ジャミトフに転生してしまったので、予定を変えてみる (ノイラーテム)
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第一部
さらば愛しきメカよ


●薄暗い見通し

 執務室へ投げ出された資料にはV作戦とある。

転生して長い月日がたったが、ようやく始まったかといった風情だ。

 

しかし口を開けば内心とは反対のことを喋ってしまう。

どうせ転生するならもっと別の人物。せめて数年前から始めて欲しかった。

 

「レビルがぶち上げた計画だが、どう思う?」

「本心を言えばナンセンスですな。既存の兵器運用とは明らかに一線を画します」

 ジャミトフ・ハイマンとして三十年待ったのだ。

待ち過ぎて、もはや素直には成れない。口を開けば憎まれ口がつい顔を出す。

 

というか考えてみると良い。

軍務官僚として長く勤め、ジーン・コリニーの腹心となってからは調達に編成にと既存兵器の運用にドップリと浸かっていた。

軍産企業とズブズブとは言わないが、筋が通る人物としてポスト・ゴップ枠の一人に入れてもらっている。

 

今更V作戦だの言われても、正直困る。

 

「操縦や戦術だけではありません。補給に整備に管理運用面でも大きな変更を余儀なくされるでしょう。調達する会社を変更すれば何もかも収めてくれるなら別ですが」

「そっそんな!」

 解説にハービックやウェリントンの連中が口を挟むが無視した。

参考意見を聞くためにコリニーが呼んだのだろうが、悲鳴を上げる以前にすべきことがあるだろう。

 

「本心は反対という事は、この案は通ると見たのか?」

「はい。レビル大将が必須と信じている事が致命的です。押し通すために彼は自らの進退をかけるでしょう」

 この場合の進退とは、モビルスーツが上手くいかなかったら引退するという意味ではない。

成功しようが失敗しようが、戦争終了後に全責任を取って引退し『席』を譲り渡すという意味だ。

 

権力の多くは派閥に残るだろうが、役職が空けば席次が下の者にチャンスが回ってくる。

数人いる中将の内、この戦争で活躍した者がレビルの代わりに席に座るだろう。

 

「ラインは既にフル稼働なのです。今更増産を止めるといわれても……」

「我が社などは軍の求めに応じて工場に投資までしたのです。このままでは社員一同、首を括らねばなりません。何とかなりませんか?」

 文句はレビルに言って欲しい。

 

というかこのままだと、こいつら全員アナハイムに吸収合併されるけどな。

軍としては天下り先が変わるだけなので、涼しい顔で無視しても構わない。だが散々リベートをもらったコリニー達は、少しは考えてやれというだろう。

 

「何とか、か。……どうなんだジャミトフ」

「最大まで粘って二か月というところですか? それでは方針の転換もままなりますまい。万が一、モビルスーツが躍進すればこちらに火が及びます。ですが……」

 既存の兵器でも行けるはずだが、モビルスーツが活躍することは目に見えている。

少なくとも無意味に逆張りしたら、見る目がない無能だと言われかねない。

 

だが普通ではダメなら、普通ではない方法で何とかすればよいのだ。

途中まで悲鳴を上げていた連中も、方法があると臭わせた事で穴が開きそうなほどこちらを凝視している。

 

「むしろ積極的に協力する条件に、幾つか受注をいただいてきましょう。配備されるのはもちろん……」

「ワシの軍管区という訳だな? 詳細は任せる」

 今度は含みを持たせたのではなく、当然の反応だ。

コリニー中将も判っているのだが、企業連中に文句を言わせないために頷いた。

 

これでようやく一年戦争に関われる。

……ただし、まずはモビルスーツ以外でだがな!

 

●密室の取引

 コリニー中将の執務室から、自らの所属する参謀部の部屋に戻る。

出迎える部下たちを制し、そのうちの一人を呼び寄せた。

 

「やはり例の件だった。青写真は描いてやる。三日で仕上げろジャマイカン中尉」

「ご、ご命令とあれば! しかし三日ですか!?」

 説得力を増すために運用計画を作って、レビルの元に持っていく。

この話を嗅ぎ付けた段階で、その話自体はしていた。

 

しかし三日でありもしない兵器の資料をでっちあげろと言われて、さすがにジャマイカンも青ざめる。まあ仕方ないと言えば仕方あるまい。彼は才能はあっても天才ではなく、ゴマを擂るのも含めて地味な努力で行動する男だ。

難しいとは思うが、忠誠心も含めて任せられる人間はそうはいない。

 

「青写真は描いてやるといった。それに……二人目の子供が生まれるのだろう? 将来有望な父親としては、ジオンとの戦争が終わったら軍大学に行っておいて損はあるまい」

「わ、私に推薦枠を!? 御子息ではなく? 非常にありがたい話ですが……」

 レビルを唸らせる計画をでっちあげれるならという前提だが……。

大尉に昇進させた上で、軍大学から将官コースに進ませる。

 

バスクに余計なことをされても困るので、ジャマイカンを上に揚げるための措置だった。

しかし未来のことなど知らない小心者は、喜ぶやら青ざめるやらで忙しい。

 

「リチャードはパイロット畑で将官は好まぬそうだ。それに、まさか私に公私混同しろとでも言うのか?」

「ま、まさか。めっそうもない! 立案に成功しましたらありがたく……」

 私事で推薦するくせに公私混同しないとは片腹痛い。

だがこの程度の専横ならば、まあ可愛い方だろう。実際にジャマイカンは地味で堅実な男なので、焦りさえしなければバスクよりもマシであるのは確かだ。ヤザンの方が好きだけどな。

 

ちなみにリチャードと名前を付けた息子は何故かガトーみたいな武人肌に育ってしまった。解せぬ。

 

「コレを適当に使え。事前にまとめておいた」

「拝見いたします。……なるほど、コロンブスやミデアを母艦として運用するのですな。四機編制でジオンの三機編成に対抗すると」

 転生後に夢中に成って色々と考えたものだが、今では立派な黒歴史である。

『オレの考えたガンダム運用計画!』とか恥ずかしくて見返すこともできない。

レビル専用のターン・アジア・ガンダムとでも銘付けたヒゲ付きなんか、酔っぱらったとしか思えないではないか。

 

だが数で圧倒する連邦ならではの方法であれば、何の不備もないし、否定されるとも失敗するとも思えなかった。

ザクに連邦の技術を載せたザニーだとか、ガンダム廉価版のジム量産などは、放っておいても誰かがやるだろう。

 

「そっ。そういえば……先ほどの件で、良ければ閣下に子供の名付け親になっていただければ……」

「私にゴットファーザーの真似事をしろというのか? まあ良い。考えておこう」

 ジャマイカンのゴマ擂りも堂に入ったもので、別れ際にこんなバカなことを言い出した。

 

せっかくなので名前を考えるとかと思ったが、どう考えてもマルコ以外にないので、自分のネーミングセンスに閉口するのが精々だった。

ジャミトフに転生して三十年にもなるのに、昔のアニメのことを思い出すなど苦笑しかない。もっともウロ覚えなので違ったかもしれないが。

もしかしたら息子が堅物になったのも自分に原因があるのかと思いつつ、レビルとのアポイントメントを取った。

 

 

「それで用件は何かね? あまり時間もないのだが」

「お時間を取らせて申し訳ありません。早速、用件に入らせていただきますが、コリニー中将は条件次第でV作戦を後押ししても良いと」

 連邦軍は軍管区制なので、そのまま派閥形成に至るという悪癖がある。

当然ながら担当の中将ごとに意見があり、すべての票を集めるのは難しい。

 

もちろん小さな物資調達なら権限内でいくらでも可能だが、さすがに次期主力を勝手に変更などできない。

仮にゴップ大将が全面的に協力したとしても、あと数人の推薦が必要になる。

レビルと同じく痛い目にあったティアンム中将が乗るとしても、一人ひとり説得するのは時間が掛かる。ゆえにコリニー中将の推薦は、説得攻勢の弾みをつける意味でも是が非でも欲しいはずだ。

 

「ありがたい話だが、条件は何かね? 言っておくが推薦などはできんよ」

「でしょうな。ひとまずV作戦での一次成果物をいただきたい」

 自分の席を開けて、それで中将たちを釣ろうというのだ。

ここで約束できるはずもあるまい。そこで私はV作戦を推進する中で、最初にできる成果物を手に入れることにした。

 

「成果物……」

「はい。新型の融合炉。新開発のコンピューター。宇宙でしか作れない装甲版。ソレを既存の兵器に使って計画が軌道に乗るまで時間を稼ぎます」

 とはいえこの場合の成果物とは、コアファイターやガンタンクのことではない。

もっと素材的、部品的なものである。

 

ミノフスキー核融合炉や教育型コンピューター。そして何よりルナチタニウム合金は大きい。

もちろん使うにも苦労のある装甲だとは知っているが、その欠点は覚えているので問題はない。というよりも、既存の兵器の間に合わせとして使うにはちょうど良い使用法があるのだ。

 

「大々的に生産してモビルスーツが不要などという気はありません。その点はご安心ください」

「ふむ。……完成品を真っ先にという事ならば文句をつける者も居ようが、技術の使用許可ならば構うまい。取りまとめをお願いするとしようか」

 土産としてジャマイカンを酷使して作った資料を手渡しておく。

こんな物まで用意して引っ掛けるも何もない物で、かつ、V作戦の完成品をコリニー閥に寄こせという文言は削っておいた。

 

重要なのは先にも上げた成果物なのだ。

既存の兵器で押し返し、モビルスーツの運用と並行させることで、その後の運命を変えることが重要なのである。

 

レビルから言質を取って契約を交わすと、敬礼してその場を後にした。

 

●既存兵器のリニューアル

 それからV作戦に関する取りまとめを行い、史実よりも早くスタートさせた。

ジオンでドムやゲルググが三か月早ければ戦争は変わっていたといわれるが、連邦ならば一か月でも十分だ。

 

ここからさらに史実にはない兵器をでっちあげるので、こちらが勝利する運命は変わるまい。

あとは水爆やソーラレイに巻き込まれないことを祈るのみである。

 

「ジャミトフ大佐。私どもを召喚した理由は何でしょう?」

「我々全員を呼んだ以上は、なにがしかの理由がおありと思うのですが……」

「君たちを呼んだのは他でもない。兵器のことだよ」

 呼びつけたのは幾つかの開発チームや、その生産企業だ。

全て既存兵器の開発を担当しており、現在は次期主力を転げ落ちる兵器を少しでも性能良い物にしようと頑張っている(対立し合っているともいう)。

 

モビルスーツよりも既存兵器を活躍させようと思っているので、そこは好感が持てるところだ。

しかし彼らには危機感が欠けている。『どっちの内容を先にするか』という下らない争いにかまけていた。

もちろん今までの連邦軍ならば仕方がないし、これからも即座に判断されても困るのだが。

 

「君らは戦闘機と爆撃機。あるいは砲の設計で争っている。これは間違いないかね?」

「はい。細かい仕様を除くと、概ねその通りです」

 モビルスーツに対抗するため、高性能化や武装の大型化を図るのは当然だ。

しかしながら軍にも予算と編成計画があり、いちいち、どちらの順番を先にするか悩まねばならない。

 

もちろんモビルスーツに持たせて手持ちの利を活かせばよいのだが、何でもかんでもという訳にはいくまい。

それに一部の分野では、その後も既存兵器が有効で、再設計されることも多いのだ。

 

ならばその計画を早回しでやってしまっても良いだろう。

 

「V作戦の成果を開示しても良いとのことだ。大型炉心の本体を作り、あるいは軽量な装甲を間に入れれば少しは君たちの苦労も払えるのではないかね?」

「そ、それならば確かに。ペイロードに各種ミサイルや、大型砲を導入できます」

 61式戦車からの改良、あるいは新型設計で悩んでいるがガンタンク並みのサイズにすればよい。

新型炉心は今までよりも小さく、大型戦車を作って、巨大なカノン砲や榴弾を載せることも可能。

いずれガンタンクⅡは原点回帰してロボットではなくなるのだ、最初から大型戦車で良いだろう。ルナチタニウムは簡単な構造でしか量産できないらしいが、戦車の前面装甲くらいならば問題ないはずだ。

 

同様に戦闘機と爆撃機の区別だって、融合炉による大型化をすればいい。

コアブースターからジェットコアブースターが作られて量産されたが、アレをセイバーフィッシュから設計して悪い道理はないだろう。

 

「モビルスーツを優先されて腐って居る者も居るだろう。だが戦場の女王は戦車であり戦闘機だ。実用化される前に頑張ってくれたまえ」

「はっ! 了解しました!」

 技術者たちを先に返して、企業の連中をあとに残す。

もちろん彼らに仕事を持って帰ったことに感謝してもらうためだ。

 

具体的に言うと、戦力を納入してもらわねばならない。

レビルに言った事と180度違うが、手の平をドリルのように回転させることにした。

どうせモビルスーツほどの成果が上がらないのは確かなのだ。精々、コリニー閥の戦果を増やしてもらわねばなるまい。

 

「彼らにはああ言ったが、いきなり開発できるはずもあるまい。まずは間に合わせで良い。適当に納入して欲しいものだ」

「もちろんでございます。砲門や装甲板を牽引車両ごと試験的に導入するのは直ぐにでも可能ですとも」

 将来の手前、技術者たちは良い面を挙げておいた。

だが開発が成功ばかりとはいかないし、V作戦よりも先に完成し易いという程度だ。

 

そこであらかじめ企業に根回しをしておいたのは、技術者たちが開発までこぎつけた砲門の方だ。

ルナチタニウムも前面装甲なら軽量化の役に立つかもといったが、最初から装甲版としてテスト運用する。

牽引車両と砲門をその装甲版で隠し、大型砲である120mm無反動砲や、220mmキャノンをぶっ放せばいい。なんだったらビッグトレーと同時に運用することで、火砲を増やすだけでも良いのだ。

 

「これからもよろしくお願いします、閣下」

「私は佐官だがね。まあ君たちのこれからの活躍には期待しておこう」

 モビルスーツよりも既存兵器が活躍することはないだろう。

だが原作よりも割合が下がることは間違いがないし、グっと減るはずだった企業の受注もそれなりのレベルになるはずだ。

 

加えて事前情報を渡したがゆえに、経営危機に陥らないように対策もできる。

全てが全て上手くいかないだろうが、少なくともアナハイムの一人勝ちにはならない程度の状況になれば充分である。

 




 指導者転生というのも何番煎じだと思うので、モビルスーツには頼らないことにしました。

この当時は参謀の一人でしかないが、本来は敵対派閥である。

派閥の主人を説得して、V作戦を一か月前倒しにする。

既存兵器をリニューアルして戦争を終わらせる。

アナハイムは独占企業にはならない

メラニーの奴ザマぁ!(同期の桜でアナハイムの社長になった)

という感じです。
ガンタンクⅡとジェットコアブースターあったらモビルスーツ要らんよねという話。まあモビルスーツ以前に、ザクを撃破できる大砲を用意するので猶更ですが。

・大型戦車というか牽引車両。
 余計な機能を持たない牽引車両なら、手早く作成できる。
もしかしたらシャトル牽引用のアレを流用すらできるかもしれない。
ならば榴弾砲と重砲を用意して、それだけルナチタニウムの装甲版で守れば良いじゃん(覆わない)。という考え方です。
宇宙だと避けられるので無理ですが、地上だと障害物だとか計測射撃でなんとかなりますので。後方陣地に置くならば有線でのリンク射撃も可能ですしね。

●オマケ
 前世を多少思い出して他の作品をちょびっと語っているだけです。
ジャマイカンはキートン山田、そうだちび円子ちゃんのパパだよね。
じゃあ生まれる子供はマルコにしよう。
いやいや、パパじゃなくてナレーターだよというくらいには記憶が怪しくなっているというオチ。
読者の方に指摘されて、自分も昔を思い出すくらいです。

同じようにリチャード・ハイマンという堅物のキャラが、少年魔法師に居るので、それを思い出したというだけ(それも忘れてた)。
きっと孫か養子はカルノーとでも言うのでしょう。


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ファイティング・イーグル 

●機械化大隊

 V作戦が始まってしばらく、ようやくコアファイターやガンタンクがお目見えする。

ペガサス級も予定に入ったそうなので、連邦が持つ技術力・工業力の恐ろしさが垣間見えようというものだ。

 

同時に先行して投入した牽引車両も役にたち、持ち込んだ大型砲が戦果を挙げたそうだ。

セイバーフィッシュを本体にでっちあげたブースターも、この分ならば十分に役立ってくれるだろう。

 

「新兵器に関する人事……か。ふん」

 送られてきた書類は新編の機械化大隊……モビルスーツや砲兵を含む戦車部隊への一時考察だ。

予定されている責任者候補の上位に、自分の名前があるという事は、欲しかったら部隊をあげても良いよという、プレゼントのお誘いであろう。

 

V作戦の取りまとめや既存兵器のてこ入れに成功したので、功績を報いる形なのだと思う。

ここで考えられる方策は次の三つだ。

 

一つ目。モビルスーツを率いてブイブイ言わせる。

二つ目。戦車大隊を率いて既存兵器の有用性がまだあると知らしめる。

三つ目。模様眺めで今は様子見に徹しておく。

 

「当然ながら、こうしてしまうのがベターだな」

 書類から自分の名前に線を引き、同様に向かなさそうな連中も排除しておく。

そして色の違う丸印しをつけて、それぞれの候補を推薦しておいた。

 

「ご自分で率いられないのですか?」

「てっきりどちらかは、父上がご自分で管理するものだとばかり……」

「私が前線向きならここにはおらんよ。必要ならば否応はないがね。それとハイマン中尉、ここでは大佐と呼びたまえ」

 取り巻きのジャマイカンと、息子のリチャードが首を傾げる。

それはそうだろう、せっかくの精鋭部隊。それも自分の裁量で人材や装備の権限をある程度は持てるのだ。

 

これほどロマンを掻き立て、かつ戦功を稼げるポジションは他にあるまい。

それゆえに二人が疑念に持つのも当然ではあった。

 

「仮にも軍人ならば大局的な視野を持て。才能のある指揮官に任せる方がよほど軍の役に立つ」

「も、申し訳ありません!」

 硬いところを見せておいて、いったんこの話は打ち切る。

 

正直なところ、戦艦で争うどこかの戦記物ではないのだ。

功績をガンガンあげても昇進し続けるのは無理だし、V作戦や新型砲の導入で大戦中に准将になれるのは確約されている。

 

これ以上は同僚の妬みを買うし、コリニー閥から鞍替えするのかと思われかねない。

万が一、先見の明があるニュータイプだと言われては、監禁されて政治生命が絶たれてしまいかねない。

それを考えれば派閥内や他派閥の連中に恩を売り、今持っている関連装備発注の権利を維持・拡大する方が賢いだろう。

 

「しかしお前が口を挟むのは珍しいな。欲しかったのか? だがもう少し待て。いずれ指揮官も士官も足りなくなる。それとジャマイカン大尉、出立の準備をしておけ」

「「はっ!」」

 二人とも別の意味で畏まる。

堅物の息子は私心出してしまった自分を引き締め、裏も今後の予定も知っているジャマイカンは失敗できない『接待』のために奔走しなければならない。

 

もちろん接待する相手は派閥の軍人ではないし、接待の材料も料理や金ではないのだが。

 

●鷲は羽ばたく

 功績を譲った見返りに獲得している権限を拡大。

その余勢をかって、とある戦場にお客付きで訪れた。

 

そこはコリニー閥が管理する戦域の一つで、戦車隊と共に数は少ないが砲兵隊。

そして持ち込まれたばかりのコアファイターが数機、並んで我々を出迎えていた。

 

「随分と役に立っておるようですな」

「ナポレオン時代の真似事ですが、まあジオンには十分だったということでしょう」

 牽引車両で大型砲を持ち込み、相手の兵器よりもロングレンジで砲撃を掛ける。

一昔前どころか随分と昔の作業だが、既存の技術だけで完了し、しかも手早く導入できるとありがたい限りだ。

 

「ですが命中精度が気になります。本体の方も予定通りに納入していただけるとありがたいですな」

「融合炉稼働の大型戦車の発注ですな? 間もなく満足できるものがお届けできるかと」

 もちろん備え付けではなく、専用の本体があれば言うことはない。

だからお客の一人であるメーカーに納期の方を確認しておいた。

 

近距離戦を61式に任せることでシンプル化し、かつ、そちらの受注も取り下げない。

お互いwin-winの関係なので、これ以上言う事はなかったはずだ。

しかし予想外の一言が、この後に大きな影響をもたらすことになる。

 

主に黒歴史が、黒歴史で無くなるという意味でだが。

 

「時に、アレはなぜ地上にあるのですかな?」

「コアファイターですか? ああ、あれは教育型コンピューターと統合型OSがありますのでね。データの管理を任せておるのです」

 さきほど見たコアファイターは、飛行のために待機していたのではない。

砲兵隊を繋げているリンク用ケーブルから、データのバックアップを借用して、検証やらフィードバックを計算させているのだ。

 

何せコアファイターの技術は恐ろしく、アニメではGスカイとGブルの制御も同じOSで管理しているのである。

教育型コンピューターともども、今後の技術発展に役立ってもらうのは悪くないはずだ。

 

「ふむ。そういえば閣下。道々ハービックさんと話し込んでいたのですが、セイバーフィッシュに増加パーツを付ける話があったとか」

「セイバーオルタのことですか? なんでもコアファイターをベースに切り替えたそうですが」

 今回は連邦企業各社のうち、コネのある数社を呼んである。

受注枠の話やら、今回渡す『菓子』で作って欲しい物があるからなのだが。何やら業者同士で色々と話し合っていたらしい。

 

「それなのですが価格の問題で、スケールメリットを活かすために一部を流用。必要とされる火力は大型戦車に倣って、別物を用意しようとなっているそうなのです」

「コアファイターは小型化した分だけ無理もありますし、高額化したそうですからなあ」

 確かにジェット・コアブースターは機首部分だけを使っていたはずだ。

 

原作では最初からそのような計画だったはずだが、こちらではセイバーフィッシュをベースとした分だけ開発順番がおかしくなっているのだろう。

そもそもガンダムの活躍に合わせて、それを輸送するGファイターなんか作られそうになかったしな。

 

「どうでしょう? せっかくですし、我が社の技術を提供しても良いと思います。代わりに大型化したマシンに我が社も協力させていただけたらと」

「……大型戦車にまでフィードバックしようとは言わんでしょうな?」

 ライバル会社でこそないが、企業同士が技術提供し合うのはありがたい。

特に遅れている戦闘機の納期が早まるのはとても嬉しい。

 

とはいえ新技術投入のせいで、また遅れたらそちらの方が問題だ。

後から出てきたコアファイターが高性能過ぎたせいで、直ぐにでも納入されるはずだったセイバーフィッシュブースターこと、セイバーオルタの納入が遅れに遅れているのは苦笑しか出ないが。

 

「いやいや、もちろんですとも。我が社の製品は納入間近なのですからね」

 どうやらGファイターの開発に一枚噛みたいらしい。

 

大型戦車の数はそこそこで、61式と併用で受注するという形では思ったよりも利益が伸びないのだろう。

特にモビルスーツの登場と、それによる戦争の早期終結の見通しを伝えた為、彼らも大きく焦っているらしい。

 

「それならば構いませんが……」

 問題はGブル? Gブルなのか?

原作でGブルがそんなに役立ったっけ?

 

そう思いつつGファイターの活躍を思い出そうとする。

しかし原作でも登場したのはアニメの方だけで、劇場版以降では登場がカットされていたはずだ。

 

その後の外伝とかに出ていたかもしれないが、関連書籍込みでパっとは思い出せない。

どうやって断ろうかと思いつつ、言い出せないのは原作でのガンダムMAの活躍とか、別にGファイターがあろうがなかろうが大勢に影響はないことだ。

 

「しかし宇宙で戦車の能力をそれほど使う訳でも……。宇宙で戦車?」

 砲門の技術はありがたいが、Gブルは断ろうとした矢先。

GファイターはGスカイだけで良いじゃない……と言おうとした自分を殴りつけたくなるほどのアイデアを思い付いた。

 

「よろしい。大いによろしい。せっかく大型化するのです。V作戦の機体を輸送できるようにしていただけるとありがたいですな」

「閣下? いえ、大佐?」

 思い出した知識があるが、正確にはプラモデル雑誌の記事を思い出したのだ。

ニヤリと悪い笑顔を浮かべた私に、営業マンだか技術者だか判らない企業側の男が青ざめる。

 

「コアファイターを基準にするのではなく、RXマシンを基準にします。そのうえで大型戦闘機として利用するだけなら、ジョイントでもかませばいい」

「そこは判りますが、RXマシンをですか?」

 Gファイターはコアファイターを前提にした状態よりも一回り大きく、アニメでのサイズには矛盾がある。

だから初期のプラモデルでは大きすぎる形状になっていたのだが、後のプラモではジョイント形式に改善されたはずだ。

 

それはそれとして理解できない彼に、私はそっと耳打ちすることにした。

 

「地上ではバランスの問題で無理ですが、宇宙でなら上半身のAパーツに下半身はブーストパーツという組み合わせも可能でしょう。それとRXマシンの組み合わせを考えてごらんなさい」

「はあ。モビルスーツの高速移動形態という訳ですな。例えば弊社の関わるRX-75ですと……っ!?」

 どうやら判ってもらえたようだ。

ガンダムMAの魅力という意味ではない。

 

そう、一番重要なのはガンタンクのモビルアーマー化である!

プラモデルの雑誌で見た、グリフォンというガンタンクとGファイターを組み合わせたやつを思い出したのだ。

 

とはいえその為には、多少の手直しが必要だろう。

Gブルみたいな感じで戦車技術を応用するのもう無理だ。後ろ半分をメインに、前半部分は対空レーザーやコックピットを守る装甲版にでもするしかないだろう。

あとはEWACとしての流用が精々だろうか?

 

「お判りいただけただろうか? それと此処だけの話、宇宙ではビーム攪乱の技術を研究中でしてね」

「……閣下。今後とも私どもをご用命ください。もちろん今のお話には誠心誠意お答えいたします」

 ガンタンクMAの移動力と射程があれば、I・フィールドだって怖くないね!!

それに地上でしか役立たないと思われていたガンタンクが宇宙でも使えるならば、数を増やして運用することもできる。少数だからお高いが、量産型やらガンタンクⅡを製造するついでに増やせば良いだろう。

 

結果としてガンキャノンやジムキャノンが早期に消えそうだが、まあその辺は仕方あるまい。

 

「お待たせしましたな。御社にお任せしたい物がありまして。ジャマイカン、鹵獲品の元に案内してさしあげろ」

「はっ!」

「鹵獲品ですか? ザク……いえ、ドップやドダイでしょうか?」

 もう一組はハービックを中心とする航空機組だ。

むしろ今回は、こちらの方がメインといっても良い。

 

だからこそ、連中も渡したいのがザクではなく、航空機なのだと思っていたようだが……。

正確にはドダイだけではないのだよ。

 

「ドダイYS。爆撃機の搭載量を利用した、モビルスーツ運搬用の機体だそうです。言ってみればサポート・フライング・システムといったところか」

「これが……」

 そこになんとか無事のドダイ、そしてぶっ壊れた無数のドダイや、同じようにガウがある。

壊れているのはそのまま使うのは無理だが、一機でも無事なドダイがあるのはありがたい。

 

「これを我が軍にもあれば、モビルスーツや少量物資の運用がスムーズになるでしょう。もちろん宇宙用も欲しい」

「それは誠にありがたい話です。しかし……」

「その場合、我が社はなんの御用で?」

 ゲタやセッタを早期に開発しておけば後が楽になる。

ミデアを使うほどでは無い任務や、目立ちすぎる場合に便利だ。搭載量のあまりに、携行武器や弾薬くらいは積めるだろう。

 

だがそれでは話半分でしかない。

重要なのは残り半分である。

 

「ガウ攻撃空母というらしいですよ。V作戦の母艦に使われているミノフスキー・クラフト・システムを使えば、ペガサスよりも安価な母艦ができると思いませんか?」

「それは確かに! 大型の航空母艦ですか。それは素晴らしいですな!」

 航空母艦は連邦でも作れる技術なので、残骸とはいえガウを研究すれば確実だろう。

 

「とはいえ大物ですので直ぐにはできないでしょう。半年……いえ、場合によっては戦後を見据えてくださっても構いません」

 さすがに母艦となれば上層部への打診は必要だが、コストの問題で許可が降りていた。

ペガサス級はあくまで危険な重要任務へ使用し、地上では安価に設定した航空母艦を用いるという話である。

 

そして一連の受注は戦争後も見据えている。

戦時と日常では予算の使用量が違う。緊急時用の強襲揚陸母艦と、より安価な航空母艦ではどちらがメインになるか自明の理。

その為は彼らの企業が必要になるという事であり、その命運を保証した私の利益となるのだ。




 という訳でコジマ大隊をスルー。

自分の戦力で楽しく戦うルートを放棄して、代わりに恩を売る感じになりました。
まあ計画に関わったから『どうしてもというならあげるよ?』と言われたので、どうしても欲しいわけじゃないんだからね。と言って、他の人に回しただけです。
あと調子に乗るとアプサラスとかで大変な目にあいますしね。

●Gファイターの量産と、ガンタンクMA=グリフィン
 嘘だろ、GブルとGスカイって同じOSなんだぜ。
ガンダムだけならまだしも、これは連邦脅威のメカニズム。
教育型コンピューターでコマンドの処理を簡易化して、AボタンBボタンだけで済ませてるだけで、曲射射撃とかはテクニックは無理でしょう。
しかしこれだけ凄いベースマシンがあるならば、使用しないのも嘘ですよね。

ですからガンダムの高速輸送・コアファイターの重装化だけではなく、ガンキャノンやガンタンクをMAできるようにします。
そうすると簡易量産化の決まっているガンタンクを増やして、ガンタンクMA部隊を作ればビムザムだって何とかなりそうです。
ですからこの世界ではハヤトが多少活躍したり、スレッガーさんは戦死しないんじゃないでしょうか?
まあアムロも乗れるだろとか、それはそれとして戦死する可能性は他のシーンもであるでしょうけれど。

●ガウとドダイYS
 この辺も早期に着手しますが、あくまで戦後に向けての発注。
企業連に今後の受注をほのめかして、利益保証があるから潰れない。としているだけです。
ジャミトフさんとしては間に合わなくても良いし『今後トモ、ヨロシク』と言ってもらえば良いので。


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躍進のための準備

●戦略の復習

 現在の戦況と基本戦略をまとめておこう。

連邦軍の基本戦略は、余計なことをしないのを重視していた。

精鋭といってもジオンの方が練度は上だし、兵力も局所的に負けている場所すらある。

 

ゆえに数と精鋭を集中させて、勝てる場所だけ戦線を押し上げるという手段を取ったのだ。

固定した防御部隊と機動部隊に分ける『槌と鉄床戦術』に多少似ているか。

 

『槌と鉄床』というのは文字通り鍛冶屋のアレだ。

振り下ろすハンマーが攻撃部隊、反対側を抑える鉄床が防御部隊という訳だ。本来は戦術用語なのだが、連邦の国力でやるから戦略レベルになる。

 

アジア軍管区で言えば、北京基地はそのまま防衛態勢を堅持。

防衛用に多少数は積み増すが、迂闊に挟み撃ちにしようとすると戦力が馬鹿みたいにいるので、こちらは戦線を築き上げて終わりだ。この厚い壁……いや『鍛冶の鉄床』を築くのが基本戦略の半分になる。

 

「コジマ大隊は進発したのだな?」

「はい。マドラス基地を出てインドシナに向かいます」

 鉄床による防衛が半分だとすると、次は攻勢面の話になる。

少し前に機械化大隊の編成が二つ分ほど出ていたのを思えているだろうか?

 

その一つであるモビルスーツ大隊は、まとめてジャブローからマドラス基地に送り込まれた。

これがアジア軍管区における攻撃役で、基本的にはこれら精鋭である機械化大隊だけを動かして、攻勢を掛けていく方針になる。

 

「こちらはどうだ?」

「コリニー中将が団長を決定し次第に進発します」

 同じようにオセアニア軍管区もまた、トリントン基地は防御態勢。

やはりジャブローから送り込んだ新編の戦車大隊をもって、優勢な場所を少しずつ増やしていく形になっている。

 

他方でこれ以上の攻勢面を増やすと戦力が微妙になってしまうので、他は防衛戦力を積み増すだけ。ヨーロッパ軍管区はベルファストやピレネーの線を固定したまま、オデッサ戦まで何もしない予定だ。アフリカや宇宙に至ってはさらに後になるだろう。

 

これらの背景には、現状の戦力では全てを奪還することは不可能だという現実があった。

それと同時に、国力に勝る連邦が余計なことをする必要はないのだ。V作戦によって主力兵器のパラダイム・シフトを行った以上は、ジオンが勝てる余地はないという事になる(コロニーレーザーは別にして)。

 

つまるところ、V作戦の真価とはジオンがやった卓袱台返しをなかったことにすることだと言っても過言ではない。

同じ兵器を用いて同じような戦術を採れば、国力に勝る連邦が必勝するという訳だ。つまらないがこれ以上の戦略はあるまい。レビル将軍がモビルスーツに固執するわけである。

 

 おさらいを済ませたところで、連邦が勝つのは判ってもらえたと思う。

となると次は商売の話だ。勝つための補助手段とも言うが。

 

「その前に確認しておくが、この損害報告は本当なのだな?」

「はい。軍艦を始めとして少なからぬ船舶が襲撃されています」

 これはジオン水泳部の仕業だろう。

既に存在している頃だと推測していたし、危険な相手だとも判っている。

 

だがコレを未然に防ぐのは難しいし、第一、防いでも私の得にはならない。

 

「……対潜ヘリとそれ用の足を用意しろ。軽空母でもヘリ空母でも構わん。戦車隊に被害を出すわけにはいかんぞ」

「対Uボート戦術ですか? しかしこの被害を考えれば、ジオンは水中型モビルスーツを開発したことになります。対処可能でしょうか?」

 魚雷ではない方法で軍艦まで普通に沈んでいる。

水中からの攻撃だと指摘してやった上で、それを考えればジャマイカンでも気が付くか。

 

それに頷きつつ、別の者に秘匿回線を準備させた。

 

「水中戦モビルスーツに関しては中将経由でレビル将軍の耳に入る様に。それとヒマラヤ級の申請をしておけ。私は対潜装備の発注をせねばならん」

「はっ!」

 直接にモビルスーツ系の技術部に連絡を取ると問題になりかねない。

ここは気が付いただけに留めて、コリニー中将経由で話を通しておく。

 

同時に対潜哨戒機に爆撃機を調達。

その改良型が完成するまでは、導入されたばかりの大型爆撃機であるデプロッグを追加注文して対処に充てる事にした。

 

「かくの如く暫定方針を中将閣下に具申しておく。少なからぬ人命が失われたが、手早く対抗手段を見つけることが何よりの慰めだろう。急げよ」

「「はっ!」」

 主任参謀らしく決めつつ新しい発注でコネを強化しておく。

 

センサーを搭載したブイを浮かべるとか事前に判る方法はあったが、未然に防いでも誰も得をしない。

静穏性に優れたアッガイを量産されるだけだし、その方が結果的に被害が増えるので困ったことになる。

用意ができ次第に一気に決めて、原作よりも早く水泳部の活躍を終わらせるので勘弁してほしいところだ。

 

●未来への予習

 さて、二つあった機械化大隊のうち戦車大隊編成が遅れたのには理由がある。

もちろん派閥人事で遅れたわけではなく、やむに已まれぬ問題があったのだ。

 

コジマ大隊が数の問題と探査能力の問題で、モビルスーツに指揮車両という組み合わせで終了。

これに対して戦車大隊の方は、その用途はそのままに意味合いが大きく変わった。

 

「大佐。妙な部隊が参加しているようなのですが……」

「あの連中はお前たちに与えた玩具とは別口だ。預かっているだけでそのうち出ていくから気にしなくていい」

 まず数機のモビルスーツと戦闘機が追加。

これを加えて増強大隊化した上で、戦技教導隊としてモデルケースとなったのだ。

 

各地の連邦軍は戦車が主力であり、これにモビルスーツを加えて順次増やしていく形だ。

共同任務は当然のことであり、その教導にあたる為の教育プランは今のうちに抑えておけということになったのである。

 

しかし当初の予定通りにいけば、既に進発しているはずだった。

セイバーオルタの件もそうだが、便利だからといって後出しの完成品の為に二転三転するのはどうかと思う。

 

「ジャマイカン大尉。リチャードにはああ言ったが、念のためにクルスト博士に監視は付けておけよ。何かあった時は、もみ消してやれば貸しにはなる」

「承知しております。何かあった場合は回収する手はずも」

 妙な連中というのはブルー関連のことだ。

モビルスーツを渡す代わりに、一緒に面倒を見ろと言われている。

 

いずれ暴走し、ニムバスが襲ってくることは知っているが……。

これをあえて放置することにした。そもそも襲撃があると知っていることを伝えるわけにはいかない。

 

「そうだ、連中を管理する権限はないが守る責任もない。まあ何もないのが一番だがな」

 そして放置する大きな理由としては、他派閥が無理に持ち込んだ実験兵器である。

問題が起きて、これに力を貸す方が利益になるのだ。ジャマイカンが言うように回収するのも良い。

 

何かの読み物で陰謀を未然に防いでも得しないと腹黒エルフが言ったが、実にその通りだと思う。

 

「しかしニュータイプはミュータントで、対ニュータイプ兵器というのは本当なのでしょうか?」

「ジオンのプロパガンダに毒され過ぎだぞ大尉。ニュータイプなぞ所詮は察しの良い環境適応者に過ぎん。熟年の夫婦ならば誰にでもできる事だ、新人類などではないよ」

 ホンの少し分かり合える。その程度の能力に過ぎない。

そういってジャマイカンの不安を払ってやる。

 

「それもそうですな。時に大佐。例の航空母艦の仕様書が上がってきました。ネームを考えて欲しいとのことですが……」

「早いな。……なるほど、在り物を上書きしただけか」

 少し前に提案し、ガウの残骸を引き渡した。

それがサポート・フライングシステムより先に仕上がって驚いたが、よく見ると既存の大型航空機の計画を焼き直しただけらしい。

 

ガルダどころか、ペガサス級にも遠く及ばない。

精々がガウの倍、ミデアの三倍というところである。

 

「とはいえペガサス級よりも安価な母艦として注文したからな。こんなものだろう。しかし名前か……ゼネラル・レビルとかアドミラル・ティアンムではいかんのか」

「大佐……。ジオンのような独裁国は除きまして、存命者の名前を付けないのがセオリーです」

 冗談で口にしたのにジャマイカンに呆れられた。

本気でそんな名前を付けるとか思っているのだろうか?

 

……アドミラル・ヤンにゼネラル・ゼゼーナン。

あるいはブリュンヒルトやスプリガン……フィクションは却下されそうだな。では大鳳か信濃、キエフ・レキシントン……。

 

「ガルダで良いだろう。攻撃装備を付けた雄型をプリンス・ガルーダ、自衛装備に留めた雌型をプリンセス・ガルーダとでも送っておけ」

「承知しました」

 やはり原作のガルダが一番しっくりくる。

ゼータ時代の半分くらいのサイズになるだろうが、一年戦争後期で活躍するには十分だろう。




 という訳でサクっと時間を進めるための準備回です。
本当は一週間に一回でそれなりと思っていましたが、思いつくままに数話書いて終わりにする予定です。

今回は現在の戦術解説と、精鋭の部隊編成・ガルダの就役予定の説明。
これでジオン地上軍に勝てない理屈はなくなるので、数と射程で圧倒しながら攻め潰します。
ちなみに主人公にネーミングセンスはありませんので、それは酷いものです。
放っておくと、クーゲル・ブリッツやクーゲル・シュライバーって格好良いなあ……とか言い出しますので。

●北京
 媒体によって連邦かジオンか微妙な基地ですが、連邦側です。
一か月早くV作戦が始まってるとか、大型戦車はともかく砲兵隊は早期投入可能というのもあります。

●ブルー
 ブルーはあちこち転戦しているので、そのうちの一戦域というだけです。
サラっと流ししつつ、戦技研=のちのニューディサイズとかの系譜を説明。
水泳部の話もチラっと出てきましたが、一部の軍艦を犠牲に情報を得たことで、対潜部隊を編成してさっさと終わらせるよと説明してます。

●プチ・ガルダ
 ガルダは300m越え、ペガサスは250m以上。
ミデアは45mでガウは60mらしいです。

そこで120m級で想定し、ガウの一回り、ミデアの二回り大きいくらいをイメージ。
ミノフスキークラフトを乗っけて、搭載量を拡大しただけで終了という感じで、設計し易くしています。
とはいえ予定より大きくなってしまうのは良くあることですし、連邦にはミデアがあるし中途半端は微妙。SFSも同時発注してるし、載せられる方がいいよね?

ということで、200m弱くらいに落ち着くんじゃないでしょうか?
それでもペガサス級より安くなりますし、搭載量も増えます。何よりも大きく作ってそこは装甲か搭載スペースに違いない!
とやる方が設計に余裕ができますし、予算も増えて企業も助かりますよね。


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スローステップ

●朗報と暗雲と

 受領する前に貸出す形でガルダを実践投入し、インドシナ戦線を粉砕し一足早くアジアの片が付いた。

その話を最初に聞いた時、私が思ったのは『惜しい』という気持ちだ。

 

インドシナ戦線からザンジバルらしき艦が逃げ出したというが、ラサ基地にはギニアス・サハリンが居たはずだ。

時期的にアプサラスの完成よりも前倒しになったせいで、研究はまだまだ途上のはず。

自分が担当していたら、捕虜にするなり、裏で交渉して研究させることも可能だったのではないかと思わなくもない。

 

「ガルダが役に立ったようで何よりだ。予定通りこちらに……何? ええい! 艤装など良い、新しいのをサッサと送ってこい!」

「どうしました? 何か問題でも」

 通信していたコリニー中将が通話装置を投げつけた。

秘匿回線で個人的に話していたので、こちらに送る予定のガルダに何かあったとしかわからない。

 

「どうしたもこうしたもない! ライヤーの奴め、ガルダで独断の追撃を始めおった!」

「……意外ですな。ライヤー大佐はジャブローの椅子を温めたがっていたと思いますが」

 ガルダが有効だった以上、追撃すべしと判断するのも間違いではない。

まだ受領していなかったわけだし、コリニー中将の管理下に無いのだ。

 

意外だったのは、08小隊に登場するライヤー大佐がやったということである。

彼はいずれの軍管区にも所属せず、ジャブローというか本部所属の戦略予備という扱いだ。

ガルダで戦略予備軍を一気に投入し、アジアの問題を片付けたのだが、彼はジャブロー本部での行動を志向していたはずである。

 

「どうせ誰かの意向に違いない。ワシからガルダを取り上げて足を引っ張ろうというのだ」

「調べさせておきます」

 手に入れてもないのにワシの物とは噴飯ものだ。

しかしレビルの後釜を狙うコリニー中将にとって、誰かの差し金と思いたくなるのは仕方がないだろう。

 

「そんなことはどうでも良い。問題は艤装の済んでない軍艦なぞ石のタヌキでしかない。ジャミトフ、何とかならんか」

「……そうですな少々お待ちください」

 計画が狂い功を焦って艤装前の艦を呼び寄せた中将の気持ちも判らなくはない。

対案も用意しているので問題ないが……。

 

先ほどの疑問が気になるので、考えるとトボケて時間を稼いでおいた。

 

(ライヤーは中将の怒りを買ってまで行動するタイプではないし、誰かの差し金で功績を稼いでまで出世したいタイプでもない。では誰が命じた?)

 上昇志向は強いが秩序も重んじるし、本部付きというブランドや快適さも大事にする男だ。

本当に独断とも、指示で動いているとも思えない。

 

私が一年戦争中に准将、戦後に少将に成れるから焦ってないのと同じだ。

ライヤーも今回の実験で点数稼ぎをしただろう。次に何かの作戦があれば確実に昇進できる。

別に焦る必要はないのにと、奇妙な点が気に掛かっていた。

 

 もちろん、普通ならば今の状況だけでは何も思いつくはずがない。

だが私には、思いつくだけの情報ソースを持っていた。

 

「……メラニーか。メラニー・ヒュー・カーバインの周囲を調べさせておけ。だいたいで良い」

「と言いますとアナハイムのですか?」

 小声で話してるのに聞き返すなと言いたい。

だいたい、アナハイム以外にメラニー・ヒュー・カーバインが居たらお目に掛かりたいものだ。

 

まず前世の記憶で、アナハイムが世界最大の企業になったことは覚えている。

ユニコーンの時にその理由が存在したことも、なんとなく判った。だがこの世界でも『箱』が本当に存在し、ビストが関わっているかは分からない。

 

だが私は、もう一つ情報ソースをもって居た。

私がジャミトフ・ハイマンであり、メラニー・ヒュー・カーバインとは士官学校で同期であったという事だ。

薄ぼんやりとして忘れかけていることも多いが、奴とは同じ学校ゆえに見聞きしたことで掘り起こし・再認識したことも多い。

 

(奴は聖地奪回を今でも夢見るような男だ。そういう事か……)

 おそらくはジオンをインドシナ戦線から脱出させたのも奴だ。

意図的に誘導し、それを追いかけるようにライヤー大佐を動かした。

 

あとは簡単だ。

適当に戦闘をさせながら人間を追い払い、穴を埋めるように自分の息の掛かった人間を送り込めばいい。

いや、既に送り込み、ジオンの名前を騙らせてマンハントをしている可能性すらある。

そして残った政財界人にも、ジオンの協力者であるという汚名を押し付けて根こそぎ消し去るつもりではないだろうか?

 

箒でチリを集めて除こうとするかのように。

 

(奴がどう動くかは別にして、コロニーに送られる者や難民には注意しておいた方がいいな)

 別に難民を助けようとは思わない。

だが、何かあった時にアナハイムや、各地の独立主義者に送り込む為の準備はしておいた方がいいだろう。

 

その工作をするのであれば、直ぐにオーストラリア戦線も片つけるのは惜しい。

どうにかして、傍目からはそう見えないように、時間を稼ぐ必要があるだろう。

 

●隠れ潜む敵に備えて

 やる事が決まったことで、私は考えを整理しなおした。

ビスト財団に手を出すかは別にして、アナハイムに手を伸ばす準備をしておく。

 

今後にどう転ぶかは別にして、難民を手なずけて各地に送り込む有意義さに関しては、戦後の歴史を思い出すまでもない。

 

「何か思いついたのか?」

「はい。この際ですが、奴らを逆利用してしまいましょう。時間が掛かってしまう不備は、全てライヤー大佐とのその背後にあるのです」

 するべき事さえ決まれば、時間を稼ぐのに必要な行動を決めるだけだ。

目的と手段が逆転してしまうが、気にすることはない。

 

そして後は単純作業。

手持ちの作戦案の中で、時間を掛ける意味のある物をチョイスするだけである。

 

「それでは言い訳にしかならんだろう。時間を掛けて何をするつもりだ?」

「艤装をするという理由で、対潜を中心に装備を充実させます。そしてシドニー湾に潜み支援している敵を追いかけ……」

 前々からジオン水泳部対策はしていた。

ここにソレを大々的に行う理由ができたという事だ。組み合わせるだけなので、もはやパズルですらない。

 

「潜水艦隊の本部に違いないという理屈をつけて、ハワイまで攻め入ってしまいましょう」

「ハワイ攻略戦自体を乗っ取ってしまうのか?」

 前世の記憶でハワイが本部だと知っているのだが、ここは屁理屈でこじつけるという事にした。

 

対潜装備の試験も兼ねて、潜水艦を追いかけていたら偶然ハワイであると突き止めた。

ガルダは艤装こそ途中だったが、『偶然』にも爆装や上陸戦の準備が充実している。

 

ソレ自体は、オーストラリアを片付けた直後で移動前だったのだ。

なんの不思議もない。たまたま潜水艦を追いかけたら、本部まで辿り着いたという態である。

 

「お気に召しませんか?」

「いや、気に入った! 元からハワイ攻略戦は合同作戦だったし、何より言い訳する必要もないというのが良い」

 ハワイは微妙な場所にあるので、アジア軍管区とオセアニア軍管区。

その両方の共同作業で、戦力を抽出する手筈だった。

 

それに加えてジャブロー本部から対潜・爆撃・上陸用の装備で戦略予備が加わる予定。

どちらが指揮官になるか、それともジャブローからの派遣組になるかはまだ決まっていなかっただけに過ぎない。

 

だが、この理屈で追いかければ、全てはコリニー中将の胸先三寸。

すべての問題は最初にライヤー大佐が勝手に追いかけて、その皺寄せを整理していたことが原因になる。誰かが文句を付けるとしても、こちらの不手際ではないのだ。

 

「それでは私は現地の督戦に参りますので」

「うむ。無理はさせるなと言っておけ」

 今の勝利は程ほどで良い。

重要なのはむしろ、悪影響を残さず立つ鳥が跡を濁さずに出立することだ。

 

そのためには時間を掛けてでも、確実に勝利しつつ、装備も活力も充実させておく必要がある。

督戦するという理由で現地に出向き、無茶はさせないという矛盾した指令を与えることになった。

 

 

「タイタンの調子はどうだ?」

「はっ! 78式に問題はありません。すこぶる順調であります!」

 そこに巨大な戦車が居た。

78式重戦車、通称はタイタン。融合炉搭載型の大型戦車で、実に20mものサイズに及ぶ。

 

試験している型によって、180mm無反動砲・220mmキャノン・60mm対空機関砲と差はあるが、15mに詰め込んだガンタンクよりも平べったく重心が低い分だけ安定していた。

 

いずれもっと強力なライフル砲が登場して入れ替わるのだろうが、いまでも十分に強力だ。

ジオンの火砲よりも長射程で、曲射攻撃においても精度が高いのがウリである。

 

「このまま押し出しますか? いつでも攻勢を強められます」

「中将は無理をするなと仰せだ。たとえ時間を掛けても完勝できるならば少々は構わんと、な」

 やる気を損ねるわけにはいかないし、これまでと方針を変えるわけにもいかん。

 

今になって急に方針を変えられても困るだろうし、方法だって思いつかないだろう。

そこで方針は弄らず、手段に関する制限を外すことにした。

 

「間もなくガルダが来る。この機に全力戦闘のテストを行う」

「っ!? 了解であります! 腕が成りますなあ!」

 いわゆるオール・ウェポンズ・フリーと言うやつだ。

いつもは使用制限をしている装備を使用し、戦術オプションを行使する。

 

とはいえ普段は使わないがゆえに修正に時間が掛かるし、ガルダに運び込むことを考えたら微調整はなおさらだ。

 

「それと大佐。……レジスタンスの者が協力を申し出ているのですが」

「軍人は民間人の盾になるのが本道だ。戦闘には参加させられんと言え」

 そこに居る現地士官の性格を考え、それぞれの前で性格に見合った言葉を使う。

 

「第一なんだ……せっかく楽しくなってきたのに、素人に邪魔されても困るだろう?」

「それもそうですな。しかし、彼らは後方に下がらせますか?」

 真面目な者の前では危険に晒さないと言い、戦闘好きな者の前では自分らで愉しむ為だという。

表情やトーンも使い分け、士気を向上させるのも参謀の務めだ。

 

「彼らは苦労してきたのだ。ただ下がらせるだけではなく、最大級に便宜を図ってやれ。どうしても仇を討ちたいならば軍に放り込んで鍛え、家族を心配するならば避難所と仕事を斡旋させろ」

 民間人の協力者を手厚く扱ったという評判が広まれば、後がやり易くなる。

 

それと同時に、手厚く扱うという陰でやるべき事があった。

 

「ただし役人に引き渡す様な真似はするなよ、大尉? それでは放り投げるのと変わらん。どこで家族と別れてしまったのか、どんな仕事で働きたいのか確認しておけ」

「身元の確認を行うのですな? 住む前も、移動した後も」

 金魚のフンの様に付いてきたジャマイカンに、ニヤリと笑って頷いておく。

スパイが入り込んでいるのは当然だし、場合によっては人質が取られている可能性もあるだろう。

 

相談に乗ると称して経過を観察すれば、スパイだったとしても把握できるし、手厚い保護だと見ることもできる。

千人くらい難民を保護すれば、一人・二人はジオンのシンパが居るし、逆にこちらの正義を頭から信じ込んでくれる者も出るだろう。

 

また経過を観察して詳細を把握するということは、住む場所や仕事場を追いかけて追跡調査も可能とするということだ。

なんだったら彼らの戸籍と家族情報を利用して、こちらがスパイやエージェントを送り込んでも良い。

 

そして……仕事を斡旋するといってもオーストラリアに限らず、地方のコロニーだったり、都市にあるようなアナハイムの工場も良いという訳だ。

焦る必要はない。ゆっくりと確実に、今後の動乱期に備えて根を張っておけば良い。

 

「大佐! ガルダが到着するまではディッシュで観測を行います。デプロッグの換装を始めましたが、本当にウラヌス・システム使っちまっても?」

「構わんといった。データ観測は頼んだぞ」

 ウラヌス・システムというのは、三次元観測による測距演算戦闘だ。

もちろん伝説の存在そのものではなく、『星をちりばめられたる者』という意味の方を採用している。

 

高高度(こうこうど)に位置した偵察機や母艦から、地上目標だけでなく、バラまいた射出目標を観測する。

曳光弾など当たり前のこと、電波誘導ではなくプログラム型のドローンも惜しげもなく投入。

発光や発煙を読み取り、敵味方の位置や移動距離を図る。この情報を計算して、遠距離攻撃を行う味方にマーカーサインなどを放って伝達するという訳だ。

 

ちなみに最初は『アルゴスの眼』と直球だったので、名前で判るのは問題だと止めさせられた。

アフリカ方面用に考案した『ラーとメジェド』は通ったというのに、解せぬ。

 

「ドローンの費用など無視して思いっきりやれ。それに目の前の敵を片付けたら、次は海から邪魔してくれる連中を始末することになるのだからな」

「そうこなくっちゃ! ジオンの連中を粉砕してみせます!」

 なお、残念ながらモビルスーツの出番はない。

 

重戦車であるタイタンが長距離砲撃を掛け、その後でデプロッグが出撃。

このデプロッグがまた曲者で、本来の爆撃仕様以外に、ガトリング砲を無数に装備したA-10みたいなのもある。

 

モビルスーツが投入するのはその後になるから、到着時には既に木端微塵だった。




という訳でアジアとオーストラリアは平和になりました。

アジアではアプサラス完成する前に、ガルダを使って援軍が裏口から侵入。
オーストラリアでは観測による演算戦闘で、ミノフスキー粒子の妨害を無視して遠距離攻撃。
数と射程の暴力で殴り倒した形になります。

ギニアス兄さんはメラニーさんの伝手で後退、ヴィッシュさんは出番が来る前に行方不明です。

●メラニー・ヒュー・カーバインと、ジャミトフの事前活動(慈善ではない)
 設定としてアナハイムの創始者。
ジャミトフと士官学校の同期なので、転生で記憶が薄まっていたとしても、思い出すことが可能。
ただし一年戦争時はアナハイムの独占がないために、ユニコーンにおけるラプラスの箱があるかは不明である。
今回の件が彼の行動であった場合、箱がないからチャンスに乗ったのかもしれないし、箱の力を使って暗躍したのかもしれない。

いずれにせよ、ジャミトフから見れば確かめる術はない。
その後の経過を観察しつつ、利用するまで。

どちらのせよ今回の件では、今後の騒乱を視野に入れて地方に根を張る行動に出ている。
まだ宇宙市民独立主義者が出ておらず、先んじて後から行動する理由を作った感じ。

●ウラヌス・システム
 『星をちりばめたる者』
その名を冠し、発光・発煙による距離観測・風速の経過などを演算戦闘するシステム。
これをマーカーサインで後方に伝え、長距離砲で対空射撃を制限、その後に爆撃・撃ち下ろし射撃を行う。
ジャミフトフが信じるのはデータと使用者の技量であり、サイコミュとかサイコ・ドライバーだとかは信じていない。

デプロッグA型:ガトリング砲装備のアサルト仕様
デプロッグB型:本来の爆撃仕様
デプロッグC型:ドローンを散布するカーゴ仕様

78式重戦車『タイタン』
 20m大の大型戦車で融合炉搭載型。
ガンタンクをシンプルにして平面にしたことで、安定性と生産性は高い。
長距離砲・曲射砲・対空砲とバリエーションはあるが、基地で換装できるので、システムを使用する場合は長距離砲で揃えることになる。
デプロッグも同様に仕様変更できるが、時間が掛かるのでジャミトフの思惑通りになっている。

