32番目の騎士 (ミアキス)
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第一章  本編アリシゼーション《人界編》
1話「アリシゼーション計画」


本作は二作目になります!至らない点も多いとは思いますが、どうぞ宜しくお願い致します!ご感想などお待ちしております!

主人公   菊岡誠也(きくおかせいや)

      性別      男    

血液型     O型    年齢  16

      

見た目     黒髪、茶眼、身長は170センチ、体重55キロ、整った顔立ち、キリト似。

     特徴   成績はそれ程良くはなく平均的だが基本的に身体能力は高く、スポーツ類ならなんでもそつなくこなす。
        
     備考 友人は多く高等学校の生徒会で、会長を務める程人望こそ厚いが、基本的には本人はどこか抜けているようなふんわりとした温厚な性格。(戦闘時を除く)
真面目であり、バカである(?)
 
     
【挿絵表示】



※サイト内SAO部門の年間評価28位でした。皆様本当にありがとうございます!

基本主人公視点です。ご了承ください。




  

 

 

 

     

あの日、僕(私)達は『禁忌目録』を犯した

 

 

 

 

 一夜明け、僕達はセントラル・カセドラルからやってきた『整合騎士』という一行に連行された。禁忌を犯したもう1人の少女と共に。

この世界の絶対的規則(ルール)を破った者に選ぶ権利など無い。

 

 

 「_リス、アリス!! セイヤ!! 」

 

 

連れ去られる僕達を必死の形相で追いかけてくる2人の少年がいる。

名はキリトとユージオ、悲しい時も、寂しい時も、辛い時も、楽しい時も、その喜怒哀楽を共有した大好きな幼なじみだ。

ふと自分の涙腺から涙が零れ落ちるのが分かった。

 

 

「もう、、良いよ、大丈夫だから」

 

 

 

必死に嗚咽を堪えてそう言葉を漏らす。

 

 

 

伸ばしたその手は___届かない。

 

 

 

 

どのくらい経ったのだろうか 重い瞼をあげるとそこは森の中だった。小鳥のさえずりが聞こえる。手足の感覚が戻り冷たい地面の感触がじんわりと伝わってくる。あたりには草木の匂いが漂っている。

 

_生きている。どうやら連行される際に乗っていた飛竜から落ちたらしい

幾らか天命は減少しているが、奇跡的に無事だったようだ。

 

 

何故か痛みは感じなかった。いや違う、感覚自体が消失したのだ。

 

 

 

「_セイヤ 」

 

 

 

誰がが《僕》を呼ぶ声がする、ゆっくりと身体を起こし辺りを見渡すも誰も居ない

 

 

 

 

 

 

《僕》を呼ぶのは誰だ?お前は誰だ?.,------あれ? 《俺》 何してたっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_オカ、おい!菊岡!! 」

 

 

俺は浅いまどろみから引き戻された

瞼を持ち上げると霞んだ視界が徐々に焦点を結んでいく。

何かどこか懐かしく、悲しい夢を見ていた気がする。

 

 

「菊岡、お前いつまで寝てんだよ? 」

 

 

伏せていた机から身体を起こすと、紺色のブレザーに赤いチェックの入ったネクタイ付きの学校指定の制服を着ている同じクラスメイトである城之内泰明(じょうのうちやすあき)が腕を組んで俺を見つめていた。

 

 

時計を見ると4時半を回ったところだった 放課後である。

どうやら俺はホームルーム中に居眠りをしてしまったらしい。

 

 

「あ、あぁ! 」

 

 

放課後。つまりそれは部活動に所属する者にとって活動時間中を意味する。

完全に遅刻だ。

 

 

「わりぃ! サンキューな! 」

 

 

俺は慌てて城之内に礼を言い、乱れた制服を軽く整えて教室から飛び出した。

城之内は笑顔で親指を突き立て「いいってことよ!」と返してくれた。

どうやら城之内は日直だったらしい。わがままを言うともう少し早く起こして欲しかった。

 

俺は渡廊下を全速力で走り抜け、靴箱へと到達する

少し乱暴に上靴を脱ぎ、靴箱の中へ押し込む、かわりに登校靴を取り出して履き、ばたばたと音をたてながら向かいの階段を降っていく。

 

階段を降りた先にある細い道を通ると、『剣道部』と書かれてあるプレートが掛かっている重い鉄製のドアを勢いよく開けた。

 

ドアを開けるとそこには床は黒光りするまで磨きこまれ、広大な面積を誇るどこか歴史を感じさせるような美しい剣道場が広がっていた。

独特な熱気と共にほのかな木の香りが当たりに漂う。  見慣れた風景。

 

 

 

 

「遅いぞ、誠也! 何してた! 」

 

 

「すいませんっ!? 」

 

 

顧問の石田先生に俺が怒鳴られると周りから他の部員の笑い声が聞こえた。

 

ここ上野中央高等学校は剣道が代々強く、ついこの間の大会でも、

団体で優勝を飾った程だ。勿論個人戦でもかなり強い。

顧問の石田先生もここのOBである。

 

 

「よし、誠也は遅れたし跳躍素振り200本! 」

 

 

「へぇ? 」

 

 

思わず口から間抜けな声が出て、また周りの笑いを誘う。

 

 

 

「、…冗談だ、早く胴、垂、面、小手全てつけろ」

 

 

「はい」

 

 

短く返事を返し天井の神棚に礼をし、さっさと着替えを済ませて防具をつける。夏場なのですでに剣道場は生暖かい蒸し蒸しとした空気で満たされていた。着替えるだけでも一苦労である。

 

 

 

今日は部内戦だ。幾ら練習試合とはいえ各々気合いが入る。

団体メンバー選抜のアピールにも繋がるからだ。

といっても今日は時間の関係上1人1試合しか行わない。そして、一本勝負。『先手必勝、一撃必殺』石田先生のモットーの一つらしい。剣道よりも剣術類いの方が向いているのではと思ってしまうが、当の本人はこのやり方で見極めるつもりなのだ。そして本人は現役時代全国まで行ったというのだから驚きだ。

 

そして相手はというと1学年上の3年生 日比野先輩だ。

 

 

「次、誠也、日比野」

 

石田先生の号令により、俺達は剣道場の中央で向かい合う。

 

「礼」

 

真夏の暑さで蒸した面の隙間から一粒の汗が落ちる。

 

 

日比野先輩の目を見つめたままゆっくりと頭を下げる。日比野先輩の目は真剣そのものだった。普段自分によくしてくれている先輩ではあるが今回ばかりは真剣勝負、斬るか斬られるかの戦いである。

 

俺はぎゅっとカーボン製の竹刀の柄を握りしめ、3歩中に入り蹲踞の姿勢をとる。

 

 

「始め」

 

 

号令と同時に俺は竹刀を持った両手を頭の上に持っていき振りかぶる

 

 

           『 上段の構え 』

 

 

初動、勝負は一瞬で決した。

 

 

上段の構えの隙でもある胴を真っ先に狙い、左横から突っ込んできた日比野先輩の竹刀を左足を後方に下げかわし、その反動を利用し片手面を繰り出した。

 

 

「メェェェェェェンンンン」

 

 

        一閃

 

 

剣道場に俺の高い声と、踏み込み音、そして面を竹刀が直撃する乾いた音が響いた。

 

 

周りから拍手が起こる。再び礼の時見た日比野先輩の目は笑っていた気がする。

 

 

自分で言うのもなんだが剣道は強い。小学校低学年から父の影響もあり、剣道を始め汗水たらし、今まで真剣に取り組んできた。剣道ばかりに没頭してきたのだ。昨年全国大会に足を運んだこともあり、いくらかは腕に自信を持っている。本当はもう少し謙虚でなければならないのは分かっているが。

 

 

 

 

部活が終わり、正門から学校を出ようとすると

後から追ってきた同じ剣道部の女子数人に話しかけられた。

 

 

「誠也、さっきの試合凄かったね!あの片手面とかほんと凄かった! 」

 

「それ! 私なんか見えなかったよ? 」

 

「今度部活で時間ある時教えてくんない? 」

 

 

「あぁ、いいよまた今度な」

 

 

「う、うんじゃーね!」

 

 

そんなあどけない会話を短めに終えるとそれを待っていたかのように今度は後ろから足音無く近づいてきた男に話しかけられた。

 

 

「hey ! hey !モテる男はつらいのyoぉおおお!? 」

 

 

俺はそいつが誰だか分かっていたため、あえて確認せずに無視することにし、足を早める。城之内だ。こいつは小学生からの付き合いである。いわゆる幼馴染みであり、腐れ縁という訳だ。同じ生徒会で、書記を務める。

まぁ、…女癖は悪いがいい奴だ。

 

 

 

「無視は酷いっすyo! 」

 

 

 

「お前、今日は一段とめんどくせぇなぁ」  

 

なぜかラッパー口調な城之内を突き放し先を急ぐ。誤解しないで欲しいのだが、俺が遠慮ない態度をとるのは城之内だけである。

ちなみに急ぐ理由は、今すぐ家に帰って睡眠をとりたいからである。今日は、バイトもオフだし、生徒会も特に用事は無かった。

俺、こと菊岡誠也は多忙な毎日を過ごしている。ただでさえ部活とバイトがあるにも関わらず、生徒会長選挙に半ば無理矢理推薦され、当選してしまった。その結果、部活と週4のバイト、更に生徒会まで両立しなくてはならなくなってしまった。

 

 

 

「な、なぁ相棒、帰りラーメン屋でも寄って帰らねぇ?親父さん、まだ帰ってないんだろう? 」

 

 

 

「あ、あぁ! そうだな食べて帰ろう」

 

 

 

秘技!掌返し!城之内の提案に思わず振り返ってしまう。実は結構ラーメン通なのだ。

 

 

 

「うしゃ! そうと決まったら腹一杯たらふく食うぜぇぇぇ」

 

 

 

今月は財布の中身が心配だし、睡眠欲求もあったが、今の俺には自らの腹を満たすことの方が先決のようだ。手に持っていた通学鞄を肩に掛け城之内と共に近所のラーメン屋の方に進路を変える。

 

 

 

 

俺の父、菊岡誠二郎は自衛隊の二等陸佐である。さらに総務省の通信ネットワーク内仮想空間管理課の職員を兼ねている。

そのため仕事が忙しく、あまり家に帰ってこない。

 

母さんはいない、俺が5歳の時に出て行った。仕事ばかりが中心の父に嫌気がさしたのだろう。それでも、俺は父の事を信頼し、尊敬している。

 

 

 

城之内と別れ、家に帰りドアを開けるとスマホの通知音がポケットの中で鳴った。メール、…差出人は、…父

 

 

「今すぐラース本社に来て欲しい」

 

 

そういう内容だった。

 

 

そういえば手伝いとして、この前本社に行ったばかりだった。

内容は、新しいフルダイブ実験機ソウル・トランスレーターのテストダイバーだ。しかしフルダイブといえば、自分も今までALOなどのバーチャルMMOをやってきたが、今回はなぜかフルダイブした後の記憶が無かったのだ。その後何故か父からお小遣いが貰えたし、良かったが。

 

 

その件の事かと思い、俺は制服のまま身を翻し、本社へ急いだ。

 

高い高層ビル群の一角にそれはある。自動ドアを通り抜け、受付で、

「関係者」のネームプレートを貰い、指示された階にエレベーターを使い登る。エレベーターのドアが開くと冷房の冷たい冷気が頬を撫でた。そこは会議室のようになっており、正面にある大画面のモニターに海に浮かぶ三角形のような建物が映っている。

 

父が俺に気づき、ゆっくりと近づいてきた。

父は俺がモニターを凝視している事に気づいたのか、

そっと口元に笑みをつくり、こう言った。

 

 

 

「ようこそ、プロジェクトアリシゼーションへ」

 

 

 

 

 

 

 

 




 ここまでお読み頂きありがとうございます!1話目書き終えました。
次回からは本格的に物語に入っていきます。是非次回もお付き合い下さい!




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2話「もう一つの現実」

1話目にしてUA数600突破!皆様ありがとうございます!
緋炉様、とある魔術の聖杯様、マギー&みっしー様、アルファプラス様
、梅矢様、永宮晶美様、ユーた様、アーニャ様、エゼキエル王様、まつたけたけ様、ktmknt様、ゴーストルール様、dndn様、共政様、
XX蒼XX様、Y.knight 様、  その他公開されて無い方、お気に入り登録ありがとうございます!励みになります!
それでは2話目!書いていきます!!


 

 

「 プロジェクト・アリシゼーション? 」 

 

 

 思わずその言葉が口から出てしまった。

 

父は自分の間抜けな顔に微笑しながら口を開いた

 

 

「プロジェクトアリシゼーション、…簡単に説明すれば、目的は2つだ、(ボトムアップ型凡用人工知能開発)と、(その軍事利用)さ、」

 

 

どういうことだ?人工知能を造ってそれを軍事利用、つまり人工知能を兵器に利用しようってことか?確かに父は現役陸上自衛隊二等陸佐、人の代わりとなる兵器は国も欲しいのかもしれないが、人の道に反している気がし、胸が少し痛む。AIに人権は認められていないので文句も言えないが。

 

 

「驚くのも無理はないさ、けどこれは必要事項なんだ、俺達にとっても、国にとっても」

 

 

すると、会議室の奥から小柄な体型の無骨なデザインの丸眼鏡を掛けた金髪の男が近づいてきた。この人は_

 

 

「比嘉、さん? 」

 

 

 

「お〜そうッスよ、比嘉健ッス、小さい頃に一回会ったぐらいなのに良く覚えてるッスね!」

 

 

やはりそうか、…この分かりやすい見た目、どうも記憶に焼き付いていたのだ。にしても着ているのはアニメのTシャツだろうか?

この人は本当に研究者なのか、…?

 

 

 

「ともかく! 話しの続きは自分がするッス、適当に座ってくれないスカ? 」

 

 

「は、はい」

 

自分は1番近い横並びの椅子に腰を下ろした。立ちっぱなしだったので

足が痛む。隣に比嘉さんが座る。父は会議室の入り口横にある別の部屋に繋がるであろうドアの向こうに消えた。

 

 

「じゃあ始めるッスよ、時間の関係上一回しか話せないからよく聞くッス」

 

 

なんだよ、…時間の関係上て、忙しいのか?

 

 

「俺達ラースはSTLによって、人間の魂、通称フラクトライトを捉えることに成功したッス、それで、人間の脳とほぼ同容量のデータを保存できるメディアとして、ライトキューブっていう結晶体を開発したッス、

だけど、そこで問題が発生したンスよ、人の魂を複製すると己がコピーである認識に耐えられず、崩壊しちゃったんス、てことで、魂のコピーは諦めて、新生児の魂を仮想世界内で成長させる事にしたッス、十数人の赤ん坊からフラクトライトをコピーし、そこから精神原型を創り、

ザ・シードのパッケージを使って、仮想世界を創りあげたんスよ、これを自分達は、[アンダーワールド]て呼んでるッス」

 

 

 

「アンダー、…ワールド、もう一つの世界を仮想現実内に創ったってことか」

 

 

 

比嘉さんは頷き、続きを話す

 

 

 

「んで、4人のラーススタッフが仮想世界で夫婦を演じ、16のフラクトライトを18歳まで育てたッス、やがてそこから赤ん坊が生まれ、内部世界の時間を5000倍に加速して、300年が経過した時には人口8万という一大社会が形成されたッス、だけどそこでまた問題発生スよ、

フラクトライト達が公理教会と呼ぶ行政機関が禁忌目録という法律を創りあげたッス、フラクトライト達は法をちゃんと守ったッス、守りすぎるほどに」

 

 

 

「その結果どうなるか分かるッスか? 」

 

 

 

「人を殺せないAIは軍事利用できない、、? 」

 

 

 

「その通りっス、んで、俺達は原因を突き止めようと、本物の人間の記憶をブロックし、彼が禁忌目録に背けるのかどうか実験したッス」

 

 

「それってもしかして? 」

 

 

「そうっス、勘がいいッスね〜誠也くんの事ッス」

 

つまり、俺自身を使ったのは俺がVR MMO歴が長いからだろう。

他にも色々と理由があるとは思うが、、、

 

 

「それで、結果は?…記憶が無いんで分かんないんですけど」

 

 

俺が少し嫌味ったらしく言うと、気づいたのか比嘉さんが苦笑いした。

 

 

「見事に違反したッスよ、君と、いつも一緒に遊んでいた女の子が」

 

 

俺もかよ!?んで、まぁ一緒に遊んでいた女の子が禁忌目録を破る事に成功したと、ね

 

 

「全く、君まで公理教会に連行されるところだったんスよ? はぁ、まぁいいッス、んで、その女の子なんスけど自分達が気付いた時には内部では2日経っていて、公理教会によってフラクトライトは修正されてたんスよ、んでその女の子の名前なんスけどね? 」

 

比嘉さんが側に置いてあったリモコンを操作すると、先程まで海に浮かぶ三角形の建物が映っていたモニターがパッと移り変わり、大きくALICE《アリス》と言う文字が浮かび出た。

 

 

 

 

「アリ、…ス? 」

 

 

 

 

初めてではないこの感じ、妙な胸騒ぎがする。

俺は、自分はこの『名前』を知っている。

 

 

「そう、それを知った時、自分らは驚愕したッスよ、それは全ての計画の元にもなった概念の名称なんスよ人工適応型知的自立存在、

英語だとアーティフィシャルレイビルインテリジェントサイバネーテッドイグジスタンス、頭文字を取って、A.L.I.C.E、自分達の目的は、人工フラクトライトを《アリス》に変化させる事っスね」

 

 

話が壮大すぎて、頭がついていかない部分もあるが、大体は認識できた。この計画には自然と惹かれる気さえもした。

自分で言うのもなんだが流石父と同じ血が流れているだけある。

 

 

「あと、最後になるッスけど、トランスレーターの被験体は、誠也君だけじゃないッスよ? 誠也君が良く知る人物っス、隣の部屋に行けば分かるッスよ? 」

 

 

 

そう言って比嘉さんは先程、父が入って行った部屋を指差した。

比嘉さんに軽く会釈をし、少し緊張しながらも部屋のドアを開けた。

部屋はこじんまりとした病室のような部屋で、奥に父が佇んでいた。

アルコールの匂いが鼻をつんとつく

父は俺に気がつき、手招きをした。見ると奥のベッドに誰か寝ているようだ。

そこに寝ている人物の腕や胸部に数台の医療用機械らしきものからのびる医療用チューブが繋がっているのが分かった。俺はそっと近づき、寝ている者の顔を覗き込む

 

 

 

 

 

          俺は言葉を失った

 

 

 

 

  そこに人工呼吸器をつけ寝息を苦しそうにたてていたのは彼。

 

 

 

 

  

 

  かつてのSAOという名の正真正銘命をかけた《デスゲーム》で常に最前線に立って戦っていた英雄の1人。

 

 

 

 

 

         黒の剣士(キリト)であった。

 

 

 

間違いはない、彼はあのデスゲームで《共に》戦った旧友だったからだ

実際リアルで会うのはこれが初めてだった。しかしすぐに彼と分かった何故ならあちらの世界でのアバターフェイスとほぼ同じ顔だからである。

        なのに、なんでこんな、…?

