女神“混”生 (米ビーバー)
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プロローグ

はつとうこうです


 

―――それはなんてことはない毎日の1ページだった。

 

 

 

或る日の昼下がりだった。

 

 

 

―――いやまぁ結末から言えばありえないって言えばありえない死に方をした。

 

 

 

【白昼の悲劇!?】通行人、リアルに落雷に撃たれて死ぬ【範馬勇次郎?】

 

 

 

 ニュース系スレッドに取り上げられたその事件はクソレスとBotに塗れてDAT落ちした。

 

 

 

 

 ―――夢。

 

 

 

 

―――夢を見ている。

 

 

 

―――白と黒がモザイクの様に区分けされて、それでいてしっちゃかめっちゃかではっきりとしない世界の真ん中で、フワフワと揺蕩っている。

 

 

『聞こえるか、ヒトの子よ』

 

 

 声が聞こえる。けれど答える喉が焼けていて、声が出ない。

 

 

「―――ぁ……ぁ……」

『聞こえているか、ヒトの子よ。汝《なれ》は死んだ』

 

 

―――ああ、やっぱり死んだのか。しかしまるで実感のわかない死だった。

 

 

 F●Oに冬の茄子全部ツッパって、☆5出るまで回し続ける所存で街角をスマホ片手に練り歩いていたら、突然の落雷。落雷直前の金回転の向こう側が何であったかもわからないままの死である。―――引けたのは一体何セイバーだったのだろうか……?

 とはいえ死んでしまえば一巻の終わり。●●先生の次回作にご期待ください。次回作なんかねーけど。

 

 

『汝が我が声を聞けているのは、汝と生前に【繋がり】ができたからに他ならない』

 

 

 俺の思考は関係なく、一方的に話しかけて来る感じ。まさしくゴッドだわ。神だわ(確信)

 

 

『汝に異邦の地にて再びの生を与えん』

 

 

 違法後にて?せめて合法でオナシャス……orz

言っている意味がよくわからん。再びの生とか言ってるってことは生き返れるってことなんだろうか?

 

 

『ヒトの子にわかりやすく言うなれば―――お前を我らの世界に転生させる』

 

 

―――異世界転生!!ちょっとテンション上がってきた。なろうとかそういう系のアレですね!現世知識でヒャッハーしていいんですね!?

 

 

『時代はヒトの子が生きた時代とあまり変わらん時期に合わせておこう』

 

 

―――あ、はい。そうですか(テンション↓)

 

 

『ではさらばだヒトの子よ。汝《なれ》が我が元へと再びやって来ることを、我は望んでいる』

 

 

モノクロームの世界が渦を巻いて、珈琲にミルクを垂らしてかき混ぜてるときのアレっぽい感じの背景に変わっていく。

 

 

『―――ゆめゆめ、忘れるでない。“すべての道はローマへ通ずる”のだ』

「―――ぁ……あ――――――」

 

 

身体が逆再生を起こすように戻っていく。オッサンの肉体から若者に、若者から、子供に―――そして赤ん坊にまで戻ろうとしていく

 

 

「―――待ってくれ!神様!あなたの名前を教えてくれ!!!」

 

 

 流れに逆らい、手を伸ばした。渦の流れがわずかに揺らいでしまった。

 

 日本人的な感覚で悪いが、助けてくれた恩人の名前も知らないままってのはなんか嫌だ。そんなつもりで声を張り上げていた。

 その瞬間、渦の流れが凪いだタイミングを見計らったかのように“世界が割れた”

 

 

 そして、真っ白な衣を身に纏った美しい女性が俺の前に飛び出して来て

 

 

 ―――そのまま俺の身体の中に消えていった。

 

 

『―――おのれ!邪魔はさせぬぞ!!』

 

 

不機嫌そうな怒鳴り声が響き渡り―――

 

 

『―――我が分霊(わけみたま)よ!行けい!!』

 

 

声とともに虚空に開いた穴から黒い塊が飛び出して来て、俺の身体に呑まれるようにして消えていく―――そして、浮遊感を感じたのは一瞬のことで

 

 

―――俺はそのまま、真っ逆さまに落下を始めていた。

 

 

 

「ちょ―――ま――――――!?」

 

 

 

 落とされて行く間、俺は声の主の方へを顔を向け、そこに【七つの首を持つ龍が付き従っている】のを見た。

 

 

『いつか、再び我が下へと来たれ』

 

 

―――最後にそんな言葉を聞いた気がした。

 

 

 

***************

 

 

―――時は世紀末。東京にて、物語は始まる。

 

 

 

「―――なんでやねん」

 

 どこかの部屋の真ん中で目覚めた『俺』は自分の身体を見下ろしていた。

 

均整の取れた体つき、余分な脂肪もろくについていない。本来あるはずのものも『ついていない』というか、『生えてない』

 

「―――いやほんと……なんでやねん」

 

 部屋の奥にあった姿見に身体を映す。

 

 亜麻色の髪。腰までたなびく美しいキューティクル。ぱっちりした瞳。低身長というのもあって綺麗というか可愛い系の顔に、程よいふくらみかけの乳。身長はちんまい方だが年齢で言うならティーンエイジャー後半くらいだろう。最低中2、最大でも高1くらい?(推定)

 そして、臍の下あたりにくっきりと浮かんでいる謎の紋様。俺氏しってるよ、これ淫紋っていうアレだよね?きっとそうだよね?呪いってレベルじゃないよね?

 

 違うと言ってくれよと一縷の望みをかけて、脳裏に浮かぶワードを口にする。

 

 

「―――アナライズ」

 

 

 小さく呟いた『俺』の前に、ステータスのようなものが表示される。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:八月(やつき)・花音(かのん) Age:16

属性:NEUTRAL-NEUTRAL(Light-Law) 職業:女神

Lv 16  HP 225  MP 266

力 10  魔 13  体 11  速 13  運 22

耐性:魅了無効・破魔無効 疾風耐性 電撃弱点

スキル ポズムディ メ・ディア ガル スク・カジャ

スキル(継承) 二分の活泉 二分の魔脈

スキル(使用不可) バビロンの杯(アライメント不一致)

 

重要:【大淫婦の契約】:魔人マザーハーロットと結ばれた契約の証。下腹部に紋様として残る。内容は『いつの日にか再び我が下へ至れ』

重要:【女神の加護(ギリシャ)】:オリュンポス神族の加護を得ている。『弟がごめんなさい』

重要:【加護:すべての道はローマに通ず】:進化・合体先が【ローマ】に変更される。

重要:【因果:感電死】:自身の【弱点】が電撃に固定される。これは上書きできない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「マジでどういうことなの……?」

 

ホテルの一室のようなせまっ苦しい一人部屋で、俺は独り途方に暮れていた。

いやマジでどういうことなの?説明を、説明を下さぁーい!?

 

 

『―――聞こえておるなー?ならば来るが良い』

「―――は?」

 

 

何処からともなく聞こえる声に俺の身体から力が抜ける、視界が暗転し始める。

―――これ、やべぇ……

 

 

宙を掻く手は何もつかめず、部屋のベッドに仰向けに倒れ込む。これは拙い―――

そんな思考の間にも、目の前が徐々に暗く沈んでいく……あぁ……

 

 

「せめて―――アレだけでも……」

 

 

―――祈りは届かず、俺はベッドに仰向けに倒れ込んで眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――全裸で。

 

 

 

……せめて下着くらいはどうにかしたかった―――。

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

『良くぞ来た!我が半身よ!!』

『―――この度は、本当に申し訳ありませんでした』

 

 

俺の脳内と思われる空間では、赤い服と赤いヴェールに金髪の偉そうな女性がふんぞり返り―――

 

―――そんで、なんか白い服に黒髪の女性がしめやかに土下座していた。

 




ステータス値の計算ミスったかもしれない。後で書き直すかも……(弱気)


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第1話

説明回なので実質初投稿です。 無駄に長くなった……


 ―――タダより高い物はない。

 

 

 そいつは生まれ変わる前も、生まれ変わった今も変わらない世界の摂理と言える。

そんでその理論に従って生きている連中ってのは基本的に「タダ」の使いどころを知っている。他のどの世界の人々よりも。

 

 

「―――つまり、俺が死んだ理由というのが」

「不肖の弟がしでかしたケラヴノス(雷霆)が原因なのです」

 

 

 土下座から正座に移行した白い女神様が語った内容は、何て言うか色々と理不尽すぎる死亡理由だった。

 オリュンポス神族と他の神族との争いとオリュンポス神族の内輪もめが同時発生。その結果ゼウスの雷霆が次元の壁を越え、別次元の人間にクリティカルヒット。―――それが俺だという話だ。ハッキリ言って笑えねぇ。

 

「―――その……こんなことで償いになるとは言えないでしょうけど……貴方が居なくなった世界での貴方の縁者には十分に“補償”と呼べるモノは行ってきましたので……」

「いやまぁ……それに関しては感謝はしますけども……」

 

 正直なところそういう話じゃねーだろとしか言えない。

 

「まぁそういうわけでな!ユピテルのしでかした罪を贖うため、お前を転生させたのだ!」

 

 えへんとふんぞり返る赤い方の神様。ヴェールからチラチラと覗く金髪と薄っぺらい色々開けた真っ赤なドレスの端々から見える均整の取れた体つきが目に眩しいでやんす―――残念ながらまだ3頭身なお子様状態だが。

 

「おぬしには我らの世界で是非とも活躍してもらわねばと思っていたので今回十分に力を注がせてもらったのだ!力量もギリギリ他の組織に目を付けられぬ程度まで高めた故にな!」

「―――目を付けられない……かなぁ……??」

 

赤い方とは違い、やや自信なさげな白の神様。こう、自分の中で不安が増しているのが理解できる。

 

「えぇと……とりあえずお二人とも、自己紹介とかお願いします」

 

 俺の言葉に居住まいを正して立ち上がり、ローブ状の衣服の上からでもわかるくらいの恵体を誇示するように背筋を伸ばす白の方の神様。同じように胸を張るスレンダーなちびっこ赤神様が続く。

 

「父クロノスと母レアーの娘、竈(かまど)の神ヘスティアーです。コンゴトモヨロシク」

「バビロンの大淫婦、魔人マザーハーロットが高位分霊である!!気軽にまざはろ様と呼ぶが良いぞ!!」

 

 まざはろ様の方はともかくとして、ヘスティアーの名前には聞き覚えがあった。

 

「確か、ギリシャ神話の女神様ですよね?ゼウスのことを弟と言ってたのってそういう事か」

「―――本当に、ニホンの人は不思議ですね。ギリシャ神話や、ローマ神話などにも造詣が深い。博学な方々が多いです」

 

 心底感心したような様子のヘスティアー様。申し訳ない、大体日本のアニメや漫画から得た知識なんです。ヘスティア様とか最近紐神様とか乳神様って呼ばれてます。前世では違う意味でお世話になったことがあります。

 むしろ俺の世代でギリシャ神話に詳しい理由はたいてい「聖闘士●矢」の影響じゃあなかろうか?もしくは「アト●ス作品」。流石に微妙なツラで苦笑いすることしかできない俺である。

 

「そんなお前たち日本人だからこそなのだ。本体()が目をかけたのはな」

 

  ロリ体型を更にふんぞらせてどや顔でにやりとした口だけの笑いを見せる赤の神様。

 

「神話に登場する神々の名前に詳しい割に、その神々の出所、逸話、概念、そういったものに頓着をしていない。そんなお前たちだからこそ良いのだ」

 

 ニンマリとロリ顔でしたり笑いするの可愛い(尊い)。そんな赤神様の様子をジト目で見ている白神様。

 

「―――あなたたちのせいで私たちがどれだけ被害を被ったか……」

「こらてらるだめーじ、というやつだ。細かいことを気にするでないぞ、ウェスタ」

「私はヘスティアー!ヘスティアーだから!!」

 

 ギリシャとローマの関連性がまるでわからん……どういうことなの?地中海挟んでお隣ってくらい近かったって記憶くらいしかないんだが。

 

「えぇと……すごく口汚い言い方をするのならば、ですけど……私たちオリュンポス神族の一部は、ローマ神話に浸食されているんです」

「征服と呼べい。ローマは征服により全てを得てきたのであるぞ」

 

 ぷっくりと頬を膨らませるまざはろ様に「どういうこと?」と聞いてみると、さっきよりどや顔でふんぞり返り始める。

 

「ローマの歴史は遠征→征服→勝利である」

「順番おかしくない?」

「黙って聞けぃ!―――ローマの歴史は基本、土地を征服し、そのすべてをローマを通じ、必要な分周囲に振り分けることで成り立っておる。

 

 ―――では、征服した後では何が一番の問題となるか、わかるか?」

 

 まざはろ様の試すような質問に、ちょっとだけ考え込んで、答える。

 

「―――レジスタンス……その土地に昔から住んでた人の抵抗、的な?」

然り(Esatto)

 

 まざはろ様は満足そうにこっくり頷いて、「故に」と繋ぐ。

 

「その手の土着意識の根底にあるのは、往々にして『宗教』なのだ」

「あー、はい。そうですね」

 

 身に覚えがありまくる。というか前世では中東とかその辺めっちゃ宗教がテロってたわ。怖いなーとずまりすとこ……とか言ってたわ。

 

「―――で、『宗教』に依って立つ信者どもを大人しくさせるためにはどうしたらよいと思う?」

「えー……宗教の自由化を許可する?」

 

 実際、日本は宗教に関してはすごく寛容な国だと言える。仏教ですら複数の宗派があるのだから。なおそれを聞いたまざはろ様は「はーやれやれ」ってジェスチャーで応えてくれました。どうやら違ったらしい。

 

「―――まぁ、それも間違いではないがな。だが宗教の自由化というのは人間同士の気質やわだかまりに大きく左右される。加えて王権神授性が強い時世の宗教の自由化というのは、王権に大きな悪影響を起こすのだ」

「言っている意味がいまいち飲み込めないのですけど、つまり正解は?」

 

 オーケンシンジュセツとか言われてもよくわからん。日本の天皇制度もそういうものだったらしいけどいまいちピンとこない。降参とばかりに手を上げた俺にふふんとドヤりつつ、まざはろさまは続ける。

 

 

「それはな―――“神話を奪う”ことだ」

 

 

 言っている意味が分からない。

 

「―――えっと、わかりやすく言うと、ニホンの方々で言う所の『七福神』みたいなモノ、でしょうか?」

「あー……」

 

 助け舟を出してくれたヘスティアー様の言葉に一応腑に落ちた感。

 

 七福神というのは宝船にのった7人の神様で、弁財天、福禄寿、毘沙門天、寿老人、布袋、大黒天、恵比寿の7人を指す―――のだが、弁財天は日本人にも馴染みのある神様に改変したものであり、インドではサラスバティと呼ばれる神様である。他の6人にも神話モチーフがあり、大黒天がシヴァ神だったりする。

 

「つまり、新しく身内に抱き込んだ民にわかりやすく神様を改変したとかそういうので?」

「―――いいえ、もっとタチが悪いものです」

 

 小さくかぶりを振るヘスティアー様にニンマリと笑みを崩さないまざはろ様。よくわからんがろくでもない話になりそうな予感しかしない。

 

「―――最初に言ったであろう?ローマは“征服”が基礎であると。

 そこのヘスティアーがウェスタであるように、『神話的に存在が近似している神』を同一のものとして取り込み、「原典は一つであった。むしろローマこそが原典であった」という神話大系を成し得た。それこそが征服(ローマ)である」

 

 

 ―――どうしよう。想像以上にろくでもなかった。

 

 

「これこれ、この程度でドン引きしておってどうする?我が半身であるお主には新たな地にて征服(ローマ)を成し得てもらわねば困るのだからのぅ?」

「いやいやいやいや無理無理無理無理」

 

 ブンブンと首を振って否定する。無茶を言いなさるな神様。こちとら元々は小国日本の小市民ですよ?そんなの無理に決まってるやろ工藤!!

 

「男児として生まれた以上欲望の一つや二つあろう?今世は女児ではあるがその心は征服の気概に燃えておるはずよ。征服(ローマ)は良いぞ!」

 

ガルパンみたいに言われても無理ィ!!

