SPRIGGANーシャドーモセス事件ー (ニラ)
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01

 日本、東京……

 

 オフィスビルが立ち並ぶ、アジアでも……いや、世界でも有数の大都市である。

 多くの人が外から入り、また外へと出て行く街であり、人の流れは留まることを知らないかのように絶えず動き続けている。

 

 そんな東京のとあるオフィス街。

 そこには、世界でも有数の大企業であるアーカム財団日本支部があった。

 

 アーカム財団

 第二のロックフェラーとも言われる巨大財閥で、小さな関連会社を合わせれば優に1000を超えるような巨大複合企業である。

 それこそ家庭用の生活必需品から軍御用達の兵器まで扱い、銀行、不動産、商工業と、あらゆる分野に根を張っている大資本だ。

 

 ……まぁもっとも、表向きはだが。

 

 そんなアーカム財団は裏では、現在から遥か過去に存在した超古代文明の数々が残したモノ――遺産(オーパーツ)を、あらゆる権力から守り、封印、破壊する事を目的とした活動を行う……といった顔を持っている。

 

 そんなアーカム財団に所属する特殊工作員の中でも、取り分け優れた能力を有する者達が居る。

 彼等は俗に遺跡の『護り手』、『森の妖精』――SPRIGGAN(スプリガン)と呼ばれた。

 

 今回はそんなSPRIGGANの中でも、チョットばかり新米のお話……

 

「今回の任務内容を説明するぞ――って、どうしたんだ大槻(おおつき)?」

 

 アーカム財団日本支部オフィスビル内にある、アーカム研究所所長室。

 その部屋の中央に、髪の毛は禿げ上がり、中年太り気味な小男――山本は居た。

 山本は一つの紙資料も持ちながら、所長室のソファーに『ムスッ』とした表情で座っている少年に視線を向けている。

 

 少年の名前は、大槻達樹(おおつきたつき)

 そう、彼は少年である。それも子供も子供……まだ高校生の少年だ。

 短く切られた茶色の髪の毛に、吊りがちな眼。

 

 全体的に強気を思わせる風貌をした少年だが、現在その表情は歪められ、不満を前面に押し出していた。

 達樹はこれ見よがしに大きな溜め息を吐くと、山本に対して首を左右に振る。

 

「いや、『どうした?』って……。入院から明けて、そのまま任務に行くのか――って思うと、ほんの少しだけ憂鬱になっただけですよ。はぁ……」

 

 言葉にすると同時に漏れるため息は、何とも年齢不相応の哀愁を感じさせる。

 現在、退院から1日後。

 それが今の達樹の状況だった。

 

 ほんの少し前の事である。

 彼の直接の上司であったグラハム・ブルートンが、古代遺跡の力を手に入れて世界征服――等といった、子供じみた夢を叶えようとしたため、達樹はその尻拭いとして遺跡の破壊と封印をするハメに成ったのだ。

 

 まぁ結果としてみればその任務は成功し、達樹はその功績を買われてA級工作員からS級工作員(SPRIGGAN)になれたのだが……。

 しかし、その代わりに身体はボロボロ。

 肋骨は折れるは、腕は折れるは、内臓は傷付くはで、とても手放しで喜べる状態ではなかった。

 だが治療に専念したお陰か、つい先日その時の怪我も癒え『じゃあ、久しぶりに学校に行こうかな』と登校したところ――

 

『待ってたぜ。大槻』

 

 と、笑みを浮かべる先輩工作員に捕まって拉致連行→そして現在に至るのである。

 

「大体、何だって俺なんです? 見ての通り、今の俺は退院明けなんですよ? 包帯だって、まだちゃんと取れてないのに」

 

 達樹は自身の頭に巻かれた包帯を指差し、見せつけるようにして言う。

 もっとも実際包帯の下には既に怪我など無く、これはただ巻いてあるだけだったりする。

 

 とは言え、その程度のことで仕事が楽になったりはしない。

 そんな事は言った本人である達樹も良く解っていることだ。

 

 現にその事に対して――

 

「情け無ぇ事言ってるんじゃねーよ。手前ぇも、今ではSPRIGGANの一人だろうが」

 

 と、部屋の壁に背を預けるようにして立っていた男、ジャン・ジャックモンドがツッコミを入れてくる。

 このジャンと言う男、見た目は唯のハンサムな男なのだが、その性格はひたすらに凶暴。

 一度キレると大の大人が数人がかりでも手が付けられないと言う、非常に困った奴である。

 

 とは言え、それでもアーカムに所属するS級工作員で、世界でもトップレベルの実力の持ち主だったりする。

 

 そんなジャンに対して別の人間――達樹と同様に空いたソファーに腰掛けている男が反応をした。

 

「おいジャン、そう目くじら立てんなよ。達樹の奴も、別に本気で言ってる訳じゃないんだからさ」

「んだよ、御神苗? 過保護にすんじゃねーよ。こういうのはな、最初の内にビシッとしとかねーと、後々になって――」

「ビシッとしてないお前にそんな事言われたら、達樹だって困るだろうが」

「んだと手前ぇ!」

 

 ジャンと言葉の掛け合いをしている男の名前は、御神苗優(おみなえゆう)

 前述のジャン・ジャックモンドと同様にS級特殊工作員……SPRIGGANの一人で、やはり世界でもトップレベルの実力者である。

 

 二人がじゃれ合うように口論を続けていると、それを聞かされていた達樹は不意に一言

 

「SPRIGGANか……そうなんですよね。俺、SPRIGGANになったんですよね」

 

 と呟いた。

 その言葉に御神苗とジャンの其々の動きが止まる。

 

「俺、確かにSPRIGGANを目指してたんですけど、何だか実感沸かないんです」

 

 達樹は「はぁー……」と溜息を吐くと、気のない表情を御神苗やジャンへと向けた。

 するとジャンは眉間に皺を寄せ、不機嫌さを顕にしながら達樹に詰め寄ってくる。

 

「あのなぁ小僧、んなもんに実感とかそんなのは関係無ぇんだよ。重要なのは、手前ぇが力を持っていて、それを使う立場にあるって事だけだ。あんまし下らねーことばっか考えてっと、その内に必ず痛い目みるぜ?」

「ジャンさん……」

 

 自分を気遣ってくれている。その事が達樹には良く解った。

 達樹自身にとって先輩SPRIGGANである、ジャン・ジャックモンド。

 普段の態度や気性から、達樹は自分勝手で他人を労ることなどしないような自己中人間だと思っていたのだが、どうやらそれは達樹の思い込みであったようだ。

 こうして、落ち込みを見せる達樹に苦言を呈してくれるのだから。

 

 達樹は少しばかり、それが嬉しかったのだが……

 

「っていうか、あんましグダグダ言ってるようなら俺がシメるぞ」

「あっ、今本気でそう思ってますね?」

「――手前ぇ、人の心の中を読むんじゃねーよ!!」

 

 『本気でシメると思っている』ジャンに、この人は単に俺の態度に怒ってるだけでは? と思うのだった。

 とは言えその考えも、ジャンにヘッドロックのように首を締められて遠のく意識の前では、実際どうでも良いような事なのかも知れない。

 

「ジャ、ジャンさ……ギブ、ギブです」

「あぁ? 聞こえねーぞ」

「――あー、良いか? そろそろ任務内容の話を進めたいんだが?」

「オイお前ら、あんまり山本さんを困らせるんじゃねーよ」

 

 達樹のタッチを無視するように、ギリギリと首を締めていたジャンだったが、山本と御神苗に横から言われて「チッ」と舌打ちをして達樹を解放するのだった。

 

 解き放たれた達樹は、「ぜはーぜはー……」と大きく息をしている。

 

「大丈夫か達樹?」

「い、一応は、生きてますから」

 

 心配そうに尋ねる御神苗に、達樹は首もとに手をやって返事をした。

 一応は手加減をして締めていたのだろうか、ジャンは『並の人間とは違う』のだ。

 向こうが軽くのつもりでも、達樹にとっては死活問題である。

 

「悪いな。アイツは馬――」

「――ああッ! その、山本さん説明をお願いします!!」

 

 続けざまに何かを言おうとした御神苗だったが、達樹はその言葉を察して無理やりに遮った。

 御神苗の言葉を全部言わせた場合、ジャンがどんな反応をするのかが解っていたからだ。

 

 達樹の慌てように山本は軽く苦笑を浮かべると、「じゃあ、始めるぞ」と前置きをして手元の資料に目を移すのだった。

 

「今回の任務は少し面倒なんだが……。主な任務地はアラスカの周辺だ」

「アラスカ?」

「アメリカの領土かよ」

 

 任務地の説明に、ジャンや御神苗は其々反応を示した。

 とは言え、それもそうだろう。

 アラスカはアメリカの領土の一つであり、そしてアメリカと言う国は遺跡の争奪戦において、アーカムと良くブツかる――いわば犬猿の仲とも言える関係なのだから。

 

「山本さん、質問なんですが。アラスカ周辺……というのはどういう事ですか?」

 

 手を上げるようにして達樹は山本の説明に質問をした。

 それに便乗するように御神苗も口を開く。

 

「そうだな。此処が任務地だって説明なら分かるけどよ、幾ら何でも『周辺』なんて説明じゃアバウトすぎるぜ」

「それに付いても今から説明をする」

 

 御神苗と達樹の質問に山本は新しい資料を3部程取り出すと、その資料を御神苗達に1部ずつ手渡していった。

 そこには一枚の写真が添付されており、奇妙な粘土板が写されている。

 

「事の始まりは今から数年前に遡る。アメリカ陸軍が自国内のインディアン達から、一枚の粘土板を手に入れたことが始まりだったようだ」

「粘土板?」

「前にあった『YAMA(ヤーマ)』とか、その類じゃねーだろうな?」

 

 山本の説明に添付されている写真を興味深そうに見つめるジャン。

 だがそれとは別に、御神苗などは顔を顰めている。

 

 御神苗の口にした『YAMA』とは何か?

