【完結】最強の聖騎士だけど聖女様の乳を揉みたいので魔王軍に寝返ってみた (青ヤギ)
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このおっぱいで聖女は無理でしょ

 魔王軍の侵略によって、いま世界は危機に陥っている。

 聖騎士である俺は、国と人々を守るため日夜戦い続けていた。

 

「聖女様。騎士団長、フェイン・エスプレソン。ただいま帰還いたしました」

 

 魔王軍との一戦を終え聖都に帰還した俺は、神殿で待っていた聖女様に膝をつき頭を垂れる。

 

「よく戻られましたフェイン。ご無事で何よりです」

 

 いつものように、柔らかで慈しみに満ちた声が迎える。

 

「此度の戦いも獅子奮迅のご活躍をなされたようで。さすがは聖都最強と謳われる《剣将》。聖女として感謝いたします」

 

「勿体なきお言葉。聖女様にお仕えする聖騎士として、当然のことをしたまでです」

 

「相変わらず謙虚なのですね。そういうところがあなたの良いところでありますが……。さ、お顔を上げてフェイン?」

 

 言われるがままに顔を上げると、両頬が少女特有の華奢な手で包まれる。

 目の前には聖女様のご尊顔。

 まだあどけなさの抜けない、それゆえに尊く美しい笑顔が向けられる。

 

「フェイン。あなたのおかげでまた多くの命が救われました。どうか、あなたに《聖神》のご加護がありますように……」

 

 瞳を閉じ祈りの言葉を口にする。

 聖なる光が肉体を包み、蓄積した疲労を癒やしていく。

 戦いを終えた聖騎士を慈しみ、祝福するその姿はまさに聖女の名にふさわしい。

 

 聖女様は俺を謙虚という。

 だが違う。

 俺という男は本当は誰よりも強欲だ。

 こうして間近で聖女様と触れ合える時間を、その笑顔を、自分だけが独り占めにしたいと思っているのだから。

 ああ、聖女様は今日もお美しい。

 男だけでなく、同性すらも虜にしてしまう完成された美貌は、いつまでも見つめていたいと思うほどに神々しい。

 

 しかし、俺の視線は聖女様の顔より下に移った。

 聖女様の美貌だけでも充分眼福だが、もっと凝視したいものがそこにはあったからだ。

 

 ああ、やっぱりいつ見ても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖女様のおっぱい、超でけええええ!

 

 でかい。でかすぎる。

 でけーな。本当にでけーな。

 なんなの、このおっぱい?

 いったい何カップあるんだ?

 露出の少ない聖衣を突き破らんばかりに発育した特大のおっぱい。

 歩くだけでたぷんたぷんと揺れる巨大なおっぱい。

 ああ、揉みたい。

 いけないとわかっていても、このおっぱいを……。

 

 聖女様のおっぱいを揉みたい!

 

 

 

 

 聖女ミルキース。

 いまや、その名を知らない者はいないだろう。

 そのおっぱいの大きさを知らない者もいない。

 いや本当になんだ、このバカでかいおっぱいは? ふざけているのか?

 このおっぱいで聖女は無理でしょ。

 一度でいいから揉ませてほしい。

 

 

 唯一にして絶対なる《聖神》に選ばれた聖女様。

 神聖不可侵の存在である彼女の乳を揉むなど、いうまでもなく異端審問レベルの背徳行為である。

 でもめっちゃ揉みたい。ダメと言われるほど揉みたくなる。ああ、揉みたい。

 ただのおっぱいじゃない。なんたって聖女様のおっぱいである。神聖なる聖女っぱいだ。

 

 なぜ聖女のおっぱいというだけで特別感が増すのだろう?

 なぜ伝承に語られる伝説の存在のおっぱいというだけで価値が増して見えるのだろう?

 興奮してしょうがねー。

 

 幼少時は辺境の教会で育ち、贅沢とは縁遠い質素な生活を送っていたそうだが……

 それでどうやってこんな凶悪なドスケベボディが育つんだ?

 穢れを知らぬ聖女として表舞台に出て、その特大おっぱいを民衆に見せ散らかした彼女。

 その清廉な精神と無欲な振る舞いは人々の感動を呼んだ。

 俺も感動から泣いた。

 こんなにも素晴らしいおっぱいを持つ美少女がこの世にいたのかと、思わず天を仰いで感謝した。

 

 美人な女性ならば貴族の中にも多くいるが、だいたいは高飛車の性格ブスだ。

 しかし聖女様にいたっては人格面にマイナス要素が微塵もなく、外見まで美人ときた。

 最強かよ。

 

 年端もいかない少女ながら透き通るような美貌、優しさが透けて見えるような穢れなき美貌。

 そして、おっぱいである。

 小柄な背丈や童顔に見合わぬロケットおっぱい。

 もう巨乳なんてものじゃない。爆乳というか魔乳レベルである。

 いや、聖女だから聖乳と呼ぶべきか。

 聖乳、超揉みたい。

 心優しくいい子な彼女のおっぱいを、淫らなことなんてほとんど知らなそうな無知でムチムチのおっぱいを揉んで揉みまくりたい。

 魔王の出現に合わせ聖女として目覚めたという彼女の奇跡のおっぱいを揉みたい。

 

「本日もご苦労様でしたフェイン。何か感謝の印をご用意しないといけませんね。あなたからご希望はございますか?」

 

「いえ、どうかお構いなく。聖女様のそのお気持ちが、わたくしにとっては充分すぎる褒美でございます」

 

 嘘である。

 いますぐ「では、そのご立派な乳を揉ませてください」と声を大にして言いたい。

 まあ、バレたら確実に火刑コースだから言えないけどね。

 

 本音を押し殺した素っ気ない返答を前に、聖女様は残念そうに微笑む。

 

「そうですか……。節制は聖騎士の美徳なのは承知ですが、たまにはワガママを言ってくださっても構わないのですよ? 神官たちはうるさいかもしれませんが、私は何も咎めませんから」

 

 ああ、聖女様は本当にお優しいな。

 こうして聖女様が直々に癒やしてくださること自体が、聖騎士にとっては法外の誉れだというのに。

 その上で褒美を用意しようとするのは彼女自身の生来の性格によるものだ。

 良くも悪くもまだまだ普通の少女としての感性が抜けきっていない。

 そんなところが、また人々に愛されている理由だが。

 

 改めてこんな心優しく美しい少女が人類の命運を握る存在ということに驚く。

 

 

 

 地平を埋め尽くす魔王軍。

 とうに人類が滅びていてもおかしくはない圧倒的な戦力差だが、それでもこうして無事でいられるのは、奇跡としか言い様がない聖女様のチカラのおかげだ。

 

 国を覆うほどの巨大で強固な結界は魔王軍の侵入を阻み、治せないとされた傷も病も『癒やしの波動』でたちまち回復する。

 聖神のチカラの一部を他者に授ける『聖女の加護』は、ただの人間を異能のチカラに目覚めさせる。

 そうして編成された聖騎士団の登場によって、人類は初めて魔王軍と対等に戦えるようになったのだ。

 

 希望とは、まさに彼女のことだ。

 そんな聖女様に、ふしだらな感情を向けるほど不敬なことはない。

 わかってはいる。だが、それでも揉みたい。

 普段から感謝してる救世主たる彼女の乳を――感謝の言葉と共に揉みしだきたいのだ。

 感謝のモミモミ。ありがとうおっぱいしたい。

 

 勘違いしないでほしいが俺の聖女様へ向ける忠誠心は本物だ。

 あの乳をぶら下げて世界を守り続けている彼女を尊敬している。

 柔らかそうで、でかいあの乳を見ながらその気高い姿に心酔している。

 心酔しつつ揉みたい。人々が彼女を女神のごとく讃えているように、俺も彼女の聖乳を讃えつつ揉みしだきたい。

 

 日に日に増していくそんな欲望は戦いで発散してきた。

 おかげで気づけば聖都最高戦力である十二人の騎士団長《十二聖将》の頂点に昇り詰めていた。

 だが俺は地位や名誉に興味はない。

 俺が望むのは、ただひとつ。

 聖女様のおっぱいだ。

 

 これまでは少しでも彼女の傍にいられるのなら、それだけで幸せだと思っていたが……欲望というものには際限がない。

 騎士団長としてお顔を合わす機会が増えれば増えるほど、聖女様と手を繋いでみたいとか、聖女様を抱きしめてみたいとか、聖女様の乳を揉みたいとか聖女様の乳を揉みたいとか聖女様の乳を揉みたいとか、やりたいことが溢れるように出てくる。

 もう最近はほとんどおっぱいのことしか頭にない。

 ああ、おっぱい……。

 

 こうして功績を挙げ続ければ、もしかしたら聖女様が俺を特別な目で見てくれるのではないかと内心期待していた。

 だが……それは彼女が聖女である限りありえない。

 彼女の愛は人類すべてに向けられるものだからだ。

 聖女様がその役目を終え、再び普通の女の子に戻れるのは、それこそ魔王軍との戦いが終結したときだけだろう。

 

 

 

 ……でもな~。アイツらいくら倒してもキリがないんだよな~。

 というか親玉の魔王が存在し続けている限り、死んでもいくらでも復活できるとか卑怯じゃね?

 これじゃ終わる戦いも終わらない。

 

 いや、そもそも敵の本拠地がどこにあるかなんて、とっくの昔にわかっている。

 だから全戦力を投入してさっさと攻め込んでしまえばいいのだ。

 これまで何度も神官たちに魔王城を攻めようと要請してきた。

 だが神官のジジイどもは許さなかった。

 なぜか?

 親愛なる聖騎士を失いたくないから?

 まさか。

 理由はもっと俗っぽいものだ。

 

 戦いが終われば、聖女様は普通の女の子に戻る。

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 人類の希望、聖女様を失いたくないがゆえに。

 正確には『聖女』という都合のいいシンボルを。

 

 いま人類は聖女様を中心にして回っていると言っても過言ではない。

 それは即ち、聖女様の権威を使えば、いくらでも政治を操れるということ。

 もちろん聖女様にそんな黒い意図はない。

 だが彼女に付き従う神官たちまで、愛国精神に満ちているとは限らない。

 というか、ほとんどの連中が聖女様の威を借りて国を好き勝手にしている老害どもだ。

 くそジジイどもめ。

 聖女様が世間知らずなのをいいことに、自分たちばっかり得するような決まり事を作りやがって。

 

 何が戒律だ。

 何が『聖神の加護を得るためにも節制して生きろ』だ。

 自分たちは影で飲んだくれているくせに。

 聖職者が聞いて呆れる。

 

 もしも聖女様が真実を知ったら純粋な彼女は大いにショックを受けることだろう。

 政治の道具にされたことよりも、自分がいたせいで神官たちが歪んでしまったことを悔やみ、自分を責めるだろう。

 聖女様には何の罪もない。

 彼女の良心を傷つけないためにも、これまで黙っていたのだが……

 

 しかし、いい加減に我慢の限界かもしれない。

 終わりの見えない戦いに身を投じるのも。

 人の善意を利用して腹を肥やす神官どもの悪政も。

 

 そして、聖女様のおっぱいを揉めない日々も!

 

 

 

 

 あ~あ~。

 なんで俺は聖騎士になんかになっちゃったんだろう……。

 はい、聖女様とお近づきになりたかったからですが何か?

 でも、いくら聖騎士として頑張ったところで、この思いが報われることはないんだよな……。

 これじゃ何のために戦っているのか、わからなくなってくる。

 

「やめちゃおうかな聖騎士……」

 

 自室でひとり、そう呟く。

 俺と違って純粋な使命感に燃える他の聖騎士連中が聞いたら、間違いなく激怒するだろう。

 けど俺は真剣に引退を考えている。

 これ以上、聖都という名の腐敗した国に忠義を尽くすのも癪だし。

 届かない思いを抱えたまま聖女様のお傍でムラムラする禁欲生活も辛い。

 

 しかし親父から引き継いだ領地はとっくに魔王軍に占領されているしなぁ……。

 引退したところで行く当てもない。

 元侯爵家の長男もこれじゃ形無しだ。

 

「はぁ~。いっそ俺が魔王軍だったら戒律なんて無視して好き勝手にできたのにな……」

 

 またもや他の聖騎士たちが激怒しそうな失言をこぼす。

 でも本当に、いっそ魔王軍側に付きたいくらいである。

 悪者になれば開き直って欲望のままに生きられるではないか。

 思う存分、聖女様にあーんなことや、こーんなことができたかもしれない。

 

「……ん? いや待てよ?」

 

 何気ない自分の発言で気づいてしまう。

 

 あれ?

 なっちゃえばよくね?

 魔王軍に。

 

 だってこの国に尽くすメリットとか、聖女様と一緒にいられること以外ほぼ皆無だし。

 節制という名のみすぼらしい食生活。肉や酒はもちろんダメ。

 エロいことは禁止。子作りするときは快感を覚えちゃダメ。

 金銭は「聖神様に捧げるものだ」とか言ってほとんど税収されてしまう。

 

 いや、改めて考えると本当にうんざりするな。

 ちっとも人間らしい生活できてないじゃん。

 もちろん神官どもは影で酒池肉林の日々で税収した金も奴らが好き放題使っている。

 まさに聖都という名のブラック国家。

 ……あ、うん。まったく守る価値ねーわこんな国。

 

「よしっ、寝返ろう!」

 

 魔王軍になってこの国を滅ぼそう!

 そして聖女様の乳を揉もう!

 

 聖女様への忠誠心はどうしたって?

 ……知るかあああああああああああああああああああああ!

 おっぱいの前では男など皆ケダモノだ!

 というか、このまま終わりのない戦いに生涯を捧げて、政治の道具にされ続ける聖女様が気の毒じゃないか!

 だったらいっそ俺が引導を渡して、彼女を聖女の任から解き放ってやろうじゃないか!

 そして俺の手で女性として生まれたことの喜びを教えてあげようじゃないか(物理)!

 

 さらばだ聖都!

 さらばだ戦友たちよ! そしてたったひとりの妹よ!

 お前たちが住まう場所を滅ぼすのは心苦しいが……

 

 クソッタレな国家に所属しちまったことをどうか悔やんでくれ!

 

 俺は()に生きる!

 

  ◆

 

 翌日。

 聖女ミルキースがいつものように朝の祈りを捧げていると、慌ただしく駆け込む足音が神殿に響く。

 

「聖女様! 大変です!」

 

 猫のように丸い目と薄桃色の髪をおさげにした少女がミルキースの背に声をかける。

 神官たちがいれば「聖女様の祈りを邪魔するとは!」と懲罰という名の鬱憤晴らしが始まるところだったが、幸いここにはミルキースと駆け込んできた少女しかいない。

 なによりミルキースにとって少女は、いつだって歓迎すべき数少ない同年代の友人だった。

 祈りを終えて、快く友人を迎える。

 

「シュカ。どうされたのですか? そんなに慌てて」

 

「た、大変なのです! あ、兄上がっ、その……」

 

「フェインがどうかされたのですか?」

 

 またシュカの兄に対する心配性が始まったのだろうか。

 フェインの義理の妹であるシュカ・エスプレソン。

 見た目は愛らしい少女だが、これでも義兄のフェインと同じく《十二聖将》のひとりである。

 もともと貧困街に生まれた孤児だったが、剣の素養と過酷な環境を生き残る気骨を買われ、代々武官の一族であるエスプレソン家に拾われたのだという。

 その才覚はこのとおり結果として表れている。

 

 同じ孤児の生まれということで、ミルキースとシュカは意気投合した。

 こうして二人きりでいるときは彼女たちも己の身分を忘れて《ただの少女》として会話に華を咲かせることができた。

 兄を心から敬愛するシュカが相手だと、自然と話題はフェインに偏る。

 なかなか自分に素の姿を見せてくれないフェインの意外な一面をシュカの口を通して知ることができるため、ミルキースは彼女との時間を気に入っていた。

 今日もまたフェインのことで楽しい会話ができるのかと期待していたミルキースだったが……どうやらシュカの様子を見るに、穏やかな内容ではないようだった。

 

「いったい何があったのですか?」

 

 ミルキースは笑顔を引っ込め、聖女としての態度に切り替える。

 シュカも一介の騎士として語り出す。

 

「今朝、兄上がいつまでも訓練にやってこないので部屋に伺ったのですが……そうしたら、もぬけの殻でして……」

 

 ミルキースは驚いた。あのフェインが訓練を無断で休むなど、いままでなかったことだ。

 

「しかも、机の上にこんな書き置きが……」

 

 そう言ってシュカは一枚の紙切れを差し出す。

 

「まず、聖女様に見せるべきだと思いまして」

 

「いったい何が……」

 

 恐る恐る折りたたまれた紙を開く。

 中にはこう書かれていた。

 

 

 

    一身上の都合により魔王城に向かう。

    聖都には二度と戻らない。

    聖女様万歳。

 

 

フェイン・エスプレソン

 

 

 

 簡潔な文章。荒々しい筆跡。

 まるで書き手の「居ても立っても居られない!」と言わんばかりの激情が伝わってくるような書き置きに、ミルキースは息を呑んだ。

 

「フェインが、たったひとりで魔王城に?」

 

「兄上は悪ふざけでこのようなことは決して書きません。そこに書かれていることは、真実かと……」

 

「そんな……」

 

 勝手な魔王城への干渉は、神官たちによって禁止されている。

 破ればいかに《十二聖将》といえども、階級を剥奪されてもおかしくはない。

 それを承知で、フェインはこの聖都を出た。

 それが意味することは……

 

「シュカ……もしや、フェインは……」

 

「はい。聖女様のご想像どおりかと。……くっ、兄上は、そこまでして……」

 

 誰よりも兄を理解するシュカは、すでにこの蛮行の裏にある真意に察しがついていた。

 

「兄上は……聖都の決まりに刃向かってでも、魔王を討つ覚悟を決めたのです!」

 

「ああっ! そんなっ! フェイン!」

 

 ふたりの少女は泣き崩れた。

 

 フェインは悟ったのだろう。

 いまの保守体制のままでは、いつまでも魔王軍との戦いを終わらすことができないと。

 そのためには、国を裏切るしかなかったのだ。

 さぞ葛藤したことだろう。信心深き彼が、母国を捨てるなど。

 だが結果はどうか。

 フェインは誰ひとり巻き込まず、単騎で魔王城に向かったのである!

 彼が忠義と愛国心で特攻したことは、書き置きの最後に書かれた『聖女様万歳』が物語っている!

 

 シュカはむせび泣いた。

 兄の勇気ある決断を思えば思うほど、ただでさえ溢れんばかりの尊敬の念がますます湧いてくる。

 

「ああっ兄上! あなたこそ真の聖騎士です! でもわたくしは悲しい! なぜこの妹めにひと言でも打ち明けてくださらなかったのですか!? わたくしなら共について行ったのに!

