ギンガ団員、ガラルにて (さよならレイラ)
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1-始動

 

「カシワさん、今までありがとうございました」

 

 廊下に少女の声が響く。声の主、ルリミゾはマイナーリーグ落ちしたジムの期待を背負う超新星ジムトレーナーだった。

 

 ここガラル地方では、ジムリーダーは16人存在している。上位8人で行われるメジャーリーグと、下位8人で行われるマイナーリーグがあり、日の目を浴びるのはほとんどメジャーリーグの8人だ。ガラル地方で最も強いトレーナーを決する「チャンピオンカップ」の開催後、メジャーリーグの下位2人とマイナーリーグの上位2人の入れ替え戦が行われる。明後日はその入れ替え戦だ。ノーマルタイプのポケモンと心を通わせるカシワは、入れ替え戦に出場するマイナージムリーダーの1人だった。

 

「どうしたんだルリミゾ、まだ残っていたのか」

 

 唐突な礼に意図が汲み取れない。

 

 ルリミゾはシンオウ地方出身のジムトレーナーだ。彼女がシンオウで培った経験・戦術は、マイナーリーグで低迷していたカシワに大きな変化をもたらし、結果としてカシワはリーグ戦を11勝3敗で終え、2位で入れ替え戦に出場することができた。

 

 練習試合ではなんとか勝ち越せてはいるものの、ほとんどカシワと変わらない実力を持った次期ジムリーダー筆頭候補だ。今日は調整のために手合わせをして、彼女は遅くなる前に帰ったはずだったのだが。

 

「隠れ蓑としてとっても便利でしたから、そのお礼です」

「そろそろあたしも動こうかなと思って」

「話すのもこれが最後ですし」

 

続けて放たれる言葉に、ますます理解が追いつかない。

 

「ボケっとしてないで、この子の目見てください」

 

少女の手元から出た存在と、目が合った。

 

 

「さよなら」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

翌日、ガラル地方の話題は一色だった。

 

【ジムリーダー、入れ替え戦前日に意識不明で発見される】

 

 マイナーリーグのジムリーダー、カシワがトレーニング施設の廊下で倒れているのが発見された。彼女は意識不明に陥っており、原因は不明だという。入れ替え戦に臨める状況ではなく、話を聞いたルリミゾ・アグニが代理での出場を委員会に申し出た。顔を涙で濡らしながら訴える姿は多くの人々の記憶に新しいだろう。

 

 委員会は審査の後、ジムトレーナーのルリミゾを代理で出場させることを許可した。彼女がバッジを8つ所有していること、ジム交流戦の成績、その他大会での成績を考慮しての例外処置だという。彼女にとって、カシワはシンオウから越してきた彼女を迎え入れた恩人だっただけにそのショックは計り知れない。

 

「突然のことで戸惑いを隠せません。本来出場すべきだったカシワさんの名に恥じないようゼンリョクで戦わせていただきます。彼女の意識が1日でも早く戻るよう、戦いで示します。」

 

 と涙を流しながらコメントを残している。




少し短いですが第一話です。これからどんどん字数を増やしていきます。
評価・感想いつもありがとうございます。励みになります。


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2-vsマクワ 入れ替え戦①

 

「ありがとう、ユクシー」

 

 名を呼び、感謝を伝える。抱いた手元で撫でれば嬉しそうにしている。ジムリーダーに相応しい素晴らしい人間だったと思う。バトルはルリミゾが実力を隠していたため拮抗していたものの、人格面では非の打ちどころがない恩人だった。

 

 カシワについて、ルリミゾはそう評価を下していた。シンオウからきた自分に住居を、そしてジムトレーナーの地位を与え、後任として指名していた。だからこそ、()()()()()()()()()()()。自分がこの地方でジムリーダーを務められないことなどわかりきっている。

 

「必ずうまくやるわ。今は眠っていて」

 

 この地方のジムリーダーは教育者であり、選手であり、模範だった。ジムの運営者であり、チャンピオンカップの挑戦者であり、大勢の観客の前で名に恥じない試合をしなければならない。社会と対立するような組織に属していた(今も属しているつもりではあるが)自分がそんな人間のフリをしていても、いずれボロがでる。名声を持ちながら裏で悪事に手を染められるような人間はごくひと握りだ。

 

 だから、短期のジムリーダーの代理である必要があった。ジムリーダーはカシワであるべきなのだ。立場を利用するために引きずり降ろすことはしたくない。そして自分の実力ならば、このジムをメジャーリーグに昇格させられるとも確信していた。目的を達成するまで、彼女の代理としての立場を利用させてもらうつもりでいた。また、恩人に自分のなす悪事を見られたくないという気持ちの表れでもあった。

 

「テレポート」

 

 万が一を警戒して、証拠を残さず即座にテレポートで家に戻った。先に帰ると伝えて、わざわざ家まで歩いて帰ったのもアリバイ作りのためだ。

 

 翌日、世間には練習中の事故や、過労によるものという噂が伝わっているようだ。

 

「明日は入れ替え戦ね」

 

 ひとりごちる。試合に使う手持ちは当然ジムトレーナーとしてのものだ。まだ完全な信頼関係は成り立っていない。とはいえ負けることはできない。メジャー昇格が果たされれば、専用のスタジアムと地位が手に入る。委員会のもつガラルのエネルギー源に近付けるはずだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 入れ替え戦当日、スタジアムは熱狂に包まれていた。マイナーリーグ2位、『悲劇の代理』ルリミゾとメジャーリーグ7位、『ハードロック クラッシャー』マクワの試合だ。

 

 マクワは就任からだんだんと順位を落とし遂に今年は降格圏内だ。一説には就任からずっと続いている、母親であるメロンとの対立が原因と囁かれているが真相は定かではない。

 

 そんな調子でも勝敗予想は当然、メジャーリーグのマクワ勝利が観客の8割だった。残りはバトルに興味のない人間や、カシワの熱狂的なファンである。「まあ、自分が観ていてもマクワ勝利を予想するだろうな」と他人事のようにルリミゾは考えていた。

 

「あたしは代理だしね」

 

 とはいえ同情の視線が多い。自分が引き起こした事態ゆえにムズ痒い思いをしながら入口からスタジアムの中心へ歩いていく。歓声が近づいてくる。ジムリーダーとしての振る舞いを意識して、心に仮面をつける。

 

「悲しい事件でしたね」

「同情は結構です。自分の心配をしたらどうですか?」

 

 優しい人間だ。しかし、丁寧な口調で挑発する。サングラス越しの目が見開かれ、すぐにキリっとしたものに切り替わる。

 

 これから生活を、名誉をかけて戦うのに同情はいらない。自分が犯人なのだから。何よりも気を遣われてゼンリョクで戦えないことが嫌だった。

 

「なるほど」

 

マクワが続ける

 

「では、さっさと終わらせましょう!」

 

ジムリーダーの マクワが 

勝負を しかけてきた! ▼

 

 ロトムカメラに向かってポーズを決め、体形とは裏腹にスタイリッシュにハイパーボールが投げられる。

 

 十中八九、バンギラスかツボツボだ。確信しながらルリミゾはモンスターボールを投げる。バンギラスが出て「すなあらし」がフィールドに吹き荒れれば、慣れないノーマルタイプのポケモンは不利な状況を強いられるし、ツボツボならば「ステルスロック」「ねばねばネット」によりこちらの後続のポケモンに圧力をかけられるからだ。

 

「ツボォオ!」

 

 出てきたのはやはりツボツボ。ほとんどの攻撃に対して強く、苦手な水や岩の攻撃もノーマルタイプのポケモン中心で固めたルリミゾには用意できない、()()()()()()()()()()()

 

「ツボツボ、ステルスロック!」

 

「チラチーノ、ロックブラスト!」

 

 チラチーノが先手で「ロックブラスト」を散弾銃のように放つ。()()()()()()()()()()。ツボツボは想定外のダメージに苦しそうに呻く。想定外なのはマクワも同じようだった。

 

「スキルリンクか」

 

「当然。今日は負けられませんから」

 

 「ステルスロック」を展開することは許したものの、ツボツボはこれ以上動こうとすれば先にチラチーノが次の攻撃で仕留めるだろう。仕事としては半分程度か。「ねばねばネット」を展開し素早さの遅い岩ポケモンのカバーまで見据えるはずだが、裏にいるノーマル/飛行ポケモンのウォーグルを警戒したのだろう。

 

「ぐふぐふ」

 

 鳴く姿が愛らしい。チラチーノはこの日の為に用意した手札だったが、ウォーグルはジム交流戦でも何度も「ばかぢから」で岩タイプのポケモンを葬ってきた。「ねばねばネット」は飛んでいるポケモンには効果がないのだ。そのためステルスロックを優先して撒いたマクワの判断は正解だったといえる。

 

「ロックブラスト!」

 

 非常に鈍足なツボツボは飛来する岩の弾丸に為す術なく倒れ伏す。対策が完全に嵌っていた。

ジャッジが旗を上げるまでもなく戦闘不能と判断したマクワは即座にツボツボをボールに戻し、労りながら次のポケモンが繰り出される。

 

「ォォオオオオオオオ!!」

 

 着地と同時、耳を劈く咆哮、砂嵐が吹き荒れる。バンギラスだ。残りのマクワの手札は、研究通りならイシヘンジン、ガメノデス、セキタンザンのはずだ。ルリミゾの残りの手持ちはウォーグル、イエッサン、バイウールー、カビゴン。チラチーノはバンギラスより身軽だから、あと1、2回はバンギラスに攻撃できると踏んでいた。

 

「ストーンエッジ!」

「タネマシンガン!」

 

 ルリミゾのチラチーノは射撃の精度がとても優れている。ロックブラストやタネマシンガンはほぼすべて命中させることができるという珍しい特性だ。砂が吹き荒れる中でもしっかりと全弾をバンギラスに命中させる。しかしバンギラスは後から動いても勝てるだけの種族の強さがある。足は遅いもののそれを補って余りある筋力、そして体の頑丈さがウリだ。草タイプの技の集中砲火を食らうも、自慢の硬さで耐え抜き岩の山をぶつける。

 

「耐えて!」

 

 砂嵐でほとんど状況が見えない中、祈るように叫ぶ。チラチーノは。

 

「チラチーノ戦闘不能!」

 

 チラチーノは「きゅう」と目を回してしまっていた。観客が明らかに悲しそうな声を上げる。見た目こそ可愛いチラチーノだが、ツボツボを無傷で葬り、バンギラスにかなりのダメージを負わせている。いい仕事っぷりだ。今の手持ちで最も親しくなれたポケモンだった。

 

「これはカレーを奮発しないとね」

 

 心なしか嬉しそうな表情でボールに収まっていくチラチーノ。これで残りは四対四。戦闘可能な状態で行うポケモンの交換と違い、戦闘不能になったポケモンの交換は少しの猶予がある。

腰に括りつけたボールを二回、トントンと叩き出番を伝える。

 

「バイウールー、よろしく!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 メエェ、と鳴きながら登場したのはやや場違いにも思える羊。しかしその角は勇猛にも天に向かって大きく伸びている。マクワは判断を迫られていた。

 

 このひつじポケモンは際立つ特性がある。それはその毛量だ。あまりに多いもふもふした毛は、バイウールーに対する直接攻撃の衝撃をほとんど和らげてしまう。マクワの選択肢は「ばかぢから」と「ストーンエッジ」だ。最初に撒いたステルスロックが多少刺さっているとはいえ、バイウールーはおそらく二度攻撃しなければ沈まないだろう。「ばかぢから」はとんでもない力を引き出して相手を殴りつけるが、その反動でとても疲労してしまう。これはバイウールーの毛のクッションを突破できないうえに、「コットンガード」を積まれてジリ貧になってしまうだろう。

 

 その一方で、「ストーンエッジ」は大きな岩を投げつけるため命中率に不安がある。外せば「ばかぢから」と違って少しのダメージも与えられない。だが、バンギラスの親しんだ岩を使った攻撃であり、しかも急所に当たりやすい。しばしの逡巡のあと、マクワは指示を出した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ストーンエッジ!」

 

 今まで使ってきた信頼、そして必ず当てる、という目でこちらを振り向いたバンギラスとの絆に応えたのだ。

 

「そう来ると信用していましたよ、マクワさん」

 

 バイウールーは動かない。ただただ毛量に埋もれ、攻撃を待つ。「コットンガード」だ。一度コットンガードを積むことができれば、物理攻撃ばかりの岩タイプに突破する手段はない。完璧な対策だった。

 

 岩の山が放たれ、次々とバイウールーを叩き潰そうと飛来する。砂嵐でただでさえ悪い視界が、衝撃で巻き上げられて更に悪くなる。

 

 

 お互い張りつめて見る視線の先、バイウールーは少しも動かずにそこにいる。

 

 ルリミゾは勝利を確信した。もはやマクワにバイウールーの突破手段はない。

 

 

 

「バイウールー戦闘不能!」

 

 

 

「・・・え?」

 

 場違いな静寂の中にルリミゾの間抜けな声が響く。バイウールーは毛に埋もれたまま戦闘不能になっていた。

 

急所に 当たった! ▼

 

 ふらり、と血の気が抜ける中、次のポケモンを出さなければとトレーナーとしての本能が告げる。三対四、描いていたプランが崩れる音がした。

 

 砂嵐が吹き荒れている。

 

 

 




そこそこ頑張ったつもりで書いていたんですが1100文字しか前回かけていなくて愕然としました。

評価・感想励みになります。ありがとうございます。
誤字報告助かっています。
読んでくださりありがとうございました。


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3-vsマクワ 入れ替え戦②

 

 予想外の事態にも関わらず、積み重ねたトレーナーとしての経験がルリミゾをかろうじて動かしていた。

 

「イエッサン」

 

 相手がダイマックスを切っていない以上、こちらも切るわけにはいかない。ウォーグルは飛んでいるポケモンのため、ステルスロックによりかなりの痛手を負う。温存しておきたいポケモンだった。「ばかぢから」を使ってバンギラスを倒すことができても、疲れ果ててしまい残りのポケモンに対して圧力が無くなってしまう。一撃で沈めることができなければ岩の攻撃を食らい一撃で沈められてしまうだろう。もっと最悪なのは、一撃で沈められなかった後に「ロックカット」を積まれて加速した岩ポケモンに手が付けられなくなることだった。

 

「今しないといけないことは・・・」

 

 少なくとも最後に控えているであろうセキタンザンまでにダイマックスを切らず、なんとかカビゴン以外の残りの2匹で相手の3匹を倒さねばならなかった。「キョダイフンセキ」によるダメージを考えても、フィラの実による回復と「キョダイサイセイ」によって体力を保てるだろう。こちらには「じしん」という有効打があるため、なんとかカビゴンとセキタンザンのキョダイマックス一騎打ちに持ち込みたい。

 

 この試合はこれからの道程を考えれば、はじめの一歩もいいところだ。なにか自分の道を邪魔しようとする天の意志のようなものを感じながらも、次の一手を考えなければならない。

 

 とにかく思考を巡らせてメンタルを回復する。体を傷つけて戦うポケモン達のためにも、狼狽えているわけにはいかなかった。

 

「マジカルシャイン」

「ストーンエッジ!」

 

 通常の状態ならバンギラスを倒し切っていたであろう威力も、砂嵐によって高まった耐久力に阻まれる。ギリギリ踏ん張ったバンギラスはまたしても「ストーンエッジ」を命中させる。

 

 サングラスの向こうの目は、ただこちらを見ていた。

 

 驚異的な集中力だった。ここまで全ての「ストーンエッジ」が命中し、ひとつは急所に当たっている。メジャーリーグのジムリーダーの意地だ。イエッサンは特殊攻撃に対しての耐久はあるが、物理に対しては紙切れ同然だ。一撃で倒れ伏してしまう。

 

「ごめんね」

 

 もしかすれば、「マジカルシャイン」で落とせていたかもしれなかった。イエッサンのパフォーマンスに影響が出たとすれば、自分の指示の頼りなさだろう。動揺のなかなんとか立て直した程度で信頼し合ったプレーが繰り出せるはずもなかったのだ。

 

「あ~~~もう!」

 

 無理矢理大きく声を出し、チャンピオンを真似て頬を叩く。覚悟は決まった。こんな調子ではジムリーダーの代理は務まらない。本来の手持ちと違うポケモン達とはいえ、これから長い付き合いになるのだ。しっかりしなければ。

 

「ウォーグル」

「クァアアアア!」

 

ステルスロックに傷つきながらも、雄大に鳴き、しっかりと羽ばたいて、こちらを振り向いてうなずく。ゆうもうポケモンは、こんなにも頼もしい。

 

砂嵐は晴れ、太陽の光がスタジアムに差し込んでいた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 有利な展開に安堵せず、覚悟を決めた相手にマクワは展開を考える。恐らくバンギラスは「ばかぢから」を使わなくとも倒されてしまうだろう。その後、イシヘンジンとガメノデスでウォーグルを倒し、どれだけカビゴンを削れるかにこの勝負の行方はかかっている。出した指示は「ストーンエッジ」だがウォーグルに先制されバンギラスは力尽きる。

 

「バンギラス戦闘不能!」

 

大活躍してくれたバンギラスに礼を言いながら、イシヘンジンを繰り出す。物理攻撃に非常に硬いことで有名なコイツなら、ばかぢからを1回耐えてくれると踏んだからだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 繰り出されたのはイシヘンジン。可愛い顔だが、メジャーリーグへの壁として立ち塞がる。ここが勝負所だった。

 

「ビルドアップ!」

「ストーンエッジ!」

 

 ルリミゾが指示した技「ビルドアップ」は自身の攻撃力と物理防御を高める技だ。もちろん隙だらけだが、次に撃つ「ばかぢから」でイシヘンジンを一撃で落とすための技だ。そして何よりもウォーグルの耐久力を「ストーンエッジ」で一撃で落とされるかどうかのラインに持っていくことができる。

 

 イシヘンジンが岩を浮かせ、羽ばたくウォーグルに向けて放つ。「ビルドアップ」したウォーグルはトレーナーの判断を信じ、避けようとせず防御の姿勢を取る。

 

 

「ばかぢから!!!」

 

 

 ウォーグルが耐えるかどうかなんて考えていない、信じ切った指示だった。応えるようにウォーグルが渾身の一撃を放つ。

 

「イシヘンジン、戦闘不能!」

 

 ジャッジが旗を上げた。

 

「よおおおおおし!」

 

 犯した罪も、これから為そうとしている計画も忘れて、ただただバトルに没頭していた。純粋な少女の笑み。

 

「ガメノデス!頼んだ!」

 

 これでカウントは2対2、このマッチアップを制した側がダイマックス対決に有利を運ぶことができる。ルリミゾが指示したのは当然「ばかぢから」で、マクワは「アクアブレイク」を指示した。

 

 ドォォオン、と観客の声をかき消すほどの衝撃が地面を揺らす。

 

 ぶつかり合う2匹だったが、「ビルドアップ」により上がった攻撃力の分、ウォーグルは普段と同じだけの力でもう一度「ばかぢから」を撃つことができた。それにより両者お互いに攻撃を食らい、ともにダウン。

 

「ガメノデス、ウォーグル、戦闘不能!」

 

両者、キョダイマックスの最後の一匹を残すだけとなった。

 

 ドラマチックな展開に、観客の熱狂は加速する。応援歌が聴こえてくる。

 

「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」

 

「あたしは! もう後には退けない!」

「まだよ! まだ 崩れさって 砂とは なっていない! 戦う!」

 

「カビゴン!」

「セキタンザン!」

 

 

「「キョダイマックス!!」」

 

ズ・・・ズ・・・ズン、と空気が震え、互いの切り札が姿を変え巨大化していく。スタジアムを互いのポケモンの体が占める。

カビゴンは体を支えきれず仰向けに倒れ、腹には木や植物が生える。

セキタンザンは・・・そのまま立っている。

 

「カビゴン、ダイアース!」

「セキタンザン、キョダイフンセキ!」

 

 カビゴンの「じしん」が変化した「ダイアース」がセキタンザンに突き刺さる。元よりカビゴンの「じしん」は強烈だったがキョダイマックスによりさらに強力なものとなっている。

 

 返す刀の「キョダイフンセキ」はセキタンザンから発射される噴石でこちらのポケモンがジリジリと削られるというもの。いくらカビゴンといえど、負うダメージは相当なものだ。脂肪の厚いカビゴンがフィラの実を食べる。これでルリミゾもキョダイマックスワザが使えるようになった。

 

「キョダイサイセイ!」

「ダイバーン!」

 

 食べたきのみを再び生み出す「キョダイサイセイ」はどういう理屈かわからないが、カビゴンに再びフィラの実をもたらす。モシャモシャと腹の木から取ったきのみを頬張るカビゴン。セキタンザンから放たれる「ダイバーン」の熱量は、安全の為にスタジアム端に移動したルリミゾすら焦がさんとする勢いだ。

 

 相変わらず降り続ける噴石によってカビゴンが傷を負うが、美味しそうにフィラの実を食べて回復している。

次の攻防で決着が付くであろうことは、2人2匹、そして観客の全員が理解していた。

 

「ダイアース!」

「ダイバーン!」

 

 ただただ技名を叫ぶ。

 

「「「ワァァアアアア!!」」」

 

観客の声援もピークに達する。

 

 とんでもない熱と砂埃で思わず顔を腕で隠す。とてもではないが耐えられない。

ズン・・・という音と、スタジアム全員の静寂。

 

 

 

砂埃が晴れた先に立っていたのはカビゴンだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「昇格おめでとうございます。おみごとでした」

「ありがとうございます」

 

 スタジアムの中心へ歩み戻り、握手を交わす。勝者と敗者、昇格と降格が決定した今、戦いを讃える言葉以外は何もこの場に相応しくない。噂通りなら、マクワはこの後インタビュアーを無視して控室に籠るのだろう。

 

 ルリミゾは勝者として、メジャーリーグへと昇格した。ジムリーダー代理としてやらねばならないことも増えるだろう。自分以外のジムトレーナーを増やさねばならないし、来シーズンのジムチャレンジでは挑戦者たちを導かねばならない。ジムリーダーをこなしながら裏で悪事の計画を練るのはあまりにも大変だ。まさか自分以外にジムリーダー以外の裏の顔がある人間などいないだろうな、と思いながらスタジアムを後にした。

 

 

 




メジャーに昇格しましたが、次のシーズン、ユウリやマリィ、ホップ、ビートといった主人公にとって最悪の世代がジムチャレンジに来ます。勝手に退路を断つ系ガールの運命はいかに。


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4-じならし

 

 マクワと交代する形で引き継いだスタジアムはキルクスタウンの北にある。キルクスタウンは雪の降る街で、田舎町であるスパイクタウンと、ジムチャレンジの最後のジムであるナックルシティと繋がっている。

 

 何よりも特筆すべきなのはステーキハウス「おいしんボブ」の存在だろう。寒い街とはいえ、人々までも冷たいわけでもなく(マクワファンには恨まれるかもしれないが)さらにステーキが絶品なのだ。マルヤクデと主人が火加減を調節し、絶妙な具合に仕上がるステーキはジムチャレンジの際に何度も訪れた。メジャーリーグに参加できたことで、余裕もできるので通いつめたいところだ。

 

「もしかして、メロンさんやマクワさんがぽっちゃりしているのって・・・」

 

食生活には気を付けなければ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「いらっしゃい!新任ジムリーダー代理!」

「ふぁふぁぶぁ!」

 

 扉を開ければ、おいしんボブの店内はマルヤクデ共々歓迎ムードだった。まずは一安心だ。もしも店主が熱狂的なマクワファンで料理に毒なんて入れられた日には計画も終わりだ。現地の住民を味方に付けるべく、出来るだけ人当たりのいい振る舞いを心掛ける。

 

 煉瓦模様の壁と、あちこちに張られたタペストリーはこちらの気分をどんどんとステーキに向けて高めてくれる。赤と黄色のストライプの机は目に痛いが、目立って異質というわけでもなく店内の雰囲気に馴染んでいる。雪の街にはやや異質な朗らかなおじさんのアイコンがトレードマークだ。トレーナーズカードの背景にしようかと一瞬悩むが、店内の熱気にやられてしまったのだろう、寒い外に出れば正気に戻るはずだ。

 

「この街にしばらく住むことになりますから、食事ついでに顔見せに来たんです。これからよろしくお願いします」

 

 ぎこちない笑顔になっていないだろうか。 店主から客に評判が伝わることを期待した来店だ。また今食事している客への礼儀正しい姿のアピールでもある。

 

 油でぬるぬると滑る床で転ばないように気を付けながらカウンターに座る。

 

「まだまだ若いのに偉いなあルリミゾちゃんは。量はどれくらいにする?」

「ありがとうございます、ダイマックス級で!」

 

 見た目とかけはなれた大食いで印象付ける。マクワやメロンに負けていられない。

 

「おおっ!?そうかい!意外と食べるんだねえ!焼き加減は?」

 

 カウンター越しに店主や店員と、そして周りに集まってきた人々と会話をしながら食事の時間は過ぎていく。

 

・・・

 

「ごちそうさまでした」

 

 カウンターから立ち上がり、ドアの前でお礼を言う。とんでもない量だったが苦しくならず、美味しく食べきることができた。マルヤクデも満足そうにこちらを見ている。撫でれば少し熱いが、外は寒いので丁度いいだろう。

 

「最初は食べきれないんじゃないかと思ったけど、ほんとうによく食べるんだね」

「ええ、マクワさんに負けてられませんから」

 

 あ。つい口に出してしまった。あまり良い発言とはいえない。代理としてコンプレックスを抱いているように感じさせてしまったかもしれない。すみません、と声を出そうとするが、先に店主が口を開く。

 

「そんなところで張り合わなくてもみんな認めているさ」

 

 新生活の不安がスッと消えた気がした。相変わらず外は雲で少し暗いが、雪は止み、雲間から少し光が漏れ出ていた。

 

「ちなみにマクワさんは大食いではないよ」

 

 雪に顔を埋めたい気分だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ルリミゾさん!よろしくな~!」

「いい試合だったよ!」

 

 街中を腹ごなしに歩いていれば、声がかかる。足を止めずに、手を振って笑顔で返す。

 

「みんな出ておいで」

 

 街の中心部には観光名所、英雄の湯があるのでポケモン達を労わることができる。この湯は英雄が疲れを癒した湯だというが、あまり英雄に興味はない。お湯にはポケモンだけが入れる。人間はキルクスの気候上湯冷めして体調を崩しかねないし、街の中心でしかも歴史的な遺産であるから改築や脱衣所も建てられないのだ。チラチーノ、イエッサン、バイウールーは気持ちよさそうに浸かっている。ウォーグルは水浴び程度に使うので今回はパスとのこと。カビゴンは流石にお湯が溢れてしまうので今回は我慢してもらっている。あとでジムにある大型ポケモン専用のお風呂で洗ってやろう。

 

「チラチーノちゃん、可愛いですね」

「ええ、試合に勝てたのは隠し玉のこの子の活躍も大きいですから」

 

 野次馬が集まり声をかけてくる。答えながら湯冷めしないようチラチーノの体を拭く。そうなんですねぇ、と呑気に関心しているあたり、彼女はあまりバトルに興味はないのだろう。チラチーノと目を合わせて確認をとってから、撫でてあげてください、と抱きかかえて近付ける。チラチーノは人慣れしているし、ファンサービスにもなる。

 

「ぐふー」

「かわいい~!ありがとうございます、写真撮ってもいいですか?」

 

 チラチーノが気にしてなければ、と答えれば、彼女はチラチーノを抱いたルリミゾに肩を寄せて自撮りを構える。

 

「え、あ、あたしも?」

パシャリ

「ありがとうございます~!!」

 

 驚く間もなく写真が撮られる。初めてのファンとのツーショット(と一匹)だった。

 

 チラチーノが誇らしげにぐふぐふと鳴いていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 英雄の湯でファンサービスと手持ちへの慰労を終えたあと、自宅へ向かう。昇格が決定してからナックルシティから引っ越してきたのだ。スタジアムと結びつけられがちなジムリーダーだが、年中スタジアムに住み込んでいるわけではない。練習場やジムチャレンジャーを試すジムミッションの調整はあれど、スタジアム自体毎日使って整備するわけにはいかないからだ。道路に出ているユキハミを、自転車に轢かれないように脇にどけてから歩く。ふんわ、とお礼を言うかのようにひと鳴きしてゆっくりとどこかへ消えていった。

 

 ガラル地方には靴を脱いで家に上がるという習慣がない。シンオウ出身のルリミゾは文化圏の差異にはじめは驚いたが、すぐに慣れることができた・・・わけではなくひとりで住む家をようやく持てたので、玄関に置いたマットの前に靴を脱いでから家に上がる。

 

 スリッパに履き替え、ジムリーダー代理としての圧から解放される。自ら無理やり背負ったものとはいえ、器の小さいルリミゾには重いものだった。バトルの才覚こそあれ、彼女は元下っ端で幹部に昇格したのもギンガ団解散のひと月前だった。現在の髪色はシンオウ人生まれ持っての黒色だが、毛先は水色に染めている。ギンガ団下っ端時代の思い出から水色を使っているが、流石にあの頃の水色おかっぱに戻る気はない。

 

「元の世界に帰るんだ」

 

 テンガン山頂上付近、やりのはしらにおける最終決戦。アカギが呼び出したディアルガとパルキアの降臨で歪んだ時空間の隙間に落ちたルリミゾは、気が付けば手持ちのポケモンとともにギンガ団の制服のままガラル地方ワイルドエリア最北西、げきりんの湖に倒れていた。そこでカシワに拾われたのだった。ボスのやることに興味はなく、幼馴染の赤毛の彼女が心酔していたため参加したにすぎない。その結果こんな事態になってしまったのでひどく後悔していた。バトル以外に考える能のない彼女がひとりで考え始めたきっかけだ。

 

「なーんにも出てこないわね」

 

 スマホロトムで調べたところシンオウ地方にはギンガ団のギの字もなく、アカギという人物は前の世界ではそれなりに有名だったにも関わらず何ひとつヒットしなかった。定期的に調べているが少しも変化はない。どうやら似たようで非なる世界に飛ばされてしまったと気付き、絶望したのは拾われて一週間が経ってから。ジムリーダー代理として、地位を得れば行動範囲は広がり、研究者と接触する機会も増えるはず。まずはジムチャレンジ開催と同時期にスタートするリーグ戦で好成績を残し、ジムの順位を上げることが目標だ。

 

「マーズ大丈夫かなあ」

 

 幼馴染が気になって仕方がない。元の世界に戻れたとて、伝説のポケモンが降臨した後どうなっているのかわからない。アカギの企み通り、もはや世界は心を失っているかもしれない。

 

 とはいえ、チャンピオンや新進気鋭の天才トレーナーたち相手にルリミゾ抜きでギンガ団が勝てるとも思わないが。ルリミゾのトレーナーとしての才覚は、無情にも自分抜きでの戦力差を正確に把握していた。今の心の支えはギンガ団だった頃の手持ちのポケモンたちと制服、記憶だけだ。

 

「よいしょ!今日はえらい激しく動くわね」

 

部屋を狂ったように飛び回っているポリゴンZを捕まえて手元でいじる。ギンガ団の自称天才科学者が実験で自作したあやしいパッチを当てたところ進化(?)したポリゴンだ。ぐるぐるした目が可愛いので無理矢理奪って手持ちに加えた。元の世界から一緒に飛ばされてきた手持ちのポケモンは表では使うつもりがない。実力のあるトレーナーならば、普段からよく見る個体は同種のポケモンであっても差異を認識できるため、顔を隠して裏で使ってもすぐ同じポケモンだとバレるのだ。だから表向けのメンバーと、裏で活動するためのメンバーで分けている。

 

 ギンガ団入団時に支給されたドーミラー、ズバット(いまはドータクンとクロバット)やワケアリで協力してもらっているユクシー。暗躍するにはもってこいだ。いざとなれば、制御できるかはわからないがキッサキ神殿での任務で捕獲した()()()もある。ポケモンをダイマックスさせ、街のエネルギーを補って余りある源はナックルシティの地下、エネルギープラントにあるはずだ。伝説のポケモンだと、トレーナーの直感が告げていた。力を利用して元の世界に帰る。

 

「ピー」

 

 ポリゴンZが撫でられ飽きてまた飛び回る。大衆に対して、名のある人物として振舞うことに一切慣れていなかったため今日はドっと疲れた。また捕まえて抱く気力もなく、眠りに落ちた。

 




バトル以外はポンコツ脳筋なので彼女には「でんせつ捕まえてなんとかする」ぐらいのプランしかありません。
ゲーム内で書き起こされているポケモンの鳴き声はできるだけ探してその通りに書いていますが、ポリゴンZは見つからなかったので「ピー」になりました。
チラチーノの鳴き声がぐふぐふなのも原作再現です。許してください。
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5-ジム運営

 

 各スタジアムに所属するジムトレーナーは2種類存在する。

 

 一つは、委員会傘下のジムトレーナー。これは委員会にその実力を認められ、ジムチャレンジャーをテストするのに相応しい人物として雇われている者達だ。ジムリーダーと手合わせし調整を手伝ったり、スタジアムで主催するイベントのスタッフをしたりする。基本的に人手の足りていないスタジアムを対象に派遣されるので、ジム所属というよりはリーグスタッフに近い。

 

 もう一つは、ジムリーダーの弟子ともいえるジムトレーナーだ。実力を見出したジムリーダーが指名し、本人が同意すればジムトレーナーとして迎えられる。後継であったり、大会の出場権、ジムチャレンジの推薦状を得られる。だから当然、ジムリーダーが降格すればスタジアムとは関係がなくなる。ルリミゾは後者のリーグトレーナーだった。

 

 ノーマルジムに所属していたのはルリミゾのみなので、キルクススタジアムには委員会からジムトレーナーが派遣される。今日は昇格から一ヶ月。そのリーグトレーナー達との顔合わせ日だ。

 

「うううぅぅぅ」

 

 ルリミゾはスタジアムのジムリーダー室で頭を抱えていた。机の上で呑気にチラチーノが動き回り尻尾がくすぐったい。

 

 裏で動くためにはジムトレーナーの心を掌握しなければならない。カシワの元にいた経験から、ジムトレーナーはジムリーダーと頻繁に顔を合わせるため、ジムトレーナーに悪事を隠し通すのはよほど上手くやらねば不可能だとルリミゾは感じていた。そのためギンガ団のように盲信させる、とまではいかなくともこちらの言葉を信用する程度には信頼されなければいけないのだ。バトル以外に頭を使ってこなかったツケをこんな別世界で払わされるハメになるとは。

 

 頭の中の悪の組織のカリスマ、アカギはどんな風に演説していたのか、どうやって部下の心を掴んだのか必死に思い出す。何の興味もなく、幼馴染に熱心に勧誘されて入っただけなのであの岩のシワのような顔と逆立つ銀髪ぐらいしか思い出せない。演説中に寝ていたことで他の下っ端にバトルを申し込まれることもあったし、入団したての頃に間違えてタカギ様、と呼んだ時には生きた心地がしなかった。

 

 アカギの真似をしようと必死に脳内でシミュレーションする。

 

「私はこの不完全な世界が憎い…!」

「世界とは完璧であらねばならない!心のない世界を!」

 

 胡散臭くなってしまった。脳内のギンガ団はブーイング喝采だ。これでは委員会にチクられておしまいだ。いっそ今から弟子を取るのも考えたが、ノーマルタイプのジムはトレーナーからの人気が少ない。ましてやルリミゾはジムリーダー代理、肩書きからして弟子を取るには不適だ。

 

 スタジアムへの集合は13時と伝えてある。人数は6人。ジムバッジは多い者で7個、少ない者で4個だ。キルクススタジアムは4番目のジムであるから、最低でもバッジ4つ以上のトレーナーしか派遣されない。うー、うー、と唸っている間に時計の針は12時と半分を指していた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 委員会所属のリーグトレーナー、ノマはひどく不機嫌だった。自分が派遣されたのがくそ寒いキルクスタウンだったのもあるが、何よりジムリーダー代理の小娘のところだったからだ。

 

 ジムバッジ7つの自分はジムチャレンジを突破できなかったとはいえ、委員会所属ジムトレーナーのなかでは有能な方であると自負していた。それがマイナークラスから昇格したてのジムに配属された。それなりにジムトレーナーとしての強さに誇りを持っていた彼にとって、この配属は屈辱的だった。

 

 12時45分、余裕を持ってジムのドアを開く。フロントには既に当の小娘ルリミゾが青い毛先を揺らしながら笑顔で立っていた。

 

「ようこそキルクススタジアムへ。ジムリーダー代理のルリミゾです。ジムトレーナーのノマさんね?」

 

 予想外の先制攻撃にたじろぐものの、初対面で礼節を欠くわけにはいかない。

 

「あ、あぁ。初めまして。ノマだ。よろしく」

 

 よろしく、と彼女は手を差し出してくる。不機嫌を隠しにこやかに握り返す。所詮は自分と同じジムトレーナー、初見殺しとガチガチの対策でマクワさんに勝ったのだろう、と手に力こそ入らなかったものの今の立場の違いに苛立ちが漏れそうになる。

 

・・・

 

 舐められてるな、とルリミゾは察知した。人同士の駆け引きにはまったく疎い彼女ではあったが、野生的な勘でノマから漏れ出る態度、不快感に気が付いていた。

 

 会話で心を掴むのは無理だと、キッパリ諦めがついた。

 

 こめかみが歪む。

 

 頭に血が昇る。

 

 ダメ人間なのは自覚があったが、バトルにおいて下に見られるのは何よりも許せなかった。相手側に目に見えて非礼な態度は一切ないが、彼女の行動原理は彼女が感じたものが全てだ。

 

「あたしとバトルしましょう。もしあなたが勝てば委員会にリーグトレーナーの異動を申し出てあげる。不満なんでしょう?」

 

 もちろん委員会へのコネなどひとつもないが、自分が勝つことに疑いのない全身バトル人間の提案だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 集められたジムトレーナー達は、わけのわからないまま始まった試合を見せられていた。今日は顔合わせでジムの方針を話してもらう日だったはず。どうやらプライドの高いノマがルリミゾを怒らせたらしかったが、ノマが目立って暴れているのは珍しかった。

 

 委員会所属のジムトレーナーはジムリーダーと委員会の評価が全てである。ここで健気に頑張っていると世間から評判の少女と揉めれば不利なのはノマのはずだが、聞けば先にキレたのはルリミゾだという。聞いていた礼儀正しく真面目だという評判とはかなり違う。実は癇癪があるのだろうか。これから一年間やっていくジムリーダーに不安を覚える。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 まさかの内心を見抜かれ、申し込まれたバトルにドン引きしながらも応じたノマは、フィールドへと移動した。

 

「他のジムトレーナーにもフィールドに来るように伝えたわ。見せしめってところね。あたしが一番強いってのを見せてあげる!」

 

 ブチィ、とキレて怒りに身を焼くルリミゾはジムリーダー代理の仮面も忘れて言いたい放題だ。

 

「公式戦じゃないからダイマックスはナシね!」

 

 目の前だが、声が大きい。完全にお怒りだった。

 

「ああ」

 

観客席に目をやれば、他のジムトレーナーが5名、不安そうな表情でフィールドを見ていた。彼らにしてみれば、初顔合わせで突然、怒るジムリーダー代理とジムトレーナーの試合を見せられることになったのだ。前情報と全く異なるルリミゾの豹変っぷりにただただ困惑するばかりである。

 

「優秀な上司を持てて幸せだぜ!俺は!」

 

 吹っ切れたのだろう、皮肉を吐き捨てながらノマが繰り出したのはきつねポケモン、キュウコン。世にも珍しい事にこのキュウコンは通常と異なり、天候を晴れにする不思議な力を持っている。

 

「頼むぜ!」

 

 そう叫べば振り返らずただ前を見て頷く。彼が初めてゲットしたポケモンであり、ナックルシティジムまで連れて行ってくれた相棒でもあった。先発で天気を晴れにし、手持ちのポケモンが有利な舞台を作り、自分の土俵に相手を引きずりこむ。キバナは同様に天候パーティの使い手だったためまったく歯が立たなかったものの、手合わせした8バッジ所持のジムチャレンジャーを何人も打ち倒してきた。

 

「眩しいわね。日照りの力を持つキュウコンね」

 

 曇りがちなキルクスの空が青く澄んでいく。照り付ける太陽がまぶしい。水タイプの技は威力が半減され、ソーラービームなどの大技が予備動作無しで即座に撃てるようになる。足が速くなるポケモンもいれば、パワーの上がるポケモンもいる。手持ちは恩恵を得られるポケモン達ばかりだ。 

 

 カブさんのジムがよかったな、と思う。それは望み過ぎにしても、平々凡々なノーマルタイプも嫌いだし、寒いのも嫌いだし、自分と同じジムトレーナーでありながらジムリーダー代理であるぽっと出の少女に使われるのが気に食わなかった。ジムトレーナーは手持ちのポケモンのタイプと関係なくジムに配属される。ジムチャレンジの際にチャレンジャーに立ち塞がり繰り出すポケモンは貸し出されて仕事をするポケモン達だからだ。

 

 このジムだけは嫌だった。ここで他のジムトレーナーの前で恥をかかせ、他のジムへと手配させた方が、黙って下につくよりマシだろう。委員会の印象は悪くなるだろうが、ノマにとってはここで働くことの方が耐えられないことだった。そもそも不満な態度は表面には出ていなかったハズだ。全てはこちらの心を読んだかのように突然キレてきたあの少女が発端だ。思い上がりを叩き潰してやる。

 

「捻り潰してあげる!」

 

 同じような言葉を少し離れたところから叫ぶルリミゾ。あの脳筋女と同じ思考だったことに嫌気が差す。

 

 彼女の代名詞が日差しの向こうでぐふっ、と鳴いた。

 

 

 

 

 




舐められてると感じたら、すべてを忘れて小物悪役ムーブに入るガール。
頑張ってチラチーノを代名詞にしようとしていますが、中身はポリゴンZです。
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6-vsノマ 格付け

 

「ここまで一方的とは・・・」

 

 ただただ圧倒的な試合展開に、リーグトレーナー達は今日集まった目的を忘れていた。スコアボードが示す数字は4-0、圧勝だった。

 

「終わったわよ!降りてきてもらえるかしら!」

 何事もなかったかのように、フィールドから声を張ってルリミゾが呼んでいる。ノマは起きたことが信じられないような面持ちでルリミゾを見ていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 初手チラチーノは読み切っていたはずだった。だからキュウコンに「おにび」だけ撃たせて即座に引いてズルズキンを繰り出した。「おにび」は避けられてしまい、「ロックブラスト」によってキュウコンはかなりの痛手を負ったが、続けて「ロックブラスト」を撃ってくることは確実だろう。ズルズキンが威嚇することによりあの舐め腐った態度のチラチーノは怯え、「ロックブラスト」はズルズキンをほとんど傷つけることなく終わりノマが有利になると。チラチーノを起点として「ビルドアップ」して5匹全員を抜けると。そう、思っていた。

 

「ウォーグル!」

 

 ノマがキュウコンを戻すと同時、チラチーノを戻したルリミゾから繰り出されたのはウォーグル。その特性は「まけんき」、相手に能力を下げられたとき、より攻撃性が高まるというもの。

 な、と声を発する間もなくウォーグルがズルズキンを「ブレイブバード」で叩き伏せていた。自分の手持ちは知られていても、この考えてきた対策方法は知られていないはずだった。

 

「パーティのポケモンたちさえ資料で持っていれば、何をしてくるか手に取るようにわかるわ。降参するなら今のうちよ」

 

 ますます小物臭い台詞を言うルリミゾ。無視して次のポケモンを出す。

 

 ひざしが つよい ▼

 

「エレザード!」

 

 はつでんポケモン、エレザード。その大きなエリマキを広げて気持ちよさそうに太陽の光を受けている。ジムリーダー代理とはいえ、この晴天の下で出てきたエレザードが乾燥肌や砂に隠れるような特性ではないことぐらい当然ルリミゾも把握しているだろう。エレザードは本来、暑い地域にいたポケモンだ。生息域が変わるにつれて乾燥に弱くなったり、砂に隠れるようになってしまったものの、いまでも一部の個体は太陽の光を利用する力が長けている。

 

「サンパワーね」

 

 ウォーグルが動く間もなく降り注ぐ電気に撃たれ戦闘不能になる。地面タイプですかされることも考えたが、他のジムリーダーと異なり本来はジムトレーナーのルリミゾにはあの5匹以外いないだろうと踏んでの10万ボルトだった。特殊に強いカビゴンであっても、この晴天下のエレザードの技を食らえばただでは済まない。引いて他のポケモンで受けたとしても、素早いエレザードに先手を取られ続く攻撃で沈められる。戦闘不能での交換が最善手だ。ルリミゾはウォーグルを労わりながらボールに戻した。

 

 代わって出てくるのはチラチーノ。速さ対決だ。どちらも打たれ弱いポケモンゆえ、一瞬の駆け引きで勝負が決まる。互いに素早く動き回り、牽制しながらスタジアムを駆ける。我慢が切れて先に動き出さないのはバトルの経験を積みトレーナーを信頼したポケモン同士だからだろう。

 

「10万ボルト」

 

 目を離さずに出した指示だったが、まばたきの一瞬でチラチーノの姿が掻き消えた。動揺するが、すぐに経験と知識から答えを導き出す。

 

「『あなをほる』だ!動きを止めるな!出た瞬間をカウンターして電気をぶち込め!」

 

 チラチーノが地面に潜っている間、猶予があるため具体的に指示を出す。ルリミゾは一切チラチーノに指示を出していないようだった。

 

 エレザードが周囲を警戒しながらフィールドを走り回り、ターンしようとしたその瞬間。真右の地面が盛り上がる。

 

「右だ!」

 

 右に10万ボルトを放つ。飛び出た影に光がはじける。チラチーノに10万ボルトが直撃。エレザードはチラチーノ以外には捉えられない。チラチーノを落とした。ノマは勝利を確信していた。

 

 しかしチラチーノは倒れず。意識を失わず。

 

 驚き硬直しているエレザードのエリマキを掴んで「スイープビンタ」を顔に叩き込む。パパパパパ、と短い手からは想像もつかない威力のビンタが繰り出される。ゆさぶられ、はたかれ、エレザードは目を回し倒れた。

 

 チラチーノは誇らしげにルリミゾの方を向いている。ナイス、とルリミゾは悪戯が成功したかのような笑みで褒めていた。

 

「何が起きた?どうしてチラチーノが耐えたんだ!?」

 

 予想外の状況にジムトレーナー達は困惑する。

 

「そうか!!」

 

「『ひかりのかべ』だ!」

 

 気付いたジムトレーナーが叫ぶ。

 

「いつだ?そんなタイミングあったか?」

「最初だ。ウォーグルに交代する前、鬼火を避けたときに貼っていたんだ。あまりにも晴天下のエレザードの火力が高いからウォーグルは落とされてしまったが、それが逆にノマの意識から壁の存在を逸らしたんだ。」

 

 ノマと同じくジムバッジを7つもつジムトレーナーが答えた。確かにあの時チラチーノは「ひかりのかべ」を貼るだけの時間があった。「ひかりのかべ」はエネルギーを放つ系統の、つまり特殊攻撃の技を防いでくれる壁を出す技だ。ポケモンを入れ替えても壁は残り、守り続けてくれる。

 

「一か月前の入れ替え戦と完成度が全然違うな・・・ここまで急に強くなるものなのか?」

 

「猛特訓したのよ!特にこいつの仕上がりは段違いよ!」

 

 聞こえていたのか、チラチーノを指し同じようなドヤ顔で語り出すルリミゾ。カウントは4対3、キュウコンはまだ動けるため、再び繰り出せばこの日差しは試合が終わるまで続くだろう。しかし万全のポケモンはあと2匹だ。

 

「ドータクン」

 

