彼の博麗の宮司録 (弥生月 霊華)
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博麗出久が宮司として一人前になるまで
第一話 彼が宮司になった日の事


幻想郷は歪である。人への罰として発現した個性と言う名のカウントダウンは、幻想郷の結界に阻まれて入って来る事は無かった。同時にたくさんのゲームや個性によって意味を成さなくなった物語が幻想郷へと至った。多大な影響をもたらしたソレに対応するために、幻想郷の結界はより強固なモノへと昇華し、同時に妖怪や神々の結束力を強める事になった。

 

「男の神子、博麗の血を繋がない巫女、後者は良くあったけれど、前者は有りませんでしたわ」

ようやく博麗の巫女十九代目の娘を寝かしつけて、境内の掃除をしていた霧雨魔理沙の前に現れたのは学ランを着た癖の強い緑髪の少年を抱えた八雲紫だった。

「二十代目の巫女の用意をする、って言ってなかったか?」

魔理沙は桜を掃く手を止めて、紫へと向き直る。

「適性を持つ人間はとても少ないのですわ。その上幻想入り出来ると言う難しい条件、これらをクリアした人間が、この子しかいなかったんですの」

隙間から降りて来た紫が、夕焼けの光と重なって眩しく映る。思わず手を目の前に掲げて日よけにする。風が丁度良く彼女の髪をたなびかせて、思わず美しいと思ってしまった。勿論それが似合う柄では無いと言うのは解っているのだが。

「もうすぐ上白沢さんも稗田の者もいらっしゃいますわ。お茶菓子とお茶のご用意をお願いできますか?」

拒否権なんてないだろうにと、まぁこの終わりの見えない掃除よりかはましかと春の終わりの風を感じながら思った。

 

その後橙と藍と共に来た上白沢慧音と稗田家のを招き入れ、お茶と煎餅を出す。甘いものが無いのはご愛敬だ。甘いモノを保存しておける気候とは言え、喪が明けたばかりで物入りが多くやる事も多かったのだ。買う暇など無かった。

「それで紫殿、話とは」

「そこの方と繋がりが?」

客間から障子一枚で隔てられている寝室に寝かされた少年の方を向いて言う。因みにこの代の、十一代目の御阿礼の子と同じ位の年齢である。

慧音も御阿礼の子も事情を何も知らずにつれてこられたのか、不思議そうな顔をしている。紫はと言えば口元を扇子で隠しニコニコといつもの様に笑っている。橙と藍は彼女の後ろで待機。魔理沙は何を言い出すのか解らない故の緊張感の中、すやすやと眠る博麗霊奈だけが唯一の癒しとなっていた。

「次代の巫女はこの通りまだ幼く、結界を支えるだけの力など持ち合わせてはおりません」

(当たり前だ、まだ生まれて三カ月だぞ)

魔理沙は紫の謎の演説を聞き流しながら霊奈の寝顔を見る。十九代目博麗の巫女は何と妊娠五カ月の時、夫を不慮の事故で無くし、自らも出産時に命を落とした。

「現在幻想郷は私の幻と実態の境界、魔理沙の種の進化を止め、他二つの補助をする役割を持つ魔術式結界、そして博麗大結界の三つの結界によって支えられています」

今でも目をつぶれば思い出す、あの雌雄を決した瞬間の事。その時から彼女は人間である事を辞めた。

「中継ぎ、になるでしょうね。せめて霊奈が大きく結界を支えられるようになるまで、あわよくば魔理沙の役目を持つ者を増やしたいのですわ」

より、強固な結界を築き上げ何時か人類が滅んだあとも幻想郷の中だけは平和で存続し反映できるようにと。

「解りますわね?」

稗田の者には、その記録を都合がいい様に書き換えて記すように。事実が後から解っても矛盾しないように最初から伝えた。慧音には、、、

「その子の、名前は?」

慧音が事務的な声で聴く。幾度か行ってきたことであり、今更この子だけは出来ないなどと言えるはずもない。しかし罪悪感とプレッシャーを背負う事には変わりない。

今宵、満月。月が見えるまで、日が沈み切るまで後一刻も無い。

「緑谷出久ですわ」

緑谷出久の歴史を食み、博麗の中継ぎとしての、博麗出久としての歴史を作りすり替える。今まで生きて来た歴史を無かった事にする。その罪の重さを、慧音は十分に理解していた。

 

朝、出久が目を覚ますと既に辺りは明るく、既に日が昇り切っていた。眠気が一気に吹き飛び、ガバッと身を起こして慣れた手つきで帯を巻き袴をはく。身支度を整えたら小走りで居間へと向かい部屋を隔てる障子を勢いよく開け放ち、

「すいません寝坊しました!」

ぜぇはぁと息を荒くする出久。しかし居間には誰もおらず、湯気の立った朝食が一人前置いて在るだけだった。

「あ、れ?」

「とりあえずそこどいてくれないか?」

力が抜けてしまいへたり込んだ出久の後ろから、魔理沙が霊奈を抱き哺乳瓶を持った、所謂両手のふさがった状態で話しかける。

「あ、すっ、すいません!」

「そう何回も言わなくったって聞こえてるさ。良いからとりあえず食えっての」

慌てて謝罪する出久の横を通り、食事が用意されたのとは反対側の座布団にドカリと座り込む魔理沙。出久もそれに続いて、後ろ手で障子を閉め塩焼き魚とみそ汁と白米とほうれん草のお浸しの前に座り込んだ。

「朝から小鉢まで出るって珍しいですね。何か良い事でもあったんですか?」

手を合わせてから不意に出久が言う。魔理沙はミルクを懸命に飲む霊奈から視線をそらさずに気分とだけ答えた。

霊奈が満腹になりゲップも済ませうとうととし始めた頃、出久の朝食が終了し台所へと食器を運ぶ。その途中、今日は人里に買い出しに出かけるから荷物持ちとして来るように伝えて置く。正直、魔理沙でさえもどこまで博麗出久の存在が幻想郷に浸透しているか解っていない。紫にとっても感覚でしかなく時間を経てゆっくりとなじんでいくだろうとしか理解できず、その近道として日常に溶け込ませるようにと言われていた。それに実際、重い調味料やその他の食材が神社に無い。当たり前だ。昨日まで食事の要らない魔女とミルクしか飲まない赤子しか住んで居なかったのだから。

「魔理沙さんと人里に降りるのって久しぶりですよね!」

成程、基本は一人でやりくりしていると認識しているらしい。

「先代さんの喪が明けるまでは、年末辺りからどたばたしてましたし」

訂正、先代の巫女と暮らしていて、無くなったからと言う理由で魔理沙と住んでいると言う認識らしい。まぁ、歴代の巫女に比べれば先代はかなり高年齢で子供を産んだ(それでも27。認識の違いです)し、中継ぎとして最初から自分が育てられていたと思ってた方がこちらとしても都合がいいだろう。

「お土産に何か買ってやろうか?」

「え!いいんですか!だとしたら古文書?いやでも最近手拭とか汚れて来ちゃったし日記帳も付けたいから欲しいしだとしたら墨?と筆は有るから良いとして本にするにしたって歴史書は買うよりも借りた方が安上がりだしそもそも、」

「はいストップ!早く行くぞ!」

「あ、はい!」

霊奈はすやすやと魔理沙の腕の中で眠っている。ここが定位置として既に刷り込まれているのだろうか、その寝顔はとても安らかだ。

長い階段を歩いて下るのはいつ振りだろうかと思いをはせると同時に、これは出久の基礎体力を調べるためのモノでもあった。仮にも思春期位の男児、これ位では違和感を持つほど体力無しでは無いらしい。流石に重いモノを持たせたら別だろうが。

「何を買う予定何ですか?」

「そうだな、塩、はまだあるから良いとして、砂糖と味噌と米とおかずとして食べたい物、だな」

そう言ったとたん、あからさまに顔が引きつった。実際米も砂糖も味噌も無いのだから仕方ない。その分好きなモン買ってやるからな。そう心で思う。

博麗の仕事に給料は発生しない。しかしそれでは巫女が生活できない。と言う訳で紫から毎月(冬時期は冬眠前に一括)生活費+功労費が発生している。魔理沙に関しては物々交換や里、および他の団体からの依頼を受けた仕事で稼いでいるフリーターの様な物だった。そもそも彼女は実験するでもなくただ生きているだけなら寝る場所さえも要らない体なので、完全に暇つぶしや興味本位な面が大きいだろう。

 

ひとまず軽いモノから、と寄ったのは道具屋。自らの実家で在った霧雨商店である。お土産は大方ここで購入されるだろうと踏んで、魔理沙はいつも使っている業者の御札用と御幣の紙を購入。その間出久は霊奈を任され、組紐の飾りをじっと見ていた。

「出久、買うもん決まったか?」

「あ、」

考えていなかったと表情が言っており、魔理沙はため息をついて出久が見ていた棚を覗き込んだ。

「ふーん、組紐、なぁ~」

恐らく非常にニヤニヤとだらしない表情をしている自覚のある彼女が、出久の顔をチラリとみる。小恥ずかしいのかふいと明後日の方向を向いている。見ていた組紐は白と淡い金と、真紅とも言うべき朱色の飾り玉の付いた実用性はないがセンスの良いお飾りタイプ。

「こういうのが好きなのか?」

「欲しいとかじゃないんですけど、こう、」

煌びやかなモノだったり、質素なモノだろうと上質なモノで言うのであればこれ以上に良い物は沢山あるだろう。それでもこの組み合わせを選んだと言う事は、何かしらの意味が存在すると言う事。彼、緑谷出久に関する何かを連想させるのだろう。

「解った。じゃあここじゃない方が良いな」

だとしたら、僅かな違和感だけの内にすり替えてしまった方が良い。何故か引かれた物を趣味趣向として、博麗出久の感性が織り成す何かにすり替えた方が。

(それで本当に、良いのか?)

迷う事は許されない。選択は済んでいる以上、止まる事は許されないのだ。

 

夜、組紐の紐だけを買い与え、幾つかの手持ちのビーズを彼の部屋に持ち込ませた。元々日記にしていたと記憶している書は本棚にあるし、その本棚には興味を持っていたとされる古文書を、妖魔本を並べている。

(明日も早いから、早く寝ろっつうのに)

霊奈も寝かせ、神社の鳥居の上から見える僅かな光を見下ろして思う。無かったはずの歴史を、いつの間にか認識してしまっている以上、彼女の訪問は免れない。一応、永琳含めた元月の連中には話を通したと言っていたが、彼女も又、変わっている歴史を認識できる一人なのだから。

「月の連中や山の神には伝えておきながら、私には何の通達も無いなんてね」

妖怪神社と言われていたのは十三代目の博麗霊夢の時だけで、それ以来有力な妖怪達は自分の領域を出る事は無かった。宴会の頻度も参加者も極端に減った。

「久しぶりだな。レミリア」

殆どの妖怪や神が人間である博麗霊夢のいない幻想郷を見ようとしなかったのだろう。異変を起こしたごく少数の低レベルな妖怪達も、魔理沙が特訓していた時の巫女にすぐ倒されていった。

「それで、どういう事なのかしら?説明してもらいましょうか」

満月を背に羽を広げて現れた吸血鬼をチラリと見上げて、視線を神社へと戻す。変なぼろを出される前に伝えておくべきか。否か、

「妹紅が無縁塚で拾った子供だよ」

「ええそうね。でもそう言う事を言いたい訳じゃ無いでしょう?」

めんどくさそうに言えば、クスクスと笑って切り返される。あの時の幼く我儘なお嬢様も、もういない様だ。

「いくら博麗神社自体が結界の要石だろうと、巫女の存在は不可欠だ」

「早く言いなさいよ。あの子の運命を捻じ曲げたって」

訂正、割と短気な事には変わり無さそうだ。

「わかってんならいいじゃねーか」

『運命を操る程度の能力』その神髄は無意識下に起こる選択肢を重ねて結末を変える事が出来る。又最近では能力が強化されてきているのか、在ったかも知れない運命を見る事が出来ると最新の御阿礼の書物に記されていた。

「あの子は、この幻想郷でも大きな影響を与えるでしょうね」

「も?」

「ふふ、貴女も知らされて無い事がある。あの子、新しい巫女の代用品がもたらすモノは私にもまだ見えない。ねぇ魔理沙。これから面白い事が起こると思うのよ。幻想郷そのものを揺るがすかもしれない何かを」

羽を広げ手を広げ、かなり悦に入っているレミリアをまじまじと見る。彼女は余計な嘘をつくことも無ければ、必要以上に語る事も無い。事、重要なキーワードは絶対に言わない。

「聞き捨てならないな。幻想郷を揺るがす?そこまでわかってて見えてないのか?」

鳥居の上に立つ魔女と、それを見下ろす月を背にした吸血鬼。どちらも結界の外では存在しない、存在を否定されたモノたち。

「貴女、変わったわね」

何処か愛おしげな表情を作るレミリア。あの時から少し成長した等身とその精神が物語るのは、

「お前らもな」

幻想郷は全てを受け入れる。彼女が死んだからと言って、その意思は確かに受け継がれてきたし護られてきた。それはそれは残酷な事だとは、スキマ妖怪の口癖でもあった。

 