 

現実での彼との再会は最悪なものだった。

 

 

 

「彼は、例の死銃《デス・ガン》事件の実行犯の最後の1人に襲撃され、薬剤を注射されたことにより、昏睡状態に陥ってしまった。その結果、現代医療では治療不可能なダメージを脳に負ってしまった。が、しかし僕達ならば、STLを使って治療する事ができる、彼をアンダーワールドにダイブさせる事でだ。」

 

 

「、…そして、悪いがまた誠也の力を借りたいんだ。計画の事を黙っていたのは本当にすまないと思っている、そしてアンダーワールドは決して安全ではない、ましてや自分の大切な1人息子だ、無理にとは言わないが、誠也にもアンダーワールドにダイブして欲しい、その目的の内容は、…」

 

 

     「キリトの観察と、アリスの回収」

 

 

俺は父の話を遮り答える。とっくに俺の答えはきまっていたのだから

アリスの回収もそうだが、キリトを、かつての友人を放っておける訳がなかったのだ。俺は一度彼に救われている。

 

 

「それでどこからフルダイブすれば良いんだ? 」

 

 

俺は辺りを見渡し、フルダイブ用トランスレーターを探す

 

 

 

「ありがとう、そしてすまない、この父親を許してくれ」

 

 

「当たり前の事だよ、それに父さんの頼み事だろ?許すさ」

 

 

俺は父が今までどれだけの努力と葛藤を続けていたかを1番近くで見てきた自信がある。だからこそ誇れるたった1人の父親なのだ。

 

父は涙ながら頷き

 

「トランスレーターは、…ここには無いんだ。さっきモニターで海上の建物を見たろう? あれは、(オーシャン・タートル)という施設だ、あそこでアンダーワールドの管理をしている。キリト君の為にも時間が無い、今から行けるか? 」

 

 

「もちろん、持っていく物なんて何もない」

 

 

あの時、彼が居なかったら全てを失っていたかもしれない。

 

 

------伊豆諸島沖--オーシャン・タートル------

 

オーシャン・タートル、実はラースの直接管轄ではなく、防衛省の管理下における人工島らしい。見た目は巨大な亀にも見えるが、正面から見るとブタにも見える。表向きは、海洋調査施設らしい、表向きは、だが、その本来の目的は勿論人工知能の開発。

施設内に入るのに3回程のセキュリティチェック(顔認証など)を受けた。到着後は軽めの食事をし、ダイブまでの時間を過ごした。どうやらキリトは先にダイブさせられた様だ。

 

   (ここに来るため乗ったヘリコプターで酔ったのは別の話)

 

 

次に上野に帰れるのはいつになるだろう、心残りがないと言ったら嘘になるが、別に後悔はしてない。

学校にも父がしっかりと連絡してくれるらしい。

どうやってアンダーワールドにダイブするかというと、スーパーアカウント[seiya]を使うという。どちらかというとコンバートの方が正しいが、これはSAO時代のものだ。せめてもの、父及び、ラースからの特典らしい。

 

俺は比較的楽である病院で着るような患者服に着替え、ソウル・トランスレーターの傍に座る。後5分後にはアンダーワールドだろう。

 

 

「セキュリティロック問題なし! いつでもOKっスよ! 」

 

 

   比嘉さんが遠隔モニターから合図をくれた。

   どうやら比嘉さんはメインルーム制御室にいるらしい。

   あそこからアンダーワールドの監視をしているのか。

 

 

 

「本当にいいのか? 」

 

 

横に佇んでいた父が俺の顔を覗き込む。

 

 

「あぁ、」

 

 

 

「分かった、頼んだぞ、独立ギルド赤鬼団団長『紅蓮の剣士殿』」

 

 

「その名前で呼ぶなって! てかなんで知ってんだよ!? 」

 

 

「キリト君から聞いたのさ」

 

 

部屋中に2人の笑い声が響いた。思えば親子でこんなに笑ったのは久しぶりかもしれない。それだけでも充分だった。

 

 

父と短い会話を終え固く握手をした。

 

 

「必ず戻ってくるんだ、いいな? 」

 

 

コクリと頷き、俺はトランスレーターに体を横にした。

 

《アンダーワールド》、…父親から聞く話だと、果ての山脈というところを越えると、暗黒界(ダークテリトリー)なるものが存在し、そこには魔物達が住んでいるらしい。かなりファンタジックな世界だ。と言って

も今までSAOや、ALOをプレイしてきたので、別に驚く事もない。

しかし、その2つのVRMMOとは異なる点が一つだけ存在する。

 

それは、 【痛覚の有無】

 

そう、アンダーワールドはゲームの世界ではない、一つの立派な完成された世界だ。腕を斬られれば激痛が走るだろう。そして二度と腕は生えてこない。当たり前の事だ。

 そして、アンダーワールドからログアウトする方法は、死、そして_

 

 

_いや、そんな事を考えるのはよそう、俺は必ずキリトを助け、アリスをここに連れ帰る。

 

 

 

 

 

頭上で機械音がする、アンダーワールドへのダイブが始まったようだ。

 

 

 

 

 

 

  

 

    何度でも何度だってやってみせる

 

 

     

 

 

    瞳を閉じて、懐かしいこの言葉を口にする

 

 

 

 

 

 

     「リンク・スタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んで頂き本当にありがとうございます!
多大なる評価本当に嬉しい限りです!これからもどうか宜しくお願い致します!引き続き感想等お待ちしてます!


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3話「It will be alright.」

UAが1500を突破致しました!ありがとうございます!
 ROCKON_Air様、silverhorn様、お腹壊してばっかで辛い様、
XPERIA様、エンプティ様、ショー様、のほっほん様、ネギ様、HUWA様、その他の公表されていない方、お気に入り登録ありがとうございます!
今回からはいよいよアンダーワールド、公理教会編です!
皆様の期待に応えられるよう、頑張ります!


 

 

 

 

なぁ、君は誰だ?俺を呼ぶ君は誰だ?答えてくれよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は後ろ姿しか見えない金髪の少女に手を伸ばす。

 俺は君を知っている。分かっている。君も俺を知っている。

  名の名前は.....アリス。

  君の名前はアリス。

  

 

 少女は振り返り、俺に向けてそっと微笑みこう告げた。

 

 

「待ってるわ、セイヤ、いつまでもセントラル・カセドラルのてっぺんであなたが来るのをずっと待ってる」

 

 

少女はそれだけ言い残し、暗闇の中に消えてゆく。

 

 

 

「待ってくれ、行かないでくれ、待っ_」

 

 

 

 

 

 

俺の手は少女を掴むことなく、何もないただの空気を掴む。

正確に言えば何も掴んではいない。

…いや、掴んだのだろうか?、…それは少女の記憶、アリスの記憶。

彼女はセントラル・カセドラルのてっぺんで待っていると確かに言った。

 

 

ならば、彼女はそこにいるはずだ。

 

 

俺は伸ばした手をパタンと戻す。まず目に入ったものは青空、視界の周りには青々とした木々も見える。身体に伝わる冷たい感覚、土の匂い、風の音。

ゆっくりと身体を起こし、ここは森の中だと言う事を改めて理解した。周りの景色はSAOや、ALO、今まで経験してきたどのVRMMOよりも鮮明なものだった。

そうして、俺は目の前にあるとてつもない大きさの切り株を見つめた。

 

 

ん?

 

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 」

 

 

 

俺の叫び声に驚いたのか、木々から鳥が数羽バサバサと音を立てて飛び去るのが見えた。この世界で初めて見た生物。悠々と空へ飛び立つその姿は現実のものとなんら違いがあるようには見えなかった。

 

そんなことより、高さ何十メートルかも分からない程の大木が切り倒されているのだ。とても人智のなせる技ではない。

一体誰がどうやって?と、いうかどこの森だよここは?アンダーワールドに来て早々、遭難ですか?そうそう、そうなんですよ、ってやかましいわ!

 

自分で自分にツッコミを入れながら額に右手をぺしっと置き、一旦冷静になる事にした。

比嘉さん、帰ったら覚えとけよ、なんで森の中なんだよ?

このままはのたれ死んでしまう。すぐにでもこの森を抜け出さなければ。

 

「ねぇ、貴方何してるの? 」

 

 

突然後ろから話しかけられ、声がした方を向くと、

茶髪の整った顔立ちの修道服を着た少女がこちらをみていた。

今少女は確かに日本語を話した。若干のイントネーションの違いはあるが、日本語だ。そして、それはまさしく『人間』だった。首を傾げる13歳位の少女は紛れもない人間だ。目の前の少女は生きている。それはゲーム内のNPCとは違う。父さんいやラース、貴方方はなんてものを創ってしまったんだ。

...違うそうじゃない、ここの世界では当たり前に人間なのだ。天命という命が尽きた時、アンダーワールドから永遠に消滅する。つまり死ぬという事。勿論寿命も存在している。それは人間だからだ。

 

 

 

 

「その腰の剣、服装、…衛士様、では無いわよね、また『ベクタの迷い子』かしら? 」

 

 

 

少女にそう言われ自分の姿を見ると、服装はSAO時代の真紅のコート、レザーパンツ、そして腰には鞘は朱色、刀身を赤黒く染めた片手剣であるSAO時代からの愛剣《ラ・ヴィーナ》がそこにあった。

そして、頭をフル回転させ少し困った表情の少女に対する言い訳を考える。

 

 

 

「俺は、…衛士でも、そのベクタの迷い子?てのが何か分からないけど、多分それでもない、俺は少し遠い場所、から来たんだ」

 

 

 

ここに少女がいるという事は近くに村か何かがあるということか、助かった。アンダーワールドに来て秒で餓死など洒落にならないからな。修道服を着ているということは、こちらの世界でも宗教が広まっているということか。

 

 

           ・・・

「遠い、、、もしかしてキリトと同じ所からきたのかしら? 」

 

 

 

『キリト』確かに少女はそう言った。

 

 

 

「君…キリトを知っているのか!? 」

 

 

 

「し、知ってるも何も、…取り敢えず場所を変えましょう! 私の家に案内するわ! ついてきて! 」

 

 

俺は頷き少女の後についていく事にした。まずここの土地を知る人に色々と聞かなければならない事がある。

 

 

先程出会った少女、セルカ・ツーベルクによるとあの巨木は通称悪魔の木、ギガスシダーというらしい。あれを切り倒した張本人は、紛れもなく、キリト本人。そしておそらく俺のよく知るであろうユージオという茶髪の「剣士」だったようだ。

 

 

 

 

俺は心の中で「ユージオ」という名前を繰り返し思い浮かべる。

 

 

 

ユージオ、忘れてはいけない名前、存在。

 

そもそもこの世界には記憶がないとはいえテストダイバーとして一度来ているので多少見覚えがあっても不思議では無いか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギガスシダーがある南の森からしばらく歩き広い麦畑を通ると、

円形の城壁に全面を囲まれた村が見えてきた。

 

 

------ルーリッド村------

 

人口こそは少ないと予想されるものの村には立派な中世ヨーロッパ風の家屋が沢山立ち並んでいた。中には教会も見える。俺は改めて一つの文明がこの世界にあるのだと痛感した。つまり、実質この世界を作ったラース職員達はこの世界の創造主、神となるわけだ。考えるだけでも恐ろしい。

 

 

セルカの家は村の中央の噴水付近に位置していた。

白いレンガで造られた壁に、屋根は青い瓦だろうか? ヨーロッパ風ではあるが、 瓦という事にしておこう。異世界にありそうな建築様式だな。ふと愛読書の異世界転生ものの小説を思い出す。周りよりも一回り大きく堂々とした門を構えている。

 

 

玄関口に入ると居間に案内され、椅子に腰掛けるように言われた。

見た目に反して、中はしっかりとした木造建築らしい。

しばらくするとセルカがお茶を注いで来てくれ、俺の向かいに座った。

遠慮なくお茶をすすると、完全に紅茶の味がした。そこまで再現されているのか、、、美味いな、これ。

 

 

 

「改めて、セルカ・ツーベルクよ、一応この村の長の娘なの」

 

 

 

「ただの剣士、セイヤだ、よろしくな」

 

 

 

俺とセルカはしっかりと握手を交わした。どうやら握手は共通文化らしい。

 

 

 

「まず、セルカに聞きたいんだけどキリトとユージオはここにはいないのか? 」

 

 

 

「えぇ、ザッカリアに向かったわよ、色々な理由があってね、そういえばセイヤ、貴方キリトに似てるわよね」

 

 

 

「あぁ、よく言わrそうかな? 」

 

 

ザッカリアとは街の名前だろうか、見たところここは辺境の村みたいだし、都市部とは少し距離があるようだ。

俺は再び紅茶(?)をズズズっとそそり、少し考えて口を開く。

 

 

 

「なぁ、セルカ、アリスって人知ってるか? 」

 

 

 

その途端ガタッと勢いをつけて、セルカが立ち上がった。

なんかまずいこと言ったか?

 

 

 

「姉さまを知っているの!? 」

 

 

 

姉さま…?おっとそう来たか、つまりアリスとセルカは姉妹、となるとやっぱりこの村は、…なるほどキリトとユージオもセントラル・カセドラルを目指して…   アリスを探しに?

しかしどういうことだ?この村出身でアリスの知り合いであろうユージオは妥当としてもキリトはどうだ? キリトは計画について伝えられていない筈だ。比嘉さんの話だと俺とアリスは幼馴染らしいが、もし俺と同じテストダイバーであるキリトもアリス達と関わりがあったとしたら?俺と同じ《夢》を見た可能性がある、と。

 

とりあえずキリト一行と合流しなければ。

 

 

 

「あぁ、聞いてくれ、セルカ俺はキリトとユージオと同じくアリスを探しに行きたいんだ、そのためにここに来た。なぜ知っているかは言えない、だけど絶対アリスをここに連れて帰る、それだけは言える、セルカ、ザッカリアまでの道を教えてくれないか? 」

 

 

 

セルカは少し考えたようにうなずくと

 

 

 

「姉さまはね、私なんかと違って神聖術もうまいし、村の皆からの評価も高かったのよ、それに比べて私は、、、だけどね、キリトとユージオに教えてもらったのよ、アリスにはなれなくても充分に代わりを務める事はできるって、私は私だって、私にしかできない事もあるって。でもそれでも私には姉さまが必要なの、姉さまはやっぱり罪人なんかじゃなかった、禁忌目録を破る勇気を持った凄い人なの、だから、、、帰ってきて欲しい」

 

 

これで全てが繋がった、かアリスはやはり禁忌目録を破り、公理教会に連行された、それをキリトとユージオが探しに行った、と

 

 

にしても、キリトがダイブしてから数時間後にダイブしたはずなんだが、…内部ではどれくらい経過しているのだろうか。

 

神聖術というのは、おそらくこの世界における魔法のようなもの。父さんが言っていた気がする。

 

 

「ごめんなさい、バカよね、私出会ったばかりの人にこんな…」

 

 

 

「気にすんな、尋ねたのは俺だし、それにキリト達の言う通りだ。セルカ、君は君自身なんだ、それにほら、さっき村を歩いている時だって、小さい子達がセルカに集まって来ていただろう、皆からの信頼があるのはアリスだけじゃない、それはセルカもさ、いや、セルカにしかできないことだ。」

 

 

 

そう言ってセルカの頭をゆっくりと撫でる。

セルカはなぜかうつむいてしまったが、あれ?撫でるのは共通の文化じゃない?

 

 

 

「そして、アリスも絶対俺達が連れて帰るさ」

 

 

 

「で、でもセイヤ、公理教会に行くためには整合騎士になる必要があるわよ?そのためにはまずザッカリアの剣闘大会に出て、それから衛兵になったりしないと、…しかもその剣闘大会もう始まる頃よ」

 

 

「まじかよ、…ザッカリアまではどれくらいかかる? 」

 

 

「2日ぐらいかしら」

 

 

 

「…とにかく! ザッカリアまではどう行けば良い? 」

 

 

 

 

「道は地図を書けば分かるけど、、許可証、身分証がないと、ザッカリアに入れもしないわよ? 」

 

 

 

まずい、いきなりピンチだ。この世界では天職なんかないし、身分も証明できない。

 

 

 

 

「ど、どうすれば身分を証明できる? 」

 

 

「と、父さんに頼んでみるわ」

 

 

 

ということで俺は村の衛士長であるジンクと立ち合いをする事になった。

理由は俺が求めた天職が剣士だったからだ。

セルカのお父さんは最初は見ず知らずのやつにいきなり身分証をなどと反対していたようだが、アリスを連れて帰ると言う俺の強い意志を見込んでくれたのか許可を出してくれた。村の人々はアリスの事を初めから無かった者と考えていたようだが、心の隅では気にかけてはいるらしい。

衛士長ジンクは数日前に天職を求めたユージオに負けたばかりで、やる気は満ち溢れているらしい。にしても、いきなりの勝負を良く受けてくれたものだ。

 

 

 

村の教会の前に俺達を中心として大きな人だかりができてゆく。

 

 

 

「ほ、本当に大丈夫なの? セイヤ」

 

 

 

「あぁ、大丈夫さ、セルカ、It will be alright! 」

 

 

 

 

「い、いとうぃるびーおーらい?」

 

 

 

「こっちの地域の言葉で、全てうまくいくって意味さ」

 

 

 

「ふふ、やっぱり貴方達って面白いわね」

 

 

 

 

 貴方『達』?   キリト、、またなんか仕込んだな

 

 

セルカと言葉を交わした後、俺は人だかりの中心まで移動し、ジンクと向き合う。言葉こそ交わさなかったものの、強い意思は感じ取れた。

仮にも衛士長である。

そこでセルカに習ったばかりのアンダーワールド流の礼を行う。手を右胸に当てそのまま軽く会釈をする形だ。これがこちらの作法らしい。

 

 

 

 

「只今から天職を求める者、セイヤと衛士長ジンクの立ち合いを始める。両者実剣を扱うものとする。勝敗は、村長である私が判断しよう」

 

 

 

その掛け声に反応し、村民の歓声があちこちから上がる。

しかし、俺とジンクの緊迫した剣気により、場は一瞬で静まり返る。

そこに残ったものはささやかな風の音、熱気に包まれた観客の息遣い

 

 

 

 

 

     「始め」

 

 

 

 

俺は合図とともに左足を下げ、前傾姿勢をとる。

右手は愛剣の柄を握りしめ、一方左手は鞘を握った。

相手が抜刀したのを確認し、鞘から10センチほど赤黒い刀身を抜く。

一呼吸おき、すぅっと冷たい空気を肺に目一杯取り入れる。

 

 

 

「良いか、誠也お前には特典としてSAO時代の装備をコンバートさせておいた、あちらの世界に着いたらまずソードスキルを試してみるんだ、良いな? 」

 

 

 

父の言葉が脳裏に蘇る。

 

 

 

足に全体重、意識を集中させ、思い切り踏み込む。

 

俺の周りを中心に気配が一変する。

 

 

 

 

単発式ソードスキル

 

 

 

 

 

雷の呼吸

 

 

 

 

 

 

 

壱の型

 

 

 

 

 

 

 

 

霹靂一閃

 

 

 

 

 

 

 

赤い刀身が黄色のエフェクトに染まる。 

 

 

直後、目を灼くような閃光のエフェクトと、轟音が弾ける。

強烈かつ目にも止まらぬ一閃はジンクの刃を根本から切り落としている。残るのは《ラ・ヴィーナ》の剣の鍔鳴りだった。

閃光のような速さで抜刀した剣を一瞬のうちに鞘に納めたのだった。

 

 

あるものは言う、あまりの速さに抜刀したのかさえも分からなかったと

 

 

あるものは言う、まるでその一閃は、轟く一発の雷のようだったと

 

 

 

そして、静寂は歓声へと変わった。

 

 

 

見事ジンクに打ち勝った俺は、剣士として認められ、水、食料を頂き、ザッカリアまでの地図も貰った。一方ジンクはというと、お察しの通りかなり萎えてしまったようだ。しかし、彼が決して弱かった訳ではない、あの「霹靂一閃」に僅かながら反応したのだ。SAO内でもずば抜けたスピードを誇るユニークスキルに反応できたという事だ。彼に任しておけばこの村は安泰かもしれない。

 

 

セルカと、セルカのお父さんに1日でも泊まって行かないかと言われたが、一歩でもキリト達に近づきたいので申し訳なく思いながら断った。

 

 

 

------ルーリッド南門------

 

 

 

 

「もう、行ってしまうのね」

 

 

 

「なんだ?行って欲しくないか? 寂しがり屋だなぁ」

 

 

 

わざと幼い子どもを見るような目付きをし、猫撫で声で、セルカの髪をくしゃくしゃに撫でる。

 

 

 

 

「ちょっと!? そんなんじゃないから! 」

 

 

 

とセルカは頬を赤らめジタバタと幼い子供の様に抵抗している。

 

 

 

「でも、セイヤの剣技凄かった、あれならきっと、、」

 

 

 

 

「分かってる、俺は絶対整合騎士になって、アリスを連れて帰る。」

 

 

 

「うん!待ってるわ」

 

 

俺はじゃーなとセルカにひらひらと手を振りながら門を出た。

地図に書いてある通りの道を進む。道と言ってもしばらくは一直線だが。

 

 

 

 

 

「セイヤ! 」

 

 

 

 

セルカの声に後ろを振り向く。

 

 

 

 

「いとうぃるびーおーらい! 」

 

 

 

 

「おう、It wil be alright、セルカ」

 

 

 

 

 

 

全てうまくいく、必ずここに戻る。

 

 

 

 

 

例えどんな障壁があろうとも

 

 

 

 

 

 

 

〜to be continued〜

 

 

 

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございます!今回は約4300文字、まじで疲れました、…引き続き感想等お待ちしてます!


次回「ゲームであって遊びではない」


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4話「ゲームであっても遊びではない」

 皆様、いかがお過ごしでしょうか?最近ぐっと寒くなりましたので、体調には是非お気をつけください!
さて、UAが3000を突破しました。ありがとうございます!
 マサヒロ様、rai322様、ニータ様、青眼の悪魔様、Anfang様、
星屑の運命龍様、分からん様、crou^ton様、ナガウー様、斎藤先生様、nayaya様、丸山光輝様、くんせい様、勇星様、タベチャン様、
さ細胞様、塩麺漬け太郎様、平塚博篠様、霧矢葵様、タバラ人様、
靈霧様、レーナ0420様、お気に入り登録ありがとうございます!

皆様、多大なる評価本当にありがとうございます!励みになります!
引き続き宜しくお願い致します!

今回からアリシゼーションブレイディングのストーリー要素を入れたいと思います!

タグにアリシゼーションブレイディング、イーディスを追加致しました。


それでは、どうぞ!







