緋弾のアリア~裏の明智~ (魂魄木綿季)
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『プロローグ』

〜とあるマンション・一室〜

 

 

 

コンコンッ

零也(れいや)さん、朝です。起きてください』

気持ちよく眠っていた俺の耳にある少女の声が入る

 

 

コンコンッ

『おはようございます、起きて、ますか?』

 

 

「......あぁ。起きてるよ。」

 

 

『そうですか。朝食の準備が出来てるので来てくださいね』

ドアの向こうにいる少女はそれだけ言って離れていく

 

「...くぁぁ」ガチャッ

欠伸を1つしてから俺は寝室の扉を開く

 

 

 

「おはようございます。飲み物は何にしますか?」

灰色のエプロンをした少女【糸見沙耶香(いとみ さやか)】が俺に気付き、振り返る

 

 

「んっ、コーヒー頼むわ。ブラックでな」

 

 

「分かりました。少しだけ...待ってください」

そう言って少女が再度キッチンへ向かう

 

「・・・」

 

 

「どうぞ。」

朝食のパンとコーヒー。さらに自分の分の朝食とホットミルクを

持って少女が俺の向かい側に座る

 

 

「んじゃま」

 

 

「「いただきます。」」

朝食は目玉焼きに刻んだキャベツ、

それとご飯にわかめのお味噌汁と俺はコーヒーで

彼女はホットミルクだ

 

 

「......」

 

 

「......」ジー

俺が目玉焼きを口に含むと沙耶香が俺を見つめる

 

 

「......美味いよ。ありがとう」

これは俺の料理への感想待ちで毎朝繰り返されている

 

 

「そ、そうですか。よ、良かった//」

 

 

「そんなに毎朝俺に聞かなくたって大丈夫だぞ?

沙耶香の料理は日々着実に上手くなってるからな。」

 

 

「そ、そんなことは......私なんてまだまだ見習いで...」

 

 

「...まったく。いいんだよ。俺が気に入ってるんだからな」

手を伸ばして頭を優しく撫でてやる

 

 

「そ、そう、ですか。ありがとうございます//」

 

 

「おう。」

 

 

「と、ところで零也さん。今日はどうするのですか?」

 

 

「ん?そうだなぁ沙耶香はどうするんだ?」

 

 

「私は始業式には出るつもりでした。」

 

 

「そうか。なら俺も出るだけ出とくかなぁ

去年は結構出席ヤバかったし。」

 

 

「そうですね、零也さんも出ておいた方がいいですよ?」

ちょっとからかう様に沙耶香が微笑む。

 

 

「去年は沙耶香に助けられたよ。必要な単位を計算しておいてくれたから

結構気楽に過ごせたわ。ありがとうな」

 

 

「い、いえ、そんな...」

 

 

「そうは言ってもなぁ...今晩あたり寿司でも食いに行くか?

俺の進級出来たお礼に奢るぞ?」

 

 

「いえ大丈夫です。私は零也さんに日々お世話になってるから

お返しをしているだけ。だから気にしないでください」

 

 

「そう断ってくれるなって。俺が沙耶香にお礼をしたいから

行こうって行ってるんだ。沙耶香は気にしなくていいんだぞ?」

 

 

「で、ですが......」

 

 

「それでも断るならしょうがないけどよ...」

 

 

「う、う〜!わ、分かりました。ごちそうになります//」

俺の言葉に遂に折れ、沙耶香は了承した。

 

 

「そうか。それじゃあ本島の方に行こうか。予約しておくよ。」

 

 

「は、はい!」パァァァ

沙耶香はあまり感情がないとよく周りに言われるが

そうじゃない。嬉しいことがあれば微笑むし照れて顔を赤くしたりもする

ただ単に表情の幅が他の人に比べて狭いだけだ。

 

 

「それじゃあ俺は着替えてくるよ。ご馳走様。」

 

 

「はいッ。〜♪〜♪」

俺の食べ終えた皿と自分の皿を持って沙耶香はキッチンへ向かう。

その足取りは心做しか弾んでいる




タグにもありますがこちらで出ている
【糸見沙耶香】は【刀使ノ巫女】の糸見沙耶香がモデル
になっています。


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第1章 『武偵殺し編』
第1話 『UZI装備のセグウェイ』


プロローグ
第1話
第2話
第3話
までを同時投稿させていただきます。


〜数十分後〜

 

 

「にしても今日は車が少なくて助かるな。」

俺の愛車であるKAWASAKI KLX250を操縦しながら呟く

 

 

「そうですね、心做しかバイクも喜んでる気がします。」

俺の腰へ手を回し、後ろに座る沙耶香が答える

 

 

「いやーこのくらい飛ばせると気持ちいいな。ノーヘルになりたい。」

 

 

「それをやると怒られるのは目に見えているのでダメですよ?」

 

 

「分かってるよ。っと、あれってキンジか?」

俺は遥か先、数百m先に自転車を漕ぐ同級生を見つける

 

「え?キンジさんですか?」

後ろの沙耶香もひょこっと顔を横に出す

 

 

「ちょっと緩めるか。スイスイだったから時間は余裕だしな」

 

 

「そうですね。」

沙耶香の了承も得られたのでスロットルを戻し

10km前後まで速度を弛めて前方を走る自転車へと並ぶ

 

 

「よぉキンジ自転車登校にしては急いでるな?」

 

 

「おはようございます。」

 

 

「ん?あぁ零也に糸見か。相変わらず仲がいいな

俺の方は朝にメールをチェックしてたらバスに乗り遅れてな。」

 

 

「あーなるほど。牽引してやろうか?」

 

 

「...ん?あれは......」

 

 

「いや、直線はともかく曲がれねぇだろ。

それにこの辺まで来てれば後はノンビリでも間に合う。」

 

 

「そうか。それじゃあキンジ大先生の声を信じて俺達も歩くか?」

 

 

「零也さん。」

 

 

「いや、気にすんな。先に行ってていいぞ

あ、クラスだけメールで教えてくれ」

 

 

「ん、了解。今年は同じクラスだといいな」

 

 

「零也さん。」クイックイッ

 

 

「嫌だよ。お前と同じクラスとか嫌でも目立つ。」

 

 

「ま、そう言われる気はしてたよ。」

 

 

「零也さん!」

 

 

「お、おう!?どうした沙耶香」

突然後ろに乗る沙耶香が大声で俺を呼ぶ

 

 

「...なにか来ます。」

沙耶香が後方を指で示す。

 

 

「ん?なんだあれ、ちょっと前に流行った乗り物に見えるが」

幾らスピードを緩めていても振り向くのは危険なのでサイドミラーで

確認すると沙耶香の言う通り後方に小さく何かが映る

 

 

「ちょっと前に流行った乗り物?」

隣を並走するキンジが聞き返す

 

 

「そうそう、なんだったっけかなぁ。あのバランスかけると進む奴」

 

 

「んー心当たりがあるけどなんだったっけか。」

どうやらキンジも答えは分かったが名前が出てこないようだ。

 

 

「セグウェイです。零也さん、UZI(ウージー)装備の」

 

 

「そうそう。セグウェイだよ!」

 

 

「流石だな沙耶香。それそれ、

セグウェイだよUZI装備の.........なんだって?」

 

 

「ですから、UZIを乗せたセグウェイです。」

 

 

「...ははは、知らない内に冗談が上手くなったな糸見。

ほら零也。後ろ確認してくれ。」

キンジが失笑を浮かべながら俺へと向く

 

 

「・・・悪いキンジ。冗談じゃないわ」

キンジの言葉に俺もふざけ半分でサイドミラーを確認するが

そこには沙耶香の言う通りUZIを取り付けたセグウェイが写っている

 

 

「・・・マジで?」

 

 

「「マジ(です)。」」

俺達は口を揃えて返す

 

 

そしてとうとう俺達の背後数mまで来たセグウェイは

UZIの照準をキンジの乗る自転車へ向け

 

 

『その チャリ には 爆弾が 仕掛けて ありやがります』

セグウェイに取り付けられたスピーカーから機械音声がそんな言葉を放つ

 

 

これが俺と沙耶香、さらにキンジの【武偵殺(ぶていころ)事件(じけん)】の始まりだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「なんでこんなことにぃぃぃぃぃ!?」

俺の後ろで友人の必死な叫びが木霊する

 

 

「いやー平和な朝だなぁ」

スロットルを足し30km程度まで加速しながら呟く

 

 

「いえ、あの、零也さん?」

 

 

「つうか零也ぁぁぁぁ!!お前を俺を見捨てていくつもりか!?」

 

 

「あー聞こえない聞こえなーい」

 

 

「零也ぁぁぁぁ!!」

キンジが必死にペダルを踏み、俺の横へ並ぶ

 

 

「おーキンジ元気か?いや元気だろうなー。」

 

 

「あ、あの、零也さん。」クイックイッ

 

 

「ん?どうした沙耶香。」

その服の裾引っ張るの可愛いな。

 

 

「いえ、とても言いづらいのですが...増えていますセグウェイ。」

 

 

「は?」

つい、サイドミラーで後方を確認する。

 

 

UZIを取り付けられたセグウェイ

M4を取り付けられたセグウェイ

MP5を取り付けられたセグウェイ

AKを取り付けられたセグウェイ

 

 

合計で4台

 

 

明らかに増えている

「...ふざけてる場合じゃねぇな。沙耶香、セグウェイの照準は?」

 

 

「...UZIのセグウェイ以外はこのバイクに向いています。」

 

 

「......しゃーないか。キンジ!」

 

 

「あ、なに!?」

 

 

「UZI以外は俺達狙いだ。こっちで引き付ける。

お前の相手はUZIの一台だけだ。やれるか?」

 

 

「......やるしかねぇんだろ?」

 

 

「そうだな。そうしてくれ。・・・たしかこの先はT字路だ。

お前は直進、俺達は右に曲がる。」

 

 

「...分かった。俺は直進だな?なんとかしてやる。」

仕方なし。と言った感じでキンジが笑う

 

 

「沙耶香、このままの速度で曲がるから腕の力を緩めるなよ。」

 

 

「はい。」

 

 

「よし。んじゃあやるか!死ぬなよキンジ!」

 

 

「ご武運を」

沙耶香が腕の力を強める

 

 

「お前らもな!」

予定通りキンジはそのまま通りを直進し俺達は曲がる。

右折車線には入ってないけどこの際仕方なしだ

 

 

 

「...あれ?アイツらは2人いるけど俺は1人だよな?

どうやって状況を打開すればいいんだ!?チクショー!!」

 

 

俺達2人の背後からキンジの悲痛な叫びが聞こえた気がした

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜零也・沙耶香 side〜

 

 

 

「・・・さて、キンジからはもう見えねぇな?」

 

 

「はい。ビルの影に入りましたし

キンジさんは倉庫外に向かっているので大丈夫だと思います。」

 

 

「沙耶香、準備はいいか?」

 

 

「...はい。もちろん」

沙耶香が腰に下げた刀、[雷切(らいきり)]へと触れる

 

 

「よし。あと200m先に街灯があるからその辺でやるぞ。」

 

 

「はい。」

 

 

「・・・よし、今!」

俺の後ろから重みが消え、背後で衝撃音が響く

 

 

ガシャンッ

 

 

「...んっ、敵、殲滅。」

刀を抜刀した沙耶香が倒れたセグウェイの前に立って呟く

 

 

「良くやったな。沙耶香」

バイクでターンしてから沙耶香へと近寄る

 

 

「...いえ、お気になさらず」

ふう。と息を吐く沙耶香。彼女がした事は単純だ

時速60km程度で走るバイクから後方へ飛び、

後ろを走るセグウェイと並んだ瞬間に切り払う。それだけだ

 

 

「いや。良くやったよ」

時として謙虚すぎるのが彼女の美点であり難点だ。

だがこういう時は頭を優しく撫でてやるのが俺なりの対処法だ

 

 

ナデナデ

「...い、いえそんな、こと//」

 

 

「...もう少ししたらキンジを探すか。」

 

 

「は、はい!そうですね...//」

 

 

 

 

〜数十分後〜

 

 

 

あの後数十分にも渡って沙耶香の頭を撫で続けてから

俺達はキンジと別れた交差点付近まで戻ってきていた。

いや、俺は悪くない。沙耶香の髪がサラサラで撫で心地が良すぎるんだ

 

 

「にしても凄いなこれは。」

少し離れた位置にキンジが乗っていた自転車を見つけ

そこから少し進んだ先の倉庫へと来たのだが

 

 

「UZIの銃身がまるで花でも咲いたようですね。」

倒れたセグウェイに大して沙耶香が呟く

 

 

「あぁ。恐らく発射のタイミングに被せてバレル内に射撃して

内部で破裂させたんだろう。こんなことが出来る奴がいるとはなぁ」

 

 

「・・・?零也さんも出来るのでは...?」

 

 

「そりゃやろうと思えば出来るけどこんなに多いと厳しいな。

5対1で狙われてれば尚更だ。」

 

 

「いえ、恐らく5対2だったと思います。」

倉庫内に入った沙耶香が2つの薬莢を持って戻ってくる

 

 

「9mmと45口径か...9mmはキンジだとしてあと1人別に

45口径を使う誰かが居たってことか。」

キンジの使う銃はM9系の9mm弾を使ってたはずだな。

と自分の記憶から情報を得る

 

 

「45口径の方は空薬莢がかなりの数落ちていますね。

発車弾数は16発は堅いでしょう。」

 

 

「弾代もタダじゃないし自分の命賭けてても

そこまで連射出来るやつは少ない。随分と気前の良い奴だな。」

 

 

「はい。」

 

 

「よし。とりあえず今出来る範囲での現場検証は終わりだな。

そろそろ学校に向かうか。」

 

 

「そうですね。始業式にはもう間に合いそうにないですけど...」

沙耶香が苦笑いを浮かべながら俺へと振り向く

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

次の瞬間、少し離れた場所から鐘の音が響いた。

 

 

「...もう帰るか?」

 

 

「残念ながら“教務科(マスターズ)”への事件内容の報告が優先だと思います」

俺の言葉は沙耶香の返答に一蹴された。

 

 

「......それもそうだな。」

仕方なしに出来る範囲でメールを使い報告をしてから

バイクに跨りエンジンをかける

 

 

「...今思ったら勝手に現場検証したから怒られるんじゃね?」

 

 

俺の言葉に沙耶香は目を丸くしてから

「.........盲点でした。」

 

 

「......はぁ。マジで帰りたい」

そんな呟きを零しながらも体はバイクを発進させ

俺達の登校する【東京武偵高校】へと向かったのだった




沙耶香の使用している刀が刀使ノ巫女とは
違うのはワザとですのでご安心ください。


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第2話 『決闘よ!風穴開けてやるんだから!』

〜数分後〜

 

 

 

「それじゃあ後でな。」

学校に到着した俺達は駐輪場へバイクを置き、

いつもと同じ場所で別れる。

 

 

「はい。それでは後ほど。」

一礼をしてから沙耶香は先に教室へと向かう

 

 

「...ホント、よく出来た娘だよ。」

思わず目尻に良い意味で涙が零れそうになる。

 

 

「...はぁ。行きたくねぇ」

ため息混じりに俺はある場所を目指して歩みを進める。

 

 

 

ここは【東京武偵高校】近年、日に日に凶悪化する犯罪に対抗するために

新設された国家資格である『武装探偵』略して【武偵】を育成する学園だ

レインボーブリッジ南方に浮かぶ南北およそ2キロ・東西500メートルの

人工浮島、通称『学園島』に設立された武偵を育成する総合教育機関で

一般教育の他に武偵としての活動に関わる専門科目を履修できる他

学園や民間からの依頼を受けてそれをこなす事も授業の一環とされている

 

 

 

学科は全部で13つあり

・狙撃銃を使用した遠隔からの戦闘支援を学ぶ【狙撃科(スナイプ)

・犯罪組織に対する諜報、工作、破壊活動を学ぶ【諜報科(レザド)

・逮捕した犯罪容疑者への尋問を学ぶ【尋問科(ダキュラ)

・探偵術と推理術による調査、分析を学ぶ【探偵科(インケスタ)

・犯罪現場や証拠品の科学的検査を学ぶ【鑑識科(レピア)

・装備品の調達、カスタマイズやメンテナンスを学ぶ【装備科(アムド)

・車輛、船舶、航空機などの運転、操縦技術を学ぶ【車輌科(ロジ)

・通信機器を用いた情報連絡によるバックアップを学ぶ【通信科(コネクト)

・情報処理機器を用いた情報収集と整理を学ぶ【情報科(インフォルマ)

・武偵活動の現場に於ける医療、救助活動を学ぶ【衛生科(メディカ)

・武偵病院に勤務する医師の育成、医療活動を学ぶ【救護科(アンビュラス)

 

 

の11の学科と

・魔術などの異能力を研究、育成する【超能力捜査研究所】

・特定条件下に()ける犯罪捜査を学ぶ【特殊捜査研究科】

 

 

の13の学科だ。それぞれの学科にE〜Aまでのランクが存在し

依頼解決の実績や学科の各種中間・期末試験の成績からランク付けされる

だが、Aランク以上の実力を発揮した武偵にはSランクが与えられ

Sランクを持つ武偵ともなればその道のプロとして扱われる

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

「んでぇ〜?勝手に現場を捜査した挙句に報告もせずに帰ろうとした

【明智零也】君よ〜。」

俺の目の前で咥えタバコをしたまま話す女性がいる

 

 

「はい。すいません。」

 

 

「ん〜?テンション低いんじゃない?どぉしたぁ?腹でも痛いのかぁ?」

この女は【綴梅子(つづり うめこ)】この日本国内では尋問に()いて5本指に入る程の

実力を持ち、曰く『どんなに口の堅い人間でもゲロってしまう』との事。

 

 

「いえ、大丈夫です。大丈夫ですから煙草での根性焼きはやめてください

というか、俺をここに呼んだ理由は事件内容の報告じゃないんですか?」

また、このように生徒への根性焼きを当然のようにする危険人物でもあり

 

 

「ん〜。言われてみればそうだった気がするなぁ」チッチッ、スー、プカー

生徒の目の前で絶対非合法レベルなタバコを吸う教師だ

 

 

「...用がないなら帰りますけど。」

 

 

「いや、一応聞いとかないとまずいからねぇ〜話してみ?」

 

 

「...分かりました。」

心の中で盛大にため息を吐きつつ、俺は体育倉庫の件と

俺達を追っていたセグウェイの事を報告した

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後〜

 

 

 

「はぁ。疲れた。」

結局あの後、1時間にも渡って事件のことを根掘り葉掘り聞かれ

俺の精神は既に疲弊していた。色で示すなら赤疲労だ。HP残り1だ

 

 

「いつの間にか沙耶香と同居してる事バレてるせいで弱み握られたし」

 

 

『ん〜?答えなくてもいいぞ〜?そんかし糸見が

いつもお前の家で寝てる事は暴露するけどなぁ〜』ニヤニヤ

沙耶香には容姿端麗頭脳明晰(ようしたんれい ずのうめいせき)という事もあり一部ではファンクラブも

存在すると(もっぱ)らの噂だ。もしもそんな連中にバレたらと思うと...

 

 

ブルッ

「・・・はぁ。新年度早々、先々が不安だ。」

 

 

 

「あ、零也さん。」

俺が愚痴を言いつつも飲み物を買いに自販機へと向かうと

沙耶香が先に来ており、その手には俺の愛飲するビックボスのコーヒーが

握られている。もちろん味は俺の好みに合わせてブラックだ

 

 

「おう沙耶香どうしたんだこんな所で」

缶コーヒーを受け取り喉に流し込む

 

 

「今日は始業式と今後の予定発表だけだったので解散になりました。

それで零也さんを待とうと思ったら、綴先生を相手にした後なら

十中八九ここに来ると思って待ってました。」

 

 

「...俺の行動パターンはお見通しか。」

彼女の行動につい笑みが零れてしまう。

 

 

「はい。零也さんとは付き合いが長いですからね。

それと今年も零也さんの同じクラスになったのでよろしくお願いします。」

2人とも2-Cです。と付け加える

 

 

「そうか。ならクラスメイトとしてもよろしくな。」

 

 

「はい。それと今朝の倉庫の件ですが、零也さんの予想通り

キンジさんともう1人居たらしくそのもう1人は女子らしいですよ。」

 

 

「へー。45口径を使う女子なんて居たんだな。」

 

 

「驚くのはまだ早いですよ。さっき廊下ですれ違った2-A担任の

高天原(たかまがはら)先生が言うにはコルト・ガバメントの二丁拳銃らしいです。

もちろんどちらも45口径」

 

 

「...ふぅん。ちょっと面白そうだな。綴みたいな感じなのか?」

 

 

「それが全然体格は良くなくて

“中等部”って言われても納得の容姿らしいです」

 

 

「中等部ねぇ。でもあの高天原先生が言うくらいだから

もっと幼そうだけどな。実際の容姿は初等部とかだったりして」

 

 

「高天原先生の反応を見る限りその可能性が高そうです。

それにその子、転入生なんですけど転入初日の今日、教室内で

コルト・ガバメントを抜いて発射したらしいですよ」

 

 

「へー。それはまた。面白おかしく飛んでもないチビッ子が来たもんd...

