ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 (紅乃 晴@小説アカ)
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機体解説

かなり思い付きでやってます。
新機体出したら更新しますので!!イラストも!!

ちなみにメビウス・ストライカーの開発はメビウス好きを拗らせすぎた人が考案したメビウス擬人化計画の結果です(実話)


メビウス・ストライカー

 

型式番号:MVFS-M01X

全高:18m

動力源:バッテリー

 

武装

M2M5D 12.5mm自動近接防御火器×2

腕部ロケットランチャー「ジンライ」

72式改ビームライフル「イカズチ」

70J式改ビームサーベル

180mmリニアレール砲「ハヤブサ」

小型アンチビームシールド

フレア弾

 

 

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(一般機)

 

【挿絵表示】

(シン・アスカ機)

 

【挿絵表示】

(キラ・ヤマト機)

 

モビルアーマー形態

 

【挿絵表示】

【挿絵表示】

 

 

オーブが開発した可変量産機ムラサメの設計時に技術顧問として参加したハリー・グリンフィールドが考案した宙域専用可変機の試作品を実戦向けに再改修した機体。

 

高高度空戦用に考案された機体構成だった試作機を、ハリー・グリンフィールドとエリカ・シモンズらが形状から一新。

 

可変システムはムラサメを基礎とし踏襲しつつ、宇宙空間戦闘に特化した形状であるメビウスへの可変機構を備えている。

 

メビウス・ストライカーの可変機構はムラサメを基礎にしてるが、複雑な機構はより簡素化されているため、要する時間が短縮されている上にメンテナンス性も考え点検ユニットなども一新されている。

 

試作機は実地テストと運用テストを経て、戦闘データをオーブへ提供することを条件に民間軍事会社へ4機が売却。キラ・ヤマト、そして素質が高いシン・アスカの二名の専用機として運用され、他機体は予備機として運用されている。

 

武装面はムラサメと同規格のビームライフル、リニアレール砲、小型アンチビームシールド、腕部ロケットランチャー、ビームサーベル。モビルアーマー形態では脚部のミサイルコンテナも使用できる。

 

また、腰部にはハードポイントが備わっており、ストライクのデータから作成された各種ストライカーパックを装備可能であり、可変機ならではの耐久性の低さはあるものの、汎用性の高さも確保している。

 

ストライカーパック、ファストパックは、同企業で運用するメビウス・インタークロスにも接続できる様に共有化が施されており、戦況に応じて現地での換装、ドッキングも行える。

 

・ソードストライカーパック

 武装

  15m対艦刀「シュベルトゲベールⅡ」

  ビームブーメラン「マイダスメッサー」

  ロケットアンカー「パンツァーアイゼン」

 

・ランチャーストライカーパック

 武装

  320mmインパルス砲「アグニⅡ」

  120mm対艦バルカン砲「ゴウライ」

 

・ファストパック

 武装

  八連装ミサイルポッド×4

  対艦ミサイル「シップウ」×6

  フレア弾

  増槽×2

 

 



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プロローグ

Onogoro Island East Bay

05°32’17”N 152°16’02”E 2508hrs.

 

June 15, C.E.71

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ首長国連邦。

オノゴロ島、東海岸沿い付近。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ…父さん!」

 

シン・アスカは、長く続く山道を必死に走っていた。

 

先頭を行く父から離れないよう、後ろを走る母と妹を離さないように、ただ必死に走っていた。

 

「あなた…」

 

「大丈夫だ、目標は軍の施設だろ。急げ、シン!」

 

攻撃開始時間を食い込む形で、シンの家族は脱出船に向かって走っていた。

 

父と母の研究データを持ち出し、要らぬものは消去するためにモルゲンレーテの研究施設に立ち寄ってしまったのが致命的なミスであった。

 

頭上にはモビルスーツが降下しているのが見え、遠くでは信じられない速さで交戦する〝八機〟のモビルスーツの姿が見える。

 

「キャー!」

 

その八機のうちの一機が、自分たちの上空すれすれを飛び去っていき、胸に抱いた妹が叫び声を上げた。父と母が庇うようにシンとマユをしゃがませるが、その風圧は戦争の恐怖を思い知らせるには十分だった。

 

「かあさん!」

 

「ハァハァ…マユ!頑張って!!」

 

震える足を懸命に動かして走る妹と母親。

 

ふと、走っている振動で妹が肩から下げるポーチから、折りたたみ式の携帯端末が山道の下へと落ちてしまった。

 

「あー!マユの携帯!」

 

それに気付いた妹がとっさに足を止めてしまう。

 

「そんなのいいから!!」

 

「いやー!」

 

母が手を引くが、まだ幼い妹は言うことを聞かずにその場に佇んでしまった。シンは自然と山の斜面を降りる選択をした。大事な妹の携帯だ。避難船にたどり着いてから文句を言われるのも面倒くさい、そんな感覚だった。

 

 

 

パッと空が光った。

 

 

 

 

シンが振り向くと、モビルスーツから放たれたビーム兵器がこの山道の近くに着弾する様子が一瞬だけ。しかし、シンにはそれが鮮明に見えた。

 

 

直後、

 

衝撃。轟音。

 

 

吹き飛ばされたシンは、そのまま山道から崖下まで落ちていき、地面に体を打ち付けられた。

 

「だ、大丈夫かい!?君!!」

 

崖下はすぐに、オーブ軍の避難船乗り場だった。

 

シンは強か頭を打っていて、意識が朦朧とする。

 

今の衝撃は?

 

父は?

 

母は?

 

妹は——?

 

その思考が駆け巡った瞬間、シンは立ち上がり、家族がいるであろう山道を見上げる。

 

すると、そこには——。

 

 

「モビル……スーツ…?」

 

 

そう呼称するにはあまりにも大きく、あまりにも硬い。純白に包まれて閃光と煙の中にたたずむ神々しい姿。響き渡る駆動音の全てが、シンの五感を激しく揺さぶる。

 

まさに、シンの情景となった。

 

焦がれる理想の姿。不屈の在り方。

 

迫り来る敵を打ち倒していく無双の強さ。

 

すべてを払う光。

 

それが、本来なら歪まされた運命にあったはずのシン・アスカと、流星の『運命』の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED Destiny

白き流星の双子〝ジェミニ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.72年。

 

一年半に渡った地球、プラント間の戦い。

 

それは、苛烈と混迷を極めたヤキン・ドゥーエ宙域戦を以てようやくの集結をみた。

 

やがて双方の合意の下、かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて締結された条約は、今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻そうと歩み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

《ORL-010、こちら管制塔。ローカライズ、オンライン》

 

プラントのコロニーの一つであるアーモリーワン。『兵器工廠』という名の由来を持つこのコロニーは今、慌ただしく事態が動き始めていた。

 

《こちらORL-010、ナブコムリンクを確認》

 

ゲイツとジンの編隊が着艦ベイへと進入し、定刻通りに到着する。宇宙とプラントの狭間となる港口には、多くのモビルスーツや船が隣接しており、それを制御する管制官たちも多忙な仕事に追われている様子であった。

 

オーブからやってきた船は、護衛を務めてくれたザフトのモビルスーツから離れて、港へと入っていく。

 

その慌ただしい様子を窓越しに、カガリ・ユラ・アスハは不安げに瞳を揺らしていた。

 

 

////

 

 

プラント内に設けられた人工湖から程近い場所に位置する基地でもまた、式典用のモビルスーツの配置や準備が進められていた。

 

《軍楽隊最終リハーサルは、一四〇〇より第三ヘリポートにて行う!繰り返す——》

 

「だぁ違う違う!隊のジンは全て式典用装備だ!!あれはマッケランのガズウートか?早く移動させろ!」

 

「ライフルの整備、しっかりやっとけよ!明日になってからじゃ遅いんだからな!ハウンド隊第二整備班は第六ハンガーへ集合させろ!!」

 

喧騒に包まれる中を、一台の軍用車が先を急ぐ。一人はザフトの作業員のツナギを着た若い男性で、もう一人はザフトの赤服というエースパイロットの称号とも言える服に身を包んだ男性だ。

 

そんな軍用車の前に、式典装備のジンが突如として現れ、ツナギの作業員が急ハンドルを切ると、なんとか足の合間を通り抜けて事無き得るのだった。

 

「す、すいません!」

 

ハンドルを握るヴィーノ・デュプレは、隣に座る赤服のパイロットに謝罪すると、別に大丈夫だと、パイロットはひらひらと手を返した。

 

「仕方ないって。こんなの久しぶりってか、初めての奴も多いんだしな。しかし、これでミネルバもいよいよ就役だ。配備は噂通り月軌道になるのかねぇ?」

 

そう言って自ら行先を見つめる赤服《ハイネ・ヴェステンフルス》は、自分が配属される新造艦『ミネルバ』がこれからどうなるか、漠然とした未来に思いを馳せるのだった。

 

そんな彼らの上空を一機のヘリが通過する。

 

「議長。クライン前議長から」

 

ヘリの中で端末を受け取ったプラント最高評議会議長に就任した男性、ギルバート・デュランダルは、その端末を見つめて顔をしかめていく。

 

軍基地に降り立ったヘリから、部下や他の士官たちと共に歩み出すデュランダルは、疲れたような言葉を紡ぐ。

 

「はぁ、彼の言うことも解るがね…だがブルーコスモス派の過激派が後ろにいるのだ。ザラ派もな。いくら条約を強化したところでテロリズムだけは防ぎきれんよ」

 

たしかに、シーゲル・クラインの言葉も理解はできるが、それでは何も変わらなかったから今の不安定な状態が生まれている。それを打開するためにも、この方針を変えるわけにはいかなかった。

 

「議長、オーブの姫が御到着です」

 

軍施設に入ったと同時に待っていた士官から伝えられた言葉に、ギルバートは小さく肩をすくめる。

 

「やれやれ、忙しいことだな」

 

今日もまた、落ち着いた時間は過ごせそうにないな、とデュランダルは心に言葉を止めながら、施設の奥へと足を進めていくのだった。

 

 

////

 

 

「カガリ、服はそれでいいの?ドレスも一応は持ってきているけど…」

 

船からターミナルに続く移動通路を進むカガリたち。表情が硬いカガリの後ろから、護衛役についてきていたキラ・ヤマトが、そっと声をかけた。

 

「な、なんだっていいよ。いいだろう?このままで」

 

「ウズミさんの言葉、カガリ忘れてるの?」

 

そうキラが言うと、カガリは気まずそうに言葉を濁す。やれやれ、議員としても板についてきたというのに、そう言ったところの苦手意識はなかなか難しいらしい。

 

「必要なんだよ、政治ってのは。こういう演出みたいなことも」

 

そう付け加えるように、キラと共に護衛としてやってきていたアレックス・ディノも言葉を繋げる。大きなお世話だと言わんばかり、カガリは振り返って口を尖らせた。

 

「わかってるよ!まったく…」

 

「その顔のどこがわかってるのよ」

 

そんなカガリの横にいるのは、オーブの首脳陣が着る服装とは違い、ムルタ・アズラエルから教わった通りのビジネススタイルに身を包んだフレイ・アルスターだ。

 

「アズラエルさんも言ってるわよ?こうやって、バカみたいに気取ることもないけど、軽く見られても駄目なんだって」

 

まずは相手に隙を見せない事。これ鉄則です、とアズラエルの声が聞こえてきそうなくらいに言うフレイの言葉に、カガリは反論の余地なく、ぐぬぬと顔をしかめた。

 

「今回は非公式とはいえ、君は今はオーブの重鎮なんだからな?」

 

「わかってるって!しつこいなぁ、もう」

 

これじゃあ、先が思いやられるな。そうアレックスがため息をつくのを見て、キラは困ったような笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だよ、僕らもそれで一緒に来てるんだからさ」

 

カガリの不安定さと危なげさを知っているからこそ、ウズミは二人にカガリとフレイの護衛を依頼したのだろう。

 

フレイ自身は、アズラエル理事の要望で同行することになったのだが、きた理由としてはカガリの思うところと同じだ。

 

「キラ、ラリーさんたちは?」

 

フレイが問いかけると、キラはカガリの後ろから前へと進んできて、フレイの隣に並んだ。

 

「護衛は僕らに任せて、先に市街地に向かったよ。ゆっくりできる時間もないしね」

 

基本的にアーモリーワン内部の護衛の役目はキラとアレックスだ。残りのメンバーは船に残って点検や整備、そして〝万が一〟の時のための保険のような役割もある。

 

通路から抜けてターミナルに入ると、多くの人で賑わっていた。明日は大きな式典がある。観光客が多いのもうなずけた。

 

「パパ!船は?軍艦なの?空母?」

 

無邪気な子供の言葉が聞こえてくると同時に、大人たちの言葉がアレックスの耳に届いてくる。

 

「やっぱり必要ですものね」

 

「ああ、ナチュラル共に見せつけてやるともさ」

 

ほんのわずかに届いた言葉。それを聴くと、アレックスの心は重くなる。あれだけの大戦があったというのに、まだナチュラルとコーディネーターの種族の壁は厚い。仕方がない事とはいえ、その壁の厚さに歯痒さや無力さを感じるのも事実だ。

 

その度に、父の憎悪に塗れた声が蘇ってくる。

 

「——アスラン?」

 

物思いに更けるアレックスの顔を覗き込みながら、カガリが彼の〝名〟を呟く。ハッとなったアレックスは、大丈夫と頷いた。

 

「ああ、すまない。なんでもないよ」

 

しばらく通路を進むと、港口からプラント内部に繋がるエレベーターの前へとたどり着いた。

 

四人は無重力から降りて地に立つ。いよいよもって、プラントへの入国だ。

 

「さて、ここからはお偉いさんスタイルで行くわよ?アスハ議員?」

 

そう言って微笑むフレイは、完全に仕事モードのスイッチが入っているようだった。

 

 

////

 

 

アーモリーワン市街地。

 

工廠として使われているコロニー内では、そこで働く人々の賑わいもあるが、式典も近いため多くの観光客や見物人が集まっている。

 

その人だかりの中を、三人の若い男女が歩いていた。目立たず、人の中に紛れて歩く彼ら。しかし、その目には何か鋭いものを感じる。

 

ふと、三人のうちの一人の少女が、街のショーウィンドウの前で立ち止まった。しばらくそのショーウィンドウを見つめると、少女は小さく体を揺らして、くるり。まるで踊るような仕草で体を回す。

 

振り向き様にそれを見たうちの一人が、呆れたような口調で呟いた。

 

「あ?何やってんだ、あれ」

 

「浮かれてるバカの演出…かもな」

 

もう一人もまた可笑しそうにその様子を見つめて答える。くるりと再び踊る少女を後ろに、彼らは気にしない様子で街中を進んでいく。

 

「じゃねえの?お前もバカをやれよ、バカをさ」

 

「冗談。そんなの命令ないし」

 

二人が歩き去っていくのに気付かないで、少女は楽しげに街の中で踊り、駆け抜けていく。周りの人々がその様子に視線を向けるが、そんなこともお構いなく彼女は楽しげに笑っていた。

 

「うふふ」

 

童話の中にある舞踏会で踊るお姫様のように。光があふれている景色の中で、少女は可笑しく笑って、くるりとステップを踏んでいく。

 

「あはは」

 

そして彼女は気付いていなかった。その先にある店舗から出てきた三人の人影に。

 

「それでマユのやつ…おっと」

 

「うわっ」

 

手に持っていた荷物を落とさずに、ぶつかってきた少女をそっと受け止めた少年は、呆気に取られている少女へ、心配した様子で言葉をかけた。

 

「君、大丈夫?」

 

顔を覗き込むと、少女の視線は下。少年も習うように下へ目を向けると、自分の両手が彼女の胸に触れているのに気がついた。

 

「あっ」

 

謝罪の言葉も言う隙もなく、少女は少年の手を振り払うと、先に行ってしまった二人を追いかけるように駆け出していった。

 

「あ…」

 

その後ろ姿に言葉をかけられず、少年は通路に立ち尽くして、駆け抜けていった少女の後ろ姿を見つめている。

 

「シンくん、君…」

 

その少年、シン・アスカ。

 

彼と共にオーブにいる家族への手土産を買っていたリーク・ベルモンドは、シンの所業を見つめながら引きつった笑みを浮かべていた。その表情を察したのか、シンは誤魔化すように手をパタパタと動かした。

 

「え!?あ、偶然ですよ!偶然ですって!」

 

そんなシンと肩を組んだもう一人の、ラリー・レイレナードも、シンの思わぬハプニングに意地悪そうな顔をして脇を突いた。

 

「お前もずいぶんオマセさんになって」

 

「やめてくださいってば!」

 

「やーい。このラッキースケベ」

 

「違うってば!」

 

ついにラリーとリークを振り払ったシンに、二人は楽しそうに笑って先に歩んでいく。

 

「うわー、シンがおこだ!おこ!」

 

「おいこら…待ってくださいよ!!」

 

そんな二人を追いかけるシン。

 

このとき、まだシンは知らなかった。

 

自分を待ち受ける——大いなる運命を。

 

 

 

 

 

 



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アーモリーワン編
第1話 戦争と平和と


 

 

 

「まったく、明日は戦後初の新型艦の進水式ということだったな。こちらの用件は既に御存知だろうに。そんな日にこんなところでとは、恐れ入る」

 

ザフトの士官に案内されて乗り込んだコロニー外縁部から直通で通っているエレベーターの中で、カガリは落胆しそうな気持ちで言葉を呟く。

 

その言葉を聞いて、士官たちも戸惑いの色を見せるばかりだ。

 

「内々、且つ緊急にと会見をお願いしたのはこちらなのです、アスハ議員」

 

隣に控えていたアレックスが不満と言った様子を体現しているカガリへ、姿勢を正したままサングラス越しに視線を向けた。

 

「プラント本国へ赴かれるよりは目立たぬだろうと言う、デュランダル議長の御配慮もあっての事と思われますが」

 

隣に座っているフレイも、完全な仕事スタイルと口調で、感情的にふて腐れているカガリに苦言を申した。カガリとフレイも、オーブに住む友人ではあるが、今の二人はオーブの議員と、ブルーコスモス派の役職を持つという立場がある。

 

うまく切り分けてモノが言えるのも、フレイ自身が先の大戦で培ってきたものだろう。隣にいるキラはそんな力強い彼女を見てそう思った。

 

「あぁ…わかってはいるよ」

 

フレイの言い分を飲み込むように、カガリはエレベーターの外へ視線を向ける。長く続いたコロニー外縁部から内部に入ると、大きな人口湖と広がる軍基地と工廠の景色が視界に飛び込んでくるのだったーー。

 

 

////

 

 

「やぁ、これは姫君方、遠路お越し頂き申し訳ありません」

 

会談場所であるアーモリーワンの行政府に通されたカガリとフレイは、出迎えてくれたプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルと握手を交わす。

 

「オーブ首長国連邦のカガリ・ユラ・アスハだ」

 

「アズラエル財団のフレイ・アルスターです」

 

二人の後に続いて入室したアレックスとキラも、周りを見渡す。デュランダルのほかにも、多くのザフト士官が集まっている室内で、デュランダルは二人を席に座るよう促し、自身もそれに座って二人と向き合った。

 

「議長にもご多忙の所お時間を頂き、有り難く思う」

 

「ウズミ様の方は如何ですか?戦後、実に多くの問題も解決されてから体調が優れないと聞き、私も心配し思っておりますが」

 

ウズミ・ナラ・アスハ。

 

戦後のオーブの立て直しと、周辺諸国への支援や混迷する地球圏の再建に尽力した人物であり、カガリ・ユラ・アスハの父でもある。一時の安定に入った地球圏の様子を見送ったのち、日々の苦労や無理がたたって、今ウズミは病床に伏している状態だ。

 

彼の空けた穴を埋めるため、カガリも本格的にオーブの政治へ身を投じている。

 

「父はまだ療養中でな。私自身もホムラ代表の補佐で、まだまだ至らぬことばかりだ」

 

オーブの政治運営は叔父であるホムラ代表が務めているが、彼も引退を決心している身であり、次期オーブ首相が誰になるかと言う政治的な舵取りの決断も迫られている状況にある。

 

「ーーで、そんな情勢下、姫方はお忍びでそれも火急な御用件とは?一体どうしたことでしょうか?我が方の大使の伝えるところでは、だいぶ複雑な案件の御相談、ということすが…」

 

白々しく言うものだ。デュランダルの口振りにアレックスはそんな感想を抱く。それはカガリやフレイも同じ様子であった。

 

「…中立国であるオーブには、そう複雑とも思えぬのだがな」

 

そう切り返したカガリに続いて、フレイも口火を切る。

 

「アズラエル財団も多くの支援をしてきました。こちら側としても、この案件に対するプラント政府としての明確な御返答が得られない、ということは、やはり複雑な問題なのでしょうか?」

 

フレイが所属するアズラエル財団もまた、戦後の復興に多くの支援と資金を投資した。地球圏はもちろん、宇宙、そしてプラントも分け隔てなく。アズラエル自身の目的であった「戦いの後の権力」を有するためにとの行動でもあるが、今は何より底に付いてしまった経済状況を打開するのが先決でもある。

 

「オーブ首長国連邦は再三再四、彼のオーブ戦の折に流出した我が国の技術と人的資源」

 

そこでカガリは言葉を区切り、デュランダルへ視線を向ける。

 

「ーー強いて言うならば、モルゲンレーテの流出した技術諸々の軍事利用を、即座に止めて頂きたいと申し入れているのですよ、デュランダル議長」

 

嫌な沈黙が流れる。議長も含め、ザフト軍の士官たちも、カガリの言葉に何ら反応を示さなかった。政治的な戦略なのだろうか。だが、そんな精神的な駆け引きを得意としないカガリは、さらに口調を強めて言葉を続けた。

 

「議長、これは可及的速やかに対応しなければならない問題だ。なのに何故、未だに何らかの御回答さえ頂けない!」

 

オーブの技術。それは時代の先を行く物として、先の大戦では戦局に多くの影響を与えた代物だ。大戦が終わり、平和へと歩み出した世界の中で、そんな技術を欲するのはーーあまりにも危険すぎる。

 

アズラエル財団も、オーブも、それは深く理解していた。

 

作れるから作った。

 

それで流れる血が、一体どれほどあったというのか。目の前にいる者達は、そんなことすらとう忘れてしまったのだろうか。

 

「ーーカガリ・ユラ・アスハ。フレイ・アルスター」

 

長らくの沈黙の後、デュランダルはゆったりとした口調で二人の名を呟く。

 

「貴女方もまた、先の戦争でも自ら前線に出ていた勇敢な御方だ。そして、最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれたオーブの獅子、ウズミ様と、ブルーコスモス派でありながら世界の行く先を見据えて戦争で疲弊した国々を援助し、地球圏を大きく立て直した立役者であるアズラエル理事の後継者でもあられる」

 

まさにこの先の平和へ繋げるための架け橋となり、象徴ともなり得る人材だ。故に、とデュランダルはこう考える。

 

「ーーならば今のこの世界情勢の中、我々はどうあるべきか…よくお解りのことと思いますが?」

 

その言葉に、カガリは思わず椅子に預けていた手で握り拳を作った。

 

「我等は打ち立てた理念を守り抜く。その責任があるのだ。議長!」

 

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。その理念や考え方。それは我々も無論同じです。あの三隻宣言の中でも、我々は種族を超えて先に進まなければならないと言われたクライン前議長と同じく、それが未来であると信じています。そうであれたら一番良い」

 

ナチュラルとコーディネーター。

 

種族による劣等感を取り除き、それぞれがなすべき事を成すことにより、より高い次元へ人類を歩まさせていく。

 

それが、今から歩むべき進歩と調和に繋がると彼らは話した。あの〝三隻宣言〟の中で。

 

しかしだ。デュランダルの考えはそれは理想だと突きつける。

 

「だが、力無くばそれは叶わない。それは姫とて、いや姫の方がよくお解りでしょう?」

 

いまだに地球圏も、前体制の地球軍と、ハルバートン司令官の新体制の地球軍の間で小競り合いが起き、テロや紛争も終局を見せていない。

 

現に今も、オーブは自国の力を。アズラエル財団は私設の民間PMCを用いて、地球で起こる火種消しに奔走している。

 

「我々としても、ザラ派とクライン派と分断され足並みが揃っていないのが実情です。故に軍備は整えねばならない。過去の過ちを繰り返さないためにも」

 

分断されそうな危うい状態だからこそ、軍備を整える。そうしなければ、また過激派が先頭に立ち、互いを互いの憎しみで燃やし合う、あの凄惨な戦争が繰り返されるのだ。

 

「だからこそオーブも、アズラエル財団としても、軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」

 

核心を突かれるような言葉を聞き、カガリも握っていた拳を解く。たしかにその通りだ。オーブも地球圏も、まだ戦う力を手放す段階にはない。

 

「ーー姫というのは止めて頂けないか?」

 

「これは失礼しました、アスハ議員、アルスター事務次官。しかしならば何故、何を怖がってらっしゃるのです?」

 

その状況を理解しているというのに、オーブもアズラエル財団も何を恐れているのだろうか?話のペースを握ったデュランダルは、彼らの焦りに似た言葉の真実を探り出そうとしていく。

 

「前体制でありながら、力を取り戻しつつある大西洋連邦の圧力ですか?オーブが我々に条約違反の軍事供与をしていると?」

 

フレイは表情を崩さなかったが、カガリはわずかに顔を硬らせた。たしかに、先の大戦でブルーコスモスの過激派の隠蓑であった大西洋連邦も、復興して力を増しつつある。

 

彼らの暴走を止めるためにも、オーブとしての立場を明確化し、調停するためにデュランダルに会談を申し出た思惑があったのも事実だ。だが、今回はデュランダルの方が上手だった。

 

「だがそんな事実はどこにも無いのですよ」

 

はっきりとした口調でそう告げる。事実として存在する自信だった。

 

「彼のオーブ防衛戦の折、職業難と経済的損失が大きかったオーブで、仕事をなくしていた同胞達を我等が温かく迎え入れたことはありました。その彼らが、此処で暮らしていくためにその持てる技術を活かそうとするのは仕方のないことではありませんか?」

 

そのカード切られては、オーブに反論する余地はない。先の大戦ーーオーブ解放戦で被った被害は大きい。人的資源の流出も、その日が境となっている。彼らを責めるわけにはいかない。あの戦争を招いたのは、オーブ政府のミスなのだから。

 

「だが!強すぎる力はまた争いを呼ぶ!我々はそれを過去の戦争で学んだはずだ!打たれたら打ち、それを繰り返す!その連鎖を断ち切るために、我々は動かなければならないのだ!」

 

「いいえ、争いが無くならぬから、力が必要なのですよ、アスハ議員」

 

「デュランダル議長」

 

平行線を辿る二人の会話に、切って入る凛とした声があった。

 

「だからと言って、それを使って仕舞えばーーユニウスセブンの二の舞になります」

 

フレイが真っ直ぐとした目で、デュランダルを見つめる。たしかに、平和を維持するために軍事力を持つことは必要だろう。しかし、行きすぎた力や思想は、また争いを生むことをフレイはよく理解している。

 

「抑止力とは、使わずに示すからこそ、抑止力なのです。それはひけらかすものでも、ましてや振りかざして良いものでもありません」

 

軍事力も、そして核を保有していることも、Nジャマーを持っていることも。すべては互いに力を牽制するための抑止力なのだ。そうあるべきだったものをーー先の大戦では使いすぎたのだ。

 

「先の大戦で、プラントも地球も、大きすぎる犠牲を払いました。我々にとって為すべきことは、核も、Nジャマーも、それを使わずに抑止力の象徴に戻すことではないのですか?」

 

フレイの言葉に、デュランダルは深く席に座って思考をまとめていく。やれやれ、オーブの姫君だけならば、やりようはあったがな…。

 

思わぬ強敵へと成長したフレイをみて頭を悩ますデュランダル。ふと、フレイとカガリの視線が交差すると、フレイは周りにバレないように小さな笑みを浮かべて答えるのだったーー。

 

 

 

 



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第2話 ガンダム奪取

 

 

アーモリーワン、ザフト軍基地。

6番ハンガー。

 

翌日の新型新造艦に合わせて調整が進められている新型機が、その中に眠っていた。

 

オーブからの技術者移住や、ザフトにおけるフリーダムやジャスティスなどの「ファーストステージ」の技術がフィードバックされた機体として開発されたものであり、先の大戦後締結されたユニウスセブン条約後に、ザフトが開発した試作MS群「セカンドステージシリーズ」。

 

それは、フリーダムやジャスティスといったファーストステージ機を引き継ぎ、同時代の量産機を凌駕する性能を有している。

 

新造艦の進水式に合わせて、ザフト軍の新たな機体系譜の始まりを告げる機体たちであった三機はーーーこの日を境にその運命を一変させていく。

 

「さて行くぞ、仕事の時間だ」

 

進水式という大きなイベント。警備が手薄になるこのタイミングを見計らってザフト軍の基地と、このハンガー内に忍び込んだ三人は、先に侵入していたスパイ達と共に動き始めた。

 

「な、なんだ!?貴様たち…がっ!?」

 

コーディネーターと同等か、それ以上の身体能力を発揮しつつ、ザフトの兵士を一掃していく彼ら。

 

先ほどまで街中で可憐に踊っていた少女も、無機質な表情のままで手に持ったコンバットナイフを振りかざす。

 

「はぁあああ!!」

 

全く対応出来なかった整備員やパイロットを血祭りに上げていく。三人のうちの一人が、手に持った小銃でザフト兵を貫きながら、別の場所を掃討するもう一人の仲間へ声をかける。

 

「アウル!上だ!」

 

スティング・オークレーの言葉に、笑みを絶やさぬまま背面へ銃を放つアウル・ニーダ。

 

「うわぁ!」

 

最後に残った兵士の首根を切り裂いたステラ・ルーシェ。

 

三人は血の海になったハンガーの中で、一息つくと、すぐに行動を開始する。

 

「スティング!」

 

「よし!いくぞ!」

 

他のスパイたちが周辺を警戒してる間に、スティングたちはハンガー内に横たわる三機のモビルスーツへ乗り込んでいく。

 

「OK、情報通り」

 

事前に知らされていた情報と同じパネルへ指を走らせる。凄まじい速さでインターロックや、防護壁のデータを書き換えながら、三人は機体を起動させた。

 

「いいよ」

 

最後にステラの乗り込んだ機体が起動すると、灰色の機体に電力が迸り、鮮やかな色が配色されていく。

 

「反応スタート。パワーフロー良好。全兵装アクティブ。オールウェポンズ、フリー」

 

ありがたいことに武装もセットで置いてくれているではないか。アウルはニヤリと笑みを浮かべて武装を装備し、機体を立ち上がらせた。

 

「システム、戦闘ステータスで起動」

 

その高揚感に、三人はまるで無垢な子供のような顔をして機体を歩み出させていく。そんな彼らの足元。致命傷を負いながらもなんとかコンソールパネルにたどり着いたザフト兵が、非常用のスイッチを叩いた。

 

ハンガー内に警告音が響く。だが、もう遅い。

 

撃鉄は起こされたのだ。

 

スティングはコクピットの中で高らかな笑い声をあげる。

 

「ふふふ、あはははは!さぁ、ぶっ壊そうじゃねぇか。こんな嘘にまみれた世界を!!」

 

宇宙に浮かぶ空気が詰まった袋だ。それを破裂させたらどうなるか?その姿を想像しただけで、彼らの笑いは止まらないものとなっていくーー。

 

さぁ、始めよう。全てを元に戻す戦いを…!!

 

 

////

 

 

「警報!?なんだ!?」

 

行政区から基地内の視察へ訪れていたカガリたちにも、その警告音は聞こえていた。穏やかに基地を案内してくれていた係のものや、同行していた議長の顔色が変わる。

 

「カガリ!!」

 

「アレックス!!」

 

すぐさまカガリの護衛としてアレックスが彼女の前へ。フレイの横にはキラが付いて辺りへくまなく意識を張り巡らせた。

 

「閉めろ!早く!!」

 

「六番ハンガーだと!?」

 

誰かの声が響いた瞬間、それを上回る爆音が軍基地に響いた。地鳴りと衝撃で、カガリが思わず腰を落としてしまう。

 

事が起こったハンガーは、不運なことにキラたちがいるすぐ側のハンガーだった。爆煙の中から姿を現した三機のモビルスーツをみて、ザフト兵が悲鳴のような声を上げる。

 

「カオス!ガイア!アビスも!?」

 

可変機として開発されたザフトの新型モビルスーツ。その三機が突如として起動し、ザフト軍を攻撃し始めたのだ。

 

『まずハンガーを潰す。モビルスーツが出てくるぞ!アウル、付いてこい!ステラ!お前は左だ』

 

『了解了解!』

 

『解った』

 

カオスに乗るスティングの指示を聞いて、三人は動き始める。光の極光がまだ何も対応出来ていないザフト軍のハンガーやコンテナ、起動前のモビルスーツを次々と穿ち、爆炎が辺りに広がった。

 

「新型!?何が起こっている!!」

 

建物の影から見える機体。無抵抗なザフトの基地をビームで好き放題破壊していく様子を見ながら、アレックスはカガリを抱きしめながら憤慨したように叫ぶ。

 

「強奪されたのか…!?ここはプラントなのに!!」

 

「まさか、ザラ派が!?」

 

キラとフレイも思考を巡らせるが、こうも混乱状態になると状況は不明瞭だ。あの機体に乗っているのが誰であれ、ここがいきなり一級危険地帯になったことに変わりはない。

 

《ええい!発進急げ!六番ハンガーの新型だ!何者かに強奪された!モビルスーツを出せ!取り押さえるんだ!》

 

その通信を聞いて、キラが身を乗り出した瞬間、すぐ目の前をカオスが過ぎ去っていく。モビルスーツの重量音が響き、キラは冷や汗を流しながら、空を見上げて呟いた。

 

「新型…あれは!ーーーガンダム!?」

 

驚きを隠せないキラたちへ、護衛を連れたデュランダルが歩み寄ってくる。

 

「お二人をシェルターへ!急がせろ!」

 

手早く指示を出すと、後ろに控えていた数名の士官たちがカガリやフレイの前へと出て、最寄りのシェルターへの道を進んでいく。

 

「こちらへ!」

 

「わかっている!!アレックス!緊急信号は!!」

 

ザフト兵の指示に従いながら、爆音と轟音が響く中でカガリはアレックスへ問いかけると、彼もわかっているように通信端末を片付けながら頷いた。

 

「出してる!三人も動いてるはずだ!」

 

「なんとしても抑えるんだ!ミネルバにも応援を頼め!」

 

目の前で軍関係者へ指示を出すデュランダルとすれ違う。その時に、カガリは声をつないだ。

 

「議長!13番港から出てくる機体は撃つなと伝えろ!いいな!!」

 

呆気に取られる議長の返事も聞かずに、カガリはアレックスやキラたちと共にシェルターへの道を急いだ。

 

「議長?」

 

「ーー司令部に連絡。13番港から発進した機体には進路を優先しろ。異論は認めん」

 

その議長の言葉に、士官は敬礼で答えて通信官と共に戦場と化した工場内へ駆け出していく。議長は幾人かの護衛に囲まれながら、小さく笑みを浮かべた。

 

「ーー彼らが来ているのか…そうか」

 

これもまた、運命なのかもしれんな。

 

 

////

 

 

「グラディス艦長!」

 

ミネルバのブリッジへ上がった女性艦長に、副官は頼りなさげな声で問いかける。彼女は間髪入れずに答えた。

 

「アーサー!緊急事態よ!インパルスを発進させて!」

 

インパルスーーそしてストライカー。

 

二人の運命もまた、大きく動き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 舞い降りる剣

「カガリ!急いで!」

 

爆音、衝撃。

 

アーモリーワンコロニーの全てが揺れているような感覚。士官の誘導に従って建物の筋を走るカガリたち。すぐ後ろでは、カオスによって倉庫が撃ち抜かれ、中にあった弾薬の誘爆が始まっていた。

 

襲いかかる衝撃から、アレックスとキラは護衛する二人を庇うように守り、足を止めずに進み続ける。

 

ふと、キラは何かを感じ取った。ざわりとする何か。この感覚はーーーパイロットの時も感じる…何だ?

 

「キラ?どうしたの?」

 

立ち止まったキラに、フレイとカガリたちも止まる。前方を誘導していた士官たちはかまわずにシェルターへの道筋を駆けていく。

 

ざわり。

 

ダメだ。そのまま行ってはーーだめだ!!

 

「ダメだ!そっちはーー」

 

キラが声を上げたと同時に、それは倒れた。アビスに破壊されたジンが倒れ、その倒壊に先頭を走っていた士官たちが巻き込まれたのだ。咄嗟にキラたちは開けられているハンガーへと入り、押し寄せる粉塵や爆風から身を守る。

 

「くっそぉ!!」

 

「フレイ!こっちに!」

 

とにかく今は外が危険だ。このハンガーも襲撃される可能性はあるが、爆炎と熱反応にさらされる外よりは幾分かマシだ。

 

「キラ…」

 

「君を傷つけたら、サイに会わせる顔がないよ!」

 

「そんなこと言ってる場合か!?」

 

大事だからだよ!とカガリからのツッコミに反論するキラ。そんな二人を置いておき、アスランは辺りを見渡しながら、引っかかっている言葉を紡いだ。

 

「けど、なんでこんなことが…おそらく、ザラ派の過激派かーーあるいは…」

 

「地球軍?」

 

キラが考えを読んだように答える。たしかに、今力を取り戻しつつある大西洋連邦のあり方は危険すぎる。復興の仕方が無理やりなのだ。地球圏の軍事に傾きすぎているせいで、もっと大切な体制や経済性が損なわれるほどに。

 

もし、大西洋連邦が以前のようにブルーコスモスの思想に傾倒し、暴走するような行為に走ったとしたなら…。

 

「可能性は捨てきれないな…くっ」

 

「とにかく、ここにいるのは危険だ…どうする?」

 

心配そうに言うカガリの言い分も最もだ。ここに居ては、いずれあの三機の攻撃に晒されることになる。通信機を取り出してみるが、ジャマーが張り巡らされているのか、通信は遮断されていた。

 

敵はかなり入念な準備をしてきているらしい。

 

「ラリーさんたちが来るまでは…」

 

「キラ、アレで行けるか?」

 

手を拱いてるキラに、カガリがハンガーを指差した。そこにあるのは二機のモビルスーツ。特徴的なジンやゲイツのモノアイを受け継いだ、ザフトの次期モビルスーツ、ザクウォーリアだ。

 

「ザフトの新型量産機…?けど、構成が違いすぎると思うけど…」

 

乗れないことはないだろう。だが、オーブのものや、アレックスが乗っていた頃のザフト軍機とはかなり変更が掛けられているはずだ。起動手順のマニュアルすらわからない状態で、どこまで出来るか…。

 

「ちょっと待って、これなら何とかなるかも」

 

キラとアレックスがそう思っていたら、いつのまにか上着を脱いで髪の毛を軽く結い上げたフレイが、鎮座しているザクウォーリアの足元へと歩いて行っていた。

 

「たぶん…ここら…へんっと!!」

 

キラやアレックスたちの視線を他所に、フレイは脚部の装甲を手探りで探りながら、声と合わせてバンッと拳で叩く。すると装甲の一部が開いた。フレイは振り向くと二人に向かって無言で親指を立てた。

 

ビジネスカバンからお気に入りの作業用手袋と、最低限の工具、そして愛用している端末を取り出す。フレイは慣れた手つきで開いた装甲からカバーを取り出し、コネクターカバーを外しーーさらに分解作業に入っていく。

 

「フ、フレイ。いつもそれ持ってるの?」

 

「万能なのよ?これ。線番さえ間違えなければ」

 

高級そうなハンカチの上にばらしたパーツを丁寧に並べるフレイは、露出した配線コネクタへ愛用の端末の通信用コネクタを順番に差し込んでいく。

 

すると、端末が息吹を上げて、ザクウォーリアのCPUとの同期を始めた。

 

「この通りっと!ーーふむ、凄いわねこれ。かなりフォーマット化されてる。けど、基本レイヤーは一緒…構成も…よし、これならキラたちでも大丈夫だと思う」

 

ついでに機体のオプションに保存されているマニュアルと操作機能をまとめた資料も引っ張り出すと、フレイは役目を終えた部品を元通りに手早く修復していく。

 

その後ろ姿を見ながら、アレックスは引きつった笑みを浮かべていた。

 

「なんとかなるかも…」

 

「凄いな、彼女…」

 

キラの呆気に取られた顔とアレックスの顔を見比べて、カガリは「わかってないなあ」と肩をすくめた。

 

「オーブ1のメカニックと言っても過言じゃないからな」

 

「1番はハリーさんよ。ほらハッチ空いたからさっさと乗る!!」

 

いつの間にかハッチを開くスイッチと昇降ウィンチまで下ろしたフレイが、手を叩きながら呆然とするキラとアレックスに早く乗るよう促した。

 

「すっかりいつもの彼女だなぁ…フレイは僕が」

 

「あ、ああ、カガリ。いくぞ!!」

 

そう言って二人は別れると、それぞれ引っ張り出されたウィンチに捕まってコクピットに乗り込んで行くのだった。

 

 

////

 

 

 

《インパルス、発進スタンバイ。パイロットはコアスプレンダーへ!》

 

新造艦ミネルバでは、新たなセカンドステージの機体が発艦するための準備が進められていた。コアになる戦闘機に乗り込んだパイロットは、機体を起動させ、発進準備を整えていく。

 

《モジュールはソードを選択。シルエットハンガー2号を解放します。シルエットフライヤー射出スタンバイ!》

 

巨大なプラットホームが稼働し、解放されたハッチから武装が搬出されてくる。この機体は、奪取された機体とは違い、ミネルバでの運用を専用に作り上げられたものだ。

 

《プラットホームのセットを完了。中央カタパルトオンライン。気密シャッターを閉鎖します。発進区画、非常要員は待機して下さい》

 

専用機とあって、ミネルバのプラットホームの全てが連動して稼働しており、各武装が配置されたと同時に、コアの戦闘機ーーコアスプレンダーが迫り上がっていくプラットホームによって発進位置へ運ばれていく。

 

《中央カタパルト発進位置にリフトオフします。コアスプレイダー全システムオンライン。発進シークエンスを開始します》

 

艦船用ドッグに座するミネルバの中央ハッチが開いていく。その中で、コアスプレンダーに乗るパイロットは眼前に広がる箱庭の世界を見据えた。

 

《ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。コアスプレイダー、発進、どうぞ!》

 

スロットルを上げて、射出滑走路から飛び立っていくコアスプレンダー。その後に続いて次々と武装機も飛び立っていく。

 

《カタパルトエンゲージ。シルエットフライヤー、チェストフライヤー、レッグフライヤー射出、どうぞ!》

 

閉鎖的な空へと打ち上げられた歪な影は、それぞれが高速度を保って飛んでいく。行く先は遠くからでもわかるーー湾岸のザフト軍基地だ。

 

 

////

 

 

時を同じくして、13番港口に停泊していたオーブ製の輸送艦も動き始めていた。後部ハッチが開き、一機の〝モビルアーマー〟が姿を表す。

 

《シン!わかってるとは思うけど、コロニー内では発砲は厳禁よ!そのために装備を変えてるんだからね!》

 

無重力内でインカム越しにパイロットへ通信を送るのは、現れた機体の整備を担う技師、ハリー・グリンフィールドだ。彼女が言う通り、機体にはビーム兵装や無反動砲などは搭載されておらず、替わりに機体下部に大剣型近接兵器、「シュベルトゲベールⅡ」が懸架されている。

 

「わかってます!グリンフィールド技師!シン・アスカ、発進いけます!」

 

コクピットで準備を進めるシンは、事態の緊急性が高かったため、ノーマルスーツは着用せず、大急ぎで帰ってきた私服姿のまま乗り込んでいた。頭部を保護するために、オーブ製のヘルメットだけを被り、機体のセッティングを終えていく。

 

その隣では、元アークエンジェルのメカニックだったコジロー・マードックがもう一機のモビルアーマーのハッチを解放していく。

 

そのコクピットでは、シンの上官であり師匠にもあたるラリー・レイレナードがセッティングと機体の調整を続けていた。

 

「シン!コロニー内では俺たちの機体は不利だ!キラのストライカーのOSが書き換えが終われば、俺も出る!!」

 

迫り上がった機体は、本来ならキラの専用機だが、当人が緊急事態に巻き込まれているため、急遽ラリー自身のデータに変更されることになった。機体OSと駆動制御パラメータの変更に時間がかかるため、シンが先行して出撃することになる。

 

《トールは僕とキラくんたちの救助を!ザフト軍から装甲車は貸してもらえる!》

 

《わかりました!シン!無理はするなよ!》

 

港口では、ザフト軍からの通信で要人救出を行うことになったリークと共に、この隊のメンバーの一人であるトール・ケーニヒも準備を進めている。

 

トールとリークが乗る機体は宙域専用機であり、大気が存在するアーモリーワンを長時間飛行するには向かない仕様となっているため、正体不明の敵に手一杯なザフト軍の替わりに二人はキラたちの救出へ向かう手筈となる。

 

「わかってます、ケーニヒ教官!リニアレール、蓄電キャパシタ、確認!」

 

簡易的なリニアレールの射出機に電磁パルスが蓄電されていく。この港を管理するプラント側からもシンの元へ通信が届いた。

 

《メビウス・ストライカーへ。議長からの命だ。特別に発進を許可する!》

 

「了解!メビウス・ストライカー、シン・アスカ、行きます!!」

 

すでに旧型と揶揄される地球連合軍のモビルアーマー〝メビウス〟。

 

数多の伝説を宿したその名を冠したシンの機体は、リニアレールによって打ち上げられると、スラスターに火を灯してアーモリーワン内部に繋がるトンネルへと突入していくのだった。

 

 

////

 

 

《接触回線で聞こえてるね?データリンク構成するから、そのままに。キラ、お願い》

 

起動した二機のザクウォーリア。片側に乗るキラは、フレイの指示通り、アレックスが乗るザクの肩を通した接触回線を繋げたままザクの機体データを素早く更新させていく。

 

「フィッティング完了、ナブコムリンク、CCD再設定、データフィールド形成、システムオンライン。行けるよ、アスラン」

 

OSの最適化を行ったキラは、そのデータをアレックスーーーもとい、アスランにも送る。大まかな機体の動かし方と、キラとアスランの動きについてこれるデータには更新できたはずだ。

 

「キラ、俺のことはアレックスだと」

 

「こんな状況じゃ仕方ないでしょ?カガリを傷つけるわけにもいかないからね」

 

変なところで頑固な親友にキラは笑みを浮かべながら言葉を告げる。そう言われたアスランは、どこか真剣な表情のままキラの言葉に頷いた。

 

「わかってる。俺の身に代えてでもーーー」

 

「お前!またそういう!!」

 

なにかと自己犠牲で解決しようとするアスランの悪い癖だ。それを隣で聞くカガリが黙ってあるわけがないだろうに…。取っ組み合いを始めそうな勢いでまくし立てるカガリを宥めるように、キラは通信を再び繋いだ。

 

「あーもうはいはい。フレイ、しっかりつかまっておいてね?」

 

そう言って隣に捕まっているフレイを見上げる。彼女はまるで心配してないようにキラへ柔らかく笑みを向けた。

 

「ふふ、守ってくれるんでしょ?」

 

「当然っ!」

 

ハンガーの扉をこじ開けて出た二人。

 

とにかく、今は一刻も早くここから逃げるべきだ。なるべく敵に見つからず、気取られぬようにしなければーー。

 

そう思って開けたハンガーの扉の前には…。

 

「キラ!正面だ!」

 

『ーーーなに?コイツら』

 

ステラのガイアが待ち構えていた。

 

「散開!!」

 

急に現れた二機のザクに向かってステラは躊躇いなくビームを放ったが、キラの一声でアスランと揃って二手に分かれる。

 

ステラがアスランへ狙いを向けようとした瞬間に、キラは機体を前進させて肩に備わるシールドを前へ突き出すように体当たりを打ち込んだ。

 

『くっーーこいつ!!』

 

『なんだ?動ける機体が居たのかよ!』

 

倒れたステラに気がついたのはアウルのアビスだ。胸部と両肩に備わるビーム兵装を展開するが、それを見てすぐにアスランも行動を起こす。

 

「甘い!」

 

最適化されたザクを巧みに動かしながら、スペック上有利なはずのアビスを翻弄していくアスランのザク。

 

『ちぃ、こいつ!!動きが違う!!』

 

「機体の慣熟もできていないが…!ええい!!」

 

シールド内部に備わるビームアックスを引き抜き、動きに対応できていないアビスへ接近戦を仕掛ける。

 

見つかった以上、ここで相手の機動力を奪わなければ、追われて撃ち抜かれてジ・エンドになる可能性が高い。

 

「逃げ回れば、死にはしない!」

 

接近戦を嫌がってビームを放つアウルだが、その尽くを躱していくアスラン。

 

「アスラン!!このぉ!!」

 

ビームで釘付けにしようとしたアビスの元へ飛び込んだキラは、同じくビームアックスを引き抜いてアビスと交差を重ねていく。

 

『ちぃい!なんなんだよ、お前らぁぁあ!!』

 

『やぁあああ!!』

 

復帰したステラのガイアも加わって応戦するが、攻めきれずにいる。いや、守りに徹したら削ぎ落とされそうな息苦しさまで感じた。

 

情報では、式典に向けた配置だからこそ、優秀なパイロットは少ないと言う打算的な策でもあった。

 

しかし、相手ニ機はとんでもなく速い。

 

本当にスペックはこちらが上回っているのか?機体性能すら物ともしない技量の壁が、ステラたちとキラたちの間に横たわっている。

 

その戦いを観測したスティングは、ある話を思い返していた。

 

〝メビウスライダー隊〟

 

かつての戦いで多くの伝説を残した幻の部隊。スティングもそんな与太話などと切り捨てようと考えていた。

 

だが、今の状況がそれを否応なく刺激する。スティングやアウルの中で、これまでにないほどの危機的警鐘が鳴り響いてる。

 

『こいつら、戦い慣れしてる!!』

 

アウルの操るアビスが繰り出すビームを避け、さらにはビームアックスでガイアのビームを切り払うザクを見て、背筋がゾッと凍った。

 

「奴ら、どこの所属なんだ?」

 

三人の動きや戦い方を観察しながら、アスランは思考を張り巡らせる。動きからして地球軍かザラ派かを判別できると思っていたが、相手も相応の手練れと言える。

 

攻めきれないのはアスランやキラも同じだった。それに、こっちはカガリとフレイがいる。無茶な動きができない以上、戦いを長引かせるわけにもいかないーー!!

 

「ちぃい、このままじゃ!!」

 

「ーーアスラン!上だ!」

 

キラが声を上げる。すると、アスランとキラのザクの頭上を一機の戦闘機が飛び去っていった。

 

『なんだ!?』

 

『新しい…機体…!?』

 

スティングたちも驚愕する中、飛び上がった戦闘機は変形し、後続に続いていた影とドッキングしていく。

 

「コアスプレンダー、ドッキング。機体状況、良好」

 

空中で分離機から合体するなど、聞いたことがない。

 

胴体部と脚部がドッキングすると、背面に武装パッケージが組み付けられ、フェイズシフト装甲のように、灰色の機体が色味を帯びていく。

 

「インパルス、レイ・ザ・バレル…敵機を撃退する!!」

 

人型となった新しい機影。その真正面から、アーモリーワン内部に侵入した〝メビウス〟が居た。

 

「キラさん!アスランさん!」

 

コクピットのスロットルを引くシンは、操縦桿を横へ捻り、グッと引き絞る。

 

「くっそぉおお!!やめろぉおお!お前ら!!」

 

メビウスの形を模していた機体は、駆動モーターの音を唸らせ、機体の姿を即座に変えていった。両翼のフレキシブルスラスターから脚部が分離し、胴体部から迫り上がった頭部と腕部が現れ、機体はモビルアーマー形態から、人型へと変形を果たす。

 

『可変機?見たこともないタイプだ…!!』

 

頭上を過ぎ去り、合体した機体も、シンが操る機体も、近接格闘兵器を携えて降下し、アスランとキラのザクの前へと降り立った。

 

「やっと作り上げた礎を再び壊すというのか、貴様たちは!!」

 

「また戦争がしたいのかよ!!アンタたちは!!」

 

MMI-710 エクスカリバー レーザー対艦刀を地面に叩きつけるインパルスの中で、レイ・ザ・バレルは怒りに満ちた顔でアビスを睨みつける。

 

15.78m対艦刀 シュベルトゲベールⅡを携えてガイアの前に降り立ったオーブの誇る技術で作り上げた可変機、〝メビウス・ストライカー〟の中で、シン・アスカも混迷する状況に怒りを抱く。

 

意図せず巡り合った二つの軌跡はーーーまだ見ぬ宇宙へと飛び立っていく。

 

 

 

 

 



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第4話 波乱を生む者

『なんだ、コイツは!?』

 

目の前に降りてきたレイの駆るインパルスと相対したアビスは、戸惑いに似た声を上げる。大剣を模したエクスカリバーを振り回して構えたインパルスは、そのまま風を凪ぐようにアビスへエクスカリバーを振りかざした。

 

間一髪のところで、大剣を躱したが、その風圧と破壊力は凄まじく、エクスカリバーは地面に接すると易々と瓦礫を吹き飛ばしていった。

 

冷や汗を流すアウルを他所に、戦況を見つめるスティングもイレギュラーの存在に困惑している。ステラのガイアを牽制する可変機。

 

『あれも新型か?どういうことだ…あんな機体の情報は…アウル!』

 

機体の配色、反応からしてザフト軍の配備済みのモビルスーツとは考えにくい。そんなスティングの眼下では、インパルスに攻め入られるアビスの姿があった。

 

《レイ!命令は捕獲だぞ!解ってるんだろうな!あれは我が軍の…》

 

「解っています。でも出来るかどうか保証はできません」

 

淡々とコクピットの中で答えたレイは、逃げ腰で距離を取ろうとするアビスへ、腰に懸架していたビームライフルを手に持って構える。

 

不味い…この体勢じゃ…!そうアウルの警鐘がピークに達しようとした瞬間、ガイアともう一機の影が、インパルスとアビスの間を横切った。

 

《このバカ!コロニー内でビームを撃つ奴があるか!?》

 

困惑するガイアを押し出したのはシンの操るメビウス・ストライカーだった。

 

ビームライフルを構えているインパルスを見てギョッと目を剥き、相手取るガイアの退路を誘導して、わざとアビスとの間に割り込んだのだ。

 

「何だと、貴様…!」

 

憤慨するレイの声を、シンはそれを上回る怒声で封殺する。

 

《ここには民間人が住んでるんだぞ!!こんな空気の袋にビームで穴を開けるなんて…なんのための近接戦闘装備だ!!状況を考えろ!!》

 

せり返してきたガイアの攻撃をいなして、片腕に装備したパンツァーアイゼンで殴りつける。可変機ゆえに耐久性は無いが、今はそんなことを言ってる場合では無い。

 

駆動系のエラーを無視しながら、シンはガイアを押し戻してシュベルトゲベールを構える。

 

「シン!よく来てくれた!」

 

後方にいるザクには、案の定アスランとキラが乗り込んでいる。映像回線は使えないが、おそらくカガリたちもコクピットに搭乗しているのだろう。

 

「アスランさん!アスハ議員もアルスターさんも無事ですね!キラさん!くっ…!?」

 

『なんだ、お前ええーー!!』

 

パンツァーアイゼンで殴られたことに咆哮を上げるステラ。ガイアから放たれるビームをアイゼンのシールドで防ぎながら、シンは距離を詰めていく。

 

「こいつ、ザフトの新型…!!なんだってこんな簡単に!敵にっ!」

 

『このおおお!!』

 

前に出たメビウス・ストライカー。それに合わせてガイアもビームサーベルを抜いた。こうも足場が瓦礫だらけだと距離を開けようにも手間がかかる。ならば、相手が懐に飛び込んできた隙を狙う!!

 

取り回しが悪い大剣であるシュベルトゲベールより、ガイアのビームサーベルの方が小回りは早かった。そしてそれはーーーシンが一番よく知っている。

 

「一本調子で来たところで!!」

 

シンはすでに、シュベルトゲベールを〝逆手〟に構えていた。小型ビームサーベルが展開できる柄頭を迫り来るガイアめがけて突き出す。

 

大剣は小回りは悪い。だが、それは刃を使う時だ。柄頭などの部分を逆手にとれば、ビームサーベルよりもこちらの方が小回りが効く!!

 

ステラのモニターに、シュベルトゲベールⅡの柄頭から発生したビームサーベルの光が広がっていきーー。

 

『ステラ!!』

 

その攻撃を、スティングの駆るカオスが横から遮った。レールガンが辺りに着弾し、シュベルトゲベールⅡのビームサーベルは、ガイアの胴体脇を掠めた。冷や汗を流したステラはバックステップで距離を置くと、ガイアをモビルアーマー形態に変形させて、シンからさらに距離を取った。

 

「いぃ、ザフトのモビルスーツってのは犬にも変形するのか!?」

 

さらにモビルアーマーに変形したカオスからの追撃も加わり、シンはガイアを追うのをやめて、アスランやキラを守るために防御の体制へと入る。

 

《こちら、ミネルバの艦長、タリア・グラディスです。貴方方は…オーブ軍の?》

 

その後方では、アスランのザクに新造艦ミネルバから通信が入ってきていた。相手はミネルバの艦長、タリア・グラディスだ。

 

「オーブ軍所属のアレックス・ディノです。グラディス艦長」

 

カガリを横に乗せたまま応答するアスラン。そんなアスランとキラのザクには一切の攻撃が及んでいない。シンがカオスとガイアを相手取って大立ち回りを演じているのだ。

 

ああなったらシンは強い。彼は守りに関してはすでにアスランやキラを上回る実力を有している。

 

あの〝流星〟が手ずから育てた逸材だ。まだ飛行訓練しかしていなかったとき、地球軍のモビルスーツへ軍用機で体当たりを行い、無傷で生還している記録も持つほどのパイロットだ。

 

故に、アスランたちも安心してグラディスからの通信に応答できていた。

 

《見て分かる通り、何者かに新型機が奪取されました。とにかく、貴方方は無事に離脱することを優先に。レイ、わかってるわね?》

 

「はい、そのつもりです」

 

「そんなこと言ってる場合でもないけどな!!こいつ!!」

 

いくら強いとはいえ、スペックでは上回るザフトの新型2機を相手取って戦っているのだ。淡々と答えるレイとは違って、シンは必死そのものだ。

 

《強奪部隊ならば外に母艦が居るはずです。パトロール艦、そちらは?》

 

すでにアーモリーワン外部に展開したパトロール艦からの応答を待つ。だが、それは事態を更なる悪化へと導く通信となった。

 

 

////

 

 

アーモリーワン外部中域。

 

ミラージュコロイドを展開する特殊艦「ガーティ・ルー」のブリッジでは、事が始まったアーモリーワンからの通信により、その進路を合流予定地点である場所に向けていた。

 

「作戦は開始されたな?ならば、こちらも進めようか。艦長?」

 

マスクを被った男性は、悠々と座席に座りながら隣にいる艦長、イアン・リーへ指示を仰ぐ。彼はわかっているように、彼の下で働く士官たちへ命令を下した。

 

「ゴットフリート1番2番起動。ミサイル発射管、1番から8番、コリントス装填」

 

「イザワ機、ハラダ機、カタパルトへ」

 

「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と同時にミラージュコロイドを解除。機関最大!」

 

姿を覆い隠していたベールが外れ、牙を剥き出した船はまだ事態を把握できていないパトロール艦へと突き進んでいく。その光景を、イアンたちは待ち望んでいた。その顔には愉悦に似た笑みがある。

 

マスクを被った男性は、頬杖を突きながら小さく微笑んだ。

 

「ーーさて、ついに幕間は終わり、新たな物語が始まる、か。相手はどう出てくるかな?」

 

「ゴットフリート、てぇ!」

 

艦長の怒声に似た声により、艦主砲から極光の光が打ち出される。それは狙いを逸れずに、こちらに気づいていないパトロール艦のブリッジへ走った。

 

『何!?敵艦だと!?』

 

それがパトロール艦「ハーセル」艦長の最期の言葉となった。ゴットフリートに打ち抜かれたブリッジは赤く焼けただれて、火を拭いて爆散する。

 

『ハーセル被弾!ブリッジが!!』

 

『ミサイル接近、数18!!』

 

『不明艦捕捉!数1、オレンジ25、マーク8ブラボー、距離2300!』

 

『そんな位置に!?ミラージュコロイドか…!!』

 

『地球軍なのか!?』

 

相手は手に取るように混乱している。全て作戦通りだ。ザフトなど、すでに恐るるに足りない。イアンの怪しい笑みが、戦況の波乱を呼んでいく。

 

『熱紋ライブラリ照合、該当艦なし!』

 

『迎撃!ナスカ級を呼び出せ!モビルスーツもだ!』

 

敵もまた、すぐに動き出した。港には新造艦の進水式のために集まった艦艇がある。その内の二隻が、こちらに向かって進んできた。

 

「ナスカ級接近、距離1900!」

 

よし、素晴らしいーー予定通りだ。マスクを被った男性は、無重力の中に浮かぶと、そのままシートを蹴ってブリッジの外へと向かっていく。振り向き様に、艦長へ指示を投げた。

 

「よーし、モビルスーツ発進後回頭20、主砲照準インディゴ、ナスカ級。あちらの砲に当たるなよ?私も出るーーー〝メビウス〟を用意しろ」

 

マスクの下で彼は笑う。

 

そうだとも。

 

私は待ったのだ。この瞬間のためだけに。

 

故に証明して見せようーーー私が〝流星〟であるということを。

 

 

 

 

 



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第5話 宇宙への穴

 

 

アーモリーワンが揺れている。

 

ザクから降りて、ザフト軍の軍用車に乗ったリークとトールに合流したアスランたちは、地響きのような揺れにタタラを踏みながらも、なんとか耐える。

 

遠方に見えるモビルスーツ同士の戦いの揺れだけでは無い。まるでコロニー全体が揺れているような感覚だ。

 

「この揺れは…アスラン!」

 

フレイを支えながら、キラが声をかけてくる。擬似的な空の向こう側にある外縁部との区切りを示す防護ガラスから、薄らと閃光が瞬く。あれは明らかに星の光などでは無い。

 

「外部からの攻撃?敵艦が直ぐ近くにいるのか!?」

 

『こいつーッ!』

 

アスランたちがリークたちの車に乗り込んでいるのをモニターで見つめながら、シンは迫ってくるガイアの攻撃を受け流す。大剣であるシュベルトゲベールの持ち方を巧みに変えながら、シンの操るメビウス・ストライカーは、超近距離から中距離の流れを制しており、ガイアは攻めきれずにあしらわれていた。

 

その後方では、レイのインパルスがカオスとの戦いに苦戦を強いられている。モビルアーマーへと変形するカオスのヒットアンドアウェイ戦術、そしてモビルアーマー形態ならではのトリッキーな戦い方に、攻め手を決められずにいる。

 

「くっ…やはり実戦では…!」

 

エクスカリバーを振り回して距離を取ろうとするが、それを逆手に取ったスティングは、脚部からビームクローを展開して、隙ができたインパルスへ迫る。

 

その真横。ガイアの脚部をシュベルトゲベールの峰で払い飛ばして転倒させたシンは、パンツァーアイゼンに移植されたマイダスメッサーを引き抜き、インパルスへ迫るカオスへと投擲した。

 

ビームの円盤をシールドでなんとか防ぐが、進路は完全に変えられた。スティングは舌打ちをして、再び空へと逃げていく。

 

「下がれよザフトの新型!そんな動きじゃ、墜としてくださいって言ってるようなもんだぞ!?」

 

「何を…!!」

 

戻ってきたマイダスメッサーを格納しながら、シンはインパルスの前に立った。

 

インパルスの動きは明らかに近接戦に不慣れな者の動きだ。ビームライフルを使わない点は褒められるが、敵の前で無闇にあんな大剣を振るえば、隙ができて当たり前だ。

 

それに、ビームは使わないとは言え、エクスカリバーで吹き飛ばした瓦礫による被害もある。

 

「そうやって周りに気を配れないから戦いはーーそこぉっ!!」

 

インパルスのパイロットへ言葉を投げながら、シンは背後からビームランスを構えて近づいてきたアビスへ、バットのように振りかざしたシュベルトゲベールを叩きつけた。

 

『こいつ!背中に目がついてるのか!?』

 

運良くビーム部分では無いところで受け止めたアウルだが、シンの目的は別にある。

 

叩きつけた大剣を返してアビスとの距離を詰めると、そのままアビスとすれ違いざまに頭部へアイゼンを装備した拳を叩き込んだ。

 

『この可変機、近接兵器でよく…!!』

 

ちぃ、この程度では失神しないか…!!駆動部から火花が散るのを確認したシンは、相手のモビルスーツの図太さに嫌気が差していた。

 

わざわざ〝斬らない〟ように気をつけていると言うのに、向こうは撃ち放題だ。

 

「みんなは後退を!ベルモンド教官、ケーニヒ教官!議員やアルスター事務次官を頼みます!」

 

「ごめん、シン!」

 

「シン!あまり無理はするなよ!」

 

軍用車にアスランたちを乗せたリークたちは、無線機越しにシンへ言葉をかける。もとより無茶はするつもりはない。片腕がうまく動かなくなりつつも、まだ大剣は持てている。

 

シンは破損した片腕を庇うように大剣を構えて、グッと体に力を込めた。

 

「了解!!」

 

アビスはカオスと合流し、大剣を隙なく構えているメビウス・ストライカーを前にしている。現れた2機の不明機。一機はこちらと同じザフト製だろうが、目の前にいるこの機体は明らかに毛色が違う上に、パイロットが手強いと来ている。

 

『スティング!さっきの!』

 

アウルが接触回線で、思考を巡らせるスティングへ声をかけた。

 

『分かってる!お迎えの時間だろ?』

 

本来なら、敵基地を破壊してアーモリーワンから脱出、外にいるガーティ・ルーと合流してから、次の段階に移行する手筈だった。

 

『遅れてる。バス行っちゃうぜ?』

 

『分かってると言ったろうが!このぉ!!』

 

苛立ちを顕にするスティング。

 

現れたイレギュラーのせいで、計画は大きな変更を余儀なくされていた。あの可変機はこちらが逃げられないように、一機は必ず手中に収めた上で戦いを組み立てているのだ。

 

『大体あれなんだよ!新型は3機のはずだろ!可変機なんて!!』

 

『俺が知るか!』

 

『どうすんの?あんなの予定にないぜ!?』

 

面白くない。アウルもスティングと同じ思いだった。こちらとしても、この日のために訓練や〝処置〟を受けてきたと言うのに、こうもあしらわれるなんて。シンの強さは、三人の根幹にあるプライドを激しく揺さぶり、刺激している。

 

今も、襲いくるステラのガイアを相手取って容易く逃げ、打ち、叩き、そして足蹴にしている。

 

『けど放ってはおけないだろ!追撃されても面倒だ!!』

 

『ハッ!あのふざけた機体の首でも土産にしようっての?』

 

ステラのガイアをビームを遮断したシュベルトゲベールでなぎ倒したシンのメビウス・ストライカーに、アウルが急襲する。

 

『カッコ悪いってんじゃねえ?そういうの!』

 

インパルスのバルカンが飛んでくるが、そんなもの足止めにもならない。ビームは無駄だ。幾度と撃った中で、相手の危機察知能力は把握している。

 

ならばと、アウルはビームランスを起動させて、機体前方へと突き出した。リーチに分があるビームランスなら、こちらの攻撃を当てつつも、向こうの攻撃範囲に入ることはない。

 

「動きはいい…けれど!!」

 

その突撃を、シンは機体を屈めて最小限の動きでビームランスを掻い潜る。ビームの合間を縫うように避けるのは、〝流星〟との模擬戦で幾度となく体感しているシンにとって、アウルの放ったビームランスの突きなど大した障害にはならない。

 

『んなっ、下!?』

 

「攻めるだけじゃ崩せないならッ!!」

 

拳がダメなら、とシンは破損した片腕を前に出して迫ったアビスへ逆に突撃を敢行する。自身の前身の力と、メビウス・ストライカーの体当たり。

 

シンは衝撃時に踏ん張っていたが、意表を突かれたアビスは体当たりを受け、アウルはコクピットの中でシートベルトとシートの間で数回バンドするような衝撃に襲われた。

 

『うっ!!』

 

『アウル!ちぃ…このパイロット…!!』

 

なす術なく倒れたアビス。いくら〝措置〟されているとは言え、モビルスーツの体重を乗せた体当たりをーーそれもこちらも前進している時に受けてしまっては、ひとたまりもない。

 

カオスに備わる機動兵装ポッドを射出したスティングは、アビスに迫るメビウスを追い払うために、ビーム突撃砲と、ファイヤーフライ誘導ミサイルを吐き出した。

 

「こいつ…!コロニー内だぞ!そんなものを使うなんて…!!」

 

背後にはまだ避難しているザフトの非武装員がいる。動きが鈍い片腕に備わるパンツァーアイゼンを無理やり動かし、ビームを防ぎながら、ミサイルの雨にシンは耐える。

 

「お前たち!!何を考えてる!!やめろぉおお!!」

 

爆煙の中で、シンは咆哮する。明らかなダメージを負うメビウスだが、シンは逃げなかった。後ろにいる非武装員が、過去の自分と重なる。

 

自分もこうやって、助けられたのだ。

 

だったら、それをやらずにしてーーー何があの人の弟子だ!!

 

咆哮したシンは、スラスターを吹かし、空へと逃げる三機のモビルスーツに向かっていく。

 

 

 

////

 

 

カガリたちがたどり着いたアーモリーワンの行政府は酷い有り様だった。下士官たちが慌てた様子で行き来しているが、一部の建物がビームの直撃を受けて死傷者まで出ている。

 

行政府としての機能は麻痺状態となっていた。

 

「誰がここの指揮を執ってる!あの3機はどうした?状況を説明してくれ!」

 

カガリたちが施設に入ると、先に到着していたデュランダルが状況の説明を要求していた。しかし、通信インフラも寸断されている状態であり、外縁部の状態も何ら応答がない。

 

パトロール艦も敵の母艦の発見情報を知らせてから音信不通だ。

 

「議長!ここはまだ危険です!有毒ガスも発生しています。シェルターへお入り下さい!」

 

「そんなことが出来るか!事態すらまだよく解らぬというのに!!」

 

港口では、機能停止したターミナルに閉じ込められている人たちもいる。今シェルターに入ってしまえば、なんら情報を得られぬまま事態が治るのを待つ身となってしまう。それでは、なんら一般市民と大差はない。

 

デュランダルは議長としての任を全うしようとしている。それを察した士官は、通信室へ連絡を取った。

 

「ーーならばせめてミネルバへ!!」

 

 

////

 

 

「その三機を行かせるわけには…!!」

 

アーモリーワン中心部へと飛翔する三機を追って、インパルスとメビウスもコロニー外縁部へと向かっていた。

 

『こいつ!何故落ちない!?』

 

いや、シンのメビウスはステラのガイアに追い回されている状態だった。シンとしては、敵が逃げてくれるならそれで良いことだった。

 

こちらの目標はカガリやフレイ、キラたちを無事に逃すこと。三機の行く末など、オーブにとっては関わりがないことだ。

 

「銃口…!!」

 

しかし、ステラのガイアがそれを許さない。数発撃ったビームの閃光の一発はシンが食い止めたものの、他はアーモリーワンの地上へと飛んでいき、遠くで爆発が起こった。

 

「何でこんなことが平然とできる!!お前たちはーー!!」

 

民間人がいるはずのコロニー。さっきまで街は人々の賑わいの中にあったというのに、ここはすでに地獄と化している。人道的にもこれ以上撃たせないために、シンはガイアへと接敵してビームを阻止する戦いを繰り広げる。

 

『スティング、きりがない!こいつだってパワーが…!!』

 

『このまま離脱するぞ!ステラ、そいつを振り切れるか!!』

 

『すぐに沈める!こんな…私は…私はっ!』

 

片腕が使い物にならなくなっているはずのメビウス相手に、ステラは攻めきれずにいる。ビームサーベルで切り裂いても、敵は紙一重でそれを避けて、頭部のイーゲルシュテルンでガイアにダメージを与えていく。

 

『離脱だ!やめろステラ!』

 

スティングの制止の声など、もはや関係ない。ここまで小馬鹿にされたのだ。私は、私はーーそんなことをされるためにーー!!

 

『私がこんなぁーッ!!』

 

『ステラ!』

 

『じゃあお前はここで〝死ね〟よ!!』

 

慟哭にも似たステラの叫びに、アウルの声がこだまする。途端、ステラの衝動に駆られた動きが止まった。

 

『アウル!』

 

『〝ネオ〟には僕が言っといてやる。さよならってな!』

 

スティングの諫める声を聞かずに、アウルは続けて彼女にとっての〝引き金〟につながる言葉でトドメを刺した。ステラは頬に指を走らせて、瞳を揺らした。

 

『…死ぬ?』

 

それはステラ自身にとってのトリガーだった。死というイメージ。その言葉で甦るフラッシュバックが脳内を駆け抜けて、ステラの表情を一変させた。

 

『あたし…そんな…あぁぁーーっ!嫌ああああーー!!!』

 

シンのメビウスを前にしながら、彼女は暴れるように機体を挙動させる。警戒したシンが機体を下がらせると、彼女は逃げるようにアウルたちの元へと飛び上がっていく。

 

それはシンから逃げる動きではない。まるで、見えない巨大な何かから逃げるようなーーそんな感覚をシンは覚えた。

 

『アウル!お前…』

 

『止まんないじゃん、しょうがないだろう?』

 

『黙れバカ!余計なことを!!』

 

スティングの言葉を無視して、アウルは見えてきた外縁部に胸部と肩に備わるビーム兵器の一斉射を浴びせる。

 

『結果オーライだろ?とにかく撤退だよ』

 

それによって出来た大穴に、アウルが先行して入り、スティングは力を失ったステラのガイアを掴んでそれに続いた。

 

「奴ら、宇宙に…」

 

インパルスに乗るレイが、外縁部から宇宙へと逃げた機体を見つめながら目を細める。このまま逃してなるものか。

 

「追うぞ、貴様もーー」

 

「こちらは撤退する」

 

通信で帰ってきた言葉に、レイは目を剥いた。撤退する?敵を前にして?凛とした声を理解できなかったレイに、シンは改めてインパルスのパイロットへ〝自分の立ち位置〟を伝えた。

 

「俺が出たのは、あくまでオーブの要人の救助が目的だからな。あの新型…あとはザフトの問題だろ?」

 

そう、シンはオーブのパイロット…強いて言うなら、アズラエルが雇った護衛の民間PMCの社員だ。腕の一本くらいなら切り落とせた相手だが、ザフトの新型をオーブ製の機体が撃ったら、のちの国際問題に成りかねない。

 

出撃前の簡易ブリーフィングで、師匠であるラリーやハリーから注意を受けていたため、シンは手心を加えて敵を傷つけることなく、キラやアスランたちを守ってみせた。

 

敵が空へと逃げ、キラたちの身の安全が確保された段階で、シンとしてのミッションは完了していたのだ。

 

「まだ民間人の避難も済んで無いんだろ?まずはそっちを優先するべきだと俺は思うぜ?」

 

ガイアの猛追に付き合わされたシンは、疲れたように肩を回して機体を反転させる。

 

「ーーミネルバへ。インパルスは敵を追撃する」

 

後方モニターには、空いた穴から外へ向かって飛んでいくインパルスの姿が見える。シンは気にしない様子で機体を飛ばした。

 

片腕が破損した為かモビルアーマー形態へ変形できないことを知ったシンは、ハリー技師からの怒りを予想しながら深く肩を落として帰路へと着くのだった。

 

 

 

 

 



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第6話 一時の帰還

 

 

 

「ナスカ級撃沈!左舷後方よりゲイツ、新たに3!」

 

「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%、10秒。1番から4番、スレッジハマー装填!大佐が出ている!そっちは任せればいい!」

 

ガーティ・ルーのブリッジは、急襲と迎撃に上がってきたザフト軍の対応に追われていた。すでに二隻のナスカ級は撃退したものの、敵の基地を目の前にして単騎で戦っているようなものだ。

 

分の悪い戦いに変わりはない。

 

《艦長、彼等は?》

 

ガーティ・ルーへ通信が入る。

 

先ほど〝メビウス〟で出撃した大佐の声だ。彼は手早く機体を反転させると、撃つことしか能がないゲイツを次々とビーム砲で穿っていく。

 

その動きは鮮やかであり、ザフト艦の対空攻撃もひらりひらりと躱しては、ブリッジや機関部に的確にダメージを与えていく。

 

「まだですーー失敗ですかね?港を潰したといってもあれは軍事工廠です。長引けばこっちが保ちません」

 

艦長の言葉に、メビウスを駆るパイロット、『ネオ・ロアノーク』は少し言葉を選んでから、艦長に問いかけなおした。

 

《解ってる。だが失敗は許されない。これが不発に終われば、我々はまた〝待つ〟ことになるぞ?それでいいのか?艦長》

 

すでに自分たちは、あの屈辱的な惨敗から2年も待ったのだ。苦渋を舐め、憎きコーディネーターから世界を解放するため、この日を待った。ここで、彼らを回収出来なかったら、あの日々が全て水泡に帰すことになる。

 

ネオの言葉に、艦長も分かっているようにうなずく。

 

「ーーまた穴蔵にこもって好機を待つのは、いささか我慢致しかねますな」

 

《だろう?大丈夫さ。俺の勘がそう言ってる。艦長、船を頼むぞ》

 

それだけ伝えると、ネオのメビウスは機体を翻して再び飛翔する。自分の勘が告げているのだ。ここに留まれば、自分が二年間ーー待ち続けた相手に出会えると。

 

 

////

 

 

アーモリーワンの受けた被害は甚大だった。

 

「駄目です!司令部応答ありません!」

 

「工廠内ガス発生。エスパスからロナウル地区までレベル4の退避勧告発令!」

 

カオス、アビス、ガイアによってもたらされた被害は深刻であり、ビームの流れ弾に当たった市街地では死傷者も出ており、破壊された通信インフラも使い物にならず、コロニー内では空気漏れと、除去装置の破損により、有毒性のガスが発生していた。

 

「艦長…これまずいですよね?もしこのまま逃げられでもしたら…」

 

弱腰の口調で呟くミネルバの副長、アーサー・トラインの言葉に、艦長であるタリア・グラディスは疲れたように額を指で支えながらモニターへ視線を走らせた。

 

「そんなことされてたまるもんですか。それにしても、どこの部隊かしらね。こんな大胆な作戦…」

 

「それはわからん。だが、奴らは止めねばならんだろう」

 

タリアの呟きに言葉を返したのは、ブリッジの扉から現れた人物だった。

 

特徴的な長髪と、最高評議会長のみが許される制服に身を包んだ男性、ギルバート・デュランダルが護衛を連れてブリッジに入ってくる。

 

「議長!?」

 

驚いているブリッジのクルーや、タリアを見つめながら、デュランダルは毅然とした声を上げた。

 

「状況は、どうなっている?」

 

司令部との通信が途切れ、外縁部のパトロール隊とも音信が途切れた今、現状を把握し、それに対応できる能力を待つのは、このミネルバだけだ。

 

その時を待って、ミネルバの実戦投入がはじまろうとしていたーー。

 

 

////

 

 

「隊長!ダメですって!」

 

「うるさいんだよ!部下が一人で行っちまったんだ!俺が追わなくて誰が追うんだ!!」

 

そのミネルバのモビルスーツハンガーでは、ボロボロになったオレンジ色のザクの前で、作業員であるヴィーノと、パイロットであるハイネが取っ組み合いをしていた。

 

ハイネは、このミネルバのモビルスーツ隊の隊長として明日から任に就く予定ではあったが、インパルスのパイロットであるレイが、先行して出て行った為、彼も出撃するつもりでいたのだがーー。

 

「しかし、隊長の機体だって…」

 

肝心のハイネ専用のザクは瓦礫に押し出されてボロボロの有り様であった。なんとかミネルバに搬入したものの、まだ点検すらできていない状態と来ている。

 

「中身が無事なら飛ばせるさ!さっさと発進準備をするんだよ!!」

 

「だから無茶ですって!!」

 

そう言ってはザクに乗り込もうとするハイネと、作業員であるヴィーノが攻防を行っていたのだ。そんな彼らの傍では、議長が乗ってきた輸送機と共に、一機のモビルスーツと一台の軍用車がハンガーへと入ってきていた。

 

「あれは…見たことがない機体だ。どこのだ?」

 

取っ組み合いをしていたハイネが、見たことがない機体を目にしてヴィーノに問いかける。すると、隣で物資の運搬をしていたヨウランが、ハイネの質問に答えた。

 

「オーブらしいですよ。ほら」

 

そう指さす先では、軍用車から降りてくるオーブの議員や護衛の姿が見えた。

 

 

////

 

 

「全く、無茶をしますよね。相変わらず」

 

軍用車の運転席から降りたトールが、呆れた様子でカガリを見つめる。煤まみれになった議員の正装を手で払いながら、カガリは不満げにトールに言葉を返した。

 

「うるさいなぁ、巻き込まれたって何度も言ってるだろ?」

 

「ヘリオポリスの時といい…カガリちゃんは一度、日本の神社で御払いでも受けた方がいいんじゃない?」

 

「私だって好き好んでなぁ!!」

 

リークの意地悪そうな言葉に、カガリも負けじと言い返そうと声を荒げた時、議長の指示でカガリたちと共にミネルバに避難し、屈んだ姿勢を取るメビウス・ストライカーからシンがスルリと降りてくる。

 

「シン!無事だったか!」

 

新型の一機にしつこく絡まれていたのは見えていた。心配していたアスランやキラが、ヘルメットを脱いだシンの元へ駆け寄る。すると、彼は何ともない顔をして全員へ敬礼を打った。

 

「メビウスライダー隊、ライトニング4、シン・アスカ。帰投しました!」

 

「さすがだな、シン。よくやってくれた」

 

アスランやキラが微笑みながらシンの肩に手を置くと、彼は照れたように頬を指でかいた。

 

「キラさんやアスラーーごほん、アレックスさんの送ってくれた事前データがあったからですよ。俺一人じゃ、ああはできませんでした」

 

「そう言ってちゃんとやることやれる奴になってくれて、お姉ちゃんは嬉しいぞぉ!このやろ!」

 

アスランたちの合間を通り抜けてきたカガリも嬉しそうにシンと肩を組んで、乱暴にその頭を撫でた。

 

「ああもう、まだ公務中だからやめてくれって、カガリ姉さん!!」

 

そう言いながらも満更でもない様子でカガリからの激励のなでなでを受け入れるシン。

 

カガリとシンは、彼が民間PMCに入隊してからの仲であり、キラやアスラン共々、公私ともに付き合いを続けてきた。アスカ一家とのバーベキューや温泉慰安旅行などでも共に過ごしており、カガリからしたら弟らしい年下のようだった。

 

「私の弟もこう言う風な可愛げがあればよかったんだけどなぁ?」

 

弟っぽい仕草をするシンを見てから、カガリは恨めしそうにキラを見つめる。そんなキラはカガリに対して困った笑みーーーーを浮かべずに、対抗するような目でカガリと対峙した。

 

「まだ言ってる。僕が兄さんだからね?」

 

「何度言わせるつもりだ!私が姉だ!あ・ね!!」

 

先の大戦後、延々と終わらない兄妹喧嘩と言えるか…。カガリが姉風を吹かすと、キラが決まって自分の方が兄だと言い張るのだ。最初は皆がハラハラした様子で見守っていたが…。

 

「また始まったよ」

 

「あーなると長いからなぁ、あいつら」

 

今ではアスランもトールも呆れた様子であり、他のメンバーもいつものことかと気にしなくなっていた。

 

「あーー!!」

 

そんな穏やかな再会の中で、いつのまにかメビウス・ストライカーのコクピットに潜り込んでいたフレイが、悲鳴のような声を上げる。

 

何事かとザフトの作業員たちも反応する中、シンの表情がどんどん青ざめていっていた。スルリとフレイがコクピットから降りてくると、師から受け継いだ般若の形相でシンの元へと歩み寄ってくる。

 

前にいたカガリたちはもちろん、ザフトの作業員たちも無言の圧力にサッと道を開ける。

 

「こらぁ!シン!あんたまた無茶したわね!?」

 

「げぇ!!フレイさん!!俺は今回はーー」

 

そう言い返そうとするシンの眼前に、フレイは抽出した端末のデータをグイッと近づける。その端末の向こうでは、フレイがにこやかに笑みを浮かべていた。

 

「この数値データを見ても、同じことが言えるのかなぁ?」

 

目は笑っていなかった。

 

「あ…あはは…はは」

 

「正座」

 

「ーーーっス」

 

乾いた笑みを浮かべるシンに無情の判決が言い渡されて、シンは抵抗せずにそっと硬いモビルスーツハンガーに膝を落とした。

 

民間PMCの規則第一。

モビルスーツは丁寧に扱うこと。

 

いくら戦場で功績を残そうとも、愛機が動かなければ何もできない。故にフレイや、ハリーはキツく怒るーーらしい。ちなみにシンの正座回数は、もう数えることを辞めたレベルのようだ。

 

「どこに行ってもフレイはフレイだな」

 

「うん」

 

その様子を眺めるキラとアスランに、パイロットスーツ姿のハイネが歩み寄ってきた。

 

「あのさぁ、あんた達」

 

その目には明らかな疑いの眼差しがある。語りかけてきたハイネに警戒の色を返しながら、アスランが彼の対応に出た。

 

「そちらさん、確かオーブの人間だよね?なんだってオーブの奴らがここに?」

 

その質問はごもっともである。議長の指示とはいえ、ミネルバ側にこちらの情報が伝わってるとは考えづらい。そうアスランこと、アレックスに戻った彼が返事をしようとした時ーー。

 

ミネルバ艦内に警報が鳴り響くのだった。

 

 

 

 

 



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第7話 アーモリーワンの戦い 1

感想や誤字指摘ありがとうございます!

destinyの楽曲て良いですよね




 

単身、アーモリーワンのコロニー内部から離脱したレイは、逃げながらもこちらへ的確に迎撃してくる三機の新型機の動きを見つめながら、グッと歯を食いしばった。

 

「なんて奴等だ、奪った機体でこうまで…!!」

 

たしかに、こちらもインパルスに乗り換えてから充分な慣熟訓練を行えなかった点はあるが、それでも相手は新型であるはずのモビルスーツを手足のように動かしているのだ。明らかに横たわる技量の差に、レイは苛立ちを隠せなかった。

 

「敵艦にたどり着かれる前に何としても捕らえる!ミネルバ!フォースシルエットを!」

 

ソードシルエット。

 

本来ならば汎用的なモビルスーツ戦を得意とするレイにとって、ソードシルエットは苦手な距離の専用機という相性の悪さがあった。それに、このまま追うにしてもインパルスのエネルギーも心許ないものになってくるだろう。

 

レイからの通信を受けたミネルバだが、副長であるアーサーでは判断が付かなかった。

 

なんと言っても、インパルスはあの三機よりも機密性の高い新型機だ。それも奪われた相手の前で新型装備を扱うとなると…。

 

「艦長!」

 

「許可します!射出して!もう機密も何もありませんでしょ?」

 

そう確認するようにタリアが議長へ問いかけると、デュランダルは何も言わずとも頷いて答える。こうなってしまって後手に回ることになれば、不利になるのはこちらになる。

 

デュランダルの許しを得て、ミネルバではフォースシルエットの発進準備が始まる。

 

『訳わかんねぇ可変機は居なくなったけど、いい加減!』

 

アウルの駆るアビスが、振り向きざまにインパルスへビームの一斉射を放つが、レイはその機敏な動きでビームを難なく避ける。

 

すでに近距離武装は背中へ格納しており、手にはマウントしていたシールドとビームライフルが握られていた。

 

「宇宙ならビームライフルは気にしなくて済む…!!」

 

レイは、あのオーブ軍機から言われた言葉に苛立ちを覚えながらも、どこか理解して納得している自分に戸惑っていた。

 

戦うことでしか、自身の価値を見出せない自分が何故?そんな答えのない問いを思考から追いやりながら、レイは目の前をいく三機へビームライフルを構えた。

 

 

////

 

 

ミネルバのハンガーも再び慌ただしさに包まれていた。中央のプラットホームが稼働を始め、武装コンテナからフォースシルエットが姿を表す。

 

《フォースシルエット射出シークエンスを開始。シルエットフライヤーをプラットホームにセットします。中央カタパルトオンライン。非常要員は待機して下さい》

 

「隊長!!」

 

「ええい!とりあえず退避だ!その機体もこっちに退けろ!」

 

オーブ側であるカガリたちに問いかけている最中だと言うのに!

