サキサキを大好きな後輩の話。 (ま~べる)
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サキサキを大好きな後輩

総武高校の屋上の主。一年の間で最近流れている噂だ。曰く、屋上には主がいる。曰く、この高校を締め上げているだとか。曰く、毎日抗争が行われているだとか。その全てを確かめたものはいないが、少なくとも一年の中で屋上に近づこうとするものはいなかった。そもそも屋上は鍵が掛かっており出ることはできない。だから噂はデマという結論になりそうだが、少なくとももうしばらくは続きそうだった。

そして、この噂の主というのが川崎沙希、俺の愛してやまない先輩のことである。

 

「川崎先輩、お昼一緒していいっすか!」

「だめ」

「へへ、あざっす!」

「話聞いてる?」

「それにしても今日もおいしそうなお弁当っすね!もらってもいいっすか」

「いいわけ」

「卵焼き一個だけ!」

「あっ、ちょっと!」

 

すこしきつそうな目、整った顔立ちに涙黒子がひとつ。青みがかった黒髪をうしろで一つにくくりあげ、改造した制服を着こなすその体はきれいな曲線を描き出るとこは出て引くところは引くといった完璧なスタイルの一つ上の先輩。あらゆるすべてが可愛く、同時にきれいさもあふれ出ている。押しに弱い。可愛い。

 

「はむ…うまっ!先輩の卵焼きめっちゃうまいっす!」

「…そう?ならよかった、今日実はだしを変えてみてね、それで」

 

おいしいと聞いた瞬間に破顔するのが可愛すぎた。やめて、俺のライフはもうゼロよ!いやでも可愛いの死体撃ちならむしろ来い、何なら俺から行くまである。

お弁当の味付けという全然女子高生らしくない話題で一人盛り上がる先輩。可愛い。そし自然な流れで途中から弟さんの話がはじまる。楽しそうに弟の昨日の様子を語る先輩が愛おしすぎてたまらん。うーんこの。

 

「って聞いてる?」

「もちろんっすよ!俺が先輩の話を聞いてないわけないっすよ!」

「…そ」

「あれ、先輩照れました?いやー可愛いっすね!」

「うっさい、ぶつよ?」

 

ぶつよ、といいながら俺のふとももを殴る先輩。もうぶってるんだよなぁ。

 

「先輩、もうぶってますって」

「あ?」

「さーせんした」

 

半笑いで先輩を小突いてみると猛獣でさえ逃げ出しそうな鋭い眼差しで場が一気に凍える。気のせいか温度が5度くらい下がった気がする。気のせいじゃない気がする。

 

「そ、それにしても、こんなおいしいものを毎日晩と朝に食べれるなんて弟さんは幸せ者ですねー!」

「…うん、そだね。私が作れたら、ね」

 

意味深にそうつぶやく先輩。顔には影がさしかかり心なしか苦しそうにも見える。

触れていいことなのかどうなのかわからず、触れてしまいそうになった手をおもわずひっこめる。あんなにも弟が、いや家族が好きな先輩が家族の話を振った時に喜々として語ってこないのはあまりにも不自然だった。ただの喧嘩中ならともかく、家族の深い部分の話となるとますます踏み込めない。第一に踏み込んだが最後地雷原に足を突っ込んだも同然、ギャルゲーで鍛えた俺のトークスキルは無に帰すどころか無の境地に至ってしまう。ここは慎重に、

 

「…せんぱ」

 

と、そこへキーンコーンという無機質な音が俺の切り出しをあざ笑うかのように学校を中心に辺りへと響く。なんだこのくそチャイムやんのかおら、と、やり場のない怒りに明後日の方向へ黒い眼差しお前はもう逃げれられまい。そうやってぐぬぬと唸っていると先輩が立ち上がり、

 

「昼休み終わったね、あんたも早く戻んなよ」

「あ、ちょ!先輩!」

 

それだけ言うと先輩はスッと立ち上がって屋上から校内へ入る古ぼけた窓を越え、中へ入っていった。

 

「…黒はきわどいなぁ…」

 

俺はというと先輩の魔のトライアングル、スカートの中の暗闇のその正体にバミューダトライアングルかのごとく心の中に嵐が来たせいで一歩も動けずその場に仰向けに倒れた。

えっっっっど。あまりの江戸さに徳川慶喜も江戸を終わらせてしまうま。死んでしまうま。俺のリリパッドの民がガリバーになってしまうま。

黒パンティを流出させないためにいっそのこと鎖国しちゃうまである。それあるー。

はたして高校生で黒のレースという凶器をスカートの中に潜ませる奴が何人いるというんだ。え、最近の高校生はみんな黒とかはいちゃうのん?

