鯖が寝取られすぎてキレるマスターの話 (バリ茶)
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NTRはクソ

 最近──というよりかなり前から、俺のサーヴァントたちの様子がおかしい。

 

 

 食堂で出くわせば、離れた席に座って食事をする。

 

 廊下で鉢合わせたら、まだこっちが何も言ってないのに「あはは……」と汗をかきながら苦笑いして、そそくさと何処かへ消える。

 

 ミーティング中は変な駆動音が鳴ると同時に身体をビクビクさせるし、トイレから出てきた時なんか太もも辺りに白い液体が垂れてて、思わず失笑したくらいだ。

 

 女性サーヴァントも、男性サーヴァントも、性別不詳のサーヴァントだろうが、例外なくよそよそしい感じなわけで。

 

 

 ……まぁ、原因はとっくの昔から知ってるんですけどね。

 

 所持サーヴァントの中で珍しく以前から様子が変わらない教授(アラフィフ)に頼んで、いろいろと調べて貰った。

 

 そうして浮き出てきた事実は、なんともまぁ……前から危惧していた事態というか、予想通りだったというか。

 

 

 

 ──呆れと怒りで「もう俺のサーヴァントあのおじさんだけでいいかな」という心境に陥り、俺に隠れてズッコンバッコンぬるぬるグチョグチョしてるバカ共は追放することにした。

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 アルトリア・ペンドラゴン(ランサー)。

 

 最初期に召喚したサーヴァントでサポート編成に入れたら引っ張りだこになり、俺に大量のフレンドポイントをもたらしてくれた良い人である。

 

 どうやら彼女も最初はこちら側だったのだが、予想以上に早く『堕ちて』しまったようだ。

 

 新米マスターの頃にレベル100スキルマのマーリンを持っているフレンドがいたのだが、そいつに「フレンド解除されたくなかったら……分かるよな?」などと脅されたらしい。

 

 そんなゴミカス野郎はこっちから願い下げ……と言いたいところだが、情けない事にアルトリアの状況を知らなかったあの時の俺は、そのフレンドに頼りっきりだった。

 

 

 俺の為に、金髪ムキムキのチャラ男に身体を捧げたアルトリア。

 

 おかげで強いマーリンを使うことが出来たし、フレポも大量に貰えたので彼女はとても頑張ったと言えるだろう。労いの言葉などいくらあっても足りないくらいである。

 

 

 

 ───だが、寝取られ宣言付きのアヘ顔ハメ撮り動画を送ってくるなら話は別だ。

 

 

 

「……へ? あ、あの、マスター?」

 

「どうしたの」

 

「今なんと……?」

 

 所持サーヴァントをフレンドのいる別時空に送り出すための転送装置の前で、爆乳ランサーが狼狽えた。

 俺は呆れた溜息を吐いてもう一度同じ言葉を繰り返す。

 

「だから遠征だよ。フレンドからの依頼もあるし、向こうに行ったら暫くは帰ってこなくていいから」

 

「で、ですが今はイベント期間中です! 私も特攻サーヴァントですし……」

 

「大丈夫大丈夫。出番が来たら連絡するから安心してよ。あっちでも気を抜かずに頑張ってね」

 

 俺に押されて渋々転送装置の中へ入っていくランサー。

 恐らくは俺の溢れ出る怒りのオーラを感じ取っているから困惑しているのだろうが、俺としてはコイツが察していようといなかろうと関係ない。

 

 転送装置の扉を閉め、ガラスの向こうにいるランサーを見つめる。

 

「……マスター?」

 

 ランサーが怪訝な表情で俺を心配した。

 

「……っ」

 

 いかん、ジッと見てたら昔のこと思い出して泣きそうになってきた。

 このランサーアルトリアって俺が初めて迎え入れた星5のサーヴァントだったんだよな。そりゃもう初期の弱小カルデアの時はマシュと他の星3鯖とこのランサーで戦場を駆けずり回ったっけか。

 

 ……でもこいつ既に寝取られてるんだよな。マスター同士でのみ使える通信端末で向こうのマスターから例のビデオレターが送られてきたし、その内容を見たらもう信用できなくなるのも当然だ。

 

 

【オラッ! 愛しのマスター君に謝れよこの淫乱メス豚王が!】

 

【おぉっほぉぉっっ♥♥ もうしっ、わけぇ……ひぎぃっ♥♥ ありましぇっ♥ ん゛ん゛ン──ッっ♥♥♥】

 

 

 ──うん、思い出すだけで涙が込み上げてきた。もう許さん。

 

「じゃ、いってらっしゃい。成果を期待してるよ」

 

「……はい、お任せくださいマスター」

 

 不安そうな顔してるけど知らねーよバーカッ! この人の肉便器になりましゅぅぅぅとか言ってただろうが! あっちに行ける事をもっと喜べよマヌケ野郎!

 

 

「もう戻らなくていいからね」

 

「えっ? ます──」

 

 即座に転送ボタンを押し込むと、一瞬でランサーは目の前から姿を消した。

 そしてフレンド欄から転送先のフレンドを削除することで、こっちと向こうのカルデアの繋がりを完全に断ってやった。

 

「……ふぅ」

 

 誰もいない部屋で一人ため息を吐く。

 

 もうあのランサーは此方へ戻ってくることはできず、今後一生あっちのカルデアで金髪チャラ男の肉便器として幸せに過ごすことだろう。よかったな。

 ただフレンド解除するだけじゃなくてあっちに送ってやったんだから感謝してほしいぜ。

 

 

「…………うっ、うぅ」

 

 くっそ、込み上げてきた涙が止まらねぇ。いっそミーティングルームに戻る前にここで一回泣いとくか?