 

そんな苛立ちのこもった声でハイネは渋々と指示を出していく。作業員たちもまだ手がついていないモビルスーツや武装の配置作業に戻っていく。

 

「シン!」

 

「わかってます!!」

 

プラットホームの稼働の邪魔にはならないだろうが、シンも屈んで置いてあるメビウス・ストライカーへ乗り込み、移動をさせていく。

 

メビウス・ストライカーの足元。シンが歩行操作をするたびに揺れる脇では、キラがリークへ言葉を投げていた。

 

「ベルモンドさん!!ラリーさんは!?」

 

こんな状況だ。シンが先行して出れたのは、自身の専用機と同じメビウス・ストライカーがあったからだろうが、弟子であり部下であるシンを一人で行かせるのは考えづらい。

 

キラの予想が的中したように、リークは小さく笑みを浮かべながら、その問いに答えた。

 

「彼なら、先に出てるよ」

 

 

////

 

 

『やめてぇ!こないで!!死ぬのは…いやぁあああ!!』

 

まだ錯乱状態から立ち戻れていないステラが、がむしゃらにビームライフルを放つ。その尽くはレイのインパルスの脇を通り過ぎていくものの、逆に進路が読みにくくなることで、レイは攻めきれずにあぐねいていた。

 

「ええい!無茶苦茶な動きを!」

 

まずは錯乱らしき動きをする機体を仕留める!そう言わんばかりに、レイはステラが放つ閃光を潜り抜けながら動きが鈍いガイアへと距離を詰めていく。

 

『やらせるかよ!』

 

そんなレイの行く先を、スティングのカオスが遮った。機動兵装ポッドを射出し、多方向からのオールレンジ攻撃。カオス本体からもビームが放たれ、レイは苦い顔をしながら詰めた距離を離していくしかない。

 

「く、やはり一機では…!!」

 

三機相手に立ち回りを考えていた時、レイの頭上からビームライフルの閃光が降り注いできた。三機は目の前にいる。じゃあこの閃光は…?

 

『なんだ!?』

 

『あの機体…!!』

 

頭上を見上げると、そこには先ほどレイやスティングたちが目撃したモビルアーマー形態のメビウス・ストライカーが居た。それは出力を上げると、レイとスティングたちの間を通り抜けて、少し上昇したところでモビルスーツ形態へと可変する。

 

「やはり宙域に来たか!よりにもよって…出てくるか!!お前達!!」

 

『また可変機かよ!さっきのやつか!?』

 

変形と同時に放たれた牽制のビームの閃光を躱しながら、アウルは再び現れたオーブの機体に対して怒りをあらわにする。そんな感情的なアウルとは逆に、スティングは冷静に敵を分析していた。

 

機体は同じものだろうが、カラーリングや頭部の形、そして武装も違う。

 

『違う!別のやつだ!!』

 

そう判断を下したスティングへ、現れたメビウス・ストライカーは、腕部のグレネードランチャーを放ちながら三機の動きを見極めていく。

 

「あれはオーブの…」

 

「そこのモビルスーツ!!」

 

付いてこまいと思っていたオーブ軍機が現れたことに呆気に取られていたレイへ、件のモビルスーツから通信が入った。

 

「近接戦闘は苦手そうだな?苦しいなら下がれ。モビルスーツ単機では分が悪いぞ!」

 

青い胴体と赤いくびれ。特徴的なトリコロールカラーの機体は3機から放たれるビームの猛攻をひらりひらりと避けながら、レイの駆るインパルスの動きを見つめている。

 

ソードシルエットの代名詞であるエクスカリバーを彼は抜いていない。ビームライフルとシールドで応戦に徹するレイに、忠告するようにオーブの可変機は言葉を掛けたが、レイは特に気にすることなく簡潔に答えを返す。

 

「構わないで欲しい。こちらも準備は整っている」

 

アーモリーワンから飛来したそれがレイの元へ届いたのは、その言葉と同時だった。

 

インパルスはソードシルエットをパージすると、一瞬だけ灰色の無通電状態の機体を晒したのち、フォースシルエットとドッキングを果たす。

 

『あいつ…装備を換装する!?けど

だからってぇッ!』

 

「やはり開発されていたか、ザフトの新型…そこっ!!」

 

自機と同じトリコロールカラーとなったインパルスを一瞥すると、オーブ機はビームサーベルを引き抜き、カオスが放ったビームを切り払って飛散させた。

 

その隙のない動きにスティングは目を見開く。

 

いい位置へビームを〝刺した〟はずなのに、敵は何事もない様にその閃光を容易く切り裂いたのだ。その動きだけであのオーブ軍機に乗るパイロットが、先ほどまで切り結んでいたパイロットと同等か、あるいはそれ以上か…!!

 

『やめて!あっち行って!!』

 

『ちぃい!!』

 

まだまともに連携を取れないステラを守ることになるため、こちらから下手に攻められない。

 

スティングはグッと歯を食いしばって迫るオーブ軍機と、インパルスに向き合った。

 

(こいつらの親玉は誰だ!?それを見極めるまでは…!!)

 

本来はキラが駆るはずのストライクと同じ配色をした可変モビルスーツ、メビウス・ストライカーを機敏に動かしながら、オーブ軍のノーマルスーツを身につけたラリー・レイレナードは、〝ムウ・ラ・フラガ〟ではない、〝ネオ・ロアノーク〟の姿を追っていた。

 

 

 

 



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第8話 アーモリーワンの戦い 2

 

 

 

 

「オーブ軍のモビルアーマーが合流!!艦長!!」

 

まったくもって予想外の展開に、タリアは深く息を吐く。ザフト…いや、プラントの領域であるアーモリーワンでの、オーブ軍の介入。事態で言えば前代未聞だ。

 

オーブとの密談は事前に議長から聞かされていたが、それに合わせる様に起こった新型モビルスーツの奪取。

 

そしてオーブが極秘に持ち込んでいた新型可変モビルスーツでの迎撃行動。

 

緊急事態とは言え、外交的には致命的な国際問題に発展することになる。タリアは隣にいるデュランダルを見たが、彼は別段青ざめるわけも無様に狼狽ることもない。むしろ、アーモリーワン宙域でオーブが介入してくるのが当然だと分かっていた様な落ち着き様である。

 

「インパルスのパワー危険域です。最大であと300!」

 

オペレーターの若い赤い髪の女性からの声で、タリアはハッと顔を上げた。事態を鑑みても、オーブがこの戦いに介入している事実は変わらないし、なにより意表を突かれたザフトに奪われた新型機を追える戦力がないのも明白だった。

 

故に、タリアはミネルバの艦長として決断する。

 

「インパルスまで失うわけにはいきません。ミネルバ発進させます!!」

 

「艦長ぉ!!」

 

情けない副長の声を無視して、タリアは隣にいるデュランダルへ、答えは分かっている質問だとわかりながら、あえて言葉を投げる。

 

「よろしいですね?」

 

「ああ。頼む、タリア」

 

何の迷いもなく頷いたデュランダルを見て、タリアは肩をすくめる。この人は、〝何を見て〟、その決断を下しているのか。そんな問答をしても今は意味がない。だから後にする。今はとにかくインパルスとパイロットを失わないことが最優先だ。

 

「ーーミネルバ、発進シークエンススタート」

 

「本艦はこれより戦闘ステータスに移行する!SCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定!」

 

副長の声と同時に、進水式典を待つ身であった巨大な新造船艦は、その息吹を吹き上げながら発進準備を整えていく。ドッグに鳴り響くアラームの中で、タリアはデュランダルに小さく言葉をかける。

 

「議長は早く下船を」

 

この船は、〝今この瞬間をもって戦場に出る船〟となったのだ。彼らが安全だと言って避難してきた場所が、戦線の最前線となる。そんな場所に、ザフトの要人…それもプラント最高評議会の議長を置いておくわけにはいかない。

 

そんなタリアの言葉に、デュランダルは困った様に笑った。

 

「タリア、とても残って報告を待っていられる状況ではないよ」

 

「しかし…」

 

「私には権限もあれば義務もある。私も行く。許可してくれ」

 

言葉とは裏腹に、熱のない目と表情がタリアを射抜く。彼はいつもそうだった。あの時から今までずっと、彼の目に熱があるところを、タリアは見たことがない。

 

そして、そんな目をする彼もまた、自身の言葉を曲げない意固地さがあるのを、彼女は充分に理解していた。

 

「ーーー承知しました」

 

折れるようにタリアが瞳を伏せて、体を前に向ける。そして、ほんの少し間が空いたのち、デュランダルは思い出した様にタリアへ語りかける。

 

「ああ、そうだ。確かオーブの来賓方も…」

 

「本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい。繰り返します、本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい!」

 

デュランダルの言葉は、同時にタリアが発した命令に打ち消されて、ブリッジは喧騒の中へと包まれていくのだった。

 

 

////

 

 

 

「で?何だってオーブの人間が何故ここにいるんだ?」

 

フォースシルエットが射出されて、落ち着きを取り戻したハンガーの中で、ハイネは改めてオーブ一行に言葉を向ける。

 

ザフトのパイロットからしても、オーブの勢力がこの場にいることは知っていないし、何よりオーブの軍用機がこちらの事態に介入することが異常なことだった。

 

ハイネの言葉に、サングラスをかけ『アレックス』となった彼が単調な言葉で答える。

 

「ーーこちらはオーブ連合首長国議員のカガリ・ユラ・アスハ氏と、ブルーコスモスのフレイ・アルスター事務次官だ。俺はアレックス・ディノ。あとはオーブ軍が指定した民間PMCの随員護衛だ」

 

「モビルスーツの装備のロック、忘れるなよ!」

 

アレックスが状況を説明する中でも、ハンガーの作業は続いていた。

 

まだ物資搬入の途中であったハンガーは、ひどく乱雑に物資が配置されており、割り当てられた作業員たちもミネルバのマニュアルを見ながら作業にあたっている有様で。

 

「あーもー…!見てらんないわね!あんた達!」

 

その凄惨たる作業現場を横目でチラチラと見ていた女性。まだ慣れていない作業員たちのちょっとしたミス。それが繰り返されて遅延していく作業。マニュアル頼りの臨機応変のなさが際立つ作業。

 

その全てが、フレイ・アルスターの〝癪に触れる〟!!

 

腕まくりをして髪の毛を結い上げたフレイが、手際の悪い作業をするヴィーノの横に大股で歩いてきて、端末を奪い取った。

 

「な、なんだよ。アンタは…」

 

「モビルスーツの装備ロックでしょ!?マニュアルなんて見ながらやってたら、太陽が一周した上に船に穴が空くわ!」

 

マニュアルに軽く目を通したフレイは、素早く端末を操作していく。師の受け売りであるが、『形式は違えど根本的には同じ』という物があって、オーブとザフトとは言え、やることは変わりはない…考え方さえ変えれば、フレイにとってはザフトもオーブも地球軍も変わりない。

 

それに、先程の戦いで新型ザクの規格を一通り目を通しているので、解読には手間は掛からなかった。

 

「は、早ええ…」

 

四苦八苦していた端末の操作を、まるで手足の様に操るように遂行していくフレイの姿を見て、ヴィーノとヨウランが引きつった顔つきで、その作業に何も言えずに呆然と見守る。

 

「…僕たちは、デュランダル議長との会談中に騒ぎに巻き込まれ、避難もままならずに議長と共にこの船に乗ることになったんだ」

 

そんなフレイの姿を見て見ぬふりをして、キラがアレックスに続いてハイネの問いに答える。

 

機能停止した行政府に避難した後、オーブの船に戻ることも検討したが、アーモリーワン内部の有毒ガスの影響もあって、デュランダルの許可のもと、このミネルバへと避難してきたのだ。

 

「ただ、肝心の議長とは何も話せてないんだ。こちらに入られたのだろ?御目に掛かりたい」

 

カガリもオーブの議員として、説明責任がある。故に議長とも今後のことで話はしなければならない。オーブとしても、今回の事態には何らかの対応が要求されることになる。

 

とにかく、今は事態の終息を待った上でオーブの船に戻り、本国やアズラエル理事と連絡を取ることが優先だ。

 

ーーだが、事態はカガリたちの予想を裏切る方向へと動き出そうとしていた。

 

 

////

 

 

「くそ…敵はどこに」

 

アーモリーワンから抜けた三機の新型機は、デブリ宙域へと隠れる。レイやラリーと交戦していた三機は、まるで何かに導かれる様に別方向へと動き出して、瞬く間のうちに二人を出し抜いて行方をくらませたのだ。

 

「ザフト機!一旦退け!闇雲に出てもエネルギーを消費するだけだ」

 

ただでさえ先の大戦の残骸が多い宙域でだというのに、こんな状態で闇雲に動けばどうなるかわかったものじゃない。もし仮に、新型機を回収しにきた〝勢力〟の部隊に待ち伏せでもされていたら、窮地に立たされるのはこちらだ。

 

そんなラリーの忠告に耳をかさず、レイはデブリ宙域の中をどんどん進んでいく。

 

『あの機体…予想通りか。それにーー貴様もいるな?流星様よ』

 

デブリの中。

 

出力を落とした一機のモビルアーマーの中で、マスクをかぶった人物は目を細める。モニターに映るのは、見失った三機を探すザフトの新型機と、そしてモビルアーマー形態となったオーブの機体。

 

間違いない。あれに乗っているのはーー。

 

『〝特異点〟…その力ーー見定めさせてもらうか。無事に帰れよ、お前たち!』

 

そう言って通信を繋げた〝ネオ・ロアノーク〟は、しっかりと誘導したスティングたちへ指示を出した。退路は確保してある。あとは宙域の外で待っているガーティ・ルーに回収して貰えば、スティングたちの任務は達成される。

 

『了解!いくぞ、アウル!お前がそうしたんだ、責任持ってステラを船に引っ張ってけよ!』

 

『えーー』

 

『死んでない…あぁ…あたし大丈夫…大丈夫よね、ステラ…』

 

スティングはネオの指示に頷くと、まだ立ち直っていないステラと、ぶーたれるアウルを連れて指示された航路を行く。

 

スティングにとって、彼は信頼できる人物だった。そして、彼が『メビウスライダー隊』のことを与太話ではないと信じていた理由もネオにある。

 

メビウスライダー隊は行方を眩ませた?そんなもの、信じるに値しない話だ。

 

『ネオ・ロアノーク』という男が自分たちの隊長として居てくれる以上、流星が行方を眩ませたなんて話は、〝嘘〟なのだから。

 

「大佐より入電!ガーティー・ルーはブルー18、マーク3アルファに進行せよ、とのことです」

 

「見つけたようだな。さすがは大佐だ」

 

あとは上手くやってくれるだろう。そう言って艦長であるイアン・リーは笑みを浮かべる。

 

彼こそが自分たちにとっての切り札だ。

 

『流星の再来』

 

そう呼ばれるネオ・ロアノークの戦いぶりを、特とご覧頂くとしよう。

 

 

////

 

 

《システムコントロール、全要員に伝達。現時点を以て、LHM-BB01、ミネルバの識別コードは有効となった。ミネルバ緊急発進シークエンス進行中》

 

ドックから発進したミネルバは、順調に宙域へと出る準備を進めていく。外縁部へ繋がるリフトを降りながら、ミネルバはその秘密に包まれていた姿を現していく。

 

《コントロール、全チームスタンバイ。ゲートコントロールオンライン。ミネルバリフトダウン継続中。モニターBチームは減圧フェイズを監視せよ》

 

降下するリフトの感覚を味わいながら、シンは指示に従って移動させたメビウス・ストライカーから出ると、隣でザクの固定作業をしてある作業員、ヨウランへと話しかけた。

 

「宇宙へ避難するのか?この艦。プラントの損傷はそんなに酷いのか」

 

「酷いなんてもんじゃないさ。あちこちから空気漏れが起こって毒ガスも発生してるって」

 

それを聞いて、シンの顔が強張る。敵はコロニー内であれだけビームライフルを使用したのだ。大きな穴が空いたこともあり、アーモリーワン内部の状況は予想よりも酷いものとなっている。

 

「くっそ…!!あいつらめ!!」

 

もう少し、自分がうまく動けていれば。そんな思いがこみ上げてくるが、シンはグッと握りしめた手を眼前にあげる。軽く握っては離しを繰り返して、罪悪感にも似た思いを鎮めた。

 

そういう思いで戦場に出れば死ぬ。

戦争はヒーローごっこではない。

 

どちらも師から教わったことだ。自分が兵器に乗っている以上、割り切れる心と、それを納得できる気持ちがなければ壊れてしまう。

 

戦いの中で、傲りが一番そのパイロットを危うくすることを、シンは理解していた。

 

「シン!アンタも手伝いなさい!」

 

そんなシンに、いつのまにかザフトの作業員の上着を身につけたフレイが指示を飛ばす。

 

「わかってます!!」

 

シンはフレイの言葉に答えると、スルリとメビウス・ストライカーから降りて、彼女と共に山積みの搬入作業を手伝っていくのだった。

 

 

////

 

 

 

「ザフト機!2時の方向!ボギーだ!!」

 

突如として、それはやってきた。アラームが鳴る前に光を見たラリーは、怒声の様な声でデブリの中を彷徨うインパルスへ叫ぶ。

 

「高エネルギー反応!避けろ!」

 

レイからの返答を聞かずに新たな情報を投げたラリーは、機体を鋭く動かして降り注いできた閃光を避ける。

 

レイも習う様にインパルスを挙動させたが、その閃光はコクピットをギリギリ逸れて通過していく。

 

「おいおいおい、嘘だろ…?」

 

ラリーは頭上を見上げて、思わず息を呑んだ。

 

迫り来る敵の姿。

 

それはまるで、鮮やかな流星。

 

独特なシルエットが浮かび上がり、飛来するそれは、機敏な動きを見せながらラリーの乗るメビウス・ストライカーへと急接近していく。

 

ネオ・ロアノークは、この瞬間を信じても崇拝もしていない神に感謝しながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

『さあ、見せてもらおうか…流星!!本物の力っていうやつを!!』

 

「あの機体はーーメビウス!?」

 

 

 

駆るはメビウス。

 

共に名を冠した〝流星〟

 

二つとなった流星は、始まりの場所で運命が交錯していく。

 

 

 

 

 

 



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第9話 アーモリーワンの戦い 3

 

 

 

「ミネルバ発進。コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは直ちにブリーフィングルームへ集合して下さい!」

 

それは突然の報であった。アーモリーワンの外縁部のゲートから宇宙へと出たミネルバは、あろうことか〝戦闘配備〟を意味するコンディションレッド発令の勧告を艦内へと流したのだ。

 

有毒ガスや混乱したコロニー内から避難するために宙域へ出るのだと考えていたオーブ一行にとって、ミネルバのコンディションレッド発令は、まさに寝耳に水であった。

 

「おい、この船は戦闘に出るのか!?避難するわけじゃなく!?」

 

手持ち無沙汰と、職人気質でバリバリ指示を飛ばすフレイに触発されて、全員で散らかっていた物資を片付けていた中、突然の艦内放送にアレックスがハイネやヴィーノに詰め寄る様に問いかける。

 

だが、彼ら自身もアーモリーワンの混乱で指令をまともに受け取れていない状況であり、ミネルバ艦内も浮き足立っているのは明白であった。

 

そんな彼らに詰め寄るのは少し…と思ったキラ。

 

それは彼の人となりから現れる善意からの発言だった。

 

「アスラン!今はそう言っても…」

 

そこでキラはハッとなる。カガリがキラの方を見て固まり、アレックスことアスランの動きも止まる。

 

「えっ?」

 

「あっ」

 

ハイネの溢れるような声。シンやフレイの「この人やりやがった」という何とも言えない顔。そして後ろではリークとトールが一緒に運んでいたコンテナに手をかけながら、静まりかえったハンガーの中にいるアスランを見つめた。

 

「…アスラン…?お前、アスラン・ザラか!?」

 

「あちゃーー」

 

誰の声か分からなかったが、ハイネの驚いた声によって、アスランの正体はミネルバの作業員全員へと周知されることとなった。

 

そのあと、手が止まった彼らの尻を叩くように、フレイは数回咳払いをして片付けの指示を再度出していくのだった。

 

 

////

 

 

ミネルバから先。

 

先の大戦によりできたデブリ宙域の中で、ラリーは驚愕の顔色を見せていた。

 

「なんだ…この機体は!!モビルアーマーだと?」

 

隣にいたレイのインパルスも、現れたモビルアーマーに驚きを隠せずにいる。

 

相手はメビウス。

 

それも型落ちしたタイプのものであり、手は加えられているが一見したイメージではとても手強い相手とは感じられない風貌をしている。

 

だが、レイは知っている。

 

メビウスという機体にまつわる、恐ろしく、鬼神じみた伝説の数々を。

 

「いったい何の冗談だ…コイツ!」

 

警戒するレイの隣で、ラリーは吐き捨てる様に呟く。メビウスという機体の意味。ラリー自身にとっても切っては切れない感情を持つ機体ではあるが、あれは明らかにグリマルディ戦線時代に活躍したタイプのメビウスだ。

 

大戦中や大戦後にも、いくつかのマイナーチェンジやモデルチェンジが施された機体を、ラリーはチューンして乗りこなしてはいたが、相対する機体はまさに初期型。

 

それこそ、ラリー自身が〝初めて乗っていた〟

メビウスのそれだった。

 

「こいつ…!!」

 

悠然と現れたメビウスは、呆然としたラリーへレーザー光を浴びせる。機体にはロックを知らせる警告が鳴り響いた。ラリーはすぐに機体を挙動させると、宙域に浮かぶメビウスへ銃口を構える。

 

メビウスの伝説は多くある。それ故に旧型のメビウスを験担ぎ的な意味で乗る人間もいる様だが、戦場に出すにはあまりにも古い機体だ。

 

とにかく、エンジン部を狙って行動を不能にするほかにはない。そう考えた上で、ラリーはライフルから閃光を撃ち放った。

 

(そんな殺意のない攻撃など…!!)

 

その閃光を見てから、〝ネオ・ロアノーク〟は挙動を開始した。

 

機体のスラスターを全開に吹かしながら、メビウス特有のフレキシブルスラスターを「マニュアル」で操作し、機体を鋭敏に動かして伸びてきたビームを紙一重で避けたのだ。

 

(今のを躱した!?)

 

『さすがは流星と言ったところか。だが、俺とて間抜けではなぁ!!』

 

ネオが発したコクピットの台詞は鮮明にラリーへと届いた。明らかに向こうは余裕がある。いや、それよりも自分の技量を見極める様な動きをしていると言える。

 

「くっそぉ!俺のことを知っている…!?」

 

相手には聞こえないはずのラリーの毒づいた言葉。それを発した直後、ネオはマスクの大半で表情が隠れる中、口元だけをニヤリと吊り上げる。

 

『やはり〝聞こえるか〟。いい動きだな、流星!!そうでなくては…!!』

 

まるでラリーの独り言に呼応するかの様な敵の台詞に、今までにない感覚を味わう。操縦桿を握る手が久しく強張る感じを思い知ったラリーは、確認するように言葉を投げた。

 

「なんだ…?通信は繋がってないはずだぞ!?」

 

『聞こえているなら良い!やはりお前は本物だったか!ならば、ここで出てきた甲斐があったと言うもの!!』

 

言葉の応酬とは言えない投げ合い。そんな中からネオは止まっていた時間を取り戻す様に、機体を挙動させ始めた。

 

その動きははっきりとわかる。

 

異常なほど鋭く、速く、正確でありながら、激情の中にある様なプレッシャーを与えてくる。

 

「くっ…!!なんだこの機体は!?」

 

その異常性をラリーはよく知っていた。

 

体感したことがある感覚だから。ヘリオポリスからヤキンドゥーエの間に死闘を繰り広げた相手。彼と相対したときに味わった緊張感やプレッシャーと、今味わうものが酷似していたのだ。

 

「何をしている!止まっていたらただの的だ!この敵は普通とは違う!動け!」

 

レイに向かって叫びながら、ラリーも機体を可変させる。モビルスーツ形態ではやられると直感で理解したのだ。光の尾を引き連れながら、二人の機体が交差すると、レイの目の前で信じられない様な絡み合う攻防戦が始まる。

 

(この動きは尋常じゃない…次は直撃させる!)

 

クルーゼ戦から感じることが少なくなった高負荷のGの中で、ラリーは冷や汗を流しながら鋭い挙動をする敵のメビウスの背後を捉える。

 

『さぁ、撃ってこい…さぁ!!撃てよッ!!』

 

罠か?だが当たれば——!!

ネオの言葉を思考から削り落としながら、ラリーはターゲットに捉えたメビウスへ再びビームを放った。

 

モビルアーマー形態で機体下部に懸架したビームライフルから放たれた閃光は、今度こそネオのメビウスを捉えて…。

 

「なんだと!?無傷…!?」

 

インパルスからそれを目撃したレイが驚愕の声を上げた。ラリーの放ったビームは、ネオのメビウスに着弾する寸前に、光の膜にぶつかり飛散する様に弾き出された。

 

メビウスは稲妻の様な物を迸らせながら、ラリーの動きを嘲笑う様に悠然と宇宙を飛んでいる。

 

「あの反応は…!!」

 

『ふふふ…アッハッハッハ!!なんだ、使えるじゃないか!!〝プライマルアーマー〟とやらは!!』

 

「あれは、セラフの時と同じ…!!」

 

ラリーしか知ることのない世界であり得た、狂気の防護壁。自然環境を贅として、戦いに明け暮れる人類が生み出した業を体現するモノが、ラリーの前に立ち塞がった。

 

 

////

 

 

「気密正常、FCSコンタクト、ミネルバ全ステーション異常なし!」

 

副長のアーサーが出航したミネルバの状態を知らせる。処女航海がとんだモノになったものだと、タリアは息をつきながら自身がなすべき職務に従事する。

 

「索敵急いで。インパルスの位置は?」

 

「これは…!インディゴ53、マーク22ブラボーに不明艦1、距離150!ライブラリー照合…対象ありません!」

 

最大望遠で表示される敵の影。おそらく、奪取した三機を迎えにきた船だろう。所属も何も明らかにはならないが、パトロール隊を撃破したのも、おそらくあの船だ。

 

「それが敵の母艦か?」

 

「でしょうね。初見をデータベースに登録、以降対象をボギーワンとする!」

 

デュランダルからの問いかけに簡潔に答えながら、タリアはミネルバのクルーへ指示を飛ばした。

 

「ボギーワンを討つ!ブリッジ遮蔽、進路インディゴデルタ、加速20%、信号弾及びアンチビーム爆雷、発射用意!!」

 

処女航海も間もないのにいきなり戦闘ですかぁ!?そう叫びたくなるアーサーは、なんとか言葉を飲みこんで自身を落ち着かせる。大丈夫だ、訓練通りにすれば何も問題はないはずだ。

 

「え…あ…ぁぁはい!ランチャーエイト、1番から4番、ナイトハルト装填。トリスタン、1番2番、イゾルデ起動!照準ボギーワン!!」

 

アーサーの指示のもと、ミネルバに搭載された火器武装が次々と展開されていく。

 

「彼等を助けるのが先じゃないのか?艦長」

 

「そうです。だからこそ母艦を討つんです。敵を引き離すのが一番早いですから。この場合は」

 

搭載機のインパルスは不明機と交戦しているとのことだ。おそらく三機を回収したであろうあの船を逃すことは、避けなければならない。インパルスや合流して戦っているオーブ軍の機体のこともある。タリアの覚悟は決まっていた。

 

『戦艦と思しき熱源接近。類別不明、レッド53、マーク80デルタ!』

 

敵艦であるガーティ・ルーもミネルバの存在に気がついていた。艦長であるイアンは内心で敵の動きに称賛を送る。こちらはまだ三機を回収している最中だ。それにネオの機体も戻ってくる気配がない。

 

ならば、するべきことは一つだ。

 

『例の新造艦か?面舵15、加速30%、ゴットフリート、イーゲルシュテルン起動。大佐の機体は?』

 

そう問いかけたイアンに、オペレーターは何も返せなかった。

 

ただ、彼の眼前にあるモビルアーマーの戦いの様子だけは鮮明に映し出されており、その動きは今まで見たことがない、常軌を逸した戦いが繰り広げられているのだった。

 

 

 

 

 



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第10話 アーモリーワンの戦い 4

 

 

「ちぃい!!厄介なものを!!」

 

閃光が奔る。

 

稲妻が響く。

 

光が飛散して、迸っていたビームは無へと帰った。その光の幕を突き破る様に、一機のモビルアーマーが宇宙に線を描いた。

 

「あれにはビームが効かないのか…くっ!!」

 

レイの放つインパルスのビーム。ほとんどが掠めるにとどまるが、相手は時折〝ワザと〟止まってインパルスのビームを受け止める。その攻撃の全ては、メビウスによって展開される「プライマルアーマー」の前に弾き出された。

 

『ザフトの新型も形無しだな!その程度では!!』

 

型落ちのメビウスの中で、ネオはハッと鼻でインパルスをなじるように切り捨てる。あの程度の力では、この機体に傷を付けることは叶わない。それに、インパルスなど眼中にはないのだ。

 

「メビウスを使ったり、セラフのバリアを使ったり!!そちらさんはどちらさんなんだ!!この野郎!!」

 

ネオは頭上へと目線を向かわせる。いま相手にするべきなのは、声が聞こえてくる相手。流星と渾名される目の前の敵、ただ一人だ。

 

メビウスは迫るラリーの機体に呼応するかの様に挙動し始めると、高度な交差を繰り広げる。幾度の交差の中で、ラリーがネオの機体の背後を捉える。ビームがダメならばと、メビウスストライカーの脚部に搭載されているコンテナからミサイルを撃ち放った。

 

『甘い…!!』

 

その攻撃を見たネオは、フレキシブルスラスターを逆噴射し、さらに機体を回転させながら迫るミサイルの群れの中を潜り抜けると、今度はラリーの背後へと回ったのだ。

 

「くぅう…がぁっ…!!こいつの…動きは…!?」

 

それを黙って見ているわけでもない。ラリーもネオの動きに合わせてインメルマンターンを繰り出し、今度は背中の取り合いへと戦闘機動が発展していく。

 

『アッハッハ!!そうだ!!それでいい!!続けてくれ!!俺に見せてくれ!〝特異点〟たる力を!!』

 

ひとつの挙動。ひとつの機動。いくつもの交差。それを積み重ね、研鑽していく中で、ネオは笑みを浮かべていく。そうだとも。全てはこの瞬間のために培ってきたのだ。その間にも交差は増していき、機動も翻る機体も、その全てがネオの五感を刺激していく。

 

重ねるたびに近づいていく。

 

遠く見えていなかった流星の姿が、イメージが、感覚が、妄想と現実が折り重なり、近く〝本物〟になっていく。

 

『最高だ!!貴様ぁああああ!!』

 

故にネオという男は歓喜する。

 

戦う中で証明されていくのだ。

 

戦いを重ねる中で朧げだった形が作り上げられていく。

 

ああそうだとも。

 

自分が〝ネオ・ロアノーク〟であるという事実が!!

 

「なんだこれは…これが…本当の戦争なのか…!?」

 

ラリーとネオの常軌を逸した空戦を前にして、レイは何も出来なくなっていた。ビームライフルを向けようとするが、その動きが不規則で、予測ができない。

 

シミュレーションと模擬戦で培ってきた自信も技術も、この戦いの前では全くの役立たずだ。

 

迂闊に撃てば戦局を混乱させるばかりではない。操縦桿を握るレイの手は震えていた。あの動きの牙がこちらに向けば、インパルスと言えど無事では済まなくなる。そんなことすら容易に想像できるほどの戦いだ。

 

(使えるは使えるが、やはりエネルギーの消費率は比でないか。ハッタリで使うは有りだが、継続性はまだ課題となる、か)

 

幾度の交差の中、昂る思いと両立する様に、冷静な思考をするネオがいた。機体を回転させながらラリーの機動をいなすネオは、残りのエネルギーを見つめながら思考を続ける。

 

プライマルアーマーは単なるビームを弾くバリアではない。そもそも、そんなものをモビルアーマーやモビルスーツのサイズで運用しようとするのが無理がある。それこそ、電子リフレクターを備えた大型のモビルアーマーでもなければ、ビームを弾くなんてことは出来ない。

 

だからこそ、プライマルアーマーは逆に考えた。理論としては、ビームを弾くのではなく、低出力で展開したビーム膜を高温出力のビームにぶつけて、外的に接した高出力のエネルギーから熱を奪うという原理だ。受け止めるのではなく、熱を奪ってその脅威性を減衰させるというシンプルな構造。

 

だが、そのエネルギー消費量も大きく、ザフトで開発された際には核動力で駆動するモビルスーツにしか搭載されていなかったようだ。

 

それをバッテリーサイズでも運用できるようにしたものが、メビウスに搭載されている機器なのだから、根本的なエネルギー問題は解決していない。はったりとして使えるが、このまま我慢比べになれば、不利になるのはこちらだ。

 

「動きが鈍った!そこぉっ!!」

 

そんなネオの思考を読み取ったように、ラリーは動きに隙ができたメビウスに向かって突貫する。射程距離に入りさえすればビームサーベルで!!そうスロットルを全開にしようとした瞬間。

 

「民間機!?こんなところで…!!」

 

ラリーとネオの後方に、救難信号を発する民間機が現れたのだ。

 

「あれはプラント船?戦闘警報も出せてないのか…!」

 

ラリーはすぐに攻撃を諦めると、ネオを民間機から離すように機動を取り始め、呆然と戦いを見ていたレイへ民間機の援護を呼びかける。

 

『チッ、戦いに邪魔が入ったか…。例の船も来ているーー欲張りすぎは、元も子もなくすか』

 

ネオはプラントの船を見つめながら、ちらりと残エネルギーを確認する。帰投するには充分だが、これ以上戦いを続ければ船に追いつけなくなる。ギリギリと言ったところだ。

 

そのままネオのメビウスは旋回すると、ラリーたちに背を向けて飛び立ってゆく。

 

「待て!お前はいったい…!」

 

『また会おう、流星。次こそは殺してやる。フフフ…アッハッハッハ!!』

 

小さく、しかしはっきりと聞こえた言葉。やがて消えてゆくネオの笑い声。ラリーは、はっきりと聞こえた言葉を噛みしめながら、遠ざかってゆくメビウスを見つめる。

 

あれはいったい誰なのか。

 

なぜ、通信も繋いでいないのにこちらの声が聞こえるのか。

 

あれほどの技量を持ったパイロットがどこにいたのか。

 

わからないことだらけだ。ラリーはヘルメットのバイザーを上げて、久々に流した汗を外へと追いやる。わかっていることは、相手が自分と同等な動きをする強敵であったということだけだ。

 

「退いたのか…?」

 

「——鮮やかな退き際だな」

 

レイの疲れ切った言葉に、ラリーはシートに体を預けながら強張った声でそう答えるのだった。

 

 

////

 

 

「ナイトハルト、てぇ!エンジンを狙って!足を止めるのよ!」

 

ネオが戻った頃には、ガーティ・ルーはミネルバとの追撃戦に見舞われていた。

 

『回避ーッ!』

 

イアンの怒声が響き、ガーティ・ルーはミネルバから放たれた対艦ミサイルの合間を縫うように回避し、イーゲルシュテルンで残ったミサイルを撃ち落としていく。

 

ネオはそんな光の中を悠然と飛びながら、開け放たれている発着デッキへと機体を滑り込ませる。

 

『大佐のメビウス、着艦を確認!』

 

『撤収するぞ!艦長!』

 

着艦と同時に、ネオはブリッジへ通信を打つ。アーモリーワンから奪取した三機の新型機もすでに収容済みだ。着艦したとは言え、モビルスーツより着艦処置の手間が少ないメビウスなら、このまま離脱航路を取ってもなんら問題はない。ネオが帰還した段階で、ガーティ・ルーの目的は達成されたのだ。

 

「ボギーワン、離脱します!イエロー71アルファ!」

 

「インパルスとオーブ軍機は?」

 

「帰投しています!」

 

「急がせて。このまま一気にボギーワンを叩きます。進路イエローアルファ!」

 

ミネルバも処女航海とは言え、かなり足の速い船だ。離脱しようと試みる船が如何に高速艦であっても、後を追う事は難しくはない。タリアの指示のもと、ミネルバも機関出力を上げて不明艦の追尾体勢に入った。

 

『大佐!』

 

『すまん、遊びすぎたな』

 

『敵艦、尚も接近!ブルー0、距離110!』

 

『かなり足の速い艦のようです。厄介ですぞ』

 

移動しながら通信で会話する艦長の言葉は確かだった。こちらもアークエンジェルの発展型であり、かなりの速さを誇る艦ではあるが、ザフトの船はそれを一手上回る速さを持っている。

 

『ミサイル接近!』

 

『取り舵!かわせぇ!』

 

しかも高速航行しながらの攻撃も容赦がない。打ち出された対艦ミサイルの雨を躱してはいるが、ミネルバとの距離は詰まるばかりだ。

 

艦長が手をこまねいていると、ブリッジに戻ってきたネオが開口一番に助け舟を提案する。

 

『敵の死角を付く。艦長、丁度いい盾もいるしな。両舷の推進剤予備タンクを分離後爆破だ』

 

目的は達した。帰還エリアまでなら今の推進剤でも充分賄える。長期戦を予測して装備していた荷物を捨てて、それを囮に使うとは。

 

平然とそんな作戦を言うネオに、艦長は何も反論せずに頷く。

 

『アームごとでいい!鼻っ面に喰らわせてやれ。同時に上げ舵35、取り舵10、機関最大!』

 

 

////

 

 

《インパルス、RTB!オーブ軍機は2番ラックへ》

 

「またオーブ軍機か?」

 

ミネルバの後部ハッチから帰投したインパルスと、ラリーのメビウス・ストライカー。オーブの言葉を聞いて振り返ったフレイが、メビウス・ストライカーの損傷具合を見て顔色を変えている中、逃げる敵艦にも動きがあった。

 

「ボギーワン、船体の一部を分離!」

 

何かを投棄した敵艦。このタイミングで投棄?一体何を…。

 

「撃ち方待て!あれは…面舵10、機関最大!」

 

タリアが感じ取った嫌な予感は的中する。武装を停止し、回避行動に入ったミネルバの脇で、敵艦から分離されたものが突如として大爆発を起こしたのだ。

 

「何だ!?被弾したぁ!?」

 

「落ち着きなさい!!火器弾薬庫に被弾は!?消火剤の準備!急ぐ急ぐ!」

 

激しい揺れに誰もが混乱する中、フレイは顔色変えずにハンガーの手すりに捕まりながら、慌てふためくザフトの作業員たちに指示を出す。アークエンジェルの時もそうであったが、被弾した際のダメコン、損傷のチェックの迅速さがその船の命運を大きく分けることになる。

 

「各ステーション、状況を報告せよ!」

 

揺れに耐えたタリアは、まだ混乱する中で状況を把握しようと声を上げる。

 

「バート!敵艦の位置は!?」

 

「待って下さい、まだ…」

 

「CIWS起動、アンチビーム爆雷発射!次は撃って来るわよ!」

 

敵にとっては大きな好機だ。こちらの武装は防衛のために停止している上に、爆発の余波で船が停滞している。ここに敵艦からの砲撃が来ればひとたまりもない。だが、オペレーターが感知したのは敵艦ではなく、別の反応だった。

 

「いえ、前方に友軍の反応!これは…民間のシャトルです!」

 

ちょうど敵艦とミネルバの正面を、先ほどラリーたちに救難信号を発していたザフトの民間シャトルが横切って行くのが見えた。

 

「敵艦見つけました。レッド88、マーク6チャーリー、距離500!」

 

「ここで撃てばシャトルにも被害が及びます!攻撃中止!」

 

タリアの迅速な判断でシャトルの安全は守られたが、うまく出し抜いた敵艦はそのまま航路を進み、小さな光となってアーモリーワンの宙域から離れていく。

 

「逃げられたのか…」

 

「やってくれるわ、こんな手で逃げようとは。だいぶ手強い部隊のようですね」

 

隣にいるデュランダルの疲れたような声に、タリアは強張っていた体をシートに預けながら答えた。彼女自身もはじめての船の仕事だ。精神的な負荷も大きなものだった。

 

「ならば尚の事このまま逃がすわけには…ここはまだザフトの領海ですが、あの機体のデータが敵に渡れば、どんな被害が出るか…」

 

副長のアーサーの言い分も最もだ。ここで逃してはアーモリーワンの損失も、パトロール艦やザフト軍に及んだ被害もある。

 

敵が何なのか。

 

地球か、または同胞の過激派なのか。

 

それを知らない限り、不安的な情勢へと転がり落ちた現状を打破する術はない。タリアは艦長の座席を回してデュランダルの方へ視線を向けた。

 

「議長。今からでは下船いただくこともできません。私は本艦はこのままあれを追うべきと思います。議長の御判断は?」

 

そう問いかけるタリアに、デュランダルは小さな笑みを浮かべたまま壮麗な声で答える。

 

「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長。この火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…それを考えるのは怖い。あれの奪還、もしくは破壊は現時点での最優先責務だよ」

 

「ありがとうございます。敵艦のトレースは?」

 

「まだ追えます」

 

「では、本艦は此より更なるボギーワンの追撃戦を開始する。進路イエローアルファ、機関最大!」

 

《通達。本艦は此より、更なるボギーワンの追撃戦を開始する。突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である。各員、日頃の訓練の成果を存分に発揮できるよう努めよ》

 

アーサーの声がミネルバの中に響き渡る。多くの要素を詰め込んだ運命の船は、新たな宇宙へと漕ぎ出そうとしていた。

 

 

 

 

 



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第11話 大戦の傷痕

 

 

 

「ブリッジ遮蔽解除。状況発生までコンディションをイエローに移行」

 

「ブリッジ遮蔽解除。コンディションイエローに移行します」

 

ひとまずの戦闘状況を終えたミネルバは、初陣で勇んだ翼を折って暫しの休息に入る。タリアたちがいるブリッジも上部へとせり上がり、暗い照明が一気に明るいものへと変化していく。

 

「議長も少し艦長室でお休み下さい。ミネルバも足自慢でありますが、敵もかなりの高速艦です。すぐにどうということはないでしょう」

 

一息ついてから隣に座るデュランダルへそう言うタリアに、当人は少し歯切れの悪い表情を見せた。

 

「——そう言う訳にもいかんだろうな」

 

デュランダルのこぼれるような言葉に首を傾げるタリア。だが、彼の言葉の意味はすぐに分かった。

 

「艦長、オーブのカガリ・ユラ・アスハ議員が、議長との面会を所望しております。また、先ほどのシャトルも着艦要請が来ています」

 

オペレーターからの言葉に、タリアは一瞬思考が固まる。オーブのアスハ?ザフトの高官…いや、先の大戦を知っている人物なら知らない者は居ないほどの名前だ。

 

それに先程の民間シャトルもあると言う。

 

「先の戦闘で被弾をしたようですね。救難信号が出ています」

 

タリアは暫く間を置いてから、デュランダルの方へ視線を向ける。彼は悪びれる様子もなく肩をすくめた。

 

「…アーモリーワンへの救援要請は?」

 

「向こうも司令系統が壊滅しており…」

 

頭を抱えたくなる衝動をなんとか堪えながら、タリアは降って湧き上がるトラブルにどう対処しようか頭を悩ませる。そんな彼女の苦労を知ってか知らずか、デュランダルは即答でオペレーターに指示を伝えた。

 

「——回収作業を」

 

「議長!」

 

悲鳴のようなタリアの声がブリッジに響く。ここで民間シャトルの回収をしていれば、敵艦に逃げられかねない。相手がこちらの船との間にシャトルを誘導したのはそういう思惑があったと言うくらい、誰にでも理解できた。

 

だが、立ち上がる勢いで凄むタリアを、デュランダルは緩やかに手を挙げて制した。

 

「あの船にはこちら側の〝要人〟が乗っている。無碍にはできんよ」

 

デュランダルの言葉でタリアも冷静さを取り戻す。たしかに、こんな時期に民間シャトル、それもザフト軍が取り仕切る港へ向かう航路にあたる場所にいる以上、載っている人物の予想は大まかに付いていた。

 

本来なら進水式に来賓として呼ばれるはずだった要人を、戦闘状況に向かおうとするこの船に乗せることになるとは…。

 

「はぁ…アーサー」

 

「ギリギリ補足範囲には捉えられます」

 

淀みなく答える副長の言葉に、タリアは深く帽子をかぶりながら長いため息を心の中に隠した。

 

「オーブの方も、本来乗ってきた高速船のようだ。こちらに合流させて頂き、本国へ御帰りになってもらおう。状況が状況だからな」

 

「了解しました。回収班を急がせて」

 

できれば早くこんな異常な状況からは脱したいものだとタリアは思うが、この船が向かう先には更なる困難が待ち受けていることを、彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

////

 

 

「ぐぅ…おおおお!!」

 

空。

 

雲と青が目まぐるしい速さで入れ替わる。

 

まるでミキサーの中に放り込まれた衝撃の嵐の中で、ユウナ・ロマ・セイランは降りかかる攻撃の嵐に目を走らせていた。

 

「セイランの坊ちゃん!そんなナヨナヨした飛び方をしてると、敵と会う前に死んじまうぞ!!」

 

通信越しに聞こえてくるのは、自身の教官であり、今まさに背後に張り付いて攻撃を浴びせてくるムウ・ラ・フラガ一佐の怒声に似た声だ。

 

オーブ軍の戦闘機型モビルスーツ「ムラサメ」。

 

ユウナ自身も乗るこのモビルスーツは、島国であるオーブが開発した量産型の可変モビルスーツだ。戦闘機形態となった中で、ユウナは降りかかるペイント弾を避けながら操縦桿を握る手に力を込める。

 

「そんなこと言ったってぇ…!!」

 

力込めるとは言っても、すでに血の気がなく、感覚すら怪しい。高負荷の旋回を行いながら、ユウナは背後にいるムウのムラサメを睨みつけた。

 

「そうだ!機体を振り回すのはコンピュータでも機械でもない!お前自身だ!ユウナ!!」

 

「このぉおお!!」

 

グリン、と操縦桿を引き絞り、空気の膜を機体に纏わせながら、ユウナの駆る訓練生用のムラサメは空に線を描いた。

 

「よぉし!その負けん気を活かせ!また何もできない坊ちゃんに戻りたいか!!」

 

「僕だって…僕だってえええ!!」

 

今日の課題は空戦。

 

モビルスーツ形態では得られない速度の中でのドッグファイトだ。

 

与えられた課題の中で、ユウナは必死に機体を振り回して、それでもぴったりと背中に付いてくるムウの機体を振り切ろうと回避機動を繰り出していく。

 

「かなり仕上がってきてるんじゃないの?」

 

「あぁ?まぁはじめの頃と比べると、な?」

 

その錐揉み合う空戦を見つめるのは、5機のムラサメ。機体には教官機を表す白いラインが翼に入っている。

 

コクピットからムウとユウナの追いかけっこを眺めるオルガ・サブナックと、クロト・ブエルは、動きが良くなったユウナのムラサメを見つめていた。

 

「うひー、隊長もかなりシゴくよねぇ」

 

「それだけ期待してるって事よ、きっとね」

 

二人の後ろに付く3機には、アサギ・コードウェルとマユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェンが乗り込んでいた。

 

大戦後、モルゲンレーテに籍を戻した彼女たちであるが、データ取りや自身の慣熟訓練も兼ねて、こうやって新人の教導に参加しているのだ。

 

「セイラン家の御曹司がモビルスーツのパイロットか」

 

機体を水平に保ちながらオルガは呟く。彼やクロト、そしてシャニは、大戦後に正式にリーク・ベルモンドに引き取られて、今はオーブ国際高等学園に通う歴とした学生であるが、先の大戦の実績もあるため、ベテランパイロット不足に悩まされるオーブ軍での教官役をアルバイトで引き受けていた。

 

「軍閥に属したほうが、後の政治に便利だとよ」

 

隣にいるクロトがどうでも良さげな口調で続けて言う。それであれか、とオルガはおぼつかない空戦でムウから逃げようとするユウナのムラサメへ目をやる。

 

「ぬぐうぅうう!!」

 

「どうしたどうした!その程度じゃ戦場に出たら五分と持たんぞ!もっと動け!根性を見せろ!!」

 

オープン回線から聞こえる二人のやり取りを聴きながら、こちらは近距離通信で周囲の警戒をしつつ、次に上がってくる訓練生の様子を見つめている立場を維持している。

 

「元メビウスライダー隊の隊長だからって理由で選ぶには、かなりデンジャーな決断だったろうね」

 

「空に上がっちゃえば、あの人には家柄も階級も年齢すらも関係ないからねぇ」

 

ジュリとマユラの言葉には全面的に同意だ。オーブ軍で何度か付き合ってはいたが、ムウ・ラ・フラガという人物は相応に懐が深く、自分が認めた相手には敬意を払い、見込みがあるパイロットはとことん鍛える性分を持っているようだ。

 

「マユラはああいう男の人が好みなの?」

 

「冗談!マリューさんに恨まれたくないし」

 

「あの人、割と嫉妬深いもんね」

 

「教導中に話す内容じゃねぇぞ、それ」

 

脱線し始めた会話を、オルガが呆れた声で路線を戻す。

 

「とか言って、オルガもしっかり聞いてるじゃん」

 

「うっせぇよ、バカ!早く準備しろ!次が来るぞ!」

 

「はいはい!お仕事お仕事」

 

変わらない調子のままのクロトに悪態を吐きながら、オルガは上がってきた訓練生のムラサメを見た。今度は自分の番だ。相手のムラサメから通信が届く。

 

「研修ナンバー、R445。ルナマリア・ホーク。ムラサメです。よろしくお願いします」

 

彼女と空戦を刻むのは、これで三回目だな。オルガはふとそんなことを思い返しながら、ムラサメの挙動を戦闘機動へと切り替えるのだった。

 

 

////

 

 

暑くなった頭に行儀悪くペットボトルの水を振りかけながら、ユウナは疲れきった体を通路に設けられたベンチへと落とした。訓練用のノーマルスーツを脱ぐのも億劫で、上半身だけ脱いだノーマルスーツはひどく重く感じられる。

 

「弱音を吐かなくなったな?いい傾向だ」

 

そう言葉を投げかけてきたのは、シャワールームで汗を流してきたムウだった。こちらは動くのも億劫だというのに…ユウナは自身をシゴく教官の底知れない実力を感じ取りながら、それでも気丈に振る舞った。

 

「誰にものを言ってるんです…僕はセイラン家の人間ですよ?」

 

「そう硬いことを言うなって、腕は良くなってきてるのは確かだぞ?」

 

最初の頃なんてモビルスーツに乗るだけでも苦労していたものだ。立って歩かせるのに一ヶ月。武器を使うのに一ヶ月。変形して空を飛ぶのには三ヶ月もシミュレーション地獄を味わったものだ。

 

それも父の言う政治の仕事を手伝いながら。

 

「フラガ隊長のシゴキが、人一倍えげつないだけですよ。全く…僕は文官だと言うのに」

 

「そう言って軍に入ってきたのはユウナだろ?」

 

「僕はパイロットになりたいなんて言ってない!適性があったから父に言われて仕方なくやってるんだ!」

 

だいたい、自分のような立場の人間がモビルスーツに乗ること自体がおかしいんだ!とユウナは声を上げる。そんなユウナを見つめるムウは、先ほどまでのおおらかな表情から一変して、とても真面目な目でユウナを見返す。

 

「だが、そういう力が必要な時代なんだよ。今はまだな」

 

先の大戦から、まだ世界は立ち上がれていない。それはユウナにも分かっていることだった。

 

オーブ軍の出撃回数は、友好関係にある他の国家軍と比べて圧倒的に多く、同時に未帰還者も多い。大西洋連邦が統治していた治安が悪化し、未だに続くナチュラルとコーディネーターの小競り合いに、地球圏はまだ振り回されているのだ。

 

ユウナが軍属に身を置くのは、そう言った世界でも発言力の強い指導者になるためでもある。それを弁えてるからこそ、ユウナは冷静になってムウへ敬礼を打つことができた。

 

「本日の御教鞭、ありがとうございました。お先に失礼します」

 

そう言って、ユウナは重い体をあげると通路の奥へと消えていった。まったく、人を教えるのは楽ではないなと、ムウが頭に手をやった時。

 

「ああ言っても、ちゃんと訓練には来るんだよな。根性はあるんじゃねーの?」

 

そう言って通路に現れたのは、帰投したオルガとクロトだ。すっかり顔馴染みになった彼らも、教官として幾人の訓練生を見てきた身だ。相手がどういう思いでここに来ているかくらい判別はつく。

 

「持て余してるんだよ、自分自身を」

 

ユウナの姿を思い返しながら、ムウは遠くへ投げかけるように呟く。

 

「それって経験談?」

 

「いや、見てきた知見ってやつさ」

 

クロトの問いにそう返したムウ。彼の近くにはそういう人物が二人いたのだ。一人はなにかを背負って黙って戦おうとする若者。もう一人は一人で守ろうと躍起になって戦いに身を置くコーディネーターの子供だ。

 

彼らも大きくはなったが、ムウからしたらまだまだ心配する部下たちでもあった。

 

「それより悪いな、毎度付き合わせて」

 

「いいって。そこらへんの店でアルバイトするよりよっぽど稼ぎがいいからな」

 

「シャニはバンドの練習で来れなかったけど、次は参加するって」

 

そういえば次には学園祭のライブがあるとか。マリューや生まれた子供との食卓で聞いた話をムウは思い出していた。

 

「フラガ隊長ー」

 

女性用の更衣室から出てきたアサギたちも、ムウの元へ合流する。ムウは気になっていることをアサギへ問いかけた。

 

「どうだ?彼女」

 

オルガと共に教導に当たったアサギ。ムウの言葉である程度のことを察したアサギだったが、その反応はなんとも言い難いものであった。

 

「いいセンスですけど…その…」

 

「なんだよ、歯切れが悪いな」

 

焦らすような声にムウがそういうと、アサギは困った顔で空で感じたことを話した。

 

「いえ、とても危ない飛び方をするので…なんというか…」

 

嫌な予感があたっちまったな。

 

そう心の中でムウは毒づく。自身も彼女の飛び方を見ていて同じことを思ったのだ。最初は一人、成果に焦る飛び方だと思っていたが、実力も付きつつある今では、あの飛び方は違った意味を持ち始めていた。

 

「まぁ、俺から話をしておく。皆はミーティング後に解散してくれ。悪いな」

 

そう言葉を残してムウは、訓練生が集まるブリーフィングルームへ足を向かわせる。

 

「ルナマリア・ホーク…か」

 

道中で呟いた彼女の名前。

 

自分が良く知る同胞だった男と、同じ姓を持つ少女の行く末をムウはただ案じるのだった。

 

 

 

 

 

 



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第12話 ミネルバ

 

 

 

「どうやら成功、というところですかな?」

 

民間シャトルを合間に挟むことによって何とかミネルバを振り切ったガーティ・ルー。そのブリッジで、艦長であるイアンは一息ついたように隣に座るネオに向かって言葉を吐いた。

 

「ああ、ひとまずはな。ポイントBまでの時間は?」

 

「2時間ほどです」

 

ふむと、ネオは航路表と敵艦を捕捉した最後のデータを照らし合わせる。

 

「大佐は、まだ追撃があるとお考えですか?」

 

「来るさ。そう考えて予定通りの針路をとる。予測は常に悪い方へしておくもんだろう?特に戦場では」

 

簡潔に答えたネオに、イアンも同感だとうなずく。あの手の類はきっと追ってくるだろう。先の大戦から一隻の船を任されてきた艦長としての勘も、データから予測される傾向も同じような結論を出していた。

 

「大佐。彼等の最適化は?」

 

「概ね問題はないようだ。みんな気持ち良さ気に眠っているよ。ただ、アウルがステラにブロックワードを使ってしまったようでね。それがちょっと厄介ということだが」

 

マスク越しで表情が分からないが、口元は硬らせないまま、ネオは航路表に目を向けたまま淡々と答える。イアンとしても、彼らの有用性は理解しているつもりではあるが…。

 

「まったく。何かある度に、「ゆりかご」に戻さねばならぬパイロットなど、ラボは本気で使えると思っているんでしょうかね?」

 

彼らの維持費にも膨大な費用と人員が割かれる。この船の一つのフロアを丸々「ゆりかご」にしなければ、彼らをまともに運用することすら危うい。そんな金がかかる兵器だ。役に立ってもらわねば投じた金も報われないだろう。

 

そう考えているイアンに、ネオは航路表から目を離してわかりやすく肩をすくめる。

 

「それでも、前のよりはだいぶ〝マシ〟だろう?こっちの言うことや仕事をちゃんと理解してやれるだけ。呻き声や叫び声が聞こえないだけ儲け物さ」

 

前の「彼ら」は、ゆりかごなんて処置はなく、電極による不安定な記憶や人格の改竄が限界だったという。それに作戦中に命令を無視したり、統率が取れないというデメリット面があまりにも大きすぎた。

 

前任者も最終的には調整不足だった「彼ら」の一人にブリッジごと貫かれたと聞く。そんな末路だけはイアンもネオも御免だった。

 

「今はまだ何もかもが試作段階みたいなもんさ。艦もモビルスーツもパイロットも。——世界さえも、な」

 

「ええ、解っています」

 

そう言って、二人はブリッジから見える深淵の宇宙に視線を向ける。まだ始まったばかりだ。これからなのだ。これから全てが回り始める。

 

止まっていた自分たちの時間が立ち上がり、霞んでいた世界が形を成していく。

 

「やがて全てが本当に始まる日が来る。我等の名の下にね」

 

 

 

////

 

 

ミネルバのハンガーは戦場と化していた。

 

「何やってる!ザクのフィールドストリッピングなんざぁプログラムで何度もやったろうが!その通りやればいいんだぞ!」

 

作業員たちの戦いは、戦いが終わってから始まる。特に今回はアーモリーワンから無理やり搬入したザクや、物資の調整が山盛りな上に、帰投したインパルスの調整もある。

 

「ウィザードの点検はしておけよ!いつ戦場に放り出されてもおかしくないんだからな!」

 

ひとまずの混乱状態から脱したミネルバのハンガーは、次の戦場に備えてその支度を整えていく。そんな喧騒の中、工具をまとめて管理している場所へ無重力の中を飛んできたヴィーノが、先にいたヨウランへ声をかけた。

 

「ヨウラン、36番の電機工具だってさ」

 

「了解っと」

 

電子部品用の工具がまとめられた場所から、ヴィーノから伝えられたコネクタの予備品と接続用の工具をヨウランは手際良くまとめていく。

 

そんな彼の横目に、ヴィーノは疲れたように背筋を伸ばしてから頭の後ろへ手を回した。

 

「しかし、まだ信じられない。実戦なんてマジ嘘みてえ。なんでいきなりこんなことになるんだろう?」

 

「仕方ないだろ?こうやって攻められてたんじゃさ」

 

戦いなんてそんなもんさ、とヨウランは答えつつ工具を一纏めにし、必要な部品も揃えて持っていく。

 

「でも…まさかこれでこのまま、また戦争になっちゃったりはしないよね?」

 

「と思うけどね」

 

飛び上がったヨウランについて来たヴィーノも、不安げにそう呟く。彼らの向かう先には、ザフト軍のものではないモビルスーツがハンガーに鎮座しているのだった。

 

 

////

 

 

「正座」

 

「はい」

 

アーモリーワンから合流したオーブの船。

 

武装パッケージではなく、高速連絡艇のパッケージが備わるオーブの宇宙船「ヒメラギ」から降りた整備長、ハリー・グリンフィールドはラリーが扱っていたキラ用のメビウス・ストライカーをひと目見るや、すぐにラリーに向かって抑揚のない声でそう言った。

 

ラリーも流れるようにその場に正座する。

 

「ラリー、言いましたよね?ブリーフィングで。ザフト軍への介入はしない。目的はあくまでカガリちゃんとフレイちゃん達の保護だって。ねぇ?聞いてた?私言ったよね?」

 

「はい、存じております」

 

「そ れ が !」

 

ビシッという効果音が聞こえて来そうな動きで、ハリーはハンガーにあるメビウス ・ストライカーを指差した。

 

「なんで機体をここまでボロボロにした挙句、きっちりザフトの新型と戦闘をこなしてるの!?馬鹿なの!?馬鹿じゃないの!?もしくはアホなの!?」

 

任務はあくまでオーブ要人の保護だし、先行してシンの機体が出ているのだから、無理はしないだろうとタカを括っていたのもある。それにラリーが無理な機体の振り回し方をする回数も減りつつあったのもあって、ハリーはすっかり忘れていたのだ。この男が本気を出したときの異常性を。

 

「いや、だってあの状況だと下手するとアーモリーワンとかもやばそうだったし、追い払えたら良いかなって——」

 

「正座」

 

「ッス」

 

アーモリーワンで何事もなければ良いと思ってはいたが、自分の知る物語と同じ軌跡を辿り始めた状況に、ラリーが敵が逃げて出てくるであろう宙域を予測させるには十分過ぎるものではあった。

 

ハリーに話をして通じるとは思えないが、自分という不確定要素がある限りどんな状況に陥るか予測はできない。先行するシンのこともあり、ラリーは奪われた新型機が出てくる場所へと急行したのだが、そこで予想外の敵と邂逅を果たすことになるとは…。

 

「だいたい、この機体の数値は何!?何と戦えばこんな馬鹿みたいな数値が叩き出せるの!?キラくん用に調整していたからなんとか許容値に収まってるけど、一般機なら空中分解してもおかしくない数値よ!?」

 

ハリーが差すのはキラのメビウス・ストライカーから採取された負荷のデータだ。数値を見る限り、叩き出された値はリミッターを外してあるキラ用の設定許容値の限界ギリギリだ。

 

「存じております」

 

「だからアンタには可変機乗せたくなかったのよ馬鹿ぁ!!」

 

そう地団駄を踏むハリーに、ラリーはただただ謝るほかない。

 

ラリー用のメビウス・ストライカーが無い理由は単純で、「メビウス・ストライカーがラリーの全開機動に耐えられずに空中分解する危険がある」故にだった。

 

「なんです?アレ」

 

到着したヴィーノが怪訝な顔をして正座するラリーと説教するハリーの構図を見つめる。ヨウランから工具を受け取りながら、フレイの手伝いをしているシンは困ったような乾いた笑いをした。

 

「あはは…まぁ、気にしないであげて。工具ありがとうな。助かるよ」

 

「あちゃー、これは制限かけないと…無理な動きをしたら駆動系が飛んじゃうわね」

 

彼らの上ではキラのメビウス・ストライカーの点検ハッチに上半身を突っ込んでいたフレイが、手拭いで玉になった汗を拭いながら顔をしかめる。

 

シンの機体は腕部の駆動系だけだったので、パラメータを調整すれば誤魔化しは効くが、こちらは大元の制御が悲鳴を上げている。対処するとするなら、駆動部へ伝達される電気制御の部分を制限しなければならないだろう。

 

隣では明かりを照らす係となったトールが居て、二人ともミネルバから借りた作業用ツナギを着用していた。

 

「こっちもダメだな。新しい部品に交換しないと…しかし、ウチの船じゃ何ともなぁ…」

 

後部ハッチで主要部品の点検をしていたマードックも頭を抱える。飛ばせないことはないが、万全の修理とは言えない。ここで出来るのはせいぜい応急修理くらいだろう。

 

コクピット周りでは、リークとキラがソフト面と電子制御機器の点検が行われている。

 

「キラくん、回路の106番とAの0番をバイパスさせたからチェックプログラム走らせてくれない?」

 

「わかりました。構築するので少し待ってください」

 

正座と説教をするラリーとハリーの横で着々と進められるメビウス・ストライカーの点検。その光景にハイネは気が遠くなるような感覚を覚えながらも、なんとか正気を取り戻していた。

 

「待て待て待て!!」

 

ハイネの言葉にその場にいる全員の視線がオレンジ色の彼へと向けられる。ハイネは少したじろいだが、数回咳払いをして改めて全員へ言葉をかける。

 

「アンタら、何平然とミネルバのドックでそっちの可変機を点検している!!そしてヴィーノ!ヨウランたちも!なぜ当たり前のように手伝っている!!」

 

そう言って目を向ける先では、メビウス・ストライカーの足元で標準的な点検作業をするヴィーノとヨウランがいた。

 

「だって隊長のザクの点検してくれたの、アルスターさんなんですよ?」

 

「手伝うのは当然じゃないすか。整備の腕がいい人に悪い人はいません」

 

「無垢な目で口走るのやめろよ!!マジで!!」

 

今度は許容量を超えたハイネが地団駄を踏んだ。そんなやりとりを遠い目で見つめながらカガリはやってきたデュランダルへ何とも言えない顔で一言呟く。

 

「あーー…なんだか、すまない」

 

「ええ…まぁ。しかし、本当にお詫びの言葉もない。議員や事務次官まで、このような事態に巻き込んでしまうとは。どうか御理解いただきたい」

 

降りてきたタリアとアーサーもその状況に目が点となる中、カガリはこちらはこちらと言わんばかり真剣な顔つきに戻して、改めてデュランダルと向き合う。

 

「議長、あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」

 

「そうなります。艦などにもはっきりと何かを示すようなものは何も分かってはいません。しかし、だからこそ我々は一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならないのです。取り返しのつかないことになる前に」

 

「ああ、解ってる。それは当然だ、議長。今は何であれ…世界を刺激するようなことはあってはならないんだ」

 

その意見にはカガリも同意だった。敵勢力がどうであれ、ザフトが新型を作った事実がどうであれ、あれをそのまま野放しにはできない。それこそ、前大戦の同じ轍を踏むことになりかねない。

 

「ありがとうございます。アスハ議員ならば、そう仰って下さると信じておりました。よろしければ、まだ時間のあるうちに少し艦内を御覧になって下さい」

 

そう言ったデュランダルに、タリアが少し顔つきを強張らせたが、彼は治めるようにタリアたちへ視線を向けた。

 

「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」

 

《民間シャトル収容完了、エアロック密閉確認。ハンガーへの格納を開始します》

 

タリアからの声が艦内放送によって遮られる。同時に閉鎖されていたエアロックから搬送ユニットに乗ったシャトルがゆっくりとハンガーへと入ってきた。

 

「あれは?」

 

「民間シャトルです。おそらく明日の進水式に向けた来賓の方を乗せているかと」

 

カガリからの問いにそう答えるデュランダル。来賓?となると、進水式に参加する予定だったザフト軍の高官か?そう考えてカガリがシャトルへ目を向けると、開けられた非常口から小さなピンク色の玉が飛び出してきた。

 

テヤンデイと備わる羽のようなパーツをパタパタさせながら出てきた物に、隣にいたアスランが思わず目を剥く。あれにはかなりの見覚えがあったのだ。

 

「あぁ、ラクス様!」

 

シャトル乗組員の声が聞こえると、非常口からふわりと飛び出した人物が、ほかの機材や壁をうまく使って、デュランダルとカガリの前へと降り立った。

 

「お助けて頂き、ありがとうございます。この船の艦長にお会いしたいのですが」

 

「ラ、ラクス・クライン!?」

 

そう驚いたタリアをよそに、アスランとカガリは互いに顔を見合わせる。

 

物語は大きく動き出そうとしていた———。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話 歌姫と歌姫

 

 

 

「ラクス様、やはり貴女でしたか」

 

「デュランダル議長、お久しぶりでございます」

 

船から降りてきたプラントの要人、ラクス・クライン。

 

戦後のプラント最高評議会に復帰し、カナーバ議員らとプラント圏の復旧と立ち直りに尽力し、のちの政権をデュランダルに任せて引退したシーゲル・クラインの娘だ。

 

もとより面識があったデュランダルは彼女と握手を交わして久々の再会を喜ぶ。呆気に取られているタリアやカガリを他所に、シャトルからは彼女の護衛のほか、〝業務を兼業〟しながら同行している人物も降りてくる。

 

「やぁ少年たち。元気にしていたかね?」

 

「はぁい♪元気かしら?」

 

無重力のハンガーの中へ降り立ってきたのは、サングラスと黄色と黒のネクタイをした男性、アンドリュー・バルトフェルドと、そんな彼の妻となったアイシャ・バルトフェルドだった。

 

「バルトフェルドさん!アイシャさんも」

 

キラのメビウス・ストライカーの整備をひと段落させたフレイが、出てきた二人との再会を喜ぶように手を重ね合わせる。カガリやアスランもいるのを確認してから、バルトフェルドは困ったようにいつもの笑みを浮かべた。

 

「全く参ったものさ。進水式の記念式典で披露する歌姫が、まさかこんな事に巻き込まれるなんてな」

 

「これは申し訳ない。この艦もとんだことになったものですよ。進水式の前日に、いきなりの実戦を経験せねばならない事態になるとはね」

 

皮肉の効いたバルトフェルドの言葉と、声の抑揚を変えずに切り返すデュランダル。まだカガリでは到達できない腹のさぐり合いが、その二人の中で展開されようとしていた。

 

「ちょっとぉ!プロデューサー!置いていかないでよ!」

 

そんな思考の読み合いに発展しそうな空気を、シャトルからは追うように出てきた少女の声が払拭していき——同時に、アスランやカガリ、フレイの顔を驚愕に染め上げた。

 

「ラ、ラクスが二人…?」

 

「はっはっはっ!驚いただろう?デュランダル議長が紹介してくれた逸材でな!!」

 

隣に降り立った〝ラクスと瓜二つ〟な少女を自慢げに紹介しながら、少女はラクスとは違う人懐っこそうな笑みを浮かべてアスランたちへ挨拶をした。

 

「ミーア・キャンベルです!よろしくね?」

 

「ラクスと見た目はそっくりだが、方向性が違ってね。二人でユニットを組んでライブツアー中なのさ」

 

大戦後、ラクスの行った行為はひとえには褒められたものではない。だが、支持者も多かったことと、結果的にプラントを救った英雄的な側面もあったことから、彼女を政治的な舞台に参加することを禁ずるという条件付きで、ラクスの身は保護される事になった。

 

その後、護衛兼補佐の役割を任されたバルトフェルドが、芸能界へ声をかけられたことをきっかけにプロデューサーとしてアイシャと共にラクスをサポートするようになり、デュランダルから紹介されたミーアも加わって、今は大戦で傷付いた人々を慰問している。

 

「アンディもすっかりプロデューサーがハマり役になったわね?」

 

「もともと、こういう事のほうが性に合っていたからな、私は」

 

主にメイクや衣装のデザインを担当するアイシャからそう言われて、バルトフェルドはそう答えた。もとより前線に出て戦うより、後ろで計略を練るほうが自分の得意分野だったので、今の立ち位置が天職なのかもしれないとバルトフェルドは思っていた。

 

「バルトフェルドさん!それにラクス!?けど、なんだか…違うような」

 

すると、フレイと同じくメビウス・ストライカーから降りてきたキラが、ミーアと共にいるバルトフェルドたちの元へと降りてくる。

 

キラが一瞬、ミーアをラクスと間違えたが、すぐに視線を下ろすと違和感を覚えた。明らかに違うものがあるからだ。

 

「キラー?」

 

そう思った矢先、デュランダルとの会話を終えてきたラクスがキラの横から声を発する。それはあまりにも普段通りであり、そして底知れない何かを孕んでいた。

 

「この人はミーアさんです。ラクスは私ですよ?わかってますか?」

 

顔は笑顔。言葉遣いも色も顕色ないのに、なぜかキラの背中にはドバドバと嫌な汗が流れ始めている。

 

「あ、あはは…もちろん、ちゃんとわかってたよ?」

 

「ほー、でしたら、どこを見て判断されたので?」

 

スッと笑顔だった目が開く。

 

残念ながら、その目は明らかに笑っていなかった。

 

「あー!あーー!!ベルモンドさんが呼んでるから僕いかなくちゃ!また後で!!ごめんね!!」

 

そう返したキラは、そそくさと来た道を戻ってメビウス・ストライカーの方へと飛んでいく。あれ?キラくん道具は?と言われて疲れた顔をするキラ。それほど動揺していたということか。

 

「全く…あの天然バカ」

 

「ラクス様と私がそっくりでしたから、仕方ありませんよ」

 

呆れて眉間を揉むカガリに、ミーアはまるで当然だと言わんばかりに胸を張っていう。そんなミーアを見ながらラクスは色がない笑みを浮かべる。

 

「ええ、そうですね」

 

「胸の大きさは違いますけど」

 

「何か言いました?フレイさん」

 

「本当に申し訳ない」

 

だから種割れの目をこちらに向けるのはやめてください死んでしまいますと、フレイは見たことがない速さでラクスへ頭を下げる。

 

「はっはっはっ!相変わらずだな!」

 

それを見て楽しげに笑うバルトフェルド。そんな彼らのやり取りを目にしていたミネルバの艦長であるタリア・グラディスは、この船に増していく異常性と要人を乗せているという責任感が比例し、気が遠くなりそうだった。

 

「議長」

 

「すまないな、タリア。しかし状況が状況だ。理解してほしい」

 

なんとか絞り出した声も、デュランダルの声によって封殺される。この状況で…戦線に向かう事になるのか…。

 

一気に引き返したくなる気持ちがあったが、あの新型を他所に渡すわけにもいかないという軍人の葛藤が、その思いを許さない。

 

隣にいるアーサーを一瞥すると、白目を向いて気絶しているように見えた。それにタリアの心配は他にもある。

 

「ラ、ラクス様!ミーアちゃん!ファンです!サインしてください!」

 

「ほ、本物のダブルラクス様だ!手を振ってる!!」

 

はしゃぎ始める作業員や、ミネルバのスタッフたちのこと。タリアは黄色い声をあげる部下たちを見つめながら小さく声を吐いた。

 

「…これ以上はこの船の規律にも影響が及びますね」

 

タリアの言葉には、全面的に同意できる。

 

フレイに至っては、初めてラクスと共にラリーたちの船に乗った時の記憶が濃密にフラッシュバックしており、思わず険しい顔で眉間を揉むという事になっていた。

 

全く、状況を考えろと言いたくはなるが、それより今はデュランダルとの会話が先決だ。カガリは数回咳払いをしてデュランダルに向き直った。

 

「アスハ議員、ここがこの艦のほぼ中心に位置するとお考え下さい。ZGMF-1000。ザクはもう既に御存知でしょう。現在のザフト軍の主力の機体です」

 

デュランダルも切り替えたようにミネルバ艦内の説明を始める。このミネルバはザフトの技術が込められた最新鋭の戦艦だ。幸いな事にハンガーにいるからこそ、議長の言葉も簡潔に纏まっていく。

 

「最大の特徴とも言える、この発進システムを使うインパルス。これは技術者に言わせると、全く新しい効率のいいモビルスーツシステムなんだそうですよ。私にはあまり専門的なことは解りませんが」

 

そう言ってデュランダルがカガリの方へ目をやると、彼女とラクスの表情は思わしくなかった。

 

「しかし、やはりお気に召しませんか?」

 

「議長は嬉しそうだな」

 

皮肉そうに返すカガリに、デュランダルは肩をすくめて言葉を選ぶ。

 

「嬉しい、というわけではありません。あの混乱の中からみんなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つことが出来たというのは、やはり…」

 

「——争いが無くならぬから力が必要だと仰ったな、議長は」

 

腹の底から湧き上がるような声がカガリから発せられた。平和のためには一定の力が必要になるとも言えるデュランダルの考え方。それがなにより、カガリの思いに触れた。

 

「だが、この度の事はどうお考えになる。あのたった3機の新型モビルスーツのために、貴国が被ったあの被害のことは?あんな惨状だ、民間人にも被害は及んでいる」

 

アーモリーワンは兵器工廠と呼ばれているが、軍属ではない民間人も少なからず住んでいた。そんな中で、あんな凄惨な事件が起こったのだ。

 

それはまるで、オーブが地球軍に攻め入られている時を彷彿とさせる有様で、カガリは怒りをおぼえる。

 

「そもそも何故必要なのだ!そんなものが今更!」

 

「武器を持たないで戦いをやめてくれと言っても、まだ叶わない世界だから、だろ?」

 

デュランダルが切り返す前に言葉が返ってくる。

 

カガリが振り返った先には、正座から立ち上がり、オーブ軍のものとは違う特製のノーマルスーツを見に纏う男性、ラリー・レイレナードが立っていた。

 

 

 

 

 



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第14話 伝説と流星

 

 

 

「——貴方は?」

 

突然議長らに声をかけてきたことに、タリアが怪訝そうな表情に変わる。議長も向かい合った人物に少しばかり顔を硬らせた。

 

いつぶりの再会か。ラリーは前大戦でクルーゼの我儘に振り回されていた頃のデュランダルを思い返して小さく笑うと、真面目な面持ちでタリアたちへ敬礼を打った。

 

「失礼しました。民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」のパイロット、ラリー・レイレナードです。この度はオーブ軍からの依頼により、カガリ・ユラ・アスハ議員の護衛隊長を受け持っています」

 

民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」。

 

ラテン語で〝流星〟の意味を持つ単語を織り交ぜた企業名は、設立時に多くの投資をしてくれたアズラエル理事のアイデアだ。

 

地球軍との戦闘の後。前大戦終結後にオーブを占拠していた地球軍が撤退する際、オーブの動向を監視する名目で、オノゴロ島の南東部に位置する湾岸基地に地球軍が駐留することになった。

 

だがそれは表向きであり、そこに出入りする地球軍の関係者は極端に少なく、ハルバートン提督やアズラエル理事の息の掛かった信頼できる者しか内情は知らない。

 

その基地に籍を置くのが、「トランスヴォランサーズ」だった。

 

ラリーたちの主な任務は、地球軍が軍を出すには危険な場所への偵察や要人の護衛、救出。オーブ軍とアズラエル財団、ハルバートン提督帰属の地球軍からのオーダーを受けることで機能する、言わば地球圏最高勢力の懐刀といえる存在だ。

 

組織に属さない少数精鋭な上に、自由度と汎用性が高いことから多くの極秘ミッションや警護、救出任務を成功させている影の功労者とも言える。

 

そして、その企業の主軸とも言える戦力が——。

 

「まさか、君がここに来ているとは思いもしなかったよ。〝流星〟」

 

先ほどまで抑揚の無かった声に、僅かにだが高揚が見えた。はたと、デュランダルの放った言葉に、タリアやアーサー、アスランを怪訝な目で見つめていたハイネや、フレイの手伝いをしていたヴィーノたちと…。

 

ラリーの出時を知る者以外が途端に固まり、空気にピシッと何かが走るような幻聴が聞こえた。

 

「流星…?」

 

タリアが震えそうな口でそっと呟く。

 

誰もがその意味を脳内にリフレインさせると、隣にいたアーサーの顔が一気に白目から青色へと染め上げられていった。

 

「流星…流星って、ネメシスですか!?」

 

「アーサー!!」

 

「あぁ…いや!す、すいません!!」

 

つい口にでてしまった言葉に、アーサーはひれ伏す勢いでラリーに向かって頭を下げる。

 

流星。

 

またの名をメビウスライダー隊、〝凶星〟ネメシスと呼ばれた存在。

 

グリマルディ戦線から、数多くの伝説と恐怖をザフト軍に与え続けてきた英雄の呼び名だ。

 

前大戦でモビルスーツに劣るはずのモビルアーマー「メビウス」に乗り、その類稀なる操縦技術と戦闘能力で、多くのモビルスーツ、エースパイロットたちを撃破し、戦争終結の突破口となった伝説のパイロットだ。

 

「じ、実在したんだ」

 

ヴィーノの溢れるような言葉。

 

事実、ザフトではその存在は大戦後から否定的な論議が交わされた。

 

世論では「流星」という存在は、前大戦の悲惨さを象徴する象徴として処理され、その実態、事実関係は封鎖。ザフト軍やプラント政府にも徹底した緘口令が敷かれ、全てが闇へと葬られたのだ。

 

「議長!」

 

動揺が広がる中、今度こそタリアが怒りを孕んで声を荒げた。ただでさえ、前大戦ではその首に莫大な懸賞金がかけられた存在であり、それを亡きものにしたプラント政府にとって、デュランダルが発した言葉はあまりにも危険だった。

 

「やはりプラントとしては、流星の存在は秘匿しておきたいはずだったようだが、言って良かったのか?」

 

当の本人であるラリーは、おくびにも出さずデュランダルに問いかける。たしかに、ラリーたちの存在はある一定の秘匿性はある。

 

それはあくまで平時の時だ。

 

ザフト軍の新鋭艦に乗り、さらには何者かによって極秘に開発されていたモビルスーツが盗まれていた現場に居合わせるなどと、そんな異常な状況下では薄っぺらい秘匿性など無意味に等しい。

 

「構わんよ。状況が状況なのだから」

 

デュランダルも同じような思いだろう。

 

レイが乗るインパルスと比べ、後で合流していたはずのオーブ軍機の方がひどく消耗している。それだけで、流星と呼ばれた彼が如何に苦戦したかなど容易に想像できた。

 

デュランダルはクルーゼと彼の死闘を知っている。その異常性と能力についても。そんな彼をここまで追い詰めたのだ。敵にも自分たちが想像する以上の〝不確定要素〟が存在しているのだろうか。

 

「まぁ、貴方が流星なのですか!?」

 

ふと、固まっていた他の面々の中から、畏怖や恐怖を含まない純粋な驚きの声が上がった。バルトフェルドの横を飛び出したミーアが、デュランダルと向き合っていたラリーに駆け寄る。

 

「私、ミーア・キャンベルと言います!お会いできて光栄です!」

 

彼女はそういうとすぐにラリーの手を握って顔を近づける。カラン、とハリーが持っていた工具を床に叩きつ……無重力なのに落とした音がハンガーに響いた。

 