先輩の無防備さに一抹の不安を覚えるが、俺の中ではパンティ談義が始まっていた。

白か黒かTかパンティか、いやここでは敬意をこめておパンティ様と呼ばせていただくほうがいいのではってそうではない。

パンティの暴力に叩きのめされている場合ではなく、先輩の顔に影がかかったあの話について今は考えるべきだ。どうせ今から戻ってももう授業には間に合うまい、あきらめて座りなおした。

 

俺に出来ることはない。

 

結論は出ていたが、それでも川崎先輩のあの顔を見るとなんとかして力になりたいと思うところではある。堂々巡りの思考を繰り返し、瞳を閉じて君を思ったが、最後に思ったのは黒パンティのエロさだった。それだけでいい。そこで俺の記憶は途切れ、気づけば夕焼けに照らされ、キンッという金属バットの鈍い音とブラバンのプァーという気の抜けた音から逃げるように小窓から校内に入り、おとなしく帰宅した。帰りに少し先輩のクラスを覗いたが、金髪のイケイケ縦ロールと赤メガネ女子がケータイをいじりながら談笑しているだけで、そこに先輩の姿はなかった。

前に見た先輩の席は、先輩の心の内を示すように夕焼けに照らされその寂しさを強調させていた。




続きます。多分。


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いろいろあって川崎沙希は拗ねている

川崎先輩が屋上で暗い顔をしたあの日から先輩は徐々に屋上に来なくなった。

俺の言動が原因なのだろうかと気を落としてしまいそうになるが、先輩は忙しくなったから、としか言わず、ちょっと軽く探ってもみたが、軽く一蹴されて終わってしまった。ほんとうにどうしたというのだろうか。ほんとうなら、先輩に詰め寄って問いただしたいところではあるのだが、それをして先輩に嫌われてはもともこもない。

それから少し経ったある日、俺が昼に購買へパンを買いに行こうと靴箱へ行くと、鞄を持った川崎先輩が気怠そうに校内へ入ってくるところだった。

目の下には化粧でごまかしているだろうが確かに隈が深く刻まれているし、片方垂れた鞄の肩紐は憂鬱さを彷彿させていた。雰囲気が剣呑としており、まわりが声を掛けづらくさせていた。そもそも先輩に声をかけるやつはいないか、先輩ぼっちだし。ぷぷっ。

と、そんなことを考えていると先輩の人を殺す瞳が俺をまっすぐと射貫く。

 

「…あぁ、あんたか。なんか不躾な感じがしたんだけど」

「いや先輩ちょーこわいんで声をかけようかちょっと迷ったんですけどね」

 

 

あっぶねー。いやなにそのセンサーちょーこわい。間違っても先輩ぼっち乙なんて言おうものなら気づけば床と添い寝なんてことになりかねない。

にしても正面から見た先輩はいつも以上に制服をよれよれに着崩し、ヤンキーというよりもバーのカウンターの隅でウイスキー片手にタバコを吸っていそうな雰囲気がある。見た感じ今登校してきたようだ。

 

「先輩遅刻っすか?めずらしいっすね」

「そーでもないけどね、まあアンタには関係ないことだし」

 

先輩の投げやりな発言に少々心に靄がかかる。確かに俺には関係ないし、先輩にとって俺なんてどうでもいいのかもしれないがそんな言い方をしなくてもいいだろうに。

今の先輩の発言から鑑みるに最近屋上に来なくなった理由は同じように遅刻をしてきているからだろう。そんな深い隈まで作って一体夜中に何をしているというのだろうか。

とりあえず先輩の発言にへらへらっと笑ってそっすけどー、とすねてますという風に返す。

 