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第二話 僕のスペルカード作成記

育児をしている母親にとって睡眠不足は慢性的なモノらしい。二、三時間おきの授乳、おしめの交換に夜泣き。ぶっちゃけ睡眠の必要ない魔女である私には解らない悩みだ。レミリアは語るだけ語って満足して帰って行ったのは夜明けの数刻前。寝てる霊奈を抱っこしたいとか、ミルクを与えてみたいとか散々我儘を言い散らして、相変わらず自分勝手な奴だぜ。その上泣き出してオロオロしながら私に任せる辺り慣れてない事はとことん苦手なんだなと。

「ん、ふ、ふえぇぇ」

魔力で宝石を媒体に明かりを確保して魔道書を読んでたら、霊奈がぐずりだした。時間的にお腹が空いたのか?立ち上がってぐずぐずと泣き出す霊奈を抱き上げて、台所に向かう。思えばレミリアにとっての誇り高いとか言う事は、それだけ自分より弱い存在への庇護欲が高いのかもしれないな。まぁ、フランには伝わって無かったが。

「あぁぁん、ふぇ」

「はいはい、ちょっと待っててな」

霊夢もこんな感じだったのだろうか。そう思いながら永遠亭の兎印の粉ミルクを作っていく。外の世界の製品は手に入りづらいし、添加物とかの事を考えるとこの方が良いと早苗と優曇華に力説されたし。私にとっては嗜好品でも、霊奈にとっては毒になるモノは多いから気を使ってる。

「ほら出来たぞ」

子供は例えどんな種族だろうとも可愛いモノだ。無邪気故の残酷さとかそう言うのは差し引いたうえでの話だけどな。一生懸命に哺乳瓶からミルクを飲んでいる姿は、生きようとしてるんだなぁとひしひしと伝わってくる。ガラじゃないが死なない(ってか老けない)ってだけでこんなにも達観するんだなって、気が付いたのは何代目の時だったか。

辺りはもう明るみだしてて、日が昇っている時間だ。昨日は様子見で起こさなかったけど(起こせなかった、の間違いだが気にしない)今日は問答無用でたたき起こす予定だ。宮司たるもの、最低限霊夢がやってた位には仕事をして欲しいし。

「おはよぉございます」

その必要は無かったけどな。五分の四くらい脳みそは寝てるだろう出久は、ふらふらと水桶の置いてある場所に向かう。眠気覚ましだか修行だかは知らないが、霊夢も朝の水行だけは欠かしたことが(風邪ひいた時を除いて)無かったな。

「あ~ぁん!あー!」

「ああ悪い!」

気を取られてたらいつの間にか飲み終わっていた様だ。今の所すくすくと育っていて嬉しい限りだ。

「魔理沙さーん!」

ばしゃばしゃと水を被る音が止んで、幾分かスッキリしたであろう出久の声がする。

「タオル持って来て下さーい!」

………忘れたのか。ちょっとはあったかくなってきたとはいえ、流石に濡れたまんまは不味いか。

 

「はは、すみません。ちょっと寝ぼけてました」

引きつった笑いでごまかそうとする出久にジト目で圧力をかける。ちょっとじゃないだろ。だいぶ寝ぼけてたぞ。

「……お手数おかけしました」

「よろしい」

素直に謝った後、出久は自分の朝食を作り始める。意図しているのかいないのか、私の分は含まれてない様だ。ついでに食器とかはあの日紫から支給された、いつの間にかそこに置いてあったものだ。

「霊奈の検診に行ってくるから、しばらく神社を開けるけど、」

一汁一菜+白米の質素な食事を食べ進める出久に、言葉を詰まらせながら言う。正直私は今の段階の出久を一人にするのには賛成じゃない。第一、今は日常生活に支障が出ないようにするべきだと思うしな。ま、これも上司命令だしな。

「大丈夫ですよ、一人でも修行は出来ますし」

そこなんだよと心の中で叫ぶ。修行の段階で方法とかの違和感を感じられたらやばいんじゃないか?私は慧音と紫の能力を甘く見てるのか、それともあいつらが大雑把なのか。

「解った。そろそろ始まるから、行ってくるな」

「はい!いってらっしゃい」

 

箒に乗って境内から飛び立った魔理沙さんを見送って、朝食を片づける事にした。冬の時の荒い物は手が痛くなるんだよなぁとか思いながら食器を洗って、ついでに霊奈ちゃんの哺乳瓶も洗っておく。

それから布団を干して、境内を掃除して神社内の廊下を雑巾がけして、ひとまず終了。この時にはもう日が高く上がってて、大抵の人が活動を開始する時間だ。

博麗の巫女、、、、宮司は大抵暇をしてる事が多い。御札を書いたり修行したりするのを除けば、異変か人から依頼されるまでやる事が無いからだ。まぁ、僕の場合まず第一に、

「飛べるように、ならないと」

『性質を変化させる程度の能力』

例えば石を液状化する温度が低い物質に変える事で、常温でも熔ける様になる。他にも水が電気を通さないようにしたり、砂が木みたいに燃えるようにしたり。出来る事は多いけど、その分使い方を間違えちゃいけないとも言われてる。

で、飛べるようにって言うのは、霊力でこう、宙に浮かぶ様な感覚で。飛ぶ、、、

「どうやるんだ?!」

御札に霊力を込めて投げれば、それは僕の思い通りの軌道を描いて飛ぶ。霊力は僕の意思で動かす事が出来るから、僕の体全体を霊力で持ち上げるイメージを、、、うーん?

「霊力を纏わせて体を上に引き上げる、〈ガツン〉ッ痛い!」

イメージを膨らませたら、勢いよく体が持ち上がって頭から打ち付けた。地味に結構痛い。起き上がってしりもち付いたまま考えてみる。霊力は人一倍強いと言う僕は、その使い方が下手だったから。

「霊力の量が多いとは言え、大妖怪や神様達と比べるとやっぱり質も量も人間の範疇を出ない僕じゃ今みたいな無駄遣い出来ないし何より弾幕を避けながら発するってこと自体に集中力を使う現状じゃどんなに早くても小回りが利かなくて制御も出来ない飛び方じゃダメだ。だったら優先すべきはどんなに遅くても空間に浮かんで制御出来る速度で飛ぶ事で在ってその為にはいっそ御札の上を走ってみるとか電磁浮遊の容量で浮かんでみるとか発想の転換を……」

「お困りの様ね」

「うわぁ!」

またやっちゃった。考え事をしてるとどんどんと深みにはまっちゃうのはもう癖だな。治さないとって思うけど、その方が出久らしいとも言われた事があったっけ。?それ

「飛ぶ修業は順調?」

「えっ、ああ。見ての通りです。全然うまく行かない」

泣き言を言ってちゃだめだ。解ってるけど、聞かれたらそう答えるしかないんだ。驚いて固まったままだった僕に紫さんが聞いてくれたけど、申し訳なさしかない。

「そう。貴方は飛ぶことにこだわり過ぎなのかも知れませんわね」

「えぇ?」

「そんな事よりお茶にしません?近代の巫女も宮司も真面目で、少し位力を抜かなければ息がつまってしまいそうですもの」

何を言ってるんだろう。十数年くらいだけ限定って言われても、それだけの責任を背負うんだから今のままじゃ駄目なのに。僕は人の三倍以上は頑張らなきゃ、、?

「美味しい羊羹を藍が仕入れてくれましたの。美味しいお茶と頂きましょう」

ぐいぐいと僕の事を休ませようとして来る紫さんに、断り切れなくて僕は立ち上がってお茶の準備をすることにする。甘い物は脳みその栄養!そう言う風に無理やり自分を納得させて羊羹を食べる事にした。箱の外装を見た感じ、あれ外の世界のお高そうな店の物だと思う。藍さん、一体どんなルートで買ったんだろう。

 

ニコニコと笑う紫さんの事は、苦手じゃないけど何故か信用できない。魔理沙さんに昔相談したら、妖怪相手だし紫さん相手ならそのくらいで丁度いいって言ってたっけ。良くも悪くも妖怪って人間と感性が違うからなって笑ってたっけ。

ちらっと紫さんの方を向いたら、朗らかに笑ってくれた。そうじゃないんですよ、何かすごく気まずいんですよ。

「歴代、博麗を名乗って来た子達はね、別に人より突出した何かが全員に合った訳じゃ無いわ」

それでも、僕よりか凄い力を持ってたんだろうな。

「中には飛ばずに玄爺に乗って戦っていた子も居たの」

「え?」

玄爺、聞いた事がある程度だけど、知識が豊富でそれなりに力もある空を飛ぶことの出来る亀だったはず。爺、ってだけあって結構ご高齢って話だったけど。

「スペルカードと言うモノは、美しく己の信念を現す信念を掛けた決闘ゲーム。ならば貴方の信念も正義も現すカードを創るべき。そのカードを美しく魅せるために飛ぶのなら、飛ぶと言う行為自体もカードに依存させてみては?」

飛ぶ、飛ぶ、空中に浮かぶ。カード、そして能力。そう言う単語が頭の中をぐるぐる回って、駆け巡った。そして常識と言うか根底に在った何かが覆される様な感覚が浮かんでくる。なんか、こう、言葉に出来ない何かが湧いて出て!

「ヒントを得た様ですわね」

「はい!ありがとうございます!」

取りあえず試してみない事には始まらない!

 

霊奈の検診に言ったら、思いの外待たされたし永遠亭の方に難癖付けて来る身の程知らず、、、違うな。悪質で下心丸見えのクレーマー、身の程知らずで合ってたな。が面倒事を起こしたせいなんだけどな。まぁ、その間のミルクやおしめは持ち出してたから何とかなったが。

結局私が神社に帰れたのはお昼を少し過ぎたあたりだった。幸いにも気候が良くてぐずる事も無く寝ててくれたのが本当にありがたい。心配事は出久だが、私に命令した以上何かあった時の対応は紫がしてくれるだろ。

「ただいま、、よっと」

降下する時に発生する重力の重圧を無効化する結界をいつも以上に強化して張り巡らせてから着地する。そうじゃ無ければ霊奈にも負担がかかるし、空が怖い場所であると言う事を本能的に刷り込まれてしまったら困るからだ。

「お帰りなさい!」

「あら、随分遅かったじゃないの。おかえりー」

境内の掃除をする出久はともかく、

「何でいるんだお前、、」

なんかもう、叫ぶ気力すらない。何でごちゃごちゃ悩む羽目になってる事の元凶が呑気に茶をしばいてんだよ。私の悩んでた時間返せ!

「魔理沙さん!」

お前はどこぞの狛犬かと聞きたくなるくらい人懐っこくパタパタと駆け寄って来た出久に、片手で頭をガシガシと掻きながら要件をせかす。

「弾幕ごっこの練習をさせて下さい!」

「はぁ?」

まず第一に、コイツ飛べたっけ?それよりも紫の差し金で在る事に納得してしまった自分が一番やるせないな。ったく。

「解った、紫!」

「ええ、承知しておりますわ」

片手で抱えていた霊奈を紫に託す。ぶっちゃけ一番不安だ。藍もそうだけど、紫が託したくない相手ナンバーワンに輝いている。何故かって?

「いいか紫、はちみつも生物も絶対に与えるんじゃないぞ!」

「わかってるわよぉ」

しょぼくれたように言われても、前科があってそれが命にかかわる以上念押ししなくてはやってられない。目を離したすきにまさか刺身を食べさせるとか何考えてんだアイツ。

「じゃ、始めるか」

紫が言うに、出久が持っているカードは二枚、霊符「無双封印―集―」と霊撃「無想転生」と言う博麗に伝わる&改良されてきた私にとっちゃ目をつぶってても避けられる弾幕だ。それに加えて、何か試したい事があるからこういってきたんだろうけど。

出久には出久なりの覚悟があって、霊夢にも霊夢なりに覚悟を持って選択した結果なんだ。受け入れようとしない私は、きっと永遠に子供のまま割り切らない感情を抱えていくんだと思う。

覚悟を持って戦う奴らを、意地汚く生かすのが私の役目なのだから。

 

 

 

 

おまけ

 

開幕と同時に魔理沙は弾かれるように空中に飛び立つ。箒に足をそろえて座り、魔方陣を展開し出方を伺う。

「行きます!霊符「磐座の電磁浮遊」!」

宣言した出久は、まるで天子が要石に乗っているかのように足元に敷き詰められている敷石の一つを乗り物にして浮いた。見ればその石も地面に置いてある敷石にもあまつさえ土にも電流らしきものが流れている。

「スパーク系は私の得意分野なんだけど、な!」

ホーミングして来る御札を避けながら、魔理沙は叫ぶ。必要なら相殺するが初めて己で作ったであろう弾幕を、ちゃんと最後まで見たかった。

電磁浮遊と銘打っているだけあって、出久の乗る石と地面との間に出来る空間は電気で満たされた空間になっている。使い魔代わりの陰陽玉はこの電気の間を通って散らばり、石が砕けてはじけるような軌道を描いている。三百六十度の破裂式の小弾中弾の混じったばらまきと、無想転生並みのホーミング力を持つ御札。難易度で言えばノーマルレベルだが、ばらまき弾幕の密度と出久自身の移動速度を上げればルナティックに早変わりするだろう。

因みに磐座とは、神道(八百万の神々、古事記に載っている神話)における信仰を向け祀ってある石の事。転じて神を宿らせることが出来る宮司と石のセットと考えたのか何なのか。

「苦手得意が別れそうだな」

ホーミング弾の誘導が得意なら大丈夫だろうが、制度も良くないホーミングなのでちょんよけしてる人には厳しいだろう。しばらくすると効力が切れたのか敷石を元の場所に落とし再び地に足付ける出久。ルール上別に何かに乗っちゃいけないなんてことはないが、余りにも乱暴すぎる発想じゃなかろうか?

