敵名“紅羅鈍” (ユフたんマン)
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転生

やぁ、画面の前の諸君。私は君たち人間から神と呼ばれる存在だ。

君たちには私の娯楽を紹介したいと思う。

 

あれは今から36億年…いや、1億年前だったか…まぁいい。

何せここには何も無いからな。することといえば新しい世界を創造するか何処かの星の雑草の数を数えるぐらいだった。

退屈だった私はある世界を創造し、その世界の娯楽を試してみよう、となったのだ。

そこで興味を持ったのは小説とかで有名な『転生、転移』といったものだな。私に掛かればこの程度朝飯前だ。 

早速その小説のような世界を創造し、一人をその世界に送ってみた。結論だけを言おう。

 

 

 

 

とても愉快だった!

 

あれほどのめり込んだのはいつぶりだろうか。それからも私は新たな世界を続々と創り出し、転生、集団転移、逆転移と呼ばれるモノなどを何度も何度も何度も何度も行った。

 

そして今回初めてとなる、とある世界の娯楽物、漫画と呼ばれる物の中にある架空の世界を私は創造した。ランダムで選んだからな。一体何だったか…

 

 

 

 

そうそう、確か作品名は「僕のヒーローアカデミア」だったか。この作品は個性という不思議な力を使い、少年達がヒーローを目指すというヒーローものだ。

まぁこの小説を読んでいる君たちなら詳しく説明しなくても大丈夫だろう。

 

 

 

 

すまない、話が少し長くなってしまったな。本題に入るとしよう。

今回その世界に転生させるのはつい先程交通事故で死んでしまった一人の青年だ。彼の年齢は18歳、転生、転移ものの小説を好むごく普通の高校生だ。

彼を選んだ理由は転生、転移に興味があるから…それだけだ。彼がこの作品を知っているかは分からないがそれはそれで面白いだろう。

 

今彼は私の目の前に魂だけで存在している。彼に転生の話をすると狂喜乱舞する。どうやらOKだそうだ。

しかし彼に何も持たせずに転生させるには忍びない。「特典をつけてやろう」と言うと彼は待ってましたとばかりに喜び私に要求する。

 

 

 

「ポケットモンスターのグラードンの力が欲しい!」…と。何故かと聞くと彼はどうやらグラードンが大好きのようだ。ゲームではグラードンを主軸にしたパーティーを組み、グッズは全て買い込んでいるとか。

まぁそんなことはどうでもいいが、よりにもよって私が生まれて初めて創造した世界のアイツを選ぶとは…すこし感慨深いものがあるな…

これが終われば久しぶりに私の子供達に会いに行こう。

今言った子供は最初に創造した三匹のことだ。一匹は時間を司る龍、もう一匹は空間を司る龍、そして最後の一匹は反物質を司る龍だ。

 

まぁこの話は置いといて…彼を「僕のヒーローアカデミア」の世界に送るとしよう。

 

ん?本当に特典はつくのかって?安心して欲しい。私は嘘をつかない。

私の名はアルセウス。全ての世界を創造せし神である!この名に誓い、君にはグラードンの力を託そう!

 

 

 

画面の前の諸君にも私の娯楽に付き合ってもらうとするか。彼の人生、異世界での人生を…

 

 

 



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地獄

アルセウスにより転生した青年は、新たな世界で太溶大地(たいようだいち)という名を授かり誕生した。

幼いながらに落ち着きがあり、我儘を言わず、親に迷惑をかけないいい子として育った。そんな太溶の親は心配していたが、当人はそんなことを知らずに幼少期を過ごした。

 

彼はこの世界が僕のヒーローアカデミアの世界だとわかったのは生まれてから何ヶ月か経った頃だ。親が見るニュースには毎度ヒーローだのヴィランだの個性だのが報道されていれば、この作品を知っている人は大抵わかるだろう。

貰った特典は4歳ぐらいから使えるようになるだろうと思い、生前は親不孝者だった彼は少しでも今の親に負担を掛けないようにしている。子供というものは手間がかかる方が可愛いということに気づかず…

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

大地は4歳になった。まだ個性は発現していない。周りは既に発現している子もチラホラと現れている。少し不安になるが、まだ大丈夫だと自分に言い聞かせ、同級生と一緒に駆けっこに勤しむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

あれから三ヶ月程経ち、大地は家で親と一緒にニュースを見ていた。

 