そんな遠回しな威圧に気付いてないのか、無視しているのか、ミーアは構う気もなくラリーにラクスにはない人懐っこい笑顔を見せた。

 

「ミーアは彼を知っているのかい?」

 

「はい!砂漠の流星のファンですから!」

 

「さ、砂漠の流星?」

 

「はい!!」

 

砂漠の流星…聴き慣れない言葉だ、とラリーは首を傾げた。

 

そんな彼ら流星がアフリカの地で戦った軌跡を描いた大ヒット小説、アフリカで流星らと共に戦った戦士サイーブの息子が出版した「砂漠の流星」を知ることになるのは、まだ先のことである。

 

「キャンベルさん、今は」

 

タリアの声に、気分が高揚していたミーアはハッと気がついたのか、困ったように笑って戸惑うラリーの元から離れていく。タリアは一息つくと気を取り直して改めて語りかけてきたラリーへ言葉をかけた。

 

「で?そんな貴方は何故、何者かに奪取された三機に関心があるのですか?」

 

ミーアの勢いに気圧されたラリーも、不信感のこもったタリアからの声に真剣さを取り戻して答える。ただし、返す相手はタリアではない。

 

「デュランダル議長。ひとつ解せないことがある」

 

「聞こう」

 

タリアからの視線に気づきながら、デュランダルはあえてそう答える。議長からの許しを得て、ラリーは改めて本題へ入った。

 

「そもそも、なんで敵はモビルスーツ奪取の計画を実行したんだ?この船の進水式がある前日の今日に、だ」

 

敵の勢力…ラリーは検討は付いているが、この世界がDestiny通りの世界である保証はない。現に、ミネルバでカガリを憎んでいたはずのシンが、こちら側にいるのだ。トールもフレイも、そしてラクスと共にミーアもいる。

 

この世界で起こることは全く予想が付かないのだ。故に、あえてデュランダルに問いかける。

 

なぜ今、あの新型の奪取の計画が実行されたのかを。

 

「それは、ミネルバの進水式があったからで…」

 

「式典の準備なら、もっと前から始まっていただろう?それこそ、あの機体達が運ばれてきたタイミングを狙うこともできたはずだ」

 

タリアの答えを聞く前に、ラリーはバッサリと言葉を投げた。ミネルバの進水式前とはいえ、より警備が手薄だった搬入時や、それこそ〝ヘリオポリス〟のようなやり方も相手は取れたはずだ。

 

「ザフト軍の新型機開発を、世界に知らしめるため?」

 

「式典当日を狙った方が効果的だ」

 

カガリの推察もおそらく違う。

 

現に今回の事件では、プラント政府にとっては大きな損害にはなったが、地球圏にはあまり情報が流れていない。地球への中継テレビが入るのも進水式の当日からだった。

 

プラントとしても、新型機を開発していた情報管制の包囲網なら、いくらでもやりようはあるはずだ。

 

「じゃあ、何が目的で…?」

 

不安げな声で言うアーサーに、ラリーは一つの予感を告げる。

 

「——おそらく、俺たち」

 

「僕たちが、ですか?」

 

会話に加わってきたキラやリーク。そしていつの間にか真剣な面持ちで聞くバルトフェルドやフレイたちも、ラリーを中心に集まってきていた。

 

「極秘のオーブとの会談。しかも、アスハ議員が議長に連れられて工場の視察を行っていたときに、事件は起きた。たしかに偶然にしては出来すぎている」

 

視察もスケジュールも、今回の密談では大まかには設定されていない。視察としても、ザフト側が提案してきたことだ。ラリーのデュランダルを見る目が少しばかり強い何かを持ち始めている。

 

今回のこと。

 

そしてミーア・キャンベルという存在。

 

ラリーにとって、デュランダルという相手もまた、気の抜けない相手に変わりはない。

 

「だが、敵の目的はあくまでザフトの新型機だったぞ!殺すのが目的ではないと言うことになる」

 

「相手がアスハ議員の存在を知っていたということは、偶発的に事件に巻き込まれての死亡を狙ったということか?」

 

「そう。ポイントはそこだ」

 

カガリとアスランの言い分に、ラリーは語気を強くして頷く。重要なポイントとしては、そこになる。

 

「敵は俺たちの存在は気付いていたが、結論的には〝俺たちの死を目論んだわけじゃない〟」

 

「どういうことだね?」

 

この事に関してはデュランダルも疑問的だった。そしてラリー自身が、デュランダルを完全に疑えていない理由にもなる。

 

カガリとフレイ。

 

オーブとアズラエル財団の重要なポイントになり始めた二人であり、ナチュラルを蔑視するコーディネーターやプラント関係者にとっては目の上のたんこぶと言ってもいい。始末するならばあの瞬間が絶好のチャンスだった。

 

もし仮に、デュランダルが今回の件に〝関わっている〟ならば、この千載一遇のチャンスを物にしないはずがない。

 

故に、そこが分かれ目とも言えた。

 

「オーブは今や各国に対する楔だ。軍事力をひけらかさず、増長させず、世界に一定のバランスを保つために動き続けている。だからこそ、大っぴらに要人を暗殺するのは不味い。だから〝ついで〟だったんだ」

 

あの作戦や敵の動きからして、ザフトの新型機を奪い、アーモリーワンの工廠としての能力を低下させることはわかる。仮にあの場でカガリたちが死んだとしても、敵にとっては死因をプラントになすり付けれてラッキーくらいにしか思っていないのだろう。

 

新型機を秘密裏に作っていたザフト。

 

そんなザフトと密談をしていたオーブ。

 

そんな状況だけでも分かれば、燻っている〝内部の人間〟を焚き付けるには効果が絶大だ。

 

「敵にとって第一目標が新型機で、第二目標はオーブの要人と実働部分をプラントに足止めし、オーブの能力を一時的にでも麻痺させることにあったと推測は立てられる」

 

「待ってください。そうすることで敵になんのメリットがあるというの?」

 

「さっきも言っただろう?オーブは世界の均衡を保つ楔だと。その楔は今や、地球圏復興の立役者的な物になっている。オーブが先頭に立ってノーと言えば大きく動けない勢力もあるだろう」

 

たとえば、コーディネーターを蔑視するナチュラル勢力。たとえば、戦争経済で潤っていた者たち。たとえば、戦争を境に独立を狙っていた独裁国などなどなど。上げればキリがなくなるほど、今の地球圏は混沌としている。

 

その危ういバランスを何とか保持しているのが、オーブとアズラエル財団だ。

 

「代表的な象徴である、アスハ議員やアルスター事務次官がプラントにいる。殺害、少なくとも足止めされれば、都合がいい奴らがいると言うわけさ」

 

「都合がいい…勢力」

 

シンの言葉に、キラやアスランもなんとも言えない顔になる。また戦争がしたくてしょうがない馬鹿どもが地球にはウジャウジャといるのもまた事実だった。

 

「待ってほしい。敵が属している勢力はまだ確定してないでしょ?」

 

「オーブとしても大西洋連邦やユーラシア連邦にも打診はしてあるが、知らぬ存ぜぬの一辺倒でな——しかし、話ではかなりきな臭い様子らしい」

 

これはカガリたちがプラントに来る前からそうだった。力を取り戻し始めた大西洋連邦が、過去の過ちを繰り返さないように警告をしているが、向こうからの返事には良いものは無い。あったとしても表面上の言葉だけだ。

 

「何を企んでいるかは分からんが、今の状況を面白くないと思っているのは確かだろう。特に大西洋連邦の体質を抜本的には解決していないからな」

 

そう言うバルトフェルドの言葉に、アズラエルと共に多くの国を見てきたフレイも同感だった。

 

「アズラエル理事も同じことを言っていたわ。向こうにはブルーコスモス幹部のロード・ジブリールが居るから、油断はできないって」

 

アズラエルが実質離脱しているブルーコスモスで、急速に台頭し始めたらしいジブリールの力。それがどうあれ、地球圏は再び不安定な状況を呼び覚まそうとしているように思えた。

 

「問題はこの事件の裏にいる誰が何を企んでいるか…それを知るためにも、あの新型を追う必要がある」

 

ラリー自身にとっても、彼らを追う必要があった。

 

宇宙で会った、あの「メビウス」。

 

自分とほぼ同じ力を持つあの機体に乗るパイロットの正体を知らない限り、ラリーの中にある不信感や不安が消えることはない。

 

《ブリッジより艦長へ!ボギーワンを捕捉しました!オレンジ55、マーク90アルファ!》

 

ミネルバにアラームが鳴り響く。艦内放送で呼び出されたタリアは、すぐに近くにある通信機器に飛んでゆき、ブリッジへ指示を飛ばした。続くように若い女性の声がミネルバに響いた。

 

《敵艦捕捉、距離8000、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!》

 

「最終チェック急げ!始まるぞ!」

 

「だぁやべぇッ!」

 

ヴィーノやヨウランが、他のスタッフに尻を叩かれるように急かされる。すぐに発進状態にするために、二人も待機しているザクのもとへと飛んでゆく。

 

「申し訳ありません議長!」

 

タリアたちもデュランダルに敬礼を打ってすぐにブリッジへと向かった。そんな彼女達を見送った後、デュランダルは困った顔でラクスやカガリの顔を見つめた。

 

「本当に申し訳ない。できれば貴女方には戦闘の前に離脱して頂きたかったのですが」

 

今から離脱しようにも危険は伴う。ならばいっそミネルバで同行してもらえた方がデュランダルにとっても都合はいい。

 

「——ところで議長。ひとつ提案なんだが」

 

そんな彼に、イレギュラーであるラリーが笑みを浮かべて言葉をかける。

 

「何かね?」

 

 

 

 

「俺たちを雇わないか?」

 

 

 

 

 

逃した敵を捉える射程距離まで、残り3000。

 

次の戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話 出撃

 

 

 

 

「やはり来ましたか」

 

ガーティ・ルーのブリッジで、艦長であるイアンは当然だと言わんばかりの口調で呟く。データで表示されるのは、アーモリーワンで自分たちを追ってきた新型の船だ。

 

よほど、奪われたモビルスーツを取り戻そうと躍起になっているように見える。こちらとしては、計画の第一段階をクリアできたので文句はないが、こうも付き纏われると今後の動きに支障が出るのは明白だ。

 

「ああ。まっザフトもそう寝ぼけてはいないということだ。ここで振り切るとしよう」

 

《総員戦闘配備!パイロットはブリーフィングルームへ!》

 

「アンカー撃て!同時に機関停止。デコイ発射!タイミングを誤るなよ」

 

オペレーターの艦内放送が響く中で、イアンのシートの横にいたネオの体が無重力の中に浮かぶ。

 

撃破——とまでは言わないが、とりあえずあの新型艦を撒く必要はある。

 

モビルスーツのデータは取ったが、それを受け渡すにはどうしてもザフトの新型艦が邪魔であり、そして同時に「流星」の存在が計画の妨げにもなる。

 

イアンに自分の愛機の準備をさせるよう告げて、ネオも格納庫へと向かう。

 

さて、〝流星〟との挨拶は先ほど済ました。理論の証明は終わった。次は本気で戦うことにしよう。

 

作戦の局面を迎えながら、ネオは自身の戦いにニヤリと笑みを浮かべる。ここを切り抜けられれば、ネオ・ロアノークという人間は完成する。

 

あとは、自分の力が流星に通じるか…ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あの新型艦だって?」

 

ゆりかごから出たアウルが、ノーマルスーツに着替えたスティングの肩に手を置いて語りかける。自分たちを追ってくるのは、アーモリーワンで出会した新型艦だ。ブリーフィングルームに向かう道中で、スティングも肩をすくめて答える。

 

「ああ。来るのはあの合体野郎かな?それとも変形野郎か」

 

「今度こそバラバラか、生け捕るかってね」

 

「どっちにしろ、また楽しいことになりそうだな、ステラ」

 

スティングの声に、ステラはその整った顔つきの中、瞳だけに殺気を漲らせて頷く。よほどアーモリーワンで足蹴にされたことが気に入らなかったようだ。

 

「次は、必ずステラが落とす」

 

次は負けない。必ず落として、ネオに褒めてもらうんだ。殺気立つステラの様子に、アウルとスティングは互いの顔を見合わせて、先に向かってゆくステラの後に続くのだった。

 

 

////

 

 

「艦長がブリッジへ!」

 

タリアとアーサーがブリッジへと戻る。それぞれが自らの席に座ると、タリアは要人が考えられないほど乗り込む自艦の憂いを切り取って、艦長としての責務に取り掛かった。

 

「敵も、よもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど、危険な宙域での戦闘になるわ。ハイネとレイで先制します。準備は終わってるわね?」

 

発進準備は終わっていますと答えたオペレーター。よし、とタリアが指揮を振るおうとした時、先ほど自分たちが入ってきたブリッジの出入り口が開いた。

 

「議長…」

 

振り返った先にいたのは、オーブの要人であるアスハ議員と護衛であるアスランを連れたデュランダルの姿があった。

 

「いいかな?艦長」

 

非戦闘員がブリッジに入るなど…と言いたげなタリアに、デュランダルはあえてそう問いかける。ずるい男だと思いながら、タリアは何も言わずに議長を見つめる。

 

「私はオーブの方々にもブリッジに入っていただきたいと思うのだが。君も知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた方だ。そうした視点からこの艦の戦いを見ていただこうと思ってね」

 

「…解りました。議長がそうお望みなのでしたら」

 

「ありがとう、タリア」

 

答えがわかっていただろう応答に、デュランダルは満足そうに笑みを浮かべながら、自分の席と、カガリたちをそれぞれの席へと案内する。タリアはデュランダルに悟られないよう息をついて、気を取り直した。

 

「ブリッジ遮蔽!対艦対モビルスーツ戦闘用意!」

 

戦闘が始まる。

 

ここまで来たら後には引けない。タリアは2度目となるミネルバの戦闘に備えて、深くその軍帽を被った。

 

 

////

 

 

ミッションを説明する。

 

目的は、奪われたザフト軍最新鋭モビルスーツ、カオス、アビス、ガイアの奪還、それが不可能な場合の破壊、撃破だ。

 

不明艦をボギーワンとし、ミネルバがボギーワンの補足、敵モビルスーツの相手が我々の役割となる。

 

敵の機体データだが、先の戦闘で見てもらった通りだ。詳細は機密事項のため、公表はできない。各員の判断によって戦術を組み立ててほしい。

 

おそらく敵は、先の大戦から形成されたデブリ帯を使って戦術を組み上げてくるだろう。こちら側はミネルバから先行し、敵がデブリ帯から顔を出したところを狙う。

 

駆け引きが重要になってくる戦いだ。各員、我慢比べになるだろうが、向こうを追い詰めているのはこちらだ。余裕を持って戦ってほしい。

 

作戦説明は以上だ。

 

各員の健闘を祈る。

 

 

 

////

 

 

 

《ザク・ブレイズウィザード、発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します》

 

ハンガーでは慌ただしく発進準備が進められていた。修復されたオレンジ色のザクと、中央カタパルトへインパルスのコアスプレンダーが搬入されていく。

 

《インパルス、発進スタンバイ。モジュールはブラストをセット。シルエットハンガー3号を開放します。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認》

 

大型の搬送ユニットがザクの肩部を固定し、エアロックへと送り出していく。コクピットの中では、ハイネが機体の発進準備を整えていた。

 

《ハイネ機、カタパルトエンゲージ》

 

「全く、ミネルバでの初陣がこんなことになるなんてな!ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、発進するぞ!」

 

リニアカタパルトから、背部のウィザードシステムへ「ブレイズパック」を装備したハイネのザクが勢いよく射出されていく。ハイネ機はぐるりと機体を挙動させると、ミネルバの先鋒へ一気に飛び立っていった。

 

《続いてインパルス、どうぞ》

 

中央カタパルトへ到着したレイは、コクピットの中で思考を巡らせていた。

 

流星…ラリー・レイレナード。

 

懇意にしてもらっているデュランダル。そして、自身と深い関わりを持つラウ・ル・クルーゼを大きく変えてしまった存在。

 

レイは苛立ったように顔を歪める。

 

キラ・ヤマト。そしてラリー・レイレナード。自身の出自と、自身が憧れた存在に大きく関わった二人に、彼は表に出さない激情を抱えていた。

 

「…了解した。レイ・ザ・バレル。コアスプレンダー、発艦する!」

 

今は、それを出す時ではない。だが…俺は認めない。あんな存在を、認めてたまるものか…!!

 

そんな思いを胸に抱いて、レイはコアスプレンダーの出力を上げて深淵の宇宙へと飛び立ってゆく。続けて射出された各パーツと、ブラストシルエットとドッキングしたインパルスは、先行するハイネのザクを追うように進む。

 

他にも、ミネルバに配備された緑のザクウォーリアが数機出撃。一個編隊として運用するモビルスーツ部隊を吐き出したミネルバは、ボギーワンとの戦闘態勢に入る…はずだった。

 

《続いて、アスカ機、メビウス・ストライカー、どうぞ》

 

ここにイレギュラーが紛れ込む。

 

本来ならば、レイの隣でインパルスを駆るはずだった少年が。

 

本来ならば憎しみしかなかったはずの、オーブ軍と似たノーマルスーツに袖を通した少年が。

 

彼専用に組まれた可変機に乗って、汎用型のカタパルトの上へと搭載される。

 

シン・アスカ。民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」の若きエースパイロット。彼は操縦桿を握り締めながら目の前に広がる宇宙を見た。

 

《シン!あくまでザフトのサポートだからね!》

 

「了解!では、隊長、お先に!シン・アスカ、メビウス・ストライカー、行きます!」

 

整備を担当してくれたフレイからの声に応答して、シンの機体はカタパルトから一気に加速し、射出された。

 

《続いて、レイレナード機。メビウス・ハイクロス、カタパルトへ!》

 

次いで搬入されてくるのは、ラリーが乗り込む「メビウス・ハイクロス」だ。

 

機体コンセプトは地球軍のモビルアーマー「メビウス」と同じものであるが、機体骨格から最新フォーマットに見直され、コクピットも従来のモビルスーツと同等のレイアウトに変更。武装面もビーム砲とビーム攪拌幕、チャフ、ミサイルが標準装備となっており、機動力も過去から連なる改修の全てを踏襲した物として、大幅に改善されている。

 

今回の構成は、シンの可変機を主軸とした四機の高機動編隊となる。

 

「すまない、ハリー」

 

居住性が爆発的に改善されたコクピットの中で、ラリーは申し訳ない顔で通信先にいるハリーへ謝った。

 

こうやって出撃することになったのは、ラリーのわがままだった。デュランダルに打診し、自分たちを傭兵として雇うようにしたラリーは、戦いに巻き込まれる形となった仲間へ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

《デュランダル議長に雇ってもらう話?別に気にしてないわよ》

 

そんなラリーに、ハリーはあっけらかんとした声で平然と返す。その言葉に、後方で待機しているトールやリークも頷いた。

 

「ラリーさんのそういう予感、当たりますからね」

 

「そうそう。それにラリーをそこまで追い込んだ敵。僕も興味があるのは確かだし」

 

だから、ラリーが選んだ道ならついて行く。そう全員が口を揃えて言った。ラリーは少し気恥ずかしくもなり、感謝の気持ちに満たされながら、真剣な眼差しでメビウスの操縦桿を握る。

 

「わかった。だが、俺たちの目的は一つだ」

 

「 「了解!!」 」

 

二人の返事を受けて、ラリーは憂いを払う。もう迷いはない。

 

生きる。生き残って、使命を果たす。

 

ただそれだけ。

 

傭兵や民間軍事企業になっても変わらない、過去の自分から脈々と受け継がれてきた在り方。

 

それを果たすために、ラリーは前を見据えた。

 

自分が感じ取ったモノを確かめるために。

 

《メビウス・ハイクロス、カタパルトエンゲージ、発進どうぞ!》

 

「ラリー・レイレナード、メビウス・ハイクロス、出るぞ!」

 

「リーク・ベルモンド、メビウス、発進します!」

 

「トール・ケーニヒ、メビウス、行きます!」

 

三機のメビウスはミネルバから飛び立つと、先に出たシンのストライカーと合流し、四機の編隊を作って宇宙を行くのだった。

 

 

 

 



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第16話 デブリの戦い 1


長らくお待たせしました。更新再開です。


 

 

 

 

「初陣がデブリ戦とは…やれやれ、嫌なクジを引いちまったもんだ」

 

出撃したミネルバ陣営は、ハイネが乗るオレンジ色のザク・ブレイズウィザードを先頭に、二機の緑色のザク・ウォーリアと、レイが駆るブラストインパルスで構成されていた。

 

場所は旧大戦で出来上がったデブリ帯。

 

ボギーワンと称される敵艦は、この中へと逃げ込んだのだ。

 

「向こうだってもうこっちを捉えてるはずだ。油断するなよ」

 

「解ってます、右翼から前進します」

 

ハイネの指摘を受けて、レイは指示通りに右翼側からボギーワンへ接近するルートを取る。

 

デブリ帯は複雑に入り組んだ迷路のような宙域だ。下手にルートを外れれば、敵に待ち伏せられる格好の的になるか、またはデブリに阻まれて行手を遮られることになる。

 

後方にいるミネルバも同じように、デブリ帯の複雑怪奇なルートを避けて、ボギーワンが侵入したであろうルートを進んでゆく。

 

「敵艦に変化は?」

 

「ありません。針路、速度そのまま」

 

敵艦に変化はない。ならば、デブリ帯の奥へと隠れられる前に勝負をつけるべきだとミネルバのクルーは考えを決める。

 

デブリ帯の奥へと隠れられれば、地の利を得るのは向こうだ。そうなる前になんとしてでも捕捉したい思惑があった。

 

「よし。ランチャーワン、ランチャーシックス、1番から4番、ディスパール装填。CIWS、トリスタン起動。今度こそ仕留めるぞ!」

 

ミネルバの火器管制システムが起動してゆく中、同艦より発進したオーブ軍機体…否、議長認可で雇われることとなった傭兵部隊は、進んでゆくミネルバのモビルスーツ部隊とは別のルートを進んでいた。

 

「ライトニングリーダーより、各機へ。フォーメーションはストライダーを維持。状況は?」

 

鏃のような編隊を組んで飛ぶメビウス隊は、デブリの合間を軽やかに飛び去りながらボギーワンへと距離を詰めていた。

 

ラリーの動きは滑るように滑らかであり、モビルスーツで通れないようなデブリの合間をなんの躊躇いもなく縫って行く。それに続くメビウス隊も、ラリーとも劣らない機動力でその変則的な軌道に追従してゆく。

 

「やけに素直だね。敵は」

 

唐突に、ラリーの横に付いているリークが呟いた。ライトニング1を担う彼の危機への嗅覚は鋭い。ここまで接近しているというのに、敵が何もアクションを起こしてこないのは不可思議と言える。

 

ラリーは操縦桿を握りながら、脇にあるモニターに印を付けて後続のメビウスへ送信する。

 

「俺たちのいる場所はここ、そして敵はここにある。距離としては俺たちがミネルバから出ても変わりはない」

 

「敵が動きを止めている?」

 

今の状況を簡単に説明するならば、敵との追いかけっこだ。デブリ帯に逃げ込んだということは、敵は相応に振り切る動きを見せてもおかしくない。

 

それにこちらは慣れない新造艦ミネルバの操舵だ。デブリを抜けてボギーワンへ接敵することは困難を極める。デブリに突っ込んだ以上、敵がこちらとの距離を維持する必要はない…と、なれば。

 

「罠か?」

 

「そういうことになる。おそらく…」

 

ラリーはすぐにミネルバへのレーザー通信を試みる。だが、通信システムを作動させた段階で響いてきたのは激しいノイズ音ばかりだった。

 

「ライトニングリーダーよりミネルバ!聞こえるか?…ちぃ、Nジャマーか!」

 

Nジャマーを展開されている以上、相手は何かしらの方法で攻勢に出てくる。ラリーたちは機体を翻しながら進路を進めてゆく。〝三機〟の流星はデブリの中を鮮やかな軌跡を描いて飛んでゆくのだった。

 

 

 

////

 

 

 

 

「インパルス、ボギーワンまで1400」

 

その異変は、ミネルバのクルーも察知していた。レイのインパルス、そしてミネルバのモビルスーツ部隊の射程距離にボギーワンが入ろうとしているというのに、敵艦の動きに変化はないのだ。

 

「未だ針路も変えないのか?どういうことだ?」

 

「何か作戦でも?」

 

この二年間、プラントの中でもクライン派と、ザラ派に分かれた小競り合いはあったものの、それはジャンク品のモビルスーツや、廃棄されたものを修復したもので行われており、艦を用いた戦闘行為には発展してこなかった。

 

そして、その油断に対する危機管理がミネルバクルーには欠落していた。

 

「…しまった!」

 

敵の思惑に気づいた時には、すでに事は術中の中だ。岩陰に隠れていたのはボギーワンと同等の熱量を発するだけの機器。

 

「デコイだ!」

 

まんまと敵の思惑にはめられたミネルバ部隊も、デブリの中に潜んでいたモビルスーツ隊からの強襲にさらされることになる。

 

『各機、散開!!』

 

『よーし、行くぜ!』

 

『わかった』

 

実戦投入されたカオス、アビス、ガイアのそれぞれは身を潜めていたデブリから一気に離れてゆき、通り過ぎたザフトモビルスーツ隊の背後を捉えた。

 

アビスが放ったエネルギー砲が、構える間も与えずに、ハイネの後ろについていたザクウォーリアを容易く貫く。

 

「ショーン!!うッ!」

 

爆散した残骸を一身に受けながら、予想だにしていなかった背後からの攻撃で、モビルスーツ隊は乱れる。その隙をカオスを駆るスティングたちは的確に突き、統制を撹乱させていく。

 

「散開して各個に応戦!くっそー!待ち伏せか!ん?ボギーワンが…」

 

ハイネが敵機に気を取られた瞬間、自分たちが今まで目指していた反応が消えていることに気がつく。

 

「ボギーワン、ロスト!」

 

「何ぃ!?」

 

ミネルバも敵の狙いにようやく気がついた。索敵をするオペレーターが現状把握のためにモニタリングしたデータを読み上げてゆく。

 

「ショーン機もシグナルロストです!それとイエロー62ベータに熱紋3!これは…カオス、ガイア、アビスです!」

 

「索敵急いで。ボギーワンを早く!」

 

焦りを隠せないタリアの悪い予想は的中していた。処女航海でおぼつかないミネルバの死角に、ボギーワンこと、ガーティ・ルーは陣取っていたのだ。

 

『よし、敵は罠にかかったな。ミラージュコロイド解除!ダガー隊発進と同時に機関始動!ミサイル発射管、5番から8番発射!主砲照準、敵戦艦!』

 

艦長のイアンが的確に指示を放ってゆく。ミラージュコロイドを解いたガーティ・ルーからミサイルと同時に数機のダガー隊が出撃してゆく。

 

「ブルー18、マーク9チャーリーに熱紋!ボギーワンです!距離500!」

 

「背後に回られた!?」

 

「更にモビルスーツ2!レーザー照射、感あり!」

 

「アンチビーム爆雷発射、面舵30、トリスタン照準!」

 

「間に合いません!オレンジ22デルタにモビルスーツ!」

 

完全に先手を取られたミネルバへ、出撃したダガー隊が迫る。モビルスーツをデブリの中へ出撃させたのが完全に仇となっていた。対空防御を放つミネルバであるが、モビルスーツの接近に打つ手は残されていない。

 

『幾ら新造戦艦といえど!!』

 

ダガー隊のパイロットたちが、無防備なミネルバへと銃口を向けて、ロックをしようとした瞬間だった。一陣の閃光が閃き、ダガーの内の一機のコクピットを貫いたのだ。

 

『なにぃ!?』

 

パイロットが見上げる。

 

そこにはデブリの合間を縫って真上から飛来する一つの流星があった。

 

「隊長の読みが当たった!!」

 

補修を受けたシンのメビウス・ストライカーが、モビルアーマー形態からモビルスーツ形態へ変形しながら迫るダガー隊へ奇襲を仕掛けたのだ。

 

ラリーの指示は、足と小回りが効くメビウス隊でボギーワンを捜索し、シンの任務としてはメビウス・ストライカーでデブリに潜み、ミネルバを狙う敵艦の警戒と、敵モビルスーツの迎撃にあった。

 

「オーブ軍機!メビウス・ストライカー!アスカ機です!」

 

「ミネルバ!援護する!今のうちに退避を!」

 

ビームライフルから閃光を放ってダガー隊を牽制してゆく。敵も素人ではない。機敏な動きでシンの攻撃を避けて反撃してくるが、シンも機体を鋭く閃かせてダガー隊から放たれる光を避けてゆく。

 

「機関最大!右舷の小惑星を盾に回り込んで!」

 

『逃すな!ゴットフリート一番、てぇー!!』

 

デブリへ逃げるミネルバへ、ガーティ・ルーがゴットフリートを放つが、その光は当たることなく近くにあるデブリを吹き飛ばすに留める。

 

なんとか危機を脱したミネルバで、タリアは息を吐きながらオペレーターであるメイリンに次の指示を送る。

 

「メイリン!残りの機体も発進準備を!」

 

「はい!」

 

「小惑星表面を上手く使って直撃を回避!アーサー!ぼさっとしていないで迎撃!」

 

「は、はい!ランチャーファイブ、ランチャーテン、ディスパール、てぇ!」

 

ガーティ・ルーの艦長、イアンは短期決戦を望んでいたが、こうもデブリに隠れられては戦略が違ってくる。忌まわしげに顔をしかめながらミネルバから放たれるミサイル迎撃を指示してゆく。

 

その隣では、マスクをかぶったネオ・ロアノークが不穏な笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

デブリの中では、カオス、アビス、ガイアの攻撃により、ザフトのモビルスーツ部隊は劣勢に立たされていた。

 

『もらいぃ!』

 

アビスから放たれたビームをなんとか避けるザクウォーリアだったが、避けた先で待ち構えていたガイアのビームサーベルによって、その胴体は真っ二つに引き裂かれる運命を辿った。

 

「ベイル!!」

 

仲間の断末魔が響く中、奪われたザフトの最新鋭機と対峙するハイネとレイ。

 

「あっと言う間に二機も…」

 

数の有利さもあっという間に覆された。ハイネは後方からミネルバが攻撃を受けている情報を受ける。

 

「ミネルバが!?俺達はまんまと敵の罠にハマったってわけか!?」

 

「ああ、そういうことになります。敵はかなりのやり手です」

 

完全に分断されたか…!!ハイネは奥歯を噛みしめながら敵の策略の巧妙さに苛立ちを募らせる。だが、ここで冷静さを失っては敵の思う壺だ。ここはなんとか、奪われた新型機を抜けてミネルバに合流しなければ…。

 

その思惑を読んでいるのか、三機は統率の取れた機動力を発揮し、デブリの合間を縫いながら、ハイネとレイを釘付けにしてゆく。

 

『よぉし、このまま一気に…』

 

『アウル!上だ!』

 

トドメだと言おうとしていたアウルに向かってスティングが叫ぶ。咄嗟に頭上を見上げると、デブリの影から光がいくつも現れる。

 

その全てがミサイルであることを理解するのに時間は掛からなかった。

 

すぐさまアビスを回避機動へ切り替えると、過ぎ去ったミサイル群の発射元へ目を向ける。しかし、そこにすでに機体の影はなく、アウルの見つめるコクピットモニターの側面に、走る光が見えた。

 

『モビルアーマー!?』

 

アウルから見ると、一機の型落ちのモビルアーマーが飛翔しており、機体がわずかに傾いた瞬間、一機の影から二機のモビルアーマーが鮮やかな編隊を組んで飛行していることがわかった。

 

「ライトニングリーダーより各機へ!敵が予定通りに来た!応戦するぞ!」

 

「ライトニング1、了解!」

 

「ライトニング2、了解!」

 

フォーメーションを崩さないまま、ラリーが通信で両機に伝えると、リークとトールも慣れた手つきでラリーの動きに追従する。いつも通り。変わらない形を保ったまま、三機のモビルアーマーは、ザフトの最新鋭機に向かって飛んでゆく。

 

戦力差は火を見るよりも明らかだ。

 

『たかがモビルアーマーでぇ!!』

 

『甘く見るなよ!!』

 

圧倒的な有利さを持って、スティングとアウル、ステラが迎え撃つ。

 

型落ちのモビルアーマー、メビウス。

 

だが、その機体に封じ込まれた伝説を、彼らは目の当たりにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第17話 デブリの戦い 2

 

 

「ナイトハルト、てぇ!」

 

ラリー達がデブリ内でのモビルスーツ戦に身を投じる中、ミネルバはデブリの小惑星群に身を隠しながら、依然有利な場所から艦砲射撃を継続している。

 

「くっそー!!バカスカ打ってくるぞ!!」

 

ダガー隊を蹴散らしたシンは、隕石群に身を隠しながら飛来するミサイルやダガー隊の迎撃で手一杯だ。

 

「艦長!これではこちらの火器の半分も…!」

 

「浮遊した岩に邪魔されてこちらの砲も届きません!」

 

射角を取ろうとミネルバも動くが、相手が常に優位な位置を確保していることと、こちらの動きが身を守ってくれる隕石群によって制限されている状況もある。

 

「後ろを取られたままじゃどうにも出来ないわ!回り込めないの?!」

 

どうにか打開策を打ち出そうとタリアが策を練るが、状況がそれを許さない。すぐ横の小惑星に敵艦のゴットフリートが直撃し、揺れと衝撃がミネルバを襲う。そんな状況を見つめるデュランダルの隣で、アスランとカガリも今の状況の悪さに渋面を作っていた。

 

シンも奮戦しているが、この有利さが覆らない限り、今の状況を打開することは困難だ。

 

「くうッ!くっそぉー!!こっちの新型を!!この泥棒がぁッ!」

 

デブリ内でも、ハイネとレイが連携をとって迫るガイアへ攻勢を翻す。ハイネ用にチューンされたザクとは言え、新型機であるガイアには性能面で大きく劣る。レイのフォローや、逆にハイネがレイをフォローすることでガイアとの立ち回りを維持できていると言えた。

 

『落とす!!』

 

モビルアーマー形態へ変形し、デブリ内の小惑星を縦横無尽に闊歩するガイアに手こずる2人からわずかにそれた方向。

 

『回り込めアウル!今度こそ首貰おうぜ!』

 

『僕は別に要らないけど!!』

 

そこではカオスとアビスが、戦闘状態へ突入したメビウスライダー隊との交戦を繰り広げていた。隕石群の合間を飛ぶリークのメビウスに、カオスが機動兵装ポッドを展開して追い立てる。

 

放たれた小型ミサイルの雨を掻い潜りながら、リークはヘルメットの中で唇を軽く舐めて集中力を高めた。

 

「こっちの位置を把握されているなら…!!」

 

操縦桿を操るリークの機体は、ひらりと隕石群の中に空く穴の中へと突入してゆく。

 

機体一つが通れる穴を鮮やかな動きで抜けたリークは、カオスの死角を突くように配置された隕石や小惑星の裏を飛び回り、こちらを探すスティングの背後を捉えた。

 

『後ろだと!?』

 

「当たれ!!」

 

下部に搭載された小型の収束砲である「アグニⅡ」が火を吹く。その一閃をスティングは咄嗟に交わしたが、急制動を掛けた結果、後方にある隕石が彼の退路を断つ形となった。

 

「釘付けだ!!」

 

その正面から、ラリーの機体が迫る。翼端から出るビームサーベルが退路を絶たれたカオスの胴体目掛けて飛翔する。スティングが顔をしかめた瞬間、退路を絶っていた隕石の影からアビスが現れた。

 

『うろちょろと邪魔なんだよ!!』

 

追い詰めた相手の後ろから、さらに攻撃だ。アビスの収束エネルギー砲を放ったアウルは、敵撃破の手応えを感じていた。

 

「…ーーっがぁっ!!」

 

だが、相手はアビスを見た瞬間にマニュアル操作でフレキシブルスラスターの向きを無理やり変えて後退、そして上昇する変則的な機動を繰り出したのだ。パイロットに掛かる負荷を考慮していない不可思議な動きに、アウルは目を見開く。

 

『避けたぁ!?』

 

ラリー機はそのまま変則的な機動から復帰すると、現れて奇襲を仕掛けたアウルの機体へ、機体下部に備わる無反動砲が閃光を撃ち放つ。

 

その弾頭は、投入されるだろうザフトの新型機に対応した〝昔ながら〟のものであり、ラリー達が所属する民間PMCでも常用弾頭の一つだ。

 

『うわぁあああ!!』

 

「やはりフェイズシフト装甲並みか!化け物染みた硬さだな。だが、HEIAP弾は有効のようだ!」

 

HEIAP弾。

 

それは旧世紀から実在する弾頭だ。

 

用途は装甲目標の破壊であり、直撃したときにのみ、その特殊な効果が発揮される。着弾時に先端部に内包された焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させる。

 

起爆時には焼夷剤に加えて、非常に可燃性の高い化合物にも同じく引火し、炸裂によって燃料は一気に熱エネルギーに変換され、爆発的に膨張する圧力と3,000℃の高温へ達する。

 

さらに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し、内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させた。

 

フェイズシフト装甲の発展型でもあるヴァリアブルフェイズシフト装甲ではあるが、装甲に受けたダメージによる電力の消費という特性に変わりはない。

 

高熱によるダメージとタングステン弾芯による衝撃は充分な効果を発揮したようだった。そして、この弾頭運用法は敵の機体に著しい消耗を与えるだけではない。

 

「トール!」

 

「取った!!チエェストォオオオオ!!」

 

膨大な熱量によるエラーで、動きが鈍ったアビスへ、隕石群の合間から姿を現したトールのメビウスが襲いかかる。メビウス用に取り回しが効くように小型化されたシュベルトゲベールを展開したトールの機体は、アウルの肩部装甲を腕ごと切り裂いて飛び去ってゆく。

 

『アウル!!』

 

中破したアビスを援護するように前に出たカオスが、三機のメビウスへビームライフルを放つが、ラリー達は巧みな機動力と、モビルアーマーならではの「離脱力」を駆使してカオスから距離を置く。

 

アビスの姿を見たステラのガイアも、敵への攻勢からメビウス隊への攻撃へ切り替えるが、白兵戦に特化したガイアの動きでは機動力に勝るメビウス達を捉えることはできない。

 

『何なのよ!あんた達はまた!』

 

「モビルスーツの性能差で、勝てると思うなぁあーーっ!!」

 

隕石群の表面を滑るように飛ぶメビウス編隊が、カオスとガイア目掛けて飛んでゆく。

 

その姿を見たハイネは、自身が想像していた「メビウスライダー隊」の評価を根底から覆されていた。先の大戦で、多くの作戦に参加していたハイネであったが、彼はメビウスライダー隊との交戦経験はない。というより、彼らとの交戦経験を聞く機会が少なすぎた。

 

彼らと間近で戦って生き残ったパイロットが余りにも少なすぎたからだ。

 

たった三機のモビルアーマーによる縦横無尽な戦術に翻弄される、ザフトの最新鋭機。しかも彼らの動きには、まだ余裕すら感じられる冷静さがあった。

 

ハイネはグッと操縦桿を握りしめる。彼らと先の大戦で出会わなかったこと。そして今、彼らが味方であることをハイネは柄にもなく神に感謝するのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「粘りますな」

 

ガーティ・ルーの艦長であるイアンは、デブリ内に逃げ込んだミネルバを見つめながら、捻りのない感想を呟く。

 

イアンの指示通り、自艦からは絶え間なく艦砲射撃やミサイルでのハラスメント攻撃を継続している。相手が根を上げるのも時間の問題と言えた。

 

「艦っていうものは足を止められたら終わりさ」

 

だが、そこで現状維持を執るのは二流指揮官だと隣に座っていたネオ・ロアノークは吐き捨てる。敵艦が粘れるということは相応の理由があるものだ。そして、その答えはデブリ宙域にある。

 

「奴がへばり付いている小惑星にミサイルを打ち込め。砕いた岩のシャワーをたっぷりとお見舞いしてやるんだ。船体が埋まるほどにな!」

 

最後の希望を断てば、相手はなす術なく敗走へと転がり落ちるだろう。ネオは立ち上がるとそのままブリッジの出口へと無重力中を飛んでゆく。

 

帰る場所を失えば、「流星」と言えど行動は制限されてくるだろう。いわば、ここが勝負どころでもあった。

 

「出て仕上げてくる。あとを頼むぞ」

 

そう言ってブリッジを出てゆくネオに、イアンは静かに敬礼を送るのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「ミサイル接近!数6!」

 

「迎撃!」

 

「しかし、この軌道は…!!」

 

ほどなくして、ミネルバへのミサイル攻撃が敢行される。議長の隣で状況を見ていたアスランが、こちらではない方向へと向かうミサイル群を見て、顔を青ざめさせた。

 

「まずい!艦を小惑星から離して下さい!」

 

敵の狙いに気がついた時にはすでに遅かった。アスランの叫びで、咄嗟に操舵手が惑星から船を離すように舵を切ったが、直撃したミサイル群の衝撃波によって粉砕された小惑星の破片がミネルバへと襲い掛かったのだ。

 

「右舷が!艦長!」

 

「離脱する!上げ舵15!」

 

「更に第二派接近!」

 

凄まじい揺れに見舞われるミネルバの中で、タリアの指示が飛ぶが、粉砕された小惑星の向こう側から新たなミサイルが飛来してくる。敵はこちらを落とすために勝負に出てきたのだ。

 

「船には皆が…!!落ちろ!!このぉおおお!!」

 

それを指を加えて見るつもりはない。シンが駆るメビウス・ストライカーはモビルアーマー形態とモビルスーツ形態を巧みに使い分けてミサイル群を捉え、ビームライフルと頭部のイーゲルシュテルンで飛来するそれらを撃ち落としていった。

 

『さて、進水式もまだと言うのに、お気の毒だがな。仕留めさせてもらう!』

 

その爆煙の向こう側から、複数のダガーを引き連れたネオの駆るメビウスが向かってくる。

 

「4番、6番スラスター破損!艦長!これでは身動きが!」

 

「針路、塞がれます!」

 

「更にモビルアーマー、モビルスーツ接近!」

 

後方にいるミネルバに到達されたらアウトだ。シンは先行してきたダガーの編隊へと単身斬りかかる。ビームサーベルの閃光が閃き、迂闊に前に出たダガーは即座に両断された。

 

「このぉおお!!」

 

続くようにシンは機体を翻す。敵が放ったビームライフルを、ラリー直伝ビームサーベル切り払いで防ぎ、真正面から敵の頭部を切り裂き、回転力を活かしたまま敵コクピットをビームサーベルの切っ先で貫いた。

 

『がぁっ!?』

 

貫かれたダガーがデブリのように浮遊するのを見つめて、ネオは相対するパイロットが誰なのかを予測し、笑みを浮かべる。

 

『ほう、君はそちら側にいるのか…!!』

 

「メビウス!?なんだよ!その機体は!ちぃ…邪魔が多い!!」

 

現れたネオのメビウスに困惑するシンだが、まだ周りにはダガーがいる。飛来するミサイルも撃ち落としながら複数のダガーと大立ち回りを演じるシンだったが、消耗戦になれば数で劣るこちらが不利になる。

 

「予備の機体は!?」

 

「あります!しかしカタパルトが…」

 

タリアの声にオペレーターであるメイリンが困惑した顔で答える。予備機はあるが、カタパルトがダメージを受けている上にパイロットも足りないのだ。シンの劣勢を見て、アスランが立ち上がろうとした時、ブリッジに通信が入った。

 

《こちらオーブ軍のキラ・ヤマト!メビウス・ストライカー、出れます!ハッチを開けてください!!》

 

ノーマルスーツに着替えたキラが、修復を終えたメビウス・ストライカーに搭乗していた。戦闘の揺れの中、ミネルバのハンガーではマードックとハリー、そしてフレイの手によって、ラリーがボロボロにしたキラのストライカーをなんとか動かせるまでの調整を施したのだ。

 

「ボウズのストライカーが出るぞ!さっさと退くんだよ!!」

 

マードックの怒号のような指示が飛び、ザフトの整備員達が手動でハッチを開いてゆく。作業員用のノーマルスーツを着たフレイが、コクピットハッチを開いているストライカーへ向かい、キラに語りかけた。

 

「キラ!機体調整はかなりピーキーになってるわ!アラームが出たら無茶したらだめよ!?」

 

「了解!キラ・ヤマト、メビウス・ストライカー、行きます!!」

 

フレイが離れたことを確認してから、キラは機体を稼働させてハッチから出ると、即座にモビルアーマー形態へ変形し、苦戦するシンの元へと急いだ。

 

『ほう、貴様が出てくるか…キラ・ヤマト!』

 

「キラさん!」

 

「シン、遅くなった!これより援護するよ!」

 

シンと合流したキラのストライカー。それを見てネオはグッと操縦桿を握りしめる。ラリーと同じように相手の声が聞こえる彼は、数刻前に戦ったメビウスに乗るパイロットがキラであることを看破していた。

 

ならば、やることはひとつだ。

 

『その力、試させてもらう!!』

 

「あの機体…メビウス!?」

 

シンとキラが並ぶ中、ネオが駆るメビウスが飛翔してゆく。戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 



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第18話 デブリの戦い 3

 

 

 

 

キラが飛び立った後でも、敵艦からの砲撃が止むことはなかった。モビルスーツ部隊はオーブのシンとキラが相手取り、大立ち回りを演じているが、ミネルバにかかる負担は減るどころか増すばかりだ。

 

「インパルス、ザクが依然カオス、ガイア、アビスと交戦中です!」

 

頼みの綱のモビルスーツ部隊も、まだこちらに引き返す兆しを見せていない。ええい、こうも一方的にやられるとは…。そう握り拳を作るデュランダルが、入り込んでくるような声色で声を上げる。

 

「この艦にもうモビルスーツは無いのか!」

 

「パイロットが居ません!」

 

その言葉が、隣に座るアスランの心に深く突き刺さった。オーブにいる自分の仲間たちが戦火に身を投じているというのに、自分はここで何をやっているのだろうか。そんな焦りにも似た感覚がアスランに深くのしかかる。隣にいるカガリも不安げに目を伏せるアスランの様子を見つめていた。

 

「艦長、タンホイザーで前方の岩塊を…」

 

「吹き飛ばしても、それで岩肌にぬって同じ量の岩塊を撒き散らすだけよ!」

 

副長の進言を、タリアはバッサリと断ち切る。それに岩塊に道を阻まれているということは、その岩塊がミネルバを守っている意味もある。

 

いたずらに辺りを吹き飛ばせば、辛うじて隠れられているミネルバの船体を敵の前に晒すことになりかねなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「くっそー!!なんなんだよコイツはぁ!!」

 

メビウス・ストライカーのスロットルを絞りながら、シンは纏わり付くように攻めてくる『メビウス』を睨みつけて叫ぶ。機体を翻してビームライフルを放つが、敵は更に鋭く機体を動かして、ビームの閃光を紙一重で避けてゆく。

 

今のを避けるのかよ…!!そう内心で毒付きながら、シンは相手が放ったビーム砲をシールドとビームサーベルで捌いて、さらに距離を置く。

 

「この動き…まるで…!!」

 

シンの動きに合わせて、キラが頭上から奇襲をかけるが如く、飛来する敵メビウスへ向かうが、キラのビームサーベルの一閃をひらりと避けると、モビルアーマーの機動力を活かして、敵は自分たちの射程圏内から離脱してゆく。

 

その動きはまるで、自分たちの隊長と同じような動きをしていた。

 

『ふふふ…あーっはっはっ!!所詮はこの程度か!!足りん!!まったくもって足りんぞ!!』

 

離脱した瞬間に、急制動でこちらへ矛先を向けたメビウスは、搭載されたバルカン砲で容赦なくシンのメビウス・ストライカーを釘付けにして行く。

 

「ぐうう…!!」

 

バルカン砲程度ではびくともしない強度を持つストライカーだが、動きは鈍くなるし、防がなければダメージは確実に蓄積してゆく。

 

『こういうのは気にいるかね?!』

 

敵メビウスを駆るネオが笑みに満ちた表情で言葉を漏らすと、メビウスの翼端に付いている小型の射出ポッドが切り離される。ビーム砲を有したそれは、身動きが取れないシンの周りへと展開して、彼を四方から蜂の巣にしようと動き回った。

 

迫り来るオールレンジなビームをシンは巧みに避けては逸らし、シールドで受けてはビームサーベルで薙ぎ払って凌ぐものの、手数ではネオの機体の方が有利だった。

 

『さっさと俺の元に来い、流星。でないと…貴様の大事な部下を失うことになるぞ!!』

 

ネオの地獄の底のような言葉に、ラリーの中で声が走った。

 

「キラ…?シン…!!」

 

カオスから放たれるビームを避けると、ラリーの機体はリークやトールの戦列から離れてデブリ帯を離脱してゆく。

 

「ラリー!!」

 

「こっちは任せた!厄介な奴がミネルバにいる!!」

 

彼の動きに反応したリークが声をかけたが、帰ってきたラリーの確信に近い声色を聞き、サムズアップをしてうなずく。

 

「任された!ラリーも気をつけて!!」

 

『行かせるものか!』

 

離脱しようとするラリーのメビウスを、モビルアーマー形態のガイアが追いかける。

 

だが、そんな彼女の意識はラリーにしか向いていなかったため、彼女が走るデブリの裏側からトールのメビウスが来ることに気がつくには時間が遅すぎた。

 

「おっとぉ!!お前の相手は俺だ!!犬っころめ!!」

 

デブリの稜線の影から突如として現れたトールのメビウスが放つ、シュベルトゲベールの一撃は、走行するガイアの横を捉えて完全に進路を変えさせた。

 

(ミネルバにはギルが乗っているんだ。絶対にやらせるものか!)

 

「くっそーミネルバが!レイ!援護に迎え!こっちは…」

 

飛び立ってゆくラリーに合わせるように、レイのインパルスもミネルバへと戻る進路を取るように、ハイネが指示を放った。迫り来るビームを避けて、彼もまた戦場に意識を集中させる。

 

『落ちろよ!コイツ!』

 

ポッドを戻し、ビームライフルを構えを構えようとするカオスだが、その際に起こる隙をリークは見逃さなかった。

 

「甘い!そこっ!!」

 

ポッドを格納した瞬間を狙った一撃は、硬直するカオスの頭部を的確にとらえる。黒煙を上げて、スティングのカオスはデブリの奥へと吹き飛んだ。

 

『なにぃいっ!!』

 

「欲張りすぎるからそうなるんだ!戦いでは謙虚さを持てよ!!」

 

頭部カメラを損傷したカオス、片腕を装甲ごと切り落とされたアビス、トールの追撃を受けて怯むガイア。

 

追い詰めたのはこちらだと思っていたのに。

 

スティングたちは、有数の流星たちにその身を包囲されているのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「艦長!右舷のスラスターは幾つ生きてるんです?」

 

デュランダルの隣に座っていたアスランが、突然タリアへ言葉を投げる。彼女も少し戸惑った顔を見せてから、艦の状況を見てアスランの言葉に答える。

 

「…6基よ。でもそんなのでノコノコ出てっても、またいい的にされるだけだわ」

 

6基あれば十分だ。アスランは過去に学んだ航海戦術をフルに活用して、現状を打破する一手を口にした。

 

「同時に、右舷の砲を一斉に撃つんです!小惑星に向けて、爆発で一気に船体を押し出すんですよ。周りの岩も一緒に!」

 

その無茶苦茶な戦術に、保守派の副長であるアーサーが顔をしかめて反論する。

 

「馬鹿を言うな!そんなことをしたらミネルバの船体だって…」

 

「今は状況回避が先です!このままここに居たって、ただ的になるだけだ!」

 

アーサーの言い分は最もだが、今はセオリーが通用しない。むしろ、セオリーに殉じたものが後ろを取られて撃破される状況だ。主導権が向こうにある以上、それを上回る大胆さが必要だということ、アスランは先の大戦で学んでいる。

 

「確かにね。いいわ、やってみましょう」

 

その言葉に賛成を示したのは、意外にもタリアだった。艦長からの信じられない発言に、アーサーは口をアングリと開けて声を漏らした。

 

「艦長ぉ!!」

 

「この件はあとで話しましょう、アーサー。右舷側の火砲を全て発射準備。右舷スラスター、全開と同時に一斉射。タイミング合わせてよ!」

 

とにもかくにも、現状を打破できる可能性に賭けるしかない。持久戦になれば、身動きが取れなくなるのはこちらだ。

 

「…右舷側火砲、一斉射準備!合図と同時に右舷スラスター全開!!」

 

その考え方に、アーサーも渋々了解した様子で艦の火器管制システムへ指示を放ってゆく。真剣な眼差しでモニターを見つめるアスランに、カガリは心に入り込んでいた不安を抱えながら、この作戦の行先を見つめる。

 

 

 

 

////

 

 

 

光が走る。

 

いくつもの線が、シンの神経をすり減らすように、ストライカーの装甲ギリギリを削ぐように飛び去ってゆく。

 

「くっそぉお!!」

 

何分経った。何時間経った。そんな気が遠くなるような繊細な作業を強いられるシンの負担は、計り知れないものになってゆく。ほんのわずかに気が緩んだ時、眼前のモニターを緑色の閃光で溢れかえっていた。

 

しまった…!!とっさにシールドを構え、機体を捻るが、損傷は避けられない。シンはグッと目を瞑りそうになる恐怖を押し殺しながら、迫る閃光に目を向け続ける。

 

そんな光の幕の前に、一機の影が割り込んだ。手に持ったビームサーベルを振りかざして、キラのストライカーが、シンへ迫っていたビームを切り払った。

 

「シン!誘いに乗るな!この相手は危険すぎる!」

 

そういうと、キラはシンのストライカーを掴んでハリネズミのようなオールレンジ攻撃の柵から抜け出していく。あの手の攻撃は先の大戦でわずかに味わったが、中距離に取り残されればじわじわと嬲り殺しにされるだけだ。

 

一気に彼我の距離を詰めて、超接近戦に持ち込みつつ、高速域での機動戦で敵のオールレンジ攻撃を封じるくらいしか策はないが、それはあくまでオールレンジシステムが展開される前の話だ。

 

ああも防衛も攻撃も行えるポッドを展開されては、距離を詰める前にこちらに一撃当てられる可能性が高い。

 

「でも!このままじゃミネルバや…カガリ姉さんも!!」

 

「一人で守ろうと思うな!二人でなら守れる!!」

 

シンの焦るような言葉に、キラは真っ直ぐとした声色でそう返した。そうだとも。一人で守れないなら二人。二人でダメなら三人。四人、五人、大勢で守れば良い。

 

一人で戦っても、一人で力があっても、思いがあっても、何もできない。限界があるというなら…。

 

「一緒に戦うよ!シン!」

 

シンのストライカーの前でキラは操縦桿を握りしめる。ここには、僕だけではない。シンがいてくれる。仲間がいてくれる。だから、僕は戦い続けることができる!!

 

その決意に似た声に、シンも焦りを拭い去って武器を構えながら頷いた。

 

「はい!!」

 

そんなキラとシンのストライカーを見つめながら、ポッドを辺りに浮遊させてネオは仮面の奥の目をギラつかせる。

 

『程度は知れたか。ここで落とすのも一興ではあるが…』

 

そう言ってスロットルに力を込めようとした瞬間、ネオの操るメビウスへ一閃が降り注いだ。放たれたビームを咄嗟に躱して、ネオは頭上を見上げる。

 

「貴様あああ!!」

 

「ラリーさん!?」

 

突っ込んできたのはラリーのメビウスだった。展開されたポッドから放たれるオールレンジ攻撃が、中距離にいるラリーのメビウスへ放たれるが、彼は信じられない機動と、耐久性が向上したフレキシブルスラスターを手足のように操ってビームを全て避けると、奥に鎮座していたネオのメビウスへ一気に距離を詰める。

 

モビルアーマー同士の超接近戦だ。

 

『来たか、流星!!』

 

「何なんだお前は!!」

 

ネオもオールレンジ攻撃を司るポッドのシステムを諦めて、翼端のビームサーベルを展開したラリーの一撃を避けては、交戦状態へと移る。

 

ネオに追従していたダガーがラリーにビームライフルを向けて近づいてゆくが…。

 

「邪魔だ!」

 

ネオのメビウスを追うついでと言わんばかりに、ラリーの放ったビーム砲がダガーの頭部と胸部を貫き、すれ違いざまにビームサーベルの一閃が、ダガーの上半身と下半身を切り落とした。

 

『下がれ、ミラー!こいつは手強い!お前は艦を!』

 

高負荷のGに耐えながら指示を出したネオに従い、残りのダガー隊がミネルバに向かおうとしたが、その一機が到着したレイのインパルスによって撃墜される。

 

「させるかよ!」

 

シンとキラも、続くようにミネルバへ向かおうとするダガー隊を蹴散らしてゆく。

 

数々の爆発とビーム砲の光の向こうでは、二つの光が攻守を入れ替え、光の尾を持ちながら入り乱れてゆくのだった。

 

 

 

 

 



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第19話 デブリの戦い 4

 

 

ガイアを操るステラの状況は、一言で表すなら劣勢だった。

 

「えぇい!」

 

トールが駆るメビウスの動きは、先の大戦で培った物をさらに洗練し、機体の挙動、衝撃によるダメージコントロール、動きの見極めとチャンスを如何に利用し、そこに見え隠れする危険性も即座に見抜く力量を有している。

 

トールを相手取るガイアは、確かに性能面ではメビウスを圧倒しているのだろう。パイロットのセンスも悪くはない。ただ、二人の間には決定的に「経験差」による溝があった。

 

『あぐ…あいつ…あいつ!』

 

ビーム出力を切った状態のシュベルトゲベールⅡにより、足をすくわれデブリに叩きつけられるガイアの中で、ステラは呻き声と共に地獄の底から響くような苛立った声を出す。

 

頭部のバルカンで飛び去ったトール機を落とそうとするが、それを知っているかのようにトール機のフレキシブルスラスターは反転して急減速と旋回により機体を翻すと、ガイアを捕らえた銃口から無反動弾を打ち込む。

 

『——っ!?』

 

あんな体勢から…!!ステラは咄嗟にガイアを飛び上がらせると、メビウスから放たれた無反動弾がガイアが横たわっていたデブリを容易く打ち砕いた。

 

『くっそー!何で落とせないんだよアレは!』

 

アビスを駆るアウルも、自分たちが相手をする存在が常軌を逸している何かだということを理解し始めていた。片腕を失いながらも応戦するアビスに気づいたトールは、すぐに応戦体勢へと入る。

 

信じられない速度でデブリを縫うメビウスの動きは、「たかがモビルアーマー」と侮っていたアウルの心を完全にへし折った。強化された感覚でもメビウスを追うのがやっとだ。

 

気を抜けば迷路のようなデブリに行手を阻まれる。足を止めればさっき自分を焼いた特殊な弾丸がすぐに飛んでくる状況だ。

 

『くっそぉ!!』

 

アウルはフットペダルを踏み込んでアビスの速度を上げて行く。あの高速の一撃離脱に追いつくには、相手に追い付くしかない。胸部に備わるエネルギー砲でトール機を落とそうとしたが、メビウスはひらりと機体を横に傾けてエネルギー砲を紙一重で避けると、機体を振りまわしてバルカン砲をアビスに叩き込む。

 

バルカン砲に逆に足を止めれたアビスの背後からミサイルが迫る。

 

『アウル!!』

 

機動ポッドで迫るミサイルを撃ち落としたカオスが、足が止まったアビスを庇った。その前から、リークと合流したトールが迫る。

 

「ザフト機もエレメントを!次は決めるよ!!」

 

離脱から攻勢へと転じる中で、機動力に差が出るハイネのザクとも歩調を合わせる。消耗させられたスティングたちにとっては、高速度のモビルアーマーからの攻撃と、モビルスーツからの攻撃だけでも精神に掛かる負荷は大きい。

 

三機が削りきられるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「くっそおおお!!この野郎!!」

 

シンは久しく見ていなかったラリーの本気の機動戦を目の当たりにしていた。

 

自分との模擬戦で見せた驚異的な機動。

 

同じ機体に乗っているとは思えない動きをするラリーの攻撃に翻弄され、何もできないまま敗北したことを覚えているシンは、そんな動きをしても落とせない相手に恐怖に似た何かを感じていた。

 

『…ーーっがぁっ!!そうだ!!そのまま…ぐぅ…!!俺に釘付けになってもらうぞ…流星!!』

 

デブリの中を動き回る二機は、まるで障害物など存在しないと言わんばかりに、機体のスラスター能力を存分に生かして空戦を繰り広げていた。

 

アーモリーワン近域では、ラリーが可変機に乗っていたこともあり、全力の機動が出来なかった事もあったが、それを抜きにしても、ネオが操るメビウスも、驚異的なラリーの軌跡に劣らず、人間離れしたものとなっていた。

 

互いの機体が高負荷に晒され、身体中からミシミシと軋む音が響く。ここまで高機動戦を継続したのは、ヤキンドゥーエで剣を交えたクルーゼとの戦い以来だ。

 

「くっ…そっ…たれがぁ…っ!!こっちは久々に死にかけてるってのに…!!」

 

背後を取られた瞬間に、フレキシブルスラスターを反転させて、フラップと逆ノズルのバーナーを吹かして、ラリーは急減速をする。取った…!!そう思った刹那、ネオの機体に備わるロケット砲の銃口がこちらに向けられていることにラリーは気がついた。

 

「な…にぃ…!?」

 

花火のように宇宙へと放たれるロケット砲。咄嗟に高負荷中で機体をさらに振り回す。高負荷でもアラームが出にくい設計をしているはずなのに、コクピットのモニターにはアラームが鳴りっぱなしだった。

 

「ぐ——っがぁああ!!」

 

『避けたのか…!?今のを!!』

 

奥歯を噛みしめながら、ラリーはロケット砲の雨を掻い潜っていると、ネオも機体を反転させてラリーの機体へと攻める。

 

『この程度でぇ…!!根を上げてたまるか…っがぁっ!!俺はこのために戦ってきたんだ…このためだけに!!』

 

想像を遥かに上回る殺人的な負荷を押し殺して、ネオはラリーへ迫る。二人の戦いにキラもシンも、手を出すことはできなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「ボギーワン、距離150」

 

「仕留めに来たわね!総員、衝撃に備えよ!行くわよ!…右舷スラスター全開!!」

 

オペレーターの言葉を聞いてから、タリアはすかさず指示を出した。アスランの提案通り、右舷の武装全てをデブリに向けて。

 

「右舷全砲塔、てぇ!」

 

刹那、衝撃、爆発。大きな揺れがミネルバを襲う。ハンガーにいたフレイや、マードックが襲いかかってきた揺れに耐えきれずにミネルバの床から足を離した。

 

「うわぁ!」

 

「うわわっ…!!バカヤロー!!」

 

まるで洗濯機に放り込まれたように姿勢を崩される中、ミネルバの個室に避難していたバルトフェルドや、ラクスたちも同じような驚異的な揺れを体感していた。

 

「ひゃあーー!!」

 

「大丈夫ですわ、ミーアさん」

 

涙目でラクスやアイシャに抱きつくミーアを宥めながら、ラクスは落ち着いた様子で戦況を見つめている。おそらく劣勢に立たされているのだろう。この揺れは起死回生の一手か、はたまた終焉を知らせるものなのか。

 

「どちらにしろ、こりゃあ派手な戦闘になってるみたいだなぁ…!!」

 

ベッドの脇に捕まるバルドフェルドの言葉に、ラクスも同意する。ただ、自分たちがここで死ぬとは思えない。なにせ、この船の守護神たちには、先の大戦の英雄がいるのだから。

 

「射角は取れた!回頭30!ボギーワンを討つ!タンホイザー照準、ボギーワン!」

 

アスランの思惑通り、デブリを吹き飛ばして現れたミネルバに対応できないガーディ・ルーの側面を捉える。右舷武装斉射と同時に展開していた陽電子破砕砲「タンホイザー」の発射口を敵艦へと向ける。

 

『何だと!?回避ーッ!取り舵いっぱい!』

 

「てぇ!!」

 

白と赤の閃光はガーティ・ルーの側面を捉える。幸いにも致命打を避けたが、それでも、これまでの優勢を削り取るには充分な効果を発揮した。

 

『ええい!あの状況からよもや生き返るとは!』

 

「見えた…!!よそ見!!」

 

タンホイザーの閃光に意識を削がれたネオの機体に、バルカンが命中する。メビウスの後部武装ユニットに火がついたのだ。

 

『ぐっ…!ええい!流星め!!』

 

ネオはすぐさま武装をパージすると、迫る流星から距離を取るためにデブリ内を飛翔してゆく。

 

細かい石飛礫が機体をかすめていく音が聞こえるが、ここで落とされるわけにはいかない。ラリーも掴んだ攻勢の機会を失わないように逃げるネオの機体を追いかけた。

 

「ええい、頃合いか!大佐達に帰還信号を。宙域を離脱する!」

 

ミネルバから距離を置いたガーティ・ルーから信号弾が上がった。それをみたスティングが即座にステラたちへ通信をつなげる。

 

『ステラ!』

 

彼女は追い立ててくるトールのメビウスに反撃しており、撤退する素振りなど微塵も見せていたかった。スティングは苛立ちながら、通信機越しに怒声を上げる。

 

『また嫌な思いをしたいのか!!』

 

『…っ!!わかった』

 

スティングの嫌な思いに、自身の乱れた感覚を思い出したのか、ステラはモビルアーマー形態になると一気にメビウスから離脱してゆく。

 

『アウルも!!離脱するぞ!!』

 

スティングとアウルも続いて戦線から離脱。トールとリーク、そしてハイネも、三機を追うことはできなかった。武装も燃料も限界が近づいていたからだ。

 

『撤退か…今回もお預けか…しかし』

 

ネオもまた、イアンからの帰還指示を受けて離脱を開始。逃げ足に特化すれば、追おうとしてくるラリーのメビウスを振り切るには十分な加速は稼げられる。背後からこちらを狙ってくるラリーの攻撃を翻して、ネオは離脱航路へと入った。

 

『俺の存在は知らしめれた』

 

それだけで、今のネオは充分だった。

 

まだだ。まだ、殺すには早い。

 

それに、まだ自分では流星を殺せない。

 

ネオは仮面を脱ぎ捨てて背部モニターから、こちらを見つめる流星を見た。

 

『またいつの日か、出会えることを楽しみにしているぞ、流星。そしてザフトの諸君』

 

飛び去ってゆくネオのメビウス。

 

ラリーは逃げることに徹するネオの機体を追うことをやめて、デブリ宙域に留まりながら光となって遠ざかってゆくネオの機体を見つめた。

 

「…はぁー…ふぅ…鮮やかな引き際だな…」

 

想像以上に強敵だった。ラリーは全身にのしかかる倦怠感と疲労に目を閉じたくなる衝動に襲われていたが、歯を食いしばってなんとか堪える。ここまで消耗させられたというのに、敵にはまだ余力があるようにも見えた。

 

果たして、この世界のネオ・ロアノークとは何者なのだ?少なくとも、自分が知る誰かではないということだけは確かだ。

 

「ラリーさん。敵は一体?」

 

合流したキラとシンの言葉に、ラリーは肩をすくめながら答える。

 

「わからん。だが深追いは厳禁だな、とりあえずは」

 

それにこちらもパワーや機体の限界もある。モニターに目を走らせれば、至るところからアラームが出ている状態だ。これはまた、ハリーにひどく怒られるな。そう思いながら、ラリーは二人と、遠くにいるリークやトールに指示を送った。

 

「帰投するぞ、メビウスライダー隊」

 

初陣となったメビウスライダー隊の戦いは、歯痒さを残したまま終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 



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第20話 戦いの後、そして葛藤と

 

「ボギーワン、離脱します」

 

オペレーターの言葉に、タリアは胸を撫で下ろすようにシートへと腰を落とした。

 

「艦長ぉ!さっきの爆発で更に第二エンジンと左舷熱センサーが!」

 

自分たちの目的は、奪われたザフトの新型モビルスーツの奪還だったと言うのに、副長のアーサーが悲鳴のような声を上げているところを見ると、手痛い損傷を受けたのはむしろミネルバの方であった。

 

デブリに入った敵からまんまと策にはめられ、何もできずに敵にいいようにされたばかりか、臨時的に雇い入れた傭兵企業と外部国であるオーブに手助けしてもらう場面まである。

 

ザフト軍としての新造艦の処女航海にしては、あんまりな成果であった。

 

「グラディス艦長。もういい。あとは別の策を講じる。私もアスハ議員やアルスター殿をこれ以上振り回すわけにはいかん」

 

「申し訳ありません」

 

息をついたデュランダルの言葉に、タリアはそう返すことしかできなかった。

 

 

 

////

 

 

 

「もぉー!本当にどうなるかと思いましたよ!」

 

プンスカという擬音が聞こえてきそうな不機嫌顔で、部屋からやっと解放されたミーアがミネルバ艦内の通路を浮かぶように移動しながら、後ろに続くバルドフェルドPや、アイシャに文句を呟いた。

 

「ここは戦場でしたからね。とにかく無事に切り抜けられてよかったですわ」

 

「ラクス様も!ほんとに死ぬ思いをしたんですから、もっと言うべきことがあるでしょう?」

 

そう言って落ち着いた様子のラクスの手を握るミーア。しかし、ラクス自身、先程の戦闘で動揺することはなかった。

 

自分たちの船が回収された段階で、ハンガーの様子はまさに戦闘直前の状態であったし、何よりもラリーやキラたちが戦場に出る準備をしていた以上、「過激な交渉」が行われることは火を見るよりも明らかであった。

 

「姫様は先の大戦では先陣を切って艦の指揮を取られていたからな。この程度では動じないのさ」

 

「バルトフェルドプロデューサー?」

 

「おっと、年頃の女性に失礼な言い方でしたかな?」

 

デリカシーにかける言い草は彼の持ち味なのか、それとも天然なのか。わかりにくい困った笑みを浮かべるバルドフェルドを一瞥して、ラクスはため息をつく。すると…。

 

「流星様!」

 

隣にいたミーアがバサッと衣装をはためかせながら飛び上がると真っ直ぐに目の前にいる集団へと飛んでいく。ラクスが目で追った先では、すでにミーアが豊富な胸と人懐っこい笑顔で先頭にいたラリーに絡み付いていた。

 

「私たちを守って頂き、ありがとうございました!」

 

「いや、俺は任務を果たしたと言うかとりあえず離れて!!」

 

「んもぅ、命の恩人に感謝をするのは突然の義務ですのよ?」

 

そう言って嫌々というラリーに絡むミーア。ふと、横を見れば目の光が無くなっているハリーがじっとラリーの方を見つめていた。ラクスはバルドフェルドやアイシャの方へ目を向ける。「進展なし」とバルドフェルドが顔つきだけでラクスの無言の問いかけに応えた。

 

「あちゃー、ありゃあ大変だね」

 

「ハリーさんがさっさとプロポーズを受けないから…」

 

帰投したリークとトールが呆れたように呟くと、ハリーはぐるりと顔を後ろに向けて2人を睨みつけた。

 

「何か言ったかしら?」

 

「 「ナンデモアリマセン!!」 」

 

そう言って2人がピシリと姿勢を正す。リークたちの後ろにいたシンもそんなハリーの目つきを見て縮み上がり、キラは困ったように笑っていた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。アスハ議員」

 

その通路の先では、ブリッジから出てきたデュランダルが、同席していたカガリに頭を下げて謝罪していた。

 

「こちらのことなどいい。ただ、このような結果に終わったこと、私も残念に思う。早期の解決を心よりお祈りする」

 

「ありがとうございます」

 

これからザフトは大変な時期になるだろう。新型のモビルスーツが奪われたのだ。まだ外部への情報規制が出来ているとはいえ、デュランダルの説明責任は免れないだろうし、もし、モビルスーツを奪ったのがザフトの反対勢力ではなく地球圏の勢力だったら…。

 

不穏な火種となりかねない事に、カガリの思いは少しばかり暗くなってゆく。

 

「本国ともようやく連絡が取れました。既にアーモリーワンへの救援、調査隊が出ているとのことですので、うち一隻をこちらへお迎えとして回すよう要請してあります」

 

追って出てきたタリアの言葉に、デュランダルが二つ言葉で答えると、カガリはデュランダルの方へ手を差し伸ばした。

 

「我々もここで離脱することになる。世話になったな」

 

そういうカガリの手をデュランダルは固く握り返す。

 

「私も、アスハ議員にお会いできて光栄でした」

 

そういうと、デュランダルはカガリの横に控えていたアスランの方へ視線を向けて微笑んだ。

 

「しかし先ほどは彼のおかげで助かったな、艦長」

 

わざとらしくデュランダルはそう言葉を発する。アスラン・ザラとしてではなく、アレックス・ディノであろうとするアスランの逃げ道を防ぐようないい草だ。

 

「さすがだね、数多の激戦を潜り抜けてきた者の力は」

 

「いえ……出過ぎたことをして申し訳ありませんでした」

 

「貴方の判断は正しかったわ。ありがとう」

 

言葉だけ言うだけ言い切ってから、デュランダルとタリアは通路の奥へと向かってゆく。カガリが横にいる中で、アスランは先ほどのブリッジのやり取りを鮮明に思い返していた。

 

 

 

 

〝この艦にもうモビルスーツは無いのか!〟

 

〝パイロットがいません!〟

 

〝ショーン機もシグナルロストです!〟

 

 

 

 

もし。

 

もし、自分があの場にザフト兵としていたなら…もしかすれば、こんな被害を出すことも。

 

「なぁに辛気臭い顔をしてるんだよ、アスラン」

 

そう言葉をかけられ、ハッとしたアスランは後ろへ振り返る。そこには、少し真面目な目をしたラリーが立っていた。

 

「ラリーさん…」

 

間髪入れずにデコピン。バシッとアスランの額へ小さな打撃音が炸裂し、思わずアスランは手で額を抑えた。

 

「いっづ…!!」

 

「悪い癖だぞ、それ。一人で突っ走って、どれだけ迷惑をかけてきたか、忘れたのか?」

 

そうだな。たとえばキラとの戦いのことや、ジャスティスを手に入れてからのことや、果てはジェネシスに一人で向かった事とか。そう言って指折り数えて例を上げてゆくラリーに、アスランは何もいえずにただ小さくなることしかできない。

 

「すまない…」

 

そう謝るアスランに、ラリーは笑みを向けて優しく肩を叩いた。

 

「とりあえず思ってることを話せよ。カガリも皆、交えてな?」

 

その言葉に、アスランは目を見開きながら、小さく頷く。うむ、そういって誰かに話すのが大切なんだぞ?とラリーは言葉を紡いだ。

 

「お前のことを誰もわかってない、なんて思うなよ?俺たちは仲間だ。昔も、そして今もな」

 

ラリーが向ける視線を追うように、アスランも視線を向ける。そこには、合流したカガリがシンを抱き寄せて頭を撫でまわしている光景があった。

 

「よくやったぞぉ!!さすがはシンだ!!」

 

「あーもうやめてくれよ、カガリ姉さん!!」

 

それを見て、キラやラクスも笑っている。リークや、トール。ハリーに、バルトフェルドやアイシャ。多くの人が温かな笑みを浮かべていた。

 

そうだとも。キラも何度も言っていた。自分たちは一人なんかじゃないと。

 

「ああ、わかってるさ。頼らせてもらうよ、隊長」

 

そう答えたアスランに満足したのか、ラリーはそれ以上、アスランを言及するような言葉をかけることはなかった。

 

 

 

そして、事態はさらに動き始める。

 

 

 

「そんなはずないだろ」

 

ミネルバとは違う観測船の中で、データシートを見つめながら呟く仲間に、それを観測した者は安易な言葉を否定するようにデータを見せた。

 

「いや何度も確認した。見てくれ。こっちが2時間前のだ。今も少しずつだが間違いなく動いてる」

 

「そんな馬鹿な」

 

ユニウスセブンが動いているなんて。

 

平和に向かっていた世界は、新たな戸口へと足を踏み入れていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 



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ユニウスセブン落下編
第21話 ユニウスセブンの異変


 

 

《はい、マユでーす》

 

受話器越しから聞こえる声に、耳を傾けながらシンは久しく聞いていなかった妹へ言葉をかけた。

 

「あ、マユ?」

 

《お兄ちゃん!やっと繋がるようになったんだね!》

 

オーブにいるマユと連絡を取るのは、地球を出てから実に一週間ぶりだった。今回はカガリの極秘護衛任務のこともあって、渡航期間やアーモリーワン内部での通信もラリーやフレイたちからも厳しく制限されていたからだ。

 

久々に聞く兄の声に、マユも嬉しそうに声を上げる。

 

ザフトの新型機奪取という予想外の展開で、ミネルバに乗艦することになったシンは、議長や艦長の計らいもあり、こうやってオーブにいる家族と衛星通信で連絡を取ることができたのだった。隣ではリークやトールが家族や、ガールフレンドに連絡を取り合っている姿が見える。

 

「さっきまで少しゴタゴタに巻き込まれててさ。あ、けど安心しな。ちゃんと言われたお土産は買ってこれたから」

 

《さっすがお兄ちゃん〜!ラリーさんは大丈夫そう?ハリーさん、また変なことしてない?》

 

そう問いかけてくるマユに、シンは一瞬言葉を濁した。この通信室に入る前に、ラクスそっくりのミーアにしつこく絡まれるラリーと、それを射殺すような目つきで見つめるハリーの姿を見たシンは、マユへ返す適切回答を持ち合わせていなかった。

 

「あ、あぁ———。ラリーさんは大丈夫だ。うん、元気もりもりさ。何事も心配ないよ」

 

《…なんだか、マユ、嫌な予感がするんだけど?》

 

なぜかマユの声のトーンが数段下がったような気がした。衛星通信だというのに耳に添える受話器が冷たくなっている気もする。なんだろう、なるべく誤魔化したつもりなのに、なぜ妹は察したような言葉を発するのだろうか。

 

妹の零度の声に、「気のせいだよ、うん。大丈夫」と抑揚のない言葉で答えることが精一杯のシンは、軽い笑いを返す。お兄ちゃんはそんな妹がとても心配です。

 

「なんだって!?」

 

そんな会話をしていると、通信室の反対側から驚いたザフトの士官の声が響いた。リークやトールも気付いたようで、二人とも受話器を早々に置いてゆく。

 

「あ、ごめん。マユ、電話切るぞ」

 

《はーい。お兄ちゃんも気をつけて帰ってきてね〜》

 

危機感のない別れの言葉を交わして、シンも受話器を置くとリークたちに続いて通信室から出た。

 

そして、開口一番に聞いた言葉に三人は耳を疑うことになる。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「ユニウスセブンが動いてるって、一体何故?」

 

通信士官から連絡を受けたデュランダルと、その場に居合わせたカガリは、事と重要性を認識しながら原因を議長へ問いかけた。だが、デュランダルもわからないと首を横へと振る。

 

「だが動いているのです。それもかなりの速度で。最も危険な軌道を」

 

「しかし、何故そんなことに?あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」

 

「隕石の衝突か、はたまた他の要因か。兎も角動いてるんですよ。今この時も。地球に向かってね」

 

モニターに映し出された様子では、確かにユニウスセブンの軌道はズレており、進路の先には地球圏がある。その先に向かったことを想像して、カガリの顔は青ざめた。

 

「落ちたら…落ちたらどうなるんだ?オーブは…いや地球は!」

 

「あれだけの質量のものです。申し上げずとも、それは姫にもお解りでしょう」

 

「人為的に起こる冬…いや、それよりも、もっと深刻な事態か」

 

今にも倒れそうなカガリの横にいるアスランが言葉を発すると、議長も頷く。あれだけの質量を有した物体が地球に直撃すれば、それこそ想像できない災害が起こるだろう。巻き上がった放射性物質と暗雲により、人類は史上初となる人的災害で冬を迎える可能性もある。

 

「原因の究明や回避手段の模索に今プラントは全力を挙げています。姫には大変申し訳ないのですが、私は間もなく終わる修理を待って、このミネルバにもユニウスセブンに向かうよう特命を出しました」

 

そう議長が言うと、艦長であるタリアがミネルバが向かう進路をカガリとアスランへ見せた。

 

「幸い位置も近いもので。姫にもどうかそれを御了承いただきたいと」

 

「無論だ!これは私達にとっても…いやむしろこちらにとっての重大事だぞ。私…私にも何かできることがあるのなら…」

 

そう言って焦りを隠せないカガリに、議長は優しく手を置いて落ち着かせる。

 

「お気持ちは解りますが、どうか落ち着いて下さい、姫。プラント政府も地球軍との連携も視野に連絡を取り合っているところです。今はなんとしてもユニウスセブン落下を阻止せねばなりません」

 

必然的に、議長が急遽結んだラリーたちとの契約も継続されることになる。地球軍からは、宇宙にいる宙域艦隊に連絡を入れ、ザフトと共同でユニウスセブン落下防止作戦が立案されているようだ。

 

軌道を外れる原因が何かはわからないが、何としても食い止めなければならない。

 

最悪の事態になる前に。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「点検作業は損傷がひどいものから!装甲板の交換なんて、誰にでもできるんだから自分のやれることを把握して動きなさい!」

 

ミネルバ艦内のドッグは慌ただしくなっていた。指揮系統を把握したフレイは、ミネルバの現場主任と綿密なコンタクトを取った上で、点検と交換作業の指揮を取っている。

 

眼下では不慣れなミネルバの技師やスタッフが指示に従ってザクの装甲板や、点検に取り掛かっていた。

 

「こりゃあ、ひどいな。キラくん、6番と32番の電機工具を」

 

「トールも手伝って!」

 

「はいよ!」

 

通信室から戻ったリークも、先に作業をしていたキラに付き合うように自機や、ほかのメビウスライダー隊の機体の点検を開始していた。特に、キラの機体やラリーのメビウスの消耗も激しいため、マードックやほかのスタッフも総掛かりで作業に当たっている。

 

「とっ散らかってたら作業は遅れるんだから、使わない資材はあっち!そっちの保護材は25番コンテナに!ザクの補修用のデータを!」

 

喧騒に包まれるドッグの中で、部品の整理や必要資材の取り出しを任されているヴィーノとヨウランは、作業場の隅で部品を片付けながら会話していた。

 

「ふーん。けど何でユニウスセブンが?」

 

「さぁね。隕石でも当たったか、何かの影響で軌道がずれたか」

 

「地球への衝突コースだって本当なのか?」

 

会話に加わってきたハイネに、ヴィーノは頷く。ユニウスセブンの落下進路は間違いなく地球を捉えているのだ。

 

「まったく。アーモリーでは強奪騒ぎに続いてさ。奪われた三機もまだ片づいてないのに今度はこれ?どうなっちゃってんのさ」

 

怒涛を通り越して天変地異だ。そう言って天井を仰ぐハイネに同意するレイも、今はザフトの内情よりも訪れた危機にどう対応するが重要だと認識していた。

 

「とにかく、落下軌道にユニウスセブンが入った以上、落下阻止限界点までになんとかしなければならない」

 

「なんとかするっていったって、あんな巨大な質量、一体どうするんですか?」

 

「砕くしかないだろ?」

 

「砕くって?あれを?」

 

ハイネの言葉に首を傾げるヴィーノ。あんな巨大なものを?どうやって?そんな疑問はあるが、方法として一番現実味があるのは巨大な質量を分散させることだ。

 

「隊長の言う通りだ。軌道の変更など不可能だ。衝突を回避したいのなら、砕くしかない」

 

「でもデカいぜあれ?ほぼ半分くらいに割れてるって言っても最長部は8キロは…」

 

「そんなもんどうやって砕くの?」

 

「プラント政府も、そこを悩みところにしているようだな。幸いにも地球軍からもコンタクトはあったらしい。人数が揃えば、対応できることも増えるさ」

 

手段は分かってあるが方法は検討中となる。それを決めるのは上層部であり、自分たちは決まったことを即座に実行できるように現場へ先行投入されるわけだ、とハイネは言った。

 

「衝突すれば地球は壊滅する。そうなれば何も残らないぞ。そこに生きる人たちも」

 

「地球、滅亡…」

 

「だな」

 

漠然としすぎて実感は湧かないが、誰が見ても失敗すればどうなるかなんて一目瞭然だ。

 

「でもま、それもしょうがないっちゃあしょうがないかぁ?」

 

暗い雰囲気の中、陽気な口調でそう言ったのはヨウランだった。

 

「不可抗力だろう。けど変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外楽かも。俺達プラントには…」

 

地球外、コロニーやプラントに住む若者特有の価値観。本人は情勢や状況から、何気なく言ったつもりであったが、それを聞いた人物にとっては許し難いものだった。ハンガーにいるキラたちの元へと訪れたカガリがヨウランの言葉を聞いたのがまずい事だった。

 

「カガ…」

 

アスランの静止を聞く前に床を蹴ったカガリ。文句の一つでも言わないと気が済まないと顔をしかめるカガリ。だが、彼女が口を開く前に一人の影がカガリとヨウランたちの間に割って入った。

 

「よくそんなことが言えるな!しょうがない!?案外楽だと!?」

 

声を荒げたのは、キラからお願いされて電子部品を取りに来ていたシンだった。突然の怒声に、ヨウランやヴィーノたちも驚いた表情へ変わる。

 

カガリもいつもは飄々としているシンの怒りの声に、自身が発しようとしていた言葉を忘れるほどだった。

 

「お前たち!これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ほんとに解って言ってるのかッ!?」

 

「わ、悪いって…けど、地球とプラントのゴタゴタがあるのもさぁ」

 

「それはそれ、これはこれだろ!?仮に地球が滅べば、食料供給を地球の穀倉地帯に依存しているプラントはどうなる!?今度は水や食べ物を手に入れるための内乱が起こるぞ!!」

 

怒りが治らないシンと、不満そうにシンを見るヨウランの間に、困ったような表情をしたヴィーノが割って入った。

 

「おいおい、本気で言ったわけじゃないって!ヨウランも」

 

なだめようとするヴィーノにも、鋭い眼光を見せるシン。そんなシンの頭に、誰かが手を置いた。シンが振り返ると怒りの形相がすぐに無くなる。

 

怒りに満ちていたシンを止めたのは、ラリーだった。

 

「たしかに、地球とプラントの間には切っても切れない関係はある」

 

ラリーはヴィーノとヨウラン、そしてミネルバのパイロットたちを見つめながらそう言った。

 

「やれナチュラルだ。やれコーディネーターだ。そう言って俺たちは、互いに何百、何千、何万と殺し合ってきた。きっとそれは、愚かな行為だったんだろう」

 

過去の大戦でも、それが戦争を泥沼化させる一因としてあった。そして、その問題は戦争が終わったからと言ってすぐに無くなるものでもない。現に、プラントに住むコーディネーターと、地球に住むナチュラルの間にある格差や、差別意識が消え去ったわけでもないのだ。

 

「だが、それを抜きにしても俺たち人が生きていく先が危機的状況に瀕していると言うことだけは、みんな理解しなければダメだ」

 

シンが言うように、ユニウスセブンが地球に落ちれば、環境に大きな影響が及ぶ。そして、食料事情の半分以上を地球に頼っているプラント政府にも、確実に影響は及ぶ。首をゆっくりと締め上げるように現れる問題は、やがて人類滅亡の最終戦争に発展することもあり得るのだ。

 

「…今は力を合わせてユニウスセブン をなんとかしなければならない。俺たちが足並みを揃えなければ、その先にあるのは果てない闇と滅びだ」

 

そう言って、ラリーはミネルバのパイロットや作業員たちへ頭を下げた。

 

「頼む、人の未来のため、今は力を合わせることに協力してほしい」

 

心からの言葉だった。今は、何はどうであれ、地球滅亡の危機を脱する必要があるのだ。頭を下げたラリーは、呆然とするシンを連れてキラたちの元へと戻ってゆく。

 

「俺、あの人のこともっと怖い人だと思ってた」

 

ラリーの後ろ姿を見つめながら呟くヴィーノの言葉に、ヨウランも頷く。

 

「流星、か」

 

かつて、ザフト最大の脅威と呼ばれたネメシスも、また人であるのだとハイネは理解する。だが、その後ろ姿を見つめるレイの表情は暗く陰っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第22話 暗黒より来る者たちへ

 

 

 

 

「さてと…とんでもない事態となりましたねぇ」

 

暗い部屋の中で、その男は大袈裟なまでに身振りと手振りをし、幾十のモニターに映る老人たちに、事の重大さを思い知らせるように語りかけた。

 

ロード・ジブリール。人は彼をそう呼んだ。

 

アズラエル財団が権力を持ち、従来のブルーコスモスの傀儡となった下級貴族や支援者を取りまとめ、急速に力を失っていた大西洋連邦と、ブルーコスモスの体勢を立て直し、以前の勢力にまで回復させていたのだ。

 

《まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオということか》

 

《書いた者がいるのかね?ジブリール殿》

 

「それはファントムペインに調査を命じています。時間的にも、そろそろ落下軌道に合流できるかと」

 

ブルーコスモスの幹部と、もうひとつの顔。

 

軍需産業複合体ロゴスの構成員の一人でもあるジブリールは、大西洋連邦を含め、ブルーコスモスに賛同する数々の国々とのコネクションも有しており、大統領コープランドとの結びつきもあった。

 

彼がいう「ファントムペイン」も、私設部隊として保有している勢力だ。書面上ではあるが、ネオ・ロアノークの上に立つ人間でもある。

 

地球軍にも強い発言力を持っており、作戦の立案や実行が出来るほどに、その力はアズラエルに追いつくほど強いものとなっていた。

 

《大丈夫なのか?ユニウスセブンの落下はすでに始まっている。そんな役に立つか分からないことを調べに戻ることなど…》

 

《この招集の目的はなんだ、ジブリール。大西洋連邦をはじめとする各国政府が、よもやあれを落とすとも思ってはおらん。だが、我々も一応避難や対策に忙しいのだぞ》

 

ユーラシア西部に邸宅。そこの地下室で他のロゴスメンバーやコープランドと連絡するジブリールは、焦りや緊張感が絶えない各国の重鎮たちを見渡して表情を曇らせた。

 

「正直申し上げて、私も大変ショックを受けましてね。安定軌道に今後100年以上はいるはずのユニウスセブンが落下してくる。まさかそんな、一体何故?まず思ったのはそんなことばかりでしたよ」

 

《前置きはいい。用件を言え、ジブリール》

 

急かすように言うロゴスのメンバーに、ジブリールは下がっていた目尻を凛とすまして、見据える。

 

「前置き?おやおや、わかりませんか?ここが肝心。前置きこそが全てなのですよ」

 

そう言ってジブリールが傍にある端末を操作すると、臨時放送の映像がモニターに映し出された。この招集に集まる誰もが、その映像を見つめている。

 

「今は落下の騒動で混乱状態となっていますが、事態はその先。誰が?なぜ?何のために?その疑問を世界中の誰もが考えることになる」

 

ジブリールはワイングラスを振るいながら言葉を紡ぐ。たしかに今は、あの巨大な残骸がこちらに落ちてくると言う事態に、どの政府も手一杯だ。

 

「だが、我々は政治家。常に世の中の先を見据えなければならない。故に、ですよ」

 

そう言ってモニターを切り替えると、自身の私有部隊であるファントムペインから得られた情報を写し出した。そこには、アーモリーワンで式典の様子や、奪取された新型モビルスーツの映像が写っている。

 

「ザフト軍の新造艦の完成式典。そして今日のユニウスセブンの落下。ファントム・ペインがザフトの建造した新型機を奪取することを知っていたとしても、知らなかったとしても、タイミング的には些か良すぎるものがある」

 

プラントの最高議長であるギルバート・デュランダルと、既に地球各国に警告を発し、回避、対応に自分達も全力を挙げるとメッセージを送ってきていると来たものだ。

 

《たしかに、早い対応だったな。奴等も慌てているように見える》

 

それほどまでに今の宇宙の情勢は乱れていると言う事なのだろうか。ロゴスのメンバーたちが、得られた情報から今回の落下事件の推測を巡らせる中、ジブリールは一人息を吐いて、モニターを見渡した。

 

「ですが、私としては正直そんなことももうどうでもいいんです」

 

そこで最初の言葉が返ってくる。我々は政治家。常に世の中の先を見据えなければならない、と。

 

「重要なのはこの災難の後。何故こんなことに、と嘆く民衆が得る答えこそが、これから先の未来を形作ってゆくのですよ」

 

《ジブリール。貴様はもうそんな先の算段か》

 

「当然でしょう?原因は?異常事態の自然発生か。はたまたザフトのザラ派の過激派か。どちらにしろ、まったくもって愚かであり…そして僥倖」

 

あの落ちてくる塊は、たしかに脅威であり、世界と地球を滅ぼす力を持った〝アルマゲドン〟であるだろう。しかし、破壊は同時に再起と繁栄、という〝ジェネシス〟をもたらす。

 

「あの塊が間もなく地球、我等の頭上に落ちてくることだけは確か。ならば、我々がしなければならないことはただ一つ」

 

あんなものを落とされた地球は、その屈辱は、どうあっても償わさせなければならない。

 

誰に?どうやって?

