黄金郷 (麻咲代)
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いち

最近見て面白かったので
リハビリのつもりで書いていきます。
訳あってスマホ執筆なので見苦しかったらごめんなさい。


DMMORPG「ユグドラシル」

 

かつて多くの人間がプレイしていたゲームだが数多のネットゲームが辿った様に衰退は止められない。

しかしながら一定数のプレイヤーもおり細々とサービスを提供し続ける事が出来ていた。

のちに運営のインタビューで判明する事になるが、ある事件によりサービス終了は決定的になったのだ。

 

それはたった「一人」のプレイヤーの引退である。

 

そのプレイヤーはある記録でゲーム内No.1の記録を誇っていた。

 

それは

 

『課金額』

 

である。

 

このプレイヤーが引退したというのは語弊がある。

課金アイテムをゲーム内にて手に入れる為には確率でレアアイテムが手に入る所謂「ガチャ」

便利アイテムが確定で手に入る「パッケージ」基本的にこの二種類である。

そしてこのガチャにて激レアアイテムが当選すると全プレイヤーのシステムログに通知が来る仕様となっている。

 

異変があったのは半年前…新しいガチャの商品が追加され、多くの課金者達が挑戦し一喜一憂していた。

そしていつもの如くそのプレイヤーのアイテム獲得ログ通知で溢れかえるだろうと他のプレイヤー達はもはや恒例行事になったログを確認するが、そのプレイヤーの名前は無く幸運に恵まれたプレイヤーのログがポツリポツリとあるだけであった。

 

初めての事だったが、たまたまその日に用事でもあったのかと思ったがログが流れる事は今現在無く、世間は引退したのかと話題になっていた。

そして次第に激レアアイテムの獲得ログも少なくなっていった。

 

しかし、システムログの寂しさと比例する様にその引退プレイヤーが設立したギルド。

『エル・ドラード』

そのギルド拠点がゲーム内の何処かに残っているのではないかという都市伝説によりギルド内の財産を奪取するためゲームは一時賑わいを見せた。

 

 

それからほどなくしてユグドラシルのサービス終了が決定したが遂にギルド拠点を見つかる事は無かった。

 

今となってはそのプレイヤーが引退したのかの真偽も分からない。

そもそもそのプレイヤーをログ以外で見たことあるプレイヤーはいないという噂もあり、それこそその桁違いの課金額から運営が用意したアカウントだったのでは無いかという説まで出ていた。

 

 

そして、サービス終了日当日。

 

木で建てられた小さな小屋。

その中のは沢山のアイテムが棚に並べられていた。

そしてカウンターにレジスター。

それは商店の様に見えた。

カウンター奥に扉がありまだ部屋がありそうだ。

そのカウンターの前には執事服に身を包んだ美男子が微動だにせず立っていた。

 

そしてカウンター奥の扉が開き一人人間の少女が顔を出した。

ゴシック調な赤と黒のドレスで大きなリボンのついたカチューシャを頭に着けている。

年の頃は15歳位であろうか、格好と相まってどこかの御令嬢の様に見える。

 

その少女はアイテムが並んだ棚を見て悲しそうにため息をついた。

 

カウンターにいる男はそんな少女を一瞥もせずただただ置物の様に立っていた。

また、彼女もその男を気にした様子もなく扉から外へ出て行くのであった。

 

外に飛び出した少女は大きな地図を広げて複数の箇所に丸を付けて両手を突きだした。

 

《多元遠隔視》[マルチプル・リモート・ビューイング]

 

少女が呟くと姿見が複数目の前に現れたが、彼女の姿を写すことはない。

別の風景が映し出されていた。

彼女が姿見の風景を確認すると持っていた地図に一つバツをつける。

すると姿見が一つ割れ消えていく。

その作業を何回か続けていると彼女は急に喋りだした。

 

「だから、行かないって言ってる」

 

「でも、今日がラストチャンスだもん」

 

「最後まで探す、先にログアウトしてて」

 

まるで見えない人物と会話する様に一人で呟く少女。

そしてまた、新しく地図に丸をつけて鏡を出す。

その作業を延々と続けているのであった。

 

数時間同じ作業を続ける少女。

そして、丸だらけになった地図も空いているスペースも後僅かとなっていた。

緊張した面持ちになっていた彼女は一息ついて姿見を覗きこんだ。

 

