ヴァンガード !F (大葉景華)
しおりを挟む

第一話

本当の自分なんて分からない。

普通に生きて、普通の学校に入って、普通に卒業して、普通に就職して、普通に死ぬと思っていた。

普通が何か分からないまま、普通になれると思っていたし、それが正しい事だと思っていた。

少なくとも、ヴァンガードとあの人、先導アイチに会うまでは。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

ヴァンガード。 地球と良く似た惑星『クレイ』に存在するユニット達と共に相手を倒すカードゲーム。 世界中で人気で今やホビーと言えばコレと行っても過言ではない。 ファイター兼アイドルの『ウルトラレア』やプロリーグ。 高校の部活動でもヴァンガードファイト部なんてものもあるらしい。

俺はヴァンガードをやってなかったから特に見てなかったけどどうやら俺が入ったこの宮地学園は去年創部一年目にして優勝したらしい。

ヴァンガード、どんなもんか見てみるか。 そのくらいの気持ちでカードファイト部の扉を叩いた。

 

「はーい」

 

と少し間の抜けた声が扉の向こうから聞こえ、数秒後扉を開けた主の声だと推測できる。

二年生のはずだが同い年通り越して年下にまで見える。 青い髪をして青緑色の目には俺を見て困惑の色が混ざっている。

 

「あ、えっと……こんちわッス。 自分一年の神宮 燈です」

 

「アカリ君……。よろしくね! えっと……今日は入部希望かな?」

 

「えっと……入部希望というか見学希望というか……。 自分、ヴァンガードの事全然知らなくて……」

 

「大丈夫! 今ちょうどファイトしてるから、良かったら見ていって」

 

促されるまま部屋に案内される。 特殊な形をしたテーブルに向かい合っているの赤い髪をした目つきの悪い人と、三年の有名な女番長の人だった。

 

「ガントレットバスターで、アタック!」

 

「ガード!」

 

「うぇっ!? マジかよーやっぱ番長はつえーなー」

 

「だから番長じゃない! さっさとトリガーチェックしな」

 

「お、おう。 ファーストチェック……トリガー無し。 セカンドチェック……よし!フロントトリガーゲット!」

 

おお、よく分からないけど発熱しているのは俺にも分かる。

 

「私のターンだね。 ツクヨミにライド! イマジナリーギフト プロテクト1をゲット! ツクヨミのスキル! そしてアタック!」

 

「くっ……。 ノーガードだ……」

 

「ツインドライブ! ファーストチェック……クリティカルトリガー! セカンドチェック……クリティカルトリガー!」

 

「くっそおおおお! また負けたー! やっぱ強いなー。 ん?アイチ、そいつ誰だ?」

 

「ナオキあんた気づいてなかったの? さっきから私達のファイトを見てたのよ」

 

「お!新入部員か? 俺、石田ナオキ! お前の名前は? どのクラン使ってるんだ?」

 

赤髪の先輩が詰め寄ってくる。 クラン?なんの事だ?

頭の中がグルグルして何も応えられないでいると、メガネをかけたおかっぱ頭の人が石田先輩を腕を掴んで止めてくれた。

 

「止めるのです石田。 石田の人相では新入部員が怖がるのです。 こんにちはなのです。 私は小茂井シンゴ。 よろしくなのです」

 

「あっ神宮 燈です。 よろしくっス」

 

「その様子を見るに神宮君はヴァンガードをやった事がないのですか?」

 

「はい。 ……すみません、なんか冷やかしみたいな事になって……」

 

「そんなことはないのです! ここにいる人相悪い顔した石田も、去年始めたのですから。 そうだ! 先導君。 神宮君をキャピタルに案内するのはどうです?」

 

キャピタル? また知らない単語が出てきた。 一体なんの話をしているんだ?

そう俺がまた困惑していると先導先輩が声をかけてくれた。

 

「今からヴァンガードのカードを売っているキャピタルってお店に行こうと思っているんだけど。 燈君は時間とかは大丈夫?」

 

あ、キャピタルってカードショップの事だったのか。

 

「大丈夫ッスよ」

 

「よし!じゃあ行こうか」

 

そうして部室を施錠して先導先輩と石田先輩。 小茂井先輩と三年の番長(戸倉ミサキ先輩って言うらしい)の行きつけの店に行くことになった。




ヴァンガードは新ヴァンガードしか見てないのでそっちの設定を流用させて頂いています


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

キャピタルの中はかなりの人がいた。 年齢も小学生から高校生位の人もいる。

 

「着いたよ、燈くん。 ここが僕達がよく行くカードキャピタルだよ」

 

「へー、そういや、なんで俺をここに連れてきたんスか?」

 

俺が尋ねると先導先輩は軽くウインクしてカウンターの中にいる緑の髪をした店員になにか話している。

俺が手持ち無沙汰でウロウロしていると石田先輩と小茂井先輩が俺を引っ張ってテーブルに案内してくれた。

 

「まーまー! ヴァンガードを覚えるにはカードを覚えるところからだ」

 

そう言って自分のデッキを広げてくれた。 カッコイイドラゴンや人のカードがある。

 

「いいか?ヴァンガードってのはこの地球とよく似た惑星『クレイ』に住んでいる住人『ユニット』達を先導して戦うカードゲームだぜ」

 

ふむふむ。公式がそういう設定を作ってくれてると覚えやすいな。

 

「カードには『ノーマルユニット』と『トリガーユニット』があってノーマルユニットが普通に使うユニット。トリガーユニットは後で教えるのですがトリガーチェックをする時に必要なカードなのです」

 

小茂井先輩も隣から教えてくれる。トリガーチェック? まぁ、後で教えてもらえば良いか。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

そうこうしている内に先導先輩がデッキを持ってきてくれた。

 

「はい。 取り敢えず今日は貸し出しデッキを貸してあげるよ 」

 

「あ、あざス!」

「取り敢えずやってみて、それで覚えようか」

 

そうして先導先輩と最初のファイトが始まった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

ヴァンガードは一枚の最初から場に出しているファーストヴァンガード。 十六枚のトリガーユニット。 そして三十三枚のノーマルユニットで構成される。

お互いにファーストヴァンガードをヴァンガードサークルにセットする。

 

「それじゃあ?準備はいい?」

 