 

それなら、いい標的があるじゃあないか。

 

あれを宇宙に作ったコーディネーターどもに、罪を償わさせる。あの凄惨たる事件の要因を作った種族を滅ぼさんと、多くのものが武器を手に取るだろう。

 

《だがこれでは被る被害によっては戦争をするだけの体力すら残らんぞ》

 

「だからこそ、今日お集まりいただいたのです」

 

パチンとジブリールが指を鳴らすと、モニターにはすでに手配した要請書や、それにかかる費用、人員、手配をブルーコスモスが請け負うという署名を施したデータが出された。

 

「すでに、大西洋連邦が保有する宇宙軍には、ザフトが正式発表した破砕作業に加わるように手配しています。それに…例の彼らも」

 

《流星か…忌々しい》

 

ナチュラルの中でも〝イレギュラー〟として名高い前大戦の英雄。だが、英雄は戦争だからこそ英雄と呼ばれるのだ。今となってはアズラエルの力を助長させる忌々しい存在だ。何度か、反政府組織をけしかけて、排除をしようとしたが、その全てが失敗している。

 

ロゴスとしても、彼らに飲まされた煮湯を忘れるわけにはいかない。

 

「ですが、今は心強い味方でもありましょう。皆さまが避難しようが、脱出してもよろしいですが、その先で我々は一気に打って出ます」

 

だが、ジブリールはどこまでも合理的だった。あの巨大な残骸が落ちてくるのは確実。それを小さくしようが、起動をずらして止めようが、地球に降りかかる厄災は止めることはできない。

 

ジブリールは胸の前に手を置き、ロゴスのメンバーへ優雅に頭を下げた。

 

「例のプランの発動を。そのことだけは皆様にも御承知おき頂きたく」

 

そのプランに、全員の顔つきが変わる。どちらにしろ、あれを実行させる上に当たって、何かしろの事件は必要だった。規模は大きいが、絶好の機会ともいえる。

 

《強気だな。だが、たしかにコーディネーター憎しでかえって力が湧きますな、民衆は。残っていれば》

 

《その残りを纏めるんでしょ?憎しみという名の愛で。青き清浄なる世界のため、とやらにね》

 

《皆、プランに異存はないようじゃの、ジブリール》

 

「ありがとうございます」

 

そう言ってジブリールは下げていた頭を上げてにこやかに微笑む。

 

《では次は事態の後じゃな。君はそれまでに詳細な具体案を》

 

ワイングラスを掲げて答えると、ロゴスのメンバーは満足したようで、次々とモニターをオフラインにしてゆく。

 

最後の一人が居なくなるまで、ジブリールはにこやかな顔を演じ切ると、グラスを下ろしてうんざりした様子で息を吐いた。

 

「…バカな老人どもだ。こうもうまく話を進められるとはな」

 

手に収まるグラスを見る。そこには真っ赤な赤ワインが注がれており、鏡面のようにジブリールの顔を映し出していた。彼はそれを傾けて、鋼鉄の床へとワインを垂らし、落としてゆく。

 

「ついに始まるぞ、ムルタ・アズラエル。裏切り者のお前にはなし得なかったことを」

 

最後の一滴を落としたジブリールは、床に広がった赤ワインの水たまりを見下ろして、先ほどとは違う笑みを浮かべる。

 

過去の歴史の中、世界を戦乱に巻き込んだ第一次大戦は「戦争は政治によってコントロールできる」と思い込んだバカどもが初め、手をつけられなくなった大規模な闘争であった。

 

では、第二次世界大戦は?不可抗力で生まれた人類史上初の総力戦とは違う。欲、経済、文明、文化、主義が入り乱れた戦争。そこから連綿と続く戦争の歴史。

 

では、宇宙と地球で起こった戦争の次に起こる戦争とは、何か?

 

「ジブリール様、例のプランは」

 

部屋から出たジブリールを迎えた部下の言葉に、彼は抑揚の良い声で答える。

 

「合意は取ったよ。次の段階へ行こう…〝リンクス〟の準備は?」

 

「はっ!整っております」

 

「ファーストロットは汎用性を求めたが…いやいや、たしかに…あの男の言うことも的を射ていると言えるか」

 

「ナンバーはいかがしますか?」

 

ステラたちに求めた「汎用性」とは違う。流星たちと同じように「一つの個」として特化させることにより生まれる〝化物〟を、ジブリールは解き放つことを決意した。

 

「ここは、オッツダルヴァに出てもらう。華麗なるネクストのお披露目と行こう」

 

これが、大いなる戦争の幕開けになると自覚しながら、ジブリールは地獄の窯を開けたのだった。

 

 

 

 

 



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第23話 ノーサイドスクワッド

 

 

 

 

《地球軍第八艦隊所属、アガメノムン級戦艦「ケストレルII」の艦長、トーリャ・アリスタルフ少佐だ。プラント政府からの「ユニウスセブン破砕作戦」の要請を受けて合流する。貴艦への戦闘の意思はない》

 

落下するユニウスセブンへ向かう航路の中で、白旗と同意の攻撃意思のない信号を発しながら、地球軍の艦隊がミネルバへと近づいてきていた。

 

通信官から艦長へと役目を変えたのは、「トーリャ・アリスタルフ少佐」。元ドレイク級「ロー」と「アークエンジェル」のAWACS通信官を務めた古強者であり、デュエイン・ハルバートン指揮下の第八艦隊の旗艦である「ケストレルⅡ」の艦長に抜擢されたのだ。

 

「こちらザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。貴艦からのコードの承認ができました。助力のほど感謝いたします」

 

《なに、こちらとしても地球の危機だからね。断る理由なんてないさ》

 

敬礼を解いたトーリャはやんわりとした態度を見せて、引き連れてきた艦隊の詳細データをタリアへ送信する。

 

《こちらは自艦のアガメノムン級、そしてネルソン級二隻と、ドレイク級が3隻で構成されている。要望通り、こちらもメテオブレイカーを用意してきた》

 

第八艦隊が保有する三分の一にあたる戦力を引き連れてきたトーリャに、タリアは深い感謝を評した。デュランダルが地球軍に打診した際に、二つ返事で協力を申し出てきたのは第八艦隊だ。彼らは要請された機材や人員を持って、この窮地に駆けつけてくれたのだ。

 

「ご協力のほど、感謝いたします。少佐どの」

 

そう言ってタリアの横から通信へ加わった人物に、トーリャは驚きを隠せなかった。

 

《デュランダル議長!?その船に乗っていられるとは…》

 

「私だけではないのだがね」

 

《——は?》

 

そう言って困ったように微笑むデュランダルと、頭を抱えたくなるタリア。映像通信越しに視線を向けると、彼らの奥にはラクス・クラインと、そして最近彼女とペアを組むことになったミーア・キャンベルが、バルトフェルド同行の元ブリッジへと入ってるのが見えた。

 

こりゃあ…貧乏くじを引いたか。地球軍の帽子を深く被りながら、トーリャは訳ありだとハルバートン提督が困った顔をして言っていたことを思い返すのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

アガメノムン級から出撃したのは、メビウスを改良した機体だった。数機のモビルアーマーと懸架された機体が編隊を組みながら、先行して出撃するラリーたちのメビウスへと追いつく。

 

《こちら、第八艦隊所属、ブラックスワン隊、隊長のカルロス・バーン大尉だ》

 

「久しぶりだな、バーン大尉」

 

ラリーの声に、久しく会った戦友にカルロスは笑みを返す。

 

《流星が合流しているとは聞いていたが…君たちも相変わらず多忙のようだな》

 

ヤキンドゥーエ戦役から、大規模な組織改編があった地球軍は、その力関係を宇宙と地上に二分することとなった。

 

宇宙は従来通り、デュエイン・ハルバートン提督が指揮する第八艦隊が統治し、ユーラシア連邦とオーブ首長国が管轄するアジア地区やヨーロッパ圏。そして、大西洋連邦が管轄するアフリカ、中東、アメリカ大陸と言ったところだ。

 

ブラックスワン隊は、第八艦隊付きの部隊として運用されており、主に宇宙での警戒任務や、ザフト過激派との小競り合いの対処に奔走している。

 

カルロス・バーンは、ヤキンドゥーエ戦役で生き残ったブラックスワン隊の隊長を継続しており、あの時に戦いに加わった多くの兵士も、ブラックスワン隊に在籍していた。

 

《はぁい、トール。元気にしてる?》

 

そう言ってトールのメビウスに語りかけてきたのは、ミューディー・ホルクロフトが駆る機体だ。隣にはシャムス・コーザと、スウェン・カル・バヤンが駆る機体も見える。

 

「スウェンさんたちもお変わりないようで」

 

《最近はコロニーやらステーションやらの護衛ばっかりだったからなぁ。体が鈍っちまうよ》

 

《シャムス。アンタ調子に乗って、ユニウスセブンに落ちるんじゃないわよ?》

 

《わかってるって!ミューディー!》

 

リークの声に応じるシャムスやミューディーたちも、年相応の兵士に成長している。彼らもブラックスワン隊として多くの任務に従事してきたのだろう。ふと、レーダーに新たな反応が加わったことを、三人の長であるスウェンが知らせる。

 

《こちらブラックスワン1。シエラアンタレス隊も合流したな》

 

その言葉通り、ブラックスワン隊の後方から、数機のザフト機を引き連れた青白いザクウォーリアーに乗る旧友がプラントからやってきた。

 

《久々の再会と言っても、ゆっくりはできないようだな、ラリー》

 

シエラアンタレス隊の隊長であるイザーク・ジュールを先頭に、ザフト軍も前列へと加わる。

 

青白いザクの隣には、漆黒のザクと、新緑のザクも並んでいる。両機にはニコル・アマルフィと、ディアッカ・エルスマンが乗り込んでいた。

 

「イザークたちも参加するのか?」

 

《まぁ、ザフト内もごちゃごちゃしていてな。動ける部隊で腕が立つのが俺たちだけだったわけさ》

 

正直に言えば、まだアーモリーワンからの混乱に立ち直っていないのが実情だ。新型機の奪取で揺れ動く内政を維持するために、こちらの事件に避ける人員として、経験豊富なイザークたちが割り振られるのは必然でもあった。

 

《よく言うぜ、ラリーたちが行くなら俺たちが出向くのも道理とか言ってたくせに》

 

《うるさいぞ、ディアッカ》

 

《相変わらず素直じゃないんですから》

 

通信回線越しに言い合いをする旧友たちに、シャムスやミューディー、カルロスたちも懐かしげに笑う。ここにいる全員が集まったのは、オーブで行われたフレイとサイの結婚式以来だ。

 

「久々だな、こんなやりとりも」

 

ラリーの言葉に、全員が同意すると地球の輪郭から太陽が姿を見せた。太陽光に照らされて遠目からでもユニウスセブンの姿がはっきりと見える。今から自分たちが向かう目的は、目と鼻の先だった。

 

《しかし、これだけ距離があるというのに。こうして改めて見ると、デカいな》

 

《当たり前だ。住んでるんだぞ俺達は、同じような場所に》

 

ディアッカのぼやきに、イザークがそう言葉を発する。皮肉ではあるが、自分たちが住んでいる場所を効率よく破壊しなければならないのだ。気分が滅入るのもわかるが…。

 

ディアッカもそれはわかっている様子だった。

 

《それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大事か改めて解ったって話だよ》

 

《メテオブレイカーの投射位置は…ダメだ、予想より遥かに大きい。データはこちらで算出します》

 

予想よりも進行スピードも速い上に、崩れた構造物が変形している場所もある。あらかじめ用意してきたデータシートでは対応できないことを知ると、ニコルはすぐに再計算のソフトを走らせた。

 

《こちら、ケストレルⅡのAWACS「ソリッドアイ」だ。これより君たちをサポートする》

 

通信系を再調整していたケストレルⅡのAWACSが、各機に通信をつなげる。オンラインになった戦術データをリンクさせて、各機のパイロットはブリーフィングとなったこの場で耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各機。よく聞いてくれ。

 

今回は我々地球軍とザフト軍の合同作戦となる。各機の役割とチームワークが重要になってくるミッションだ。失敗は許されないが、君たちにとってはいつものことだな。

 

作戦を説明する。

 

ブラックスワン隊、シエラアンタレス隊、そしてメビウスライダー隊。

 

各部隊は先行して現地へ赴き、バンカーポイントを確保してほしい。磁気嵐が強い上に、ユニウスセブンはすでに落下軌道に乗りつつある。足の速い君たちなら、先行して現地の調査ができるはずだ。

 

それと、所属不明の武装組織の報告もある。今回の事件の原因が何であれ、我々はあらゆる妨害、障害を突破し、ユニウスセブン落下を防がなければならない。

 

よって、今回の任務は二方向からの同時作戦となる。

 

ブラックスワン隊とメビウスライダー隊。君たちにはシエラアンタレス隊が運搬するメテオブレイカーを護衛してほしい。所属不明機から敵対行動があった場合、即時これを撃滅せよ。

 

シエラアンタレス隊は、バンカーポイントの特定と確保にあたってくれ。

 

我々の腕に、地球の命運が掛かっている。諸君の健闘を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「磁気嵐が報告以上にひどいな。落下軌道で破片がどう飛んでくるかわからんぞ!」

 

ユニウスセブン圏内に入ったラリーは、飛散するデブリを避けながら周辺警戒を行っていた。

 

リークとトール、そしてブラックスワン隊も続く中、眼下ではシエラアンタレス隊がユニウスセブンの壁面に到達しようとしている。

 

《たっぷり時間があるわけじゃない。ミネルバも来る。各機、手際よく動けよ!》

 

「了解!」

 

イザークの声が響き、全員が毅然とした声で答える。各機のコミュニケーションと、チームワークが肝になる任務だ。

 

この場にいる誰にも、ナチュラルだとか、コーディネーターという差別も、いがみ合いもない。誰もが地球を危機から救おうと必死だった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「各部隊、メテオブレーカーを持って先行しています」

 

「では、こちらも急ごう」

 

タリアの報告に、デュランダルは頷きながら応じた。すでにプラントからもナスカ級とローラシア級が出撃しており、破砕作業の増援も期待できる状況であった。

 

「要請に応じた大西洋連邦の宇宙艦隊は?」

 

《何をしているのか、まだ何も連絡は受けていないが…だが月から艦を出しても間に合わないな。あとは地表からミサイルで撃破を狙うしかないだろうな》

 

タリアの言葉に困った様子でこた答えるのは先導するトーリャだ。ケストレルⅡが先陣を切る形で進行しているが、要請に応じた大西洋連邦の船がレーダーに映ることもないし、通信範囲からの応答もなかった。

 

「それでは表面を焼くばかりで、さしたる成果は上げられないだろう。ともあれ、地球は我等にとっても母なる大地だ。その未曾有の危機に我々もできるだけのことをせねばならん」

 

ミネルバと到着すれば、レイのインパルスや、ハイネのザクも作業に加わることができるだろう。必要となれば、船の武装を使い、破砕作業を行うこともできる。

 

「この艦の装備ではできることもそう多くはないかもしれないが…各員、全力で事態に当たってくれ」

 

議長からの要請に応じるように、雇われたメビウスライダー隊も発進準備に取り掛かっていた。

 

「メビウスライダー隊も出すぞ!キラとシンも発進シークエンスへ!」

 

インパルスよりも航続距離のあるメビウスストライカーも、シエラアンタレス隊や、メテオブレイカーでの破砕作業をする機体や、飛散したデブリの除去に協力する手筈となっていた。

 

「キラ!」

 

コクピットの中で発進準備を進めるキラに、通信機からアスランが呼びかける。

 

「アスラン、どうしたの?」

 

「キラ…俺も…」

 

そう言って迷いのある目で見つめるアスランに、キラはため息をついて落ち着くようにアスランへ言葉をかけた。

 

「アスランの役目は、カガリを守ることだろう?」

 

「しかし…」

 

「全く…少しは信用してよ。僕だけじゃない。シンや、ラリーさんたちも出る。君はここで、カガリを守ってなきゃ」

 

「キラ…」

 

《発進1分前!》

 

ガゴンと、オーブの輸送船であるヒメラギのコンテナが開く。ミネルバと違い、カガリとアスランを乗せたヒメラギは、キラとシンを射出した後に離脱する予定となっている。昇降するリフターに揺られながら、キラはアスランへ笑みを向けた。

 

「妹を頼むよ、アスラン」

 

「…カガリが聞いたら怒りそうだ」

 

「口喧嘩なら僕の方が上だよ。さぁ、行こう。シン!」

 

「わかりました、キラさん!こっちの準備はOKです!」

 

《カタパルト。リニアレール蓄電率正常、ヤマト機、発進どうぞ!》

 

臨時管制官となったフレイから「気をつけて」とかけられる声に、サムズアップで答えたキラは声高らかに放った。

 

「ライトニング3、キラ・ヤマト、メビウスストライカー、行きます!!」

 

「続いてライトニング4、シン・アスカ、行きます!!」

 

アスランとカガリが見送る中、二機の流星は光を描いて、崩壊してゆくユニウスセブンへと飛翔してゆく。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

《太陽風、速度変わらず。フレアレベルS3。到達まで予測30秒》

 

『急げよ。9号機はどうか?』

 

『はっ!間もなく』

 

《放出粒子到達確認。フレアモーター受動レベルまでカウントダウンスタート》

 

《——5、4、3、2、粒子到達。フレアモーター作動。ユニウスセブン、加速開始しました》

 

ソーラーセイル機。ジェネシスの大元となった加速装置で速度を上げてゆくユニウスセブンを見つめ、幾人のザフトの軍人が歓声を上げる。

 

『さあ行け!我等の墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!』

 

その狂気に取り憑かれた思想は、世界に新たな一面をもたらすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第24話 ブレイク・ザ・ワールド1

 

 

 

「アナトリアの傭兵…あのパイロットか…」

 

地球、アジア大陸最西部「アナトリア半島」。

 

北は黒海、北西はマルマラ海、西はエーゲ海、南西は地中海に面するこの土地は、東と南東が陸続きであり、ジョージア、アルメニア、イラン、イラク、シリアと接する——俗に言う「中東」と呼ばれる地域のひとつだ。

 

旧世紀から数多くの大国がこの地を統治した中で、アナトリア半島は独自の技術力を養い、それを糧に大国であるユーラシア連邦と友好な外交関係を結んでいた。

 

だが、C.E.70年に事態は激変する。

 

第一次連合プラント大戦が勃発。

 

資源的には弱小国家であるアナトリアは、所属するユーラシア連邦から健全たる政府からの限りある資材や資源の分配を受け、人々は糧食を得るための労働に従事する事になった。

 

政府に管理され生活している——と言えば聞こえはいいが、その実情は極めて貧しい生活を強いられており、住んでいると言うより『押し込められている』とも言えなくもない環境であった。

 

中東全体がその体制を強いられる中、アナトリアは小規模な国土の中、開発する最先端技術をユーラシア連邦などに売り込む事で、他の管理下に置かれる国よりも豊かな生活を送っていた…。だが、それも長くは続かなかった。

 

モビルスーツの台頭により、唯一の専門性を失い、深刻な経済危機に陥ったアナトリアが、戦時投入による戦争経済に手を出すことは必然的な結果であった。

 

アナトリアの姫君が救ったパイロット。

 

グリマルディ戦線から生き抜いてきたそのパイロットにあてがわれたのは、ザフトから入手し、実験的に開発された不完全なモビルスーツだった。

 

古い戦士。

 

経済的な利用価値しかない非力なモビルスーツ。

 

その時は、誰もが彼のことをそう見ていた。あの日がくるまで…。

 

 

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

 

「こちらシエラアンタレス5、目標地点に到達」

 

搬送するためにMSを二機も使う巨大な掘削装置メテオブレイカーを運ぶシエラアンタレス隊は、崩壊しつつあるユニウスセブン表層へと到達していた。

 

予定通り、分散したメテオブレイカーを配置し終えたイザークは、それぞれを見渡せる位置で通信をつなげる。

 

「シエラアンタレス1より各機へ。これよりバンカーポイントの調査に入る。メテオブレイカー装備の機体は後方へ」

 

「ニコル、計算はどうだ?」

 

「順調です。あと2分でバンカーポイントは割り出せるかと」

 

イザークの後ろで周辺警戒をするディアッカに、コンソールパネルを軽快に叩きながらニコルが返事をした。作戦としては、的確な位置に必要数のメテオブレイカーを作動させ、基準位置まで掘削後、特殊弾頭の炸薬でユニウスセブンを解体する仕組みだ。

 

メテオブレイカーを配置する位置関係が重要であるこの作戦でニコルが選ばれたのは、過去の経験から臨機応変に配置を算出する知見があったからこそだ。

 

頭上では、横槍が入らないように周囲を巡回するブラックスワン隊と、メビウスライダー隊がいる。順調に進む作業。このままいけばユニウスセブン落下阻止は時間の問題…そう全員が思っていた。

 

「なにッ!?」

 

それは突如として起こった。黒い機体を操るブラックスワン隊の一番機、スウェンの元へ緑色の極光が迫ったのだ。

 

艶やかな軌道でそれを躱すと、両隣にいたシャムスやミューディーたちにも同様の閃光が飛来する。

 

「攻撃…一体どこから!?」

 

「ブラックスワン1!射撃ポイント特定!ブルー35、チャーリー!」

 

カルロスからの通信を受けて、スウェンが視線を走らせた先には、黒とパープルの配色を施されたMS、「ジン・ハイマニューバ」が姿を表していたのだ。

 

《ボギー確認…機体はモビルスーツ!》

 

《ジンだと!?どういうことだ!どこの機体だ!?》

 

《アンノウンです!IFF応答なし!》

 

それは掘削作業を遂行していたシエラアンタレスも察知していた。極光が突き刺される宙域の中で、スウェンが機体を挙動させる。

 

即座にラリーの駆るメビウスも合流し、奇襲する形で現れた所属不明のジンへ迎撃態勢を取る。

 

《ブラックスワン隊、メビウスライダー隊は迎撃に入る!シエラアンタレス隊はメテオブレイカーの準備を!》

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

ユニウスセブンの瓦礫に隠れるように、ミラージュコロイドを展開して息を潜めるガーディ・ルーの艦長であるイアンは、現れたジンの姿に興味を示していた。

 

「ここにザフトのモビルスーツとはどういう事ですかね」

 

「…この騒動は、気紛れな神の手に因るものではないのかもしれないな」

 

隣にいるネオが抑揚のない言葉でそう言うと、腰掛けていたブリッジの座席から体を浮かび上がらせる。

 

「大佐は出られるので?」

 

「スティングたちの機体では無理だ。ただ状況を見たい。記録も録れるだけだけ録っておけよ。何よりクライアントからの依頼だしな」

 

それに、「オッツダルヴァ」が来るからな。すでに打ち出されたロケットは周回軌道に乗っている。こちらに合流するのも時間の問題だろう。

 

敬礼するイアンを一瞥し、ネオも修復が終わった自機へと向かう。ここが天下分け目の時だ。今まで積み上げてきたものを証明する場としても、申し分ない。

 

ネオは通路を進みながらひどく歪んだ笑みを浮かべる。流星が地に落ちる時がきたのだ、と。

 

 

 

 

////

 

 

 

《モビルスーツ発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ。繰り返す、発進3分前。各パイロットは搭乗機にて待機せよ》

 

「粉砕作業の支援ていったってなぁ」

 

「マニュアルは入れておいたので、あとは現地で…ですかね」

 

ミネルバのハンガーの中で準備をするハイネに支援作業に関するマニュアルや手順を説明するヨウランだったが、その言葉には明らかに覇気がない様に思えた。

 

「気にしてるのか?ヨウラン」

 

ハイネの言葉に、ヨウランは驚いた表情をする。こう言ってもなんだが、ラリーから言われたことを気にしていると言うわけではないのだ。ただ、自分の思いが何なのか、ヨウラン自身もよくわかっていないと言った様子だ。

 

「でも、こうもみんなが必死になってるからさ…」

 

《モビルスーツ発進1分前!》

 

「到着後はジュール隊長の指示に従うよう言ってちょうだい」

 

メイリンの放送に合わせて、タリアも各機へ指示を送る。そんな中、ミネルバの管制官は現場の異変をたしかに感じ取っていた。

 

「なに…?これは…!!戦闘と思しき熱分布を検知。モビルスーツです!!発進停止!状況変化!ユニウスセブンにて先行隊がアンノウンと交戦中!」

 

「アンノウン?」

 

議長の言葉に、後ろにいたラクスとミーアが顔を見合わせた。こんなタイミングで敵と交戦となったということは、ユニウスセブンの落下事故は単なる自然災害ではないと言う可能性が高くなってくる。

 

《各機、対モビルスーツ戦闘用に装備を変更して下さい!》

 

さらに悪いことに、通信管はもう一つの反応をキャッチしてしまった。

 

「更にボギーワン確認。グリーン125、デルタ!」

 

「あれが!?ええい、どういうことになってるの!」

 

「分かりません!しかし本艦の任務は破砕作業の支援であることに変わりなし!換装終了次第各機発進を!」

 

たとえここで敵が出てこようとも、ユニウスセブンの破砕作業が優先だ。敵を打ち倒しても、ユニウスセブンが地球に落下してしまったら、相手が死のうが捕らえようが、こちらの敗北になるのだから。

 

《中央カタパルトオンライン。発進区画、減圧シークエンスを開始します。非常要員は待機して下さい。コアスプレイダー全システムオンライン。発進シークエンスを開始します!》

 

「状況が変わりましたね」

 

「とにかく、行くしかないでしょ」

 

通信機越しに困ったように言うレイに、ハイネはそう返した。どんな状況であれ、あれを食い止めることが今の自分たちに与えられた使命なのだ。

 

「レイ・ザ・バレル、コアスプレンダー、発進する!」

 

「まったく!こうも状況が変わるとはな!ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、出るぞ!」

 

ミネルバが発艦した二機は、スラスターの光を引き連れて、崩壊と混乱に包まれつつあるユニウスセブンへと飛び立ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第25話 ブレイク・ザ・ワールド2

 

 

「各機、散開!!」

 

ブラックスワン隊の隊長であるカルロスの言葉に従い、メビウスライダー隊を含めた機体の全てが迎撃のために展開してゆく。

 

《ソリッドアイより全部隊へ!敵勢力はザフト軍の旧世代機だ!機体照合の結果、ジン系の機体が大半を占めている!シエラアンタレス隊、敵勢力はザフト軍ではないのだな!?》

 

「IFFに応答なし!間違いない…こいつらはテロリストだ!」

 

紫と黒の配色が施された高機動型のジンを目にしながら、ディアッカが怒声に似た声で叫んだ。

 

斬艦刃を抜刀した一機が、メテオブレイカーを配置するシエラアンタレス隊に迫ろうとする中、割って入ったラリーのメビウスが迫ろうとするジンをビームランチャーで蹴散らしてゆく。

 

「各機、単独で対応するな!敵はゲリラ戦や奇襲戦を専門にしている!最低でも一小隊で対応するんだ!シエラアンタレス隊に手を出させるなよ!」

 

『地球軍…ナチュラルなどと手を取るコーディネーターの裏切り者どもなどに、我らの思い…やらせるものか!!』

 

まるで呪詛だな!敵パイロットの声を聞きながら、ラリーは操縦桿を絞り、フットペダルを踏み込む。この作戦に参加しているパイロットたちは、メテオブレイカーを操作する工作隊を除いた全員がヤキンドゥーエ戦役を経験した歴戦の猛者たちだ。

 

だというのに、世代遅れのジンに手玉にとられている。放った高出力エネルギー砲を軽やかに躱すジンに、ディアッカは舌を打った。

 

「くッ…どういうやつらだよ一体!ジンでこうまで…」

 

「そんなことは後だ!工作隊は破砕作業を進めろ!これでは奴等の思う壺だ!!」

 

イザークの指示通り、シエラアンタレス隊の工作隊はニコルの指示を受けてバンカーポイントへの設置作業を続けてゆく。それを阻止しようと突撃をするジンの前に、ブラックスワン隊が立ちはだかった。

 

『ナチュラルどもが!!』

 

「この機体の動き…手練れだな!!」

 

「援護するぞ!スウェン!」

 

黒色の戦闘機を駆るスウェンを援護するようにカルロスのダガーがビームライフルを放つが、敵の動きは良い。こちらの放った攻撃にも冷静に対処している。攻める速度も、後退する見切りの良さも腕が立つ証だ。

 

「イザーク!!」

 

「ああ、おそらくザラ派の一派だ…だが、まさかユニウスセブンを落とそうとするとは!!」

 

ブラックスワン隊と共に迎撃するイザークも、相手がプラントの中割れから現れた存在と知って怒りを露わにしていた。最悪のケースだ。コーディネーター至上主義と呼ばれるようになった彼らの行いは、もはや人類にとっての悪意に他ならない。

 

航続距離が長く、戦闘機型の高速域の戦いを展開するスウェンの機体だが、小回りがきく敵のMSとは相性が悪い。スウェンは自機の隣に集まった僚機へ指示を放った。

 

「シャムス、ミューディー!機体を〝パージ〟するぞ」

 

「あいよ!!」

 

「わかってるわ!!」

 

スウェンの指示から素早く三人はコクピットのレバーを引く。すると戦闘機型の機体に施された炸裂ボルトが弾け、機体を形作っていた装甲が瞬時にバラバラに散らばる。

 

その中からは、三機のMSとそれぞれのデュアルアイが爛々と光を迸らせた。

 

『なっ…戦闘機からモビルスーツだと!?』

 

敵を戦闘機型のモビルアーマーだと錯覚していたジンは、現れたスウェンたちの機体を見て目を見開く。

 

「BWS(バック・ウェポン・システム)は良好だな!敵の度肝を抜くによぉ!!」

 

「シャムス!調子にのらない!!」

 

ミューディーの言葉に「わかってるさ」と答えるシャムスは、従来の機体よりも大幅な改造が施されている「ヴェルデ・バスター」の砲火を敵へと向けた。

 

炸裂ボルトによる外装のパージは、前大戦でラリーの乗った「ホワイトグリント」と同じ原理を再現したものだ。

 

ミューディーのデュエルの強化型である「ブルデュエル」。

 

スウェンのストライクの強化型である「ストライクノワール」。

 

そしてシャムスの「ヴェルデバスター」。

 

この三機はヤキンドゥーエ戦役後、クライン派から正式にハルバートン提督指揮下の地球軍へ返納されたものであり、ブラックスワン隊でモビルスーツ適性があったスウェンたちへ再配備されることになったのだ。

 

しかし前対戦時の機体が旧世代機となる中で、破格の性能を誇ったG兵器群が型落ちになるのは必然であったため、モルゲンレーテ社とアズラエル財団にて強化改修が行われた。

 

オーブからはエリカ・シモンズや、ハリー・グリンフィールド、そしてアズラエル財団の技師らも参加した改修にて、三機は圧倒的な性能を引き出されることになったのだ。

 

「各機、MSに切り替えろ!蹴散らしてゆくぞ!」

 

カルロスの機体も炸裂ボルトによって外装が剥がれ、中からはブリッツの強化型である「ネロブリッツ」が姿を表していた。

 

機体の強みであったミラージュコロイドを排除し、機動性と低出力でも戦闘が継続できる稼働時間の向上、そして臨機応変に武装が変更できるマルチハードポイントが増設される改修を受けた機体は、スウェンたちの機体を引き連れてテロリストたちと交戦を繰り広げてゆく。

 

「トール!ジンがそっちに!!」

 

「まかせろ!」

 

ブラックスワン隊が交戦するエリアから離れた場所では、回り込んでメテオブレイカーを破壊しようとするジンの編隊とメビウスライダー隊が火花を散らしあっていった。

 

『その機体のカラーは…貴様、流星か!?』

 

テロリストの主犯格であるサトーは、ヤキンドゥーエ戦役で「凶星〝ネメシス〟」と呼ばれた真っ白なメビウスを見つけた。ザフト軍最大の敵と言われた機体と巡り合うとは!!

 

『散っていった同胞たちの無念、晴らさせて貰う!!』

 

「そうやって過去にしか目を向けることしかできないのか!!お前たちは!!」

 

ビームマシンガンを構えて突撃してくるサトーと交差する。

 

彼は、ユニウスセブンで家族を失った憎しみを原動力にしている男だ。だから今の協和姿勢に納得することができないでいる。納得できないから、彼は武器を取ってその思いを世界に示そうとしたのだ。

 

それが如何に愚かな行為であるかということを自覚しながら…。

 

「ラリーさん!!」

 

「隊長!援護します!!」

 

サトーのジンと高機動戦を展開するラリーの元へ、ストライカーに乗ったキラとシンも合流する。

 

『ええい、貴様らの好きにはさせん!!』

 

「そっちには行かせないよ!」

 

「あんた達の相手は俺たちだ!!」

 

別働隊には、リークとトール。そして正面から来る敵はブラックスワン隊と、イザークたちが相手をしていた。

 

『邪魔をするな!!我らの世界のために!!我らの望むままに!!コーディネーターこそが世界を統べる民なのだ!!ナチュラルなどという存在に惑わされるから!!』

 

「過去に縛られた亡霊が言う台詞か!!」

 

互いに放つ閃光を避けあいながら、サトーとラリーは光を積み重ねてゆく。今は何より工作隊やニコルたちが無事にメテオブレイカーを作動させることだ。ユニウスセブンが落下する限界点まで、残された時間は少ない。

 

緊迫するユニウスセブン。その中でラリーたちのもとに信じがたい情報が飛び込んできた。

 

《ソリッドアイより各機へ通達!ユニウスセブン、更に降下角プラス1.5、加速4%!》

 

速度があがった?この巨大な建造物が?通信を受けたイザークは驚愕の声を上げた。

 

「加速しているのか!?」

 

《おそらく何かしろの仕掛けをしている!メビウスライダー隊は不審物を探索し、発見し次第破壊してくれ!》

 

そう言うと、ケストレルⅡからのデータが受信され、メビウスのコクピットモジュールに新たな機能が展開される。

 

《HUDに戦術データリンクから熱源データを可視化した!メビウスライダー隊は、ユニウスセブンの表面上を飛行して、反応があるエリアを探索してくれ。こちらでは磁気嵐で特定ができない!》

 

ユニウスセブンのどこかに、この巨体を加速させている装置があるはずだ。自分たちの目で見つけて、破壊するしかない。

 

「各機、オーダーは聞こえたな!」

 

カルロスの声に、ブラックスワン隊の面々が答えると陣形を立て直して分断しようとしてくるサトーたちの機体と位置を目まぐるしく変化させてゆく。

 

「露払いは任せろ!」

 

「ラリーさんたちは加速機の捜索を!」

 

すまない、と言葉を発してラリーたちはユニウスセブンの外縁部へ向けてフットレバーを踏み込む。ユニウスセブンが加速している以上、一分一秒でも時間は惜しい。

 

「ニコル!メテオブレイカーは!?」

 

「設置は完了しました!いけます!!」

 

「よし、ならそのまま…」

 

『それでは困るんだよ』

 

その瞬間、設置された一基のメテオブレイカーが閃光によって貫かれた。

 

「メテオブレイカーが!?」

 

「あれは…メビウス!?」

 

加速装置を探しに飛び立ったラリーたちと入れ替わるように現れたのは、邪悪な笑みに歪むネオ・ロアノークのメビウスだった。

 

 

 



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第26話 ブレイク・ザ・ワールド3

 

 

 

ブラックスワン隊。

 

シエラアンタレス隊。

 

地球軍、そしてザフト軍に属する彼らには一つの共通点があった。

 

それはヤキンドゥーエ戦役で勢力の垣根を越えて共に戦った戦友同士であり、そして同時に苛烈なヤキンドゥーエでの決戦を生きて潜り抜けてきた猛者たちだ。

 

イザークが指揮を取るシエラアンタレス隊は、現ザフトの宇宙軍の勢力で飛び抜けて戦闘力が高い部隊であり、カルロスが指揮するブラックスワン隊は、地球圏の宇宙の揉め事を一手に引き受ける力を持つほどだ。

 

そんな二つの部隊が揃うユニウスセブン。

 

《なんてこった、ボギーワンか!?》

 

その岩塊の上で、二つの部隊は〝たった一機〟のモビルアーマーに苦戦を強いられていたのだ。

 

「くっそー!!好き勝手しやがってコイツ!!」

 

シャムスとディアッカが高火力の雨を打ち込むが、現れたネオ・ロアノークのメビウスはひらりと攻撃を躱して周りに浮く岩塊の合間を縫ってゆく。その動きはあまりにも早い。

 

落下軌道上にあるユニウスセブンの磁気嵐と岩塊による重力変動によって、ネオが駆るメビウスを捕らえることは困難を極めた。

 

『動きがやはり速い…あの機体はなんだ!?』

 

「流星と同じような動きだ…!各機、油断するな!」

 

テロリストの駆るジンすらも食い散らすネオのメビウスに、その場にいる全員が戦慄した。特にイザークやカルロスは、その動きをよく知っていたのだ。あの機体の動きは、明らかに自分たちが最も心強いと思える味方と同じものだと、二人はすぐに理解してしまったのだ。

 

艶やかな軌跡を描きながら猛威を奮ってくるたった一機のモビルアーマー。

 

そのコクピットの中で、ネオ・ロアノークは狂気的な笑い声を上げた。

 

『ふふふ…はははは…そうか…これだったのか…俺が求めていた感覚は…!!』

 

ユニウスセブンの落下により訪れる世界の崩壊。地球圏とプラントが前大戦から振り返って積み上げてきた安明と平和が崩れてゆく。それを防ぐためにイザークたちが必死に作業に当たっている様を見て、ネオの狂気に拍車がかかってゆく。

 

「貴様!!地球が滅んでもいいというのか…!!多くの人が死ぬんだぞ!!」

 

降り注ぐビームの閃光を耐え忍びながら、イザークはこちらを容赦なく穿ってくるメビウスを睨みつけて叫んだ。多くの人が、生命が、命の営みを生み出す地球が滅亡するというのに、なぜ、その引き金を躊躇いなく引ける!!

 

 

 

 

『なんで止める?そうなった方が面白いだろうに…!!』

 

 

 

 

イザークやディアッカの機体に、声が走った。シエラアンタレス隊や、ジンを相手取るブラックスワン隊にも同様に。これは広域通信…!?

 

「こいつ…!!」

 

『残念だが…俺には守りたいと思えるものはないんだ。そう…無いんだよ。救いたい命も。守りたいものも…なにもかも…』

 

そんなもの、とうの昔に吹き飛んださ。この世界で初めて守りたいと思えた人も…共に戦った親友も!!すべては好きに振り回した世界だ!!ならば、その逆も然り!!

 

『世界に振り回され続けてきた人生だったが…今は違う。さぁ…跪け。世界よ!!』

 

ネオは慟哭する。笑い声のような悲鳴を上げて、彼はメビウスのフットペダルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

ユニウスセブン外縁を目指したメビウスライダー隊は、新たに表示された探索値を見つめて荒れた瓦礫の側面を飛んでゆく。リークや、トールのメビウスが既に何点かの手がかりを発見しており、ラリーのデータが揃えばユニウスセブンに設置されている加速装置を特定できるはずだ。

 

「よし!エリアは絞れた!加速機は…あそこか!」

 

特定できた場所へメビウスを旋回させるラリー。だが、その進路を妨げるようにビームの一閃が遮ってゆく。

 

『これ以上はやらせん!』

 

ラリーたちのもとに現れたのは、サトーをはじめとしたジン・ハイマニューバの部隊だ。迫る敵に散開するラリーたち。相手は旧世代機だと思っていたが、それは間違いだ。あの機体の皮は確かにジンであるが、中身は全く異なる。見た目で判断すれば、即座に撃ち抜かれてしまうだろう。

 

「メビウスライダー隊!こちらミネルバのヴェステンフルスだ!援護するぞ!」

 

そこへ、ミネルバから発艦したハイネとレイも合流する。最新鋭機のインパルスとザクを相手取り、加速装置上空の宙域は一気に混線状態となった。

 

「ラリーさん!!ちぃ!こいつらまだ!」

 

「シン!援護する!回り込むよ!」

 

「はい!!」

 

シンとキラのストライカーもラリーへ群がるジンの部隊と大立ち回りをする中、サトーは広域通信でメビウスライダー隊や、レイたちに怒声を上げる。

 

『我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!』

 

「そう言って貴方たちは…!!」

 

「そんなに戦争がしたいのかよ!!」

 

トールとリークがエレメントを組んでジンを落とす。仲間が落とされようが、サトーの迸る怒りは収まらず、さらに燃え上がってゆく。

 

『滅さなければならないのだ!ナチュラルなどという野蛮な存在は!!』

 

「そんな邪悪な思いだけで変えられる世界なんて無いんだ!それは前の戦争で証明されたはずだ!!なのに…なんで貴方達はこんなものを落とすのですか!!こんなものを落としたって、憎しみが増えて悲しいだけじゃないか!!」

 

ビームライフルがシンの機体の脇を掠める。シンやミネルバのMSを除く、この場にいる全員がヤキンドゥーエや、歴戦の戦いをくぐり抜けてきた猛者たちだった。

 

『此処で無惨に散った命の嘆き忘れ、討った者等と何故、偽りの世界で笑うか!貴様等は!』

 

「世界がそう進んでゆく姿を、貴方は認められないだけだ!!認められないのはいい!!こんなはずじゃなかったと言って前を見ないのは貴方たちの勝手だ!!けど、辛いからって…悲しいからって!!」

 

「その感情に他人を巻き込むなよ!!アンタたちは!!」

 

『その感情を、吐き出せなければ我々は何のために悲しみを抱いたのだ!!これを落とす権利が我々にはある!!打ってきたのは奴らだ!!』

 

その言葉は、ハイネの機体からミネルバにも届いていた。議長やラクスらと共に戦いの行く末を見ていたアスランの手に、グッと力が篭る。

 

『だが、軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまった!何故気付かぬかッ!我等コーディネーターにとってパトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものと!』

 

言ったな!キラの中にある何かが弾けた。ストライカーを変形させると、鋭く挙動させるキラ。一気にサトーの機体と肉薄し、脇を通り過ぎる瞬間に変形し、引き抜いたビームサーベルでサトーの機体の腕を切り落とした。

 

「それしか見えてないから…貴方たちは!!」

 

『我らの思いを…世界に示さなければ…』

 

ライフルを持った腕を切り落とされたサトーは、反対の腕で斬艦刀を引き抜く。周りにある全員が行動不能に落とされていたことにも気づかず、サトーは感情のままにスロットルを上げて…

 

閃光に身を焼かれた。

 

『選民思想の異端児どもめ。リベルタリア気取りもそこまでだな。貴様らには、この墓標で散るのがふさわしい』

 

サトーのコクピットを貫いた閃光と共に響いた声に、誰もがその方向に目をやった。

 

「なんだ…?あの機体は…」

 

ユニウスセブンの廃墟の上に立つ、歪なシルエットのMS。そのコクピットに座る男は、笑みを浮かべて目を細めた。

 

『お初にお目にかかる。ザフト、連合の諸君。ランク1、ステイシス。君たちにこれを壊されては少々手間でね。このオッツダルヴァが君たちの相手をしよう…!!』

 

 

 

ユニウスセブン落下限界点まで、あと1000。

 

 

 

 

 



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第27話 新たなる脅威と落ちた流星

 

「ユニウスセブン落下限界点まで残り1000ポイントを切りました!!」

 

ケストレルのオペレーターが悲鳴を上げた。予想以上に〝速く〟落ちてゆくユニウスセブンが、阻止限界点へ近づいてゆくのだ。第八艦隊とザフトのミネルバもその様子をつぶさに観測している。

 

「工作隊はどうなっている!」

 

「磁気嵐がひどいため、観測ができません!」

 

ミネルバのブリッジも混乱状態に陥っていた。所属不明機がユニウスセブンを破壊するために出た部隊を襲っているのだ。あれほどの質量が落下すれば地球もただでは済まないというのに、一体何を考え攻撃など!

 

そう激昂する議長の横にいたカガリは、自身の護衛であるアスランが無重力の中へ浮かび上がったことに気がついた。

 

「アスラン…?」

 

浮かび上がったアスランは座席に手をかけてデュランダルの元へと向かってゆき、頭を下げた。

 

「議長!勝手な申し出なのは分かっています…ですが、俺に…MSを預けて出撃させてもらえないでしょうか!」

 

シン、とアスランの言葉でブリッジが静まり返った中で、最初に声を上げたのは副官のアーサーであった。

 

「ええっ!?ユニウスセブンに向かう!?無茶だ!間に合ったとしても、もう限界点ギリギリだ!」

 

「このまま手をこまねいていれば、世界は…地球が無くなってしまう!」

 

「アスラン君…」

 

「議長。私からもお願いいたします」

 

アスランの申し出を後押ししたのは、ユニウスセブンの惨状と今の状況に震えて怯えるミーアの隣にいたラクスだった。

 

彼女もまた、手をこまねいて見ているつもりはない。ユニウスセブンで戦闘が起こっている以上、今必要なのは破砕作業を護衛できる兵士の力だ。

 

「クライン殿…まったく、聞き分けのない若者たちだな」

 

そうぼやくデュランダルは、タリアの方を見て頷く。タリアは頼むと言葉を紡ぐデュランダルを一瞥してからため息を付くと、オペレーターであるメイリンへ指示を送った。

 

「ハンガーに伝えて!格納中のザクに発進準備を!」

 

「艦長ぉ!」

 

「迷ってる暇はないわ!ただ、覚悟しておきなさい。貴方がユニウスセブンに到着した時…あそこは地獄と化しているわよ」

 

タリアの忠告にアスランは頷くと、議長とラクスたちに敬礼を打ってからブリッジを後にする。閉じてゆく扉の向こうでは、残されたカガリが不安げに瞳を揺らめかせていた。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

《見せてもらおうか、ヤキンドゥーエ戦役の英雄の力とやらを!》

 

オッツダルヴァ!?

 

ラリーの思考は驚愕に染まった。操縦桿を引き絞りながら、放たれるライフルの雨を潜り抜ける。

 

あの奇怪な形をしたMS、そしてオッツダルヴァと名乗った敵。嫌な感覚が全身を支配する中、放たれるビームを躱したラリーは、ひらりと機体を翻してオッツダルヴァと名乗った男が駆る機体を穿つ。

 

だが、放った攻撃は届くことなく、オッツダルヴァの機体は大きな光を発するとまるで瞬間移動するように真横へとズレた。

 

クイックブースト…だと!?

 

「ラリー!」

 

明らかに異質な敵を目にした二番機であるリークが、警戒心を最高レベルに上げてラリーの隣に付く。あの独特な流線形状の機体と、人体から逸脱したフォルムは、間違いなく〝ステイシス〟だった。

 

掠れていた過去の記憶が鮮明に甦る。あの動き、あの機体をラリーは知っている。だが、あれは〝存在しないはず〟の機体だ。〝あってはならない〟機体だ。

 

なぜ、〝アーマードコア・ネクスト〟が、〝この世界〟に存在している!!

 

「ちぃい!こいつの相手は俺がする!各機は加速装置を破壊しろ!」

 

ラリーの意表を突いた攻撃がことごとく躱されてゆく。それが普通のMSならリークやキラは焦りはしなかった。だが、相手取る敵は明らかに常識を逸している動きと形をしている。

 

「何なんだよ…あの機体は!」

 

「あれは本当に…MSなのか?」

 

ラリーとステイシスの攻防を目の当たりにするハイネとレイも、その異様さに戦慄していた。

 

あんな動きで人が乗り込む兵器として成り立っているのか…!?あんな、人が乗っていることを考慮していない挙動をする機体が…!!

 

「隊長!」

 

「待つんだ!シン!」

 

苦戦を強いられるラリーへ駆けつけようとするシンを、リークが強い語気で呼び止める。キラやトールが異質な敵の存在に言葉を失っている中、リークは冷静に状況を判断していた。

 

「聞こえてるよね、皆。僕らは加速装置を破壊する!」

 

「ベルモンドさん!」

 

「これは命令だ!あの交差に飛び込めば、逆に僕らがラリーの足を引っ張ることになる。大丈夫、ラリーを信じて僕たちは先に行くよ!」

 

その言葉と共にユニウスセブンの地表へと降りてゆくリーク。キラやトール、ミネルバのハイネとレイも、ラリーたちの死闘を頭上に地表へと降りた。

 

《ふっ、どんな化け物かと思えば…存外、貴様も人間なのだな》

 

悠然と構えるオッツダルヴァは、眼下で細かな挙動で攻撃を交わすラリーの機体を見つめながら呟いた。

 

「知ったような口を!」

 

フットペダルを踏み込んだ矢先、眼前にロケットランチャーとビームの多重攻撃が飛び込んできた。グッと体に力を入れると、ラリーは機体を大きく旋回させた。閃光と実弾兵器の雨を縫いながら飛ぶラリーは、鋭い息を吐き出してグリップを握り直す。

 

《そら、どうした。あの男なら今の攻撃の合間に打ち返してくるぞ》

 

「くぅう…!」

 

あれほどの攻撃をしながら、オッツダルヴァの動きはまだ余裕があった。機体ポテンシャルが既存のMSを圧倒的に凌駕しているステイシスは、まるで瞬間移動のようなクイックブーストを使用してラリーのメビウスへ簡単に肉薄してくる。

 

《やはり、貴様と奴は別だな…同じ性質を持った存在とはいえ》

 

「奴…?ネオ・ロアノークのことか!」

 

《違うな。奴の名はそんなものではない》

 

ユニウスセブンの瓦礫を盾に動き回るラリーの機体へ、オッツダルヴァはゆっくりと近づいてゆく。漆黒に鈍い光を放つライフルをラリーの首元へ向けながら…。

 

《奴の名は…アナトリアの傭兵…かつてアナトリア半島で伝説的な戦いを繰り広げたパイロット、らしいぞ?》

 

「アナトリアの…傭兵!?」

 

《そら、手がお留守だ!》

 

バララッと放たれた弾丸は、鋭い挙動をしていたラリーの機体を捉えた。真っ白なボディにいくつもの弾痕が刻まれると、真っ黒な煙を上げ始めた。

 

「くっ…メインエンジンが…!?」

 

出力が上がらず、いつもは鋭く反応するスロットルが無反応になる。ラリーの機体は翼をもがれ、そのままユニウスセブンの地表へと落ちていくのだった。

 

 

 

 



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第28話 終わる時の中で

 

 

 

 

 

「イザーク!」

 

「このぉおおお!」

 

イザークとディアッカが挟み込むようにネオのメビウスを追い込むが、張り巡らせた包囲網をネオの機体はするりと猫のようなしなやかさで躱し、二人を容易く出し抜く。

 

『MSの特性に頼りきるから…そこだ!』

 

その二人を抜き去って放った一閃は、ディアッカの駆る高出力のエネルギー砲を構えるシエラザクを捉えて、ウィザードパックと砲身を根こそぎ破壊した。次いで発射されたミサイルは防御姿勢を整えていないディアッカ機の頭部を捉え、黒煙を上げさせてゆく。

 

「ぐぅう…くそ!なんだよ!こいつは!」

 

半壊させられた僚機を見つめながら、イザークは包囲網を抜けてメテオブレイカーへと近づいて行くネオに銃口を構えたまま叫ぶ。だが、その鋭い一撃も、まるで背中に目でもついているかのような反応速度でネオはひらりと避けた。

 

『全部は落とすなと言われているが…作戦にミスは付き物だよなぁ!』

 

狂気的な笑みを浮かべたまま引いた引き金は、眼前に設置されていたメテオブレイカーの中枢部を極光で貫く。護衛していたザクも追い抜くネオのメビウスの背後では、メテオブレイカーが派手に爆煙を吹き上げた。

 

「メテオブレイカー、二番機大破!隊長!」

 

「くっそー!これ以上はやらせてなるものか!」

 

『あーはっはっはっ!足掻け足掻け!貴様らが守る背後にある、あのどす黒い塊を知らないまま、死んでゆけ!』

 

こいつは…本気で世界を滅ぼすつもりなのか!?その場にいる誰もが、驚異的な力量を待つネオのメビウスに恐怖すると同時に、そこまでの恨みを持つ個と言う存在に戦慄する。

 

笑みを浮かべながら、大多数の人の命を軽んじる敵の正体は狂気的な殺戮者の他ない。

 

「メテオブレイカー三番機に敵機!」

 

「止めろ!これ以上やられればユニウスセブンが破壊できなくなるぞ!」

 

メテオブレイカーの威力はユニウスセブンを破砕する力を有しているが、それはあくまで理論的なものだ。現に、プラントが下したメテオブレイカーの機数も安全マージンを考慮した機体数だ。

 

数を減らされれば破砕する力バランスも崩れてくる。そうなれば、大気圏で燃え尽きるサイズに砕くことは不可能になる。

 

それを承知の上で、ネオはメテオブレイカーに襲い掛かった。立ち塞がるように機体を滑り込ましたスウェンのストライクノワールが、腕部からワイヤーを放ちメビウスの行手を遮る。

 

だが、そのワイヤーの普遍的な動きをネオはまるで舞うかのような鮮やかな軌跡で避けて、驚愕するスウェンに無反動砲を打ち込んだ。

 

「くぅう!」

 

「スウェン!」

 

『邪魔をするなら退がっていろ!』

 

衝撃で吹き飛ぶスウェンを援護するように、シャムスとミューディーのMSが前に出るが、手練れである二人すら凌駕する技量を持って、ネオは包囲網を突破してゆく。

 

「シャムス!ミューディー!」

 

同じく吹き飛ばされた二人を受け止めるスウェンの背後では、ガラ空きになったメテオブレイカーへネオが銃口を向けた。

 

『世界が変わるんだ…なら、派手にやらないとな。さて、審判の時だ!』

 

躊躇いなく放たれた光の極光がユニウスセブンを走る。イザークたちが顔を真っ青にする中、無防備なメテオブレイカーの前へ一機の影が猛スピードで滑り込んだ。

 

「やらせん!うおおおおーー!!」

 

鈍い音が響く。ネロブリッツを滑り込ませたカルロスへ、ネオの放った一閃が直撃した。

 

「隊長…!?」

 

それはスウェンたちの目の前で起こった。コクピット側の腹部を貫かれたカルロスは、体の半身を高熱のビームに焼かれ、コクピットモジュールはズタズタになってしまっていた。

 

「がふっ…貴様は…何も知らないのだな…この世界の美しさを」

 

広域通信でカルロスは自分を見下ろすネオに言葉を投げた。たしかに、ヤキンドゥーエで起こった凄惨な戦いは、人類が始めた。

 

だからこそ、神でもない、自らの手で終わらせたのだ。

 

「憎んでいたはずの敵と手を取り合って.…そんなことはあり得ないと唾棄したことが現実になって…あの戦いを止めたんだ」

 

カルロスはひび割れたヘルメットの中に血を吐き出しながら、憎悪に塗れたネオのメビウスに手を差し伸ばした。

 

「ガルーダ隊も、アンタレス隊も…多くの戦友たちが守った星を…お前たちの好きにはさせない。お前は…見えていないんだ…世界はこんなにも——」

 

腹部に滾っていた熱が引火し、ブラックスワン隊を率いていたカルロス・バーンの機体は火の玉に包まれ、ユニウスセブンの果てへと流れていった。

 

「カルロォォス!!」

 

「隊長ぉおお!!」

 

イザークとスウェンの慟哭が響く中、ネオは狂気的な面持ちから何も感じられない表情へと豹変して、すでに聞こえないであろうカルロスへ声を返す。

 

『——美しさなんて、とうの昔に忘れたさ。俺は…』

 

《大佐!阻止限界点が間もなくです!帰還してください!》

 

『ランク1も頃合いか。データは取れた。あとは神に身を委ねるとするさ』

 

ガーディ・ルーのイアンから通信を受けたネオは、「大佐」の仮面を被ると先程までの狂気度を完全に隠してユニウスセブンから離脱してゆく。この件にザフトのテロリストが絡んでいた、その情報だけ手に入ればこちらとしては充分な収穫だった。

 

《スウェン!お前が隊長をやれ!》

 

静寂に包まれる現場では、ケストレルⅡからの通信を受けるスウェンの姿があった。歯を食いしばって耐えるスウェンは、わかっていながらも理解できていない現実を確認するように、AWACSのソリッドアイへ問い直した。

 

「…くっ…バーン機は」

 

《爆発した。彼は…戦死した》

 

そのはっきりとした言葉に、シャムスは無言のままコンソールへ拳を叩きつけた。ミューディーも聞こえないように涙を流している。彼もまた、スウェンたちにとっては恩人だったのだ。

 

人として見られず、兵器として教育された自分たちに兵士としての信念と人としての尊厳を取り戻させてくれたのは紛れもなくカルロスだった。

 

《スウェン、君がブラックスワンを率いるんだ。できるな?》

 

悲しみを押し殺したソリッドアイのオペレーターの声を聞いてから、スウェンはしばらくじっと声を黙らせてからうなずく。

 

「…了解した」

 

「メテオブレイカー、全機始動!ユニウスセブンの外殻が割れます!」

 

無事に起動したメテオブレイカーの動作を確認したニコル。割れてゆくユニウスセブンから、ブラックスワン隊とシエラアンタレス隊は離脱してゆくのだった。

 

 

////

 

 

 

「加速装置を破壊!ラリーは!?」

 

メビウスライダー隊も、特定したソーラーセイル加速器を無事に破壊していた。だが、速度に乗ったユニウスセブンを止める術はない。

 

割れ始めた外殻から離脱しながら、リークは一人残ったラリーの安否をソリッドアイへ確認する。

 

《ソリッドアイよりメビウスライダー隊へ!メビウス1の信号が途絶!》

 

信じられない言葉が帰ってきた。リークが「え…」と、言葉を失う。あれほどの強さを持つラリーが?信じがたい事実に全員が驚愕した。

 

「ラリーさんが…!?」

 

「そんな…」

 

そんな中、レーダーはいち早く敵の反応を捉えた。即座に意識を切り替えたリークが、呆然とする各機へ通信をつなげた。

 

「メビウス2より各機!敵機がくる!」

 

すると、頭上からビームの光が降ってきた。ハイネやレイも回避軌道に入る中、一人沈黙を守っていたシンが、頭上に現れた異形の機体を視界に捉えていた。

 

《ほう、まだ残っていたのか。殊勝なことだ》

 

「オッツダルヴァァアアアッ!!!!!!」

 

誰の指示もなく、シンはスロットルを全開にすると悠然と現れたステイシスへ、メビウス・ストライカーを突貫させる。

 

「シン!?」

 

隣にいたキラが、普段では考えられない怒りに溢れたシンの動きを見て驚いた声を上げる。誰もの静止を聞かずに、シンは脚部に備わるミサイルを佇んでいるステイシスへと放った。

 

「ラリーさんをどうした!!」

 

クイックブーストでミサイル群をいなすステイシスを見て、ならばとシンは機体をMS形態へと変形させるとミサイル群に混ざって回避に専念するステイシスへ体当たりをぶち当ててゆく。

 

《こいつ、落下しているユニウスセブンでよくやる…!》

 

「答えろ!!ラリーさんは…!!」

 

《流星なら俺が落としたさ。あんな時代遅れの存在、このユニウスセブンと地に落ちてゆく末路が相応しい》

 

接触回線で聞こえた侮蔑や哀れみに満ちた声を聞いて——シンの怒りは限界を超えた。

 

「この…野郎!!」

 

自分の中で割れかけていたSEEDが遂に弾けた。シンは瞳から光を無くすと、腰に備わるビームサーベルを引き抜き、接触したままステイシスへ振りかざした。

 

咄嗟にステイシスがクイックブーストで後退しようとしたが、シンはすぐにビームサーベルを投げて、刀身にビームライフルを放つ。

 

「シン!!」

 

「あの動きは…!!」

 

撒き散らされた粒子状のビームは、チャージしていたビームランチャーを食い破り、爆煙を上げさせる。各部に設けられたスラスターにも影響が出ていることに驚愕するオッツダルヴァへ、シンは鬼の形相のままもう一つのビームサーベルを構えて突撃した。

 

「アンタだけは!!」

 

《なんだ、この動きは…!!》

 

「アンタは、ここで落とす!!俺が!!今!!ここでええ!!」

 

崩壊してゆくユニウスセブンの中で、シンとオッツダルヴァの戦いが始まる。磁気嵐と地球圏の引力の影響で遠のく通信では、ソリッドアイのオペレーターが声を荒げていた。

 

《ソリッドアイより全機へ!降下シークエンス、フェイズ2!!繰り返す!降下シークエンス、フェイズ2!!》

 

ユニウスセブン阻止限界点まで——残り300。

 

 

 

 

 



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第29話 スカイフォール・ダウン

 

 

外殻が割れて長年溜まっていたガスが噴き出す地獄絵図と化したユニウスセブンの表層。

 

そこに墜落したメビウスの中で、ラリーはアラームが鳴りっぱなしなコンソールに抵抗することをやめて、投げ出すようにコクピットシートに身を埋めた。

 

「あーくそ、制御機器も全部やられて動けんか…まさか…アーマードコアとはな…俺がこの世界にいることによる変化か…?」

 

まさか、あんな得体の知れない機体が現れるとは…。だが、不思議なことにステイシスの動きは完全に実弾もビーム兵器も避けるような動きをしていた。完全にこちらからの攻撃に警戒する動きだ。

 

件のMSがアーマードコア・ネクストならば、〝プライマルアーマー〟というフェイズシフト装甲が逆さになっても勝てないインチキ兵装があるはずなのに。ラリーが目撃したことがあるプライマルアーマーは、クルーゼのプロヴィデンスと、ネオのメビウスくらいだ。

 

ふと考える。

 

あのステイシスは、『SEEDの世界にある技術で限りなく再現した模倣品』ではないかと。

 

それなら、ステイシスがプライマルアーマーに依存しない戦闘を駆使していた理由にも説明が付く。そもそもの話、あの機体にはコジマ粒子も、プライマルアーマーも無いのだ。現存する最高峰の技術でネクストを再現したMS…。

 

それでも、あれほどの性能だ。並のMSならばスペック差で手も足も出ないだろう。現に、自分がそうなっているのだから。ラリーはアラームが鳴り響くコクピットの中で哀れむように苦悶の表情を浮かべる。

 

「何もできないで死ぬのか…俺は…」

 

いつかは、こうなるという覚悟はあった。だが、これは無いだろう?神様。こんな幕引きがあっていいのか。自分というイレギュラーが、この世界に悪影響をもたらし始めた事実だけを知らされて死んでゆくなんて…。

 

この世界に来てから、何度も恨み、何度も嫌われているのだと自覚していた神だが、まさかこれほどまでとは…ラリーは落ちてゆくユニウスセブンの外壁の上で、そう感傷に浸る。

 

これまでか、と諦めかけたラリーの機体に通信のノイズが走った。

 

《ラリーさん!!》

 

ノイズに混じった声がラリーの耳に届く。顔を上げると、吹き出したガスを掻き分けて、一機の緑色のMSがラリーの元へと現れた。

 

「ザク…?」

 

通信が安定する距離まで来たザクは、高強度を誇るレーザー通信を使ってラリーの機体へ映像通信を繋げる。

 

サブモニターしか動かなくなったそれに写ったのは、アスランの顔だった。

 

《あの時の借りを返しにきましたよ、ラリーさん》

 

呆気に取られるラリーに、笑みを浮かべてそういうアスランに、ラリーはひとしきり笑い声をあげてから顔を上げた。どうやら、神はまだ俺を殺す気はないらしい。

 

「今回ばかりは、タイミングがいいな。アスラン」

 

そう言ったラリーに、アスランは気持ちが良くなるような笑みと、サムズアップを送るのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

光が走る。

 

ユニウスセブンの頭上では、歪な形をしたステイシスと、シンのメビウス・ストライカーが複雑な戦闘機動を繰り出しながら死闘を繰り広げていた。ステイシスが機体中に張り巡らされたブースターで加速する中を、シンは躊躇いなく突っ込み、距離を置かれないように肉薄した。

 

「うおおおおーーっ!!」

 

《くっ、力負けしているだと!?あのような機体に!!》

 

ビームライフルを構える暇すら与えない。高機動、高高速度の中での戦闘を想定して建造されたステイシスには、シンのストライカーのような柔軟な近接戦闘武装が備わっていない。ビームサーベルを引き抜き迫るシンだが、見たこともない加速性を持つステイシスに一閃を当てるのは至難の技だった。

 

「逃すものか!!」

 

だが、シンは諦めない。向こうが圧倒的な加速で逃げるなら、こちらは退路を絶って複雑な戦闘機動で追い詰めるまでだ!距離を置いて放ったステイシスのビームがシンの脇を掠めるが、彼は恐れることなくさらに肉薄してゆく。

 

「シン!戻って!地球圏に引っ張られるぞ!!」

 

「シン!!あのバカ!!」

 

「くそぉおお!!機体が重たい!!」

 

リークたちはもちろん、ミネルバのハイネたちも徐々に地球の引力圏に惹かれつつあった。挙動が鈍くなってゆく重力場の中で、シンの動きは目に見えて速さを保っていた。

 

瓦礫の中で見え隠れするステイシスとストライカーの動き。その垣間の中で、リークには〝ホワイトグリント〟と〝プロヴィデンス・セラフ〟の死闘が一瞬ブレて映ったように見えた。

 

「ミネルバの機体は帰還を!貴方たちまでくる必要はない!」

 

「俺たちだけで戻れるかよ!」

 

リークの打診を断るハイネ。こちらもメビウスライダー隊も命がけでユニウスセブンの落下を阻止しようとしているのだ。まだ充分な破砕ができていない上に、敵がいるという中でメビウスライダー隊を置いて撤退することはできない。

 

そして、後方のケストレルⅡでは驚愕のデータが観測されていた。

 

「ユニウスセブンの一部が地球に落ちる!?」

 

艦長のトーリャ・アリスタルフが席から立ち上がって声を上げた。

 

「メテオブレイカーの威力が分散されたんですよ!岩塊は砕けましたが、砕けた衝撃でブレーキが…!」

 

観測班から上がってきたデータでは、たしかにメテオブレイカーの効力でユニウスセブンの破砕はできたが、その巨大な一部が完全に地球圏の軌道に乗ってしまっていたのだ。二機という想定外の損害を受けた結果かもしれないが、トーリャはズルりと席にもたげて顔を青ざめる。

 

「俺たちが…落下の手伝いをしたのか…」

 

その言葉に、オペレーターはすぐに答えることはできなかった。

 

 

 

////

 

 

 

ステイシスのコクピットの中で、オッツダルヴァは相対する敵のしつこさに舌を巻いていた。こちらの機体は、ネオのメビウスに備わるような防御面のプライマルアーマーは備わっていない。

 

クイックブースト時に、急加速によるGから機体を保護するために局所的なプライマルアーマーを展開できるだけで、防御面にエネルギーを回せるほどの電力が確保できていないのだ。

 

永続的にプライマルアーマーを展開しようとするならば、もっと電力効率がいいバッテリーか、それともNジャマーキャンセラーを使った核エンジンくらいだろう。

 

《くぅ、いくらこの機体とて、大気圏に突入して耐えれるものでは…!!》

 

「落ちろよ!!こいつ!!」

 

高度計を確認するオッツダルヴァに迫るシン。咄嗟にライフルの銃口を構えるステイシスに、シンはアーモリーワンで痛んだストライカーの片腕を突き出し——、放たれた一閃はシンの機体の腕を吹き飛ばす。

 

「シン!!」

 

キラの悲鳴のような声の中、くるくると姿勢を崩したストライカーが赤く染まり出したユニウスセブンのデブリの中へと落ちてゆく。

 

息をついたオッツダルヴァは、次の瞬間に信じられない光景を見た。

 

落ちていったはずのストライカーは、デブリの一つにタイミングよく両足を乗せると、最大出力でステイシスへと迫ったのだ。

 

機体を半身だけ変形させ出力を上げたシンは、意表を突かれたステイシスの片腕をお返しと言わんばかりに切り裂く。

 

《まるで正気を失った鬼だな!貴様は!!》

 

「はぁああーー!!」

 

《間もなくフェイズ3!》

 

ケストレルやミネルバの忠告を聞かずに戦闘を継続するシン。その光景をレーダーで観測していたミネルバは、決断を迫られていた。

 

「砲を撃つにも限界です!艦長ぉ!!」

 

「シエラアンタレス隊と、ブラックスワン隊の離脱を確認!ですが、メビウスライダー隊とハイネ、レイ機が確認できません!特定出来ねば巻き込み兼ねません!」

 

宙域仕様である第八艦隊の船では大気圏の摩擦熱に耐えきれない。落ちてゆく巨大な岩塊を破壊できるのは、宙域にも大気圏内でも運用ができるミネルバだけだ。

 

大気圏突入フェーズに移行しながら、タリアは最後のチャンスをどう判断するか決断を迫られる。そして…。

 

「タンホイザー起動」

 

その言葉に、座席にしがみ付いていたカガリが怒声を上げた。まだあの岩塊のどこかにアスランやキラ、ラリーたちが戦っているというのに!!

 

「グラディス艦長!!」

 

「ユニウスセブン落下阻止は、何があってもやり遂げねばならない任務だわ!照準、右舷前方構造体!」

 

淡々と命令を下すタリアに歯を噛むカガリ。ユニウスセブン表面でも、機体の高度限界を迎えつつあるリークたちが離脱を開始しようとしていた。

 

「くっ!限界か!離脱するぞ!」

 

「シン!!」

 

リークの言葉すら届かない怒りに当てられたシンは、なんとか離脱しようとしているステイシスをモニターに捉えながら重たいスロットルを操る。

 

「逃げるな…!!アンタは…俺の尊敬する人を…!!」

 

ブレるターゲットアイコンに遠くなってゆくステイシスを捉え続けながら、地獄の底のような声を放つシン。ターゲットが赤色に変わった。ゆっくりと重力に引きずられてゆくコクピットの中で、シンは銃口の引き金を——。

 

《シン!!聞け!!》

 

シンの元に、慣れ親しんだ声が届いた。瞬きをすると光を失っていたシンの眼に光が戻る。通信から聞こえてきたのは、間違いなくラリーの声だった。

 

「ラリー…さん?」

 

《アスランに助けてもらった!離脱するぞ!ミネルバへ帰るんだ!》

 

ふと、横を見るとザクと合流したメビウスライダー隊や、ハイネたちの機体が見える。シンはターゲットアイコンに目を戻したが、ステイシスはすでに離脱域まで撤退しているのが見えた。

 

「りょ、了解!!」

 

機体を翻してメビウスライダー隊に合流するシン。ユニウスセブンを離れた隊を、ミネルバも捕捉していた。

 

「メビウスライダー隊、補足しました!」

 

「艦長ぉ!」

 

「タンホイザー照準。右舷前方構造体!」

 

船を操りながら砲口に光が滾ってゆく。眼前には地球を滅さんと落ちてゆく巨大な岩塊が写った。光の極光は頂点に達し、タリアは赤く染まるブリッジの中で叫んだ。

 

「てぇえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続いてのニュースです。

 

落下したユニウスセブンは、その岩塊の殆どが地球軍とザフト軍の協力のもと無力化されましたが、一部が大西洋諸国へ落下。落下した被災地では懸命な救助活動が続けられていますが、被害は甚大です。

 

被災国は国際社会に対し、『ユニウスセブンの落下はプラント側による人災』と指摘し、国際社会へ強く言葉を———。

 

薄暗い部屋の中、多くあるモニターの中の一つに映るニュースを見つめながら、ロード・ジブリールは笑みを浮かべる。

 

「ふふふ…ははは…あっはっはっ!!」

 

その笑い声は、誰もいない彼だけの世界に響いた。そして彼は、真っ暗な瞳をしたままニュースで語られる世界へと言葉を発する。

 

 

 

 

「ついに始まるぞ…我々による〝国家解体戦争〟がな!!」

 

 

 

 

 

 

 

世界は、大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 



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第30話 処女航海からの大気圏突破後

 

 

「迎え角良好。フラットダウン」

 

大気圏を突破したミネルバは、落下したユニウスセブンの破片から距離を取るように南下し、太平洋上へとその巨体を下ろそうとしていた。

 

「推定海面風速入力。着水チェックリスト1番から24番までグリーン。艦長、着水時のエフェクトがシミュレーション値を超えています」

 

「カバーして。警報。総員着水の衝撃に備えよ」

 

メイリンの報告を聞いた上で、艦長は着水を指示する。宙域、大気圏内、そして海上での運用を想定されたミネルバは、惑星強襲揚陸艦として相応しい性能を有している。巨大な可変翼を調整しながら、ミネルバの船体は太平洋へと降り立った。

 

「着水完了。警報を解除。現在全区画浸水は認められないが今後も警戒を要する。ダメージコントロール要員は下部区画へ」

 

処女航海からデブリベルト、そしてユニウスセブンの破壊作戦に加えて大気圏突破、おまけに海に着水ときたものだ。システム上では異常は見られないが、どんな影響が及んでいるかわからない。この1時間程度の時間が、ミネルバの性能を確固たるものにする判断期間でもあった。

 

戦闘状態から通常状態へと戻るブリッジの中、タリアは疲れた様子で帽子を脱ぐと、隣には労わるように肩に手を置くデュランダルの姿があった。

 

 

 

////

 

 

 

モビルスーツハンガーから出てきた整備員や、補給兵たちは、大気圏内でボロボロになったザクやインパルスの整備を行いながら、青空の下に広がる海と、潮風をめいいっぱいその身に受けていた。

 

「…けど地球か」

 

「太平洋って海に降りたんだろ?俺達。うっはは、やっぱ海ってデケーな!」

 

呑気に言うヴィーノに呆れるヨウランはため息をつきながら額を抑えた。

 

「そんな呑気なこと言ってられる場合かよ…」

 

ふと、視線を動かすとメビウスライダー隊の面々もメンテナンスなどでこちら側に出てきているのが見えた。

 

〝今は力を合わせてユニウスセブン をなんとかしなければならない。俺たちが足並みを揃えなければ、その先にあるのは果てない闇と滅びだ〟

 

〝頼む、人の未来のため、今は力を合わせることに協力してほしい〟

 

そう言って自分たちに頭を下げてくれた流星のことをヨウランは思い出す。あの時は、まだ無自覚であったが、この広大な海を見て初めて思う。自分の放った言葉がどれだけ軽率であったかを。

 

「彼らが守った世界…か」

 

そう呟いたヨウランの言葉は、はしゃいでいるヴィーノには届いていなかった。

 

 

 

////

 

 

大気圏ギリギリのところでミネルバのハンガーに飛び込んだメビウスライダー隊と、ミネルバのモビルスーツたち。焼け焦げたザクのコクピットからようやく降りることができたアスランは、ワイヤーウィンチに捕まりながら久々の重力下に足を着いた。

 

「大丈夫か?アスラン」

 

そんな彼をブリッジから出たカガリが出迎えた。なぜ彼女がハンガーに?そんな疑問を抱えながら、アスランは駆け寄ってきたカガリを抱きとめる。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「けど…驚いた。心配したぞ?モビルスーツで出るなんて」

 

「すまなかった、勝手に…気がついたら議長に口を出していたんだ」

 

「いや、そんなことはいいんだ。お前の腕は知ってるし。私はむしろ、アスランが出てくれて良かったと思ってる」

 

そう言ってくれるカガリが、アスランにとって救いだった。あのテロリストたちの通信を聞いて悩んで悩んで…出ることを決断したアスランの行動を認めてくれるカガリが、なんと心の支えになるか。

 

そんなアスランたちのもとに、メビウスから降りてきたリークがやってくる。

 

「…とんでもないことになったが、ミネルバやイザーク達のおかげで被害の規模は格段に小さくなった。ラリーを助けられたのは、アスランくんが出てくれたおかげだよ」

 

「リークさん…」

 

頭を下げたリークに、アスランは困ったような顔をするが、顔を上げた彼の顔は事態の深刻さを物語るかのように暗い影があった。

 

「破片の多くは大西洋諸国へ落下したようだな。加えて、あのユニウスセブンの落下は自然災害じゃない。プラント…そして地球も絡んだ人災だ」

 

「けれど、君たちは最善を尽くしてくれたよ」

 

リークの溢すような言葉に答えたのは、カガリとともにハンガーに降りたデュランダル議長だった。アスランとリークの敬礼を手で制しながら、デュランダルは改めて尽力してくれた二人へ感謝を述べる。

 

「君たちの活躍がなければ、被害はもっと甚大になっていた。少なくとも、我々が降りることができる地上など無くなっているほどにね」

 

「議長、衛星通信の準備ができました」

 

駆け寄ってきた側近の言葉を聞いて、デュランダルは肩をすくめた。

 

「やれやれ、君たちとゆっくり話す時間も無いか。政治家というものは忙しいものだ」

 

側近共に歩んで行くデュランダルに、政治家としてカガリも同行する。また後でと手を振るカガリに笑みを送ると、リークの後ろからキラたちが入れ替わるように合流した。

 

「アスラン」

 

「キラ、トールも…そっちも大変だったみたいだな」

 

「うん。所属不明機にザフトのMSを奪った組織だもんね」

 

アーモリーワンで遭遇した敵は、イザークやカルロスたちの方へと向かったらしい。磁気嵐の影響で、彼らとの通信も満足に取れなかった。無事に離脱してくれればいいのだが…。

 

「しかも首謀者も元ザフトのテロリストだった…いったいどれだけの思惑が交錯してるんだろうなぁ」

 

トールの言葉にアスランも頷く。今回の事件の黒幕。単なるコーディネーター過激派による事件ではない。アーモリーワンのザフト新型機の奪取事件に、腕の立つメビウス乗り。地球もプラントも絡んだ事件だ。

 

「わからないさ。ともかく今は状況を整理するしか——」

 

「いっでぇええ!!」

 

リークの言葉を遮るような大声が響いた。全員が目を向けると、頭を押さえてのたうち回るシンと、般若の形相を浮かべたフレイが仁王立ちで、のたうち回るシンの前に立っているのが見えた。

 

「シン!アンタねぇ!!命令無視をして無茶をしたんですってえぇ!?」

 

カガリがハンガーに降りていた理由は、命令無視をしてステイシスに単身挑んだシンを説教するためだった。すでにカガリのゲンコツを食らってタンコブを作っていたシンの頭に、フレイがさらにゲンコツを下ろしたのだ。

 

某春日部少年のような二段タンコブを頭に乗せながら、シンは青ざめた顔で見下ろすフレイを見上げる。

 

「げぇ!フレイさん!!」

 

「正座!!」

 

「っス!!」

 

隣にいたマードックは気にしない様子でシンのメビウス・ストライカーの点検に戻っており、キラやトールも擁護する間も無く縮み上がっている。リークは困った笑みを浮かべるだけだった。

 

「何か弁明は?!」

 

「返す言葉もございません!!」

 

「おまけにストライカーもボロボロで、片腕も無くなってるもんねえ!!何考えてたの?ねぇ?」

 

「ごめんなさい!!」

 

生意気さなんて見せたら手に持っている特大の工具で何をされるかわかったものではないので、シンは凄まじく綺麗なDOGEZAでフレイに頭を下げた。見栄えもへったくれもない。メビウスライダー隊では整備士からの説教は絶対なのだ。

 

「まったくもうっ!パイロットは命あっての物種!MSは命を守るための手足!命令無視は社内でも厳罰もの!罰として1ヶ月トイレ掃除と点検の手伝い!わかった!?」

 

「はい、謹んでお受けいたします!!」

 

平伏するシンを見るアスランは、別の場所にいるラリーとハリーを見つめる。

 

「で、あっちもあっちか」

 

そう呟いた先では、ラリーが何も言われずとも正座の体制になろうとしていたところだ。

 

「すまない、ハリー。俺の力不足だった」

 

そう言って心底申し訳なさそうに言うラリーに対して、ハリーは手に持った端末から戦闘状況と、破損情報を見つめながら答えた。

 

「うん、あれは…仕方ないよ」

 

あまりにも覇気のない返事に、しばらく正座していたラリーは立ち上がりながらハリーを見つめた。

 

「ハリー?」

 

「え?何?」

 

「正座はいいのか?お説教は?」

 

「今回は無しよ。………何よ、今にも空から槍でも降ってくるんじゃないかって顔して」

 

もしくは天変地異の前触れかと言わんばかりに驚いた表情をするラリーは、端末に目を走らせるハリーの前で指を鳴らしたり、手を叩いたりして彼女が正気かどうか確かめる。

 

そして一発ぶん殴られた。それもグーで。

 

「もともと、ラリーのポテンシャルを充分に発揮するにも、この機体じゃ限界だったのよ。私も平和ボケしてたのね。この機体であしらえるだろうってタカを括っていたところもあるわ」

 

腫れ上がった頬をさすりながら頷くラリー。目の前には、メインエンジンに弾痕が刻まれたラリーの愛機が鎮座している。これはもう飛ぶことは叶わないだろう。漏れたオイルや電子機器が無造作に床に散らばっており、唯一無事なのはコクピットの内部くらいだ。

 

それを見つめながら、ハリーは小さくつぶやく。

 

「オーブに戻ったら、あの計画を進めなきゃ…」

 

「んー、うん?なんだって?」

 

「んーんー、なんでもないわ♪」

 

そう答えて、戦闘後のスクラップを見た後とは考えられない足取りで破損したメビウスから部品採りをしていくハリー。

 

その背中を見つめて、ラリーはどこか一抹の不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第31話 島国への帰還

 

 

レッドアラート!

