ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子 (紅乃 晴@小説アカ)
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機体解説

かなり思い付きでやってます。
新機体出したら更新しますので!!イラストも!!

ちなみにメビウス・ストライカーの開発はメビウス好きを拗らせすぎた人が考案したメビウス擬人化計画の結果です(実話)


メビウス・ストライカー

 

型式番号:MVFS-M01X

全高:18m

動力源:バッテリー

 

武装

M2M5D 12.5mm自動近接防御火器×2

腕部ロケットランチャー「ジンライ」

72式改ビームライフル「イカズチ」

70J式改ビームサーベル

180mmリニアレール砲「ハヤブサ」

小型アンチビームシールド

フレア弾

 

 

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(一般機)

 

【挿絵表示】

(シン・アスカ機)

 

【挿絵表示】

(キラ・ヤマト機)

 

モビルアーマー形態

 

【挿絵表示】

【挿絵表示】

 

 

オーブが開発した可変量産機ムラサメの設計時に技術顧問として参加したハリー・グリンフィールドが考案した宙域専用可変機の試作品を実戦向けに再改修した機体。

 

高高度空戦用に考案された機体構成だった試作機を、ハリー・グリンフィールドとエリカ・シモンズらが形状から一新。

 

可変システムはムラサメを基礎とし踏襲しつつ、宇宙空間戦闘に特化した形状であるメビウスへの可変機構を備えている。

 

メビウス・ストライカーの可変機構はムラサメを基礎にしてるが、複雑な機構はより簡素化されているため、要する時間が短縮されている上にメンテナンス性も考え点検ユニットなども一新されている。

 

試作機は実地テストと運用テストを経て、戦闘データをオーブへ提供することを条件に民間軍事会社へ4機が売却。キラ・ヤマト、そして素質が高いシン・アスカの二名の専用機として運用され、他機体は予備機として運用されている。

 

武装面はムラサメと同規格のビームライフル、リニアレール砲、小型アンチビームシールド、腕部ロケットランチャー、ビームサーベル。モビルアーマー形態では脚部のミサイルコンテナも使用できる。

 

また、腰部にはハードポイントが備わっており、ストライクのデータから作成された各種ストライカーパックを装備可能であり、可変機ならではの耐久性の低さはあるものの、汎用性の高さも確保している。

 

ストライカーパック、ファストパックは、同企業で運用するメビウス・インタークロスにも接続できる様に共有化が施されており、戦況に応じて現地での換装、ドッキングも行える。

 

・ソードストライカーパック

 武装

  15m対艦刀「シュベルトゲベールⅡ」

  ビームブーメラン「マイダスメッサー」

  ロケットアンカー「パンツァーアイゼン」

 

・ランチャーストライカーパック

 武装

  320mmインパルス砲「アグニⅡ」

  120mm対艦バルカン砲「ゴウライ」

 

・ファストパック

 武装

  八連装ミサイルポッド×4

  対艦ミサイル「シップウ」×6

  フレア弾

  増槽×2

 

 



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プロローグ

Onogoro Island East Bay

05°32’17”N 152°16’02”E 2508hrs.

 

June 15, C.E.71

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ首長国連邦。

オノゴロ島、東海岸沿い付近。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ…父さん!」

 

シン・アスカは、長く続く山道を必死に走っていた。

 

先頭を行く父から離れないよう、後ろを走る母と妹を離さないように、ただ必死に走っていた。

 

「あなた…」

 

「大丈夫だ、目標は軍の施設だろ。急げ、シン!」

 

攻撃開始時間を食い込む形で、シンの家族は脱出船に向かって走っていた。

 

父と母の研究データを持ち出し、要らぬものは消去するためにモルゲンレーテの研究施設に立ち寄ってしまったのが致命的なミスであった。

 

頭上にはモビルスーツが降下しているのが見え、遠くでは信じられない速さで交戦する〝八機〟のモビルスーツの姿が見える。

 

「キャー!」

 

その八機のうちの一機が、自分たちの上空すれすれを飛び去っていき、胸に抱いた妹が叫び声を上げた。父と母が庇うようにシンとマユをしゃがませるが、その風圧は戦争の恐怖を思い知らせるには十分だった。

 

「かあさん!」

 

「ハァハァ…マユ!頑張って!!」

 

震える足を懸命に動かして走る妹と母親。

 

ふと、走っている振動で妹が肩から下げるポーチから、折りたたみ式の携帯端末が山道の下へと落ちてしまった。

 

「あー!マユの携帯!」

 

それに気付いた妹がとっさに足を止めてしまう。

 

「そんなのいいから!!」

 

「いやー!」

 

母が手を引くが、まだ幼い妹は言うことを聞かずにその場に佇んでしまった。シンは自然と山の斜面を降りる選択をした。大事な妹の携帯だ。避難船にたどり着いてから文句を言われるのも面倒くさい、そんな感覚だった。

 

 

 

パッと空が光った。

 

 

 

 

シンが振り向くと、モビルスーツから放たれたビーム兵器がこの山道の近くに着弾する様子が一瞬だけ。しかし、シンにはそれが鮮明に見えた。

 

 

直後、

 

衝撃。轟音。

 

 

吹き飛ばされたシンは、そのまま山道から崖下まで落ちていき、地面に体を打ち付けられた。

 

「だ、大丈夫かい!?君!!」

 

崖下はすぐに、オーブ軍の避難船乗り場だった。

 

シンは強か頭を打っていて、意識が朦朧とする。

 

今の衝撃は?

 

父は?

 

母は?

 

妹は——?

 

その思考が駆け巡った瞬間、シンは立ち上がり、家族がいるであろう山道を見上げる。

 

すると、そこには——。

 

 

「モビル……スーツ…?」

 

 

そう呼称するにはあまりにも大きく、あまりにも硬い。純白に包まれて閃光と煙の中にたたずむ神々しい姿。響き渡る駆動音の全てが、シンの五感を激しく揺さぶる。

 

まさに、シンの情景となった。

 

焦がれる理想の姿。不屈の在り方。

 

迫り来る敵を打ち倒していく無双の強さ。

 

すべてを払う光。

 

それが、本来なら歪まされた運命にあったはずのシン・アスカと、流星の『運命』の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED Destiny

白き流星の双子〝ジェミニ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.72年。

 

一年半に渡った地球、プラント間の戦い。

 

それは、苛烈と混迷を極めたヤキン・ドゥーエ宙域戦を以てようやくの集結をみた。

 

やがて双方の合意の下、かつての悲劇の地、ユニウスセブンにおいて締結された条約は、今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻そうと歩み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

《ORL-010、こちら管制塔。ローカライズ、オンライン》

 

プラントのコロニーの一つであるアーモリーワン。『兵器工廠』という名の由来を持つこのコロニーは今、慌ただしく事態が動き始めていた。

 

《こちらORL-010、ナブコムリンクを確認》

 

ゲイツとジンの編隊が着艦ベイへと進入し、定刻通りに到着する。宇宙とプラントの狭間となる港口には、多くのモビルスーツや船が隣接しており、それを制御する管制官たちも多忙な仕事に追われている様子であった。

 

オーブからやってきた船は、護衛を務めてくれたザフトのモビルスーツから離れて、港へと入っていく。

 

その慌ただしい様子を窓越しに、カガリ・ユラ・アスハは不安げに瞳を揺らしていた。

 

 

////

 

 

プラント内に設けられた人工湖から程近い場所に位置する基地でもまた、式典用のモビルスーツの配置や準備が進められていた。

 

《軍楽隊最終リハーサルは、一四〇〇より第三ヘリポートにて行う!繰り返す——》

 

「だぁ違う違う!隊のジンは全て式典用装備だ!!あれはマッケランのガズウートか?早く移動させろ!」

 

「ライフルの整備、しっかりやっとけよ!明日になってからじゃ遅いんだからな!ハウンド隊第二整備班は第六ハンガーへ集合させろ!!」

 

喧騒に包まれる中を、一台の軍用車が先を急ぐ。一人はザフトの作業員のツナギを着た若い男性で、もう一人はザフトの赤服というエースパイロットの称号とも言える服に身を包んだ男性だ。

 

そんな軍用車の前に、式典装備のジンが突如として現れ、ツナギの作業員が急ハンドルを切ると、なんとか足の合間を通り抜けて事無き得るのだった。

 

「す、すいません!」

 

ハンドルを握るヴィーノ・デュプレは、隣に座る赤服のパイロットに謝罪すると、別に大丈夫だと、パイロットはひらひらと手を返した。

 

「仕方ないって。こんなの久しぶりってか、初めての奴も多いんだしな。しかし、これでミネルバもいよいよ就役だ。配備は噂通り月軌道になるのかねぇ?」

 

そう言って自ら行先を見つめる赤服《ハイネ・ヴェステンフルス》は、自分が配属される新造艦『ミネルバ』がこれからどうなるか、漠然とした未来に思いを馳せるのだった。

 

そんな彼らの上空を一機のヘリが通過する。

 

「議長。クライン前議長から」

 

ヘリの中で端末を受け取ったプラント最高評議会議長に就任した男性、ギルバート・デュランダルは、その端末を見つめて顔をしかめていく。

 

軍基地に降り立ったヘリから、部下や他の士官たちと共に歩み出すデュランダルは、疲れたような言葉を紡ぐ。

 

「はぁ、彼の言うことも解るがね…だがブルーコスモス派の過激派が後ろにいるのだ。ザラ派もな。いくら条約を強化したところでテロリズムだけは防ぎきれんよ」

 

たしかに、シーゲル・クラインの言葉も理解はできるが、それでは何も変わらなかったから今の不安定な状態が生まれている。それを打開するためにも、この方針を変えるわけにはいかなかった。

 

「議長、オーブの姫が御到着です」

 

軍施設に入ったと同時に待っていた士官から伝えられた言葉に、ギルバートは小さく肩をすくめる。

 

「やれやれ、忙しいことだな」

 

今日もまた、落ち着いた時間は過ごせそうにないな、とデュランダルは心に言葉を止めながら、施設の奥へと足を進めていくのだった。

 

 

////

 

 

「カガリ、服はそれでいいの?ドレスも一応は持ってきているけど…」

 

船からターミナルに続く移動通路を進むカガリたち。表情が硬いカガリの後ろから、護衛役についてきていたキラ・ヤマトが、そっと声をかけた。

 

「な、なんだっていいよ。いいだろう?このままで」

 

「ウズミさんの言葉、カガリ忘れてるの?」

 

そうキラが言うと、カガリは気まずそうに言葉を濁す。やれやれ、議員としても板についてきたというのに、そう言ったところの苦手意識はなかなか難しいらしい。

 

「必要なんだよ、政治ってのは。こういう演出みたいなことも」

 

そう付け加えるように、キラと共に護衛としてやってきていたアレックス・ディノも言葉を繋げる。大きなお世話だと言わんばかり、カガリは振り返って口を尖らせた。

 

「わかってるよ!まったく…」

 

「その顔のどこがわかってるのよ」

 

そんなカガリの横にいるのは、オーブの首脳陣が着る服装とは違い、ムルタ・アズラエルから教わった通りのビジネススタイルに身を包んだフレイ・アルスターだ。

 

「アズラエルさんも言ってるわよ?こうやって、バカみたいに気取ることもないけど、軽く見られても駄目なんだって」

 

まずは相手に隙を見せない事。これ鉄則です、とアズラエルの声が聞こえてきそうなくらいに言うフレイの言葉に、カガリは反論の余地なく、ぐぬぬと顔をしかめた。

 

「今回は非公式とはいえ、君は今はオーブの重鎮なんだからな?」

 

「わかってるって!しつこいなぁ、もう」

 

これじゃあ、先が思いやられるな。そうアレックスがため息をつくのを見て、キラは困ったような笑みを浮かべる。

 

「大丈夫だよ、僕らもそれで一緒に来てるんだからさ」

 

カガリの不安定さと危なげさを知っているからこそ、ウズミは二人にカガリとフレイの護衛を依頼したのだろう。

 

フレイ自身は、アズラエル理事の要望で同行することになったのだが、きた理由としてはカガリの思うところと同じだ。

 

「キラ、ラリーさんたちは?」

 

フレイが問いかけると、キラはカガリの後ろから前へと進んできて、フレイの隣に並んだ。

 

「護衛は僕らに任せて、先に市街地に向かったよ。ゆっくりできる時間もないしね」

 

基本的にアーモリーワン内部の護衛の役目はキラとアレックスだ。残りのメンバーは船に残って点検や整備、そして〝万が一〟の時のための保険のような役割もある。

 

通路から抜けてターミナルに入ると、多くの人で賑わっていた。明日は大きな式典がある。観光客が多いのもうなずけた。

 

「パパ!船は?軍艦なの?空母?」

 

無邪気な子供の言葉が聞こえてくると同時に、大人たちの言葉がアレックスの耳に届いてくる。

 

「やっぱり必要ですものね」

 

「ああ、ナチュラル共に見せつけてやるともさ」

 

ほんのわずかに届いた言葉。それを聴くと、アレックスの心は重くなる。あれだけの大戦があったというのに、まだナチュラルとコーディネーターの種族の壁は厚い。仕方がない事とはいえ、その壁の厚さに歯痒さや無力さを感じるのも事実だ。

 

その度に、父の憎悪に塗れた声が蘇ってくる。

 

「——アスラン?」

 

物思いに更けるアレックスの顔を覗き込みながら、カガリが彼の〝名〟を呟く。ハッとなったアレックスは、大丈夫と頷いた。

 

「ああ、すまない。なんでもないよ」

 

しばらく通路を進むと、港口からプラント内部に繋がるエレベーターの前へとたどり着いた。

 

四人は無重力から降りて地に立つ。いよいよもって、プラントへの入国だ。

 

「さて、ここからはお偉いさんスタイルで行くわよ?アスハ議員?」

 

そう言って微笑むフレイは、完全に仕事モードのスイッチが入っているようだった。

 

 

////

 

 

アーモリーワン市街地。

 

工廠として使われているコロニー内では、そこで働く人々の賑わいもあるが、式典も近いため多くの観光客や見物人が集まっている。

 

その人だかりの中を、三人の若い男女が歩いていた。目立たず、人の中に紛れて歩く彼ら。しかし、その目には何か鋭いものを感じる。

 

ふと、三人のうちの一人の少女が、街のショーウィンドウの前で立ち止まった。しばらくそのショーウィンドウを見つめると、少女は小さく体を揺らして、くるり。まるで踊るような仕草で体を回す。

 

振り向き様にそれを見たうちの一人が、呆れたような口調で呟いた。

 

「あ?何やってんだ、あれ」

 

「浮かれてるバカの演出…かもな」

 

もう一人もまた可笑しそうにその様子を見つめて答える。くるりと再び踊る少女を後ろに、彼らは気にしない様子で街中を進んでいく。

 

「じゃねえの?お前もバカをやれよ、バカをさ」

 

「冗談。そんなの命令ないし」

 

二人が歩き去っていくのに気付かないで、少女は楽しげに街の中で踊り、駆け抜けていく。周りの人々がその様子に視線を向けるが、そんなこともお構いなく彼女は楽しげに笑っていた。

 

「うふふ」

 

童話の中にある舞踏会で踊るお姫様のように。光があふれている景色の中で、少女は可笑しく笑って、くるりとステップを踏んでいく。

 

「あはは」

 

そして彼女は気付いていなかった。その先にある店舗から出てきた三人の人影に。

 

「それでマユのやつ…おっと」

 

「うわっ」

 

手に持っていた荷物を落とさずに、ぶつかってきた少女をそっと受け止めた少年は、呆気に取られている少女へ、心配した様子で言葉をかけた。

 

「君、大丈夫?」

 

顔を覗き込むと、少女の視線は下。少年も習うように下へ目を向けると、自分の両手が彼女の胸に触れているのに気がついた。

 

「あっ」

 

謝罪の言葉も言う隙もなく、少女は少年の手を振り払うと、先に行ってしまった二人を追いかけるように駆け出していった。

 

「あ…」

 

その後ろ姿に言葉をかけられず、少年は通路に立ち尽くして、駆け抜けていった少女の後ろ姿を見つめている。

 

「シンくん、君…」

 

その少年、シン・アスカ。

 

彼と共にオーブにいる家族への手土産を買っていたリーク・ベルモンドは、シンの所業を見つめながら引きつった笑みを浮かべていた。その表情を察したのか、シンは誤魔化すように手をパタパタと動かした。

 

「え!?あ、偶然ですよ!偶然ですって!」

 

そんなシンと肩を組んだもう一人の、ラリー・レイレナードも、シンの思わぬハプニングに意地悪そうな顔をして脇を突いた。

 

「お前もずいぶんオマセさんになって」

 

「やめてくださいってば!」

 

「やーい。このラッキースケベ」

 

「違うってば!」

 

ついにラリーとリークを振り払ったシンに、二人は楽しそうに笑って先に歩んでいく。

 

「うわー、シンがおこだ!おこ!」

 

「おいこら…待ってくださいよ!!」

 

そんな二人を追いかけるシン。

 

このとき、まだシンは知らなかった。

 

自分を待ち受ける——大いなる運命を。

 

 

 

 

 

 



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第1話 戦争と平和と

 

 

 

「まったく、明日は戦後初の新型艦の進水式ということだったな。こちらの用件は既に御存知だろうに。そんな日にこんなところでとは、恐れ入る」

 

ザフトの士官に案内されて乗り込んだコロニー外縁部から直通で通っているエレベーターの中で、カガリは落胆しそうな気持ちで言葉を呟く。

 

その言葉を聞いて、士官たちも戸惑いの色を見せるばかりだ。

 

「内々、且つ緊急にと会見をお願いしたのはこちらなのです、アスハ議員」

 

隣に控えていたアレックスが不満と言った様子を体現しているカガリへ、姿勢を正したままサングラス越しに視線を向けた。

 

「プラント本国へ赴かれるよりは目立たぬだろうと言う、デュランダル議長の御配慮もあっての事と思われますが」

 

隣に座っているフレイも、完全な仕事スタイルと口調で、感情的にふて腐れているカガリに苦言を申した。カガリとフレイも、オーブに住む友人ではあるが、今の二人はオーブの議員と、ブルーコスモス派の役職を持つという立場がある。

 

うまく切り分けてモノが言えるのも、フレイ自身が先の大戦で培ってきたものだろう。隣にいるキラはそんな力強い彼女を見てそう思った。

 

「あぁ…わかってはいるよ」

 

フレイの言い分を飲み込むように、カガリはエレベーターの外へ視線を向ける。長く続いたコロニー外縁部から内部に入ると、大きな人口湖と広がる軍基地と工廠の景色が視界に飛び込んでくるのだったーー。

 

 

////

 

 

「やぁ、これは姫君方、遠路お越し頂き申し訳ありません」

 

会談場所であるアーモリーワンの行政府に通されたカガリとフレイは、出迎えてくれたプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルと握手を交わす。

 

「オーブ首長国連邦のカガリ・ユラ・アスハだ」

 

「アズラエル財団のフレイ・アルスターです」

 

二人の後に続いて入室したアレックスとキラも、周りを見渡す。デュランダルのほかにも、多くのザフト士官が集まっている室内で、デュランダルは二人を席に座るよう促し、自身もそれに座って二人と向き合った。

 

「議長にもご多忙の所お時間を頂き、有り難く思う」

 

「ウズミ様の方は如何ですか?戦後、実に多くの問題も解決されてから体調が優れないと聞き、私も心配し思っておりますが」

 

ウズミ・ナラ・アスハ。

 

戦後のオーブの立て直しと、周辺諸国への支援や混迷する地球圏の再建に尽力した人物であり、カガリ・ユラ・アスハの父でもある。一時の安定に入った地球圏の様子を見送ったのち、日々の苦労や無理がたたって、今ウズミは病床に伏している状態だ。

 

彼の空けた穴を埋めるため、カガリも本格的にオーブの政治へ身を投じている。

 

「父はまだ療養中でな。私自身もホムラ代表の補佐で、まだまだ至らぬことばかりだ」

 

オーブの政治運営は叔父であるホムラ代表が務めているが、彼も引退を決心している身であり、次期オーブ首相が誰になるかと言う政治的な舵取りの決断も迫られている状況にある。

 

「ーーで、そんな情勢下、姫方はお忍びでそれも火急な御用件とは?一体どうしたことでしょうか?我が方の大使の伝えるところでは、だいぶ複雑な案件の御相談、ということすが…」

 

白々しく言うものだ。デュランダルの口振りにアレックスはそんな感想を抱く。それはカガリやフレイも同じ様子であった。

 

「…中立国であるオーブには、そう複雑とも思えぬのだがな」

 

そう切り返したカガリに続いて、フレイも口火を切る。

 

「アズラエル財団も多くの支援をしてきました。こちら側としても、この案件に対するプラント政府としての明確な御返答が得られない、ということは、やはり複雑な問題なのでしょうか?」

 

フレイが所属するアズラエル財団もまた、戦後の復興に多くの支援と資金を投資した。地球圏はもちろん、宇宙、そしてプラントも分け隔てなく。アズラエル自身の目的であった「戦いの後の権力」を有するためにとの行動でもあるが、今は何より底に付いてしまった経済状況を打開するのが先決でもある。

 

「オーブ首長国連邦は再三再四、彼のオーブ戦の折に流出した我が国の技術と人的資源」

 

そこでカガリは言葉を区切り、デュランダルへ視線を向ける。

 

「ーー強いて言うならば、モルゲンレーテの流出した技術諸々の軍事利用を、即座に止めて頂きたいと申し入れているのですよ、デュランダル議長」

 

嫌な沈黙が流れる。議長も含め、ザフト軍の士官たちも、カガリの言葉に何ら反応を示さなかった。政治的な戦略なのだろうか。だが、そんな精神的な駆け引きを得意としないカガリは、さらに口調を強めて言葉を続けた。

 

「議長、これは可及的速やかに対応しなければならない問題だ。なのに何故、未だに何らかの御回答さえ頂けない!」

 

オーブの技術。それは時代の先を行く物として、先の大戦では戦局に多くの影響を与えた代物だ。大戦が終わり、平和へと歩み出した世界の中で、そんな技術を欲するのはーーあまりにも危険すぎる。

 

アズラエル財団も、オーブも、それは深く理解していた。

 

作れるから作った。

 

それで流れる血が、一体どれほどあったというのか。目の前にいる者達は、そんなことすらとう忘れてしまったのだろうか。

 

「ーーカガリ・ユラ・アスハ。フレイ・アルスター」

 

長らくの沈黙の後、デュランダルはゆったりとした口調で二人の名を呟く。

 

「貴女方もまた、先の戦争でも自ら前線に出ていた勇敢な御方だ。そして、最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれたオーブの獅子、ウズミ様と、ブルーコスモス派でありながら世界の行く先を見据えて戦争で疲弊した国々を援助し、地球圏を大きく立て直した立役者であるアズラエル理事の後継者でもあられる」

 

まさにこの先の平和へ繋げるための架け橋となり、象徴ともなり得る人材だ。故に、とデュランダルはこう考える。

 

「ーーならば今のこの世界情勢の中、我々はどうあるべきか…よくお解りのことと思いますが?」

 

その言葉に、カガリは思わず椅子に預けていた手で握り拳を作った。

 

「我等は打ち立てた理念を守り抜く。その責任があるのだ。議長!」

 

「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。その理念や考え方。それは我々も無論同じです。あの三隻宣言の中でも、我々は種族を超えて先に進まなければならないと言われたクライン前議長と同じく、それが未来であると信じています。そうであれたら一番良い」

 

ナチュラルとコーディネーター。

 

種族による劣等感を取り除き、それぞれがなすべき事を成すことにより、より高い次元へ人類を歩まさせていく。

 

それが、今から歩むべき進歩と調和に繋がると彼らは話した。あの〝三隻宣言〟の中で。

 

しかしだ。デュランダルの考えはそれは理想だと突きつける。

 

「だが、力無くばそれは叶わない。それは姫とて、いや姫の方がよくお解りでしょう?」

 

いまだに地球圏も、前体制の地球軍と、ハルバートン司令官の新体制の地球軍の間で小競り合いが起き、テロや紛争も終局を見せていない。

 

現に今も、オーブは自国の力を。アズラエル財団は私設の民間PMCを用いて、地球で起こる火種消しに奔走している。

 

「我々としても、ザラ派とクライン派と分断され足並みが揃っていないのが実情です。故に軍備は整えねばならない。過去の過ちを繰り返さないためにも」

 

分断されそうな危うい状態だからこそ、軍備を整える。そうしなければ、また過激派が先頭に立ち、互いを互いの憎しみで燃やし合う、あの凄惨な戦争が繰り返されるのだ。

 

「だからこそオーブも、アズラエル財団としても、軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」

 

核心を突かれるような言葉を聞き、カガリも握っていた拳を解く。たしかにその通りだ。オーブも地球圏も、まだ戦う力を手放す段階にはない。

 

「ーー姫というのは止めて頂けないか?」

 

「これは失礼しました、アスハ議員、アルスター事務次官。しかしならば何故、何を怖がってらっしゃるのです?」

 

その状況を理解しているというのに、オーブもアズラエル財団も何を恐れているのだろうか?話のペースを握ったデュランダルは、彼らの焦りに似た言葉の真実を探り出そうとしていく。

 

「前体制でありながら、力を取り戻しつつある大西洋連邦の圧力ですか?オーブが我々に条約違反の軍事供与をしていると?」

 

フレイは表情を崩さなかったが、カガリはわずかに顔を硬らせた。たしかに、先の大戦でブルーコスモスの過激派の隠蓑であった大西洋連邦も、復興して力を増しつつある。

 

彼らの暴走を止めるためにも、オーブとしての立場を明確化し、調停するためにデュランダルに会談を申し出た思惑があったのも事実だ。だが、今回はデュランダルの方が上手だった。

 

「だがそんな事実はどこにも無いのですよ」

 

はっきりとした口調でそう告げる。事実として存在する自信だった。

 

「彼のオーブ防衛戦の折、職業難と経済的損失が大きかったオーブで、仕事をなくしていた同胞達を我等が温かく迎え入れたことはありました。その彼らが、此処で暮らしていくためにその持てる技術を活かそうとするのは仕方のないことではありませんか?」

 

そのカード切られては、オーブに反論する余地はない。先の大戦ーーオーブ解放戦で被った被害は大きい。人的資源の流出も、その日が境となっている。彼らを責めるわけにはいかない。あの戦争を招いたのは、オーブ政府のミスなのだから。

 

「だが!強すぎる力はまた争いを呼ぶ!我々はそれを過去の戦争で学んだはずだ!打たれたら打ち、それを繰り返す!その連鎖を断ち切るために、我々は動かなければならないのだ!」

 

「いいえ、争いが無くならぬから、力が必要なのですよ、アスハ議員」

 

「デュランダル議長」

 

平行線を辿る二人の会話に、切って入る凛とした声があった。

 

「だからと言って、それを使って仕舞えばーーユニウスセブンの二の舞になります」

 

フレイが真っ直ぐとした目で、デュランダルを見つめる。たしかに、平和を維持するために軍事力を持つことは必要だろう。しかし、行きすぎた力や思想は、また争いを生むことをフレイはよく理解している。

 

「抑止力とは、使わずに示すからこそ、抑止力なのです。それはひけらかすものでも、ましてや振りかざして良いものでもありません」

 

軍事力も、そして核を保有していることも、Nジャマーを持っていることも。すべては互いに力を牽制するための抑止力なのだ。そうあるべきだったものをーー先の大戦では使いすぎたのだ。

 

「先の大戦で、プラントも地球も、大きすぎる犠牲を払いました。我々にとって為すべきことは、核も、Nジャマーも、それを使わずに抑止力の象徴に戻すことではないのですか?」

 

フレイの言葉に、デュランダルは深く席に座って思考をまとめていく。やれやれ、オーブの姫君だけならば、やりようはあったがな…。

 

思わぬ強敵へと成長したフレイをみて頭を悩ますデュランダル。ふと、フレイとカガリの視線が交差すると、フレイは周りにバレないように小さな笑みを浮かべて答えるのだったーー。

 

 

 

 



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第2話 ガンダム奪取

 

 

アーモリーワン、ザフト軍基地。

6番ハンガー。

 

翌日の新型新造艦に合わせて調整が進められている新型機が、その中に眠っていた。

 

オーブからの技術者移住や、ザフトにおけるフリーダムやジャスティスなどの「ファーストステージ」の技術がフィードバックされた機体として開発されたものであり、先の大戦後締結されたユニウスセブン条約後に、ザフトが開発した試作MS群「セカンドステージシリーズ」。

 

それは、フリーダムやジャスティスといったファーストステージ機を引き継ぎ、同時代の量産機を凌駕する性能を有している。

 

新造艦の進水式に合わせて、ザフト軍の新たな機体系譜の始まりを告げる機体たちであった三機はーーーこの日を境にその運命を一変させていく。

 

「さて行くぞ、仕事の時間だ」

 

進水式という大きなイベント。警備が手薄になるこのタイミングを見計らってザフト軍の基地と、このハンガー内に忍び込んだ三人は、先に侵入していたスパイ達と共に動き始めた。

 

「な、なんだ!?貴様たち…がっ!?」

 

コーディネーターと同等か、それ以上の身体能力を発揮しつつ、ザフトの兵士を一掃していく彼ら。

 

先ほどまで街中で可憐に踊っていた少女も、無機質な表情のままで手に持ったコンバットナイフを振りかざす。

 

「はぁあああ!!」

 

全く対応出来なかった整備員やパイロットを血祭りに上げていく。三人のうちの一人が、手に持った小銃でザフト兵を貫きながら、別の場所を掃討するもう一人の仲間へ声をかける。

 

「アウル!上だ!」

 

スティング・オークレーの言葉に、笑みを絶やさぬまま背面へ銃を放つアウル・ニーダ。

 

「うわぁ!」

 

最後に残った兵士の首根を切り裂いたステラ・ルーシェ。

 

三人は血の海になったハンガーの中で、一息つくと、すぐに行動を開始する。

 

「スティング!」

 

「よし!いくぞ!」

 

他のスパイたちが周辺を警戒してる間に、スティングたちはハンガー内に横たわる三機のモビルスーツへ乗り込んでいく。

 

「OK、情報通り」

 

事前に知らされていた情報と同じパネルへ指を走らせる。凄まじい速さでインターロックや、防護壁のデータを書き換えながら、三人は機体を起動させた。

 

「いいよ」

 

最後にステラの乗り込んだ機体が起動すると、灰色の機体に電力が迸り、鮮やかな色が配色されていく。

 

「反応スタート。パワーフロー良好。全兵装アクティブ。オールウェポンズ、フリー」

 

ありがたいことに武装もセットで置いてくれているではないか。アウルはニヤリと笑みを浮かべて武装を装備し、機体を立ち上がらせた。

 

「システム、戦闘ステータスで起動」

 

その高揚感に、三人はまるで無垢な子供のような顔をして機体を歩み出させていく。そんな彼らの足元。致命傷を負いながらもなんとかコンソールパネルにたどり着いたザフト兵が、非常用のスイッチを叩いた。

 

ハンガー内に警告音が響く。だが、もう遅い。

 

撃鉄は起こされたのだ。

 

スティングはコクピットの中で高らかな笑い声をあげる。

 

「ふふふ、あはははは!さぁ、ぶっ壊そうじゃねぇか。こんな嘘にまみれた世界を!!」

 

宇宙に浮かぶ空気が詰まった袋だ。それを破裂させたらどうなるか?その姿を想像しただけで、彼らの笑いは止まらないものとなっていくーー。

 

さぁ、始めよう。全てを元に戻す戦いを…!!