「二枚目!神事「榊の忌火」!」

二枚目の宣言をした出久は、お祓い棒を持つ手の袖の下から榊の枝を出す。いやどっから出した。どういう風に入ってたんだ其れは。

「どう飛んでんだそれ!」

そして飛んでいると形容していいのか解らない、まるで空中に見えない足場があって、その上を走っているかのように出久は宙に浮いていた。

「空気に動かない性質を持たせたんだ!」

訂正、実際空気の足場を走っている様だ。その掛け声と共に出久が榊を振ると、焔弾が幕の様に発生させられる。それは彼の周りを漂う陰陽玉から発せられる針弾幕に引き寄せられるかのように呼応して放たれていく。

(なんか口悪くなってないか?私が言えたことじゃないが)

縦横無尽に走り回る出久とそれの応じて焔弾の幕が二枚づつ展開され、針弾幕がそれを引っ張る様に向かって来る。種類で言えば自揮依存のばら撒きだろう。しかし大きく避けたらスピードの遅い弾に当たりそうになるのが何ともいやらしい。その分針弾幕のスピードは異常なほど早く、それにつれる針弾幕もかなり早い。

「そろそろ反撃するぜ!」

そう言って、魔理沙も八卦炉を構えて煌びやかで判定の解りづらい焔弾に向かっていくのだった。

 

「完全勝利!」

「やっぱ強いですねー」

ブイサインを掲げて勝利の余韻に浸る大人げない魔理沙と、あれから一瞬でマスパによってぶっ飛ばされ少し焦げた出久。流石に勝てるとは思ってなかったが、いくら何でもこんな風に全てぶっ飛ばされるとは思わないだろう。

「魔理沙、貴女、、、」

紫も言葉を詰まらせる。

「弾幕はパワーだぜ!」

そう言って彼女はバチコンと効果音の付きそうなウィンクをかます。何というか、圧勝であった。

 




ぶっちゃけタイトル詐欺が酷いと思ってる。次回も酷いと思う。

書いてて何書きたいんだって言われるかもだけど、私もそう思ってる。何が書きたいんだろう。

次回、割と大勢のキャラが出ます。

因みにこの時点では出久が来て一週間くらいをイメージしてる。


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第三話 彼女が魔女になった時

壮絶なるタイトル詐欺

幻想郷は賑やかな妖怪と人間が交流する場所、では無く厳かに人間が妖を畏れる場所なのです。個性社会が幻想郷に及ぼした影響に、一石を投じる宮司の話。


「___って言うのが私達側でいうと妖々夢、人里から言うと永冬異変だな。で、その次が萃夢想なんだが、ぶっちゃけ人里には関係ない異変だ」

「?それは異変にして」

いいんですか?そう聞こうとしただろう出久の声は、梅雨になってかなり期限の悪い霊奈の泣き声によって掻き消された。ミルクは上げたばっかだし、今まですやすやと眠っていたはずだ。となると考えられるのは一つ。か、二つ。

「出久!」

「はい!」

ただ単に構って欲しいかおしめかのどっちかだ!出久に換えを取りに行かせて私はすぐさま霊奈を抱え上げた。あ、これ後者だわ。

 

霧雨魔理沙さんは魔女だ。元々人間だったって言うけど、外の世界で個性って言うモノをもった進化した人間が現れてから魔女になったって言うし、正直なところ良く分からない。個性を結界内に持ち込めばそれだけ人外の存在を脅かす事になるから、そうならないために種族の進化を止める結界を張って維持してるとは聞いたけど。

チラリと魔道書ってものに何かを書き綴る魔理沙さんを盗み見る。折角の雨だし耕成雨読でもしてろって山積みの本を渡された。九代目御阿礼の子、稗田阿求さんの作品らしい。当時外の世界の言うミステリー小説とか推理系の本は皆妖怪の仕業だと言ってしまえば解決できる、とてもつまらない物だったそうだ。

その空気を払拭しようと阿求さんはこのシリーズ、「全て妖怪の仕業なのか」を鈴奈庵って言う本屋と結託して作ったって魔理沙さんは言ってた。確かに読みやすくて解りやすい描写に僕も引き込まれるような感覚がして、今日だけで三冊も読み終えちゃったけど。でも、一つ気が付いた。作者が「アガサクリスQ」って言う名前になってる。なのに何で魔理沙さんは九代目御阿礼の子が書いたって解るんだろう。その時は友達だった?でも、魔理沙さんを始め紫さんも殆ど人里には降りないし関わり合おうともしてないし。

「出久、」

元々人間だったって言うならその時は人の縁が在ったっておかしくないけど、それをわざわざ断ち切ってしまうほどの何かが在ったんだろうか。そもそも僕が知らなかった最近は殆ど出てきてない妖怪や神様の事をどうして知っているんだろう。いや幻想郷の管理人だからで片づけられるけど、魔理沙さんだけ例外だった意味は何だろう。基本的には人間が妖怪側に行くのはルール違反だし第一僕に対しても魔理沙さんは自分とは別の視点から見たものを教えている様に思えるし。

「出久、おい出久!」

昔は活発に活動していた妖怪の事を魔理沙さんが知っててもおかしい事は何もない、けどあの目は懐かしむと言うか、そんな感じの感情が籠っていたし。って事は面識通り越して仲が良いって形容できる位には付き合いが在ったんじゃないかな。そう考えると弾幕ごっこが遊び、スポーツみたいな扱いの決闘ルールだって事も説明がつくし、なにより」

「出久!」パァァン!

「うわぁ!」

ビックリした―!いきなり魔理沙さんが猫だましして来るもんだから後ろの壁に頭をぶつけたし、、ちょっと痛い。

「まだまだ甘いな、こんなのに一々驚いてる様じゃ一人前には慣れないぜ」

茶化しながらそう言って来るけど、こっちはそれどころじゃないんですよ。

「ま、反応薄くなったらそれはそれでからかいがいが無くて詰まんないけどな」

けらけらといつも通りに笑う。何だろう、踏み込んじゃいけない気がする。けど、

「あの、魔理沙さんが人間だったころの話を聞かせて下さい!」

 

霊奈をあやしながら数刻前の事を考える。本を読んでいた出久はいつの間にか私に視線を向けて、何か別の事をぐるぐる考え出して、ブツブツと自分の考察を垂れ流すようになって。こうなったら何とか止めないと戻ってこないから呼びかけてみても反応なし。聞いてると私の事について考えてたみたいだが、仏心で聞かなかった振りをしてみる。と、私が人間だったときの事を知りたいと言う。

癖、なんだろうなぁ。本人が無意識無自覚のルーティーンや抽象的な刷り込みの様な認識はどれだけ境界をいじろうとそうやすやすと変わるモノじゃないと紫も言っていた。それ相応の自我を保ったまま記憶を消したとはいっても、何がスイッチで連想させられて戻ってくるか解らない程度にしか出来てない。所謂暗示に近いものなのだそうだ。

出久を見ていて解った事は、兎に角自己肯定能力が無い。自分の事になると途端にネガティブになるし、割といろんなことで泣く。これはもう、涙腺が弱いってだけだろうな。うん、感動しても悲しい時も涙を本当に滝の様に流すし。あとこの考察の癖、聞いてるとどうにも向こうの常識が刷り込まれているみたいだし、何より考え込むとマジで日が暮れて明けない限り自分からは戻ってこないんじゃないかって思う。いっそ今度検証してみようかな。

「じゃあ、気を取り直して続き!お願いします!」

ワクワクと目を光らせて向かい合って星座をする出久に、とうとう私が耐えきれなくなった。

「もういい、解った。紅魔異変の時から当事者に聞きに行こう」

私も解決した側だから当事者っちゃ当事者だけど、もう話すのに疲れた。幻想郷になじませる、って言うのはこういう形でも構わないよな。なぁ?紫。

 

博麗霊夢はもういない。ずっと昔に死んでしまった。死体でも噛んでしまえば眷属に出来たのかなんて運命、今更見る事が出来ないのに。薄暗い空を見上げて、一人部屋で閉じこもって過ごす日々。勿論部屋を出れば従者も友達も妹も居るのだけれど、ここ数十年、私は一日の殆どを棺桶かこの部屋で過ごすようにしている。用が無ければ咲夜にも入るなと命じてあるから、一人の時間を邪魔される心配もない。あら?

コンコン

扉が叩かれる。咲夜か。

「お嬢様、魔理沙と、当代の博麗の者がいらっしゃいました」

博麗、、って事はあの子が来たのか。魔理沙に構って欲しくて、何でもいいから口実が欲しくて、違和感を盾に勝手気ままにしゃべったもの。その事についてかしら。

「解ったわ。客間に案内なさい」

「……お嬢様は、」

「館の主がしたくもしないまま客の前に出る訳にはいかないでしょう?すぐに行くと伝えなさい」

「承知しました」

博麗出久、類稀なる運命を持ち得て生まれた癖に、その運命から零れ落ちてしまった少年。私にはもうどうする事も出来ないし、もう見通す気も無い。幻想郷を揺るがすのなら、それはそれで構わないのだから。

咲夜にやらせれば一瞬で終わる事に時間を掛けるのは、考えたいからと言うのが第一にある。そもそも私がどうあがいたとしても幻想郷の存続が危ぶまれる可能性がある未来は回避する事は出来ない。理由は一つ、幻想郷がどうなろうとどうでもいいと心の何処かで思ってしまっているせいね。だからと言って私だけ消えるなんて私の矜持が許さない。少し、人間が羨ましい。どんな思考をしたって、それが己の存在意義の否定につながるか否かは本人次第なのだから。

ごちゃごちゃ考えるのは好きじゃないわ。何かをしていてもそれがいつの間にか終わっていしまうから。客間の扉に手を掛けて、

「久しぶりね、魔理沙。それと初めまして、この紅魔館の主、レミリア=スカーレットよ」

「おう、久しぶり」

「あ、え、と。は!初めまして!博麗出久ですっ!」

あらら、割と人見知りなのかしら。内気じゃ博麗なんて名乗れないでしょうに。それとも私の迫力に気圧されたのかしら。魔理沙は本当に変わりないと言うか、最近は図書館にすら顔を見せないと言うし。それにしても、貴女赤子を抱える姿が全く似合わないわね。確か先代巫女の子供だったかしら。

「それで、本日の要件は?」

ゆったりと席に着き、咲夜が淹れた紅茶を一口。どうやら奮発した様で、いつもより香り高いアップルティーだった。茶菓子にはクッキーとマーマレードを。

「こいつが私の人間だったころを知りたいって言って、幻想郷で起きた異変の事について話してたんだがな。私の主観じゃ私の事については解んないだろうし、つー訳で紅魔異変について話して欲しくてな」

丁度弾幕ごっこが正式に決闘ルールとされた後の、初めての異変だった。そして私が起こした初めての異変であり、それがあって今の私が、それからの道を歩む私が居るのだ。それありきで、私はフランドールと向き合えた。

「そう、何処から語ればいいのかしらね」

「大雑把に人里で伝えれてる事は話したけど」

つまり紅霧で覆われた事しか話してない訳ね。彼がどこまで話して欲しいか知らないけれど、魔理沙について、それが絡む舞台裏に付いて話せばいいのかしら。

「そうね。魔理沙について、、良く言っても邪魔な鼠程度にしか最初は思っていなかったわ」

運命を操ると言う事は、見ると同義でもあった。だから魔理沙の「魔法を使う程度の能力」では私の思惑を止める事は叶わなかった。その分パチェと美鈴、その後にフランドールを相手取ったと言うのだから、人ながら恐れ知らずな奴だと認識を改めた。まぁ、その後も不法侵入を何百回と重ねてくれたけど、親友がまんざらでも無いみたいだしあまり気にして無かったわ。

