと‥

 

一際デカイ個体がいる。あれが親玉か!

 

俺はすぐにライフルを一際デカイ個体に合わせ撃とうとしたが、すぐに武闘家はデカイ個体に飛びかかり、ハイキックを放った。

 

だが、そのゴブリンは簡単に足を掴み、そのまま手を握り締めると、バキッと武闘家の脚の骨が折れる音がした。

 

武闘家は苦悶の表情を浮かべるとゴブリンはそれを喜ぶかのようにニヤつき、脚をつかんだまま振り回して武闘家を洞窟の壁に叩きつけた。

 

力の差がありすぎる。俺が真っ向から立ち向かっても勝てるかどうか‥‥スネークはそう考えていた。

 

足の骨を砕かれ、壁に体を打ち付けられた痛みで動けない武闘家に対して追い討ちをかけるかのごとく、ゴブリン達が石を投げつけ始める。

 

そして石の雨が収まると一匹のゴブリンがビリビリと音を立てて武闘家の服を爪で引き裂いた。

 

武闘家の服の下に隠していた素肌が見えるとゴブリン達は一層危険な雰囲気を醸し出した。

 

な!?まさか!?スネークは女性の捕虜が捕まった後の仕打ちを思い出す。そして、それが合ってるかのように今度は腰布にその醜悪な手が伸びた。

 

「させるか!お前ら!耳と目を塞げ!」

 

スネークは閃光手榴弾のピンを抜き、武闘家の方に投げた。

 

地面に転がった瞬間、強烈な爆音と光が洞窟内を包み込む。

 

「グギャァァァ!!!!!」

 

ゴブリン達は一時的に聴覚と視覚を奪われた事で、のたうちまわる。

 

俺はすぐに走り寄り、武道家の周りのゴブリンをナイフで排除すると、今度は武闘家を背負い、戻った。

 

その頃にはなんとか剣士は復活していた。

 

「出口まで走れ!」

 

スネークの声に全員が走り出す。

 

スネークも武闘家を背負い、走る。

 

だが目の前を走っていた神官が転ぶ。

 

見ると肩に矢が突き刺さっており、肩口が血で真っ黒に染まっていく。

 

あいつか。

 

スネークは銃を向けるが、後ろから悲鳴が上がり、剣士達が戻ってきた。

 

おそらく探索にでも出かけていたのだろうゴブリン達が戻ってきていたのだ。

 

スネークはすぐにゴブリン3体を撃ち抜き、沈黙させた。

 

スネークはすぐに自身の上着を脱ぎ、武闘家に無理やり着せる。

 

「お前ら‥今から言うことをよく聞け。お前はコイツを背負え。その前に松明とか持ってるか?」

 

「あ、ああ‥ここに予備が‥」

 

剣士から受け取ってすぐにライターで火をつける。

 

「よし、いいな。俺が合図をしたらみんなすぐに走れ。」

 

「あなたは‥?あなたはどうするんですか?」

 

神官は作戦の意図が分かったのか、聞いてくる。

 

「俺は囮になる。」

 

「そんな!ダメです!」

 

「いいか?ここで全員逃げたら全部が襲いかかってくる。だが誰かが残れば何匹かは引きつけられる。」

 

「でも‥」

 

「なら、すぐに街に戻って応援を呼んできてくれ。腕が立つ奴をな。」

 

「分かりました。名前を教えてください。」

 

「スネークだ。それと、そこの剣士。」

 

スネークに呼び止められて戻ってくる。

 

「このナイフと棍棒を持っていけ。洞窟内はそっちの方がいい。」

 

「分かったぜ。」

 

「さてと‥走れ!」

 

その声に神官達は走り出す。

 

反対にスネークは逆に走る。

 

「こっちだ!」

 

スネークは松明を振り回しながら逃げる。

 

スネークの狙い通りに半数以上を自分に引きつけることに成功した。

 

松明を持ち、たまに飛びかかってくるゴブリンを松明で殴りつけ、逃げる。

 

そして途中の道で、スネークは松明を自身の進路とは反対方向に投げ捨てて物陰に身を隠す。

 

「ギィ!」

 

ゴブリンの集団が走ってくるが、途中でスネークの姿が見えなくなった事で探し回る。

 

その頃、神官達は。

 

なんとか入り口まで戻り、脱出に成功した。がまだ2匹ほどついてきていた。

 

「しつこいな!あいつら!」

 

しかし、その時だった。

 

自分たちを掠めてナイフが飛んでいき、1匹のゴブリンの眉間に突き刺さった。

 

それによりゴブリンは絶命していた。

 

よく見ると、そこには全身を鎧に包んで顔が見えない騎士のような男が立っていた。

 

「ギキィ!」

 

仲間をやられたことで、もう1匹のゴブリンが、そのフルアーマーの男に飛びかかるが、盾を用いたパンチで地面に叩き落とされ、後頭部を一突きで絶命させられていた。

 

「あの‥あなたは‥」

 

「ゴブリンスレイヤー(小鬼を殺す者)。」

 

「それより助けを呼んで来なきゃ!」

 

そう言い、剣士達は走って街へ戻っていった。

 

「ゴブリンか?」

 

「え、ええ。」

 

「そうか、どうやらその様子だと失敗したみたいだな。だがまだ幸運だ。死人が出ていないからな。」

 

「あ!それよりもスネークさんが!まだ中に!」

 

「‥残念だが‥」

 

「‥そんな‥」

 

「俺は奥へ行って捕まってる奴らを助けて、ゴブリンを殺す。」

 

「私も付いていきます!」

 

 

そして二人は中に入る。

 

「奴らは女の匂いに敏感だ。だからな‥」

 

「はい‥」

 

神官は全身にゴブリンの血や臓物を塗られていた。

 

「鼻で呼吸しろ。そして慣れろ。」

 

そしてゴブリンスレイヤーの先導でどんどん奥に進んでいく。

 

そして‥

 

「この穴だな。」

 

「‥はい。」

 

「それとだが、この箱はなんだ?何か文字が書かれてるが‥?」

 

 



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3話

「読めませんね‥」

 

「ああ。だがゴブリンの罠かもしれん。離れてろ。」

 

ゴブリンスレイヤーは剣を逆手に持ち、ゆっくりと足音を立てないように近づく。

 

そして!

 

グサッ!

 

思いっきりダンボールを突き刺した。

 

カキン!

 

刃は簡単にダンボールを貫通し、岩にあたる。

 

「どうやら中には何も入っていないようだな。」

 

「そうですね‥もしかしたら、ここにスネークさんが隠れてると思ったのですが‥」

 

「こんな薄い箱にまともな人間が隠れるはずがないだろう。それにこの道中で出くわしていないんだ。つまり‥」

 

「そこにいるのは誰だ。」カチャ。

 

ゴブリンスレイヤーは剣を向ける。

 

その向けた方向にはスネークがおり、ハンドガンとナイフを構えていた。

 

スネークとゴブリンスレイヤー、二人が睨み合う。

 

「スネークさん!生きてたんですね!」

 

「君は‥!どうやら無事に逃げて来られたようだな。」

 

神官が止めに入った事でスネークはようやく武器を降ろした。

 

「お前がスネークか。俺はゴブリンスレイヤー。」

 

「ああ、よろしく頼む。そして神官達を助けてくれてありがとう。」

 

「それについては礼に及ばん。それより、いくらお前が男でかつ、ゴブリンの匂いを漂わせているとはいえ、どうやってゴブリン達から逃れた?」

 

「俺はあの後、ここまで逃げてきたんだが、俺が出てきた横穴と、お前らが入ろうとした横穴からゴブリンが出てくるのが見えた。つまり挟み撃ちだ。それに気づいた俺は咄嗟にある場所に隠れた。すると奴らは俺に気づかずに素通りしていった。」

 

「それはいったい‥!」

 

神官がまるで、手に汗握るお話を聞いているかのごとく、ゴクリと唾を飲む。

 

ゴブリンスレイヤーも興味深い話なのか、真剣に聞いている。

 

この辺りには隠れる場所などない。だが、その話に出てきたゴブリンらしき死体もない。

 

「ダンボール箱だ。」

 

「ダンボール‥箱‥?もしかして、この箱ですか?」

 

神官は杖で突きながら聞き返す。

 

「ああ、それだ。」

 

「何故被ったんですか?」

 

「ああ、俺も人間相手にしかやったことはないが、ゴブリンでも騙せるか賭けに出た。そしたら見事に気づかれないものだ。更にダンボール箱はいいぞ。言葉では言い表せられないが、妙に落ち着くんだ。いるべきところにいるという安心感や、人間はこうあるべきだという確信に満ちた安らぎのようなものを感じるんだ。」

 

「‥‥‥」

 

「‥‥‥」

 

「‥分からないか?」

 

「分かりません。」

 

「意味が分からないが?」

 

「そうか、ならば一度被ってみればいい。」

 

「遠慮しておきます。」

 

ゴブリンスレイヤーは、こんな箱に何故そこまでのステルス性能があるのか不思議に思いながら、横穴に入って行った。

 

それに神官とスネークがつづく。

 

 

※突然ですが、挟み撃ちされた時のスネークの状況を回想します。

 

「はぁ‥はぁっ‥」

 

「こっちまで逃げてきたが、大丈夫か?」

 

一応、松明を反対方向に投げたからなんとかなったと思うが。

 

だが松明を捨てたせいで、少々洞窟内が見辛くなってしまった。ここからはナイトビジョンゴーグルに頼るとしよう。

 

そうして俺はゴーグルを装着した瞬間、目の前の穴からゴブリンが、こちらに歩いてきているのが、見えた。

 

すぐに離れようと後ろを向くと、後ろからも来ていた。

 

「挟まれたか。どうする。」

 

倒すか?いや、増援を呼ばれたら終わりだ。俺にはいいものがあるじゃないか。

 

俺はすぐにダンボール箱をかぶって身を潜めた。

 

※更にここからゴブリンの言葉を翻訳します。

 

「ギギッ?(いたか?)」

 

「ギィギ!(いや、いない。)」

 

「ギ?ギギッ?(これは何だ?)」

 

「ギィ?ギギッ!ギギギッ!(知らん。とりあえずあっちを探そう。)」

 

スネークはソロリと移動しようとしたが、運悪くゴブリンの一匹が振り向いてしまった。

 

「ギッ!?ギギッ!!!ギギギッ!!!(な!?おい!?この箱動いたぞ!)」

 

「ギッ?ギギッwギィギギィ!(は?何を馬鹿なこと言ってんだ。箱が動くわけないだろ。)」

 

「ギギッ‥(本当なのに‥)」

 

マズイな、気づかれてるか?スネークは一応ナイフを取り出す。

 

カサッ!

 

しかし、その動きでダンボールが動いてしまった。

 

「ギッ!?ギギギ!ギィギィ!!(おい!?まただ!また動いてる!)」

 

「ギィ‥ギギッ!(はあ‥真面目にやれ。)」ポカっ!