 簡単に言えば、超古代文明が組み立てた一種の思考型プログラムだ。

 インダス川上流で発見された遺跡の壁面に刻まれていた紋様が元だが、それを解析していたアーカム財団の保有するスーパーコンピューター『アース』を乗っ取り、一時は世界崩壊にまで成りかけた事もあったのだ。

 

 御神苗は当時その事件を担当したSPRIGGANであり、もしそうなら面倒だと思ったのである。

 因みにその事件は達樹も知っているらしく、御神苗が『YAMA』を口にしたことで「ゲッ!?」と口にしてカナリ微妙な表情を浮かべていた。

 

「いや、それとは違うが。だが考えようによってはそれ以上に厄介なものだと言える」

 

 山本は御神苗の問に首を左右に振って答える。

 3人は『YAMA』以上に厄介だという仕事の内容に、表情をキッと締まらせた。

 

「……優、大槻。お前たちはかつて、『狂戦士(バーサーカー)』と闘ったことがあったな?」

「あ? あぁ。確かにヤッたことがあるけど――って、まさか!?」

「バーサーカーに関係が!」

「その通りだ」

 

 重苦しい口調で言う山本の言葉。

 それに対して、御神苗と達樹は揃って口を半開きにしてしまう。

 

「なぁ、なんだよバーサーカーってのは?」

 

 だがそんな二人とは違い、ジャンは二人に聞いてきた。

 御神苗と達樹とは違い、狂戦士と対峙したことがないからだろう。

 

「『狂戦士(バーサーカー)』ってのは、超古代文明の創りだした戦闘ロボットだ。昔アーカムの研究所でも一回大暴れして、周辺諸共巻き込んで自爆してる」

「その上、目茶苦茶硬いは強いはで、かなり面倒な相手でしたよ」

「ヘンリー・ガーナムの事件で南極に行ったときに、動く巨人像を見ただろ? アレの兵器搭載型劣化版だと思え」

 

 御神苗と達樹の説明に、ジャンは「あぁ、成程。アレね」と軽く頷いて返した。

 だがその表情を見る限り、厄介な奴だと認識したのだろう。

 

 ジャンへの説明を終え、いざ再び山本の説明を聞こうとした御神苗だったが、ふと頭に嫌な考え思い浮かんでしまう。

 

「……山本さん、何だか嫌な予感がするんだけどさ。連中が手に入れたのは粘土板なんだよな?」

「そうだ」

「そして、その粘土板は狂戦士に関係がする物……なんだよな?」

「そうなるな」

 

 そこまで聞くと、御神苗は「マジかよ」と言って大仰に顔を俯かせてしまった。

 

「どうしたんですか、御神苗さん?」

「達樹、ちょっと考えてみろよ。多分、直ぐに俺の考えてることが解ると思うぜ」

「そういう風に前置きされると、寧ろ考えたくなく成るんですが?」

 

 御神苗の言いように、達樹は心底嫌そうな顔でそう言って返す。

 とは言え、その顔は内心では意味が解っているのだろう。

 山本は言葉を繋ぐように間に入ると

 

「詰まりだ。連中の手に入れた粘土板の正体は、狂戦士の製造方法に関わる記述だったことが判明したんだ」

 

 達樹にとって考えたくなかったことを言うのだった。

 すると達樹は、先程の御神苗同様に「マジかよ……」と口にした。

 

「現在、アメリカ軍とアームズ・テック社による共同開発で、狂戦士の技術を使った兵器が開発されているらしい」

「アームズ・テック社って……確か最近では落ち目の軍事兵器開発会社だろ?」

「あーそういや、アメリカの次期主力戦闘機の競争入札でグラバーズ重工に負けたとか……って聞いたな」

「確か……ステルス技術だけが無駄に高い企業ですよね?」

 

 思い出したように言うジャンと御神苗。

 それに併せて、達樹は結構ひどい事を口にする。

 

 アームズ・テック社

 シアトルに本社を持つ軍事兵器開発会社。通称、AT社。

 軍需産業最盛期であった冷戦時代に急成長し、業界2位までのし上がった……いわゆる死の商人である。

 とは言え、現在はジャンや御神苗の言うとおり余りパッとせず、ズルズルとその業績を下降させている状況にあった。

 

「でも、何だってそんな所が狂戦士の技術を使った兵器なんて」

「むしろ、そんな所だからだな。アームズ・テック社は伸び悩む自社の売上を何とか挽回しようと、新しい構想の兵器開発を軍に持ちかけたらしい」

「新しい構想?」

 

 すると山本は、3人に資料を捲るように言う。

 

「二足歩行型核搭載戦車だ」

「なッ!?」

「核だと!」

「ふーん、馬鹿さ加減ではよく聞く話だな」

 

 資料にはただ文字が羅列してあるだけだが、彼等の手にしている資料に、その兵器の概要が記されていた。

 

「アームズ・テック社は、自走能力を持ち世界中どこでも核発射が可能な兵器……として売り込んだらしい。かつて冷戦の時代、アメリカやソ連等はこの手の兵器を何度か制作していたらしいがな。とは言え、アームズ・テック社のその話に軍も乗った。開発される機体に、狂戦士の技術を使ってはどうかと思ったんだろう」

「思ったんだろう……って、それって詰まり――」

「あぁ、ほぼ完成してしまっている」

 

 山本の言葉に思わず絶句をする達樹であった。

 狂戦士と言うだけで厄介だと思っていた任務だというのに、これでまた一段階面倒になったと思ったのだ。

 

「冷戦終結からこっち、ソ連の崩壊もあって世界の軍事バランスは崩れていると言ってもいい。だがそんな中、この兵器の存在は有ってはならない物だと言うのが我々アーカムの判断だ。今回お前たちに与えられた任務は二つ、粘土板の奪取又は破壊、そして開発された二足歩行型戦車の破壊だ」

 

 言うと山本は、部屋の電気を落としてプロジェクターを操作した。

 するとスクリーンにアラスカ半島の地図が映しだされる。

 

「作戦ポイントは2ヶ所。アラスカ州アンカレッジにあるエルメンドルフ空軍基地と、アラスカ半島アリューシャン列島、フォックス諸島沖の孤島……シャドーモセス島だ」

「何だそりゃ? 2ヶ所で開発されてるってことかよ?」

「いや、それがな……」

 

 ジャンの言葉に、言い辛そうに言葉を濁す山本。

 なにやら言い難いことがあるのだろう。

 とは言え、それを言わずに放っておく訳にも行かない。

 

「――正確には、何方にあるのか解らないって方が正しい」

「「「はぁ!?」」」

「現地の連絡員も、その事を伝える前に音信不通になってしまってな。

 だが、大型のなんらかの物資が其々の基地に運び込まれている事は確かだ。 それに我々アーカムとしては、古代文明の遺産を野放しにしておく訳にはいかない」

「怪しい所を調査しましょう――ってことか」

 

 なんとも行き当たりばったりな任務だな……とは、ここに居る誰もが思ったことだが、口に出したりはしなかった。

 喩え口に出したとしても状況が変わるまで待つことは出来ないだろうし、無駄だと思っているからだ。

 

 3人の中、御神苗は「まぁ、しゃーねーな」と口にすると、頭をガシガシと掻いた。

 

「山本さん、それぞれの基地の規模は?」

「元々シャドーモセス島の方は核兵器廃棄処理施設としての役割が強く、エルメンドルフ空軍基地の方が巨大ではあるが……とは言え、それも衛星写真の結果だ。内部構造までは解らないと言うのが本音だな」

 

 軍が動いていると言うのなら、完成した兵器のその後の運び出しも考えればアンカレッジが有力……と言うことだろう。

 

「なぁ、山本さんよ。基地が2つで、呼ばれたのは3人ってのはどういう事だよ。まさか、一ヶ所は2人派遣するとかって言うんじゃねーだろうな? 嫌だぜ、俺はそんなの」

「幾らアーカムでも、余程の事がなければSPRIGGANを同じ場所に何人も配置したりはしないさ。今は人手不足だからな」

 

 ジャンの言いように、山本は苦笑して返した。

 現に今のアーカムには、それほど人的余裕が有るわけではない。

 数年前の、ヘンリ・ガーナムによって起こされた内乱。

 そしてやっと回復の兆しが見えたところでグラハム・プルートンによって起こされた騒ぎによって、今だ内部はゴタゴタしているのだ。

 A級エージェントもS級エージェントも揃って人員不足が続いている。

 

 SPRIGGANクラスの人間を大量に送り込むことが出来るのなら確かに任務も楽だろうが、世の中早々上手くは行かないのだ。

 そもそも最近SPRIGGANに昇進した達樹でさえ、アーカムとしては随分と久しぶりの人事だったのだから。

 

 山本は資料に視線を落とすと、自身の禿げ上がった頭部にシャーペンの端を擦るようにして当てた。

 

「一人はエルメンドルフ空軍基地……コレは優に行ってもらう。そして、シャドーモセスの方には大槻だ」

 