 ……いえ、そもそもこうなるまで兄上の葛藤を理解してあげられなかった自分が憎い!」

 

「シュカ、どうかご自分を責めないで。これはすべて私の責任です」

 

「なにをおっしゃいますか!? 聖女様に非はなにひとつございません!」

 

「いえ、私のせいなのです。……ついぞ神官たちの横行を止めることができなかった私の未熟さが、この結果を招いたのです」

 

「っ!? 聖女様、あなたは……」

 

「ああ、シュカ、許してください。自分が大人たちの操り人形であると知りながら、ついぞこの国の在り方を変えられなかったことを……」

 

 ミルキースはとうに気づいていた。この聖都のいびつな体制に。

 むろん彼女も何もしてこなかったわけではない。

 知恵が足りないなりに知恵を絞り、これ以上国情が悪化しないよう影で対策してきた。

 己の権力の許される範囲で度の過ぎた蛮行に走る神官を罰してきた。

 だが、所詮は辺境育ちの少女。慣れない(まつりごと)をするには限界があった。

 

 ミルキースが学んだことはひとつ。

 人間とは、いくらでも相手の裏をかく悪知恵を絞り出せるのだということ。

 

 それでもミルキースは人間に失望することなく、聖女としての役目を全うした。

 たとえ都合良く利用されていようと、立場を放棄して罪なき人々を見捨てるわけにはいかなかった。

 清く正しく、聖女としての道を貫けば、きっといつか神官たちの心にも響き、この国の在り方を変えると信じてきた。

 

 ……だが現実はどうか。

 いま自分たちは、掛け替えのないひとりの聖騎士を失おうとしている。

 

「……もはや迷っている猶予はありませんね」

 

「聖女様?」

 

「フェインが覚悟を決めたのなら、私も同じように覚悟を決めなくては」

 

「では……」

 

「はい。――魔王城に総攻撃を仕掛けます」

 

 もはや神官たちに何と言われようと決定を覆すつもりはない。

 すべての決着をつけるときが来たのだ。

 

「これまでにない過酷な戦いになることは必至でしょう。それでも行ってくださいますかシュカ? いえ……《翼将》シュカ・エスプレソン」

 

「もちろんです。《十二聖将》の名にかけて、必ずや勝利を!」

 

 その後、他の聖騎士たちにもフェインのことを話すと全員一丸となって決戦に向かうことを承諾してくれた。

 神官たちはこの期に及んでもなお保守的な苦言を口にしたが、ミルキースのこれまでにない圧を前にして怯み、しぶしぶ首を縦に振った。

 

 そもそも聖騎士たちの間に広がる熱気を静めることは、もはや誰にもできなかった。

 フェインの行動を機に、日々不満を溜めていた聖騎士たちの心に等しく火が着いたのだ。

 

「我らも《剣将》に続きましょうぞ!」

 

「おうとも! ここで臆していては聖騎士の名折れ!」

 

「フェイン殿こそ真の敬虔なる聖騎士なり!」

 

「おお万歳! 《剣将》フェイン万歳!」

 

 聖騎士たちを死地に送ることにミルキースはいつだって葛藤してきた。

 今回に限っては敵の本拠地である。決行には大いに悩んだ。

 しかし……彼らの目に宿る戦意を見れば、きっと大丈夫と信じることができた。

 

「皆さん。どうか無事に戻ってきてください。あなたたちに《聖神》の加護がありますように……」

 

 聖女としてのミルキースは願う。

 聖騎士たちの帰還を。

 

 少女としてのミルキースは願う。

 自分にとって特別な青年の無事を……

 

  ◆

 

 神殿にひとりになったミルキースは再び祈りを行う。

 聖都の主戦力が出陣したいま、聖都に張った結界をより強める必要がある。

 聖騎士たちを信じて送り出した後に聖女ができることは、チカラなき市民たちを守ることだ。

 ミルキースは己の使命に殉じようと精神を研ぎ澄ましていたが……

 

「フェイン……」

 

 どうしても、ひとりの青年に思いを馳せてしまう。

 

 聖女の慈愛は万人に向けられるべきもの。

 特定の誰かを特別扱いするなど、本来ならあってはならない。

 そうわかっていても、ミルキースは少女としての感情を抑えることができずにいた。

 

 ミルキースは己を恥じる。

 自分は聖女失格だ。

 この有事になってもなお、幼き頃からの思いをついぞ絶てずにいるのだから。

 

 

 

 フェインはきっと覚えていないだろう。

 聖女となる前……まだ辺境の教会の孤児だった頃。

 まだ人同士が争っていた時代。

 異国の騎士に教会を攻め込まれたとき、少年の騎士に命を救ってもらった。

 それが国境を守る武官の一族、エスプレソン家の長男であることは世間知らずのミルキースでも知っていた。

 自分とあまり歳も変わらない少年が、大の大人相手にも怯まず剣を揮い、無双する勇姿は少女を虜にした。

 以来、ミルキースにとってフェイン・エスプレソンはずっと思慕の対象だった。

 

 だが相手は侯爵家の長男。

 ただの孤児である自分がお近づきになれるわけがない……はずだった。聖女として覚醒するまでは。

 

 聖都で憧れの少年と再会したとき、ミルキースは運命を感じずにはいられなかった。

 だが悲しいかな。

 身分の差という壁は、ここでも立ちはだかった。

 聖女と聖騎士である以上、自分たちがそれ以上の関係になることはない。

 

 だからこそ、少女はときどき夢想してしまう。

 何のわだかまりもない、もしもの関係を。

 

「んっ……」

 

 このままでは祈りに集中できない。

 そういうとき、ミルキースはひとつの発散法を行う。

 それさえすれば不思議と邪念は晴れ、聖女としての意識に切り替えることができた。

 その方法とは……

 

「あぅ、あっ……」

 

 聖衣を突き破らんばかりに育ったふたつの巨峰。

 ミルキースはおもむろに、それを鷲掴んだ。

 甘い快感が総身に走り抜ける。

 

「はぅ……あぁん……」

 

 いつの頃から始めてしまい、夢中になってしまっているこの行為。

 俗世に疎いミルキースは、それがどういう名の行為なのかは知らない。

 だが、ひどく罰当たりな行為だということは本能的にわかっていた。

 

 それでもミルキースは止めることができない。

 これまでの人生で最も至福の瞬間とさえ思える快感の波に抗うことができない。

 

「ああ、なんてはしたないことを……お許しを……ああ、どうかお許しを」

 

 許しを請いつつも、ミルキースは過剰に育った膨らみを小さな手で揉みしだき続ける。

 

「ああっ……フェイン……」

 

 握りしめるその手が、かの聖騎士のものだと思えば思うほど、譫言のように甘い声色が漏れる。

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 だがもしも……フェインが強引にでもこんな真似をしようものなら、自分は決して拒めないだろう。

 いや、むしろ喜んで……

 

「んっ……あぁああああぁあっ!」

 

 神殿に甘い嬌声が響き渡った。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 事を済ませたミルキースは艶っぽい息を吐きながら祈りの姿勢を取る。

 ここからは聖女として祈りに集中しなければならない。

 ならないのだが……今日に限って、なかなか余熱が引いてくれない。

 それはやはり、こうしているいまもフェインが危険な目に遭っていると考えてしまうからだろう。

 

「ああ、フェイン、どうか……」

 

 無事でいて……と彼の生死を案じつつ、ミルキースは再び邪念を発散すべく己の膨らみに手を伸ばした。

 

「~~っ♡」

 

 神殿に似つかわしくない甘い嬌声が再び響き渡る。

 

 このおっぱいで聖女は無理でしょ。

 ある意味で、フェインのその見立ては間違っていないのだった。

 

  ◆

 

 一方その頃。

 無事、魔王城に辿り着いたフェインは門番の前で足止めをくらっていた。

 

「だからさ~何度も言ってるじゃん。俺は聖都を裏切ってきたんだって。頼むから魔王様に会わせておくれよ~」

 

「信用できるか馬鹿者! だいたい裏切った理由が『聖女の乳を揉みたいから』だと!? ふざけているのか!? そんなバカみたいな理由で国を裏切るやつがどこにいるんだ!」

 

「ああああぁん!? てめぇ俺の悲願をバカにするのか!? 上等だぁ! こうなったら力ずくで魔王の部屋に行ってやろうじゃないか! 道を空けろオラァ!」

 

「ぎゃああああ! こいつ滅茶苦茶だああ!」

 

「門番がやられたぞ! 者ども出会え出会え!」

 

「かかってこいやぁあ! 聖女っぱいを揉むまで俺は死なねえ! 聖女様(のおっぱい)万歳!」

 

 かくして。

 衝動に従っていれば悲願の成就は間近だったにも関わらず、すれ違いにすれ違った結果、ただ事態をややこしくしただけのフェイン・エスプレソン。

 そんな男の頭の中には、やはり聖女の乳を揉むことしかないのだった。

 




 異世界ファンタジーって書いたことのないので習作として書いてみました。
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──改稿前──
叛逆の聖騎士


※こちらの回と次話の間章はボツにした『改稿前』のものです。
 正規の続きは『改稿後』の章から投稿されたものになります。


 魔王城は険しい渓谷の深部にそびえている。

 人の足で入り込むのはもちろん、馬の足ですら走破するには困難を極める土地だ。

 常に悪天候で日の明かりは滅多に差さず、昼間でも夜のようにドンヨリとしている。

 こんなところを好きこのんで定住地にしようとする人間はいない。

 だからこそ魔王軍はこの地を拠点に選んだのだろう。

 

 もっとも、聖騎士としてのチカラを使えば無事に辿り着くことは容易だ。

 なんせ空を飛べるからな。

 クソッタレな聖都を抜け出して、まっすぐ魔王城にやって来た俺は、さっそく交渉を持ちかけていた。

 

「というわけで俺を魔王軍に入れてくれ魔王様!」

 

「うん、君はいわゆるバカだね」

 

 魔王城の最深部。

 高い天井に届かんばかりにでかい椅子の上でふんぞり返っている魔王が呆れたように溜め息を吐く。

 

「単騎でこの城を攻めてきて来たのかと思ったら……まさか本当に傘下に加わる気だったの?」

 

「だから最初からそう説明してるじゃないか。でも誰ひとり聞いてくんねーから、ここまで来るしかなかったんじゃないか」

 

 警戒する気持ちはわかるが、どいつもこいつも「聖都最強の聖騎士が簡単に国を裏切るわけねーだろ!」と聞く耳持たずなのはどうなのかね。

 しかも俺の「聖女様の乳を揉みたい!」という崇高な悲願をバカにしたもんだから、思わずプッツンしてしまった。

 結果的に、強行突破する形になったが……

 まあ結果オーライということで。

 

 というか……

 

「まさか魔王が女の子だったとはな」

 

 いったい、どんな化け物が待ち構えているかと思いきや。

 最深部にいたのはどう見ても人間にしか見えない少女だった。

 それも聖女様にも負けない、とびっきりに美しい少女だ。

 

 聖女様の美しさが『清廉』ならば、こちらはまさに『魔性』と呼ぶべき美しさだった。

 艶光る長い黒髪。流し目の似合う赤いツリ目。際どいところだけを隠した露出の多いドレス。

 蠱惑的な美貌と艶めかしさは、奮起してやってきた勇者の戦意を削いで、そのまま魅了してしまいそうな危うさがあった。

 

「長年人類を苦しめてきた魔王の正体がただの小娘で拍子抜けしたかい?」

 

 少年のような口調で、されど声色はあめ玉を転がすように愛らしく「くすくす」と余裕げに笑う魔王。

 見た目は確かにただの少女である。

 だがその纏うオーラとカリスマ性は少女のものではない。

 

 対面した瞬間にわかった。

 意識を強く持たない者は、この場で卒倒すると。

 魔王の覇気に屈服してしまうと。

 

「……へえ、ぼくを前にして立っていられるのか。さすがは聖都最強の聖騎士だね。ここまで来れたのもまぐれではないらしい」

 

 魔王は興味深げに俺を眺める。心臓を鷲掴みにされるかのような眼光。

 確かに常人ならば、このプレッシャーに耐えられないに違いない。

 鍛えた聖騎士ですら膝を屈するかもしれない。

 

 俺も正直に言うと危なかった。本当にギリギリだった。

 もし少しでも……

 

 

 

 

 魔王に乳があったら即死だった!

 

 

 

 

 ふぅ、危ない危ない。

 この美貌でおっぱいまで聖女様クラスだったら興奮して意識が飛ぶところだった。

 いや、ないわけじゃないが聖女様に比べるとペッタンコも同然だ。

 ナイチチに救われた。感謝かんしゃ。

 

「……なんか失礼なこと考えてないかい?」

 

「気のせいですよ魔王様」

 

 おっと、いけないいけない。

 これから上司になる御方を怒らせてはいけない。

 うんうん、聖女様ほどじゃないけど魔王様も素敵ですとも。

 乳はともかく、黒ニーソに包まれたムッチムチの絶対領域とかすごくエロいと思います。

 

「お、お待ちください魔王様! その者を信用してはなりません!」

 

 改めて交渉に入ろうとすると、話の腰を折る介入者がやってくる。

 ボロボロの身体を引きずってまでやってきたのは、先ほど相手した魔王軍の幹部。

 確か四天王のひとりで名前は……

 

「なんだ、まだ動けたのか。《デカケツ》のルチェ」

 

「《氷結》のルチェだ! おのれ人間め! どこまでも私を愚弄しおって!」

 

 青みがかった銀髪を怒気で逆立たせて「ぐぬぬ」と悔しげに睨んでくるルチェ。

 彼女もまた魔王と同様に、見た目だけなら人間にしか見えない美女である。

 

「くっ! 私は、まだ負けてはいない! 魔王様をお守りせねば!」

 

 しかし、その気骨は武人そのもの。

 たとえ瀕死の重傷を負っていても、主人である魔王を守るため、這いつくばってでも戦おうとしている。

 

 さすがは魔王軍最高幹部である四天王のひとり。

 同じ武人ならばその忠義に満ちた行動に感服することだろう。

 だが俺は別のところに感服していた。

 

 この女……

 やはり身体にぴったり張りつくボディスーツが非常にエロい!

 

 聖女様ほどではないが大きな乳房が床との間で潰れているところとか、くびれたウエストから広がるムッチムチのヒップの輪郭がなんとも目に毒だ。

 四つん這いになっていることで強調されたそのヒップのデカさを見たら、誰だって『デカケツ』と呼びたくもなる。

 しっかりトドメをさしたつもりだったが、どうやら彼女の美貌と色気を前に手元が狂ってしまったらしい。

 つくづく禁欲が祟っているな。

 

「魔王様! ソイツは聖騎士ですよ! 聖女に忠誠を誓う騎士がそう簡単に裏切るものですか! きっと罠に決まっています!」

 

「うーん、でも魅力的な提案ではあるよねー。なんせ聖都最強の聖騎士だ。戦力として申し分ない。このとおり君たち四天王まで倒すほどの実力があるわけだしね」

 

「ぐっ……」

 

 魔王の指摘に口を噤むルチェ。

 負けた手前、強くは言い返せまい。

 

「し、しかしそれでも! 人間を魔王軍に迎えるなど反対です! そもそもこの戦いは人間どもが我々を害したことが原因じゃないですか!」

 

「なに? どういうことだ?」

 

 聞き捨てならない発言だ。

 魔王軍は人間界を侵略するために戦っているのではなかったのか?

 ルチェは怨敵を見るような目で俺を睨む。

 

「私たちはもともと荒廃した魔界から抜け出し、新天地を求めて人間界に来ただけだ!」

 

 ルチェいわく、魔界は度重なる魔王同士の闘争によって荒れはて、とても住める場所ではなくなってしまったのだという。

 目の前にいる若き魔王は魔王の中でも珍しい穏健派で、苦しむ魔族を率いて人間界にやってきたらしい。

 

「人間界で最初にしたことも『僅かでもいいから土地を分けてくれ』と交渉しただけだ。……だが返事は砲撃の嵐だった! 無抵抗な我々を貴様ら人間は問答無用で虐殺しようとしたんだ!」

 

 マジか。人類最低だな。

 

「その後も奴らはたびたび我々を魔界に追い返そうと嫌がらせを続けた! 毎晩まいばん拠点の傍で楽器隊を率いて騒音を鳴らしおって! おかげでこんな辺鄙な土地で城を構えるしかなくなったのだぞ! ここまでされたら宣戦布告するしかないではないか!」

 

 マジか。人類やることせこいな。

 

 ということは……

 

「じゃあ、この戦争は人類の自業自得ってこと?」

 

「そういうことになるね~」

 

 魔王があっけらかんと答える。

 嘘だろ~?

 聞いてた話と違うじゃん。

 さてはあの老害どもめ、事実を隠蔽してたんだな。

 これ以上、好感度は下がらないと思っていたよ。

 こりゃ裏切って正解だわ。

 待ってて聖女様! 必ずそのクソッタレな国から解放するからね!

 

「ご安心ください魔王様! 俺が必ずや人類を屈服させ、皆さんが安心して暮らせる土地を解放してさしあげましょう!」

 

「勝手に話を進めるな聖騎士!」

 

 意気込んでいる間もルチェの抗議は続く。

 

「そもそも! 魔王軍に入りたい理由が『聖女の乳を揉みたいから』だと!? そんなバカげた理由で国を裏切るわけが……」

 

「俺の夢をバカにするなあああああああああ!!」

 

「ひうっ!?」

 

 怒声を発すると、ルチェは思いのほか可愛らしい悲鳴を上げる。

 しかし、そんな声を出しても俺の怒りは静まらない!

 

「お前ら被害者ヅラしてるけどな! 俺だって被害者なんだよ! なんだよあの聖都とかいうクソ国家! 主食は豆とか野菜ばっか! 肉も魚も食えない! ワインも神官どもが独り占め! エロいこと禁止だから娼婦館もエロい本もない! 毎日3回祈りを捧げないといけないだ!? 毎日3回したいのはオ○ニーだよ! 少しでも背信的なこと口にしたら即異端審問! やってられっか!」

 

「お、おう……」

 

「そんな非人間的な暮らしの中、聖女様のおっぱいだけが俺の希望だった! 生きる糧だった! 寂れた日常に光をくれた! だから俺はあのおっぱいを手に入れる! そのためならすべてを捨てても構わない!」

 

「君の覚悟はよく伝わったよ。フェイン・エスプレソン」

 

「魔王様!?」

 

「国よりも惚れた女性を選んだってことだろ? ぼく嫌いじゃないよ。そういうラブロマンス的なの」

 

「はたしてそうでしょうか!? ただの性欲では!?」

 

 おう、魔王が理解を示してくれた! 俺の熱意が通じたんだな!

