この平行世界《パラレルワールド》にも祝福を! (めむみん)
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不思議な邂逅

後日談いつかやるかも知れませんと言ってたので書いてみました。


-FUSHIGINAKAIKOU-

 

俺は佐藤和真十六歳。

日本ではただの高校生だった。

色々あって引き籠もりなんてやってたけど、そんな生活にある日突然、終止符を打たれた。

俺自身の死を以て。

死因については聞かないでくれると助かる。

それで、俺は死んだ訳なんだが、変な勧誘に乗せられて異世界転生してしまった。

初め聞いた時は、俺も乗り気だったのだが、俺のやる気は失われつつある。

何が嬉しくて、こんな路地裏で、二人悲しく座らなきゃならないんだ。

その原因は…

 

「おい、登録手数料とか有るなら持たせとけよ。不親切だぞ」

「そんな事言われても私だって知らなかったのよ。それよりもこの後どうするのヒキニート?」

 

この口の悪い奴が、俺をこの世界に導いた女神だ。

正直に言って、今の所何の役にも立ってない。

街の事とか聴いても、下々の話は知らないとか言い出すし、金も持ってない。

それに、初期装備も渡されてないし、この女神仕事し無さすぎだろ。

でも女神だから、戦闘においては役に立つと思う。

と言うかそうじゃないと困る。

 

「ヒキニートは止めろ!取り敢えずバイトでも探して…」

 

意気込んでいると急にジャージを引っ張られた。

負荷が掛かる方を見ると、如何にもな魔法少女が立っていた。

手には魔法の杖が握られ、マントを羽織りトンガリ帽子を被っていた。

紅目で黒髪。顔は整っていて、なんと言うか美少女フィギュアみたいな感じの子だ。

にしてもそんな子が俺らに何の用だろうか?

どうせ、迷子か冷やかしあたりだろう。

 

「お困りのようですね。我が登録手数料を払って上げましょう。その代わりに我を仲間に入れるのです」

 

・・・なんか痛い子が来た。

めっちゃドヤ顔で変なポーズ取ってる。

それにこんなちっちゃい子に金貰うとか、気が引けて出来ない。

 

「・・・今何か失礼な事考えてませんでしたか?」

「いや、何も。その話は嬉しいけど、本当にいいのか?親御さんの許可は出てるんだろうな」

 

恐らく、金はあるけど一人だと冒険者にはなれないから俺らを巻き込もうとかそのあたりだろう。

 

「何故親が出てくるのですか?それに何方かと言うと、私が仕送りをしている側なのですが」

 

嘘だろってツッコミたかったが、この際、背に腹はかえられないか。

黙っておこう。

 

「カズマカズマ。この子紅魔族よ。即戦力になるわ!」

「そうなのか?」

 

紅魔族が何なのかよく分からないけど、多分魔法に強い種族だろう。

こいつの身なり的に。

 

「ふっふっふっ、我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操りし者!やがて世界最強の魔法使いとなる者!」

 

完全に中二病患者じゃねえか。

何となくカッコイイと思っちゃうのが悔しい。

でも、これがこっちでの自己紹介の仕方だったら、変に思われるしどうしよう。

あとめぐみんって何だよ。

 

「・・・めぐみんって本名でいいのか?」

「そうですけど、我が名に何か文句でも?」

 

紅い目で睨まれると結構怖い。

恥ずかしいけど自己紹介するか。

 

「ないです。じゃあえっと、コホン。我が名はカズマ!日本一のギルド元幹部にして強運に恵まれし者!やがて魔王討伐を成し遂げんとする者!」

 

ふう。

何とかやり切った。

やってみたら案外気持ちいいなこの名乗り。

そう思って出来栄えを確認すると。

 

「ふぁぁ、か、カッコイイです!!もう一度お願いします!」

「プークスクス!中二病ヒキニートとか超ウケるんですけどー!もう一回見せなさいよ!」

 

よし、この女神は一回絞めよう。

あとこの子はどうしよう。

すげえ目を輝かせてんだけど、これ普通の挨拶じゃないみたいだしやりたくないんだが。

 

「もうやらないからな」

「もう一度だけだめですか?」

 

上目遣いで訴えてくる。

勿論、そんな事をされても俺の考えは変わらない。

 

「ごめん。恥ずかしいから無理だ」

 

それを聴いためぐみんのテンションは分かりやすく下がった。

正直、この面倒な女神さえ居なけりゃやるんだけどな。

 

「じゃあ私の自己紹介ね。私はアクア。気軽に呼び捨てでいいわ」

「えっと、はい。アクアもよろしくお願いします」

 

アクアの事がどうでもいいレベルに落ち込んでる。

それ程、俺の名乗りはこの子の琴線に触れたようだ。

 

「・・・そろそろ登録しに行きますか?」

「そうだな。登録しないと始まらないしな」

 

こうして俺らはギルドへと戻った。

 

 

 

「こちらの書類に身長・体重・年齢・身体的特徴を記入してください」

 

受付のお姉さんから冒険者についての説明を受け、ゲームのようなこの世界に俺は感動した。

そして今、登録手続きをしている。

この書類、氏名欄や性別欄がないけど、どうなってるんだろう?

考えても始まらないか。

身長165センチ、体重はえっと、だいたい五十五くらいだったから55キログラムと。

・・・そういや単位ってセンチとグラムで通じるのだろうか?

年は・・・この国ってどうやって年齢数えるんだろう?

 

「アクア、俺って何歳になるんだ?」

「・・・あっ、今の日本と一緒よ」

 

こいつ!

何言ってんのって感じで一瞬嗤いやがった。

くっ、ここが人前じゃなかった引っぱ叩いてやりいた。

じゃあ年は16っと。

容姿は茶髪に茶色目・・・・・・。

 

「ありがとうございます。では此方の水晶に手を翳してください。あっ、何方の手でも構いませんよ」

 

言われて右手を登録機の水晶に翳す。

するとその下に置かれた冒険者カードにステータスが記録されていく。

これで俺の隠れた才能が開花するって訳だな。

 

「えっと、サトウカズマさんですね。能力は、知力が平均より高い以外は普通ですね。あっ、幸運値が凄く高いです!まあ、冒険者に幸運値は、あまり必要ないのですけど。これですと商人の方になる事をオススメしますが・・・どうなさいますか?」

 

どうしよう。

真っ先に冒険者人生否定された。

能力が普通ってだけで凹んでるのに。

 

「冒険者でお願いします・・・」

「・・・冒険者は全てのスキルを習得可能ですし、レベルが上がったらクラスチェンジも出来るかもしれないので、大丈夫ですよ」

 

 

受付のお姉さんはちゃんとフォローしてくれた。

なんか急にやる気湧いてきた。

ゲームのレベリング感覚だな。

 

「でも冒険者って本職の補正がないから結局威力に欠けるのよね。それに冒険者でクラスチェンジ出来るのって、殆ど稀でみんな途中で諦めちゃうのよ」

 

こいつ!

折角お姉さんが助け舟出してくれたのに直ぐに沈めやがった!

もう俺、商人として生きていこうかな。

お姉さんも笑顔が乾いてきた。

 

「カズマ大丈夫です。私が居るので安心してください」

「・・・俺やっぱ商人になろうかな」

 

年下の女の子に頼りにしてくださいと言われるのは男としてどうなのだろうか?

ヒモにはなりたくない。

 

「ダメですよ!私はカズマと魔王討伐するんですから!」

 

・・・こいつはこいつで頭おかしいだろ。

さっきの話聞いてて、よく俺と魔王討伐行こうとか言えるよな。

やっぱり親御さんの許可なく冒険者やってんじゃなかろうか?

 

「じゃあ次私の番ね。こうかしら?」

 

俺と同じく魔道具に手を翳すアクア。

俺は切に願った。

こいつもステータス貧弱であれと。

 

「こ、これは!?知力と幸運値を除いた全てのステータスが平均を優に超えてますよ!」

「ねえねえ、それって私が凄いって事?」

 

・・・こう言うのって俺に起こるはずのイベントじゃないの?

 

「凄いなんてレベルじゃないですよ!知力の必要な魔法職は無理ですが、最高の攻撃力を誇るソードマスターに、最高の防御力を誇るクルセイダー、僧侶(プリースト)の上級職であるアークプリースト!・・・何でもなれますよ!」

 

すげえドヤ顔で見てくるアクア。

マジうぜえ。

分かってたさ。こいつ女神だもんな!

強くて当然だわ。

知力と幸運値低いってのがちょっと救いだな。

それに知力低いのは何となく分かる気がする。

そういやこいつ俺と真逆のステータスしてやがる。

とはいえ完全に俺の負けだけど。

 

「そうね。女神って役職がないのは残念だけど、ここは、アークプリーストにしておくわ」

 

女神が自分の宗派のプリーストするってなんか滑稽だな。

取り敢えず嗤っておこう。

 

「アークプリーストですね!あらゆる支援魔法と回復魔法を使いこなし、前衛としても遜色ない万能職ですよ!冒険者ギルドへようこそアクア様!スタッフ一同、今後の活躍に期待しております」

 

お姉さんは初め一文無しで来た時には見せなかった、にこやかな笑顔でそう言った。

・・・あれ?

やっぱりこう言うのって、俺に起きるべきイベントなんじゃ・・・

 

「さあ、冒険者登録も終わりましたし、クエスト受けましょう!」

「・・・俺武器ないんだけども」

「・・・明日武器屋に行きましょう。お金は私が出しますので」

 

ホント用意が悪過ぎる。

全部、今有頂天になってるこの女神の所為なんだけども。

 

まあ、なんにせよ。

こうしてグダグダながらも俺の異世界生活が始まった。

 

 

 

武器を買って貰うのは忍びなかったので、バイトしてお金貯める事にしたのだが・・・

 

「カズマ付き合ってください」

 

昨日仲間になった魔法少女が、唐突にそんな事を言い出した。

そして俺の答えはもちろん。

 

「嫌だ」

「即答ですか!もうちょっと悩んでくれてもいいじゃないですか!」

 

何を悩むと言うのだろう。

これに対して、はい分かりましたなんて言える余裕は今ない。

 

「バイトしてる方が圧倒的に有益なんだよ!」

「ですから武器代は、私が払うと言ってるではないですか!日課に付いてきてくださいよ!仲間のスキル上達も有益ですよ!」

 

そう。

付き合ってと言うのは、別に俺にモテ期が来た訳では無い。

こいつが日課と言い張る爆裂魔法を何も無い場所に放つと言う、特に意味の無い行為に付き合ってくれと言う意味だ。

昨日、急にデートしましょうとか言われて、騙されたばかりなのに、同じ手を食らう程、俺も馬鹿じゃない。

 

「昨日寝てしまった事は謝りますからお願いします!!仲間とのスキンシップも大切ですよ!!」

「・・・はあ。じゃあバイト終わりに行くからそれまで待っててくれ」

 

どうせアクアは付いて行かないだろうし、仕方ない。

スキンシップつってもおんぶするだけだろうに。

 

「じゃあ、私もバイトします」

「分かった。バイト先はギルドの食堂だ。人足りてないみたいだから、多分一緒に働けると思う」

 

金がない話をしていたらマスターに誘われたのだ。

アクアは先に行って少しでも多く貰うとか言ってた。

開店時間的に意味ないと思うけど。

 

「そうですか。今日も一日頑張りましょう」

「嗚呼」

 

頑張ってヒモ状態を脱したい。

本人は要らないと言っているがちゃんと登録料も返さなければならない。

パーティーの仲でも貸し借りは無しの方がいいからな。

 

 

 

「兄ちゃん、裏の畑から秋刀魚取ってきてくれ」

「はい、分かりま・・・あの今なんて言いましたか?」

 

訳の分からぬ事を言う店主に聞き返したが、奥に行って聞いていなかった。

その代わりにめぐみんが答えた。

 

「裏の畑から秋刀魚取ってきてくれだそうですよ」

 

さも当然かのようにめぐみんは言った。

魚は川か海の水の中だよな?

土の中にも居るけど一応水はあるし、乾燥した畑に居るはずないと思いたい。

 

「・・・何で秋刀魚を畑に取りに行くんだ?」

「秋刀魚は畑から採る物でしょう?」

 

めぐみんが可哀想な奴を見る目をしている。

いや、おかしいのは俺じゃないと言いたいが、本当に秋刀魚が生えてそうだから黙っておこう。

 

「そうだっけ?取り敢えず取ってくるわ」

「行ってらっしゃい。変な虫にやられないように気を付けてくださいね」

「?嗚呼気を付ける」

 

恐らく害虫の事だろう。

百足とかそういう類の。

問題ないだろうなんて思ってた時期が俺にもありました。

 

「・・・これバイトの仕事じゃないと思う」

 

確かに秋刀魚は畑に居た。

そして、畑の土の中に百足も居た。

勿論、俺は虫が苦手な女々しい奴ではない。

奴ではないのだが。

この百足に近付けるやつはいないと思う。

だって、畑の足場と言う足場に、うじゃうじゃ居て、筆舌に尽くし難い状態だ。

 

「カズマ、何やってるんですか?遅いから見て来いって・・・秋刀魚の取り方知らないのですか?」

「畑に生えてる秋刀魚の取り方は知らん」

 

聞くなり溜息を付いて、近くにあった釣竿を取り、めぐみんは秋刀魚を畑から釣った。

畑で釣りってシュール過ぎるだろ。

異文化交流はショックが大きいってレベルじゃないだろこれ。

 

「この時期は虫が多いので、釣るのが常識ですよ。カズマってもしかして没落貴族だったりしますか?」

「違うよ。俺は中流家庭だ」

 

平凡な家庭だったもんな。

俺って言う存在を除けば。

 

「それが何だか分かりませんが、分かりました。取り敢えず秋刀魚は取れましたし戻りましょう」

「そうだな。早く戻らないと減給されそうだ」

 

 

 

「随分遅かったな。まさか二人でイチャついてた訳じゃないだろうな?」

「そんな訳ないですよ。俺ら付き合ってませんし、ただ俺が秋刀魚の取り方知らなかっただけです」

 

弄られるとは思ってたけど、まんま言われるとは思ってなかった。

あと、戻って来たらアクアがクビになってた。

理由は何でも客の酒を飲んだらしい。

本人は水に変わったと供述しているそうだ。

昨日俺のジュースを水にしてたから多分それだな。

 

「・・・え?秋刀魚の取り方知らなかったのか?」

「はい。次からはちゃんと取って来ます」

 

すげえ怪しまれてる。

アクアの件があったからかもしれない。

 

「じゃあ聴くがそろそろ旬のキャベツは何処で取るもんだ?」

「畑ですよね?」

 

流石にこれが違ったら俺泣くよ?

だって生活出来ねえし。

 

「・・・君、豪商の子かい?」

 

めぐみんといい、店主さんといい、何故俺を金持ちだと思うのだろうか?

 

「家、金持ちじゃないですよ。じゃなかったら装備整える為にバイトなんてしませんよ。というかキャベツは畑じゃないんですか?」

「養殖のはそうだが基本は冒険者が外で取ってくる物だ。もしかしてキャベツの生産地生まれかい?」

「まあ、そんな所です」

 

キャベツ作ってたかどうかは知らないけど、農家はそこら中にあったし同じようなもんだろ。

 

「疑って済まなかった。二人とも今日は上がっていいぞ」

「え?まだ三時間ですよ?」

「君はまず、常識を教わるべきだ。彼女に教えて貰いなさい。今日は研修日として扱って日当は出すから安心したまえ」

 

勉強して、金貰えるのは嬉しいけど、憐れまれてるこの感じが嫌だ。

それに何故か知らないけど、めぐみんが嬉しそうにしてる。

 

「分かりました。お疲れ様です。さて、カズマ宿に帰って常識確認しましょうか」

「あ、うん。お疲れ様でした」

 

こうして俺は何処か陽気なめぐみんと一緒に宿に帰った。




タグにお嬢様が居ないのはまだ出てないからです。
ちゃんと登場するので、ご安心ください。

本当の事言うと、すずみやさんにだけリメイクして貰うのはあれだったので私も続き書いてみました!


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本物の魔法使い

お久しぶりです!
勉強って大変ですよね。
早く解放されたいです笑
今回も駄文ですが、最後まで読んで頂けると幸いです。
めぐみんの常識講座が今始まる・・・


-HONMONONOMAHOUTSUKAI-

 

宿に着くとアクアの泣き声が廊下から聞こえた。

だが、聞かなかった事にして部屋に戻った。

めぐみんはアクアと同じ部屋に泊まっているが、急遽決まった常識講座は俺の部屋でする事となった。

 

「カズマ、今のこの状況理解してますか?」

「何の事だ?俺が馬鹿だって言いたいならその口引っ張るぞ」

「違いますよ。普通男女が同じ宿に入ったら結婚しなきゃいけないんですよ」

 

何言い出すんだこの子。

昨日のデートといい、朝の付き合ってくれといい、俺の事本当は好きなの?