「先輩はもうお昼食べたんっすか?」

「もう食べてきたけど、あんた購買に行こうとしてたんじゃないの?」

「いやそうなんすけど、実はそんなおなかすいてないからお菓子でも買いに行こうかなーって。まあ先輩と会えたからもうそれもいいんすけどね」

「ふーん、ちゃんと食べなよ。じゃ、あたしもう行くから」

「えー、お昼まだ時間ありますし屋上行きません?最近先輩あんま来てくれないですし」

「いや、あんたが勝手に行ってるだけでしょ?あたしちょっと寝たいから、じゃあね」

 

あ、ちょっとという俺の静止の声を無視して先輩は行ってしまった。あれー?これはもう詰み?ギャルゲーで初めて好感度下がったときくらい絶望的なんだが?いや一周回ってツンデレか?あ、そう思えばなんだか回復して、いやこないなぜんぜんだ致命傷すぎるってまじで。。

先輩のじゃあねが頭の中で呪いのように反響し、まるでひと時の別れどころか関係の終わりを意味しているかのようだった。

すぐに思考の膠着状態から脱すべく先輩を追いかける。

 

「せんぱぁあああああい!!」

 

廊下を全力ダッシュし階段を一気に駆け上がり、そのゆらゆらとゆれる尻尾のようなポニーテールを認めると後ろから飛び掛かる。

 

「隙あr」

「ふっ」

「げふぅっ!?」

 

999HITといわんばかりの蹴りをもらう。死ぬわ!と心の中で突っ込みを入れる。おかしい、こういうのって体勢を崩してtoらぶってもいいんじゃないんだろうか。そしてさっき失った好感度をばっかじゃないのなんて言いながら取り戻すイベントが定石なんじゃあないんだろうか。

王道を行かない先輩さすがっす。マイ大阪ガスくらいさすが。

 

「…またあんた?今日はもう眠いって言ったじゃん」

「先輩実は男なんじゃ…」

「ぶつよ?」

「ごめんなさい」

 

ぱんぱん、と制服のほこりを払い落し、さて、と切り出す。

 

「先輩、髭剃りかしてくれませんか」

「デリカシーもへったくれもないね、もぐよ?」

「どこをっ!?」

 

ぎらっと、鋭い目つきが下半身にちろっと向いた気がして思わず股を抑える。こころなしか俺の息子がいつもよりコンパクトになっている気がする。けっしてびびったわけではない。小型化は技術の進歩。つまり俺の俺も小型化することで成長、いややめようこの話は。

 

「っていうのは冗談で」

 

ここで手をボウリングの投球フォームのように上げ、ふぅっと息を吐き出す。

毎日。そうぼそりと呟き、いけると確信して顔をあげて、真摯な眼差しで先輩を見やる。

 

「毎日俺の朝食をぉ!!」

「これ以上ふざけると次はないから」

「うっすさーせんっした」

 

本気のトーンだった。本気と書いてマジと読む。なんなら冗談と書いてもマジと読んでいるまである。相手は死ぬ。

はぁ、と先輩は煩わしそうに溜息を吐くと、

 

「本当に、なにもないならいくよ?まじで眠たいから寝たいんだけど」

「…じゃあ、最近遅刻している訳を聞いても?」

 

先輩の本気の雰囲気に気圧されそうになるが、冷静に静かな声で切り出す。

きっとこれじゃあ先輩は話してはくれないだろうが、それでも先輩のことが好きである以上は聞いといておきたかった。

 

「あんたに言う義理はないし、何度も行ってると思うけどあんたには関係ない。これはあたしの、あたしの家族の問題だから話したくないし話すこともない。わかった?」

「…そっすかって簡単に引き下がるわけにもいかないんですよね、俺も」

「じゃあ、バイトが忙しいの。これでいいでしょ?わかったらほっといて」

「せんぱっ!」

 

…行ってしまった。あ、これ完全に嫌われたやつ?