 御神苗と達樹は其々「了解」や「前は真空の宇宙で、今度は極寒かよ……」と言うのだった。

 

「俺はどうするんだよ?」

 

 ムスッとした風に、ジャンは山本に言った。

 それもそうだろう。

 ポイントは二つだと言っておきながら、その両方共自分以外の人物が行くというのだから。

 

「ジャンには、シアトルにあるアームズ・テック本社に潜入して粘土板のオリジナルを回収してもらいたい」

「粘土板だ? 軍が管理してるんじゃねーのか?」

「アーカムの調査によると、軍は粘土板の本格的な解析をアームズ・テック社に任せていて、現在は同社の研究施設に保管されているらしい。データとして残っているモノも有るかも知れないので、その辺りも注意して当たれとのことだ」

 

 自分の任務地に何か言いたげなジャンだったが、山本は続けて、

 

「こちらは場所が街中なだけに、ジャンの運動能力を買っての配置だ」

 

 と付け加えた。

 するとジャンの表情は緩み、

 

「了ー解」

 

 といって返事を返すのだった。

 

「ジャンは取り敢えず良いとしてさ、俺達は直接現地に行けるのか?」

「優が行くことになっているアンカレッジへはルートの確保は済んでいる。ただ問題は――」

「……俺ですか?」

 

 眉間に皺を寄せて言う達樹に、山本は頷いて答えた。

 

「シャドーモセスは元々人の住んでいない島だ。それに小さいとは言え軍の基地……ルートの確保は不可能だった」

「そ、それじゃあどうするんですか? ……まさか降下作戦とか?」

 

 高度何千mからのダイブ――。

 そんな光景を思い浮かべる達樹だった。

 

「今の時期は、ブリザードの影響で降下作戦など不可能だ。かと言って、其れが止むまで待っているつもりもない……」

「なら?」

「単純な方法だ。先ずは優と一緒にアーカムの船で移動してもらう。目的地はアリューシャン列島にあるフォックス諸島……ウラナスカだな。そこでお前は優と別れ、船はそのままアンカレッジへ向かう。優はアンカレッジで現地のアーカム職員と接触して行動してくれ」

「了解」

「で、大槻の方だが。ウラナスカで降りた後は、それ程面倒な事はない。そこからはスノーモービルを使って、凍った海を渡って行くんだ」

「…………は?」

 

 山本の説明に、思わずそんな返事を返してしまう達樹だった。

 とは言え、それはそれ程に厄介だと言える言葉だったのである。

 アラスカの……例えばアンカレッジを元に言えば、今の時季の平均気温は常に氷点下である。

 

『そんな中をスノーモービル?』

 

 となれば、恐らく大抵のの人間は同じような反応をするのではないだろうか?

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ山本さん!? 幾ら何でもそんな――」

「さっきも言ったと思うが、今の時期はブリザードが連日のように吹雪いている。だからむしろ、そういった単純な方法の方が安全だよ」

「…………」

「今回の作戦に当たって、お前と優には新型のレーダーシステムと通信機が支給されることに成っている。それさえ持っていれば、少なくとも目的地を見失うって事は無く成るだろう」

 

 山本の言い分に対し、色々と言ってやりたい気分になった達樹だった。潜入方法にしても、スノーモービルを使って現地に向かうなんて……普通じゃない。

 だが

 

「大槻、覚悟を決めろよ。SPRIGGANってのは、そういう無茶をしなくちゃいけない存在なんだからよ」

 

 と言う御神苗の言葉に、

 

「……了解」

 

 と肩を落として言う事しか出来ないのだった。

 

 



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02

 

 

 北の冷たい海。

 流氷が漂い、一部氷山が現れる海域。

 そこを今、一隻の船が高速で進行していた。

 

 白く巨大な船体。

 一見すると大型クルーザーの様にも見えるのだが、実際は最新技術の粋を集めて造られた特殊船舶である。

 名前は――

 

「どうだ? 俺の『ロシナンテ』の乗り心地は?」

 

 船内の窓から、外を眺めていた達樹に声を掛ける人物がいる。

 大きな身体に革ジャン、頭にはバンダナを被り、口元には立派なヒゲを蓄えた人物だ。

 達樹は突然声を掛けられたことに一瞬驚きの表情を見せたが、直ぐにそれをなおした。

 

 『失礼が有ってはならない相手――』と、そう認識している人物だからだ。

 

「フォスター特別顧問? ……そうですね、思ってた以上に――」

「船長だ。俺のことはそう呼べ」

「は、はぁ? 船長ですか?」

 

 達樹なりに気を使って返事をしようとしたのだが、それは声を掛けてきた張本人。

 スティーブ・H・フォスター本人に遮られてしまった。

 複合企業体アーカム財団の初代会長の友人。

 アーカム財団海洋開発部特別最高顧問。

 それが彼の肩書きだ。

 

 だが

 

「硬っ苦しい呼び方は好きじゃないんでな」

 

 どうやら達樹が思っていたよりも、ずっと柔らかな人物らしい。

 口元を釣り上げて笑顔を見せるフォスターの姿は、達樹に好感を持たせるのだった。

 

「――でだ。良い乗り心地だろ、この船は」

 

 『どうだ』と言わんばかりに胸を張って言うフォスターに、達樹は少しばかり吹き出してしまいそうになる。

 だが、流石にそれは堪える事にし、「そうですね――」と口を開いた。

 

「俺が思ってたよりもずっと過しやすいですよ。『最新技術の塊だ――』なんて聴いていたから、どんな過剰装飾してるのかと思ってましたから」

「ハハハッそうか、そうか。 だがな、過しやすいってのは大切な事だぞ。船に限らず、車だって飛行機だってそうだが、それを動かすのも乗るのも人間だからな。乗ってて嫌になる物は、乗り物としちゃ最悪だろう?」

「それは確かに」

 

 何か一点を求めて造ったものでないのなら、

 少なくとも乗る人間が快適に乗れるようにするべき……と言うことだ。

 達樹は『戦闘機に詰め込まれて行くのは勘弁だしな』と思いながら、フォスターに頷いて返した。

 

「そう言えば、お前はスプリガンになったばかりなんだって?」

「えぇ。今回の仕事が昇進してから初仕事になります」

 

 言いながら、達樹は『自分はどんな顔をしてるだろうか?』と考えていた。

 なろうと決めたスプリガン。

 とうとうそれになった自分だったが、果たして今の自分にそれが務まるのだろうか?

 周りの者達は、今までの達樹の功績を考えれば当然だ……と言う。

 だが当の本人である達樹自身は、いつの間にか大きくなる事態にただガムシャラに向かっていっただけなのである。

 その結果としてグラハム・プルートンの野望を防ぎ、月の遺跡を封印したに過ぎない。

 

 そのため達樹は「お前は今日からスプリガンだ」と言われても、今一つ実感を持つことが出来ないでいたのだ。

 もしかしたらもっと単純に、スプリガン昇進試験でもあれば少しは違うのかも知れないが……。

 

 フォスターはそんな達樹の反応を感じ取り、「スプリガンと言えどもまだ子供か……」と内心では思うのだった。

 

「……とはいえだ小僧。スプリガンになっても、実際お前のやることは今までと変わらんぞ?」

「え?」

 

 同じように外を見つめながら言うフォスターに、達樹は驚いたような声を上げた。

 とは言え、それは直ぐに気恥ずかしい物に変わってしまう。

 自分の内心を悟られたように思えたからだ。

 

「お前がアーカムに入った理由は『識っている』。そして自分の能力を活かす仕事を――と考えて、エージェントに成ったことも理解している。……資料を読んだからな」

 

 フォスターの言葉に、達樹は「うっ……」と小さく唸る。

 アーカムと言う組織に属している以上、自分の個人情報を知っている者が居ても不思議ではない。

 その事は理解しているものの、知られずに済めば……と思っていたのだ。

 

 フォスターはそんな達樹の頭にポンっと手を乗せると

 

「だがな、A級エージェントだからとかS級エージェントだからとか……そんなモンは関係ねーんだ。大切なのは、お前が何のために今の路を目指したか? そして、お前は今、何をする為に居るのか? ってことだ」

 

 達樹はフォスターの言葉が頭の中に入り込み、奇妙な安心感を与えていることを感じた。

 そして

 

「すいません。何だか、余計な心配を掛けちゃったみたいで」

 

 と、苦笑を浮かべて言うのだった。

 

「いいさ。若いうちは色々と有るだろうからな。そんな事よりブリッジに戻れ、優の奴と山本が待ってるぞ」

 

 フォスターは言うと、踵を返して歩いて行った。

 達樹は少しだけ後ろ姿を眺めながら――

 

「年の功ってやつか?」

 

 なんて事を口にするのだった。

 

 

 

 

 第02話 ウラナスカ

 

 

 

 

 フォスターに言われ、後に続くようにブリッジにやって来た達樹。

 そこにはフォスターの言うとおり御神苗と山本が既に来ていた。

 達樹は「遅くなりました」と言うと、御神苗の横に並ぶようにして立つ。

 

「――まぁ良いさ。ウラナスカに到着するまで、まだ少し時間があるからな」

 

 山本はそう言うと、小さく笑みを浮かべた。

 どうやら、達樹が妙にナーバスになっている事を山本も知っていたらしい。

 

 達樹は少しだけ先程のように気恥ずかしい気分になるが、なるべくそれを隠すようにして「ところで、一体どうしたんですか?」と尋ねるように聞いた。

 