ガルダ級(読者的にはプチ・ガルダ)
 120mで計算されたものの、結局200m前後になってしまった。
攻撃装備を付けた雄型は200mを越え若干細身の攻撃仕様。
輸送型で装備は少数の雌型は200mを下回る代わりに、縦横が広く設計されている母艦仕様。
前者はライアー大佐がザンジバル追撃に用い、後者をコリニーやジャミトフが使用する。
高速仕様や爆撃仕様も設計段階ではあったが、どう考えても使わないので御倉入りになっている。

重戦車であるタイタンも積めるには積めるが、ハワイに到着するまでは搭載しない予定。代わりに別の物が搭載されるとか。

●ブルー
 別の戦域に移動しましたので登場してませんが、念のために記載。
今頃は北米で色々やってるんじゃないでしょうか?
前回のはあくまでチラ見であり、コリニー閥が関心を示している。
もし仮に史実モードになったとしても、手に入れる(保護する)可能性があるという程度の物です。


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サブマリンゲーム

●虚実の交差

 以前に申請しておいたヒマラヤ級空母が来航し、対潜装備を中心に載せ始める。

最新の対潜水艦航空機であるドン・エスカルゴや、その技術を応用したデプロッグD型が中心だ。

 

「これより別命あるまでこの旗艦をネプチューンと呼称。本作戦以降はポセイドンと改める」

 コリニー中将が愛猫のアキレスを連れてこれに乗り込み、インドシナ方面に向けて出港。

シドニー湾付近に隠れている、ジオン潜水艦隊の出口を塞いだ。

 

同時に雌型のガルダも艤装を中断し、対潜装備を中心に搭載。

未完成ではあるが、雌型は母艦機能重視型なので問題ない。

 

「ジャマイカン大尉。潜水艦を焙り出すが、間違っても沈めるなよ?」

「承知しておりますが問題ありません。彼奴らの航跡はこの通り掴んでおります」

 ニヤリと笑ってジャマイカンが取り出したのは、でっちあげた航跡ログだ。

数日後の日付けが入っており、蛇行したり急進を繰り返してハワイに向かっている。

 

「せっかくですので、奴らが誘導した場合はあえて引掛かってみようと思いますが?」

「……判って来たではないか。そうだな、そろそろ独り立ちしてみるのも良いかもしれんな」

 奴らが採ると想定したのは、他の方面に逃げると見せかけ、ハワイ行きを悟られない為の物だ。

当然行うと思われるし、こちらもハワイだと決めつけていると上層部に悟られたくはない。

 

何度か行うだろうが、ワザと引掛かるのは本当に逃げられると困るコースだ。

コリニー中将が向かった西回りとは別に、南東回りで大西洋に抜けられると困る。

ゆえにコレを塞ぐために、あえてそのコースへの偽装のみ引掛かって見せるのだ。

 

「この追撃戦だけではなく、次の銀輪作戦も指揮を任せても良い」

「っ!? 光栄であります! 全身全霊でお受けします!!」

 喜色満面のジャマイカンだが、当然だろう。

 

精鋭部隊の指揮官として采配を振うのは軍人として大いなロマンだ。

加えて失敗しても問題ない上に、万が一問題が起きたら私がフォローできる。

これで喜ぶなという方が嘘であろう。

 

「追い込んでくれさえすれば良い。欲をかいて失望させるなよ?」

「はっ!」

 実のところ、この采配には裏しかない。

 

秘密工作をしたいのも確かだが、ジャマイカンにバスクに負けない発言権を与えるためにも、色々な意味で時間がない。

 

それはそれとして、ジャマイカンは影響を受けやすい男だ。

バスクほどではないが、後期に問題行動を引き起こしている。

こういった機会を設け、今のうちに矯正しておく必要があるだろう。

 

 

「メラニーの周囲で見かけられた人物、か」

 アナハイムの創始者であるメラニー・ヒュー・カーバインは多忙である。

その中で出会う人間は限られるが、裏向きの人材は少ないものだ。

信用が置けないと困るので何度か面会しているとしても、問題なのはその人物がさらに手下を雇うという形式である。

 

そこからさらに下に降ると多岐に渡り過ぎるので、追いかけるのはその下までだ。

メラニーとの対面がそうであるように、相手の人格を理解し、かつ行動の担保を与えねばならない。だからその下までなら意味のある人物だという結論でもあった。

 

「エルランの部下だったと思うが、このジュダックという男が?」

「はい。元居た地方基地の出身者に調べさせましたところ、あまり似ておらぬとの事です」

 言い訳をさせえもらえば、前世の記憶を全て覚えているわけではない。

面識があった時に何となく違和感がある程度で、ガンダム関係者だと思うくらいなのだ。

 

それが記憶と設定が照合できたのは、エルラン少将の部下だという事だけではない。

オーストラリアで行った、偽家族を潜入させる手配を行っていた時の報告の時だ。

似たような容姿の者をそっくり入れ替えていたのだが、同じことをジオンがやっていたらしい。

 

「なるほどな。エルラン少将経由の命令ならば確かにライヤー大佐も請け負うか」

 先にガルダで独断追撃を掛けた件があった。

本部志向のライヤー大佐がやるとは不思議だとは思っていたが、これでようやく繋がった。

 

エルラン少将は戦略予備軍の指揮官の一人であり、参謀格でもある。

ライヤー大佐の上司とも言えるし、他の中将が命令したことを伝えただけの場合でも信憑性が増すともいえた。

 

(エルランはオデッサ戦で中将に任じられたが、裏切っていたはずだ。ジオンとのパイプ役がジュダックだった……と)

 段々と思い出してきたが、メラニーが関わっていても、いなくても整合性が出てくる。

 

マ・クベの依頼でインドシナ戦線からギニアスを見逃し、即座に追撃させてこれを補う。

戦意溢れる判断で、命令系統的にも間違ってはいない。ジオンと繋がっていることを隠しつつ、他の中将がコリニー中将の足を引っ張れといった場合は恩すら売れる。

 

単にマ・クベとのつながりが今の時点であっただけ。

そんな可能性も出てくるのだが、それとは別にやはりメラニーの関与だと思わしき部分も同時にあった。

 

「敵の母艦はアラビア半島まで下がったのか?」

「戦力を立て直すためか、あるいは再編成して遊撃隊となる可能性があります」

 中東に下がったザンジバルはジオンの領域を斜めに横切り、前線の後ろに当たるアラビア半島に向かった。

最前線で叩かれる危険を避けただけかもしれないが、再編成するならばオデッサやキリマンジャロでも良いはずだ。

 

研究に固執する男が素直に撤退したのも、アプサラスが完成してない事が伺える。

アプサラスにしてもザンジバルにしても、接収されたくないから後方まで下がらないかった可能性が高い。そのまま中東エリアから出ず、せいぜいが請われて援軍を出すくらいだろう。

 

(放置しても良いが、問題はどの程度の完成度かという事だ)

 動かないから放置するとしても、完全放置は問題だ。

かといって証拠もないまま、ジャブローを落とすかもしれない兵器があるなどと口にしたら、そのまま精神病院行だろう。

 

アプサラスに必要なものは、まず高性能融合炉か複数の通常型。

ジオンはまだドムを配備していないか、黒い三連星ほか数チームぐらいか。

ということは現時点で、アプサラスⅢのために融合炉を揃えるのは難しいはず。

 

(メラニーが関与しているとしても、アラビア半島に展開させれば十分だ。ジャブローなどに行かれても困る。余計な資料は渡すまい……)

 融合炉の他にも必要なものがある。

ジャブローの岩盤を貫けるビーム兵器、そして移動用のミノフスキー・クラフト。

贅沢を言わないならば、マルチロック機能と拡散砲は必要ない。

 

(そして必要な物は、全てギニアスの目の前にある。やはりメラニーの仕業か)

 ザンジバルを追いかけているはずの雄型のガルダ。

そこにギニアスが求める全てがある。

 

だが彼の戦力では正面から戦うことは難しい。

撃沈するだけならまだしも、残骸から参考になるだけのパーツを奪う必要があるのだから猶更。

それこそこアラビア半島中を掛け回り、手を変え品を変え引きずり回す必要があるだろう。

 

……少なくともガルダが撃沈されるか、アラビア半島のジオンをザンジバルに乗せて移動するまでは安全と思われた。

奪うならばオデッサ戦の前後だが、こればかりは上層部の割り当てになる。

 

「この件は微妙な問題だ。作戦が終了し次第に中将閣下にお目に掛かる。決して口外するなよ」

「はっ!」

 調査を担当していた士官には、上層部同士の政争だと臭わせて黙らせた。

 

エルランの裏切りを再確認し、仲介役のジュダックを思い出しはした。

だが以前に言ったように、陰謀は未然に防いでも利益につながらないのだ。

 

●銀輪作戦

 潜水艦を追って右往左往しながら、作戦は最終段階に入った。

ガルダならば最速で直行すればハワイの防衛圏内に辿り着ける位置だ。

 

油断させる為にガウと同じ程度の速度に留めているが、信じるほど相手も迂闊でもあるまい。

既にスクランブルを掛けてドップが出撃できる態勢だろうし、ハワイが群島である以上は島ごとに、対空砲座もスタンバイしているはず。

 

「これより銀輪作戦を開始する! ネプチューンはポセイドンに名前を変えた」

「繰り返します!  ネプチューンはポセイドンに名前を変えた!」

 暗号文を発行し、ミノフスキー粒子を散布。

今頃はヒマラヤ級を旗艦とする船団がこちらに向かい、各空母からジェットコアブースターが飛び立つ準備をしている。

 

とはいえこちらは手持ちの護衛と搭載している部隊だけが精々。

普通に攻め立てたのでは、普通に戦っても苦労する群島要塞を攻略はできまい。

 

だがジオンの事情とハワイ基地の歪さがこの苦労を半減する。

後期に攻略された場所の一つであり、修復にあたる人員と資材が限られる。

そして労力の第一は、潜水艦隊の本拠地建設に割かれているということだ。

 

「銀輪部隊、出撃!」

 加えて攻撃隊に工夫があった。

ジャマイカンが特務を発進させることで状況は一変する。

 

銀輪という言葉は、かつての日本軍の装備から取っている。

難攻不落のシンガポール要塞を、旧日本軍は自転車を使って攻略した。

自転車で回り込み、要塞砲の死角を一気に突いたのである。

 

「こちらリチャード・ハイマン。スフィンクス、出ます」

「こちらエイガー・エイム。グリフォン、出ます」

 先行するジェットコアブースターに続いて、出たのは二機の大型機。

デプロッグとは明らかに違う、その雄姿は魔獣の名前に相応しい。

 

原作とは若干バランスが異なるものの、Gファイターが空を舞った。

 

「マ……。レイヤー大尉、投下しても構いませんか?」

「いつでも構わない。言い難いだろうからどちらでも構わないよ」

 親しく成れば名前を呼ぶものだが、難しい名前の人物もいる。

マスター・P・レイヤーという男のことだが、さすがに主人でもない男性をマスターとは呼べまい。

 

冗談のような会話が終わるころ、Gファイターからガンダムが投下される。

ただし防水やセンサー管理を徹底することで、本家に近くなった陸戦ガンダムではあるが。

しかしこの場合は十分だろう。

 

何せ、ガンダムは水など物ともせずに上陸できる。

そしてガンダムが砲台の一つへ向かった頃、支援するために手近な群島へ降り立つマシンがあった。

 

「グリフォン、セミ・トランスフォーム。砲撃態勢へ」

 二機あるGファイターのうち、エイガー機はガンダムを搭載してない。

原作と違う最大の部分……この試作型はガンタンクを搭載できるのだ。

 

宇宙で使う簡易機体はガンタンクⅡの予定だが、この試作用機はガンタンクを想定。

GファイターのSTOLと、ガンタンクの下半身に備えられたブースターがうなりを上げる。

四足獣めいた姿で着地し、180mmの凶悪なフォルムが群島に設置されたトーチカを睨んだ。

 

 グリフォンが降下した場所は、本来、戦車も軍艦も立ち寄れない小島。

上陸艇に積めるような砲門ではトーチカを叩けないが、180mmなら十分に到達する。

裏口に侵入した大型砲が、いまかいまかと号令を待ちわびていた。

 

「測量開始。いつでも行けます」

「イエスかノーか問い質せ! 降伏するならば南極条約に則ってやるとな!」

 リチャード機が上空から観測を行い、エイガー機にデータを送る。

砲戦が始まりトーチカの砲台を次々に叩くと、狙いにくい場所へはレイヤーのガンダムが裏手より上陸した。

 

こうして群島の一つを落とすと、また別の島へと移動。

D型からA型やB型へ換装したデプロッグが、死角の増えた群島上空を移動し始めた。

本島であるオアフ島へ向かう頃には、コリニー中将の本隊が到着しているだろう。

北京で編成中の攻略部隊がいつになるか分からないが、そのころには防空網に大きな穴が空いているに違いない。

 

「閣下。お喜びください。オデッサ戦に向けて朗報が入りました」

 コリニー中将を出迎えつつ、私はエルランの件を報告する。

 

さて、奴が動かさないことになっている配置上の穴を突くべきか。

それとも奴を脅して味方につけるべきか。実に悩ましい問題だった。




 という訳でハワイが攻略されました。

メラニーさんとギニアスくんの行動を予想しつつ、エルランの尻尾を掴みます。
まあ転生者ならエルラン・ジュダック組のことを覚えてるだろ? とか色々ありますが、都合よく覚えているとは思えない事と、覚えていても面白くないのでこうしています。
同時にメラニーさんの行動が確定しても面白くないので、微妙に判らないけど非常に怪しくしております。

●アプサラスの完成度とガルダ雄型
 V作戦が一カ月早まったことで、もろもろの予定が前倒し。
ギニアスくんはアプサラスⅡができているか怪しいところで、仕方なく後退。
現在はアラビア半島で再起を図りつつ、現地企業のガーベイ・エンタープライズが大変な目にあっている状況です。生き残ったらジオンに協力したからだろうと言われる予定。

 本文でも述べていますが、以下の三つが必要。
1:高性能融合炉か、融合炉複数。
2:長射程ビーム兵器の参考モデル
3:ミノフスキー・クラフトの参考モデル

これらが揃ったら完成すると思いますが……。
なんということでしょう、ライヤー大佐の乗っている雄型ガルダには揃っていますね。
手に入れて参考にするためには、アラビア半島を火の海にして四方八方から攻め立てる必要があるでしょう。
もちろんメラニーさんは別途で用意できますが、関与していたとしても絶対に渡しません。

●対エルラン
 設定としてレビルの参謀であり、部隊を預かる将軍。
微妙な矛盾が出るので、戦略予備軍の将軍であり、参謀としても行動できる……としておきます。

 彼が裏切ることは思い出しましたし、そうと分かれば怪しい行動を繋げて証拠もでっちあげられます。
しかしそれを取り締まっても、コリニー陣営には何の利益にもなりませんので悩み中。

●今回の装備

1:ドン・エスカルゴ
 最新式の対潜爆撃機。
ミノフスキー影響下でも使える高性能なセンサーと、爆雷を投下する機能がある。

2:デプロッグD型
 ドン・エスカルゴに使用された装備を使って、対潜性能を向上させたもの。
お高い装備であるが、対潜装備から通常装備へと換装できるので採用された。
ガルダの中で順次換装が行われ、ハワイ沖に到着したころにはA型やB型になっている。

3:試作型Gファイター(読者的にはGディフェンサー)
 ガンダムを搭載、あるいは合体して戦闘が可能。
宇宙用のGファイターにはガンタンクⅡの上半身だけ合体の予定だが、試作品なのでそのままガンタンクも搭載できる。
前部分はセンサーや測距装置、後部分は砲門やSTOL噴射機として機能する。

ガンタンクが合体する場合、下半身の戦車は本家Gファイターのキャタピラ部分を構成する。
この簡易変形を行うために、むしろGディフェンサーのような形状をしている。

リチャード機は普通にガンダムを搭載、エイガー機は砲撃戦のために半変形した。

4:ガンダム(陸戦ガンダム水密仕様)
 陸戦ガンダムを改修して、ちょっとだけ本家に近い物になった。
といっても水中に入っても水漏れしないとか、センサーが多少良い物になっている程度。

5:ヒマラヤ級空母『ネプチューン』 → 『ポセイドン』
 ガルダが先行して潜水艦隊を追いかけていましたが……。
ハワイに本拠地があったので、インドシナに向かっていたこの船がそのまま艦隊旗艦を務めました。
到着したころには砲台が減っているため、楽勝したので活躍はしていません。
一番の功績は、北京に居るハワイ攻略部隊の残り半分に連絡したこと。


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プロメテウスの火

●地球に窮地がやって来る

 ディスプレイにはユーラシア大陸の地図、赤と青の凸印。

赤い凸がアラビアやモスクワに後退すると、青い方もそれを追って移動する。

 

南はイラン・イラクで、北はロシア。

西側はイタリア半島の北側で、赤と青の凸が睨み合っていた。

 

「遅まきながら敵は兵力分散の愚に気が付いたようです」

「まだまだ広いな。オデッサ作戦が始まる前にはもう少し狭めるか」

 最終的にはオデッサからキリマンジャロまでのラインを守るだろう。

連邦の反攻が始まった以上は、兵力に劣るジオンに全てを守る余裕はないのだ。

 

敵将の頭が回るならば、敗北を予期して色々準備してる頃だろう。

 

「判らんな。連中はこんな所を落として何がしたかったのか」

「確かに採りつくされ、大した埋蔵量は見込めません。ですが、こんな話をご存じでしょうか?」

 オデッサ近郊はこの時代には掘る意義が見えない場所なのだ。

東欧は冷戦時代のベールが剥がれると、大した工業力がないことが判明している。

 

そのくらいならばオーストラリア、そしてアフリカ全てを狙う方がマシだろう。

ただし、それは連邦から見ての視点である。

 

「極東のとある紛争で古い鉱山周辺を攻略しました。鉱山からは技術の未熟な時代のカスから、大量の金が採れたそうですよ。もっとも近隣にある港町の方が重要だったそうですが」

「この場合は希少金属や希土類か。確かに鉄など宇宙にはいくらでも転がっておるからな」

 もう一枚地図を出したが、これは戦国時代の甲斐から駿河にかけての侵攻路だ。

 

地球の企業にとっては、今さら掘り返す価値がないからやらなかっただけで、ジオンには必須。

また冷戦当時の技術や機械では効率悪かった場所も、モビルスーツやソレを作れる技術があれば多少は他の鉱石も採れるだろう。

武田が集めた最新の精錬法で今川の金山を掘り返したのと似ている。駿河湾が希少金属に対応するだろう。

 

一周回って、何もないはずのオデッサは、重要な地域でありながら攻略し易い場所になったのである。

 

「同じように大国ロシアは港を欲しました。どこにでもあるような港であろうとも、凍らない港は必須でしたので」

 次に表示するのは帝政ロシアの地図で、執拗に港町を狙う姿を矢印で描いた。

甲斐は山国ゆえに港町は貴重なのだが、同じことが北国のロシアが不凍港を探した話にも通ずる。

 

「オデッサがジオンにとって生命線であることは判った。で、今後はどうなる?」

「既に連邦が有利……少なくとも勝ちつつあります。つまりここからは、戦後を見据えて動く必要があります」

 地図を消してコリニー中将ではなく、ジャマイカン達の方を向いた。

そこには参謀団も中級将校も居る。共通するのはコリニー閥に所属している者で、後ろ暗い話をしても問題ない者ばかりだ。

 

「詰め将棋を誤らない限りは、連邦の勝利は揺るがないでしょう。軍においては綱紀を引き締め、市民においては人気を集め、得られる全ての物を取りこぼさない必要があります」

「勝てばよいという訳ではないということか」

「……」

 勝てるならば、市民を巻き込むような戦闘は禁物。

まして山賊まがいの接収など、絶対にやってはならない。

 

「念の為に注意しておきます」

「こちらも監督は怠りません」

 上層部は大丈夫だと思っていても、下の者が勝手に酒場を貸し切って料金を払わないなど良くあることだ。

自分が管理する軍管区ならまだしもツケと言い訳が効くが、これから向かう東欧圏ではそうもいくまい。

下士官たちが増長して、その結果がコリニーの悪評に繋がっては問題だろう。

 

「他愛ない話は置いておいて、今後を見据える話の一環で、これをご覧ください」

「今度は独裁国の地図か? 歴史の授業でもあるまいに」

 冷戦後にあちこちの国で独裁国が誕生した。

一部は冷戦中から存在し、悪評が漏れただけではあるが……。

ソ連の頸木から逃れ、あるいは対抗させようと武器を供給した米国が関与を辞めた結果だとも言われている。

 

「米ソのような核保有国と違い、金のないこれらの国が力を欲した場合。開発していったものがあります。それを踏まえた上で、もう一度ジオン占領地域をご覧ください」

「……っ!? 貧者の核か!!」

 恐ろしいことに、BC兵器を開発したことのある地域は、ジオンの占領下だ。

現物は破棄していたとしても、資料が大量に残されている可能性がある。

 

南極条約違反?

そんな甘いことを信じている人間は此処にはいなかった。

 

「まさかとは思うが……。念のために対策はしておるのだろうな?」

「はい。先日、エージェントを数組中東に送り込みました。コードネームはシンです」

 シンとはメソポタミアの神の一柱で、月と暦を司るらしい。

農耕や牧畜に関わりが深く、生物化学兵器を直接意味しないが間接的なコードネームとしては悪くないのかもしれない。

 

「アフリカ方面軍に送り付けた、ウラヌス・システムの類似品であるラーのコードキーを与えてあります。情報が入り次第に演算するでしょう」

「ならばよい。今の段階ではあくまで可能性に過ぎないのだからな」

 ウラヌス・システムには演算コンピューターとしての一面もある。

アフリカ方面の気候にアジャストさせた、ラーと結びつけば、こちらで心配するよりも情報が得易いだろう。

 

もちろんジャブロー辺りで使う可能性もあるが、研究そのものはアフリカで行う可能性の方が高い。

 

「その件はいったん置いておこう。エルランの裏切りはどう処理する?」

「考慮の余地は二つです。泳がせておいてジオンの裏をかく。もう一つは脅しつけて強引に味方とします」

 エルラン少将は戦略予備軍の指揮官であるため、レビルに従って一軍を率いるだろう。

それが両翼なのか遊撃隊なのかは別にして、消極的に動かないという裏取引が最も可能性が高い。

 

何しろ連邦が有利なのは揺るがない。

寝返るはずはないし、手心を加えつつ、レビルの本隊に攻撃を集中させることで統帥権を揺さぶらせるくらいだろう。

 

「理想を言えば味方にはしたいな。奴が出世すれば二票分の確保は大きい」

「ですが裏切っている者が味方し続けてくれますでしょうか? 最悪、ジオンの方から暴露するかと」

「ハニートラップの類というものはな。最初から上層部に周知しておけば良いのだ」

 コリニーの要求に首を傾げる者が出たが、ジャミトフはつまらなさそうに切り捨てた。

最初から上層部に周知して、渡しても良い情報や行っても影響ない行動のみを採る。

 

いわばダブルスパイになると、上層部に告白・提案すれば良いのである。

現段階では遅いように見えるが、コリニーが以前から聞いていたと口添えすればよい。

 

「とはいえその場合の影響度は軍内政治に限られます。ここはオデッサ戦でも閣下が活躍して、レビル将軍の後を継がれた方が良いのでは?」

「それが建設的だろうな。エルランが動かないことを前提にしているならば、そこが穴になっているはずだ」

 コリニー軍がどこかの方面を任されて動けないとしても……。

快速部隊を幾つか手元に残すのは難しくない。

 

エルランが動かず、ジオンが手薄にしていると分かった段階で動けばよいのだ。

後は適当なところで手を打ち、エルランの裏切りを突き止めたことにすれば良い。

 

「エルラン少将次第なところもあります。様子を見てどちらが良いか判断されては?」

「優先順位を付けた上でなら様子見でも問題はないでしょう。オデッサを確実に落とすだけでも中将はまた一歩階段を登られます」

「それが十三階段ではないことを祈るのみだがな」

 オデッサ戦はもはや消化試合だ。

しかし、先ほどのBC兵器疑惑がある。気が付いたら巻き込まれて死ぬなど願い下げであろう。

 

「安心するためにはアフリカを攻略する必要があるでしょうな。宇宙と二者択一になりますが」

「宇宙はジオンの本拠地だ。BC兵器の可能性を上層部に提出して、ワシがアフリカに当たるとしよう」

 そんなことを言いながら、ジャミトフとコリニーは笑い合った。

 

この場のエルランやジオンの秘密兵器のことなど既に相談済みだ。

だから鉱山のような呑気な話をしたし、BC兵器かもしれないといった詳細を聞いて驚いて見せただけのことだ。

 

地上でアフリカとアメリカを制圧する功績と、宇宙でソロモンやア・バオア・クーを制圧する功績。

どちらも同じであれば、敵のホームグラウンドにある危険な罠を避けるべきだ。

ソーラー・システムのことを聞いていたので、ジオンにも同様の物があるかもしれないなどと想像するのは容易かった。

 

(やれやれ。何とか誘導できたか。アスタロスの件を思い出すのが遅れていたらと思うとゾっとする)

 忘れていたことや、そもそもあのゲームを前世でプレイしていない。

マスター・P・レイヤーを配下に収めた時は、オーストラリア出身だったかと思うくらいだ。ジュダックのことで安易な決めつけは問題と考え、色々関連付けて思い出さねばスルーしていた可能性は高い。

 

……原作ではオーストラリアに持ち込まれた兵器である。

既に平定してしまい、残るジオンの地はアフリカと北米。これに対処する手段を残すために、ジャミトフはコリニーを地上に誘導したのであった。

 

●大いなる炎

 そしてオデッサ戦が連邦の勝利で終了するだろう。

だが最初にして最大の花火がまだ残っている。

 

「こちらリチャード。スフィンクスは予定通りに上昇中。『ガイアの護り作戦』開始いたします」

 急上昇を掛けるGファイター。

いや、内部にモビルスーツを格納している以上はGアーマーと呼ぶべきだろう。

 

スフィンクス・グリフォンと呼称される試作機の内、この機体は格納形態の研究用だった。

もう一機が合体・変形の研究機であるのに対し、よりスムーズな分離と特務装備に充てられている。

 

「やれ。核など必要ない。我々の志こそがプロメテウスの火なのだ」

 我々が奮闘する意味は何だ? 世の為、人の為?

いいや違う。自らが持つ克己心、好奇心、あるいは自己満足のために戦っている!

 

「切り離してくれリチャード!」

「ガイアの護り、発動!」

 スフィンクスからガンダムが切り離される。

 

打ち上げロケットをシンプルに追えないならば、合体して追えばいい。

ジオンの放った水爆をGアーマーに搭載されたガンダムが追いかける。

緊急発進用の装備を付けたガンダムは、分離後即座に急加速を掛けた。

 

「我々一人一人は小さな火でも、合わされば大いなる炎になるであろう!」

「我々が持つ火、我々の心で燃える大いなる炎のために!」

 そしてガンダムは水爆を食い止めた。

専用装備で打ち上げられ、予め調べてあった場所を切り裂くのだ、原作のようなニュータイプは必要ない。

 

 

 こうしてオデッサ戦は終了した。

エルランの裏切りもその計画も看破し、快速部隊も編制してある。

これ以上語る必要もないだろう。

 

「あっさりと上層も信じたな」

「何パターンか考えて提出しましたが、こちらの予測通りでしたからな」

 かくしてジオンの卑劣な策謀に対処したコリニーは、改めて地球方面を任された。

 

「本当に存在しているかは分からんが、何、可能性だけでも発見できれば良いのだ」

「ですな。……これより目標施設を『バベルの塔』と呼称。存在すると仮定して調査・追跡を行います」

 地球を滅ぼす危険性を説明しておいて、対処したという事にする。

コリニーの楽観に内心で苦笑しながらも、ジャミトフは頷いておいた。




 という訳でオデッサ戦が終了しました。
戦っている様には見えませんが、まあ原作通りなので仕方ないところですね。
アムロが居ない分は、エルラン(とマ・クベ)をマークしておけば良いので。

●『プロメテウスの火』
 このストーリーではティターンズではなく、プロメテウスになるんじゃないでしょうか。
保守層の集まりではなく、むしろ革新的・野心的なエリート集団。表向きは地球を滅ぼそうとする危険に対処する集団です。
全ては、大いなる炎のために。

●シン
 今回編成されたエージェント集団です。
月と暦を司る神様がモデル。ガルダやネプチューンに搭載されたウラヌス・システムと同様で、アフリカ仕様の演算コンピューター『ラー』を使う権限があります。
端末である『メジェドの眼』を持っているのが特徴。

●今回のメカ
・Gファイター試作型
 二機ある大型試作機ですが、Gアーマー形態こそが真価です。
グリフィンは前回のようなセミ・トランスフォームやハーフ・トランスフォームなどの、複数の可変機構実験機。
スフィンクスは合体・分離をスムーズに行い、その都度、必要な装備を付ける実験機。

前者を元に簡易変形や、そもそも分離しない宇宙用のガンタンクⅡ・MAが作られる予定。
後者の方が計画の本命で、高性能な輸送機・支援機と、高性能な機体+特務パーツを増やしていく予定。


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嵐の前の静けさ

●深く静かに選考せよ

 功績には暗黙の漸減ルールというものが存在する。

地位や階級が高まるほどに昇進は鈍くなり、与えられた力はさっぴかれる。

 

目下の者が小さな力で頑張れば評価され易く、目上の者が巨大な力を振るっても評価され難い。

例えばインドシナを攻略したコジマ中佐は、スムーズに行動したことや、地形への苦労を考慮はされたが勝利に関してはそれほどでもない。

 

グフが精々の戦場に陸戦ガンダムを集団投入すれば、まあそんなところだろう。

加えてライヤー大佐が裏口から増援を持ち込んだこともあって、無事運用したことよりも地形適応の方を考慮されていた。

 

「少佐。我が世の春ではないか」

「いえ、これも全て大佐のお引き立てによるものです。むしろ大佐が昇進していないことに憤慨を覚えます」

 高級士官用の食事を自室でとりつつ、昇進の辞令と軍大学への推薦状をジャマイカンに手渡した。

銀輪作戦やオデッサ戦での活躍を評したものだが、逆に自分は勲章が増えただけだ。

 

下の者が報いられないよりは、よほど健全であろう。

ましてや自分は、あくまで装備を揃えて運用を整えただけなのだ。

 

「気にするな。私は十分に報いられておるとも。……それに、開発責任者がホイホイ昇進してはたまらんよ」

「コーウェン少将のことですか?」

 ジャミトフが既存の兵器をかき集め、改良していったように……。

モビルスーツを推進したのはジョン・コーウェン技術少将だった。

 

コーウェンの設定はあまり語られていなかったが、確かに技術少将だったという説があったのは確かだ。

それが正式な設定だったか、あるいはその後にガンダム開発計画に携わったから発生した噂なのかは、ジャミトフに転生した男はあまり詳しくないのだが。

しかし放置すればコジマ大隊を管理し、エルラン逮捕後はその戦力すら手に入れかねなかった。

 

「技術面で派閥構成して行こうとしておったからな。私が自ら責任者が自ら管理権を持つべきではない、戦力をすべきではないと言ったことで、奴の行動を掣肘出来たのだ。これに勝る報酬もあるまい」

「派閥の形成そのものを阻む大佐の手腕。まさしく慧眼ですなあ」

 それで自分の功績も帳消しにしては、台無しではないかと思うジャマイカンではあったが……。

それを口にしない分別は持ち合わせていた。代わりに互いの盃にワインを傾け、お茶を濁しておく。

 

このジャミトフという男は、そういう面がある。

情勢をコントロールすることは好むが、権力や財に興味がない。

自分が関わったことでなければ、プライドやメンツにもこだわりがない。

 

それでいて一度怒ると手が付けられない……ある種の職人のような男であった。

ただ彼が携わる分野というのが、情勢のコントロールだの、陰謀だのといった物騒な職人ではあったが。

 

「そんなことはどうでも良い。……奴は首を縦に振ったか?」

「はい。奴の部下やウォルター・カーティスを捕虜交換のリストに入れても良いと持ち掛けるや、途端に折れました」

 カーティス大佐はジオンのオーストラリア方面の司令官だった。

コリニーがオセアニア軍管区全体に対し、大陸の主力部隊を操る程度であったが、それでも有能な敵だ。

 

オーストラリアを平定した際に、部下の生命と引き換えに降伏した武人の鑑のような男である。

もっとも、そういう清廉な人物は変節しない変わりに、同じ様な条件で連鎖して折れるのも特徴。

やろうと思えば何度でも同じネタを使いまわせるのだから、ここは笑うしかなかった。

 

「本当に開放してもよろしいので?」

「交渉というものはな。口にしたことは守るものだ。……ザビ家が応じるかは別にして、な」

 カーティス大佐はザビ家の派閥ではない。

敵対してはいないが、距離をとっているフシがある。ジャミトフとしては開放しても構わないし、交渉を持ちかけた時に向こうが断っても良いのだ。

 

「参謀団の中に奴の軍籍を紛れ込ませておけ。適当な名前を……そうだなクワトロ・バジル……いや、クロトワ・バジーナとでもつけろ。行方不明になる前は金髪でサングラスがトレードマークだった」

「味付けとしてはそんなものでしょうか。承知しました」

 スパイスを四振り、そんな適当な名前をもじって偽名を付ける。

彼らのために働く男を適当に処理しながら、二人はワインで喉を潤した。ここからが本題であり、これからを左右する戦いなのだ。

 

「捕虜交換に先駆けて、ジオンを信用させるために一部の将校を開放する。クロトワ・バジーナもリストに放り込んでおけ。ジオンの情報を送ってもらわねばならん」

「承知しました。カーティスが本当に戻れば従うかは分かりませんが……。まあそれまでに何人か送り込んでおきましょう」

 声を潜めながら具体的な話に踏み込んでいく。

もちろん盗聴器がないのは確認済みだが、様式美というやつかもしれない。

 

「それで良い。奴らにとっても利益のある話だ。裏切るとは思えんが、保険というのは何重にも掛けておくものだ」

「……BC兵器。いえ、大量破壊兵器の報告であれば何でも送って欲しいものです」

 彼らが話し合っていたのは、ある可能性の高いとされる生物化学兵器だ。

ジャミトフは心当たりがあったものの、問題なのは詳しくないことだ。

 

アメリカなのか、アフリカなのか、あるいはまだ本国から送られていないのか。

どこにあるか不明のアスタロスの貯蔵施設……先だって名付けたコード『バベルの塔』を探し出すために、捕虜交換でエージェントを送り込むつもりなのである。

 

それは連邦の為であり、巡り巡ってジオンの為でもある。

そのために妥協して、ジオンの一部と取引するつもりなのだ。

だがその為の捕虜交換が、思わぬ事態を引き越した。

 

●次の作戦のために

 コリニー中将は昇進こそしなかったが、オーストラリアに加えてオデッサの活躍で一歩前に出る。

しかも地上方面のジオン担当になった彼の旗下へ、勝ち馬に乗ろうと、大量の転属願いが出されていた。

 

これを処理していたジャミトフだが、思わぬ闖入者に見舞われたのだ。

普通ならば門前払いできるところだが、人事考察のために面会をしていた相手の一人ともあって、摘まみ出すのに失敗した。

 

「どういうこと……。いえ、どういうことですか。ジオンの連中を開放してやると聞きました!」

「無駄飯食いを開放するだけだ。それでこちらの兵士が帰って来るならば安いものだな。少佐」

 怒鳴りこんできた少佐は、もちろんジャマイカンではない。

面会予定だった転属希望者の一人だ。

 

勇猛果敢で戦術の天才と呼ばれた男。

戦争開始後に捕虜になったが、拷問を受けても変節しなかった男とされる。

有能でコネクションも持っており、断るに断り切れなかったのだ。

 

「第一、貴官も捕虜交換で戻ってきた口ではないかね。今回の件に口出すのは、色々な意味で筋違いだと思うがね」

「私の時とは違います。あの時は南極条約の関連でもありました。……あの卑劣漢どもを開放する必要はありませんぞ!」

 必要だからやっているという意味では、同じであった。

別に人道的な問題ではないのだ。そこに感情の挟む余地などない。

 

それでもジャミトフが話を聞いていたのは、紹介した将官のメンツを立てる必要があったこと。

そしてこの少佐が何か面白い事か、画期的なアイデアを口にするかどうかを待っていたのだ。

 

しかし残念なことに、彼は何時まで経ってもそうしなかった。

激情のままに場を制するわけでもなく、巧みにオブラートに包み本心を隠すでもなかった。

 

「大佐ほどの聡明な方ならばお判りになるはずです。奴らを開放するなど百害あって一利も無いのだと。さらなる上を目指すために捕虜の戦力を期待しておるならば、不詳……」

「そういうものに興味はない」

 自らを褒め称え、場合によっては忠誠を誓っても良い。

そう言おうとする男を、ジャミトフは切って捨てた。

 

そして何も期待しない目で無意味な言葉を吐いた。

その言葉に意味はなく、ただ滅多に見せないジャミトフの感情の顕れでしかなかった。

だがそれこそが、彼の怒りの兆候なのだとジャマイカン達は首をすくめる。

 

「私はな。称賛され、恐れられるのが何より好きだ。だが本心を言えば、困難な状況を解決できれば何でも良いのだよ。ジャミトフならば、ジャミトフめ。あれはジャミトフの罠に違いない。実に心地よい」

「大佐……?」

 権力や金の亡者という噂に反して、ジャミトフはそういうモノに興味がさっぱりない。

もちろん解決手段を増やすために、権力や金は何よりの万能キーだとは思っている。

便利だから集めるし、だからこそ固執して見えるだけなのだ。

 

魔法のような手腕を発揮し、感心されることを望んでいた。

死に際のセリフは、自分こそがジャミトフ・ハイマンなのだと高らかに笑って死ぬつもりですらあった。

 

「ハッキリいって、私は手段と目的が入れ替わっておるタイプの人間なのだが……。だからこそ、私は同類が嫌いではない」

「大佐……?」

 突然何を言い出すのかと少佐は首を傾げる。

激高するタイプの人間である少佐は、静かに激怒するタイプが理解できないのかもしれない。

いや、普通ならば思っていても隠すようなことを、静かに語る人物が居るとは思わなかったのだろう。

 

「正直、君がいつ本心を曝け出すのか待っていた。ジオンを殺したいと天下に叫ぶか、あるいはそれすら隠しきり、奴らを絶望の淵に立たせるまで忍耐を見せるのか……とな」

 もしそうなら、まあ協力し合えるだろう。

そう思って待っていたのだ。

 

もし殺戮したいならば、危険な主戦場へ送ればいい。

もし覆い隠せるならば、最終目的のために心の刃を隠させればいい。

 

だが、これはダメだ。

直ぐに馬脚を現し、ジャミトフの足を引っ張るだろう。

強引な作戦で汚点を残し、ジャミトフのやりたいことを結果的に邪魔するに違いない。

 

「わ、わた。私は……。俺は……」

「貴官には失望したよ、バスク少佐。衛兵、連れて行きたまえ。この男は必要ない」

「は……はい」

 我々の、大いなる炎。

心に燃える志、あるいは欲望のために働く人間。

そういった者をジャミトフは欲していたし、中途半端なバスクを好まなかったという訳だ。

 

静まり切った部屋で話を変える為か、ジャミトフは思い出したように兵器の話をすることにした。

予定の一つではあるし、今回の人事考察で良い士官が手に入れば、その部隊を任せる気でもあったのだ。

 

「コルベット・ブースターは定数を揃えたか?」

「はい。予備込みで定数は確実に使用できます。……しかし推力が足りないとの報告ですが……」

 開発中のSFSに先駆けて、企業が送ってきたのがコルベット・ブースターだ。

試作品というか、搭乗する代わりに装備の一部を背中に着ける。

あるいは、少し上から吊るすという形で飛行させる予定だった。

 

しかしながら、作戦が早まり技術の進歩が追い付いていない。

SFSが完成していないのもその辺が理由なのだが、コルベット・ブースターは早まった予定のせいでワリを食った形だろう。

 

「飛ぼうと思うから推力が足らんのだ」

 次の作戦のために人材を揃える。

そして次の作戦のために装備を整える。

 

ジャミトフにとって両者は同じモノであった。




 という訳でバスクの出番は終わりました。
彼は戦後に中佐になるはずですが、ここで消えるかもしれません。
最新式の義眼と精神安定剤や別荘をもらって、マッタリしてることでしょう。

●功績
 陸戦ガンダム揃えて大勝利することと、砲兵で有利に戦う事と、旧来依存の兵器で頑張る事。
基本的に同レベルで、優遇されている分だけ、功績のカウントは下がります。
まあ優遇されているってことは、期待されているので昇進も予約済みなのですが。

半面、下の者はサクサクと昇進できます。

●コーウェン中将
 何かで読んだ、技術少将だった・レビル戦死後に立て直した功績があった。という説を採ります。
ジャミトフはそれに先んじて、数話前の『向かない人間』をパージしていました。
コーウェンが出世できなくなれば事件が一つ起きなくなるから、自分が少し出世しなくても良いよね。という感じですね。
まあどのみち准将への昇進や、戦後に少将への昇進も予約済なのですが。
(コーウェンも中将に成れますが、派閥形成や自分が手動でガンダム開発とかできなくなります)

●クロトワ・バジーナ参謀。
 偽名。金髪でサングラスらしいですが、行方不明になりました。
参謀団に席があるので、色々と便宜を図ってもらえます(行方不明扱いで潜入工作と周囲が判断するわけです)

●コルベット・ブースター
 原作よりもV作戦が1カ月早く、オデッサ戦までに作戦機関がさらに減っています。
合計で40-50日くらい早くなってるので、悲しいことに読者目線では未完成品です。
背中に着ける装備、あるいは吊り下げる装備で格好良いバックパックという感じ。


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天空より来るモノ

●人道的救助の名のもとに

 秋になって史実と大きく違う流れが生み出される。

この時点でオデッサが陥落しているので、今更というべきかもしれないが。

 

まず捕虜交換を行う訳だが、その相手はジオン政府ではない。

ここで迂闊に停戦してしまうと色々と面倒なことが起きるので、ジオンの地上軍司令部が建前上の相手に成る。

何か起きても問題を起こしたのは地上司令部であり、ジオン公国総帥府ではないという建前だ。

 

「気分はどうかね?」

「お陰様で快適ですよ。しかし捕虜交換はまだ先と聞いていますが?」

 捕虜交換に先立って、クロトワ・バジーナという名前を与えた男に面会しておく。

彼の出番はもう少し先のはずだったのだが、出番が増えてしまった以上は仕方がない。

 

とある艦が行方不明になってしまったので、色々あって彼を使うことにしたのだ。

 

「我が軍の艦が交戦中に座礁してしまってね。ジオンの方もそうらしいので、人道問題という理由で一時的に停戦した区域があるのだよ」

「……騙されているかもしれないから、俺に行けと? それとも油断させて諸共に?」

 当然違うので首を横に振っておく。

そうする必要がある場合でも、別にこの男を使う必要はない。

適当なジオン兵を使えばよいだけの話だし、今の情勢ではそこまで外道な方法を採る必要自体が全くなかった。

 

「その艦を妙な連中が気にしておってな。面倒なことにならぬ間に生存者を引き上げてしまいたい。艦の処分はそれからでも遅くはあるまいよ」

「……ザビ家の特務部隊? あるいは連邦側の急進派ということか」

 何とも言えないのでここは否定しない。という態度を取っておく。

まさか第三勢力などとは言えないし、そうでない可能性もあるので予測を外したら恥ずかしいので黙っておく。

 

「しかしそちらにもパイプの太いエージェントは居るでしょう。あえて交渉に乗ったばかりの俺を使わなくとも」

「実はアフリカとアメリカ……両方で消息を絶ちおってな」

 状況を困難にしたのは、二隻の船が行方不明になったことだ。

どちらも機密性が高く、かつ、取り巻く環境が頭おかしい。

 

これを放置しておく手はないし、この機に色々と工作しておくのも悪くはない。

同時にこの男を使用して、我々に裏はないのだと演技しておくのも悪くはなかった。それで帰還後に協力的になってくれれば、ありがたい限りだろう。

 

「何隻も同時に行方不明に成るとは。連邦はどうかしてるのではないですか?」

「耳が痛いな。しかし今回は素直にジオンの将兵を褒めようではないか。赤い彗星は大気圏突入時に仕掛けたそうだよ? もう片方も似たようなものだ」

 できるだけ放置してきたが、ついにその時がやって来た。

ホワイトベース隊がアメリカに不時着してしまったのだ。

 

史実と違うのは、連邦軍の強化に伴ってホワイトベースの援護が若干厚かったことだ。

ホワイトベースはジャブロー行きに失敗したが、シャアのコムサイも行方不明になったらしい。

 

「オデッサ戦に先駆けて北米とアフリカを牽制するために空母を出しておったが、条件の一つとして下げたら返事は良好でな。好きな方に向かうと良い」

 民間人が乗っているという事で、人命救助を理由に呼びかけたらガルマはこれに乗ってきた。

包囲網が外れたからか、シャアも行方不明だからか、あるいは単純に人の良いお坊ちゃんだからかは分からない。どの理由なのかは分からないが、今のところ順調だといえるだろう。

 

それはそれとして、史実より一カ月半ほどスケジュールが早まってしまったので、彼らのエースキラーぶりは実行されなかった。

だが史実に介入するのであれば、ホワイトベース隊のクルーが連邦に不満を持っているこの時期が一番良いだろう。第一、失敗しても何も痛くはない。

 

「捕虜である俺に否応はないですがね……。念のためにアフリカの方を聞いても?」

「中東で謎の大型マシンと接触事故を起こしてな。ライヤー大佐は戦死、直衛のモビルスーツ隊が巻き込まれておる。……だが問題は現地で暴れておる特務部隊の方だな」

 なんというか厄介さではこちらの方だった。

スケジュールが前倒しになっているのに、アプサラスⅡらしき飛行物体が目撃された。

ジオン脅威のメカニズム過ぎるが、問題なのはそこではない。

 

雄型のガルダを巻き込み、史実に近い形で行方不明になったのが大問題だ。

仮にギニアスに回収されたらアプサラスⅢが製造されかねない。それと同時に……万が一、交渉できた場合の有益さはホワイトベース隊よりも上だろう。

 

「マンハントを行っている馬鹿どもがおる。仮にこちらに向かう場合は、連邦の制服を着ておろうと、ジオンの制服を着ておろうと始末して構わんよ。ガルマ大佐も承知しておる」

「なんとも言い難いですな。……ただ念のために確認させてください」

 ため息交じりに苦笑しつつ、裏に居るであろうメラニーの顔を思い出す。

まったく面倒なことをやってくれるものだ。

 

本来であれば、どちらかに専念して確実に行きたかったのだ。

それをこんな綱渡りをする羽目になるとは思わなかった。

 

「優先度は?」

「当然の質問だな。人命が第一。機密保持が第二だが……場合によっては少し待つのは構うまい」

 おや? という表情を男がする。

機密保持が第一で、できれば救助。大多数が残れば、数人くらい構わないとジャミトフが口にすると思ったのだろう。

 

「その条件とは?」

「戦艦の機密など幾らでも更新できる。無理に守ることはない……と言っても信用せんだろうな。BC化学兵器が見つかった場合……いや稼働状態にある場合に標的として欲しい」

 史実のジャミトフはあれはあれで、人命を優先している。

もっともこの場合は、アプサラスの能力欲しさだ。

 

万が一にでもアスタロスが散布されてしまった場合、初期であっても焼き払うのはアプサラスでなければ無理だろう。

また、この男以外にも数人送り込むので、交渉中にデータをこちらも得るから、時間稼ぎをして欲しいというのもあるが。

 

「万が一に備えて演算コンピューターを使うコードを渡しておこう。『パスタにスパイスを追加。ミントでもタイムでもサフランでもなく、バジルを四回』だ」

「この名前の由来ですか。……判りました。この荒野の迅雷にお任せください」

 こうしてクロトワ・バジーナ参謀こと、ヴィッシュ・ドナヒューを送り出した。

残った片方に信用できるエージェントを用い、できるだけ多くの成果が得られることを祈っておく。

 

そして一連の流れをメラニーやザビ家に悟られないために、アフリカ戦での戦いの準備を始めたのである。

 

●降下作戦

 砂漠地帯をガルダが飛ぶ。

高高度(こうこうど)から侵入し、ジオンに奪われている基地の奪回に向かっていた。

 

「本来であれば、アメリカ攻略に使いたかったのだがな」

「仕方ありません。こちらで色々と問題が出てしまいましたし」

 軍大学に関する問題でジャマイカンが一時的に椅子を開け、ふと思いつきでレイヤーをクロトワの援護に回しておいた。

だからという訳ではないが、今回の作戦には今まで連れてきていない将校を参加させている。

 

危険な任務になるが、転属要請を出した者の中で有能そうな連中の一部を使うことにしたのだ。

 

「入れ替えたラーの調子はどうだ?」

「問題ありません。シンが送っている諜報データの中から、あの基地周辺に関わるデータをリンクさせています」

 演算コンピューターであるウラヌス・システムは、当然ながら環境の変化で調整が必要だ。

アフリカの環境に適応しているのが『ラー』で、生物兵器を追って潜入した情報部『シン』からのデータ提供も得ている。

 

「間もなく作戦開始ですが……。申し訳ありません、お見苦しいところをお見せしてしまい」

「構わんよ。正であれ邪であれ、私は我の強い漢は好きだ。奴に文句を付けたかったら、貴官が有能さを示せばよい」

 話題にあがったのは、今から出撃する部隊の中にラフ過ぎる格好のパイロットが居ることだ。

ジャミトフは笑ってこれを許し、あらためてその男に向き直る。

 

「服装規定や上官侮辱罪には目を瞑ってやる。公式では許さんがな」

「話が分かるじゃねえか大将。オレが戦績を上げる限り……なんだろうがよ」

 それこそ説明する意味のないことだ。

その男とジャミトフは獰猛な笑顔で笑いあった。

 

そして作戦時間。戦闘の開始だ。

 

「よろしい。ウッダー中尉。Mars作戦を開始せよ」

「はっ! 第一小隊、出撃!! GoGoGo! 空を駆けろ」

 降下装備である試作型コルベット・ブースターを取り付けたジムが降下する。

背中にブースターと折りたたんだ安定翼。そして足に三角形の装甲板。

 

「続けて第二小隊、出撃! GoGoGo!! 休む間などないぞ!」

 こちらも背中は似たような物だが、足の装甲板が若干違う。

第一小隊が大きくまさしく装甲版であったのに対し、こちらは細く短く、念のためについているといった風情だ。

先行した小隊が一気に降りるが、こちらはブースターを早くも吹かせて時間を空けた。

 

「予定通りだな。ギンゼー中尉。煙幕を放て」

「はっ! 煙幕弾、発射!」

 ジムを追い越して煙幕弾が地上に撃ち込まれた。

交差するように対空射撃が始まる。

 

最初は散発的だったが、次第に統制されていくのだが……。

周囲を覆う大量の煙幕が、これを難しくしていた。

 

『これほどの煙幕を? やつらも視認できないだろうに!?』

『構わん。とにかく撃て!』

 第一小隊が居た辺りに、あてずっぽうでひたすら撃ちまくる。

降下する相手は身動きが難しいので、それでも当たるときは当たるからだ。

 

ジャブロー降下作戦が難しいのは、多数の対空砲があるから。

素早く降下しようにも、無数の砲塔のどれかが、いつかモビルスーツを砕く。

 

「ふん。ルナチタニウム交じりの混合板だ。まぐれあたりではな」

 しかし当て易い対空機銃では装甲板を貫くのは難しい。

メガ粒子砲もなくはないが、それほどの数は配備されていなかった。

 

いや、あったとしても倒すのは難しかっただろう。

 

「くくっく。誰が馬鹿正直に降りるかよ! さあ、目を覚ませ! どっちが正義の使者か勝負しようぜ!」

 時間を空けた第二小隊は、ブースターをふかしてコース取りを変えていた。

そして砂地に着地する前に、足に取り付けた小型ブースターで軌道を変えていく。

こちらは装甲板が薄い変わりに、空中での軌道変更、そして砂地での滑走を目指したモデルである。

 

「ここまでは予定通りですな。……最後まで見ていかれないのですか?」

「ジオンの連中は自らが最新兵器を使ったためか、古い技術を軽視し過ぎだな。もう決着したも同然だろう」

 煙幕弾は広く撃ち込まれ、基地全体を覆っていた。

これでは連邦側も不自由するが、基地の地形情報など事前調査で判るものだ。

ましてや連邦基地、ジオンが修正した部分だけ重点的に確認すればよいのである。

 

そして何より……。

降下作戦はただの囮である。

 

78式重戦車タイタンを始めとする無数の車両が、包囲網を狭めて基地を射程に収めつつあった。

煙幕の中に撃ち込まれる長距離砲撃も、当然ながらモビルスーツには知らされている。

その場所は敵の防備が硬いところであり、そこには絶対に踏み込むなと予め伝達されてあった。

 

「タイタンからの砲撃来ます! これで我々の勝利は……。ゲーブル中尉?」

「ちっ! 敵の司令官が逃げ出しやがった。腰抜けめ!」

 あろうことか、敵司令官は早い段階で逃げ出した。

有線通信でもあったのだろが、長距離砲撃がこれに味方した。

 

追うべき部隊を砲弾が次々と襲うのだ。

だが、これをショートカットする無謀な男が居る。

 

「待てゲーブル中尉。待たんかヤザン! くそ、ミノフスキーのせいで通じん! 勝手に死ね!」

「はーはっはー! リンク射撃のタイミングさえ判れば、こっちのもんよ!」

 撃ち込まれる射撃は煙幕の中でも正確だ。

それはあらかじめ、距離とタイミングを調整して、有線リンクで砲撃を掛けているため。

 

ヤザンと呼ばれた男は小隊長であり、それらの情報も得ていたのである。

万が一にでも建物にぶつかって足を止めれば、味方の砲撃で死にかねない。

その中を笑いながら飛びぬけたのである。

 

問題はコルベット・ブースターが未完成という事だ。追い続けるには飛距離が足りない。

だからこそ限定しているのであり、降りるだけなら自在に降下できる。

だが、普通に飛ぶことは難しく、母艦に戻る計画も中止されたほどだ。

 

しかし、ここに例外が存在する。

コルベット・ブースターだけでダメなら、似たようなモノがもう一つあればいい!

 

「なんだ? Gファイター?」

「ゲーブル中尉! こちらスフィンクス、ハイマンです。上に搭乗してください」

 Gアーマー形態のGファイターがやって来た。

いつもは陸戦ガンダムを下ろしているのだが、今回はレイヤーが居ないので、こういった事態に備えて待機していたのだ。

 

かくしてGファイターの上にジムが乗る。

降下装備だけでは推力が足らず、Gファイターだけでも搭乗させるには推力が足りない。

だが二機の推力を合わせれば、飛び続けるには問題がないだろう。

 

そして敵司令官に追いつき、降伏させたのである。

 

 




 という訳で、行方不明の戦艦話をお届けします。
本当は土・日だったのですが、登録数・評価者数記念にUP。
(その代わりに話が進んでませんが)

V作戦が1カ月、その後の動きも併せて40-50日早くなっているので、ホワイトベースが今頃来ます。
できるだけ宇宙には手を出さないでいたのですが、コアブースターなどの配備もあって、シャアも行方不明になりました。
同じ日でこそありませんが、アプサラスⅡとガルダも行方不明に。

史実をやや変えて同時発生したために、覚悟していたジャミトフさんも大慌てです。
そこで前回の話題に出てきた、クロトワ・バジーナこと、荒野の迅雷ヴィッシュ・ドナヒューさんが向かう事に成りました。
彼ならシローとアイナがイチャイチャしていても、大目に見てくれるんじゃないでしょうかね?