 繰り出し、「ウェザーボール」と指示を出す瞬間、憎たらしいチラチーノは光に吸い込まれ、繰り出されたのは脂肪の厚いカビゴンだった。

 

 ドム、と腹で真っ赤な光弾を受け止め、ぼりぼりと少し焼けた痕を掻くカビゴン。「ひかりのかべ」と「あついしぼう」、そして生まれ持った耐久力でもはや無傷といえるレベル。画面越しに見た入れ替え戦よりも大きな壁に感じる。とはいえ「ふゆう」している個体を警戒すれば、カビゴン側に有効打は無いはず、余裕を持ってカビゴンの突破方法を考える。それが過ちだと気付いたのは耳を疑う指示が聞こえたからだ。

 

「じしん」

 

 なんの迷いもないルリミゾの指示だった。ドータクンは宙に浮いているが、熱に強い個体と通常の個体で性質が異なる。熱に強い個体はその特殊な体の「たいねつ」金属で地面と同調して浮いており、「じしん」などの技の影響をモロに受けてしまう。一方通常の個体はまさに謎の力で「ふゆう」しており地面とは無関係にフワフワ浮いている。普通のトレーナーはキュウコンやエレザードの裏にいるコイツを見て「ふゆう」している個体だと思い地面技を撃たないはずだった。

 

「そのポケモンはワケあってよく知っててね、だいたい見極められるの」

 

 効果は抜群で、ドータクンは一撃で目を回し落下した。マーズのドータクンは「ふゆう」しておりルリミゾのドータクンは「たいねつ」仕様だった。即座に撃墜されたノマの顔色がますます悪くなる。頭の中は真っ白だ。もう彼にパフォーマンスを最大まで引き出すことは不可能だろう。試合中にメンタルを修正できるかどうかが、上位トレーナーとの彼の差だ。だからジムチャレンジを7つクリアした後の壁、キバナでポッキリ折れてしまった。

 

「キュウコン」

 

 すがるような震える声で相棒を繰り出す。残るエースに託すため、雲が差してきたこの空を再び晴天に引き戻すためだけに出されたことは誰の目にも明らかだった。スタジアムに差し込む日差しは強いが、彼の心は曇りきっていた。

 

「じしん」

「おにび」

 

 カビゴンの巨体によって引き起こされた衝撃がキュウコンに到達する直前、キュウコンがカビゴンをやけどにした。これでカビゴンの攻撃性能は大きく低下した。最後の一匹相手だがカビゴンでは落とし切るのは不可能だろう。

 

「頼む」

 

 繰り出されたのはよこしまポケモンのダーテング。「ようりょくそ」と呼ばれる特性のおかげで、この日差しの下ではとんでもない速さで行動できるポケモンだ。彼のパーティのエース格のポケモンで、何度も窮地から彼を救ってきた。

 

「ダァア!」

 

 ダーテングがまるで剣を持っているかのように舞いを舞う。「つるぎのまい」だ。ダーテング1匹でルリミゾの残り4匹を突破するにはこれしか残されていなかった。その隙を見て、ルリミゾはアタッカーとして完全停止したカビゴンを戻し、チラチーノを繰り出す。3度目の登場だがまだまだ気合を見せている。ぐふー、と鳴きこちらを見据える。

 

「ソーラーブレード!」

 

 本来なら大技「ソーラービーム」と同様に力を溜めるのに時間のかかる大技だが、この晴天下なら即座に発動できる高威力の技だ。リーフブレードと同じように、手に持つ葉っぱに力を集めたダーテングが葉を光らせ3倍ほどの緑の刃を作り出す。

 

「ダストシュート!」

 

 ルリミゾが出した指示に観客席のジムトレーナーとノマは驚愕する。

 

「な、ダストシュートだと!?」

「何かまずいんですか?」

 

 バッジ4つのトレーナーが質問する。

 

「ダストシュートはとても狙いが定まりにくい技だ。平常時ならともかく、この日差しの下とても素早いダーテングを狙えるとはとても・・・『とんぼがえり』なら接近して相打ちになる危険性がある代わりに確実に仕留められたはずだ」

 

 7つバッジのトレーナーが解説する。

 

「そうしないのはたぶん・・・」

 

 話ながら考えをめぐらす彼はなんとなくその理由に行き着いていた。

 

 すこしの距離の詰め合いのあと、バシュン、という音とともに駆け回っていたダーテングが崩れ落ちた。毒の塊が彼の進路を予知したかのように飛来したのだ。

 

 

「力の差を見せつけるためだろうな」

 

 




チラチーノ過労の回。不甲斐ない試合はできないと、手持ちのポケモンと猛特訓しました。チラチーノだけレベルで表すなら10くらい上がっています。置かれた立場と自覚によって人が成長する例ですね。
ルリミゾ本人は脳筋ポケモンなので事前の考えも無視して突き進み、結果的に力で示した感じになっています。

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7-これから

 ポケモントレーナーとは誰であれ、戦いと強さに魅かれた者である。ジムチャレンジを突破できず、委員会に所属してジムトレーナーになった彼らも、職業としてポケモントレーナーの道を進んでいる。ジムチャレンジを何年も突破できず、推薦状が貰えなくなった者、心がポッキリと折れてリタイアした者。

 

 それでもポケモンバトルと関わりたいと、委員会の下でジムトレーナーの職業を選んでいる。ジムリーダー直属ではない彼らは、ジムの順位と関わりがない。毎年どこかのスタジアムに配属される。メジャー1位になろうが、マイナー落ちしようが彼らの仕事にはほとんど関係がないからだ。彼らにジムへの帰属意識はない。

 

 だが、それでも、

 

・・・

 

「あたしはメジャー1位を目指す。代理だろうが関係ないわ」

 

 すこし上を見ながら、ジムトレーナーに向かって話す。故郷への想いが話に熱意を吹き込む。

 

 ジムトレーナー達は一言一句聞き逃すまいと、やや大きめの声で語る少女に視線を集めている。彼女は代理という肩書を吹き飛ばすような、圧倒的なポケモントレーナーとしての力を示した。それが結果として、不安を感じていた彼らの心を大きく揺さぶったのだ。考えなしのバトルだったが、少女の「強さ」というただただ原始的なカリスマが観た者を魅きよせていた。アカギのモノマネを披露するのとは段違いに、彼女の初顔合わせは上手くいった。

 

「ナックルスタジアムにこのノーマルの印を刻み付けるの」

 

 そして、絶対に帰る。口にこそ出さなかったが胸の中に再び火を灯した。

 

「力を、貸してくれるかしら」

 

 少し不安げに、語りかける。ジムの運営にこんな大層な演説は必要ない。ジムトレーナーとの関係が悪くとも、彼らは仕事だからしっかりと働くだろう。彼女の練習、特訓に付き合ってくれるかは別として。だからそれはサポートしてくれ、という頼み。ノーマルタイプのジムトレーナーとして彼女のサポートをし、1位にのし上がるために協力してくれと、そう言っているのだった。

 

 長らくダンデのライバルを自称し、1位のトップジムリーダーに君臨しているキバナ。彼女なら、もしかすればキバナを。特に8つ目のバッジで躓いた2人は期待を抱かずにはいられなかった。そしてまた、無敗のチャンピオン、ダンデ。その覇権すら崩しうるのではないかと、偉業の一部に自分がなれるのではないかと、失った夢を彼女に重ねていた。彼らはこの日、委員会所属から変わったわけではないが、ノーマルジムのジムトレーナーとなった。

 

・・・

 

「さらっさらの毛並みねこのキュウコン!!毎日、いや1日に3回は手入れしてるのかしら!!」

 

「このうちわ、ワイルドエリアまで取りに行ってあげたでしょ!?この葉っぱ見たことあるわ!!」

 

 ルリミゾがダーテングのうちわを触りながらこちらに大声で尋ねてくる。少しうるさい。

 

 トレーナーとして行き詰った今でもポケモンの手入れと特訓は欠かさないでいた。それを見抜かれたことは嬉しくもあったが、敗北した今のノマにとってはただただ恥ずかしかった。恍惚の表情で解散したジムトレーナー達と違って、ノマは残るように指名されていた。

 

「その、」

「謝んなくていいわよ、ボコボコにして満足だわ」

 

 悪かったな、と続けるよりも先にルリミゾが答えた。後先は考えないが人の機微には敏いらしい。言葉はほとんど交わしていなかったが、バトルを通じて共に認めたことはお互い理解していた。

 

「あたしが勝ったんだからここで働いてもらうわよ」

 

 ああ、と返す。不満はどこにもなかった。キルクスの気温のせいで息が少し白んでいた。鼻を突きさす冷たい空気、それすら心地よかった。

 

「お前がキバナを倒すところが見たい」

 

 苦い思い出を浮かべながら、この少女がキバナを倒し、ナックルスタジアムを職場にする日を夢想する。

 

 暗い逆恨みだった。キバナを追い出し、自分は有象無象の一人としてそこで働くのだ。どれだけ気持ちが良いだろうか。キバナに大敗してから、推薦状を貰いに行くことをやめた。勝てるビジョンがまったく見えず、それからはリーグスタッフを経て今はジムトレーナーだ。ジムチャレンジャーの墓場において、何を目指すでもなく刀を日々研いでいた。

 

「嫌よ」

 

 意味が分からず、間抜けな顔でルリミゾの方へ振り向いてしまった。

 

「アンタの恨みを私に背負わせないで。だからアンタはキバナに勝てないのよ。勝手に不満になって、黙って溜めてる。そうだわ、小さいのよ!」

 

 小さいとかお前が言うのか、とは敗者だから言えなかったが、ノマにとって図星だった。

 

「もっと暴れればいいのよ。アンタのポケモンだってそれを望んでる。ホントはまだまだ上に行きたいくせに、すぐ諦めてぶつぶつ言ってる。アンタがしたいのはキバナを倒すことじゃない。ジムチャレンジを突破することでしょ」

 

 奔放な物言いでもザクザク突き刺さる。

 

「あたしを倒せたなら、いつでも推薦状を書いてあげる。あたしは1位になるんだし、問題ないでしょ。」

 

 なんなら明日挑戦してきてもいいわよ、と不敵に笑う。世間に見せてきたイメージとは違い、自分が代理なんて微塵も考えていない。ただ、ノマにとってはジムチャレンジ失敗以来、自分に期待してくれる人物が嬉しかった。

 

「お前が1位になってからだ」

 

 お返しに先に意味不明な言葉を返す。はぁ?という表情をしている。わかりやすいな、と思った。

 

「キバナは関係ない。1位になったお前を倒して、ジムチャレンジをクリアする。その方がドラマチックだ」

 

 続けて説明すれば、嬉しかったのか口元がニヨニヨしている。スタジアムから見える空は珍しく青かった。キュウコンのせいなのか、キルクスの気まぐれなのか、それともこの気持ちなのか、ノマにはわからなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「こんなに上手くいくことがあるかしら!ねえ!」

 

 自宅にて、ポリゴンZと一緒にくるくる回りながら喜ぶ。チラチーノが頭にくっついているため、少し重い。カッとなってバトルを始めてから、冷静になったのはダーテングを沈めた直後だった。嬉しそうに帰ってくるチラチーノを抱えながら、キルクスの冷たい空気に頭を冷やされ、ジムトレーナーと顔合わせだったことを思い出した。そこからは流れで熱意を語り、なんとか味方に付けられたようだった。ジムリーダー1位を狙っているのは嘘ではなく、ナックルシティジムが手に入れば地下の管理に関わることも増えるだろうと踏んでの目標だった。純粋にジムリーダーと戦いたい気持ちもあったが。

 

 自分が本当にこの世界の住人だったなら、なんと素晴らしい状況だろうか。ふと我に返って虚しくなる。頭の中の記憶と、このポケモン達、部屋に掛けてあるギンガ団の制服。思い出して、また気分が沈む。胸が詰まる。暮らしには慣れたが、一人別世界の住人であるという自覚。この異物感はきっと帰るまで取り除かれないのだろう。ベッドに倒れこみ、ロトム憑き機械、スマホロトムでニュースを調べる。ロトムの研究はギンガ団が最先端で、ルリミゾがいた世界ではまだ実用化されていなかった。

 

「へぇ。ダンデって弟がいたのね」

 

 次のシーズンから無敗のチャンピオン、ダンデが弟とその幼馴染にポケモンを渡すらしい。推薦状は成長を認めないと書かないつもりだという。身内贔屓しない公平さもチャンピオン人気のひとつだろう。大勢の観客が見守る中での敗北は、少年少女が味わう大きな挫折となりうる。見込みがない者を参加すらさせないのは優しさでもある。

 

 ジムチャレンジ開催まであと一ヶ月。メジャージムリーグの開始も同じだ。観客を楽しませ、ジムチャレンジャーを軽くふるいにかけるための仕掛け「ジムミッション」は基本的に前任からの流用だ。多少仕掛けや内装を変えることはするが、大幅な改造は問題が起きない限り行われない。これはジムトレーナーに任せてしまっていいだろう。

 

 問題はメジャージムリーグだ。8人のジムリーダーがそれぞれのジムリーダー相手に2試合ずつ、計14試合を行う。入れ替え戦のマクワがそうだったように、メジャーリーグ下位だからといって油断はできない。下位と上位で大きな差があるわけではないし、草・水・炎のジムリーダーは実力者だからこそジムチャレンジの序盤で加減を見極めてチャレンジャーを試している。

 

 とくにカブは前年度3位でリーグ戦を終えている。リーグが始まればパーティは変更不可なので、幅広くどの相手にも戦えるパーティを組まなければならない。ルリミゾの手持ちはいつもの5匹だけだったが。

 

「他のプランも考えておかないといけないわね」

 

 1位になることよりも元の世界に帰ることの方が重要だから、念のため(まあ当然1位になれると確信しているが)、しょうがなく、もしものために、ナックルエネルギープラントへの潜入を考えないといけない。面倒な相手を避けるため、どこを襲撃するにしてもチャンピオンやローズ委員長が離れている日を狙う。

 

 それにしても、この地方はシンオウに比べてあまりにも伝説が少ない。伝わっていないだけなのか、ほんとうに少ないのかはわからないが神話のような力を持つポケモンの話をルリミゾは聞いたことがなかった。

 

「人間の英雄伝説なんてホントどうでもいいわ。異世界に飛ばしてくれるポケモンはいないからしら」

 

 有名なのは厄災を退けた二人の英雄の伝説だが、ポケモンは登場しなかったはずだ。伝説について調べながら、ナックルシティのエネルギープラントを狙う。目標が明確に定まった。リーグで1位を取り、ナックルジムを獲れれば達成されるが、リーグ戦は3ヶ月もある。その間ただ戦っているだけというのは我慢できなかった。

 

 裏で顔を隠して遺跡や文献、資料を調べなければならないな、とギンガ団の頃の活動を思い出してふっと笑う。その時は故郷の世界からの相棒たちが活躍してくれるだろう。

 

 




ジムリーダーとしての目標:ナックルシティのスタジアムを公式に獲る
ギンガ団としての目標:伝説を調べてとにかくつよそうなぽけもんをさがす
ということを明確にする回です。あとジムトレーナーの捕獲。

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8-スパイクタウンのパンク兄妹

『スパイクタウン 多くの店が雑然と並ぶどこかパンクな雰囲気の町』

 

 そう紹介してある看板を読む。ルリミゾはキルクスタウン南東、スパイクタウンに来ていた。街の入り口にはコンテナや謎の木箱、ドラム缶が散乱し、何故かシャッターが付いている。少し寂れたこの町は、キバナに次ぐ実力を持つジムリーダー、ネズの拠点だ。

 

 彼が特徴的なのは、何よりダイマックスを使わないという点だろう。そんなスタイルでありながら他のジムリーダーをなぎ倒し2位につける実力はとんでもない。何かのインタビューでは「ある意味で本来のポケモンバトルなんですよ」と語ったらしい。もともとダイマックスなんて関係のない世界でバトルをしていたルリミゾも共感したのを覚えている。

 

「疲れたしお店に入りたいわね、ウォーグル」

「クアァ」

 

 舗装されていない入り江を道路と呼ぶのかは怪しいが、9番道路を下った先にある町だ。ガラルには「そらをとぶ」で自分のポケモンと空を飛んで移動する文化がなく、アーマーガアタクシーが主流だという。無免許での鳥ポケモンでの「そらをとぶ」は危険だと委員会が禁止を提案したらしい。ジムリーダーは飛行が許されているが、誰も飛んではいないようだった。

 

 折角だから、とルリミゾは権力を行使し、ウォーグルに掴まって9番道路の入り江を越えて来た。水の上は寒く、正直ちょっと後悔したがウォーグルのウォーミングアップにはなっただろう。

 

 そう、今日はネズに練習試合を申し込んでいたのだ。お互いリーグ戦用のメンバーから3匹で戦うという取り決めをしており、手持ちを全て晒さないための工夫だった。ルリミゾにとってはどうせメンバーが変わらないため得な条件だし、ネズは手札を晒すことをあまり気にしていなかったが、それでも3対3にしたのはここで決着をつけたくなかったから。ゼンリョクを出すのは当日で、と電話越しに声が重なったのを覚えている。

 

「それにしてもなんっにもない町ね!」

 

 歩けど歩けど続くシャッターに思わず言いそうになった。シャッターばかりでブティックもなければ美味しそうな店もない。おまけに似たようなパンクファッションの男女がうろうろしている。半袖でへそを出しているが寒くないのだろうか。キルクスとそこまで遠くはないから少し空気が冷たいのだが、町の雰囲気も合わさって余計にそう感じる。

 

 どの街でも見つけやすいように統一された外観のポケモンセンターがめちゃくちゃ目立っている。街のネオンライトは負けじと輝いているが、その下にはシャッターが下りていた。ネズの試合まで少し時間があったので腹ごしらえをしようにも店が見つからない。10時にポケモンセンターの前に集合だ。

 

 一旦外に出て、光を浴びる。雨避けに張られた天井はかえって町を暗くしていて息が詰まりそうだった。

 

「クァア」

 

 普段から謙虚なウォーグルが珍しく隣で何かを主張している。見れば、視線の先にはきのみの木があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 この町のジムリーダーであるネズの妹、マリィは9番道路に出てきていた。来シーズンからジムチャレンジに参加するマリィは、それに備えて兄のバトルからたくさんのことを学ぼうとしている最中だ。

 

「きのみ見分ける練習にもなるけんね」

 

 練習試合の後、疲れた兄のポケモンたちを労わるために今のうちからきのみを用意しておこうと思ったのだ。スパイクタウン入口近くに生えているきのみの木は、ジムチャレンジ期間を除けばスパイクタウンを訪れる人は少なく、誰も取る人がいないため、ポケモンが採っていなければたっぷりときのみを蓄えているはずだった。

 

・・・

 

「な、なんばしよっと・・・?」

 

 目に入ってきたのはヨクバリスと張り合ってきのみを取り合う少女。放しなさいよ!と声を上げて、浅葱色の毛先を振り回しながら必死に戦っている。

 

「あっ」

 

 こちらに気付いたのか、集中が切れてヨクバリスにひったくられてしまっていた。

 

「い、今見たのは内緒にしてくださいね・・・?」

 

 恐る恐るこちらを振り向く。キルクスタウンジムリーダー代理、ルリミゾだった。

 

・・・

 

「これはキーのみね?」

「いや、それはオッカですね、ポケモンが食べると不思議なことに炎に強くなります」

「ポケモンはすごかとね・・・」

「私たちにはちょっと硬くて辛いですから、料理しないと食べにくいですね」

 

 キーはまだぶにっとしていて柔らかいんです、と笑顔で教えてくれる。先ほどの野蛮な行動からは考えられないほど丁寧な物腰の人だった。お互い軽く自己紹介をして、3ヶ月後にジムチャレンジに参加すると言えば、きのみの見分け方を教えてくれるという。先に彼女が揺らして落としていたきのみを二人で拾いながら話をする。

 

「試合後のポケモンのためにですか?偉いですね~!あ、カムラの実だ」

 

 面と向かって褒められると恥ずかしい。モルペコはロゼルの実が気に入ったらしく、マリィの鞄に2つ詰め込んできた。

 

「キルクスからこの子が運んできてくれたので、ご褒美にきのみをあげようと思って」

 

 ウォーグルの口にきのみを運びながらそう説明された。なるほど、だから必死だったのかと勝手に納得する。どうやら噂よりも情熱的らしい。

 

「そういえば今何時ね?」

 

 はっとして見つめ合う。二人で覗き込んだ時計の針は10時のちょうど5分前を指していた。

 

「「あ!!」」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 9番道路で知り合ったネズの妹、マリィと話し込んでいるうちに集合時間ギリギリになっていた。二人で走ってスパイクタウンのポケモンセンターを目指す。

 

「まさかとは思いましたが、マリィと出会っていたんですね。おれはダメだから約束を破られたのかと思ったんだよね」

 

 息をきらしながら10時ちょうどに到着すれば、ネズから声がかけられる。噂通りネガティブだ。別行動していた(先に出発して置いてきた)ノマが非難の視線を向けていた。

 

「お待たせして申し訳ないです。本日はよろしくお願いします」

「よろしくね」

 

 外面(そとづら)モードにノマが「うげぇ」とでも言いたげな顔をしたので足を踏んでおく。

 

「いってぇ!」

「?、どうかしましたかノマさん、フィールド行きますよ」

 

 ネズたち兄妹を追ってフィールドに向かう。

 




9番道路で取れるきのみだけで話を作ろうと思ったんですが、なかなか難しかったです。9番道路では出ないきのみが登場します。
フライングでマリィの登場ですね。

感想・評価励みになります。今回も読んでいただいてありがとうございました。
次はバトルです。よろしくお願いします。


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9-vsネズ 練習試合

「ダイマックスがなくても、真に熱い試合はできるんだよね」

 

 あくまでおれの考えだけど、と補足しながらネズが語る。マリィから聞いた話では、その考えをマリィに押し付けることはせず、自分で貫き通しているだけだという。

 

 この切り出し方は賛同してもらおうというより、これから熱い試合をしよう、そう言っているのだと解釈してルリミゾはボールを構える。

 

 薄暗く、ネオンの光で怪しく照らされるのはバスケットコートのようなフィールドだ。観客席はなく、金網の向こうでマリィとノマが見守っている。パンクファッションの人たちはジムトレーナーだったらしい。金網の向こうでブブゼラを鳴らして応援している。

 

「あたしもダイマックスのない試合に慣れています、いい試合をしましょう」

 

 そう返せば、こちらを見てネズが頷いた。

 

「ふぅ・・・」

 

 肩を揉み、マイクスタンドを取り出し突然叫ぶ。

 

「おれは! スパイクタウン ジムリーダー! 悪タイプポケモンの天才、人呼んで『哀愁』のネズ!!」

「代理で頑張るおまえのために! 見守るマリィたちと共に!」

「行くぜー!スパイクタウン!!」

 

 エレキギターの音が聴こえそうな勢いで口上を述べている。バトルで気持ちを高めるためにやるらしい。惚れ惚れするくらいのいい声だ。マリィは少し恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

ジムリーダーの ネズが

勝負を しかけてきた! ▼

 

「まずはこいつだ!いくぜ!ズルズキン!威嚇だ!」

 

 歌うように繰り出されるズルズキン。ノマの個体より心なしかノリノリだ。

 

「バイウールー!」

 

 メエェ、ともふもふの塊が着地する。ズルズキンを見て少し怯んでいる。攻撃に力が入らなくなっただろう。初手からかなり悩まされる対面だった。ズルズキンはあまり動きが速くないため、バイウールーが「コットンガード」を先に積むことはできるだろうが、おそらく裏にいるであろうストリンダーに交代された場合は大きく不利になってしまう。

 ストリンダーは毒/電気タイプの特殊アタッカーだ。「ばくおんぱ」や「オーバードライブ」といった音、振動系の技が得意でとんでもない火力を誇る。バイウールーは特殊方面には強いというわけでもなく、ストリンダーに有効打もないのでなるべく対面させたくない相手だ。しかし、ストリンダーの着地に有利なポケモンを出すことを読み、ズルズキンで居座って「とびひざげり」を撃たれれば苦しい展開を強いられるだろう。

 

「ごめんねバイウールー。ウォーグル!」

 

 それでもやはりバイウールーとストリンダーの対面だけは避けたいのでウォーグルと交代する。

 

「シビれる音を聴かせてくれ!ストリンダー!」

 

 やはり交代。寒色のローなストリンダーが現れる。あまり速さに差はないので殴り合いだ。

 

「オーバードライブ!」

「ゴッドバード!」

 

 ジャアアアアン、と雷を纏った音波がウォーグルに迫る。ウォーグルはこちらを見て頷き、空高くへと飛翔する。初撃は避けることができたものの、「オーバードライブ」の攻撃範囲はとても広い。ストリンダーの反応よりも先に攻撃を叩き込み、あまりの威力にひるんで動けなくさせるための指示だった。空を旋回しながらストリンダーを狙うウォーグル、そして片時も目を離さず迎撃の準備をするストリンダーとネズ。

 

「今!飛び込んで!」

 

 先に口火を切ったのはルリミゾだ。風を切る音がここまで聞こえてくるほど加速し、弾丸となって飛来する。ストリンダーはネズを信じ、攻撃のタイミングを待ち続ける。

 

「まだだ…待てよ…」

 

 影がどんどん大きくなり、音はさらに近付いてくる。ネズの額に汗が垂れる。

 

「今だ!!放て!!」

 

 まさにドンピシャ。落雷のような爆音が周囲に響く。フィールドにいた人間は全身を揺さぶるビリビリとした感覚に包まれていた。爆音による痺れなのか、ネズの鮮やかな撃墜を見た痺れなのかはわからない。

 オーバードライブ最大の火力を最適な距離でヒットさせ、ウォーグルは力なく地に落ちた。あと1秒遅ければストリンダーが倒れていたし、あと1秒早ければウォーグルは倒れていなかっただろう。

 

「ありがとう、ウォーグル」

 

 努めて冷静にイエッサンを繰り出す。心はとんでもない絶技に震えていた。すぐに切り替え、状況を分析する。特殊アタッカー対決だ。

 

 ストリンダーは無傷であるものの、技を二回撃っただけとは思えないほど疲弊している。あの神業はそう簡単にできるもんじゃない、ちゃんとウォーグルの動きが効いている。信じて指示を出す。

 

「サイコキネシス!」

「ばくおんぱ!」

 

 フィールドの中心でお互いの技がぶつかり合う。ただウォーグルを落とし切って一度集中の切れたストリンダーをイエッサンが押し込んでいく。

 

「もっと震わせろ!」

「あたしを信じて!イエッサン!」

 

 トレーナー達も負けじと叫ぶ。中心で爆発が起こり、風に耐える姿勢をそれぞれ取る。

 

「ストリンダーが!」

 

 先に様子が見えたのか、観戦者の声が上がる。ネズの足元まで吹き飛ばされ、倒れたストリンダーがいた。

 

 立っているのはイエッサンだ。

 

「明日はポフィンにしましょう!好きなだけ作るわ!」

 

 こちらを見て嬉しそうに飛び込んでくる。感情を察知するイエッサンは喜びも悲しみも共有してくれる。マクワとの戦いで、揺らいだ心で力を引き出せなかったのは当然だった。あれ以来心を通わせようと努力した結果がついに出たのだ。

 

「この甲高いうなり声を聴け!タチフサグマ!」

 

 ネズの声とともに臨戦態勢のイエッサンがフィールドに戻る。現れたのはタチフサグマ。知識にあるマッスグマと異なりやたら悪そうな見た目のマッスグマには驚いたし、まさか進化までするとは思わなかった。大きくなった体躯で立ち上がり、何者も通れぬほどの圧でこちらを見ている。

 

 イエッサンは爆風で多少傷を負ったものの、押し勝ったおかげでまだまだ戦えるようだ。エスパータイプの技は悪タイプに通じないので、効果抜群のフェアリータイプ技「マジカルシャイン」を指示する。ルリミゾの心の機微と戦闘経験から予想して準備していたのだろう。技を言い終わるまでにすでに光が放たれていた。

 

「防げ!『ブロッキング』!続けて『じごくづき』!」

 

 タチフサグマ固有の技「ブロッキング」で「マジカルシャイン」が防がれ、イエッサンを突かんと迫って来る。後退しながら「マジカルシャイン」を撃つが、ネズのエースは段違いに速く全て避けられてしまう。

 

 想定外のスピードだ。だが見ているだけのルリミゾではない。経験と天性の勘で打開策を見つけ出す。

 

「ワンダールーム!」

 

 イエッサンが光った瞬間、突きがクリティカルヒットして吹き飛ばされる。ドラム缶に当たり、ボゥ!と音を上げながら缶がひしゃげる。

 

 「ワンダールーム」は周り一帯のポケモンの防御と特防を入れ替える技だ。物理攻撃に対しての防御力と、特殊攻撃に対しての防御力を交換する。特殊攻撃に対して強いイエッサンは、ワンダールーム下では物理に強くなるのだ。パラパラと砂が落ち、埃が舞うなかイエッサンは立ち上がる。

 

「マジカルシャイン!」

 

 物理に強いタチフサグマはワンダールーム下で当然特殊に強くなってしまうのだが、イエッサンが「じごくづき」を耐えて再び距離を取れたことの方が大きい。一矢報いんと放たれた「マジカルシャイン」は遂にタチフサグマを捉えた。効果は抜群だ。落とすまでには至らなかったが、次で確実に倒し切ることができるだろう。

 

「追いかけろ!」

 

 再び間合いを詰める戦いが始まる。イエッサンは後ろを一切振り返らず、ただタチフサグマだけを見ながら後退。「マジカルシャイン」で牽制しながらネオンの照らすフィールドを駆け巡る。

 

「後ろにドラム缶!右に避けてそのあとジャンプ!」

 

 イエッサンが壁に追い詰められないよう指示を出す。完璧な分担だった。全体を見渡せるトレーナーが目となり、頭脳となりポケモンに情報を伝える。ポケモンは戦闘を自分の判断でこなしながらトレーナーの意図を汲み取り勝利のための最善手を共に目指す。ちらりとも後ろを見ないでトレーナーの指示通りに障害物を避けていく。

 

・・・

 

 一種の完成形とまで形容できるほどの連携は、金網越しにノマとマリィの心を震わせていた。

 

「とんでもねえな、うちのリーダーは」

「すごか…」

 

 彼は委員会所属だが、もう意識は完全にノーマルジムの一員だった。

 

・・・

 

「こわいかお!」

 

 ネズとて黙って逃げ回られるだけではない。突然緩められた攻撃の手にイエッサンが意識を取られた瞬間、的確な指示を出す。捕食者のような恐ろしいタチフサグマの表情はイエッサンの足をすくませ、動きを鈍らせる。ルリミゾへの負担が大きくなる。もはやこれは1人1匹同士の戦いではなく、一と一の戦いだった。

 

 その影響は顕著に現れる。だんだんと距離は縮まっていき、ついにイエッサンが壁際に追い詰められたのだ。

 

「じごくづき!!」

 

 散々打った後だったが、これで終わらせるという気持ちを言葉に込めて改めて叫ぶネズ。

 

「マジカルシャイン!!」

 

 逃げられないのはタチフサグマとて同じ。回避と守りを捨て、全ての力をこの一撃に込める。

 

 

ドッ、と鈍い音がして同時に2匹、崩れ落ちた。

 

 

「最後だわ!バイウールー!」

「二回目の登場だ!みんなも名前を呼んでくれ!ズルズキン!」

 

 即座に交代し、ズルズキンが現れ威嚇する。バイウールーは少し怯えて攻撃に力が入らなくなった。が、構わず「コットンガード」で相手の攻撃に備える。ますます膨らむ毛にもはや物理攻撃は通用しない。

 

 それを見てズルズキンはバイウールーの前で目を閉じ気合を溜め始める。「きあいパンチ」だ。集中を阻害されてしまえばうまく決まらないが、もしかしたら一撃で持っていかれるかもしれない、という不安すら覚えかねない気迫だった。

 

「ボディプレス!」

 

 だが発動を邪魔する線は即座に切り捨て、迷いなく時間のかかる攻撃技を指示する。バイウールーは膨れた毛と共に飛び上がり、ズルズキンを潰す準備を整える。

 

 「ボディプレス」はポケモンが物理に強いほど威力が上がる技だ。「コットンガード」でとんでもなく物理に強くなったバイウールーは、威嚇されたことと無関係に凄まじい威力が出せる。やけにスローに感じる数秒間、ルリミゾはバイウールーを信じてただ見つめていた。

 

「打て!」

 

 グググ、と音が聞こえそうなほど捻られたズルズキンの小さな体がブレる。

 

ボ、とそれだけ音がして、毛玉は動かなくなった。

そしてまた、もう一匹は毛玉の下で気絶しているようだった。

 

・・・

 

「引き分け…」

 

 マリィが呆然と呟く。あまりにレベルの高い勝負にまだ理解が追い付いていなかった。

 

「ありがとうございました」

「おれのポケモン達も、おれも満足していますよ。ありがとうございました」

「あたしもです。やっぱり決着はリーグ戦でつけましょう」

 

 自然と笑みがこぼれる。フィールドの中心にお互い歩み寄り、握手を交わして練習試合は終わりを迎えた。

 

・・・

 

 マリィがネズのポケモン達にきのみを配る。

 

「アニキも、ルリミゾも凄かった」

 

 今度はキルクスジムであたしが挑むけん、待っといてよ。憧憬と期待の眼差しで見つめられる。思わぬ新規ファンだった。未来のジムチャレンジャーにエールを送る。

 

「待ってます!マリィならキルクスまできっと辿り着けます!」

 

 くぅぅ、締まらない音がルリミゾのお腹から聞こえた。

 

「「「・・・」」」

 

 一瞬の静寂のあと。

 

「では、ラーメンを食べにいきますか。お腹が空いてるんだよね」

「ス、スパイクタウン一押しのラーメンばい!」

 

 兄妹の誘いを断るわけにはいかないので、決してお腹が空いているわけではないが、別にこのままキルクスに帰ってもよかったが、案内に従って路地を進んでいく。ネズが言うのでしょうがなく、付いて行くだけだ。顔が赤いのはバトル後だからだ。少しひんやりとした空気に心地良さを感じながら後を追う。

 

・・・

 

 濃厚でまろやかな、不思議な白いスープのラーメンだった。ネギのさっぱりした風味と合わさって細硬い麺が進んでたまらない。不意に視線を感じて横に目をやれば、ネズがこちらを見ていた。少し怖い顔なので麺を噴き出しそうになるのを抑えて首をかしげる。何か、と。

 

「悩みがあれば言うんですよ」

 

 う、と箸が止まる。見抜かれていた。

 

「ジムリーダーとして先輩だから言うよ。今の立場は大変だと思うけど、無理はいけないね」

 

 代理という立場のおかげで、根底にある悩みはカモフラージュできているが、それでもやはりバトルから伝わるものがあったらしい。暖かすぎる気遣いに救われたような気持ちになる。

 

「ありがとうございます。あたしは大丈夫です。少し故郷が恋しくて」

 

 シンオウ地方出身ですから、と続ければ納得したような表情で頷いてくれた。

 

「辛くなったら、休みを取って帰ればいいんだよね。おれは故郷から出ていないからその苦しみはわからないけど、自分の身体が一番だよね」

 

 できるならそうしている!行き場のない言葉は胸に留めた。ネズに当たることは何一つ意味がないし、ありえない。この世界に来て一番夢中になったバトルだったが、また水をぶっかけられた気分だ。

 

「そうします」

 

 短く答えてから、キルクスに戻るまでどんなやりとりをしたのかはあまり覚えていない。




難産でした。
もしこれがフルメンバーのバトルだったらと思うと震えて続きが書けませんでした。
ジムトレーナーレベルだった手持ちと心を通わせ、鍛え上げ、やっと本来の手持ちの強さに近付いてきたなという段階です。
ダイマックスなしで2位、というのを見るに本当にネズは強いトレーナーですよね。こんなアニキが欲しかったです。

評価・感想励みになります。今回も読んでくださりありがとうございました。
はやくギンガ団らしい活動をしたいです。


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10-宝物庫襲撃

『ナックルシティ 中世の城壁を活かした歴史ある街』

 

 人通りのなくなった深夜、看板を読む。周囲をクロバットが静かに飛び回り警戒している。ルリミゾはこの日、ギンガ団の制服に身を包みナックルシティに来ていた。狙いは宝物庫。ガラルに昔訪れたという厄災についての情報と、保存されている宝が目的だ。宝物庫と名前が付いているんだから、ポケモンに関係するレアなアイテムもあるだろう、と特に深く考えることなく走る。

 

 ローズ委員長とチャンピオンは海の向こう、イッシュ地方のポケモンリーグを視察に行っている。ニュース記事を見た日の夜の決行だ。

 

 歴史ある城を改築してできたスタジアムを中心に街が広がっているナックルシティは、8つ目のジムということもありかなり栄えている。ポケモンセンターは3軒あり、電車も通っている。街の西、いまは真っ暗なポケモンセンターの隣に宝物庫はある。トレーナーとポケモンのためにポケモンセンターは24時間営業だが、この街ほど大きく何軒もある場合は時間帯をずらしてそれぞれ営業している。

 

 宝物庫周りは需要があまりないので深夜は休業中だ。普段、宝物庫は許可を得た人物しか入ることができない。表向きに訪れることもできるが、記録が残るし、突然訪問するのは不自然だ。撮影は禁止されているし何より面白そうなものも盗めない。

 

「上から」

 

 並走するドータクンに指示を出し、手を借りて壁を駆け上がる。入り口には警備員とガマゲロゲが立っており、さらに見せつけるように監視カメラが設置されていた。どうせバレて戦闘になるとしても上から入ったほうが楽なのは明白だ。

 

「でんじは」

 

 着地の寸前、ボールからポリゴンZを出し周囲のカメラを停止させる。久しぶりの潜入だったが、三匹とも全く衰えていない。すぐに不審に思った警備員がここに来るだろうから、鍵の掛かった扉を「ラスターカノン」で破って侵入、辺りに警報が鳴り響く。この瞬間がたまらないな、と思えば口元がニヤついてしまう。

 

「フラッシュ!」

 

 ガラルでは誰も知らない技だったが、シンオウ地方では日常の技だ。ポリゴンZに照らされた部屋の中には四枚のタペストリー。厄災の伝説に関わるものらしい。

 

「これは・・・」

「いたぞ!何をしてる!」

 

 読もうとした瞬間、ライトを手に持った警備員とリーグスタッフが合わせて三人、階段を駆け上がってくる。

 

「ゆっくり読もうとしてる観光客の邪魔しないでくれる?」

 

 一人はルンパッパを連れており既に戦闘態勢だが、残りは対峙してから腰のボールに手をかけている。

 

「遅い」

 

 背後からクロバットが意識を刈り取る。もう一人はドータクンの「ラスターカノン」で吹き飛ばされ、ぐっ、という呻き声と共に下に落ちていった。これで一対一。ポケモンを出させることなく二人消せたのは幸運だった。出されても簡単に潰せていただろうけど、と考えながら。

 

「死んだかもね?彼。仕事だっていうのにチャンピオンのおかげで平和ボケしてるわ」

 

 対面のリーグスタッフに語りかける。クロバット奇襲の瞬間、ルンパッパはルリミゾの足元に「くさむすび」を放ち、なおかつトレーナーを守るように動いていた。リーグスタッフはその間に追加でヌオーを繰り出し態勢を整えている。

 場慣れした動きだ。足元の草を人間離れした脚力で引きちぎりながらルリミゾはそう思った。水ポケモンが多いのはもしもの火事の消火のためだろう。

 

「そのセリフはチャンピオンが居るときに襲撃してから言うんだな」

 

 リーグスタッフがそう返すと同時、ヌオーの「あまごい」によって雨が降り、ルンパッパがその陽気な姿からは想像もつかないほどの速さで迫る。ルンパッパは雨天時に動きが速くなるポケモンだ。すいすいと水の中を泳ぐかのように距離が縮まる。

 

 来る。そう身構えたルリミゾの予想を裏切るようにルンパッパが奇妙なダンスを始めた。

 

「『フラフラダンス』だ」

「くっ」

 

 やられた。平衡感覚が失われ、ぐにゃりと頭が右にもたれる。バランスを保とうと右足に力を入れれば後ろに倒れそうになってしまう。「フラフラダンス」はその奇妙な踊りで見たもの全員を混乱させる。攻撃を見切らんとルンパッパを見つめていたルリミゾは完全に策に嵌められた。が、視界の端から緑の光線がヌオーを吹き飛ばす。

 

「そう簡単にはいかないか」

 

 ポリゴンZの「ソーラービーム」だ。こういった複数体のポケモンで戦う遭遇戦では、ポケモンも状況に応じて自らの判断で動く。雨天下のソーラービームは本来の威力を発揮できないが、ヌオーに対して効果は抜群だ。リーグスタッフを狙った攻撃だったが身を呈して守ったようだ。倒れたままピクりとも動かない。

 

 下からガマゲロゲが飛び上がってくる。どうやら見回りに一匹出していたらしい。

 

「あいつは無事か?」

 

 ゲコ、と頷くガマゲロゲ。落下した警備員を受け止めて救ったようだ。ヌオーをボールに戻しこちらに向き合う。

 

 状況は変わらず三対二。クロバットが闇に紛れ静かに首を狙う。ドータクンは混乱しているもののじきに立ち直るだろう、傍で護衛をさせている。ポリゴンZは健在だ。

 

「とっ捕まえられたらいくらでもカレー作ってやるよ」

 

 数的不利にもかかわらず、リーグスタッフは慌てることなくポケモン達に指示を出す。おそらく8つのバッジを所持している実力者だ。ザアザアという雨の音で何を指示したのかは聞き取れなかった。

 

 が、どうでもいい。捻じ伏せるだけだ。

 

「はかいこうせん」

 

 特性により雨天下で加速したルンパッパとガマゲロゲが重なる一瞬の隙。

 

 リーグスタッフが反応する間もなく、その真横をルンパッパとガマゲロゲが消し飛んだ。ボチャン、と少し離れた堀に落ちた音が二回聞こえた。衝撃でスタッフ支給品のサングラスが吹き飛び、それを認識した後に初めて気付く凄まじい風に体勢を崩すリーグスタッフ。

 

 ポリゴンZの恐ろしさはその火力だ。ポリゴンZは技に自らを最適化して最大の威力を引き出す。「はかいこうせん」においてポリゴンZの右に出るものはいない。

 

「クソッ、化物かよ」

「ま、そこそこ有能だったけどあたしを止めるのは無理ね!あたしはギンガ団幹部のロベリア!」

 

 覚えておきなさい、と守るものがいなくなったリーグスタッフの意識をクロバットが刈り取る。つい高揚してギンガ団での名まで名乗ってしまった。そこそこ有能なトレーナーを一方的に叩きのめすのはまたバトルとは違う爽快感があった。普段のバトルであればポケモン達を褒め、撫でたり抱きしめたりしているところだが、襲撃中にその余裕はない。再びポリゴンZに「フラッシュ」をしてもらいタペストリーを読む。

 

「ふむふむ、厄災と英雄ね・・・」

 

 後で確認するために写真も撮る。厄災に剣と盾で二人の若者が立ち向かったのだという。「ねがいぼし」の描かれたタペストリーもあるから、厄災と無関係ではないのだろう。もしかすると厄災とはダイマックスしたポケモンなのかもしれない。ダイマックスでこの地方を滅ぼしかねない程の力を秘めたポケモン。見えた希望に心が少し軽くなる。

 

「それほどの力があれば時空を歪めて元の世界へ帰ることも…」

 

 想定よりも警備たちに時間を取られてしまった。他の宝物を探す時間はないだろう。有象無象が何人集まろうが止められることはないが、撤退を見られるのは困る。クロバットでキルクスタウンに帰るからだ。逃げる方向は知られたくない。一旦街の南のワイルドエリアに抜けてから隠れて「そらをとぶ」でキルクスに帰るルートに決めた。

 

 ドタドタと階段を駆け上る音が聞こえてきた。追加の警備員やリーグスタッフだろう。階段真横の柱に隠れ、奇襲の準備をする。

 

「宝物庫の扉が!」

 

 破られた扉が目に入り、状況を叫ぶリーグスタッフ。だが敵はそこにはいない。階段を登りきる直前に真横から蹴りを叩き込めば、声すら出せず後ろの数名を巻き込み階段を落ちていく。突然の出来事に立ち竦む残りをポリゴンZとドータクンが一掃すれば、階段には倒れ伏す弱者しかいない。

 

「あはは!」

 

 マーズやジュピターと異なり、戦闘がメインのルリミゾは機能性重視の制服だ。ベレー帽を被り、髪は後ろでまとめ、口元には黒いマスク。胸にはギンガ団の象徴、黄色のGが書いてある。制服共通の胸から下に広がる白色は隠密の為にすべて黒色で統一してもらっている。

 

 背後にドータクンとポリゴンZを従え、倒れたリーグスタッフや警備員を踏みつけながら階段を歩いて下りた。久しぶりの蹂躙に心が躍る。ただ純粋な力で破壊し、屈服させるのはギンガ団に入ってから知った喜びだ。正々堂々バトルで相手と高め合うことも大好きだったが、力で有象無象を蹴散らすことも大好きだった。

 

 くるくると踊り、監視カメラに姿を映しながら夜の闇に消えていく。

 




すーぐ楽しくなって暴れます。
カメラに映らないように侵入しておきながら、見せつけるように踊って帰るのは書き間違いではありません。
ストレスにより衝動と欲求が強いです。力があるからこそ余計にですね。バトルで消化できていましたが、故郷を想えば想うほどストレスが溜まります。
制服はBW2のプラズマ団に近いですね。

評価・感想いつもありがとうございます。励みになります。
誤字報告ありがとうございます。何かを書くのはこれが初めてだったので、マイページをいじっていて発見しました。遅くなってごめんなさい。
やーーーーっとギンガ団らしい活動ができました。とはいえギンガ団が他の組織と違う点はTVCM普通にやってたり色々開発してたりと裏で手を回したり頭の部分だと思うんですが、彼女には…
次は開会式です。


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11-開会式、ジムチャレンジャーたち

 ワアアアアア、と歓声がやまないエンジンシティのスタジアム。いまルリミゾがジムリーダーたちと待機している控室まで震わせるほどの声量だ。用意されたモニターにはローズ委員長とオリーヴ秘書が映し出されている。

 

『レディース アンド ジェントルマン!わたくし、リーグ委員長のローズと申します!』

 

 この動画はガラル全土、いや世界へと配信されているからか、やや大層な文句から始まった。今日はジムチャレンジの開会式。ローズはジムチャレンジについて簡潔に説明している。8人のジムリーダーを倒したトレーナーのみが、チャンピオンの待つ「チャンピオンカップ」へと進むことができるのだという。ルリミゾは代理として他のジムリーダーと肩を並べて入場、紹介される予定だ。

 

 控室では様々なジムリーダーから声をかけられた。代理として慣れないジムリーダー業を務めるルリミゾを気遣う者、相談に乗るよと言ってくれる者、あるいは単純に代理でもジムリーダーと認めていると後押ししてくれる者。多くの人に尊敬されるトップトレーナー達は人格すら素晴らしく、まさにジムリーダーとしてジムチャレンジャー達を導くのにふさわしい。そうルリミゾは感動していた。声をかけられている間に考えていたことは戦いたいなという事だけだったが。

 

『それではジムリーダーのみなさん!姿をお見せください!』

 

 出番のようだ。行くぞ、と先頭を歩くキバナに続いて、左右に分かれながら入場していく。アンタが先頭歩くのは今年が最後ね、と不敵に笑いながら。

 

・・・

 

 歓声が一段と大きくなる。通路からフィールドに出たからでもあるが、スターであるジムリーダーの入場に観客がさらに興奮しているからだ。

 

「ファイティングファーマー!草タイプ使いのヤロー!」

 

 広い肩幅が軽く手を上げながら挨拶する。

 

「レイジングウェイブ!水ポケモンの使い手ルリナ!」

 

 優雅に歩く褐色の美女が投げキッスすれば、さらに野太い声が大きくなる。

 

「いつまでも燃える男!炎のベテランファイター カブ!」

 

 白髪交じりのグレー、渋い表情と共に肩から手首まで一直線に伸ばしてキリっと歩く。

 

「悲劇の代理!ノーマルトレーナー ルリミゾ!」

 

 自然体で歩き、軽く微笑みながら観客席に手を振る。ノーマルタイプのユニフォームは驚くほど特徴のない白いユニフォームなのであまり気に食わないが、それでも観客たちは大声援を送ってくれる。キルクスでジムトレーナーから聞いた話によれば、ノーマルタイプユニフォームのレプリカはなかなか売れているらしい。

 

 あたしの魅力ね、とドヤ顔すればノマはこの世の終わりみたいな表情をしていた。

 

・・・

 

「一人来ておりませんが…ガラル地方が誇るジムリーダーたちです!」

 

 あたしは代理だけど、と心の中で呟きながらも笑顔で横一列に並ぶ。面倒だ。来ていないネズが羨ましい。だがジムとキルクスの評判は落とせない。ジムチャレンジの紹介はまだまだ続く。

 

「ジムチャレンジャーたちは、この8つのジムリーダーの待つスタジアムへと旅をします!まず最初にターフタウンの...