「現地に着いてからのお前の行動と、それから先日話していた新装備の説明をしておこうと思ってな」

 

 山本はそう言うと懐から丸められた資料を取り出して視線を這わせた。

 「私は技術屋じゃないから、説明は苦手なんだがな」と前置きをすると、資料に書かれている文面を説明し始めた。

 

「今回お前たちに支給されるレーダーは、元々アメリカ軍で開発していた物をアーカムの情報部が盗み出して実用化したものらしいな」

「アメリカ軍が? アーカムが回収しそこねたオーパーツでも流用したのか?」

 

 御神苗が若干呆れたように言う。

 とは言え、アーカム財団がどれだけ力を持った組織だとは言っても限界がある。

 世界中に存在する数多くの遺跡、その全てを守り切ることは事実上不可能なのだ。

 その為、御神苗の言うように何らかの組織や国家に先手を取られる……と言うことは、それ程珍しいことではない。

 もっとも、御神苗が呆れた表情を浮かべたのはもっと別の意味がある。

 

「南極の時のゴタゴタで、アーカムも手が回らない事が多かったからな」

「……南極って、前会長の時のですか?」

「あぁ」

 

 尋ねるように聞く達樹に、御神苗は頷いて答える。

 

 ほんの1~2年前、当時のアーカム会長であった『ヘンリー・ガーナム』は、

 世界の軍事バランスをその手に収めて、アーカムという組織で世界を動かそうと画策したことがあったのだ。

 結果としてみるならば、その企みは御神苗優を初めとするスプリガン数人と、そして反会長派となった者達の働きで未然に防ぐ事に成功した。

 

 だが内乱とも言えるその事件の後処理、そのゴタゴタに併せて封印していた遺跡の幾つかが他所へと流出したのだ。

 御神苗が先程言っていた『アーカムが回収しそこねた』と言うのは、この時に流出したオーパーツの事を指して言っていたのである。

 

「最初はアーカムでもその線を調べたらしいが、今回の装備は真っさらだ。なにせ、MITの現役学生が開発したものらしいからな」

「MIT(マサチューセッツ工科大学)の……学生がっ!?」

「開発者は中国系アメリカ人で、名前はメイ・リン。学業の傍らでNRO(国家偵察局)や、ENPIC(国際写真解析センター)からの仕事までこなしているらしい」

「国家偵察局に国際写真解析センター……つまりは、稀に見る才女って奴ですか?」

「世の中には、天才って人種が結構居るもんだな」

 

 山本の説明に、御神苗は誰かを思い出したのかそう言うのだった。

 とは言え、その相手が誰なのか達樹には解らなかったのだが。

 

「まぁ、人類の知恵も日々進歩しているという事なのだろう。 アーカム研究所のメイゼル博士も、このレーダーのことを聞いたら驚いていたからな」

「へぇ、それ程の物なんですか?」

 

 『アーカムの研究所が驚くほどの性能』

 達樹はその言葉に興味が惹かれたらしく、子供のような笑みを浮かべて山本に尋ねた。

 

「なんでも人工衛星から発せられた特殊な電波の反射を受信し、データ解析をしてマップ状況を表すことが出来る……という物らしい。狭い範囲ならば地図の替わりにもなるらしいな」

「技術自体は良く聞くような話だな……大掛かりな超音波診断装置みたいなものか?」

「だが、性能は桁違いらしいぞ。例えばアーカム本社の地下金庫、あそこでの使用も確認したらしい」

「地下金庫で!? そりゃ凄いじゃないですか!」

 

 アーカムの地下金庫は言わば一つの要塞。

 例え『核戦争が起きたとしても、中の物は大丈夫』なように設計がされている。

 それでなくとも金庫は、地上から遥か地下に造られているのだ。

 

 そんな所のマッピングとレーダーとしての能力を発揮するシステム。

 それだけでも十分に大した技術と言える――のだが、

 

「とは言え、弱点が無いわけでもない。電波妨害や音響共鳴の強い空間では、あまり役には立たないとのことだ」

 

 やはり普通のレーダー機器と同様の弱点を抱えているらしい。

 やおら喜んでみせた達樹と御神苗はそんなオチの付いたシステムに一言――

 

「「……使えねぇ」」

 

 と、同時に感想を口にした。

 どんな所でも現在地の場所が瞬時に分かると言うのならまだしも、

 二人は使用不可能になる場合がある最新装置には興味が余り無いらしい。

 

「まぁ、研究所の方でも実戦データを取りたいって所なんじゃないか?」

「それを俺達にやらせないでくれよ。山本さん」

「何を言う。お前たちSPRIGGANだからこそ、こんな話が来るんだろうが」

 

 御神苗は時折、アーカムの上層部はスプリガンを魔法使いか何かとでも思ってるのではないか? と思うのだった。

 人間、出来ることと出来ないことはハッキリしてると思うのだが……。

 だがそれと同時に

 

(……まぁ、今の会長をやってるティアなんかは、確かに魔法使いだけどよ)

 

 なんて、どうしようもないことも考えていた。

 

「まぁ良いじゃないですか。『ちょっとカーナビを持たされた――』位に思っていれば」

「……お前、妙に神経質かと思えばそんな……。変な奴だな」

「し、神経質って」

 

 一応はちょっとした会話――フォローのつもりで言った達樹だったが、

 それに対する御神苗の返事は若干辛辣だった。

 とは言え、潜入任務で常にレーダーを眺めていることなど出来るわけがない。

 ならばそんな物よりも、現地の正確な地図でも回してもらったほうが遥かに役に立つ。

 御神苗はそう思っているのだろう。

 

「そう言うな優。実際、使う使わないは現場の判断だからな。必ずしも有効利用しろという訳ではないさ」

「解ってるよ」

 

 山本はそんな返答を返す御神苗に苦笑すると、

 タイミングを見計らったように一人の男が手に二つの小型液晶を持ってきた。

 そして一言、

 

「どうぞ」

 

 と言うと、それらを御神苗と達樹に手渡していく。

 サイズ的にはかなり小さく、縦が10cmに横が5~6cmと言ったところだ。

 

「コイツが受信機か? 随分と小さいもんだな」

「少なくとも、かさ張って大変って事はなさそうですね」

 

 クルクルと手の中で弄りまわしながら、御神苗と達樹の二人は言うのだった。

 

「で、山本さん。確か俺達に渡される装備ってのは二つ有るんだったよな? もう一つの装備ってのはなんなんだよ?」

「あ、俺も気になります。実際このレーダーも凄いけど、今回の俺達の任務では余り使えそうにないし」

「……お前ら、間違ってもその台詞を研究員の前で言うなよ」

 

 二人の言葉に山本は「はぁ……」と、溜息を吐きながらそう言った。

 そして手元の資料に再び目を戻し、研究所から支給されたもう一つの装備についての説明を始めるのだった。

 

「もう一つは、アーカム研究所で作った通信機だな。今回の作戦に合わせて、大槻はAMスーツのヘッド部分に内蔵されている。優の場合は体内にインプラントさせるって案も出たが、取り敢えず却下された」

「当たり前だろ……」

 

 インプラント――詰まりは体内への埋め込みをすると言うことだ。

 研究所の誰がそんな事を言い出したのかは知らないが、御神苗は『後でそんな提案をした奴をシメる』と思うのだった。

 

「コイツはオリハルコンを使った新型で、周波数の切り替えをお前達の脳波で行うことが出来るらしい。流石にジャンの居るシアトルまで繋げるのは無理だが、ロシナンテを中継基地にしてアンカレッジとシャドーモセスを繋ぐ位は訳ない代物だ」

 

 と説明をする山本だが、御神苗と達樹の二人はその言葉にいまいち反応が悪い。

 

 山本の言葉が正しければ『ハンズフリーの高性能無線機』と言うことなのだが、その事の実感が上手く湧かないのだろう。

 

「まぁ、後で其々試してみますよ。ぶっつけ本番ってのが、少し気になるけど……」

「そう言えば、俺が始めてAMスーツを使った時もぶっつけだったな」

「本当ですか、それ?」

「本当だって。その他にも――」

 

 二人とも――いや、御神苗は元からだったが、どうやら今回の任務に対する気負いは無くなったらしい。

 今では互いに、『前の任務でこんな事があった』や『こんなテストをさせられた』なんて話を始めている。

 

 山本はそんな二人を見ながら、

 

「……任務をシッカリと果たしてくれれば、それで良いんだがね」

 

 と、少しだけ気疲れしたように呟くのだった。

 

 

 



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03

 

 

 

「お待ちしてました。ウラナスカへようこそ」

 

 アラスカ半島アリューシャン列島フォックス諸島ウラナスカ島。

 そこに到着した達樹は、ロシナンテを降りて現地のアーカム職員と接触していた。

 

「こんにちは、大槻達樹です」

 

 流暢……とまではいかないが、話すのに困らない程度の英語を使って、達樹は軽く挨拶を返す。

 すると職員の方も、

 

「これはご丁寧に。私はアーカムの海洋生物研究班に所属するトム・グリーンです」

 

 と返事を返してきた。

 達樹はトムと軽く握手をすると、寒そうに手を擦り白い息を吐く。

 

「ハハハ、大槻さんは日本の方でしたよね? それじゃあこんな寒いのは余り経験したことも無いでしょう?」

「え、えぇ。凄く寒くて驚いてますよ」

「でも、ここはアラスカよりは若干南に位置しますからね。向こうよりはマシだと思いますよ」

 

 達樹はトムの言葉に、アラスカ任務に成らなくて良かった……なんて思うのだった。

 とは言え、向こうよりもマシだとは言われても、それで今感じてる気温が暖かくなる訳でもない。

 

「あ、あの……。出来れば早く暖かいところに案内してもらいたいんですが」

「あぁ、スイマセンでした。宿泊所に案内しましょう……乗ってください」

 

 口元をガチガチと震わせながら言う達樹の言葉に、トムは少しばかり笑みを浮かべて車のドアを開けた。

 達樹は「どうも」と軽く言うと、そそくさと車に乗り込むのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 ウラナスカは決して大きい島ではない。

 島にある唯一の町であるウラナスカ市は、総人口で5000人にも満たない小さな町だ。

 その為に観て回るものなど特に無く、気候が気候で有るため観光客が来るわけでもない。

 そのため達樹が連れてこられたのはホテルでは無く、彼等アーカムの職員が寝泊りしている宿舎であった。

 

 達樹が通されたのは然程広くはない部屋だった。

 6~7畳程度の部屋で、簡易ベットが付いているだけ。後は備え付けの椅子が有るくらいだ。

 他には目を引くような物は特に無く、文明の利器としてエアコンが付いているくらいだろうか?