魔理沙と肩を並べていた巫女の能力は「空を飛ぶ程度の能力」でもそれだけじゃないと今なら解る。彼女は何物にも縛られず、それが故に彼女で在る。裏を返せば「何にも縛られない程度の能力」その能力の前には、操った運命などに縛られるはずもなかった。言いたくない事は隠しながら、私はその事について語った。

「私からは以上ね。あとはパチェの所にでも行ってみたら?フランも、最近誰も訪問客が居なくてつまらなそうなのよ」

解っているわ。解っているの。外の世界に居た人間に、記憶を消したのだとしても猫を被れる私はともかく人の命を食事として考える輩(フラン)に合わせても大丈夫か不安なのでしょう?ルールを破る気が無い私達に向かって失礼な考えよね。それを解ってたから、私はそれを提案したの。

 

久方ぶりに来た客に、お嬢様はとても舞い上がっていて、同時に少し寂しくも感じていらっしゃった。何処か憂う様に空を見つめる事が多くなった気がする。勿論やるべき事はきちんとこなしているけれど、お嬢様も私も、何かを失ったかのような感覚が消えてくれないのでしょう。少なくともお嬢様にとって霊夢の存在は大きかったはずですから。

「じゃあ、またいらっしゃいな」

お嬢様が客、今代の博麗に向かって言う。どうやら気に入った様だ。霊夢の様な豪胆でも物ぐさでも生まれ継いで力の使い方を知っている様な天才でも無いこの少年を、一体どうした信教の変化なのでしょう。それでも一定の距離を保たねばいつかは飲まれてしまうと、何となく解っていました。

「咲夜、手土産でも一つ」

「御意」

時を止めて、厨房へと急ぐ。隅の方に紙袋と包装紙を置いてあったはずだ。私が教育した妖精メイドたちは皆良く働いてくれてる。ホフゴブリンも最近じゃお嬢様に褒められるようにと精を出している。私がすべきことは少なくなったけれど、この地位だけは譲りたくない。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます!」

人に慣れてないのでしょうね。この少年は。

「またなー」

魔法使いはいつもの様に去って行った。本当に十二年ぶりの訪問だったのかしら、昨日も来て、きっと明日も来る様な雰囲気を纏って帰って行った。

「咲夜」

「はい」

「これからもよろしくね」

お嬢様、そのような表情をされるときは決まって異変の前でした。これから何かが、きっと大変な事が起こるのでしょう。

「はい、こちらこそ、宜しくお願いいたします」

命ある限り、この身を尽くして遣えましょう。

 

紅魔館に連れて行った時から、出久は幻想郷の主だった妖怪に興味を持ち始めた。それ自体は喜ばしい事だし、霊力で飛ぶ練習にもなるから行動範囲が広がる事は別の良い。事を知っている奴らは基本口が堅いから大丈夫だろう。まぁ、飛ぶのはまだ浮遊石って言う乗り物が必要だが。問題点は一つ。

行った先でアイツラが弾幕勝負なんぞ挑んだ時の話だ。まだ出久は精密に飛ぶことは出来ない。空中を走れるけど。

「成程、それでそのような表情をされていらっしゃると」

これでも私はザルとか蟒蛇とか人間だったころから言われ続けているから、まぁ妖怪相手だったとしてもそれなりにいい勝負の飲み比べをする頃が出来る。あくまで、それなりに。魔女になった今でも容量は増え続けて入るが、ガチで底なしなんじゃないかと思えるこの狐にはかなった事がない。

「おうよ。おやごころってやつだ」

あかん、滑舌が上手く回らん。

「良く言うじゃないですか。可愛い子には旅をさせよと」

別にそれ自体も良いんだよ。なんかこう、複雑なだけで。出来ればあんまり関わり合って欲しくないって言うか。

「全く。私の家で正解でしたね」

いい加減寝ろと出久の部屋の灯篭の灯火を無理やり消した後、暗闇から突然現れたこの化け狐。紫の差し金かと思ったが、単なる近況報告も兼ね備わったねぎらいの会だった。割とありがたい事に結構いいお酒だった。やっぱ私はワインよりも日本酒の方が口に合う。

「まぁ、ソレくらいの壁は丁度いいんじゃないですか?」

「そーかもな」

あんまり妖怪と関わらせない方が良いと思う。レミリアに合わせた時点で今更だが、また霊夢の時みたいになるのはごめんだと。

「わたしはしらねーぞ。またくりかえしても」

藍と私は同族だから、きっと理解できるだろう。

 




次回予告

何やかんやで梅雨が明け、命蓮寺へと向かう出久。しかし命蓮寺およびかつて博麗神社と宗教戦争をしていたモノたちにとってそれは、、、?


同時進行で爆豪視点での話を書いてるけど、めっちゃ書きにくい。私の小説じゃ初めて使ったよ、「クソ」だの「消えろ」だの。罵詈雑言書きにくい、よって殆ど独白になるかも。


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第四話 命蓮寺と博麗神社、後氷精

「行ってきます!」

 

「おう、いってら」

 

ようやく梅雨が明けて、まずは人里近い命蓮寺と神霊廟からめぐる事にした。妖精からは僕が求める様な話は聞けないだろうし、何よりずっと魔理沙さんの手を借りている訳にも行かない。それに出来る事なら幻想郷を人妖入り混じる活気あふれた場所にしたいから、人間に説法を説く宗教家の妖怪?にまず色々聞きたかった。その中にもしかしたら滑る様に空を飛ぶヒントもあるかもしれない。魔法は発想が命だって言ってたし、それは僕の霊術にも通じる事があるだろうから。

 

「その間霊奈ちゃんの事を任せっきりにしちゃうけど」

 

そもそも結界の維持が精一杯な宮司が言えたことじゃないけど。とにかく今は浮遊じゃなくて飛べる事を目標に頑張ろう!やろうと思えば浮遊石に乗っかって飛ぶことも出来るけど、そうじゃないんだ。

 

階段を降り切ったら人里へ向かい、人里東から入って南方面に向かって大通りを歩く。南の出入り口を出て道成りに進めば命蓮寺だ。今でも信徒が多いから人の出入りも多くて、妖怪が妖怪らしく過ごしている姿を見れるのは人里視点、ココしかないのかもしれない。神霊廟は、あそこはどっちかって言うと仙人の集まりらしいし。

着いた。まさにお寺ってイメージのこの場所は、妖怪寺って陰口をたたかれた事もあるらしい。いつの間にか公認の通り名になっていたから、今ではどちらでも通じるし悪口にもならないそうだ。

博麗神社よりも年数が経ってそうな門を潜り抜ける。入信者、入信希望は常時受け付け中と言う旨の張り紙が張ってあったけれど、それでも厳格な雰囲気を纏っている気がする。宗教戦争では負けるかもだけど、出来れば仲良くしたい。

 

「!おはようございまーす!」

 

「!?お、おはよう、ございます?」

 

びっくりした!箒をもって辺りの掃除をしていた、えっと、幽谷響子さん。が僕の姿を見てすぐに声を掛けて来た。軽く三十歩位離れた所から。つまり僕にとっての死角からなわけだけど、もう少し近づいて来てからでもいいんじゃないですかね。音量が大きいから離れた所から声を掛けるようにでも言われてるのかな。

 

「新顔さんですね!ご用件は何ですか?入門?入信?」

 

「どっちでも無いです。ええ、っと」

 

「おや?」

 

パタパタと近づいてきた響子さんは勢いよく質問を重ねて来た。どう説明したらいいかなって思ってると、おもむろに顔を近づけて来た。今度は近いです!

 

「博麗の新しい宮司さんですね!聖様に会いに来たんですか!、、っいて!」

 

声が、とても大きいです。耳を思わず塞いでしまった。失礼だったかなと思っていたら、突然響子さんが頭を抱えた。少し上を見ると金髪に黒が混じった大柄で装飾がトラっぽい人がいた。って事は、

 

「寅丸星、さんですか?」

 

「はい。始めてお目にかかります、寅丸星と申します。家の山彦が失礼しました」

 

凄く厳かな神様、魔理沙さんに聞いていた印象とは全く違う。紫さんが圧力かけてる時と少し似てるような、緊張してる?

 

「聖様の所に御案内します」

 

「はい、お願いします」

 

何となくだけど、その一連の動作がぎこちなく思えたのは、僕の気のせいだろうか。

 

「本日は命蓮寺にようこそお越しくださいました」

 

案内された部屋でお茶を出されて待っていると、聖白蓮さん?が入って来た。優しそうな人だと思ったけど、ピンと張り詰めた様な空気が重々しくて息苦しかった。

 

「初めまして、博麗出久、です」

 

気圧されちゃだめだと、言い方がアレだけど友好関係を結びに来たんだと思いなおして(その実只の知的好奇心)頭を下げる。手土産の一つでも持って来ればよかった。

僕の対面に座った聖さんは自己紹介をして、それでどういったご用件かと聞いてくる。歴代の巫女は他の宗教に干渉する事が少なかったって本に書いて在ったけど、それは間違いじゃないだろうか。だって目の敵にされてるみたいに感じるし、実際どっかから様子を見てるのか視線が少し痛い。

 

「百年くらい前の、星蓮船異変の事について聞きたくて来たんです」

 

「は?」

 

威圧感の消えた、あっけにとられた様な声だった。そんなに予想外だったのかな。

 

「僕の、博麗のサポートをしてくれる魔理沙さんの事とか、人が伝える歴史じゃなく

て、どういう気持ちだったのかとか、そう言うのを聞きに来ました!」

 

途中から鼻息荒くなってる気がするけど気にしない、僕は実際に見た事聞いた事を知りたいのであって事実だけを淡々と知りたい訳じゃ無いんだ!弾幕だって、魔理沙さんや八雲家だけのを練習してたって臨機応変さが無くなって癖が付きやすいだろうし。

 

「後は、出来ればで良いんですけどスペルカード戦も出来たらなって」

 

 

 

 

 

 

 

目の前の少年はそう言って小恥ずかしそうにはにかんだ。博麗の、と星から聞いて警戒してしまったのは、どうやら無駄だったようですね。

 

「解りました。ではまず歴史から話さねばなりませんね」

 

緊張が顔に出ていたのか、あからさまにほっとした様子の新しく初々しい宮司さん。きっと彼は、良くも悪くも幻想郷に影響をもたらすのでしょうね。

霊夢以降、巫女は皆宗教戦争にこそ興味を持ちませんでしたが、幻想郷の在り方を己が一番になる様に仕向けている様な気が有りました。博麗の巫女至高主義とでも言いましょうか、妖怪たちの在り方を力で押さえつけている様な、そんな印象を持っています。しかしそれは人間故に持ちえた警戒心と疑心、そして生存本能が重なり合った結果なのでしょうとそれを受け入れていました。集会でもしようものなら乗り込んで来て、それも一つの畏れで在ったのでしょう。それと同じように、疑わしきは罰せよと言う様な調査をしに来たのでしょうと星も言ってましたし私もそのように思っておりました。私達が幻想郷で初めて会った巫女が霊夢だったので、それが普通、基準で在ったのだと思い込んでおりました。今なら解ります、人間にしては酷くいびつで何よりも異質、それでいて人間らしい一面は妖怪を等しく引き付けて、魔理沙の様な同じ異質の人間も引き寄せる体質を持ち合わせておりました。

 

霧雨魔理沙、霊夢に張り合うかのように台頭する只の人間。魔理沙への最初の印象は霊夢と言う人間の性格や強烈さに埋もれて殆ど見えていませんでした。程度の能力を所有していたとはいえ、捕食される側であろう彼女が、鬼才の巫女と張り合えていたのは人知れない努力かそれとも誰でも出来ると言う弾幕ゲームだったからか。

星蓮船の事について、私は私の知る限りを話しました。けれどきっとこれだけでは物足りないのでしょう。

 

「もしよろしければ他の方からも」

 

「良いんですか!?」

 

……思っていたよりも喰い気味に来られて少し驚きましたが、そうと決まれば善は急げ。折角ですし弾幕戦から入りましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。博麗のが来てるって言うからどんなもんかと顔を出したら、まさか村紗達と弾幕ごっこしてるとは思わなかった。思ったよりも面白い人間みたいだな。今回の巫女は!

何だかワクワクして来て、スペルカードが余ってたら私も相手してもらおうと思う。だって自分だけ仲間はずれ何て嫌だもんね。

 

「あらぬえ。帰っていたんですね」

 

「聖か、うん!なんか楽しそうだね!」

 

興味半分で顔を出したら、思ったよりも楽しくなりそうなイベントが起こってたんだもん。参加しない手は無いよね!