 

 もしかして一から紹介するのか?と絶望した。

 

・・・

 

「・・・そして、ジムリーダーとチャンピオンがいる限り、ギンガ団を名乗る犯罪者にも負けはしません!」

 

 話が長い。今ギンガ団と聞こえた気がしたが気のせいだろう。慣れない微笑みを続けていたせいでそろそろ表情筋がプルプルしてきた。まずい。ローズの話はもはや意味を持った言葉として耳に入ってこなかったので、まだ終わらないのかと気を取り直して再び耳を傾ける。

 

「・・・ですから、ジムに訪れたジムチャレンジャーたちにはジムミッションが課されます!」

 

 どうやらまだ続きそうだった。限界を迎えた表情筋をほぐすため下を向く。むにむにと両手で顔全体をマッサージする。他のジムリーダーたちはまだ立っていて姿勢を崩さない。隣を見る。ポプラは今年で88歳のはずだ。ポプラの腰のためにもジムリーダーは帰らせるべきではないだろうか。

 

「へばってるのはあんただけだよ」

 

 小声で笑いながらそう言われた。

 うるさい!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 なんとか無事?開会式を終えた後、ユニフォームを着たまま軽く変装して受付近くでジムチャレンジャーを観察する。ジムリーダー格のトレーナーはサインや写真をねだられて人ごみができてしまうから、帽子を被り、メガネをかける。これでもうかなり知的だ。年齢的にもそう変わらないので、ジムチャレンジャーの一人に見えるだろう。

 

 なにか楽しそうに話しているダンデの弟と、おそらくその幼馴染?、それとスパイクタウンのジムトレーナーに歓声を送られながら歩くマリィ。化けそうなのはこのあたりだろうか。とくにダンデ弟の幼馴染は、シンオウのあの少年と同じ雰囲気がある。

 

「ってところね」

「そんなのわかるのか?漫画のキャラじゃあるまいし・・・」

「あたしにはわかるのよ」

 

 ノマと話しながら入口付近でチラチーノを抱いて撫でる。ぐふぐふ、ときのみを食べながら嬉しそうにしている。ジムチャレンジャーたちは開会式の熱気から解放され、思い思いに雑談をしたりポケモンと触れ合ったりしている。そろそろ邪魔になるだろうからキルクスに帰ろうか、とノマに話しかけようとした時だった。

 

 どいてください、と声がしたので身体を向ける。

 

「ぼくは委員長に推薦状をもらったいわばエリートオブエリートなんです。無駄な時間を使わせないでください」

 

 邪魔です、と付け加えられる。明るいグレーの髪をふぁさっと手で梳き、自信満々のピンクの少年がこちらを見ていた。クソ生意気で眉間に少し皺が寄るが、ここで暴れるほど愚かではない。溢れ出る知性で怒りを抑えて立っていると、さらに続けて

 

「だからはやくどいてください。チラチーノですか、凡人にふさわしい地味なポケモンですね。トレーナーもポケモンも凡庸ですけど、せいぜい頑張ってください」

 

「・・・」

 

「あ?」

 

 やめろ、たのむからやめろと横から声がする。これはわからせてやらねばなるまい。今日がこの少年のジムチャレンジ最終日だ。ちょっと表に出ましょうか、と口を開こうとした瞬間。

 

  ばしゃあ。

 

 突然飛んできた水がクソ生意気なピンクの少年に直撃した。

 

「あ~~~~~!ごめんなさい!ほらメッソンも謝って!」

「~~~~ッ!!」

 

 頭からつま先までずぶ濡れになってしまった少年。思わず笑いがこみ上げてきて、噴き出さないように下を向いて必死で我慢する。声の主はどうやらダンデ弟の幼馴染だ。

 

「ごめんなさい!濡れてませんか?この子がなにかに突然怯えて『みずでっぽう』を撃ってしまって…あ、私ユウリっていいます!ジムチャレンジャーです!」

 

 とっても臆病な子なんです。そう言いながら抱き上げたメッソンをこちらに向ける。メッソンはルリミゾと目を合わせるなり白目を向いて気絶した。失礼な。

 

 ユウリからはメッソンの顔が見えないのか、気絶したメッソンを抱えてそのまま話しかけてくる。

 

「お姉さんもジムチャレンジャーですか?」

「ま、まあそんなところよ」

 

 あたしのことよりメッソンとこの水浸しピンクを気にしなさいよ、と思いながら答える。実際年上でも一、二歳しか変わらないのだが、きっとこの知的なメガネのせいで大人びて見えたのだろう。

 

「おーいユウリ!誰と話してるんだ?」

「ホップ!」

 

 ユニフォームのレプリカの買い物でもしていたのか、袋を携えたダンデ弟がこちらに寄って来る。ホップという名前らしい。だんだんと人が増えてきた。あまり話し込んでまじまじと見られてしまえば、変装がバレてしまうかもしれない。そろそろ用事を思い出す必要があった。

 

「あ、あたし用事を思い出したから行かなきゃ!メッソンには気にしないでって伝えておいて!」

 

 むしろ大活躍だ、とノマは思いながらルリミゾの後を追う。これで未来あるジムチャレンジャー一人の尊い命が守られた。

 

「なんかどこかで見たことあるような人だったな~」

 

 後ろ姿を見送りながら、ホップはそう呟いた。手に提げている袋にはユウリに頼まれて購入したノーマルタイプユニフォームが入っているのだが、彼らが気付くことはなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ノマとルリミゾは電車に揺られながらナックルシティを目指す。ジムチャレンジ開会式の帰りだ。アーマーガアタクシーはどこからでも乗れるのが利点だが、その揺れと狭さは今日一日中外面モードでいたルリミゾには許容しがたいものがあった。

 

「電車で帰るわよ!」

 

 そう宣言されればノマに拒否権はないので、ノマも電車に乗っている。キルクスへの交通の便は悪いから、徒歩かアーマーガアタクシーしかない。エンジンシティからアーマーガアタクシーを使わなかったということは、今日はもうナックルシティに泊まるつもりらしい。

 

「あのピンクはどうなんだ?」

 

 直情的とはいえ、根に持つような暗い性格ではないのでメッソンの件で水に流したと判断して聞く。隣にはイエッサンが座っており、その表情は穏やかだ。ということはルリミゾも今は穏やかなのだろう。

 

「あいつはダメね。せいぜい4バッジあたりで限界が来るわ」

 

 良い師匠を見つけない限りね、と付け足しながらスマホロトムをいじっている。

 

「師匠がいれば伸びるのか?」

 

 ふ、今日は質問ばっかりね、と笑いながらスマホロトムを机に置きこちらを見つめるルリミゾ。しがみついていたチラチーノも頭と一緒に動いているのがなんだか面白い。

 

「ポケモンに好かれる才覚はあるわ。でもそれだけ。自分が人にどう見られているのかすこしも考えていないし、当然ポケモンにどう見られているかも考えていない。そんな状態でパートナーと心を通わせることなんてできないわ。見えているのは自分のことだけよ」

 

 やけに詳細な分析が返ってきた。

 

「それを理解させて導く師匠が必要なわけか」

 

 そゆこと、とだけ返事して再びスマホロトムを触り始めた。

 

 ナックルシティまではあと10分ほどだろうか。あの場所で夢と希望に満ち溢れていた3年前の自分は、ルリミゾの目にどう映るのだろう。「んー、まあまあね。7バッジあたりで躓いて腐るわ」なんて予言されるのだろうか。

 

 ふっと笑い、思い出しながら窓の外を眺めていた。

 

「何よ突然笑い出して。きもちわる」

 

 スマホロトムを見ていたんじゃなかったのか。少しは空気を読んでほしい。

 




10話使ってからの開会式です。
一流のトレーナーは見る目も一流ってやつですね。
ビートとルリミゾを関わらせつつ、まだ駆け出しのビートが殺されない展開はこれしかありませんでした。
マリィに話しかけなかったのはキルクスで戦うことになると確信していたからです。

評価・感想いつもありがとうございます。励みになります。
誤字報告いつも助かっています。
今回も読んでいただきありがとうございました。
アンケートの締め方がわからず、永遠に「後数話、下地作りをします」と表示されていました。今日締め切れたので安心です。投票ありがとうございました。というわけで開会式でした。
今までの話を見返してみると、字がつめっつめで息苦しくて読みにくいと自分でも感じました。なので改行や段落分けをしてみました。もしお暇でしたら感想いただけると幸いです。


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12-ターフタウン、邂逅

「あの人、生で見たらやっぱりカッコよかったな〜」

 

 はやく挑戦したいな、と笑う。そのためにはまず草・水・炎という前半3タイプのジムを攻略しなければならない。ターフタウン、バウタウン、エンジンシティは道路が円く通っていることから、よく前半の街と言われている。8つあるのに3つが前半、というのは3つめのジム、炎タイプのカブで躓くトレーナーが多いのが理由だ。

 

 ユウリは今、ガラル鉱山で絡んできたビートを倒したところだ。この道を抜ければターフタウンはもうすぐそこだと聞いている。

 

「でもまずは目の前のジムに集中しないとね!」

「めっそん!」

 

 メッソンが傷を負いながらも頷く。鉱山で働く人たちや野生のポケモンと連続でバトルした後に、同じジムチャレンジャーと戦うのはなかなかハードだった。

 

 はやくノーマルタイプのユニフォームに袖を通したい。開会式でホップに買ってきてもらったこのレプリカは、自分の番号をプリントしてもらっているのでジムチャレンジで使うことが出来る。ユウリはジムチャレンジに元々乗り気ではなかったが、半年前にテレビで見た試合でとあるトレーナーのファンになっていた。

 

「あたしは!もう後には退けない!」

 

 そう叫びながらカビゴンをキョダイマックスさせ、マクワと互角の勝負を繰り広げたトレーナー、ルリミゾだ。試合二日前に突然意識不明で運ばれたジムリーダーに代わり出場したその少女は、ユウリとほとんど変わらない年齢にもかかわらずメジャージムリーダーに勝利し、メジャー昇格を果たしていた。

 

 この人と同じ舞台で戦ってみたい。気付けば食い入るように画面を見つめていた。幸運なことに隣の家の幼馴染、ホップの兄であるダンデはユウリにジムチャレンジへの参加を望んでいた。身近すぎて憧れというよりは親近感のあるチャンピオンよりも、テレビで見たあの強い心の少女に憧れたことはホップには内緒だ。

 

「ホップとライバルになってくれ。競い合う相手がいれば、きみもホップもどんどん強くなる!」

 

 そう言われてしまえば断る理由はない。なにより言われずとも内側から燃え上がる熱情に突き動かされていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ターフタウンに到着したユウリは、ソニアと合流し地上絵についての意見を求められていた。

 

「黒い渦がガラル地方を覆い、巨大なポケモンが暴れ回った・・・」

 

 ブラックナイトって何なんだろうね、ソニアが地上絵を眺めながら伝承を語る。いつもの癖で垂らした髪をくるくる弄っている。

 

「地上絵にして残すくらいだから、きっと凄い厄災だったんだろうね」

「ダイマックスと関係があるのかな・・・」

 

 ふり絞って答えたが、考えモードに入ってしまっていて聞いていないようだ。しばらく考えたあと、ソニアはありがとね、と感謝してヤローのリーグカードをくれた。あまり歴史に興味はないが、ソニアの研究がうまくいくことを願うばかりだ。

 

 去っていくソニアを見送ってから辺りを見渡せば、イシヘンジンとヨクバリスの顔に穴が開いた記念撮影用パネルがある。しまった、一緒に撮ればよかった。と思ったがもうソニアの姿は見えなくなっていた。

 

・・・

 

「お姉ちゃん、知ってる?ターフタウンのどこかにお宝が埋まっているんだって!」

「ほんとに!?すごいね!!」

「石碑を調べたらいいんだって!」

 

 ソニアとの会話を近くで聞いていたのだろう。女の子が面白そうな話を聞かせてくれる。もしも歴史の解読に繋がりそうなものが見つかれば、ソニアの助けにもなる。売れそうなものだったら旅の資金にしてしまおうとも考えていた。

 

「ありがとう!ちょっと探してみる!」

「頑張ってね~!」

 

・・・

 

「ダメだ、全然見つかんない・・・」

 

 女の子と別れて小一時間、何も発見できなかった。目的はジムチャレンジなので探索はほどほどにして宿で休む。明日、ヤローの待つターフスタジアムを訪れるつもりだ。まだ夕方だが、休憩がてらベッドで横に・・・

 

・・・

 

「はっ」

 

 完全に眠ってしまっていたようだ。深夜に目を覚ました。気分転換にメッソンを連れて散歩に行く。ターフタウンは治安も良いし、このジムチャレンジの時期に悪い人はいないだろうと判断した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「どこかに強いトレーナー落ちてないかしら」

 

 はあ、と溜息をつく。熱いバトルも襲撃も最後にしてからしばらく経っている。ルリミゾは溜まっていた。

 

 スマホロトムで眺めるニュースではダンデがまたキバナとエキシビションマッチを行うという。試合は明後日、シュートシティで行われるらしい。ダンデのライバルを自称するキバナは何かと試合の機会を与えられている。ズルい。何度負けても諦めない姿勢だけは見習いたいものだ。

 

「そうだ、今ならチャンピオンがいないじゃない!」

 

 エキシビションとはいえ無敗記録をさらに伸ばすためにチャンピオンは調整に入った。治安維持のために深夜に駆り出されることはないだろう。どこかの管理されている遺跡や石碑を狙いに行こうと決めた。

 

 ジムチャレンジ期間、ジムリーダーの業務はとても忙しい。メジャージムリーグの試合とジムチャレンジャーへの試練の両方をこなさなければならない。まだジムチャレンジャーは旅立ったばかりなので来ないだろうが、明後日はメジャージムリーグでポプラとの試合だ。前半の3ジムのリーダーは、ジムチャレンジ開始直後でとても忙しいため今月の試合はほとんどない。その代わりに後半のジムリーダー同士が当たるカードが多いのだ。

 

「ジムリーダー代理になったのに、こんなに忙しいとあんまり意味がないわね…」

 

 考えることをやめて着替える。ターフタウンには石碑や地上絵があるらしいので見に行きたいと思っていたが、連日ジムトレーナーたちとの特訓の予定が入っていた。明日はステーキハウス「おいしんボブ」で記者からの取材を受ける。それは楽しみなので別に構わないのだが、キルクスに拘束されてしまう。

 

「クロバット、行くわよ!」

 

 行き先はターフタウン。ジムチャレンジャーも早ければ到着しているだろうが、慣れない旅で今はぐっすり眠っているだろう。

 

・・・

 

 スタッと降り立つのはターフタウンの町のはずれにある丘だ。観光地だが今は静寂に包まれている。夜で地上絵が見えないのにわざわざ訪れる人はいない。イシヘンジンとヨクバリスの顔に穴が開いた写真撮影用パネルを見て、次は観光で来ようと思う。

 

「少し離れて飛んでいて」

 

 指示を出し、近くを警戒させる。ドータクンやポリゴンZは出していない。今日調べたい石碑は住宅の横だったり、街の真ん中にあるので人と鉢合わせて即座に「ギンガ団だ!」と騒がれるのも面倒だ。服装もジャージにマスクと帽子で、不審者とも言えなくもない程度の変装にしている。積極的に一般人を巻き込みたいわけではない。

 

「まずここね」

 

 「飛行」「毒」と向かい合った石碑に文字が書いてある。あまり厄災と関係はなさそうだ。少し離れたところには「水」と書いてある石碑があった。噂通りなら宝が埋まっているらしいが、破壊して探すのは全て回ってからでもいいだろう。

 

「草、悪、と」

 

 花屋の近くに「草」、ジムの前に「悪」があった。位置関係をメモしておこうとペンを取り出す。その時だった。

 

「石碑の謎解きですか?」

「え、えぇ。気になって眠れなくて」

 

 声をかけられた。相手の姿は暗くてよく見えないが、咄嗟の返答で誤魔化し会話を繋げる。これから石碑を破壊するかもしれないのに、絡まれると面倒だ。やれ、と即座に視線でクロバットに指示を送る。

 

「うわ!びっくりした!」

 

 避けられた。クロバットが失敗するなんてありえない。体調は万全のはずだ。後ろからクロバットが迫ったため人影はこちらに駆けてくる。

 

「何かいます!気を付けてください!」

「ッ!?」

 

 近付いて明らかになったのは声の主がユウリということ。こちらの心配をしながら走ってくる。性格の優しさがこの状況でも発揮されているようだ。横にメッソンを連れているが、完全に怯えてしまって使い物になっていない。とすれば静かに近付くクロバットに気付いて避けたのはユウリだけの力だということになる。才覚と反射神経に驚きながらも、ポリゴンZとドータクンを繰り出しクロバットと挟む形を作る。

 

「あの奇襲を回避したのはアンタが初めてよ」

「ポリゴンZにドータクンって・・・ギンガ団のロベリア!?」

 

 よく知ってるじゃない、と笑いながら対峙する。

 

 ユウリにとってはジムチャレンジが始まっていきなりの、あまりにも過酷な試練だった。

 

 




深夜だしジムチャレンジャー寝てるでしょ vs 深夜でも悪人なんて歩いてないでしょ
邂逅です。(将来)強いトレーナーが落ちててよかったですね。

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今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。


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13-忘れられない日

 

「石碑と地上絵に関して知ってることを吐きなさい」

 

 ロベリアと並んで歩く。怯えて動けないメッソンと自分の命を守るためにも、ユウリはすぐに降伏した。後ろにポリゴンZが付いて来ている。逃げようとすればすぐに撃たれてしまうだろう。人間相手にポケモンの技を撃って宝物庫を襲撃するような組織だ。大声で助けを呼ぶこともできなかった。

 

「私も宝は見つけられませんでした。でも、ヒントは『最初は草、強いから弱いを二回追え』だと聞いています」

「地上絵については?」

「わ、わかりません。でも『ブラックナイト』って呼ばれる厄災が昔にあって、黒い渦がガラルを覆い、巨大なポケモンが暴れまわったと…ダイマックスに関係あるんじゃないかって…」

 

 へぇ、良い情報持ってるじゃない、と褒められて安堵する。痛めつけられることはなさそうだ。と思ったとき。

 

「それは誰から聞いたの?」

 

「地上絵について、一般にそんな情報は流れていないわ」

 

 しまった。ソニアが狙われる。

 

「じっ、自分で、考え、ました…」

 

 がしっ、と後ろから、肩を組むようにしてユウリの首に腕が回される。すこし冷たい指がユウリの動脈に触れる。抑えられて、ドクン、ドクン、と跳ねるのが自分でも感じられる。長身の彼女の方へ、ぐいっと引き寄せられて耳元で囁かれた。

 

「嘘はあたしに通用しないわ。今、どういう状況かもう一度考えるチャンスをあげる」

 

 次はないわよ、と告げられ血の気がまた引く。少しでも騙せると思った自分が甘かった。

 

「はやく。アンタの命はあたしの手のひらの上よ」

 

「……………ソニアという、マグノリア博士の孫から聞きました…」

 

 涙が出る。命惜しさに友人を売ってしまった。無力な自分が、何より憎い。

 

「ダイマックス研究者のマグノリア博士とその孫のソニアね」

「はい…」

「あはは!思いがけない収穫だわ!」

 

 よく言ったわね、と首に回されていた手が下から頬を撫でる。こんな状況なのに心が揺れる。慌てて気を取り直す。が、もう抵抗の意思もへし折られてしまっていた。

 

・・・

 

 炎、と書かれた石碑の前で足が止まった。解放されるのかな、と期待してしまう。

 

「これが炎の石碑ね。ヒントでわかったわ。この下に宝があるはずよ!」

 (いい匂いがする…)

 

 ジャージ姿のロベリアが動くたび、お風呂上がりのいい香りがする。まさかお風呂上がりにターフタウンを襲撃しているのだろうか。緊張で大きくなった呼吸で余計にそれが知覚される。ドクン、ドクン、と高鳴る心臓の鼓動は恐怖によるものだと思いたかった。

 

 ユウリから手を離して、石碑の下に歩いていくロベリア。ユウリの背後には変わらずポリゴンZが待機しており、ロベリアがこちらを振り向いて言う。

 

「わかってると思うけど、逃げようとすれば…」

 

 コクコクと必死に頷く。どうして離れた瞬間に寂しさを覚えたのかはわからなかったが、はやく無事に解放されたいと一切の抵抗を諦めて待つばかりだ。

 

「あった!これね!」

 

 ロベリアが手に持っているのは武道で見るような黒い帯、それと掌大ほどの白い宝石だ。

 

「『たつじんのおび』と『ノーマルジュエル』ね。ブラックナイトに関連するものではないけど、ハズレよりはマシね」

「あげるわ、次はもっと強くなってあたしを楽しませて」

 

 そう言ってユウリに投げ渡されたのは『たつじんのおび』、効果抜群の技の威力を高めてくれるアイテムだ。

 

「あたしは使わないし、ジムチャレンジャーへのプレゼントよ」

 

 誰がお前なんかに貰うか!と普段なら捨てていたのに。

 

 ユウリは下を向いて『たつじんのおび』を見つめていた。夜風が顔を撫でる。火照っているのを自覚してますます自己嫌悪に陥る。

 

「警備員やリーグスタッフなら殺してたかもね」

 

 将来有望だし見逃してあげる、と続けながらクロバットに掴まるロベリア。

 

「どうすれば」

 

 声を上げてから、我に返る。犯罪者に何を聞いているんだと。ロベリアは振り返り、続く句を待っていた。

 

「強く、なれますか」

 

 自分を止められなかった。自分を脅し、友人を売らせ、殺してたかもしれないとすら言った女に質問していた。早く解放してくれ、とあんなに思っていたのに。

 

「あはは!あたしにそれを聞くの?」

 

 馬鹿にされるんだと思った。

 

「この日を胸に刻みなさい。悔しさを、無力さを糧にするの」

 

 いつまでも、いつまでもよ。と返ってきたのは真摯な言葉。それから周囲を見渡して、誰もいないことを確認してから、ロベリアはすこし白んだ夜に消えていった。

 

「助かった…」

 

 その場にへたり込む。メッソンは隣で気絶していた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ギンガ団幹部、ロベリアことルリミゾは上機嫌だ。厄災、ブラックナイトについての情報が得られたし、ノーマルジュエルも手に入った。そして何よりも、素晴らしく才能のあるトレーナーが開花するキッカケになったかもしれないのだ。

 

「泣かれたら情が移っていけないわね」

 

 覚悟を決めて戦っているトレーナー、警備、スタッフはともかく、まだまだ旅の始まり、成長途中のジムチャレンジャーを叩き潰すことは楽しくない。友人を守るために一度嘘をつき、脅されて泣きながら話すような優しい少女はいずれ伸びるだろう。

 

「あの表情…ふふ」

 

 動脈を抑えた時の顔、殺してたかもね、と言った時の顔。どれも嗜虐心を刺激する。全く殺すつもりはなかったし、情報を聞き出せればそれで満足だったが、面白いものが見れた。彼女がキルクスジムに来るのが楽しみだ。もしかしたらまた会うかもしれないな、と運命めいたものすら感じていた。

 

「何度でも捩じ伏せてあげる」

 

 未来で戦うことを夢想する。きっと強敵になるだろう。それこそ何度も自分たちの邪魔をしたあの少年のように。

 

 翌日、寝不足でノマに負けそうになったのは秘密だ。

 




もし出会ったのがビートだったら石碑が一つ増えています。

評価・感想いつもありがとうございます。
誤字報告助かります。自分で見返しても気付かなかった誤字を指摘されると、読んでくれているんだと実感してなんだか嬉しいですね。もちろん誤字は減らすべきなんですが。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。


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14-翌日、それから

 翌日、ユウリは委員会から聞き取りを受けていた。

 

「君は脅されて、マグノリア博士とその孫のソニアさんの情報を言わされたんだね?」

「はい。地上絵と石碑について調べているようでした」

「ナックルシティの宝物庫も盗まれたものはなかった。タペストリーに記された厄災の伝説を調べていたようだったが、3000年前の厄災を何故今調べているんだ…」

 

 御伽噺だろう、と言うリーグスタッフ。ガラルを滅ぼしかねないほどの厄災は御免だが、語り伝えられるほどの英雄が架空の存在というのはなんだか寂しかった。

 

「ありがとう、このことはローズ委員長にも伝えておくよ。怖かっただろう。部屋でゆっくりお休み」

 

 そう気遣われたが、ジムチャレンジに行きたかったので別れてからターフスタジアムに向かう。ソニアから心配するメッセージが来ていたが、心配なのはこちらも同じだ。ソニアこそ気をつけてね、と返信してスマホロトムをポケットにしまった。

 

「ジムチャレンジ頑張れよ!お嬢ちゃん!」

「ありがとうございます!」

「期待してるからな〜!」

 

 町は昨日の出来事など知らないように穏やかだ。委員会はジムチャレンジャーが襲われたという事件を隠したいらしく、お詫びに「でかいきんのたま」を二つ貰った。換金しろということらしい。それでもきちんとマグノリア博士の研究所には警備の人員が派遣されると聞いた。町の夜間の警備にはジムトレーナーも駆り出されるらしく、彼らが過労で倒れないか心配だ。委員会はことが大きくなる前に捕まえるつもりだと、スタッフは零していた。

 

「ガーディ、気にしなくていいんだよ?」

「クゥーン」

 

 昨日、ボールから飛び出せなかったガーディはそのことをひどく気に病んでいるようだ。いくら言っても落ち込んだまま、尻尾も垂れ下がっている。絶対に敵わない相手に飛び出すことは勇敢ではなく蛮勇だ。

 

 ユウリは昨日、降伏するときにガーディのボールをロックしていた。その判断がガーディの自尊心を傷つけることも理解していたが、相手は犯罪者、下手に逆らえば何をされるかわからない。

 

「じゃあ、今から行くジムで活躍してみせて!そうすれば自分を許せるでしょ?」

「ガウ!!」

 

 嬉しそうに吠える。初めてのジムに少し緊張するユウリだったが、昨日の出来事により吹っ切れていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ジムで休憩中、リーグ委員会からスマホロトムにメッセージが届いた。ピロン、という通知が鳴ったので開けば、先にメッセージを読んだらしいノマが話しかけてきた。

 

「ジムチャレンジャーがギンガ団に襲われたらしいぞ」

「何目当てよ、強盗?」

「石碑と地上絵について聞かれたらしい。石碑の謎解きをしようと夜中に出歩いてたら出会ったんだとさ」

 

 危機感のかけらもないわね、と言いながらメッセージに目を通す。

 

 ターフタウンにてギンガ団幹部、ロベリアを名乗る女にジムチャレンジャーが襲われ、マグノリア博士とその孫ソニアについての情報を聞き出された。石碑と地上絵についての情報を得ようとしていたこと、ナックルシティの宝物庫を襲撃したことと合わせると、ブラックナイトやそれを退けた英雄の剣と盾について調べていると思われる。

 

「まあ、当然そうなるわね」

 

 続きを読む。

 

 各街に存在する歴史的な遺産や資料の警護に力を入れてほしい。要点をまとめればそういうことらしい。キルクスには歴史を語る温泉があるが、襲われることはないだろう。何故なら当の襲撃犯は温泉を毎日見ているから。

 

「ウチのジムもジムトレーナーを見回りに出さないといけないのかしら。面倒ね」

 

 アンタ行きなさいよ、とノマに雑に振る。

 

「ジムリーダー様が立ってりゃ誰も襲わないだろ、お前が行けよ」

「嫌よ、面倒臭い」

「俺だってそうだ」

 

 当然警察も動いているが、ガラル全土に人員を割くわけにはいかない。ナックルシティやエンジンシティの見回りを強化しているらしい。キルクスには誰も来ない。田舎町の悪いところだ。

 

「温泉の壁画なんて誰でも見れるし来ないでしょ〜」

「じゃあ何もしないのか?」

「盗る物もないのに襲われるわけないわ。あと襲われそうなところといえば8番道路ぐらいじゃないかしら。遺跡みたいだし。でもあっちはナックルシティの警察が見てるらしいから私たちの出番はないわ」

「もし来られたら知らねえぞ、責任問われるんじゃねえのか」

 

 (毎日飽きるほど見てるから襲わないわよ…)

 

 ひらひらと手を振る。

 

「じゃ、そろそろインタビュー受けてくるわ。鍵閉めとかよろしくね」

「ああ」

 

 足取りは軽やかにジムを後にする。

 

・・・

 

 相変わらずキルクスは今日も雪が積もっている。はー、と息を吐けば白くなって消えていく。待ち合わせにはまだ早いが、遅刻して悪印象を与え、変なことを書かれるよりはマシだ。

 

「うぅ〜、寒いわね」

 

 寒さに慣れているとはいえ平気なわけではない。どんな立場でも何を書かれるかわからない以上、丁寧に接さなければいけない。「もし挑発的な質問されても抑えろよ!」とノマに念押しされていたが、寛容なルリミゾはそんなことでは怒らない。

 

「余計な心配ね」

 

 呟いた時、相手の記者らしき人が来た。

 

・・・

 

 ノマの心配と裏腹に、完璧にインタビューを終えたルリミゾはステーキも食べてご機嫌だった。そういえば「おいしんボブ」にはカレーも置いてあるが、そんな逆張り注文をする輩がいればジムリーダー代理として粛清しなければならないだろう。

 

 帰り道、ユキハミを蹴らないように歩く。ダルマッカがぴょんぴょん跳ねて雪に跡を残している。家に置いてきたポリゴンZは家具を壊していないだろうか。

 

「あえてナックルシティに行って警察と委員会のメンツを潰すのも面白いわね」

 

 そうすれば更に警備が厳しくなり、本命のエネルギープラントに手が出しにくくなってしまうと考えてすぐに取り下げる。

 

「箝口令が敷かれるなんてよっぽど信用を落としたくないのね」

 

 それもそうか、と笑う。ジムチャレンジャーが襲われたとなればジムチャレンジ開催にも懸念の声が上がるだろうし、リタイアする者も現れるだろう。偶々目撃されたから襲っただけなのに、と思いながら次の狙いを考える。

 

「キルクス近くだと集合かけられて不在がバレるし8番道路はダメね」

 

 思考の熱で湯気が出る。こういうのはサターンやアカギが指示していたので苦手だ。残りでまだ訪れていないのは…

 

「ラテラルタウンの遺跡にしましょう!」

 

 決まりだ。ターフタウンではジムチャレンジャーと遭遇したので、まだジムチャレンジャーが到着していない街を狙う。バトルをある種神聖視している彼女にとっても、ジムチャレンジの開催が危ぶまれることは避けたかった。

 




2話続けてバトルや野外戦闘を書けていないので私も溜まっています。
今日中にジムチャレンジかラテラルタウン襲撃の話を投稿します。
でかいきんのたまぐらいで口封じをするのは現実だとちょっと、というか大問題ですね。
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15-ラテラル遺跡襲撃

『ラテラルタウン 古代の芸術を中心に栄えてきた山間の町』

 

 深夜、剣と盾らしきものと花?の素晴らしいセンスの絵の前でギンガ団の制服を着たルリミゾは呆然としていた。

 

「へったくそな絵ね・・・剣と盾が描かれてる以外なんにもわからないし、無駄足だったかしら」

 

 ただスマホロトムで調べた通りの壁画がある。周囲には文字もそれらしき遺跡もない。なんだかイライラしてきた。リスクを負ってわざわざ来たのにへったくそな絵を見せられただけ。スマホロトムで見た町の紹介ではガラルの歴史に触れられるとの話だったのだが。キルクスの温泉の方がまだ歴史に触れられる。

 

「はかいこうせん」

 

 壊してしまおう。ポリゴンZに指示を出せば、光を集めて絵を破壊せんと照準を定める。

 

 誰も止める者はいない。ルリミゾの周りには警備員とリーグスタッフが五、六人倒れている。警備を強化しようと有象無象では相手にならない。この程度の人員で捕まえられると思われていること自体も不愉快だ。

 

・・・

 

 五分ほど前、ラテラルタウンに到着したルリミゾは遺跡を調べるプランを練っていた。遺跡はちょうどジムから一本道になっている。建物の陰から様子を覗けば、例の如く警備員とリーグスタッフたちが点々と配置されている。なぎ倒しながら遺跡に向かうのはなんだかゲームのようで楽しそうだと思い、正面から走る。

 

「好きなように暴れなさい!」

 

 手持ちの三匹を開放し、ルリミゾ自身も蹴りを叩き込んで通路を開けていく。

 

「ロベリアだ!俺たちの手に余る!サイトウさんを呼べ!」

 

 サイトウが来ても面白そうだな、と思いながらも遺跡を調べることが最優先だ。素早く意識を奪う。

 

 五分もすれば、立っているのはルリミゾだけになった。余韻に浸りながら遺跡を見れば、きったない壁画があるだけ。だから腹いせに壊す。それが今の状況だった。

 

・・・

 

光をチャージしきったポリゴンZがこちらを見る。やれ、と声を出そうとした瞬間。

 

「ッ!」

 

 背後から蹴りが飛んできた。咄嗟に左腕を立ててブロックし、返しに右拳を突き出す。しかし体の外側へ向けて払われ、バランスを崩しそうになるがそのままの勢いで回転して肘打ち。攻撃の主は一歩退いて衝撃を和らげた。

 

「お相手いたす!これ以上あなたの好きにはさせません!」

「いいじゃない!最ッ高だわ!」

 

 ラテラルタウンジムリーダー、サイトウだ。

 

 右拳、左下突き、そのまま後ろ回し蹴り。熟練した技が風を切りながら迫る。上半身を反って蹴りを避け、着地を狙いローキックを放つ。ドム、と入ったものの体勢を崩さない。

 

「な!?」

「その程度では倒れません!」

「ぐぅッ!」

 

 正拳突きがモロに入る。制服でなければ危なかった。よろけるも少し距離を取り、ポケモンを含めた戦闘へとシフトする。さすがはガラル空手の申し子。近接戦闘ではやはり分が悪いらしい。認めたくはないがルリミゾは冷静に判断する。後ろに控えているドータクンに指示を出す。

 

「ラスターカノン!」

「カイリキー!」

 

 割り込んできたカイリキーが鋼の弾丸を腕ではじく。かなり鍛えられているな、と久しぶりの強敵に心が躍る。伝説に関する情報は何も得られなかったものの、この相手なら満足いくまで戦えそうだ。嬉しくて、嬉しくて笑いがこみ上げる。

 

「あはは!」

「何がおかしいのですか」

「楽しくってしょうがないのよ!収穫はなかったけど…」

 

 良い遊び相手が来たからね!と続けて「ラスターカノン」を撃つ。が、ローブシンを出し、守りを固めるサイトウ。ローブシンは手にコンクリートを持っておらず、機動力を重視しているらしい。こちらがトレーナーを狙いうるというのは想定済みで、野外での乱戦にしっかり備えているようだ。ますます気持ちが昂る。

 

「ばくれつパンチ!」

 

 カイリキーがその四腕を存分に活かした連撃を放つ。ドータクンに「リフレクター」を指示して盾にする。ノーガードで戦いたがるカイリキーは双方に回避しない戦いを強制する。本能的なところで惹きつけられて殴り合ってしまうのだ。あまりのパンチの衝撃にドータクンは混乱してしまったが、防げたなら十分だ。ポリゴンZに反撃の指示を出す。

 

「サイコキネシス!」

「ガァア!」

 

 頭をおさえふらつくカイリキー。あと一押しで沈むだろう。追撃の指示を、

 

「ルチャー!」

「なっ!?」

 

 突然の衝撃に地面を転がる。何者かに抑えつけられて動けない。

 

「ルチャブル!よくやりました」

 

 ルチャブルだ。ルリミゾの背後から「フライングプレス」で急襲してきたらしい。拘束は固く、自力で抜け出すのは不可能だ。

 

「クソッ、ドータクン!」

 

 動け、と願いながら呼ぶ。思いは通じて、混乱の中でもちゃんと動いてくれたようだ。こちらに鋼の弾丸が飛来する。

 

 ボッ、という音の直後。

 

 ルチャブルにヒットした「ラスターカノン」はルリミゾを巻き込み炸裂。一人と一匹が吹き飛ぶ。ルチャブルは動かなくなり、地面をバウンドしたルリミゾはよろよろと立ち上がる。

 

「拘束が甘いわね」

 

 咳き込みながら強がる。全身がビリビリと痛む。いつもやっていた奇襲をまさか再現されるとは思わなかった。全く気付けなかった自分に勘の鈍りを感じる。長らく身を焦がすような戦闘の中に身を置いていなくて忘れていた。

 

「まさか自分を巻き込んで技を撃つなんて・・・」

「絶対に捕まれないの。のうのうと故郷で暮らしてるアンタたちと違ってね」

 

 何を、とサイトウが言うよりも早く、クロバットが襲い掛かる。練習通りに反応したローブシンが迎撃態勢に入るが、「れいとうパンチ」はクロバットを捉えられない。予想よりも速い動きに戸惑うローブシンだったが、サイトウは状況を把握してすぐに指示を飛ばす。

 

「マッハパンチ!」

 

 切り替え、より速度の出る技で撃墜を狙う。その直後にバシィ!と小気味良い音が響き、クロバットが落ちる。これで二対二。

 

「対策は万全ってわけね」

 

 とはいえまだまだ余裕がある。カイリキーは一撃さえ入れられればすぐ倒せるだろうし、ローブシンは特殊攻撃に対して弱いはずだ。この距離と体力の差をどう縮めるのか。何を仕掛けてくるのかワクワクしながらサイトウと目を合わせた。

 

「なぜこんなことをするのですか。ギンガ団の目的は何なのですか」

 

 

 

「・・・は?」

 

 期待外れの言葉に思わず固まる。指示はどうした。自分を倒して捕まえるのではなかったのか。シミュレーション通りに一匹落としたことで気が緩んだのか。

 

「目の前に犯罪者がいるでしょ・・・今にも壁画を壊そうとしていた犯罪者が・・・!」

「止めるために全力でかかってきなさいよ・・・!」

「何上から目線で戦いの最中に質問してるのよ・・・!」

 

 この戦いを楽しんでいたのは自分だけだったのか、と裏切られた気分だ。技の応酬、互いの誇りを賭けた戦い、命の奪い合い。それが今ではないのか。呑気に質疑応答する時間などではないはずだ。

 

 血沸き肉躍る戦いができると、そう思っていたルリミゾの心が急速に冷える。

 

 そして、すぐさま怒りに変わり沸騰する。

 

「黙って戦ってりゃよかったのに!」

 

 ムカつくなああああああ!とロベリアが叫べばドータクンとポリゴンZが光る。

 

「カイリキー!ローブシン!」

 

 サイトウの下へ戻り守るように立つ二匹。だが関係ない。

 

「消えろ!!はかいこうせん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 倒れたクロバットを「げんきのかけら」で回復させ、痛む身体に鞭打って「そらをとぶ」でキルクスへと帰る。ガラルの西にあるラテラルタウンからなら、どの方角に飛んでも足がつくことはないだろう。

 

「ありがとうクロバット。今日は大変だったわね」

「待て!まだ私は、」

 

 振り返ればあまりの圧にサイトウは言葉を失う。傍らにはローブシンとカイリキーが倒れている。

 

「逆に聞いてあげる。這いつくばって今何をしているの?何が目的?」

「・・・っ!」

 

 クロバットの後ろ羽を掴む。強打した胸と腕が痛い。ジムトレーナー達に隠すのは骨が折れそうだ。もうすでに折れているかもしれないが。

 

・・・

 

「もしも他の応援が到着していたら危なかったわ」

 

 空でひとりごちる。「はかいこうせん」はあまりの威力に撃った後しばらく反動で動けなくなる技だ。もし他のトレーナーが隠れていたりすれば今頃ルリミゾは捕まっていただろう。二匹に耐えられていても同じだ。怒りに身を任せた判断だった。

 

「反省ね」

 

 すべてのトレーナーが狂気に身を委ねて戦ってくれるわけではない。優れた人格者であるジムリーダーがスタジアムの外で、初めて対峙する悪人の相手に集中できるはずがない。特にサイトウはまだ若く、野外戦闘の経験もほとんどないだろう。

 

「こんなに全身痛めたのに手ぶらかあ・・・」

 

 それにしても、今回は何の収穫もなかった。残っている何かありそうな場所は8番道路と、南のド田舎にあるまどろみの森ぐらいだろう。ジムチャレンジを中止させないためにも、しばらく伝説について裏で動くのはやめよう、と考える。表で「ギンガ団の襲撃場所を調べたいんです!」という言い訳もできた。とんでもないマッチポンプだ。

 

 ガラルの夜はまだ明けない。

 




vsサイトウです。初めての野外戦闘、少し有利に運べたせいでサイトウの気が緩んでしまい、ルリミゾが勝手にキレます。ルリミゾ視点なのでサイトウが悪いことしたみたいに見えますが、ジムリーダーとしてまっとうな対応です。むしろ野蛮人のルリミゾの頭がおかしいだけです。

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16-ジムチャレンジ①

 ターフスタジアムの中心、歓声とスポットライトが集まるなか、ユウリはヤローと向き合っていた。これからジムチャレンジの最後、ジムリーダーとの直接対決が始まるのだ。

 

「きみが襲われてしまったのは僕の責任です」

 

 すまない、とヤローは言う。続けて、

 

「何かあればすぐ駆け付けられると思っとりました」

 

 後悔を全面に、下を向いて振り絞るように話す。

 

「いえいえ、そんな。私は無事でしたし」

「何かあってからでは遅いのです」

「は、はい」

 

 広い肩幅で圧があるヤローが力を込めて発言すれば、ユウリは少しおびえる。

 

「僕は未熟者を叩き潰すのが怖かった。心を折るのが嫌だったんです。でも、危険が迫っている以上、やらなきゃいかんのです」

「これから先、旅を続けられるかどうか、僕が確かめます」

「僕が守れなかったのに勝手な話ですが、自分の身を守れないなら旅をやめた方がいいこともあるんです」

 

 どうやら難易度が上がったのかもしれない。冷や汗をかきながらユウリはボールを構えた。

 

 にこやかに微笑んだヤローがサイドスローでボールを投げる。

 

ジムリーダーの ヤローが

勝負を しかけてきた! ▼

 

「ガーディ!君の力を見せて!」

「ヒメンカ!」

 

 腰に帯を巻いたガーディが吠える。威嚇だ。ヒメンカは攻撃に力が入らなくなった。

 

「ほのおのキバ!」

「まもる!」

 

 ガーディが炎を口にヒメンカに噛みつくが、上手く守られたようだ。

 

「『たつじんのおび』ですか。ええ選択ですね」

 

 褒められた。少し嬉しい。が、気を取り直してすぐに指示を出す。狙いは弱点を突いて大ダメージだ。

 

「かえんぐるま!」

「やどりぎのタネ!」

 

 火を纏い回転しながら迫るガーディにヒメンカは慌てることなく冷静に種を植え付ける。吹き飛ぶヒメンカだが、まだ立ち上がる。ガーディはまだ無傷だ。どうやらダメージはないらしいが、まだバトルを勉強中のユウリは「なんだっけこの技?」と必死に記憶を探る。

 

「あ!じわじわダメージを与えて回復する技だ!」

「そうです。ようわかりましたね」

 

 「かえんぐるま」にぶつかってもヒメンカはなんとか耐えている。「たつじんのおび」で普段以上にダメージを食らったが、ヤローのために耐えたのだ。今日は大事なチャレンジャーだとヤローから聞いていた。自分が壁となってこの子を試さねばならない、と理解していたのだ。

 

「がんばれヒメンカ!『こうごうせい』!」

「ほのおのキバ!」

 

 ヒメンカが全身をスタジアムの上、太陽に向けて広げる。ところどころ焼けていた傷が癒えていく。「やどりぎのタネ」も相まって回復のスピードはかなり早い。回復しきられる前にトドメを刺そうと走るガーディ。

 

「いっけえええ!」

 

 ボゥ、とひときわ激しく炎がはじけ、ヒメンカは倒れた。これであと一匹。最初のジムなのでヤローの手持ちは二匹だけだ。盛り上がり所をわかっている観客の声がどんどん大きくなる。とはいえまだ見守るような暖かい声援だ。

 

「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」

 

「ウオオオ!僕たちは粘る!農業は粘り腰なんじゃ!」

 

 ワタシラガを繰り出すヤロー。完全に試すというより熱が入っている。

 

「ワタシラガァ!ダイマックスだ!根こそぎ刈り取ってやる!」

 

 ヤローがワタシラガをボールに戻し、ダイマックスバンドから力を注ぐ。あまり違和感のない大きなボールとの絵面にユウリは少し笑いそうになる。

 

「このまま押し切ろう!ガーディ、いけるね?」

「ガウ!」

 

 ガーディもボールに戻し、ダイマックスバンドのスイッチを押す。音声認証のやり方を後で聞いておこう、と思った。ジムリーダーたちが叫びながらダイマックスしているのがカッコいい。

 

 ボールが大きくなり、両手でなんとか投げる。

 

「「ダイマックス!」」

 

ズ・・・ズ・・・ズン!と空気が震え、着地で地面が揺れる。

 

「オオオオオオ!」

 

 普段は可愛らしい二匹も、大きな鳴き声でスタジアムを揺らす。それに応えるように観客の声も一層大きくなる。

 

「いっけええ!ダイバーン!!」

 

「アオオオオオオオオン!」

 

 大きくなったガーディが吠える。炎がパチパチとはじけて輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんというジムチャレンジャーじゃ!」

 

 汗を拭きながら嬉しそうにヤローが言う。フィールドの中心へ歩み寄り、少し話をする。

 

「ジムチャレンジにおいて、ジムリーダーに勝った証として「草バッジ」をお渡しするんだわ!」

「ありがとうございます!」

 

 ガシッと握手をして、ニッコリと笑い合う。

 

「君ならだいじょーぶだ!もっと強くなって、いつかアイツを返り討ちにできる!」

「ほんとですか!?がんばります!」

 

・・・

 

「やったねガーディ!」

「ガゥ!」

 

 尻尾を振り回し、全身で喜びを表現するガーディ。立ち直ったようだ。と、横を見ればいつの間にかボールから飛び出したメッソンがこちらを見ている。

 

「・・・」

 

「も〜〜〜可愛いな〜!!よしよし!!」

「めっそん!」

 

 メッソンもわしゃわしゃしてやる。ガーディはそれに嫉妬することなく、穏やかに見ている。どうやら二人の中は悪くないらしい。こんなに小さくて可愛い二匹ですら、仲を気にして、食べ物を用意して、平等に接しないといけない。五、六匹連れているジムリーダーやチャンピオンはパーティをどうまとめているのだろう。

 

「ルリミゾさんはカビゴンを連れているけど…」

 

 食費はリーグ委員会から出ているのだろうか。あの可愛いチラチーノは手がかからなさそうだな、などと想像する。バイウールーやイエッサンは大人しそうだし、ウォーグルは戦い方からして利口だ。

 

「カビゴンの食費ぐらいかな?」

 

 ソニアとポケモン研究所から支援を受けているとはいえ、カビゴンのように大食いなポケモンは避けようと思うユウリだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 一方その頃、キルクスジムでは。

 

「ぬわああああああ!!離れなさい!!」

 

 もごもごと、顔面にチラチーノを貼り付けたまま暴れるルリミゾ。さらさらしたチラチーノは掴みにくく、巧みにルリミゾの手を躱し抱きついている。

 

「どんな悲鳴だよ…」

「見てないで剥がしなさいよ!!」

 

 わかったから暴れるな、と近付いてチラチーノを後ろから捕まえるノマ。

 

「最近ますますやんちゃだな」

「アンタをボコボコにしてからずっとこの調子よ」

 

 そうかい、と適当に返す。ポケモンに懐かれる分には鬱陶しくないのか、チラチーノを叱るわけでもなくニコニコしている。不気味だ。

 

「何よ」

「なんだその笑顔」

「懐かれたら誰だって嬉しいわよ」

 

 気まぐれな野蛮人だと思っていただけに、驚いた。いつもこんな感じならいいのに。

 

「今なんか失礼なこと思われた気がする」

「き、気のせいだろ」

 

 やはり野蛮人だ。

 

「誰だって色んな面があるわ。戦いを好むのも、ポケモンを愛でるのも、ファンと会って喜ぶのも、短気なのも、全部含めてあたし。完全な善人、完全な悪人なんていないのと同じよ」

 

 妙に説得力のある言葉に、何も返せずただ黙ってキュウコンを撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 




最初のジムなのでめちゃくちゃ短いですね。久し振りのちゃんとしたバトルです。

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次回はメジャージムリーグです。少し時間が開くかもしれません。


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17-vsポプラ メジャージムリーグ①

「さぁて、まずは初戦、あのババアを軽く捻るわよ!」

「ぐふ!」

 

 ポプラに対して敬意がないわけではなく、強敵として認めたゆえの軽口。控え室でポケモンたちと触れ合い、名前が呼ばれるのを待つ。

 

「ルリミゾさん、お時間です!」

「今行きます」

 

 ラテラルタウンで負った傷が痛む。体調は万全ではないが、それは歳を重ねた相手とて同じ。ポケモンたちをボールに戻し、通路からスタジアムのフィールドに向かう。今日はアラベスクタウンでの試合。腰の曲がったポプラを気遣ってルリミゾがアウェイに出向くかたちだ。

 

「相変わらず凄い歓声ですね…」

 

 本性を隠し、ジムリーダーらしく振る舞う。通路から一歩、また一歩とフィールドに近付くたび、歓声が大きくなる。一位を獲るためには一敗もできない。少し身体が硬くなるが、ただ故郷へ帰ることを想って力をもらう。

 

ワァァアアアアア

 

「代理だからって手加減はしないよ」

「年配だからと手加減はしませんよ」

「なかなか言うじゃないか。口だけじゃなく振る舞いで見せな」

 

 少し本性が漏れ出てしまったようだ。どちらからともなく後ろへ向いて距離を取る。気持ちを切り替え、最初に出すポケモンを選ぶ。ポプラは老いて歩幅が小さく、ゆっくりなためそれに合わせてルリミゾもゆっくり歩く。

 

「それじゃ、よろしく頼むよ」

「よろしくお願いします!」

 

 閉じた傘を地面につきたて、両手を持ち手の上に置いた。少し手首でリズムを取ってから、下から軽くハイパーボールを投げるポプラ。

 

ジムリーダーの ポプラが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 

「あたしぐらいの歳になれば、若者みたいな投げ方はできないね」

「気にすることないと思いますよっ!」

 

 猫を被り答えながらモンスターボールを投げる。今更だが構わない。

 

「バイウールー!」

 

 光と共にもふもふが降り立つ。今までの試合の傾向からして、おそらく最初に繰り出すのはクチートやマタドガスだろう。ポプラの繰り出したポケモンは・・・

 

「トゲキッス!?」

「あんたの試合、見させてもらったよ」

「ウォーグルを出されちゃ厄介だからねえ、クチートは温存さ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「これはどういう対面なのでしょうか?解説のカキタさん、お願いします」

「えー、ルリミゾ選手を研究したポプラ選手が読み勝ったという感じですね。バイウールーは物理で攻撃するポケモンで相手をすると非常に面倒ですから、上手くトゲキッスを当てた形になっています」

「どうしてバイウールーが面倒なのですか?」

「彼らにはもふもふの毛がありますよね。それがクッションとなって、バイウールーに直接攻撃でダメージを与えるのは至難の業です。ですから、特殊攻撃や遠距離からの物理攻撃で沈める必要があるんです」

 

 ここは実況席。ガラル全土に放送されるメジャージムリーグはとんでもない視聴率を誇る。普段バトルをしないトレーナーや、駆け出しのトレーナーにもわかりやすく状況を実況・解説するのが彼らの役目だ。実況のミタラシ、解説のカキタというコンビは特に人気のキャスター。そんな二人が担当するほど、新しく昇格したルリミゾの戦いは注目を浴びていた。

 

・・・

 

 バイウールーに風の刃が迫る。トゲキッスの十八番「エアスラッシュ」だ。当たったポケモンは風で動きを封じられることがあり、うまくいけば不利なマッチアップすら完封して勝利することができる凶悪な技として知られている。

 

「ワイルドボルト!」

 

 電気を纏い、バイウールーがトゲキッス目掛けて駆ける。ルリミゾ達に打開策がない訳ではなかった。トゲキッスは電気に弱く、攻撃を当てることさえできれば大ダメージを与えられる。

 

 問題は「エアスラッシュ」がトゲキッスの十八番と言われる理由だ。

 

「突っ張った!」

「ルリミゾ選手、交代せず『ワイルドボルト』で反撃に出た!風の刃が迫るなかバイウールーは走ります!」

 

 カキタが驚き声を上げる。状況を精細に伝えるミタラシ。

 

 ゴウ!とバイウールーにまず一発ヒットし、続けて飛来した残りの刃が入り乱れバイウールーや地面を叩く。

 

「衝撃で煙が上がっています!バイウールーどうだ!?動けているでしょうか!?」

 

 「エアスラッシュ」が着弾し、土煙を上げるスタジアム。しかしいくら待てど雷を纏ったバイウールーは飛び出さない。

 

「おぉーっと!?バイウールー動けません!ひるんでいます!エアスラッシュがハマりました!」

「これですねー。トゲキッスの『エアスラッシュ』の凶悪さは」

「と、いいますと?」

「トゲキッスは技の扱いが非常に器用なポケモンです。技でダメージを与えるだけでなく、火傷や麻痺、ひるみ、そういった追加での影響を起こしやすい、天からの恵みを受けたようなポケモンなんです」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(クソッ。運だけはいいわねあのババア…)

「もう一回、今度こそ『ワイルドボルト』!