とりあえずガルダのデータをギニアスに持っていかれると困るのですが、ホワイトベース問題もあって大きく出られない状態です。
ここは紳士協定で多少なら大目に見つつ、『メラニーよりもうちの方が話無しが判るよ? アスタロス相手には共闘しよう?』と持ち掛けて、好印象を与える作戦に出ています。
……まあ地球連邦はともかく、ジャミトフさんからみるとジャブロー吹っ飛んでも構わないというのもありますが(むしろ困った政府に、お願いされたいので)。

●ティターンズ・メンバー大集合
 ヤザンと愉快な仲間たちが合流しました。
とはいえお試し期間なので、お互いに何かあれば出ていくかもしれません。
ちなみにティターンズならぬプロメテウスでは、こまけーこたあ良いんだよ。状態なので、同ランクでは注意できないシステムです。
その代わり命令系統は重要なので、仮にベン・ウッダーさんが上司になったらヤザンもキッチリするはず。

●今回の装備
・装甲コルベット(試作型コルベット・ブースター)
 背中に垂直・足に横向きのブースターがあり、安定翼で架空フォロー。
ナイトシーカーとの中間みたいな感じですね。
フライングアーマーみたいな装甲で防ぐタイプと、小さなスキーみたいなので横移動を重視したタイプがあります。
ブースターと足のブースターも装甲版も追加装備なので、必要になったら爆薬で外します。
やはりお高い装備なのですが、新規にジム作るよりも安価なので問題なく発注されています。

・Gファイター + コルベットなジム
 上に搭乗は難しいのですが、自分で飛ぼうとしている機体ならば問題なし。
別にGファイターだけで飛んでいく方が、早く追いつけるんじゃないの?
という気もしますが、ここが空中ドッキング! のロマンがあったので実行しました。あとは降伏させるときの説得力の問題ですね。

・演算システム『ラー』
 アフリカの諸条件にアジャストしたウラヌス・システム。
演算コンピューターなので、色々と計算してくれる。
基本的にはMAPや風速に合わせて、弾道・降下位置の調整など。

・ウラヌeyes(メジェドの眼)
 演算システムとリンクしたモビルスーツ一般の事。
発光サインや音紋を使用して通信を受け取ることが可能。
Gファイターのような大型マシン以外は、バイザーヘルムのような補助が必要。
このため、パッと見にはジムスナイパーやナイトシーカーのように見えないこともない。


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懸案事項の処理

●軍にて朝三暮四は、同じでは非ざる

 状況が進行し、地上ではキリマンジャロが陥落。

宇宙でもソロモンが陥落したが、かなりボロボロらしい。

 

「こちらに比べて宇宙は大変なようだな」

「仕方ありますまい。兵力差で有利でも地形を無視してはどうもなりません」

 なんというか、宇宙はゲリラ戦も奇襲もやり易い場所である。

戦争で暗礁区域が広がっているなどザラだ。宙図では何もない場所に障害物がある場所も数多く存在した。それなのに移動は地上よりもやり易く、射程で勝っていても油断できないことが多い。

 

そう、すべては移動力と射程のなせる(わざ)と言っても良い。

シミュレーション・ゲームをやったことのある人間であれば、この二つがあれば多少の性能や数を覆せるのを知っているだろう。

宇宙ではジオンがそれを活かし、連邦が有効に使えなかった。

 

ましてジオンには、それを最大限に生かせる人材が揃っているのだ。

戦力こそ原作よりも有利だが、ジオンのパトロール艦隊や機動艦隊は減っていない。

地上で有利だからと戦線を進めては、不利になって当然と言えた。

 

「まあそれも仕方ないでしょう。チェンバロ作戦の本質はジオンの圧迫にあります」

「すべては予定通りという訳か」

 コリニー中将と共に悪い笑顔を浮かべて笑い合う。

一連の流れはある程度、織り込み済みだったのだ。

 

多少の危険は覚悟してジオンの重要基地攻略を行うことで、相手の行動を守勢に回らせ、二度と攻勢は起こさせない。

その為に戦力は振り分けていたし、地上も宇宙もそれぞれに切り札を用意していたはずなのだ。

 

「まさかテイアンム中将も、ジオンの宿将が命がけで特攻して来るとは思いもよらなかったでしょう。そこは私も読み違えました」

「我々に良い方向の流れだ。この程度のミスは笑っておけ」

 原作と同じ流れになってしまったのは、やはり人材の差だろう。

何が大きいかって、気を配り、任せることのできる大駒が揃ったままなのだ。

人材の差を埋めるはずの切り札であるソーラ・システムが発見されて、犠牲と引き換えに対処されたのが原因だとか。

 

考えてみれば、アムロとホワイトベースはこの間、ようやくマチルダ隊と合流したばかり。

ゲリラ屋のランバ・ラルや艦隊司令のコンスコンなど、ジオンの将兵が減ってないのだから、まあ見つけられ対処されて当然と言えば当然だ。

 

とはいえこちらもホワイトベース隊に関して芳しくはない。

助言によって手を回しミデア以外にも追加した物資と戦力は感謝されたものの、残念ながらエージェントはコネを結べなかったとか。残念でならない。

 

「ともあれ……これで一人脱落か。こちらの戦線では被害が少なかったようだし、また一歩近づいたな」

「はい。手間暇かけた甲斐があったというものです」

 前回、作戦の前に基地を一つ落とした。

ワザワザ降下作戦などしたのは、あの基地がキリマンジャロの防衛に重要な役目を持つ場所だったからだ。

 

戦国時代の城攻めで、『支城』と『付け城』というものがある。

どちらも兵力を配する中間拠点ではあるが、支城は防御用に守り難い場所へ配置し、逆に付け城は攻めるための場所だといえるだろう。

連邦は相手の妨害を受け難くなり、ジオンは妨害され易い状態でキリマンジャロ戦を始めることができた。

 

加えて降下作戦を知ったことで、対空砲台を重要な場所に集めてしまったのも失策だ。

そんなことをすれば確かに降下などできないが、砲台が減ったならば、正面から攻め潰せばよいのである。

 

「では、改めて懸案事項を処理しておくとしよう。悪い問題と良い問題の双方をな」

 コリニー中将が私室に向かったところで、面倒なことを片付けておく。

 

あの基地でヤザンが引き起こした、突出問題だ。

これが実に面倒なことに、大きな罰則があると同時に、大きな功績もあったのである。

 

「まさか……」

「ほぉ……」

 驚いたのは入学手続きや面接を済ませたジャマイカンで、笑って見守るのはヤザンだ。

ハッキリいって面倒くさい問題なので、ジャマイカンとしてはお茶を濁して後日決済のつもりだったのだろう。

 

逆にヤザンにとっては自分が起こした問題が放置されるか、それとも罰せられるか気になっていたのだろう。

厳罰化されたら苦しい立場になるのは自分であろうに、他人事のように興味津々である。

 

「ヤザン。多少のことなら面倒を見てやるつもりだったが、初っ端からやってくれおったな」

 命令不服従など一つ一つは叱責とか、考課にマイナス評定を付ける程度で済ませても良かった。

問題なのはその程度では済まないこと。逆に大事になっていないのだから、適当に済ませておけないかという意見が寄せられていることだ。

 

敵司令官を降伏させて重要な資料を手に入れたことで、コリニー中将やジャマイカンは温情を掛けるべしと提案している。

本来であれば勲章ものだし、原作でもヤザンというキャラは好きだから、気持ちは判らなくはない。しかしナアナアにはできない理由と、ここで苦心してでも処理しておく理由があった。

 

「ミノフスキー粒子散布下で連絡できなかったことは大目に見よう。だが……」

 普通ならば命令不服従が最も重い問題だ。

しかし、その程度では問題ではないのだと先に言っておく。

 

「部下が連動してしまう可能性、長距離砲撃が中断されてしまう可能性。……結果として全軍が危険に晒されるのは看過できまい。下手をすると味方ごと敵を撃てという馬鹿も出てくるしな」

 問題を軽々に処理できない理由の大半がこれだ。

正直な話、可能性論の人命など別に構わない。参謀教育というのは人間を数値として管理し、動揺しないことが第一歩と言って良い。

 

この機に、バスクが原作でやった問題を挙げておく。

それこそがやりたかった事だ。精鋭部隊を作るためにアクの強い人材を集め、細かい事を無視しても良いとは思う。

だが、後の敗北につながるような大問題は、今のうちに排除すべきだろう。

 

「お前たちも覚えておけ。確かに功績を上げれば称賛もするし、多少ならば問題を庇いはしよう。だが味方を撃って得られる功績や、ジオンの様に味方である宇宙市民まで巻き込んでの勝利など許されまい」

 ここでも人命ではなく、行動の方を問題視しておく。

功績のプラスとマイナスを相殺して、問題を起こしても評価は別だと告げておくのだ。

 

「……それで? 大佐殿はどうなさるんですかね?」

「免責を望む声も大きい。特に……お前が確保した中に、我々の求める『バベルの塔』の資料があったからな。喜べ、お前は地球を救ったぞ。両方を今から勘案するとしよう」

「まさか……それほどの……」

 ふてぶてしいまでのヤザンだが、むしろジャマイカン達の方が驚いている。

確保した資料は、あくまで『緑化を想定して砂漠で実験がしたい』という程度の物だ。

 

それそのものはおかしくないが、今が戦争中というのが奇妙だ。

もしアスタロスの件を輪郭だけでも思い出していなかったら、今後追う事も難しかったろう。その意味で、ヤザンは確かに地球を救ったのだ。

 

「ヤザン・ゲーブルを二階級降格。その後、二階級特進させる。良かったな、お前は新米中尉殿だ」

 理由の残り半分は、コレがしたかった。

階級を上げて落とす、あるいは下げて即座に上げる。

 

戦記物で偶に出てくる解決策の一つだが、異世界モノで知ってから一度は使ってみたかった。

大問題に対する『冴えたやり方』の一つであり、どの程度、上げて落とすかが判断の分かれ目なのだ。

 

「けっ。士官学校出のボンボンと同じ身分かよ」

「「おお……」」

 朝三暮四という言葉があるが、軍の階級においてはそれは当てはまらない。

どちらを先にするかで席次などが大きく変わる。ベン・ウッダーはヤザンよりも席次が上だったが、仮に逆にしていたらヤザンが上になっていただろう。

 

また考課の上でもこれは大きい。奴の経歴に大きな傷がつくのは当然だし、それ以外にもいろいろ関わる。

ゲームで言えば経験値の必要な度合いが、大尉の直ぐ下か、少尉の直ぐ上かで変化するといった風情だ。この場合は経験値ではなく、功績の勘案に成る。

 

そして……下士官と士官の差は、尉官と佐官の差よりも歴然としている。

同じ二階級降格でもありえないほどの大問題であり、二階級特進としてもありえないほどの称賛と言えた。

これをモデルケースにするのであれば、味方ごと敵を撃ち、コロニー落としやGガスで勝とうという馬鹿は出ないだろう。

 

「参考までに聞きたいんですがね。……模範解答を教えてくださいますかね?」

「き、貴様! 大佐殿に温情をもらっておきながら!」

「良い。それほどまでに聞きたいならば、教えてやろう」

 楽しそうに尋ねるヤザンだが、周囲は唖然としている。

ジャマイカンが呆れるのを通り越して、怒り出すのも、周囲が沈黙するのも無理はない。

 

 差し引きゼロどころか、マイナス評価。

しかし大問題を起こしながら、少なく抑えてもらえた。場合によっては勲章取り消しの上で、一階級降格・営倉入りもあり得たのだ。

 

「全ては、ヤザン・ゲーブルという男があれほどの動きをできると説明しきれなかった、お前が悪い。エースの中のエースと知っていれば、部下も遜色劣らぬツワモノならば周りは何も言うまい。その腕と態度に免じて、転属命令を追加してやろう」

「っ!」

 査問会ではないので、この場での弁明など答えない。

代わりに答えるのは、どうすれば功績だけをもぎ取れたかだ。

 

必要なのは名声……いや、理解者であり同等の存在なのだと告げるとヤザンの顔つきが変わった。

 

「ヤザン・ゲーブル中尉。本日付けで戦技教導隊への隊内転属を命じる! 精々、信頼できる部下と背中を守れる相棒を見つけるのだな」

「はっ! 拝命いたしました!」

 一瞬だけ痺れるような様子を見せた後、あっけなくヤザンは直立不動の態勢になった。

しかしそれも僅かな事、ガハハと笑って周囲に抱き着いているではないか。

 

「大佐殿……。よろしかったのですか?」

「お前もやってみるか? もしギレンを毒殺などしてみろ。墓に勲章を供えてやるぞ。……冗談はさておき、暗礁区域に高速で突入できる部隊は今後必要になる」

 部屋に戻るのについてくるジャマイカンに、笑いながらそう例えておく。

毒ガスを使って終戦に持ち込んでも、処刑は免れないと知っておけば、大問題には成るまい。

 

それとは別にジオンが敗退した後、デブリの飛び交う暗礁区域に敵が逃げ込む可能性はデラーズの例を思い出すまでもない。

それを考えれば、巡回であろうと戦闘であろうと、危険地帯に笑って飛び込める男は必要なのだと説明しておいた。

 

●地球の脅威に備えて

 砂漠にあった、あの基地。

他に森の中でも比較試験を行う予定だという文言。

 

それらに戦時中ということを踏まえて、これは植物を操る兵器の実験だという推測を付け加え演算機に掛けた。

他にも基地には細々とした資料や応答文、相手部隊の足跡があり……確証ではないが、限りなく黒に近いグレーであろうとのレポートを受け取る。

 

「見たところ、可能かもしれないがコロニーの中で実験が失敗というところだろうな。何も起きなかったら地球で試そうともせんだろう」

「植物の性質変化……あるいは消失でしょうか?」

 ゴクリと唾を飲み込むジャマイカンに適当に答えながら、他の資料や別件についての報告書をめくっていく。やはり気になるのは、アプサラスに関することだ。

 

「痕跡を見つければ叩き潰すが、可能性論であっても我々が地球を救うという大義を持てるな?」

「はっ。はい! 確かにこれならば、ジオンを叩き潰した後でも、十分に大義が成立します!」

 青ざめた表情のジャマイカンだったが、権力を握るための算段に成ると知って表情を変えた。

信じさせるのは民衆でも学者でもなく、軍上層部や政治家どもだ。特にテロリズムの方法と喧伝でき、対処の必要性がずっと続くという点で興奮物であった。

 

とはいえあくまでこの段階では、予想に過ぎないし上がどう転ぶか分からない。

喫緊の問題として、アプサラスの方に目を向ける。

 

「それで……。クロトワは戻ってきたのだな?」

「はい。まずはこの資料をご覧ください」

 提出された映像は、はっきり言うとキリマンジャロの報告よりも見たかったものだ。

そしてその資料を見たことで、ようやくアプサラスⅡが存在できた謎が氷解する。

 

そこには大型のブースターを取り付けられた球体が、ガルダに突き刺さって大破した姿が映し出されていた。

 

「これは……大気圏脱出用のブースターか? 随分と無茶をしたものだ。まさかガルダ程度を狙ったものでもあるまい?」

「はっ。技術部の報告では見過ごせぬ出力があったと……」

 言葉を濁されたが、その先は知っている。

ギニアスが目論んだ最終目標は、ジャブローだからだ。

 

「ハッキリと言え。完成すればどこまでやれる? 北京か、ベルファストか。……それともジャブローの岩盤を貫けると?」

「……信じがたい報告ですが、このまま技術が進めばという前提で、ジャブローを」

 脅威が育っていることに舌打ちをしたが、手を挙げて詫びと弁解を辞めさせた。

目の前に居るのは中間報告に訪れた情報部ですらない。

 

いや、問題があるとしたらギニアスやメラニーだろう。他人に当たっても仕方があるまいか。

 

「黙っていられるよりも良い。それに……技術部はガルダやペガサスを知っているから判断しただけの可能性もある。早々に辿り着けまい」

「はっ! 油断は禁物ですが、確かに完成は遠いかと」

 問題があるとすれば、ギニアスがここまでの無茶をやった以上、人を派遣して参考にするために観察していた可能性がある。

こちらも似たようなことをやったのだ、奴がやってないと考えるのは愚かだろう。

 

しかし、気に成ることがあった。

 

(……どうしてギニアスは博打に踏み切った? 完成してないなら無理にアプサラスⅡを動かす必要はないはずだ。まして脱出用のブースターを使ってまで)

 考えられる一番分かり易い理由としては、アフリカがいよいよ落ちそうということだ。

オデッサは既に無く、キリマンジャロが陥落すればアメリカと切り離されるどころか、孤立してしまう。

 

しかしその為に、宇宙を経由するためのブースターを使い捨てては何にもならない。

ブースターがあれば宇宙に逃げることも可能だし、同じ博打をするならばジャブローに未完成のアプサラスをぶつける方が理にかなっている。

 

メラニーにでも焚きつけられたのか、それともギニアスが追い詰められただけか。

 

「発進したHLVを落とせるだけの準備を整えておけ。謎の植物実験にしても、新兵器をジャブローにぶつけるにせよ必要になる。こちらに尻尾を振る政治屋どもへの連絡はその後で良い」

「はっ! 発進前、発進後の双方に備えて準備しておきます」

 以前に水爆を阻止するために用意したガイアの護り作戦。

あんな感じで、飛び立つHLVを落とせるならば間に合う可能性は高い。

 

それはそれとして、交渉を持ち掛ける場合でも、いつでも撃ち落とせると脅すのは重要だ。

メラニーに焚きつけられた場合、その事実を見せつければ、条件次第で乗ってくるかもしれないのだから。

交渉しないにしても、座して滅亡を待つのは論外である。




 という訳で少しだけ状況が進みました。
キリマンジャロが落ちて中東もカウントダウン。
アスタロスやアプサラスにも王手が……かかっているといいなあ。という状況です。

あとはA君の戦場で見て以来、使ってみたかった昇進後即座に降格。
他にはタイラーあたりで見たような気もしますが、違ったかな。
二階級降格・二階級特進にはあたらないかもしれませんし、人前でやる作業ではありません。
誰であっても、そうした処理を行って処罰は処罰、功績認定は別個で行うとの態度を見せただけです。

ヤザンの態度もその辺を見透かしたうえで、じゃあどうするんだよ大将?
と質問。
ジャミトフさんとしては、スペシャルな部隊をやるから頑張れよといった感じですね。

●チェンバロ作戦に関して
 原作からしてかなり無茶ッポイ作戦。
ですがまあ、ジオンを受け身にして連邦が数で押すための作戦なら判らない話ではない。
ちゃんと採算をとるためにソーラー・システムがあるんでは……という感じになってます。(地上は空挺部隊)
それに対してですが、ゲリラ屋であるランバ・ラルが隠れそうな場所に、連邦の方から秘密兵器を隠しそうですよね。コンスコンさんだって生きてれば突撃したでしょうし、そうでないにしても、ドズルがビグザム抜きで戦えるだけの下地を作ったはず。

なので原作よりも戦力多いけど、ジオンは死んでない人+地形も合わせて。ほぼ原作通りに進んでいます。


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compromise

●オデュッセウスの旅路

 ホワイトベース方面に派遣したエージェントと違って、ヴィッシュ・ドナヒュー……いやクロトワ参謀は役に立ってくれた。

やはりジオンの占領下で動かすのは、ジオンの人間の方が動き易いのだろうか。

 

彼は紆余曲折の果てに、一人の客人を伴っていた。

あちこち放浪し、情報を集めたりコネを結んでくれる彼には頭が下がる思いだ。もちろん狙って潜り込ませたトロイなので、反省はしていない。

 

「大佐。クロトワ大尉が女性を伴っておりまして……」

「会おう。何か情報を……いや、誰かの使者かもしれん」

 アイナらしき女を連れて戻ってきた。

兄想いの妹がそこまでする理由。それを考えた時、情報部が利用しているリストを一つ選びだした……。

 

「わたくしはアイナ・サ……」

「挨拶の前にこれを渡しておこう」

 現れた女はやはりアイナだった。

だが実物を見たくらいで感動する気もない。澄ました顔で書類を二つ放り投げる。

 

一つ目はシローと原作に準拠してよろしくやってる姿。

ガルダが残ってるので温泉ではないが、カメラに向かってシローが盾の様に立つ姿だ。

 

二つ目はアフリカ圏内にある、情報部が利用している病院のリストだ。

 

「これは……」

「アイナさんと言ったか。あなたの名前はそうだな……。極東の文字で愛那というのではないかな? 結婚してからの姓名は、天田・愛那。アマダ少尉の負傷を知って訪れた」

 メモに漢字の当て字を入れつつ、偽名と適当な言い訳を考えた。

 

「アマダ少尉の奥さんならば、連邦基地に訪れても不思議はない。もちろん、その家族もね」

「……っ。それは……」

 アイナの顔が一瞬引きつる。

もちろんシローの奥さん扱いしたことではない。そちらは戸惑う中で多少、顔を赤らめる程度だ。

 

家族が病院に訪れてもおかしくはないと言った辺りで、顔をこわばらせた後で元に戻そうと奮闘していた。その様子にニヤリと笑いたくなるのを、背中を向けることで誤魔化しておく。

 

「時に、アマダ少尉の実家はサイド2でな。毒ガスの中をかろうじて逃げ出したのであれば、内臓や放射線の療養も当然だろう。間違っているかな?」

「い、いいえ……。否定はしません」

 おそらく、ギニアスの病状が大きく悪化したのだ。

それを予想して病院のリストと、訪れるためのカバーストーリーをでっちあげると、アイナは否定をしなかった。

 

否定はしないが肯定もしない。

だが、ギニアスの病状が相当重いことは隠しきれない。

考えてみればインドシナも良い環境ではないし、移った中東も似たようなものだ。

 

「これは話を聞くための手付金という事でしょうか? 言っておきますが降伏の条件には……」

「そのリストは情報部が利用している場所だ。迂闊なことでは詮索もされんから気にせんでよろしい。……しかし、本命の件で譲る気は一切ないがね」

 そもそも驚かして、状況を知りたかっただけだ。

姿を隠してでは連邦製の薬をもらうのが精々だろうし、ギニアスを押し込めることまでは期待できないだろう。譲歩する気はないので渡しても惜しくない物を渡したに過ぎない。

 

第一、迂闊に技術を渡してジャブローに突撃されたら問題である。

せめてコネのある政治家を別の場所に移して、連邦政府を自分寄りの政権で立て直せる準備をしてからにして欲しい。

 

「改めてコレを見せよう。作戦を担当している者に聞けば、身に覚えがあるやもしれん」

「これは……植物を枯死させる兵器ですって!?」

 演算させた結果の一つだが、幾つかある結果論の中から似ている物を選んでおいた。

ジオンの研究情報なんか予測できないのだが、植物に関する攻撃の中で、地球に使って意味のある攻撃手段はそのくらいだ。

 

ギニアスの狂気を止めないのは別にして、アイナは良識ある貴族の女性である。

地球ごと滅ぼそうとする計画に賛同するとも思えなかった。

 

「それに関する情報であれば高く買おう。それこそ捕虜交換の筆頭リストに載せるなど容易いことだ。そうだな連邦随一の医者に診せたり……最新の航空母艦で送り届けても良い」

「……記憶には留めておきます。ただし、卑劣漢に対する処置のみなのをお忘れなく」

 今度はアイナの方から妥協する気はないのだと切り返して来た。

その態度がギニアスの重篤を伝えていると思うのだが、本人は気を引き締めているつもりらしい。

 

「勿論だとも。我々が協力できるのは、この地球を守る為だけだ。この戦争が大惨事の大戦などと呼ばれない様にするためにな」

 押し黙って立ち去るアイナを見送ってほくそ笑む。

 

 それから天田・愛那の名義で情報が送られてきたが、中東南部の街の情報だった。

そこは深い峡谷が幾つもあって隠れることができ、キリマンジャロから脱出した部隊が逃げ込んでいるらしい。

 

(ギニアスの動きを邪魔しようとする部隊を排除したいだけかもしれんが……。まあ乗っておいてもよかろう)

 シローを利用したようで悪いが、この際、彼の仲人になったつもりで気にしないでおく。

今回はできるだけ被害を出さずに功績を上げておく必要があったのだ。

 

●シティリバーの戦い

 このガルダは中二階が吹き抜けになったような、独特のブリッジを持つ。

階下では他の船ではありえないほどの、数多くのオペレーターが無数のモニターを眺めている。

 

その一つで管理している数字が、不意に消えた。

 

「05ロスト! 06も中破して後退します!」

 アラビア半島のとある峡谷で、一機のジムが大破。

僚機も中破して、まるまる分隊が瞬時に敗退したことを告げる。

 

「馬鹿な。第二小隊のジムはバージョンUpで済ませた中古じゃないんだぞ!?」

「それだけ奴らが強いということだな」

 ここに数の優位だけを信じる無能は居ない。

だが攻め手である連邦軍の主力は、初期生産品ではなく完全な新鋭機だ。

ジムの初期生産品は本来の性能を発揮しておらず、それをバージョンUPで補ったのが後期型である。

 

それに対して先ほどやられたのは、本来の能力に合わせて一から作成され、中東の気候に合わせて関節パーツやプログラムも最適化されている。

同じジムであるはずなのだが、フィッティングなどがまるで違うこの機体は、ジム・コマンドだとか地形適応型と呼ばれていた。

 

「ジャマイカン少佐、いかがされますか?」

「奴らが峡谷を背にした地形の利も効いている。A集団では勝てんな。引かせろ」

 コリニー旗下のモビルスーツ隊は現在、A集団とB集団に分かれていた。

これに少数の戦技研を加える編成で、更に言えば、戦車兵団と共同歩調を行うのが完全な姿である。

 

ジャマイカンが直接指揮するA集団は、歩調を合わせた集団行動を得意とする者を中心。

現在行われて居る戦闘は、市中へ流れ込む川に連なる峡谷だ。大小さまざまなルートがあり、分断戦闘を行い易く、腕利きに攻め込まれては分が悪い。

峡谷ごと長距離砲で吹き飛ばせば別だが、中東で貴重な水源を消し去るわけにはいかなかった。

 

「よろしいのですか? まだ戦い始めたばかりですが」

「構わん、疲れさせて確実に拠点を落とすのが目的だ。……それに准将閣下は無駄な損失をことのほか嫌っておられる」

 昇進したことで奥でゆったりと構えるジャミトフの方に視線を向け、満足そうな表情にジャマイカンは安堵した。

 

ジャミトフは必要ならば幾らでも死なせる男だが、無意味に浪費することを嫌悪していた。

軍官僚にありがちな性格といえるが、ようやく指揮に実感が持てだしたジャマイカンとしてはご機嫌を伺わざるを得ない。

 

「A集団は戦線を維持しつつ後退。ウッダーに任せたB集団を攻勢に立たせろ。その間に撤退した機体から情報を得ておけ」

 正確に包囲を続けるジャマイカンだが、何も知らずに部隊を後退させたわけではない。

無理に押し込む必要のない、無駄死にをする必要のない局面だと聞いていたからである。

 

この戦いはアラビア半島に逃げ込んだキリマンジャロ軍を追いかけてのものだが、現在行っている戦闘は相手を釘付けする為の陽動作戦に過ぎない。不自然ではない程度に押して行けば良いのだ。

 

「B集団取り付きました。それと切り込んで来る連中が使っている機体は、スカート付きの炉心を搭載しているようです」

 ベン・ウッダー中尉が率いるB集団は、攻勢に長けたメンバーが揃っている。

下がったとはいえA集団が圧迫したままなので、攻勢の有利さだけを発揮できてた。

 

B集団が相手を始めた間に、先ほど下がった機体からの情報が即座に演算に掛けられる。

敵のエースはMS-07、角突きと呼ばれる機体で固められていた。しかしこの連中は実に厄介な相手だったのだ。

 

「スカート付きの? 無茶をする。いや……それほどの腕前という事か」

 炉心を交換すればそれで強く成るという訳でもない。

確かにジェネレーターや推力の比率は変わるが、バランスが大きく壊れる。

それを再調整せねばならないし、直したとしても通常の機体と扱いがまるで違うので、相当な腕前を要求される。

 

青い角突きは指揮官機やエース機であるとは知っていたが、これほどの連中とは思わなかった。

連戦で鍛えられたのか、あるいはエースを集中投入して時間稼ぎに出たのだろうか。

 

 

『集合! タロスとサロメは私の脇に着け、ビューンとドルバロームは援護』

『『了解!!』』

 実際、正面に展開するMS-07の集団は全員がエース級だった。

ジオン軍はここにきて親衛軍を投入。何らかの目的と部隊再編のため時間を稼ぎに来たのだ。

 

中央に居る甲虫マークの隊長機が、剣を掲げて短くレーザー通信を入れると、即座にフォーメーションを変更した。

それも峡谷の地形に合わせたもので、それぞれが与えられた位置を独自判断して確保している。それぞれが盾を左右逆に構え、指揮官機を中心にワイヤーも使って高速で移動していた。

同じ親衛隊でも、一騎当千ばかりを集めた親衛軍とはよく言ったものだ。

 

 

「ジャマイカン少佐! A集団に突っ込んできます!」

「なんだと!? 奴ら敵中を抜けて撤退する気か!」

 ジャマイカンとて愚かではない。

このレベルのエースが自滅覚悟で突入するはずがないと気が付いた。

 

他の部隊は後方に下げつつ、自らは時間を稼ぐために攪乱を兼ねてありえないルートを採ったのだ。

 

「くくっく。見たか? 腕利きを揃える利点とはまさにアレよ。常人ではできないことを平然とやってのけおる」

「……閣下、お見苦しいところをお見せいたしました。時間稼ぎの攪乱に付き合う所でした」

 ジャミトフが笑うとジャマイカンも平静さを取り戻した。

今回の攻勢目標である敵本隊は捉えたままなのだ、まだ笑ってみていられる段階であろう。

 

問題なのは、時間稼ぎはお互いさまだと分かったこと。

敵のエース部隊が集団で切り込んできているのに、同時対処しなければならない。

 

「A集団にはツーマンセルで遅延防御をやらせろ。B集団は下げるな、本命はあくまで敵本隊だ」

「そ、それで守り切れるでしょうか。無視できる損害ではありませんが……」

 ジャマイカンはその言葉をあえて無視した。

先ほど違い、今の状況では損害を躊躇う時ではない。

 

先ほどはあくまで本命に手を伸ばすための時間稼ぎだったから損害を抑えた。

今は逆に、本命を追い詰めるために犠牲にするべき時なのだ。

 

「英雄物語に付き合う必要はない。下がって下がって下がらせまくれ、それで奴らの方が躊躇うは……!?」

「峡谷から何か来ます!」

 ジャマイカンが後退戦を指示しようとしたところで、峡谷の一つからナニカが現れた。

 

「お待たせだぜ!」

「ヤザンか! 今頃来るぐらいなら、本命を片付ければ良いものを!」

 やって来たナニカから、バイザーを付けたジムが落下してくる。

だが平静を保っていたはずのジャマイカンが怒鳴るのも無理はあるまい、作戦では敵本隊をヤザン達が突くはずだったのだ。

 

「申し訳ありません。レイヤー隊長から援護に回るようにと!」

「ちっ! 本命にとりついたのだな? ならばいい!」

 運んで来たリチャード・ハイマンの言葉にジャマイカンは舌打ちをした。

Gファイターの集団で峡谷を抜けるコースを取らせたのだが、全機体でさっさと潰せと言いたかった。

 

しかし救われた形であり、父親の前で息子をなじってもしっぺ返しが来るだけだ。指示されただけならば猶更である。

 

『銃無し、盾無し。コイツ正気か?』

「はっ! こーいうのもあるんだぜ!!」

 敵もさるもの、咄嗟に援護役の一機……トカゲのマークを付けた機体が瞬時にヤザンの前に出る。

だがヤザンは不敵に笑って後ろ腰に手を回し、そこに懸架した武装を取り出した。

 

ソレは巨大な鉄球にチェーンを付けた物体である。

ワイヤーを伸ばしてくる相手に、無造作に振りかざした。

 

「あらよっと!」

『ワイヤーが? だがしかし!』

 重量のある鉄球を絡められたものの、トカゲマークのグフは電流に頼らず、咄嗟にワイヤーを切り離そうとした。

 

しかしそこからが、ヤザンの真骨頂!

鉄球が噴射加速し、切り離すよりも先にグフの体勢を崩し始めたのである。

 

『ええい! 左手なぞっ……!?』

「こいつを待ってたんだ。あんがとよ」

 瞬間的に判断し、左手で持っていたヒートソードでワイヤーごと右腕を切り落とす。

だがヤザンはその瞬間を待っていた。シールドを立て直せない間にビームサーベルを抜いて突進していたのである。

 

『ドルバローム!?」

『ビューン! 迂闊に出るな。そいつはやるぞ!』

 もう一機の援護機……クモのマークを付けた機体が仇を取ろうと飛び出しかけたが、指揮官機の制止で中断した。

 

『こやつ、後ろに目があるのか?』

「けっ。気が付きやがったか」

 ヤザンは返す刀で迎え討つつもりだったのだ。

彼にとって……いや、特殊なバイザーを付けたこの機体にとって、背後は背後ではない。

 

ウラヌス・システムの端末であるウラヌeyes、いやアフリカ用のラーに対応したメジェドの眼を装備している。

ガルダに搭載されたラー本体からの光情報や音情報を得て、ミノフスキー粒子の制限を和らげていた。

 

「お遊びはこれまでだな。ハイマン君! 切り離してくれたまえ!」

「了解! 武装を投下」

 ヤザンは長期戦を覚悟して、Gファイターが懸架している銃とシールドを要求した。

その間もグフから視線は離さず、いつでも飛び掛かれる姿勢を維持したままだ。もしかしたら、落下する銃を破壊しようと攻撃したらその隙に付け込む気だったのかもしれない。

 

「システムの援護があるとはいえ、よくやりますね。下手をすると死にますよ?」

「度胸もあるだろうが、どうにかして動きの前触れでも探知しているのか? ……そうか、音だ。ヤザンめ炉心の音で探知している!」

 ジャマイカンは先ほど報告のあった、炉心がドムの物であるという事実に気が付いた。

 

暫くして専属オペレターの一人が、演算させた答えを持ってくる。

 

「判明しました。あの機体は一分間に小さなピーク、数分ごとに長いピークタイムがあります」

「どうりで白兵戦が強烈なはずだ。しかしこんな物を聞き分けるとは……やつは獣だな」

 あのグフはドムの炉心を無理やり搭載したが、調整しきれるはずがない。

そのため最大出力が得られる瞬間が、一分間に数秒、数分に十数秒ほどに制限されているのだ。

 

その僅かな時間をコントロールする連中もバケモノだが、演算機もなしに気が付くヤザンも大概である。

 

『ギャルガ隊長! ドルバロームの仇を取らせてください!』

『止せ。我々の役目は打ち上げまでの時間稼ぎだ。本命が上がった以上は撤収するぞ』

 見れば隠されていたHLVが次々に打ちあがっている。

途中でスナイパーや、Gファイターに追いつかれて潰されたものも多い。だが先に上がった物は無事なようで、これ以上は不要だと別方向に撤収を開始しようとした。

 

その時……。

ゴゴゴ! と音を立て、峡谷が振動し恐ろしい音が聞こえて来たのである。

 

「何事だ!?」

「崩落です! 奴ら……ジオンの奴ら、水源を爆破しやがった!」

 その報告は無慈悲な物だった。

この一帯の生命線である峡谷が爆破されたらどうなるか?

鉄砲水で周囲が危険になるだけならば良い……下手をすると、近隣にだれも住めなくなってしまう。

 

「メラニーめ……ここまでするか」

『アナハイムの手先か!』

 静観していたジャミトフと、同じように推測していた親衛隊の指揮官が、内心で唸りを上げる。

 

中東から人間を追い払いたいメラニー・ヒュー・カーバインにとって、街の存続など不要なのだ。

見た目には手助けしているジオンを援護しつつ、アラビア半島南部の生命線を断ったのであろう。

 

「准将閣下。いかがなさいますか? これは想定外ですが」

「鉄砲水が来る前に停戦信号を上げろ。……それと画像と音は取っているな? 敵拠点の位置や我が軍のコースも同時に記録しておけ」

 いくら何でも任された範疇外なので、ジャマイカンは維持を捨てて保身に走った。

ジャミトフが人命というよりは、上層部に提出する証拠集めを指示したことで、自分ではできない判断だとホっとため息をついたのである。

 

●早めの戦後処理

 町の生命線を脅かした戦いに、監察官が送られてくる。

だがあらかじめ証拠を提出しているために儀礼的なもので、むしろ連邦政府財務局がくっついているのが奇妙であった。

 

「この度は失礼します、ジャミトフ閣下。今回の訪問の件ですが……」

「軍に対する根回しの件ですかな? 浪費を止めろと言いたいが、戦争している段階では聞き入れてもらえそうにないと」

 財務局の人間は、先に言われてしまい面食らった。

そうなのですと続けるが、これに驚くなという方が無理だろう。

 

「宇宙では艦隊再編に相当使いこみましたからな。こちらに回ってくる装備も人員も減らされました。想像はできます。しかし……そのレベルのことをおっしゃりたいのではないでしょう?」

「ご推察の限りですが、ご存じならばお判りになりませんか?」

 ソロモンを奪取したものの、原作に近い大損害を出した。

この再編するために、かなりの人員と予算が割かれることになる。

 

しかし、その程度では収まらない問題が存在するのだ。

 

「連邦政府の予算はとっくに限界なのです。戦時経済に移行し、受注をカンフル剤に回しているに過ぎません。ですが……」

「これ以上の損害が発生すると、予備役や志願兵のみの動員では済まなくなる。先行して訓練だけ行っている徴兵に手を付け、更に債権を発行せざるを得ない。違いますかな?」

 説明すべきことを次々口にされ、思わず面食らってしまう。

これから何を話しても、先回りされてしまうのではないかという気がしてくる。

 

もっとも原作知識に加えて、色々と情報入手経路があるのだ。

察せないという方が嘘であろう。

 

「問題なのはその件をゴップ閣下に伝えても、自分は最善の準備をするだけで関与しないとおっしゃられたのでしょう? 制服組の中でも話が通じそうな閣下に断られてしまった」

「その通りです。そこで我々はジャミトフ准将にコリニー中将を説得していただこうと」

 先々口にされて驚いたが、断られるならば最初から面談できていないだろう。

そのことを察したのか、頷きながら最初の推論に話が戻る。

 

「私も軍人ですからな。上層部には従わねばなりません。ですが……そうですな。一つだけお尋ねできれば、コリニー閣下に伝えるまでは構いませんとも」

「なんでしょうか? 守秘義務がある内容でなければ構いませんが」

 回答を求めているのではなく、尋ねてみたい。

そういわれて嫌な予感がしない訳はない。ましてここまで先手を打たれているのである。

 

訪れた職員は有望視されてこそいるが、まだ部課長級ではなかった。

だからこそ根回しにアフリカまで派遣されたのだが、そのことを盾に断るしかないだろう。それがどれだけ無意味だと知っていても。

 

「先ほどから勝敗の問題を口になさらないが、容易く勝たれても困る。ましてサイド3を丸抱えしては破産してしまうとお思いではありませんか?」

 つまり政府が欲しているのは、根回しよりも戦争の落とし処であった。




 という訳で状況は見えてませんが、秘かに事態は進行しました。

08小隊のユーリ暗殺 → アスタロス関連の抹殺。
に変更。

イヤー危なかったですね。
もうちょっとで地球が悲鳴を上げ、花は枯れ鳥は空を捨てるところでした。
しかし、あれが最後のアスタロスとは限りません。
きっと第二・第三の窮地がジオンによってもたらされ、それを解決するエリート部隊が必要なのです。

●親衛軍
 公宮の飾り人形。役立たず、装備だけはご立派な連中。
……とは別に、まともに戦える親衛隊が居るものとしています。
0:完全なお飾り
1:要人警護部隊(ザビ家付き特殊部隊)
2A:首都防衛大隊(ムンゾ防衛隊)
2B:近海艦隊(サイド3全体を守る艦隊)
3:直属のコマンド(いざという時の火消し部隊)
 こんな感じのイメージでしょうかね?
今回出てきたのは火消し用のコマンドという感じです。
名前がいまいち人名ポクないのは、偽名だから適当な物語から借用。
作戦ごとに適当に帰るので、黄金聖闘士とか護廷十三隊の隊長とかの場合もあるでしょう。

●天田・愛那
 適当に考えた偽名。
悪いなシロー、お前の嫁さん勝手に使ってるぜ。
とか書くとNTR臭がするのは気のせいだろうか。

●ギニアス・サハリン
王大人『死亡確認!』状態。

●今回のメカ
・ジムコマンド、局地適応仕様
 とりあえず完成させた先行型に、色々とバージョンUPしたのが後期型。
一から組上げたのを、ジムコマンドや適応仕様としています。
後のジムⅡやジムⅢで、強い奴と弱い奴が居るのとを同じ扱い。

・ジムライトアーマー[ヤザン・ゲーブル専用機]
 ヤザンの能力をフルで発揮可能な機体。
特に凄い能力はないが、彼の好む戦術を一通り可能なように仕上げてある。
もちろん軽いので、Gファイターに搭載することも可能。

・MS-07B3[無頼」
 グフの装備だけでなく内部パーツを一通り質の高い物に変更したもの。
バランスがおかしくなっているが、乗れる者は全員が乗りこなすことができるエリートのみ。
今回の組み上げではドムの炉心が使われ、出力や推力がキメラ化した。


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終戦に向けて

●花も実もある嘘が必要な時もある

 ガルマの国葬ならぬドズルの国葬が行われた後、世界中を二つの噂が飛び交った。

一つは連邦軍がいよいよ徴兵に踏み切り、一千隻・百万人態勢で断固ジオンを殲滅するという話。

もう一つはその前にジオンが降伏し、戦争はクリスマスより前に終わるという話。

 

この噂の酷いところは、どちらも連邦軍が勝利するという願望に近い予測を基本とすること。

そして……出所が共に同じという詐術である。

 

「宇宙ではア・バオア・クーとグラナダ、地上では中東と北米。戦力比は我らが有利です」

「ふふふ……」

「くくく……」

 ニヤニヤと笑うジャマイカンに対し、ジャミトフとコリニーは底意地の悪い笑顔を浮かべた。

ジャマイカンの言う戦力比とは、連邦のジオンのことではない。

 

レビル率いる宇宙軍と、地上の処分を任されたコリニーの部隊のことだ。

規模としてはレビルの方が大きいが、相手の小ささという意味ではコリニー隊の方が有利。

敵が弱いから勝てたという流れにしないためには、宇宙軍より良い戦果である必要があるだろう。しかしジャイカンには希望があった。

 

「准将閣下の推測では、ジオンにもソーラー・システム級の秘匿兵器があってもおかしくないと。で、あれば損害比率は圧倒的なものとなります」

 ソーラー・システムは原作ほどの数が揃ってなかったが、それでも十分に機能した。

正確にはモビルスーツ隊が原作以上なので、要塞に取りつくまでの露払いには十分だったということだ。

 

こちらが可能だったのである、ジオンも当然可能だろう。

原作ではデギンが折れて勝手に和平を結んだために、無駄な場所に撃ち込んで戦果が減ってしまった。

この世界ではその線がなさそうなため、差し引きで似たような損害に成るだろう。結果的に宇宙軍の被害は甚大、地上軍は特に問題ないままである。

 

「宇宙軍がサイド3を陥落させる前に、是非とも決戦を挑んで北米を落としたいところですな。その前に中東を処分せねばなりませんが」

「北米、北米だと? くくく……はーっはっはっは!」

 楽しそうに未来を語るジャマイカンだが、途中からコリニーが笑いだしてしまった。

あまりのことに、ジャマイカンは目をむいて驚くほかはない。

 

「か、閣下?」

「くくく……。ジャミトフよ、教えてやれ」

「はっ」

 様子を伺うジャマイカンに、コリニーは笑いをこらえながら顎で先を示した。

 

「ジャマイカンよ。尋ねるが貴様……何時から決戦が行われると信じていた?」

「はっ!?」

 訳が分からなかった。

地上を任されたコリニー隊は、残存するジオン軍を討伐するのが目的だ。

 

中東を早期に制圧し、北米で決戦せねば何処で戦うと言うのだろうか?

 

「最後まで戦えばジオンの国民に故郷は存在しなくなる。復讐に燃える我が軍が一切合切を消し去るやもしれん」

「全面戦争とはそういうものでは? それに降伏する可能性も……」

 反論しながらジャマイカンも気が付いた。

既に大勢は決しているのだ。連邦が勝ってジオンが敗北するのは間違いがない。

 

ならばどこかで手打ちを行う可能性があり、ジオン軍は必死で降伏ではなく和平を望むための条件を探しているところだろう。

 

「路頭に迷うジオンの連中だけでなく、連邦の経済には明るいニュースが必要だとは思わんか? ……サイド3と引き換えに北米を取り戻す算段は付いているのだ」

「……さ、最終決戦抜きで既に勝負がついているとは思いもしませんでした」

 レビルは生きていても名誉退役することが既に決まっている。

それがV作戦を実行し、その後の主導権を握る条件だったからだ。

 

ゆえに後継者候補を争っているのだが、コリニーが一歩優位に立ち、追っていたティアンムは既に亡い。

他の中将たちがレビルに従っているのだが、ア・バオア・クーで大損害を出せば勝ったとしても、もはや並ぶことは無理だろう。

唯一の例外は北米戦の損害次第だが、交渉で取り戻せばそれすらなくなるのである。

 

「ならば例の対ジャブロー兵器を何としてでも始末せねばなりませんな。中東で開発されているというアレさえなければ……」

「何度も言わせるなジャマイカン。博打の極意とはな。最初から勝負など挑まぬことよ」

 アプサラスの脅威さえ取り除けば盤石。

そう語ろうとするジャマイカンはまたも遮られた。

 

「明るいニュースが必要だと言ったであろう? そして、大勢は既に決しているのだ。ジャブロー臨時政府が解散するという『発表』も、そう遠い事ではあるまいよ」

「……っ」

 今度こそジャマイカンは絶句した。

発表はあくまで告知であって、本当に政府機関が他に移動するかどうかは怪しい。

 

だが、秘密兵器でジャブローを狙おうとする者にとってはどうだろう?

ただの告知によって、アプサラスもアスタロスも無効化されてしまったのである。

 

「まあ、お前の懸念も当然だ。ジオンの脅威は取り除かねばならん。その為の新組織設立許可も滞りなく下ろされるだろう」

「この間の財務省の件が決定的だったな」

 緊縮財政を望む連邦政府の声が、ジャミトフに『政策』を伝えさせる許可を与えた。

どんなに策を練ろうとも、例え知識チートがあろうとも、軍人に政策など出せない。

 

だがコリニーを説得し、最後に軍部を説得するための交渉カード。

それその物が、連邦政府の求めていた落とし処だったのだ。これで乗らない筈もあるまい。

 

「世界の脅威が残っているならば、政府も強権を維持したまま当面を過ごせる。我らも安泰。そして経済界には明るいニュースが幾つも飛び込むという訳だ」

「恐れ入りました」

 軍産企業とのコネ、そして連邦政府とのパイプ。

その二つを両輪にジャミトフ・ハイマンが世界を動かすキーを手に入れた。

あえて言うならば、財務省の局員が訪れたあの日に、一年戦争は既に終わっていたのである。

 

ジャミトフが上機嫌に成り切れないとしたら、同様の案が他からも上がっていたことだ。

経済のカンフル剤としてジャミトフが出した、コロニー再生事業。サイド3のコロニーの一部を賠償軽減として割譲させつつ、サイド3を含めたすべてのコロニーで行われる再整備計画。

 

それに似たような案として出されたのは、月面都市計画と地球連邦政府移転案である。

皮肉なことに、難民たちを厚遇して地球から管理移民させるという点まで似通っていたという。

 

●バベルの籠城戦

 ギニアス・サハリンの目標であるジャブロー粉砕は、試す前から終了した。

その脅威は既に、アスタロスと共に連邦政府へ伝えられている。

だからこその臨時政府終了と、新天地への移設案の発表であった。

 

だがアプサラスの脅威は取り除かねばならない。たとえ彼が死に掛けであろうともだ。

実証された兵器は存在してはならない。あくまで理論として世界を脅かす程度でなければならないのだ。

 

「これより『バベルの塔』攻略戦を開始いたします」

「よろしい、大いにやれ」

 別件で既に対処した問題を最終目的に設定する。

このことで最低限の任務は達成しており、後は中東最後の拠点を無事攻略して、後継者レースの勝利に花を咲かせるだけだ。

 

「まずは使いようのない玩具を処分します。使い切って構いませんでしょうか?」

「全て貴様に任せてある。それにどうせスクラップにするだけだ、好きにするがいい」

 ジャマイカンの思い付きで加えた先行部隊。

それが懲罰大隊や人間の盾であれば、多少は考慮しただろう。

だが事前に伝えられたソレは、無害かつ、可能な限り人命を守る為の方策であった。

 

「Dポイントよりマゼラドローン隊出撃! 続けてデク共も突入させろ!」

「はっ!」

 ジャマイカンの指示で鹵獲したマゼラアタックとザクが動き始める。

違いと言えば、マゼラトップのキャノピーの中が人間ではなく単純なコンピューターというだけだ。

ザクも同様であり、コックピットがワザワザ剥き出しになっていた。

 

『少将閣下! 無人兵器群が例のポイントに……』

『ちっ。楽はさせてくれんか。『気化爆弾』の準備をしておけ。他を巻き込める今のうちに使い切る』

 あからさまな無人兵器による突撃は、当然危険地帯での捜索猟兵代わりだ。

地雷原など気にもせず、プログラムされた通りに怪しい場所目掛けて撃ち込みながら進出していく。

 

これに対してジオン側が採用した対抗策は、南極条約ギリギリの爆弾である。

直接に核爆弾を使用するのではないので、一応は問題にならない可能性と、やはり問題になる可能性の両方があった。

 

『閣下! 前線より今のは核兵器かと矢のような質問が参っております!』

「閣下! 前線より今のは核兵器かと矢のような質問が参っております!」

 奇しくも両軍司令部に届けられた質問は、時間こそ違う物の同じものだった。

これに対する回答も、やはり似たような物だ。

 

『ただの気化爆弾だ。そう答えておけ』

「ただの気化爆弾ではないか。ジオンは核弾頭や質量兵器以外にも危険な武器を持っていたというだけだ」

 ユーリ・ケラーネの回答はただの誤魔化しだった。

脱出用に埋めていたはずなのだが、早期に使わざるを得ないので苦笑するしかない。

 

対するジャミトフ・ハイマンの回答は、この中東で危険な兵器を次々と研究している。と主張するものだ。

今後もジオンの脅威のメカニズムを喧伝する為、むしろ満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 一方、別の脱出ルートを塞ぎに掛かる飛行集団がある。

ユーコンを潜ませられる川に向かっている中で、先頭を飛ぶ一機が不意に揺れた。

 

「ハイマン君、右。……もうちょい右」

 Gファイターとライトアーマー、二機のエンジンが奏でる振動がゴキゲンなBGMのGアーマー形態。

その中でヤザン・ゲーブルの言葉が、その機体を揺らせたのだ。

細いメガ粒子砲の閃光がとびぬけたのは、その直後である。

 

「狙撃っ!? 良くわかりましたね。戦術教本に乗っている狙撃ポイントは避けたつもりなんですが」

「なあに。俺だったら教科書通りには潜まないね。第一、この状況だと逃げれんだろ?」

 短い付き合いながらリチャード・ハイマンはヤザンの獣めいた嗅覚を理解していた。

彼はニュータイプと違い、独自の判断で経験則を上書きしているのだ。

 

今取っているコースも、元から彼が指示したもの。

ただ気が付いただけではなく、予め想定し易いコースを取ったのである。

 

「逃走する気がない、あるいは攻める側で撃ち殺せば済むならマニュアルに従えばいいさ。そういうのは定例から外れることはない」

「脱出までの時間稼ぎ。または察知された場合に備えての伏兵だったわけですね」

 言いながら二人は投下準備を整えていく。

余裕があれば連結したまま、大容量のジェネレーターでこちらも撃ち返したいところだ。

 

だがボヤボヤしていると、敵の方がやって来る。

脱出ルートを守る相手となれば、油断などできるはずもないだろう。

 

『来たな! ドルバロームの仇。やらせてもらう! お前は下がっていろドノマーガ!』

「はっ! 見え見えなんだよ!」

 向こう側から高く飛んできたドダイYS、その背に居たグフ・カスタムがギリギリのところで降下する。

ヤザンはそれに対抗するかのようにビームサーベルをジャベリン形態に変更し……。

 

そのまま地面に突き立てたのである。

 

『ば、馬鹿な。なぜオレの位置が分かった!?』

「こんな場所で平坦な地面があるかよ、馬鹿野郎!」

 砂地に潜っていたグフ・カスタムが顔を出し、引き裂かれた腕を千切りながら脱出する。

時間があれば直撃させられたはずだが、運があったというべきだろう。

 

ただし、この場合は双方にとって……である。

 

『すまん。俺も下がらせてもらう。……後は頼んだぞイリューズ』

「あん? 馬鹿にアッサリ引き下がったな……」

 地面から出てきた亀マークの機体は、後方に居たドダイYSに飛び乗っていずこかへと去っていった。

引き際を心得たその様子に、ヤザンはむしろ警戒心を強くしたのである。

 

「……まだ伏兵が居る? 了解です」

 上空に居たリチャードはヤザンが送った発光サインを受け取った。

そのサインは敵に伏兵アリ。何機居るかは分からない。

 

だが、先ほどのヤザンの言葉。

そして地面に居たグフの様子から、察せられるものはある。

 

「川辺だが馬鹿正直に水中のはずはない。……しかし奴らの水中用は水冷式エンジンのはずだ」

 リチャードは爆雷をユーコン用に温存し、砲門にのみ設定してからトリガーに指を掛けた。

マルチ設定だとどうしても反応が遅れると聞いて、コンマ数秒を早めるために行う設定だと聞いていたのだ。

 

そして熱源と音源探知を掛けた結果、ステルスを掛けているらしき小さな反応を発見する。

 

「居ました! 迷彩カラーの水中用だ!」

『キャア!?』

『イリューズまで!?』

 Gファイターのメガ粒子砲が火を噴き、隠れていたズゴック・カスタムを抉る。

それで大破していないのは、単純に水中用の装甲が厚いからに過ぎない。

 

『ごめんなさい。私はユーコンの直衛に専念させてもらうわ』

 どうやらズゴックはエンジンを一回り小さなアッガイ用に改めたようで、音と熱量が微妙に低い。

だがその反動は大きく、強化したジェネレーターでチャージ型の狙撃ができても、格闘戦は難しいらしい。

 

魚マークの機体がザプンと水の中に飛び込むと、サンドカラーが溶け出して、下地が別の色に変わる。

 

「逃げるなって言いたいところだが、スゲーなあ。水で溶ける塗料を水辺で使ったのかよ。その根性だけは認めてやるぜ」

 ヒュウ♪ とヤザンが口笛を吹いた。

見ていると簡単そうに思えるが、もし高波か何かが水を被せたら全てが台無しだ。

 

周囲や沖にカメラの一つでも仕掛けているのだろうが、良い度胸である。

もしかしたら、先ほどの亀マークはその時に備えた護衛なのかもしれない。この状況ならば、水中用の方が貴重であろう。

 

「どうする? てめえ一人になっちちまったぜ。それともママのおっぱい飲みに逃げ帰るか?」

『オノレ! 貴様など、このビューン様が居れば十分よ!』

 蜘蛛マークのグフは近くの障害物にワイヤーを引っ掛け、三次元移動を掛けながら障害物そのものを盾にする。

これに対しヤザンは盾を構え、秘かに盾裏に隠したもう一本のサーベルに手を伸ばした。

 

そして突き刺したままのジャベリンに手をかけ、縮小させることなく棒のように振り回したのである。

 

「ワイヤーがもう一本? いや、全部で三本かよ!!」

『馬鹿め! この機体は35mmの代わりに複数用意しているのだ』

 蜘蛛マークに相応しく、左手だけではなく右手からもワイヤーが。

それだけではなく、バックパックからも二本ほど飛び出してくる!