 

「・・・は?てかお前はそれで何普通に入ったんだよ!」

「カズマが好きだから、です」

 

自分で考えときながらいざ言われると怯む。

それにモジモジしてるのが可愛い。

だがしかし、これとて講義の一つな気がする。

 

「・・・これ本当だったら洒落にならないから、嘘だよな?」

「勿論、嘘ですよ。まさかこのレベルとは思いませんでした」

 

ちょっとでも可愛いとか思った自分をしばきたい。

笑われるでもなく、溜息つかれたのが一番辛い。

 

「では色々と確認していきますね。柑橘類の保存はどうしますか?」

「どうも何も、食べやすい机の上とかに置いとけば、それで良いだろ?」

「そんな事したら目潰し所じゃすみませんよ?柑橘類は檻の中です」

 

目潰しって何?

もしかして野菜と果実ってみんな自我あんの?

もう嫌だこの世界。

 

「リンゴは何処で採れるでしょう?」

「どうせ冒険者が収穫するんだろ?」

「街の木から採れます」

 

基準が分からねえ。

もうちょっと分かりやすくしてくれよ。

 

「機動要塞デストロイヤーはどんな形をしてますか?」

「何だそれ?機動要塞?対魔王軍兵器か?」

「・・・元対魔王軍兵器です。今は暴走して、前方にある物を破壊しながら進んでいます。因みに形は蜘蛛のような物で、わしゃわしゃ動きます」

 

まんま破壊者(デストロイヤー)かよ。

命名したの日本人だ絶対。

あと、わしゃわしゃって何?

 

「女神アクアと女神エリスの関係はどの様なものでしょう?」

 

あの駄女神から推察するに、女神エリスってのも相当変な奴だろうな。

間違いない。

そういやどっかで聞いた事あるよなエリスって、何処だろ?

 

「姉妹とか?」

「先輩後輩の間です。・・・この国の国教は知ってますか?」

 

そんな事聴かれてもな、この国の名前も知らないってのに分かるわけないじゃん。

はあ、この国の通貨単位がエリスって事とこの街がアクセルって事しか社会情報ないぞ今の俺には。

・・・通貨単位エリス?

 

「女神エリスを崇める教会」

「正解ですが、何故エリス教と言わないのですか?一応聴きますが女神アクアの宗派名は?」

 

女神エリスがエリス教なら答えは決まってる。

 

「アクア教」

「・・・アクシズ教です。子供でも知ってる常識ですよ?」

 

しょうがないじゃん。

俺日本人だし、無宗教だし、宗教興味ないから。

初詣とか慣習的な行事とか旅行先の神社仏閣にちょっと寄るくらいで、他には信仰してる訳でもない宗教における神的存在の誕生日にパーティーする一般的な日本人なのだから。

 

「じゃあアクアはアクシズ教のプリーストなのか」

「そうですね。残念な事に信仰する神と同じ名前で自身を神だと思っちゃってますけど」

「それについては放置でいいから」

 

これで俺があいつは本物だって言ったら更に可哀想な奴認定されるって断言出来る。

アクアには悪いが痛い子として認識されたままで居てもらおう。

 

「・・・カズマ、もし疑問に思う事があれば随時確認してくださいね?」

「お前教えるの諦めただろ」

「・・・だって国教を知らないとか言われたら、もう何処から教えていいのか分かりませんよ」

 

それもそうか。

これならいっその事、外に出て確認する方が早いか。

 

「そういやこの国の名前って何?」

「ベルゼルグですよ。流石に冗談ですよね?」

 

言ってめぐみんは微笑みかける。

真剣に聴いたんだけどな。

 

「俺が嘘ついてるように見えるか?」

「・・・」

 

先程の笑みは消え、めぐみんは深刻そうに考え始めた。

 

「如何した?俺のあまりの無知ぶりにパーティー抜けたくなったか?」

「違いますよ。今後の方針を考えていただけです。それに私はカズマが追い出そうとしてもこのパーティーを抜ける気はありません」

 

何故この子は俺たちに固執するのだろう?

俺達の正体知ってる訳でも無さそうだし、意図が分からない。

そんな事を考えて居ると。

 

ギュルギュルギューー。

 

「・・・お腹空いたのか?」

「・・・はい」

 

 

こうして講義は一時中断し、昼食となった。

 

 

 

「・・・カズマはニホン出身なんですよね?」

 

残すはデザートだけと言う時にめぐみんはそんなことを聴いてきた。

 

「そうだけど。それがどうした?」

「ニホンと言う国名を初めて聞いたので、どのような国なのかなと思いまして」

 

そりゃあ、この世に存在しない国だもんな。

当たり障りの無い説明しておこう。

 

「四季があって、森や水が綺麗で自然豊かな島国だ」

「シマグニ?それはつまり一つの島が一つの国家という事ですか?」

 

まだ航海時代を迎えてないのだろうか?

 

「まあ大体合ってるけどちょっと違う。日本は主な四つの島と諸島があるんだ」

 

地球は丸いなんて言ったらどんな反応するんだろう。

やっぱ、変な奴扱いで終わりそうだからやめよ。

 

「・・・カズマって海の向こうから来たのですか?」

 

ありえないと思いながらの質問のように見える。

 

「俺はアクアに連れられてここに転移させられたんだ。そこら辺はよく知らないな」

「そうですか。カズマは海の果てに何があるか知ってますか?」

 

物凄く返答に困る質問だ。

適当に工業国とだけ伝えればよかったか。

 

「え、えっと、あれだろ。奈落の淵があるんだよな?」

「違いますよ。知らないなら素直に言ってください」

 

何が正解なんだ?

シッタカだと思って貰えたのは良かった。

 

「海の果てにあるのはこの国の真北です」

「ですよね」

 

球体論があるならあるって言ってくれよ。

 

「まあ、私の信じてる説がこれってだけで間違ってはないんですけどね」

「は?」

「カズマは可笑しいと思わないのですね。いや、初めからこの説を知ってましたよね?」

 

なんと鋭い子だろう。

 

「恥ずかしいから定説言いましたね?」

「定説って事は正解じゃねえか!球体説の方がマイナーなんだろ!」

「でもカズマは球体説の方を信じているのでしょう?」

 

なんでこの子さっきから俺の考え分かんの?

ちょっと怖い。

 

「まあ、な。平坦な道でもある程度離れりゃ見えなくなるんだ。丸い証拠だろ?」

「ふふっ、その通りです。カズマは賢いのですね」

 

何故か自分の事のように嬉しそうにしているめぐみん。

ガリレオもこんな風に理解者を欲していたのだろうか?

 

「さっきまで無知な奴として哀れまれてたんだが」

「・・・それはそれです。知識があるのと常識があるのは別です」

 

痛いとこ突かれるな。

日本にも旧帝国大学受かったのに、道のど真ん中で炬燵広げて捕まってる奴らも居るから、常識の大切さはよく分かる。

そしてここにも一人。

 

「そうだよな。頭良くても爆裂魔法しか使わないバカもいるもんな」

「おい、そのバカとは誰の事か聞こうじゃないか!」

 

臨戦態勢をとる俺達。

少しの間を取り、少し経つと俺らは自然と笑いだした。

引き篭ってたらこんな会話、弟とすら出来てなかったってのに楽しい。

親のスネ齧ってきた俺と爆裂魔法しか愛せないめぐみん。

お互いバカどうし、気が合うのかもしれない。

アクアも・・・いや、あいつは全体的にバカだ。

まあ、バカの集まりに変わりねえか。

 

「カズマ?どうかしましたか?」

「いや、何でも。俺達仲良くやってけそうだなって思っただけだ」

「そうですか。これからもよろしくお願いしますね」

 

早く武器手に入れて、こいつらと冒険者ライフ楽しもうか。

 

「嗚呼、そろそろ爆裂魔法撃ちに行くか」

「はい、と言いたい所なのですが少しいいですか?」

 

ある一点を見ながらめぐみんはそんな事を言った。

さっきの店の方角を。

 

「どうした?忘れ物か?」

「いえ、さっきから覗き見してるぼっちに声を掛けようかと」

 

言うと家の角からめぐみんと同じ紅い目の黒髪で、大人しそうな女の子が出てきた。

恐らくめぐみんの同級生だろう。

めぐみんよりも発育がよく。

よく育っている。

何がとは言わないが。

 

「だ、誰がぼっちよ!」

「用があるなら手短にお願いします。今からこの人とデートなので」

 

こいつマジで何考えてんだ?

あれか?

友達に彼氏出来ましたって見栄張りたい盛りなのか?

 

「え?で、デート?めぐみんが?」

「昨日も行きましたよね?」

 

嘘は言ってない。

この子の反応見るにこいつ恋バナとかしない系の奴だな。

マウント取りたいだけだろうけど、一応俺は事実を伝える事にした。

 

「・・・お前、昨日はすぐ寝て終わっただろ」

 

・・・あれ?

何か不味い気がする。

この言い方、変な誤解受けそう。

 

「え、・・・ぇぇぇぇぇええええええ!?」

 

どっちだ?

これはどっちの反応だ?

めぐみんにデート相手!?なのかそれとも・・・

 

「・・・そう言えばあなた誰ですか?私の友人に自己紹介をしない人はいません」

「ちょっと待って!ぼっちだとか言った相手にそれはおかしいでしょ!」

 

全くその通り。

紅魔の子頑張れ!

このバカにもっと言ってやれ!

 

「いえ、物陰から人の会話をコソコソ聞くのはぼっちだろうと思いまして」

「あぁ、もう。恥ずかしいから人前で名乗りしたくないのに・・・」

 

言ってぼっちと呼ばれた紅魔族の少女は決心したのか大きく息を吸った。

 

「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、中級魔法を操る者!・・・やがて紅魔族族長となる者!」

 

恥ずかしがりながらもポーズを決めて、不安そうに俺を見るゆんゆん。

そして、恐らくこれが目的だったのであろう、俺の名乗りに期待して目を輝かせためぐみん。

 

「ゆんゆんよろしく。それじゃ俺も」

 

ゆんゆんは何が起こっているのか理解が及んでいないらしい。

口をぽかんと開けて固まっている。

多分、俺がめぐみんと初めて会った時みたいな反応すると思ってたんだろう。

 

「我が名はカズマ!最弱職冒険者にして、その日暮らしをする者!・・・やがて魔王を屠らんとしていた者!」

 

この爽快感いい。

何よりめぐみんの畏敬の眼差しが心地いい。

やばい。

何か癖になりそう。

俺の封印したはずの中二心が。

 

「やっぱりカズマの名乗りはカッコイイです!付き合ってください!」

「はいはい、そう言うのいいからちゃんと友達の相手してやれ」

 

俺が名乗りをあげてからずっとゆんゆんは固まっていた。

めぐみんはと言うと俺にスルーされたストレスをゆんゆんにチョップして発散している。

 

「はっ!えっとカズマさんよろしくお願いします。めぐみんいい仲間を持ったわね。あとチョップするのやめて」

「カズマの顔に免じてやめてあげます。で今日は何の用ですか?」

「そろそろ他の街でまた修行しようかなって思って、それを伝えに来たの」

 

またって事は一度アクセルから離れてたのか?

 

「そんなの勝手にすればいいでしょう。何故そんな、」

 

めぐみんは思い当たる節があるのか黙った。

 

「めぐみんに仲間が出来たなら私が居なくても大丈夫でしょう?」

「別にあなたを頼った事はありません。ただ用事があって呼び戻しただけです」

 

嘘はついてないみたいだけど何かありそうだ。

下手に突っ込まない方がいいだろうし黙っておこう。

 

「「「・・・」」」

 

しかし、この雰囲気重たい。

こうなったら。

 

「なあ、ゆんゆん。デートもといこいつの爆裂魔法撃ちに行くの一緒に見に行かないか?魔物に見つかったら、俺は武器持ってないから対抗手段がなくてな」

「あっ!何バラしてるんですか!折角自称私のライバルに女としても私が上だと思わせようとしていたのに!」

 

やっぱりか。

 

「え?って事はカズマさんって恋人じゃ」

「ない。そもそも俺はロリコンじゃない」

 

大事な事だもう一度、心の中だけど言おう。

俺はロリコンじゃない!

 

「なにをおおおおお!誰がロリッ娘か聞こうじゃないか!」

「誰もそんな事言ってない!それに怒るって事は認めたも同然だろ。っておい、お前何する気だ」

 

めぐみんは戦闘態勢を取り、怪しげな手の動きをさせている。

体術勝負なんかしたらステータスの弱い俺が負ける。

 

「気にする事はありませんちょっとキツめのハグをするだけです」

「や、やめろおおお!!」

 

そして路地裏に俺の悲痛の叫びが、叫びが・・・叫びは?

 

「カズマ、今ドキドキしてるでしょう?」

 

何言ってんのこいつ?

めっちゃかわいい。

鼓動が早くなって、それこそ心臓がめぐみんに爆裂されそうなんですけど!

 

「ふふふ、図星のようですね。ロリコンではないカズマが、私相手に意識したのですから、私はロリッ娘ではありません。これで証明は完了しました。って事で、ここに居るロリッ娘はゆんゆんですね」

 

言い終わるとめぐみんは顔を隠しながら離れて行った。

今のは何だったんだ?

いや、あいつの事だ。

自分の名誉の為に恥ずい事でも我慢してやったのかもしれん。

意識したら負けだ。

そうあいつをよく見ろあれはただのロリッ娘で・・・

 

「・・・え?なんで私ロリッ娘扱いされてるの?それにめぐみんどうしたの?顔真っ赤だよ?」

「な、何でもないですよ!それより今日の爆裂に護衛としてついてきてください!」

 

あかん。

これダメなヤツや。

照れてるめぐみん可愛すぎ!

惚れてまうやろ!

 

 

ってネタがやれる位にはまだ大丈夫だ。

なんとかなるだろう。

 

「う、うん。良いけど本当に大丈夫?熱とかない?」

「仮に熱だったとして、爆裂魔法を放ち消し飛ばしてみせましょう!」

 

やっぱこいつはないわ。

いくら可愛くても中身がな。

それに俺のタイプは髪が長くて巨乳の優しいお姉さんだ。

 

「…カズマ。今失礼な事考えてませんでしたか?」

「別に何も考えてないぞ。強いて言うなら紅魔族って可愛い子が多いのかなって考えてた」

「「・・・」」

 

あからさま過ぎたか。

二人とも俺を凝視している。

一言だけで良かったなこれ。

 

「最後の冗談だから変な目で見るなって、ほら、爆裂しに行くぞ」

「・・・今日はゆんゆんもいますし、遠くの方まで行きませんか?」

 

 

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

何もなかった平原から緑がなくなくり。

大きなクレーターが出来た。

これで土木業の人達に仕事が入る。

経済はこうやって回っていたりもする。

 

「今日もすげえな。なあ、上級魔法覚えるつもりは?」

「ないです」

 

こいつが上級魔法覚えたら、それこそ世界最強の魔法使いになれる気がする。

それ程の威力がある魔法なのだ。

 

「にしても、本物の魔法使いは違うな。ゆんゆん強いわ」

 

音に釣られて出てきた魔物を軽く倒している。

あの子がパーティーに居たらどれだけ楽だろうか。

 

「本物が居るって事は、偽物も居るという事ですよね。その偽物とは誰の事か聞こうじゃないか!」

 

言ってめぐみんは何とか動かせる手で俺の髪をぐしゃぐしゃとしていた。

俺に何かしてる時点で分かってるだろと言いたいが面倒だから黙っておこう。

 

「お待たせしました。すいません、ちょっと手間取ってしまいました」

「いやいや、気にする事はないって。ゆんゆんが居なかったら、こいつおぶって全速力で走るしかないから助かった」

 

真剣にこの子を引き入れたいと思えてきた。

気遣いの出来る良い子だ。

でもめぐみんが嫌がるだろうし、諦めよう。

 

 

 

「それじゃあ私はこれで」

「ゆんゆんまたな。修行頑張れよ」

「私に追い付けるよう、勝手に頑張っといてください」

 

何となく分かったきた。

こいつゆんゆんに対してはツンデレだな。

嫌いなのかと思ってたけど、どうやら違うらしい。

 

「うん。次会う時は絶対負けないからね!カズマさん今日はありがとうございました。めぐみんの事よろしくお願いします」

「何がよろしくお願いしますですか!あなたは私の保護者ではないでしょう!それにカズマを養ってるのは私です!」

 

うっ、改めて本人から養ってるとか言われると堪える。

偽物とか言ったの謝っとこ。

 

「そんな訳・・・え?本当にカズマさん養ってるの?」

 

この問いにめぐみんは、ただ頷き、ゆんゆんの視線が此方へと向く。

 

「・・・早くヒモ状態を抜け出そうと頑張ってます」

「・・・頑張ってください」

「はい・・・」

 

送り出す時と立場が逆転してしまった。

 

 

 

「さっきはごめん」

「何の事ですか?」

 

まるで何もなかったかのように振る舞うめぐみん。

髪をわしゃわしゃして気晴らしは済んでいたのだろうか?