 

 あと二発ほどなら受けられるだろうが、大きな不利に変わりはない。バイウールーを切り捨てる筋も考えねばならないだろう。こればかりはトレーナーとポケモンの問題ではない。トゲキッスを相手にした多くのトレーナーはただ上手くハマらないことを祈るばかりだ。

 

「メエェ!!」

 

 見た目にそぐわずバチバチと光り、音を立てるバイウールー。

 

「もう一度だよ。わからせてやりな」

「フゥゥゥゥン!」

 

 当然、ポプラは同じように「エアスラッシュ」を指示する。交代しようが、突っ張ろうが「エアスラッシュ」の当たる限りポプラが有利だ。

 

 が、相手はルリミゾ。戦闘に関して天賦の才がある。

 

「見えた!右に二発、上から一発、遅れて左から二発!」

「な!?」

「メェエエエ!」

 

 バイウールーは叫びながら見事にステップして全ての風の刃を回避、トゲキッスへと突撃する。

 

「当たった!よくやったわ!」

 

 バチン!と空中で輝き着地するバイウールー。反動で少しダメージを受けたが、トゲキッスは体のあちこちを焦がしフラついている。

 

「どうやって見切ったんだい?まさか土煙の揺らぎかい?」

「ええ。一発目が大きく巻き上げてくれましたから」

 

 驚異的なトレーナーとしての才覚。常人は考えもしないことをルリミゾはやってのけた。ポケモンの目、頭脳としてのトレーナーの極致だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「と、とんでもないことをしたルリミゾ選手!今の見ましたかカキタさん!彼女指示して全部避けましたよ!」

「とんでもないですね・・・土煙に生じた僅かな揺れで、風の刃を全て見切ったようです」

「これはわからなくなってきたんじゃないですか?」

「そうですねぇ、ポプラ選手は『エアスラッシュ』を撃ちにくいですよこれは」

 

 次の一手が分岐点です、と解説するカキタ。彼はポケモントレーナーとしては3バッジ止まりだが、必死に努力して知識を付けこの席に座っている。今では彼の右に出る解説はいないほどだ。

 

「やってくれるじゃないか」

 

 ポプラが笑う。これで状況はイーブンに戻った。今度はバイウールー自ら土煙を巻き上げ、ルリミゾが指示を出しやすいような状況を作り出し「エアスラッシュ」を牽制する。トレーナーとの信頼、連携からきた行動だ。

 

「ちまちま戦うのはやめにするよ。『だいもんじ』!」

 

 トゲキッスが羽を大きく広げ、等身大の炎を放つ。

 

「ポプラ選手、勝負に出ました!『だいもんじ』でバイウールーを仕留めにかかります!」

「『エアスラッシュ』はもう通じないとルリミゾ選手をリスペクトしての判断ですねー。老いても衰えませんね」

 

「ギガインパクト!」

 

 それは「ワイルドボルト」よりもさらに威力を求めた指示。絶対に一撃で仕留めるという判断。

 

「対するルリミゾ選手、反動を覚悟で『ギガインパクト』!真っ向からぶつかり合います!」

「もちろん『だいもんじ』は彼女ほどのトレーナーならば予想できていたでしょうから、『あついしぼう』のカビゴンで受けながら交代する選択肢もありました。それでもバイウールーで戦ったのは信頼と場の流れでしょう」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あなたなら耐えらえる!」

 

 これまでの特訓、そして試合、何より培った信頼関係から火中へと飛び込む指示をする。あえて自分から火に飛び込もうとする生物はいない。ましてや他人の指示でだ。

 

「メエェエエエエエ!」

 

 それでも信じて突っ込んでくれる。「だいもんじ」が迫り、ルリミゾも焼かれるような気持ちでバイウールーを見つめていた。その熱量は呼吸するたびに喉を、鼻をカラカラにする。張り付くような乾燥が気持ち悪い。視界の向こうが熱でゆらぐ。

 

「バイウールー!」

「トゲキッス!」

 

ドゴォ!とおよそ生物同士がぶつかったとは思えない音を立てて空気が震えた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「バイウールー、トゲキッス共に倒れています!戦闘不能!戦闘不能です!まさかの引き分けだあ~!」

 

 声が響く。ミタラシは一匹目からハードだな、と思いながら試合の熱狂を伝えるべく言葉を紡ぐ。

 

「一匹目から壮絶な殴り合いです!これは今何が起きたのでしょうか、カキタさん」

「先ほど説明した通り、バイウールーはもふもふです。それゆえ炎にはとても弱く、草ポケモンでもないのに大ダメージを受けてしまいます。ですから『エアスラッシュ』で受けたダメージ分と『ワイルドボルト』で食らった反動と合わせて耐えられなかったんですねー。ただトゲキッスが圧倒的な有利な状況でよく1-1交換にまで持ち込みましたよルリミゾ選手」

 

 「ギガインパクト」の指示が効いていました。とカキタは続ける。どうやら興奮して熱が入ったようだ。

 

「はじめから、バイウールーは自分が相打ちになってでもトゲキッスを落としきり、試合を有利に運ぶと覚悟を決めていたようです。まさにトレーナー、チームのための献身。一流の試合でしか見れないプレーですよ今のは」

 

 長年の経験から、ここで止めるように隣のカキタの肩を抑えて伝えるミタラシ。このままだとカキタが一人で話すだけになってしまう。視聴者を意識してリードする。

 

「トゲキッスが落ちるとどうなるのでしょうか?そこまでして落とす必要があったんですか?」

「ええ。これでルリミゾ選手がかなり有利になりましたよ。何せ彼女にはトゲキッスによって出せなかった・・・」

 

「カビゴンが控えていますから」

 




ポプラ戦前半、というか1/3くらいですね。
書いていて楽しくてかなり筆が乗りました。

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18-vsポプラ メジャージムリーグ②

「カビゴン!」

「クチート」

 

 カキタの予言通り、大きな音を立てながら着地するカビゴン。対するクチートは後ろ顎を使って威嚇している。少しだけカビゴンが怯えるも、指示に従い攻撃に出る。

 

「カビゴン、ここで地面を激しく揺らします!『じしん』です!しかしクチート、大きく飛び上がった!」

「動きの遅いカビゴンの弱点ですねー。有利な技を持っていても、先に動いて当てるのが難しい。相手の攻撃を待ってからでないと」

 

 空中で攻撃の姿勢を取るクチートにポプラが指示を飛ばす。対策は万全。この試合は引退の見えてきたポプラにとって残り少ない試合のひとつだ。目の前の相手がおそらく上位に相当するであろうことも見抜いていた。

 

「グロウパンチ!」

 

 故に、ゼンリョク。

 

「決まりましたが・・・ダメージをあまり受けていませんカビゴン!少し拍子抜けといったところでしょうか」

「いや、これで合っています。『グロウパンチ』は威力こそ低いですが、同時に攻撃力を高める技です。今の一回でクチートの力がかなり高まりましたよ」

「では一発で倒すのではなく時間をかけてでも確実に倒すと?」

「そのようですね。しかしカビゴンには体力を回復するきのみがあります。どう立ち回るのか、気になりますね」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「悩みどころね・・・」

 

 カビゴンの攻撃力は下げられ、クチートの攻撃力は上がった。それでもまだ種族の差が埋まるわけではないが、常に先手を取られるぶんルリミゾが不利だ。クチートの使う「アイアンヘッド」は「エアスラッシュ」のように食らった相手をひるませることがある。もちろんトゲキッスには及ばないが、先に攻撃され続けると面倒なのは確かだ。

 

「まあいいわ、『あくび』!」

 

 指示したのは攻撃技ではなく相手を眠りに誘う技。これならば先に動いても避けられることはない。欠伸をうつされたポケモンは眠気を誘われ、いずれ眠ってしまう。即座に何かを起こす、ということはできないものの、眠ってしまったポケモンは叩きたい放題。交代するか、眠るかを強いらせるいやらしい技だ。

 

「絡め手とはやるじゃないか」

 

 既にクチートは走り出している。欠伸をしながらも勢いは衰えず、攻撃を叩き込まんと距離を詰めた。後ろ顎を振り乱し、硬質化させて叩きつける。

 

「アイアンヘッド」

 

 ドム、という音とともにダメージでカビゴンが仰け反る。効いている、とポプラは思った。あと二発ほどでカビゴンを沈められるだろうが、きのみが厄介だ。とはいえまずは「あくび」への対処が必要だ。

 

「交代だよ。マタドガス」

 

 繰り出されると同時、足元に霧が立ち込める。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「これは・・・!」

「クチートをマタドガスと交代しましたポプラ選手!ピンクの霧が立ち込めます!」

「この個体は普段ポプラ選手が使っている個体と違います!『ミストメイカー』のマタドガスだ!」

 

 興奮するカキタ。視聴者がついていけるようフォローするミタラシ。

 

「どう違うのでしょうか?何かこの試合で違いが役に立つのですか?」

「普段であれば、『ふゆう』しているマタドガスを使っているのですが、今回は特殊な個体です。あのマタドガスが出す霧の中では、麻痺、火傷、眠り、毒といった一切の状態異常にポケモンがならなくなるんです」

「ではカビゴンの『あくび』が実質無意味に・・・!ここでも奇策を用意していたポプラ選手!」

 

 しかもですよ、とカキタは続ける。

 

「もしマタドガスがカビゴンに勝てなくても、もう一度クチートを繰り出せば、また威嚇されてカビゴンはもうほとんど攻撃に力が入らなくなるでしょう。そうなればクチートは『つるぎのまい』をします。誰にも止められませんよ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「く・・・」

 

 してやられたな、とルリミゾは思う。ジムリーグでは登録した手持ちが公開される。ポプラの手持ちの顔ぶれに変化はなかったため、今までと変わらず、同じ個体だと思わされていた。魔術師に引っ掛けられた。

 

(マタドガスを簡単に倒せるのはイエッサンね。だけど後出しじゃ柔らかいイエッサンはすぐやられちゃう。でもカビゴンの攻撃をこれ以上下げられるわけにはいかない。クチートへの交代を牽制しつつマタドガスと戦えるのは・・・)

 

「ウォーグル!」

 

 カビゴンを交代し、「まけんき」のウォーグルを繰り出す。ここで撃ってきたのが「ヘドロウェーブ」や「マジカルシャイン」だとしても耐え、反撃に出られるだろう。そう考えながら繰り出したウォーグルを目で追えば、やけに辺りが暗くなっていることに気付いた。

 

 不意に暗くなったフィールドを疑問に思い、空を見上げれば黒雲が立ち込めている。

 

 

 バリバリバリ!

 

 

 鼓膜を劈く轟音が聞こえた後、黒焦げになったウォーグルが落ちてきた。

 

「想定済みさ」

 

 雷が落ちた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「なんだその読みはぁぁあ!?ウォーグル戦闘不能!一撃です!一撃で落とされました!」

「まるで未来が見えていたかのような『かみなり』でしたね・・・しかも命中させた。今期のポプラ選手、とんでもないですね」

「後継者が見つかればいつでも引退すると公言していたポプラ選手ですが、後継者が見つかったのでしょうか。あるいは見つかる確信があるのでしょうか」

「どちらにせよ凄まじい気迫です。今年88歳とは思えないプレイングですね」

 

 ジムリーダー歴70年。その重みは伊達ではない。ミタラシ、カキタが生まれる前から。ルリミゾが生まれる前から彼女はジムリーダーなのだ。

 

「ルリミゾ選手、下を向いたまま動きません!次のポケモンを出すのに30秒以上かかってしまうと反則が取られますよ!」

「彼女にとって初めてのジムリーグ戦、それでこんな絶技を見せられれば・・・彼女が受けた衝撃は相当ですよ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そんな・・・」

 

 ルリミゾは、

 

「なんて素晴らしい!こんなに心が躍るバトル久しぶりよ!」

 

 歓喜していた。「これがジムリーダーの実力か」と。四天王、あるいはチャンピオンにまで迫らんとする読み、戦術だ。前シーズンでポプラの順位が六位だったのが信じられない。

 

「ますます楽しくなってきたわ!もっともっと戦いましょう!カビゴン!」

 

 再び着地する巨体。あのマタドガスに「じしん」が当たるかはわからないが「ヘビーボンバー」が抜群に効くだろうと直感していた。

 

「ヘビーボンバー!」

 

 カビゴンが飛び上がった瞬間、マタドガスが引っ込み再びクチートが現れる。クチートの「いかく」を最大限活かした戦法だ。同時にマタドガスの苦手な「ヘビーボンバー」をクチートが代わりに受けるという意味もある。

 

「関係ないわ!押し潰しなさい!」

 

 威嚇されながらもクチートの何倍もある体躯が真上から押し潰す。が、あまりダメージは通らない。肉を押しのけるように下から這い出てくるクチート。まだピンピンしている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ルリミゾ選手、立ち直りカビゴンを繰り出しました!対するポプラ選手は交代、またしてもカビゴン対クチートの構図です!」

「最初と違うのは、もうカビゴンが『あくび』を撃てない点、そしてルリミゾ選手のウォーグルが何もすることなく落とされたという点です」

「これで手持ちの数は三対四、ポプラ選手がリードしていますね」

「ただ気になるのは、ルリミゾ選手がいつもダイマックスさせていたカビゴンを早めに繰り出し、ここまで消耗していることです。他のポケモンでダイマックスを狙っているにしても、残りはチラチーノとイエッサン。あまりダイマックスが効果的ではありません。ウォーグルでダイマックスする予定だったのが崩されてしまったのでしょうか?それともカビゴンをこのまま使うのか・・・」

 

 その持ち前の考察力でルリミゾのプランを推測するカキタ。彼の思考を追うような解説はこのキャスターコンビの人気の理由の一つだ。

 

「ただ、ポプラ選手サイドもカビゴンの突破はまだまだ難しいです。クチートで攻撃力を下げたものの、カビゴンの耐久力はフェアリータイプではなかなか突破しにくいですし、『ヘビーボンバー』や『じしん』が突き刺さっています。どう突破するのかが見どころですね」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「さあ、下準備はできたよ。出ておいで」

 

 また交代。今度こそクチートとの殴り合いが始まると踏んでいたルリミゾは意表を突かれた。

 

「ヒヒィイイン!」

「ギャロップ!そういうことね!」

 

 指示していたのは「じしん」。揺れがギャロップに襲い掛かるが、ほとんど効いていない。ガラル地方のギャロップはピンク色でフェアリー/エスパータイプだ。例にもれず弱点は鋼タイプなのでカビゴンが「ヘビーボンバー」を二回ほど当てれば沈むだろう。普通の攻撃技で殴り合えばカビゴンが絶対に勝つ。

 

「さあ、戦おうじゃないか」

 

 ルリミゾを挑発するようにしわくちゃの顔を歪めて笑うポプラ。まるで魔女だ。

 

「乗りませんよ!」

 

 が、狙いが完全に読めた。ルリミゾはカビゴンを戻し、イエッサンを繰り出す。左右にステップしながら、パカラ、パカラと小気味いい音を立てて迫るギャロップ。角をカビゴンのいた場所に向け輝かせている。

 

「つのドリル」

 

 空振り。

 

「読まれてたかい」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「まさかの『つのドリル』だぁああ!が、外しました!一撃必殺ならず!イエッサンが降り立ちます!」

「なるほど!これが狙いか!」

「カキタさん、解説をお願いします」

「今までクチートを交互に繰り出して丁寧に、丁寧にカビゴンの攻撃力を下げたり、ウォーグルを引き出したりしていましたよね。それはカビゴンとギャロップの対面を作りたかったからだったんです」

「というのはなぜ?」

 

 ミタラシもそれなりに長く実況を務めているため、今の状況を見ただけでも当然理解できる。しかしそれを説明するためにわからないふりをして解説に振るのも仕事だ。目くばせをし、互いの役割を果たす。

 

「今見た通り、『つのドリル』です。当たれば一撃でどんなポケモンでも戦闘不能にする大技ですが、リーグの統計では1/3ほどしか当てられないと出ています。カビゴンの『ヘビーボンバー』と殴り合いつつ、ギャロップが『つのドリル』を当てられるまで耐えるためには、クチートの『いかく』でカビゴンの攻撃を下げる必要があったんですね」

「しかしルリミゾ選手はイエッサンと交代しましたよ、ルリミゾ選手はそれを読んでいたと?」

「信じられない予測判断ですが、仰る通りだと思います。ポプラ選手、『ミストメイカー』のマタドガスに続いて、あのギャロップが『つのドリル』を公式戦で使ったのは初めてですよ。ルリミゾ選手、ギャロップが『つのドリル』を覚えることをよく知識として知っていましたね。そしてそれを使ってくると今までのポプラ選手のプレイングから推理した。これはとんでもない試合ですよ。」

 

 今期のリーグは荒れるかもしれません、と締めくくりフィールドに目をやる。満面の笑みのルリミゾと苦々しい顔をしたポプラ。中堅や下位になるだろうと予想されていた二人だったが、どうやらその予想は外れそうだ。

 




vsポプラ、2/3です。やっぱり3話くらいになりそうです。もしかしたら4話になるかもしれませんね。

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19-vsポプラ メジャージムリーグ③

 対峙するイエッサンとギャロップ。三対四と数的有利こそ渡したものの、ポプラの詰めの「つのドリル」をすかしたことで形勢はルリミゾ有利に戻っている。高火力低耐久のイエッサンを無傷で着地させられたことは、ルリミゾに大きなアドバンテージをもたらした。

 

「両者睨み合っています!」

「イエッサンには『シャドーボール』があります。当たり所が悪ければギャロップは一撃で落ちますよ」

「ポプラ選手が不利に変わったと仰っていましたが、ポプラ選手はここからどう動くべきなんでしょうか?」

「ここでギャロップを落とされてしまえば、カビゴンの突破手段がなくなってしまいます。ですから、残る選択肢はひとつ。交代して――」

 

 マホイップを繰り出すことです。

 

 そうカキタが言い終わった瞬間、フィールドが揺れ、巨大な影がふたつ、降り立った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「腹を括ったかい?ちょいと楽しませてもらうよ」

 

 マホイップに交代すると同時、即座にボールに戻しダイマックスバンドから力を注ぐポプラ。両手で持ち、下からひょいと投げる。やはり他のジムリーダーのように全力投球はできないらしい。

 

「あたしは十分に楽しんでます!もっともっと見せてください!!」

 

 ただただ、玩具をねだる子供のように。戦闘への欲求は留まることを知らない。驚異的な冴えでマホイップへの交代を読み切り、イエッサンからカビゴンに交代。ダイマックスバンドから力を注ぐ。

 

「マホイップ!」

「カビゴン!」

 

「「キョダイマックス!!」」

 

 ゴウ!と風が吹き荒れる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「両者ともにダイマックスだぁあ!示し合わせたかのように交代してからのダイマックスです!」

「ポプラ選手がマホイップに交代するであろうことは先ほど示唆しましたが、まさかダイマックスまで読んでダイマックスを切るのは予想外ですよ!」

「ということは、ルリミゾ選手が上回ったのでしょうか?」

「ええ。カビゴンの『ヘビーボンバー』はダイマックスしたポケモン相手に効果がありません。しかし、ダイマックスして『ダイスチル』に変化すればダイマックスしてても大ダメージです」

 

 カキタが話している間に水を飲むミタラシ。二人とも実況席にいながら、立ち上がってキャスティングしている。試合の熱量をそのまま伝えるために辿り着いたスタイルだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「キョダイダンエン!」

「ダイスチル!」

 

 マホイップがクリームをまき散らし、カビゴンも微量ながらダメージを食らう。反撃の「ダイスチル」もマホイップを傷付けるが、揺らぐことなくその大きなケーキの頂上に座している。

 

「回復してる・・・あの技の効果ね」

 

 まき散らしたクリームがマホイップに戻り、マホイップの傷が癒えていく。カビゴンも負けじときのみを食べるが状況は膠着している。どちらも有効打がない。

 

「もう一度、『キョダイダンエン』だよ」

「キョダイサイセイ!」

 

 きのみを再生させるため「キョダイサイセイ」を指示する。そこそこのダメージがマホイップに入るが、変わらず「キョダイダンエン」で回復しつつこちらにダメージを与えてくる。ルリミゾがダイマックスをあまり好きになれない理由の一つだ。ダイマックスしたポケモン同士の殴り合いは、大迫力で死闘になることもあるが、カビゴンの性質上、耐久型のポケモンとダイマックス対決になった時に駆け引きが消滅するのだ。

 

「キョダイダンエン」

「ダイアース!」

 

 マホイップの攻撃に対して強くするため「ダイアース」で特殊防御を高める。また「キョダイダンエン」だ。三連続で同じ技。とはいえこれがポプラにできる最善手だとルリミゾも理解していたので苛立つことなく次の一手を考える。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何も状況は変わらず!双方ダイマックスを使いましたが振り出しに戻りました!」

「お互いに回復と防御力があったのでこうなってしまいましたねー。たいていの場合は巨大化したポケモンが殴り合って大迫力になるんですが、両方耐久型のポケモンの場合は地味なものになってしまいます。」

「お互いダイマックスが解除されましたが、どうなるんでしょうか」

「マホイップもカビゴンも消耗はしていますから、カビゴンより先に動けるマホイップにポプラ選手がどんな指示を出すかですね。隙を見せれば『ヘビーボンバー』が待っています。」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここまで対策したからねえ、サクっと勝たせてもらうつもりだったんだけど。一筋縄じゃあいかないね」

 

 そう言うと、またしてもマホイップをボールに戻しクチートを繰り出した。徹底的にカビゴンに当て続けるつもりだ。既にカビゴンは飛び上がっている。

 

「あたしに同じ手法は通じませんよ」

 

 散々やられたことだ。もう完全にポプラの傾向は把握した。

 

「じしん!」

「なに!?」

 

 驚きで傘を取り落とすポプラ。飛び上がっていたのは「ヘビーボンバー」をするためではなく「じしん」を直接当てるため。

 

 ズン!とフィールド全体を揺らす衝撃でポプラが地面に膝をつく。

 

「クチート戦闘不能!」

 

 見上げた先にはクチートを踏みつぶしたカビゴンがこちらを見て勝ち誇っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「決まったあああああ!カビゴンの『じしん』でクチートが倒れました!これでカウントは三対三!」

「ルリミゾ選手はもうこの試合のポプラ選手の傾向を読み切ったようですね。恐ろしい才能です」

 

 カキタはそう解説しながら、ルリミゾの勝利を予想していた。

 

「おそらくここでギャロップが出てきますから、注目すべきはカビゴンを交代するかどうかですね」

「というのは?」

「カビゴンを残すことを気にするあまり、交代したポケモンが『つのドリル』に被弾して倒されてしまえば、少し雲行きは怪しくなります。『つのドリル』を撃つ回数が増えれば増えるほど、ポプラ選手が有利になりますからね。カビゴンが倒されるのを覚悟したうえで突っ張るのか、それとも外すことを願いながら交代するのかということです」

「それはいわゆる――」

「心の戦いですね。少しでも気持ちのブレた方が負けます」

 

 ふたりのキャスターは両者とも、今までの経験から、この試合が単に1/3の確率で決まるとは思っていなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ギャロップ。やってやろうじゃないか」

 

 傘を支えにして立ち上がったポプラ。投げたボールから現れたのはやはりギャロップ。

 

「つのドリル」

「ヘビーボンバー!」

 

 散々繰り返したヘビーボンバー。カビゴンの気力は衰えることなく、再び高く飛び上がる。ルリミゾは一切カビゴンを交代する気がなかった。ここで退いてしまえば、なにか気持ちで負けてしまうような気がしたし、不思議とポプラが「つのドリル」を当てるような確信があった。

 

ボ、という音とともに巨体がギャロップと衝突した。衝撃で風が起こり、腕で顔を隠す。

 

 煙が晴れ、その姿が明瞭に見えるが、いつまで経ってもカビゴンは起き上がらない。

 

「カビゴン戦闘不能!」

 

 ワァアアアアアアア!という観客の歓声が初めてルリミゾの耳に入った。はぁー、とため息を一つ吐き、興奮しきっていた頭を冷やす。巨体の下からギャロップがボロボロになりながらも這い出てくる。

 

 勝った。

 

 強がりでも妄想でもなんでもなく、ルリミゾはこの瞬間に勝利を確信した。カビゴンの「ヘビーボンバー」がギャロップにダメージを与えたことを確認した瞬間に。空を飛ぶ厄介なトゲキッスが倒れ、「いかく」でこちらの攻撃力を下げてくるクチートも倒れた。物理攻撃に対してかなり硬いギャロップもカビゴンを倒すためにかなりの痛手を負った。ポプラのエースのマホイップは体力を半分近く削られ、ダイマックスも使い切った。

 

「ぐふー!」

 

 チラチーノを止められるポケモンはもう誰もいない。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何が・・・起こったのでしょうか。カキタさん、解説を、お願いします」

 

 絞り出すように発された声は、それなりにポケモンバトルを観戦してきたミタラシの理解が追い付いていないことを示していた。

 

「チラチーノが、ポプラ選手の残っていた三匹を連続で倒しました。しかも無傷で。・・・ありえないことです。ジムリーダー同士のバトルで、しかもメジャージムリーグですよ?」

 

 カキタの声も震えていた。当然ルリミゾの勝利は予想していた。ただそれはカビゴンが生き残った場合の話。カビゴンを守るために他のポケモンに「つのドリル」を受けさせ、チラチーノかイエッサンが倒されたとしてもギャロップを突破し、カビゴンと残った一匹でポプラの手持ちを倒し切ると予測していた。

 

「確かに残りの三匹は全て体力を削られていました。彼女のチラチーノは別格に強いです。が、技すら出させることなく全て一撃で葬り、一気に試合を終わらせるほどとは思いませんでした・・・」

「どうしてここまで綺麗にチラチーノにポプラ選手はやられてしまったのでしょうか?」

「ダイマックスを使わされたのが大きいです。ギャロップの『つのドリル』をすかしてイエッサンを繰り出し、マホイップとの交代を余儀なくされたシーン。あそこでルリミゾ選手がダイマックスを切ったのは読みではなく誘いだったんですね」

「誘い、ですか」

 

 視聴者のための質問ではなく、ただ目の前で起きた出来事を知ろうとする者の相槌だった。

 

「はい。ポプラ選手がダイマックスを切ろうが、切るまいが、カビゴンのダイマックスに対抗するためにはポプラ選手もダイマックスを切るしかありませんから」

「なるほど、だから示し合わせたようにお互い同時にダイマックスしていたんですね」

「ダイマックスしたポケモンを相手取るにはチラチーノは少し火力不足なところがあります。ダイマックスしてもチラチーノは打たれ弱いままですしね。だからチラチーノが止められないよう、状況をコントロールしていたんです。」

 

 ギャロップが『つのドリル』を撃ってくることを推理した瞬間から。そうカキタが締めくくったのを確認してから、ミタラシは気を取り直し試合の結果を繰り返し伝える。

 

「ノーマルジム、ルリミゾ選手 対 フェアリージム、ポプラ選手は2-0でルリミゾ選手の勝利です!」

 

 ガラル地方恒例の、最後の一匹で観客が歌う応援歌が流れる隙もなく、ただ一瞬で三匹が倒されて試合は終結した。これがルリミゾの快進撃の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




vsポプラ これにて決着です。
トゲキッスがバイウールーにやられるという想定外の事故のせいで、カビゴンがギャロップ以外に突破不可能になりました。もしトゲキッスが生きていればエアスラや波動弾でかなり楽に突破できていました。クチートを狙った地震もすかせましたしね。
カビゴンを突破するためにリソースを割きすぎて、チラチーノを止められなくなってしまいました。ギャロップが万全なら。クチートの威嚇があれば。また結果は変わっていたのかもしれません。

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20-バウタウンでお食事

 

『バウタウン 市場やレストランに多くの人が集まる港町』

 

「潮風の匂いね!海鮮料理食べるわよ~!」

 

 明後日のルリナとのリーグ戦にそなえて、ルリミゾはバウタウンに来ていた。町の雰囲気、気温にポケモンたちを慣れさせるという目的もあったが、何より観光目当てである。ルリナの試合はジムチャレンジ序盤であることも合わさって、今月はほとんど組まれていない。組まれた試合はルリミゾやサイトウなど若手の下位組だ。

 

「わかっていてもムカつくわね」

 

 多くのジムチャレンジャーを捌くのはとても大変なので、リーグ委員会のこの試合組みには何一つ異論のないルリミゾだが、形式上でも下位相当と判断されて試合を組まれているのが何より気に食わない。リーグ委員会に一泡吹かせてやる、と意気込んでいた。

 

「ノマに聞いた話じゃ『防波堤』ってレストランが美味しいらしいけど・・・」

 

 時間はもう夕飯時。朝からジムトレーナーたちと手合わせしたルリミゾは、終わった後そのままアーマーガアタクシーでバウタウンを訪れていた。疲れている時に揺られるのは好かないが、美味しい料理が待っているのなら話は別だ。

 

 バウタウンは港町で、駅もあるため、市場やレストランも多くなかなかに発展している。明日は市場を見に行こうと決めているので、目当てのレストラン「防波堤」を探して歩くルリミゾ。ポケモンセンターの近くらしいのでそう遠くはないはずだが・・・

 

「委員長~!」

「どいてくれ!よく見えねえ!」

「一緒にいるのはジムチャレンジャーか!?」

 

 ・・・なんだか人だかりができている。看板には「シーフードレストラン 防波堤」という文字とともにシェフの顔が描かれているので間違いないだろう。有名人の貸し切りだろうと、絶対にここで食べると決めていたルリミゾはチラチーノを出し武力行使の準備をする。

 

「あたしは誰にも邪魔できない。誰がいようとここで食べるわよ」

「ぐふぐふ!」

 

・・・

 

 中に入れば一組の客以外は誰もおらず、やはり貸し切りらしい。あたしは負けない、と強気で店員に案内させようと話しかけたが、

 

「お客様!現在ローズ委員長がお忍びで来られていまして・・・!」

 

 他のお客様の入店はお断りしております、と言い切られる前に声が掛かった。

 

「おや?君はキルクスのジムリーダー、ルリミゾ君じゃないか?」

「ルリミゾさん!?」

 

 ローズがこちらに気付いたらしい。同席していたのはまさかのユウリだ。隣にはマグノリア博士の孫もいる。名前は確か・・・ソニアだっただろう。

 

「丁度いい!君もこちらへ座るといい!」

「しかし委員長、」

「いいんだよ。折角の機会じゃないか」

 

 秘書が軽く制すが、構わずローズは席に着くように言う。この瞬間にルリミゾは、リーグ委員会の試合組みも悪いもんじゃないな、と思った。

 

 ありがとうございます、とローズにお礼を言いながら席に着く。

 

「初めまして、キルクスタウンでジムリーダーを務めているルリミゾと申します」

「ジ、ジムチャレンジャーのユウリです!」

「ソニアです。歴史の研究をしています」

 

 ソニア君はマグノリア博士の孫なんだよ、とローズが補足すると嬉し恥ずかしそうにしている。ユウリはどうやら緊張しているようだ。もしかしてロベリアだとバレたか?と疑うがそういった敵意ある緊張ではなさそうだ。

 

「ユウリ君は今日ジムバッジを獲得してね。そのお祝いに(わたくし)が招待したんだ。ええと、何の話をしていたかな」

「私のおばあちゃんの話ですね」

「ああ、そうだったね!マグノリア博士がダイマックスバンドを開発してくれたおかげで、ジムでダイマックスを使った戦いができていますからね!」

「でも、まだわからないことが多くて、不安だと言っていました・・・」

「不安。それはよくないね・・・私にできることが何か――そうだ!ナックルシティの宝物庫に足を運ぶといい!私が許可を出しておきます」

 

 宝物庫、という言葉にドキっとするルリミゾ。宝物庫についてニュースで聞いたことのあるユウリが会話に参加する。

 

「あのギンガ団に襲撃された宝物庫ですか?今はキバナさんが警備を厳重にしたって聞きました」

「ええ。彼はナックルシティを守ることに使命を感じていましたから。襲撃されたときはとても自分を責めていましたよ」

「自撮りばかり上げている印象がありますが、しっかりした人ですよね」

 

 ノマから聞いていたキバナの話でなんとか会話についていく。料理に夢中で話に参加するのを忘れかけていた。

 

「歴史にダイマックスの秘密を紐解く鍵があると私はにらんでいてね。宝物庫の資料が研究の手掛かりになることを願うよ」

「わかりました。ローズ委員長。見学の手配しておきます」

「ありがとう、オリーヴくん」

「・・・ですがそろそろお時間です」

「えー、本当かい?」

 

 まだユウリくんもルリミゾくんも話を聞けていないのに、と惜しがりながらも立ち上がるローズ。

 

「それではみなさん、御機嫌よう!」

 

 席を立ち、オリーヴに急かされながら去っていく。ユウリとソニア、そしてルリミゾ。初対面ながら残されてとても気まずい。

 

「・・・嵐のような人だったね」

「彼はワンマンで成功しているらしいですね。エネルギー事業にも手を出していますし、リーグ運営も彼が基礎を作ったとか」

 

 ルリミゾは必死にかき集めて頭に詰め込んだ知識を並べる。毎晩火事になりそうなほど頭から熱を出して覚えた成果を見せるときだ。

 

「それにしても、マグノリア博士のお孫さんとは・・・歴史について研究をされているんですね」

「うん、英雄やブラックナイトについて調べてるんだ」

「ブラックナイト・・・ですか?」

 

 知らないふりをして答える。偶然接触できたチャンス、何か引き出せないかと奮闘する。

 

「大昔、黒い渦がガラル地方を覆い、巨大なポケモンが暴れ回ったらしいの。それがブラックナイトって呼ばれているの。まだまだわからないことだらけだけどね」

「そうなんですか!なんだかカッコイイですね」

 

 ターフタウンでユウリから聞き出した以上のことはあまり得られなかった。ジムリーダーという立場を利用して連絡先を入手しようと、会話を続ける。

 

「あたしも歴史について知っておきたいので、スマホロトムの連絡先を教えてもらってもいいですか?ギンガ団から町を守るためにも、やつらの襲撃先を予測したいんです」

「あいつら、宝物庫やターフタウンの石碑を狙ってたもんね。なにか分かったことがあれば連絡するね」

「ありがとうございます!」

「お互い研究とジムリーダー、頑張ろうね!」

 

 はい!と笑顔で会話を終える。ずいぶんソニアとだけ話しこんでしまったが、ユウリはどうしているだろう、と顔を見ればこちらのスマホロトムをじっと見つめていた。

 

「ユウリさんも、連絡先交換しますか?」

「えっ!?いいんですか?」

「ええ。以前襲われたこともありますし、緊急時に掛けてくれれば助けに行きます」

 

 ジムミッションのヒントはあげませんよ、と冗談めかして言えば嬉しそうにしていた。

 

「ふつう、ジムチャレンジャーとジムリーダーが過度に関わるのはよくないですから、内緒ですよ」

「・・・!」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめて下を向いてしまった。まじめな子なのだろうか。だとすれば申し訳ないことをしたな、と思いながらも演技を続ける。

 

「キルクススタジアムで待ってますよ、絶対に来てくださいね」

 

 これでもう素晴らしいジムリーダーを演じることができただろう。ユウリはブンブンと首を縦に振りますますガチガチになっている。やはりあまりジムリーダーとの会話になれていないのだろう。そう理解して席を立つ。

 

「では、あたしはそろそろ宿に戻ります。また機会があればお話ししましょう」

「またね~!」

「ぜっ、絶対に会いに行きます!」

 

 やや大きめの声で宣言される。もう歩き始めていたとはいえ十分に聞こえる声量だ。店中に響いていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ファンだったんでしょ?話せてよかったね」

「緊張して全然喋れなかった・・・」

「またジムで会えるよ!このあとルリナと会う約束があるから、ちょっと会って来るね」

 

 ルリミゾが去ったあと、レストラン「防波堤」に残された二人も立ち上がり店を後にする。

 

「わかった!またね!」

「またね!」

 

 ユウリは三つ目のジムバッジを取るためにガラル第二鉱山を抜けてエンジンシティへと向かう予定だったのだが、()()()()()()()もう少しだけこの町に留まることにしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「人脈は広がったけど、あんまり味わえなかったわね・・・」

「ぐふー」

 

 ローズが退席してから、会話するのにゼンリョクだったため、どんな味だったのか覚えていない。

 

「明後日、帰る前にもう一度食べてから帰るしかないわね」

「ぐふぐふ!」

 

 肩のチラチーノと話しながら夜道を歩く。明日は市場の観光と試合に向けた調整だ。

 



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21-vsルリナ メジャージムリーグ④

「ルリミゾさん、お時間です!」

「はい」

 

 ドアがノックされる。短く答えてから、ポケモンたちをボールに戻してフィールドへ向かう。いよいよルリナとの対決だ。存分にバウタウンを観光できたから、今日は快勝してレストラン「防波堤」で気持ち良く食事がしたい。

 

「毎度アウェイは気にならないけど少し気まずいわね」

 

 勝ってしまうから。そう自信満々にボールに語り掛ければ、カタカタと揺れて同意している。と、思う。たぶん。ソニアとルリナは親友だとスマホロトムのチャットで聞いていた。この試合に勝ったからといってソニアとの関係が悪化することはないはずだが、少しだけ気にかかる。

 

「ピンクババアのお陰で珍しい特性まで予習済みよ」

 

 相手の手持ちは把握した。エースのカジリガメを温存しながら戦うスタイルだろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 スタジアムの中心に立てば、気持ちがただ戦うことだけに集中される。ルリミゾとルリナの試合は、「ルリルリ対決」とくだらない見出しで報道されていた。モデルとしても活動するルリナと、じわじわと人気を上げつつあるルリミゾ。観戦のチケットは即座に売り切れたという。

 

(ババアの時より熱気が凄いわね・・・)

 

 観客席を見渡せば、様々な顔が――

 

「ユウリ!?」

 

 目が合って思わず声に出してしまった。向こうもこちらを見たまま固まっている。すぐに気を取り直してスタジアムの中心へと歩く。エンジンシティへ向かったと思っていたが、どうやら観戦のために残っていたらしい。

 

「先週の試合、ビデオで見たわ。ポプラさんも、あなたも凄かった」

「ありがとうございます」

「でも、負けるつもりはないわ。私と自慢のパートナーが全て流しきってあげる!」

「うちのポケモンたちはなかなかしぶといですよ」

 

 お互い意気込んでから、所定の位置につく。モデル歩きのルリナを見て真似しようかと思ったが、クネクネした変な動きになりそうだったので普通に歩く。

 

 ボールを握った拳を前に突き出し、その柔軟な身体を活かして右脚を天高く振り上げてからボールを投げるルリナ。

 

ジムリーダーの ルリナが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 ルリミゾも負けじと脚を振り上げる・・・ことはせずいつも通り投げる。もしかしたら独特の投げ方を考案しなければならないかもしれない。

 

「チラチーノ!」

 

 最初を任せるのはルリミゾのエース、チラチーノ。ルリナの手持ちのドヒドイデ以外のポケモンに対して「タネマシンガン」と「ロックブラスト」で弱点を突くことができる。

 

「タネマシンガン!」

 

 やるべきことはタネマシンガン一択だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ルリミゾ選手、やはりチラチーノから出してきましたね」

「カキタさんが先ほど解説した通りですね。ルリナ選手が出したのは・・・おおっ!?」

 

 ミタラシが驚いて実況が中断された一瞬。ルリナはポケモンをボールに戻し、ダイマックスバンドから力を注いだ。

 

「カジリガメ!」

 

「スタジアムを海に変えましょう!キョダイマックスなさい!」

 

 大きくなったボールを抱え、一瞬祈るように目を閉じた後、振り回して投げる。

 

「いきなりダイマックスだあああああ!まさかの展開です!」

「チラチーノがダイマックスしても柔らかいことを理解して取った策ですね。これは素晴らしい・・・!」

 

 解説が話している最中にも巨大化するカジリガメ。開幕からとんでもない試合展開に観客のボルテージは絶頂だ。

 

ワァァアアアア!!