『私はチビッ子じゃなぁい!!』...は?」

 

 

「ッ!零也さん!」

呆気に取られた俺だが沙耶香の言葉で我に返り、

後方から飛んでくる飛び膝蹴りを受け止める

 

 

「痛ってぇなッいきなり何すんだコラ」

受け止めたとはいえさすがに手が痛い。

 

 

「......さい。」

 

 

「あ?なんだって?」

 

 

「うるさいうるさいうるさい!私はチビッ子じゃない!」

喚き散らしながら膝蹴りを放ってきた少女は地団駄を踏む

というかそれ、なんとかのシャナの口癖だろ。

いや、声の雰囲気とかはすんごい似てるけどさ。

 

 

「...はぁ?」

 

 

「えっと、零也さん。」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「この子です。」

 

 

「は?」

 

 

「いえ、ですからこの子です。例の転入生」

 

 

「...んじゃあれか?お前がキンジとセグウェイ撃退して

今日来た転入生で転入初日から教室でガバぶっ放したチビッ子って事?」

 

 

「だから私はチビッ子じゃない!アンタなんなのさっきから!」

俺の言葉の一部分にのみ激昂(げっこう)し、既に手はスカートへと伸びている。

恐らくスカートの中、細かく言えば太ももにホルスターがあるのだろう

 

 

「あのな。怒りのあまり周りが見えなくなんのは分かるけどよ。

怒りでホルスターに手が伸びるのはもはやただのガキの癇癪(かんしゃく)だぞ?」

 

 

「チビッ子の次はガキと来たわね...しかも子供の癇癪(かんしゃく)と...」

 

 

「ん?おい、なんで怒ってんだよ。」

 

 

「頭にきた!もうアンタには何がなんでも風穴開けてやる!」ジャキッ

俺の言葉に答えることなく目の前の少女はホルスターから銃を抜き

俺と沙耶香に向ける。そして

 

 

「決闘よ!風穴開けてやるんだから!」

と声高に宣言した。

 

 

 

「・・・は?(はい?)」

俺と沙耶香の声が重なり、春の風の音に消されていった



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第3話 『納得いかないわ!』

とりあえず今日はこの3話までを同時投稿させていただきます。
誤字などのミスや指摘などがありましたら
感想欄へお願いします。修正後にお返事をさせて頂こうと思っています

もちろん、感想などもお待ちしております。


決闘だのなんだのと言い出した少女だが、

身長は約140cm。沙耶香より少なくても頭半分ほど小さい

体格は酷く言えば小学生。よく言っても中学生程度にしか見えない

 

 

「ちょっと!聞いてんのアンタ!」

突如としてそんな声がかけられて俺はハッとする

 

 

「うるさいな、なんなんだよ。いきなり人に膝蹴りかまして

その次は決闘とかって。マジなんなん?」

 

 

「膝蹴りは悪いと思ってる!でも、私をチビッ子扱いしたのは許さない!

私はこれでも高2なのよ!アイツもアンタも私を幼女扱いして!」

 

 

「あーあーうるせぇうるせぇもう少し声を抑えてくれ。」

つか、アイツって誰のことだよ。

 

 

「なんなのその態度!腹の立つ男!」

 

 

「...悪かったよ。頼むからここでガバぶっ放すのはやめろ。

面倒事は嫌なんだよ。」

ついには少女のガバの引き金が落ちそうだと思った俺は仕方なく

謝罪をしてから目の前の少女を諭す

 

 

「・・・分かったわよ。」

納得はしてなさそうだが手に持った

ガバメントをホルスターに戻し少女は向き直る

 

 

「アンタ、名前は?」

 

 

「んー?【佐藤】です。よろしくお願いします」

とりあえず偽名で終わらせることにs...

 

 

「」ギロッ

おいなんだその眼。人を殺せそうじゃねぇかよ

 

 

「チッ、2-Cの【明智零也(あけち れいや)】だ。

専門科目は“狙撃科(スナイプ)”と“探偵科(インケスタ)”だ。んでこっちが、」

言い終えてから沙耶香へと視線を向ける

 

 

コクッ

「同じく2-Cの【糸見沙耶香(いとみ さやか)】。専門科目は“強襲科(アサルト)”」

 

 

「・・・2-Aの【神崎(かんざき)・H・アリア】よ。専門は“強襲科”

ところでアンタ、“狙撃科”と“探偵科”って言ってたけど

どういう事?普通は一科目でしょ?」

 

 

「・・・俺にも事情があんだよ。あと決闘は受けねぇぞ。

俺は“強襲科”じゃねぇんだ。お前みたいなしっかりした“強襲科”の人間と

戦うつもりはねぇ。勝てない勝負はしない派なんだよ」

 

 

「いいえ、やってもらうわ。」

 

 

「・・・話聞いてんのか?俺は“やらない”って言ってんだけど。」

 

 

「聞いてるわよ。私は“やってもらう”って言ってるの。」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・・・・いや、聞いてねぇじゃん。」

マジでなんだコイツ。話が全く通じない。

 

 

「決闘って言っても本気ではやらないわよ。死なれても困るしね

ただ私は知りたいだけよ。朝の件に対処した人間の実力を」

 

 

「...それなら対処したのは俺じゃなく沙耶香だ。沙耶香が相手になる」

 

 

「え?ちょっと、零也さん...」

ずっと聞く姿勢だった沙耶香がこれには口を開く

 

 

「もちろんそっちの子にも決闘申し込むわ」

 

 

「はい?」

 

 

「でも先にアンタよ。アンタ、さっきからのらりくらりと避けてるけど

絶対に実力を隠しているタイプよ。それもとびきりの」

 

 

「...なんでそう言いきれる?」

 

 

「勘よ。」

 

 

「...言い切るなぁ」

 

 

「・・・」

これには沙耶香も何も言えない。と言った感じだ

 

 

「・・・」

少女、神崎の眼はまっすぐに俺を見据えている

 

 

「...はぁ。分かったよやってやる。ただし1回だけだ」

 

 

「・・・それでいいわ。アンタ、得物は?」

 

 

「M93RとHK45だ。お前は...45口径(フォーティーファイブ)のガバか。」

 

 

「えぇ。このあと時間ある?」

 

 

「一応ある。もう帰るつもりだったからな。沙耶香もいいか?」

 

 

「...はい。」

 

 

「そう。なら30分後に西の埠頭に集合よ。」

 

 

「......分かった。」

 

 

「分かりました。」

 

 

「そう。なら待ってるわよ」

それだけ言って神崎は踵を返し、その場を後にする

 

 

「...なんか、新年度早々面倒事に絡まれた気分だ。」

 

 

「それは...朝の一件で既に手遅れだと思います」

沙耶香が苦笑いを浮かべながら返答する

 

 

「・・・それも確かに。」

ため息混じりに呟いた俺は手に持った缶コーヒーの

中に残ったコーヒーを飲み干したのだった

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜30分後 西の埠頭〜

 

 

 

「・・・それじゃあ、始めましょうか。好きなタイミングでどうぞ」

 

 

「...はいよ。ふぅ......ッ!」タラランッ

舐められてるなぁと思いつつもショルダーホルスターから

M93Rを抜き、発砲する

 

 

「どこを狙ってんのよ!」

だが既に神崎は俺の狙った場所にはいない。

 

 

ダンッダンッ

 

 

「ちいっ!45口径を撃つなんてお前は俺を殺す気か!」

神崎の弾を走って逃げながら俺も牽制のつもりで何発か撃つ

 

 

キュインッ

「狙いはいいけど照準が甘い!そんなんじゃ私は倒せないわ!」

 

 

「元々倒そうなんて思ってねぇよ!」タランッ!

 

 

ダンッダンッダンッ

「このまま追いかけっこを続ける気かしら!?

生憎だけどスタミナ勝負なら私だって負けないんだから!」

 

 

「アホか!俺はスナイパーだ!持久戦なら負けねぇよ!」タンッタンッ

 

 

チャキッ、ダンダンダンッ

「そう、ならどっちの意地が上に行くか勝負ね!」

神崎はホルスターから二丁目のガバを抜き早撃ちする

 

 

「クッソが!お前の体小さいから狙いずらいんだよ!」タンッタンッタンッ

 

 

ダンッダンッダンッ、ダンッダンッ

「うるさい!この場においては私のメリットになってるわよ!」

 

 

「今!」

神崎の銃は45口径のコルト・ガバメント。

装弾数は7発だ。もうあいつの銃に弾は無い

俺は神崎目掛けて走る

 

 

「...いい判断だけど惜しかったわね!まだ残弾あるわよ!」

勝った!と言わんばかりの顔で神崎がガバを向ける

 

 

「んなの知ってるよ!」

ガバメントの装弾数は7+1発だ。

神崎の性格なら絶対に8発使うと信じていた

だから俺は走りながらレッグホルスターに入れたHK45を抜く

 

 

ダンッ!

 

 

ギィンッ

「な!くっ、この!」

俺の撃ったHK45の弾が神崎のガバメントへと当たり

神崎は左手のガバメントを手放す。

慌てて右手のガバの照準を俺に合わせるが

 

 

「遅い!」タァンッ

今度は93Rで神崎のガバを落とさせる

 

 

「よし、これで......な!?」

神崎との距離は残り1mの距離にまで近付いたが

何かが光を反射したので俺は体を逸らした

 

 

ヒュンッ

風切り音と共に俺の目に入ったのは...

「私が戦いの最中にガバメントを手放したのはこれで2回目よ。

喜びなさい零也!そして私の勝ちよ!」

正体は神崎が左右に持つ刀だ。

 

 

「ちいっ!な、」カンッ!

とっさで93Rを構えるが神崎が刀で弾き、遠くへ飛ばされ

次の瞬間、HK45も飛ばされる

 

 

「これで勝ちよ!」

神崎が左右から刀を振り、俺の首筋へと迫る

恐らく寸止めだろうが俺の負けは確定的だ。・・・普通ならな

 

 

「人間はいつ一番気持ちを緩めるか知ってるか?神崎!」

俺は足元に落ちていたガバメントを蹴り上げる

 

 

「な、がっ!」

突然の事に防御姿勢すら取れずに

無防備な神崎の腹へ蹴り上げたガバメントが命中する

 

 

「ッ!とおりゃっ!」

その隙を見逃さずに俺は神崎の刀を手刀で叩き落とし、

神崎の胸倉を掴んで背負い投げる

 

 

「ガハッ!」

背中から叩きつけられた事で肺の空気が無くなる

 

 

「ッ!......終わりで、いいか?」

痛みに悶える神崎を袈裟固(けさがた)めで押さえ込み、確認を取る

 

 

「ッ.........いいわ、降参。」

神崎の顔は驚きのあまり言葉が浮かばないと言った感じだった

 

 

「......暴れんなよ?」

 

 

「...暴れないわよ。私が負けたのは事実だもの。」

その言葉を聞いて俺は神崎を離して立ち上がる

 

 

「...ほれ、」

神崎に手を出し立たせてやる

 

 

「んっ、零也、アンタ“強襲科”に転科しない?

そのセンスがあればいい線まで行くわよ?最低でもAランクは硬いわ」

 

 

「んーそうしてもいいんだが転科しても学ぶ(やる)事がないんだよ。」

落ちている俺の銃と神崎のガバメントを拾いながら答える

 

 

「学ぶことがない?」

 

 

「あぁ。実は俺、中学の3年間で強襲科、車輌科、鑑識科の

3つは履修しきってるんだよ」

 

 

「・・・は?」

神崎の顔は信じられないと言った顔だ

 

 

「んで、探偵科も実はあと10点程度の単位で終わるんだ。」

だから今のうちに狙撃科を選択してるんだよ。と続ける

 

 

 

「......りえない。」

 

 

「ん?なんだって?」

 

 

「そんなのありえない!一学科にどれだけの量があると思ってるの!?」

 

 

「いや、そうは言われても...事実だからなぁ

まぁ、この後に沙耶香との勝負もあるだろ?頑張れよ。」

 

 

「...かなり不服な気持ちが残るけど今はいいわ。

それじゃあ呼んできてもらえる?」

俺が拾ったガバメントを受け取りながら神崎が言う

 

 

「あぁ呼んでくるよ。それと神崎、沙耶香との勝負に向けて

俺から一つだけアドバイスがあるが聞くか?」

 

 

「...どういう風の吹き回しかは知らないけど聞くだけ聞いておくわ」

 

 

「吹き回しも何もないが...アトバイスは単純だ。

沙耶香相手には“銃は使うな。”ただの無駄弾になるからな。」

 

 

「・・・どういうこと?」

 

 

「全然分からないって顔だな。だけど沙耶香と向き合えば嫌でも分かるよ

あぁ、ついでに強襲科での沙耶香の2つ名教えといてやるよ」

 

 

「・・・?」

 

 

「沙耶香の2つ名は...『雷撃(らいげき)糸見沙耶香(いとみ さやか)』だ。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後 某ラーメン屋〜

 

 

 

「納得いかないわ!」

テーブルに突っ伏した神崎が絶叫する

 

 

「そ、そうは言われましても...」

沙耶香はなんとも言えない顔だ

 

 

「・・・」

来店寸前で出会い、誘った少女【レキ】はいつも通り寡黙だ

 

 

「だから言ったろ?沙耶香に銃は無駄だって。」

 

 

「なぁ...」

 

 

「そんなこと言ったって理不尽よ!5mしかない距離で私が撃った弾を

16発全て切り捨てるだなんて!接近戦を挑んだら一瞬で弾かれるし!」

もうプライドがズタズタよ!と騒ぐ

 

 

「あのぉ...」

 

 

「そうは言われても...見えたので斬ったとしか」

 

 

「だよな?俺も奇策のつもりでガバを蹴り上げたら

運良く見事に神崎の腹に当たっただけだし」

 

 

「ふむ!昼食が零也殿奢りとは(それがし)は幸せにござる!」

 

 

「おい。」

 

 

「あの。」

 

 

「第一俺の忠告を無視して銃を使った神崎にも落ち度は有るだろ?

沙耶香を一方的に責めるのはやめろ。」

 

 

「う〜!う〜!」

これ以上は神崎が泣きそうだからやめておくか。

 

 

「沙耶香さんの眼は私や零也さんのライフル弾も捉えますから

アリアさんの45ACP弾程度ならば止まって見えるのではないでしょうか」

入店してから初めてレキが口を開く

 

 

「い、いえ、流石にそこまではおそくありませんよ!

せいぜい子供の蹴ったサッカーボール程度です」

 

 

「...ようは相当遅く見えるってことだな。」

 

 

「......納得いかないわ!」

神崎の2度目の絶叫が店内に響く

 

 

 

「おい!無視をするな!」

 

 

「あの、無視をしないでください!」

とここまで会話には参加していなかった2人が声を上げる

 

 

「ん?どうしたキンジ?」

 

 

「どうしたもこうしたもあるか!俺に『ラーメン食いに行こうぜ』って

電話をしたかと思ったらコイツ(神崎)が居るなんて聞いてねぇぞ!」

 

 

「アリア先輩をコイツ呼ばわりしないでください!」

キンジの言葉に食ってかかる少女。

 

 

「おいお前ら漫才すんなら他所でやれ」

このラーメン屋の店長【ゴン】さんがよく響く声で言う

 

 

「ぬっぐぅ...」

 

 

「す、すみません!」

 

 

「...2人とも落ち着いたところで説明するけどよ。

今回は顔合わせ会のつもりで声掛けたんだよ。転入してきた

神崎に、“狙撃科”のレキ、“探偵科”切手のロリコンで強猥男のキンジ。」

 

 

「は?...ちょっと、おい待てコラ!」

 

 

「静かにしろって。んで、この強猥男の“戦妹(アミカ)”で“諜報科”所属の

風魔陽菜(ふうま ひな)】ちゃん。んで俺と沙耶香なんだが、君は?」

 

 

「あ、はい!私はアリア先輩の“戦妹(アミカ)”で【間宮(まみや)あかり】です。えっと、」

 

 

「ん?あぁすまん。2-Cの【明智零也】だ。

明智でも零也でも好きに呼んでくれていい。それと、」

 

 

「同じく2-Cの【糸見沙耶香】です。学科は“強襲科”なので

間宮さんとは学年でも学科でも先輩になりますね。

私のことも好きに呼んでください。それとこちらが、」

 

 

コクリッ

「同じく2-Cの【レキ】です。よろしくお願いします」

沙耶香の目線の意図を汲み取りレキが続く

 

 

「は、はい。それじゃあ明智先輩、糸見先輩、レキ先輩と」

 

 

「んで、この強猥男が...【キョー・ワイ】君だっけ?」

 

 

「零也お前、後で覚えてろよ。

2-Aの【遠山(とおやま)キンジ】。“探偵科”所属だ。それでこっちが」

 

 

「某は先程零也殿に紹介して頂いた、【風魔陽菜】でござる。

クラスはCで違うがあかり殿とは同級生にござる。」

 

 

「某?殿?ござる?」

 

 

「間宮、突っ込んだら負けだ。」

肩に手を置きやめておくように伝える

 

 

「それじゃあ最後は私ね。【神崎・H・アリア】、“強襲科”所属で

あかりの“戦姉”よ。」

 

 

「おう零也!俺もいるんだぜ!」

神崎の自己紹介が終わった直後に【ゴン】さんが厨房から声を上げる

 

 

「そんなアピールしなくても紹介するよ。

あの人はゴンさん。このラーメン屋の店長だ。

仲良くしとけよ?割引きしてくれたりするからな」

 

 

「なんでぇその紹介は打算計算が見え見えだぞ?ったく。

ほら、醤油ラーメンが並盛2つ。塩が並盛2つ、

味噌の大盛りが1つ。んで零也にはいつものだよな?」

 

 

「おう。もちろん!」

 

 

「へっ!たらふく食いな!激辛味噌ラーメン大盛りだ!」

ドンッと音を立てて俺の目の前に置かれる

 

 

「......アンタ、それ食えるの?」

神崎が顔を引き攣らせながら問うが

 

 

「ピンク髪の嬢ちゃん、甘いぜ?コイツは“いつも”これを頼んでるからな

10分もありゃあスープまでなくなるぜ!」

 

 

「......化け物?」

 

 

「おいおい、零也もだがレキちゃんもえげつないんだぜ?

なぁレキちゃん!コイツがレキちゃん専用メニュー

“メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ特盛”だ!」

ドカンッそんな擬音が聞こえてきそうな音ともに

レキの前へ野菜が山のようになったラーメンが置かれる

 

 

「.........何かの呪文?」

神崎の目から光が消える

 

 

「「違げぇよ!(違うからな?)」」

つい、俺とゴンさんでツッコミを入れるが

 

 

「...ま、まぁとりあえず食べましょうか。」

神崎と同じく目から光の消え失せた沙耶香が諭す

 

 

「そ、そうだな。麺が延びたらマズイし食うか?」

 

 

「そ、そうでござるな!」

 

 

「そ、そうですよ!食べちゃいましょう!」

焦った様子のキンジが賛同し、食欲に耐えかねた風魔ちゃんが続き

そして間宮も賛同した

 

 

「ん?色々言いたいがしゃーないか。そんじゃま、」

俺の言葉に神崎以外全員が手を合わせる

 

 

「え?な、なに!?」

 

 

「そういう作法だよ。知らないのか?」

 

 

「い、いや。知ってるけど...」

神崎も手を合わせたのを確認してから

 

 

パンッ

「んじゃま、ゴンさんいただきます!」

 

 

パァンッ

「「「「「いただきます!(いただきます。)」」」」

 

 

「いただきます...」

 

 

「おう!食え食え!」

ゴンさんがニカッと笑った

 

 

 

その後、ゴンさんの宣言通り俺とレキがそれぞれのラーメンを

食べきったり、神崎や間宮の食いきれない分を俺とレキで

食い切ったりしたが昼食は楽しく過ごすことが出来た

 

 

「アンタら(お前ら)お腹にブラックホールがあるの?(あるのか?)」

と俺とレキが神崎とキンジに言われたのは別の話。

 



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第4話 『キンジ!アンタ、私のドレイになりなさい!』

神崎達とラーメンを食いに言った翌日

 

 

〜昼時 武偵校・屋上〜

 

 

 

午前中(1時限〜4時限目)の一般科目(ノルマーレ)の時間が終了し

武偵校では昼休憩の時間を挟んでからの5・6時間目に

専門科目、所謂“武偵学科”の授業が行われる。

 

 

神崎に間宮、沙耶香ならば“強襲科(アサルト)”の授業

キンジなら“探偵科(インケスタ)”で風魔ちゃんなら“諜報科(レザド)”。そして...