風景に映り込んだ木々が揺れている。

一瞬何かが光を反射した。

すぐさま彼女が手を動かすと反射した物体が拡大された。

 

「あった!」

 

彼女は嬉しそうに叫ぶと続けて声を発した。

 

《転移門》「ゲート」

 

すると少女の姿は先程まで見ていた姿見の中の風景となっていた。

彼女は先程のに反射の正体を見上げた。

見上げた木には、黄金の輝きを放つリンゴが生っていた。

そして時計を確認すると焦るように木の下を掘り返し出した。

 

そこにはアルミの様な金属で出来た四角い缶。

その中には1枚の紙が入っていた。

少女は唾を飲み込むとその紙に触れた。

 

〈ギルド武器:権利書が(プレイヤー名:ゾエ)へ譲渡されました〉

 

〈ギルド:エル・ドラードが(プレイヤー名:ゾエ)へ譲渡されました〉

 

少女は歓喜の涙を浮かべながら《転移門》の魔法を唱えた。

 

 




独り言あんまり言わない系女子です。
三人称が多くなると思います。


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にい

変なところがありましたら教えて頂けると嬉しいです。
投稿文字数は徐々に増やせたらなと思います。


ドレス姿の少女、ゾエが転移した先には目が眩む様な黄金の輝きを放つ巨大なドラゴンがいた。

そしてその後ろには黄金の柩が並んでいた。

ふと足元を見ると金貨が隙間なくばらまかれておりドラゴンがいることも忘れ、ゾエは幸せそうな顔で金貨を抱えては山を作り飛び込み遊んでいた。

 

ひとしきり遊んだゾエはドラゴンに近づいた。

どうやらゾエを攻撃する意志は無さそうである。

ゾエはどこからか半透明な板を取り出し眺めだした。

 

 

え、なにこのドラゴン。

ガチャ産の激レアモンスターなのは分かるけど《星に願いを》ですごい事になっているんだけど。

 

《星に願いを》とは

経験値を犠牲にして色々な効果発生する。

色々な効果もランダム要素があり必ずしも望んだ効果が選べるわけではない。

 

各種能力向上は勿論、死亡時即時完全復活重ね掛け等々…

一体何回使ったの?

しかもチラッと見えてる柩の中にその《星に願いを》をペナルティ無しで三回発動できる

[流れ星の指輪]が山の様に積んであるんですけど!

これ全部私のものってこと?笑いが止まらないね!

 

ギルド資産は…

金貨がいち、じゅう、ひゃく、…数えきれないよ。

装備がいっぱい…しかも全部神器級!

アイテムも課金アイテムから高額アイテムまでいっぱい!

コンソールでギルドの財産を確認しながらニヤニヤしているゾエであった。

 

しかし、現実は残酷である。

沢山の財宝もあと数十分で全て意味の無い物になる。

サービス終了時刻が近付いて来ているのである。

 

そんな中ゾエがコンソールを操作すると二人の人間の男女が目の前に姿を現した。

片方は小屋のカウンター前にいた男性であった。

 

 

私の今まで稼いだ少ない資源で作ったNPC…

最後だからもっと強くしてあげようかな幸いこのギルドの資源は殆ど無限といっても過言ではない。

 

男性NPC名前はリテュ…戦闘特化型の執事だ、でも最近はずっと店番させてごめんね。

 

女性NPC名前はキュレー…支援特化型のメイドさん、母性の塊!

 

鼻歌混じりに色々弄っていたがふと時計を見るともうすぐこの世界ともお別れのようだ。

 

…嫌だよー!せっかくこの世界で一番お金持ちになったのに!

私のお金ー!

そう思いながら半泣きのゾエは金貨の詰まった柩に入り埋もれた。

 

金貨と共に最後を迎えてやる!

 

ゾエは金貨に埋もれながら眠りについた。

 

 

「…様、お嬢様」

 

誰かの呼ぶ声がする…

昨日はゲームの中だけどお金に埋もれて嬉しかったなあ

 

「えへへ、もう金貨は齧れないよう」

 

ふと目が覚めると目の前にはイケメンが居た。

 

「誰!?ここ何処!?わあ!金貨!」

 

目の前のイケメンより金貨に無様に反応してしまった!