 

 

////

 

 

「警報!?なんだ!?」

 

行政区から基地内の視察へ訪れていたカガリたちにも、その警告音は聞こえていた。穏やかに基地を案内してくれていた係のものや、同行していた議長の顔色が変わる。

 

「カガリ!!」

 

「アレックス!!」

 

すぐさまカガリの護衛としてアレックスが彼女の前へ。フレイの横にはキラが付いて辺りへくまなく意識を張り巡らせた。

 

「閉めろ!早く!!」

 

「六番ハンガーだと!?」

 

誰かの声が響いた瞬間、それを上回る爆音が軍基地に響いた。地鳴りと衝撃で、カガリが思わず腰を落としてしまう。

 

事が起こったハンガーは、不運なことにキラたちがいるすぐ側のハンガーだった。爆煙の中から姿を現した三機のモビルスーツをみて、ザフト兵が悲鳴のような声を上げる。

 

「カオス!ガイア!アビスも!?」

 

可変機として開発されたザフトの新型モビルスーツ。その三機が突如として起動し、ザフト軍を攻撃し始めたのだ。

 

『まずハンガーを潰す。モビルスーツが出てくるぞ!アウル、付いてこい!ステラ!お前は左だ』

 

『了解了解!』

 

『解った』

 

カオスに乗るスティングの指示を聞いて、三人は動き始める。光の極光がまだ何も対応出来ていないザフト軍のハンガーやコンテナ、起動前のモビルスーツを次々と穿ち、爆炎が辺りに広がった。

 

「新型!?何が起こっている!!」

 

建物の影から見える機体。無抵抗なザフトの基地をビームで好き放題破壊していく様子を見ながら、アレックスはカガリを抱きしめながら憤慨したように叫ぶ。

 

「強奪されたのか…!?ここはプラントなのに!!」

 

「まさか、ザラ派が!?」

 

キラとフレイも思考を巡らせるが、こうも混乱状態になると状況は不明瞭だ。あの機体に乗っているのが誰であれ、ここがいきなり一級危険地帯になったことに変わりはない。

 

《ええい!発進急げ!六番ハンガーの新型だ!何者かに強奪された!モビルスーツを出せ!取り押さえるんだ!》

 

その通信を聞いて、キラが身を乗り出した瞬間、すぐ目の前をカオスが過ぎ去っていく。モビルスーツの重量音が響き、キラは冷や汗を流しながら、空を見上げて呟いた。

 

「新型…あれは!ーーーガンダム!?」

 

驚きを隠せないキラたちへ、護衛を連れたデュランダルが歩み寄ってくる。

 

「お二人をシェルターへ!急がせろ!」

 

手早く指示を出すと、後ろに控えていた数名の士官たちがカガリやフレイの前へと出て、最寄りのシェルターへの道を進んでいく。

 

「こちらへ!」

 

「わかっている!!アレックス!緊急信号は!!」

 

ザフト兵の指示に従いながら、爆音と轟音が響く中でカガリはアレックスへ問いかけると、彼もわかっているように通信端末を片付けながら頷いた。

 

「出してる!三人も動いてるはずだ!」

 

「なんとしても抑えるんだ!ミネルバにも応援を頼め!」

 

目の前で軍関係者へ指示を出すデュランダルとすれ違う。その時に、カガリは声をつないだ。

 

「議長!13番港から出てくる機体は撃つなと伝えろ!いいな!!」

 

呆気に取られる議長の返事も聞かずに、カガリはアレックスやキラたちと共にシェルターへの道を急いだ。

 

「議長?」

 

「ーー司令部に連絡。13番港から発進した機体には進路を優先しろ。異論は認めん」

 

その議長の言葉に、士官は敬礼で答えて通信官と共に戦場と化した工場内へ駆け出していく。議長は幾人かの護衛に囲まれながら、小さく笑みを浮かべた。

 

「ーー彼らが来ているのか…そうか」

 

これもまた、運命なのかもしれんな。

 

 

////

 

 

「グラディス艦長!」

 

ミネルバのブリッジへ上がった女性艦長に、副官は頼りなさげな声で問いかける。彼女は間髪入れずに答えた。

 

「アーサー!緊急事態よ!インパルスを発進させて!」

 

インパルスーーそしてストライカー。

 

二人の運命もまた、大きく動き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 舞い降りる剣

「カガリ!急いで!」

 

爆音、衝撃。

 

アーモリーワンコロニーの全てが揺れているような感覚。士官の誘導に従って建物の筋を走るカガリたち。すぐ後ろでは、カオスによって倉庫が撃ち抜かれ、中にあった弾薬の誘爆が始まっていた。

 

襲いかかる衝撃から、アレックスとキラは護衛する二人を庇うように守り、足を止めずに進み続ける。

 

ふと、キラは何かを感じ取った。ざわりとする何か。この感覚はーーーパイロットの時も感じる…何だ?

 

「キラ?どうしたの?」

 

立ち止まったキラに、フレイとカガリたちも止まる。前方を誘導していた士官たちはかまわずにシェルターへの道筋を駆けていく。

 

ざわり。

 

ダメだ。そのまま行ってはーーだめだ!!

 

「ダメだ!そっちはーー」

 

キラが声を上げたと同時に、それは倒れた。アビスに破壊されたジンが倒れ、その倒壊に先頭を走っていた士官たちが巻き込まれたのだ。咄嗟にキラたちは開けられているハンガーへと入り、押し寄せる粉塵や爆風から身を守る。

 

「くっそぉ!!」

 

「フレイ!こっちに!」

 

とにかく今は外が危険だ。このハンガーも襲撃される可能性はあるが、爆炎と熱反応にさらされる外よりは幾分かマシだ。

 

「キラ…」

 

「君を傷つけたら、サイに会わせる顔がないよ!」

 

「そんなこと言ってる場合か!?」

 

大事だからだよ!とカガリからのツッコミに反論するキラ。そんな二人を置いておき、アスランは辺りを見渡しながら、引っかかっている言葉を紡いだ。

 

「けど、なんでこんなことが…おそらく、ザラ派の過激派かーーあるいは…」

 

「地球軍?」

 

キラが考えを読んだように答える。たしかに、今力を取り戻しつつある大西洋連邦のあり方は危険すぎる。復興の仕方が無理やりなのだ。地球圏の軍事に傾きすぎているせいで、もっと大切な体制や経済性が損なわれるほどに。

 

もし、大西洋連邦が以前のようにブルーコスモスの思想に傾倒し、暴走するような行為に走ったとしたなら…。

 

「可能性は捨てきれないな…くっ」

 

「とにかく、ここにいるのは危険だ…どうする?」

 

心配そうに言うカガリの言い分も最もだ。ここに居ては、いずれあの三機の攻撃に晒されることになる。通信機を取り出してみるが、ジャマーが張り巡らされているのか、通信は遮断されていた。

 

敵はかなり入念な準備をしてきているらしい。

 

「ラリーさんたちが来るまでは…」

 

「キラ、アレで行けるか?」

 

手を拱いてるキラに、カガリがハンガーを指差した。そこにあるのは二機のモビルスーツ。特徴的なジンやゲイツのモノアイを受け継いだ、ザフトの次期モビルスーツ、ザクウォーリアだ。

 

「ザフトの新型量産機…?けど、構成が違いすぎると思うけど…」

 

乗れないことはないだろう。だが、オーブのものや、アレックスが乗っていた頃のザフト軍機とはかなり変更が掛けられているはずだ。起動手順のマニュアルすらわからない状態で、どこまで出来るか…。

 

「ちょっと待って、これなら何とかなるかも」

 

キラとアレックスがそう思っていたら、いつのまにか上着を脱いで髪の毛を軽く結い上げたフレイが、鎮座しているザクウォーリアの足元へと歩いて行っていた。

 

「たぶん…ここら…へんっと!!」

 

キラやアレックスたちの視線を他所に、フレイは脚部の装甲を手探りで探りながら、声と合わせてバンッと拳で叩く。すると装甲の一部が開いた。フレイは振り向くと二人に向かって無言で親指を立てた。

 

ビジネスカバンからお気に入りの作業用手袋と、最低限の工具、そして愛用している端末を取り出す。フレイは慣れた手つきで開いた装甲からカバーを取り出し、コネクターカバーを外しーーさらに分解作業に入っていく。

 

「フ、フレイ。いつもそれ持ってるの?」

 

「万能なのよ?これ。線番さえ間違えなければ」

 

高級そうなハンカチの上にばらしたパーツを丁寧に並べるフレイは、露出した配線コネクタへ愛用の端末の通信用コネクタを順番に差し込んでいく。

 

すると、端末が息吹を上げて、ザクウォーリアのCPUとの同期を始めた。

 

「この通りっと!ーーふむ、凄いわねこれ。かなりフォーマット化されてる。けど、基本レイヤーは一緒…構成も…よし、これならキラたちでも大丈夫だと思う」

 

ついでに機体のオプションに保存されているマニュアルと操作機能をまとめた資料も引っ張り出すと、フレイは役目を終えた部品を元通りに手早く修復していく。

 

その後ろ姿を見ながら、アレックスは引きつった笑みを浮かべていた。

 

「なんとかなるかも…」

 

「凄いな、彼女…」

 

キラの呆気に取られた顔とアレックスの顔を見比べて、カガリは「わかってないなあ」と肩をすくめた。

 

「オーブ1のメカニックと言っても過言じゃないからな」

 

「1番はハリーさんよ。ほらハッチ空いたからさっさと乗る!!」

 

いつの間にかハッチを開くスイッチと昇降ウィンチまで下ろしたフレイが、手を叩きながら呆然とするキラとアレックスに早く乗るよう促した。

 

「すっかりいつもの彼女だなぁ…フレイは僕が」

 

「あ、ああ、カガリ。いくぞ!!」

 

そう言って二人は別れると、それぞれ引っ張り出されたウィンチに捕まってコクピットに乗り込んで行くのだった。

 

 

////

 

 

 

《インパルス、発進スタンバイ。パイロットはコアスプレンダーへ!》

 

新造艦ミネルバでは、新たなセカンドステージの機体が発艦するための準備が進められていた。コアになる戦闘機に乗り込んだパイロットは、機体を起動させ、発進準備を整えていく。

 

《モジュールはソードを選択。シルエットハンガー2号を解放します。シルエットフライヤー射出スタンバイ!》

 

巨大なプラットホームが稼働し、解放されたハッチから武装が搬出されてくる。この機体は、奪取された機体とは違い、ミネルバでの運用を専用に作り上げられたものだ。

 

《プラットホームのセットを完了。中央カタパルトオンライン。気密シャッターを閉鎖します。発進区画、非常要員は待機して下さい》

 

専用機とあって、ミネルバのプラットホームの全てが連動して稼働しており、各武装が配置されたと同時に、コアの戦闘機ーーコアスプレンダーが迫り上がっていくプラットホームによって発進位置へ運ばれていく。

 

《中央カタパルト発進位置にリフトオフします。コアスプレイダー全システムオンライン。発進シークエンスを開始します》

 

艦船用ドッグに座するミネルバの中央ハッチが開いていく。その中で、コアスプレンダーに乗るパイロットは眼前に広がる箱庭の世界を見据えた。

 

《ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。コアスプレイダー、発進、どうぞ!》

 

スロットルを上げて、射出滑走路から飛び立っていくコアスプレンダー。その後に続いて次々と武装機も飛び立っていく。

 

《カタパルトエンゲージ。シルエットフライヤー、チェストフライヤー、レッグフライヤー射出、どうぞ!》

 

閉鎖的な空へと打ち上げられた歪な影は、それぞれが高速度を保って飛んでいく。行く先は遠くからでもわかるーー湾岸のザフト軍基地だ。

 

 

////

 

 

時を同じくして、13番港口に停泊していたオーブ製の輸送艦も動き始めていた。後部ハッチが開き、一機の〝モビルアーマー〟が姿を表す。

 

《シン!わかってるとは思うけど、コロニー内では発砲は厳禁よ!そのために装備を変えてるんだからね!》

 

無重力内でインカム越しにパイロットへ通信を送るのは、現れた機体の整備を担う技師、ハリー・グリンフィールドだ。彼女が言う通り、機体にはビーム兵装や無反動砲などは搭載されておらず、替わりに機体下部に大剣型近接兵器、「シュベルトゲベールⅡ」が懸架されている。

 

「わかってます!グリンフィールド技師!シン・アスカ、発進いけます!」

 

コクピットで準備を進めるシンは、事態の緊急性が高かったため、ノーマルスーツは着用せず、大急ぎで帰ってきた私服姿のまま乗り込んでいた。頭部を保護するために、オーブ製のヘルメットだけを被り、機体のセッティングを終えていく。

 

その隣では、元アークエンジェルのメカニックだったコジロー・マードックがもう一機のモビルアーマーのハッチを解放していく。

 

そのコクピットでは、シンの上官であり師匠にもあたるラリー・レイレナードがセッティングと機体の調整を続けていた。

 

「シン!コロニー内では俺たちの機体は不利だ!キラのストライカーのOSが書き換えが終われば、俺も出る!!」

 

迫り上がった機体は、本来ならキラの専用機だが、当人が緊急事態に巻き込まれているため、急遽ラリー自身のデータに変更されることになった。機体OSと駆動制御パラメータの変更に時間がかかるため、シンが先行して出撃することになる。

 

《トールは僕とキラくんたちの救助を!ザフト軍から装甲車は貸してもらえる!》

 

《わかりました!シン!無理はするなよ!》

 

港口では、ザフト軍からの通信で要人救出を行うことになったリークと共に、この隊のメンバーの一人であるトール・ケーニヒも準備を進めている。

 

トールとリークが乗る機体は宙域専用機であり、大気が存在するアーモリーワンを長時間飛行するには向かない仕様となっているため、正体不明の敵に手一杯なザフト軍の替わりに二人はキラたちの救出へ向かう手筈となる。

 

「わかってます、ケーニヒ教官!リニアレール、蓄電キャパシタ、確認!」

 

簡易的なリニアレールの射出機に電磁パルスが蓄電されていく。この港を管理するプラント側からもシンの元へ通信が届いた。

 

《メビウス・ストライカーへ。議長からの命だ。特別に発進を許可する!》

 

「了解!メビウス・ストライカー、シン・アスカ、行きます!!」

 

すでに旧型と揶揄される地球連合軍のモビルアーマー〝メビウス〟。

 

数多の伝説を宿したその名を冠したシンの機体は、リニアレールによって打ち上げられると、スラスターに火を灯してアーモリーワン内部に繋がるトンネルへと突入していくのだった。

 

 

////

 

 

《接触回線で聞こえてるね?データリンク構成するから、そのままに。キラ、お願い》

 

起動した二機のザクウォーリア。片側に乗るキラは、フレイの指示通り、アレックスが乗るザクの肩を通した接触回線を繋げたままザクの機体データを素早く更新させていく。

 

「フィッティング完了、ナブコムリンク、CCD再設定、データフィールド形成、システムオンライン。行けるよ、アスラン」

 

OSの最適化を行ったキラは、そのデータをアレックスーーーもとい、アスランにも送る。大まかな機体の動かし方と、キラとアスランの動きについてこれるデータには更新できたはずだ。

 

「キラ、俺のことはアレックスだと」

 

「こんな状況じゃ仕方ないでしょ?カガリを傷つけるわけにもいかないからね」

 

変なところで頑固な親友にキラは笑みを浮かべながら言葉を告げる。そう言われたアスランは、どこか真剣な表情のままキラの言葉に頷いた。

 

「わかってる。俺の身に代えてでもーーー」

 

「お前!またそういう!!」

 

なにかと自己犠牲で解決しようとするアスランの悪い癖だ。それを隣で聞くカガリが黙ってあるわけがないだろうに…。取っ組み合いを始めそうな勢いでまくし立てるカガリを宥めるように、キラは通信を再び繋いだ。

 

「あーもうはいはい。フレイ、しっかりつかまっておいてね?」

 

そう言って隣に捕まっているフレイを見上げる。彼女はまるで心配してないようにキラへ柔らかく笑みを向けた。

 

「ふふ、守ってくれるんでしょ?」

 

「当然っ!」

 

ハンガーの扉をこじ開けて出た二人。

 

とにかく、今は一刻も早くここから逃げるべきだ。なるべく敵に見つからず、気取られぬようにしなければーー。

 

そう思って開けたハンガーの扉の前には…。

 

「キラ!正面だ!」

 

『ーーーなに?コイツら』

 

ステラのガイアが待ち構えていた。

 

「散開!!」

 

急に現れた二機のザクに向かってステラは躊躇いなくビームを放ったが、キラの一声でアスランと揃って二手に分かれる。

 

ステラがアスランへ狙いを向けようとした瞬間に、キラは機体を前進させて肩に備わるシールドを前へ突き出すように体当たりを打ち込んだ。

 

『くっーーこいつ!!』

 

『なんだ?動ける機体が居たのかよ!』

 

倒れたステラに気がついたのはアウルのアビスだ。胸部と両肩に備わるビーム兵装を展開するが、それを見てすぐにアスランも行動を起こす。

 

「甘い!」

 

最適化されたザクを巧みに動かしながら、スペック上有利なはずのアビスを翻弄していくアスランのザク。

 

『ちぃ、こいつ!!動きが違う!!』

 

「機体の慣熟もできていないが…!ええい!!」

 

シールド内部に備わるビームアックスを引き抜き、動きに対応できていないアビスへ接近戦を仕掛ける。

 

見つかった以上、ここで相手の機動力を奪わなければ、追われて撃ち抜かれてジ・エンドになる可能性が高い。

 

「逃げ回れば、死にはしない!」

 

接近戦を嫌がってビームを放つアウルだが、その尽くを躱していくアスラン。

 

「アスラン!!このぉ!!」

 

ビームで釘付けにしようとしたアビスの元へ飛び込んだキラは、同じくビームアックスを引き抜いてアビスと交差を重ねていく。

 

『ちぃい!なんなんだよ、お前らぁぁあ!!』

 

『やぁあああ!!』

 

復帰したステラのガイアも加わって応戦するが、攻めきれずにいる。いや、守りに徹したら削ぎ落とされそうな息苦しさまで感じた。

 

情報では、式典に向けた配置だからこそ、優秀なパイロットは少ないと言う打算的な策でもあった。

 

しかし、相手ニ機はとんでもなく速い。

 

本当にスペックはこちらが上回っているのか?機体性能すら物ともしない技量の壁が、ステラたちとキラたちの間に横たわっている。

 

その戦いを観測したスティングは、ある話を思い返していた。

 

〝メビウスライダー隊〟

 

かつての戦いで多くの伝説を残した幻の部隊。スティングもそんな与太話などと切り捨てようと考えていた。

 

だが、今の状況がそれを否応なく刺激する。スティングやアウルの中で、これまでにないほどの危機的警鐘が鳴り響いてる。

 

『こいつら、戦い慣れしてる!!』

 

アウルの操るアビスが繰り出すビームを避け、さらにはビームアックスでガイアのビームを切り払うザクを見て、背筋がゾッと凍った。

 

「奴ら、どこの所属なんだ?」

 

三人の動きや戦い方を観察しながら、アスランは思考を張り巡らせる。動きからして地球軍かザラ派かを判別できると思っていたが、相手も相応の手練れと言える。

 

攻めきれないのはアスランやキラも同じだった。それに、こっちはカガリとフレイがいる。無茶な動きができない以上、戦いを長引かせるわけにもいかないーー!!

 

「ちぃい、このままじゃ!!」

 

「ーーアスラン!上だ!」

 

キラが声を上げる。すると、アスランとキラのザクの頭上を一機の戦闘機が飛び去っていった。

 

『なんだ!?』

 

『新しい…機体…!?』

 

スティングたちも驚愕する中、飛び上がった戦闘機は変形し、後続に続いていた影とドッキングしていく。

 

「コアスプレンダー、ドッキング。機体状況、良好」

 

空中で分離機から合体するなど、聞いたことがない。

 

胴体部と脚部がドッキングすると、背面に武装パッケージが組み付けられ、フェイズシフト装甲のように、灰色の機体が色味を帯びていく。

 

「インパルス、レイ・ザ・バレル…敵機を撃退する!!」

 

人型となった新しい機影。その真正面から、アーモリーワン内部に侵入した〝メビウス〟が居た。

 

「キラさん!アスランさん!」

 

コクピットのスロットルを引くシンは、操縦桿を横へ捻り、グッと引き絞る。

 

「くっそぉおお!!やめろぉおお!お前ら!!」

 

メビウスの形を模していた機体は、駆動モーターの音を唸らせ、機体の姿を即座に変えていった。両翼のフレキシブルスラスターから脚部が分離し、胴体部から迫り上がった頭部と腕部が現れ、機体はモビルアーマー形態から、人型へと変形を果たす。

 

『可変機?見たこともないタイプだ…!!』

 

頭上を過ぎ去り、合体した機体も、シンが操る機体も、近接格闘兵器を携えて降下し、アスランとキラのザクの前へと降り立った。

 

「やっと作り上げた礎を再び壊すというのか、貴様たちは!!」

 

「また戦争がしたいのかよ!!アンタたちは!!」

 

MMI-710 エクスカリバー レーザー対艦刀を地面に叩きつけるインパルスの中で、レイ・ザ・バレルは怒りに満ちた顔でアビスを睨みつける。

 

15.78m対艦刀 シュベルトゲベールⅡを携えてガイアの前に降り立ったオーブの誇る技術で作り上げた可変機、〝メビウス・ストライカー〟の中で、シン・アスカも混迷する状況に怒りを抱く。

 

意図せず巡り合った二つの軌跡はーーーまだ見ぬ宇宙へと飛び立っていく。

 

 

 

 

 



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第4話 波乱を生む者

『なんだ、コイツは!?』

 

目の前に降りてきたレイの駆るインパルスと相対したアビスは、戸惑いに似た声を上げる。大剣を模したエクスカリバーを振り回して構えたインパルスは、そのまま風を凪ぐようにアビスへエクスカリバーを振りかざした。

 

間一髪のところで、大剣を躱したが、その風圧と破壊力は凄まじく、エクスカリバーは地面に接すると易々と瓦礫を吹き飛ばしていった。

 

冷や汗を流すアウルを他所に、戦況を見つめるスティングもイレギュラーの存在に困惑している。ステラのガイアを牽制する可変機。

 

『あれも新型か?どういうことだ…あんな機体の情報は…アウル!』

 

機体の配色、反応からしてザフト軍の配備済みのモビルスーツとは考えにくい。そんなスティングの眼下では、インパルスに攻め入られるアビスの姿があった。

 

《レイ!命令は捕獲だぞ!解ってるんだろうな!あれは我が軍の…》

 

「解っています。でも出来るかどうか保証はできません」

 

淡々とコクピットの中で答えたレイは、逃げ腰で距離を取ろうとするアビスへ、腰に懸架していたビームライフルを手に持って構える。

 

不味い…この体勢じゃ…!そうアウルの警鐘がピークに達しようとした瞬間、ガイアともう一機の影が、インパルスとアビスの間を横切った。

 

《このバカ!コロニー内でビームを撃つ奴があるか!?》

 

困惑するガイアを押し出したのはシンの操るメビウス・ストライカーだった。

 

ビームライフルを構えているインパルスを見てギョッと目を剥き、相手取るガイアの退路を誘導して、わざとアビスとの間に割り込んだのだ。

 

「何だと、貴様…!」

 

憤慨するレイの声を、シンはそれを上回る怒声で封殺する。

 

《ここには民間人が住んでるんだぞ!!こんな空気の袋にビームで穴を開けるなんて…なんのための近接戦闘装備だ!!状況を考えろ!!》

 

せり返してきたガイアの攻撃をいなして、片腕に装備したパンツァーアイゼンで殴りつける。可変機ゆえに耐久性は無いが、今はそんなことを言ってる場合では無い。

 

駆動系のエラーを無視しながら、シンはガイアを押し戻してシュベルトゲベールを構える。

 

「シン!よく来てくれた!」

 

後方にいるザクには、案の定アスランとキラが乗り込んでいる。映像回線は使えないが、おそらくカガリたちもコクピットに搭乗しているのだろう。

 

「アスランさん!アスハ議員もアルスターさんも無事ですね!キラさん!くっ…!?」

 

『なんだ、お前ええーー!!』

 

パンツァーアイゼンで殴られたことに咆哮を上げるステラ。ガイアから放たれるビームをアイゼンのシールドで防ぎながら、シンは距離を詰めていく。

 

「こいつ、ザフトの新型…!!なんだってこんな簡単に!敵にっ!」

 

『このおおお!!』

 

前に出たメビウス・ストライカー。それに合わせてガイアもビームサーベルを抜いた。こうも足場が瓦礫だらけだと距離を開けようにも手間がかかる。ならば、相手が懐に飛び込んできた隙を狙う!!

 

取り回しが悪い大剣であるシュベルトゲベールより、ガイアのビームサーベルの方が小回りは早かった。そしてそれはーーーシンが一番よく知っている。

 

「一本調子で来たところで!!」

 

シンはすでに、シュベルトゲベールを〝逆手〟に構えていた。小型ビームサーベルが展開できる柄頭を迫り来るガイアめがけて突き出す。

 

大剣は小回りは悪い。だが、それは刃を使う時だ。柄頭などの部分を逆手にとれば、ビームサーベルよりもこちらの方が小回りが効く!!

 

ステラのモニターに、シュベルトゲベールⅡの柄頭から発生したビームサーベルの光が広がっていきーー。

 

『ステラ!!』

 

その攻撃を、スティングの駆るカオスが横から遮った。レールガンが辺りに着弾し、シュベルトゲベールⅡのビームサーベルは、ガイアの胴体脇を掠めた。冷や汗を流したステラはバックステップで距離を置くと、ガイアをモビルアーマー形態に変形させて、シンからさらに距離を取った。

 

「いぃ、ザフトのモビルスーツってのは犬にも変形するのか!?」

 

さらにモビルアーマーに変形したカオスからの追撃も加わり、シンはガイアを追うのをやめて、アスランやキラを守るために防御の体制へと入る。

 

《こちら、ミネルバの艦長、タリア・グラディスです。貴方方は…オーブ軍の?》

 

その後方では、アスランのザクに新造艦ミネルバから通信が入ってきていた。相手はミネルバの艦長、タリア・グラディスだ。

 

「オーブ軍所属のアレックス・ディノです。グラディス艦長」

 

カガリを横に乗せたまま応答するアスラン。そんなアスランとキラのザクには一切の攻撃が及んでいない。シンがカオスとガイアを相手取って大立ち回りを演じているのだ。

 

ああなったらシンは強い。彼は守りに関してはすでにアスランやキラを上回る実力を有している。

 

あの〝流星〟が手ずから育てた逸材だ。まだ飛行訓練しかしていなかったとき、地球軍のモビルスーツへ軍用機で体当たりを行い、無傷で生還している記録も持つほどのパイロットだ。

 

故に、アスランたちも安心してグラディスからの通信に応答できていた。

 

《見て分かる通り、何者かに新型機が奪取されました。とにかく、貴方方は無事に離脱することを優先に。レイ、わかってるわね?》

 

「はい、そのつもりです」

 

「そんなこと言ってる場合でもないけどな!!こいつ!!」

 

いくら強いとはいえ、スペックでは上回るザフトの新型2機を相手取って戦っているのだ。淡々と答えるレイとは違って、シンは必死そのものだ。

 

《強奪部隊ならば外に母艦が居るはずです。パトロール艦、そちらは?》

 

すでにアーモリーワン外部に展開したパトロール艦からの応答を待つ。だが、それは事態を更なる悪化へと導く通信となった。

 

 

////

 

 

アーモリーワン外部中域。

 

ミラージュコロイドを展開する特殊艦「ガーティ・ルー」のブリッジでは、事が始まったアーモリーワンからの通信により、その進路を合流予定地点である場所に向けていた。

 

「作戦は開始されたな?ならば、こちらも進めようか。艦長?」

 

マスクを被った男性は、悠々と座席に座りながら隣にいる艦長、イアン・リーへ指示を仰ぐ。彼はわかっているように、彼の下で働く士官たちへ命令を下した。

 

「ゴットフリート1番2番起動。ミサイル発射管、1番から8番、コリントス装填」

 

「イザワ機、ハラダ機、カタパルトへ」

 

「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と同時にミラージュコロイドを解除。機関最大!」

 

姿を覆い隠していたベールが外れ、牙を剥き出した船はまだ事態を把握できていないパトロール艦へと突き進んでいく。その光景を、イアンたちは待ち望んでいた。その顔には愉悦に似た笑みがある。

 

マスクを被った男性は、頬杖を突きながら小さく微笑んだ。

 

「ーーさて、ついに幕間は終わり、新たな物語が始まる、か。相手はどう出てくるかな?」

 

「ゴットフリート、てぇ!」

 

艦長の怒声に似た声により、艦主砲から極光の光が打ち出される。それは狙いを逸れずに、こちらに気づいていないパトロール艦のブリッジへ走った。

 

『何!?敵艦だと!?』

 

それがパトロール艦「ハーセル」艦長の最期の言葉となった。ゴットフリートに打ち抜かれたブリッジは赤く焼けただれて、火を拭いて爆散する。

 

『ハーセル被弾!ブリッジが!!』

 

『ミサイル接近、数18!!』

 

『不明艦捕捉!数1、オレンジ25、マーク8ブラボー、距離2300!』

 

『そんな位置に!?ミラージュコロイドか…!!』

 

『地球軍なのか!?』

 

相手は手に取るように混乱している。全て作戦通りだ。ザフトなど、すでに恐るるに足りない。イアンの怪しい笑みが、戦況の波乱を呼んでいく。

 

『熱紋ライブラリ照合、該当艦なし!』

 

『迎撃!ナスカ級を呼び出せ!モビルスーツもだ!』

 

敵もまた、すぐに動き出した。港には新造艦の進水式のために集まった艦艇がある。その内の二隻が、こちらに向かって進んできた。

 

「ナスカ級接近、距離1900!」

 

よし、素晴らしいーー予定通りだ。マスクを被った男性は、無重力の中に浮かぶと、そのままシートを蹴ってブリッジの外へと向かっていく。振り向き様に、艦長へ指示を投げた。

 

「よーし、モビルスーツ発進後回頭20、主砲照準インディゴ、ナスカ級。あちらの砲に当たるなよ?私も出るーーー〝メビウス〟を用意しろ」

 

マスクの下で彼は笑う。

 

そうだとも。

 

私は待ったのだ。この瞬間のためだけに。

 

故に証明して見せようーーー私が〝流星〟であるということを。

 

 

 

 

 



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第5話 宇宙への穴

 

 

アーモリーワンが揺れている。

 