そこで俺の思考はフリーズしてなにも考えられなくなる。先輩の姿はもうない。昼休みの終わりを告げるチャイムが俺しかいなくなった廊下に虚しく響く。いつかと同じようにチャイムが鳴り響く様に苛立ちを感じる。

早く教室に入れー、という教師の間延びした声すら無視をして、屋上に足を運んでその日を終えた。

 

屋上で一人おもう。

結局、俺と先輩との関係はそこまで深くはなかったということだ。わかっていたことではあるが。俺に出来ることはないし、先輩も俺を頼っているわけではない。

ただ俺が先輩を好きだからという理由だけで踏み込むのは三流のすることだ。

 

――けど。

――だけど。

 

好きな人の役に立ちたいと思うのは当然で、結局なにをすればいいのかわからなくなって。三流のやり方しか思い浮かばなくて、そんな自分が歯痒いから。

 

気づけば俺は、屋上に行かなくなった。




続きます。たぶん。


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後輩はいつになく動揺している

屋上に行かなくなったといったな、あれは嘘だ。

いや嘘ではないのだが。というか今のを言いたかっただけなんだが。

そもそも屋上に行ってたのはそこに行けば川崎先輩に会えるという純粋な下心だったわけだから、先輩が行かなくなった屋上にはもう意味がないというか価値がないというか。

いや言い過ぎだろおぉい。

 

冒頭から騒がしくなってしまったが、要は屋上に行くのはやめたが先輩に関わろうとするのはやめていないということだ。

雑草は踏まれて強くなるというからな、俺も雑草先輩を見習おうといったところだ。

関わるといっても正面から行っても嫌われてしまったので逆効果になるだろうから、とりあえず先輩に関する情報を集めるところから始めた。

おい誰だ今ストーカーって言ってやつ。訂正しろ熱烈なファンの間違いだ。

いや一緒かそれは。

なんにせよそんなこんなで先輩が夜更かししてなにをしているのかも理解した。

バイトが忙しい、というのはあの時ぱっと思いついた嘘ではなかったらしい。

どうやら深夜のバイトで『エンジェル・ラダー 天使の階』とかいうイカしたバーで働いているようだ。

(かい)と書いて(きざはし)とよむとかなろう小説かっての。

それに、先輩が言っていた通り遅刻もあれだけではなく、割と常習犯だった。

けれど、学校は割と怠惰な感じだが、予備校にはきちんと言っているようで、学校が嫌になってバックレているわけではないようだった。

そういや先輩の弟さんは中学三年生、入試の学年なわけだからそのまま考えれば入学費か塾か、だな。

それに先輩の予備校費もある。家族思いの先輩のことだからおそらく予備校費が一番臭いか。

自分のケツは自分で拭くよってな感じで。

うっわぽいな。あまりに先輩っぽい。夕立にも勝らず劣らずのぽいぽい具合だ。

なんなら先輩のあだ名をサキサキからポイポイにしちゃうまである。

一文字も掠ってないけど。

そもそも先輩にあだ名があるのか怪しいところだが。友達いないし。

なんにせよお金に関することなら個人が勝手に割り込んでいいわけないし、割り込めるわけもない。

調べた結果、わかったことは現実の非情さと俺の無力。なにも変わらない。

 

そしてさらにわかったこと。

それは先輩に――。

 

「ひ、比企谷。その、この前のお礼にお弁当作ってきたん、だけど」

「…え、まじ?あ、ありがとう…ございます…?」

 

男どぅえきてるぅ~。

 

先輩に男どぅえきてる~。

おいおいおい…

おい?

誰ですか誰なんですか誰でしょう?

おい誰なんだよその根暗みたいな陰キャ。いや暗すぎるだろって暗に陰って2倍かよって。

バイバインもびっくりの暗さ。

ほら奥のピンク髪の先輩も、え、そいつはないっしょって顔で見てる。

ってなにあの先輩パイパイにバイバインかけたんですかっていうくらいでかい。

なんならパイパインに名前変えるまである。

とか考えてたらこの前の金髪ドリル先輩がめっちゃ睨んでいる。

俺の防御力はがくっと下がった。こわすぎて死んでしまうま。

 

さて、こいつはびっくりだ。

エッチなカップのHカップから意識を戻し、目の前の情緒へ傾ける。

おっと余計目つきがきつくなったがエスパーかあのドリル先輩。

黒い眼差しで逃げられなくなりそうだ。

まったく、先輩来てないかなーと偶々という名の下心で教室の前を通ったらまさかの仕打ち。

どこかの杉田ボイスが残念だったな!といいながら頭の片隅から浮かんだが水鉄砲で軌道を変えて撃墜した。

どうして俺の前に立った。いや自分から先輩の教室に立ったけど。

 

話を戻そう戻したくないけど。

現実を見よう。

まてまて、先輩いつの間にそんなクラスメートと交流持ってたんっすか。

最近バイトで忙しいんじゃ?