「大丈夫ッス」

 

「イメージして。 僕達はクレイに降り立ったか弱い霊体。 このままでは戦えないから先ずはこのファーストヴァンガードに『ライド』するんだよ」

 

ライド……。 イメージ……。 よし

 

「分かりました」

 

「よし!じゃあ行くよ!」

 

『『スタンドアップ!ヴァンガード!』』

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ライド!ぐらいむ!」

 

なんだ……これ!? 本来あるはずの無い情報が頭の中に叩き込まれる! 見た事のない大地。 空気。 山脈。 そして大空を飛ぶのは飛行機なんてものじゃなくてドラゴン! 凄い!こんなの

 

「普通じゃない……!」

 

よ、よし。 俺も……

 

「ライド!ぐらいむ!」

 

自分の体が四つん這いの動物になる感覚が分かる。 よく見れば先輩も同じ青い犬? になっているが、どことなく顔に先輩の面影がある。

 

「じゃあ先攻は僕が行くね。 先ずはターン最初にライドフェイズがあって、今のヴァンガードのグレードと同じか、一つ上のグレードにライドできるんだよ。 僕は『ナイトスクワイヤ アレン』にライド!」

 

瞬間。 先輩且つぐらいむが光に包まれ、鎧に身を包んだ剣士の姿になった。

 

「すっげぇ! 超カッコイイっス!」

 

俺がそう叫んだら、先輩が少し照れ臭そうに笑う。

 

「先攻一ターン目は攻撃出来ないからこれで僕のターンは終わりだよ。 次は燈君のターンだよ」

 

よし、俺もやってやる!

 

「俺のターン。 ドロー。 ライド! 急進の騎士 アニル!」

 

俺の体がマントを羽織った軽装備な戦士に変わる。

 

「おお! これがライド……。 これがヴァンガード!」

 

「それが僕達が出来る事の一つ。 ライドだよ。 そしてもう一つ。 『コール』だよ。 自分のグレード以下のユニットをリアガードサークルにコールして使役する事が出来るんだよ」

 

そうなのか……。 よし! いくぜ!

 

「アレンをコール!」

 

俺の横にアレンが並ぶ。 やっぱりカッコイイ!

 

「後攻からは攻撃が出来るよ。 行動するユニットをレスト(横向き)にしてアタック宣言をするんだよ」

 

「行くっス! アニルでアタック!」

 

「攻撃をされた側は手札からガーディアンサークルにユニットをコールしてガードするかどうか選ぶことが出来るけど……ここはノーガードだよ。 そして、ヴァンガードがアタックした時に、山札の一番上をめくる事が出来るよ。 これをドライブチェックって言うよ」

 

「はい、えっと……ドライブトリガーチェック! ……エポナ? なんか右上にマークがついてるっスけど……。 これは?」

 

「このマークが着いているカードはトリガーユニットって言って、トリガーチェックでめくると追加効果があるんだよ。 この星が着いているマークは相手に与えるクリティカルの値が一つ上がるクリティカルトリガー。 あとはダメージを回復することが出来るヒールトリガー。 カードを一枚引く事が出来るドロートリガー。 そして前列全てのユニットにパワーを+10000するフロントトリガーがあるよ」

 

「そうだったんスね。 これはクリティカルトリガーだからダメージを一つプラスして、パワーを好きなユニット一体に+10000する事が出来るスね。 クリティカルをヴァンガードに! パワーはリアガードのアレンに!」

 

そう宣言すると、自分の力が漲る気がする。 俺が振るう短剣が先輩に見た事ないスピードで二回振るわれる。

 

「ダメージを受けた時は山札の一番上を捲ってそれをダメージゾーンにカードを置くんだよ。 これが六枚になったら負けだから気を付けてね。 じゃあダメージチェック……。 ノートリガー。 セカンドチェック……。 ゲット!ヒールトリガー!ダメージ一回復!」

 

くそっ!せっかく二ダメージ与えられたのに回復された! でもまだだ!

 

「アレンでヴァンガードにアタック!」

 

「良い攻撃だけど……ベディヴィアでガード!」

 

いきなり先輩の前に鎧を纏った侍の様なユニットが出て来てアレンの攻撃を阻んだ。

 

「くそう……流石先輩ッスね。 俺はターン終了ッス」

 

「じゃあ僕のターン。 ドロー。 ライド! 立ち上がれ! 僕の分身! ブラスターブレード!」

 

次に先輩がライドしたのはアレンより豪華な甲冑に身を包み、大剣を手にした戦士だった。 さっきとはまるで違う迫力に思わず身震いする。

 

「それが先輩のエースカードッスね……すげぇカッコイイッス!」

 

「ありがとう。 そして、 ブラスターブレードには特殊能力。 『スキル』があるんだよ。 ブラスターブレードのスキル! カウンターブラスト(ダメージゾーンのカードを裏に向ける事)とソウルブラスト(ヴァンガードサークルのカードはライドされるとライドしたカードの下に重ねソウルと呼ばれる物になる。 ソウルは主にスキルのコストとして使われる)して相手の前列のリアガードサークルのユニット一体を退却させる! 『バーストバスター!』」

 

ブラスターブレードの剣からエネルギーが迸りアレンを吹き飛ばす。

 

「アレン! ……っは!」

 

「行くよ! ブラスターブレードでヴァンガードにアタック!」

 

「くっ! ……ノーガードッス……」

 

「ドライブトリガーチェック……。 ゲット!クリティカルトリガー! 効果は全てヴァンガードに!」

 

「うぇっ!? ダメージトリガーチェック……ノートリガー。セカンドチェック……ノートリガー」

 

一気にダメージ二点も食らっちまったか……ここから挽回してやるぜ!




長いので分割します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

「今度はコッチの番ッスよ! 俺のターン。 スタンドアンドドロー ! ハイドックブリーダー アカネにライド!」

 

今度は鞭を持った赤い長髪に乗り変わる。

 

「うぉ……。 女の子にライドするとなんとなく感覚も変わりますね」

 

「あはは……最初はそんな感じするね」

 

「やっぱそうなんスね……。 それより、アカネのスキル発動! カウンターブラスト1でデッキからぽーんがるをスペリオルコール(カードのスキル等でコールする事)!」

 

俺の後ろに立っているのは機械仕掛けの犬だった。

 

「スキル発動! ソウルチャージをして、そのカードがトリガーカードだったらパワー5000上昇!」

 

ドキドキしながら山札の上を捲る。 さっきから心臓の昂りが止まらない!