------アインクラッド74層迷宮区 ボス部屋------

 

 

 

 

 

 

「団長! このままでは隊が壊滅してしまいます! 」

 

 

「団長! 撤退の御命令を!」

 

 

「ひぃぃっなんで、こんな奴が!?攻略情報には無かったぞ!? 」

 

 

 

両手用の大剣を見境なく振り翳す羊頭の青い悪魔はバラバラに逃げ惑う隊員の背中を追撃する。辺を見渡すと一緒になって戦っていた

 『軍』の奴らも混乱状態にあるようだ。

隊が壊滅する、、、俺が率いる少数精鋭ギルド『赤鬼団』が、

それだけは、、、絶対にさせない。

 

 

 

「全員撤退! 直ちに転移結晶を使え! どこでも良い、早く飛べ!」

 

 

 

その言葉を残し、ボスについて詳しく知識がないままボス部屋に飛び込んだ自らを責めながら、74層のボスである『ザ・グリーム・アイズ』

へと愛剣である片手直剣を振り翳し、特攻する。

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

絶叫しながら、奴が俺に向けて繰り出した大剣を身体を右に大きく捻り交わし、一瞬の隙を突いて奴の懐に潜り込む。

再び振り翳した剣は弧を描き、青いエフェクトを輝かせる。

 

 

「 水の呼吸、拾ノ型_ 」

 

 

シャリィィィィィィという甲高い音を剣先から発生させながら

最後の望みをかけ、自分が持つ最大限のソードスキルを発動させる。

 

 

 

「___ 生生流転」

 

 

うねる龍の如く、剣を回転させる。

 

初撃が奴の懐を抉る、真っ青に輝く剣は鈴の音のような澄んだサウンドを響かせながら、そのまま刀身の根本まで深く、深く貫いた。

 

流石に効いたのだろうか、奴は呻き声を上げながら、二歩程巨体を仰け反らせる。

 

 

まだ、まだだ、もっと速く、もっと速く、もっと強く、、、

 

 

まるで不可視の翅を羽ばたかせたかのように凄まじいスピードで二連撃目を初撃より強く斬り込む、続いて、三連撃目、青いエフェクトフラッシュは部屋中を眩く照らし出した。

 

 

四連撃目を繰り出そうと身体を大きく捻った瞬間刀身にズンっと重みを感じた。奴の左手に刀身を掴まれたのだった。

見上げると、奴は右手に持つ大剣を俺に向けて振り翳していた。

 

ありったけの力を込めて四連撃目を奴が握る手に放つ

奴は刀身を握った手を離したが、右手の大剣は俺の目と鼻の先に来ていた。

 

身体に重く、鈍い衝撃が走る。咄嗟に剣の腹で受け、攻撃を半減したものの、かなり後方まで吹き飛ばされ、壁に打ち付けられてしまった。

 

 

左上のHPゲージを見つめると、レッドに突入していた。

薄れゆく意識の中で奴がゆっくりと此方へ来るのが見えた。

 

 

そして、此方へ近づいて来る仲間の姿も。

 

 

 

「なん、で、、転移結晶を使えと、、、」

 

 

 

「この部屋では転移結晶が使えませんでした、、、それに、隊長を置いていくなど私達には出来ません、生憎、回復ポーションは残っていませんが、最後までやらせてもらいます。」

 

 

そうして、数十名の隊員は奴へと向き変える。

ここで終わるのだろうか、俺も、俺について来てくれた隊員達も

 

 

薄れゆく意識の中、最後に見えたのはやや大振りの直剣を両手に握った

黒のロングコートを着た少年だった。

 

 

 

 

 

 

------アンダーワールド------

 

 

 

 

「き、リト」

 

 

 

__ 懐かしい夢を見ていた、あのデスゲーム、SAOの夢。

忌々しくもあり、好きでもあったあの場所の記憶。

 

俺はもたれていた大きな木から身体を起こし、傍に置いていた愛剣を

そっと撫でる。

 

 

 

「さて、と」

 

 

セルカから作って貰った特製パイをリュックの様な入れ物から取り出して

口一杯に頬張る。口内に広がる丁度良い甘さがなんとも言えない。

そこで、左手に地図を持ち、広げた。

ルーリッド村から出て、約3時間程経っただろうか。

                ・

南門からザッカリアを目指し、現在北の森まで来た。

そう、ザッカリアとは全くの逆方向である。

ザッカリアに行くまでに一つ確かめなければならないことがある。

いや、行かなければならない場所なのかもしれない、

『果ての山脈』 魔物が住むダークテリトリーに続く場所。

かつてアリスが禁忌目録を破った場所、破った目録は、「闇の国への侵入」だとセルカは言っていた。

 

 

実はセルカ曰く少し前に『果ての山脈』洞窟内に魔物である

ゴブリンが群れで現れたという。そいつらは果ての山脈に向かったセルカを追ってきたキリトとユージオに討伐されたようだが。

 

なら、今この瞬間にも再びゴブリン共が洞窟内にいても決しておかしくないのだ。実際人が南門周辺で襲われたという情報も入っている。

なら、いつ村を襲うか分からないという訳だ。そんなことだけはさせない。  どうせ剣闘大会が始まっているなら寄り道しても構わない。

 

いや、始まっていなくても此方を優先しただろう。

 

 

 

休憩を終え、地図をしまい再び果ての山脈へと足を進める。

 

 

 

 

 

 

------果ての山脈 洞窟前------

 

 

 

果ての山脈洞窟前に来ると、中から異臭がする事に気がついた。

  獣の匂い、酷く腐った様な匂いがした。

 

しかし、洞窟内は暗く、とてもこの身のままでは入れない。

そこで、セルカから習ったとても簡単な神聖術を使う。

この簡単な神聖術でも村から出るまで1時間程練習してやっとできたのだが。

 

 

途中で採取した猫じゃらしの様な植物をポケットから右手で取り出す。

 

 

 

 

「システムコール。ジェネレートルミナスエレメント。アドヒア。」

 

 

 

 

すると猫じゃらしが明るく発光した。成功だ。

 

 

 

剣の鞘を左手でがっしりと掴み、警戒しながらゆっくりと洞窟内に入る。

 

洞窟内は、リアルワールドと変わらない様な感じではあったが、奥の方から異臭がするのは変わらなかった。

 

天井からポトリと水滴が落ちて来る。その水滴は地面の窪みにある小さな水溜りに落ち、ポチャンと言う澄み切った短い音が洞窟内に響く。

 

ふと、奥の方に明るみを見つけ、少し早足で近付く。

 

 

俺は絶句した。

 

 

 

 

「もう、、来てるじゃないか!? 」

 

 

 

 

 

洞窟の奥に位置する大きく開いた空間は氷の様な、水晶の様なもので満たされていた。その美しい光景に見惚れている暇は無かった。

 

そこに居たのは全身緑色の人間と変わらない程の大きさの肉体を持つ魔物。ゴブリン達であった。ざっと確認したところ、20体はいる。

 

 

すると、親玉であろう、周りより少し大柄なゴブリンがこちらに気づいたようだ。

 

 

 

 

 

「あ? おいおい白イウムのガキじゃねぇか、なんだぁ? 、男でねぇか、男は売れねぇ、殺れ」

 

 

 

 

はっとしているうちにゴブリンが持っていた松明を剣や、木の棍棒に持ち替え数匹がこちらに向かってきた。

 

 

俺は瞬く間に抜刀し、ゴブリンより速く動き出す。

こうなってはやる事は一つである。

 

 

 

 

「お前等、、、村に行く気だろう」

 

 

 

 

全集中    呼吸を落ち着かせ、ゴブリンを睨みつける。

 

 

 

 

 

「 水の呼吸、壱ノ型_ 」

 

 

 

ゴブリンが4匹程集まった焦点を狙い、高く跳躍する

ゴブリンがこちらを間抜けた顔で見ている。

 

 

空中で腕をクロスさせ、勢い良く水平に剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「水面斬り」

 

 

 

 

4匹のゴブリンは赤い鮮血を撒き散らし、エフェクトと共に爆散する。

続いて呼吸を維持したまま他のゴブリンへと斬りかかる。

 

 

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

洞窟内にゴブリンの断末魔が響き渡る。

 

 

 

 

 

「陸ノ型、ねじれ渦」

 

 

 

 

上半身と下半身を思い切り捻り、その勢いのまま、斬撃を繰り出す、繰り出した斬撃は、水の刃となり、ゴブリンの上半身と下半身を一刀に両断していく。

 

 

 

「ぎゃぁぁぁがぁぁぁぁぁぁッッ」

 

 

 

見たところもうゴブリンはもう数匹しか残っていない、その残りの数匹もこの空間のさらに奥に続く洞窟、おそらくダークテリトリー内へと続くであろう場所へ逃げ帰っていく。アリスはあそこを、あの境界線を超えたのだろう。

 

 

 

 

「ヂョウジニィノルナァァァァァァアァアァァァ」

 

 

 

_ッしまった油断した 周りよりも一回り大きいゴブリンの隊長であろう奴が残っていた。

 

俺は咄嗟に横から俺の腹をなぎ払おうとする斬撃を剣の腹で受ける。

 

 

 

 

「ぐッがぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

俺の身体は桁違いの力に吹き飛ばされ、洞窟の硬く、岩肌が飛び出た地面に叩きつけられてしまった。

 

背中に伝わるあまりの痛さに息ができない。

まるで背中から体の髄まで焼けるように痛い。

痛い、痛すぎる、仮想世界でこんなの有り得ないだろ

しかし、痛がっている暇はない。敵は待ってくれないからだ。

 

 

 

 

「これは、ゲームであっても遊びではない」

 

 

 

 

ある男の言葉が脳裏によぎる、その言葉は何故か俺に力を与えた。

 

 

 

 

「ここは、、ゲームじゃないけどな」

 

 

 

俺はなんとか剣を拾い、立ち上がる。

 

 

そうだ、あの世界の剣は、こんな物よりもっと重かった

  もっと痛かった

 

 

剣を握り直し、隊長のゴブリンへと突撃する。

地面を蹴る度に身体が痛む、

 

 

 

「がぁぁぁぁぁあああ」

 

 

ゴブリンの重い鉄剣とラ・ヴィーナが衝突する。

手に重い衝撃が伝わり、そのまま全身を駆け巡る。

背中が悲鳴を上げている。

俺はぐっと歯軋りを立て、そのまま鍔迫り合いに持ち込む。

勿論、力の強いゴブリン相手に力勝負をする気はない。

手首を返し、左足を思い切り引き、身体を後ろへ下げると、力を込めていたゴブリンは前へとバランスを崩した。

 

 

いわゆる『引き面』 の構え

 

 

 

しかし、予測外の事が起こる。

ゴブリンが足を地面が抉る程に踏ん張り 面 の弱点である突きを放ってきた。

 

再び剣の腹で突きを受けるが威力を半分に流したため、後方に少し飛ばされるだけで済んだ。

 

 

済ん、、、、、、、…だ?

 

 

 

受け身を取った筈の俺の両足はダークテリトリーの境界へと

踏み込んでいた。

 

 

 

 

俺はさっと足を戻す、

 

 

 

 

アリスと同じ形の『禁忌目録』違反?完全に境界線の事を頭に入れてなかった。しかし気にしている暇がない。今は目の前の事に集中しなければ、、死ぬ。

 

 

 

 

 

 

俺はゴブリンに向き直り、剣先を平行に保つ

 

 

 

 

  背中の痛みは麻痺したのだろうか、もう感じなくなっていた。視界も正常に安定してはいない。

 

 

 

 

それでも再び肺の中に空気を入れる。

 

 

 

全集中

 

 

 

「水の呼吸、壱ノ型、水面斬り」

 

 

 

まるで水流のような流れる足取りでゴブリンの間合いに入る

そして、そのままゴブリンの脳天、ではなく大剣を振り挙げた右手首を狙う、

 

厚い肉を断つ感覚と共にゴブリンの右手が切り落とされた。

右手はボトッと言う鈍い音を立てて地面に落ちる。

 

 

 

「がぁぁぁぁぁぁ俺様の右手がぁぁぁぁぁぁ、、、ユルザン、許さんぞぉぉぉぉぉおお」

 

 

 

大量に出血し、錯乱したのかゴブリンは左手で大剣を掴み、めちゃくちゃに振り回してくる。

 

俺はその場から後方へステップし、上段の構えを取る。

 

 

 

 

 

 

「水の呼吸、捌ノ型、滝壺」

 

 

 

 

 

ゴブリンの脳天から真っ直ぐに上段から振り下ろす。

先程よりも更に深く鈍い感覚が腕から身体全体に伝わる。

ゴブリンは血飛沫を上げ、右半身、左半身に分かれ、そのまま地面に崩れ動かなくなった。

 

 

フッーと息を吐きながら、剣を鞘に納める。

 

 

禁忌目録の事は見られてはいないだろうか、今からザッカリアに向かううえで、追われる身となるのは困る。

 

 

 

 

ふと、後ろに気配がし、振り向くと、銀髪の髪を纏めた整った顔立ちで、白銀の鎧に身を包んだ少女がこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

「任務で来ただけだったんだけど、とんでもないものを見ちゃったわね〜」

 

 

 

 

「あ、貴方は? 」

 

 

 

 

銀髪の少女にそう問う。

 

 

 

 

「あぁ、私はセントリア地域統括公理教会整合騎士イーディス・シンセシス・テンよ、貴方を連行します。」

 

 

 

〜to be continued〜

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!
引き続き感想等お待ちしています!

次回 「整合騎士」


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5話「整合騎士」

皆様いかがお過ごしでしょうか?すっかり年末の空気が漂い、慌ただしくなりましたね。
さて、UA数が6100を突破しました。並びに、お気に入り登録者数が
132件にのぼりました!当初の予想を遥かに超える評価に感謝してもしきれません。皆様、本当にありがとうございます!
これからもどうぞ宜しくお願い致します!
お気に入り登録者様につきましては、今回から前書きにお名前を記入させて頂く事を割愛致します。申し訳ございません。
改めまして、お気に入り登録ありがとうございます。

では、5話目「整合騎士」どうぞ









そこに佇んでいたのは、肩までかかる銀髪を黒いリボンで纏め、真紅の色の眼を持つ『整合騎士』と名乗る少女だった。歳は、俺より1つ2つ上だろうか。

少女は落ち着いた雰囲気を漂わせながらも臨戦態勢にあるのか、今にも鞘を払おうかという状態だ。

『整合騎士』はアリスの場合だと、禁忌目録を犯した翌朝に村に来たらしいが、この少女、整合騎士イーディス・シンセシス・テンは、「任務

で来ただけ」と言った。ルーリッド村付近に出現したゴブリン共の調査というところだろうか。率直に言うと運が悪い。まだ翌朝に来てくれた方が逃げる時間も稼げた筈だ。どちらにしても、ここで捕まるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

「…初めまして、イーディスさん、僕をどこに連行するのでしょうか?」

 

 

 

 

「もちろんセントラル・カセドラルよ、貴方たった今禁忌を犯した罪人じゃない」

 

 

 

 

やはりセントラル・カセドラルに連行されるのか、しかし一体連行してどうするのだろうか?一体何が目的だ?ただの処罰?いや違う。

セントラル・カセドラルに連行された、禁忌を犯した人間がどうなるのか?アリスはどうなったのか、アリスはどうなっ、、、、、た?

比嘉さんは、アリスのフラクトライトは2日間のうちに公理教会によって修正されていたと言った。修正?なんのために修正する?

 …それだ、何のために修正するか、整合騎士なら知っているはず。

しかし、はい分かりました、と公理教会の機密情報を簡単に教える訳がない、しかも罪人に。なら、遠回しに探るしかない。

 

 

 

 

「イーディスさん、ひとつ聞きたい事があります。」

 

 

 

 

 

「なによ? 」

 

 

 

 

 

「アリス・ツーベルクという少女を知っていますか? 」

 

 

 

 

彼女は少し驚いた表情を一瞬浮かべてから口を開いた。

 

 

 

「アリス・ツーベルク? 確かにうちの整合騎士には、アリス・シンセシス・サーティちゃんって子はいるけど、、、ツーベルクではないわね、人違いじゃないの? 」

 

 

 

これで、確信を掴んだ。その、アリス・シンセシス・サーティは恐らく、フラクトライトを修正された後のアリス本人だ。

つまり、彼女は整合騎士になった、という訳だ。どういう道理かは分からない。しかし、強制的にアリスのフラクトライトを修正したのならば、公理教会を許すわけにはいかない。フラクトライトを修正するということは、人格そのものを修正すると言うことだ。最悪、記憶すら奪われている。しかし、フラクトライトを修正する程の力をなぜ公理教会が持っているのだろうか?それは、システム上有り得ない筈なのだが。なぜそれ程のシステム権限を持っているのだろう。父さん達がまだ気づいていない問題が発生している可能性がある。

 

 

わざとこのままセントラル・カセドラルに乗り込むという考えも一瞬よぎったが、武器は必ず没収される。やはりここで彼女と一戦交える必要があるだろう。

 

 

 

 

「そうですか、お待たせしました、イーディスさん、やはり俺はここで捕まるわけにはいかないみたいです。」

 

 

 

 

 

「そう、、、こちらは罪人に対して天命を7割まで奪う権利があるわよ? それでもやるのね? 」

 

 

 

 

 

 

「勿論です。」

 

 

 

 

俺が抜刀するのをしっかりと見届け、一呼吸置いてから彼女は鞘から剣を抜き放った。

柄は白く編み込まれ、刀身を真っ黒に染めた『日本刀』そのものを連想させるその剣に思わず吸い込まれそうになる。

彼女の真っ白な鎧は洞窟の水晶に反射し、白く、ただ白く輝きを放つ。

 

                 

彼女は真っ白のマントをたなびかせながら後方へと俺から距離をとった。

 

 

 

 

「システムコール。ジェネレート。サーマル。エレメント。」

 

 

 

 

その暗唱が耳に入り、急いで迎撃態勢に入る。

 

 

彼女の右手5本の指先が赤く発光し、まるで弓を弾く様に構えるとその赤い光は、パチパチと音を立て、鋭く形状変化する。

 

 

 

 

「フォーム。エレメント。アローシェイプ。」

 

 

 

彼女の手から鋭利な光弾が勢いよく放たれる。

尾を引き迫る光弾に対して俺は背中に剣を回す。

 

 

 

そして、間合いに入ると同時に光弾の正面へと流れる様に足を運ぶ。

 

 

 

 

「水の呼吸、参ノ型、流流舞い」

 

 

 

 

まるで流れる水の様に足を運び光弾を真正面から全て斬り伏せる。

 

 

 

「ありゃ、妙な技を使うのね」

 

 

 

 

「『あの世界』で必死に習得した技だからな!」

 

 

 

「その流派、人界でも見たことがないわね、なんていうの? 」

 

 

 

「、、、アインクラッド《赤鬼流》」

 

 

 

「アインクラッド《赤鬼流》、、、聞いたことないわね、まぁいいわ時間も稼げた事だし、奥の手出させてもらうわよ! 」

 

 

 

 

奥の手?確かにまだ彼女は剣を一切使っていない。その事は分かっているのだが、何か予想外の事が起こるかも知れないと身構え防御態勢に入る。

 

 

 

「あたしの完全支配術を完成させるには少し時間が必要なんだ、でも、お前と話している間に完成したよ! 」

 

 

 

完全支配術、一体なんだそれは?こちらの世界に来てからも一切聞いた事がない。整合騎士だけが使える特権攻撃術なのだろうか。

 

 

 

 

 

「エンハンス・アーマメント」

 

 

 

 

高らかに声を上げると、

彼女の刀身が青紫色のエフェクトを放ち、洞窟内を眩しく照らす。

 

エンハンス・アーマメント、、、意味は確か武装完全支配術

 

 

彼女が既に踏み込んで地を蹴っている事から回避は不可能と判断し、

迫り来る剣撃に対し対抗する技を切り出す。

 

 

 

 

「漆ノ型、雫波紋突き」

 

 

 

雫波紋突きは、水の呼吸の中でも最速の技、主に迎撃、牽制用に使える突き技だ、これなら充分間に合う。

 

 

 

直後、青紫色のエフェクトと、青色のエフェクトが弾け、地を揺るがす程の轟音と共に鋭い戦慄が全身を駆け抜ける、、、筈だった。

 

剣が交える瞬間、一瞬だが彼女の刀身が煙るように動いた。同時に俺の刀身から繰り出された突きの軌道が微妙にずれたのだった。

否、ずれたのではない、彼女の剣は、「すり抜けた」

 

 

すり抜けた斬撃は俺の肩口をそのまま切り裂く。

迫る痛みに備えようと歯を食いしばったが、、激痛は襲ってこなかった。刀身が届いたのは衣服までだったようだ。勿論衣服もすり抜けたようだが、肉体までには達していなかった。

2連撃目を恐れ、一旦距離をとることにし、素早く後ろへ後退する。

一瞬見ただけだが、彼女の剣は物体をすり抜ける、つまり、

防御力無視、パリィ無効という事だろう。彼女の前には鉄壁の鎧も意味をなさない。

 

 

そのような強力な相手と渡り合う方法は1つしかない。

避けることも、受けることも出来ないなら、こちらから仕掛けるのみ

 

 

俺は、一定の距離、おおよそ10メートルを保ちながら走り出す。

恐らく、射程はそれ程長くないし、攻撃範囲も狭い。

 

 

 

「いい判断ね、、、でもあまり整合騎士をなめないことね」

 

 

 

彼女は剣を横に構えそのまま刀身を2本の指でなぞる。

すると、刀身が再び青紫色のエフェクトを放った。

剣を振り上げたかと思うと、剣先から一粒の紫色の滴が地面に短く音を立てて滴り落ちる。彼女はそのまま刀身を地面に突き立てた。

 