 

「本物とか偽物って話」

「別に構いませんよ。そんな事より勉強です」

 

この時、俺の中でめぐみん株が急上昇した。




昨今の社会情勢で家から出られないという方は下記のリンクから私の最長シリーズをどうぞ!pixivの読了目安で十時間あるので暇潰しに丁度いいと思います笑
https://syosetu.org/novel/162652/


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知ってる知らない人

今回はめぐみん視点です!
と言っても1話2話の振り返りみたいなものですけど……
セリフは少ないです。


-SHITTERUSHIRANAIHITO-

 

出会ったその日に好きになり、そしてその日うちに付き合う事となった彼が居なくなり私は落ち込んでいた。

『記憶が無いかもしれないけど必ず会いに来る』

言って彼は見た事もない転移魔法で去って行ったのだ。

唯一残していったジャージと呼ばれる緑色のヘンテコな服を抱き締め心を落ち着かせる。

色んな意味でおかしなあの人との出会いは運命的なモノだった。

私が飢えに苦しみ助けを求めるも皆見て見ぬフリ。

私だって同じ立場なら素通りしていただろう。

でも、変な服装だったあの人は私を救ってくれた。

まず、彼の宿屋に連れられて食事をさせてくれた。

その間に彼は着替えをしていたのか奥から出てきた時には普通の服装だった。

初め身体目的かとも疑っていたがそんな素振りは見せなかった。

そこで私は彼を試すように何でもすると言ってみた。

すると彼は待ってましたと言わんばかりに口を緩ませた。

結局そういう事かと思いながら、一応残しておいた逃げ道を使うかと考えていた矢先、彼が私に言った事はあまりにもおかしかった。

『なら俺の事は忘れてこの金を持って今まで通り暮らしてくれ。これだけありゃ半年は持つだろ』

人助けをして、礼も貰わずに金を渡して自分の事は忘れろなんて意味がわからなかった。

あの時は変な冗談だと思っていたが、今思えば本当に私が邪魔だったのだろう。

そして優しいあの人は私が飢えに苦しまないようにお金を渡そうとしたのだ。

それなのに私は意地になってお礼をするまで離れないなんて言ってしまった。

彼は諦めて、私の友人を紹介するように言ってきた。

意図が全く読めなかったが、とりあえずゆんゆんを呼び戻して紹介した。

紹介したその日は取り留めのない話をしているだけだった。

ただ話している二人を見ていると凄くモヤモヤした。

会ってすぐの彼が他の人と話しているのを見て嫉妬していたのだ。

我ながら分かりやすい人間だなあと思ったけど、そのおかげで彼が消える前に告白も出来たし、デートやキスだって出来たのだから良かったのかもしれない。

しかし、告白はちゃんとやりたかった。

彼が眠ったと思っての独白が、告白になってしまったのだから、本当はお礼を終えた後にと考えていたのに。

それに、今思うと彼の布団に潜り込むとは大胆なことをしていたのだと気付く。

予想外の返答にすぐ驚くでもなく、了承してから気付いたあたり、彼は疲れていたのだろう。

拒絶されずに受け入れて貰えた時は嬉しかった。

嬉し過ぎて眠れずに独白を初めてしまう程に。

そして、彼が起きていたことに気付いて、逃げようとした時に彼が私を止めて、告白してくれたこと。

これが一番嬉しかった。

あの人が私に一目惚れしていたと語った時、一瞬何が起こったのか分からなかった。

混乱している間も彼が何か話していたがその時に何を言っていたのか分からなかった。

理解が及んで、確認すると、好きだと告げられ、更には付き合ってと告白された。

断る理由もなく私は了承した。

次の日、告白したことや、キスしたことなんかを思い出してろくに話せなかった。

気まずい空気が続き、宿屋から離れてギルドへ私達は向かった。

そこでゆんゆんとまた会ったのだが、彼はゆんゆんと二人で話がしたいと言い出した。

不思議に思いながらも私は離れた席から二人を見ることにした。

初めは談笑が続き、少し経つと何かのアクセサリーをゆんゆんが取り出して彼に渡した。

その後、また少し話をした後に二人は別れた。

そして、私は察した。

彼がこの街に来た目的はゆんゆんとの取引だと。

彼が戻って来た時に、少し意地悪してみたら面白い反応が返ってきた。

嘘発見器を持ってきてくれなんて言うのだから、おかしくて笑ってしまった。

そんなものがあるはずないのに、余程焦っていたのだろう。

その後は二人でデートをした。

今思えば、目的を達成して別れる前の最初で最後のデートを彼は最大限楽しもうとしていたのだろう。

空回りしていることもあったけど、私のことを想って行動してくれたのが凄く嬉しかった。

しかし、今彼は居ない。

あれから三日経つが私の心はもう限界に近い。

里を出る前の私が見たら嗤うだろう。

 

 

 

今日一日を頑張る為の踏ん切りをつけて宿屋を出た私はギルドへ向かった。

今日もまた爆裂散歩同行のクエストを出して、彼が現れないか探ってみようと考えていると誰かを呼ぶ叫び声がした。

 

『カズマ!置いてかないでよ!』

『お前が屋台に気を取られるから遅いんだろ』

 

思わず振り返るとそこに居たのは間違いなく彼だった。

しかも飛びっきりの美人と一緒に。

・・・どうしよう。

声を掛けたいけど、怖くて出来ない。

そんな風に悩んでいると二人はギルドへ入っていった。

今日に限って、まだクエストを出していない。

ついていないとはこのことだろう。

二人が出てくるのを待っていた。

すると、ギルドから出て来た二人は凄く陰鬱な感じだった。

ふらふらと二人は路地裏へと入り、座り込んで絶望感を醸し出していた。

そんな中で初めに彼が口を開いた。

話を聞くと、どうやらお金がなく、冒険者登録すら出来ないらしい。

彼から貰ったお金は山ほどあったし、近付くいい機会だと思って声を掛けた。

返ってきた反応は、初見のそれ。

彼が記憶が無いかもと言っていたけど、やはり心に来るものがある。

しかも凄く子供扱いされて、家出少女みたいな対応をされた。

以前とはまるで違う彼に少々残念と言うより、苛立ちを覚えてしまった。

理由は簡単。

私の名乗りを見て、外の人がする普通の反応をして、名前が本命か確認してきたのだ。

ただ一つ、変わっていなかったのは、私に合わせて名乗りをやってくれたことだろう。

名乗りを見て、苛立ちは収まり、初めて彼の名乗りを見たあの時の興奮が再びやってきた。

彼と一緒にいた女の子はカズマを笑っていた。

こんなにもカッコイイ名乗りの何処がおかしいのだろう。

もう一度と頼んでも女の子の方を見て、嫌そうにしている。

二人きりなら見せてくれたのかもしれない。

そんなことを考えて落ち込んでいると、女の子が自己紹介をしていた。

アクシズ教の女神と同じ名前らしい。

彼の名乗りをもう一度見れなくて落ち込んでいる私は多分無愛想になっていると思う。

後でちゃんと挨拶しよう。

 

 

 

冒険者登録を行うことになった。

私は二人に同行するだけであったが、二人のステータスが気になる。

まずはカズマから手続きを始めた。

結果カズマは商人を勧められてしまう。

どうやら幸運値と知力が高いらしい。

厳しい現実を突きつけられて悲しむカズマに受付のお姉さんがフォローを入れるもアクアがそれを粉砕して、さらに落ち込ませてしまった。

そこで私がカズマを安心させるように言ったのだが、逆効果だったのか商人になるとカズマは言った。

最強の魔法使いを目指すためにも、カズマの魔王討伐と言う目標は近い。

何としてでも冒険者になってもらわねばならない。

そう思い、私がカズマの説得を試みていると、アクアが登録を行っていた。

そして、話を聞くとどうやら幸運値と知力を除いてその他のステータスが非常に高いそうだ。

もしかして、本物の女神様だったりするのだろうか?

カズマが消えて、周りの人から彼は忘れられていた。

そんなことが出来るのは神か、上位の悪魔くらいだと思う。

そんな彼と行動を共にしているのだから有り得なくはない話だ。

最も、出会ってから見てきた、彼女の行動からは女神らしさなんて微塵もないし、アクシズ教の親が容姿が似ているからと名付けたに違いない。

しかし、アクアとカズマの関係性が未だに掴めていない。

恋人とは違うようだし、友達と言うには距離感が微妙だ。

なぜ二人は行動を共にしているのだろう。

アクアが女神とするならば、カズマの目的から察するに魔王討伐が目的なのだろう。

しかし、仮にアクアが女神ならば、最低限の装備や資金を持っているはずだ。

つまり、この仮説は正しくない。

ともすれば、二人は行きずりや腐れ縁と言った関係なのだろうか?

謎は深まるばかりである。

 

 

 

武器の調達をと私は二人を武器屋に案内しようとしたが、アクアには断られた。

自分のステッキは持っているから、今日はギルドに馴染むためにもここに残りたいと言っていた。

私としてもカズマと二人きりになれるいい機会だったから、特に引き止めはしなかった。

そして、私がお金を出すからと二人で武器屋に向かったもののやっぱり自分で稼いで買うとカズマが言い出した。

これでは会った時と立場が逆だなあと思って少し笑ってしまった。

カズマは不思議そうにこちらを見ていた。

そんな彼に私は、勇気をだして誘ってみたのであった。

 

「カズマ、もし良ければ、デートしませんか?」

 

すると、カズマの顔はみるみる赤く染っていき、口をパクパクし始めた。

居なくなったカズマとは違ってこちらのカズマは何だかカッコ良さよりも、かわいさの方が印象として強い。

そして、動揺しているカズマを見ていると嗜虐心を擽られる。

 

「私とじゃ嫌ですか?」

「嫌じゃないけど……」

「では決まりですね!行きましょう!」

 

半ば強引にデートへ誘うことに成功した。

だがしかし、私はデートに失敗する。

いや、デートそのものをしなかったのだ。

爆裂散歩の後にと、考えていたらそのまま眠ってしまい。

目が覚めたら何処のお店も閉まっている時間だった。

これではデートと偽って爆裂散歩に連れてきたみたいではないか。

明日こそはデートを!

 

 

 

昨日の決意を胸に、私はギルドに向かった。

そして、今度はデートの誘いよりも上のをするのであった。

 

「カズマ、付き合ってください」

 

言ってから思う。

唐突過ぎやしないだろうか。

カズマとは昨日会ったばかり。

しかもこっちでは私から声をかけたわけで……

 

「嫌だ」

 

まさかの即答で、拒否された。

もう少し悩んでもいいのではないかと抗議したが、無駄だった。

この様子だとカズマは誘っているのは単に爆裂散歩のための口実と思っているのだろう。

いや、この際、今は勘違いして貰おう。

本当は告白だったけれど、爆裂散歩に誘ったことにしよう。

そして、カズマを何とか爆裂散歩に着いてくると約束させてバイトに向かった。

カズマから貰ったお金だから返す必要はないというのに、登録料もいずれ返すと言って聞かない。まあ、本人は知らないから当然なのだが。

でもそんな所がカズマが、カズマたる所以なんだと思う。

 

 

 

ギルドに到着し、いざバイトと意気込んでいると、アクアがクビになってしまったようだ。

なんでもお客のお酒を飲んで水を提供したのだとか。

本人は勝手に水に変わったと言っていたが、そんなはずがない。

何故こんな人とカズマが一緒にいるのだろう?

二人の関係が気になって仕方ない。

と考えているとカズマが妙なことを聞いていた。

秋刀魚を取ってこいと言う単純な指示に困惑していたのだ。

初めは聞きそびれたのだろうと思っていたがどうやら違うらしい。

何か言いたげな顔をしたものの、一度確認したあとは黙って取りに行った。

行ったのだが、カズマはなかなか帰ってこない。

マスターはサボっているのではないかと言って見てくるように私に指示した。

私もカズマが心配だったので、快く引き受け畑に様子を見に来た。

するとカズマはサボって寝ている訳でも、釣りが下手で悪戦苦闘している訳でもなく、ただただ呆然と畑を前にして仁王立ちしていた。

何をしているのか聞こうと思ったものの、声を掛けてカズマの表情を見ると大体何を考えているのかは分かった。

百足だらけの畑からどうやって秋刀魚を取るのか分からなかったのだ。

しかも確認するとおかしなことを言っていた。

 

「秋刀魚の取り方も知らないのですか?」

「畑に生えてる秋刀魚の取り方は知らん」

 

まるで畑に生えていない秋刀魚を見たことがあるかのような言い方だった。

そして私は思った。

カズマは没落貴族で、生計を立てるために冒険者を始めようと決意し、似た境遇のアクアと行動を共にしているのではないかと。

カズマは茶髪に茶色目だが、カズマの幸運値や知力を考えると養子に入れられている可能性は十分にある。

しかし、予想は外れていた。

カズマはチュウリュウカテイと言う階級らしい。

言い方からして普通の身分なのだろう。

謎が解けたと思ったのに、さらに謎が増えてしまった。

そんなこんなで、私が秋刀魚釣りを披露し、次からのために釣り方を教授してから戻るとマスターからイチャついてただろと言われ、どうしようと考えていると、カズマが即座に否定した。

話はカズマが秋刀魚を知らないと言うのが事実かどうかについてに変わっていたが、そんなことより動揺もなく否定されたのが悲しい。

カズマは私を女として認識していないのではなかろうか?

突然不安になってきた。

もし、恋愛対象として見られていなかったら……

と考えているとマスターから今日は帰っていいと言われた。

しかもカズマに常識を教えるだけで、給料をくれると言う。

マスターのおかげでカズマと二人きりになれると喜んでいたこの時の私はカズマの常識の欠如を甘く見ていた。

最初はまあ、カズマが何処まで私を意識しているかも兼ねた質問から始めてみたものの、凄い動揺っぷりに安心できたようで、安心出来ない。

なんとカズマはサンマが畑で取れることを知らない所か、この国の名前も知らないと言う。

他にもアクシズ教のことをアクア教と言ったり、柑橘類を食べやすく机の上に置くと言ったりと非常識な面が浮き彫りとなった。

半ば諦めて、カズマの国の話を聞くと、興味深い話が聞けた。

カズマの国はシマグニと分類されるようだ。

島国と書くのだろうけど、島が単一の国で構成されると言う話は興味をそそる。

更にはカズマは球体説を知っていて、理解してくれた。

まあ、私は地球が丸いと思っただけで、球体説と言うのはカズマから聞いてピッタリな言葉だと思ったもの。

理解者が出来て嬉しい。

しかも、好きな人が理解者だともっと。

ゆんゆんも信じてくれたし、まあ、学校のみんなは信じてくれていたけど、外の人は絶対に信じてくれなかったのだ。

私はいい人に出会えたと再確認し、そして、改めて決意する。

カズマとまた、恋人になれるように頑張ると。




次の更新は遅すぎた恋心のシリーズです。
当シリーズ更新は未定です。


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教養講座

先週は投稿できずにすみません。
更にこちら側のミスで投稿が遅れてしまい申し訳ないです。
まさか書いてたメモが消えるとは思ってなかったんです。
いつもと違うことしたらダメだと学びました。


-KYOUYOUKOUZA-

 

転生先での教養のなさから勉強することになった俺は、今凄く落ち込んでいる。

何故なら年下の女の子に教養を教わり、更には、生活費まで出してもらっている。

親のスネを齧ってきたとは言え、見ず知らずの年下の女の子にあれやこれやとやってもらうのは気が引ける。

何とかヒモ状態を脱却する為にバイトを始めたら躓き、勉強をする今に至る。

でも、秋刀魚が畑で取れるのは絶対におかしいと思う。

他にはキャベツは空を飛ぶとか、柑橘類は目潰しをしてくるやら、あの駄女神を崇める宗教はアクシズ教と呼ばれてるやら、国名はベルゼルグだとか色々教わった。

その後めぐみんの友人に会い、話していると色々あって、更に落ち込むこととなった。

今は再度宿屋での勉強会をしている所。

勉強方法はめぐみんが持ってる本を読んで、理解の及ばない所を質問する形式。

読み始めて十数ページだが、もう一時間経ってる。

この世界は俺に優しくない。

そう思うのであった。

 

「カズマ?もう疲れましたか?」

「疲れてないけど惨めに思えてきてさ」

「何言ってるんですか。私がついてるんですから大丈夫です」

 

めぐみんはどうしてこうも男らしいのだろうか。

俺にもその男らしさ分けて欲しい。

はぁ、余計に惨めに思えてきた。

と言うかめぐみんがついてたとしても惨めなことに変わりはない気がする。

 

「落ち込んでいるカズマにプレゼントをあげましょう」

「プレゼントってなんだよ」

「勉強のご褒美です。ジャージだと目立ちますからね。これ着てください」

 

そう言って、冒険者っぽい緑を基調とした服を渡された。

流石にもう現物がある以上断れずに、受け取った。

俺このまま行くとめぐみんに何も言えなくなる気がする。

 

「ありがとう。これ着替えるからアクアの様子でも見に行ってくれないか?」

 

隣の部屋へめぐみんは向かった。

にしても俺の好みよく知ってるな。

まあ、ジャージ緑だから緑のイメージはあっただろうけども。

うん。悪くないな。

サイズもピッタリだ。

・・・ピッタリ?