屋根から縁側に降りた私に、聖はお茶を差し出してくれた。前々から思ってたけど、最近の幻想郷は少しぎすぎすしすぎだったんだよ。正体不明を掲げる以上、私の能力や姿は人間には中々表せない。それを考えると、久しぶりに楽しく遊べそうな人間が来た訳だ。

 

「それが悪いとは言いませんが、私の知る巫女は皆生真面目でしたからね。多少の遊び心は重要ですわ」

 

聖は解ってくれる。それに何だか嬉しそうだ。深くは聞かないよ。何となく同意出来るしね。

 

ピチューン

 

あ、終わった。流石まだ日は浅いと言えど博麗、村紗位なら普通に倒しちゃえるんだね。と言うか久しぶりに無双封印とか見たかも。

 

「つよーい、流石だね」

 

「まだまだです。それに改良まだ上手く飛べないし、それのヒントになればなーって思ってここに来たって言うのも少しあるし」

 

「お疲れ村紗!ねぇ君!ちょっと私とも遊んでよ!」

 

スぺカ戦後特有のボロボロ具合になった村紗に声を掛けて、そのまま決闘を申し込む。私達にとっては遊びでしかないけど、だからこそ真剣にやるし楽しい物なんだよね。

 

「あ、すいません。その、スペルカード切れちゃって」

 

なんだ、つまんないの。まだ枚数が少ないのか。」

 

「声に出てますよ。ぬえ」

 

おっといけないいけない。でもまぁ聞こえてないからセーフかな。

 

「初めまして。博麗の宮司、博麗出久です」

 

「出久、へぇ。私はぬえ。封獣ぬえだよ」

 

「魔理沙さんから聞いてます!凄く厄介な妖怪だって!」

 

あ、村紗が噴出した。確かに魔理沙は“さん”って敬称をつけられる様な柄じゃないし私もちょっと顔が引きつってる自覚あるけど、、ふっ、魔理沙が、あの魔理沙がねぇ!

そんな事はさておいて、私の正体を知りたがる宮司くんをどうやって煙に巻いたモノかねぇ。考察をそんなブツブツとつぶやかれても半分も頭に入ってこないや。

 

 

 

 

 

 

今日で神霊廟も回る予定だったんだけどなぁ。結局夕方の日が暮れる直前まで長居してしまった僕は、お土産に持たされた紙袋(中身お饅頭)を持ち直す。

でも色々聞けた。聖さんには何故か解らないけど謝られた。これが少し謎なんだけど、その後は色々、星蓮船異変の後の蜃気楼とか深秘録とかの話までしてくれたし飛ぶ練習も少し付き合ってもらったし色々なスペルカードが見れたし収穫はあった。何より新しいスペルカードのヒントを貰ったから、帰ったら早速試したい。

 

「雪符「ダイヤモンドブリザード」!」

 

「うわぁっ!」

 

人里から出て、博麗神社への階段に向かう途中に居た氷精にスペルカードを放たれた!って何で?!兎に角お饅頭がぐちゃぐちゃにならない様に走り抜けちゃおうか。

 

「そこのお前!もう遅いし人里に帰れ!」

 

そう言えば魔理沙さんが、妖精は自然界の力の流れとかが人型化したものだって言ってたっけ。そのせいか知らないけど、全体的に頭が悪かったり力が弱かったりするって。と言う事はスペルカードを行使したこの氷精は割と高位な部類で、やり方はともかくそれなりに心配しての行動なのだろう。

 

「大丈夫だよ!僕はこの先に住んでる、、」

 

「何言ってんだ!霊夢はまだ一回休み中だろうが!さては泥棒だな!」

 

「えっ?違う!」

 

霊夢?一回休みって何の事だ?

 

「凍符「パーフェクトフリーズ」!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

駄目だ聞いてくれない!割とスピードのある丸弾を避けっ!

 

 

後に出久はこういった。止まるなんて聞いてない。と

 



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第五話 永遠亭にて、拾い主

ヒロアカの時間軸が知りたい今日この頃。西暦何年くらいと言う記述や具体的に個性が発現して何年くらいたったと言う情報が一切ないから結構つらいとです。


かつて無限に続くとさえ錯覚させた廊下にて、不死鳥の名を冠する娘、藤原妹紅は足を止めた。先導していた月の姫、蓬莱山輝夜はそれに気づき同じく足を止めて振り向いた。

 

「どうかしたの?」

 

耳を澄ませるかのように目を閉じて集中していた妹紅に尋ねた。

 

「何だか、今日は騒がしいな。例大祭でも無いだろ」

 

満月の日に餅つきを行う永遠亭では、その日必ず騒がしく且つ夜遅くまでどんちゃんしているのを知っている彼女は不思議に思ったのだ。朔の月のこの日に兎たちが浮き足立っていると言う事実に。

 

「ああ、その事ね。何でもないわ。ちょっと、特別な患者さんが運び込まれてきただけなのよ」

 

「特別な患者?」

 

「そう、貴女が見つけた事になっている、あの少年」

 

ゆったりと含みを持たせた裏が有りそうな声音で輝夜が言う。妹紅は察しがついたのか、ああ、と一言声に出した。そしてその事に興味を失ったかのように歩き出す。

 

「あら、合って行かないの?」

 

てっきり興味を持つモノだと思い込んでいたらしい輝夜が目を丸くさせた。いつの間にか出したらしい扇で口元を隠してはいるが、きっと開いた口が塞がらないと言った状況だろう。

 

「私に白羽の矢が立った理由位、解ってるつもりさ」

 

妹紅は輝夜、永琳と同じく不老不死の蓬莱人である。能力柄紫、慧音の能力が効かない輝夜ほどではないにしろ、歴史の書き換えやそれによって起こる矛盾をある程度ではあるが妹紅も認識する事が可能である。それが意味する事は、話をある程度理解している彼女らには最初に話してなるべく話を広げないようにと先手を打ったわけだ。前にも書いた通り、妹紅が無縁塚にて拾った子供、が偶然霊力が高かったと言う体で出久は博麗神社に居候していた設定なのだ。

自傷気味に笑った妹紅にため息一つ。折角の面白そうな事なのにと輝夜は残念そうだった。

 

「別に、裏口合わせる為だけなんじゃないの」

 

独り言のように呟いたその後ろで、普段は月に隠れて視るモノの少ない星たちがらんらんと輝いていた。

 

 

 

 

「それでは!明日にはお帰えししますので!」

 

敬語に成り切れていない敬語を話して去って行った鈴仙・優曇華院・イナバを見送って、魔理沙は空を仰いだ。

 

(馬鹿に負けてどうすんだ)

 

例え不意打ちであったとしても避け切るべきだと考えてから、そう言えばパーフェクトフリーズはそれなりに初見殺しな弾幕だったなと思い直す。チルノは出久を負かした後、気を失った彼を人里の慧音の元へと運んだ。実際に会った事はないが、面識がある設定の慧音は万が一の事を考えた上で永遠亭へと運んだと言うのだ。その事を伝えに来た鈴仙はちゃっかり茶をしばいてから孵ったためサボり目当てで言いに来たのだろうかと疑ってしまう。

 

「チルノに負ける宮司とは、特訓が足りないのではないですか?」

 

不意に後ろからした声に振り向く。そこには酒瓶を一つ持った藍がいた。また飲むのか、思いはしたが言葉にすると楽しみを取り上げられてしまうので言わなかった。

 

 

 

トクトクと注がれた酒を煽り、ついでにと用意した団子を口に放り込む。うん、我ながら美味しい。

 

「月見酒の割には風情が無いぞ」

 

うるさいなぁ。こういう気分だからいいんだよ。

 

「本題、何しに来たんだよ」

 

「なに、色々な勢力と合わせているその心を聞きに来ただけだ」

 

歯に衣着せぬ物言いで藍も酒をちびちびと飲む。

 

「私が人間だった頃、って題名で感想文でも提出させようか?」

 

単なる興味本位の行動に裏は無い。それにしても月が綺麗だなぁ。言わないけど、言ったら告白と捉えるんだろうかこの狐は。

 

「何だ、そんなことか」

 

何だとは何だ。本人からすれば大切な事だろうさ。

 

「でもまぁ」

 

一区切りして言う。分けるなよ、言いたい事はさっさと言って欲しい物だ。長寿になればなるほど本心をさらけ出す事が出来なくなると言うからな。そう言う私も、出久にとってはそれなりに凄い人と言う枠組みで居たいから結構頑張っている。

 

「霊夢の時とはまた違った幻想郷になるかもな」

 

あの時霊夢はまんざらでもなさそうではあったが、人間本意で巫女をしていたのには変わりない。いざとなった時に人間の味方である事が博麗の条件なのだ。

 

「お任せ下さい!もう妖怪神社とは呼ばせません!」

 

宮司か巫女かの霊力によって姿を現す狛犬が、久方ぶりに神社に現れた。

 

「おー、久しぶり」

 

「おとなしく帰ってくれるとは思えないがな」

 

片手を上げて挨拶をする横で、藍は苦笑しながら同情交じりの言葉を言う。妖怪たちのキャラが濃いのはもう仕方ないだろ。敬語の従者キャラはそれなりに被っているから尚更影が薄くなりやすいし。

 

「へへへ!お久しぶりです!それで、今巫女はどちらに?」

 

あ、その辺出てこないときは把握できてなかったんだ。さて、最初から話すとなると面倒だが、と思って藍を流し目で見れば知らん顔。どうやら秘密にしておけと言う事らしい。狛犬、犬だから嗅覚的に大丈夫かと思ったが、単純だし大丈夫か。

 

「一から説明するの、めんどいんだよな」

 

 

「う、、、ん」

 

ゆっくりと意識が浮上して来る。何だか頭が痛い、今日の夕ご飯何だっけ、そう言えば霊奈ちゃんにお土産でも買えば良かったかな、。あれ?

 

がばッ

 

「いっッて!」

 

大体の事を思い出した僕は勢いよく起き上がり、痛みで頭を抱える事になる。じわじわと痛む傷には包帯が巻いて在って、僕はベットの上に寝かされていたみたいだ。うう、、氷精にやられたなんて魔理沙さんならもう知ってるだろうなぁ、、、、しごかれる。

 

「お目覚め?意識ははっきりしているみたいだけれど」

 

ひょっこりと和風何だけど障子じゃない扉から姿を見せたのは長い銀髪を後ろで緩く三つ編みした人、八意永琳さん、だよね?

 

「名前とここに居る経緯を言えるかしら?」

 

「博麗出久、、氷の妖精のスペルカードで気絶した」

 

名乗られてないけど多分八意さんで合ってると思う。少し部屋を見回すと、窓から竹林の景色と同時に星空が隙間隙間に見えた。?!

 

「やばい!」

 

「大丈夫よ、魔理沙には優曇華から伝えたわ」

 

あ、良かった。でもそれってこの事が包み隠さず伝えられたって事で、ああ~!絶対しごかれるぅ~!

 

「ああ、まだ名乗って無かったわね。八意永琳、医者じゃなくて薬師だから、あまり外科手術は得意では無いの。宜しくね、博麗の宮司さん」

 

今から嘆いても仕方ないし、直ぐに安静にしてと言われてしまってはそれ以外にすることが無い。八意さんは直ぐに退室しちゃったから話し相手もいない。いつもならベットの中で組紐編んでるんだけど、今日はそれもないしさっきまで寝てたから眠れもしない。安静にって言われたし、目をつぶってるだけでもいいか。

 

それにしても、今日だけでいろんなことがあったな。村紗さんと雲井さんと、あと結局ぬえさんともスペルカード戦したし、(割とボロ負けだった)魔理沙さんでも知らないだろう舞台裏の話も魔理沙さんが人だった頃の話も聞けた。霊夢、さんの事も少しだけ聞けた。けど、、何か違和感が在ったんだよな。雰囲気的に何も聞けなかったけど。

 

カラカラカラ

 

霊夢さん、十三代目の巫女にして歴代最強の霊力と才能を持っていた。が、妖怪をただ対峙するだけの生活に嫌気がさし考案したのが決闘ルール、スペルカード戦。別名弾幕ごっこ。霊夢さん時代の事を調べれば芋蔓式に魔理沙さんの事も出て来るから、魔理沙さんが人だった頃もその辺りなはず。あんまり資料は残ってないらしいけど百年くらい前で、その辺りに外の世界で個性と言う物が発現し始めたらしい。

 

コツコツコツ

 

博麗の歴史を漁るのもいいかもしれない。神社か人里にしか行った事が無かったからその他の幻想郷も探検したいし、時間が足りない位やりたい事が沢山ある。次はどうしようか、明日日が開けたら永遠亭で起こった永夜異変について聞こうかな。今の所、魔理沙さんは昔とても弱くて捕食される側の人間だったとしか聞いてないし。そのせいで霊夢さんの強さが際立ってたとも言ってたっけな。

 

コツ、ピタ

 

それにしても、眠れないなぁ。さっきまで寝てたせい、だよね。羊を数えると良いとか言ったっけ。でもそれスリープとシープのスペルが似てるからって言うダジャレみたいな感じだったんだよな。あー、とりあえずちょっと喉乾いたから何か飲んでから、

 

パチ、ビクッ、、、ジーッ

 

「う、うわぁッ ムグッ」

 

「いっ、いきなり叫ぶ奴が在るか?!」

 

目を開けたら妹紅さんがベット横に立ってたんだよ?!逆光だし髪長いし何か全体的に白いし!叫びそうになったのを慌てた妹紅さんの手が抑えて、そこでようやく妹紅さんだと気が付いた。僕を無縁塚で拾ってきたって言うけど、実は合う事自体僕の記憶の中では三回目で、しかもその内会話をちゃんとしたことなんてないんだよな。

 

「ったく、起きてたのかよ」

 

僕が妹紅さんだと気が付いたのを確認してから、彼女は手をゆっくり放してくれた。恐る恐るって感じではあったけど。

 

「えっと、何か用でした、か?」

 

「用、って訳じゃ無い、けど」

 

言葉を詰まらせて頬を掻くようなしぐさをしてから、妹紅さんはため息をついた。どうしたんだろう?