 

地面から黒い影が伸び始めたかと思うと、影はあっという間に人の型に出来上がり、そこに彼女、イーディスの『分身体』が現れたのだった。

つまりこの瞬間、俺は避ける事も受ける事も出来ない相手を2人相手にしなければならない状況になったのだった。

 

 

 

 

「まじ、かよ、、、」

 

 

 

整合騎士とは一体何者なのか。かつての世界でも今回ばかりは似たような経験すらなかった。複数の相手をした事はあるが、影は斬る事が出来ないだろう。ならば勿論狙うのは本体の方だが、それでも影が邪魔をする筈だ。なら、どうやって本体に近づくのか、考えられる方法は1つしか無かった。

 

 

 

『速さ』で上回る事、速さで相手を翻弄し、突破口を開く。それしかない。しかし、「それ」を行うにはかなりのリスクを伴う。

彼女の速さを上回るには「雷の呼吸」を使うほかない。

しかし、ゴブリンとの戦闘から「水の呼吸」を乱用し続けた結果、

今急に「雷の呼吸」に呼吸を変えるとその反動によりしばらく動けなくなるだろう。

 

ならば一太刀で決めるしかないが、その呼吸のモーションを少しでも

影に邪魔されれば敗北は免れない。

 

 

 

 

 俺の脳裏に赤い鎧に身を包んだ銀髪の騎士の姿が蘇る。

 

 

 

「一瞬の判断の遅れは後で命取りになる、覚えておきたまえ。」

 

 

 

 

 

気づけば俺の足は走り出していた。剣を鞘に納め、湾曲している洞窟の壁に向かって。

壁を右足で強く踏みしめる、そしてそのまま横向きになり、壁を疾駆する。ALOで培った軽量級妖精スキル《ウォールラン》の応用技。

あまりのスピードに自分の周りの景色さえ黒く霞んでいく。

彼女の間合いに近づくと彼女の影が反応する。こちらに向かって来るその瞬間、壁が深く窪み、空気が振動する。壁を思い切り蹴ったのだ。

 

 

 

 

「雷の呼吸、壱ノ型」

 

 

 

 

そうしてそのまま空中で彼女の影を追い越すと悠々と地面に飛び降り更にそこから強く踏み込む。

彼女は驚きの表情を浮かべ剣を構えるがもう俺は間合い5メートル前まで入っていた。

剣の柄を右手で握り前傾の居合の構えを取る。

 

 

 

 

 

「霹靂一閃」

 

 

 

 

 

直後、踏み込みによる雷が落ちたかの様なエフェクト音と、黄色のエフェクトフラッシュが空間中を満たした。

 

 

       ・・・

遂に彼女の剣を捉えたのだった。

 

 

 

勿論、彼女の剣は物体をすり抜ける。それは剣とて例外ではない。

実際先程やられたばかりなのだから。

しかし、気づいたのはそれだけではない。

     ・・

彼女の剣は肉体はすり抜けない。

 

 

 

「ッな!? 」

 

 

 

ポタポタと赤い鮮血が俺の左腕から滴り落ちる。地面には血溜まりができ始めているようだ。

そう、つまり彼女の剣を自らの腕で受け止めた。

彼女の剣の様な日本刀に近いものはしっかり踏み込み、正しい角度を保って振り下さなければ腕を斬り落とす事はできない。

今彼女は防御の為に剣を振り下ろした。それを見越して腕を切り落とす事は不可能と信じ、この行動に出た。

 

 

 

つまり、今までの《ウォールラン》も、「霹靂一閃」も

 

 

 

 

「全て囮さ」

 

 

 

 

俺は残る力で、右手に握った剣を彼女の剣の柄に当て、そのまま弾き飛ばす。沈黙の間に地面に剣が落ちる短い金属音が響いた。

影は彼女が剣を手放すと同時に消えてしまったようだ。

 

 

 

「まだ、、、やりますか? 」

 

 

 

「参ったわよ、神聖術だけじゃ貴方に勝てないもの」

 

 

 

 

「そうですか、ではこれでッ、、、ッ!? 」

 

 

 

 

その場からいち早く立ち去ろうと足を動かした瞬間、不意に脱力感に襲われ、膝から崩れ落ちてしまった。地面にうつ伏せになり、指先さえ動かない。反動が来るにしては、早すぎる。更に傷口の鋭い痛みが同時に襲ってきた。戦闘が終わり痛みを誤魔化していたアドレナリンがきれてきてしまったのだろうか。

 

 

 

 

そうして俺はゆっくりと意識を手放していった。

 

 

 

〜to be continued〜

 

 

 

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございます!
こうして、イーディス戦は引き分け、といった形で終わってしまいました。彼女は本気だったのでしょうか?笑
次回から話が急展開致します。
引き続きご感想等お待ちしています!

   次回『再会』


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6話「再会」

新年初投稿になります。皆様お待たせ致しまして大変申し訳ありません。さて、お気に入り登録者様が164人を突破し並びにUA数が9700を突破致しました。ありがとうございます!
楽しみにして頂いている方に満足頂けるようこれからも執筆致します。

それではどうぞ


            〜saoの記憶〜

 

 

 

 

目と鼻の先に悠々と立つその少年はまるで夜空の様に黒いロングコートを纏う。

 

右手には彼が纏う黒衣のロングコートと同色の真っ黒な直剣

 

左手にはまるでクリスタルの様な色と輝きを放つ直剣

 

 

有り得ないはずの光景だった。

 

 

剣を2本握るということ

 

 

 

周りの人間が驚きの表情を浮かべるのも無理はない

 

 

 

 

              ・・

しかし俺は知っていた彼がなぜそれを使えるのか

 

 

 

それは『同じ』『ユニークスキル』の使い手だから

 

 

 

現在SAO内で確認されている『ユニークスキル』は3つである

 

 

 

血盟騎士団団長ヒースクリフの『神聖剣』、俺の『呼吸』

 

 

そして、

 

 

 

 

「二刀流」

 

 

 

 

俺の言葉に反応し、周りを囲んでいた団員達がこちらを振り返る。

彼に着いてきたのかボス部屋の入り口付近に佇んでいたアスナさんやクラインも此方を驚きの表情で見ていた。

当の本人、彼、改め『黒の剣士』キリトは一瞬此方を振り返り小さく笑みをつくった。

 

 

全くいつも美味しい所ばっか持っていくなお前は、なぁ

 

 

 

 

        英雄  《ヒーロー》

 

 

 

 

キリトはボス、『ザ・グリーム・アイズ』に振り返ると

目にも留まらぬ速さで間合いにまで入り

上位16連撃『スターバーストストリーム』を発動させた

まるで閃光の様な速さを誇る剣撃は一撃一撃着実に相手を深く切り裂いていく。薄青い斬撃の軌跡を引きながら。そして両手をクロスさせ打ち出した2本の直剣はただ真っ直ぐに振り下ろされ人の何倍もの体格を誇る青い悪魔の巨体を仰け反らせる。しかしさらにキリトは身体を激しく捻る

 

 

 

 

「速く、もっと速く」

 

 

 

彼《キリト》はまだ速さを求めていたSAO内で随一の反応速度を持つ彼が

 

 

それもその筈であり奴《ザ・グリーム・アイズ》も流石74層のボスというべきかキリトの剣の速度に反応しているのである。

 

そんなことを考えているうちに奴は剣を持たない方の腕、つまり左手を振り上げた

 

それが何を意味するか経験済みの俺は思わず叫ぶ。

 

 

 

「キリトッ_!!  」

 

 

しかしモーションを止められる訳もなく彼の右手の直剣は奴の左手に刀身を掴まれる。

 

 

考えるよりも先に足が動いていた。自分のHPがレッドに突入していることさえも忘れて。

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ」

  

 

 

しかしキリトはお構いなしにもう一つの左手に握っていた直剣を奴の懐に全力で突き立てた。

 

 

 

直後真っ青のエフェクトフラッシュが部屋中を満たし《ザ・グリーム・アイズ》はその巨体を大小無数の塊に姿を変えた。

 

 

少し遅れて重低音と高周波が入り混じったエフェクトサウンドが荒れ狂い硬質の金属音を高く引きながら薄れ、消えた。

 

押し寄せた風圧が俺の髪を揺らす。

 

 

目に入ったのはそこにラストアタックモーションのまま硬直しているキリトと

 

 

『Congratulations!!』の文字

 

 

 

 

 

 

〜アンダーワールド内公理教会セントラル・カセドラル最上階〜

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かい光に刺激され重い目蓋をそっと開ける

視界に映るのはアーチ上に造られた天井全面に広がる壁画

眩い様な青空の中央には白い弓矢を今にも引こうかという少女が描かれていた。思わずその壁画には吸い込まれそうになる、と同時に強烈な違和感に襲われた。

 

はっと我に返り辺りを見渡す

アーチ上に出来ているこの空間の天井には巨大な壁画、壁周りに並ぶ天井から伸びる柱には、1本ずつ剣などの武器がはめ込まれている。

 

 

そして空間の中央には中世ヨーロッパの王族が使った様な紫色の天蓋付きベッド

 

 

続いて記憶を辿る

俺は確かイーディスという整合騎士を倒した後意識を失って、、

 

左腕!?、、、、、傷痕すらもない!?

 

彼女の剣を受け止め重症であった筈の左腕は何事もなかったかの様に完治していた。

 

 

一体誰が治療を?しかしあの傷を一瞬で治すなどと、、、?

俺の推測が正しければ俺はセントラル・カセドラルに連行された筈。

つまりここはセントラル・カセドラル内のどこかになる訳なのだが

罪人、しかも整合騎士にすら反逆した者を治療する意図が分からない。

 

 

 

 

「目を覚ましたのね、坊や」

 

 

 

 

「誰だ!? 」

 

 

 

 

ふと天蓋付きベッドの中から美しく包容力のある優しい声がしその声に反応してしまう。

俺以外の人がこの空間に居るなど先程まで気づきもしなかった。身体中が妙な寒気に襲われる。まるで本能が危険だと警告を鳴らすように

 

 

 

「此方にいらっしゃい」

 

 

 

警戒以外にする事もなく腰の剣の柄に手を伸ばす

しかし俺の手は何も掴むことは無かった。

 

 

 

「ふふふ、残念ね坊や、剣は預かってあるわよ? さぁ此方にいらっしゃい? 」

 

 

 

薄い天蓋の中の影がくすりと笑う

 

同時にこの声に為すがままにしなければならないと判断し

ゴクリと唾を呑み込みゆっくりとベッドに近づく。         ベッドの手前まで来ると片膝をつき紫色の天蓋を右手でそっと確かめる様に上げる

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁあああああ!? 」

 

 

 

自分でもびっくりする程の大胆な叫び声を上げ俺は天蓋の端を掴んでいた右手を勢いよく離す。

その反動で思わず尻餅をついてしまった。

それもその筈、真っ白のシーツがひかれたベッドの中央に肩肘を付いて寝転んでいた裸体の少女と目が合ってしまったからだ。

 

、、、健全な男子高校生にそれは不味いのではなかろうか

 

 

  ・・・・

直後彼女自身によって天蓋が開けられた

 

あたふたと俺がたじろいでいると

 

 

 

「あらあら、そんな動揺しちゃって、、この姿に抵抗があるなら慣れてもらうしかないわね、、貴方私のお気に入りだし、そんなに気になるなら、この身体を貴方にあげてもいいわよ? 」

 

 

と紫色の足のかかとまであるかという髪をさっと右手でかき上げる。

 

 

俺の困惑した表情と意思を汲み取ったのか、少し不満気な顔になる。

 

 

 

「冗談よ、改めまして私は公理教会最高司祭アドミニストレータよ、ようこそ『私の世界』へ、向こう側の坊や」

 

 

 

俺はその言葉を聞いた瞬間、反射的に目付きを敵を見るような鋭い物に変える。

理由は2つ、1つ目、最高司祭ということはカセドラルを、この世界を統べる強者を意味する。そして、恐らくアリスを整合騎士へと変貌させた張本人という事になる。

 

そして2つ目、彼女は俺がリアルワールド《向こう側》から来た事を知っている

 

 

恐らく彼女も向こう側来たという線はないだろう

となると、彼女自身はこの世界で絶対的システム権限を与えられている者?それはラースがプログラムした正式な物なのだろうか?

それとも、、、、いやそんな事は有り得ないプログラムが、NPCが自らシステムにアクセスし権限を剥奪するなど。いや、あり得るかこの世界の人間はNPCでは無かったな。いわばAIといったところか。

 

 

 

「坊や、恐らく今貴方が考えている事は間違いではないわよ、それより提案があるのだけど? 」

 

 

 

「、、、内容は? 」

 

 

 

その時俺は初めて彼女の両眼をまじまじと見た

先程は気づかなかったが彼女の眼はいつも、何かに怯えている様な眼をしていた。肉食動物を恐れる草食動物のソレだ。

これ程の強者が何に怯えるのだろうか。

 

 

「貴方にシンセサイズは通用しないみたいだけど、整合騎士としてここで働きなさい」

 

 

 

提案というより命令ではないか、、、しかしシンセサイズという言葉はなんなのだろうか、アリス、そしてイーディス、彼女の名前にも共通して入っていた言葉だ。どこか引っかかる。

 

 

 

「貴方がこの世界に来た理由は分からないし、正直不安ね、でも貴方を整合騎士として使う事である利益は得る事ができるのよ、さぁ貴方なら今のこの状況が分かるのではないかしら? どちらにするの? この場で消し炭になるか、絶対服従を誓うか」

 

 

 

勿論、今すぐ彼女を消し炭にしたい所ではあるが、彼女の言う通り今の状況では此方が消し炭にされるだろう、俺は《特典》は持っているが、

《システム権限》は持ち合わせていない、彼女は実質この世界の神に近いもの、人間は神に勝てない

 

 

 

 

 

「絶対服従を誓う」

 

 

 

彼女はゆっくりとベッドの縁から立ち上がる

 

 

 

「ふふ、良い返事ねじゃあ、貴方は今日からセイヤ・シンセシス・サーティツーよ、そこの鎧、使って頂戴。後はチュデルキンに任せるとしましょう、、聞いていたわね? 」

 

 

 

 

「はィィィィィィ最高司祭猊下ぁぁぁぁぁあああ」

 

 

 

 

どこからともなく道化師姿の小太りの男性が現れた。

 

 

 

 

「後は頼むわね」

 

 

 

 

「全身全霊を持って仕りまするぅぅぅ」

 

 

 

最高司祭アドミニストレータ、彼女はベッドの中に戻る、、前に足を止め此方を振り返る。

 

 

 

「あぁ、1つ忘れてたわ、整合騎士は貴方の他にもいるわ、貴方を合わせて全部で32ね。後他の整合騎士は自分達の事を天界から召されたと思っているわ、まぁ私がそう仕向けたのだけど。そこら辺理解しておいて、もしも他言しようものなら、、、」

 

 

 

彼女はそう言い残し狂気的な笑みを俺に向けベッドの中へと消えた。

 

彼女の背を眼に俺は拳を握り締める事しか出来なかった。手の平に爪痕が残る程強く。許さない、人の記憶を改竄し利用しようなどと

例えどんな理由があったとしても許される事ではない。

まさに冷徹、非人道的すぎる。いや、彼女は既に人ではないかもしれないが。

 

 

「おい、貴様ァ! 聞いているのですかァ!? 32号!! 」 

 

 

 

「貴方は?」

 

 

 

「私は誇りあるセントリア公理教会元老長チュデルキンであるゥ! 元老長閣下とお呼びなさィ! 」

 

 

 

 

「さいですか、老長」

 

 

 

「なんですかァァその呼び方ァァァァぶち殺しますヨゥ!? 」

 

 

俺はその言葉を無視し、ベッドの傍に置いてあったアドミニストレータが用意したであろう黒い光沢を輝かせる全身をすっかりと覆うサイズの鎧を身につける。まるで中世ヨーロッパの騎士が身につけていたようながっしりとした鎧。両肩当てからは黒いマントが垂れ下がっている。手甲から胴、脛当てまで一色単に黒い。そして首元には白字で書かれた十字のマーク。

兜はついていないようだ。

 

身体中にずしりと重みが伝わるがこの重みもすぐに慣れるだろう。

剣道のおかげか鎧を着て動くという事にさほど違和感は無かった。

そして小手をはめた右手をぎゅっと握る

 

 

 

俺はこの世界でセイヤ・シンセシス・サーティツーとして生きる

待っていろ、アドミニストレータ、いつか、お前をいつか

 

 

 

人界の平和は俺が守る

 

 

 

その後、セントラル・カセドラル最上階であろう場所を去り、下層に直接階段を使い降りとある大扉の前に来ていた。

ここまで人に会わなかった事からこの扉の先に他の整合騎士が俺の《召喚》を待っていると予測する。最上階を去る際元老長がそんな事を呟いていた気がする。

 

 

 

 

満を辞して大扉を右手でそっと押し開ける。

 

 

この瞬間整合騎士セイヤ・シンセシス・サーティツーが誕生した

 

 

 

視界に入ったのはアーチ状の天井と壁際の窓を色とりどりのステンドグラスで覆ってある大きな部屋、そしてその中央に3人

 

 

 

右から青髪の青い浴衣を纏った中年くらいの大柄の男性、そして、先程戦ったばかりのイーディス・シンセシス・テン、最後は、、、、

 

特徴的な後ろ結びの三つ編み、金色の光沢を放つ鎧を纏った整った顔立ちの少女。

 

 

アリス・ツーベルク改めアリス・シンセシス・サーティ彼女だ

 

 

 

 

すると3人が此方に近づいてくる

 

 

 

「よう、話は聞いてるぜ、お前さんが新しい整合騎士だってな、名前は? 」

 

 

 

 

「セイヤ・シンセシス・サーティツーです。」

 

 

 

 

「へぇ〜セイヤ君かぁ〜私イーディス・シンセシス・テンっていうの! よろしくね!! 」

 

 

 

とイーディスさんが自己紹介する。やはり彼女は俺と戦闘した際の記憶を消されていた様だ。そりゃ都合が悪いだろうしな、奴らにとって。

 

 

 

「おいおいイーディス、俺の自己紹介中だぞ、、、」

 

 

 

「えへへ、ごめんね騎士長」

 

 

 

「あー改めて整合騎士長のベルクーリ・シンセシス・ワンだ、分からない事があったらなんでも聞いてくれ」

 

 

 

「はい、お願いします、騎士長」

 

 

 

 

 

「おうよ、こちらこそな、セイヤ。んで、お前さんの剣を最高司祭殿に預かっていたぞ、後で武器庫っーとこに行ってくれ、」

 

 

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 

「あぁ、で、自己紹介の続きだ、左が、」

 

 

「アリス・シンセシス・サーティです。よろしくお願い致します。」

 

 

とアリスが軽く会釈する

 

 

俺はここまでの感情が入り混じりアリスをじっと見つめてしまう。やっと会えたのだ、夢にまで見た彼女に。

 

 

 

「あ、あのそんなに見つめないで下さい。恥ずかしいではありませんか、それとも私の顔に何かついていますか? 」

 

 

とアリスは赤くなりたじろいでいる。

 

 

 

この初めてではない感覚。とても懐かしいような感覚。

それもそうだろう、比嘉さんの話だとアリスは俺の幼なじみなのだから。勿論俺にも彼女にもその記憶はないが。

 

 

「ん? もしかしてもうアリスに惚れたのか? 」

 

 

 

そんな俺を見かねたのか騎士長がにやにやと笑みを浮かべ俺の顔を覗き込んできた。

 

 

 

 

「ち、違いますっ? 」

 

 

 

咄嗟の事に俺も顔を赤くする。

 

 

 

 

「あ、アリスは私のだよセイヤ!!? 」

 

 

 

 

「よくわかりませんけど取りませんって、イーディスさん」

 

 

 

そう俺が答えると何か納得いかなかったのかイーディスさんが「んー」と唸り頭を抱え考え込んでいる。

 

 

 

 

「イーディスさん、、かぁなんか違うんだよなぁ」

 

 

 

 

、、、呼び方かよ!? 俺は心の中でイーディスさんが衝撃で吹っ飛ぶ程のツッコミをいれた。

 

 

 

 

「イーディスちゃん?「んー」イーディスっち?「んー」イーちゃん?「んー」

 

 

 

「って真面目に考えてる!? 」

 

 

 

なんか、イーディスさんはからかいがいがありそうだなこれは。

おっと危ない、からかい癖が出るところだった

 

 

 

 

「じゃあ、イーディス先輩でどうですか? 」

 

 

 

「先輩、先輩かぁ〜」

 

 

 

イーディスさんは何やらうんうんと頷きながら先輩という言葉の余韻に浸っているようだ

 

 

 

 

「うん、凄く良いよ!それ! じゃあ先輩でよろしく! 」

 

 

 

 

「はい、先輩! 」

 

 

 

 

「話は済んだようだな、んじゃぁこの塔の案内についてだが、」

 

 

 

「はいはい! 私やる! 」

 

 

 

「て事だ、セイヤ、イーディスに着いて行ってくれ 」

 

 

 

「勿論、アリスも来るよね? 」

 

 

 

 

「いや、私は、、、」

 

 

 

 

「いーから♪いーから♪」

 

 

 

こうして先輩がアリスの手を無理やり引き、俺のセントラル・カセドラル巡りがスタートしたのだった。

 

 

 

永遠という程に続く赤いカーペットが敷かれた長い廊下。等間隔に部屋が用意されているようだ。

 

 

 

「じゃあじゃあまずセイヤのお部屋にいこっか♪あ、でねでね、ここって〜」

 

 

 

先輩は無我夢中でセントラル・カセドラルの魅力について語っている。足と耳が痛い。開始5分程なのにもう疲れが出始めている。

 

 

 

「あ、でねここおっきい大浴場があるんだけど、、、後で一緒に入ろっか? 」

 

 

、、、、、、、、は?