ザクから降りて、ザフト軍の軍用車に乗ったリークとトールに合流したアスランたちは、地響きのような揺れにタタラを踏みながらも、なんとか耐える。

 

遠方に見えるモビルスーツ同士の戦いの揺れだけでは無い。まるでコロニー全体が揺れているような感覚だ。

 

「この揺れは…アスラン!」

 

フレイを支えながら、キラが声をかけてくる。擬似的な空の向こう側にある外縁部との区切りを示す防護ガラスから、薄らと閃光が瞬く。あれは明らかに星の光などでは無い。

 

「外部からの攻撃?敵艦が直ぐ近くにいるのか!?」

 

『こいつーッ!』

 

アスランたちがリークたちの車に乗り込んでいるのをモニターで見つめながら、シンは迫ってくるガイアの攻撃を受け流す。大剣であるシュベルトゲベールの持ち方を巧みに変えながら、シンの操るメビウス・ストライカーは、超近距離から中距離の流れを制しており、ガイアは攻めきれずにあしらわれていた。

 

その後方では、レイのインパルスがカオスとの戦いに苦戦を強いられている。モビルアーマーへと変形するカオスのヒットアンドアウェイ戦術、そしてモビルアーマー形態ならではのトリッキーな戦い方に、攻め手を決められずにいる。

 

「くっ…やはり実戦では…!」

 

エクスカリバーを振り回して距離を取ろうとするが、それを逆手に取ったスティングは、脚部からビームクローを展開して、隙ができたインパルスへ迫る。

 

その真横。ガイアの脚部をシュベルトゲベールの峰で払い飛ばして転倒させたシンは、パンツァーアイゼンに移植されたマイダスメッサーを引き抜き、インパルスへ迫るカオスへと投擲した。

 

ビームの円盤をシールドでなんとか防ぐが、進路は完全に変えられた。スティングは舌打ちをして、再び空へと逃げていく。

 

「下がれよザフトの新型!そんな動きじゃ、墜としてくださいって言ってるようなもんだぞ!?」

 

「何を…!!」

 

戻ってきたマイダスメッサーを格納しながら、シンはインパルスの前に立った。

 

インパルスの動きは明らかに近接戦に不慣れな者の動きだ。ビームライフルを使わない点は褒められるが、敵の前で無闇にあんな大剣を振るえば、隙ができて当たり前だ。

 

それに、ビームは使わないとは言え、エクスカリバーで吹き飛ばした瓦礫による被害もある。

 

「そうやって周りに気を配れないから戦いはーーそこぉっ!!」

 

インパルスのパイロットへ言葉を投げながら、シンは背後からビームランスを構えて近づいてきたアビスへ、バットのように振りかざしたシュベルトゲベールを叩きつけた。

 

『こいつ!背中に目がついてるのか!?』

 

運良くビーム部分では無いところで受け止めたアウルだが、シンの目的は別にある。

 

叩きつけた大剣を返してアビスとの距離を詰めると、そのままアビスとすれ違いざまに頭部へアイゼンを装備した拳を叩き込んだ。

 

『この可変機、近接兵器でよく…!!』

 

ちぃ、この程度では失神しないか…!!駆動部から火花が散るのを確認したシンは、相手のモビルスーツの図太さに嫌気が差していた。

 

わざわざ〝斬らない〟ように気をつけていると言うのに、向こうは撃ち放題だ。

 

「みんなは後退を!ベルモンド教官、ケーニヒ教官!議員やアルスター事務次官を頼みます!」

 

「ごめん、シン!」

 

「シン!あまり無理はするなよ!」

 

軍用車にアスランたちを乗せたリークたちは、無線機越しにシンへ言葉をかける。もとより無茶はするつもりはない。片腕がうまく動かなくなりつつも、まだ大剣は持てている。

 

シンは破損した片腕を庇うように大剣を構えて、グッと体に力を込めた。

 

「了解!!」

 

アビスはカオスと合流し、大剣を隙なく構えているメビウス・ストライカーを前にしている。現れた2機の不明機。一機はこちらと同じザフト製だろうが、目の前にいるこの機体は明らかに毛色が違う上に、パイロットが手強いと来ている。

 

『スティング!さっきの!』

 

アウルが接触回線で、思考を巡らせるスティングへ声をかけた。

 

『分かってる!お迎えの時間だろ?』

 

本来なら、敵基地を破壊してアーモリーワンから脱出、外にいるガーティ・ルーと合流してから、次の段階に移行する手筈だった。

 

『遅れてる。バス行っちゃうぜ?』

 

『分かってると言ったろうが!このぉ!!』

 

苛立ちを顕にするスティング。

 

現れたイレギュラーのせいで、計画は大きな変更を余儀なくされていた。あの可変機はこちらが逃げられないように、一機は必ず手中に収めた上で戦いを組み立てているのだ。

 

『大体あれなんだよ!新型は3機のはずだろ!可変機なんて!!』

 

『俺が知るか!』

 

『どうすんの?あんなの予定にないぜ!?』

 

面白くない。アウルもスティングと同じ思いだった。こちらとしても、この日のために訓練や〝処置〟を受けてきたと言うのに、こうもあしらわれるなんて。シンの強さは、三人の根幹にあるプライドを激しく揺さぶり、刺激している。

 

今も、襲いくるステラのガイアを相手取って容易く逃げ、打ち、叩き、そして足蹴にしている。

 

『けど放ってはおけないだろ!追撃されても面倒だ!!』

 

『ハッ!あのふざけた機体の首でも土産にしようっての?』

 

ステラのガイアをビームを遮断したシュベルトゲベールでなぎ倒したシンのメビウス・ストライカーに、アウルが急襲する。

 

『カッコ悪いってんじゃねえ?そういうの!』

 

インパルスのバルカンが飛んでくるが、そんなもの足止めにもならない。ビームは無駄だ。幾度と撃った中で、相手の危機察知能力は把握している。

 

ならばと、アウルはビームランスを起動させて、機体前方へと突き出した。リーチに分があるビームランスなら、こちらの攻撃を当てつつも、向こうの攻撃範囲に入ることはない。

 

「動きはいい…けれど!!」

 

その突撃を、シンは機体を屈めて最小限の動きでビームランスを掻い潜る。ビームの合間を縫うように避けるのは、〝流星〟との模擬戦で幾度となく体感しているシンにとって、アウルの放ったビームランスの突きなど大した障害にはならない。

 

『んなっ、下!?』

 

「攻めるだけじゃ崩せないならッ!!」

 

拳がダメなら、とシンは破損した片腕を前に出して迫ったアビスへ逆に突撃を敢行する。自身の前身の力と、メビウス・ストライカーの体当たり。

 

シンは衝撃時に踏ん張っていたが、意表を突かれたアビスは体当たりを受け、アウルはコクピットの中でシートベルトとシートの間で数回バンドするような衝撃に襲われた。

 

『うっ!!』

 

『アウル!ちぃ…このパイロット…!!』

 

なす術なく倒れたアビス。いくら〝措置〟されているとは言え、モビルスーツの体重を乗せた体当たりをーーそれもこちらも前進している時に受けてしまっては、ひとたまりもない。

 

カオスに備わる機動兵装ポッドを射出したスティングは、アビスに迫るメビウスを追い払うために、ビーム突撃砲と、ファイヤーフライ誘導ミサイルを吐き出した。

 

「こいつ…!コロニー内だぞ!そんなものを使うなんて…!!」

 

背後にはまだ避難しているザフトの非武装員がいる。動きが鈍い片腕に備わるパンツァーアイゼンを無理やり動かし、ビームを防ぎながら、ミサイルの雨にシンは耐える。

 

「お前たち!!何を考えてる!!やめろぉおお!!」

 

爆煙の中で、シンは咆哮する。明らかなダメージを負うメビウスだが、シンは逃げなかった。後ろにいる非武装員が、過去の自分と重なる。

 

自分もこうやって、助けられたのだ。

 

だったら、それをやらずにしてーーー何があの人の弟子だ!!

 

咆哮したシンは、スラスターを吹かし、空へと逃げる三機のモビルスーツに向かっていく。

 

 

 

////

 

 

カガリたちがたどり着いたアーモリーワンの行政府は酷い有り様だった。下士官たちが慌てた様子で行き来しているが、一部の建物がビームの直撃を受けて死傷者まで出ている。

 

行政府としての機能は麻痺状態となっていた。

 

「誰がここの指揮を執ってる!あの3機はどうした?状況を説明してくれ!」

 

カガリたちが施設に入ると、先に到着していたデュランダルが状況の説明を要求していた。しかし、通信インフラも寸断されている状態であり、外縁部の状態も何ら応答がない。

 

パトロール艦も敵の母艦の発見情報を知らせてから音信不通だ。

 

「議長!ここはまだ危険です!有毒ガスも発生しています。シェルターへお入り下さい!」

 

「そんなことが出来るか!事態すらまだよく解らぬというのに!!」

 

港口では、機能停止したターミナルに閉じ込められている人たちもいる。今シェルターに入ってしまえば、なんら情報を得られぬまま事態が治るのを待つ身となってしまう。それでは、なんら一般市民と大差はない。

 

デュランダルは議長としての任を全うしようとしている。それを察した士官は、通信室へ連絡を取った。

 

「ーーならばせめてミネルバへ!!」

 

 

////

 

 

「その三機を行かせるわけには…!!」

 

アーモリーワン中心部へと飛翔する三機を追って、インパルスとメビウスもコロニー外縁部へと向かっていた。

 

『こいつ!何故落ちない!?』

 

いや、シンのメビウスはステラのガイアに追い回されている状態だった。シンとしては、敵が逃げてくれるならそれで良いことだった。

 

こちらの目標はカガリやフレイ、キラたちを無事に逃すこと。三機の行く末など、オーブにとっては関わりがないことだ。

 

「銃口…!!」

 

しかし、ステラのガイアがそれを許さない。数発撃ったビームの閃光の一発はシンが食い止めたものの、他はアーモリーワンの地上へと飛んでいき、遠くで爆発が起こった。

 

「何でこんなことが平然とできる!!お前たちはーー!!」

 

民間人がいるはずのコロニー。さっきまで街は人々の賑わいの中にあったというのに、ここはすでに地獄と化している。人道的にもこれ以上撃たせないために、シンはガイアへと接敵してビームを阻止する戦いを繰り広げる。

 

『スティング、きりがない!こいつだってパワーが…!!』

 

『このまま離脱するぞ!ステラ、そいつを振り切れるか!!』

 

『すぐに沈める!こんな…私は…私はっ!』

 

片腕が使い物にならなくなっているはずのメビウス相手に、ステラは攻めきれずにいる。ビームサーベルで切り裂いても、敵は紙一重でそれを避けて、頭部のイーゲルシュテルンでガイアにダメージを与えていく。

 

『離脱だ!やめろステラ!』

 

スティングの制止の声など、もはや関係ない。ここまで小馬鹿にされたのだ。私は、私はーーそんなことをされるためにーー!!

 

『私がこんなぁーッ!!』

 

『ステラ!』

 

『じゃあお前はここで〝死ね〟よ!!』

 

慟哭にも似たステラの叫びに、アウルの声がこだまする。途端、ステラの衝動に駆られた動きが止まった。

 

『アウル!』

 

『〝ネオ〟には僕が言っといてやる。さよならってな!』

 

スティングの諫める声を聞かずに、アウルは続けて彼女にとっての〝引き金〟につながる言葉でトドメを刺した。ステラは頬に指を走らせて、瞳を揺らした。

 

『…死ぬ?』

 

それはステラ自身にとってのトリガーだった。死というイメージ。その言葉で甦るフラッシュバックが脳内を駆け抜けて、ステラの表情を一変させた。

 

『あたし…そんな…あぁぁーーっ!嫌ああああーー!!!』

 

シンのメビウスを前にしながら、彼女は暴れるように機体を挙動させる。警戒したシンが機体を下がらせると、彼女は逃げるようにアウルたちの元へと飛び上がっていく。

 

それはシンから逃げる動きではない。まるで、見えない巨大な何かから逃げるようなーーそんな感覚をシンは覚えた。

 

『アウル!お前…』

 

『止まんないじゃん、しょうがないだろう?』

 

『黙れバカ!余計なことを!!』

 

スティングの言葉を無視して、アウルは見えてきた外縁部に胸部と肩に備わるビーム兵器の一斉射を浴びせる。

 

『結果オーライだろ?とにかく撤退だよ』

 

それによって出来た大穴に、アウルが先行して入り、スティングは力を失ったステラのガイアを掴んでそれに続いた。

 

「奴ら、宇宙に…」

 

インパルスに乗るレイが、外縁部から宇宙へと逃げた機体を見つめながら目を細める。このまま逃してなるものか。

 

「追うぞ、貴様もーー」

 

「こちらは撤退する」

 

通信で帰ってきた言葉に、レイは目を剥いた。撤退する?敵を前にして?凛とした声を理解できなかったレイに、シンは改めてインパルスのパイロットへ〝自分の立ち位置〟を伝えた。

 

「俺が出たのは、あくまでオーブの要人の救助が目的だからな。あの新型…あとはザフトの問題だろ?」

 

そう、シンはオーブのパイロット…強いて言うなら、アズラエルが雇った護衛の民間PMCの社員だ。腕の一本くらいなら切り落とせた相手だが、ザフトの新型をオーブ製の機体が撃ったら、のちの国際問題に成りかねない。

 

出撃前の簡易ブリーフィングで、師匠であるラリーやハリーから注意を受けていたため、シンは手心を加えて敵を傷つけることなく、キラやアスランたちを守ってみせた。

 

敵が空へと逃げ、キラたちの身の安全が確保された段階で、シンとしてのミッションは完了していたのだ。

 

「まだ民間人の避難も済んで無いんだろ?まずはそっちを優先するべきだと俺は思うぜ?」

 

ガイアの猛追に付き合わされたシンは、疲れたように肩を回して機体を反転させる。

 

「ーーミネルバへ。インパルスは敵を追撃する」

 

後方モニターには、空いた穴から外へ向かって飛んでいくインパルスの姿が見える。シンは気にしない様子で機体を飛ばした。

 

片腕が破損した為かモビルアーマー形態へ変形できないことを知ったシンは、ハリー技師からの怒りを予想しながら深く肩を落として帰路へと着くのだった。

 

 

 

 

 



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第6話 一時の帰還

 

 

 

「ナスカ級撃沈!左舷後方よりゲイツ、新たに3!」

 

「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%、10秒。1番から4番、スレッジハマー装填!大佐が出ている!そっちは任せればいい!」

 

ガーティ・ルーのブリッジは、急襲と迎撃に上がってきたザフト軍の対応に追われていた。すでに二隻のナスカ級は撃退したものの、敵の基地を目の前にして単騎で戦っているようなものだ。

 

分の悪い戦いに変わりはない。

 

《艦長、彼等は?》

 

ガーティ・ルーへ通信が入る。

 

先ほど〝メビウス〟で出撃した大佐の声だ。彼は手早く機体を反転させると、撃つことしか能がないゲイツを次々とビーム砲で穿っていく。

 

その動きは鮮やかであり、ザフト艦の対空攻撃もひらりひらりと躱しては、ブリッジや機関部に的確にダメージを与えていく。

 

「まだですーー失敗ですかね?港を潰したといってもあれは軍事工廠です。長引けばこっちが保ちません」

 

艦長の言葉に、メビウスを駆るパイロット、『ネオ・ロアノーク』は少し言葉を選んでから、艦長に問いかけなおした。

 

《解ってる。だが失敗は許されない。これが不発に終われば、我々はまた〝待つ〟ことになるぞ?それでいいのか?艦長》

 

すでに自分たちは、あの屈辱的な惨敗から2年も待ったのだ。苦渋を舐め、憎きコーディネーターから世界を解放するため、この日を待った。ここで、彼らを回収出来なかったら、あの日々が全て水泡に帰すことになる。

 

ネオの言葉に、艦長も分かっているようにうなずく。

 

「ーーまた穴蔵にこもって好機を待つのは、いささか我慢致しかねますな」

 

《だろう?大丈夫さ。俺の勘がそう言ってる。艦長、船を頼むぞ》

 

それだけ伝えると、ネオのメビウスは機体を翻して再び飛翔する。自分の勘が告げているのだ。ここに留まれば、自分が二年間ーー待ち続けた相手に出会えると。

 

 

////

 

 

アーモリーワンの受けた被害は甚大だった。

 

「駄目です!司令部応答ありません!」

 

「工廠内ガス発生。エスパスからロナウル地区までレベル4の退避勧告発令!」

 

カオス、アビス、ガイアによってもたらされた被害は深刻であり、ビームの流れ弾に当たった市街地では死傷者も出ており、破壊された通信インフラも使い物にならず、コロニー内では空気漏れと、除去装置の破損により、有毒性のガスが発生していた。

 

「艦長…これまずいですよね?もしこのまま逃げられでもしたら…」

 

弱腰の口調で呟くミネルバの副長、アーサー・トラインの言葉に、艦長であるタリア・グラディスは疲れたように額を指で支えながらモニターへ視線を走らせた。

 

「そんなことされてたまるもんですか。それにしても、どこの部隊かしらね。こんな大胆な作戦…」

 

「それはわからん。だが、奴らは止めねばならんだろう」

 

タリアの呟きに言葉を返したのは、ブリッジの扉から現れた人物だった。

 

特徴的な長髪と、最高評議会長のみが許される制服に身を包んだ男性、ギルバート・デュランダルが護衛を連れてブリッジに入ってくる。

 

「議長!?」

 

驚いているブリッジのクルーや、タリアを見つめながら、デュランダルは毅然とした声を上げた。

 

「状況は、どうなっている?」

 

司令部との通信が途切れ、外縁部のパトロール隊とも音信が途切れた今、現状を把握し、それに対応できる能力を待つのは、このミネルバだけだ。

 

その時を待って、ミネルバの実戦投入がはじまろうとしていたーー。

 

 

////

 

 

「隊長!ダメですって!」

 

「うるさいんだよ!部下が一人で行っちまったんだ!俺が追わなくて誰が追うんだ!!」

 

そのミネルバのモビルスーツハンガーでは、ボロボロになったオレンジ色のザクの前で、作業員であるヴィーノと、パイロットであるハイネが取っ組み合いをしていた。

 

ハイネは、このミネルバのモビルスーツ隊の隊長として明日から任に就く予定ではあったが、インパルスのパイロットであるレイが、先行して出て行った為、彼も出撃するつもりでいたのだがーー。

 

「しかし、隊長の機体だって…」

 

肝心のハイネ専用のザクは瓦礫に押し出されてボロボロの有り様であった。なんとかミネルバに搬入したものの、まだ点検すらできていない状態と来ている。

 

「中身が無事なら飛ばせるさ!さっさと発進準備をするんだよ!!」

 

「だから無茶ですって!!」

 

そう言ってはザクに乗り込もうとするハイネと、作業員であるヴィーノが攻防を行っていたのだ。そんな彼らの傍では、議長が乗ってきた輸送機と共に、一機のモビルスーツと一台の軍用車がハンガーへと入ってきていた。

 

「あれは…見たことがない機体だ。どこのだ?」

 

取っ組み合いをしていたハイネが、見たことがない機体を目にしてヴィーノに問いかける。すると、隣で物資の運搬をしていたヨウランが、ハイネの質問に答えた。

 

「オーブらしいですよ。ほら」

 

そう指さす先では、軍用車から降りてくるオーブの議員や護衛の姿が見えた。

 

 

////

 

 

「全く、無茶をしますよね。相変わらず」

 

軍用車の運転席から降りたトールが、呆れた様子でカガリを見つめる。煤まみれになった議員の正装を手で払いながら、カガリは不満げにトールに言葉を返した。

 

「うるさいなぁ、巻き込まれたって何度も言ってるだろ?」

 

「ヘリオポリスの時といい…カガリちゃんは一度、日本の神社で御払いでも受けた方がいいんじゃない?」

 

「私だって好き好んでなぁ!!」

 

リークの意地悪そうな言葉に、カガリも負けじと言い返そうと声を荒げた時、議長の指示でカガリたちと共にミネルバに避難し、屈んだ姿勢を取るメビウス・ストライカーからシンがスルリと降りてくる。

 

「シン!無事だったか!」

 

新型の一機にしつこく絡まれていたのは見えていた。心配していたアスランやキラが、ヘルメットを脱いだシンの元へ駆け寄る。すると、彼は何ともない顔をして全員へ敬礼を打った。

 

「メビウスライダー隊、ライトニング4、シン・アスカ。帰投しました!」

 

「さすがだな、シン。よくやってくれた」

 

アスランやキラが微笑みながらシンの肩に手を置くと、彼は照れたように頬を指でかいた。

 

「キラさんやアスラーーごほん、アレックスさんの送ってくれた事前データがあったからですよ。俺一人じゃ、ああはできませんでした」

 

「そう言ってちゃんとやることやれる奴になってくれて、お姉ちゃんは嬉しいぞぉ!このやろ!」

 

アスランたちの合間を通り抜けてきたカガリも嬉しそうにシンと肩を組んで、乱暴にその頭を撫でた。

 

「ああもう、まだ公務中だからやめてくれって、カガリ姉さん!!」

 

そう言いながらも満更でもない様子でカガリからの激励のなでなでを受け入れるシン。

 

カガリとシンは、彼が民間PMCに入隊してからの仲であり、キラやアスラン共々、公私ともに付き合いを続けてきた。アスカ一家とのバーベキューや温泉慰安旅行などでも共に過ごしており、カガリからしたら弟らしい年下のようだった。

 

「私の弟もこう言う風な可愛げがあればよかったんだけどなぁ?」

 

弟っぽい仕草をするシンを見てから、カガリは恨めしそうにキラを見つめる。そんなキラはカガリに対して困った笑みーーーーを浮かべずに、対抗するような目でカガリと対峙した。

 

「まだ言ってる。僕が兄さんだからね?」

 

「何度言わせるつもりだ!私が姉だ!あ・ね!!」

 

先の大戦後、延々と終わらない兄妹喧嘩と言えるか…。カガリが姉風を吹かすと、キラが決まって自分の方が兄だと言い張るのだ。最初は皆がハラハラした様子で見守っていたが…。

 

「また始まったよ」

 

「あーなると長いからなぁ、あいつら」

 

今ではアスランもトールも呆れた様子であり、他のメンバーもいつものことかと気にしなくなっていた。

 

「あーー!!」

 

そんな穏やかな再会の中で、いつのまにかメビウス・ストライカーのコクピットに潜り込んでいたフレイが、悲鳴のような声を上げる。

 

何事かとザフトの作業員たちも反応する中、シンの表情がどんどん青ざめていっていた。スルリとフレイがコクピットから降りてくると、師から受け継いだ般若の形相でシンの元へと歩み寄ってくる。

 

前にいたカガリたちはもちろん、ザフトの作業員たちも無言の圧力にサッと道を開ける。

 

「こらぁ!シン!あんたまた無茶したわね!?」

 

「げぇ!!フレイさん!!俺は今回はーー」

 

そう言い返そうとするシンの眼前に、フレイは抽出した端末のデータをグイッと近づける。その端末の向こうでは、フレイがにこやかに笑みを浮かべていた。

 

「この数値データを見ても、同じことが言えるのかなぁ?」

 

目は笑っていなかった。

 

「あ…あはは…はは」

 

「正座」

 

「ーーーっス」

 

乾いた笑みを浮かべるシンに無情の判決が言い渡されて、シンは抵抗せずにそっと硬いモビルスーツハンガーに膝を落とした。

 

民間PMCの規則第一。

モビルスーツは丁寧に扱うこと。

 

いくら戦場で功績を残そうとも、愛機が動かなければ何もできない。故にフレイや、ハリーはキツく怒るーーらしい。ちなみにシンの正座回数は、もう数えることを辞めたレベルのようだ。

 

「どこに行ってもフレイはフレイだな」

 

「うん」

 

その様子を眺めるキラとアスランに、パイロットスーツ姿のハイネが歩み寄ってきた。

 

「あのさぁ、あんた達」

 

その目には明らかな疑いの眼差しがある。語りかけてきたハイネに警戒の色を返しながら、アスランが彼の対応に出た。

 

「そちらさん、確かオーブの人間だよね?なんだってオーブの奴らがここに?」

 

その質問はごもっともである。議長の指示とはいえ、ミネルバ側にこちらの情報が伝わってるとは考えづらい。そうアスランこと、アレックスに戻った彼が返事をしようとした時ーー。

 

ミネルバ艦内に警報が鳴り響くのだった。

 

 

 

 

 



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第7話 アーモリーワンの戦い 1

感想や誤字指摘ありがとうございます!

destinyの楽曲て良いですよね




 

単身、アーモリーワンのコロニー内部から離脱したレイは、逃げながらもこちらへ的確に迎撃してくる三機の新型機の動きを見つめながら、グッと歯を食いしばった。

 

「なんて奴等だ、奪った機体でこうまで…!!」

 

たしかに、こちらもインパルスに乗り換えてから充分な慣熟訓練を行えなかった点はあるが、それでも相手は新型であるはずのモビルスーツを手足のように動かしているのだ。明らかに横たわる技量の差に、レイは苛立ちを隠せなかった。

 

「敵艦にたどり着かれる前に何としても捕らえる!ミネルバ!フォースシルエットを!」

 

ソードシルエット。

 

本来ならば汎用的なモビルスーツ戦を得意とするレイにとって、ソードシルエットは苦手な距離の専用機という相性の悪さがあった。それに、このまま追うにしてもインパルスのエネルギーも心許ないものになってくるだろう。

 

レイからの通信を受けたミネルバだが、副長であるアーサーでは判断が付かなかった。

 

なんと言っても、インパルスはあの三機よりも機密性の高い新型機だ。それも奪われた相手の前で新型装備を扱うとなると…。

 

「艦長!」

 

「許可します!射出して!もう機密も何もありませんでしょ?」

 

そう確認するようにタリアが議長へ問いかけると、デュランダルは何も言わずとも頷いて答える。こうなってしまって後手に回ることになれば、不利になるのはこちらになる。

 

デュランダルの許しを得て、ミネルバではフォースシルエットの発進準備が始まる。

 

『訳わかんねぇ可変機は居なくなったけど、いい加減!』

 

アウルの駆るアビスが、振り向きざまにインパルスへビームの一斉射を放つが、レイはその機敏な動きでビームを難なく避ける。

 

すでに近距離武装は背中へ格納しており、手にはマウントしていたシールドとビームライフルが握られていた。

 

「宇宙ならビームライフルは気にしなくて済む…!!」

 

レイは、あのオーブ軍機から言われた言葉に苛立ちを覚えながらも、どこか理解して納得している自分に戸惑っていた。

 

戦うことでしか、自身の価値を見出せない自分が何故?そんな答えのない問いを思考から追いやりながら、レイは目の前をいく三機へビームライフルを構えた。

 

 

////

 

 

ミネルバのハンガーも再び慌ただしさに包まれていた。中央のプラットホームが稼働を始め、武装コンテナからフォースシルエットが姿を表す。

 

《フォースシルエット射出シークエンスを開始。シルエットフライヤーをプラットホームにセットします。中央カタパルトオンライン。非常要員は待機して下さい》

 

「隊長!!」

 

「ええい!とりあえず退避だ!その機体もこっちに退けろ!」

 

オーブ側であるカガリたちに問いかけている最中だと言うのに!

 

そんな苛立ちのこもった声でハイネは渋々と指示を出していく。作業員たちもまだ手がついていないモビルスーツや武装の配置作業に戻っていく。

 

「シン!」

 

「わかってます!!」

 

プラットホームの稼働の邪魔にはならないだろうが、シンも屈んで置いてあるメビウス・ストライカーへ乗り込み、移動をさせていく。

 

メビウス・ストライカーの足元。シンが歩行操作をするたびに揺れる脇では、キラがリークへ言葉を投げていた。

 

「ベルモンドさん!!ラリーさんは!?」

 

こんな状況だ。シンが先行して出れたのは、自身の専用機と同じメビウス・ストライカーがあったからだろうが、弟子であり部下であるシンを一人で行かせるのは考えづらい。

 

キラの予想が的中したように、リークは小さく笑みを浮かべながら、その問いに答えた。

 

「彼なら、先に出てるよ」

 

 

////

 

 

『やめてぇ!こないで!!死ぬのは…いやぁあああ!!』

 

まだ錯乱状態から立ち戻れていないステラが、がむしゃらにビームライフルを放つ。その尽くはレイのインパルスの脇を通り過ぎていくものの、逆に進路が読みにくくなることで、レイは攻めきれずにあぐねいていた。

 

「ええい!無茶苦茶な動きを!」

 

まずは錯乱らしき動きをする機体を仕留める!そう言わんばかりに、レイはステラが放つ閃光を潜り抜けながら動きが鈍いガイアへと距離を詰めていく。

 

『やらせるかよ!』

 

そんなレイの行く先を、スティングのカオスが遮った。機動兵装ポッドを射出し、多方向からのオールレンジ攻撃。カオス本体からもビームが放たれ、レイは苦い顔をしながら詰めた距離を離していくしかない。

 

「く、やはり一機では…!!」

 

三機相手に立ち回りを考えていた時、レイの頭上からビームライフルの閃光が降り注いできた。三機は目の前にいる。じゃあこの閃光は…?

 

『なんだ!?』

 

『あの機体…!!』

 

頭上を見上げると、そこには先ほどレイやスティングたちが目撃したモビルアーマー形態のメビウス・ストライカーが居た。それは出力を上げると、レイとスティングたちの間を通り抜けて、少し上昇したところでモビルスーツ形態へと可変する。

 

「やはり宙域に来たか!よりにもよって…出てくるか!!お前達!!」

 

『また可変機かよ!さっきのやつか!?』

 

変形と同時に放たれた牽制のビームの閃光を躱しながら、アウルは再び現れたオーブの機体に対して怒りをあらわにする。そんな感情的なアウルとは逆に、スティングは冷静に敵を分析していた。

 

機体は同じものだろうが、カラーリングや頭部の形、そして武装も違う。

 

『違う!別のやつだ!!』

 

そう判断を下したスティングへ、現れたメビウス・ストライカーは、腕部のグレネードランチャーを放ちながら三機の動きを見極めていく。

 

「あれはオーブの…」

 

「そこのモビルスーツ!!」

 

付いてこまいと思っていたオーブ軍機が現れたことに呆気に取られていたレイへ、件のモビルスーツから通信が入った。

 

「近接戦闘は苦手そうだな?苦しいなら下がれ。モビルスーツ単機では分が悪いぞ!」

 

青い胴体と赤いくびれ。特徴的なトリコロールカラーの機体は3機から放たれるビームの猛攻をひらりひらりと避けながら、レイの駆るインパルスの動きを見つめている。

 

ソードシルエットの代名詞であるエクスカリバーを彼は抜いていない。ビームライフルとシールドで応戦に徹するレイに、忠告するようにオーブの可変機は言葉を掛けたが、レイは特に気にすることなく簡潔に答えを返す。

 

「構わないで欲しい。こちらも準備は整っている」

 

アーモリーワンから飛来したそれがレイの元へ届いたのは、その言葉と同時だった。

 

インパルスはソードシルエットをパージすると、一瞬だけ灰色の無通電状態の機体を晒したのち、フォースシルエットとドッキングを果たす。

 

『あいつ…装備を換装する!?けど

だからってぇッ!』

 

「やはり開発されていたか、ザフトの新型…そこっ!!」

 

自機と同じトリコロールカラーとなったインパルスを一瞥すると、オーブ機はビームサーベルを引き抜き、カオスが放ったビームを切り払って飛散させた。

 

その隙のない動きにスティングは目を見開く。

 

いい位置へビームを〝刺した〟はずなのに、敵は何事もない様にその閃光を容易く切り裂いたのだ。その動きだけであのオーブ軍機に乗るパイロットが、先ほどまで切り結んでいたパイロットと同等か、あるいはそれ以上か…!!