 

「効果でソウルチャージ……ノーマルユニットかぁ!」

 

いや、しょうがないさ!

 

「沈黙の騎士ギャラティンをコール! ヴァンガードでアタック!」

 

「ノーガードです」

 

「ドライブトリガーチェック……。 ノートリガー……。 くっそぉ! 次だ!ギャラティン!」

 

「それもノーガードです……。 ゲット!ドロートリガー!」

 

げっ!ドローされちまった!

 

「くっそー……ターンエンドッス」

 

「僕のターン。 スタンドアンドドロー。 ライド! アルフレッドアーリー!」

 

先輩がライドしたのは荘厳ながらも無骨な甲冑を身につけている戦士だった。 その表情や佇まいは将来凄まじい人物になりそうな雰囲気がある。

 

「そして、グレード3にライドした時、ユニットから贈り物をもらえるんだよ。 それがこの『イマジナリーギフト』だよ。 そして、僕らが今使っているクラン『ロイヤルパラディン』はイマジナリーギフト『フォース』!」

 

アルフレッドにフォースの力が与えられた。 存在感に勢いが増す。

 

「効果は自分のターンだけパワー10000上昇!」

 

「うぇ!?」

 

しかも、それだけでは終わらなかった。

 

「アルフレッドのスキル! カウンターブラストでソウルの中にいるブラスターブレードをスペリオルコール! そしてパワー10000上昇して一枚ドロー!」

 

「なんだって!?」

 

一体増やしてパワーを上げて一枚ドロー!? 反則だろ!

 

「行くよ!アルフレッドでヴァンガードにアタック!」

 

「くっそ……。 ノーガードッス」

 

「そして、 グレード3はドライブチェックを二回行える。 行くよ?ツインドライブ! ファーストチェック……。 ノートリガー。 セカンドチェック……。 ゲット!クリティカルトリガー!クリティカルはヴァンガードに! パワーはブラスターブレードに!」

 

「ぐっ……。 ダメージチェック……。 ノートリガー。 セカンドチェック……。 ノートリガーッス……」

 

一気にダメージ4……。 しかもまだブラスターブレードがいる!

 

「ブラスターブレードで、ヴァンガードにアタック!」

 

「くっそ……ノーガードッス。 ダメージチェック……。 ノートリガー……」

 

ダメージ5……もう後が無い……このターンで決めてやる!

 

「俺のターン。 スタンドアンドドロー! ライド! 集成の騎士 フィルノ!ゲット! イマジナリーギフトフォース!」

 

豪華な盾と剣。 そして煌びやかな甲冑に身を包んだ金髪の女性騎士にライドする。漲る力はグレード1や2と比較にならない。

 

「スキル発動! カウンターブラスト2で、一体手札からスペリオルコールして自分とそのユニットのパワーをプラス10000! 俺がコールするのはアレン! そしてアレンのスキル! カウンターブラスト1で手札から自分のヴァンガードのグレーも以下のユニットをコールして一枚ドロー。 そしてアレンのパワープラス3000! 俺がコールするのはギガンティックチャージャー! こいつは自分が登場したらパワープラス10000!」

 

怒涛の連続スペリオルコールコンボで三体のアタッカーが揃う。

 

「ギガンティックチャージャーでアタック!」

 

「エポナでガード!」

 

「くっそ、阻まれたか……。 フィルノでアタック!」

 

先輩が少し思案顔をする。

 

「……。 ノーガードです」

 

先輩のダメージは4。 って事はクリティカルトリガーを捲れば勝てる!

 

「ファーストチェック……。 ドロートリガー。 ギャラティンにパワー10000して一枚ドロー。 セカンドチェック……。 ゲット!クリティカルトリガー!」

 

やった! これで決めてやる!

 

「クリティカルはヴァンガードに! パワーはギャラティンに! 言っけぇぇえええ!」

 

光を帯びた剣激が先輩を貫く。 これで俺の勝ちだ!

 

「ダメージチェック……。 ヒールトリガーだけと、相手の方がダメージが多い時は回復はしないよ。 パワーだけヴァンガードに付与」

 

やった!これでダメージ5! もう一点!

 

「セカンドチェック……。 ゲット! ヒールトリガー!」

 

なんだって!? それじゃあ……

 

「ダメージ一回復。 そしてパワーはヴァンガードに……惜しかったね」

 

「……く、まだだ! ギャラティンでヴァンガードにアタックだ!」

 

目隠しをした剣士がトリガーの力とフォースの力で目にも止まらぬ突進を見せる。 頼む!これで決まってくれ!

しかし、勝利への壁は最後が一番高いと相場が決まっていた。

 

「閃光の盾 イゾルデでガード! スキル発動! 手札を一枚捨てればガード値に関係なくこのアタックを止める守護者(センチネル)!」

 

そ、そんな……カードを……。

 

「……ターン……エンドです」

 

「僕のターン。 スタンドアンドドロー。 ライド!モナークサンクチュアリ アルフレッド!」

 

現れたのはさっきのアルフレッドより、少し歳をとった姿だ。 しかし、 老いを感じさせる様なものはなく、 国を収める盟主の様なものを感じさせる。

 

「ゲット!イマジナリーギフトフォース! スキル発動! ドロップゾーン(使い終わったカードや、退却したカードを置く場所)からブラスターブレードを手札に。 そして自身のパワーをプラス15000!そしてソウルにアルフレッドがいるならクリティカルプラス1! アタック! 」

 

「……ノーガード……です」

 

「ツインドライブ。 ファーストチェック……セカンドチェック……。 両方ノートリガーだけど。 スキルで二点ダメージだよ」

 

「ダメージチェック……。ノートリガー。 俺の……負けッス」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ふぅ。 凄いよ燈君。 負けちゃったけどあとちょっとの所だったよ!」

 

「そうなのです!あの先導君をここまで追い込むなんて石田には出来ないのです!」

 

「お前すげぇな! 次は俺ともファイトしようぜ!」

 

あぁ、……終わったあとでも鮮明に覚えてる。 自分がユニットにライドして戦う感覚。 相手に攻撃がヒットした時や、逆に攻撃を受けた時の衝撃。 そして何よりあの世界。 惑星クレイの圧倒的なリアリティ。 今まで感じた事が無い! 最高だ!