 

 

 

先輩が恥ずかしそうに身体をくねらせながらそう話す。

 

ここの住人はもしかしてそういう恥じらいがないのかと心配になる。

まさかアリスもではなかろうかと思いアリスの方を向くと

 

 

 

「は、破廉恥です!! 」

 

 

 

安心した。どうやらアリスは正常らしい。

 

 

 

 

テンションが上がっている先輩とそれを引き止めようとするアリスを横目に物思いにふけることにしよう。今の俺は何故か笑っている気がする。

 

父さん、此方の世界で友達ができたよ、帰れるのはいつになるか分からないけど、しっかりやるべき事を果たすよ。この仲間と一緒に。

 

この世界と一緒に。

 

 

 

 

 

〜to be continued〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございます!元老長の扱いが、、、
元老長ファンの方申し訳ありません!ご感想等お待ち申しております!



次回「呼吸」


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7話「呼吸」

 皆様、大変お待たせ致しました!約一か月半執筆出来ず申し訳ありませんでした。

※今回の前書きは重要な事を書いておりますので良かったら見ていってください!

さて、当二次創作につきまして近頃皆様から「イーディスヒロインでもいいんじゃね? 」という意見を頂いております。作者本人悩んでいるのですが、そうなった場合、基本アリス路線で話を進めている為、これからの物語も大幅に左右される事になります。という事で絶対「イーディスヒロインの方が良いよ!」と思われる方は大変お手数ですが、感想等でお知らせ願えたらと思います。イーディスヒロイン賛成の方が多いようでしたら一旦アンケートという形をとらせて頂きたいです。
最初からアンケートしろよ!と思われるかと思いますが、皆様の意見を頂戴し、慎重に決めたいと思いますので、今回この形をとらせて頂きます。お手数ですが何卒お願い申し上げます。

長文失礼致しました!本編をどうぞ!




「んん」

 

 

 

短く呻き怠さが残る身体をゆっくりと起こす。半開きになっている小さな窓から眩しい朝日が線を描き顔を照らしている。

窓の少し上に掛けてあるアンティークな丸時計を見ると時刻は朝の7時を指していた。

 

 

整合騎士の朝は早い、朝から会議、訓練、訓練、任務、日によってはたまに任地にとばされるらしい。

 

 

そんな事を考えていると大分脳が働いてきたのか目のぼやけが覚めてきた。

何か飲み物を飲もうかとベッドから立ち上がろうとすると不意に左腰辺りに柔らかい感触を覚えた。

 

 

ただ、柔らかい訳ではなく、何かこう「ふにっ」とした球体のようなもの。

嫌な予感がしこの感触の正体を知るべく俺は首を自分の左横に恐る恐る回す。

 

 

 

 

 

 

俺は天を仰ぎながら右手を額にあて深呼吸をする。

 

 

そうだ、きっとこれは夢だ。 俺の横にイーディス先輩が寝ている訳がない。

 

 

そう信じて俺はベッドに身体を戻す。

 

 

 

「あ、セイヤおはよ…」

 

 

 

思わず声がした方を向くとイーディス先輩がむくりと身体を起こしこちらを見ていた。

 

 、、、というか、着ているキャミソールがずれ落ちてきているんですが!?

 

 

俺は必死に目を逸らしながら思考を巡らす事にした。

まず、これは夢ではないという事は確実。先輩の事はさておき昨日何をしたか思い出そう。先輩とアリスに連れられセントラル・カセドラル巡りをした後、飛竜発着場にて副騎士長殿と挨拶、そして武器庫に剣をとりに行って歓迎パーティーだとか言って俺の部屋に押しかけてきた先輩にアリスと共に無理矢理酒を飲まされて、、、、、

 

不味い!その後の記憶がないぞ!?

 

 

いやしかし、多分酒を飲みすぎて寝てしまったんだろう、きっとそうだ

未成年には刺激が強すぎたんだ。

という結論に至ったがその幻想は先輩の次の一言でぶち壊される事となる。

 

 

 

 

 

「昨日はお楽しみだったね♪」

 

 

 

 

何した俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!?

 

 

 

 

、、、自分はナニをしたんだ!?さっきから全身から溢れ出す冷や汗が止まらない。

 

 

そういえばアリスはどうなった? 俺の記憶が正しければ一緒にいる筈、、、

 

 

恐る恐る右横に目を向けるとそこには安らかに吐息を立てるアリスの姿があった。

 

 

3秒くらい衝撃で意識が飛んでいたかもしれない。

はっと我に返る。これからの事について思考をめぐらす事にしよう。

まず事実を確認しなくては

真剣な眼差しで先輩の方に振り返り問いただす事にした。

 

 

 

「先輩、それはどういう意味ですか? お楽しみって、、、」

 

 

 

「えぇ!? 覚えてないの!? まぁあれだけ飲んでたもんね、ほら、剣術について熱く語り合ったでしょ? 」

 

 

なんだ、そっちか、一気に緊張から解き放たれ胸を撫で下ろす。

少し残念な気持ちがあるような気がするが何故だろう。

さっきまで焦っていたのに。

 

 

「そんな事より! もう7時すぎてるよ!? 会議遅れたら騎士長に怒られちゃう!! 」

 

 

 

 

「あ、やば、アリス! 起きろ! 会議! 」

 

 

 

アリスの肩をゆすると目蓋を開け理解するのに3秒くらいかかったのか

俺の顔を見るや否や頬を赤く染め飛び起き身支度を始めた。

 

 

なぜ頬を染める必要があったのか?

などと考えているとアリスがこちらを睨んできた。

 

 

 

「お前には後で聞かなければならない事が山程あります! 」

 

 

 

 

「よくわからんが、なんなりと、、、」

 

 

 

 

ちなみにその後の会議には無事遅れ騎士長ではなく副騎士長にこっ酷くしばかれた。

整合騎士になった自覚はあるのかとかなんとか。あぁ、なんか副騎士長とは馬が合いそうに無いや。そういえばイーディス先輩も苦手だって言ってたっけ。

会議が終わったあとアリスに半ば脅迫の様に昨日あった事を聞かれたが

珍しく察してくれたイーディス先輩が仲裁し、説明してくれた。それでなんとかアリスの怒り(?)はおさまったようだった。

今日は朝から災難だ。

 

 

 

 

アンダーワールドに来てからおおよそ3日程度。

初めての実戦を終え整合騎士になり、仲間ができ、アリスに出会う。

この3日は凄く濃い内容だった。

 

 

この世界に来て分かった事が3つある。

 

 

まずはこの世界は仮想現実という言葉では言い表せないこと。

 

次にこの世界はアドミニストレータによる絶対的支配が成されている事。

 

最後にダークテリトリーといつ全面戦争になるか分からないという事。

 

 

洞窟の件でも既にゴブリンなんかがこちら側に出てきていた訳だしいつ攻めてくるかも分からない。にしても危機感がなさ過ぎる。整合騎士は今ほとんどが任地に飛ばされているようだ。そんな状況でもしダークテリトリー側の軍が攻めてきたら対処できるのだろうか。

武器庫には大量に鎧などの装備が備蓄されていたがそもそもその数に比例した兵士はいるのだろうか。

 

態度に出さないものの恐らく他の整合騎士、特に騎士長も同じ事を考えているだろう。

 

そして忘れていはいけないのは「キリト」の存在だ。

自分がこの世界に来た理由の一つでもあるのだから。

しかし自分は整合騎士の立場にあり、勝手に外出など出来もしない。

キリトは今頃何をしているだろうか。

ザッカリアの剣技大会では勝ち進んだのだろうか。

まぁキリトの事だし優勝でもして今頃衛士にでもなっているだろう。

最もキリトが衛士止まりとは思えないが。

一緒にいるであろうユージオの方はどうだろうか。

もしキリトがユージオに剣を教えたのであれば彼もかなり健闘した筈だ。

 

最も会ったことはないが。

 

 

キリトの事だから「俺の一番弟子だ! 」

 

 

とか言ってそうだ。

 

 

ユージオがどんな性格かは知らないがキリトに振り回されていそうなイメージが湧いてきた。

 

なので心の中で静かに合掌しておく。

 

 

 

にしてもここ雲上庭園は心地が良い場所だな。

金木犀の木のほのかな匂いがとても良い。微風が頬を撫であまりの気持ちよさに寝落ちしてしまいそうになる。

 

 

まさかセントラル・カセドラルの80階にこんな場所があるとは。

連れてきてくれた先輩とアリスに感謝しないと。

 

身体を預けていた金木犀の木からゆっくりと立ち上がり背伸びをすると沈黙の間にイーディス先輩が口を開いた。

 

 

 

 

「今日は任務もないから暇ね〜、セイヤ、何か面白い事してよ! 」

 

 

 

 

「無茶振りっすね、分かりました」

 

 

 

と俺は軽くゴホンと咳払いする。

 

 

 

「元老長の物真似行きます。すっー

 

 

 

 

    ぶち殺しますヨゥ!?!?」

 

 

 

 

 

「あはははははは、似てる似てる! 」

 

 

 

 

先輩は赤くなり転げ回っている。

 

 

 

アリスは一瞬ふふっと笑った気がしたが、、、?

 

 

 

 

「アリス、笑ったな今」

 

 

 

「笑ってません」

 

 

 

「笑った」

 

 

 

「笑ってません」

 

 

 

「サーティ! 笑いましたね!? 」

 

 

 

「ふふっ」

 

 

 

 

「あ、、、、、、、わ、笑ってません」

 

 

 

 

 

「「そりゃあごまかしきれませんですよ、アリスさん」」

 

 

 

何故か先輩と声が重なる。

 

 

 

「にしても、昨日聞き忘れてたけどセイヤのその剣ってどこで手に入れたの? 」

 

 

と先輩が俺の右手に持っている愛剣を指差す。

 

 

 

「あ、あーこれは天界から召される時に最高司祭様が」

 

 

 

なんにしろ外の世界のでーすとは言えないのだから。それをバラすときは打倒アドミニストレータの準備が整った時だ。

 

 

「んじゃそれも神器なんだよね、」

 

 

 

「そうなんですかね、、、」

 

 

 

神器というのは主に整合騎士が持つ他の武器より優先度がかなり高いレア武器らしい。まぁこの愛剣が神器と呼ばれる物でも全く驚かない。

この世界に合ったようにコンバートさせたのは実の父なのだから。

それなりのチート機能はつけられている気がする。

 

 

と何やら先輩はステータスウィンドウ型の「ステイシアの窓」なる物を開き指でなぞっている。

 

最初見た時こそは驚いた。この世界で唯一仮想世界らしき物。

SAOやALOにも同じようなものがあった。

 

 

 

「んじゃあ、あたしもっとセイヤの事知りたいし一回ここで手合わせしない? 」

 

 

 

と先輩は神器である闇斬剣を手に取る。

 

 

 

まぁ、一回手合わせした事あるんですけどね

 

 

 

俺も愛剣であるラ・ヴィーナを手に取る。

 

 

 

 

           『呼吸』

 

 

俺自身がSAOでの死闘の中で手に入れたユニークスキル。

 

片手直剣用のユニークスキルだが『呼吸』を獲得してから

他のソードスキルが一切使えなくなった。

その要因と真意はゲームクリア後も分からなかった。

 

 

世界の去り際、ゲームマスターである茅場晶彦は「君だけのスキル、君だけの現実さ」

と訳のわからない事を言っていたが。

 

 

このアンダーワールドに来ても呼吸以外のソードスキルは使えなかった。

 

 

 

俺が使える呼吸の種類は『水の呼吸』、『霞の呼吸』、『雷の呼吸』

『音の呼吸』のみ。

 

他にもあるがSAO時代には試していない。

 

 

もしかしたらこれは他の呼吸を試せるチャンスかもしれない。

 

 

 

 

〜tobe continued〜

 

 

 




はい、ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回は呼吸について触れていきました。
ヒロインに関してはダブルヒロインも考えております。皆様のご意見お待ちしています。どうぞこの先も当二次創作を宜しくお願い申し上げます。

次回「ヒノカミ」


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8話「ヒノカミ」

 皆様お待たせ致しました!お気に入り登録者様が200人を突破し、並びにUA数も1万5000を突破致しました!本当に有難うございます!
 さて、当作品のヒロインについてなのですが、まずは皆様沢山のご意見ありがとうございました!私本人悩んだ結果どのルートでも続きを書ける見通しがつきましたので、今回後書きにて《アンケート》の実施を致します。大変お手数ですがどうぞ宜しくお願い申し上げます。
これからも少しでも皆様に楽しんで頂けるように執筆していきたいと思います。


それでは、8話「ヒノカミ」どうぞ!



〜 アンダーワールド セントラル・カセドラル80階 雲上庭園 〜

 

 

 『その場の空気が凍る』という言葉があるがそれは正に今この状況の事を指すだろう。

 

勿論今までにその場面には数えきれない程遭遇してきた。

リアル《現実》では、ある剣道の試合で相手の小手を打った瞬間そのままかなりの勢いで竹刀を床に叩きつけてしまい竹刀の先が折れてしまったのだ。うちの顧問のモットーは『 道具こそ命! 』である。案の定顧問の方を見ると辺りからドス黒いオーラが漂っていた。ブチギレである。審判さんや、相手も少しびびっていた程である。その後の事は思い出したくも無い。

 

 

普通竹刀が折れるなどなかなか無い事なのだが何故かそれだけ力が入っていたのだろう。(当時好きな子が応援に来てくれていたから緊張していたとは口が裂けても言えない!! )

 

 

 

男というものは好きな子、いや女子の前では異常に張り切る癖がある生き物なのだ!(偏見)

 

 

 

と、こんな馬鹿げた事を考えていないと冷静さを失う程緊張している訳である。

 

目の前には凛々しい顔付きをしたイーディス先輩。

 

しかしその右手には鞘から抜き放たれた神器《闇斬剣》がしっかりと握られている。

 

 

 

「それじゃ、始めよっか、セイヤ」

 

 

 

「容赦はしませんからね? 模擬戦ですけど」

 

 

 

「勿論! 全力でかかってきなさい! 」

 

 

 

ドンッと自身の拳を左胸に当てフンス、と何やら誇らしげにする先輩。

 

 

先輩のその様子を見て少し緊張が解ける。先程まで何故そんなに緊張し

ていたか詳しくは分からないが恐らく先輩から発せられた『オーラ』に圧倒されていたのだろう。

 

普段のほほんとしている彼女ではあるが根は真面目であり数々の死線を潜り抜けた立派な《整合騎士》なのである。(多分)

 

前に刃を交えた際には既にゴブリンの相手を終え何より急いでいて余裕が無かった自分には感じる事が出来なかったようだ。

 

最もあの時は恐らく彼女の目的は俺の捕縛。つまり本気では無かったというのも理由の一つだ。むしろそれが大きい。だからこそ、その隙をつけたが今回はそう簡単にはいかない。

 

 

彼女が本気だから。これは模擬戦といっても実剣、しかも神器での立ち会いだ。

 

ルールは簡単、相手に「参った」と言わせるか審判の判定で決まる。

 

彼女がもし自分の強さを確かめるつもりで勝負を挑んだなら全力で立ち会うというのが筋だろう。その中で色々確かめていけばいい。

俺もこの世界の自分の力をもっと知るために。

 

 

そして俺も剣の鞘を払う

 

 

 

「それでは始め」

 

 

 

審判を務めるアリスが右手を上げる。

 

 

 

と同時に先輩と俺の間合いは零距離近くまでに縮まる。

 

 

  

 

   ッ速い!?

 

 

 

回避不可能な距離である眼前まで迫った横なぎの斬撃を剣の腹で受け流すが全ては受け流す事が出来ず弾き飛ばされてしまう。

 

 

必死に両足に力を込め4、5メートル程後方で砂埃を巻き上げながらようやく止まる事ができた。

 

 

 

速いだけじゃ無い、意外とその剣には力が篭っていた。

となると保身気味になり消極的になるのは不味い。

 

 

 

なら此方から_ッ

 

 

 

「全集中、霞の呼吸、肆ノ型、移流斬り」

 

 

 

真っ赤な刀身は瞬く間に真っ白に染まり、白いエフェクトを放つ。

 

 

そのまま先輩に向かってスライディングのように滑り込みながら横薙ぎに剣を振る。

 

 

少し驚いた表情を見せた先輩は左横に身を捻る。そしてこの技はかわされてしまう。

しかし、同時に俺も身体を左に思い切り捻る。

 

 

     

       「参ノ型、霞散の飛沫」

 

 

 

左に避けた先輩の背に向かってラ・ヴィーナは霞を払うかのように大きな弧を描く

 

 

 

「へぇ、本命はこっちだったんだね」

 

 

 

「なっ!? 」

 

 

 

先輩が言う通り大本命だった横薙ぎに振るった剣はしっかりと闇斬剣の腹で受け止められていた。

 

先輩のドヤ顔がむかつく。

 

 

そのまま体勢を持ち直した俺達は鍔迫り合いへと突入する。

互いに譲らず組み合ったまま数歩前に出たり下がったりする。

 

先輩は意外と力があると思っていたがそうではない。単純に力だけなら俺の方が上だろう。ならなぜ力勝負の鍔迫りで引けを取らないのか。

 

恐らく力の入れどころが分かっている。身体の扱いが上手いのだ。

それは技術うんぬんではなく、実戦で得たソレだろう。

 

 

場数の差ってやつか

 

 

 

しかしそんな泣き事は言ってられない。こちらも使命がある。意志がある。こんなところで負けているようでは、、この世界を守っていくなど到底無理だ。

 

 

 

右足を強く前へと踏み込む。恐らく先輩相手に引き技を繰り出してもかわされるだけだ。なら前にひたすら踏み込む、《中心》は譲らない。

その行動に先輩は驚いた表情を見せた。

 

 

 

 

「へぇ、やっぱり強いよ、セイヤ。」

 

 

 

 

 

「ありがとうございますッ、、でも先輩はまだ全力には見えませんよ? 」

 

 

そう、俺は一度目にしてしまっている。彼女の《武装完全支配術》を。

真剣な立ち会いと言えども俺はあの時の彼女の力すら引き出せていない。

 

 

 

「よく分かったね、セイヤ、でもまだまだこれからでしょっ」

 

 

 

彼女は後ろへと飛び退く形で剣を振るってきた。

幸い避ける事はできたが俺の顔の右数センチ横を斬撃が空気を斬るスパン、という音を立てて消え去った。

 

 

 

鍔迫りから解き放たれ体制を整える事ができた。

 

 

 

更に呼吸を水の呼吸へと切り替える、今更、出し惜しみはしない。

 

 

 

 

 

「全集中、水の呼吸、弍ノ型、改・横水車」

 

 

刀身は青いエフェクトを放つ。

 

 

間合いを再び詰め身体を全力で地面と並行になるように捻る。

広範囲に斬撃を繰り出す事ができるこの技なら、、、そんなに上手くはいかないようだ、これも先輩は斬撃の下を潜る事で避ける。

 

そうなるとこちらが危ない。先輩はその状態から俺の首元目掛けて突きを放ってきた。それをこちらも同じく突き技、漆ノ型、雫波紋突きで迎撃する。

 

 

一進一退の攻防、どちらも譲らない、しかし圧倒的に優勢は先輩で余裕の笑みすら垣間見える。

 

 

一方俺はというと既に肩で息をしている状態。限界に近い。

それでも無理矢理笑みを作り先輩を見る。

 

 

負ける訳にはいかないからだ。プライドがそうさせたのだろう。

 

勝つには残り数撃でかたをつけるしかない。

 

 

 

 

「玖ノ型、水流飛沫・乱」

 

 

 

 

ひたすらに地面を蹴るしかし、着地する時の接地面を最小、最短にする様に。より素早く、縦横無尽に駆ける。この空間を我が物とせんと。

 

 

先輩の剣の癖が大分読めてきたようだ。一度踏み出した足は元に戻らない。彼女は非常に細やかなステップを踏み剣を振っている。それは相手に剣筋を見切られないようにする為だろう。こちらも素早さに意識して初めて気づく事ができた。

 

ならその間を抜けるまで。先輩の斬撃をすんでの所で避けながら一撃、一撃速さを上げ正確に突いていく。

 

そしてついに。

 

 

 

「なッ_!!」

 

 

 

俺の斜め横から肩口に向けて繰り出した斬撃は先輩の肩当てにほんの僅かに掠った。

 

 

先輩はあからさまに驚いているが、まだだ

 

この機を逃すわけにはいかない。

 