 

「ずっと信じてたよっ、ランサー……」

 

 あー泣いちゃう! 泣いちゃいまーす! 古株の相棒とも言える存在が寝取られて悲しいでーす! 泣きまぁぁっぁぁぁす!!

 

 クッソ! クソがッ! マジで何なんだよあのチャラ男もうちの貞操観念ガバガバサーヴァントもよォォーッ! 心底ムカつくぜぇぇぇェェ──ッ!!

 

 

 悪! 寝取りは悪だッ!!

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 マーリン。

 

 絶対魔獣戦線の攻略中にようやく迎え入れることができた最強のキャスターだ。多分所持サーヴァントの中で一番スキルの育成に力を注いだ男。

 

 そんな彼だがどうやらもうこのカルデアには愛想が尽きてしまったようだ。クエスト出発時に面倒くさそうな顔をするのはいつもの事だが、最近はサポート出撃をするときだけ嬉しそうな顔をしやがる。

 原因はもう分かっている。マーリンは別のカルデアの女マスターに寝取られてしまったのだ。

 

 先に言っておくとカルデアのマスターたちは自分の性別を自由に変えることができる。一体どんな力が働いているのかは知る由もないが、とにかく黒髪の好青年かオレンジ髪の美少女のいずれかにいつでも変身可能だ。

 

 そしてマーリンの要望もあってあいつをクエストに連れていくときは必ず俺ではなく私になっていた。なんでもそれが目の保養になるとかなんとか言ってたから、こっちも戦わせている鯖の期待や要望には応えたくてそうしていた──のだが。

 

 私と同じ姿をした別のマスターに花の魔術師は落とされてしまった。教授の話によればあっちのマスターはマーリンにとても優しくて、更にえっちな事までしてあげているらしい。

 

 私だって優しくしてたじゃん……あいつが疲れてる時は無理に連れていかなかったし同行させる場合は絶対女に変身してあげてたじゃん……などといった文句はもう出てこない。元々ロクでなしなのは知っていたが私を裏切ったのならもう用はない。早急に立ち去ってもらおう。

 

 

【ほらぁ♥ マーリンも笑って? 私だけで楽しむ写真だからいいでしょ~♥】

 

【そ、そうかい? ……ハハッ、撮るのはいいけどばら撒かないでくれたまえよー】

 

 

 ───あっちのマスターがお前とのラブラブ自撮り写真送ってきやがったんだからもう容赦しねぇ。

 

 

「……え、遠征とは?」

 

「遠征っていうかお休み。こっちは忙しくなるし、暫くは向こうのカルデアでゆっくりしてきなよ」

 

 今日も今日とて転送装置にグイグイとサーヴァントを押し込む私。文句なんか言わせないぞこの浮気男め。

 

「いやいや、ちょっと待ってくれたまえよ。今はハンティングクエスト期間中だろう? 鳳凰の羽根が足りないって嘆いていたじゃないか」

 

「っ? それが何か関係あるの?」

 

「あの素材のステージ周回には私が必要な筈だという話さ。どう考えても今はサポート先で休むべきタイミングではない。それにお兄さんは休暇を頂くほど疲れてはいないぞ~」

 

 明るい顔でいろいろ喋ってるけど冷や汗かいてるのはバレてるからな。

 

 

 ……ふぅ、もういいか。アルトリアほど気を遣う相手でもないし、ここはハッキリと言っちゃおう。

 

「マーリンはあっちのカルデアの方がいいんでしょ? 私は優しくないし過剰に褒めちぎったり甘やかしたりもしないし、何よりえっちな事すらさせてくれないもんね」

 

「……え、えーと」

 

「あっちの子から色々聞いてるよ? 仲良しみたいで良かったじゃない。別に恩を仇で返すだとかそういう風には考えてないから大丈夫。マーリンが幸せならそれでいいと思うし、あんなに嬉しそうな顔してる写真見ちゃってからはあぁもう勝てないんだなって思ったから意地を張る理由も無いしマーリンが行きたい方に向かわせてあげた方が幸せだと思うし何より他のマスターとイチャイチャしてる人が近くにいると目障りだしホントにムカつくし見せつけられてるようで腹が立つしていうかそもそも既に堪忍袋の緒が切れてるから今更後戻りはさせないからさっさと向こうのカルデア行ってラブラブしてきなよキモい死ね二度と面見せるな浮気性でロクでなしのクズが別のマスターのおっぱいでも吸ってバブバブ言ってろよ道端の犬のフンにも等しい生ゴミ野郎」

 

 ほら、早く転送装置入れよ。抵抗すんなよホラ私が入れてやるからさ。

 はいグイグイ―っ、ぐいっ。バタン。かちゃ。準備完了ですね。

 

「きょっ、強制送還かい!? 少し待っては貰えないだろうか! ほら、私ってこのカルデアに召喚されたわけだし!」

 

「今更見苦しいよ? それにあっちに居た方が幸せでしょ」

 

「そんなことは──」

 

 

「あぁぁもうっ! うっさい! うっさいバカ死ね! 死ねぇ! なるべく苦しんで死ねよ! 全部裏切ったアンタが悪いんじゃん! もう二度と帰って来るなーっ!!」

 

 これ以上クズの言い訳を耳に入れたくなくてスイッチを起動した。

 

 即座に転送されて目の前から消える花の魔術師。ガラス張りのカプセルの中はもう空っぽだ。

 

 

「……はぁ」

 

 誰もいない部屋で一人溜め息を吐く。この行為がこれで何回目なのかはもう覚えていない。マーリンやアルトリア以外にも追放したサーヴァントはいっぱいいたから。

 

 壁に凭れ掛かりゆっくりと床に腰を下ろす。ふと上を見上げてみても、見えるのは無駄に明るい照明だけだ。

 

「……うっ、うぅ」

 

 あぁぁぁぁほらぁぁぁぁぁ涙出てきちゃったじゃんんん。あれでもずっと頼りにしてたキャスターだったんだから裏切られたら悲しいに決まってるじゃんかさァーッ。

 

「ひぐっ、うえぇぇん……! マーリンのばかぁ……!」

 

 クソカスがよォォーッ! どいつもこいつもバカばっかりだぜ! 追放するこっちの身にもなりやがれって話なんだよボケがァァァッ!! 