 

「それにほれ、昔の人も言っておったであろう?『彼の地を蹂躙し、その土地の男の前でその男の馬に乗り、その妻と娘を抱く様は最高だ』とな。実にローマである」

「それチンギスハン!ローマじゃない!!」

「よく考えよ。蒙古(モンゴル)とローマは絹の道(シルクロード)でつながって居る。

 

 

―――つまり、蒙古はローマなのだ

 

 

 

  そう…………なのか、な……?   ※CHARM! → 【魅了無効】!!

 

 

 

「―――いや、違う違う、ローマ違うローマ違う」

 

 

 なんか多分今コトダマ的な何かで説得されそうになった。駄目な奴だコレェ!!

 

 

「口でいかに嫌だ嫌だと言ったところで身体は正直よ……お主の身体は我の半身であるからな。ローマ力に溢れておるぞ」

「ローマ力《ちから》」

 

 

聖戦士みたいな単語出てきたよ……。

 

 

「そのローマ力がお主を真のローマに変えるであろう。しかる後にお主は我の太源であるマザーハーロットに再び拝謁することになる」

「いやぁ……流石にメンタル的にも無理があるかなって」

「そんな人柱のような計画を止めるために、私が割って入ってきたのです」

 

 ぐいぐい来るまざはろ様と俺の間に割って入ったのはヘスティアー様だった。

しかしまざはろ様の3頭身くらいの身長と比べると大人と子供くらいの差があるというのにヘスティアー様の方が押されている。

 

「ほほう……無策で半身の身体に入り込み、零落して地母神ウェスタ(ローマ)となった身分でよく言ったものだ。そんな成りで何ができるというのやら……」

「あ、貴女も高位分霊ならまだ五分五分です!あとはこちらのヒトの子が決めること!!私は諦めませんよ!弟もアポローンも勿論私も!取り込まれたりしませんから!オリュンポスの神々はオリュンポスの神話のものです!!」

 

 口でも微妙に劣勢なヘスティアー様がこっちを見た。あどけなさを残すうら若き女性がやや涙目である。尊い(迫真)

 

「愛と欲の魔人マザーハーロットが分霊《わけみたま》が命ずる。ヒトよローマを為しローマに生きよ。お主の生こそがすなわち、ローマである」

「ヒトの営みの中央に在り、その営みを護る炉と竈の神ヘスティアーが任じます。ヒトよヒトらしくあれ。慎ましくとも潔癖たれ清廉たれ」

 

 

 荘厳な雰囲気を纏い俺に差し出された二種類の手―――

 

 

 ―――だが本質は結局のところ同じである。

ローマとして全てをローマにしようとするまざはろ様と、ローマに飲み込まれた自分とこをローマから引きはがすためにローマの計画を止めようとしてるギリシャ神話の神様。要するに今生は脳内代理戦争状態ということ。

 

 

「―――すいません。保留で」

 

 

俺の言葉にまざはろ様は少し困った顔をした。

 

 

 

 

 

「無理強いはせぬが―――困ったのぅ。

 

 ―――或る程度の指針は先に決めて置かんと、孰れ世界の崩壊とともにお主も滅びるぞ?」

 

 

 

 

 

 

―――待って待って聞いてないんだけど待って()

 

 

 




チマチマ更新予定(筆遅め)


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第2話

「なんかまざはろ様、サブカルに詳しすぎませんか?」
「お主と意識を共有しておるからな。お主の前世で見て聞いて試したものについての記憶は―――『我も持っておる!!』(ドヤァ」


「―――あれ?じゃあメガテンに対する知識も?」
「アレは我らの世界を除くことができた誰かが書き記した我らの世界の歴史―――の、ようなものであるな。でなければあのように年表が記載できるはずもない」





 ―――自身のステータス的なものを見ることができた時点でなんかこう、フラグはあった。

 

 ―――見覚えのある名前の魔法とかその辺も見かけたし、だからまぁ、わかってた。

 

 目をそらし続けてたら見なかったことにできないかなぁとか、そんな風に思っていた時期が……俺にもありました。

 

 

「―――結論から言うと、世界は滅亡する!!」

「な、なんだってーー!?」

 

 

 くわっと目を見開いて大声を上げるまざはろ様にテンプレで返すと見事などや顔を披露してくれた。尊い(尊い)

 

 

「―――で、回避する方法は?」

「ないぞ!」

 

 

 とりあえず聞いてみるものの、返って来たのは無慈悲なお言葉だった。

 

「現状はほぼ真面目に詰んでおる。何しろゴトウとかいうのが戒厳令を出して米国の軍隊と台頭してやり合うのもそろそろであろうし、米国大使のトールマンは核のスイッチをすでに手にしておるからな」

「もう大破壊すぐそこじゃないですかやだー!!」

 

 脳内空間で絶賛絶叫中である。

 

 RTA勢とかのガチ者ではないが、にわかと言うには語弊が出る。そんなぬるま湯なプレイヤーではあるが、一応俺もメガテニストの端くれである。ストーリーとしての「東京戒厳令」及び「大破壊」については知っているし、その顛末、つまるところ「崩壊後」についても大体予想は出来ていた。

 

 

―――大破壊。

 

 メシア教会に洗脳されたかなんかされてメシア教の尖兵になってた北欧神話の神「トール」の化身であるトールマンの指示で日本に核が降り注ぎ、その余波が世界中に広がった結果、世界規模の核戦争が発生し、世界は荒廃する。

 そして荒廃した大地にそれまで押さえつけられていた悪魔たちが跳梁跋扈し、大破壊を逃れた人類に襲い掛かる。果てはマッポーめいた世界に降り立ったマッチポンプことメシア教会による「救済」と、同じく力ある悪魔の力で生き残ったガイア教団の【ヒャッハー】が地を埋め尽くすある意味地獄が出来上がるというもの。

 

「防ぐ手立てなかったらアウトじゃないですかー!!」

「その通り。故の“征服(ローマ)”である」

 

 まざはろ様は薄い胸を張り、むんと脳内空間で一振りの槍を大地に突き立てた。

 

「先ほどウェスタは『浸食されている』と言ったが、ローマは神族的にはドマイナーな神族でな、まだ逸話的に有名なオリュンポス神族の方が力が強い」

「―――だから浸食されてるって言ったんですよー……チーズに生えたカビみたいにしつっこくて……」

「話の腰を折るでないウェスタ。―――で、だ。ローマ神族としての力は余り強くないのだ。故に―――“征服(ローマ)”である」

 

 ―――話の内容が見えてこない。

 

「ローマ神族の力を強め、神族の結界を造れるほどの信仰を得ることができれば大破壊をも乗り切れよう。できなければ最悪、魔界に逃げ込んで崩壊後の世界を一人練り歩くことになるがな」

「オリュンポス神族もこの地には多数目をかけています。なので、オリュンポス神族の協力を得られれば、無理に信仰を得なくとも、庇護下に入りやり過ごせると思います」

 

「―――だがまぁ、お主の肉体を構成する我のマグネタイトを見れば敵対は不可避よ。ウェスタも零落したが故、ヘスティアーを零落させた存在として敵対は免れまいな」

 

 まざはろ様の言っていることよりか幾分か精神的にラクそうなのがヘスティアー様の提案だった。が、駄目……ッッ!!すでに掌の上……ッッ!!泥中……ッッ!!嵌っている……ッッ!!すでに首元まで……ッッ!!

 

「―――諦めよ。神々が折角手に入った手駒を手放すはずがなかろう」

 

 にやぁりと笑うまざはろ様の「してやったり」感溢れるロリフェイスに悔しい……でも満足しちゃう……(ビクンビクン)

 

 

「―――それで、差し当たってまずどうすればよいので?」

 

 或る程度覚悟を決めた俺が尋ねると―――

 

「そうさなぁ……一先ず差し当たっては……MAGを集めねばならぬだろうな」

「……そこは同意します。そもそもローマが無茶をするから大変なことになっていますし……」

 

 非常に歯切れの悪い言葉が返って来た。え?何?なんかひどい地雷があるの??

 

「先も言ったであろう?気合を入れて素体を作り上げたからのぅ。GP(ゲートパワー)に比べてお主の力量が高すぎてな。その分消費されるMAGも段違いなのだ」

「なにそれ聞いてない」

「言っておらなんだからな」

 

 強さってのは重要だがそれを維持できなければ全く意味がないんですがそれは……

 

「えっと……マグネタイトって、足りなくなったらどうなるんでしたっけ?」

「肉体を構成するマグネタイトが枯渇すると、人間でいう所の飢餓状態になるな。それでもまだ摂取ができない状態が続くとなると―――最終的にゼリーマン化が起きる」

 

 

―――アカン(確信)

 

 

「えっと、MAG集めってなると、やっぱり、悪魔と戦う必要があるんですよね?」

 

 戦争なんか対岸の火事程度にしか考えてなかった平和な国家日本の小市民にそれは流石にレベル高いかなって気持ちで恐る恐る聞いてみる。

 

「いや、どうしても悪魔を殺せぬのであればまぁ、わかりやすい方法で集めればよい」

 

まざはろ様から一縷の光明が差し込んでいた。これは来てるんじゃないかな?

 

「我としてはそちらの方が簡単ではあるがな。人間を殺すなり、人間から吸い取るなりして生体マグネタイトを集めればよい。なぁに、血液を啜るなどという下品な真似をせずとも、その成りならば男どもからいくらでも(性的に)搾り取れよう」

「アッハイ。悪魔ぶっ殺しますね」

 

 

 ―――たとえこの手を汚すことになったとしても、踏み越えられない一線というモノが在る。(強弁)

 

 

 

 まぁそんなわけで肉体維持のために近所の公園で地霊とか一狩り行こうぜ!という結論に落ち着き、目を覚ました。目を覚ました後で改めて鏡を前に全身を映す。そのうえで、先ほど脳内で教えてもらった通りに目を閉じて、イメージする。

 

―――自分の身体をコップに見立てる。そのコップに水を注ぐ。じわじわと全体に満たすようにして―――MAGを身体全体に広げる。

 

 

徐々に、変質が始まる。

 

 

 身体は僅かに膨らみ、130センチ前後だった身長がわずかに大きくなり、それに応じて手足も少しだけ伸びる。亜麻色だった髪色がわずかに紫を帯びた。

 

 

 【人間変身】……悪魔の姿からかりそめの人型をかぶせて人間の姿に擬態するスキル。人型悪魔がみんな持っている能力らしい。俺は普段その能力を使いっぱなしにすることで人として適応している―――らしい。つまり変身を解除することで悪魔の姿に戻る。ということらしい。

 

 

 それはもうデビルシフターではなかろうか?とも思ったが、まざはろ様曰く『違うのだ!』ということらしく、俺も別にどっちでもいいのでそれ以上追及はしなかった。

 

 

―――変身解除を終えて、完全に悪魔の姿へと戻ったことを確認して、瞳を開いて鏡を見る。

 

 

 やや膨らみかけの胸を白い布が覆い、下はスカートの様に巻き付いた同じ質の白い布。紫がかった亜麻色の髪はやや蠱惑的ともいえる。

 

しかし何よりその異形として人目を引くのは――――――腹部にある空洞。

そして、腹部の肉の代わりに収まっている―――操舵輪だった。

 

 

「―――これ、食ったものとかどこに消えるんだろう?」

「知らん、そんなことは我の管轄外だ」

 

 

素朴な疑問に脳内から魔人様の返答が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:八月(やつき)・花音(かのん) Age:16

属性:NEUTRAL-NEUTRAL(Light-Law) 職業:人型悪魔(女神:フォルトゥナ)

Lv 16  HP 225  MP 266

力 10  魔 13  体 11  速 13  運 22

耐性:魅了無効・破魔無効 疾風耐性 電撃弱点

スキル ポズムディ メ・ディア ガル スク・カジャ

スキル(継承) 二分の活泉 二分の魔脈

スキル(使用不可) バビロンの杯(アライメント不一致)

 

重要:【大淫婦の契約】:魔人マザーハーロットと結ばれた契約の証。下腹部に紋様として残る。内容は『いつの日にか再び我が下へ至れ』

重要:【女神の加護(ギリシャ)】:オリュンポス神族の加護を得ている。

女神・地母神への合体に補正。NEW!!

重要:【加護:すべての道はローマに通ず】:進化・合体先の神族が【ローマ】に変更される。

重要:【因果:感電死】:自身の【弱点】が電撃に固定される。これは上書きできない。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 




花音「何でフォルトゥナ?」
魔人『そりゃあ死ぬ前まで回しまくっとったからであろ?ローマ神族であるしな』
女神『ちなみにギリシャ神話ではフォルトゥーナに対応する神は【テュケー】と言います。ギリシャ語で「運」を意味する言葉です」

魔人「なお、タロットの「運命の輪」に描かれているのもフォルトゥナであるが故に、車輪と思われておる場合が多いが―――あれは舵輪である」





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第3話

ちまちま停滞しそうなのではつとうこうです()


 ―――【背に腹は代えられない】という諺がある。

 

 どうしようもない状況下にある場合、最悪を引くよりは次点を行う方がまだマシ。という意味合いである。

 意思疎通ができる相手をぶっ殺すのと、男相手にヤることヤるのとを天秤に懸けるのならば―――

 

 

―――いくら今生は女だったとしても悪魔をぶっ殺す方を選ぶだろう。

 

 

 

―――ぐしゃぁという生々しい響きと、生々しい感触が足先から伝わる。

 

 へっぴり腰で蹴っ飛ばした地霊コボルトの首がぽーんぽーんとサッカーボールの様に地面に転がった。

 

『―――な……?』

 

 驚愕の声を上げるコボルトたちの一人に向けて、身を屈めて、地面スレスレから真上に向けて手刀で切り上げるように手を振り上げる。

 

「―――【ガル】ッッ!!」

 

手を振り上げた先にいるコボルト一体が足元から発生した竜巻に飲み込まれ切り刻まれ、絶命した。

 

 

『―――!!アォォォォーーーーーン!!!』

 

 

 一匹が遠吠えのような声を上げると、残ったコボルトたちが撤収し始める。が、逃げる分には逃げるに任せて、俺は現場の惨状を見やる。

 

「―――烈風拳(レップゥーケッ)はザン系の方だったかぁ……」

 

 頭部のない獣人の遺体だとか、全身細切れに刻まれたネギトロめいた死体だとか、そういったグロ画像を見てもあまり罪悪感などもない。食欲は減るけど。

そう考えると、改めて思考が【悪魔】に寄っているのだと理解できる。

 

『まぁ、微々たる量だが、足しにはなろう。早く“食らう”が良い』

 

 脳内のまざはろ様の声に導かれるように、死体に手を伸ばす。

手が振れたところからじんわりとその死体が溶けて、不定形の物質に解けて吸収されていく。

 

―――マグネタイトの残滓というのは悪魔の死後、その存在が確かなものである程長くその場にとどまり、場合によっては別の悪魔に成り代わるらしい。その前に残滓を他の悪魔が『捕食』したり、COMPを使うデビルサマナーが『回収』することで、マグネタイトは初めてマグネタイトになるのだとか。

 

「―――アナライズ」

 

 脳内でカチリとピースがハマるようなイメージが浮かんだので、改めてアナライズを呼び出す。対象は細切れになったコボルトの死体。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:コボルト  種族:地霊

属性:NEUTRAL-NEUTRAL MAG:36

Lv 6  HP 47  MP 24

力 3  魔 3  体 4  速 5  運 4

耐性:破魔無効・呪殺耐性・疾風弱点

スキル ラク・カジャ スク・カジャ パトラ メ・ディア

スキル(種族)【獣の跳躍】

獣族の直感による身体能力。攻撃後のリカバリが早い。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「―――うわぁ……雑魚い」

『それは当然であろう。何しろ今のGPはまだ5~6といったところであるからな。GPより力量の高い悪魔は表になぞ出て来れぬよ』

 

 脳内で響くのはまざはろ様の声。

 

 戦っている間、悪魔たちとの戦闘中に“カチリ”“カチリ”と何かパズルのような感じでピースが埋まっていく感覚を感じていた。まざはろ様曰く、『アナライズの活用編』らしい。

 DDA―――デジタルデビルアナライズシステムというのは、悪魔が同じ悪魔を『視て』その力量を測るための能力をアナライズ機能にしたもの―――だという話だ。何処まで本当かはわからないが。兎も角、対象となる相手との戦闘時間が長ければ長い程、同じ対象と戦えば戦う程、その精度は増していく。まるでジクソーパズルのピースを埋めていくようにして行き……最終的に『完成した』と脳内で感じた時、相手の細かいステータスや耐性、持っているスキルなどを完全に理解できるらしい。この能力は相手との力量差によって変化し、強い相手へのアナライズは中々溜まらず、弱い相手だと割かしぽこじゃか溜まっていくらしい。

 そんなわけでコボルト相手に脳内データが溜まったことを確認するためにアナライズしてみたわけである。

 しかし、目に見えている脅威をデータ化して見れるというのはどうにもゲーム的なイメージを感じてしまう、元々非現実的な感覚で生きてる分余計に。

 

『しかしまぁ、最初はどうなることかと思ったが、一歩目をちゃんと踏み出してくれたことに安堵を覚えたぞ』

「はっはっは―――忘れてくださいお願いします」

 

 脳内に響くまざはろ様の声に“一番最初の戦闘テスト”を思い出して脳内の相手に懇願する俺。

 そう、実はこの辺りのGPでは強い部類に入るコボルトを相手にしているのには理由があった。当初はまず弱い部類に入る【妖精】をターゲットに、メガテンシリーズの基本にして最初の仲間枠、ピクシーを狙って妖精たちのたまり場になってると噂の代々木公園に向かったのだったが……

 

『まずは軽く【威】を示す意味で―――鏖殺であろうな』

『まずは対話から始める必要があるでしょう。妖精なら会話が通じますし、【魔石】を交渉で得られるならば高純度マグネタイトの塊である魔石で肉体維持は可能です―――多分』

 

 脳内の二人から二者二様の選択肢が用意された。そんで、いきなり鉄火場はアレかと思ってヘスティア様の選択を採用。友好的に話しかけてみたのだが―――

 

 

「アハハハッッ♪―――【ジオ】!」 

―――バチィ!!「ひぎぃぃぃぃっっ!?」 ※WEAK!! SHOCK!!