 

『やめて!あっち行って!!』

 

『ちぃい!!』

 

まだまともに連携を取れないステラを守ることになるため、こちらから下手に攻められない。

 

スティングはグッと歯を食いしばって迫るオーブ軍機と、インパルスに向き合った。

 

(こいつらの親玉は誰だ!?それを見極めるまでは…!!)

 

本来はキラが駆るはずのストライクと同じ配色をした可変モビルスーツ、メビウス・ストライカーを機敏に動かしながら、オーブ軍のノーマルスーツを身につけたラリー・レイレナードは、〝ムウ・ラ・フラガ〟ではない、〝ネオ・ロアノーク〟の姿を追っていた。

 

 

 

 



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第8話 アーモリーワンの戦い 2

 

 

 

 

「オーブ軍のモビルアーマーが合流!!艦長!!」

 

まったくもって予想外の展開に、タリアは深く息を吐く。ザフト…いや、プラントの領域であるアーモリーワンでの、オーブ軍の介入。事態で言えば前代未聞だ。

 

オーブとの密談は事前に議長から聞かされていたが、それに合わせる様に起こった新型モビルスーツの奪取。

 

そしてオーブが極秘に持ち込んでいた新型可変モビルスーツでの迎撃行動。

 

緊急事態とは言え、外交的には致命的な国際問題に発展することになる。タリアは隣にいるデュランダルを見たが、彼は別段青ざめるわけも無様に狼狽ることもない。むしろ、アーモリーワン宙域でオーブが介入してくるのが当然だと分かっていた様な落ち着き様である。

 

「インパルスのパワー危険域です。最大であと300!」

 

オペレーターの若い赤い髪の女性からの声で、タリアはハッと顔を上げた。事態を鑑みても、オーブがこの戦いに介入している事実は変わらないし、なにより意表を突かれたザフトに奪われた新型機を追える戦力がないのも明白だった。

 

故に、タリアはミネルバの艦長として決断する。

 

「インパルスまで失うわけにはいきません。ミネルバ発進させます!!」

 

「艦長ぉ!!」

 

情けない副長の声を無視して、タリアは隣にいるデュランダルへ、答えは分かっている質問だとわかりながら、あえて言葉を投げる。

 

「よろしいですね?」

 

「ああ。頼む、タリア」

 

何の迷いもなく頷いたデュランダルを見て、タリアは肩をすくめる。この人は、〝何を見て〟、その決断を下しているのか。そんな問答をしても今は意味がない。だから後にする。今はとにかくインパルスとパイロットを失わないことが最優先だ。

 

「ーーミネルバ、発進シークエンススタート」

 

「本艦はこれより戦闘ステータスに移行する!SCSコンタクト、兵装要員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定!」

 

副長の声と同時に、進水式典を待つ身であった巨大な新造船艦は、その息吹を吹き上げながら発進準備を整えていく。ドッグに鳴り響くアラームの中で、タリアはデュランダルに小さく言葉をかける。

 

「議長は早く下船を」

 

この船は、〝今この瞬間をもって戦場に出る船〟となったのだ。彼らが安全だと言って避難してきた場所が、戦線の最前線となる。そんな場所に、ザフトの要人…それもプラント最高評議会の議長を置いておくわけにはいかない。

 

そんなタリアの言葉に、デュランダルは困った様に笑った。

 

「タリア、とても残って報告を待っていられる状況ではないよ」

 

「しかし…」

 

「私には権限もあれば義務もある。私も行く。許可してくれ」

 

言葉とは裏腹に、熱のない目と表情がタリアを射抜く。彼はいつもそうだった。あの時から今までずっと、彼の目に熱があるところを、タリアは見たことがない。

 

そして、そんな目をする彼もまた、自身の言葉を曲げない意固地さがあるのを、彼女は充分に理解していた。

 

「ーーー承知しました」

 

折れるようにタリアが瞳を伏せて、体を前に向ける。そして、ほんの少し間が空いたのち、デュランダルは思い出した様にタリアへ語りかける。

 

「ああ、そうだ。確かオーブの来賓方も…」

 

「本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい。繰り返します、本艦は此より発進します。各員所定の作業に就いて下さい!」

 

デュランダルの言葉は、同時にタリアが発した命令に打ち消されて、ブリッジは喧騒の中へと包まれていくのだった。

 

 

////

 

 

 

「で?何だってオーブの人間が何故ここにいるんだ?」

 

フォースシルエットが射出されて、落ち着きを取り戻したハンガーの中で、ハイネは改めてオーブ一行に言葉を向ける。

 

ザフトのパイロットからしても、オーブの勢力がこの場にいることは知っていないし、何よりオーブの軍用機がこちらの事態に介入することが異常なことだった。

 

ハイネの言葉に、サングラスをかけ『アレックス』となった彼が単調な言葉で答える。

 

「ーーこちらはオーブ連合首長国議員のカガリ・ユラ・アスハ氏と、ブルーコスモスのフレイ・アルスター事務次官だ。俺はアレックス・ディノ。あとはオーブ軍が指定した民間PMCの随員護衛だ」

 

「モビルスーツの装備のロック、忘れるなよ!」

 

アレックスが状況を説明する中でも、ハンガーの作業は続いていた。

 

まだ物資搬入の途中であったハンガーは、ひどく乱雑に物資が配置されており、割り当てられた作業員たちもミネルバのマニュアルを見ながら作業にあたっている有様で。

 

「あーもー…!見てらんないわね!あんた達!」

 

その凄惨たる作業現場を横目でチラチラと見ていた女性。まだ慣れていない作業員たちのちょっとしたミス。それが繰り返されて遅延していく作業。マニュアル頼りの臨機応変のなさが際立つ作業。

 

その全てが、フレイ・アルスターの〝癪に触れる〟!!

 

腕まくりをして髪の毛を結い上げたフレイが、手際の悪い作業をするヴィーノの横に大股で歩いてきて、端末を奪い取った。

 

「な、なんだよ。アンタは…」

 

「モビルスーツの装備ロックでしょ!?マニュアルなんて見ながらやってたら、太陽が一周した上に船に穴が空くわ!」

 

マニュアルに軽く目を通したフレイは、素早く端末を操作していく。師の受け売りであるが、『形式は違えど根本的には同じ』という物があって、オーブとザフトとは言え、やることは変わりはない…考え方さえ変えれば、フレイにとってはザフトもオーブも地球軍も変わりない。

 

それに、先程の戦いで新型ザクの規格を一通り目を通しているので、解読には手間は掛からなかった。

 

「は、早ええ…」

 

四苦八苦していた端末の操作を、まるで手足の様に操るように遂行していくフレイの姿を見て、ヴィーノとヨウランが引きつった顔つきで、その作業に何も言えずに呆然と見守る。

 

「…僕たちは、デュランダル議長との会談中に騒ぎに巻き込まれ、避難もままならずに議長と共にこの船に乗ることになったんだ」

 

そんなフレイの姿を見て見ぬふりをして、キラがアレックスに続いてハイネの問いに答える。

 

機能停止した行政府に避難した後、オーブの船に戻ることも検討したが、アーモリーワン内部の有毒ガスの影響もあって、デュランダルの許可のもと、このミネルバへと避難してきたのだ。

 

「ただ、肝心の議長とは何も話せてないんだ。こちらに入られたのだろ?御目に掛かりたい」

 

カガリもオーブの議員として、説明責任がある。故に議長とも今後のことで話はしなければならない。オーブとしても、今回の事態には何らかの対応が要求されることになる。

 

とにかく、今は事態の終息を待った上でオーブの船に戻り、本国やアズラエル理事と連絡を取ることが優先だ。

 

ーーだが、事態はカガリたちの予想を裏切る方向へと動き出そうとしていた。

 

 

////

 

 

「くそ…敵はどこに」

 

アーモリーワンから抜けた三機の新型機は、デブリ宙域へと隠れる。レイやラリーと交戦していた三機は、まるで何かに導かれる様に別方向へと動き出して、瞬く間のうちに二人を出し抜いて行方をくらませたのだ。

 

「ザフト機!一旦退け!闇雲に出てもエネルギーを消費するだけだ」

 

ただでさえ先の大戦の残骸が多い宙域でだというのに、こんな状態で闇雲に動けばどうなるかわかったものじゃない。もし仮に、新型機を回収しにきた〝勢力〟の部隊に待ち伏せでもされていたら、窮地に立たされるのはこちらだ。

 

そんなラリーの忠告に耳をかさず、レイはデブリ宙域の中をどんどん進んでいく。

 

『あの機体…予想通りか。それにーー貴様もいるな?流星様よ』

 

デブリの中。

 

出力を落とした一機のモビルアーマーの中で、マスクをかぶった人物は目を細める。モニターに映るのは、見失った三機を探すザフトの新型機と、そしてモビルアーマー形態となったオーブの機体。

 

間違いない。あれに乗っているのはーー。

 

『〝特異点〟…その力のーー見定めさせてもらうか。無事に帰れよ、お前たち!』

 

そう言って通信を繋げた〝ネオ・ロアノーク〟は、しっかりと誘導したスティングたちへ指示を出した。退路は確保してある。あとは宙域の外で待っているガーティ・ルーに回収して貰えば、スティングたちの任務は達成される。

 

『了解!いくぞ、アウル!お前がそうしたんだ、責任持ってステラを船に引っ張ってけよ!』

 

『えーー』

 

『死んでない…あぁ…あたし大丈夫…大丈夫よね、ステラ…』

 

スティングはネオの指示に頷くと、まだ立ち直っていないステラと、ぶーたれるアウルを連れて指示された航路を行く。

 

スティングにとって、彼は信頼できる人物だった。そして、彼が『メビウスライダー隊』のことを与太話ではないと信じていた理由もネオにある。

 

メビウスライダー隊は行方を眩ませた?そんなもの、信じるに値しない話だ。

 

『ネオ・ロアノーク』という男が自分たちの隊長として居てくれる以上、流星が行方を眩ませたなんて話は、〝嘘〟なのだから。

 

「大佐より入電!ガーティー・ルーはブルー18、マーク3アルファに進行せよ、とのことです」

 

「見つけたようだな。さすがは大佐だ」

 

あとは上手くやってくれるだろう。そう言って艦長であるイアン・リーは笑みを浮かべる。

 

彼こそが自分たちにとっての切り札だ。

 

『流星の再来』

 

そう呼ばれるネオ・ロアノークの戦いぶりを、特とご覧頂くとしよう。

 

 

////

 

 

《システムコントロール、全要員に伝達。現時点を以て、LHM-BB01、ミネルバの識別コードは有効となった。ミネルバ緊急発進シークエンス進行中》

 

ドックから発進したミネルバは、順調に宙域へと出る準備を進めていく。外縁部へ繋がるリフトを降りながら、ミネルバはその秘密に包まれていた姿を現していく。

 

《コントロール、全チームスタンバイ。ゲートコントロールオンライン。ミネルバリフトダウン継続中。モニターBチームは減圧フェイズを監視せよ》

 

降下するリフトの感覚を味わいながら、シンは指示に従って移動させたメビウス・ストライカーから出ると、隣でザクの固定作業をしてある作業員、ヨウランへと話しかけた。

 

「宇宙へ避難するのか?この艦。プラントの損傷はそんなに酷いのか」

 

「酷いなんてもんじゃないさ。あちこちから空気漏れが起こって毒ガスも発生してるって」

 

それを聞いて、シンの顔が強張る。敵はコロニー内であれだけビームライフルを使用したのだ。大きな穴が空いたこともあり、アーモリーワン内部の状況は予想よりも酷いものとなっている。

 

「くっそ…!!あいつらめ!!」

 

もう少し、自分がうまく動けていれば。そんな思いがこみ上げてくるが、シンはグッと握りしめた手を眼前にあげる。軽く握っては離しを繰り返して、罪悪感にも似た思いを鎮めた。

 

そういう思いで戦場に出れば死ぬ。

戦争はヒーローごっこではない。

 

どちらも師から教わったことだ。自分が兵器に乗っている以上、割り切れる心と、それを納得できる気持ちがなければ壊れてしまう。

 

戦いの中で、傲りが一番そのパイロットを危うくすることを、シンは理解していた。

 

「シン!アンタも手伝いなさい!」

 

そんなシンに、いつのまにかザフトの作業員の上着を身につけたフレイが指示を飛ばす。

 

「わかってます!!」

 

シンはフレイの言葉に答えると、スルリとメビウス・ストライカーから降りて、彼女と共に山積みの搬入作業を手伝っていくのだった。

 

 

////

 

 

 

「ザフト機!2時の方向!ボギーだ!!」

 

突如として、それはやってきた。アラームが鳴る前に光を見たラリーは、怒声の様な声でデブリの中を彷徨うインパルスへ叫ぶ。

 

「高エネルギー反応!避けろ!」

 

レイからの返答を聞かずに新たな情報を投げたラリーは、機体を鋭く動かして降り注いできた閃光を避ける。

 

レイも習う様にインパルスを挙動させたが、その閃光はコクピットをギリギリ逸れて通過していく。

 

「おいおいおい、嘘だろ…?」

 

ラリーは頭上を見上げて、思わず息を呑んだ。

 

迫り来る敵の姿。

 

それはまるで、鮮やかな流星。

 

独特なシルエットが浮かび上がり、飛来するそれは、機敏な動きを見せながらラリーの乗るメビウス・ストライカーへと急接近していく。

 

ネオ・ロアノークは、この瞬間を信じても崇拝もしていない神に感謝しながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

『さあ、見せてもらおうか…流星!!本物っていう力ってやつを!!』

 

「あの機体はーーメビウス!?」

 

 

 

駆るはメビウス。

 

共に名を冠した〝流星〟

 

二つとなった流星は、始まりの場所で運命が交錯していく。

 

 

 

 

 

 



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第9話 アーモリーワンの戦い 3

 

 

 

「ミネルバ発進。コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは直ちにブリーフィングルームへ集合して下さい!」

 

それは突然の報であった。アーモリーワンの外縁部のゲートから宇宙へと出たミネルバは、あろうことか〝戦闘配備〟を意味するコンディションレッド発令の勧告を艦内へと流したのだ。

 

有毒ガスや混乱したコロニー内から避難するために宙域へ出るのだと考えていたオーブ一行にとって、ミネルバのコンディションレッド発令は、まさに寝耳に水であった。

 

「おい、この船は戦闘に出るのか!?避難するわけじゃなく!?」

 

手持ち無沙汰と、職人気質でバリバリ指示を飛ばすフレイに触発されて、全員で散らかっていた物資を片付けていた中、突然の艦内放送にアレックスがハイネやヴィーノに詰め寄る様に問いかける。

 

だが、彼ら自身もアーモリーワンの混乱で指令をまともに受け取れていない状況であり、ミネルバ艦内も浮き足立っているのは明白であった。

 

そんな彼らに詰め寄るのは少し…と思ったキラ。

 

それは彼の人となりから現れる善意からの発言だった。

 

「アスラン!今はそう言っても…」

 

そこでキラはハッとなる。カガリがキラの方を見て固まり、アレックスことアスランの動きも止まる。

 

「えっ?」

 

「あっ」

 

ハイネの溢れるような声。シンやフレイの「この人やりやがった」という何とも言えない顔。そして後ろではリークとトールが一緒に運んでいたコンテナに手をかけながら、静まりかえったハンガーの中にいるアスランを見つめた。

 

「…アスラン…?お前、アスラン・ザラか!?」

 

「あちゃーー」

 

誰の声か分からなかったが、ハイネの驚いた声によって、アスランの正体はミネルバの作業員全員へと周知されることとなった。

 

そのあと、手が止まった彼らの尻を叩くように、フレイは数回咳払いをして片付けの指示を再度出していくのだった。

 

 

////

 

 

ミネルバから先。

 

先の大戦によりできたデブリ宙域の中で、ラリーは驚愕の顔色を見せていた。

 

「なんだ…この機体は!!モビルアーマーだと?」

 

隣にいたレイのインパルスも、現れたモビルアーマーに驚きを隠せずにいる。

 

相手はメビウス。

 

それも型落ちしたタイプのものであり、手は加えられているが一見したイメージではとても手強い相手とは感じられない風貌をしている。

 

だが、レイは知っている。

 

メビウスという機体にまつわる、恐ろしく、鬼神じみた伝説の数々を。

 

「いったい何の冗談だ…コイツ!」

 

警戒するレイの隣で、ラリーは吐き捨てる様に呟く。メビウスという機体の意味。ラリー自身にとっても切っては切れない感情を持つ機体ではあるが、あれは明らかにグリマルディ戦線時代に活躍したタイプのメビウスだ。

 

大戦中や大戦後にも、いくつかのマイナーチェンジやモデルチェンジが施された機体を、ラリーはチューンして乗りこなしてはいたが、相対する機体はまさに初期型。

 

それこそ、ラリー自身が〝初めて乗っていた〟

メビウスのそれだった。

 

「こいつ…!!」

 

悠然と現れたメビウスは、呆然としたラリーへレーザー光を浴びせる。機体にはロックを知らせる警告が鳴り響いた。ラリーはすぐに機体を挙動させると、宙域に浮かぶメビウスへ銃口を構える。

 

メビウスの伝説は多くある。それ故に旧型のメビウスを験担ぎ的な意味で乗る人間もいる様だが、戦場に出すにはあまりにも古い機体だ。

 

とにかく、エンジン部を狙って行動を不能にするほかにはない。そう考えた上で、ラリーはライフルから閃光を撃ち放った。

 

(そんな殺意のない攻撃など…!!)

 

その閃光を見てから、〝ネオ・ロアノーク〟は挙動を開始した。

 

機体のスラスターを全開に吹かしながら、メビウス特有のフレキシブルスラスターを「マニュアル」で操作し、機体を鋭敏に動かして伸びてきたビームを紙一重で避けたのだ。

 

(今のを躱した!?)

 

『さすがは流星と言ったところか。だが、俺とて間抜けではなぁ!!』

 

ネオが発したコクピットの台詞は鮮明にラリーへと届いた。明らかに向こうは余裕がある。いや、それよりも自分の技量を見極める様な動きをしていると言える。

 

「くっそぉ!俺のことを知っている…!?」

 

相手には聞こえないはずのラリーの毒づいた言葉。それを発した直後、ネオはマスクの大半で表情が隠れる中、口元だけをニヤリと吊り上げる。

 

『やはり〝聞こえるか〟。いい動きだな、流星!!そうでなくては…!!』

 

まるでラリーの独り言に呼応するかの様な敵の台詞に、今までにない感覚を味わう。操縦桿を握る手が久しく強張る感じを思い知ったラリーは、確認するように言葉を投げた。

 

「なんだ…?通信は繋がってないはずだぞ!?」

 

『聞こえているなら良い!やはりお前は本物だったか!ならば、ここで出てきた甲斐があったと言うもの!!』

 

言葉の応酬とは言えない投げ合い。そんな中からネオは止まっていた時間を取り戻す様に、機体を挙動させ始めた。

 

その動きははっきりとわかる。

 

異常なほど鋭く、速く、正確でありながら、激情の中にある様なプレッシャーを与えてくる。

 

「くっ…!!なんだこの機体は!?」

 

その異常性をラリーはよく知っていた。

 

体感したことがある感覚だから。ヘリオポリスからヤキンドゥーエの間に死闘を繰り広げた相手。彼と相対したときに味わった緊張感やプレッシャーと、今味わうものが酷似していたのだ。

 

「何をしている!止まっていたらただの的だ!この敵は普通とは違う!動け!」

 

レイに向かって叫びながら、ラリーも機体を可変させる。モビルスーツ形態ではやられると直感で理解したのだ。光の尾を引き連れながら、二人の機体が交差すると、レイの目の前で信じられない様な絡み合う攻防戦が始まる。

 

(この動きは尋常じゃない…次は直撃させる!)

 

クルーゼ戦から感じることが少なくなった高負荷のGの中で、ラリーは冷や汗を流しながら鋭い挙動をする敵のメビウスの背後を捉える。

 

『さぁ、撃ってこい…さぁ!!撃てよッ!!』

 

罠か?だが当たれば——!!

ネオの言葉を思考から削り落としながら、ラリーはターゲットに捉えたメビウスへ再びビームを放った。

 

モビルアーマー形態で機体下部に懸架したビームライフルから放たれた閃光は、今度こそネオのメビウスを捉えて…。

 

「なんだと!?無傷…!?」

 

インパルスからそれを目撃したレイが驚愕の声を上げた。ラリーの放ったビームは、ネオのメビウスに着弾する寸前に、光の膜にぶつかり飛散する様に弾き出された。

 

メビウスは稲妻の様な物を迸らせながら、ラリーの動きを嘲笑う様に悠然と宇宙を飛んでいる。

 

「あの反応は…!!」

 

『ふふふ…アッハッハッハ!!なんだ、使えるじゃないか!!〝プライマルアーマー〟とやらは!!』

 

「あれは、セラフの時と同じ…!!」

 

ラリーしか知ることのない世界であり得た、狂気の防護壁。自然環境を贅として、戦いに明け暮れる人類が生み出した業を体現するモノが、ラリーの前に立ち塞がった。

 

 

////

 

 

「気密正常、FCSコンタクト、ミネルバ全ステーション異常なし!」

 

副長のアーサーが出航したミネルバの状態を知らせる。処女航海がとんだモノになったものだと、タリアは息をつきながら自身がなすべき職務に従事する。

 

「索敵急いで。インパルスの位置は?」

 

「これは…!インディゴ53、マーク22ブラボーに不明艦1、距離150!ライブラリー照合…対象ありません!」

 

最大望遠で表示される敵の影。おそらく、奪取した三機を迎えにきた船だろう。所属も何も明らかにはならないが、パトロール隊を撃破したのも、おそらくあの船だ。

 

「それが敵の母艦か?」

 

「でしょうね。初見をデータベースに登録、以降対象をボギーワンとする!」

 

デュランダルからの問いかけに簡潔に答えながら、タリアはミネルバのクルーへ指示を飛ばした。

 

「ボギーワンを討つ!ブリッジ遮蔽、進路インディゴデルタ、加速20%、信号弾及びアンチビーム爆雷、発射用意!!」

 

処女航海も間もないのにいきなり戦闘ですかぁ!?そう叫びたくなるアーサーは、なんとか言葉を飲みこんで自身を落ち着かせる。大丈夫だ、訓練通りにすれば何も問題はないはずだ。

 

「え…あ…ぁぁはい!ランチャーエイト、1番から4番、ナイトハルト装填。トリスタン、1番2番、イゾルデ起動!照準ボギーワン!!」

 

アーサーの指示のもと、ミネルバに搭載された火器武装が次々と展開されていく。

 

「彼等を助けるのが先じゃないのか?艦長」

 

「そうです。だからこそ母艦を討つんです。敵を引き離すのが一番早いですから。この場合は」

 

搭載機のインパルスは不明機と交戦しているとのことだ。おそらく三機を回収したであろうあの船を逃すことは、避けなければならない。インパルスや合流して戦っているオーブ軍の機体のこともある。タリアの覚悟は決まっていた。

 

『戦艦と思しき熱源接近。類別不明、レッド53、マーク80デルタ!』

 

敵艦であるガーティ・ルーもミネルバの存在に気がついていた。艦長であるイアンは内心で敵の動きに称賛を送る。こちらはまだ三機を回収している最中だ。それにネオの機体も戻ってくる気配がない。

 

ならば、するべきことは一つだ。

 

『例の新造艦か?面舵15、加速30%、ゴットフリート、イーゲルシュテルン起動。大佐の機体は?』

 

そう問いかけたイアンに、オペレーターは何も返せなかった。

 

ただ、彼の眼前にあるモビルアーマーの戦いの様子だけは鮮明に映し出されており、その動きは今まで見たことがない、常軌を逸した戦いが繰り広げられているのだった。

 

 

 

 

 



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第10話 アーモリーワンの戦い 4

 

 

「ちぃい!!厄介なものを!!」

 

閃光が奔る。

 

稲妻が響く。

 

光が飛散して、迸っていたビームは無へと帰った。その光の幕を突き破る様に、一機のモビルアーマーが宇宙に線を描いた。

 

「あれにはビームが効かないのか…くっ!!」

 

レイの放つインパルスのビーム。ほとんどが掠めるにとどまるが、相手は時折〝ワザと〟止まってインパルスのビームを受け止める。その攻撃の全ては、メビウスによって展開される「プライマルアーマー」の前に弾き出された。

 

『ザフトの新型も形無しだな!その程度では!!』

 

型落ちのメビウスの中で、ネオはハッと鼻でインパルスをなじるように切り捨てる。あの程度の力では、この機体に傷を付けることは叶わない。それに、インパルスなど眼中にはないのだ。

 

「メビウスを使ったり、セラフのバリアを使ったり!!そちらさんはどちらさんなんだ!!この野郎!!」

 

ネオは頭上へと目線を向かわせる。いま相手にするべきなのは、声が聞こえてくる相手。流星と渾名される目の前の敵、ただ一人だ。

 

メビウスは迫るラリーの機体に呼応するかの様に挙動し始めると、高度な交差を繰り広げる。幾度の交差の中で、ラリーがネオの機体の背後を捉える。ビームがダメならばと、メビウスストライカーの脚部に搭載されているコンテナからミサイルを撃ち放った。

 

『甘い…!!』

 

その攻撃を見たネオは、フレキシブルスラスターを逆噴射し、さらに機体を回転させながら迫るミサイルの群れの中を潜り抜けると、今度はラリーの背後へと回ったのだ。

 

「くぅう…がぁっ…!!こいつの…動きは…!?」

 

それを黙って見ているわけでもない。ラリーもネオの動きに合わせてインメルマンターンを繰り出し、今度は背中の取り合いへと戦闘機動が発展していく。

 

『アッハッハ!!そうだ!!それでいい!!続けてくれ!!俺に見せてくれ!〝特異点〟たる力を!!』

 

ひとつの挙動。ひとつの機動。いくつもの交差。それを積み重ね、研鑽していく中で、ネオは笑みを浮かべていく。そうだとも。全てはこの瞬間のために培ってきたのだ。その間にも交差は増していき、機動も翻る機体も、その全てがネオの五感を刺激していく。

 

重ねるたびに近づいていく。

 

遠く見えていなかった流星の姿が、イメージが、感覚が、妄想と現実が折り重なり、近く〝本物〟になっていく。

 

『最高だ!!貴様ぁああああ!!』

 

故にネオという男は歓喜する。

 

戦う中で証明されていくのだ。

 

戦いを重ねる中で朧げだった形が作り上げられていく。

 

ああそうだとも。

 

自分が〝ネオ・ロアノーク〟であるという事実が!!