 

 

「拾ノ型、生生流転」

 

 

 

俺が持つ最大、最強の威力を誇る《奥の手》。

 

 

 

一撃目より二撃目、二撃目より三撃目と技の威力が上がる。

 

 

 

その姿、まるでうねる青龍の如く。

 

 

 

これで決まる、と思っていた自分が浅はかだった。

 

 

一時的にだが忘れていたのだ。《奥の手》は自分だけが持っているものでは無いという事。彼女にも《奥の手》が存在するという事。

 

 

 

 

「エンハンス・アーマメント」

 

 

 

 

先輩がそう高らかに叫ぶと闇斬剣はそれに応えるように紫色のエフェクトを輝かせる。

 

彼女の《奥の手》の一つでもある武装完全支配術は屈強な鎧だろうが高い優先度を持つ刃だろうが相手にならない。

 

 

全てを突き通す。

 

 

前回は腕を盾にしてまで防いだが今回はそうはいかないようだ。

今の先輩は隙がない。更に分身でも出されたら不味い。

 

 

 

《生生流転》のアタックモーションを急停止させても今更意味は無い。そこは完全に先輩の間合いだからだ。ならばせめてッ_

 

 

《生生流転》の流れるような足運びで眼前まで迫る先輩の突きを右に避ける。

 

 

 

       ッ_

 

 

辛うじて避ける事は出来たが、肩口から垂れ下がる黒のマントは切り裂かれ切れ端が宙を舞った。

 

 

 

 

「ありゃ、避けられちゃったかぁ、首元に寸止めで勝ったと思ったのに」

 

 

 

 

 

「そんな簡単にはいきませんよ、先輩」

 

 

 

 

嘘である。もう何も方法が無く万策尽きた状態だ。《奥の手》も、もう通用しない。

 

 

いつもこうだ。何かと『決め手』に欠ける。SAO時代の74層で《ザ・グリーム・アイズ》に追い詰められた時も、ヒースクリフと死闘を繰り広げた時も結局は彼とその仲間、自らの団の団員に助けられた。

 

 

なら何故自分は茅場《ヒースクリフ》に異常に期待されていたのだろう。

才も彼《キリト》に劣るというのに。

 

 

「君だけのスキル、君だけの現実」

 

 

茅場が俺に残したその言葉を呪文のように頭の中で繰り返す。

 

 

考えろ、茅場は自分に何を伝えたかった、何を残したかった。

 

 

 

 

 

 

「自分だけ、の?」

 

 

 

 

 

 

、、、そうか、何を迷ってたんだ、このスキル《呼吸》は世界でたった一つ。

俺だけのものではないか。自分で『考え』、それを『現実』に移す。

 

 

 

 

 

    《決め手》が無いなら創ればいい。

 

 

 

 

 

SAOでは基本黒一色の装備を見に纏うキリトと対照的に自らは赤一色の装備を好んだ。その結果ついた二つ名は「紅蓮の剣士」

 

 

 

 

 

 

「エンハンス、、、アーマメント」

 

 

 

 

 

先程まで薄青く輝いていたラ・ヴィーナは刀身を赤く燃やす。そして赤黒く染め上げる。なによりも熱く、強く、ただ真っ直ぐに。

そうして俺は頭の中に浮かび出た言葉を口にする。

 

 

 

 

 

「舞え、ヒノカミ」

 

 

 

 

 

眩い程の炎を灯すその刀身は火柱を上げ不死鳥の様に高く、高く天を貫き、羽ばたく。

 

 

 

 

「え、ちょっとなにそれ!? そんな事したら雲上庭園が_」

 

 

 

 

先輩が何やら叫んでいるが聞こえない、この広範囲攻撃なら勝った筈。

あとは先輩の前で寸止めして、_

 

 

 

 

「き、聞いてるの? 燃えちゃうわよ! バカー!? 」

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 

先輩の必死に張り上げた声で今自分がいる場所が雲上庭園だと思い出し

振り下ろすその手を急いで止める。

 

 

やがて纏っていた炎は鎮まり、刀身は赤色へと色を戻した。

 

 

 

 

「すいません、先輩、自分周りが見えてな_「隙あり」 」

 

 

 

「え? 」

 

 

自分の喉元を見ると先輩の闇斬剣が突きつけられていた。

 

 

 

 

「勝負あり、この戦いイーディス殿の勝利とします。」

 

 

 

アリスは少しムスっとした顔でこの模擬戦の終わりを告げる。

 

 

 

 

「えっ、えぇ!? せこっ!?」

 

 

 

 

「整合騎士たるもの、いかなる場面でも油断は命取りよ、覚えておいてね」

 

 

 

俺の首元から剣を離し、鞘に収めた先輩が真剣な目つきでこちらを見つめる。

 

 

 

 

「は、はい、肝に銘じときます、、。」

 

 

 

と、こちらもラ・ヴィーナを鞘に収めると先輩がこちらの頭を二回ポンポンっと軽く撫でた。

 

 

 

 

「よし、えらいえらい、にしてもびっくりしたよ? 本当に雲上庭園が燃えちゃうかと_「お前は何を考えているのですか!!」おぅ」

 

 

 

「雲上庭園を燃やす気ですか!! ここは私の大切な場所なのです! もし大切では無いとしてもここで大技を使うなど、ありえませ_ 」

 

 

アリスの説教を聞いていると急に視界がぐらついた。

 

そっか、呼吸をいくつも使ったし武装完全支配術まで試したからその反動で_

 

 

俺の意識はそこで完全に途絶えた。

 

 

 

 

〜to be continued〜

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!
今回は武装完全支配術を試すという所まででした!
次回もお願いします!!


次回  「迷わないで」

ヒロインについて投票是非お願いします!!

投票、ありがとうございました




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9話「迷わないで」

 皆様、まずは沢山のご投票ありがとうございました! 投票の方は今現在ダブルヒロインが優勢ですが、もう少し投票の期間は延ばさせて頂きたいと思います。
 ご感想、多数のお気に入り登録ありがとうございます!励みになります!

では、9話目、「迷わないで」 どうぞ



〜央都セントリア付近上空〜

 

 

 

 

頬に当たる風は冷たい。アンダーワールドに四季があるのかどうかは知らないが、最近はやや寒さが増している気がする。

 

顔を少しばかり上げると目線の遥か先に円形の城壁で囲まれた巨大都市が分厚い雲の間から薄らと垣間見えた。

1ヶ月半ぶりの央都セントリア。そして4分割された都市の中央に位置する難攻不落の白き塔、セントラル・カセドラルである。

 

 

 

 

塔の50階に位置する飛竜発着場に到着するや否や自身の身体を預けていた飛竜から飛び降りた。

 

 

 

 

「お疲れ様、焔裂、」

 

 

 

 

そう一言かけ、自らの飛竜である《焔裂》の背中を二度、三度優しく撫でる。それに応えるように《焔裂》は真紅色の身体を揺らした。

《エンレツ》は整合騎士が扱う飛竜の中で最も若い飛竜であり、その個体を最高司祭アドミニストレータから譲り受けたのだった。

 

整合騎士が基本一人一体所有する《飛竜》は時に移動手段となり、攻撃手段ともなる。

 

焔裂を厩舎に預け、階段を使い上の階を目指す。本当なら疲れきっているのでこのまま自室のベッドにダイブしたいが、任務報告と大浴場で身体を洗い、疲れを癒したいのでそうもいかない。

 

 

俺に与えられた初の任務は南帝国領の果ての山脈への出張だった。

目的はダークテリトリー側の監視であった。そこで一か月弱を過ごしたのだが、交代で入ってきた整合騎士がまた変わり者だった。

 

 

1人目、エントキア・シンセシス・エイティーンは、薄青髪で真っ青な鎧に身を包むなんとも好青年を彷彿とさせる整合騎士。実際、彼とはすぐに打ち解けこの世界で初めての男友達が出来たような感覚で嬉しかった。

 

 

問題なのは2人目だ。ネルギウス・シンセシス・シックスティーン、彼は見た目がどうしても野菜にしか見えない。そう、vegetableだ。

緑色の長髪はともかく、鎧まで緑一色なのだから仕方がない。

彼が扱う神器《萌嵐槍》は巨大なネギから作られたらしい。どういうお笑いだろうか。悪い人ではないのだが、視線が気になるというか、何というか。※彼の事は「ネギ先輩」と呼ぶ事にした。

 

 

 

と、そんな事を考えていると後ろから見知った声が掛けられた。

 

 

 

「あ、セイヤ〜!!」

 

 

 

言わずもがな、イーディス先輩である。彼女も任務帰りだろうか、確か東側の地域を統括しているのは彼女だった筈だ。恐らく今回の任地もそこだった筈。出発前に少し話した記憶がある。と言っても一か月弱前の事なので曖昧だが。

 

 

 

「やっほ、セイヤも今帰ったとこ? 」

 

 

「あぁ、はい南から」

 

 

「私も今東の任地から帰ったとこだよ、上への報告は? もう終わったの? 」

 

 

「まだです、今から行こうかなって」

 

 

「そっか、じゃあ一緒にいこ? 」

 

 

「はい、ぜひ」

 

 

横を歩くと同時に彼女の顔をチラッと見る。やはり美人だ。横からでも顔の輪郭はすらっとしていて、整っていると分かる。おまけに美しい銀髪ポニーテール。

しかも鎧越しだがスタイルが良いのも分かってしまう。しっかり出るべき所も出ている。まぁこれで中まで良いなら完璧美少女なのになぁと思ってしまう。中といっても性格が悪いわけではない、彼女のざっくばらんな性格はむしろ好きだ。しかし悪いのは彼女の癖というか、技術というか、だ。まず酒、アルコールに弱い事、彼女は酔っ払っては毎回の様に俺の部屋に押しかけてくる。そこまではいいのだが、俺も無理矢理飲まされたあげく、ベッドに潜り込んでくる。全く俺の理性の事も考えて欲しい。

 

そして、何より究極の『メシマズ』なのだ。

彼女自身、任務や修練に明け暮れ、時間がなく自炊した事も無いのは分かるが、、、出来たものはとても料理と言えるものではなく、得体の知れない(ナニカ)であった。勿論それを実食したアリスは泡を吹き、意識を手放した。それから共に練習をして幾らか腕の方は上達したものの、まだ料理とは言えない、、料理になりかけの(ナニカ)にレベルアップしただけだ。彼女曰く「味はいいから! 味はいいからね? 」だそうだ。

 

 

 

「む、なにか今バカにされた気がする」

 

 

 

「き、気のせいであります! 」

 

 

 

じっーとジト目で先輩が俺の顔を覗き込んでくる。近い! 近い!

 

にしても、女の勘というものは凄いものだ。

 

 

 

 

そんなこんなしている内に50階、昇降盤の前まで到着した。

なんとも近未来感のある円盤型のエレベーター。

昇降係が神聖術で動かしているらしい。

この昇降盤で80階の雲上庭園まで上がり、そこから96階の元老院まで向かう。

 

 

 

 

「昇降係さん、インチキ道化師のところまで」

 

 

 

「?」

 

 

 

「こーら、困らせないの! ごめんなさいね、雲上庭園までね」

 

 

 

 

「かしこまりました、システムコール。ジェネレート。エアリアルエレメント。バーストエレメント。」

 

 

俺と先輩が昇降盤に乗ると昇降係はぺこっとこちらにお辞儀をし、詠唱を開始した。

 

 

昇降係、彼女は自身の事をただ、昇降盤を動かす者としか考えていないらしい。反乱を起こした際には、彼女も自由の身にしたいものだ。

 

 

 

 

昇降盤がガコン、という音と共にゆっくりと動きを止めるともうそこは、80階、雲上庭園だった。

 

 

眼前に広がる雲上庭園。木々は生い茂り空間を緑一色で満たしている。

その丘の頂をアーチ状の天井を突き抜けた月の光が照らしているようだ。先程までは夕暮れに染められていた空が今は漆黒の闇夜と化している。いつもなら丘の頂の中央に位置する筈の金木犀の樹は今は存在しない。

その金木犀こそがアリスの神器なのだから。

その神器の名は《金木犀の剣》。

 

《金木犀の剣》の武装完全支配術は刀身を黄金色の幾千もの花びらに変え、広範囲に攻撃するというもの。その花びら一枚、一枚が地を穿つ程の威力を有している。

 

 

たまにアリスは《金木犀の剣》に陽の光を当てる為にこの場所を訪れている。

 

、、最も三か月程前にこの雲上庭園を俺が破壊しかけたのだが。

 

 

昇降係にありがとう、と軽く会釈をし、先輩と共に丘の麓にある小川を跨ぐ木橋を渡り丘を中継し、更に上の階へと続く階段を登る。

 

 

 

 

 

〜セントラル・カセドラル96階元老院〜

 

 

 

長々と続く赤いカーペットが敷かれた廊下。その一角の曲がり角から奴は現れた。

 

 

 

「32号ゥ!! 遅いですヨゥ!? 何時だと思ってるんですかァ!?、10号! お前もです! 」

 

 

 

「あ、はいそれじゃー失礼しやした、任務より帰還しました、異常無しです、交代完了致しました、以上です、失礼しました。」

 

 

 

 

そう言って俺はイーディス先輩の右腕をがしっと掴み半ば引きずるような感じで元老院を後にした(逃げた)

 

 

 

〜セントラル・カセドラル90階大浴場〜

 

 

 

ランタンがぼんやりと光を灯し、温かい湯気が視界を満たすこの薄暗い空間に、天井からポトリと一粒の水滴が落ちる音が響く。

真っ黒な夜空に浮かぶ美しい三日月が微かに波立つ浴槽の水面に映る。

なんとも幻想的な風景だ。

 

 

「はぁ、後で怒られないかな、あれ」

 

 

 

「まぁ、大丈夫でしょ、、なんでいるんですか!? 先輩! 」

 

 

 

 

「ん、あれ? 駄目だった? 」

 

 

 

 

 

頬が熱くなるのを感じる。そりゃ駄目でしょう。現在の状況を整理すると、疲れを癒す為に大浴場で入浴を楽しんでいた訳だが物音がしたかと思うと突然、先輩が後ろから浴槽に入ってきたのだった。後から俺の部屋で飲み交わす予定ではあったのだが、まさか入ってくるとは。

当然、お互い背中は向けており、バスタオルも着用しているのだが。

 

 

 

 

 

「ねぇ、セイヤ、私に話したい事あるんじゃない? 」

 

 

 

少し意表を突かれ、思わず先輩の方に身体を捻りそうになる。

 

 

 

「あぁ! 駄目駄目、こっち向いちゃ駄目だよ? 恥ずかしいから、そのままで、、、」

 

 

後ろからバシャっと水飛沫が上がり何やら先輩がたじろいでいる。一応、そういった恥じらいはあるらしい。まぁ混浴している時点でアウトな気もするが。最初出会った当初彼女は「一緒にお風呂に入らない? 」と言っていたがまさかこんな形で実現するとは。あれは半分本気、半分冗談だったんだな。

 

 

 

「先輩、俺、、自分は南帝国領の果ての山脈でダークテリトリーの監視がてら武装完全支配術の修練をしたんですけど、」

 

 

 

「あぁ、この前私と戦った時のアレ、ね? 調子はどうだったの? 」

 

 

 

「成功、しませんでした。」

 

 

 

成功しなかった。果ての山脈なら大技でも気にする事無くぶっ放す事ができると思っていたのだが、成功したのは先輩との模擬戦が最初で最後で、後は何回やろうが炎を纏うどころか刀身が赤黒く染まる事さえ無かった。

 

自分の無力さを知った。経験が違うとはいえ、歳が近いであろうアリスでさえ完全支配術を完璧に扱う事が出来るというのに。

 

 

 

「そっか、でもいいんじゃない? 」

 

 

 

 

「え、、? 」

 

 

 

「だって、セイヤ完全支配術がなくても少し歳上で整合騎士歴も長い私と同じくらい、ううん、私より強いし、それに変な技も使うし」

 

 

 

「だから、さ」

 

 

 

パシャっと小さく水飛沫を上げ、先輩の手が俺の後頭部から前頭部を撫でる。

 

 

 

「迷わなくていいよ? 何一つ焦らなくても貴方なら大丈夫」

 

 

 

まただ、何故か彼女の撫でる手は安心感を与える。この前もそうだった。なんとなく落ち着くような、心地良いような、彼女に優しく包み込まれる感覚さえする。

 

 

 

「それじゃ、私は先に上がるからね」

 

 

 

パシャ

 

 

 

「「あ」」

 

 

 

浴槽から立ち上がった先輩と思わず視線が重なる。しかし欲望には逆らえなかったのか俺の目線はそこからさらに30㌢程下に落ちる。

 

 

そう、彼女の二つの膨らみ目掛けて。

 

 

その視線にいち早く気づいたのか先輩が先に口を開く。

 

 

 

 

「ふーん、、、、、えっち」

 

 

 

彼女は『男が言われてみたい言葉ランキング!』トップテンにランク入りしてそうな言葉を言い残し、大浴場を後にした。

 

 

呆気にとられた俺はのぼせない程度にもう一度と、浴槽に身体を戻す。

 

 

 

「先輩の方が、何枚も上手だよなぁ」

 

 

 

眼前に伸ばした右手が何も掴む事は無かった。

 

 

 

〜to be continued〜

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお読み頂き、ありがとうございます!今回は、イーディス回でございました!次回もお願い致します!

引き続き評価、感想等お待ちしております。

次回「《金木犀》と彼女」








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10話「《金木犀》と彼女」

 皆様、総数259件もの投票、誠にありがとうございました!
結果としては大差がつき、今回から『ダブルヒロイン』の方向で物語を進めていく事となりました。まぁなんやかんやこの選択肢が一番平和で、納得して頂けるのではと思います。そして今回で10話を迎えます。10話時点でお気に入り登録者様278人、UA数は、2万超、皆様のおかげあってここまでこれました。今後とも『32番目の騎士』をよろしくお願い申し上げます。
さて、今回はアリス回です!

10話「《金木犀》と彼女」





------------アリスside------------

 

 

 

 

金木犀の木が揺れる。

 

まるで私自身を慰めるかのように。

 

私を包み込むように。

 

失った過去をそっと撫でる。

 

あぁ、私の大好きだった光景だ。今は無い、消された__記憶

 

 

幼き私が過ごしたあの場所は、仲間は、なんだっただろう。

今はもう思い出せない、

 

 

だけどこの光景は覚えている、太陽が傾く昼下がりの穏やかな村。

仲睦まじく村を駆け回る4人の姿は、__

 

 

 

 ほら、アリスも行こうぜ!

 

 

此方に手を伸ばす黒髪、茶眼の少年。年相応の幼さが窺えるその無邪気な横顔は笑っていた。

 

 

なら、その手を掴んでもいいよね、ほら、いつものように____

 

 

 

 

アナタハダレナノ? 

 

 

 

突如、視界が暗転する。この空間を満たす黒。その中に佇む《自分》と対面する。

 

 

 

「私、ッ_私、は、」

 

 

思わず言葉が詰まる、いや出てこない。自分が何者なのか証明ができないからだ。

 

 

アナタ、イツマデワタシノナカニイルノ?