 

「別に用が在った訳じゃ無い、ただ拾ってきた子供が博麗を継いだって聞いて気になっただけだ」

 

要するに心配してくれてたんだろうか。ありがたいけど、それだけふがいないって言われている様な気がした。暗闇に眼が慣れて来て、妹紅さんの表情まで見える様になって来るまで、僕達は何も言わなかった。

 

「何か言えよ。恥いだろ」

 

照れくさそうにしているって事は、心配してくれてたで合ってたんだと思う。

 

「え、えーっと。ありがとうございます?」

 

「聞くなよ」

 

「いッ!」

 

確かに聞くことじゃないけど、何もはたくことはないじゃないか。

 

「まっ、氷精に負ける様じゃこれから大変だろうが、頑張れよ」

 

無理やり話を終えて立ち上がった妹紅さん。扉を閉めて出てくまで、僕は何も言えなかった。結局、何だったんだろうか?

 

 

「じゃ、気をつけて帰りなさいね」

 

翌日、永琳さんに見送られ僕は永遠亭を後にした。インタビューしようと思ったけれど、その前にまず帰って日を改めてから、と言われてしまった。とぼとぼと人里を歩く。博麗神社は人里を挟んで丁度永遠亭と反対の場所にあるから、割と距離がある。朝食は頂いたからお団子の良い匂いに釣られる事が無いのがありがたい。

 

「お帰り~。チルノに負けたんだってな~」

 

魔理沙さんは呑気にお茶飲んでた。怒られるかと思ったけどなぁ。

 

「別にチルノに負けようが私はどうでもいいけどさ、とりあえず飛べるように成ろうぜ」

 

そう、だよなぁ。体を浮かせることは出来る。けどコントロールする事が出来ない。特訓、するべきなんだよな。

 

 

 




え~っと、そう言う訳で!次回!飛べない宮司と元現人神!
ネタバレだよね?これ。


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第六話 飛べない宮司と現人神

魔理沙さんいわく、僕は霊力、つまり神様よりの力。そして魔理沙さんが使うのは魔力、人外よりの力なんだそうだ。系統が違うからそもそも教えるのが難しく、スペルカードの練習はともかく飛び方や結界などの技術に関しては専門外だそうだ。だからそっち系の力を使う博麗神社のライバル?だったと言う守矢神社に来ていた。

 

「イメージが出来たら後はひたすらに特訓ですね。浮かぶことは出来てるので吹っ切れちゃえば出来るんじゃないですか?」

 

下手に努力をしたことが無い一通りなんでも出来る天才は、教え方が下手。守矢神社の巫女もその例外に漏れないかもしれない、って見送りの時に言ってたっけ?でも、

 

「いやー筋は良かったですよ!まだまだ粗削りでしたけど!」

 

「盟友が訪ねて来るのは久方ぶりだったからね、楽しかったよ」

 

登り切るまでで既に満身創痍って言うのは聞いてない!!!

登山位ならいつも博麗神社の階段を上ってるし余裕余裕、と高をくくってた時期も僕にはありました!森に入った所で厄神様と一戦、水辺で道具を使う河童と一戦、滝の横を上ってる最中に白狼天狗の集団に絡まれて乱戦、そのまま烏天狗も登場して一戦。、、、、、早苗さんに見つかんなかったらつまみ出されて振り出しに戻ってたかもしれない。。。

 

「どうも、ハァ、ありが、ハァ、とう、ハァ、ご、ざい、ハァ、、ます?」

 

「ええ、ちょっと休んでからにしましょうか」

 

ちょっと困り顔の早苗さんが言う。うん、今の状況で何か出来るとは思えないからな。魔理沙さんも教えてくれたらよかったのに。妖怪の山だからこうなる事はある程度予想できたかもしれない。僕の想像力不足だったな、うん。

 

「でしたらちょっと取材させていただいても良いですか?!いいですよね!ありがとうございます!それではまずは、」

 

「ハァ、取材は、、、ハァ、、魔理沙さんを、、、通して、ハァ、、下さい」

 

息も絶え絶えな状態で受け答えする。当分の課題は飛ぶことじゃなくて人間としての基礎体力を上げる事じゃないのかな?魔理沙さんには「それも」必要な事だなとか言われそう。残念です、とか言う烏天狗の文さん。里の鈴奈庵って言う貸本屋で文々。新聞を配布しているけど、たまに何部か神社に置いてってる。ほとんどは読まれずに掃除に使われている事は秘密だ。(本人には)

 

 

半刻位休んでから、修行に入る事になった。最初に言われたけど基礎は出来てる(らしい)から兎に角吹っ切れるための何かが必要なんだそうだ。

 

「と言う訳でまず浮かんでください!」

 

河童のにとりさん、天狗の文さんが帰った後の事だ。文さんは本当に帰ったのか怪しい所だけど、今気にするべきはそうじゃない。

目を閉じて集中する。霊力を体に循環させるように、そしてそれをちょっとずつ浮かぶように、、、、。

 

「はい目を開けて―、空中を泳ぐみたいにー」

 

言われた通り恐る恐る目を開けてみる。

 

バチンッ!

 

「うわぁッ!」

 

ドサ!

 

凄い衝撃がして、高さ二メートルくらいの所から落とされた。痛いよりも先にビックリしたって言うのが強くて、思わず呆然と早苗さんを見上げていた。

 

「あらら」

 

早苗さんも少しびっくりした声を出してた。呆れられちゃったかな。僕以上に霊力がある人は里にたくさんいるだろうし、僕じゃなくてもいいんじゃないかって思うんだ。

 

「力み過ぎですね、飛ぶことに意識を向けすぎなんです。全体的に空回りしているので、なんかこう、力を抜いてみて下さい」

 

「………え?」

 

「出久さんは自分の霊力をあるだけ使って飛ぼうとしてるんです。だからもっと力を抜いてみて下さい」

 

期待されてる、んだろうな。僕が「博麗の宮司」だから。僕がいなければ幻想郷が無くなるから。

力み過ぎ、飛ぶことを特別視しすぎているって言う事なんだろうな。もっと自然に空中を走っている時みたいに飛ぶ!

 

ビュッ!ドサァ

 

「あー、、、練習あるのみ、ですかね?」

 

渋い顔をされたけど、僕は、僕は期待に応えられるようになる!

 

 

 




ちょっと短かったですが、次話は直ぐに上がると思うので許してください。

かっちゃん視点って結構難しいですね。中々筆が進まない。因みに現在、梅雨が明けた六月末頃の設定です。


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第七話 狛犬あうんとちょっとだけ不運な日

「紹介が遅れたな。こちら、狛犬の化身で博麗神社に憑りついてる」

 

「高麗野あうんと申します!これからは博麗神社を守護しゅる、、、、」

 

・・・・守矢神社から帰って来たら、薄い緑髪で赤い服を着て角の生えた女の子がいた。自己紹介を盛大に噛んだ彼女は、魔理沙さんの後ろに隠れて落ち込んでいた。こういう時、どういう反応をすればいいんだろう?

 

「ああー、紹介が遅れたな。狛犬の化身で博麗神社に居ついてる、」

 

「魔理沙?!仕切り直せてませんよ!」

 

うん、僕も思った。涙目になりながら顔を出したあうんさん、、、ちゃん?は守護獣?みたいな感じで博麗神社を守っているらしい。らしいと言うのは実際に会ったのも見たのも初めてだ。

 

「話は魔理沙から聞いてます。うぅ、宮司さんに仕えるのは初めてですが頑張りますぅ」

 

「は、はい!よろしくお願いしましゅっ!」

 

恥ずかしがりながらもちゃんと自己紹介をしたあうんちゃんに、緊張しながら答えようとしたら盛大に噛んだ。舌が痛い、、、。

 

「今日はそう言う日なのか?」

 

魔理沙さんの言葉に、二人して何も言えなかった。

 

 

「飛べない巫女さんも過去に居ましたよー。玄爺と言う亀さんにのって戦ってましたー」

 

「まぁ、今も生きてるかは知らんがな。妖精曰く、其れらしいのは目撃してるらしいが」

 

妖精の言う事は話半分以下に聞くに限る。そう言って魔理沙さんはお茶を啜る。何か描写がお茶飲んでばかりだな。

 

「ちなみに霊夢は「空を飛ぶ程度の能力」で飛んでたぞ。ひっくり返して何事にも、重力にさえも縛られない程度の能力とも取れたな」

 

(注意、これらは確証の取れない情報であり、二次創作出身の設定である可能性があります)

 

「何か、単純な能力ですね。僕のとは違って」

 

僕の能力は、『性質を変化させる程度の能力』いろんな物質やモノの融点を下げたり上げたりする能力。これはあくまで一例に過ぎないし、性質を理解していなければ出来ない事であるから中々に扱いが難しい。

 

「単純だからこそ強いんだろ。覆されない絶対的な力ってのはそれだけの安定してるからな」

 

十三代目の巫女である博麗霊夢さんは、歴代一位を争う才能と霊力と実力、それでいてそれを発揮させられる度重なる異変に恵まれた?人。同時期に幻想郷の勢力として台頭してきた妖怪は数多いって言う。聖さんも、早苗さんも、永遠亭の人達はちょっと違うかもだけど。

 

「霊奈ちゃんはどんな能力なんでしょうね!今から楽しみです!」

 

「おいあんまり叫ぶな。今寝たばっかりだろ」

 

あうんちゃんが興奮気味に言って、魔理沙さんが凄い冷静に返す。なんか、凄いクールだ。霊奈ちゃんが巫女になる時、その時まで僕は宮司として結界を維持していなきゃならない。

 

「えへへ!あ、そうだ出久さん!弾幕勝負しませんか?!」

 

「え?!今?」

 

「んなことしてないで夕飯の準備手伝え。出久は霊奈の事見てろ」

 

そうだよな、もう日が見えない位に沈んでるし。部屋を出て行ったあうんちゃんと雑記帳と筆を残して残された僕と霊奈ちゃん。すやすやと眠っているし僕が何かしなくても大丈夫な気がするけど。

 

「便利になったよなぁ」

 

昔は電気の力で煌々と光を放つ物体なんて存在無かっただろうな、と部屋を照らす照明器具を見て思う。昔の人が作り出したモノの旧式しか僕達幻想郷の住民は使えない。もしくは全くのオーバーテクノロジー、存在しえ無いほどに発達した仕組みのわからない科学だけだって言う。考えれば考えるほど不思議だ。想像、幻の産物かすたれた技術、つまり一般的では無いモノしか使えないやってこないようにする結界で覆われた幻想郷。(この辺から読まなくていいです)あの事件、個性とか言うモノが人間に発達した時の事はまだ聞けてない。是非とも聞きたい。魔理沙さんはさらっと自分が魔女になっただけだと流してたけど、絶対に違う気がする。何かしら大きな異変が在ってそれで魔女にならざる負えない状況に陥ったんじゃないか?と言うかそもそも個性と言う力自体が科学で解明できるのか否かで幻想郷と外の世界の距離をぐっと縮める事も出来る可能性もあるしそれをしないと言う事は何かしらの理由が存在するはずでそれがもし合っているなら」

 

 

 

 

「うわ―、ほんとに独り言漏れてる」

 

「考えること自体は良いし回転も速いしそこまで間違った事は無いんだがな、考えるのが漏れるのだけが唯一のダメなところだな」

 

ブツブツといつもの癖が出てしまった出久を、うどんをよそったどんぶりを持つあうんがまじまじと見つめてる。机に置いて真正面から覗き込んでも戻ってこない。いや流石に気づけよ。スペカ戦中にこれが出たら間違いなくピチュるまでは戻ってこないだろうな。

 

「あうん」

 

うっかり漏れちゃいました。じゃすまない事もあうんには言った。下手に気づかれて勘繰りを入れられた結果出久の記憶が戻ってしまいました、もしくは変異に気が付いて心が壊れちゃいましたなんて五千年経っても笑い話に出来る事じゃないからだ。

 

「解ってますよぅ。これでも狛犬なので、護るモノはちゃんと守ります!」

 

「ならいいけどな」

 

それにしても、近くでこんな会話してもまだ気が付かないってのは、、、治した方が良いのか悪いのかわかんねーな。

 

「うう~、全く戻って来ません。魔理沙ぁー、どうします?」

 

「霊奈連れてくから、盛大に驚かせてやれ」

 

ちょっとした悪戯心を働かせれば、あうんもにやりとあくどい笑みを浮かべて頷いた。こういうノリが良い所は霊夢に似てるんだよなぁ、コイツ。

 

それにしても狛犬まで出てこれるようになるとは思わなかった。あの事件で力を使い果たして冬眠?状態になったあうんを起こせるだけの霊力が、つーか才能って言うのが出久には合ったんだろうな。あの計算高い紫の事だから、ここまで計算済みで選んだかもしれないな。まぁ、それ以上に行き当たりばったりな事も多いからここまでとは思わなかったと言うかもしれないけど。

人の声にしては大きな叫び声を聞いて、霊奈は寝苦しそうに身じろぎを一つ。梅雨は明けた。もうすぐとてつもなく熱い夏が来る。

 




次回予告

ちょっと短くなった今回に比べ、次回は少し長くなる予定。
何故だか結界の外に行かねばならなくなった魔理沙。彼女が不在の博麗神社にて出久は修行に明け暮れる。手詰まりかと思った所で、現れたのは………?!