 

「なんだこれは…これが…本当の戦争なのか…!?」

 

ラリーとネオの常軌を逸した空戦を前にして、レイは何も出来なくなっていた。ビームライフルを向けようとするが、その動きが不規則で、予測ができない。

 

シミュレーションと模擬戦で培ってきた自信も技術も、この戦いの前では全くの役立たずだ。

 

迂闊に撃てば戦局を混乱させるばかりではない。操縦桿を握るレイの手は震えていた。あの動きの牙がこちらに向けば、インパルスと言えど無事では済まなくなる。そんなことすら容易に想像できるほどの戦いだ。

 

(使えるは使えるが、やはりエネルギーの消費率は比でないか。ハッタリで使うは有りだが、継続性はまだ課題となる、か)

 

幾度の交差の中、昂る思いと両立する様に、冷静な思考をするネオがいた。機体を回転させながらラリーの機動をいなすネオは、残りのエネルギーを見つめながら思考を続ける。

 

プライマルアーマーは単なるビームを弾くバリアではない。そもそも、そんなものをモビルアーマーやモビルスーツのサイズで運用しようとするのが無理がある。それこそ、電子リフレクターを備えた大型のモビルアーマーでもなければ、ビームを弾くなんてことは出来ない。

 

だからこそ、プライマルアーマーは逆に考えた。理論としては、ビームを弾くのではなく、低出力で展開したビーム膜を高温出力のビームにぶつけて、外的に接した高出力のエネルギーから熱を奪うという原理だ。受け止めるのではなく、熱を奪ってその脅威性を減衰させるというシンプルな構造。

 

だが、そのエネルギー消費量も大きく、ザフトで開発された際には核動力で駆動するモビルスーツにしか搭載されていなかったようだ。

 

それをバッテリーサイズでも運用できるようにしたものが、メビウスに搭載されている機器なのだから、根本的なエネルギー問題は解決していない。はったりとして使えるが、このまま我慢比べになれば、不利になるのはこちらだ。

 

「動きが鈍った!そこぉっ!!」

 

そんなネオの思考を読み取ったように、ラリーは動きに隙ができたメビウスに向かって突貫する。射程距離に入りさえすればビームサーベルで!!そうスロットルを全開にしようとした瞬間。

 

「民間機!?こんなところで…!!」

 

ラリーとネオの後方に、救難信号を発する民間機が現れたのだ。

 

「あれはプラント船?戦闘警報も出せてないのか…!」

 

ラリーはすぐに攻撃を諦めると、ネオを民間機から離すように機動を取り始め、呆然と戦いを見ていたレイへ民間機の援護を呼びかける。

 

『チッ、戦いに邪魔が入ったか…。例の船も来ているーー欲張りすぎは、元も子もなくすか』

 

ネオはプラントの船を見つめながら、ちらりと残エネルギーを確認する。帰投するには充分だが、これ以上戦いを続ければ船に追いつけなくなる。ギリギリと言ったところだ。

 

そのままネオのメビウスは旋回すると、ラリーたちに背を向けて飛び立ってゆく。

 

「待て!お前はいったい…!」

 

『また会おう、流星。次こそは殺してやる。フフフ…アッハッハッハ!!』

 

小さく、しかしはっきりと聞こえた言葉。やがて消えてゆくネオの笑い声。ラリーは、はっきりと聞こえた言葉を噛みしめながら、遠ざかってゆくメビウスを見つめる。

 

あれはいったい誰なのか。

 

なぜ、通信も繋いでいないのにこちらの声が聞こえるのか。

 

あれほどの技量を持ったパイロットがどこにいたのか。

 

わからないことだらけだ。ラリーはヘルメットのバイザーを上げて、久々に流した汗を外へと追いやる。わかっていることは、相手が自分と同等な動きをする強敵であったということだけだ。

 

「退いたのか…?」

 

「——鮮やかな退き際だな」

 

レイの疲れ切った言葉に、ラリーはシートに体を預けながら強張った声でそう答えるのだった。

 

 

////

 

 

「ナイトハルト、てぇ!エンジンを狙って!足を止めるのよ!」

 

ネオが戻った頃には、ガーティ・ルーはミネルバとの追撃戦に見舞われていた。

 

『回避ーッ!』

 

イアンの怒声が響き、ガーティ・ルーはミネルバから放たれた対艦ミサイルの合間を縫うように回避し、イーゲルシュテルンで残ったミサイルを撃ち落としていく。

 

ネオはそんな光の中を悠然と飛びながら、開け放たれている発着デッキへと機体を滑り込ませる。

 

『大佐のメビウス、着艦を確認!』

 

『撤収するぞ!艦長!』

 

着艦と同時に、ネオはブリッジへ通信を打つ。アーモリーワンから奪取した三機の新型機もすでに収容済みだ。着艦したとは言え、モビルスーツより着艦処置の手間が少ないメビウスなら、このまま離脱航路を取ってもなんら問題はない。ネオが帰還した段階で、ガーティ・ルーの目的は達成されたのだ。

 

「ボギーワン、離脱します!イエロー71アルファ!」

 

「インパルスとオーブ軍機は?」

 

「帰投しています!」

 

「急がせて。このまま一気にボギーワンを叩きます。進路イエローアルファ!」

 

ミネルバも処女航海とは言え、かなり足の速い船だ。離脱しようと試みる船が如何に高速艦であっても、後を追う事は難しくはない。タリアの指示のもと、ミネルバも機関出力を上げて不明艦の追尾体勢に入った。

 

『大佐!』

 

『すまん、遊びすぎたな』

 

『敵艦、尚も接近!ブルー0、距離110!』

 

『かなり足の速い艦のようです。厄介ですぞ』

 

移動しながら通信で会話する艦長の言葉は確かだった。こちらもアークエンジェルの発展型であり、かなりの速さを誇る艦ではあるが、ザフトの船はそれを一手上回る速さを持っている。

 

『ミサイル接近!』

 

『取り舵!かわせぇ!』

 

しかも高速航行しながらの攻撃も容赦がない。打ち出された対艦ミサイルの雨を躱してはいるが、ミネルバとの距離は詰まるばかりだ。

 

艦長が手をこまねいていると、ブリッジに戻ってきたネオが開口一番に助け舟を提案する。

 

『敵の死角を付く。艦長、丁度いい盾もいるしな。両舷の推進剤予備タンクを分離後爆破だ』

 

目的は達した。帰還エリアまでなら今の推進剤でも充分賄える。長期戦を予測して装備していた荷物を捨てて、それを囮に使うとは。

 

平然とそんな作戦を言うネオに、艦長は何も反論せずに頷く。

 

『アームごとでいい!鼻っ面に喰らわせてやれ。同時に上げ舵35、取り舵10、機関最大!』

 

 

////

 

 

《インパルス、RTB!オーブ軍機は2番ラックへ》

 

「またオーブ軍機か?」

 

ミネルバの後部ハッチから帰投したインパルスと、ラリーのメビウス・ストライカー。オーブの言葉を聞いて振り返ったフレイが、メビウス・ストライカーの損傷具合を見て顔色を変えている中、逃げる敵艦にも動きがあった。

 

「ボギーワン、船体の一部を分離!」

 

何かを投棄した敵艦。このタイミングで投棄?一体何を…。

 

「撃ち方待て!あれは…面舵10、機関最大!」

 

タリアが感じ取った嫌な予感は的中する。武装を停止し、回避行動に入ったミネルバの脇で、敵艦から分離されたものが突如として大爆発を起こしたのだ。

 

「何だ!?被弾したぁ!?」

 

「落ち着きなさい!!火器弾薬庫に被弾は!?消火剤の準備!急ぐ急ぐ!」

 

激しい揺れに誰もが混乱する中、フレイは顔色変えずにハンガーの手すりに捕まりながら、慌てふためくザフトの作業員たちに指示を出す。アークエンジェルの時もそうであったが、被弾した際のダメコン、損傷のチェックの迅速さがその船の命運を大きく分けることになる。

 

「各ステーション、状況を報告せよ!」

 

揺れに耐えたタリアは、まだ混乱する中で状況を把握しようと声を上げる。

 

「バート!敵艦の位置は!?」

 

「待って下さい、まだ…」

 

「CIWS起動、アンチビーム爆雷発射!次は撃って来るわよ!」

 

敵にとっては大きな好機だ。こちらの武装は防衛のために停止している上に、爆発の余波で船が停滞している。ここに敵艦からの砲撃が来ればひとたまりもない。だが、オペレーターが感知したのは敵艦ではなく、別の反応だった。

 

「いえ、前方に友軍の反応!これは…民間のシャトルです!」

 

ちょうど敵艦とミネルバの正面を、先ほどラリーたちに救難信号を発していたザフトの民間シャトルが横切って行くのが見えた。

 

「敵艦見つけました。レッド88、マーク6チャーリー、距離500!」

 

「ここで撃てばシャトルにも被害が及びます!攻撃中止!」

 

タリアの迅速な判断でシャトルの安全は守られたが、うまく出し抜いた敵艦はそのまま航路を進み、小さな光となってアーモリーワンの宙域から離れていく。

 

「逃げられたのか…」

 

「やってくれるわ、こんな手で逃げようとは。だいぶ手強い部隊のようですね」

 

隣にいるデュランダルの疲れたような声に、タリアは強張っていた体をシートに預けながら答えた。彼女自身もはじめての船の仕事だ。精神的な負荷も大きなものだった。

 

「ならば尚の事このまま逃がすわけには…ここはまだザフトの領海ですが、あの機体のデータが敵に渡れば、どんな被害が出るか…」

 

副長のアーサーの言い分も最もだ。ここで逃してはアーモリーワンの損失も、パトロール艦やザフト軍に及んだ被害もある。

 

敵が何なのか。

 

地球か、または同胞の過激派なのか。

 

それを知らない限り、不安的な情勢へと転がり落ちた現状を打破する術はない。タリアは艦長の座席を回してデュランダルの方へ視線を向けた。

 

「議長。今からでは下船いただくこともできません。私は本艦はこのままあれを追うべきと思います。議長の御判断は?」

 

そう問いかけるタリアに、デュランダルは小さな笑みを浮かべたまま壮麗な声で答える。

 

「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長。この火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…それを考えるのは怖い。あれの奪還、もしくは破壊は現時点での最優先責務だよ」

 

「ありがとうございます。敵艦のトレースは?」

 

「まだ追えます」

 

「では、本艦は此より更なるボギーワンの追撃戦を開始する。進路イエローアルファ、機関最大!」

 

《通達。本艦は此より、更なるボギーワンの追撃戦を開始する。突然の状況から思いもかけぬ初陣となったが、これは非常に重大な任務である。各員、日頃の訓練の成果を存分に発揮できるよう努めよ》

 

アーサーの声がミネルバの中に響き渡る。多くの要素を詰め込んだ運命の船は、新たな宇宙へと漕ぎ出そうとしていた。

 

 

 

 

 



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第11話 大戦の傷痕

 

 

 

「ブリッジ遮蔽解除。状況発生までコンディションをイエローに移行」

 

「ブリッジ遮蔽解除。コンディションイエローに移行します」

 

ひとまずの戦闘状況を終えたミネルバは、初陣で勇んだ翼を折って暫しの休息に入る。タリアたちがいるブリッジも上部へとせり上がり、暗い照明が一気に明るいものへと変化していく。

 

「議長も少し艦長室でお休み下さい。ミネルバも足自慢でありますが、敵もかなりの高速艦です。すぐにどうということはないでしょう」

 

一息ついてから隣に座るデュランダルへそう言うタリアに、当人は少し歯切れの悪い表情を見せた。

 

「——そう言う訳にもいかんだろうな」

 

デュランダルのこぼれるような言葉に首を傾げるタリア。だが、彼の言葉の意味はすぐに分かった。

 

「艦長、オーブのカガリ・ユラ・アスハ議員が、議長との面会を所望しております。また、先ほどのシャトルも着艦要請が来ています」

 

オペレーターからの言葉に、タリアは一瞬思考が固まる。オーブのアスハ?ザフトの高官…いや、先の大戦を知っている人物なら知らない者は居ないほどの名前だ。

 

それに先程の民間シャトルもあると言う。

 

「先の戦闘で被弾をしたようですね。救難信号が出ています」

 

タリアは暫く間を置いてから、デュランダルの方へ視線を向ける。彼は悪びれる様子もなく肩をすくめた。

 

「…アーモリーワンへの救援要請は?」

 

「向こうも司令系統が壊滅しており…」

 

頭を抱えたくなる衝動をなんとか堪えながら、タリアは降って湧き上がるトラブルにどう対処しようか頭を悩ませる。そんな彼女の苦労を知ってか知らずか、デュランダルは即答でオペレーターに指示を伝えた。

 

「——回収作業を」

 

「議長!」

 

悲鳴のようなタリアの声がブリッジに響く。ここで民間シャトルの回収をしていれば、敵艦に逃げられかねない。相手がこちらの船との間にシャトルを誘導したのはそういう思惑があったと言うくらい、誰にでも理解できた。

 

だが、立ち上がる勢いで凄むタリアを、デュランダルは緩やかに手を挙げて制した。

 

「あの船にはこちら側の〝要人〟が乗っている。無碍にはできんよ」

 

デュランダルの言葉でタリアも冷静さを取り戻す。たしかに、こんな時期に民間シャトル、それもザフト軍が取り仕切る港へ向かう航路にあたる場所にいる以上、載っている人物の予想は大まかに付いていた。

 

本来なら進水式に来賓として呼ばれるはずだった要人を、戦闘状況に向かおうとするこの船に乗せることになるとは…。

 

「はぁ…アーサー」

 

「ギリギリ補足範囲には捉えられます」

 

淀みなく答える副長の言葉に、タリアは深く帽子をかぶりながら長いため息を心の中に隠した。

 

「オーブの方も、本来乗ってきた高速船のようだ。こちらに合流させて頂き、本国へ御帰りになってもらおう。状況が状況だからな」

 

「了解しました。回収班を急がせて」

 

できれば早くこんな異常な状況からは脱したいものだとタリアは思うが、この船が向かう先には更なる困難が待ち受けていることを、彼女はまだ知る由もなかった。

 

 

////

 

 

「ぐぅ…おおおお!!」

 

空。

 

雲と青が目まぐるしい速さで入れ替わる。

 

まるでミキサーの中に放り込まれた衝撃の嵐の中で、ユウナ・ロマ・セイランは降りかかる攻撃の嵐に目を走らせていた。

 

「セイランの坊ちゃん!そんなナヨナヨした飛び方をしてると、敵と会う前に死んじまうぞ!!」

 

通信越しに聞こえてくるのは、自身の教官であり、今まさに背後に張り付いて攻撃を浴びせてくるムウ・ラ・フラガ一佐の怒声に似た声だ。

 

オーブ軍の戦闘機型モビルスーツ「ムラサメ」。

 

ユウナ自身も乗るこのモビルスーツは、島国であるオーブが開発した量産型の可変モビルスーツだ。戦闘機形態となった中で、ユウナは降りかかるペイント弾を避けながら操縦桿を握る手に力を込める。

 

「そんなこと言ったってぇ…!!」

 

力込めるとは言っても、すでに血の気がなく、感覚すら怪しい。高負荷の旋回を行いながら、ユウナは背後にいるムウのムラサメを睨みつけた。

 

「そうだ!機体を振り回すのはコンピュータでも機械でもない!お前自身だ!ユウナ!!」

 

「このぉおお!!」

 

グリン、と操縦桿を引き絞り、空気の膜を機体に纏わせながら、ユウナの駆る訓練生用のムラサメは空に線を描いた。

 

「よぉし!その負けん気を活かせ!また何もできない坊ちゃんに戻りたいか!!」

 

「僕だって…僕だってえええ!!」

 

今日の課題は空戦。

 

モビルスーツ形態では得られない速度の中でのドッグファイトだ。

 

与えられた課題の中で、ユウナは必死に機体を振り回して、それでもぴったりと背中に付いてくるムウの機体を振り切ろうと回避機動を繰り出していく。

 

「かなり仕上がってきてるんじゃないの?」

 

「あぁ?まぁはじめの頃と比べると、な?」

 

その錐揉み合う空戦を見つめるのは、5機のムラサメ。機体には教官機を表す白いラインが翼に入っている。

 

コクピットからムウとユウナの追いかけっこを眺めるオルガ・サブナックと、クロト・ブエルは、動きが良くなったユウナのムラサメを見つめていた。

 

「うひー、隊長もかなりシゴくよねぇ」

 

「それだけ期待してるって事よ、きっとね」

 

二人の後ろに付く3機には、アサギ・コードウェルとマユラ・ラバッツ、ジュリ・ウー・ニェンが乗り込んでいた。

 

大戦後、モルゲンレーテに籍を戻した彼女たちであるが、データ取りや自身の慣熟訓練も兼ねて、こうやって新人の教導に参加しているのだ。

 

「セイラン家の御曹司がモビルスーツのパイロットか」

 

機体を水平に保ちながらオルガは呟く。彼やクロト、そしてシャニは、大戦後に正式にリーク・ベルモンドに引き取られて、今はオーブ国際高等学園に通う歴とした学生であるが、先の大戦の実績もあるため、ベテランパイロット不足に悩まされるオーブ軍での教官役をアルバイトで引き受けていた。

 

「軍閥に属したほうが、後の政治に便利だとよ」

 

隣にいるクロトがどうでも良さげな口調で続けて言う。それであれか、とオルガはおぼつかない空戦でムウから逃げようとするユウナのムラサメへ目をやる。

 

「ぬぐうぅうう!!」

 

「どうしたどうした!その程度じゃ戦場に出たら五分と持たんぞ!もっと動け!根性を見せろ!!」

 

オープン回線から聞こえる二人のやり取りを聴きながら、こちらは近距離通信で周囲の警戒をしつつ、次に上がってくる訓練生の様子を見つめている立場を維持している。

 

「元メビウスライダー隊の隊長だからって理由で選ぶには、かなりデンジャーな決断だったろうね」

 

「空に上がっちゃえば、あの人には家柄も階級も年齢すらも関係ないからねぇ」

 

ジュリとマユラの言葉には全面的に同意だ。オーブ軍で何度か付き合ってはいたが、ムウ・ラ・フラガという人物は相応に懐が深く、自分が認めた相手には敬意を払い、見込みがあるパイロットはとことん鍛える性分を持っているようだ。

 

「マユラはああいう男の人が好みなの?」

 

「冗談!マリューさんに恨まれたくないし」

 

「あの人、割と嫉妬深いもんね」

 

「教導中に話す内容じゃねぇぞ、それ」

 

脱線し始めた会話を、オルガが呆れた声で路線を戻す。

 

「とか言って、オルガもしっかり聞いてるじゃん」

 

「うっせぇよ、バカ!早く準備しろ!次が来るぞ!」

 

「はいはい!お仕事お仕事」

 

変わらない調子のままのクロトに悪態を吐きながら、オルガは上がってきた訓練生のムラサメを見た。今度は自分の番だ。相手のムラサメから通信が届く。

 

「研修ナンバー、R445。ルナマリア・ホーク。ムラサメです。よろしくお願いします」

 

彼女と空戦を刻むのは、これで三回目だな。オルガはふとそんなことを思い返しながら、ムラサメの挙動を戦闘機動へと切り替えるのだった。

 

 

////

 

 

暑くなった頭に行儀悪くペットボトルの水を振りかけながら、ユウナは疲れきった体を通路に設けられたベンチへと落とした。訓練用のノーマルスーツを脱ぐのも億劫で、上半身だけ脱いだノーマルスーツはひどく重く感じられる。

 

「弱音を吐かなくなったな?いい傾向だ」

 

そう言葉を投げかけてきたのは、シャワールームで汗を流してきたムウだった。こちらは動くのも億劫だというのに…ユウナは自身をシゴく教官の底知れない実力を感じ取りながら、それでも気丈に振る舞った。

 

「誰にものを言ってるんです…僕はセイラン家の人間ですよ?」

 

「そう硬いことを言うなって、腕は良くなってきてるのは確かだぞ?」

 

最初の頃なんてモビルスーツに乗るだけでも苦労していたものだ。立って歩かせるのに一ヶ月。武器を使うのに一ヶ月。変形して空を飛ぶのには三ヶ月もシミュレーション地獄を味わったものだ。

 

それも父の言う政治の仕事を手伝いながら。

 

「フラガ隊長のシゴキが、人一倍えげつないだけですよ。全く…僕は文官だと言うのに」

 

「そう言って軍に入ってきたのはユウナだろ?」

 

「僕はパイロットになりたいなんて言ってない!適性があったから父に言われて仕方なくやってるんだ!」

 

だいたい、自分のような立場の人間がモビルスーツに乗ること自体がおかしいんだ!とユウナは声を上げる。そんなユウナを見つめるムウは、先ほどまでのおおらかな表情から一変して、とても真面目な目でユウナを見返す。

 

「だが、そういう力が必要な時代なんだよ。今はまだな」

 

先の大戦から、まだ世界は立ち上がれていない。それはユウナにも分かっていることだった。

 

オーブ軍の出撃回数は、友好関係にある他の国家軍と比べて圧倒的に多く、同時に未帰還者も多い。大西洋連邦が統治していた治安が悪化し、未だに続くナチュラルとコーディネーターの小競り合いに、地球圏はまだ振り回されているのだ。

 

ユウナが軍属に身を置くのは、そう言った世界でも発言力の強い指導者になるためでもある。それを弁えてるからこそ、ユウナは冷静になってムウへ敬礼を打つことができた。

 

「本日の御教鞭、ありがとうございました。お先に失礼します」

 

そう言って、ユウナは重い体をあげると通路の奥へと消えていった。まったく、人を教えるのは楽ではないなと、ムウが頭に手をやった時。

 

「ああ言っても、ちゃんと訓練には来るんだよな。根性はあるんじゃねーの?」

 

そう言って通路に現れたのは、帰投したオルガとクロトだ。すっかり顔馴染みになった彼らも、教官として幾人の訓練生を見てきた身だ。相手がどういう思いでここに来ているかくらい判別はつく。

 

「持て余してるんだよ、自分自身を」

 

ユウナの姿を思い返しながら、ムウは遠くへ投げかけるように呟く。

 

「それって経験談?」

 

「いや、見てきた知見ってやつさ」

 

クロトの問いにそう返したムウ。彼の近くにはそういう人物が二人いたのだ。一人はなにかを背負って黙って戦おうとする若者。もう一人は一人で守ろうと躍起になって戦いに身を置くコーディネーターの子供だ。

 

彼らも大きくはなったが、ムウからしたらまだまだ心配する部下たちでもあった。

 

「それより悪いな、毎度付き合わせて」

 

「いいって。そこらへんの店でアルバイトするよりよっぽど稼ぎがいいからな」

 

「シャニはバンドの練習で来れなかったけど、次は参加するって」

 

そういえば次には学園祭のライブがあるとか。マリューや生まれた子供との食卓で聞いた話をムウは思い出していた。

 

「フラガ隊長ー」

 

女性用の更衣室から出てきたアサギたちも、ムウの元へ合流する。ムウは気になっていることをアサギへ問いかけた。

 

「どうだ?彼女」

 

オルガと共に教導に当たったアサギ。ムウの言葉である程度のことを察したアサギだったが、その反応はなんとも言い難いものであった。

 

「いいセンスですけど…その…」

 

「なんだよ、歯切れが悪いな」

 

焦らすような声にムウがそういうと、アサギは困った顔で空で感じたことを話した。

 

「いえ、とても危ない飛び方をするので…なんというか…」

 

嫌な予感があたっちまったな。

 

そう心の中でムウは毒づく。自身も彼女の飛び方を見ていて同じことを思ったのだ。最初は一人、成果に焦る飛び方だと思っていたが、実力も付きつつある今では、あの飛び方は違った意味を持ち始めていた。

 

「まぁ、俺から話をしておく。皆はミーティング後に解散してくれ。悪いな」

 

そう言葉を残してムウは、訓練生が集まるブリーフィングルームへ足を向かわせる。

 

「ルナマリア・ホーク…か」

 

道中で呟いた彼女の名前。

 

自分が良く知る同胞だった男と、同じ姓を持つ少女の行く末をムウはただ案じるのだった。

 

 

 

 

 

 



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第12話 ミネルバ

 

 

 

「どうやら成功、というところですかな?」

 

民間シャトルを合間に挟むことによって何とかミネルバを振り切ったガーティ・ルー。そのブリッジで、艦長であるイアンは一息ついたように隣に座るネオに向かって言葉を吐いた。

 

「ああ、ひとまずはな。ポイントBまでの時間は?」

 

「2時間ほどです」

 

ふむと、ネオは航路表と敵艦を捕捉した最後のデータを照らし合わせる。

 

「大佐は、まだ追撃があるとお考えですか?」

 

「来るさ。そう考えて予定通りの針路をとる。予測は常に悪い方へしておくもんだろう?特に戦場では」

 

簡潔に答えたネオに、イアンも同感だとうなずく。あの手の類はきっと追ってくるだろう。先の大戦から一隻の船を任されてきた艦長としての勘も、データから予測される傾向も同じような結論を出していた。

 

「大佐。彼等の最適化は?」

 

「概ね問題はないようだ。みんな気持ち良さ気に眠っているよ。ただ、アウルがステラにブロックワードを使ってしまったようでね。それがちょっと厄介ということだが」

 

マスク越しで表情が分からないが、口元は硬らせないまま、ネオは航路表に目を向けたまま淡々と答える。イアンとしても、彼らの有用性は理解しているつもりではあるが…。

 

「まったく。何かある度に、「ゆりかご」に戻さねばならぬパイロットなど、ラボは本気で使えると思っているんでしょうかね?」

 

彼らの維持費にも膨大な費用と人員が割かれる。この船の一つのフロアを丸々「ゆりかご」にしなければ、彼らをまともに運用することすら危うい。そんな金がかかる兵器だ。役に立ってもらわねば投じた金も報われないだろう。

 

そう考えているイアンに、ネオは航路表から目を離してわかりやすく肩をすくめる。

 

「それでも、前のよりはだいぶ〝マシ〟だろう?こっちの言うことや仕事をちゃんと理解してやれるだけ。呻き声や叫び声が聞こえないだけ儲け物さ」

 

前の「彼ら」は、ゆりかごなんて処置はなく、電極による不安定な記憶や人格の改竄が限界だったという。それに作戦中に命令を無視したり、統率が取れないというデメリット面があまりにも大きすぎた。

 

前任者も最終的には調整不足だった「彼ら」の一人にブリッジごと貫かれたと聞く。そんな末路だけはイアンもネオも御免だった。

 

「今はまだ何もかもが試作段階みたいなもんさ。艦もモビルスーツもパイロットも。——世界さえも、な」

 

「ええ、解っています」

 

そう言って、二人はブリッジから見える深淵の宇宙に視線を向ける。まだ始まったばかりだ。これからなのだ。これから全てが回り始める。

 

止まっていた自分たちの時間が立ち上がり、霞んでいた世界が形を成していく。

 

「やがて全てが本当に始まる日が来る。我等の名の下にね」

 

 

 

////

 

 

ミネルバのハンガーは戦場と化していた。

 

「何やってる!ザクのフィールドストリッピングなんざぁプログラムで何度もやったろうが!その通りやればいいんだぞ!」

 

作業員たちの戦いは、戦いが終わってから始まる。特に今回はアーモリーワンから無理やり搬入したザクや、物資の調整が山盛りな上に、帰投したインパルスの調整もある。

 

「ウィザードの点検はしておけよ!いつ戦場に放り出されてもおかしくないんだからな!」

 

ひとまずの混乱状態から脱したミネルバのハンガーは、次の戦場に備えてその支度を整えていく。そんな喧騒の中、工具をまとめて管理している場所へ無重力の中を飛んできたヴィーノが、先にいたヨウランへ声をかけた。

 

「ヨウラン、36番の電機工具だってさ」

 

「了解っと」

 

電子部品用の工具がまとめられた場所から、ヴィーノから伝えられたコネクタの予備品と接続用の工具をヨウランは手際良くまとめていく。

 

そんな彼の横目に、ヴィーノは疲れたように背筋を伸ばしてから頭の後ろへ手を回した。

 

「しかし、まだ信じられない。実戦なんてマジ嘘みてえ。なんでいきなりこんなことになるんだろう?」

 

「仕方ないだろ?こうやって攻められてたんじゃさ」

 

戦いなんてそんなもんさ、とヨウランは答えつつ工具を一纏めにし、必要な部品も揃えて持っていく。

 

「でも…まさかこれでこのまま、また戦争になっちゃったりはしないよね?」

 

「と思うけどね」

 

飛び上がったヨウランについて来たヴィーノも、不安げにそう呟く。彼らの向かう先には、ザフト軍のものではないモビルスーツがハンガーに鎮座しているのだった。

 

 

////

 

 

「正座」

 

「はい」

 

アーモリーワンから合流したオーブの船。

 

武装パッケージではなく、高速連絡艇のパッケージが備わるオーブの宇宙船「ヒメラギ」から降りた整備長、ハリー・グリンフィールドはラリーが扱っていたキラ用のメビウス・ストライカーをひと目見るや、すぐにラリーに向かって抑揚のない声でそう言った。

 

ラリーも流れるようにその場に正座する。

 

「ラリー、言いましたよね?ブリーフィングで。ザフト軍への介入はしない。目的はあくまでカガリちゃんとフレイちゃん達の保護だって。ねぇ?聞いてた?私言ったよね?」

 

「はい、存じております」

 

「そ れ が !」

 

ビシッという効果音が聞こえて来そうな動きで、ハリーはハンガーにあるメビウス ・ストライカーを指差した。

 

「なんで機体をここまでボロボロにした挙句、きっちりザフトの新型と戦闘をこなしてるの!?馬鹿なの!?馬鹿じゃないの!?もしくはアホなの!?」

 

任務はあくまでオーブ要人の保護だし、先行してシンの機体が出ているのだから、無理はしないだろうとタカを括っていたのもある。それにラリーが無理な機体の振り回し方をする回数も減りつつあったのもあって、ハリーはすっかり忘れていたのだ。この男が本気を出したときの異常性を。

 

「いや、だってあの状況だと下手するとアーモリーワンとかもやばそうだったし、追い払えたら良いかなって——」

 

「正座」

 

「ッス」

 

アーモリーワンで何事もなければ良いと思ってはいたが、自分の知る物語と同じ軌跡を辿り始めた状況に、ラリーが敵が逃げて出てくるであろう宙域を予測させるには十分過ぎるものではあった。

 

ハリーに話をして通じるとは思えないが、自分という不確定要素がある限りどんな状況に陥るか予測はできない。先行するシンのこともあり、ラリーは奪われた新型機が出てくる場所へと急行したのだが、そこで予想外の敵と邂逅を果たすことになるとは…。

 

「だいたい、この機体の数値は何!?何と戦えばこんな馬鹿みたいな数値が叩き出せるの!?キラくん用に調整していたからなんとか許容値に収まってるけど、一般機なら空中分解してもおかしくない数値よ!?」

 

ハリーが差すのはキラのメビウス・ストライカーから採取された負荷のデータだ。数値を見る限り、叩き出された値はリミッターを外してあるキラ用の設定許容値の限界ギリギリだ。

 

「存じております」

 

「だからアンタには可変機乗せたくなかったのよ馬鹿ぁ!!」

 

そう地団駄を踏むハリーに、ラリーはただただ謝るほかない。

 

ラリー用のメビウス・ストライカーが無い理由は単純で、「メビウス・ストライカーがラリーの全開機動に耐えられずに空中分解する危険がある」故にだった。

 

「なんです?アレ」

 

到着したヴィーノが怪訝な顔をして正座するラリーと説教するハリーの構図を見つめる。ヨウランから工具を受け取りながら、フレイの手伝いをしているシンは困ったような乾いた笑いをした。

 

「あはは…まぁ、気にしないであげて。工具ありがとうな。助かるよ」

 

「あちゃー、これは制限かけないと…無理な動きをしたら駆動系が飛んじゃうわね」

 

彼らの上ではキラのメビウス・ストライカーの点検ハッチに上半身を突っ込んでいたフレイが、手拭いで玉になった汗を拭いながら顔をしかめる。

 

シンの機体は腕部の駆動系だけだったので、パラメータを調整すれば誤魔化しは効くが、こちらは大元の制御が悲鳴を上げている。対処するとするなら、駆動部へ伝達される電気制御の部分を制限しなければならないだろう。

 

隣では明かりを照らす係となったトールが居て、二人ともミネルバから借りた作業用ツナギを着用していた。

 

「こっちもダメだな。新しい部品に交換しないと…しかし、ウチの船じゃ何ともなぁ…」

 

後部ハッチで主要部品の点検をしていたマードックも頭を抱える。飛ばせないことはないが、万全の修理とは言えない。ここで出来るのはせいぜい応急修理くらいだろう。

 

コクピット周りでは、リークとキラがソフト面と電子制御機器の点検が行われている。

 

「キラくん、回路の106番とAの0番をバイパスさせたからチェックプログラム走らせてくれない?」

 

「わかりました。構築するので少し待ってください」

 

正座と説教をするラリーとハリーの横で着々と進められるメビウス・ストライカーの点検。その光景にハイネは気が遠くなるような感覚を覚えながらも、なんとか正気を取り戻していた。

 

「待て待て待て!!」

 

ハイネの言葉にその場にいる全員の視線がオレンジ色の彼へと向けられる。ハイネは少したじろいだが、数回咳払いをして改めて全員へ言葉をかける。

 

「アンタら、何平然とミネルバのドックでそっちの可変機を点検している!!そしてヴィーノ!ヨウランたちも!なぜ当たり前のように手伝っている!!」

 

そう言って目を向ける先では、メビウス・ストライカーの足元で標準的な点検作業をするヴィーノとヨウランがいた。

 

「だって隊長のザクの点検してくれたの、アルスターさんなんですよ?」

 

「手伝うのは当然じゃないすか。整備の腕がいい人に悪い人はいません」

 

「無垢な目で口走るのやめろよ!!マジで!!」

 

今度は許容量を超えたハイネが地団駄を踏んだ。そんなやりとりを遠い目で見つめながらカガリはやってきたデュランダルへ何とも言えない顔で一言呟く。

 

「あーー…なんだか、すまない」

 

「ええ…まぁ。しかし、本当にお詫びの言葉もない。議員や事務次官まで、このような事態に巻き込んでしまうとは。どうか御理解いただきたい」

 

降りてきたタリアとアーサーもその状況に目が点となる中、カガリはこちらはこちらと言わんばかり真剣な顔つきに戻して、改めてデュランダルと向き合う。

 

「議長、あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」

 

「そうなります。艦などにもはっきりと何かを示すようなものは何も分かってはいません。しかし、だからこそ我々は一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならないのです。取り返しのつかないことになる前に」

 

「ああ、解ってる。それは当然だ、議長。今は何であれ…世界を刺激するようなことはあってはならないんだ」

 