 

 

 悪! 悪悪悪悪!! 寝取りはこの世最大の極悪なんじゃあねーのかァァァァァァァーッ!?

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 淫乱アホナスビ──間違えた、マシュ・キリエライト。

 

 ……説明、いる? いらないよね、省きますね。

 この子は旧カルデア職員たちに輪姦されてました。そんで喜んでました。おわり。

 

 簡単に言うと俺がBBとかメスガキ鯖に誘惑されて『マシュ、ごめん……』をする前に『先輩っ♥ ごめんなさいっ♥♥』をされてしまった、というだけの話だ。

 言わばレースに負けただけであって、最初からマシュが取られる事なんて織り込み済みだったのだ。だってこの子が寝取られてないカルデアの方が少ないからね。むしろ俺が女性鯖に襲われる前に堕ちてくれてよかったわ。クソが。

 

 流石にマシュはどうあっても物理的に離れることができなかったので一緒に旅を続けているが、俺の心の中は真っ黒である。まさか俺の旧マイルームで輪姦されてる場面を発見するとは思わないじゃん? 俺のベッドに職員の変な液体が染みついてたよカス野郎弁償しろ。

 

 

「……遅いな、マシュ」

 

 今現在、俺はノウム・カルデアのマイルームに座っている。マシュに「お話があります」と言われてここで待機しているのだが、既に嫌な予感しかしない。

 

 きっと俺を待っているのはマシュが盛大に犯されてるビデオレターに違いない。内容は「先輩ごめんなさい♥」ってトロ顔で謝るかもしくは「今日からこの人の肉便器(サーヴァント)になりましゅっ♥♥」とか言いながら潮吹きしてるとかそんなんだろう。クッソ胃がキリキリしてきた。見たくないよぅ……。

 

 ──あ、来た。

 

「お待たせしました、先輩」

 

「用ってなに?」

 

「話をしたくて……お願いします、聞いてください」

 

 いつになく真剣っぽい顔つきのマシュに気圧されて、俺は渋々頷いた。

 俺の返答を確認したマシュは近くの椅子をベッドの前に移動させ、俺と向かい合うようにして正面に座る。

 

 間もなく、マシュは静かに語り始めた。

 

「カルデア脱出の日の事、覚えてますか?」

 

「……忘れるわけないでしょ」

 

「ですよね。……なら、私が途中で別行動したのも覚えてますよね」

 

「まぁね。割とすぐに戻ってきたけど、あの時はマシュがいなくなって死ぬかと思ったよ」

 

 少し語気を荒くしてそう言うと、意外にもマシュはしおらしく「ごめんなさい」と言って頭を下げた。

 んん……? 何だ、マシュは何の話をしてるんだ。

 

「マシュ、要点だけを話してくれないかな」

 

「……はい」

 

 俺の言葉を聞いたマシュは懐からスマホの様な携帯端末を取り出した。そしてそれをピッピと操作して何かの画面を用意している。

 

 やばい、変態ビデオレターがくる……! 備えろ! 危険に備えるんだーっ!

 

 

「これを見てください」

 

 

 マシュに突き出されたスマホの画面を極めてうすーく目を開きながらチラッと見てみた。

 そこに映されていたのはマシュの淫らな姿──

 

「……えっ?」

 

 ──ではなく、複数の男性カルデア職員の死体だった。

 

 体の節々から血や内臓が飛び出ていたり、酷いものだと顔の原型を留めていない死体すら映っている。

 今までの経験のおかげで吐き気を催すことはなかったが、急に死体の写真を見せつけられたせいで思わず反射的にビビって身を引いてしまった。

 

「なっ、な……!?」

 

「すみません、驚かせるつもりではなかったんです」

 

 俺が狼狽したことでマシュは反省したようにスマホをすぐさまポケットに戻した。

 

 ……いや、いやいやいや。なに? 急になに? ドッキリにでもハマったのマシュ? ほんと心臓に悪いからやめてクレメンス……。

 

「どういうことなのマシュ」

 

「……これを話すのは先輩にだけ、です。秘密にしてもらえますか」

 

 勿体ぶらずに早く教えて! もし「次はお前がこうなる番だ」とかなら令呪つかって逃げないとだから!

 

 

 

「私───人を殺しました」

 

 

 

 

「……………はい?」

 

「先輩には黙ってましたけど私って人殺しなんです」

 

 なんかマシュの目がヤバい。ハイライトが無い。こわい。

 

「そ、それって異聞帯(ロストベルト)のこと? あれは俺だって──」

 

「違います。世界の為に仕方なく、ではなく私の意志で……『殺意』をもって人間を四人殺害しました」

 

「……写真、の?」

 

「はい」

 

 どういうことなの……。急に話があるって言われて何が来るかと思えば、寝取り報告じゃなくて極悪犯罪の告白とか予想外すぎてお腹痛くなる。

 え、なに、マシュじゃなくてマッシュなの? 人をすり潰(マッシュ)して喜ぶ狂人だったの?