 

『ワーハッハハ! 動けまい! だが念入りに後ろから……』

「だからよ。見え見えの動きをすんなっていうんだ」

 雁字搦めにしたまま、グフは後ろに回りつつ至近専用のナイフを抜いた。

電気ショックを使わないのは、単に備えていないのか、それともヤザン機が停止しないと判断したのか。

 

トドメを刺そうとする敵に対し、ヤザンはむしろタメ息をついていた。

 

「モビルスーツってのはなあ、炉心さえ避ければ丈夫にできてんだよ!!」

 ヤザンという男は、これでマニュアルをちゃんと読み込む男だ。

視点が違うだけで、隅々まで目を通している。

 

例えば自分の機体のうち、どこが破壊されれば駄目か、どこならば良いかということを……だ。

 

『馬鹿な。ハラキリだと!?』

「勝てば官軍! エースを一機撃破して二機撃退ならおつりがくるぜ!」

 自分の機体ごと、隠し持っていたビームサーベルで敵を貫いた。

そのまま横にスライドさせて、絡められたワイヤーを焼き切っていく。

 

ここからは正直な話、運だった。

もしグフの重要部分に当たっていなければ、耐久性の低いライトアーマーである。

正面戦闘では打ち負けていたかもしれない。

 

「大丈夫ですか?」

「あん? そりゃあハイマン君が居たからな。安心はしていたさ」

 そう、この場で運任せでも良いと思ったのは、もう一機居たからだ。

ユーコンを探しに行った他の機体も居る。見つけて撃沈するか、諦めたら仕方なく戻ってくるだろう。

 

その意味で、ヤザンが昔のままではなく、成長したヤザンであったことが勝利につながった。

 

 

 そしてこの日、中東最後の拠点は陥落した。

ユーリは接収したアプサラスⅢが破壊された時点で資料を破棄。

最後まで戦い抜いたという事実を確認すると、自らの命と引き換えに部下の安全を要請して降伏したのである。




 という訳でアスタロスに引き続きアプサラス問題も終了。
宇宙では人を焼く悪魔の光が、連邦軍を薙ぎ払っているはずです。

●経済問題
 連邦政府は軍の予算を縮小したい、でも負けてもらっては困る。
一刻も早く勝利してほしいが、サイド3を陥落させて、ジオンの国民丸抱えすると破産する。
ついでに戦争が素直に終わると、強権を発動可能な戦時体制が完全終了するので、一部なりとも権限を保持したかった。

そこでジオンを降伏させるのではなく、和平でおらせたい。
だからこそ、原作でもレビルが和平に乗ったし、今回もそうなっている。
原作と違うのはジャミトフが糸を引いており、似たようなことをメラニーも提案している。
(ジャミトフの方にその権限はないので、メラニーが前回爆破して、財務局の職員が行かなかったら提案できなかったので、メラニーの自爆ともいえる)

今後のサイド3との交渉は、グラナダを返却して要塞を戻してもらうのか?
それとも、賠償を全面的に免れるのか……という展開のはず。
まあ一部のコロニーは接収して他に配りつつ、再編計画で『サイド3も新規コロニー建造していい』という温情条約になるのですが。
似たような展開ですが、メラニー案の場合は、月面都市というだけ。

●アプサラスⅢ
 ジャブロー移転計画が発表されたので、意味がなくなりました。
ギニアスさんは完全に燃え尽きて、ユーリの接収を断らなかった模様。

●今回のメカ
MSM-07ズゴック・カスタム[レインボー・フィッシュ]
 アッガイの炉心に変更し、空いたスペースにジェネレーター強化と静穏性・熱源対策を施している。
数層渡って最新の塗料を塗っており、今回は水溶性を表面、地金の上に別の色を塗っていた。
作中でヤザンが言っている様に、波をかぶったらおしまいなので、相当な度胸である。


年内はこれで終わりだと思います。
この作品では、以前い書いたオバロ物の一つが持つ最大点数とかお気に入りを大きく上回りました。
大変ありがたく思いますし、感想ともども感謝しております。

みなさま、良いお年を。


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戦争は終わりぬ

●戦いの裏で

 中東戦は予定以上の損害がなく終わったものの、北米戦に備えて再編ということにした。

無事な様子を見せつけて、宇宙に上がった中将たちを牽制。

 

その裏で、政府主導の交渉にジャミトフたちも参加していた。

正確に言えば事前交渉を行っていた捕虜交換に、政府筋の連中を誘ったのである。

 

「一命をとりとめたばかりだというのに君も現金だな。アマ……」

「その名前は不愉快ですな」

 部屋の一室を無菌室に改造して半病人……というか、棺桶に足を突っ込んだままの男を乗せていた。

面会に訪れたとき、その男は適当に付けた偽名に対し、本気で嫌がっているようであった。

 

「では天本教授とでも呼ぼうか。ドクトル・Aというところだな」

「それで結構」

 所詮は偽名である。

男は嫌な相手の名前以外は気にしていないようだ。

あるいは妹婿の名前に統一した場合、実家が吸収されたような気がするのかもしれない。

 

「ともあれ、このキローンはお気に召したかな? 教導艦ゆえ特化した能力は特にないのだが」

「いえ。さすがに連邦製。ザンジバルとは物が違います」

 偵察能力旺盛なガルダを使うと刺激するので、宇宙訓練のために用意したペガサス級を転用。

既に訓練していることを隠すため、教導艦としての時代は正式名称ではなくキローンと呼んでいる。

 

それはそれとして、謙遜しているのか、本当にそう思っているかは分からない。

天本教授、あるいはドクトル・Aと呼ばれることになる男は、自身の研究にこそ最大の関心があるのだから。

 

「それよりも例の件ですが……」

「うむ。教授には世界を救うに相応しい船の研究をしてもらうことになる。三胴艦として建造し、両舷そのものを別の船として連結という名目にした」

 長い胴体を持つ巨大な船体に、大型炉心と埋没できる特殊艦橋。

その両舷には専用の炉心と特殊装備を備える、超大型戦艦であり、建造許可が降りる前から研究しても問題ない造りになっていた。

 

「艦名はハーキュリー。まあハーキュリーズ計画とでも名付けておこうか」

「ハーキュリー……。ギリシア最大の英雄か。確かに特殊装備を最大で十二も研究するのであれば、一つくらいは問題ないと」

 木を隠すなら森の中。

超大型兵器開発を隠すならば、超弩級戦艦の研究に混ぜてしまえば良いのだ。

これならば実際に開発成功しなくともよいし、本当に成功すれば別の分野にも活かせる。また、十二も研究するのであれば、バリエーションを増やすことも、他の科学者に予算を割り当てることもできるだろう。

 

「まあ大和式というやつでな、十二というのは予算を隠す名目だ。とはいえ二・三であれば好きにして構わんよ」

「感謝する」

 ハーキュリーズ級は何隻か実際に作る気だった。

実験艦兼見せ札として重装甲かつ最も大型のハーキュリー、外宇宙探索用という名目で対アクシズ用の長距離軌道ユリシーズ、高速展開用の戦術機動艦アキレース、そしてこの艦をバージョンアップする教導艦キローンの四隻。

残り八つの武装に対応した船は建造しない予定なので、予算を宙に浮かせるには十分なのだろう。

 

「しかし、私はともかく結構な人数の捕虜を解放すると聞いたが?」

「ふん。別に敵を開放する必要はあるまい? 意図して開放するのは穏健派や中道派を優先する。もちろんガルマ大佐の元にな」

 捕虜交換はスパイ潜入や領土交換の名目ではある。

しかしジオンを二つに分裂させ、悪くとも親連邦派を作ることを一応の目的にしていた。

 

ゆえにザビ・ユーゲントを始めとする、どう考えても敵対する連中は理由を付けて返さない予定だった。

中立派が穏健派と協力するかは分からないが、ガルマの元に送れば、彼が自分の勢力として組み入れ再編するだろう。

 

 

 ドクトルとの話を終え、彼が療養を終えればどこの基地に所属するかなどを話し合う。

そして数日が過ぎれば、いよいよジオン地上軍との交渉である。

 

「先行してお返ししたメンバーのほかに、この交渉が終わり次第、ウォルター・カーティス大佐らを引渡しいたしましょう」

「ご配慮、痛み入ります。では早速内容の方に」

 本来、ここで渡す書類はお互いの最大条件だ。

無理を承知で色々と注文を付け、妥協案を途中で結ぶのが通例だ。

 

しかし今回は既に事前交渉が終わっており、ほぼ直球で連邦側の条件が通ることになっていた。

これに対して敗者が確定しているジオン側は条件を呑まざるを得ず、中間交渉はあくまでガルマ派を持ち上げる為だけの物と言える。

 

これによってガルマは他の将帥と比べて唯一、最後まで地上拠点を保持という功績を達成。

無事に同胞を取り戻し、サイド3と引き換えに仕方なく北米を返却するという流れになっていた。

その頃にはガルマ派が最大の部隊を握っており、滞りなく交換が行われる予定である。

 

そこまでいけば住民にも慕われているのが、ここに来て後の評価として大きくなるだろう。

ジオンと連邦の双方に対する架け橋として十分な物であり、今回の持ち上げとは違って、純粋にガルマ個人への称賛でもある。

 

「ジオンが行った北米へのインフラと引き換えに、サイド3へ連邦が行ったインフラを相殺。これで名実ともにジオンは独立することに成ります。その後は……」

「判っておりますよ。私はあくまで代理です。人民の代表が選ばれるか……」

 インフラ投資という物は、仮に植民地が独立したとしても宗主国に払わねばならない。

しかも武力蜂起で占領しても、法としては権利が残り続けるのである。

 

だが、この交換条約によって真実の独立をジオンは成し遂げる。

それもまたガルマの功績であり、彼は認めないだろうが、その人格ゆえに連邦も許したと言って良いだろう。

彼ならば、改めて連邦へ参加すると信じられるからだ。

 

「ジオンの後継者であるキャスバル・レム・ダイクンが帰還するまでのつなぎと弁えております」

「それが判っておられるならば言うことはありません。では、戦時賠償への減免措置についてお話ししましょう」

「……」

 ホワイトベースが北米に降り立った時、強襲したシャアは重傷を負っていた。

原作よりも護衛が多かったのだから仕方がないが、その治療とガルマへ貸しを返すために留まっていたらしい。

 

今回の交渉で自分の本名が使われたことに、どんな思いをしているか非常に興味がそそられた。

しかし今はそんなことを言っている暇はないし、先にやるべきことがあるだろう。

 

「賠償として、サイド3は無事なコロニー群を連邦に提供していただきます。とはいえその規模は大きく、代替コロニーを適当に建造するわけにも行きません」

「コロニー再建計画では、すべてのサイドで完全循環型を目指しております。ご満足いただけるでしょう」

「サイド3でも新型コロニーの建造をご許可いただけるのですね。ありがとうございます」

 この計画はジオンの罪を軽減し、それを判り易い形で国民に伝える物だ。

 

だが、同時に経済を活性化させるプランでもある。

コロニーをすべてのサイドで建設するだけではなく、今までになかった水や空気を完全循環する新型を目指していた。

 

ジオンにもそれを許可するのは、温情であり経済的な事情であり、同時に反発を抑える為でもあった。

皮肉にも、ジオンは敗北をもって空気税と水税から解放されるのである。連邦の力と慈悲を知らしめるための一環として。

 

「この交換条件は一度に行うことは不可能でしょう。その担保として、ソロモンとア・バオア・クーのどちらかを、コロニー群の一部と交換いたします」

「重ね重ねのご配慮ありがとうございます。その間は宇宙開発拠点として本来の使い道をさせてください」

 これは交換というよりは、宇宙での拠点を渡すという意味だ。

もちろんジオン本国がギレンの手にあるままである場合は、正当政府として連邦側に付くことが条件に成る。

 

そしてコロニー群と引き換えにした後は、単純に連邦に戻すのではなく……。

火星ないし、木星を開発するための移動拠点として扱うことになっていた。

なんのことはない、アクシズ対策に使用するだけ。今後、また攻防戦で奪い合うことを避けるだけである。

 

「ではお互いの誠意を確かめる象徴として、例の物を交換いたしましょう」

「……そうですね。こちらに用意しております」

 ここに来てガルマが渋い顔をした。

交換するのは完全に整った状態のモビルスーツだ。

 

ジオンにしかない水中用モビルスーツと、そのノウハウ。

ようやく生産が軌道に乗った、ホバー移動するドム。

ジオンの次世代機であり、ビーム兵器運用を目指しつつある試作型……ゲルググ。

 

それらすべてを連邦が接収し、代わりに陸戦ガンダムや陸戦ジムを渡すことになっていた。

見た目こそ対等の交換に見えるが、陸戦ガンダムやジムは鹵獲されたこともある。実質的に没収と言って良いだろう。

 

「……悪いねシャア。君に送られた機体だったんだが」

「構わないさ。この程度で借りを返せるならばな」

 セレモニーとしてシャアに預けられているS型ゲルググの駆動キーが渡される。

他にもキーが盆の上に乗っているが、水中用などのキーということになっていた。

 

「お納めください。キャスバル総帥専用ガンダムです」

「赤とはユーモアが効いていますね。当面、シャアに預けますが構いませんか?」

「勿論です。そうなると見越して、白以外の塗装と決めた時に赤を指定しましたので」

 ちなみに色彩の指定をしたのはジャミトフだ。

これを順当と受け取るか、皮肉と受け取るかは分からない。

 

本当のことが知られれば二人の間はギクシャクするだろう。

しかし、一応の味方になるとはいえジオンには違いない。楔を打っておいて問題はあるまい。

 

 

 そして宇宙では予定通り、ア・バオア・クーで激戦が行われた。

ソーラレイは未完成ゆえに威力こそ低かったものの効率的な場所を撃たれ、史実に近い形の損害を連邦軍は出してしまう。

その後の再編が行われる前に、和平と停戦が発表されて、以前に出た噂を肯定する形で十二月までに戦争は終結したのである。




あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたしますね。

 という訳で一年戦争は終了。
連邦軍は余力を残し、あえてジオンにも余力……穏健派ジオンを残す形で停戦が起きました。

捕虜開放で引き渡されるのは、一応はガルマ支持を約束できる人らばかりに成ります。
戦力比として大きな差に成り、また和平に反対するかもしれない宇宙の中将たちも戦力が疲弊した状態なので何もできない感じです。

●北米・サイド3交換条約
 インフラ代こみで交換しますよ、という感じでジオンにまだ余裕あると見える状態で交換。
サイド3のコロニーは二・三割ほど持っていかれますが、新型コロニーがそのうちの半分くらいを補う予定。
ジオンの国民に見せつけ、また経済上の問題で、今までよりも良い物になります。

とはいえガルマにも拠点は必要だろうとか、コロニーを取り上げて何もないと許可されないだろう。ということで、ソロモンを返却。また後で連邦に提供してね……ということで木星に移動させる予定。

経済に関しては、戦争が早期に終わったこと。
また乱発される兵器製造がかなり減っていること、北米戦そのものがないので損害が減っている事。
また明るいニュースで上向いているので、原作よりはマシな状態です。

●天本教授
 金髪で死に掛けの科学者らしいですよ。

●今週のメカ
ペガサス級改『キローン』
 ジャミトフたちが宇宙に上がる必要が出る時のために、一応抑えておいた練習艦。
教導用なので特筆するのは新型カタパルトくらいで何もなく、交渉の使者が乗っていた。
名前はセントール族の賢者の名前から付けられている。

・ハーキュリーズ計画
 バーミンガム・ドゴスギアに類する計画。
実験艦で他の艦と接続する三胴艦のハーキュリーを最初に建造し、色々と実験する予定。
ギリシア最大の英雄である彼の武勇伝にちなみ、十二の武装艦を研究するという理由で、大和式の予算措置が行われる予定。

 建造するのはあくまでドゴスギアに倣って四隻。
一番艦はネームシップのハーキュリー。
二番艦は移動力に優れたユリシーズ。
三番艦は戦場での機動展開を重視したアキレース。
四番艦は訓練であるキローンの更新。


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プロメテウスの日

●未来への布石

 終戦後のジオンはかなりドタバタしていた。

とはいえ実質的に敗北していたことは疑いようがない。

キシリアは戦死、ギレンは内通者によるクーデターで拘束されており、指導者が居なかったことも大きな理由だった。

 

だがソレが急速に収まったのは、レビル閥が和平の交渉相手に選んでいたのがキシリアであったという事実だ。

最初は指導者に収まったガルマへ目が行っていたが、その事実が広まるや、むしろ同情の視線が彼に集まった。

軍神として祀られることになったドズルが、ガルマを可愛がっていたことも大きいだろう。

 

「ようこそジャミトフ閣下。少将に昇進されたそうですね、歓迎いたしますよ」

「閣下はおやめください、次期大公殿下(プリンツ・ガルマ)。私は頭脳集団(ブレーン)の一人にすぎません」

 ジャミトフ一行がサイド3を訪れたのは、単純に実験の視察だった。

完全循環型コロニーはテスト基がサイド3で行われ、そのデータをすべて全世界に供給する予定だったのである。

 

既存型よりも一回り大きなコロニーを見上げながら、二人は実験内容に目を向けた。

 

「キローンはお役に立ちましたか?」

「まさか教育型コンピューターをこんな所に使うとは思いもしませんでしたよ。いえ、軍需技術がやがて民需に成るのは知っておりますが」

 サイド3駐留艦隊の一隻に、訓練艦であるキローンが選ばれていた。

この艦には特筆すべき戦闘能力は存在しないのだが、船自体が超巨大な教育型コンピューターなのだ。

 

記録のバックアップや再整理など、大きさが重要な部分を内部のコンピューターで行う。

これによってミノフスキー粒子が散布されていない場合のみだが、最小限の機材で既存のマシンが教育型コンピューター搭載扱いになるのだ。

データ収集しつつ翌日には作業マシンがバージョンUPし、採集データはすべてのコロニーに配布される。

 

「特殊な能力を持つマシンなど必要ないのです、既存の機械で十分に世界は発展しますよ。……戦争さえなければ既に火星開拓は始まっていたでしょう」

「とはいえその決断も、あの戦争がなければこう上手くはいかなかったでしょうけどね」

 完全循環型コロニー自体、以前から提唱されているものだ。

それが実現しなかったのは、単純に効率・利益の問題だ。

 

そんな物を研究するくらいならば、空気と水を買えば何倍も安上がりだという現実が問題になっていた。

近いが遠い残念な理想、それが実現したのはジオンが敗北したからだ。

この技術を研究し、仮定も含めてすべてを賠償として世界に提供するのである。

 

「時にネオ・マハル完成と共にソーラレイを引き渡す予定ですが……。アレを何に?」

 旧マハルであるソーラレイは、そのままネオ・マハルのインフラ代になる。

グラナダへのインフラ代を企業に売却して、二号基・三号基を建造する気だった。

この話をした瞬間に、ジャミトフがやって来ると聞いたのでガルマとしては気が気でない。

 

「マイクロ・ウェーブ送信機にでも改造して、ソーラーシステムともども火星に送ります。地球圏にあっても災いしか起こしませんからな。それと例の件はアナハイム以外にしていただきたい」

「了解しました。ハービックなりウェリントンにでも売りますよ。……しかしマイクロ・ウェーブですか」

 この頃にはガルマもジャミトフとメラニーが同窓であることを知っていたので、単純にライバル意識かと流した。

後にエウーゴが反乱を起こした時には、先に言っておいて欲しいと苦笑いしたものだが。

 

「研究中の外宇宙探査船ユリシーズには、専用の受信セイルを持たせます。十年もすれば火星までは直ぐそこに成るでしょう」

「火星は近く成りにけり……ですか。そんな時代が来る頃にはもう少しマシな世界になっていれば良いのですが」

 もちろんそんな筈はない。

お互いに肩をすくめながら公式行事を済ませ、それぞれ次の目的地に向かった。

 

 

「カムラ君。Hの評判は良いようだな」

「戦争に使われるよりはよほど効果的でしょう。……先日はご迷惑をおかけしました」

 キローンで研究主任をしているアルフ・カムラは、かつての縁でジャミトフを頼った。

彼も研究に携わったとあるシステムが、レビル閥に持っていかれたからだ。

 

それだけなら権力に逆らうことなどしなかったかもしれないが、少年少女で実験していると聞いていてもたってもいられなかったのである。

 

「気にするな。あの件では私も出遅れた。せめて犠牲者が無駄にならぬよう、公判では力を入れさせてもらおう」

「そうですね。私も Hermesの開発に全力を向けます」

 転生者とはいえ全ての記憶が残ってはいない。

また派生作品すべてを知らないことから、最初は何のことか判らなかった。

だが人体実験をしていると聞いて、レビル閥にトドメを刺すために尽力したのである。

 

(それに、ニュータイプ論争になるからな。専用チームのゴッドハンドも立ち上げたし、精々利用させてもらおう)

 レビル閥の政治家を叩く折に、初代大統領マーセナスの『私評』も使うことになっている。

初代大統領はニュータイプに好意的で、本当に居るなら政治的参加を呼び掛けても良いと思っていた……という論述を各地に用意したのだ。

 

公判までにそれらの一部が『発掘』されることになっており、本当にニュータイプがミュータントなら、大統領がこんな意見を友人と交わすはずがないという論を立てる予定だった。

実際、フラガナン研究所が本格活動をしていなかったこともあり、ニュータイプの戦術利用は沈静化することになるだろう。

 

「頼んだぞ。それはそれとして……例の物は?」

「こちらに。一個艦隊は優に賄える人物リストです」

 カムラが大統合型管理頭脳ともいえるHermesから取り出したのは、存在しない人物のデータだった。

演算させているので活動記録としては存在し、後に人物票を確認する際に、顔写真などを紛れ込ませれば整合性が採れることになってる。

 

コロニー再編計画は経済的な側面が大きく、完全循環型の建造に関われば優先的に市民権をもらえることになっていた。

デブリ掃除と並んで連邦管理の事業として大きな意味があるが、難民に人気が高いのはこちらである。

 

「しかし、この規模で必要なのですか? 情報部にしては規模が大きいと思うのですが」

「……例の件でこちらに付く可能性のある部隊があるとは思うが、場合によっては公表できん人物が居るやもしれんからな。他にも逃げたジオンの連中にも使える」

 人体実験をしている部隊があるとして、全員が知っているわけではないだろう。

しかし公表されれば処罰は免れない、その為に使うのだと、一応は答えておいた。

 

もちろん他にも利用するつもりではある。

例えばマハルといえば、その住人で構成されたシーマ艦隊などは、現在でも行方が分からない。

ジオンに忠誠を尽くすつもりとは思えないが、海賊をせざるを得ないのか、あるいはアナハイムに雇われたのかもしれない。

その時に切り札と成るとしたら、ソーラーシステムではなく、この登録データであろう。

 

●秩序維持機構ティターンズ

 来るべき近未来。

ミノフスキー粒子という夢の存在が、探知システムとエネルギー革命をもたらした。

エネルギーを封じ込めるその特性は、戦いは有視界戦闘を主と定めさせる。

同時にこれまでにない莫大な出力炉心を登場させ、戦闘マシーンや各種インフラに大いなる変化をもたらしたのである。

 

コロニー落下という大惨事を引き起こした大戦は、ロボット兵器であるモビルスーツの登場だ。

しかし戦争が終わってからは、完全循環型コロニーに外宇宙探査船用の炉心と、人類の発展に貢献した。

 

『世界は、優良種たる我らジオン公国国民の手に管理運営されて、はじめて永久に生き延びることが出来る』

『ジーク・ジオン!』

 世界征服を企むギレン・ザビの野望。

行く先はデストピアか、はたまた一握りのエリートが世界を握る独裁社会か。

彼らは同胞である他サイドの宇宙市民、あるいは味方であるはずのジオン軍ですら犠牲にして、野望を成し遂げようとしたのである。

 

これに対して立ち向かう地球連邦軍。

レビル将軍以下、将兵のおびただしい犠牲を払いながら、その災厄を封じることに成功する。

ギレンの野望に騙されていたジオン軍とも和解し、世界維持を成し遂げたのだ。

 

世界にようやく静謐が訪れた。

この地球の明日のために、否、すべてのサイドをも含めたこの世界のために。

二度とあの悪しき戦争を起こしてはならない。

 

よって、ここに我々、世界秩序維持機構、ティターンズは起つ!

 

『ジーン・コリニーの演説より抜粋』

 

 

「さて。我々は続々と加入者が増え続けるティターンズの一部門として成り立った」

「組織が増えれば無能な働き者や、裏切り者が一定数出るだろう。だが、私はそれを許容する」

「なぜならば明日を夢見る若者無しには、世界の発展は存在しないからだ」

「無能な働き者を許そう、裏切り者とて裏切るその時までは共に手を取り合おう」

「自らが望む、心の大いなる炎」

 

「それなしには世界は動かない」

「人がいずれ死ぬのであれば、夢見るままに死にに行こう。自らが描く大いなる炎を実現するために」

「エラン・ヴィタール。それこそが我らの哲学の図書館において、たった一つの共有財産である」

「進め、プロメテウスの子らよ。全ては、我々の大いなる炎のために!」

 

『ジャミトフ・ハイマンの訓示より抜粋』

 

 

 そして宇宙世紀0083.。

離れていく支持者、続々と国軍に復帰する兵士たちを前に、デラーズ・フリートは起ち上らざるを得なかった。

しかし一説には、一つの噂が誠しやかに囁かれたからだとも言う。

 

ギレン・ザビは死んではいない。

『エンデュミオーン』と呼ばれた施設(はこ)の中で、永劫の凍結刑に処されたのだと……メラニー・ヒュー・カーバインが語った。

 




 という訳で第一部完です。
一年戦争は終わり、その後を見据えながら予定を消化。

先にティターンズが発足し、デラーズ・フリートが後から宣戦。
星の屑作戦は形を変えて、エンデュミオーンと呼ばれる施設を巡る戦いが起きるでしょう。

●ア・バオア・クーでの顛末
 キシリアがレビル閥と取引しており、ギレンを拘束。
だがギレン閥を抑えきれず、デラーズに漏れて脱出時に砲撃を食らった。
護衛を務めていたマ・クベは、モビルフォートレス・ゾックで出撃するも戦死。
(早いうちに潜水艦隊が崩壊したので、初代コミック版の、宇宙用ゾックに乗っていた)

ギレンはカプセルに入れて引き渡されたので、その後は行方不明。
エンデュミオーンに幽閉され、地球連邦政府が答えに詰まると、その頭脳を利用するために凍結されているのだという。

●ティターンズ
 連邦内で人体実験を繰り返していた組織があり、ジオンの反乱分子ともども、対処すべく発足している。
よってジオン軍の中にも協力者がおり、超党派の秩序維持機構になった。

プロメテウスはその中の技術開発機構で、未来志向の技術開発を行っている。

●完全循環型コロニーと、サイド3への懲罰
 十基の初期計画のうち、サイド3のネオ・マハルを実験として利用。
その実験データは全てのコロニーの共有財産とされる。
また残りの九基は各サイド、および火星開発に用いられるとか。
(うち二基はエンデュミオーン戦役で奪われ、片方が消失している)

ソーラレイは連邦に引き渡され、テロの目標にされると面倒なので、改造されながら火星に送られることになった。
その後を追跡する艦隊があったとか、なかったとか。

●今週のメカ
『Hermes』
 統合型管理頭脳。
巨大な教育型コンピューターがペガサス級改キローンで実験され始めた。
本体が戦艦側に、子機がモビルワーカーやモビルスーツにとサイズが効率化した。
この成果でコロニー建設は、実に効率的になったという。

しかしこのコンピューターは、ミノフスキー粒子の中では使えないことになっている。だが、ウラヌス・システムとリンクすれば、情報収集機材によってその面はクリア可能。
本当の意味でミノフスキー粒子下で使えないのは、マキシマム化である。
最大化したヘルメスは、子機を処理用のサブシステムとして、統合型演算コンピューターになるのである。

ハーキュリーズ級二番艦ユリシーズ
 三胴艦で両舷に集光セイルとAMBACを兼ねた資源収集アーム艦が付属。
三本マストが美しい宇宙用帆船になるとのもっぱらの噂。
マイクロウェーブを受けて、少ない燃料で火星・木星へと移動可能。

ハーキュリーズ級四番艦キローン
 ペガサス改級で実験したヘルメスはあくまで仮設。
これを一から設計し直し、効率化したのがこの船である。
没収したペイルライダー・ホワイトライダー・レッドライダー、新造したブラックライダーの四機が主力。エンデュミオーン戦役では旗艦を務めたとか。


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作中メカニカル・デザイン集

●既存兵器

 一年戦争時に最も用いられた兵器。

ここではコリニー閥で用いられた物のみを挙げる。

 

『重爆撃機デプロッグ』

 新型の重爆撃機で、これまでのフライマンタよりも大きい。

その搭載量でモビルスーツの装甲を上回るように設計されている。

爆撃任務のために爆装を基本とするが、ガトリング砲や対潜装備にも換装可能。

 

A型:ガトリング砲

 地上での掃射用。

主にマゼラアタックなと相手の車両用だが、追撃時にはモビルスーツの相手も行う。

 

B型:爆弾

 通常の爆装。

基本的にはこの装備で納入され、他の装備は追加オプションになる。

 

C型:カーゴ

 プログラム制御のドローンを射出し、測距などに用いる。

一応はデータ解析も可能だが、基本的には母艦にそのまま送信。

 

D型:対潜装備

 最新の対潜哨戒機であるドン・エスカルゴのデータをフィードバックした物。

とはいえ探査能力は劣るので、爆雷で周辺を粉砕するという形になる。

 

E型:EWAC

 偵察能力強化型だが、重量・燃料の問題であまり使われない。

どちらかといえば、ジェット・コアブースターやGファイターとのオプション共有。

 

G型:SFS機能テスト用

 ドダイYSの再設計モデル。

ドダイをデプロッグで再現しただけで、テスト運用のみされたらしい。

輸送機を兼ねたモデルとしても考慮されたらしいが、そちらもSFSに譲っている。

 

『78式重戦車タイタン』

 融合炉搭載による大型戦車。

180mm低反動砲・220mmキャノン・60mm対空機関砲を換装できる。

制空権の下で使うことが多かった事から、後に新型のライフル砲に統一された。

センサーや制御システムなどは安価で、ヒルドルブというよりはガンタンクⅡの簡易型。

 

『試作型Gファイター』(読者的にはGディフェンサー)

 ガンダムを搭載、あるいは合体して戦闘が可能。

 製作順番の変更と大型化により、ガンタンクやガンキャノンも搭載できる。

前部分はセンサーや測距装置、後部分は砲門やSTOL噴射機として機能する。

実験機は二種類あり、合体変形をテストする物と、合体分離をテストする物が存在。

 

ガンタンクが合体する場合、下半身の戦車は本家Gファイターのキャタピラ部分を構成する。

この簡易変形を行うために、むしろGディフェンサーのような形状をしている。

 

『ガルダ』(読者的にはプチ・ガルダ)

 全長200m前後の大型航空母艦。

ミノフスキークラフトは自重を支える程度で、大気圏離脱は不可能。

ペガサス級よりも安価な地上用の母艦であり、ミデアの数倍の搭載量を誇る。

砲撃能力を備えた雄型は200mを越え、雌型は装備が貧弱だが輸送力重視。

 

『ペガサス改級キローン』

 宇宙戦闘での訓練用にコリニー閥が抑えたペガサス改級。

名称はギリシアの英雄たちを育てたセントール族の賢者キローン(ケイローン)の名前から採用されている。

後に大型の教育型コンピューター『Hermes』を搭載した。

 

『ハーキュリーズ級大戦艦』

 バーミンガムやドゴスギアに相当する三胴艦になる予定。

両舷に配した小型艦とドッキングして、様々な機能を使いこなす。

ギリシア最大の英雄ハーキュリー(ヘラクレス)にちなみ、最大で十二隻の計画だったが四隻のみ建造。

ドッキング機能を省いた一回り小さなテーセウス級の研究自体も始まっている。

 

『ハーキュリーズ級一番艦ハーキュリー』

 様々な武装を実験するための戦艦で、各所にドッキング用の器具がある。

重装甲で埋没式に稼働できる移動艦橋を持つが、実験用部位が問題視されて改修される予定。ビーム攪乱幕やI・フィールドを用いた防御艦ネメアー、電子戦用のハイドラとドッキングして旗艦機能を拡充する。

 

『ハーキュリーズ級二番艦ユリシーズ』

 三胴艦で両舷に集光セイルとAMBACを兼ねた資源収集アーム艦が付属。

三本マストが美しい宇宙用帆船になるとのもっぱらの噂。

マイクロウェーブを受けて、少ない燃料で火星・木星へと移動可能。

なお外部式大型砲はメガ粒子砲ではなく、採取した鉱石を加工し射出する大型電磁加速砲である。

 

『ハーキュリーズ級三番艦アキレース』

 三胴艦のシステムをフルに使い加速移動する、戦術機動艦。

大戦艦とは思えない機動力を発揮し、前線への高速突入・戦場迂回を目的とする。

この為に主砲は速射性を重視し、対空砲塔・アンチミサイル粒散弾もかなりの数に及ぶ。

四隻の中で唯一、外部式の大型砲塔を持たないモデルである。

 

『ハーキュリーズ級四番艦キローン』

 ペガサス改級で実験したヘルメスはあくまで仮設。

これを一から設計し直し、効率化したのがこの船である。

総旗艦であり大戦力のハーキュリーを容易く動かすわけにはいかないので、代わりによく見かけられる。

 

『マゼラドローン』(モビルスーツ版はデク)

 鹵獲した兵器に簡易コンピューターを備え付け、自動操縦で移動・射撃する。

とはいえプログラム通りにしか動かないので、地雷原を砲撃して薙ぎ払う程度の使い道しかない。

 

●特殊システム

 既存兵器でモビルスーツに勝ち、あるいは作業効率を高めるシステム群。

 

『ウラヌス・システム』(アフリカ用はラー)

 発光・発煙・音源による距離観測・風速の経過などを演算戦闘するシステム。

これをマーカーサインで後方に伝え、長距離砲で対空射撃を制限、その後に爆撃・撃ち下ろし射撃を行う。

後に情報部からのmap・地域情報などを入手し、より精度の高い管制ができるようになった。

地上限定ながら、ミノフスキー粒子の影響をかなり抑えたと言える。

 

『ウラヌEYES』(アフリカ用はメジェドの眼)

 演算システムとリンクした兵器全般の事。

発光サインや音紋を使用して通信を受け取ることが可能。

Gファイターのような大型マシン以外は、バイザーヘルムのような補助が必要。

このため、パッと見にはジムスナイパーやナイトシーカーのように見えないこともない。

 

『装甲コルベット』(試作型コルベット・ブースター)

 背中に垂直・足に横向きのブースターがあり、安定翼で架空フォロー。

足元からの攻撃を大型装甲版で防ぐタイプと、スキーのように横移動を重視したタイプが存在。

ブースターと足のブースターも装甲版も追加装備なので、必要になったら爆薬で外して戦闘する。

 

『Hermes』

 統合型管理頭脳。

巨大な教育型コンピューターがペガサス級改キローンで実験され始めた。

本体が戦艦側に、子機がモビルワーカーやモビルスーツにとサイズが効率化した。

この成果でコロニー建設は、実に効率的になったという。

 

しかしこのコンピューターは、ミノフスキー粒子の中では使えないことになっている。だが、ウラヌス・システムとリンクすれば、情報収集機材によってその面はクリア可能。

本当の意味でミノフスキー粒子下で使えないのは、マキシマム化である。

最大化したヘルメスは、子機を処理用のサブシステムとして、統合型演算コンピューターになるのである。

 

 

●モビルスーツ

 既存兵器重視なのであまり描写されてはいない。

 

『陸戦ガンダム水密仕様』

 陸戦ガンダムを改修して、ちょっとだけ本家に近い物になった。

といっても水中に入っても水漏れしないとか、センサーが多少良い物になっている程度。

 

『ジムコマンド』(局地適応仕様)

 とりあえず完成させた先行型に、色々とバージョンUPしたのが後期型。

一から組上げたのを、ジムコマンドや適応仕様と呼称する。

後のジムⅢが改修した機体と、一から製造されたヌーベル・GMⅢとで大きな差がついたようなもの。

 

『ジムライトアーマー』、[ヤザン・ゲーブル専用機]

 ヤザンの能力をフルで発揮可能な機体。

特に凄い能力はないが、武装ラッチ(Hp)など彼の好む戦術を一通り可能なように仕上げてある。

もちろん軽いので、Gファイターに搭載することも可能。




 という訳でオマケのメカ・デザイン集です。
あまり後書きに書き連ねても何なので、こちらにまとめてみました。

必要ないとは思いますが、ここに書いてあるネタは好きに使ってください。


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外伝:MK-Ⅱ計画

●Mk-Ⅱプラン

 次期主力たるモビルスーツ。

その選定は他愛もなく決まった。特に大した理由があるわけではない。

旧レビル閥が盛大に自爆したというだけだ。

 

人体実験が発覚し、その影響で幾つかの研究所……ニタ研系が閉鎖された。

ニュータイプ研究は頓挫し、巻き込まれる形でコンペディションが中止される。それでも形ばかりの会議が開かれたのは、それこそ形だけでも会議という形式が必要だったからに他ならない。

 

「どうしても核攻撃能力は持たせないと?」

「地上は想定外として、どうしてそこまで核にだけこだわるのかをお聞きしたい。宇宙ならば幾らでも方法があるはずだと思われるのだがね」

 新政府が発足されたばかりのダカール。

砂漠化が進むエリアに、新政府の首都がある。

 

 そこでの会議にてコーウェン少将の提案する、核攻撃を前提とした機体。

その護衛や、協力し合う形で展開する幾つかの機体を開発するという意見が却下されたのだ。

 

「ぐぬぬ……」

「とはいえ新型機の必要性は理解できる。先日没収した機体は、実は強化限界に達していた」

 表示されたのは人体実験施設で開発されていたペイルライダーというジムだ。

高性能なジム・スナイパーⅡを限界まで改造し、EXAMを改造したシステムまで搭載しようとしていた。

 

行われていた人体実験は、その機体に乗せるパイロットが保たないからだ。

ジオンから接収したニュータイプ研究もまた中途半端なものだったので、その研究を引き継ぐ形で色々とやっていたらしい。まずは身体能力の強化からという訳だ。

 

「戦後に完成したマグネット・コーティングに、ジオンから接収した技術や概念。それらに触発され新たに提唱された案。これらの集大成として新しいモビルスーツは必要だろう」

 サイコミュが実用化してないのは、戦争が早く終わってしまったからだ。

同じように連邦でもマグネット・コーティングが未完成だった。ペイルライダーが早くも限界に達しているのはそんな理由である。

 

「各コロニーの要求をかわし、軍の予算を確保する意味でも旧式のジムを輸出する予定だ。並行してV作戦に相当するプランを実行するとしよう」

「……こちらとしては異論はない」

 次期主力機は現行機をフル・リニューアルする。

妥当な案であり、コーウェン達も納得せざるを得なかった。

 

そして、次世代機開発が必要とされるのは限界が見えたからではない。

各コロニーの自治権要求の拡大に対しての誘導と、政府から繰り返し要求される予算縮小。この二つを叶えるために、旧式のジムを輸出仕様として売却する予定だった。

 

自衛戦力の許可は同時に駐留予算の圧縮にもなる。

とはいえ相対的な連邦優位を保たなければ、返って独立機運を高めることになってしまうだろう。第一次世界大戦後のドイツを例に取るまでもなく、手綱の緩め過ぎは逆効果だ。

ゆえに一刻も早い新型機が望まれていたのである。

 

「ガンダムの例に倣って試験機から簡略化するプランをコーウェン少将の元で、大型の試験機から徐々に小型化するプランを私の元で執り行うがよろしいな?」

「フン。……ありがたい限りだな。精々励むとしよう」

 旧レビル閥が自爆したからと言って、あまりに追い詰めては何をするか分からない。

そこでV作戦に則って検証するプランのみをコーウェンに許した。功績を譲られた形でもあり、彼は大きな顔ができない。

 

そして18mのまま試験を繰り返す難問のあちらと違い、ジャミトフはサイズさえ気にしなければ実現可能なプランを選択している。可能になった技術をコーウェンの方に投げるだけでも功績に成るのが大きな違いだ。

こうしてガンダム開発計画は形を変えながらもスタートしたのである。

 

 

「オーガスタに繋いでくれ。オークランドで拾ったアレの件だ」

 そして『別件』の処理をコネのある研究所に依頼しておく。

オーガスタ研究所は人体実験が行われた場所にあり、ジャミトフの肝入りでプロメテウスの監視下にあった。

近い位置にあるオークランド研究所と共に、開発内容は管理されている。

 

『私にやらせるという事は、モビルアーマー形態をメインに据えて、飛行システムの研究に使っても構わないのだろう?』

「そうだ。アッシマーは適当に完成させておいてくれれば構わん。変形機構なぞ飾りに過ぎん」

 連絡を入れたのは療養中でもあった天本教授である。

彼は似たようなモノを作り上げた実績があり、その研究を片手間に活かすだけのことだ。

 

「飛行システムの確立が最優先。ミノフスキークラフトの小型化とマイクロ・ウェーブの受信実験はできれば……というレベルだな」

 連邦軍主力はガンダムであり、ジムの軍勢だ。

だがジャミトフは、アッシマーこそをプロメテウスの主力に考えていた。正確にはその変形機構を省いた飛行マシンである。

 

治安維持の観点を考えれば、ヘリの延長上にあるのが望ましい。

一年戦争の経験を踏まえても、モビルスーツは空にある機動目標を苦手としていた。

その意味で陸戦兵器の先達である、戦車と同じような欠点を抱えているといえるだろう。

 

『……しかし私がマイクロ・ウェーブの研究者か。ふふふ』

「そうだ。貴様の才能は世界をつなぐ架け橋を作る事こそ相応しい。『スダルシャナ』が完成の暁には火星進出は目の前だ」

 飛行能力重視のアッシマーが、火力に欠点を抱えているのは判り切っている。

そこでマイクロウェーブで母艦からエネルギーを送信できれば、推力上昇にしろ、大型火器にせよ向上するかもしれない。

 

だがその真価は人類がさらに一歩、宇宙に向けて進出するためのエネルギーだ。

ソーラレイとソーラーシステムを組み合わせた、長距離エネルギー供給システム。それがあれば、火星への移動が楽になるだろう。

木星のアステロイドに逃げ込んだジオンの残党など、その延長上で滅ぼせる。

 

『どこまで保つか知らないが、せっかく拾った命だ。楽しませてもらうことにしよう。我々の大いなる炎のために』

「我々の大いなる炎のために」

 通信はここで切れるがその意志は途切れることはない。

お互いの考えていることが異なろうとも、目指す方向が同じであれば問題はない。

 

己という絵筆をもって、世界を描き切る。

それこそが二人にとっての共通項なのだから。

 

●テスト・マシーン

 連邦各地で行われていた開発は一本化された。

研究自体は分散しているが、情報と成果は共有されて新型機開発に充てられている。

 

サイド6に作られたこの臨時拠点もまた、その一つだった。

バンチの一つを丸まる借り上げ、そのまま住民たちに賃料を支払っている(支援金と相殺だが)。

 

「早くオレの機体こないかなあ。連絡入れてみようかなあ」

「あんまりシューフィッター達を急がせ過ぎると、あいつらみたいになるぞ? ゆっくり待っておくんだな」

 シューフィッターというのは初期機体の調整を行う専門家のことだ。

この拠点に配属される機体は新造が多く、彼らの調整を経て満足のできる仕上がりになるといえるだろう。

 

「せっかくテストパイロットに成れたっていうのに、試験機はアレで、警備用の機体で我慢しろっていう話じゃないですか。早く乗りたくてたまらないんですっ」

「ははは。話が違うってか? まあ一人一機もらえんのもこの基地くらいってな」

 モビルスーツというのは貴重品で、かつ、人間は疲労する存在である。

ゆえに並みのパイロットは数人で一機を交代で使用する。一人が一つのシートを占有できる腕前になって初めて、パーソナルカラーが許されるのだ。

 

「士官学校出たばっかの新米が即エース扱いなんだ、我慢しておけ」

「そりゃあヤザン大尉ほどの腕前なら、いつもで機体の方から大歓迎なんでしょうけどね……って。うん?」

 新人パイロットを物色しているヤザン・ゲーブルだが、強面に反して面倒見がよかった。

自身のワイルドな戦闘方法にこだわることなく、新人たちには丁寧に基本を教えてくれる。その上で、個性にあった操縦法を一緒に考えてくれるので、上官から煙たがられる反面、部下からは慕われていた。

 

そんな彼らの元に、不意のお客が訪れる。

その姿は華奢で、とうてい軍務には関係がなさそうに見えた。

 

「君は?」

「取材に訪れました。この基地を案内していただけませんか? この通り、許可は得ています」

「カレン・ラッセルさん……ねえ」

 記者というには若い少女。

プレス・ナンバーと許可証を読み上げながら、ヤザンは頭をかいて苦笑した。

 

男よりも女の方が好きだが、彼の趣味から言うと若過ぎる。

それに今は『使える』部下を物色してるところだ、隣に居る新米パイロットのように、アクセルをベタ踏みできる若者の方がいじり甲斐もからかい甲斐もあるだろう。

 

「少尉。君がこのお嬢さんを案内するんだ。怪我してるあいつらの所にでも顔を出しとくよ」

「ヤザン大尉! それはないですよ! シミュレーションに付き合ってくれるって言ったじゃないですか!」

 気が付けばヤザンは手を振って付属の施設へ向かう所だった。

 

とり残される二人だが、黙っているには世界は広すぎる。

 

「OKかしら? それと私は名乗ったんだけど」

「ああ、ごめんごめん。俺はコウ・ウラキ。見ての通り新米だけどテストパイロットで……今は君の案内人(エスコート)さ」

 カレンと名乗った少女に、コウはトホホと肩をすくめた。

記者というには少女が若過ぎることから、金持ちの道楽なり訳アリなりを、上から押し付けられたのは間違いがない。

 

それが判るくらいには頭がよかったし、そもそも悪かったらテストパイロットには成れない。

呑気なように見えるが、テストパイロットと言うのは将来を嘱望されるエリートなのだ。

 

「それで、ウラキ少尉はどこへエスコートしてくださるの?」

「んー。とはいっても、ここで案内するところは一か所と一人しかいないよ。ちょっと前まではスダルシャナのテストしてたんだけど」

 コウはカレンを案内して無重力ブロックに向かった。

そこに案内すべき『一つ』が存在するのだ。今となってはこの拠点で、唯一と言っても良い見るべき何かだと言えよう。

 

「スダルシャナっていうと、あのマイクロ・ウェーブ試験の?」

「それが判るってことは、あながち無関係な人でもないのかな? まあ、そうなんだけど、宇宙試験を終えたらさっさと出て行っちゃったよ」

 何気ない会話の中で二人はお互いのことを理解した。

コウはカレンの知識が存外に深い事、カレンはコウの頭が鈍くないという事をだ。

 

お互いに相手のことが理解できたところで、見えないチャックを口にしておくことにした。

 

「ここって無重力ブロック?」

「そうだよ。なんたってここにあるのは身の丈40mの大王様さ。迂闊に動かせないから、テストパイロットといっても開店休業中でね」

 40mのモビルスーツと聞けば、黙っていようと思った好奇心がむくむくともたげてくる。

とはいえカレンも馬鹿ではない。ちっとも隠そうとしない姿勢に、欠点どころか何かしらの問題があることを悟った。

 

そしてディスプレイではなく、窓ごしに見え上げる巨人を見て即座に理解した。

 

「テストベット……なの?」

「そうさ。こいつはモビルスーツっていうよりは、いろんなテスト用の機材でね。まずは大きなサイズで壊れないように実験してるってわけ」

 無重力の中に浮かんでいるのは、地球で動かせば自重で潰れそうな機体だった。

鈍重そうな体格に、一応といった風情で装甲ならぬガワが貼ってある。

 

その内外に色々なパイプやらコードが繋がれ、試験室にデータが送られているのが見えていた。

特に目を引くとしたら、四肢の中心線にある、見たことのない内部装甲である。

 

「あれ何? 見たことないんだけど」

「インナーフレーム。内骨格ってやつさ。ここで得た成果をコーウェン少将の開発計画に送ってるんだって。ガリバーというより、後から学ぶ者(エピメテーウス)ってやつかな、こいつは」

 暫く見ていると、四肢がフレームと共に挙動している。

その動きはダイナミックで、これまでにない力強さを秘めていた。新型の炉心あってのことだが、そちらについては黙っておく。

 

とはいえ装甲もなければ、歩くだけで壊れそうな機体である。

ガリバーよろしくコードやパイプでつながれている姿もまた、なんとなく強さよりもヒョウキンさを物語っていた。

 

「ふうん……」

「もちろん意味は大きいんだぜ? 実際、こいつのおかげで十年は掛かる研究が一年で進んだんだ。コーウェン少将の所じゃ、追いつけ追い越せってなんとか20mサイズまで必死で縮めたってさ」

 考え込むカレンの姿を見ながら、コウは先々と話し続ける。

これでも一応、興味ない相手の反応は判るつもりだ。というよりも、興味のない人間につまらなさそうに返事される事ほど悲しいことはない。

 

「垢ぬけない新人少尉さんかと思ったけど、意外と見てるところは見てるのね」

「くっ……。垢ぬけなくて悪かったな」

 微笑むカレンに対し、コウはバツが悪そうにして苦笑した。

この少女はどこかのお嬢さんなのか、身綺麗で顔つきもかわいらしい。それに対して士官学校を出たばかりの彼が垢ぬけないのは確かだ。

 

「ごめんなさいね。私、嘘付けなくて。でも案内すべき相手の所には連れて行ってもらえるんでしょ?」

「そりゃ仕事だからね。残るは、あそこに居るローレン博士だよ。研究に熱心過ぎる以外は普通の人……かな」

 コウは途中で言葉を濁したが、これは黙っているべきだと思ったわけではない。

ローレン・ナカモト博士のことは、オーガスタ研究所がプロメテウスに接収された時に、一緒に吸収された人材……としか知らなかったのだ。

 

その後にここに来たらしいが、偏屈な以外は普通の人間だった。

同じ学者でもしばらく前に移動した天本博士の方は、天才肌で付き合いにくい人間だとハッキリと判るのだが。

 

「ナカモト博士、失礼します。記者の方が見学に来られているので……」

「おお! 君からもジャミトフ閣下に言ってくれんかね? サイ・コミュニケーターはまだまだ可能性があるのだということを!!」

「あ、あの……私にはそこまでの力は……」

 博士が掴みかからんばかりに近寄ったところで、カレンは思わずドン引きした。

その様子に博士もマズイと思ったのか、ゴホンと咳払いして元居た場所まで下がった。

 

「とにかくアレは素晴らしいものだ。機会があったらで構わないから、頼んだよ」

「あはは……。その時があったら、ですけれどね」

 苦笑しながらデータルームを後にする。

 

途中で博士の研究分野が、駆動系と密接に繋がったOSだというところまでは足早に話した。

 

「サイ・コミュニケーターって?」

「良くわからないけれど、脳波で動かそうという試みらしいよ。オレ達にはよくわからないし、そもそも中止命令が出てるしね。まあ博士としてみれば、研究対象だから続けたいんだろうけど」

 そう言いながら、コウは二つの石をその辺で拾った。

片方の石を動かしながら、こういう風に動かすと考えたら、もう片方が本当に動くのだと簡単に解説する。

 

夢のような技術に見えるが、先行して開発していたジオンでも成功していないのだ。

いかに連邦の基礎技術が高かろうとも、そういった分野にまで応用するのは難しいだろう。

 

「ジャミトフ閣下はその辺を簡単に把握してたな。博士は理解者が現れたと興奮してたけど、そっけなく断ってたから、ありゃ望み薄だと思うね」

「あんまり気にしなくてい良いのは判ったわ」

 そういって二人は食堂で近況を話し込み、お互いに当たり障りのないことを話して今日の案内を終了する。

 

「少尉さん、今日はありがとう。また案内してくれる?」

「その時にオレが暇だったらね。……まあそのころには、新型のジム・カスタムが来る予定だと……いいなあ」

 こうしてカレン・ラッセルと名乗った少女のレポートは終わった。




 という訳で、モビルスーツ開発関連の話です。
本編には関係のない外伝の一つなのですが、何気に研究がらみの話を処理。

●連邦の新型
 ガンダム開発計画は、あくまでジム更新のための一環としてスタート。
MK-Ⅱを頑張って作って、それをV作戦の様にジムにフィードバック予定。同時にジャミトフさんはサイコガンダムっぽいサイズのテスト・マシーンで、技術を進歩させています。

0087付近まで完成しないはずのインナーフレームですが、40mサイズから始めるので、原作と違って強度不足で折れません。
これをコーウェンさんの所に投げるので、彼は余計なことを考える暇もなく、必死で20mで再現。18mはまだまだ遠いなあと頑張っているところです。

●プロメテウスの新型
 アッシマーのMA形態のみを採用。
円盤型飛行機に、AMBAC用の四肢を付けて完成するだけの代物です。
上に一機乗っけられるだけの余力を前提に、長時間空飛べることが唯一の利点。基本的にはジムを併用します。
まともに戦えるSFSというか、戦闘機の一種というか微妙なところですね。

アプサラスを連邦の技術で作ったテスト機と、量産用の機体に分かれる予定です。
テスト用の大型機がスダルシャナ、量産型の普通サイズがホルスという名前に成る予定。
スダルシャナにはマイクロ・ウェーブが照射できますが、さすがにホルスには無理だった模様。

●ニタ研
 オーガスタ研究所での人体実験が判明したので、ニタ研系は閉鎖して既存兵器系に吸収。
後押ししていた旧レビル閥は大変な事になっています。とはいえ素直に解散させても他が伸びるだけなので、コリニー閥が吸収合併しております。

●スダルシャナ
 太陽の戦輪。そう呼ばれる研究。
モビルアーマーの名前であり、ソーラレイとソーラーシステムの共同施設。
マイクロ・ウェーブ送信機であり、完成したら火星へ行く途中の場所に送られるとか。
十年もしない内に大戦艦が外宇宙探査船として建造される予定なので、アクシズの人たちは戦々恐々としています。

同じ名前でアプサラスの連邦版も研究が進んでいます。

●世情
 税金とか関税とかを公表し、優良コロニーはジムを自衛用に購入できる特典を発表。
連邦の方から開放路線に踏み切ったので、独立支持派は梯子を外された格好です。
とはいえそのままでは本当に独立されてしまうので、連邦軍を強化しつつ、支持率を上げているところ。
感覚的に言うと、「あれ? いま独立するよりはしばらく様子見て、数十年後まで待った方がいいんじゃね?」と思わせる路線になります。
まあそれで本当に独立するならば、いまごろはアメリカ・中国みたいな大国がとっくに独立しているはずなのですが。

●ローレン・ナカモト
 同じラベルを使い回す、同名別人の研究者。
亡命者だったり、連邦内の極論な人だったりと、いろんな人間がこの名前を利用している。

……という事にします。
色々と面倒くさい人なのですが、転生者であるジャミトフさんが知識チートで「こんなんやろ?」と説明した瞬間……。
こんな所に理解者が居た!? と忠誠を誓っている模様。まあ連邦でちゃんとサイコミュ想像できる人がいないから仕方ないね。

●カレン・ラッセル
 金髪のおんにゃのこ。
ティターンズが何を隠しているか探りに来たようです。
まあ簡単に言うと、今回の説明役です。

ちなみにサイド6の施設は、基本的にオープンな表情報しかない案内用の場所です。


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外伝:ジャミトフ暗殺計画、前編

 眼下に広がる光景を眺めて、連邦の閣僚であるローナン・マーセナスは頭を抱えた。

どうしてこんな事になってしまったのだろうかと、思い返せば理由は明確だ。

 

随分前の会議で起きた、売り言葉に買い言葉が問題だったのだが、それは今でも思い出せる。

ジオンとの交渉で要塞を返却するという、気前の良いところを見せたジャミトフに他の政府助言役(ブレーン)が噛みついたのだ。

曰く、ジオンが再び歯向かって来たらどうする気かと。

 

「我々の英知が結集すれば要塞ごとき、一つや二つ、落とすのは容易い」

「それほど自分に自信があるならば、今すぐダカールを緑化して見せろ!」

 大言壮語と思って反論しようとし、今や連邦軍をコリニー閥が掌握しつつあることを思い出したのだろう。実質的に動かしているのはジャミトフであり……彼ならば本当に要塞を落とせる。

 

そう思い直して不可能そうな要求を叩きつけた。

 

「ダカールの緑化か。それもまた、よろしい」

「吐いた唾は呑めんからな!」

 まさに売り言葉に買い言葉なのだが……。

ジャミトフの返しはまるで悪魔の軍団長の如き笑みだった。

 

そして今眼下に広がる光景は、本当に緑化してしまったダカール『郊外』だ。

都市計画で街中を緑化して誤魔化すのではなく、砂漠化しつつある周辺区域を丸ごと緑化してしまった。

 

「まったくどんなつもりで……。いや、どんな魔法を使ったのか聞いてみたいものだね」

「面白そうと思ったのは確かだが、連邦が本気を出せばどこまで可能かを示せると思っただけだ。まあ手段の方は昔からの智慧だよ」

 そもそも連邦政府の首都をダカールに提案したのは、地球の荒廃を憂いてのことだ。

何度も映し出される政府権力の象徴が、徐々に砂漠化しつつある。

 

その事実をもって、地球に窮地がやって来ていると喧伝しようとしたのだ。

なのにこの男は、自分の手腕を見せる舞台にしてしまった。

 

「なぜ暑い地方では地下水路(カレーズ)があるのか、なぜ寒い地方では浅く広い水路なのか。すべて温度だ、熱風が問題なら風向きに対処すればよろしい」

「そんな事は百も承知だよ。それでも不可能だったはずなのだが……」

 ローナンはテーブルの上に投げ出されたオムツを見て苦笑する。

緑化の主要因はオムツの仲間である、水を定量保全するポリマーを砂や乾いた土の中に混ぜただけだ。

 