 

 

 交渉で会話が友好的に進んでいたと思ったらいきなり不意打ちされたのだった。加えてジオ系―――電撃の副次効果でショック状態に陥り数秒間動けなくなったところに

 

「あははは♪女神様びくんびくんしてるぅ♪面白ーい♪【ジオ】!!」

―――バチィッ 「ふぎんにゃぃぃぃッッッッ!!!?」 ※WEAK!! SHOCK!!

 

 

新たに何処からか飛んできたピクシーたちによる『熱烈!ジオハメ祭り』が発生。幸いレベル差とか諸々の関係上ダメージは微々たるものだったが、無邪気極まりない妖精たちに散々玩ばれ、リアルで「バチバチらめぇ!ひぎぃ!」と叫ぶ羽目になった俺のメンタルはボロッボロで……しばらくピクシーの顔は見たくないと公園から這う這うの体で逃げ帰ったのであった―――。

 

『―――何故……何故このようなことに……』

『は?当然であろうに』

 

脳内で呻くような声を上げるヘスティアー様に対して冷めた声の割に意外そうな様子のまざはろ様の声が続く。

 

妖精郷(あやつら)は英国圏の神話が原典の悪魔だぞ?ローマの神話由来の存在を赦すはずがなかろう?特にヨヨギ公園の妖精郷にはオベローンとティターニアが居るのだから余計にな』

『それを早く言いなさい!!ああ……ごめんなさい、ごめんなさい』

 

 

 こう、唐突にさめざめと泣かれても……困る(焦り)

 

 

 ―――その後始まるまざはろ様による【たのしいローマ帝国の歴史~いんぐらんどとの因縁編~】

 

 イングランド(ブリテン島)は元々狩猟民族の集まりで、北緯がロシア北部並みの島国で獲物を狩猟しては獲物が居なくなるたび国内移動して獲物を探すだけという原始人状態だったらしい。そこに鉄器技術が入ってきて、漸く鉄を使い始めた。そんで、そんな鉄を使い始めただけの【ST●NE WOR●D】な生活をしてたのだが、紀元前~紀元後の0年前後あたりにイギリス海峡を渡ってやってきたのが―――そう、ローマである。

 ―――余談だがこの頃ギリシャでは文化爆弾が発生した上、マケドニアのイスカンダルが東方・南方に遠征しまくってギリシャ文化をエジプトまで伝えまくってたらしい。

 そんでローマによってギリシャもイギリスもヨーロッパ全域(スイスやノルウェー方面の北欧の半島を除く)はほぼローマに染まり、多くの国をまとめるために王政だったローマは共和制になり、最終的に帝政になってローマ帝国になった―――が、200年くらい経ってからアッティラ大王に押し出されて南下・西下してきたゲルマン人とかにぶっ飛ばされてローマは分断。その後帝政ローマは解体されて歴史の中に埋もれてしまったのだという。

 

『ゲルマン人という名前から想像がつくだろうが、今で言うドイツ方面に押し出されて来てな?その結果、寸断されて孤立してしまったのが当時の英国南側と、そこを通じて文化交流していた相手であるヒベルニア(現アイルランド北部)なのだ』

 

 ああうん。向こうからすれば【早々に切り捨てられた要らない子みたいな扱いされた国】って認識なのか。そりゃ拗れるだろう。

 

―――とまぁ、そんな感じでクソミソでトラウマ案件になった公園での一件は脳の端っこに追いやり、自身のステータスとにらめっこした結果……「お、【ガル】あるやん」ってことに遅まきに気付き、ゲームなどでは特攻扱いになる『地霊』を専門に狙っていくことに方針転換したのだった。

 ただまぁ……一つだけ問題があったとするならば……

 

「―――大丈夫大丈夫、周辺で適当に湧き出てる連中を狩ってるだけだから……」

 

 

―――ここが【千駄ヶ谷秘密研究所】だという点であろうか?

 

 

※メガテン言語解説【千駄ヶ谷秘密研究所】

 真1でエコービルのイベント終了後に【ターミナル】を起動させた主人公たちがターミナルを使ってワープした先の研究所。元々はスティーブン関連でターミナルシステムを開発していた研究所だったが、ゴトウによって攻撃を受け押収された―――らしい?ゴトウはターミナルシステムを応用して魔界の扉を開くことで悪魔を呼び出して日本を天使から護ろうとしていたのだとか。

 

 

『MAGを稼ぐだけでなく命乞いする悪魔を傘下に加えていくことも忘れるでないぞ?そのための―――征服(ローマ)である』

 

 脳内で響くまざはろ様の声に「はいはい」と返しつつ、とりあえずその場の悪魔たちを全て吸収し終えると、コロンと音を立てて魔石が転がった―――このドロップアイテムができる原理も良くわからないんだよなぁ。【残留マグネタイト残滓】が凝縮して稀にアイテム化するとかなんとか……?まぁそういう原理とかそういうのとかに疑問はあるけど興味はないので脳の隅に追いやって―――

 

―――毎日毎日【地霊】を狩りまくっていた結果……

 

 

 

『グルルル……アネサン!こっちですぜ!!』

「あ、うん。道案内よろしく」

 

 

 低姿勢で山道を先導して歩くコボルトの一匹。その尻尾は畏怖に丸まっている。

 

 割とこの辺にいるコボルトをボコボコに殺しまくった結果、なんか一匹に命乞いと股くぐりをされたのだが……

 

『では汝が盟主、夜の女王ヘカテと己の名前、そしてローマに忠誠を誓え』

「へぇ!誓わせていただきやす!!夜の女王ヘカテとコボルトの名前、ローマに忠誠を誓います」

 

 俺の口を借りて勝手にしゃべり出したまざはろ様の言葉にペッコペッコ土下座してたコボルトが契約を受け、俺の配下におさまった―――らしい。らしいというのは俺の取得したMAGの一部がこの『配下システム』とでも呼ぶべき上下関係を通じて与えられているかららしい。代わりにコボルトが得たMAGは全額吸い上げて還元されるというブラック企業なシステムソースになっているのだが……

 

『まずローマに全ての富を集積させ、必要な分を分配する。何も間違っていないであろう?』

「まさかCOMPもなしに仲魔ができるとは思わなかったですけどね……」

 

独り言ちる俺に、まざはろ様から声が響く

 

『仲魔ではない、配下だ。其処は間違えるなよ?仲間とは苦難を分かち合うものだが、配下は使いつぶすことを厭わずとも好い。その代わり、仲間が信頼で軛と為すように、配下は下賜を持って信を為すのだ。その関係性を勘違いしたままだとどちらにとっても不幸にしかならぬ』

 

唐突に神妙な言葉になるまざはろ様に返事もできない俺に、まざはろ様は「もっとも」と続ける。

 

『コボルトはドイツ圏内の伝承をもとにした悪魔である。故に―――【ローマ】である。なので問題はない、ガンガン使いつぶして行くが良い』

「―――台無しだよ!!」

 




真1本編の時間軸とリンクするまでもうちょーっとだけかかるんじゃー()


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ガイアーズの依頼~ジャックリッパーを討伐せよ~
第4話


まだ原作と絡んでないし初投稿と言い張る勇気(


 ―――【義を見せせざるは勇無きなり】という諺がある。

 

 誰が見ても間違っている物事を目にしたときに、正しいと信じることを行わないのは根性なしのヘタレと同じだ。という意味で使用される、この場合の「義」というのは儒教における五徳、「仁義礼智信」のうちの『義』、「私欲に囚われることなく正しきを為す正義」を指す。

 そしてこの【義を見てせざるは勇無きなり】の対義語に当たるのが、そう

 

 

―――【触らぬ神に祟りなし】である。

 

 

 

「―――すみません。ちょっとよろしいでしょうか?」

「―――すいません。うちは浄土真宗なんで」

 

 掛けられた声に振り返った俺が咄嗟にそう答えてしまったのは、責められる問題ではないと思う。

 

―――だってさ、虚無僧なんだよ?そこにいたのが。

 

 どうでもいいが虚無僧は禅宗の中の普化(ふけ)宗という宗派に属している僧侶である。

 

「―――ああ、失礼。このような姿では警戒されますね」

 

 ぺこりとお辞儀をして「はっはっは」と快活に笑う虚無僧さん。いい人っぽい感じなんだが見た目の怪しさのせいで関わり合いになりたくない度が半端なく上昇中である。

 

「申し遅れました。私、ガイア教団の者なのですが、少々お時間よろしいでしょうか?」

 

 

―――正直断りたかった。でも繋がり作ってないと今後敵に回りそうなメシアとガイアの二組で、話が通用しそうな方って言うとガイアの方だったし即お断りすると今後活動しにくそうだったので、とりあえず受けることにした。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「依頼?」

「ええ、ガイアーズからの正式な依頼です」 

 

 虚無僧さんが特徴的な顔のアレを取ると、割とさっぱり系の中年(オッサン)だった。喫茶店に入る見た目中学生と僧衣のオッサンという通報されても文句言われないようなカップリングでテーブルに着く。コボルトは土の地面ならば隠れて居られるらしく、店の外で潜ってお留守番モードである。

 なおアライメント的に脳内のヘスティアー様がムスってるがとりあえず割愛しておく。

 

「この辺りで地霊を狩っている悪魔がいるという噂が流れておりました。それがとても強力な力を持つ女神だという話も。ですが、メシア教が女神召喚や使役を行ったという情報も無いので、野良悪魔であれば対話が可能かをこうして調査に来た次第です」

「はぁ……あの、それで、依頼というのは……?」

 

 話題からチラチラ見えるこっちを探ってる感があるワード。特にメシア教との対立を示唆する感じの振り方から「おうお前メシアンじゃないやろなぁ?」的な響きがバリバリする。

 

「ああ、すいませんね。こちらの事情をある程度話しておかないとと思ってしまって……それで、依頼なんですが」

 

 ウェイトレスが持ってきたコーヒーを一口啜って、虚無僧さんが声を潜める。

 

 

「―――銀座の向こう、築地の方で夜な夜な現れる殺人鬼の情報を、知っていますか?」

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 『―――納得がいかーん!!』

 

 脳内でぶーぶーバタバタと暴れているまざはろ様がクッソウザかわいい件。

 

『そこのローマは放置しておいていいですよ。切り変えていきましょう』

 

 まざはろ様とはうってかわってやや楽し気なヘスティアー様の声がメインで響いてくる。この脳内ラジオ放送、そのうち自分で制御できるようになるんだろうか……?

 

『さぁ、民をいたずらに殺して回る殺人鬼を滅しましょう!』

「―――大義名分があるとノリノリですよね、女神様」

 

 ガイアの虚無僧さんが持ってきた話というのは『殺人鬼事件の解決』だった。

と、言うのもこの『殺人鬼』と呼ばれている犯人。実はガイアーズの構成員だったらしい。元々「力こそパワー!」と言って憚らないパワータイプの脳筋だったらしいが、ガイアでの上昇志向が激しく、どこからか「悪魔人合体」という話を聞きつけ―――何をどう間違えたのか『交霊術』で悪魔を召喚しようとしたらしい。

 

 で、見事悪魔に体を乗っ取られてしまい、もう人間の意識は悪魔に食われて跡形もないらしい。そんで、今のところは遊び歩いていて外泊も多そうな女子高生や一人暮らしの女子大生・社会人女子を狙って殺人をすでに4件繰り返しているらしい。手口が同じってことで同一犯の可能性を見て国家権力(けいさつ)が動いているんだとか。

 

 何とか捕縛なり殺害なりして退治したいところなのだが、悪魔と人間の合体を目指した交霊術の結果か、本来のGPよりも割と強い悪魔が召喚されて取り付いているらしく、生半可なエージェントでは太刀打ちできず、かといって手をこまねいているとこれ幸いとメシアンがこれを撃退して、

「やはりメシアは格が違った。凄いなー憧れちゃうなー。やはりガイアよりメシアでしょう?いざってとき頼りになるのは唯一神だけでしょ?」

って感じでガイアのヘイトスピーチを行ったりメシアマンセーに大衆を先導しようとするに違いないとガイア上層は睨んでいる。

 だがガイア上層部の粒よりの連中はおいそれと動けない。なぜなら米国大使トールマンとゴトウ陸将の冷戦はまだ続いており、いつ戒厳令が飛び出してもおかしくない緊張の最中にガイアが総出で動けばメシアンに大義名分を与えることになるからだ。しかし末端のガイア派閥の連中は大抵がチンピラ崩れかヤクザの構成員に過ぎず、打つ手がないまま時間だけが過ぎていくしかなかった……。

 

―――で、そんな折に地霊を相手にヒャッハーしてる女神様の噂を聞きつけて、メシアンではないことを確認したうえで、この事件を解決するにうってつけの人材かどうかの見定めをしたかった。というのが虚無僧さんの話の本質らしい。

 

「報酬としてこちらがご用意できるものは限られているのですが……」

 

と口ごもる虚無僧さんに、脳内で『自分たちでどうしようもないというのにけち臭い話だのぅ。断って報酬を釣りあげても良いと思うぞ』と中々に鬼畜な意見を出してくるまざはろ様。実のところ俺もあんまり意義を感じてはいない。

 夜な夜な女を狙って殺す快楽殺人者 という話だが、そげなろくでもないものに関わりたくな「お受けします」オファッ!?