 

「すっ……げぇ!楽しかったッス! 確かに負けちゃったのは悔しいッスけど、ヴァンガード超楽しいッス!」

 

俺がそう言うと先導先輩が自分の事のように喜んでくれた。

 

「ほんとに!良かった! 」

 

「俺もカードファイト部に入りたいッス!!これからお願いします!」

 

その日は日が暮れるまで店長が貸してくれたデッキで戦い続けた。

 

でも、先導先輩とやった時のあのリアリティある感覚は掴めなかった……。 あれは一体……?




とりあえず最初の戦いはここまで
主人公のクランは何だと思いますか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

「ヴァンガードにアタック!」

 

「プロテクトで完全ガードなのです!」

 

いつものキャピタルの後継。 俺がまだデッキを持ってないからヴァンガードをしたかったらキャピタルに行くしかないのだ。

 

「くっそー!シンゴ先輩のクランは守りが強いっすね」

 

「それが『ぬばたま』の強みなのです! 今度はコッチから行くのです。 スタンドアンドドロー。 ライド!マガツストーム! そしてアタックなのです!」

 

「くっ……ガード!」

 

「上手いのです!神宮君もだんだんヴァンガードの戦略が分かってきたのですね!」

 

「あざッス!」

 

こうして俺とシンゴ先輩とファイトをして一旦反省会を開いていると、キャピタルのドアが開き後江高校の制服を来た二人組が来店した。

 

「おや、櫂君に三和君。 いらっしゃい。 久しぶりですねぇ」

 

店長の反応を見るに常連らしい。 櫂と呼ばれた方はキツイ目付きをしていて、三和と呼ばれた方は制服の中にパーカーを来て着崩しており、どことなく取っ付きやすそうな雰囲気を感じた。 実際その通りらしくて店長と気さくに会話しているのは三和と呼ばれた方だ。

 

「いやー、流石に三年になると進路とかでごたついてるんだよー。 櫂も進路色々悩んでるみたいでさー」

 

三年だったのか。 て事はミサキ先輩の代か。そう思っていたら二人が俺たちに気づいて近付いてきた。

 

「よう、小茂井。 今日はアイチは来ないのか?」

 

「今日は先導君は部長全員呼び出しの会議に出てるので遅れるらしいのです。 石田は補習らしいのです」

 

「へ〜、じゃあねーちゃんは?」

 

ねーちゃん? 話の流れから消去法的にミサキ先輩か?

 

「ミサキ先輩の事なら、今裏で準備しているらしいッスよ」

 

俺がそう答えると二人の視線が俺に向いた。

 

「ん?お前、見ない顔だな?」

 

「自分、宮地学園カードファイト部の新入りッス。 神宮燈ッス」

 

俺がそういうと三和先輩が驚いたような顔をする。

 

「おおっ!遂にアイチに後輩が出来たんだな!」

 

「そんなにアイチ先輩に後輩が出来ると思われてなかったんですか?」

 

俺がそう尋ねるも三和先輩は首を振る。

 

「いや、そうじゃなくてだな。 アイチが部活を作るって時も一悶着あったらしいんだよ。 ……あれ?あの事件は結局どうなったんだっけ?」

 

したり顔で語ろうとしたが、三和先輩が肝心の事件の部分を忘れてしまったらしい。

 

「なぁ櫂。 お前は知ってるか?」

 

「知らん」

 

櫂先輩イメージ通りに取っ付きにくいらしい。

俺達がそうこうしていると後ろからエプロン姿のミサキ先輩の声が飛んできた。

 

「うるさいよあんた達! ファイトしないなら帰んな!」

 

あまりに厳しい声に飛び上がるが、三和先輩は飄々と受け流す。

 

「わりーわりー。 じゃあちょうどいいし、神宮。 ファイトしようぜ!」

 

三和先輩がデッキを取り出す。 当然断る理由もない!

 

「いいッスよ。 あと俺の事は燈で構わないッス」

 

「よし、いくぜ燈!」

 

『『スタンドアップ! ヴァンガード!』』




三和櫂と知り合う
三和のノヴァは何軸にするか悩みますね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

重要な戦闘じゃないのでサクサクいきます


先攻は三和先輩だ。

 

「俺のターン! 早速行くぜ! ライド! ライザーカスタム! スキル発動! このユニットは先攻でもアタックできる! アタック!」

 

「マジか! くっ……ガード!」

 

いきなり手札を消費させられた……。

 

「今度はコッチから攻めるぜ! ドロー。小さな勇者 マロンにライド! スキルでドローしてヴァンガードにアタック! 」

 

「ノーガードだぜ」

 

「ドライブチェック……。 ノートリガー」

 

「こっちもノートリガーだぜ」

 

よし、先に攻撃されたけどダメージは向こうが1。 コッチは0だ。

 

「ターン終了ッス」

 

「俺のターン。 スタンドアンドドロー。 ライド!ハイパワードライザーカスタム! スキル発動! ソウルのバトルライザーをスペリオルコール! そしてヴァーナル・クラッカーをコール! アタック行くぜ! 」

 

リアガードのヴァーナルが手にしたモーニングスターを振り回しながら突っ込んで来る。

 

「ガード!」

 

「やるな! なら今度はヴァンガードでアタック!」

 

バトルライザーのブースト(後列のブースト能力を持つユニットが自信をレストする事で前列にパワーを上乗せする事)で強化されたアタック。 防ぎきれない……か。

 

「ノーガードッス」

 

「お?良いのか? なら遠慮なく! ドライブトリガーチェック……。 ゲット!フロントトリガー! 前列のパワープラス10000!」

 

良かった。 クリティカルならともかくパワーが上がったのはもうアタックできないヴァーナルと攻撃が通るのが確定しているヴァンガードだけ……。

 

「甘いぜ、燈」

 

「? 取り敢えずダメージチェック……。 ノートリガーッス」

 

俺が処理をすると、三和先輩が得意げに笑う。

 

「ハイパワードライザーカスタムのスキル! こいつのアタックが成功したらバトルライザーをソウルに入れてリアガードをスタンド!」

 

何だって!? 三和先輩のデッキは攻撃的なデッキなのか……。

 

「トリガー付きのアタックだ! 止められるかな?」

 

「くっそ……ノーガード。 ……トリガー無しッス」

 

まずい……ジリ貧になる……でもガードに手札を使ってしまって展開が出来ない。

 

「スタンドアンドドロー……。 ライド、沈黙の騎士 ギャラティン! ……くっ、そのままアタック……」

 

 

手札が足りない……。 頼む!ドロートリガー!