 

「かつての私は性欲に溺れた咎人でした。先輩を……マスターを裏切って行為に勤しむクズだったんです」

 

 それは知ってる。だってその場面直接見たからね。

 

「でもマスターに見られたあの日。あの後物陰で泣いている先輩を見て私は我に返りました」

 

「……ど、どういうこと?」

 

「私は先輩のサーヴァントなのだという事を思い出したんです。他でもない先輩の──あなたのサーヴァントだって」

 

 なんか目がもっと怖い事になってるよマシュ大丈夫? 黒い絵の具でベチャって塗りつぶしたみたいに真っ黒な眼になってるけど。ていうかさっきから一度も瞬きしてないけど。めちゃくちゃ漆黒の意志を感じるんだけど。

 

「だから襲撃の日、貴方の物に戻る為に私を犯した職員を全員殺しました。あの職員たちと気色の悪い行為に耽っていた過去の私ごと、あそこで醜いマシュキリエライトの全てを殺しました。貴方の物に、貴方のサーヴァントに、貴方の──いや()()()()()盾へと戻る為に性欲の奴隷であった少女と醜悪な大人(ゴミ)を処分いたしました」

 

 ……やっべぇ言葉が出てこねぇ。マシュに圧されて何も言えねぇぞ。本当なら「開き直るんじゃねーよこのナスビ!」とか言わないとダメなのに全く体が言う事を聞かねぇよぉ……。

 

「金輪際先輩以外の人間とは接触しないことを約束します。先輩のご指示であればどんな事でも受け入れるとここに誓います。試しに何か仰ってください。食事をご用意致しましょうか、それともクエストに赴きましょうか、いえ私の肢体をお使いになりたいのでしたら遠慮せず存分に使っていただきたいです、あぁぁぁあっあ申し訳ありません出過ぎた提案までしてしまいましたこのマシュキリエライト一生の不覚です先輩が望むなら今すぐこの場で自らの命を断ちますやはりこんな汚れた身体になった私では先輩のお傍に居る資格など欠片も存在しな──」

 

 

「す、ストップ! ちょっと待って!」

 

 マシュが「俺は止まんねぇからよ」状態になっていたので大声を出して一旦やめさせた。その無表情顔でお経を読むみたいに喋り続けるの怖いからやめてね。

 

「……ええと、つまりマシュは……もうあんな事しないから許してって、そう言ってるのかな」

 

「……………………………はい」

 

 すっっっげぇ溜めたな。最初からそう言えよナスビめ。

 

 いや、にしても驚いたな。確かにマシュを犯してた職員は一人もシャドウボーダーに乗ってなかったから死んだもんだとは思ってたけど、まさかマシュ本人が殺してたとは予想外だった。

 

 

 ……ま、寝取った奴らが死んだならそれでいいかな。流石に人のパートナーを奪うようなクズ共を可哀想だと思える程聖人ではないんだよな俺。

 

 マシュも反省してるっぽいし、許してやってもいいかなぁ……?

 

 

「……ん?」

 

 マシュに何か声を掛けようとした瞬間、マイルームのドアからノックの音が聞こえてきた。こんな時にタイミングの悪い人だ。

 

「あ、どうぞー」

 

 気の抜けた返事をすると同時にマイルームの入り口が開いた。

 そうして見えた来訪者は全身血塗れのランサーアルトリアと衣服がボロボロのマーリンだ。

 

 

 全身血塗れのランサーアルトリアと、衣服がボロボロのマーリンだ。

 

 

 ランサーアルトリアと、マーリン。

 

 

 来たのは見覚えのあるサーヴァントの二人。

 

 

 

 ……んん?

 

 

 

 

「え?」

 

 

 どういうこと?

 

「失礼しますマスター」

 

「失礼するね」

 

「えっ、ちょっ、なに、マジで、なにっ、待って」

 

 意味わかんない意味わかんない、何でこの二人がいんの。失礼しますじゃないんだが? 再度召喚した覚えもないんだが……!

 

 ていうか何でアルトリアは血塗れなの!? マーリンも何でボロボロなの!? どういうことっ!?

 

「誰!?」

 

「ランサー、アルトリア・ペンドラゴンです」

 

「キャスター、マーリンお兄さんだよ~」

 

 嘘つくんじゃねぇよコラ! お前ら二人ともとっくの昔に永久追放したわ! ここにいるわけないだろうが!?

 

「なんでいるの!」

 

「遠征先のカルデアマスターを殺して帰還いたしました」

 

「え?」

 

「マスターを殺して帰還いたしました」

 

「えっと……」

 

「殺 し て き ま し た」

 

 

「……ち、血塗れなのは」

 

「返り血です。床を汚して申し訳ありません」

 

 

 ──いや、床を汚して云々どころの話じゃないんだよな。何で快楽堕ちしてたのにあのチャラ男マスター殺してしかも無事に帰還できてるんだよ。

 

「気合いで帰還致しました。……転送前のマスターのあの表情を見た瞬間、目が覚めたのです。私はランサー──貴方だけのランサーなのだと。故にあのカルデアのマスターを殺して帰還致しました。時空の歪みで此方への帰還が遅れてしまい大変申し訳ありません」

 

 アルトリアさん今マシュと似たような眼になっちゃってるけどこれ大丈夫? あっちのマスターどんな殺され方したんだろう……。

 

「えぇっと……ま、マーリンは……?」

 

「悔いたよ、転送後に君の泣き声を聞いた瞬間にね。どうやら私は少々人間らしくなりすぎていたらしい。……私を甘やかしていたあの少女が暴走して他世界のマーリンたちも集めて生み出した特異点も少女ごと破壊したし、君さえよければもう一度キャスターとして戦わせてほしい。虫のいい話だという事は重々承知している。薄っぺらい言葉ではなく行動で示して見せるからどうか、もう一度だけチャンスをくれないだろうか」

 

 こいつ本当にマーリンか?? 俺っていうか私の知ってるロクでなしはこんな事言わない。ていうかあの子マーリン好きすぎて特異点作っちゃったのか……。

 

 

「うーん……!?」

 

 どうすりゃいいんだこれ!?