 

「でも、君ほどの実力ならわざわざ魔王軍に入らなくとも単独で聖都を滅ぼせるんじゃないかな?」

 

「それはさすがに買い被りすぎだ。アイツらの強さは俺がよくわかっている。俺ひとりで攻略するには限界がある」

 

「この魔王城を攻略してよく言うよ」

 

 途端、魔王の眼が鋭くなる。

 

「そもそも……ぼくらを利用して聖都を滅ぼすより、ぼくと決着をつけたほうが早く君の目的は果たせるんじゃないのかい? 戦いを終わらせて聖女を解放したいなら――ここでぼくの首を取ればいい。そうすれば人類の勝利で終わる」

 

「魔王様!? 何をおっしゃっているのです!?」

 

 挑発的に首を指差し、くつくつと魔王は笑う。

 

「どうする? ここで最終決戦としゃれこむかい?」

 

「お断りだ」

 

「おや? 自信がないのかい?」

 

「いや、たとえ相手が魔王だろうと勝つ自信はあるさ」

 

「ほう……」

 

「ただ……目的を果たすまでは死ぬわけにはいかないんでね」

 

 そう、聖女様の乳を揉むまでは死んでも死にきれない。

 だからこそ……

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 べつに未来が見えたわけじゃない。

 ただ長年の戦いの経験で、わかってしまうものがある。

 この魔王を相手にすれば、どんな末路が待っているのか。

 

 結果がわかりきっているのなら、やはり選択肢はひとつだ。

 魔王軍に寝返り、聖都を滅ぼし、聖女様のおっぱいを揉む!

 それが俺の進むべき道だ!

 

「それにさ。そっちの事情を聞くと人類は一度とことん痛い目を見たほうがいいみたいだしな」

 

「だから加勢するって? ここまで来るとさすがに薄情じゃないかな。確か聖都以外の土地はほとんど侵略したと思うけど、その中には君の領土だってあったはずだろ? ぼくらを恨んでないのかい?」

 

 確かに、生まれ育った故郷を奪われたことに思うところはある。

 あのときはまだ聖女様からチカラを授かっていなかったから魔王軍に手も足も出なかった。

 いまならその仕返しもできよう。

 だが……

 

 そんなことに何の意味がある?

 

「なあ魔王様。あのとき俺たちは戦いに負けて土地を奪われたんだ。勝ち取った土地をどうこうしようが、それは勝者の特権じゃないか。負けたやつがどうこう言うことじゃねえよ」

 

「……」

 

 俺の返答が意外だったのか、魔王は虚を突かれたように目を見張る。

 魔界ではどうだったかは知らないが、土地の奪い合いはこの世界の住人が過去からずっと続けてきたことだ。

 そんな当たり前のこと、すでに終わったことに対して、今更どうこう言うつもりはない。

 

 それよりも大事なのは未来だ。

 いつまでも過去に拘らず、明るい未来に目を向けるべきなのだ。

 そう、聖女様のおっぱいを揉むという明るい未来をな!

 

「それに俺がいま真っ先にぶっ潰したいのは聖都なんだよ。アンタたちの話を聞いたら、余計にチカラを貸したくなった。だから……」

 

 魔王に向けて膝をつき、頭を垂れる。

 

「どうか、この裏切りの聖騎士を存分にお使いください、魔王様。元聖都最強の名にかけて、必ずや魔王軍に勝利をもたらしましょう」

 

「……」

 

 あ、あれ?

 沈黙が長い。

 もしかして外しちゃったかな?

 心配になり、チラッと魔王のほうをうかがい見ると……

 

「ぷっ……あははははっ!」

 

 とつぜん魔王は見た目相応の子どものようにお腹を抱えて笑い出した。

 あら、かわいい。

 

「気に入ったよフェイン! 人間にもこんな面白いやつがいたとはね!」

 

 ふわっと羽が浮かび上がるように魔王は椅子から離れる。

 膝をつく俺の前に降り立った彼女は、そっと手を差し伸べた。

 

「リィムだ」

 

「え?」

 

「ぼくの名前。魔王リィムさ。これからよろしくねフェイン」

 

 そう言って魔王――リィムは、魔王らしからぬ愛嬌に満ちた笑顔を浮かべた。

 

 もしも聖女様に出会うよりも先に、この魔王の少女に出会っていたら。

 きっと「彼女のためなら、どんなことでもする!」と、決意するほどに惚れ込んでいたに違いない。

 そんな心を虜にするような笑顔だった。

 

「ま、魔王様! まさか本当にこの男を魔王軍に加えるおつもりですか!?」

 

「うん。ぼくは基本、来る者は拒まずだからね」

 

「ありがとうございます魔王様! 俺がんばって人類ぶっ倒します!」

 

「じょ、冗談じゃない! いくら魔王様の決定でもこればかりは……他の魔族たちも何て言うか!」

 

「ふぅむ。ルチェの意見も一理あるね。そういうわけだフェイン。まず君は信頼を勝ち取るところから始めようか」

 

「信頼っすか?」

 

「ああ、君が真に我々の仲間に相応しいか、これから証明してもらうよ」

 

 そう言うなり、魔王はひとつの水晶玉を空中に浮かべる。

 

「ちょうど君以外にもお客さんが来たようだしね」

 

 水晶玉の中には、この魔王城を目指して進軍する聖騎士たちの姿が映し出されていた。

 

「どうだいフェイン? かつての仲間に剣を向けられるかい?」

 

 

  ◆

 

 

 地上から見れば、その光景は「真昼にも関わらず星が煌めいている」ように見えただろう。

 空を埋め尽くさんばかりに輝く、色の異なる無数の光。

 それらは流星のように一方向に直進していた。

 

 いまとなってはそれが聖騎士たちの『進軍』の光景であると誰もが知っていた。

 魔王軍の恐るべき牙から守ってくれる、チカラなき人々にとっての希望の流星。

 流星が降り立つ大地には救済が降り立つ。

 聖騎士たちに命を救われ、聖都に避難した民衆たちは、そう信じていた。

 

 ……では、それは魔王城においても同様か?

 その問いに堂々と首肯できる者がいったい何人いるだろう。

 そこは、まさに地獄だった。

 希望や救済など入り込む余地などないと思うほどの惨状に、聖騎士たちは息を呑んだ。

 

「なんという有り様だ……」

 

「これをフェイン殿がひとりで……」

 

「いったい、どれほど激しい戦いがここで繰り広げられたというんだ!」

 

 あちこちに抉り込んだ瓦礫の山。

 攻撃の余波によって削れたのであろう大地。

 鼻を覆いたくなるほどに濃い硝煙。

 そして巨人が通れそうなほどに大きい門には焼き爛れた穴が穿たれていた。

 フェインが単騎で見事、魔王城に侵入を果たしたのは明白だ。

 もはや半壊に近い魔王城の有り様から、常人の予想を越える戦いがあったことを物語っている。

 

「フェ、フェイン殿は無事なのでしょうか?」

 

 平騎士のひとりが恐る恐る呟いた。

 自分たちは一歩遅かったのではないかと。

 

 惨状に反して、あまりにも静かすぎる。

 事はすでに済んでしまったのかもしれない。

 フェインの勝利で終わったなら、それは喜ばしいことだが……もしもこの静けさが、その逆の結果であったなら?

 

「もしや、フェイン殿はすでに魔王の手によって……」

 

「バカなことを言うな!」

 

「ひっ!?」

 

 失言をこぼした平騎士に少女の一喝が入る。

 フェインの義妹、シュカ・エスプレソンである。

 

「兄上ほどの聖騎士がそう簡単に死ぬものか! 次に不敬なことを口にすれば、その首を斬り落とすぞ!」

 

「も、申し訳ございませんシュカ様!」

 

 とても年端もいかない少女のものとは思えない迫力に、ひと回りも年上の平騎士は情けなく頭を下げた。

 親族の前で身内の死を仄めかす発言をするのは確かに不謹慎だが……それでもシュカの怒りは常軌を逸していた。

 敬愛する兄が絡むと性格が豹変する《翼将》シュカ。

 彼女の前でフェインを侮辱することは文字通り死を意味する。

 

「よせシュカ。こんなときに仲間同士で衝突してどうする」

 

「ギャロッド殿……」

 

 憤怒するシュカを嗜めたのは同じ《十二聖将》のひとりである青年、《嵐将》ギャロッドだった。

 エメラルド色の長髪と瞳。鋭く引き締まった顔の輪郭。多くの町娘たちを魅了する美丈夫だが、その纏う気迫はまさに歴戦の武人のそれである。

 

「我々は敵の本拠地の前にいる。いまこそ一致団結して戦うべきときだ。にも関わらず《十二聖将》自らが不和を起こし、それが敗因の要因となったとあっては……兄上に顔向けできないのではないかね?」

 

「……申し訳ございません」

 

 フェインの引き合いに出されたことで、シュカは素直に大人しくなった。

 

 まったく、とばかりギャロッドは内心で溜め息を吐いた。

 兄が心配なのはわからなくもない。そのせいで気が張っていることも理解できる。

 だがそれでも、やはり、この娘は騎士には向いていない。心があまりにも幼すぎる。

 

 ギャロッドは常々、シュカに騎士団長を任せることに不安を覚えていた。

 実力は確かにあるが、感情に振り回されて我を忘れてしまうのは、騎士団長としては致命的だ。

 体格においても、戦いに向いているとは言いがたい。

 聖女ミルキースのあのありえないサイズほどではないが、過剰に膨らんだ胸元の脂肪は、明らかに戦闘の邪魔であろう。

 

 そもそも成人にも満たない小娘に剣を持たせること自体、ギャロッドは疑問をいだいている。

 最愛の婚約者を守るために戦っているギャロッドにとって、女とは守るべき対象である。

 目の前の娘も、剣よりも花を手に取って、穏やかに過ごす生活のほうが相応しいのではないかと、どうしても考えてしまうのだ。

 

 ……だが、魔王城攻略とあっては、彼女もいまや貴重な戦力だ。

 不和を起こすなと言った手前、いまは自分も私見を抑え込むべきだろう。

 

「ギャロッド様……はたして、我々は勝てるでしょうか……」

 

 側近のひとりが、不安げに呟く。

 

「フェイン殿が先陣を切ったとはいえ、《三強》であるモーレン殿とバイス殿が不在である我々に、どこまでできましょう……」

 

 側近の不安はわからなくもない。

 総攻撃と言っておきながら、けっきょくこの場に全戦力は集っていないのだから。

 

 《十二聖将》の中でも特に秀でた実力者である《三強》。

 ひとりは無論、いまも魔王城の中にいるであろう《剣将》フェイン。

 

 そして残りの二人。

 

 《閃将》モーレン。

 《焔将》バイス。

 

 彼らは聖都に残り防衛の任に着いている。

 聖女の結界があれば防衛に問題はないとは思うのだが、けっきょく心配性を拗らせた神官どもが()()()ことで《三強》のうちの二人を聖都に残す形となった。

 我が身がかわいいばかりの神官の身勝手さには、ほとほと呆れ果てたギャロッドだったが……

 

『万が一結界が破られたとき、民を守る剣は必要であろう。我々が残るのは、民の心の平穏を守るためでもあるのだ』

 

 《十二聖将》のリーダー格である《焔将》バイスにそう言われては、従うほかない。

 

 

 あの二人が不在なのは確かに痛手ではあるが……だからといって負ける未来などギャロッドは露ほども想像していない。

 

「案ずるな。《三強》がいない以上、総攻撃としては不完全かもしれぬが、それ以外の《十二聖将》全員が揃っているのだ。むろん、この戦いに選び抜かれたお前たちも精鋭に他ならない。魔王がどれほど恐ろしい存在であろうと、負けるはずがあるまい」

 

 ギャロッドのその発言で、平騎士たちの士気は高まった。

 あちこちから「そうだ! そのとおりだ!」「おう万歳! ギャロッド様万歳! 《十二聖将》万歳!」と軍を奮起させる雄叫びが上がる。

 

 そうである。

 自分たちは必ず勝って帰るのだ。

 戦いを終わらせ、聖都を真に平和にするためにも。

 なにより故郷で帰りを待つ婚約者のためにも。

 

 ギャロッドがいざ突撃の指示をかけようとしたときだった。

 焼け爛れた門から、ひとりの青年が現れる。

 

「ギャロッド殿! あれは!?」

 

「む? ……なんと! あれはフェイン!」

 

「生きておられたか!」

 

 聖騎士たちの間に驚きと歓喜の声が上がる。

 魔王城から出てきたのは間違いなくフェインその人であった。

 

「ああああっ! 兄上ぇえええ!」

 

 戦場には似つかわしくない感極まった少女の声が上がる。

 無論、シュカのものである。

 

「兄上! よくぞ……よくぞご無事で!」

 

 兄の無事な姿を目にしたシュカは、嬉しさのあまり駆けだした。

 

「シュカは信じておりました! 兄上ならきっと大丈夫だって! ああっ! シュカの兄上!」

 

 先ほど平騎士に一喝したものとは明らかに異なる、愛おしさを抑えきれない色がその声に含まれている。

 大きな乳房がだらしなく揺れるのも気にせず、シュカは敬愛する兄の胸元に飛び込もうと駆けていく。

 

 兄妹の感動の再会。

 傍目から見ればそう見える。

 だが、なぜだろう。

 ギャロッドの心には危機感が生じていた。

 

 まず聞きたいことがあった。

 フェイン、お前は魔王を倒したから城から出てきたのか?

 もしそうならば喜ぶべき結果だが……ギャロッドの本能が訴えている。

 

 そんな、都合のいいことがあるのか?

 

 脳内にそんな言葉が過った刹那……

 

 

 

 フェインが右手を天高く上げた。

 

 

 

 ギャロッドが文字通り疾風を巻き上げてシュカのカラダを引き戻したのと、天から衝撃波が落ちたのは同時だった。

 

「……え? え?」

 

 シュカは混乱した。

 兄の胸の中にいるはずの自分が、なぜかギャロッドの腕の中にいる。

 先ほどまで自分が駆けていた場所は、鉄槌を降ろしたかのように陥没している。

 なぜ?

 

「それ以上、魔王城に近づくことは俺が許さない。シュカ、たとえお前でもだ」

 

 大好きな人の声。

 自分を妹として大切にしてくれた声が、妹である自分を拒否している。

 なぜ? なぜ? わけが、わからない……。

 理解できない現実を前に、シュカは完全に頭が真っ白になった。

 

 そんな中、シュカの危機を見事救ったギャロッドはひとり冷静にフェイン相手に警戒の色を強めていた。

 聖騎士の誰よりもいち早く行動を起こしたギャロッドに、フェインは感心の笑みを向けた。

 

「さすがはギャロッドだ。よくいまの攻撃をかわした。《嵐将》の名は伊達じゃないな」

 

「フゥ、フゥ……な、なんのつもりだフェイン!?」

 

 ギャロッドは息を荒く吐きながらフェインに問うた。

 

 先ほどの攻撃。

 ただ手を振りかざしただけだが、最強の聖騎士にもなれば、それだけで凄まじい威力を持った衝撃波を放つことができる。

 常人ならば間違いなく、カラダごとミンチになっていた。

 

 もっとも同じ聖騎士であれば軽傷で済んだだろう。

 シュカのように《十二聖将》ともなれば防ぎようもあっただろう。

 そうわかっていても……ギャロッドは駆け出さずにはいられなかった。

 

 ギャロッドは大きなショックを受けていた。

 あのフェインが、妹に手をあげたという事実に。

 

「いったい何を……血迷うたのかフェイン!?」

 

「俺は正気だよギャロッド。至って正気に自分の役目を果たしている」

 

「役目だと?」

 

「そうだ。たとえ妹だろうと、この城に入れるわけにはいかないんだ」

 

「いったい何のために!?」

 

「何のために? ……くくく、決まっているだろう……」

 

 動揺するギャロッドと聖騎士たちを前に、フェインは歪な笑みを浮かべる。

 

「俺は悟ったんだよ。真に仕えるべき主は誰なのか。この世界の天下を取るべきなのは誰なのか。俺の幸せを約束してくれる存在が誰なのか!」

 

 いったい何の話をしているのか。

 聖騎士たちには理解が追いつかない。

 ただただ、フェインの変貌に戸惑うしかなかった。

 

「お前たちにわかるか? 俺はいまとても清々しい気持ちだ。……くくく、もうすぐだ。もうすぐ俺の悲願は達成されようとしているのだ……」

 

 まるで牢獄から解放された罪人が自由を謳歌するように、フェインは天を仰ぐ。

 

「悲願だと……それは何だと言うんだフェイン!?」

 

「お前たちに言ったところで理解はできまい」

 

「フェイン。お前はいったい……」

 

 ギャロッドは戦慄する。

 こんな凶行を起こすほどの悲願……いったい、何だと言うのか!?

 

「俺はこれからその悲願を叶えるためだけに生きるのだ……そう、魔王様のもとでな!」

 

「魔王様、だと!?」

 

 フェインはカッと目を見開き、高らかに宣言する。

 

「お前たちの知るフェイン・エスプレソンは死んだ! もういない!」

 

「っ!?」

 

「俺は魔王軍幹部、フェイン・エスプレソン! 叛逆の聖騎士にして、魔王様の右腕だああああああああああああああああああ!」

 

「な、なんだってーーーーーー!!?」

 

 聖騎士たちの驚愕の声が空高く広がった。

 

  ◆

 

「魔王様? あの男、勝手に『魔王軍幹部!』とか言っちゃってますけど?」

 

「した覚えはないんだけどねー」

 

「『魔王様の右腕』とか言っちゃってますけど?」

 

「言った覚えはないんだけどねー」

 

 水晶玉を通してフェインの様子の見守る魔王リィム。

 その横ですでにリィムによって怪我を回復してもらったルチェも動向を確認していた。

 

「ほ、本当にあんな男に任せてしまってよろしいんですか?」

 

「うーん。まあウチは実力徹底主義だからね~。頑張りようによってはすぐ幹部なり右腕なりにしてあげようじゃないか」

 

「ええ~……」

 

「というわけで……がんばれ~フェイン~♪ やっちゃえ~やっちゃえ~♪」

 

 きゃっきゃっと幼児のようにはしゃぎだすリィムを横目に、ルチェは「魔王軍は今後だいじょうぶなんだろうか……」と自軍の先行きを案じるのだった。

 

 

  ◆

 

 一方その頃、聖都では……

 

「はぅ、そろそろ祈りに集中しないといけないのに止まらな……あぁん♡ フェイン~♡」

 

 この非常事態にも関わらず、まだ背徳的行為に耽っていた。

 

 

 

 




 習作であるファンタジー作品にここまで反響があって本当に驚いております(というか、たった1話で累計入りってどいうこと~?)
 本当にありがとうございます。
 ここ一週間舞い踊ってました。
 皆さん、そんなにおっぱいが好きか?
 私は大好きだ。
 感想もたくさん頂けて、たいへん励みになっております。

 引き続き、お気に入り登録、評価していただけると嬉しいです!