え、その根暗先輩運命を変えちゃったのん?

そんな乙女心に現を抜かしている暇なんてないんじゃ?

え、あるからこうなってる?ソウデスネー。(白目)

 

「ねえ君、一年生だよね?さっきから中見てるけど、どうかした?誰かに用?」

「はい!?え、あっ、えっと」

 

しまった、思ったよりも長居してしまったらしい。

中にいたこの間の赤メガネ先輩に声をかけられてしまった。

まさか声をかけられるなんてシュミレートしているはずもなく、盛大にコミュ障を発揮しながら割と大きめな声で返事をする。

当然昼休みで教室に人がいないわけもなく、周囲や教室内は騒然としていたが、突然の大声に近くの生徒たちの視線を集めてしまった。

もちろんかなり恥ずかしい。

慌てふためきながら横目で川崎先輩を確認すると丁度俺と目があった。

 

――しまった。

 

そう思った途端、先輩が口を開きかけたのを尻目に赤メガネ先輩になんでもないです、と早口に伝え、そのまま自クラスへと階段を上がり駆け込んだ。

 

早きこと島風の如し、と雑念を払うように雑念を増やした。プラマイプラスつってね。

 

コンビニのショボいビニール袋を机の上に投げ、切れた息をそのままにしてイヤホンをつけ、菓子パンの袋を破りそのまま頬張った。

焦燥と息苦しさが混じって、もはや何を食べているのかもわからなくなりながら、その勢いに任せて飲み込む。

先輩と気まずくなっている今、あそこで長居したのは阿保だったと自分を叱責し、同時に逃げることもなかったんじゃないか、なんて考えてしまう。

と、そこでイヤホンがただの耳栓になっていたことに気付き、つながれたウォークマンを手慣れたように操作して適当に聞き始める。

気分は絶不調、もう恋なんてしないなんて言ってしまいそうになるが、昼のおすすめなんつって流れるのはお願いマッスル。

俺も筋肉にお願いしちゃおうか。

めっちゃモテたい、先輩から。

 

とか思ったんだがよく考えれば先輩と目があった瞬間逃げたから先輩絶対気を悪くしてるやん…。

 

おぅのこと島風の如しつってね。おぅのことってなんだよ。

 

そんな自問自答を繰り返し、やっと呼吸も整って菓子パンの味もわかってきたころ、なくなったゴミ袋をコンビニ袋にまたもどして次のカレーパンに手を出す。

人生とはカレーパンの如く辛さと甘さの織り成しなんて言ったのは誰だったろうか。

そうやってぼんやり考えながらもっきゅもっきゅとパンを食べ、やがて昼休みが終わるころには先輩との気まずい関係すらも終わらないかなぁなんつって。

まあ、終わるわけがないけど。関係自体が終わりそうだし。

そもそも先輩があの人にもし恋をしているのならば俺はそれを応援するだけ。

先輩の幸せが俺の幸せなんて、そんな独善的な痛い勘違いをしているわけではないんだが、それでもそう思わざるを得ない表情(カオ)だった。

表情って書いてカオって読むとエロ同人みたいだな。どうせ先輩もあの根暗先輩とそういうこと致しちゃうんでしょう!?

エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!