 

ダンボールの穴から見るとこちらに気づいているゴブリンが、もう1匹のゴブリンに頭を殴られている。

 

「ギギッ!ギィギ!ギギッギギッ!!(やめろ!俺は大真面目だ!確かに動いたし、絶対何かがいる!)」

 

「ギィ‥ギギッ。ギギギ。(そうか‥わかった。威嚇攻撃でもやってみろ。)」

 

信じていないゴブリンが呆れたように言うと、騒いでるゴブリンが俺のダンボールに石を投げつけ始める。

 

ゴスッ!ゴスッ!

 

デカイ石が何個かぶつかり、ダンボールが少しヘコむ。

 

「ギギッ?(どうだった?)」

 

「ギギッ‥ギギギ‥(反応なしだ‥捜索に戻ろう‥)」

 

「ギ。ギギィ、ギギッ!(そうか。お前今日は休め。)」

 

そうしてゴブリン達は横穴に入って行った。

 

※回想終了です。

 

少し入ったところで、ゴブリンが5匹たむろしていた。

 

こいつら、警備をサボった組か。

 

スネークは呆れながらも、チャンスだと思った。

 

まあ、先程のダンボールのくだりの時の2体もいるが。

 

「さて、ここは‥」

 

ゴブリンスレイヤーが剣を抜こうとした。

 

「待て、俺がやる。」

 

スネークが止める。

 

「‥やれるのか?」

 

「任せろ。あと危なくなったら、援護を頼む。」

 

スネークはコソッと動き、ゴブリン近くの岩陰に隠れ、様子を伺う。

 

ゴブリン達がスネークに気がついている様子はない。

 

スネークは一気に走り出した。

 

それに気がついたゴブリン達は武器を拾い、スネークに襲いかかる。

 

スネークは1匹を一本背負いで地面に叩きつけ、更に2匹目の武器を持っていない左腕を両手で掴み、浮かせながら引き寄せると、右手はそのままで、自身の左手でゴブリンの首を掴み、地面に叩きつける。

3匹目の後頭部に左手を回し、足を刈るとゴブリンの体を丸めて地面に叩きつけ、4匹目が背後に立ったため、すぐに振り向き両手で左腕を抱え込み、引き寄せると地面に投げるように叩き落とす。

 

これがスネークの十八番の連続CQCである。

 

最後のゴブリンは慎重に棍棒を構えて、殴りかかってくるが、スネークはワンツーとパンチを繰り出し、怯んだゴブリンから棍棒を奪い取ると、思いっきり振り下ろした。

 

グチャ!っと音がして、ゴブリンの頭が弾けて、地面に沈んだ。

 

「やるな。動きもスムーズで無駄がない。それと見たことがないな。」

 

「俺の亡き師と共に作り上げたものだ。おいそれと真似できるものじゃない。」

 

スネークはおもむろに、ゴブリンの腕を切り取ると、切断面をライターで炙って焦がし、血が流れてこないようにする。

 

「先を急ぐぞ。」

 

ゴブリンスレイヤーが進んで行ったため、またそれにつづく。

 

「ゴブリンのこと、私少しなめてました‥あなたが来ていなかったら私たちは‥」

 

「礼はいい。それと敵に対して油断はするな。追い詰められた狐はジャッカルより危険だというだろ?」

 

「え?なんですか、それ?」

 

「え?知らないならいい。それよりゴブリンか‥」

 

「ええ、危険ですよね。私が射られた矢にも毒が塗られてたみたいで‥助かりましたけど。彼らの糞尿と薬草で作られた毒らしいです。そんな毒を作れる素材を生み出すなんて‥」

 

神官はため息をつきそうになる。

 

「で、味は?」

 

「は?」

 

「味‥‥」

 

「聞いてなかったのですか?ゴブリンは‥」

 

神官は驚く。この人はゴブリンを食べようとしているのだ。ゴブリンを食べた人間は聞いたことがない。

 

この人‥大丈夫かしら?と考えていた。

 

神官が失礼なことを考えているとは、つゆも知らないスネークは聞き返す。

 

「聞いてたさ。だが食ったらウマいかもしれんだろ?」

 

「‥‥勝手にしてください。」

 

神官はやっぱり、この人は‥と思いながら前を歩くゴブリンスレイヤーについて行く。

 

奥で更に一本の穴を見つけ、ここがゴブリンの巣だということが分かる。

 

「ホブゴブリン‥あのデカイやつをおびき寄せる。だが厄介なシャーマンを先に殺す必要がある。そこで目くらましができる神官と俺で中に入る。」

 

「わかった。だったら俺はここで、後続が来ないか見ておこう。」

 

「頼む。それと、これを仕掛けてくれ。」

 

ゴブリンスレイヤーが渡してきたのは小さな木二つにロープを巻きつけたものだ。

 

「‥本当にこれで引っかかるのか?」

 

半信半疑な態度で聞くスネーク。

 

「大丈夫だ。仮に失敗しても策はある。」

 

そう言うと中に入っていった。

 

それから10分後。

 

ゴブリンスレイヤーと神官が走ってきた。

 

二人ともロープを飛び越える。だがホブゴブリンは獲物に夢中になりすぎて足下を見ていなかった。

 

ロープにつまづき、盛大に転ぶ。

 

待ってたとばかりにスネークがナイフでホブゴブリンの心臓を一突きで仕留め、黒い液体をかける。

 

なるほど、そういうことか。

 

そして持ってた松明を投げつけた。

 

それによりホブゴブリンは悶え苦しみながら炎上し、まだ燃えていない腹を蹴り飛ばして倒し、後ろにいたゴブリンたちを巻き込んで炎上させた。

 

その後、スネーク達は未だに燃えるホブゴブリンを尻目に村娘達の救出に向かう。

 

そこでは裸に剥かれた女性達が横たわっていた。

 

悲惨な目にあった女性達を見て、流石のスネークも顔をしかめた。

 

神官は「もう、大丈夫です‥大丈夫ですよ‥」と倒れている一人を優しい声で慰めながら抱きしめていた。

 

「‥ここか。」

 

ゴブリンスレイヤーにとっては、まだ終わっていなかったのか、人骨でできた椅子を蹴り倒し、その椅子に隠されるような形になっていた扉をこじ開けた。

 

ゴブリンスレイヤーが覗き込んだ為、スネークも一緒に覗き込んだ。

 

中には、まだ子供のゴブリンが身を寄せ合って震えていた。

 

横ではゴブリンスレイヤーが血に染まったナイフを構えだした。

 

そうだな。

 

スネークは一瞬甘い考えに陥りそうになったが、頭を左右にブンブンと振ると、同じようにナイフを構えた。

 

「待ってください。」

 

いつのまにか、神官が立っており、スネーク達がしようとしている事を止めた。

 

「この子たちは何もしていない子供です。たとえゴブリンでもいいゴブリンになるかもしれません。」

 

「中にはいるかもしれないな。……だが、姿を見せないやつだけが良いゴブリンだ。」

 

「すまんな、それに関してはゴブリンスレイヤーと同意見だ。」

 

そう言い、ナイフで一匹一匹刺し殺していく。

 

「ひどい‥あんまりです‥」

 

とうとう、神官は泣き崩れてしまった。

 

こうして俺たちはゴブリン退治を完遂した。

 

その後、剣士達が呼んだであろう冒険者達と捕まっていた村娘達を救出する。

 

「スネークさん、ゴブリンスレイヤーさんありがとうございました。」

 

「ああ。」

 

「気にするな。」

 

「ところで、スネークさんは行くあては‥」

 

「無いな。」

 

「そうですか‥」

 

「俺の所に来い。」

 

「お前の家か?」

 

「厳密には俺の家では無いが、一人くらいならなんかなるだろう。掛け合ってやる。」

 

「すまないな。」

 



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4話

次の日、スネークは起き出す。

 

自分にあてがわれた部屋から出て、井戸水で顔を洗う。

 

少し寝ぼけた顔がシャキッとするのを感じる。

 

フォークでガシガシと汚れを取り除き、新しい牧草を用意して、フォークをしまうと外に出た。

 

「おはよう。ゴブリンスレイヤー。」

 

「ああ。」

 

ゴブリンスレイヤーは相変わらずぶっきらぼうな挨拶を返してくる。

 

そういえば、こいつ‥兜を脱いでるところを見たことがないな。

 

「で?何をしてるんだ?」

 

「柵の補強だ。ここには牛や鶏などの家畜が大量にいる。それ目当てでゴブリンが襲撃してくる可能性がある。」

 

「なるほど。俺も手伝おう。」

 

二人で無言で柵の緩みを直したり、がたつきを直すなどの補強作業を進めていく。

 

どれくらい時間が経っただろうか。

 

「ご飯できたわよ!」

 

女性が呼びに来てくれた。

 

この人物は牛飼い娘。この世界に来て分かった事だが、この世界の人間で名前を呼んでいるところに出会ったことがない。

 

「何故なんだ‥?」

 

「どうしたんですか?スネークさん。」

 

「え?いや、なんでもない。」

 

それと不思議な事が起きた。

 

俺が使っているM1911とM16ライフルだが、マガジンは3つずつ入っていた。俺はあの洞窟でハンドガンは2つ、M16も2つ消費したはずだった。

 

だが寝る前に確認したら3つに戻っていた。

 

何故だ?何故増えている。いや、もちろん増えることに関しては逆に助かる。この世界に同じような弾丸を作る技術があるとは思えない。

 

だが不気味だ。

 

そして食卓に座り、朝食を食べ、牛飼い娘が荷車に畜産物を積み、ギルドへ運ぶ。俺たちはそれについて行く。

 

毎日この繰り返しだ。

 

今日こそ頼んでやる。

 

俺はギルド内の食堂に赴き、シェフを呼んでもらう。

 

すると髭を生やした初老の男性が出てきた。

 

「なんだい?」

 

「実はこれを美味しく食べる方法を探している。」

 

そう言って俺はゴブリンの腕を出した。

 

そう、ゴブリンの腕だ。前回は女神官に没収され、焼却処分されてしまった。更に万全を期すために今回はちゃんと水洗いをして匂いを飛ばしてきた。

 

今日こそだ!