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間章・魔王リィムの葛藤

 描写不足の点があったので補足をば。


 フェインが《叛逆の聖騎士》として聖騎士たちを迎える少し前のこと……

 

「ねえ、フェイン。しつこいようだけど本当にいいの? いまならまだ向こうに戻れるかもしれないんだよ?」

 

 念のため、リィムはフェインにそう問いかけた。

 かつての仲間たちを迷わず迎え撃とうとするフェインの行動に驚いたためでもある。

 ここで仲間を討てば、彼は本当に後戻りができなくなる。

 リィムなりに温情をかけたつもりだったが……

 

「くどいぜ魔王様。聖女様の乳を揉むまで、俺があのクソ国家に戻ることはありえないぞ」

 

 やはりフェインの決意が揺らぐことはないようだった。

 リィムは苦笑した。

 

「そっか。……しかしフェインにそこまで言わせるなんて、よほどひどい場所なんだね聖都って」

 

「ああ、俺たち民衆には節制を強いておきながら、上の連中は贅沢三昧だからな。たぶん、俺が知らないだけでもっとヒドイことをしてる可能性だってある……」

 

 フェインの瞳には、聖都というよりも、人間に対する失望の色が宿っているようにリィムに見えた。

 

「『魔族はおぞましいバケモノだ』って散々教えられてきたが……けど、ここに来て思ったよ。正直アンタたちよりも、神官どものほうがずっとおぞましいバケモノだったんじゃないかってな」

 

「おいおい、それは言い過ぎだろ。ぼくたちはもういくつも土地を奪っている侵略者だぜ? それがおぞましいバケモノじゃなかったら、なんだって言うんだ?」

 

「でもさ……アンタたち、いつも交渉持ちかけてるだろ、戦う前に。『話し合う気はないか?』ってさ」

 

「……」

 

「前までは『何言ってんだこいつら』って思ってだが……でも、いま思い返すと、アンタたちの戦い方って奇妙なんだよな。なんか『他に方法がないから仕方なくやってる』って感じがするっていうか」

 

「……思い違いだよ。ぼくらは本気で地上を侵略する気で戦ってる」

 

「そう言うわりにはさ」

 

 フェインはリィムと目を合わせて、告げる。

 

「アンタたち、一度も人を殺してないよな?」

 

「……」

 

「いや、少なくとも俺の記憶の範疇ではって話だが……怪我は負っても、それが致命傷だったってことは実は一度もないんだよな」

 

 フェインは記憶を掘り返す。

 思えば領地を奪われたときも、あれは攻撃というよりも、どちらかというと追い払うような戦い方だった。

 敵意はあっても、魔族たちの攻撃に殺意はなかったのである。

 人間である自分たちは、もう何度も魔族の命を奪っているにも関わらず、魔族たちが直接、人間たちに手をかけた瞬間をフェインは一度だって目撃したことがない。

 

 それが意味することは即ち……

 

「なあ魔王様。アンタたちの話がどこまで真実なのかは俺にはわからない。

 魔王同士の闘争で魔界が荒廃したことも。穏健派のアンタが苦しむ民衆を率いてこっちにやってきたってことも。最初は人類が戦争まがいのことを仕掛けたってことも。

 ……でも俺は信じたいほうを信じることにするよ」

 

 聖都という歪みきった国を滅ぼしたいフェインにとっては、口実さえあればいい。

 真実はどうでもいい。最終的に信じられるのは自分自身だけなのだから。

 

「でもフェイン」

 

 魔王の部屋から出ようとするフェインの背に、リィムは語りかける。

 

「もしもぼくが残虐な本性を出して、君の大切な人を殺めようとしたら、君はどうする気だい?」

 

「簡単さ。そんなことは絶対にさせない。クソ神官どもは、くたばってくれて全然構わないが、罪のない民衆たちを見捨てるほど俺も鬼じゃない。守りたいやつは守りつつ、聖都を滅ぼす。それだけだ」

 

「むちゃくちゃだね君は……」

 

「やりたいようにやるって決めたからな。言っとくが、いくら魔王様でも聖都に住んでる民衆たちにヒドイことしたら許さねーぜ? そこんとこよろしく」

 

 そう言って、フェインは再び背を向け、

 

「……ま、そんな心配はしてないけどな」

 

 ぽつりとそう呟いた。

 

「フェイン!」

 

 いままでにない真剣な表情を浮かべて、リィムは叫ぶ。

 

「ぼくたちは侵略をやめない! ぼくたちには住む場所が必要なんだ!」

 

 それは『もはや引き返せないところまで来てしまったから』とも取れる言い方だった。

 

「……でも約束しよう! 決してイタズラに人間たちの命を奪わないと! 必要以上に傷つけないと!

 それは、ぼくたちがこれまでずっと貫いてきた決まりだ! だからフェイン!」

 

 魔王として、リィムは告げる。

 

「君もかつての仲間を殺すな。それだけは絶対に守れ」

 

「……仰せのままに。魔王様」

 

 剣を持って、フェインは魔王の部屋から駆け出す。

 その後ろ姿は、どこか喜んでいるようにリィムには見えた。

 

「……なあルチェ。君の目から見て、彼は信用に値する男かい?」

 

 一部始終を見ていた部下であるルチェの傷を魔力で癒やしつつ、リィムは尋ねる。

 主に問われたルチェは、苦々しい顔を浮かべつつ答えを出す。

 

「まだ、なんとも言えません。ですが、やはり私は人間を簡単に信用することができません……あんな思いは、もう二度と」

 

「そっか……」

 

 ルチェの気持ちもわからなくもない。

 だがリィムは期待したかった。

 フェインという存在が、魔族と人間を結びつけるきっかけになるのではないかと。

 

 人間との和睦。

 荒廃した魔界を抜け出し、新天地を求めた魔王リィムにとって、それだけが望みだった。

 

  ◆

 

 魔王とは、ひと言で言ってしまえば『承認欲求』の塊だった。

 自分以外に偉い存在がいることを認められない。

 自分が最強でないと我慢できない。

 

 我こそが最強の魔王だ。それを証明するためなら、周りを巻き込もうが、世界がどうなろうが構わない。

 そんな王ばかりが存在する限り、魔界が荒廃するのは必然だった。

 

 魔王リィムは、そんな魔王の中でも異質な存在だった。

 まず争いごとを好まない。

 のんびりと過ごすのが好きで、楽しく穏やかに生きることがモットー。

 魔王らしからぬ習性ばかりを持つ、奇妙な魔王だった。

 

 多くの魔王たちがリィムに挑んだ。

 そのほとんどをリィムはスルーしてきた。

 誰が最強かだなんて、そんなことちっとも興味がなかった。

 

 リィムは不思議に思った。

 なぜ、皆そんな疲れるようなことばかりするのだろう?

 楽しいことに夢中になったほうがずっと健全なのに。

 

『まあ、それが君たちにとって楽しいことなら好きにすればいいさ』

 

 そんな風にリィムは、魔王たちの闘争とは関係ないところで、毎日楽しくのんびりと過ごした。

 

 ……結果、魔界は荒れ果てた。

 

 多くの魔族がリィムに救いを求めた。

 魔王らしからぬ魔王こそ、彼らにとってはもはや救世主だった。

 

『もうこんなことはイヤです。どうか我々をお導きください。リィム様』

 

 魔王たちの承認欲求を満たすための、無益な戦いに巻き込まれた民衆たち。

 彼らの傷と涙を見たとき、リィムは、初めて責任を感じた。

 

 ああ、ぼくがすべての魔王を倒して、魔界を統治しなくちゃいけなかったんだな……と。

 

 だが後悔しても、もう遅かった。

 魔界はすでに、生き物が暮らせる場所ではない、文字通り死の世界になっていた。

 もはや別の世界に渡ることでしか、僅かに生き残った民衆たちを救う手はなかった。

 

 

 人間界に来て、まずリィムは交渉に入った。

 本当に僅かな土地で構わない。

 労働ならいくらでもする。

 魔法の技術もいくらでも提供する。

 どうか自分たちを国民として受け入れてほしい。

 魔界で起きた事情をすべて話した結果、人間の王たちは快く頷いた。

 

 では、魔族の皆さんを連れてらっしゃい。

 と、なんとも寛大なことを言ってくれた。

 

 よかった。この世界の住人は話せばわかる者たちだ。

 魔族の誰もが喜びながら、指定された場所に集まった。

 

 待っていたのは砲撃の嵐だった。

 

『出てけー! おぞましいバケモノどもが!』

 

『本当は俺たちの世界を乗っ取る気なんだろう! そうはいかんぞ!』

 

『何が魔王同士の争いで荒廃しただ! 自業自得じゃねーか! お前らの世界の事情なんて知ったこっちゃねーんだよ!』

 

『ここは人間様の世界だ! ひとつだってテメェらにやる土地なんざねーんだ!』

 

『魔界が滅んだならテメェらも滅びな!』

 

 チカラのない女こどもだろうと関係なく人間たちは魔族諸共、虐殺しようとした。

 

 リィムは知らなかった。

 異種族が土地を求めるという行為は、人間たちの感性からすれば宣戦布告も同然のことだということを。

 

 それでも、リィムは反撃しようとはしなかった。

 一度でもこちらが敵意を見せてしまったら、交渉のチャンスを失ってしまう。

 

 以降、リィムたちは人が寄りつきにくい、人ではとても住めない寂れた沼地か、険しい山岳でキャンプをした。

 しかし、それすらも人間たちは許さなかった。

 自分たちの世界に未知の種族が息づいている。殺す理由はそれだけで充分だった。

 毎日のように襲撃が起こり、そのたびリィムたちは拠点を変えねばならなかった。

 

 魔王のチカラさえあれば、死者を蘇生することはできる。

 だが、心の傷まではどうしようもできない。

 日に日に、魔族たちの精神は疲弊していった。

 

 決断が必要だった。

 このまま一方的に害されるだけの生活に、民衆たちが耐えられるわけがない。

 

(でも、戦いは……)

 

 争いを好まないリィムにとって、それだけはどうしても避けたかった。

 しかし……

 

『魔王様! わたくしの子どもが! どうか……どうかお助けください!』

 

 まだ生まれたばかりの赤ん坊にすら、人間たちは手をかけた。

 魔王のチカラがあれば、いくらでも失った命を蘇らせることはできる。

 できるが……

 だが……

 

 まだ何も知らない無垢な存在の命すら許されない。

 それを思い知らせたとき……リィムの覚悟は決まった。

 

  ◆

 

 リィムはまず部下たちにこう告げた。

 絶対に『殺し』だけはするな、と。

 一度でもそんなことをすれば……彼らと同じになってしまう、と。

 

 最初は圧倒的なチカラの差を見せつければ充分だと思っていた。

 奪った土地も、住人たちが自分たちの支配下に置かれることを良しとするなら、以前のとおりの暮らしをさせ、安全を保証するつもりだった。

 しかし、人々は誰ひとりとして魔王軍を信用せず、聖騎士たちに導かれて聖都へ避難した。

 無理もない。

 力ずくで住む場所を奪われた挙げ句、未知の種族の支配下に置かれるほど、人間たちにとって恐ろしいことはないだろう。

 

 それでも、話し合いに応じてくれる者たちがどこかにいるかもしれない。

 リィムはそう願って交渉を持ちかけ続けた。『戦う前に、話し合う気はないか?』と。

 結局、どこも戦うことを選んだが……。

 

 魔族たちが暮らせる場所は増えたかもしれない。

 反して戦いは過激さを増す一方で、終わりというものが見えなかった。

 

 魔族の民を守るためには、これしか方法はなかった。

 だが本当にこれでよかったのか。

 リィムはときどき葛藤する。

 ひょっとしたら、もっと最良の選択肢があったのではないか。

 そう思わずにはいられなかった。

 

 そんな中、フェインの登場はリィムにとって吉兆だった。

 ようやく、話をまともに聞いてくれる人間が現れた。

 聖都を裏切った目的は正直どうかと思ったが……

 それでも、燻っていたこの状況を変える歯車が動き出したように、リィムは感じた。

 

 そして、なにより……

 

『なあ魔王様。あのとき俺たちは戦いに負けて土地を奪われたんだ。勝ち取った土地をどうこうしようが、それは勝者の特権じゃないか。負けたやつがどうこう言うことじゃねえよ』

 

 長年リィムの中にあった葛藤を、その言葉が吹き飛ばしてくれた。

 

「ふふ」

 

「魔王様?」

 

「ねえ、ルチェ。ぼくはね、やっぱり争いってあんま好きじゃないや。もっと皆が笑って楽しく暮らせるような、そんな世界を創りたい」

 

「魔王様……それは、わたくしも……いえ、魔王軍全員の望みでもあります」

 

「うん。だからね、こんなことは、これで最後にしよう。さっさとぼくらの勝利で終わらせて、皆が安心して暮らせる、そんな世界を創ろうじゃないか」

 

 侵略者である自分たちと人間たちが和睦する未来。

 そんな未来はありえないかもしれない。

 もう手遅れかもしれない。

 だが……

 

 フェインという存在が、もしかしたら、その橋掛になるかもしれない。

 そうなることを、リィムは願った。

 

「まあ、それは、さておき……」

 

 いまリィムはとても気になることがあった。

 

「ねぇねぇルチェ。フェインがそこまで拘る聖女のおっぱいってどんだけおっきいのかな? もしかしてルチェよりも大きいのかな?」

 

「え? あ、いや、それはどうでしょう……」

 

「ん~。やっぱ男の子って大きいのが好きなのかな~? ぼくもそこそこはあるとは思うんだけどな~」

 

 リィムは唇を尖らせつつ、ひかえめに隆起した乳房をグニグニと握った。

 

「ま、魔王様! そんなはしたない真似をしてはなりません!」

 

「ん~、自分の揉んでもよくわかんないや。あ、じゃあルチェの揉ませてよ!」

 

「なんでそうなるんですか!?」

 

「新しい部下の趣味嗜好を理解することは大事だろ~? というわけでモミモミ~。……おう! これは凄い! フェインが夢中になる気持ちがわかるよ!」

 

「あっ、ちょっ、魔王様!? そんなとこ掴んじゃ……あんっ♡」

 

 少女には出せない、大人の女性の艶めかしい声が魔王の部屋に広がる。

 この場にフェインが残っていれば、羨望と興奮による鼻血が床にまき散らされていたであろう。

 

 



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──改稿後──
【急募】寝返るはずだった魔王軍をつい壊滅させちゃったときの対処法


 人が寄りつかない険しい渓谷に魔王城はある。

 人の足ではもちろん、馬ですら走破するのに困難を極める土地だが、聖騎士のチカラさえあれば無事に目的地に辿り着くことができる。

 さっそく交渉をと思いきや……俺の話に魔王の部下たちはまったく聞く耳を持たないので、力ずくで城内に侵入を決行。

 なんとか強行突破して魔王の座する部屋まで来れた。

 

 部屋の中には「俺が魔王です!」と言わんばかりに人間のイメージどおりのおっかない姿をした魔王が、バカデカイ椅子にふんぞり返っていた。

 「よくぞここまで来た聖騎士よ……」とお決まりの文句もスルーして、俺は「かくかくしかじかの理由から魔王軍に入れて欲しい!」と交渉を持ちかけた。

 しかし……

 

「やっちまった……」

 

 魔王の部屋でひとり、俺は途方にくれていた。

 なぜって?

 だって……

 

 

 

「勢いで魔王倒しちゃったよ! やっべー!」

 

 どうしてこうなった。

 俺が悪い?

 うん、そうだね。

 でも、しょうがないじゃないか。

 聖女様の乳を揉みたいという切なる悲願を魔王すらも鼻で笑って『まるで意味がわからんぞ!』とか言うもんだから、思わずプッツンしてしまったのだ。

 気づけば必殺の一撃をたたき込んでしまっていた。

 

「しかし、魔王っていうわりには随分あっけなかったような……」

 

 決着は一瞬だった。

 復活して第二形態になる素振りもない。

 まさに見かけ倒しそのもの。

 本当にあんな魔王に、人類は何年間も苦しめられていたのか?

 

 ……なんにせよ。

 

「魔王軍との戦いは、これにて人類の勝利で幕を閉じたということか……」

 

 魔王の部下たちも強行突破の際にほとんど倒してしまった。

 魔王さえいれば蘇生できたのだろうが、もはやそれも望めまい。

 文字どおり、壊滅と言っていいだろう。

 だが……

 

「それはまずいな……」

 

 戦いを終わらせて聖女様を聖女の任から解放する。

 それだけなら聖都の決まりに刃向かって魔王を倒せばいい。

 そういう選択肢もとうぜん考えた。

 しかし、それではダメなのだ。

 だって人類の勝利で終わったら……絶対に神官の老害どもが調子にのるじゃん!

 

 きっと俺の手柄なんて無視して「これも何もかも聖神様と、その加護を受ける聖女様のおかげである!」とかなんとか言って、さらに信者を増やすことに専念するだろう。

 そして、いま以上に聖女様を神格化させて、より不可侵な存在として祭り上げることが容易に想像ができる。

 そんなことになったら、ますます乳を揉むチャンスが遠のいてしまう!

 

 だからこそ魔王軍に入って、人類の敗北というシナリオが必要だったのだ。

 勝者の特権で好き放題するつもりだったのだ。

 だというのに魔王軍を壊滅させてしまった!

 どうすんべ!?

 

「まいったなー……ん?」

 

 所在なさげに部屋をうろうろしていると、宙に浮いている巨大な水晶玉が光を発したのに気づく。

 水晶玉の中には、こことは異なる場所を映し出していた。

 恐らく外敵の接近を知らせる魔道具なのだろう。

 水晶玉には魔王城に向かって進軍する聖騎士の軍勢が映し出されていた!

 

「げげ!? アイツら来ちゃったのか!?」

 

 よく見ると《十二聖将》のメンツも勢揃いじゃん!

 まさかアイツらが神官の決まりに刃向かって魔王城を攻めてくるとは!

 

 困った。

 俺が裏切り者になったことは、あの簡潔かつ完璧な書き置きで周知されているに違いない。

 だが所属する予定だった肝心な魔王軍は壊滅してしまっている。

 

 いかん。いかんぞ。

 このままでは人類の勝利でハッピーエンド。凱旋コースまっしぐらじゃないか。

 そして俺は単なる裏切り者として捕縛されてしまうだろう。

 そうしたら聖女様の乳を揉むことは二度とできまい!

 それはまずい!

 

 くっそ! こうなったら覚悟を決めて聖騎士たちと戦うしかない!

 絶対に捕まるものか!

 そう思った矢先、

 

 ――チカラを貸そうか?