その意見にはカガリも同意だった。敵勢力がどうであれ、ザフトが新型を作った事実がどうであれ、あれをそのまま野放しにはできない。それこそ、前大戦の同じ轍を踏むことになりかねない。

 

「ありがとうございます。アスハ議員ならば、そう仰って下さると信じておりました。よろしければ、まだ時間のあるうちに少し艦内を御覧になって下さい」

 

そう言ったデュランダルに、タリアが少し顔つきを強張らせたが、彼は治めるようにタリアたちへ視線を向けた。

 

「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」

 

《民間シャトル収容完了、エアロック密閉確認。ハンガーへの格納を開始します》

 

タリアからの声が艦内放送によって遮られる。同時に閉鎖されていたエアロックから搬送ユニットに乗ったシャトルがゆっくりとハンガーへと入ってきた。

 

「あれは?」

 

「民間シャトルです。おそらく明日の進水式に向けた来賓の方を乗せているかと」

 

カガリからの問いにそう答えるデュランダル。来賓?となると、進水式に参加する予定だったザフト軍の高官か?そう考えてカガリがシャトルへ目を向けると、開けられた非常口から小さなピンク色の玉が飛び出してきた。

 

テヤンデイと備わる羽のようなパーツをパタパタさせながら出てきた物に、隣にいたアスランが思わず目を剥く。あれにはかなりの見覚えがあったのだ。

 

「あぁ、ラクス様!」

 

シャトル乗組員の声が聞こえると、非常口からふわりと飛び出した人物が、ほかの機材や壁をうまく使って、デュランダルとカガリの前へと降り立った。

 

「お助けて頂き、ありがとうございます。この船の艦長にお会いしたいのですが」

 

「ラ、ラクス・クライン!?」

 

そう驚いたタリアをよそに、アスランとカガリは互いに顔を見合わせる。

 

物語は大きく動き出そうとしていた———。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話 歌姫と歌姫

 

 

 

「ラクス様、やはり貴女でしたか」

 

「デュランダル議長、お久しぶりでございます」

 

船から降りてきたプラントの要人、ラクス・クライン。

 

戦後のプラント最高評議会に復帰し、カナーバ議員らとプラント圏の復旧と立ち直りに尽力し、のちの政権をデュランダルに任せて引退したシーゲル・クラインの娘だ。

 

もとより面識があったデュランダルは彼女と握手を交わして久々の再会を喜ぶ。呆気に取られているタリアやカガリを他所に、シャトルからは彼女の護衛のほか、〝業務を兼業〟しながら同行している人物も降りてくる。

 

「やぁ少年たち。元気にしていたかね?」

 

「はぁい♪元気かしら?」

 

無重力のハンガーの中へ降り立ってきたのは、サングラスと黄色と黒のネクタイをした男性、アンドリュー・バルトフェルドと、そんな彼の妻となったアイシャ・バルトフェルドだった。

 

「バルトフェルドさん!アイシャさんも」

 

キラのメビウス・ストライカーの整備をひと段落させたフレイが、出てきた二人との再会を喜ぶように手を重ね合わせる。カガリやアスランもいるのを確認してから、バルトフェルドは困ったようにいつもの笑みを浮かべた。

 

「全く参ったものさ。進水式の記念式典で披露する歌姫が、まさかこんな事に巻き込まれるなんてな」

 

「これは申し訳ない。この艦もとんだことになったものですよ。進水式の前日に、いきなりの実戦を経験せねばならない事態になるとはね」

 

皮肉の効いたバルトフェルドの言葉と、声の抑揚を変えずに切り返すデュランダル。まだカガリでは到達できない腹のさぐり合いが、その二人の中で展開されようとしていた。

 

「ちょっとぉ!プロデューサー!置いていかないでよ!」

 

そんな思考の読み合いに発展しそうな空気を、シャトルからは追うように出てきた少女の声が払拭していき——同時に、アスランやカガリ、フレイの顔を驚愕に染め上げた。

 

「ラ、ラクスが二人…?」

 

「はっはっはっ!驚いただろう?デュランダル議長が紹介してくれた逸材でな!!」

 

隣に降り立った〝ラクスと瓜二つ〟な少女を自慢げに紹介しながら、少女はラクスとは違う人懐っこそうな笑みを浮かべてアスランたちへ挨拶をした。

 

「ミーア・キャンベルです!よろしくね?」

 

「ラクスと見た目はそっくりだが、方向性が違ってね。二人でユニットを組んでライブツアー中なのさ」

 

大戦後、ラクスの行った行為はひとえには褒められたものではない。だが、支持者も多かったことと、結果的にプラントを救った英雄的な側面もあったことから、彼女を政治的な舞台に参加することを禁ずるという条件付きで、ラクスの身は保護される事になった。

 

その後、護衛兼補佐の役割を任されたバルトフェルドが、芸能界へ声をかけられたことをきっかけにプロデューサーとしてアイシャと共にラクスをサポートするようになり、デュランダルから紹介されたミーアも加わって、今は大戦で傷付いた人々を慰問している。

 

「アンディもすっかりプロデューサーがハマり役になったわね?」

 

「もともと、こういう事のほうが性に合っていたからな、私は」

 

主にメイクや衣装のデザインを担当するアイシャからそう言われて、バルトフェルドはそう答えた。もとより前線に出て戦うより、後ろで計略を練るほうが自分の得意分野だったので、今の立ち位置が天職なのかもしれないとバルトフェルドは思っていた。

 

「バルトフェルドさん!それにラクス!?けど、なんだか…違うような」

 

すると、フレイと同じくメビウス・ストライカーから降りてきたキラが、ミーアと共にいるバルトフェルドたちの元へと降りてくる。

 

キラが一瞬、ミーアをラクスと間違えたが、すぐに視線を下ろすと違和感を覚えた。明らかに違うものがあるからだ。

 

「キラー?」

 

そう思った矢先、デュランダルとの会話を終えてきたラクスがキラの横から声を発する。それはあまりにも普段通りであり、そして底知れない何かを孕んでいた。

 

「この人はミーアさんです。ラクスは私ですよ?わかってますか?」

 

顔は笑顔。言葉遣いも色も顕色ないのに、なぜかキラの背中にはドバドバと嫌な汗が流れ始めている。

 

「あ、あはは…もちろん、ちゃんとわかってたよ?」

 

「ほー、でしたら、どこを見て判断されたので?」

 

スッと笑顔だった目が開く。

 

残念ながら、その目は明らかに笑っていなかった。

 

「あー!あーー!!ベルモンドさんが呼んでるから僕いかなくちゃ!また後で!!ごめんね!!」

 

そう返したキラは、そそくさと来た道を戻ってメビウス・ストライカーの方へと飛んでいく。あれ?キラくん道具は?と言われて疲れた顔をするキラ。それほど動揺していたということか。

 

「全く…あの天然バカ」

 

「ラクス様と私がそっくりでしたから、仕方ありませんよ」

 

呆れて眉間を揉むカガリに、ミーアはまるで当然だと言わんばかりに胸を張っていう。そんなミーアを見ながらラクスは色がない笑みを浮かべる。

 

「ええ、そうですね」

 

「胸の大きさは違いますけど」

 

「何か言いました?フレイさん」

 

「本当に申し訳ない」

 

だから種割れの目をこちらに向けるのはやめてください死んでしまいますと、フレイは見たことがない速さでラクスへ頭を下げる。

 

「はっはっはっ!相変わらずだな!」

 

それを見て楽しげに笑うバルトフェルド。そんな彼らのやり取りを目にしていたミネルバの艦長であるタリア・グラディスは、この船に増していく異常性と要人を乗せているという責任感が比例し、気が遠くなりそうだった。

 

「議長」

 

「すまないな、タリア。しかし状況が状況だ。理解してほしい」

 

なんとか絞り出した声も、デュランダルの声によって封殺される。この状況で…戦線に向かう事になるのか…。

 

一気に引き返したくなる気持ちがあったが、あの新型を他所に渡すわけにもいかないという軍人の葛藤が、その思いを許さない。

 

隣にいるアーサーを一瞥すると、白目を向いて気絶しているように見えた。それにタリアの心配は他にもある。

 

「ラ、ラクス様!ミーアちゃん!ファンです!サインしてください!」

 

「ほ、本物のダブルラクス様だ!手を振ってる!!」

 

はしゃぎ始める作業員や、ミネルバのスタッフたちのこと。タリアは黄色い声をあげる部下たちを見つめながら小さく声を吐いた。

 

「…これ以上はこの船の規律にも影響が及びますね」

 

タリアの言葉には、全面的に同意できる。

 

フレイに至っては、初めてラクスと共にラリーたちの船に乗った時の記憶が濃密にフラッシュバックしており、思わず険しい顔で眉間を揉むという事になっていた。

 

全く、状況を考えろと言いたくはなるが、それより今はデュランダルとの会話が先決だ。カガリは数回咳払いをしてデュランダルに向き直った。

 

「アスハ議員、ここがこの艦のほぼ中心に位置するとお考え下さい。ZGMF-1000。ザクはもう既に御存知でしょう。現在のザフト軍の主力の機体です」

 

デュランダルも切り替えたようにミネルバ艦内の説明を始める。このミネルバはザフトの技術が込められた最新鋭の戦艦だ。幸いな事にハンガーにいるからこそ、議長の言葉も簡潔に纏まっていく。

 

「最大の特徴とも言える、この発進システムを使うインパルス。これは技術者に言わせると、全く新しい効率のいいモビルスーツシステムなんだそうですよ。私にはあまり専門的なことは解りませんが」

 

そう言ってデュランダルがカガリの方へ目をやると、彼女とラクスの表情は思わしくなかった。

 

「しかし、やはりお気に召しませんか?」

 

「議長は嬉しそうだな」

 

皮肉そうに返すカガリに、デュランダルは肩をすくめて言葉を選ぶ。

 

「嬉しい、というわけではありません。あの混乱の中からみんなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つことが出来たというのは、やはり…」

 

「——争いが無くならぬから力が必要だと仰ったな、議長は」

 

腹の底から湧き上がるような声がカガリから発せられた。平和のためには一定の力が必要になるとも言えるデュランダルの考え方。それがなにより、カガリの思いに触れた。

 

「だが、この度の事はどうお考えになる。あのたった3機の新型モビルスーツのために、貴国が被ったあの被害のことは?あんな惨状だ、民間人にも被害は及んでいる」

 

アーモリーワンは兵器工廠と呼ばれているが、軍属ではない民間人も少なからず住んでいた。そんな中で、あんな凄惨な事件が起こったのだ。

 

それはまるで、オーブが地球軍に攻め入られている時を彷彿とさせる有様で、カガリは怒りをおぼえる。

 

「そもそも何故必要なのだ!そんなものが今更!」

 

「武器を持たないで戦いをやめてくれと言っても、まだ叶わない世界だから、だろ?」

 

デュランダルが切り返す前に言葉が返ってくる。

 

カガリが振り返った先には、正座から立ち上がり、オーブ軍のものとは違う特製のノーマルスーツを見に纏う男性、ラリー・レイレナードが立っていた。

 

 

 

 

 



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第14話 伝説と流星

 

 

 

「——貴方は?」

 

突然議長らに声をかけてきたことに、タリアが怪訝そうな表情に変わる。議長も向かい合った人物に少しばかり顔を硬らせた。

 

いつぶりの再会か。ラリーは前大戦でクルーゼの我儘に振り回されていた頃のデュランダルを思い返して小さく笑うと、真面目な面持ちでタリアたちへ敬礼を打った。

 

「失礼しました。民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」のパイロット、ラリー・レイレナードです。この度はオーブ軍からの依頼により、カガリ・ユラ・アスハ議員の護衛隊長を受け持っています」

 

民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」。

 

ラテン語で〝流星〟の意味を持つ単語を織り交ぜた企業名は、設立時に多くの投資をしてくれたアズラエル理事のアイデアだ。

 

地球軍との戦闘の後。前大戦終結後にオーブを占拠していた地球軍が撤退する際、オーブの動向を監視する名目で、オノゴロ島の南東部に位置する湾岸基地に地球軍が駐留することになった。

 

だがそれは表向きであり、そこに出入りする地球軍の関係者は極端に少なく、ハルバートン提督やアズラエル理事の息の掛かった信頼できる者しか内情は知らない。

 

その基地に籍を置くのが、「トランスヴォランサーズ」だった。

 

ラリーたちの主な任務は、地球軍が軍を出すには危険な場所への偵察や要人の護衛、救出。オーブ軍とアズラエル財団、ハルバートン提督帰属の地球軍からのオーダーを受けることで機能する、言わば地球圏最高勢力の懐刀といえる存在だ。

 

組織に属さない少数精鋭な上に、自由度と汎用性が高いことから多くの極秘ミッションや警護、救出任務を成功させている影の功労者とも言える。

 

そして、その企業の主軸とも言える戦力が——。

 

「まさか、君がここに来ているとは思いもしなかったよ。〝流星〟」

 

先ほどまで抑揚の無かった声に、僅かにだが高揚が見えた。はたと、デュランダルの放った言葉に、タリアやアーサー、アスランを怪訝な目で見つめていたハイネや、フレイの手伝いをしていたヴィーノたちと…。

 

ラリーの出時を知る者以外が途端に固まり、空気にピシッと何かが走るような幻聴が聞こえた。

 

「流星…?」

 

タリアが震えそうな口でそっと呟く。

 

誰もがその意味を脳内にリフレインさせると、隣にいたアーサーの顔が一気に白目から青色へと染め上げられていった。

 

「流星…流星って、ネメシスですか!?」

 

「アーサー!!」

 

「あぁ…いや!す、すいません!!」

 

つい口にでてしまった言葉に、アーサーはひれ伏す勢いでラリーに向かって頭を下げる。

 

流星。

 

またの名をメビウスライダー隊、〝凶星〟ネメシスと呼ばれた存在。

 

グリマルディ戦線から、数多くの伝説と恐怖をザフト軍に与え続けてきた英雄の呼び名だ。

 

前大戦でモビルスーツに劣るはずのモビルアーマー「メビウス」に乗り、その類稀なる操縦技術と戦闘能力で、多くのモビルスーツ、エースパイロットたちを撃破し、戦争終結の突破口となった伝説のパイロットだ。

 

「じ、実在したんだ」

 

ヴィーノの溢れるような言葉。

 

事実、ザフトではその存在は大戦後から否定的な論議が交わされた。

 

世論では「流星」という存在は、前大戦の悲惨さを象徴する象徴として処理され、その実態、事実関係は封鎖。ザフト軍やプラント政府にも徹底した緘口令が敷かれ、全てが闇へと葬られたのだ。

 

「議長!」

 

動揺が広がる中、今度こそタリアが怒りを孕んで声を荒げた。ただでさえ、前大戦ではその首に莫大な懸賞金がかけられた存在であり、それを亡きものにしたプラント政府にとって、デュランダルが発した言葉はあまりにも危険だった。

 

「やはりプラントとしては、流星の存在は秘匿しておきたいはずだったようだが、言って良かったのか?」

 

当の本人であるラリーは、おくびにも出さずデュランダルに問いかける。たしかに、ラリーたちの存在はある一定の秘匿性はある。

 

それはあくまで平時の時だ。

 

ザフト軍の新鋭艦に乗り、さらには何者かによって極秘に開発されていたモビルスーツが盗まれていた現場に居合わせるなどと、そんな異常な状況下では薄っぺらい秘匿性など無意味に等しい。

 

「構わんよ。状況が状況なのだから」

 

デュランダルも同じような思いだろう。

 

レイが乗るインパルスと比べ、後で合流していたはずのオーブ軍機の方がひどく消耗している。それだけで、流星と呼ばれた彼が如何に苦戦したかなど容易に想像できた。

 

デュランダルはクルーゼと彼の死闘を知っている。その異常性と能力についても。そんな彼をここまで追い詰めたのだ。敵にも自分たちが想像する以上の〝不確定要素〟が存在しているのだろうか。

 

「まぁ、貴方が流星なのですか!?」

 

ふと、固まっていた他の面々の中から、畏怖や恐怖を含まない純粋な驚きの声が上がった。バルトフェルドの横を飛び出したミーアが、デュランダルと向き合っていたラリーに駆け寄る。

 

「私、ミーア・キャンベルと言います!お会いできて光栄です!」

 

彼女はそういうとすぐにラリーの手を握って顔を近づける。カラン、とハリーが持っていた工具を床に叩きつ……無重力なのに落とした音がハンガーに響いた。

 

そんな遠回しな威圧に気付いてないのか、無視しているのか、ミーアは構う気もなくラリーにラクスにはない人懐っこい笑顔を見せた。

 

「ミーアは彼を知っているのかい?」

 

「はい!砂漠の流星のファンですから!」

 

「さ、砂漠の流星?」

 

「はい!!」

 

砂漠の流星…聴き慣れない言葉だ、とラリーは首を傾げた。

 

そんな彼ら流星がアフリカの地で戦った軌跡を描いた大ヒット小説、アフリカで流星らと共に戦った戦士サイーブの息子が出版した「砂漠の流星」を知ることになるのは、まだ先のことである。

 

「キャンベルさん、今は」

 

タリアの声に、気分が高揚していたミーアはハッと気がついたのか、困ったように笑って戸惑うラリーの元から離れていく。タリアは一息つくと気を取り直して改めて語りかけてきたラリーへ言葉をかけた。

 

「で?そんな貴方は何故、何者かに奪取された三機に関心があるのですか?」

 

ミーアの勢いに気圧されたラリーも、不信感のこもったタリアからの声に真剣さを取り戻して答える。ただし、返す相手はタリアではない。

 

「デュランダル議長。ひとつ解せないことがある」

 

「聞こう」

 

タリアからの視線に気づきながら、デュランダルはあえてそう答える。議長からの許しを得て、ラリーは改めて本題へ入った。

 

「そもそも、なんで敵はモビルスーツ奪取の計画を実行したんだ?この船の進水式がある前日の今日に、だ」

 

敵の勢力…ラリーは検討は付いているが、この世界がDestiny通りの世界である保証はない。現に、ミネルバでカガリを憎んでいたはずのシンが、こちら側にいるのだ。トールもフレイも、そしてラクスと共にミーアもいる。

 

この世界で起こることは全く予想が付かないのだ。故に、あえてデュランダルに問いかける。

 

なぜ今、あの新型の奪取の計画が実行されたのかを。

 

「それは、ミネルバの進水式があったからで…」

 

「式典の準備なら、もっと前から始まっていただろう?それこそ、あの機体達が運ばれてきたタイミングを狙うこともできたはずだ」

 

タリアの答えを聞く前に、ラリーはバッサリと言葉を投げた。ミネルバの進水式前とはいえ、より警備が手薄だった搬入時や、それこそ〝ヘリオポリス〟のようなやり方も相手は取れたはずだ。

 

「ザフト軍の新型機開発を、世界に知らしめるため?」

 

「式典当日を狙った方が効果的だ」

 

カガリの推察もおそらく違う。

 

現に今回の事件では、プラント政府にとっては大きな損害にはなったが、地球圏にはあまり情報が流れていない。地球への中継テレビが入るのも進水式の当日からだった。

 

プラントとしても、新型機を開発していた情報管制の包囲網なら、いくらでもやりようはあるはずだ。

 

「じゃあ、何が目的で…?」

 

不安げな声で言うアーサーに、ラリーは一つの予感を告げる。

 

「——おそらく、俺たち」

 

「僕たちが、ですか?」

 

会話に加わってきたキラやリーク。そしていつの間にか真剣な面持ちで聞くバルトフェルドやフレイたちも、ラリーを中心に集まってきていた。

 

「極秘のオーブとの会談。しかも、アスハ議員が議長に連れられて工場の視察を行っていたときに、事件は起きた。たしかに偶然にしては出来すぎている」

 

視察もスケジュールも、今回の密談では大まかには設定されていない。視察としても、ザフト側が提案してきたことだ。ラリーのデュランダルを見る目が少しばかり強い何かを持ち始めている。

 

今回のこと。

 

そしてミーア・キャンベルという存在。

 

ラリーにとって、デュランダルという相手もまた、気の抜けない相手に変わりはない。

 

「だが、敵の目的はあくまでザフトの新型機だったぞ!殺すのが目的ではないと言うことになる」

 

「相手がアスハ議員の存在を知っていたということは、偶発的に事件に巻き込まれての死亡を狙ったということか?」

 

「そう。ポイントはそこだ」

 

カガリとアスランの言い分に、ラリーは語気を強くして頷く。重要なポイントとしては、そこになる。

 

「敵は俺たちの存在は気付いていたが、結論的には〝俺たちの死を目論んだわけじゃない〟」

 

「どういうことだね?」

 

この事に関してはデュランダルも疑問的だった。そしてラリー自身が、デュランダルを完全に疑えていない理由にもなる。

 

カガリとフレイ。

 

オーブとアズラエル財団の重要なポイントになり始めた二人であり、ナチュラルを蔑視するコーディネーターやプラント関係者にとっては目の上のたんこぶと言ってもいい。始末するならばあの瞬間が絶好のチャンスだった。

 

もし仮に、デュランダルが今回の件に〝関わっている〟ならば、この千載一遇のチャンスを物にしないはずがない。

 

故に、そこが分かれ目とも言えた。

 

「オーブは今や各国に対する楔だ。軍事力をひけらかさず、増長させず、世界に一定のバランスを保つために動き続けている。だからこそ、大っぴらに要人を暗殺するのは不味い。だから〝ついで〟だったんだ」

 

あの作戦や敵の動きからして、ザフトの新型機を奪い、アーモリーワンの工廠としての能力を低下させることはわかる。仮にあの場でカガリたちが死んだとしても、敵にとっては死因をプラントになすり付けれてラッキーくらいにしか思っていないのだろう。

 

新型機を秘密裏に作っていたザフト。

 

そんなザフトと密談をしていたオーブ。

 

そんな状況だけでも分かれば、燻っている〝内部の人間〟を焚き付けるには効果が絶大だ。

 

「敵にとって第一目標が新型機で、第二目標はオーブの要人と実働部分をプラントに足止めし、オーブの能力を一時的にでも麻痺させることにあったと推測は立てられる」

 

「待ってください。そうすることで敵になんのメリットがあるというの?」

 

「さっきも言っただろう?オーブは世界の均衡を保つ楔だと。その楔は今や、地球圏復興の立役者的な物になっている。オーブが先頭に立ってノーと言えば大きく動けない勢力もあるだろう」

 

たとえば、コーディネーターを蔑視するナチュラル勢力。たとえば、戦争経済で潤っていた者たち。たとえば、戦争を境に独立を狙っていた独裁国などなどなど。上げればキリがなくなるほど、今の地球圏は混沌としている。

 

その危ういバランスを何とか保持しているのが、オーブとアズラエル財団だ。

 

「代表的な象徴である、アスハ議員やアルスター事務次官がプラントにいる。殺害、少なくとも足止めされれば、都合がいい奴らがいると言うわけさ」

 

「都合がいい…勢力」

 

シンの言葉に、キラやアスランもなんとも言えない顔になる。また戦争がしたくてしょうがない馬鹿どもが地球にはウジャウジャといるのもまた事実だった。

 

「待ってほしい。敵が属している勢力はまだ確定してないでしょ?」

 

「オーブとしても大西洋連邦やユーラシア連邦にも打診はしてあるが、知らぬ存ぜぬの一辺倒でな——しかし、話ではかなりきな臭い様子らしい」

 

これはカガリたちがプラントに来る前からそうだった。力を取り戻し始めた大西洋連邦が、過去の過ちを繰り返さないように警告をしているが、向こうからの返事には良いものは無い。あったとしても表面上の言葉だけだ。

 

「何を企んでいるかは分からんが、今の状況を面白くないと思っているのは確かだろう。特に大西洋連邦の体質を抜本的には解決していないからな」

 

そう言うバルトフェルドの言葉に、アズラエルと共に多くの国を見てきたフレイも同感だった。

 

「アズラエル理事も同じことを言っていたわ。向こうにはブルーコスモス幹部のロード・ジブリールが居るから、油断はできないって」

 

アズラエルが実質離脱しているブルーコスモスで、急速に台頭し始めたらしいジブリールの力。それがどうあれ、地球圏は再び不安定な状況を呼び覚まそうとしているように思えた。

 

「問題はこの事件の裏にいる誰が何を企んでいるか…それを知るためにも、あの新型を追う必要がある」

 

ラリー自身にとっても、彼らを追う必要があった。

 

宇宙で会った、あの「メビウス」。

 

自分とほぼ同じ力を持つあの機体に乗るパイロットの正体を知らない限り、ラリーの中にある不信感や不安が消えることはない。

 

《ブリッジより艦長へ!ボギーワンを捕捉しました!オレンジ55、マーク90アルファ!》

 

ミネルバにアラームが鳴り響く。艦内放送で呼び出されたタリアは、すぐに近くにある通信機器に飛んでゆき、ブリッジへ指示を飛ばした。続くように若い女性の声がミネルバに響いた。

 

《敵艦捕捉、距離8000、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!》

 

「最終チェック急げ!始まるぞ!」

 

「だぁやべぇッ!」

 

ヴィーノやヨウランが、他のスタッフに尻を叩かれるように急かされる。すぐに発進状態にするために、二人も待機しているザクのもとへと飛んでゆく。

 

「申し訳ありません議長!」

 

タリアたちもデュランダルに敬礼を打ってすぐにブリッジへと向かった。そんな彼女達を見送った後、デュランダルは困った顔でラクスやカガリの顔を見つめた。

 

「本当に申し訳ない。できれば貴女方には戦闘の前に離脱して頂きたかったのですが」

 

今から離脱しようにも危険は伴う。ならばいっそミネルバで同行してもらえた方がデュランダルにとっても都合はいい。

 

「——ところで議長。ひとつ提案なんだが」

 

そんな彼に、イレギュラーであるラリーが笑みを浮かべて言葉をかける。

 

「何かね?」

 

 

 

 

「俺たちを雇わないか?」

 

 

 

 

 

逃した敵を捉える射程距離まで、残り3000。

 

次の戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第15話 出撃

 

 

 

 

「やはり来ましたか」

 

ガーティ・ルーのブリッジで、艦長であるイアンは当然だと言わんばかりの口調で呟く。データで表示されるのは、アーモリーワンで自分たちを追ってきた新型の船だ。

 

よほど、奪われたモビルスーツを取り戻そうと躍起になっているように見える。こちらとしては、計画の第一段階をクリアできたので文句はないが、こうも付き纏われると今後の動きに支障が出るのは明白だ。

 

「ああ。まっザフトもそう寝ぼけてはいないということだ。ここで振り切るとしよう」

 

《総員戦闘配備!パイロットはブリーフィングルームへ!》

 

「アンカー撃て!同時に機関停止。デコイ発射!タイミングを誤るなよ」

 

オペレーターの艦内放送が響く中で、イアンのシートの横にいたネオの体が無重力の中に浮かぶ。

 

撃破——とまでは言わないが、とりあえずあの新型艦を撒く必要はある。

 

モビルスーツのデータは取ったが、それを受け渡すにはどうしてもザフトの新型艦が邪魔であり、そして同時に「流星」の存在が計画の妨げにもなる。

 

イアンに自分の愛機の準備をさせるよう告げて、ネオも格納庫へと向かう。

 

さて、〝流星〟との挨拶は先ほど済ました。理論の証明は終わった。次は本気で戦うことにしよう。

 

作戦の局面を迎えながら、ネオは自身の戦いにニヤリと笑みを浮かべる。ここを切り抜けられれば、ネオ・ロアノークという人間は完成する。

 

あとは、自分の力が流星に通じるか…ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あの新型艦だって?」

 

ゆりかごから出たアウルが、ノーマルスーツに着替えたスティングの肩に手を置いて語りかける。自分たちを追ってくるのは、アーモリーワンで出会した新型艦だ。ブリーフィングルームに向かう道中で、スティングも肩をすくめて答える。

 

「ああ。来るのはあの合体野郎かな?それとも変形野郎か」

 

「今度こそバラバラか、生け捕るかってね」

 

「どっちにしろ、また楽しいことになりそうだな、ステラ」

 

スティングの声に、ステラはその整った顔つきの中、瞳だけに殺気を漲らせて頷く。よほどアーモリーワンで足蹴にされたことが気に入らなかったようだ。

 

「次は、必ずステラが落とす」

 

次は負けない。必ず落として、ネオに褒めてもらうんだ。殺気立つステラの様子に、アウルとスティングは互いの顔を見合わせて、先に向かってゆくステラの後に続くのだった。

 

 

////

 

 

「艦長がブリッジへ!」

 

タリアとアーサーがブリッジへと戻る。それぞれが自らの席に座ると、タリアは要人が考えられないほど乗り込む自艦の憂いを切り取って、艦長としての責務に取り掛かった。

 

「敵も、よもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど、危険な宙域での戦闘になるわ。ハイネとレイで先制します。準備は終わってるわね?」

 

発進準備は終わっていますと答えたオペレーター。よし、とタリアが指揮を振るおうとした時、先ほど自分たちが入ってきたブリッジの出入り口が開いた。

 

「議長…」

 

振り返った先にいたのは、オーブの要人であるアスハ議員と護衛であるアスランを連れたデュランダルの姿があった。

 

「いいかな?艦長」

 

非戦闘員がブリッジに入るなど…と言いたげなタリアに、デュランダルはあえてそう問いかける。ずるい男だと思いながら、タリアは何も言わずに議長を見つめる。

 

「私はオーブの方々にもブリッジに入っていただきたいと思うのだが。君も知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた方だ。そうした視点からこの艦の戦いを見ていただこうと思ってね」

 

「…解りました。議長がそうお望みなのでしたら」

 

「ありがとう、タリア」

 

答えがわかっていただろう応答に、デュランダルは満足そうに笑みを浮かべながら、自分の席と、カガリたちをそれぞれの席へと案内する。タリアはデュランダルに悟られないよう息をついて、気を取り直した。

 

「ブリッジ遮蔽!対艦対モビルスーツ戦闘用意!」

 

戦闘が始まる。

 

ここまで来たら後には引けない。タリアは2度目となるミネルバの戦闘に備えて、深くその軍帽を被った。

 

 

////

 

 

ミッションを説明する。

 

目的は、奪われたザフト軍最新鋭モビルスーツ、カオス、アビス、ガイアの奪還、それが不可能な場合の破壊、撃破だ。

 

不明艦をボギーワンとし、ミネルバがボギーワンの補足、敵モビルスーツの相手が我々の役割となる。

 

敵の機体データだが、先の戦闘で見てもらった通りだ。詳細は機密事項のため、公表はできない。各員の判断によって戦術を組み立ててほしい。

 

おそらく敵は、先の大戦から形成されたデブリ帯を使って戦術を組み上げてくるだろう。こちら側はミネルバから先行し、敵がデブリ帯から顔を出したところを狙う。

 

駆け引きが重要になってくる戦いだ。各員、我慢比べになるだろうが、向こうを追い詰めているのはこちらだ。余裕を持って戦ってほしい。

 

作戦説明は以上だ。

 

各員の健闘を祈る。

 

 

 

////

 

 

 

《ザク・ブレイズウィザード、発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します》

 

ハンガーでは慌ただしく発進準備が進められていた。修復されたオレンジ色のザクと、中央カタパルトへインパルスのコアスプレンダーが搬入されていく。

 

《インパルス、発進スタンバイ。モジュールはブラストをセット。シルエットハンガー3号を開放します。発進シークエンスを開始します。ハッチ開放。射出システムのエンゲージを確認》

 

大型の搬送ユニットがザクの肩部を固定し、エアロックへと送り出していく。コクピットの中では、ハイネが機体の発進準備を整えていた。

 

《ハイネ機、カタパルトエンゲージ》

 

「全く、ミネルバでの初陣がこんなことになるなんてな!ハイネ・ヴェステンフルス、ザク、発進するぞ!」

 

リニアカタパルトから、背部のウィザードシステムへ「ブレイズパック」を装備したハイネのザクが勢いよく射出されていく。ハイネ機はぐるりと機体を挙動させると、ミネルバの先鋒へ一気に飛び立っていった。

 

《続いてインパルス、どうぞ》

 

中央カタパルトへ到着したレイは、コクピットの中で思考を巡らせていた。

 

流星…ラリー・レイレナード。

 

懇意にしてもらっているデュランダル。そして、自身と深い関わりを持つラウ・ル・クルーゼを大きく変えてしまった存在。

 

レイは苛立ったように顔を歪める。

 

キラ・ヤマト。そしてラリー・レイレナード。自身の出自と、自身が憧れた存在に大きく関わった二人に、彼は表に出さない激情を抱えていた。

 

「…了解した。レイ・ザ・バレル。コアスプレンダー、発艦する!」

 

今は、それを出す時ではない。だが…俺は認めない。あんな存在を、認めてたまるものか…!!