それは風で飛んでいく砂をある程度は固定する機能も有する。

暑さ対策というが、コロニーの落下で温暖化自体は終了したのだ。地水火風の全てに問題なければ植物が育つのは道理であろう。

 

「誰もこの規模でやろうと思わなかっただけだな。いや、存在しなくはないか。二十一世紀の中東で実現した極東人が居たらしい」

「その辺りを調べたのならば言いたいことも判るだろう? 身の回りには注意した方がいいぞ」

 その人物のことをローナンも知っていた。

山から吹きおろす風が熱風で、それが問題だと気が付いて防風林を植えることで水路を守ったのだ。

 

国一つを緑化することに成功し、帰京するのではなくそのまま在住して食糧問題に手を付けた。

水源や緑化問題で最大の問題は……現地民の手綱を離したことによる食料・経済事情だ。砂漠化する理由の半分が人災と気が付いて、焼畑や放牧以外の方法で改善しようとしたのかもしれない。

 

「ん? あそこで働いている連中の半分はサクラ(・・・)だよ。この辺に縁故のある兵士を『両方』から借りてきた。いまだにガーベイをやった犯人がどうなったのかを聞かれるのだがね」

「そこまで首を突っ込んでいるなら自重して欲しいものだな。孫ができる前に頭が剥げそうだ」

 緑化が成功したとしても、森を焼かれて草木を家畜が食い荒らしては何にもならない。

だからこそジャミトフは、連邦とジオンの双方から土地勘のある者を借りていた。サクラたちに地元民の意見を誘導させたのだ。

 

難民に仕事を教えて地下水路(カレーズ)や防風林を築いたというのは半分くらい嘘である。

集まった人物の内、本当の難民は半分ほどだ。かなりの数が経験者(サクラ)であり、そのまま宇宙移民になることを納得したというストーリ-仕立てで宇宙に帰っていくのである。

それに釣られる形で我も我もと頑張っている地元民こそ良い面の皮だ。

 

「安心すると良い。君も息子も禿げ上がらんだろうよ。まあ意中の女性を口説けるかは別だがね」

「余計なお世話だ。胃腸薬が手放せなくなった身にもなってくれ」

 そう言いながらローナンは先ほどのジャミトフの挙げた企業の名前を思い出す。

ガーベイ・エンタープライズは中東に根を張る企業『だった』。過去形なのはジオンや連邦の名前を騙る集団に虐殺され、戦後は敵国に協力した企業として財産を没収された。

 

人体実験問題などで連邦軍の手綱を引き締め始めたジャミトフが、その問題に気が付いた時はもう遅かった。

アラビア半島に棲む家族や近隣住民だけではなく、他の地域に居た社員の多くもまた、宇宙に強制移民させられていたのである。

 

(忠告はしたぞジャミトフ。もっともお前に待っているのはテロではなく、査問会だがな)

 ローナンは彼が逆らえない筋からの強い要請もあり、幾つかの手筈を整えた。

ジャミトフが利敵行為をしたのではないかという証拠や言動を集め、特に真実性の高い物を序盤に集めたのである。

査問会は多くの識者を集めた半公開式の物だ。仮に作戦上は仕方ない物があったとしても、守秘義務があるゆえに多くを話せないだろう。

 

そうなれば査問であって軍法会議である以上は、罪に問われることはなくとも、政府内外での『印象』は悪くなる。

今後はジャミトフの手にある多くの権限が抜け落ちていくことであろう。

 

もしローナン・マーセナスが人の良い、ある種、騙し易い人物であるとするならば……。

この要請の企図した結果が、査問会による懲罰や牽制だと信じてしまったことだろう。

その要請を行った人物の目的は、もっと別の所にあったのだから。

 

●ジャミトフ暗殺命令

 隕石やデブリの漂う暗礁区域に輝くモノがあった。

故国が偽りの光で明るく輝いていく中で、彼らは暗く燻り、兵士たちが続々と足抜けしていくのを見ているしかなかった。

 

その中で、『彼』は大いに輝いていたのだ。

一枚のポートレイトと共に。

 

「こっ。これは……まさに我が総帥閣下! これは本当なのだな、ネイアス卿!」

「本当です。入手するのに手間は掛かりましたが、まさしくギレン閣下は生存しておいでです」

 エギーユ・デラーズは声を抑えるのに失敗した。

禿頭には脂汗が滲み出て、この情報を信じて良いのか、それとも飛びつくべきなのか迷っていた。

 

心情からいえば今すぐにでも動きたい。

しかし、彼はこの拠点、『茨の園』の将なのだ。嘘かもしれない情報に踊らされて同志たちを失う訳にはいかない。

まして、情報を持ってきた人物が問題だった。

 

「私としては信じたい。しかし貴殿は……」

「私がキシリア機関に所属していたからですか? それはあくまで任務上のこと。それに……キシリア閣下は既にお亡くなりではありませんか」

 ネイアスという名前も偽名だった。

この男は同じ親衛軍ではあったが、軍籍……いや派閥としての席はキシリア機関に所属していた。

 

腕も立つが弁も立つ、これまで幾つかの問題に問われながら巧みに逃れている。

悪辣な手段を使うことが有名で、蠍などと呼ばれていた。そもそも戦後にどこに隠れていたかも不明なのだ。

 

「閣下に含むところがあるならば、個室に通された時点でいくらでも可能です。それとも……。任務を強制された上にアサクラなどの言葉を信じ、仲間から切り捨てられた海兵隊と同じように見られますかな?」

「うぬぬ。それを言われると立つ瀬はないな」

 ネイアスはここに来る時点で、周囲から嫌われている海兵隊の実情が流れるようにしていた。

毒ガス作戦を行えと言われ、断れば軍令無視で処刑もあり得る。従えば従ったで庇われることなく汚名を着せられたまま。戦後に至っては、上司のアサクラが知らぬ存ぜぬを通したせいで彼女たちは宇宙のカゲロウと化した。

 

それにそもそも、デラーズはキシリアが裏切ったと知った時点で処刑命令を出した立場なのだ。

内部にいる派閥の者に働きかけ、それが失敗されて脱出されると、乗っている船を撃沈した。

キシリアの反乱が明確になる前からザビ家の一人を殺し、現在のジオン残党の不遇を作った責任もあった。

 

「ギレン閣下さえご無事ならば幾らでも立て直せる。そのために我々は一致団結するということで良いな?」

「その通りです。……ギレン閣下ですが、連邦のジャミトフ・ハイマン指導の下、『エンデュミオーン』という施設で凍結させられていることがハッキリとしています」

 これまでギレンが生存して居ながら、そのことが知られていなかった。

それはつまり、形式上は処刑されたうえで、その足跡が一切不明だったからだ。

 

生きていれば食料その他は必要だし、立場や世間体を考えれば問題も出てくる。

特に一年戦争で何をやったかを聞き出し、あるいはその名前や知恵を利用しようとした場合、ある程度は良い境遇に置く必要がある。

例えば現指導者であるガルマを脅し、あるいは協力しようとするならば、万全の状態で面会させる必要があるだろう。

 

月女神の眠れる恋人(エンデュミオーン)。痕跡が全くなかった理由が

、まさか凍結刑とはな」

「地上とも思えませんが、何かあった場合に意見を聞かねばなりません。それを考えると、あまり遠くではないでしょう。見つけ次第に救出作戦を考えるとして……」

 デラーズが混乱している間にネイアスは話を誘導した。

普段は聡明な漢であっても、エギーユ・デラーズはギレンに心酔しているのだ。

 

地球に残った残党軍が極度に疲弊し、追い詰められていく中。

全てを解決する窮余の一策として、ギレン救出に飛びつきたいのは当然のこと。

だが、ソレを直截に行うにはあまりにも時間が足りないし、情報も足りなかった。だからこそネイアスは情報を投げ与え、デラーズ自身の手で組み立てさせる。

 

「その前にジャミトフが居る以上は何もできません。彼奴を仕留めるか、できないまでも追い込む必要があるかと」

「とはいえ軍内部に引き篭られては何もできん。周囲を探ったうえで、何かのキッカケに付け込むしかあるまいな。成功すれば閣下の所在も自ずと明らかになろう」

 連邦軍の少将であり、中将になる頃にはポスト・ゴップの地位を有望視されている。

政府助言役(ブレーン)に収まっていることからも、既にその地位は安泰なのだ。

 

暗殺し難いと言えば、これほど難しい相手も居ない。

だが、逆説的に考えれば、ジャミトフの身に何かあれば、なかったとしても死んだ場合に備えて誰かに対応を尋ねる必要が出てくるだろう。

 

その意味で、捕らわれているギレンは良い相手だ。

活きて考える時間があるだけでも危険な相手だと思いもせずに、牢屋に居る囚人に面会するつもりで質問を行うだろう。

あるいは本当に確保できているか、確認をするだけでも構わない。

 

その為ならば、ジャミトフを暗殺しようとする試み自体は、単純だが無駄にならない一手であると言えよう。

 

「そうそう都合が良い機会などあるはずもありませんが、地方視察に付け込むとか、良いかもしれませんな」

「それこそ虫の良い話だろう。二手・三手を尽くして、初めて襲撃の機会が訪れるはずだ」

 デラーズは頭脳をフル回転させ、ネイアスの甘言を退ける。

だが彼は知らないのだ。これから行われる査問会で、ジャミトフの権限が大きく損なわれること。それに伴って、付けられている護衛が大きく減ることを……だ。

 

普段ならば最後まで、暗殺という手段に出ないかもしれない。

だが、千歳一隅の機会が訪れれば動いても良いと思うまでには考えていた。

 

(ククク。重要なのは、その態度だ。それさえあれば私は手下どもを操れる)

 嘘である可能性も含めてデラーズが熟慮する中、ネイアスは既に目的を遂げていた。

 

ジャミトフの周囲を探らせようとした部隊に寄生して、ネイアスは命令や物資を送り込む気だったのだ。

彼を操る背後は最初から、トカゲの尻尾としてデラーズ軍に目を付けていたのである。

 

●どこまでが作為か?

 査問会についてジャミトフがまったく気が付けなかったはずはない。

それでも実施されたのは、軍部ではなく政府のローナンが音頭を取ったから、対応よりも早かったからだ。

 

しかし何か対策ができたはずだ。なのに質問者という名の審議を掛ける者たちや、参考意見を述べる自称識者たちはそのまま。

唯一の違いといえば、内容が映し出される完全公開になっていたことだった。

 

「あの時点で連邦軍には余裕があった。あのまま攻めていたら勝てたのに、貴様が利敵行為を働いたせいだ!」

「そうはおっしゃいますが、私は政府の命令で場を整えたに過ぎません。軍人である以上、命令書が届けば従うのは当然だと思うのですが」

 戦争を中途半端に終わらせて、自分たちの派閥が勝っている間に戦争終結。

そういう理論に持ち込みたいのだが、コリニー閥自体に喧嘩が売りたいわけではないので無理だ。

だからジャミトフの方から、コリニーの命令だと言わせたいのだが、そうはいかなかった。

 

何しろジャミトフに転生した男は、自分が楽しくて世界を動かしているのである。

誰かに頼って、その場を切り抜けるなどとはもっての他だ。まして今は完全公開の討論であり、追い詰める為だけに精神的に追い詰められるわけでもない。ハッスルするなという方が嘘だ。

 

「しかし積極的なジオン討伐の意思を持っていなかったのは確かではありませんか? 私が人事異動を願った時、ジオンに対する攻撃的意思から着任を拒まれたような気がするのですが」

(この程度の男か。原作通り、代理指令でもしておればよかったものを)

 旗色が悪いと、変わって証人として立ったのはバスクだった。

彼を排除した時、理由は別の物だったはずだ。ジオンに対する恨みを抱きながら、それのみに徹することも、逆に覆い隠すこともできない男。

 

もしジオン兵を殺したいのであれば、暗礁区域なり木星の捜索でもすればいい。

あるいは最後まで隠し通して、徹底的に追い詰めることを探ればよいのだ。

 

なのに出世して権勢を求めるとか、本末が転倒している。

原作でも最大の功績とは、コーウェン旗下の艦隊を預かっておきながら、コリニー閥に尻尾を振ったことくらいである。ここで表舞台に出てきてしまっては、その使い道もできないだろう。

 

「選別に対する否定はしない。編成中だった部隊は意思統一に苦慮していた。軍令に対し大きく解釈されては困る。攻めるも守るもリモコン次第とは言わぬが、貴官の様に独自判断が大きすぎると困りものだからな」

「失敬な! 私は連邦の勝利のために動いたに過ぎませぬ。結果として成功した戦場もまた多いのですよ!」

 ジャミトフは当時貴重だった腕利きパイロットであるヤザンすら、尉官からの降格という懲罰人事で挑んだことを示す。

然るにバスクの場合、戦術の天才としての異名通り、大きな活躍をするも独断の動きが多かった。要するに、立て直しの最中であったレビル閥で独断専行を繰り返していたのである。

 

(さて、何処まで盛り返すべきかな? そろそろデラーズの反乱が起きる時世だ。積極的に関わって抑えるべきか、それとも暫く在野に籠って恩を売るべきか)

 一年戦争が終わってはや3年。

原作よりも早く戦争が終わって、十二月には交渉込みで戦争が終結していた。

戦禍もだいぶ異なるので、明確にそろそろだとは言えない。

 

だが、起きるとしたら怪しいのは確かだ。

ガルマが生存している以上は、時間が経てば経つほど残党軍は窮地に陥る。

それでなくとも外宇宙探査船という名目で、木星まで短期間で行ける船を建造しているのである。連中が何もしない可能性は低かった。

 

「軍務とあれば殺せ、巻き込んでも気にせぬのが軍人だ。だが民間人を巻き込んでしまった部下に『あと何人、あの子を殺せばよいのですか?』と聞かれて気分は良くなるはずがない」

「それこそ軍人が気にすることではありませんな」

 ジャミトフは一度権勢を手放すべきだと判断し、世情だけは味方につけておくべきだと判断した。

一度言ってみたかったセリフを交えつつ、相手に付け込ませる流れを作ることにした。

 

その為の、『公開』討論だった。

今、カメラが一同を映している。ジャミトフが苦労して民間人を守ろうとし、逆にバスクたちが平然と殺せと傲岸不遜な顔をしているのが映っているはずだった。

 

「軍とは必要なだけ勝ち、不要であれば動かぬ。殺せと言われれば敵軍を打ち倒し、守れと言われれば万難を排して民間人を守る。我らは民間人を巻き込まぬために苦心したに過ぎない。流れた血が少なかったのはその結果だ」

「我々があえて民衆を犠牲にし、兵士たちを死なせたと言うのですか! 」

 北米を交渉で取り返したのは、経済上やむを得ぬ算段だった。

あれ以上の損害は連邦政府の懐に直撃するし、冷え始めていた経済を活性化させるには、明るいニュースが必要だったのだ。

 

だが、それを公表する訳にはいかない。

守秘義務という物があるし、そんなことを口にしたら、今現在の連邦経済に少なからぬダメージが及ぶだろう。

だからこそジャミトフは流血の問題だと論を張り、バスクたちはソロモンやア・バオア・クーでの損害は、必要な物だったと述べているのである。

 

「その兵士たちの血であがなったソロモンを気前よく返還する必要はなかったでしょう! 交渉のためとしては大き過ぎる! あなたは利敵行為を働いたのだ!」

「血で贖ったというならば、ジオンこそ多くの血で贖った北米だと思うのだが。それとも何かね、北米を返還する彼らに担保の約束もするなと? サイド3攻めはまだ考慮中だったはずだが、もしや、そちらで交渉していたのかな?」

「物の穿ち過ぎだ! 下種の勘繰りは辞めていただきたい!」

 交渉という意味では、連邦政府に要請されたジャミトフは形式を整えている。

だが、旧レビル閥を中心にキシリアと行った交渉はどうだろう? もちろんあちらにも別系統で政府の要請があった可能性はあるだろう。

 

しかし、問題なのはそのことを隠してこちらだけを責めていることだった。

同じ条件で交渉と戦闘を織り交ぜていたのに、上手くやったジャミトフが責められて、下手を打った宇宙軍が責めるのはおかしいだろう。

 

「ジャミトフ君。その件は今は関係ない。無関係な話を持ち出さぬように」

「承知しました。お互いに、気を付けたいものです」

 しれっと相手にボールを投げ返しながら、ジャミトフは篭るべき場所を考え始めた。

罪には問わぬが、政府助言役(ブレーン)からの除籍、謹慎とは言わぬが地方に飛ばされておく必要があるだろう。

 

それを考えれば、今後に影響を与えることが可能かつ、何かあった時の誘導がし易い場所が良いだろう。例えば何かを開発しているだとか、例えば裏切り者が潜んでいるだとかである。

 

 査問を無事に切り抜けたものの、予想通りの流れで飛ばされることになった。

情報漏洩をコントロールするつもりでサイド6に赴任したジャミトフに入った続報は、暗殺のためにモビルスーツ隊が送られたという情報だ。

この流れを企画した男、メラニー・ヒュー・カーバインの目論見は、見事に嵌ったのである。




 という訳で、陰謀回です。

ジャミトフさんが孤立無援に陥り、テロ部隊が送られてきます。
次回は久しぶりの戦闘の予定です。

●ダカール緑化とサクラ
 ジンネマンがヒゲ面でターバン巻いて、俺たち難民ですぜ。
MS免許教えてくださるんですかい? じゃあ宇宙移民します。
「てめえら、迂闊に羊を増やして緑を食いつぶすんじゃねーぞ」
「へへー」

とか言ってるわけですね。
まあ言ってる方も、受けてる方もサクラなんですが。
ついでに衣食住に必要な連中の多くが、高額で雇われて移民していきます。

●エンデュミオーン
 月の女神が恋人を永遠に留めておくために、眠らせ続けてもらったという神話。
オリオン(オライオン)が殺された話も騙されたのではなく……。
力を付けるための呪術だった説もありますし、神話と言うのは怖いですね。

というのはさておき、ギレン閣下は情勢コントロールの為に凍結刑です。
ジオン残党が再興したら、条件として差し出したり、混乱の為に旗頭にしたり。
あるいは地球侵攻するという話が出そうなときに、あそこに居るぞー!
とかやるために、生かされていたようです。

●今週のメカ
 特にありません。
あえていうなら、バスクさんは高性能義眼で復活できたようです。
旧レビル閥でア・バオア・クー戦には間に合った模様。


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外伝:ジャミトフ暗殺計画、後編

●嵐の前の静けさ

 並べられた画像はどれもジムの物だった。

一口にRGM-79と言っても多数存在するが、無数のウインドウで画面がいっぱいだ。

 

「他の基地で見せてもらったんだけど、同じのばかりで良く分からないのよね。諸元がどうの言われても困るし」

「それは比べ方がマズイよ」

 カレン・ラッセルという少女に連れられて、コウ・ウラキはPXでテーブルを囲んでいた。

端末に表示されたのは画像だけで、さすがに諸元表まではもらえ無かったらしい。

それでも軍事機密の一種なので、凄い事ではあるのだが(回収を前提としているのかもしれないが)。

 

「この場合は来歴の方を並べないと。RX-78って判る? あれが高級車とか自家用クルーザーみたいなもん」

「ガンダムよね? 前に広報ので見たことあるわ。どこまで本当なのか知らないけれど」

 コウはニンジンが嫌いなくせに、キャロット・ケーキは食べるらしい。

カレンはくすりと笑いながら、彼の指先がジムの画像をクリックしていくのを眺めた。

 

スナイパーやストライカーといった判り易い物が省かれ、初期のジム『たち』だけが残る。

 

「初期ジムでもこのRGM-79[G]……通称、陸戦ジムはガンダムの予備パーツで作られたやつ。こっちのは同じ時期だけど、間に合わせのパーツで作った初期生産のジム」

「同じ時期だけど、性能が全然違うってことね。後から生産したのが適当に作ってないジムってことなのかな。あら、このケーキ美味しい」

 コウはガトー・ショコラとホイップクリームを追加したので、カレンも付き合ってカヌレとカタラーナ(固いプリン)を頼んだ。どうせ代用品なのだから、蜜蝋の触感まで再現しなくて良いのにと思ったのだが実に美味しい。

 

「もしかして、これ代用品じゃないの?」

「ジャミトフ閣下の趣味らしいよ。兵士には安くて幾らでも呑める酒を、技術者やパイロットには美味しいケーキをってね。えっと……後期型の話は半分正解」

 カレンはケーキを少し切って小皿で渡してやると、コウの方もショコラをくれた。

苦みの強い味は濃いチョコレートを使っており、コウは気が効かないのかクリームをくれなかったので、仕方なくカタラーナと一緒に食べるが、こちらもちゃんとした卵の味がする。

 

「最初に作ったジムを捨てるわけにはいかないからね。それを手直ししたのが単純に後期型、一から運用される場所も含めて考慮するのがジム・コマンドって呼んでる」

「そんなに違うの?」

 聞き返すとコウは笑ってケーキを指さした。

確かに同じケーキだが、コロニーで普通に売ってる代用品と、このケーキは随分と違う。

だいたい同じ味になるように仕上げられているし、店によっては材料も同じものを使っていることになっている。

 

だが、ここのケーキはちゃんと美味しく、パティシエとはいわずともお菓子つくりの得意なシェフが努力していることが伺えた。

 

「そもそも使う場所が宇宙か、それとも砂漠かで違うだろ? 装甲に穴を開けながらパーツを付け加えるための改造するのと、最初からそういう形状なのとじゃ全然違うよ。100kmの距離と道のりくらいの差があるよ」

「そういうモノなのかしらねぇ」

 コウは行儀悪くコーヒーで皿の上に地図を描いた。

一直線にA地点からB地点、次に曲がりくねって移動。

 

要するに途中で無駄が生じているという事なのだろうが、女の子の前で他の例えはないものか。

 

「そしてジム改ってのは、終戦までにエースの人たちがやった改造とか、上の人らが必要だと判断した改造をひっくるめて再生産したんだ」

「ふーん。コウが乗るはずの機体もそれなの? あのおっきなのかもしれないけど」

 話がそこまで来た段階で、コウは難しい顔をした。

ジム後期型とジムコマンドの間、ジム・コマンドとジム改の差。その三つの差は大きく違うと言おうとした段階だった。

 

「さーて、それは秘密。っていうか、まだ何をもらえるか聞いてないしね。ソレに……なんだって俺が君に解説しないといけないんだ?」

「そりゃ他の人じゃインテリジェンスを感じないもの。こんな美少女とお茶できて役得でしょ」

 どんな機体に乗るかは軍機なので教えられない。

ジムの解説だって、お偉いさんとのコネがあるような感じだったから、仕方なく応じたところがある(コウの趣味でもあるが)。

 

付け加えていうと、コウが受領するはずの機体は理由を付けて遅れていた。

それだけではない、友人であるキースが受領して、敏感過ぎるマグネット・コーティングで事故を起こし損傷したジム・カスタムの再調整すら遅れていたのだ。

 

ガンダム開発計画の先触れであるジム・カスタムは、これまでのジムと違い外部装備を大幅に強化されている。どのような不具合で故障したのか、どう再調整すれば問題が起きなくなるか調べるだけでも重要な事のはずなのに……。

 

「どうしたの? ボーっとして」

「ああ、ごめんごめん。大王様はユニット・ブロックのテストもしてるところでね、やっぱり乗れないんだ」

 カレンは冗談で自分を美少女だなんていったのに、コウが言い返さなかった事に驚いた。

確かにカレンは美少女だが、自分で言うような子ではないので、いつもならツッコミが入る。

 

少なくともこれまではそうだったし、いきなり話を転換するタイプではない。

どちらかといえばメカオタクなところがあり、一度始めた話がループすることもある。あるいは話してなかったスナイパーなりガンダムの話でもしそうだった。

 

カレンがコウの疑問に追いついたのは、研究所の見学中にサイレンが鳴り響いてからだ。

 

●ガーズ

 コロニー内にサイレンが鳴り響く。

外部区画で爆発が起き、小さく揺れるのが判った。

 

実験による大事故ではない、本来あり得ない筈の……敵襲である。

 

「MS-09を中心としたモビルスーツ多数! 敵襲です!」

「ジムの姿も見受けられますな。一個大隊は居ますか」

 オペレーターの悲鳴に対し参謀たちは静かなものだ。

それも仕方あるまい、ここには連邦の重要人物『だった』、ジャミトフ・ハイマンが居るのだ。ある程度は想像できたことである。

 

「こちらは増強中隊といえば聞こえが良いですが、調整待ちで定数を割っています」

「理由を付けて納品が遅れたからな。まあ、だからこそ読み易かったが」

 研究所には余計な目がない方が良いので、元の守備兵が少ない。

それでも新型に乗った精鋭が詰めているのは流石だが、露骨な妨害により戦力が低下していた。

 

「閣下、どうなさいますか? 脱出されるならば早い方が良いと思われますが」

「馬鹿を言え。せっかく盛り上がって来たのに逃げられるか。それにお客さまを出迎えねばな」

 周辺地形は勝手知ったる宙域で、研究所を設立する段階で守り易い場所を選んでいる。

だから援軍が来るまで守り切れなくはないが、戦力比を考えると少々微妙であろう。

 

ゆえに逃げるのも手ではあるが、幾つかやっておかねばならぬ事があった。

 

「ローレンとカラバの小娘はどうだ?」

「ナカモト博士は実験機を逃すべきだと言っています。閣下もお逃げくださいと」

「娘の方は見学中だったようですが……この様子だと本気で怯えていますね」

 ローレン・ナカモトは資料を集める指示を出し、テストベットに装備を設定できるかを尋ねているところだった。

 

カレンはカラバから送られたスパイだと判っているが……。

どうやら怪しげな研究をしていないか監視する程度らしい。心底驚いている姿が見受けられる。その様子からは演技や、『まさか自分がまきこまれるなんて』といった驚きはない。

 

注目していた二人の動きを見て、ジャミトフはフンと鼻を鳴らして宙図を見渡した。

逃げるとしたら味方が居るであろう他のサイド6コロニー群の方か、ヤザン達が訓練に使っているデブリや隕石群のある場所だ。

 

「今の時期だと隕石群がコロニーに近いな」

「はい。脱出するには打ってつけです。どちら寄りでもコロニー駐留軍と合流できるかと」

 隕石を盾しても、紛れても良しと脱出し易くはある。

だが、襲撃者がそんな都合の良い時期であることを見逃すだろうか?

 

そして、黒幕が本当に不確定な方法を選ぶだろうか?

むしろ誘導でしかないように思える。その気になればコロニーごと爆破できるアナハイムが、ジオンや独立主義者の名前を使っているのではないだろうか。だとしたら迂闊に近づくとドカンだ。

 

「大根役者を使ってかき回してやるとしよう。民間人保護の理由を付け試験機に小娘を乗せて逃がせ。その間に歩兵を使って向こうの発着ベイ辺りで爆薬を探させろ」

「了解しました。迎撃へのテコ入れはいかがいたしましょう?」

 カレン・ラッセルことベルトーチカ・イルマは、念のために送っておく程度の連絡員だろう。

そう判断するならば逆利用できる。例えばジャミトフが悪事を働いていないなどだ。少し怪しいが暗殺されたと偽報を流す場合だ。

 

対して警戒が必要なのはローレンの方だ。

実験機とジャミトフがセットで移動したら、隕石群から敵の伏兵が飛び出るなり、コロニーにミサイルが飛びかねない。

 

ゆえに実験機を逃がして様子を見つつ、自分よりも民間人保護を優先するという権力者がやらなさそうなことを見せつけておく。ローレンがスパイならばアテが外れてガッカリするだろうし、ベルトーチカが単純ならば善意でも抱いてくれるだろう。少し怪しいが暗殺されたと偽報を流す場合は、悲しんでれるかもしれない。

 

「ヤザンは何時でも出れるのだな? ならばよい。それと手の空いているミッシング・ナンバーは誰が居る?」

「お屋敷にBが、ヤザン隊にFが居ます」

 ミッシング・ナンバーというのは公表できないエージェントのことだ。

死亡扱いの連邦兵や、ガルマから借り受けているジオン側のエージェントになる。アルファベットは特技や特性を指しており、ジンネマンであればCという感じだ。

 

戦闘執事(バトラー)か。……G-3を与えてコロニー内を制圧させろ。こちらから打って出るのだ」

「G-3ですか? マグネット・コーティング等を試す為にレストアしましたが、調整もしてない旧式ですよ?」

 RX-78-3、通称G-3ガンダム。

最後に残ったガンダムだが、当時から実験機として使われていた。

成果を乗せたアレックスが製造されて以降、いろいろと旧式のまま放置されており、マグネット・コーティングを試すために、このあいだ組み合げ直したばかりだった。

 

「構わん、奴ならば使いこなす。それとヤザンには好きにやらせろ」

「了解しました。アッシマーの使用許可込みで全兵装の許可を出しておきます」

 この拠点の正規兵力は中隊規模に落ちていた。

だが先のG-3や、宇宙適応型のテストに持ち込まれたアッシマーがある。

中隊の中にヤザンが構築中の精鋭部隊が居ることを考えれば、不正規の大隊ごとき何とでもなろう。

 

それがジャミトフの算段であり、自らが逃げ出さずに特等席で観覧する理由だった。

その意味ではテストベットを動かすことでベルトーチカを逃がすことなど、プロパガンダの一種に過ぎない。多少の危険でカラバの関心が買えるならば、実に安い物だ。

 

 

「大尉がアッシマーを使用されないのですか? しかも元とはいえジオン兵なんかに……」

「あいつが一番使いこなせるからな。それにモビルアーマーであそこに飛び込むイカレはそうそういねーよ」

 ようやく三機で一個小隊の旧編成が二つ。

それだけしか居ない手持ち戦力にヤザンはそれなりに満足していた。

 

「なかなかできる事ではありませんよ大尉……」

「悔しかったら腕でも磨くんだな。お前さんがあいつより強く成ったら、アッシマーのシートをくれてやるよ。ムラサメ少尉」

 何しろムラサメ研究所で拾ってきたこの強化人間が、隊で一番下なのだ。

接収される前は周囲からバケモノじみた目で見られていた彼が一番未熟、それほど整った部隊である。満足するなという方が嘘だろう。

 

「ジャミトフのクソオヤジを助けに行くんだろ。コッドの小隊が配置へつき次第に動くぞ」

「はい! お供します!」

 ゼロ・ムラサメ……プロト・ゼロと呼ばれた強化人間もまた今の境遇に満足している。

ジャミトフ・ハイマンを親代わりとして記憶調整されたこともあるが、この部隊ではバケモノとして見られることはない。

 

ここではただの少年兵で、一番の小物である。

何かの冗談のようだが、愉快な仲間たちと呼ばれて悪い気分ではなかった。

 

「くそっ。出遅れた。宇宙人の奴が真っ先に……トッシュ、まだか!」

「慌てるなブレイブ。新選組(ニューディサイズ)の幕開けにはまだ早いよ」

 ジム・カスタムは最新型のジムだが、完成した新型装備を再調整するのが欠点だった。

なにしろ本来あるべきリミッターを外して、各個人にアジャストした、まさしくカスタム機である。六人全員が専用機を持っているのと同じ扱いで、入隊試験中のキース達が負傷するのも仕方あるまい。

 

だが二番隊であるニューディサイズを率いるブレイブ・コッドは、極度の地球至上主義者だ。

協力者として派遣されたエージェントが最新型に乗り込み、しかも先方として功績を稼ぐのは気に入らないのだろう。

 

「ジョッシュ。フィッシャーマンはどこまで行った?」

「最高速で隕石群に突っ込んで行きました。寝ぼけているわけでも嘘じゃありませんよ」

「見ろ、やっぱり宇宙人だ」

 ブレイブの相棒であるトッシュ・クレイが新人のジョッシュ・オフショーに尋ねると、信じられない言葉が返ってきた。

三人は苦笑を浮かべ合って戦闘速度を上げ、アッシマーに負けまいと後に続いたのである。

 

●マリオネット・ロンド

 隕石群の中では、少なくないモビルスーツが潜んでいた。

それもかなり良い部隊で、コロニーに侵入したドムや、囲んでいる輸出仕様のジムとはモノが違う。

 

大半が最新型のジム……本来は、この研究所に納入される予定だったジム・カスタムである。

反ジャミトフ派やアナハイムに用意させた書類を幾つか使って、掠め取ることに成功としていた。ネイアスと名乗っている男の真骨頂は、こういった政治工作なのだ。

 

「エントリィィィー!!」

『はああっ!? 減速しないだと!?』

『非常識な、ここは隕石群だぞ!』

 だが、待ち伏せしていた伏兵たちは突如混乱に陥れられた。

モビルアーマーがいきなり、最高速度で突っ込んできたのだ。

 

来るとしても砲台に徹して、モビルスーツの後ろと思っていたことから虚を突かれてしまった。

 

「なんだなんだ。獲物がウジャウジャいるじゃねえか。こいつはいいや、右も左も敵ばっかりで狙いを付ける必要がねえ! ラッセイラーラッセイラー!」

『ひっ!? 体当たりだと? こいつ、頭がおかしいぞ』

「しょ、少佐を呼べ。こんなやつ、ネイアス少佐くらいじゃないと止められない!』

 アッシマーの装備されている武器は、腕部のメガ粒子砲だ。

簡易四肢に備え付けられた比較的小型サイズだが、空気中と違って減衰しない分だけ強力である。

 

しかもぶつかるのを気にもせず、高速で突っ込んで来るモビルアーマーから放たれるのだ、まともに戦えという方が嘘であろう。

 

『落ち着け。所詮は一機が突出しているに過ぎん。後続を足止めし戦力を分断すれば問題ない』

『はっ!』

 隊長機を操るネイアスだけはガンダムを操っていた。

外見を誤魔化すために旧式のRX-78に近いが、中身はアナハイムがモビルスーツを作るために実験を繰り返した最新型である。

もちろん連邦の高官から横流しを受けており、ジム・カスタムよりも遥かに強い。

 

(冗談ではないぞ。雑魚に勝っても何にもならん。ジャミトフを仕留めないと、連邦将校になった時の私の立場という物が……)

 ネイアスはとっくにジオンに見切りをつけており、連邦内のどの派閥に潜り込むかまで計画を立てていた。

ジャミトフは軍官僚であり、武人肌に嫌われている。政府の犬として、緊縮財政やら綱紀粛正などの大鉈を振るったのだから仕方あるまい。

 

とはいえ命あっての物種である。

イザとなったら逃げだすべきかと、コアファイターに分離するためのスイッチを確認した時……。そこに見慣れない機構が組み替えられて居たのに気が付いた。

 

『ダメです少佐! 後続も速度を落とさず分断しきれません! ……っ』

『どうした?』

『分隊指揮を引き継ぎました。しゃ、遮蔽が役に立たない!? 次々とウワアー!?』

 ザリザリと酷いノイズで不吉な言葉が繰り返される。

ネイアスが行動するとしたら、この時点で機体から降りて逃走すべきだったのだ。

 

本気で戦う気はないにしても、相手の姿を確認しつつ逃げるなどと悠長なことをするべきではなかった。

 

『EXAMシステム、スタインバイ』

『なんだコレは!? 知らん、私は知らんぞ!! よせ、よ……』

 ガタンガタンと音を立てて、狂気のシステムが稼働する。

ワイヤーのようなトレーサーがネイアスに取りつき、網膜モニターが強制的に彼から対応行動を採り始める。

 

『システム、フルドライブ』

 AIはネイアスを最後のパーツとして組み入れた。

自身の損耗は既に考慮外、戦闘力の喪失か十分後に焼却命令は最初から設定されている。

 

問題なのはサブに切り替えても戦える伝達系とちがって、最大速度で戦うと、Gで生体パーツたるネイアスが数分しか保てないことだった。

 

「うん? 外した? こいつやるぞ!」

 F……フィッシャーマンと呼ばれている男は咄嗟に大きく軌道を変化させた。

絶対当たると思った砲撃が、簡単に避けられたからだ。

 

「なんだアイツ? ゼロの坊ちゃんよりもスゲーが。ちと違う気がするな」

 アッシマーは腕だけではなく、足を突き出してブースター機動を不規則に変化させた。

直観に従ってランダム回避を大きくとらなければ、彼の機体は既に破壊されていただろう。

 

「ぼっちゃんみたいに、こっちのやることが判ってるわけじゃねーな。力業で強引に追いついてんのかよ」

 ゼロは予測軌道上に射撃を置いてくるが、この敵は体勢を変化させて動きを追加している。

各部に存在するアポジモーター……やはり最新の機体制御技術で、追いつかせているのだ。

 

小刻みに噴射するのノズル噴射が、大きく外れるはずだった射撃を有効にする。

まだ当りはしないものの、追い詰めるように行動されれば、動きの大き過ぎるモビルアーマーではいつか有効打を受けてしまうだろう。

 

「どうにかせんといかんなあ。んじゃまあ、ちょっち白兵戦でも……」

 粒子放出の設定を弄り、射撃距離を近距離に設定し直す。

同時に砲撃時間を長くすることで、疑似的なビームサーベルを作ろうとした。

 

だが、誰にとって残念な事か、追いついてきたヤザンから指向性レーザー通信が入る。

 

「ウラキの援護に行け、ホルバイン! あっちにも何機か居るようだ。テスト機じゃ荷が重いかもしれんし、ひょっとするとひょっとするぞ!」

「かーっ! 何たる忙しさ!」

 実のところ、ヤザンは戦闘に関しては心配していない。

コウの腕は立つし、窮地に追い込まれると心が座って落ち着くタイプだ。しかも普通の人間ならやらないような、アクセルをベタ踏みできる愉快な仲間の一人であると見込んでいた。

 

「あいよ! スパイが居たら俺が始末すりゃあいいんだろ!」

 問題なのは連邦軍に所属する第三者の方だ。

軍服と階級だけは立派だが、その実、他の派閥だかアナハイムだかに所属するスパイの可能性がある。

 

ここまで段階を踏んでいる敵である。

そのくらいは考えている可能性は高いし、そうなった場合、コウが判断できる領域を超えている。仮にジャミトフならばもみ消せるとしても、一介の少尉にそこまで判断しろというのは無理筋だ。仮に思いつけたとしても、その後に恨まれる覚悟ができるとも思えない。

 

だがその点、ホルバインならば何の問題もない。

それこそ遺族に恨まれるとか、降格処分をされたとしても、彼はあくまで雇い入れられたエージェントなのだ。

 

●滑稽な戦い

 その頃、コウは民間人であるカレン・ラッセル……ベルトーチカを助けるために友軍の元を目指していた。

大型の実験機は急遽装甲がでっちあげられ、テスト中だった対ビーム装甲でキンキラキンである。

 

「カレン、戦況はどうなってる?」

「上を見ないでよ! ……信じられないけどこっちが優勢よ。コロニー内なんて、一機で十二機倒してるもの」

 この実験機は様々な装備のテスト用ゆえにコックピットが広い。

それも単に広いというだけではなく、複座型で斜め後ろにガンナー兼オペレーター用の席があるのだ。

 

カレンとしてはこういった任務に参加すると決めた時、養父にモビルスーツの操縦を教えてもらったので問題がない。輸出仕様が発売された段階で、覚える者が居るから悟られる事もないだろう。それだけならば良いのだが、スカートなので色々と問題が多かった。次はズボンにするか悩むところだ。

 

「相手は旧型なんだろ? 同じ旧型ならガンダムの方が強いのは当然さ」

「そりゃまあ、そうなんでしょうけどね」

 コウの言葉に頷きつつも、十分以内で倒しきれるのか少し疑問だった。

怪しげな兵器が開発されてないか調べに来たのだが。もしかしたら、本命はあちらだったのかもしれない。

 

「あ、待ってコウ。なんか色々いっぱい来た。どうしたらいいの!?」

「安心してカレン。君は俺がちゃんと送り届けるからさ。……えっとバイザー越しに相手を視認してくれれば良いよ。トリガーはこっちに回してくれれば良い」

 ヘルメットのバイザー越しにモビルスーツや戦闘機を視認する。

その瞬間にターゲットマーカーが明滅して、ピピピと音声がしたと思ったら、それぞれロックオンが終了。

 

メインディスプレイにアンノウン表示と、友軍である可能性の二種類が出た。

コウは慎重に後者を待機状態にして、奪われた味方機でないことを祈る。

 

「トリガーをそっちに……って、これでいいの?」

「ああ。これで引き金を引くのは俺だ。君は巻き込まれただけ、良いね?」

 処理を簡単にするためとはいえ、元は一人用である。

単純な攻撃はコウの側からでも可能で、あくまで戦術管制やマルチロックにガンナーが必要なだけだ。

 

念のために連邦軍所属であるという証明と、降伏勧告などを送り始める。

だがアンノウンは射撃を開始し、友軍らしき部隊は不思議と見守るかのように動かなかった。

 

「えっと、ツインエンジンの出力最大は五分しか抽出できないって」

「こいつの火力ならばそれで十分さ。……降伏勧告はしたからな。恨むなよ!」

 実験機であり戦闘を考慮していないからこそ無茶ができる。

40mのボディに二つの融合炉を搭載し、Gファイターがそうであるように併用によって出力を上げることができた。

 

……しかも機体の動力と射撃の動力に分けて安定させるのではなく、短くとも最大出力で直列使用することを実験していたのである。

何度でも使える機能ではないが、五分間だけ世界最強の出力が保証されている。命中するのであれば、その辺のモビルスーツを消滅させるのに問題などなかった。

 

「あったれー!」

 折りたたまれていた砲は、スキウレ砲どころかバーストライナーに匹敵する火力。

後のメガ・バズーカランチャーには及ばずとも、シールドを構えただけのモビルスーツなど一瞬で融解した。

 

「あ……、何か通信が来てるけど?」

「様子見するつもりで今のに驚いたな? 構わないよ、協力に感謝すると伝えちゃって」

 恩を売りたかったのか?

そう判断したコウは迂闊にも、友軍らしき相手に後の戦闘をゆだねた。

 

そして危うく接収されそうな流れで、アッシマーによる介入が間に合ったのはその直ぐ後。

発着ベイに逃げ込んだという触れ込みの軍高官を出迎える為、赴いたジャミトフが爆発に巻き込まれたという報告が上がったのは、その日の終わりだったという。




 という訳で暗殺計画はアッサリ終わりました。
ジャミトフさんは爆発に巻き込まれて大変だそうです。なんて卑劣な罠なんだ(棒)

まあオールキャストに近い形で戦ったので、バラバラに戦うなら、戦力比三倍くらいはないも同然です。
今回の件は半分くらい予想済みで、罠に飛びこんできたので当然ではありますが。読者のみなさんが予想した通り、簡潔に終了しています。

●ベルトーチカ(若)
 検索された方が居れば一発なのですが、カレン・ラッセルというのはベルトーチカ・イルマの偽名です。カラバから派遣される過程で、警戒され難いので送られた感じですが……。
まあ女子供なので、表の研究機関に送られた感じになります。
あとは声優つながりで、川村さんと堀川さんを同じ機体に乗せたかっただけ。ついでにニナやクエスと逆パターンで、味方が増える感じにしました。

●編成中の精鋭部隊
 ヤザン率いる第一小隊三名。ブレイブ・コッド率いる第二小隊名。
旧編成で二個小隊、新編成だと一個小隊(隊長はMS参謀扱いで別枠)でしかない小戦力。
問題なのはゼロ・ムラサメが一番の格下という狂気の集団ということです。
(研究途上で打ち切りなので、肉体強化系が主で、精神圧迫が行われていないのもありますが)

なお、ブレイブさん以下、第二小隊はガンダム・センチネルにおける敵役のティターンズを鍛える教導団。そのイメージ・モチーフは新選組だそうで、ニュー・ディサイズは新たな決意という意味ながら、ニュー・エディテットされた精鋭集団という響きに聞こえる。

●ミッシング・ナンバー
 死亡扱いの連邦兵士や、借り受けたジオン兵を含むエージェント。
全員が何らかの特技を持っており、それを冠する名前を持つ。
ジンネマンはキャプテン(隊商を率いての潜入工作)、ノリスはバトラー(戦う執事)、ホルバインはフィシャーマン(危険宙域への潜航)。
もし囚人が刑期を減らす契約で所属したら、プリズナーのPと呼ばれると思われる。ギレンだと刑期は一億年とか越えてそうですが。

なお今度のローレン・ナカモトさんは複数人の研究者集団扱いになり、その名前を使ってあちこちに潜り込むダブルスパイでニュータイプ研究のN。とします。

●今週のメカ
 今回出てきたジムに関する諸説は、あくまでコウの知識による判断。
原作と違う部分は、この作品における設定とします。

G-3ガンダム『影』
 サイド6でアレックスを作るためのテストに使われ、そのまま放置されていた。
それを改修して、今回のような時に備えていたとか。

装備はビームサーベル、ワイヤー(テスト用インコム)、ルナチタン弾頭のガトリング砲だけ。
しかしノリスが操ったらドムとケンプファーくらい訳はないので、戦闘シーンは丸々カットしました。ポケ戦とは違って攻守逆転で、黒いG-3がコロニー内を『ひとおつ!』とか『はーはっはは、よくご存じだ!』言いながらやってたでしょう。

『ジム・カスタム』
 戦争中に開発された技術を内部に、その後に開発された技術・ジオンから接収した技術を外部パーツに搭載している。特にブースターは重元素エンジンと稼働型噴射口を連邦の技術で作り直し、アポジモーターという追加ノズルの概念を投入。ジェネレーターも強化され、重量比を考えればガンダムに匹敵する性能を秘める。

なお、基本的には各パーツにリミッターが掛かっており、制御可能な範囲に収まっているはず。
ヤザン達はそのリミッターを外し、各個人の能力に合わせて段階解放したいわゆる専用機状態だとか。入隊試験中のキース、および同じくエージェント見習のバーニィは事故って負傷したそうである。

『アッシマー宙戦試験型』
 ティターンズ主力は地球での戦闘に向いた、飛行形態のみのアッシマー。
これを宇宙でも使えるかどうかテストするための機体である。
なお、基本装備は簡易四肢にある小型メガ粒子ビーム砲x2のみ。
オプションとして、大型ビームライフルないし散弾バズーカを胴体下にホールドできる。

?型:スルシャンダナ:最初の運用試験やマイクロウェーブ実験型
A型:エアカバード:コスト重視
B型:バトロイド:原作に近い、モビルスーツ形態実験型
C型:チャリオット:SFSや長距離飛行用で、燃料・浮力が強化されている。
D型:デストロイヤー:重戦闘型。この機体は大型ビームライフルがメイン兵装。
E型:EWAC:偵察用でレドームが追加されている
F型:ファイヤポート:浮力全振りで、小隊火器として大型砲を持ち込むランチャー輸送型

『モーター・テストベット』
 そのまま実験機を無理やり動かしただけ。全長40mの百式状態。
対ビーム装甲のキンキラアーマーと、複数のエンジン、視線を追いかける簡易マルチロック機能、大口径メガ粒子砲の小型サイズ化をテスト中だった模様。


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第二部
エンデュミオーン戦役


●偽装工作

 研究所のあるコロニーで、出迎え用のポートが爆発。

吹き飛んでいくジャミトフのエアカーを見た時、訪れた高官は驚きを隠せなかった。

 

何しろ用意した爆薬は、自分が此処にいる場合には使わない予定だと聞いている。

驚くよりも先に、我が身に感じる爆風と盛り上がる足元、そして視界いっぱいの閃光が広がった。

 

「中将閣下! お逃げください!」

「馬鹿な。こんな馬鹿なことがあるか!」

 突き飛ばして逃がそうとするSPの声がするが、間に合うはずもない。

車の中に居るジャミトフはともかく、自分は無理だろう。

 

『人を一人消すのにモビルスーツなどという大仰な物は必要ありません』

 そう大言壮語を吐いたアナハイムの言葉を思い出す。

走馬燈のように言葉や相手のニヤリとした顔が駆け抜けるが、確信したのはただ一つだ。

自分ごとジャミトフを消そうとしたのだな……と。

 

『護民派のジャミトフ・ハイマン少将がテロに巻き込まれる。元ジオン軍人による襲撃か!?』

 ニュースの一面にその記事が載った。

 

テロリストが壊滅した影響か、爆発のタイミングが僅かに早かったとされる。

ジャミトフが生きていたのはそれだけのことだ。あと数分後であれば、訪れていた軍高官諸共に爆死。仮にその半分でも重傷でしばらくは病院暮らしだったろうと言われている。

 

「父上! 心配しておりました!!」

「閣下! 我々は心より安堵しております」

 リチャード・ハイマンとジャマイカン・ダニンカンが病院を訪れた。

二人の大声がとがめられないのは、地位もさることながら……ジャミトフが無事だからだ。

 

「お前たちが巻き込まれた訳でもあるまいに。どうせ先生の邪魔をするくらいならば、軍の動向でも知らせて欲しいものだ」

「軍医殿、失礼しました! とは言いましても私の方はレイヤー少佐やウッダーたちからの見舞いくらいです」

 リチャードは軍医に詫びを入れ、その発言を待った。

裏表のない彼は、実に芸がなく現状だけを述べる。作戦本部やコリニーの元を訪れてないらしく、特に報告はないようだ。

 

「閣下は衝撃以外は特に問題ありません。自己肯定願望と自意識過剰の面が見られますが」

「自覚症状はありますよ。誇大妄想と言われなくなっただけマシと思っておきましょうか」

 あまりにも失礼な話だが、軍医は太鼓判を押した。

まあ、それも仕方あるまい。この爆破騒ぎは計算しての自作自演なのだ。爆発物とその起爆信号に関しては、事前に調査済みであったのだ。

 

全てはジャミトフが当面動けない、しばらくは公務で政府に協力をするのが難しいと思わせるためのブラフである。

 

「バスクめが大佐に昇進して前線部隊を掌握するそうです。コリニー閣下からティターンズを奪おうとする第一歩かと」

「ふん。あやつめ、その昇進が責任を取らされることを前提にした、前渡しの報酬だと気付いておらんと見える」

 ジャマイカンは戦後の人事込みで中佐になっていた。

軍大学の短期課程を履修も終えており、同じ中佐でもバスクとは最終的に上り詰める地位が異なる。

 

しかしそれはそれとして、権力闘争の結果、功績無しに先を越されるのは気に食わないのだろう。

 

「ということは、やはり起きますか。準備も整っておらんでしょうに」

「間違いないな。……というよりも、全ては誘導の結果に過ぎん」

 ジオン残党に限界が訪れつつあった。

次期公王に指名されたガルマと首相のマハラジャ・カーンの手腕により、本国の明るいニュースが飛び込む度に、兵士たちは続々と国軍に復帰している。

 

「間もなく全てが終わる。その前に行動せざるを得ないが、悲しいかなデラーズには理想も忠義もあるからな」

 火星開発計画が追い打ちを掛けた。

多額の賠償金や懲罰めいた関税も、完全循環型コロニーの受注で帳消しに成り始めた。

ソーラーシステムとマイクロ・ウェーブ発振装置による太陽路によって、火星進出は現実の物となりつつある。返却されたソロモンとア・バオア・クーがその航路を両脇から守る予定とあれば、もはやアクシズとて短期コースでは帰還できまい。

 

「理想を叶え、その為の行動を示すには期限が存在する。ましてギレン生存説が流れる今となっては……」

 要するに今動かなければジオン残党が存在する価値はない。

黒幕であるアナハイムが連中を使い切るためにも、今をおいて他はないのだが……。行動には理由が居る。その為の弾圧者であり、バスク率いる粛清部隊であろう。

 

「バスクに弾圧を行わせ、それに対抗する形でデラーズが立ち上がる。この図式ならばコロニー独立派も協力しよう。双方に出資しているアナハイムの思惑はそんなところだ」

「そういえば閣下を襲った連中の中に、輸出仕様のジムがあったと聞き及びます」

 そんなに短絡を起こす事はないだろうが、アナハイムが名前を使う以上は同じ事だ。

独立派を名乗って行動し、潜り込ませているサクラに自分たちも協力しようと呼びかけさせる。リーダー達にスポンサーとしての意向も裏で伝えれば確実だろう。

 

「反連邦組織ですか……。しかし、どのような行動を採るか全く予想ができませんね」

「そうでもないぞ? デラーズには理想と忠義があると言っただろう。それを現状の戦力で実行する際の目標には限りがある。例えば……輸送中のコロニーとかな」

「こ、コロニー落としでありますか!?」

 パイロットでしかないリチャードと作戦士官のジャマイカンでは推測レベルに差がある。

だがそれでも、コロニー落としという言葉は想定外だった。

 

「しかし、今のジオン残党に可能でしょうか? それにコロニー輸送は念のため、月の裏側を使っているはずです」

 一年戦争で最大の被害を出した攻撃手段だが……。

それは地球に与えたという意味でも、作戦を遂行した部隊にとっても同様だ。あの作戦で多くの被害をジオン側も出している。戦力が続々と減っている今のジオン残党には難しいだろう。

 

とはいえジャミトフには原作知識というものがあった。

それにギレン生存説やその野望。そして宇宙市民の独立や、メラニーの思惑を考えれば見えて来る物がある。

 

「コロニー落としは所詮手段だ。フェイクに利用すれば良いだろう。そうだな、マスドライバーを占拠して穀倉地帯を狙う。順番は逆でも構わん」

「どちらにせよ狙いは食糧事情……確かに大量の水耕栽培プラントを有する宇宙の発言権が強化されます」

 物資を高速で打ち出すマスドライバーは、そのまま質量兵器足り得た。

コロニー落としと両天秤に掛け、連邦の抵抗が薄い方を本命にすれば良い。

 

一見目的二つのどちらが主軸でも良く、見通しが絞り切れないように見える。

だが、ジャミトフは原作知識からこのことを予測し、予めデラーズの思考を誘導してあった。

 

「その場合はコロニーが月の裏側を通る為、本命はマスドライバーでしょうか?」

「いや。本命はあくまでコロニー奪取だ。ただし……軌道はこう、だがな」

 ジャミトフは予め打ち込んであった画像を見せる。

最初は口にした通り、コロニーとマスドライバーの奪取が前後して行われる画像。次にコロニー同士が接触、軌道を変える瞬間の画像だ。

 

コロニーの移送は、燃料削減のために二つ分のコロニーを回転させてその影響を利用している。

二つが接触することでその軌道を変えて、片方は月へ、もう片方はあらぬ方向に移動していく。さらに月へ落下するコロニーは再び軌道を変えた。

 

「緊急避難措置として推進剤に着火して噴射させるだろう。月から地球に向かうそれ自体がフェイクに成り得るが、反対側を見てみろ」

「放置された方が……太陽航路へ!?」

 衝突によって軌道を変えたコロニーの残りは、火星方向に向かっている。

そこにはソーラーシステムやソーラレイがあるはずで、本来であれば、自滅も良いところだ。

 

だがこの二つは火星進出のための切り札であり、既に兵器としての用途は考えられていない。

 

「仮に連邦政府が兵器として温存している場合はソレを暴くことができる。兵器でなければ破壊することで、月面首都構想を狙うアナハイムに利することができる。失敗しても火星方面へのコロニー輸送が後回しにすることを撤回できる」

「なんという……。まさに一石三鳥の策……」

「……」

 素直に感心するリチャードだが、ジャミトフとジャマイカンには口にできぬ事があった。

ギレンを凍結しているエンデュミーオンの事だ。その位置は月面とソーラレイの中が最有力候補である。即ち、一石四鳥の策なのだ。

 

「では父上、いえ閣下。我々はいかがいたしましょう?」

「命令もないのに軍人が動くわけにはいかん。だが座して待つのも問題だな。ガルマ殿下に袋の一つ目と二つ目を開けるように伝えてくれ」

「もう……大文字のCを使われるのですか?」

 以前からこのような事態に備えて、ガルマには方針を伝えてあった。

あくまで建策であり彼が従う義理はないはずだが、袋に入れておいた情報は従わざるを得ない物である。

 

一つ目は言うまでもなく、ギレン生存説。

二つ目はミッシング・ナンバーのうち、大文字のC……シャア・アズナブルの正体だ。

 

「いずれ判明することだ。メラニー辺りに利用されるよりは、ここから使ってしまった方がよかろう。ジオン公国が動かぬ良い理由に成る」

「完全循環型コロニーの一次生産が落ち着き、冷え始めた経済の活性化にも成りますか」

 シャアの正体がキャスバル・レム・ダイクンであると判明する。

それはジオンに大きな混乱をもたらすだろう。確かにそれはジオンがデラーズの動きに同調できなくなる理由足り得る。

 