 

「ノーガードだぜ」

 

「ドライブトリガーチェック……。 ノートリガー。 くそっ!」

 

「俺のターンだな。 スタンドアンドドローっと……。 ライド! パーフェクトライザー! ゲット! イマジナリーギフト アクセル!」

 

アクセル……。 新しいリアガードサークルを作り出すイマジナリーギフトか……。 攻撃的な三和先輩らしいデッキだなぁ。

 

「ガンガン行くぜ! マキシマムライザーをアクセルサークルにコール! ジェノサイドジャックをコール! ストルジーニをコール!」

 

怒涛のコール。三和先輩はこのターンで決めるつもりだ……。手札のガード値は低い……。 でもトリガーしだいでまだ勝機はあるはず!

 

「行くぜ! ヴァーナルでアタック! 」

 

「ガード!」

 

「マキシマムライザーでアタック!」

 

くっ……ここからは止められない!

 

「ノーガードッス!……。 トリガー無し……」

 

「ジェノサイド!お前も行け!」

 

止められない!……あれ? 三和先輩、せっかくジェノサイドの後ろにブースト要因を出したのにブーストしないのか? 兎に角、これならガード出来る!

 

「ガード!」

 

「……ふっ! ヴァンガードでアタック! スキル発動! 前列二体をスタンドさせる!」

 

!? これが狙いだったのか! まずい……あのデッキにはアレが入っている!

 

「くっそ……ノーガード」

 

「ツインドライブ行くぜ! ファーストチェック……。 ゲット! フロントトリガー!」

 

やっぱり!

 

「しかもストルジーニはフロントトリガーが出る度にパワー10000上昇!」

 

最初のジェノサイドジャックをブーストしなかったのはこの為か! 後のもっと大きな一撃を通す為に!

 

「まだセカンドチェックが残っているぜ? ……ゲット! フロントトリガー!」

 

……二枚……だと?

 

「ストルジーニと前列パワーアップ! マキシマムライザー!行け!」

 

「ノーガードッス……ノートリガー……」

 

「これで最後だ! ストルジーニのブースト、ジェノサイドジャックでアタック!」

 

「ノーガード……ノートリガーッス。 ダメージ六。 俺の負けッスね」

 

まさかグレード3にライドする暇も無いなんて……。 強いなぁ……。

 

「やりぃ!」

 

「くっそおー! 三和先輩強いっすね」

 

「へへっ、まあな。 一応俺もヴァンガード甲子園に去年出たからな」

 

少し照れ臭そうに鼻を擦る。

 

「次は櫂さんともやってみたいです!」

 

俺が意気込んでそういうと三和先輩が少し困った顔をした。

 

「あー、いや、櫂はなー……」

 

「? 何か問題があるんスか?」

 

「……いや、構わないぞ」

 

「お?良いのか? 櫂」

 

なんかよく分からないけどやった! 早速と思いデッキをシャッフルしてテーブルに着いた時、また扉が開いて新しい人が来た。

赤い長髪を後ろで止めた、真っ白な制服。 紅い瞳の中に確かな闘志がある。

 

「ん? あ〜!櫂!いたんですね」

 

見た目とは裏腹に何だか気の抜ける雰囲気と話し方をする人だ。 櫂先輩の知り合いって事はこの人もファイターか。

 

「レンか」

 

「久しぶりですねぇ。 ファイトしましょうよ?」

 

「別に構わないが、先約がいる」

 

櫂先輩が俺を顎で指し、初めてレンさんが俺を見る。 その戦士のような目付きはヴァンガードのユニットを連想させる。

 

「……へぇ、君。 面白いですね。 櫂より先に私とファイトしませんか?」

 

と、いきなり言ってきた。

 

「え? 俺と、……えっと」

 

「レン。 私の名前は雀ヶ森レンです。 さぁ、私とファイトしましょう?」

 




レンさんカッコイイですよね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

レンとの戦闘。 ここからちょっと物語が動きます


いきなりレンさんと戦ってくれって言われたけど……せっかく櫂さんとファイトしようと思ってたのに。

 

「すみません、今から櫂さんとファイトしようと……」

 

と俺が断ろうとしたが

 

「……いや、レンの方が適役だ。 神宮、ファイトはまた今度だな」

 

櫂さんが言ってデッキを片付けてしまった。

 

「まぁ……櫂さんがいいって言うなら……。ん?

えっと、適役って……?」

 

「まぁまぁ、ファイトしてみれば分かりますよ。 でも、デッキが悪いですね。 まだ慣れ切っていない」

 

慣れ切っていない? 確かに俺はまだ初心者だけど……。

 

「デッキの構築がって事ですか? これは店長が貸してくれて……」

 

俺がそう話すとレンさんは納得したように頷いた。

 

「なるほど、そういう事なら……。 櫂、アイチ君は今日は来るかな?」

 

「俺に言われても知らん。 レン、アイチのデッキを使わせるのか?」

 

「ええ、アイチ君のデッキなら大丈夫でしょう。 という訳で、アイチ君が来るまで待って貰えますか?」

 

「え? 俺は大丈夫ッスけど、俺がアイチ先輩のデッキで戦うんスか?」

 

「ええ、多分今のあなたのデッキより使いやすいはずですよ? あ!ミサキューじゃないですか〜」

 

「ミサキュー言うな!」

 

そう言って俺の事は忘れたかのようにミサキ先輩のいるカウンターに向かう。 ミサキュー?