 

そんな思いを胸に抱いて、レイはコアスプレンダーの出力を上げて深淵の宇宙へと飛び立ってゆく。続けて射出された各パーツと、ブラストシルエットとドッキングしたインパルスは、先行するハイネのザクを追うように進む。

 

他にも、ミネルバに配備された緑のザクウォーリアが数機出撃。一個編隊として運用するモビルスーツ部隊を吐き出したミネルバは、ボギーワンとの戦闘態勢に入る…はずだった。

 

《続いて、アスカ機、メビウス・ストライカー、どうぞ》

 

ここにイレギュラーが紛れ込む。

 

本来ならば、レイの隣でインパルスを駆るはずだった少年が。

 

本来ならば憎しみしかなかったはずの、オーブ軍と似たノーマルスーツに袖を通した少年が。

 

彼専用に組まれた可変機に乗って、汎用型のカタパルトの上へと搭載される。

 

シン・アスカ。民間軍事企業「トランスヴォランサーズ」の若きエースパイロット。彼は操縦桿を握り締めながら目の前に広がる宇宙を見た。

 

《シン!あくまでザフトのサポートだからね!》

 

「了解!では、隊長、お先に!シン・アスカ、メビウス・ストライカー、行きます!」

 

整備を担当してくれたフレイからの声に応答して、シンの機体はカタパルトから一気に加速し、射出された。

 

《続いて、レイレナード機。メビウス・ハイクロス、カタパルトへ!》

 

次いで搬入されてくるのは、ラリーが乗り込む「メビウス・ハイクロス」だ。

 

機体コンセプトは地球軍のモビルアーマー「メビウス」と同じものであるが、機体骨格から最新フォーマットに見直され、コクピットも従来のモビルスーツと同等のレイアウトに変更。武装面もビーム砲とビーム攪拌幕、チャフ、ミサイルが標準装備となっており、機動力も過去から連なる改修の全てを踏襲した物として、大幅に改善されている。

 

今回の構成は、シンの可変機を主軸とした四機の高機動編隊となる。

 

「すまない、ハリー」

 

居住性が爆発的に改善されたコクピットの中で、ラリーは申し訳ない顔で通信先にいるハリーへ謝った。

 

こうやって出撃することになったのは、ラリーのわがままだった。デュランダルに打診し、自分たちを傭兵として雇うようにしたラリーは、戦いに巻き込まれる形となった仲間へ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

《デュランダル議長に雇ってもらう話?別に気にしてないわよ》

 

そんなラリーに、ハリーはあっけらかんとした声で平然と返す。その言葉に、後方で待機しているトールやリークも頷いた。

 

「ラリーさんのそういう予感、当たりますからね」

 

「そうそう。それにラリーをそこまで追い込んだ敵。僕も興味があるのは確かだし」

 

だから、ラリーが選んだ道ならついて行く。そう全員が口を揃えて言った。ラリーは少し気恥ずかしくもなり、感謝の気持ちに満たされながら、真剣な眼差しでメビウスの操縦桿を握る。

 

「わかった。だが、俺たちの目的は一つだ」

 

「 「了解!!」 」

 

二人の返事を受けて、ラリーは憂いを払う。もう迷いはない。

 

生きる。生き残って、使命を果たす。

 

ただそれだけ。

 

傭兵や民間軍事企業になっても変わらない、過去の自分から脈々と受け継がれてきた在り方。

 

それを果たすために、ラリーは前を見据えた。

 

自分が感じ取ったモノを確かめるために。

 

《メビウス・ハイクロス、カタパルトエンゲージ、発進どうぞ!》

 

「ラリー・レイレナード、メビウス・ハイクロス、出るぞ!」

 

「リーク・ベルモンド、メビウス、発進します!」

 

「トール・ケーニヒ、メビウス、行きます!」

 

三機のメビウスはミネルバから飛び立つと、先に出たシンのストライカーと合流し、四機の編隊を作って宇宙を行くのだった。

 

 

 

 



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第16話 デブリの戦い 1


長らくお待たせしました。更新再開です。


 

 

 

 

「初陣がデブリ戦とは…やれやれ、嫌なクジを引いちまったもんだ」

 

出撃したミネルバ陣営は、ハイネが乗るオレンジ色のザク・ブレイズウィザードを先頭に、二機の緑色のザク・ウォーリアと、レイが駆るブラストインパルスで構成されていた。

 

場所は旧大戦で出来上がったデブリ帯。

 

ボギーワンと称される敵艦は、この中へと逃げ込んだのだ。

 

「向こうだってもうこっちを捉えてるはずだ。油断するなよ」

 

「解ってます、右翼から前進します」

 

ハイネの指摘を受けて、レイは指示通りに右翼側からボギーワンへ接近するルートを取る。

 

デブリ帯は複雑に入り組んだ迷路のような宙域だ。下手にルートを外れれば、敵に待ち伏せられる格好の的になるか、またはデブリに阻まれて行手を遮られることになる。

 

後方にいるミネルバも同じように、デブリ帯の複雑怪奇なルートを避けて、ボギーワンが侵入したであろうルートを進んでゆく。

 

「敵艦に変化は?」

 

「ありません。針路、速度そのまま」

 

敵艦に変化はない。ならば、デブリ帯の奥へと隠れられる前に勝負をつけるべきだとミネルバのクルーは考えを決める。

 

デブリ帯の奥へと隠れられれば、地の利を得るのは向こうだ。そうなる前になんとしてでも捕捉したい思惑があった。

 

「よし。ランチャーワン、ランチャーシックス、1番から4番、ディスパール装填。CIWS、トリスタン起動。今度こそ仕留めるぞ!」

 

ミネルバの火器管制システムが起動してゆく中、同艦より発進したオーブ軍機体…否、議長認可で雇われることとなった傭兵部隊は、進んでゆくミネルバのモビルスーツ部隊とは別のルートを進んでいた。

 

「ライトニングリーダーより、各機へ。フォーメーションはストライダーを維持。状況は?」

 

鏃のような編隊を組んで飛ぶメビウス隊は、デブリの合間を軽やかに飛び去りながらボギーワンへと距離を詰めていた。

 

ラリーの動きは滑るように滑らかであり、モビルスーツで通れないようなデブリの合間をなんの躊躇いもなく縫って行く。それに続くメビウス隊も、ラリーとも劣らない機動力でその変則的な軌道に追従してゆく。

 

「やけに素直だね。敵は」

 

唐突に、ラリーの横に付いているリークが呟いた。ライトニング1を担う彼の危機への嗅覚は鋭い。ここまで接近しているというのに、敵が何もアクションを起こしてこないのは不可思議と言える。

 

ラリーは操縦桿を握りながら、脇にあるモニターに印を付けて後続のメビウスへ送信する。

 

「俺たちのいる場所はここ、そして敵はここにある。距離としては俺たちがミネルバから出ても変わりはない」

 

「敵が動きを止めている?」

 

今の状況を簡単に説明するならば、敵との追いかけっこだ。デブリ帯に逃げ込んだということは、敵は相応に振り切る動きを見せてもおかしくない。

 

それにこちらは慣れない新造艦ミネルバの操舵だ。デブリを抜けてボギーワンへ接敵することは困難を極める。デブリに突っ込んだ以上、敵がこちらとの距離を維持する必要はない…と、なれば。

 

「罠か?」

 

「そういうことになる。おそらく…」

 

ラリーはすぐにミネルバへのレーザー通信を試みる。だが、通信システムを作動させた段階で響いてきたのは激しいノイズ音ばかりだった。

 

「ライトニングリーダーよりミネルバ!聞こえるか?…ちぃ、Nジャマーか!」

 

Nジャマーを展開されている以上、相手は何かしらの方法で攻勢に出てくる。ラリーたちは機体を翻しながら進路を進めてゆく。〝三機〟の流星はデブリの中を鮮やかな軌跡を描いて飛んでゆくのだった。

 

 

 

////

 

 

 

 

「インパルス、ボギーワンまで1400」

 

その異変は、ミネルバのクルーも察知していた。レイのインパルス、そしてミネルバのモビルスーツ部隊の射程距離にボギーワンが入ろうとしているというのに、敵艦の動きに変化はないのだ。

 

「未だ針路も変えないのか?どういうことだ?」

 

「何か作戦でも?」

 

この二年間、プラントの中でもクライン派と、ザラ派に分かれた小競り合いはあったものの、それはジャンク品のモビルスーツや、廃棄されたものを修復したもので行われており、艦を用いた戦闘行為には発展してこなかった。

 

そして、その油断に対する危機管理がミネルバクルーには欠落していた。

 

「…しまった!」

 

敵の思惑に気づいた時には、すでに事は術中の中だ。岩陰に隠れていたのはボギーワンと同等の熱量を発するだけの機器。

 

「デコイだ!」

 

まんまと敵の思惑にはめられたミネルバ部隊も、デブリの中に潜んでいたモビルスーツ隊からの強襲にさらされることになる。

 

『各機、散開!!』

 

『よーし、行くぜ!』

 

『わかった』

 

実戦投入されたカオス、アビス、ガイアのそれぞれは身を潜めていたデブリから一気に離れてゆき、通り過ぎたザフトモビルスーツ隊の背後を捉えた。

 

アビスが放ったエネルギー砲が、構える間も与えずに、ハイネの後ろについていたザクウォーリアを容易く貫く。

 

「ショーン!!うッ!」

 

爆散した残骸を一身に受けながら、予想だにしていなかった背後からの攻撃で、モビルスーツ隊は乱れる。その隙をカオスを駆るスティングたちは的確に突き、統制を撹乱させていく。

 

「散開して各個に応戦!くっそー!待ち伏せか!ん?ボギーワンが…」

 

ハイネが敵機に気を取られた瞬間、自分たちが今まで目指していた反応が消えていることに気がつく。

 

「ボギーワン、ロスト!」

 

「何ぃ!?」

 

ミネルバも敵の狙いにようやく気がついた。索敵をするオペレーターが現状把握のためにモニタリングしたデータを読み上げてゆく。

 

「ショーン機もシグナルロストです!それとイエロー62ベータに熱紋3!これは…カオス、ガイア、アビスです!」

 

「索敵急いで。ボギーワンを早く!」

 

焦りを隠せないタリアの悪い予想は的中していた。処女航海でおぼつかないミネルバの死角に、ボギーワンこと、ガーティ・ルーは陣取っていたのだ。

 

『よし、敵は罠にかかったな。ミラージュコロイド解除!ダガー隊発進と同時に機関始動!ミサイル発射管、5番から8番発射!主砲照準、敵戦艦!』

 

艦長のイアンが的確に指示を放ってゆく。ミラージュコロイドを解いたガーティ・ルーからミサイルと同時に数機のダガー隊が出撃してゆく。

 

「ブルー18、マーク9チャーリーに熱紋!ボギーワンです!距離500!」

 

「背後に回られた!?」

 

「更にモビルスーツ2!レーザー照射、感あり!」

 

「アンチビーム爆雷発射、面舵30、トリスタン照準!」

 

「間に合いません!オレンジ22デルタにモビルスーツ!」

 

完全に先手を取られたミネルバへ、出撃したダガー隊が迫る。モビルスーツをデブリの中へ出撃させたのが完全に仇となっていた。対空防御を放つミネルバであるが、モビルスーツの接近に打つ手は残されていない。

 

『幾ら新造戦艦といえど!!』

 

ダガー隊のパイロットたちが、無防備なミネルバへと銃口を向けて、ロックをしようとした瞬間だった。一陣の閃光が閃き、ダガーの内の一機のコクピットを貫いたのだ。

 

『なにぃ!?』

 

パイロットが見上げる。

 

そこにはデブリの合間を縫って真上から飛来する一つの流星があった。

 

「隊長の読みが当たった!!」

 

補修を受けたシンのメビウス・ストライカーが、モビルアーマー形態からモビルスーツ形態へ変形しながら迫るダガー隊へ奇襲を仕掛けたのだ。

 

ラリーの指示は、足と小回りが効くメビウス隊でボギーワンを捜索し、シンの任務としてはメビウス・ストライカーでデブリに潜み、ミネルバを狙う敵艦の警戒と、敵モビルスーツの迎撃にあった。

 

「オーブ軍機!メビウス・ストライカー!アスカ機です!」

 

「ミネルバ!援護する!今のうちに退避を!」

 

ビームライフルから閃光を放ってダガー隊を牽制してゆく。敵も素人ではない。機敏な動きでシンの攻撃を避けて反撃してくるが、シンも機体を鋭く閃かせてダガー隊から放たれる光を避けてゆく。

 

「機関最大!右舷の小惑星を盾に回り込んで!」

 

『逃すな!ゴットフリート一番、てぇー!!』

 

デブリへ逃げるミネルバへ、ガーティ・ルーがゴットフリートを放つが、その光は当たることなく近くにあるデブリを吹き飛ばすに留める。

 

なんとか危機を脱したミネルバで、タリアは息を吐きながらオペレーターであるメイリンに次の指示を送る。

 

「メイリン!残りの機体も発進準備を!」

 

「はい!」

 

「小惑星表面を上手く使って直撃を回避!アーサー!ぼさっとしていないで迎撃!」

 

「は、はい!ランチャーファイブ、ランチャーテン、ディスパール、てぇ!」

 

ガーティ・ルーの艦長、イアンは短期決戦を望んでいたが、こうもデブリに隠れられては戦略が違ってくる。忌まわしげに顔をしかめながらミネルバから放たれるミサイル迎撃を指示してゆく。

 

その隣では、マスクをかぶったネオ・ロアノークが不穏な笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

デブリの中では、カオス、アビス、ガイアの攻撃により、ザフトのモビルスーツ部隊は劣勢に立たされていた。

 

『もらいぃ!』

 

アビスから放たれたビームをなんとか避けるザクウォーリアだったが、避けた先で待ち構えていたガイアのビームサーベルによって、その胴体は真っ二つに引き裂かれる運命を辿った。

 

「ベイル!!」

 

仲間の断末魔が響く中、奪われたザフトの最新鋭機と対峙するハイネとレイ。

 

「あっと言う間に二機も…」

 

数の有利さもあっという間に覆された。ハイネは後方からミネルバが攻撃を受けている情報を受ける。

 

「ミネルバが!?俺達はまんまと敵の罠にハマったってわけか!?」

 

「ああ、そういうことになります。敵はかなりのやり手です」

 

完全に分断されたか…!!ハイネは奥歯を噛みしめながら敵の策略の巧妙さに苛立ちを募らせる。だが、ここで冷静さを失っては敵の思う壺だ。ここはなんとか、奪われた新型機を抜けてミネルバに合流しなければ…。

 

その思惑を読んでいるのか、三機は統率の取れた機動力を発揮し、デブリの合間を縫いながら、ハイネとレイを釘付けにしてゆく。

 

『よぉし、このまま一気に…』

 

『アウル!上だ!』

 

トドメだと言おうとしていたアウルに向かってスティングが叫ぶ。咄嗟に頭上を見上げると、デブリの影から光がいくつも現れる。

 

その全てがミサイルであることを理解するのに時間は掛からなかった。

 

すぐさまアビスを回避機動へ切り替えると、過ぎ去ったミサイル群の発射元へ目を向ける。しかし、そこにすでに機体の影はなく、アウルの見つめるコクピットモニターの側面に、走る光が見えた。

 

『モビルアーマー!?』

 

アウルから見ると、一機の型落ちのモビルアーマーが飛翔しており、機体がわずかに傾いた瞬間、一機の影から二機のモビルアーマーが鮮やかな編隊を組んで飛行していることがわかった。

 

「ライトニングリーダーより各機へ!敵が予定通りに来た!応戦するぞ!」

 

「ライトニング1、了解!」

 

「ライトニング2、了解!」

 

フォーメーションを崩さないまま、ラリーが通信で両機に伝えると、リークとトールも慣れた手つきでラリーの動きに追従する。いつも通り。変わらない形を保ったまま、三機のモビルアーマーは、ザフトの最新鋭機に向かって飛んでゆく。

 

戦力差は火を見るよりも明らかだ。

 

『たかがモビルアーマーでぇ!!』

 

『甘く見るなよ!!』

 

圧倒的な有利さを持って、スティングとアウル、ステラが迎え撃つ。

 

型落ちのモビルアーマー、メビウス。

 

だが、その機体に封じ込まれた伝説を、彼らは目の当たりにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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第17話 デブリの戦い 2

 

 

「ナイトハルト、てぇ!」

 

ラリー達がデブリ内でのモビルスーツ戦に身を投じる中、ミネルバはデブリの小惑星群に身を隠しながら、依然有利な場所から艦砲射撃を継続している。

 

「くっそー!!バカスカ打ってくるぞ!!」

 

ダガー隊を蹴散らしたシンは、隕石群に身を隠しながら飛来するミサイルやダガー隊の迎撃で手一杯だ。

 

「艦長!これではこちらの火器の半分も…!」

 

「浮遊した岩に邪魔されてこちらの砲も届きません!」

 

射角を取ろうとミネルバも動くが、相手が常に優位な位置を確保していることと、こちらの動きが身を守ってくれる隕石群によって制限されている状況もある。

 

「後ろを取られたままじゃどうにも出来ないわ!回り込めないの?!」

 

どうにか打開策を打ち出そうとタリアが策を練るが、状況がそれを許さない。すぐ横の小惑星に敵艦のゴットフリートが直撃し、揺れと衝撃がミネルバを襲う。そんな状況を見つめるデュランダルの隣で、アスランとカガリも今の状況の悪さに渋面を作っていた。

 

シンも奮戦しているが、この有利さが覆らない限り、今の状況を打開することは困難だ。

 

「くうッ!くっそぉー!!こっちの新型を!!この泥棒がぁッ!」

 

デブリ内でも、ハイネとレイが連携をとって迫るガイアへ攻勢を翻す。ハイネ用にチューンされたザクとは言え、新型機であるガイアには性能面で大きく劣る。レイのフォローや、逆にハイネがレイをフォローすることでガイアとの立ち回りを維持できていると言えた。

 

『落とす!!』

 

モビルアーマー形態へ変形し、デブリ内の小惑星を縦横無尽に闊歩するガイアに手こずる2人からわずかにそれた方向。

 

『回り込めアウル!今度こそ首貰おうぜ!』

 

『僕は別に要らないけど!!』

 

そこではカオスとアビスが、戦闘状態へ突入したメビウスライダー隊との交戦を繰り広げていた。隕石群の合間を飛ぶリークのメビウスに、カオスが機動兵装ポッドを展開して追い立てる。

 

放たれた小型ミサイルの雨を掻い潜りながら、リークはヘルメットの中で唇を軽く舐めて集中力を高めた。

 

「こっちの位置を把握されているなら…!!」

 

操縦桿を操るリークの機体は、ひらりと隕石群の中に空く穴の中へと突入してゆく。

 

機体一つが通れる穴を鮮やかな動きで抜けたリークは、カオスの死角を突くように配置された隕石や小惑星の裏を飛び回り、こちらを探すスティングの背後を捉えた。

 

『後ろだと!?』

 

「当たれ!!」

 

下部に搭載された小型の収束砲である「アグニⅡ」が火を吹く。その一閃をスティングは咄嗟に交わしたが、急制動を掛けた結果、後方にある隕石が彼の退路を断つ形となった。

 

「釘付けだ!!」

 

その正面から、ラリーの機体が迫る。翼端から出るビームサーベルが退路を絶たれたカオスの胴体目掛けて飛翔する。スティングが顔をしかめた瞬間、退路を絶っていた隕石の影からアビスが現れた。

 

『うろちょろと邪魔なんだよ!!』

 

追い詰めた相手の後ろから、さらに攻撃だ。アビスの収束エネルギー砲を放ったアウルは、敵撃破の手応えを感じていた。

 

「…ーーっがぁっ!!」

 

だが、相手はアビスを見た瞬間にマニュアル操作でフレキシブルスラスターの向きを無理やり変えて後退、そして上昇する変則的な機動を繰り出したのだ。パイロットに掛かる負荷を考慮していない不可思議な動きに、アウルは目を見開く。

 

『避けたぁ!?』

 

ラリー機はそのまま変則的な機動から復帰すると、現れて奇襲を仕掛けたアウルの機体へ、機体下部に備わる無反動砲が閃光を撃ち放つ。

 

その弾頭は、投入されるだろうザフトの新型機に対応した〝昔ながら〟のものであり、ラリー達が所属する民間PMCでも常用弾頭の一つだ。

 

『うわぁあああ!!』

 

「やはりフェイズシフト装甲並みか!化け物染みた硬さだな。だが、HEIAP弾は有効のようだ!」

 

HEIAP弾。

 

それは旧世紀から実在する弾頭だ。

 

用途は装甲目標の破壊であり、直撃したときにのみ、その特殊な効果が発揮される。着弾時に先端部に内包された焼夷剤に火をつけ、爆薬の起爆を誘発させる。

 

起爆時には焼夷剤に加えて、非常に可燃性の高い化合物にも同じく引火し、炸裂によって燃料は一気に熱エネルギーに変換され、爆発的に膨張する圧力と3,000℃の高温へ達する。

 

さらに砲弾内部のタングステン弾芯が標的の装甲を貫通し、内蔵されている炸薬に点火し被害を拡大させた。

 

フェイズシフト装甲の発展型でもあるヴァリアブルフェイズシフト装甲ではあるが、装甲に受けたダメージによる電力の消費という特性に変わりはない。

 

高熱によるダメージとタングステン弾芯による衝撃は充分な効果を発揮したようだった。そして、この弾頭運用法は敵の機体に著しい消耗を与えるだけではない。

 

「トール!」

 

「取った!!チエェストォオオオオ!!」

 

膨大な熱量によるエラーで、動きが鈍ったアビスへ、隕石群の合間から姿を現したトールのメビウスが襲いかかる。メビウス用に取り回しが効くように小型化されたシュベルトゲベールを展開したトールの機体は、アウルの肩部装甲を腕ごと切り裂いて飛び去ってゆく。

 

『アウル!!』

 

中破したアビスを援護するように前に出たカオスが、三機のメビウスへビームライフルを放つが、ラリー達は巧みな機動力と、モビルアーマーならではの「離脱力」を駆使してカオスから距離を置く。

 

アビスの姿を見たステラのガイアも、敵への攻勢からメビウス隊への攻撃へ切り替えるが、白兵戦に特化したガイアの動きでは機動力に勝るメビウス達を捉えることはできない。

 

『何なのよ!あんた達はまた!』

 

「モビルスーツの性能差で、勝てると思うなぁあーーっ!!」

 

隕石群の表面を滑るように飛ぶメビウス編隊が、カオスとガイア目掛けて飛んでゆく。

 

その姿を見たハイネは、自身が想像していた「メビウスライダー隊」の評価を根底から覆されていた。先の大戦で、多くの作戦に参加していたハイネであったが、彼はメビウスライダー隊との交戦経験はない。というより、彼らとの交戦経験を聞く機会が少なすぎた。

 

彼らと間近で戦って生き残ったパイロットが余りにも少なすぎたからだ。

 

たった三機のモビルアーマーによる縦横無尽な戦術に翻弄される、ザフトの最新鋭機。しかも彼らの動きには、まだ余裕すら感じられる冷静さがあった。

 

ハイネはグッと操縦桿を握りしめる。彼らと先の大戦で出会わなかったこと。そして今、彼らが味方であることをハイネは柄にもなく神に感謝するのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「粘りますな」

 

ガーティ・ルーの艦長であるイアンは、デブリ内に逃げ込んだミネルバを見つめながら、捻りのない感想を呟く。

 

イアンの指示通り、自艦からは絶え間なく艦砲射撃やミサイルでのハラスメント攻撃を継続している。相手が根を上げるのも時間の問題と言えた。

 

「艦っていうものは足を止められたら終わりさ」

 

だが、そこで現状維持を執るのは二流指揮官だと隣に座っていたネオ・ロアノークは吐き捨てる。敵艦が粘れるということは相応の理由があるものだ。そして、その答えはデブリ宙域にある。

 

「奴がへばり付いている小惑星にミサイルを打ち込め。砕いた岩のシャワーをたっぷりとお見舞いしてやるんだ。船体が埋まるほどにな!」

 

最後の希望を断てば、相手はなす術なく敗走へと転がり落ちるだろう。ネオは立ち上がるとそのままブリッジの出口へと無重力中を飛んでゆく。

 

帰る場所を失えば、「流星」と言えど行動は制限されてくるだろう。いわば、ここが勝負どころでもあった。

 

「出て仕上げてくる。あとを頼むぞ」

 

そう言ってブリッジを出てゆくネオに、イアンは静かに敬礼を送るのだった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

「ミサイル接近!数6!」

 

「迎撃!」

 

「しかし、この軌道は…!!」

 

ほどなくして、ミネルバへのミサイル攻撃が敢行される。議長の隣で状況を見ていたアスランが、こちらではない方向へと向かうミサイル群を見て、顔を青ざめさせた。

 

「まずい!艦を小惑星から離して下さい!」

 

敵の狙いに気がついた時にはすでに遅かった。アスランの叫びで、咄嗟に操舵手が惑星から船を離すように舵を切ったが、直撃したミサイル群の衝撃波によって粉砕された小惑星の破片がミネルバへと襲い掛かったのだ。

 

「右舷が!艦長!」

 

「離脱する!上げ舵15!」

 

「更に第二派接近!」

 

凄まじい揺れに見舞われるミネルバの中で、タリアの指示が飛ぶが、粉砕された小惑星の向こう側から新たなミサイルが飛来してくる。敵はこちらを落とすために勝負に出てきたのだ。

 

「船には皆が…!!落ちろ!!このぉおおお!!」

 

それを指を加えて見るつもりはない。シンが駆るメビウス・ストライカーはモビルアーマー形態とモビルスーツ形態を巧みに使い分けてミサイル群を捉え、ビームライフルと頭部のイーゲルシュテルンで飛来するそれらを撃ち落としていった。

 

『さて、進水式もまだと言うのに、お気の毒だがな。仕留めさせてもらう!』

 

その爆煙の向こう側から、複数のダガーを引き連れたネオの駆るメビウスが向かってくる。

 

「4番、6番スラスター破損!艦長!これでは身動きが!」

 

「針路、塞がれます!」

 

「更にモビルアーマー、モビルスーツ接近!」

 

後方にいるミネルバに到達されたらアウトだ。シンは先行してきたダガーの編隊へと単身斬りかかる。ビームサーベルの閃光が閃き、迂闊に前に出たダガーは即座に両断された。

 

「このぉおお!!」

 

続くようにシンは機体を翻す。敵が放ったビームライフルを、ラリー直伝ビームサーベル切り払いで防ぎ、真正面から敵の頭部を切り裂き、回転力を活かしたまま敵コクピットをビームサーベルの切っ先で貫いた。

 

『がぁっ!?』

 

貫かれたダガーがデブリのように浮遊するのを見つめて、ネオは相対するパイロットが誰なのかを予測し、笑みを浮かべる。

 

『ほう、君はそちら側にいるのか…!!』

 

「メビウス!?なんだよ!その機体は!ちぃ…邪魔が多い!!」

 

現れたネオのメビウスに困惑するシンだが、まだ周りにはダガーがいる。飛来するミサイルも撃ち落としながら複数のダガーと大立ち回りを演じるシンだったが、消耗戦になれば数で劣るこちらが不利になる。

 

「予備の機体は!?」

 

「あります!しかしカタパルトが…」

 

タリアの声にオペレーターであるメイリンが困惑した顔で答える。予備機はあるが、カタパルトがダメージを受けている上にパイロットも足りないのだ。シンの劣勢を見て、アスランが立ち上がろうとした時、ブリッジに通信が入った。

 

《こちらオーブ軍のキラ・ヤマト!メビウス・ストライカー、出れます!ハッチを開けてください!!》

 

ノーマルスーツに着替えたキラが、修復を終えたメビウス・ストライカーに搭乗していた。先頭の揺れの中、ミネルバのハンガーではマードックとハリー、そしてフレイの手によって、ラリーがボロボロにしたキラのストライカーをなんとか動かせるまでの調整を施したのだ。

 

「ボウズのストライカーが出るぞ!さっさと退くんだよ!!」

 

マードックの怒号のような指示が飛び、ザフトの整備員達が手動でハッチを開いてゆく。作業員用のノーマルスーツを着たフレイが、コクピットハッチを開いているストライカーへ向かい、キラに語りかけた。

 

「キラ!機体調整はかなりピーキーになってるわ!アラームが出たら無茶したらだめよ!?」

 

「了解!キラ・ヤマト、メビウス・ストライカー、行きます!!」

 

フレイが離れたことを確認してから、キラは機体を稼働させてハッチから出ると、即座にモビルアーマー形態へ変形し、苦戦するシンの元へと急いだ。

 

『ほう、貴様が出てくるか…キラ・ヤマト!』

 

「キラさん!」

 

「シン、遅くなった!これより援護するよ!」

 

シンと合流したキラのストライカー。それを見てネオはグッと操縦桿を握りしめる。ラリーと同じように相手の声が聞こえる彼は、数刻前に戦ったメビウスに乗るパイロットがキラであることを看破していた。

 

ならば、やることはひとつだ。

 

『その力、試させてもらう!!』

 

「あの機体…メビウス!?」

 

シンとキラが並ぶ中、ネオが駆るメビウスが飛翔してゆく。戦いは新たな局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 



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第18話 デブリの戦い 3

 

 

 

 

キラが飛び立った後でも、敵艦からの砲撃が止むことはなかった。モビルスーツ部隊はオーブのシンとキラが相手取り、大立ち回りを演じているが、ミネルバにかかる負担は減るどころか増すばかりだ。

 

「インパルス、ザクが依然カオス、ガイア、アビスと交戦中です!」

 

頼みの綱のモビルスーツ部隊も、まだこちらに引き返す兆しを見せていない。ええい、こうも一方的にやられるとは…。そう握り拳を作るデュランダルが、入り込んでくるような声色で声を上げる。

 

「この艦にもうモビルスーツは無いのか!」

 

「パイロットが居ません!」

 

その言葉が、隣に座るアスランの心に深く突き刺さった。オーブにいる自分の仲間たちが戦火に身を投じているというのに、自分はここで何をやっているのだろうか。そんな焦りにも似た感覚がアスランに深くのしかかる。隣にいるカガリも不安げに目を伏せるアスランの様子を見つめていた。

 

「艦長、タンホイザーで前方の岩塊を…」

 

「吹き飛ばしても、それで岩肌にぬって同じ量の岩塊を撒き散らすだけよ!」

 

副長の進言を、タリアはバッサリと断ち切る。それに岩塊に道を阻まれているということは、その岩塊がミネルバを守っている意味もある。

 

いたずらに辺りを吹き飛ばせば、辛うじて隠れられているミネルバの船体を敵の前に晒すことになりかねなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「くっそー!!なんなんだよコイツはぁ!!」

 

メビウス・ストライカーのスロットルを絞りながら、シンは纏わり付くように攻めてくる『メビウス』を睨みつけて叫ぶ。機体を翻してビームライフルを放つが、敵は更に鋭く機体を動かして、ビームの閃光を紙一重で避けてゆく。

 

今のを避けるのかよ…!!そう内心で毒付きながら、シンは相手が放ったビーム砲をシールドとビームサーベルで捌いて、さらに距離を置く。

 

「この動き…まるで…!!」

 

シンの動きに合わせて、キラが頭上から奇襲をかけるが如く、飛来する敵メビウスへ向かうが、キラのビームサーベルの一閃をひらりと避けると、モビルアーマーの機動力を活かして、敵は自分たちの射程圏内から離脱してゆく。

 

その動きはまるで、自分たちの隊長と同じような動きをしていた。

 

『ふふふ…あーっはっはっ!!所詮はこの程度か!!足りん!!まったくもって足りんぞ!!』

 

離脱した瞬間に、急制動でこちらへ矛先を向けたメビウスは、搭載されたバルカン砲で容赦なくシンのメビウス・ストライカーを釘付けにして行く。

 

「ぐうう…!!」

 

バルカン砲程度ではびくともしない強度を持つストライカーだが、動きは鈍くなるし、防がなければダメージは確実に蓄積してゆく。

 

『こういうのは気にいるかね?!』

 

敵メビウスを駆るネオが笑みに満ちた表情で言葉を漏らすと、メビウスの翼端に付いている小型の射出ポッドが切り離される。ビーム砲を有したそれは、身動きが取れないシンの周りへと展開して、彼を四方から蜂の巣にしようと動き回った。

 

迫り来るオールレンジなビームをシンは巧みに避けては逸らし、シールドで受けてはビームサーベルで薙ぎ払って凌ぐものの、手数ではネオの機体の方が有利だった。

 

『さっさと俺の元に来い、流星。でないと…貴様の大事な部下を失うことになるぞ!!』

 

ネオの地獄の底のような言葉に、ラリーの中で声が走った。

 

「キラ…?シン…!!」

 

カオスから放たれるビームを避けると、ラリーの機体はリークやトールの戦列から離れてデブリ帯を離脱してゆく。

 

「ラリー!!」

 

「こっちは任せた!厄介な奴がミネルバにいる!!」

 

彼の動きに反応したリークが声をかけたが、帰ってきたラリーの確信に近い声色を聞き、サムズアップをしてうなずく。

 

「任された!ラリーも気をつけて!!」

 

『行かせるものか!』

 

離脱しようとするラリーのメビウスを、モビルアーマー形態のガイアが追いかける。

 

だが、そんな彼女の意識はラリーにしか向いていなかったため、彼女が走るデブリの裏側からトールのメビウスが来ることに気がつくには時間が遅すぎた。

 

「おっとぉ!!お前の相手は俺だ!!犬っころめ!!」

 

デブリの稜線の影から突如として現れたトールのメビウスが放つ、シュベルトゲベールの一撃は、走行するガイアの横を捉えて完全に進路を変えさせた。

 

(ミネルバにはギルが乗っているんだ。絶対にやらせるものか!)