 

「これなんだい?」

 

「これか?ゴブリンの腕だ。」

 

「はぁ!?お前イカれてんのか!出禁にされたくねえなら、さっさとそれ持って帰れ!」

 

「おい!塩撒いとけ!塩!」

 

追い出されてしまった。

 

「どうした?」

 

「ああ、ゴブリンが食べられるんじゃないかと思ってな?食堂に持ち込んだら追い出された。」

 

「ゴブリンをか?食べられるのか?」

 

「まだ分からん。最悪生で齧ってもいいが、それをやったら、二度と口をきかないと女神官に怒られてしまってな?」

 

「ふむ‥」

 

「ゴブリンを食用にする事が出来たら‥仮にそれが美味しかったら‥人間は希少な食材や素材の為に動植物を滅ぼしかけるものだ。ゴブリンを絶滅に追いやる足掛かりにもなるはずだ。」

 

「なるほどな。もし食べるなら水でよく洗って、血抜きをして‥」

 

「ああ、万人ウケするように臭みも消す必要がある。」

 

そう言いながら、俺たちは同意をもらおうと牛飼い娘を見る。

 

「協力しませんからね!」

 

そう言うと、帰って行ってしまった。

 

残念だ。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!スネークさん!」

 

「なんだ?」

 

「どうした?」

 

「あなた方二人にしか出来ない依頼です。」

 

話を聞く限りでは、村娘がゴブリンに攫われた事で、義憤に駆られた女性4人組パーティがゴブリンの巣穴に朝早くに乗り込んだが、未だに帰ってこないらしい。

 

「‥わかった。引き受けよう。」

 

「ゴブリンスレイヤーさん。」

 

女神官だ。彼女はゴブリンスレイヤーの忠告通り、鎖帷子を着るようになっていた。

 

その女神官が杖を両手で持って聞いてくる。

 

「ゴブリンですか?」

 

「ああ。」

 

「そうだな。着いてくるか?」

 

「はい!行きます!」

 

「この辺りか。」

 

「そうですね。‥無事だといいのですが‥」

 

「捕虜もパーティも全滅してると考えた方がいいが、絶対とは限らないだろう。」

 

それから目的地に到着する。

 

「さて、洞窟を燃やすとしよう。」

 

「え‥?でも‥まだ生きてるかもしれないです!」

 

「ああ、一度侵入を許したんだ。奴らは殺気だってるはずだ。」

 

「でも、もし生きてる人がいるのに、したら‥」

 

「ああ、そいつらも死ぬだろう。」

 

「‥待ってくれ。」

 

行動を起こそうとしたゴブリンスレイヤーをスネークが止める。

 

「どうした?」

 

 

 

「俺だけでも行かせてくれないか?」

 

「どう言う事だ?」

 

「女神官はまだ洞窟に生存者がいるかもしれないと言ってる訳だ。そんな状態で作戦を決行しても彼女は納得しないし、俺達の心の中にも、あの時生存者の確認をしてた方が良かったのではないか‥?といった疑問が残り続ける。なら俺が一人で行ってくる。」

 

「危険だぞ。」

 

「そうです!いくらスネークさんでも!」

 

「まあ、ノーアラートとはいかないが、大丈夫だ。それでも信用できないなら20分だ。20分経っても俺が帰って来なかったら遠慮なくやってくれ。それでどうだ?」

 

「そんな!ダメです!」

 

「‥‥いいだろう。」

 

「ゴブリンスレイヤーさん!?」

 

「分かった。行ってこよう。」

 

こうしてスネークの単独潜入ミッションが今幕を開けた。

 

「流石、元エルフの要塞だ。罠が多いな。何個かは解除されてるが。」

 

ナイトビジョンゴーグルをつけたスネークが罠を回避しながら進んでいく。

 

おそらく帰ってこないパーティが解除していったものだろう。

 

「ギギッ!」

 

突然声がしたため、しゃがみこむ。

 

ゆっくり顔を上げるとゴブリンが目の前をあくびをしながら歩いていた。

 

どうやら1匹のようだ。

 

ゆっくりとハンドガンを構えて引き金を引いた。

 

パスッ!

 

ゴブリンの頭にヒットし、沈黙させる。

 

スネークはゆっくりと動き出し、辺りの安全を確認するとゴブリンの腹を裂き、血や臓物を全身に塗りたくり、自身の匂いを消した。

 

これは本来女性が行う事だが、念には念を入れての行動だ。

 

石を投げたりレーザーサイトの光を岩肌に照射するなどの陽動をしつつ、どんどん奥まで進んでいく。

 

すると見つけた。

 

スネークは辺りを確認して危険がない事が分かると村娘の顔を確認しにいく。兵士の中には捕まえた相手の体に手榴弾を括り付け、体を動かしただけでピンが抜けるようにする罠もある。ゴブリンもしないとは限らない。

 

その為、ゆっくりと顔をこちらに向けた。頬にはうっすらと涙の跡があり、舌を噛み切ったのか口下には血の跡がある。

 

可哀想にな。スネークは見開かれたままの遺体の目を閉じさせ、手を胸の前で組ませた。

 

更に奥に進むと、酷いものだった。

 

的にされていたのか、柱にくくりつけられ、矢が体に刺さったままの遺体に、仰向けに寝かされ開脚したままの遺体、近づくまで分からなかったが、燃やされたのか黒く炭と化している遺体を見つけた。もらった紙に書いてある似顔絵と見比べると潜入したパーティだということが分かった。焼死体の身元が分からないが、恐らくここのパーティメンバーだろう。

 

だがあと一人が分からない。

 

うん?あれは‥

 

俺は中途半端に裸にされた女性を見つける。

 

遠目から双眼鏡で確認すると、まだ生きている事がわかった。

 

生存者、発見。

 

動き出そうとしたが、奥からゴブリンがこちらに歩いてきているのが分かった。

 

俺はすぐにダンボール箱をかぶり、様子をうかがう。

 

状況から見るに‥彼女は最後まで‥何故かは分からないが彼女は意図的に最後まで生かされていたようだ。

 

「あ‥ああ‥」

 

「ギギッ!」

 

ゴブリンがその女性の周りをグルグルと回る。

 

俺はダンボールを被ったまま、奴が俺の死角に入る度に近づいていく。

 

そして意を決したかのようにそのゴブリンは女性に組み付いた。

 

俺は瞬時にダンボール箱から飛び出し、ゴブリンを後ろからホールドした。

 

「ギ‥!」

 

ゴブリンは俺には捕まった事に気づき、抵抗しようとジタバタ動くが、もう遅い。

 

俺は腕でゴブリンの首を絞め上げる。

 

すると、頭に酸素が上らなくなってきたのか、ゴブリンの抵抗が弱まっていき、クテッと落ちた。

 

俺はそのまま捻って首を折ると、その女性の顔を確認する。

 

間違いない、彼女は貴族令嬢だ。

 

俺はその女性を背負い、他の3人の遺品らしき物を拾い集め、洞窟を後にしようと立ち上がり、後ろを向いた。

 

だが、そこに立っていたゴブリンと目が合ってしまった。

 

「‥‥‥」

 

「‥‥‥」

 

お互いに静かに見つめ合う。

 

「俺に気づかれずに後ろを取るとは‥‥いいセンスだ。」

 

そう言い、俺はゆっくりと下がった。

 

その瞬間だった。ゴブリンは手に持っていた銅鑼を思いっきり叩き始めた。

 

しまった、増援か!

 

その音に混じって奥からドドドド!!!!と音がする。

 

俺は片手で銃の引き金をひき、そのうるさいゴブリンを沈める。

 

だが、徐々にゴブリン達の足音が近づいてくる。

 

俺は一か八かの賭けで出口へ向かって走る。

 

行きの道で、罠の場所は全て把握している。

 

スネークは軽快に回避し、後ろから追いかけてきているゴブリン達は罠にかかり、数を減らしながら追いかけてくる。

 

ようやく前方に明かりが見え始め、ナイトビジョンゴーグルを外す。

 

間違いない!出口だ!

 

俺は駆け抜け、外に出る。

 

「スネークさん!」

 

「俺の事はいい!早く!」

 

「はい!」

 

《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください》

 

「聖壁(プロテクション)!」

 

洞窟の入り口全てを塞ぐように壁が現れ、スネークを追いかけていたゴブリン達は一斉に激突していく。

 

今回の作戦はこうだ。

 

洞窟の入り口に燃える水、つまり油を入れた瓶を設置し、囮を追いかけてきたゴブリン達を聖壁で閉じ込め、安全地帯から瓶を火矢で割り、洞窟内を火の海にする。というものだ。

 

その後はゴブリン達が燃え出すのを確認し、ゴブリンスレイヤーの話では、こういうところは抜け穴があるとのことなので、それを一個ずつ潰して回り、俺たちは帰還した。

 

「そうですか。捕まってた村娘は自殺、パーティも一人を除いて全員生還ではありませんでしたか‥」

 

俺とゴブリンスレイヤーの話を聞いた受付嬢が暗い顔をする。

 

因みに女神官は助け出された貴族令嬢を別室で落ち着かせている。

 

「それで、あの子はどうなるんだ?」

 

「ええ、普通は‥修道院に入る事になりますね。」

 

「そうか。」

 

その後、俺たちは女神官と別れて帰ろうとする。

 

「あの‥」

 

俺たちは振り返る。

 

それは、あの日俺が助けた女武闘家だった。

 

「あの‥えっと‥これを‥」

 

そう言って女武闘家が差し出したのは俺の上着だった。

 

あの日、着せたまま、服が返って来なかった為、俺はずっとゴブリンスレイヤーの提案でレザーメイルを着せられていた。

 

「ああ、返しにきてくれたんだな。ありがとう。」

 

「それで、この後なんですがお話しする事は‥」

 

「ああ、それは‥」

 

俺はちらっとゴブリンスレイヤーを見た。

 

「気にするな。」

 

「すまないな。先に帰っててくれ。それと夕飯は先に食べててくれないか?」

 

「分かった。」

 

そう言うとゴブリンスレイヤーは帰って行った。

 

「あの‥すいません‥」

 

「いや、いいんだ。それより飯でも食いながら話そう。腹が減った。」

 

俺たちはギルド内の食堂エリアに入る。

 

俺を見てシェフの目が見開いたが、俺が両手を上に上げると、作業に戻った。

 

「どうしたのですか?」

 

「いや‥なんでもない。」

 

俺たちは適当に二人がけのテーブルにつく。

 

「そうだ、剣士と魔法使いがいただろ?どうしてる?」

 

「ええ、アイツ‥いえ剣士の方は今回の事で冒険者をやめてしまって村で畑仕事してます。女魔法使いさんは修行が足りなかったと学院に戻ってしまいました。」

 

「そうか、どんな形であれ、無事なら何よりだ。君は?」

 

「はい、私は‥冒険者を諦められずに、今は簡単な植物の採取や弱い魔物の討伐をしています。」

 

「そうか。で?他の要件はなんだ?」

 

「要件ですか?」

 

「ああ、まさか俺の上着返して、ただ近況を話しに来ただけじゃないだろう。」

 

そう言いながら葉巻を咥え、火をつける。

 

「‥‥お見通しなんですね。」

 

「ああ。」

 

「私に、武術を教えてくださいませんか?」

 

「武術?」

 

「はい、女神官さんに聞きました。あなたは水のように流れる動きで、ゴブリンを素手で倒していったと。私もそうなりたい。」

 

そう言うと立ち上がり、床に土下座をして頼み込んだ。

 

「な!?おい!」

 

「お願いします!私を弟子にしてください!」

 

それを見ていた周りがザワザワし始めてしまう。

 

「ねえ、あれ何かしら?」

 

「おいおい、アイツ女を土下座させてるぞ!」

 

「なんて野郎だ!」

 

スネークに非難の目が集まり出した為、スネークは慌てて言う。

 

「分かった!分かったから顔を上げてくれ。視線が痛い。」

 

「と、言う事は!」

 

「ああ、教える。だが生半可な覚悟ではついて来れないぞ。」

 

「承知の上です。」

 

俺達は飯を食うと、受付嬢に頼んで牧場へ今夜は帰れないと伝えてもらい、ギルド内の訓練所にやってきた。

 

「さて、まず俺が使っているのはCQCという。」

 