 とは言え少し前から暖房を利かせていたらしく、部屋の中は快適な温度となっていた。

 

「助かったな。……幾ら何でも寒すぎるよ」

 

 達樹は自分がロシナンテを降りるときに持ってきた荷物を床に置くと、ベットに腰を掛けるようにして座った。

 荷物――と言うのは、翌日に向かう予定になっているシャドーモセス島へ持っていく装備が入った荷物である。

 スーツケースの形をしたその中には、まともに持ち運びをしたら確実に税関に引っかかるような物がてんこ盛りなのだった。

 

「今が17時30分。作戦開始は明朝8時丁度……」

 

 達樹は腕時計をチラッと見ながら、明日に始まる任務の事を考えていた。

 本来ならば急ぐべき所なのだが、今回はロシナンテを作戦の中継基地――所謂作戦司令室として使うことが決まっている。

 そのため、現在御神苗をアンカレッジに送り届けているロシナンテが引き返して来るまで待つことに成っているのだ。

 

「狂戦士……か」

 

 達樹は天井を見上げるようにして、かつて自分が戦った『狂戦士』のことを思い出した。

 幾つかのレーザーと、奇妙な破壊光線を発射する型の兵器……。

 そして動く生き物を敵として認識し、ただ只管に殺戮行動を繰り返す危険な代物だった。

 先輩である御神苗が戦ったのは、無数の生体レーザーとミサイル装備と言う風に、達樹の戦ったものとは型が違うが、とは言え厄介さでは然程の違いは無いのだろう。

 

 今回はそれ自体が相手ではないとは言え、それに近い物が相手と成るのだ。

 達樹はもしもの場合どうやって破壊するべきなのか? その事について頭を巡らせていた。

 

「前の時は思いっきりブッ壊そうとしてたら、勝手に自爆装置が作動したんだよな」

 

 何の意味が有って付けられた装置なのか解らないが、御神苗の倒したモノも達樹の倒したモノも、そしてかつてアーカムの研究所の一つで大暴れをした個体もだが、一定のダメージを加えると自爆をしてしまったのだ。

 そのため狂戦士に対するもっとも手っ取り早い対処方法は、爆発の衝撃に耐えられる場所で、徹底的に叩きのめす――となるのだが……

 

「今回のは叩きのめしても自爆はしないだろうからな」

 

 そう達樹は呟いた。

 今回の任務は『狂戦士』のデータを元に造られた戦車が相手なのだ。

 誰だって、自分達が使うものに自爆装置をわざわざ付けたりはしないはずだ。

 

「となると、出来る事は……」

 

 達樹がそこまで口にすると、

 

 コン、コン、コン。

 

 と、不意に扉をノックする音が聞こえる。

 達樹は軽く首を左右に振って気持ちを切り替えると、ノックをしてきた人物に「どうぞ」と言うのだった。

 

「失礼します」

 

 扉を開けて入ってきたのは達樹を出迎えた職員、トム・グリーンだった。

 彼は軽く笑みを浮かべると部屋に身体を滑り込ませて、その手に持っていたトレーを達樹の前に運んでくる。

 

「コレは?」

 

 食欲をそそる匂いと湯気が立ちのぼるスープ、そして幾つかのパンを載せたそれに、達樹は無意識に鼻をクンクンと動かしていた。

 

「いえ、まだ冷えているだろうと思いまして。……どうぞ」

「ありがとうございます!」

 

 達樹はパンっ! と手を合わせると、差し出されたトレーを受け取り、

 アッと言う間にパンやスープを食べ始める。

 

 スープはどうやらビーンズスープの類のようだ、各種の豆とベーコンが入っており、味付けはコンソメを使っている。

 特に腹が減りすぎていた……と言う訳ではないが、達樹の冷えた身体はそのスープでホンワカと暖かく成ったらしい。

 

 一つ目のパンを食べ終え、二つのパンに手を伸ばそうとしたとき、達樹はジッと見つめてくるトムに気がついた。

 『人が食事をてべている所など見ても、面白くもないだろう』と思う達樹だが、それで出て行けと言う程狭量ではない。

 そもそも今の自分は、世話に成っている人間なのだ、邪険に扱う訳には行かないだろ。

 

 達樹は出来る限り自然に笑みを浮かべようと、小さく咳払いをしてからトムへと視線を向けた。

 

「……何か?」

「いえいえ! その、大した事ではないのですが。私たちもこんなところで生活をしていると、他所から来た人との会話に飢えていまして」

 

 短く尋ねた達樹の言葉に、トムは慌てたように返事を返す。

 どうやら笑みを浮かべた達樹の顔は、思いの外怖いものだったらしい。

 まぁ達樹自身、自分の目付きが余り良くない(鋭い)ことは理解しているので気にもしていないが……。

 

 トムは少しづつ落ち着きを取り戻すように間を空けると、近くに有った椅子に腰を掛けた。

 

「大槻さんは、アーカム考古学研究所から此方にいらしたとの事ですが、もしかして何か新しい遺跡でも見つかったのですか?」

「は? 新しい遺跡?」

「えぇ。だって考古学研究所の職員なんですよね?」

「いやまぁ……確かにそうだって言えばそうですけど」

 

 トムの質問に、達樹は言葉をつまらせた。

 

 『アーカム考古学研究所』

 言葉の通りの事も勿論やっているが、基本的には古代文明の遺産を封印、管理するのが基本的な仕事である。

 とは言え、世間的には前述の様なことしか発表されては居ないし、アーカム内の職員でも遺跡に関して何も知らない人間の方が遥かに多い。

 今回達樹の世話係(?)をしているトム・グリーンも、そんな真実を知らされていない一人なのだろう。

 

「いや、その……なんて言うか。遺跡が見つかったというか、確認――みたいなものですよ」

 

 何とも歯切れの悪い説明をする達樹である。

 だが、喩え同じアーカムの社員でも、今回世話に成っている相手でも、達樹は本当の事を言う訳には行かない。

 古代文明の遺産は可能なかぎり秘匿されるべきなのだ。

 

「確認ですか? ……えぇっとつまり、新しい遺跡が有るかも知れない――と言うことですかね?」

「まぁ……そんな認識で良いと思いますよ」

 

 少しばかり硬い笑みを浮かべて言う達樹だったが、トムはそんな達樹の態度を察したのかそれ以上聞いてくることはしなかった。

 トムは「解りました」と意味深な言葉を言うと、軽く腕組をして口を開き始める。

 

「――私は海洋生物研究班に所属してるって言ったでしょ? 私がこの世界に惹かれたのはね、地球上の約7割を占める海、その海の中で生きている生命に興味を持ったからなんですよ」

「は、はぁ」

 

 突然に身の上話を始めたトムに、達樹は気のない返事を返した。

 とは言え、誰だって脈絡の無い話を始められては、そう答えるほかは無いだろう。

 

「例えば、昔から居ることは解っていても、どんな生活をしているのか? どんな生態をしているのか? そういった未知な物を調べていくことに私は感動を感じるんです」

「成程……未知な物への感動ですか」

「えぇ。大槻さんも、種類は違ってもそういった物が有るから、今の仕事をしてるんでしょ?」

「そう、ですね」

 

 達樹は『何とも困ったな』と思っている。

 今の仕事を始めた切っ掛け、それはそんなに『良いもの』ではないからだ。

 確かに達樹の先輩である御神苗などは、今の仕事の傍らにそういった部分を見いだしているのも事実だろう。

 だが、当の達樹はその事をそれ程に重要視しては居ないのだ。

 

 『助けたい』といった思いが有って、そしてその為に今の自分が有る。

 だからトムの言葉も理解はできても、本当の意味での共感は出来ないのだ。

 

 とは言え――

 

「確かに。今までに無いものを見られたら、それだけで興奮してしまいますね」

 

 達樹は本音を言うことはせず、やはり当たり障りの無い答えを言うのだった。

 

「ところでトムさん、一つ聞きたいんですが」

「お、私に質問ですか? なんです? トドやセイウチの生態についてですか?」

「……いえ、そうじゃなくて。この辺の気候について教えてもらいたんです」

「天気、ですか?」

 