 

その時、私は空中にいた。

 

戦闘機特有のエンジンが唸る音が響き、地鳴りのような揺れが私の体を揺さぶり続けている。

 

メビウスライダー隊への取材。

 

宇宙へ旅立った彼らを待つ間、私もずいぶんとこの軍隊とは顔馴染みになったものだ。行きつけのバーが被った編隊長が、新人の演出の様子を自機の後席からカメラに収めないかと提案され、私はその座席に今座っている。

 

前席が地上に向けて吠えた。

 

「無茶言うなよ!新米の面倒見てんだぜ?こっちは!」

 

そう言う歴戦の猛者である編隊長が、無茶振りをしてくるオーブの司令室へ怒鳴り返したが、聞く限り、向こう側もかなり混乱状態にあるようだ。

 

《通信司令室よりウォードッグ。不明編隊のコース、サガミ岬を基点に、278から302。フラガ二佐。貴方の隊しか間に合わない。こちらからコールは続ける。現地へ急行し、不明編隊へのコンタクトと、アプローチを——》

 

「…はぁ、わかったよ。オルガ、クロト。新人への授業は一旦終わりだ。後ろに付け!教官のみで侵犯機を出迎える!」

 

そう言うなり、編隊長の動きは先ほどとは比べられないほど機敏になり、水平線の彼方に向かって機体を傾けて加速していく。

 

私の見ていた世界がひっくりかえり——胃が裏返った。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「すまねぇな」

 

そんな場合でも無いだろうに、隊長は私に謝った。

 

目的地とは大きく外れたオノゴロ島南東部のモルゲンレーテ本社所有の滑走路に着陸した私たちは、大きく動き出そうとしていた歴史の邂逅に立ち会うことになった。

 

正体不明の編隊。

 

彼らがザフト軍であったこと。

 

彼らの船が極秘裏に製造された最新鋭の船であるのと。

 

そして、その船にこの国の重鎮であるカガリ・ユラ・アスハが乗っていたこと。

 

その全てに対して、今やオーブの政治界隈も、軍上層部も混乱状態にあった。

 

なにせ彼らは、地球軍に追われていたのだから。

 

逃げようとするザフト軍を挟撃しようと上がってきた地球軍の前に、訓練生たちが居たのはある種の不幸であった。

 

「しかし、あの訓練生の機体。あの機体の反撃は見事でした」

 

混乱の空の中で、見事に地球軍の機体を撃破した訓練生の機体。その機体を、隊長は横目で見ながら呟く。

 

「あんな危なっかしい飛び方…見てられないねぇ」

 

そして隊長は振り向くと、機体から降りてきたその訓練生に向かって声を発した。

 

「ルナマリア!そんな飛び方してたら死ぬぞ!」

 

そう声を上げる隊長に、ヘルメットを脱いだ彼女は興味なさげに空を見上げていた。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

ユニウスセブン落下事件。

 

C.E.73年10月3日に、その事件は起こった。

 

100年単位で安定軌道にあると言われていたユニウスセブンが唐突に安定軌道を外れ、地球に向かって動き出したのだ。

 

現在のプラント評議会に不満を持ち戦争継続を訴えるザフト脱走兵が、地球に住むナチュラルを殲滅するために行った作戦であった。

 

これに気付いたプラントは、地球各国に対して警告を通達。

 

宇宙方面の地球連合軍艦隊にも救援要請を行い、落下軌道に入ったユニウスセブンを破砕するため、ザフトのシエラアンタレス隊とミネルバ。

 

オーブ軍のメビウスライダー隊。

 

そして地球軍の第八艦隊所属のケストレルⅡに所属するブラックスワン隊による合同破砕作戦が行われる。

 

しかし破砕を阻止するためにユニウスセブンに潜んでいたテロリスト達と、謎の所属不明機の妨害を受け、ユニウスセブンの破砕、軌道の変更には成功したものの破片の落下までは防ぎ切れず、大西洋北部地域などで大きな被害を出す事となった。

 

国際緊急事態管理機構は、非常事態宣言を行い同時に地球連合軍及び各国の全軍に、災害出動命令を発令した。

 

暗躍する、ザフト、地球軍の謎の部隊、組織。

 

オーブへ寄港したミネルバを追っていたのも、地球軍と言っていた。

 

私は、船から降りてくる面々の顔を見ることができたが、彼らから感じたのは言いようのない焦燥。

 

時代はまた、大きく動き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

オーブ首長国連邦。オノゴロ島。

 

モルゲンレーテ社の秘密ドッグに入港したミネルバを出迎えたのは、社内にある滑走路から降りてきたアサギとマユラ、ジュリのムラサメ隊の隊員たちと、白衣を着た少女だ。

 

「お兄ちゃーーん!!」

 

モルゲンレーテ社で若干16歳と言う若さでエンジニアとなったマユ・アスカは、ミネルバから降りてきたシンを見つけると駆け足で兄の元へと向かってゆく。

 

自然と手を広げたシン。

 

そんな彼の横を通り抜けると、マユはシンの後ろにいた目当ての男性、ラリーへと飛びつくように抱きついていた。

 

「ラリーさん!みんな!お帰りなさい!!」

 

困ったような顔でマユを支えるラリー。その後ろでは人に向ける目つきではない顔をしたハリーがマユを見つめている。そんなハリーに気付いたのか、マユは勝ち誇った笑みを浮かべてラリーに抱きつく腕の力を強めて、鍛えられた腹筋の感触を服越しに楽しんでいた。

 

「大変だったようですね、アスハ議員」

 

行き場をなくした手を仕舞うシンの前を、アサギたちが通り過ぎると、降りてきていたカガリたちへ声をかけた。

 

「やめてくれ、お前たちにまでそう言われると歯痒い」

 

「お嬢様が立派になったもんよねぇ」

 

「こら、マユラ!言葉には気をつけなさい?仮にもオーブの議員様なんだから」

 

「そうそう、カガリ・ユラ・アスハ議員なんだからね」

 

「さてはお前たち、私を馬鹿にしているな?」

 

眉間にシワを寄せながら顔を歪ませるカガリをからかう三人娘。彼女たちは大戦後にモルゲンレーテ社のテストパイロットととしての職務に復帰しており、前大戦で培った能力でムラサメの基本性能向上に大きく貢献していた。

 

白衣を着てラリーに抱きつくマユは、父と母と同じくエンジニアとしての道を歩み出していた。

 

この歳ですでにムラサメの駆動系の開発を任されており、初仕事はシンが乗るメビウス・ストライカーの脚部駆動系の設計補佐だった。

 

今は〝新型機〟の駆動系の開発に従事している彼女が、なぜエンジニアの道を選んだかと言うと。

 

『だって、ラリーさんが乗る機体の開発に私が携われるなんて…幸せじゃない?』

 

まさに愛の力というべきだろうか。我慢できなくなったハリーと取っ組み合いをし始めたマユを見つめて、ラリーは小さくため息をついた。

 

「プラントからの長旅、ご苦労様です。デュランダル議長」

 

「なかなかの旅となってしまい申し訳なく思います、アスハ代表」

 

そんなメビウスライダー隊とは別の場所で、出迎えてくれたオーブの代表であり、カガリの叔父でもあるホムラ・ナラ・アスハと、デュランダルは握手を交わす。ホムラは申し訳なさそうな顔をしながら言葉を紡いだ。

 

「貴方たちを表立って入港させることが出来なくて申し訳ない。今の地球圏の情勢はユニウスセブンの影響で不安定なものになっております。ザフトの艦に乗る者たちにも便宜は計りますが、今しばらくご辛抱して頂きたく」

 

「こちらが無理な願いをした上に、こうやって船の整備まで受け持ってくれるのですから、ご厚意に感謝の言葉を申し上げるのは我々の方ですよ、アスハ代表」

 

なんの許可も通告もなく、プラントで極秘に建造されていた船が地球に降りたのだ。平時ならまだしも、ユニウスセブン落下で経済的にも情勢的にも張り詰めている状態だ。

 

オーブ近海にたどり着くまでに遭遇した大西洋連邦の地球軍と刃を交えることになったが、すんでの所でオーブに匿ってもらうことができたのが幸いだ。彼らの活躍はオーブ首長国連邦から発信される。そうなれば、妨害を受けることなくプラントへ脱することができるはずだ。

 

「カガリ、長旅で疲れただろう。迎えを用意してあるから先に帰りなさい」

 

ホムラから優しい視線を受けるカガリ。しかし、彼女も議員としての立場がある。ホムラに任せてこの場を去るわけにもいかない。

 

「しかし叔父上…」

 

言葉の前に、ホムラはカガリの肩に手を置いて労った。アーモリーワンでの極秘会談から戦闘に巻き込まれ続きだ。疲労がないはずもない。

 

「よく頑張った。だが休息も大事だぞ?お父上に顔を見せにいってあげなさい」

 

そう言って笑みを浮かべる叔父に、カガリは一礼するとアスランやキラたちと共に秘密ドッグを後にするのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

「よぉー、お疲れさん!どうだった?プラントは」

 

モルゲンレーテ社の門を抜けた先に待っていたのは、オーブ軍服を腕まくりして身につけているムウ・ラ・フラガだった。

 

「散々でしたよ、ムウさん。地球に残ったのが正解だったみたいです」

 

「いや、お前たちが居なかったら地球は今頃めちゃくちゃになってたさ」

 

荷物を受け取りながら話すムウとラリー。詰め込んでから車に乗ろうとしている彼らの前に、オーブ政府の黒塗りの高級車が止まった。

 

「カガリー!」

 

後部座席のドアが開くと、パイロットスーツから政府高官の制服へと着替えたユウナ・ロマ・セイランが早足でカガリの元へと向かってゆく。手を取って彼女が無事であることを確認すると、ユウナはホッと息をついた。

 

「おお、よく無事で。はぁ、ほんとにもう君は心配したよ」

 

「あぁいや…あの…すまなかった」

 

「ユウナ、気持ちは解るが場をわきまえなさい」

 

捲し立てるようにカガリに言うユウナの後ろ。車からゆっくりと降りてきたのは、ユウナの父であり、オーブの宰相という立場となった、ウナト・エマ・セイランが近づいてきていた。

 

「お帰りなさいませカガリお嬢様。ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」

 

色付きのメガネをかけるウナトはカガリに一礼する。オーブ復興に貢献し、宰相の座に就いた彼にカガリは頭を下げた。

 

「大事の時に不在ですまなかった。留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況などどうなっているか?」

 

「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが幸いオーブに直撃はなく、…詳しくは後ほど行政府にて。では」

 

「わかった。議長と叔父上によく言っておいて欲しい」

 

言葉を交わしてモルゲンレーテへ入ってゆくウナトを見送ると、ユウナはカガリの肩を抱いて、後ろにいるアスランこと、アレックスへ笑みを見せた。

 

「あー、君も本当にご苦労だったねぇアレックス。よくカガリを守ってくれた。ありがとう」

 

言うだけ言って、カガリを連れて政府の車へと向かってゆくユウナ。カガリは申し訳なさそうにアスランに視線を送ると、アスランも分かっているように肯いて答えた。

 

「報告書などはあとでいいさ。カガリも休んでくれ。僕も後ほど、ザフトの面々と会わなければならないし」

 

「ああ、頼むよ。ユウナ」

 

バタンと車に二人が乗り込むと、何も言わずに車は政府要人の邸宅が並ぶ場所へと走り去っていった。アスランも大丈夫と言いつつ、顔は少し陰っている。なんでも我慢する気が強いアスランだ。あれを見ていい思いなんてしていないだろうに。

 

その場にいる誰もがカガリを連れて行ったユウナに良い印象を持っていない。

 

「よく言うよ。さっきまでゲェゲェ言ってたのに」

 

そう言いながらムウが乗ってきたバンから降りてきたのは、シンたちがよく知る人物だった。

 

「クロト兄さん!オルガ兄さんも!」

 

助手席と運転席から降りてきたのは、なし崩し的にムウと行動を共にしていたオルガ・S・ベルモンドと、クロト・B・ベルモンドだ。

 

この場には居ないシャニも含めて、大戦後にリークの家に入った二人は、小遣い稼ぎと経験を生かして、オーブ軍の教導に手を貸しているのだった。

 

「長旅で疲れてるだろ?さっさと乗りな」

 

そう言って顎で車に乗るように指すオルガに同意して、残されたラリーたちはバンへと乗り込むのだった。

 

 

 

 



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第32話 投げられた賽

 

 

「プラント最高評議会、議長のギルバート・デュランダルです」

 

「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」

 

「同じく副長のアーサー・トラインであります」

 

ミネルバのドックの近くにある執務室で挨拶を交わしたザフト勢の三人。握手を交わすデュランダルと、敬礼をするタリアたちに、カガリと同じく議員の制服を来たウナトとホムラが改めて礼を打った。

 

「オーブ連合首長国代表、ホムラ・ナラ・アスハです」

 

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランです。この度は議員の帰国に尽力いただたこと、代表とともに感謝の言葉もない」

 

「いえ、我々こそ不測の事態とはいえ議員にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」

 

ユニウスセブン落下の影響で、オノゴロ島の北部と東側、そして住民地区であるヤラフェスや島にも波浪が押し寄せて来た。深刻な災害には至らなかったものの、直撃を受けていた場合、島国であるオーブにとってはひとたまりもないものになっていた。

 

「お心遣い痛み入る。ともあれ、まずはゆっくりと休まれよ。事情は承知しておる。クルーの方々もさぞお疲れであろう」

 

限定的にはなるが、クルーの下船許可の手続きも進めているとホムラが言う。ブルーコスモス盟主であるアズラエルとの強いパイプを持ちつつも、プラントとの関係性も良好さを保っているオーブ。

 

そして被った損失をしっかりと請求する毅然とした国家運営も相まって、アジアや大西洋の各国の顔役としてオーブの権力というものは大きなものになっていた。

 

今のタリアやデュランダルたちは、オーブの恩恵にあやかるしか手立てはない。

 

「ありがとうございます」

 

「まずは議長共々、行政府の方へ。申し訳ありませんが、ご報告せねばならぬ事も多々ございますので」

 

「わかりました」

 

デュランダルを筆頭に、タリアとアーサーもホムラたちについて行く。そんな中、ブリッジから出て行く艦長たちを見つめるメイリンが、不安げに瞳を揺らしていた。

 

「…お姉ちゃん…」

 

父が死んでから、単身地球圏へと向かった姉がいる地。母の悲しみと父の死で変わってしまった姉が今なにをしているのか、メイリンには知る手立てがなかったのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「これがユニウスセブンでラリーを落とした敵のデータよ」

 

民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」の基地内。帰還したラリーたちは、地下にある作戦会議室で、すし詰めになるような形で立ち会議へと興じていた。

 

長いテーブルに出されたのは、ファイル状の映像端末であり、そこにはユニウスセブンでラリーが邂逅した歪なMSのシルエットや、戦闘時のブレた映像が映し出されている。

 

「かなり歪な形状をしていますね。けれど、どこのものかは見当がつきます」

 

最初に意見を出したのは、普段は陰険な仲であるハリーの横に居たマユ・アスカだった。この歳でありながら、マユ自身、技師と個人の棲み分けができており、技師としてはハリーとタッグを組ませれば、建設的で核心的な意見を出す傾向がある。

 

マユが指さした場所も、全員が疑問視していたものを裏付けるものとなっていた。

 

「ここ。この駆動系の特徴は、連合軍系列のものと特徴が一致します。あとここの取り付け形状と、この部分も」

 

駆動部や駆動系に付随するものは、MSのレスポンスを確立する上で重要な要素となる。そしてそれは、機体を作り上げてゆく上でより顕著に出てくるのだ。

 

ザフト系と、地球軍系。それぞれが独自路線で進化を遂げて来たものだ。

 

ダガーならX100系フレームを準拠として量産システムが確立されており、新型機でもそれらの発展型となる。いくら輪郭やシルエットをゲテモノにしようが、駆動部を挿げ替えることは難しい。それこそ、機体そのものを改変するほどに。

 

故にマユが指摘したところは、技術屋から見てもパイロットからみても肯ける意見だった。

 

「となると、相手は地球軍…それも特殊工作部隊か」

 

それか、国というバックアップをもった自分たちのような傭兵集団か。とにもかくにも、名も売れていない暗黒組織に違いはない。

 

「アズラエルさんや、ハルバートン閣下の目の下でそんな部隊を動かせる存在は、ユーラシアやアフリカ圏には存在しない。となると…」

 

「——やはり、大西洋連邦か」

 

アズラエルの私兵としても任務を請け負うリークは、第八艦隊から地球連邦の上層部まで上がったハルバートン閣下の行動理念も深く理解している。彼らの持つネットワークは力強く、地球圏の過激派を抑える抑止力としても機能している以上、表立っての支援や、反発行動がユーラシアやアジア圏で起こることはない。

 

ラリーも、相手取ったネオやオッツダルヴァの言動、その機体の在り方から見て、彼らのバックに大西洋の影があることは感じ取っていた。

 

「けれど、何故大西洋はこんな危険な真似を?ユニウスセブンが落下したのも大西洋諸国でしょ?」

 

「口実が欲しいんだよ。コーディネーターを打ち滅ぼし、青き清浄なる世界のためにって事をするための口実がな」

 

クロトの疑問に、資料を見つめていたオルガが簡潔に答えた。自分たちのような存在を嬉々として生み出すような輩だ。宇宙にいるコーディネーターを滅ぼすことができるなら、地球を滅ぼしても何とも思わないだろう。

 

「けれど、あの機体が大西洋連邦のものだったとしても、オーブやプラントが不利になることは明白ね。何せ、首謀者が旧ザラ派のコーディネーターなんだから」

 

データをまとめるように声を発したのは、マリュー・ラミアスだ。ムウの横に立つ彼女はモルゲンレーテの特別技師として在籍しつつ、トランスヴォランサーズにも籍を置く指揮官の一人だ。

 

ムウとの間に授かった一歳と数ヶ月の子供を抱きながら、こんなキナ臭い話にマリューを巻き込むことをムウは躊躇っていた。

 

だが、ユニウスセブン落下の影響を受けて、マリューが事の真相を知りたいとムウに食い下がったため、嫁に弱いムウが折れたのだ。

 

その背後にはオーブ軍から引っ付いてきたナタル・バジルールや、アーノルド・ノイマン。前大戦のアークエンジェルの主要スタッフのほとんどが顔を揃えて話を聞いている。

 

「打って出ると思いますか?あれほどの大戦からまだ2年。痛手から立ち直っていない国もあるというのに」

 

「逆よ。あの大戦からもう2年なのよ、向こうにとってはね。外交関係での抗議から始まり、そこからどう手を出してくるか。なにせナチュラル主義のカルト集団だからね」

 

トールの声にハリーが返す。唾棄すべき思想であるが故に、その恨み辛みの根源は深い。先の大戦から2年という月日は、ヤキンドゥーエの雪辱を晴らすための準備期間としたら充分すぎるものだ。

 

「複雑な気分だな。世界は前に進み出してるって言うのに」

 

ムウの言う通り、確実に世界は良い方向に進んでいるというのに、個人という少数勢力によって、その行先に費やした努力や労力を根こそぎ奪われてしまうのだ。

 

それに尽力してきた側の人間からしたらたまったものではない。

 

「オーブの内部も、きな臭いことになってきている。ウズミ様が病床に附している間に、不穏な動きをする氏族も多い。ブルーコスモス内は?」

 

オーブ軍からやってきていたのは、ムウたちだけではない。高官へと昇格していたレドニル・キサカも、この極秘的な話し合いに参加していた。キサカの言葉に、ブルーコスモス側の人間としてフレイも答えた。

 

「ジブリール派と、アズラエル派で二分されている状態ですね。けれど、大西洋連邦と強いコネクションを持つジブリール派が、ユニウスセブンの件を公表したら、情勢は変化する可能性が高いです」

 

「破裂だな」

 

キサカの言葉にその場にいる全員が同意する。これまでの均衡が崩れかねない局面に差し掛かろうとしているのだ。下手を打てば、地球圏で再び大きな争いが起きかねない。

 

「止める手立てはないのか?」

 

「かなり厳しいところではあるが、奴らも手を出してくるには手回しが必要だ。俺たちにできることは、それに備えての準備だ」

 

「目下の問題は、ユニウスセブンの新型機。あれが量産されていたら、世界のMS事情はひっくり返るぞ」

 

オルガが言うのは、あのゲテモノMSを扱える〝生体CPU〟が開発されていたときの懸念だ。

 

ラリーとステイシスの戦闘を見るだけでも、常人のパイロットでは安易に踏み込めない戦闘機動をしているのは明白。あんなものが複数量産されていただけでも、各国の被害は甚大なものになるだろう。

 

「マユちゃん。例の試作品は?」

 

「すでに取り付けて調整済みです。インナーフレームも滞りなく」

 

予定表と計画表をすり合わせながら答えるマユに、トランスヴォランサーズの経理と会計を担当していたサイ・アーガイルがおずおずと手を上げた。

 

全員の視線が集まるなか、フレイの無事な帰還を喜ぶ前に、前々から気になっていたことを問いかける。

 

「あのー、ハリーさん?最近、うちの三番倉庫にやけに人の出入りがあるんですが?」

 

「だって作ってるもの。打倒〝ホワイトグリント〟の機体を」

 

「——え?」

 

全員が目を点にする。そんな最中にも、ハリーとマユの目はギラギラと光っていた。あーこれは知っている。ラリーは眉間を揉んで既視感を噛み締めた。

 

これはスーパースピアヘッドを紹介された時と同じ顔だ、と。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

《この未曾有の出来事を、我々プラントもまた沈痛な思いで受け止めております。信じがたいこの各地の惨状に、私もまた言葉もありません。各国に対する被害については、プラント政府としても支援の手を——》

 

「やれやれ、やはりだいぶやられたな。パルテノンが吹っ飛んでしまったわ」

 

複数のユニウスセブン落下によるニュース映像が流れる中、非感そうにギリシャにいる老人がそう呟いたのを、ジブリールは鼻で笑った。

 

「あんな古くさい建物、なくなったところで何も変わりはしませんよ」

 

「あれは人類の遺産だぞ?…で、どうするのだジブリール」

 

老人たちが見るものは、ミネルバ艦内から放送されたギルバート・デュランダルの演説だ。発信源を特定し、近域にいる地球軍を嗾けてみたが、既のところでオーブに逃げ込まれてしまった。

 

《受けた傷は深く、また悲しみは果てないものと思いますが、でもどうか地球の友人達よ、この絶望の今日から立ち上がって下さい。皆さんの想像を絶する苦難を前に我等もまた、援助の手を惜しみません》

 

「デュランダルの動きは早いぞ。奴め、もう甘い言葉を吐きながら、なんだかんだと手を出してきておる」

 

すでに手を打ちつつあるデュランダル。ナチュラル、そして地球圏へ友好的な態度をとりながら、しっかりと自己の立場を織り混ぜるあたり、政治者として余程の手腕があることは見て取れた。

 

だが、それも無駄になる。

 

ジブリールは笑みを浮かべた。

 

「…皆さんのお手元にも、もう届くと思いますが。ファントムペインが、たいそう面白いものを送ってきてくれました」

 

アップロードした映像を見る老人たちの目が変わってゆくのが、手に取るようにわかった。

 

「これは…」

 

「やれやれ結局そういうことか」

 

その映像は、メテオブレイカーを破壊しようとする〝ジン〟が映し出されたものだ。それも綺麗に、ファントムが消え去ったようなプラント内の揉め事を示すような形で。

 

「最高のカードです。これを許せる人間など、この世の何処にも居はしない」

 

そしてそれは、この上なく強き我等の絆となる。

 

今度こそ奴等の全てに死を、です。青き清浄なる世界の為に。

 

「そのために、まずは別れてしまった地球の勢力図を書き直しましょうか。先人たちの尊い犠牲をもってして、ね」

 

そう言ったジブリールの目には、残忍な光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第33話 自重すると言ったな?あれは嘘だ

 

 

「まずはホワイトグリントのデータを下限値として、各部強度の向上と軽量化。マユちゃんとアスカ夫妻の協力のもと、駆動系や動力系を全て最新フォーマットに移行しました」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

ハリーとマユの案内の元、トランスヴォランサーズ所有の大型倉庫の三番目にやってきたラリーたちが、ハリーに放った開口一番がそれだった。

 

「うわぁ…この人PMCでモビルスーツ開発してる…うわぁ…」

 

クロトやオルガがドン引きする中、ラリーたちが見る先には、〝どこにも存在しない〟フレームで構成されたモビルスーツの内部フレームが横たわっている。

 

外装や、防御用の装甲も何もついていないが、基礎骨格を見ただけでも、地球軍でも、ザフトでも、モルゲンレーテ社製でもない見受けられない新基軸のフレームだ。

 

周りにいる白衣を着た科学者や研究者、データをまとめる技師も錚々たるメンツであり、呆然とするシンとラリーを見つけたアスカ夫妻が仲睦まじくこちらに手を振ってきているが、こっちとしてはそれどころじゃない。

 

リークやトールは頭を抱えている。第一声がそれだったためラリーは思わず額に手を添えて項垂れる。

 

しかし、そんなことではハリーは止まらない。端末とスクリーンを併用しながら集まったスタッフやラリーに説明を開始する。

 

「さらに、各部スラスターも増強。アストレイや、ムラサメのコンペから出たデータを元にモーションパラメーターの再設計、センサー類もザフト、連合問わずに良いものを取り付けたわ。見た目は古いけど、中身は本物よ。最大稼働出力は計算上でもキラのフリーダムの2倍は硬いわよ」

 

「ほんとに馬鹿じゃないの?」

 

「ひ、人が乗ることを考慮してるのか?これ…」

 

配られたスペック表を見るだけでも、ハリーたちが作ろうとしているMSの性能が理解できる。

 

これは〝SEEDの技術で作る高高速域対応型MS〟だ。並のモビルスーツとは比較できないスペックも、この前提条件から大きく逸脱したものに起因する。

 

ムウが発したセリフを聞いてフレイとサイが再び白眼を剥いていた。

 

「当然よ。ねぇラリー?」とラリーを見て答えるハリーとマユからラリーは明後日の方向に視線を逸らす。マリューたちは顔をひくつかせた。

 

「外装は知り合いのところで製作中だけど、あのユニウスセブンのゲテモノMSとやり合うんだもの。前のホワイトグリントを軽く捻れる機体にはしないとね」

 

「最近、シモンズ博士が高負荷実験とか深海水圧実験とかしてると思ったら!!思ったら!!」

 

「ほんとにほんとに馬鹿じゃないの?」

 

ジャジャーンと言わんばかりに、ハリーが紹介する数々の開発案件。最近、拗らせていた部分が形を潜めたから、年相応に落ち着いたと思っていたのに!!その瞬間にラリーが膝から崩れ落ちた。どうやら彼女の頭のネジは本格的に吹っ飛んだらしい。

 

「なによぉ、これくらい平気でしょ?」

 

「さも当然のように、なに言ってるのこの人!?モルゲンレーテの共同開発技研費の額を見て目を疑ったわ!!なんだよ、企業資産を上回っている開発費ってのは!!ウチは傭兵業だぞ!?」

 

「怖いよぉ〜ほんとにこの人知らない間に作ってるから怖いよぉ〜」

 

フレイ含めた作業員たちが、ハリーが作り出した化け物に阿鼻叫喚の叫びを思い思いに上げる。その一部始終を見ていたキサカも、いつもの厳格な顔つきが身を潜めて、見たこともない真顔になっていた。

 

「と言うわけで、さっさとデータ取りの実験をするわよ!乗った乗った!」

 

「え!?乗るの!?まだフレームですけど!?」

 

「コクピットに乗れば変わらないわ!はやくする!!」

 

作っちゃったんだから諦めなさい!と、言わんばかりに、ハリーはパンパンと手を叩いて膝から崩れ落ちていたラリーを無理やり起こすと、コードや記録装置が付いた特製のヘルメットを渡してまだフレームしかないMSのコクピットに手を引いて連れてゆく。

 

「ラリーさんも大変だなぁ…」

 

ラリーの顔は死んでいたが、ハリーがここ最近見せてなかった満面の笑みを浮かべているのを見て、キラは心の中で自分の恩師の恋路の行方に手を合わせるのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「あつい」

 

ここはサウナ。

 

湯気が立ち込める木製の部屋の中で、軽音部の練習から合流したシャニ・A・ベルモンドは、タオルを頭に引っ掛けて汗を流しながら呟く。

 

ここはオノゴロ島にある有数の温泉保養施設だ。以前、ラリーたちがオーブに立ち入った時にカガリが貸切で用意した場所であり、このサウナもフィンランド式を取り入れた本格的なものだった。

 

サウナストーンに水がかけられ、部屋に更に蒸気が発生してゆく。熱波に包まれるそこは、裸で腰にタオルを巻いた歴戦の勇者たちの憩いの場だった。

 

「まじかよ…ラリーさんが落とされるほどの機体か」

 

「凄まじい性能だったよ。あの中に人が乗っているとなると、人外的な機能性を持っているな」

 

久々に帰ってきたリークと言葉を交わすオルガたち。アズラエルの個人的な依頼や傭兵家業もあって、リークたちが家にいる期間はかなり変動的だ。

 

故に、トランスヴォランサーズは請け負った仕事に一区切りがついた後は、こうやって保養施設で休息を兼ねたリフレッシュ期間を設けているのだった。

 

「シンも腕をあげたよなぁ、そいつとやりあったんだろ?どうだった?強かったか?」

 

オルガからの問いに、ラリーの隣に座っているシンは少し困ったように頭を掻いた。

 

「あの時は無我夢中で…あんまり」

 

オッツダルヴァのステイシスを見た途端に、意識が遠くなる感覚を味わって、すぐに全てがクリアになった感覚は覚えている。自分が何をしようとしているのかを正確に理解して、その通りに体が動いてくれているような感覚だ。

 

自分という個が鮮明になるが故に、リークやキラの声が届かなかった部分もある。あの戦いはシンにとっては苦い経験となっていたのだ。

 

「次やったらどうなるか…」

 

「はい!次はないです!!」

 

笑顔でそういうリークに、シンは間髪入れずに声を上げた。笑顔でそう言ったことを言うリークもまた、色々と思うところがあるようだ。そうなったリークは普段は生意気な口を聞くオルガたちすら敬語になる程おっかないのだ。

 

わかっていればいいよといつもの口調に戻るリークに、シンを含めオルガたちも胸を撫で下ろす。

 

「けど、アスランはいいのか?カガリとあのお坊ちゃんのこと」

 

トールが思い出すのは、あのいけ好かない笑みを浮かべたユウナ・ロマ・セイランのこと。モルゲンレーテ社の去り際にも、カガリの肩に無粋に手を置いて、父の事情で本名を名乗れないアスランに、あからさまな眼差しを送っていた男だ。

 

あんなやつにカガリとの関係をもたれることを、ここにいる誰もが是としない。不満げなトールの声に、当の本人であるアスランは…。

 

「…アスラン?」

 

上の空のアスランの横顔を、キラは見つめた。その顔はいつか見たことがあるものだった。アスランがヤキンドゥーエ戦の前に見せた、父への思いを燻らせている顔だ。

 

〝何故気付かぬかッ!我等コーディネーターにとって、パトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものと!〟

 

脳裏に響く、ザラ派のパイロットの声。あれはまるで悲鳴のように思えた。少なくとも、アスランにとってあの言葉は、父がもたらしたものがいかに重たいものかを再認識させるには、充分すぎる力を持っていたのだ。

 

「アスラン」

 

「え、あぁ、なんだ?キラ」

 

覗き込んできたキラに気がついたアスランは、取り繕うように顔色を変えるが、その様子に親友であるキラはジトと目を細める。

 

「あの通信のことを考えてるの?」

 

「そんなに顔に出ていたか?…すまない」

 

「アスラン。アンタもしかしてザフトに戻るつもりか?カガリを残して」

 

オルガの言葉に、ぎくりと顔を硬らせる。

 

「俺は…」

 

確かにその考えは頭の片隅にはあった。今オーブにいるデュランダル議長に頼めば、なんらかの手を打ってザフトへの復隊も叶うだろう。

 

父の残した遺恨を償うためにも、自分はやはりプラントに戻るべきなのだろうかと、そんな思考が巡るアスランを見て、トールは行儀悪く頬杖をついた。

 

「オーブも、そして地球圏の政治状況が一変するだろう。ユニウスセブンで現れた不明機も、おそらく…」

 

「地球圏の勢力、だろうね」

 

宇宙戦を想定していた自分たちが乗るミネルバを急襲するように現れたのは、明らかに地球軍のものであった。ハイネやレイが出てくれたことと、オーブ軍の助力があったから窮地を脱することはできたが…。

 

「もし、主犯格がコーディネーターと知られれば、世界を再び二分する戦いに発展しかねん。そんな状態で、あの嬢ちゃんを一人にしてみろ?政権を狙う氏族だって政界に出てきてるんだ。誰があの子を守るんだよ」

 

隊長であり、オーブ軍の二佐という立ち位置を持つムウも、アスランの自分一人な考え方に苦言を申す。カガリを今一人にしたら、誰が彼女の受け皿になるというのか。そうなる覚悟を持って、アスランはオーブに身を寄せることにしたのではないのか?

 

アスランもそれをわかっているようで、悲痛そうに顔を強張らせる。どこか彼を責めるような空気を打ち破るように、ラリーは立ち上がった。

 

「いや、事態はもっと酷いことになるかもしれないな。キラ、ヴィヒタを取ってくれ」

 

キラからヤシの葉で作られた団扇状のヴィヒタを受けると、ラリーは何も言わずにその場にいる全員へ熱波を振りかける。ナーバスになる気持ちもわかるが、今はそれをリフレッシュする時だ。バッサバッサと送られる熱波に、肌の上にある汗がじわりと量を増やした。

 

「あーーあつぃい」

 

「はっはっはっ!やっぱりオーブに戻って来たらこれだよなぁ。宇宙じゃシャワーもろくに浴びれないしな」

 

人間、不自由が出れば不満もある。不満があれば気持ちも滅入る。だから、ラリーは快活に笑ってサウナという娯楽を楽しむように全員に笑みを渡したのだ。苦しいことや難しいことは、リフレッシュした後にまた皆で考えればいい。

 

「すまない、こちらにもヴィヒタを」

 

と、そんなやり取りをしてる中、今度はラリーの後ろから声がかけられる。

 

「ああ、どうぞ」

 

キラが頷いてヤシの葉を取り、ラリーに渡すと、まるでバケツリレーのようにラリーは後ろへヤシの葉を差し出し……そして固まった。

 

「元気そうで何よりだな、ラリー」

 

そこにいたのは、くたびれたブロンドの髪の上からタオルを被り、青い目でこちらを見つめる壮麗な男性。

 

あの日から2年。けれど、彼は変わらぬまま、どこか色気があるその風貌と声。そして以前はマスクに隠されていた素顔。喉元にヒュッと吸気が通り抜けた。

 

「げぇ!!クルーゼ!?!?」

 

以前は出かかって、ぐっと込み上げてきた言葉を今度は躊躇なく悲鳴のように言うラリー。アスランとムウが、ズササとクルーゼの名を聞いて身構える。

 

「失礼だな、今の私はクラウド・バーデンラウスだよ」

 

不満そうにラリーへ言葉を返すのは、紛れもなくラウ・ル・クルーゼである。今は名前を「クラウド・バーデンラウス」に変えて、〝ヘリオポリス〟でカレッジの教授をしているが…。

 

「何故お前がここにいる!!?」

 

「湯治だよ」

 

「嘘つけぇ!!!」

 

すぐさまツッコミを入れるラリーに、変わらないなとクルーゼは懐かしげに笑みを浮かべて手を振った。

 

「まぁ冗談だがね。私は妻について来たに過ぎん」

 

クルーゼの妻は、「ホワイトグリント」の調整に関わった数少ない技師の一人だ。戦後にできた伝手で、ハリーが彼女へ技術支援要請を行ったため、クルーゼの湯治も兼ねてバーデンラウス家はオーブへとやってきたのだ。

 

クルーゼ自身、オーブに来るのは承知していたが、ユニウスセブン落下の影響でここまで間延びするのは予想外だった。おかげでゼミのメンバーからはクレームの嵐だったので、出していた課題期間を延長することで収めることになった。

 

「え、クルーゼ隊長…?え…」

 

「あまりの唐突さにアスランが混乱している…」

 

ここにいるメンバーはクルーゼがヘリオポリスにいたことは知っていたが、まさかオーブに来ているとは思ってもいない。さっきまでの陰鬱さがどこにいったのか、アスランは目を点にしてザフト時代では考えられない人当たりの良い顔をするクルーゼを見つめている。

 

「まぁ安心したまえ、君の機体の性能をまた私色に染め上げてやろう」

 

「お前えええ!!誤解を生むような言い方やめろぉおお!!」

 

普段では見せない顔と声を出すラリーに、隣にいるシンもあんぐりと口を開けて呆然としている。そんなラリーへ、クルーゼは高笑いを挙げて指をさした。

 

「はっはっはっ!貴様の顔はお笑い草だぞ、ラリィイイーー!!」

 

カチーン。長らく感じてこなかった感覚。これぞKANNISAWARUといったもの。バッと立ち上がったラリーがタオルをどこぞのマスタークロスばりに構えてクルーゼと相対する。

 

「やはりお前は今ここで死ねぇ!!クルーゼェエエエ!!!!」

 

キエエエ!!と声を上げて全裸の取っ組み合いを始めるラリーとクルーゼを置いておいて、キラたちは早々にサウナを後にする。

 

「ああ、うん。いつもあんな感じだから、放っておいていいよ」

 

「シンー、滝湯行こうぜー」

 

「いいんですか!?放っておいて!?」

 

オルガたちに滝湯方向へ引っ張られながら驚きを隠せないシンに、キラは光を失った目を向けながら笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

その後、ハリーと嫁を前に正座で説教を受けるラリーとクルーゼが目撃されることになるのだった。

 

 

 

 



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第34話 限界を超えろ

 

シン・アスカの朝は早い。

 

トランスヴォランサーズの中でも一番若手であり、オーブでも鬼神と恐れられる「ラリー・レイレナード」が育てる後継者と言われるシンは、自主トレーニングでも余念はない。

 

深夜まで仕事をしていた妹や両親が寝てる中、静かに家を出たシンは、お気に入りのメーカーで揃えたスポーツウェアを身につけている。

 

早朝ランニングは朝の5時半から始まる。4時半に起床し、身支度と朝食、そしてストレッチを行ったシンの足取りは軽い。

 

1ヶ月近く宇宙にいたことで感覚が違う体はすっかり重力の負荷を思い出したのか、帰港後と比べると、体力も重力下の時と変わらないものになってきていた。

 

お気に入りの音楽をイヤホンで聴きながらいつものコースを走っていると、向かい側から同じように走ってくる人影が見えた。

 

「ルナマリア…」

 

徐々にペースを落として、やってくる人影の前でシンは立ち止まると、向かい側の相手も足を止めた。帽子を深くかぶってストイックにランニングをしているのは、オーブのパイロット。

 

ルナマリア・ホークだった。

 

「どうも」

 

立ち止まってまじまじとルナマリアを見るシンに、彼女は事なさげに頭を下げてから走り出そうとシンの横を通り抜けた。

 

「あ、あのさ!助けてくれてサンキューな!」

 

そんな彼女に、シンは言葉をかける。ルナマリアは進めようとした足を止めたが、シンの方に振り返る事はなかった。

 

それでもシンは、言葉をかけるのをやめなかった。

 

「地球軍に追われてたザフトの船にさ。俺も乗ってたんだ。あの時、いい動きをしてたムラサメに乗ってたのって、ルナマリアだろ?」

 

ミネルバがオーブ領海前で地球軍のパトロール隊に捕捉されたとき。宙域専用の機体しかなかったシンたちは何もできずに、応戦するレイやハイネに事を任せることしかできなかった。

 

そんな交戦状態の中、オーブから迎えにやってきた部隊の中で、ムウやオルガ、クロトたち以外に、一番いい動きをしていたムラサメがいた。それがルナマリアの機体だと予想する事になんら難しさなどなかった。

 

「だから、お礼が言いたかったんだ。助けてくれてありがとうって」

 

「…別に。貴方たちが乗っていようが乗ってなかっただろうが、私は与えられた任務を果たしたまでよ」

 

シンの感謝の言葉に、ルナマリアは抑揚のない声で返す。トゲすら感じられる声に、シンはつっかえていたものを出す事に決めた。

 

「それが…ラリーさんたちが乗っていたとしてもか?」

 

わずかにルナマリアの肩が震える。それをシンは見逃さなかった。

 

彼女とシンは、ムラサメ教導の時に共に励みあった訓練生だった。トランスヴォランサーズから出向という形で訓練を受けていたシンとルナマリアは、同じコーディネーターとして仲を深め、共に訓練を乗り越えた戦友だ。

 

その後、シンが民間PMCのパイロットだと知ってから疎遠になってはいたが、シンにとってはルナマリアはあの時から変わらない戦友。そして、彼女の在り方を心配する仲間でもあった。

 

「ルナマリアが…親父さんのことでオーブにきて、軍に入って真相を調べようってのは知ってるけど…あの飛び方は…確実にルナマリアの命を…」

 

「うるさいっ!!」

 

まだ朝日が上がって間もない空にルナマリアの怒号に似た声が響き渡る。険しい目つきをしたルナマリアが、シンの方へと振り返る。

 

「アンタなんかに…私の何がわかるって言うの!?」

 

父を前大戦で失って…プラントを核から守ったと称えられ…英雄の死に泣くことすら許されない母は、夜に一人すすり泣くしかなかった。

 

核からプラントを守ってきた英雄なんかじゃない。父は私たちにとって唯一の父だった。なのに、世界はその事実すら許してくれない。

 

メイリンと一緒に泣くことしかできなかったルナマリアは、父の面影を知るために一人、彼が最後に属していたオーブ軍がある地球へと降り立ったのだ。

 

そこで、彼を鼓舞した存在と出会う事を知らずに。

 

「…ごめんなさい。少し、イライラしてる。じゃあね」

 

震えた肩を落ち着かせたルナマリアは、深く帽子を被ってシンに謝ると、踵を返してランニングへと戻ってゆく。

 

あの飛び方を支えているのは、ルナマリアの意地と、ああいったトレーニングの賜物だろうが…。

 

「ありゃあ…フラガ隊長も心配するわけだ…」

 

シンはムウの愚痴を思い出す。

 

ルナマリアの飛び方は確かに鋭く、側からみればいい動きをしているように見えるが、その実は体に大いなる負担を課す諸刃の翼だ。

 

あんな飛び方を続けていれば、いつか羽が折れる。そうなったときでは遅いというのに。

 

今は彼女の心をどうにかするしかないな。そう結論つけたシンも、ルナマリアとは反対方向に向かって走り出すのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「トールたちや、シンとキラくんの機体も調整済みよ」

 

オーブ、オノゴロ島。モルゲンレーテ社の工廠でトランスヴォランサーズのパイロットたちは、エリカ・シモンズ博士の案内のもと、納入予定の新型テスト機を視察に来ていた。

 

「やっとできたんですね」

 

機体をハンガーから見つめるトールに、シモンズ博士は頷く。

 

「ええ、ムラサメType「R型」」

 

そこには納入用の梱包作業が進められる二機の戦闘機が並んでいた。一機はそのシルエットから大幅に変更されたもので、もう一機はムラサメの姿をさらにシャープにした印象がある。

 

「トール用に調整したのが非変形型のムラサメ、MVF-X02、通称「ストライクワイバーン」。リークやキラくんたち様に調整したのが、可変型のムラサメ、MVF-X01F「エクスカリバー」」

 

おお、とトールたちから声が上がる中、シモンズ博士は投下していたハンガーを見下ろせる窓を下ろしてから、プロジェクターを起動させる。

 

「本当は雷鳴(ライメイ)と風魔(フウマ)と命名したかったんだけど、出資者のアズラエル理事から「命名の権限は僕が貰いますね」って言われちゃってねぇ」

 

「あはは、あの人らしいや」

 

「ストライクワイバーンは、見た通りムラサメの可変機構をオミットした機体よ。けれど、機体性能は複雑な変形機構を排除したことによって、戦闘機ならではの高い航空戦闘能力を獲得してるわ」

 

MSの要素を排除したことによって取り付けられた大型カナード。

 

前進翼形態と後退翼形態をとる可変翼。

 

水平尾翼形態と角度のついた垂直尾翼となる形態をとる全遊動式尾翼。

 

徹底的に削り込まれた機体を構成するのは、スリーサーフェス構造。

 

後退翼と水平尾翼で構成され高いスーパークルーズ能力を発揮する高速飛行形態。

 

前進翼と外半角のついた垂直尾翼で構成され高い格闘戦能力を得ることができる高機動形態。

 

「ワイバーンの主翼は後退角を持つ内翼と、前進角を持つ外翼で構成されているわ。スーパークルーズ能力を発揮する際は、外翼を収納する際に開閉する機構になってるのよ」

 

可変MSというコンセプトを捨て、いち戦闘機としての技術を惜しげもなく導入されたワイバーンは、かつてないほどの戦闘機としての完成度を誇っている。

 

ウェポンベイも申し分ない。

 

大型兵装の複数搭載可能な兵装庫を中央部の左右エンジン間に1庫、短距離AAM用の小型兵装庫を中間下部に左右それぞれ1庫ずつ備える。

 

対空兵装はイーゲルシュテルン対空砲と、オーブ軍と地球軍、どちらの武装も装備が可能。さらにトール機専用に開発されたHEIAP弾などの特殊弾頭を射出できる長距離無反動砲を装備可能。

 

エンジンは高い排効率を追求したムラサメのエンジンと同規格のモノが2基搭載されという、まさにオーブの最新技術の粋を集めた戦闘機と言えた。

 

「まさにオーブが産んだ空の怪物ね。ロールアウトが間に合ったのは三機。内一機は技術試験機としてモルゲンレーテ預かりとなって、二機はそちらに売却される手筈となってるわ」

 

そう言ってシモンズ博士はモニターを切り替える。そこにはテストパイロットが操縦する「エクスカリバー」の姿が映し出されていた。

 

「エクスカリバー。この機体はワイバーンとは逆。可変式MSの利点を最大限に活かした機体となってるわ」

 

「ヒットアンドアウェイ」を主眼に、戦闘機能力を最大限に引き上げたワイバーンとは全く逆の発想で開発された機体、エクスカリバー。

 

対MSとの戦闘を前提として考案された本機は、コクピットモジュールからの見直しが行われた。

 

エースパイロットであるラリーやリーク、キラやアスランから意見を取り、戦闘時に必要なアプリケーションだけ抽出を行った結果、戦闘時に不要なモジュールを排除したMS史上類を見ない視認性を獲得した半天周囲型モニターが開発された。

 

戦闘機のバブルキャノピーに似たモニターをはじめ、ムラサメベースの2次元推力変更ノズル、ボディ下側に備え付けられた垂直カナードなど、格闘戦時のパフォーマンスを高めるであろう要素がふんだんに盛り込まれている。

 

エンジンもムラサメ専用のものをベースに、技術局とモルゲンレーテ社が共同開発した「フォルゴーレ」と呼ばれる強力な2基が取り付けられている。

 

出力は高いが前進翼や機首に大きく開けられた大型インテークによる空力特性のため最高速度は伸びず、一般機であるムラサメと比較して少し低いところに留まってしまっている。

 

だが、その分の空戦格闘能力は獲得しており、MS変形可能速度も大幅に伸びているため、高高度戦闘時もスムーズにMS形態へと変形が可能となっている。

 

高高度戦闘能力などは非常に高く、総合的に見ても母艦から出撃する迎撃機としての特徴が色濃い。

 

「基本的な操作性にシビアな部分はあるものの、 乗りこなす事ができればドッグファイトにおいて無類の戦闘能力を発揮することができるわ」

 

「まさに「作れるから作った」を地でゆく技術力ですね」

 

説明を聞き終えたリークがいつかラリーが言っていたセリフと同じ言葉をシモンズ博士に投げた。その苦言にも似た言葉に、彼女は苦笑いを浮かべてから真剣な顔で彼らに向き合う。

 

「それを作った責任を感じているからこそ、この計画は極秘扱いなの。オーブ軍でもこの機体のスペックを知る人はキサカ一佐とフラガ二佐くらいよ?」

 

そもそも、オーブ軍でもない民間PMCに最新鋭の機体を納入するのだ。アズラエル理事や、オーブ首脳陣、そして地球軍のハルバートン閣下の進言と工作もあるからこそ、成り立つ話ではあるが、一民間会社が持つ戦力としてはあまりにも過剰と言える。

 

故に、その責任をトールたちも深く理解していた。この力を使う事は無いだろうと思っていたが、アーモリーワンやユニウスセブンの一件でその楽観的な考え方を改めなければならないことを自覚する。

 

この世界は大きな変動を迎える。その時に何もできないでは、間に合わなくなることもあるということだ。

 

「で、ラリーさんの専用機は?俺と同じワイバーン?」

 

「それが…」

 

「ばっかじゃねぇの!?」

 

トールの問いに答えようとしたシモンズ博士より先に、工廠の中で大声が響き渡った。

 

 

 

////

 

 

 

「と言うわけで、新型機のロールアウトはまだ先だから、ラリーに用意したこの機体はスピアヘッドmarkⅡです。見た目は古いけど、エンジンと補助エンジンには、ムラサメのやつとフォルゴーレを使っています」

 

「馬鹿じゃないの???」

 

二機とは離れた場所で設置されていたのは、過去にラリーが乗りこなしていたスピアヘッド(?)をベースに改造された戦闘機だった。

 

いや、もはやスピアヘッドと呼ぶには外見に名残はない。バブルキャノピーも負荷の影響から機内へと配置変更がされている上に、半天周囲型モニターへと切り替えられている。機体の翼など輪郭は、言われたら気付くレベルで名残は残っているが、他の機器に目が行くため、この機体のベースがスピアヘッドだと気付くものは居ないだろう。

 

「一応、機体強度は大丈夫だけれど、念のためにリミッターは備えているわ」

 

「ふーん、で?リミッター外れたらどうなるの?」

 

「スーパークルーズでマッハ5は固いわね」

 

「馬鹿じゃないの??」

 

即答で答えたハリーに、ラリーは間髪入れずにそう言った。ラリーについてきたキラとフレイは、そのスペック表を見ながらついに白目を剥いていた。

 

「加速度でそれ…人が死ぬやつ…」

 

「だからリミッターを付けてるのよ。そもそも、そんな高機動下で戦闘機動なんてしたら、どれだけ頑丈な機体でも空中分解するわよ」

 

「そもそも、そんなエンジン設計をするなよ!!誰だよ!!これを乗せようとしたの!!」

 

「私ですけど?」

 

「ちっくしょう!!主犯目の前にいたわ!!」

 

思わず身につけていた帽子を地面に叩きつけるラリー。

 

このキチガイ機械屋、きっとルンルンノリノリな気分でエンジンを設計し、組み付けたに違いない。そもそもリミッター外すと空中分解する機体って何なのか。ついに人をやめろと頭のネジが外れた事を言い出したのか。ああ、ネジはとっくに外れてましたね。そうですね。

 

「あと、これ見間違えじゃないよね…」

 

恐る恐る指を刺すフレイの指摘に、ハリーは何食わぬ顔で答える。

 

「ああ、これ?空戦機動時にフラップとエンジン噴射によって空中で「バック」ができるやつ?本当よ」

 

「馬鹿じゃないの??」

 

「そんなお手軽感覚で実装するシステムなのか…?」

 

「だって便利じゃない。バックできたら」

 

フラップ全開で急減速できるならまだしも、バックなんて発想誰が思いつくというのか。通りで逆方向に大きめのノズルが付いてると思ったわ。馬鹿じゃ無いのだろうか。思ってる言葉を言っても足りんぞ、とラリーは頭を抱える。

 

とりあえず、今日の日程はこの機体のテストだ。すでにトールたちの機体は、アサギやマユラたちが実証実験を行なっているが、この機体のテストパイロットに志願する者は誰も居なかったらしい。理由はまだ死にたく無いと。まったく失礼なことであるが、その理由にラリーは納得してしまったのだから仕方がない。

 

「さて、じゃあテストといきましょうか!そのために相手を呼んでるんだから!」

 

そう言うハリーに恨めしそうな目を向けて、テスト相手を見てさらに頭を抱える。

 

「久々の地球の空だな。楽しんでくるとしよう」

 

「マッスルスーツのモニタリングはこっちでするから、隊長は存分に飛んでくださいね」

 

作業員姿の嫁とハグを重ねたクラウドこと、クルーゼがマッスルスーツを身につけてムラサメに搭乗する。

 

彼がオーブにやってきていたのは、確かに技術協力のためにやってきた嫁についてきたというのもあるが、体の影響でMSの反応速度に遅れが出てきた事に対して、オーブが開発したマッスルスーツのテストを行う目的もあったらしい。

 

と言うか、まだMSに乗っていると言うのか。加齢の影響を微塵も感じさせないクルーゼの姿に頭を抱えながら、ラリーもコクピットへ乗り込む。

 

《久々の戦闘だ。まずは慣らし運転からいこうじゃないか》

 

「と言いながら全開で機動するなよお前えぇえええーー!!」

 

《はっはっはっ!!まるであの時に戻ったようだな!!ラリィイイ!!》

 

「やっぱり殺しておくべきだった!!くそったれぇえええー!!」

 

模擬戦が始まった瞬間に、常人では理解できない機動をし始める二人を見上げながら、キラは思うのだった。

 

類は友を呼ぶのだと。

 

その日、計測されたデータは、MSと戦闘機の従来データを大きく更新する新記録となり、同時に二人揃って正座をする英雄の姿も、あるフリージャーナリストによって撮影される事になるのだった。

 

 

 

 

 

 




フォルゴーレのテストの時。

ハリー「どうよ!!いい音でしょ!!」

ラリー「あんまり鳴らすと!!!!モルゲンレーテの工廠が飛んじまうぞ!!!!」

ハリー「あーっはっはっ!!!あんなゲテモノMSなんて屁でもないわ!!!!」

バリバリバリ!!←工廠の屋根が吹き飛ぶ音


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第35話 守るべき景色

 

広いホールの中。

 

少しのざわめきがこだまする。

 

ユニウスセブンの落下事件からまだ日が経っておらず、人々の心にはまだ暗澹たる思いが燻る中、このホールでの出来事は催された。

 

暗闇に包まれた中で、多くの者たちが目を向ける先へ、一条の光が天から降り注ぐ。

 

その光の下にいる彼は、ゆっくりと目の前にある〝マイク〟へと、その手をかけた。

 

《悲しいほど、光だした。白い闇、切り裂く翼になれー》

 

シャニ・A・ベルモンドは愛用のギターを手にして、その手を一閃させる。演奏するメンバーにも光が向けられ、暗闇に包まれていたホールは、鮮やかな色彩に染められ、人々は熱狂する。

 

ここはオーブ首都、ヤラファス島。

 

今日は、オーブ国際高等学校の学園祭だった。

 

 

 

 

////

 

 

 

「シャニくん、歌もギターもかなり上達したよね」

 

「…まぁね」

 

そう言ってライブ後に自由行動となったシャニたちと歩くラリーたち一行。ライブを最前列で楽しんでいたハリーやフレイ。ユニウスセブンの一件と議長との請負費の件で、戦闘部隊を担うラリーやキラたちも休暇を言い渡されていた。

 

「相変わらず、歌声は棒読みっぽかったけどな」

 

「うわ、オルガ厳しぃ。けど、校内でもかなりシャニのファンいるみたいだよ」

 

オーブ軍のパイロットスーツではなく、学校指定のブレザーに袖を通しているオルガとクロトが、一仕事を終えたシャニの両隣にいる。その後ろには、リークを先頭にキラとアスラン、トールとミリアリアもいる。

 

「へぇ」

 

「こういう表情のくせに喜んでますよ、これは」

 

「兄ちゃんうるさい」

 

照れ隠しと同じだよと、表情に変化があまりないシャニの心を見通すリーク。心底うんざりした様子ではあるが、シャニもまんざらではない様子だ。

 

あの大戦から2年。

 

オーブも深い痛手を負っていたが、地球軍との戦闘で被害を受けたのはオノゴロ島。ヤラファス島は条約通りに非戦闘地帯となっていたため、戦後の復興で政治能力を回復させたのはオーブでもあった。

 

一般にも解放されている学校内には来賓の人々や、父兄、そして近隣の住民も多く訪れており、出店や出し物で大いに賑わっている。

 

オルガやクロトたちも、戦時下の張り詰めたような雰囲気は無くなり、この学校に通う同年代の若者と変わらない和気藹々さを取り戻していた。

 

「カガリ、来れなくて残念だったな。泣いて悔しがってたぞ?」

 

どうしてシャニのライブに私はいけないんだ!と、執務室に突っ伏しながら唸り声を上げていたとアスランが言う。彼女も彼女で仲間意識が非常に高い。

 

シンをはじめに、あの大戦で共に戦った者たちへの愛情っぷりは言うまでもなく、オルガたちやリークのベルモンド家や、アスカ家ともに個人的な付き合いもあるカガリが、今回の学祭に来られなかったことは非常に残念だっただろう。

 

「ユニウスセブンの後だからな、こうやって学祭が出来ただけでも奇跡さ。録画はしてあるからたっぷり見せてやるとしよう」

 

そのためにシアタールームまで作ったからなぁ、と遠い目で言うアスラン。何度かシンたちとのバーベキューや、海に行った思い出も上映して、みんなで集まりながら見たこともあるな、とラリーやキラも思い出す。

 

「次はライブハウス借りるのが目標だっけ?」

 

「まぁね。バンドメンバーも乗り気だし」

 

「楽しみだなぁ、最前列で見るね!」

 

「ハリーさんとフレイさんは、目立つからダメ」

 

「えーひどーい」

 

そう言って残念がるハリー。その隣にあるフレイの2名は、ラリーたちが知る中でも抜群のプロポーションを誇っている。トールの彼女であるミリアリアも美人ではあるが、プロポーションで言えばハリーとフレイの方が上だ。道ゆく人々もハリーとフレイを見て振り返る者も多い。

 

フレイの夫であるサイは自慢げだが、二人が水着でも着て写真集を出せば増刷は間違いないだろう。

 

「これで普段のアレが無ければなぁ…」

 

「え、何よ…人のこと残念なふうに」

 

オルガの残念そうな目に不満げにいうハリー。この見た目と外見だけを知っていれば、寄る男も多いだろうが、普段からの意中の相手であるはずのラリーの扱いを知るオルガやスタッフたちで、ハリーに恋心を抱く者はいない。

 

いたとしたらよほどの猛者である。そして第二関門で凄まじい速さで「替わろうか?」とモルモットポジを提示してくるラリーがいるので大抵死ぬ。

 

「残念だから仕方なっいてててて!!」

 

「そんなことを言うのはこの口かなぁー?んー?」

 

「わかった!わかったから離して!!」

 

ついに口を滑らしたクロトの頬を抓るハリー。その様子を見て、キラがちらりとラリーを見るとどこか遠くを見ている顔が見えて、すぐに視線を逸らした。

 

「キラくんたち、楽しんでる?」

 

体育館から学食があるエリアに出たあたりで、待ち合わせをしていたマリューたち、フラガ家とラリーたちは合流した。

 

まだ一歳と少しの息子である「ミコト・ラ・フラガ」を抱く優しげな表情のマリューと、微妙な表情をするムウがラリーたちを出迎えた。

 

「ムウ、いい加減に慣れたらどうだ?」

 

「一生慣れる気がせんのだがなぁ…っ」

 

ムウの微妙な表情の答え。それは隣にクラウドことクルーゼがいることだ。

 

クラウド・バーデンラウスと妻であるリリー・バーデンラウスは、形はどうあれ血縁上ムウの親族に位置する。クラウドの中にはフラガの血が流れている。ムウもクラウドもそんな血のことに一切因縁は抱いていないが、互いに天涯孤独の身。マリューとリリーの奥さんたちに後押しされて、二人は親族としての付き合いを始めていたのだ。

 

「ほら、ミコトちゃんだよ。挨拶しなさい?」

 

「こんにちはぁー♪ミコトちゃん!」

 

クラウドとリリーの娘である「サーヤ・バーデンラウス」が、マリューの腕の中にいるミコトに触れる。

 

クラウドとムウの過去に因縁があっても、サーヤやミコト、二人の子供たちに罪はない。親族として付き合える相手がいるということは、後の子供達にとってもプラスになることが多いだろう。

 

サーヤとミコトが触れ合うのを見つめてるうちに、ムウの顔にあった微妙さも和らいでいるようだった。

 

「お兄ちゃん!」

 

フラガ家とバーデンラウス家のふれあいの横で、リークの妹たちが手を振りながら校舎から出てきた。

 

「カナミ!ハズミー!元気してたかぁー!お土産たくさん買ってきたぞぉー!」

 

カナミ・ベルモンド。

 

ハズミ・ベルモンド。

 

前大戦ではアジアと宇宙で離れ離れになっていた兄妹たち。リークは駆け寄ってきた二人を抱き上げるとぐるりと一回転して喜びを体で表した。リークに抱き上げられて、わはーと喜ぶ妹たちも、しばらく甘やかされたあと、ライブを終えたシャニへと向き直る。

 

「シャニ兄さん、ライブとてもカッコ良かったですよ!」

 

「よかったー!」

 

そう言われてシャニは短調に返事をしてそっぽを向くが、ニヤニヤとするリークと目が合う。

 

「おー、喜んでる喜んでる」

 

「うっざ」

 

シャニの会心の一撃。だが兄であるリークには効かぬ!!わしゃわしゃと薄緑色の髪を撫でるリークに、シャニは抵抗する気も起きずになされるがままだった。

 

「ところでカナミ。その紙袋は?」

 

「シャニ兄さんのファンから預かってきたものが多くて…」

 

パンパンになった紙袋を除くと、ファンレターや花束やプレゼントがぎっしりと詰まっているのが見えた。

 

「oh…」

 

「割とすげぇな、シャニって」

 

「ヴィジュアルと歌声のギャップってやつだな!」

 

改めてシャニの人気ぶりを痛感するオルガとクロト。

 

ちなみに二人もそれなりに人気があり、すでに何人かからも告白はされているが、ブーステッドマンの時代で取りこぼした青春を取り戻している二人には、まだ彼女を作るつもりはないらしい。

 

「リーク兄さんはしばらく居るのですか?」

 

「うん、任務も無いし。しばらくはオーブでゆっくりできるね」

 

「なら、今晩はシャニ兄さんのライブとリーク兄さんの帰還を祝ってご馳走ですね」

 

「マユちゃんも呼ぶ?」

 

ハズミの言葉にリークは色をなくした顔で答える。

 

「うちを簡単に戦場にするんじゃあないよ」

 

その言葉にオルガたちも無言で頷いた。過去に数度、ハリーとマユたちを呼んで食事会をしたが、ラリーを巡って火花を散らす二人の威圧感のせいで、気が気ではないのだ。

 

「ハリーさんとマユちゃんが揃うと飯の味がしなくなる」

 

「いや、もうほんとに申し訳ない」

 

そう言って謝るラリーに、カナミは若干頬を赤らめて答えた。

 

「い、いえ…私は大丈夫ですけど…」

 

その様子はまさに恋する乙女。ラリーとは前大戦の時から付き合いがある彼女も、ハリーやマユと同じく慕う恋心を持っているのだった。

 

「ラリーさん」

 

「ん?」

 

「撃滅」

 

間髪入れずにクロトから放たれたストローからの直射ゲロビ。緑色の一閃は目標を逸れずにラリーの眼球へ吸い込まれる。

 

「メロンソーダが目にぃい!?」

 

「ほらほら揚げたての唐揚げもどうぞどうぞ」

 

オルガも満面の笑みの追撃。羽交い締めにするようにラリーを捕まえてぐいぐいと頬に唐揚げの容器を押し付ける。

 

「熱い熱い熱い!?どうなってるの!?どっち!?オルガとシャニのどっち!?え、なに!?頬に唐揚げの容器が押しつけられてるの!?あちちち!」

 

「妹を泣かせたら、殺すよ」

 

「シャニ、ガチトーンやめてもらえる?!いや、俺はちゃんとしたじゃん!?」

 

涙目を擦りながら抗議するラリー。

 

カナミの告白をラリーはすでに受けて答えを出しているのだ。オルガたちの殺気を受けながらも、涙を流して断った答えを受け止めたカナミ。

 

そんな健気な彼女の決意を無駄にしないために、ラリーも再度ハリーへの告白を計画した。

 

そして気がついたら新型エンジンのテストショットを積んだワイバーンの試作品に乗らされてテストを行なっていた。なんだろうか、彼女は本当にラリーを好きなのだろうか。研究用に飼っていたモルモットに気がついたら愛着が湧いていたとかいう感情ではないのだろうか。

 

その仕打ちと、ワイバーンを振り回してふらふらになったところで、キラとシンに慰められた時は思わず泣きそうになったが気にしない。気にしないったら気にしない。涙はすでに枯れておる!!

 

「ラリーさん?奪うことで始まる愛もあるじゃないですか」

 

「ほう?面白いことを言うね、カナミちゃん」

 

「ラリーさんをモルモット扱いすることでしか愛情表現できない人に負けるつもりはないですから」

 

バチバチと火花を散らすハリーとカナミ。リークやオルガたち伝いに聞いたラリー告白返り討ち事件を機に、カナミもマユに劣らずにラリーを落とす方向で動き出したのだった。

 

地球圏での職務中にラリー用に作られるお弁当はすべてカナミの手製の弁当である。技術面で攻める二人に対して、胃袋を掴みに行く豪胆さは、さすがのリーク譲りの妹といったところだろうか。

 

「え、なに…空気が冷たく感じる…」

 

二人に挟まれて困惑しているラリー。キラから見たラリーは普段よりも小さく見えた。

 

「いやぁ、若いっていいねぇ」

 

「兄貴はそれでいいのか…」

 

「カナミちゃんもかなり…アレだな。ワイルドになったな」

 

「ねぇ?ワイルドで済ませていいの?アレ」

 

「前門の虎、後門に狼ってやつだね」

 

「シャニ。それ使い方間違ってるから…いや、あってるのかな」

 

妹の成長ぶりに笑うリーク。それに呆れるオルガ。心配するムウやトールなどなど、当の本人そっちのけで場を楽しむ一行。

 

賑わう学園祭。

 

笑い合う人々。

 

風船を持って喜ぶ子供たち。

 

そんな光景を一人離れた場所から眺めているアスラン。何か思い詰めた表情をするアスランの肩を、喧騒から抜け出してきたラリーが肩を叩いた。

 

「ラリーさん」

 

「決めたのか?どうするのか」

 

そう問いかけるラリー。実を言うと、トランスヴォランサーズや、アスランを指名した議長直々の依頼案件があった。

 

極秘裏にマスドライバーでプラントへと帰還する議長の護衛任務。依頼内容としては、ラリーたちトランスヴォランサーズのメンバーの誰かか、アスラン・ザラと言う指名があったくらいだ。

 

すでに連絡を受けていたアスランがそれを受けるか否か、ラリーはまだ答えを聞いていない。

 

「俺は…」

 

アスランは少し、伏せるように目を下げてからまっすぐとラリーを見つめて…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残ります。オーブに」

 

 

 

はっきりとした口調で答えた。

 

アスランの答えに、ラリーも喧騒へ視線を移して言葉を紡ぐ。

 

「いいのか?仮にも前議長の息子だ。デュランダルも下手には扱わんだろうし、ザフト軍の復帰も…」

 

それこそ、特務隊の復帰も可能になるはずだ。〝正史〟ではそうであったように。アスランはザフトに戻り、自分なりにできる何かを探そうとするはずだと思っていた。

 

するとアスランはラリーを見て可笑しそうに笑った。

 

「貴方はおかしい人だな。一人で考えるなと言って、出した答えを惑わすようなことを言うなんて」

 

「悪いな、意地悪なのさ」

 

ええ、知ってますよ。そう言ってアスランは楽しげに話しているキラたちを見つめた。

 

「俺が残るのはカガリが理由だけという訳じゃありませんよ」

 

たしかに、今の大事にカガリを一人残してザフトに行くことは考えるものもあった。だが、それ以上にアスランにとってオーブに残る決意をさせるものがあった。

 

「この景色を、守りたいんです」

 

カガリや、キラ。多くの人と守ったこの景色を守りたい。

 

最初は、それができるのはザフトに戻ることが良いと思った。

 

けど、それは違うと思い知らされた。カガリやキラが…皆がそばに居るから、この景色がある。

 

そう言ってアスランは改めてラリーを見つめる。

 

「だから、俺はここで守るよ。ラリーさん」

 

その目には確固たる決意があった。些細な揺れ動きでは覆ることのない芯の通した光が、アスランの瞳に宿っている。それだけ見れたら、ラリーには充分だった。

 

「みんなで、だろ?」

 

肩を叩いてウインクする。一人では何もできない。だから〝みんなで守る〟。そうやって、自分たちは生き延びて、前大戦を生き延びることができたのだから。

 

「ラリー!今日来るんだろう?」

 

騒いでいた中からリークが手を振っているのが見えた。今日はみんなでリークの家に遊びに行くようだ。

 

「ああ!アスランも一緒だ」

 

もちろん、キラたちも来るのだ。アスランの方に向くと彼もまた楽しげに笑って答えた。

 

「もちろんですよ、隊長」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべぇ、やっちまったかも」

 

その一方、ランニングをしていたシンは予定時間を大幅に超えて、疲れ切った少女を担いで海から上がるのだった。

 

 

 

 

 

 



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第36話 運命の出会い

 

 

 

シン・アスカの朝は早い。

 

いつもは深夜まで仕事をしている妹や両親は、妹の通う国際高等学校の学祭があるため、今も寝ている。

 

早朝ランニングは朝の5時半から始まる。4時半に起床し、身支度と朝食、そしてストレッチを行ったシンの足取りは軽い。静かに家を出たシンは、お気に入りのメーカーで揃えたスポーツウェアを身につけて、軽快な足取りでいつものコースを走り抜けていく。

 

「懐かしいな…やっぱり」

 

そして、往復地点であるいつもの場所にシンはたどり着いた。遠くに見えるオノゴロ島。ヤラフェス島の南端部に位置するそこは、唯一オノゴロ島を一望できる場所であると同時に、

 

前大戦でヤラフェス島に迫る100機の地球軍のMS部隊がラリーとリークによってすり潰された海域が見える場所でもあった。

 

ここから、今の「シン・アスカ」は始まったのだ。あの強烈な戦いを目の当たりにし、シンは自身と家族を守ってくれたラリーに憧れを抱いた。

 

ここはシンにとって情景そのものだ。ここの岬で佇むだけで、あの日の記憶と思いを心に刻むことができた。

 

「らーらら♪らーらら♪」

 

ふと、シンの耳に歌声が聞こえた。

 

「ん?女の子…?」

 

岬から視線を彷徨わせると、そこには海沿いの広場で踊っている少女がいた。

 

「ららーらら♪らーらーらーらら♪」

 

美しい歌声。いや、無垢な少女らしい歌声というべきか、彼女は楽しげに体を海風と同じように揺らして歌う。シンは少し微笑んでから再び岬の先へ視線を戻して…。

 

「あー!」

 

彼女が落ちる音を聞いた。

 

「え…ええぇえぇえ!?」

 

何が起こったのかわからなかったシンの体は反射的に動いていた。少女が踊っていた場所まで駆けてから、柵から身を乗り出して下を確認する。

 

「おい…まさか!あぁあ!?嘘だろ!?落ちた!?」

 

数メートルはある崖から落ちた少女は、奇跡的に無事だった。水面から顔を上げて白波を泡立たせているのが見える。

 

「大丈夫かー?!おーい!!マジかよ!泳げないのかよ!ええい!何か浮き輪のようなもの…無いよな!!くっそぉおおー!!おりゃあああー!!」

 

南無三!!と言わんばかりにシンも着の身着のまま海へと飛び込む。海水が染みる中、なんとか目をこじ開けると、そこには力尽きて溺れそうになっている少女の姿があった。

 

力なく伸ばされた手を掴んで、力いっぱいに彼女の体を海面へと引っ張ってゆく。

 

「ぶっはぁ!!」

 

ともに海面に顔を上げる。すると少女は身体をくねらせてシンの手から離れようとした。

 

「ああもう!暴れるな!落ち着け!!」

 

まるで暴れうなぎだ!そうシンは内心思いながら、這うように泳ぎ続け、近くに見えた横穴へとなんとか泳ぎ着くことができた。

 

「ハァ…ハァ…もう…まじで…これは」

 

海の中、というよりも水中にいたせいか、シンの体はまさに疲労困憊であった。ようやく足が付くところまでたどり着いて、四つん這いになって息を整える。

 

言いたいことは山ほどあった。

 

「ハァハァ…死ぬ気かよ!この馬鹿!泳げもしないのに!あんなとこ!何ボーッとして…?」

 

シンの後ろにいた少女へ振り返りながらそう言う。すると、少女の表情はみるみると変わっていった。

 

「ぁぁ…いや…ぅぅ…死ぬのは…嫌…」

 

震えが目に見えて大きくなる。瞳の焦点が定まっていない少女は太ももまで海水に浸かっている体を反転させて、まるで逃げるように体を動かし始めた。

 

「イヤぁぁ!!」

 

「え、おいちょっと待て!一体何!」

 

再び足のつかない海へと向かう少女を、シンは体を起こして止めようとしたが、彼女の抵抗はシンの予想を上回るものだった。

 

「嫌!死ぬの嫌!怖い!」

 

「いやだから待てって!だったら行くなって!」

 

「死ぬの!誰かが死ぬの!?みんな死んじゃうの!?駄目よ…それは駄目…ぁぁ…怖い…死ぬのが怖い!怖い怖い怖い!!嫌!嫌!!いやぁああ!!」

 

その声は悲痛そのものだった。シンにも記憶にある声。前大戦、オノゴロ島の被害で済んだものの、少なからずオーブ軍にも被害は出た。

 

オーブの軍施設にいた者、パイロットをしていた者、軍艦に乗っていた者、歩兵や支援を行なっていた者たち。

 

その多くの亡くなった人たち。その慰霊式典はオーブ全体を上げて執り行われた。悲しみに暮れる親族たちが多くいた。その中にはシンの友人や、マユの友人たちもいた。

 

目の前いる少女の怯えた目は、まさにその遺族たちと同じ目をしていたのだ。

 

「ああ、分かった!大丈夫だ!君は死なない!」

 

気がついたら、シンは少女を抱きしめていた。力強く、安心させるように。

 

「大丈夫だ!俺がちゃんと守るから!」

 

最初は爪を立てて抵抗していた少女の体は、包まれたシンの温もりに溶けるように、ゆっくりとおさまってゆく。

 

「ごめんな、俺が悪かった。ほんとごめん。もう大丈夫だから。落ち着きな」

 

爪を立てられた背中から血を流しながらも、シンは少女の頭を優しく撫でて落ち着かせるように言葉を紡ぐ。

 

ふと、マユが悲しんでいたときも同じような事をしたなと、シンは思い出していた。

 

 

「だ…いじょう…ぶ…?」

 

「ああ大丈夫。もう大丈夫だから。君のことはちゃんと、俺がちゃんと守るから」

 

「…まもる?」

 

「ああ、守るさ。だからもう大丈夫だから。君は死なないよ、絶対に」

 

 

その言葉をゆっくりと染み込ませるように、少女は抱きとめてくれるシンの胸に気持ちを落ち着かせていくのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?寒くない?あ、岩で切っちゃったのかな?痛い?」

 

落ち着いてからと言うもの、少女は献身的にシンの体を労ってくれた。彼女も足に怪我を負っていて、背負っていた防水リュックから出した予備のタオルを巻きつける。

 

少女が暴れた際に負った傷がほとんどなのだが、シンは安心させるように笑顔を見せた。

 

「ああ、平気さ。こういう時のための装備は持ってるし」

 

とりあえず横穴の中で火を起こす。シンが引っ張り出したのは非常時用のキットだ。前大戦から2年、まだ内外の情勢もどうなるかわからない。それにシンはパイロット。いつ何時でも即座に対応できるように、一定の装備は常に持ち歩いていたのが功を制した。

 

「なんでも持ってる。すごい」

 

「教えてくれた人の教えさ」

 

ラリーやリークから教えてもらった通り、着火剤を火にくべながらシンは答えた。流れ着いた流木があったのも運が良かった。

 

とりあえずある物で簡単な掛け物を作り、今は二人の服を乾かしている最中だ。

 

身につけていたスポーツウェアは速乾性であったが、少女の服は異なる。体温を奪う服は一間まず脱ぎ、火に当てるように干している状態だ。

 

(でも、どうすりゃいいんだ?)