「本当にニュースでいいのか?好きな番組観てもいいんだぞ?」

 

「うん!僕は将来ヒーローになるからどんな事件が起きてもすぐに対応出来るように勉強しときたいんだ!」

 

「そ、そうか…」

 

父にこう答えた大地。次の瞬間、緊急速報の音が流れ、テレビの画面の上側に緊急速報が流される。

 

『緊急速報です!昨日の午後1時36分に突如日本近海に現れた火山が噴火の前兆を見せています!噴火レベル5と気象庁は発表しました!近隣にお住まいの方々は即座に…プチッ』

 

「早く避難するぞ!!」

 

父はテレビの電源を切り、大声で叫ぶ。その声に母はすぐに反応し、玄関にある防災鞄を手に取り、大地の手を掴み玄関のドアを開け放つ。

 

その瞬間……

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

激しい音が鳴り、空を灰が覆う。そう、火山が噴火したのだ。

 

「くそッ!!何だってんだ!?昨日は噴火の前兆も何もなかった筈だろ!!」

 

悪態を吐きながら父は走る。周りには同じく混乱し逃げ惑う人々。ヒーローや警察がパニック状態を治めようとするも、治る筈もなくますます場は混乱していく。

 

「ど、どうしたの!!?大地!!早く逃げないと!!」

 

突如足を止めて火山の方向を向く大地に母は違和感を覚えるが、時間が無いのもあり力を込め引っ張るがびくともしない。

大地は突如涙を流し、呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん…なさい…逃げ…て……僕……か………ら……」

 

 

“グラードンが目覚めると噴火が起こる”

 

 

大地の体が紅く発光し、体の中で膨大なエネルギーが荒れ狂い、空に柱のように伸びる。

灰に覆われた空はそのエネルギーの余波により掻き消え、通常よりも強い日光が襲う。火山から溢れ出していたマグマも溶岩も全て余波により消し飛ばされる。

大地の体は発光しながらドンドンと巨大になっていき、元の大地の姿は変貌し、二足歩行の恐竜のような姿になる。全長は約30m程で、体色は赤色、腹部は灰色をしている。そして首と尻尾に4本、足には3本トゲが生えている。

まさにその姿は…

 

 

『ぐらぐらぅるぅううぁああああああ!!!!!』

 

 

まさに大地の化身、伝説のポケモン、グラードンだった。

 

グラードンが叫ぶと同時に海をも蒸発させる光と熱が周りにいた親共々襲いかかり全てを焼き尽くした。この場には誰一人、グラードン…太溶大地以外に生存者はいない。

 

父も、母も、近所のおじさん、おばさんも、友達も、ヒーローも、警察も、お菓子をサービスしてくれた駄菓子屋の婆ちゃんも、保育園のみんなも…

 

そして街も…全て…全て…焦土と化した。

 

力を使ったことで暴走状態が解除されたグラードンは焦土と化した街を見回した。

 

(僕が…俺がこれをやったのか……?嘘だ…嘘だそんなことォォォォオオッ!!!!)

 

大地は後悔した。何故俺はグラードンの力を望んだのか…何故あの時しっかりと考えなかったのか…と。あそこでしっかりと考えていればわかったことだ。ゲームでもグラードンが復活することによって世界が滅びかけていた。

それに気づかなかったのは転生できると浮かれていたからだろう。

 

 

 

「CAROLINA…SMASH!!!」

 

その次の瞬間、目の前に突如、金の触覚のような髪型をした巨漢が現れ、グラードンの腹にクロスチョップを打ち込む。

 

『ぐるぅああああああ!!?』

 

突然の衝撃にグラードンは対応出来ず、ダメージは無いが転倒してしまう。

 

「ヴィランよ…貴様はもう終わりだ…!!何故って…?私が来た…ッ!!」

 

彼はNo. 1ヒーロー”オールマイト”。オールマイトのことは当然グラードンである大地もよく知っているし、憧れでもある。ヒーローを目指す者ならまず彼を目標にするといってもいい。

いつも大声で笑い人々に安心を与えている平和の象徴が、憤怒の表情でこちらを睨みつけている。その後ろには遅れてNo.2ヒーローのエンデヴァー、自衛隊や警察までもが大地を憤怒の表情で見ている。

 

『ぐるぅぅぅううう…』

 