 

「ん?」

 

 ふと、脳に直接語りかけるような声が聞こえた。

 引き寄せられるように、ある一点に視線が向く。

 

「あ、あれは……」

 

 魔王が座っていた椅子の背後……俺の攻撃によって穴が穿たれた壁の向こう側に何かが光っている。

 

 それは、剣だった。

 漆黒に輝き、禍々しいオーラを放つ剣が、まるで使い手を待っていたかのように台座に突き刺さっていた。

 

「……」

 

 その剣を見ていると、なぜだか「抜かなくてはならない」という気分になってくる。

 意思とは無関係に手を伸ばしてしまう。

 

 ――そう、手を伸ばすんだ。ぼくには君が必要だ。君にもぼくが必要だ。

 

 また声が聞こえた。

 その声は剣から発せられているように思えた。

 

 ――君のような存在をぼくはずっと待っていた。さあ、この窮地を脱したければ、ぼくを握るんだ。

 

 声に導かれるままに俺は……剣の柄を握った。

 

「お……おおおおおォォオオォォ!」

 

 瞬間、漆黒のエネルギーが俺の総身を包み込んだ!

 

 ――おめでとう選ばれし勇者よ。今日からぼくらは一心同体だ。

 

 声の主は、まるで無邪気な少女のように、くつくつと笑っていた。

 

  ◆

 

 聖騎士たちが魔王城の門前に辿り着き、いざ突貫しようとした矢先――ソレは現れた。

 

「き、貴様は何者だ!」

 

 とつじょ門前に立ち塞がった存在に対して、聖騎士のひとりが尋ねた。

 

 全身を覆う漆黒の鎧。顔は兜に隠されていてわからない。ただ兜の隙間から漏れる赤黒く燃えた眼光は、奮起してやってきた聖騎士たちの心を萎縮させるほどに禍々しかった。

 ひと目見た瞬間、聖騎士たちは理解した。

 ただ者ではないと。

 

「よく来た聖騎士たちよ。我こそは魔王様の右腕――暗黒騎士、ブラック!」

 

 くぐもった不吉な声色で漆黒の騎士はそう名乗った。

 

「暗黒騎士、ブラック……」

 

「魔王の右腕だと!?」

 

 聖騎士たちの間に動揺が広がる。

 魔王の右腕……その肩書きだけで眼前の騎士の実力が相当なものであることを告げていた。

 

「遠くはるばるここまで来てもらってすまないが……お前たちが魔王城に入ることはない。このブラックが貴様ら全員を葬るからだ」

 

「なんだと!?」

 

「お、おのれ! なめおって!」

 

 単騎の相手にここまで言われては歴戦の聖騎士たちも黙ってはいられない。

 各々が未知の敵に対する恐怖を捨て、戦意をむき出しにする。

 

 その中でも特に鋭い戦意を向ける者がいた。

 フェインの義妹、《十二聖将》のひとりであるシュカ・エスプレソンである。

 

「貴様! 兄上は……《剣将》フェインをどうした!?」

 

 その問いに、他の聖騎士たちもハッとした。

 聖都最強の《剣将》、フェイン・エスプレソンがこの場にいない。

 それが意味することは……

 

 暗黒騎士は一度、不思議そうに首を傾げたが、すぐにまた不気味に笑い出した。

 

「くくくっ。聖都最強も大したことはないな。ワケのわからん世迷い言を口にするものだから、その場で斬り捨ててくれたわ」

 

「っ!?」

 

 聖騎士一堂は息を呑んだ。

 

「あの程度の相手、魔王様のお手を煩わせるまでもない。ふふふ、安心しろ。すぐに貴様らもヤツと同じ場所に送ってやる」

 

 聖騎士たちは絶望に陥った。

 

 負けた?

 あのフェインが?

 

「な、なんということだ……」

 

「あのフェイン殿でも勝てない相手だと!?」

 

「しかもヤツは魔王の右腕……」

 

「その主である魔王は、どれほどの強さだというんだ!?」

 

「か、勝てるわけがないっ!」

 

 聖騎士たちが混乱するのを見て、暗黒騎士ブラックは不敵に笑い続けていた。

 

 ――計画通り、と。

 

  ◆

 

 よしよし、みんな信じ込んでいるな。

 

 しかしラッキーだった。

 この黒い剣を抜いた瞬間、気づいたらこの黒い甲冑を纏っていた。

 とつぜん姿が変わっていたのは驚いたが……これは利用できると思った。

 

 このまま素性を隠し《魔王の右腕》という嘘の肩書きを名乗っていれば、ひとまず魔王軍は健在と思わせることができる。

 ついでに聖都の裏切り者である俺は『交渉が決裂して殺された』ということにする。

 この先、自由に行動するためにもそのほうが都合がいいだろう。

 聖騎士たちや聖都そのものを震撼させることにも繋がるしな。

 魔王どころか、その右腕にすら『聖都最強』は敵わなかった。

 その情報に人類はパニックになり、隙が生まれるに違いない。

 

 そうして俺は予定どおり魔王軍として人類を負かす。

 聖女様を戦利品として頂戴。

 乳を揉む。

 昇天。

 完璧だ。

 

 

 まあ魔王城は実質もぬけの殻なわけだし、いずれはこんなハッタリもバレることだろう。

 しかし所詮、聖女様のおっぱいを揉むまで通じればいい虚偽だ。

 目的を成し遂げれば、あとはどうなろうと構わん。

 俺はとにかく乳を揉めればそれでいいんだ!

 

 ……というわけで。

 このまま俺は暗黒騎士として聖都に向かう!

 フェイン・エスプレソンは死んだ!

 ここにいるのは、おっぱいに命を賭けるただ一匹のオスよ!

 

 

 

 さて、どうやら聖都は魔王城に総攻撃を仕掛けるため全軍を集めたようだが……どう出るかな?

 未知の脅威を前におののいて撤退してくれたほうが、俺としては楽に済んでありがたいのだが……

 

「うあああああ! 兄上の仇ぃぃぃぃぃ!」

 

 どうやら、そうもいかないらしい。

 義妹のシュカが号泣しながら、こちらに向かって突っ込んできた。

 

「よくも兄上をぉぉぉぉお!」

 

 愛らしい顔立ちをした少女がするべきではない恐ろしい形相を浮かべて、双剣を抜くシュカ。

 その背中に《翼将》と呼ばれる所以(ゆえん)である光の翼を生やして、高速機動で迫ってくる。

 

 おお、シュカよ……たったひとりの妹よ……。

 裏切り者の兄のために泣いてくれるのか……。

 さっきも真っ先に俺の身を案じてくれたな。兄妹とはいえ国を裏切った者を心配してくれるとは、お前は本当に心優しい妹だ。

 いつのまにかこんなに大きくなって……特に胸が。

 

「その首っ! もらい受ける!」

 

 聖女様ほどではないが大きく実った膨らみ。

 育ち盛りの妹のその成長を、この先も見ていきたかった。

 ……だが許せ。

 

「ふんっ!」

 

「がはっ!?」

 

 相手を攪乱させる動きを見せ、的確にこちらの首を狙って刃を振り下ろそうとしたシュカだったが……その前に俺の剣のほうが先に届いた。

 一閃をモロに喰らったシュカは彼方へと吹っ飛んでいく。

 

 妹だからといって容赦はしない。

 シュカも自らの意思で騎士の道を選んだのだから、覚悟はしていたはずだ。

 

「シュカ様がやられた!?」

 

「《十二聖将》がいとも簡単に!?」

 

「なんだあの剣は!? なんとおぞましい剣だ!」

 

 聖騎士には攻撃を防ぐ不可視の障壁があるため、恐らく死んではいない。

 だが、どうやらこの黒い剣は俺のチカラを増長させているらしい。

 たった一振りの斬撃で、シュカは完全にダウンしていた。

 

「くっ……私は、負けるわけには……かふっ」

 

 あの負傷なら戦闘続行は不可能だろう。

 

「なんて、不甲斐ない……ぐすっ、ごめんなさい、兄上……兄、さん……」

 

 そのままシュカは気を失った。

 

 ……さらばだ妹よ。

 どの道、人類の裏切り者となった俺はもう兄として戻れない。

 お前をひとりにするのは心苦しいが……俺は自分の信じた道を突き進む!

 

 さて、残りの聖騎士たちは……

 

「怯むな! 相手はひとりだ! 全員でかかれば勝機はある!」

 

「そうだ! フェイン様とシュカ様の仇を取るぞ!」

 

 どうやらシュカの行動を見て闘志を燃やし始めたようだ。

 それぞれが愛剣を抜刀して向かってくる。

 

 ……いいだろう。相手になってやろう。

 この新たな剣と共に、この試練を突破してみせる!

 すべては聖女様の乳のために!

 

「来るがいい聖騎士ども! 我が剣の錆にしてくれる!」

 

「うおおおお! 負けるものか!」

 

「聖神よ、我らにチカラを!」

 

「聖女様万歳!」

 

 うおおおおおおおおおおお!! 聖女様(のおっぱい)万歳!

 

 

 魔王城がそびえ立つ大地で、激しいチカラの奔流が激突した。

 

  ◆

 

 その様子を、聖女ミルキースは見ていた。

 聖女のチカラのひとつである精神波を飛ばすことで、遠くの出来事をその場にいるかのように把握できるのだ。

 ……すなわち、暗黒騎士が語った内容も耳にした。

 

「そんな……フェインが……」

 

 ミルキースは顔面を蒼白にして膝をついた。

 

「フェインが、もう、いない……そんなの……いや……いやっ!」

 

 頭を振り回しながら泣き叫ぶミルキース。

 

 聖女ならば、この場で泣き崩れるべきではない。

 すぐ気持ちを切り替え、いまもこうしている間に激戦を繰り広げている聖騎士たちを支援すべく《強化の祈り》を行うべきだ。

 わかっている。

 わかっているが……

 

「あぁぁっ……嘘だと、嘘だと言ってフェイン……」

 

 少女としての心が耐えられない。

 思い人の死を受け入れられない。

 

「フェイン……んっ」

 

 一種の防衛本能だったのだろう。

 心を落ち着かせるべく、ミルキースの手は自然と巨大な乳房に伸びていた。

 感情を鎮めるべく、いつも以上に激しく揉みしだいたが……

 

「うぅ……ぐすっ……」

 

 快感の波は訪れなかった。

 いつか思い人がこの膨らみに触れてくれるかもしれないという、ありえない妄想。

 ……その妄想が、本当にもう二度と実現しない、ありえないものになってしまった。

 

「フェイン……あなたがいたから、私は今日まで……」

 

 聖女として人々を救いたかった。

 その気持ちは嘘ではない。

 だが自分がここまで頑張ってこれたのは、他でもない。

 

 フェインという特別な異性に、生きて欲しかったからだ。

 

 だというのに……

 

「フェインがいない世界だなんて……そんなの……」

 

 いまの彼女は明らかに冷静さを欠いていた。

 聖女としての意識を強く持っていれば、きっと()()()()()は決して思わなかっただろう。

 だが所詮、彼女も年端もいかない少女。

 カラダはどれだけ立派で、いやらしかろうと、まだ心は未熟な少女なのである。

 

 だから、一瞬でも思ってしまったのだ。

 愛する存在がいない世界。

 そんな世界に……

 

 

 

 守る価値があるのか? と。

 

 

 

 それが、鍵となった。

 

 

 

 

 ――その通りだミルキース。こんな世界に守る価値などない。

 

「……え?」

 

 自分に語りかける声に反応して、泣き崩れたミルキースは顔を上げる。

 

「このお声は……」

 

 もしやと思い、ミルキースは眼前を見上げる。

 神殿の屋根を貫くほどに伸びた、水晶のように輝く巨大な柱を。

 

 天に届くほどに伸びた光り輝く柱。

 これこそが聖都を象徴する――《聖神柱》。

 そして、聖女が聖神のお告げを聞くための神造物に他ならなかった。

 

 その聖神柱がこれまでにない光を発している。

 

 ――感謝するぞミルキース。そなたの心の変動が、我をこうして地上に降臨させたのだ。

 

「もしや……聖神様なのですか?」

 

 聖神のお告げはこれまで何度も聞いてきた。

 だがそれは脳に直接言葉が浮かぶようなものであって、こうしてはっきりと声として聞こえたのは初めてのことだ。

 

 ――忌々しい魔族どもはようやく消えてくれた。もう我々を脅かす存在はいない。

 

「え? 魔族が消えたって……どういうことですか!?」

 

 ――ミルキースよ、お前はもう何も考えなくても良い。後はこの我に身を委ねるだけで良いのだ。

 

 いったい、何の話をしているのか?

 いったい、何が起きているのか?

 ただ、ミルキースは感じ取っていた。

 

 この声に、耳を傾けてはならないと。

 

 ――なぜ拒むミルキース! そなたを幸福にできるのは、この我において他ならぬ!

 

「ひっ!?」

 

 ミルキースは気づく。

 いつのまにか、自分のカラダが聖神柱に吸い込まれていることを!

 それだけではない。

 柱に触れた先から徐々に、カラダが結晶化していくではないか!

 

「きゃ、きゃああああああっ!?」

 

 結晶特有の美しさも忘れてしまうほどの不快感と恐怖。

 痛みはない。

 それが逆に恐ろしかった。

 ゆっくりと、ミルキースのカラダが人のものからかけ離れていく。

 

 ――さあ、我が祝福を受け入れよミルキース。そなたこそ、そなたこそ我と共に生きる存在に相応しい。

 

「い、いやっ! 誰か、助けて! ……助けてフェイン!」

 

 ――そなたの心を乱すものも、我がすべて忘れさせてやろう。

 

「あっ……アッ……アァ……」

 

 消えていく。

 人の形どころか、心まで。

 いちばん大切な人の記憶まで……

 

(いや、お願い、消さないで。それだけは……助けてフェイン……フェイン……ふぇ、いん……って、ダレ、ダッケ?)

 

 自分は何をこんなにも悲しんでいるのか?

 その理由すらもわからなくなっていくと……ミルキースの肉体は完全に聖神柱の中に吸収された。

 

 より輝きを増す聖神柱。

 高圧の光は神殿ごと破壊するほどの衝撃波となり、地響きを巻き起こした。

 聖神柱の異変に聖都の住人たちが「何事か!?」と慌てふためく。

 

 その住人たちのカラダに等しく――焼き印のような刻印が浮かび上がった。

 すると……

 

「があぁっ!? な、なんだカラダが石にっ……」

 

「く、苦しい!」

 

「あ、アァッ、溶ける! カラダが溶ける!」

 

「た、たずげでグレエエエ!」

 

 人々のカラダに次々と異常が起こる。

 肉体が石になっていく者。

 肉体が膨張し破裂する者。

 肉体が焼き爛れる者。

 

 人類にとって、たったひとつの救済地である聖都。

 その聖都が、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化した。

 

 

 ――偽りの信仰などいらん。信仰を道具に腹を肥やす豚どもはもっといらん。真に清き者だけが、この世に生きていれば良い。

 

 声は厳かに語る。

 

 ――さあ、始めよう。この大地を浄化し、真に美しい世界にするために。ミルキース、そなたを完璧な聖女にするために。そして……

 

 声は憎悪を込めるように、どこか嫉妬を混ぜて宣言する。

 

 

 

 ――フェイン・エスプレソン……貴様こそ、この世で最も不要な存在だ!



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やはり、そのおっぱいは豊満であった

「ふぅ、凄まじい戦いだった……」

 

 聖騎士たちとの戦いに俺は見事生き残った。

 いかに俺が聖都最強と謳われていても、あの数の精鋭を相手にして無事でいれられたのは奇跡と言っていい。

 

 これも、この黒い剣のおかげだぜ。

 いままで以上に剣筋が冴え渡っていたのは、やはり新たに手に入れたこの剣の恩恵によるものだろう。

 なんせ一騎相手でも手こずる《十二聖将》の十人を同時に相手して勝てたのだから。

 ひとり、またひとり強敵と刃を交えるたびに、この剣と心身ともに繋がっていくような錯覚を覚えた。

 この剣さえあればどんな相手でも負ける気がしない。

 いまやちょっと友情めいたものすら感じている。

 

 新たな相棒と共に、このまま一気に聖都攻略だぜ!

 

 

 

 暗黒騎士として覚醒したチカラを存分に揮いつつ、俺は聖女様の待つ聖都へと一直線に進んだ。

 もはや聖都に主戦力はほとんどいない。

 あとは結界を破壊して、神官どもをフルボッコにして聖女様を頂戴するだけの簡単なお仕事です。

 

 ふははははは!

 もうすぐあのおっぱいが揉めると思うと、逸る気持ちを抑えられず、ついつい縮地してしまうぜ!

 傍から見たら、ほぼ瞬間移動しているだろう速度で俺は聖都を目指した。

 悲願の成就はまもなくだ!

 

 ことは順調に進んでいる。

 そう舞い上がっていた俺だったが……

 

「ん? なんだ? 聖都の様子がおかしいぞ……」

 

 遠目からでもわかる、聖都のシンボルである《聖神柱》。

 それが異様に光を発している。

 聖女様に神託が降りる際に光るものだが、あんな風に強く発光し続けるところは見たことがない。

 それによく耳を澄ますと、無数の悲鳴までが聞こえてくるではないか。

 

「いったい何が……」

 

 もしや魔王軍の生き残りが聖騎士たちの留守を狙って聖都を攻めてきたのか?

 ……いや、しかし聖女様の結界を突破できるのは容易なことではないはず。

 

 しかし現実、聖都を包む結界は解かれていた。

 聖女様に許された者しか入国できず、それ以外の者は弾き出されてしまう鉄壁の結界。

 それがなくなっている。

 俺が破壊するまでもなく、聖都はいま丸裸の状態と化していた。

 

 好都合と言えば好都合だが……なんだ、この妙な胸騒ぎは。

 すごく、良くないことが起こっている気がする。

 

 聖都の変容を前に呆然としていると……

 

「ひ、ひぃい! た、助けてくれぇ!」

 

 まるで聖都から逃げ出すように、城門からひとりの老人が出てきた。

 

 あれは……神官ゲスオ!

 噂では幼い少女に儀式と評して、ふしだらな真似をしているというクズ神官のひとりだ!

 よぉし、聖都で何が起こったのか聞くついでに去勢したろ!

 日頃の恨みを晴らすチャンスだ!

 しかし……

 

「お、お許しを《聖神》様! わたくしがあのような真似をしたのはすべては《聖神》様の偉大さを思い知らせるため! 決して信仰を利用して己の欲望を発散させていたわけでは……ひ、ひぃやああああああああああ!」

 

「なっ!?」

 

 とつぜんゲスオの股間が身の丈以上に膨張したかと思うと……そのままヤツの肉体は破裂した!

 

「な、なんだっていうんだ、いったい……」

 

 やはり、ただ事ではないぞ!