「これは近接戦闘に特化したものだ。お前が考えている通り接近を許さなければ剣よりは弓などの方が強いだろう。だが‥まあ説明するより見せた方が早いだろう。」

 

スネークはナイフを抜くと、女武闘家に持たせる。

 

「それで俺に攻撃してこい。」

 

「え?」

 

「いいから。俺を刺すつもりで来い。刺さなくとも斬ってもいいぞ。」

 

「分かりました。」

 

女武闘家は答えるとナイフでスネークの胸の辺りを刺そうとする。

 

だがスネークは後ろに下がりながら両手でナイフを持つ右手を腕ごと掴み、その腕を捻る。

 

「うっ!」

 

女武闘家はその痛みでナイフを取り落としてしまう。

 

そこをスネークは右足で女武闘家の両足を刈ると地面に倒してしまった。

 

「イタタタ‥」

 

「これがCQCだ。」

 

「初日は意味が分からないだろうから、ぶつかってこい。受け止めてやる。」

 

「分かりました!はぁっ!」

 

1時間後‥

 

「はぁ‥はぁ‥」

 

女武闘家は訓練所で大の字になって荒い呼吸をしていた。

 

「体中が痛い‥」

 

「だろうな。いくら倒しても向かってくるからつい本気を出してしまった。」

 

「今日分かった事だが‥そのままで良いから聞いてくれ。」

 

スネークのその言葉に、正座をしようと起き上がり出した為、スネークは止める。

 

「まずお前の攻撃は大振りだ。それでは素人なら騙せるが、俺クラスになると格好の餌食だ。更にお前の攻撃だがパンチとキックだけだったな。それだけだと避けられたり掴まれた時にカウンターを食らう。だがどれだけ倒されても俺に向かってくるガッツと、1発1発の攻撃の速さは見事だった。」

 

「いいセンスだ。」

 

「いい‥センス‥?」

 

「ああ、ほら立てるか?」

 

スネークは手を差し出す。

 

女武闘家は手を掴み、立ち上がる。

 

「ほら、回復薬だ。」

 

「ありがとうございます。」

 

そう言い、ゴクゴクと飲んでいく。

 

こうしてスネークは異世界にて弟子を持つことになってしまったのであった。

 

 

そこから少し時は戻り、ある村では‥

 

「小鬼殺しの鋭き致命の一撃が小鬼王の首を宙に討つ〜♪」

 

ある吟遊詩人が歌っていた。

 

その歌に人々は足を止め、聞き入る。

 

どうやらゴブリンスレイヤーの歌らしい。

 

「かくして小鬼王の野望も終には潰え、救われし美姫は勇者の腕に身を寄せる〜♪」

 

「しかれど彼こそは小鬼殺し 彷徨を誓いし身傍に侍う事は許されぬ〜♪」

 

そして歌が終わる。

 

「辺境勇士 小鬼殺しの物語より山砦炎上の段 まずはこれまで」

 

被っていた帽子を掲げ、お辞儀をすると人々は拍手をし、その歌に応えるようにお捻りを落としていった。

 

その男は片付けを終えると、稼いだ金を数える。

 

(やはり損得抜きで人々を助ける勇者の話は受けが良いな。)

 

(俺にとっても白金の勇者様だよな!)

 

稼いだ金から一枚硬貨を取り出し、見ていると急に声をかけられる。

 

「ねぇ、今歌ってた冒険者のことだけど実在するの?」

 

「え?ああ、もちろんだとも!(まあ、俺は会ったことねえけどな。)」

 

「そうだな、こっから西の辺境へ2〜3日ばかし行ったとこの街にいるって話だ。大きなギルドもあるし、そこで聞いてみたらどうだい?」

 

「街?放浪してるんじゃないの?」

 

「あ‥いやそれは‥はは‥あ!そうだ!これはお客さんにだけですよ。」

 

「最近その小鬼殺しの仲間にめっぽう強いのが入ったそうで。その人物も近々歌に入れるつもりなんですよ。」

 

「へぇ〜街にいるのね。」

 

スッとフードを外すと普通の人間にはない長い耳が現れる。

 

「おお‥」

 

その男は先ほどまで話していた女性がエルフで、しかもかなりの美形なのに感動し顔を赤くする。

 

「‥‥小鬼殺し(オルクボルグ)」



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5話

次の日、スネークは床で目覚める。

 

ああ、確か昨日は牧場に帰らなかったよな。ベッドを見ると女武闘家が寝返りをうつ。

 

不思議なものだ。あの日、俺が洞窟に行かなければ、彼女のパーティは全滅してたかもしれない。

 

俺はバックパックを確認する。ふむ、やはりマガジンが戻ってる。

 

閃光手榴弾もだ。それに‥武器が増えているだと‥!

 

俺は武器を2つ引っ張り出した。

 

それを眺め、動作確認をしたあと、バックパックにしまい込んだ。

 

そして部屋を出て、階段を降りていく。

 

すると、マントを着た裸足の女性がフラフラと歩いて入ってきた。

 

何者だ?あれは?と皆が注目したあと、パタッと倒れてしまった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

とりあえず仰向けしたところ、衣服はボロボロになっており、ほとんど肌が見えている状態だ。

 

「おい!しっかりしろ!」

 

スネークはその女性を担ぎ上げ、二階に上がっていく。

 

女武闘家の泊まる部屋のドアを開ける。

 

女武闘家はベッドに腰掛け、目をこすっていた。

 

「あれ?師匠‥って、ええええええ!!!!」

 

「すまない、突然で悪いがベッドから降りてくれ。」

 

「は、はい!」

 

俺の言葉に素直に応じた女武闘家はベッドをその女性に譲る。

 

フードを脱がして俺は驚く。

 

「驚いたな。」

 

まさか生きてたとは。

 

彼女は森人魔術師だ。焼死したとばかり思っていたが、あれは別人だったか。

 

「俺は受付嬢を呼んでくる。」

 

「はい、いってらっしゃい。」

 

俺が下に降りていくと受付嬢は暇そうにあくびをしていた。

 

「あら?スネークさん。どうなさったのですか?」

 

「ああ、昨日の行方不明になったパーティの写真を見せてくれ。」

 

「ああ、あの貴族令嬢さんしか生還できなかった‥何かあったのですか?」

 

「ああ、さっきギルド内で倒れた奴がいただろ?そのパーティの森人魔術師に似てるんだ。」

 

「え!?分かりました!すぐ行きます!」

 

受付嬢はファイルから紙を取り出すと俺と一緒に階段を上がり部屋に入る。

 

受付嬢は紙と顔を何度も見比べて驚く。

 

「まさか‥本当に生きてたんですね‥よかったです‥」

 

受付嬢はそう言って涙ぐむ。

 

「ああ、この部屋なんだが」

 

「お任せください。この方が回復するまで、この部屋は使ってください。」

 

そう言うと俺たちに頭を下げ、部屋を出て行った。

 

「じゃあ、任せていいか?俺は少し出てくる。」

 

「はい、お気をつけて。」

 

俺が階段を降りていくと受付嬢が誰かと揉めていた。

 

「ですから、そのような方は‥」

 

「そんな訳ないわ!確かに、ここにいるって聞いたもの!」

 

「ですから‥」

 

「もう一度言うわよ!オルクボルグよ!オ・ル・ク・ボ・ル・グ!」

 

「これこれ、耳長。ここは只人の国じゃ。だとすれば言葉が通じないのも分かるじゃろ。わしに任せろ。」

 

「すまんのう、うちの金床が。では、この名ならどうじゃ?」

 

受付嬢は、エルフを押しのけてドワーフが前に出たことで、やっとまともな人が来たと思って期待する。

 

「かみきり丸じゃ!」

 

「‥‥余計分かりません。」

 

「‥‥ぷっ!あっはっはっは!何よ、その名前w」

 

「ふん!流石、エルフは金床に似た器量の狭さじゃな。」

 

「何よ!あんたらドワーフの女だって樽じゃない!樽よ!樽!」

 

「何を言う!あれは豊満と言うんじゃよ!まあ、お前には一生分からんことじゃ!」

 

「言ったわね!」

 

「やる気か?」

 

エルフとドワーフが顔を近づけて睨み合う。

 

目の前で始まった喧嘩に受付嬢は、どうすればいいのかと困惑する。

 

「これ、よさぬか。醜い喧嘩なら拙僧の目と耳が届かんところでやってくれ。」

 

今度はトカゲが現れた。確か‥リザードマンという種族だったな。

 

「すまんな、拙僧の連れがうるさくして。」

 

「いえ、受付の前で喧嘩されるの慣れてますので‥」

 

スネークは3人の共通点を見つけた。

 

な!?3人とも銀等級だと!?

 

「オルクボルグに、かみきり丸では通じんのか。では拙僧の呼び方ならどうだ?小鬼殺しだ。」

 

「小鬼‥ああ、ゴブリンですね。」

 

「ならゴブリンスレイヤーさんのことですかね。」

 

「ほう、只人達の間ではゴブリンスレイヤーと呼んでいるのか。それでは通じないのは当たり前だな。」

 

「彼ならまだ来てませんけど、彼と行動を共にしてる方ならいらっしゃいますよ?さっきからこっち見てますし。」

 

そう言って受付嬢は俺を指差した。

 

「ああ、俺がゴブリンスレイヤーの同行者だ。」

 

エルフは俺を見て驚く。

 

「やっぱり!ほら、あの吟遊詩人が言ってた特徴にそっくり!額にバンダナを巻いてて、右目に眼帯って!」

 

「ほう、確かにそのままじゃ。」

 

「似ておりますな。」

 

だがスネークは違うところに注目していた。

 

「カズ!?」

 

「カズ‥?拙僧のことを言うておるのか?」

 

「いや、すまない。俺の知り合いに声が似ているだけだ。」

 

「ほほう。拙僧の声に。興味がありますな。」

 

「でもアンタ白磁級よね?本当に強いの?」

 

「物事は見た目だけで判断しないことだ。じゃないと足元をすくわれることになる。」

 

「な!?」

 

「はっはっは!この男の言う通りじゃ!ぬかったのう、耳長。」

 

「うるさいわね!アンタは黙ってなさいよ!」

 

「これ!喧嘩をするでないと!すまないな、拙僧は蜥蜴僧侶と呼ばれておる。そなたは?」

 

蜥蜴僧侶が名を尋ねる。

 

「俺の名はスネークだ。スネークでも、そちらの呼び方でも構わない。」

 

「ふむ、ならば、そなたを尊重してスネークと呼ぶとしよう。」

 

「スネークか。懐かしい響きだ。」

 

その時、ゴブリンスレイヤーと牛飼い娘がギルド内に入ってきた。

 

「ゴブリンスレイヤー!」

 

「ああ、昨日は帰ってこなかったようだが。」

 

「すまない、修行が盛り上がってな。」

 

 

「あなたがオルクボルグね!でも‥強そうに見えないわね。」

 

「物事は見た目だけで判断しないことだ。じゃないと足元をすくわれることになる。」

 

「また言われた!!!」

 

「それで、何の用なんだ?こいつらは。」

 

「ああ、それに関してはすまない。まだ用件を聞いていない。」

 