 

 実況解説のマイクに音が入り込むほどの声援。

 

「ここまで聞こえてくるほどの声量ですよカキタさん!これはどういう選択なのでしょうか?」

「カジリガメは草タイプの技に非ッ常に弱いですから、普通は動く間もなく『タネマシンガン』でやられてしまいます。しかしダイマックスすればなんとか一発は耐えることができます。そうすればルリミゾ選手のチラチーノを一発で落とすことができますし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あの技、ですか」

 

 ええ、あの技です。とカキタが返事すると同時、マイクがルリナの指示を拾う。

 

「キョダイガンジン!」

 

 巨大な岩がフィールドに向かって倒れこむ。あまりの攻撃範囲にチラチーノの逃げ場はない。それと同時、「タネマシンガン」が着弾し体のあちこちに傷を負うカジリガメ。

 

ズゥウウウン

 

 倒れた岩が辺りに砕けて飛び散り、「ステルスロック」のようにルリミゾの近くを侵す。

 

「チラチーノ戦闘不能!」

 

「ダイマックスしていなければ倒されてた・・・よく耐えたわカジリガメ!」

 

 もうほとんど瀕死のカジリガメだが、まだ戦闘不能にはなっていない。満身創痍ながらもまだ立っている。

 

「一撃でチラチーノ戦闘不能!初手ダイマックスという戦法が完全に突き刺さっています!」

「これです。『キョダイガンジン』は相手の場に『ステルスロック』と同じように岩を残すんです。交代をすればするほど、ルリミゾ選手のポケモンは傷ついていきますよ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ルリミゾの予想を上回る一手。これだからポケモンバトルはやめられない。次のポケモンを出すまでに与えられた30秒を使ってフルに思考する。

 

(初手ダイマックスでチラチーノを落とされたものの、こっちにはダイマックス権が残ってる。カジリガメはもう瀕死だし、おそらくドヒドイデ辺りでこっちのダイマックスを耐え抜く算段ね。その後は毒とステルスロックでじわじわと削る。なるほど、モデルのくせにやらしいスタイルに切り替えてくるじゃない)

 

 今までのシーズンでは、雨を降らせるペリッパーなどで場を整えたあと、どっしりとキョダイマックスしたカジリガメが一掃するという戦い方だったが、どうやら新しい戦術に手を出したようだ。交代戦を挑んできたルリナだが、ルリミゾはポプラという交代戦の鬼と戦った。どう対応すればいいのか把握している。

 

「イエッサン!」

 

 尖った岩が食い込む。が、カジリガメの動き出しよりも先にイエッサンが技を出して倒せるだろう。

 

「サイコキネシス!」

 

 念力の波動がカジリガメを内側から揺さぶり、巨体が爆発し倒れる。おそらく相手のカジリガメが使おうとした技は「ダイストリーム」だろう。雨を降らせるほどの水量で攻撃する技だが、イエッサンのスピードで遠距離から先に倒すことができた。

 

「カジリガメ戦闘不能!」

 

 ひと安心だが、相手のプランはここからのはず。恐らく出てくるのは――

 

「オニシズクモ!お願い!」

 

 やはりオニシズクモ。特殊に対して耐性のあるオニシズクモは、水/虫タイプだからイエッサンに対して強い。物理で攻撃できて飛行タイプのウォーグルならば有利だ。イエッサンをボールに戻し――

 

「今日はアンタが活躍する日よ!ダイマックス!」

 

 ダイマックスした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「こちらも二匹目でダイマックスだぁ!試合展開がとんでもなく速い!」

「ルリナ選手が指示したのは『ねばねばネット』でしょう。ウォーグルへの交代を読んでの指示でしたが、それをさらに読んでいたルリミゾ選手がダイマックスを切りました」

「オニシズクモは特殊に対して強いんでしたよね?そのままイエッサンで戦って大丈夫なんですか?」

 

 視聴者に代わって疑問を提供するミタラシ。ポケモンバトルに深く関わる人間でありながら、バトルをしない一般人の目線に立てることが人気の秘訣だ。

 

「ここで重要なのは、イエッサンを止められるポケモンがオニシズクモ以外にいるかどうか、ということです」

「カジリガメは倒されましたから、残りはドヒドイデ、グソクムシャ、ペリッパー・・・」

 

 ミタラシは提出されていたルリナのポケモンリストを読み上げる。なるほど、グソクムシャ以外誰もイエッサンを止められない。

 

「グソクムシャ以外止められませんね!?」

「そうなんです。手持ちの四体で交代しながら戦うのではなく、イエッサン一匹で全員ぶち抜いてやろうということだと思います」

「交代しながらの戦いを想定していたルリナ選手からすれば、これは意表を突かれた形になったと」

「ええ。場には『ステルスロック』が撒かれています。わざわざルリナ選手が作り上げた土俵に乗ってやるものか、という意志を感じますね」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 周囲に「ねばねばネット」が撒かれるが、ダメージはなく、交代しない限りポケモンに絡まることはない。交代したポケモンに絡みつき、動きを阻害してくる技だ。予想通りね、とルリミゾは笑う。ウォーグルに「かみなり」を命中させたポプラもこんな気持ちだったのだろうと思いながら。

 

「ダイサイコ!」

 

 イエッサンの得意技「サイコキネシス」が変化した「ダイサイコ」でオニシズクモを攻撃する。辺りに不思議な感じが広がる。サイコフィールドという状態だ。オニシズクモを沈めるのには至らなかったものの、これで裏にいるグソクムシャが動けなくなった。サイコフィールド下では、相手の不意を突くような技が察知されてしまう。不意を突こうとする思念が何故か相手にも伝わるフィールドなのだ。「アクアジェット」「ふいうち」「であいがしら」という強力な先制技をもつグソクムシャも、このフィールドでは無力だ。

 

「もう一度、『ダイサイコ』!」

 

 しかもサイコフィールドでは、エスパータイプの技の威力がかなり上がる。オニシズクモは耐えられず倒れた。

 

「オニシズクモ戦闘不能!」

 

ワァァアアアア!!

 

 観客たちの声援が聞こえる。

 

 キルクスで待つと言った以上、ユウリに恥ずかしい姿は見せられない。

 




vsルリナ。ルリルリ対決ですね。
主人公の名前で後悔したのは今日が初めてです。似たような名前で読みにくいかもしれませんが許してください。

評価・感想いつもありがとうございます。
誤字報告助かります。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。


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22-vsルリナ メジャージムリーグ⑤

 

 オニシズクモが倒されたが、グソクムシャで「であいがしら」を撃てばカバーできる。そう考えたところで、ルリナは自分の致命的な見逃しに気が付いた。

 

「サイコフィールド・・・!」

 

 先制技が、撃てない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おぉっと?ルリナ選手次のポケモンをなかなか出しません!迷っているのでしょうか!?」

「いや、ここはグソクムシャを出せばイエッサンに有利を取れるはずですよ・・・いや、待ってください――そうか!サイコフィールドか!」

 

 一人で納得しているカキタに解説を促すミタラシ。

 

「先ほどイエッサンが撃った『ダイサイコ』でサイコフィールドと呼ばれる状態になりましたね、それがどうしたんですか?」

「サイコフィールド下では、相手の不意を突いて攻撃することができないんです。ボールから飛び出てそのまま奇襲するグソクムシャの得意技『であいがしら』や『ふいうち』『アクアジェット』といったすべての技が相手に気付かれてしまうフィールドなんです。グソクムシャは本来非常に足の遅いポケモンです。相手の不意を突くことで相手より速く行動しているように見えているだけなんです」

「と、いうことはグソクムシャでは今のイエッサンを止められないと・・・?」

「そうなります。これは非常にまずいですよ。サイコフィールドの下ではエスパー技の威力が上がります。あと一回はダイマックスした状態でイエッサンは技を撃てるでしょうから、誰で受けるかですね。おそらくは――」

 

 ドヒドイデ。そう言うと同時に30秒ギリギリ、ルリナはドヒドイデを繰り出した。

 

「ドヒドイデを繰り出したあ!これはどういう選択になるんでしょうか?」

「ドヒドイデには『トーチカ』という『まもる』と同じ効果を持つ技があります。他の追加効果は今は置いておいて、ダメージを低減して時間を稼ぐことができます」

「そうすればダイマックスが解けますねぇ!」

 

 ドヒドイデが足を下ろし、本体を守る。イエッサンが念力で揺さぶり、ドヒドイデが吹き飛ばされるがまだ耐えている。

 

「やはり『トーチカ』ですね」

「スタジアムを揺るがす『ダイサイコ』のとんでもない衝撃!しかしドヒドイデ耐えています!」

 

 即座にドヒドイデをボールに戻し、交代先のポケモンを繰り出すルリナ。イエッサンのダイマックスは解け、ルリミゾの横で目を閉じている。

 

「そしてルリナ選手・・・交代です!交代しました!繰り出されたのはペリッパー!」

「あのドヒドイデ、『さいせいりょく』を持っていますね。またしても珍しい特性です。どうやら今シーズンはどのジムリーダーも変化が見られそうですよ」

「『さいせいりょく』というのは?」

「一度ボールに戻って裏に引いた時、傷が癒えやすい個体のことを指します。おそらく『ダイサイコ』で負った傷は今頃ほとんど回復しているでしょう」

 

 徹底した時間稼ぎ。今までの優雅なイメージ、モデルとしてのイメージからはかけ離れた泥臭い戦い方にカキタは驚いていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ペリッパーが雨を呼び、ルリナの気持ちを語るかのように雨が降る。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 今シーズンこそは上位に。モデル業を兼ねながらのジムリーダーだからといって下位で甘んじていいハズがない。相手を交代戦に誘い込み、自分の有利な土俵で戦う新戦術。上手くチラチーノを倒すことができたために浮かれていた。暗い気持ちを切り払うように、雨天下で威力を増したハイドロポンプが放たれる。

 

ドパァン!

 

 当たった衝撃で水が舞う。

 

 しかし、フィールドで倒れているのはバイウールー。

 

「バイウールー戦闘不能!」

 

「な!?交代をしていたの・・・!」

 

足元の 不思議感が 消え去った! ▼

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「バイウールーで受けました!戦闘不能です!」

「次にはふつうカビゴンを出すでしょうが、交代戦になるとルリナ選手の作った土俵ですよ。ここで交代して出てくるであろうドヒドイデにもう一度イエッサンを当てるのが狙いでしょうか」

 

 そう解説したところで繰り出されるカビゴン。しかし即座に戻し、イエッサンを繰り出すルリミゾ。ドヒドイデに交代されることを読んでの交代だ。

 

 が、ルリナが繰り出したのはグソクムシャ。

 

「グソクムシャをイエッサンに当てたぞルリナ選手!これは読み勝ったといえるのではないでしょうか!?」

「ええ。足元のサイコフィールドも先ほど消えました。『であいがしら』が突き刺さりますよ。とんでもない威力ですから、この状況、まず間違いなく一匹は持っていかれますよ」

 

 イエッサンか、カビゴンか、ウォーグル。大きく試合が動こうとしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「・・・よし!」

 

 試合のペースを再び取り戻し、サイコフィールドの切れ目にちょうどグソクムシャを当てることができた。既にボールから飛び出したグソクムシャは凄まじい勢いで突撃している。「であいがしら」だ。カビゴンはグソクムシャに対して一切有効打がない。ウォーグルは「ステルスロック」が突き刺さり、「であいがしら」を耐えられないだろう。

 

「ウォーグル!ごめんね」

 

 クッションとしてルリミゾが出したのはウォーグル。「ステルスロック」によりダメージを受け、「であいがしら」でフィールドの端まで吹き飛ばされる。

 

「ウォーグル戦闘不能!」

 

 勝った。

 

 ルリナがそう思った瞬間、ドサ、という音が聞こえ、そのあとすぐに耳を疑う審判の声が聞こえた。

 

「グソクムシャ戦闘不能!」

 

 フィールドの向こうで、ルリミゾが笑っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何が起きたんだ!?グソクムシャ戦闘不能だああああ!」

 

 何が起きたんですか、カキタさん、と聞こうとするミタラシだったが、リプレイを再生し血眼で見つめるカキタを見て時間稼ぎを決意した。

 

「ウォーグルが『であいがしら』で何もすることなく倒れたはずです!なのに!どうして今!グソクムシャが倒れたんでしょうか!?」

 

 カキタさん!と振れば、信じられないといった表情のカキタが口を開く。

 

「『みらいよち』だ!こんなことがあっていいのか!?」

「『みらいよち』ですか!?」

「ルリナ選手がドヒドイデをペリッパーと交代した時に、イエッサンが何もしていなかったのが気になっていたんです!『めいそう』を積んでいたのかと思いましたが、それならバイウールーと交代したのはおかしいですよね」

「ええ、ということはあの瞬間に」

「はい。『みらいよち』を撃っていたんです。グソクムシャを今、このタイミングに繰り出させることを狙って」

 

 開いた口がふさがらない。画面の向こうの視聴者も、このキャスターたちと同じ表情をしているだろう。

 

「どこから狙っていたのでしょうか・・・?」

「私にはもはやわかりません。ただわかるのは、今までずっと不動だった一位は、もしかしたら交代するかもしれないということです」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ドヒドイデ戦闘不能!」

 

ワァアアアアアアアアア

 

 歓声がやまない。たったワンプレー。「みらいよち」ひとつで試合を逆転してみせた新人に観客の興奮は最高潮だ。フィールドの中心に歩み寄り、握手をして会話を交わす。

 

「ありがとうございました」

「私の想定以上だったわ。次戦った時はもっと洗練してリベンジしてあげる」

「ええ。また戦いましょう」

 

 ユウリがいた客席を見れば、呆然としていた。もしかしてルリナのファンだったのだろうか。それなら申し訳ないことをしたな、と思いながらスタジアムを後にした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 あれが、ジムリーダー。いずれ越えなければいけない壁。あれが彼女のゼンリョク。雲の上とすら感じられるバトルにユウリはただ呆然としていた。

 

「あんな戦いをしてみたい・・・!」

 

 すぐに席を立ち、エンジンシティへ向かうための準備をする。追いつくためにはさらに努力しなければいけない。

 

 




今回は慣れない戦術で自滅したルリナです。
各ジムリーダーとのバトルは2周あります。そういうことです。

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23-バウタウンでお食事(おかわり)

 

 レストラン「防波堤」に来たルリミゾは、店の給仕のイエッサンを撫でながら困惑していた。

 

「ル、ルリミゾさん、どうも・・・」

 

 リーグ戦勝利おめでとうございます、そう話しかけられた。ドアを開けたら目の前にユウリがいたのだ。ルリナに快勝して気分よく海鮮を味わうつもりだった。まさかまた出会うなんて。

 

「一緒に食べますか?前はあまり話せませんでしたし」

「いいんですか!?」

「はい」

 

 よくない。だが誘わないわけにもいかない。ソニアと良好な関係を維持するためにも、ソニアと友人であるユウリには丁寧に接さなければならない。それと少しだけ、自分に強くなる方法を求めた少女が気になっていた。

 

・・・

 

「へえ、旅立ちの日はそんな感じでメッソンを選んだんですね」

「そうなんです。その後まどろみの森で――あっ、あんまり言わない方がいいんだった・・・」

「まどろみの森がどうかしたんですか?」

(ルリミゾさんなら・・・大丈夫かな。いい人だし)

「まどろみの森で、不思議なポケモンと出会ったんです」

 

 内緒ですよ、と付け足すユウリ。どうやら海鮮料理を味わうことを犠牲に、何かを得られるようにこの世はできているらしい。毎日通いつめよう、とルリミゾは思った。

 

「攻撃が当たらない・・・幻影だったんですかね」

「だと思います。気付いたら私もホップも倒れてたんです」

「森の中でですか!?危ないですね・・・」

 

 そもそも森の中へ戦闘経験のない未熟なポケモンと駆け出しのトレーナーで入ること自体が自殺行為だ。ありえないな、と思うルリミゾ。面白い情報が得られたが、それとこの無鉄砲なジムチャレンジャーへのお説教は別だ。

 

「いいですか、ワイルドエリアでも同じです。自分の力量を超えた物事には絶対に首を突っ込まないこと」

 

 死にますよ、あなたもメッソンも。そう脅せば、効いたのか顔を青くしている。

 

「ごめんなさい、気を付けます・・・」

「身に染みたなら大丈夫です。食事中に暗い思いをさせて謝るのはむしろあたしの方ですよ」

(今の怖さ、迫力どこかで・・・)

 

 料理を食べるルリミゾを見つめるユウリだが、どうにも思い出せない。

 

「エンジンシティには向かわないんですか?」

「ルリミゾさんの凄い試合を観て、私も頑張ろう、って思って向かおうとしたんです。でももう一度食べてから行きたくて・・・」

「あはは、あたしと同じですね」

 

 顔を赤くするユウリ。

 

「じゃあ、明日にでもエンジンシティに?」

「はい、カブさんに挑戦しようと思ってます」

「頑張ってくださいね、カブさんで躓く人も多いらしいですから」

 

 相談なら乗りますよ、と伝えれば、ぱあっと目を輝かせて嬉しそうにしている。心の支えになれたならそれでいい。

 

「します!躓かなくてもします!」

 

 それは困るなあ、と笑った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 店を出て、別れの挨拶をするルリミゾ。

 

「それでは、次はキルクスで会いましょう。また会う気もしますけどね」

 

 冗談めかして言う。意図せずこれほど縁があるのは珍しい。きっとこれからも会うことになるのだろう。

 

「楽しかったです!カブさん倒して会いに行きます!」

「あ、そうだ。これ昨日市場で買ったんですけど、丁度いいですしあげます」

 

 さざなみの御香を渡す。丁度メッソンを連れているし、いいプレゼントになる。

 

「メッソンに持たせれば、水タイプの技が調子良く撃てるみたいですよ」

「いいんですか!?」

 

 ありがとうございます!とまた少し耳が痛くなるくらいの声で喜んでいる。ジムトレーナーへのお土産で買ったものだったが、ノマの分を減らせば全員に行き渡るので大丈夫だろう。

 

(あんまり一人に入れ込むのはよくないんだけどね)

 

 少しだけ、襲撃に巻き込んだことへの罪悪感があった。

 

「さよなら~!」

「ええ、さよなら」

 

 ホテル「スボミーイン」へと向かうユウリと、自分で予約した宿へと向かうルリミゾ。どちらの足取りも軽やかだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おみやげよ!」

 

 ジムトレーナーたちに御香を配っていく。ノマの前で御香がなくなる。

 

「おい、俺は?」

「アンタは第二鉱山で拾ったなんか熱い石よ」

「・・・そうか」

 

 手渡せば、思っていたよりも熱かったらしく「熱ッ!?」と落としそうになっている。赤い水晶のようなものを含んだ石だ。

 

「あはは!落とさないでよ!あたしのお土産なんだからね!」

 

 心にもないことを言う。

 

「それ、『あついいわ』じゃないですか?」

「「え?」」

 

 ジムトレーナーが心当たりのあるアイテムらしい。二人して間抜けな声を出してしまった。

 

「天気を晴れにするポケモンが持っていると、晴れの時間が長くなるアイテムですよそれ!」

「え!?そんな良いアイテムなのこれ!?」

「やっぱり一番働いてるからな~ご褒美もしっかりしてるな!流石はジムリーダー代理のルリミゾ様だな」

 

 厭味ったらしくノマが言う。ただ単に「熱ッ!?」と言わせたいがためだけに持って帰って来たのに、想定外に良い贈り物となってしまって気まずい。返せと言う訳にもいかないので、バトルで発散しよう、と決めたルリミゾ。

 

「じゃあ早速試しにバトルしましょう!フィールドに出なさい!」

「おいそれ完全に仕返しだろ!放せ!あああああああ!」

 




日常回です。私も戦闘狂がうつったのか、バトル以外の話を書くのが難しくなってきました。明日にでも病院に行く予定です。

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24-前夜

 

 ジムにて練習後、雑談をするルリミゾとノマ。「あついいわ」はノマの戦術にかなりの変化をもたらしたが、未だにルリミゾに土をつけられずにいる。ルリミゾはジムトレーナーでは飽き足らずワイルドエリアにまで足を運ぶ始末だ。

 

「しっかしワイルドエリアでの特訓ってどんなことしてるんだ?」

 

 ワイルドエリアで鍛えに行くトレーナーは多いが、試合形式とは異なり野生との対決だ。あまり練習にならないというトレーナーも多い。

 

「最近物騒だから、襲い掛かって来る野生のポケモン相手に野外戦の訓練よ」

「野外戦?」

「バトルじゃなくてルール無用の戦いよ。トレーナーだって狙われかねないんだから」

 

 この前もサイトウがやられてたでしょ、と補足すれば顔をしかめるノマ。

 

「バトルだけじゃなくてそんな戦いも想定しなきゃいけねえのか。ジムリーダーは大変だな」

「アンタも襲われたらどうすんのよ。私は守らないわよ」

「ワイルドエリア行くか~!」

 

 ジムトレーナーも警備に駆り出されるため、実際に鍛えておくことに損はない。ルリミゾはジムトレーナーとの訓練のメニューに入れておこうと決めた。

 

「明日、ついにキバナとだな」

「ええ。アイツ今期は砂嵐で戦うみたいよ」

「直接対決を勝たなきゃ一位は見えないな。頑張れよ」

「ま、見てなさいよ。先に倒し方をレクチャーしてあげる」

 

 そう自信満々に告げてから片付けを始める。明日の為に今日は午前で切り上げて家へ帰る。三戦目にしてやっとホームでの試合だ。ルリミゾは観客の声援が耳に入らないタイプなのであまり気にしないが、それでも自分のファンが多いことは嬉しかった。とはいえキバナはファンが多い。キルクスにも一定数いるだろう。

 

「俺たちは――お前に夢見てんだ。勝ってくれ」

「言われなくともあたしは勝つわ」

 

 任せなさい、そう言ってジムから出た。ジムトレーナーたちと十分に特訓し、天候を変えるパーティの対策も考えてある。飛び出てきたダルマッカを蹴らないように回避し、転ばないようにバランスをとる。滑ってしまうとなんだか縁起が悪い気がしたのだ。

 

「明日、楽しみね」

 

 腰のベルトに結んであるボールたちが揺れた気がした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ボッコボコにしてナックルジムを奪い取るわよ!」

「ぐふ!」

 

 大きなポケモンたちを除いてほとんどのポケモンが出ているため、家がとても狭く感じる。

 

「提出されているポケモンは、と・・・」

 

 ギガイアス、こうあつポケモン。砂嵐を引き起こし、キバナが得意な土俵を作り出す。攻撃力、防御力ともにとても高く、砂嵐下では特殊防御も上がるため突破するのはなかなか面倒だろう。相手のポケモンに有効打がない場合、「ステルスロック」を展開することもある。交代戦のためではなく、後続のドラゴンポケモンの強さをより引き立てるための土台作りだ。ただでさえ種族として強力なドラゴンポケモン相手に体力を削られた状態で向かい合わねばならないのはなかなかに厄介だ。

 

 フライゴン、せいれいポケモン。砂嵐のなかでもダメージを負わず、活躍できるポケモンだ。素早く、そして攻撃力が高い。ただしドラゴンポケモンの中では一歩劣る性能だろう。それでも上手くキバナと連携して戦ってくるのが強いのだが。

 

 ヌメルゴン、ドラゴンポケモン。ただただ特殊攻撃に強い。イエッサンに当てられることだけは避けなければならない。草タイプの技を食べて攻撃力を上げるという特性だが、あまり草技を撃つ場面がないので想定する必要はないだろう。

 

 ジュラルドン、ごうきんポケモン。防御力があり、そして特殊攻撃がとても強い。「りゅうせいぐん」や「ラスターカノン」といった技を持ち、生半可なポケモンでは一撃で葬られてしまうキバナの代名詞だ。キョダイマックスも可能なので注意すべきだろう。

 

 ジャラランガ、うろこポケモン。今回から投入された最も警戒すべきポケモン。格闘技が得意なため最優先で潰さなければならない。フェアリータイプや飛行タイプの技に弱いため、お互い弱点の突きあいになるだろう。怖いのはバイウールーを起点に「はらだいこ」や「ソウルビート」といった積み技を積まれることだ。

 

「だいたいがっしりしたポケモンばっかりね」

 

 フライゴン以外は速いポケモンがいない。その分耐久力があるため殴り合いになるだろう。そうなればチラチーノやイエッサンがかなり苦しい。適切に有利なポケモンに繰り出し、タイプ相性や長所の押し付けを活かせる指示を出さないと種族としての戦闘能力の格差は埋められない。

 

「ぐふー?」

 

 自分の出番はあるのか、とパソコンを触っているルリミゾの手元に飛んでくるチラチーノ。

 

「前回は一発でやられたものね、見せ場があるといいわね。残念ながら先発はもう決めているの。()()()()

「ぐふぐふ!」

 

 尻尾でぱさぱさと抗議されるが、勝利が目標だから仕方ない。画面も見えない。

 

「こら!ちょっと・・・ああもう!」

 

 こうなると、好みのきのみを渡すまで落ち着かない。チイラの実を冷蔵庫から取り出す。辛味と甘味の何とも言えないバランスの味だ。ルリミゾはあまり好きではないが、チラチーノがよく食べるため用意していた。明日の試合前にでも、もう一つあげようと思っている。控室で精神統一してるときに顔に張り付かれたらたまったものではない。

 

「ぐふー!!」

 

 嬉しそうに齧りつくチラチーノ。少しだけ、帰れなくてもいいかな、なんて思ってしまう。ジムリーダーとして慕われ(?)、ジムリーダー達と全力でバトルができる。

 

「ああ、でも、この気持ち悪さは」

 

 孤独は。きっと帰るまで消えないのだろう。自分だけが異物であるという自覚、違和感。どれだけ戦っても、どれだけ有象無象を蹴散らしても、満たされない。

 

「誰か、この気持ちを――」

 

 そっと近付いてくるユクシー、ポリゴンZ、ドータクン、クロバット。抱き合って分かち合う。

 

「ひとりなら、狂ってたわね」

 

 ポケモンたちが一緒にいるから耐えられる。

 

「ありがとう。チラチーノたちも、ポリゴンZたちも」

 

 明日こそが本当の戦いだ。

 




キバナのパーティのネタバレです。どう戦うんだろうな、とか思いながら次話をお待ちください。まだ頭の中で戦っているので、少し時間がかかるかもしれません。チイラの実は別に試合中発動しないのでご安心を。
評価・感想いつもありがとうございます。
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読んでくださりありがとうございました。


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25-vsキバナ メジャージムリーグ⑥

 

 フィールドの中心で向かい合うルリミゾとキバナ。どちらも自然体で、ただ目の前の相手だけを見据えていた。

 

「一位の座を貰いに来ました。ナックルスタジアムの掃除、ちゃんとしておいてくださいね」

「言うじゃねえか、今年もチャンピオンへ挑戦するのは俺サマだ」

 

 スマホロトムで自撮りをして、ドラゴンポーズを決めるキバナ。いよいよルリミゾにもポーズと投げ方を考える日が来たようだ。勝てばポーズを考えよう、と決めた。スマホロトムはキバナの周囲を漂っている。

 

 サイドスローで投擲するキバナ。事前に公開されていた手持ちは砂嵐のパーティだった。おそらくギガイアスだろう、と考えながらルリミゾはウォーグルを繰り出す。

 

 

 

 

ジムリーダーの キバナが

勝負を しかけてきた! ▼

 

「ギガイアス!頼んだぜ!」

 

 やはりギガイアス。砂嵐が吹き荒れる。

 

 砂に慣れているポケモンでなければ傷を負うし、パフォーマンスも低下してしまう。ルリミゾはあらかじめ用意していたゴーグルを付けて目を守る。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ウォーグル!?」

 

 別室で観戦しているジムトレーナーたちは困惑に包まれていた。

 

「ギガイアスは岩タイプで、ウォーグルは飛行/ノーマルタイプですよ!?ギガイアスのあの硬さはウォーグルじゃ一撃で突破できないし、逆に一撃でやられますよ!」

「ああ・・・だけど無策でウォーグル出すような奴じゃねえ、何か考えてるんだろ」

 

 種族としての差を埋めるような奇策。期待と困惑半分にジムトレーナーたちは見守る。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ウォーーーーーグルですか!?」

 

 予想外の選出に声が伸びるカキタ。

 

「ええ、予想外の選出です!またしても奇策!これから何が始まるのでしょうか!?」

 

 ミタラシの実況と同時、スタジアムが吹き荒れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ジムリーダー1位、ドラゴンストームのキバナは思考を巡らせる。

 

(何を考えている・・・?『インファイト』で先に倒すつもりにしても火力が足りないハズ・・・対してギガイアスは『ストーンエッジ』、いや命中率を考えて『いわなだれ』でも一撃で倒せる)

 

 と、汗が流れたところで気付く。

 

(ダイマックスすれば『いわなだれ』を耐える!最初に『ダイナックル』で攻撃力を上げ、『ダイジェット』で加速するつもりだ!あえてギガイアスに出して起点にするつもりか!)

 

 ルリミゾがウォーグルをボールに戻すと同時、キバナもギガイアスをボールに戻す。ダイマックスバンドから力を送り、ボールを巨大化させる。

 

「荒れ狂えよ俺のパートナー!スタジアムごと奴を吹き飛ばせ!!」

 

 熱が入り、両手を握りしめて叫ぶ。巨大化したボールを構えて一枚自撮りをパシャリ。投げた先でギガイアスが巨大化していく。

 

「あはは!流石ですキバナさん!()()()()()()!」

 

 既に指示を出したギガイアスが「ダイロック」を放った先にいたのは

 

「カビゴン!耐えてくださいよ!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 カビゴンだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「どうしたキバナ選手!?突然初手からダイマックスだ!!巨大な岩がカビゴンに倒れて襲い掛かります!」

「なぜだ!?何が起きている!?」

 

 必死に状況理解に努めるカキタ。解説としてこの展開の理由を紐解かなければならない。ミタラシが時間を稼ぐ。

 

「カビゴン、それでもまだ余裕がありそうです!流石の耐久力です!あと一、二回は耐えられるでしょう!」

 

 またしても隣で呆然としているカキタに解説を振る。

 

「なぜこのような形になったんでしょうか?」

「これは・・・ルリミゾ選手がキバナ選手をリスペクトしていたからこそ起きたことです」

 

 頭の中で言うべきことを整理するために一瞬間を置くカキタ。試合が動く前に伝えなければならない。

 

「ウォーグル対ギガイアス。このマッチアップは普通に戦えばギガイアスの後出しの一撃でウォーグルが落とされてしまいます。しかし、ウォーグルがダイマックスした場合話が変わってきます。ダイマックスすれば『いわなだれ』を耐え、おまけに『ダイナックル』で攻撃力を上げ、そのあと『ダイジェット』で加速しギガイアスを倒し切れます。すると攻撃力・素早さともに上がった状態で体力を半分以上残したウォーグルが誕生してしまう、というわけです」

 

 一呼吸おいて続きを話す。

 

「それを想定したキバナ選手が、最悪の展開を避けるためにダイマックスしました。しかし、ルリミゾ選手はここまでキバナ選手が読むことをリスペクトしていたんです」

 

 とんでもなく長い解説。普段から淡々と語るスタイルのカキタだが、今回は息が上がっている。

 

「それがカビゴンへの交代ですか」

「ええ。カビゴンはあと一回『ダイロック』を受けても耐え、きのみで回復するでしょう。そうすればどんどんキバナ選手のダイマックスは・・・」

「ほぼ無駄打ちになってしまう!」

「ええ。おそらくここでルリミゾ選手はダイマックスを切って、『ダイスチル』で物理耐久を上げにいくでしょうね」

 

 とんでもない策士です、とだけ続けてキャスター二人は試合を食い入るように見ていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「行くわよ!カビゴン!」

 

 マイクで拾われたルリミゾの声がスタジアムに響く。観客がテンションを上げていく。ここはキルクススタジアム。ルリミゾのホームだ。マクワが大人気だったとはいえ、しっかりと活動し、町の人々と関わってきたルリミゾのファンは多い。

 

「「「「ハイ!ハイ!ハイハイハイハイ!」」」」

 

 やけに観客の声が聞こえるな、とルリミゾは思った。普段以上に集中しているのに、やけに五感が冴えている。ゴーグル越しにスタジアムを見渡せば、すべてが自分の味方とすら思える。

 

「あたしは!もう後には退けない!」

 

 ダイマックスバンドが光る。胸に火が灯る。

 

「キョダイマックス!」

 

 スタジアムを揺らす、歓声と巨体。気持ち良くてたまらない!

 

「あはは!」

 

 堪えきれずに笑う。両手を広げて天を仰ぐ。ずっと裏で戦ってきたルリミゾにとって、スタジアム全体を味方に付けて戦うのは初めてだ。今までの試合は全てアウェイで、加えて集中で歓声が聞こえていなかった。

 

「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」

 

 空気を震わせる歓声が、肌に突き刺さる砂嵐が、その向こうの突き抜けるような青空が、立ち塞がるギガイアスとキバナが。

 

 全てが鮮明に感じられる。

 

「ダイスチル!」

 

 この壁をぶち抜いてくれと叫んだ。

 




一ターン目と二ターン目の始まりまでです。ポプラ以上に長くなるかもしれませんね。かなりの大一番なので力を入れます。もしかしたらキバナ戦の間は投稿頻度が落ちるかもしれません。

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26-vsキバナ メジャージムリーグ⑦

 

「ダイスチル!」

 

 金属がギガイアスに襲い掛かる。対するギガイアスも「ダイナックル」で応戦するがカビゴンの方がダメージを与えた状態だ。ルリミゾは気を抜かずに次の展開を考える。

 

(あと1回でダイマックスが切れる。そのタイミングでおそらくカビゴンはきのみを食べて回復する。そうなれば『ダイスチル』で防御を二段階、次に『ダイナックル』を撃てば攻撃を一段階上げた状態でカビゴンを残すことができる…!)

 

 お互いダメージはほとんど無いが、ダイマックスが先に切れるだけギガイアスが不利だ。

 

「ダイスチル!」

「ダイナックル!」

 

 再び拳と金属が交差する。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ギガイアスのダイマックスが解けた!カビゴンはきのみで回復します!」

「ここからキバナ選手がどう返すかですね。いきなりこれほど追い込まれているのは初めてかもしれません」

 

 カキタはルリミゾの思考を追って解説を試みる。

 

「ただ、気になるのはカビゴンの攻撃力の低さです。どんな工夫で補うのか見ものですね」

 

 ルリミゾなら「れいとうパンチ」を覚えさせていそうだな、と思うカキタ。実際にその通り、ルリミゾは「れいとうパンチ」を今日のために準備していた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ダイナックル!」

 

 まだダイマックスしたままのカビゴンの拳でギガイアスが沈む。時間切れでダイマックスが解除されたが、カビゴンは攻撃力を高め、次のポケモンに備える。

 

「少し硬いが頼む!ジャラランガ!」

「来たわね」

 

 格闘/ドラゴンタイプの新戦力。格闘タイプの技でカビゴンを仕留めに来ていることは明白だ。

 

(ウォーグルに交代したいけど、高火力高耐久相手に交代戦は無益ね・・・『インファイト』ならカウンターで『れいとうパンチ』を叩き込んで殴り合えるはず。外れるリスク的に『きあいだま』は・・・)

 

 ルリミゾの思考を遮るようにキバナの指示が響く。

 

「きあいだま!」

 

 ドム、という音と衝撃、ルリミゾは巨体が吹き飛んできたのを躱す。

 

「カビゴン戦闘不能!」

 

(この局面で迷うことなく『きあいだま』を・・・!しかも命中させてくるなんて・・・)

 

 普通「きあいだま」は技の出し方と弾速の都合上、命中率が低い。もしも外せばカビゴンの「あくび」でルリミゾがほとんど勝利に近付いていただろう。今、このタイミングで撃ってなおかつ一撃で仕留める実力。

 

「無敗のチャンピオンがいると強さの基準が狂うからダメね」

 

 ありがとう、とカビゴンに一声掛けてからボールに戻し、既にうずうずと震えるボールに手をかける。準備は万端らしい。

 

「さあ、一気に畳みましょう。今回のために覚えた『アレ』やるわよ!」

「ぐふぐふ」

 

 先にエースを繰り出したのはルリミゾ。チラチーノは準備万端だ。身構えるジャラランガとキバナ、試合の大きな転換点が訪れようとしていた。

 

「さあ、『じゃれつく』!」

「ぐふ!」

 

 飛び出すチラチーノだが、キバナは動じず指示を出す。

 

(何人のトレーナーが俺サマのジャラランガ相手に『じゃれつく』を撃ってきたと思ってんだ)

「ばくおんぱ!」

 

 ゴォ!

 

 辺りの砂を吹き飛ばすほどの衝撃、振動、音。ドラゴン使いだからこそ可能な弱点への対策。「じゃれつく」に苦しめられたからこその対策方法だ。

 

「近付けない!」

「ぐふ!?」

 

 音系の技が得意なジャラランガだからこそできる戦い方だった。「じゃれつく」ためには近付かなければいけないが、「ばくおんぱ」を撃たれる限り近付けない。

 

(ここまでの威力だなんて想定外よ!チラチーノじゃ近付けない・・・!)

「ロックブラスト!」

 

 なんとか遠距離から攻撃を狙うが、頑丈で分厚い鱗に阻まれ思うようにダメージが通らない。ルリミゾたちに今できることはひとつ。

 

「ひかりのかべ!」

 

 が、ジムリーダー1位は隙を見逃さない。

 

「今だ!『ソウルビート』!」

 

 しまった、とルリミゾが思うよりも先、咆哮と共に鱗を震わせ、力を漲らせるジャラランガ。特殊を含めた攻防、素早さのすべてを上昇させるジャラランガの専用技だ。

 

(まずいまずいまずいまずい!)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「チラチーノ、まさかの『じゃれつく』ですが流石ドラゴン使い、対策を用意していました!ジャラランガが吠えます!」

「これは『ソウルビート』ですねぇ!1位らしい真正面から相手を叩き潰す戦法です。よくあのチラチーノ相手に発動させましたよ!」

 

 ジャラランガの専用技「ソウルビート」は自らを激しく震わせ能力を上げる代償に、体力を大きく消耗してしまう。隙も大きいため発動させる機会はそうない。

 

「これ、ルリミゾ選手にジャラランガを止める手段はあるのでしょうか?」

「正直これは・・・厳しいかもしれません」

 

 連勝が止まるかもしれませんね、というカキタ。そして観客席から実況席へと伝わるどよめきで視線をフィールドに戻した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(『ひかりのかべ』は貼れたけど、『じゃれつく』をとにかく当てないと残りのポケモンではジャラランガが止まらない・・・!)

「落ち着いて相手の攻撃を待つわよ」

「ぐふー・・・!」

 

 ルリミゾの声が届く距離へ戻り攻撃に備えるチラチーノ。ジャラランガは既にこちらへ走り出しており攻撃態勢だ。

 

(『インファイト』?それとも『スケイルノイズ』?命中率の低い『きあいだま』はチラチーノ相手に撃たないはず・・・)

 

 ルリミゾが思考した一瞬の間。急加速したジャラランガはチラチーノの目の前にいた。

(そんな!?速すぎる!)

「じゃれ――」

「遅い」

 

パリィン

 

 チラチーノが吹き飛び、「ひかりのかべ」が割れた。

 

「『かわらわり』・・・!」

 

 バウンドして動かなくなったチラチーノを戻し、30秒をギリギリまで使って打開策を考える。

 

(バイウールーは特殊攻撃相手に出せない!能力が上昇したジャラランガ相手にイエッサンで撃ち合いはしたくない・・・!)

 

「ウォーグル・・・!お願い!」

 

 空に舞い上がるゆうもうポケモン。ルリミゾの窮地を何度も救ってきた。ネズの時のリベンジだ。相手は再び音波の技が得意なポケモン。ルリミゾとの連携が試される。

 

「さあ、相手は違うけどリベンジよ」

「クァアア!!」

 

 頼もしいな、と思いながら指示したのは「ブレイブバード」。技の反動でダメージを負うものの、今のジャラランガを一撃で落とせる可能性があるのはこの技しかない。

 

「飛べ!高く!高く!」

 

 ただひたすらに叫ぶ。それ以外の指示を知らないかのようにひたすら。残された逆転の手はこれしか残っていない。

 

「迎撃だ」

 

 それだけ言って、ジャラランガと共に空を見つめるキバナ。砂嵐は未だに吹き荒れている。

 

――まるで一秒にも、十秒にも、一分にも、十分にも感じられるような極限の集中のなか、一言も発さずに空を見るキバナとルリミゾ。

 

 

 

 

 

 

 

「やれ!」

 

 風を切る。砂嵐の合間、わずかに見えたジャラランガ目掛けて突撃する。すべてはルリミゾを信じて。

 

(噂ではネズが撃ち落したらしいが・・・俺サマにもできるはずだ)

 

 

 

「まだだ・・・」

 

 待ち構えるキバナとジャラランガ。

 

「クァア・・・!」

 

 近付く。スタジアムが、観客が、壁の広告が、ジャラランガが。

 

 

 

 

 

「スケイルノイズ!」

 

 

 あまりの爆音にスタジアムの観客が耳を塞ぐ。遅れた者は砂嵐の音も歓声も一時的に聞こえなくなるほど。

 

 ルリミゾは呆然としていた。情報を得るために視覚、聴覚ともに全開で機能させていたから。今、何も聞こえない。

 

 

 

 そして何よりも――

 

「ウォーグル戦闘不能!」

 

 相棒が墜ちた。

 



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27-vsキバナ メジャージムリーグ⑧

 

「ああ」

 

 手が震える。たった一手。それも積み技ひとつ。有利に運んでいたはずの試合が一気に不利、どころかほぼ詰み。

 

「イエッサン」

 

 ルリミゾの感情を察知したのか、あまり良い表情ではない。

 

「マジカルシャイン」

 

 イエッサンが光り、それから――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

「ん・・・もう19時か・・・」

 

 目が覚めたのは夜。すっかり暗くなったカーテンの向こうに意識を向けるも、すぐに布団に潜る。試合から二日、ルリミゾは家から出ていない。たかが一敗、されど一敗。町の期待を、ジムトレーナーたちの期待を、自身の未来を背負って戦うという初めての経験、そして敗北して初めて感じた重圧。

 

(好き勝手暴れている時にはこんな気持ちなかったのに)

 

 シンオウで少年に負けた時。ただ良い勝負ができたという楽しさで笑っていられた。道を開けて、素直に退散したのを覚えている。

 

(勝ってる時には何も感じてなかったけど、何かを背負って負けることがこんなにも・・・)

 

 苦しい。

 

 自分が倒してきたジムリーダー、警備員、リーグスタッフ、それぞれ何かを背負っていたのだろう。ルリミゾ自身も故郷への帰還という目標が懸かっていたものの、負けたことがないから自覚していなかった。

 

(お腹すいた・・・でも動く気にもなれない・・・) 

 

 二日も暗い部屋で過ごしている不摂生、それと敗北の傷心、どちらもルリミゾを絞めつけている。またスマホロトムが光って震えた。ノマやジムトレーナーからの連絡だろう。真っ暗な部屋で目が慣れていないためやけに眩しい。閉め切った部屋の空気が気持ち悪い。

 

(何が悪かった・・・?ポケモンたちはベストを尽くしてくれた。勝ちに導けなかったのは)

 

 夜が更ける。そうしてまた、少しの覚醒のあとに眠りについた。それの繰り返し。

 

・・・

 

 三日目。ついに結論に辿り着いた。

 

「焦燥が足りない・・・!こんなにも故郷に餓えているのに!」

 

 帰ることが果たされなければ、真に生きることなどできないというのに。思わず笑う。

 

「どうして去る世界に情なんて感じていたのかしら!あたしが背負ってるのは帰る使命だけなのに!」

 

 町の期待も、ジムトレーナーの期待も、最後には関係なくなるというのに。

 

「これが挫折!知らなかった!」

 

 もっと強くなれる。そんな気がした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 コンコン、とドアをノックする。今日で三日目。ノマはただルリミゾが立ち直ることを信じて毎日家を訪れていた。

 

「待たせたわね」

 

 ガチャリ、とすぐに開いたドアから出てきたのは、ぼさぼさの髪と隈を作ったルリミゾ。やけに恐ろしく見える笑みを湛えながら。

 

「すぐに準備してジムに戻るわ。悪かったわね。もう大丈夫よ」

 

 想像よりも憔悴した姿に言葉が出なかった。最速のジムチャレンジャーはちょうどカブを突破したところだと聞く。タイミングとしては丁度立ち直ってくれて良かったと感じているが、ここまで思い詰めているとは予想すらしていなかった。ジムにいない理由も、ワイルドエリアに訪れたり、何か他の事をして発散しているのだと思っていた。町の誰もルリミゾを見ていないということを知ってから、部屋に籠っているのだと気付いたのはキバナとの試合から二日目。

 

「眩しいわね、珍しく晴れているなんて」

「ああ」

 

 一昨日も晴れていた、とは言わなかった。自分より強いトレーナーが味わう敗北、その想像はノマには全く不可能だった。だからその精神がどう立ち直ったのか、今どういう状況なのか、量りかねている。負けたルリミゾにどう言葉をかければいいのかわからなかった。今こそ言葉を何かかけるべきだろう。

 

「その、今回お前がキバナに負けても俺たちジムトレーナーは――」

 

「いいのよ、()()()()()()()

 

 いつかの出会いの日のように遮られる。ノマはなんだかそれを思い出してふっと笑う。

 

「何よまた急に笑って。きもちわる」

「三日も引きこもって、俺ら全員大変だったんだぞ!?」

「だから悪かったって!ジム着いたらバトルするわよ!」

 

 ボコボコにしてあげる!と少し大きな声で言うルリミゾ。それがいつかを思い出しておかしくて、また笑う。キルクスのジムリーダーは完全復活したようだった。

 

 ずれていく。確実に、少しずつ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その夜、ルリミゾはひとりでキルクスの入り江を歩いていた。冷たい風が凍みるが、まだ少し傷の癒えていない心にはちょうどよかった。

 

「あの試合、対策に固執しすぎていたわね」

 

 勝ちたいがために、自分本来の戦い方とは違う戦い方をした。その結果、想定外のワンプレーで完全に崩された。しばらく冷静に振り返れなかったが、この夜風と凍てつくような雪の中でなら落ち着いていられた。

 

「交代戦は悪手に変わりないけど、一体ずつ倒す仕方ならまだわからなかったはず」

 

 種族の差をあれほど強く意識するということは、ポケモンを心の底から信じられていなかった証拠。よほど相性が悪くない限り、一対一なら勝負できたはずだった。それから逃げ、対策に拘っていたのはルリミゾの落ち度。そして不慣れな応援、高揚に浮かれていた。今ならただ冷静に戦える。

 

「二周目で絶対に倒して優勝決定戦に持ち込む」

 

 まだ一位が絶たれたわけではない。ルリミゾが全勝すれば、あるいはキバナがどこかで負ければ優勝決定戦に持ち込める。少なくとも直接対決を制さなければ道は開けないだろうが。

 

「ジムリーダーとしての顔、ね」

 

 この世界の住人でもないのに、まるでジムリーダーになったかのように錯覚していた。あくまで帰還するという目的のための手段だったのに。

 

「いずれ別れるんだから、情を移してはいけない」

 

 声に出して、自分に言い聞かせる。見上げた月は返事をするかのように明るかった。

 




タイトル詐欺ですね。
初めて一日、更新を絶やしました。展開は決まってただけに本当に難産でした。
一週目の試合もあと4試合、濃密な試合を描きます。よろしくお願いします。
評価・感想励みになります。いつもありがとうございます。
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読んでくださりありがとうございました。


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28-ジムチャレンジ②

 

「やったぁ!インテレオン!」

 

 クールに佇むインテレオン。臆病なくせに、こういう時だけカッコつけている。昔の、泣いては「みずでっぽう」を乱射していた姿を思い出して口元がゆるむ。ユウリは今、キルクスジムで最後に立ち塞がるジムトレーナーを倒したところ。

 

「アイツの目は本当だったんだな・・・」

「どうかしたんですか?」

 

 キツめの目をしたジムトレーナーの独り言に反応してしまったユウリ。ジムトレーナーは微笑みながら親切に答える。

 

「あぁ、いや、うちのジムリーダーが君のことを『あの子は伸びそうですね』と言っていたんだ」

「本当ですか!?」

 

 かなり柔らかい口調に翻訳されてるが、言っていた内容は同じだ。

 

「ああ。俺とその話をしたからね。次はうちのリーダーとの試合だ。回復施設を使うといい」

「はい!ありがとうございます!」

 

 ずいぶん親しいジムトレーナーらしい。案内されて出口へついていく。少しの緊張と、憧れたトレーナーと戦える嬉しさが八割だった。

 

「ジム、綺麗だな・・・」

「そうだろ?俺たちがちゃんと掃除してるからな」

 

 こちらの独り言も聞こえていたらしい。ここでの勤務に誇りをもっているようだ。

 

「ルリミゾさんは優しいですか?」

「いや、えーっとな、ああ、優しいよ、うん」

 

 少し吃りながら答えてくれた。気恥ずかしいのだろうか。きっとルリミゾさんは優しいに違いない。

 

「ジムミッションの仕掛けはどうだった?挑戦したのは君が最初だからね、感想を聞かせてくれ」

 

 調整を任されているんだ、と少し遠くを見つめながら言うジムトレーナー。なかなか苦労しているらしい。

 

「楽しかったです!」

「ああ、いやそういう感想じゃなくて、難易度の話だ」

 

 顔に熱が昇るのを感じる。慌てて難易度について考える。

 

「あっ、えっと、ちょっと簡単だったかな?いや、やっぱり普通だったかも!」

「そうか、ならこのままにしよう」

 

 キルクスジムのジムミッションは、ダウジングマシンを渡される。それを使ってノーマルタイプの無機質なデザインの床に設置された落とし穴を避けながら進むのだ。ユウリが落とし穴に落ちたのは三回ほど。濃霧が発生させられていて視界が悪く、ジムトレーナーと鉢合わせればバトルを強制される。毎年一人は上手く落とし穴とジムトレーナーをすべて避け続けるチャレンジャーがいるので、このジムトレーナーが最後に待ち構えて試すらしい。

 

「調整ってどんなことするんですか?」

「あまり詳しく言えないが、ジムトレーナーと鉢合わせしやすいように落とし穴の場所を変えたり、ジムトレーナーのポケモンを強くしたりだな」

「大変なんですね・・・」

 

 雑談しながらポケモンの回復を待つ。

 

 

・・・

 

 

 三十分と少し、回復装置が音楽を鳴らし回復が終わったことを告げる。おかげで心の準備は万端だ。ジムトレーナーに案内されてフィールドへ向かう。心臓から手の先までが知覚感覚で貫かれているような、冴えわたる緊張。程よい緊張はパフォーマンスを向上させる、なんて聞いたことがある。それなら今の自分の状態は結構いいカンジなんだろうな、とユウリは思った。

 

「まあきっと、君なら大丈夫だろう。健闘を祈るよ」

「ありがとうございます!頑張ります!」

 

 通路に着けば、案内は終わり。ここからは自分で歩いてフィールドに入場しなければならない。既に熱気が通路にまで入り込んで空気を震わせている。この先に憧れたトレーナーがいる。昂りが抑えれなくて口元が弧を描く。

 

「さあ、行こうか」

 

 腰のボールたちに語り掛ける。揺れることはないが、頷いていることは絆でわかる。一歩、一歩と踏み出すたびに暗い通路から明るいフィールドへと目が慣れていく。歓声が近づく。

 

ワァアアアアアアアア 

 

 徐々の明暗から一転、フィールドに足を踏み入れた瞬間にハッキリと聞こえる声、声、声。そして、何よりも――

 

「やっとキルクスで会えましたね」

 

 声の主、ユウリの対面で立っているのはキルクスタウンジムリーダー、ルリミゾ。

 

「バウタウンからずっと、待っていましたよ」

「待たせすぎないように一番乗りで来ましたから!」

 

 と、答えたユウリのユニフォームを見て固まるルリミゾ。エンジンシティで買ったレプリカなので、番号以外はまったく同じだ。ルリミゾの880を真似したかったが、ホップに止められた。本人にファンであることを打ち明けるのは少し勇気がいるな、なんて思いながら。

 

「ファンです。マクワさんとの入れ替え戦からずっと」

 

 これに勝ったらサインください、と伝えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 自分のバトルで人を惹きつけることが、こんなにも嬉しいなんて。

 

――ああ、どうして自分はこの世界の住人ではないんだろう

 

 答えは出ない。だからルリミゾに出来ることは、この世界に何も未練を残さないこと。何も背負わないこと。敗北からずっと、苦しんでいる。自分が異世界から来た確かな証拠は、頭の中の記憶だけ。ポケモンたちは言葉を話さないし、相談することもできない。何が足りないのか、何が最善なのか。わからないことを、慣れない頭でひとりで考えるのは気が狂いそうだった。

 

(あたしはこのスタジアムの全員、そしてジムトレーナー、ファンも騙して元の世界に帰らなければならない。帰り道には誰もいない)

 

「あたしのでよければ、書いてあげますよ。でもまずは勝ってみせてくださいね」

 

 今までなら上手く笑えたのに、笑顔を作れない。気持ちに揺られて演技ができない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(クールでカッコいいなあ)

 

 なんて思いながら背を向けて所定の位置へ向かうユウリ。ルリミゾから離れるにつれて、インテレオンのボールが震えていたのが収まった。ユウリと同じように高揚しているのだろうか?