グラードンは低く唸り、投降しようと個性の解除を試みるが上手くいかず、その行動が戦闘態勢に入ったと思われ、オールマイトやエンデヴァー、その他多数のヒーロー達から一斉攻撃を受ける。それをグラードンは丸くなり、攻撃をやり過ごす。

 

(痛い…痛い…何故こんなことに…いや、俺が悪いんだ…俺が考え無しに…グラードンの力を要求したせいで…)

 

その時、オールマイトなどのトップヒーローは違和感に気付く。これ程の被害を出したヴィランが何故我々の攻撃を受け続けなすがままなのだろうか…と。

 

それと同時だった。大地はグラードンになり、強化された聴力で、後衛にいるヒーローの発言を聞いてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへへ、これであのヴィランも終わりだな!」

 

「あぁ、流石にあのオールマイトやエンデヴァー達にやられればもう俺達の役目はないだろう」

 

「こりゃあ給料弾むんじゃねぇか?それにしてもあのヴィランがこの街を焦土にしてくれて助かったなぁ!お陰で周りに気にせず大技ぶちまけれるしな!!街中じゃ野次馬とか大量にいるから思いっきり戦えないんだよなぁ。」

 

「そうだな、もしヴィランがこの街を残していたならあのヴィランをこの短時間で倒せていたかわからない。この街は必要な犠牲だった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(何を言っているんだ…!?あのヒーローは…!?街を破壊し尽くして助かるだと!!?必要な犠牲だと!!?アイツらは人の死をなんだと思ってるんだ…!!)

 

大地が聞いたのは金儲け目的でヒーローになった者達だ。彼らのようなヒーローは一部だけだが、今の大地には全てのヒーローが同じ考えを持っているように思ってしまう。前世の記憶も朧げになる…

 

(みんなそう思っているのか…?俺が街を破壊してくれて助かったって…オールマイトやエンデヴァーも上部だけの怒りなのか…?

わからない…わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない…)

 

 

 

そのヒーローの後ろにいる警察官の言っていることも大地の耳に届く。

 

「化け物め…!!」

 

 

(化け物…俺は化け物だったんだ…なんで俺はグラードンの力を使ってヒーローになろうと思ったんだ…?力をコントロール出来たとしても歩く災害、化け物であることに変わり無いのに…)

 

大地は死にたい…と思っていたがだんだんとその気が失せる。自分は死ねば楽になれる…けどそれでは罪の償いが出来ない…

罪を背負って生きる…それが罰なのだ。

 

けれど思ってしまう。これは絶対に言ってはいけないだろう。罪を投げ捨て、罪という重圧から逃れられる一つだけの言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐるあぁ…』(たすけて…)

 

だが彼は言ってしまった。しかし彼の言葉は誰にもわからない。大地には絶望しかなかった…と思われたが…

 

 

 

「よってたかって幼い少年を袋叩きにするのはヒーローとしてどうかと思うのがね。」

 

突然の乱入者に、その場にいた全員が攻撃を止め、声のした方へ向く。

そこにいたのは黒いスーツを着た一人の男性だった。その男を見た瞬間、オールマイトは驚愕する。

 

「き、貴様は…!!?AFO!!?」

 

「やぁ、久しぶりだね。オールマイト。しかし今日の目当ては君じゃ無い。彼だよ」

 

AFOが指差したのは蹲って見上げているグラードンだった。

 

「はじめまして。僕の名前はAFO。気軽に先生と呼んでくれたまえ。そして…君を救けに来た」

 

AFOはグラードンに向けて手を翳し個性を発動する。グラードンの口から大量の泥のような生臭い液体が溢れ出る。

 

「僕も今日は帰るとするよ。オールマイト、次は最終決戦といこうじゃないか」

 

「待てッ!?AFO!!」  

 

オールマイトはグラードンと同じように液体が溢れ出し、包もうとしているAFOに殴りかかるが…

  

 

ドカッ!!

 

 

「グゥッ!!?」

 

鋭く尖った巨大な岩が地面から突如生え、オールマイトの体を穿つ。

 

(AFO…アイツは…俺を救けてくれた…なら俺も…道を踏み外す覚悟を決めないと…!!)