「失礼した。小鬼殺し殿にスネーク殿。拙僧達は二人に用があって参った。時間を貰えると助かるのだが?」

 

「ああ。」

 

「分かった。」

 

「それでしたら上に応接室がありますので、そこを使ってください。」

 

受付嬢が部屋を提供して、それにゴブリンスレイヤーはうなづいて妖精弓手達の方を向き、それに妖精弓手達もそれにうなづいて向かう。

 

「じゃあ、私は帰ってるね。」

 

「ああ。」

 

牛飼い娘と別れて上に上がる。

 

応接室に入って椅子に座ると、改めて妖精弓手はスネーク達の格好を見て呟く。

 

「ねえ、やっぱりアンタ達本当に吟遊詩人の言ってたみたいに強いの?そっちは白磁級だから、まだしも‥アンタ銀等級よね?」

 

「これ、耳長。先ほども言われとったじゃろう?人を見かけで判断せんことじゃと。わしから見たらその者はあらゆる戦闘に対応出来るようにしておるみたいじゃわ、それに修羅場も潜っとる。ちっとは年長者を見習わんか。」

 

「へえ、私2000歳だけどアンタは?」

 

「107‥」

 

「あらあら!私より年下のくせに顔だけ年長者っぽいじゃない!」

 

なんだかんだ言って二人だけ盛り上がってる様子にスネークはだんだんと呆れてしまい、思わずため息をつき、文句を言う。

 

「喧嘩をしにきたのか?お前らは。」

 

蜥蜴僧侶は少しばかり呆れながら仲裁に入る。

 

「年齢の話はやめろ。すまない。二人とも。実はあることで話にきた。」

 

「ええ、近頃、都の方でデーモンが増えてきているのは知ってる?」

 

「ああ。噂だけなら。」

 

「いや、知らない。」

 

妖精弓手は一瞬スネークを正気を疑うような目で見るが、また話を続ける。

 

「その原因は魔神王の復活なのよ。奴は軍勢を率いて世界を滅ぼそうとしている。それで私たちに協力してもらいたいのよ。」

 

「…少し聞いていいか?」

 

「何よ?」

 

妖精弓手は聞いてくるスネークの方を向き、スネークは問いかける。

 

「その魔神王の復活、名前を聞く限りでは国家レベルの問題だろう。それなら俺達じゃなく他の所に頼むべきじゃないのか。それこそ一個大隊級もしくは諸国の軍隊が出動するレベルだろう。」

 

「な!?アンタね!私達は貴方達を信じて来たのよ!何よ!その言い方!」

 

「俺は別段間違った事を言っていない。俺とゴブリンスレイヤーが君の中で、どれほどの強さかは知らないが、確実に都の軍隊の方が強いに決まっている。だが君の口ぶりでは軍隊は知らない、もしくは協力が得られなかったと推測する。」

 

「アンタね‥!!」

 

妖精弓手はテーブルをひっくり返しそうな勢いでスネークを睨みつける。

 

「話はそれだけか?」

 

「待つんじゃ。ええと‥」

 

「スネークでいい。」

 

「では、かみつき丸。わしらは別に魔神王を倒せとは言うとらん。のう?蜥蜴僧侶。」

 

「左様。ゴブリン退治の話だ。」

 

「ゴブリン?」

 

魔神王とか言う未知数の相手からいきなりゴブリンだ。どう言う事だ?

 

「先の連れが申し上げた通り、今悪魔の軍勢が進行しようとしている。それで拙僧達の族長、人族の諸王、エルフとドワーフの長が集まり会議を開くのだがな。」

 

「つまり、わしらはその者達の使いっパシリとして雇われた冒険者なんじゃよ。」

 

「ええ、いずれ大きな戦が起きるわ、それも大規模な戦よ。」

 

その様子にスネークは少しばかり考え、それを鉱人道士が続きを語るかのように喋る。

 

「問題は近頃、エルフの土地であの性悪な小鬼共の動きが活発化しておるという事だ。」

 

「ゴブリンがか?何故だ?」

 

「…おそらくそいつらにチャンピオンもしくはロードでも生まれたか。」

 

ゴブリンスレイヤーはスネークの疑問に答えるように喋りだす。

 

「チャンピオン?ロード?なにそれ?」

 

妖精弓手はゴブリンスレイヤーの言っていることに頭を傾げ、それをゴブリンスレイヤーが説明する。

 

「ああ、あいつ等にとっての王と英雄、まあ他の魔物も同様、トロルやオークもロードが存在するけどな。つまりそいつらが近々動き出す可能性があると言う事か。」

 

「左様。拙僧達が調べた所、付近に大きな巣穴が一つ見つかったのだが…」

 

「軍はゴブリン相手に動かない。毎度のことじゃ。」

 

鉱人道士は都の軍の考え方についてぼやき、妖精弓手は呆れながら言う。

 

「只人の王は私達を同胞とは認めないもの。勝手に兵士を動かせば確実に難癖をつけられてしまうだけよ。」

 

「故に冒険者を送り込む、なれど拙僧達だけでは只人の顔も立たんわ。」

 

「そこでオルクボルグと貴方に白羽の矢が立ったわけ。」

 

「なるほどな…王都が考えそうなことだ。つまり俺たちも使いっパシリって事か。」

 

「その通りだな。それで地図を見て欲しい。」

 

蜥蜴僧侶が地図を広げる。

 

「これは‥遺跡か?随分とデカイんだな。」

 

「そうじゃ、巣にしては大胆すぎる大きさじゃ。」

 

「それでオルクボルグとアンタ‥ええと‥」

 

「スネークでいい。」

 

「二人とも私達の依頼…受けてくれるわよね?」

 

「…断る理由は無しだ。」

 

「俺もない。」

 

「出発は明日だ。その前に俺たちは装備を整える。行くぞ、スネーク。」

 

「ああ。」

 

ゴブリンスレイヤーとスネークは応接室を出て行った。

 

そこに残された3人は喋りだす。

 

「よかったわ、依頼を引き受けてくれて。‥でも。」

 

「大丈夫じゃ。彼らはわしらを捨てて勝手には行かん。」

 

「左様。明日またここに来れば良い。」

 

二人が降りていくと女神官と女武闘家が待っていた。

 

「大丈夫ですか?何か上で話してたって‥」

 

「師匠。大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だ。ゴブリン退治の依頼を受けていただけだ。」

 

「そして明日出発する。今回は今までよりも巣が大きい。無理にとは言わないが一緒に来るか?」

 

「「行きます!」」

 

「そうか、明日は俺たち以外に3人合流する。計7人だ。俺は武器屋に行く。」

 

そう言うとゴブリンスレイヤーはギルドを出て行った。

 

「私は明日の成功を祈りに行って来ますね。」

 

「俺たちはどうする?」

 

「CQCを教えてください!」

 

「いいだろう。だが明日もある。無理はするな。」

 

「はい!」

 

こうしてスネークは女武闘家にCQCを叩き込んだ。

 

女武闘家は元々が武術を志す者故に飲み込みが早く、センスもいい。もしかしたらエイハブのようになれるかもな。

 

 

そして寝る前に、スネークは持っている武器や装備の手入れを始めた。

 

床に布を敷き、その上で銃を分解し、手榴弾の確認をする。

 

因みに森人魔術師は貴族令嬢と同じ部屋に運ばれて寝かされている。

 

「なんですか?それ。」

 

女武闘家は分解した銃のトリガースライド辺りを持ち上げる。

 

「これか?銃だ。」

 

「銃‥?」

 

「ああ。いや、ちょっと待て?知らないのか?」

 

「まず銃っていうものがありません。」

 

「そうか‥これは所謂遠距離武器だ。聞きたいか?」

 

「はい。」

 

「説明する前に、少し待ってくれ。」

 

俺はカチャカチャと組み立てて、簡単に説明する。

 

「おお‥」

 

スネークが手際よく、組み立てていくのを見て女武闘家は声が漏れる。

 

そしてスネークによる簡単な銃講座が始まる。

 

「なるほど‥」

 

「複雑だろ?」

 

「ええ。」

 

「ほら、もう寝ろ。明日も早い。」

 

「はい、おやすみなさい。」

 

 

 

 



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6話

次の日、俺は出発前に女武闘家にナイフを渡していた。

 

「これはなんですか?」

 

「ああ、いざという時に役に立つ。持っていても損はないだろう。」

 

「分かりました!ありがとうございます。」

 

「それじゃあ、準備はいいか?」

 

「はい!」

 

女武闘家の元気な返事を聞いてスネークはうなづく。

 

「じゃあ行こう。」

 

下に降りるとゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶が揃っていた。

 

「待たせたな。」

 

「お待たせしました。」

 

「ほう、その女子も同行者か。よろしく頼む。」

 

「はい!よろしくお願いします。」

 

「それじゃあ、出発だ!」

 

俺たちが歩いて行き、エルフの森に差し掛かった時、妖精弓手がスネークの腰の装備に気がついた。

 

「ねえ、アンタが腰とか背中に装備してるその‥変なのは何?」

 

「これか?これは銃だ。」

 

スネークはハンドガンをホルスターから抜き、念のためにマガジンを抜き、弾が装填されていないことを確認して、手渡す。

 

「小さいわね。本当にそれでいけるの?」

 

「性能は充分だ。」

 

「ふ〜ん。」

 

そして歩くこと、2日目。辺りが暗くなってきたことで、野営の準備をしだす。

 

「ほら、獲ってきたぞ。貴重なタンパク源だ。」

 

「へ〜 やるじゃない‥ってアンタ何獲ってきてんのよ!」

 

「見て分からないか?」

 

「そういうことじゃないわよ!それ蛇じゃない!」

 

同じく女神官もコクコクとうなづいている。

 

スネークは蛇を3匹、狼を1匹、魚を7匹獲ってきていた。

 

「ああ、大丈夫だ。全部食えるぞ。それと、まだ向こうに置いてきている。ちょっと待ってろ。」

 

スネークが奥へ入っていき、しばらくして戻ってきた。

 

「こら!暴れるな!」

 

よく見ると何かをヘッドロックで引きずってきていた。

 

「沼竜じゃない!!」

 

「どうした?好き嫌いか?」

 

「そういう問題じゃなくて‥」

 

「とりあえず夕食は私たちが作ってるから!」

 

そうして夕食は出来上がり、スープを飲んでいると、ふと妖精弓手が話を切り出した。

 

「ねえ、どうしてみんなは冒険者になったの?私は世界をこの目で‥」

 

「へへっ!一番乗りじゃ!」

 

「って、聞きなさいよ!」

 

妖精弓手が話しながら焼いていた肉を鉱人道士が取り、かぶりつく。

 

「なんじゃ?わしは世界中の旨いものを食うためじゃ!」

 

「あら、そう。私は世界をこの目で見たかったからよ。」

 

妖精弓手は鉱人道士に遮られた目的を言うと、スッキリした顔をする。

 

「拙僧は異端を殺し、位階を高めて竜になる為です。」

 

「竜?どういったやつだ?」

 

「はい、拙僧はいずれは大きな体、大きな脚で大地を踏みしめ、咆哮1つで全てを震え上がらせるような強き竜になりたいと思っている。因みにこれだ。」

 