ってこのイケメン…

 

「もしかして…リテュ?」

 

そう尋ねると目の前のイケメンはにっこり笑いながら

 

「はい…リテュです、お嬢様」

 

と返事をした。

私が訳が分からす混乱していると背後から、柔らかな声が聞こえてきた。

 

「あら~ゾエちゃん、起きたのね!」

 

そう言ってご飯の支度しなくちゃーと動き回っているのはキュレーである。

 

NPCが喋って勝手に動いている?まだ夢の中?

ゲームの中に入っちゃったなんてかなり昔に流行った創作じゃないんだから…

でも心配そうに見つめてくるリテュや動き回るキュレーがNPC離れしている動きを見ていると。

 

「夢…じゃないよね?」

 

とりあえず、柩から出ようとすると目の前に巨大な黄金のドラゴンがいた。

 

「ワレ、ファフニール、ザイホウマモルモノ」

 

このドラゴンも喋った!攻撃の意志はなさそうだけどもし夢じゃないならこんなドラゴンに襲われたらすぐ死んじゃう!

 

「あなたは私の何?」

 

もし、ゲームのままなら大丈夫だと思うけど一応確認しなきゃ

 

「オマエ、キノウカラアルジ」

 

良かったー、どうやらここのギルドマスターの権利は有効の様だ。

 

改めて辺りを見回すと財宝があるここはどうやら神殿のような作りの様だ。

かなり大きな空間で大きな扉、高い天井。

後ろにある宝物が詰まった柩の前にファフニールが鎮座している。

床は金貨だらけ…後ろ側には小さな扉がいくつかあり、その一つからご飯出来ましたーというキュレーの声が聞こえる。

 

とりあえず、リテュに行こっと告げてその部屋へ向かった。

 

小部屋にはキッチンとテーブルがあり朝食が三食並べられていた。

どうやらオムレツのようだが黄金色に輝いている。

きっと高級食材…

 

味も匂いも食感も感じる…

まるでゲームの世界が現実となった様だリテュとキュレーも一緒に食べながら現状について確認してみる。

 

「二人は昨日から何か変わったことは無い?」

 

二人は嬉しそうな顔をしながら私がエル・ドラードを発見して支配下に入れた事と答えた。

 

どうやらこの状況、NPCには異常事態ではないらしい。

サービス終了と同時にNPCが自我を持ち、ゲーム内が現実になったのだろうか。

 

食事も終わりキュレーが後片付けをしているのをボンヤリ眺めていると、扉の向こう…ドラゴンがいる大広間…財宝の間と呼ぼう…が騒がしくなっていた。

 

扉を開けてみると、そこには黄金の鎧を身に纏った人間達がいた。

ゾエの方に気が付くと一斉に膝を付きその内の一人が

 

「我らが姫!この度はギルドマスター襲名おめでとうございます!」

 

説明によるとこの人達はギルドの守護NPCらしかった。

NPCまで神器級の装備を整えているなんて贅沢なお金の使い方…

 

「姫!それで外を見回りしたのですが、我らが街エル・ドラードが無くなっているのです!」

 

また違う騎士が焦った様に衝撃的な報告をしてきた。

街?無くなる?何を言っているんだろう。

 

説明を聞くと昨日までは外には黄金の街(エル・ドラード)があり本日0時(サービス終了時)より外の街が消失している様なのであった。

もっと良く聞くとギルド拠点は今この場所の黄金宮のみで外の街は前ギルドマスターが後から発展させたのだとか…

街の外の景色も砂漠から平野になっているとのこと

 

「つまり、ギルド拠点だけ何処かに転移したか可能性がある?」

 

まあ、昨日《転移門》で拠点へ直接飛んだので元々何処にエル・ドラードがあるか把握してなかったけどね…

ギルド拠点が何処かに転移してゲームは終わらず現実世界に!

 

冒険の予感!ワクワクしてきた!

 




詳しい種族、職業Lvは省きますが登場人物紹介

ゾエ…人間、Lv77
スカウト系の職業
見た目15才位の女の子。
お金が大好き。
本人は麗しの令嬢のつもり
冒険が大好きでユグドラシル時代は宝探しに没頭し
モンスター退治が好きでは無かった。
ずっと辺境の地で宝探しをしていたせいか、PK等対人戦の知識は皆無。
実はワールドアイテムを所有している。