 

 

「ようレキ。待たせたか?」

 

 

「いえ、お気になさらず。」

俺と目の前の少女、レキならば“狙撃科(スナイプ)”の授業だ。

 

 

「そうは言っても暇だったろ?悪いな。これは謝罪料代わりだ」

俺は来る途中で購入したお茶をレキに渡してやる

 

 

「・・・?私は特に何も求めていませんが?」

 

 

「別にいいんだよ。俺なりの気持ちの問題なんだから

受け取っといてくれ。じゃないと俺が納得出来ないからな」

 

 

「・・・そういうことなのでしたら。」

それだけ言うとレキはお茶を脇に置きポケットから携帯糧食(カ〇リーメイト)を取り出す

 

 

「...相変わらずそれだけなのかよ。」

 

 

「こちらの商品のみで栄養は充分摂れますので。

それに大変軽く、食品としても長持ちするので便利です」

 

 

「そういう意味じゃないんだけどな...しゃーない、ほれ口開けろ

沙耶香が作ってくれた弁当の卵焼きをくれてやろう」

弁当箱を開けて最初に目に付いた卵焼きを摘み、レキへと向ける

 

 

「...?私には必要がありません。」

 

 

「いや、必要とかじゃなくてな?俺が食わせたいからやるんだ。

昨日のラーメンと同じ。いいから貰っとけ」

 

 

「......分かりました。いただきます」

レキが小さく口を開き、俺が卵焼きを入れる

 

 

「・・・なんか、ペットを餌付けしてる気分だな」

恐らく今の俺は苦笑いを浮かべているだろう

 

 

「・・・?」モグモグ

 

 

「いや、いい。なんでもないんだ、忘れてくれ。」

自分の言葉に少し恥ずかしくなった俺はレキから視線を逸らし、

沙耶香の作ってくれた弁当を食べる

 

 

「......」

レキは特に気にした様子も無く、

モソモソとカロリーメイトを食べていく。

今日はチーズ味か。

 

 

 

かなり前にプレーンしか食べないレキに

他の味も食えと言ったことが

あったのだがちゃんと聞きいれてくれてるようだ。

 

 

「そういえばレキ、お前食えないもの無かったよな?」

 

 

「はい。」

 

 

「今日はこんなの持ってきたんだが...っと

てれれれってれー、バラ〇スパワー。」

 

 

「......」

いやごめん。何か言って貰っていい?

渾身のギャグが何も反応ないのって結構辛いんだけど

 

 

「ま、まぁ俺の青タヌキネタは水に流すとして...」

 

 

「青タヌキ?」

やめてぇ!滑ったギャグを掘り返さないでぇ

レキ(お前)の場合は悪意なく聞いてくるから、なお辛い!!

 

 

「こないだスーパーでこれ、見つけてな

カロリーメイト以外これもお勧めしようと思ってな」

 

 

「そうですか...近々試してみます」

俺からスーパーのビニール袋ごと受け取る。

 

 

「おう。そうしとけ」

俺も弁当を食い終え、鞄へと詰め込む

今日も沙耶香の飯は美味かった。ホクホク

 

 

「......」

レキもカロリーメイトを食べ終え片付ける

 

 

「じゃあレキ、後でな。お前はもう少しいるんだろ?」

 

 

「はい。もう少し風を感じてから行きます」

 

 

「そうか。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜夕方 武偵校・男子寮〜

 

 

 

放課後の狙撃科の授業を終えたタイミングで

俺の携帯に昨日連絡先を交換した神崎からメールが届き

 

 

 

[今日の夕方、男子寮の〇〇号室に来て!]

 

 

 

との連絡を貰ったので沙耶香を連れて愛車で向かうと

指定された部屋の表札には【遠山キンジ】と書かれていたので

キンジの部屋か。と思いながら俺はドアを開ける

 

 

「キンジ、邪魔するぞー」

 

 

「お邪魔します。」

 

 

 

 

 

 

「キンジ!アンタ、私のドレイになりなさい!」

 

 

バタンッ

「......帰るか。」

 

 

「......そうですね。」

安心しろキンジ。俺と沙耶香は何も見ていない。

うん見てはいないぞ。例えお前がロリコンでマゾヒストの

気質があろうとも俺はお前を見捨てたりしない。

 

 

「俺も男だッ!お前の性癖にとやかくは言わねぇ!」

と涙ながらに呟く

 

 

「ちょぉっと待てぇぇぇぇ!!!!!」

突然ドアが開き、キンジが俺の足に掴まる。

 

 

「え?何、神崎に虐められるだけじゃ飽き足らず

俺(男)にも手を出すの?それは流石に距離を取るかなぁ...」

 

 

「違う!違うんだ零也!お前は今大きな勘違いをしている!」

 

 

「いや、してねぇよ?大丈夫だ。俺はお前を理解(わかっ)てるぞ?」

 

 

「れ、零也!そうだよな!お前も俺の気持ちを分かって...」

 

 

「分かってるさ!お前が白雪ちゃんに手を出さなかったのは

お前が幼女趣味で尚且つ責めるより責められる。

要は受け側に回りたかったんだよなッ!」

 

 

「・・・」

俺の言葉にキンジは目を丸くしてから

 

 

 

「誤解だぁぁぁぁ!!!!」

キンジの2度目の絶叫が男子寮に木霊した。

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

 

「で?ドレイってどういう事だよ?」

キンジが疲れを隠そうともせずに聞く

 

 

「ん〜これ本当にコーヒー?

ギリシャコーヒーに似てる気もするけど何か違うような...」

 

 

「これはインスタントコーヒーですからね

豆の保存状態等によって味がよく変わるんです。」

沙耶香が俺とキンジの分のコーヒーも入れて持ってくる。

 

 

「サンキュ...ふぅ。」

もちろん俺が受け取った方はブラックだ

 

 

「悪いな糸見、任せちまって」

 

 

「いえ気にしないでください。」

 

 

「インスタント、コーヒー?」

 

 

「安物って事だよ。」

神崎が頭に疑問符を浮かべながら聞くので簡単に教える

 

 

「なるほどね。」

 

 

「すまん、話を戻してもいいか?」

 

 

「ん、あぁ。そうだな」

 

 

「それで神崎だったよな。俺を奴隷ってどういう事だ?」

 

 

「アリアでいいわよキンジ。私もそう呼ぶから」

 

 

「お、おう。それで?俺を奴隷にってのは?」

 

 

「・・・分からないの?」

 

 

「あ?どういう事だよ?」

 

 

「・・・おかしいわね。アンタなら気付いてると思ったのに」

 

 

「・・・なにを言ってんだよ?」

 

 

「いいえ、なんでもないわ。それに時間の問題だからね」

そのうち気付くでしょ。と続ける

 

 

「時間の問題だかなんだか知らんがな神崎、

俺と沙耶香を呼んだ理由を聞いてねぇぞ?」

 

 

「そういえばそっちも説明してなかったわね。

2人には私からお願いがあるのよ。」

 

 

「お願い?」

沙耶香が首を傾げながら聞き返す

 

 

「私は“修学旅行I(キャラバン・ワン)”の後にチームを

結成しようと思ってるんだけど零也と沙耶香の2人には

そのチームに入って欲しいの」

 

 

「へぇ。面白そうだな」

 

 

「そ、そう!?」

少し食い気味に神崎が聞き返す

 

 

「お、おう。少なくとも俺は面白そうだと思うけど。」

隣に座る沙耶香へと俺は視線を向ける

 

 

「...私は、零也さんが入るなら」

とだけ言って目を閉じる。なんかその仕草レキみたいだな

 

 

「先に聞いとくんだがその答えは今か?」

 

 

「いいえ。しばらく先でいいわよ。

でも少なくとも“修学旅行”までには教えて貰えると嬉しいわね」

 

 

「んっ分かった。しばらく考えておくよ。話はそれだけか?」

 

 

「今日のところは、だけどね。」

そこまで聞ければ充分だ。俺は沙耶香の容れてくれた

コーヒーを堪能してから帰るとしよう。

 

 

 

「それよりもアンタよ、キンジ!」

俺が傍観を決め込むと俺への優しい対応は何処吹く風。

神崎が勢いよくキンジに詰め寄る

 

 

「な、なんだよ!?」

 

 

「アンタ、私と“強襲科(アサルト)”でチームを組みなさい!

アンタと私ならいい線まで行くはずよ!」

 

 

「...悪いが断る。」

 

 

「なんでよ?」

 

 

「俺はEランクだ。お前とは釣り合わない」

普段のキンジとは違って真面目な顔で神崎へと返す

俺も1年と少し過ごしていてコイツの真面目な顔は初めて見たな

 

 

「釣り合うかは私が決める。」

だがまぁ、神崎がそれで折れるかと言えば微妙だけどな

 

 

「自分勝手だな。とりあえず今日はもう帰れ」

呆れたようにキンジが頭をかく

 

 

「沙耶香、コーヒーおかわり。」

 

 

「れ、零也さん、流石に空気を読むべきだと思います」

俺の言葉に苦笑いを浮べつつも沙耶香はコーヒーを容れに離れる

 

 

「お断りよ。アンタが“うん”と言うまでこの問答を続けるわ」

 

 

「ッ断る!俺は“強襲科”に戻る気はない!」

 

 

「いいえ!入ってもらうわ!」

 

 

「嫌だ!」

 

 

「入って!」

 

 

「嫌だよ!」

 

 

「入ってよ!」

 

 

「嫌だって言ってるだろ!」

 

 

「入ってって言ってるでしょ!」

何だこれ。子供の口喧嘩か何か?

 

 

「アホらし。」

神崎は先程からホルスターに手を伸ばしかけるが

恐らく俺や沙耶香が居る事で抜けないのだろう

 

 

「零也さん、コーヒーです。」

 

 

「おう。サンキュ...」

さてさて、コーヒーが来たのはいいが俺は嫌な予感がしてきたぞ

 

 

「絶ッ対に戻らない!」

 

 

「私と組むのよ!」

予感の正体はとりあえず神崎が銃や剣を抜くことではない。

神崎は今やキンジに掴みかかりかねない程熱くなっている

こんな状態で武器を握る程コイツはバカじゃない。ならなんで?

 

 

「いいわよ......//」

考え事をしている間に口喧嘩には決着がついたらしく

神崎がワナワナと震え、顔を少し赤くしながら言葉を繋ぐ

 

 

「アンタが今日中に“うん”と言わないなら」

 

 

「...言わないなら?」

何故だろう。神崎が恐ろしく不穏なことを言う気がする。

それはもう、嵐が可愛らしく見えるほどの...

 

 

 

ガチャッ

「ごめんねキンちゃん、生徒会の仕事で遅くな...」

 

 

「アンタが言うまで泊まっていくから!」

 

 

 

 

 

 

ドサッコロロ...

部屋に入ってきた少女の手持ち袋から落ちた食材が転がる

あぁ、俺の嫌な予感の正体はコイツ(白雪ちゃん)か。

 

 

「キ、キン、ちゃん?その女、誰?」

キンジの部屋の玄関を当然のように開けて入ってきたのは

星伽白雪(ほとぎ しらゆき)】キンジ専用のスーパーヤンデレレディーだ。

 

 

「...沙耶香。逃げるぞ。」

 

 

「...はい。」

目線だけで俺の意図を察してくれた沙耶香は

2人同時にキンジの部屋のベランダへと走り、

 

 

「「それじゃあ(では)キンジ(さん)また明日な!(明日)」」

2人してベランダから飛び降りる。

 

 

 

ダンッダンッダンッ。ナンナノコノオンナ!

ブンッブンッブンッ。キンチャンニツクワルイムシ!

オイ、オレノヘヤデアバレルナァァァァ!

 

 

俺達の耳には昨日一日で聞きなれたガバの発射音と

白雪ちゃんの握る刀が空を切る音が聞こえたのだった。

キンジ、(生きていたら)強く生きろよ。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後〜

 

 

 

「ううぅぅぅぅ!!」

あの後、神崎を送っていくかと考えて

男子寮の入口で待っていた俺達だったが沙耶香が

 

 

「タイムセールの時間なので先に行きます。」

と先に行ってしまい、俺は女子寮まで送ろうと提案したところ

神崎が沙耶香の料理を食べてみたい!と言い出したので

仕方なしにバイクに2人乗りで俺の自宅(マンション)まで

向かっていたのだが......

 

 

「なんなのあの女!沙耶香と同じで弾丸切り出すし

私を“泥棒猫”扱いするだなんて!」

後ろで騒ぐ神崎に大して俺は場違いにも

“神崎ってネコっぽいかも”などと考えていた。

 

 

「ちょっと聞いてるの零也!」

 

 

「あーはいはい聞いてる聞いてる」

なんだコイツ、お互いヘルメットしてるのに耳がキーンとしたぞ

 

 

「それは聞いてない時の反応でしょうが!」

再びハウリングが起きるほどの声で騒ぐ神崎だが

流石にバイクでの移動中に暴れたりはしないみたいだ。

 

 

「つってもなぁ...お前やキンジどっちの味方をする訳でもないが

どう見たってキンジには何か事情があるぞ?それも結構深めの」

 

 

「...そんなの分かってるわよ。

アイツ、あの時だけ目がマジだったもの」

 

 

「それが分かってるならなんであんな事するかねぇ...」

 

 

「ッうるさい!とにかく私はキンジをなんとしてでも

パートナーにしたいのよ!」

 

 

「人生のパートナーってか?」

 

 

「そそそ、それは違うわよ!////」

神崎の顔は見ていないのだがとりあえず赤いんだろうな。

にしてもコイツ、昨日も思ったがイジると面白いな

 

 

 

 

「......ところでさ、聞いてもいい?」

しばらく走った辺りで神崎が突然切り出す

 

 

「なんだ?」

 

 

「アンタと沙耶香ってさ、付き合い長いの?」

 

 

「ん?」

 

 

「いや、沙耶香と零也って目を見るだけで

ほとんど意思疎通出来てたでしょ?だからてっきり。」

 

 

「残念ながら神崎の考えるほど付き合いが長いわけじゃないな」

 

 

「そうなの?」

 

 

「あぁ。時間自体は去年を含んでまだ4年しか経ってない」

 

 

「よ、4年?そんなに短くてもあんなに仲良くなれるの?」

 

 

「仲良くなるのにどれだけ時間が必要か俺には分からんが...

今は言えないからなぁ。まぁその内話すよ」

 

 

「...そう。それじゃあ期待しておく。」

言外に今は言わない。と伝えたんだが神崎は分かったようだ

その察しの良さをキンジの部屋で発動して欲しかったが...

 

 

「質問ついでに俺も聞いていいか?1つ聞かれたし1つ聞く」

 

 

「いいわよ。何が知りたいの?」

 

 

「...こんな事を聞くのはなんたが、お前はやっぱ貴族の娘か?」

ちょうど信号が赤になり、バイクを停車させる

 

 

「ッ、なんでそう思ったの?」

一瞬、俺の体に回された腕の力が強まる。

 

 

「さっきキンジの部屋で俺がインスタントコーヒーを“安物”

って言った時に随分とあっさり納得したろ?それに昨日の倉庫で

16発以上、その後に埠頭で俺が14と沙耶香に16発撃ったろ?

合計で30発。高価な45口径弾をあれだけ撃てるってのは

てっきりお前もそういう立場なのかと思ってな」

 

 

「...よく見てたわね。隠しても仕方ないから答えるけど

確かに私はイギリスの貴族の生まれよ。財源は自分で達成した

依頼(クエスト)”の報酬からも出てるけどね」

 

 

「へぇ。流石“強襲科”だな。っと、あと10分くらいで着くぞ」

信号が変わり、再び俺はバイクを走らせる。

 

 

武偵校における|依頼の報酬は危険度が高いほど上昇し、

俺も一時期“探偵科(インケスタ)”への依頼を受けた事があるが

“強襲科”の“依頼”は“探偵科”に比べて報酬の単位が一桁違うのも

よくある話で、当然学科毎の単位も割合が良い

 

 

「ところで零也、もう1つ聞いてもいい?」

 

 

「断る。武偵なら自分で調べて推理するんだな。

俺は質問を1つって言ったはずだぞ?俺がこれ以上お前に

聞きたいことは無い。それはアンフェアだろ?」

 

 

「じゃあ良いわ。これは私の独り言よ。」

 

 

「・・・」

 

 

「零也はさっき私に“お前も”って言ったわね。私の推理、

と言っても勘だけど零也の家は日本の名家なんじゃない?」

 

 

「・・・」

ご明察。とつい、言いそうになるがこれは“独り言”なので返さない

 

 

「......答えないのね。まぁいいわ“独り言”だからね」

 

 

「・・・」

神崎の言葉に俺はつい考えてしまう。

俺は確かに“明智”だ。だが神崎が言うほど良い家ではない

 

 

 

―もしも、明智が普通の家だったなら―

 

 

 

―俺の立場は変わったのかな。―

 

 

 

 

その後、5分程でマンションへと到着し

神崎の分も用意された沙耶香の晩御飯を3人で食べてから

武偵校の女子寮へ送り返したのだった。

 

 

ちなみに言っておくと沙耶香の料理は神崎の口にもあったらしく

終始幸せそうに食べていた。



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第5話 『全能者のパラドクス』

〜朝 零也と沙耶香の住むマンション・屋上〜

 

 

 

「......ッ......ッ」

 

 

私、【糸見沙耶香(いとみ さやか)】の朝は速い。

ずっと続けている真剣での鍛錬をするためだ。

普段から握る刀《雷切》での素振りや居合の練習や

その他にも筋トレなどもする。

 

 

「...399!......400!......ふぅ」

日課の素振り400回×4セットを終わらせ、

近くに置いたタオルで身体の汗を拭う

 

 

 

ピトッ

「ひぃやぁ!?」

突然、私の首筋に冷たい物が触れる

 

 

「...ほら、スポドリだ。」

振り返ると片手にポ〇リを持った零也さんが

苦笑いを浮かべながら私に差し出す

 

 

「...ありがとう、ございます。」

つい零也さんを睨んでしまうが私は悪くないと思う

 

 

「そう睨むなよ。朝から頑張ってる沙耶香に囁かなご褒美だよ」

 

 

「...まったく。」

心の中で小さくため息を吐き、程よく冷えたポ〇リで喉を潤す

キンキンに冷えた状態ではないのは零也さんなりの気遣いだろう

 

 

「それとそろそろ朝メシの時間だからな。迎えに来たんだよ」

左手に巻く、CASIOの腕時計G-SHOCK《GN-1000B-1AJF》を

私に見えるように向ける。時間は午前06:50を刺している

 

 

「......」

私の予想では時間はまだ午前05:30程度のはずだった。

その証拠に体感的には1:00:00も経った気がしない

 

 

「ま、沙耶香の事だから鍛錬に意識を向けすぎて

時間に気付いていないだけかと思ったしな。メシは俺が作ったよ」

さっさと部屋に戻って食おうぜ。と零也さんは笑う

 

 

「・・・」

炊事は私がすると言ったのに零也さんにさせてしまった事で

私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる

 

 

「あ、それとも先にシャワーで汗流すか?」

私の気持ちなど知らないとばかりに零也さんは顔を覗き込む

 

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

「...?とりあえず速く来てくれよ?メシが冷えちまうからな」

そこまで言い切ると零也さんは屋上の出入口へ歩いていく

 

 

「あ、あの!」

 

 

「言っておくけど謝るなよ?」

 

 

「え?」

 

 