 

こちらを見つめてくる少女の視線にバレないように、シンは傍にある端末へ目を落とした。その端末は規則正しく光を瞬かせている。

 

(この子泳げないし、運良く横穴に避難できたけど。会社には緊急連絡したから、GPSで迎えには来てくれる…まぁ、後でハリーさんやフレイさんに、何言われるか分かんないなぁ…)

 

帰った後に待つ説教を想像して内心震えているシンは、気を取り直して少女へと問いかけた。

 

「そういえば。君は、この街の子?名前は?分かる?」

 

「名前…ステラ。街…知らない」

 

「じゃあ、いつもは誰と一緒にいるの?お父さん?お母さん?」

 

「一緒はネオ、スティング、アウル。お父さん、お母さん知らない」

 

聞いたことがない名前だなと思いながら、シンはもう一つの可能性を考える。おそらくステラという少女は、オーブとは違う場所から移住してきたのではないかと。

 

大戦からの傷跡が多く残るユーラシアや大西洋連邦から、比較的影響が少なく、中立国としては治安も良いオーブへ移住してくる人は多い。戦災孤児や、家族を亡くした人々にも、オーブは手厚い保護を約束している。

 

「…そっか。きっと君は怖い目に遭ったんだね」

 

「怖い目?」

 

「今は大丈夫だよ。俺がちゃんとここにいて守るから」

 

きっとこの子は、前の大戦で心に大きな傷を負ったのだろう。

 

あの日、もし「ラリーさん」が居なくて、オーブの戦いで家族やマユを失っていたら、きっと自分も心に大きな傷を負っていたはずだ。ステラは、あの日に助けられなかった自分なのだ。

 

「ステラを守る。死なない?」

 

「うん、大丈夫。死なないよ」

 

 

 

きっと、俺が守る。

 

あの日、ラリーがシンの家族を守ってくれたように。

 

自然とそう思った。

 

ステラという少女を守るという思い。あの日の自分自身を今度は自分が救うんだと心に決めて。

 

 

 

「ああ、俺シン。シン・アスカって言うの。分かる?」

 

自分の自己紹介がまだだったことを思い出したシンは、不思議そうな顔をするステラへ問いかける。

 

「シン?」

 

「そう、シン。覚えられる?」

 

「…シン」

 

まるで染み込ませるように呟くステラは、すっと立ち上がる。膝を抱えるように座っていたステラの体の全てが、シンの目に写った。

 

「ちょっ…いぃ…か、隠して!!」

 

ハッとして目を覆って見ないように努めるシンに、ステラは手に持っていた何かを差し出した。

 

「はい」

 

視線をステラの手に向けると、そこには色鮮やかな貝殻が収まっていた。

 

「ん?俺に?…くれるの?」

 

手のひらの中とステラの顔を交互に見るシンに、ステラは花が咲いたような笑みを浮かべて頷く。

 

「ありがとう。大切にするよ」

 

差し出された手から貝殻を受け取ったシンは、火に照らされたそれを見つめて、ステラに微笑んだ。

 

 

 

////

 

 

 

 

「まったく、エマージェンシーとは…。ランニングして何をどうしたらこういう状態になるんだ?」

 

すっかり日が落ちた中、ハーネスとワイヤーを使って崖から降りてきたラリーは、乾いた服を着て出迎えたシンに呆れたように言葉を吐いた。

 

「ラリーさん!」

 

「住んでる場所で遭難なんて、俺でも初めてだぞ。カガリでも絶海の孤島だったってのに」

 

「別に遭難したわけじゃ…え?待ってください。カガリ姉さんも遭難したんですか?」

 

真顔で聞いてくるシンに、ラリーも「カガリと出逢って間もない頃だけどな」と答える。あの頃のカガリは輪をかけてお転婆少女であり、スピアヘッドを乗り回しては、不慮の遭遇事故で絶海の孤島で遭難をしたものだ。そのおかげでアスランと出会えたのもあるが。

 

「手のかかるじゃじゃ馬シスターだぞ、今でもな」

 

そう言って笑うラリー。すると、シンの後ろに隠れるようにいたステラがラリーへと顔をのぞかせる。

 

「シン…?」

 

ステラを見て、ラリーは目を見開いた。

 

「この子は…マジか…」

 

その容姿、見間違えるはずがない。シンが保護したと連絡したのは、間違いなく「ステラ・ルーシェ」だった。本来ならもっと先で出会うはずの二人が、ここで出会いを果たすなんて。

 

「ラリーさん。この子が崖から海に落ちちゃって、助けてここに上がったはいいけど動けなくなっちゃって。この付近だったら西の町の子だと思うんですけど、それがちょっとはっきりしなくて」

 

「だいぶ怖い目に遭ったんじゃないかと」と言うシンの言葉も、話半分程度にしかラリーには届いていなかった。自分という不確定要素が、この邂逅や、ユニウスセブンで出会ったACもどきとも繋がっているのだろうか。

 

と、するならばこれから先に待ち受ける未来は、どうなっていくのか。

 

「ラリーさん?」

 

問いかけてきたシンの言葉にハッと思考を取り戻す。とにかく今はこの子の事が優先だった。

 

「そうか…名前は?」

 

「ステラです」

 

答えるシンの顔を見据えて、ラリーは真剣な目つきでシンへ語りかけた。

 

「シン、よく聞け。この子は…」

 

「ステラー!」

 

遠くから声が聞こえる。おそらく、降りてきた上の方からだ。

 

「おーい!ステラー!どこだー!この馬鹿ー!」

 

「は!スティング!アウル!」

 

ステラを呼ぶ声に反応した彼女は、いてもたってもいられないと言った様子で、ラリーとシンは顔を見合わせてから、彼女と共にワイヤーで崖の上へと上がった。

 

「あれだ!」

 

「スティーング!」

 

上がった先にいたのは二人組みの少年たちだった。シンと変わらない二人へ、ステラは崖から上がるとすぐに走り寄ってゆく。

 

「ステラ!どうしたんだお前、一体」

 

飛び込んできたステラに驚いた様子のスティング。あとから続いてシンとラリーも二人の元へと歩み寄った。

 

「海に落ちたんです。俺ちょうど傍にいて。でも良かった。この人のこといろいろ分かんなくって、どうしようかと思ってたんです」

 

一瞬、鋭い目つきになったスティング。それを気にしない様子でシンが気さくな声で話しかけると、彼も警戒心を問いた様子で頭を下げた。

 

「そうですか。それはすみませんでした。ありがとうございます」

 

礼儀正しいスティングに「こっちも助かりました」と頭を下げるシン。その後ろにいたラリーは、ワイヤーをかけるハーネスを付けたまま、二人へと言葉を投げた。

 

「失礼だが、君たちはオーブの住人か?」

 

その声色に変化はない。だが、シンにはわかる変化がある。今のラリーの言葉には、明らかな警戒心が宿っていたのだ。

 

「ラリーさん?」

 

疑問に思ったシンが言葉を漏らすと、スティングとアウルの顔つきが変化した。

 

「おいおい…まさか…」

 

「まさか、ラリー・レイレナードさんですか」

 

「その通り。今は傭兵企業に属してるパイロットでしかないけどな。けど、俺の名を知ってるということは、君たちは軍の者か?」

 

「いえ、砂漠の流星のファンでして」

 

咄嗟に答えたスティング。その答えにラリーは眼光を鋭く光らせると、小脇に抱えた小型銃をステラに見えないように構えた。

 

「ラリーさん!何を!」

 

「そこの青髪の少年。懐にあるものを取り出すなら、ここからは〝相応の対応〟をすることになるが、構わないか?」

 

シンが戸惑いながら、スティングやステラの後ろ側にいるアウルを見た。その手は明らかに何かを引き抜こうとしている手つきであったが、それよりも先に素早く、二人に勘づかれない速度で拳銃を抜いたラリーの方が上手だった。

 

ラリーの言葉に、ステラが不思議そうに首を傾げる中、アウルは伸ばしていた手を下へと下ろした。

 

「ステラを助けて頂き、ありがとうございます。しかし、こちらにも言えぬ事情があることを察して頂ければ…」

 

白状するように言うスティングに、ラリーも拳銃を仕舞いながらにこやかな笑みを送る。

 

「俺はオーブ軍人ではない。それにオーブの理念は来る者の内情は覗かないがモットーだ。この島で悪さをしなければオーブは寛容に受け止めてくれる」

 

中立国としてやっていく中での必須条件であるが、同時に厄介ごとを抱き込む温床とも言えるけどな、とラリーは言うと、懐から取り出したメモにサラサラとボールペンを走らせてからスティングへと渡す。

 

「何かあればこちらに連絡するといい」

 

「ありがとうございます」

 

戸惑いながらも受け取ったスティングの肩を叩いてから、ラリーは帰るぞ、とシンへ言葉を投げた。

 

「シン…行っちゃうの?」

 

ラリーについて行こうとしたシンの袖を何かが引っ張る。振り返ると不安げに瞳を揺らすステラと目があった。

 

「ごめんね。でもほら、お兄さん達来たろ?だからもう大丈夫だろ?」

 

そう言っても、彼女の寂しそうな顔が晴れることは無かった。身振り手振りで言うシンは、ステラの肩を抱いて笑顔を作った。

 

「また会えるからきっと!ね?」

 

「行くぞ、シン」

 

「はい!ごめんね、ステラ!でもきっと、ほんと、また会えるから!」

 

肩からシンの手が離れる。ジープへと乗り込んだシンを、ステラは胸の前で手を抱きながら見つめていた。

 

「シン…」

 

「ってか会いに行くから!!」

 

去り際にも手を振ってそう大声で言ったシン。海沿いを走るジープの中で、シンは隣にいるラリーへと言葉を投げる。

 

「ラリーさん、彼女のことを知っていたんですか?」

 

「どうだろうな」

 

「はぐらかさないでください。貴方がそういう時はいつも何か大切な場面なんですから」

 

アーモリーワンにカガリが視察に行くと言った時も、ラリーは頑なに護衛につくと申し出たのだ。

 

アズラエル理事や、ウズミ・ナラ・アスハの口添えもあって、特例でトランスヴォランサーズの動向が認められた中でも、ラリーは今と同じような目をしていたのだ。

 

ラリーがそう言う目をする時、必ず何かが起こると言うのが、リークやキラが言っている事だ。シンの食い入るような目を一瞥すると、ラリーは息を吐いて観念した。

 

「シン、彼女とある約束をしただろう?」

 

「彼女を…守るってやつですか?」

 

「きっと、その場面は必ずやってくる。それもお前の想像を軽々と超えてくる形でな」

 

想像を軽々と超える形で…シンはその未来を想像してみるが、なにも連想できない。いや、イメージしたところで、ラリーが言うことはそれすらも超えてしまう何かなのだろう。

 

ラリーは運転する先を見つめながら、真剣な声でシンに言った。

 

「その時は必ず約束を果たせ。そして俺に言え。キラやリークやトールにも助けを求めろ。俺たちは仲間だ。必ずお前の力になる。だから…」

 

「そんなの当然ですよ。俺は誰よりも、みんなを信じてますから」

 

ラリーに言われるまでもなく、シンは答える。一人では何もできない。何も守れない。力や想いがあっても、何もできない時がある。だから、みんなで力を合わせる大切さをシンは多くの人から教えてもらっていた。

 

ラリーはもちろん、リークやキラ、トール、ハリーにフレイ。自分を取り巻く多くの人が導いてくれる。だから、何も心配はない。一人で抱え込むことも。

 

「なら、大丈夫さ」

 

シンの答えを聞いて、ラリーは微笑む。

 

シンとステラを待ち受ける運命は過酷なものになるだろう。

 

だが、その残酷な幕引きにはならない。

 

その全てを「変えてやる」。

 

そのために、ここまでやってきたのだから。

 

「さ、帰るぞ。カガリとハリーがカンカンだ」

 

「うぇ…帰る気がなくなってきましたよ」

 

ついでにマユやフレイもみんな居るぞ?というと、シンは「勘弁してくださいよぉ」と困り果てた顔をしてラリーに懇願する。それが可笑しくて、二人は笑いながら車を走らせた。

 

頼れる仲間たちの元へと。

 

 

 

 

////

 

 

 

「…シン」

 

走り去ったラリーたちのジープを見つめるステラ。彼らが居なくなったことで、アウルはようやく胸を撫で下ろす事ができた。

 

「いやー参った参った。マジで驚いたぜ、もう。まさか白き流星様だとはな」

 

その言葉にはスティングも同感だった。ラリー・レイレナードはザフトにも地球軍にも名を轟かせるエースパイロットだ。

 

MSとメビウス三機というジンクスを打ち壊し、MAで数々のMSを屠った部隊の精鋭。現に、アーモリーワンや、ユニウスセブンでの戦闘でその力を目の当たりにしたスティングたちにとって、ラリー・レイレナードという存在は警戒しなければならないものであった。

 

「ほんと…どうするよ、この連絡先も…ん?」

 

「どしたのさ」

 

「これ」

 

ラリーから受け取ったメモを問いかけてきたアウルに見せる。そこには、トランスヴォランサーズの連絡先とともに、ある一文が添えられていた。

 

〝これを見る指揮官殿。貴殿がオーブ国内で騒ぎを起こした場合、自らの手で確実に息の根を止めに行くのであしからず〟

 

最後は彼の名前で締め括られている文面を見て、アウルは顔をしかめた。

 

「マジか、これ見せるの?ネオに?」

 

「見せなきゃならんだろ。まさに魔の国だな」

 

そう答えたスティングに、アウルは「あーヤダヤダ」とめんどくさそうに頭の後ろで腕を組んで離れてゆく。

 

まだジープの去った先を見つめるステラの手を引いて、アウルは乗ってきたレンタカーの場所まで歩いて行った。

 

「にしても、あいつ似てたな…ネオに」

 

渡されたメモをポケットにしまいながら、スティングは今日会った英雄の姿と、自分たちの上官の顔を照らし合わせるのだった。

 

 

 

 



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オーブ脱出編
第37話 動き出す世界


 

 

「では、リーク・ベルモンドとトール・ケーニヒが議長の護衛任務に就きます」

 

「すまない、よろしく頼む」

 

トランスヴォランサーズで用意したブレザー型の正装を身につけたリークとトールが、議長の敬礼に答えるよう規則正しく敬礼を放った。

 

この傭兵会社はVIPの護衛や送迎、小競り合いへの介入から救出任務までこなすオールマイティが売りな企業だ。故に、こういったVIP向けの正装も一式用意されている。

 

オーブのマスドライバーに極秘裏に乗り込むのは、プラントの要人であるギルバート・デュランダルや、歌姫であるラクス・クライン、ミーア・キャンベル、その他関係者多数だ。

 

今回のトランスヴォランサーズに任せられたオーダーは、そんな彼らを無事にプラント、アプリリウス市へ護衛し、送り届けることにある。

 

《ベルモンド機、ケーニヒ機、搬入作業完了》

 

軌道上でのドッキングに備えて、すでにマスドライバーで打ち上げられる船「ヒメラギ」にはトールとリークのメビウス・ハイクロスと、メビウス・ストライカーが搭載されている。

 

トールは非変形の機体を得意としているが、状況次第ではMSでの対応も求められるため、リークの機体には予備のメビウス・ストライカーが割り当てられている。

 

議長たちが乗り込むのを見届けてから、リークやトールも船へと乗り込んでいった。

 

「リーク兄さん!気をつけて!!」

 

「トール!無理はダメだからね!」

 

「お土産は今回は大丈夫だからなぁー!」

 

見送りに来た面々は、発艦の様子が一望できるデッキから手を振りながら二人へと聞こえることのない声を送る。

 

リークとトールは、ユニウスセブンの一件からとんぼ返りするように宇宙に上がってもらうことになったが、秘密裏に入国した議長をオーブ軍が送り届けるわけにもいかず、特定の国家に属していないリークたちが起用されたことはある意味では必然でもあった。

 

「よかったんですか?ベルモンドさんとケーニヒ教官が行くことになって」

 

「大丈夫さ。議長をプラントに送り届けるまでの警護任務だ。そこまでハードな任務にはならんさ」

 

共に正装姿で二人とVIPたちを見送ったシンから投げられた言葉に、ラリーは簡潔に答えた。内容としても、ユニウスセブンのテロリストたちの残党に備えて、所属不明機への迎撃、撃退だ。

 

オーブの雷光と、オーブの星光。

 

この2年の紛争介入により、白き流星と並ぶ異名を獲得した二人の腕があれば、間違いが起こることはないだろう。

 

「だと、いいんだけど」

 

そう言って顔をしかめるシン。どうやらこの企業一番の若手には他に気になる事があるらしい。

 

「やっぱり大西洋連邦が?」

 

思い当たることを言うと、シンはうなずく。どうやら嫌な予感には目星がついているらしい。

 

「かなりキナ臭いことになってるみたいです。各国にも圧力を掛けているのだとか」

 

昨日にアスカ家へと訪ねてきたカガリや、アスランの話を聞く限り、大西洋連邦は強硬な手段と姿勢を持って各国の丸め込みに入っているようだ。

 

前大戦から2年…。

 

いや、前大戦から〝もう〟2年だ。

 

ハルバートン提督、クライン議長、ウズミ首相により勧められた和平への道に不満を燻らせるには充分な時間であっただろう。現に、ユニウスセブンでの事件、そしてアーモリーワンでの事件にも、その影があることは明白だ。

 

件のACモドキの話もある。シンの妹であるマユや、アスカ夫妻、モルゲンレーテの総力を上げて解読に乗り込んでいるが、大西洋連邦があのACの開発に関わっている可能性は大きい。

 

さて、そんな国がユニウスセブン落下で何を始める気か…。

 

「今日にでもオーブに連絡が入る予定ですが…」

 

《リビジョンC以外の全要員退去を確認。オールシステムズ、ゴー。ヒメラギ、ファイナルローズ。ヒメラギ、発艦。ハウメアの加護があらんことを》

 

マスドライバーで打ちあがってゆくヒメラギを見上げながら、ラリーは何も言わずにいた。

 

アーモリーワンの事件。

 

そしてユニウスセブン落下事件。

 

被害は抑えられたとはいえ、それら〝事件〟が起こった以上、これから待つ史実の動乱も起こることなのだろう。地球とプラントの間で起こる第二次ヤキンドゥーエ戦役。だが、地球の情勢は史実と比べれば大きく異なっている。

 

大西洋連邦と徒党を組むユーラシア連合は、ハルバートン閣下がトップを抑えている以上、プラントとの融和政策を覆すことはない。

 

ムルタ・アズラエル理事が牛耳るブルーコスモスも同じくだ。彼が目を光らせているうちは、表立って動くことは困難だろう。

 

この激変した地球の勢力図。書き換えるには史実の呼びかけ程度ではとてもじゃないが足りない。…足りないように準備をしてきたつもりでもある。

 

激動する時代に備えて、準備をしてきたつもりだ。だが、心にある不安は否めない。

 

ラリーはその不安を胸に抱きながら、上がってゆく光をただ見上げているのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「なんだと!?新たなる同盟条約の締結!?一体何を言ってるんだ、こんな時に!」

 

オーブの首相であったウズミ・ナラ・アスハが病床に伏してる中で起こったユニウスセブン落下事件。

 

破壊し損ねた隕石が大西洋連邦の勢力圏内に多数落下したことにより、甚大な被害が出たことはカガリも深く理解していた。それによる説明責任、賠償、国と国が行うマネーゲーム自体も。

 

だが、宰相を務めるウナト・エマ・セイランから発せられた言葉は、カガリの考えを遥かに上回る事態であった。

 

「こんな時だからこそですよ議員」

 

驚きを隠せないカガリと、現首相であるホムラに対して、ウナトは冷静な声と目つきで言う。

 

「理念も大事ですが、我等は今誰と痛みを分かち合わねばならぬものなのか、ホムラ代表にもそのことを充分お考えいただかねば」

 

「皆、私の報告を聞いていなかったのか!?あのユニウスセブンの落下はプラントだけの問題ではない!明らかな外部勢力も加わった——」

 

「しかし、市民の耳にそれは入ってこないですよ。故に、こういった事態になっているのです」

 

情報誌や、メディアでは、ユニウスセブンの落下はコーディネーターのテロリストによって引き起こされたものであり、落下阻止が出来なかったのは全てプラントに責任があると説明しているばかりだ。

 

あの時、戦闘に参加した連合軍やザフト、そしてカガリたちが目撃したテロリスト以外の勢力による妨害工作、そしてアーモリーワンでの新型機奪取の件も全て情報規制されている状態で、だ。

 

「そんな馬鹿な話があるか!何かの間違いだ、それは!!」

 

「いえ、間違いではございません。先ほど大西洋連邦とそれに属する連合国は、以下の要求が受け入れられない場合は、プラントを地球人類に対する極めて悪質な敵性国家とし、此を武力を以て排除するも辞さないとの共同声明を出しました」

 

ウナトから渡されたデータ端末を見つめて、カガリの顔つきは青ざめる。

 

「なんだ…この馬鹿げた条件は!!」

 

そこに綴られていたことは、誰から見ても一つの〝目的〟に向けて仕組まれたことだった。

 

 

 

////

 

 

 

「全く以て話にならん!一体何をどう言ってやれば、彼等に分かるのかね!?」

 

その衝撃は、プラント国内にもすでに響き渡っていた。最高評議会に参集した各市の議員たちも、提示された条件を見て驚きを隠せずにいた。

 

「何を今更、テログループの逮捕引き渡しなどと。既に全員死亡していると、こちらからの調査報告を大西洋連邦も一度は了承したではありませんか!」

 

その上賠償金、武装解除、現政権の解体、連合理事国の最高評議会監視員派遣。とても正気の沙汰とは思えない条件の提示だった。

 

「奴等だって、こちらが聞くとは思ってないでしょうよ。要は口実だ」

 

「例によってプラントを討ちたくて仕方がない連中が大西洋連邦で煽っているのでしょう。宇宙にいるのは邪悪な地球の敵だとね」

 

何かしろ口実をつけて前大戦の続きをしようと画策してきたのは間違いなく大西洋連邦だ。この二年間、その火種を消し続けたことで平安を取り戻しつつあったが、ユニウスセブン落下というあまりにも大きすぎる火種は、大西洋連邦にとってはまさに僥倖と言えただろう。

 

嬉々として手に武器を取って、彼らは条文の向こう側で戦争の準備を開始しているのだ。

 

「しかし、いくらなんでもこれは無謀です。ユーラシア連合も難色を示しています。大西洋連邦は、本気でこのまま戦端を開くつもりなのでしょうか。今そんなことをすれば、ユーラシアも黙っていない。むしろ彼等の方が…」

 

「従わなければそうすると言ってきているではないか、現に!」

 

「月の戦力は無事らしい。自国にも相応の被害が出ているというのに…大西洋は元気なものさ」

 

「戦争となれば消費も拡大するし、憎むべき敵が明確であれば意欲も湧く。昔から変わらぬ人の体質ですよ」

 

議員らの議論も過熱していた。この二年間、プラントと歩調を合わせて火種を消していたユーラシア連合も、大西洋連邦の発表に対してはかなり難色を示している。

 

このまま大西洋が一方的な開戦に踏み込んでも、地球圏の勢力の足並みが揃わない状態となり、最悪の場合、大西洋連邦とユーラシア連合の戦争に発展する危険もある。

 

そんなリスクまで犯して、大西洋連邦はプラントに戦争を仕掛けてくるというのか?

 

普通ならば、そんな感情的で政治的論理性が欠けた話など聞く耳もないことであるが、彼らは躊躇なく〝核〟を持ち出し、撃つという愚行を犯す者たちだ。

 

「やると言っているのは向こうですよ。我々ではない。弱腰では舐められるのも事実だ」

 

核を撃たれてからでは遅い。ある議員はそう言う。その言葉には、あらゆるプラント市民の思いが乗っていた。もちろん、議員である彼らの思いも。

 

「ともかく、こちらも直ぐに臨戦態勢を」

 

《皆さん、どうか落ち着いて頂きたい。お気持ちは解りますが、そうして我等まで乗ってしまってはまた繰り返しです》

 

議論の中で、今まで議員たちの言葉を聞くことに徹していたデュランダルが音声通信越しに声を上げた。

 

オーブからプラントに帰還する最中であるデュランダルの言葉に頷いたのは、アプリリウス市にいる前評議会議長を務めたシーゲル・クラインだ。

 

「連合が何を言ってこようが我々はあくまで、対話による解決の道を求めていかねばなりません。そうでなければ、先の戦争で犠牲となった人々も浮かばれないでしょう」

 

「だが、月の地球軍基地には既に動きがあるのだぞ。理念もよいが現状は間違いなくレベルレッドだ。当然迎撃体制に入らねばならん」

 

《軍を展開させれば市民は動揺するでしょうし、地球軍側を刺激することにもなります》

 

「議長!」

 

それでは間に合わないんですよ、と反対する議員は目で訴えている。それを見て、デュランダルは息を吐いて議会全員の目を見渡した。

 

《でも、やむを得ませんか。我等の中には今もあの血のバレンタインの恐怖も残っていますのも事実です》

 

そう。誰もが過剰に反応する根幹にあるもの。

 

血のバレンタイン事件。

 

あの事件から続く遺恨は、今もなお、プラント市民の心の奥底にある傷跡だ。大西洋連邦が刃を向けてくる以上、あの悲劇が脳裏に過ぎることは仕方がないことだ。

 

議員の座を降りたシーゲルも、議長の言葉に声をなくした議員の心情を理解している。あの悲劇だけは繰り返してはならない。かつてのシーゲルも、その想いを胸に、さらなる悲劇の引き金を引いてしまったのだ。故に、同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

 

「デュランダル議長、防衛策に関しては国防委員会にお任せしたい。それでも我等は、今後も対話での解決に向けて全力で努力していかねばなりません」

 

シーゲルが受け取っているのは国防委員会だ。とにかく万が一ということもある。市民に軍を動かすことを伝えなくとも、防衛網を構築することは国家を守る上での義務だ。

 

シーゲルの言葉に、通信越しのデュランダルも頷く。

 

《こんな形で戦端が開かれるようなことになれば、まさにユニウスセブンを落とした亡霊達の思う壺だ。どうかそのことをくれぐれも忘れないで頂きたい》

 

その言葉に議会全員が頷いた。その心に暗澹たる恐怖を抱いたままで。

 

 

 

 

////

 

 

 

オーブ軍、通信施設。

 

プラントとのホットラインが敷設されているこの施設で、アスランは一人、プラントとの暗号通信を試みていた。

 

《アスラン》

 

「忙しいところにすまない、ニコル。状況はどうなっている?」

 

応答してくれたのは、プラントの防衛部隊に配属されている親友、ニコル・アマルフィだ。電子機器の扱いに慣れているニコルは、アスランにとってプラントの信頼出来る内情を知るための伝手の一つと言える。

 

《良くありませんよ。プラント市民は皆怒っています》

 

アスランの問いかけに、ニコルは顔をしかめたまま答えた。

 

デュランダル議長は、あくまでも対話による解決を目指して交渉を続けると言っている。だが、それを弱腰と非難する声も上がり始めているのも事実だった。

 

「そうか…。地球も落とし所を間違えば不満を抱く勢力との内戦になりかねない状況だ」

 

オーブはまだ比較的に安定しているが、ユーラシアや大西洋の情勢は酷いものだ。片方はプラントを滅ぼせとデモが起こり、片方では強硬姿勢となった大西洋のやり方に疑問の声を上げている状態だ。

 

このままいけば、プラントと地球よりも、地球圏での内戦に発展しかねない。

 

《アスランは、プラントには戻らないのですか?》

 

ニコルの言葉に、アスランは困ったような笑みを浮かべて言葉を返した。

 

「ニコル。逆に聞くが、俺が戻って何ができる?パトリック・ザラの息子として政治の世界に出れば事は収束するのか?」

 

あのパトリック・ザラの息子というだけで、両手を上げて受け止めてくれる勢力はあるだろう。だが、その先にあるものは何か。少し立ち止まって考えればわかることだ。気まずそうにしているニコルを見て、アスランは悪かったと謝った。

 

「わかってるさ。けれど、俺がプラントに戻るのは今ではないということだけははっきりとわかっている」

 

《カガリさんを守るんですね》

 

「いいや、違う。この世界を守るために」

 

真っ直ぐとした目でアスランは言った。自惚れるわけでも、自分の力を信じるわけでもない。それでも、この世界を守るために戦うと。

 

そんな親友の目を見て、ニコルも同じように笑みを浮かべて答えた。

 

「僕らも同じ思いですよ、アスラン」

 

 

 

 

 



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第38話 悪魔囁く闇の産声

 

 

 

 

「さて…それで、具体的にはいつから始まりますか、攻撃は」

 

薄暗い部屋の中、ジブリールはワイングラスを緩やかに揺らしながら、熟成された赤ワインの香りを楽しむ。ワインは良い。香りが熟成されてゆくほど、その旨味も際立ってゆく。この数年…いや、前大戦が始まった頃から、ジブリールの内にある計画は熟成を始めていた。

 

その計画の幕が切って落とされようというのだ。

 

だが、上機嫌なジブリールとは違い、通信先である〝大西洋連邦大統領〟の顔は浮かばないものだった。

 

《そう簡単にはいかんよジブリール。ユーラシア連合の協議も収拾できていないのだからな》

 

そう言う彼の顔は渋い。

 

彼もまた、強いナチュラル至上主義者だ。前大戦でガタガタになった内政をその手腕で立て直した政治力もさることながら、その地位まで上り詰めたのは彼自身のナチュラル至上主義の考え方にもある。

 

大西洋連邦の人口は多くがナチュラルだ。コーディネーターを蛮族と唾棄する民意が多かったことは、彼自身にとっても大きな追い風となっただろう。

 

だが、大西洋連邦と対をなすユーラシア連合の動きに彼は苦虫を噛み潰す思いだった。忌々しい「三隻同盟」を皮切りに、ユーラシアの政策はコーディネーターとの同調方向へと舵を切っていたのだ。

 

《プラントは未だに協議を続けたいと様々な手を打ってきておるし、声明や同盟に否定的な国もあるのだ。そんな中、そうそう強引な事は…》

 

「おやおや。前にも言ったはずですよ。そんなものプラントさえ討ってしまえば全て治まると」

 

《ユーラシアを無下にはできん》

 

仮に、ユーラシアを抜きにして大戦を始めたとしても、ユーラシアのトップにハルバートンがいる以上、あらゆる手で大戦の妨害をしてくるはずだ。もっと言うならば、ユーラシアと大西洋の戦争に発展する危険もある。

 

理想的なものは、大西洋とユーラシアが手を組み、共にコーディネーターを打つために立ち上がると言う図式だ。地球圏の勢力が二分されている状況下で戦争状態に突入しても、国民の胆力が削がれることになる上に、ユーラシアという国力を無視することもできない。

 

すると、ジブリールはたっぷりとテイスティングしたワインを一口運んでから、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「それはすでに手を打ってあります。…明日にでも彼らはこちら側に転がり込みます」

 

その笑みに、大西洋連邦の大統領はぞくりと背筋を凍えさせた。深淵のような瞳から放たれる言葉は、深く言わずとも彼が何をしようとしているのか容易に想像することができた。

 

ユーラシアでも、現体制に不満抱く武官や将校は多くいると聞く。そしてジブリールが属するブルーコスモスにも。元はナチュラルに比率を置く国家と組織だ。それのトップが融和へと舵を切ったところで、それについて行く者は多くない。ついて行くとしても意識改革からのスタートなのだから、2年という短期間で変えられるものなど、たかが知れている。

 

ジブリールは、その2年という時間に目をつけた。この短期間故に、反感を覚える者たちのストレスは最高潮に達している。

 

爆発寸前の火薬倉庫にマッチを投げ入れるという簡単な作業。それだけで彼らに焚きつけることなど造作もない。

 

「プラント…コーディネーターが居なくなった後の世界で、一体誰が逆らえると言うんです?赤道連合?スカンジナビア王国?あぁ怖いのはオーブですか」

 

ハッと大統領が懸念する〝先の世界〟のことをジブリールは鼻で笑った。そんなことを懸念するほど、世界は前時代的なものではない。

 

ナチュラルとコーディネーター。

 

その種族がいがみ合う世界が、そんなロートルな物の上に成り立ってるという考えを持つこと自体が既に時代遅れなのだ。

 

「世界を動かすのは人の心や感情論でも、ましてや政治面のマネーゲームでもない。もっと単純、しかして複雑なものです」

 

規範。もしくは極めて単純化された反復するルール。あるいは直線的な思考の羅列。

 

ネットワーク、資本、それらを管理する複合企業もろもろが生み出したシステム。

 

だからこそ、創り上げる者とそれを管理する者が必要だ。

 

「システムを管理しなければ荒廃するのが世界です。誰だって自分の庭には好きな木を植え、芝を張り、綺麗な花を咲かせたがるものでしょ?」

 

誰だってそうだ。複雑に入り乱れたシステムよりも、整然としたシステムのほうがわかりやすいし、飲み込みやすい。

 

「人間という生き物は、そういうものが好きなんですよ。きちんと管理された場所、物、安全な未来がね。それを提供しようと言うのですよ、我々が」

 

そうやって人は、世界をより良いものにしようとしてきた。そうしようとしてきた。

 

街を造り、道具を作り、ルールを作って。

 

資本主義、共産主義、主義主張と紐付けで道徳や人道を作った。

 

そして今、それをかつてないほどの壮大な規模でやれるチャンスを得た。

 

「…国家解体戦争。コーディネーターと同調しようなどという愚かなユーラシアの人間には理解できない崇高な思想だ。限りある資源、限りある市場、資材、人材。それを我々が適度に分配しようと言うのだ」

 

だから、システム上のバグや矛盾点を解消しましょう。そう言ってジブリールはワインを楽しみながら微笑む。

 

「邪魔をするものは討って、殺して、早く次の楽しいステップに進みましょう。変革には血が流れるものです。いつの時代でも」

 

大西洋はその時代を作るために多くの資金と人材と命を捧げてきた。その対価を得る資格がある。大統領にその価値観を擦り込ませ続けてきた男は狂気的な笑みを浮かべたまま、大統領へ囁く。

 

「その先にある、我々ロゴスの新たなる世界システムの構築という礎のためにね」

 

それはまさに、悪魔のような囁きだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

アルザッヘル基地より数百キロ離れた場所に展開していたユーラシア連合所属の宇宙艦隊。その旗艦であるメネラオスⅡに乗艦していたデュエイン・ハルバートンは、大西洋連邦がプラントに提示した条件を目にして怒りを露わにしていた。

 

「どういうつもりなのだ!大西洋連邦は!!」

 

シートにノーマルスーツの手袋を叩きつける。あまりにも下劣で、品性のない要求だ。第一、ユニウスセブン落下時に増援を送ったのはハルバートン指揮下の艦隊であり、帰還した指揮官からも所属不明、しかし連合軍所有の機体に酷似した機体の妨害を受けたと聞いている。

 

その情報はすぐに外交ルートを通じて、大西洋連邦へ報告されたというのに、それで打ち上がってきた要求がコレだ。ハルバートンの怒りは最もだった。

 

「こんな通告、通らないことはわかりきっている。これはある種の宣戦布告に他ならないぞ!!正気なのか!?まだあの大戦から立ち直っていない世界を、再び戦乱の世に戻すつもりなのか!」

 

「閣下!メネラオス、発進準備完了致しました!」

 

下士官の報告に頷き、ハルバートンは着慣れたノーマルスーツのヘルメットを被ると艦長席の隣に設けられた座席へと腰を下ろした。

 

「まずはプラント政府に連絡を。議長には私が話をする。メネラオス旗下、全艦隊は発進準備!すぐに出すようにクルーに連絡を」

 

「しかし閣下自らがプラントに出向くことは」

 

「こういう時にトップが動かなければ、下の者たちは納得せん!大西洋連邦と、ここまで話が拗れた以上、相応の責任を互いに取らねばなるまい」

 

ハルバートンの答えを聞いた副官は敬礼で返し、艦長席へと着席する。副官を務めてくれる者も、前大戦から共に歩んでくれた戦友だ。何食わぬ顔で付き従ってくれる彼のことを、ハルバートンは誇りに思っている。

 

デュエイン・ハルバートンにとって、権力というものに執着などありはしなかった。あってはならないとも彼は思っている。

 

ハルバートンがユーラシア連邦のトップへと進むことができたのは、あの凄惨極まった戦争で、自身の身すら顧みずに戦いを止めるために散っていった多くの兵士や若者のおかげだった。

 

彼が願ったナチュラルにもコーディネーターにも優しい世界を実現するために、ハルバートンは2年の月日を融和への道のために捧げ続けた。

 

だが、世界はそれで変えられるほど甘くはない。現に、今まさに融和への道を断とうとする者たちがはびこり、世界は再び戦乱の世へと戻ろうとしている。ハルバートンは深く座席に持たれながら、息をついた。

 

まったく、あの戦いから、平穏な世界を2年も謳歌できんとは…。

 

「閣下、友軍の艦隊が本艦隊へ接近中です。合流まで残り5000」

 

「何?友軍への打診は行っていないぞ」

 

通信官からの報告に疑念の声を上げた艦長に、ハルバートンもブリッジから見える景色に注視した。そこには、アルザッヘル基地から上がってきた地球連合軍の船が数隻見えていた。

 

「しかし、シグナルははっきりと…これは!?熱源探知!ブルー55、アルファ!!これは…モビルスーツです!!」

 

「なんだと!?」

 

「続いて高エネルギー反応確認!来ます!!」

 

「回避!!」

 

それは突然だった。ノーマルスーツのバイザーを下げたハルバートンらが見たものは、飛来した極光に穿たれた有軍艦の姿だった。

 

「ブランツルノーに直撃!大破!」

 

「友軍から攻撃が!?」

 

いや、あれは友軍艦ではない!ハルバートンは戸惑いを隠せなかったが、力強く断言する。新型のウィンダムを出撃させた相手は、その砲塔をこちらに向けていた。

 

融和への道を歩み出していたユーラシア。その内部には、反コーディネーター派の士官もいた。彼らとの話し合いや折り合いも付けつつ、今の進路に向かっていたというのに、納得した顔をしながら、反対派は虎視眈々と機を狙っていたのだ。

 

トップの座を挿げ替えるその瞬間を。

 

「ええい、戦争屋どもめ!血迷ったか!!全艦、対艦、対モビルスーツ戦闘用意!弾幕!とにかく距離を稼げ!」

 

「ダメです!完全に捕捉されました!!」

 

「どうあっても、この戦争を起こしたいらしいな、連中は!!」

 

「ミサイル来ます!!」

 

IFF(味方識別信号)すら改変された状態であり、友軍への迎撃すら封じられた状況で挑む戦いは絶望的であった。

 

後方という無防備な位置を逆手に取られた宇宙艦隊は、奮戦虚しく、瞬く間に撃破されてゆき、ハルバートンが乗るメネラオスⅡも、その閃光の火に焼かれて行くのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

アメリカ、デトロイト州。

 

「ええ、ええ。わかりました」

 

そこに本拠地を置くアズラエル財団。執務室で電話を切ったアズラエルへ、側近が言葉をかける。

 

「アズラエル理事。大西洋連邦は何と」

 

「ブルーコスモスの技術支援も取り付けたい様子ですねぇ。まったく、戦が好きな方々だ」

 

「しかし、ウィンダムの製造比率を5倍とは…彼らの財源はどこから」

 

送られてきた発注書は目を疑うものだった。新型機であるウィンダムの製造増加と、各武装系統の新造設計、追加発注、これではまるで戦時中のようではないか。

 

顔をしかめる側近に、アズラエルも難しい表情のままだった。

 

「おそらく、我々の同胞が一枚噛んでいるのでしょうね」

 

「ロード・ジブリール殿ですか」

 

間髪入れずに答える側近の察しの良さに、アズラエルは小さく笑みをこぼした。どうやらブルーコスモス内でも、ジブリールの権利濫用ぶりは知れ渡っているらしい。

 

「彼とは今後の身の振り方について話をしなければなりません。下手をすれば、再び地球を失う惨事になりかねません」

 

アズラエルも間抜けではない。何か画策しているジブリールのことは察知はしていたが、彼が尻尾を見せ始めたのは最近のこと…フレイ・アルスターから報告があった「アーモリーワン」での事件からだ。

 

それまで一切影すら見せなかった彼の悪行の数々の尻尾が朧げにも見え始めてきていた。

 

だが、ジブリールの真意を確かめるには、まだひと押しが足りない。故に、アズラエルは自ら彼と会談を行うことにしたのだ。

 

「アポイントは私が」

 

「頼みますよ」

 

一礼して執務室から出て行く側近を見送り、アズラエルは大きな窓から見えるデトロイトの街並みを見つめる。

 

ユニウスセブンの落下の影響はアメリカ大陸にも及んでいる。財団やブルーコスモスも、被災した地域や、家屋を失った人々への支援を始めているが、まだ全てに手が回らない状態だ。死傷者や被害すら把握できていないというのに、海の向こう側では戦争の準備を始めている。

 

まったく、やれやれだと言いたくなるものだ。

 

「しかし、一息つく暇もありませんね。こんなことなら僕も共に行くべきでしたよ、フレイさん」

 

執務室の机に置かれているのは、サイとフレイの結婚式で撮影した写真だ。父が前大戦で亡くなっているフレイは、ヴァージンロードの伴をアズラエルに頼んだのだ。

 

ジョージ・アルスターから後見人を頼まれたとは言え、アズラエルとフレイは十も離れていない年齢差だ。最初はアズラエルも渋ったが、フレイの花嫁姿を見て瞬間、歳の差などという考えは吹き飛んだ。

 

自分の手を離れてサイと幸せそうに微笑むフレイの顔をアズラエルは今でも覚えている。そんな彼女を託されたのだと自覚したのもその時だ。

 

せめて、彼女が産む子供たちが、自分と同じようなコンプレックスを抱かない世界を作ろうと頑張ってはきたのだが…。

 

「まったく、世界を守るのも変えるのも、一筋縄では…」

 

その刹那、ガラスが貫かれる音が響いた。あまりにも静かに、あまりにも鋭く。

 

体が衝撃に貫かれる。アズラエルは立ったまま机の角へ押されてバランスを崩した。一体、何が起こった?その疑問よりも先に、込み上げてくるものがアズラエルの思考を奪い去って行く。

 

「がっ…」

 

鉄の匂いと熱い液体が口に広がり、吐き出される。体を弄るように手を這わせると、その内側は真っ赤に染め上げられていた。

 

…撃たれた。

 

それだけが思考に焼き付き、アズラエルは意識を手放した。真っ赤な血が机からフレイたちとの写真へと伸び、そのまま力なく床へと落ちる。

 

「アズラエル理事、出立の手配は…」

 

執務室へと戻ってきた側近が目にしたのは、床に倒れるアズラエルの姿と、徐々に広がり始めた血の海だった。

 

「理事!?アズラエル理事!!」

 

手に持っていた書類を手放して、意識がないアズラエルの元へと駆け寄る。すぐさま彼の傷を確認すると、腹部にかけて酷い傷が穿たれているのが見えた。窓ガラスには一点の穴が空いている。

 

おそらく、アズラエルは何者かに狙撃されたのだ。側近はすぐに窓からアズラエルを引っ張って離して、止血作業へと入った。

 

「しっかりしてください!アズラエル!!」

 

呼びかけるもアズラエルに反応はない。とにかく今は止血するしかない。袖を破って傷口に押さえつける様を、離れたビルからスコープ越しに見ていた男は興味なさげに通信機を繋げた。

 

《目標の排除を確認した。これより撤収する》

 

《ご苦労。すでにポイント2-3へ工作部隊が展開済み。アズラエル財団のクライアントへは連絡を。上層部の机はすべて君たちの物になると伝えてくれ》

 

すでにアズラエルがいる施設は包囲されている。上からはヘリ、下からは工作隊が彼の息の根を止めるために展開しているのだ。

 

通信機の向こう側にいるブルーコスモス幹部の男は、ニヤリと笑みを浮かべてこう続けた。

 

《すべては、青き清浄なる世界のために》

 

 

 

 

 

 

 



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第39話 開戦

 

 

オーブ、ヤラフェス島。

 

オーブの中核を担うこの島には四つの都市と、首都であるオロファトが所在する。

 

その行政府にある内閣府官邸で、ムウとの訓練を終えたユウナ・ロマ・セイランが急ぎ足で自身の邸宅へと向かっていた。

 

「父上!!」

 

パイロットスーツすら着替えずにやってきたユウナを見た父、ウナト・エマ・セイランは、驚いたような顔つきでやってきた息子を出迎える。

 

「大西洋連邦との条約の件、本当なのですか!?」

 

驚く父に、ユウナは間髪入れずに問いただす。ユニウスセブン落下による被害を受けた大西洋連邦が、物資や救助の協力のみならず、軍事的な面の協力要請まで打診していること。ユウナがそれを知ったのが、皮肉にもムウと訓練をしている最中だった。

 

オーブ軍に士族の息子が配属されることも珍しくなく、そのコミュニティの中で、ユウナはオーブの宰相である父が、その条約を結ぶ方向で士族や政府関係者に働きかけていることを知ったのだ。

 

「ユウナ、お前が気にするようなことではない」

 

「気にします!オーブの置かれている状況は、それほど明確なものではないでしょう!?」

 

「ユーラシアも大西洋との交渉に着くさ。お前が心配せずとも良い」

 

「父上!!」

 

用があると言わんばかりにその場を後にしようとするウナトを、ユウナは呼び止める。父もわかっているはずだ。

 

戦後、ナチュラルとコーディネーターの間に生まれた溝はあまりにも大きく、その火種を消すためにオーブ…いや、認めたくはないが、ラリーたちという〝国家に属さない〟勢力がどれほど尽力したか。

 

オーブはそれらの後ろ盾として機能し、ナチュラルもコーディネーターにも分け隔てない政府運営をしてきたというのに、ここで大西洋連邦に組すれば、地球圏の勢力図にも影響が及ぶことになりかねない。

 

「これからはオーブの獅子と恐れられたアスハ家ではなく、我々士族がオーブを統べるのだ。これからはお前も忙しくなるぞ」

 

そのユウナの心配を他所に、父は息子の肩に手を置いて緩やかな声でそう言った。オーブを統べるアスハ家、カガリや、ホムラ代表、そして病床に伏しているウズミ様。そのアスハ家を蹴り出すような発言ではないか。

 

父の言った言葉を、ユウナは理解することができなかった。

 

「お前が希望していた文官として、総司令官として活躍してもらう。アスハの忘形見との結婚もな?」

 

「忘形見…?どういうことですか、父上」

 

「…お前が気にすることではない。ユウナ、お前は目の前に起こることを飲み込み、それを正しく解釈すれば良いのだ」

 

ねっとりとした声がユウナの首筋に纏わりついてくる。その幻惑を見て、ユウナは震えた。過去の自分ならば、それにすら気付かずに、ただ自惚れて、父の言葉を鵜呑みにしていただろう。

 

〝甘ったれるな!戦争になれば身分なんて吹き飛ぶぞ!〟

 

ムウの叱咤に似た声がユウナの中に響く。まったく触れたことのない兵器類に触れて、初めて空を飛んだ感覚をユウナは覚えていた。

 

ウナトの息子として甘やかされてきた自分には、想像すらできなかった過酷な環境。それを導いてくれたのは、紛れもなくムウや、教官を務めてくれたオーブの軍人たちだ。

 

彼らはオーブの平和、そして世界にとっての中立軍としての誇りがある。その誇りを胸に空を飛んでいるというのに、自分は?

 

父の言葉をゆっくりと咀嚼する。

 

今、大西洋連邦と手を取れば、今まで守ってきたものの意味が無くなる。それは、それを守るために飛んでいる彼らへの裏切りではないのか?オーブの軍人への…!

 

「その下らないパイロットごっこもじきに終わる。お前に教える者も居なくなるからな」

 

その言葉で、ユウナは完全にウナトの放つ言葉の幻影を見た。自分を縛る声を、振り払ってユウナはウナトを見た。

 

「下らない…パイロットごっこ…だって…?」

 

足早に去ってゆく父の背中。その背中にもう文官としての憧れなど残っていない。父の言う方針を取れば、間違いなく大西洋連邦は軍を手配しろと要請するし、連合軍をオーブに駐留させろとも言うだろう。

 

そして、今大西洋が行おうとしているのは、プラントとの再度の全面戦争だ。ナチュラルともコーディネーターとも分け隔てなく平和を維持しようとする軍人たちへの明らかな裏切りだ。

 

〝その下らないパイロットごっこもじきに終わる。お前に教える者も居なくなるからな〟

 

ウナトが吐いた言葉が、ユウナの中でフラッシュバックする。

 

上等だ。

 

あれほどの訓練をごっこ呼ばわりにし、平和を守るために尽力する軍人を裏切ると言うのなら、こちらにも考えがある。

 

ユウナは踵を返して、ポケットに入っている通信端末のボタンを乱暴に操作すると耳へと押しやる。

 

「ユウナ・ロマ・セイランだ。ああ、すぐにフラガ二佐に連絡を取ってくれ。それと彼が最も信頼するオーブの軍人、パイロットを速やかに、誰にも悟られず集めてくれ」

 

電話越しの軍関係者に、ユウナは今まで出したことない腹にすえた声を上げて怒鳴った。

 

「用件?そんなもの何でもいい!僕の口座からいくら金を使ってもいい!場所は押さえろ!いいな!!」

 

とにかく時間はない。父が言っていたことが事実ならば……危うくなるのは、ムウやウズミよりの軍人たち。

 

そしてカガリを含めたアスハ家だ。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

《是より私は、全世界の皆さんに非常に重大かつ残念な事態をお伝えせねばなりません》

 

大西洋連邦の首都。

 

そこに備えられた大型モニターに、大西洋連邦総理大臣が映し出され、緊急放送が始まった。

 

「そうだ!予備機も全て戦闘ステータスで起動しろ!」

 

「第44戦闘団は搭載機の発進を完了した。作戦は発令された!現時点を以てオペレーションをフェイズ6に移行する。全ユニットオールウェポンズフリー!」

 

アルザッヘル基地では、多くの艦船が出撃準備を始めていた。積み込まれてゆく物資とMS。一艦隊として編成されたそれらが向かう先。

 

《だが、未だ納得できる回答すら得られず、この未曾有のテロ行為を行った犯人グループを匿い続ける現プラント政権は、我々にとっては明かな脅威であります》

 

アルザッヘル基地からの進軍。

 

それはプラントにとっても異常事態だった。彼らは猶予後の協議もなく、その決断を断行する。ありったけの武装と戦力を積んで、船はまだ無防備なプラントへと進軍を開始したのだ。

 

《よって先の警告通り、地球連合各国は本日午前0時を以て、武力による此の排除を行うことをプラント現政権に対し通告しました》

 

最初に動いたのはザフトの防衛軍だった。

 

《コンディションイエロー発令、コンディションイエロー発令。艦内警備ステータスB1。以後部外者の乗艦を全面的に禁止します。全保安要員は直ちに配置について下さい》

 

スクランブルに備えて警戒態勢へと入っていた防衛部隊も、この事態によって最悪のケースへと転がり落ちてゆく。

 

「開戦!?そんな…」

 

パイロットスーツに袖を通したイザークは驚きを隠せないままMSの発進デッキへと急いだ。

 

《第一戦闘群、間もなく戦闘圏に突入します。全機オールウェポンズフリー》

 

だが、敵の展開の方が早い。すでに大西洋連邦が放った先陣はMSとMAを展開して、プラント圏へと侵入を開始していた。

 

「防衛軍の司令官を!最終防衛ラインの配置は!」

 

「全市、港の封鎖完了しました!」

 

「警報の発令は!?パニックに備え軍のMPにも待機命令を!脱出したところで、我等には行く所などないのだ!なんとしてもプラントを守るんだ!」

 

議長不在の最高評議会も、この事態に焦りを隠せない様子だった。水際での防衛戦にはなるが、シーゲルが用意していた防衛網の展開は素早く、柔軟に機能してゆく。各市に分離して用意された艦船が展開する地球軍側の勢力を網で包むように包囲する配置だ。

 

《シエラアンタレス隊、発進スタンバイ。射出システム、エンゲージ!》

 

その中核を担うのは、ザフトの中で最も実戦経験が豊富なイザーク率いるシエラアンタレス隊だ。射出機へと入った白いザクに乗るイザークは、息を吐きながら操縦桿を握りしめる。

 

「結局はこうなるのか。こちらシエラアンタレス1、ジュール隊イザーク・ジュール、出るぞ!」

 

続くように、濃い茶色のディアッカのザク、そして漆黒のザクになるニコル、蒼いザクのシホの機体が射出機へと搬入されてゆく。

 

「シエラアンタレス2、ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ザク発進する!」

 

「シエラアンタレス3、ジュール隊、ニコル・アマルフィ、ザク出ます!」

 

「シエラアンタレス4、ジュール隊、シホ・ハーネンフース、行きます!!」

 

射出されたシエラアンタレス隊は、各々が若手のパイロットや部隊を引き連れて戦線へと向かってゆくのだった。

 

 

 

////

 

 

突然の宣戦布告。大西洋が下した愚かな結論に議長は気を揉みながらも、刻一刻と変化する情勢を目にしながら判断を考えるしかなかった。

 

「議長!!」

 

「ええい!!こんなにも早く展開してくるとは!!」

 

大西洋連邦が主導する地球軍の動きは素早い。すでにザフト軍との戦闘状態へと突入している宙域もある。

 

オーブの船、ヒメラギに乗るデュランダルが観測された映像を見つめていると、後部座席に座っていたラクスがふわりと宙に浮かび、デュランダルの元へとやってくる。

 

「デュランダル議長、まさか大西洋は…」

 

「始めるつもりだぞ、戦争を」

 

そのデュランダルの言葉に、ラクスも表情を険しくする。ユーラシア連合がまだ納得できていないという状況なのに、大西洋連邦は戦争を始めると言うのか。

 

だが、ザフトもそれを警戒していないほど甘くはない。すでに快進撃をしていた地球軍はザフトの防衛網に引っかかり、その足を留めさせられている。戦力的にも、大西洋連邦の所有する部隊と限られているため、このまま戦いが膠着し消耗戦となれば、不利になるのは明らかに地球側だ。

 

この攻撃をしてでも得られるメリットが地球軍側にあると言うのなら…。

 

「ちょっと!こっちは大丈夫なの!?」

 

デュランダルとラクスの思考を絶ったのは、後ろにいるミーアだった。プラントと地球が戦争になったなら、今から戻ろうとする自分たちはどうなるのか。ミーアの不安は至極当然のものだ。

 

「こちらの軌道は交戦エリアから外れてはいますが、迂闊に近づくことは」

 

オーブの士官がそう答えると、ミーアはプロデューサーであるバルトフェルドやアイシャに宥められながら落ち着きを取り戻している。

 

だが、万が一ということもある。デュランダルは後方で待機していた二人の〝英雄〟へと視線を向けた。

 

「ベルモンドくん、ケーニヒくん。頼めるか?」

 

そう問いかけられたリークとトールは、互いに顔を見合わせてから立ち上がる。

 

「報酬は上乗せになりますがね」

 

「頼む」

 

しっかりと〝対価〟を約束させてからトールは先に通路へのドアを潜り、リークは格納庫への連絡を取った。

 

「マードックさん!」

 

《ベルモンド機、ケーニヒ機、スクランブルだ!そうだ!ファストパック装備だ!行って戦って帰ってくる分の燃料は確保しろ!装備し終わり次第、直ちに発艦させるぞ!》

 

インカム越しに応答したマードック指揮下のもと、急ピッチで二機の機体へ装備が取り付けられてゆく。

 

「こりゃあ、楽な仕事では終わらなさそうだ」

 

パイロットスーツに着替えた二人は通路を行きながら、これから待つ戦いに心を鋭くさせてゆくのだった。

 

 

 

 



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第40話 悪夢、再び

いつも誤字指摘や修正ありがとうございます。書いてると「あひぃい書くの気もちぃ!」ってなりながら書いてるのでミスは本当に申し訳ない…。感想もすべて読ませていただいてます!ユウナはもっと成長しますよ!!あと、今回でジブリールの姿の一端を魅せることができるかと…ふへへ、あの顔芸悪役を別方向でぶっ飛ばした感じなので、楽しんでいただければ!!

.



『本隊、戦闘を開始しました』

 

アルザッヘル基地から上がった艦隊。

 

大西洋連邦が所有する大型艦隊のほとんどを投入した作戦へ、ザフトの勢力は群がるように迎撃に出ていることを確認した艦長は、ニヤリと笑みを浮かべて船へ前進の号令をかけた。

 

『よーし、予定通りだな。こちらも行くぞ。この蒼き清浄なる世界に、コーディネーターの居場所などないということを、今度こそ思い知らせてやるのだ!』

 

馬鹿なコーディネーター共だと艦長は唾棄する。しかし、そうなることを睨んだ作戦だ。あれほどの規模の艦隊。まさかその全てが囮だとは思うまい。

 

プラントから見て極軌道となるエリアから、低出力を維持していたスラスターを吹かして出てゆく幾つもの地球軍の宇宙艦艇。

 

彼らに備わるのは最低限の防空装置のみであり、その本質は艦載機であるMSにある。

 

月の影から出た太陽に照らされた船。そのMS発進デッキには不穏な印をあしらわれたミサイルコンテナを背負う幾つものMSが鎮座しているのだった。

 

 

 

////

 

 

 

 

「地球軍、モビルスーツ隊20、第二エリアへ侵攻中。第三管軍はオレンジ、ベータ15へ」

 

「電撃的な作戦と展開だな。敵主力隊の狙いは、やはり軍令部か」

 

今防衛戦の旗艦となるゴンドワナ級「アヴェンジャー」に乗り込むザフト軍の指揮官たちは、展開する地球軍の様子を見て、敵の狙いが可及的速やかにザフトの軍令部を陥落させるような動きであるということを早々に見抜いていた。

 

だが、展開の仕方や攻撃にも、慎重さや静けさはなく、かなり派手な攻撃が目立つ。あまりにも大きな火の玉をあげる爆発や砲撃。電撃的な作戦だというのに、まるで目立つような立ち回りではないか。

 

その動きが、司令官たちの頭を悩ませる。

 

「敵の狙いはまだ解らん!敵艦の動き、どんな小さなものでも見逃すな!哨戒機からの報告は?」

 

各方面に展開させた偵察型のMSもすでに配備についている。考えられるあらゆる戦略を考慮した布陣だ。そこへ、極軌道方面の偵察機から連絡が飛び込んできた。

 

「極軌道哨戒機より入電。敵別働隊にマーク5型…えっ…か、核ミサイルを確認!?」

 

「なんだと!?数は!?」

 

「不明ですが、かなりの数のミサイルケースを確認したとのことです!」

 

送られてきた画像には、新型のMSの大編隊と、背中に背負われた大型のミサイルケースが鮮明に写っている。さらに拡大された先には、〝核〟であることを示す放射能兵器のマークが印字されていた。

 

抜かったか!司令官たちは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。今、ザフトが立ち回っている相手は旧世代の機体やMAばかりの機体だ。本筋は極軌道から来た部隊だろう。

 

敵にとっては核弾頭さえプラントに打ち込めれば戦略的には勝利となるのだ。司令官たちは間髪入れずに全軍へ報告を放った。

 

《全軍に通達!極軌道からの敵軍を迎撃せよ!奴等は核を持っている!一機たりともプラントを討たせるな!》

 

その報告を受けて、イザークは敵の一機を貫いたビームブレードを引き抜きながら驚愕の表情を浮かべる。

 

「核攻撃隊?極軌道からだと!?」

 

「じゃあ、こいつらは全て囮かよ!こりゃあ、まずいぜ!?イザーク!!」

 

群がってくる旧型のダガーやMAを蹴散らして、イザークたちは極軌道方面へと転身。足の遅い機体は引き続き囮の艦隊を食い止めるしかない。

 

「くっそおおぉぉ!」

 

スロットルを全開に上げるが、MSの機動力では極軌道から来る敵に間に合うかどうか微妙なラインだった。このまま見過ごせば、核で再びプラントが焼かれることになる。

 

PJや多くの軍人が命をかけて核を止めたというのに、まだそんなことを平然と出来るのか!!

 

ぶつけようのない怒りがイザークの身体中に溢れる中、後方を飛んでいたニコルの機体が何かを捉えた。

 

「待ってください!グリーンマーク52、アルファ!高熱源が接近!!この機体シグナルは…」

 

その反応は恐ろしく速い。

 

まるでミサイルのような反応速度で地球圏からこちらに向かってくる。ニコルは、その反応に何かを感じとった。その反応の進路は間違いなく、極軌道から現れた地球軍へ向いているのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

『一発勝負だぞ。最大まで引きつけろ、いいか!』

 

核ミサイルが詰まったミサイルコンテナを背負うウィンダム。その隊長機に乗る軍曹が怒声のような声を上げて各隊へ指示を飛ばした。

 

その様子は、まるで狂気に囚われたようだった。何千、何億という命が乗るプラントに向かって、彼らは何の躊躇いもなくその狂った感情をぶつけようと機体を前進させているのだ。

 

『レッド22ベータにナスカ級3。ですが、一隻は見慣れぬ装備を着けています!』

 

放っておけ!そう一喝する軍曹にとって、ザフトの新兵器など目にも入らないものであった。血のバレンタインでは、たった一発しか撃てなかった核が、ここからなら数十という数を打ち込める。その全ての核弾頭がプラントに直撃しただけで、この開戦した戦争は地球側の勝利として、ナチュラルがコーディネーターを滅ぼした記念すべき日として記録されることになるのだ。

 

『そぉら行け!今度こそ蒼き清浄なる世界の為に!!』

 

ついに射程距離となった時。

 

ミサイル発射スイッチに手をかけようとしたウィンダムのパイロットは、真横から飛んできたビームの閃光に飲まれて、その生涯を閉じた。

 

『なんだ!?』

 

隊長機が気づいた時にはすでに手遅れだった。ほぼ真横から飛んでくるビームの光が彼のコクピットカメラをいっぱいに照らしたのだから。

 

「まったく!こんな場面に出会すとは!!」

 

初手に先行していたウィンダムのコクピットを打ち抜いたのは、白い光を引き連れて飛来するMA、メビウスだった。

 

望遠カメラからでもわかるシルエットは、すでに旧型機に分類されるMAだと判断させるには充分であったが、その姿を見て極軌道から上がってきたウィンダムのパイロットたちは戦慄する。

 

ひとつだった光は二つへと分かれて、さらに速度を上げて接近してくる。

 

標準的なメビウスの外観からかけ離れた武装やカスタマイズをされた姿。

 

片や一般機、もうひとつは黄色と黒で塗装されたカラーリングが施されているそれは、地球軍の…主に大西洋側のパイロットには深く刻み込まれた畏怖を示すものであった。

 

『メビウスライダー隊…あの傭兵集団か!?』

 

『そんな化け物がいるなんて、聞いてないぞ!?』

 

ミサイルを積んだウィンダムの護衛に付いていた迎撃機が、リークとトールが操るメビウスを落とそうと前に出てくるが、その驚異的な機動力は旧型機からはかけ離れたものだった。

 

敵のビームを難なく避けたリークのメビウス・ストライカーは、カウンターで打ち込んだビームランチャーで的確にウィンダムのコクピットを粉砕する。

 

『な、なんだあの動きは…!!相手は旧型機じゃないのか!?』

 

それに気を取られた敵機。光に目を向けたのが致命的だった。MSの爆発の光を目眩しにしたトールのメビウスが、翼端に備わるビームサーベルを展開して、茫然としていたウィンダムの胴体を真っ二つへと切り裂く。

 

「あれだけの戦争をして、まだこんな卑劣なことをするのか!!お前たちは!!」

 

上がってきた迎撃機をすり抜けた二機のメビウスは、無防備なミサイルコンテナを運ぶウィンダムの排除を開始した。

 

相手は核ミサイルを積んだ機体だ。

 

機体を爆散させるのは危険だと判断した二人は、機動性を奪うか、真横からビームをコクピットに当てて沈黙させるかの、どちらかの手段を持って敵の戦力を削ぎ落としてゆく。

 

「メビウス!?しかし、あの機体は…!!」

 

「ラリー…?いや、リークか!」

 

極軌道へと到達したシエラアンタレス隊は、現れたリークたちの援護に曇っていた表情を明るくさせた。この距離ではとても間に合わなかった。混乱した核弾頭装備のウィンダム部隊を的確に討ち取ってゆく。

 

ふと、イザークのザクの後ろへ黄色と黒のメビウスが飛び去ってゆくと、後方から現れたウィンダムへと攻撃を仕掛けた。

 

「イザーク!ぼさっとするな!第二波がくる!!」

 

「トール!流石だな!!」

 

だが、間に合ったとはいえ敵は広範囲に広がってゆく。シエラアンタレス隊や間に合ったザフトのMS部隊をすり抜けたウィンダムの数機が、核弾頭の発射態勢に入った。

 

「させるものか!!」

 

トールがビームランチャーでコクピットを吹き飛ばしたものの、怨念じみたものが核弾頭をミサイルコンテナから射出させてゆく。数発の核はMSの間を潜り抜けてプラントへと奔った。

 

「くっそぉおお!!間に合わん!!」

 

「諦めるな!!」

 

「出力を上げろ!!プラントが焼かれたらまた戦争が始まるぞ!!」

 

火がついた核弾頭はあまりにも早い。メビウスの出力を上げても、射程に捉えれても余波でこちらまで巻き込まれかねない。

 

(プラントを核で撃たせるわけには…!!)

 

出力を上げて核へと近づくリークは、心中を図ってでもと核に向けた引き金へと指をかけた。その時、通信機からザフト軍の声が響いた。

 

《流星隊、シエラアンタレス隊は直ちに退避!!繰り返す!現宙域を直ちに退避せよ!!》

 

何を言ってる?核はプラントの目と鼻の先にあるというのに!!その通信を無視して速度を上げようとしたリークの前に、遠くから撤退を示す信号弾が打ち上がった。

 

「離脱するぞ!!」

 

信号弾を打ち上げてでも退避させることを優先するということは、何か策があるのか?

 

リークは飛びゆく核に歯を食いしばりながら、操縦桿を離脱する方へと傾けて、イザークやトール達とともに戦線を離れた。

 

「ニュートロンスタンピーダー。全システム、ステータス正常。量子フレデル、ターミナル1から5まで左舷座標オンライン。作動時間7秒。グリッドは標的を追尾中」

 

その核の行く先には、一隻のナスカ級が鎮座していた。そのナスカ級は改装されており、6対、計12枚のブレード状の電磁波放射装置「量子フレネル」が帯電を始めている。

 

「チャンスは一度だ!観測士!よく狙えよ!」

 

このシステムは1度の使用で焼き切れてしまい、搭載した艦も機能停止に陥るため、複数回連続使用は不可能だ。

 

また、照射範囲も限定される。艦長を含めたザフトの士官は固唾を飲んで、迫ってくる核弾頭や、生き残った核装備のウィンダム隊を見据えた。

 

「スタンピーダー、照射!!」

 

放たれた光は、瞬く間のうちに飛来した核弾頭や、核を運ぶウィンダムの部隊を飲み込む。

 

光に飲まれたパイロットたちは無傷であったが、放たれた光は人を殺傷することが目的ではない。

 

ニュートロンスタンピーダーの本質は、中性子の運動を暴走させて強制的に核分裂を起こすことにある。

 

この能力は、有効半径内に存在する核弾頭をその場で起爆させる事が出来、さらにはフリーダムをはじめとする核エンジン搭載MSの原子炉を暴走させることも可能となる。

 

『なっ!?第一攻撃隊、消滅!』

 

『なにッ!?』

 

『あのナスカ級から何かが!』

 

必然的に、核そのものや、核を装備したウィンダムは暴走した核分裂による爆散で、核の飛散とともにその運命を共にすることとなった。

 

地球連合軍の核攻撃部隊「クルセイダーズ」が所持する核ミサイルは、全て誘爆を起こし破壊された。

 

ウィンダムやその母艦なども、発射せずにいたものや、所属艦が格納していたものも一斉に誘爆したため、全滅する道を辿ったのだ。

 

「あの光は…ジェネシスの…」

 

目の前を過ぎ去った光を見つめながら、リークは小さな声で呟く。あの稲妻や赤い閃光が入り乱れた光は、前大戦でみたジェネシスの光と酷似していたからだ。

 

「なんだ…一体何が…」

 

「少なくとも、地球側が撃ったのか…核を!!」

 

撃退したとはいえ、プラントの目と鼻の先で再び核が火を上げたのだ。その事実を前に、リークたちも、イザークたちも、プラントを守れたことを両手を上げて喜ぶことはできなかった。

 

《核ミサイルは全て撃破。各攻撃隊は完全に消滅しました。任務完了、RTB》

 

とにかく今は帰還するしかない。

 

操縦桿を絞りながら、残骸と化した地球軍の核部隊をリークが見つめていると、囮役で展開していた地球軍も撤退を開始したようだ。

 

「スタンピーダーは量子フレデルを蒸発させブレーカーが作動。現在システムは機能を停止しています」

 

《まったく堪らん。スタンピーダーが間に合ってくれて良かった》

 

何とか間に合った「ニュートロンスタンピーダー」の活躍に、最高評議会の面々は胸を撫で下ろした様子だった。

 

「だが、虎の子の一発だ。次はこうは…」

 

ザフト側もようやく1隻に装備できたものだ。

 

もし仮に、奇襲部隊が2段階以上に分けて攻撃を行っていれば核は防げなかった。ギリギリの状況ではあるが、地球軍が撤退した今は、とにかく次のことに備える必要がある。

 

それに、この威力を見た地球連合軍は、うかつに核兵器を使用する事ができないだろう。

 

《これで終わってくれるといいんですがね…とりあえずは》

 

通信で繋がっているデュランダルの言葉に誰もが簡単な相槌しか打てなかった。その場にいる誰もがわかっていたのだ。

 

核を持ち出した段階で、自分たちと地球は再び全面的な戦争へと突入することになるのだと。

 

 

 

////

 

 

 

《ベルモンド機、ケーニヒ機、着艦します》

 

ヒメラギへと帰還したリークたちは、エアロックが作動した貨物室の中でヘルメットを脱いだ。汗でじわりと滲んだ髪をかけ上げてから、頭を振るう。

 

デュランダル議長の依頼のもと、護衛任務でヒメラギから発進したと同時に、ザフトの偵察機が核搭載のMSを発見したというのだから、迎撃するほか無かった。

 

これはまた請求書が更新されるな、とリークはマードックたちが整備し始めたメビウスを見上げながらそんなことを思う。

 

傭兵稼業というのは、数字が明確に現れるものだ。例えば消費した燃料、弾薬。メンテナンス費用に、駆動系が消耗した場合の交換費、さらには人件費や貨物代、移動費諸々。さらに、メビウスライダー隊というネームバリューもあるため、オーブで雇われた際に請求書を出したら、カガリの顔が青ざめたものだ。

 

身内割りもするがとラリーが提案するも、アズラエル理事が「身内に甘くするビジネスマンは三流以下です」と説教をしていたのを思い出す。

 

「ええ、大丈夫。ちゃんと解ってますわ。時間はあとどれくらい?」

 

「なら、もう一回確認できますわね」

 

格納庫から居住区へ移動していると、通路の先でラクスとミーアが何かを持ちながら話し合っているのが見えた。

 

「ハロハロ、Are you O.K.?」

 

「テヤンデイ!テヤンデイ!」

 

近くで着地すると、二人のハロが足元で飛び跳ねた。

 

「ラクスさん、ミーアさんも」

 

「あら、お二人もレッスンの見学?」

 

「まだ戦闘宙域で危険ですよ」

 

地球軍が撤退したからと言って、安全が確保されたわけではない。オーブから上がったヒメラギが安定軌道に乗っているとは言え、ここで気を抜くのはあまりにも早計だ。

 

リークがそう言うと、ラクスの隣にいたミーアがさも当然のように首を傾げる。

 

「ベルモンドさんが撃退してくれたんじゃないのかしら?」

 

「戦闘はそんな簡単なものではありません。それよりも…」

 

「ええ、調べなければならないことは多く、知るべきこともありましょう。しかし、今は状況を理解する事が優先です」

 

核が再び使われた。

 

原因や敵の目的を知る以前に、その事実がある以上、プラントの人々の胸に浮かぶのは過去の惨劇である血のバレンタインだ。

 

「多くの人がナーバスになってるんですもの。そのために私やラクスさまがいるんですよ?」

 

ミーアとラクスは、公共の放送ラインで歌声をプラント全域に届けようと提案したのだ。プラント全体が核による恐怖に揺れる中、少しでも市民や過去を思い出して心を痛める者たちへの安らぎは必要となる。

 

「…そうですね…なら、みんなに歌声を」

 

「お任せください」

 

「とびっきりのナンバーを送ってあげます!」

 

力強く答えた二人に、リークとトールは敬礼を打って、再び移動を始める。ラクスたちはラクスたちの戦いがあるように、リークたちにはリークたちの戦いがある。

 

まずは、地球軍の動向。そしてザフトがどう動くのか。悲劇的にも最前線となってしまったこの場で、できうる限りの情報を集めることがリークたちの次の戦いでもあった。

 

 

 

////

 

 

 

「全滅?」

 

《ええ、核攻撃隊は一機残らず跡形もなく全滅したんですよ。一瞬のうちに。地球軍は一旦全軍、月基地へ撤退しました》

 

大統領からの報告を受けたジブリールは、驚愕と戸惑いから表情を変える…訳でもなく、ただその報告を聞きながらワインを口に運んだ。

 

甘味な味わいを楽しんだのち、ジブリールは頬杖を着いて思考を巡らせる。

 

「ふふふ…やはり予測していたか。デュランダルめ」

 

あの抜け目のない政治家だ。核を使うと言う予測は範囲内なのだろう。まったく、口では和平などと甘い言葉を呟きながら、隙のないものだ。

 

《再び核攻撃を行いますか?》

 

「いえ、撤退させてください。そういう類のものがある以上、状況分析をせざる得ません。それに消耗することも無視はできない。それに、これはあくまで「デモンストレーション」です」

 

《デモンストレーション?》

 

「〝核を撃った〟という事実さえ残ればいい。これで双方、引っ込みは付かなくなった。もはやユーラシアも大西洋も関係ない」

 

核を使い、プラントへの脅威を示した以上、もはや大西洋だの、ユーラシアだの言っている場合ではない。もはやそんな内情などどうでも良い領域に突入したのだ。

 

ユーラシアとブルーコスモスの上層部は、すでにジブリールの手中だ。こうなってしまった以上、後付の説明など、どうにでもできる。

 

「プラントと地球、この勢力図さえ作ってしまえばいいのですよ。これで、仕事はやりやすくなるというものです」

 

あとは予定通りに残存兵力をまとめて下さいと話をまとめて、ジブリールは通信を切ると、改めて自身の体を椅子へと預けた。

 

「舞台は整えられ、役者は揃った。システムは動き始める。もう誰にも止めることはできない。回り始めた歯車を、あとは幾分か早めるだけで良い。ふふふ…アーッハッハッハッ!!!」

 

そうだ。そうだとも。

 

すでに核は撃たれた。その時点で、もはや誰にも止めることはできない。

 

核が阻止された?核を輸送していた部隊が全滅した?敵が謎の装備を持ち出した?そんなもの、ジブリールにとっては些細な誤差に過ぎない。それどころか、ユーラシアが勝とうが、大西洋が勝とうが、プラントが勝とうが、彼にとっては〝どうでもよいのだ〟。

 

「ハルバートンはコーディネーターとの融和を。アズラエルはブルーコスモスの意識改革を。それぞれが新しく動き出したと言うのに、彼らは決定的に見落としたものがある。私がそれを実現しようというのだ!」

 

二人が進めたことは、組織というもの、そしてシステムという鎖に絡められて、亀裂を生み、その亀裂は修復しようがない軋轢へと変化した。指で弾けば吹き飛んでしまいそうな脆さを持って、何が新しい時代だろうか。

 

「そもそも、主義主張などどうでもいいのだよ!!変革するというならシステムは、より生物的にならなければならない!規範なんてものは不必要だ!そのために、邪魔なものは死ねばいい!!邪魔をするものは、みんな死ねばいい!」

 

ジブリールが望むものは、利益でも富でも名声でもない。未だかつてない世界を動かすための〝システムアップデート〟だ。そのためには、まず既存のシステムを壊さなければならない。

 

大西洋だの、ユーラシアだのと地球を二分、三分する構造そのものを破壊し、新たなる経済主体を構築。そこから、世界を動かすシステムを作り替えてゆく。

 

これは前日譚。序章にもならない。

 

彼は指揮者が艶やかに指揮を振るうように手をかざして、上機嫌に笑みを浮かべて声を上げた。

 

「愛してるんだ君たちを!!あははははははははは!!!!!」

 

ここから始める。

 

誰もができなかった

 

全てを!!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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第41話 それぞれの立ち位置

 

 

 

「第4戦闘軍の展開確認」

 

地球軍…主に、大西洋連邦の独断に近い開戦と、直後の核ミサイル攻撃を退けたプラント政府は、ザフト軍の降下作戦を承認。

 

ザフトのニュートロンスタンピーダーの威力を知った地球軍も月へと撤退したことから、宇宙での戦争は消化試合の様相を見せたのち、再び戦争状態となった両勢力の戦いは地球へと移り変わろうとしていた。

 

「しかし、なんとも篩った言い回しですな、積極的自衛権の行使とは」

 

出撃してゆく降下部隊を見つめながら、ザフト軍の司令官はそんな言葉をこぼした。積極的自衛権とはいえ、自分たちの庭ではなく地上へとザフト軍を下ろすことになる。

 

ユーラシア連合がまだ動きを見せていない中、少なく見積もっても、地上での戦闘は苛烈を極めることになるだらう。

 

「そう言ってくれるな。政治上の言葉だ、仕方ない」

 

「第一派で現在包囲されているジブラルタルとカーペンタリアから地球軍を追い払うというのはいいとしましても、その後は」

 

「さあてどうなるかな」

 

ゴンドワナ級「アヴェンジャー」に集う指揮官たちは、始まってしまった第二の戦争を前にして、その後の行く先を見つけることはできていない。

 

コーディネーター、プラントの独立、地球からの支配からの脱却を目指した前大戦とは違い、今回はプラントは望まぬ戦争に身を投じるのだ。ユーラシアや各組織と進めていた融和政策や、地球とプラントとの関係性の見直しが粛々と進んでいた中で、大西洋連邦が行った行為はまさに横槍。はっきりいえば有効な関係を構築する上での邪魔者でしかない。

 

「無論我々とて先の大戦のような戦争を再びやりたいわけではない。国民感情を納得させられるだけの上手い落としどころを見つけ、戦闘を終結させて後は政治上の駆け引き、ということになるのだろう」

 

だがな、と椅子に座る指揮官は顔をしかめる。戦争状態であるならまだ救いはあったかもしれないが、彼らは再び核を撃ってきた。

 

血のバレンタインから数年。あの惨劇を忘れられないコーディネーターたちの、ナチュラルに対する憎しみは…最早消えることはない。

 

「議長のお手並み拝見、ということになるか、その後は」

 

今は今を率いる指導者の言葉が全てだ。そう言った指揮官に、ほかの指揮官たちも黙って頷くことしかできなかった。

 

 

 

////

 

 

 

アプリリウス市の秘密ドッグへと無事入港したオーブ船である「ヒメラギ」。護衛対象であるデュランダルやラクスたちも下船し、今はザフト軍のSPたちに警護されている。

 

トランスヴォランサーズにとっての任務はこれで終了だ。パイロットスーツから正装へと着替えたリークとトールは、見送りにデュランダルたちへと敬礼を打つ。

 

「では議長、我々はこれにて」

 

「ああ、助かったよ。ラリー・レイレナード君にもよろしく伝えてくれ」

 

デュランダルも多忙の身だ。件の核ミサイル攻撃の後処理もあるため、SPや側近に促されるとリークたちと軽く言葉を交わして別の便へと乗り込んでゆく。

 

ふと、横を見ると不満げに唇をとがらせたミーアの姿が目に入った。

 

「えー、もう帰っちゃうんですか?」

 

「これが任務です。それに今の情勢じゃあ、我々がプラントに長居するのはよろしくはないでしょう?」

 

「せっかく、流星様の昔話とか聞けると思ったのにぃ」

 

「仕方ありませんわ、ミーアさん。私たちと同じように、彼らにも彼らの務めがあります」

 

ぶーたれるミーアをラクスが優しげな口調で慰める。ミーアは「はーい」と間の伸びた返事をして、迎えにやってきた者たちの方へとふわりと浮かび上がった。ラクスもリークたちに別れを告げてミーアの後を追うように地を蹴って浮かび上がる。

 

「では、青年たち。ラリーやキラにもよろしく頼む」

 

「バァーイ」

 

マネージャーであるバルトフェルドとアイシャは、オーブからのお土産や、慰安で歌ったお礼に貰ったファンレターを小脇に抱えて去ってゆく。

 

だいぶ板についている様子であったが、船に乗っている間にバルトフェルドからも何かしらの情報が入ったら連絡すると約束はしてもらった。

 

「さてと、リークさん。これからどうします?」

 

「とにかく、今はほとぼりが冷めるのを待つしかないさ。地球側もあんな兵器を見せられたんだ。再度、核攻撃をしようなんてリスクが多いマネは避けるはずだ」

 

「だと良いんですけど。こりゃあミリィにまた怒られるなぁ」

 

プラントと地球は戦争状態だ。しばらくはオーブの船も監禁状態だろう。予想より長く宇宙に滞在することになりそうだと、リークとトールが内心ぼやいていると、ミーアたちと入れ替わる形で見知った顔がドッグの桟橋へと入ってきた。

 

「イザーク?」

 

「貴様らぁ!一体これはどういう事だ!」

 

開口一番に声を荒げると、イザークはするりとリークの前に着地してそのまま正装姿のリークの胸ぐらを掴み上げた。

 

「ちょっ、ちょっと待って!何だっていうんだ、いきなり!」

 

「それはこっちのセリフだ!俺達は今無茶苦茶忙しいってのに、評議会に呼び出されて何かと思って来てみれば貴様らの護衛監視だとぉ!?」

 

「護衛監視?」

 

「何でこの俺がそんな仕事の為に、前線から呼び戻されなきゃならん!」

 

「ちょっと待ってくれ、護衛監視?」

 

ギャーギャーと喚くイザークの言ってる言葉の意味が、リークとトールにはよくわからなかった。すると後から降りてきたディアッカとニコルが不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「え、外出を希望してんだろ?」

 

「ディアッカ。俺たちはそんなもの出してないぞ」

 

「議長護衛の任務を終えたから、このままオーブに帰還する手筈だが…」

 

リークたちの任務はデュランダル議長を無事にプラントに送り届けることにある。本当ならばヒメラギの整備や補給を受けたのち、さっさと地球圏へと帰還したいところだ。

 

それに、こちらがこのアプリリウス市に到着したのはほんの少し前だ。数日滞在しているならまだしも、到着したばかりのこちらがプラントへ外出申請をする暇など無い。

 

そう答えると、ニコルとディアッカは顔を見合わせてから、不自然なリークたちへの配慮に思考を巡らせる。

 

「まぁ、こんな時期だから、いくら友好国の人間でも、プラント内をウロウロはしてほしくないんだろうよ」

 

「それは聞いている。だが誰か同行者が付くとは」

 

「難しい立場なんですよ、貴方たちは。いくら傭兵企業とはいえ、最大の出資者はオーブとユーラシアとブルーコスモスなのですから」

 

「ま、事情を知ってる誰かが仕組んだってことだよな」

 

その〝誰か〟はわからないけど、と続けたディアッカに、リークとトールは顔をしかめた。あまりにも手際が良すぎて不気味だ。考えられるのは護衛対象であるデュランダル議長の配慮なのかもしれないが、状況が状況だ。両手を上げて喜んでプラント観光などできる状態でも無い。

 

そんな二人の疑念を知ってか知らずか、イザークは不機嫌そうな顔をしたまま二人へと問いかけた。

 

「フン!ついでだ。貴様らどこか行きたいところはあるか?」

 

「本当にイザークはツンデレですね」

 

「うるさい!せっかく俺たちが警護につくんだ!これですぐに帰りますなんて認められるか!」

 

正直にいえば、イザークたちとゆっくり話せる時間はここ数年存在しなかった。リークにとっても、トールにとっても、目の前の三人は戦友であり友だ。オーブでの生活やシンとの訓練のことで話したいことは山ほどある。

 

だが、その前にリークとトールによぎった場所があった。

 

「たしかに、行きたいところはある…PJ達の墓に」

 

その言葉に、高慢そうだったイザークの顔つきが真剣なものへと変わった。彼も彼で、プラントを守るために散っていった者たちへ思うことがあるのだろう。

 

「あまり来られないからな。だから行っておきたい」

 

共に戦った戦友を弔うために。それはリークが所属しているメビウスライダー隊で必ず行う〝儀式〟だったからだ。

 

ゲイルが戦死した時も、リークが行方不明になった時も、そしてトールの師であるアイザック・ボルドマンが戦死したときも。

 

死んだ仲間たちを悼むことをリークたちは辞めなかった。それは変わらない。今までも。そしてこれからも。

 

 

 

 

////

 

 

 

「そうか、やはり大西洋連邦は…」

 

「ええ、表向きはオーブが今回どちら側なのかをはっきりさせたい思惑が見えます」

 

「敵か、味方か。戦争となれば、複雑な外交努力よりもそちらの方がよほどわかりすいと言ったものだな」

 

オーブ、ヤラフェス島にある医療施設の個室。そこで入院しているウズミは、現代表であるホムラから度重なる会議で垣間見たそれぞれの思惑を話し合っていた。

 

「お父様!私は同盟には反対です!伯父様が言ったように、大西洋はすでに核を持ち出したのですよ!?」

 

その場に同席したカガリは、自身の思いを素直にウズミへとぶつける。大西洋連邦のやり方はあまりにも無理やりすぎる。まだユニウスセブンの痛みから立ち直ってもいないと言うのに、事を急げばその先に待つのは破滅だ。

 

「しかし、氏族たちの言い分もある。事はそう簡単には進まん。それに私は病床の身…ホムラや、お前たちの進めるオーブの在り方に口を出すことは…いや、そもそも、前大戦で私が指揮をとったことが間違いでもあるのかもしれんな」

 

そう遠い目をしていうウズミに、カガリは言葉を無くす。たしかに、前大戦でオーブは国土であるオノゴロを焼くこととなった。

 

いくら民間人の犠牲者が少なかろうと、そこで戦争行為が起こったという過去が、セイラン家をはじめとする多くの氏族たちに不安と恐怖を植え付けているのだろう。

 

「結局、どちらとも手を取り合わず外交を進めた結果、オノゴロを焼き、プラントにオーブの技術を拡散させてしまった責任はあろう。ウナトたちにとって、その轍を踏むまいという思いがあるのだろう」

 

「しかしお父様!このまま大西洋と条約を結べば、オーブ軍の派遣や、技術供与を迫ってくるのは明白です!戦争を加速させるわけには」

 

「そのためにも、暴走する大西洋を収める必要はあろう。ユーラシアの有権者や、ブルーコスモス側にもすでにアプローチはかけておる。この二年間に費やした融和への努力は、決して無駄ではない」

 

あの杜撰な大戦から多くを学んだ自分たちは、二度とあのような過ちを犯さないために、さまざまな手段と方法を用いてプラントとの融和を進めてきた。国を焼かず、戦わず、そして話し合いで解決できる道筋を作ることが、ウズミやカガリの目標であり、理想でもあった。

 

「大西洋を抑える手立てはあるのですか?」

 

ホムラの問いに、ウズミは蓄えた髭を緩やかに撫でながら言葉を紡ぐ。

 

「ナチュラル主義を掲げる彼らだが、アズラエル財団を抱えるブルーコスモスや、MSの生産数で上回るユーラシアが反戦へと切り替えれば、ジリ貧になるのは彼らだ。外堀から埋めて、彼らの戦争行為を抑圧するしかあるまい」

 

大西洋連邦とはいえ、一連邦がザフトと戦争行為を続けるにも限界はある。MSを潤沢に生産できるユーラシアや、それをバックアップするブルーコスモスからそっぽを向かれれば、大国といえどその懐情勢は厳しいものになるだろう。

 

そんな中で、カガリは過去の事を思い返しながら不安げな目で父へと訴えた。

 

「もし、ブルーコスモスやユーラシアが、大西洋に協力的になったら…」

 

アーモリーワン、ユニウスセブンで遭遇した敵は明らかに地球側。あれが大西洋連邦だけの力とはまだ断定できない。ハルバートン閣下や、アズラエル理事が助力してくれる環境があるからこそ、今の融和も進めることができた。

 

もし、そんな二人が属する大国と組織が、コーディネーターに牙を向けたとなれば…。

 

「…その時は、我々も覚悟をせねばなるまい」

 

ウズミはその壮麗な声でカガリを見据えて答える。彼のいう覚悟を想像して、カガリはオーブが再び戦場になる未来を予想した。

 

そうなる前に、今度は止めてみせる。

 

父に見えないように手を握りしめたカガリは、これから向かって来る波乱の世界を前に、そう心に誓うのだった。

 

 

 

 

 



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第42話 裏切りの策謀

 

 

 

 

 

「積極的自衛権の行使…やはりザフトも動くのか」

 

PJたちの墓参りを終えたリークたちは、墓前の前でザフト軍の現場を聞いた。

 

イザークたちが所属するプラント防衛部隊は、第二次の核攻撃を懸念した軍の方針により残留となったが、前大戦で引き上げたザフトの地上戦力の再配置が決定。

 

ジブラルタルとカーペンタリアへの降下作戦が着々と進んでいるという。

 

「仕方なかろう。核まで撃たれてそれで何もしないというわけにはいかん」

 

「第一派攻撃の時も知ってるだろ?奴等間違いなくあれでプラントを壊滅させる気だったと思うぜ」

 

ディアッカの言葉通り、リークとトールは議長護衛の際に地球軍の核攻撃部隊と遭遇している。なんとか撃退しようとしたが、ザフト軍の新型兵器が無ければ、プラントに核が落とされていた危険は否めない。あの攻撃に間に合うことができなかったのは事実だ。

 

地球軍の作戦はあまりにも電撃的であり、速攻性があり、なによりプラントを亡き者にする執念ともいえる意志があった。

 

血のバレンタイン…そしてリークの両親を奪うことになったエイプリルフールクライシス。両者に残る遺恨は根深い。その片割れが目の前に迫ったのだ。あんなものを見せつけられた以上、プラント政府による外交努力による停戦など、言葉の飾りにしかならない。

 

「で、貴様らはどうする。何をやっているんだこんな所で…オーブは?どう動く?」

 

イザークの問いかけに、リークは首を横に振って答えた。

 

「まだ分からない。けれど、こんな状態となった以上、ハルバートン閣下や、アズラエル理事が黙って見過ごしてるはずがない」

 

あの作戦は、地球方面の勢力図を知るリークから見たら、あまりにも強引すぎる作戦だった。部隊や艦隊の大部分も大西洋連邦所属の船だろう。だが、ユーラシア連合のトップに立つハルバートン閣下や、その軍事力を陰で支えるアズラエル財団の理事であるアズラエルが、そんな杜撰で強引な作戦を認めるはずがない。

 

ユーラシアの反戦ムードもある。それを強行的に無碍にした大西洋連邦の立場も危ういはずだ。だが、こうなってしまった以上、もうプラントにとってユーラシアも大西洋も関係ない。武力的な衝突は避けられないだろう。

 

「…無理を承知で言う。リーク。ラリーたちと共にプラントに来い」

 

リークたちへ、イザークは真っ直ぐとした声で言った。その目に、リークもトールも驚いた様子であったが、イザークは気にしない様子で言葉を紡ぐ。

 

「事情はいろいろあるだろうが、俺がなんとかしてやる。俺たちは、本当ならとっくに死んだはずの身だ」

 

軍令違反。離脱。理由はあれどプラントに反旗を翻した身だ。大戦後の軍事裁判で、イザークたちは然るべき罪状を負い、銃殺刑や終身刑を言い渡されることになるはずだった。

 

だが——。

 

「デュランダル議長は言った。大人達の都合で始めた戦争に若者を送って死なせ、そこで誤ったのを罪と言って今また彼等を処分してしまったら、一体誰がプラントの明日を担うとな」

 

だから俺は今も軍服を着ている、とイザークは言う。

 

それしか出来ることがないが、それでも、この軍服を着ているだけでも何か出来ることはあるはずだと信じている。

 

プラントや、あの大戦で命を賭けて為すべきことを成した仲間達の為に。

 

「イザーク」

 

「それほどの力、ただ無駄にする気か」

 

リークやトール、まだ地球にいるラリーたちの力は、まさに行先を変える何かがある。イザークはそれを確信していた。

 

現に、あの大戦で彼らはザフトにいるコーディネーターも、地球軍にいるナチュラルも関係なく、その心のあり方を変えたのだ。

 

再び始まろうとしている地球と宇宙の全面戦争。その行先を大きく変える力があるのはコーディネーターでも、ナチュラルでもない。あの凄惨な戦いを止めたいと願い、そのために剣を取った彼らのような存在が必要なのだ。

 

イザークの目を見たトールが、ちらりとリークの方を見ると、彼は意を決したように答える。

 

「ありがとう、イザーク。けれど、俺たちは地球へ行くよ」

 

リークはそう言ってから、PJたちの墓へと振り向く。遺体すらない空っぽの墓標に、あの戦いで散っていった多くの者達の名が刻まれている。その全てが、リークたちが背負うべき使命と同じなのだ。

 

「失ったもの、過去から来る恐怖、それを無視することはできない。だから守らなきゃならないんだ。僕たちもそうさ。あの大戦から守り抜けたものもある。だから、今度も同じように果たすさ。僕たちが成すべき使命を」

 

〝生きて、生き延びて、使命を果たす〟

 

地球軍にいたときも、軍関係なく戦っていた時も、そしてトランスヴォランサーズにいる今も、その指針が変わることはない。

 

あの戦いで守りたいものは見定まっている。迷うことは何もない。故に、リークやトールの答えも決まっていた。

 

「プラントの軍門に降ることはできない。けれど、僕やトール、ラリーたちと、イザークたちが目指す世界が同じならば、必ず道は重なる。その時は、差し伸ばした手を取り合おう」

 

そう言って握手を差し出すリークの手を見るイザークが、顔をしかめる。その様子を見たディアッカが、呆れたような口調でイザークの肩を叩いた。

 

「イザーク、俺たちの負けだぜ」

 

「彼らには、彼らの戦いがあります」

 

戦友たちの言葉を聞いて、イザークも諦めたのか、納得したのか、よくわからないようであったがディアッカの手を振り払いながら鼻を鳴らした。

 

「わかっている!だが、敵として…プラントを焼く者として立ちふさがることだけは許さんぞ!死んだ仲間たちのためにもな!」

 

リークたちへ指を刺してイザークは吠えた。共に戦った戦友たちと銃を突きつけ合うのはゴメンだと言わんばかりに。

 

その様子をみたリークとトールは、顔を見合わせてからおかしそうに笑って頷いた。

 

「ああ、それだけは誓って」

 

そう答えて、イザークとリークたちは改めて握手を交わした。

 

「イザーク!」

 

そんな中で、ニコルの悲鳴のような声が響いた。彼が取り出していたのは携帯端末だ。それも衛星回線をいくつも利用できる暗号通信に特化した代物だ。

 

前大戦の教訓で情報の裏取りを行うためにニコルが手配したものであり、あの時に戦った戦友や情報処理班の旧知の仲の者たちとコミュニティを形成するために持っていた。

 

その端末を見つめるニコルは、青ざめたような表情をしていて、イザークやディアッカも、それがただ事でないことを察したのか、ニコルが持つ端末を覗き込んだ。

 

「暗号通信ですが、確かな情報です」

 

情報の出所は、なんとブルーコスモス。コーディネーターとの融和派だった組織の人間が、プラントやユーラシア、そしてオーブの仲間へと一斉に伝令を送っていたのだ。

 

その解読された暗号文を見て、リークとトールは驚愕する。

 

「なんだと!?」

 

その一文は、これから先の世界を大きく変えるものだった。

 

 

 

////

 

 

 

 

《ザフトの降下作戦が始まりました。もうユーラシアも大西洋も関係はない。地球と宇宙の全面戦争の開始は、最早待ったなしですねえ。そちらの氏族様たちは大丈夫でしょうか?》

 

薄暗い通信室の中で、ウナトはモニターに映るジブリールと言葉を交わした。彼がいうように、すでに地球の軌道上に展開されたザフト軍は、ジブラルタルとカーペンタリアへの降下を開始している。急な開戦で制空権を抑えられなかった各国は、好きに降下して行くザフトの軍勢を指を加えて見ておくことしかできない。

 

そして、その牙はオーブにも向くことになるだろう。

 

「ああ見えても、それほど馬鹿な者たちではありませんよ。大丈夫です。私がちゃんと説得します」

 

《この話は貴方が言い出した事だ。私としてもオーブの技術や戦力には大きな価値があるとは思います。だが、今の状況では前大戦のように貴方たちの力を武力で奪いとるまで執着すると言われればそうとも言えないのです》

 

ジブリールにとって、オーブが〝どちら側〟に付くのかなど勘定にも入っていない。目の前にいるウナトが前大戦で大西洋側へNジャマー・キャンセラーの技術を横流ししたという実績があるから故に、大統領の要請と大西洋からの同盟の話に応じているに過ぎない。

 

《国を焼かずに、貴方の手にオーブを収める絶好の機会。貴方たちの判断に期待しておりますよ》

 

そう言って、ジブリールはウナトとの通信を切った。深く息をついて、ウナトは席へともたれる。もはや猶予は残されていない。決断をするにも、戦争が始まってしまうことにも。それだというのに代表のホムラや、前代表であるウズミも、同盟の件に頷こうとはしない。

 

「さて、ザフトと地球軍の全面的な激突はすぐそこだ。我々のやるべきことはわかっているな?」

 

鋭い目つきでいうウナトに、ごく少数のオーブ兵は敬礼を打つ。彼らはウナト派に属する過激派士官であり、ウズミによる中立という立場に反感を抱いている者たちだ。彼らの原動力は、前大戦で家族を失った憎しみ。ならば、その原動力に薪をくべてやろう。

 

「ユウナとカガリ様の結婚もある。いい加減、今の自分の立場ってものを自覚してもらわないと」

 

「では、計画通りに」

 

そう答えた指揮官が足早に出ていくのを見つめながら、ウナトは小さく、邪悪にほくそ笑むのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「そんな…」

 

数回に渡ったオーブ首長国の議員会議で出た結果は、カガリを落胆させるものであった。士族の大多数が賛成した結果、大西洋連邦との同盟が可決したのだ。

 

「積極的自衛権の行使、などとは言ってはいますが、戦争は生き物です。放たれた火が何処まで広がってしまうかなど誰にも分かりません」

 

「我等は大西洋連邦との同盟条約を締結します。再び国を灼くという悲劇を繰り返さぬ為にもね」

 

再びオーブを焼くことを恐れた士族たちの決断は、ある意味正しいのかもしれない。しかし、大西洋連邦とプラント、そしてユーラシアやブルーコスモスが戦争に傾倒してゆけば、オーブに降りかかってくる戦争の火は、前大戦とは比べ物にならないほど大きくなって行くだろう。

 

「私は無力だ…」

 

議会を終えたカガリは、一人通路のソファに座りながら思考を巡らせていた。出せる情報や、疑わしい点を出したとはいえ、彼らの恐怖からくる考えを覆せなかったのは、自身の人望と政治家としての経験不足が起因している。

 

「仕方ないさ、カガリ。政治は理想じゃない。神頼みや祈りでは解決できない事を話し合うため。この決断は…現実なんだ」

 

「ユウナ…」

 

項垂れる彼女の前に現れたユウナは、険しい表情のままカガリへと言葉を告げた。政治とは利益と損失、国民の生活の保護や、国の運営のために行うものだ。そこに感情的な議論は必要とされない。淡々と、綿密に、国を守るために議会を動かして行く必要がある。

 

「故に誠実さが求められる。国民の意思や、僕らが議員として認められている意味をよく知る必要があるのさ。だから…」

 

そう続けたユウナの言葉は、扉を開けた議員秘書や政府関係者の手によって遮られた。

 

「大変です!!カガリ様!!」

 

「なんだ!?」

 

「ア、アスハ代表が療養する病院が…爆破テロに!!」

 

その報を受けてカガリの手から握られていた書類が地に落ちる。その隣にいたユウナは、驚愕するカガリを横目に踵を返して歩き出す。

 

くそっ!動き出したか…!!