 

 

違う、違う、違う、違う、私は____

 

 

ふと、自分の手元を見る。目に入ったのは自らの手を、足を、身体を、包み込む黄金の甲冑。…何故か左腰に暖かみを感じる。

恐る恐る左腰に視線を移す。その暖かみの正体は一振りの黄金色の剣であった。

 

…そうか、私が私である理由はそこにあった。

唇をギュッと結び、腰にある《金木犀の剣》を、抜き放つ。

 

 

「私は、整合騎士アリス・シンセシス・サーティ、他の何者でもない!」

 

 

 

_ _ _ _ _______

 

 

最近よく夢を見る。何故か朝目覚めた時には内容の全てを忘れてしまっているが、必ず右目に鈍い痛みだけが残っている。

 

 

この現象が起こったのは今回が初めてではない、定期的に去年の暮れ辺りから、もっと正確にいうと彼、セイヤがセントラル・カセドラルに整合騎士として召喚されてからだ。

 

この事を考える今この瞬間も、右目の痛みは止まない。

そして、思考を止めると痛みは徐々に治る。

 

この事を他の誰かに相談するという選択肢は無い、気にするだけ任務に支障が出る。私は、整合騎士として、その任務を全うするだけ、他の思考は必要がない。そう決めているのだから。

 

一方通行の廊下を歩いていると、ふと後方から足音が聞こえたので足を止め振り返ると、同時に足音も止んだ。

 

「師よ、今日も稽古をつけて頂きたく_「ごめんなさいエルドリエ、今日の正午から任地に発ちます。その身支度をしなければならないのです」

 

 

「そうですか、、では、またの機会に」

 

 

「えぇ」

 

話を遮った事に対する軽い罪悪感を覚えながらそっと相槌を打ちその場を後にする。

 

彼の名は、エルドリエ・シンセシス・サーティワン。セイヤとほぼ同時期に召喚された整合騎士で、鞭型の神器《霜鱗鞭》を使いこなす。

私の事を師と呼び、暇があれば稽古をつけている。

彼はセイヤと馬が合わないらしく、度々立ち合いをしているようだが、未だ全敗らしい。

 

 

____

 

 

時計は、11時を指している。身支度も終え、少し寛ぐ暇が出来たので雲上庭園へ向かう事にしよう。

 

 

 

 

 

------------セイヤside------------

 

 

 

「えっへへ〜、セイヤはあたしの所有物なのだ〜」

 

 

なんで俺の所有権が先輩にあるんだよ、と寝言を呟くイーディス先輩に対して心の中でツッコミを入れておく。

あとこの人案外重い。ベッドから降りることが永遠にできないのでいい加減俺の腹の上から退いて欲しい。

先輩が毎度の様に酔って部屋に押しかけてくるのはもう慣れたが、流石に昼間際の11時まで寝るのは勘弁してほしい。

 

……あと、なんで毎回鎧脱いだ下着姿でベッドに潜り込んでくるんですか、痴女の類ですか?(本人は勿論そんな自覚は全く無く素である)

それともまさか俺の事が、、好き⁇(間違ってはいないが、彼女目線セイヤは弟である)

 

今日は定例会議が無かったとはいえ、もうこれ以上は夜眠れなくなる可能性があるので、先輩を無理矢理退かす事にした。

 

 

先輩は仰向けになっている為、背中に手を突っ込み、俺の腹の上からゆっくりと退かす。(話しかけても起きない為)

 

 

 

「あふん」

 

 

…先輩は独特な鳴き声を発した。まだ起きないとはもはや尊敬である。

この後二日酔いでダウンする光景が目に浮かぶ。

 

 

そんな先輩を横目に俺はさっさと着替えを済ませて部屋を出る。

目的地は雲上庭園。あの場所、実は結構好んでいるのだ。

切り替えに丁度良い。

 

 

50階、《霊光の大回廊》昇降盤へと続くその一角を曲がろうとした時、会いたくない人ランキング3位の人物とばったり出会ってしまう。

 

 

脳内では、「あ、」とか声に出そうとしたが俺の口は思わず反射的に

「げ、」と口にしてしまう。

 

 

薄青髪の青年騎士、またの名を整合騎士エルドリエ・シンセシス・サーティワン。

 

なにかと突っかかってきては立ち会いを挑まれる。アリスの弟子らしく、アリスが暇さえあれば稽古をつけているそうだが、その前にしつけをしっかりしてほしいものだ。

 

最初に口を開いたのはエルドリエだった。

 

 

 

「これはこれは、セイヤ殿、どこへ行かれるのですか? 」

 

 

 

「いや、ちょっと雲上庭園に」

 

 

「もし、時間があるのなら、是非立ち会いを所望したいのですが_」

 

 

 

「え、いや自分雲上庭園行きたいし、実はそんなに暇じゃないので、他の人を探すか、また別の時間に出直してきてください、ごめんなさい。」

 

 

とりあえずペコっと軽くエルドリエに頭を下げ、逃げる様にその場をそそくさと後にした。

思いっきり睨まれた気がするが、今日ぐらい立ち会いは勘弁してほしいものだ。エルドリエは神聖術の扱いにも長けていて、かなり手強いので連日連戦だとこっちの身がもたない。

 

 

 

〜〜雲上庭園〜〜

 

雲上庭園の丘の真ん中に金木犀の木が立っている。その木陰にはどうやら先客が座っているようだ。

 

 

 

 

「ありゃ、先客がいたか」

 

 

「あぁ、お前でしたか」

 

 

アリス・シンセシス・サーティ、彼女だ。

金木犀の剣が木の状態にあるということは、陽の光を金木犀の剣に浴びせている最中なのだろう。

 

「横、いいか? 」

 

 

「えぇ、構いません」

 

 

彼女の隣にそっと腰を下ろす。やっぱいいんだよなぁ。ここ。

ほんとカセドラル自体のセンスはいいんだがなぁ

 

 

「なぁ、なんでアリスって俺の事だけ(お前)って呼ぶんだ? 」

 

 

「特に理由はありません、お前はお前です」

 

 

アリスはくすっと笑う。

まぁ別に呼び方なんてさほど気にしないけど、俺がここに来てからずっと(お前)だなぁ。先輩も、イーディス殿、エルドリエはエルドリエなのに。いや、別に気にしてないけど。

 

 

 

「私は今日から任地に発ちます。しばらくは戻れません」

 

「あぁ、そうだったな」

 

「ですから私が居ない間、イーディス殿やエルドリエをお願いします」

 

「わかってるよ」

 

ほんっと、なんやかんや先輩のこともアリスは好きなんだよなぁ

風呂に一緒に入るのは嫌がるくせに。

エルドリエの事も気にかけてはいるのだろう。なんやかんや仲間思いだ。その気持ちを俺にも向けて欲しいけど。

だが、最近のアリスは疲れているように見える。ただでさえ整合騎士は激務だ。幾らアリスとはいえ消耗しない筈がない。

 

 

 

「アリス、最近疲れてるだろ、なんかあったか? 」

 

 

「私は疲れてなどいません、大丈夫です」

 

 

「目の下、少しクマできてんぞ? 」

 

 

アリスははっとしたような表情になり自らの目元を指でなぞっている。自覚がないとは、流石に無理しすぎじゃないのか?そんな状態で任地に行くとかぶっ倒れるぞ、、。

 

 

「アリス、少し寝ろ。時間はあるんだろ? 」

 

 

「わ、私は」

 

 

「肩かすぞ? 」

 

 

横顔からだと良く見えはしないが、アリスの頬は若干紅潮しているようだ。表情が曇っているようにも見えるが。

 

と、アリスはいきなり首を横に数回振る。

 

 

「…では、少しだけお前に甘えるとします」

 

 

右肩に少し柔らかい重みが伝わる。そして数分もしないうちにアリスは俺の肩に身体を預けながら寝てしまった。

やっぱり、相当疲れが溜まってたんだな。

 

 

 

________

 

 

 

その後、小一時間程寝たアリスを飛竜発着場まで送っていき、自室に戻る事にした。修羅場が待っているとも知らずに。

 

 

「お兄ちゃん? これはどういう事⁇ 」

 

 

「兄さま? 説明してください」

 

 

 

俺の部屋の前に立っていたのは見習い騎士であるフィゼル・シンセシス・トゥエニエイトと、リネル・シンセシス・トゥエニナインだ。

 

俺の事を兄のように慕ってくれているが、時々どっちがどっちか分からなくなる。短髪が、フィゼルで、お下げ髪がリネルだ。

 

「どういうことってどういうこと? 」

 

「とぼけないでください! 兄さまがたらしなのは知っていましたが、部屋に連れ込んでまで何してたんですか!」

 

「お兄ちゃん⁇ 返答次第ではこの短刀を胸に突き立てる事になるよ? でも、大丈夫大丈夫、あくまで仮死にするだけだから」

 

 

え?何この子達、怖い! 身の毛がよだつ様な恐怖を感じ、言葉が出てこない。ていうか誤解だし!

 

 

「何騒いでるの、、? うぷ、気持ち悪い」

 

 

 

ようやく部屋からのそのそと出てきた明らかに二日酔いのイーディス先輩に誤解を解いてもらうのにかなり時間がかかった。

 

 

〜to be continued〜

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!
ストーリー内容の変更はしていませんが、1話目から描写の付け足しをしておきました!是非ご覧ください!では、また!


次回「世界は動き出す」


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過去回想、番外編(おまけ)
過去回想編「世界は動き出す」


皆様、多数の評価、お気に入り登録、ご感想等ありがとうございます!
励みになっております。今後とも宜しくお願い致します。
 
「世界は動き出す」


〜西暦2022年、11月某日〜

 

 

窓の外では粉雪が静かに舞っているようだ。ゆっくりと落ちてゆく真白な雪は地面に吸われる事は無く薄らと降り積もっていく。このペースでいくと明日の朝には完全に積もっているかもしれない。

室温が下がっていくが部屋の暖房が上手く機能していないのか少し寒さを肌に感じる。

 

昼間だが電気のついた明るい自室にはカタカタというpcのタイピング音が響く。言うまでもなく音の発生源は自らの両手だ。

絶賛ネット通販でお買い物中である。

家は父子家庭であるが、決して貧しい訳ではなくむしろ裕福である。

家は台東区上野の高台に位置する高級住宅街の一角にある。

二階建ての6LDKだ。

なので今のところ欲しい物も不自由無く手に入る。

しかし自分にその気はない。手に入れる物は必要最低限で良い。

裕福とはいえ父親は軍人である。これ以上負担をかけたくはない。

ただでさえ高い学費を払わせている。

それに、まだ中学2年ではあるがもう既に剣道部強豪校である上野中央高等学校へのスポーツ推薦がほぼ決まっている。

 

ふぅ、と溜息をつきpcを閉じる。時計は午後1時を回っている。

腹も空いてきた頃だ。

 

 

「飯にするか」

 

 

外では雪が降っているのでなるべく外出は控えたいところだが、自らの空腹感とラーメン欲求には耐え切れず、近所の行きつけのラーメン屋に赴く事にした。

 

 

家のドアを開けると凍えるような冷気が頬を撫でた。

薄い青色のジャンパーを羽織り、ラーメン屋へと足を進める。

 

一歩一歩地を踏み締める度に身体の関節部分が痛む。

昨日幼馴染の城之内を始めとするクラスメンツ数十人でカラオケに、ボーリングにと足を運んだのだった。

特に三次会とか言って俺の部屋で勝手にパーティしだした小春[コハル]と紅葉[クレハ]、絶対に許さんぞ。片付けるの誰だと思ってるんだ。

まぁそんなこんなでこの有様である。

 

 

 

「先輩、先輩ですよね? 」

 

 

ふと背後からふんわりとした声がかけられる。

 

 

「あぁ、珪子ちゃん」

 

 

綾野珪子。上野の中学校に通う一年生。見た目は華奢で、栗毛色のツインテールが目立つ少女である。

出会ったのは9月の文化祭だった。迷子になっていた彼女を生徒会役員であった自分が当時フォークソング部によるコンサートが行われていた講堂へと案内したのだった。後日家が近かった事が発覚し、仲が深まる事になった。そして現在に至る。

 

 

「先輩はどちらに行かれるんですか? 」

 

 

「俺は昼飯だよ。ほらあそこの清流軒に」

 

 

「え! 先輩もですか? 私もなんです! 良かったらご一緒していいですか? 」

 

 

「あぁ、うんいいけど、、」

 

 

ラーメン屋。いわずもがな庶民的で、あらゆる人々に愛されている食べ物の一つであるラーメンを専門的に扱う飲食店である。

学生なども多く訪れるためそれほど敷居は高くない。

しかし、女性1人で、というと別である。

最近は店内が女性でも入りやすいような雰囲気の店舗も増えているが、老舗となると違う。なんとなく暑苦しく、独特の雰囲気がある。味も他より濃かったりもする。

行きつけの清流軒もラーメン激戦区である上野の中でも知る人ぞ知る名店である。

 

そんな名のある老舗に1人で赴こうとしていたとは。

この少女やりおる。

 

 

高級住宅地から少し離れた下町の路地裏の一角にその店はある。

どことなく歴史を感じさせる風貌の小店。屋根は今にも滑り落ちそうなくらいの白いトタンが乗っかっている感じだ。

店の引き戸の上にあるボロボロの、のれんには赤字で、『清流軒』と書かれており、隅に小さく本格豚骨ラーメンとある。

 

 

「らっしゃい」

 

 

ところどころガムテープで補強されてある引き戸を開けると、店主の重たい声が店に響いた。

外見とは裏腹に、割と綺麗なカウンター席が厨房を囲む様に広がっている。店中に豚骨の濃い匂いが広がっており、食欲をそそられる。

店は昼間だというのに空席が目立つ。

一番奥のカウンター席に腰掛けると、続くように珪子が隣席に腰掛けた。

 

 

「博多豚骨ラーメン、麺固めひとつ」

 

「あ、私も同じものでお願いします」

 

俺は迷うことなくいつもの博多豚骨ラーメンを頼む。

ここの博多豚骨ラーメンは絶品なのだ。

 

 

「あいよ、にんにくは? 」

 

 

店主が水の入ったコップを2つ差し出しながら聞いてくる。

 

 

「俺は入れてください」

 

 

「私は、遠慮しておきます、、、」

 

 

「、、あいよ」

 

 

流石に年頃の少女である珪子にはにんにく入りは厳しかったようだ。そりゃそうだよな、うん。まぁ中には躊躇なくにんにく入りを選択する少女もいると聞くが。

 

程なくして眼前のテーブルにラーメンが運ばれてくる。

運ばれてきたのは至って普通の豚骨ラーメンだ。

違う点といえば煮卵が豪華に2つトッピングされているくらいである。

 

備え付けのレンゲと、割った割り箸を手に取る。

まずは、レンゲでスープをすくい、一口。

 

これだ、この味。

 

癖の強い豚骨の風味が口いっぱいに広がる。

この店にしか出せない味である。

 

 

続いて、割り箸で麺と具を絡めて口へ運ぶ。

スープの癖が強いといってもそれほどしつこくはなく、ストレートの固麺と程よくあう。チャーシューや、他の具材も歯応えがしっかりしている。素晴らしい。

 

という感じに脳内で食レポをしていると珪子が何やら言いたそうな顔をしている。右手には雑誌、、が握られている。

恐らくラーメン屋にある備え付けの雑誌だ。お客が退屈しないように、新聞や、流行りの雑誌を置いている店は少なくない。

 

珪子が雑誌を開き、とあるページの文面を見せてきた。

 

そこには、でかでかと『特集!!ソードアートオンライン』とあった。

 

 

 

「先輩は、SAOって知ってます? 」

 

 

「あぁ、ゲームだっけ? 新作の、ぶいあーるえむえむおーとかなんちゃらかんちゃら」

 

 

ソード・アート・オンライン、通称SAO

業界トップのゲーム会社、アーガスが製作した新作のVR MMO RPG

ナーヴギアというシステムを使い、自ら仮想世界にフルダイブし、自らの身体、頭を使い戦うという信じられないくらいファンタジーなゲームだ。父親が仮想空間管理課職員も兼ねているため、一応知っている。

 

 

「そうです!!先輩は興味ないんですか? 」

 

 

無い。と言ったら嘘になる。今までゲームは、小学生の頃から携帯ゲームを友人とやってきた程度であるが、ゲームは嫌いではない。特にRPGは好きである。

 

 

「まぁ、やってみたくはあるかな、珪子ちゃんは? 」

 

 

「私は、、もう買っちゃいました。親に無理言って、」

 

 

まじか。そこまで興味があるとは。SAOってナーヴギアだけでも12万以上するんじゃ無かったか?

 

 

「それで、、先輩も一緒にどうですか? 私、こういうゲーム始めてで、先輩と2人なら大丈夫かなって」

 

 

この子友達と一緒にプレイする約束も無く買っちゃったの!?

いや、俺もやった事ないんだけど、、そーいえば少し前にβテストやってたんだっけ?なんでも大盛況で抽選だったとか。

正式サービス開始まで時間は無いし、買うなら今すぐ、って、そもそも売ってるのか。どこも在庫切れって聞くぞ。

それに、親の負担を考えるとかなり厳しいかもしれない。我儘はしないと心に誓っているから。

 

 

「そっか、分かった考えてみる。また後で連絡するよ」

 

 

すると珪子は「本当ですか!? 」と満面の笑みになり喜んでいる。

純粋な笑みに少しドキッとしてしまった。

 

程なくして完食した珪子と共に店を出る。もう11月だ。外は既に真っ暗だったので、珪子を家に送っていく事にした。

 

 

 

「先輩、ここまでで大丈夫ですよ、今日はありがとうございました。」

 

 

「そっか、こちらこそありがとう、気をつけてな」

 

 

珪子に軽く手を振り身を翻し、帰路に着く。

 

 

「先輩!! 」

 

 

ふと、呼び止められる。

 

 

「良いお返事、待ってますね」

 

 

「あぁ」

 

 

にこっと笑顔を返し今度こそ帰路に着く。雪はいつの間にか止んでいた。ただ、地面は薄く積もっているようだ。冬の夜は冷える。早く帰ろう、と思っていたがその前に近所のコンビニに寄ることにする。

目的は__

 

 

「ありがとうございましたー」

 

ポケットに手を突っ込みながらコンビニを後にする。

コンビニで購入したもの。それはソード・アート・オンラインの雑誌。

珪子にもあれだけ言われたのだ。無視する訳にはいかないだろう。

今日は父親が帰ってくる日だ。家でゆっくり話してみるか。

 

考え事をしていた俺は目の前の人影に気付けなかった。

 

__あっ

 

 

ドンッ

 

通りすがりの人の肩にぶつかってしまう。見ると、相手は手に持っていたビニール袋を落としてしまったようだ。

 

「あ、すみません! 」

 

「あぁ、いえこちらこそ、、、」

 

偶然目に入ったビニール袋の中身、それはSAOの雑誌だった。

もしかしてこの人も。

 

と、黒いフードに包まれた相手の顔が見えた。黒髪、黒目の少年だった。顔立ちがどことなく自分と似ている気がする。

 

 

「…何か? 」

 

「いや、なんでも」

 

少し見すぎてしまったか。気まずいので足を早めるとしよう。

 

家の玄関に着くと部屋の明かりがついているようだった。

父親が帰ってきている。そういうことだ。

鍵でドアをゆっくりと開けて、家に入りそのままリビングに進む。

いた。何やらソファに腰をかけて作業をしているようだ。

PCのタイピング音が聞こえる。

 

 

「やぁ、お帰り」

 

 

「ただいま、父さん久しぶりだな」

 

 

「あぁ、家事も任せきりですまないな」

 

 

「気にしないでくれよ」

 

 

父は俺と会話をしながらも作業を続けている。父は家に居れて1週間。また1週間経てば、一か月近く家を出る事になるだろう。

それにこの様子を見るにまだ仕事が終わっていないのだろう。

と、父はいきなり手を止めこちらを見る。

 

 

「今年のクリスマスプレゼントは何がいい? 」

 

 

父は毎年12月中は大晦日以外帰れないので、この1週間のうちにクリスマスプレゼントを貰っている。

クリスマスプレゼントといっても毎年お小遣いのようなものだ。それを俺が望んでいるのだが。特に欲しいものもないのだから。

だが、今年は違う。

 

 

「今年は、」

 

 

駄目だ、やはり言えない絶対に。決めただろ、これ以上負担はかけさせないって。これ以上無理は_

 

 

「遠慮する事はない、今日ぐらい甘えてくれ」

 

 

「でも_」

 

 

「気にするな、今月はボーナスだって入っている。研究費や、軍費も充分足りているんだ。心配するな、それにもとより家は貧しくないぞ?何を遠慮する必要があるんだ? 」

 

 

違う、心配しているのは金銭面ではない、俺は_

 

 

「何があろうと僕はお前の、誠也の父親だ。父親をもっと頼ってくれ」

 

 

父の厚く、そして優しい手が頭をそっと撫でる。

溢れ出しそうな涙を唇を噛み必死に押さえながら、言葉をつむんでいく。

 

 

右手のビニール袋を握り締めながら。

 

 

「俺は_SAOがやりたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜to be continued〜

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!
今回は過去編でした!というかほとんどラーメン回になった気が、。


ちなみに私は剣道部ではありませんし、経験も授業でしかございません(隙自語)

それと作中にsaoシリーズゲームオリジナルキャラが名前だけ登場しましたが、皆様お気づきでしょうか??

次回「修剣学院」



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番外編「整合騎士の休日」

 お久しぶりです。ミアキスです。気づいたら夏も終わりに向かってました、、。
当作品については、今後の展開に行き詰まっておりました。ですので本来ならば12話「修剣学院」を執筆する予定でしたが、代わりに番外編「整合騎士の休日」をお送りいたします。ご了承ください。
もうしばらくほのぼの回が続くかもです。
そして皆様、現時点で、お気に入り登録者様384人、評価バー赤を達成しました!本当にありがとうございます!! 

それでは番外話「整合騎士の休日」どうぞ!!