蜥蜴僧侶は絵を見せる。

 

それを見て、一同は興味を示す。がスネークは別の事を考えていた。

 

あれは‥恐竜だよな?それか昔トレニャーに連れられて行った島にいた生物‥なるほど。

 

「私は亡き父から教わった武術で多くの人々を救う為に冒険者になりました。でも…最初の冒険で全滅しかけましたけどね。でも今はスネークさんに新たな武術でCQCというものを教わっています!」

 

「へえ、アンタ見かけによらないのね。」

 

「‥どういう意味だ。」

 

「次は私ですね。私は宗教関連と言いますか‥とりあえず冒険者に憧れてです。」

 

「俺はゴブリンを殺す為だ。ゴブリンを絶滅させるまでは死ねない。」

 

「‥アンタらしいわね。それで?アンタが最後よ。」

 

トリを担うスネークにみんなの視線が集まる。

 

「俺は‥」

 

「俺は国を捨て、名を捨て、ネイキッド・スネークと名乗るようになった。師も作戦とはいえ、この手にかけた。そして信じられないと思うが、俺は一度死んでいる。」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

「‥‥」

 

「だが俺は生きている。せっかくの第二の人生だ。俺は師が願った''ありのままの世界の為に最善をつくすこと''。それを叶える。その為に冒険者になった。」

 

「壮絶な人生ね‥」

 

「そうだ、牛飼い娘から渡されたんだが、食うか?」

 

「そう言ってゴブリンスレイヤーは荷物から包みを取り出し、開いた。

 

チーズだ。

 

「これはなんですかな?」

 

「チーズだ、牛と羊の乳を発酵させて固めたものらしい。更に今年のチーズは出来が良いと言っていた。食べて見てくれ。」

 

「いいの!じゃあ貸して!切ってあげる!」

 

そう言うと妖精弓手は一口大に切り分け、全員に配っていく。そんな中で鉱人道士は蜥蜴僧侶にチーズを知らない事に驚く。

 

「鱗の、お主チーズを知らんのか?」

 

「拙僧達にとって、獣とは狩るもの。育むものではございません。」

 

「そ、そうか。」

 

それを皆、少々炙って食べる。

 

「うますぎる!」

 

「おお~!これはなかなか上物じゃわい!」

 

「おお!!甘露!!甘露!!」

 

「う~ん!美味しい~!」

 

妖精弓手はチーズをとても喜んでおり、女神官や女武闘家も美味しそうに食べていた。

 

「これ、牧場で作ったものですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「だそうだ。牛という生き物を育てて、乳を搾り加工すると、チーズができる。」

 

むかし、MSF内で動物を飼っていた時、故郷で牧場をやっていたという兵士から教えてもらったことだ。

 

「ぬぅ‥チーズ‥だが教えでは獣は狩るもの‥ううむ。」

 

蜥蜴僧侶はチーズの美味しさと、自身が信じる教えの間で悩み出してしまった。

 

 

「まあ、チーズのことは今は置いておきましょう。それよりもです。拙僧は一つ気になってはいたのだが。小鬼共はどこから来るのだろうか、拙僧は地の底に大国があると父祖より教わった。」

 

蜥蜴僧侶の言葉に皆が考えていると、女神官がそれに答える。

 

「そうですね…『誰かが何か失敗すると一匹湧いてくる』って言いますね。」

 

「なんと!そこに耳長娘を放っておけば、うじゃうじゃ増えてくると言う事か!」

 

「な!?ふざけんじゃないわよ!」

 

鉱人道士の言葉に思わず怒る妖精弓手。

 

「俺は自然の摂理だと思っていたが。」

 

スネークはそう答える。

 

そんな中でゴブリンスレイヤーが言った。

 

「俺は何者かの手によってだと思っている。」

 

その言葉に皆はゴブリンスレイヤーの方を見て、その視線を受けてゴブリンスレイヤーはそのまま語り続ける。

 

「ゴブリン達は通常男のみしか生まれてこない、それは大きな謎の一つだ。本来だったらゴブリンは男だけじゃなく女のゴブリンも存在して、そこで密かに暮らしているはずの魔物なんだ。」

 

「確かに。普通生物は雄と雌の両方がいるはずだ。」

 

「なんと、そんな小鬼も存在するのか。」

 

「でも、なんで女性のゴブリンは存在しないの?」

 

妖精弓手はその事をゴブリンスレイヤーに問うも、ゴブリンスレイヤーもこればかりは知らない。

 

「すまないな。流石に俺もそこまでは知らない。だが1つ言えることがある。それは飢えてるゴブリンは俺達の常識は全く通用しない上に女を欲しがっているということだ。」

 

そのゴブリンスレイヤーの言葉に女神官、女武闘家の2人はその言葉を心に刻みながら忘れない様にするのであった。

 

翌日、エルフの森の付近にある遺跡へと到着し、その様子をスネーク達は見ていた。

 

入り口には二体のゴブリンがいて、見張りに立っていた。

 

「私の出番ね。あ!そうだ。スネーク。アンタのその銃って遠距離武器なんでしょ?撃ってみてよ。右は譲るから。」

 

「いいだろう。」

 

俺はそう言ってバックパックからスナイパーライフルを取り出した。SVD、通称ドラグノフだ。しかも何故かサプレッサー付きだ。

 

「‥どこに入ってたのよ。それ。」

 

「このバックパックだが?」

 

「はぁ‥別にいいわ。」

 

そう言い、妖精弓手は矢を番え、弦を引き絞る。

 

「合図はアンタに任せるわよ。」

 

スネークもマガジンを入れ、ボルトを引き、構える。

 

スコープの照準を合わせて狙いを定める。

 

「3.2.1で撃つぞ。」

 

「1で撃つのね。」

 

「ああ。」

 

「行くぞ? 3.2.1!」

 

パスッ!

 

パシュッ!

 

スネークのライフルから飛び出した7.62mmx54R弾がゴブリンの額に吸い込まれ、絶命させた。

 

だが一緒に放った妖精弓手の矢は明後日の方向に飛んで行ってしまう。

 

「おいおいどこに撃っとるんじゃ、全く逸れておるぞ。」

 

スネークもすぐに2匹目を撃とうとボルトを引いて構えた瞬間、まるで追尾しているかのようにUターンして戻ってきた矢にもう1匹のゴブリンは貫かれて絶命した。

 

「すごいです!今のは一体!」

 

「ふふん!実はね?あれは‥」

 

「風向きか?」

 

「うぐっ、正解よ。ひどいわよ、私の台詞を‥!」

 

 

「すまん。」

 

頭を貫かれて絶命したゴブリンの前にゴブリンスレイヤーとスネークは座り、ナイフでザクザクと腹を切り開き始めた。

 

「な!?何してんのよ‥いくらゴブリンが憎いからって、それは‥」

 

「違う。女神官と女武闘家はもう分かるだろ?俺たちの行為が。」

 

「‥‥‥はい。」

 

「‥‥‥そうですね。」

 

「何よ。その全てを悟ったような目は‥」

 

「今にわかりますよ。」

 

そして、後ろからゴブリンの血や臓物を染み込ませた布を持ったスネークが近づいていた。

 

 

それから洞窟内に入り、進んでいく。

 

「ここは神殿のようだな。」

 

「ええ、ここは昔、神代の頃に戦争があったそうですから‥あれは‥砦でしょうか?」

 

「ええ、そうでしょうな。」

 

女神官が壁に触れながら説明し、それに蜥蜴僧侶は呟く。

 

「兵士が去って、その後の施設にゴブリン達が住み着く。ということですか。」

 

「ああ、人は領土を手に入れようと争い、そして勝ち取り、奪われる。その繰り返しの果でこの様な結果となったんだろう。」

 

女神官の言葉にスネークが答えた。

 

「やれやれ、只人の考えている事は分からんわ。それよりも耳長、お主はいつまでそんなにメソメソ泣いとるんじゃ。」

 

鉱人道士は遺跡に入ってからずっとメソメソと泣いている妖精弓手の様子を見て問い、それに顔をあげながら妖精弓手が怒る。

 

「当たり前じゃない‥!何が悲しくてゴブリンの血や臓物を染み込ませた布を顔で受け止めた挙句に服に塗りたくられなきゃならないのよ!」」

 

「これこれ、気持ちは分かるが、地団駄を踏むでない。ゴブリン共に気づかれるではないか。」

 

女神官と女武闘家は服や髪などの顔以外の箇所にしっかりとゴブリン成分を塗られているが、妖精弓手は顔にまでバッチリと塗られてしまっていた。

 

いや、塗ったというよりかはべったりと付着したといった方が正しいか。

 

それは洞窟に入る前にさかのぼる。

 

ーーーーーーーーー

 

「‥!えい!」

 

後ろから邪悪な気配を感じ、振り向きざまに拳を振るう妖精弓手。

 

しかし、その邪悪な気配の正体はスネークが持つゴブリンの血や臓物が染み込んだ布で、スネークはその拳を避けるためにある行動を起こしてしまった。

 

それは妖精弓手の顔に咄嗟に布を投げつけてしまったのだ。

 

拳が迫るスネークの頭の中を駆け巡ったプロセスは‥

 

拳が迫る

なんとかして無力化しなくては!

そうだ!この布だ!

 

である。

 

そのプロセスのもと、布を顔に投げつけてしまった。普通の布なら軽いため、よっぽど近くから投げない限り顔には当たらない。

 

しかし、血や臓物を染み込んでいるため、重さがあり、顔に届いてしまったのだ。

 

しかも、まだ誰にも塗ってなかったため、重さも充分ある。

 

顔に当たった事に気がついた妖精弓手は、それはそれは大きな悲鳴をあげたらしい。

 

それで今に至る。

 

ーーーーーーー回想終了

 

「咄嗟にやったとはいえ、すまん。」

 

「気持ちは分かるが、許してやれんか?」

 

「もういいわよ!それよりも!次同じことやったら殺すからね!」

 

妖精弓手はプンスカと怒りながら前を歩いていく。

 

「‥ったく。あ、みんな止まって。足を上げてる人はそのまま。」

 

女武闘家が進もうとしていた足を止める。妖精弓手は女武闘家のところに歩いて行き、しゃがみこむ。

 

「見て、これ。」

 

「鳴子か。」

 

女武闘家が踏み出そうとしていたところに鳴子が仕掛けられていた。

 

もし妖精弓手が言わなければ確実に引っかかっていただろう。

 

それを回避して進んでいくと今度は二手に分かれる道に出た。

 

「さて、どちらだ。」

 

「わしに任せよ。」

 

そう言って鉱人道士が前に出て、地面を観察して言った。

 

「左が正解じゃ。」

 

「‥なぜ分かる。」

 

ゴブリンスレイヤーが聞く。

 

「簡単な話じゃ。床がすり減っておる。奴らは左から来て、右に向かっておる。」

 

「本当に合ってんの?」

 

妖精弓手が疑いの目で鉱人道士を見る。

 

「わしを信用せい。」

 

一同が左に進もうとした時、ゴブリンスレイヤーとスネークが右に進み出した。

 