リテュ…人間、Lv100
戦士系の職業
ゾエの作ったNPC
イケメン執事さん。
ゾエが苦手な戦闘を請け負う。
ゾエの事は手間の掛かる妹の様に見ている。

キュレー…人間、Lv100
神官系の職業
ゾエの作ったNPC
癒し系美人メイドさん。
支援、治癒魔法に特化している。
ゾエの事は可愛い娘の様に見ている。

ファフニール…竜種、Lv100
課金ガチャの黄金に輝く激レアドラゴン。
前ギルドマスターにより作られた
課金アイテム、ワールドアイテムにより
もはや不滅の存在となっている
しかし、黄金宮から出る事が出来ない。

黄金の騎士団…人間、Lv100
前ギルドマスターにより作られた
エル・ドラードの守護NPC
総勢10人で各々が神器級の装備を身に付けている。


廃課金やばいですね
詳細は固まり次第後々と


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さん

木が生い茂る森の中、一人の少女ゾエがキョロキョロ辺りを見渡しながら歩いていた。

普段のドレス姿ではなく、皮で出来た胸当てにマント麻の様な素材で出来たスカート姿と冒険者の様な格好をしていた。

冒険は形から入るのだと宮殿で力説したのだとか。

 

約5時間ここまで遠巻きに動物は見たが、魔物の姿は見掛けていない。

人の姿もない、しかし時折整備された様な道を見かけることから文明はありそうだ。

 

ここがユグドラシルの中なのであればモンスターや他のプレイヤーが要るはずである。

しかし黄金宮の所在地が自分でも分からないためどこか辺境の地なのかもしれない。

フライの魔法やリモート・ビューイングの魔法で辺りを確認すれば早いのだが、ゾエはそれを許さない。

せっかく五感で冒険を感じれるのだ、自分の足で歩いて探索したい。

リュテやキュレーはまたかと呆れていたが、騎士団を説得するのは骨が折れた。

ここがユグドラシルであれば絶対に死なない身である。

そう強く証明すれば渋々納得はしてくれた。

 

レベルが大きく劣る身で有りながら、騎士団の攻撃を無傷でやり過ごしたのだ。

 

このアイテムがあって良かった。

ちゃんとこっちでも発動した…。

 

そう思いながらその首飾りを撫でる。

 

そろそろ空腹を感じてきた。

こんな世界に来たが冒険している実感として嬉しく感じてしまう。

次お腹が鳴ったらご飯にしよう、そう思いながら歩いていると前方の光が濃くなってきた。

森を抜けたかなと目を凝らすと木々が開けた先に洞窟が見えた。

 

初のダンジョン!お宝はあるかなあ

スキップしながら洞窟に向かう、中は通路状に続いており疎らにランタンが置いてある。

何者かの縄張りの様だモンスターなのかNPCなのかプレイヤーなのか。

何が出てくるのかワクワクする瞬間だ。

ユグドラシルはワールドが広くまだ行ったこと無い場所が多くて嬉しい。

 

入り口より数メートルはいると急に気配がした。

何かがこちらに歩いて来ている様だ、咄嗟に腰に差した短剣に触れる。

 

「なんだ?嬢ちゃん、こんなとこに来ちゃあいけねぇなあ」

 

現れたのは皮の鎧に毛皮のコートを身に付けた30台位の見た目の大男の人間。

いかにもな悪人面だが表情は穏やかだ。

こっちに来て初めて接触した者がとりあえず意思疎通出来そうでほっとした。

 

「おじさん、誰?ここどこ?なにしてるの?」

 

逸る気持ちで矢継ぎ早に質問してしまった。

自分の悪い部分が出てちょっと沈んだ気分になっているとおじさんは快活に答えた。

 

「俺はガイン、見てくれ通りの野盗だ!そんで此処はそんな荒くれ共の溜まり場よ」

 

「まあ表向きは傭兵団ってことになってるがよ」

 

そう続けてガハハと豪快に笑いながら答えた。

 

ゲームの世界だとNPCかプレイヤーの区別がつかないよ、人間の様だけど。

面倒だから一回ゲームかどうかなんておいといてこの素晴らしい世界を楽しもう。

 

「嬢ちゃんはどうしたんだ?見た感じ冒険者なのか?」

 

ガインはそう質問してきた、冒険者という概念があるようだ。

 

「そうそう!冒険中にこの洞窟を見つけて何かなーって」

 

エヘヘと誤魔化すように笑いながら答えた。

実際間違っては居ないのだが目の前の怖い顔に若干緊張してしまった。

 

その時、子犬が唸る様な音でゾエのお腹が空腹を訴えた。

 

「なんだ腹減ったのか?付いてきな、飯食わしてやる」

 