そしてソレは同時に、ダイクンの後継者を待ち望んでいたサイド3や、その援助を申し出ていた一部のコロニーには福音である。

基本的に善人であるガルマにとって、迷惑を掛けていたシャアに恩義を返し、実家が追い詰めたダイクン家に奉仕し、そしてサイド3が恩恵を得るチャンスである。内心がどうであれ、指示通りに実行するだろう。

 

「その通りだ。しかし……どこで、どう介入したものかな」

「悩ましいですな」

 実のところ、デラーズの企図したこの流れはジャミトフたちにとっても悪くないのだ。

勿論そうなる様に思考誘導したのであり、デラーズはメラニーやジャミトフの思惑を利用する形で、自ら踊る人形として舞台に飛び出したのである。

 

だからこそ余計な手出しが難しい。

月を調べることは、『箱』調査もかねてジャミトフ自身がしたかったことだ。

同時に火星にコロニーを送り、オアシスとして利用することも、連邦政府の反対がなければ彼自身がやりたかった事である。

 

意図的にこの状況を誘導したとはいえ、自らの策であるからこそ、ジャミトフは迂闊に動けないでいた。

 

そして一同が予想した通り、ティターンズを奪ったバスクの活動方針の強引な変更。

対抗する形で成立した、反地球連邦政府組織エウーゴの活動が始まった。




 という訳で第二部の開始です。
今回は予め、おおよその流れを説明する感じでしょうか?
まあ星の屑作戦を焼き直しただけなので、説明会に成るのは仕方のない事なのですが。

●ジャミトフ爆殺未遂事件
 視察に訪れた高官を迎えに行ったジャミトフさんが狙われました。
なんて卑怯な作戦なんだ(棒読み)。
まあ事前に調査して、エアカーの跳ねる軌道を演算コンピューターで清書してるので、ワザとです。
これによってジャミトフは、出頭命令やら出撃命令をある程度は無視できます。

●太陽路
 ソーラーシステムや、ソーラレイを改造したマイクロウェーブ施設からエネルギー供給。
海賊からその航路を守る為に、ソロモンとア・バオア・クーを移動させます。
成功すれば火星がグっと近くなり、かつ地球圏を脅かす戦力を遠くへ島流し可能。


●ネオ・星の屑作戦
 目的がギレンの救出になり、大義は宇宙市民の発言力拡大のままです。
冷凍睡眠に必要な大電力を消費させてギレンを起こし、その生存をもって交渉に当たらせること。
そして完全循環型コロニーを火星に送ることで、社会の中心を動かし、地球の比重を軽く。
ギレンの捜索と、アナハイムの思惑を同時に兼ね、ジャミトフが邪魔しない唯一の作戦です。

第一段階:月への進駐とマスドライバー施設の占拠
 水天の涙作戦みたいな感じですが、目的はティターンズの基地がある北米・オーストラリア。
もちろん成功して穀倉地帯を狙えても良いですが、ギレン探索の第一歩。
これをフェイクに連邦の目を引きつけます。

第二段階:コロニー奪取
 原作通りに月から地球を狙いますが、これもフェイクです。

第三段階:コロニーを火星へ向けて
 衝突したもう片方のコロニーは火星方面にある、コロニーレーザーへ向かっています。
途中で止まって航路に設置しても良し、月と同じく推進剤に火を点けて、火星に向かっても良しです。

第四段階:火星政府の準備と対木星同盟
 ギレンを起こし、アクシズを前線拠点に火星政権を立てる準備。
もちろん連邦政府が認めて少なからぬ人手を出してくるならば、交渉しても構いません。
その場合は木星公社を仮想敵として、連邦に屯田制でも申し出るでしょう。

●献策の袋
 三国志に出てくるアレです。
『ギレン生きているよ。ジオン残党を誘導するためだよ』
『シャアはキャスバルだよ。混乱利用しなよ』
 という感じで、絹の袋に入っています。


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戦いの序章

●反地球連邦組織の発足

 連邦軍高官および政府相談役(ブレーン)を狙ったテロ事件。

その顛末は、カウンターテロ部隊の発足に繋がった。

 

その為に秩序維持機構であるティターンズの前線部隊を、大佐に昇進したバスク・オムが掌握。

連邦政府転覆を図るテロリストを摘発し、ジオン軍残党を掃討する権限を手に入れた。

だが、その活動は何時しか地上に住まう人々や歯向かう者を、テロ予備軍として辺境のコロニーへと押し込めていく。

 

『今回の事態を引き起こしたのは、一部の軟弱なる政治指導者たちが、必要以上に不満分子たちへ歩み寄ったからである』

「ふん。馬脚を現すとこはこの事だな。私を襲った理由を私自身に押し付けるか」

 バスクの演説は繰り返して放送されていた。

強権の象徴はどうみても圧制者に他ならないが、スポンサーにとってはバスクなどスケープゴートでしかないのだろう。

 

それにしても皮肉が効いているのは、バスクから『今回の責任をとって謹慎して居ろ』という意味合いの文章が送られてきたことだった。

 

当然ながらバスクにその権限はない。

とはいえ軍から命令が来ていないのも確かで、動いた場合、治安責任者の忠告を無視した形になってしまう。

ジャミトフとしては表向き動かない方が良いので、願ったりかなったりではあるのだが。

 

『我々ティターンズは母なる地球を守る為……』

『諸君。暫しの間、ご清聴願いたい』

 既に街頭演説めいたバスクの決意表明を上書きして、見慣れぬ軍服姿の男が現れた。

誰あろう、テロリストの首魁として指定されるエギーユ・デラーズである。

 

『先の襲撃事件において、我々の前身組織が関わっていた事、その不明を認めよう。だが、その計画は初歩から別の組織によって利用さていた』

 デラーズの演説は背景に居並ぶ将官とモビルスーツが映っていた。

その一部が不明瞭な戦闘風景に書き換えられ、ドムの出撃が映し出される。

 

問題なのは、その姿とは別にジムとしか思えないシルエットが映し出され始めたのだ。

それも輸出仕様のジムだけでなく、明らかに高性能の最新型である。

 

『あの襲撃事件が何を目論んで行われたかは、諸君の想像通りであろう。我々は確かに、『宇宙移民』を不必要に促進しようとする狡猾な猿を排除しようとした。だがそれは、『宇宙棄民』を目論む欲深い豚共に利用されたのだ』

 狡猾な猿が誰で、欲深い豚が誰なのかは一目瞭然だろう。

 

面白いことに裏のネットワーク界隈では、ジャミトフが『よりエレガントに森の賢者(ゴリラ)とでも呼んで欲しい』とユーモアで切り返したと伝えられている。

バスクが自分を猪に例えればバランスが取れたのだろうが、怒り狂うだけだと失笑を買ったという。

 

『テロを目論んだ我々の言葉など信じまいが、この光景を見ていただければ分かってもらえよう。これが彼らの正体だ!』

 次に切り替わった画像は、ショキングな光景だった。

せっかく緑化したダカール郊外を整地し、要塞の如き基地を造成している姿。

 

そしてアフリカ近郊に住む人々を、テロリストへの協力者として次々に拘束する姿だ。

あるいはインドに棲む人々に向けたゴム弾であり、津波での壊滅から逞しく蘇りつつあったボート・ピープルへの放水である。

 

『宇宙棄民を行い、地球を乗っ取ろうとする欲深い者ども。秩序維持機構だったティターンズを変質化させ人々を排斥する、バスク・オムなる悪逆非道の人物と、その背後で操る欲深き者どもを排除せぬことには、宇宙市民の真の独立はありえまい』

 次いで映し出されたのは、遠いアクシズに逃げたジオン軍残党。

あるいはテロリストとして指定された、有名な独立運動の活動家たちだ。中にはジオンと敵対してる者までいる。

 

彼らはデラーズと同じような制服を着込み、数名の活動家たちに至っては手を取り合う姿まで映し出されてた。

 

『……かつて敵対していた我々は、対立を乗り越えた。その目的は地球圏の平穏と、宇宙市民の真の独立を目指す為。ここに反ティターンズであり、現行の地球連邦に対する対抗組織。エゥーゴの設立を宣言する!』

 電波ジャックはそこで打ち切られる。

裏のネットワークでは様々な噂が飛び交い、大規模な反乱が起きるだの、それを口実にバスクがまた無茶をやるのだろうと言い合った。

 

バスクを悪役に立て、その排除を目的と言い張ることでデラーズの印象作戦は成功したと言って良い。

 

「これでもまだ謹慎して居ろと言い張るかな? ここはお手並み拝見と行こう」

 ジャミトフはニヤリと笑いながらテロにあった『当日』に出した命令書を眺めた。

そこにはヤザン達に出した、テロ組織への追撃命令が書かれていたのである。

 

●タイム・スケジュール

 それから暫くの間は、意外なほど平穏な日々が続いた。

あえていうならば、ダカール郊外の緑に関しては、最初から緑化実験だったと声明が出たことだ。

計画に従って実験を終了し、元からの予定として基地を増設しただけに過ぎないと『事実』を述べた。

 

面白いのはその数日後に『実験は成功したので様子を見るために継続し、基地は他の場所に建設する提案が出ていた』と……関係省庁からの声が漏れた。

瞬く間にその『事実』も計画書の漏洩と共に世界中を駆け巡り、吠えるバスクの風刺画が出回ったという。

 

「余計な気を回さなければ恥をかかなかった物をな」

「閣下の業績に対抗したのでしょう。ですが官僚は身内優先と判っているでしょうに」

 連邦首都に攻め入るような連中は居なかったのだ。

だからバスクが権力を握った時点では、ダカールの要塞化などする必要はなかった。

 

それを押し切ったことで、財務官僚たちの要らぬ反発を生んだと思われる。

他愛ない風刺ではあるが、今後に彼らの協力が得られる可能性の高くなったジャミトフと、逆にそっぽを向かれるバスクの対比が浮き彫りになったといえるだろう。

 

「閣下。デラーズが動き始めました。月面の制圧を行っております」

「予定通りか。つまらんな」

 エウーゴは戦力を分散しているかに見せかけ、月の諸都市攻略を始めた。

最終目的の一つにソーラーレイがあり、それが火星との中間に移設されている以上は、同時に狙えるタイミングというのはどうしても限られてしまう。よって、この時期に行われるのは目に見えていた。

 

とはいえ期待外れだったのは、『味方』の動きまで予想通りな事。

ある場所は占拠し、ある場所は攻略後に放置。あるいは素通りさえして、一気に勢力圏を広げに掛かった……ように見える。

 

これに対して連邦軍。いや、バスクの掌握したティターンズ前衛部隊は動かなかった。

当初こそ兵力分散の愚を突こうとしたが、敵のいない都市に空振りしたり……逆に戦力分散をしてしまい集中した戦力で迎え討たれたからだろう。これ以上の損耗を避け、集中投入する機会を探っていたと思われる。

 

「ですがバスクの顔は見ものでしたぞ、食い入るように分析表を見ておりましたから」

「あれか。バスクめ自分の裁量だけでやりきる自信がなかったと見える」

 ジャミトフは予め、反政府組織が成立した場合の戦力予想を立てていた。

一年戦争を終わらせずにジオンと戦い続けた場合と、あの場で打ち切った今の流れでは、戦力がまるで異なる。その側面から終戦が正しかったと補強していたのである。

 

戦争を続けた場合、勝てはするだろうが見通しは明るくない。

力で押さえつける為、ジオン残党は少なくない数が脱出すると想定できる。また連邦は経済的に破綻して給料を払うこともままならず、連邦軍の兵士たちが反乱組織に加わった可能性がある。

 

だが和平を結んだ事で、ジオン軍は多くが国軍に留まり、連邦も過大な財政出動は必要なくなった。戦前からジャミトフが通常兵器中心でコリニー閥を運営した他、戦後の軍の緊縮財政を行ったこともあり、原作のような給料遅配やエウーゴへの連邦兵士加担はなくなったのである。

 

そういった動きをオブラートに包み、原作知識を抜いたものが戦力分析表だ。

デラーズ・フリートとアクシズ先遣艦隊のみが地球圏に、アクシズ本隊は様子見をせざるを得ない為、コロニー独立派を加えた程度に留まるであろうという予測である。

多く見積もったとしても百隻を越えず、補給艦のような補助艦艇が大多数だと推測していた。

 

「不安なのでしょうよ、勝てて当然。それなのに、楽勝のつもりで制圧戦に乗ってしまい、待ち受けられて分艦隊をまるまる一つ失ったことが、先行きを曇らせましたからなあ」

 せっかくなので、ここで連邦軍の艦隊編成を説明しておこう。

一個艦隊は四つから六つの分艦隊で構成され、作戦指揮官の元、作戦参謀・艦隊参謀・MS参謀などが付随する。

 

一セットの分艦隊は巡洋艦が五隻前後で、戦艦の有無次第で変化する。

艦隊によって主戦力の比重や規模の大小はあるが、コリニーの第二主力艦隊は戦艦と空母を多数有する打撃編成なので、純粋な戦艦と巡洋艦だけで三十隻近くが所属していた。コロンブスも補給艦仕様ではなく、空母仕様の比重が高いのが特徴だ。

 

「自分の派閥を立ち上げ、欲張って何もかもやろうとするからだ。相手を理解して、地道にやっていればとっくに戦いは終わっている」

 これは本来、主力艦だけで旧デラーズ・フリート全てに匹敵する。

地味に都市を一つずつ解放し、正論を駆使して都市の防御は連邦軍の本隊に丸投げしておけば絶対に勝てただろう。

 

なまじ自派閥を立ち上げてしまったことが、頭を下げて戦力を借り難くさせていまったといえる。

専横できる戦力を欲したりスポンサーであるアナハイムに踊らされての事とはいえ、色々と迂闊だったという他はない。

 

所詮、バスクが動かせる戦力と言うのは大きくない。

ティターンズを組み入れたことでコリニーから強引に艦隊を取り上げたとしても、グリーン・ワイアット大将ら他の将官から戦力を奪えるはずがないのだ。

 

「しかし予想通りならマスドライバーは陥る。ならばバスクも動かざるを得んな」

「はい。今度こそバスクも躍起になって攻略に掛かるでしょう。穀倉地帯であろうと軍の拠点であろうと、打撃をこうむれば責任問題になります」

 派閥の領袖やスポンサーからの要請は、今のバスクにとって絶対命令だ。

上層部の指示よりもそちらの方が優先されるくらいで、さすがにマスドライバーを優先しろと言われれば、歯噛みしながら従わざるを得ないだろう。

 

となれば今度こそ、マスドライバー施設を確保するために全軍を投入するはずである。

 

「バスクの事だ、後がないと知れば未完成のハーキュリーを持ち出すだろう。Fを本命捜索に動かせ、地球を守る為に充てておく必要はない」

「承知しました。大気圏突入仕様のテストは中断と指示しておきます」

 この流れを想定していたので、予め対策は立てていた。

空振りになるのを承知で、アッシマーの大気圏突入実験用『ゼーゴック』を地球降下を目指せる位置に待機させておいたのだ。

 

指示は以前から一通り決まっており、その一つを中断させるだけだ。

まずは大気圏突入実験用の仕様で質量弾の迎撃。次は長距離仕様や早期警戒仕様の実験で、仮想敵として『とあるジオン残党』を捜索する予定であった。そのついでにコロニーを見つけたとしても……新型機のテストから何ら逸脱はしていないと言える。

 

原作知識といえばそれまでだが、ホルバインとアッシマーだけで済むのだ。

保険としてはこれ以上なく安上がりだろう。




 という訳でティターンズとエウーゴの構図が成立しました。

マスドライバー基地を巡る攻防でどちらにも相当な被害が出ています。
次回はコロニー輸送に関する話。まあ襲撃する方も見つからないようにしておりますが。

●今週のメカ

アッシマー大気圏突入実験用『ゼーゴック』
 地球に降下しながら、降下部隊などを迎撃するための実験機。
上下逆さまに向いて、円盤状の装甲を下にしつつ、場合によっては補助足を変形させて一機搭載。
原作のゼーゴックと違い、降下するHLVやバリュートが仮想敵なので鴨撃ちである。

『アッシマー長距離移動実験用『イカロス・ウイング』
 木星エンジンを連邦側の技術で作成した天王星エンジンを外部搭載。
非常時にはこれを切り離したり、ミサイル代わりに使用する。

この装備は二系統の開発に分岐。
アッシマーのエンジンを改良するものと、モビルスーツに使用する汎用になる。
前者は海王星エンジンとなり、後者はシュツルム・ブースターになる。
他にもどこかで実験を行っているため、いずれお目見えする予定。


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月の裏側で

●a little wars.

 月は常に地球へ一定の貌を向けている。

表側ではマスドライバーを巡る戦いが熾烈さを増してるはずだ。

 

そんな中で、裏側ではまったく別の戦いが起きようとしていた。

 

「まさかこの子の能力を、こんな風に使うとは思ってもみなかったわ。閣下って何を考えてるのかしら」

 民兵として徴用される形になったカレン・ラッセルことベルトーチカ。

彼女はコウと共に、テスト機の試験を行っていた。

 

もちろんテストというのは言い訳だ。

二人は40mもの巨大マシンのスペックを利用して……。ムサイの残骸に隠れながら超望遠観察を行っていた。

 

この機体はそのサイズもさることながら、炉心を足に移すことで、胴体に大きなスペースを確保している。

そこへ新型の演算型教育型コンピューターだの、長時間行動用の循環装置だのを取り付けて、長期観察させていたのだ。

しかも武装の代わりにライフルよりも大きな超望遠レンズや各種センサーを乗せたカメラ・ガンを携えていた。戦闘力があることはテロを退けたときにハッキリしているというのに、カレンにとってそこが不思議でならない。

 

「夢……じゃないかな? 前に言ってたよ。指導者と子供くらいは夢を語れないと世界は狭すぎるって」

「そりゃそうだけど、反乱組織との戦争中なんでしょ? 足元見えてるのかしら」

 大型炉心に演算コンピューターはともかく、望遠レンズと循環装置は余計だ。

それらが必要になるとしたら、まさに宇宙開拓の為でしかありえない。

 

要するにジャミトフにとって、エゥーゴの反乱など興味の外なのだろう。

……もっとも、二人が知らないだけで、原作知識では観察対象であるコロニー輸送は重要事なのだが。

 

「あら? 何か変化が見えた気がするけど……。いまいち分からないわね」

「ちょっと待って。インコム伸ばしてみるから」

 カメラ・ガンにはインコムのテスト仕様を改造して載せていた。

ワイヤーの先にカメラを付けて、詳細に色々把握できるようにしたのである。

 

コウは仮想ディスプレイを投影すると、器用に指先でインコムの軌跡を調整し始めた。

 

「……よくそのキーボード使いこなせるわね。この子のフルスペックもだけど、あなたの他に誰が使いこなせるの?」

「俺の他? ……ええと閣下くらいかな。ホラ、あの人が色々口出したっていうから。多分」

 こういってはなんだが、このテスト機を使いこなせるのはコウがメカ・オタクでインテリゲンチャだからだ。

普通のパイロットでは到底不可能で、考案者のジャミトフのような趣味人くらいが精々だろう。

 

現に仮想キーボードに拒否感を示す者も多く、カレンもまた、タッチペンで直接ディスプレイに軌跡を描くことが多い。

 

「居た。こいつはザクだけど……見ない型だな。統合生産計画機だと思うんだけど……」

 それはそれとして、インコムを伸ばしていくと、データを幾つか拾うことに成功した。

カレンの『何それ?』という言葉を無視して、コウは周囲の状況を色々と調べていく。

 

MS-06FZ、ザク最終生産型が居るという事は、ジオン残党……いやエゥーゴである可能性が高いのだ。

 

「っ!? 違う。こいつザクじゃないぞ! ところどころゲルググのパーツに変更してある! 確かこの傾向は……」

「ゲルググって、あの幻の名作機って言われてる?」

 コウが次々にピックアップするのは、コックピット周りの装甲や追加ブースターだ。

パイロットの保護によって作戦経過を確実にし、移動速度の増加によって作戦進行時間を短縮する。

 

その二つを重視しつつ、当時最新の装備を必要とする精鋭部隊。それは……。

 

「判った! 海兵隊仕様だ! 奴ら輸送中のコロニーに強襲上陸する気なんだ!」

「え!? まさか、コロニー落としをする気なの!?」

 MS-14Fゲルググ・マリーネ。

実際にはその実装過程にあたる機体なのだろうが、少なくともザクより強力なのは確かだ。

もしかしたらパーツを持ち出して、改装してるのかもしれない。

 

だが、そうだとしても戦力が足りるはずはない。

失脚してサイド6に籠る前のジャミトフは、輸送計画を提出された段階でちゃんと護衛を手配するように徹底していたからだ。

 

だから本来は、成功するはずのない作戦であった。

幾らバスクがジャミトフを嫌っていたとしても、既に命令書まで発行している作戦を簡単に中断などできない。

 

「ちょっと待って。何か高速で飛んでくる……これミサイル? 核弾頭でコロニーを壊す気なの?」

「E.M.P弾頭! いまどき電磁パルス攻撃だって!?」

 それは無意味な攻撃であるべき牽制攻撃だ。

電磁パルス攻撃と言うのは汚い核と呼ばれ、相手の手前……地球であれば敵国の上空で爆発させることで巻き起こる、電磁波によって電子機器を狙った攻撃である。

 

冷戦時の地球であればまだしも、いまは宇宙世紀である。

軍用機であれば電磁シールドを処理していて当たり前。今時は無意味な攻撃であり、核弾頭を警戒する方がマシとすら言われていた。

 

ただし、『万全であれば』の話である!

 

「コウ! この子、何か調子が変よ!?」

「しまった。処理しきれずに、こいつパニック起こしてやがる。このままじゃあ……味方に撃ち殺されるぞ!」

 二人の乗るテストは、いまさら行われると思ってすらいなかったEMP対策などしていない。

それでも宇宙航行を前提にしているので、全てが破壊されたりなどはしない。

 

だが全てを処理しきっておらず、一部の電子機器が破損。

突然の処理に演算コンピューターがパニックを起こし、再起動を掛けたり、方々に信号を放ち始めたのだ。

 

「仕方ない。一度、こいつの心臓を止める。一から再起動を掛けるんだ!」

「そんなことやったことなんてないわよ! ちょっと待ってったら!!」

 コウはマニュアルをカレンの方に放り投げると、コンピューターと炉心の再起動を掛けた。

同時にマイクを取り出し、昔ながらの放送の準備をし始める。

 

敵味方識別信号どころか、様々な電波を発信し始める機体。

ソレがしばらくの間とはいえ、無事だったのには理由がある。護衛艦隊が一時期センサーが故障し、一足早く再起動していたからだ。

 

『シーマ様! 連中の対空砲火が勢いを落としました!』

『どこも二線級は世知辛いね。今のうちに叩くんだよ!』

 ジャミトフが見落としたとしたら、こちらの方面には修理も適当に済ませている二線級の部隊が多い事だった。

どの部隊が担当だったとしても、充分な修理パーツがなく『間に合わせている』機材が多い。

 

当然ながら電磁処理など後回しで、センサーが完全に死んでいないだけ、ちゃんとした軍艦だったということだろう。

とはいえそれでも対空センサーなどが一時的に故障し、予備回路に切り替えるまでに時間が掛かったのが致命的だ。たちまちのうちにシーマ艦隊が急接近してしまった。

 

『待て! このコロニーは宇宙移民のための……』

『やかましい! あたしらにはそんな話を聞いてる余裕なんざないんだよ!』

 唯一、完全なゲルググ・マリーネがコロニー公社の船を沈める。

既に護衛艦隊は一瞬の隙を突かれ、対空監視網やカタパルトが停止している間に肉薄されていた。

 

そうなれば脆いものだ。

マゼランの居ない小規模の分艦隊ともあって、練度の差もあり容易く粉砕されてしまう。

 

『シーマ様、あちらで何やら奇妙な動きが』

『なんだいありゃ。蛍ってやつかい?』

 その頃だ。二人の乗るテスト機がパニックを起こしたのは。

様々な発光信号や、音波の類を出しまくって、やがて一度すべての電源が落ちたのが見える。

 

「こちらプロメテウス機関に所属するテスト・モビルスーツ。試験中に事故が起こりました。航法コンピュータ他、各種機器が停止……」

『……ふん。戦場に出といて、見逃してもらおうなんざ甘いんだよ!』

 このままいけば宇宙をあてもなく漂流するのは間違いない。

そう判っていてなお、シーマは念のためにライフルを撃ち込んだ。

 

遭難者の救助は船乗りにとって必須と知りつつも、作戦を優先したのである。

あえていうならば、爆発が起きたことで、それ以上の追撃をしなかったことが慈悲に成るだろうか。もっとも、コロニーを奪って移動するという当初の目的で精いっぱいというのもあるだろうが。

 

 

「ねえ。外はどうなったの?」

「判らない。ダミーに使ったムサイの残骸が爆発したのは判るけれど……。というか、こいつちっとも再起動しないな」

 ガン・カメラはもちろん巻き込まれて破損。

当然ながらインコムも千切れて吹っ飛び、無事なセンサーを探す方が難しいだろう。

 

だが、それでも生きていられるのはありがたい。

そう思っていられたのは、三日ほど何も反応がないのを確認するまでの間だった。

 

既にどれくらい流されたのか分からないころ、ようやく、一部のセンサーが復帰。

それもコックピットハッチを開けようと、爆発ボルトで機体を軋ませた後のことである。

 

「何処だ此処は?」

「月があんなに遠い……」

 かろうじて判る範囲には味方もコロニーも居ない。

今まで足元にあった月面は遥か彼方で、太陽と北極星の方位で自分の居場所を確かめる。

 

「はい。残りはコウの分よ」

「ありがとう。……こりゃ随分と流されたな」

 放り投げられた水のチューブを口にして、コウは自機の位置をようやくつかんだ。

 

間接キスにドキドキするなんて贅沢が許されたのは、漂流から二日を過ぎた辺りまでだ。

食料も水も半量に切り詰め、今では循環器の小型化テストをこの機体で試そうなんて考えたジャミトフに感謝しながら、通信機を直そうと必死の努力をする日々である。

しかしそれも何時まで保つだろう?

 

「ねえ。このまま助けが来なかったらどうする?」

「大丈夫さ。俺たちは連邦軍なんだぜ? きっとそのうちヤザン大尉辺りが助けに来てくれるさ」

 ともすれば悲観的になりそうなカレンを励ますために、コウは自分でも信じていない言葉を口にした。

 

ヤザン達は海兵隊を追って行ったはずだ。

仮にコウたちの合流が遅れたことに気が付き、途中で引き返したとしても、数日のロスは痛い。

コロニー落としの重要性を考えれば、自分たちなど放置してしかるべきである。

 

「でもね、私はコウと一緒で良かったと思ってるのよ? だって他の人とじゃ話題が半分も続かなかったわ」

「そりゃどうも。せっかく通信機が直ったんだ。自暴自棄になるのはもうちょっと待とうぜ。流されるだけ流されるのは、食料も水もなくなってからで……」

 さっきからカレンの様子がおかしい。

とっくに吊り橋効果なんてゲージmaxである。こんな狭い空間に若い男女が閉じ込められて何も起きない筈はない。

 

とうとう作業をしているのに、背中に人の気配を感じる。

 

「わ・た・し・は! 流されても良いって言ってるの!」

「……そりゃ嬉しいけどさ。どうせなら無線が直る前に成りたかったっていうか、聞かれちゃうぜ?」

 無線機を止めようか?

なんていう間もなかった。

 

「聞かせてあげましょうよ」

「えーっと……。光栄ですっていうべきかな?」

「ばか……」

 とかいう会話を聞きながら、アイナとシローはいつ介入するかを顔を見合わせて悩んでいたという。




 という訳でコロニーが盗まれてしまいました。
ついでにシーマ様は大変な物を盗んでいきました。二人の距離感とかプライバシーとか、できあがるお試し期間とかです。

コウとカレンがイチャイチャするために、シーマ様が仕事をするだけのお話です。
月の表側ではマスドライバー攻防戦が行われ、デラーズ達が撤退するまでの時間を特務隊が決行。
水天の涙作戦と違って、時間稼ぎが主目的なので完全に成功。デラーズの主力艦隊は撤退に成功し、バスクの艦隊にダメージを与えて行方をくらましています。

もちろんそれを追いかけることは容易いのですが、そこでコロニー奪取の話が伝わります。
というのが背景事情ですね。まあコウとカレンは二人で火星方向まで吹っ飛んでいるのですが。

●カレン・ラッセル
 テロ事件で乗ってしまったので、民兵扱いで徴兵されました。
それを機に髪を切りそろえ、動き易くして訓練にも参加。コウのパートナーとしてオペ娘をやってた感じです。

●今週のメカ
『E.M.P弾頭』
 いわゆる汚い核で、宇宙に進出すると電磁波は当然なので、本来は役立たずであった。
しかしザクがMS06F以降は対核防壁を除去して、色々な装備を搭載。そのことからジオンでは研究が行われていた模様。

今回は修理が適当に済まされている、間に合わせの艦隊であると事前情報を得たこともあって、作戦のキーにした模様である。
まあ、ぶっちゃけ、シーマ様がコウたちを見逃はずがないので、最初からフルボッコにして漂流するための前振りでした。

『モーターテストベット、惑星間航行試験型』
 正式な名前はまだない。
今回は各種センサーや、それを遠距離で行う超望遠レンズのガン・カメラやインコムを搭載していた。偵察用ザクの数倍は凄い。
しかしテストマシンであり、EMPを食らったせいで、ほとんどが壊れた模様。

なお、こいつの真価は各種センサーもさることながら、蛋白質と水の循環器を、可能な限り小型化したことである。
一週間も積んでいない保存食と水を可能な限り再利用して、一日半分に切り詰めることで、かなり保つはずであった。
素人のカレンがパニック気味なのに、マシンスペックを知っているコウが妙に冷静(チャイルド)なのはその為。

MS-06FZ/14F『ザクⅢ』
 MS統合生産計画機である、ザク最終生産型とゲルグルマリーネの中間。
この計画機は可能な限りパーツと操縦方法が共通化されているが、ザクを受け取って訓練中に終戦。
パーツを持ち出したり、新しく手に入ったジャンクで少しずつ改装していた。
完全にゲルググにになっているのは、シーマ専用機のみである。


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遥か未来に向けて

●far away

 月面より遥か彼方、火星方面に太陽路はある。

ソーラーシステムとソーラレイによる実験回廊だ。

 

そこまで接近した事で気が付いてくれたのだろうか?

コウとカレンは救助に来てくれたモビルアーマーと、随伴するモビルスーツを眩しそうに眺めた。

 

「大型のアッシマーは実験用のスダルシャナとして。このザクってなんか陸戦型ガンダムに似てるような……」

「コウったら、こんな時にまで!」

「ああ、そうだよ。エックス・ワンはRX-79Gをモデルにしているんだ」

 出合い頭に興味を優先するコウにカレンは頭を抱えた。

先ほどまで死に掛けたというのに、機密に首を突っ込むあたり良い度胸である。

 

出迎えてくれた士官はクスリと笑って、コウの疑問に答えてくれた。

 

「とはいっても経緯や装備だけで、コンセプトとしては真逆だけれどね。シロー・アマダ大尉です」

「地球連邦軍プロメテウス機関所属、コウ・ウラキ少尉であります!」

 シロー・アマダと名乗った男は、ザクに乗っている割りに連邦軍のノーマルスーツだった。

コウは背景がよく分からないことも含めて、ひとまず自分の所属を明らかにする。

 

判らないと言えばこのザクもだ。

全体としてMS-06FZに似てはいるが、どことなく陸戦型ガンダムの系譜を引いているような気がする。シロー曰くその通りだと言うのだが。

 

「ええと、私は軍属になった……」

「今の自分らも似たようなものなので合わせなくても良いですよ。ジャミトフ閣下の意向で、共同プロジェクトに派遣されているだけですから」

「火星進出計画のでありますか?」

 シローは難しそうに敬礼をするカレンを押し留め、コウには三十点と採点を告げた。

どうやら差し支えない範囲で答えてくれるようで、コウは計画のことを聞こうか、それともザクの事について聞こうか少しだけ悩む。

 

だが、その悩みは不要だったようだ。

シローの方から色々とまとめて話してくれた。

 

「正確には火星も含めた宇宙開拓時代の準備かな。ザクの方は、ジオンのモビルスーツ開発の監視を兼ねて、ここでやれという事になってるんだ」

「連邦の監視下であり、しかし、連邦の領土に無い。そういうことでありますか?」

 敗戦国であるジオンに、自由な開発の権利があるわけがない。

しかし、それを改めて口にしてしまうと色々と問題が出てしまう。

 

だからこそ監視の名目で、遥か彼方で実験をしているという訳だ。

もちろんジャミトフの意向であり、その技術進歩の経過はすべて『ジャミトフ』が接収することになるのだが……。そこも含めて妥協という事であろう。

 

「連邦が安心できるように、旧来の技術しか認めていない。だから表向きは肥大化したゲルググをサイズダウンしかしていない。君は違いが判るかい?」

「っ! 同じ性能でサイズダウンすれば、出力と推力が飛躍的に高まることに成ります! それと……」

 ジオンのモビルスーツは開発を間に合わせるために、恐竜的進化を始めつつあった。

ザクは17m強だが、ドムは18m、ゲルググは19mと来て……量産型などは簡便化もあり更に大型化している。

 

このまま新型を作った場合、ジオン側のマグネット・コーティングやら何やら積むだけで20mは越えそうなものだ。

事実、連邦が知らないだけでアクシズが試作しているリファイン型は、20mを越えることで達成している。

 

「それと?」

「陸戦型ガンダムに似ている部分……。それはつまり、様々なオプショナル兵装による強化ではないでしょうか!」

「あ……。そういえば背中……」

 この辺りにソーラレイもソーラーシステムもない。

守備範囲が遠いのに、出迎えが可能なほどの移動力。そして衰弱した二人のために用意した、空気や水に食糧。

 

それらを可能とする大型ブースターと、付属のコンテナこそがこのエックス・ワンと呼ばれるザクの本質なのだろう。

 

「正解。この第四種兵装は長距離進軍用のモデルでね。閣下から、君たちのことを聞いて急遽テストすることにしたんだ」

「確かに本体は旧型機の焼き直しとなれば上層部も批判しませんしね。でもまさか、閣下が俺たちのことを……」

 良く見ればモノコック構造のままで、インナーフレームを導入している様子もない。

本体はあくまで、大型化したゲルググ以降のマシーンを18m以下に戻すことが目的なのだと思われた。

 

「任務中にお手数をおかけしました。でも、おかげで九死に一生を得て助かりましたわ。みなさんにも閣下にも、感謝の言葉以外ありません」

「それはまだ早いんじゃないかな? これから何度もいう事に成ると思うよ。なにしろ閣下はグリーン・ワイアット大将を動かしたんだからね」

「まさかそんな! 俺たち如きのために、ワイアット閥に借りを!?」

 コックピットの中でした会話を聞いていたか確認するとか、そんな気分は吹き飛んでしまった。

何しろジャミトフがやりそうな事とは大きく離れている上に、コリニー閥がワイアット閥に大きな借りを作ったという事なのだ。

 

シロー達に、もし見かけたら機体だけでも回収するようにというだけならまだ判る。

だが、一介の兵士に過ぎないコウ。正体を知っていたとしても、一秘密結社の工作員のためにすることとは思えなかったのだ……。

 

●スターシーカー

 遡ること数日、その話が持ち込まれた時。

当然のように反対意見が続出した。だがグリーン・ワイアット大将の発する鶴の一声が全てを黙らせた。

 

「どうして我々が本部の不況を買ってまで、一兵士の捜索をする必要があるのですか!?」

「誇りの一つも持てない繁栄など唾棄すべきだと思わんかね?」

 そう、全ては誇りの問題なのだ。

参謀が異論を言っているのも、バスクに遠慮したというよりは、目下に過ぎないジャミトフへの反発もあるだろう。

 

だがジャミトフが誇りを捨てて、頭を下げて来たのは都合が良い。

奴を介してコリニー閥に貸しが作れる上に……バスクやその背後に居る者を無視して、動く理由に成るからだ。

 

あるいはジャミトフの狙いは、そこにあるのかもしれない。

一介の兵士を救助するためというよりは、そちらの方がよほどあり得るではないか。

 

「君、バスクごときは道化だよ。そして紳士とは、誇りを相手によって出したり引っ込めたりする存在ではない」

「閣下の仰る通りです! 力を持つ者には義務というモノがあります!」

 その言葉を脇に居る軍属の青年が称賛した。

参謀は明らかに目下である彼を排除することもできず、言い難そうにハンカチで汗を拭きながら抗弁する。

 

「しかしですな。実際に苦労するのは御社の人員であり、同時にこのルナツーをガラ空きにすることになるのですが……」

「マイッツアー君のいう事も正論だと思うがね。それに、観艦式が本来の形で挙行されれば、どのみちガラ空きになる予定だったではないか」

 青年は軍属であり、以前は連邦軍の士官であった。

 

マイッツアー・ロナ。今では家業に戻り、少なからぬ人員を動かす企業人である。

父親であるシャルンホルストの興したブッホ・コンツエルンにおいて、辣腕を振っていた。

 

ジャミトフの行った移民への職業訓練と、デブリ回収作業の割り振りで、その地盤は失われたかに見える。

だが素早く連邦軍、それもワイアット閥に近づくことで、移民たちが始めたジャンク屋への指揮権を得たのだ。ここでジャミトフの歓心も買う事ができれば、もはや企業というよりは領地を持つ領主に近い存在となるだろう。

 

「ジャミトフ君の口利きで補正予算も出ることになった。ここは元の予定以上に観艦式を行うことにしよう。バスクやデラーズに見えるよう、盛大にね」

 そもそもグリーンが此処にいるのも観艦式の為だ。

予算の都合で中止になり、大規模閲兵式で済ませることになったが、それもバスクの話を無視する言い訳に過ぎない。彼が握っている艦隊を掌握するために、ワザワザ訪れていたのだ。

 

「具体的な場所についての立案は君に任せる。しかし漂流者の捜索を兼ねた観艦式だ。ロンゲストマーチと後世の人は言うかもしれないな」

「……なるほど。そういうことでしたら」

 ジャミトフの要請と観艦式にかこつけて、手持ちの戦力を好きな様に動かせる。

それだけの言い訳があればバスクが失敗したとしても、エゥーゴを『偶然近くに居た』ワイアット閥で討伐できるはずだ。

 

相手は疲弊しており確実に勝てる上に、地球を守る為の保険に成り得る。

つまりは功績は好きなように切り取り放題。そのためにならジャミトフ如きの意見で動くことなど、他愛ないことだと言えた。

 

「それにね、マイッツアー君。指導者とは状況に流されるものではなく、作り上げていくものだ。綺麗ごとの裏でジャミトフ君が何を考えているか、興味はないかい?」

 ワイアット閥が軍を動かす理由に漂流者の捜索を頼んだだけだろうか?

 

誰にだって誇りはある、そして誇りとはプライド。

即ち、悪徳の一つたる傲慢と同様の意味を持つのだ。ジャミトフほどの男が持つプライドであれば山の様に高いであろう。

 

「はっ! 今から御両所の大所高所を知ることが楽しみでなりません!」

 より高みの目的を叶えるために、ジャミトフもグリーンもあえて泥を被った。

理想と現実を同時に叶えるその姿に、マイッツアーは新しき貴族たちの姿を見たのである。

 

 二人が無事に救出されたのは、そんな背景があったからだ。

地道な捜索を行い、残る可能性を一つずつ潰していったからこそ火星方面で見つかった。

 

彼らはあずかり知らぬことではあるが……。

一介の兵士にすら全力を割く連邦軍に対し、移民者たちは改めて宇宙開拓に本気なのだと肌で理解したという。

 

「えっと、これを向こうの研究区画に持ってけばいいんですね?」

「でも良いんですか? 機密エリアとか……」

「その辺りはIDで分けてますから大丈夫ですよ。それに、ここは公開施設ですから」

 迎えを待つ間、二人はアイナやシローの作業を手伝うことになった。

バスクからの要請や接収を断る為、理由として色々なミッションを同時並行で始めてしまい、人手が足りなかったからだ。

 

竜骨の段階から宇宙で組み上げられる大戦艦にして外宇宙探査船。

ユリシーズの姿をシリンダーの向こうに見ながら、二人はソーラレイ……かつてはマハルと呼ばれたコロニーの中を飛び回る。

 

「威圧って理由もあるんでしょうけど、本当に大きいわね」

「本気で外宇宙まで行こうと思ったら、これでもまだ足りないそうだけどな」

 どちらかといえば穿った見方の多いカレンに対し、コウは基本的に楽観的だ。

ふとした拍子に意見がぶつかることもあるが、漂流している間に歩み寄ることを覚えた。良く言えば互いの個性は尊重し合うということであり、悪く言えば妥協なのだろう。

 

「寒っ!? どうしてここからこんなに寒いんだ?」

「研究区画って自分で言ったでしょ。それに宇宙は寒いのが当り前よ。さっきまでが異常なんだから」

 ソーラーシステムが送ってくる光を受けて、日常区画ではふんだんに暖房が使える。

この研究区画ではソレをしていないどころか、むしろ逆だ。

 

「でも、この寒さは尋常じゃないよ。まるで何かを冷やしているような……。スーパーコンピューターかな?」

『……その通りだ』

「マシンボイス? でもAIじゃないわよね」

 コウの言葉は独り言に近かったが、部屋全体から響いてくるような音がそれを肯定した。

驚いたカレンが見渡すが、どこかに監視装置の類でもあったのだろうか?

 

それとも奥に居る研究者が、ワザワザこんな距離でスピーカーでも使ったのだろうか? 普通はそんなことなどありえまいが。

 

『……驚かせてすまない。もう自力では声を出すのも億劫なんだ』

「研究者の方ですか? どこかお体でも……」

「馬鹿っ。声が出せないんだから、そこは察しなさいよ」

 しかし事実は奇妙なり、だ。

本当に奥に居る研究者が、スピーカーを使って語り掛けて来たらしい。

 

『アイナから荷物を預かったのだろう? 私宛で間違いないよ』

 そこに居たのは大きな椅子に腰かける……というよりは、眠るようにして座っている男だった。

目の周囲に隈があるくらいは序の口だ、ゲッソリと痩せて青白く、体中にアカギレめいた傷やら、栄養補給のためのチューブなどが付いている。

 

いまどきの薬は強力で、下手な点滴など必要ないはずだ。

つまり古い方法に頼らざるを得ないほど、体の方が限界に来ているのだろう。

 

「お、お休みにならなくて良いのですか?」

『そうしたいところなのだがね。いま、スムーズに行って良いところなんだ。それと……もう幾らも保たない。眠るよりは研究を見届けてから逝きたいものだ』

(どこかアイナさんに似てるな……。性格は違ってそうだけど……お兄さんか叔父さん?)

 健康を損なう前は美男子であると思わせる土台があった。

品の良さと相反する、ギラギラとした視線はモニターに注がれている。

 

そして彼が視線を動かすと、隣の部屋の扉が開き……この部屋よりも寒いのか、温度差で空気が少しだけ白くなった。

 

『すまないが、こちらに運んでくれ。私のIDで開けたが、他言無用に願うよ』

「はっ、はい。……プロメテウス所属なんですが、あの大型機に使ってるのと同じ、視線ポインタですよね……」

「……」

 こんな時に何を言っているのかとカレンは呆れそうになったが、研究者は心底楽しそうだった。

誰が作ったのだと思う? と聞かれたら、貴方が設計したのですかと二人でやり取りしていた。男の子の会話だなあとか思いつつ眺めていると、目的の部屋には奇妙なものが並んでいる。

 

「……棺? お墓なんですか?」

『いや。コールドスリープの実験室だよ。ここには現時点で治療できない病を持つ者と、……司法取引に応じた何人かの犯罪者が眠っている』

(だから他言無用と言ったのね。……奥に空いてる場所がある。この人のかしら)

 今は脳天気に質問できるコウがありがたかった。

空いているのは三番目で、一人目と二人目が実験を兼ねているとしたら、まさしくこの科学者が新しい薬を待つための場所だったのだろう。

 

『繰り返して言うが他言無用だ。しかし……矛盾するようだが、君たちに頼みがある。万が一を考えて、ここに通しておいたという訳だ』

「りょっ……了解しました。小官の力が及ぶ限り、ジャミトフ閣下の勅命と同義に考えて対処いたします」

 驚きかけたコウであるが、それでも声を荒げない配慮位はあったようだ。

遺言かと思ったが、それなら親族らしきアイナに頼めばよいだろう。つまりはプロジェクトに関わる大きな問題なのだ。

 

『月で奪われていたコロニーの片側が、こちらに流れてくる可能性がある。万が一を想定して解凍処理に入っているが、その時は42番を閣下に届けて欲しい』

「了解しました」

(これだけ名前がない? どういうことかしら。名前による管理すら問題のある相手なの?)

 コールドスリープしている相手にも、様々な身分の者がいるようだ。

空いている三番目はアマモト教授と書かれ、やはりこの男の物だと推測で来た。

 

45番目のアサクラという男など、ジオンの軍人で虐殺犯とまで書かれている。

それなのに、42番だけ何も書かれてはいない。

 

秘密なのか、それとも中身を見たら一目で判るほどなのだろうか?

あるいは、それすらもアマモトとジャミトフによる策略なのかもしれない。




という訳で、宇宙を漂流している間に状況が動きました。

ジャミトフの依頼でワイアットさんが艦隊を動かし、捜索を兼ねて大規模な観艦式を敢行。
どうみてもデラーズとバスクの戦いを牽制している感じですが、気にしてはいけません。
重要なのはコロニーが予定通りに月に落下したり、間違って地球に向かっても良いように構えています。

●マイッツアー・ロナ
 ブッホ・コンツエルンの重役で、原作では後の戦役を引き起こす予定であった。
しかしデブリ処理をジャミトフが移民のための事業にしてしまったので、代わりのその監督権を得るためにワイアットに接近した。
(なお、微妙に年齢が判らないので、その辺りはボカしています。もしかしたら、父親のシャルンホルストだったり、息子の方が良いかもしれませんが)

●今週のメカ
MS-106X1『エックス・ワン』 → プロメテウスでは『ゼク・アイン』
 潔く新しい技術開発を諦め、旧来の技術を洗練している。
おかげで内部構造だけなら17mで達成し、動力パイプや外装込みで18m。
旧式の延長で弱いように見えるので、一応連邦の許可が出ている。
これを嘲る者と、重量比で強力かもしれない者で見識が判れる。

なお本体はオプションの方であり、内部構造はジャミトフに丸投げ。
代わりに彼の依頼で、様々なオプションパックをテストしている。
高機動の第一種兵装、大型武装の第二種兵装、継戦闘・大規模戦の第三種兵装。
そして今回出てきた、長距離進軍・突撃用の第四種兵装である。

『冷凍施設』
 今は語る時ではない。


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フェイク

明日のつもりでしたが予定が切りあがり、書きあげれたので本日投稿。


●欺瞞工作

 月へのコロニー落としはフェイクであった。

レーザーで推進剤に着火され、その軌道を地球へと向ける。

 

これを追撃し、自らを陥れたデラーズに殺意を抱くバスクであったが……。

周囲の艦が次々に加速を緩め、惰性航行を始めたことに怒り狂った。

 

「どうした! なぜ停止する! 私は停船や集結命令など出しておらんぞ!」

「燃料切れです。これ以上の加速はデラーズが現れた時に反転もできません」

 バスクは思わず唖然とした。

自らの進退は、この一戦に掛かっているのだ。マスドライバーは取り返して面目は保ったが、本命が地球へのコロニー落としだとしたら必ず防がねばならない。

 

月ならどうでも良かったが、もし地球に落下したら後がない。

それなのに、どいつもこいつも自分の足を引っ張るのか! それともこれも、ジャミトフの仕業なのか!?

 

「基地を取り返した時に補給を受けただろう! なんでここに足が止まる!」

「この艦隊は打撃編成です。戦闘力に優れますが、長期戦には向いておりません」

 通常、四セットで構成される分艦隊が六セットで構成される。

更に戦艦を多く含み、コロンブスも補給艦ではなく空母仕様の物が主体なのだ。

 

例え分艦隊が一セット足り無かったとしても、烏合の衆であるデラーズに負ける気はなかった。

だが、ここに来てこの編成の長所が短所に逆転するとは!!

 

「どうなさいますか? 今ならば通信が……」

「両舷全速で飛ばせ! 忘れたのか? 本艦は疑似三胴艦だ。最大加速後に両舷の二艦を切り離せば十分に間に合う!」

 参謀たちは思わず開いた口が塞がらなかった。

ハキューリズ級大戦艦ならば確かにそのようなことができる。

 

だが、たった一隻の戦艦で何ができるというのか?

 

「お待ちください。我が艦だけではコロニーを打ち砕くのは無理です」

「何を言っておるか。デラーズであればダカールに落とす為、最終調整を行うだろう。コロニーは機動艦隊にでも任せて、のこのこと出てきた奴を討つ!」

 バスクは愚かではない、むしろ頭のキレは冴えている方だ。

ゆえにこの場で可能な最大限の利益を見つけ出した。

 

敵の首魁を倒すために転身、そのために危険を顧みずに精鋭だけで向かうのだ。

その作戦あらばこそ、最大の功績であるコロニー落下阻止は他の艦隊に譲る……という言い訳を見つけたのである。

 

「残った燃料は足の速い艦に集中させろ。随伴艦がおればグワデンを落とすのも容易い!」

「……」

 もしデラーズがこちらに向かったらどうする気なのだろう?

そう言い返したいが、時間が何より重要なこの状況で動けない艦を潰す必要もあるまい。ゆえに参謀たちは反論もできず、バスクの命令に従うほかはなかった。

 

 

 動きを止めたバスクたちとは違い、一足早く補給を始めた艦隊がある。

デラーズ艦隊ではなく……最初にコロニーを奪取したはずのシーマ艦隊だ。

 

「ゲルググのパーツはありがたいけどね。あんたのところは大丈夫なのかい?」

「アナハイム製の試作パーツもあるから、どこまで信用するかは自分でなさいな」

 二隻のザンジバルが横付けされ、一隻の補給艦から余剰パーツが供給されていた。

その船はジオン軍のパゾクではなく、連邦製のコロンブス改なのだから笑えない。バスクの監視網を逃れているのも、この船を使ったからだろう。

 

片方の船はシーマ艦隊のリリーマルレーンだが、もう一隻はアクシズ先遣艦隊を名乗っていた。

 

「そういやキメラ。あんたの弟の一人が利用されたんだっけか。精々気を付けるとするよ」

「そういう『設定』だったわね。……島流しが長いと忘れそうになるわ」

 シーマと会談するもう一人の女司令官は、親衛軍出身でキメラという名前を持つ。

もちろん偽名であるが、似たような響きのキマイラ隊と間違われたとしても遜色ないほどの腕前を持っていた。

 

酒でも呑むか細巻きに火でも点けたいところだが、生憎と出撃前のパイロットには厳禁。現場で守られたことはないが……上が大っぴらに破るわけにはいかない。

代わりに書類……本命である太陽路攻略戦に向けて作戦書を互いに渡しあっていた。

 

「温く温くと暮らしてた連中は気に入らないが、それでもマハルを取り返すためにはあんたらの協力が必要だ。踊らされてやるからしくじるんじゃないよ」

「判っているわ。貴女たちに価値がある内は決して裏切らないから安心なさい」

 そう言って互いに苦笑しあった。

どちらがより危険な任務になるか判った物ではないし、安全に見えても連邦の対応次第で逆転しかねない。

 

オペレーション・タイトロープ。

奇術と詐術による綱渡りの作戦が始まる。

 

そしてシーマがリリーマルレーンに去った後で、キメラは受け取った書類を見もせずに焼却した。

 

「朋を捨て、国を捨て、今ではアナハイムの狗。我々はどこまで堕ちれば良いのですか、閣下」

 その先にかつて夢見た理想郷があるのだろうか?

最初から最後までシーマを騙していた事を心苦しく思いながら、キメラは『部下』たちに指示を出した。

 

「本社からの指示通りに動く。取り掛かれ」

「はっ!」

 補給艦の作業員に偽装した、アナハイムの工作員が動き始めた……。

 

●オペレーション・タイトロープ

 ぶつかりあって軌道を変えたコロニーの残り片方。

それは太陽路として設置されたソーラレイに向かっている。

 

補給を整えたシーマ艦隊はそれを取り囲む形で布陣。

ゲルググのパーツに換装することで、MS-14F本来の機能を充足している。

 

「守備隊が劣勢です。増援を送りますか?」

「仕方ないな。状況次第でエックス・ワンで出る。第二種兵装、いや第三種兵装を用意してくれ」

 ゲルググ・マリーネとて今では旧型機のはずだが、精鋭ゆえか侮れない。

連邦軍が設置している防衛隊では荷が重く、ジム改が多いくらいでは押し負けていた。

 

苦戦を伝えるオペレーターの報告に、MS参謀であるシローは自身の出撃を含めて対策を立て始める。総予備を投入しての火消しであるが、迂闊に投入するわけにもいかない。

 

「隊長機は第二種兵装で構いません。わたくしも出撃しますから……」

「アイナ……。判った、それで頼む」

「了解しました。ヴィシュヌ神のチャクラム、並びにビーム・スマートガンを用意します!」

 万全の態勢など整えられるはずもないが、それでも可能な限りの準備を施す。

部下には継戦用の装備を用意させつつ、自身は長距離砲戦を試みる。

それは決して後方で援護し続けることを意味しない。

何故ならばここは太陽路であり、マイクロウェーブを受信する機能を持たせたスダルシャナとその装備があれば、無制限にビーム砲撃が可能なのだ。

 

「リリーマルレーンは目撃されているか?」

「はい。ザンジバルⅡが一隻、他にもムサイ後期型が十隻で固めています」

 コロニーを奪取したのがシーマ艦隊と判った時点で、可能な限りの情報が送られている。

情報では旗艦のリリーマルレーン以下、ムサイが八隻、補給艦が数隻存在するとの事であった。

 

今回は後方に補給艦を置いて、巡洋艦だけで構成されている。

高速で移送することが可能で、現在の配置を信じるわけにはいかなかった。イザとなれば、コロニーを加速させつつ突っ込んでくることができるからだ。

 

「十隻か……多いな。何隻かは狙撃できると思うけれど……」

「あの。オレ達も出撃しましょうか? スマートガンの予備があれば、オレの機体でも砲撃できるはずです」

 自分が予備隊を率い、火消しを行うのは容易い。

だが予備が払底したと思われて、こちらの脆い部分を突かれるのはいかにもマズイ。

 

そう思った時、コウが修理の終えた機体の運用を申し出た。

大型で炉心を二基備えるその機体は、テストマシンとはいえ実戦は十分にこなせる宇宙空間ではサイズ上の問題があろうとも、ブースターを吹かせて機敏に行動できるのだ。

 

「それはありがたいけれど、コネクタの問題は? スマートガンは機密装備だからハードポイントでの供給型じゃないんだ」

「問題ありません! お忘れかもしれませんが、アレを試験していたのはオレですからね!」

 ビーム・スマートガンは砲撃戦用の大口径ビームライフルだ。

片手で放つことは不可能で当てるには専用の観測装置がないと難しいほどの遠距離を想定している。まだまだ試作品の段階で、エネルギー供給もさることながら様々な問題があった。

 

だが、それを試験し、後にはバーストライナーにも似た装備を試したことがある。

試験機ゆえにコネクタの調整装置が存在し、規格によらず接続することは容易かった。また専門の装置などなくとも、そこらの機器など比べ物にならないセンサーを常設している。

 

「なら協力してもらおうか。しかし君たちに何かあると閣下に申し訳が立たない。一発撃つごとに常に場所を変えて、位置を悟らせないようにしてくれるかい?」

「遊撃隊が居ると思わせるんですね! 了解しました」

 シローが手持ちの予備隊を直卒して当たれば、不利な場所を一つずつ潰していける。

だがそれでは相手に付け込まれるだけだが、コウがいろんな場所から砲撃すればそうもいかない。同じようなことができる機体が、何機あるか判らなくなるからだ。

 

 

 そして遂に、シローが出撃せざるを得なくなった。

正確にはその手前でより良いタイミングを狙ったのだが、同じことだろう。予備隊を使って戦局を優位にできる状況など、そう多くはない。

 

「アマダ大尉! 隊長機以下、九機が高速で突っ込んできます!」

「散開! アイナ、敵の目をこっちに引き付けるんだ!」

「はい、あなた!」

 本隊は肩と腰を改装したのか、ブースターの数が多い。

プロペラントタンクから直接噴射する小型ブースターを切り離し、こちらの砲撃の直前で相手も散開した。

 

だが、そこからがこの敵の恐ろしいところだ。

左右に分かれた分隊が、それぞれ独自の判断で動いているはずなのに、一糸乱れぬ統率で紋様を描くようにフォーメーションを築いている。

 

「ば馬鹿な、この速度で囲まれ!? う、わぁ!?」

「シマダ!? 各個に広角射撃。味方にだけは当てるなよ!」

 九機のうち六機がシロー達の牽制にあたり、残り三機が集中射撃を食らわせた。

シマダと呼ばれた兵士は四方から攻撃を受ける。MMP80はマシンガンだが、こちらの装甲もルナチタニウムではない。あっけなく火の玉となって宇宙のチリとなった。

 

そして恐怖はそこが二番底である。

敵は攪乱の為に放たれた大型マシンガンやマルチプル・ミサイルを、急加速で鋭角的に避けながらも、全体としては秩序を守っている三々五々に分けれながら、時折に二・三機が集結しては、こちらの一機を葬っていた。

 

「何故だ、何故あの速度で連携が保てる? ミノフスキー粒子は撒かれているはず」

「はい。重戦闘散布とは言いませんが、あそこまで高度な情報を伝えるのは難しいはずです」

 指向性レーザー通信は光信号ゆえに、ミノフスキー粒子で電波が妨害されても通信が可能だ。

しかし基本的に可能なのはブレードアンテナが標準搭載された隊長機のみであり、他の機体は通信機能が強化されたようには見えない。

 

そんな折、戦場を貫く光線が戦局を傾けさせた。

 

「大尉! 後方のウラキ機より支援砲撃が来ます!」

「ありがたいがこの状況では……。うん? いま一瞬、敵の動きが乱れたような気が……」

「あなた、間違いありません。確実に連携が崩れました」

 通信を受けた後、巨大な光の剣が戦場を両断する。

立て直したのは僅かな間のはずだが、シローは息を吐くのも惜しいくらいに視線を動かした。

 

「観測用の映像が欲しい。スダルシャナの全機能を使ってくれ。回避機動はこちらで把握する」

「……厳しいですが、何とかやってみます」

 シローの機体はアッシマーをSFSとして使っているので、回避パターンは同期できる。

その間にアイナの出番なのだが……大型のアッシマー『スダルシャナ』は実験機ゆえに様々な機能がある。その点はシローの機体ほど複雑でも大きくもないが、制御を一人で行う分大変だ。

 

これほどアイナを酷使した事はベットの上でも記憶がないほどだ。

だが今、頼りになるのは愛妻という事実を除いても彼女以外にあり得ない。解析は自分でやるとしても、データが揃うのを今か今かと待ちながら、ビームスマートガンで敵機ごとムサイを狙った。

 

「何か判りますか?」

「……そうか! 敵はウラヌス・システムと同じく、発光サイン等でフォーメーション・データのやり取りをしていたんだ。……迂闊だったな」

 味方が可能なことは敵も可能。

単純な事実を見落としていたことに、シローはようやく気が付いた。

 

そもそもランダム回避も含めて動き回るシロー達を、後方のコウたちがどうやって判断したのか?