「ちょっと師匠!」

 

「すまん。こっちから嫌な気配がする。別に俺達だけでも構わない。」

 

そう言い、スタスタと歩いて行ってしまった。

 

何があるのかと一同はゴブリンスレイヤーとスネークを追いかけるように右の道を進んでいった。

 

進んでいくと扉があり、スネークは壁に背を付け、ハンドガンを構えてうなづくと、ゴブリンスレイヤーはゆっくりと扉を開けた。

 

スネークが先に入ってフラッシュライトで照らしながらクリアリングをする。

 

「な、何よ。ここ。」

 

「ゴブリンの掃き溜めのようだな。妖精弓手。お前は無理して入らなくてもいい。」

 

「何かあるの?っ‥!」

 

妖精弓手は見つけてしまった。部屋の中心でエルフが磔られていたのを。

 

「こ、殺‥」

 

「む!まだ息がある!」

 

「早く助け出しましょう!」

 

鉱人道士と女武闘家が中に入ろうとする。

 

「待て。」

 

スネークは制止させ、ゴブリンスレイヤーが持ってた松明をエルフのすぐ近くに投げた。

 

「ギャギャ!」

 

すると待ち構えていたかのように棍棒を振り上げたゴブリンが飛び出してきた。

 

「ふん!」

 

スネークがすぐに跳び上がったゴブリンの足を空中で刈り取り、地面に倒す。

 

そこを撃ち抜いた。

 

ゴブリンは頭を撃ち抜かれたことで、絶命し、ドクドクと血を流す。

 

「このエルフは囮か。よく考えたものだ。」

 

「ああ、全くだ。」

 

ゴブリンスレイヤーとスネークはうなづき合う。

 

「もう大丈夫だ。助け出すぞ。」

 

スネーク達が降ろしている最中に、ガシッとエルフに袖を掴まれる。

 

「殺して‥ゴブリンを‥殺して‥!」

 

「分かっている。その為に俺たちは来た。」

 

「この者の搬送なら拙僧にお任せを。」

 

蜥蜴僧侶が爪3個を床に巻いた後に呪文を唱える。

 

【イワナの祖たる角のして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ】

 

蜥蜴僧侶の奇跡で爪が具現化して、骸骨の竜が誕生する。

 

「父祖より授かった奇跡、《竜牙兵》である。」

 

「手紙です、この方の事情をしたためておきました。」

 

女神官が手紙を手渡してきて、それに蜥蜴僧侶は頷き、それを竜牙兵に渡す。

 

すると衰弱しているエルフを抱いて連れ出して行った。

 

「頼んだぞ。我が竜牙兵ならば無事に森人の森まで送り届けられるであろう。」

 

そんな中で妖精弓手は先ほどの光景が衝撃的だった為、精神的に参っていた。

 

「何なのよ…もぅ、訳わかんない…!」

 

女武闘家と女神官はしゃがんで妖精弓手を慰めだす。

 

流石の鉱人道士も空気を読んだのか、妖精弓手をイジることなく蜥蜴僧侶と共に静かに見ていた。

 

「なあ、妙だとは思わないか?」

 

「お前も気がついたか。」

 

「ああ、トーテムがない。」

 

普通のゴブリンには鳴子のような罠を仕掛ける頭はない。だとするとシャーマンがいるはず。しかしシャーマンがいる証のトーテムが見当たらないのだ。

 

「お前はどう見る。」

 

ゴブリンスレイヤーはスネークに尋ねる。

 

「これは推測だが、シャーマンのようにゴブリン達を統率できる存在がいる。考えたくはないが、ロードやチャンピオンのような。」

 

「それは俺も思う。常に最悪を想定するべきだ。」

 

そう話し、スネークは妖精弓手を慰めにいく。

 

「大丈夫か?」

 

「やっぱり心にくるものがあるわね‥同胞がやられてるのを見たら‥」

 

「どうするか?あまり時間は取れないが外の空気でも吸ってくるか?」

 

「大丈夫よ。同胞があんな目にあってるのに引き返せないわ。それに白磁の女武闘家やアンタが頑張ってるんだもの。やるわ。」

 

グイッと涙を拭いてスネークのほうを見る。

 

「その意気だ。」

 

俺が差し出した手を握り返し、妖精弓手は立ち上がった。

 

 




スネークの呼ばれ方
ゴブリンスレイヤー →スネーク

女神官 →スネークさん

女武闘家 →師匠、スネーク

妖精弓手 →アンタ、スネーク

鉱人道士 →噛みつき丸

蜥蜴僧侶 →スネーク殿

スネークをこの世界風に呼ぶとしたら何になるかが分からないため、こうなりました。


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7話

それから俺たちはまた歩き出した。

 

「のう、かみきり丸、噛みつき丸。耳長は大丈夫じゃろうか?」

 

「そうだな。あとは奴次第だ。」

 

「そうだな、こればっかりは慣れろとしか言えん。」

 

そう言うとゴブリンスレイヤーは先に歩いていく。

 

「噛みつき丸よ。いざという時はお主が支えてくれんか?」

 

「俺がか?」

 

その鉱人道士の発言に蜥蜴僧侶もうなづく。

 

「左様。そなたの事を見てきたが、そなたにはカリスマ性があり、気遣いができる。野伏殿を支えてやってほしい。」

 

「俺に何ができるかは分からないが、いいだろう。」

 

そしてスネーク達は奥に進むと、広い場所に出てきて、上の階層にたどり着いた事に気付いた。

 

「ここは…上の階層で合ってるようだな。」

 

「ねえ!」

 

妖精弓手の声にスネークはそばにやって来る。

 

彼女が下を指差す。指差した方にはゴブリン達が50体近くいて、偶然にもゴブリン達はまだ寝ていた。

 

「すごい数…!」

 

「大丈夫だ。問題ない。」

 

「どうしてよ。あれ全部私の弓矢じゃ無理よ?」

 

「策がある。それに遠距離攻撃ができるのは弓だけじゃない。」

 

そう言ってスネークはドラグノフを出し、妖精弓手に渡す。

 

「え?ああ、これがあったわね。」

 

「お前は遠距離専門だろう。なら、これの使い方を教える。よく聞くように。」

 

 

「‥分かったわ。」

 

妖精弓手はスネークから渡されたドラグノフを背負い、弓を構える。

 

【いと慈悲深き地母神よ、我らに遍くを受け入れられる、静謐をお与えください】

 

「沈黙(サイレンス)」

 

スゥと音が消えだす。

 

そこからスネーク達はナイフを手に1匹ずつ眠りこけるゴブリン達を刺し殺していく。

 

妖精弓手も上から狙い撃ちをしていく。

 

「全部か?降りてきていいぞ!」

 

そうスネークが言い、妖精弓手が合流した瞬間、壁が破壊され何かが歩いてくる。

 

「貴様ら、俺の寝床で何をやってんだ?」

 

そして姿を現すとそこにはホブゴブリンよりも大きなゴブリン…ではなくゴブリンとは全く別の魔物がいた。

 

「オーガ‥!」

 

「オーガじゃと!?」

 

「やはりゴブリンは数だけか。ちっとも役に立たねえ。」

 

オーガが口元を拭いながら現れる。

 

「そうか、通路の鳴子に凌辱されていないエルフ‥全てはお前の指示か!」

 

「如何にも。せっかくの俺の知恵を与えてやったのに、このザマよ!」

 

「まあ、俺の姿を見たんだ。生かしては返さんぞ!」

 

オーガは雄叫びをあげる。

 

ビリビリと空気が揺れるのがわかる。

 

オーガは棍棒を振り下ろし、皆はそれを避けていく。

 

まるで避けられることが分かっていたのか、オーガが次の手を打つ。

 

「逃すと思ったか!」

 

【カリブン!クルス!クレスクント!】

 

オーガが術を使い、巨大な火の玉を作り出す。

 

それには鉱人道士が驚きを隠せない。

 

「ファイアボールじゃと!!だがこいつはちょいとデカすぎる!」

 

「散って!」

 

「ダメだ!奴のファイアボールが大きすぎる!逃げられん!!」

 

女武闘家がそう言った所をゴブリンスレイヤーがすぐに否定し、考える暇がないと思った所で女神官が前に出た。

 

「聖壁!」

 

女神官が壁を作り出し、火の玉を受け止める。

 

だが火の玉の威力が高すぎるのか、ヒビが入りだす。

 

「無駄だ!たかだか人間が手にした奇跡程度で俺の火の玉が防げるか!!」

 

「聖壁!!!」

 

女神官の追加詠唱により、更に壁が生まれ、火の玉を完全に抑え込むことに成功していた。

 

「くらえ!」

 

バン!

 

パスッ!

 

スネークと妖精弓手が牽制で銃を撃ち、矢で射る。

 

銃弾が棍棒を持つ手に、矢が頬に突き刺さる。

 

「おのれ!人間ども!!!」

 

オーガが頬に刺さった矢を引き抜き、棍棒を持つ手をさする。

 

穴が空いた頬がブクブクと泡に包まれ、傷が塞がり始めてしまう。

 

「嘘でしょ!?再生するなんて!」

 

「はっはっは!!!俺に掛かればそんなもの朝飯前さ!オラ!!」

 

棍棒を振り回しながら走ってくる。

 

「なんとかならんのか!かみきり丸!」

 

鉱人道士が逃げながら叫ぶ。

 

「ええい!くらえい!」

 

【仕事だ仕事だ土精ども、砂粒一粒転がり廻せば石となる】

 

「石弾(ストーンブラスト)!!!」

 

石のつぶてがオーガの顔や腕に炸裂するが、焼け石に水、雀の涙なのか、ものともせずに突っ込んでくる。

 

どうする!?このままじゃただの消耗戦だ。確実に負ける。撤退するか?いや、逃げられて、また新たな場所で同じ被害が起きる。

 

一か八かアレをやるしかない。聞きかじっただけの事を戦場で試すのは好ましくないが、やるしかない!

 

「妖精弓手!こっちにきてくれ!」

 

「何よ!今私も逃げることに!」

 

そう言いながらもローリングしながらスネークのもとにたどり着く。

 

「いいか?今からある作戦を伝える。これが成功すれば奴を倒せる。失敗すれば死が待っている。乗るか?」

 

「‥ええ!やるわ!」

 

「なら一度しか言わないからよく聞いてくれ。」

 

俺は避けながら作戦を妖精弓手に伝える。

 

「‥‥ということだ。」

 

「‥できるの?本当に?」

 

「安心しろ。前例を知っている。それでヘリ‥いや空を飛ぶ大きな鳥を撃ち落とした例がある。」

 

「信じるわよ。スネーク!」

 

妖精弓手は踵を返してオーガから距離を取るべく走り出した。

 

「ぬ?逃すか!」

 

オーガが近くにあった手頃の岩を持ち上げて振りかぶる。

 

「させるか!」

 

スネークは腰に差していたM37を構え、腕を撃ち抜く。

 

腕を撃ち抜かれたオーガは腕に力が入らなくなり、持っていた岩を頭の上に落としてしまい、頭を抑えて呻く。

 

「グオオ‥貴様!!!!!」

 

オーガは散弾により使い物にならなくなった腕を引きちぎり、また腕を再生させるとターゲットをスネークに設定し、襲いかかる。

 

(よし、引っかかったな!)