 

「どんなポケモンが出てくるんだろう・・・」

 

 ジムリーグとは違って、ジムチャレンジャーを試すためのポケモンたちが繰り出されるはずだが、ユウリは一番乗りのため一切情報がない。ノーマルタイプのポケモンだろうことは予測がつくので、頭の中で一番手を決めた。

 

「さあ、戦いましょう」

 

 白い息を吐きだしながら、抑揚のない声でルリミゾが言う。

 

「よろしくお願いします!」

 

ジムリーダーの ルリミゾが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 俯いて一度、深呼吸。それからボールを捨てるように、上に向けた手のひらから投げるルリミゾ。繰り出されたのはキテルグマ、ノーマル/格闘のごうわんポケモンだ。

 

「ウインディ!」

「ガウ!」

 

 吠えて威嚇するウインディにキテルグマが怯える。ノーマルタイプは物理攻撃の得意なポケモンが多いから、一番手に選んで正解だった。ユウリのポケモンたちはあまり耐久力に優れているわけではないので、少しでも対面で有利なマッチアップを作ることが重要だ。キテルグマは、バイウールーと同じように「もふもふ」していて直接攻撃のダメージが半減されるが、炎技のダメージにとても弱い。

 

「さあ、行くよ!『おにび』!」

「じしん!」

 

 相手を火傷にする特殊技「おにび」はエンジンシティを突破した際にカブから貰った技マシン。バトルに関して全くの素人だったユウリも、前半三つの街を抜けてもう一般的なトレーナーよりも上のレベルに達している。事前に考えておいた策だ。

 

「これで耐えられるよね?ウインディ!」

「アウ!」

 

 威嚇され、さらに火傷を負ったことでキテルグマは攻撃にほとんど力が入らない。ウインディに効果抜群の「じしん」だったが、まだまだピンピンしている。

 

「ターフタウンから本当に成長しましたね」

 

 ルリミゾが小さく言ったのを聞き逃さなかったユウリだが、ターフタウンで会った記憶がない。

 

「え?ターフタウンですか?」

「えっ!?あ、んんっ、バウタウンですね、近いから間違えてしまいました。ジムチャレンジの様子を見ていましたから」

「本当ですか!?」

 

 やけに言い間違いに動揺しているルリミゾだが、ユウリは自分の戦いを見てもらっていたことの嬉しさで気付かない。

 

「ええ、きっと強くなると信じていましたよ」

 

 ルリミゾがそう言い切ると同時、キテルグマが走り出す。攻撃力も下げられ、火傷を負っているはずなのに。ユウリは不審に思いながらも、自らの優勢に乗って攻撃の指示を出す。

 

「フレアドライブ!」

 

 炎を纏ったウインディが一体となって駆ける。対するキテルグマも大きく拳を振りかぶって――

 

ボッ

 

 ユウリの真横をオレンジが吹き飛んだ。遅れて炎の熱と風で髪が揺れ、緑の帽子が落ちる。気味の悪いほど静まり返ったフィールドにルリミゾの声が響く。

 

「『からげんき』、不利な時ほど強い技です。ノーマルタイプだからといって器用貧乏なわけじゃない。殴り合いならうちのキテルグマはとても強いですよ」

 

 なんとか起き上がったウインディを撫でて戦闘続行できることを確かめる。壁にぶつかったりしていないおかげで、体勢を立て直せたようだ。

 

「想定外だね…まだいける?」

「ガウ!」

「よし!がんばろ!」

 

 ルリミゾとキテルグマを見据えてウインディと共に立ち上がる。

 

「かなりダメージが入ったと思いましたが、よく耐えましたね。搦め手を混ぜた良い戦術でしたが、あたしが見たいのはあなたの才覚。想定してた手を潰された時、どう動くのか、どう足掻くのか、見せてもらいますよ」

 

 それでこそ憧れ、それでこそ目標。今までのジムチャレンジと全く違うバトルの展開に冷や汗をかきながらも、ユウリは目の前の壁に言い表せない安堵、尊敬を感じていた。隣でウインディの炎が揺れている。空の色は白、雪がはらはらと舞い始めた。

 




忙しくて少し時間が空いてしまいました。楽しみに待ってくださっていた方がいればすみません。年末年始は少しペースが乱れるかもしれません。頭の中で話は最後まで決まっていますが、間のバトルや細かい展開は書き出していないので時間がかかります。
ちなみにルリミゾの番号は880(やばん)です。

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誤字報告助かります。ほんとに。
今回も読んでくださりありがとうございました。メリクリ。


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29-ジムチャレンジ③

 

(吹き飛ばされたとはいえ、さっきの『フレアドライブ』は当たってたはず)

 

 体のあちこちが焦げているキテルグマ。あまり表情の違いはわからないが、きっとかなりのダメージを負っているだろう。お互い次の攻防で倒れてもおかしくない。しかしユウリにそんな選択をする必要はない。なぜなら――

 

「ロトム!」

 

 厄介な「からげんき」を躱せるロトムが裏にいるから。直接対面すれば、何の電化製品にも入っていないロトムは「DDラリアット」の一撃で沈んでしまう。ウインディに威嚇され、火傷を負った今だからこそ繰り出す最高のタイミングだ。

 

「くー!!」

 

 実体のないロトムをすり抜ける拳。やはり「からげんき」を撃っていた。今更悪タイプの技、「DDラリアット」を撃ってもほとんどダメージは通らないだろう。今こそ、()()()()()()()()()だ。

 

「ルカリオ!」

 

 あえて「わるだくみ」を積まずに更にルカリオに交代する。正義の心を持ったこのルカリオは、悪タイプの技を受けることによって攻撃力を高める。キテルグマは既に腕を水平にして「DDラリアット」の体勢、今更変更は間に合わない。

 

「ルオオオオ!」

 

 吠えるルカリオ。全くといっていいほどダメージは通っていない。手持ちのポケモンの情報を知られていないのはユウリも同じだ。ルカリオはエンジンシティを抜けてから仲間になっている。手持ちの四匹、全てを知られてしまったものの、攻撃力の上がったルカリオを場に出せたことで完全にユウリが主導権を握っている。

 

「インファイト!」

「ばかぢから」

 

 ルカリオの拳とキテルグマの拳が交差――せず。キテルグマはもはや非力、とてもルカリオとは打ち合えない。一撃ごとに、一方的に、大きな体がブレ続け、もふもふを貫通して拳が突き刺さる。

 

「キテルグマ戦闘不能!」

「・・・・・・」

 

 ラッシュの最後の一撃で吹き飛ぶ。ドサ、と鈍い音とともに地面に落ちたキテルグマ。目を回して気絶している。ルカリオは防御に隙ができたものの疲れなく立っている。

 

「・・・・・・素晴らしい!あたしの目に狂いはなかった!」

 

 狂気の入り混じったようなルリミゾの笑顔にたじろぐ。今までのクールで落ち着いた印象からはかけ離れた表情、両手を仰ぐかのように持ち上げた大げさなポーズ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「何やってんだアイツ・・・」

 

 観客席で戦いを見ていたノマはただただ困惑していた。折角これまでずっと落ち着いたジムリーダー像を演じていたのに、突然ジムチャレンジャー相手に本性を剥き出しにしている。昂ったのか、全身から溢れ出る野蛮さでジムチャレンジャーも硬直している。

 

「あのルカリオ、『たつじんのおび』を巻いてますね」

 

 隣のジムトレーナーが言う。確かに腰に黒帯が巻いてある。攻撃力を高めた状態のルカリオが放つインファイトは、ルリミゾの手持ち全てに効果抜群だ。「たつじんのおび」によって効果抜群の技が普通よりも上手く撃てる以上、ルリミゾの今の手持ちではかなり厳しい展開だろう。

 

「アイツの残りは確か、ペルシアンと、ケンホロウと、カビゴンだったよな?」

「ええ、カビゴンはジムチャレンジ用の個体ですが・・・」

「にゃあ」

 

 席の後ろをペルシアンが通った。

 

「「え?」」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「アンタを試すのには一工夫しないとね!あたし最高に楽しいわ!ねえ、ユウリ!」

「は、はいっ!?」

 

 突然名前を呼ばれて心臓が跳ねる。ルリミゾがこのジムチャレンジを心から楽しんでいるのが伝わる。ユウリも心の底から楽しかった。教えの上手い先生に導かれるような感覚。

 

「楽しいです!とっても!!」

「サイッコーね!」

 

 叫ぶルリミゾから繰り出されたのはピンクのぐにゃぐにゃ、メタモン・・・

 

「メタモン!?」

「そいつは『かわりもの』よ!本来の手持ちとは違うけど、ユウリなら突破できるでしょ?」

「ルオオオオオ!」

 

 あっという間にルカリオの姿を真似たメタモンが力強く咆哮する。攻撃力の上昇や防御の低下まで真似ているようだ。メタモンを相手にすることなんて当然初めて。最善策は知らない。得られる情報を最大限に探す。

 

(『DDラリアット』で受けた傷がコピーされてない、ということは――①ルカリオの万全の体力をコピーしている②体力はコピーされない――のどちらかのはず。技はコピーされるって聞いたことがある。道具は見た感じ持っていないからコピーされない。攻撃力や防御を『今』参照してコピーするなら、体力のコピー時も傷をコピーするはず・・・!それなら体力はおそらくコピーしない!なら撃ってくる技は――)

 

 予測を立てて、指示を出した。

 

「メタモン、しんそく」

「やっぱり!ルカリオ、今!」

 

 瞬間、ルカリオの目の前に現れるメタモン。しかしルカリオは右拳を溜めて、左手は上段でガードを構えている。

 

「カウンター!」

 

 反撃が炸裂した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「惚れ惚れ・・・いや、嫉妬すらしそうな程の才能ね」

 

 これほどとは。ルリミゾは興奮が一周回って落ち着いていた。おそらく初見であろう「かわりもの」メタモンへの対処。メタモンは体力をコピーできないため、完全なミラーマッチにはならない。殴り合いをすれば不利だ。だからこそルカリオの「インファイト」の大振りを避けるために「しんそく」でヒットアンドアウェイを狙った指示だったが、ユウリはこの一瞬でメタモンの特性を見抜き、「カウンター」まで指示していた。

 

「メタモン、まだいける?」

「メ・・・ルオ!」

「鳴き声まで無理して真似なくていいのよ・・・」

 

 かろうじて戦闘不能にはなっていないが、次の指示で上手くやらなければ一方的に倒されてしまうだけになる。残りの手持ちは場に出ているのを除いてあと二匹。対してユウリは三匹、しかもダメージを負っているのはウインディとルカリオだけ。

 

「倒されることが役目ってのもツラいところね。もう十分バッジを手にする実力はわかりきっているのだから、ゼンリョク出しちゃダメかしら」

 

 ユウリのトレーナーとしての成長に昂って完全に本性を晒してしまった。どうせ去る世界だ、どうにでもなれ、と取り繕うことをやめた。人気を得たからといって元の世界に帰れるわけでもないし、嫌われたからといって帰れないわけではない。これまではクイズのように、回答を迫るバトルを行ってきていたが、もう十分にユウリの実力は示された。バッジ4つ程度の力ではない。ルリミゾも楽しませてもらおう。

 

「ま、受け入れられなくても上等よ。『―――』」

 

 メタモンに指示を出した。ここからはジムバッジ取得の試練ではない。ルリミゾの戦闘欲求を満たすためだけの戦いだ。ユウリの気持ちは一切考慮していないが、きっとわかってくれると何故か確信していた。情を捨てると決めたのに。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「雰囲気が変わった」

 

 ユウリを見て、微笑むルリミゾ。しかし発される空気は張り詰めている。さっきまでは生徒を導く教師のような雰囲気だったのが、今にも襲わんとする野生の圧がある。これから始まるのは「試練」ではなく「戦闘」だとユウリは直感していた。

 

「さあ、()()()()。準備はいい?」

「・・・!はい!」

 

 答え合わせのように言葉をなぞるルリミゾ。ユウリは意味を理解して頷いた。ジムリーダーの義務を投げ捨てて、相手として認めてくれたことが何よりも嬉しい。ユウリは自分が他のトレーナーよりも卓越していることは薄々勘付いていた。わからないほど愚かでもないが、確信するほど自惚れているわけでもなかったから、普通のつもりで戦ってきた。

 

――それが今、原体験に認められて戦いが出来る。自らの天賦の才に感謝した。

 




制限つきのバトルは難しいですね。遂に職務放棄すら始めた主人公の明日はどこへ。
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30-ジムチャレンジ④

 

 ユウリの額に汗が流れる。眉に感じる水滴を手で拭って、視界に支障がないように。目の前の相手が今から全力で倒しにくることは理解している。

 

「メタモン、行け!」

 

 ルカリオの姿を真似たメタモンが走り来る。何を指示したのか思考を巡らせる。「インファイト」を指示していたならば、撃ち合いで絶対に勝てる。メタモンはほぼ瀕死、対してルカリオは全快の半分ほど。だから「インファイト」ではなく削るための「しんそく」が考えられる。しかし先ほど「カウンター」を見せたから迂闊には撃てないはず。ここから切り替えて逆転を狙ってくるとすれば、何か()()()()の一手が・・・

 

(そうか、『きしかいせい』・・・!)

 

 瀕死に近ければ近いほど、威力の出る大技「きしかいせい」だ。ユウリはルカリオに使わせたことがなかったが、進化した時に図鑑で確認したことがある。当たればルカリオは一撃でやられてしまうが、凌いでしまえばもう相手は虫の息だ。

 

「まもる!」

 

 だからガード。腕をクロスさせ、衝撃に備えるルカリオ。メタモンは右の大振り、拳が光ってすさまじいエネルギーを感じる。やはり「きしかいせい」。「まもる」越しでもダメージを受けたとしても、そこまで痛手にはならないはずだ。そう思っていた。

 

――次の瞬間、エネルギーを霧散させ、ルカリオの背後で裏拳の姿勢を取っているメタモンを見るまでは。

 

「フェイント!?」

 

 背中からの衝撃に仰け反りながら吹き飛ばされるルカリオ。

 

「大丈夫!?」

「ルオオ!」

 

 フェイントの指示。それが意味するのは、こちらの思考が完全に読まれていたということ。ルカリオは体勢を立て直しているが、体力の差を縮められてしまった。メタモンにこれほど圧を感じるのは、人生において今日が最初で最後だろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「経験の差、っていうとなんだかあたしが年寄りみたいで嫌ね」

「メタ!」

 

 ルカリオが「きしかいせい」を使えることを、ユウリは導き出すと確信していた。だから「フェイント」に切り替えて正解だった。まだ追いついたわけではないが、体力の差はほとんど僅差だ。

 

「色んな手が思い浮かぶから、いざ対人になると大変よね」

 

 混乱している様子のユウリを眺める。頭の中にあらゆる可能性が思い浮かんで、相手を観察する余裕がないようだ。才能があるがゆえに、対人で相手の動きを知ることができていない。ルリミゾの癖や傾向を把握できていればこの勝負はとっくにルリミゾが負けていたはずだった。

 

「がんせきふうじ」

 

 フィールドの地面を叩きつけ、岩石を吹き飛ばすメタモン。距離を詰めての殴り合いは絶対に避けたいので、絡め手で攻める。

 

「砕いて!」

 

 後手に回ったユウリはルカリオが被弾しないよう指示をするが、ルカリオは飛んできた岩石を砕くのに手間取っている。

 

「さあ、今よ」

「メタァ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「消えた・・・!?」

 

 メタモンが「がんせきふうじ」を放った直後、姿を消した。辺りに散らばる人ほどの岩石と、立てられた砂埃。淀みなく、テンポを見出さないように次の指示を出さねばならない。ルカリオは疑うことなく真っ直ぐにユウリの方を見ている。応えなければ。

 

「『あなをほる』だよ!下から来る!」

「ルオ!」

 

 地面に気を配りながら駆けるルカリオ。「あなをほる」への対処はただ走り抜けること。直下から食らえば大ダメージは免れないので、返しの攻撃を狙うために走って距離を取る。

 

「どこだ・・・」

 

 少しも動かない地面に不安になる。ルカリオのカバーができるよう最大限、土の盛り上がりを探す。地面に目を向けて、少しのヒントも見逃さないように。

 

「時間稼ぎ・・・?にしても理由がないし・・・」

 

 と、不意に、観客の声が大きくなって思わず顔を上げる。

 

「メタアァァ!」

 

そこには大きく飛び上がったメタモンの姿が――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「『とびひざげり』か!」

 

 ノマが納得したように叫ぶ。歓声は最大、スタジアムが揺れる。観客の興奮でノマの声がかき消されるほど。

 

「『がんせきふうじ』で目眩ましをして、その岩の裏に隠れていたのか」

 

 ジムチャレンジャーのあの才能なら、すぐに「あなをほる」が思い浮かんだであろうことは容易に予想できる。そこで上からの奇襲。地面を注視していたユウリとルカリオは完全に意表を突かれたことだろう。相手の実力を見極めたうえで、その裏をかくのはルリミゾの十八番。ノマが「ひかりのかべ」でやられたのも同じ手法だ。

 

「本当に・・・」

 

 奇策が上手いトレーナーだな、と思うノマ。何を考えているのかわからない。同格や、それ以上のトレーナーには策が破られることがあるものの、格下にはハマることが多い。

 

「ルカリオ戦闘不能!」

 

 ジャッジの声が歓声の中でかすかに聞こえた。背中に「とびひざげり」がクリーンヒットしてルカリオはダウン。正面からの殴り合いを徹底して避ける、メタモンを活かした戦法が完全に刺さっている。

 

「誰を出すんでしょうかね、僕の予想だと――」

 

――インテレオン、そう隣のジムトレーナーが言うと同時、細長い影が繰り出された。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うーん、綺麗にハマると気持ちいいわね」

 

 愉快そうに笑うルリミゾ。ユウリが目指すべきだったのは「がんせきふうじ」の迎撃ではなくメタモンとの真っ向からの殴り合い。相手が何をしてくるかわからない状況、というのは基本的に避けるべき状況だ。本来ユウリが優勢で主導権を握れていたのに、ルリミゾのプレッシャーで後手に回っていたのが大きな原因だろう。

 

「試練じゃないけど、良い学びにはなったかしらね」

「メ!」

 

 わかっているのか、わかっていないのか、相槌を打つメタモン。上手く作戦を実行してくれたので頭を撫でる。他のポケモンに変身するということは、全く違う身体を得るということ。その上で一度も使ったことのないような技を使ってオリジナルの相手と戦わなければならない。バトルにおけるメタモンの使用率が低いのは、そういう戦いの才能を要求されるからだ。

 

「あと三匹、こっちもあと三匹だからイーブンよ。さあ、楽しい戦いにしましょう」

「メタメタ!」

 

 もはや鳴き声を真似る余裕はないらしい。あと少し、頑張ってもらおう。ルリミゾの隣から岩に向かって駆けるメタモン。次のポケモンが来る前に姿を隠す。

 

「インテレオン!」

 

 苦々しい表情をしながらも、楽しそうなユウリが繰り出したのはインテレオン。ルカリオをコピーしたメタモンのスピードを上回り、遠距離から被害なく抑えるつもりなのだろう。

 

「ねらいうち!」

「そう甘くはないわよ『はどうだん』!」

 

 接近しても引きながら遠距離で撃たれるなら、撃ち合いをするまで。繰り出されたばかりで平地に着地したインテレオンと異なり、メタモンは既に「がんせきふうじ」で積みあがった岩々に隠れている。メタモンは今、生き物の波動を察知するルカリオをコピーしているため、インテレオンの場所がわかる。一方インテレオンは岩ごと貫通するように狙いを定める、もしくはメタモンが姿を現したところを後手に回って撃たなければならない。一瞬の逡巡のあと、おおよその位置をユウリが叫ぶ。

 

「右の岩、大きいやつの左側!」

「連射しなさい!回避は任せるわ!」

 

 インテレオンが指先から細く鋭い水を噴射、岩は砕け、メタモンの頬を掠める。が、既に発射の体勢に入っているメタモンの集中は途切れず、バレーボール大の弾を放つ。続けて纏った波動から二発、三発と身を翻しながら連射。

 

(避けさせる方向がわからない・・・!とにかく指示を出さないと!)

「右!それから――」

 

ボッ!

 

 吹き飛ぶインテレオン。指示が遅かった。ポケモンに任せるべきだっただろう、とルリミゾはユウリの未熟さを見抜く。一流のトレーナーは指示とポケモンの自己判断のバランスを熟知している。回避の得意なポケモンや、狙いを付けるのが上手なポケモンにはあえてポケモン任せで大まかな指示を出すときもある。例えば、チラチーノは自分で判断することができるからルリミゾはフォローに回る。大局を見据えた複雑な動きや、相手の奇策への対応をルリミゾが行い、回避や狙いをつけるのはチラチーノ自身が決めるのだ。

 

(ポケモンだって相手の攻撃は見えてるし、避けるべき方向はなんとなくわかってる。最善を選んであげるのがトレーナーの仕事ね)

 

 左に避けようと思っていた時に、「右に避けろ」と指示されれば一瞬の戸惑いが生じるし、指示を待っている時に指示が来なければ動きは止まる。あまりにも息が合わなければ、野生のポケモンが本能のままに戦う方が強かったりする。もちろんユウリはその程度のレベルではないが、今の被弾は息の合わなさに由来するとルリミゾは確信していた。ポケモンを信じていないわけでもないし、ポケモンがユウリを信じていないわけでもない。ただ、どこからどこまで指示を出すのかが掴み切れていない。

 

「メタモン、『いわくだき』!」

 

 意図を汲んだメタモンが岩を飛び散らせるように砕き、インテレオンの視界を狭める。これでまた隠れて「はどうだん」が撃てる。そう思ったルリミゾだったが、その瞬間、インテレオンがボールに戻っていく。ユウリがボールに戻したようだ。ルリミゾはすぐに行動の意味を理解して、小さく、小さく、呟いた。

 

「そうやってすぐ修正できる才能が羨ましいつってんのよ」

 

 この岩だらけの舞台を作り出し、活用しているのは当然ルリミゾ。なので、何をされたら一番ルリミゾが苦しいかも理解していた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「私がすべきことは、この状況を変えること。迷ったり悩んだりは今すべきじゃないね」

 

 相棒をボールに戻してダイマックス。ダイマックスバンドが光るのを見て観客がさらに歓声を上げる。ユウリへの応援がほとんど、それも当然でこの試合はジムチャレンジだから。マイクで拾われた会話を聞いても、まさかルリミゾが勝負しているなんてわかった観客は少ない。ジムチャレンジは立ち塞がるジムリーダーを倒すのが目的であって勝負とは言いにくいのが普通だ。少し本気でメタモンに指示を出しただけで、この追い上げ。ほぼ無傷でキテルグマを倒したにもかかわらず、もう数的有利は追いつかれ、ダイマックスを切らされている。

 

「いつか、自分の力でこれくらいの歓声を浴びたいね」

 

 手に持ったボールが震える。光る。そして巨大化、両手でなんとか投げる。ルリミゾの土俵を壊して、ユウリが戦えるフィールドへと戻さねばならない。ルリミゾの手のひらの上では絶対に勝てない。ポケモンたちは同じくらいの強さのはず。ならばユウリの得意な土俵に持ち込むしかない。今までジムチャレンジでやってきたあの戦法へ――

 

「全部吹き飛ばして!『ダイジェット』!」

 

 迷いも、あの邪魔な岩も、メタモンも、すべて。

 

 




あけましておめでとうございます。
お酒ばかり飲んでいて、その時に限って筆が乗りますね。
今年もルリミゾ共々よろしくお願いします。

評価・感想いつも励みになります。ありがとうございます。
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読んでくださりありがとうございました。

※追記
格下に強いってなんやねん、ということで少し編集しました。


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31-ジムチャレンジ⑤

 

 風が、もはや嵐のように岩々を吹き飛ばしていく。爽快だな、なんてユウリは思った。メタモンも耐えきれずに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて瀕死。インテレオンが光り、ダイマックスのエネルギーによってより素早くなる。ダイマックスのメリットのひとつだ。技を撃つごとに何かしらポケモンが強化されたり、天候を変えたりすることができる。

 

「メタモン戦闘不能!」

 

 変身が解け、ぐにぐにしたピンクがボールに戻っていく。

 

「やるじゃない」

 

 悔し気に汗を流しながら笑うルリミゾだが、目は笑っていない。次の手を考えているのだろう。それでも楽し気なのは伝わるが、少し怖い。

 

「カビゴン!」

 

 繰り出されたのはカビゴン。ユウリの予想だとおそらく――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ダイマックスだな、ケンホロウじゃ加速したインテレオンには分が悪い」

 

 状況を分析するノマ。ダイジェットによってルリミゾの土俵が崩された。変化技や、一芸のできるポケモンはルリミゾの手持ちにはもういない。

 

(天候や地形、その他諸々をなんとか変えたいと思っているところだろう・・・いや、あの顔は真正面からぶつかり合うつもりか)

 

 ユウリの土俵に立つようだ。ポケモンとの緻密な連携を避けて、トレーナーの読み、プラン立てで勝負しに来たユウリに正面からぶつかるつもりらしい。

 

「あたしは! もう後には退けない!」

 

 そう叫んでいるのがここからでもわかる。大きくなったボールを両手で投げるルリミゾ。とても楽しそうにしているのが羨ましい。いつか自分も、あの場所でルリミゾにリベンジを。そう初心を思い出した。

 

「グオオオオオオ!」

 

 並び立つダイマックスしたポケモンたち。辺りを見渡せば、観客、それにジムトレーナーたちも興奮して叫んでいる。

 

「「「「オーオーオー!!オオオオーオーオー!!」」」」

 

 先手はインテレオン。「ダイストリーム」で極太の水流を発射、ズズズ、と押されるカビゴンだったがさほどダメージはない。空に目をやれば、今放たれたばかりのインテレオンの「ダイストリーム」で雨が降り始めている。それにもかかわらず、肩を組んでそれはそれは楽しそうに応援する観客たち。びしょ濡れでも笑顔だ。ジムチャレンジにしてはあまりに盛り上がっている。当人たちの熱量がそのまま観客に伝わっているようだ。熱いバトルは全ての人を魅了するらしい、とノマは思った。

 

「ダイアタァァァァック!!」

 

 観客席まで聞こえるルリミゾの声。素早さを下げることを狙った「ダイアタック」だ。ダイマックスの解けた先のことを見据えている。先ほどメタモンに「はどうだん」で負わされた傷が響くものの、お互いダイマックスしているためダメージはあまり通っていないだろう。カビゴンは特殊に厚いうえ、ジムチャレンジ用のあのカビゴンは攻撃力が高いわけではない。お互い傷は浅い。ダイマックスしても迫力ある決着が付きにくい、とルリミゾが愚痴っていたのを覚えている。

 

 ズズズ、と凄まじい地響き、それと揺れるカビゴンの巨体。雨の音、歓声、地響き、すべてが合わさって全身を揺さぶる。耳が聞こえなくなる心配をするくらいにスタジアムは音で満ち溢れていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「さあ、カビゴンは硬いわよ」

 

 ルリミゾはニヤリと笑う。メタモンは突破されたものの、カビゴンが完全にインテレオンのストッパーになっている。このまま撃ち合えば先にインテレオンのダイマックスが解け、大ダメージを食らうだろう。このまま殴り合えばルリミゾが勝つ。それを避けるためにユウリが何をしてくるのか推測する。

 

――カビゴンを突破できる可能性があるのはウインディ。「インファイト」で効果抜群を狙ってくるだろう。しかし、キテルグマから受けたダメージがかなり入っているため、威嚇込みでもカビゴンのタイプ一致技「ダイアタック」を耐えられない。だから「ダイアタック」をすかせるロトムにどこかのタイミングで入れ替える可能性がある。

 

(すかされるかもしれない「ダイアタック」や「ダイアース」を撃つよりも「ダイアーク」を撃ち続けたほうがロトムを牽制できる)

「ダイアーク!」

 

――その瞬間、ダイマックスの時間をまだ残していたはずのインテレオンの姿が掻き消え、炎が躍った。

 

「ウインディ!」

 

 ダイマックスしたカビゴンと、平常のウインディ。とんでもない体格差にも関わらず威嚇でカビゴンは怯み、威力が落ちる。が、すぐに黒いオーラを纏った拳が迫り、傷だらけのウインディを吹き飛ばし――

 

「ウインディ戦闘不能!」

 

 耐えなかった。威嚇を入れ、ダイマックスのターンを使わせるための受け出し。耐えると想定していたのだろうか?それにしても交代のタイミングが不審だ。カビゴンは先ほどの時点であと二回、ダイマックスした状態で技を撃つ余裕があった。インテレオンもあと一回はダイマックスを維持して技を撃てたはずだ。ロトムが出てくるならまだしも、ウインディが出てくる理由がわからない。これでカビゴンを突破できるポケモンはいなくなったはずだ。あと一回、ダイマックス技を撃つ余裕がある。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「不自然だ」

 

 観客席のノマも首をかしげる。ユウリがウインディを犠牲にして繰り出したのはまたしてもインテレオン。カビゴンの攻撃を耐えられないだろう。カビゴンを突破できる技があるとも思えない。と、考えたところでインテレオンが妙な動きを始めた。()()()()()()()()()()――

 

「あれは・・・リフレクター!?」

 

 ダイマックスしているカビゴンの黒いオーラを纏った拳がインテレオンに迫る。「ダイアーク」だ。リフレクターを貼っても当然――

 

「インテレオン戦闘不能!」

 

 これで残りはロトムのみ。と考えたところでノマは気付いた。カビゴンの攻撃がほとんどロトムに通らなくなっている状況に。

 

「リフレクターと威嚇、そして今ダイマックスが解けた・・・!『かみくだく』でもほとんど通じないんじゃないか!?」

 

 とはいえ特殊に厚いカビゴンを突破するのは簡単ではない。「10まんボルト」では腹の表面が焦げる程度だろうから、特殊攻撃力を高めるために「わるだくみ」を積む必要があるだろう。

 

「やっぱりな」

 

 いかにも悪そうな笑顔を浮かべて光るロトム。「わるだくみ」だ。対するカビゴンは――と、ルリミゾの側へと視線を向けた時、目に飛び込んできたのは

 

ドン!ドン!ドン!

 

 腹を全力で叩き、太鼓のようにして自らを鼓舞するカビゴン。

 

「はらだいこォ!?」

 

 徹底的に真っ向から戦いに行くつもりらしい。勝利よりもただただ熱い勝負が欲しいらしい。「はらだいこ」とは自らの腹を全力で叩いて鼓舞し、生物としての限界まで攻撃力を高める技。代償は体力の半分。カビゴンはかなりゼエゼエと消耗しているが、きのみを食べてある程度回復したようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「噛み砕けええええええええええ!」

 

 ()()()()()()()ルリミゾが叫ぶ。勝負は単純。ロトムの「10まんボルト」でカビゴンが倒れなければルリミゾの勝ち。今のカビゴンの「かみくだく」はリフレクターすら貫通して一撃でロトムを葬るだろう。もしロトムに牙が届くまでにカビゴンが倒されれば、ユウリの勝ち。「わるだくみ」した状態での「10まんボルト」はかなり痛いが、カビゴンなら――

 

バァン

 

 スタジアムが爆発したと思った。少なくともルリミゾは。固まっている観客たちを見るに、同じことを考えているだろう。ゆっくりと倒れていく黒焦げのカビゴンを見つめながら、心当たりのある技に行き着いた。この威力は「10まんボルト」の威力ではない。

 

――()()()()()()()。これが全てだった。「10まんボルト」などではなかった。命中率が低いため選択肢から勝手に外していた技。雨天下ならば必中の高威力の技。

 

「かみなり!」

 

「カビゴン戦闘不能!」

 

ワアアアアアアアアアアアアア!!

 

 ダイマックスの時間が残っているインテレオンを下げてウインディを出したのも、リフレクターを貼ったのも、全てはロトムに「わるだくみ」をさせて必中の「かみなり」を撃たせるため。インテレオンの「ダイストリーム」で降らせた雨が止む前に、決着を付けるつもりだったのだろう。カビゴンが突破されれば、残りはケンホロウ。ゼンリョクで戦うが、相性があまりにも悪すぎる。かなり厳しいだろう。

 

「修正力、とんでもないわね」

 

 ケンホロウをボールから出しながら、戦いを振り返る。インテレオンのダイマックスを最大限活かし、天候、壁、特性、タイプ相性のすべてを活用して勝ち筋を作り出した。とてもジムバッジ4つのトレーナーの器ではない。ポケモンとの連携が未熟なことを悟り、すぐさま連携以外の勝負に持ち込んだこと。これも試合中に簡単にできることではない。もちろん最初から全力であれば勝っていた自信があるルリミゾだったが、ハンデ付きとはいえ突破されたのは事実だ。素直に勝者を讃える準備をする。もうすぐ後ろまで才能が迫っていることに冷や汗をかく。

 

 成長したユウリと戦いたい気持ちはあれど、最優先目標は帰ること。それでもどこかで、きっと戦うことになる予感がしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 ジムチャレンジの決着がついて少し、ルリミゾはステーキハウス「おいしんボブ」へ足を運んだ。はらはらと降る雪、雲に隠れて太陽は見えないが、だいたいちょうど真上だろう。風はほとんどなく、寒いけれど凍えるほどではない。朝からジムチャレンジャーの対応を終えた自分へのご褒美だ。といってもノマからは「ジムバッジ渡す気あんのか!?」と怒られたが。

 

(私もユウリも楽しんでたし、渡せたし結果オーライよ)

 

 なんて考えながらドアを開く。金属の取っ手が冷たくなっていて凍みる。開いていく隙間から店の温かい空気、それと肉と油の匂いがして思わず涎が出る。

 

「いらっしゃい!一人かい?」

「ひとりで――って、ええ!?」

「ルリミゾさん!?」

 

 ここにいる理由はわからなくもないものの、昼からここに来ているのは予想外。まさかの先客に驚く。とはいえドアを開けっぱなしにしてしまうわけにはいかないので店内に体を滑り込ませながら挨拶をする。

 

「こんにちは。さっきぶりね」

「「「こんにちは!」」

 

 中にいたのはユウリと、ソニアと、ダンデ弟。名前は確か――ホップ。三人とも席に着いたところらしく、カウンターの上は皿だけが載せられている。ユウリはジムバッジを獲得して嬉し気だが、ホップは少し暗い様子。何かあったのだろうか。と、この三人に思考を巡らせるのはここまでにして空いている席を探す。三人でいるところを邪魔するわけにもいかない。それに一人でゆっくりしたい気分だった。

 

「悪いなルリミゾちゃん、カウンターしか空いてねえんだ。その子らの隣で頼むよ」

「わ、わかったわ」

「ジムチャレンジ見たよ。その口調が素かい?」

「ええ」

 

 何か?とでも言いたげな表情をしてしまった。

 

「その方が楽なんだろ?ならそれでいいじゃないか」

「――そうね」

 

 ふっ、と笑いがこみ上げて小さく口を歪めた。その方が楽、その通りだ。

 

「三人でいるところ悪いわね」

「いえいえそんな」

 

 ユウリの隣に座る。バウタウンといい、本当によく出くわす。今回はナックルシティの宝物庫を見学したソニアから何か情報が聞けそうで丁度いい。しかし後から座ったルリミゾが話題を切り出すことはできない。成り行きに任せて、タイミングを探る。

 

「ルリミゾさんは知ってた?あのタペストリー」

「タペストリー?」

 

(店内のタペストリーなんてどうでもいいわよ)

 なんて思いながらソニアが指さす方向を見れば、いつも掛かってあるタペストリー。言われてみればどこかで見たことが・・・

 

「ナックルシティの宝物庫にあったタペストリーの続きなんだ。すごくない!?」

「ええっ!?そんな凄い物だったの!?」

 

 言われてみれば全く同じ絵柄、まさに続きだ。ルリミゾが切り出すまでもなく伝説についての話題を振ってくれて助かった。表向きには一度もナックルシティの宝物庫を訪れたことがないので、それとなく聞く。

 

「宝物庫にはどんなタペストリーがあったの?」

「ガラルに王国が出来たときの話を伝えてたよ。厄災に立ち向かった二人の若者と剣と盾が描かれたんだ」

「二人?英雄って一般には一人って言われてなかったかしら」

「うん。でも二人いたみたいなんだ。それにこの絵・・・」

 

 絵を見れば、剣と盾が描かれた墓を前に悲しむ若者二人。剣と盾を失って悲しむことはあれど、墓を建てるのは不自然だ。

 

「墓・・・?」

「墓を建てて弔うってことは、剣と盾は――」

「生き物、つまりポケモンか人だったかもしれないってこと?」

 

「あいお待ち!」

 

 話の途中だったが、ソニアの料理が出てきた。切り上げて自分の料理を待つ。宝物庫のタペストリーはルリミゾも見たのであまりソニアからの情報には期待していなかったが、予想外に良い情報が得られた。

 

(それにしてもこの町に住んでいながら指摘されるまで気付かなかったなんて・・・)

 

 つくづく向いてないな、と思う。一人で行動するというのは存外大変なものだ。身近にあった手掛かりひとつすら気付けない。

 

(サターンの皮肉ですら恋しいなんて末期ね)

「――――ですか?」

「考え事してたわ、もう一度言ってくれる?」

 

 悪いわね、と軽く謝ってから聞き直す。料理のまだ来ていないユウリが話しかけて来ていたのに気付かなかった。

 

「メタモンは使う予定なかったってホントですか?」

「そうよ。普通あんなクセの強いポケモン、ジムチャレンジの試練に使わないわよ」

 

 じゃあどうして?と言わんばかりの表情に少し笑いながら続ける。

 

「ユウリは強そうだし、その方が楽しめると思ったのよ」

 

 ローズにはチクらないでね、と。ユウリは、ぱあっと笑顔を咲かせながら喜んでいる。読み合い、勝ち筋を作り出す能力はとっくにバッジ8つレベルだが、それをそのまま伝えて成長に支障が出ても困るので、過度には褒めない。

 

「最後、飛行タイプがいるって予想でロトムで二匹を抜くルートに切り替えたのよね?」

「そうですっ!ノーマルタイプの試練なら、格闘タイプに強い飛行タイプが一匹はいるんじゃないかと思って・・・」

「でもウインディを切ったのはリスクがあったでしょ、そこはどう考えてたの」

「ウインディでカビゴン突破を狙うのはあまりにも明らかで、バレバレだから交代戦で勝てないと思ったんです。ルリミゾさんの意表を突けるような戦法じゃないと」

 

 それで納得がいった。カビゴンの裏に飛行タイプが控えてると賭けてのロトムにリソースを割いた戦い方。一か八か、とまではいかなくとも勝つためにユウリはかなりのリスクを背負っていたのだ。

 

「徹底してあたしに負けてる部分での勝負を避けたのね。素晴らしいわ」

「ありがとうございます!」

 

 と、今度はキリの良いところで料理が届いた。ふとホップの皿を見れば・・・

 

(カレー!?ここステーキハウスよ!?ふざけてんの!?)

 

 ジムチャレンジャーはカレーを作ってポケモンと一緒に食べる文化がガラルにはあるが、それでもここのステーキを食べずにジムチャレンジへ来るのは許さない。ホップがステーキを食べるまでジムチャレンジを突破させないことすら脳裏に浮かんでいる。

 

 流石ユウリ、ちゃんとステーキを頼んでいる。昼からとか関係なくここではステーキを食べるべきなのだ。自分の分の山盛りのステーキを食べながら思う。ユウリがちらりとルリミゾの皿を二度見した気がするが気のせいだろう。

 

・・・

 

 食事を終えて、ユウリたちはキルクスの観光へ行くのだという。ルリミゾはキルクスタウンのジムリーダー。当然案内を買って出て、まずは英雄の湯へと向かう。ソニアの考察が聞けるかもしれないので一石二鳥だ。

 

 太陽はまだ高く、雪は変わらずはらはらと降っている。店の内と外の温度差に身を竦みながらも、行先に目を向ければ店を飛び出したホップが英雄の湯の手前で手を振っている。少し距離が取れたので、ユウリと歩きながらホップについて聞く。

 

「店では落ち込んでいるように見えたけど、彼どうしたの?」

「ここに来るまでに、ビートっていう同期のジムチャレンジャーにコテンパンに負けたらしいんです。それで『ダンデの名前に泥を塗っていますね』って言われたらしくて」

「へぇ、そのビートってやつは強いの?」

「結構強いです。グレーの髪にピンクの服で生意気な奴です」

「あー・・・そうなの、殻を破れるといいわね」

 

 思い浮かぶのはエンジンシティでユウリに水をかけられたあの生意気ピンク。恐らくアイツだろう。生意気なのは確かだが、ホップに放った言葉も的外れではない。()()()()()というアイデンティティに生きるなら、ホップが弱いことは許されない。あくまで()()()()()()()()()()()()()、の話だが。

 

「ホップはホップだから、ダンデの名前なんて気にしなくていいのに・・・」

 

 ユウリの言う通りだ。「ダンデの弟」という生まれに引っ張られすぎて、迷っている。チャンピオンの弟を羨む声はよく聞くが、実際は苦しい立場だろう。ホップとは縁もなく、有益な情報も得られなさそうなのでルリミゾから接触することはない。ジムチャレンジで戦うくらいだろう。ルリミゾも三日後にカブとの試合が控えているから深入りするわけにもいかない。

 

「ユウリ!バトルするぞ!」

「ええっ!?」

「うまいカレーライス食ったらやる気がドバドバ出てきた!」

 

 単純なやつだ。しかしそういう人間ほど、自分の力量が正確に見切れていることが多い。今もずっと、ユウリとの差に悩んでいるのだろう。それはそれとして。

 

「ステーキも食べなさい」

「え?」

 

 一瞬の静寂。

 

「おいしんボブでステーキを食べるまでジムチャレンジには来させないわよ」

「わ、わかったぞ・・・」

 

 雪が降っている。

 




いつもよりかなり長くなりました。これでも7000文字ってほんと1万字とか書く人は凄いですね。戦闘が長くなるとだれそうになるので丁度いい長さを見極めないといけませんね。
起死回生…きしかいせい!ソーレッ☆ダダダダダダダ

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32-後日 / XX-迷子

 

 ユウリたちの案内を終えた次の日、ルリミゾはジムに戻りトレーニングをしていた。といってもジムチャレンジャーの相手をして疲れているので軽いものにしている。ジムチャレンジャーを試すためのポケモンたちとの連携の確認を一通り済ませてから、カブ戦に向けてポケモンたちとカブの試合の動画を観ている。

 

 対策を固めていくとか、そういうことを考えるのはやめた。相手の動きを知っている程度に留めて、あとはその場で自分とポケモンの判断を合わせて戦うのがルリミゾにとって最善で最大のパフォーマンスが出せると身に染みて理解したからだ。モニターを見つめていれば肩で動くふわふわ。

 

「ぐふー!」

 

 肩に乗ったチラチーノがくすぐったい。ルリミゾはカビゴンの腹を背もたれ代わりにしてもたれている。控室にある大きめのモニターを使っているからカビゴンも見られているのだ。大人しいイエッサンは元より、バイウールーもウォーグルも武人気質なので本当に手がかからない。

 

 問題児は肩のコイツだけだ。もう既にそわそわしている。いつ視界を塞がれるかわかったものではない。集中が切れた時のためにチイラの実をタッパに入れて持って来てある。カバンの中に入れていたはずだが・・・

 

「もぐもぐ」

「ってなんで食べてんのよ!?」

 

 カバンは既に中が荒らされ、ぐちゃぐちゃになっている。賢い奴め。あとでウォーグル辺りがシメてくれるだろうからルリミゾはこめかみに皺を作ったまま何も言わない。

 

 それはともかく、寒いキルクスだから当然ジム内は暖房が効いている。そんな中で肩にチラチーノ、背中にカビゴン、そして寄って来るバイウールー、イエッサンというもふもふたち。良心はカビゴンの肩に留まっているウォーグルだけだ。ポケモンたちは暑くないかもしれないが、中心にいるルリミゾはとにかく――

 

(暑い!!)