 

 

“だんがいのつるぎ”

 

 

オールマイトはそれをなんとか砕いて防ぐが、その間にグラードンとAFOは液体に包まれその場から姿を消した。

 

「グッ…クソォォォォオオ!!!!!」

 

オールマイトの声がその場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 



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紅羅鈍

AFOは目の前で眠る大地の額に手を置き個性を発動させる。

 

「グッ!!?」

 

しかしバリッとスパークのようなものが阻み、個性を上手く発動できない。

 

「これは…何かの力に弾かれている…!?」

 

AFOの個性は他人の個性を奪い自分のモノにし、それを他人に分け与えることが出来る。しかし目の前の少年、大地にはこの個性が効かない。

何故か、それは実に簡単なことである。それは、この世界を創造したアルセウスが直々に与えた特典だからだ。アルセウスに創られた世界の虫ケラのように小さな存在の能力では奪うことは出来ない。

 

「フフフ…実に興味深い…」

 

AFOは嗤いながら大地に布団を掛けて退室する。

 

「この子の存在は弔にどんな影響を与えるのだろうか…期待してるよ。太溶大地くん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

体中に液体が纏わり付いた大地が、目を開けて初めに見たのは知らない天井だった。

大地は上半身を起こし、部屋を一望する。部屋は簡素で、大地が寝ているベッドの他にはちゃぶ台のような小さな丸机と等身大の鏡しかない。

取り敢えず大地は体に異常がないか調べ、何も問題がないことが分かると、ベッドから降り等身大の鏡の前に立つ。 

元々岩のような灰色だった髪はマグマのような明るい橙色に変色し、腕にはΩのような痣が出来ている。目の色も変色しており、灰色から黄色へと変化した。

 

「俺は…化け物…」

 

自分が覚醒した日のことを思い出す。何もかもが自分の力で焼き消えた街。憧れだったヒーローに圧倒的敵意を向けられたこと。そして自分を愛してくれていた第二の両親を失ったことを思い出し…泣いた…

 

 

 

一通り泣き終えた後、木製の扉にコンコンコンッとノック音が響き渡る。

 

「失礼するよ」

 

入って来たのは前日、大地を救けてくれたスーツを着た男性だった。なんと言えばいいか大地にはわからなかったが、気迫、迫力、威圧がこの男性から滲み出ている。簡単に言えばカリスマ…といったところだろうか。

 

「あんたは…AFO…」

 

「僕の名前を覚えていてくれてよかったよ。しかしそう警戒することはない。別にとって食おうとしているわけじゃないんだ。それに僕のことは先生と呼んで欲しいな」

 

AFOは子供に言い聞かせるように穏やかな口調で語りかける。しかし前世の記憶を持つ大地は十分に彼の危険性を把握している…が救けてくれた恩人ともあり、取り敢えず警戒を緩める。…しかしそこでまた一つ疑問が生まれる。

 

(何故俺のことをコイツが知ってるんだ?)

 

その心情を見透かしたようにAFOは大地に説明する。

 

「何故僕が君のことを知っているのか…と疑問に思っているような顔をしているね。簡単な話だよ。ただの偶然さ。

僕の部下が突如現れた火山を調査しに行っていてね…その周波を調べた時にあの街から全く同じ周波が出ていたそうだ。そうして部下が見つけたのが君、というわけだ。

まぁ今の君では小難しい話はわからないと思うけどね」

 

「いや、わかる…」

 

AFOはその言葉に少し驚いたような顔をするが、すぐに表情を元に戻す。

 

「ハハハッ、君はかなり優秀だ!脳無の開発実験に使うにはとても惜しい!

ふぅ…本題に入ろう。先程君と火山が同じ周波を放っているということは話したね?つまりはだ。あのオールマイトを攻撃した時にも見せたあの岩を創り出す個性。あの火山は無意識に発動した個性の一部なんだよ。

いやはや、発現したてであの規模の火山を創造するとは…なんとも凄まじい個性だ…」

 

大地は薄々気づいていた。あの火山が自分の個性の一部であることを。噴火した直前に気付いたのだ。噴火と同時に溢れ出し暴走するほどの強大な自然エネルギーが大地を襲ったのだ。誰がこの立場でも少なからず察するだろう。

大地はAFOという第三者から言われ、それは「かもしれない」から「確信」へと変わったのだ。

 

「やはり…俺は化け物…死ななくちゃ…罪を償わなきゃいけない罪人…」

 

「化け物?一体どこにそんな化け物がいるんだい?僕の前にはちょっと…かなり強力な個性を持っている少年しかみえないが?」

 

「!?」

 

驚く大地を無視し、AFOは続ける。

 