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

それから十分後くらい。 アイチ先輩が軽く息切れしながらやって来た。

 

「すみません、遅くなっちゃてって……レンさん!? 」

 

「やぁ、アイチ君。 久しぶりですね」

 

アイチ先輩が驚く。 見た目から立ち振る舞いまで何だかこの二人は対極な気がする。

 

「アイチ君。 早速で悪いんですけど、彼に君のデッキを貸してあげることは出来ませんか?」

 

そう言って俺の事を指さす。

 

「え? 僕のデッキを、燈君にですか?」

 

「ええ、その状態の彼とファイトしてみたいのですよ。 アイチ君。 君も薄々気づいているんじゃないですか?」

 

気づく? さっきから何の話をしているんだ?

 

「…………。 分かりました。 燈君、僕のデッキの使い方は分かる?」

 

と言ってデッキを渡してきた。

 

「あ、はい。 大丈夫ッス。 でも良いんですか? アイチ先輩のデッキを使うなんて……」

 

「僕は大丈夫だよ。 ……燈君、気をつけてね」

 

「? 気をつけてって……」

 

「さぁ、始めますよ?」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

一通りデッキの内容を確認し、テーブルに着く。

 

「……少年。 ヴァンガードの世界観は知っていますよね?」

 

ファイトを始める前に、レンさんがいきなり話しかけてきた。 この人は行動が読めない気がするからちょっと苦手だ。

 

「え? ええ、勿論。 架空の惑星クレイで霊体になっている俺達ヴァンガードファイターが戦うって……」

 

「そう。 一般的には惑星クレイは存在しないと言われる。 ……しかし、クレイは本当は存在するとしたら? そして、本当に意識をクレイに飛ばして戦うことが出来るなら? そんな事は思いませんでしたか? いや、君はもう体験した事があるんじゃないですか? その感覚を」

 

クレイが実在? 意識だけが本当に霊体になる? 何を言っているんだ?

 

「あの、何を言って……」

 

いや、思い出した! 初めてアイチ先輩とやった時のあの感覚。 俺は確かに惑星クレイでアイチ先輩と対峙していた。

 

「…………」

 

「やはり思い当たる節があるようですね。 私達ファイターの中に稀にいる存在。 ユニット達と真に心を通わせる事が出来る。 イメージを力に変えることが出来る能力『PSYクオリア』」

 

PSYクオリア……。 ユニット達と真に心を通わせる力。

 

「……お喋りはここまで、これからは……ファイトの時間です」

 

レンさんの掴みどころのない雰囲気はもう無い。

 

「分かりました。 いきます!」

 

『『スタンドアップ!!(The)ヴァンガード!』』

 

ファーストヴァンガードを開けた瞬間。俺は見た。 漆黒の馬に跨り、二体の剣士を連れてオレを見下すレンさんの姿だった。




やっぱりというかヴァンガードのオリ主ってすぐにPSYクオリア持ちになりがちな気がします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話

PSYクオリアに関して、若干自己解釈が含まれます。


『『スタンドアップ! (The)ヴァンガード!!』』

 

自分の意識は地球から離れ、惑星クレイへと霊体になって飛び立つ。 レンさんも既に惑星クレイへと降り立ち、優雅な仕草で俺を促す。

 

「この感覚こそがPSYクオリア同士の感覚です。 お互いのイメージがお互いのイメージを高め合い、自分のイメージを現実に投影する。 その惑星クレイ、自分。 そして相手の三つの世界の共鳴こそがPSYクオリアの真骨頂」

 

三つの世界の共鳴……確かに、ユニット達と共にいる感覚は何者にも変え難い。 俺は、もっとその先の感覚を知りたい!

 

「ライド! ぐらいむ!」

 

俺が青い色の獣にライドするのを見ると、レンさんもライドした。

 

「ライド フルバウ」

 

レンさんがライドしたのは俺と同じような四足の獣だが、ぐらいむのような動物感は無い。 黒く、機械的な見た目をしている。

 

「俺のターン。 ドロー。 ライド! ナイトスクワイヤ アレン!

ターンエンドです」

 

「ライド ブラスタージャベリン」

 

現れたのはフルバウと同じような漆黒の色をした鎧に身を包み、身の丈を超える槍を両手に構える戦士だった。

 

「PSYクオリア同士の戦い。 それはユニット達と心を通わせる事。 ジャベリンでアタック」

 

巨大な槍を軽々使いこなし、鋭い刺突を繰り出す。

 

「ノーガード!」

 

「ドライブトリガーチェック……」

 

レンさんが手をかざし、めくろうとする瞬間。 目の中で微かに光が瞬く。

 

「ゲット、クリティカルトリガー」

 

いきなり!? クソッ!

 

「ダメージチェック……。 両方ノートリガーッス」

 

いきなり二点のダメージか……。

 

「少年。 PSYクオリア同士のファイトはただのファイトではない」

 

「? それはどう言う……ぐぁあああああああああああ!?」

 

何だこの痛み!? 腹を巨大な何かで貫かれたような……貫く? ……まさか!

 

「そう、PSYクオリアはユニットと共鳴する事でファイトを高め合う。 その代償として、ファイトでのダメージは強いイメージを持ってファイターに跳ね返る。 その痛みはダメージを増す毎に強くなる」

 

そんな……これがイメージ? 幻想の痛みとは到底思えない……。 思わず膝を着きそうになるがすんでのところで耐える。

 

「くっそ……俺のターン……ドロー」

 

視界が眩む。 汗が気持ち悪い……。 カードを引く手が震える……。

 

『マイヴァンガード。 気を確かに』

 

この声は?

 

『今だけは力をお貸しします。 ご武運を』

 

この声……嘗ては敵として聞いたことがある。 震えが止まった手で引いたカードを見ると

 

「……ありがとう。 もう大丈夫だ」

 

「行きます! ライド! 今だけは俺に力を! ブラスターブレード!」

 

『それでいいのです。 しかし、お気をつけて。 向こうにもブラスターはまだいます』

 

「ああ! リアガードに心理の騎士 ゴードンをコール! そしてヴァンガードでアタック!」

 

「ノーガードです」

 

「ドライブトリガーチェック……」

 

イメージしろ……次のカードを、次の攻撃を、防御を。 このファイトを俺のイメージで支配しろ!