 

  ◆

 

 聖都に入ると、そこは、まさに地獄だった。

 

「《聖神》様! 私は聖都の暮らしに満足しています! 本当です! 決して不満など微塵も……うわああああ! いやだあああ! カラダが崩れるぅうぅう!」

 

「《聖神》様万歳! 俺は俗にまみれた神官たちとは違う! 真の信仰者です! ですからどうか見逃して……ぐぎゃああぁぁぁあぁ! 石に、石になるのはイヤだああああああ!」

 

「もうたくさんよ! 私たちが何したっていうのよ!? ただ人間らしく生きたいだけなのに! あはははは! ひと思いにやりなさいよ! 信仰なんてクソ喰らえよ! ああああああああああああっ!」

 

 カラダが溶けていく者。

 発狂しながらカラダが石になっていく者。

 神官ゲスオと同様にカラダが破裂する者。

 その者たちのカラダには等しく、聖痕に似た焼き印が刻まれていた。

 俺たち聖騎士が持つ聖痕とは異なる、禍々しく輝くソレに人々は苦しめられている様子だった。

 

「《聖神》様のお怒りじゃ……我々が不信心だったあまりに、ついに《聖神》様がお怒りになられたのじゃ」

 

「これこそが《聖神》様の御力……なんと凄まじい」

 

 ただ例外も存在するようだ。

 信心深くお祈りをしている者たちのカラダには何事もない。

 

 《聖神》の怒りだと?

 この惨劇は《聖神》が起こしているというのか?

 

「おお、聖女様はついに《聖神》様と等しい存在となった。なんと神々しい……」

 

「あの御方こそ人を越えられた存在……どうか背信者を滅ぼし、真なる楽園に我々を導きくださいませ……」

 

「なに!?」

 

 信徒たちの口から聞き捨てならないことが語られる。

 聖女様が《聖神》と等しい存在に?

 まったく意味はわからんが、まさか聖女様の身にも何かが!?

 

「うおおおお! こうしちゃいられん!」

 

 俺は惨劇の場をすり抜けて神殿のある方向に走った。

 状況はさっぱりだが、あのおっぱいが危険に見舞われているのなら駆け出さないわけにはいかない!

 

「……あれ? 神殿なくなってんじゃん!?」

 

 そこにあるのは光り輝く《聖神柱》だけだった。

 それ以外のものは、まるで『近づくな』と言わんばかりに破壊し尽くされていた。

 聖女様は!? 聖女様は無事なのか!?

 

「ほう……わざわざ戻ってきたか。叛逆の聖騎士、フェイン・エスプレソン」

 

「っ!? 誰だ!?」

 

 甲冑で総身を隠しているはずの俺の正体を見破る厳かな声。

 声は空高くから響いた。

 導かれるように頭上を見上げると……

 

「せ、聖女様?」

 

 かくして、あたかも《聖神柱》を守るように空中に浮かび上がる聖女様がそこにいた。

 見間違えるはずがない。

 あの美貌を。あの生白い肌を。あの美しい亜麻色の長髪を。

 そして……あのおっぱいを!

 

 というか……

 

「エッッッッッッッッ!?」

 

 な、なんですか聖女様! その大変けしからん格好は!?

 いつもの露出の少ない聖衣ではなく、彫刻の女神が身につけているような一枚の布だけで大事なところを隠しただけの露出の多い格好!

 神聖美よりも「エロい!」という感想しか出てこない、カラダの輪郭がはっきりわかる、あの格好である。

 

 生足だ! 聖女様の生足だ!

 普段は黒ストッキングで隠されているあの美脚が外気にさらされている!

 太ももまで巻き付いた白のリボンが食い込んでいるのがまた非常にエロい!

 スラリとした足ながら腿肉はむっちむちに肉づいた、いまにもしゃぶりつきたくなるような太もも!

 

 てかウエスト細っ!?

 知っちゃいたが本当に細っ!

 同じ内臓が入っているのか心配になるほどにくびれたウエスト。

 《蜂腰》と称されたソレは聖都中の女性の憧れの的だ。

 

 そして、そのくびれによって、より存在感が強調されている膨らみ……

 夢にまで見た聖女様のおっぱいが!

 薄い布一枚だけで包まれたおっぱいが!

 大事な場所だけを隠し、生白い谷間や横乳や下乳が際どく露出したおっぱいが!

 聖女様の生おっぱいがそこにはあった!

 

「あ、ああ、あぁあああっ!」

 

 俺は感動のあまり叫んだ。

 一部では「さすがにあのありえんデカさは何か詰めてるでしょ」と噂されていたが……そんなことはなかった!

 やはり、そのおっぱいは豊満であった!

 小柄な少女のカラダには、あまりにも不釣り合い過ぎる巨大おっぱい!

 大の男の顔もまるごとその谷間で挟めてしまいそうな特大おっぱい!

 見ただけで柔らかさが伝わってきそうな爆弾サイズおっぱい!

 

「お、おお……おおおおおおっっぱあああああい!」

 

 俺の理性は崩壊した。

 女神が身につける神聖な衣装も聖女様が身につければたちまち色気ムンムンなエロ衣装に様変わりしてしまう。

 

「うおおおおおおお! おぱおぱおぱおっぱああああああい!」

 

 聖騎士のチカラをフルに発揮して俺は跳躍した。

 オスを誘っているとしか思えない格好をした聖女様に向かって突撃し、手を差しのばす!

 いまこそあのおっぱいを我が手に……

 

「我が聖女に触れるな。穢らわしい人間よ……」

 

「っ!?」

 

 あと少しで膨らみに届きそうだった俺の手は、見えない壁によって阻まれた。

 な、なんだ? これまで感じたことのないこの高圧のエネルギーは!?

 

「地に落ちよ」

 

「ぐわあああああああっ!」

 

 強化された俺ですら突破できない防壁に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 それどころか……

 

「くっ、バ、バカな……甲冑が……」

 

 一瞬で身に纏っていた黒い甲冑が消失してしまった!

 《十二聖将》たちですら傷つけられなかった甲冑がいとも簡単に!

 

「平伏せよフェイン・エスプレソン。貴様のような輩には、我が聖女を見ることすら不敬である」

 

 聖女様の前で正体がバレても俺は焦ることはなかった。

 そんなことを気にしている場合ではないと、すぐに判断したからだ。

 

「……貴様は何者だ?」

 

 聖女様の姿をした『ナニカ』に俺は問いかける。

 

「我こそは貴様ら人間が《聖神》と呼ぶ存在だ」

 

「《聖神》だと!?」

 

「いまはこうして聖女ミルキースの器を借りている状態だがな」

 

 まさかの名乗りに驚く。

 では本当にこの惨劇は《聖神》自らが起こしているというのか!?

 

「《聖神》とあろうものが、なぜこんなことをする!?」

 

「決まっている。この地を浄化し、聖女ミルキースが生きるにふさわしい世界を創造するためだ」

 

「聖女様に、ふさわしい世界だと?」

 

「然り。この世界は穢れている。権力に溺れ、信仰を利用し、腹を肥やす愚か者どもが頂点に立ち、チカラ無き者たちはその腐敗した政治に頼るしかない世界。実に醜いとは思わんか?」

 

「それは……」

 

「だが、このミルキースという少女だけは違った」

 

 《聖神》は愛おしむように語る。

 

「彼女ほど清く美しい魂を持つ存在を我は知らない。まさに聖女の名にふさわしい。我が寵愛を受けるにふさわしい。ゆえに……」

 

 また、どこかで人の悲鳴が上がる。

 

「心の穢れた者をこの地から一掃する。そして我が聖女を人類の頂点に立たせ、この世界を真なる楽園に変えるのだ。

 清き心を持つ者だけが生きる世界……ああ、なんと目眩く未来か!」

 

 ひとり悦に浸って野望を語る《聖神》。

 世界の浄化。

 心清き者だけが生きる世界。

 どれも話がデカすぎて実感が湧かない。

 だが……

 

「お前の未来図なんて、俺には知ったこっちゃない」

 

 腐敗した世界とか、楽園がどうのとか、俺には心底どうでもいい。

 

「けど……」

 

 はっきりしていることは、ただひとつ。

 

 

 

「テメェが存在している限り、聖女様の乳を揉めねえってことだな!」

 

 

 聖女様の意識を乗っ取って、好き勝手している《聖神》。

 それだけでも気に食わないというのに、あろうことか聖女様に触れることすら許さないときた。

 これでは魔王軍に寝返っても意味がない!

 なら戦うしかない!

 相手が神だろうと関係ない。

 俺の目的を邪魔するヤツはすべて敵だ!

 

「聖女様のカラダを寄こしやがれえええ!」

 

 聖騎士としてのチカラを使い、再び宙に向かって跳躍。

 とにかく、あの光の障壁を破壊しなければ!

 この黒い剣で断ち斬ってやる!

 

 新たなる愛剣に渾身のエネルギーを注ぎ込む。

 しかし……

 

「愚かな」

 

 《聖神》は嘲笑を浮かべながら片手を差し出す。

 

「忘れたか? 貴様の聖騎士としてのチカラの源流が、どこから来ているのかを」

 

「あ……」

 

 プツン、と糸が切れたような感覚。

 聖騎士の証である、右手の聖痕が消える。

 同時に、俺の中で異能のチカラが消失していくのを感じた。

 

「これで、貴様はただの人間だ」

 

 視界が光で包まれる。

 

「かはっ……」

 

 気づけば、地に倒れていた。

 肉体の損傷は、命に関わるほどに重度である。

 身を守るための聖騎士の障壁が無くなったのだから当然だった。

 

 傍らには、黒い剣がある。

 

 ……刀身の砕けた、剣が……。

 

「簡単には殺さんぞフェイン・エスプレソン。貴様には生まれたことを悔やむほどの絶望を与えてから地獄に送ってくれる」

 

「あ、ああっ……」

 

 絶望、だと?

 そんなの、もうとっくにしている。

 頼りだった黒い剣が折れてしまったから?

 違う。

 

 俺の両腕。

 肘から先までの腕が二本とも……

 

 

 

 この世から消滅してしまったからだ。

 

「う、うわあああああああああああああああああああ!!!」

 

 聖女様の乳を揉む。

 その悲願は、もう叶うことはない。

 そのための両手を、失ってしまった。

 

 聖騎士としてのチカラも失った。

 剣も折れた。

 俺の心も折れた。

 

 これが絶望以外の何だというんだ?

 

「いい顔だフェイン・エスプレソン。その顔がずっと見たかった」

 

 もはや《聖神》の嘲りも耳に入ってこない……はずだったが。

 

「思えばお前ほど忌々しいと感じた存在はいない。ミルキースを完全な聖女にするためには、お前という存在だけがどうしても邪魔だった。ミルキースの思い人である貴様だけが」

 

 聞き逃せないことを耳にし、消沈していた意識が再び浮上する。

 俺が、聖女様の思い人?

 

「気づいていなかったのか? ミルキースは長年貴様に懸想していた。貴様に思いを馳せているときに限っては、彼女は聖女らしからぬ振る舞いを見せた。

 ああ、それだけが我は悲しい。貴様さえいなければ、ミルキースはとうに完全な聖女だったというのに!」

 

 そんな……。

 それでは聖女様のあの笑顔は。

 あの慈しみも。

 あの言葉も。

 万人に向けたものではない、俺だけに向けてくれていたものだったというのか?

 そうとは知らず、俺はひとりだけ先走っていた?

 素直に思いを打ち明けていれば、もしかしたら今頃、簡単に悲願は成就していたかもしれなかったというのに?

 

 聖女様、あなたは……

 

 ――フェイン、見てください。私が育てた花がこんなに綺麗に咲きました!

 

 ――フェイン、よろしければ、あなたが子どもの頃のことを教えてくださいませんか? ……あ、いえ! 深い意味はないです! 聖女として聖騎士ひとりひとりのことを理解するのは大事ですから!

 

 ――もう、フェインったらまた無茶をして。あまりシュカを心配させるようなことはしてはなりませんよ? ……私だって、もちろん心配なんですからね?

 

 ――ねえフェイン? いつか、この戦いが終わったら私と……いえ、なんでも、ありません!

 

 ――フェイン。きっとこの世界を平和にしてみせましょう。あなたと私なら、きっと……

 

 

 

「聖女様……」

 

 気づいた。

 気づいてしまった。

 こんなにも、こんなにも俺は、聖女様が好きだったんだ。

 好きな人の乳を揉みたいと思う。

 俺のこの気持ちは、そんな至極当たり前のものだったんだ。

 

 俺に必要だったのは、魔王軍に寝返る勇気ではなかった。

 聖女様に思いを伝える勇気だったんだ!

 

「フェイン・エスプレソン。忌々しい魔族どもを滅ぼしてくれたことだけは褒めてやろう。我がこうして降臨するまでは、貴様ら人間どもに頼るしかなかったからな。ミルキースの住む世界にあのようなおぞましい存在は不要だ。

 ……そして貴様も用済みだ。消えるがよい」

 

 気づいたところで、もう手遅れだ。

 戦うチカラを失った俺ではもう、聖女様を救うことができない。

 

「喜ぶがいい。愛する者の手によって逝けるのだからな」

 

 破壊光が迫ってくる。

 これが国を……聖女様の願いを裏切った者の報いか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――諦めるにはまだ早いよ、フェイン。

 

「え?」

 

 迫り来るはずの終わりは訪れなかった。

 砕けたはずの黒い剣。

 それが独りでに浮き上がり、《聖神》の破壊光を防いだのだ!

 

 ――君が充分に時間を稼いでくれたおかげで、元の姿に戻る準備が整った。

 

 この声は……

 黒い剣を抜くときに聞こえたのと同じ声!

 やはり、この剣そのものが話していたのか!?

 

 ――さあ、反撃の開始だよ。

 

 砕けた剣が強い光を発する。

 光源から光の粒子が流れ、そのまま両腕の切断面に集まったかと思うと……

 

「くっ……う、腕が!?」

 

 見る見るうちに無くなった腕が再生していく!

 聖女様でも欠損した部位は再生することはできなかったのに、こんなにあっさりと!

 このチカラはいったい!?

 

 ――いまとなっては君こそが希望だフェイン。だから諦めちゃいけない。

 

 光り輝く剣は、徐々に人の輪郭を形成していく。

 

「き、貴様はまさか!?」

 

 《聖神》が動揺の声を上げる。

 俺も驚愕する。

 目の前に現れたのは、聖女様にも負けない美貌を持つ黒髪の美少女だった。

 

「……ふぅ。やっぱり外の空気はおいしいね」

 

 け、剣が女の子になった!?

 

「き、君はいったい……」

 

 困惑する俺に向けて少女はニコリと愛らしい笑顔を浮かべる。

 

「はじめまして。ぼくはリィム。君たち人間が呼んでいる、魔王ってやつさ」

 

「魔王!?」

 

 この女の子が!?

 いや、しかし魔王は確か俺が倒したはず……

 

「君が倒したのは影武者さ。本当の魔王であるぼくは、こうして剣として姿を変えていたのさ」

 

 影武者だって?

 どうりで魔王にしては手応えがないとは思ったが……

 

「な、なんたってそんな真似を?」

 

「ちょっと素性を隠さないといけない事情があってね。あとは、こうしてこっそり聖都に忍び込む作戦のためさ」

 

 リィムいわく、魔王軍で二番目に強いあの影武者を倒すほどの戦士の到来を、ずっと待っていたという。

 剣には抜かざるを得なくなる『魅了』の魔術がかかっており、抜いた者の意識を乗っ取る仕掛けが施されていた。

 そうして聖騎士のフリをして聖都に侵入する予定だったようだが……

 

「まさかぼくでも乗っ取れないほどの精神力の持ち主だったとは想定外だったよ。それだけ君の願望が強かったということかな? まあ、無事こうして聖都に入れたことだし、結果オーライってやつだね」

 

「……侵入してどうする気だったんだ? やっぱり聖都を滅ぼすためか?」

 

「いや、ぼくらの目的はずっと昔からただひとつさ。この人間界に現れた《聖神柱》を破壊すること……もっと言えば、《聖神》と呼ばれるあの存在を滅ぼすためさ」

 

 そう言ってリィムは《聖神》を睨む。

 

「久しぶりだね。相変わらずそうやって気に入らない者を消すことばかりしてるんだね、君ってやつは」

 

「……リィム。まさか貴様が生きていたとはなっ!」

 

 リィムの挑発に《聖神》は憎悪を込めた声で応える。

 なんだ? 会話からするに《聖神》と魔王は顔見知りのようだが……

 

「君には真実を明かしておこうかフェイン。君たちが魔族と呼んでいるぼくらはね……もともとは、あの《聖神》の住まう天界の住人なのさ」

 

「なに!?」

 

「あの身勝手な《聖神》様はね、気に入らない天界の民をこの人間界に追放し続けてきたんだよ。『見た目が醜いから視界に納めたくない』とか『自分に忠実じゃないから気に入らない』とか『そもそも自分を愛さないやつは必要ない』とか。そんな理不尽な理由でね」

 

 な、なんだそりゃ。

 まるで暴君そのものじゃないか。

 

「ぼくもね、アレに求婚されて『イヤだ』って拒んだ結果、殺されかけたんだ」

 

「は?」

 

 なにソレ? ひ、引くわー。

 というか、正確な年齢はわからんが魔王の見た目って年端もいかない幼女なんだけど……

 なになに? 《聖神》ってロリコンだったの? しかもフラれたから殺すとか……ないわー!

 

「当然の報いだ! 我と同等のチカラを持つ希少な存在だから求婚してやったというのに、我が妻になることを拒むとは! 死を持って償うのが当然であろう!」

 

 しかも全然悪びれてねー!? マジ引くわー!

 

「……とまあ、あんな感じに理不尽な理由で瀕死の重傷を負わされたぼくも、そのままこの世界に追放されたというわけさ」

 

 それが人間たちが語る、魔王到来の経緯か……。

 

「姿を隠していたのは、《聖神》にぼくの生存をバラさないため。その間に傷ついたカラダを癒して、失ったチカラを回復させる時間が必要だったんだ。……すべては《聖神》を倒し、皆で天界に帰るためにね」

 

 長年続いた人間と魔王軍の戦いの真実。

 その元凶はそもそも……

 

「ぜんぶお前のせいじゃねーか《聖神》!」

 

「黙れ黙れ! 我は何も間違えない! 我は絶対なる存在! 我が為すことはすべて正しいのだ!」

 

 だ、だめだコイツ。メチャクチャだ。

 こんなイカれたヤツを俺たちはずっと神として信仰していたのか?

 

「我を崇めない存在など必要ない! 我を愛さない存在はもっと必要ない! だからすべての民をこの地に追放してやったのだ!」

 

「すべての民!?」

 

 道理でやたらと魔族が多いと思ったが……いくらなんでもやり過ぎだ。

 コイツ、本気でイカれてやがる!