 一瞬パッと表情を明るくしたトムだったが、達樹が天気の話を聞きたいというと、途端にその表情を曇らせる。

 達樹は『どれだけ語りたいんだ?』と思いつつも、取り敢えずトムからの言葉を待つのだった。

 

「――そうですね。今の時期ですと、やっぱり吹雪いてる時が殆どですかね。今もそうですけど、一旦こうなると最低でも数日間はそのままですから」

 

 トムはそう言いながら、軽く部屋の窓を指さした。

 達樹もそれに倣って窓の外を見るが、そこから見える景色は猛吹雪。

 恐らくは気温の方も、それに習ってかなりの寒さをしているのだろう。

 

「ってことは、暫くはこんな天気が続くってことですか?」

「えぇ。とは言っても、私は気象予報士じゃありませんからね。正確に天気を言い当てろって言われたら困りますが」

 

 軽く苦笑で返してくるトムだったが、しかしその言い分は恐らくは正しいのだろう。

 達樹は作戦が滞り無く行われるだろう事に少しの安堵と、そして作戦に変更がないことでのガッカリ感で微妙な表情を浮かべるのだった。

 

 結局トムと達樹が話をしたのはそこまで。

 これ以上突っ込まれたことを聞かれては叶わないと判断した達樹は、「すいません。疲れているのでもう良いでしょうか?」と言って会話を中断するのだった。

 話し足りない感のトムだったが、とは言え迷惑を掛けてまで会話をする気はないらしい。

 達樹の言葉に

 

「あぁ、これは気が回らずにスイマセンでした」

 

 等と、恐縮そうに言ってくる。

 達樹は少しだけ、そんなトムに申し訳ない気持ちに成るのだった。

 

 トムは達樹の食べ終えた食器を片付け、「それでは、ゆっくり休んでください」と言うと部屋から出て行った。

 時間は未だ夜中と呼ぶには早い時間。

 

 達樹は大きく息を吐くと、自分の持ってきた装備の確認をするためスーツケースを開けるのだった。

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

 達樹がウラナスカへ到着してから約半日、外は相変わらずの吹雪に見舞われていた。

 前日の予想通りとは言え、寒さにはそうそうなれる訳ではない。

 出来れば外になど出たくはないと言うのが本音だろうが、とは言えそうも言っていられない。

 

 達樹は任務でこの島に来たのだから。

 

 朝――と呼ぶにも未だ早過ぎる時間だが、シャドーモセス島へと向かう時間を考えれば仕方がないだろう。

 

 自身の持ってきた装備を身に付けた達樹は、ギュッと力を込めるように拳を握る。

 

「感度は良好。問題なく任務も出来そうだな」

 

 身体にはアーカム研究所謹製の特殊強化服、その上にタクティカルベストを着こみ、右腿にはホルスターを装着している。

 達樹はベットの上に置かれた拳銃を拾い上げ、スライドを引いて簡単な動作確認を行った。

 長いこと、達樹が任務で使ってきた愛銃『ベレッタM8045』だ。

 45ACP弾を使用するタイプで装弾数は少なめだが、そもそも今回は戦闘が目的の任務ではない。

 それ程に銃を使うこともないだろうとの判断だった。

 

 何度かスライドを引き、引いては引き金を引く。

 そんな事を繰り返していた達樹だが、特に動作不良などは見られない。

 達樹は小さく「よし」と言うと、弾丸の詰まった弾倉を手早く装填し、安全装置を掛けてから拳銃をホルスターにしまった。

 

「こっちも特に問題は無し。後は――」

 

 と一人で確認しながら言うと、達樹は他の装備――ワイヤー付きアームガードや予備弾倉にスローイングナイフ、それに大型のナイフ等……を身に付けた。

 そして最後に強化服と同系色のヘッドパーツを頭に被ると、達樹はグルッと首を回して自分の格好を見回していく。

 

 数秒ほど首を回して視線を巡らせていた達樹だったが、気になるところは無いらしく満足そうな表情を作る。

 

 『準備は出来た』

 達樹はそう考えると、チラッと壁に掛かっている時計を見つめる。

 作戦の開始までは然程時間も残されていない。

 

「そろそろ来るとは思うけど――」

「――大槻さん、こっちの準備はできてますよ!」

 

 達樹の言葉を遮るように、バタン! と無遠慮にドアを開いてトムが部屋に入ってきた。

 大方は時間通り。 だが、ノックもしないのはどうなのだろうか? と、達樹は思う。

 きっと少しばかり、その表情を歪んでいただろう。

 だがそんな達樹の心境などトムには解らないらしく、ただ目の前の達樹の姿格好に目を丸くしていた。

 

「大槻さん……。何ですかその格好? 銃まで持って」

 

 事情を聴いていないトムからすれば、今回の達樹は遺跡の確認のために来た社員の一人と言う事になっている。

 そもそもアラスカ半島のアリューシャン列島に遺跡が在るなんて話を聞いたことはないトムだが、とは言えそれはアーカム本社の言である。

 そういった疑問は取り敢えず放っているのだが、とは言え『遺跡の確認で拳銃は必要ないだろう』というのが彼の――いや、一般人の見解だろう。

 

 不可思議そうに達樹を見つめるトムの視線だが、達樹はそんなトムに対して

 

「あー……まぁ、コレは俺達の流儀みたいなものですから。余り気にしないでください」

 

 と言ってお茶を濁すのだった。

 トムは達樹の言葉に当然納得をした訳ではないが、それでも返した返事は「そうですか」と言うものだった。

 深く追求しても無駄だろう、と思ったのだ。

 

「じゃあ大槻さん、外に出てください。上からの指示通りスノーモービルを用意してありますから」

「解りました」

 

 達樹はコクリと頷いて返事をすると、二人は揃って部屋から出て行く。

 廊下は部屋とは違い、若干温度が低いようだ。

 達樹の頬に幾分冷えた空気が当たり、少しづつ達樹の意識をこれからの任務へとシフトさせていった。

 

「ところで大槻さん?」

「……なんです?」

 

 トムの言葉に対し、達樹は少し刺のあるような返事を返した。

 悪気があっての事ではなく、気持ちが仕事モードに切り替わっている事が理由だった。

 

 トムは達樹の返事に小さく苦笑いを浮かべると

 

「今日もブリザードが出てますけど……そんな格好で寒くはないんですか?」

 

 と聞いてくるのだった。

 達樹はそんなトムに、「あぁそういう事ですか」と逆に苦笑と一緒に返すのだった。

 

 アーカム社員の宿舎。

 そしてそこに有るガレージに到着すると、そこには一台のスノーモービルが置いてあった。

 既にエンジンは回っており、いつでも発進することが出来る状態になっている。

 

「本社から回してもらっていたやつですが……。機体スペックを聞きますか?」

「いや、いいですよ。多分聞いても解らないし」

 

 達樹はトムにあっさりと返事を返した。

 もっとも達樹の言ってる事は本当で、聞いたとしても先ず間違い無く理解出来ないだろう。

 そもそも達樹は――

 

「スノーモービルに乗るのは、今日が初めてですから」

 

 ――なのだ。

 達樹の告白に、トムは「は?」と声を漏らす。

 どうやら達樹の言った言葉の意味を理解できなかったらしい。

 

「まぁ、多分何とかなるでしょう。一応は此処に来る前に本を読んだし、見た目はバイクと然程変わらなそうですからね」

 

 言いながら『ポン、ポン』とサドルの部分を叩く達樹。

 トムはそんな達樹にかなりの不安を覚えた。

 

「それじゃあ、もう時間も余り有りませんから俺は行きます」

「もうですか?」

「元々、それほど時間を掛けていい事じゃないですから」

 

 達樹はそう言うと、トムにガレージを開けるように言った。

 開かれたガレージの外は当然雪景色。

 普通の人間の常識では、外での作業など推奨できない悪天候である。

 

 当然、普通の常識人であるトムなどはこのような天気の時に作業に向かう達樹の事を、『正気の沙汰ではない』と判断しているのだが、

 彼は良くも悪くも会社の人間なのだろう。

 上からの命令には従うべきとの判断なのだ。

 

 達樹はガレージが開かれたのを確認すると、ロシナンテで山本から手渡された小型端末――レーダーを使い始める。

 スイッチをいれた途端、画面の液晶には自身を表す光点と、そして周囲の障害物等が影と成って表示された。

 達樹はその画面を見て「ふーん」と小さく言うと、やはり『カーナビみたいな物』と言ったのは正しかったと判断するのだった。

 

 スノーモービルを押して外に持って行くと、達樹は颯爽と跨ってハンドルを握る。

 本――『楽しく取ろう運転免許 スノーモービル編』の内容を思い出しながら、達樹は各部に視線を巡らせた。

 

「ではトムさん、俺はもう行きます。半日ちょっとでしたが、世話に成りました。俺のことは……取り敢えず忘れたほうが良いですよ。多分アーカムでもそう言ってくると思いますから。それと、"コイツ"の代わりをアーカムの本社に請求しておいた方がいいですよ」

「へ?」

 

 風の音に紛れて良くは聞き取れなかった達樹の言葉に、トムは聞き直すように首を傾げた。

 達樹はそんなトムに対して口元を軽く吊り上げると、

 

「多分壊れて戻ってきませんから!」

 

 言うやいなや、スロットルを回した達樹は、そのまま吹雪の中を走り去っていった。

 慌てて「ちょ、ちょっと!?」と呼びとめようとしたトムだったが、その声が達樹に届くことはなかった。

 