ガインは豪快に笑いながら付いてくる様に促すと元来た道、洞窟の奥へ戻っていく。

 

ゾエはちょっと悩んだ後恥ずかしそうに顔を赤くしながらガインの後に続いた。

 

 

多くのむさ苦く柄の悪い輩がその洞窟内にいた。

この空間だけで20人は居るだろうか、皆思い思いに酒を飲んだり語らったりしている。

 

その中の一人、大男が多い中細身の男がいた。

細い体だが良く鍛えられているのが素人目にも分かる。

髪はくすんだ青色で乱雑に四方に伸び、無精髭が生えている。

目付きは鋭く、恐ろしく怖い顔の集団の中では優男風な顔付きをしていた。

そんな男は周囲の騒音も気にせず洞窟の隅にある岩に腰掛け、刀の手入れを行っている。

 

彼の名はブレイン・アングラウス

かつては不敗を誇っていた剣の天才である。

 

俺がこの野盗紛いの傭兵団「死を撒く剣団」に入ってどの位になったろうか。

アイツに敗れて自分の器を知り、それでも諦めきれずに研鑽を続け武者修行に明け暮れた。

そんな時、実入りも良く実戦も経験出来るならと入団したが最近は商人を襲ったり、魔物と小競り合いしたりと余り満たされる事もない。

用心棒的な扱いも悪くは無いがこのままでは腑抜けになってしまいそうだ。

次の戦争で現状が変わらなければそろそろ潮時かな。

そう考えながら磨き上がった刀を鞘に戻すと、先程出ていったと思ったガインの奴が戻って来た。

 

後ろに小娘を連れて。

 

その小娘は冒険者の様な格好はしているが、身なりは綺麗で汚れなく何処かの貴族の令嬢といった方が納得できた。

何故か団員達に歓迎され、今は皆に囲まれパンやスープ秘蔵の干し肉なんかを食わされていた。

今度は身代金でもふんだくるつもりか?

こんなところに来ちまったんだ、可哀想だがただでは帰れないだろう。

そう哀れみを向けてやるとふとその小娘と眼が合った。

 

すると小娘は立ち上がり、こちらへ向かって歩いてきた。

 

「こんにちは、おじさんが一番この中で強いの?」

 

隣に腰掛けた小娘がそう質問してきた。

あの中の誰かから吹き込まれたなと宴騒ぎの連中を一瞥して答えた。

 

「ブレインだ、この中というより王国で俺より強い奴は一人しか知らないな」

 

言った後に自分でも素直に答えたのに驚いた。

初対面の相手に自分の名前まで告げるとは、この生活で鈍ったかな。

明日よりもっと引き締めて鍛練しないとな。

 

「へえ、私はゾエ冒険者だよ」

 

よろしくねと差し出された手を握る。

だめだ、こいつはきっと誰にでも好かれる人間だ。

直感的にそう思った。

 

その後周辺の地理や町の話に世界の情勢、はたまた一般常識や身の上話までしてしまった。

不思議とこのゾエという冒険者には好意的に接してしまう。

 

「ブレインはさ、そのガゼフって人に勝ちたいの?」

 

「ああ、何がなんでも勝たなきゃならねえ。あれが自分の限界だと思いたくない」

 

聞かれて直ぐに答える程、アイツに勝ちたかった。

そのために今日まで努力してきたし、これからもするだろう。

なにがなんでも勝たなきゃ先に進めない気がしたからだ。

 

「そうだ!色々教えてくれたお礼にいいものあげるね」

 

そう言ったゾエは手の平大の小さな箱を渡してきた。

何だこれ、と開けようとしたしらゾエの小さな手に遮られた。

 

「開けちゃだめ、自分がもう限界だって時に開けて」

 

そしたらちょっと強くなった自分が見れるから、そうゾエは悪戯っぽく笑った。

 

それから程なくして街に向かうとゾエは洞窟を後にした。

 

「おまえら、絶好の獲物なのに誰も襲わないのか?」

 

見送った後にそう言ってやると皆一様に首を傾げた。

何故か悪意を向ける気にならなかったそうだ、俺もそれは同意するが。

 

限界になったら開けろか…。

この箱は開けたくねぇな。

 

 

この時のブレインは直に訪れる強烈な悪意によりあっさり箱を開ける事になるとは思っていなかった。




ゾエが接触することにより原作キャラ(人間側)の未来が変わります。


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