 

 寝取られたはずなのにみんな帰ってきやがった。しかも全員浮気相手をぶっ殺してケリつけてから。あまりにも物騒すぎる。

 

 ……うわわっ、みんな俺の前に跪いちゃった!

 

「シールダー、マシュ・キリエライト」

 

「ランサー、アルトリア・ペンドラゴン」

 

冠位(グランド)キャスター、マーリン」

 

 

『この身はマスターと共に』

 

 

 全員声を合わせてそんなことを言いやがった。

 どいつもこいつも寝取られたクセに自分で寝取り相手を殺して俺の元に帰ってきた異常者たちだ。怖すぎるぜ。

 

 てかみんな目が変なんだよね。誰も瞳に光が宿ってないんだよね。一歩間違えたら逆に俺が殺されそうな雰囲気がコイツらには漂ってるんだよねぇ……!

 

「……え、えっと」

 

 どうしようこれ。俺がここで許さないって言ったら全員すぐさまこの場でセップクしそうな感じする。あいえぇぇ……困った、どうしよう。

 

「とり、あえず………」

 

 まずはこの場を切り抜けなければ。なるべく平和に!

 

 

「また……よろしくね、三人とも」

 

 

 それを言った瞬間サーヴァントたちが怖いくらいに歪んだ笑みを浮かべた気がしたけど、きっと気のせいです。俺は何も見てないのです。

 

 

 




これ以降クエスト出撃の際のサーヴァントが固定になってしまった主人公


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どれ、私が手を貸してやろうかネ

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 走る。

 

「こんなカルデアに召喚されるなんて、私もついてないなぁ……!」

 

 走る。

 

「……ふぅっ、ようやく着いた。腰が痛い」

 

 走り続け──到着したのは、今まで一度も訪れたことの無かった部屋だ。

 ドアの横にある札に『サポート転送室』という文字が記されてるそこは、ここまで全力で走ってきた()の現マスター・藤丸立香が最も嫌っている部屋である。

 

 多くの別れを。一方的な追放を嫌という程繰り返してきた藤丸立香にとって、この部屋は二度と訪れたくない拷問部屋だ。

 初めてサーヴァントを──ランサー、アルトリア・ペンドラゴンを追放したあの日から、彼は追放以外でこの部屋に来ることはなかった。

 なぜなら彼は新宿で出会った白髪のアーチャーから『真実』を聞いたその時から、他カルデアへのサポート、その一切を断ち切っていたからだ。

 

 二度と()のサーヴァントは誰にも渡さない──そう心に誓ってサポート欄を全て空白にし、ほとんどのフレンドを解除した。

 そんな藤丸の健闘も虚しく、契約した数多のサーヴァントたちはその手から零れていってしまったが。

 

 とにかく、積み上げてきた努力も信頼も何もかもを奪った原因であるこの部屋へ、藤丸立香は絶対に足を踏み入れたくはなかった。

 

 

 ──しかしそのような事、藤丸のサーヴァントである()()()()()()()には関係のない話だ。

 

「ふむ。このコフィンの中に入り、外側のボタンを押せば転送するわけか」

 

 

「──待ってくださいッ!」

 

 

 アーチャーが荷物と共にコフィンの中へ入ろうとしたその瞬間、張り裂けるような叫びと共に転送室のドアが音を立てて開かれた。

 

 肩で呼吸をしながら、血走った瞳でアーチャーを見るその人物は──

 

「おや、シールダー君ではないか。こんな所までわざわざご苦労だネ」

 

「一体……! 何をするつもりですか……!」

 

 シールダー・マシュ。

 マシュ・キリエライト。

 

 数多の並行世界に存在するマシュ・キリエライトの中で、それこそ星の数ほど存在する『もしも』の中で、カルデア職員を──人間を明確な殺意をもって惨殺した()()()マシュ・キリエライト。

 藤丸立香(マスター)の手から零れ落ちるマシュは数あれど、そこから心を壊して狂人になったただ一人の少女だ。

 

「何って……見て分からんかね? わざわざこの部屋に訪れて──やる事など一つしかないだろうに」

 

 そんな彼女をからかうように軽い調子で返事をしたアーチャーは手に持った杖の先をマシュに向けた。

 アーチャーの持つその杖は仕込み銃であり、引き金を引けばサーヴァントにもダメージを与えられる代物だ。

 

 しかし、それを知っていても尚マシュは怯まない。

 

「いいえ! いいえ、いいえ! 駄目です! 許可できません! 一切ッ!」

 

「君の許可など必要ないように思うが……」

 

 アーチャーは苦笑する。

 大切なものを失わない為に必死になって追い縋ろうとする少女の姿はとても儚く美しい……と、普段ならそう思うのだろうが、数刻前の惨状を知っているアーチャーの目には、今のマシュは何とも惨めで哀れにしか映らない。

 

 目の前のマシュは血(まみ)れだ。

 自分の血と返り血で真っ赤に染まっている彼女の姿は、怪物と言っても過言ではない。

 

 もはや人理を守ろうと奔走していたあの健気な少女はいない、気高き守護者(シールダー)であるマシュ・キリエライトはもう死んでしまったのだろう──そう察したアーチャーは杖の銃口の向きをマシュからその隣にある制御装置へと変えた。

 

「流石に私でも解るよ」

 

「なっ、何がですか!」

 