次回、異変?悪巧み?誰かの罠!


まぁ、それ含めての修行って事で!

お楽しみに!


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彼の夢とヒーローアカデミア 第一弾

次回予告とは関係ない話です。でもやっぱこういう補完話って大切ですよね?って感じです。

別に読まなくても良いやって人は飛ばしてください


緑谷出久が失踪してから三カ月の時が過ぎた。

 

人の噂も七十五日とは良く言ったもので、ヘドロ事件で飛び出した無個性の少年の失踪をマスコミは盛大に盛り上げた。一時は時同じくしてヘドロに襲われていた爆豪勝己でさえも、受験に影響が出るのではないかと危惧したほどだ。

 

死ね、殺す、消えろ、そんな言葉を失踪した人に浴びせかけていたのは彼である。周りは増長しただけ、彼に乗っかっただけなのだ。虐め調査や腫れ物に触る様な扱いの後、この時になってようやく彼は彼の時間を手に入れたのだ。

 

話を戻そう、彼、爆豪勝己には最近気に食わない事がたくさんあった。その内の一つが、失踪した緑谷出久に付いてだ。その事件以周りが自分に近づかなくなった、のは別に気にしていない。彼語で言えばモブが近づかなくなって過ごしやすい、になるだろう。勝手に傷ついているとか思われるのはイライラするが。

 

(どこ行きやがったクソナードが)

 

最近彼は夢を見るようになった。寝ている時に見るアレである。最初は個性にでも当てられたのかと思ったが、ヘドロの一件で病院からの検査を受けているためその線も薄かった。となると精神的なモノか、そう考え着いた時には悪寒が走ったような表情をしていたものだ。

 

出久の母は情緒不安定とも言える状態で彼の母親がちょくちょく面倒を見ているとのことだが、彼はそれに何も聞かなかったし母親も何も言わなかった。彼は緑谷出久の行きそうな場所をそれとなく探す事も有ったり、それ関連の記事や情報収集をすることもあった。最初はツンデレの様な理由を自分のつけてしていた事だが、ニュースで見なくなった辺りからは隠す気もなくただただ切望するかのように探していた。

 

夢、それは当たり前の日常だったそれが少し変化した情景が映る変異。確かに彼ならば一度助けられそうになった出久に絡みには行かなくなるだろうというのは納得できた。だから最低限の、「もしも出久が当たり前に日常を歩んでいた場合に勝己が出久に意識を向けている時の光景」が映し出されるのだろう。何日か悩んだ挙句に出た答えがソレと言う事で、まぁそれなりに心の中で荒れた。

 

彼の一日は早い。そんなありきたりな言葉で初めて見たが、まぁほとんどが察しているだろうが日課のロードワークとトレーニングから始まるが故だ。最近ではそれに加えて夢日記をつける事もしている。少しでも失踪の手がかりになるのではと思ったのだ。でもまぁ、それが本当に「もしも」の世界だと言う確証も無ければ、誰か、ヴィランが仕組んでいると言う可能性だってある。一人で抱え込む理由も無かったが、誰かに話すのは彼の信条が許さなかった。

 

この日の夢の一幕は、いつものそれとは少し違った。

 

『教室、呼んでもいないのに周りを囲む取り巻きに囲まれて良い気になっている俺。デクはとっくに帰った放課後の時間帯。デクが放課後速攻で海岸に向かってると取り巻きに聞いて、俺は苛立ってそれを止めた』

 

そんな五分も無い一幕だったが、割と有力な情報だと思う。これが本当ならの話だが。早速この日やるべき事が決まった。

 

(もっと情報引き出せや夢の中の俺!)

 

避けているのだからしょうがないが、彼からすれば苛立ってしょうがない事でもある。夢の中では自由に動くことは出来ない。故に口止めをしてしまったのだが、何かを続けようとしていたことは確かだ。

 

(オールマイトと、関係があるのか)

 

オールマイトがヘドロを散らすよりも少し前に飛び出してきた、何かしらの面識が在ったのか無かったが故にオールマイトは鼓舞されたのか、色々考える時間は無いのにグルグルと考え込んでしまう。

 

「ぜってぇ、見つけ出してやる」

 

 

海岸には潮の関係で多くのゴミが流れつく。だから気が付いたらゴミだらけの海岸と化していて、その中にはあからさまに流れ着いたモノでは無い粗大ごみがあり、それが容認されている様な場所だった。

 

(何にもねぇじゃねぇか)

 

むしろ何があると思ったのか、それとも誰かがいたとでもいうのか。夕暮れ時の僅かな時を、昔は逢魔が時と言ったか。不気味な位に真っ赤な景色が彼にとってどう見えているのかは解らないが、その見ている日をデクもどこかで見ているのかとガラにもない詩人じみた事を思ってしまう。

 

ヒーローになる。これは変わらない。雄英に合格する、志願者が一人減った程度で自分の合格が揺るぐとは思っていない。それでも、胸にぽっかり空いた何かが埋まる事も忘れる事も出来ない。だから、彼は認識出来なかった。

 

ガリガリののっぽで少し猫背の金髪なおじさんが一人、自分とすれ違った事を視界ではとらえても認識する事は出来なかった。

 

尚、おじさん事八木俊則はかなりドキドキしながらすれ違ったのだが、それを知る事になるのには後幾ばくかの時間が必要になるのである。

 

 




次回は出久くん視点でやりたい。

第二段の補完話は多分一気に飛んで受験辺りになりそうな予感。それまでほとんど書くことないし。


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第八話 異変?悪巧み?誰かの罠! 前編

しょっぱなからそんな物幻想郷に在るのかとかそう言うツッコミは無しでお願いします。最後にタイトル回収いたしますので。


「出張、ですか?」

 

出久が聞き返す。私も出来れば遠慮したかったが、どうにもそう言う訳にはいかないらしい。紫も随分乙な事をする。

 

「そうだ。外の世界に、一週間くらい。その間、霊奈はあうんに任せるとしても、何か合ったらお前が対処しろよ」

 

このセリフでフラグが乱立している気もするが気にしない。回収するのもへし折るのも出久次第だからな。

 

「解りました。頑張ってください!」

 

無垢な笑顔が逆に苦しい。イヤー、ヒトヲダマスッテクルシイナァ。

 

 

 

魔理沙さんが出張と言う名の結界修正に出た一日目、僕は飛ぶ練習を続けていた。早苗さんの所に修行に行くようになってから、無心になってふよふよと浮かぶだけなら出来るようになった。でもこれじゃ飛ぶと言うより「浮かぶ」だ。理想には程遠い。

魔力は重力に反発して飛ぶ、霊力は無重力状態を作って飛ぶ。だから飛ぶのに必要な力自体は霊力の方が少なくて、技術面だから難しいらしい。と言う事はつまり(もう読まなくていいです)魔理沙さんは重力に反発してその上で推進力となる魔力を発する所謂ロケットみたいな飛び方をするから構造自体は簡単。だとすると霊力はより非科学的な技術を使っている事から考えても陣は崩さずに何か八卦炉の様に方向を定めるためのアイテムとか」

 

 

「わー、何時までやってるんだろ。ねー霊奈ちゃん」

 

私あうん!私視点は初めてだよね!霊奈ちゃんは私の腕の中できゃっきゃと笑ってて、二十代目の宮司の出久さん、くん?はふよふよと鳥居の上位まで浮かび上がりながらブツブツとっマジックアイテムがどうとかめかにずむがどうとか言ってる。あうん難しい事解んない。

 

 

「出久さーん!マジックアイテム?みたいなものなら有りますよー!」

 

「?!本当ですか!?」

 

ドサッ

 

気が抜けたせいで思いっきり落下した。まぁきっと大丈夫でしょう!出してなかったのは魔理沙なりの考えが在るのかもしれないけど、あうんシーラナイ!

 

 

「これは、、陰陽玉?とお祓い棒?」

 

「そう!霊夢さんが使っていたのとはちょっと違いますが、巫女の必需品です!」

 

「巫女、じゃないんだけど」

 

「細かい事は気にしない!」

 

むしろ気にしては負けなのだ!そう思って倉庫へと向かう。封印されている訳でもないから簡単に開いた。うわっ!埃っぽい、後ろからおずおずとついてきた出久にいくつか道具を放り投げる。陰陽玉と、お祓い棒と、その他装飾品!

 

「ちょ、あうんちゃ、、も、持ち切れないよ!」

 

振り返ってみれば、両手に山ほど道具を抱えた出久の姿が。辛うじてバランスは保ってるけど、時間の問題かなぁ?あうん、失敗しちゃった?

 

取りあえず道具を全て運び出して、埃をはたいてみる。

 

「それで、どうやって使うんですか?」

 

「さぁ?皆才能で使いこなしてたから知らない」

 

あ、こけた。そんなに面白い事言ったかなぁ。でも確かに、解んなかったらどんな法具でもガラクタだもんね。

(彼女は気が付いてない。軽く出久には才能が無いと言っている様な物だと言う事に)

 

「やれやれ、様子が気になって来てみれば、基礎から叩き直さなければならないようですね」

 

ん?何か聞き覚えのある声がする?

 

 

 

紫が人さらいをしたと、風の噂で聞いた。死んだ博麗の巫女を襲名する宮司となる少年を十三代目以降行ってこなかった方法にて博麗と名付けたそうだ。キョトンとした顔で、私を見る彼はどうもまだ自由に空を飛ぶことさえ出来ない様だ。

 

「初めましてですね。私は茨華扇。仙人です」

 

縁側には揺り籠に眠る赤子が。先代とは度々交友を交わす仲でしたが、子が生まれてから訪ねた事は無かった。魔理沙が不在の時を狙ってきたのですが、どうやら正解の様ですね。彼女とは長らく会話をしていませんし、合っても気まずくて話が進まないだけです。

 

「茨、華扇、、様?……!?初めまして!僕、博麗出久です!良ければお話聞かせてもらえませんか?!」

 

どうやら話に聞いていた通り、記憶さえも失っているのでしょう。しかし力量不足とは言え修行を真面目に行い初対面の人にもそれなりの礼儀はある。あの巫女に比べれば十分ですわね。

 

「ええ、良いですけどお話とは何の?」

 

「えっと、求聞口授の裏側の、華扇様から見た異変の事が聞きたいです!」

 

キラキラと目を輝かせる少年に裏表もなさそうだった。まるで金目のモノを目にしたときの霊夢さながらですね。

 

「良いでしょう。しかしその前に、」

 

あうんと言う狛犬が道具を整理している。蔵の門が開いている所を見るにサポートアイテムの類でも探しているのだろう。あくまでそれらは補助にしかならず、基礎が出来ていなければ使いこなす等到底出来ないのです。

 

「片づけましょう。心身ともに鍛えるならばまず環境を整えなければなりませんし」

 

一度に山の様に出す必要性は無かったのでは、とは言えませんでした。私もまだまだ甘いのかもしれませんね。

 

 

 

「意識をとらわれ過ぎなのです。きっかけさえあれば呼吸をするのと同じくらいに自然に力を使う事が出来ます」

 

才能、と言う面では彼は霊夢には劣って居ません。まぁ、才能を使う才能が全くないと言う弊害がありますが、やる気がある時点でそのような事は直ぐに克服できるでしょう。朱墨で札を書きながら彼は聞いている。霊奈と言う先代の子はあうんに任せて置いて大丈夫でしょう。仮にも狛犬、困った事が有れば助けを求める位の事は出来ますからね。

私の話を聞きながら手を動かす彼の集中力は流石と言えましょう、それよりも、何か忘れてしまっている様な?そもそも私は何故ここに、、、

 

「あ、」

 

さっぱり忘れていました。博麗の元へ訪れようとしたのは、そもそも一つの異変を感じ取ったからなのです。巫女の適性が云々はそれよりも後の事でした。

 