 

「ゲット! ヒールトリガー!」

 

自分でも信じられない速さでブラスターブレードの大剣を振るう。 しかし、その体を袈裟懸けに切られたのにレンさんは涼しい顔でダメージチェックをする。

 

「ゴードンも行け!」

 

「ガード」

 

「よし、これで点数は同点。 ターンエンドッス」

 

「……素晴らしいですね。 PSYクオリアを自覚してその早さで使いこなせるようになるのは。 だが甘い。 その程度のファイト、私には全く通じない。 ライド!ブラスターダーク!」

 

現れたのはブラスターブレードどよく似た剣士だった。 闇よりも深い漆黒の鎧に身を包ん姿は、正にブラスターブレードの影と呼ぶにふさわしい出で立ちだ。

 

「ユナイテッドサンクチュアリの正騎士団。 それがロイヤルパラディン。 それの对となるユナイテッドサンクチュアリの影の騎士団。 それがシャドウパラディンです。 その力を知るがいい」

 

暗闇から驚異が襲う



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話

「行きますよ。 ブラスターダークのスキル発動。 カウンタブラストで相手はリアガードを一体退却させなければならない」

 

ブラスターブレードと似たような能力……。

 

「すまない、ゴードン……」

 

『マイヴァンガード。 お気をつけて。 シャドウパラディンは強敵です』

 

そう言い残してゴードンが光となって消える。 リアガードが居なくなったことにより孤独感が浮き彫りになる。

 

「まだまだいきますよ。髑髏の魔女 ネヴァンをコール。 さらにスキル発動。 自信をレスト(カードのスキルやアタック等で横向きにする事。 行動不能状態である事を示す)する事でデッキからパワー5000以下のユニットをスペリオルコールします。 ……黒の賢者 カロンをコール。 スキル発動。 スキルで登場した時に、 ソウルブラストでカウンターチャージし、自身のパワーを3000上昇」

 

小さな、しかし確かな力を持った龍の装いを身にまとった男が出現する。

 

「まだです。 黒翼のソードブレイカー。 スキルでワンドロー。 ……虚空の撃退者 マスカレードをコール。 スキルで山札の上七枚からブラスターダークか幽幻の撃退者 モルドレッド ファントムを手札に加え、自分のリアガードを退却させる。 ……。 ブラスターダークを手札に加え、ソードブレイカーを退却」

 

「一気に展開と次への準備……流石ッスね」

 

「まだです。 ダークのスキル。 相手のユニットが一体もいない時、ツインドライブを獲得する!」

 

グレード2でツインドライブ!?

 

「ヴァンガードでアタック」

 

「くそっ! ノーガード!」

 

「ツインドライブ。 ……ゲットドロートリガー。 セカンドチェック。 ……ヒールトリガー」

 

ダブルトリガー。 ……ユニット達の囁きが聞こえるPSYクオリア使いにはイメージが力になるのか……。

 

「ダメージチェック……。 ノートリガー」

 

ジャベリンの時とは比較にならないダメージを受ける。 余りの衝撃に一瞬視界が暗転するが、なんとか持ちこたえる。

 

「ぐぅっ! ……はぁ……はぁ……くそっ!」

 

「マスカレードでアタック!」

 

「ガード!」

 

耐えきった……今度はこっちの番だ!

 

「ドロー! ライド! モナークサンクチュアリ アルフレッド!」

 

自分の身が重厚な輝きを放つ鎧に包まれるのを感じる。 敵だった時の威圧感はそのまま頼もしさとなる。

 

「イマジナリーギフトフォース2! これを置いたサークルのユニットはクリティカルか2になる! そしてスキルでカウンターブラストとソウルブラスト! 今ソウルからドロップに落としたブラスターブレードを手札に加えて自身のパワーを上げる!」

 

手札は潤沢。 そしてユニットの囁きで分かる。 次のターンを渡したら不味い。 レンさんのデッキからはそれほどの力を感じる。

 

「忠義の騎士 ベディヴィアをコール! スキルで友儀の騎士 ケイをスペリオルコールして一枚ドロー! ナイトスクワイヤ アレンをコール。 スキルでブラスターブレードをコールしてドロー。 ブラスターブレードのスキルでマスカレードを退却! バーストバスター!」

 

ブラスターブレードの剣から放たれた光線でマスカレードを消し去る。

 

『ヴァンガード お気をつけて』

 

「ああ、ありがとうマスカレード」

 

最後までレンさんの身を案じるマスカレード。 レンさんとユニットの絆は硬い。

 

「行きます! ブラスターブレードでアタック!」

 

「ガード!」

 

「これが本命の一撃! モナークでアタック! シアターモデレード!」

 

両肩の機構から光線が光る。 ブラスターブレードのそれより太く、強い光線がブラスターダークへ向けて放たれる。

 

「ノーガードです」

 

「ツインドライブ!」

 

目の奥が熱い。 自分の精神に肉体が着いてこない。

 

「ファーストチェック。 ……ドロートリガー。 セカンドチェック。 ……ヒールトリガー!」

 

よし、 ダメージも回復して手札も補えた。 でも、肝心のダメージが伸びてない……。

 

「おや? イメージ通りには行きませんでしたか?」

 

「なんでそれを……?」

 

「PSYクオリア同士はイメージを塗り替えることが出来るのです。 貴方のダブルクリティカルのイメージを私が塗り替えたのです。」

 

まぁ、トリガーは止められなかったと肩をすくめる。

 

「くそっ……。 ベディヴィアとケイでアタック!」

 

「ガード!」

 

くそっ……結局二点しかダメージを与えられなかった。

 

「私のターン。 スタンドアンドドロー。 君のイメージを塗りつぶす。 ライド! 幽幻の撃退者 モルドレッド ファントム」

 

戦いを始める前のイメージで見た、黒馬に跨った漆黒の騎士が現れる。 イメージのリアル感に思わず掌に汗が滲む。

 

「イマジナリーギフト フォース1 ブラスターダークをコール。 ダークのスキル。 相手を退却させる」

 

「……アレンを退却」

 

「さらにもう一体コール」

 

「さらにモルドレッドのスキルでダークが出る度にイマジナリギフトフォースを獲得。 つまり二枚獲得」

 

イメージの通り、二体の騎士を従えた黒馬に跨ったレンさん。

 

「行け! 」

 

二体のブラスターダークが迫る。 あの剣の威力を体が覚えているのか背中に冷や汗が伝う。しかし……この攻撃はあの時見た最後のイメージではない。 つまりこのターンまだ先がある。……くそっ!