 唐突に俺の口の自由が奪われていた。奪ったのは―――ヘスティアー様だった。

なにしてくれますのん?!と脳内で叫びを上げてみるも

 

『他にどうにかできる人材がいないのでしょう?ならば悪魔から民を救うのは神々の役目です』

 

 と言って頑として譲らなかった。何でこんな意固地なのこの女神様……文句を言いたいまざはろ様を黙殺してコントロール権を専有してるのかまざはろ様の反応はない

とはいえ依頼を受けた身分として俺も動かないわけにもいかず―――

 

「アネサン!アネサン!!こっちです!!匂いがしますゼ!!」

「……はいはい。誘導よろー」

 

手を振ってコボルトを先行させつつ―――夜の築地をコソコソと進むのだった。

 メガテンにおける大破壊前の築地は豊洲に移動する前の市場がまだ存在するため、築地市場の周囲は朝早くから活気を生む。なので犯行時刻はおそらく夜半とアタリを付けて、深夜の闇の中をコボルトの鼻を頼りに進む。

 

 ツンと鼻を衝く鉄錆の匂いに気付いたときには、目の前にその光景があった。

 

 グチャグチャに解体された20代くらいの女の死体。下腹部から胸の上までをザックリと切り開かれ、内臓を一つ一つ吟味して展示会でもしていたのかと思うくらいにごっそりと引きずり出されて身体の上に盛られている。これは異常殺人扱いもされようというものだ。

 思考が悪魔化してるせいか殺人における嫌悪感みたいなのはないが明日は肉とか無理。グロ中尉やってこんなん……

 

 確認のために数歩踏み出したコボルトに、暗闇の中、銀の光が走る。

 

「ギャンッッッ!!!?」

 

 短い悲鳴を上げて俺の方に向けて吹き飛ばされるコボルト。その胸元がパックリと裂けている。ドクドクと流れ出ているのは血の様にも見えるが全てコボルトを構成するマグネタイトだ。

 

「―――【メ・ディア】!」

「クゥーン……すみやせん、アネサン」

 

 単体回復を持たない俺の唯一使えるのは全体小回復のメ・ディアだけである。一先ず傷口が塞がる程度の回復量は見込めたようだが、コボルトの体力がどの程度まで回復しているかを確かめる時間が惜しかった。

 

 体勢を整えるためコボルトを下ろして身を起こす俺たちへと、闇の中から何かがこちらに向けて飛び込んでくる。

 

「グルルル……【ラクカジャ】!アォォーン!!」

「―――【スクカジャ】!!」

 

 防御力の底上げと回避命中の底上げにより一時的に身体の周囲がMAGと反応して淡く輝く。ブーストの効果とは存外に馬鹿にならないもので、目の前に迫る白刃を、すんでのところで何とか躱すことができた。

 

「キヒヒヒヒヒッッ!!ヒィーホォ!!」

 

 血の滴る大鉈を手に歩いているのは―――サラリーマンのような風体の中年男。

ただしその背中に張り付くようにして骸骨顔(スカルフェイス)にソフト帽とロングコートという私立探偵やってろよといういでたちの悪魔の姿。

 

「―――アナライズ!!」

 

目に力を集中させて―――“視る”

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:雀崎 李波(inジャック・リパー)  種族:外道(悪魔憑き)

属性:Dark-Caos MAG:22

Lv 9  HP 99  MP 43

【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】

【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】

【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「―――駄目だ。耐性すら抜けない」

「グルル……アネサン!まずいですぜこいつぁ……!!」

 

レベルで言うなら俺の方が格上だが、俺の記憶が正しければジャックリパーは物理特化、クリティカル特化の悪魔だったはずだ。あと確か『テタノスカット』とか言うスキルを持っていたはず……

 

「なぁコボルト、悪魔って【風邪】とかひくのか?」

「ウゥ……?何ですかそりゃ?」

 

 コボルトが知らないだけでなければ風邪のバステはなし、と。少しは安心できたが、状況は拙い以上の言葉がない。

 もとより報酬も大したことがない依頼だ。命をかけるに値しない。

 

「―――【スクカジャ】!!」

「ォォーン!!【スクカジャ】!!」

 

 命中と回避に補正を生む補助魔法スク・カジャ、こいつが身体能力を向上させるのは実験済みだ。

 

「コボルト!数秒稼いだら地面に潜って逃げていい!」

「オォォーーン!!!」

 

 雄叫びで応えたコボルトを振り返ることなく、路地の壁を蹴って“跳ぶ”。

夜のビルディングを三角飛びで屋上まで駆け上がり、そのまま夜空を駆けるようにして一目散に逃げだしていた。

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

「―――ハァ、ハァ、ハァ―――」

 

 スクカジャの重ね掛けが切れるころには、東京湾近辺まで逃げてきていた。倉庫街の一角に腰を下ろして息を整える。

 

 

―――いや、無理。あれは無理。

 

 

 脳内の女神様に向けて本気で無理ゲーさを説いてみる。

 

 

『ですが、止めなければもっと被害が出ます』

『そうさなぁ。それに、今更無理ではないかな?』

 

 息の合ったコンビネーションで「NO」を突き付けて来るお二方、わぁブラック。まざはろ様は何処か諦めた様な顔なのだが……

 

「ォン!戻りましたぜ、アネサン」

「おぅ。ご苦労」

 

 地面から飛び出して来て騎士座りで敬服するコボルトの頭をナデナデしてやる。配下になってから上質のMAGを得ているのか毛並みが良くなったので最近気づいたら撫でてるのだが、撫でてると存外に子犬みたいな声を上げるのが少し可愛い。

見た目は俺よりでっかい犬の獣人ではあるが。

 

『―――ほれ、やはり遅かったではないか』

 

 まざはろ様の声が脳内で響くと同時に、周囲の気配が“変わった”。

変わったと感じた次の瞬間には、ドライアイスでも炊いたような勢いで周囲の地面からモヤモヤと霧が立ち込めていく。

 

「まざはろ様ー!?これなんですかこれぇ?!」

『そりゃあ……“異界化”であろう?さしずめあやつの逸話から言うなら……

 

 “夜霧の殺人事件”とかそういう感じじゃないかの?』

 

 

 まざはろ様の言葉から結論を出すに―――出会ったタイミングで逃げるに遅かった。という事だろうか……?

 

「―――撤退不能のボス戦なら、その前になんか報告下さいよー!『ネットくん!この先はセーブができないよ』くらい言ってくださいよー!!」

『人の生にセーブロードがあるわけがなかろうがたわけ』

 




(後から何か書き足すかも?)


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第5話

「よぉぉ~~~~しよしよし!!(ナデナデサスサス)」
「アォォォーーーン!!!―――――――――ウッ(ビクンビクン)」



『―――という状況になっている可能性があるのでは?』
『今後撫でるのに抵抗できそうなことを言わんでください(滝汗』


※嘘です(多分)



 【情けは人の為ならず】という諺がある。これはきっとそういう事なのだろう。

 

 

 

>>>

 

 

 

 「―――ハァ、ハァ、ハァ――――ハ―――!!」

 

 

 

駆ける。

 

駆ける。

 

地を蹴って、駆ける―――!!

 

 スモークの様に地面の上を揺蕩う濃い霧を蹴り飛ばしながら、駆ける。

モヤモヤと停滞し続けるその霧が、不意に人型に膨らんだ。

 

「―――クキキキ!!ヒィーホー!!!」

「あぎッッ……ィ――――!!!」

 

 霧が形を成す前に駆け抜ける銀の光を避けきれずその場に転がった。足の太腿辺りがザックリと大きく切り裂かれて内部が見えるほど深い傷なのが見て取れた。

 

「―――【メ・ディア】!!」

 

 すかさず回復を行うが、傷口を塞いでも痛覚は痛みを訴えているため集中が続かない。だが、追撃を受けることはなく、ゲラゲラと下品に笑う髑髏顔は再び霧の中に沈んで消えた。

 

 

―――もう何度目になるのかわからない。霧の中の奇襲に苛立ち紛れに傍らの壁を殴りつける。悪魔としての力量でブーストされた拳はコンクリの壁に結構致命的なヒビを入れた。

 

 

 

 ―――【夜霧の殺人事件】(仮)とは、この地面を這うように広がる霧状の“領域”のことを指すようだ。

 

 

 

 強力な悪魔がしばしば作り出す“異界”というのはその悪魔の逸話などを含めた正室を色濃く反映している―――らしい。俺もその辺まざはろ様から聞いただけなのでよくわからないが。

 “異界”を解除するにはこれを展開している悪魔を斃すことが条件で、そうしない限り異界から逃げることはできても“領域”はその場に残り続けることになる。そしてここに“領域”がある限り、この中での殺人遊戯はこれからも続く。

 そして性質の悪いことにこの【夜霧の殺人事件】のモチーフとなる悪魔がかの悪名高い『ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)』だと仮定するならば、この異界の中に迷い込むのは皆女性で、皆惨殺され臓器や身体のパーツを失うのだろう。

 

 先ほども言ったが、異界というのはボス悪魔の意向を大きく反映する作りとなっている。この盤面が主に俺に致命的な仕上がりになっていて涙が出てきそうだった。

 

 

 

※【夜霧の殺人事件】(仮)

異界内限定:【ジャックリパー】と遭遇時、常に不意打ちを受ける。

異界内限定:女性型悪魔及び性別:女性の対象への物理ダメージ+50%

異界内限定:霧の届く範囲内ならばジャックリパーはどこからでも出現でき、霧の中に逃げ込むことができる。

 

 

 

 はっきり言って「何だこのクソゲーは!」とコントローラー投げたい気分で一杯である。何よこのクソゲーっぷりふざけてるの?馬鹿なの?死ぬの?(俺が)

 

 目当てのジャックリパーはこっちをいつでも殺せる対象として見たのか一撃離脱でじわじわと追い詰める方向にシフトし―――もうこれで8回目の襲撃になる。その度に回復でMPを消費させられており、こっちもそろそろ手詰まりに近い。

 

『これ以上はこちらも危険です……ですが―――』

 

 脳内では悔しそうなヘスティアー様の声。まざはろ様もなんかイラついている様子を見せている。どうにか別の一手を考えたいところなんだが、どうにもならん。

 何よりこの霧、タチの悪いことに建物の中だろうと隙間から上って床一面に広がって来る。まざはろ様曰く『この霧全てがあやつ(ジャック・リパー)と繋がって居る。これ自体は霧に過ぎんから攻撃しても無意味だ』とのこと。わぁひでぇや、こんなひでぇクソゲーに付き合わされるとかなんかこう引くわー……。

 

『最悪は“鍵”を使え。さすれば逃げることだけは出来よう』

 

 脳内のまざはろ様の声に、首からアクセサリーの様に下げている『銀の鍵』を手に取る。詳しい原理はわからんが、これを使うと最初に起き上がったあのホテルの一室に転移できるらしい。

 

『まぁ、これだけの大規模な騒ぎを起こしてスタコラサッサしようものなら騒ぎを拡大した悪魔としてメシアからもガイアからも民間の退魔師からも狙われるであろうなぁ……』

『民の安寧のためにも、ここで討つ以外の選択はあり得ません』

「使えないじゃないですかやだー!!」

 

脳内で響く今後の詰んでるビジョンと精神論でGOサイン出してくる女神様に喚くことしかできねぇ俺という図。脳内の声を聞くことができないコボルトも地面から顔だけ出して困惑している。

 

『どの道近いうちに崩壊する世界であろう?放置して一度魔界にでも逃げて崩壊後にまた来ればよかろうよ。ローマ建国が遠くなりはするが命あっての物種ぞ?』

『これを放置し続ければ確実に後の禍根になります。ヒトとしての常識や理性を持っている貴女が、自分が放置した結果無差別に殺され続けているであろう無辜の命を悔やまぬはずがありません』

 

 まざはろ様の言い分は選択肢の一つではある。が、ヘスティアー様の言う通り、元一介の小市民としての思考としては、この事態を招いてしまった身として罪悪感を感じないとは言い切れない部分がある。悪魔化してしまった思考でどこまでそれが起きるかはわからんが、放置した結果一生喉の奥に小骨が刺さった生活を送るのはなんか嫌だ。

 

 

 結論:どうにかしなきゃならねぇ

 

 

―――情報を整理しよう。

 8度に渡る奇襲攻撃の結果、脳内に嵌ったピースがいくつか。それによって、以前よりも多少はマシなデータがアナライズできた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:雀崎 利波  種族:悪魔憑き

属性:Dark-Caos MAG:22

Lv 9  HP 99  MP 43

力 9  魔 7  体 6  速 10  運 8

耐性:破魔弱点 呪殺耐性 恐怖無効

スキル 奇襲 ムド シバブー 

【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】

【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】【UNKNOWN!!】

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ―――うん。肝心のパッシブスキル構成が見えてないが、相手の攻撃方法が物理攻撃か呪殺しかないことが分かった。これは大きな前進と言えるだろう。

 ちなみに、マグネタイトの節約のためにコボルトにはお休みしてもらって土の中に隠れて貰っている。吸い上げと供出はこっちが管理できているので維持するのにぎりぎりの量で我慢してもらったうえで「後で特別上質なのくれてやるから」という約束でもって納得してもらっているのだ。

 

 専らの苦戦の理由は簡単な話―――戦闘経験が違いすぎる。

 

 中年男は元々ガイアーズの実行部隊で鉄火場を潜り抜けてきたバリバリの実戦派。かたやこっちはスペックは上だが中の人はのんべんだらりと生きてきた平和な日本の小市民である。積み重ねたモノの違いが如実に表れる近接戦闘において、それは致命的な差と言えた。

 女神様というのも問題で、処女神・炉と竈の神であるヘスティアー様は争いごととは無縁の神話にいる。炉とか竈は家の真ん中にあるもので、家の外に出ていくことはないからだ。実際ヘスティアー様の神話における活躍はものすごく少ない。神話において他の神々がピンチに陥ろうとも【家の中央を護る女神】という立ち位置から外に出られないとされていたからだ。

 

『子は宝です。私は弟ゼウスに永遠の処女を誓い、結婚の喜び、子を為す喜びを永遠に失う代わりに今後人の営みを護ることを仕事とし、全ての“親なき子供たちの母”として在ることを許されました

 

 

 ―――故に“女としての喜びを奪う者、人の営みを否定する者”は絶対に許せません

 

 

 一瞬、脳内にチリッと電気のようなモノが走った。脳内で膨れ上がったヘスティアー様の感情が伝播でもしているのか、ふつふつと怒りの感情が湧き上がってくる。

 

『―――言うてもこやつは根が面倒くさい女だからなぁ……家庭を持ったらユーノー(ギリシャ神話におけるヘラ)のようになっていた可能性が高いぞ?おまけにこやつの仕事はお主の世界で言うなら「自宅警備員」に限りなく近いナニカだからな?それでいて“捧げものの一番良い部分を最初に食べることができる権利”を貰っておるし……』

『ヘイトスピーチでギリシャを下げようとしないでくださいますかローマ』

 

 脳内で巻き起こる神話的宗教対立(口喧嘩)が遠ざかっていく。やがて完全にシャットアウトされると意識が前を向いた。その間襲撃がなかったのは偶然か、それともなにがしかの意味があってか……?

 

 

 

―――ギ――――ィギャ――――ァ――――

 

 

 

 かすかに耳に届いたそれは、複数の悲鳴のようで。

 

 

「―――コボルト!先行!!」

「ォ、ォオンッッ!!任せてくだせェ!!」

 

 地面を叩くとそこから飛び出してくコボルトになけなしのMAGを分け与えて先行させ、走る。耳を頼りに走り、先行したコボルトとの繋がりを頼りに路を進む。

 

もしも、の話だ。

 

 ジャック・リパーの襲撃がなかったことが偶然ではなく、“別の襲撃対象を狙っていたのだとしたら”?

 

 

 もしもの話を真実に変えるかのように、目の前には凄惨な光景が広がっていた。

 

 複数の『鱗が生えた人間』がごろりと転がっている。ピクリとも動かないそれらは首や腹部に重傷を負い、息をしているかもわからない状態だった。

 ただし、“鱗が生えている人間をふつうの人類としてカテゴライズした場合ならば”の話だが。まだ息がある連中もいることを確信して―――後先なんか考えないで『助ける』ことを優先させた。或いは端くれとはいえ【女神】の神格がそうさせたのかもしれない。

 

「―――【メ・ディア】!!」

『アォォーン!【メ・ディア】!!』

 

 コボルトと二人でメディアの重ね掛けを行う。10体ほど倒れていた集団のうちの2~3名が、ふらつきながらも立ち上がった。

 

「―――キュウエンを、カンシャします」

 

 一番程度が浅かったか、喉を切られていた30手前くらいの女性が立ち上がり、喉の辺りが直ってすぐだったので若干しゃがれ声で感謝を述べる。その後しばらく「あー」だの「うー」だの声を整えてから、こちらを品定めするようにじっと見つめ始めた。

 

「そのお姿は……よもやメシアの方ですか?」

「いいや、拠点なんか持ってないただの野良悪魔みたいなもんだよ」

「おぉ……おぉ……見ず知らずの我らを見捨てることなくお救い下さる……なんと徳の高いことか。神の名を免罪符に我らを滅ぼそうとする天使どもと違うその行い、素晴らしきかな。その義に応えなければ我らの名折れ!どうぞ我らの地にお越しください!」

 

 ダバダバと涙をあふれさせつつ大仰に江戸時代とかの町民がやるように両足で跪く魚人に戸惑うしかない俺。この悪魔は一体何処時代の悪魔《ひと》なのだろうか……?