なんでサイズが分かるんだ?

もしかしてデートと称した日課とやらの時に確認したのだろうか?

でもこっちの世界で英語読めるのか?

まさかおんぶされてる時の感覚で割り出したのだろうか?

 

「カズマ、着替え終わりましたか?」

「ああ、開けていいぞ」

 

俺の了承を得て、扉を開けためぐみんは何故か中に入ってこなかった。

不思議に思いジャージを畳むのをやめて、めぐみんを見ると何故か涙を流していた。

 

「・・・えっと、めぐみん?どうしたんだ?」

「へっ?な、何がですか?」

「何がって涙流してるし」

「こ、これは違いますよ。ゴミが入ったんですよ。あと、服がピッタリだったので驚いてただけです」

 

などと供述しているが、絶対何かあるだろう。

この服に何か思い入れがあるのか?

元の持ち主と俺が被って見えたとか?

・・・こう言うのは詮索しない方がいいよな。

黙っとこう。

 

「そうか。どうだ?似合ってるか?変じゃないよな?」

「ええ、凄く似合ってますよ。アクアにも見せましょう!」

「ちょっと待ってくれジャージ片付けるから」

「先に行ってます」

「ああ・・・」

 

何だったんだ?

涙してると思ったら今度はハイテンション?

子供って感情の起伏激しいし、ロリっ子なめぐみんが情緒不安定でもおかしくないか。

多分これだ。

あまりにも似合ってる俺を見て、感動のあまり涙し、それをアクアに見せようとした。

うん。これなら何の違和感もない。・・・はず。

 

「おーい、入るぞ」

「いいわよ」

「めぐみんから貰ったんだが、どうだ?」

「・・・そこはかとなくいい感じね。それに、あれよ。ジャージじゃファンタジー感ないしこっちの方が断然いいわよ」

 

全然褒めてねえだろ。

褒めるところないなら適当に似合ってるって言っとけ。

まあ、後半の部分には激しく同意するけども。

 

「にしても、服まで買ってもらうなんて、カズマってばヒキニートからヒモニートにジョブチェンジしたの?」

「してねえわ!こっち来てから働いてるからニートじゃねえし、それにお前もめぐみんに寝食養ってもらってるだろうが!」

「私は女神なのよ?この待遇は当然よ!」

 

金もなければ、現地情報も知らないやつが何を言ってるのだろうか。

俺が言えた質ではないが、女神ならそれくらい知っておけよ。

 

「・・・女神ってのはな。最低限の金や装備を整えてくれてるめぐみんみたいな人のことを言うんだ。間違ってもろくにバイトも出来ない駄女神じゃない」

「誰が駄女神ですって!それにどうしてめぐみんが女神なのよ!」

 

アクアが突っかかって来たが、俺は何も間違ったことは言ってないと思う。

もっと言うなら魔王を封印するとかそういう類のことしてくれてもいいと思う。

そして話題に上がっためぐみんはと言うと、女神と呼ばれて恥ずかしかったのか、モジモジしながらこちらをチラチラ見ている。

 

「こっち来てからのチュートリアル全部めぐみんがやってくれてるからだ!お前、こっち来てから俺にここの生態系は日本と違うとか教えてくれたか?秋刀魚が畑で採れるとか、キャベツは空飛ぶとか!」

「え、えっと・・・」

 

言い忘れてたみたいな顔してる。

何故俺はこいつを選んでしまったのだろうか。

と言うか転生前にステータス確認出来れば絶対に能力系のチート選択してたのに。

 

「あれだ。ゲームとかで言うメインヒロインの役割果たしたか?」

「・・・」

 

反論出来ずに涙目のまま、拳を作り、無言で近付くアクアであったが、めぐみんに制止された。

これで一先ず安心だ。

 

「カズマそのくらいでやめてあげてください。アクアもカズマに謝ってください」

 

・・・割とガチでめぐみんって女神様じゃなかろうか。

この世界に飛ばされて、右も左も分からなく金もない所を助けてくれたし、こうやって何か起これば止めてくれる。

めぐみんが年上のお姉さんなら一目惚れしてたな。

間違いない。

と考えているとアクアが謝ってきたので、こちらも言い過ぎたと謝っておいた。

・・・年下の女の子に仲裁される俺たちって本当に大丈夫なのだろうか?

異世界転生って、楽じゃない。

改めて認識させられた。

 

「仲直りも済んだことですし、夕飯食べに行きましょう!」

 

こうして俺たちは夕食へと向かうため宿を出たのであった。

 

 

 

「なあアクア、お前バイトはどうするんだ?」

「謎の巨大クレーターを埋める土木作業が臨時で出てたからそこに入ることにしたわ」

「・・・そ、そうか。頑張れよ」

 

絶対爆裂魔法で出来たクレーターだ。

めぐみんに視線を送るもひょいと明後日の方向を向いた。

間違いないな。

こいつ迷惑にならない場所でしかやってないとか言いつつ、やってるな。

 

「カズマはここで働き続けるの?」

「ああ、こっちの教養学びつつ、出来ることやって行く感じだな」

「ヒキニートの発言とは思えないくらい、勤勉なこと言ってるわね」

「俺をなんだと思ってんだお前は」

 

そりゃあ日本じゃ引きこもりやってたけど、理由はあったし、働かなきゃいけないなら働いてただろう。

ただ、引きこもりを許してくれる環境が整っていただけ。

人間誰しも必要に迫られれば、勤勉になるものだと思う。

 

「そんなことより、仲間増やしましょう!」

「急にどうしたんだ?仲間が増えるのはいい事だけどもさ」

「二人が一回部屋出た後に、ギルドに行ったんだけど、どこも四人とか五人パーティーだったから私達も増やしたいなあって思ったのよ」

 

駄女神にしては建設的な話を始めたと思ったら、大したこと無かった。

夕飯が華やかになるとかそういう類。

それが悪いかと聞かれれば否だけども。

 

「仲間増やしたいのは分かるけど、俺はまだ武器持ってないし、クエスト経験者はめぐみんだけだぞ?こんなパーティーに人なんて来ないだろ」

「そんなことないわ。この私が募集をかければ我こそはって勇者候補がやってくるに違いないわ」

「・・・めぐみんはどう思う?」

 

さっきから会話に参加しないめぐみんに伺いを立ててみた。

クレーターの話が出てからずっと静かだったからな。

 

「私もいいと思いますよ仲間の募集。三人だと厳しい所が多いですし」

「まあ、そうなるよな。とりあえず募集の張り紙作るか」

「決まりね!実はもう張り紙作ってあるのよ!見て!」

 

どんと机に叩きつけられた紙を受け取り、めぐみんと内容を読んだのだが、期せずして俺たちの感想はハモった。

 

「「舐めてる」」

「何が舐めてるの?」

「上級者限定って所もだし、このパーティーに入ったら宝くじに当たったとか、結婚出来たとか他にも色々あるけど、胡散臭過ぎるだろう」

「カズマの扱いが雑ですよ。みんなカッコよく紹介しないと意味がありません!」

 

そうだそうだ!

めぐみんもっと言ってやれ!

最弱職ヒキニートを引き連れる美人アークプリーストとか舐めたこと書いてるこいつをもっと攻めろ!

 

「このカズマをカッコよくしたりしたら、誇大広告になるじゃないの」

「お前が誇大広告言うな。書き直してこい」

「嫌よ!紙代結構高いんだから!」

「・・・はあ、明日一日出して無理だったら諦めろよ?」

「わかったわ。まあ、心配なんていらないけどね」

 

俺、この街来てから日本人に会ってないし、絶対勇者候補とやらは来ないと思う。

仮に居てもあんな胡散臭い募集には来ないだろう。

 

「そろそろお風呂にしませんか?」

 

ほとんど空気と化していためぐみんの提案にアクアはついて行った。

俺はと言うと、給料を貰ってから自分で行くために給料の受け渡し時間までギルドに残ることとなった。

アクア作の募集用紙の掲示許可を貰った俺は、掲示板に募集用紙を張った。

その後は、特にやることも無く、ウェイターの仕事を手伝っていた。

受け渡し時間になると、二人分の給料を貰った。

本当に今日一日働いたのと同じ額を貰えて驚いていた。

この世界の労働環境は案外ホワイトで優しいのかもしれない。

 

「カズマさん、少しいいですか?」

「はい。なんでしょう?」

 

声を掛けてきたのは美人な受付お姉さん。

初めてギルドに入った時はわざわざこの人のところに並んで冒険者登録しようとしたが失敗した。

アクアが金さえ持っていれば・・・

 

「実はパーティー募集についてあの方から話があるそうです」

「本当ですか!」

「はい。それでは私はこれで」

 

まさかあの募集に反応があるとは。

来ないと思っていたとは言え、これは何だか心弾むな。

しかも、遠目だが相手は聖騎士で超絶美人。

ワクワクしてきた。

 

「お待たせしました。パーティー募集の件で話があると聞いてきたんですけど・・・」

 

近付くと予想以上に美人過ぎて緊張してきた。

金髪碧眼で、巨乳で、美人。

身長も高いお姉さん。

やばい、心拍数が上がってる。

声も少し上擦ってしまった。

 

「やはり、あなたのいるパーティーか」

「えっと、何処かで会いましたか?」

 

ウェイターの時に持って行ったのだろうか?

でもこんな美人がいたら覚えてるよな?

 

「いや、私が一方的に知っているだけだ」

「・・・それで話というのは?」

 

一方的に?

登録料払えずにとぼとぼギルドから出ていった所なら多くの人に見られてるし、多分その時か?

・・・あまりいい印象とは言えないな。

 

「募集は明日からとあるが、私をパーティーに入れて貰えないだろうか?」

「・・・どうしてウチのパーティーに?」

 

俺としては美人のお姉さん。

しかも見た目からして聖騎士だろうし、こう言う人は大抵強者だ。

故に、なんの実績もないウチに来る理由が気になる。

 

「うむ。実は少女に貢がせ、引きこもり生活を送っている男がいると聞いて放っては置けないと思ってな」

 

・・・甘酸っぱい展開などなかった。

ちょっと待ってくれ!

貢がせてる訳じゃないし引きこもってもないのにどうしてそんな話が出るんだ!

あの駄女神が変な噂広げたのか?

もしそうなら全力でシバキに行く。

 

「・・・いや、あの。確かにヒモだとか言われたら言い返せませんけども、引きこもりじゃないですから!」

「しかし、今日もバイトを二人揃って抜け出し、宿屋へ入っていったと聞いたのだが」

 

事実ではあるけども、お姉さんが考えてるのとは絶対に違う。

勉強してただけだってのに、こんな言われ方する羽目になるとは……

 

「間違ってないけど、間違ってますって!」

「ともかくかよわい少女が食いものにされているのは騎士として許せない、それにうらやま・・・それに守らないといけない」

「・・・今羨ましいって言いかけませんでしたか?」

「言ってない」

 

少し挙動不審になってきた。

これは言いかけてたな。

・・・嫌な予感がする。

主にアクアを連れてきた時のあの感覚が・・・

ここは勿体ないが、断っておこう。

仮に言おうとしてなかったとしても、変な噂を聞いたからって理由で監視されても困る。

 

「・・・ともかく俺は今働いてこうやって給料も貰ってます。監視目的で入ろうとしてるならお断りします」

「なるほど。仲間に加わりたければ金を出し、更には身体を差し出せと?」

「・・・え?」

 

お姉さんが何言ってるか分からないし、分かりたくない。

嫌な予感はどうやら的中したようだ。

それと顔が近い、こんな変なこと言ってても美人だからドキドキする。

 

「そして、少女に手を出すのをやめろと言うと、代わりが必要だと私にさらなる要求を!!」

 

周囲の目がクズを見る目になってるからやめてくれ!

ここ職場なんだよ!

悪評広められたらクビになるかもしれないってのに!

分かったこの人ドMだ。

俺を監視じゃなくて、俺のクズい噂を聞いて飛んで来ただけだ。

こういう奴は話通じないから逃げよう。

 

「・・・悪いけど、酒を飲みすぎてしんどいから今日は帰らせてくれないか?」

「はっ、す、すまない。気付けなくて。ではまた」

 

何だったんだ今のは。

絶対危ない奴だ。

見てくれに騙される所だった。

それに、あの話を聞くと俺の評判悪いんだろうなあ。

まあ、めぐみんに養ってもらってるのは事実だけど。

今後の行動は、気を付けないといけないな。

 

 

 

宿屋に着くと部屋に何故かめぐみんがいた。

しかも布団で寝ていた。

部屋を間違えたのかとも思ったが、鍵の番号は合っている。

俺が鍵閉め忘れたから待っててくれたのか?

それだったら悪いことしたな。

 

「おーい。めぐみん起きろ。帰ったぞ」

「ふわぁ〜。おかえりなさい。帰りを待っていたら寝てしまいました」

 

やっぱり鍵の閉め忘れかな。

眠そうにベッドから出てきためぐみんは少しふらつき危うげな足取りで近付いて来た。

 

「悪い。ちょっと色々あって・・・」

 

お約束と言うかなんと言うか、バランスを取れなくなっためぐみんが倒れてきた。

覚醒するまで、ゆっくりしていってもいいのに。

 

「大丈夫か?」

「はい・・・女性の匂いがしますね?」

「ああ、さっきお姉さんと話してたからな」

 

出来れば思い出したくないが、気付かれては仕方ない。

めぐみんは浮気されたらすぐ気付くタイプのようだ。

 

「でも匂いが移るのは相当近付いてますよね?」

 

あのお姉さん最後の方興奮して距離が近かったからな。

あれでまともなら心地よかっただろうな。

 

「だから色々あったんだよ。ちょっと疲れてるから話は明日に・・・めぐみん?」

 

布団に入ろうとしたが、引き止められた。

振り返るとアニメとかなら疑問符がついてるだろうと言える程に不思議そうな表情でめぐみんはこちらを見ていた。

 

「お姉さんって誰ですか?」

「めぐみんは知らなくていいって、いや、知らない方がいい」

 

ああいうやばい人とは関わらない方がいい。

間違いない。

めぐみんには世話になってるし、年長者として守らないと。

 

「・・・カズマの好きな人ですか?」

「いや、全然。まあ、タイプの女性像には近いけどあれは無い」

「・・・カズマの好みはどんな人ですか?」

 

何だか尋問されてる気分になってきた。

このくらいの年齢の子は恋バナに興味を示すってやつか。

全く、ギルドで俺らが噂されてるなんて知らないんだろうな。

 

「そうだなあ。髪はロングのストレートで、巨乳な俺を甘やかしてくれる美人なお姉さんかな」

「そんな人居るんですか?」

「そう思っても好みは好みだろ?」

 

理想は高くあるべきだ。

まあ、タイプと好きになる人は違うとか違わないとかって聞くしどうなんだろう?

 

「今日あってた人は何処がダメでしたか?」

「常識人であるってとこが抜けてたからダメだった」

 

変態はお断りだ。

アクアみたいな浪費家も困る。

めぐみんは・・・ロリっ子だからないか。

三歳下は守備範囲外だからな。

 

「常識人・・・それをカズマが言いますか?」

「・・・ともかく何でもねえよ。俺に彼女とかが出来て抜けるとかはないから安心しろ。抜けるとしてもちゃんと借りを返してからだ」

「・・・分かりました」

 

もしかしたら恋人が出来てパーティーを抜ける事を危惧しているのかもと思って確認したら、予想は当たっていた。

恋バナにしては興味津々で楽しそうと言うより、少し心配そうに話を聞いていた。

 

「そうだ。あと、今後の話なんだけど、俺がめぐみんに貢がせて引きこもってるなんて言う噂がたってるらしいから、勉強は外でしないか?」

「そんな話があるんですか。服のプレゼントが原因かも知れませんね。気をつけます」

「悪いな。俺の為にくれたのに、金が貯まったらちゃんと返すからな」

 

色々やってもらってるのに、更に気を遣わせてしまってる。

めぐみんには苦労かけてばっかりだな。

 

「別にいりませんよ。プレゼントですから。カズマのそういう所好きです。おやすみなさい」

「おやすみ。・・・え?」

 

今めぐみんが好きって言ったような。

いやでも、異性として好きって言うより、仲間としてここが好きみたいな感じもする。

相手はロリっ子。

特に考えもなしに言ったに決まってる。

明日もバイトだし、早く寝よう。

 

 

 

翌朝。

朝食の時にめぐみんと話したが向こうは普通に話してきた。

やっぱり深い意味はなかったのだろう。

こちらはその所為で寝不足気味だと言うのに、呑気なものだ。

今も何食わぬ顔で目の前にいる。

 

「今日も勉強するように言われました。昨日言ってた誤解を避けるためにここで勉強しましょう」

「分かった。そうだ。昨日渡しそびれてためぐみんの分これな 」

「私は要らないです。カズマが使ってください」

 

めぐみんから爆裂魔法への欲を取ったら聖人になれるのではなかろうか?