「朝メシの用意は俺が勝手にした事だし

沙耶香が普段から鍛錬に家事と頑張ってるのは知ってる。」

だから、謝るな。と再度私の前まで来て零也さんは

私の頭を2、3度ほど優しく撫でる

 

 

「それじゃあな。」

と今度こそ屋上を後にして零也さんは部屋へと戻る

 

 

「...」

私はこの気持ちをなんと言えばいいだろう。

申し訳ない気持ちに嬉しい気持ち。私は適切な言葉を知らない

 

 

 

その後私は零也さんの作った朝食を食べ、

シャワーで汗を流してから制服に着替えて零也さんの

バイクKLX250に乗せてもらい登校した

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜昼休み 武偵校・中庭〜

 

 

 

《アリアside》

 

 

「それで?調査の結果はどうなの風魔。」

私はカバンから購買のパン(安物)を取り出し、

隣で街頭へぶら下がる少女、【風魔陽菜(ふうま ひな)】に渡す

 

 

「ふむ、確かに。それで調査内容は...“師匠(遠山キンジ)”についてでしたな」

 

 

「えぇ。それと【明智零也(あけち れいや)】と【糸見沙耶香】についてよ」

風魔は器用に私から受け取ったパンを逆さまのまま食べ出す

 

 

「とりあえず関わった事件と身辺情報についてでござったな。」

気付かないうちに風魔は封筒を持っており私は受け取る

 

 

「...驚いた。アイツ入学時はSランクだったのね。それに“依頼(クエスト)

の内容と成功率もかなり高いし道理であんな芸当が出来たわけね」

アリアの脳裏に思い出されるのは数日前に

キンジがセグウェイを鎮圧する際に行った行動だった。

 

 

「・・・それとこちらでござるな。」

再び封筒が出てくる。一体どこに持っていたのかしら

 

 

「こっちは沙耶香ね。“糸見沙耶香は雷撃の如く早い剣術を使用する”

だから『雷撃』なんて2つ名が着いてるわけか。

あら?“超能力(ステルス)”も持ってるって書かれてるけどデータはないの?」

 

 

「沙耶香殿は滅多に“超能力”を日の目に晒す事はしない人物故

なかなかにデータが取り辛く、学校側も“剣術使いの一般の武偵”

として扱ってるのが現状にござる。」

 

 

「へぇダメ元で聞いてみるのも手段ね。ランクは...“強襲科(アサルト)”の

Aランク。遂行任務は主に護衛と単独での事件の鎮圧。」

 

 

「沙耶香殿には本人も恥ずかしがっているが銃の才能に乏しく

本人曰く10回に1、2発当たるかどうかだと言っていたでござる

遂行依頼(クリアクエスト)”内容に単独任務が多いのは

恐らく獲物が刀のみという事が理由でござろうな」

 

 

「...銃があればともかく刀じゃあ自分を守るのが限界だからね

それで?私は零也のも求めたはずだけど?」

 

 

「もちろん用意してるのでござるよ。ただ、零也殿は学科を

こまめに行き来している故、去年の最後までのデータにござる。」

二度あることは三度あると言わんばかりに封筒が出てくる

 

 

「構わないわ。明智零也、中学時代の3年間で

“強襲科”“車輌科(ロジ)”“鑑識科(レピア)”の3学科を

それぞれ1年で履修。武偵高1年次には“探偵科(インケスタ)”を

選択し、目下履修中。と言ってもこの間“あと少しで終わり”

って言ってたからもう単位は取得済みでしょうね。

遂行依頼は学科を多数履修しただけに多岐に渡る。か」

 

 

「ランクは記載されている通り、“強襲科”B、“車輌科”A

“鑑識科”A、“探偵科”はBランクとなっているでござるな。

それとこれはまだ非公式情報でござるが“狙撃科”はSランク

になる予定だと高天原教諭が呟いていたでござる」

 

 

「......つまりほぼ全てで高ランクを取得してるってことか。

聞けば聞くほど優秀ねコイツ。“車輌科”なんて車からヘリ、船

まで色んな乗り物を操縦するってのに。」

 

 

「神崎殿のクラスに【武藤剛気(むとう ごうき)】と言う男子生徒が

居るのはご存知であるか?彼は“乗り物”と呼ばれる物は何だって

乗りこなす!と豪語していたでござるが零也殿はその上にござる

どの学科でも平均以上、いや高得点を収めるその姿から

いつの間にか零也殿に名付けられた2つ名が......」

 

 

 

「『全能者(スキル・オール)』ね。ところでこの下に

『後輩殺し』って書いてあるのは何なのかしら?」

 

 

「ふむ。それは零也殿のもう1つの2つ名にござる。

武偵校に限らず他所の者でも零也殿が持つ独特な“兄オーラ”

と呼ばれる物に男女問わず骨抜きにされるとか」

風魔の言葉に嘘でしょ?という目を向けるが彼女は首を横に振る

 

 

「もっとも零也殿に聞けば帰ってくる言葉は

“困ってたからアドバイスしただけ”らしく助けた自覚がない。

という聞くからに一番面倒なタイプでござろうな。

先程の武藤殿の妹様も車輌科の授業で上手くいかず困ったところを

救われてからというもの、毎日のように自慢話をしていたでござる」

 

 

「...後半はどうにも信じ難い内容だけどアンタの情報には

あかりの時にも世話になったしね。90%くらいは信用しておくわ。」

それじゃあありがとうね。とパンとは別に用意した

報酬を渡してその場を後にする。

 

 

「時に神崎殿、《全能者(ぜんのうしゃ)のパラドクス》という物をご存知であるか?」

 

 

「《全能者のパラドクス》?聞いた事くらいはあるけど...」

それが何かしたの?と風魔を見る

 

 

「ふむ。突拍子の無い質問であったな。では質問を変えるが

“負けた事がない人間”と“負けた事のある人間”ならば

神崎殿はどちらこそが真の強者だと思うでござろうか。」

 

 

「一体、どういう意味での質問よ?」

 

 

「...いや、話し過ぎたでござるな。では、ドロンっ!」

煙たいが目や鼻は痛まない程度の煙を撒き散らし、

私の問いに答えず、風魔はその場から消えさる

 

 

「なんなのよ。」

残された私は大きなため息を吐いてからその場を去るのだった

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜同時刻 屋上〜

 

 

 

「“武偵殺し”?」

 

 

「はい。今回の一連の事件はその“模倣犯”によるものとして

捜査が進んでいます。零也さんも周囲に気をつけてください」

何時ものように屋上で(今日は俺が用意した)弁当を食べながら

レキとたわいの無い話をする

 

 

「模倣犯ね、てことはこの間キンジのチャリに爆弾しかけたのも

ソイツの可能性が高いって訳か。」

 

 

「はい。そうだと思われます」

ちなみにレキは今日カ〇リーメイトではなく水色の弁当箱から

ご飯やおかずなどを取り、食べている。

 

 

「...少し調べてみるかなぁ」

もちろんクラス内や“狙撃科”で『ロボットレキ』とまで

言われる彼女が用意をしたものでは無い。

これは俺が朝のうちに用意したもので自分と沙耶香の分以外に

レキの分のおかずなども用意しておいたのだ。

 

 

「調査の方は既に神崎さんが風魔さん等に依頼したらしいので

確認を取ってみてはいかがでしょうか?」

 

 

「なんか、自分には関係ない。って感じだな。」

 

 

「私は徒歩での通学ですのでキンジさんの様に何らかの

乗り物をハイジャックされるという事はありませんから。」

 

 

「まぁ確かにな。でもレキは免許持ってないのか?」

 

 

「免許、ですか?」

 

 

「あぁ車はともかく二輪の免許くらいは持っとけば楽だろ?

まぁと言っても俺や武藤が居れば現場までは向かえるけどな」

何かあった時は楽だろ?と付け加える。

 

 

「......考えてみます。」

驚いた事にレキはあっさりと返答した

 

 

「そうか。ならレキの事武藤に相談しておくか?」

 

 

「いえ、まだ大丈夫です。それと、ご馳走様でした」

いつの間にかレキに渡したお弁当は俺の分の2倍はあったんだが

綺麗サッパリ米粒1つ残らずに無くなっている。

コイツの食う速度はよく分からないなぁ

 

 

「それでは零也さん、また後で。」

 

 

 

「おう。」

レキが屋上から去り、俺も残りの時間を確認してから

急いで弁当の中身を口に詰め込んだ。

 

 

 

Prrr...

携帯に来た着信には気付かぬまま



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第6話 『2度目の事件』

〜放課後 マンションの屋上〜

 

 

 

『とまぁそんな感じかしらね?』

俺の依頼した内容の調査報告を済ませる少女の声

 

 

「...その感じだと神崎はキンジの体質には気付いてそうだな」

 

 

『十中八九気付いてるでしょうね、彼の体質、HSSだったかしら

でも風魔ちゃんから聞いた話だと“そういうもの”としてしか

気付いていない様子だって事よ。』

 

 

「“女を守る”って気持ちが高まって性的に興奮すると

通常よりも強くなる。だったか?遠山の家も面白い体質を

遺伝させ続けてるもんだな。」

 

 

『そうね。それと“武偵殺し”の方だけど過去の事件をまとめた

データをパソコンに送っておいたから確認をよろしくね?』

 

 

「ん、了解だ。すまんな、多忙そうな時期に」

 

 

『それは言わない約束でしょ?貴方は“明智”で私は“更識”

どっちの家が上かなんて昔から決まってるわ。』

 

 

「実働部隊の“明智”と裏工作の“更識”ねぇ。

俺は大して気にならねぇけどな。まぁそういう面倒な所を含んで

“明智”だから仕方ないけどよ。」

はぁ。と大きなため息を吐き、手に持った缶コーヒーを飲む

 

 

『貴方がボヤいた程度で変わる家なら良かったけどね。

まぁその辺は貴方が当主になった時に期待しておくわ』

 

 

「...あの親父が死なねぇ内は無理だな。

なんなら俺の代わりに殺るか?更識さんよ」

 

 

『冗談。昔から私に技術を教えこんだのはあの人よ?

私程度の実力じゃあ背後を取る事すら無理よ。』

 

 

「それもそうだな。」

電話口で少し笑うと、相手も笑い返す

 

 

 

『ところで、沙耶香ちゃんは元気?』

 

 

「おー元気にしてるよ。今日も体力が有り余ってたのか

朝の鍛錬の素振り4セットを倍はこなして時間忘れてたからな

そっちはどうなんだ?お前の妹。」

 

 

『簪ちゃんの事?そうね、まだ私の背中を追い掛けてるのが

残念なところね。あの子にしか出来ない事がある筈なんだけど』

 

 

「お前は現場での能力が高いがアイツは裏側でのバックアップ

でこそ輝く人間だからな。長所と短所に気付けばいいが......」

 

 

『そうねぇ。その点マドカちゃんはいいわよね〜。

零也くんの背中を追いながら自分の技術を活かすことを

覚えたんだもん。いい子よね、マドカちゃん。』

 

 

「あのなぁ?そういう事言うから偶に俺に『私って必要?』

ってヤンデレモードの簪から電話が来るんだぞ?」

 

 

『そ、それを言うなら私だって!マドカちゃんに

『私が兄様の役に立つにはどうすればいいでしょう?』

って最近よく聞かれるわよ!』

俺の言葉に少しムキになった声が返ってくる

 

 

「・・・」

 

 

『・・・』

 

 

『「・・・はぁ。」』

俺も電話先の少女も共に妹を持つ身。だが

その妹が自分とはほぼ反対の性格をしているため

どうにも扱いが難しいというのが本音だ

 

 

『・・・妹って、難しいわよね。』

 

 

「・・・そうだなぁ。」

その会話を最後に俺と少女の電話は切れる

 

 

Prrr...

「ん?なんだ?」

だが、電話が切れると同時にメールが届く

 

 

『それと、そろそろ一度帰ってくるようにってご当主様から

伝えるようにって言付かってるわ。』

送信元は先程の電話先の少女からでこれまたメールの内容も

予想通りの元であった。

 

 

「......『分かった。その内な』っと。送信。」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜翌日 放課後 武偵校屋上〜

 

 

 

「んで、結局神崎と組むことにしたわけか。」

俺は隣にいる青年、キンジにため息を隠すことも無く言う

今日はキンジに呼び出されて俺はここにいた。

と言っても普段からレキと飯食ってるからほぼ庭だけどな

 

 

「まぁな。そうでもないとアイツ、引かないだろう?

まぁただし組むのは“どんな事件でも最初の一件”だけどな」

俺の言葉にフェンスへ体を預けながらキンジは返す

 

 

「それは本気でやるんだろうな?」

 

 

「当たり前だろ?“俺の本気”でやるさ。」

この場合の本気はあくまでも“普通のキンジ”の本気だろう

 

 

「...なるほどね。まぁいいさお前がそう決めたんならな

俺は反対も賛成もしないさ。好きにしろよ」

 

 

「・・・え?」

 

 

「なんだその目は?俺に止めて欲しかったのか?」

 

 

「な、違う!」

 

 

「だろ?なら止めないさ。・・・あぁそれとな?」

俺はフェンスから体を離し、

出口へ向けて歩き振り向くことなくキンジへ向けて話す

 

 

「ん?なんだよ?」

 

 

「俺はな努力してる奴に水を刺すようなカスは死ねって

本気で思ってる。願わくば遠山キンジがそうじゃないことを祈る」

それだけ言ってキンジの返事も聞かずに俺は屋上を後にした。

 

 

「...俺にどうしろってんだよ。」

キンジの悔しそうな言葉を背中に受けながら

 

 

 

『...もしもし?明智か?』

階段を降りながら俺は車輌科所属の男子生徒武藤に連絡を取る

 

 

「おう、俺の依頼してた件どうなったかと思ってよ。」

 

 

『おう、FCのオーバーホールだよな?それならもう済んでる

今頃貴希がマンションに持ってってると思うけど?』

貴希というのは彼の妹の【武藤貴希】の事だ。

 

 

「そろそろ終わったかと思ってな。それはそうと武藤

お前明日の朝は暇か?俺から頼みがあるんだが」

 

 

『へぇ〜明智から車の他に頼みってのは珍しいな?報酬は?』

 

 

「そうだなぁ...街中の焼肉屋奢りでどうだ?」

 

 

『・・・マジか?』

 

 

「もちろん。俺は“報酬の面”では嘘つかないぞ?

それともお前への車のチューンで嘘ついた事あるか?」

 

 

『・・・いや無いな。分かった車輌科Aランクの武藤剛気様が

その頼み請け負ってやる!何をすればいいんだ?』

 

 

「サンキュな。助かるよ。俺が頼みたいのは明日の朝に

キンジと一緒に登校してやって欲しいんだ。」

 

 

『・・・?そりゃいいけどよ、アイツって確か乗るバスいきなり

遅くなかったか?下手すっと俺も遅刻するんだが。

つか、なんでいきなりキンジと登校するなんて話になるんだ?』

 

 

「遅刻の件は気にしなくていい。自分を優先してくれ。

それとキンジの方なんだが、さっき会った時に体調悪そうでな

一応心配だからよ。アイツ去年は結構欠席多いだろ?」

我ながら良くもまぁこんなにスラスラと“嘘”が出てくると思う

 

 

『なるほどな...お前がそこまでキンジ思いだとは思わなかったぜ

分かった。明日はキンジと登校してみるよ。報酬忘れんなよ?』

コイツは本当に友人思いの良い奴だな。と思う。

まぁ今回はその優しさを利用してるわけだから申し訳ないが

 

 

「おう。頼んだ」

任せておけ!という武藤の声を最後に通話が切れる

 

 

「・・・」

今沙耶香が俺の近くに居ようものなら恐らく

 

 

『悪い顔をしていますよ?』

というんだろうな。と自分で考えながら笑みを浮かべる

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜翌朝〜

 

 

 

Prrrr...

『零也!緊急事態よ。キンジの乗ったバスがハイジャックされたわ』

俺は車輌科棟の車庫でコーヒーを飲みながら時間を潰していた所に

神崎からの電話が入る

 

 

「...やっぱり来たか。」

 

 

『やっぱり?一体どういう...ってそんな場合じゃないわ!』

 

 

「分かってるよ。助けに行くんだろ?」

 

 

『当たり前よ!武偵憲章1条!』

 

 

「仲間を信じ、仲間を助けよ。神崎はどこにいるんだ?」

 

 

『私は今学校の車輌科に向かっているわ』

 

 

「ならまだ出てはいないな?車は借りなくていい。

俺と沙耶香も車輌科にいるから途中で拾う。」

 

 

『・・・零也。事件が起きたのはさっきなのよ?

随分と用意がいいじゃないの』

 

 

「その話を今する時間があるのか?」

 

 

『そうね。後で聞かせてもらうわ』

神崎のその言葉を最後に通話が切れる

 

 

「準備はOKか?沙耶香。」

 

 

「はい。体調は万全です。」

 

 

「さぁて、勝負だ。武偵殺し」

俺はアクセルを踏み込み、借りた車両である

防弾仕様の軽トラを走らせた



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第7話 『バスジャック解決』

「そういえば神崎。お前随分と面白い賭けを

キンジとしたみたいだな。」

俺は軽トラの荷台に乗る神崎に声をかける。

 

 

「キンジが私と組む条件のことかしら?」

 

 

「どんなに大きな事件でも小さな事件でも

一件だけ強襲科としてお前と対処する。だったか?」

 

 

「えぇ。そういうルールよ。

まぁキンジは小さい事件を望んでたみたいだけどね」

 

 

「そう考えるとアイツは運がないな。とんだ大事件だ」

 

 

「まぁ、確かにね。だけど私はキンジには期待してるわよ。」

 

 

「......もし、もしもの話ですが。

もしもキンジさんが役に立たなかったらどうするんですか?」

神崎と同じく荷台に乗っている沙耶香が口を開く

この質問は去年からキンジを知ってるが故の質問だ

 

 

「その時は私の目が節穴だったって事になるわね。

でも何となくそうはならない気がするわ。」

 

 

「お得意の勘。というやつですか。」

 

 

「まぁね。でもね沙耶香と零也にも私は期待しているのよ?」

 

 

「...そうかよ。っと、見えたぜ。」

くだらない会話をしているうちにハイジャックされたバスを発見する

 

 

「後ろにセグウェイもいるからあれで確定ね。零也、

車をバスに並べなさい。私が飛び移るわ」

 

 

「並ぶのはいいがセグウェイはどうするんだ?」

 

 

「沙耶香、お願いできるかしら?」

 

 

「はい。任せてください」

 

 

「よし。それじゃあお願い。」

 

 

「あいよ。突っ込むから捕まれよ!」

アクセルを踏み込み、セグウェイの脇をパスする

 

 

 

ダァンッダァンッ

「キンジ!乗ってるんでしょう!バスの扉を開けなさい!」

おい、それは明らかにやりすぎでは無いだろうか?

 

 

「アリア!前の扉を開けるからガバを撃つのはやめてくれ!」

バス内からキンジの悲鳴にも似た声が響く

 

 

「ということよ。車を寄せてちょうだい!」

 

 

「いちいち騒がなくても分かってるよ!」

 

 

「おいコラ明智!お前、俺をハメやがったな!?」

車を寄せているとバスの運転席からそんな声が響く

 

 

「おー武藤元気か?」

 

 

「あの、零也さん?」

 

 

「いやーそんなにデカい声が出せるってことは元気だろうな」

 

 

「コンチクショー!お前、この事件治まったら轢いてやる!」

 

 

「零也さん!」

隣にいる沙耶香が突然大きな声を出す。

 

 

「お、おう?どうした沙耶香」

あれ?なんかデジャブ?というかいつの間に助手席に?