 

「―――申し遅れました。私は【妖鬼アズミ】と申します。コンゴトモヨロシク」

 

 

 

―――浜離宮恩賜庭園(はまりきゅうおんしていえん)

 

 東京湾から海水を取り入れた独特の潮入り水庭があるここは、江戸時代から存在する場所らしい。元々は甲府藩下屋敷のものだったが、徳川将軍家の浜御殿になったり宮内庁管理になったりしつつ最終的に都立公園に落ち着いた場所である。

 

 その潮入りの池の水際に、ざわざわと集まる人々がいた。

 

どいつもこいつも魚のようなぎょろりとした目で、わりと平面顔(日本人に多いけど)で、幽かに首元に鱗が見えている。

 

「我らはこの地を護るために古巣を離れ、護国鎮守のためずぅっとここを護っておりました」

 

 猫背からすっと背を伸ばし、アズミの姉さんが両手を広げる。

 

「―――我らからのお願いでございます。この地を血で穢す輩を退治して頂けないでしょうか?」

「―――『良かろう、引き受けた』―――」

 

 アズミさんの言葉にまたも口を奪われ了承させられる俺。しかも今度はまざはろ様の方である。ヘスティアー様も引き受ける気だったのだろうが、虚無僧のオッサンの時とうってかわって肯定的な様子に戸惑いを隠せない。

 

『―――まざはろ様?俺ら対抗手札がないから詰んでましたよね?しかもどのみちアレを斃す依頼を引き受けてきたんですよね?』

『―――何を言う!倒して報酬を得る仕事に加え、他の収入も見込める。受ける以外の選択肢がなかろう?』

 

報酬の二重取りというのではないだろうか?そんな疑問が脳裏をかすめたが、結局まざはろ様の言ったことを取り消すこともできないので放置。

 

『それで?そこで引き受けたからには、何かあるんですよね?打開策が』

『無論―――あるぞ。目の前になぁ』

 

 脳内でヘスティアー様の問い詰めに「にやぁり」と悪巧みする笑みを浮かべてまざはろ様が答える。

 

『ギリシャと海の種族、そして妖鬼、これだけの材料がそろったのならば十分ぞ。我が英知にひれ伏すが良い』

 

 「なーっはっはっは!」と笑うまざはろ様の笑い声が脳内で木霊する中、とりあえずアズミさんにまざはろ様から告げられた条件を交渉材料にのっけておく。

 

「―――えぇと……戦力を拡充しないとアレを斃すことはできません。なので……

 

 

 ―――どなたか、私の配下になった上で“悪魔合体”に応じてくれるアズミの方は居ますか?」

 



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第6話

新年あけましたのではつとうこうです()


 【目は口程に物を言う】という諺がある。

 【百聞は一見に如かず】という諺がある。

 

 人の視覚情報は耳のそれよりもはるかに多くの情報を得る手段である。というものだ。実際のところ【アナライズ】は視覚情報に頼っている部分が大きい。噂話だけで大体の情報が手に入る場合もあるが、それらは所謂「情報から記憶などのデータを照合して存在を特定している」というものになる。

 

 ―――今回の結末はまぁ、そういう話である。

 

 

 

>>>

 

 

 

「どなたか、私の配下になって“悪魔合体”に同意していただける方は居ますか?」

「―――では、私で良ければ」

 

 すっと手を上げて前に出たのは池の前に集まっていたアズミの中の一人、ぱっと見は10代の若者のように見える男だった。

 

「私は独り身ですし、一族から離れても問題ありません。私で良ければ連れて行ってください」

「―――『では……契約を。祖の神とその名と、そしてローマに忠誠を』」

 

 俺の口を奪って語るまざはろ様の声に「はっ」と臣下の礼を取り、アズミの兄さんが唄うように声を上げる。

 

「大いなる綿津見神(ワタツミノカミ)と我ら【安曇(アズミ)】の名に懸けて、御方様とローマへ忠義を尽くします」

「―――『許す』」

 

 演目の一シーンのようなその光景を、周囲のアズミたちが喝采で迎える。

 

『―――さて、ここは結界があるから襲撃の危険はないが、愚図愚図しておると他の連中が犠牲になるであろう。お主がそれを嫌って居るのはさっきまでので分かった。正直我にはとんと理解できんが“そういうモノ”であるならばそれで良い。急ぎ、この池の主人に話をせんとな』

「池の―――主人??」

 

 脳内で響いたまざはろ様の言葉を反芻して、つい口に出してしまったところ周囲のアズミたちの雰囲気が驚きに染まった。アズミの姉さんもびっくりした顔をしている。

 

「―――知っていらした……わけではないですね。となると、気づいていらしたのですか……慧眼、素晴らしきかな」

「アッハイ」

 

 何のことかわからんが尊敬の目で見られてここで「いえ違います」とも言いづらいのでスルーしてみた。アズミの姉さんはなんか感慨深く頷きつつ池の傍へ向かい、何やらぼそぼそと小さな声で呪文めいた呟きを繰り替えし始める。

 

 

―――と、池の水が波打ち始めた。

 

 

 

 ザワザワと風も無いのに水面が波立ち。それはやがて大波になり、波間が渦を巻き、そうして―――水が人型を作り上げた。

 

「―――ヒトの子……ではないですね。私を呼んだのは貴方ですか?異国の神の分霊よ。

 

 ―――わたしは【ウンディーネ】、水底で眠る主に代わりこの地を治めています。コンゴトモヨロシク」

「あ、はい。こ、コンゴトモヨロシク。女神フォルトゥナをやってます。現世の名は八月・花音と申します」

 

 唐突にご挨拶から入る水の精霊様にこちらもご挨拶で返す。初対面の相手にいきなり『アナライズ』とかやったら不信に思われそうだからできないけど、確かウンディーネさん。作品に寄るけど大体Lv20台だったはずである。圧倒的に格上なのだ。

 

「―――それで、わたくしに何を求めておられるのですか?同胞(はらから)の依頼を引き受けて頂いた以上、こちらもできる限りのお力添えを致しますわ」

「―――『アクアンズを1体、戴きたい。なに、分霊や残滓で構わぬ』」

 

 

 まざはろ様が口を借りて応えると、ウンディーネ様が訝し気な表情になる―――が、やや考える素振りを見せた後で口を開く。

 

「―――よろしいでしょう。それであの悪魔の所業が収まるのならば」

 

 言うが早いか水面の水を一掬いすると、何やら小声でぼそぼそとよくわからない言語で呪文めいた言葉を繰り返していくウンディーネ様。

 

「―――来たれ」

 

 声に応えるように、一掬いの水がブクリと膨らんだ。そのままヒトの上半身のような形を大まかに整えるようにして、スライムよりもより透明度の高い水の塊がそこに現れる。

 

 

「―――【アナライズ】」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:アクアンズ(残滓)  種族:精霊

属性:LIGHT-NEUTRAL MAG:-

Lv 10  HP 100  MP 80

力 7  魔 6  体 7  速 6  運 7

耐性:破魔・呪殺無効・氷結耐性・火炎弱点

スキル ブフ パトラ

スキル(種族)【精霊の身体】

各属性に応じた耐性を得る:凍結無効

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「―――アクアンズ。私の配下になってくれますか?」

「―――” ”」

 

 声帯が存在しないのかブクブクと泡立つような音を立てる水の塊だが、どうやら肯定だったらしく、俺とMAGのラインが形成されていることが確認できた。

 

『―――では、最終工程に入るとしよう。ウェスタ、主の出番ぞ』

 

 脳内に響く嬉しそうなまざはろ様の声が何とも判断に困る。

 

「結局これで何をしようって言うんですか?」

 

俺の問いかけにまざはろ様は「ふっふっふ」と含みを持った笑いでタメを作ってから、

 

「―――決まっておろう?“悪魔合体”である」

 

 

 脳内でどや顔を展開しているであろう得意げな声でそう答えた。尊い(確信)

 

 

 

 

>>>

 

 

 

 

 埠頭のコンクリート素材の地面に、掌を傷つけて零れだす血液を使って魔法陣を描いていく。同じような文様の魔法陣を二つと、その行く先になるであろう二つの間にひとつ。あまり時間をかけずに二等辺三角形を描くように3つが並んで描かれた。

 

『よしよし、それで良いぞ』

『はぁ……これで悪魔合体ができるんですか?プログラムも邪教の館も使わずに?』

 

 どうしても不安がぬぐえない俺。まざはろ様がここまで自信満々に言っているということはたぶんできるんだろうが、ゲームではCOMPや邪教の館での悪魔合体しか知らない俺からしてみれば、こんなので合体ができるかって言うと本当に不安しかない。

 

『―――お主は何というか、既知のものしか理解できぬのだなぁ』

 

 

 心底呆れた様な声のまざはろ様の声が脳内に響く。

 

 

 まざはろ様が言うには、【悪魔召喚プログラム】というのは元々の基盤(アーキタイプ)が存在するからこそ存在するのだという。そしてそいつを作ったのは北欧神話のトリックスター、【ロキ】なのだとか。

 そんで、悪魔という概念をデジタルに落とし込んで契約をしやすくしたのが所謂「DDS」、デジタルデビルサモンシステムというモノ。それをコンピュータにぶち込んだものを総称して「COMP」と呼ぶらしい。

 ―――とはいっても、現在の年代での文明レベルだとゲームパッケージの上に載ってるようなハンドヘルドタイプのクッソダッサいCOMPが精々なのだろうけれど……。

 

『しかしながらこの古式合体には弊害が付きまとう。悪魔同志をデータに変えて合体するデータ合体と違い、悪魔2体の人格が融合されるため、通常の合体でもお互いの自我が相反してしまい失敗する事例が多数存在したのだ』

 

 なぜかウキウキと語っているまざはろ様にドン引きしたい。要するにそれ使えないってことじゃなかろうか?廃人にして使いつぶす予定だから平気とか?そういうやつ?やばくない?発想やばくない?

 しかし俺のドン引きした思考を読んでいたのかまざはろ様は「くっふっふー」とウザ可愛い笑いで返す。

 

『さっきも言ったであろう?コレのネックは「悪魔が互いに自我を持つ場合、互いの自我がぶつかり合うから起こる」のだ』

 

 「わかっておらぬなぁ」というニュアンスを含んだ揶揄う様な調子の声が調子に乗ってるお子様みたいでマジウザ可愛い。が、ここまでおぜん立てをされれば俺にだって答えにたどり着く。

 

 

 

『要するに、片方が極端に自我の薄い悪魔であれば―――』

『そう。全くノーリスクで悪魔合体が可能ということだ』

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

―――運が悪かった。 結局はそういうことなのだろう。

 

 汐留駅からほど近い位置にある新橋駅。其処から距離にして500mも離れていないような場所にある某TV局のビルディングから、撮影を終えて帰宅しようとしていたその女性は―――周りを包むスモークのような霧の塊に行く手を阻まれ、あてどもなく彷徨い続けていた。

 

「――――ハッ、ハッ、ハァッ……ハッ―――何よ……何の冗談なのよこれは……ッ!!!」

 

 悪態をつきながら走る。撮影のために履いていた高いヒールの靴などではとても走り続けられないため、靴はどこかに脱ぎ捨てて素足でアスファルトの大地を走る。柔肌がところどころ傷になってジンジンと痛みを訴えて、ここが否応なく現実なのだと理解させて来ていた。

 

「冗談じゃないわ―――何なのよこれ、何なのよあれ……映画の撮影?!ドッキリか何か?!ふざけるんじゃないわよ!!」

 

 ニュースキャスターとして売れ始めた矢先の事態に最初はドッキリを疑った。しかしそうでないことは悲鳴を上げて逃げ出した彼女の後輩の断末魔のような絶叫と、さっきから鼻を衝く鉄錆のような匂いが証明していた。

 彼女の中の危機感が際限なく膨れ上がり警鐘を鳴らし続けている。

 

「―――ィヒヒヒヒヒヒィーホォォォーーーー!!!」

「―――!!ぁ……っ―――ッッ!!!」

 

 足先に走った鋭い痛みに、キャスターの女性はその場に転がった。そのふくらはぎからかかとにかけてがザックリと切り裂かれ、動脈にも傷が入っているのかドクドクと勢いよく赤い血が溢れ出している。

 

 

 

 

 

―――私、ここで死ぬの?

 

 

 

 

 

 止血の心得など知らない。放置しておくだけでも絶命に至るであろう深手の傷と、出血による体温の低下が、女性からあっという間に生きる意志を奪っていく。

 血だまりの中をゆらゆらと、スモーク状の煙が揺れる。そのスモークの中でゆらゆらと髑髏が揺れる。ケタケタと笑う髑髏の面が、死神の様にゆっくりと近づいてくる。死を運ぶものだと、我こそがそうだと誇示するように。

 

「―――まだ……これからだったのに……」

 

 小さく呟かれる諦めの声。足先の感触は既に無く、このままではどちらにせよ失血死、あるいは失血によるショック症状で死に至るだろうと理解できた。

ぎりりと強く喰い締める歯が軋み、掌を爪が破り血を流すほどに強く握りしめられた腕を縮め、失われていく体温と、恐怖から亀のように体を丸めて縮こまり―――

 

「―――死にたくない……死にたくないよぉ……」

 

 年端もない子供のように、呟くことしかできない状況をただ嘆き、

 

 

 

 

 

 

    「誰か助けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『任せよ』」

 

 

 

 

 

 

 静寂を切り裂いて空から舞い降りたナニカが、そう答えた。

 

 

 

 

 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 「―――それで?」

「だから!助けに来てくれたんです!おとぎ話のヒーローみたいに!!」

 

 

 “KEEPOUT”のテープで遮断され隔離された新橋―汐留区間の街並みの一角。

警察の事情聴取を受ける女性は興奮冷めやらぬ様子で調書を取る刑事にまくし立てていた。ニュースキャスターの面目躍如と言わんばかりの語彙により溢れんばかりのリアリティをもって刑事に状況を報告していく。

 

「足の腱と動脈を切られて失血で死ぬかと思われた傷もこの通り、傷跡もなく完治してます。このままダンスのステップだって踏めるくらいに!ですがみてくださいこのストッキングの切断跡。切れ味鋭い刃物で切られたことがありありと理解できるでしょう!?」

 

毛布の裾から僅かに出していた脚を、毛布をたくし上げるようにして晒して見せる女性にまだ若い刑事のほうがなんだかよくわからない雰囲気を感じてドギマギとしてしまう。その様子にキャスターの女性は「あらはしたない」と脚を元に戻しコホンと咳払い。

 

「えぇ、もうこれでおしまいかと思った時に空から降りてきたその人は、大きなマントのようなものを身に着けていて、顔は良く見えませんでしたが、声の質から考えて、女性でした。それで―――」

「それで……“ガイコツを呼び出して戦った”んですね?」

 

 刑事の質問に「はい」と頷くキャスターの女。再び瞳がぎらぎらと興奮に満たされていく。

 

「懐から投げた小さな骨のようなものが大きくなったかと思うと、骸骨の剣士に大変身!まるで手品の様でした。その骸骨の剣士と、私を襲ってきたドクロ面の殺人鬼が戦って、最後にドクロ面の男を押さえつけて―――」

「―――それで、その殺人鬼の持っていたヘンテコなナイフで逆に殺人鬼の胸を貫いた、と?」

「ええ、そうです」

 

 狙った獲物をズタズタに引き裂くために造られたような『ジグザグにひん曲がったナイフ』。それを持っていた殺人鬼から奪い、逆に殺人鬼を切り裂いた。そうして、切り裂かれたドクロ面の男はきれいさっぱり消滅してしまった。らしい。

 

「―――一応聞いておきますけどね。違法指定薬物(イケナイオクスリ)とか、ヤってませんか?」

「……今のこの現場を見てどうしてそんな結論になるんですか!!?」

 

 キャスターの女の正気を疑う様な刑事の物言いに、キャスターの方が激昂していた。その様子に「ですよね」と嘆息して調書のメモに書き足していく。

 

「―――ほかに何かありませんか?たとえばその謎の女性が、何か言っていたとか?」

「いいえ―――――あ、いや、ひとつだけ。よく覚えていることがあります」

 

 刑事の言葉に思い出したようにキャスターが答える。

それは失血により意識が混濁していた時に聞いた言葉。痛みと死のカウントダウンを告げているような傷に手をかざした彼女がかけた短い言葉。

 

 

「――――――」

 

 

 朦朧とする意識の中で、彼女の言葉を聞き取ろうと必死になった耳に届いた言葉。

 

 

 

「―――メディア……。たしか、そう言っていました!」

 

 

 

 

警視庁特務対策第0課―――後の通称【デビルバスター】と呼ばれる部署になるそこの事件簿に記録されたこの事件は、当時の資料室からの報告でこう表記された。

 

 

 

『築地―汐留間における連続殺人事件、推定“コルキスの王女”により解決』と―――。

 

 

 




「コルキスの王女メディア(メーデーア)って、ギリシャ神話ですよね?ローマが目立たなくて良かったんですか?」
マザハ『は?メーデーアの伝承は我がローマの誇る詩人オウイディウスによって編纂された物語に登場する王女であるぞ?』
ヘス『それは!ローマが!ギリシャ神話を勝手に編纂したんでしょうが!!』

マザハ『だいたいギリシャ神話のメーデーアは嫉妬に狂って間女の一族郎党を皆殺しにするような魔女であろう?ローマではそんな痛ましい事件なぞ起きておらぬ。王女メーデーアはコリントスを去り、ヘラクレスの狂気を癒し、テーセウスと政治的に争い、最終的にイタリア半島に流れてそこで幸せに暮らし、コルキスに帰還して王座を簒奪した伯父を倒して父を救う物語なのだぞ?わかるか?