「君はその個性が暴走しただけだ。君が何も悪くない。それに思い出すんだ。あのオールマイトの、あの場にいた全ての人間の顔を…全て君を勝手にヴィランと決めつけ攻撃した。殺意を込めていたヒーローもいる。みんなを守る職業だというのにね。

君はこんな社会でいいのかい?僕たちはこんな社会を新しく、より良くするために活動しているんだ!創造の前に破壊ありってね…

今の社会を破壊し、新たな社会を創造する。実に魅力的だと思わないかい?」

 

大地は気づかず、ほぼ無意識に頷いていた。既に悪の権化、AFOの覇気に呑まれてしまっていた。

 

「ようこそ、ここが君の居場所だ。」

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

あれから12年が経った。

 

大地はグラードンの姿になりマグマの中を悠然と泳ぐ。そのまま頭上に太陽光からのエネルギーを溜めたものを放出し、それが火山の内壁にぶつかる直前に岩を創り出し、衝突を回避する。

 

大地はAFOの組織に組みしてから、個性の制御の訓練だけを行なっている。個性は強力、しかしそれを扱えきれなければただの宝の持ち腐れだ。

 

「失礼します、紅羅鈍。召集です」

 

火口口からバーテンダーのような服を着た男が大地に声をかける。その男の名は黒霧。本体が霧という異形系の個性だ。霧で包んだモノをワープさせるという強力な能力を兼ね備えている。

 

そして黒霧が呼んだ名は、大地のヴィラン名だ。

彼はグラードンでありグラードンでない紛いもの。大地の化身と同じ名では烏滸がましいとなったため、ヴィラン名は『紅羅鈍(グラアドン)』となった。

 

「ぐらぐらぐるぅうう!!」

 

大地は一度吠え、力を抜くとだんだんと体が縮んでいき、人型へと変化する。16歳となった大地の身長は伸び、少し体つきは逞しくなっている。

 

「わかりました、黒霧さん」

 

大地は火山の内壁に足を食い込ませ、火口口の方へと登っていく。

黒霧の側まで近づくと、黒い霧に包まれ、歴史を感じるバーのような場所へ飛ばされた。

 

『おお、来たか。久しぶりだね。紅羅鈍』

 

「お久しぶりです。先生」

 

バーにあるディスプレイからAFOの声が聞こえる。AFOは5年前にオールマイトとの勝負に負け、かなりのダメージを受けている。しかし変わりにオールマイトにも深傷を負わせたとか…

 

「…お前が先生の言ってた秘密兵器ってやつか…精々駒として役に立ってもらうからな」

 

声のした方を向くと、そこには顔に手のアクセサリー、いや…本物の手をつけた男が大地を見ていた。

 

『おっと…弔とは初対面だったね…弔、自己紹介を…』

 

死柄木は大きく舌打ちをし、簡素に話す。

 

「死柄木 弔…この敵連合のリーダーだ」

 

それだけ言うと死柄木はこれでいいだろと椅子にもたれかかる。

 

「どーも、俺は紅羅鈍だ。…先生、今日俺をコイツに会わせた理由は?」

 

『君には弔の計画をサポートしてあげて欲しいんだ。君ならきっと弔の計画に役に立つ』

 

「計画?」

 

「雄英高校襲撃って計画だ」

 

死柄木の言葉に大地は驚愕する。雄英高校とはヒーローの育成機関であり、そこのヒーロー科の教師は全員実力のある現役ヒーローであり、雄英高校はヒーローの巣窟と言っても過言ではない。

 

「…先生からの依頼だ。計画の詳細と決行日を教えてくれ。内容がいい加減であれば例え先生からの依頼でも断らせてもらう」

 

「生意気なやつだ…一度上下関係をわからせておかないとな…まぁいい、これでも読んどけ」

 

死柄木から計画の詳細が書かれてあるプリントの束を受け取り、それを黙読していく。

 

計画の内容はこうだ。まずは雄英にマスコミを使い侵入、そしてプログラムの書かれた表を奪い、本校舎から離れた隔離空間、USJでオールマイトを殺害する。その他にも、電波を乱す個性で通信機器をストップさせたり、対オールマイトの化け物を用意しているのだとか。

 

「ふむ…この話…乗らせてもらうとしようか」

 

『よかったよ。君が協力してくれれば百人力だ』

 

「で、これがプログラム、決行日は明日だ。しっかりと準備しておけ。ヘマしたら消すからな…?」

 

「ああ…って明日!!?」

 