 

予想していた父の悪行が現実のものとなって、ユウナは頭を金槌で殴られたような気分だった。

 

仲間がうまく動いてくれていたら良いが…!!

 

彼女から十分に離れてから、ユウナは走り出した。邪魔な議員の上着を脱ぎ去って走る。

 

向かう先は、慣れ親しんだオーブ軍の格納庫だ。

 

 

////

 

 

「アズラエル理事とハルバートン閣下が!?」

 

「ええ、暗号通信ですが、確かな情報です。お二人は何者かの手によって…」

 

ニコルたちへと届いていた通信は、ラリーたちの元へと届いていた。暗号通信の連絡先は、ブルーコスモスの秘書官だ。彼はアズラエル理事の側近であり、同時にユーラシア連合所属の屈強な軍人でもある。

 

「二人は無事なのか!?」

 

「アズラエル理事は、側近の者たちが何とか運び出したものの重症で…危険な状態です。ハルバートン閣下は行方不明と…」

 

「くそっ!!」

 

サイからの報告を受け止めて、吐き捨てるようにラリーは机へ拳を落とした。大西洋連邦の独断のような開戦。そして政治的な声明を出さないユーラシアの方針に違和感を感じていたが、まさか裏側に手を回されていたとは…!

 

自分というイレギュラーがいる以上、史実通りに事は進まないとは思っていたが、これはあまりにも不味い。ユーラシアのトップと、ブルーコスモスのトップが総入れ替えになった今、反コーディネーター派である彼らが戦争に踏み込むのは時間の問題だ。

 

「ブルーコスモスでは、アズラエル派の幹部たちが襲撃を受けている。何者かか、何かしらの勢力が動いている可能性が高いと考えられるな」

 

「アズラエルさん…」

 

アズラエル理事は、フレイの後見人でもある。不安そうに瞳を揺らして手を握りしめるフレイも思うところはあるだろう。

 

それに、ひとまず離脱できたとはいえ、状況説明するニックの言う通り、存命しているアズラエル理事を狙う勢力はいるはずだ。

 

「とにかく、我々のいるオーブも大西洋連邦との条約を進めている状況下だ。自体は緊急を要する。トランスヴォランサーズは至急、アメリカへと赴き、身動きが取れないアズラエル理事の救出任務を…」

 

ブリーフィングへと入ろうとした瞬間、ラリーたちがいるトランスヴォランサーズの施設が激しい揺れと轟音に襲われた。

 

「なんだ!?」

 

「第四倉庫から出火です!!」

 

施設管理を司るモニターを見たサイが簡潔に答えた。備品倉庫である第四倉庫には、MSとMA用の燃料も置かれている。火の扱いには細心の注意を払っていると言うのに、なぜ?

 

その答えは、再び襲いかかってきた揺れによって明らかになった。

 

「爆撃されている…!?どこからだ!!」

 

「IFF応答なし!機体照合…これは!?」

 

レーダーによって捉えた機影は、信じられないものだった。モニターを見つめたサイが、震える声でニックの言葉に答えた。

 

「攻撃してきている機体はムラサメ…オーブ軍です!」

 

「オーブ軍が、攻めてきたと言うのか!?」

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

『目標確認。第一攻撃は成功』

 

驚愕にさらされるラリーたちから遥か。湾岸沿いに上がってきたムラサメの小隊の隊長は、打ち込んでしまった武装を見つめて呼気を鋭くする。

 

『おい、本気で彼らに刃を向けるのか…?』

 

《彼らはウズミ様暗殺の容疑者だ。抵抗する場合は排除することも厭わないと、本部から通達が来ている》

 

無線越しの通信官は、抑揚のない言葉で淡々と繰り返すだけだ。未明に起こったウズミ・ナラ・アスハを狙った爆破テロ事件。自分たちが相手にしようとするのは、その容疑者たちである。だが、その判断はオーブの軍人に深い疑問を与えた。

 

『そんな。彼らは前大戦の英雄なのですよ!?』

 

《英雄であろうと罪人に変わりはない。以降一切の通信を禁ずる。以上》

 

一方的に切られた通信機に拳を叩きつけた隊長機は、意識を切り替えて操縦桿を握る。

 

『くそっ!各機、抜かるな!相手は流星…手にかけたくはないが』

 

相手はあの流星だ。仮にウズミの暗殺をしたのが彼らとはいえ、攻撃するこちらを黙って見過ごすわけがない。

 

すると、隊長機の横を飛んできた一機のムラサメが、鮮やかな軌跡を描いて飛び去って行く。

 

『命令です。攻撃を実行します』

 

『ルナマリア!ええい!各機、指示された通りに攻撃しろ!彼らは——〝ウズミ様を亡き者にした反逆者〟だ!!』

 

これから行おうとする戦いが、オーブの運命を大きく変えるものになるということを、彼らはまだ理解することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第43話 混沌・飛翔・乱戦 1

 

 

オーブ、オノゴロ島。

 

モルゲンレーテ秘密ドッグに入るミネルバのブリッジで、副官のアーサーは通信官がキャッチした通信をインカム越しに聴きながら不安そうな顔で、艦長であるタリアへ報告した。

 

「艦長、これを」

 

タリアの了承を得てから、マイク音声へと切り替えた通信機から、老齢でありながら透き通ったような声がブリッジへと響き渡る。

 

《ミネルバ聞こえるか。もう猶予はない。ザフトは間もなくジブラルタルとカーペンタリアへの降下揚陸作戦を開始するだろう》

 

「秘匿回線なんですが…さっきからずっと」

 

《そうなればもうオーブもこのままではいまい。黒に挟まれた駒はひっくり返って黒になる。今のうちに脱出しろ。そうなる前に。聞こえるか、ミネルバ》

 

「ミネルバ艦長、タリア・グラディスよ。貴方は?どういうことなのこの通信は」

 

タリアがマイク越しに答えたことに、通信先にある人物はニヤリと笑みを浮かべて、くたびれた地球側の帽子を深くかぶった。

 

《声が聞けて嬉しい限りだ。初めまして。どうもこうも言ったとおりだ。のんびりしてると面倒なことになるぞ?》

 

「匿名の情報など正規軍が信じるはずないでしょ?貴方誰?その目的は?」

 

そうタリアが問いかけると、マイクの向こう側にいる人物は少しばかり考えるような間を開けてから、悪戯っぽく抑揚した声を上げて答えた。

 

《んー…では、砂漠の流星を読んだものはいるか?これは流星たちからの伝言だ》

 

「ラリー・レイレナードから…?」

 

なぜ、彼らがザフト軍である自分たちを気遣うのか?そんな疑問がタリアの中によぎるが、通信機からの言葉が待ってくれることはなかった。

 

《兎も角警告はした。降下作戦が始まれば大西洋連邦との同盟の締結は押し切られるだろう。留まることを選ぶならそれもいい…しかし、もし脱するならば送ったデータの場所へと来るがいい。あとは君の判断だ、艦長。幸運を祈る》

 

そのままプツリと通信は途絶える。通信官が逆探知や、応答をかけてみるが、秘匿回線のセキュリティの壁は高く、ミネルバの標準的な通信機器では、その通信の後を追うことはできなかった。

 

「駄目です。地球軍側の警戒レベルが上がっているのか、通信妨害が激しくレーザーでもカーペンタリアにコンタクト出来ません」

 

タリアは送られてきた通信データを見つめる。そのデータの行く先は、太平洋の沖合。絶海の赤道付近を示していた。

 

「いいわ。命令なきままだけど、ミネルバは出港します」

 

「艦長…」

 

「全艦に通達。出れば遠からず戦闘になるわ。気を引き締めるようにね」

 

タリアの言葉に了承したアーサーはすぐさま全艦へと通信を発した。雲行きが怪しくなるオーブに長居するのは危険。その考えは、タリアも通信してきた男と同感だった。

 

だが、彼はなぜ逃げる場所まで指定したのだろうか。拭うことのできない不安を感じ取りながら、タリアはミネルバへの物資搬入を急がせるよう指示を出すのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「第二波!来ます!!」

 

「全員、対ショック姿勢!」

 

「とっくに対ショック姿勢!」

 

トランスヴォランサーズは突如として現れたオーブ軍の航空攻撃により完全に手鼻を挫かれていた。遠方から放たれたミサイルランチャーは、恐怖を煽るような轟音を轟かせて、トランスヴォランサーズの敷地内へと着弾する。

 

火が上がったのはアスファルトで舗装された滑走路だった。

 

「くぅ…!倉庫は無事ですが、滑走路とレーダーがやられました!通常電源もです!補助電源に切り替えます!」

 

「くっそー!!奴ら撃ち放題かよ!!」

 

「オーブ軍に連絡は!?協定はどうした!」

 

「攻撃しているオーブ軍!こちらはトランスヴォランサーズ!我々は正規の手続きを経て、オーブ国内で認められている民間PMCです!直ちに攻撃を停止してください!繰り返します!」

 

サイや他の通信官は、協定を結んでいるはずもオーブ軍への通達を懸命に連絡を取るが、そのどれもが返答なしだ。彼らは間違いなく、ここにいるラリーたちを亡き者にしようと攻撃を仕掛けてきているのだ。

 

「非戦闘員は退避!ルートは5Aを使え!走れ走れ!」

 

「通り過ぎた機体が戻ってくるぞ!」

 

他従業員の避難が進む中、MSの格納庫ではハリー技師主導のもと、歴戦のメカニックたちが最終調整を終えた機体に火を入れ始め、武装を装着する準備に取り掛かっていた。

 

「緊急スクランブル!なんでもいい!機体のエンジンだけでも火を入れるのよ!!」

 

そう指揮をとるハリーの目に、一機の影が映った。飛来するオーブのムラサメの切っ先は、間違いなくハリーを目指している。羽のハードポイントに装着されたミサイルランチャーには、MS格納庫を焼き払うには十分すぎるほどの武装が残っている。

 

「MS格納庫に敵機接近!」

 

死が、目の前からやってくる。ハリーは迫るムラサメに恐怖で足が動かせなかった。フレイとラリーも格納庫に急ぐが、その距離は残酷すぎるほど、遠かった。

 

「ハリー技師!」

 

「ハリーィイ!!」

 

ムラサメの翼から火を上げたミサイルランチャーは、ケースから解き放たれて大空へと舞い……

 

 

 

 

そして射出直後にビームに穿たれ、爆散した。

 

 

 

 

 

「まったく、まだテストもままなっていないと言うのに」

 

同時。倉庫の天井をビームサーベルと穿った穴を起点に突き破った一機のMSが立ち上がる。緑色の両眼を光らせ、駆動音をかき鳴らしながら立ち上がった機体は、向かいくるムラサメへビームライフルを構えていたのだ。

 

「隊長なら、上手くやれますよ」

 

「そう言ってくれると助かる。無事かな?ラリーの花嫁殿?」

 

ビームを吐き出すと、今度は翼を捥ぐ。リーク用に調整されていた機体、ムラサメTYPE-R、エクスカリバー。そのコクピットに乗り込んでいたのは、マッスルスーツのテストを行なっていたクルーゼ本人だった。

 

「クルーゼ!!この野郎!!」

 

「はっはっはっ!!私はクルーゼではないさ、今の私は…クラウド・バーデンラウスだ。ムラサメ、エクスカリバー、出るぞ!」

 

格納庫についたラリーが嬉しそうに声を上げるのを見てから、クルーゼはスラスターを吹かして突き破った倉庫の天井から大空へと飛翔する。

 

「一機上がってきた!?あの状態から!?」

 

「あの機体はムラサメ!?しかし機体形状が違いすぎる!!」

 

通常のムラサメの可変機構は、翼となる部分が背面にくるが、エクスカリバーは翼と出力装置が脚部へと装着されている。そのおかげか、MA形態だというのに空を飛んだ感触は非常に安定していた。

 

「ほう、この機体…レスポンスがいいな。気に入ったぞ」

 

MSから一気に戦闘機形態へと変形したクルーゼのムラサメは、鋭く旋回を打ってから戸惑っている敵へと距離を詰めてゆく。

 

「機体が上がったと言う事は、迎撃されると言う事だ!気負うな!敵は一機だけだ!」

 

「攻撃をしてきたと言うことは、君たちは私の敵ということで良いのかな!!」

 

先制したムラサメのビームを避けたクルーゼは、その機体出力にものを言わせて敵となったオーブの機体を翻弄する。

 

相手も、流星を相手取るために相当の手練れを揃えていた様子だが、クルーゼの超絶たる技巧に追従できるものは存在しなかった。

 

「ぐぅ…!!何という旋回性能だ…!!だが、その速度なら変形は…!!」

 

「その程度でみじろぎするとは…甘いな!!」

 

海面すれすれへと降りたクルーゼは、通常のムラサメでは変形できない速度の中でMS形態へと移行する。目の前に人型の影となったエクスカリバーを見て、オーブのパイロットは驚愕する。

 

「飛んだ!?ぐっはっ!?」

 

驚きも束の間。人型となったことで急減速したクルーゼのエクスカリバーは、そのまま通り過ぎようとした敵の上へと降り立ち、重力に任せて海面へと叩きつけた。亜音速で海へと突っ込むことになったムラサメは、意識を落としたパイロットと同じく海へと沈んでゆく。

 

「コクピットをやるのは不味いやもしれんな。早く上がれよ、ラリー!」

 

「わかってるっての!まったく、ウチの機体を勝手に持ち出しやがって!」

 

他の機体との空中戦を始めたクルーゼの言葉に愚痴を吐きながら、大急ぎでパイロットスーツに着替えたラリーがコクピットへと滑り込む。

 

「ラリー!コクピットは狙っちゃダメだからね!」

 

「お前はさっさと退避しろ!ハリー!」

 

「うるっさい!三番倉庫のフレームを乗せる作業があるの!私を守りなさい!絶対よ!」

 

さっき死にかけたというのに、まったく懲りないやつだとラリーがため息をつく横では、シンとキラもMSの発進準備を整えていた。

 

「シン・アスカ、エクスカリバー、準備できました!」

 

「キラ・ヤマト、エクスカリバー、行きます!」

 

昨夜調整し終わっていた新しい愛機へと乗り込む二人は、武装を手にして、そのまま格納庫の出口へと進む。そんな中、シンは隣でタキシングに入ろうとしていたラリーの機体を見てギョッとした。

 

「ええ!?ラリーさん!滑走路がズタズタですけど!?」

 

ラリーが行こうとする先は、ムラサメのミサイルランチャーによって使い物にならなくなった滑走路が広がっている。

 

あんなボロボロな滑走路では飛び立つことなど不可能だ。

 

そう言うシンに、ラリーは少しだけ舌舐めずりをしてから機体のスロットルを徐々に上げてゆく。

 

「この機体には、滑走路なんて必要ないのさ」

 

エンジンが本調子になったところで、機体の翼面がまるでムササビが滑空するときのように広がってゆく。機体の翼に施された新技術は、申し分ない性能を発揮した。

 

あとは飛ぶだけだ。

 

「ラリー・レイレナード、スピアヘッドmark2、出るぞ!!」

 

爆音と衝撃波を上げた新しい翼は、ズタズタになった滑走路に入る遥か手前で機体を持ち上げ、その大空へと飛びってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 





ルナマリア所属するオーブ軍特殊部隊

vs

シン&キラ&ラリー&クルーゼのドリームチーム

ファイ!!!!!!!!


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第44話 混沌・飛翔・乱戦 2

 

 

「いい?この機体は戦闘機。可変MSの発展が目覚ましい今の時代に、戦闘機はもう時代遅れなのかもしれない」

 

スピアヘッドmark2の説明をあらかた終えたタイミングで、ハリーはなんの臆面もなく隣にいるラリーへそう告げた。

 

「おいおい、それを先に言っちゃうのかよ」

 

デュランダル議長の護衛についてゆくマードックが、出発前夜だというのに機体の最終調整に付き合ってくれていた。そんな彼は点検用のハッチを閉じてから、呆れたような困ったような顔をしながらスピアヘッドのボディから降りてくる。

 

ハリーが言ったことは、間違っていないとラリーは思った。人型の汎用兵器であるMSは、前大戦でザフトが導入してから戦局を大きく変えてしまった。Nジャマーというレーダーを潰す装置が開発され、航空戦力や、宙域戦略の時代は一気に中世時代へと後退。情報の目をレーダー網やGPS類に頼っていた戦闘機というジャンルも大きく衰退した。

 

「事実は事実よ。でも、それがこの機体の最大の武器になる」

 

そう言ってハリーはニヤリと笑みを零す。そうだとも。戦闘機分野が近代戦から中世へと後退したというなら、〝それに合わせた〟機体を組み立てればいい。

 

「可変MS…というより、MSが兵器として成功したのは、その汎用性にあるわ。人型という敵に与える印象、操作性、オプションの対応力、武装の豊富さ、そして機動力。どれをとっても、多くの場面に相応の回答ができる機体がMSの存在意義になるわ」

 

けど、万能機じゃない。

 

そうハリーは断言する。彼女が地球軍にいた頃、MSの研究よりもMAや既存機器を用いた研究に没頭した理由はそこにある。

 

「言うなら、テストで高得点は取れるけど100点を取れる機体はMSという汎用性に存在意義を置いた機体ではなし得ない」

 

たしかに、完成度をひたすらに上げたフリーダムや、ホワイトグリント、ザフトの新型などなど。限りなく100点に近い機体でも所詮は汎用性に重きを置いた機体。

 

だから〝専用機〟には勝てない。

 

「この機体は、戦闘機という限りある分野に専用性をおいた〝専用機〟。やれることは全てやった。あとは、ラリー。アンタがこの機体を手足のように扱えれば」

 

敵MSのすべてを、置き去りにして空中戦の覇者となれる。そう確信めいたハリーの目を、ラリーははっきりと覚えていた。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

『くぅうう!!』

 

あの戦闘機が上がってきてから、見えていた勝てるというビジョンの全てが断ち切られたように思えた。

 

機体負荷のアラーム。ストール危険域のアラーム。駆動装置への異常アラーム。

 

アラームの嵐だ。

 

そんなムラサメの中で急制動に耐えるルナマリアだが、逸らしてしまいそうな視界の中には必ず、あの戦闘機の姿が写っていた。

 

『援護するぞ、ルナマリア!』

 

『2機で仕留める!!』

 

想像絶する制動を駆使して躱した攻撃の最中、後方から上がってくる二機のムラサメが、苦戦を強いられるルナマリアの援護をするために機体を翻した。

 

並走するように飛ぶムラサメは、ルナマリアの背後にいる戦闘機を捉える。二機のムラサメに備わるビームライフルの銃口が、戦闘機を撃ち抜こうとしたとき。

 

戦闘機——スピアヘッドmark2は、コブラから横へ機体を傾けるようなストールマニューバーを繰り出した。

 

空中の高速域でいきなり縦に反るような姿勢へと変わったスピアヘッドは、背後から追ってきていたムラサメ二機の合間をすり抜け、背後へと回り込むとそのまま機首を下ろして切っ先をムラサメの背後へと向けた。

 

二つのロケットランチャーがウェポンラックから放出されると、ムラサメの推力の要である脚部スラスターを容赦なく吹き飛ばした。

 

そのままスピアヘッドは何事もなく撃破した二機のムラサメの頭上を飛び去って、再び新たなる獲物に狙いを定める。

 

その間、僅か2秒ほどの出来ごとだった。

 

『んぬぁ…!?な、なんだ…!?今の動きは…!?』

 

『い、意味がわからない…どうやって撃墜されたんだ!?』

 

側から見ていた敵パイロットでも認識できない速度と機動力に、オーブ軍内でエースパイロット候補と呼ばれ始めていたルナマリアは戦慄した。

 

MSは、近年で開発された最高峰の兵器だ。

 

MSの汎用性と展開力の前に、既存の戦闘機や兵器は時代遅れとなって衰退した。それらを上回るポテンシャルをMSは有しているという言うのに…!!

 

『追いつけない…!!』

 

なんだこれは。追いつく?追い抜く?そんな次元の話じゃない!追いつくどころか…

 

『くぅうう』

 

背中を見るのがやっとだ…!!

 

「シンくん。彼が流星と呼ばれる起因となる理由が、よく見えるな」

 

ムラサメとスピアヘッドの空戦を半天周囲型モニターで見つめるクルーゼは、隣にいるシンへと語りかけた。

 

「クラウドさんは、隊長をよく知ってるんですよね」

 

「彼が流星たる理由を述べろと言われたなら、私は真っ先に答える。その理由は比類なき速さである、とね」

 

何度も。何度も何度も何度も刃を交わしたからこそ、クルーゼはラリーの強さをよく知っていた。

 

反応速度、適応能力、それを可能にする柔軟な思考力と判断力、すべてをねじ伏せてでも成し遂げるという精神力とタフネスさ。

 

機体の性能や、機動性もあるだろうが、それは機体によってパワーバランスが左右されるというだけだ。ラリーにとってその問題は些細なことでしかない。故に彼は強い。あまりにも。

 

「何よりも、彼は速い。私ですら隣に並んで飛ぶのがやっとだったのだからな」

 

そう満足そうにいうクルーゼの言葉は、どこか過去の思い出を楽しげに話す、そんな印象を感じられた。

 

《おい!何をしている!たかが戦闘機に!》

 

『たかが!?あれを見てたかがと言えるのか!?あれは化け物だ!!』

 

まだ落とせないのかと吠える情報部に、今度はパイロットが吠えた。

 

『ついていけねぇ…!背中に張り付こうとすれば、こっちの機体がもたねぇ!エンジンも、機体耐久度も!』

 

こちらがMS形態となって小回りが効く機動を発揮しても、何の慰めにもならない。敵を目標に捉えようと振り返っても、もう〝追いつけない〟のだ。こちらが攻撃を受けても、反撃しようとしても、目を凝らせばすでに敵は攻撃範囲外へと離脱しているのだから。

 

「MSって、言わば器用貧乏の極地なのよ。反応性と活用範囲は、他兵器と比べても段違いだけど、どれにしても〝ひとつのことに特化した〟存在には敵わない」

 

梱包し終えた試作フレームを地下通路へと運び出す作業の最中、ハリーはラリーが出てからすっかり大人しくなったオーブ軍に心の中で合掌を送る。こうなることは、ラリーの操る機体が空に上がった段階でわかりきっていた。

 

単純な話。ラリーとカリカリにチューンしたスピアヘッドという組み合わせに追従できる〝能力〟を持った機体が現オーブ軍には存在しないのだ。

 

これがクルーゼやキラたちだけなら、こうはならなかったかもしれないが、その特異な力はラリーにしかないものであって、その結果。

 

それが空にいる以上、彼らは前時代の異物と見下していた飛行機に制空権を奪い取られることになる。

 

「メビウスでMSを食ったのはね、MAがラリーの動きに追従できる専門性を持っていて、MSがその専門性に届かなかっただけなのよ」

 

「そしてそれは、彼だからこそ為せる技。まさに人機一体ってところだ」

 

ハリーのしたり顔を知っているのか、クルーゼもニヤリと笑みを浮かべた。

 

久々のラリーとの模擬戦。スピアヘッドmark2とエクスカリバーから得られたデータは、ハリーの考えを証明するに至った。クルーゼがいくら機体を振り回そうとも、エクスカリバーがいくら空戦MSの中で秀でていようと、ラリーの乗るスピアヘッドには追いつけない。

 

クルーゼは自分の言った言葉を思い出す。

 

〝人に流れ星を撃ち落とすことはできるか〟と。

 

『は、早すぎる…!!あんな距離からもう後ろに——っ!!』

 

『嘘だろ!?あれを避け——』

 

スピードの幕を張って、風を切って、音速を超える。

 

MSが捨てた空の限界への挑戦。

 

汎用性に〝妥協〟した結果。

 

『これが…流星…!?』

 

彼らは思い知る。

 

〝その全てを追求した〟空の魔物を。

 

 

 

////

 

 

 

現状を言えば、最悪の一言だった。オーブのパイロットである馬場は、軍人として命令が下されたこの作戦に参加していたが、人としての感性の中では疑問しか無い作戦であった。

 

そもそも、前大戦の英雄であり、オーブ軍と共に地球の反コーディネーター派によるテロや内乱の火種を阻止し続けてきたラリー率いるトランスヴォランサーズが、ウズミ・ナラ・アスハの暗殺を企てることなんてあり得るのか?

 

オーブという国を弄ぶために愚行を犯したというのが、オーブ上層部の考えであるが、ウズミの娘であるカガリが懇意にしてある相手でもある。

 

この作戦も、限られ、厳選されたパイロットたちや管制官を起用していると聞く。まるで、示し合わせたように。軍人である以上、上の命令に安易に逆らうことはできない。

 

しかし…これは…。

 

『くっそ!!離れない!だから流星に刃を向けるの、俺は反対だったんだ!』

 

僚機も仲良く叩き落とされ、あたりには救難信号だらけだ。コクピットを避けているのは目に見てわかるが、落とされる速度が尋常じゃない。数十分?いや、数分か?オーブが厳選したエースパイロットたちが、一矢報いることすらできずに、しかも気がついたら落とされているのだ。

 

まったく、冗談ではない。

 

馬場は長くパイロットをやってきた身だ。それこそ、前大戦のオーブ戦も経験している古強者。故に、白き流星の異名を肌で実感しているパイロットでもあった。

 

敵にするとこうも恐ろしいとは…!!

 

操縦桿を握る手が震える。目に見えてなくても、べったりと背中について、まとわりついてくる気配。抗おうものなら、信じられない動きで躱され、振り向く間も無く足をもがれ、翼を焼かれ、海へと落とされる。

 

馬場が生き残れたのは、戦線に到着するのが少し遅れたおかげだ。少し遠目から、あの驚異的な動きをするエクスカリバーや、スピアヘッドを観察することができた。

 

特にヤバいのがスピアヘッドだ。戦闘機が前時代のロートル機などとほざいた上層部は愚か者だ。

 

鋭い旋回。MSの追従を許さない加速性能。そして高負荷G内でも安定して飛ぶ堅牢さ。なにより、パイロットである流星の卓越した操縦技術。急制動からのストールマニューバー。まるで曲芸飛行だ。戦闘機であんな動きが可能なのか?パイロットは何故平気な顔をして、あんな動きを操れるのだ。

 

同じパイロットとして目を見張る場面は数えきれないほどあったが、見てどうにかなるものでもなく。

 

戦線に到着して僅か数秒で隣にいた僚機が落とされ、背後にいた後続機が落とされ、今、自分に狙いが定まっている。

 

『こなくそぉっ!!』

 

海面ギリギリで機首を持ち上げて追従してくるスピアヘッドと対抗してみるが…くっそ!なんだあの機能性は!こっちは速度ギリギリで突入しているのに、俺が飛んだラインよりさらにシビアなところで鮮やかに持ち直してやがる!化け物か!?

 

海面といえど、蒸発する水蒸気と波打つ影響で気流にはごく僅かにだが変化はある。そしてその乱れは速度が増せば増すほど顕著に現れるというのに…!!

 

そこで馬場は気がついた。このライン。この空路はまずい。敵の射線と被ったラインを飛んでしまったことに。

 

やられる…!!

 

そう覚悟を決めた馬場の身体に届いたのは、何かが機体に打ち込まれた音だった。

 

《その機体のパイロット!乗っているのは馬場だな!?》

 

コクピット内に反響した声に、馬場は言葉を失った。そしてすぐにそれが、自分を追ってきたスピアヘッドのパイロットであることに気がつく。

 

『ラリー…さん…』

 

《お前!!オーブ軍はなんで攻撃してきた!トランスヴォランサーズとオーブ軍は共同戦線の契約を交わしてるはずだぞ!》

 

小型の通信中継機へレーザー通信をするラリーの問いかけに、馬場は心の中にあった疑問を確信に変えて答えた。

 

『…ウズミ様の病院を爆破したのは、やはり貴方方ではないのですね』

 

《ウズミ様が…!?おい!それは本当か!?》

 

『はい、我々の任務はテロの主導者である貴方方の排除が目的です。ですが、私には信じられませんでした。カガリ様と懇意にされているラリーさんや、リークさんが…ウズミ様を!』

 

《当たり前だ。だが、オーブ軍の上層部が動いている以上、事態はかなり…》

 

『馬場一尉!!』

 

馬場の通信機越しに聞こえた声と同時、ラリーの機体と馬場のムラサメの間にビームの閃光が差し込まれた。

 

『ルナマリアか!?』

 

「ちぃいい!!」

 

バレルロールで差し込まれたビームを避けて距離を取るラリーは、切れてしまった通信音声に舌打ちをした。打ち込んだ中継機は、Nジャマー環境下でも作用はするが、その有効範囲はごく僅かだ。海面の乱反射もある以上、距離を少しでも置けば馬場との通信はできなくなってしまう。

 

『私たちの任務は、彼らの捕縛!抵抗するなら撃破も申し付けられています!!』

 

『しかし彼らは!!』

 

『任務は果たさなければなりません!彼らが内乱を呼ぶ原因となるというならば!!』

 

馬場とラリーの間に割って入ったのはラリーの空戦の中でなんとか生き延びたルナマリアだった。想像絶する追いかけっこに疲労困憊ではあったが、ストイックな彼女の操縦に乱れはない。

 

僚機の殆どが撃ち落とされてはしまったが、撤退命令がない以上、増援を待って相手を釘付けに——。

 

《ルナァアア!!》

 

濁りそうな思考の中、広域音声で大声を発しながら近づいてきたのは、ラリーではなくシンの操るムラサメ・エクスカリバーだ。

 

MS形態へと滑らかに変形したシンの機体は、ビームサーベルを抜き放つと無防備にいるルナマリアのムラサメへと突貫する。

 

《その機体!ルナマリアが乗っているんだろう!?ルナマリアならやめろよ!なんだってこんな…こんな戦いを!》

 

『うるさい…!!アンタも、私の敵になるのかぁ!!』

 

ギリギリでシールドで間合いをとったルナマリアは、聞いたことがない叫び声を上げてシンを迎え撃つ。

 

オーブで起こる内乱の兆しは、まだ覚めることない悪夢を呼び起こしてゆく。

 

 

 

 

 

 

 



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第45話 混沌・飛翔・乱戦 3

 

父が前大戦で戦死した。

 

その報を私が聞いたのは、戦争が終わった2日後のことだった。

 

玄関で出迎えた赤服の軍人が、辛そうな顔つきで母に父の最後を伝えた様子を今でも覚えている。

 

父は誉れ高い死に方をした。地球軍…ナチュラルの狂気が放った核がプラントに迫る中、父やその仲間たちは自身の命が助からないことを顧みずに、自ら核へと攻撃を仕掛け、その爆発に焼かれて死んだのだと。

 

プラントを…延いては、私たちのいる場所を守るために、父は命をかけて戦い、散ったのだ。

 

悲しさが無いかと聞かれたら、嘘になる。妹であるメイリンや、残された母と共に、軍人が帰ったあと、私たちは涙を流したのだから。けれど、それと同じほどに誇らしく、厳格な性格であった父らしいという思いもあった。

 

けれど、その誇らしさも長くは続かなかった。

 

戦死者を悼むセレモニーが開催されたとき、プラントに落ちる核を食い止めた父や仲間たちは、名誉ある兵士として英霊のように祭り上げられた。新聞にも父の活躍が大々的に報じられ…その一報は、ナチュラルとの融和へと進もうとする者たちと、根強く残るザラ派の間で大きな論争を起こした。

 

核を食い止めた父たちを英雄として見る者は多かったが、その悪夢のような核を放ったナチュラルを許せないというコーディネーターが大多数をしめたのだ。

 

連日のように押し寄せる報道関係者。父の死を語りながら反ナチュラルに傾倒するように強いる軍人や組織の人間。そして役に立たない政府関係者たち。

 

母や私たちは、そんな人々の中で日に日に疲弊していった。父のした行為は、単純にプラントを守るための行いだったというのに、彼らはそれに理由を、根拠を付けたがって、そこから先、自分たちにどう有利にするかしか考えていなくて。

 

決定的になったことがある。それは父の墓石だ。私たちにとっては英雄でもなんでもない、単なる愛する父だというのに、政府は個人の墓石よりも、戦没者たちの葬いの慰安碑に父の名を刻んだのだ。

 

完成式典でも、それを前にしても、私たちに向けられたカメラの前で泣くことも許されない。父の思いも、私たち家族の思いも、プラントや同胞たちは無視して、踏みにじったのだ。

 

母が一人、暗い部屋の中で涙を流している姿がどれほど辛かったか。

 

それを隠さなければならなかったプラントが、私にとっては牢獄と同じように思えて、自由に涙すら流せない世界で……だから、私は逃げ出した。

 

父の面影を追いたかった思いもあったが、なによりも息苦しいプラントから、あの無作為な目線から逃れたい一心だった。

 

単身、父が最後に従軍したオーブへと渡った私は、当時の父を知る人たちがいるであろうオーブ軍へと志願した。

 

そこで、私はある部隊と出会った。

 

メビウスライダー隊。

 

父と共に戦ったという、伝説の小隊。地球軍でありながら、ザフト軍とも手を組み、プラントに攻め入る地球軍を止め、暴走したザラ派の軍勢も止めた英雄。

 

彼らは、コーディネーターとの融和のために、地球各地で起こる反コーディネーター派のテロや内乱の火種を抑えるために今も空を飛び続けていると聞いた。

 

世界の平和のために、彼らは戦っている。

 

なら何故、彼らは、父を守ってくれなかったのか。何故、彼らは私たちのような奇異の目で見られずに今もノウノウと空を飛んでいるのか。

 

あの戦いで失ったものはあまりにも多いというのに、彼らは好き勝手に戦いを止めて、英雄になって、その陰で悲しんでいる人たちに対して責任も取らずに、空を飛んで英雄を続けている。

 

ふざけるな…。

 

何が英雄だ。世界は未だに戦争状態だというのに、彼らは世界を平和にしたと宣う。まだ続いている。あの日の戦争は…帰ってこなかった者たちにとっては、今もなお苦しめられている戦争は続いているというのに。

 

そして起こったアーモリーワンでの事件。

 

ユニウスセブン落下事件。

 

彼らは、どれも防ぐことも止めることもできなかった。

 

ほら。彼らは戦争を止められる英雄なんかじゃない。ただの兵士。ただの人間にすぎない。

 

だから私は、彼らを許さない。

 

父すら守れなかった相手を。

 

戦いの後の〝私たち〟のような人々を見なかったことを。

 

英雄に祭り上げられた彼らを…!!

 

だから!!

 

 

 

////

 

 

 

『アンタも、私の敵になるのかぁ!!』

 

振り上げられたビームサーベルを咄嗟に躱したシンは、ヒヤリと汗を流した。その一撃は鋭く、早く、シンが体感してきた中でもトップレベルの気迫を備えていた。

 

続け様に撃たれるビームライフルの閃光を避けて、シンは戦闘機形態へと変形し、空へと舞う。

 

『逃げるな!!』

 

すかさずルナマリアも、飛び去ったシンを追うようにムラサメを飛翔させた。彼女の怒りにも似た声を聞いて、シンは思いを馳せた。

 

彼女がオーブに来たのは、父の面影を追いたかったから。それはルナマリアと共にオーブ軍で訓練を受けていたときに聞いた話だ。

 

そのあと、自分はトランスヴォランサーズの一員だと分かってからは疎遠となってしまったが、彼女の怒りを駆り立てる動機が、シンには考え付かなかった。

 

ルナマリアの父である、パトリック・J・ホークは前大戦で核からプラントを守るために命を散らした英雄だ。そして、ラリーやリークらと共にオーブから戦い続けていた戦友でもあるとも聞く。

 

ルナマリアがラリーや、トランスヴォランサーズである自分たちを恨む道理など、あるはずがないのに…!!

 

《やめろって!冷静になれよ!ルナマリア!!》

 

『私は自分でも驚くほど、冷静よっ!!』

 

広域無線にも応じる様子のないルナマリアから放たれるバルカン砲を、ストールマ二ューバーで避けたシンは、そのまま彼女の背後に回るように旋回する。負けじとルナマリアも機体を翻すが、速度をマニューバーで落としたシンの機体の方が、旋回が鋭かった。

 

(捻り込み…!?)

 

数回の機動戦で、すかさずルナマリアの背後をとったシンが描いたのは、巧みなマニューバーと速度制御から生まれるハイGターンを駆使した機動「捻り込み」だった。

 

しかし、その機動をすれば普通のムラサメでは機体強度が耐え切れないはずなのに。そう青ざめるルナマリアのエンジンに向けて、シンはターゲットアイコンを合わせた。

 

《オービットよりライトニング隊へ!不味いことになった!北東部より、大型の爆撃機が来ているぞ!…!?なんだコイツは…沖合からも新たな反応!こいつは…早い!!》

 

ニックからの通信を受けて、シンは即座にルナマリアを追うのをやめて北東部へと進歩を向ける。その先には、肉眼でも確認できる距離で爆撃機が迫ってきているのが見えた。

 

「オーブ軍の爆撃機…オーブは本気で、俺たちを討とうって言うのかよ!」

 

「シン!爆撃機は任せる!厄介な相手が来た!」

 

驚きを隠せないシンに、ラリーは矢継ぎ早に指示を送ってから弟子に背中を任せた。

 

沖合から来る反応を見て、ラリーはすぐにスピアヘッドを旋回させる。反応が近づいてくる速度が尋常ではないのだ。そしてこの速度を、ラリーはユニウスセブンで、〝一度経験している〟。

 

「ほう、これは…なかなかに興味深い相手だな」

 

そう言ってクルーゼも、向かってくる相手の気配を感じ取ったようにラリーに続いて迎撃姿勢を取った。相手の反応は二機。もう肉眼で水しぶきが上がっているのが見える。

 

『なんだ、あの機体は…我々の作戦には聞かされていないぞ…!?』

 

ルナマリアを心配するように飛ぶ馬場も、現れた正体不明の二機を見て驚いている様子だった。それは当然だ。なにせ相手は…オーブ軍ですらないのだから。

 

その二機とすれ違ったのは、まさに一瞬だった。この世界にあるはずのない…いや、ラリーたちが大戦時に一度だけ使った装備、『VOB』を背負った影が、ラリーの目に映る。

 

その姿は、ハッキリと見えた。

 

真鍮色と、緑のアイカラーが印象的な流線形状の重量機。

 

ああ、それは間違いない。

 

 

 

『行くぞ、ロイ』

 

『ああ、この国では初仕事だ。丁寧にさせてもらうぜ?ウィン・D』

 

 

 

その出現に、ラリーは思わず舌打ちをした。まったく、相手は相当な嫌がらせを好む者らしい。どうやら、相手はなんとしてもここで俺たちを滅ぼしたいらしい。

 

その意思がありありと伝わってくる相手をラリーと迎え撃つクルーゼは、見据える。

 

SEEDの世界にあるはずのない機体。

 

立ち塞がったのは——。

 

『レイテルパラッシュ』に『マイブリス』だ。

 

 

 

 

 



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第46話 混沌・飛翔・乱戦 4

 

 

 

『敵の排除を開始する』

 

高速域から悠々と滑走路内へと着地した二機の二脚型…いや、MSというには歪すぎる形をした人型の兵器。

 

半天周囲型モニター越しからその二機を見たラリーは息を飲む。この世界ではあり得ないはずの歪な人型機動兵器…ユニウスセブンで遭遇したオッツダルヴァのステイシスと同じく、常人では扱え切れないであろう、驚異的なポテンシャルを持つ機体を〝生産できる〟という事実が確定する。

 

そして同時に、人ならざるパイロットたちが無数に生み出されているという事実も。

 

自分たちの頭上を無傷で飛び越えた二機が挙動した瞬間、ラリーは弾けるように機体を翻して、対応にあたるために降りてきたクルーゼとキラに通信を放った。

 

「気を付けろ!キラ!クルーゼ!あいつら…強いぞ!!」

 

そう言うのも束の間、二機の内の一機である「マイブリス」が素早く、細かなスラスターを吹かしては機体を滑らした。その轟々たる重量型からは考えられないスムーズな挙動に目を見開くキラの脇を、ハイレーザーライフルの一閃が駆け抜けた。

 

(反応が遅れた…!?)

 

慣れないエクスカリバーの操縦もあったのか、キラにとっては信じられない速度で飛来する閃光だった。幸いにも、狙いはキラではなくクルーゼ。そしてクルーゼは横へ飛び退く形でレーザーの猛威から寸前のところでなんとか躱したのだ。

 

「ぐぅ…くっ!いつにもなく弱気だな、ラリー!そんなにあの機体が怖いか?」

 

「本当にムカつくな、お前…だが、ああ、怖いね。なにせ、俺がホワイトグリントに乗っていても、奴らはサシで戦えるほどだ」

 

「ハッハッハッ!それは怖いな!なら、こちらも本気で行くとしよう!」

 

『なるほど、あの戦闘機が部隊の頭か。私がやろう。ロイは他の敵を頼む』

 

『ああ、こっちは任せな。ウィン・D』

 

クルーゼの余裕とも言える言葉に鼓舞されるように、固まっていた戦局が目まぐるしく動き始めた。

 

皮肉にも同じ名を司るパイロット、ロイ・ザーランドが操るマイブリスを相手取るのはキラとクルーゼ。

 

そして残る機体、「レイテルパラッシュ」を相手取ったのは、スピアヘッドに乗るラリーだった。

 

コクピット機構から始まり、すべてのパーツや構成を見直されたMSであるレイテルパラッシュ。従来のものよりも小さく、戦闘のみに特化し、機能化されたコクピットの中で、コードが繋がったヘルメットをかぶる女性は、舌舐めずりをしてスピアヘッドを見つめた。

 

ウィン・D・ファンション。

 

生み出されたシリーズの中で、特に戦闘力が高い彼女は、この戦闘に自分が起用されたことに疑念を持っていた。極東の、しかも単なる民間PMCを排するだけの作戦だと言うのに、選出されたのは自分と、それに追従できる腕を持つロイ・ザーランドだった。

 

敵戦力もたったの四機。オーブ軍の可変MSが太刀打ちできなかったことは否めないが、それは機体の能力とパイロットが未熟だったからと言う側面もある。

 

現に、後方で爆撃機を落とそうとする四機の内の一機に食らいつくムラサメはいい動きをしているようにウィン・Dには見えていた。

 

それほどの実力なのだろうと、彼女は自身の中にある経験値から目の前のスピアヘッドの能力を推測した。

 

だが、その推測にも違和感が張り付く。

 

前時代の遺物となったはずの戦闘機のはずなのに、背中に感じる悪寒は何だ。

 

目の前の情報と、パイロットとしての勘を持つ自分の感受性が驚くほどに似合っていないのだ。

 

『まぁいい、消えろ』

 

その不揃いさようなものを感じながらも、ウィン・Dは振り払うように近づいてきたスピアヘッドもどき目掛けてレールガンの矛先を向けた。

 

——そして、その動きはラリーにもはっきりと見えていた。

 

『っ…!?』

 

緩やかな戦闘機らしい機動を模していたスピアヘッドは、こちらの射程距離に入ったと同時に、その戦闘機らしさを捨てた〝何か〟へと変貌する。考えられないほど鋭く、深い角度で機体を切り返したそれは、ウィン・Dの予想を遥かに上回った速度でやってくる。

 

(速い…!!)

 

視認追尾の反応速度では追いきれないと判断したウィン・Dはすぐにレールガンの選択肢を捨てて、片腕に備わるレーザーブレードを用意する。迷うな。この手の敵は判断が一瞬でも遅れたらこちらが喰われる!

 

そして彼女の判断は正しかった。レールガンで討ち取れると錯覚していた距離をパワーと旋回性能で瞬間移動のように詰めたラリーのスピアヘッドは、翼端をレイテルパラッシュに擦りつけるような軌跡を描き、その先端から内蔵されたビームサーベルが閃いた。

 

ゾッと、ウィン・Dの背中に漂っていた不揃いさが、死神の鎌となって首筋へと伸びる。

 

「浅いかっ!!」

 

咄嗟にウィン・Dが展開したレーザーブレードと、ラリーのビームサーベルが干渉し、ビームの磁場によって二機は弾かれるように距離を置かれた。

 

運が良かった。そう思ったウィン・Dは、その事実に驚愕する。運が良かった?それで切り抜けた戦闘など、自分の経験には存在しない。確実なルート、堅実な戦略、確かな力量。それらのデータと実績と経験をもって、彼女はMSを操り、確固たる勝利を掴んできた。その経歴の中で「運に左右されたもの」など存在しない。

 

故に、今目の前にした存在がどれだけ異質なものなのかを、ウィン・Dは初めて実感した。

 

データや外観ではなく、自身の生死の狭間で見た経験から、彼女は相手の脅威度レベルを一気に跳ね上げる。

 

これが…メビウスライダー隊。

 

これが、流星っ!!

 

『なるほど…コイツ…』

 

さっきまで薄かった殺気を漲らせるウィン・Dの様子を見つめて、ラリーも負荷から溢れた汗と、二酸化炭素に溢れた肺から一気に息を吹きだし、酸素をめい一杯吸い込む。

 

まったく、オッツダルヴァといい、マイブリスといい…この相手はほんと本当に。

 

「『手強いっ!!』」

 

同時、挙動。

 

レイテルパラッシュの放ったレールガンと二連装のハイレーザーキャノンの弾幕のような猛攻を、ラリーはフットペダルと操縦桿を引き絞って機体を翻す。

 

迎角が極端に大きくなった機体は不安定に揺れて失速状態となり、スピアヘッドは揚力を得られないまま敵の砲火に身を晒した上で、その隙間を縫うように躱したのだ。

 

…なんだ、あの動きは!!

 

普通なら、その神がかり的な機体の挙動に揺さぶれるところではあるが、それは想定済みだと言わんばかりに、ウィン・Dはレーザーブレードを振りかざして、向かってくるスピアヘッドへ斬りかかる。

 

「読みもピカイチかよ!!この野郎!!」

 

落としていたスロットルを全開にして、ゼロから100へと押し上げられたスピアヘッドは、レイテルパラッシュから放たれる斬撃から逃れるように大空へと舞い上がった。そしてすぐにスロットルとフラップを聞かせて失速へと入る。

 

敵の頭上、ほぼゼロ距離で行うポストストールマニューバだ。銃口が、飛び去ったスピアヘッドを見上げるレイテルパラッシュへと向けられる。

 

『突拍子もない!!』

 

「指し合いなら、こっちだってぇ!!」

 

互いの気力と実力を発揮する指し合い。敵の意表、裏、意識の外側を攻める。

 

そんな途方もない隙を貫く戦いが、ラリーとウィン・Dの間で繰り広げられていたのだった。

 

 

 

 

 

 



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第47話 混沌・飛翔・乱戦 5

 

 

 

「ラリーさん!!ちぃっ!!」

 

突如として現れた正体不明。ユニウスセブンでリークらと共に遭遇した機体『ステイシス』と酷似した歪な機体形状をしたそれは、すぐさまラリーや自分たちへと噛み付いてくる。

 

必然的に二機に戦力を分断されたラリーたちの陣営。長でもあるラリーは、機敏な動きと多彩な武装を駆使して追い立てる一機のMS相手に手こずっている様子だ。咄嗟にキラが援護に回ろうとするが、それを防ぐように彼の周りにミサイルの雨が迫った。

 

「これは…近接型のミサイル!!」

 

頭部は新規造形されたとはいえ、対空迎撃用のイーゲルシュテルンを装備したムラサメ・エクスカリバーは、キラ用に調整されたOSで素早く反応し、飛来する近接型ミサイルを尽く撃破して行く。

 

脚部スラスターを駆使して距離を取ったキラが目にしたのは、ミサイルの爆煙を背に佇む歪なMS、「マイブリス」が佇む姿だった。

 

『そっちの相手は俺だよ』

 

その重量型のシルエットからは考えられないほどの滑るような機動。絶えずに放たれるミサイルの雨を掻い潜れば、二連装のハイレーザー砲やガトリングをぶち込んでくるという多彩な武装。キラは弾幕を展開するマイブリスを相手に顔をしかめた。

 

「くぅ…反応速度が速い!!」

 

こちらもフリーダムに負けず劣らずの機動力を有していると言うのに、マイブリスの反応はそれを上回るレスポンスを有しているように思えた。と、キラのエクスカリバーの横へ、弾幕を難なく避けたクルーゼの機体が降り立つ。

 

「まさに〝ラリーのコピー〟みたいな敵だな?キラ・ヤマトくん」

 

ニヤリと笑みを浮かべたクルーゼは、マッスルスーツの機能を存分に活かした機動力を放った。可変の際に効果を発揮するスタピライザーのブーストも展開し、MS領域内での最大加速をかけて、マイブリスへと近づく。

 

「クラウドさん!!」

 

迂闊だ!とキラが叫ぶ最中、ミサイルでは迎撃できないと判断したマイブリスは、二連装のレーザー砲をクルーゼの機体へと向ける。

 

〝悪手だな〟

 

心の中で呟いたクルーゼの言葉通り、大掛かりな二連装のハイレーザー砲は威力は高いが取り回しが厳しい。それに、いくら反応速度が高いとはいえ、相手は重量級の機体だ。

 

ハイレーザー砲の挙動を見た瞬間に、クルーゼは機体を横へ飛び退くように流す。MSならではの四肢を使った変則的な機動と、横への加速に体が高負荷に晒されるが、彼は苦悶の顔一つせずにマイブリスの横側へと旋回して行く。

 

追うようにマイブリスのハイレーザー砲がクルーゼの機体を捉えようとしたが、それもまた悪手だった。横旋回しながら、クルーゼは頭部に備わるイーゲルシュテルンの弾丸をマイブリスのハイレーザー砲へと叩き込む。細かな火花を散らして撃たれたハイレーザー砲には、僅かな乱れが生まれた。

 

「だが、所詮はコピー…私を滾らせるには今ひとつ足りないぞ」

 

ならばと、ガトリングを構えようとしたマイブリス。その初速回転が始まろうとしていたガトリングを、クルーゼは躊躇いなく踏みつけた。

 

ただ旋回していたわけではない。クルーゼは旋回しながらマイブリスの懐へとさらに潜っていたのだ。

 

『おいおい、なんだよコイツ…!!』

 

すでに二連装ハイレーザー砲の射程距離内側に入ったクルーゼのエクスカリバーに、マイブリスのパイロットである「ロイ・ザーランド」は得体の知れない相手に驚愕する。あまりにも破天荒な操縦だ。踏みつけられたガトリングで振り払おうとすれば、敵のビームライフルかサーベルがこちらを襲うだろう。かと言って後手に回れば、今まで優位だった流れが相手に傾く。

 

踏みつけられたガトリングの銃身も不安だが、ここは守りに入るよりも攻めに転じるべきだ。意識せずとも、訓練やシミュレーションで得た経験から、ロイはすぐに空いた腕にビームサーベルを纏わせて、ガトリングを踏みつけるクルーゼのエクスカリバーを横に凪いだ。

 

重火器の強みである距離の更に内側へと入られた以上、相手が選ぶの超至近距離での格闘戦術。

 

「と、普通なら思うな!!」

 

クルーゼは躊躇いなく、ガトリングを踏み台に宙返りを打った。凪いだビームサーベルの矛先は宙をかすめ、クルーゼの機体を捕らえることはない。

 

宙返りを打ったクルーゼのエクスカリバーは、そのまま可変し、機首を真上に向けた状態の戦闘機形態へと変形したのだ。

 

『可変!?』

 

スラスターの出力が灯ると同時、可変時に横へと格納されるビームライフルが、〝逆さ〟に取り付けられていることにロイが気づいたのは、己の機体の片腕が吹き飛ばされた後だった。

 

『ちぃ…俺としたことが、片腕がやられたか…!!』

 

ガトリングを装備した片腕を吹き飛ばされたロイは、苦悶に満ちた表情で離脱するように飛び去るクルーゼのエクスカリバーを睨みつける。最初からこれを狙っていたというのか…!!

 

「模倣した。目指した。その程度では届かない。故に孤高であり、誰もが思い、目指すだろう。彼のような戦士を」

 

誰に語りかけることもなく、クルーゼは空を舞いながら言葉を紡ぐ。ああ、そうとも。誰もがあの飛び方を見せられれば、魅了され、思うだろうとも。あのように戦えるようになりたいと。あのような強者でありたいと。あのような存在を生み出したいと。

 

「だが、舐めるなよ?彼はそんなものでは追いつけない。それを目指した段階で、君たちはラリーには追いつけない」

 

戦闘機から更に人型へと戻ったクルーゼは、モニターに映るマイブリスを睨み付ける。彼らが〝ラリー〟を模範し、作り上げられた存在だとしても、その存在がある段階で、彼らは間違っている。

 

キラ・ヤマト。

 

そして自分自身。

 

最高、最強、最高峰。それを目指して作られたコーディネーター、その残骸。

 

その全てが、ラリーを前にしては無意味なのだ。

 

当人たちが〝これが限界だろう〟と頭打ちした能力を備えさせたとしても、その能力をラリー・レイレナードは…いや、人は簡単に超えて行く。科学者が考えた最高峰など、それを決めつけた段階で、彼らは〝可能性〟に敗北しているのだ。

 

足りない。

 

まったくもって滾らない。

 

簡単に倒せると思ったのか?ゲテモノ機体のパイロット君。残念だったな。

 

「彼を殺せるに値するのは…私以外、存在しないぞ!」

 

『ちぃい!!』

 

模倣の限界点でしかない相手など、恐るるに足らず。

 

クルーゼはスロットルを全開にして、片腕を失ったマイブリスへと再び牙を向く。見ておくがいい、その可能性に育てられた、私という存在の生き様を!!

 

ビームサーベルを閃かせて飛んだクルーゼの動きを見たキラは、それがまったく〝ラリー〟と同じ、異次元の動きだと錯覚するのだった。

 

 

 

////

 

 

激闘が繰り広げられる基地内から離れた東側の海上沖。戦闘機形態となったエクスカリバーのコクピットで、単独行動を任されたシンは、備わるレーダー画面とメインモニターの間の視線を行き来させながら、スロットルを上げて行く。

 

《シン!爆撃機がくる!こっちはまだ時間がかかる!任せるぞ!》

 

「任せてくださいよ!!」

 

AWACSであるオービットからの報告を受けて、シンは大きな声で返答した。同時に、レーダー網が飛行してくる大型爆撃機のエンジン音を捉えた。地平線が広がる海上沖では、護衛機に守られた爆撃機の姿が見えつつあった。

 

『逃げるなぁ!!』

 

そのシンの背後には、基地から追いかけてきたルナマリアの機体がある。

 

「ルナマリア!!」

 

しばし、追い付いては空戦軌道を取る二機。シンは巧みなマニューバーとフェイントを駆使して、ルナマリアを引き離しては爆撃機を追うが、それでも彼女は食い下がって離そうとしない。何度目か忘れたルナマリアとの空戦の中、ついにシンは広域通信内に爆撃機を捕らえた。

 

《おい!爆撃機を止めろ!!撃ち落とされたいのか!!》

 

ルナマリアの機動を逆手に取り、逆サイドへと回り込んだシンは、高負荷がかかる状況にも関わらず、オーブ軍の爆撃機へ必死な声で呼びかける。

 

『機長!敵から通信が!!』

 

『我々の任務は…彼らの撃滅だ…プランに変更はない!!』

 

『しかし!!』

 

尚も進路を変えない爆撃機にシンは苦虫を噛み潰す。それほどまでにオーブ軍は自分たちに刃を向けるというのか?それとも、現場の兵士の意思すら捻じ曲げる〝何か〟が、今のオーブにはあると言うのだろうか…?

 

『このぉおお!!』

 

そんな疑問を抱くシンの前に、人型へと変形したルナマリアが突貫してくる。

 

「ええい!!いい加減にしろよ!!お前!!」

 

今までは旧知の仲だったから、手心を加えていた。しかし、事態はもう覆しようのないところまで来ている。理由のわからない怒りに付き合ってる暇はない!

 

シンはバレルロールでルナマリアから放たれたビームを最小限の動きで躱して、彼女の頭上へと滑り込むと、MS形態へと変形しながら、ビームサーベルを引き抜き、彼女のムラサメの両足を太もも辺りから切り裂いたのだ。

 

『うぁああああ!!』

 

流れるような一連の動きに声も出せなかったルナマリアを、シンは海面に向かって蹴り飛ばす。悲鳴を上げて落ちて行く彼女の機体に目もくれず、シンは爆撃の機関部へと狙いを定めた。

 

「当たれぇええ!!」

 

咆哮と共に吐かれた閃光はあやまたず。飛来しようとしていた爆撃機の機関部を見事に貫く。燃料タンクは外した。黒煙を上げて停止するエンジンと機体の揺れは、すぐに出力系統へと影響を与えた。

 

『エンジンに被弾!出力が保てません!!高度が落ちます!!』

 

「早く脱出しろよ!爆発させてないんだから!!次の爆撃機は!!」

 

ゆっくりと降下して行く爆撃機の影を見送って、シンは再び戦闘機形態へと変形すると、次に現れる爆撃機を探しに大空へと舞い上がって行くのだった。

 

 

 

////

 

 

 

《やはり、一筋縄では行きませんか。オーブ軍にも迷いがあるようですしね》

 

オーブの行政府がある地下施設では、実質的に政治範囲の実権を握ったウナトが、極秘通信を行なっていた。モニターの先に映るのは、足を組んで高級そうな椅子に座るジブリールだ。

 

「申し訳ありません。せっかく、そちらからも機体をお貸しいただいているというのに」

 

《構いません。私にとっても、彼らにいい刺激になるとは思ってます。彼らは負けることを学ばなければならない》

 

彼はワイングラスをテイスティングしながら、穏やか口調でウナトへ告げる。大西洋連邦との同盟を表立って進めるオーブ。

 

そして、秘密裏に交わした軍事面での協力関係に則って、兼ねてからウナトによって計画されていた爆破テロに見せかけた首脳陣…いや、アスハ家の排除と、その罪を被せて厄介な傭兵企業を殲滅する作戦。

 

その作戦に、ジブリールは自身の私兵でもある「カラード」の傭兵たちを派遣したのだ。だが、彼にとって絶対的な勝利など存在しない。ましてや相手は前大戦で最も活躍したと言える英雄であり、イレギュラーだ。

 

優秀な兵士を派遣したとはいえ、勝利する確率など二割程度だとハナから割り切っている。

 

今回の作戦でジブリールにとって重要なのは、勝つことでも手駒を失うことでもない。

 

《負けると言うこと。生きて這いつくばって帰ってくること。それから彼らは学べることもできるでしょう。もっとも、研究者たちは彼らが勝って当然だと思うでしょう。しかし、勝者であり続けることが、イコール絶対勝者とは言えないと言うことです》

 

敗北を知り、己を知る。前シリーズである黄色部隊は負けることを許さなかった故に、杜撰な敗北を遂げた。

 

あの愚かしい敗北に意味はない。故に、今回は意味のある敗北をしようではないか。

 

納得していないような顔をするウナトを一瞥してから、ジブリールは香り豊かなワインを口に含んで楽しげに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第48話 堕天飛翔

 

息が苦しい。

 

コクピットの中がヤケに狭く感じる。

 

自分の荒い息がよく聞こえる。心臓の鼓動も。操縦桿を握る手。手足のように挙動するモビルスーツの動き。理想通りに動くモニターの視界。

 

全てが純然に動く視界の中でも、その息苦しさが無くなることはない。

 

フットペダルを踏み込む。機体は飛翔し、敵から放たれた攻撃を難なく避けられるはずなのに。

 

「くぅ…うぅ…っ!!」

 

飛び上がった機体の爪先が焼かれる感覚が、鉄の骨子を通して五感に届く。何もかもがギリギリの戦いだ。全てを重く感じ、全てがワンテンポ遅れているようにも感じる。

 

理想通りの動きをしていると言うのに、その答えはどこまでも噛み合うことがなかった。

 

「右側…!!」

 

エクスカリバーを操るキラは、その未知の領域にいる相手と立ち回りながらも、奮戦するクルーゼのサポートに回ることしかできなかった。

 

動きは見えるのに…!!

 

クルーゼとマイブリスの戦いを目にしながら、キラはその戦いの展開速度について行くのがやっとだった。

 

片腕を破壊されていると言うのに、敵の動きは衰えるどころか、より精度を上げて、早くなっていっている。

 

時折、自分に向けられるハイレーザー砲の砲口に、キラはぞくりと背筋を凍らせるばかりだと言うのに、クルーゼはその動きを完全に捉え、抑え込んでいたのだ。

 

こちらに向けられたハイレーザー砲の砲塔。その僅かな隙を確実に逃さず、自分から逸れたハイレーザー砲にビームライフルの閃光を打ち込む。

 

その一閃を避けたマイブリスは、嫌がるように背部のミサイルポットから火を吹いて弾頭を打ち上げていくが、クルーゼの判断は早かった。

 

空いた手に持っていたビームサーベルを出力させた状態で投擲し、ミサイルが打ち上がる間際の真上へと到達すると、ビーム刃へライフルを向けた。

 

「名付けて、ビームコンフューズ!」

 

ビームサーベルへ、更に外力としてビームを当てることで、粒子を拡散させて敵からのビームや実弾などを撃退する。前大戦時にラリーがクルーゼに行った攻撃を、彼は久々の地球の戦いで完全に再現したのだ。

 

地上では減衰率が高くビームの威力は著しく落ちる。とはいえ、高熱を発するビーム粒子はマイブリスが打ち上げようとしていたミサイルを食い潰し、あっという間に誘爆させた。

 

『くっそ!こいつ…強ぇ!』

 

対抗手段でもあったミサイルをこうも簡単に…!!狭苦しいコクピットの中でロイは目の前にいる可変MSに底知れぬ恐怖を感じていた。

 

マイブリスも相当仕上がっている機体だ。

 

機体スペックなら、現存するどの機体の性能を圧倒できるほどの防御力と、火力、そして機動性を有しているはずなのに、相手はその一手先を容赦なく繰り出してくる。

 

引き撃ちへと持ち込もうとすれば、相手は即座に優位と見た立ち位置に目星をつけて距離を取り、削ぐようなビームを撃ち放ってくる。

 

近づいて殴って気持ち良くなるような単純なパイロットでは断じてない。近距離を制し、遠距離も制する。明らかに熟練された腕を持つパイロットだ。

 

しかし、その抜きん出た力を感じるパイロットは相手に二人だけだ。レイテルパラッシュを駆るウィン・Dが苦戦する流星。そして、データにはないもう一人。あとの二機…キラ・ヤマトと、シン・アスカの機体には鋭さや機敏性はあるが、こちらを陥れるという驚異性を感じることはなかった。

 

この戦闘中でも、キラ・ヤマトのMSはどこかぎこちなさそうな動きをしており、見方を変えれば味方の邪魔をしかねない危うさがあるように見えた。

 

そして、その事実は覆しようのないものになる。

 

個の優位性というものは、『軍勢』の中で煌めくものだとロイは知っている。流星という存在が如何に優れたものであっても、個という単一優勢では勝ち取れるものは少なく、守れる範囲も狭くなる。

 

大西洋のエージェントが紛れたオーブ軍も、流星をこちらが引き受けているので、軍勢としての数的優位を取り戻しつつある。爆撃機が基地に到着するのも時間の問題だ。

 

『上等だぜ…クソ流星野郎。釘付けにはさせてもらうぞ』

 

ならば、今自分がなすべき事をしよう。ロイは空になったミサイルタンクを捨て去り、二連装ハイレーザー砲とビームサーベルを構えて、自分よりも優位な相手に吠え、立ち向かう。

 

それが、彼自身…いや、彼らの存在意義でもあるのだから。

 

 

 

 

////

 

 

 

トランスヴォランサーズ、極秘格納庫。

 

地下41階という海底に作られた格納庫へと降りたハリーたちは、物資の運び込みを進めながら上から響いてくる音へ耳を澄ました。

 

「外の音、だんだん激しくなってきてるわね」

 

かなり深い場所だというのに、ここまで揺れと爆音が聞こえてきている。高速域で地下へと向かえるエレベーターに乗る間際に感知した、あのゲテモノMS。今回の作戦はオーブというよりも、その裏にいる者の力を垣間見ることになった。

 

ハリーは残った機体とフレームを積み込んで、せっせと〝ハンガー〟を使えるものへと調整していく。この地下に来たのは、逃げ込むためではない。作業着に着替えたフレイや、クルーゼの妻も習うように余剰パーツや予備武装を点検し、指定されたコンテナへと搬入して行く。

 

「爆撃機、新たに六機出現!シン!お前から見て二時の方向だ!」

 

ハリーたちが準備をする中、その「船」のブリッジは暗闇に包まれており、低出力を維持するために最低限のモニターや機器の明かりが灯っているだけだった。

 

早期管制システムである「オービット」でシンに指示を出す管制官、ニック・ランドールは、刻一刻と悪化して行く情勢を見つめながら顔をしかめた。爆撃機の数は増える一方で、しかも広範囲に展開している。キラやラリーも援護に向かえればいいが、現れた所属不明機との戦闘で手一杯と言ったところだ。

 

このままでは撃退する前にシンの機体のエネルギーが尽き果ててしまう。

 

「艦長!!」

 

ニックが怒声のような声を上げるが、ブリッジの艦長席に座る男性は何も言わないまま深く、くたびれた地球連合軍の帽子を被って沈黙を守っている。副艦長席に座る女性も、何も言わない艦長と同じようにジッとその時を待っているように見えた。

 

「データ受信、完了!物資の積み込みも終わりました!」

 

オペレーターとしての職務に復帰したサイが、長く掛かっていた作業を終えて報告する。基地内に残されていたデータや、これまでの戦術データの全てが、この船に集約された。

 

それを聞いた瞬間、座っていた艦長は立ち上がり、指示を放つ。

 

「よし、艦起動と同時に特装砲発射準備!できるな?」

 

開く事を想定していない出口を前に言う艦長の言葉に、長年彼からの操舵を担ってきた操舵手は軽い敬礼と共に頷く。

 

「お任せあれ!」

 

トランスヴォランサーズの社長であり、前大戦からメビウスライダー隊が所属する船の艦長を務めてきた男、ドレイク・バーフォードの言葉が走ったと同時、暗がりにあったブリッジに灯りが灯り、各オペレーターが忙しなく動き始めた。

 

「各員、発進シークエンスを始めます。非常事態のため、プロセスC-30からL-21まで省略!」

 

副艦長席に座るのは、長らく戦線から離れていたマリュー・ラミアスだ。普段の若奥様からは考えられない毅然とした顔つきと声で、オペレーターたちへと指示を出して行く。

 

「主動力、オンライン!出力上昇、異常なし。基地内のコンジットへオンライン!パワーをアキュムレーターに接続!」

 

「接続を確認、フロー正常!定格まで20秒。生命維持装置異常なし!」

 

彼らも、共に流星たちと戦ったクラックスや三隻同盟の仲間たちだ。何度も繰り返した予行練習と同じように、淀みのない動きで火が入っていなかったエンジンへとエネルギーを送って行く。

 

「CICオンライン。武器システム、オンライン。FCS、コンタクト。磁場チェンバー及びペレットディスペンサー、アイドリング、正常」

 

「外装衝撃ダンパー、最大出力でホールド。主動力、コンタクト」

 

「エンジン、異常なし。全システム、オンライン。発進準備完了!」

 

格納庫から、この2年で積もったホコリが落ちて行く。固定ブリッジが解放され、閉ざされていた水門が開き、海底航行に備えて注水が始まった。

 

ドレイクは艦長席に備わる放送端末を持ち、全艦放送で言葉を発した。

 

「総員、艦長のドレイク・バーフォードだ。しばし我が家とは別れる。だが、こうなることを予測され、我々は力を蓄えてきた」

 

本来ならば、あの大戦から使われる事なく、役目を終えて朽ちるはずだった船。それに手を加えて、動かし、来るべきではない…しかし、いざという時のために備えて準備をしてきた。

 

故に、今自分たちは足踏みする事なく、進まなければなるまい。

 

「世界が再び、私利私欲と策謀にまみれた戦乱へと戻る事を防ぐため、我々は飛び立つ。生きて、我々が去っていった者たちから引き継いだ使命を果たす」

 

「ゴットフリート、一番。目標、前方隔壁!」

 

「衝撃及び突発的な艦体の損傷に備えよ。微速前進。ドミニオン、発進!!」

 

直後、爆音が響く。海上が白泡を纏って、高く水柱が立ち上った。

 

『なんだ!?』

 

ラリーのスピアヘッドを追い立てていたレイテルパラッシュは、突如として巻き上がった白波に意識が削がれる。その隙をラリーは見逃さなかった。

 

「よそ見!!」

 

放たれたビーム砲は、レイテルパラッシュの脚部を掠めた。直撃は免れたが、機動性を維持するためのスラスターが焼き切れる。顔をしかめるウィン・Dは、安定しないレイテルパラッシュを扱いながら、白波から現れた巨大な影を見た。

 

「待ってたぜ、バーフォード艦長…!!」

 

白波を突き破って空へと上がったのは、漆黒の船。大天使の異名を持つ姉妹艦とは違う、主天使の異名を与えられた船は、本来ならば潰えていたはずの翼をはためかせて、大空へと舞う。

 

「あれは…ドミニオン!!」

 

その瞬間、優位だったオーブ軍の状況は、一変した。

 

 

 

 

 

 

 



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第49話 閑話休題

 

 

「浮上完了!海面航行へと移行します!」

 

「排水と同時に火器管制システム起動。ラミアス副艦長。任せます」

 

「イーゲルシュテルン、バリアント起動!後部ミサイル発射管、ヘルダート装填!1番から5番、コリントス装填!他はウォンバット装填!アンチビーム爆雷展開!」

 

浮上したドミニオンは、海水を吐き出しながら同時に武装を展開。MS用のハンガーを開き、近寄ろうとするムラサメを対空弾幕やミサイルで追い払って行く。

 

《オービットよりライトニング隊へ!基地主要システムの移行は完了した!現時刻をもって基地を放棄!各機着艦後、海中潜航へ移行し、離脱する!》

 

待ってました!そう言わんばかりにラリーを筆頭に、部隊は撤収の準備に取り掛かった。爆撃機を荒らし回ったシンもドミニオンへと合流。追いすがってくるゲテモノMSも、ラリーとクルーゼの相手でかなり消耗しているようだった。

 

「ブルー55、アルファにオーブ軍の追撃があります!」

 

「構わん、すでに脱出ルートは確保されている」

 

敵増援が向かってくる中、シンに続き、キラのエクスカリバーがドミニオンへと着艦する。MS形態で着艦したキラは、コクピットの中でヘルメットを脱ぐと、口惜しげに手を握り締めた。

 

今回現れたマイブリス相手に、自分は何もできなかった。まだ慣らしていない機体だからと理由は山のようにあるはずなのに、キラにとっては、そのどれもが言い訳じみているように思えて仕方がなかった。

 

『流星!』

 

クルーゼを先にいかせて、殿を務めるラリーに、出力が落ちたレイテルパラッシュでウィン・Dが追いすがる。

 

だが、煙幕とミサイル、そして空になったファストパックが煙幕に紛れて投下されたことで、それを受けたウィン・Dに、ラリーのスピアヘッドを追う手立ては残されていなかった。

 

『ウィン・D!その機体では無理だ!』

 

『ロイ!しかし…!!』

 

『諦めろ…今の俺たちじゃ、奴らには勝てない』

 

片腕から火花をあげてボロボロになったトランスヴォランサーズ所有の滑走路に佇むマイブリス。パイロットであるロイの言う通り、自分たちの力不足は否めない。

 

あったはずの自信は折られ、目の前には敗北という事実が横たわっている。海上沖へと逃げ出したドミニオンを追うこともできない口惜しさに、ウィン・Dは晴天の中へと消えるスピアヘッドの軌跡をジッと見つめるのだった。

 

「対空迎撃!牽制でいい!弾幕は絶やさないで!」

 

「ラリー機、着艦しました!」

 

最後の機体を格納し終えたドミニオンは、すぐに行動を起こす。

 

「よし!ハッチ閉鎖!潜航準備!」

 

大きな船体を海へと沈め始める。姉妹艦と同じく潜水機構を導入したドミニオンは、レーダー波でもキャッチできない海底へとゆっくりと降り始めていく。

 

『アークエンジェル級が逃げるぞ!』

 

『追え!逃すな!何としても撃破を!』

 

その進路を阻止しようとムラサメや、爆撃機がミサイルや爆弾を投下しようと潜水を始めたドミニオンを追跡するが、彼らの視線の先に、編隊を組んだ部隊が現れた。

 

《こちら、オーブ国境警備隊。貴官らの作戦行動はこちらに伝令されていない。これ以上の戦闘行為は国家反逆罪を適用し、貴官らを迎撃する》

 

青と白を基調にしたムラサメは、オーブの領域を監視する国境警備隊所有の機体だ。進軍しようとするオーブ軍と向き合う形で部隊を展開した警備隊に、隊長格であるパイロットは苛立ちげに声を漏らした。

 

『こちらは極秘作戦を実行中だ。邪魔をするな』

 

《ほう?なら、空軍の幕僚長からも承認は出ているのだろうな?確認はするが、君らの長がその作戦を認可していなかった場合、諸君らは軍法会議にかけられることになる》

 

放った言葉に、まさに返す刃のような返答が突き刺さる。この作戦は、ある氏族が主導となって行われた極秘作戦だ。オーブ軍内でも限られた人員しか選出されず、任務を認可する上層部もすっ飛ばして行われたものだ。彼らが航空部隊の幕僚長へ進言すれば、いくら氏族の力があろうと一介のパイロットたちの処遇は火を見るよりも明らかなものになる。

 

《根回しが足りなかったな。彼らを取り逃した段階で君たちは敗北しているのだよ。大人しく帰りたまえ》

 

余裕すら感じる警備隊長の声に、隊長格のパイロットは口惜しげに歯を食いしばってから、機体を翻した。

 

『…全軍、引きあげろ』

 

どんな理由があるのか。私利私欲のためか。あるいは弱みを握られているか。あるいは流星と戦ってみたいと思った愚行か。前大戦の英雄たちへ牙を向けたオーブ軍は、海中へと去ってゆくドミニオンを一瞥してから、基地へと帰還してゆく。

 

『流星…』

 

機体を落とされ、同僚に救助されたルナマリアは、太平洋の中へと消えていった船を見据えながら呟く。

 

その表情は風に揺られた髪のせいで垣間見ることはできなかったが、瞳には燃え滾る〝意思〟が宿っているのだった。

 

 

 

////

 

 

ドミニオンに着艦したラリーたちは、パイロットスーツのままブリッジへと上がった。

 

「バーフォード艦長!」

 

「ご苦労だったな。待たせて申し訳ない。このレディは寝起きが少々悪くてな」

 