 

「くっそーミネルバが!レイ!援護に迎え!こっちは…」

 

飛び立ってゆくラリーに合わせるように、レイのインパルスもミネルバへと戻る進路を取るように、ハイネが指示を放った。迫り来るビームを避けて、彼もまた戦場に意識を集中させる。

 

『落ちろよ!コイツ!』

 

ポッドを戻し、ビームライフルを構えを構えようとするカオスだが、その際に起こる隙をリークは見逃さなかった。

 

「甘い!そこっ!!」

 

ポッドを格納した瞬間を狙った一撃は、硬直するカオスの頭部を的確にとらえる。黒煙を上げて、スティングのカオスはデブリの奥へと吹き飛んだ。

 

『なにぃいっ!!』

 

「欲張りすぎるからそうなるんだ!戦いでは謙虚さを持てよ!!」

 

頭部カメラを損傷したカオス、片腕を装甲ごと切り落とされたアビス、トールの追撃を受けて怯むガイア。

 

追い詰めたのはこちらだと思っていたのに。

 

スティングたちは、有数の流星たちにその身を包囲されているのだった。

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「艦長!右舷のスラスターは幾つ生きてるんです?」

 

デュランダルの隣に座っていたアスランが、突然タリアへ言葉を投げる。彼女も少し戸惑った顔を見せてから、艦の状況を見てアスランの言葉に答える。

 

「…6基よ。でもそんなのでノコノコ出てっても、またいい的にされるだけだわ」

 

6基あれば十分だ。アスランは過去に学んだ航海戦術をフルに活用して、現状を打破する一手を口にした。

 

「同時に、右舷の砲を一斉に撃つんです!小惑星に向けて、爆発で一気に船体を押し出すんですよ。周りの岩も一緒に!」

 

その無茶苦茶な戦術に、保守派の副長であるアーサーが顔をしかめて反論する。

 

「馬鹿を言うな!そんなことをしたらミネルバの船体だって…」

 

「今は状況回避が先です!このままここに居たって、ただ的になるだけだ!」

 

アーサーの言い分は最もだが、今はセオリーが通用しない。むしろ、セオリーに殉じたものが後ろを取られて撃破される状況だ。主導権が向こうにある以上、それを上回る大胆さが必要だということ、アスランは先の大戦で学んでいる。

 

「確かにね。いいわ、やってみましょう」

 

その言葉に賛成を示したのは、意外にもタリアだった。艦長からの信じられない発言に、アーサーは口をアングリと開けて声を漏らした。

 

「艦長ぉ!!」

 

「この件はあとで話しましょう、アーサー。右舷側の火砲を全て発射準備。右舷スラスター、全開と同時に一斉射。タイミング合わせてよ!」

 

とにもかくにも、現状を打破できる可能性に賭けるしかない。持久戦になれば、身動きが取れなくなるのはこちらだ。

 

「…右舷側火砲、一斉射準備!合図と同時に右舷スラスター全開!!」

 

その考え方に、アーサーも渋々了解した様子で艦の火器管制システムへ指示を放ってゆく。真剣な眼差しでモニターを見つめるアスランに、カガリは心に入り込んでいた不安を抱えながら、この作戦の行先を見つめる。

 

 

 

 

////

 

 

 

光が走る。

 

いくつもの線が、シンの神経をすり減らすように、ストライカーの装甲ギリギリを削ぐように飛び去ってゆく。

 

「くっそぉお!!」

 

何分経った。何時間経った。そんな気が遠くなるような繊細な作業を強いられるシンの負担は、計り知れないものになってゆく。ほんのわずかに気が緩んだ時、眼前のモニターを緑色の閃光で溢れかえっていた。

 

しまった…!!とっさにシールドを構え、機体を捻るが、損傷は避けられない。シンはグッと目を瞑りそうになる恐怖を押し殺しながら、迫る閃光に目を向け続ける。

 

そんな光の幕の前に、一機の影が割り込んだ。手に持ったビームサーベルを振りかざして、キラのストライカーが、シンへ迫っていたビームを切り払った。

 

「シン!誘いに乗るな!この相手は危険すぎる!」

 

そういうと、キラはシンのストライカーを掴んでハリネズミのようなオールレンジ攻撃の柵から抜け出していく。あの手の攻撃は先の大戦でわずかに味わったが、中距離に取り残されればじわじわと嬲り殺しにされるだけだ。

 

一気に彼我の距離を詰めて、超接近戦に持ち込みつつ、高速域での機動戦で敵のオールレンジ攻撃を封じるくらいしか策はないが、それはあくまでオールレンジシステムが展開される前の話だ。

 

ああも防衛も攻撃も行えるポッドを展開されては、距離を詰める前にこちらに一撃当てられる可能性が高い。

 

「でも!このままじゃミネルバや…カガリ姉さんも!!」

 

「一人で守ろうと思うな!二人でなら守れる!!」

 

シンの焦るような言葉に、キラは真っ直ぐとした声色でそう返した。そうだとも。一人で守れないなら二人。二人でダメなら三人。四人、五人、大勢で守れば良い。

 

一人で戦っても、一人で力があっても、思いがあっても、何もできない。限界があるというなら…。

 

「一緒に戦うよ!シン!」

 

シンのストライカーの前でキラは操縦桿を握りしめる。ここには、僕だけではない。シンがいてくれる。仲間がいてくれる。だから、僕は戦い続けることができる!!

 

その決意に似た声に、シンも焦りを拭い去って武器を構えながら頷いた。

 

「はい!!」

 

そんなキラとシンのストライカーを見つめながら、ポッドを辺りに浮遊させてネオは仮面の奥の目をギラつかせる。

 

『程度は知れたか。ここで落とすのも一興ではあるが…』

 

そう言ってスロットルに力を込めようとした瞬間、ネオの操るメビウスへ一閃が降り注いだ。放たれたビームを咄嗟に躱して、ネオは頭上を見上げる。

 

「貴様あああ!!」

 

「ラリーさん!?」

 

突っ込んできたのはラリーのメビウスだった。展開されたポッドから放たれるオールレンジ攻撃が、中距離にいるラリーのメビウスへ放たれるが、彼は信じられない機動と、耐久性が向上したフレキシブルスラスターを手足のように操ってビームを全て避けると、奥に鎮座していたネオのメビウスへ一気に距離を詰める。

 

モビルアーマー同士の超接近戦だ。

 

『来たか、流星!!』

 

「何なんだお前は!!」

 

ネオもオールレンジ攻撃を司るポッドのシステムを諦めて、翼端のビームサーベルを展開したラリーの一撃を避けては、交戦状態へと移る。

 

ネオに追従していたダガーがラリーにビームライフルを向けて近づいてゆくが…。

 

「邪魔だ!」

 

ネオのメビウスを追うついでと言わんばかりに、ラリーの放ったビーム砲がダガーの頭部と胸部を貫き、すれ違いざまにビームサーベルの一閃が、ダガーの上半身と下半身を切り落とした。

 

『下がれ、ミラー!こいつは手強い!お前は艦を!』

 

高負荷のGに耐えながら指示を出したネオに従い、残りのダガー隊がミネルバに向かおうとしたが、その一機が到着したレイのインパルスによって撃墜される。

 

「させるかよ!」

 

シンとキラも、続くようにミネルバへ向かおうとするダガー隊を蹴散らしてゆく。

 

数々の爆発とビーム砲の光の向こうでは、二つの光が攻守を入れ替え、光の尾を持ちながら入り乱れてゆくのだった。

 

 

 

 

 



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第19話 デブリの戦い 4

 

 

ガイアを操るステラの状況は、一言で表すなら劣勢だった。

 

「えぇい!」

 

トールが駆るメビウスの動きは、先の大戦で培った物をさらに洗練し、機体の挙動、衝撃によるダメージコントロール、動きの見極めとチャンスを如何に利用し、そこに見え隠れする危険性も即座に見抜く力量を有している。

 

トールを相手取るガイアは、確かに性能面ではメビウスを圧倒しているのだろう。パイロットのセンスも悪くはない。ただ、二人の間には決定的に「経験差」による溝があった。

 

『あぐ…あいつ…あいつ!』

 

ビーム出力を切った状態のシュベルトゲベールⅡにより、足をすくわれデブリに叩きつけられるガイアの中で、ステラは呻き声と共に地獄の底から響くような苛立った声を出す。

 

頭部のバルカンで飛び去ったトール機を落とそうとするが、それを知っているかのようにトール機のフレキシブルスラスターは反転して急減速と旋回により機体を翻すと、ガイアを捕らえた銃口から無反動弾を打ち込む。

 

『——っ!?』

 

あんな体勢から…!!ステラは咄嗟にガイアを飛び上がらせると、メビウスから放たれた無反動弾がガイアが横たわっていたデブリを容易く打ち砕いた。

 

『くっそー!何で落とせないんだよアレは!』

 

アビスを駆るアウルも、自分たちが相手をする存在が常軌を逸している何かだということを理解し始めていた。片腕を失いながらも応戦するアビスに気づいたトールは、すぐに応戦体勢へと入る。

 

信じられない速度でデブリを縫うメビウスの動きは、「たかがモビルアーマー」と侮っていたアウルの心を完全にへし折った。強化された感覚でもメビウスを追うのがやっとだ。

 

気を抜けば迷路のようなデブリに行手を阻まれる。足を止めればさっき自分を焼いた特殊な弾丸がすぐに飛んでくる状況だ。

 

『くっそぉ!!』

 

アウルはフットペダルを踏み込んでアビスの速度を上げて行く。あの高速の一撃離脱に追いつくには、相手に追い付くしかない。胸部に備わるエネルギー砲でトール機を落とそうとしたが、メビウスはひらりと機体を横に傾けてエネルギー砲を紙一重で避けると、機体を振りまわしてバルカン砲をアビスに叩き込む。

 

バルカン砲に逆に足を止めれたアビスの背後からミサイルが迫る。

 

『アウル!!』

 

機動ポッドで迫るミサイルを撃ち落としたカオスが、足が止まったアビスを庇った。その前から、リークと合流したトールが迫る。

 

「ザフト機もエレメントを!次は決めるよ!!」

 

離脱から攻勢へと転じる中で、機動力に差が出るハイネのザクとも歩調を合わせる。消耗させられたスティングたちにとっては、高速度のモビルアーマーからの攻撃と、モビルスーツからの攻撃だけでも精神に掛かる負荷は大きい。

 

三機が削りきられるのは時間の問題だった。

 

 

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「くっそおおお!!この野郎!!」

 

シンは久しく見ていなかったラリーの本気の機動戦を目の当たりにしていた。

 

自分との模擬戦で見せた驚異的な機動。

 

同じ機体に乗っているとは思えない動きをするラリーの攻撃に翻弄され、何もできないまま敗北したことを覚えているシンは、そんな動きをしても落とせない相手に恐怖に似た何かを感じていた。

 

『…ーーっがぁっ!!そうだ!!そのまま…ぐぅ…!!俺に釘付けになってもらうぞ…流星!!』

 

デブリの中を動き回る二機は、まるで障害物など存在しないと言わんばかりに、機体のスラスター能力を存分に生かして空戦を繰り広げていた。

 

アーモリーワン近域では、ラリーが可変機に乗っていたこともあり、全力の機動が出来なかった事もあったが、それを抜きにしても、ネオが操るメビウスも、驚異的なラリーの軌跡に劣らず、人間離れしたものとなっていた。

 

互いの機体が高負荷に晒され、身体中からミシミシと軋む音が響く。ここまで高機動戦を継続したのは、ヤキンドゥーエで剣を交えたクルーゼとの戦い以来だ。

 

「くっ…そっ…たれがぁ…っ!!こっちは久々に死にかけてるってのに…!!」

 

背後を取られた瞬間に、フレキシブルスラスターを反転させて、フラップと逆ノズルのバーナーを吹かして、ラリーは急減速をする。取った…!!そう思った刹那、ネオの機体に備わるロケット砲の銃口がこちらに向けられていることにラリーは気がついた。

 

「な…にぃ…!?」

 

花火のように宇宙へと放たれるロケット砲。咄嗟に高負荷中で機体をさらに振り回す。高負荷でもアラームが出にくい設計をしているはずなのに、コクピットのモニターにはアラームが鳴りっぱなしだった。

 

「ぐ——っがぁああ!!」

 

『避けたのか…!?今のを!!』

 

奥歯を噛みしめながら、ラリーはロケット砲の雨を掻い潜っていると、ネオも機体を反転させてラリーの機体へと攻める。

 

『この程度でぇ…!!根を上げてたまるか…っがぁっ!!俺はこのために戦ってきたんだ…このためだけに!!』

 

想像を遥かに上回る殺人的な負荷を押し殺して、ネオはラリーへ迫る。二人の戦いにキラもシンも、手を出すことはできなかった。

 

 

 

 

////

 

 

 

 

 

「ボギーワン、距離150」

 

「仕留めに来たわね!総員、衝撃に備えよ!行くわよ!…右舷スラスター全開!!」

 

オペレーターの言葉を聞いてから、タリアはすかさず指示を出した。アスランの提案通り、右舷の武装全てをデブリに向けて。

 

「右舷全砲塔、てぇ!」

 

刹那、衝撃、爆発。大きな揺れがミネルバを襲う。ハンガーにいたフレイや、マードックが襲いかかってきた揺れに耐えきれずにミネルバの床から足を離した。

 

「うわぁ!」

 

「うわわっ…!!バカヤロー!!」

 

まるで洗濯機に放り込まれたように姿勢を崩される中、ミネルバの個室に避難していたバルトフェルドや、ラクスたちも同じような驚異的な揺れを体感していた。

 

「ひゃあーー!!」

 

「大丈夫ですわ、ミーアさん」

 

涙目でラクスやアイシャに抱きつくミーアを宥めながら、ラクスは落ち着いた様子で戦況を見つめている。おそらく劣勢に立たされているのだろう。この揺れは起死回生の一手か、はたまた終焉を知らせるものなのか。

 

「どちらにしろ、こりゃあ派手な戦闘になってるみたいだなぁ…!!」

 

ベッドの脇に捕まるバルドフェルドの言葉に、ラクスも同意する。ただ、自分たちがここで死ぬとは思えない。なにせ、この船の守護神たちには、先の大戦の英雄がいるのだから。

 

「射角は取れた!回頭30!ボギーワンを討つ!タンホイザー照準、ボギーワン!」

 

アスランの思惑通り、デブリを吹き飛ばして現れたミネルバに対応できないガーディ・ルーの側面を捉える。右舷武装斉射と同時に展開していた陽電子破砕砲「タンホイザー」の発射口を敵艦へと向ける。

 

『何だと!?回避ーッ!取り舵いっぱい!』

 

「てぇ!!」

 

白と赤の閃光はガーティ・ルーの側面を捉える。幸いにも致命打を避けたが、それでも、これまでの優勢を削り取るには充分な効果を発揮した。

 

『ええい!あの状況からよもや生き返るとは!』

 

「見えた…!!よそ見!!」

 

タンホイザーの閃光に意識を削がれたネオの機体に、バルカンが命中する。メビウスの後部武装ユニットに火がついたのだ。

 

『ぐっ…!ええい!流星め!!』

 

ネオはすぐさま武装をパージすると、迫る流星から距離を取るためにデブリ内を飛翔してゆく。

 

細かい石飛礫が機体をかすめていく音が聞こえるが、ここで落とされるわけにはいかない。ラリーも掴んだ攻勢の機会を失わないように逃げるネオの機体を追いかけた。

 

「ええい、頃合いか!大佐達に帰還信号を。宙域を離脱する!」

 

ミネルバから距離を置いたガーティ・ルーから信号弾が上がった。それをみたスティングが即座にステラたちへ通信をつなげる。

 

『ステラ!』

 

彼女は追い立ててくるトールのメビウスに反撃しており、撤退する素振りなど微塵も見せていたかった。スティングは苛立ちながら、通信機越しに怒声を上げる。

 

『また嫌な思いをしたいのか!!』

 

『…っ!!わかった』

 

スティングの嫌な思いに、自身の乱れた感覚を思い出したのか、ステラはモビルアーマー形態になると一気にメビウスから離脱してゆく。

 

『アウルも!!離脱するぞ!!』

 

スティングとアウルも続いて戦線から離脱。トールとリーク、そしてハイネも、三機を追うことはできなかった。武装も燃料も限界が近づいていたからだ。

 

『撤退か…今回もお預けか…しかし』

 

ネオもまた、イアンからの帰還指示を受けて離脱を開始。逃げ足に特化すれば、追おうとしてくるラリーのメビウスを振り切るには十分な加速は稼げられる。背後からこちらを狙ってくるラリーの攻撃を翻して、ネオは離脱航路へと入った。

 

『俺の存在は知らしめれた』

 

それだけで、今のネオは充分だった。

 

まだだ。まだ、殺すには早い。

 

それに、まだ自分では流星を殺せない。

 

ネオは仮面を脱ぎ捨てて背部モニターから、こちらを見つめる流星を見た。

 

『またいつの日か、出会えることを楽しみにしているぞ、流星。そしてザフトの諸君』

 

飛び去ってゆくネオのメビウス。

 

ラリーは逃げることに徹するネオの機体を追うことをやめて、デブリ宙域に留まりながら光となって遠ざかってゆくネオの機体を見つめた。

 

「…はぁー…ふぅ…鮮やかな引き際だな…」

 

想像以上に強敵だった。ラリーは全身にのしかかる倦怠感と疲労に目を閉じたくなる衝動に襲われていたが、歯を食いしばってなんとか堪える。ここまで消耗させられたというのに、敵にはまだ余力があるようにも見えた。

 

果たして、この世界のネオ・ロアノークとは何者なのだ?少なくとも、自分が知る誰かではないということだけは確かだ。

 

「ラリーさん。敵は一体?」

 

合流したキラとシンの言葉に、ラリーは肩をすくめながら答える。

 

「わからん。だが深追いは厳禁だな、とりあえずは」

 

それにこちらもパワーや機体の限界もある。モニターに目を走らせれば、至るところからアラームが出ている状態だ。これはまた、ハリーにひどく怒られるな。そう思いながら、ラリーは二人と、遠くにいるリークやトールに指示を送った。

 

「帰投するぞ、メビウスライダー隊」

 

初陣となったメビウスライダー隊の戦いは、歯痒さを残したまま終わりを迎えるのだった。

 

 

 

 



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第20話 戦いの後、そして葛藤と

 

「ボギーワン、離脱します」

 

オペレーターの言葉に、タリアは胸を撫で下ろすようにシートへと腰を落とした。

 

「艦長ぉ!さっきの爆発で更に第二エンジンと左舷熱センサーが!」

 

自分たちの目的は、奪われたザフトの新型モビルスーツの奪還だったと言うのに、副長のアーサーが悲鳴のような声を上げているところを見ると、手痛い損傷を受けたのはむしろミネルバの方であった。

 

デブリに入った敵からまんまと策にはめられ、何もできずに敵にいいようにされたばかりか、臨時的に雇い入れた傭兵企業と外部国であるオーブに手助けしてもらう場面まである。

 

ザフト軍としての新造艦の処女航海にしては、あんまりな成果であった。

 

「グラディス艦長。もういい。あとは別の策を講じる。私もアスハ議員やアルスター殿をこれ以上振り回すわけにはいかん」

 

「申し訳ありません」

 

息をついたデュランダルの言葉に、タリアはそう返すことしかできなかった。

 

 

 

////

 

 

 

「もぉー!本当にどうなるかと思いましたよ!」

 

プンスカという擬音が聞こえてきそうな不機嫌顔で、部屋からやっと解放されたミーアがミネルバ艦内の通路を浮かぶように移動しながら、後ろに続くバルドフェルドPや、アイシャに文句を呟いた。

 

「ここは戦場でしたからね。とにかく無事に切り抜けられてよかったですわ」

 

「ラクス様も!ほんとに死ぬ思いをしたんですから、もっと言うべきことがあるでしょう?」

 

そう言って落ち着いた様子のラクスの手を握るミーア。しかし、ラクス自身、先程の戦闘で動揺することはなかった。

 

自分たちの船が回収された段階で、ハンガーの様子はまさに戦闘直前の状態であったし、何よりもラリーやキラたちが戦場に出る準備をしていた以上、「過激な交渉」が行われることは火を見るよりも明らかであった。

 

「姫様は先の大戦では先陣を切って艦の指揮を取られていたからな。この程度では動じないのさ」

 

「バルトフェルドプロデューサー?」

 

「おっと、年頃の女性に失礼な言い方でしたかな?」

 

デリカシーにかける言い草は彼の持ち味なのか、それとも天然なのか。わかりにくい困った笑みを浮かべるバルドフェルドを一瞥して、ラクスはため息をつく。すると…。

 

「流星様!」

 

隣にいたミーアがバサッと衣装をはためかせながら飛び上がると真っ直ぐに目の前にいる集団へと飛んでいく。ラクスが目で追った先では、すでにミーアが豊富な胸と人懐っこい笑顔で先頭にいたラリーに絡み付いていた。

 

「私たちを守って頂き、ありがとうございました!」

 

「いや、俺は任務を果たしたと言うかとりあえず離れて!!」

 

「んもぅ、命の恩人に感謝をするのは突然の義務ですのよ?」

 

そう言って嫌々というラリーに絡むミーア。ふと、横を見れば目の光が無くなっているハリーがじっとラリーの方を見つめていた。ラクスはバルドフェルドやアイシャの方へ目を向ける。「進展なし」とバルドフェルドが顔つきだけでラクスの無言の問いかけに応えた。

 

「あちゃー、ありゃあ大変だね」

 

「ハリーさんがさっさとプロポーズを受けないから…」

 

帰投したリークとトールが呆れたように呟くと、ハリーはぐるりと顔を後ろに向けて2人を睨みつけた。

 

「何か言ったかしら?」

 

「 「ナンデモアリマセン!!」 」

 

そう言って2人がピシリと姿勢を正す。リークたちの後ろにいたシンもそんなハリーの目つきを見て縮み上がり、キラは困ったように笑っていた。

 

「本当に申し訳ありませんでした。アスハ議員」

 

その通路の先では、ブリッジから出てきたデュランダルが、同席していたカガリに頭を下げて謝罪していた。

 

「こちらのことなどいい。ただ、このような結果に終わったこと、私も残念に思う。早期の解決を心よりお祈りする」

 

「ありがとうございます」

 

これからザフトは大変な時期になるだろう。新型のモビルスーツが奪われたのだ。まだ外部への情報規制が出来ているとはいえ、デュランダルの説明責任は免れないだろうし、もし、モビルスーツを奪ったのがザフトの反対勢力ではなく地球圏の勢力だったら…。

 

不穏な火種となりかねない事に、カガリの思いは少しばかり暗くなってゆく。

 

「本国ともようやく連絡が取れました。既にアーモリーワンへの救援、調査隊が出ているとのことですので、うち一隻をこちらへお迎えとして回すよう要請してあります」

 

追って出てきたタリアの言葉に、デュランダルが二つ言葉で答えると、カガリはデュランダルの方へ手を差し伸ばした。

 

「我々もここで離脱することになる。世話になったな」

 

そういうカガリの手をデュランダルは固く握り返す。

 

「私も、アスハ議員にお会いできて光栄でした」

 

そういうと、デュランダルはカガリの横に控えていたアスランの方へ視線を向けて微笑んだ。

 

「しかし先ほどは彼のおかげで助かったな、艦長」

 

わざとらしくデュランダルはそう言葉を発する。アスラン・ザラとしてではなく、アレックス・ディノであろうとするアスランの逃げ道を防ぐようないい草だ。

 

「さすがだね、数多の激戦を潜り抜けてきた者の力は」

 

「いえ……出過ぎたことをして申し訳ありませんでした」

 

「貴方の判断は正しかったわ。ありがとう」

 

言葉だけ言うだけ言い切ってから、デュランダルとタリアは通路の奥へと向かってゆく。カガリが横にいる中で、アスランは先ほどのブリッジのやり取りを鮮明に思い返していた。

 

 

 

 

〝この艦にもうモビルスーツは無いのか!〟

 

〝パイロットがいません!〟

 

〝ショーン機もシグナルロストです!〟

 

 

 

 

もし。

 

もし、自分があの場にザフト兵としていたなら…もしかすれば、こんな被害を出すことも。

 

「なぁに辛気臭い顔をしてるんだよ、アスラン」

 

そう言葉をかけられ、ハッとしたアスランは後ろへ振り返る。そこには、少し真面目な目をしたラリーが立っていた。

 

「ラリーさん…」

 

間髪入れずにデコピン。バシッとアスランの額へ小さな打撃音が炸裂し、思わずアスランは手で額を抑えた。

 

「いっづ…!!」

 

「悪い癖だぞ、それ。一人で突っ走って、どれだけ迷惑をかけてきたか、忘れたのか?」

 

そうだな。たとえばキラとの戦いのことや、ジャスティスを手に入れてからのことや、果てはジェネシスに一人で向かった事とか。そう言って指折り数えて例を上げてゆくラリーに、アスランは何もいえずにただ小さくなることしかできない。

 

「すまない…」

 

そう謝るアスランに、ラリーは笑みを向けて優しく肩を叩いた。

 

「とりあえず思ってることを話せよ。カガリも皆、交えてな?」

 

その言葉に、アスランは目を見開きながら、小さく頷く。うむ、そういって誰かに話すのが大切なんだぞ?とラリーは言葉を紡いだ。

 

「お前のことを誰もわかってない、なんて思うなよ?俺たちは仲間だ。昔も、そして今もな」

 

ラリーが向ける視線を追うように、アスランも視線を向ける。そこには、合流したカガリがシンを抱き寄せて頭を撫でましている光景があった。

 

「よくやったぞぉ!!さすがはシンだ!!」

 

「あーもうやめてくれよ、カガリ姉さん!!」

 

それを見て、キラやラクスも笑っている。リークや、トール。ハリーに、バルトフェルドやアイシャ。多くの人が温かな笑みを浮かべていた。

 

そうだとも。キラも何度も言っていた。自分たちは一人なんかじゃないと。

 

「ああ、わかってるさ。頼らせてもらうよ、隊長」

 

そう答えたアスランに満足したのか、ラリーはそれ以上、アスランを言及するような言葉をかけることはなかった。

 

 

 

そして、事態はさらに動き始める。

 

 

 

「そんなはずないだろ」

 

ミネルバとは違う観測船の中で、データシートを見つめながら呟く仲間に、それを観測した者は安易な言葉を否定するようにデータを見せた。

 

「いや何度も確認した。見てくれ。こっちが2時間前のだ。今も少しずつだが間違いなく動いてる」

 

「そんな馬鹿な」

 

ユニウスセブンが動いているなんて。

 

平和に向かっていた世界は、新たな戸口へと足を踏み入れていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 



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