それは事前に行動半径をパターン化して伝えているからだ。ランダム軌道を掛けたとしても、その範囲以外は出ないので、そこだけ避ければ良い。

 

「アイナ! 拡散モードで砲撃を繰り返してくれ。当たらなくても良い!」

「敵がやりとりしている信号を遮るのですね? 判りました。やってみます!」

 拡散モードは試験用も良いところで、現状ではビーム・スプレーガン程度の威力しか出ない。

だが相手が旧式機ならば十分だろう。それに……狙いは光信号を少しでも遮断することだ。装甲を貫いて沈める必要はない。

 

シローが戦場を薙ぐようにスマートガンを放つと、アイナはそれをサポートするようにアポジモーターで疑似的な超信地旋回を掛けながら、拡散モードでスダルシャナのビームカノンを放ったのである。

 

「やった。やはり敵は……」

『故郷を取り上げられ、はや三年! 暗く冷たい宇宙を彷徨い……』

 あれだけ統率の取れていた敵が、動きが乱れ始め個人が九人と化す。

それでもある程度の秩序を保つのは流石だが、シロー達の方が数が多く援軍も期待できる。

 

これで押し返せるかと思った時、凛とした声がノイズに混じって聞こえ始めた。

 

『味方からも罵られ、蔑まれ、疎まれ……そんなのはもう終わり……』

「これは……敵の隊長機か?」

「だと思います」

 送られて来た情報の中には、海兵隊の情報とプロファイルが載っていた。

その部隊数はそれなりにあるのだが、目の前の敵は同じコロニー出身の同胞で構成されているそうだ。通称はシーマ艦隊であり、その故郷とは……。

 

『マハルよ、あたし達は還ってきた!!』

 そう、シロー達が守るソーラレイはかつてマハルと呼ばれていた。

コロニー建設の土建屋的存在だった場所で、素性も知れぬ者も多く、徴兵じみた強制さで志願を余儀なくされた。

 

その後は毒ガスを使い、シローの故郷アイランド・イフィッシュを虐殺したと伝えられている。

難き相手だとは判っているが、騙され棄てられたという情報を知ってしまった。難いが憎み切れない哀れな存在。

 

同情など禁物だと知ってはいたし、望んでは居ないだろう。

だからシローは極力感情を持ち込まぬことで、お互いの気持ちに整理を付けるつもりでいた。

 

あえて言うならば、それがシローの限界なのだ。

ニュータイプならぬ身には、それ以上のことを知ることはできないのだから。

 

『その大型砲! もらった!』

「くっ! 邪魔だ!」

 ビームサーベルを翻し、突っ込んで来るMS-14Fs。

シローはとっさにビームスマートガンについている銃剣を起動させ、槍として受け止める。

 

だが驚愕すべきは、その後のこと。

敵後方に居た損傷機が飛びこみ、シローに抱き着くようにしつつ自爆したのである!!

 

「あなた!」

「な、なんとか無事だ。なんて執念なんだ。……だが、故郷を失ったのはオレも同じだ! 負けるわけにはいかない!」

 ここでシローは誤解を解けなかった。

自分と同じく故郷を失った存在であれば、爆発寸前の機体であれば敵諸共というのは判らなくはないからだ。

 

だからこそ、シローは誤解を解けなかった。

やはりニュータイプならぬ彼には、そこが限界だったのだろう。

 

停戦信号が『ソーラレイ』より打ち上げられるまで、その事実に気が付くことはなかった。

 

『そこまでだよ。この色男とお仲間の命が惜しければ、さっさと降伏するんだね』

「……そんな。お兄様……」

「馬鹿な。……だとしたら、こいつらは一体……」

 送られてきた映像には、アマモト教授を人質にとったシーマの姿がある。

海兵隊の一部が陸戦装備で乗り込んでおり、ソーラレイを制圧していたのだ。




 という訳で、あまり戦闘していませんが戦闘回でした。

バスクというかコリニーの第二主力艦隊が打撃編成で、戦艦が多くコロンブスも空母仕様が多いと言うのはこの日の伏線という名の言い訳。
戦力的には勝てるぜ! と思っていましたが、ステファン・ヘボン少将の代わりにフェイントに引っ掛かりました。とはいえ戦術の天才(?)、咄嗟のヒラメキでデラーズ狙いにシフト。
味方の消耗と引き換えに何とか達成しようとし、デラーズもまたバスクをおびき寄せ、討ち取るために乗っています。

●タイトロープ作戦
 不憫なシーマ様が流浪の果てにやっと故郷を取り戻します。

見ての通り、キメラさんがシーマ様の代わりになって視線を釘付けに。
海兵隊の精鋭を偽装して、親衛軍+@でシロー達の目を引き付けています。
増加したムサイはそれを誤魔化す為で、隠し戦力はここで使い、予備兵を多く持っていると思わせた感じですね。
その間にシーマ様はリリーマルレーンを二番目の囮に使い、見つかったとしても、母艦を最大戦速で遠ざけながら二重の囮に使う予定でした。

・キメラ三姉弟
 名ばかりのお坊ちゃんの多い親衛隊の中で、精鋭と言われる『親衛軍』の一人。
高級将校であり、同時に凄腕のパイロットである。なお彼女の直属部隊は個々の能力こそキマイラ隊には及ばないが、最低限の信号だけで一糸乱れぬフォーメーションを組むことができる。
一期でジャミトフがやったA集団の統率力を、B集団並みの戦闘力で実行するという連中。
腕一本で操縦、片手でタッチペンを使い集結地点と時間を伝えてるとか。
(末弟役のギャルガ隊が個性強めでヤザンと同類のエース部隊、ネイアスが情報将校、キメラは最後の門番(ラストバタリオン)。使徒=エージェント=エンジェルというのは同じ語源である)

●今週のメカ
『第二種兵装』
 最大で五種ある兵装の内、遠距離戦に特化した仕様。
ビ-ム・スマートガンと高性能照準装置であるレドーム・ディスクで武装。GP02の大型ブースターの代わりに、光学レーダーがあると思えば判り易い。
最新式のエネルギーCAPを備えて、弾倉として切り替えることも、チャージ式で撃つことも可能。
今回はマイクロウェーブ受信機をアイナの方が備えているので、発熱を気にしなければ無制限に撃てるという状態だった。

『第三種兵装』
 最大で五種ある兵装の内、継戦に特化した仕様。
両手持ちの大型マシンガンや大口径バズーカを主体に、マルチプル・ミサイルや大型ミサイルなどで武装している。GP03をモビルスーツサイズにコンパクト化した感じである。
各所に弾倉をパケージングしたボックスを設置でき、陸戦型ガンダムのコンテナ付きからの進化系だろうか。一斉発射しないガンダム・ヘビーアームズでも可。

『第五種兵装』
 今後に絶対出てこないので、今のうちに公開。
有効射程だけで10m以上の大型火炎放射器とナパーム弾で構成された、対生物兵器除去仕様。これを増強中隊が横並びで使用し、何もかもを焼き払う炎の剣である。
なおG3ガスも焼き払えるが、コロニー内で使用すると住民が必要な空気も瞬時に消費される素敵仕様。

アッシマー『スダルシャナ』とチャクラム
 運用試験型で大きく、様々な機能を備える。
中でも特徴的なのは、マイクロウェーブを準する『ヴィシュヌ神のチャクラム』、そしてそれを最大限に活かせるマルチロック機能。
今回はそれを最大限に活かし、シローの撃ちっ放しを可能にさせた。
シローとアイナの力が合わせれば、二人はプリティ・ザンネック・キャノン。

MS-14Jr『リファイン・ゲルググ』
 アクシズおよびアナハイムで試作された、ゲルググの再設計機。
21mと大型化しているが高機動戦を前提にしているため、ジムより相当に速い速度で移動可能。
装甲が旧型機と変わらない実験機ながらもシーマ艦隊と入れ替わりに使用され、二機が投入。偽装の意味もあってマリーネと似たような外装に変更された。


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願いの果てに

●伝えるべきもの

 二度目のコロニージャック。

それも戦闘中に陸戦を挑むという、本来であれば無謀極まりない手段でそれは行われた。

 

コウ・ウラキが冷静に行動できたのは、単に武装のクールタイムだったからだ。

現在のビーム・スマートガンは発熱という意味でもエネルギーCAPのチャージという意味でも、連射ができる武器ではない。一発撃った後に移動しろという指示もあり、コウは他に何もできないからこそ、すべき行動を素直に採れた。

 

「カレン! 輸送艦の遠隔管制を!」

「ちょっとコウ! みんなを捨てて逃げるの!?」

 カレン・ラッセルは驚きの声を上げる。

コウはメカオタクだが熱血漢であり、どちらかと言えば調子に乗りやすいタイプだ。

 

この状況で激高し、コロニー奪還に動くことはあっても逃げることはないと思っていた。

そして仲間を置いて逃げ出すような男を好きになった覚えはないし、自分自身の目を信じている。

 

「母艦に借りてるコロンブスには直通回線がある! 教授なら内部の様子を送ってくれる筈だ!」

「っ! そういえばそうね。でも……入力する余裕なんて……」

 言いながらカレンはサブモニターを立ち上げる。

空中に画像が映し出される姿はいまだに慣れないが、自由な位置に調整できるのが今はありがたい。

 

そしてコロンブスを改良した輸送艦につなげると、既にいくつかの画像が映し出されていた。

 

「よし! あの人なら視点ポインタだけで入力できると思ったんだよな!」

「何よ、その無駄な努力と理解……心配して損しちゃったじゃない」

 よく言えば凝り性、悪く言えばカルト。

アマモト教授と名乗るギニアス・サハリンにはそういう所があった。

 

こんなこともあろうかと……いや、体調悪化を踏まえて特訓していたのだろう。

 

「別に難しくはないぜ? 面倒くさいだけで」

「普通はその面倒くさいってのをしないんだけどね……。っと、相互通信を切って、こっちが拾うだけにするわよ」

 どの位置をキーボードに見立て、どこをリターンキーか。

それだけで一応は視点ポインタで入力可能だが、まさかここまでやっているとは思わなかった。

 

しかし、それでも緊急時の行動などたかが知れている。

幾つか事前に指示してある行動を促すだけで、音声などは全カットの状態。これを自分たちが受信できるだけにしておかないと、シロー辺りが母艦に指示を入れて向こうに伝わりかねない。

 

「42番の確認と搬送準備……クリア。アマダ大尉とのコンタクト……指示待ち。カレン……そっちはどうだい?」

「変ね。血の海かと想像したんだけど綺麗なものよ。もちろん死人なんて居ない方が良いけど」

 コウが事務的な命令を確認している間に、カレンが映し出されるモニターを見ている。

すると不思議な事があるのだが、陸戦で制圧されたというのに、途中の回廊で誰も殺されていないのだ。

 

「隔壁が降りてるし、フェイクの通信と停戦信号で降伏を促したのかしら?」

「だとしたら教授が画像を送ってくるはずはない」

 二人はあずかり知らぬことではあるが、シーマ艦隊はマハル出身である。

加えてコロニーレーザーに加工された際、封鎖されて通路としては使わなくなった場所も多いのだ。戦いが終盤……混戦になった段階で制圧できなかったのは、時間を掛けて移動したからだろう。

 

『二次線まで下がる。それでいいか?」

『いい子だ。できればそのまま、一次線まで上がってもらえるとありがたいねえ』

 その時、ちょうどMS作戦参謀であるシロー・アマダとの交渉がある程度まで終わったようだ。

連邦軍は最終防衛ラインからの立ち退きを要求され、第二次防衛ラインまで後退していた。燃料を考えると、これ以上距離を離すと戦闘が再開した時に備えることができない。

 

そんな微妙な距離で許しているのは、交渉の余地があると見せておくつもりなのだろう。アマモト教授以下、研究員を人質に取っているのだから無理はできまい。

 

『こんなことして何になる! 今ならばまだ……』

『はん? 聞いたかい、こいつテロリストに正論()とうとしてるじゃないか。お笑い草だねぇ』

『『HAHAHA!!』』

 シローが説得しようとすると嘲笑で返した。

しかしそれもシーマ・ガラハウが扇子をパチンと畳むまでだ。その瞬間に笑いがたちどころに止まり、次いでシローとの接続画面が打ち切られる。

 

あんたじゃ話にもならない。

その言葉ですら惜しいというかのようであり、次の手を見せないための行動であるとも思われた。

 

『これでようやく交渉が始められる言ったところかな?』

『おだまり! あんたに口を開く権利なんざ、(はな)からないんだよ!』

 アマモト教授が口を開くとシーマは閉じたままの扇子を刃物か拳銃の様に喉元に付きつけた。

必要なこと以外は黙っていろ……という事なのだろうが、教授はそれに従おうとしない。

 

『欲しい物があるのではないかな? でなくばこれほどの無謀はすまい』

『黙ってな! 余計なことを言うなら二度とその口を効けない様に……っ!?』

 激高して教授の胸倉を掴んだシーマだが、あっけなく(はだ)ける胸元に絶句してしまった。

そこには器官があるべき所に無数のチューブが突き刺さり、肋骨の浮いたボロボロの肉体があったのだ。

 

「嘘……あれじゃあ」

「くっ。教授……」

 カレンが口元を抑えながら絶句するが、通信は受信オンリーなのを思い出してホっとする。

だが現実が変わるわけがない。教授の寿命は以前に聞いていた通りとっくに限界で、機械に置き換えることで強引に保たせているのだ。

 

『これで判ったかな? 私には最初から君たちを恐れる理由はないんだ。ついでに言うと、外の彼らが私のことを心配する理由もだがね』

『だっ……だったら、他の、』

 機械で代替可能な臓器は一通り変更している。

外見だけなら末期症状には見えないが、それだって強力な薬で抑え込んでいるのかもしれない。

 

そして映像はそこでブラックアウトした。

 

「ダメよコウ。これ以上は送られてこない。多分……」

「判ってる、判ってるさ! 教授の体力は限界で、教授は俺たちにこの画像を渡したかったんだ」

 人質に気を使う必要はない。

その事を教え、仮に陸戦で乗り込むとしたら、相手にだけ判るルートがあるので気を付けろと言いたかったのだろう。二人はそう信じてシロー達との接触を急いだ。

 

●虹の架け橋

 シーマ達にとってこれは最後の賭けだった。

流れ者に過ぎない自分たちが浮かび上がる為なら何でもする気だったが、ここ最近の潮の目(うんのつき)が悪過ぎた。

 

中でも最悪だったのが、親衛軍のネイアスがばらまいた彼女たちの情報である。

身内に棄てられた海兵隊の悲惨さをネタにしてデラーズに近づき、挙句の果てにジャミトフ暗殺事件の隠れ蓑として使ったのだ。

 

おかげで最初は同情され掛け、途中からは、やはりお前たちは利用するために近づくのだろうと言われる。掌を返すどころか360度とはまるでドリルだ。

 

「だったら職員が居るだろうが!」

 そう言ってアマモト教授を吊るしあげたものの、挙げた手の収まりがつかない。

死人同然の男を殴る意味などないし、苦痛を味わせて愉しむ趣味などなかった。そもそも自分たちが追い込まれた環境をどうにかしたいのであって、他人を嬲る時間すら惜しい。

 

ならば他の職員を人質にしようにも、今からでは手を出していない……生きていると説明するのも下手に見られてしまう。

 

『ああ……。彼らは私の手足のようなものだよ。とはいえなんだな、このままでは手足が私の受け取るべき称賛を得てしまうか。歴史に不動の名声を刻むのは一人で……』

「余計なことをすんじゃないよ! あがりが減っちまうだろうが!」

 今にも部下を始末しかねない教授に、シーマの方が驚いた。

実際、アプサラスを研究していた時にはそうするつもりだった。やらなかったのはインドシナを追い出され、アラビア半島まで逃げ出さざるを得なかったからだ。

 

『では君たちが望むことから始めようか。冷凍睡眠している連中に用があるのだろう? そこに土産が置いてある』

「土産だって?」

「シーマ様! 扉が! さっきまでビクともしなかったのに」

 プシュっと音が開くと、コウが見た時よりは空気が白くない。

徐々に温度を下げて解凍準備中だったのだろう。不思議なことに45基の冷凍睡眠装置は全てそろっており……空いているのは教授用の3番だけだった。

 

「ブツを探しな! 売る相手はデラーズだけじゃない。あいつを確保できれば、アクシズだって連邦だって高く買ってくれるんだよ! あたしらもマハルも買い取らせるんだ!」

「へい!」

 その為にアナハイムの手引きでデラーズの計画の一端を担いだ。

会社の名前を出してないのも、その為の最低限のモラルに過ぎない。アナハイムには裏で取引の仲介をして貰わねばならないのだ。

 

コロニーの一基は月からのフェイントで、ダカールではなくアフリカ中央の砂漠地帯。

もう一基はこちらに輸送し、ぶつけると見せかけてコロニーレーザーの秘密を暴け。

 

それがデラーズの計画をアナハイムが修正したポイントである。

聖地周辺から人間を排除するための誘導だとか、連邦がどんな陰謀を企んでいようと構わなかった。それでマハルに乗り込み、奪い返す格好の理由になるのだから乗ったまでだ。

 

「41番、ローレン・ナカモト。反逆罪。42番、グレミー・トト。ニュータイプ研究の……っ!? シーマ様! 45番を見てくだせえ!」

「45? 新しく運び込まれたやつかい? こいつがど……」

 比較的に新しい40番台を読み上げていた部下が思わず声を上げた。

釣られてシーマが覗き込むが、確かにこれは絶句せざるを得なかった。そこには彼女たちもよく知っている男が眠っていたのである。

 

「あ、ア、アサクラ!? どうしてこのゴミ屑がこんなところに居るっていうんだい!?」

『土産だと言ったろう。お気に召さなかったかな?』

 驚くシーマと違い教授の方はどこまでも平静だった。

声帯の代わりに機能するマシンボイスが、余計に非人間性を浮き彫りにさせる。

 

「そういう意味じゃない! どうして逃げ出したはずのあいつがこんな……」

『アクシズと取引したに決まってるじゃないか。……もしかして君は、地球よりも火星に近いこんな場所で、アクシズと取引していないとでも本気で思っていたのかね?』

 42番のダミーに入れたグレミーもそうだ。

内通するに際して、人質として彼らにとっても価値のある人形と交換したのだ。万が一の時にザビ家の血筋を残し、かつ、ニュータイプ研究を好まないジャミトフと取引する両方の意味で。

 

『恨み重なるそいつは、今や君たちの物だ。土産だから好きにして構わないよ。……もっとも、使い方次第では本当の報酬を支払うかどうか考え物だが』

「本当の……報酬?」

 思わずフリーズしていたシーマが教授の言葉で我に返る。

報酬、報酬と言ったか? これ以上何を渡すつもりなのか、その見返りに何を渡すか気にならない訳はない。

 

だが……。

この人でなしは、本当に信用できるのか?

 

『ジャミトフから渡されたまっさらな戸籍がある。君たち全員分を賄っても余りあるはずだがね』

「なっ!? そ、そいつが本当ならば……姐さん!」

「シーマ様! こいつは乗るべき案件かもしれやせんぜ」

 教授の声と共に、大きな椅子に設置されたケースが開いた。

そこには今時珍しい紙媒体。そして読了後に焼却処分の事(アイズ・オンリー)……と但し書きが付いたうえで、何人分かを書き込む方法が書いてある。

 

「狼狽えんじゃないよ! ……そいつが本当だとして、他人の褌じゃないか。それでどうして、他ならぬジャミトフを裏切ってるあんたが信用できるって言うんだい!!」

『はははっ。今更、今更死人に何を問うているのかね? 故あらば裏切ろうとも!』

 久しぶりに笑ったとばかりに哄笑し、そのままゲホゲホと咳込んだ。

そして新たにモニターの一つが突如割れ、本来仕込むべき場所ではない所に、小さなデータチップがある。

 

もちろんそんな物に書き込めるのは大したものではない。

精々が数人から一個小隊分くらい。つまりは報酬は本物であるとの証明だろう。

 

『だが、君ら如きに私と彼との間柄を語って欲しくないな。彼は死に逝く私へ数年の寿命を、人類史に刻むべき新しい目標をくれた。だから私なりの方法で、彼への忠誠を果たすだけだ』

「お前なりの……?」

 こいつは化け物ではないかと思うと共に、化け物なりの真実を見た。

こいつは嘘を言っていない。嘘を言っていないからこそ、報酬は本物で、だからこそ始末に困るのだと理解できてしまった。

 

『彼の本分は統治者だ。戦いが終わった後を考えねばならぬからこそ、どうしても迂遠になる。逆にメラニーは利益を狙い過ぎだな。聖地が欲しいだけならとっくに叶えているはずだ』

「……」

 それはデラーズからも聞かされた両者の欠点だった。

利益誘導で人を動かし、失敗しても良い策を無数に積み上げるジャミトフ・ハイマン。思惑をかわすことは難しいが、波に乗るつもりならば逆用できる。

 

逆にメラニー・ヒュー・カーバインは、あくまで利益が大前提だった。

聖地を奪還するとは言っているが、人類全体を宇宙に移民させるという理想まで合わせてしまっている。確かにアナハイムの利益は効率良いのだが、理想そのものが遠く離れて行っているのだ。

 

だからこそデラーズは二人の策を読み切って今回の博打に出ている。どうせメラニーがシーマ達を使って工作するのも想定済みだろう。

そこまで考えた時、シーマの頭に閃くものがあった。

 

「まさか、あんたの目的。それは……」

『そうだ。せっかくの完全循環型コロニー。それをどうして地球圏に飾る必要がある! あれは火星や木星進出にこそ必要な物だ!』

 それはジャミトフが理想としながらも、政府の反対で不可能な事だった。

あくまで各コロニーを再建させ、その延長上で経済政策の一環として余剰コロニーを送る程度でしかない。実際に火星圏に送られるのは、いつの日だろうか。

 

つまりこの男は、ひとまず火星圏にコロニーを送り、遠く彼方へ居住権を広げるために動こうとしているのである。

それこそジャミトフがやろうとして叶えられない願いであり……。理想が現実と乖離してしまったメラニーとの差をつけるための実績になるだろう。

 

『さあ、おしゃべりはここまでだ。もう直き時間が無くなるぞ』

「なん……だと?」

 言葉と共に複数のモニターが切り替わっていく。

一つは火星方面を警戒している物。もう一つは移動しているコロニーを映し出すものだ。

 

そこにはアクシズ先遣艦隊。

そして突如として加速し始めるコロニーがあった。

 

『シーマ様! コロニーがいきなり加速して……うわあ!』

「ばかな!? 点火できるだけの火力なんざ積んじゃいないはずだよ!!」

 巻き込まれたムサイが木っ端微塵に砕け散る。

駆逐艦が大きいとはいえ、コロニーの質量と比べるべくもない。

 

だが、コロニー落としを避けるために点火の融点はかなり高く設定されていた。

それこそデラーズ・フリートならばともかく、遠隔操作できないからこそ、フェイントには月のイグニション・レーザーを利用したのではないか!?

 

『アナハイムの手先なら可能だろう? ここにぶつける気だな』

「あたし達も居るんだよ!? ……くそ、キメラの奴! 裏切りやがって!」

 シーマには心当たりがあった。

他でもない、今回の作戦の橋渡しをしたキメラ達だ。危険な囮になってコロニー輸送を交代すると聞いた時には、ありがたいと思いつつも不審に思っては居たが……。

 

『こうなっては仕方あるまい! 呉越同舟と行こうじゃないか! 耐え難い未来への空白に、この私が虹の架け橋を築く!!』

 死に掛けた男のギラギラとした目だけがそこにあった。




いつからアマモト教授(ギニアス兄さん)が被害者だと思っていた?

という訳で太陽路を巡る話の後半に移ります。
悲しいことにシーマ様は、またもやピンチです。連邦軍・アクシズ先遣艦隊に挟まれ、風前の灯火。


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収束する運命

●世界を動かす感情

 地球絶対防衛線にて静止する船があった。

そこでは地表に向けて移動するコロニーを尻目に、優雅なひと時が行われている。

軽食を取りながらのボードゲーム、まさに貴族的な会合だった。

 

その一席に座るマイッツアー・ロナは目の前の男を恐るべきモノとして捉えていた。

動くなというメラニー・ヒュー・カーバインからの干渉。そしてジャミトフ・ハイマンからの漂流者捜索要請。両者を相手取りながら、巧みに舌先だけで乗り切ったのだ。

 

「……しかし、こんなにノンビリして居ても大丈夫なのでしょうか?」

「問題ないさ。紳士とは動かざる時に動かず、動くべき時には躊躇わずに動くべきものだ。単に今は時の経過を楽しむだけだよ」

 自分の手番を終えたグリーン・ワイアットはカードを伏せ、クラッカーの上にレバー・パテを塗った。先ほどはアンチョビかサーディンだったと思うが、良くこの状況でボードゲームに食事にと愉しめるものだ。いよいよもって肝の太さが違うらしい。

 

「マイッツアー君。歴史上で人を最も動かして来た感情を知っているかね?」

「いえ、寡聞にして聞いた覚えは……。憎しみでしょうか」

 会話の流れから違うと確信していたが、白紙回答だけは避けておいた。

 

「それはね、愛だよ。

人は誰も愛のために戦う。家族愛・隣人愛・愛国心……ああ、信仰心もまた愛だ」

 言われてみると判る気がする。

確かに愛に比べれば憎しみなど一時の感情。あるいは愛の逆転現象でしかない。愛を奪われたから、愛を手に入れられないから憎むのだ。

 

少なくともメラニーもデラーズもシーマ艦隊もそうだろう。

そしてマイッツアー自身もまた、その愛ゆえの行動を『つい最近』見たばかりだ。

 

「その日暮らしであるはずの『彼ら』があれほど積極的に動くとは思いませんでした。そこまで見通されておられるのでしょうか」

「ははは。それこそ人の心を操るジャミトフ君の仕業さ。私はそれを知っていたに過ぎない」

 先の漂流者捜索を兼ねた観艦式に際して、操縦を覚えて作業していた移民者たちまでが協力を申し出た。彼らにも見学者という配役で捜索に協力してもらっていたのだが……。

 

その移民者によるデブリ業者を使って、マイッツアーは秘かに暗躍していた。

全てはコロニーを止める為であり、その成果をもって彼らへの指揮権を得る為である。それを見透かされているわけだが、不思議と気分は悪くない。

 

「このゲームは宇宙開拓物だが、妙に今の時代にマッチしていると思わないかね?」

「ですが、これは数年間から……まさか!?」

 ガノタの開拓者。

昔からある開拓物ゲームの一つで、資源を生産してコロニーや航路を繋いでいくシンプルなゲームだ。

 

最近になって人気が出てきたが、発売自体はずっと前から出ている。

つまり宇宙開拓時代を築くために、打てる手は何でも打っている。移民者が宇宙開拓に賛同するような風潮造りから、その技術的・経済的な土壌まで無数に用意してきたのだろう。

 

「まさかコロニーの動きまで計算の内という事ですか? ですが火星方面はともかく……さすがにこちらの静止までは違うのでは……」

 マイッツアーもようやく太陽路に向かったコロニー、そしてシーマ艦隊の動きを把握した。

マハル出身者とも顔を合わせたことがあり、海兵隊の悲哀は以前から知っている。だからこそ火星方面に向かった方は理解が可能だった。そして何より、完全循環型コロニーは火星こそ必要な物だ。

 

それが狙い通りだとすれば確かに恐ろしい。だが、地球方面に向かった方は利用しようがない。

マイッツアーが手を回さなければ、そのまま地球に落ちかねない。まさかとは思うが、自分もまた思考誘導されているのだろうか?

 

「マイッツアー君。覚えておくと良い。カードゲームではね、必ずしも最上級の手札が交換相手にとって最も欲しい札とは限らないんだ」

 理想を言えばコリニー閥なりジャミトフ自身の利益に成ればよいのだろう。

事実、火星方面ではそうなっている。だが、地球方面まで最大利益を求めるのは欲張りすぎだ。

 

メラニーがイカサマもできる大富豪のギャンブラーだとするならば……。ジャミトフはカジノのオーナーである。

そもそも戦い方が違っていて当然だし、ジャミトフから見れば、カジノに新しいプレイヤーが登場しても良いのだろう。あるいは……メラニーのイカサマがバレるのを待っているのかもしれない。

 

「状況は飲み込めました。しかし……それならばこの状況、どうやって鎮めるのでしょうか」

「どこも血だらけで振り上げた腕を下ろせないでいるからね。まあ、それこそジャミトフ君の手腕を見せてもらうとしようか」

 地球はまだ良い。

コロニーの落下さえ食い止めてしまえば、後はデラーズを討伐するなり降伏させればよい。それこそ消耗しきったジオン残党を解体して国軍に吸収させればよいのだ。バスク等もはやどうでも良い。

 

しかし火星方面はまるで異なる。

シーマ艦隊はマハルを欲しがるだろうし、テロリストに利益をくれてやるのはタブーでしかない。万が一、アクシズにでも奪われたら火星に独立国家でも作られかねなかった。

 

そして現在進行形で双方に死人が出ているはずだ。

その恨みを抑えて巧みな交渉などできるのだろうか?

 

 

「しかし、納得がいきません!」

「しかしも案山子もない。軍人ならば命令に従え。……一番悔しいのは御兄さんの寿命を削られたアイナだぞ」

 コウ・ウラキが合流して内部の状況を伝えた時点では、暫く手出し無用と方針が決まった。

ちょうどアクシズ先遣艦隊が見つかったので、先にそちらを叩け。その間にソーラレイ側の動きを待つことになっていたのだ。

 

丁度その頃はまだ移動中のコロニーが加速しておらず、悠長に話し合っていられた段階だ。

だからこそシロー・アマダも妻の名前を利用して黙らせることを、恥として自分を抑えてた。本音を言えば、故郷を殲滅した海兵隊を許せるはずがない。

 

「ウラキ! そこまでにしとけ。アマダの奴が困ってんだろうに」

「「ヤザン大尉!!」

 コロンブス改にヤザン・ゲーブル達が乗り込んで来る。

バイザーを上げたヘルメットを斜に持ち、ゾロゾロと旗下のパイロットたちが続く。

 

「悪ぃな。もう少し早く来れば違ったんだろうが、ちょいとペズンで装備の受領に手間取ってな」

「ペズン?」

「ジオンの兵器工廠がある小惑星でエックス計画の本拠地だよ。プロメテウスが租借しているけどね」

 ジオン時代は没案になったモビルスーツからデータフィードバックを行っていた。

それは表向きの事であり、開発ナンバーを誤魔化して色々な研究開発を行っていたという。

 

大戦末期にはア・バオア・クーに拠点を移しており、その重要性は陰から陰に消えた。

ジャミトフはそこの技術は接収せず、小惑星も表向きの交渉対象には挙げなかった。全てはそこで、プロメテウスの技術を秘密裏に開発。同時にジオンの反骨心を抑えるために見逃していたのである。

 

「じゃあ、もしかして!」

「そうだ。ジム・カスタムは完全な形に仕上がってるぞ」

 大戦中に実証された技術を総決算したのがジム改。

開発中だった技術を含めて導入されたのがジム・カスタムにあたる。

 

しかしソレは内面の事に過ぎない。

意欲的な装備を備えることで、将来への不安に対処するのが本来の形である。これにコーウェン少将が行っているMK-Ⅱ計画による、内部構造まで考慮したものがゼク・アインであった。

(エックスという文字をアルファベットの十に読み替え、ドイツ語に直すとゼクス・アイン)

 

「一戦してアクシズを押し返し、連中が立て直している間にソーラレイに対処する。ウラキ、お前は俺のバックアップに付け」

「了解であります!」

 詭弁といえば詭弁である。

海兵隊を放置するのとどこが違うのか? だがヤザンならば両方に対処できてしまえそうではないか。コウはすっかりその気だしエースばかりの集団が加わったのだ、実際に可能であろう。

 

「助かりました。自分ではウラキ少尉を。いえ、自分を抑えられるか判りませんでしたので」

「まっ、そいつはお互い様だな。ところで俺たち二人が揃ったんだ、アレの出番だろ」

 シローは恨みであり、ヤザンは戦意という違いはあった。

だが異なる思想が混じり合う事で、お互いへの理解が道を譲り合う。目の前の海兵隊を討つならシローに任せるべきだし、ならアクシズを先にすれば良いかと切り替えられるのがヤザンである。

 

「これですね。……この状況まで開封するなということでしたが」

「この状況をまとめるようなアイデアって本当にあんのかね? 案外、的外れなことでも書いてあるんじゃねーのか?」

 シローが取り出したのは今時珍しい絹製の袋だ。

ソーラレイに何かあった時に、複数名の幹部が揃ったときのみに開封せよと指示されていた。

 

「では……まさか」

「なん……だと」

 そこには指示などなく、ただ一人の名前が書いてあったのである。

 

●作戦名はジャンヌ・ダルク

 加速を始めたコロニーより異形の化け物が出陣する。

港部分からにょっきりと顔を出したのは、朱色に塗装された三角形。その面積一杯に巨大なモノアイが躍る。

 

「あれはMA-05(ビグロ)? モビルアーマーが今更だと?」

「いや、違うぞ。まだ出てくる……」

 宇宙空間であるというのに、ズズズ……と音がしそうなほどの重量感。

おかしい、ビグロは高機動が売り物で、出すなら最初から出しておくべきなのに……と訝しんだ時。ようやくその全貌が明らかになる。

 

「なんだ? ビグロは何機連れているんだ? くそっ、ここで増援の投入とは……」

「違うぞ! 後ろは手下でもなんでもない。……あいつは恐ろしく、でかいんだ!!」

 よくよく見れば、出てきたのは港は港でも艦船が停泊するための宇宙港だった。

モビルアーマーを出すのであれば、もっと別の場所から出す方が奇襲になるだろう。つまりこいつは艦船並みに巨大なのである!

 

全貌を現したのは、ビグロを頭として使用した巨大モビルアーマー。

もはや艦船を建造した方が早いのではないかと思うような代物である。その出撃を守ろうとコロニーを守っていたゲルググが周囲に取りついていく。

 

『あの女をジャンヌ・ダルクに仕立てあげる! 公国の命運はこの一戦にあり、貴様らみなここで死ね!』

『『イエス、マイ・ロード!!』』

 最初から最後まで、シーマ・ガラハウという女をしゃぶりつくす気でいた。

一部の権力者に翻弄された哀れな存在。そう喧伝することで、海兵隊のみならずジオンそのものが利用されていたことにする。

 

ならば徹底的にシーマは哀れでなくてはいけない。

救いようがない程に叩かれ、自分たちの悪辣さが広まれば広まるほどに、権力者という悪。そして戦争という悲惨さは拡大するだろう。

 

都合の良い絶対悪があれば人はそれを信じたくなるものであり、シーマ達の影に隠れて真の作戦は進行する。新たな宇宙時代の為に、そしてサイド3で受注される、完全循環型コロニーの建設ラッシュが、滅びゆくジオン経済とその権威を復興させるだろう。

 

『だから後の時代に残せぬモノをみな連れて来た……。後は頼むぞシーマ』

 キメラはサブ・モニターに映し出された気色の悪い光景に目を移した。

そこには無数の少女たちが機械に繋がれている。それは戦闘ポッドに対して、小型のモビルアーマークラスの性能を持たせた歪な機体である。

 

アナハイムの技術で作り直され、元のオッゴなど欠片も残ってはいない。

彼女たちを最後のパーツとして運用するシステム面でも、機体の歪な性能から行っても一日も保つことはないだろう。

 

『ビグラングⅡ! 共に散り華を咲かせましょう!』

 キメラは無数のサブカメラをキーボード代わりに直接命令を書き込んでいく。

その姿はまるでシンセサイザーを演奏するかのようであった。

 

 

 これに対して迎撃を始める地球連邦軍。

加速するコロニーを止めようと必死なのに、巨大モビルアーマーが割って入ったのである。

 

「か、艦砲射撃が弾かれます! あれはバリアー?」

「いや、I・フィールドか!?」

『そうだ! この機体、止められるものならば止めてみせよ!』

 朱色の巨体が突如として金色に輝くと、メガ粒子砲が相殺されていく。

もちろんビーム攪乱幕も併用しているから金色に変わるのだが、この場合は大して差はあるまい。

 

「くそっ! ビームライフルが通じない……う、うわわああ!?」

『我らも忘れていては困るぞ!』

 周囲を固めるのは一騎当千の親衛軍。

残り五機が雑兵五千に相当、ビグラングⅡが万夫不当であれば一万五千は必要である。

 

主力であるビームライフルを無効化され、拡散砲に加えて精鋭の護衛を連れている。

もはやその辺りのレベルでは相手にならず、最低でも切り込み隊長級、できればエースが戦場に立つための最低条件だった。

 

「ジムライフルを持った機体が前衛にあたれ! ビームライフルしかない機体は取り巻きを近寄らせるな!」

「ですがここでコロニーの足を止めなければ……」

「くっ。せめてアマダ大尉たちのプロメテウス隊が居ればっ」

 予備隊のエックスワンは大型マシンガンやガトリング砲主体の第三種兵装だ。

火力的にも残弾的にも余裕があるはずだが、残念ながらアクシズ先遣艦隊を抑えに行っていた。

 

だが、第三種兵装は長期戦に備えた装備でもある。

艦隊を止めた後で、こちらに戻ってくるほどのスピードは見込めなかった。

 

「おーっと! 間に合ったようだなあ! こいつは俺たちに任せな!」

「ヤザン大尉!? すみません。お任せします!」

「コロニーの進路を変えるための角度を再計算しろ! オレたちで止める!」

 そこへ駆けつけたのがヤザン率いるジム・カスタム隊である。

高速機動用の第一種兵装を参考にしているが、ペズンからこちらに来る前に、長距離移動ユニットを伴っていた。

 

「相手は手練れだ、誘爆が怖い。プロペラントを切り離せ!」

「了解っ。どのみち短期決戦だからな!」

 通常、プロペラントタンクは切り離して戦闘するのが通例である。

燃料が詰まっているので当然の処置だが、ヤザン率いる精鋭部隊は全員が切り離さずにアクシズ側と戦うことができる腕前と狂気を持っていた。

 

それゆえに燃料を犠牲に戻ってこれたのだが、彼らをして親衛軍はキツイと見たのだろう。

そしてビグラングⅡが戦闘ポッドを切り離して戦線に投入したことで、ヤザンのカンは見事に的中する。

 

『戦闘行動予測。ターゲットロッ……回避機動へ』

「もらった! っ何? だがしかし!」

 戦闘ポッドはジム・ライフルの射程に入った瞬間に咄嗟に回避機動を掛けた。

同時に数機のポッドがビーム・スプレーガンを発射。ヤザンはバックパックの下部バインダーを動かして軌道を斜めに変える。

 

それを見越したかのように弾幕の嵐が迫る。

時間差で放たれたMMPが四方八方から迫るのだが……。

 

「なんとお!」

 バックパック上部に設置された二本のサブ・スラスターが火を噴いた。

噛みしめた奥歯が砕けかねないほど、さらなる急加速で脱出! そのままライフルを連射して統制射撃を防ぐことに成功する。

 

「ったく。俺がやりたいことを先にやられるとやだねえ。……しかし、ちょいと綺麗過ぎるな」

 敵は戦闘ポッドだというのに、自分がボールで苦労した時より高性能だ。

凄まじい機動を掛け連射しているのに、どうしてか弾丸が尽きない。

 

そして何より、ヤザン自身が理想とした高機動戦闘中での連携を(こな)しているのである。

 

「あのデカブツが補給艦と指揮所を兼ねてるわけだ。ついでに連中の正体も見えて来たな」

 戦闘ポッドは凄まじい勢いで戦っているが、不思議と全機が同時に行動していない。

何機かが動かないのは大型機の護衛なのかと思ったが、良く見るとその陰で何かしている。

 

となれば補給をしているくらいは理解できるし、あの巨体はそのための物なのだろう。そして相手の動きが理想的なのであれば、それを何より望むヤザンにとっては想定するのは容易かった。

 

「さてと、リベンジと行こうじゃないの。今度はこっちから行くぜ!!」

 ヤザンのジム・カスタムが唸りを上げる。

背部のメインスラスターが咆哮を上げ、途中からは下部のバインダーが『片方』だけ小刻みに動いでジグザグに動くための反動を起こし始めた。

 

『散開! ランダム回避』

『ランダム回避。立て直して射撃を行います』

 ビグラングⅡからの指示で戦闘ポッドが散開。

ジム・ライフルを避ける為、急加速を掛けながら右手のビームスプレーガンと左手のMMPマシンガンを広角に構えた。

 

そしてヤザンが居るべき場所に向けて、僚機と共に統制射撃を掛けた時。

唐突に、その一部が爆発したのだ。

 

「バーカ。教科書通りじゃ長生きできねーぞ! ちっ。セイガク(学徒兵)どもを戦場に引き込みやがって」

 ヤザンはライフルからバズーカに構え直し、片手射撃で反動を無視して拡散弾頭を放ったのである。

 

片手射撃で大物を扱っても当たるものではないが、それが拡散弾頭であれば話は別だ。

ミサイルを撃ち落とすための散弾がバラまかれ、その一部に被弾したのである。

 

「お次はこいつだ。絡繰りを見抜けるかな?」

『接近、回避。情報共有を開始』

 ヤザンはバズーカを捨ててジム・ライフルを握り直すと最接近のために加速した。

途中でサーベルを抜いて切り込むと、敵はそれを巧みに避けていく。お互いに位置を入れ替えながら暫くグルグルと牽制と攻撃を繰り返した。

 

どうやら光信号を使って情報を共有し、別の機体が白兵戦の準備を伝えたのである。

だが……。

 

「甘いんだよ!」

『回避成……爆発?』

 ヤザンの射撃で、唐突に爆発が起こった。

それも先ほどよりも大きな爆発で、どうみても散弾に巻き込まれた風情ではない。

 

『途中で捨てていった武装よ! あんな物に命中させるなんて……』

 コロニーを守る為、そして位置を変えなかったキメラには何とか理解ができた。

ヤザンはバズーカの信管を接触式で起動させた後、放り投げて地雷の代わりに利用したのだ。もちろんそれが運良く命中するはずはない、巻き込める位置に入った時にライフルを連射して爆破したのだ。

 

「そろそろ攪乱幕も品切れで、I・フィールド回せるエネルギーなんざのこってねーだろ?」

『そうね。だけれども時間切れよ。コロニーが最終防衛線に入るわ』

 ビグラングⅡで最初から戦わなかったのは、単純にエネルギーの問題だった。

もちろん普通に戦うなら問題ないが、I・フィールドを広域に展開しながら戦うことなどできない。ましてや戦闘ポッドのエネルギーを補充しながらだと尚更である。

 

しかし、キメラにも焦りはあった。

この期に及んでもシーマ艦隊は動かない。中に居たアナハイムの技術者はとうに逃げ出すか、始末している。

 

本気で当てようとしなければ世論は動かせないが、本当に当ててしまうとジオンも困るのだ。

この期に及んでまだ悩むのか? それともシーマ艦隊の買収に失敗したのか? 

 

そう思った時に、戦場を貫く勢いで箒星のようなナニカがやって来た!

 

「リミッター・ツー解放。続いてリミッター・スリー! いくぜいくぜ、イーヤッホー!!」

『モビルアーマーの増援? 今更!?』

 やって来たのはアッシマーだ。

今更たった一機で何ができるというのか?

 

だがしかし、ヤザンとシローには、この状況を何とかできる確信があった。

ジャミトフが持たせた袋には、とある名前を書き込んだ一枚の紙があったのである。

 

「来てくれたか!」

「ヴェルナー・ホルバイン。ただいま参上!!(エントリー)




 という訳で、最後に誰かが話を持っていきました。
悲壮な覚悟とか持ってる人もいましたが、洗い流す勢いのノリです。

地球方面のコロニーはワイアットさんと、マイッツアーくんの手で止まります。
まあデラーズもそれを見越して、放り投げただけというのが正しいのですが。

一方で火星方面もマッチポンプで解決する予定。
問題はそれを受け入れられる度量が、シーマ様にあるかなのです。
それを含めて、序盤の会話は三国志 + ジャイアントロボ風味。

●今週のメカ
『ビグラングⅡ』
 ジオン独立戦争末期に、戦闘ポッドとは名ばかりのオッゴを支援する為……。
巨大モビルアーマーとして投入される予定だった機体。
それを連邦が接収し、旧レビル閥から渡される過程で消去された。
もちろんアナハイムがモビルスーツ開発接収のために旧アナハイムはア・バオア・クー工廠のスタッフに働きかけた結果であり、この機体は、ソレを現在の技術で作り直したものである。

無数のメガ粒子砲に加えてI・フィールドを搭載し、ビーム攪乱幕を併用して張り続けることで艦隊射撃すら無効化する。
とはいえ戦闘ポッドの補給もやってるとエネルギーが直ぐに尽きるので、最初からは戦っていなかった。

『オッゴⅡ』
 戦闘ポッドとは名ばかりのオッゴを最新技術で製造し直したもの。
ビグラングとは違って、こちらはほとんど新規パーツになっている。
中にはアナハイム経由で強化人間の試作型が封入されており、恐るべき戦闘力を誇る。
なお装備はビーム・スプレーガンとMMP-80マシンガンのみで、ドラッツエの強化版でしかない。

『ジム・カスタム』ゼク・アイン試験装備。
 エックス・ワンで開発された第一種兵装をジム・カスタムに合わせて設置している。
これは背中に大型スラスターを背負い、上部にサブすらスター二基。
下部に稼働型バインダー二枚を備え、フレキシブルな軌道を実現させた装備である。

感覚的にはガンダムMK-Ⅱやハイザックのバックパックに、百式のバインダーを付けた物。
これにプロペラントタンクをあちこちにくっつけたりできる。
(バックパックが戦闘機で、中身のジムは運ばれているともいえるが)

・キメラと強化人間たち。
少女漫画ピグマリオにおける最終シーズンに入る手前、門番であるキメラ隊。
そして当然のことながら、イグルーにおけるビグラングとオッゴをオマージュしている。
なお学徒兵がいても役に立たないので、まだ試作品に過ぎない強化人間を根こそぎ使って、それ以上の開発ができないようにした。


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計算の止まる日

●悪来

 戦場を切り裂く箒星。

我が物顔で駆け抜けて、オープンチャンネルで怒鳴り散らす。

 

「俺はいくぜ、俺はやるぜ! 俺は……故郷(マハル)を救うんだ!」

 それは正義を主張するわけでも正当化でもない。

ただ感情のままに叫んでいるだけだった。生の感情をダイレクトに叩きつけ、散歩に向かう犬の様な自然さで戦場を飛び回る。

 

『行かせん!』

「邪魔なんだよ!」

 アッシマーは補助推進器の一つを点火して、斜めに螺旋を描いて回避した。

そして全管点灯、全ての補助推進器を用いてさらなる加速を掛けた。クエスチョンマークを描くような軌道で速度を落とさず加速のみで乗り切ったのだ。

 

そして登場しているパイロットの頭がおかしいのはここからである。

アッシマーのボディにハーフ・トランスフォームを掛けさせ、全ての推進器を一方向にまとめた大加速。知る者が居れば、かつて存在した高速戦闘機F-14トムキャットの様だと口にしただろう。

 

『迎撃……回避機動へ』

「どけっつーの!」

 攻撃は当てる為というよりは、直線距離を空ける為。

ただひたすらに急いでコロニーに向かい、何らかの工作をする為の牽制射撃。むしろ体当たりが本命ではないかと思うような速度である。

 

だが、それもここまで。

減速というか、再度のトランスフォームで推進器の方向を返還。移動中のコロニーに無理やりとりついたのである。

 

「うおおお!!! たかがコロニーの一つや二つ、俺がどかせてやるぜええ!!!」

『馬鹿か!? 落とせ、今直ぐにだ!』

 それはあまりにも愚かな行為。

アッシマーの長距離移送仕様は、確かに強力なエンジンを複数基搭載している。だがそれでも、たかがモビルアーマーがコロニーを押し出せるわけがあるまい。

 

だが理論によらぬ身勝手で感情的な行為に、キメラは今までにないプレッシャーを感じていた。

そして、その愚かな行為は……愚かだからこそ、ナニカを動かそうとしていたのである。

 

「あのバカ……。今更やって来といて、考え無しだと?」

 動くに動けない。

頭ではどちらかの勢力に着けと判っていても、感情的には動きたくない。

 

そんな中で、何か解決策があるのかと一瞬でも期待した自分が馬鹿みたいだ。

 

だが、だがしかし。

 

そんな愚かさを笑えない自分が居る。

そんな愚かさを羨ましいと思う自分が居る。

そんな愚かさに救われたような気がする自分が居る。

 

「バカはあたしか。どっちだ、どっちだと悩んでいたのがバカバカしくなってくるよ」

「シ-マ様?」

 髪が老婆の様に白く成ったり、抜け落ちれば同情でもしてもらえるとでも思ったのか。

誰かが解決策でもくれると思ったのか。そんな筈はないのに。

 

解決策が欲しいならば、人質に取ったはずのあの男の口車に乗ればよかった。

あるいはマハルなど無視して、アナハイムの手引きに乗ればよかったのだ。

 

「あたしらはあたしら達のために行動する。公国軍に復帰、マハルを守るよ!」

「「へい!」」

 いざ、クソったれな故国へ!

そう決断すれば行動速かった。それが海兵隊の身上だ。それに時間なんて欠片もありはしない。むしろ遅いくらいである。

 

「なんだい、誰も逃げちゃいなかったのか。あんた揃いもそろってバカだねえ」

「逃げるって何処に逃げるんですかい?」

「それに、ザク同然の機体でモビルアーマーとは戦えませんや」

 従う部下はどいつもこいつも札付きで、極めつけの馬鹿ばかりだった。

みんなマハルの出身で、根こそぎ動員された中でモビルスーツに何とか適性があったというだけの話である。

 

その程度の才能があったばっかりに、死よりも苦しい思いをさせられ続けてきた。

死はある意味で救いであるとは、よく言った冗談ではないか。

 

「しかし、姐さん。連中が信じなかったらどうしやす?」

「ハン! そしたら無視しな。あたしらはただ、マハルを守りたいだけさ! 随分と遠回りしちまったがね」

 利益であれば、既にどちらかの陣営についていた。

そうしなかったのは、単に感情が邪魔していたからだ。そして感情で言えば、故郷を守りたい。もはや流浪は沢山だという気持ちで一杯だった。

 

家族同然の手下どもを路頭に迷わせられない。

これだけ苦しい目にあったならば、少しでも良い目を見なければ割に合わない。そう思ったばかりに、苦労したものである。

 

「外の連中にアクシズの艦隊をやらせな! コロニーにはリリーマルレーンだけあれば良い! あたしはゲルググで出る!」

「入り口に残ってるやつ! シーマ様のゲルググを!」

『了解でさ!』

 当然のことながら、侵入した場所には一部が残っていた。

何かあった時は中を爆破しながら合流する手筈で、何人かは機体の中で待機している。

 

『行くか』

「あんたの口車に乗ってやるよ。駄賃は精々ふんだくらせてもらうからね!」

 どちらに着くにせよ、死に掛けた教授に彼女らを止める力があろうはずもない。

お互いに清々した顔で笑い合い、二度と会うこともない相手のことなどさっさと忘れることにした。

 

『マイクロウェーブの送信装置はフル稼働中。あとはアイナが受信装置を起動させるだけだ』

 そして教授は震える手で奇妙なヘルメットを被って、もう一度横たわった。

 

『ならば最後の実験を残すのみ。自分で見届けられないのは残念だが……』

 アマモト教授……いや、ギニアス・サハリンは自分の冷凍睡眠装置には入らなかった。

もはや、それで生命を繋ぎとめるのは無理だったし、今更命を長らえさせて何になろう。

 

『私には見える。あのどこまでも暗い暗黒の空に、虹の橋が架かる未来を。その美しい空は……幻ではない!』

 冷凍睡眠装置にはもう一つ実験的な機能があった。

眠った人間の頭脳をコンピューターの代理にしようという試みであり、主に犯罪者を使って行われていた。

 

ジャミトフが知ったら止めさせただろうか?