 【ローマで幸せに過ごした晩年がある以上、メーデーアもまた、ローマである!】ということだ!』

ヘス『捏造するんじゃありませんこのローマ!!!』


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第7話

久方ぶりなうえ短めなのでじっしつはつとうこうです(復活)


「―――依頼は達成されました。どうも、ありがとうございました。メディア様」

「いや、私はメディアじゃなくて―――いやまぁもうどうでもいいです」

 

 以前とは違って汐留の傍らにあるバーで、酒ではなくコーヒー待ちをしているおっさん。ガイアの虚無僧さんである。それと向かい合う形で座ってるのは幼女の皮を被った女神。

 そう、俺だ()

 何か知らんけど俺の存在が“コルキスの皇女メディア”ってことで周知されてるらしい。わけわからんけど、わけわからんけど(大事なことなので二回言いました)

 

「それで、できれば事件のおおよその顛末について教えていただきたいのです」

 

 デ●マスとかでエントリーシートが入ってるアレくらいの大きさの茶封筒を取り出して俺の方に差し出しつつそんなことをやや小さめの声量で行ってくる虚無僧のおっさんに、神妙に頷く俺。

 

「まぁ、報酬も貰うことですし、いいですよ」

 

 そう答えテーブルの上のバーに似つかわしくないめっちゃバエる(NOT悪魔)感じの三段積みパンケーキをナイフとフォークで切り分けてぱくりと一口。パンケーキの上に乗っかった生クリームと蜂蜜の味が口いっぱいに広がる。甘ぇ……でも感覚的には“これ最の高!!”って叫んでる内面がある。違和感ェ……

 

 

 

 >>>

 

 

 

 埠頭のコンクリートの地面に血で描かれた魔法陣。三角形を作るように3つ描かれた魔法陣の底辺に当たる左右の二つにそれぞれ妖気アズミと精霊アクアンズが鎮座し、その時を待っている。図面を描いた当人である俺の肉体は、現在俺ではない人物によって表層を操られている。

 

 地母神ウェスタ――ギリシャでは女神ヘスティアーの名前で親しまれる竈の神で、ゼウスの姉に当たる処女神その人。

 

 

 

 

 

「地母神ウェスタの名において、大地に祝福を。山河に豊を、獣に飽を、人に抱を、神に奉を巡れ、巡れ―――

 

 ―――巡れ、巡れ、巡れ、巡れ、巡れ――

 

 ―――繋げ、繋げ、繋げ、繋げ、繋げ――

 

 ―――渡れ、渡れ、渡れ、渡れ、渡れ――

 

 ―――紡げ、紡げ、紡げ、紡げ――生まれし命のその恩恵に―――」

 

 

 

 

 

 朗々と紡がれるその言葉が、途中で遮られる。俺の視界はジャックされてるわけではないのだが、2視点分割表示のように左目と右目で見てる視点が違う感じになり始めた。これクッソ酔うんですが!?どういうことなの!?

 

 

 

 

「―――ァ―――ぁー……大神たるゼウスとその妻ヘーラー。そしてそれらの母たるレアー、その大母たる大地母神“ガイア”の力によりて、ここに魔性合一を成す」

 

 

 

 

 声質が変化する。唇の片側が声を出させないようにギリギリと唇を噛み締めようとするが、それも届かない。地面に垂らした血液を介してMAGが活性化して光を放ち始めると、脳内でけたたましい叫び声が響き渡る。

 

 

 

『ふざけた真似を―――ティタノマキアを繰り返す気ですかッッ!!ローマァァァァァァ!!!!!!!!』

 

 

 

 脳内でエコーをかけたように響き渡って脳をぐわんぐわん揺さぶる叫び声をBGMに、目の前の魔法陣はスパークし、二つの魔法陣の上に乗っているアズミとアクアンズの姿がブレ始めた。

 徐々にその姿がモザイクでもかかっているかのようにブレて輪郭が消えていき――やがて限界を越えたところでドロリと“溶けた”。

 

 ドロドロのゲルになったそれが導線を通る電気のように空っぽの魔法陣の方に等速で進んでいく。全く同じ速度で進んだそれは魔法陣の上でぶつかり合い、混ざり合い、溶け合って別の色をしたゲル状の何かになって形を成した。

 

 灰色、或いは黒灰色といった配色のツヤのある光沢をした“骨”。

 人体骨格標本図のようなその外観に、重厚な鋼の色を讃えた幅広の長剣と、円形の盾。からっぽの眼孔に目玉の代わりのような光の玉がポゥと点り、それは本物の目玉のようにぎょろりと動いてこちらを視る。

 

 

「――我が名は妖鬼、スパルトイ。この名と御身とローマに忠誠を誓います」

「――うむ。許す」

 

 

 スパルトイの誓いを鷹揚な態度で承認したのは間違いなくまざはろ様だった―――。

 

 

 

 *********

 

 

 

「とりあえずまずは紹介から、こちら<妖鬼スパルトイ>です」

 

 ゴトリとテーブルの上に置かれたのは獣の牙のような骨片一つ。

 妖鬼スパルトイ。アズミからランクアップ合体で作り出すことができた悪魔で、【斬撃/銃撃半減】の相性を持つ。

 

 ――スパルトイを手に入れた経緯は伝えない。

 

 そもそも“どっからきたのかすら説明できないクッソ怪しい女神様”が“原理もうまく説明できない方法で悪魔を合体させてます”“方法は教えられません”。

 

 

 俺なら即処分するね。誰だってそうする(確信)

 

 

「それで、これが切り札でして。物理特化と相性が良かったのが幸運でした」

 

 そういうことになった(事後)

 

「私を追いかけてきたはずのジャックリッパーが私を見失ったのか、私が範囲外に逃げたからかはわかりません。が、兎に角一般人を狙っていたので上空からそれを探して、汐留駅前の南側でそれを見つけて、上空から急襲したんです」

 

 これは一部本当の話である。

本当のところは結界から外に出てジャック・リパーを探そうとしていたところ、まざはろ様から『あやつなら別のエモノを狙っとるから狩猟の直後を狙えば楽に倒せるであろ』という報告を受けて―――

 

 

 ―――ヘスティアー様がぶちぎれていた(残当)

 

 

 ただでさえ悪魔合体を途中で邪魔されて半ギレしてた所に「被害者を見捨てろ」というまざはろ様の発言に堪忍袋のテールカット不可避だった。

 

『―――今すぐあれを討ちなさいッッ!!!』

「了解(ラーサ)!!」

 

 逆らうなどできるだろうか?いや、できるはずがない(反語表現)

 

 かくして俺はスクカジャを連発しつつビルの上を飛び回り、まざはろ様のナビゲートのもと、ジャック・リパーの姿を探し出し、上空から“ダイナミックエントリー!!”したのだった。

 

 マントに関しては、悪魔変身後の俺の姿がフォルトゥナだったのでそれっぽい布を体に巻き付けていただけである。理由?助けに入ったとして、助けられた側が“胴体が操舵輪になってる人間”を見て安心できるか?と考えたらまぁ普通に焦ってビビって半狂乱にもなろう。故にあれは保険みたいなものだったのだと思う。

 

 空に身を躍らせて、自由落下に任せて落ちていく。途中でビルの壁を蹴って落下角度と着地位置を調節。身をひねることで風にはためくマントを体に巻き付ける。そのまま体操選手のように着地に備えているところで

 

 

 「―――助けて―――」

 

 

 声が、聞こえた。

 

 

 

 

 「―――“任せよ!!!”」

 

 

 そして勝手に答えられた。

 

 

 

 *********

 

 

 

 「―――で、まぁ後は消化試合です。スパルトイを省エネモードから起動させて、ジャック・リパーを押さえてもらって、力でゴリ押ししました」

「何ともまぁ……女神らしくない力圧しですね」

 

 せやろな(達観)

 

とはいえ、それ以外に方法が無かったんだから仕方ない。

こちとら女神とは名ばかりでハマ(破魔)も使えないロウサイドから外れた存在である。おまけに女神特有の耐久力の低さは据え置き価格である。物理特化の悪霊・外道の類は鬼門というレベルじゃねえのだ。

 

 なので肉盾を用意して全力でゴリ押しした(無心)

 

 物理攻撃半減を持つ妖鬼スパルトイを前に出して飛び込ませ、とりあえず脳内で『その娘は致命傷を負っています!治しなさい』と叫ぶヘスティア様の声に一先ず地面に転がってドクドクと血を流している女性の傷をメディアで塞いだ。

 その間にレベル差と相性差でゴリ押ししていたスパルトイ(&地面に半分潜ってこっそりと支援していたコボルト)がジャック・リパーを押さえつけていたので、地面に転がってたジャックリパーの解体用(意味深)ナイフで胸を切り裂いた。

 スパルトイ曰く「主が自身で倒さなければMAGを回収する要素が減ります故」なのだとか。初耳だわそれ

 

 ともあれ、ジャック・リパーの退治依頼はこうして無事に終了となったのだ。

 

 

「――まぁ、お話はよくわかりました。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらもお仕事でしたから」

 

 パンケーキを平らげて、立ち上がってバーを後にする俺に向けられる幾つかの視線。

 

 好奇であったり、興味であったり、好色そうな視線を送ってくるのもいれば、敵意やらなんやらの視線を送ってくるのもいる。バー自体がガイア教団の持ち物だという話なのでそういうことなのだろう。流石ガイア教団、まとまりがない。

 

『では征くぞ。我らの新居に―――』

 

脳内で響くのはまざはろ様の声。

 

 まざはろ様が虚無僧さんにおねだりした“報酬”とは、都内の物件だった。

土地ごと空き物件になってるものでいいので1か所報酬としてもらい受けるという話になっており、曰く『将来を見越して拠点を作るべきだからな』という話らしい。

 

「あのホテルみたいな部屋じゃ駄目だったんですか?」

『なんじゃお前……やっぱり気づいて居らなんだのか』

 

 とりあえず疑問にしてたことを脳内で聞いてみるとめっちゃ呆れた声を出されて微妙に呆れたようなアホを見るようなジト目をされた。尊み()

 

 

『あの場所は所謂中立地帯の一部でな。支配して居る家主(悪魔)がおって家賃代わりにMAGを徴収されるようになっておる。なのでお主のように身の丈に合ってないレベルの悪魔がずっと滞在しようと思ったら枯渇して早晩ゼリー化するであろうな』

 

 

 そういうのマジ早く言って欲しかった。ユーザーフレンドリーさの欠片もねぇ脳内ナビゲートにもはや絶句しかない俺であった。

 

 





『ちなみにあのホテルの地下には悪魔合体施設があるから初心者の登竜門となっておるのだ。故にお主もあまり怪しまれないのだ』

「えっ?もしかしてあそこ業魔殿の系列なの?」


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勢力を作ろうれべるわん ~拠点を手に入れよう~
第8話


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

名前:スパルトイ  種族:妖鬼

属性:NEUTRAL-NEUTRAL MAG:45

Lv 15  HP 161  MP 63

力 16  魔 6  体 16  速 9  運 6

耐性:剣撃半減・銃/物理半減 電撃弱点 呪殺無効

スキル スクカジャ・タルカジャ・会心(パッシブ)・水の壁(継承) / ヒートウェーブ(Lv17で解禁)

スキル(種族)【凶化】 会心発生時の物理攻撃力を強化する。



 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



まざはろ「ちなみにスパルトイが骸骨の姿で描写されるようになったのはギリシャのメーデーアの逸話かららしいぞ」

俺「どう考えてもこいつがメディア呼びの原因じゃないですかヤダー!!」




―――ピチャピチャと、音を立てて舐め啜る音が響く。

 

 

 一先ずホテルの一室に戻ってきた俺は、今―――コボルドとの約束を果たしていた。

 

 

 手のひらを備え付けのナイフでざっくりと切り開き、ドクドクと心音にリンクするように指先まで流れていく赤い流れを、垂れ下げた手を縋るように両手で受け止めてぴちゃぴちゃと舌を伸ばして血を啜り飲み下していく犬貌の悪魔というなんか中世時代とかの戯画でありそうな美女と野獣のコントラストの一幕を演じている。

 「特別に上質なMAG(やつ)をくれてやる」とジャックリパーの依頼の際に約束をしたのは俺自身である。“配下への下賜の約束は履行されるべき”というまざはろ様の主張もあり、『特別に上質なMAG』、つまり『体液に流れている生体マグネタイト』を直接コボルドに与えていた。

 

 『その手の趣味があるなら初手獣〇もアリじゃよ?』と揶揄う様なクソガキッズ感溢れる調子のまざはろ様と『血液や唾液で十分でしょう』と主張するヘスティアー様。ヘスティアー様にとっては自分の肉体の初体験がケダモノ()相手ってことになるので微妙に真に入っている。

 

 なおそんなヘスティアー様に脳内で「ざぁ~こざぁ~こ」とめっちゃ煽り倒しているまざはろ様、ステレオボイスで脳内に口喧嘩が響くんでやめてくださいおねがいします。でも正直ちょっと興奮する()

 

 ―――なおシチュエーションに興奮してるのは駄犬も同じだったらしくギンギンにおっ立ってるのを見ない振りした。

 

 俺にも前世が♂である自意識がある。全力でガチおっきしてるモノを誇示されても……その……困る(対応に)

 正直踏み潰した方があとくされなさそうな感じもするが、それが元で目の前の駄犬がドMに目覚めてしまった場合後々クッソ面倒くさいことになるだろうからなぁ……

 

 最悪は公共の合体施設使って別の悪魔に合成して性格を騎士とかそっち系に変えた方がいいかもしれないとか、ぼんやりと考えていた。

 

 

 なおそんなアンニュイな表情で血を与えてくる美少女の手に縋りついて舐めしゃぶるというシチュエーションにクッソ昂奮してフンフン鼻息荒くしている駄犬に内心割とドン引きですわ俺氏。同じシチュだった場合興奮しないと言い切れないけど!!言い切れないけど!!