 

「二体ともノーガード! ぐおおおおおおおお! ……ああああ……はぁ……はぁ……」

 

こ、この痛み……両腕が落ちていないのが不思議なくらいだ……。

 

「モルドレッドでアタック! スキル発動! 自身がアタックした時、リアガードのブラスターダークを全てスタンド。 さらにパワー一万上昇!」

 

やっぱり……。

 

「イゾルデで完全ガード!」

 

「ツインドライブ」

 

レンさんのPSYクオリアが発動するのに合わせて俺のPSYクオリアも共鳴する。

 

「ファーストチェック。 クリティカルトリガー。 セカンドチェック。 ……クリティカルトリガーです。これがPSYクオリア同士の戦い。 PSYクオリア同士が戦えばより強いイメージを持つ物が勝つ。 今回はPSYクオリア自体を知ってもらうのが目的でしたからね。 全てを片方のダークに!」

 

イゾルデ越しにモルドレッドの凄まじい剣撃が襲う。 ほっと一息つく間も無く、強化された二体のブラスターダークが襲いかかって来る。

 

「まだだ! 小さい方はエレイン二枚でガード!」

 

一体は止めたけど……。

 

「もう一体は止まりませんね。 これで終わりです!」

 

漆黒の剣が体を貫く。 全身の感覚が無くなり、腹の中にある異物感だけがある。目の前が本当に暗転する。 俺の隣でブラスターブレードが何か話しているけど……もうそれも聞こえない……。

 

あぁ……やっぱりレンさんは凄いなぁ……。 このファイト中、何回思った事か……やっぱり俺はPSYクオリアなんて持っていても……アイチ先輩のデッキを借りても……この程度だったのかな……。

レンさん見たいな凄い人には……俺なんて普通の奴が勝とうなんて烏滸がましかったのかな……?

 

「……嫌だ」

 

「何?」

 

レンさんが眉を顰める。

 

「嫌だ! こんな楽しいファイト! こんな普通に終わるなんて嫌だ! まだヒールトリガーが一枚ある。 俺はそれを信じる!」

 

まだ汗が引いていない体に鞭を打ってデッキに手をかける。

 

「ダメージチェック……。 一枚目。 ノートリガー」

 

ダメージゾーンにカードを置く度に激痛が走り意識が飛びそうになる。……二枚目もノートリガー。

 

「さぁ、最後のトリガーチェックです。 私のイメージを越えられますか?」

 

「超えてみせる! ファイナルチェック……」

 

心臓の音がうるさい。 でもこれは痛みのせいではない。 興奮している。 このファイトをまだ続けたい! もっとイメージしろ!強く、強く、もっと強く!

 

「……ヒールトリガー!」

 

「な……何!? 私のイメージを越えた!」

 

「さぁ!まだファイトは終わらないッスよ!俺のターン!スタンドアンドドロー!」

 

「イメージを乗り越える! ライド! 孤高の騎士 ガンスロッド!」

 

モルドレッドと对をなす純白の鎧に身を包み、白銀の翼を付けたペガサスに跨る円卓の騎士。

 

「イマジナリーギフト フォース2! グモリスをコール! スキルで自身のパワーを上昇! ゴードンをコール! ゴードンはブラスターブレードのみブースト出来る!」

 

もう手の震えも、痛みも感じない! 今目の前にある光景が全てだ!

 

「ケイとベディヴィアでアタック!」

 

「ガード!」

 

「ガンスロッドでアタック!」

 

「くっ……完全ガード!」

 

「レンさんが完全ガードを……」

 

「ツインドライブ!ファーストチェック……。 ドロートリガー

! セカンドチェック ドロートリガー! 全てのパワーをブラスターブレードに!」

 

『これで決める!』

 

「行け! ブラスターブレード! ガンスロッドの効果でパワーが一万上がり、前列のブラスターブレードをヴァンガード扱い出来る! つまり、クリティカルが上がり、ドライブチェックが出来る!」

 

ブラスターブレードど俺の意識がシンクロする。 俺がブラスターブレードを、ブラスターブレードが俺を高める。

 

「ガード!」

 

レンさんが手札全てと二体のブラスターダークでインターセプトをする。 しかし、もうそんなもの障壁とも言わない!

 

「ドライブチェック!」

 

捲ったカードには……

 

星のマーク。 クリティカルトリガー!

 

「効果は全てブラスターブレードに! うおおおおおおおおおおお!」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

試合後、疲れと今更ぶり返してきたPSYクオリアの痛みに動けなくしていると、レンさんがペットボトルのジュースを差し出しながらやって来た。

 

「あ、……あざす」

 

「素晴らしいファイトでしたよ。 まさか僕のPSYクオリアを超えるイメージを持つなんてね」

 

ファイト最中の戦士のような目付きや、初対面の時の凍りつくようなイメージはもう無く、緩い雰囲気を醸し出す。

 

「うっす……レンさん。 あの、どうして俺とファイトを? 本当に俺のPSYクオリアを確かめる為だけに?」

 

「ええ、PSYクオリアは強力反面、イメージがそのままダメージとなる。 正しい知識無しに使おうとすると本当に使用者の命を削りかねないもの。 故に、誰かが教えなければならなかったのですよ」

 

「そうだったんですね……。 あ、しまった」

 

そう言ってデッキをアイチ先輩に返す。

 

「アイチ先輩。 デッキ返しますね。 先輩のおかげでPSYクオリアに目覚める事が出来ました!」

 

「僕は何もしていないよ。 レンさんと、君自身の力だよ」

 

「俺も、ロイヤルパラディンを組みます! 今度は本当に自分のカードで戦いたいッス!」

 

「うん! その時は是非僕と戦ってよ!」

 

「勿論ッスよ!」

 

こうして、レンさんのPSYクオリア講座を受け、俺のデッキの方向性が決まった濃い一日は終わった。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「ふぅ……」

 

夜。 自宅に帰り新しく組んだデッキを広げる。 ブラスターブレード。 聞けばアイチ先輩のヴァンガードを始めるきっかけのカード。

 

「今日はありがとうな。 ブラスターブレード」

 

『イエス。 マイヴァンガード』

 

「え?」

 

虚空に問うた声は誰にも届かず消えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。