そう思う程に無欲だ。

報酬の分配方法につて話を前にした時は、食費と雑費を貰えればそれで十分と言っていた。

 

「・・・ますます俺がヒモって印象がつきそうなんだけど」

「では預かっといてください。必要な時に頼みます。あっ、これ今日の分です」

「・・・まあ、預かるだけなら」

 

出会ってからと言うものめぐみん株の高騰は勢いが凄い。

一方でアクア株は、大恐慌並に下落している。

因みに今はギルドの食堂にいる。

基本的には教養を学ぶのが目的だが、パーティーメンバー募集も兼ねている。

 

「予想通り、誰も来ないな」

「まあ、あの募集要項だとこの街に当てはまる人は少数ですし、内容が内容ですからね」

「そういや、昨日から聞きたかったんだけど、スキルってどうやって覚えるんだ?」

 

魔法が使えるのは理解しているし、冒険者は全職業のスキルが使えることも知っている。

でも一番重要な魔法とかの覚え方が分かっていない。

 

「冒険者なら冒険者カードのスキル欄に教わった魔法の名前が表示されるので、スキルポイントを使って表示されているスキルを覚えるんですよ」

「なるほど。つまりめぐみんに教われば爆裂魔法も覚えられる訳か」

「そうですよカズマ!カズマも爆裂魔法を覚えましょう!そして、我と共に爆裂道を歩むのです!」

 

・・・顔が近い。

キスしようと思えば不意打ちでできる近さだ。

もちろんしないけども。

でも昨日と違って、嫌な気はしない。

 

「落ち着けめぐみん。爆裂魔法って最強魔法なんだろう?俺みたいなのが覚えても使えないだろうし、そもそもスキルポイントとやらがすごい高いと思う」

「・・・それもそうですね。カズマには付き添い人として爆裂道を歩んで貰います」

 

分かりやすくへこむめぐみん。

何だか俺が悪いことしたみたいに見えるなこれ。

頼むからこれ以上悪評は広まらないでくれ。

 

「俺が爆裂道歩むのは決定事項なのか?」

「カズマが、嫌だと言うなら強要はしませんよ?でも私カズマと共に爆裂道を歩みたいのです」

「分かった。爆裂道とやらに付き合ってやるよ。色々世話になってるしな」

 

こうして、俺は爆裂散歩なる新たな日課を毎日のスケジュールに組まなくてはいけなくなった。

とは言え、出会ってから毎日付き合わされてたし、今までと何も変わらないか。

 

「ちょっといいかな?お邪魔じゃなければ話を聞いて欲しいんだけど」

 

言われてめぐみんから視線を動かすと銀髪の如何にも盗賊と言った感じのボーイッシュな子がそこに居た。

そして、その後ろには昨日のヤバいお姉さんが……

 

「別に大丈夫ですよ。もしかして募集の張り紙ですか?」

「そうそう。まあ、用があるのは私じゃないんだけどね」

「ああ、何となく分かった」

 

一人でダメだったから知り合いとか交渉のプロに、仲介を頼んだとかだろう。

 

「その前に一つ。スキルを教えて欲しいなら盗賊スキルを教えてあげるよ」

「いいのか?」

 

ここに来て俺の幸運値が仕事をしている。

スキルを教えてくれる人が現れるのは幸先がいい。

とは言え後ろにお姉さんがいるのが気がかりだ。

 

「その代わりって言っちゃなんだけどさ。パーティーにあの子を入れてくれないかな?」

「・・・あんたとあの人の関係は?」

 

この人は比較的まともそうだ。

恐らくめぐみんと同い年くらいだろうか。

・・・この世界来てから歳下の子しか、まともなのに会ってない気がする。

 

「親友だよ。あっ、自己紹介がまだだったね。私はクリス。ダクネスが入りたいパーティーがあるって聞いて手助けしてるのさ」

「じゃあ俺は他の人に教わり・・・」

 

俺はスキル講習の誘いを断ろうとしていたのだが、出来なくなった。

原因はめぐみんである。

 

「カズマカズマ!この人クルセイダーですよ!是非仲間にしましょう!断る理由なんてないです!」

 

俺がクリスと会話している間に、二人で話していたらしい。

職種で言うとめぐみんの反応からして、上級職か。

・・・これはもう断れないな。

 

「・・・やっぱり、教えてください」

「・・・キミあの子に弱いんだね」

「色々あるんだ」

「・・・それじゃあ。スキル研修行ってみよう!」

 

陽気な盗賊っ子クリスに連れられて、俺たちは路地裏に着いた。

マスターには一応報告して許可ももらってある。

何事も勉強だと了承してくれた。

この街の人は優しい人が多くて助かる。

まさかこの後、お宝を手に入れることになるとは予想だにもしていなかった。




次回の更新は水曜日の予定です。
遅れないように頑張ります。


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スキルの功罪

先週は投稿を忘れてしまいすみませんでした。
今日は二回投稿するのでお許しください!
クリスさんの盗賊スキル講座はじまるよ!


-SKILLNOKOUZAI-

 

めぐみんの常識講座を受けるべくギルドの食堂に来ていた俺は今、ギルドの裏路地にて、クリスのスキル講習を受けている。

アクアがまだ来ていなかったから、めぐみんに財布を託してから来た。

スキル講習を受けるだけなら素直に喜べたのだが、昨日のヤバいお姉さんが仲間になってしまったから、あまり喜べない。

 

「今日は『敵感知』と『潜伏』スキルをいってみようか。『罠解除』とかはまた今度ダンジョンに行く時に誘ってくれたら教えるよ」

「ウッス。クリス先輩お願いします」

 

こう言うイベントって如何にも冒険者って感じがして楽しい。

俺が楽しみにしてた異世界ライフはこう言うのだ!

 

「じゃあ、ダクネスちょっと向こう向いてね」

「分かった」

 

ダクネスが言わた通りに反対へ向く。

するとクリスは石を集め始めた。

何をするのか分からないけど、あの石が大事なのかもしれない。

と石拾いを眺めているとめぐみんがやって来た。

どうやらアクアがギルドに着いたらしい。

朝食代を渡してこっちに戻って来たのだろう。

今は俺と一緒にクリスの石拾いを見ている。

クリスは石を集め終わったのか、立ち上がるとそのまま近くにあった樽の中に入っていった。

そして、何を思ったのか拾った石をダクネスの後頭部目掛けて投げた。

それは素晴らしい投球で、野球やったら強そうだと思わせる動きだった。

投げ終わるとクリスは樽の中に入り、隠れた。

・・・まさかこれが潜伏スキルなのか?

 

「・・・」

 

石を当てられたダクネスが振り返り、辺りを見渡す。

俺とめぐみんの視線が樽とダクネスを行き来していたから、クリスの位置はバレバレで、ダクネスは樽へと近づいて行く。

 

「・・・敵感知!・・・敵感知!ダクネスが怒ってるのが分かるよ!」

 

なるほど、バレバレなのもワザとか。

でも、一つクリスにとって誤算だったのは樽に入ると自由が奪われると言うことだ。

 

「ダクネス、もういいよ。協力あり、ちょっ、ちょっと待って!ダクネス何してうわああああああ!!や、やめてええええええ!!」

 

樽をゴロゴロと転がされて、悲鳴を上げるクリスを見つつ俺は思った。

こんなお笑い番組みたいなの見ててスキルを覚えられるのかと。

 

「スキルが覚えられるか心配なら冒険者カードを見てみるといいですよ」

「そうか。助かる」

 

めぐみんから受けた説明の通り、冒険者カードに潜伏と敵感知のスキルが表示されていた。

あと、花鳥風月なるものが書かれていた。

なんだこれ?

 

「それは昨日アクアが披露していた宴会芸ですね」

「宴会芸なのに、潜伏とか敵感知よりもポイント高いのかよ。・・・ってちょっと待て、俺さっきから何も話してないと思うんだが」

「見ていれば分かりますよ。それより、二人が和解したようですよ」

 

見ていれば分かるって、俺そんなに顔に出るタイプの人間なのか?

前にも心読まれてるような時があったような気がする。

 

「えっと、お待たせ。それじゃあ最後にあたし一押しの窃盗スキルをやってみようか。これは相手の持ち物をランダムに一つ何でも奪い取れるスキルだよ。成功確率は幸運値に依存するよ。このスキルは相手の武器を奪って戦えなくしたり、必要な物だけ盗んで逃げるのに適してるから覚えて損は無いと思うよ」

 

武器を奪って戦闘能力下げるのは最弱職の冒険者にはありがたいスキルだな。

それに、幸運値だけは高いから使えそう。

でもアクアみたいに幸運値低い人は使えないってことか。

 

「今から見せるよ。『スティール』!?」

 

クリスはこちらに手を翳して言った、

あれ、何だろう。

下半身がスースーする。

何が起こったのか分からず、クリスを見るとその手には俺のパンツが握られていた。

パンツを握るクリスは真っ赤に顔を染めてパンツと俺の顔を交互に見ている。

そんな中俺はパンツを盗られたら言うべきセリフを言った。

 

「きゃああああああ!クリスのエッチいいいいい!パンツ返してえええええ!」

「いや待って!これは違うから!ほら、返すから!って言うかその声何処から出してるのさ!」

 

何処からって、普通に出してるんだけど?

とまあ、一悶着あったが俺のパンツも返ってきたし、まあ、問題は無いかな。

 

「その、さっきはごめんね。でもこれで冒険者カードから覚えられるはずだよ。習得したいスキルを選択してここを押すと覚えられるよ」

「こうか。なんかワクワクする」

「スキルを覚えたら実践してみようか」

 

実践か。

つまり俺はクリスに窃盗スキルを使うということ。

ならば、やられたらやり返すしかないな。

 

「私から取ってみてください。多分当たりはこの財布ですし、そもそもカズマの物ですから当たりではないような気もしますが」

「分かった。クリスからパンツ取り返そうとも思ってたけど、それで行こう」

「サラッと凄いこと言うねキミ。名乗りでてくれて助かったよ」

 

自分がやったことをやられないとでも思っていたのだろうか?

まあ、俺が盗るのとクリスが盗るのでは周囲の目が全く違うものになるだろうけど。

めぐみんの言った通り、一番価値のある物は俺とめぐみんのお金が入った俺の財布。

幸運値に依存するなら取れるだろう。

 

「よし、めぐみんいくぞ。『スティール』ッ!!」

 

スキルの発動は上手くいったようで手元には布地の物が握られている。

でもあまり触りなれてない材質と形状だ。

盗った物を確認する前にめぐみんの方を見ると、めぐみんがプルプル震えていた。

 

「・・・なんですか。このスキルは窃盗スキルじゃなくてパンツ盗りスキルなんですか。カズマ、パンツ返してください」

「ご、ごめん!」

「ち、違うよ!たまたま二回連続で盗れただけだから!」

 

等とクリス氏は供述しているがどうなのだろう。

俺もめぐみんと同じ感想を抱いた。

 

「では、返す前にもう一度私にかけてみてください。これで財布とかが取れれば普通の窃盗スキルだと認めます」

「お、おう。『スティール』ッ!?」

 

俺の手元にあったのは黒くて二つの丸い部分が紐で繋げられた物、すなわち、ブラジャーである。

真面目にこの窃盗スキルは下着泥棒スキルに名前を変更してもいいんじゃないか?

自分の豪運が恨めしい。

こんなの絶対嫌われたな。

 

「本当に違うからな!狙ってやったわけじゃないからな!」

「そ、そうだよ!このスキルはランダムに物を盗るスキルだからカズマくんは悪くないよ!」

 

クリスのフォローはありがたいけど、フォローを受けてる俺自身が信用出来ないから問題大ありだと思う。

 

「ではスキルをカズマに教えたクリスを訴えればいいんですね?」

「えっと、それも違うと言うか、その」

 

クリスが口どもる中、俺は姿勢を低くして叫んだ。

 

「すみませんでした!」

 

盗った物を差し上げながら土下座をする。

俺に続くようにクリスも土下座を敢行した。

 

「はぁ、顔をあげてください。そこまで怒ってませんから。二人の反応から事故なのはわかりましたし、クリスはお詫びに何か奢ってくれればいいです」

「・・・俺は?」

 

やっぱり俺は許さないとかいうパターンじゃなかろうか。

もしかしたらパーティーから抜けてくれとか言われるかもしれない。

 

「こんなことされたらお嫁に行けないので、責任とってください」

「・・・え?」

 

突拍子もない発言に俺は混乱していた。

お嫁に行けないから責任を取るってなんだ?

急にこの子は何を言ってるんだ?

って言うか、めぐみんは俺の事好きなのか?

 

「ふふっ、冗談ですよ。そうですね。カズマにはダクネスを快く受け入れて貰います」

「・・・そんなのでいいのか?もっとあるだろ?」

 

・・・動揺してたのが恥ずかしい。

そりゃあそうだよな。

冗談だよな。

でも、ダクネスを快く受け入れるか。

隙あらば追い出そうと考えてたけど無理か。

 

「現状カズマに金銭の要求なんて出来ませんし、爆裂道を共に歩むことはこの前約束しましたからね。カズマに頼みたいことはそんなにないですよ。一緒にいてくれればそれでいいので」

「そ、そうか?」

 

一緒にいてくれればそれでいいってなんかプロポーズみたいだなあと思いつつ、めぐみんが意図してるのは多分、爆裂散歩に付き添ってくれればそれでいいって意味だろう。

だがしかし、この場にいる他の二人は俺とめぐみんに暖かい視線を送っていた。

外堀がどんどん埋まっていってる気がする。

 

「えっと、あたし達お邪魔みたいだから今日は帰るね。奢るのはまた今度ということで」

「うむ。私はギルドで待っているから、戻ったら声をかけてくれ」

「お邪魔ってなんだよ」

 

クリスに関してはこの場から逃走する為の口実でしかないだろうけど、ダクネスも言ってるし、俺たちの関係性が誤解されてるのは間違いない。

 

「カズマの言ってた通り、私達が男女の仲にあると思われてるようですね」

「訂正しなくてよかったのか?」

 

昨日あんなに恋バナに興味津々だった割には、自らの話が事実と異なっても訂正しなかったのが不思議だ。

こう言う話は一度広まると中々収まらないし。

好きでもない人との関係が噂されるのは嫌だろう。

しかも相手はついさっき自分の下着を盗った人物。

俺なら全力で否定しに行くけどな。

 

「少なくともダクネスは仲間になるのですから行動を共にすれば、誤解も解けると思いますよ」

「そういうもんか?」

「ええ、それに、もしかしたら訂正の必要が無くなるかもしれませんからね」

「おう。ってそれどう言う意味だ?」

「そのままの意味ですよ。ダクネスが待ってますし、早くギルドに戻りましょう」

 

めぐみんが何を言いたかったのかがよくわらなかった。

でも一つ確かなのは、下着を盗られてもなお、いつもと変わらない接し方でいてくれるめぐみんの寛大さはやはり女神級だと言うことだ。

これがアクアなら拳が何回飛んでくるか分からない。

 

 

 

ギルドに戻るとダクネスがアクアと話して待っていた。

クリスも一緒にいるから、昼食を奢るつもりかもしれない。

 

「お待たせしました。もう話は済んでるようですね」

「あんたこんなに優秀な人材を断るなんてバカなの?」

「こいつを優秀な人材と言うお前はバカなの?」

 

上級職かどうかは判断基準ではあったが、中身の方がもっと大事だ。

バカと言われて殴りかかろうとするアクアを収めつつ、今後の話を始めようとした矢先に警報が鳴り響いた。

 

「何事だ!?」

「アナウンスがあるからもう少し待てば分かるわよ」

 

警報が鳴っているってのにみんな慌てることなく、冷静そのものだった。

一人だけ騒いでたのが恥ずかしい。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各位、正門前に集まってください!』

「緊急クエストってことは魔王軍か何かが攻めてきたのか?」

「いや、この時期ならキャベツだろう」

 

そんなことをダクネスが言った。

 

「・・・キャベツ?」

 

キャベツごときで緊急クエストってどういうことだよ。

時たま見えるギルドの外は慌ただしく人が動いてるんだけども、本当にキャベツなのか?