「今の君はきっとマスターには相応しくない。……なんて、ただでさえ胡散臭い私にすら言われてしまうのだから間違いないだろう」

 

「勝手な事を言わないでくださいッ! マスターは! 先輩はッ! 『またよろしく』って仰って下さったんです! 私をまたサーヴァントとして──」

 

「んー、果たしてそうかな?」

 

 心底気の抜けるようなアーチャーの声音を聞いて、マシュの言葉は止まってしまう。

 飄々とした雰囲気を崩さないアーチャーは、押し黙ってしまったマシュをその目で射抜いた。

 

「彼を脅していた様に見えたヨ。私にはね」

 

「………そ、そんなことは」

 

「そう否定しないでくれたまえ。あそこまでして彼を裏切ったならず者に、彼に対してまだ誠意があるだなんて悪いジョークだ」

 

「この身は! この身はマスターと共に……っ!」

 

「共にないだろう。あれば彼の心を必要以上に傷つけたりはしない筈だよねぇ」

 

 責めるような口調ではなく、敢えて明るい声音で語るアーチャー。

 

「失態どころの話ではない……っと、いけないな。こんなにも虫唾が走る様なセリフを喋ってしまうなんて、私も相当イカレてしまったらしい。まさか自分の事を棚に上げた発言をしてしまうとは……あぁ。まいった、私の負けだ。所詮は私もこの狂ったカルデアの一員だった、というわけか」

 

「……そんなの」

 

 肩を竦めて小さく笑うアーチャー。

 そんな()に向かってマシュは叫びを挙げる。

 

「そんなのどうだっていいんです! 先輩をッ! 先輩を返してくださいッ!!」

 

 アーチャーのいるコフィンへ向かって駆け出すマシュ。

 彼女の行動を見てアーチャーは溜め息一つ。

 

 

「返すわけにはいかないねぇ。だってマスター君、このカルデアにいたら死んでしまうよ。マスターの命を最優先に考えるのがサーヴァントなのではないかネ?」

 

 

 のち、引き金を引いた。

 

 

 銃口から発射された銃弾が転送装置の起動スイッチを掠めると同時に、アーチャーは荷物(マスター)を背負ってコフィンの中へ入る。

 

「やめてっ、まって、せんぱいをつれて、いかないで──」

 

 血涙を流しながらマシュはコフィンに手を伸ばしたが、もう遅い。

 

 転送は始まってしまった。

 

 

「さようなら、マシュ・キリエライト」

 

 

 さようなら、狂ったカルデア。

 

 

 

 

 

 

★  ★  ★  ★  ★

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ」

 

 意識が覚醒した時。

 まずは薄らと瞼を上げる。

 

「……っ?」

 

 視界がボヤけてよく見えない。

 右手の甲で目を擦り、改めて目の前を確認する。

 

「…………マシュ?」

 

「あっ、目を覚まされましたか?」

 

「……えっ」

 

 藤丸立香は見慣れた少女に声を掛けられてようやく、自分の現在の状況を把握した。

 ベッドだ。自分はベッドの上で、上半身に軽い掛布団をかけられて寝そべっているのだ。

 

「───マシュっ!?」

 

 そして藤丸は脳に深く刻み込まれた彼女への恐怖を思い出し、反射的にのけ反ってしまう。

 結果、バランスを崩した彼はベッドから転げ落ち、見事に背中を硬い床に叩きつけてしまったのだった。

 

「い゛っ! ……い、いてて……!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 目覚めてから急に驚いてベッドから転落した彼を心配して駆け寄るマシュ。

 そんな彼女を見て藤丸は少しだけ違和感を覚えた。

 

「目覚めたばかりで気が動転しているのですね……これ、お水どうぞ」

 

「……ぁ、」

 

 記憶の中では自分に激しい執着を見せ、凶行にまで走った彼女からは考えられない、労わる様な優しい声音。

 思わず『ありがとう』を言葉にできないままマシュから水の入ったペットボトルを受け取ると、彼女は立ち上がって部屋のドアを開けた。

 

「目を覚まされたので、とりあえず私は先輩を──あっ、いえっ、マスターを呼んできますね! すぐに戻ります!」

 

「…………ぅ、うん」

 

「はいっ。では!」

 

 元気のいいマシュは部屋を後にし、カツカツと足音を立ててどこか別の場所へと向かっていった。

 部屋にはただ一人、呆然としたままペットボトルを握った藤丸だけが取り残されている。 

 

 

「……どう、なってるんだ」

 

 

 まるで自分の置かれた状況が理解できない藤丸は小さく呟き、脱力するようにベッドへ腰を下ろした。

 ペットボトルの水を喉に流し込み、ふと部屋を見渡してみれば──そこには既視感が。

 

(ここ、マイルームか……?)

 

 簡素な造りながらも自室としての体裁は保っているシンプルな内装。

 とても見覚えのある部屋だ。あんなに長く時を過ごした自室を忘れるはずもない。

 些か見覚えのない写真立てや私物などが散見されるものの、全体的には藤丸が過ごしていたあの部屋で間違いない。

 

 

「おやおやマスター、お目覚めかな」

 

 

 周囲を注意深く見渡していると、部屋のドアが開かれると同時に聞き慣れた声が耳に響いた。

 ドアの方へ視線を動かせば──そこにいたのは新宿のアーチャーことジェームズ・モリアーティ教授だ。

 

 散々自分を裏切ってきたサーヴァントたちの中で様子が変わらなかった唯一の存在である。

 

(……そうだ、教授は)

 

 彼は召喚時から追放時期まで徹頭徹尾、ブレることなく藤丸立香を嫌っていた。

 そりが合わない、どうしても意見が食い違う、互いに心を開かない。

 二人が二人を信頼せず、また絆を深めなかったからこそ、彼らは今こうしてここにいる。

 