 暫くの間(と言っても10秒程だが)スノーモービルの走り去っていった方角を見つめていたトムだったが、

 その後に大きく溜息を吐いて「やれやれ」と肩を竦めた。

 そして

 

「まぁ、予定通りって事なのかな?」

 

 と口にすると、徐に懐から一つの通信機を取り出した。

 既に通信する相手への周波数合わせは済んでいるのか、トムは簡単な操作を行うと何者かと連絡をし始める。

 

「……もしもし、トムです」

《…………貴様か。何の用だ?》

 

 トムの声に、直ぐ様に返事が帰って来る。

 それは男の声である。

 声の感じから考えるに、30以上はいってそうな男の声だ。

 

《こうやって連絡をして来たということは……私の言ったとおりに成ったのか?》

「あ、はい」

《フフ、そうか》

 

 通信機を通して頷いて言うトム。

 男にはそんな姿は見えないだろうが、思ったとおりに事が運んだからか不気味な笑い声を上げた。

 

 トムは通信相手の事を全く知らない。

 ある日自分の元にやって来て、『1週間以内に、アーカム本社から誰かが来るようだったら教えてくれ』と、そう言ってきただけの相手だ。

 本来ならばそんな事は無視するべきなのだが、男はそんな内容に金を払うと言ってきた。

 それも自分がビックリするような多額の額を……だ。

 しかも、内容自体もそれ程に難しい事ではない願い。

 トムはほんの少しばかり悩む素振りを見せたものの、その男の頼みを聞き入れることにしたのだった。

 

 そして昨日、男の言うように本社から大槻達樹がやって来た。

 

「あの、何故本社から人が来たときに教えて欲しいなんてことを――」

《そんな事を知ってどうするつもりだ? お前は、ただ言われたことをやって金を貰う……それに不満でもあるのか?》

「い、いえ。そんな事は……」

 

 興味からか、それとも後ろめたさからか。

 トムは男に問い掛けようとしたのだが、男の言葉に口を噤んでしまう。

 男は押し黙ったトムに対して《フン》と鼻をならした。

 

《直ぐに金の手配はしてやる。それと外に出るための用意もな》

 

 コレはトムから男に願った事だった。

 今いる場所から出ていきたい。

 達樹には海洋生物について語っておきながら、トムはその実、今のこの場所から逃げ出したいと考えていたのである。

 

 そしてトムは、多額の報酬と同時に、この島から抜け出すことを条件として男に提示していたのだった。

 

「早速のこと……あ、ありがとうございます」

《なに、気にするな。時間は今から2時間後、ウラナスカの港に迎えを寄越す……船ではないがな。遅れずに来ることだ》

 

 礼を言うトムに、男は予定を告げると通信を切った。

 トムは通話の切れた通信機をしまうと、達樹の走り去っていった方角を見つめる。

 

「まぁ……結構な金も入るし、海洋生物の研究はアーカム以外でも出来るからな」

 

 トムはそう言うと、簡単な手荷物を纏めるために宿舎へと戻っていった。

 この時、トムがした会話の内容は他の人物が知ることは決して無い。

 何故ならその2時間後、トムは頭を銃で打ち抜かれて死んでいたからだ。 

 

 冷たい吹雪の中、凍った海の上に野ざらしになっている姿を市民に発見されるのだった。

 

 

 



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04

 

 

 アラスカ半島アリューシャン列島フォックス諸島沖の孤島、シャドーモセス。

 強烈なブリザードが吹雪き、天然の要塞に成っているこの場所にある米国基地を、一人の少年が眺めるようにして見ていた。

 

「……ったく、こんなに寒いってのに外に出ての歩哨とか……あの連中も良くやるよ」

 

 双眼鏡を片手に呟くように言ったのは、大槻達樹である。

 アーカムの任務を受けてから翌日、さっそく現地へと飛ばされた達樹は一路ウラナスカ島へと向かった。

 そこで御神苗と別れた達樹は約半日程その身体を休め、その後に凍った海を渡ってシャドーモセス島へと上陸を果たしたのである。

 

 達樹が敵に発見されること無く島に上陸出来たのは一重にブリザードのお陰とも取れるが、

 こうも強く吹雪っぱなしでは流石の達樹もヘコタレそうである。

 

「俺はこのAMスーツ(アーマード・マッスル・スーツ)を着てるからそれなりに平気だけど、御神苗さんは大丈夫なのかね?」

 

 達樹は自身の腕周りをポンっと叩くと、アンカレッジへ向かった御神苗を思い出して言った。

 

 さて、AMスーツとは何か?

 俗に精神感応金属(オリハルコン)と言われている特殊金属を使って造られた、特殊戦闘服のことである。

 通常の数十倍の力を発揮することが出来るうえ、防刃、防弾、防水、防火、防電、防寒性能を有する優れものである。

 達樹の着ている物はその新型であり、瞬発力を高めたタイプのものだ。

 

「……しかし」

 

 と、達樹は再び双眼鏡を覗きながら小さく口にする。

 どうやら、何らかの違和感を感じているらしい。

 彼の感じている違和感とは

 

「何で奴ら、アメリカ軍のくせにM16装備じゃないんだ? あれはフランスのFAMASライフルじゃないか」

 

 視界の向こう側で、歩哨をしている白服の兵達。

 彼等が持っている装備が、何故か揃いも揃って米軍の正式採用銃M16ではなく、別の銃であった。

 別にM16でなければ絶対におかしい……とは言わないが、達樹はその装備内容に違和感を感じずには居られなかった。

 

「これが潜入任務じゃなくて強襲任務だって言うなら、さっさと攻撃を仕掛けるんだけどな」

 

 物騒なことを平然と言う達樹だが、とは言え基地の詳細な規模や目的の物の有無も解らない状況では、

 大っぴらに行動に移るわけにも行かない。

 

「暫くは隠密行動ってわけだな……」

 

 達樹はそう言うと、自身の着込んでいるベストに双眼鏡を仕舞って立ち上がった。

 そして歩哨をしている者たちに意識を向けながら、物陰に隠れるように移動していくのだった。

 もしも外が吹雪いていなければ――こんな何も無い場所である、今回のような潜入方法では直ぐに見つかっていたかも知れない。

 だが今回は天候に恵まれ、視界はかなり悪い。

 たとえ眼を凝らしたとしても早々に見えるものではないだろう。

 

 基地をグルリと囲むように成っている壁に到着した達樹は、

 自身のアームガードに搭載されているワイヤーを壁の上部に向かって射出した。

 うまい具合に爪が壁に喰い込んだのを確認し、達樹は内蔵されているモーターを回して自身の身体を持ち上げていく。

 

 丁度頭半分が壁から覗けた辺りだろうか、不意に吹雪の中に幾つかの声が混じっているのを達樹は感じた。

 それと一緒にヘリのローター音もだ。

 達樹はローター音に当たりをつけ、そちらに視線を向けた。

 すると、そこには数人の白装束の兵隊と、それとは異なる服装の人物が3人居るのだった。

 

 一人は30前後ほどの男。

 

 金色のクセのある髪の毛を肩あたりまで伸ばしているが、

 その身体は鍛えられており、服の上からでも男が素人ではないことが一目で解る。

 ……ただ、とてつもなく寒そうな服装(袖切改造軍服)をしてはいたが。

 

 もう一人はその男とは違って長いコートを着込んでいた。

 と言っても、趣味の良いトレンチコート等ではなく、軍等で支給される官給品。

 緑色の素材を使ったものであり、街中ではきっと目立ってしまうものだろう。

 もっとも――

 

「アイツ……機械化小隊(マシンナーズプラトゥーン)?」

 

 達樹は男の手足に目が行き、思わず言葉が漏れてしまう。

 

 遠目で良くは解らないが、男の手足は人のそれとは明らかに違う。

 固く頑強な金属の手足は鈍色の光沢を放ち、血の代わりにオイルが流れる鉄の身体。

 

 米国が遺跡発掘によって獲得した技術で造り上げた、人造の戦闘兵士である。

 

「確かに此処はアメリカの基地だからな、連中が居てもおかしくはないか。とは言え――」

 

(仕事がやり難そうだな)

 

 達樹はそう心で呟くのだった。

 

 さて、そんな前述の二人と比べると、明らかに場違いのような人物が最後の一人だった。見るからに華奢な体、身長も恐らくは160程度しか無いのではないか? と言うほどに小柄である。

 色素の薄い髪の毛に、身体を覆うように羽織ったコート。

 その人物はどう見ても

 

「女? それも子供か? あれは」

 

 そう、子供にしか見えなかった。

 とは言え、それも遠目からの確認であって顔の形などで判断した訳ではない。

 近づいてみれば、実は随分年上だった――なんて事も有るかも知れない。

 

 達樹はヘリポートへ続く壁を上り、今度はワイヤーを使ってゆっくりと下に降りていくのだった。

 そして息を殺し、気配を殺して物陰に潜んで、ある程度の距離まで近づいていく。

 

 距離にして10m程。

 残念ながら立ち位置的に先程の女(?)の顔を確認することは出来ないが、そこまで近づいた達樹は、雪が積もっているコンテナの影に隠れて聞き耳を立て始めた。

 

「――さて、本当にこんな吹雪の中を出撃するつもりなのか?」

「するしかあるまい。この基地には、他に航空戦力など無いのだからな」

「吹雪の中でハインドを駆り、迫ってくるF15とドックファイトか……正気の沙汰ではないな」

「ふん。だがそれも、俺なら出来る」

 