そう考えたら寝取られたみたいで興ふn、げふんげふん。

 

そんなことよりも先輩とどう仲直りしたものか。

今日もなんだかんだ言って先輩を避けちゃったのは事実だし、このまま先輩と話せないのは心苦しいものもあるし。

あんな恋する乙女のような先輩の顔見ちゃうとねぇ、って思ったり。

この気持ちが嫉妬なのかどうなのかももうわからない。

 

はたして先輩とあの屋上で昼ご飯を食べることを取り戻すときが来るんだろうか。

もしあの根暗先輩と先輩が恋人になったとして、あの屋上はもう俺たちの場所じゃなくなるんだろうか。

先輩は本当に俺のことを何とも思っていなかったのか。

そう考えると、俺の半年の思いが、俺と先輩との関係が、根暗先輩とのひと時に勝ってしまったのなら。

 

そこまで考えて、手がりきんでいたこと気付いた。少し汗ばんで、握りしめた袋についたカレーパンの油が手に光沢を加える。

不快感を振り払うため、徐に立ち上がり手洗いへと向かった。

考え出すときりがなく、果てがない悩みばかり増えていく。

鏡の前で、はあ、とため息を一つこぼし、蛇口捻って水を出す。ついでに俺と先輩の微妙な空気も水に流せたらいいのに。

と、そこで聞き覚えのある古い機械音が。

結局、空回りし続けた俺の頭にブレーキをかけたのはいつもの無機質なチャイムだったとかかっこつけたはいいが完全に遅刻である。

おそらく、俺の机には菓子パンのごみが詰まったビニール袋。授業態度はバッドバターバスト間違いなし。

次のテストではアレクサンダー大王を書くことを心に決め、そのまま授業をサボタージュした。

口にはまだ、人生の辛い味が残っていた。




サキサキ視点を書くのもありかもつってね。
続きます。たぶん。


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未だ彼らは戻らない

最低だ、俺って…。

 

独り言ちながらスマホのキーボードのバックスペースを連打する。

先輩への謝罪文を考えて早六日。

この間は避けちゃってごめんなs、、から一向に進まないライン。

自分のチキンっぷりに驚く今日この頃。

そろそろ仲間意識でからあげクンが食べられなくなりそう。そうなったらLチキ買お。

 

「はぁ、まいったなぁ~」

 

今日は日曜日。来週までこの気不味い空気やら雰囲気やらを持ち込むと、そろそろ先輩レスで倒れるやもわからん。

ともすれば何とか今日中に決着をつけて来週からは今まで通り、はちょっと厳しそうだからせめて話せるくらいにはなりたいと思う所存。

時間はまだ昼、先輩を誘って直接謝ってそのまま遊んでいい感じに、いや、そもそもあってくれるかも怪しい。

男できてるし。

どぅえきてるぅし。

ちくしょうハッピーみたいにハッピーになれないぜ。

 

だけどまあ、今変に悩んでいるくらいなら直接会ってギクシャクしながら話したほうがいいのか…?

六日間にわたる俺の脳内円卓会議にようやく終わり見える。

腹をくくりラインを送ろうと開きっぱなしの先輩とのトーク画面をみて、ふと何か増えていることに気づく。

 

『暇?』既読

    10分前

 

…。

……。

………ヒエッ。

 

アイエエエエ!先輩!?先輩ナンデ!?

しかも既読して10分もたっとるやないかぁああああい!!!

 

やべえやべえやべえ完全に既読スルーじゃんなんて送ろう!?

いやもう正直に言うしかないのか?なんて?

 

…先輩のこと考えてたら既読スルーしてました☆ミ

 

いや死ぬなこれ。

ええいままよ。

 

すみません、今気づきました。超暇っすよっと。

よし、後は用件だけ聞いてっと。

 

え、いまからららぽ?

いや丁度いいけど向こうから呼び出しって何!?

死ぬ?俺死ぬの!?彼氏出来ました的な報告?

いやどっちにしろ死ぬよ俺。

 

まあ、いくけどさ。

 

 

―――そんなこんなでやってきましたららぽーと。

もう目の前にはスタバで買ったエモい映えそうなやつを飲みながらスマホをいじいじしている先輩。ここだけ偏差値5みたいな文章なのは、今時という魔法の言葉の前には無力。皆無に等しい。

同時に相変わらずかっこ可愛い綺麗という美の暴力の化身みたいな先輩にすっげぇガン飛ばされてる俺も無力。

これにはナチスの化学も永遠の二番手にならざるを得ない。

 

「で、10分間既読スルーした言い訳は?」

 