「……他の、カルデアの皆は」

 

「意外だな。聞きたいのかね」

 

「……うん。俺、腐ってもマスターだから」

 

「そうか。ならば教えよう。そして端的に結論だけを述べよう」

 

 こほん、と咳払いをしたジェームズは藤丸のいるベッドの前に置かれた椅子に座り、淡々と事実だけを告げた。

 

 

「おそらく全滅だ。我々二人以外は全員」

 

 

 その言葉を聞いた藤丸は一瞬、息が止まった。

 

 ──しかし、程なくして彼は平静を取り戻す。

 

「……そっか」

 

「うむ。この場所も君が残していた唯一のフレンドである()()()()のカルデアだ。外見の似た人間はそこそこいるだろうが、皆キミとは赤の他人だという事は忘れずにね」

 

「うん、わかってる。一人で俺をここまで連れてきてくれたんだろ? ありがとう教授」

 

「ま、君のサーヴァントだからネ。当然と言えば当然さ」

 

 お互い、どこか一定の距離感を持って接している。今までもずっとそうだった。

 だが今は少しだけ、ほんの少しだけ近くなったような、そんな気がする。

 

 

「……さて教授。全滅とは聞いたけど、さっき質問したように俺は記憶が混濁してるみたいなんだ。今回の事、また一から説明してくれるかな」

 

「それは構わないが……面倒だからこの際隠していた事も全て言うよ? 怒らないでくれたまえよ?」

 

「うーん、どうかな。自害せよアーチャー、とかついやっちゃうかも」

 

「勘弁してくれ……」

 

「冗談だよ。……あははっ」

 

 誰かに冗談を言ったのはいつぶりだろうか。

 果たして他の並行世界に、自分の罪を簡単に明かしてしまうジェームズ・モリアーティはいるのだろうか。

 

 二人の主従は互いにそんなくだらない事を考えつつ、まるで雑談の様に自分たちのカルデアについて振り返っていった。

 

 

 

 ある日、一人のサーヴァントが変貌した。

 まるで英雄にあり得るはずもない『性快楽への堕落』という精神汚染を受け、抗う間も無いままマスターを裏切った。

 

 そしてソレは他のサーヴァント──ひいてはカルデア全体へと拡散した。

 厳密には『性快楽への堕落』ではなく『感情の歪曲』。ある者は前述のとおり性に溺れ、ある者は自ら命を断ち、ある者は依存の対象をマスターから他のマスターへと入れ替えては戻してを繰り返す。

 

 事態は明らかに何者かの仕業だったが、それを察したところで藤丸のカルデアに事態を収束させるだけの力は既に残っていなかった。

 

 

 故にジェームズは延命措置を図った。マスターに危害を加える可能性を孕んでいる、既に精神汚染が進んでいるサーヴァント達を唆し、他カルデアや微小な特異点へと送り込んだ。

 

 正気を失っている彼らは狙い通り一線を越え、マスターの逆鱗に触れ、彼に永久追放をされてカルデアを去った。それで少しはマスターの危険も減った筈だった。

 

 しかし、誤算が。

 精神を病んだ彼らは理性(リミッター)というものが存在せず、カルデアに帰還することなど本気を出せば造作もなかったのだ。

 

 戻ってきたサーヴァント達は一見するとマスターに再び忠誠を誓ったようにも見受けられたが、所詮は一時的な感情の動きに過ぎない。

 

 程なくして彼らは行き場を失った感情を爆発させ、暴走を始めた。

 敵も味方も関係なく殺し、ただ自分一人が藤丸の傍にいるために戦い、彼を奪い合う。彼らにとってマスターこそが最後の心の拠り所だったから。

 

 

 だがそんな狂気に染まったカルデアに残っていては、いずれ藤丸は確実に命を落とす。その証拠に彼は戦いに巻き込まれて記憶が飛ぶほどの攻撃にも被弾した。

 

 故にジェームズは藤丸の安全の為、彼を連れてこのカルデアへと避難したのだ。

 

 藤丸が唯一残していたフレンド──あらゆる面で『正解の道』を辿っている()()()藤丸立香が存在するこのノウムカルデアに。

 

 

「あー! 本当に起きてる!」

 

 丁度二人が話し終えた辺りで、マイルームのドアが再び開かれた。

 部屋に入ってきたのはマシュともう一人。

 

 赤が濃いオレンジ色の髪の毛をした、セミショートヘアの少女。

 シュシュで結んだ一房の髪を揺らしながら、彼女──『藤丸立香』はその場を駆け出し、ベッドに腰掛けている藤丸に正面から抱きついた。

 

「藤丸くんっ!」

 

「うわっ。ちょ、立香ちゃん……?」

 

 突然の抱擁に驚く藤丸。

 構わず、立香は抱擁の手を緩めない。

 

「よかった……本当にっ、本当に無事でよかった……!」

 

「……ごめん。ありがとう」

 

 もう一人の自分ともいえる存在に抱きしめられ、自然と藤丸は顔が綻んでいった。彼のこの感情を人は『安心』と呼ぶ。

 マスター二人の、この二人にしか理解できない心境を汲み取り、マシュもジェームズも言葉は発さない。ただ静かにその二人を見守っている。

 

 人理修復に乗り出した頃から、そんな新米マスターだった頃から交流のある立香と藤丸。

 今までは携帯端末の画面越しでの会話しかしていなかったにも拘わらず、二人は友人──親友とも呼べる程に近かった。故に、今のこの場で初めて直接会ったことにもさほど緊張はしていない。

 