 

「この前話していた収穫ですよ」

「ああ、あれか」

 

めぐみんが言うからには、キャベツで間違いないんだろうけど、キャベツってそんなに強いのか?

 

「キャベツの報酬は完全出来高制にしましょう!」

「急にどうした?」

 

突然報酬の話を始めたってことは何か企んでるなコイツ。

 

「一番多く捕まえた人が不利になるじゃない」

 

なるほど、確かに、捕まえた数報酬が貰えるなら不公平にならないように完全出来高制にするのもありか。

いつもは均等に割り振ってるけど、たまにはこういうのもありだな。

ここで儲けてめぐみんにいい所と言うかお金を返して、今日の事件の分を取り返さなければ。

 

「まあ、俺はそれでいいけど、二人はどうだ」

「私は構わないぞ」

「私もそれでいいです」

 

と全会一致で、今回のクエストは完全出来高制となった。

 

 

 

正門前に到着すると、辺り一面にキャベツが飛んでいた。

本当にキャベツが空飛んでるよ。

自分の目がおかしくなったんじゃないかと思う。

隣ではアクアがマヨネーズ持ってこいと叫んだり、めぐみんが嵐が来るとか中二病みたいなこと言ってたり、ダクネスがハアハア言ってたりして、こんなので大丈夫なんだろうかと思っていると、クリスに声をかけられた。

 

「カズマくん、キャベツ相手にも窃盗スキルは有効だから活躍できると思うよ」

「へぇー、キャベツも下着つけてるのか」

「どうしてそうなるのさ!キャベツを捕まえられるんだよ!」

「だってなあ?」

 

めぐみんに共感を求めて見ると、頷いてからめぐみんは言った。

 

「ええ、私もカズマと同じこと考えてました」

「めぐみんまで言う?ともかく、ほら、キャベツに向かってスキル使ってみてよ」

「分かった。『スティール』ッ!」

 

手元にはしっかりとキャベツが居た。

よかった。

これでこのスキルが変なスキルじゃないと思えるようになった。

 

「ちゃんと使えてますね。もう一度私に使ってみてください。仮にまた下着が取れても気にしませんから」

「お、おう。流石にもう大丈夫だと思いたい。『スティール』ッ!」

 

結論。

窃盗スキルは下着泥棒スキルでした。

これあれだ。

対人だとパンツしか取れないスキルなんじゃないか?

 

「クリス、このスキルは人相手には下着しか盗れないんですか?」

「そんなことないよ。『スティール』ッ!」

「あっ、俺の財布」

 

クリスが財布を、盗ったってことは普通に窃盗スキルなのか?

いや、逆にクリスが運良く財布盗っただけかもしれない。

 

「ほらね?今度はあたしにやってみてよ」

「下着盗ったとしてもお相子だからな?『スティール』ッ!」

 

何も驚きはないが同じく、パンツが盗れた。

今後このスキルは対人には使わないと心に誓った。

 

「なんでキミはパンツしか盗れないのさ!」

「俺が知りたいわ!つかクリスさん白パンなんですね」

「変な感想要らないから早く返して!」

 

めぐみんが大人な黒パンで、クリスが純潔な白パン。

イメージ的には逆な気もしなくはないけど、何と言うか、役得です。

 

「俺のはあんなにニギニギしてたのに、自分のはスグに返せっておかしくないか?」

「いや、あれは何が起こったのか分かってなかったからで、それにニギニギなんてしてないから!」

「二人ともみんな見てますよ?」

「「・・・」」

 

めぐみんに言われて、自分たちが如何にアホなことしてたのかに気付いた。

速やかにパンツを返却して、キャベツ狩りに戻る。

しかし、時既に遅し、ギルドに戻ると俺とクリスはパンツを取り合う変態盗賊コンビと呼ばれるようになるのであった。

 

 

 

第二次パンツ騒動が起こったものの、キャベツ狩り自体は上手くいった。

ダクネスが他の冒険者を守り騎士として憧れるとか言われてたが、実際はドMを発揮して興奮してただけなんだけども、仲間の評判を下げると回り回って自分の評判に繋がるから訂正はやめておいた。

 

「なあクリスはダクネスの親友なんだよな?」

「うん。そうだよ?」

「クリスってドSなのか?」

 

ダクネスと上手くやってるってことはかなり有り得る話。

こんなこと聞くなんてデリカシーがないとか言われても困る。

だって相手はパンツ盗りあった人物なんだから。

 

「そう思うのも仕方ないけど、あたしは普通だよ」

「じゃあ、ダクネスの扱い方とかどうしてるんだ?」

「基本は常識的と言うか、お堅い所あるから問題ないんだけど、クエストとかそういう話になるとダメだね。仲間として活動する以上は適当に流すしかないよ」

「マジか」

 

親友が諦めてるあたり、修正は不可能なようだ。

仲間としての活動がメインなのにそこで問題があるって厄介過ぎるだろ。

 

「マジだよ。そうだ。これめぐみんに渡して貰えるかな?この額あれば夕飯お釣りくるよね?」

「普通に足りないけど?」

 

俺ならこの額で足りるけど、めぐみんはもっと食べてる。

めぐみんの体型から推測するとこのくらいの額でも多いくらいだと考えるのが普通だろうけど。

 

「・・・あの体型で大食いなの?」

「そう。俺もあんなに食べてよくあの体型維持出来てるなって、出会ってからずっと思ってる」

「今度直接奢った方が良さそうだね」

 

一緒に食べて、その時に奢るのが一番だな。

めぐみんとて、食欲のない日もあるだろうし。

 

「今日は無理なのか?」

「今から用事があるからね。ダクネスにはよろしく言っといて」

「分かった。他の盗賊スキルとかまた頼む」

 

何とか常識的な人物を知り合いに作れた。

とは言え、クリスはパーティーメンバーじゃない。

クエストを楽しむってことは出来そうにないな。

 

「あっ、やっと来たわね!カズマこっちよ!ダクネスの歓迎会始まってるわよ!」

「分かった。今行く」

 

でもまあ、こう言うのは悪くないな。

一応、ハーレムパーティーだし、中身は置いといてみんな美人だし、めぐみんは爆裂魔法のこと抜きにすれば常識人だし、悪い方に考えるのはやめよう。

 

「あれがパンツ脱がせ魔よ。気を付けないと私達もそのうちやられるかもしれない」

「しかも、あの紅魔族の子に貢がせてるらしいわよ。年下の女の子に養ってもらうなんて」

 

・・・仲間のことより、俺は自分の悪評を何とかしないといけないみたいだ。

女性冒険者から凄い睨まれてる。

 

「カズマ?どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。ちょっと考え事をな」

「無理は良くないぞ?私のことはいい。ゆっくりしてくれ」

 

本当に基本は常識人なんだなこの人。

これでアクアみたく通常がダメならもっと困ってた。

 

「大丈夫だって。魔力切れかもな。ちょっと力が入りにくいだけだから」

「ならいいのですが、気分が悪くなったら直ぐに言ってくださいね?」

 

この優しさが、ある意味で俺の悩みの種になってるなんて考えもしてないだろうな。

 

「それじゃあ歓迎会再開するわよ!乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 

こうして俺たちのパーティーが正式に結成された。

まさかこんなにも早く、こんなにもクセのあるメンツが揃うとは思いもしなかった。

まあ、ぼっちになるよりは幾分もましか。

 

「そうだ。ダクネスの守り、凄かったわよね。キャベツ達が攻めあぐねていたわ!」

「他の冒険者からも好評でしたからね。カズマも凄かったですよ!潜伏スキルで忍び寄り、窃盗スキルでキャベツを捕獲するさまはまるで、ベテランのキャベツハンターのようでした」

 

うんうん。

見てくれてる人はちゃんと見てくれてるんだな。

安心する。

 

「そうね。私の名のもとにカズマさんには華麗なるキャベツ泥棒の称号を授けるわ」

「要らんわ!せめてキャベツハンターだろ!」

「じゃあ華麗なるキャベツハンターの称号を授けるわ」

 

コイツ単に称号を授けるって言いたいだけだろ。

これで決まりだと言わんばかり人差し指をこちらに向けて、アクアはドヤ顔を決めている。

 

「・・・要らないことに変わりないしその称号で呼んだら引っ叩くぞ」

 

痛いのは嫌なのか、慌てて手を直して、食事に戻った。

こういう所は分かりやすくて助かる。

 

「華麗なるキャベツ泥棒」

 

突然口を開いたと思ったら、ダクネスが不名誉な称号を呟いた。

 

「ダクネス?急にどうした?」

「む、この称号で呼べば引っ叩くのではなかったのか?」

 

めんどくさいこと言い出した。

クリスの嘘つき!

日常会話でもドMスキル発動してるんだが?

 

「・・・華麗なるキャベツ泥棒!そこの唐揚げ痛っ!どうして私は叩くのよ!」

 

ダクネスが叩かれないのを見て、調子乗ったアクアにはしっかりと制裁を加える。

 

「お前に対して言ったことだからだ!」

「カズマ、怒りが収まらないなら、是非私を叩いてくれ!」

 

このドMどうしてくれようか。

普段からこの調子でいられると困る。

 

「いや、いい。それよりめぐみんも大活躍だったよな。一度に大量のキャベツを屠ってたし」

「この我にかかれば造作もないことです。華麗なるキャベツハンターには敵いませんよ。私は捕獲数ゼロですから」

 

ブルータスお前もか。

クスッとイタズラっ子みたいな笑みを浮かべてめぐみんは言った。

暫くこの名前で呼ばれそうだなこれ。

でもまあ、ハンターの方ならそこまで嫌じゃないな。




ワクチンの副作用により右腕が封印されてましたが、何とか投稿出来ました。
一回目に利き腕に打たれて地獄見ましたよ(笑)
皆さんワクチン接種の時は利き手じゃない方にしましょう!


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波乱のバーベキュー

今回は二日ズレ込みましたすみません。


-HARANNOBARBECUE-

 

ダクネスが仲間になり、クエスト中の事故により不名誉な噂が広まってから数日が経過した。

最近は関わりのある冒険者は男女問わず誤解が解けてきた。

とは言え、冷たい視線を浴びるのは変わらない。

キャベツの報酬で、登録料や宿代を返せたし、めぐみんに止められる前にマナタイト製の杖を購入して、お礼に渡せて、ヒモ状態はもう脱したから、後はイメージ回復だけだ!

と思っていたのだが、上手く行きそうになくて困っている所にダクネスがやってきた。

 

「カズマ、見てくれ。キャベツの報酬で鎧を新調したのだが、どうだろうか?」

「なんて言うか、成金趣味のボンボンみたいだな」

「カズマは何時でも容赦ないな。普通に感想を言って欲しかったのだが、これはこれで・・・」

「ダクネス、悪いが今はこっちの変態一人で精一杯だから、抑えてくれ」

「こっち?」

 

キョトンとしているダクネスに変態の方向を指さす。

指した方には、杖に頬擦りをして興奮しているめぐみん。

周囲からとても注目を集めている。

 

「はぁ〜魔力溢れるマナタイト製のこの色艶・・・、たまらない、たまらないですよカズマ〜ハァ・・・ハァ・・・」

 

俺がプレゼントしたけど、そこで俺の名前を出すな!

ヤバいです。周りの冒険者の目が痛いです。

俺がやらせてるみたいに見えるじゃんかこれ!

このパーティーに常識人なんていなかった。

ダメだ。

このままじゃダメだ。

俺の名誉回復はまだまだ先になりそう。

 

「カズマ、めぐみんに何をしたのだ?」

「あの杖あげただけ」

「・・・そうは見えないのだが」

 

うん。

あげた俺自身もあの杖に何か変な効果付いてたりするんじゃないかと疑い始めるレベルに今のめぐみんはおかしい。

 

「でもまあ、キャベツに襲われて興奮してたダクネスと大して変わらないと思うけど」

「なっ!?こ、興奮などしていない!戦いに高揚していただけだ!」

 

・・・それも一種の興奮だろうに。

ベクトルが全然違うけれども。

一緒にしたら戦闘狂の人に悪い。

 

「なんでよおおおおお!!」

 

うるさいのがまた一人増えた。

受付のお姉さんの胸倉を掴んで、揺さぶるアクアはそれはもうチンピラと言っても過言じゃないくらい荒々しい態度でした。

あれが女神だとかそりゃ信じられないよな。

 

「ダクネス、アクアの方を頼む」

「任された」

 

はぁ、このパーティーで魔王討伐?

無理だな。

この街でスローライフ送れば、それなりに楽しめると思う。

アクアは間違いなく乗ってくるだろう。

 

「カズマカズマ!」

「変態モーションは終わったのか?」

「誰が変態ですか!それを言うなら下着盗ったカズマの方が変態ですよ!」

 

下着の件を出されると何も言えなくなる。

俺が悪い訳じゃないけど、恩を仇で返してる気もするし。

 

「そのことは本当に悪かった。まだ何か欲しいものとかあるか?」

「・・・言い過ぎました。欲しい物ではなくて、そろそろクエストに行きたいです」

「俺も変態とか言って悪かった。クエストはダクネスがアクアの方を収めたらな」

「アクアですか?」

 

受付で叫んでたアクアに気付かないとは、相当杖を気に入ってるらしい。

そこまで喜んで貰えるとあげた甲斐が有る。

 

「何か受付の人と揉めてるけど、俺としては関わりたくない」

「それは無理みたいですよ」

「え?・・・あっ」

 

めぐみんに言われて、振り返るとアクアが真後ろにいた。

もう逃げられないと悟るのであった。

 

「カズマさん。めぐみんに杖あげるくらいにはお金あるんでしょ?お金頂戴」

「嫌だ」

「どうしてよ!」

 

もうちょっと言い方あるだろう。

今のではいどうぞとはならない。

・・・めぐみんなら渡しそうだけども。

 

「めぐみんに登録料やら宿代やらお前の分合わせて返したの誰だと思ってんの?」

「めぐみんは別に返さなくても良いって言ってたじゃない。カズマが勝手に払っただけでしょ?そんなの関係ないわよ」

 

反抗期の子供みたいなこと言い出した。

お前に返す気があったらこっちで払ってねえっての。

まあ、めぐみんにお金渡す時は何度も断られて、受け取って貰えないならアクアとパーティーを抜けて、ゼロから始めると言ったらすんなり受け取って貰えた。

 

「・・・お前の言い分は理解した」

「じゃあお金くれる?」

 

この駄女神は義務教育からやり直した方がいい気がする。

神様が義務教育受けてるかは知らないけど、とりあえず学ぶべき事が沢山あると思う。

 

「渡してもいいけど、まずめぐみんの部屋から出てけよ?あと今後一切金関係で助けないからな?」

「・・・カズマ、私の分もめぐみんにお金返してくれてありがとう。えっと、カズマさんってあれよね。そこはかとなくいい感じよね。ちゃんと返すからお金貸して」

「褒める所が思いつかないなら変なよいしょするな。はぁ、しょうがねえなあ。でいくらなんだ?」

 

初めからそう言えば出せる分は貸してやるのに。

女神としてのプライドとかなんだろうか?

そんなものはさっさと捨ててもらわないと困る。

 

「五万ちょっと」

「五万?なんでそんなに金が必要なんだ?」

「私が捕まえたのが全部レタスで、結構捕まえたから報酬も相当な額になるって思ってツケで飲んでたからギルドに返さないと行けないのよ」

 

レタスはキャベツよりも安く売られてるのをこの前見たから分かる。

こいつは運の悪さに負けたのだろう。

俺が百万強儲かったことからして、五万のツケはしててもおかしくない。普通にお釣りが来るレベルの報酬だったから。

同一労働同一賃金って事で、多目に見るか。

出来高制にしたのはアクア本人で、自業自得感も否めないけど、このまま借金のあるパーティーとか言われるようになるのは困るから、渡しとくか。

俺が今すべきは名誉回復なのだから!

 

「だから揉めてたのか。これで返して来い。その代わりちゃんと返せよ?」

「分かってるわよ。それで宿は大丈夫よね?」

 

勝手に部屋から出てけとか言ってたけど、めぐみん的にはどうなんだろうか?

そこまで気にしてなさそうだけど。

 

「めぐみんはいいのか?」

「私は構いませんよ。ただ」

「ただ?」

 

女神めぐみんでもこの状況下では条件付きの対応になるらしい。

・・・言うほどアクアが悪いことした訳じゃない気もすると言うか、そもそもお金返して貰うつもりのなかっためぐみんからすれば問題ない気もするけど、思う所があったのだろう。

 

「カズマと部屋を交代してもらいます」

「「「え?」」」

 

めぐみんが何言ってるのか三人とも理解出来なかった。

俺とアクアの部屋を変える?