 

「愚かな民など無用! 天にはこの我だけが存在していれば良いのだ!」

 

「そう言うなら、なんでこの人間界に干渉しにきたんだい?」

 

「……なんだと?」

 

「だってさ、気に入らない民を全員追放して清々したんだろ? ひとりきりになって満足したんだろ? ……なのに、わざわざこの世界に関わるのはどういった理由だい?」

 

 確かにリィムの言うとおりだ。

 唯一絶対の存在でありたいのなら、他の存在なんて必要ないはず。

 それが我慢ならなかったのは……

 

「つまりはさ……寂しくなったんだろ? 自分を構ってくれる存在がひとりもいなくなったから」

 

 とつぜん地上に《聖神柱》が出現し、人間に関わるようになったのも。

 追放した魔族を憂さ晴らしとばかりに人間を利用して滅ぼそうとしたのも……

 すべては、そんな子どもじみた理由から。

 

「そして、いまはお気に入りのお人形さんを見つけてご満悦ってわけかい? そのかわいいお人形さんと遊ぶためのドールハウスを作るために、気に入らないものは全部消すと……まったく、呆れてものも言えない」

 

「我が崇高なる目的を愚弄するか!」

 

「事実を述べたまでだよ。本当に、君ってやつはどこまでもワガママだね」

 

 そうだ。

 こんなワガママのせいで、俺たちはずっと……。

 聖女様は、ずっと……!

 

「……それで、フェイン。君の大切な人がこんな形で奪われて納得できるかい?」

 

「できるわけねーだろうがあああああああああああああああ!!」

 

 許せるわけがない。

 コイツのせいで起こるはずもなかった争いが生まれた。

 ひとりの少女の運命を狂わせた。

 絶対に、許せない! コイツだけは!

 

「そうか。ならぼくらの目的は一緒だ」

 

 ああ。もう人間と魔族とかどうでもいい。

 倒すべき敵は《聖神》……コイツだけだ!

 

「ふん。たった二人だけで何ができる? それにリィム。貴様はともかくそこの人間はもはや何のチカラも持たない役立たずだぞ?」

 

「おいおい、長年独りぼっちだったからボケたのかい? 君はその女の子に自分のチカラを授けたんだろ?」

 

「なに? ……まさか!?」

 

「君程度にできることが、ぼくにできないと思うかい?」

 

 リィムが俺の手を握る。

 

「君に託してもいいかいフェイン? 《天の制約》ってのがあってね。ヤツに追放されたぼくらじゃ、ヤツにトドメを刺すことができないんだ。だからどうしても、人間のカラダが必要だったんだ」

 

 リィムが剣となった目的は、身を隠すためだけではなかった。

 人の手で《聖神》を滅ぼしてくれる勇者を、ずっと待っていたのだ。

 

「だから……」

 

「ああ、任せろ」

 

 手の甲に光が生じる。

 

「俺が《聖神》を倒す。そして……聖女様を取り戻す!」

 

 刻まれる新たな聖痕。

 身の内から生じるチカラの奔流。

 かつて感じたことがないほどの強大なエネルギーが込み上がってくる。

 

 魔王リィム。

 《聖神》と同等のチカラを持つという彼女のチカラ。

 聖女様がそうだったように、それは人間の枠を超越して、高次元へと至る鍵。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

 かくして、契約は成せられた。

 

 手に握るは刀身の折れた剣。

 しかし問題はない。

 刀身がないのならば……自ら生み出せばいい。

 

「はぁっ!」

 

 鍔から出現したのは光の剣。

 チカラそのものが教えてくれる。

 これこそが《聖神》を滅ぼすための最終手段。

 魔王リィムが歳月を経て創り上げた《神殺しの剣》だと!

 

「……愚かな」

 

 己を滅ぼす可能性を秘めた存在が出現しても尚、《聖神》は嘲笑う。

 世界で最も慈愛の笑顔が似合う、聖女様の顔で。

 

「身の丈に余るチカラを手に入れたところで、人間ごときにこの我を滅ぼせはずがない。それに……」

 

 《聖神》の周囲に出現するは無数の光の槍。

 

「どの道、これで貴様らは滅びる運命だ!」

 

 俺たちどころか、この聖都そのものを破壊し尽くさんばかりの槍が、轟音を立てて雨のように振り落とされる。

 これまでの俺だったら、この数の攻撃を防ぐことはできなかっただろう。

 

 これまで、なら。

 

「……いいや、終わるのはお前だ」

 

「なっ!?」

 

 たった一振りの斬撃。

 それだけで光の槍はすべて一掃された。

 

「バ、バカな!?」

 

 己の攻撃が悉く無に帰したことで、《聖神》にも焦りが生じたようだ。

 

「くっ! 小癪な!」

 

 先制される前に防護障壁を展開する《聖神》。

 だが、それすらも……

 

「穿て」

 

「っ!?」

 

 剣先から射出される破壊光。

 あれほど強固だった障壁は、紙切れのように消失した。

 

「あ、ありえぬ!?」

 

 攻撃も防御も、この剣の前ではもはや無意味。

 ならばあとは、聖女様のカラダからヤツを切り離すだけ。

 そのための手段もすでにチカラそのものに教えてもらっている。

 聖女様の身を傷つけることなく、それは可能だ。

 

「あ、あってはならん! こんなことがあってたまるか!」

 

 不利と悟ったか。

 あまりにも見苦しことに、ヤツは戦線を離脱しようとする。

 光の速度で人の身では届かない天高くに逃げようとしている。

 

「おっと。逃がさないよ」

 

「ぐっ!?」

 

 だが逃走は阻まれる。

 リィムが展開した結界によって、脱走路は塞がれた。

 魔王が作り出す結界だ。

 そう簡単に破られはしまい。

 

「忌々しいやつらめ!」

 

 続いて出現するは奇怪な装甲を纏った無数の雑兵。

 チカラで分析を開始する。

 雑兵そのものに命はない。中身は空洞の鎧だけの存在だ。

 だがそのチカラは一騎一騎が《十二聖将》にも並ぶ戦闘力を秘めている。

 数で押されたら不利になるだろう。

 

「ふははは! 戦力差が貴様らの敗因だったな! せいぜい遊んでやるがいいわ!」

 

 数で攻めてこちらの集中力を削ぐ作戦のつもりらしい。

 いくら倒しても無限に湧く雑兵。

 確かに厄介だ。

 しかし……

 

「戦力差だって?」

 

 ヤツは忘れている。

 

「そんなのすぐ越えてやるさ」

 

 ここにいるのは、あの魔王リィムだということを。

 

「皆! いまこそ反撃のときだ!」

 

 リィムの掛け声と共に轟く異形たちの咆吼。

 

 魔王がいる限り何度でも蘇る魔族たち。

 その実体は、《聖神》に等しいチカラを持つリィムだからこそできる奇跡だったのだ。

 いまこの瞬間、すべての魔族……いや、天界の民たちが、憎き神を打倒し、元の世界に帰るために集った!

 

「覚悟しやがれこの野郎!」

 

「俺たちは帰るぞ! 元の世界に!」

 

「聖騎士! いまは貴様にチカラを貸そう!」

 

「お前には何度もやられたが……いまは忘れてやる!」

 

「雑魚は我々に任せよ!」

 

「目的のためとはいえ、人間を何度も傷つけた手前、こんなことを言うのは身勝手だが……頼む! ヤツを倒してくれ!」

 

「お願い! あなたにしかできないの!」

 

 かつて敵対していた者たち。

 だがいまや共通の敵を倒す協力関係だ。

 

「我が背に乗るがいい聖騎士。敵のところまで連れていってやる」

 

「お前は……」

 

 魔王の影武者!

 実力ナンバー2の彼は竜の姿となって、俺に背を差し出す。

 きっとこれが本来の姿なのだろう。

 

「あのときはお前の目的を笑ったな」

 

「?」

 

「『聖女の乳が揉みたい』。バカらしいことこの上ないと思ったが……しかし、あの聖女を見て考えが変わったわ」

 

 そう言って竜はグッと親指を立てた。

 

「男なら、あれは揉まざるを得ないな」

 

「……わかってるじゃねーか!」

 

 同じくグッと親指を立てて、俺は竜の背に乗った。

 

「行くぞ聖騎士! 取り返せ! 惚れた女を!」

 

「当たり前だぁあああ!!」

 

 待っていてくれ聖女様!

 必ず助ける!

 



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最終話──おっぱいをこの手に

 ミルキースは暗闇の中を漂っていた。

 ここはどこだろう?

 自分はいったい何をしているのだろう?

 何か、とても大事なことがあったはずなのに……何も思い出せない。

 

 ――思い出す必要はないミルキース。そなたは我にすべてを委ねていれば良い。それが一番そなたにとっての幸せなのだ。

 

 厳かな声が語る。

 違う、と言いたい。

 自分の幸せはこんなことじゃない。

 そう声を大にして言いたいのに、何も言えない。

 

 あるはずなのに。

 自分にとって一番の幸せは、もっと別に……

 

(でも、それは、何でしたっけ?)

 

 何も、思い出せない。

 とても、大切なことだったはずなのに……

 

 ――……聖女様!

 

 声が聞こえる。

 厳かな声とは違う、いつまでも、何度でも聞きたくなるような、そんな声。

 

 ――聖女様! 目を覚まして!

 

 でも、この声は誰だろう?

 やはり思い出せない。

 自分にとって、特別な人だった気がするのに……。

 

 ――耳を傾けるなミルキース。ここがそなたにとっての楽園なのだ。だから何も考えなくて良い。

 

 楽園? こんな何もない真っ暗な世界が?

 違うと言いたい。

 そんなものは望んでいないと言いたい。

 だが、やはり口から声が出てくれない。

 

(私、は……)

 

 暗闇に包まれていると、自分が何をこんなに悲しんでいるのかすら、わからなくなっていく。

 肉体の感覚も無くなっていく。

 

 自分が強く求めていたもの。

 それすらも、わからなくなっていく……。

 

 でも。

 

 ちょっとした刺激があれば、思い出せるかもしれない。

 

 自分が本当に望んでいたことを。

 

  ◆

 

 竜の姿となった魔王の影武者の背に乗って、俺は《聖神》のもとへ向かう。

 

「来るな! 我が聖女に触れるな!」

 

 振り下ろされる光の槍は剣で薙ぎ払い、航路を作り出す。

 

「それで聖騎士。ヤツを聖女から切り離す方法はすでにあるのか?」

 

 翼をはためかせつつ、影武者が尋ねてくる。

 

「ああ。この光の剣は人間を傷つけない。神だけにダメージを与えるようにできているんだ。まさに《神殺しの剣》ってわけさ」

 

「そうか。ならば安心して斬れるというわけだな?」

 

 そのとおりだ。

 いくら《聖神》を倒すためとはいえ、聖女様のカラダを傷つけることはできないからな。

 

「《神殺しの剣》だと? ……ふふふ……はははははは!」

 

 俺たちの会話を聞き取ってか、《聖神》はさもおかしそうに高笑いしだす。

 

「何がおかしい!?」

 

「我が勝利を確信したからだ! お前たちは永遠に我を倒すことはできない!」

 

「なに!?」

 

「人間は傷つけない、神のみ殺す剣……ふふふ、残念だったな! その剣で斬れば器であるミルキースも死ぬぞ!」

 

「っ!? どういうことだ!?」

 

「ミルキースは一度、我が《聖神柱》に取り込み、我が憑依するに適した器として再構築した。この身はすでに人でありながら神と同質のものとなっている。……即ちその剣で斬ればミルキースも死ぬということだ!」

 

「なっ……!」

 

 そんな!

 聖女様を救うための唯一の手段が!

 

「おのれ! どこまでも姑息な手を使いおって!」

 

 影武者が怒りから火のブレスを吐こうとする。

 

「よせ影武者! 聖女様を傷つける気か!?」

 

「しかし、このままでは!」

 

「くっ……」

 

 どうすればいい!?

 聖女様から《聖神》を切り離す方法は他にないのか!?

 

「くたばれゴミども! 我とミルキースが生きる美しい世界に貴様らは無用だ!」

 

「ぐわああああああああ!」

 

 不意打ちの破壊光が照射される。

 防ぐ間もなく、俺と影武者は墜落する。

 

 くそっ!

 あと、少しなのに……

 聖女様……

 

「……聖女様! 頼む! 目を覚ましてくれえええええ!」

 

 必死の思いで彼女を呼んだ。

 すると……

 

「…………フェ、イン?」

 

「っ!?」

 

 《聖神》とは異なる声が、俺の名を紡いだ。

 これは……聖女様の意識が戻っている!?

 

  ◆

 

 フェイン。

 そうだ、フェインだ。

 自分はその名を知っている。

 どこで会ったか?

 そう、教会だ。

 子どもの頃に住んでいた教会で、助けてもらった。

 それから、ずっと自分は彼を……

 

 彼を、どう思っていたんだっけ?

 もう少し、もう少しで答えにたどり着けるのに。

 いちばん大事なことが思い出せな……

 

 ――思い出すな! そなたはこの我のことだけを考えてれば良い!

 

 肝心なところで厳かな声にまた邪魔される。

 ミルキースの意識は再び暗闇の中に沈んでいく。

 

  ◆

 

「くぅっ! 我が聖女を誑かすな!」

 

 変化は一瞬だけだった。

 また《聖神》の意識だけが表に出る。

 

 くそっ、ダメか!

 だが、こちらの呼びかけに反応することはわかった。

 いまはそれしか手段がない!

 

「影武者! もう一度飛んでくれ!」

 

「うむ! 振り落とされるでないぞ!」

 

 再び竜の背に乗って浮上する。

 

「聖女様! 俺だ! フェインだ! 頼む、目を覚ましてくれ! 《聖神》の支配から逃れてくれ!」

 

「ええい! やめろと言っているだろう!」

 

「俺と一緒に帰ろう! 《聖神》さえ倒せば、もう人間と魔族が争う必要はないんだ!」

 

 《聖神》の攻撃を躱しつつ、俺は呼び続ける。

 

 お願いだ聖女様!

 自分を取り戻してくれ!

 

  ◆

 

 争う必要はない?

 そうだ。自分はずっとそのために頑張ってきた。

 でも、それだけだったろうか?

 もっと他に強く望んでいることがあったはず。

 それは、とても気持ちの安らぐことだったはず。

 

 確かそれは……

 

「んっ……♡」

 

 気づくと、ミルキースは自らの胸元に手を伸ばしていた。

 

「はぁ、あっ♡ これ、は……♡」

 

 忘れていた快感の奔流。

 そうだ、自分はこれをずっと求めていた。

 それも自らの手で与えられるものじゃない。

 

 そう。彼の手自らで……

 

  ◆

 

「ミルキース!? やめろ! それは聖女とは程遠い感情だ! 捨てろ! 捨ててしまえ!」

 

 《聖神》が錯乱し始めた!

 どうやらお互いの意識が拮抗し合っているようだ。

 

「ええい! すべて貴様のせいだフェイン・エスプレソン! お前さえいなければミルキースはこんな破廉恥な少女にはならなかったのだ!」

 

「破廉恥?」

 

 あの清楚の化身とも言うべき聖女様が?

 いったい何の話を……

 

「墜ちろ! 墜ちてしまえ! ミルキースを誘惑する悪魔めがああああ!」

 

「うわああああああ!」

 

 広範囲による破壊光で視界が奪われる。

 防ぐ間もなく、また墜落してしまう。

 

「……フェ、イン……」

 

「っ!?」

 

 まただ。

 また一瞬、聖女様の意識が戻った!

 

「私、は……」

 

 聖女様、あと少しであなたに届くのに。

 だが視界は光に遮られて何も見えない!

 何も……

 

 いや? なんだ?

 何か、見えてきたぞ?

 こことは違う、別の光景が……

 

 そこは古びた教会。

 幼い少女が懸命に水運びをしている。

 小さなカラダで、老いた神父のお手伝いをしている。

 

 これは、まさか……聖女様の記憶?

 

 質素ながらも平和な暮らしを送る彼女。

 だがある日、教会は異国の騎士に襲われる。

 これは、俺にも覚えがある。

 そうだ、初陣で俺は教会の女の子を助けたんだ。

 まさか……あの女の子が聖女様!?

 

『フェイン・エスプレソン様かぁ……お話してみたいなぁ……』

 

 若き騎士に助けられた少女は、その少年に思いを馳せている。

 じゃあ本当に、聖女様は、俺のことを?

 こんな小さな頃から?

 俺はずっと、忘れていたのに。

 聖女様があの女の子だと気づかなかったのに。

 

 やがて景色は聖都へと切り替わる。

 聖女として覚醒した彼女は、多くの人々に迎えられる。

 だが、彼女の瞳は、ひとりの男に向いていた。

 

『また、会えるなんて……』

 

 そこまで。

 そこまで彼女を俺を……

 

『んっ♡ フェイン♡ あっ♡』

 

 んうううううううううううう!?

 

 今度は神殿の光景。

 いつも聖女様が祈りを捧げる神聖な場所。

 そこで聖女様は、なんと、なんと……

 

『あうぅ……いけないのに、止まらないよぉ……はああぁんフェイィィン♡』

 

 ご自分でご自分のおっぱいを!?

 しかも俺の名前を呼びながら!?

 こ、これはまさかあああああああああああああああ!?

 

 

 

 

 

「フェイン! しっかりするんだ!」

 

「はっ!?」

 

 目が覚めると、俺は焼け焦げた大地に横たわっていた。

 傍らでは、リィムが影武者と俺に癒しの魔術を施してくれている。

 

「大丈夫かい!? 傷はすでにぼくが回復させたけど気分は!?」

 

「最悪だ! いいところだったのに!」

 

「は?」

 

「あ、いや……」

 

 あの光景……。

 きっと聖女様の記憶だったと思うのだが……でも、あれも本当にあったことなのか?

 俺の願望ではなく?

 だとしたら、俺たちは……。

 

「フェイン。どうやら彼女の意識を取り戻させるには、もはや君の言葉じゃないと無理なようだね」

 

「どうも、そうらしい。だが……」

 

 あと少しというところで《聖神》の邪魔が入ってしまう。

 くそっ、聖女様の意識を完全に目覚めさせるにはどうすれば……

 いったいどんな言葉をかけてやればいいんだ!

 

「……ねえ、フェイン。君がいま戦っているのは何のため?」

 

「え?」

 

「世界を救うため? 聖都の住人を守るため? ぼくらのため? あの子を救うため?」

 

「そんなのぜんぶに決まって……」

 

「いいや。君の目的はもっとシンプルなものだったはずだよ」

 

「っ!?」

 

 そうだ。それらの目的は副次的なものに過ぎない。

 俺の本当の望みは……

 

「上辺の言葉だけじゃ、きっと彼女の心に響かない。だからフェイン。君自身の言葉で語りかけるんだ。君の心の赴くままに。それがきっと、君にチカラを与えてくれる。彼女も、きっと君の本音を望んでいると思う」

 

 俺の心の赴くままに……

 そうだ。忘れてはならなかった。

 俺が一番やりたかったこと。

 それをやるとしたら……

 

「……影武者、もう一度飛んでくれるか?」

 

「無論」

 

「ありがとうリィム。おかげで俺のやるべきことがはっきりした」

 

「それはよかった。結界は引き続きぼくが維持する。だから安心して彼女のもとへ行ってあげて」

 

 おう。

 今度こそ取り戻すんだ、聖女様を。

 

  ◆

 

 足りない。

 こんなものじゃ足りない。

 もっと刺激が欲しい。

 やはり自分の手ではダメなのだ。

 

 欲しい。

 彼の手が。

 欲しい。

 彼の言葉が。

 欲しい。

 彼の愛が。

 

 求めてほしい。

 自分を強く、深く、荒々しく、貪欲に……。

 

 でも、そんなことは起こりえないとわかっている。

 敬虔な彼は自分を聖女としてしか見ていない。

 そもそも、彼は一度だって自分を名前で呼んでさえくれなかったのだから……

 

 ――ミルキース!