 

 

「いえ、増えてます。セグウェイ」

 

 

「...は?」

沙耶香の言葉につられて俺はサイドミラーで後方を見るが

後ろを今だ健在でセグウェイが走っている。

さっきいたのは沙耶香が斬ったはずだから今いるのは増援だ

 

 

「・・・増えてるな。」

 

 

「・・・増えてますね。」

 

 

「「なんでこうなるんだぁぁぁぁ!?」」

キンジと武藤の叫びが重なる。

 

 

 

おおう。激しくデジャブ。

そしてバスと俺の運転する軽トラはトンネルへと突入する

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

現状、バスジャックが発生していてバスには爆弾が設置されており、

後ろには機関銃を装備したセグウェイがいる。

 

 

 

「つか、時速80kmについてくるセグウェイってなんだよ。

普通にオーバースペックだろうに」

 

 

「現実逃避をしたいのは分かりますが

今は現状を打破するのが最優先かと思います。」

 

 

「......そうだな。んじゃまぁ、やりますかね。」

俺はレッグホルスターからHK45を抜く。

 

 

「沙耶香、ハンドル抑えててくれ。」

 

 

「...了解です。」

返事を確認した俺はハンドルを手放し、窓から身を乗り出す

 

 

「神崎!お前は中で爆弾を探せ!セグウェイは俺がやる!」

 

 

「分かったわ!」

 

 

「...俺は一発の銃弾」

つい、頭にレキの口癖が浮かび、口ずさむ

 

 

ダァンッダァンッ

狙いを定めて、俺は引き金を絞る

すると驚く事に俺の撃った銃弾は吸い込まれるように

セグウェイのタイヤへ命中する

 

 

ギャギャギャギャ!

セグウェイはバランスを失い、トンネル内の道路を転がる

 

 

「......マジか。」

俺自身空いた口が塞がらなかった。

そして内心、今度から狙撃科の授業中に使おうと決意した

 

 

『キンジ!何をやっているの!中に戻りなさい!』

神崎の声がトンネル内部に響く

 

 

『1人じゃ解決できないだろ!俺も手伝う!』

 

 

「・・・」

キンジも腹を括ったか。トンネルを出た先の

青空と同じくらいに嬉しい気持ちになるが

 

 

『そ、そう。ありがt.....ッ!キンジ下がりなさい!』

神崎の声にハッとして後ろを見る。そこには座席にUZIを乗せた

ポルシェが猛スピードで走ってくるという光景

 

 

「まさか!爆弾を撃って爆破する気か!?させるかよ!」

俺は身を乗り出したままアクセルを踏んでいた右足を

ブレーキに移動し力の限り踏む

 

 

ギィィィィィ!

急ブレーキにより前輪のタイヤからブレーキによる火花が散る

 

 

「零也さん!?」

咄嗟に腕を回して沙耶香を胸に抱き、

 

 

「撃たせるかよ!」ダァンッダァンッダァンッダァンッ

残りの弾丸を全て撃ち込みながらポルシェへと軽トラで体当たりする

 

 

ガシャァァァァンッ

「「零也!?」」

ポルシェとの衝突の勢いで道路へと落ちる俺の耳に

キンジ達の声が届く。神崎達は守った、沙耶香だって守ってみせる!

一層沙耶香の体を抱きしめる力を強めて

 

 

ダァンッ

背中から勢いよく叩きつけれる

そんな中俺は

 

 

「レキィ!!」

耳に着けたインカムに声を吹き込む

 

 

『私は、一発の銃弾...』

意識が飛ぶ寸前、レキの声がインカム越しに聞こえた・・・

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

《アリアside》

 

 

 

ピーピー。ピーピー。

心拍計が機械的に音を鳴らす

 

 

「・・・」スッ…

沙耶香が零也の顔を濡れタオルで拭く

 

 

「...ッ」

私は今、悔しさでいっぱいだった。

私があの時、油断をしなければ。私がもっと早く

爆弾を解除できていれば。そんな事ばかりが

頭に浮かんでは消えていく

 

 

「...」

隣のキンジもそんな顔だ。

 

 

「...」

でも私達が悲しむのは違う。

 

 

「......零也、さん」

一番辛いのは彼女、沙耶香のはずなのだから。

 

 

「...キンジ、外に出ましょう。私達が出来ることは無いわ」

 

 

「...そうだな。」

キンジの返事を聞いてから私は病室を後にする

 

 

「零也さん...」

ドアを閉める寸前、今までで一番辛そうな沙耶香の声が聞こえた

 

 

 

 

《沙耶香side》

 

 

 

「・・・零也さん。なんで私を助けたんですか?

なんで、零也さんは自分を犠牲にするんですか?」

この問いを私はずっと零也さんへ聞いている。

 

 

「・・・」

もちろん零也さんは答えない。

意識もまだ戻っていないのに会話が成り立つはずはない

 

 

「・・・なんで、なんでですか?」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

コンコンッ

「失礼しまーす」

扉が開き、水色の髪と赤い瞳を持つ少女が入ってくる

 

 

「...刀奈、さん?」

入ってきたのは明智家内にある分家の一つ

更識家の長女にして、当主の【更識刀奈】さんだ

 

 

「久し振りね沙耶香ちゃん。今日は無茶をした零也くんのお見舞いにね」

そう言いながら刀奈さんがコンビニ袋からリンゴとナイフを取り出す

 

 

「...」

 

 

「...言っておくけどね。沙耶香ちゃんが謝る必要は無いのよ?」

リンゴを剥きながら刀奈さんがそう言う

 

 

「...え?」

 

 

「零也くんがした怪我は零也くんに責任があるわ。

どれほどの浅い傷でも、どれだけ深い傷でもね」

 

 

「...」

 

 

「確かに、沙耶香ちゃんのミスで零也くんが怪我をしたなら

その責任は沙耶香ちゃんに向かうでしょうね。

でも今回の零也くんの怪我は沙耶香ちゃんに責任はない。

だからあんまり気負わなくていいのよ。」

はい。剥けた!と刀奈さんが私にリンゴを一欠片差し出す

 

 

「...剥くの下手ですね」

その形は歪でこんな状況なのに

刀奈さんは料理系統が苦手なことを思い出す

 

 

「...うぐっ、いいのよ!私、お婿さんに家事の出来る人を貰うから!」

私の言葉に照れた様子で差し出したリンゴを自分で齧る

 

 

「...それよりも、沙耶香ちゃん顔を洗って来なさいな

ガンパウダーもそうだし顔に少しだけ零也くんの血が着いてる。

そんな姿の沙耶香ちゃんが寝起きにいたら、

零也くん、病院でショック死しちゃうんじゃない?」

リンゴを置き、私を優しく抱き締めてから刀奈さんが言う

 

 

「...分かりました。すこし、零也さんをお願いします」

 

 

「うん。分かったわ。」

返事を聞いてからドアを開けて私は病室を後にする

気付けば時間はかなり経っていたらしく夕日が眩しかった



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第7.5話 『お見舞い』

俺は自分の体に何かが乗る感触で目を覚ました。

 

 

 

「何をしてなさってるのでしょうか?」

 

 

「......あー夜這い?」

病院のベットに横になる俺の体へ

跨ぐようにして乗っている少女がいる。

 

 

「・・・はい?」

少女は俺のよく知る人物だ。

名前を更識刀奈。俺のいる明智家内の分家

更識家の長女であり、更識家当主だ

 

 

「......だから夜這いよ。」

そう言いながら彼女は俺の患者衣の胸元へと手をかける

 

 

「...お、おい!やめろコラ!」

見れば彼女の方も着ている服が肌蹴ており豊満な胸元が露出している

 

 

「しー静かに。ここは病院の中なのよ?大声を出しちゃダメ

それと今の零也くんじゃ麻酔が効いてるから力が入らないわよ」

誰のせいで大声を出す事態になってるんだと思いながら

腕を上げようとするが確かに力が入らず、上がらない

 

 

「ふふっ、それじゃあいただきま〜す♪」

刀奈の顔が俺の顔へと近付く。あぁ、さよなら俺の貞操。

来たれ!俺の童貞卒業!

 

 

 

カチッ

「......何をしているのですか?」

急に部屋の明かりが点灯し、ドアの脇に沙耶香が立っている

 

 

「え?あーあははーこれは...」

刀奈が慌てて弁明をしようとするが

 

 

「...刀奈さん?」

今の沙耶香には言い訳なんて聞かなそうだ。

 

 

「い、いや、でも零也くんも乗り気だったのよ!?」

 

 

「零也さん?本当ですか?」

 

 

「...腕が使えない俺が自分から病人服を脱ぐと思うか?」

刀奈は可哀想だがここは真実を伝える。

 

 

「...との事ですが?刀奈さん、少しお話をしましょうか」

 

 

「な、なんで!?というか沙耶香ちゃんが怖い!零也くん助けて!」

 

 

「・・・」

無理です。今の俺に沙耶香を止めることは出来ません。

 

 

「なんで何も言ってくれないのよー!!??」

その小さい体のどこにそんな力があるのかと思うほどの力で

沙耶香は刀奈さんを引き摺っていく

 

 

「零也さん、怪我が酷いので安静にしてくださいよ!」

沙耶香がそれだけ言って病室を後にする。

 

 

「いーやー!」

病院内で騒ぐなって言ってたのは誰だよ。と思わなくもないが

俺には関係が無いなと考え二度寝をすることにした。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

次に俺が目を覚ましたのはPM8:00くらいだった。

「おはようございます。」

 

 

「...レキ?」

 

 

「はい。なんでしょうか?」

何故か病室にはレキが来ており

彼女の小さい手には花が一輪だけ握られている

 

 

「...なんで白百合?」

 

 

「...?車輌科の武藤さんから『見舞いならこれ!』と

強く推されたものです。」

 

 

「...ちなみにその武藤は兄貴の方か?」

 

 

「......」コクリ

 

 

「・・・アイツ、復活したらFCで轢いてやる。

っとまぁ、立ってるのもなんだろ?座れよ。」

とりあえずベット脇の椅子を勧める。

 

 

「...では失礼します。」

そう言ってレキが座る

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「...なんで俺の事見てるの?」

 

 

「特に理由はありません。」

 

 

「あ、そうなんだ。」

 

 

「......はい。」

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「......そうだレキ。」

 

 

「なんでしょうか。」

 

 

「今回のバスジャックの件、あの後どうなった?」

 

 

「爆弾は私が狙撃で取り外し、トンネルの外の海へ落として

爆破処理しました。けが人は零也さんを含んで13人。

そのうち重傷者は零也さんのみです。」

 

 

「...そうか。神崎とキンジは無事か?」

 

 

「お2人も怪我はありません。」

 

 

「...そうか。良かったよ。」

 

 

「......そうですか。」

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「......」

 

 

「......そのさ、レk...」

 

 

「明智零也さん。」

 

 

「なんだ?」

 

 

「そう遠くない未来、近い内に貴方は選択を迫られる時が来ます

その時に貴方は確固たる決断をしてください。そう“風”が言っています」

 

 

「...また風か。分かった。肝に銘じておくよ」

 

 

「そうですか。では失礼します」

レキは話すことは無い、といった感じで立ち上がり

病室を後にする。

 

 

「・・・」

 

 

 

「近い内に選択。確固たる決意か。どんな難題が出るのかね」

レキが出ていった扉を見ながら俺は呟くのだった。



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第8話 『空港へ』

〜翌日 朝 武偵病院・病室〜

 

 

 

「結局イギリスに帰るのか?」

 

 

「えぇ。キンジには昨日のうちにパートナーの件は無しって

私から言い出したのよ。」

面会人用の椅子に座りながら神崎が答える

 

 

「...いいのか?」

 

 

「えぇ。元々1度きりのコンビだったから。

これ以上キンジを縛るのは武偵憲章に違反しちゃうしね」

 

 

「俺からすればそんなルールなんかよりも

自分のパートナーを見つける方が重要だけどな。

まぁお前が決めたんなら俺は止めないよ。」

 

 

「・・・不思議ね。零也ならそう言う気がしていたわ。

私達、まだ知り合ってからひと月も経ってないのに」

 

 

「前にも似たような事を言ったかもしれないが...

お互いを理解するのに時間はあんまり関係無いって事だな。

その証拠に、俺はなんとなくお前が言いたいことがわかるよ。」

 

 

「あら?それは奇遇ね。私も何となく分かるわ。」

 

 

 

「フッ『零也、私のパートナーになってくれない?』だろ?」

 

 

「アンタは『俺には既にパートナーがいるから無理』でしょ?」

 

 

「「・・・」」

俺達は2人して顔を見合わせて

 

 

「・・・ふふっ」

「・・・ははっ」

どちらからともなく笑う

 

 

「...でも、良かったわ。案外元気そうで」

 

 

「アホな事言うな。こっちは左足が使えなくて杖つきだぞ?

これでよくもまぁ元気そうなんて言えるもんだな。俺は怪我人だよ。」

ベット脇から医者に渡された杖を出す。俺が武偵という事もあり

小型軽量で機能性を優先した杖だ。(禁書の一方通行の杖)

 

 

「時速80kmを超える車から沙耶香を抱えながら投げ出されて

怪我が骨折とはいえ左足の骨折だけで済んでるとか何したのよ。」

呆れたようにヤレヤレとため息をつく

 

 

「あ?普通に飛んだだけだぞ?」

 

 

「知ってるわよ。でもアンタは怪我したのに沙耶香が無傷なのは

凄いわよね。本当に何したのよ?」

 

 

「だから普通に飛んだだけだよ。無傷なのは、奇跡だろ?」

 

 

「なんだか適当ね。でもいいわよ。零也には常識が通用しなさそうだし」

 

 

「俺の扱い酷いなぁ。」

 

 

「そう?奴隷扱いの方が酷いと思うけど?」

 

 

「それをお前が言うのかよ。」

はぁ。と大きなため息が出る

 

 

「あははっ。それもそうね。」

俺のこの姿が面白かったのか神崎が笑う

 

 

「笑い事じゃねぇなぁ...」

俺の呟きは誰にも反応されずに消えていった

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

荷物をまとめなければいけないらしく

神崎は足早に病室を後にした。

 

 

「なぁ、沙耶香。」

 

 

「なんでしょう?」

 

 

「なんで俺はベットに手錠で繋がれてるわけ?」

 

 

「担当医の先生から“絶対安静”と言い含められたので。」

 

 

「いや、ごめん。トイレとかどうするわけ?」

 

 

「その際は私が付き添います。」

 

 

「・・・」

普通は男が付き添うものだと思うんだが。

 

 

「零也さんの面倒見は私が任されているんです。大人しくしてください」

 

 

「それなら大人しくしてるから手錠は外してくれないか?」

血流が悪くなってるせいで痛いんだがと続ける

 

 

「...分かりました。」

仕方なし。と言った感じで沙耶香が外してくれる

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・なぁ沙耶k...」

 

 

「零也さん。」

俺が口を開くタイミングで沙耶香も口を開く

なんか最近止められること多いな。

 

 

「お、おう。どうした?」

 

 

「私が、どれだけ心配したか分かりますか?」

見れば彼女の顔は下を向き、顔色はうかがえない

 

 

「......悪かった。」

 

 

「謝られても困ります。私は謝って欲しい訳じゃないんです。」

 

 

「だろうな。」

 

 

「はい。私から謝ろうにも昨日刀奈さんに止められたので出来ません。」

 

 

「当然だろ?あれは車をぶつけるって選択肢しか選べなかった

俺のミスなんだからな。お前が気にすることじゃない。」

 

 

「はい。昨日の夜にそう言われました。」

 

 

「・・・」

 

 

「...零也さん、私はどうすればいいですか?

今の私には色々なことが出来ます。2年前のように抱かれる事も

出来ます。零也さんが求めるなら武偵殺しを始末する事も出来ます」

 

 

「・・・」

 

 

「...零也さん、ご命令を。私に、役割をください」

ここまで言われて俺は初めて彼女をここまで苦しませていた事に気付いた

 

 

「......悪かったな。そこまでだとは思ってなかったよ。」

俺は手を伸ばして沙耶香の頭へ置き、出来るだけ優しく撫でてやる

 

 

「......え?」

 

 

「勉強は出来るけど上手い言葉が出て来なくてな

今は、こうさせてくれ。俺もそうすれば落ち着くしな。

これがお前の今の役割だ。」

 

 

「.........はい。」

顔にはまだ不安の色が濃く残っているがとりあえずは落ち着かせる。

 

 

この少女は実に優秀だ。

だがどうにも自分1人で抱え込んでしまうのが短所だろう。

そしてこの少女が抱え込み過ぎた時はこうして

優しく丁寧に頭を撫でて人肌の温かさを感じさせてやるのが一番なのだ

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

Prrr......!Prrr......!

 

 

「んっ?寝ちまってたか。」

 ベット脇のテーブルに置かれた携帯が電話の着信を告げる

 

 

『電話着信 遠山キンジ』

 

 

「キンジから?珍しい事もあるもんだな。」

そう呟きながら『応答』のボタンを押す

 

 

『零也、やっと出たな。』

聞こえてくる声は間違いなくキンジの声だったが

俺は何となく違和感を覚えた

 

 

「...お前もしかして?」

 

 

『あぁ。使える俺だよ。それで零也、突然ですまないんだが

アリアの乗った飛行機の便は分かるか?』

 

 

「飛行機の便?30分くらいあれば調べられるが...」

 

 

『そうか。分かり次第教えて貰えるか?』

 

 

「あぁ。それはいいが...お前はどこにいるんだ?」

 

 

『俺は今自転車で空港に向かっているところだ。

アリアを助けるためにね。空港までは後40分って所かな』

 

 

「......なるほどね。分かった。絶対に40分以内に調べるよ。

さて、行くかな。っと、流石にバランス取りずらいな」

そこまで言って俺は通話を切る。そして布団を退けて立ち上がる

 

 

「......行ってくるぜ」

俺は一通り防弾制服を着てからベット脇で

椅子に座ったまま寝ている沙耶香の頭を撫でてから病室を後にする

 

 

カッカッ

「...待ってろよ。」

時間は夕方。神崎の性格上世話になった教師達に

挨拶をしてからしか空港には向かわないだろう。

 

 

ガラッ

「......え?」

俺が扉に手をかける前に病室の扉は開いた。

 

 

「......何をしているのですか?」

扉の先にいたのは狙撃科所属のレキだった。

 

 

「わ、悪いなレキ。俺はやる事があるんだ。」

レキの肩を少し押しながら俺は脇を通る

 

 

ガッ

「待ってください。どこへ行くのですか?」

レキが俺の手を掴んで止める

 

 

「......」

 

 

「言えないんですか?」

レキの目が僅かに細まったように見えた

 

 

「......」

 

 

「それなら私もついて行きます。」

 

 

「...は?」

今レキはなんて言った?

 

 

「零也さんが行き先を言えないというのなら

私もついて行きます。そうすれば貴方がどこに行くのかが分かります」

 

 

「...空港だよ。」

 

 

「空港ですか?」

 

 

「あぁ。神崎を助けに行く。」

 

 

「...そうですか。」

それだけ言うとレキは俺の手を離す。

 

 

「それじゃあそういう事だかr...」

 

 

「やはり私もついて行きます。」

 

 

「...は?なんで?」

 

 

「今の零也さんの状態では神崎さんを救う事が出来ても

帰ってくる事が出来ないでしょう。私が貴方の足代わりになります。

それに私に任されたのは零也さんを呼んでくることです」

そういってレキがスタスタと歩いていく。

 

 

「...どういうことだよ?」カッカッ

言うだけ言って歩き始めるレキを追って俺も廊下を進む。

 

 

 

 

〜数分後 病院・駐車場〜

 

 

 

「はぁ〜い♪」

 

 

「アンタかよ!」

俺は停車しているハマーの運転席から降りてきた人物に

膝を着きそうになる心を抑える

 

 

「ふふんっお姉さんは自分の幼馴染が怪我させられて

そのまま帰るほど心優しくはないのよん♪」

降りてきたのは昨日、夜這いをしかけてきた少女。

明智家内分家、更識家の当主【更識刀奈】だった

 

 

「......」

レキは先程の廊下から何も言わない。

 

 

「レキを使って俺を呼んだのはアンタか。悪いが今の俺には

刀奈の悪ふざけに付き合う時間はないぞ?」

 

 

「悪ふざけとは失礼ね。せっかく空港まで送って上げようと思ったのに。

行くんでしょ?零也くん。」

 

 

「......なんで知ってる?」

 

 

「ふふっお姉さんの愛の力ね。といいたいけど...ココよ」

刀奈が自分の首筋に触れる

 

 

「...擬態効果のあるシールを使った盗聴かよ。」

指示に従って触れるとシールが貼られていた。

そしてその接着部の中心には小型の盗聴器が着いている。

 

 

「そういう事よ。もちろん零也くんと遠山くんの会話も聞いてるし

アリアちゃんが乗る予定の飛行機も調べてあるわよ?さ、早く乗って。」

言い切ると刀奈は運転席に戻る。

 

 

「......本当、そこが知れねぇなぁ」

ここまでされては仕方がない。そう諦めて俺はハマーの助手席に座る

 

 

「......」

そしてレキも後部座席へ乗り込む。

 

 

「それじゃあシートベルトはしてね?途中で遠山くんも拾いましょうか」

レキが乗っても何も言わない事からして刀奈からは予想通りなんだろう

 

 

「そうだな。それじゃあ頼むぜ?刀奈。」

 

 

「えぇ。任せてくれていいわよ。」

 

 

「狙撃はおまかせを。」

俺と刀奈の言葉にレキが続く。

割とこの3人の息は合ってるんじゃないか?