「なぁ、どうなると思う?平和の象徴が……殺されたら」

 

 

 

真に賢しい悪が遂に…動き出す…



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紅と藍

感想で色々言い当てられてグハァ!!ってなった。

感のいい読者は嫌いだよ。(ツンデレ


やあ、久しぶりだね。画面の前の諸君。私だ、アルセウスだ。

最初に言っておこう。感想にお気に入り登録、そして評価をありがとう。この物語を楽しんでくれているみたいで喜ばしい限りだ。

 

さて、そういう話は置いといて本題に入ろう。何故私がここで出てきたのか…

 

それは彼が敵連合に所属するとパワーバランスが崩れすぐにバッドエンドのストーリーになってしまうんだ。それもそれで面白そうだが私は両者拮抗する熱い戦いが観たいんだ。圧倒的な力で他者を蹂躙するのは少々見飽きたからね。

 

というわけで此方を見てほしい。

 

何があるかって?フフフッ…これはまた別世界にある人間の魂さ。この魂に私の力を込めて…その力の扱いを大まかに覚えさせる。

暴走したら彼の二の舞いだからね。

 

よし、出来た。彼女はあれが好きなようだね。お望み通りこの力を授けよう。

 

転生はもうしたからなぁ…次は転移だな。少し過去に彼女を飛ばして…よし、出来た…!

 

 

これで面白いことになるだろう…フフフッ、楽しみだな…彼と彼女が出会いどうなるのかが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

ここは雄英高校、1-Aの生徒達は救助訓練をするためにウソの災害や事故ルーム、略してUSJに足を運んでいた。

 

(でっかい!!漫画で見た通りの!!)

 

一人、初めて訪れたのにも関わらず、昔から知っていたかのような驚き方をする少女が一人。

名を大海 潮(おおみ しほ)。藍色の長髪は骨盤辺りまで伸びており、コスチュームの豊満な胸の上辺りが露出してあり、そこにαのような痣が出来ている。

そして容姿はとても優れており、10人に可愛いかと聞けばほぼ全員がYESと言うだろう。

 

 

 

 

そんな彼女には一つ、誰にも言えない秘密があった。

 

それは…彼女が転移者であるということだ。潮は中学一年生の頃にこの世界へと転移した。家族は変わっておらず、街も学校も変化はなかった。しかし、違う…前の世界とは違うモノがあった。

それは個性と呼ばれる能力だ。これを知った時、潮はすぐに漫画がある本棚に駆け寄った。何故ならそこには僕のヒーローアカデミアという個性で戦う漫画があったからだ。

しかし無かった。変わりにあったのは見たこともない漫画だった。すぐに部屋にあったパソコンを起動し、ある高校の名を検索する。

 

「雄英高校…ヒーロー科っと…」

 

出て来たのは雄英高校のホームページへと飛ぶリンクだ。フィクションではない。実在している。すぐにテレビの電源を入れ、ニュースを見ると、そこにはオールマイトまたもや活躍!というニュースが流れていた。

 

信じられなかった。潮はすぐに頬を抓る。痛い、夢じゃないことにホッとする。そして歓喜する!

 

転移を自覚した次の瞬間、酷い頭痛が襲う。莫大な情報が頭に流れ込む。痛みで顔を歪め悲鳴を上げる…

髪が風呂上がりのように濡れる…

 

 

髪が藍色に…

 

 

胸の上部に熱い何かを押し当てられたように痛い。

 

 

水色に輝くαの痣が…

 

 

目も痛い…まるでジャンケンのチョキで目を潰されたように。

 

 

目が黄色に…

 

 

 

 

 

痛みが治った潮はヘタリと座り込む。悲鳴を聞きつけ大急ぎで母親は潮の部屋に入り、その惨状に息を呑む。

部屋は水浸しになり、布がベタベタしているのと磯の香りがすることから海水ということがわかる。極め付けは娘の変貌だった。

髪は藍色に、胸元には痣が、目は黄色くなり、もはや別人の域へと達していた。

 

しかし惨状には驚いたが、病院へ行くと個性だということがわかり、両親は泣いて喜んでいた。潮は元々無個性で虐められていたという。本人にはわからなかったが原作の主人公、緑谷出久が雄英に行くというだけでクラスの皆は嗤い馬鹿にしていたのを思い出した。

 

この世界では無個性のヒエラルキーは低いのか…と感じつつも、母が作ったご馳走を口に運ばせた。

 

 

 

 

 

そんな彼女は物思いに耽っていた。

 

(原作じゃここで敵連合が来るんだよね…推しの相澤先生にはあんな大怪我してほしくないし絶対に阻止しなきゃ!)