 

(っ!?)

 

 呼ばなかった、はず……

 

  ◆

 

 天高く轟くように、俺は叫ぶ。

 

「ミルキース!」

 

 ずっと呼びたかった、その名前を。

 

「ミルキース! 俺は君が好きだ! 優しい君が好きだ! 花を育てている君の横顔が好きだ! 猫とじゃれつきながら頬を緩ませている君が好きだ! 怒ったときプクって頬を膨らませて拗ねる君が好きだ! よく()ける君が好きだ! こっそりと鼻歌を歌っている君が好きだ! 初めて見るものを前に目をキラキラさせる君が好きだ! 実は豆が苦手なところが好きだ!」

 

 せき止めていたものが溢れるように、彼女への思いが口からどんどん出てくる。

 

「好きだ! 大好きなんだ! 君なしの人生なんてもう考えられない! 愛しているんだ! だから……」

 

 万感の思いを込めて、いまこそ宣言する。

 

「君の乳を揉みたい!」

 

 揉みたい……揉みたい……と言葉が空にコダマする。

 

「……な、何を言い出すのだ貴様は? 気でも狂ったか?」

 

 《聖神》が訝しげな表情で俺を見る。

 だが関係ない。

 俺が見ているのは、もはやミルキースという少女、ただひとりだけなのだから!

 

「ずっと揉みたかった! 君のデカ乳を! ずっとずっと我慢してたんだ! もう本当になんなのそのおっぱい!? 俺を誘っているのか!? 誘っているよな!? 毎日まいにちプルンプルンたゆんたゆんバルンバルン揺らしやがって! どれだけお世話になったことか! ありがとうございます! でも妄想だけじゃもう我慢できない! 揉みたいんだ! 直に! 自分の手で! 君のそのおっぱいを! 心ゆくまで揉みしだきたいんだ! ああ! 揉みたい! 揉んで揉みまくりたい! おっぱいおっぱいおっぱい万歳! 大好きな君のおっぱいを揉んで揉んで揉んで揉みまくりたいんだあああああああああああああああ!!」

 

 シーン、と空気が静まっていく。

 《聖神》だけでなく、俺を背に乗せる影武者も、地上にいるリィムと魔王軍たちも、真顔になっているのがわかる。

 

「……そりゃ素直になれとは言ったけど……うん、いろいろと凄い男だよ君ってやつは……」

 

 そんなリィムの呟きが聞こえた気がした。

 

「ふん。どうやら本当に気が触れたらしいなフェイン・エスプレソン。そんな下劣な言葉でこのミルキースの心を動かせるとでも……うっ!」

 

 《聖神》が頭を抱えだす。

 

「バ、バカな……揺れ動いているというのか、あんな言葉で? よせ、ミルキース! 静まれっ! あ、ありえん! こんなことは……ぐあああああああああああああああっ!!」

 

 絶叫と同時にミルキースのカラダから光が漏れ出る。

 現れたのは光の結晶体。

 

 ――な、なんということだ……自力で我を切り離しただと!?

 

 厳かな声は結晶体から漏れた。

 あれが《聖神》の本体か!

 ということは……

 

「……しい」

 

 少女の頬から流れ落ちるのは涙。

 

「嬉しい、です……」

 

 冷酷な表情はもうそこにはない。

 俺の知る、彼女の笑顔がそこにはあった。

 

「嬉しいです、フェイン! 私も……私もあなたが好きです! ずっと、ずっと昔から、大好きなんです!」

 

「ミルキース!」

 

「フェイン!」

 

 互いに手を伸ばし合う。

 だが……

 

 ――我が聖女に触れるなああああああ!!

 

「ぐっ!?」

 

 あとちょっとで手が届きそうだったのに、またしても光の障壁で邪魔される。

 くそっ、そんな状態になってもまだ小細工ができるのか!

 しぶといヤツめ!

 

 ――渡さん! ミルキースは我のものだ!

 

「きゃああああっ!」

 

「ミルキース!?」

 

 光り輝く触手状のものがミルキースの肉体に巻き付く。

 

 ――もう一度《聖神柱》に取り込んでくれる! 二度と貴様を思い出せないように徹底的に記憶を弄ってやる!

 

「いや! 助けてフェイン!」

 

 まずい!

 

「追ってくれ影武者! このままじゃまたミルキースが!」

 

「おうとも! というか貴様、いい加減に余を『影武者』と呼ぶのヤメロ! 地味に気にしているのだぞ!」

 

「こんなときに何言ってんだ!? 名前知らねーんだからしょうがねえだろ!」

 

「ならば名乗ろう! いいか余の名は……ぐわああああああああああああ!!」

 

「影武者あああああ!?」

 

 光の弾丸で翼をもげられた影武者が墜落していく。

 

 ――ふはははは! 人間ごときが我が君臨する天に昇るなどおこがましいわ! 翼を治癒したところでもう間に合わん! ミルキースが生まれ変わる瞬間を指をくわえて見ているがいい!

 

「そんな……フェイイイイイン!」

 

 確かにいまから体制を立て直していたら間に合わない!

 くそっ、こんなとき、俺に翼があれば!

 

 ――さあ新生のときだミルキース! ……ふむ、しかし、その下品にデカイ胸部は我が理想の聖女にふさわしくないな。ついでだ、次に肉体を再構築する際に、その膨らみは消しておこう。

 

「っ!?」

 

 いま、ヤツは何と言った?

 

「……ろ」

 

 光の触手が食い込んだミルキースのおっぱい。

 いまにも触手から零れ出そうな大ボリュームのおっぱい。

 見るだけでも柔らかさが充分に伝わってきそうな生白いムチムチのおっぱい。

 それをヤツは……

 

「やめろおおおお!」

 

 そのおっぱいは!

 お前が好きにしていいものじゃない!

 

「そのおっぱいは……俺のモノだああああああああああああああああああ!!」

 

 ――なっ!? バカな!?

 

 気づけば俺は天に向かって飛翔していた。

 背中にはいつのまにか光の翼が生えている。

 

 ……そうか。

 これこそがリィムのチカラ。

 俺が望んだチカラが、そのまま顕現するのか!

 

「ミルキース! いま行くぞ!」

 

「フェイン!」

 

「その乳の素晴らしさもわからんヤツなんかに、ミルキースは渡さない!」

 

「フェイン……はい! 私はフェインのものです! ずっと昔から決めていました! 身も心もぜんぶあなたに! ……も、もちろん……お、おっぱいもです!」

 

「うおおおおおお! おっぱあああああいぃぃぃ!」

 

「来てフェイン!」

 

 おっぱいにかける思い……それが俺のチカラを何十倍にも増幅させる!

 

「おおおおおおおおっぱあああああああああああいぃぃ!」

 

 雄叫びと共に疾走。

 光そのものとなった俺は《聖神》の障壁もあっさりと貫き、拘束をも切断する。

 そして……

 

 

 

 

 

「……はううううううううぅぅぅンンンン♡」

 

 空に響き渡る、なんともなやましい少女の嬌声。

 

 ……掴んだ。

 ……ついに。

 いま俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっぱいを、この手にしているううううううう!!

 

 

 

 

 

 

「ふにゃあぁぁぁン♡ 私ほんとうにフェインに……はううぅぅう♡」

 

 ふおおおおおおお!?

 なんじゃこりゃあああああああああ!?

 こんな柔らかいものがこの世に存在していいのかあああ!?

 マシュマロとかそんなもの比べものにならん!

 掌の中で自在に形を変える極上の柔らかさ!

 これはもう……《神乳》だ!

 

「んんん♡ フェイン好きぃ♡ 愛しています♡ もっと、もっとしてください♡」

 

「ああっ! してやる! 一度だけじゃ満足できるわけがない! この先もずっと、何度でも! 一生な!」

 

「はうぅうん♡ 嬉しいです♡ ずっと、ずっとこうしてほしかったんです♡」

 

「俺もだ! ずっとこうしたかったんだああああ!」

 

「あああン♡ エッチな女の子でごめんなさい♡ 聖女失格でごめんなさぁぁい♡」

 

「エッチな女の子を嫌う男などいない! それに俺たちはもう聖騎士でも聖女でもない!」

 

「はい♡ フェイン♡ 私たちは……」

 

「ただの男と女だあああああ!」

 

 身分の壁を越えて、倫理の壁を壊して、ついに俺たちは、互いの思いを打ち明けた。

 

 

 

 そんな俺たちを見て、

 

 ――なんと、なんと……おぞましい!

 

 《聖神》は声を震わせていた。

 

 ――こんなのは……聖女ではない! いらん! もうミルキースなどいらん! 穢らわしい! よくもよくも我の思いを裏切ってくれたな! そなただけは、完全に清く美しい存在だと信じていたのに!

 

「黙れ潔癖症。これ以上、自分の理想像を押しつけるな。完全に清く美しいものなんて存在しない」

 

 ――なに?

 

「人の汚い部分、卑しい部分。それを含めて、丸ごと愛せるのが真実の愛ってもんだろうが。お前はそれができなかったから、そうして独りぼっちになったんだ!」

 

 そう。

 完全な節制などできるはずがない。

 誰しもが欲望を持っている。

 それは清廉な聖女も例外ではなかった。

 当然だ。

 俺たちは……人間なのだから!

 

「ゆえに《聖神》! 貴様の支配を今日ここで終わらす! 俺たちは……人として生きていく!」

 

 光が俺たちを包む。

 手には再び光の剣。

 柄を握る俺の手に、ミルキースが手を重ねる。

 

「ミルキース……。約束を果たすときだ。一緒にこの世界を平和にしよう」

 

「はい。あなたと一緒なら、きっと……」

 

 ふたつの思いが交わるように、光の剣が形を変える。

 

「覚悟しろ《聖神》! これが俺たちのチカラだ!」

 

 光の剣は天を貫かんばかりの巨大な剣となった!

 

  ◆

 

「……リィム様」

 

「うん」

 

「あの剣の形……」

 

「うん。どう見てもアレだね」

 

「アレですね」

 

「先っぽがすごい膨らんでいるね」

 

「すごいのが噴き出そうですね」

 

「あれってさ、これから『伝説の剣』って語り継がれるのかな?」

 

「勝てばそうなるのでしょうね」

 

「そっかー。なんだか……」

 

 気の毒だなー。

 と、()()()()()と化した『伝説の剣(になる予定)』を見て思う影武者とリィムだった。

 

  ◆

 

「観念しろ《聖神》! この一撃で決めてやる!」

 

 剣の先端を《聖神》に向ける。

 切っ先を中心に強大なエネルギーが集まっていく。

 

 ――やめろ! そんな卑猥な形をしたものを我に向けるな!

 

「卑猥とはなんだ! これこそ俺たちの愛と絆の形だ!」

 

 ――最悪だな! もう我慢ならん! 一秒でもこんな穢れた世界にいられるか! 我は天界に帰る!

 

 光の結晶体はそうして《聖神柱》の中に入っていく。

 地上に埋め込まれていた《聖神柱》が浮かび上がり、徐々に天高く昇っていく。

 

「おっと、逃がさないよ!」

 

 だがリィムの結界がその進行を止める。

 

 ――おのれええええ! リィム貴様ああああ!

 

「往生際が悪いよ。さんざん多くの者を苦しめてきたんだ。報いを受けるときだよ」

 

 ――い、いやだあああああ! 死にたくなああああい!

 

「さあフェイン! ミルキース! 《聖神柱》ごとヤツを破壊するんだ!」

 

「おう! いくぞミルキース!」

 

「はい!」

 

 身を寄せ合い、より強く柄を握り合う俺たち。

 必然的にミルキースのおっぱいがむにゅう~んと密着する。

 

「おうふ……」

 

 光の剣はさらに膨張した。

 

「受けてみろ《聖神》! これが俺たち人間の……欲望()のチカラだあああああああ!」

 

 膨大なエネルギーが一点に集まった先端から、いまこそ必殺の一撃が放たれる!

 

「……うっ!」

 

 轟音を立てながら、洪水のような勢いで放たれる破壊光。

 それは見事《聖神柱》に直撃する。

 

 ――バカ、な……消える? この我、が……嘘、だ……嘘だあぁああああアァアァァアァァァァァ!!

 

 その日、人類は聞いた。

 神の断末魔を。

 

 かくして。

 自己しか愛せず、他者をついぞ愛せなかった憐れな神は死んだ。

 人の時代が、再び幕を上げた瞬間だった。

 

 

 ……ふぅ。

 

 

  ◆

 

 それからは激動の日々だった。

 まず、俺は『世界を救った英雄』として人々に祭り上げられていた。

 

「なんと! 聖都最強のフェイン・エスプレソンは生きていた!」

 

「兄上えええええええ!」

 

「魔王を討ち滅ぼしたあと、精神を魔王に乗っ取られていたらしい!」

 

「兄さああああああん!」

 

「くっ! そうとは知らず魔王を倒した英雄に刃を向けていたとは!」

 

「お兄ちゃああああん!」

 

「だが彼は自力で自我を取り戻した! さすが英雄だ! そして気づいた! 真に倒すべき敵を!」

 

「お兄たああああああん!」

 

「まさか、あんな邪神を長年信仰していたとは!」

 

「兄たまあああああああ!」

 

「だが邪神は滅んだ! フェイン様は魔王だけでなく、我々を騙していた邪神をも討ち滅ぼしたのだ!」

 

「あにいいいいいいいい!」

 

「フェイン様万歳! 救国の英雄万歳!」

 

「にぃにぃ大好きぃいいぃ!」

 

 救国の英雄。

 話が独り歩きした結果、そういうことになっていた。

 あとシュカ。肋骨が折れるからいい加減抱きつくのやめて。そして呼び方を統一しろ。

 

 結果として、確かに俺は世界を救ったかもしれない。

 でも英雄になるつもりはない。

 すでに俺の目的は果たされたのだから。

 名誉とか地位とか、そんなものに興味はちっともなかった。

 だが、そうも言っていられない状況になった。

 

 というのも、国を治める人材がひとりもいなくなってしまったのだ。

 神官たちは各国の王家の血筋で構成されていた集まりだった。

 だが神官のほとんどが《聖神》に浄化の名のもとに殺されてしまった。

 誰かが主導者となる必要があった。

 

 その結果……

 

 

 

「俺が新国の王って正気かよ……」

 

 そういうことになったのだった。

 

「仕方ありませんよ。皆がフェインを世界を救った英雄だって信じているのですから」

 

 王妃となったミルキースが苦笑を浮かべてそう言う。

 

「こうしてイチから始まる国は、まず人望のある人が治めたほうがうまくいくものですよ?」

 

 ミルキースが言うと説得力があるな。

 こうして王妃になってから、より貫禄と美しさに磨きがかかった気がする。

 

 聖都で起こった悲劇のことで、しばらくの間、深い罪悪感に囚われていたミルキースだったが……民衆たちは『邪神に憑依された不幸』ということで、ミルキースを責めることは一切しなかった。

 むしろミルキースの身に起きたことを『さぞお辛かったでしょうに……』と自分のこと以上に嘆いたほどだ。

 さすが、もともと民衆に愛されていたミルキースだ。

 禍根が残らなくて何よりだった。

 幸い《聖神》による後遺症もなく、その後は何の問題もなく健康的に過ごしている。

 

 もちろん、そのご立派なおっぱいも健在だ。

 

 

 

 リィムたちは戦いの後、無事に元の世界に帰っていった。

 理不尽な《聖神》の被害者だった彼女たち。

 その真実を、俺は人類に話すと約束したのだが……

 

『その必要はないよフェイン。ぼくらのことは人類を脅かした魔王軍として歴史に残すといい。実際、《聖神》を滅ぼすために君たち人間をたくさん傷つけてきたんだからね』

 

 それはそうだが……しかし彼女たちの名誉のことを考えると複雑な気持ちだった。

 彼女たちがいなければ、《聖神》を倒すことはできなかったというのに。

 

『気にすることはないよフェイン。ぼくらは、もともとこの世界にいるはずのない存在だったんだから。君たちの世界は元通りになった。これからの時代は、君たちで創っていくんだ』

 

 そう言ってリィムは最後のチカラを使って、これまでの戦いで傷ついた人々、物、自然を元の状態に戻してくれた。

 失った命は戻らないが……世界は本来の姿を取り戻したのだ。

 

『バイバイ。ミルキースと幸せにね?』

 

 そう言ってリィムは、見た目相応の少女のような笑顔を浮かべて去っていった。

 

 

 

 天界の超常のチカラは失われた。

 人類は、またここから歩き出すのだ。

 国が広がり、文明が栄えると、きっとまた人同士の争いが起こるだろう。

 それでも、手にしたこの平和を守りきってみせる。

 最愛の女性、ミルキースがいる限り。

 

 ……とまあ、そういうわけで、

 

「んっ♡ もうフェインったら、このあと執務がたくさんあるのにぃ♡」

 

「だからこそだ。エネルギーを充填しなければ頑張れん」

 

「もう♡」

 

 小柄な肢体を膝の上に乗せて、その豊満な膨らみを思う存分に堪能する。

 

 はぁ~今日もミルキースのおっぱいは最高だ。

 憧れのムチムチおっぱい。

 念願のぷるぷるおっぱい。

 大望のたぷたぷおっぱい。

 朝昼晩、いつでも好きなときに、このおっぱいが揉めるのだ。

 こんな幸せがあっていいのだろうか?

 

 聖騎士時代では想像もできなかった充実した日々。

 あの日、勇気を出して正解だった。

 やっぱり、人間は《背徳的行為》には抗えない生き物なんだね!

 おっぱい万歳!

 

「……ねえフェイン。揉むだけでいいのですか?」

 

「へ?」

 

「王様になったのですから……跡継ぎは必要ですよね?」

 

「っ!?」

 

 そ、それはつまりミルキースさん!

 

 最近すっかり少女から熟成した美女として成長し始めたミルキースが、なんとも色っぽい艶顔を浮かべながら振り返る。

 

「私、フェインの赤ちゃん……たくさん欲しいです♡」

 

「……」

 

 この後、滅茶苦茶《背徳的行為》をした。

 

~Fin~

 

 




 本作はこれまで挑戦してこなかったバトルファンタジーに自分の好きな要素(おっぱい!)を足して書き始めた習作でした。

 いろいろ自分の予想を越える事態が起きて混乱することが多々ありましたが、なんとか無事に完結させることができました。
 結果的に良い経験になったと思います。
 本作でうまくいった点、うまくいかなかった点。それらをよく分析して、次回作に活かしていきます。

 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


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