 

 

「そうだな。さっさと神崎連れ帰るか。」

 

 

「えぇ...!」

 

 

「......」

やっぱ息合わないんじゃない?

 

 

何とも締まらない感じだが刀奈が

ハマーを発進させた事で俺は気持ちを切り替えた。



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第9話 『事件解決』

刀奈の運転で空港に着いた俺達だったが、

俺が杖付きという事で徒歩での移動に時間がかかり

神崎の乗る飛行機のフライトにはギリギリで間に合った。

 

 

なおキンジは移動の間に元に戻り、“普段”のキンジに戻っている。

 

 

 

「武偵だ!フライトをやめろ!」

タラップを駆け上がりながらキンジがCA(キャビンアテンダント)

武偵校の学生証を見せながら中へ入る。

 

 

「え?ど、どういうことですか!?」

金髪ショートのCAさんが困惑しつつ聞くがキンジはもう中だ。

 

 

カッカッ

「この飛行機に爆弾が仕掛けられてる可能性がある。

だからフライトを止めてくれ。」

俺も学生証を見せながら説明をする。

 

 

「......」

俺の後ろのレキは何も言わない。なお刀奈には空港での待機を命じた。

というか、フライトを止めてるわけだから実質俺達がハイジャック犯だな

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

 

「アリア!」

 

 

『な、ちょ、キンジ!?なんでここにいるのよ!?』

飛行機内の最奥、VIP室にキンジが飛び込み

その直後に神崎の声が廊下まで響いた。

 

 

「どうやら神崎が見つかったみたいだな。」カッカッ

 

 

「はい......」

杖つきの俺とレキが廊下で並んでVIP室へ向かう。

 

 

「俺らもいるぞ〜」カッカッ

 

 

「...こんばんわ」

 

 

「零也にレキまで!キンジ、一体どういうことよ!」

俺達は3人が現れた事に驚き、状況を理解できないと

キンジに詰め寄って神崎が騒ぐ

 

 

「あ、あぁ。それなんだが......」

 

 

 

 

ガクンッ

 

 

「のわっと」カカッ

キンジが説明をしようとしたタイミングで飛行機が動き出す

 

 

「大丈夫ですか?」

倒れかけた俺はレキに支えられる事で転ばずに済む。

だがこの体制はマズいと思う。

 

 

「だ、大丈夫だ。」

危なかった。レキは俺を両腕で抱き締める様に支えたため

レキの胸が視界一杯に広がっていたのだ。

キンジだったら使える方と変わってる頃だな。

 

 

「というかなんでフライトしてるんだ!?」

俺が止めたはずだ!とキンジが言う

 

 

「いや。止めたのは俺だけどな?」

VIP室内には椅子がイスが2つしかないのでキンジに譲り、

俺とレキは壁に背中を預けて座る。

 

 

 

 

 

「...安定したか。」

 

 

「えぇ。ここは雲の上ね。」

離陸の衝撃が無くなりキンジが口を開き、

神崎が窓の外を眺めて肯定する

 

 

『ピンポンパンポーン武偵の皆さん、

2階フロアのBARへお越しください』

 

 

「またこの機械音声かよ。」

今日でこの声は聞くのは最後だ。とキンジが呟く

 

 

「この声、ここ最近の武偵殺しの一連の事件と同じ機械音声ね」

チャリジャックから聞いていないが神崎も同意するならそうなんだろう

 

 

「...とりあえず移動するか?神崎への説明は道すがら出来るだろ」カカッ

レキに支えられつつ、俺は立ち上がる

 

 

「そうだな。そうするか」

 

 

「キチンと説明しなさいよ!」

 

 

「分かってるよ。」カッカッ

 

 

「......」

レキはいつも通りだな。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

 

結果から言えば武偵殺しの招待はキンジのクラス、

2-Aで“探偵科”所属の【峰理子(みね りこ)】だった。

 

 

武偵殺しとして活動し始めた理由は名高きアルセーヌ・ルパンの

子孫として自分を“リュパン4世として認めて欲しい”という願いから

起こしたものだったのだ

 

 

「峰理子!いや、リュパン4世!

武偵殺しの事件の重要参考人として逮捕するわ!」

 

 

「簡単に出来ると思うな!オルメス!」

 

 

神崎と理子の2人の戦いにキンジが参加して

2対1での戦いに持ち込むが何度かの交差を終えてから

 

 

ガン=カタ(主に二丁拳銃を使用する銃撃格闘戦)で

理子が扉を爆破して神崎の気を引き、その一瞬で神崎が敗北した

そして神崎が負傷した事でキンジが神崎を連れて離脱し、

残された俺とレキは足止めを任された。

 

 

 

 

「ふーん。次はレイレイとレキュが相手かぁ。

狙撃科のダブルエースと言われる2人が相手に遊んでくれるなら

暇つぶしくらいにはなりそうかな?」

理子が舌舐めずりをしながら笑う

 

 

「レキ、申し訳ないが前を頼む。今の俺じゃあCQCは出来ねぇしな。」

 

 

「...了解しました。援護はお任せします。」

ドラグノフに銃剣を取り付けてからレキが前に出る

 

 

「およ?レキュが前衛(フロント)?ってそっか。

レイレイは足を怪我してたっけ」

 

 

「他人事みたいに言うがお前のせいだからな?」

 

 

「ちょっとーそれは酷くない?レイレイが怪我したのは

あくまで自己責任でしょ?私だってあんな方法で来るとは

思いもしなかったんだしさ。」

 

 

「ま、そりゃそうだな。...ッ!」

言い切ると同時に俺はレッグホルスターからHK45を

クイックドローで抜き、発射する

 

 

ダンッダンッダンッ!

俺の放った3発の銃声が引き金になり、レキが理子に突撃する

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

 

「レキ!一旦下がれ!」

 

 

「ッ!」

俺の指示を聞いてレキが俺の横に戻る。

 

 

「...はぁはぁ。怪我は?」

 

 

「至って軽傷です。零也さんは?」

 

 

「お恥ずかしながら残弾は一発だ。」

M93Rを持ってくれば良かったと今更ながら後悔した

 

 

「...そうですか。それじゃあ私が何とかして隙を作るので

そこを撃ってください。」

 

 

「イけるのか?」

レキは慣れない近接戦をしながら動けない俺を

理子が撃てないように気も引いていたのでかなり辛いはずだ

 

 

「.........問題ありません。」

 

 

「そうか。なら任せるよ。」

 

 

「はい。」

 

 

「あー作戦会議終わった?そろそろ再開しない?」

 

 

「おう。終わった所だよ。次で決めんぞ!レキ!」

 

 

「......」コクリッ

再びレキが理子へと突っ込み、レキが銃剣術で挑み

理子がガン=カタで応戦する。

 

 

「レキュって確か狙撃科だったよね!よくこんな銃剣術を

持ってるね!“強襲科”でも食っていけるんじゃないの!」

 

 

「誤解が起きないように言っておきますが私の専門はあくまで

狙撃です。この銃剣術は最後の手段に過ぎません。」

 

 

「そっか。じゃあレキュを接近戦で仕留めれば私の勝ちって事だね!」

 

 

「......ッ」

レキが一瞬だけ俺に視線を向ける。やるって事だな!

 

 

「・・・」

俺は静かに銃を構える。残弾は1発。

失敗=俺は約立たずだ。

 

 

「私との戦い中に男に熱い視線なんて向けちゃ、ダメだよレキュ!」

理子が大振りに足を回し、ドラグノフごとレキを蹴る。

 

 

「ッ!」

 

 

「甘いよ!Good-byeレキュ!」

一度目の蹴りを耐えたレキだが理子が再度蹴り、

レキの体がよろめく。

 

 

「......」

そしてよろめいたままレキは

勢いを殺し切れずに先程の爆破で開いたドアへ向かう

 

 

 

 

「・・・は?」

今の理子は無防備で絶対のチャンスなのだが

俺の視線は理子よりもレキへ向かう

 

 

「......」コクリ

レキの体がグラつき、俺に一度だけ頷いて見せる。

これがもしかしてレキの作戦か?

 

 

俺がそんなことを考えている飛行機の外へとレキの姿が消える 。

 

 

 

 

「レ、レキィィィィィィィィ!!??」

直後、俺は迷うこと無く無事な右足で床を蹴りレキを追って飛び降りる。

作戦?んなもん知ったことか!レキの命の方が大事だ!

 

 

「おーレイレイだいたーん♪」

からかうような理子の声がはるか遠くに聞こえた

 

 

 

こうして俺達2人は飛行機から降り(落ち)、戦力外になった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜翌日 とあるビル・屋上〜

 

 

 

「おーすげぇすげぇ。キンジの奴、“いつもの方”なのに

神崎を抱えたまま屋上から飛び降りたぞ。」

俺は狙撃銃用のスコープで見た光景に感想をもらす

 

 

「本当にね。遠山くんって案外大胆ね〜」

俺の横で双眼鏡を構えながら刀奈が同意する。

 

 

 

結局、俺とレキが旅客機から落ちた後は

神崎と例のモードになったキンジが

理子を倒したらしいのだが、後一歩のところで逃げられてしまったらしい

流石はリュパンの子孫。逃げる事は天才らしい

 

 

「・・・」

 

 

「どうしたのよ?突然神妙な顔になって。」

 

 

「いや。今回の一件、俺って何もしてない気がしてな。」

チャリジャックは降りかかった火の粉を払っただけだし

バスジャックは神崎を送り届けて怪我しただけだ

 

 

「そう?昨日の晩は大活躍だったじゃない。」

 

 

「活躍って、何かしたか?意気揚々と乗り込んだら

レキと一緒に落ちてきただけだぞ?」

 

 

「いやいや。その後、遠山くんの操縦する旅客機の着陸に

貢献したじゃないの。」

刀奈が言っているのは俺がレキと一緒に不時着状態だった

旅客機を車輪を撃ち抜くことで速度を殺したことを言っているのだろう

 

 

「いや、あれはどっちかというとお前の活躍だろうよ。

“超能力”を使って旅客機止めるなんてさ」

 

 

「そう?大したことはしてないのよ?」

こんな事を言うがこの少女は昨晩、俺とレキの行為でも

止められなかった旅客機を異能の力で海水の壁を作り、

あと一歩で海に落下。という予想を塗り変えたのだ。

 

 

「あれだけの芸当をして、“大したことじゃない”か。

謙遜も生きすぎると嫌味だなぁ。

そもそもアレをやる前にも落ちてきた俺とレキを助けてくれたろ?」

 

 

「あの時は驚いたわね〜空から零也くん似の奇声が聞こえると

思ったらレキちゃんを熱く抱き締めた零也くんが降ってくるんだもの。

アレ、一部の業界ではこう言うんでしょ?『親方空から女の子!』」

 

 

「...お前さては簪の部屋のDVD勝手に見たな?」

 

 

「え?い、いやーまっさかー」

俺の指摘に慌てて視線を逸らして吹けていない口笛を吹く

 

 

「......お前が俺をからかった仕返しに簪にチクってやるからな」

 

 

「わー!わー!私が謝るから許してぇ!」

 

 

「俺が知った事じゃねぇよ!というか離れろ!歩きづらい!」カッカッ

 

 

「いいじゃないのこれくらい。零也くんだっておっぱい好きでしょ?

私のおっぱいの感触どう?気持ちいいでしょ?」

 

 

「...というか、俺達2人は神崎の事なんかよりも

どうやったら沙耶香に許してもらえるかを考えるべきだよな。」

面倒な流れになる気がした俺は即座に話題を変える

 

 

「...そうね〜がんばってね、零也くん♪」

 

 

「いや、“私は関係ない”みたいな顔をしてるけど

最終的に病院から俺を連れ出したのお前だからな?共犯だろ」

 

 

俺の言葉に刀奈は雷に打たれたような顔をし

「...私の簪ちゃん用奥義の1つ、フライングジャンピング土下座

を使う心積りはしておくべきかしらね。」

と神妙な顔で呟くのだった。

 

 

「「・・・」」

 

 

「「・・・はぁ。」」

刀奈を右腕にくっつけながら

俺達はとぼとぼとビルの屋上を後にしたのだった。

 

 

ちなみに沙耶香には2人で必死に謝った結果許してもらった

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜夕方 とある焼肉屋〜

 

 

 

「んじゃま、神崎とキンジのパートナー再結成と

武偵殺し事件解決を祝して、乾杯。」

 

 

「かんぱーい!」

俺が音頭をとり、武藤が続く

 

 

「「か、かんぱーい。」」

 

 

「......かんぱい。」

 

 

「かんぱい。です」

 

 

「かんぱーい!」

それにキンジと神崎、レキと沙耶香が続き

最後に刀奈が続く

 

 

「「「誰!?」」」

まぁ、そうなるよな。

 

 

「あら?そういえば遠山くん達は初対面だったわね。

私は【更識楯無】。零也くんの親戚よ。

...ぷはーっ!お姉さん!コーラおかわりー!」

 

 

「な、なぁ零也。」

 

 

「ん?どうしたキンジ。」

 

 

「レキや沙耶香、武藤は分かるけど

なんでお前の親戚がいるんだ?」

キンジと同意見らしく神崎と武藤も俺の方を見る

 

 

「なんでってお前、かた、楯無も事件の関係者だからだよ。」

 

 

「...あ、もしかして最後の水の壁?」

勘がいいと自称する神崎だが本当にいいらしく

見事に言い当ててみせる。

 

 

「そういうことだよ。」

 

 

「なるほどね。そういう事なら楯無さん、

昨日は助かりました。本当にありがとうございます。」

 

 

「いいのいいの!そんなに堅苦しくしないでよアリアちゃん!

今日は打ち上げなのよ?楽しんだもん勝ちよ!」

酒も飲んでいないのに文脈が滅茶苦茶な口調で刀奈が返す

 

 

「まぁ、そういう事だ。楯無は男にも慣れてるし

ノリはいい方だから武藤も普通に話せよ?もちろんキンジも。」

 

 

「あ、あぁ。」

 

 

「時に楯無さん!ご趣味の方はなんですか!?」

キンジの微妙な反応も予想通りだが武藤が速攻で口説きに行ったのも

予想通りすぎて笑いたくなるな。

 

 

『お客様、こちらご注文頂いたドリンクになります。』

店員がコーラを片手にやってくる。そういえば刀奈が頼んでたっけ

 

 

「お、おい零也。」

「ね、ねぇ零也。」

 

 

「ん?」

 

 

「あれ、大丈夫か?(大丈夫なの?)」

神崎とキンジが少し顔を青くしながら指差す方を見ると

刀奈が肉から野菜から手当り次第に注文をしている光景がある

 

 

「・・・悪い、カード使えるか聞いてくるわ」カッカッ

財布の中身にも余裕はあるが用心はしておこうと思い席を立つ

 

 

「「い、いってらっしゃい。」」

後ろから同情したような2人の声が聞こえる。涙は流さないぜ!

 

 

 

 

俺は席を離れてから、“レジとは反対方向”へ向かった。



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第10話 『零也の取引』

「こんばんわ。楽しんでいますか?」カッカッ

 

 

「貴方は、確か壁を挟んだテーブルの学生さんですね?」

声をかけた女性が俺の制服を見ながら言う

 

 

「ええまぁ。そんなところです。

っと、失礼してもいいですか?杖つきなもので」

 

 

「これは失礼しました。どうぞ、お座り下さい。」

許可を貰った俺は女性の向かい側の席に座る

 

 

「楽しんでいますか?“フロッギー”」

 

 

「えぇまぁそこそこにですがね。“ジャップ”」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 

「この皮肉が通じるって事はやっぱり本物なんだな?“理子”」

 

 

「レイレイこそ。まさかこんな方法で確認に来るとは

思ってもなかったよ。まぁ、あの水色の女は気付いてたみたいだけど」

俺の言葉に少し笑いながら女性、いや理子は返す

ちなみに“フロッギー”と“ジャップ”はそれぞれフランス人と

日本人への蔑称の一種だ。

 

 

「白々しい嘘はやめとけよ。分っかりやすいアピールしたくせに」

 

 

「へぇ。私が何をしたって言うのさ?」

 

 

「お前はさっき店員に変装して俺達のテーブルに飲み物を持ってきたろ?

あの時の歩き方と立ち方。昨日タラップで会ったCAと同じだったんだ」

 

 

「そう?偶然似ていただけじゃないの?」

 

 

「まだある。さっきの店員がお前だと仮定して、

お前が持ってきた飲み物、ソフトドリンクの“コーラ”があるだろ?

それはそのリュックのサイドポケットのコーラのはずだ。」

俺は理子の脇に置かれたリュックに入ってる空のペットボトルを指指す

 

 

「これは理子が店に入る前に飲んでいたやつだよ?」

 

 

「...この状況でもしらばっくれるのか。」

 

 

「しらばっくれてる訳じゃないよ?違うから否定してるだけ。」

 

 

「...なら最後に証拠品を出そうか?お前の脇に置いてるリュック。

その口を開け。中にこの店の従業員の服が入ってるはずだ。」

 

 

「......はぁ。お手上げだね。流石だよレイレイ

伊達に中等部で“探偵科”を履修したわけじゃないってことか。」

諦めた口振りで理子がリュックの口を開く。

中には俺の予想通り女性店員用の服が入っていた

 

 

「そういう事だ。それに俺の“眼”は本来見逃す事も見つけれる。

だから今度から俺を騙したかったら変装や転装生(チェンジ)じゃなく

存在そのものを偽る術を得てから出直す事だな。」

 

 

「...そうするよ。でも悔しいなぁ、結構自信あったんだけど

流石はレイレイ。“日本の明智”は伊達じゃないってことか。」

 

 

「・・・理子、お前はこれから日本を出るのか?」

ここで俺は初めから聞きたかった質問を口にする

 

 

「まったく。レイレイには一体どこまで“視えてる”の?

・・・そのつもりだよ。一旦フランスに戻る。」

俺に答える気はないと察し理子が答える

 

 

「一旦って事は戻ってくるのか。」

 

 

「まぁね。政府との司法取引をして

“短期の留学”って事にしてもらう予定かな。」

 

 

「...」

 

 

「心配しなくても私は上手く逃げるよ。

まぁレイレイとあの水色の女が相手なら厳しいかもだけど。」

 

 

 

「...そんな心配はしてないが。もし、俺がこの場でお前を見逃す代わりに

条件を1つ飲めって言ったらお前はどうする?」

 

 

「本当に驚いた。レイレイからそんな言葉が出るなんて。条件次第かな」

 

 

「あぁ。俺もそう思うよ。お前が“ある条件の対象”

じゃなければこんな提案はしなかった。」

 

 

「ふーん。それで条件ってなに?」

 

 

「ん?あぁ、それはな――――――することだ。」

 

 

「本当にそれだけでいいの?」

 

 

「これは今回頑張ったアイツへの俺なりの褒美のつもりだからな。」

 

 

「ふーん。レイレイって実は優しいんだね。」

 

 

「実はってなんだ実はって。俺は優しいぞ?」

 

 

「それは女の子を平手打ちする男のセリフじゃないなぁ」

 

 

「...見てたのかよ。」

 

 

「まぁね。キー君達が無事かどうか確認に行こうとしたら

あの埠頭でレイレイがレキュを平手打ちしてたんだもん。驚いたよ」

 

 

「・・・」

 

 

「安心しなよ。これは理子の胸の中に閉まっておく。」

 

 

「...そうか。」

 

 

「うん。あ、そろそろ飛行機の時間だ。理子行くね。」

 

 

「おう。気を付けろよ?それと、また今度な。約束守れよ?」

 

 

「もちろん。リュパンじゃなく1人の女。

峰理子としてその約束は破らないと誓うよ。それじゃ」

バイバイ。と言って理子は席を立ち、リュックを背負って店を後にした。

 

 

「......はぁ。」カッカッ

残された俺はレジでカードの使用が可能かを確認してから席に戻る。

心の隅で、レキに謝らなければと思いながら。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数時間後 零也達のマンション〜

 

 

 

 

「悪いな武藤。送って貰っちまって。」カッカッ

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

「武藤くん、ありがとね♪」

 

 

「構いませんよ。明智には肉奢ってもらいましたし。」

俺、沙耶香、刀奈の順で防弾仕様のNOAHを降りる

 

 

「いや、それは契約だからな。守っただけだ。」

流石に会計で6桁になるとは思わなかったが。と付け加える

 

 

「痛いところ突くなよ。だいたい、高いのばっか頼んだのは

楯無さんだろ?俺達のせいじゃねぇよ。

それより明智は大丈夫なのか?昨日の今日で自宅療養なんてよ」

 

 

「ん?あぁ大丈夫じゃないか?医者も大丈夫って言ってたしな」

横で“えぇ〜私のせいなの〜?”と騒ぐ刀奈はスルーする

 

 

「あれは...どちらかと言えば

病院を抜け出した零也さんに呆れたんだと思いますけど」

苦笑いを浮かべながら沙耶香が続く

 

 

「まぁ確かに入院した翌日に抜け出せばなぁ」

武藤が俺に苦笑いを浮かべながら言う。

 

 

「ほらいつまで喋ってんのよ!さっさと車だしなさい!」

 

 

「っと、キンジの嫁さん候補がお怒りだ。そろそろ帰るわじゃあな」

 

 

「おう。いくら交通量少ないって言っても安全運転で頼むぜ?」

NOAHの中で『風穴!』とか騒いでる神崎はスルーする。

 

 

「任せとけよ。んじゃあおやすみ。」

 

 

「お休み零也。また明日学校でね。」

 

 

「アリア、今日は金曜だから明日は学校休みだぞ?」

 

 

「...ほらキンジ。アンタもなんか言いなさい。」

 

 

「下手な照れ隠しだな。っと、それよりも今日はサンキュな

今度は俺の方でなんか奢るよ。」

暴れだした神崎の頭を抑えながらキンジが顔を出す

 

 

「万年金欠のお前がか?期待しないで待っとくよ。」

 

 

「...言ってろ。」

キンジと拳を合わせる

 

 

「レキも。昨日の影響もあるだろうし疲れたろ?