 

 

 

 >>>

 

 

 

「汐留の一角に居を構えましたか―――では、ご近所様になる ということでしょうか?コンゴトモヨロシク」

「アッハイ、コンゴトモヨロシク」

 

 悪魔式ご挨拶(メガテン方式)を行って、俺は浜離宮恩賜庭園で精霊ウンディーネ様と謁見していた。

 

 理由はただ一つ。“報酬”の受け取りである。

 

 現金報酬があまり払えないというガイアーズから“開発中の地区”の塩漬け物件になってる場所を報酬として貰った。ガイアーズからすれば『近いうちに世界が崩壊するんだから開発しても無意味やん』っていう思想で生きてる以上、塩漬け安定なので“開発中の一等地”みたいな場所でも普通に塩漬け物件だったりする――まぁ万が一『大崩壊が起きなかったとき』のために確保してる場所だったりするらしいが。

 

 

 汐留シオサイトの近辺にある雑居ビルの一角。それが今回いくつかの候補から選ばれた【俺の活動拠点】になった。

 

 何故汐留なのか?それは今回ウンディーネ様と縁ができた=いざって時の後見になってくれる&俺の方が立場が上になった時に結構いい感じの戦力が即座に配下に置けるから というまざはろ様とヘスティアー様の意見が合致した結果だったりする。

 

 

 ――まぁ一番の理由って多分、現在開発中の汐留の一角に出来上がるモノなんだろうけども。

 

 

 

 

―――汐留イタリア街。

 

 1990年から開発が開始され、次代は今、大再開発時代!となった汐留シオサイトの直ぐ傍に生まれたそこはイタリア風の店舗や外観の建物が立ち並ぶ場所になっており、まさにローマ(イタリア)のためにあるようなものだ。

―――というのはまざはろ様のお言葉である。

 

 閑話休題。

 

 

 

「それで報酬のお話なのですが―――」

 

俺の言葉を遮るようにして、まざはろ様が意識を切り替えた。

 

「――何、無茶をいうわけではない。今後開発中のイタリア街の辺りで戦力を纏めて勢力として成り上がる予定でな。その際に海上を使っての海運での物資運搬を予定しておる。その際に海上の安全を保障してもらいたい。

 

  特に―――“そこ”の眠ってるモノに暴れられたら今後人類の復興が面倒だ」

 

 まざはろ様の言葉にウンディーネ様の後ろからジリっと何かが溢れ出る感覚がある。俺だけだったら穴という穴から色々垂れ流してる自信あるね。うん。コワイ(迫真)

 

 

「我らとしては海神に名を連ねるであろう存在に喧嘩を売る気はない」

 

 

『今はな』と内心で言葉が響いている。やめてくださいしんでしまいます(素)

とはいえ現状での衝突は避けられたらしい。さっきが和らぐとウンディーネ様はこちらに背を向けて海の水を取り入れた海水池の方へ語り掛ける様に、歌う。

 

 

 

「―――Ph’nglui mglw’nafh Cthulhu R’lyeh wgah’nagl fhtagn―――*1

 

 

 

 ―――待って、待って。

 

 え?居るの?あの邪神の系列メガテン世界に居るの?

真1の世界でラブクラフト先生大暴れしてるの??ヤバくない?

 

 聞いてるだけでSAN値が直葬されそうな詠唱がひとしきり続き、何かと交信するような様子だったウンディーネ様はしばらくするとこちらに向き直った。

 

 

「――神の眷属は『許す』と言った。『コンゴトモの盟約はまずはお前たちが勢力を作り上げてからだ』とも」

「承知した。では、コンゴトモヨロシク」

 

 

 にこやかな笑みを浮かべて会談は終了した。笑みとは元来凶暴なモノで(以下略)

 

 

 

 

 ―――というわけで、受け取った茶封筒に入っていた土地権利書を含めた諸々の書類をもとに雑居ビルまでやってきたのだ。が――ガイアーズの寄越したモノが一般的なモノであるはずがない。それは普通考えてしかるべきだった。

 

 

 

「―――まざはろ様?ここですよ……ね……?」

『う、む。―――ここであるな』

 

 

 見上げる先の雑居ビルは6階建ての縦長のいかにもな雑居ビルである。

 

 

 

 

ただし“全階テナント募集で空き物件状態”なのと“どう見ても異界化しとるやないけ”といわんばかりの、JOJOなら

 

 

『ゴゴゴゴゴゴゴ』

 

 

とか

 

 

『ドドドドドドド』

 

 

 

という効果音が響いてくるレベルの瘴気が垂れ流されている点を除くならば、だが。

 

 

 

 

 

「どう考えても事故物件です本当にありがとうございました」

 

 

 

*1
ふんぐるい むぐるぅふなく くとぅるぅ るーりーりえー うがふなぐるふたぐん




 >>>


 秋葉原の一角。OTAKU文化の中心地と言われ三大聖地と言われているその一角で





 “英国調のフォーマルなメイド服姿の少女”が、ウロウロとチラシを片手に街を歩いていた。





「ニホンはメイドが流行していると聞いていましたが……ここまでとは思いませんでした」



 街角でチラシを配り「メイド喫茶」を宣伝するメイド服姿の女性たちを見て、「しかしまぁ」と鼻で笑って見せる少女



「メイドとしての完成度が低すぎますわ。極東ではその程度なのでしょうけれど」


これなら目的も簡単に果たせそうだ。と、薄く微笑んで少女は電気街を離れ住宅街方面に向けて歩き出した。






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第9話

「良かったのか?あそこを報酬にして――」
「あちらが『汐留近辺で』と言っていましたから」

 編帽子を傍らに、僧服でロックグラスを傾ける虚無僧の男はそう言って洋酒を呷る。「それに――」と続ける。

「“異界”だからこそ、あの人は喜ぶかもしれませんしね」

 ニコニコと笑顔でロックグラスを空にしてそう呟いた。




「まぁ―――あそこは色々と特殊な場所ですけれど」




 「どう考えても事故物件です本当にありがとうございました」

 

 

 

 

俺たちの戦いはこれからだ!!(ご愛読ありがとうございました!)

 

 

 

 

 

 

『終わるな終わるなまだ終わっとらんぞ』

「いやこれどう見ても中に入ってったら死亡するフラグじゃないですかー」

 

 JOJO音が深層意識に働きかけてくるこの状況、迂闊に中に入った瞬間「俺たちは既にスタンド攻撃を受けているッッ!!」となって戦闘不能(リタイヤ)ってなるに決まっている。俺は詳しいんだ。

 

 

『中々粋な計らいをしてくれたというべきではないか?異界が構築済みならば“乗っ取り(ローマ)”が可能であるしな』

 

 やだ……発想が蛮族ゥ……ッッ!!

 

『――ローマの言うことに同意するのもやや癪な部分がありますが、“異界”を制圧することは貴女にとって重要なメリットがある話です』

「kwsk」

 

 ヘスティアー様からも無情な制圧推しに説明を求める俺。

 

――そして始まる“サルでもわかる楽しい異界説明”

 

 異界とは、“悪魔たちの世界”が現世に漏れ出た結果生まれたモノで、大体は“強すぎる悪魔が、GPに見合わない自身を護るために造り出す”らしい。

要するに異界というのは一種の別次元であり、存在しているだけで周囲にマグネタイトをばら撒いて悪魔を活性化させる場所である ということ。

 

 それはつまり――“異界の中にいる間はMAGの消費をあまり考えないで良い”ということである。神対応かな?

 

『無論。異界の主の気質にMAGが左右される以上、取り込み続ければどんどんそちら側に引きずられて行くがの』

 

 前言撤回、ろくでもねぇ罠だった。

 

 

 改めて雑居ビルを外から見上げてみる。

日本の商業地でよく見かけるそこそこ大きめの長方形をした鉄筋コンクリート製の味気ないビルで、外観こそクリーム色の塗装でごまかされているがそれがまた安っぽい印象を受ける。この見た感じ普通の雑居ビルって感じの建物の中に、いったいどんなとんでもないボスが待ち受けているのか……?

 

 

 一先ずいつでも撤退できるように【銀の鍵】を首から下げたまま、【人間変身】を解除してフォルトゥナの姿に戻っておく。いざという時に変身解除するまでのタイムラグが致命傷になるのはこれまで地霊相手のレベリングとジャックリパーとの戦いで流石に身に染みていた。

 正直ここで逃げだせるのなら逃げたい。でもどう考えても逃げられるモノではない上に、脳内のまざはろ様とヘスティアー様がGOサイン出してるし無理筋である。

 

 

「そんじゃ、行きますか―――コボルド」

「オン!!行きやすぜ、アネサン!!」

 

 地面をトントンと爪先でノックして名を呼ぶとズルリと地面から飛び出すようにコボルドが現れる。スパルトイも呼んでおきたいところだが、合体で作り上げたスパルトイを維持し続けるにはMAGが地味にカッツカツだったりするため、いざという時の切り札として省エネモード(骨の欠片)で胸元に忍ばせたままにしている。必要だったとはいえ、強力な悪魔に厳選しすぎたのが悪い方向へ出ていた。

 現状、強い悪魔を使役するためには俺自身が今の二倍三倍は強くなって保有するMAGを多くしておかないとならないらしい。

 

 そんなこんなで、俺とコボルドで雑居ビルの入り口をくぐったのだった―――。

 

 

 

 >>>

 

 

 ――雑居ビルの入り口を通って、まず最初に感じたのは『清潔感』だった。

 

 人が手入れをしていない、生活感の無いビルの中であれば、数日で埃が積るし空気中もごみごみした咽るような煙たさ、埃っぽさを感じるものだ。だというのにこのビルの中には“それらが無い”というよりも“むしろ清潔に保たれている”。

 

「異界の主人は綺麗好きなんですかね?」

『わからぬのぅ。穢れを厭う悪魔となると女神や妖精、地母神などに多いが……』

『穢れの神というならば―――トラソルテオトルでしょうか?』

 

怪訝そうな顔のまざはろ様に追従するようにヘスティアー様の声。

 

 トラソルテオトルと言えばアステカの地母神であり、メガテニストにとっては『便器』で認知されてると思われる。実際クッソインパクトあったから仕方ない。

 トラソルテオトルとはアステカのナワ語群の言語で、日本語に直すと「穢れ(トラソル)の神(テオトル)」という意味になる。その名の通り穢れを癒す権能を持ち、特に性犯罪などによる性病関連を司る神様である。そのせいか悪魔絵師の御方に便器と一体化した姿で描かれてしまった。

 

 

「――やっぱり便器と一体化してる姿なんですか?」

『悪魔はヒトのイメージ、信仰によりその姿を変える。とだけ言っておこう』

 

 

 ――つまり便器女神だった場合そういうイメージを持たせた人の責任という意味だろうか?

 

 

「マヤ文明の神々も日本で勢力範囲を広げてるんですかね?」

『いや、彼奴らが勢力を広げているのはマヤンカレンダー次第だからのぅ……日本にマヤンが進出しない限りこちらに出てくることは無かろう』

『逆説的に言えば、マヤの神々が日本に点在する可能性をここの悪魔の正体で推理できるということです』

 

 つまるところこの場所に居るのがトラソルテオトルだった場合、マヤ神族が日本に進出してきている証拠になりえるということ。気分は前世で海外ゲームでやってた幽霊とかを調査する調査員になるゲームおそれである。UVライトとかヴィジャ盤とかあったら倍率ドンだっただろう(妄想)

 なお、俺がここまで余裕を崩さず行動している理由は、まざはろ様の『この異界のレベル帯はさして強いわけではない。ボスであっても精々がお主と同じかそれ以下よ』という言葉を聞いていたからである。

 

 

 

 ――最近戦ったのがレベルと物理でゴリ押ししてくる相手だったからだろうか、俺はこの時完全に忘れ切っていた。

 

 

 

 “レベルという概念の差(そんなもの)が戦局の決定打になる”などという保証どこにもないのが“この世界(メガテン)”だということを―――。

 

 

 

 

 

 >>> 【異界雑居ビル:1階】

 

 

 

 1階は雑居ビルによくあるエントランス的な部分で、入り口の狭い玄関口を抜けたら壁のないワンフロア1部屋の空間になっていた。部屋の端っこには簡易エレベーターと、その隣に階段が備わっている。

 

「古典的なやつだとエレベーターで移動すると途中で止まるとかそういうフラグがありますよね」

『階段も段数にちなんだ都市伝説などがあるから油断はできぬがな』

 

そんな感じの掛け合いを脳内で行いつつ、初めてのダンジョン探索である。実のところ内心でダンジョン攻略に入ったタイミングからややワクワク気味だったりする。現代でも『リアル脱出ゲーム』だの『東京ダンジョン』だのリアルで存在する迷宮(駅)をあてどもなく迷う時、不安はあるけど若干ワクワクするものだ。みんなそうじゃないだろうか?

 地鎮祭を行ってたのだろうか?1階の中央には注連縄で囲われた部分があり、その中央には小さな組み立て型の社のようなものが鎮座していた。そこに一枚の紙が垂れ下がっていて、そこに何か書いていたのだが―――読めん(迫真)

 

「まざはろ様、このライダーキックかジョジョ立ちみたいな形の字、読めます?」

『梵字。サンスクリット文字だの。つまるところここにおるのは仏教由来の神か、或いはインド原典の神ということであろう』

 

 簡単に説明してくれるまざはろ様だが、それが何なのか教えてくれないあたりまざはろ様にもわからない可能性が高い。つまりこの場の悪魔の情報は全くないと言っていいわけだ。

 とはいえ全く情報がないままというのもアレなので、さて二階にと前に踏み出そうとしたところ、“バチィ”と何かに遮られた。感電こそしなかったけどこの音はトラウマを想起して心臓に悪いんでやめてもらえませんかねぇ……?

 

「オン!アネサン、この異界は階層ごとに守護者がいますゼ!」

「守護者……?」

 

 初めて聞く用語ではあるが、コボルドにオウム返しで返しつつもだいたいの事情は呑み込めていた。RPGダンジョンの鉄則だものな!!つまりあれだろう!?

 ダンジョンボスみたいなのがいて、倒したら次の階ってやつだろう!?テンション上がるなぁ~~~!!!

 

『緊張感を持て。この間死にかけたばかりであろうに』

 

 まざはろ様の言葉も耳に入らない俺は、高まるテンションのままにそこいらをペタペタと調べて回った。が、そもそもこの階、何もないと言っていい。唯一あるのが注連縄と祭壇のように置かれた簡易社だが、そこにすら神聖な力も感じない。あと見ていないのは―――

 

「トイレかぁ……」

『定番ではあるな』

 

 悪魔の肉体になってから、排泄というものがほぼ無縁である。“人間変身”している間は人間の臓器を使っての食事がメインになっているのか、『あ、トイレ行きたい』と思うことはあった。が、その状態で悪魔の姿に戻ると、胃の中や腸内の余剰な食べ物やウ●コ予備軍は全部体内で消化され還元率100%でエネルギーになってしまうのだ。めっちゃ効率いいな悪魔の肉体。

 昔、悪魔に戻るというのが億劫だし、女の肉体というものに慣れておくべきだろうなとあまり考えずにそのまま尿意と便意に任せてトイレに向かってみようと思ったことがある。余談だが、俺は元男であり、男には当然、女にはついていない部分がある。あれは生殖器であり、生殖のための器官であると同時に“蛇口から伸びているホースのようなもの”だったのだと理解したのは―――思い出したくないからこの話終わり!ともかく、俺はそれ以後悪魔に戻ることで便意キャンセルを会得したのだった。

 閑話休題。

 

 フロアの端っこにあるドアの向こう、トイレの区画に足を踏み入れると独特の臭気が鼻を衝いた。芳香剤なんぞおいてないんだからしょうがないと言えばしょうがない。人が手入れしなくなったというのにコンクリに劣化が無いあたり、異界ということを思い出させてくれた。

 トイレには個室が2つあり、男子側にはそれとは別に小便器が2つ壁に鎮座していた。ただ……

 

 

「どこにもいませんね。悪魔」

『トリガーが引かれておらぬのやもしれんな』

 

 

 脳内のまざはろ様と二人でそんな風に相談し合う。少なくとも、悪魔を倒さない限りは次の階層を攻略できない。

 

「とりあえずできることは全部試してみるべきでしょうけど……」

 

 とはいえ手詰まりである。トイレのドアをノックして「はなこさーん」とかやってみたが反応はなかった。これ以上何をしろというn『よし、そこのトイレを使ってみよ』おファッ!?