「?どうしたんですか?」

 

手を止めさせる気は無かったのですが、仕方ありません。本題に入る事にしましょうか。

 

「いえ、そう言えば最近地霊殿から続く間欠泉辺りに怨霊がたむろしていたな、と思い立ちまして」

 

ポカンと私を見つめる目が居た堪れない。ええ、解って居ます。この様な事を告げるのはなるべく早く出なくてはならないはずです。ええ、すみません。

 

「間欠泉、ってたしか妖怪の山にある、、、」

 

「はい。地霊殿に直結する、温泉の近くに吹き上がる旧地獄の設備の一つです。とりあえずゆっくりでいいので向かいましょう」

 

急を要する異変ではありませんけど、それでもほっとけばどうなるかはわからないのが怨霊と言うモノです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山の歩き方は随分わかって来た。先行してくれてる華扇様の後を懸命に追う僕。あうんさんは霊奈ちゃんの世話の為に博麗神社に残っている。川の近くを通って天狗の住みかの近くを通って(今でこそ顔パスしてくれるけど、そうなるまでは大変だった)、そこからは少し道をそれて獣道を上って行く。

 

「悪霊退治の経験はありますか?」

 

「ありません。と言うか、妖怪退治とかそう言うのもやった事は無くて」

 

これが初めての異変解決、悪意に対して向き合うのも初めてだ。言っておくが僕が甘やかされてきた訳じゃ無い。そもそも幻想郷が平和すぎて異変と言う異変が僕の物心ついた時から全くと言っていいほど起こってないからだ。それは良い事なのか、それとも技術を伝承していくうえで腐敗するかもしれないと言う危機感から怯えるべき事なのかは解らない。だとしても………」

 

「そうならない為に八雲紫や魔理沙が居るのですよ」

 

「え?!声に出てました?!」

 

「ええ。それはもうしっかりと」

 

「、うぅ」

 

この癖も直さなきゃなぁ。常々言われてる事だけど無意識なんだからしょうがないじゃないか。戦闘の時はやばいかもだけどそうじゃ無い時に物思いにふけるのは悪い頃じゃないと思うんだけどなぁ。

 

「さて、もうすぐ着きますが何か質問は在りますか?」

 

「え、えっとですね。。。どの位の怨霊が居ましたか?」

 

知らなきゃいけない事、何時かは一人で気が付いて対処しなければならない事だから、しっかり学ばなきゃいけない。

 

「ふよふよと浮かぶ程度しかいませんが、密度が濃く成れば山を下る可能性もありますね。前に見た時はいなかったので、定期的に増えるのかそれとも漏れ出る何かが在ったのか」

 

そうか、華扇さんもその道に居るとしてもそんな一目でわかる様な物じゃないんだ。考えてみれば当然だ。旧地獄と直結してる間欠泉なんて、いつ何が染み出ているのか解ったモノじゃない。

あ、見えき、、、、

 

「うわぁ、」

 

「そう言う反応も珍しいですね」

 

何だろう、湯煙みたいな感じでその辺を悪意の無い霊魂が漂ってる感じ?でも悪霊って言ってたし少なくとも成仏をしたがらない時点で、と言うか地獄から染み出た時点で悪霊確定なのか?

 

「うーん。とりあえず札で成仏させてまた明日様子を見た方がいい、んですよね?」

 

最適解が解らないぞこれ。一見害はなさそうだけど、確か悪霊の念で鉱物が出来るとか言う話もあったな。凄い毒素を含んでいるらしいけど。

 

「それが最適でしょう。では、もしもまた悪霊が居ればどうします?」

 

地縛霊の類なら成仏したように見せかけてまたその場に戻って来るって事もあるかもしれない。けど今回は違う。立地が呼び寄せてるんだ。それをどうにかするには、、、

 

「地霊殿に行って、話をする?」

 

「その通りです。ですが私はそれに同伴する事は出来ません。行くのであれば河童か力の強い、もしくは技術力が在る種族に頼ると良いでしょう」

 

そうか、地霊と言う場所そのものが人間にとっては気軽に入る事が出来ない場所なんだ。最初地霊殿で起こった異変でも魔理沙さんも霊夢さんも、助けを借りて突入したって記録があったんだから。

 

「霊符「封魔陣」」

 

スペルカードを改良した、実戦用の威力のある弾幕。それは瞬く間に霊を捉え消滅と言う名の霊道送りにしている。代々繋がれてきたスペルカードだからか、無駄が一切ない。僕の作ったスペルカードよりも疲れるけど、その分威力はケタ違いだ。

 

光が収まった所にあるのは凄い熱量を放つ液体がそこらじゅうで沸き立つ間欠泉。霊の姿はどこにもないけど、悪意が作り出したと言う鉱石が何の変哲もない石の様に転がってる。綺麗だから、加工すれば組紐に編み込めそうなんだけどなぁ。

 

「出久さん?どうかしたんですか?」

 

はっとして振り返ったら、既に華扇様は帰ろうとしてた。その後ろ姿を駆け足で追う。後ろ髪引かれる思いってこういう事を言うのかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日 結論、どう考えても地霊殿側のエラーっぽいですありがとうございました。

華扇様が来るかはわからないけど、来る前に朝一で確認しに行った。2、3人?霊の単位って「人」でいいのかな?まぁ兎に角それくらいだったけど増えてたのには変わりないから、地下に訪問しなきゃなぁ。今すぐに害が出る訳じゃ無いけど思い立ったが吉日って言う言葉もあるし、今日はそこに行こう。

 

「あ、あうんさんに言うの忘れてた」

 

何も言わずに出て来ちゃった。寝てたから起こすのが忍びなかったんだけど、書置き位は残してくるべきだったな。とりあえず戻ろう。

 

 

 

 

 

 

「もう!起きたらいなかったからびっくりしたんですからね!」

 

「ご、ごめん。次はちゃんと連絡してからにするから」

 

「約束ですよ!全くもう!書置き位してってもいいじゃないですかー」

 

ぷんぷんって効果音が付きそうな感じで怒ってるあうんさんだけど、なんだかんだちゃんと朝食を用意してくれてるから優しいと思う。ごめんともう一回謝ってから食卓に着く。何時もの事ながらおいしそうだ。

 

「それで、何が起こってるんですか?」

 

僕もそれは解らないけど、異常事態って事だけは確かみたいだ。そんな大事でもないけど。

 

「地霊殿で悪霊を逃がしちゃった何かが起きたんだと思う。自信ないけど」

 

「そんな事言って~。良いですか?妖怪退治なんていうのは自信第一なんですからね!出来るって思わないと出来るモノも出来なくなります!」

 

人の思いが異を創る、だっけ?似たような事を言われた様な?でもその通りなんだ。

 

「うん、気をつけるよ。ごちそうさま」

 

手を合わせて、食器を重ねて、膳を運ぶ。

出かける準備、と言う訳じゃ無いけど地霊に行くなら協力者が必要らしい。今の状態の僕が頼れるとしたら紅魔館か、、、永遠亭か、それとも命蓮寺か、位だから、、えっと。でも守矢神社に頼るのが一番筋が通ってるよな?だって間欠泉も妖怪の山の管轄だろうし、、?

こういう時は資料を探そう!一人で考えるだけじゃだめだ、折角過去の見聞が残ってるんだから活用しないと。

 

魔理沙さんは魔女仲間の人達の力を借りて、十三代目博麗霊夢様は天狗や鬼か紫様の力を借りたらしい。河童の技術力も頼りになるらしい。

 

さて、どうしよう?




華扇が来れないのは過去に色々あって鬼と顔を合わせずらいからだよ!
霊奈ちゃんは大抵揺り籠の上かあうんに抱かれてるよ!
魔理沙ちゃんは結界の外を普通に出歩けるよ!(妖怪や人外は普通ムリ、例外は紫)

そして問題です!

出久は誰に助けを求めるでしょーか?

決まらな過ぎてルーレットで決めました!

以外でも何でもない方ですよ!


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博麗出久のスペルカード集&能力 +その他設定

因みに現在第八話辺りまででの事柄をまとめたものです。

能力以外のスペルカードのうんぬんかんぬんは読まなくても大丈夫です。そこまで作り込んだ設定は無い上に在ったとしても自己満足な部分が有り、解釈としても間違っている可能性が有ります。


創作と自己解釈によって作られたスペルカードです。神道とか由来とか正直焼け付き刃な知識をそれっぽく詰め込んだだけです。弾幕のイメージを描写しますがイラストなど書く気も作る気も有りません。出来る方、よろしくお願いします。

 

幻想郷

 

博麗大結界、紫の幻想を取り込む結界、そして魔理沙の進化を止める結界の三つで成り立っている。龍神様を最高神に、紫と魔理沙が管理する否定されたモノたちの楽園。

 

霧雨魔理沙

 

種族、魔女。の十三代目以降の博麗の巫女を代々サポートしてきた立役者。スペルカードは強化されたりそれなりに改造されたりしているがその辺は後々。種族の進化を止める結界を張り維持する役目を持っており、幻想郷が幻想郷で在るために必要不可欠な存在になっている。その結界の術式を造る際は、輝夜や永琳、パチュリーに協力を依頼したとか。

出久を中継ぎにしたこと自体に後悔はないが、記憶を消し改ざんしたことに対しては罪悪感を抱ている。霊奈の世話係に任命された後は出久のサポート、修行を付けつつ自らも精進するように励んでいる。魔法の森に棲んで居たが、今では殆どを博麗神社で過ごしている。

 

 

博麗出久

 

能力

『性質を変化させる程度の能力』

石とかの融解温度を上げたり下げたり、木材みたいに燃える様にしてみたり。出来る事は多いが自分一人の戦闘能力にはなりにくい。霊力で飛ぶことが出来ない内は空気(気体)の性質を固体にしてその上を走ってる。意味が解らなかったら感じて下さい。

 

 

 

スペルカード

 

   霊符「無双封印-集-」

 

霊夢の 回霊「無双封印 侘」のばら撒き無しホーミング性能と連射力の上がったバージョン。理論が解って居れば簡単に避けれてしまう。

 

 

   霊撃「夢想転生」

同じく霊夢の 夢想転生 の強化版。と言ってもこちらはあまり変わらない。伝えられていく内にちょっとずつ変わって行っただけの事。

 

 

僕のスペルカード作成記にて登場 (二話)

   霊符「磐座の電磁浮遊」

能力を使ったスペルカード。磐座とは作中にも書いたが神道における信仰を向ける石の事。つまり石を神様として祀ると言う事。電磁浮遊とは、所謂電気を帯びて磁力を持ち石や鉄などが浮かび上がる現象の事。因みに電力は石に電気の通りやすいと言う性質を加えて、生き物の体内にある僅かな電気でもあそこまで強化されるようにしている。

弾幕自体は精度が悪くしつこい御札の自揮狙いと破裂式の中弾小弾のばら撒き。電撃を浴びた陰陽玉が中弾小弾となってばら撒かれるイメージ。出久本人は磐座の上に乗っているが、それでいいのか?秘めた目標として乗らずにそのまま飛ぶことがある。その戒めの意味も籠ったスペカ。

 

 

   神事「榊の忌火」

榊を振り回して火に見立てた焔弾(あたり判定が見えづらい弾)を幕の様に放ち、後ろから放たれる針弾幕がそれを引っ張って行くようなイメージ。

榊関係ない、と言いたいがその実結構しっかり活用している。忌火とは神道の言葉で清らかな火と言う意味があり、榊には浄化とかそう言う効力がある。つまりお祓いした空気そのものを忌火と見立てている。お祓いとはそれ即ち神事だよね、って言う感じ。全体的に紅い。

 

 

 

 

レミリア=スカーレット

 

紅魔館の主にして紅魔異変の主犯。霊夢に対しては気に入っていた人間程度の認識で咲夜もパチェにちょっかいを出す魔理沙もいるしでそこまで傷ついてはいなかった。本人が認識している限りでは。運命を操る程度の能力を持つが、完全には使いこなせていないのが現状。しかし出久と言う宮司の存在により見通せていた運命が見えなくなったと言う事で、彼に興味を持つ。が、よっぽどの事が無い限りは傍観者として立ち回りたい所存。

 

 

聖 白蓮

 

命蓮寺で説法を説いている妖怪?魔法使い?魔界に長らく封印されていた人。博麗の巫女とは霊夢以降縁が無かったが、出久とは仲良くやっていけそうだ。

 

 

 

外の世界の住民の設定

 

 

爆豪勝己

 

少なくともモブでは無い括りに出久の存在を置いていたと思われる。彼はある意味、出久を畏れてたのではないだろうか?

 

 

八木敏則

 

平和の象徴としての志が十分な少年を見つけたは良いが、行方不明と聞いてかなり探し回っている。自分の言葉がきっかけだったのではと思い悩む日々を送っている。




設定におきまして矛盾点を感じたらご指摘いただけると幸いです。


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