もはやその答えは聞くこともできないし、止めさせようとしたとしても……自分は強行したのではないかと思う。

 

これまで犯罪者を使ってきた実験も……であるが、今から行う最終実験も、だ。

 

「まったく、人間の一生など、短すぎ、る。だから、こそ、人間は、あら、そうん、だ。愚かしいな」

 だが、不思議と愚かな感情が嫌いではなかった。

自らを焼くこの理想、それこそがギニアスを突き動かした衝動なのだから。

 

久々に出した声は小さく、もはや誰にも届くことはない。

 

「すべては……われわ、わたしの、おおいなる…………のため、に」

 崩れ落ちるように、ギニアスは最後のスイッチを押した。

人間をコンピューター化させる試みとは真逆。生きている人間から、記憶を吸い出す禁断の実験を自分で試すために。

 

ギニアス・サハリンという人間の記憶も、生命も、魂すらも……。全て研究のために捧げ尽くしたのである。

 

世界の為でも、ましてやジャミトフの為でもなく。ただ、自らの情熱(エラン・ヴィタール)が赴くままに。

 

●後から学ぶより賢きものへ

 二つのコロニーの間では激戦が繰り広げられつつあった。

足止めされていたアクシズ先遣隊が戦線に突入するもの、プロメテウス隊を中心に地球連邦軍が反撃に転じたのである。

 

これにシーマ艦隊が合流。

事前の取引でもあったのか、不思議なことに混乱は一切なかった。

 

『エンツィオ大佐! このままでは押し返されてしまいます!』

『数では圧倒しているんだ、持たせろ! 何としてもコロニーレーザーは潰さねばならん。アクシズが地球圏に帰還する為にもな!』

 アクシズにおいて強硬派を率いるエンツィオは先遣艦隊を組織してここまでやって来ていた。

本来の予定であればとうにソーラレイを奪取して、むしろ最終兵器として確保していたはずなのだ。

 

『くそっ。これでは何もかも予定が狂ってしまう! 調略に失敗したキメラ達も不甲斐ないが、あの恥さらしどもを生かしておくわけにはいかんぞ!』

『はっ! グラーフ・ツェッペリン以下、左翼に戦力を集中させて突破します!』

 アクシズ先遣艦隊はグワンザンを旗艦として戦域を管制。

グラーフ・ツェッペリンを中心とした戦力で連邦軍の打倒に向けて動き始めた。

 

対する連邦軍はサラミス中心、シーマ艦隊のリリーマルレーンが最重量という臨時編成だ。

混戦に持ち込むことには失敗したが、それでも艦隊同士の打撃戦ならば圧倒的に有利なはずだった。それが押し負けているのは一重に、モビルスーツ戦において局所的に劣っているからである。

 

「無理はせずに四機で三機を追い込むんだ! 新手はヤザン隊に任せてこちらは戦線を分断する!」

「「了解!!」」

 このころの連邦軍は四機で一組の新編成体制に移行していた。

ボール混じりからジムのみに絞るなどモビルスーツの質でもジオンに追いついている。これが数でも勝るのだから、基本的には負けるはずがない。

 

それでも精鋭が投入されると逆転されることもあるので、その部分に対し、こちらも精鋭を投入し最新型に乗っている分だけ上回るようにしたのである。

 

「モビルアーマーとあのデカブツはどうしたんだい? あいつらが居ればもう少し楽ができるっていうのにさ!」

「……今はお色直し中ですよ。レディには時間が掛かるんです」

 途中で合流し、背中合わせにシーマ機のゲルググとシローのエックスワンが会話する。

お肌の接触回線とはいえ、さすがに内面の逡巡までは伝わっていまい。シローはそう思いながら極力、冷静でいようと努めた。

 

「はっ! それは遅れて味方したあたしらへの皮肉かい? いいさ、新参者は功績で黙らせるとしようかね!」

「……お手柔らかにお願いしますよ」

 憎まれ口を叩かれ皮肉を返すよりも一発浴びせてやりたかったが、幸いにもスマートガンはクールタイムだ。

アイナがこの場に居ないこともあり、チャージ速度が遅いことも幸いした。我慢できるつもりだったが、案外に自分は俗物だと自覚できてしまう。

 

「ふう。だめだな。オレには100%のヒーローには成れそうにない。……頼んだぞ、コウ」

 頭で考えるべきはずなのに、ついハートがオーバーヒートを起こしそうになる。

シローは自分の憎しみとシーマへの同情にケリを付けられないまま、心の決着を何も知らない第三者に委ねた。

 

 

 そしてコウが操っていた動くだけのテストベットは、ここに来てようやく本来の姿を取り戻す。

教育型演算コンピューターに、ツインエンジン、そして……マイクロウェーブ受信機能である。

 

「この子……って。そろそろ名前を付けてあげましょうよ。装備が揃ったんでしょ?」

「それはジャミトフ閣下の仕事だと思うけどなあ……名前って付けるの苦手なんだよなー」

 装備の最終チェックをしながら、カレンとコウはシステムがフル稼働できることを確認する。

これまで二つのエンジンを直列起動させられるのは僅か数分であったが、それはエネルギーを有効活用しようとするからだ。

 

多大なロスを覚悟して、無限のエネルギーを変換するバイパスとしてならそれほど苦労はしない。

 

10分間の無敵から、10%の無限へシフト。

太陽路に居る場合のみで成立する超人がそこに居た。

 

「最初にあった時に言ってたアレは?」

後から学ぶ者(エピメーテウス)? 神話的に良い例えじゃないし……それだったらむしろ現代的に賢い者(ワイズマン)とかかな。翼ある者(ウイングマン)でもいいけど」

 つくづく名前を付けるのが苦手な一同である。

そう思いつつカレンはそれで良いような気がした。妙に賢いよりは、少しずつ、昨日より賢く成れば良いのだ。

 

「じゃあ、それでいきましょ。ガンダム・ワイズマンってことで」

「ホントかよ……。時間もないし、アイナさん……アマダ夫人が良ければそれで」

「問題ありませんよ。既にコレは私たちの手を離れました。それに……兄なら名前より成果の方を喜ぶでしょう」

 40mもの巨大マシンの背中には、アッシマーを大きくしたような円盤が追加された。

スダルシャナと呼ばれていたそれは、人型と合わさったことでまるで翼のようにも見える。仏教を知る者ならば御本尊とでも名付けたかもしれない。

 

「それじゃあ行きましょ。まだコロニーをなんとかできる間にね」

「いつでも行けます」

「ガンダム・ワイズマン。出陣します!」

 コウはマシンを本格的に動かした。

供給されるエネルギーをロスしながら、ツインエンジンは景気の良い音を立てる。

 

エネルギーを内包する性質のあるミノフスキー型核融合炉。それは理論の内では、無制限に移動できると言われていた。

 

とはいえ現時点の自技術では戦闘どころか、僅かに動く程度の推力しか得られない。

推進剤を搭載し、瞬間的に放出せねば満足に戦うこともできない。原作において無限移動が実現するのは、ユニコーン……いやV2ガンダムを待たねばならなかった。

 

だが、この機体は40mのサイズと二つの炉心。そしてマイクロウェーブを受信することで、ソレを達成したのである! 飛ばされる途中まで実験していた循環器系の小型化実験も含めて、これからの時代のための機体と言えた。

 

「行く先は?」

「決まってるだろ! こいつで戦うのはオーバースペックだ。ホルバイン中尉と一緒に、コロニーを押し返す!」

 そもそも押して効果があるのか、間に合うか自体も分からない。

だが、今やらなければ、無限のエネルギーなど何処で使うと言うのだろう。宇宙人でも来ない限り、不必要な出力である。

 

……もっとも、その出力を活かす武装もまた存在しないのであるが。

 

「おう? ウラキか!」

「ホルバインさん! とことんまで付き合いますよ!」

 流れ弾以外は海兵隊の一部が守ってくれる。

かつてそこに所属していたヴェルナー・ホルバインだからこそ、シーマ艦隊も素直に行動できたのだろう。

 

コウもまたサイド6の研究施設で世話になっており、彼がマハル出身と知っていたので素直に協力出来た。

 

「そいつはありがてえ! 姐御たちがとっくにブースターを何基か壊してるはずなんだがな。ちょいと時間が足りなかったのよ」

「期待していてくださいよ! ワイズマン、太陽路絶対防衛用形態(ソーラー・ガーダー・シルエット)!!」

「マイクロウェーブ、受信します!」

 スダルシャナを通してマイクロ・ウェーブが無限の力を与える。

二基のミノフスキー核融合炉が直列で起動し、凄まじい出力を放出し始めた。

 

最大出力は数分、通常時は10%。それを繰り返して巨大な力を発揮する!

猛烈にエネルギーそのものを噴射することで、推進剤など消費せずに強烈な推力を得ることができる!

 

『なんだアレは。あれで間に合うのか? 間に合ってくれるか? シーマ、信じて良いのだな?』

 その異様な噴射を見つめるキメラは、介入して良い物か本気で悩んだ。

協力などしては結託を疑われるが、このままではコロニーがぶつかってしまうと心配していたのだ。

 

『キメラ様! 進路の歪みが少しずつ拡大します。いかがいたしますか? 撤退するなら援護しますが』

『馬鹿者。あの娘たちを戦場で使い潰しておいて、おめおめと下がれるか。……これまでご苦労だったな』

 歪な戦闘ポッドであるオッゴⅡはとっくに全滅している。

ビグラングⅡに寄り添ったゲルググに対し、自身の活路を捨てるのだと苦笑を返した。

 

『イザとなったらみじめに命乞いの演技でもするつもりだったが……お前たちの可能性を信じるとしよう!』

 コロニーを逸らす見返りに、助けて欲しい。

そういけしゃあしゃあと薄汚いことを言って調整するつもりだった。だが、その心配は必要なさそうだ。

 

『それでは、お先に参ります! ジークジオン!』

『逝け、ジークジオン! EXAMシステム、120%全力稼働承認!』

 キメラは最後の最後に、狂気のシステムを使用した。

強化人間にもなり切っていない試験体を根こそぎ戦死させたのだ。万が一にも秘密を守るという意味でも、指揮官である自分も付き合わねば釣り合いが採れまい。

 

「ムラサメ少尉! あいつは任せる! 闘いてえが俺は此処を動けん!」

「任務、了解!」

 グラーフ・ツェッペリンと共に迫り来るアクシズ先遣隊。

これを食い止めるにはヤザンの戦闘力と指揮官としての手腕が必要だった。自身で戦いたい気持ちを抑えつつ、ビグラングⅡをゼロ・ムラサメに任せた。

 

……もしかしたらヤザンは、敵の戦闘ポッドがゼロを優先的に狙っていたのに気が付いていたのかもしれない。

本来のキメラであればコウたちを優先したかもしれないが、少しでも性能を上げるためにEXAMを起動したことで、返ってゼロに引き付けられたのである。

 

『回避』

「さっき見た時よりも判断が早い? 補給の必要が無くなったからか」

 ジムライフルに付属するグレネードを発射し、避けたところへ攻撃を叩き込む。

そうやって戦闘ポッドは楽に倒せるようになっていたが、さすがに大型のモビルアーマーは無理だ。

 

しかも高速機動で全身を動かし、場合によっては拡散メガ粒子砲で薙ぎ払ってくる。ゼロは直観的にサブスラスターを吹かせて振り切り、ベルの様に鳴り始めた広域ロックオン警報を終わらせる。

 

『NT反応、発見。はかい、ハカイ、破壊!!』

「……なんだ? コイツ、僕を追いかけてくる? 上等だ! ヤザン大尉に任された手前、負けられない!」

 それに、このタイプとの経験は初めてではない。

NT研が軒並み閉鎖された後でゼロも接収されたが、その時にペイルライダーというジムも同様だった。

 

それに搭載されたシステムはカムラ博士も関わったEAXMの発展形だったらしい。

サイド6に現れた謎のガンダムが、似たようなシステムを搭載していたことで、徹底的に対策シュミレーションを行った。先ほどヤザンがあっけなく倒して行ったのも、その経験に基づくものである。

 

「ニュータイプはこちらの意図を見透かすけど、あいつらは対応が早いだけだ。僕ならやれる!」

 その時にジャミトフが言っていたことだが、ニュータイプは意図を見抜くらしい。

だから多人数で攻勢を交代するのは問題ないが、包囲戦や嵌め手は見透かされる。危険だと思ったら一気に突き放し、罠を強引に抜けてから戦いを挑むとか、超遠距離から狙撃くらいはやるそうだ。

 

しかし、このタイプは真逆。

多人数で攻撃しても、センサーが反応する限り対応してしまう。だから先に行動させて落とす、一人時間差が有効なのだと教えてくれた。

 

「これでも食らえ!」

『……回避失敗? 記録』

 今度は右手のライフルに銃剣を付け接近しつつ射撃。

左手でサーベルを抜いて二刀流を敢行し、ジムライフルから銃剣を伸ばす! 一刀目を避けさせた後で銃剣を繰り出した。

 

『連続攻撃の脅威度をランク向上。対応誤差を砲撃ではなく回避にシフト』

 もしゼロが甘く見ていたとしたら、想定していたのがソルジャータイプということである。

コンマ数秒で態勢を補正し、精度の高い射撃や回避を行う。それがソルジャーだとするならば、キメラを元にしたこのビグラングⅡはコマンダーである。生体コンピューターとして予測演算を開始したのである。

 

『ネガティブ。ネガティブ。ポジティブ』

「うっ! かわされた? 動きを読むとは、やる!」

 今度は銃剣を繰り出した後で、即座にトリガーを引いて射撃したはずだった。

それが読まれたのか短い噴射で回避される。先ほどのバリエーションとはいえ、こんなに簡単に予測されるはずがない。せめて加速段階を上げるべきだったかと、苦虫をまとめて噛み潰した。

 

ここに来てゼロは、全て行うことにした。

どうせ自分は新米であり、エースとしては最も格下である。ならば聞いていた対応を全て実行し、多少の無茶は許容することにする。

 

だが、混ぜるな危険。という言葉は伊達ではない。

それはゼロの乗る最新鋭機をもってしても危険極まりない事だった。

 

「そら! ネズミ花火をくれてやるぞ。ここは時間稼ぎだ」

『ランダム軌道のT・マイン?』

 ゼロはクラッカーを投げつつ移動し、精密操作を行う時間を稼いだ。

ネズミ花火と言うのは投げた方向に直進せず、何度もランダムな方向に噴射して移動する特殊な爆雷である。

 

対ニュータイプ用として開発されたソレを使うことで、『紛れ』を入れた時間差攻撃を行う。

同時に爆発ボルトを時間設定する余裕をひねり出し、今度は機動戦にもつれ込んで、射撃戦を始める。

 

「さあ、いくぞ? 僕の予想を上回って見せろよ!」

『一連の攻撃は、連続攻撃の切り替えタイミング。行動の起こりを抑えるべきと判断』

 様々な攻撃を繰り出し、相手の攻撃を回避する段階で、途中から読まれ始めた。

一手余計な手を挟む、あるいは二手、時にはフェイント抜きで。そのパターンの切り替えだと判断したビグラングⅡは、ゼロ機の予測進路の前に拡散砲やビームカノンを乱射。移動方向を狭めつつ、モビルアーマーの移動力で先回りし始めたのだ。

 

「これで……終わりだ!」

『チェックメイト』

 ゼロは自分が追い抜かれるだろうなと思った段階で時限スイッチを入れた。

手持ちのクラッカーを投げた方向にターンした所で……爆発ボルトが高機動用のバックパックを強制的に切り離したのである。

 

『……自爆? 不発弾と判だ……!?』

「僕はここだ!」

 クラッカーに向けて突っ込むはずがない。

つまり自分が先回りしそうだと判断して、フェイントを入れたとビグラングⅡは判断した。躊躇せずに加速して頭を押さえようとしたのだが……。

 

だがゼロは、移動途中でバックパックだけを切り離して突出させる。

相対的に減速したことになるゼロは、強引に後方を取ったのである。そこへジムライフルが残弾全てを撃ちこみ、クラッカーと合わせて前後からビグラングⅡを襲った。

 

「任務……完了!」

 半ば爆発に巻き込まれながらも大破は免れた。

バックパックのメインスラスターを失って漂いながらも、各部のアポジモーターで何とか態勢を立て直す。もはや高機動戦は行えないが、まあ味方の元に戻るくらいは問題ないだろう。

 

そう思っていると、先ほどよりもコロニーが遠ざかるのが早くなったように感じた。

どうやらコウたちは成功したらしい。この太陽路を彩る輝きを眺めながら、ゼロはゆっくりと移動していった。

 

「うつくしい、そら。……ビフ……ろすと?」

 解凍されていく冷凍睡眠装置の中で、誰かが同じ光景を眺めていた。




 という訳で、太陽路とソーラレイを巡る戦いは終わりました。

まあブースターは複数あるんで、一つ壊せば勝手に逸れていくわけです。
計算上は間に合うはずだけど、ちょっと怪しい。そこで少しだけ、ほんの少しだけ巨大兵器とマイクロウェーブが後押ししただけです。
V2ガンダムなら簡単にやれることを、苦労して0083時にやった感じになります。

序盤に関して言えば『シーマ様は考えるのをやめた』というところ。
ホルバインさんがあまりにもストレート過ぎるので、真面目に悩むのがバカバカしくなったというところでしょうか?
利益誘導だけだったら味方に付かない可能性もあったので、この時を見越して、海兵隊でマハル出身のホルバインさんプロメテウスに馴染ませていたという感じですね。

●アクシズ先遣艦隊
 規模が小さくなっていることもあって、はにゃーん様の漫画に出てくるエンツィオ大佐が牛耳っています。
ユーリー・ハスラー少将はアクシズ本軍に留まっているでしょう。でも期間はグワンザンのままで、ポケ戦がないので、当時最新鋭だったティベのグラーフ・ツェッペリンも居たりします。

●冷凍睡眠装置から起き上がる少年
 一体、何トトなんだ?

●今週のメカ
『ガンダム・ワイズマン』
 とうとう名前が付けられた40mの御本尊。
もしかしたらヒーロー物のロボとして出演し、堀川さんが声優で悪・裂! とか叫ぶ未来もあるかもしれない。

演算型コンピューター・ツインエンジン、そしてマイクロウェーブ受信機能を持って完成する次世代の無制限エネルギーのテストベットであった。
モビルスーツ戦、なにソレ美味しいの? という出力や循環器系の小型化実験は、こういったマシンで外宇宙環境での作業用を企図していた結果である。


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大団円、あるいは……

●God Save the Queen

 地球方面において一つの事件が起きた。

ソレは偶然のもたらした悲劇であり、背後の事情を考えてみれば必然だったのかもしれない。

 

バスク・オムはとある資料によりエギーユ・デラーズの戦力事情を推測しており、手持ちの艦隊戦力が少ないことに気が付いていた。

エゥーゴを設立した際に、他の主義者たちと提携を組む上で少なくない艦艇を提供せざるを得ず、そしてジオン時代の軋轢もあり矢面に立たねばならなかったのだ。

その状況でフェイントを行うまで連邦を抑え、そして補給切れの部隊へ近づこうとするコロンブスの妨害を行っていれば、手持ちが少なくなるのは予想できる。

 

「外部大型メガ粒子砲、着弾!」

「やりました! 直撃です。グワデンの直衛艦、沈みます!」

 ハーキュリーズ級大戦艦は一部を除いて外部大型砲を採用している。

これにより技術の急激な進歩に影響されることなく、高い火力を発揮できるのだ。コロニー軌道の変更でフェイントを掛けられたが故の隻数の少なさを、コレが補った。

 

「ようし。モビルスーツ隊を押し出せ! 正念場だ、こちらの手持ちを残らず投入して抑えろ!」

「ブルターク隊、ウッダー隊に合流して前進を開始しました」

 この機にバスクは手元に残しておいたブラン・ブルタークの精鋭部隊を投入。

ティターンズより接収したアッシマーも含めて、一気に殲滅を図った。戦場全体を見直す必要と、余裕の両方がバスクにあったのである。

 

『ガトー! あとは任せた。敵中は俺のヴァル・ヴァロが切り拓く!』

『すまん! 私はこの場を抑えねばならん』

 モビルアーマーにはモビルアーマーをという訳にもいかない。

むしろハーキュリー狙いを仄めかしつつジムを蹴散らすために、ケリィ・レズナーのヴァルヴァロは飛び立った。モビルスーツ隊を率いるアナベル・ガトーもまた防戦一方で余裕はない。

 

普段激高し易いバスクが冷静に成れる奇妙な余裕が、その後の悲劇を呼び起こしてしまった。

 

(……なんだ、アレは? コロニーへ作業機械で接近だと……デラーズめの悪あがきか?)

 バスクが戦場を確認し直すと、地球へ向かっているコロニーを追う影があった。

 

見張りを怒鳴りつける前によく見ると、それはプチモビのような作業マシンであった。

数機一組でタンクのようなナニカを幾つか運ぼうとしている。

 

(いや、違う! まさか、アレは……おのれ。ジャミトフの仕業か!?)

 その正体は作業用のブースターが付いた輸送装置だろう。

要塞建造やコロニー建造に使用されるものだ。複数あればコロニーを移動させることもできなくはない。確かにまだ逸らせば重力圏に捉われない範囲ではあった。

 

そして難民や移民への経済支援として行われた、建設業・デブリ掃除への補助を考えればジャミトフの関与を疑っても仕方あるまい。実際にはマイッツアー・ロナの手配であったが、バスク自身もスポンサーも排除したがっているジャミトフの関与と疑ってしまったことがその後の運命を変える。

 

「誰がコロニーの確認を怠って良いと言ったか! まだ間に合う! 大型砲を……いや主砲で構わんコロニー方向に向けろ! デラーズめは一般人に紛れて手を打っておる!」

「申し訳ありません! ……コロニーに向かう無数の作業機械を確認!」

 参謀たちはデラーズに意識を向けており、ジャミトフの策(?)に気が付いていないようだ。

いまならばまだ排除できると、バスクは排除を即断した。

 

「待ってください! コロニーを逸らそうとする善意の協力者である可能性も……」

「馬鹿者! それならばこちらに事前連絡が入っておるわ!」

 中には冷静に通信なりモビルスーツで連絡を取ろうと提案する者も居るが……。

そんなことをされて、ジャミトフの功績が確定されては困る。仮にデラーズ討伐で失態を補ったとしても、ジャミトフが返り咲いたら何にもならない。場合によってはスポンサーが排除の手を伸ばすこともあるだろう。

 

「毒ガスを搭載して地球を汚染……。よしんばブースターだとしても、今度こそダカールを狙うに違いあるまい! 思い出せ、あの方法はジオンのお家芸だろうが!」

「……ブリティッシュ作戦」

「りょ、了解しました。牽制射撃を兼ねて測距データを取ります!」

 参謀たちの勘違いを助長させる事ができたのは、ジオンのコロニー落としの手法が同様だったことだ。

 

状況的にはデラーズが艦隊戦を囮に、プチモビなどの作業機械でダカールへの修正を行った。そう言われても、何の不思議もない状況であったのだ。

 

 

「大変です! コロニー静止に向かった作業者たちに砲撃が……」

「あの猪武者め! 労せずしてコロニーを止められたものを!! 馬鹿者が!」

 これに慌てたのはマイッツアーの工作を黙認していたグリーン・ワイアットだ。

届け出が政府機関に送られていないのではない。ちゃんと送った上で、現場に居たワイアット艦隊が監修するという手筈だったのだ。

 

「いかがいたしますか?」

「この期に及んで採るべき行動など一つだ! 機関最大戦速。全艦は竿で侵入し彼らを守れ!」

 ここで即座にワイアットは動いた。むしろこれまでのゆったりとした動きとは裏腹である。

 

「ですが本部からはまだ何も……」

「我々軍人の本分は民間人を守ることだ。それが地球を守るという事にもつながる! 全艦放送の用意を、原稿が上がるまでオープン・チャンネルでミス宇宙軍の歌でも流しておけ!」

 民間人の弾避けとして軍艦を使う。

それは本分であり、ロマンであり、同時に窮地にあっては愚策でもある。

 

しかしワイアットは躊躇う事はなかった。

ここで引き返されてはむしろコロニーを防ぐ方法が間に合わないし、だからといって艦隊でコロニーを破壊しては今までの流れが無駄になる。

 

もちろんそれ以外に方法が無ければ仕方がないが、どうにかできる大義名分と機転を彼は持ち合わせていた。

 

『インヴァルネラブル・アドミラル艦隊より、新宇宙時代を目指す移民諸君へ!』

 これより支援すると、ワイアットは全艦放送で艦隊、および周囲にオープン・チャンネルで呼びかけた。主戦場ではミノフスキー粒子がまかれているが、こちらではそうでもない。加えてプロジェクターで自身の姿を映し責任の所在を確かにする。

 

そして艦隊運動に微妙な変化があった。

六隻のマゼランが最も危険な位置で停止し、サラミスやコロンブスがその前をゆっくりと移動し始めていたのだ。それは本来行われる形での観艦式であった。

 

『口さがない者は君たちを宇宙棄民などと称する。だが、そうでないことはこれまでの歴史が証明している』

 ワイアットの演説と共に、数人の将官が脇に並んで通過するサラミスに敬礼を送った。

まるでそれは……。

 

「軍のお偉いさんが、俺たちに敬礼してるみたいじゃないか……」

「偶然だろ。でなきゃ、予定通りにブースター付けろって催促だよ」

 そう言いながらも、マイッツアーによって雇われ、あるいは扇動された人々。

彼らは人知れず高揚感に包まれた。これほどの軍艦が一列になって行動する姿など見たことがない。ましてや高級将官一同が整列して敬礼しているのだ。

 

『コロニーを辺境と呼ぶのであれば、歴史を振り返ってみよう。古代ローマ時代に、ガリアは確かに辺境だった。だが、時代が下ればフランスは一流国家だ』

 ここで地球……それもヨーロッパの地図がプロジェクターで映し出される。

ローマ帝国がマークされ、光る矢印と共に、辺境部として北部ヨーロッパがピックアップしているのか輝いて見えた。

 

そしてフランスの名前を出した後、今度はその一部であるノルマンディが輝く。

 

『フランス諸侯の一人。ノルマンディ候は当時辺境だったイギリスの王になった。そしてイギリスは太陽の沈まぬ国となり……』

 正式にはブリテンだ。

だがそんな古い呼称など知らぬ一般人に配慮し、あえてイギリスと呼称する。

 

そしてイギリスから世界地図の各地へ、ピックアップの輝きは広がっていく。

その光の矢印と輝きの動きは、まるで虹の橋の様であった。ただの偶然であろうが、前後して没したはずのギニアス・サハリンが見たらどう思ったであろうか。

 

『イギリスが支配した辺境である、アメリカがどうなったか。そこまで言えば君たちの中にも知っている者は多いだろう。辺境は何時までも辺境ではない!』

 最後に南北アメリカ大陸に矢印が移動する。

最初こそ北アメリカのみであったが、一年戦争時の臨時首都は南米のジャブローであったと言っても良いだろう。

 

『君たちが暮らしているコロニーを辺境というのは、今だけの呼び方だ。未来の歴史家たちは今日の事をこう呼ぶだろう!』

 地球を現していた地図が小さくなり、周囲に七つの星が描かれる。

それがサイド1からサイド7までのコロニーを示しているのは明らかだ。ゆっくりとスローモーで描かれていくのは火星であろうが、もしかしたら木星まで描かれるのかもしれない。

 

『それは、栄光のフロンティアであると! フロンティアに住まう新時代の人々よ!』

 宇宙時代の航路図をバックにワイアットはゆっくりと敬礼した。

 

『私は、我々、地球連邦軍は。君たちを守れることを、君たちと共にあることを光栄に思う!』

 それはとても愛嬌のある微笑みだった。

どうみても背後から撃たれる心配をしているようには見えない。もちろん驚いて発砲を停止したからでもあるが……一歩間違えば何もできずにハチの巣である。

 

『平和を守った連邦の新兵器、ガンダムの事を聞いたことがあるかもしれない。だが、それは一つの兵器を意味するのではない』

 続けてワイアットは、航路図の下にガンダムやジムの集団を映し出した。

だが、それは人々を圧するために使用しているのでも、鼓舞するために使用するのでもない。

 

『地球を、いや世界を。それら愛するべき未来を守ろうとする全てが。戦った将兵が、今また作業を志願してくれた君たちが……』

 モビルスーツの画像の周囲に、無数の小さな星が現れた。

それは最大望遠で映した……。

 

プチモビなどの作業マシンである。

 

『君たちこそがガンダムである! どのようなマシンであるかに意味はない。世界を守り、世界の為に働こうとする大いなる意思全てが。ガンダムであり、スーパーロボットだ!』

 即ち、そこに映し出された姿の全てが英雄(ガンダム)であると言い切ったのだ。

 

「俺が……俺たちがガンダム?」

「……俺が、ガンダムだ!」

「はは!! オンボロのこいつがスーパーロボットだってよ!」

「スーパロボット、万歳!」

「スーパーロボット! スーパロボ!」

「「おおお!!」」

 人々は歓声をあげた。

作業中の人々だけではない。観艦式に参加する将兵たちも含めて。

彼らは通過するたびに、コロニーに辿り着くたびに、敬礼をしあるいは帽子やタオルを振っていた。

コロニーが地球を逸れるまで。気の良い連中は、それてからも帰還の間ずっと見守っていたという。

 

●新時代に向けて

 軍法会議において、とある人物の処刑が決まった。

彼は懇意にしていた人物に、『私は貴方の右腕だと思えば努力していた』と弁護どころか有耶無耶にすることを請い……。その人物は『私の右腕は此処にある』と告げたそうである。

 

さて、それよりもエゥーゴを率いていたエギーユ・デラーズに話を移そう。

 

「尋ねるが弁護士の必要は?」

「私は自らの行為を否定する気はない。ただ、事実を述べる機会だけを与えてもらえばと思う」

 後に処刑されるデラーズは、実に立派な態度で裁判に臨んだという。

全ての責任は自分にあり、部下たちに罪はないのだと。

 

コロニー落としを企んだ罪を一人で背負えば、極刑は間違いないというのにだ。

アナハイムに反乱を強要されたことを訴えることもなく、徹底して宇宙に移民を行った者たちの窮状とその弱い立場を述べたに過ぎない。その潔い態度に本来は敵であるはずの、多くの連邦将校や政治家たちが敬意を表したという。

 

「デラーズ閣下。貴方の行為は地球連邦の一員として許せはしない。だが、その理想のみを引き継ぐことで、エゥーゴの活動にトドメを刺したいと思う」

「ブレックス准将。貴方の様な方が連邦にも居ると知って、安心して逝けますぞ」

 弁護の声を断るデラーズが、最後に面会したのはブレックス・フォーラーであると伝えられる。

連邦議会にも籍を持つブレックスが理想を継いでくれると知って、デラーズは満足して処刑された。

 

 

「ジャミトフ閣下。議会からは貴方が愛人を囲っているという噂が立っていることについてお聞かせください!」

「訂正があるとしたら。彼と違って愛人一人に収まる器ではありません。四人くらいは居るとでも伝えていただきたい」

 それから時は流れ議会に舞台を移した。

下世話なプレスを利用してでも切り込む敵派閥の政治家に、ジャミトフはユーモアを交えて切り返したという。

 

ひとしきり笑いが記者たちの間でした後、そのうちの一人が予定にない質問を浴びせた。

 

「地球に住める人の数を制限するという議題について、お聞かせください!」

「君! そんな質問は……」

「構わんよ」

 政治家に対する公開質問は内容を予め尋ねて許可が出た物に限られる。

でなければ答えようがない質問もあるし、こういった、どう答えても問題の出るデリケートな内容は却下される傾向にあった。

 

イエスと言えば特権政治家がどうのと言われ、ノーと言えば地球保護をする気がないと言われかねない。そもそも軍人であるジャミトフに尋ねるのがお門違いなのだが、平然と口にすることもあり、特ダネを掴もうとする者が出るのは仕方がないだろう。

 

「我々が日夜議論している次なる目標は、小型のリゾート用コロニーであるオアシス・タイプ。そして試験的なものになるが、統治形態の異なる自治区の許可性だ」

 その回答には、地球に対する居住権問題など含まれてはいない。

だが制限するのではなく、新たな魅力で外に惹き付けよう。その方向性が判っただけでも十分な内容だった。

 

「オアシスは……まあ判るとして、統治形態ですか? ジオン公国のような?」

「貴族でも宗教でも、いっそ博打や格闘技でも構わんよ。連邦の許可が必要とさせてもらうがね」

 最高のギャンブラーが統治する自治区、あるいはモビルスーツ格闘のチャンプが王となる国。

先ほどのリゾートに重なっている内容ではあるが、その魅力は明らかであった。連邦内にもそういった自治を望む声があり、許可と監視さえあれば可能なら積極的に関わってくるだろう。

 

『イデオロギーの重要性……ですか?』

『そうだ。犯罪者や拝金主義者が幅を利かせる時代が来るだろう。連邦が形骸化し、新しき銀河連合にとって代わることもあるやもしれん』

 この話題が出る前の事、マイッツアー・ロナはジャミトフと接触していた。

 

地球を省みない者への反発心が、自分の中で新時代の貴族主義に変わっていった。

その事をオブラートに包んで伝えたところ、個人的な主観ではななく、ジャミトフにイデオロギーとして確立する必要があると言われたのだ。

 

『君の宇宙貴族主義は悪くない。だが他の統治形態と争って、自分の理想こそが最高だと言い切れるかね? 仮に数年に一度、ガンダムでの決闘で統治者を決める国があったとしよう。問題は山積みに見える』

『しかし理想的な君主がチャンプに成れば……ですか』

 例えとしてジャミトフはガンダム・ファイトを上げた。

もちろん極端な例であるが、ガンダム・ファイトの代わりに宗教国家の主導者でも良い。

 

失敗も多いだろうが、絶対的な君主が数年間指導するという意味では、帝国制と大統領制の中間点にある。

その点でマイッツアーの理想は弱い方だ。貴族主義の理想の形やら、穴を埋めたり、長所を伸ばしたりといったことまで決まっていないのだから仕方がない事ではある。

 

『だが悪くはない。面白いとさえ思いはする。だから他の連中に負けない目標と、コネクションを持つのだな』

『連邦政府が許可を出すころには完成させて見せます!』

 他にも同様の理想を持つ者が居る。

同時にその枠は、決して広くないのだとも教えられた。

 

『しかし意外でした。その、閣下は実利の方を好まれる方かと』

『人間には衣食住が必要なのだ。別にもう一つくらい増えても構わんだろう?』

 それが麻薬よりは、宗教だの貴族の方がマシだと思うに過ぎない。

そう言われて面白かろうはずなどないが、奮起する気概がマイッツアーにはある。

 

これ以降、マイッツアーはワイアットと共にブリタニア・コネクションを結成。

月企業体のルナリアン・コネクションや連邦系工業のボルガ・テック、宗教色の強い南洋コネクションやアヌビス・コネクションなどと争いながら、宇宙貴族主義を目指すことになる。

 

そして木星公社が隠れ蓑に使うガニメデ・コネクションが、真っ先に木星帝国の自治を達成した後……。

対抗する形で、火星圏の一角に置いてフロンティーラ王国を設立する許可が降りたのである。




 という訳でバスクは行殺されました。
それと今回は、ワイアットさんほか名前を一部、劇中で呼ばれている方に統一しております。

序盤は多少強引ですが、整合性を取りつつ、バスクが処刑されてもおかしくない流れにしております。
後半部分は抑え込んでいる地球連邦への反動を、管理下で爆発させる方向で行った感じ。許可枠は地球・月面で少なく許可される主義も狭く、火星・木星で多く、許可の幅も広い。
F91のフロンティア・サイドもクロスボーンの木星帝国も、南洋同盟とかその他と一緒に、火星や木星に分散して小さくまとまった上で、それぞれ対抗し合った感じですね。

騒動(せんそう)は続くと思いますが、ジャミトフさんの生きている間は楽しく喧嘩(せんそう)しているかと思います。
第二部はこれでほぼ終わり、今回が短く終わった分だけ、外伝を一・二本書くのではないでしょうか?


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外伝:確執の消える日

●古き時代の終わり

 エンデュミーオン戦役が終わり、一通りの決着がついた後。

ジャミトフ・ハイマンはローナン・マーセナスに呼び止められた。

 

「どうして何も言わない」

「人間には二種類の存在が居る。チャンスがあれば何をしても良いと思う人間と、思い留まる人間だ。君は後者のはずだろう?」

 ジャミトフには自分を追い落としたローナンを責める権利がある。

その問いに対しての回答は、好き好んでやってのではないのだから気にするなという意味の言葉だった。

 

実際メラニー・ヒュー・カーバインに強制されたのであり、ローナンとしては侮蔑の言葉を受けても仕方がないと思ってはいるが、忸怩(じくじ)たる思いだった。

 

「それになんと言うか……そうだな。知力と武力と品性と。三つ全部揃えろとは言わないが、二つを兼ね備えた人間は貴重なのだよ」

「……要するに『借り』がある。私はそれを忘れてはいけないという事だな?」

 二人は政治という舞台においては戦友と言えた。

共に地球保護を目的としており、決して仲が良いとは言えないが友でなくとも志を同じくする朋であった。だからこそローナンも査問会を起す前に忠告をしていたのだ。

 

「その辺りは好きにしろ。どの道、野党なり別の派閥を使ってクーデターをさせるつもりだったからな。お互いさまというやつだ」

「なんだと?」

 この場合のクーデターとは武力決起ではなく政治的転覆という意味だ。

ジャミトフが野党なり、与党の対抗勢力に着こうと口にしたことをローナンは訝しむ。

 

どこの党や派閥にもいろいろな政治家が居る。だがそいつらに関して言えば利益優先の政治屋か、理想と現実の区別ができない連中のどちらかだ。ゆえに清濁併せ呑む現実主義者のジャミトフとは相容れない部類の連中と思われた。

 

「このままではどこかで連邦政府が破綻しかねない。ならば連中に全てを押し付けて身綺麗に成ってもよかろう。それにブレックス辺りに任せるよりは余程マシだ」

 ブレックス・フォーラーは最近になって活発に政治活動を始めた。

それまでは宇宙寄りで理性的な政策へ賛成する議員という程度だったが、宇宙市民の民権運動に力を入れ始めたのだ。

 

とはいえ政党指導者としてはまだまだ未知数。経験や見識という意味では心もとない。

連邦政府には影の政府(シャドー・キャビネット)という、野党へ閣僚並みの待遇で予備政策を考えさせる制度があるが、ブレックスはそこで経験したこともないのだ。反対の為の反対だとかリベラルどころか、与党が無理だからやらないことを公約してしまいかねない危うさがあった。

 

「居直り強盗役は必要だが、使い捨てにするわけにもいかんだろうしな。役目が終わったらさっさと切るにしても、ブレックスは惜しい部類だ」

「バスクと一緒にされたら連中も迷惑だろう」

 切り捨てるための居直り強盗という意味では、バスクの存在は大きかった。

最も独立色の強かったアフリカ方面からインドまでを一気に牽制してくれた。デラーズのコロニー落としも含めて周囲に反動勢力は軒並み姿を消している。

 

しかし都合よく動いていると思ったら……。

最後の最後で暴走した結果、グリーン・ワイアットの株を上げてしまったので苦笑するしかない。

 

ともあれ原作のジャミトフも奴を利用したり、この世界ではローナンが利用した。互いに気分は良くなるはずはないので、話題を変えることにする。

 

「しかし自治国を増やすのはやり過ぎじゃないか? 増長したら大変だという意見も出ているが」

「ジオンのようにか?ならば ……そろそろ踏み絵を踏ませてみるのも面白いかもしれんな」

 踏み絵と聞いて気分は良くなる者など居まい。

どうせロクでもないことに違いないが、試される連中……この場合は新しい自治国への懸念を示す者たちが哀れでならない。

 

「何をする気だ? あまりことを大きくするなよ」

「なに、大したことはないさ。ジオンが公国の看板を下ろしても良い頃合いだと思ってな」

 それこそローナンは唖然とした。

統一に大く貢献したマーセナス家のみならず、連邦政府としては是非ともそうして欲しいところだ。しかし事は国体に関することであり、こちらの勝手に成ることではない。

 

「いくら何でも無理だろう。特に今はダイクンの遺児が帰還したばかりだぞ?」

「多少の利益誘導が必要かもしれないが、可能ではある。それこそジオン・ダイクンが全盛だった時代に戻す行為だからな」

 ローナンの預かり知らぬことではあるが……。

終戦時にガルマ派が台頭するように尽力したのも、最近になって復帰したキャスバル・レム・ダイクンを見つけたのも。デラーズの決起に際して、キャスバルの名前を公表すれば関わらずに済むと言ったのもジャミトフであった。

 

最初からこの事態を想定してあったし、そもそもキャスバルの名前を公表する際に、『シャア・アズナブル』には影武者を立ててある。政治的に左右されたくない今の彼にとって、断る選択肢もなかった。

 

 

『主権を返されるとは言うが……。今日のジオンを導いてきたのはガルマ公子です。国民の大半は彼こそを求めていると確信しております』

 そしてジャミトフの言葉は真実となる。

キャスバルは新たな公王、あるいはその上の王として立つことを否定。

 

『ジオンには新たな息吹が必要でしょう。私もまた、国民はキャスバル氏を求めていると確信いたします』

 ガルマ・ザビもこれに倣って、後継者たる公太子の地位を返上する事となった。

そしてジオン公国はその名前と国体を、ジオン共和国に変更。独裁体制の強い統治方法から、より民主的な活動に切り替えたのである。

 

これに伴いマハラジャ・カーンも首相の地位を降り……。総選挙を実行。

キャスバルとガルマが連立与党の後ろ盾となって、ダルシア・ハバロが首相に復帰した。

 

急な話にも関わらずダルシアは意欲的に行動し、まるでこの事を予想していたかのように新たな経済政策や、完全循環型コロニーの受注を目指す路線を表明したのである。

まるで連邦の影の政府(シャドー・キャビネット)を参考にしたかのように。

 

●新しき時代の気配

 それから暫く、ローナンは久しぶりの暇を持て余していた。

ジャミトフが本当に政権クーデターを実行させ、自派閥の一部と野党が結託してしまったのである。おかげで影の政府(シャドー・キャビネット)の枠からも転げ落ち、今は自然公園で子供たちの相手でもしている他はない。

 

しかしローナンには子供たちと遊んでいる気分には成れなかった。

普通の人間ならば、ジャミトフが自分を追い落とした相手に逆襲したと思うだろう。だが彼は方針を聞いていたのだ。

 

何より無駄を嫌う男が、これほどまでに自分を政策から遠避けるだろうか?

むしろ徹底的に既存の思惑を壊すから、関わらせずに無傷で取っておいたのではないかと思う。そう考えれば、これからジャミトフが何をやるか気が気でなかった。

 

しかし最大の確執相手であるメラニーは、別件で一時的に会長職を辞任させられているが、一族の者に会長職を譲ることを許されている。数年もすれば元通りだろうし、特にダメージらしいダメージはない。何をやるかがまるで見えなかった。

 

「グレミー! こっち来いよ~。面白い場所に連れて行ってやるからさ~」

「私はゆっくり本を読みたいんだ。リディ一人で行ってくると良い」

 頭が痛いと言えば、預けられたこのグレミー・トトという少年もそうだ。

息子のリディは懐いているようだが、実はギレン・ザビの遺児と聞かされていた。ギレン自体が冷凍睡眠中なので遺児と言うのはおかしいが、それにしても随分と重要な人物を預けるものである。

 

「こんな良い天気なのに? パパだってせっかくの休みなんだから、楽しそうにすればいいのに」

「仕方ないだろう。今は難しい時期だからな。何かあれば世界を飛び回る羽目になるんだから、リディが父親に甘えておけるのも今だけだと思うぞ」

 十歳になるリディより少し上という話だが、多少は物の見方が判っているらしい。

普通ならば全く理解できないか、仕事を干されたローナンを哀れに思うのが精々だ。しかし彼は、今が嵐の前の静けさであることを自分なりに判断していた。

 

「ほう、判るかね?」

「全ての国家を統一するという偉業を成し遂げ、連邦が成立しました。しかし膨れ上がった風船のようなもので、誰かが針を使えば容易く割れてしまう」

 いきなり痛い所を突いてくるが真実ではある。

だからこそローナン達は抑えを効かせようとバスクのような強権者を利用し、ジャミトフは逆に制御下の自治でガス抜きを図っていた。

 

しかし一定の見識を見せたことで、ローナンはグレミーに興味を覚えた。

年齢不相応に賢いのは確かなようだ。しかし……自身の能力をひけらかすことの危険性、血筋の持つリスクまで理解しているだろうか?

 

「完全にではないが正解ではあるな。では君はどう思う?」

「興味がありません」

 興味半分、警戒心半分で話の水を向けてみた。

この年頃の少年は自分の才能を自覚すると、多幸感に包まれて能力をひけらかしてしまうものだ。

 

だがグレミーはローナンの関心を引くことも含めて興味がないようで、読みかけていた本を開いてしまう。これが擬態ならば恐るべきというしかないが、見え隠れする感情からは本当にその気がないようだ。

 

「ならば質問を変えよう。君は何がしたい?」

「世界を繋ぐ技術開発です。これから社会が発展していくならば、どのような形態であろうとコミュニケーションや移動手段は必要でしょう?」

 それを自分の手で成し遂げたい。自分ならば可能である。

そんな部分からは本音が見て取れた自負心と向上心が見え隠れして、今は不可能だが、将来は可能にして見せると息巻いている。

 

「確かにソレを手に入れれば大したものだな。色々と準備が必要だろうが」

「だからこそ、貴方のような人と付き合うようにしているんです。世界を繋ぐ虹の橋は私が作って見せますよ」

「さっきから全然わからなーい! つまんないってばー!」

 資金力や政治力もまた必要と知って、仕方なくローナンとも面識を得ている。

そう言われて宛が外れたような、なんとなく安心したような気がした。

 

そして少し離れた場所でぐずり始めるリディに、誰かが近づいていくのが見えた。

 

「……貴方は」

「そうお父上を困らせるものではないよ、坊や。時に飛行機は好きかな?」

「飛行機? うーん乗り物は好きだけど?」

 その男はこの自然公園の管理人だった。

だが、それ以上に有名人として見知っている。政財界にもパイプの太かったで退役軍人で、元は大将……それも制服組のトップである作戦本部長にまで登り詰めている。

 

「複葉機で良ければあるんだがね、乗ってみるかい?」

「あるの? うん! 僕乗りたい!」

「構わないのですか? ゴップ……大将」

 ゴップ自然公園を管理する一族の出であり、今は政治家に転身している。

連邦系企業のヤシマ重工の支援もあり、一期目は陣笠足軽(したっぱ)が当然であるというのに、無任所ながら既に頭角を現していた。

 

今の扱いは同じ程度だが……一時的に干されたローナンと、今から上昇していくゴップ。

二人がここで出会ったのは、運命なのか、それとも誰かの意図によるものか。

 

「構いませんとも。イングリッドや、案内てしてあげなさい」

「はい、お父様。……こっちよ、お坊ちゃん」

「なんだよ、お前だってお嬢ちゃんじゃんか」

 ゴップの連れていたのは、最近になって養女にした身寄りのない子供らしい。

くだらない名声稼ぎだと言われてはいるが、利発そうな子であり、グレミーのような何かしらの才能を感じさせた。リディを理由に自然にこちらに近付いたことも含めて、やはり大将にまで登った男に対し油断するべきではないのかもしれない。

 

「……しかし『彼』は何をしようとしているのでしょうな」

「さて。大掃除だとしか聞かされてしませんが。貴方とのコネクションをくれたのです、今の内に準備をしておけという事でしょう」

 ゴップの言う『彼』が誰を現すかなど言う必要もない。

それこそ第三者にも、ジャミトフの名前が出ない日はないのだ。

 

そして互いの面識を合わせておく意味など、他に考えられなかった。

 

「やはり次の政府は必要ですか」

「それはそうでしょう。今の政府は理想ばかりで我慢することを知らない。あれではせっかく持ち直した財政が破綻してしまいます。軍の方でも似たようなものでは?」

 影の政府制度(シャドー・キャビネット)によって洗練されているので、場違いな政策ではない。

それが救いであり、同時に引くことを知らない状況を作り出していた。一歩間違えば衆愚政治になりかねない方針であり、全てを叶えるには予算が少なすぎる。かとって連邦債を刷り続ければ経済的に破綻するだろう。

 

「耳に痛い話ですな。そこはジャミトフの出番では? アレが今の状況を作り出したのであれば何とかするでしょう」

 V作戦にビンソン計画を全て実行し、戦艦もモビルスーツもどんどん開発していく。

そんな計画を立てれば軍の財政が傾いて当然だが、レビルはジオンに勝つためにやり切った。

 

だからこそ途中からは圧勝したし、だからこそ連邦政府は憂慮した。

一年戦争末期の危機的財政を何とかしたのは、ジャミトフの助言が大きく、財務官僚たちの支持はその時から始まっていると言っても良い。

 

「まったく見当は付きませんが……。君は何か聞いているかね?」

「……コロニーの利権くらいしか思いつきませんね。アレはちょうど旧式になったところです」

 ゴップはグレミーに対しても何か聞いているのだろう、平然と質問を浴びせる。

 

「まさか完全循環型コロニーを? 随分と太っ腹な気がするが、確かにそのくらいしか都合の良い資金源は存在しないか」

「実のところスパイが連邦もジオンにも入り込んでいましてね。売りに出すのが早ければ早い程価値は高い。今ならば良い値を付けるでしょう」

 ゴップも聞いているならばローナンとしても言葉を躊躇うことはない。

関連する内容を一部ながら開示してしまうことにした。アナハイムがスパイを大量に送り込んだり技術者を引き抜いており、かなりの部分を抜き出しているということだ。

 

そもそもの話、工業力を残したジオンに建造させて賠償額に充てさせる。

その計画があった時点で、半分くらいは公開しているも同じだ。そして今ならばアナハイムは核心技術の全てを持ち出してはいない。そして……一からコロニーを建造しようという者にとっては、まだまだ重要な技術なのだ。

 

「十年後を目途に完全公開。金を積んだら今の内に提供するというところですかな? それならば一応は公平でしょう」

「他のコロニーは十年待ては無料。ジオンからの賠償金も手に入り、自治権も今までよりは拡大される……ですか」

 ローナンがある程度のストーリーを作ると、ゴップもそれを理解した。

打てば響くとはいかないが、十分に話は通じる。今後に政権を組む仲間としては、ヤシマ重工の後押しを含めて十分に心強い存在になるだろう。

 

二人の間で話が進んだためか、興味のないグレミーは再び本を読み始めている。

失礼な若者のことなど無視しても良いのだが、先ほどの懸念もあったので、あえて尋ねてみることにした。

 

「時にグレミー。君ならば完全循環コロニーに何を付け加えてみたいかね?」

「ミノフスキー粒子によるエネルギー保存の法則の突破! 循環システムの効率化で小型のコロニーが実現した今、エネルギー封入や保存の効率化以外に社会を発展させるものはない!」

「すまないが……。何のことやらサッパリだ。少しかみ砕いて教えてくれるとありがたいのだが」

 質問したローナンだけでなくゴップにも判らなかったようだ。

循環システムが小型化して、小さなコロニーを作ること、逆に巨大な食料プラントを作ることも可能になった。判るのは以前に説明を受けたその辺までである。

 

「研究対象だけについ夢中に成ってしまったようだ。ミノフスキー粒子はエネルギーを留め置く性質がある。これについてはもはや説明するまでもないだろう」

「……ミノフスキー型核融合炉や、レーダーを無力化するほどの電波の吸収性だね。軍に居たからそのくらいはなんとか」

 それでもまだ難しいのだが、ゴップは苦笑しながらついていった。

モビルスーツが高速で動くだけのエネルギーを生み出し、有視界戦闘に立ち戻らせた原因は、ミノフスキー粒子のせいだといっても過言ではない。

 

グレミーはこれでようやく話ができるとばかりに、重々しく頷いた。

そして空を飛ぶ複葉機が見え始めた時、それを指さしながら話を続ける。

 

「アレに融合炉があったとして、その飛距離はまだまだ無限には程遠い。移動力も無限大どころか、0.1にも満たないだろう。通信を送るとして、距離が離れれば当然遅くなる。落ちれば言うまでもない」

「ああ、少しでも効率的にということか。それならば何となく判る。最後のは不吉だが」

 今のところ、エネルギーを封じる性質があるというだけだ。

保存性が確認されただけで、ミノフスキー粒子の学問はその発展段階だ。

 

マイクロウェーブ送信技術が確立したことで、エネルギーシステムに革命が起きる前夜のようなものだ。その発展はまだまだ未知数でしかない。

 

「効率化は誰かがやる仕事だろう。だが概念はあっても未発見なのは、情報を封入すれば超空間通信。そして衝撃を吸収すれば慣性成制御システムだ。これらがあればそれだけで世界は一変する!」

「それで先ほどの言葉か。確かに夢は大きいな」

 だが必ずしも無理な目標ではない。

情報を遮断するために使われているミノフスキー粒子が、超空間通信に使われる未来がくればとんだ皮肉である。だがマイクロウェーブでエネルギーを送信できるならば、情報だって送信できるに違いない。

 

そして何より慣性制御システムが完成すれば人類の発展は劇的に大きくなるだろう。

通信システムはタイムラグさえ我慢すればどうとでもなるが、移動に伴うGばかりはどうしようもない。現段階ではたかが十Gの加速で普通の人間は耐えられなくなるのだ。無限のエネルギーがあったとしても、宝の持ち腐れであろう。

 

「さすがに私の生きている間には見られそうにないですな。しかし子供たちの時代にはなんとかしたいものです」

「そうですな。今日はお会いできて光栄でした」

 ゴップとマーセナスは握手を握り、そのまま興味のないグレミーの手を強引に握った。

共にギレンの血筋や切れ過ぎる頭脳を警戒しており、彼の興味が化学にあることをホっとしたのである。

 

 

 そして次なる政権を目指すローナンに、衝撃の事実が訪れた。

 

『ニュータイプは人類の可能性を秘めています。その優れた資質を発揮したならば、優先的に政権参加を認めても良いのでは?』

 ジャミトフの擁立した連立政権は、ジオン系の人間がニュータイプの政権参加を訴えた。

 

『何か勘違いしていると思われるが、ニュータイプの能力とは、長年連れ添った夫婦や危機を共にした相棒(バディ)が相互理解できる程度のものだ。優秀さは個人によるものでしかない』

 傀儡政権にやらせておいて、ジャミトフは平然と叩き潰すマッチポンプを行った。

 

『なるほど、危機的状況ならば優秀だ。念頭にあることを瞬間的に理解できる把握力は話をスムーズに進ませるだろう。だが我々の役目は彼らを差別せずに認める事でしかない。そうすれば優秀ならば放っておいてもこの場に立つだろう』

 言われてみれば自然なことだ。

ニュータイプが人の可能性の発露であり、その優秀さが指導者向きならば、余計な事さえしなければ自然と指導者になるはずなのだ。

 

もちろん認識の拡大でコミュニケーション能力が発達しても、政治的資質が無ければ指導者になることもない。

ニュータイプだからといって優先的に参加させることが重要なのではない。差別しないこと、彼らが現れたら、ただ認めるだけで良いとジャミトフは締めくくった。

 

「やってくれる! やってくれたわ! おのれジャミトフ。マーセナス家の百年をただの茶番に変えたな!」

 それは茶番に過ぎない。

だがマーセナス家の男としてローナンには到底、看過できるものではなかった。しかもニュータイプの優先参加論は祖父の持論で、昔から口にしていたなどと吹聴されてしまっている。

 

調べてみるとかなり前からこの展開は準備してあり、『ゴットハンド』というチームを使って、戦前から捏造工作のために色々行動していたから用意周到だと言わざるを得ない。

こうなってくると査問会から繋がる一件を放置して許したように見せたのも、いま仕事を干されているのも、この日のための布石だろう。

特にメラニーは、動かなければならないこの時期に動けないのが痛いはずだ。

 

「パパ……なんで笑ってるの?」

「リディ。お父さんはね。戦うべき相手をようやく見つけたんだよ」

 ラプラスの箱。そんな物など知らない我が子にローナンは微笑むことができた。

何も知らない者ならば、確かに初代連邦首相と同じことを言っても良いのだ。

 

それに対して手痛い反論を食らったのに何も言えないのは実に辛い。勝手に論陣を張られて、アナハイムとの確執をいつの間にか解消された身としては腹が立つばかりだ。

 

だがローナンは不思議と晴れ晴れとした表情で、傀儡政権を操って待ち受けるジャミトフへの闘志が湧き上がるのを感じていた。

 

「さしあたってはメラニーをどうするか……、だな。ここに至っては切り捨てても、こちらから手を差し伸べても良い」

 そう言いながら彼の一族に嫁いだビストの娘が、家族と不仲であるのを思い出した。

彼女に協力しても良いだろうし、利用するだけ利用してメラニーと手を組み直しても良いだろう。

 

新しい時代の訪れを感じながら、ローナンは何をするべきか忙しく思考を働かせ始めたのである。




 という訳で、ラプラスの箱に関して何とかしてみました。
ついでに、破綻しそうなアレコレも解決。
「お前、バスクに全部押し付ける気で色々やらせたよな?」
「じゃあ俺もするわ」的な居直り強盗とも言います。何度もやったらグダるけど、一回だけならアリな奴。

問題のありそうな政策は、一通りクーデーター政権の間に済ませた感じです。
完全循環型コロニーもアナハイムがかなりパクって来たので、コピーされるまえに技術販売。
十年後には完全公開するので、平等とか重視する人は待ってもらって、今すぐ作りたい人は金払えって感じですね。
「ドゥガチーくーん、金くれよー」とも言います。
お金なくなったら別に技術を渡して「お代わり!」って言う気なんですが。

自治権が拡大し過ぎに成る前に、ジオンが公国制だけを変更して共和国に戻りました。
(シャアもガルマも指導者としては、元々乗り気ではないのも大きい)

影の政府(シャドー・キャビネット)
 反対のための反対とはいてもらっても、政権を取ってもらっても困る
そこで『国家に忠実な反対党』に、閣僚級の予備政策決定権とそれなりの地位・給料を保証。
これによって政治空白を避ける……イリギスの手法だとか。


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