俺ってば女の子と同じ部屋で寝泊まりしちゃうのか?

 

「私の部屋の方がいいベッドですからね。アクアがカズマに借金してる間は逆です」

「宿に泊まれるなら私は満足だけど、カズマと同じ部屋でいいの?それなら私だけでも馬小屋に行くんだけど」

「ダメです。もうそろそろ凍えるような寒さがやってくるんですよ?」

 

流石はめぐみんさま。

駄女神にも慈悲深い。

でも、なんでベッドの質だけで、部屋入れ替えようってなるのかは分からない。

ダクネスとアクアが部屋を交代ならまだ分かるけど。

 

「めぐみんは男と同じ部屋で泊まっても構わないのか?」

「俺としては自分の部屋取れるくらいになったから別に俺が部屋を取ればいいと思うけど、どうだ?」

 

ダクネスが頷いてるから、いい案だと思う。

でもめぐみんは首を横に降って言った。

 

「カズマなら構いません。なんならダブルベッドでも安心して眠れますよ。カズマが別で部屋を取ると勿体ないので、カズマには私と寝てもらいます」

 

俺はめぐみんからどう思われてるのだろうか。

異性として意識されてない気がする。

いや、もちろん俺も三歳下は守備範囲外で、めぐみんの事異性として見たことないけども。

こう、分かりやすく行動に移されるとモヤッとする。

 

「お前は俺の何をそこまで信用してんだ?自分で言うのも何だが、襲われても文句言えないぞ?」

「この杖と誠実さです。仮に襲われても責任取ってくれるならそれでいいですよ?」

 

判断材料は分かったとは言え、信頼するには十分じゃない材料だと思う。

まあ、アクアのあの態度見てたらよりよく映るかもしれないけど。

アクアはアクアで、元女神と言う立場があっての言動だろうし。

・・・ってあれ?

今めぐみん変なこと言わなかったか?

 

「めぐみん、相手は選んだ方がいいわよ?」

「爆裂道を共に歩んでくれる異性はカズマくらいしか居ないでしょうし、既成事実が出来たのならそれはそれで構わないと思ってます」

 

何だろうか。

全然甘酸っぱい状況にならない。

おかしい、めぐみんが言ってることはこの人が夫なら文句なし的な話のはずなのに、大して嬉しくない。

結局、めぐみんは爆裂魔法基準で動いているということか。

 

「でも、ちゃんと好きな人と恋愛した方がいいと思うぞ?俺なんか元引きこもりだしさ?」

「好きな人ですか?私はカズマのこと好きですよ?」

「・・・え?」

「とまあ、私はカズマと同じ部屋で問題ないので、クエスト探しましょう」

 

サラッと告白されて、俺だけじゃなく、アクアとダクネスも反応に困り、誰も話さず、ただただめぐみんの言う通りに、クエスト探しをする為に掲示板へと向かった。

掲示板に到着してから、思ったのは、多分めぐみんは早くクエストしたかったから、俺らを黙らせる為に言ったんじゃないかと思い始める。

俺がイケメンなら一目惚れでしたとかも考えとしてはあったけど、こっちに来てからも普通の顔だし、めぐみんにカッコイイ所とか全然見せてないし、思い当たる事が何一つない。

 

「全然クエストないわね。あっ、でもこれいいんじゃない?」

「新種のゾンビメーカーの討伐?それって安全なのか?」

「備考に、アークプリースト複数人で望むのが良いって書いてありますね」

 

・・・上級職を数集めなきゃ出来ないクエストは行かない方がいいだろう。

でも、他は一撃熊の討伐とか、グリフォンとマンティコアの討伐とか難しそうなやつばかりだ。

ジャイアントトードとかお手軽なクエストが何故かない。

まあ、うちのパーティーだとギリギリ倒せるレベルだけど。

 

「これにしましょう!女神の私が居ればアンデッドなんてちょちょいのちょいよ!」

「女神?」

 

ダクネスが不思議そうにアクアを見てから、俺の方を見た。

ここはしっかり説明しなければと思い、俺は口を開いた。

 

「を自称する可哀想な子だからそおっとしといて欲しい」

「・・・可哀想に」

「誰が自称よ!いいわ。このクエストで、大勝利を収めて認めさせるわ!」

 

と、アクアがやる気満々になってしまった為に、クエストを受けることとなった。

受付で詳細を聞いたらあまりのゾンビの多さにプリーストが魔力切れを起こして戻って来るらしい。

ペナルティーをなしにしても、報酬の割に合わないとみんな受けなくなったらしい。

でも確かにアクアは女神だから何とかなりそうだと俺も思ってる所はある。

 

 

 

現在はゾンビメーカーの討伐クエスト中のはずなんだが、バーベキューをやってる。

夜になるまではここで待機するらしい。

 

「カズマカズマ」

「どうした?今更帰りたいとかは言わせないぞ?」

「そうじゃなくて、めぐみんにはちゃんと返事したの?」

「返事ってなんの事だ?」

「みんなの前でめぐみんがカズマのこと好きって言ってたじゃない」

 

こいつはめぐみんの意図に気づいてないみたいだ。

仮に本当の告白だったら多分、めぐみんと一緒にいるだけで変に意識して緊張してると思うし、めぐみんも普通に接してないはずだ。

 

「仲間としてとかだろう?俺らを黙らせるのも一つの目的だったと思うし」

「それもそうね。カズマみたいなパッとしない人とめぐみんは不釣り合いだもの」

「お前しばかれたいのか?」

 

危険を察知したアクアはめぐみんの後ろに隠れた。

全く、これからクエストだってのに緊張感の欠けらも無い。

これじゃあ遠足に来てるのと変わらない。

 

「カズマ、少しいいか?」

「お前もめぐみんのこと聞くのか?」

「ああ、カズマはめぐみんと付き合ってないのか?」

 

ここ数日で俺達の関係性が分かってきたようだ。

めぐみんの言ってた通りになってる。

このままギルドの冒険者の誤解も解けると嬉しいんだが。

 

「そうだけど?昼から宿屋に入ったってのも勉強の為だからな?」

「勉強と言うと?」

「俺この国のことよく知らないから教えて貰ってたんだよ」

 

よく知らない所か何も知らなかったけど、それは言わないでおこう。

 

「てっきり二人はそういう関係なのだとばかり思っていたのだが、違うのだな」

「そうそう。ギルドでのめぐみんの発言の意味には気付いてるよな?」

「ああ、私達が止めるのをやめさせるのと、ある種本心を語ったと言った所だろうな」

「本心?」

 

ダクネスまで、あれは本気の告白だったとでも言うのだろうか?

流石にあんな流すような告白はないと思いたい。

 

「仲間として好いていると言う話だ」

 

安心した。

内心めぐみんからの本気の告白だったらどうしようと悩み始めてた。

これで悩みの種が一つ減った。

 

「カズマはめぐみんをどう思っているのだ?」

「そうだなあ。恩人って言うかさっきの勉強とかの事も含めると恩師って言うか。尊敬してるけど、今日の朝のを見てちょっとだけ株が下がったって所かな」

 

下がったとは言え、そこまでイメージが変わったとは言えない。

爆裂散歩のためなら、デートに行こうとか、付き合ってとかいうやつなのは分かってたし、爆裂魔法関係は普通じゃなくなるのは知ってたからな。

 

「異性としては?」

「全くない。そもそも恋愛対象として見てないからな」

 

三歳下は守備範囲外だ。

でも、めぐみんから本気で好きですとか言われたら三歳下までに年齢引き下げするかもしれない。

そんなこと起こらないだろうけど。

 

「ふむ。参考までにアクアや私はどうだ?」

「アクアもないな。ダクネスは異性として意識することはある」

「と言うと?」

「初めて声かけられた時とかは美人なお姉さんに話しかけられた!って緊張してたし、今もまあ、ちょっと緊張してたりする」

「そうなのか?そうは見えないのだが」

 

ダクネスに反論しようとしたが、遮られて出来なかった。

 

「かじゅまあ〜だくねすとばかりはなしてひくっ、ないでわたしとも〜はなしまひょ〜よ」

「・・・おい、アクア。めぐみんに酒飲ませたのか?つかクエスト中だから酒は買うなって言ったよな?」

「帰ってから飲む分くらいはいいかなあって・・・気付いたらめぐみんが飲んでて私も一緒に飲んでただけよ」

「だけって、これじゃあクエスト所じゃないだろ」

「かずまぁ!わたしをみてくだしゃい!」

 

めぐみんを酔わせたらダル絡みされるって覚えとかないといけないな。

面倒な構ってちゃんパターンだこれ。

俺をご指名らしい。

 

「はいはい。カズマです」

「ふふふっ、かずまはうっ、わたしのです〜」

「・・・俺明日めぐみんと顔合わせるの怖いんだけど」

「愛されてていいわねえ」

 

アクアが無責任なことを言ってくる。

誰のせいでこうなってると思ってんだ。

てかお前も酔い潰れて語りたい時、今のめぐみんみたいに俺を離さないだろうが。

私の芸を見なさいとかなんとか言って何時間も拘束されるのはよくある日常になりつつある。

めぐみんは多分爆裂魔法について語りたいとかだろう。

 

「めぐみんしっかりしてくれ」

「わたしは〜しっかりしたおとなですよ〜かずまときすだってでき〜す」

「ちょっ、めぐみんやめろ!」

 

初めてが酔っ払いのキス魔からとか洒落になってねえ!

どうして俺は魔法使いのめぐみんよりも力がないんだ!

これなら爆裂道について語って貰える方がマシだ。

うっ、酒くせえ。

ああ、めぐみんの顔が近い。

もうあと数センチで、くっついてしまう。

顔を逸らす抵抗も試みたが両手で固定されて無理だ。

 

「カズマ大丈夫か?めぐみん冷静になるんだ」

 

ギリギリの所でダクネスがめぐみんを引き剥がしてくれた。

そう。

剥がす。

足で体をホールドされて、絡みつかれていた。

 

「うっ、だくねすはさっきかずまをひとりじめにしてました!」

「いや、ただ話をしていただけなのだが」

「だくねすだけずるい!」

 

もう手が付けられない状態の子供と変わらないなこれじゃあ。

俺と話したいって言ってくれてるのはちょっと嬉しいけど、酔ってるだけだからな。

 

「・・・これ、俺はどうしたらいい?」

「私が抑えておくから、カズマは向こうでゆっくりしていてくれ、アクアは水を頼む」

「分かった。そういや水筒って持ってきてたか?」

 

コーヒーメーカーとコップを入れた記憶はあるけど、水筒を見た覚えはない。

アクアが用意してとは思えないし、ダクネスかめぐみんの鞄か?

 

「持ってきてないわよ?カズマの初級魔法があるからコップだけ持ってきたのよ」

 

その手があったかと思いつつ、俺に一言もなしにそれを計画に入れるなと言いたい。

でも、クリエイト・ウォーターがあれば水不足に直面して困ることは無さそうだな。

 

「なるほど。コップはこれでいいのか?『クリエイト・ウォーター』」

 

アクアに渡して様子を見る。

俺はテントの中から覗いてる形だ。

 

「はい、お水持ってきたわよ」

「ありがとうございます。かずまのあじがします」

 

めぐみんは何を言ってんだろうか。

確かに初級魔法で出した水と井戸の水は全然味違うけど。

飲み干すと、俺を探してかキョロキョロと周りをみて、急に震え出した。

 

「かずまはどこですか?かずま?うっ、かずまぁどこにひくっ」

 

めぐみんが今にも泣き出しそうになってる。

子供が母親を探して泣いてるとかそんな感じだ。

耐えかねてテントから出ると、めぐみんがこちらに気付き全速力で突っ込んで来た。

 

「うわっ、痛た。おい。大丈夫か?」

「かずまあああああ!」

「どうしたんだよ。頼むから落ち着いてくれ」

 

落ち着かせようと背中をさすってみる。

すると整った息遣いに戻っていき、規則正しい呼吸になっていった。

眠りに落ちたみたいだ。

 

「スースー」

「・・・ホントなんだったんだ?」

 

この後、めぐみんには酒を飲ませてはいけないと俺達は話し合った。

まず酒に手の届く環境を作らないことが大切と言う話になった。他にもギルドや酒屋なんかにめぐみんには売らないようにお願いしに行くとか色々対策を話していた。

すると、女の人が通りかかった。

 

「こんばんは。バーベキュー楽しそうですね」

「それがさっき一悶着あっ『「セイクリッド・ターン・アンデッド」』・・・って」

「きゃああああああ」

 

俺に声を掛けてきた巨乳のお姉さんは何故かアクアの除霊魔法を受けて叫んでいた。

え?

この人幽霊なのか?

 

「出たわねアンデッド!カズマは騙せても私の曇りなき眼は騙せないわよリッチー!」

「リッチー?リッチーってあのアンデッドの王様の?」

 

普通にリッチーと話する所だったと考えたら凄く怖い。

冥界に連れてかれる所だったのかもしれない。

初めてアクアを連れて来て良かったと思った瞬間であった。

 

「そうよ。人の振りして近付いてカズマを連れてくつもりだったに違いないわ!」

「ち、違います!リッチーなのはあってますけど、騙そうとかそんなつもりは無いんです!」

 

このリッチー、何だか人が良さそうだ。

とは言え、リッチーが急に現れたとあれば警戒するのは当然。

ダクネスも臨戦態勢に入り、めぐみんを庇うように前に出た。

 

「ただでさえめぐみんが酒で倒れていると言うのに厄介な相手だ。くっ、仲間を庇うも圧倒的な強さに負けてしまう。うん。悪くない!」

「悪いわ!何でこうも面倒な時に面倒なことが次から次へと・・・」

 

一瞬でもダクネスを頼りにした俺が馬鹿だった。

 

「ご、ごめんなさい。私がリッチーで、ごめんなさい。お願いです。話だけでも聞いてください!」

「そうよ。神の理に背いたこと悔いて成仏なさい!『セイクリッド・ターン痛っ!何するのよカズマ!」

 

何か伝えたいことがあるらしい。

アクアは聞く耳を持たず除霊しようとしてたが、チョップでやめさせた。

 

「ちょっと待て、話聞いてからでも遅くないと思う。この人悪い人には見えないし」

「何言ってるの?相手が美人だからってそんな考えは甘いわよ?そいつはアンデッドなのよ?なめくじみたいにジメジメした所が好きな、なめくじなのよ?」

「それただのなめくじだろうが。それで話と言うと?」

 

リッチーをなめくじ呼ばわりとか、今ので気を悪くして襲われたらどうするつもりなんだろうか。

運良くこのリッチーは酷い!と抗議するだけで終わっていたけども。

 

「あ、ありがとうございます。危うく成仏する所でした。えっと、私はここの近くにある共同墓地で迷える魂を供養するために毎晩ここを通ってるんです」

「・・・共同墓地ってゾンビが大量発生してるって所じゃないか?」

 

このお姉さんが犯人だったのか。

しかも供養ってことはいい人じゃないか。

でもどうしてリッチーが供養をやってるんだ?

普通アクアとかプリーストの仕事だろうに。

 

「私の所為ですね。近くに居る魂が共鳴してしまったのだと思います」

「・・・ゾンビで街襲おうとかそういう類ではないと?」

「そんなことしませんよ!街には私の店もありますし。あっ、自己紹介まだでしたね。ウィズ魔道具店店主のウィズです」

 

リッチーがお店を構えてるってこの世界大丈夫なのか?

そこら辺に魔王軍が潜んでても分からないんじゃないか?