 

俺は妖精弓手が無事に高台にまで辿り着いたのを振り返って確認する。

 

スネークが見ていることに気づき、妖精弓手はいつでもいけるとドラグノフを構えながらサムズアップをする。

 

スネークは手榴弾のピンを抜き、爆発しないように強く握りしめた。

 

「この!ちょこまかと!!握りつぶしてくれるわ!!!!」

 

(今だ!)

 

スネークは手榴弾をはるか高くに投げる。

 

そして投げ終わった瞬間、オーガにガシッと掴まれてしまう。

 

「師匠!」

 

「スネークさん!」

 

「「「!?」」」

 

スネークが捕まってしまった事で、妖精弓手以外が動揺する。

 

早く助けなくては!とゴブリンスレイヤー達が走ろうとする。

 

「来るな!!!」

 

「はっはっは!!捕まえたぞ!そのまま弾けろ!!!」

 

カンッ!!

 

「‥いや、弾けるのはお前だ!!!」

 

スネークは胸からナイフを抜き、思いっきりオーガの手首に突き刺した。

 

「グオオオオオオオオオ!!!!!」

 

オーガは痛む手を抑える。

 

その瞬間、オーガの顔面に先ほど高く投げた手榴弾が落ちてきて炸裂すると、爆発と共に300個もの破片がオーガの顔に襲いかかる。

 

グサグサグサッ!!

 

「ウガァァァァ!!!」

 

「人間!!!!」

 

作戦はこうだった。

 

少し時間を遡る。

 

「俺が奴から逃げながらこれとこれを投げる。」

 

そう言いながら手榴弾ともう一つの手榴弾を見せる。

 

「コイツらを時間差で投げる。そうしたらこれを撃って弾け。」

 

「え!?無理よ!」

 

「お前ならできる!俺はお前を信じている。それにこれはお前にしかできない仕事だ。」

 

つまり、スネークが宙に手榴弾を投げた後、わざと捕まる事でオーガの足を止める。その隙に狙撃で手榴弾を弾き、オーガの顔にぶつける。という何気に難易度が高い事をやってのけたのだ。

 

これは昔スネークがエイハブから聞いた話を再現したものだ。

 

彼は以前自身のバディである凄腕のスナイパーと共にヘリを落とすためによくこの手法をとっていたと聞いていた。

 

最初は眉唾だと思っていたが、あとで理論的に考えると可能だと気づいたが、それをできるやつが当時組織にいなかったのだ。

 

今考えたらスナイパーウルフなら可能かもしれないが。

 

 

※その時の様子を妖精弓手視点でもご覧ください。

 

「やるって言ったけど本当にできるのかしら?」

 

妖精弓手は高台に移動し、膝をつくとスネークから預かったドラグノフライフルを構える。

 

でも私がやるしかないわ。スネークは私を信じてくれた。

 

なら!

 

私はそれに応えるわ!

 

私はスネークの目線にライフルを構えたまま、親指を立てる事で応える。

きたわ!

 

爆弾が私の目の前辺りにまで跳ぶ。

 

これを外したらスネークは‥

 

当たって!

 

パシュッ!

 

ーーーー妖精弓手視点終了

 

「おかわりだ。」

 

スネークはまたピンを抜き、空に放り投げる。

 

「離れろ!それと全員俺が良いというまで鼻と口を塞げ!」」

 

叫んだスネークが充分に距離を取るため、走る。

 

カンッ!

 

また妖精弓手がグレネードを弾き、オーガの顔に炸裂した。

 

今度は破片ではなく、オーガの全身が燃え出しオーガは火に包まれた。

 

「グォァァァァ!!!!」

 

オーガは必死に顔から燃え広がった火から逃れようとするが、火は消えない。当たり前だ。俺が投げたのは白燐手榴弾だ。白燐は空気と結合して発火するし、体温でも発火するからな。

 

「おのれ、人間どもめ!いくら我が倒されても!更なる魔神王の幹部やその部下達が貴様等を倒しに行く事を覚えておけ!」

 

「その時はまた倒しにきてやる。」

 

スネークの言葉が届いたのかは分からないが、オーガは燃え盛り、腐食しながら生き絶えていった。

 

「終わったようだな。」

 

「ああ、なんとかな。」

 

「師匠!!!」

 

「スネーク!!!」

 

安堵からか女武闘家と妖精弓手がスネークに抱きついてくる。

 

「ああ、お前らよくやった。女武闘家は今回はあまり戦う事はなかったかもしれんが、俺の教えを聞いてよく動いた。妖精弓手はよく俺の突拍子のないような作戦を遂行してくれた。」

 

「えへへ。」

 

「当然よ!」

 

「それにしても、噛みつき丸よ。よく銃で爆弾を弾いて当てるなんて奇策を思いついたのう。」

 

「そうです。拙僧もあれは浮かびませんな。」

 

「そんな俺を買い被らないでくれ。みんながいないと、成功はなかった。」

 

こうして俺たちは外に出ようとする。

 

しかし、スネークは何かの気配を感じ、オーガが出てきた穴に入っていく。

 

ゴブリンスレイヤー達が首を傾げながらそれに着いていく。

 

「!?」

 

「やはりな。」

 

眼前には狼の無惨な死体が転がっていた。

 

皆、頭や腹を食いちぎられており、目を見開いて絶命している。

 

そうか、先ほどのオーガは‥

 

だがスネークは一人死体の方に歩いていく。

 

「キャン!」

 

何かが鳴く。

 

「よしよし、良い子だ。」

 

スネークが何かを拾い上げ、こちらを振り向く。

 

「師匠。その子は?」

 

「ああ、生き残りだろう。」

 

「ああ‥なんて可哀想に‥え!?この子‥そんな‥」

 

小狼に近づいた女神官が何かに気づいたのか、口を抑える。

 

「うん?どうしたんじゃ?なんと‥」

 

「片目が無くなっておりますな。」

 

「‥‥どうする気だ?スネーク。」

 

「‥‥俺はコイツを飼う。」

 

そして、その狼を抱きしめ洞窟を出る。

 

だがスネークは気配を感じて子狼を抱いたまま、ハンドガンを構える。

 

「どうした。」

 

「囲まれてる。それも大勢だ。」

 

俺の声を聞いて、全員が構えを取る。だが妖精弓手はすぐに構えを解き、歩き始めた。

 

「おい!危険だ!」

 

「出てきて大丈夫よ。」

 

妖精弓手がそう言うと、木の上から大勢のエルフが降りてきた。

 

そして初老の男性が一人前に歩み出る。

 

「私はエルフの族長代理です。族長は現在、会議に出席する為に安全を考慮して外に出てきません。その為、息子である私が参りました。」

 

「此度は我が同胞をお救いくださいまして、誠にありがとうございます。」

 

「俺たちは当然のことをしたまでだ。それより中には恐らくだが、まだゴブリンが潜んでいるはずだ。」

 

それを聞き、ゴブリンスレイヤーが返事をする。

 

「ええ、皆さんはおつかれでしょう。あとは我々にお任せください。そして誠に勝手ながら馬車を用意させていただきました。」

 

「すまない。」

 

そう言い、スネーク達は馬車に揺られながら街を目指した。

 

「スネーク。これ返すわ。」

 

妖精弓手が背負っていたドラグノフを返してきた。

 

「ああ、これからも使うか?専門ではないが、基礎なら教えられるぞ?」

 

「ううん、私は、やっぱり弓矢がいいや。また使いたくなったらお願いね。」

 

「ああ。」

 

スネークは葉巻を取り出して、口に咥える。だが周りを見渡して空気を読んだのか、またバッグに戻した。

 

「Zzz」

 

女武闘家にとってはスネークの弟子になってから初めての実戦だったのだ。スネークの肩を借りて眠ってしまっていた。

 

こうしてスネーク達を乗せた馬車はのんびりと街へ向かっていったのだった。




はい、スネークはペットを獲得しました。

この狼は後にパーティ入りします。

と、いうわけで名前の募集でもしようかな。

活動報告の方でしますので、そちらでお願いします。


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8話

スネーク達が遺跡から帰った日から3日後。

 

ゴブリンスレイヤーはまだ目を覚さない。俺と2人で街から帰ってくる時に徐々に口数が少なくなっていくのを感じていた。普段から無口な奴でしかもオーガ戦で疲れているのだろうと俺も無理に声をかけずにいた。

 

だが牛飼い娘が俺たちに声をかけた瞬間、奴は前のめりにぶっ倒れた。

 

あれから牛飼い娘は頻繁に奴の部屋を見に行っている。起きてるんじゃないかと。

 

「おっはよ!今日もぐっすりだったね。」

 

起きたか。

 

「起きたか。ゴブリンスレイヤー。」

 

「すまん、2人とも。寝坊した。」

 

「何を言ってる。今日は休みだろう。」

 

俺とゴブリンスレイヤーが話しているのを見た牛飼い娘がご飯にするためその場を立ち去ろうとする。

 

「待ってくれ。今日も配達があるのか?」

 

 

「せっかく休みなのに‥」

 

「構わん。」

 

早々に朝食を食った俺たちはギルドへと荷車を引いて歩いていた。

 

「私もスネークさんも心配したんだからね?帰ってくるなりいきなり倒れるんだから。」

 

「3日も前のことだろう?」

 

「まだ3日だよ!」

 

「心配するな。ただの過労だ。」

 

「あれほどの戦いだったんだ。休むべきだと俺は思う。」

 

「スネーク。」

 

街に着いた俺達は牛飼い娘と別れてある店を目指す。

 

ゴブリンスレイヤーは鎧。俺はナイフだ。

 

「本当にお前は安物しか買わねえ。そのくせ注文が多い。」

 

「そしてお前もシンプルなものを選ぶんだな。こっちの万能ナイフとかは興味ないのか?」

 

「必要ない。持ち手に色々ものを入れると耐久度が無くなる。」

 

「だったらこういうのどうだい!」

 

店主の後ろから丁稚奉公がナイフを持ってくる。煌びやかな鞘に入ったナイフだ。

 

スネークが手に取り、鞘から抜き放つ。

 

刃には蛇の姿があしらわれている。ゴブリンスレイヤー達から離れて縦横と振るう。

 

「良いナイフだ。」

 

「そうですよね!だったらこれを!」

 

しかしスネークは、ふと持ち手の握りに違和感を覚えて、それを見る。

 

芸術品のような装飾だ。スネークはそれを見て鞘にしまうと丁稚に返した。

 

「なんでい。気に入らないんですか?」

 

「いや良いナイフだ。だがこの持ち手や鞘のエングレーブには何のタクティカル・アドバンテージもない。実用と観賞用は違う。だが刃や振るった感触は良い。」

 

その後、ゴブリンスレイヤーはいつもの装備、スネークは予備のナイフを2本買って店を後にすることにした。

 

「そうだ。今日は頼まれごとがあったんだ。帰るなら先に帰っててくれ。」

 

ゴブリンスレイヤーと別れて着いたのは訓練場。

 

「来たか!スネーク!」



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