 

「あったかそうじゃねえか」

「燃やすわよ」

 

 ドアの向こうから出てきたのはノマ。例の如く妙にイラっとする煽りを挟んでくる。一瞬でこの状況を察してルリミゾが暑がっていることを的確に突いてくる頭の回転。バトルに使えばもっと上を目指せたのではないだろうか。キリのいいところまで見終わったので今日はここまでにして立ち上がる。片付けをしていればノマが口を開いた。

 

「どうして外面を繕うのをやめたんだ?」

「さあ、どうしてかしらね」

 

 観客の目がどうでもよくなったから。と答えればどんな顔をするだろうか。仄暗い感情を抑えて平静にはぐらかす。ユウリとのバトルで熱くなって、つい素の自分で叫んでしまっていた。どうにも自分のことがよくわからない。ユウリだっていずれ別れる異世界人。自分の行動の矛盾に気持ち悪さがこみあげてくる。

 

「好評でよかったじゃねえか。『最初は戸惑ったけど前より親しみやすい』だってさ」

「やっぱり人格者は口調が変わっても尊敬されるわね」

「ははは」

 

 びっくりするくらい適当な笑いで無性に腹が立つ。何一つ面白いと思っていない笑い方だ。

 

「だから言ってるじゃねえか。とっくに町のみんなも魅かれてんだ。今更口調ひとつで変わりやしねえよ」

「――そうね」

 

 今更口調ひとつで何も変わらない。その通りだ。両肩から外したはずの物が戻りそうになって、慌てて心を持ち直す。去る世界の有象無象に揺られてはいけない。それはきっとルリミゾを変えてしまうから。ギンガ団戦闘員だったルリミゾに背負って戦う余裕はない。

 

「変わらないわ。きっと」

 

 素の口調を曝け出したルリミゾに対する反応は、ルリミゾの予想に反して好評。なんと町で声をかけられることが多くなった。

 

 「前の口調の方が好き」という人はいても「今の口調だから嫌い」という人はひとりもいなかった。それは面と向かって言われるはずもないので当然なのだが、雰囲気としてそう感じている。

 

「なんかもっと『ルリミゾ正体現したり!野蛮な裏の顔とは!?』みたいな記事でも書かれるのかと思ったけど記事にすらならなかったわ」

「野蛮な自覚はあったんだな・・・痛えッ!」

 

 ノマの脛を蹴る。未練を残したくないのに、ここの人たちはただただ温かい。針の筵で殺すか殺されるかの世界の方が、上手くやっていけるような気がしていた。

 

「ま、そういうことであんまり気負いすぎるなよ。応援してるぜ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない」

「じゃないと俺はとっくにパワハラで訴え出てるしな」

「一言多いのよ!」

 

 足を振り上げれば即座に距離を取られる。慣れてきたらしい。行き場を失った足を下ろしながら話を続ける。

 

「で、アンタは調子どうなのよ」

「俺は『あついいわ』を手に入れてから絶好調だぜ?やるか?」

「いいわね、岩ごと粉砕してあげる!」

「それはやめろ!」

 

 なんだかんだ大切にしてくれているようで嬉しい

 

(今なんて思った?嬉しい?)

 

 揺られてはいけない。帰るまで利用するだけなのだから。ずきり、と胸が痛んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

XX-迷子

 

「見つけたぞ!追え!」

 

 走る。どうしてこんなことになったのか。ただ帰りたいだけだったのに。

 

「ハンサムさん!右に逃げました!」

「では二手に分かれよう!私は先回りして奴を待ち伏せする!」

 

 追手が何かを言っている。何を言っているのかはわからなかったが、捕らえようとしていることだけは確かだ。この世界で好き勝手に振る舞うことはあったが、そうしないと生きられなかったのだ。

 

「止まれ!――ぐああっ!」

 

 立ち塞がる者に蹴りを叩き込み、道を開く。邪魔者がどうなろうと知ったことではない。元の世界に帰るために、絶対に捕まるわけにはいかない。

 

・・・

 

 違う世界で暮らしていたはずだった。突然発生した空間の裂け目に落ちて、こんな場所にいる。この汚い世界に。

 

「さあ、追い詰めたぞ。観念してもらおうか」

 

 またしても奴らが立ち塞がる。

 

「背後は海、これだけポケモンとトレーナーに囲まれているんだ。大人しく捕まってくれ」

「語り掛けるだけ無駄ですよハンサムさん。こいつは違う世界から来たんですから」

 

 故郷を想い、こんなところで終われないと力を振り絞る。周囲から様々な攻撃が飛んできた。

 

 ただここではない場所へ行きたくて、穢れた世界の海へと飛び込んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「クソッ!まさか海に飛び込むなんて!」

 

 座り込んで地面を殴りつけるハンサム。危険な存在を取り逃してしまった。バトルでは歯が立たず、こうやって取り囲むことでやっと追い詰めたというのに。

 

「生きたままどこかへ流れつかないよう祈るばかりですね」

 

 後輩が慰めるように言う。あまり気分のいい話ではないが、その通りだった。人が被害に遭うよりはずっと。

 

「UB02:BEAUTY・・・これで被害が出なくなると良いんだが」

 

 海へと逃げた危険生物のコードネームを呟いた。

 




二本立てです。
迷子の時系列は32とは違うので分けました。

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33-vsカブ メジャージムリーグ⑨

 

 晴天のエンジンスタジアム、カブへの応援が鳴りやまない。もうアウェイでの試合は慣れたものだな、なんて思いながら通路を歩く。と、なんと通路出口、フィールド手前にいたのはカブ。

 

「集中するのに少しルーティーンがあってね」

 

 ルリミゾが疑問を呈する前に声をかけられた。どうやら雰囲気から疑問に思っていたのが伝わっていたようだ。普通、ホームのジムリーダーは先にフィールドで待機する。まさかまだ通路で立っているとは思ってもみなかった。

 

「ふぅ……」

 

 カブが右手を胸に当て、目を閉じる。試合前に必ず行っているらしい。少しの呼吸のあと、首に巻いたタオルを両手で掴み、小走りでフィールドに駆けていく。各トレーナーがボールの投げ方を固定するのと同じように、試合前にする行動を固定することでパフォーマンスを引き出しやすくする、と聞いたことがある。

 

「あたしは昔っから行き当たりばったりね」

 

 懐かしみながら、フィールドへと歩く。既に中心に着いたカブが待っている。

 

・・・

 

「君ほどのトレーナーに持論を語るつもりはないよ。僕の努力を示すだけだ」

「そうね、戦えばすべてわかるわ」

 

 互いに集中が高まっている。ならば会話を続ける理由は無し。お互いに所定の位置へ向かい、ボールを構える。後ろを向くときに、小走りのカブの姿が視界の隅に映った。

 

「なんで常に小走りなのよ……」

 

 位置に着いたカブが右手を胸において一瞬、目を閉じて――カッと開く。完全に試合へと意識が切り替わっていくのが伝わる。

 

ジムリーダーの カブが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 ボールを持ち、両手を天高く振りかぶってから全力投球、そして一歩下がって中腰。カブの独特なスタイルだ。

 

「ウインディ!」

 

 初手はウインディ。カブは前シーズンと大きく戦い方の変わったトレーナーの一人だ。以前までならコータスを先頭に繰り出し、天候を「日差しが強い」状態にして戦っていた。しかし、今シーズンはコータスを中盤に繰り出している。理由は()()()()()()()()()()()()()

 

「バイウールー!」

「メェエ!」

 

 読み通り。絶好の展開に歯の裏を舌でなぞる。バイウールーに攻撃力は必要ない。新戦術を披露する時だ。

 

「コットンガード!」

 

 毛に埋もれていく。「もふもふ」は炎タイプの技に弱くなる、とはいえ直接攻撃の威力はやはり半減する。ウインディの「フレアドライブ」も抜群に効くが、ダメージ半減だから痛手にはならない。そして「コットンガード」を積んだのなら尚更。

 

「耐えろ!」

 

 ゴォ、と炎がはじけて打撃の鈍い音がする、しかしほとんどの衝撃を毛で吸収し、跳ねて転がるバイウールーにダメージはほとんどない。

 

()()()()()()!」

 

 バイウールーがボールに戻っていく。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「バイウールーを引きました!何を繰り出すのでしょう!」

「これは……厄介なプレーですね」

 

 ルリミゾの「コットンガード」からの「バトンタッチ」を見たカキタが呟く。

 

「今のはただの交代ではありません。『バトンタッチ』という技で防御力の上昇を後続に引き継いだんです」

「と、いうことはカビゴンに交代ですかね!?」

「いえ、威嚇された攻撃力の低下も引き継ぐので――」

 

 イエッサン、と答えた瞬間、答え合わせのようにルリミゾはイエッサンを繰り出した。

 

「これで柔らかいイエッサンでも殴り合いができますよ」

「これにはどういった意味があるんでしょうか?」

「イエッサンはカブ選手のパーティに対して役割を失いがちでした。硬いポケモンや、特殊技を使うポケモンに対して強いのがイエッサンだったんですが、カブ選手のポケモンはほとんどが物理・高火力です。しかし『コットンガード』を貰えたのなら話は別です。これで舞台に上がることができました」

 

 なるほど、と相槌を打とうとしたミタラシだったが、状況の変化に即座にマイクを握る。イエッサンの着地を狙ってウインディが走る。「フレアドライブ」だ。

 

「カブ選手、冷静に崩しにかかります!『フレアドライブ』だぁっ!」

 

 吹き飛ぶイエッサンだが、ただそれだけ。吹き飛んだだけ。ダメージがほとんど入っていない。

 

「『コットンガード』にしてもおかしいぞ……?ダメージが少なすぎる」

「ええと、見間違いでは?」

「いや、明らかにおかしい!」

 

 原因を探すカキタになんとか状況を掴もうとするミタラシ。例の如くまたリプレイを再生している。なんとか場を繋ぐのがミタラシの役目だ。

 

「今の『フレアドライブ』ですが、何かイエッサンが仕掛けてダメージを低減したようです!詳細をお待ちください!」

「あるとすれば接触の一瞬……何が……」

 

 そうか!と気付いたカキタだったが、試合は進行中。次の行動がもう始まっている。

 

「明らかに攻撃の勢いが落ちていますウインディ!イエッサンにされた何かが効いている!『サイコキネシス』を突破できません!どんどん削られていきます」

 

 念波を越えられず、炎を纏ったまま距離が縮まらない。まるで威嚇されたかのような――

 

「『パワースワップ』だ!実戦で使われるなんて!」

「なんですかその技は!?」

 

 イエッサンが行った「何か」、その正体は「パワースワップ」。相手と自分の攻撃面の能力変化を入れ替える。つまり、威嚇されたバイウールーから引き継いだ攻撃力の低下を、そのままウインディに押し付けたのだ。ウインディが威嚇された時のように力が入っていないのはそのせいだと、カキタが解説した。続けて、

 

「『フレアドライブ』がヒットする寸前、『パワースワップ』で攻撃力を下げたんです!とんでもない発想だ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あのキャスター陣ならわかるかしら」

 

 何をされているのかわからない状態。一番実戦で苦しい事態だ。ルリミゾはカブの心中を想像しながら次を考える。

 

(ウインディはもう機能停止、次に出てくるのはおそらくマルヤクデね)

 

 仕掛けている側のルリミゾには余裕がある。策を見破られたとしても、もう抜け出す術はない。カブとしてはウインディを切って、次のプランを考えていることだろう。

 

「まだだ!燃え上れウインディ!()()()()()!」

「アオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「なっ!?」

 

 予想外。「もえつきる」はあまりの反動に炎が扱えなくなる技だ。超高威力・超リスクの大技で、使用するにはポケモンの強い意志と、トレーナーとの信頼が不可欠。一時的とはいえ生物としての機能を失うほどの負担、それを自ら捨て身で行うことは並大抵のことではない。カブはそういった無理をするトレーナーではないと読んでいたルリミゾは完全に意表を突かれた。

 

「押し返せ!『サイコキネシス』!」

 

 しかし、もう今まで通りのルリミゾではない。揺れない。心を落ち着かせて不測の事態で動揺しないように。あの暗い自室での自問自答、その成果がバトルにも表れていた。

 

 感情を察知したイエッサンがその最大のパフォーマンスで技を放つ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ウインディ戦闘不能!戦闘不能です!イエッサンには届かなかったァ!」

「しかし、意外ですね」

「というのは?」

「カブ選手は勝ちに拘るトレーナーですが、あまりポケモンに無理をさせるイメージはありませんでした。マイナー落ちしていた際はあらゆる手段を使っていましたが、現チャンピオンとのあの名試合から『もえつきる』のような技は使っていないはずです」

 

 それほどまでにあの少女が強敵なのか、と長年リーグを見てきた二人は冷や汗をかいた。

 

 カブが次に繰り出したのはマルヤクデ。エンジンシティジムの代名詞だ。

 

「早くも切り札の投入です!タイプ相性からでしょうか?」

「その通りです。虫/炎タイプのマルヤクデはイエッサンに非常に相性が良いんです」

 

 解説が終わると同時、歓声が響いた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「マルヤクデ!燃え盛れ!キョダイマックスで姿も変えろ!」

 

 渾身の叫び、それと共にボールに戻っていくマルヤクデ。首に巻いたタオルがバサバサと揺れる。歓声が更に大きくなる。一瞬、カブの目に炎が灯ったような錯覚さえ覚えた。

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

 大きくなったボールを片手で投げるカブ。

 

「「「「オーオーオーオオオオーオーオー」」」」

 

 スタジアムのあちこちから観客が叫ぶ応援歌、それに混ざってかすかに、しかし確かに聞こえるルリミゾへの応援。だがどちらもルリミゾには関係ない。関係ないのだから。

 

「あたしには関係ない!」

 

 叫びながらイエッサンを戻しカビゴンを繰り出す。マルヤクデが出た時点でダイマックスするのは読めていた。マルヤクデの鳴き声が響く。

 

「ふぁふぁばぁぁ!」

 

 キョダイマックスして、まるで龍のように長い胴体、体のあちこちで燃え盛る炎。カビゴンは厚い脂肪を持っているため、炎タイプの技に対しては耐性がある。しかしダイマックスしていない今、虫タイプの「ダイワーム」を食らってしまえばただではすまない。

 

「耐えなさい!カビゴン!」

 

 ただ叫ぶのみ。バトルにおいて相手の攻撃を受ける瞬間、その瞬間だけはトレーナーに出来ることは何もない。ただポケモンを信じて、耐えてくれと願うのみだ。だからルリミゾはこの瞬間がバトルで一番嫌いだった。

 

「ダイワーム!」

 

 虫の形をとったエネルギーが飛来する。それとマルヤクデの巨大な身体を振り回した鞭のような攻撃が。

 

ドォ!

 

 比喩でなくまさにスタジアムを揺らす衝撃――

 

「よくやったわ!全然いけるじゃない!」

 

 しかしカビゴンは中心で立っていた。上手く腹で衝撃を吸収したのだろう、まだ余裕がある。ダイマックスしても戦えそうだ。

 




カブ戦です。この先の展開を先に書いてしまい、間であるこのカブ戦を描くのに苦戦しました。

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34-vsカブ メジャージムリーグ⑩

 

 エンジンスタジアムに叫び声が突き抜ける。

 

「あたしは!もう後には退けない!」

 

 カビゴンをボールに戻してダイマックスバンドから力を。ボールが震える。ルリミゾと同じように昂っている。

 

「……!」

 

 ボールを両手で抱え、投げようと目線を上げれば視界に映る人、人、人。そのどれもがルリミゾを期待、羨望、熱狂の眼差しで見つめている。声を上げながら、手を振りながら。

 

「関係ない……!あたしには関係ない……!」

 

 すべてを振り払うかのように。

 

「キョダイマックス!」

 

 巨大化したカビゴンへと指示を飛ばす。先にダイマックスの切れるマルヤクデを叩き潰せれば大きく形勢がルリミゾに傾く。このまま殴り合いがベストだ。

 

「キョダイサイセイ!」

「ダイワーム!」

 

 お互いのダイマックス技が交差する。歓声、そして遅れて訪れる衝撃、エンジンシティが揺れていた。

 

「毎度のこと地味ね。ま、長期戦は得意でしょ?」

「ォォォオオオオ!」

 

 いつもより野太い返事が返ってくる。指示を出すまでもない。再び両者の力と力がぶつかり合った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おおっと!また殴り合いです!両者一歩も退きません!」

「ルリミゾ選手のカビゴンは非常に硬いですから、毎度ダイマックスで決着が付くことは本当にありませんね」

 

 カビゴンで相手のダイマックスをやり過ごすのは恒例の戦術だ。この点はダイマックスを嫌うネズと似ていて、ダイマックス無しのバトルが得意だからこそだろう、とカキタは推測していた。ジムリーダーは基本的にダイマックスを前提に戦略を立てるが、ルリミゾはどうにも相手のダイマックスをいなすためだけにダイマックスを切っている節がある。

 

「シンオウ出身のトレーナーとのことですから、ダイマックスをお互い切った後の戦略の深さは目を見張るものがありますねー」

「ええ、本当に一年目とは思えない強さです」

 

 マルヤクデのキョダイマックスが先に解けた。キョダイマックスが続いているカビゴンに対して、カブはどう動くのか。

 

「ここでマルヤクデが元に戻りました!改めて凄い体格差ですねぇ!」

「ええ。しかしカブ選手も先にダイマックスを切ったということは、この状況も想定していたはずです。動きに注目ですね」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(このまま殴り合えば『キョダイサイセイ』でマルヤクデが倒れるはず。何か仕掛けてくるにしても続けるしかないわね)

 

 マルヤクデが這いながら接近、カビゴンの腹を登っていく。虫ポケモン特有の動きに、本能的な気持ち悪さがある。

 

(ちょっとキモい……)

 

「むしくい!」

 

 先手を取ったマルヤクデがカビゴンに噛みつき――

 

「ちぃっ!そういうことね!」

 

 行動の意味を理解して舌打ち。フィラの実を奪い取られた。マルヤクデは傷を癒し、ふんす、と鼻息ひとつ。「むしくい」は攻撃ついでに相手のきのみを奪い取って食べる技。奪われてしまうため当然「リサイクル」も叶わない。完全にカビゴン対策だ。

 

「キョダイサイセイ!」

 

 返しで技を放つも、きのみによる回復で計算がズレた。戦闘不能には至らない。これでカビゴンのダイマックスはタイムリミットだ。

 

 体力の回復を織り交ぜた長期戦。とすれば次に狙ってくるのは「きゅうけつ」だろう。近付けない立ち回りへとシフトする必要がある。

 

「じしん!」

 

 即座に切り替え、距離を取ることを狙う。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「対応が速い!すぐに『じしん』で近付かせません!」

「カブ選手、まさかの『むしくい』でしたがルリミゾ選手本当に冷静ですねー」

 

 跳躍して揺れを避けながらカビゴンへと「とびかかる」マルヤクデ。だが、ルリミゾの指示かそれともカビゴンの自己判断か、接近した瞬間に「かみくだく」をモロに食らってしまった。力なく崩れ落ちるマルヤクデ。

 

「まるで未来が見えていたかのような『かみくだく』!マルヤクデ戦闘不能です!」

「今の一瞬、攻防がありました。カブ選手は回復を狙って『きゅうけつ』を撃ちたかったはずです。それを読んだルリミゾ選手が『じしん』で拒否しました。が、当然そこを想定したカブ選手は『とびかかり』に切り替えたんです」

「しかしそれすらも読んでの『かみくだく』ですか」

 

 ええ、とカキタ。もはや常に期待の上をいくルリミゾに慣れつつある二人だ。

 

「カブ選手が次に繰り出したのは……コータスです!空が青く、更に日差しが強くなっていきます!日照りのコータスでしょう!」

「パーティを支える土台のポケモンですね。晴れにしたということは始まりますね、今シーズンのカブ選手のエースによる逆転劇が」

 

 日差しが強い。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「来た」

 

 今期のカブの新戦術。カウントは現在五対三でルリミゾ有利。しかしバイウールーはかなりの傷を負っているし、カビゴンもおそらくあと一撃で倒れてしまう。

 

「相性的に、これでもイーブンくらいかしらね」

 

 カブの新エースとルリミゾの手持ちは圧倒的に相性が悪い。場を整えられてしまえば五タテすらありえる。

 

「ソーラービーム!」

 

 カビゴンが動くより前に、一瞬でエネルギーを集めきった緑の閃光が貫いた。この日差しの下では「ソーラービーム」のチャージに時間を要しない。髪をかき上げ、頭の中でプランを立てる。

 

「ふー……」

 

 深呼吸して、一投。繰り出したのはウォーグル。「きりばらい」で「ステルスロック」の展開を拒否できる上、後続に対しても強いからだ。

 

「ブレイブバード!」

 

 正面からの殴り合い、動きの遅いコータスという的へ加速しながら突撃するウォーグル。コータス側は反撃狙いでただ待つのみ――

 

ドカン!

 

 

 

 

 

 瞬間、静まり返る客席、ルリミゾ、そして。

 

「ウォーグル、コータス戦闘不能!」

 

「嘘でしょ……?『だいばくはつ』なんて……!」

 

 自らのエネルギーを集め、自爆する技。またしても危険な技。戦闘不能となる代わりに、その威力は至近距離で食らえばほぼ確実に戦闘不能になってしまうほど。しかしやはり自爆技、好んで使う人間はいない。ましてや公式戦で。

 

「これは僕がコータスと決めたことなんだ。今年は何かが起きる。みんなそれを肌でヒリヒリと感じているはずだ。僕も、君も、他のジムリーダーたちも。だから全力で勝ちに行く」

 

 ありがとう、とコータスをボールに戻すカブ。そして試合開始時のように両手を高くで合わせ、全力投球。現れたのは。

 

「燃えろおおおおおお!!」

「バシャアアアアアアアアアアアモ!」

 

 ホウエン地方御三家が一匹。バシャーモ。

 

 日差しが 強い ▼

 




荒れていたころのスタイルも含めて、全てを上手く取り入れて成長するのも強さだと思います。信頼の上での自己犠牲もそれもまたチームだと思っています。
格闘で素早い、まさに天敵のポケモンですね。ホウエン地方出身のカブですから、昔は一緒に旅したりしたのかな、って思ったりします。老練な武闘家バシャーモですね。独自設定です。
評価・感想励みになります。いつも本当にありがとうございます。自分がやりたくてやっているわけですが、人から反応を貰うことがこんなに嬉しいとは知りませんでした。
誤字報告助かります。
読んでくださりありがとうございました。


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35-vsカブ メジャージムリーグ⑪

 

 カウントは三対二。ルリミゾが繰り出したのはバイウールー。やるべきことは、後続へ向けて舞台を整えること。ポケモンバトルとは、五匹の勝ち抜き戦ではない。トレーナーという(いち)の下へと集まった五匹の統一だ。これから行うのはバトン。最後に控えるチラチーノへと、バトンを繋ぐ。

 

「まずは時間稼ぎ……!」

 

 天気を変えるトレーナーに対して時間を稼ぐことがどれだけ重要なのかはよく知っている。散々、()()()()()()()()()()()()()と戦ってきたからだ。

 

(残りはイエッサンとチラチーノ。チラチーノは無傷だし、イエッサンはほとんどダメージを受けていない。それでも……)

 

 土台作り要員でしかないコータスにウォーグルを持っていかれたのが痛い。

 

 ルリミゾの正面、フィールドでこちらを睨みつけているバシャーモ。格闘/炎タイプであるバシャーモに対して相性の良いウォーグルは、一騎打ちできる可能性のある唯一のポケモンだった。しかしウォーグルが落とされたからといって負けに直結するわけではない。勝ちを諦めず、努めて冷静に。

 

「コットンガード」

 

 当然、「コットンガード」からの「バトンタッチ」を狙う。バトンを繋ぐ隙が無くとも、時間を稼ぐために。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「またしても『コットンガード』!バトンを狙っているのでしょうか!?」

「それもありますが、メインの目的は時間稼ぎにあると思います。『にほんばれ』に対する一つの解答ですね、時間稼ぎは」

 

 カキタが解説を挟んでひと呼吸、する間もなくバシャーモが飛び上がる。

 

「これは……『とびひざげり』です!バイウールに突き刺さります!カブ選手の指示なしで動いています!」

「『フレアドライブ』には反動がありますから、後続との戦いに備えて温存しましたね。遅いバイウールーには当てやすいですからリスクも小さいです」

「カキタさん、どうしてルリミゾ選手は時間を稼ぐ必要があるんでしょうか?一体ずつ戦ってはいけないんですか?」

 

 視聴者の疑問を代弁する。三対二というルリミゾ有利に見える状況にもかかわらず、どうしてルリミゾが守りに入ったのか。ポケモンバトルの面白さを、熱さを伝えるのが彼らの仕事だから。

 

「まず前提として、あのバシャーモはとても強いです。かなり鍛えられていて、バトルの経験も豊富でしょう。今、カブ選手の指示なしに動いたのがその証拠です。信頼関係が深いのでカブ選手が一から十まで指示しなくていいんですね」

「そんなに強いんですか!?カブ選手はホウエン出身ですからおそらく……」

「ええ、向こうでトレーナーになった頃からの相棒でしょう」

 

 まさにカブというトレーナーの人生と同義の一匹。実況席からでも、遠く向こう、ガラス越しのフィールドに立つその佇まいから隙の無さが見て取れた。

 

「ですから、一匹ずつ戦えば間違いなく全抜き、つまり一匹ずつ全員倒されてしまいます。ダメージの蓄積はありますが、それでも速く、鍛え上げられたあのバシャーモに相性の悪いノーマルタイプのポケモン達で戦うのはかなり厳しいでしょう」

 

 対してバイウールーはもうほとんど瀕死でフラフラ。あと一撃で倒されてしまうだろう。それでも――

 

「やはりバトン!『バトンタッチ』でバイウールーが戻っていきます!」

「しかしもうほとんど瀕死です、一撃で持っていかれる体力ですから、繰り出すことはもう無いでしょうね」

 

 着地したイエッサンの眼前には迫る膝、「とびひざげり」がもう既に繰り出されていた。

 

「速い!あまりにも速い!先ほどより技のキレが上がってませんか!?」

「そうです。あのバシャーモはどんどん()()しています。戦闘中、身体が熱くなるほど速くなるんです」

 

 一撃を入れて吹き飛ぶイエッサン、だが更に追撃を入れようとバシャーモが追う。二回も技を撃てばもう誰にも止められないほど速くなっている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 イエッサンは一撃でかなりの体力を持っていかれた。次に被弾すれば戦闘不能になってしまうだろう。この追撃を許せばルリミゾに勝ち筋は無い。

 

 加速していくバシャーモ。加えてカブが一切指示を出していないことで、指示による動きの予測が立てられない。しかし経験則と獣のような感性から攻撃に踏み込む位置を予測する。

 

「左後方『サイコキネシス』!」

 

 吹き飛ばされたイエッサンへと指示。移動のためではなく、追撃のためのバシャーモの踏み込みを見逃さない。重心の移動、呼吸のタイミング、そして積み重ねてきたバトルの経験。

 

 すべてから導き出した答えは大正解。ドンピシャで左後方、まさに炎を纏った拳が迫る直前。

 

 「フレアドライブ」を撃たせない。自らの内側から溢れるサイコパワーを集め、ピンク色に光るイエッサン。バシャーモは即座に炎を解除、無理に体勢を変更して被弾を避けようと動く。が、繰り出されたのは――

 

パァン!

 

 ()()()。目の前で光と音が弾け、視聴覚が一瞬真っ白になる。

 

 「サイコキネシス」が来ると思い、下がりながら防御の体勢を取っていたバシャーモはその大きな音と光に怯む。

 

 バシャーモが一瞬で攻撃態勢を解除して下がったため、ダメージは与えられなかった。しかし両者の間に大きく距離が開く。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 心臓が跳ねる、鼓動に合わせて身体が揺れるほど大きく脈打っている。一手でも読み違えば即敗北の瞬間だった。山場を乗り越えて、集中が研ぎ澄まされていくのを感じる。強い日差しと試合の熱量で汗が止まらない。目に入りそうになる水滴を拭いながら、勝利を確信する。()()()の発動タイミングだ。

 

「バシャアアアアアモ!」

 

 だんだんと感覚が元に戻り、大きく叫び特性は加速。更に速くなるバシャーモ、いよいよ追えない領域へと足を踏み入れつつある。バシャーモは距離を詰めんとスタートの体勢。鍛え上げられた腿が膨れ、グググ、と音を立てているように錯覚しかねないほどの姿勢。そして

 

「アンタは本当に速くて強い。でもね――」

 

 逆に言えば。そう、言い換えるならば。追撃を回避したことで、勝ち筋が生まれたということ。

 

「それも終わりよ」

 

 発動に時間のかかる変化技。バシャーモが距離を取って怯んで一瞬、発動できるのは「ねこだまし」が成功したこの唯一の瞬間だけ。イエッサンは指示を出す前に、もう既に発動している。空間が歪んでいく。フィールド全体を包み込む。

 

 ルリミゾはその正体を告げるだけ。

 

 全てを覆す一手の正体を。そしてフィールドの全ての空間が歪み――

 

「――トリックルーム」

 

 世界が完全に逆転した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「これだ。発動を許せば状況が完全に逆転する」

 

 憎らしげに、しかし誇らしげに語るノマ。いつも自分がやられている戦術を見て呟く。

 

「どうだ、うちのリーダーは強いだろう」

 

 「トリックルーム」は本来、重量級のポケモンを活かすための技。自分の勝ち筋を通すために使うのであって、相手の戦術への対処として使われることはまずない。まさかカブも、ルリミゾが「トリックルーム」をイエッサンに覚えさせているとは思わなかっただろう。

 

「『パワースワップ』も、『トリックルーム』も、俺が散々やられてきたことなんだぜ」

 

 ズルズキンの威嚇をそのまま「パワースワップ」で押し付けられた。「ようりょくそ」で加速したダーテングをトリックルームで機能停止させられた。積み重ねたジム内戦で、毎度その場でルリミゾが編み出して来た戦術だ。

 

「何食ったら実戦でいきなりそんな技の使い方ができるんだか」

 

 発想の柔軟さと、ポケモンに迫る勢いの野性的な観察眼。普通、トレーナーは手札をギリギリまで狭めて判断の迷いを減らす。つまり、自分の器に合わせて技をカットしていく。「こんな技使う機会ないな」というように。

 

 ルリミゾはそれをしない。あらゆる技が頭の片隅にあって、ありえないような限定的な場面でもそれを活用してくる。普段の言動がアレなのは、その反動かもな、とひとりで小さくノマは笑った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「トリックルームだ!なんで覚えてるんだそんな技!?」

 

 普段は冷静なカキタが大声を上げる。イエッサンは足が遅いポケモンではないし、ルリミゾのエースのチラチーノはむしろ速いポケモンである。重量級のポケモンを好むトレーナーが採用する以外で、こんな限定的な場面で使われることは初めてだ。しかし今、「トリックルーム」はカブとバシャーモに突き刺さっている。

 

「バシャーモを戻しましたカブ選手!繰り出されたのはファイアローです!」

「柱であるバシャーモを温存しました。時間稼ぎする立場が入れ替わりましたよ」

 

 今度はカブが「トリックルーム」の切れる時間を待つ番だ。交代の隙にイエッサンが技を放つ。足元が不思議な感じになっていく。

 

「イエッサン、どうやら追撃はしません!変化技でしょうか!?」

「これは……『サイコフィールド』です。徹底的に『トリックルーム』を活かすつもりですね」

「ええと、どうして『サイコフィールド』を展開したんでしょう?『トリックルーム』と繋がらないんですが……」

 

 実況のミタラシの中でもある程度答えは出ているが、詳しい解説へと繋ぎやすくするための振りだ。

 

「ファイアローは万全の状態のとき、非常に素早く飛行タイプの技を撃つことができる、という特性があります。カテゴリとしては『アクアジェット』や『ふいうち』と同じです。ですから、『サイコフィールド』下では通用しなくなってしまうんです」

 

 どういう仕組みかはまだ研究が進んでいませんが、とカキタ。

 

「もともと、ファイアロー自体速いポケモンですから、トリックルーム下では後手になってしまいます。しかし、疾風(はやて)の翼――特性のことです――によってトリックルームを無視して行動できるはずだったんです。それすらも潰したのがこの『サイコフィールド』の展開です」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ここからは殴り合い。髪をかき上げ、些細な動きも見逃さないように。ルリミゾはひと呼吸おいて集中し直す。試合後半にもかかわらず、未だに中腰のカブ、そしてこちらを睨むファイアロー。

 

「サイコキネシス」

「フレアドライブ!」

 

 燃やせ!とカブの声がこちらまで聞こえてくる。一方、ルリミゾからイエッサンに言うことは何もない。なぜならイエッサンはその角で感情を察知するから。

 

「伝えたいことなんて――」

 

 とうに伝わっている。今、トレーナーとポケモンでひとつ。

 

ゴゥ!

 

 と、炎とともにファイアローが躍る。イエッサンはトリックルームの効果で先に動く。念力が放たれ、ファイアローを内側から揺さぶる。

 

「耐えろ!僕も一緒だ!」

 

 スタジアムに響く声、そして伝わる熱。声に出すことで伝わることもある。ハッとしたルリミゾも気が付いた時には叫んでいた。気持ちは十分に通じているはずなのに、叫ばずにはいられなかった。

 

「墜とせ!アンタなら――!」

 

 できる、そう続ける前にイエッサンが吹き飛んだ。ファイアローが耐え、イエッサンを貫いた。炎の軌道が残って、フィールドを焦がしていた。

 

「イエッサン戦闘不能!」

 

 ジャッジの声が聞こえたときには、もうイエッサンをボールに戻していた。少しの後悔と、バシャーモを完璧に抑えてくれたイエッサンへの感謝。

 

「ありがとう……!よく頑張ってくれたわね……!」

 

 伝わっているからと、自分から伝えるのを怠ってはいけない。また一つ、学ばされたな、なんて思いながら気持ちを立て直す。

 

 最後の一匹。バイウールーはもう戦うには削られすぎている。チラチーノを繰り出す。

 

「さあ、出番よ。ここまで繋いだバトン、最後に決めてやろうじゃない」

「ぐふ!」

 

 並び立って、空を見上げる。太陽は雲に隠れ、薄ら明るい白一色がエンジンシティの空を覆っている。いつの間にか日照りの効果時間も終わっていたようだ。

 

「キルクスの空みたいね」

「ぐふぐふ!」

 

 これで炎タイプの技が強化されることも無くなった。ホームの天気を思わせるような雲に、親しみを感じながら戦いに臨む。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 トリックルームで先に行動できるチラチーノが「ロックブラスト」を当てて即座にファイアローを撃墜。

 

「ファイアロー戦闘不能です!少しも行動させることなく一瞬で仕留めました!」

「イエッサンから『サイコキネシス』の大ダメージを貰っていましたから、これは仕方ないですね」

 

 歪んだ空間が元に戻った。

 

「たった今、『トリックルーム』の効果が切れたようです。このタイミングすら見えていたのでしょうか。加速していないバシャーモはチラチーノやイエッサンより遅いです」

 

 そして再び繰り出されるバシャーモ。

 

「最後の一騎打ちです。バシャーモとチラチーノ、勝った方がこの試合の勝者です」

「雲が、空を覆っています。このエンジンスタジアム、いよいよ決着が付こうとしています!」

 

 カキタとミタラシ、両者ともが実況になったかのように各々喋っていた。

 

「コータスの『ひでり』、ファイアローの時間稼ぎ。そしてバイウールーの『バトンタッチ』、イエッサンの『トリックルーム』。戦いに影響のある要素はすべて時間切れで消えてしまいましたが、彼らの意志、想いは繋がっています。両パーティのエースにへと確かに繋がっています」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「今ならアンタの方が速いわ!」

 

 駆けるチラチーノ、対してバシャーモはその場に留まり迎撃の姿勢。

 

「スカイアッパー!」

 

 リーチの短いチラチーノが距離を詰め切る寸前、カブが声を上げた。即座に応じるバシャーモ。腰を落とし、拳を引いて、天に届くような一撃狙う。どこからどこまでがトレーナーの領分なのか、ポケモンの領分なのか、すこしの疑いも、認識のズレもない。

 

「電磁波!」

 

 瞬間、帯電してバチバチと光るチラチーノ、手札の多さがまさにルリミゾの戦法と一致するポケモンだった。突然の身体の麻痺に膝から崩れ落ちるバシャーモ。

 

「やるじゃない!次で決めるわよ?」

 

 ちらりとルリミゾを一瞥、目があえばそれで疎通は十分。近接戦闘でバシャーモの拳や脚をいちいち見切って叫ぶのは不可能だ。チラチーノを信じ、最後の一手を考える。

 

 加速しようとも、しばらくはチラチーノの方が速い。一撃でも貰うことが、即座に戦闘不能に直結するようなマッチアップだ。「でんじは」によってしばらくは先手で動けるものの、カウンターで「かわらわり」や「スカイアッパー」を貰ってしまえば意味がない。かといって遠距離から「ロックブラスト」や「タネマシンガン」では決め手に欠ける。バシャーモが素早さを取り戻す前に、勝負を決めなければいけない。

 

「正面からぶつかり合う?」

「――ぐふ!」

 

 ならば信じるのみ。

 

「あのバシャーモは右利きよ、右拳できっと反撃を狙うわ」

「ぐふー!」

 

 チラチーノが駆ける。四匹とルリミゾに信じられて。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 バシャーモが振り返る。痺れ、老いながらも勝利へと、カブの指示を仰いでいる。

 

「勝とう。そのために出来ることは全部やってきた」

「シャアアアモ!」

 

 飛び膝蹴りは撃てないだろう。麻痺している上に的があまりにも小さい。ならば全て、一撃に賭ける。

 

「『フレアドライブ』で行こう。僕たちなら勝てる」

 

 コクリ、と頷いた。ホウエンの記憶が蘇って懐かしくて、試合中だというのに少し笑った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 たたたた、と小さな音で駆けるチラチーノがスピードを上げていく。

 

 バシャーモはただ片膝を立てて姿勢を低く、左手を縦に、右手を引いて炎を集める。

 

声が重なる。ルリミゾとカブ、叫んだのは同じだった。観客も、キャスターも、映像で見ていたノマも。そして当のポケモン達も同じように思った。

 

 

「「今だ!」」

 

「――ギガインパクト!」

 

「――フレアドライブ!」

 

 ぶつかり合った轟音、それと衝撃、遅れてだんだん大きくなる固唾を呑んで見守っていた観客の声。

 

そして、

 

そして。

 

「チラチーノ、バシャーモ、両者戦闘不能!」

 

 心なしかジャッジの声も大きく、震えていた。

 

「――勝った、のね」

 

 バイウールーが戦闘可能であることを示すため、念のためボールから出して確認しなければいけないが、ルリミゾの勝ちだ。

 

「喉痛い……」

 

 汗でユニフォームがびしょびしょだ。試合後に自覚するととても気持ち悪い。

 

 中心へと歩いてお互いの健闘を称える。

 

「ありがとうございました」

 

 猫を被るのはやめたはずなのに、丁寧な礼が自然と口から出た。この試合に対して、誠実でありたかったのかもしれない。

 

「本当に、強かった。次はリベンジするよ」

「もう『だいばくはつ』はやめてほしいわね」

「今期だけだよ。今年、時代が変わる予感がするんだ」

 

 おそらくジムリーダーたちが薄々感じていたこと。はっきりと口に出したのはカブが初めてだった。

 

「強かったわ。本当に。また戦いましょう」

 

 振り返って出口へ向かおうとしたカブに後ろから同じ台詞を送った。どうして去る世界のトレーナーを呼び止めて、わざわざこんな言葉を送る意味があるのか。頭ではわからなかったが、口が勝手に動いていた。

 

「ああ、また戦おう」

 

 出口へ向かう足取りは軽やかだった。それがどうしてなのか、ルリミゾにもわからなかった。

 

 ただ、バトルが楽しかったことだけは確かだった。

 

 

 




難産オブ難産でした。
一日一話、それか二話くらいは書けるんですが三日で一話かかったのは初めてですね。
バシャーモ、実は壮大な登場した割に上手くいなされてあんまり戦果上げていなくて、そこだけもっと強さを描きたかったので後悔しています。ルリミゾ戦以外ではかなり戦果上げています。
評価・感想、お気に入り本当にありがとうございます。ここ数日すごく貰えてとても嬉しかったです。
誤字報告助かります。修正しているつもりですが、機能を使うのが下手なのでそのままになっているところがあるかもしれません。すみません。
読んでくださりありがとうございました。


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36-野蛮 meets 天才

 

 試合の翌日、自室のソファ。カーテンの隙間から差し込む光がやけに眩しくて目を覚ました。時刻は昼過ぎ、ムンナを形どった時計が可愛らしく時間を刻んでいる。ファンミーティングで貰った。生活にまで入り込んだこの世界の人間関係に、少しだけぼーっと時計を見つめていた。

 

「しんど……」

 

 喉から声のようなざらざらした振動が流れ出た。原因は叫びすぎだろう。カブに乗せられて熱くなってほとんど叫んで指示を出していたから。

 

 起きて人間としての生活をする気力もなし。ぐでっとそのままもう一度背中から倒れて、ソファの上でまた横になる。どうせ一日中休みだから、何度寝ようと変わらないことだ。

 

・・・

 

「ぐふ!」

 

 頭上の声で目を覚ませば、チイラの実を持ったチラチーノ。どうやら半分くれるらしい。無邪気な目でこちらに差しだしていた。

 

「ふふ」

 

 まるまるひとつではなく、半分だけ。それがチラチーノらしくて笑う。食べれば甘辛さが口の中に広がって、起き抜けの口には少し刺激が強かった。それでもなんだか暖かくて、普段よりも美味しく感じた。

 

「ありがとね」

「ぐふ」

 

 チラチーノは、当然、と言わんばかりに胸を張る。頭を撫でて、スマホロトムを取って起き上がる。

 

「ニュースはなさそうね」

 

 謎の高速で移動するポケモンが見つかっただとか、ワイルドエリアの天気だとか、ありふれたニュースばかり。新種のポケモンと思われたものは、見間違いがほとんどだ。テッカニンやアギルダーを目で追えなくてそう言っているだけだろう。

 

 伝説に関して何も情報は得られず、ソニアの研究が進むことを期待する日々。長い目で見ればナックルシティジムを狙うのは安全で確実な方法だが、目に見えて何かをするわけでもなく、リーグ戦だけしているのはもどかしい。短気さが限界を迎えようとしていた。

 

「うずうずしてきた……」

 

 戦って何かを得ること。単純明快で分かりやすい方法だから大好きだ。ジムリーグで勝っても目的のモノが得られるのは数か月後なので、実感として不満足だった。相手を蹂躙し、強さの実感を得ながら戦利品を獲る。野生的で最も自分の気質に合った方法だとルリミゾ自身思っている。

 

「でも今は我慢……」

 

 帰るために最善を。燃え上りそうになるほど知恵熱を出している頭で衝動をなんとか押し留めていた。

 

「発散するしかないわね」

 

 気分転換してワイルドエリアへ。時刻は十二時、既に真っ暗だ。夜のワイルドエリアは昼に比べて危険ではあるが、ある程度強ければ対処可能だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ウォーグルに運んでもらって降り立ったのは逆鱗の湖。崖と湖に挟まれたこの場所で、時空の歪みに落ちたルリミゾは初めて目を覚ました。円状に並ぶ八つの岩の中心に倒れていたのだ。何か手掛かりを探すために、定期的に訪れている。

 

「あれは……人?」

 

 先客がいたらしい。逆鱗の湖の陸部分へと入れるということは、そこそこ強力なトレーナーだ。この辺りに生息するポケモンは強く、並みのトレーナーでは足を踏み入れることすらできない。ポケモンを進化させる不思議な石や、イーブイの進化系のポケモンたち、それに強力なポケモンとのバトルを狙っているのだろう。

 

「研究者っぽいわね」

 

 人影が顕わになっていくにつれて、見えてくる正体。長い白衣を着た、妙な髪形の男性。こちらに気付いたようで、操作していたパッドから目を離して不審そうにルリミゾを見つめている。不審なのはお前の髪型だ、とは言わずにジムリーダーらしく行動する。

 

「こんな時間にここで歩いていて大丈夫なの?」

 

 ポケモンも出さずにひとりで何かを調べている。もしも後ろから野生のポケモンに襲われでもすればひとたまりもないだろう。

 

「ええ、私はこう見えてそこそこ腕が立ちますから。オーベム!」

 

 ポン、と光と共に現れたのは、ガラルでは珍しいオーベム。かなり鍛えられているのが一目でわかる。ここらのポケモンでは太刀打ちできないだろう。どうやら強さについては杞憂だったようだ。

 

「その実力なら大丈夫ね。研究者なの?」

 

 とはいえ、不審なことに変わりはない。もしも何かを企んでいるのであれば、ジムリーダーとして振舞っている以上、見過ごすことはできない。

 

「そうです!私は『ポケモンの力は何によって引き出されるのか』について研究しています!このガラル地方にはダイマックスという現象があると聞きまして、いてもたってもいられず調べに来たのです!」

 

 やけにハイテンションで、大きな声で語り出す。ソニアといい、研究者は自分のテーマのことは熱く語ってしまう習性があるのだろうか。

 

「あなたは――ポケモンの力は何によって引き出されると思いますか!!」

 

 突然の質問に、すこし引きながらも答える。人柄を知るためには会話を続けなければいけない。

 

「……人と組むことよ」

 

「それは――信頼関係、つまり絆と?」

 

「……ええ、そうよ」

 

 実際、人間との信頼関係によって力を引き出せるとルリミゾは考えている。しかしギンガ団にいた科学者のように、好かれてもいないのに無理矢理従わせ、力を引き出している人間がいるのも確かだった。そのことが頭をよぎって、すこし返事が遅れた。

 

「私もそう思っています」

 

 男も同様の答え。けれども男の目はそう告げていない。調べ足りない、と。

 

「しかし、まだ試していない方法はいくらでもある!」

 

 よく見れば手に握っているのは「ねがいぼし」。ポケモンをダイマックスさせるエネルギーを持った隕石だ。怪しい科学者に対して良い印象のないルリミゾにとって、この何をしているかわからない変な髪形を放置しておくわけにはいかない。まともな人間か確かめるまで、ワイルドエリアで好きにさせたくはなかった。

 

「――それは、無理矢理力を引き出すのも含まれているのかしら?」

 

 核心に迫る。この男の目は、それをやりかねないと直感が告げている。力を引き出すためにポケモンと関わっていくならば、トレーナーという関係が普通の選択だ。にもかかわらず、わざわざ科学者という道を選んだということは。つまり。

 

「そうです!」

 

 まるで当然のように。

 