 

 

〜〜アンダーワールドセントラル・カセドラル自室〜〜

 

 

 

「ねぇ、皆で湖いこうよ!」

 

 

 夏といえば何を思い浮かべるだろうか、海? プール? バーベキュー? 花火? 縁日? 炎天下でのスポーツも良いかもしれない。

アンダーワールドに来てから二年近く経つが、ようやく四季がしっかりと存在する事を知った。現実とは若干の違いはあるのだが。しかし、今の季節は、暖かいといっても春半ばである。夏ではない。繰り返す、夏ではない。海もプールもはっきり言って季節外れである。

温暖地域ならば3月あたりから海開きもするだろうが、日本人からすれば季節外れもいいとこである筈だ。無論、アンダーワールドは日本と似た気候であり冬が過ぎたからといって少し暖かくなっただけであり、肌寒さが残る。

 

 

「ねぇ、ねぇセイヤ聞いてる? 」

 

 

聴いてるとも。その言葉を未だに理解できないだけで。

彼女、イーディス先輩は湖に行きたがっているのだ。まだ春なのに、だ。いやまてよ?まだ泳ぐと言っているわけではない。これは先輩にも申し訳無かった。はやとちりが過ぎたようだ。反省して…

 

 

「新しい水着買わなきゃね〜あ、そうだセイヤ!水着選んでよ! 」

 

 

前言撤回、この人やっぱりアホだ。

 

 

「…先輩、アホですか? 」

 

 

「え!? 酷い!アホじゃないよ!! 」

 

 

先輩はいきなりの事に驚いたのか頬をぷくっと膨らませている。

 

 

「いや、だって今春ですよ? 絶対寒いですって」

 

 

「むぅ。いいじゃん! 折角の休みだよ? 」

 

 

何やら先輩が拗ねている、やっぱり可愛いなこの人。でもそういう問題じゃないんだよなぁ。湖以外にも行くとこなら沢山あるでしょうに。

 

「そんな寒い中で泳いでもいい事ありませんよ? 」

 

 

「でも、滅多にない休みなんだよ?次はいつになるか、、」

 

 

確かにその通りである。アリスが任地から帰ってきたことでアリスも含め俺達3人に5日間の休暇が与えられた。セントラル・カセドラルの整合騎士は激務であり、休みも滅多にない。5日間の休暇はとてもありがたいものだった。次がいつになるか分からないと言うのも納得だ。

そして先輩が何故これほど湖に行きたがっているか、その答えは単純である。彼女は泳ぐのが好きだからだ。休暇が与えられる度に飛竜に乗り湖まで行き、泳いでいるそうだ。なぜ泳ぐのが好きなのか本人にも理由は分からないそうだ。何故か懐かしい感じがするらしい。

まぁつまり今まで一人で泳いでいたから仲間が欲しいと言うわけだろう。彼女自身実は寂しがり屋である。

 

 

「はぁ、分かりました。アリスも誘うんですよね? 納得するかは分かりませんが、聞いてみますか」

 

 

 

「え! やった! じゃあ水着買う準備もしないとね! 早速明日でいい? 」

 

 

「はぁ、構いませんけど、アリスは誘える前提なんですか? 」

 

 

「うん、大丈夫。こっちで誘っとくから」

 

不味い、誘えるビジョンが見えない。どうせ反対されるに決まってる、、ましてや整合騎士の中でも常識人な彼女だ。俺と同じ理由で反対してくるだろう。ここは…

 

 

「先輩、アリスは俺に任せてください」

 

 

「え? でも…」

 

 

「ほら、もう9時ですよ?明日のためにも今日は早く寝てください」 

 

 

「え、うんそうだね! じゃあ先寝るね、おやすみ」

 

先輩がちょろくて助かった。少し酒で酔っているのもあるだろう。普段ならこうはいかない。

彼女はなんとなく納得したようで俺のベッドに横たわる…

 

 

「自分の部屋で寝ろ」

 

「ぎゃん!! 」

 

先輩の脳天に軽くチョップをかまし、自室に戻るよう促してから俺も腰を上げアリスの部屋へ向かった。

 

アリスの部屋の目の前まで来てから一度大きく深呼吸をし、ドアを3回コンコンッと叩く。

 

「はい、開いていますよ」

 

アリスからの短い返事を聞きそのままゆっくりとドアを開ける。

ほんのり香る甘い匂い。部屋は女の子らしく綺麗に整理整頓されている。

 

「…誰か確認しないんだな」

 

「こんな夜中に訪ねてくるのはお前かイーディス殿しか居ないではありませんか」

 

 

「そうだよな、、改めてこんな遅くにごめん、話があってさ」

 

「話、ですか」

 

「そ、話、アリスって休暇中暇? 」

 

「まぁ今のところこれといった予定はありませんが…」

 

「よし、じゃあ俺とイーディス先輩と湖行って泳がないか? 」

 

「はい? 」

 

「だから湖行って泳がないかって、、」

 

「…一旦落ち着きなさい、そこの椅子に腰掛けて構いませんから」

 

アリスに促されるまま木製の丸椅子に腰掛ける。

うーんやはりこの誘い方じゃダメだよな、方法を変えてもう一度トライしてみるか

 

 

「まぁ気持ちは分かるよ、でもこれは先輩の願いでさ、ほらなんやかんや普段お世話になってるしここは一つ、寒いのは承知で」

 

 

「アホなのですか!? 凍え死んでしまいますよ? 」

 

アリスの顔が青ざめている。え、何言ってんの!?って顔だ。

うん、全く同じ気持ち。でも先輩のためにもここで引くわけにはいかない。

 

 

「まぁ、なんかあればサーマル・エレメント(火の神聖術)で…」

 

 

「なんとかなりませんよ! 」

 

 

くそっ、、まるで駄目だ。こうなったら最終奥義を使うしかない。

 

 

「…アップルパイ」

 

 

「な、なんですか? 」

 

 

「一緒に湖行ってくれたらアップルパイを3個、いや10個焼いてやる!これでどうだ!! 」

 

アリス・シンセシス・サーティ、彼女は甘いものに目がない。特にアップルパイは大好物である。彼女の好物だと知ってからは食べたいと言った日には必ず彼女のためアップルパイを作っている。俺が作るアップルパイは美味しいらしくイーディス先輩に妬まれる程だ。リアルではほぼ一人暮らしの為部活や、バイトがない日に自分で楽しめるようにと始めたお菓子作りが功を奏したようだ。

アリスはずっと任地にいたしそろそろアップルパイが欲しいはずだ。

さぁ!どうするアリス!

 

 

「くっ…卑怯です、、、」

 

 

セイヤ・シンセシス・サーティツー、勝利を確信した瞬間であった。

 

 

「20個、、20個日にちを開けて作りなさい、、、」

 

 

彼女は見た目の割によく食べる。全く食べたものはどこに消えるのだろう。まぁいい手間と費用はかかるが条件をのもう。費用は、、先輩に払ってもらえばいい。

 

 

「ふっ、よかろう」

 

 

「不本意ですが、契約成立です。」

 

 

 

アリス・シンセシス・サーティ堕ちる。

いや、まじでアリスがちょろくて助かった。正直こんなあっさり行くとは思わなかった。余程任地で糖分が取れなかったんだな。かわいそうに。

 

 

翌日、央都セントリアサザークロイス帝城にてアリス、イーディス先輩と合流し、衛士庁舎付近にある服屋に向かった。目的は水着である。

整合騎士は休暇といえど決して自由ではなく行動範囲は限られている。

なので、完全にお忍び状態であり、武装も解除している。勿論鎧など目立つので装備しておらず完全に私服だ。

2人の私服姿は新鮮だ。アリスは寒いのかしっかりと青のカーディガンを着込んでいるが、先輩はというと灰色の薄い羽織物を半袖の上に羽織っているだけだ。まるで正反対。

そんなこんな考えているうちに服屋に到着した。丸い木製の看板に服のマークが描かれている。建物はレンガ式。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 

気さくそうな店員が自分達の姿を見るやいなや駆け寄ってきた。

 

 

「本日は何をお探しですか? 」

 

 

「水着の調整をしたいんですけど…」

 

 

「水着ですか、、少々お待ち下さい」

 

 

明らかに店員が驚いていた。そりゃ季節外れだもんな。年中水着を置いてるにしても。

あるだけの水着を揃えてくれた店員に促され、各自試着室で試着をする事にした。

鏡を見ながら丁寧に試着していく、水着を着るのなんて中学生ぶりだ、、お、これなんていいんじゃないか? 

手に取ったのは赤いハイビスカスのような花が描かれたものだった。

よし、これで決まりだ。上は、いらないか。

 

 

満を辞して試着室のカーテンを開ける。見るとアリスも先輩も選び終わったようだった。

 

 

「ね、ね、どう? セイヤ似合ってる? 」

 

 

主に赤と灰色を基調とした三角型ビキニである。いや、これはまずいでしょう。絶対に人様には見せられないな。イーディス先輩に似合いすぎている。、、だから目立ちすぎでしょう。何とは言わんが。

 

 

「はい、似合ってますよ、怖いほどに」

 

 

「そ、そっか、ありがと、じゃあこれにする!」

 

 

先輩はご機嫌なようでそのままレジに向かった。

 

 

背後からの視線に気づき後ろを振り返るとアリスが何やらたじろいでいた。

 

「あ、あの似合っていますか? 」

 

こちらも三角型ビキニ。青を基調としたとても綺麗な水着だ。その上に白の羽織物を着ている。こちらも似合いすぎている。何?今日は悩殺デーなの?

 

 

「あぁ、すごい似合ってる」

 

 

「本当ですか? その言葉信じますよ? 」

 

先程まで強張っていたアリスの表情はすっかり解けたようだ。口元は微笑んでいるようで安心した。

 

 

「ちなみに俺の水着は? 」

 

 

「「うわぁ」」

 

 

この時、俺は服のセンスがないのを悟ったのだった。

 

 

〜tobe continued〜

 

 

 




ここまでお読み頂きありがとうございました!!
今回は、完全におふざけ回というか日常編でした。これがずっと続けばいいのになぁ、、(遠い目)
それではまた次回お会いしましょう!



次回「整合騎士の休日2」


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第二章  本編アリシゼーション《人界編2》
11話「束の間の平穏」


 皆様、お久しぶりです。ミアキスです。大変長らくお待たせ致しました。前回投稿から半年近く経ってしまいました。大変申し訳ありません。これだけの時間が経ちましたので覚えておられる方は少ないとは思いますが、ようやくリアルも落ち着き、執筆の目処が立ちましたので続きを執筆しようと思います。まだ少し忙しいため、相変わらずの亀更新ですが、これからも32番目の騎士をよろしくお願いします!
本編10話「金木犀と彼女」の続きからになります。時系列はおまけ話「整合騎士の休日」の前

それでは! 本編 第二章 11話 始まります!


          
【挿絵表示】
   挿絵を描いて頂きました!




 この世界、アンダーワールドにやってきて2年が経った。こちらでの生活はとても充実したもので何一つ不満を感じた事がない(それは大嘘)しかし充実しているというのは本当で、なんならリアルの生活より楽しいかもしれないぐらいだ。それぐらい退屈しない毎日を過ごしている。

今日も今日とて、昼下がりの雲上庭園を俺は満喫するのだっ_

 

 

「聞いているのですか!? 」

 

 

なにやら横で聞き覚えのある声がするのだが、気のせいだろう、何故ならアリスは任地に発って半年以上帰って来ないとかなんとか騎士長が言ってたし

 

 

   「き・い・て・い・る・の・で・す・か?」

 

 

   「痛い痛い痛い、耳ちぎれるって! 」

 

痺れを切らしたアリスが俺の右耳を全力で引っ張ってきた。(アリスは整合騎士で普通の女の子と比べ物にならない力を持っているので割と本気で耳がもっていかれるんだよ!)

 

 

 

   「こちらを見なさい? 」

 

    

 

   「ヒィッ!? 」

 

 

横にギギギっと恐る恐る首を捻るとそこには顔は笑っているのに目は一切笑っていない激おこぷんぷんアリスがいた。

 

なぜかアリスからゴゴゴッといういかつい擬音が発せられているが気のせいという事にしておこうか。

 

にしても任地に出発する前はこの雲上庭園で肩を貸して睡眠不足なアリスを1時間程寝かしてやったのだが、その時の可愛い寝顔のアリスはどこへ行ったんだろう、任地で何かあったのか、、?

 

 

「今何か失礼な事を考えていませんでしたか? 」

 

 

 

  「考えてませんです!」

 

 

俺は首をブンブンッと横に振る。何故こんなにご機嫌斜めかよく分からないが、これ以上怒らすと俺自身の身が本気で危ないのでどうにか対策を考えることにした。

 

   「えと、アリス、いやアリスさんはどうしてそんなに怒ってらっしゃるんですか? 」

 

 

   

   「本当に思い当たる節がありませんか? 」

 

 

お前は俺の親か!こういう時って返答に困るんだよ!いや父さんはあんまりそういうのなかったけど!

 

  

  「私が任地へ発つ前約束した事があった筈です」

 

 

約束、約束って、、「自分が居ない間皆を宜しく頼むってやつか? 」

 

 

 「そうです、確かに約束した筈です…ですが」

 

 

 

そこでアリスの背後の昇降盤がガコンッという音と共に止まり、昇降盤に乗っていた2人の人物が降りてきた。

 

何故か昼間から酔っ払っているイーディス先輩と、目のハイライトが失われ、なにやらぶつくさと1人呟やきながら歩いているグロッキー状態のエルドリエであった。

 

 

  「これは一体どういう状況ですか!? 」

 

 

  「……俺が聞きてぇよ」

 

 

 

ひとまず2人を一旦落ち着かせる事にした。エルドリエは木陰に横たわらせ、アリスの神聖術で眠ってもらい、イーディス先輩の背中をさすりながら、話を聞く事にした。まだイーディス先輩の方が今は話が通じそうだからである。

 

 

  「飲まなきゃやってらんないよ、もぅ、、」

 

 

  「何があったの(ん)ですか? 」

 

 

イーディス先輩の話を聞く限り、普段日中は真面目に仕事をこなす彼女だが、夜は気が抜けている場合が多く(俺の部屋に無断侵入し、酒やおつまみを勝手に消費するなど)それがファナティオ副騎士長にばれてこっ酷く叱られたらしい。でもそれって、、

 

 

  「それイーディス先輩が悪くないですか? 」

 

  「そうですね」

 

  「ガーン! 2人とも酷いよ! あたしの味方はいないの!? 」

 

  「いませんよ、というか大体イーディス先輩の生活習慣には問題があるんです、それに最近少し太りましたよね? 」

 

 

  「あーっ!!セイヤがいけない事言った!! というかあたし太ってないんだけど!? 」

 

 

イーディス先輩はリスのように頬を膨らまし、抗議の目をこちらに向けている。いやそりゃ普通なら女性に対して「太った」なんていうワードを使った際には死は免れないし、常識としてあり得ないし、言いたくはないが、はっきり言わないとこの人わからないんだもん。

後輩からの愛の鞭だと思って欲しい。

 

 

「ぐす…アリスもなんとか言ってよ! 」

 

 

「…少々言い過ぎですがイーディス殿の生活態度に問題があるのは同意します」

 

 

「うわぁぁぁぁん!!2人とも酷ぃぃぃいい!!」

 

 

あらら、完全に酔っ払って幼児みたいになってらっしゃる。今起きてることも明日の朝には忘れてるんだろうなぁ。

限界が来たのかイーディス先輩はその場で寝てしまったので、続いてエルドリエに話を聞くとする、、しようと思ったがあまりに眠りが深く、疲労困憊していて起こすのも可哀想なので、左肩にイーディス先輩、右肩にエルドリエを背負い、自室まで連れて行く事にした。

 

 

 

 

         「あの、、」

 

 

2人を自室に送り届ける最中にアリスがなにやら申し訳無さそうに話しかけてきた。

 

 

「先程も言いましたが、本当に2人を任してしまって大丈夫なのですか? 」

 

 

「ん、あぁ別に大丈夫だよ、これくらい、アリスも帰ってきたばっかで疲れてるだろ? 」

 

 

 

まぁここに来て毎日かなり鍛えているし実際これくらいわけないのだが。

 

 

「あと、、先程お前を疑ってしまいました。ごめんなさい、お前はしっかり私との約束を守ってくれていたのですね」

 

 

「いやまぁ、完璧には守れていないさ、イーディス先輩もあんなだし」

 

 

アリスはさっきのことを思い出したのかくすっと笑っている。

 

 

 「ですが誰も怪我をしていませんし、私が任地に発つ前と何も変わっていません」

 

 

 

「だから……その、ありがとうございます、セイヤ」

 

 

 

「え、、今なんて?初めて名前で呼んで…」

 

 

「っでは、私はここで失礼します、お休みなさい! 」

 

 

アリスは少し照れたのか急いで突き当たりの部屋へ向かう。

 

 

「ちょい待って、アリス! 」

 

 

俺の言葉にアリスは少し驚いた表情をみせ、その場に止まり、こちらを振り向いた。せっかくアリスが久しぶりに帰ってきたというのにこの言葉を言っていなかった。

 

 

     「おかえり、アリス」

 

 

 アリスは一瞬戸惑ったがすぐに口を小さく開く。

 

 

     「ただいま帰りました、セイヤ」

 

 

 

 

 

アリスと別れ2人を背負いながら廊下を歩いていると見覚えのある深紅の鎧に身を包む大柄な整合騎士デュソルバート・シンセシス・セブンに鉢合わせた。炎の弓の神器『熾焔弓』を操る堅物なイメージの武人である。リネルとフィゼルのお守りもしているしとても面倒見がいい人だ。俺も親戚の叔父さんのように親しくしてもらっている。

 

その面とは裏腹に弓の技量は超一流で、剣の扱いにも長けた凄い人である。

 

 

  「これはどういった状況なのだ? 」

 

 

   うわぁ、何これ?デジャヴってやつかな、、

 

デュソルバートさんに事情を説明すると、何やらエルドリエがこうなった理由について知っているようなので話を聞くことにした。

 

 

「アリス殿が居ない間、彼はお前と修練に励んでいたそうだな? 」

 

 

   「はい、それは確かにそうですが、、」

 

 

  「その間お前は彼を負かし続けていただろう」

 

 

  「いや、それは確かにそうですが、彼手強いんですよ? 模擬戦って言ってるのに何故か神聖術まで使ってくるし、、こちらも手加減したら怪我してしまいますから」

 

 

  「むぅ…ならば一概にお前が悪いとは言えないな、何はともあれそれが悔しかったのか、彼はベルクーリ閣下にまで稽古を頼み続けたそうだ、それがあまりにしつこいのでファナティオ殿に一蹴されたと聞いている」

 

 

うーん、そこまでしてエルドリエが俺に勝ちたい理由はなんだろう?別にそんな気に触るような事をした覚えはないのだが。

それでも今回はアリスに世話を任されていたのにエルドリエには少し悪い事をしたな。今度何か奢ってやる事にしよう。

 

 

「お前は今からイーディス殿を部屋へ送るのだろう、我とエルドリエは部屋が近い、我が送っていこう」

 

 

「恩にきます、デュソルバート殿」

 

 

ありがたくエルドリエをデュソルバート殿に預け、再び足を進める。

 

 

____

 

 

ようやく着いた、といってもここは俺の自室だ。イーディス先輩の部屋ではない(しかし実質先輩の部屋と言っても過言ではない)

流石に泥酔中の先輩を1人にする訳にもいかず、まだ夕方であるため、先輩の目が覚めるまで部屋のベッドで寝かしておく事にした。

 

 

午後7時を回った時、先輩は気だるそうに身体を起こした。

 

 

「うぅ、頭痛い、、」

 

 

「先輩、水どうぞ」

 

 

先輩は眠そうに目を擦りながら、こちらの顔を覗きこんだ。

 

 

「あ、セイヤおはよ、、ありがと、運んでくれたんだね」

 

 

先輩はゆっくりと水を手に取り一気に飲み干した。どうやら完全に酔いは覚めているようだ。

 

先輩は少し黙ってから重たそうに口を開いた。

 

 

「あたしさ、やっぱり迷惑かな、こういうの」

 

 

「変なところ覚えてるんですね」

 

 

イーディス先輩は見てわかるようにしゅんとしてしまっている。どうやら先程の言葉がショックで俺が本気で迷惑していると思っているらしい。

 

 

 「確かに先輩の生活習慣は良くないかもですが、別に迷惑だなんて思ってはいませんよ、先輩が普段どれだけ頑張っているかも知っていますし、それはきっとアリスも同じように思っています」

 

 

「それ…ほんと? 」

 

 

 

「ほんとですよ。それと…太ってもないです、さっきは本当にすみませんでした。我ながら最低でした」

 

 

「えと、太ったって誰の事? それは良くわかんないけど」

 

 

あ、それは覚えてないんだな、、とんだご都合主義だ。

 

 

 

「まぁとにかく先輩は先輩のままでいてください、俺は今の元気すぎる先輩の方が好きですから」

 

 

「好き!? …フフ、先輩をからかうとはやるね、セイヤ! 」

 

 

うわ、余裕ぶってるけどイーディス先輩めっちゃ顔赤い。

 

まぁでもきっと今の俺の顔も負けじと赤い、。

やっぱりキリトの真似とかするもんじゃないな、自分は鈍感ではないし。

 

 

まぁなにはともあれ先輩に元気が戻ってよかった。

 

 

 

「それじゃ! 明日からの5連休なにしよっか! 」

 

 

 

「え、なんですかそれ、聞いてないですよ? 」

 

 

 

「え? 元老長から聞いてないの? 明日からの休暇の話」

 

※おまけ話「整合騎士の休日」参考

 

 

あのくそ元老長、、、絶対あの人俺の事嫌いだよな、まぁそりゃあんだけやったら嫌われるの当たり前だけど!

 

しかしまぁこういった平穏の日々が続くのは良い事だ。しかしその日々はいつまでは続かない、この世界に来て2年間ようやく、キリトの居場所を掴んだんだ。

 

 

 

      彼に会いに行かなければならない。

 

 

 

  〜to be continued〜

 

 

 

 




 久しぶりの投稿でした、、。キャラの口調とか合ってますかね? 後書きで触れさせていただきますが、自分が執筆していない間も、本当に沢山のご感想、お気に入り登録ありがとうございます! 
これからも是非、どしどしよろしくお願いします!


次回「修剣学院」


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