さっさと帰ってさっさと寝ろよ?」

 

 

「......はい。そうさせてもらいます」

 

 

「おう。んじゃあ武藤。くどい様だがくれぐれも安全運転でな。」

 

 

「あいよ。明智、今日は本当にご馳走さん!」

武藤がアクセルを踏み、緩やかにNOAHが発進する

この後はキンジを下ろしてから女子寮に向かい、“車輌科”に

車を返してから武藤は歩きで帰る気なんだろう。

 

 

ちなみに刀奈はと言うと

「私は今日泊まっていくわね♪」

との事で俺達と同じ場所で降りている。

 

 

「...とりあえず“更識”には刀奈が食った分の食費は請求しなきゃな」

 

 

「...うぇ!?な、なんでよ!」

 

 

「いくら原価がお高い焼肉店といっても

刀奈さん、たった1人で87000円分も注文されれば妥当かと。

元より約束していた武藤さんやキンジさん達はともかく

刀奈さんは勝手に参加してきただけですし。」

刀奈の悲鳴にも似た抗議に沙耶香が淡々と答える

 

 

「そういう事です。しかも量は全然なくてただ単に高い肉を

注文する辺りに刀奈さんの性格が滲み出てますね。」

懐から取り出したレシートを見せる。

 

 

「ひ、酷いわ!そんなのオーボーよ!

せ、せめて料金は私が払うから家(更識)に連絡するのは許して!」

 

 

「そこまで言われると悩まされますね。

でも一体なんで更識に連絡されるのがそんなに嫌なんです?」

 

 

「え、えっと、それは......」

 

 

「...妙に歯切れが悪いですね。」

 

 

「え、えと、ととと、とりあえず家はダメ!」

どうやったのか懐からお札を取りだし、俺の胸へ押し付ける

 

 

「ゴホッ、これでも怪我人なんですけど...」

受け取った金額を確認してから俺は財布にしまう

 

 

 

とりあえず刀奈からは料金をしっかり貰ったし

連絡は無しにしておくか。と思いつつ、沙耶香と刀奈を連れて

マンションの中に入っていく。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後 女子寮・レキの部屋〜

 

 

 

《レキside》

 

 

零也さん達と食事をしてきた私は先程女子寮の自分の部屋へと帰ってきた

そしてシャワーを浴びた後、普段通り銃を抱えながら座り込む

 

 

「......」

この部屋にはテレビもラジオも置いていない

そのため私自身が音鳴らさない限りはなんの音もせず、

内外限らず防音もある程度効くこの部屋では

基本的に無音です

 

 

 

「......」

普段の私はドラグノフを抱えたこの姿勢のまま座って寝ています

 

 

「......」

ですが普段は目を閉じてすぐに眠れるのですが

今日は何故か目を閉じても眠る事は出来ず

頭の中で2つの出来事が延々とフラッシュバックし続けています

 

 

1つはつい数十分前まで

零也さん達といた焼肉店での食事の風景。

 

 

そしてもう1つは夜の埠頭の風景とその時の出来事。

その出来事が起きたのは昨晩の夜の事だ。

 

 

 

 

 

〜回想〜

 

 

 

「レキ。ちょっと話があるから来てくれ。」カッカッ

キンジさん達の乗る飛行機も無事に着陸し、

警察関係者も退去したあとの埠頭でクラスメイトであり

同じ狙撃科に所属する少年、零也さんが私を呼んだ

 

 

「...分かりました。」

当然断る理由もなかった私はそれに応じ、零也さんについて行きました。

 

 

そしてある程度離れた場所で零也さんは振り返り

 

 

 

パンッ

乾いた音が埠頭に木霊します

私は珍しく自分が何をされたのか分かりませんでした

 

 

「何であんなことをしたんだ!」

認識したのは零也さんの声。零也さんは体を震わせていました

今になって私は零也さんに平手打ちをされたのだと理解しました

 

 

「あんな事、というのが飛行機から飛び降りた事を言うのでしたら

あれが“最善の選択”だったからです。」

 

 

「ッ!」

 

 

パンッ

「ふざけるな!あれで仮に犯人を捕まえられていても

刀奈を俺が待機させていなければお前は死んでいた!」

零也さんが再び平手打ちをします

 

 

「...私程度の命と事件の解決。客観的に見れば優先度は

後者の方が上だと考えます。」

 

 

「違う!人の命を救う事と犯人を捕まえる事は決して天秤には乗らない!

それにお前は“狙撃科”のSランク武偵だ!武偵校にとって必要不可欠な

存在のはずだ!そしてお前は日本の武偵の未来を背負う人間だ!」

 

 

「私はあくまで“1発の銃弾”です。目標に向かって飛ぶだけの銃弾です」

そう。私は“風”が命じるままにするだけの銃弾

 

 

「違う!銃弾が人の言葉を喋るもんか!銃弾は人の形なんてしない!

お前は世界にたった1人しかいない人間だ!」

 

 

「たとえ零也さんがそう捉えていても私の考えは変わりません。

全ては“風”の意志です。そこに私の感情は存在しません。」

 

 

「コノヤロウ......!!!!」

零也さんが拳を振りかぶる

 

 

「貴方が何に怒っているのか、私には理解が出来ません。

私は“風”による指示とその場における最善の選択をしただけです。」

 

 

 

「...レキ、最後に答えろ。」

しばらく経ち、零也さんが再度口を開く

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「お前に命令を下してる“風”ってのは声か?」

 

 

「はい。」

 

 

「その“風”の指示はそのヘッドホンから聞こえるのか?」

 

 

「正確には違いますが概ねそれで合っています。」

 

 

「...そうか。」カッカッ

そこまで聞ければ充分だ。

と言いながら零也さんは私のヘッドホンを奪い取る

 

 

「......あ、」

 

 

「それならコイツは俺が預かる!お前はもう“風”の指示なんて聞くな!

自分の意思、自分の感情に従え!お前は一人の人間なんだ!」

零也さんが私に対して言う

 

 

「違います。私は1発の銃弾です。」

 

 

「まだ言うか!」

零也さんは今度こそ迷うことなく拳を振り上げ、私の頭に落とす

 

 

「ッ...」

 

 

「とにかく!これはお前にいっぱしの感情があると

俺が判断するまで預かってやる!

お前はせいぜい感情ってモンを勉強しろ!」カッカッ

怒りを隠すことも無く彼は杖をつきながらその場を後にした

 

 

 

〜回想終了〜

 

 

 

 

「......分かりません。私は、どうすれば良かったのでしょうか」

レキは何一つ音のしない自分の部屋で静かに呟く。

 

 

 

「......風の音も声も聞こえません」

普段日常的に装着しているヘッドホンは今、私の首元には無く

“風”の声も聞こえません。

 

 

 

「...分かりません。零也さんが何故怒ったのか理解ができません。」

 

 

 

「...分かりません。私はなぜ胸に穴が空いたような感覚を

覚えているのでしょうか。私には、感情などないはずなのに......」

 

 

 

思い出されるのは全て零也さんの言葉。

『違う!人の命を救う事と犯人を捕まえる事は決して天秤には乗らない!』

 

 

 

『それならコイツは俺が預かる!お前はもう“風”の指示なんて聞くな!

自分の意思、自分の感情に従え!お前は一人の人間なんだ!』

 

 

 

『お前はせいぜい感情ってモンを勉強しろ!』

 

 

 

「...分かりません。私は、どうすればいいのでしょうか」

この日、レキは生まれて初めてドラグノフを抱えずに膝を抱えて眠った。



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番外編① 『赤と金の少女』
第11話 『退院祝いパーティー』


とりあえず前話で『武偵殺し編』は終了したので
何話か番外編を投稿したら『デュランダル編』にする予定です。
とりあえず番外編の一話から。投稿します。


〜武偵病院・エントランス〜

 

 

「ん〜っ、やっと退院だ。」

先週、一度マンションに帰りはしたが足の骨が折れている

という事もあり、俺はずっと病院に拘束(比喩ではない)されていたので

今日は久しぶりに帰れると思い、俺は少し気持ちが弾んでいた

 

 

「にしても理子から送られた薬を飲んだらやたらと効いたんだが...

これ、なんらかの副作用とか無いよな?」

俺はポケットから数日前に国際便で届いた薬を取り出し、眺める

同封されていた薬には理子の知り合いが調合した薬で

その知り合いは“衛生科(メディカ)”の知識があるから安心して使ってくれ

と書いてあったので遠慮なく飲んだのだ

 

 

『あ、明智くん。君は一体どう言う身体構造をしているんだい?』

と担当医の先生には何度聞かれたか分からない。

一応理子の知り合いと言うこともあり、

流石に知り合いの知り合いから貰った薬の効果です。とは言えなかった。

 

 

『もしや君の細胞を採取すれば不治の怪我を治せるのでは!?』

注射器を持ちながら先生がそんな事を言い出したので

“明智”の名前を出して採血はやめてもらったが。

 

 

「いやーいい朝だ。リハビリ中も思ったけどやっぱり

自分の足2本で普通に歩くのは気持ちがいいや。」

病院の正面玄関を潜り、外に出ると心地いい風が明智の頬を撫でた

 

 

「...退院おめでとうございます。零也さん」

 

 

「のわっ!?レ、レキか。驚かすなよ」

日差しが眩しいな。なんで考えながら空を見上げていると

いつの間にか俺の脇にはドラグノフを肩にかけたレキが立っていた

 

 

「驚かせるつもりはありませんでしたが...零也さんに渡す物があります」

特に悪びれた様子もなく、レキは片手に持っていたケースを差し出す

 

 

「......これ、俺のHK45?なんでレキが?」

 

 

「先日の事件の際に海に落下したものを楯無さんが回収していたので

私の方で“装備科(アムド)”の平賀さんに預けていました。」

 

 

「言われてみればあれ以来持ってなかったが...」

 

 

「平賀さんから伝言で“明智くんは大口顧客だから手速く作業したのだ

今度もご贔屓に〜”との事でした。」

 

 

「そ、そうか。サンキュな」

受け取った銃をホルスターを左足に着けてから入れる

1週間ぶりに触れたのだが驚く程スムーズにホルスターに収まった

 

 

「いえ。」

 

 

「・・・」

 

 

「......」

 

 

「・・・」

 

 

「......」

 

 

「・・・」

 

 

「......」

 

 

「・・・」

 

 

「......」

 

 

「・・・」

おいおいなんか言ってくれよ。

 

 

 

「...零也さん。」

俺の願いが通じてかレキが口を開く

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「私に許可をくれませんか?」

 

 

「許可?何のだよ。」

どうしたんだ?藪から棒に

 

 

「私はあれからずっと“感情”と呼ばれるものについて

調べ、また考えました。ですが私には全く分かりません。」

 

 

「お、おう。それで?」

レキが俺の指示通りにしてくれたのも驚きだが

俺にはレキがなんて言うのか全く分からないので曖昧に答える

 

 

「そこで私は一つの決断を出しました。

調べても分からないものはそれを実践してる人を観察すれば

理解できるのでは無いのかと。」

 

 

「・・・は?」

 

 

「なので私はこれから零也さんに付き従う事にします。」

 

 

「・・・はい?」

 

 

「常に零也さんに付き添います。私の時間を全て利用し

零也さんを観察して私は“感情”というものを理解しようと思います。」

 

 

「・・・」

 

 

「なので零也さん。私に許可をください。」

そこまで言うとレキは俺に向けて頭を下げる

 

 

「・・・」

俺は驚きで空いた口が塞がらなかった。

レキが俺に頭を下げたのもそうだし

レキの性格上こんな事を言い出すとは思っていなかった。

 

 

「...ダメでしょうか?」

いつも通り抑揚の無い口調でレキが聞きなおす

 

 

「......しゃーないか。まぁ、及第点かな?」

俺はひとつため息をついてからレキに向き合い、手を差し出す

 

 

「......?」

俺の手を見てレキは頭へ疑問符を浮かべる

 

 

「握手だよ。やったことないか?」

 

 

「いえ。それは分かりますが、なぜ握手を?」

そう言いつつもレキの手が俺の目前へと来る

 

 

「んっ。これからよろしくなレキ。」

 

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

 

「よろしくな。っと、それじゃあレキ、また今度...ぐえっ」

少しして声をかけてからレキの横を通り、別れようとした俺だが

突然服の襟を掴まれ、喉が絞まる

 

 

「待ってください。私は目的は達成されましたが

私にはそれ以外にも零也さんを呼ぶようにも言われてきたのです」

もちろん俺の服の襟を掴んだのはレキだ

 

 

「ゴホッゴホッ、呼ぶように?誰にだよ?」

 

 

「......」

レキは答えること無く俺の横を通り、スタスタと歩いていく

 

 

「・・・はぁ。」

ついて来いってことだよな。と思い俺も後を追う

 

 

 

 

〜同時刻 武偵病院・屋上〜

 

 

「ふーん。不思議な雰囲気の人がいると思ったら......

ふふっ、面白そうな人だなぁ。素敵♪」

屋上に零也とレキを見つめる赤毛の少女が居た事は少女自身しか知らない

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後 零也の部屋〜

 

 

神崎が手にクラッカーを持ち

「それじゃあ、零也!退院おめでとう!」

 

 

「「「おめでとう!」」」

キンジと武藤、白雪ちゃんが続き

 

 

「「おめでとうございます。」」

沙耶香とレキが続く

 

 

「おっめでとう〜♪」

最後に刀奈が続く。んっ?ちょっと待てコラ

 

 

パーンッ!

8つのクラッカーが同時に鳴る

 

 

「退院おめでとう明智君。骨折だなんて災難だったね。

退院祝いに沢山作ったからいっぱい食べてね」

白雪ちゃんが適当に盛った皿とコップを持って俺の方へやって来る

本当によく出来た子だよ。ただの友人の俺にここまでするんだからな。

 

 

「ありがとうな。白雪ちゃんも大変だったんじゃねぇか?

昨日までSSR(超能力捜査研究所)の合宿に行ってたんだろ?」

疲れてるだろうに、悪いな。と続ける

 

 

「ううん、気にしないで。私なんかより明智君の方が大変だったでしょ?

私はいつも通りだから大丈夫だよ。まぁいつの間にかキンちゃんの部屋に

見慣れない泥棒猫()が住んでたけど。」

前言撤回。前半はいい子そうに見えたが後半がヤバイわ。

目に光がないどころか、見てると俺がその目に吸い込まれそうだよ

 

 

「いい方向でブラックホールになるってのは聞いたことあるけど

人間の目って悪い方でもブラックホールになるんだな。」

 

 

「え?どうかした?」

俺の言葉で我に返ったのか目に光が戻り、俺を見つめる

 

 

「いや。なんでもないよ。でも神崎をあんまり悪く言ってやるなよ?

アイツは今のキンジとの“現場での”パートナーだ。」

ワザと“現場での”を強めに白雪ちゃんに言ってやる

 

 

「現場の、現場の、そうだよね!あくまで一時的なパートナーだもんね!

ふふっ、今のうちにいい夢を見るのね。」

ブツブツと呟きながら白雪ちゃんはキンジと神崎の方へ向かう。

 

 

「暴れてもいいが外でやってくれよー」

そんな危うい雰囲気の白雪ちゃんの背中へ声をかける

経験上彼女は他人に迷惑をかけることはしないので俺の部屋は無事だろう

 

 

「さてっと次は、」

テーブルなどを上手く使い、立食形式で今日のパーティーは

進んでいるので各自好きな相手と会話を楽しんでいる。

 

 

「零也、楽しんでるかしら?」

誰かに声をかけようかと思ったのだがそれよりも先に神崎がやってきた

 

 

「よう神崎。まぁボチボチな。」

 

 

「そ、そう!良かったわね!//」

ほんのり顔を赤く染めて神崎がそっぽをむく。・・・なるほど。

 

 

「言い出しっぺは武藤で主催は神崎っところか?今日のパーティー。」

 

 

「え?え、えぇ。そうよ。よく分かったわね。」

神崎が驚いて目を見開き、俺を見る

 

 

「分かったも何も、神崎は開始直後からチラチラ俺の方見てたろ?

んで、その後に楽しんでるか聞いてきた。

それで武藤は言い出しこそしても予算の用意は付けられない人間だ。」

 

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

 

「それは楯無も同じだ。沙耶香やレキの可能性は自然と消えるし

同じ理由でキンジもゼロ。

それなら残った神崎が主催者だって思っただけだ」

 

 

「“探偵科”で習う[人間観察]での推理ね。流石だわ。」

 

 

「これをお前に言うのは不思議な気分だが、

“ Elementary my dear”って事だな。」

 

 

神崎は目を一瞬パチクリとさせて

「・・・ふふっ。確かに不思議な気分だわ。」

 

 

「だろ?」

2言3言交わすと神崎は離れていった。どうやら刀奈に用があるようだ。

 

 

「零也殿。」

次に俺のもとへやってきたのは風魔ちゃんだった

 

 

「よっ。楽しんでるか?って聞くまでもないな。」

風魔ちゃんの頬に何かのソースが着いていたのでハンカチで拭く

 

 

「うむ。これは申し訳ない。それよりも退院おめでとうでござる。

某もこちらにいれば手伝えたのでござるが...」

 

 

「気にする事はないさ。俺の命令でSSRに潜入して貰ってたんだからな

それで、どうだった?収穫はあるか?」

 

 

「それなのでござるが――――という具合にござる」

 

 

「ふーん。そりゃ凄いな。」

 

 

「驚かないのであるか?」

 

 

「ん?いや、これでも結構驚いてるぞ?