「私にとって、力を引き出す方法は何でもいい!」

 

――この男は危険だ。今ここで拘束して、警察に引き渡さなければいけない。

 

「機械で無理矢理引き出しても」

 

 男は続ける。

 

「トレーナーとの絆の力で引き出しても」

 

 まるで子供が夢を語るように。

 

「果てには、ポケモン自体を改造したとしても!」

 

 無邪気に、純粋に。知りたくて仕方がないと言わんばかりに。

 

「ダイマックスはどう作用するのか!ポケモンとダイマックスの関係とは!調べないわけにはいかないでしょう!」

 

「野生のポケモンがダイマックスすれば、力を制御できず暴れ回るわ。その『ねがいぼし』を使って何をしようとしていたのかしら。ねえ?」

 

「おや、お気付きでしたか。あなたは強いようですが、離れていた方がいいですよ。これからダイマックスさせるのですから!」

 

 ガラルの外から来たとあって、ルリミゾのことを知らないらしい。実力行使で止めるまでだ。

 

「それはジムリーダーとして見過ごせないわ。拘束して警察に引き渡させてもらうわよ」

 

「おっと、強そうだとは思っていましたがジムリーダーとは。私も運がありませんね」

 

 どの口がジムリーダーを名乗るのか。自嘲しながらも互いに腰のボールに手をかけたその時。

 

 邪な考えが浮かんだ。周りには誰もいない。

 

「待って?」

 

 

「アンタ、科学者なら異世界に移動する方法に心当たりは?」

 

 

 

 

 この狂人を上手く捕まえれば帰還が早まるかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……ほう!そんなことが!」

 

「あたしが狂っていないなら、本当よ」

 

 重要な部分をぼかしながら、この純粋な科学者の興味を引くように。

 

「赤い鎖、ですか。そのアカギというボスはなかなか秀でた才をお持ちのようですね」

 

「……まあね」

 

 他人事、それもどうでもいいボスの話だったが、今となってはなんだか懐かしくて、誇らしく感じた。

 

「シンオウ地方でその状況を再現するためには、人手や設備が必要不可欠でしょう。かなり時間がかかってしまいますね。他の方法で私に心当たりがあるのは、ウルトラホールです」

 

「ウルトラホール?」

 

「異世界へと繋がる穴のことです。詳しく調べたことはありませんが、そこから未知のポケモンが現れたりしているとか。そして記憶喪失の人間がそこから降ってきたり……」

 

 まさに求めていたもの。

 

「それ!それよ!どうやって開くのよ!」

 

「それは調べないとわかりませんが……私はポケモンの強さを引き出すことを調べてますからねえ……」

 

「――なら、あたしが力を引き出して見せるわ。機械によってだとか、そういう手段で力を引き出されたポケモンも全て打ち倒してあげる。だから協力しなさい」

 

 ここでこの科学者を逃す手はない。

 

「ガラル地方には無敗のチャンピオンがいますね。ダンデ、でしたか。彼はポケモンとの絆を説いているトレーナーですが、私の研究への協力はしてくれないでしょう。あなたは協力してくれたとして、どれくらい強いのでしょうか」

 

 目に見えた挑発。もっともルリミゾが燃える瞬間だ。

 

「あはは!言ってくれるわね。戦えばわかるんじゃない?二度とその口開けないようにしてあげる」

 

「ほう!では早速バトルしましょう!私はある知り合いから組織への参加を勧誘されています。そこでは研究ができる!人員も、設備も揃っています」

 

「……確かにあたしは何も提供できないわね」

 

 そう言われてしまえば詰まる。しかし!と大声で続ける男。

 

「私はその知り合いがキライ!です。嫌いですが、私よりも強いのです。ポケモンを無理矢理従え、その力を引き出しています。少なくとも私を倒せなければ、絆でポケモンの力を引き出せるとは言えませんよね?」

 

「望むところよ。ボコボコにして何が何でも従わせてやる」

 

 単純明快な条件だ。ルールを決めてから離れて準備をする。6vs6、道具アリ。双方準備を終えてから、互いに向かい合う。

 

「直結しててイイじゃない!発散させてもらうわよ!」

 

「さあ、見せてください!あなたとポケモンたちの力を!」

 

 野蛮と天才が衝突する。

 

 




ルリミゾは野生的な勘があるので、この男の才に気付いています。こういう人を見抜ける目のおかげでかろうじて人間生活を送れていたところがありますね。
はたして誰なんでしょうか。この男は。
登場に悩み、なかなか時間がかかってしまいました。帰るためには運用する頭がいりますから、そこは勉強ではなく他人の手を借りるしかありませんしね。

評価・感想いつもありがとうございます。
お気に入りもありがとうございます。
誤字報告助かります。
今回も読んでくださりありがとうございました。


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37-vs■■■■ 感性vs理性①

 
 
 
~♪戦闘!アクロマ~
 
 
 


 

 ワイルドエリア、野生の世界は電灯などなく、ただ月と星の光だけが薄く地上を照らしている。少し闇に溶けたような距離で、奇抜な髪形の男が語る。

 

「申し遅れましたね。私の名前はアクロマ!世界を旅して『ポケモンの潜在能力はいかにして引き出されるか』を研究しています!」

 

 離れていて表情は見えないが、あの無垢な瞳が知識欲に輝いていることは容易に想像できた。これはバトル前の挨拶のつもりなのだろう。礼儀として、ルリミゾもボールに手をかけながら自らを語る。

 

「ギンガ団幹部、ロベリア。帰るための方法を探しているわ」

 

 果てしなく長い帰路の手掛かりは逃せない。倫理観を無視できるこの男ぐらいしか、自由に動いて協力してくれる人間はいないだろう。そう考えたルリミゾの髪が風で揺れる。遠くで鳥ポケモン達が飛び立った。バサバサという音の合間、どちらともなく場の雰囲気が戦闘に変わった。

 

理科系の男の アクロマが

勝負を しかけてきた! ▼

 

 ガラルのトレーナーのように熱意のある投げ方はしない。アクロマはただ下手(したて)から軽くボールを投げた。

 

 ルリミゾも合わせて力を抜いてボールを投げた。

 

「ぐふ!」

 

 本人の希望によって一番手はチラチーノ。対してアクロマが繰り出したのはレアコイル。

 

(あいつの言ってる内容からして何かしらの道具……まあ進化の輝石ぐらいは持ってるでしょうね)

 

 進化の輝石は、ポケモンの進化するエネルギーを全て溜めこむ石。進化しない代わりに、その種としての力を全て防御力に変換する。チラチーノならどう対処すればいいか理解しているはずだ。

 

「任せるわ!好きにしなさい」

 

「ポケモンに任せるのですね。『エレキネット』!」

 

 レアコイルが電気の網を放った先、既にチラチーノの姿はなく、盛り上がった地面があるだけ。「穴を掘る」だ。即座にそれを察したアクロマは淡々と指示を出す。

 

「出てきたところに『放電』しなさい!」

 

 地面タイプの技である「穴を掘る」をまともに食らってしまえば、いくら頑丈なレアコイルとはいえ大ダメージだ。素早いがリーチの短いチラチーノへの解答は自分を中心とした広範囲攻撃。

 

「ロックブラスト」

 

 しかし、チラチーノが飛び出したのは少し離れた背後。ロベリアの指示はまるで常にチラチーノの位置を把握していたかのよう。硬いレアコイルの体に岩石がぶつかり、ガンガンと音が鳴る。効果はいまひとつだが、()()()()()()()()()()

 

「右後ろ45度、『チャージビーム』」

 

 レアコイルからチラチーノは離れていて「放電」するには負担が大きい。無理矢理範囲を広げて「放電」で攻撃することもできたが、あえてしなかった。一匹目相手に全力を使い果たしてしまえば、後続に控えているかもしれない面倒なエースのポケモンに積みを許してしまうかもしれないから。

 

 耐久力の高まっているレアコイルであれば、「チャージビーム」で能力を上げるほど得になる。またチラチーノの位置さえ割れていれば近付けさせない牽制ができる。

 

 しかし、レアコイル動けず。地面にごとりと落ちて体を揺らすことしかできない。

 

「詰めなさい!」

 

 それを確認するよりも早く、まるでレアコイルが動けないのを予知していたかのように指示を飛ばすロベリア。

 

「レアコイル!?何が……」

 

 と、チラチーノの頭に着けられた道具を見て理由を察した。夜闇で遠く、繰り出した時には確認できていなかった。

 

「『王者の印』。あたしにピッタリな名前ね」

 

「どうして怯むことを?確実ではないでしょう」

 

「だって、怯みそうだったじゃない?わからないかしら?」

 

 勘ではなく直感。当然本人以外に伝わるはずもないが、ロベリアは総合的な経験から判断していた。今まで怯んだ敵、怯まなかった敵、そしてチラチーノのコンディション、本人に自覚がなくとも、それらを「流れ」として把握していた。

 

「動けませんか、仕方ないですね」

 

 レアコイルは再び距離を取るために動こうとするが、わずかしか体を動かすことができない。そうして一瞬、ゴン!と鈍い音が鳴った。チラチーノが怯んでいるレアコイルに「はたき落とす」を使った音だ。

 

「やっぱり持ってたわね」

 

 地面に転がったのはピンク色で掌大ほどの石。進化の輝石だ。これを落としてしまえば、もうレアコイルに異常な硬さはない。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 面倒な相手だ、とアクロマは思った。リスク承知で、経験を基に異様な領域まで踏み込んだ判断をしてくる。「もしも裏目に出たら……」というような危険な選択肢を「アドバンテージが取れる!」と突っ込んでくる。

 

(こういう動きに対してはいかに咎めるかが大切ですね)

 

 無理矢理突っ込んでくるのを上手くいなせれば、相手は自滅する。問題はその勢いを殺し切れるかどうかだ。

 

「ロックオン」

 

 あちこち動き回るチラチーノは想像以上に厄介だった。スピードに加えて指示なしでの自由な動きとそれをサポートする指示。多少手間をかけてでも削る必要がある。

 

「距離を取って『リフレクター』、詰めさせないように」

 

 物理に対して強くなる壁を張らせた。チラチーノもレアコイルを追いながら「光の壁」を張ったようだ。

 

(長引くほどこちらの被弾が増える。そうすれば怯む可能性も高まって……相手の思う壺ですね)

 

「一撃で決めましょう」

 

 声を合図に、レアコイルが下がりながらエネルギーを集める。チラチーノは技を撃たせまいと近付くが、()()()()()()()()()()()。チラチーノが辿り着いて攻撃をするよりも速く。命中率は五分五分。一般的にはロマン技、とも呼ばれるそれをアクロマは実戦で用いていた。「ロックオン」してしまえば必中。気付いたロベリアが叫ぶがもう遅い。

 

「待って!『守る』!」

 

 チラチーノが反応するよりも先に。

 

「電磁砲」

 

 極太の雷が放たれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 吹き飛ぶチラチーノと、冷静に追撃の指示を出すアクロマを交互に見て、ロベリアは笑った。

 

「派手なことするじゃない」

 

 チラチーノは全身がビクビクと震え、痙攣している。思う通りに動かせないもどかしさから、苛立ちを込めてレアコイルを睨みつけている。麻痺だ。

 

「光の壁がなかったらヤバかったわね」

 

「ぐふ」

 

 返事も短く、苛立っているのがわかる。やってくれたな、とでも思っているのだろうか。

 

「『投げつける』、そこから『蜻蛉返り』」

 

 近くで小さく指示を出した。十分に役目を果たしてくれた。動きが鈍くなったとはいえ、道具を『投げつける』動作に影響が出るわけではない。振りかぶった手に持つのは王者の印。

 

「いけ!」

 

 ゴチン!と金属同士が音を響かせる。再び技を放とうとしていたレアコイルがゴトッと落ちた。動けなくなったレアコイルへと加速しながら駆けていくチラチーノ。

 

「ぐふ!」

 

 仕返しとばかりに強烈な蹴りを叩き込み、そのままボールへと戻っていく。

 

「相性不利だったけど……本当に良い仕事したわね」

 

 チラチーノは一人で進化の輝石をはたき落とし、「光の壁」まで張ってくれた。そして麻痺しているにもかかわらず指示を完遂し、手元に帰って来た。ボールを指でピン、と弾いて褒めた。バトルが大好きな性格だけあって、こなせる仕事量が本当に多い。大ダメージこそ与えられなかったものの、レアコイルはもう機能停止したと言っても差し支えない。

 

「クロバット!」

 

 交代先はギンガ団としての奇襲係、クロバット。バサバサ、と小さく羽音が聞こえた後、夜の闇に紛れて姿が消えた。羽ばたく音すらも聞こえなくなった。夜の闇はクロバットが最も力を発揮する状況である。タイプ相性を超えた蹂躙が始まる。

 




お待たせしました。
王者の印を頭に着けたチラチーノ、想像すると結構可愛いですよね。
アクロマは頭がいいですが、私の頭は悪いので何度も書き直して頭を良くしようと試みています。頭のいいキャラはアホには書けないのでつらいところですね。
肩書が理科系の男なのは、ルリミゾ視点だからです。

評価・感想いつもありがとうございます。本当に励みになります。
誤字報告助かります。
遅れてしまってすみません、ストックもあるのでこの頭いいゾーンをなんとか抜けるよう頑張ります。
読んでくださりありがとうございました。


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38-vs■■■■ 感性vs理性②

【まえがき】
I'm back

お待たせいたしました。アクロマ戦の続きです。
前回はレアコイル相手にチラチーノが攪乱して、クロバットに交代したところまでです。


【まえがき終わり】


 

(暗闇に紛れて……)

 

 完全に闇に紛れて消えたクロバット。アクロマの眼鏡越しの視界ではもう捉えられないので、攻撃が来る前に対応の策を打たねばならない。

 

「フラッシュ――」

 

 レアコイルが集中し、辺りを照らそうとすると同時、目の前にクロバットが現れた。レアコイルを馬鹿にしたような表情で、軽く額に蹴りを入れて再び闇に消えていく。

 

「挑発……!」

 

 先ほど見せた「放電」を警戒して、迂闊に接近してくることはないだろうと踏んでいたアクロマだったが、ロベリアは攻めっ気しかないらしい。

 

 クロバットが消えて暫く、攻撃が来ない。時折かすかに羽音らしき音や、草の揺れる音が聞こえるが、ヒトであるアクロマの耳にはそれが本当にクロバットの立てた音なのか、風の音なのかわからない。

 

(居座るべきか……)

 

 タイプ相性からして、レアコイルが有利なのは明らかだ。チラチーノに攪乱されたとはいえ、まだまだ戦える体力。加えて「光の壁」まで貼ってある。

 

(――いや、『すりぬけ』を考慮すべきですね)

 

 物理技や特殊技の威力を大きく軽減してくれる「リフレクター」や「光の壁」だが、それらをすり抜けるように攻撃してくる個体が存在する。クロバットにも稀にそういう個体がいる。ことごとくアクロマの予想を外してくる相手がわざわざ繰り出したクロバットだ。何かあることを警戒して退くことを決めた。

 

「退きましょうか」

 

 アクロマがボールを使って戻すのではなく、わざわざ指示を出したということは「ボルトチェンジ」の合図だ。即座にレアコイルがパチリと電気を弾かせて、その反動でボールへと戻っていく。暗闇に溶けたクロバットを捕捉できずとも、安全に交代することはできる――

 

――はずだった。

 

「あはは!掌の上ね!」

 

 ボールへと戻っていく道中、カットするように横切る影、瞬間、ゴッと鈍い音がしてレアコイルは三度目の落下を迎えた。二度目までの落下と違うのは、レアコイルが気絶してもう動かないということ。

 

「『追い討ち』!逃すわけないじゃない!」

 

 得意技よ、と闇の向こうで笑っていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(相手が見えないと、みんな自然と引け腰になるわね)

 

 生物としての本能が、暗闇を恐れる。ロベリアは、アクロマの思考を追えていたわけではない。ただ、暗闇に紛れたクロバットを前にした相手がどういう傾向なのかを知っていただけだ。アクロマのような知性あるトレーナーであっても、人である以上その傾向から逃れることはできない。

 

「見えない相手には後手に回るしかない。それならもっと有利で状況を打破できるポケモンに逃げたくなるのは当然よね?」

 

 クロバットはただ追い討ちだけを狙っていた。先手を打つ権利は常にクロバットにあった。だからこそ、じっくりと焦らせて相手の精神を揺さぶる。そうして交代へと逃げの手を打つ相手に高威力の「追い討ち」を決めるのが得意の流れだ。

 

「おいで」

 

「バァット!」

 

「よくやったわね」

 

 クロバットを腕にとめてやる。「はねやすめ」とまではいかないが、軽く労わる程度にご褒美だ。

 

「次はたぶん……厳しいから、上手くやりましょ」

 

「バット!」

 

 ズゥン、と地面が揺れる。少し横に平べったい大きな影。戦闘不能のレアコイルを戻したアクロマが繰り出したのは――

 

「――メタグロス」

 

 やはり従えていた。オーベム、レアコイルとくれば、この男の性質からして従えているポケモンは簡単に想像できる。ポリゴンやギギギアルなんかも従えていそうだ。逆にルリミゾは従えているポケモンが意外だとよく言われる。オコリザルを連れていないのが意外だそうだ。許せない。

 

「隙を見て交代するわよ」

 

 頷いて腕から飛び立ったクロバットがすぐに見えなくなって、メタグロスの鈍く月光を反射する大きな身体だけが戦場に残っている。

 

「――」

 

 アクロマが何か指示を出して、巨体が低い音を立てて動く。その見た目の割りに、メタグロスは磁力で浮遊することもできるポケモンである。その太い腕から繰り出される重い一撃と、耐久力、そして高い知能。

 

「何より厄介なのは……」

 

 エスパータイプ。感知に優れていることだ。奇襲は自慢の硬い体で耐えられ、念力で位置を特定される。だから指示したのは「蜻蛉返り」。バトルで戦うにはあまりにも分が悪い相手だ。

 

ボッ

 

 そこまで思考したところで、クロバットが攻撃したにしてはあまりにも低い打撃音が鳴った。遅れてアクロマが技を読み上げた。

 

「コメットパンチ」

 

 軽い体に重い一撃の突き刺さる音。彗星のような一振り。背後から迫るクロバットを振り向いて撃ち抜いていた。メタグロスの両目が妖しく光っている。

 

「『ミラクルアイ』…!よく使うわねそんな技…!」

 

 エスパーの能力で相手の位置を特定する技だ。クロバットの位置をわかった上で誘っていたのだろう。しかしクロバットも自分の判断で咄嗟に羽ばたいて、「霧払い」することによって衝撃を和らげている。

 

「でも目的は遂行できたわ」

 

「『リフレクター』を剥がしましたね…咄嗟に『霧払い』を出すとは」

 

 吹き飛んだクロバットがボールへ戻ってくる。戦闘不能でも「蜻蛉返り」でもない。持たせていた道具の「脱出ボタン」だ。攻撃を受けたポケモンを強制的にボールに戻してくれる。

 

 繰り出すのはロベリアのエース、ポリゴンZだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「素晴らしいですね」

 

 アクロマはクロバットのパーティへの献身に感心していた。「コメットパンチ」がヒットする直前、あのクロバットならもっと勢いを殺すことも、もしかすると回避すら出来たはずだった。「ミラクルアイ」はあくまでも位置を把握できるだけで、「ロックオン」のように必中となるわけではない。それにも関わらず、「霧払い」に切り替えて()()()()()()()()()。全てはパーティとロベリアの勝利のため。

 

 クロバットという種族は、非常に打たれ弱い。これは見た目からも分かることだが、理由は他にもある。クロバットの牙の中は吸血のために空洞になっており、非常に脆いのだ。そんな危険をクロバット自身理解していながら、「霧払い」を放ったのだ。

 

 向こうからロベリアの声とともに現れたのはポリゴンZ。

 

「ポリゴンZ!あんたもポリゴン連れてそうね!どうなの?」

 

「……ええ、今は連れていませんがね」

 

 この地方には連れてきていないが、ポリゴン2をアクロマは従えている。ポリゴン2とポリゴンZ、どちらの姿がポリゴンの潜在能力を引き出せているのか。アクロマも答えを出せていない問いである。

 

 閑話休題。メタグロスは先ほどの「コメットパンチ」で攻撃が上がらなかったものの、クロバットに大ダメージを与えただけでも十分な成果だ。メタグロス対ポリゴンZは後出しされたとはいえ、そこまで不利な対面ではない。

 

 しかし、ポリゴンZは特殊技を使うのにもかかわらず、わざわざ「霧払い」して「リフレクター」を早めに剥がしたということは、相打ち覚悟や早期の交代で物理攻撃のポケモンを出すことを想定しているに違いない。炎タイプの技を耐えるために持たせている「オッカの実」の出番はなさそうだ。

 

「アームハンマー」

 

 腕で飛び、磁力で浮かび上がったメタグロスがポリゴンZに接近する。その二つの前腕を大きく振りかぶり、そして振り降ろすと同時――

 

ゴシャア!!

 

 大きく土埃を上げながら崩れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「『イカサマ』!強い力はそのまま自分に返るのよ!」

 

 受ければ一撃でやられてしまうであろう「アームハンマー」の大振りを利用して、メタグロスをひっくり返した。効果は抜群。このためにクロバットは「リフレクター」を剥がしたのだ。

 

 しかし。

 

 鋼のボディには土の汚れしか見えない。地面を揺らすほどの衝撃、そして効果は抜群だったにもかかわらず。かなり響いてはいるだろうが、あれほど硬いメタグロスは見たことがない。上手く嵌めて倒したレアコイルも同じように鍛えられていたのだろうか。

 

「……どんな鍛え方してんのよ」

 

「言ったでしょう?潜在能力を引き出すと」

 

 育成の方法はロベリアにわからないが、普通のメタグロスよりも硬く、重いように感じる。かといって動きが遅いわけではない。やはり優秀な人間らしい。協力を得られれば、ルリミゾの手持ちの調整にも役立つだろう。益々力が入る。

 

「シャドーボール」

 

 距離を取って数発、影の弾を撃つポリゴンZ。メタグロスはその太い腕であちこちへ弾く。まるで弱点のタイプなど関係ないように全てを。

 

「硬すぎじゃない……?」

 

 メタグロスが再び距離を詰めんと迫り、繰り出したのは「思念の頭突き」。思念の力を頭に集めて攻撃する技だ。初見殺しの「イカサマ」がもう一度通用するとも思えないので、正面から撃ち合う。

 

「悪の波動!」

 

 効果抜群の悪タイプの技である。加えて、相手を怯ませることもある。エスパータイプの技と撃ち合えば、ポリゴンZ側が有利なのは明らかだ――

 

 が、波動を突き抜けた頭突きがポリゴンZを吹き飛ばした。当のメタグロスは当然とばかりに構えている。

 

「押し切れるラインをずらされるだけでこんなに面倒なんてね」

 

 またしても感覚とズレた重量、硬さで押し切られた。ポリゴンZは首を傾げながらくるくると飛んでいる。勢いは「悪の波動」で抑えられたものの、突破された衝撃が大きい。生半可な攻撃は通用しないようだ。何度も撃ち合っていては、撃たれ弱いポリゴンZが不利である。メタグロスにダメージは通っているであろうものの、あと数発撃たねば倒れないだろう。

 

「アレ、やるわよ」

 

 ピピッと、電子音のような返事があった。

 

 今までの攻撃は全て、サブウェポンだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 強いな、とアクロマは思った。バトルをすればある程度相手のポケモンの強さがわかる。バトルは専門ではないにせよ、ポケモンの潜在能力を引き出すという研究上無縁ではない。

 

 アクロマの手持ちのポケモンは出来る限り力を引き出したポケモンたちだ。戦術では毎日研鑽しているトレーナーに及ばないものの、ポケモンたちの能力は劣っていない。いや、むしろ単に戦闘を繰り返しているだけのトレーナーたちよりもその能力を発揮しているだろう。

 

「来ますね」

 

 ロベリアが照らされている。雲間から出た月の光と、ポリゴンZの出す光に。生半可な攻撃は通用しないと悟ったのだろう、「破壊光線」の体勢だ。

 

「守る」

 

 止めに行くにはメタグロスの足は遅いので、耐えて返しで叩き潰すことを狙う。「破壊光線」はノーマルタイプの技である。鋼/エスパータイプであるメタグロスに効果は今ひとつだ。反動は大きく、メタグロスが耐え切ってしまえばポリゴンZを確実に落とせる。

 

――極大の光線が放たれた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「消し飛べ!」

 

 標的である鋼の巨体へと指をさして。同時に光線が放たれる。

 

 起きた風で髪や服が靡く。

 

 メタグロスはその四脚をしっかりと地面に突き立て、衝撃に備える。グッ!という音が聞こえて来そうなほど力強く。正面には「守る」を。本来タイプ相性で半減される技であるが、あれほど全力で守るのはロベリアへのリスペクトだろう。

 

 最も強く光り輝いた次の瞬間には、光線がメタグロスの眼前まで到達していた。ド!と接触時にそれだけ音がして、ガリガリと「守る」を削る音に変わった。周囲は明るく照らされて、メタグロスの踏ん張りで土が舞い上がる。

 

 地面をズズズ、と跡を残して下がりながらもメタグロスの体勢は変わらない。正面に「守る」を出しながら四足で踏ん張りを。そして数秒、破壊光線の威力がほんの僅かに弱まった。

 

 これなら耐え切れる、とアクロマが次の指示を出そうと口を開いた瞬間。メタグロスが「守る」を解いて反撃に移ろうとした瞬間。

 

 その一瞬、声が響き渡った。

 

「まだまだいけるでしょ!」

 

 呼応するようにポリゴンが強く光る。

 

「もっと強く!もっと!」

 

 ポリゴンZに括りつけた宝石が輝く。光が太くなる。

 

「な……!」

 

 光をメガネに反射している奥で、その怜悧な表情が崩れた。ロベリアは笑った。

 

 アクロマの冷静そうな目を見開かせた。それが爽快で、ロベリアは大きく口を開けて笑う。ターフタウンで手に入れた「ノーマルジュエル」だ。一度に限り、ノーマルタイプの技の威力を大きく向上させる。今まで「シャドーボール」や「悪の波動」で戦っていたのはこれを温存するため。中途半端な攻撃では有効打になり得ないと判断しての使用である。予定外ではあるが、突破できないよりはマシだ。

 

 ジュッ!と焼けるような音がして、メタグロスの「守る」が消し飛んだ。そして同時にメタグロスも光に呑まれた。巨体は地面から捲れ上がり、吹き飛んだ。

 

 倒れて動かない姿から戦闘不能を判断して、アクロマがボールに戻す。それを見たポリゴンZが狂ったように高速で回転して、その喜びを表現している。電子音が踊り、手と尾は止まることを知らず忙しなく動き回っている。

 

「ギンガ団のエース、舐めてんじゃないわよ」

 

「低く見ていたわけではありませんがね」

 

 やや不服そうに、リスペクトは十分だったと主張するアクロマ。ロベリアとて刃を交えれてそれを理解している。決め台詞が言いたかっただけなのだ。

 

「そんくらいわかってるわよ」

 

 まだ上下左右に乱れて動くポリゴンZを抱きしめて頭を撫でた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 5番道路、ターフタウンとバウタウンの間。ワイルドエリアの上に架けられた橋の上で男が目を見開いた。欄干に手を置いて、身を乗り出すようにしてワイルドエリアを凝視する。

 

「あの光は……」

 

 西の方、おそらく「逆鱗の湖」辺りだろうか。深夜にもかかわらず大きな音と光があった。あれほどの出力、並みのポケモンではない。野生のポケモンに襲われたトレーナーが指示したものにせよ、野生のポケモンのものにせよ、いずれにせよ確認しに行かずにはいられない。男はどんな立場でもそうする人間であり、また男の立場からしてそうしなければならないからだ。

 

「俺じゃ時間がかかってしまうな」

 

 男は方向音痴である。だからいつも相棒に任せている。普段は並走していたが、今日は特に急ぎのため「そらをとぶ」で連れて行ってもらう。

 

「リザードン!」

 

「ばぎゅあ!!」

 

 炎が橋を照らした。その背中に乗れば、炎と体温で力強い生命を感じる。男は相棒の調子が絶好調であることを触れて感じながら、光のあった方へとリザードンが羽ばたいた。

 

 




一ヶ月開くまえに更新できてよかったです。しばらく忙しいですが、折り合いをつけてこれからも更新を続けていくつもりです。
いつも評価・感想ありがとうございます。続けられたのは皆さまのお陰です。
読んでくださりありがとうございました。


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39-vs■■■■ 感性vs理性③

 

 倒されたメタグロスのボールを眺めて、アクロマは暫し自らを落ち着かせようと試みた。「破壊光線」の反動で技の撃てないポリゴンZに立ち直る隙を与えてしまうが、動揺と興奮で揺れている精神ではロベリアの相手ができないと判断したのだ。

 

「……」

 

 ロベリアと彼女のポケモン達の強さは、アクロマが設けた基準をとうに超えていた。薄々、敗北を感じながらも、降参しないのは何故か。一瞬の自問自答の後、自分のポケモン達の強さを見せつけたいという内心に気が付いた。

 

「らしくないですね」

 

 協力者が十分に強いと判明した以上、このバトルは研究には不要な時間である。バトルを打ち切り、今後の相談に時間を割いた方が建設的である。

 

――しかし何故か、それを許さない自分の衝動を自覚した。

 

 ほぅ、と一息吐いてから、ボールを投げた。動揺は収まったものの、自分が思うよりも熱くなっている。投げたボールの選出も、この熱に浮かされたものである。そのことを自覚しながら、ポリゴンZを抱きしめて不思議そうにこちらを見ている少女を見据えた。

 

「ギギギアル、頼みます」

 

 繰り出したのはアクロマのエース、ギギギアル。他にもロトム、ジバコイルの選択肢があったが、最も信頼しているポケモンを選んだ。それは理性的な判断から来たものであり、またアクロマ自身と、このギギギアルがあのポリゴンZ相手にどれだけ戦えるのか知りたい欲求から来たものでもあった。

 

 バトルは専門外で、勝ち負けに拘りはないつもりであったが、いつの間にか熱が入っていたらしい。試す――アクロマが勝てば、それだけ、負けたとしても都合の良い協力者が見つかるだけ――そう思っていたはずが、全力で勝ちを獲ろうとしている。

 

「しかしまあ――そう悪い気分でもありませんね」

 

 いつのまにかズレていた眼鏡を手で直して、少し笑いながら向き合った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「強そうね」

 

 繰り出されたギギギアルを眺めながらロベリアが呟けば、ピピピッと音が返って来た。艶のある鋼は、暗闇の中でもハッキリとその輪郭を現わしている。ギリギリと歯車の回る音が響く。手元に抱いているポリゴンZがもぞもぞと動いている。手触りはつるつるしていて、そこに命があることを忘れてしまいそうなほど。

 

(こうして触ってると、ほんとに生物感ないわね……)

 

 無機質な手触りが、しかし、力強くロベリアの手元を離れた。アクロマが何故か時間を使ったおかげで反動からは復帰している。

 

「やってやろうじゃない」

 

 電子音が鳴る。ポリゴンZがバチバチと光って、その本質を電気に適応させていく。ポリゴン種固有の技――「テクスチャー」と呼ばれている技――である。ノーマルタイプだったポリゴンZは、今や電気タイプ。鋼タイプの攻撃に強く、鋼タイプに対する技の通りが良い。

 

「これでタイプ有利はひっくり返ったわね」

 

「ええ。しかし時間はこちらにも与えられている」

 

 ギアが音を立てて加速する。ガコガコと金属がぶつかり、ギアを変える音が鳴る。ギギギアルの回転はさらに速くなり、その身体には力強さが漲っている。攻撃力が上がり、素早さもぐーんと上がった。

 

「『ギアチェンジ』これから先はもっと速くなりますよ」

 

 アクロマ自身の纏う雰囲気も変わった。

 

「ムカつく顔だったけど、少しはマシな顔になったんじゃない?」

 

 そこに立っているのは研究者というより、ひとりのポケモントレーナーだった。

 

・・・

 

「ギギギアル」

 

 アクロマの呼びかけと共に歯車が二つ、浮かび上がった。噛み合う対象もなく、ひとつずつそれぞれ高速で回転しながらポリゴンZに飛んでいく。軌道はちょうどポリゴンZを挟んで噛み合うように。

 

(やっぱり普通のより速い!)

 

 ポケモンの状態が技のキレにまで反映されている。幅広く技を使い、ロベリアとの豊かな戦闘経験によって鍛えられたポリゴンZ。対して、その能力を伸ばし、「ギアソーサー」と「ギアチェンジ」のみで戦ってきたギギギアル。対応の遅れた今、崩れた体勢で迎え撃てば押し潰されるのは明白。

 

「避けて!」

 

 選択肢は二つ、撃ち落すか回避するか。撃ち落そうとしなかったのは、アクロマとギギギアルへのリスペクトだ。万全の状態で技を出力しなければ、撃ち落とすことは不可能だろう。メタグロスから既に学んでいる。ましてやこちらのエースにぶつけてきたポケモン、警戒しないことが非礼である。

 

 回避行動をとって動いた一瞬、歯車の軌道がガクンと変わり、ポリゴンZを挟み込んだ。

 

「――ッ!!」

 

 ごりごりと潰すような衝撃に、痛みを推し量ったロベリアの顔が歪む。

 

(『ギアチェンジ』だけじゃない、元からして火力が違う……!)

 

「放電!」

 

 バチィ!と電気が弾けて目が眩む。その反動で歯車が散って消えた。なんとか脱したものの、厄介な攻撃に変わりはない。

 

「アレ、返すわよ」

 

 ポリゴンZにだけ聞こえるように、小さく呟く。相手の攻撃力を利用して反撃するのだ。

 

「もう一度『ギアソーサー』」

 

 アクロマが指示を出す。ギギギアルの技範囲からして、攻撃は単調。しかしその愚直さから来る熟練度は計り知れない。武人のような一芸に、ただただロベリアは感服するばかりだった。

 

「備えて」

 

 ポリゴンZからの返事は無い。集中を高めて、ただ次の指示を待っているから。

 

「イカサマッ!」

 

 叫ぶと同時――ポリゴンZがその歯車に当たる瞬間――に、歯車がそのままターンしてギギギアルへと向かった。

 

「ッ!()()()()()()!」

 

 これを返されるとは想定していなかったのか、ビクリと身体を震わせた後、指示を出すアクロマ。「アームハンマー」のような近接技だけでなく、「ギアソーサー」のように遠距離の物理技までも正確に返せる技術がポリゴンZにはある。

 

 返された高威力の「ギアソーサー」がそのままギギギアルへと飛んでいき――しかし、高速で回転する身体に受け流された。ガキン!と音が鳴って、そのまま横へと逸れて消えた。

 

「ええ!?」

 

「バトルに明るいわけではありませんが――自分の繰り出す技くらいはよく知っていますから」

 

 少し口角を上げながら言うアクロマ。そんな滅茶苦茶な、とロベリアは思った。けれども、次から次へとユニークな戦い方をする相手にワクワクしているのも事実だった。

 

「十万ボルト!」

 

 加速したギギギアルにゴリ押しされる前に先手を取る。技の撃ち合いというアクロマの土俵に立つのは癪であるが、中途半端な小細工が効かなくなる程度には積みを許してしまっているため仕方がない。

 

「迎え撃ちましょう『ギアソーサー』」

 

 同じ技しか撃たないというのに、技名を毎度言うのは感情移入か、それとも合理性か。ロベリアにアクロマの考えは何一つわからないが、この熱を共有していることを願った。

 

 正面から電気と歯車がぶつかりあう。積みを許して尚、拮抗するほどのポリゴンZの適応力。いや、むしろ押し返している。が、追加で飛び出た歯車によって押し合いは中断され、お互いに元居た位置から変わらず向かい合う。――と、不意にギギギアルの光沢に違和感を感じた。未だに道具について情報が得られていなかったが、この光沢の違和感から推理できる。

 

「メタルコートね」

 

「ご名答です」

 

 ギギギアルの身体はコーティングされている。鋼タイプの技を強化する道具「メタルコート」だ。単純さ故に見落としていた。

 

(わかったからといって方針が変わるわけじゃないけどね)

 

 道理で一撃が重いわけだ、と納得した。本題はあの「ギアソーサー」をどう凌ぐかである。電気タイプとなったポリゴンZに対して効果はいまひとつだが、この後に控えるポケモン達にとってはタイプ相性による軽減がない。ポリゴンZが生命線だ。

 

「自己再生」

 

「追撃しましょう」

 

 傷の修復を試みるポリゴンZ、追撃を狙うギギギアル。ほとんど移動せず「自己再生」を行うポリゴンZは当然歯車に挟まる。すり潰されそうなほどの圧の中、ポリゴンZは自己再生を続ける。ギギギアルが若干前のめりな体勢になって、力が入っている様子がひしひしと伝わる。ポリゴンZは狂った動きをかすかに圧の中で見せながら端から傷を回復していく。

 

 ここでもまた根競べだ。グググ、と跳ねのけようとするポリゴンZと、それを押し込めようとするギギギアル。何度目かもわからない押し合いで確実に両者は疲労していく。

 

「埒が明かないわ。『かみなり』!」

 

 痺れを先に切らしたのはロベリア。単調な力比べが続くことに耐性がない。命中率に難のある「かみなり」だが、この状況を打破するには十分な威力であり、リスクを避けたいアクロマを下がらせるには十分な技だった。数で負けているアクロマにとって、このエースを失うことは出来るだけ避けたい。少なくとも1-2交換――ギギギアル一匹で二匹を持っていくこと――は行いたいと考えているだろう。

 

 空から雷が落ちる。ゴロゴロという予兆もなく、唐突な衝撃。ほぼ同時に耳を劈く轟音。焼け焦げた地面はあれど、しかしギギギアルは距離を取って回避している。「ギアソーサー」から解放されたポリゴンZは自由に飛び回り、次の攻撃を牽制する。

 

「シャドーボール!」

 

 ()()()()、指示を出すロベリア。それを見たポリゴンZは即座に「シャドーボール」を連続で撃つ。しかし「ギアチェンジ」を重ね、変速に変速を重ねたギギギアルにとっては何も脅威にならない。ひらり、ひらりと飛来する弾丸を回避していく。曲がる弾も、直進する弾も、素早さの前では無力だ。

 

(効かないと容易に想像できたはず。それでも「シャドーボール」を撃つ理由は……)

 

 と、「シャドーボール」選択の理由に思考を巡らせたアクロマが一瞬遅れて狙いに気付く。天を指した指示の意味。

 

「――ッ!動くな!撃ち落とせ!」

 

 戦闘経験の差。時既に遅く、狙いを理解したアクロマが声を上げたときには雷が落ちていた。

 

 バン!

 

 どんぴしゃり。轟音、眩光と共に中心にいたギギギアルが見えなくなった。「かみなり」の位置へと誘導されていたのだ。煙が上がり、その衝撃の凄まじさが窺える。耳が裂けそうなほどの音量にアクロマの聴覚は麻痺していた。

 

「ギアソーサー!」

 

 それでも、それでも出す指示はひとつ。後悔は後回し。耳が少し聞こえなくなっても、叫ぶのはひとつの技。煙の中から一対の歯車が飛び出す。

 

「十万ボルト!」

 

 影響されてか、無意識にロベリアも叫んでいた。正面から突き進む光に対して、歯車はそれを避けるようにしてポリゴンZへと向かう。

 

「刺し違えてでも……!」

 

「望むところよ!」

 

 ごりごりとすり潰す音、それと電気の弾ける音。「かみなり」という重い一撃を見舞った以上、撃ち合いでは負けないだろうとロベリアは踏んでいる。そしてアクロマもまた、ギギギアルの強みを押し付けることのできるこの形を望んでいた。

 

・・・

 

――永遠にも思えるような長い力比べの末、先に「十万ボルト」が途切れた。同時に歯車が停止して、間にいたポリゴンZが落下する。

 

(連戦とはいえ……まさかこの子が負けるなんて)

 

「お疲れ様。よくやったわ」

 

 労わりながらボールに戻して、正面に目を向ければ光景。ギギギアルがゆっくり、ゆっくりと減速していく。そしてガタガタガタ、と音を立ててから停止――地面にぼとりと落ちて二度と浮かび上がらなかった。

 

(いや、引き分けね)

 

「お疲れ様です」

 

 ボールに戻すアクロマのその表情は、心なしか悔しそうな、しかし晴れやかなような表情に見えた。アクロマの心情を推し量るには、ロベリアはあまりにも短い付き合いであったし、夜がその観察を妨げていた。

 

「カビゴン」

 

「ジバコイル」

 

 次のポケモンを繰り出したのは同時。示し合わせたわけでもなかったが、綺麗にタイミングが一致した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「的が大きいですね」

 

 カビゴン相手なら、いくらチャージが遅く照準を定めにくい技であっても当てられるはず。そう判断したアクロマは、そのままその指示をジバコイルに伝える。

 

「『電磁砲』、速攻です」

 

 初撃から全力。ただでさえ体の大きく、動きの遅いカビゴンである。麻痺を入れることができれば戦いはジバコイル有利に傾く。そしてその凄まじい威力はカビゴンとて無傷ではいかないだろう。

 

「地震!」

 

 対するロベリアも、妨害を狙って「地震」で応戦する。強く、強く地面を踏みつけたカビゴンの真下から亀裂が走り、ビキビキ!と音を鳴らしてジバコイルの真下に迫る。ジバコイルは「電磁砲」のチャージで動かず、とにかく先に撃つために照準を定める。

 

――地面が盛り上がり、チャージ中のジバコイルを下から突き上げた。バゴ!という打撃音が鳴ったのは――

 

 まさに発射のタイミング。浮いた鋼が揺れる。その照準も合わせて。

 

 ドッ!

 

 斜め上、狂った照準が夜空を貫いた。思わず目で追った先――ポケモンが飛んでいる。

 

「なっ……!」

 

 声にならない声。驚くほど正確に、吸い込まれるように「電磁砲」が空を飛ぶポケモンの方へと向かっていた。

 

「「危ない!」」

 

 どちらともなく叫んでいた。

 

 直撃する――思わず目を閉じてしまいそうになった瞬間、炎が光線を上書きした。ゴオオ!と炎を吐き出す音が届いて、その光によって明らかになったポケモン、それとその背中に跨る人物。

 

 王冠をあしらった帽子と、重厚なマント。

 

 ゆっくりと羽ばたいて、近付いてくる。

 

「――ダンデ」

 

 ガラル地方が誇る無敗のチャンピオン。

 

 トレーナーの頂点。

 

 その代名詞であるリザードンは、アクロマのジバコイルが放った電磁砲を、いとも簡単に掻き消した。火炎放射の一振りで。

 

「熱いバトルだな!大きな光が見えて、何か事故かと思って急いで来たんだが、安心したぜ!」

 

 まるで何事もなかったかのように。だんだんと高度を下げて着地し、語り掛けてくる。

 

「強いリザードンですね」

 

「ああ、ありがとう」

 

 アクロマは謝罪の言葉を頭に浮かべていたが、思わず先に賞賛が飛び出した。アクロマ達のミスで流れ弾が飛んだのだが、モヤモヤした思いを抱かずにはいられない。そうだ、本来アクロマとルリミゾは危険に晒したことを謝罪する立場であった。それにもかかわらず、全力の戦いを一笑に付されたような。

 

 そう感じることが完全に格上だと認めたようでさらに苛立ってしまう。場を完全に支配しているダンデが言葉を続ける。

 

「……ルリミゾじゃないか!どうしたんだ?こんな時間にバトルなんて」

 

 言外に、アクロマの身元を問うているのだろう。これはどういうバトルなのか、と聞かれている。

 

「観光客。散歩してたら強そうだったから吹っ掛けたの。双方同意の対戦よ」

 

 もしも相手が不審な人間だったり、犯罪者だった場合は加勢するつもりだったのだろう。ジムリーダーやチャンピオンともなれば、軽々しく一般人とバトルすることはあまり褒められたものではない。そのことを咎められるのかとルリミゾは思ったが――しかし、ダンデからそのことを責めるような様子はない。むしろ、羨ましそうな顔を一瞬して、再びリザードンに跨った。

 

「そうか、それならいいんだ。邪魔してしまったな」

 

「大変ね、チャンピオンも」

 

 事件かどうか確かめに来たのはその性分か、それとも職務か。おそらくどちらも兼ねているであろう人間性を想像して、ルリミゾは笑った。

 

「はははっ!そう悪いもんじゃないさ」

 

「見に来ただけで終わり?」

 

 ルリミゾは冷や汗を流しながらも問う。今場に出ているのはちょうどカビゴンだから良かったものの、もう少し早ければポリゴンZを見られていた。まさかこんな時間に人が、しかもチャンピオンが来るなんて予想外だ。距離によってはポリゴンZを確認されていたかもしれない。そのことを探りながら、真意を探る。

 

「ああ、バトルを見ていきたいところだけど、明日の活動に支障が出てはいけないからな」

 

「戦いに水を差されたんだし、詫びのひとつでも欲しいところね」

 

 挑発。しかしダンデは歯牙にもかけず、ただその王者の笑みを湛えながらリザードンを羽ばたかせる。

 

「それなら『電磁砲』の流れ弾でひとつ、帳消しにしてもらおうかな」

 

「つれないわね」

 

 造作もなく打ち消したくせに。チャンピオンの手の内を実際に目の前で見たいという気持ちが強かったが、自身の疲労状態とポケモン達の状態を鑑みて諦めた。

 

「ま、せいぜい追加で飛んでこないことを祈るのね」

 

「それは困るなあ」

 

 軽口を混ぜて、その背を見送った。ガラルの企業があちこちに書き込まれたマント。そして少年少女、いやガラル全土の期待を背負う背中。そこには王者として完成された強さがあった。落ち着き払い、すべての挑戦者を見定めんとする風格。裁定を待つかのように、自ずから背を伸ばすトレーナーのどれほど多いことか。

 

(最悪の事態にはならなかったみたいね)

 

 水を差されたことで冷えた頭が最低限の思考を取り戻した。これがもしも、ポリゴンZの戦闘中であったなら。その想像をしてぞっとした。

 

「さあ、どうする?なーんか白けたわね」

 

 目をやれば、同様に白けた表情のアクロマ。その眼は冷静さを取り戻し、最初に出会った時のような無垢さ、無機質さが浮かんでいる。先ほどの熱は嘘のように、流れ落ちる汗だけが熱狂した戦いを示していた。

 

「お眼鏡にはかなったかしら?」

 

「ええ、それはもう十分に」

 

 これからよろしく、と手を差し出して握手した。東の空が少し白んできて、朝の到来を予感させる。それから少し、ルリミゾは我に返って睡眠時間がほとんど残されていないことに気が付いた。

 

「じゃ、連絡先も交換したしあたしは帰るわ」

 

「おや、ダイマックスしたポケモンを調べるのに協力してほしいのですがね」

 

「うー……しょうがないわね」

 

 アクロマが指さした先にはポケモンの巣穴。ワイルドエリアにある巣穴は、稀に中の空間が歪んでいて、ダイマックスしたポケモンがいることがある。今から「ねがいぼし」を使って何かやらかすことはないだろうが、貴重な協力者だ。親交を深めるためにも延長戦に協力することにした。果たしてこの男に親交という概念があるかはいまひとつわからないが、どうにでもなれという気持ちが強かった。

 

・・・

 

 数時間後、ダイマックスしたポケモンが一匹も見つからず、気合を入れ直していたルリミゾが消化不良と疲労でフラフラになりながら帰路についた。

 




良い試合って、当事者同士でも何か通じるものがありますよね。
感性vs理性とは、アクロマの内心についての話でした。
チャンピオンをチラ見せしましたが、果たして格を上手く描けていたでしょうか。
何度見直ししても投げる前は緊張しますね。

評価・感想いつもありがとうございます。励みになります。
次は日常回です。


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