「ずっと、ずっと辛かったでしょ? なのに私っ、自分の事だけで精一杯で。なんて言ったらいいか……」

 

「謝らないで。立香ちゃんは何も悪くないし、こうして匿ってくれただけでも……本当に、言葉じゃ表せないくらい感謝してるんだ」

 

「……藤丸くん」

 

 優しい声音で立香を宥めた藤丸はそっと彼女との抱擁をやめ、肩に手を置いて正面から向き合う。

 その真剣な眼差しで、立香の目をしっかりと見つめたまま、彼は言うべき言葉をハッキリ言った。

 

「俺、こんな俺をカルデアに受け入れてくれた君の……立香ちゃんの力になりたいんだ」

 

「ふぇっ」

 

「自分の世界から逃げてきた臆病者だけど……それでも、俺に出来る事をやらせてほしい。何でも言ってくれ。魔術はロクにできないけどガンドなら当てるの上手いし、なんなら教授もコキ使ってくれて構わないから」

 

「ちょーっとちょっとマスターくん? 流石に少しサーヴァント使い荒くない? 私ほんとに死ぬ思いでここまで君を連れてきたんですけど! 休暇くらい欲しいんですけど!」

 

 藤丸とジェームズがあーだーこーだ言い合っている最中、マシュは視線を彼らから自らのマスターである立香の方へと動かした。

 

 視線の先で、藤丸の隣でベッドに座っている立香は……少しだけ顔が赤くなっている。

 

「……うぅ~」

 

(せ、先輩……!?)

 

 どんな紳士的なサーヴァントに優しくされようと、顔面偏差値が暴力の域に達している『顔がいい』サーヴァントに言い寄られても、全く靡かず気丈に振る舞い、それどころか笑って対応していたあの立香とは思えない──見たことのない反応を見て、後輩デミサーヴァントは胸が高鳴った。

 

(先輩もそういう感情がしっかりあったんですね……! よかった……!)

 

 この世界のマシュは立香に恋焦がれているわけではなく健全な信頼関係で成り立っているためか、彼女が抱いた感情は嫉妬ではなく関心、いや感動。もはや保護者的な目線であった。

 

 

「と、とにかくっ!」

 

 揺れる感情を切り替えるように声を出し、ベッドから立ち上がる立香。

 そしてパンパンと両手で頬を軽く叩いて表情を真剣なものに切り替え、隣にいる藤丸へと向き合った。

 この切り替えの早さ、場の弁えこそ立香が藤丸立香たる所以なのかもしれない。

 

「……藤丸くんのカルデアは、私たちの世界にも影響が出る程の『特異点』になってる。これを放っておくわけにはいかない」

 

 そう言いながら立香はマシュに渡された端末を藤丸に渡した。

 端末を受け取った藤丸は画面をスライドしていき、自分のいた世界が今どうなっているのかを理解し、顔を強張らせる。

 

「さっき藤丸くんは力になってくれるって言ったよね」

 

「うん」

 

「なら──特異点修復、一緒に来てくれる?」

 

 手を差し伸べる立香。

 深呼吸をし──すぐさまその手を取り立ち上がる藤丸。

 

「もちろんだよ。こちらこそ……俺の仲間たちを眠らせるために、協力してほしい。お願いします」

 

「……うんっ! 一緒にがんばろ!」

 

 明るい笑みで返答してくれた立香に釣られて、藤丸も自然と笑った。

 その様子を見て、二人のサーヴァントもホッと息をついたのだった。

 

 

 あらゆる並行世界で唯一マスターが二人存在するカルデア──彼らが次に向かう先は、愛と憎悪にまみれて破綻した別世界のカルデア。

 

 自らが元居た世界を特異点として修復するという事実を目の当たりにして、ジェームズはふと思った。

 

(どこで間違えたのか……遠い場所の話だと考えていたが、どうやら私たちの世界も『もしも』になってしまったようだな)

 

 溜め息を吐いた。狂気に染まったあの世界に敗北した自分の宿敵も、せめてこの手で葬ってやろう。

 そしてマスターを陥れた黒幕も必ず暴いてみせる──なんて、ついに自分まで探偵ごっこを始める事になってしまった事実に辟易しつつ、ジェームズは自らのマスターに付き従うのだった。

 

 

 




【亜種並行世界Ⅱ:感情歪曲城塞 カルデア】

 シリアス寄りのイベント。いろんな場所で闇堕ちした鯖と戦ったりする。
 ラスボスは別世界のマシュ。真ボスは見たことない新キャラ。神格寄りの鯖の精神汚染もできるので多分だいぶヤベーやつ。
 クリアすると配布で『藤丸&ジェームズ』が貰える。アンメア的な二人で一人の鯖。


ジェームズ・モリアーティ:(マスター藤丸)

 藤丸のことは好きではなかったものの、無関心に近い方の嫌いだったので歪曲してもあんまり変わらず。むしろ感情が反転した分少しだけ距離が縮んだ。少しだけ。
 立香世界のほだされてる自分を見てちょっと呆れた。あとバーの弟子入りした。

藤丸立香:(歪曲世界)

 他世界の主人公に比べて少し精神が弱い。歪曲事件のせいでメンタルボロボロ。
 でも本気出せば『藤丸立香に出来ること』はやれるので腐っても藤丸立香。
 ジェームズ以外のサーヴァントとはもう契約しないと決めた。

藤丸立香:(正規世界)

 要するに皆がプレイしてるFGOに近い世界線のマスター。
 健全オブ健全なので鯖が寝取られたりとかはしない。ヤンデレ要素は溶岩水泳部が頑張ってる。
 実は藤丸の方が少し先輩なので最初はこっちが頼る方だった。

 チョロイので大分初期の頃から藤丸が好き。
 


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