そんな現実逃避もつかの間、先輩の鋭い眼差しに相も変わらず俺の防御力はぐんぐん下がる。もはやノーガードなまである。なんだかちょっとえっちだね。

 

「実は先輩にラインを送ろうと考えてたらラインが来ていたのに気づかなくて…」

 

目をそらし、両手の人差し指をつんつんしながら先輩に物申す。余計に怒気のオーラ的なにかが増した気がするが気のせいだと信じたい。先輩はひょっとしてスタンド使いなのだろうか。なわけないか。そういうの疎そうだし。

 

「ふーん、じゃあ前に学校であたしと目があった瞬間逃げたのは?」

「いきなりアッパー打つんですねぇ!」

 

まだジャブ一個しか来てねえよ。せっかちか。

大体もうちょっと聞き方というかそういうのがあってもいいんじゃないかな。

まあいいけども。

そして生憎だがそれへの回答は持ち合わせていないしせいぜい謝るくらいで精一杯なのが本音だ。

自分でもなんで逃げたのかあまりよく分かっていない。

多分根底にあるのは嫉妬ってやつなんだろうけど、一言で片づけてしまうのは少々寂しいものがある。

 

「…すいません」

 

だから、かろうじて絞り出せるのはこれだけだった。

先輩から聞きたいことも山ほどあるし、先輩にいたことも山ほどあったけれど、先輩が抱えていた問題を自分から言いださない限りはそこに触れないほうが、きっとお互いいいことなのだろう。

第一、俺は知らない(てい)なのだから。

 

「…別に、あたしは怒ってるわけじゃないんだけど。」

 

じゃあなんでそんな不機嫌な声してるんですかねぇー。説教してる小学校の先生みたいな決まり文句を使うんですねぇー。あはー。

ちょいちょい現実逃避を挟みつつ先輩からの私怒ってませんよ攻撃をかわす。

もうすでにイライラマックスな気がするのはきっと気のせい。

ええ、きっと、もちろん。

そこへ先輩が、ただ、と繋げる。

 

「ここ一週間、屋上で一人でお昼食べたのが少し味気なかったから、どうしたのかなと、思ってね」

 

―――は。

 

かっっっわ!!

 

そんなん可愛いの暴力やん。

エターナルクッソカワイイ

一瞬で俺のつまらない意地は爆散する。

相手は死ぬ。

 

「それにほら、前にあたしあんたにキツイ態度とっちゃったから。それで怒っちゃったのかなって。だから、謝るのはあたしの方」

 

しおらしい先輩もまた乙ですなぁ!

こんなかわいい先輩百面相を見られるならつまらない意地でもはってみるもんだはっはっは。

それはさておき。

実際先輩が悪びれることなんて一片たりともありはしないのだから、それは正しておかねば。

 

「それはぜんぜんいいんすけど。いやー、てっきり俺が前先輩のクラスに寄った時、先輩同クラの人としゃべってたからあれ彼氏さんだと思って遠慮しちゃってたんっすけど。余計なお世話だったんすかね?」

「あー、比企谷のこと?あいつはただの、んーなんだろ恩人みたいなもんだよ。そっか、変に気を遣わしてたんだね」

 

そういうと先輩はクスッと笑い、俺にじゃあまた、一緒にお昼を食べよと提案してきた。

当然断るわけもないので二つ返事でその誘いに応じる。

これにはストレイト・クーガーもびっくり。

 

「さて、じゃあわだかまりもなくなったことだし、あんた買い物に付き合ってよ」

「え、それってデートってやつっすか!!行かせていただきまぁす!!!」

 

ちなみに言っておくと先輩の悩みの種を先輩の口からきけたわけではないし、俺としてはまだまだ聞きたいことはあるのだけれど、先輩とデートという至宝の前ではそんな些細な悩みは偏に風の前の塵に同じ。

んー、俺ってばちょろい。

 

けどまあ、それでいいのかもしれない。

掘り返して先輩との空気がまた重くなるくらいなら、俺は先輩にとって、少し気安い後輩としてのポジションを守り続けるほうが、先輩にとっても俺にとってもいいような気がする。

 

知らなくても、今がこのまま、続くだけなのだから。




感想とか来ててめっちゃ励みになります。
続くかもわかりません。たぶん。


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