 

『他に思いつくものもないからの』

「いや・・・でも・・・なぁ・・・」

 

 別に忌避感があるわけでもない。が―――

 

 

『女神は排泄などしません』

 

 

 脳内でそんな感じの“圧”がすごいんです。はい()

 

 

 

 

 ―――と、いうわけで

 

 

 

「ほら、がんばれコボルド」

「―――ッス」

 

 

何とも言えない表情で便器に座って用を足しているコボルドを、ドアの向こうから応援している俺 という構図が生まれたのである。何だこれ(素)

 

 

『ほれ、応援してやれ。頑張れ♡頑張れ♡

「がんばれー、がんばれー」

 

 

 何やってんだろう俺……と思わんでもないが、これ確実に中のコボルドの方が“何やってんだろ俺”状態だろうからとりあえず応援してみる。正直これで何ができるかってレベルなんだが……

 

 

「がんばれー、がんばれー」

頑張れっ♡頑張れっ♡

 

 

「がんばれぇーーー!!もう少しだ!頑張れぇーーー!!!」

 

 

 俺のがんばれボイスに連動するように声が重なったのはその時だった。

声の位置から下を見下ろしてみれば、体長1mくらいの大きさの子供サイズの悪魔がそこにいた。

 顔にあたる部分は足の形になっていて、足の裏の部分に目鼻口が付いている。踵から足首にかけての辺りが首になっていて、胴体と手足が伸びていた。ナンダコレ……

 

「と、とりあえず【アナライズ】」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

名前:カンバリ  種族:秘神

 

属性:NEUTRAL-NEUTRAL MAG:223

 

Lv 27  HP 262  MP 131

 

力 21  魔 17  体 23  速 20  運 20

 

耐性:剣撃弱点・銃/物理半減 破魔・呪殺無効

 

スキル テトラカーン・二分の活泉(パッシブ)・マハンマ・八百万針

 

スキル(種族)【神隠し】 通常エンカウントでは遭遇しない

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

『なるほど、“がんばり入道”か。盲点だったの』

 

 

 まざはろ様の言葉も耳に入ってそのまま出て行っている状態。このレベル何なの?マジ何なの・・・?強くない・・・?

 

 

 スパルトイを出しても倒せるかわからんこの状況をいかにして解決するかと心に冷や汗がダラッダラ状態の俺に

 

「オン!出やしたゼ!アネサン!!」

 

そんな声が響いて、うんうんと満足そうな顔でカンバリがスーーーーッと消えて行いった。

 

 

『――どうやら、二階のギミックが解除されたようだの』

『女性一人で探索に来たくないギミックですね』

 

 

 脳内でそんな声を聴きながら

 

 

「――――はぁぁぁぁ………」

 

 

 その場に腰を抜かして座り込む俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――っていうか……悪魔なのにそもそも出るもの出るのか……魔獣

 

 

 

 

 




文字数短いし座りが悪かったので2話分を1話に合体()

次も校正したら即投稿予定()


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第10話

とりあえずここまで、しばらく書き溜めます()


『お主なぁ……情けなさ過ぎるぞ』

 

 クソザコを見つめるような目でそんな感じの言葉をいただきました。本当にありがたくないです生きててごめんなさい。

 

「いや……普通は緊張もしますよ?あのレベルの差は……」

『レベルというのはお主の【アナライズ】で見た場合の目安に過ぎん。レベルというのは言ってみれば“魂の器”の総量のことを指すのだからな』

 

 アナライズで見る『MAG』というのはその「器」が持っている魂の総量だというまざはろ様の説明から考えるに“デジタルで再現された悪魔の『現身(アバター)』はMAGそのものでできている”という説明を加味して「MAGの密度」の問題であるという結論を得た俺である。要するに今の俺氏はMAGがスッカスカのフーセンみたいなモノで、さっきのカンバリはアンパンマンの顔くらいパンパンだったという話らしい。俺の――というかヘスティア様の肉体に本来のMAGが満たされた場合、本来の神格を取り戻して女神級に進化するのだとか。

 

 

 

 

 ――いや、それでも怖いもんは怖いって(素)

 

 

 

 

GP(ゲートパワー)が開かれない限りそこまでの進化はありませんし、もし現世で女神ヘスティアの降臨がなされたら、世は末法も末法。各地に四騎士があふれ出して後くらいでしょうけれど……』

『自身を弥勒菩薩に例えるとはギリシャ神族はこわいのぉ♪』

 

 脳内で始まる論戦から意識を移して二階に上がる。遅れてついてくるコボルトが後方を警戒しながら、俺は2階に足を踏み入れた。

 

 

 

  >>>

 

 

「―――熱っつ……!!」

 

 2階に上がった俺を待ち受けていたのは『火炎地獄』と言っても過言ではない炎の世界だった。

2階のフロア全域をぶち抜いた解放感ある奥行きのフロアと、そのフロア全域を覆いつくす圧倒的な炎、炎、炎。

 肌を舐める炎に焙られる感覚があるのだが、熱さは感じられるが身を焼く感覚はなく、火傷の類もない。不思議な感覚だ。

 

『これは……火生三昧(かしょうざんまい)を具現化しておるのか……?』

 

 まざはろ様がそんなことを呟きつつ考え込むタイムに入る。ヘスティアー様の方もぶつぶつと何やら相手の特定を目指しているようだ。

 

 

 三昧(ざんまい)とは「贅沢三昧」などの熟語で示されるように「そればかりに専念している状態」を指す。サンスクリット語で「サマーディ」をそのまんま日本語に持ってきたもので、ヨガの修行にも使われている、いわゆる“ゾーンに入った状態”を作り出すものを意味する。

 となれば火生三昧というのは文字通り、火を生み出すことに専念した世界だろう。炎というのなら有名なのは不動明王。孔雀王でもなんか真言で炎を起こせるアレだったはずだ。

 

 

烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)――であろうな』

 

 

 何か微妙に聞いたことない名前を出された件。

 

 

『現代の子らにはあまり馴染みが無い名前かもしれませんね』

『きちんと祭られておる神社も存在するがな』

 

 そんなこんなで始まる【まざはろ様のお勉強会~烏枢沙摩明王編~】

 

 烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)。

天台宗では密教における五大明王の一尊に数えられるくらいメジャーな存在である。インド神話における名前は『アグニ』、不浄を焼き払う炎を司ると言われているので厠にお札を貼っているところも多い、らしい。名前を聞いたことないだけでどっかで目にしている可能性があっただろう とまざはろ様。

 

 つまるところこの“火生三昧”という異界は『ダーク属性絶対焼き殺すワールド』と言い換えることができるのではないか?となると問題は―――なんでこんなカオス陣営にとって役に立たない異界の存在を物件として持ってたか?という話になる。

 

 

「ガイアーズにはインド密教系の人間もいますし、ここはその拠点的なモノだった。ってことですかね?」

『かもしれぬし、違うかもしれぬ。そも、烏枢沙摩明王は品川に祭られておる神社が二か所も存在するからのぅ』

 

 

 普通に考えるなら品川区の神社を拠点としているはずだ。というまざはろ様の言葉に脳内をフル回転させる俺氏。

 

 俺のメガテン知識が確かなら―――品川区は大破壊後にメシアンの拠点になってたはずである。品川区には大聖堂が出来上がっていて、そこに召喚されたハニエルを筆頭に、メシア教徒とメシアに傾倒する代わりに保護された民草が集って唯一神四文字様に祈りを捧げ、最終的に“TOKYOカテドラル”の原型となった場所のはずだ。

 

 そらそんな場所に拠点構えてたら現時点でも封印されてる可能性あるよなぁ……?

 

 

 

「―――どちら様、ですか?」

 

 

 

 

 唐突に聞こえた声に、脳内で“戦闘態勢をとれ”と警鐘が3つ響き渡る。自身のものと、ヘスティア様とまざはろ様の3人分にグラグラ脳を揺らされながらバックステップでその場から跳ね退いて身を低く構える。胸元に隠してあるスパルトイにいつでもMAGを送り込んで呼び出せるように手を添えて声の出所を探る俺と、その影に潜むように半身を潜り込ませて周囲を見回しているコボルトという構図に

 

 

「ああ、いえ、警戒なさらずとも結構です。異界の中にいるとは言え、この身は超劣化分霊と言っても過言ではない程弱っておりますので、あなた様に敵うとは思って居りません」

 

 そう言ってゆらりゆらりと現れたのは、年代を感じさせる着物姿の女性だった。

 

 

―――上半身は、だが。

 

 

「わたくしは、この異界にて烏枢沙摩明王様の御力にて生まれ変わりました、生まれは紀伊は熊野の真砂にて庄司を務めし藤原真砂清重が長子、名を一文字戴いて“清”と申します。」

 

 ゆるりと蛇の下半身をくねらせると人の姿を取り、ゆっくりとお辞儀をする“清”。名乗りは戦国、或いは鎌倉か平安か、いずれにしても大昔の和風の名乗りである。

 

 

「不躾で申し訳ない。――【アナライズ】」

 

 

 清と名乗る女性を目に力を入れて“視”る。

 

 

 

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名前:キヨヒメ(転生分霊)  種族:邪龍 → 龍王

 

属性:NEUTRAL-NEUTRAL MAG:

 

Lv 17  HP 800(異界ボス補正アリ)  MP 166

 

力 11  魔 10  体 11  速 4  運 5

 

耐性:銃撃・物理軽減 氷結・破魔無効 火炎・水撃吸収 電撃・神経・呪殺弱点

 

スキル アクエス 噛みつき エナジーシャワー マハ・グライ

 

スキル(種族)【龍胴締め】 自身の周囲に移動阻害の結界を展開し、意識を引き付ける

スキル(加護)【転身火生三昧】 罪業を焼き払う炎の中で生まれ変わったことを示すアグニの加護。 火炎属性への絶対的な態勢を得る

スキル(神話伝承)【三昧火】 嘘を吐いた想い人を焼き殺した伝承の炎。罪人を浄化する炎の特性により【ダーク】特攻

 

 

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 一発で全データぶっこ抜けたが全く安心できない能力をしておる件orz

 

 

「不作法をすみませんね。敵か味方かわからない相手にはまず調査から入ってしまうもので」

「いえ、こちらも手の打ちを明かしましたのでできれば初手は穏便にお願いしたくお願いいたします」

 

 

 物腰柔らかに、それでも間合いはとったまま花がほころぶ様な微笑みをこちらに向ける【キヨヒメ】。

 だが油断してはいけない。アレがもしも伝承にある【キヨヒメ】なのだとしたら適当に会話して適当に相槌打ってたら「貴女嘘つきましたね」ってなって「道明寺ファイヤー!」されてミディアムからウェルダン。いかに本体は炉の神様と言えど肉体はあるし今はしがない運命の女神。火炎に耐性が付いてるわけでもなし、焼き殺されたら普通に死ぬ。

 

 

「それで――この場所に何の御用でしょうか?こちらは烏枢沙摩明王様の炎を絶やさぬように静かに祀る場所。そっとしておいていただけるとこちらとしても安心できるのですが……」

 

 一先ず会話に応じてもらえるようなので、ガイアの虚無僧さんから貰った書類を取り出して広げてみる。

 

「えー……掻い摘んでい言うと、ビルと土地の所有者が私になりました。なのでこのビルは私の所有物ってことになります。なので異界も含めてまるっとウチの領土ということになるとありがたいのですが……」

「そんな!!ああ……邪龍のそしりを受け、烏枢沙摩明王様のお力でやっと龍王に転身(弱体化)を果たして生まれ変わったというのに、明王様の本体は封じられ、残り火を護ろうと日々暮らしていただけだというのに……この仕打ち……やはり清は幸せになってはならぬというのですか……!?」

 

 よよよと泣き崩れるキヨヒメ。若干演技も入っているのだろうか、或いは自己陶酔しているのかオーバーアクション気味ではあるが、感情は本物っぽいし、罪悪感が湧かないでもない。

 

 

 

 

 

 でもそれはそれとして拠点を得ないとこっちも詰むのは変わらないのである。

 

 

 

 

 

“なれば我が配下として腕を振るえ、そして己の居場所を己で勝ち取るが良い”

 

 

俺の口を使ってそんなことを言ったのは―――まぁ当然まざはろ様だった。

 

 

「我らはこの地で成り上がり、神聖ローマ帝国を日本国に興国するつもりでおる。そのための配下はいくらおっても足りぬ。お主が身を粉にして働くというのであればこのビルを拠点とするのは変わらずとも、烏枢沙摩明王の異界であるこの場所はそのまま残してやるとしよう」

 

 まざはろ様の言葉にやや考える様子のキヨヒメ。その言葉に嘘が無いのはおそらくキヨヒメの特性から理解しているのだろうが、話が飛躍しすぎて若干ついて来れていないに違いない。

 

「お言葉はわかりました。ですが、私はすでに烏枢沙摩明王様に信仰を捧げた身、ろぉまに属するは聊か躊躇いがございます」

 

 そこは日本の古風な考え方。二君に仕えずを貫く平安~鎌倉貴族的な思考で返すキヨヒメに

 

 

「何を言う。良いか?ローマはシルクロードで中国とも通じ交易を行っていた。その道を通り、かの玄奘三蔵も天竺、印度の都市まで旅をしたという話もある。つまりはシルクロードの途中にインドがあったと言うことよ。

 

 

 

 

 つまり―――インドはローマなのだ」 ※weak charm!!

 

 

「――成程!!そういうことであれば問題はありませんわね!!」

 

 

 

それまでの躊躇が何だったのか、目の中にハートマークを浮かべたような顔でパッと笑顔を見せると、周囲にハートを振りまくような明るい様子で胸元から扇を取り出し、ふわりとひとつ舞を舞った。

 

「火神烏枢沙摩明王様が巫女にて、生まれは紀伊が真砂の庄司、藤原真砂清重が長子、父より一文字戴いて名を清。生まれ変わりし名を【キヨヒメ】。この名に誓い、ローマと烏枢沙摩明王様に忠義を。

 

 ―――末永く宜しくお願いいたします。主君(あるじ)様」

 

 

 

 

 邪龍改め“龍王”キヨヒメが仲間に加わった―――!!(例のBGM)

 

 

 拠点『烏枢沙摩明王の神域“火生三昧”』を手に入れた―――!!

 

 

 

 *******

 

 

 

『さて、ではお主の強化案件じゃな』

「えっ」

『そうですね……スパルトイとキヨヒメ。この二人を配下にしておくレベルにあなた自身が見合っていません』

「えっ」

 

 まざはろ様とヘスティア様から同時にダメ出しを喰らう俺氏。フルボッコである。日々地霊をぶっ殺すウーマンになっていたのと、こないだジャックリッパーを倒した時に強敵との戦闘で強化されたとはいえ、それでもまだ足りないらしい……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

名前:八月(やつき)・花音(かのん) Age:16

属性:NEUTRAL-NEUTRAL(Light-Law) 職業:人型悪魔(女神:フォルトゥナ)

Lv 18  HP 288  MP 312

力 11  魔 15  体 12  速 14  運 25

耐性:魅了無効・破魔無効 疾風耐性 電撃弱点

スキル ポズムディ メ・ディア ガル スク・カジャ ディアラマ New!!

スキル(継承) 二分の活泉 二分の魔脈

スキル(使用不可) バビロンの杯(アライメント不一致)

 

重要:【大淫婦の契約】:魔人マザーハーロットと結ばれた契約の証。下腹部に紋様として残る。内容は『いつの日にか再び我が下へ至れ』

重要:【女神の加護(ギリシャ)】:オリュンポス神族の加護を得ている。

女神・地母神への合体に補正。NEW!!

重要:【加護:すべての道はローマに通ず】:進化・合体先の神族が【ローマ】に変更される。

重要:【因果:感電死】:自身の【弱点】が電撃に固定される。これは上書きできない。

 

 

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『やや現世では動きにくくなるだろうが、お主の言うところのレベルでなら最低でも20を目指さんとな』

『当主が弱小のままだと下が育たないうえ、見限られる可能性も出てきますので』

 

 この辺りの視点は為政者というか支配階級の人なのか全く同じ意見の二人である。俺氏としては本当、ただただのんびり過ごしたいんだが……

 

 

 

 ああでも放置してたら平穏なんかICBMでもろともに吹っ飛ぶんだよなぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

「人生クソゲーか詰みゲーしかない気がしてきた……」

『安心せよ。それでも道が続く限り、その道はローマに通じておる』

 

 

 

 

 

                ―勢力を作ろうれべるわん 拠点を手に入れよう  了―

 



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