実験作 語り物語 人と鬼 (語り手)
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実験作 語り物語 人と鬼

 おやおや初めましてのお方ですね?。

 ここは、私が見た物語を私の言葉で語る場所でございます。

 あなたは聞き手、私は落語家でいうところの噺屋のような役割を担っています、え? 私は小説を読みに来たんだって? まあまぁそんな殺生なことを言わんでくださいな。 

 こんな形で語る話という物があったっていいじゃないですか。

 

 今宵語るは、人と鬼の話。

 時代は古いかと思われますでしょうが、今回は皆様方と同じ時間を過ごしておりました。

 

 さて、鬼と言いますと皆様はどのような姿を想像するでしょうか?。

 大体が大きな体に二本の立派な角が生えた姿を思い浮かべるでしょうが、この鬼は違います。

 体は子供のように小さく、角も親指程度の大きさしかない異端の鬼でありました。

 

 人の住む町から離れた山奥で、ほかの鬼たちと共に暮らしておりましたこの鬼は、毎日を殴られ蹴られで過ごしてまいりました。

 鬼が悪いのでしょうか? いやいやよくある話ではありますが、自分達とは違うという考えは鬼たちにもあるのです。

 人間でも得体のしれない物は怖いものです、鬼にとっても当たり前のようにあるのです。

 

 そういうわけで、毎日つらい日々を繰り返していたのではありますが、とうとう耐えられなくなり里から飛び出していしまいました。

 

「こんなところはもう嫌だ!」

 

 などと、叫び声を上げながら勢い任せで出て行ってしまったのです。

 しかし、小柄な鬼とはいえまだ子供。

 慣れぬ山の中を歩き回り、野犬に襲われ、命からがら逃げれば空はもう真っ暗。

 泣きべそをかきながらなんとか山を下りますが、そこは灰色のアスファルト。

 鬼はよくは知りませんが、ここは鉄の塊である車という物が通るために作られた道だということは自明の理でありましょう、まあ鬼はそんなことは知りませんが。

 そこで鬼が突っ立ってると、まぶしい光が襲ってくるではありませんか。

 目に入る光はまるで太陽のようで、ジンジンと襲って立ち尽くしてしまいました。

 そこできぃっという甲高い音を立てて、鬼の前で車が止まりました。

 

「大丈夫!?」  

 

 と大きな声を出しながら出て来た人間は、赤い上着を着た若い女でありました。

 真ん中で蹲る子供を傷つけてしまったのではないか、と不安な気持ちを胸を締め付けています。

 

「よかった……怪我はないみたいね」

 

 と優しげな声を持って鬼に話しかけますが、鬼は何も答えません。

 もしかしてどこかに怪我をさせてしまったのかと思って、女は顔を覗き込みますが、小さいとはいえ人間にはない角が眼に入ります。

 思わずはねのけようとしてしまいますが、何とか耐えると急いで座席に乗せて車を走らせました。

 

 夜の山を、女と鬼は静かに走るのです。

 

 

 さてさて、今宵はここまでといたしましょう。

 またここでお客様にお話しすることがあれば、それはとてもうれしいことです。

 それでは、さようなら。

 



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