 機械化兵の言葉に、男は自信たっぷりで言い返した。

 風速10m以上の風の中、ヘリを使って戦闘機と空中戦……。

 達樹は『本気でそんな事を言っているのか?』と、眉間に皺を寄せる。

 

 これは言葉で言うほど簡単なことではないからだ。

 ヘリはメインローターで機体の上昇と下降、そして前進等を行う。

 そして後部に付いているサブローターは機体の制御。

 だがその操縦はシビアで、横殴りの風などがあるとそれだけで機体の制御は困難になる。

 

 しかも今は雪が一緒に舞い視界も悪く、その中で戦闘機と戦う。

 

 少なくとも達樹の中での常識では、そんな事をするのは有り得ない――非常識だと成っているのだ。

 だが、少なくとも男はそうは思っていないらしい。

 その自信に満ちた表情が、それを物語っていた。

 

「ホワイトハウスの連中が、こう動くことは予測済みだ。俺達の事も、『メタルギア』の事も、連中は表には出したくないだろうからな」

「フフフ、それはそうだろう。もしこんなモノが造られている事が、世間に知られれば、アメリカの威信は地に落ちるだろうからな。国家間の関係は兎も角、間違いなく世論は黙ってはいないだろう」

 

(なんだ? ホワイトハウス? それにメタルギアって)

 

 聞こえてくる二人の会話に、達樹は首を傾げて頭の中で呟いた。

 恐らくは『狂戦士』を元に造ったという二足歩行型戦車の事だろう……と達樹にも予想がついたが、『鉄の歯車』といった呼び名に何とも嫌な感じを受けるのだった。

 

 男は機械化兵の言葉に、「フン!」と軽く鼻を鳴らす。

 

「そんな事は『俺達』、FOX HOUNDにはどうでも良い事だ。重要なのは、連中が要件を受け入れること。そしてその先の目標である、『OUTERHAVEN』を実現させることだ。その為に――」

「解っているさ、リキッド。俺達は目処がつくまでは、お前達に協力をする。それが、今回の上からの命令だからな。だが……お前も、我々との約束を忘れるなよ?」

「約束は守る。そもそも、俺達にはあんな物が有ったとしても、何の役にも立たんからな」

 

 リキッドと呼ばれた男はそう言うと、近くに居た白服の兵に時間の確認をする。

 どうやらそれなりに時間が押しているらしい。

 

「では行ってくる。留守の間を頼む、バーンズ少佐」

「今の私はただのバーンズだ。既に少佐ではない」

「そうだったな」

 

 そこで会話を打ち切ると、リキッドはヘリに乗り込んでいった。

 ローターの回転数が上がり、風を切るローター音が大きくなっていく。

 ヘリはそのまま上昇を始め、そしてアッと言う間に飛び去っていってしまった。

 

 それを見送ると、白服の兵達はさっさと基地内に戻っていってしまう。

 その場に残ったのは機械化兵のバーンズと、そして一人の女だけだった。

 

「フン、リキッドめ……アウターヘブンだと? そんなモノを創れる等と本気で思っているのか? だとすれば、随分と愚かしいことだな」

 

 バーンズは空を見上げ、吐き捨てるようにそう言った。

 すると女のほうが、自然と立ち位置を変えて達樹の視界に入ってくる。

 

 一瞬、達樹はその女の顔に視線が釘つけに成った。

 まるで身体をハンマーで殴られたような衝撃が駆け巡る。

 一目惚れ? あるいはそうとも言えるかも知れない。もっとも、そんな良いものでは決して無いのだが。

 

「…………」

 

 不意に、女が無言のままに達樹の隠れているコンテナへと視線を向けた。

 咄嗟に顔を隠すことが出来た達樹だが、見つかっていた時のことを考えると心臓が激しく動く。

 

「どうした、オリヴィア?」

「……いえ、何でもありません」

 

 暫く視線を向けていた女――オリヴィアだが、バーンズの問に首を左右に振って答えた。

 バーンズは少しだけ考えるような素振りを見せたが、直ぐに「まぁいい」と口にする。

 そして「行くぞ」と言うと、踵を返して基地内へと戻って行った。

 

 それに続くように歩き出すオリヴィアだが、一瞬「――クス」と小さく笑みを浮かべて戻って行くのだった。

 表に出ていた者達が基地内に戻っていったのを確認した達樹は、コンテナの影から出てきて溜息を吐く。

 

「……気づかれたのかな?」

 

 達樹は小さく呟くようにそう言った。

 そして、『潜入して早々に妙な事を聞いたものだ』と、達樹は溜息と同時に思う。

 

 先程のバーンズとリキッドと言う二人の男の会話。

 これだけでも、アーカムの情報との齟齬がかなり出ていることが分かる内容だ。

 

 達樹は基地施設内への潜入の前に、今しがた手にした情報をロシナンテへ確認するべきだと思うのだった。

 

 

 第04話 ヘリポート~

 

 

《どうしたんだ大槻?》

 

 ヘッドパーツに内蔵されたスピーカーから、山本の声が聞こえてくる。

 達樹は基地の壁に寄り掛かるようにしながら、今回の指令所となっているロシナンテへ通信をしたのだ。

 

「山本さん? ……実は気になることがあって」

 

 通信機の向こう側に向かって、達樹は今しがたの出来事を伝えて言った。

 バーンズという機械化兵、そしてリキッドと言う男の会話内容。

 そしてFOX HOUNDという部隊のことだ。

 

《FOX HOUND? ……その男は、確かにそう言ったのか?》

「え、えぇ。聞き違いでなければ、確かにそう言ってましたよ」

 

 確認するように聞いてくる山本の声に、達樹は頷いて返した。

 

《…………》

「あの、山本さん?」

 

 急に言葉を詰まらせる山本に、達樹は怪訝そうに名前を呼んだ。

 

 『FOX HOUND』と言う名前を達樹は知らないが、どうやら山本はその部隊のことを知っているようである。

 そしてその雰囲気から、恐らく自分達にとって都合の悪い相手なのだろう。

 

 FOX HOUND

 アメリカが抱えているハイテク特殊部隊で、特殊技能を有する少数精鋭の部隊である。

 設立当初はスパイ・エージェントの能力と、高い戦闘遂行能力を有する兵士といった人員が求められたのだが、現在では前述の『特殊技能』を有する者達で構成されている。

 

 もっとも、達樹がそれを知らないのも無理はない。

 

 FOX HOUNDという部隊は、現在から数年前にザンジバーランドで起きた事件の影響で、殆んど壊滅に近い状態に成っていたからだ。

 

《実はな大槻、少し前から此方でも得ていた情報なんだが……裏が取れずにいた事があったんだ。エルメンドルフ空軍基地に向かった優からの情報でな、基地から2機の戦闘機が飛びだったと言うことだ》

「アラスカから? それって……」

《時間的考えると、お前の居るシャドーモセスに向かったんだろう》

 

 ハインドで出て行ったリキッドという男。

 山本が言うにはその出撃理由が、アラスカの空軍基地から飛び立った戦闘機だと言う。

 達樹は『成程、そういう事が……』と思うが、だが同時に『何故?』と思うことがある。

 

「でも、どうして同じ米軍の基地を襲撃するなんて」

 

 常識的に考えれば、FOX HOUNDもアメリカの身内である。

 それにも係わらず、何故アラスカにスクランブルが掛かるのか?

 

《それに関しても情報はある。数時間前、ホワイトハウスに一通の声明が届いたらしい》

「声明ですか? ……なんだか、嫌な予感がしますけど」

《その予感は当たっているぞ。内容は、アメリカの一部隊が蜂起して核搭載戦車を奪取した――というものだ。その部隊はアメリカ政府に対し、24時間以内に現金10億ドルと『ビッグボス』の遺体の引渡しを要求したらしい。……でなければ核攻撃を行うとな》

 

 『アメリカの一部隊』というのは、話の流れからしてFOX HOUNDの事なのだろうが、達樹は核を撃つなどといった物騒な話に頭を抱えてしまう。

 どうしてテロをやろうといった人間は、こうも思考が単純なのだろうか? と。

 

「現金は解るとして……ビッグボスって?」

《お前は知らないかもしれないが、アメリカの軍内では伝説的な英雄だった男だ。もっとも、表沙汰に出来ない話が殆んどだがな。数年前に中東で死亡したと聞いていたが……》

「遺体なんか残しておいて、アメリカは何考えてるんだよ」

《さぁな。兎も角、その声明の発信場所がシャドーモセスであり、それを行った部隊が――》

「――FOX HOUND」

《そういう事だ。エルメンドルフからのスクランブルは、シャドーモセスへの攻撃の為に行われたのだろう》

「そういう事なら、御神苗さんの方はハズレでコッチが本命って事ですかね?」

《そうとも言い切れないが……可能性は高いな。優には一先ず、ひと通り調べるように言ってある。新しいことが解ったらコッチからも連絡しよう》

 

 達樹は内心「やれやれ」と言った風に息を吐いた。

 米国内で勝手に無茶をやって、その皺寄せがこうして来ているのだ。そんな時に自分の出動が重なるとは、運が悪いとしか言いようが無いだろう。

 

《大槻、FOX HOUNDは一筋縄では行かない奴らだ。十分に気をつけろ。それから――自分の任務を忘れるなよ? お前の任務は遺産の破壊と封印だ……解ったな》

「了解」

 

 念を押すような山本の言葉に、達樹は短く返答をすると通信を切るのであった。

 

 

 

 

 

 



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