まぁその内容が概ね予想通りだったってのもあるけどな。

それよりもアッチの様子はどうだ?」

 

 

「ん?あぁ笠松殿であるか。そちらもやはり

零也殿の予想された通りに進んでいるでござる。」

 

 

「はぁ。あの人ももう少し自分の歳ってのを考えて欲しいもんだねぇ」

 

 

俺の返答に風魔ちゃんは珍しく苦笑いを浮かべ

「それが出来るのなら今の状況にはなっていないでござろうな」

と返す。

 

 

「それもそうだな。」

心の底からため息が出る。

 

 

「まぁその辺は今後も目を向けておく故、

零也殿は安心して現在(今)を楽しむのがいいでござろう」

 

 

「ま、それもそうだな。頼むぜ風魔ちゃん」

俺の言葉に“御意”と答えて離れていく。

 

 

「・・・ふっ」

再び1人になった事で俺は周囲を見渡す。

キンジは神崎と白雪ちゃんに言い寄られて大変(楽し)そうだし

武藤は焼肉屋でのリベンジのつもりなのか必死に刀奈を口説いている

 

 

「・・・」

唯一心配だったレキも沙耶香が話しているのを聞き、

たまに頷いたりしているので問題は無さそうだ。

風魔ちゃんは再び食事に戻っている。

 

 

「守れたんだよな。」

この他人の部屋で近所迷惑も考えずにワイワイ騒ぐバカ達を。

 

 

 

そう思うと何故か嬉しい気持ちになり、俺は達成感に浸りつつも

皿に残った料理に手をつけるのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜数十分後 学園島・海沿いの道路〜

 

 

 

「ふぅ。たまには歩くってのも大事だな。」

俺は1人で歩道を歩き呟いた。

 

 

「・・・にしてもさっきのレキ言葉はどういう意味だったんだ?」

さっきまで俺はレキを女子寮まで送っていたのだが

女子寮の前で別れる際にレキが言っていた言葉があったのだ

 

 

『今日のところは帰ります。』

たった一言。だがこの言葉になにか意味があるような気がしてならない

 

 

「......もしかして、なにか選択を間違えた?」

前にレキが“決断を迫られる”と言っていたのを思い出した

 

 

「......いや、まさかな。うん。ないない。」

今思えばレキはやたらと“今日は”を強調していた気がするが

そんなことは無いな。あの抑揚のない喋り方をするレキに限って

ありえない。うん。ない。ありえない。

 

 

「・・・。さっさと出てこいよ。」

場所は学園島に出入りする橋の手前。俺はいつの間にか背後に

気配を感じ、柱の陰へ視線を向けた。

 

 

 

 

「あれれ?バレてた?おっかしいなぁ〜」

出てきたのは赤い髪を一つにまとめて黒い独特な服を着た少女だった

 

 

「お前は誰だ?なんのために俺を尾行してる?」

 

 

「......ふふっ」

俺の問いに答えることなく少女は笑みを浮かべてから

右腕を俺へ向ける。今更ながら少女の右手はこれまた独特な形状の

物を着けている。

 

 

「...なんのつもりだ?」

俺は左手を垂らし、ホルスターに納まっているHK45へと指を触れさせる

 

 

「・・・。ッ」

少女の顔が僅かに力んだと思うと少女の右手に着いた何かから

ビームが発射された




『素敵』『赤毛の少女』『黒い独特な服』
『独特な形状のビームを発射する物』
この4つのヒントだけで分かる人には分かってもらえるはず。


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第12話 『襲撃者』

前回のヒントだけで分かってくれた方はいるんだろうか
そんなことを考えながら12話を書きました。
分かる人いるといいなぁ。


「は?ッ!?」

銃弾やナイフくらいなら飛んでくると思っていたが

ビームが飛んできた事で一瞬呆けるが咄嗟に車道へと飛び避ける

 

 

「あれ?ハズレたなぁ〜」

 

 

「バカタレ!避け無かったら当たってるわ!」

迷うことなく俺はHK45を抜き、構える

 

 

「これが最後だ!お前の目的はなんだ!」

 

 

「...おっかしいなぁ。えいっ」

俺の問いを無視して少女は再度右腕を俺に向ける。

そして可愛らしい掛け声とは裏腹に再度先程のビームが発射される

 

 

「コノヤロウ!」

俺は体制を低くし、地面を這うように走る。

向かう先は当然少女の方向だ

 

 

「ッ!予想より速いね!」

少し嬉しそうな声を漏らしながら少女は向き合う

 

 

残りの距離は3mもない

「とった!・・・なッ!?」

完全に少女に触れたと思ったタイミングで少女に変化が起きる

 

 

「あはは♪まさか初戦で使う事になるとは思わなかったよ!」

少女の髪が意志を持ったかのように動いたのだ。

 

 

「“超能力(ステルス)”持ちか!」

だが驚いたのはそこでは無い。髪が動くだけなら先日に理子が

やってるのを見ているので驚かないが少女の髪は違う

 

 

ジャキンッ

髪が俺の方へ向くと同時に髪先が文字通り刃へと変化した

 

 

「“超能力”?よく分からないなぁ。

でも“変身(トランス)”を使ったからには倒すよ!」

少女の言葉に応えるように刃に変化した髪が俺へと向かう

 

 

「ちぃ!手数じゃ勝てねぇか!」

一瞬刃を銃で受け止めるのも手段かと思ったが地面をまるで

バターのように切っているのを見ると受けるのは不味いと感じる

 

 

「それそれそれ♪」

状況が状況なのだが少女が楽しそうな声を上げているのを見ると

どうにも緊張感が薄れてしまう

 

 

「ッ!くっ!」

まぁ気持ちを弛めたら終わりな状況なわけだが

 

 

ガッ

「しまっt...!?」

回避に意識を割いた影響で足元が疎かになり

車道と歩道の段差に踵が引っかかりバランスが崩れる

 

 

ヒュッ、

倒れかけた俺に刃が迫る。

 

 

「(あ、終わった。)」

世界がまるで止まったように

刃の動きも体が倒れるのにも時間が少しずつ流れる

やがて刃が眼前に迫り

 

 

ピトッ

何かが触れる感触が額に触れる。

それと同時に俺の意識は暗闇へ落ちていった

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜???〜

 

 

「ここ、どこだ?」

目を覚ますと俺はどこかの学校にいた。

 

 

「おっはよ〜■■先輩♪」

目の前には先程の少女が茶色の髪の男子生徒へと抱き着いている

 

 

「幸せそうだな。」

俺が呟くと場面が変わる

 

 

 

「あ!■■お姉ちゃんに■■ちゃんも♪」

 

 

「あ、あと■■ちゃんも。」

 

 

「わ、私はついで扱いですか!?」

切り替わった場面では金色の髪を持つ少女と桃色の髪の少女が2人現れる

見たところ桃色の少女2人は顔立ちが似ているので双子だろうか

 

 

 

 

「こんな所に呼び出してなんの用かな?■■ちゃん」

場所が再び切り替わる。どこかのビルの屋上だろうか

 

 

「そう嫌そうな顔をするな。私は別に危害を加える気は無いよ」

赤毛の少女を呼び出したのは褐色の肌を持つ少女だったらしい

 

 

「そう。それなら早く要件を言ってよ。」

 

 

「......やはりお前は変わったな■■。

お前のその変化が嬉しく、また悲しく思うよ」

褐色の少女は片手を上げて、パチンっと指を鳴らす

 

 

「......え?」

突如赤毛の少女は浮遊感を覚える

 

 

「悪いな■■。お前はもう用済みだ。」

褐色の少女の言葉に応えるように

赤毛の少女の足元には真っ暗な大きい穴が空いていた

 

 

「な、何これ...!?」

赤毛の少女は咄嗟に天使のような羽を出し浮遊しようとするが

穴の底から無数の手が飛び出てくる

 

 

ガッガッ

伸びてきた手が少女の腕や足に絡みつく

 

 

「なっ...くぅっ!」

必死に体を振り少女は無数の腕を振り払う

 

 

「無駄だよ。“多勢に無勢”と言うだろう?」

顔にいやらしい笑みを浮かべながら褐色の少女が言う。

少しずつ、少しずつ少女の体は穴へと入っていく

 

 

「い、いや!や、やめてよ■■ちゃん...っ!」

腰ほどまで穴に落ちた少女をさらに伸びてきた手が肩や顔も抑え込む

 

 

「さよならだ■■。ソッチでは楽しく過ごせよ。」

突如として褐色の少女が

先程までの邪悪な笑みとは違い、優しく笑いかける

 

 

「嫌だ...!やめて...!嫌だよ!

■■お姉ちゃん、■■ちゃん、助け...て......」

 

 

ズプリッ

と赤毛の少女の姿が穴の中へと落ち、消える。

それと同時に俺の意識も落ちる

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

ポツリと頬に水が当たる感触で目を覚ました

 

 

「ん?俺は一体...」

横になっていたらしく体を起こして周囲を見回す

 

 

「...あれ?コイツは確か。」

少し離れた場所に先程襲撃をしてきた少女が横に倒れていた

 

 

「すー......すー......」

 

 

「・・・たくっ。呑気なもんだな」

このまま夜の橋の上に放置するのは容易だが

流石に風邪をひかれては寝覚めが悪いのでしかたなく少女へと近寄り

 

 

「失礼しますよっと。」

ほんの一瞬お姫様抱っこと迷ったのだが見るからに可愛い部類に入る

この少女を抱き抱えながら歩くのは俺の精神衛生上良くないので

やさしくおぶり、歩き出す

 

 

「すー......すー......」

 

 

「本当に呑気なもんだなぁ。」

さっきまで戦ってた相手に背負われてるなんて知ったのならこの少女は

一体どういう顔をするのだろうという悪戯心が俺の中で大きくなった

 

 

「・・・」

にしても入院してた事による禁欲状態を明けた

その日のうちに背中に柔らかい感触とは。これが生殺しか

 

 

 

 

 

 

〜数十分後 零也の部屋〜

 

 

ガチャッ

 

「ただいま。」

片手で背中の少女を支え、空いた手で玄関のドアを開ける

 

 

「あ、おかえりなさい零也さ......」

ドアの開閉音を聞いてか沙耶香がトテトテとやってくるが

俺をより正確には背中の少女を見て固まる

 

 

「...頼む。何も言うな」

 

 

「え、あ、はい。分かりました。」

 

 

「おう。そうしてくれ。風呂は沸いてるか?」

 

 

「は、はい。なかなか帰ってこないので先に頂きましたけど」

言われてみれば沙耶香の髪は少し濡れており、顔も僅かに赤い

 

 

「そうか。なら俺もこの子を下ろしたら入るかな。」

よいしょっ。と再度少女を背負い直す

 

 

「分かりました。タオルなどの準備をしておきますね」

沙耶香もとりあえず切り替える事にしたらしく脱衣所へと向かう

 

 

「あぁ頼むよ。それと今日はこの子をベッドで寝かせて

俺はソファーで寝るから毛布出しといてくれると助かるかな。」

 

 

「分かりました。用意しておきます」

沙耶香が再度頷いたのを確認してから俺も寝室へと向かった。




名前は書いていませんが出てきてるキャラクターで
もう赤毛の少女の正体には予想をつけていた人は
今回の話で確信にハッキリと変わったのではないでしょうか。


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第13話 『家族が増えました。』

タイトル通りマンションの零也家に家族が増えます。
零也に沙耶香、それに誰なんでしょうね?(すっとぼけ)


それと今回の13話を投稿すると同時に
番外編①のタイトルを変更しました。


旧 “番外編①”
新 “番外編① 『赤と金の少女』”


って感じです。


〜翌日 とあるショッピングモール〜

 

 

「・・・はぁ〜〜〜〜」

俺、明智零也は大きなため息を吐いた。その理由は単純で

昨晩俺を襲った少女を“一時的”に俺の部屋で生活させる事になったからだ

 

 

『ご、ごめんなさい零也さん』

俺が座ったベンチで耳に当てた携帯の電話口から

ため息に対して疲れた声で【更識(さらしき) (かんざし)】が言う

 

 

「いや、簪のせいじゃないから気にするな。......はぁ〜」

と言いつつも俺の口からは今日何度目かも分からないため息が出る

 

 

「・・・」

昨晩、俺を襲った少女の写真を電話先の少女、簪に戸籍登録情報等を

調べてもらったのだがまさかの日本国内にはデータが存在せず

 

 

また、あの少女の現れ方も特殊であり、簪がここ数日間の

街灯カメラのデータを確認した結果、“何も無い空間から突然現れた”

としか思えない状態との事だった。

 

 

「他国のアーカイブにもデータがなかったんだよな?」

 

 

『うん。もしかしたらと思って死人のデータバンクも調べたけど

該当する子はもちろん、似ている子も一切いなかった。』

 

 

「全てが“不明”って事か...」

意識を電話口から目の前の店へと視線を向ける。

そこは女性洋服店で中では沙耶香と件の少女が服を選んでいる

 

 

『うん。更識で調べられなかったから

多分、他でも一切情報は出てこないと思う。』

少し虚しそうに簪が答える。

恐らく俺の信頼に答えられなかったことによるものだろう

 

 

「気にしなくていいんだぞ?」

俺は別に彼女を信用していない訳では無い。

むしろ100%の信頼をおいている。彼女が所属する更識家は

他国で言う所のCIAなどとタメを張れるほどの情報網を

持っており、その情報のおかげで明智は存在しているのだから。

 

 

『お姉ちゃんも少し調べてくれてるからまた連絡するね。』

 

 

「...そうか。っと戻ってきたな。また何か分かったら教えてくれ」

了解。という簪の声を聞いてから通話を終わらせてポケットへ入れる

 

 

「お待たせしました零也さん。」

沙耶香が手元から俺のブラックカードを手渡す

 

 

「ありがとねお兄ちゃん♪」

隣の少女は紙袋を持ちながらニコニコと笑う

なんらかの思い入れがあるらしくこの少女は俺の事をずっと

“お兄ちゃん”と呼んでいる。一応妹がいる身なのだが

呼び方1つで印象が違うから呼び方とは不思議なものだ。

 

 

「......守りたい。この笑顔」

自然と口から言葉が出ていた

 

 

「・・・どうしたの?」

少女が無邪気に首を傾げる

 

 

「いや、なんでもない。次はどうする?」

 

 

「衣服は買えましたし残りは日用品と下着、それと寝具関係ですかね」

俺の問いに沙耶香がメモ帳を見ながら答える

 

 

「そうだな。だけど先に飯にするか?時間もいい時間だし。」

俺は腕に巻いた時計を見ると時間は11:22を指していた

 

 

「そうですね。何か食べたいものはありますか?・・・甘い物以外で。」

俺の言葉を聞き沙耶香が少女へと聞く。

“甘い物以外”と言ったのは今朝沙耶香が朝食を用意した際に

 

 

『甘い物が食べたい』

と言い出し、沙耶香を無言で怒らせたのが原因だ

 

 

「むぅ。」

 

 

「そうむくれるなよ。」

ため息に続いて苦笑いまで出た俺は仕方なく、

2人をフードコートへ案内したのだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

〜夜 零也のマンション〜

 

 

 

「戸籍の偽造登録、ですか?」

 

 

「あぁ。アイツのデータをこっちで作って明智の人間として使う。」

沙耶香からの問に俺は風呂場へ指を向けながら答える

 

 

「でもいいんですか?零也さん、彼女は一応襲撃者ですよ?

そんな人物を明智で匿うだなんて......」

 

 

「大丈夫じゃないか?昨晩俺が襲撃された事は沙耶香を入れて3人しか

知らないし。今日1日見てた範囲では敵意も悪意も感じなかったからな」

 

 

「で、ですが......」

俺を見る沙耶香の目が不安で大きく揺れる

 

 

「大丈夫だよ。そう簡単には死なないからな。

まぁ、昨日は上手いこと隙をつかれたけど......次はない。

だから、大丈夫だ。命を狙われんのは慣れてる。」

手を伸ばし、沙耶香の頭を優しく撫でる

 

 

「んっ、零也さん。」

 

 

「それにもともと沙耶香にもアイツの監視は手伝ってもらう気だ。

俺が何かを見逃した時にはお前がそこを注意してくれ。」

 

 

「はい。お任せ下さい。絶対に、もう零也さんに怪我はさせません」

そこまで言うと沙耶香は体を倒し、俺の方へ頭を乗せる

 

 

「...どうした?今日は随分と甘えん坊だな。」

 

 

「たまにはこういう日だってありますよ...」

 

 

「まぁ、それもそうか。」

再度手を移動させ、沙耶香を撫でてやる。

 

 

「戸籍登録はアドシアードのタイミングに被せて済ませる。

アドシアードが終わった後に武偵校の1年生として編入させるつもりだ」

 

 

「そうですね。そのタイミングなら学校側も書類仕事が多いですし

少しくらいデータを改ざんしても問題ないかと思います。」

 

 

「そうだな。問題はアイツが学校に行きたがるか、だな。」

 

 

「そこは問題ないと思います。彼女も家に缶詰では暇でしょうから」

 

 

「まぁ、それもそうか。」

沙耶香と2人して笑い合う。何気ない日常の一幕だ

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「どうしてこうなった?」

今日一日で何度目かも分からないため息を吐く。

 

 

「可愛い〜♪」

俺の視線の先では赤毛の少女改め、【黒咲芽亜(くろさきめあ)】が

金の髪を持つ“少女”を抱きしめている。

 

 

「ちょ、ちょっと、は、離してくださいぃぃ...////」

ハイテンションな芽亜、改めてメアに対して抱きしめられた少女は

恥ずかしいらしく顔が赤い。ちなみに普段こういう状況を収めてくれる

沙耶香は現在入浴中だ。

 

 

「まぁ、呼べば100%風呂からそのまま出てくるけどな。」

脳裏に風呂上がりの沙耶香が全裸のままの姿でここに来て

メアと少女を引き剥がすその光景が容易に浮かぶ。

と、いかんいかん。煩悩退散煩悩退散心頭滅却すれば火もまた涼し

 

 

「え、えっと、【明智零也】さん。ですよね。」

メアの拘束から逃れた少女が俺の元へトテトテと歩いてくる

 

 

「ん、あぁ。そうだ。君は?」

流石に見るから年が低そうな子供に“お前呼び”は

後々少女自身への教育的な影響が出るので控えめに対応をする。

 

 

「は、はい。フェイト、【フェイト・テスタロッサ】です。

じゅ、11才です。よ、よろしくお願いします。」

引っ込み思案な性格なのかそれとも人に慣れていないのか

彼女の言葉は少しづつ小さくなる。

 

 

「ん、それで?単刀直入、あぁハッキリ聞くけどなんで俺の家に?

というかさっきのはどういう意味?」

正確にはマンションだが。と付け加える。

この少女は先程、沙耶香が風呂に入ると同時にインターホンを鳴らし

俺達の部屋に来たのだ。しかも、

 

 

 

 

 

『か、かか、家族にしてもらいに来ました!』

ドアを開けた俺の顔を見ると同時に少女は勇気を振り絞ったのか

若干涙目になりながら俺へそう言い放ったのだ。

 

 

 

 

『・・・は?』

とりあえず外に立たせるのも悪いので招き入れた訳だが。

 

 

 

 

「フェイトって言うんだ!可愛いなぁ〜♪」

再度、メアが目の前の少女、フェイトに抱きつく

 

 

「ひゃぅあ!?は、離してくださいぃぃ////」

あぁ、これは人にというかスキンシップに慣れてないだけだな。

 

 

「...メア。俺は今この子とマジメな話をしてるんだ。

少しの間でいいから離れててくれないか?」

ため息混じりに言う

 

 

「むぅ。分かったよ〜」

不満そうな顔をしながらメアは寝室へと向かう。

欠伸をしながら入っていくのを見るに眠気もピークだったのだろう。

 

 

「......」

壁にかけてある時計を見る。時刻は20:40を回ったところ。

メアは随分と健康的な生活をしているようだな。

 

 

「あ、あの...」

メアと会話をした直後に時間を確認して視線を向けなかったせいか

少女、フェイトは不安そうな声を俺にかける

 

 

「あぁ。すまないな。話を聞きたいところだけど眠気は大丈夫か?」

 

 

「は、はい!まだ大丈夫、です。」

俺の問いに肩をビクッと動かしながらも答える。

 

 

「そうか。コーヒー淹れるけど飲む......わけないか。

ホットミルクにするか、少しだけ待っててくれ」

ソファーから立ち上がり、少女へと視線を向けてからキッチンへ向かう

 

 

「は、はい!」

反応の一つ一つがオーバーだな

今は無理だけど後々イジったら面白そうだ。

 

 

 

 

その後、少女と話し合った結果。

見事に少女、フェイトもメアと同じで明智で

引き取る事に決まったのだった。

 

 

ちなみにフェイトが俺の家に来た理由としては

フランスに戻った理子と出会い、理子に伝えられるまま

向かった先がこのマンションだったらしい。




とまぁ、そんな訳で1人どころか2人家族が増えました。
この2人は書き初めの本当に初めから出したい2人だったんです!
まぁ、零也には苦労をかけることになるかと思いますけど(笑)


ま、なんとかなるよね!


零也「ふざけんな!」


知ーらない(そっぽ向き)


番外編はあと1話書くか悩んでいる感じですね。
まぁネタが思いつかなければそのままデュランダル編に入ります。


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