いつもと変わらない口調でパイロットたちを出迎えたバーフォードは、トレードマークでもあるくたびれた地球軍の帽子を脱いで、ラリーたちを労るように肩へと手を置いた。

 

この作戦は非常事態を想定したものだ。本来ならば、ザフトや過激派組織に襲撃された時のプログラムであったが、よもや懇意にしているオーブ軍相手に使うことになるとは想定していなかった。

 

「ドミニオンは、どこに向かっているのですか?」

 

キラの質問に、ラリーたちも同意だった。プラン通りならば、この船はモルゲンレーテのドックに向かう手筈になっているが、オーブ軍が牙を向けてきた以上、オーブ国内の主要港は全て危険域と化しているだろう。

 

故に、自分たちが向かう先は限られてくる。

 

「マルキオ邸…いや、我々の極秘ドックだ。そこで今回の件の説明をしてくれる人物が待っている」

 

「説明…?」

 

 

 

 

////

 

 

 

アカツキ島。マルキオ導師の孤児院があるこの島の地下には、ドミニオンの姉妹艦であるアークエンジェルが隠蔽された海底ドックがある。

 

注水されたドッグへと入港したドミニオンは、一時の暇を持つことができた。ドタバタと乗り込むことになったマリューたちやクルーたちも一度下船することになる。

 

大西洋連邦はもちろん、ユーラシアでハルバートン閣下が行方不明になったこと、そしてアズラエルが重傷を負い、今も命を狙われていることもある。どちらにしろ、今後の方針を固める必要もあった。

 

「ムウ!」

 

「マリュー!無事に戻ってきてくれて何よりだ!」

 

海底ドックにあるブリーフィングルームへ入ると、息子を抱っこしていたムウが帰還したマリューを出迎えた。軽いハグを交わすマリューとムウ。

 

その様子を見ていたクルーゼこと、バーデンラウ夫妻は、解放されたマリューの横に並んで、ハグのポーズ。クルーゼのそのポーズを見たムウは、なんとも言えない表情となった。

 

「私とのハグはしないのかね?」

 

「心の準備すら整ってねぇよ」

 

そう切って捨てたムウ自身は、本来なら非番であり、トランスヴォランサーズへ出向いていたマリューに変わって息子の相手をしていたはずだが。

 

そう思ったラリーが辺りを見渡すと、ブリーフィングルームに置かれた点在する座席に、顔を知っているオーブのパイロットたちが並んでいるのが見えた。

 

「ムウさん、それにオーブのパイロットたちも…これはいったい」

 

「それについては、僕から説明させてもらうよ」

 

遅れてブリーフィングルームへやってきたバーフォード。その後ろにいる人物が、部屋にいる全員へと言葉を放った。

 

「みんな。オーブは…君たちと敵対する道を選んだ」

 

真剣な眼差しでそう言い放ったのは、パイロットスーツ姿のユウナ・ロマ・セイランだった。

 

 

 

 

 

 



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第50話 分水嶺

 

最終ブリーフィングを終えたフレイは、念のために作戦では使用する予定のない機体のチェックを行なっていた。

 

こういったときこそ、有事の出撃の可能性もある。ドミニオンからアークエンジェルへと移動した機体を点検していると、ふと、エクスカリバーのコクピットが開かれているのが見えた。

 

「何してるの?」

 

手慣れたように機体に足をかけてコクピットまで登ったフレイは、ハッチが開いたコクピットの中でキーボードを叩いているキラに声をかける。側には水の入ったペットボトルを持っている旦那のサイもいた。

 

「うん、ちょっと戦術OSの見直しをね」

 

「何か噛み合わないことがあったの?」

 

フレイがサイヘアイコンタクトを投げるが、サイ自身もよくわかっていない様子だ。

 

夕食どきになってもハンガーから中々戻ってこないキラを心配してやってきたが、キラがやっていることは書き換えたOSを再び元に戻したり、手を止めてウンウンと唸ったりと、いつものような覇気というか、凄みというものが感じられないものでもあった。

 

「特にそういうわけじゃないんだけど…いや、そういうわけだったかも」

 

歯切れの悪いキラの言い方に、フレイは「ふーん」と声を出して、そのままハッチの縁へと腰掛ける。小脇に抱えていた工具箱は適当にそこらへと置いて、堅牢な安全性を持つワーキングブーツを履いた足を組む。

 

それはフレイが「話を聞いてあげるから言ってごらんなさい」という合図だった。

 

「前の戦いで、敵の新型機を相手にして…僕は何もできなかった。クラウドさんや、ラリーさんはしっかりと対応できてるのに、僕は何やってんだって…」

 

「ふーん、で?OSの見直し?」

 

フレイの問いかけに、キラは頷いて答えた。自身の反応速度に、機体が、システムが噛み合っていないように思えたからこそ、対応したOSが必要だと思い、エクスカリバーのOSの見直しを行なっていたのだ。

 

しかし、これはキラが作った基本骨子が元となっているものだ。サイもそのシステムについてはよく知っている。かなり汎用性が高く、構造も完璧に近い。そして運用に関する設定では、ラリーやクルーゼの機体の方が適度であり、キラの扱うOSは彼が自分好みに改造しているため、かなりピーキーなものになっている。

 

にも関わらず、自分がラリーたちに及ぶことができないのは何故か。OSに手を加えれば加えるほど、見えないドツボにハマっているように思えて、キラは深くため息をついた。

 

「キラってさ。MSの操縦ヘタクソよね」

 

フレイの一言に、サイのメガネにヒビが入りそうになった。

 

「…え?」

 

顎杖をついて突拍子もなく言ったフレイの言葉に、キラは目を見開いて固まった。OSを書き換えていた手が、まるで時間をとめたようにフリーズしている。

 

ヘタクソ…ヘタクソ…ヘタクソ…。

 

フレイの言葉が、キラの中でリフレインしてゆく。こうもはっきり言われるとは思って…いや、そもそもヘタクソと言われることを想定してなかったキラは、放たれた言葉に半ば放心状態だった。

 

「このデータ。何かわかる?」

 

そんなキラへ、フレイは愛用している端末を取り出すとあるデータシートを見せた。放心状態からかろうじて戻ったキラは、虚な目で表示されているデータシートを見つめる。

 

「えっと…僕の機体データ…だよね?」

 

「ピンポーン。で、こっちはラリーさんとクラウドさんの機体データ。負荷と消耗率の差が歴然よね?」

 

続いて見せられたのは、ラリーとクルーゼが操っていた機体のデータだ。一目見るだけで、その差はハッキリとわかる。クルーゼの運用データは、エクスカリバーの許容値ギリギリを掠めており、ラリーに至ってはスピアヘッドの予想限界値を超えているものもあった。

 

「う、うん…そりゃあ、あれだけの動きをしてたら…」

 

「そこよ」

 

ビシッとフレイは見上げる形となったキラへ指を指した。

 

「その考え自体が、キラのヘタクソの根元」

 

サイとキラは顔を向き合わせて首を傾げる。再びキラと他2名のデータを見比べるが、その差は変わらない。

 

キラのデータは可もなく不可もなく、エンジンや機体に負荷をかけないギリギリの域を叩き出していて、他の2名はその負荷を無視した機体性能限界値を叩き出していて——。

 

「極端な話だけど、この機体データでもわかるように、〝あれだけ〟振り回しても機体は動いてくれる。戦うことができるってわけよ」

 

フレイの言葉で、キラはハッとした。機体性能や機体負荷を抜きにして、あれだけ無茶な動きをしているはずの二人は、機体を壊すことなく持ち帰っているのだ。

 

「キラのデータは、たしかに綺麗よ?負荷も少なく、燃費もいい。アンタの機体って手が掛からないのよ。フルメンテは2回か3回に一度。短期の出撃なら、機体配線のチェックと補給で済むくらい」

 

フレイや他の作業員たちも、ラリーの機体に何度頭を抱えさせられたかわかったものじゃない。機体をばらし、エンジンをバラし、オーバーホールして、摩耗部品を交換して、組み立て直して、点検をする。それだけでどれだけの時間がかかるか。そしてキラの機体は驚くほど手が掛からない。点検といっても、2、3時間あれば終わるし、交換した部品も綺麗にすれば再利用できるほどの消耗しかしていない。

 

そして、そこに穴があるとフレイは言う。

 

「逆に言えば、〝その程度〟の範囲でしか機体を動かせていないってことにもなる。キラは、自分から制限をかけて戦ってる。そんなの、手を縛って飲み物を飲むようなものよ」

 

それで噛み合ってない、付いていけないというのは当たり前だと、フレイはさらに釘を刺した。

 

キラは前の大戦で物資が少ない中、ストライクをやりくりして宇宙から地上の中を戦ってきた。ろくな訓練や教導も受けないまま。

 

「前の大戦の節約術が、キラの操縦技術の基礎になってるのよ。それも無意識の内に」

 

結果、キラ自身の根底にある操縦センスというのは歪な形に形成されたのだ。

 

消耗させず、壊さず、無理をさせない。

 

機体スペックの高い域を出すことはできるが、最大値を出すことを控えているという扱い方が、キラの首を締め上げているのだ。

 

「節約して…戦ってる…か」

 

フレイに言われて、キラは改めて気がつく。ストライクやフリーダム、そして今まで乗ってきた機体もそうだ。無理な負荷をかけて壊さないように、心の奥底のどこかで意識して乗っている自分がいる。迷惑をかけないようにと、気にかけている自分が。

 

そんな思い悩んだキラのおでこに、フレイは軽くデコピンをした。

 

「機材も、部品も、人手も、あの時と比べたらかなりマシになってるんだから。もっと整備士たちを信頼しなさいっての。特に私の腕をね?ラリーさんの相手をしてるとね、アンタが多少無茶したって可愛い程度で済むんだから」

 

この機体のエンジンくらいなら、5時間もあればバラして組み立てられるんだし、とフレイは言う。ちなみにハリーなら、5時間もあればエンジンをチューンしながら組み上げることができると、フレイは追記するように言った。

 

「ははは、そう言われると、なんだか元気出た」

 

「まぁ、最初から変えるのは難しいんだから、いろいろと考えてみなさい。考えて、ためして、身に付ける。技術を身に付ける基礎よ」

 

だから、焦りは禁物。ちゃんとご飯を食べなさい。そう凄みのある笑みで言ったフレイに、キラは少し怖気を感じながら何度も頷いた。

 

サイを連れてハンガーを後にするフレイを見送ってから、キラはいじっていたデータを全て元に戻してからキーボードを片付けて、コクピットから高い天井を見上げた。

 

「無理を通せば道理が引っ込む。だから「模範的な行動をしてないで殻をブチ壊せ!」…か」

 

目を閉じれば浮かび上がってくるラリーの無茶な機動。

 

果たして、自分はあれほどの動きができるのだろうか。一人思うキラは、とりあえずフレイの怒りを買う前に、食事を取るためにアークエンジェルの食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

翌朝、オーブ首長国連邦は、アスハ家の遺児であるカガリ・ユラ・アスハと、現主流派のトップに位置するセイラン家の息子、ユウナ・ロマ・セイランの結婚式パレードが大々的に行われた。

 

父や叔父を失ったばかりであるカガリには酷な話であるが、内外へオーブ政府がしっかりと運営されていると言うことを知らしめる必要があるから、ウナトが画策したこの結婚の話がかなり前倒しになって勧められた経緯もある。

 

何を思っていたのか。パレードの最中、ウェディングドレスに身を包んだカガリは、手を振る民衆へハラハラと涙を流しながら手を振る場面もあったが、パレードの一団は無事に式場となるヤラフェス島の教会へと到着したのだった。

 

「ああ…わかった。そっちも気をつけて」

 

側近たちを下がらせ、個人の〝携帯端末〟で話を終えたユウナは、純白のタキシードを着こなしている。まったくもって不本意であるが、これも作戦の内だ。

 

そして、ここからが作戦の一手目になる。

 

ユウナは「彼女と二人で話がしたい」と張り付いたアホらしい笑みを浮かべて警備員や関係者たちを締め出すと、カガリが控えている扉へノックを鳴らした。

 

「カガリ」

 

応答なし。物音も聞こえない。ユウナは再度、扉を叩いた。

 

「カガリ…話があるんだ。ドアを開けておくれ」

 

これも応答なし。頼む、扉を開けてくれ。ではないと「この作戦は破綻する」。急にも似た思いを胸に、ユウナは真剣な表情で言葉を放った。

 

「君のこれからについての話だ」

 

すると、閉ざされていた扉は勢いよく開き、ユウナは整えられた蝶ネクタイを引っ張られて部屋の中へと吸い込まれた。

 

突然の衝撃に驚いたが、ユウナは体勢を崩すことなく部屋の中へと立つ。目の前には、綺麗に整えられた顔を覆すほど、怒りに満ちた顔をするカガリが立っていた。

 

「カガリ…まずは話を」

 

「お父様が…お父様を彼らが殺すなんてあり得ない!となれば…結果はひとつだ」

 

「ああ…君の思う通りだ。ウズミ・ナラ・アスハは下級士族たちによって暗殺された」

 

隠す必要はない。ユウナの言葉に、カガリの肩が震えた。あの病院へ爆弾物を仕掛けたのは、間違いなく現主流派の氏族たちだ。もしくは、自分の父親かもしれない。彼らはその罪をでっち上げてまで、ラリーたちを陥れようと画策している。

 

ユウナは湧き上がった怒りを鎮めるように息を吐いて、カガリを見つめた。

 

「こうなることが分かってたから、僕は順を追って君に話を…」

 

言葉を続けようとしたが、ユウナの台詞は遮られた。カガリがユウナの首元を掴み上げて、そのまま窓際へと押しやったのだ。

 

「なぜだ…」

 

力強い圧からは考えられないほどのか細い声だった。ユウナへと顔を上げたカガリの顔は涙で濡れていた。

 

「なぜ、オーブの氏族たちはお父様を殺した!なんで!答えろ!」

 

「今はそれを言い合う時間ではない!!」

 

その涙と怒りに満ちたカガリの大声を、それを上回る言葉でユウナは跳ね返した。掴み上げていたカガリの手を払い、ユウナは真っ直ぐな目でカガリを見る。

 

「ユウナ…?」

 

「君はオーブの獅子、ウズミ・ナラ・アスハの娘であり、彼の後継者だ!それが何だ!下級氏族の思惑に良いように利用され、自由を奪われ、挙句、主犯格であろうセイラン家の息子である僕と結婚することを認める!?」

 

本当に、君はそれでいいのか!納得しているのか!何故、嫌だと言わないのだ!思っていた声が感情と一緒に溢れ出してゆく。

 

ああ、わかっているとも。

 

僕は、彼女に抱いていた想いがある。そしてそれは、自分に向けられることはないということも。ふと、ザフトの彼のことが頭をよぎったが、今はそんなこと、どうでもいい。

 

「ウズミ様が何を理由に殺されたことを言及するより、君には為さなければならないことがあるだろう!?」

 

そこまで大声で叫んでから、ユウナは肩で息をしながら感情を整えてゆく。カガリもすっかり毒気を抜かれた様子でユウナを見つめていた。自分よりもキレている人を見ると、逆に冷静になるというアレだ。

 

「…僕には、それを止められなかった責任がある。君に事の全てを説明する義務も。そして君も立ち止まるのは、今じゃないんだ」

 

きっと、父の死を悲しむのも、家族を失ったことを嘆くことも、今ではないのだろう。残酷な話だが、国を背負うものという人間に待つのは、いつも残酷な現実ばかりだ。

 

彼女はウズミ・ナラ・アスハにオーブを託されたんだ。ならば、行かなければならない。

 

「僕と結婚して、君の父を殺した氏族たちの傀儡となるか。それとも、ウズミ様の意思を継いで、道なき荒野へと踏み出すか。君が決めるんだ。カガリ・ユラ・アスハ」

 

その決断が、この先の未来を分かつ。それだけはハッキリとわかった。真っ直ぐに問いかけるユウナに、カガリは一息、瞑目するように瞳を閉じてから、凛とした表情でユウナを見た。

 

「——話を…聞かせてくれ。ユウナ」

 

「仰せのままに、アスハ〝代表〟」

 

膝を折って、まるで騎士のように頭を下げるユウナ。彼にとってのオーブは彼女だ。汚い手段で国を取った父や氏族たちではない。

 

故に、彼女の進む道を作ろう。

 

ユウナはドミニオンで説明した作戦のことを思い返しながら、カガリへこれから起こる内容を伝えてゆくのだった。

 

 

 

 



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第51話 明日への出航

 

 

ミッションの内容を説明する。

 

オーダーは僕、ユウナ・ロマ・セイランと僕に賛同にしてくれた氏族のご子息ら数名で結成したレジスタンスから出資することになった。

 

現在、オーブ首長国連邦は主権を狙う氏族たちの暗躍によって、大西洋連邦との同盟路線へと舵を切ろうとしている。

 

オーブ議会や、行政府も、残念ながら氏族の手に落ちているだろう。

 

事もあろうに彼らは、最も障害たるアスハ家の当主ウズミ様と、現代表であるホムラ様の二名を暗殺した。それも、他の入院患者がいるはずの病院を爆破テロに見せかけてだ。

 

この事件には大西洋のエージェント数人が関与している情報を入手しているが、オーブの実権は彼らのものだ。トランスヴォランサーズが主犯格として内外へ報道されている以上、下手に抗議しても揉み消されるか…あるいは別の手段を用いていくる危険性が高い。

 

君たちへのオーダーは二つ。

 

 

 

 

まずは、カガリ・ユラ・アスハの奪還と保護だ。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「アレックス殿!こちらです」

 

オーブのパイロットスーツに身を包んだアスランは人払いされたオーブ軍のMSデッキを駆け抜けていた。目的はすでにエンジンに火が入ったムラサメに搭乗すること。

 

今回の任務はアスラン自身の単独ミッションだった。ユウナが行ったブリーフィングでは、この任務を任されるのはラリーか、キラの二人かと話が出ていたが、ユウナ自身がアスランを指名したのだ。

 

協力者であるオーブ軍高官に導かれるまま、アスランは無人のムラサメへと乗り込む。操作手順はすでに把握している。エンジンの出力を上げたムラサメは、氏族派閥の誰にも気づかれることなく、静かに基地から飛び立った。

 

 

 

////

 

 

 

タイミングは僕が手引きをする。彼女とは直日に結婚する手筈になっている。だが、僕としてはその強引な政略結婚を受け入れるわけにはいかない。

 

作戦は結婚式の最中に行う。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

アスラン、済まない。ちゃんと一度、話をしようと思っていたんだが…もう動けなくなってしまった。

 

オーブが世界安全保障条約機構に加盟する事は、もう知っているだろう。そして私は今、ユウナ・ロマとの結婚式を控えて、セイラン家に居る。

 

急な話だが、今は情勢が情勢だから仕方がない。

 

今、国にはしっかりした、皆が安心出来る指導者と態勢が、確かに必要なのだ。

 

この先、世界とその中で、オーブがどう動いていくことになるかは、まだ判らないが、例えどんなに非力でも、私はオーブの議員としてすべき事をせねばならない。

 

ちゃんと話しもせずにこんなこと、ほんとは嫌なんだけどな。ごめん。皆が平和に幸福に暮らせるような国にするために私も頑張るから。

 

だから…

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に一人で決めて…ハツカネズミになってるのはどっちだ…!!馬鹿野郎!!」

 

カガリの側近から渡された手紙を思い返すたびに、アスランは腹が立って仕方がなかった。何が平和のために頑張るだ。あんな涙と震えた文字にまみれた手紙を読んで、納得できると思っているのか…!!

 

父であるウズミが爆破テロの犠牲になってからというもの、国葬の葬儀の準備と、急遽決定したユウナ・ロマ・セイランとの結婚のせいで、彼女は氏族派の議員たちの手によってほぼ幽閉状態となってしまった。

 

まさに絶海の塔に囚われた姫君と言える。あんな形でしかSOSを出せない彼女に、アスランは納得する反面、年相応の腹立たしさを抱いて仕方がない。

 

とにかく今は、早く式場である岬へと向かうしかない。アスランはヘルメットのなかで目を鋭くさせながら、スラスターのスロットルをあげるのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

先行したドミニオンは、ユウナらレジスタンスから指定された〝抜け穴〟から先にオーブ沖合へと離脱する中、基地内で最終調整が進められる戦艦、アークエンジェルも発進の時を迎えつつあった。

 

「定格起動中。コンジット及びAPUオンライン。パワーフロー正常。遮蔽フィールド、形成ゲイン良好。放射線量は許容範囲内です」

 

「外装衝撃ダンパー出力30%でホールド!気密隔壁及び水密隔壁、全閉鎖を確認。生命維持装置正常に機能中!」

 

各員が忙しく起動準備に入る中、ブリッジに通ずる扉が開き、マリュー・ラミアスがオーブ軍の制服に身を包んで現れた。

 

「艦長がブリッジへ!」

 

「あー、ナタル?」

 

マリューがブリッジに上がってきたと同時、声を張り上げた副艦長席に座る、ナタル・バジルールへマリューは申し訳なさげに声をかけた。

 

「何でしょうか、ラミアス艦長」

 

「やっぱり、貴女がこちらの席にお座りになりません?」

 

バジルールは地球軍から退役したあとも、オーブ軍で艦隊指揮や後任の育成に従事しており、戦線から離れたマリューよりも多くの経験やスキルを身につけている。

 

にも関わらず、この作戦へ志願した彼女は、艦長席に一切の興味を持たずに颯爽と歩んでは副艦長席へと腰を下ろしたのだ。

 

弱々しいマリューの声に、ナタルは深く被った軍帽越しにマリューの顔を見上げて、真摯な声で答えた。

 

「元より人手不足のこの艦です。火器管制官と副艦長として私は従事いたします。それに、そこは貴女の席でしょう?ラミアス艦長」

 

貴女がうまく使ってくれるなら文句はない。そう言わんばかりの顔つきと副音声がマリューには聞こえたような気がした。ナタルとめでたくお付き合いすることになった操舵手であるアーノルド・ノイマンは、まったく変わらない彼女の頑固さに小さく笑う。

 

マリューも観念したように軍帽を被ると艦長席へと腰を下ろした。

 

「主動力コンタクト。システムオールグリーン。アークエンジェル全ステーション、オンライン!」

 

アークエンジェルの発艦準備が進む中、デッキと繋がる連絡橋の上で、見送る形となったシンは両親と言葉を交わす。

 

「母さん、父さん」

 

ユウナや、彼に協力したオーブ軍兵によって難を逃れたシンの家族や、リークの家族たちが見送る中、シンの両親は愛情深く息子を抱きしめてから、恩師であるラリーへ視線を向け、頭を下げる。

 

「ラリーさん。息子を頼みます」

 

「はい、任せておいてください」

 

父の言葉に、ラリーはいつもと同じように答える。これはラリーがシンを守るのではなく、シン自身が己の身を守った上で戦うことを見守る誓約でもあった。

 

一人前のパイロットとなったシンの肩に手を置いて、シンの父は言葉を紡ぐ。

 

「シン、お前の力を尽くせ。さすれば、必ず道は開く」

 

「わかったよ、父さん」

 

両親が離れると、入れ替わるように妹であるマユが力ない様子でシンへと抱きつく。再び、前の凄惨な戦いになろうとする世界へ飛び立とうというのだ。普段は気丈に振る舞うマユでも、今日ばかりは弱々しいものだった。

 

「マユ」

 

「……帰ってこなかったら、怒るんだから。絶対、帰ってきて。ラリーさんも連れて帰ってきてね」

 

「ああ、お兄ちゃんに任せておけ」

 

差し出された妹の小指に、自分の小指を絡ませて約束する。自分たちは必ず戻ってくると。

 

「母さん」

 

キラも、オーブに暮らし始めてから共に生活をしていた母であるカリダ・ヤマトと別れを言葉を交わす。また心配をかけるねと申し訳なさそうに言うキラに、カリダは手を握りながら微笑んだ。

 

「忘れないで。貴方の家は此処よ。私はいつでも此処にいて、そして貴方を愛してるわ」

 

ギュッと握られる手に力が篭る。たとえ実子でなくても、共に過ごした日々は本物だ。カリダは立派になったキラを誇りに思う。だから——。

 

「だから、必ず帰ってきて」

 

トランスヴォランサーズで大きな任務があるたびに交わしてきた言葉だ。キラは母の手を握りらしめて笑顔で頷く。

 

「うん、行ってきます」

 

ドッグ内にアラームが鳴り響く。連絡橋が外され、アークエンジェルは発進準備へと入ってゆく。

 

「ムウさん、こっちは任せとけ!」

 

「マリューさんたちを任せますよー!」

 

残留し、ユウナやレジスタンスの補助をするオーブ軍人に混ざって、オルガやクロトが離れてゆくムウやキラたちに手を振っていた。当面は水面下での情報戦になるだろうが、レジスタンスが立つときは、彼らが大きな役に立つだろう。

 

「まったく、元気のいいひよっこどもだ」

 

そんなオルガたちを見て、ムウは小さく笑った。自分たちがオーブを離れても、彼らがいるなら大丈夫だろう。

 

だからこそ、自分たちは己が果たすべき使命を果たそう。

 

「注水始め!」

 

「ラミネート装甲、全プレート通電確認。融除剤ジェルインジェクター圧力正常。APUコンジット。分離を確認」

 

「150…180…調圧弁30。FCS及び全兵装バンク、レミテーターオンライン。フルゲージ」

 

ドッグ内が海水で満たされてゆく。ドミニオンはバーフォード艦長指揮の元、先に出発した。こちらは計画通りにことを進める。

 

「メインゲート開放後、拘束アーム、解除。機関20%、前進微速」

 

拘束アームが解除されたアークエンジェルは、開かれたメインゲートからオーブ近海の海底へと出る。艦長にマリュー。副艦長にナタル。操舵手はノイマン、サイやミリアリアも乗せた大天使は、大きく上へ、上へと登ってゆく。

 

「水路離脱後、上昇角30。機関最大!各部チェック完了。全ステーション正常!」

 

「海面まで10秒、現在推力最大」

 

「浮上後、離水!アークエンジェル発進します!」

 

水しぶきを上げて飛び立った白き船は、青空のした姫君を迎えるために空をかけてゆくのだった。

 

 

 

////

 

 

 

 

まずはオーブ軍のムラサメを奪取し、味方の識別コードを使って式場へと接近、そのまま祭壇へ上がったカガリを保護し、君たちは離脱してくれ。退路はどうにかして確保しよう。国境警備を担当する部隊にも話は通してある。

 

カガリを奪還したのち、君たちはドミニオンでオーブ国外へと脱出してくれ。

 

 

 

////

 

 

 

《今日、ここに婚儀を報告し、またハウメアの許しを得んと、この祭壇の前に進みたる者の名は、ユウナ・ロマ・セイラン。そしてカガリ・ユラ・アスハか?》

 

「はい」

 

厳かに、ユウナとカガリの〝結婚式〟が進む中、オーブ空軍に衝撃が走った。

 

《アンノウン接近中!アンノウン接近中!スクランブル!》

 

オーブ近海の沖合に突如として戦艦クラスの船が浮上したのだ。それを合図にするように、オーブ軍基地から飛び立ったムラサメが、指定のコースを大きく外れ、オーブや内外の著名人が招かれている結婚式場へと向かっている。

 

《第二護衛艦軍、出港準備!》

 

まさにオーブ軍からしたら寝耳に水の事態だろう。誰もこの突如として起こった事態に対応できていなかった。ある一部の者たちを除いて。

 

《この婚儀を心より願い、また、永久の愛と忠誠を誓うのならば、ハウメアは其方達の願い、聞き届けるであろう。今、改めて問う。互いに誓いし心に偽りはないか?》

 

「はい…ほら、カガリも」

 

勿体ぶるような形で式を遅らせるカガリ。それに苛立たしさを隠して式を進めようとするユウナ。まるで絵に書いた政略結婚だ。ウナトが描いた道を、二人は面白いように歩いている。〝そう見せている〟にもかかわらず、面白いほどに誰も二人の様子に疑問をもたない。

 

カガリを抱きとめるように胸元へ彼女の頭を持っていくユウナ。その胸ポケットには、ハンズフリー状態にした通信端末が仕舞われている。

 

そのことを知るのは、ユウナと、カガリだけだ。

 

『駄目です!軍本部からの追撃、間に合いません!』

 

「ユウナ様!カガリ様!避難を!」

 

(来たな…!)

 

暴風を撒き散らして現れたのは、信じられないほど低空飛行で飛んできたムラサメだった。神父の衣装を吹き飛ばさん勢いで降りてきたムラサメは、ユウナと打ち合わせした通りに、祭壇となった場所へと容赦なく降り立つ。

 

「なんだ?どうした!?」

 

「早く!カガリ様を!迎撃!」

 

「キャー逃げろー!」

 

おかげで現場はパニック状態だ。警護しようと走ってくる警備員たち、SPたちも、クモの子を散らすように逃げる来賓者たちによって行手を阻まれてゆく。そんな中、アスランが操るムラサメは、カガリへと手を差し伸ばした。

 

「ユウナ!」

 

咄嗟にカガリがユウナを見るが、彼はカガリに目もくれずにムラサメの頭部カメラを見つめて、頷く。

 

(彼女を任せるぞ、気に入らない奴め)

 

その思いが伝わったのかは定かでは無いが、アスランの機体はカガリを優しく包み込むと、そのまま緩やかに機体を上昇させてゆく。

 

「ひ、ひぃぃぃうわあぁあぁ!な、何をしている!早く追うんだ!カガリ、カガリが…!!」

 

飛び立った風にわざと体を踊らせたユウナは、やってきた父のSPたちに縋り付いて喚く。情けなく、出来の悪いお坊ちゃんを演じて。

 

「しかし、下手に撃てばカガリ様に当たります」

 

そう言って拳銃を抜けないSPたちに苛立った様子を見せたユウナは、式場の横へ巨神のように配置された装飾品と化すムラサメを見つめる。

 

「式典用のムラサメだな!僕が乗って追いかける!ユキムラ空尉、サワダ一尉!僕についてこい!」

 

SPのほか、護衛についていたオーブ軍人。その二人をユウナはよく知っていた。なにせムウのしごきに共に耐えたムラサメのパイロットたちなのだから。

 

「ユウナ様!?」

 

「僕はパイロットだぞ?空に向かうんだ」

 

驚いた様子でいう昔から知る側近へ、ユウナは今まで見せたことがないような面持ちでそういうと、仲間から受け取ったヘルメットをかぶってムラサメへと走るのだった。

 

 

 

////

 

 

 

手先にカガリを乗せて飛ぶアスランは、式場から離れるとすぐにコクピットハッチを開いた。ユウナから伝えられていたのは、オーブ軍のパイロットとだけだったカガリは、ムラサメに乗るアスランの姿を見てギョッと目を剥いた。

 

「アスラン!お前!!」

 

「話はあとだ!しっかり掴まってろ!」

 

「うわぁ!」

 

半ば放り込まれる形でウェディングドレス姿のカガリはムラサメのコクピットへと押し込められると、アスランはすぐに戦闘機形態へと変形し、沖合にいるアークエンジェルへと合流するために進路を取った。

 

《こちらはオーブ軍本部だ。直ちに着陸せよ。パイロット不明のムラサメ、直ちに着陸せよ!》

 

追従してくる敵機を確認したアスランは、すぐにMSへと可変すると、素早くビームライフルを抜き、追ってきたムラサメの脚部や武装を破壊した。

 

「ええい!武器を向けてくるから!」

 

「うわぁぁああ!?」

 

シートベルトもろくにつけていない。しかもパイロットスーツも着てないカガリがコクピットでシェイクされる中、アスランはこちらを〝撃墜〟しようとしてくるムラサメを戦闘不能にしてゆく。

 

ユウナが言っていたことは正しかった。武器を向けない相手は味方。少しでも武器を抜いた相手は敵。オーブ軍も二分されている様子だった。

 

『4時の方向にモビルスーツ!これは!流星です!』

 

「アスラン!」

 

アスランのムラサメが海岸線へと到着したあたりで、アークエンジェルから発進したキラやシンたちのムラサメと合流する。

 

空軍基地から上がってくる氏族の息がかかったムラサメの四肢を撃ち抜いたキラたちの援護とあって、アスランとカガリを乗せた機体は無事に沖合へと離脱することに成功した。

 

 

 

////

 

 

 

《本部より入電。パイロット不明のムラサメが式場よりカガリ様を拉致、対応は慎重を要する!》

 

『カガリ様を?流星隊が?撃ち方待て!あれは…アークエンジェル!』

 

先に出発していた国境警備部隊は、海中から浮上したアークエンジェルを前にして艦隊を展開していた。だが、その誰もが砲を向けることなく、ムラサメが着艦しようとしているアークエンジェルを見つめていた。

 

『包囲して抑え込み、カガリ様の救出を第一に考えよ、とのことです』

 

伝令官が、艦長であるトダカ一佐に告げると、彼は「そうか」と静かに答える。その場にいる誰もが、アークエンジェルを攻撃しようとはしなかった。

 

「収容完了。カガリさんも無事です!」

 

「任務達成です。艦長!」

 

「ベント開け!アークエンジェル急速潜行!」

 

アスランやキラたちや機体を回収したアークエンジェルは再び着水すると、そのまま潜航してゆく。トダカの乗る船に、司令部から檄のような通信が入った。

 

《トダカ一佐!アークエンジェル、潜行します!これでは逃げられます!攻撃を!》

 

『対応は慎重を要するんだろ?』

 

トダカの抑揚のない言葉に、司令部の通信官も言葉が続かなかった。カガリがあの船にいる以上、自分たちは攻撃することはできない。命令には従い、同時に果たすべき役割を全うしたトダカたちは、沈んでゆくアークエンジェルへと敬礼を打った。

 

「なにぃ!?逃げられただと!?ええい!一体どいうことだ!護衛艦軍は何をしている!」

 

「上手いこと演技するよなぁ、ユウナ様も」

 

「無理やり先行して、追跡部隊の進路妨害…かっこいいですねぇ」

 

空中を非武装の式典機で旋回しながら、ユウナが怒声を上げて司令部へクレームを入れる様子を見ながら、二機の随伴機は悠々とユウナの後へ続く。

 

沖までついてこようとしたムラサメの部隊を、のらりくらりと足止めしたユウナたちのムラサメ。通信を切ったユウナは息をついて、ブリッジが沈んでゆくアークエンジェルへ、トダカたちと同じように敬礼を送る。

 

(頼むぞ、アークエンジェル。頼むぞ、流星。カガリと、この世界の末を)

 

 

 

////

 

 

 

二つ目のオーダーは、ドミニオンとアークエンジェルを使った救出任務だ。

 

先日、オーブの秘密通信に暗号化された電文が届いた。

 

片方は、君たちも知っているだろうが、ムルタ・アズラエル氏から。

 

もう片方は、宇宙。行方不明だったハルバートン閣下の乗る船からの信号だ。

 

この戦争を強引に推し進める大西洋と、なし崩し的にユーラシアが戦線に加わることは何としても阻止しなければならない。ブルーコスモスを抑えるにしても、ユーラシアを引っ張るにしても、両名を救出し、かつ表舞台へと出る護衛をしなければならない。

 

高い危険が伴う任務となるが、どうか君たちに成し遂げてほしい。

 

報酬は、できるかぎり用意した。物資面でもモルゲンレーテ各社が拠点ごとに準備してくれている。

 

僕らレジスタンスは、オーブに残り、今後の対策を練る。氏族の思惑や、大西洋と手を組んだ者たちの陰謀を探る必要もあるからね。

 

 

 

 

作戦内容は以上だ。

 

君たちにハウメアの加護があらんことを。

 

 

 

 

 

 



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第52話 逃避行のち大戦闘

 

 

 

 

「間もなくオーブ領海を抜けます」

 

オーブから脱したミネルバは、穏やかなオーブ沖合を進む。

 

新造艦であるこの船は、問題なく海上航行を進めており、周囲にはオーブの領海内を示すソナーの反応以外、なにも探知されることはなかった。

 

「降下作戦はどうなってるのかしらね。カーペンタリアとの連絡は?まだ取れない?」

 

「はい。呼び出しはずっと続けているんですが…」

 

オペレーターであるメイリンの回答に、タリアは「そう」と答えて息をつく。

 

情報によれば、すでに降下作戦は始まっているはずだが、宇宙方面やカーペンタリアの基地から一切の連絡がない。戦況がどうなっているか、ミネルバにとっては情報不足すぎる状況と言えた。

 

そんな中、レーダーをモニタリングしていた士官が驚愕の表情を浮かべた。

 

「なっ!?本艦前方20に多数の熱紋反応!これは…地球軍艦隊です。ステングラー級4、ダニロフ級8、他にも10隻ほどの中小艦艇を確認。本艦前方左右に展開しています!」

 

なんですって!?立ち上がったグラディスはオーブの領海外へと目を向けると、地平線の彼方からいくつもの影が近づいてきているのが見てた。空母4隻からなる、地球軍の艦隊。おそらく、こちらがオーブに匿われているということを知った上での作戦としか思えない。

 

「後方オーブ領海線にオーブ艦隊!展開中です!砲塔旋回!本艦に向けられています!」

 

「そんな!何故!?」

 

「領海内に戻ることは許さないと。つまりはそういうことよ。どうやら土産か何かにされたようね。やってくれるわね、オーブも」

 

「艦長ぉお!」

 

「ああ、もう!ああだこうだ言ってもしょうがない!コンディションレッド発令!ブリッジ遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意。大気圏内戦闘よアーサー。解ってるわね?」

 

「は、はい!」

 

副長であるアーサーの情けない声と、それを一喝するタリアの号令のもと、ミネルバは即座に臨戦態勢へと入ってゆく。

 

それでも、遅すぎる対応とも言えた。

 

目の前には攻撃の意思を見せる地球軍の艦隊が迫ってきているのだから。

 

《コンディションレッド発令。コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!》

 

ハンガーは一気に喧騒に包まれた。ヴィーノやヨウランたちも、懸命にザクやインパルスの発進準備を進めてゆく中、艦内にタリアの凛とした声が響く。

 

《艦長、タリア・グラディスよりミネルバ全クルーへ》

 

「最終チェック急げ!」

 

パイロットスーツに身を包んだハイネとレイがハンガーへと入ると、各々は準備された機体のコクピットへと滑り込む。

 

《現在本艦の前面には空母4隻を含む地球軍艦隊が、そして後方には自国の領海警護と思われるオーブ軍艦隊が展開中である》

 

空母4隻。その言葉を聞いただけで誰もが目眩を起こしそうになった。簡単に言えば、戦力比率はこちらの4倍。敵にも大気圏内用のMSもいるだろう。こちらが出せる機体は二機だ。

 

状況を見るに、絶望的と言えるものだった。

 

《またオーブは後方のドアを閉めている。我々には前方の地球軍艦隊突破の他に活路はない》

 

そこでタリアは息をつく。これから開始される戦闘は、未だかつてないほどに厳しいものになる。だが、それでも——。

 

《本艦は、なんとしてもこれを突破しなければならない。このミネルバクルーとしての誇りを持ち、最後まで諦めない各員の奮闘を期待する》

 

「ランチャー2、ランチャー7、全門パルジファル装填。CIWS、トリスタン、イゾルデ起動!」

 

格納されていたミネルバの武装が展開されてゆく。幸運だったのは、このミネルバが大気圏内を想定した武装を積んでいたことだった。宙域から地球へと降りてきた故、弾薬は心許ないが、抵抗できないよりは遥かにマシと言える。

 

「レイには発進後あまり艦から離れるなと言って。ハイネ機は甲板から上空のモビルスーツを狙撃を。イゾルデとトリスタンは左舷の巡洋艦に火力を集中。左を突破する!」

 

《カタパルト推力正常。針路クリアー。コアスプレンダー発進どうぞ!》

 

「結局はこうなるか。レイ・ザ・バレル、コアスプレンダー、発進する!」

 

武装展開したミネルバの専用ハンガーから、レイが駆るインパルスのコアスプレンダーが飛び立った。続くように左舷のMSようハッチが開くと、オレンジ色のザクが発進デッキへと搬入された。

 

《ハイネ機、発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。発進スタンバイ。ウィザードはガナーを装備します》

 

「平和の国から出て、すぐに戦闘かよ!ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、出るぞ!」

 

「イゾルデ、ランチャーワン、1番から4番、パルジファル、てぇ!!」

 

ハンガーから出たハイネのザク。それに合わせるように、ミネルバは射程距離へと入った敵艦へ攻撃を開始した。相手もすでにMSと戦闘機を発進させている。

 

ここからが激戦区だ。

 

後方にいるオーブ艦隊を一瞥してから、タリアは前を向いて戦いに挑んでゆくのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

「で、どうする?ラミアス艦長」

 

海底に息を潜めるアークエンジェルの中。ブリッジへと召集されたラリーは、映し出されたモニターを見つめながらマリューに問いかけた。

 

「まさか、出た先でミネルバと出会すことになるとはね。彼らは地球軍とオーブ軍に挟まれる形になっているわ」

 

映し出されているレーダー上では、見事に地球軍とオーブの艦隊にサンドイッチされているミネルバの図が浮き上がっていた。アスランに付き添われながらブリッジに来たカガリも、その映像を見て顔を硬らせた。

 

おそらく、出航したミネルバは大西洋連邦への供物とされたのだろう。オーブが地球側と同盟を結んだという確固たる決意と証明のために。

 

「アークエンジェルとドミニオンは、海底航行可能です。迂回し、地球軍との戦闘を避けて太平洋側へと出ることは可能ですが」

 

「彼らを見捨てるのですか?戦力差では、彼らに勝ち目はないぞ?」

 

「かと言って、彼らに加勢する理由がありません。加勢したとて、ミネルバも手を返して礼を言ってくれるとは思えません」

 

ナタルの具申に、ムウは当然だなと腕を組む。こちらはユウナや協力してくれたオーブ軍、氏族の娘や息子たちの情報があったからこそ、無血でオーブ沖を離脱できるチケットを持っている。

 

そのチケットを破り捨ててまでミネルバを救う理由もメリットもない以上、自分たちが取れる道は「見て見ぬふりをして去る」という道となる。

 

「だよなぁ…どうする?ラリー」

 

そんな目覚めの悪い選択肢にムウは頭をかいて、隣でレーダーを見つめる戦友へと問いかけた。こういったときのラリーの頭のキレの良さを、ムウはよく知っていたからだ。

 

「バーフォード艦長、デュランダル議長から契約終了の連絡は?」

 

《プラントからの通信は、地球降下作戦の一切を持って遮断されている。リークやトールが戻ってからの事後報告となるが、二人やヒメラギの帰還連絡もない》

 

ギルバート・デュランダルの護衛。リークとトールがプラントへと向かった任務は、未だに完了報告もない。それに、ユニウスセブンの件の報酬も、まだプラントからは支払われていない。

 

多少の納期遅延なら寛容なバーフォードが、少し延滞料を上乗せするくらいで済むが、今回はそれを有効に利用させてもらうとしよう。

 

「なら、議長からのオーダーは継続中ということでよろしいですね?」

 

「どういうこと?」

 

「どちらにしろ、アークエンジェルかドミニオンのどちらかはハルバートン閣下救出のために宇宙に上がらなければならない。宇宙に上がるにはマスドライバーが必要になる訳だが、オーブに戻ってカグヤから出るわけにもいかんでしょう?リークたちのヒメラギの帰還場所も確保しなければならない。となれば」

 

「ザフトと契約を結んで、オフィシャルにマスドライバーの基地がある施設を利用する、と?」

 

そのナタルの問いにラリーが頷くと、マリューとナタルは互いに顔を見合わせる。

 

「荒唐無稽な話だな」

 

「ああ、だが、いつも通りのやり方さ」

 

ニヤリと笑みを浮かべて答えたラリーに、ナタルは呆れたような息をついてから再びマリューへと視線を送る。どうやら選択肢は決まったようだ。マリューのアイコンタクトを受け取ると、彼女はすぐに副艦長席へと降りていった。

 

「わかりました。作戦はアークエンジェルで行う!総員第一戦闘配備!アークエンジェルならびにドミニオンは、ザフト軍所属、ミネルバの援護に向かいます!」

 

《総員、第一戦闘配備!繰り返す!総員、第一戦闘配備!》

 

まずは先行してアークエンジェルが浮上。ドミニオンは海底へ待機することになる。マリューの指示のもと、操舵手であるノイマンの手で、停止していたアークエンジェルの船体は緩やかに海底から離れてゆく。

 

「仰角20、アークエンジェル浮上!地球軍の左翼側へ出ます!浮上後、直ちに離水!バリアント、イーゲルシュテルン起動!排水後に各部ミサイル装填!」

 

「通信回線を開け!パイロットは各機体で待機だ!」

 

上へ上へと上がってゆくアークエンジェル。ラリーたちはブリッジから出ると、キラやムウと共にハンガーへと向かうのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「4時の方向よりミサイル接近!多数!」

 

「回避!面舵20、迎撃!」

 

「3時方向よりモビルスーツ接近。数3!」

 

激戦。轟音。衝撃。

 

地球軍との本格的な戦闘が始まったミネルバの中は、まさに暴風だった。ミサイル艦から放たれた巡航ミサイルが、ミネルバのすぐそばで爆発する。

 

「うわぁああ!!」

 

「あの数…冗談じゃないぞ!?」

 

「余計な口きいてる暇はないわ!!迎撃!弾幕薄いわよ!モビルスーツはハイネ機に任せる!」

 

ミサイルを抱えた地球軍のMS、ウィンダムが近づく先、ミネルバの上を飛んで位置を変えたハイネのガナーザクウォーリアが赤と白の閃光を放って、先頭の一機から順に叩き落としてゆく。

 

『なるほど。確かになかなかやる艦だな。ザムザザーはどうした。あまりに獲物が弱ってからでは効果的なデモは取れんぞ』

 

『はっ。準備でき次第発進させます』

 

その様子を見ていた艦隊司令官は、そう問いかけると隣にいる側近が淡々と答える。あの最新鋭のザフト艦。オーブからの報告は嘘ではなかったが、予想以上のポテンシャルを秘めていると思われる。護衛に着く二機のMSも優秀だ。

 

艦砲やミサイルを放っても、決定的な致命打を与えるにはまだまだ時間がかかりそうだ。まぁ、それはあくまで〝艦艇〟と〝MS〟のみの戦いであればだが。

 

『身贔屓かもしれんがね、私はこれからの主力は新型のモビルアーマーだと思っている。かの悪名高き流星たちのように。ザフトの真似をして作った蚊トンボのようなモビルスーツよりもな』

 

地球軍でありながら、地球軍にもザフト軍にも牙を向いた流星部隊。素性はどうであれ、艦隊司令官も、その彼の背後にいる組織のトップも、流星の戦い方や、MAの本質的能力を高く評価している。MSという汎用機の延長線上にある兵器よりも、より専用性に特化したMAこそが、戦況を一変させる力を秘めているのだ。

 

《リフトアップ。B80要員は誘導確認後バンカーに退避。針路クリアー。ザムザザー、発進よろし》

 

その艦長の横。空母の特殊ハッチから白煙とスラスターを吹かして飛び立つ、巨大な影は艦艇の合間を縫いながらミネルバへと進路を向けた。

 

「アンノウン接近。これは…光学映像出ます!」

 

それを探知したミネルバ。オペレーターが表示した映像を見て、副長であるアーサーは驚愕した顔つきを浮かべる。

 

「なんだあれは!?」

 

「モビルアーマー…それもあんなにデカい…!」

 

MSとは比較にならないほどの大きさだ。近くにある護衛艦や、ミサイル艦といい勝負ができるほどの巨体が、海面の上を飛びながらこちらに向かってきているのだ。

 

「あんなのに取り付かれたら終わりだわ。アーサー、タンホイザー起動。あれと共に左前方の艦隊を薙ぎ払う!」

 

「ええー!?」

 

「沈みたいの!?」

 

「ぃ、いえッ!タンホイザー起動!射線軸コントロール移行!照準、敵モビルアーマー!」

 

ミネルバ艦首中央に格納される陽電子砲「タンホイザー」。その最強の武装で、突破口を開こうとしたタリアの指揮のもと、発砲時はハッチが開いて砲身が前方にせり出した。

 

『敵艦、陽電子砲発射態勢確認!』

 

『よぉし、陽電子リフレクター展開準備。敵艦に向けリフレクション姿勢」』

 

そのミネルバの動きをとらえた敵MAは、その亀のような機体を起こして、機体各所に設けられたリフレクター機器を作動させる。

 

「タンホイザー、てぇ!」

 

凄まじい閃光がミネルバの先端部から発せられたと同時、ザムザザーのリフレクター機能が臨界値を迎えて迎え撃つ。

 

同時に、爆音、衝撃。

 

凄まじい熱量が受け止めるザムザザーへと襲い掛かったが、そのエネルギーを前にしてもびくともせずに、ザムザザーは姿勢を維持した。

 

そして、タンホイザーの閃光が消え去った中で、そのMAは無傷で存在していた。

 

「なぁ…っ!?タンホイザーを…そんな…跳ね返した?」

 

「くっ!取り舵20、機関最大、トリスタン照準、左舷敵戦艦!」

 

即座に相手の驚異的な性能を目にした動揺から意識を切り替えたタリアが指揮を取る。正面にあれがいる以上、ミサイル艦という1番手薄な方向へと舵を切って離脱するしかない。

 

「でも艦長!どうするんです?!あれ!!」

 

アーサーの悲鳴のような声に、タリアは顔をしかめる。たしかに、あの正体不明なMAの対応を決めなければ、この苦しい戦局を打破することは難しいだろう。しかし、タンホイザーすら跳ね返す性能を持つ機体だ。

 

敵のMSの迎撃に手を取られるレイやハイネだけで対応するのは…!!

 

《では、我々に任せてもらおうか》

 

その時、オペレーターが操る回線からそんな声が聞こえた。この音声…どこかで。タリアがそれを思い出そうと思考を巡らせる間もなく、相手は動き始めていた。

 

「ミネルバへのレーザー通信です!これは…!海底より高熱源体、浮上してきます!」

 

その瞬間、ミネルバと地球軍の艦隊の前に白波を上げて浮かび上がったのは、ミネルバと同じほどの大きさを誇る戦艦だった。

 

「浮上完了、直ちに離水!ナタル!」

 

「排水開始と同時にイーゲルシュテルン、バリアント起動!ゴットフリート、1番2番、目標、右舷敵戦艦!後部ミサイル発射管、ヘルダート装填!1番から5番、コリントス装填!他はウォンバット装填!アンチビーム爆雷展開!」

 

浮上したと同時に指揮をとるマリューと、それに阿吽の呼吸で合わせるようにナタルが火器武装類への展開指示を矢継ぎ早に放った。

 

「あの戦艦は…」

 

《こちら民間軍事企業トランスヴォランサーズ所属のアークエンジェルです。グラディス艦長、苦戦しているようですね?活きの良い戦力は揃っていますよ》

 

さきほどと同じくレーザー通信で発せられる音声は、やわらかな女性の声でありながら、どこか芯の通った印象をタリアへ与える。タリアは、こちらからの通信回線をとオペレーターに伝えて、映像通信へと切り替えると艦長席に備わる端末を持ち上げて応答した。

 

「当方はザフト軍所属のミネルバである。そちらはなぜ加勢するのか、真意を聞きたい」

 

《艦長のマリュー・ラミアスです。こちらは、デュランダル議長との護衛任務の契約はまだ満了しておりません。それに、こっちにも色々と訳ありでしてね。詳しいことは、ここを切り抜けてからって事で、どうでしょうか?》

 

淡々と答えるのは、タリアと同じ歳ほどの女性艦長だった。穏やかそうな顔つきをしているくせに、その瞳からは測りきれない何かを感じる。

 

それに、彼女がいう通り、トランスヴォランサーズには議長ならびにミネルバに乗艦していたVIPたちの護衛を依頼しているのはタリアも存じていた。何せ、議長が自分たちを同席させた上で契約書にサインをしたのだから。

 

そしてこちらもカーペンタリアへの通信が繋がらない以上、彼らに対して支払われるべき報酬も滞っているに違いない。

 

「艦長…!」

 

アーサーは怪訝な顔をしてモニターを見つめ、タリアの決断を待っていた。

 

たしかに流星は、ザフトにとっては忘れがたい悪夢をもたらした兵士たちだ。

 

だが、逆に言えば味方に引き入れてしまえば戦局を覆すほどのパワーバランスを引き寄せることも可能ということになる。

 

「今は、少しでも戦力が欲しいわ。選択肢はない。我々は貴方たちの援護を感謝します」

 

彼女は決断した。背に腹は変えられない。最悪の場合、ここを切り抜けた後にカーペンタリアからデュランダルへ直接話をもってゆけば、彼もまた契約条件の変更ということで追加報酬を認めてくれるはず…。

 

それに、ザフトの新鋭艦であるこのミネルバや、レイの駆るインパルスなどを失うわけにもいかなかった。

 

《ありがとう。グラディス艦長》

 

タリアの決断に感謝を述べたマリューは、通信を切ってからすぐに指示を出した。

 

「ハッチ開放、各機発進体制へ移行!メビウスライダー隊は敵戦力を排除せよ!」

 

すでにハリーやフレイたちの準備もあって、ラリーたちが乗る機体の発進準備は整っている。先に発艦ベイへと運び込まれてきたのは、シンとキラの機体だった。

 

《エクスカリバー、発艦準備!作業員は退避してください。進路クリアー、エクスカリバー、発進どうぞ!》

 

「シン・アスカ、エクスカリバー、行きます!」

 

「キラ・ヤマト、エクスカリバー、行きます!」

 

ミリアリアの声に従って、シンとキラはヘルメットのバイザーを下げてから操縦桿を引き絞った。電磁レールによって射出されるエクスカリバーは、その機体を滑空させてから翼を広げ、大空へと舞ってゆく。

 

《フラガ機、発進どうぞ!》

 

「やれやれ、すぐに出撃することになるとはねぇ!ムウ・ラ・フラガ、エイドストライク、発進するぞ!」

 

キラに続いて出たのはムウだ。彼が乗り込む機体もオーブから持ってきたものであり、アークエンジェルやドミニオンと同じく、前大戦時から修理されたMS、「ストライク」だ。

 

と言っても、核の炎に焼かれたストライクを完全に修復することは叶わず、生き残ったコア部分を基にアストレイや他の余剰パーツを使って〝現地改修〟されたといっても差し支えのない機体と言える。

 

頭部と四肢はM1アストレイ、背部には前大戦で破損し、部品として保管されていたイージスの動力部をそっくり付けたものとなっている。

 

エンジンやスラスター、駆動系統、機体の出力を補うバッテリー系も最新フォーマットとして更新されているため、能力的には現行のMSと差はほとんどない。

 

ストライカーパック機構がコスト面で廃止されたゆえ、脚部にハードポイントが備わっており、今は空戦用の「ウイングパック」が備わっている。

 

とはいえ、フリーダムなどのように長時間の空中機動ができないため、ムウは発艦したあと、待機していたキラのエクスカリバーの上へと降り立った。

 

「すまねぇな、キラ」

 

「大丈夫ですよ、ムウさん。行きます!」

 

可変機構が複雑だった従来のムラサメよりも機構が簡素化されたエクスカリバー。

 

ハリーが「MSを乗せて運用する」ということを前提として開発されたものでもあり、エクスカリバーは単独での戦闘能力と、高い空戦能力と同時に、飛行能力を持たない機体の〝ドダイ〟としても運用することが可能となっているのだ。

 

《レイレナード機、発進どうぞ!》

 

「ラリー・レイレナード、スピアヘッド、出るぞ!」

 

最後に飛び立ったラリーのスピアヘッドMarkII。

 

対艦船との戦闘に備えたファストパックへと換装したスピアヘッドを駆って、ラリーは先行するキラたちと合流して苦戦を強いられるミネルバへと急行するのだった。

 

 

 

 

 

 



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機体解説 2

MVF-X02 ムラサメTYPE-R

ストライクワイバーン

 

実験試作機として開発されたムラサメTYPE-R型のひとつ。ムラサメの可変機構をオミットした機体であり、機体性能は複雑な変形機構を排除したことによって、戦闘機ならではの高い航空戦闘能力を獲得してる。

 

MSの要素を排除したことによって取り付けられた大型カナード。前進翼形態と後退翼形態をとる可変翼。水平尾翼形態と角度のついた垂直尾翼となる形態をとる全遊動式尾翼。徹底的に削り込まれた機体を構成するのは、スリーサーフェイ構造。

 

後退翼と水平尾翼で構成され高いスーパークルーズ能力を発揮する高速飛行形態。

 

前進翼と外半角のついた垂直尾翼で構成され高い格闘戦能力を得ることができる高機動形態。

 

主翼は後退角を持つ内翼と、前進角を持つ外翼で構成されている。

 

スーパークルーズ能力を発揮する際は、外翼を収納する際に開閉する機構になっている。

 

可変MSというコンセプトを捨て、いち戦闘機としての技術を惜しげもなく導入されたワイバーンは、かつてないほどの戦闘機としての完成度を誇っている。

 

ウエポンベイも申し分なく、大型兵装の複数搭載可能な兵装庫を中央部の左右エンジン間に1庫、短距離AAM用の小型兵装庫を中間下部に左右それぞれ1庫ずつ備える。

 

対空兵装はイーゲルシュテルン対空砲と、オーブ軍と地球軍、どちらの武装も装備が可能。さらにHEIAP弾などの特殊弾頭を射出できる長距離無反動砲が用意されている。

 

エンジンは高い排効率を追求したムラサメのエンジンと同規格のモノが2基搭載されている。まさにオーブの最新技術の粋を集めた戦闘機と言えた。

 

オーブが産んだ空の怪物として、〝ストライクワイバーン〟という異名が与えられている。ロールアウトした三機の内、一機は技術試験機としてモルゲンレーテ預かりとなり、二機はトランスヴォランサーズへ売却された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MVF-X01F ムラサメTYPE-R

エクスカリバー

 

ムラサメTYPE-Rの実験機のひとつ。戦闘機としてのポテンシャルを求めたストライクワイバーンとは異なり、可変式MSの利点を最大限に活かした機体となっている。

 

「ヒットアンドアウェイ」を主眼に開発された機体であり、対MSとの戦闘を前提として考案された本機は、コクピットモジュールからの見直しが行われた。

 

パイロットから多くの意見を取り、戦闘時に必要なアプリケーションだけ抽出を行った結果、戦闘時に不要なモジュールを排除したMS史上類を見ない視認性を獲得した半天周囲型モニターが開発された。

 

戦闘機のバブルキャノピーに似たモニターをはじめ、ムラサメベースの2次元推力変更ノズル、ボディ下側に備え付けられた垂直カナードなど、格闘戦時のパフォーマンスを高めるであろう要素がふんだんに盛り込まれている。

 

エンジンもムラサメ専用のものをベースに、技術局とモルゲンレーテ社が共同開発した「フォルゴーレ」と呼ばれる強力な2基が取り付けられている。

 

出力は高いが前進翼や機首に大きく開けられた大型インテークによる空力特性のため最高速度は伸びず、一般機であるムラサメと比較して少し低いところに留まってしまっている。

 

だが、その分の空戦格闘能力は獲得しており、MS変形可能速度も大幅に伸びているため、高高度戦闘時もスムーズにMS形態へと変形が可能となっている。

 

高高度戦闘能力などは非常に高く、総合的に見ても母艦から出撃する迎撃機としての特徴が色濃い。

 

操作性にシビアな部分はあるものの、 乗りこなす事ができれば粘り強い機動性を発揮し、ドッグファイトにおいて無類の戦闘能力を発揮することができる機体だ。

 

また可変機構が複雑だった従来のムラサメよりも機構が簡素化されている。

 

これは「MSを乗せて運用する」ことを前提として再設計されており、エクスカリバーは単独での戦闘能力と、高い空戦能力と同時に、飛行能力を持たない機体の〝ドダイ〟としても運用することが可能となっている。

 

機体名の由来は旧ヨーロッパに伝わる物語で王が持つと言われる聖剣がモデルとなっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GAT-X105E エイドストライク

 

エイドストライクは前大戦時にキラ・ヤマトやムウ・ラ・フラガが搭乗していた機体を修繕した機体である。

 

ヤキンでの戦いで、地球軍の核に焼かれたストライクは、セーフティシャッターで守られたコクピットモジュール以外のほとんどが破損している状態であったため完全に修復することは叶わなかった。

 

よって、モルゲンレーテによって生き残ったコア部分を基にアストレイや他の余剰パーツを使って〝現地改修〟されたといっても差し支えのない機体と言える。

 

頭部と四肢はM1アストレイ、背部に備わっていたストライカーユニットが前大戦で破損したため、部品として保管されていたイージスの動力部をそっくり付けたものとなっている。

 

エンジンやスラスター、駆動系統、機体の出力を補うバッテリー系もパワーエクステンダーへも載せ替えられ、機体の制御系統も最新フォーマットとして更新されている。

 

脚部にハードポイントが備わっており、宙域用ユニットの「スペースパック」、空戦用ユニットの「ウイングパック」、地上戦闘用ユニットの「ランドユニット」の三種からの対応性を持った外装ユニットを装着することができる。

 

アズラエル財団にて再建造されたストライクEは、蓄積された実働データを基に、ストライクを強化発展した機体であり、ブラックスワン隊にて高い能力を発揮したスウェン用のカスタマイズ案を元に各所に強化改修が行われている。

 

頭部冷却システムの配置見直しや、肩部にはサブスラスターが増設、パワーエクステンダーを搭載。

 

同時に装甲もエイドストライクと同じくヴァリアブルフェイズシフト装甲へと換装されており、省エネルギー化措置も施され、稼働時間が図られている。

 

原型機で高められた四肢の分散処理システムも、エイドストライクの稼働データと、大戦によるデータがフィードバックされより洗練された。制御系にはAIを導入するとともにOS・インターフェイスシステムなども改良が施されている。

 

 

 

 

 

 

 

F-X02V スピアヘッドmarkⅡ

 

変態戦闘機。通称、ラリー・スペシャル。

 

テストパイロットが仕様を見た瞬間に辞退したキチガイ機能を有しており、従来のファストパックはもちろん装備可能であり、〝常人が乗ることを想定していない〟出力を叩き出すモンスターマシーンである。

 

ゼロスタートから10秒ほどで音速の壁を打ち抜くことが可能であり、攻撃戦闘機としてのポテンシャルを遺憾なく発揮する。

 

そして、バック飛行ができる(大真面目)。

 

ラリーいわく、「他に乗れる奴が出てきたら俺は現役を引退する」と言わしめるほどの機体である。クルーゼがテスト時に乗り込む事もあったが、マッスルスーツが異常数値を出した挙句、クルーゼは丸一日寝込むことになった。

 

 

 

 

 

 

 



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第53話 ベーリング海の一攫千金 1


蟹漁の時間だ(真顔)


 

 

「ミネルバが、戦っているのか?地球軍と…」

 

ユウナ・ロマ・セイランが行政府に辿り着いた頃には、すでに領海線ギリギリでのミネルバと地球軍との戦端は開かれていた。

 

レジスタンスとしての活動内容としては、ユウナや各氏族の子息たちが主な原動力となる。彼らは何食わぬ顔で行政府に出入りする事もできる上に、まだ父や氏族たちはウズミを亡きものにしたことと、大西洋連邦との交渉でこちらが反旗の時を待っているなど思ってもいないはずだ。

 

ユウナたちが持ち帰る情報を得て、レジスタンスは協力する反大西洋勢力と情報を交換し、実権を掌握した氏族たちを引き摺り下ろす手を模索しているところだ。

 

しかし、ユウナたちにとってもオーブは故郷。主流氏族とレジスタンスによる内戦勃発はなんとしても避けなければならない。まずは大西洋と手を切らせるところが第一ステップとなるだろうが…。

 

「そうだ。オーブの領海の外でな。なに、心配は無用だ。既に領海線に護衛艦は出してある。領海の外と言ってもだいぶ近い。困ったものだ」

 

そういう父、ウナトの言葉を聞きながらユウナは劣勢に立たされるザフトの新型艦を見つめた。明らかにオーブから出た瞬間に奇襲を受けたような構図だった。目の前にいる父は、笑顔で迎えた同盟国の船を供物として、新たに同盟を結ぼうとする大西洋へと捧げたのだ。

 

泥沼と化した前大戦を父は覚えていないのだろうか。こんな真似をすれば、今度はザフトがオーブに攻め入ってくるというのに。

 

「領海に入れさせない気ですか?父上」

 

唾棄すべき父へ、暗い感情を巧みに隠しながらユウナは文官らしく父へと問いかける。戦場や不測の事態にはまだ後手に回りやすい息子の人格を〝信じ込んでいる〟ウナトは、問いかけたユウナの言葉に答えた。

 

「我々は、既に大西洋連邦との同盟条約を結んでいる。なら、今ここで我々がどんな姿勢を取るべきか。ユウナ、お前には判るはずだ。それに、あれはザフトの艦」

 

そして我々から大西洋連邦へ覚悟を示す供物なのだ。父は臆面もなく、そう言い切る。ユウナは父や他の者たちに悟られぬよう、張り付いた〝息子〟の顔を演じながら、心の中に名状しがたい感情を渦巻かせる。

 

父の言った言葉の意味が何を示すか。

 

〝本当の意味で、今のオーブは死んでいるのだな〟

 

その先の未来を想像するユウナの心に思い影がのし掛かる。ことの重大さをこの場にいる誰もが理解していない。大西洋連邦の軍事力は確かに無視することはできないだろうが、相手はすでに〝こちらの土俵〟へ降りて、戦おうとしている相手なのだ。

 

「盟友である大西洋連邦が敵対している勢力の最新鋭艦だ。そういったことを、お前は理解してゆくのだ、ユウナ」

 

子供に言い聞かせるように言う父の言葉を、全く感情のこもっていない声で返事をして、ユウナはモニターへと目をやる。

 

彼らに刃を向けた以上、状況が好転するわけではないが、せめてこの危機的状況を脱し、ザフト勢力圏へと逃げおおせてくれることを願うばかりだ。

 

そう思った矢先、ユウナは目を見開く。

 

大西洋の地球軍にいいように襲われるミネルバの背後に、白波が立ち上がる。

 

海を押し上げて浮上したのは、彼らが逃したアークエンジェルの姿だった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

『不明艦照合!あれはアークエンジェルです!』

 

『そんなもの、見ればわかっている!各員、うろたえるな!所詮は旧型の艦船だ!こちらの敵ではない!!』

 

突如として現れた船。艦隊の指揮官を務める軍人には、その船の正体を一目見ただけでわかってしまった。あの船は、前大戦での分岐点そのものと言える。

 

あの船が戦線に投入されてから、戦争の動きは活発化し、宇宙、地上、そしてオーブとプラントの勇士艦隊を引き連れた「三隻同盟」なるものを結成し、終戦へと導いた〝天使〟の船だ。

 

『まさか、流星とアークエンジェルが出てくるとはな』

 

ジブリール卿が示唆していた通りに事は動きそうだと、指揮官は目の前へと迫る流星の猛威を前に目を細める。すでに帰投の路へと付いてるネオ・ロアノークなるものが準備をしておくほうがいいと言っていたことも、あながち間違っているものでもないらしい。

 

《司令官、流星が出てきた以上、我々も》

 

艦隊指揮官への直通ラインで挙げられてきた通信を聞いた指揮官は、少しばかり顔をしかめてから〝出撃要請〟を寄越した彼女へと言葉を紡ぐ。

 

『その機体で戦えるのかね?』

 

《武装換装は終えています》

 

『ならば、やってみたまえ』

 

そこからは早かった。すでにコクピットに座り待機していた彼女は、素早く電源を起動しコクピットへと灯りを灯してゆく。ヘルメットを被り、後頭部に備わるソケットへ座席に備わるコードを接続する。

 

視界がクリアになり、嘔吐感と共に機体が〝体〟に馴染んでゆく感覚を味わった彼女は、愛機であるレイテルパラッシュを呼び起こす。

 

《GSV-Z9、レイテルパラッシュ、発進シークエンスへ》

 

『流星、先日の借りはここで返させてもらう。レイテルパラッシュ、ウィン・D・ファンション、発進する!』

 

横から開いた発艦ベイから出撃するウィン・D・ファンションのレイテルパラッシュ。その反対側にはロイ・ザーランドではない機体が出撃準備を整えていた。

 

《続いて、GSV-X22、サベージビースト、発進シークエンスへ》

 

『姉御ぉ、出撃ってまじっすかぁ…まぁ、いいけどさ!サベージビースト、行くゼェ!流星なんて、マッハで蜂の巣にしてやんよぉ!!』

 

ロイのマイブリスは片腕を失った上に至近距離のミサイル誘爆が相当効いている状態で、即時に撤退と相成った。その代わりに用意されたのが、サベージビーストだ。

 

陽気な声を上げながら、パイロットであるカニスは先行するウィン・Dに合わせるように大きな呼吸音を響かせてブースターに火を灯すのだった。

 

 

 

////

 

 

 

「ラリーさん!艦隊から妙な機体が!」

 

指揮を有する母艦から飛び出た2つの影をキラはすぐに見つけた。洋上を滑るように飛んでくる二つは、他の機体やミネルバに目もくれず、まっすぐとラリーやキラの方へと向かってくる。

 

「あの機体は…ちぃ!オーブで襲ってきた奴らか!!」

 

「新たな敵反応!照合…ありません!」

 

ミネルバでもレイテルパラッシュとサベージビーストをキャッチしていたが、カテゴリーに存在しない機体だ。それも地上だと言うのに二機は亜音速で海面を滑り、馬鹿みたいな速さで近づいてくる。

 

「次から次へと、あの機体はなんなんですか!?」

 

《グラディス艦長!あの機体は我々が受け持ちます!そちらは艦隊の突破とMAの対応を優先してください!》

 

「頼みます!機関最大!敵左舷を切り崩す!」

 

「ランチャーワン、パルシファル、てぇ!!」

 

「ウォンバット、斉射!バリアント、てぇ!!」

 

ひとまず、こちらにできることは敵戦力を多く船から引き剥がし、離脱する道を作ることだ。ミネルバとアークエンジェルは二つの火力を奮い、目の前へ立ち塞がる地球軍の護衛艦を引き剥がしてゆく。

 

『流星!今日は逃さないぞ…!!』

 

「レイテルパラッシュか!ええい!しつこい!だが、あの機体はいないようだな!」

 

相当クルーゼに打ちのめされたからなぁ!!機体を鋭く旋回させるラリーのすぐ脇を、レイテルパラッシュのビームランチャーが通り過ぎた。武装を破壊しても、また別のものへと換装して早々に戦場へと戻ってくる。

 

まったく、嫌らしいところまで自分の知る〝アーマードコア〟とそっくりだ!!

 

打ち上げられた小型ミサイルをチャフ・フレアで掻い潜るラリーは、眼前にいるレイテルパラッシュへビーム砲を放つ。躱した先に白波の柱が打ち上がると、お返しと言わんばかりにレイテルパラッシュが雨霰とビームを打ち込む。

 

吹き上がった水柱は強烈な圧力で押し上げられたものだ。いくら水とは言え、こちらの速度のまま柱へ突っ込めば、その衝撃はコンクリートに突撃したときのものと同意だ。

 

乱立してゆく水柱をスラロームで躱すラリーは、歯を食いしばりながらフラップを全開に起こし、急減速。

 

ウィン・Dには、それがまるで空中で停止しているように見えた。

 

〝捉えた…!!〟

 

思考とラグなく動く指先が、レイテルパラッシュが握るビームランチャーの引き金を引かせる。飛び上がった閃光が空中で静止しているラリーのスピアヘッドを捉えようとした瞬間。

 

止まっていたはずの機体は……なんと、バックしたのだ。

 

『は…?』

 

思わず間の抜けた声がウィン・Dから発せられる。ラリーは背後から押しつけるように流れてくるGを堪えながら、機体を木葉のように翻すと、後方へと機首を反転させる。

 

(歪な音が機体から響くが、これを想定して作ってるんだろ!?)

 

ラリーはこのキチガイじみた機能を追加したハリーの顔を思い出す。説明を聞くのと、実際にやってみるとでは話が違うとはまさにこれだ。トップスピードからの急減速、そしてゼロからマイナスへと体を振られる感覚は、文字通り内臓が飛び出す勢いの負荷をパイロットに与えた。

 

迫り上がってきそうな嫌な苦味を噛み殺して、ラリーは操縦桿を握りしめる。もはやマニューバーとは言えない動きをしたスピアヘッドは、バック飛行しながら反転。

 

機首をレイテルパラッシュへ向けると、バルカン砲とビームでレイテルパラッシュを牽制し、海面すれすれと降りてから大空へと飛び立った。

 

『あんな動きが…戦闘機にできるのか…!?面白い!!』

 

防護用のシールドでバルカンを受けたレイテルパラッシュの中、ウィン・Dは予測できない動きをしたラリーに、素直に称賛の言葉を送る。ただの戦闘機、時代遅れの流星と侮ったわけではない。だが、これまでの認識はすでに過去の遺物と成り果てた。

 

操縦桿を握りしめ、ウィン・Dは舌舐めずりをして目の前で翼を翻すスピアヘッドを見つめる。

 

ならば、こちらも全力で狩らせてもらうぞ!!

 

ドヒャア、とたっぷりと空気を吸い込んだエンジンとスラスターを吹かしてラリーへと距離を詰めるレイテルパラッシュ。

 

「ラリーさん!くぅ!!」

 

それを阻止しようと試みたキラのエクスカリバーも、もう一機のMSへ足を取られていた。

 

『敵MSを確認っと!姉御!こっちは任せとけって!!』

 

この世界には存在しないが、形からして〝ランセル〟をベースにしたシルエットには、ライフル、レーザーライフル、二種ミサイルを装備しており、上述した通り攻撃力の高い機体と仕上がっているサベージビースト。

 

可変機特有の装甲の薄さを持つエクスカリバーにとって、サベージビーストの攻撃のほとんどは致命的なまでに威力が高い。

 

「ちぃ!!やっぱりこの機体は…早い!」

 

操縦桿を引き絞るキラは、迫りくる敵を見つめながら汗を流した。ウィンダムや、オーブのムラサメ、ザフトの機体とは比べ物にならないほど機動力を誇る敵機に、キラは付いていけない感覚を錯覚した。

 

〝前の大戦の節約術が、キラの操縦技術の基礎になってるのよ。それも無意識の内に〟

 

ふと、キラの脳裏にフレイの言葉が蘇った。サベージビーストから放たれたレーザーライフルの一閃を、駆動系に負担をかけない最低限の動きでパスする。だが、そこから攻めるには一歩が足りない。

 

その一歩を、キラはいつも意識して断ち切っていた。それが何を意味するか知っているから。

 

『〝ノーマル〟程度で、俺のサベージビーストに勝てると思うなよぉ!!』

 

調子を上げてゆく敵のMS。動きは速い。だが、機動の軌跡は単純なリズムで構成されている。ラリーやクルーゼのように目で追えないようなものではない。

 

手は動く。足も、思考も。

 

「無理を通せば道理が引っ込む。だから「模範的な行動をしてないで殻をブチ壊せ!」…か」

 

そのために優秀なスタッフがいるんだから、それを覚えておきなさい。そう言ったのはフレイだ。ああそうだとも。彼女たちは一流のメカニックだ。

 

自分は何を遠慮していたのだろう。キラはヘルメットの中でほくそ笑む。

 

そうだ。わかっている。足りない一歩をどうすれば踏み出せるか。この息苦しさを振り切るにはどうすればいいか、そんなこと、最初からわかっていた。

 

ブースターの光を溢れさせながら元気よく機動するサベージビーストを見つめて、キラは鋭く息を吐いた。

 

踏み出せる一歩への方法は知っている。ならば、どうするか?

 

「なら、実験だ」

 

何かが吹っ切れたように、キラは奥底にある何かを弾かせてスロットルを引いた。

 

のちに、サベージビーストのパイロットであるカニスはこう語った。

 

 

 

『ちょ……待っ……!!』、と。

 

 

 

 

 



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第54話 ベーリング海の一攫千金 2

 

インパルスのコクピットの中。

 

操縦桿を握る白いノーマルスーツを着こなすレイは、迫りくる巨影を目にして、機体を振り回した。

 

距離を詰めるザムザザーにビームライフルを放つが、その巨体に似合わず素早い動きで機体を翻し、詰めが甘ければビームをリフレクターで防がれる始末だった。

 

「ちぃ!なんて火力とパワーだ…!」

 

あの巨体からして、パワーもエネルギーも相当量持つ機体だろう。対するこちらは、地球軍が投入したMSの相手に加えて、新型のMAを相手取っている状態。小回りや立ち回りで何とか釘付けにはしているが、致命的な一撃を与える術を、今のレイは持っていない。

 

それに、パワーソースでもMAのほうが利がある。結果、インパルスのコクピットにアラームが鳴り響くこととなった。

 

「インパルスのパワー、危険域です!」

 

レッドゾーンすれすれだ。だが、ここで引けばこの巨大なMAは無防備なミネルバへと向かうことになる。

 

思考を走らせるレイのモニターを、ザムザザーの四脚に備わる複列位相エネルギー砲「ガムザートフ」が横切る。

 

イージスガンダムやカラミティガンダム等に装備された「スキュラ」の改良型だ。あんなものを食らえば、ミネルバもタダでは済まない。

 

「レイ!生きているか!」

 

どうするかと考えを巡らせていた中、ザムザザーから一度距離を取ったレイのもとへ、一機の戦闘機が近づいた。

 

「貴様は!?」

 

「シン・アスカだ!その機体!もうパワーがないだろ!?さっさと乗れっての!」

 

エクスカリバーを駆るシンの誘導に従うまま、レイはインパルスを翻して、翼面に備わる足場へとインパルスを着地させた。

 

『ええい!流星の機体か!だが、このザムザザーの敵ではない!!』

 

多品種であるMSの規格に合わせるために、脚部の固定ユニットにはユニバーサル規格を採用したエクスカリバーは、レイの機体の脚部を固定すると、機体を鋭く旋回させて、四脚から放たれた高エネルギー砲を難なく避けた。

 

《地球軍もゲテモノMAが感染したか。だが、あれは失敗作だな!》

 

《誰か私に対して失礼な事言った!?》

 

「うるさい!と言っても、失敗作と表してもな!パワーや防御力はピカイチだぞ!」

 

AWACSオービットのニックが軽口を叩き、ハリーが反応したように声を上げたが、今はそれどころではない。ラリーから見ても、ザムザザーにはMSに対して致命的な欠点を抱える機体と言えたが、今はレイテルパラッシュの相手でザムザザーに構う余裕がない。

 

「シン!やれるな!!防御が固い相手にはどうするか!」

 

「…!わかりました!!いくぞ!レイ!」

 

「俺に命令するな!!」

 

ラリーの声に応じたシンは、文句をいうレイを乗せたまま再びザムザザーの射程距離内へと挑む。敵MAのパイロットは、顔を歪めて応戦態勢へと入った。

 

『敵機接近!主砲!てぇ!!相手を止めろ!』

 

四脚や各種装備から放たれる弾幕の合間を縫うようにスラロームするシンは、攻撃の中からザムザザーの能力や、パイロットのクセをつぶさに観察していた。

 

「単調なリズムだ。隊長の動きより全然遅い。けど、あの装甲と防御力は厄介だな」

 

「相手はタンホイザーすら跳ね返すバリアを持っている。こちらの武装ではやつのバリアを突破するのは無理だ」

 

「バリアを張っても、機体が傷つかない強度を持つわけじゃないだろう?」

 

フェイズシフト装甲や、トランスフェイズシフト装甲も同じことを言える。リフレクターや、いくら機能面で優れた装甲を使おうが、それは物体弾を弾く程度や、チャージすることで陽電子砲を食い止めるに過ぎない。

 

ならば、より大きな力で張られたシールドや分厚い装甲を食い破るほかない。

 

「レイ!その機体で近接格闘機に換装できるか!?アーモリーワンで出てきたときのやつだ!」

 

シンが言ったことは、レイの乗るインパルスがアーモリーワン内部で見せた近接専用のソードシルエットのことだ。自分を乗せる傭兵の思惑に気がついたレイも、単調な声で応答する。

 

「ああ、可能だ」

 

「ならミネルバに一度…」

 

「その必要はない。ミネルバ!ソードシルエットを。それと、デュートリオンビームの用意だ」

 

通信回線から伝えたれたレイの言葉に、ナビゲーターを務めるメイリン・ホークは戸惑った表情を浮かべた。ソードシルエットを射出することは可能だが、デュートリオンビームの実戦使用は実績がない。メイリン自身も操作手順は把握しているが、うまく実戦で行えるかどうか…。

 

「指示に従って!」

 

「は、はい!デュートリオンチェンバースタンバイ」

 

そんな中、タリアの一喝がブリッジの中に響く。打った水のように頷いたメイリンが素早く電子パネルを操作し始め、レイの要望通りにマニュアルを実施してゆく。

 

「座標値固定、慣性速度よし!行け!レイ!」

 

メイリンから送られてくるマニュアルを一通り目を通したシンが、とてつもない速さで機体を制御し、デュートリオンビームに適した位置へとレイのインパルスを運んでゆく。

 

〝なんて対応力なんだ〟

 

レイはたった数十秒で、ザフトの最新鋭技術であるデュートリオンビームのマニュアルを読破した上に、寸分の狂いもなく機体を安定させるシンの技量に素直に称賛した。

 

彼の言葉通り、脚部の固定ユニットを解放されたレイのインパルスは空中へと上がり、ミネルバが指定したポイントへと機体を安定させる。

 

『妙な真似を!!』

 

「遅い!!」

 

インパルスの不審な動きを察したザムザザーが、デュートリオンビームの妨害へと動き始めたが、その前にはシンの駆るエクスカリバーがいた。ビーム兵装が効かないならばと、タングステン弾頭の高速度ミサイルを叩き込み、その巨体を震わせ怯ませる。

 

「捉的追尾システム、インパルスを捕捉しました。デュートリオンビーム照射!」

 

ミネルバから発せられた高エネルギーの一閃がインパルスへと届くと、レッドゾーンギリギリだったパワーは瞬時に充填された。

 

「続いて、ソードシルエット、射出!」

 

ヤジリのように放たれたソードシルエットが飛翔する。フォースシルエットをパージしたレイは、そのまま空中でソードシルエットへと換装し、青色だった機体色がアーモリーワンで見たときと同じように赤く染め上がった。

 

『空中で換装しただと!?』

 

『敵機きます!飛行型です!』

 

撃ち落とせ!!指揮官のパイロットの咆哮と共に撃たれた4本の高エネルギー砲を、シンは操縦桿を傾けてバレルロールで躱してゆく。ビームの雨が降り頻る中、シンは機体を滑らせるように旋回させながら、相手との距離を推し量っていた。

 

「くぅ…ぁああぁあ゛っ!!258、245、225…!!変形速度っ!!」

 

横へと吹き飛ばされそうなハイGターンの中で、シンは計器類と目の前にいるザムザザーを視線で行き来させながら、来るはずの時を待った。戦闘機形態の高負荷旋回を物ともしないパワーでザムザザーは近づき、四肢に収められていたクローを展開した。

 

『裏切り者の流星め!ザフトの新型機共々、そのひ弱な機体を引き裂いてくれるわ!』

 

「今だ!!」

 

赤く染め上がったクローが繰り出される一瞬の隙。刹那のような時間の感覚の中で、シンは機体のスロットルを起こすと、戦闘機形態であったエクスカリバーは雲と風をかき分けて人型へと姿を変えた。

 

『なにぃ!?』

 

変形と同時に振るわれたビーム刃は、四脚のエネルギー砲と入れ替わる形で展開した超振動のクラッシャークローを、根本から断ち切った。クローを切られて慌てふためくザムザザーへ、シンのエクスカリバーはデュアルアイを煌めかせて更に追撃を見舞う。

 

「それで最新鋭のMAか!!隊長ならもっと鋭く反応している!!」

 

シンは手に持っていたビームサーベルを逃げるザムザザーの方へと放物線を描くように投げると、展開されたビーム刃目掛けて、反対側の腕に持っているビームライフルを放った。

 

ビームコンフューズ。

 

ビーム刃から跳ね返った粒子状のビームはザムザザーの全体へ降りかかるように舞い散り、その一撃は目には見えない致命傷をザムザザーへ与えた。

 

『な、なんだ…あの動きは…!!ぴったりとついてくる!!』

 

「この間合いではバリアも特殊装甲も、なんの意味もない!!そして、ビーム刃で貫ける装甲なら…!!」

 

シンが大型MAに距離を詰めた理由。それは、下手に距離を取って相手がパワー勝負を仕掛けてくる機会を潰すことと、近接クローを失った相手への牽制と、〝時間稼ぎだ〟。

 

『敵機接近!!直上です!』

 

『なんだとぉ!?』

 

反射的に上を見上げたときには、すでに手遅れだった。シンの駆る機体と同じ大剣を手にしたインパルスが、太陽を背にしてザムザザーの真上から襲いかかった。

 

「はぁあああ!!」

 

『り、リフレクターを…!!』

 

レイの咆哮に、ザムザザーは自慢のリフレクターを展開しようとしたが、それは叶わない。リフレクターを司る機器が、シンの放ったビームコンフューズによって損傷を受けていたからだ。

 

不完全なエネルギーを機器に充填させたザムザザーは、その機能を十全に果たすことができないまま振り下ろされたエクスカリバ