 

13号の話は終わり、訓練に入ろうとしたその時、目の前の広場の空間が歪み、黒い靄が現れた。

 

(来た!!)

 

潮はすぐに戦闘態勢に入る。それを見た教師陣とA組の生徒達は訝しむが、相澤はすぐにその意図に気づき戦闘態勢に入る。

 

「一塊になって動くな!!」

 

相澤が叫ぶ。唐突なことでA組の生徒達は一人を除いて混乱する。まだ彼らはこの事態に気付いていない。

 

「動くな!!あれは…ヴィランだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

大地と死柄木が会合した次の日、大地は死柄木に続き、黒霧のゲートを潜り雄英高校へと侵入した。その後に何十人というヴィラン達が続く。

潜り抜けると、まず目に入ったのはヒーローのイレイザー・ヘッドこと相澤と、1-Aの生徒達だ。そこで一人の少女と目が合う。

 

藍色の長髪に見たことのないコスチューム。こんなキャラいたか?と思った次の瞬間、心の奥から湧き上がるかのような不快感に嫌悪感。

隣で黒霧がオールマイトがいないと言うが今の大地には関係ない。

 

 

 

 

 

同じく潮も大地を目にした途端、不快感と嫌悪感が湧き上がる。自制心を抑えきれない。

 

「死ねッ!!」

 

大地に照準を向け、手を翳し大きな水の塊を発射する。

 

“ハイドロポンプ”

 

“だんがいのつるぎ”

 

しかし大地も同時に鋭利な岩の剣を創り出し水流を受け止める。

 

「おいッ!!大海!!何してる!!」

 

相澤が潮を叱咤するが潮には聞こえない。

室内であるのに突如雨が降る。

 

“あめふらし”

 

ヴィランがいる方は日が照っている。

 

“ひでり”

 

日が照り始めた直後に、先程大地が創り出した岩を貫通し、緑の極光が潮を襲う。

 

“ソーラービーム”

 

「…ガハッ!?」

 

極光に襲われた潮は、身を捩って回避を試みるが、風圧で吹き飛ばされUSJの壁へと叩きつけられる。そのまま地面へと落ちるがダメージは浅い。

 

 

 

 

 

 

「黒霧さん、アイツを誰もいない所へ送ってくれ…アイツは俺がやる…!」

 

「…わかりました」

 

少し黒霧は躊躇ったが、大地の怒りが相当なものと捉えて許可を出す。

 

黒霧は個性を消すイレイザー・ヘッドの目を掻い潜り、生徒達がいる場所へと移動し生徒達をワープさせる。

そして大地と潮の体は黒霧の霧に包まれ、誰もいない火災エリアへと飛ばされた。本来なら尾白が来るエリアだが、彼の代わりとして潮が送られてきた。

 

 

 

「紅羅鈍さん!!?何でここにいるんすか!?」

 

「……」

 

送られた大地を見つけた敵連合の有象無象は駆け寄り話が違う事を問うが、大地は答えない。

 

ここには誰もいない(・・・・・・・・・)

 

共に送られてきた潮を一瞥し、彼は話しかける。

 

「お前…名は?」

 

「大海 潮…貴方は?」

 

「紅羅鈍…なんだかわからねーが…やっぱりお前は…」

 

 

 

「「気に食わねぇ(ない)ッ!!」」

 

 

 

 

両者、紅と藍に光り輝き、その光は徐々に大きくなっていく。

 

「ヒッ!?なんすかコレェエ!!?」

 

近くにいたヴィラン達はその光と共に発される暴風により吹き飛ばされる。光はビル群を超えた辺りで収まり、二体の巨大生物が姿を現した。

 

 

『ぐらぐらぅるぅぅぅぅぁぁあああッ!!!!!』

 

『ぎゅらりゅるぅぅぅぅううあああッ!!!!!』

 

 

 

二体の巨大生物は同時に咆哮を上げ、紅羅鈍は大地の力を刃へと変えて攻撃し、潮は青白く輝く無数の光線で紅羅鈍を狙い撃つ。

 

 

“だんがいのつるぎ““こんげんのはどう“

 

紅と藍が今、3度目の神話の闘いを起こす!!

 

 

 

 



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