 

「・・・リッチーのウィズがどうして除霊を?」

「実は共同墓地は身寄りのない人達が埋められているんですけど、その、この街の聖職者は拝金しゅ、いえ、お金のない方は後回しと言いますか。その・・・」

「アクア?」

 

そう言えばアクアは除霊のバイトとかしてないな。

金に困ってるなら除霊もアリなのか。

ここは女神としてしっかり役目を果たして貰うしかない。

 

「わ、私はそもそも知らなかっただけよ。わかったわ。私が除霊をするからリッチーは引っ込んでなさい!」

「お、お願いします。あの、帰ってもいいですか?」

「どうぞ。また今度お店行きます」

「ありがとうございます。お待ちします」

 

何とか乗り切った。

一時はどうなるものかと思った。

いい人で助かった。

そう思った時、俺は何者かに右足を掴まれて、思わずに叫んだ。

 

「ひゃああああああああ!!」

「何事だ!?」

「ダクネス、何かが俺の足を!」

 

ダクネスに助けを求めるも何故かさっきみたいに剣を抜いてくれない。

アクアに関しては笑い転げてる。

あいつは後でしばく。

 

「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが、その」

「はぁ、めぐみんか。驚かせるなよ。酔いは大丈夫か?」

 

ゾンビに足掴まれたのかと思って焦った。

めぐみんで助かった。

 

「はい。何とか」

「何やったか覚えてる?」

「お酒を飲んだ所までは覚えてます。直ぐに眠りに落ちたような感じがします」

 

記憶ないパターンか。

めぐみんには知らないでいてもらおう。

ダクネスに視線を送り、話さないでおこうと合図を出すと、わかったと頷きが帰ってきた。

アクアにもと視線を送ると待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

 

「そうか。ならいい」

「めぐみんってばカズマとキスしようとしてたからびっくりしたわ」

 

この駄女神どうしてくれようか。

真逆の意味で取りやがった。

ダクネスが手を顔に当ててやってしまったって顔してるぞ。

俺もしてるけども。

 

「・・・カズマ、ちょっと二人で話したいのですが、いいですか?」

「あ、ああ」

 

アクアがいると煽られると判断したのだろう。

ダクネスは変なスイッチが入る可能性を考慮したとかだろうか。

 

「・・・私は何やったんですか?」

「基本的にはアクアが宴会芸してる時のだる絡みに似てた」

「それで、キスがどうこうと言うのは?」

 

出来れば誰かに代わりに話して欲しいけど、誤解なく伝えられるのは恐らく自分だけだ。

 

「しっかりしろって俺が言ったら、私はしっかりとした大人だから俺とキスだってできるとか何とかって言って、顔を近付けてあと少しで唇がくっ付く直前でダクネスが止めてくれた」

「そう、ですか。迷惑かけてすみません」

 

成されるがままだった俺の方が世間的にはダメなんだよなあ。

日本だと未成年飲酒は保護者が捕まるしな。

この世界は自己責任だから自分が悪いって考えになるのか。

 

「謝るならダクネスにした方がいいぞ?止めてくれたダクネスが暴れるめぐみんを何とか抑えてたし」

「分かりました。謝ってきます。でもその前に一ついいですか?」

「どうした?」

 

何か質問があるらしい。

話すことは全部話したと思うんだけどな。

 

「その、酔ってる私の事どう思いました?」

「どうって、言うと?」

「その、キスをしようとした時とかのことです」

 

襲われたことで、嫌に思ってないかとかそういう確認だろうか?

逆の立場で似たようなことあったし、気になるのは分かる。

でも聞ける勇気があるのが凄いと思う。

 

「酒臭いってのと、このままだと目覚めてからのめぐみんに顔向けできないなって考えてたかな」

「そうですか。では行ってきますね」

「ああ」

 

めぐみんが何を確認したかったのかは分からないが、まあ、何もなく帰れそうだからこれでいいのかもしれない。



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知らない一面

出来た!と思ったら日付が変わってました……。
一日遅れで申し訳ないです。


-SHIRANAIICHIMEN-

 

ゾンビメーカー討伐に赴いていた俺達であったが、めぐみんの飲酒事件からリッチーとの遭遇なんて言う超危険な事態に巻き込まれたが、どちらも事なきを得た。

今はその帰り道。

 

「ねえねえ。今日は結構な数のアンデッド倒したから報酬アップよね?」

「今度は金使い込むなよ」

「はいはい」

 

とまあ、いつも通りワイワイアクアと二人で騒ぎながら帰っていたのだが、次のめぐみんの発言で俺達はある事実を知ることとなる。

 

「あのう。ゾンビメーカーの討伐の時私は寝てましたから、私の分はアクアにつけておいてください」

「ありがとう!さすがめぐみんね!」

 

ゾンビメーカー?

・・・あっ、そういや俺達ゾンビメーカーの討伐に来てたんだった。

アクアは気付かずに喜んでるけどもこれ、クエスト失敗だよな。

 

「アクア、悪い知らせだが多分お前の討伐数とクエスト失敗のペナルティーで見ると大した額入ってこない所かマイナスの可能性もある」

「何言ってるの?こんなに討伐したのよ?」

「だって俺らゾンビメーカー討伐してないからな」

 

めぐみんに言われるまで誰一人気付いてなかったが、間違いなくクエストは失敗扱いだろう。

ウィズのことを話せない以上仕方ない。

 

「・・・ねえ、やっぱりあのリッチー討伐すべきよ!事情を全部説明すれば失敗にはならないわ!」

「だからやめろって!あんないい人中々居ないぞ?」

「ううっ」

 

現金なやつだな全く。

あんな善人を強制的に除霊するとか気が引ける。

 

「リッチーって何の話ですか?」

 

そう言えばめぐみんには何も話してなかったな。

ただクエスト終わったから帰るって言ってただけだし。

 

「実はめぐみんが眠っている間にリッチーに声を掛けられたのだ」

「そうそう。まあ、アクアがいなけりゃ普通に会話して終わってたと思うけどな」

「それはどういうことでしょう?」

 

めぐみんが疑問に思う中、アクアがドヤ顔でこっちを見てくるが気付いてないフリしておこう。

 

「アクアじゃなきゃあの人がリッチーだって気付かなかったからな。加えてその人は俺達を襲う気はなかった。多分、共同墓地にいるゾンビメーカーの討伐に来ましたとか言ったら色々察してプリーストに依頼出すとか他の方法取ってたんじゃないか?」

「ま、待ってください。情報量が多くてよく分からないのですが。その、とりあえず人型の友好的なリッチーが居たという事で大丈夫ですか?」

 

よく分からないと言ってる割にはちゃんと状況整理できてると思う。

流石は自称紅魔族随一の天才と言った所か。

 

「ああ、友好的で超いい人。身寄りのない共同墓地の人を除霊するために毎日通ってるくらいに」

「それでどうしてクエスト失敗になるのですか?」

「そのリッチーのウィズって人が除霊を行っているとゾンビを呼び起こしてしまうらくて、ゾンビメーカーは居ないってことだ」

 

アクアには仕方ないと宥めるしかないが、本心としては納得いかない。

ゾンビが大量に湧くことになったのはウィズがいたからと言っても、そもそも共同墓地が放置されてた所為だから、アクセルにある教会の人にペナルティーは負担してもらいたいものだ。

 

「なるほど。所でそのウィズという方はウィズ魔道具の店主さんですか?」

「知り合いか?」

 

めぐみんが起きてたら話ややこしくならなくて済んだじゃないか?

 

「いえ、探している人物と条件の合う人として把握していたのですが、捜査線上に上がったのがウィズさんです」

 

探し人か。

めぐみんがアクセルに来たのはその人を探す為なのだろうか?

 

「でその人物の条件ってなんだ?」

「巨乳で爆裂魔法が使えるお姉さん」

「その話詳しく!」

 

確かにウィズも巨乳のお姉さんだったが、他にもこの街に巨乳のお姉さんがいる可能性があるってことだよな?

 

「え、えっと、私が爆裂魔法を教わった恩人です」

「そんな話じゃなくて、もっとあるだろ!」

「じゃあどんな話ですか?」

「それは…やっぱり何もない続けて」

 

危ない危ない。

アクアとダクネスから冷めた目で見られてるが本人が気付いてないし大丈夫だろう。

 

「あとは赤髪でしたね」

「ならさっきの人じゃないな」

「そうでしたか。まあそう簡単には見つからないですよね。聞く時に赤髪の情報入れるの忘れてました」

 

何とか誤魔化せた。

にしてもめぐみんの探し人の所為でめぐみんは爆裂魔法に目覚めたのか。

会ったら文句言っておこう。

 

「それ結構重要だと思うけどな。てか本当にクエストはどうしようか?」

「ウィズの事を話す訳には行かないだろうから、ペナルティーを支払うしかないのではないか?」

 

ダクネスの言う通り、ペナルティーを払うしかない。

とは言え出来れば払いたくないよな。

 

「まあ、そうなるよな。アクアのアンデッド除霊数の報酬でチャラに出来るといいんだが」

「反対!皆で負担すべきだと思うの」

「・・・めぐみんの件覚えてるか?」

 

とまあこんな風にアクアの討伐数の多さからペナルティーは無くなった。

ゾンビメーカーはいなかったと報告すると色々面倒なので、アンデッドが多過ぎて、アクアの魔力がなくなり、ゾンビメーカーを見つけるに至らなかったと報告しておいた。

これなら今後ゾンビメーカーが見つからなくても移動しただけと言う話で済むだろう。

と軽く考えて後は寝るだけと風呂から上がって宿屋へ向かったのだが、俺はまた大事な話を忘れていた。

 

「ホントカズマって長風呂よね。いつまで待たせるのよ」

「何か俺に用か?」

「何かって部屋変えるって話でしょう?」

 

部屋と言うかベッドの交代。

今日色々あって完全に忘れてた。

 

「・・・そういやそうだったな」

「カズマが鍵もってるし、あとカズマの荷物も運んで貰わないと」

「ちょっと待ってくれ。今すぐやるから」

 

何でこんなことになったんだろうとか考えながら荷物をまとめる。

・・・女の子との共同生活ってどんなものなんだろうか?

めぐみんのこと特に意識してなかったけど緊張する。

とりあえず妹ととの同居生活って思っておこう。

気持ち的には楽だと思う。

と言うかめぐみんが妹だったら俺はシスコンまっしぐらだな。間違いなく。

 

「悪い。待たせた。これが鍵だ」

「はーい。これが私達の部屋のやつだから。めぐみんに何かしたら分かってるでしょうね?」

 

ダクネスにも釘を刺されたが、俺がそんなことするわけない。

仮に襲ったとして、捕まるだけだし。

って未成年者にしかもクエスト中に酒飲ませたやつが何を言ってんだ?

 

「お前だけには言われたくない」

「・・・おやすみ」

「おやすみ」

 

アクアのやつすっと部屋に入って行ったけど、俺は今緊張して扉を開けられずにいる。

さっきの妹戦法は全然役に立ってないんだが、どうしようか。

もう一回シミュレーションしてみよう。

めぐみんが妹だったら……

 

「カズマ?部屋の前で何してるんですか?」

 

いつの間にか扉が開いていて、パジャマ姿のめぐみんがこちらを見ていた。

・・・何と言うか本当に妹に思えてきた。

本人見てから急に緊張が解れた。

 

「えっと、本当に俺がここで泊まっていいのか考えてた」

「外は冷えますし、風邪引かれては困りますよ。早く入ってください」

 

返答が全く噛み合ってないけど、めぐみんとしては何の問題もないのだろう。

俺の気持ちも考えてもらいたい。

 

「荷物はそこの棚と机に置いて、ベッドはこっちのを使ってください。寝巻きに着替えるならそこのトイレでお願いします」

「あ、ああ。ありがとう」

 

誘導されるがままに動いてる。

確かにめぐみんの言う通りこっちのベッドはふかふかで凄く寝心地が良さそうで、広さも全然違う。

部屋の様子を観察しているとめぐみんに話しかけられた。

 

「その、今日のお酒のことなんですけど、また話聞いてもいいですか?」

「おう」

 

結構気にしていたみたいだ。

てっきり、もう水に流してなかったことにするのかと思ってた。

 

「私は何を言ってましたか?」

「何をって、クエストの時に話した通りだけど?」

「アクアに似ただる絡みという所は聞けてないです」

 

確かに、良く考えればまだ話してないこともあった。

あの時はキスに関わる話だけだったし。

 

「そうだな。私を見て欲しいとか、俺は私のだーとか、ダクネスだけずるいとかそんなこと言ってたな」

「アクアってそんなこと言ってましたか?」

「私の宴会芸見てなさいとか、お前は私の従者だとか、他の人と話してないでこっち見ろとかほぼ一緒だろ?」

「・・・」

 

何か言いたげな顔してるけど、違う所があるなら言って欲しいものだ。

直接的に俺が何かされるという点においてめぐみんの方が厄介と言えば厄介だけど。

 

「あとは、俺が退避してテントに戻ってからの話になるけど、俺のクリエイト・ウォーターの水を俺の味がするとか言ってたのと、俺が周りにいないのに気付いて母親を見失った子供みたいになってたぞ」

「・・・見苦しい所を見せてしまいましたね」

「気にするな。悪いのは買うなって言ってた酒を買ったアクアと、気付けなかった俺だ」

 

アクアに買い出し頼んだこと自体が誤りだったと言える。

面倒くさがらずに自分でやるべきだった。

 

「カズマは優しいですね」

「優しいって言ったらめぐみんも優しいだろう?」

「私ですか?」

 

何をそんなに驚いてるのだろうか?

俺とアクアがどれだけ世話になったかを考えるだけで凄くめぐみんがいい人であるってのは分かるんだけども。

 

「だって俺らの登録手数料払って、その上で宿まで提供してくれてるし」

「カズマ達の仲間になりたかったからやったことです。一種の投資ですよ。優しさとは言えません」

 

めぐみんは絶対大物になる。

恩着せがましくせずに、逆に否定するなんて普通できない。

 

「カズマと出会えて良かったです。これからもよろしくお願いします」

「えっと、こちらこそよろしく」

「私はそろそろ寝ますけど、カズマはどうしますか?」

 

目を擦りながら確認してくるめぐみんに不覚にもドキッとしてしまった。

落ち着け、相手はロリっ子で三歳下だ。

そう。

相手はロリっ子で、妹枠。

よし、これで大丈夫だ。

 

「特にやることないし、着替えて俺も寝るとする」

「ではまた明日。おやすみなさい」

「おやすみ」

 

俺が着替え終わって部屋に戻るとめぐみんはぐっすりと眠っていた。

・・・安心し過ぎじゃなかろうか。

俺に襲われたらとかって一切考えてないんだろうな。

めぐみんの信頼を裏切らないようにしないといけないな。

 

 

 

「おはようございます。やっと起きましたね。もうすぐでお昼ですよ?」

「・・・えっ?」

 

何故そんなに俺を寝かせていたのだろうか?

逆の立場なら叩き起してると思う。

 

「昨日アクアとダクネスの三人で今日はゆっくり休もうとお風呂で話していたので、今日はカズマが起きるまで待ってみようかと思いまして」

「まさかずっと俺が起きるの待ってたのか?」

「はい。カズマの寝顔は可愛いなあと思いながら眺めてました」

「恥ずいから忘れてくれ」

 

寝顔見られてたって恥ずかしいし、可愛いって言われてるのがまた……

 

「無理ですよ。五時間近く見てますから脳に焼き付いてます」

「・・・そんなに見ててよく飽きねえな」

「好きな人の寝顔ですからね」

「えっ!?」

 

この子急に何言い出すのだろうか?

まさか俺にもモテ期がやってきたのか?

 

「何驚いてるのですか?昨日も言いましたよね?」

「・・・そういやそうだったな」

 

なんだ。

アレか。

一瞬焦った。

そう言えばコイツは爆裂魔法のためならデートとか付き合ってとか言う奴だった。

寝起きドッキリは本当にやめて欲しい。

 

「という事で今日こそはカズマとデートしたいのですよ」

「分かった。ついて行くからちょっと待っててくれ、着替えてくるから」

 

やはり爆裂散歩に誘う口上だったか。

モテ期が来たとかちょっとでも考えてた自分があほらしい。

 

「分かってますよ。私もまだパジャマですから。あっ、私がいいと言うまで出て来たらダメですからね」

「分かった」

 

言われて見ると確かにめぐみんもパジャマだった。

・・・あれ?

てことは俺の寝顔見てたのは本当なのか?

変な寝言してないか心配になってきた。

 

「もういいか?」

「あとちょっと待ってください。もうすぐですから」

「はいよ」

 

ジャージから着替えるのよりは時間がかかって当然だな。

ボタンとファスナーの差がこれか。

 

「出来ました。開けていいですよ」

「よし、まずは朝食ならぬ昼しょ……」

 

飯食って爆裂だと考えてた俺は急な出来事にフリーズしてしまった。

 

「カズマ?」

「めぐみん、その服どうしたんだ?」

 

いつもの服とは違い、黒くて何処か色っぽさを感じさせるフリフリの可愛いワンピースを着ためぐみんがそこにいた。

めぐみんの私服初めて見たけど、てっきりめぐみんの私服って中二病全開なやつかと思ってた。

 

「デートなので気合い入れてみました」

「そ、そうか。似合ってるぞ」

「ありがとうございます」

 

ニコッと笑ってるめぐみんが輝いて見えた。

これは夢か?

何かめぐみんがいつもより可愛く見える気がする。

おかしい。

何かがおかしい。

 

「お昼は私一推しのレストランに行って、商店街でブラブラしましょう」

「えっと、本当にデートするのか?」

「・・・前もそのつもりでしたよ。あの時は寝てしまったので、今回は先にデートをと思いまして」

 

何だ?

本当に何が起こってるんだ?

考えろ。

考えろ俺。

選択肢を間違えたら終わりだ。

 

「てっきり爆裂散歩の口実だと思ってた」

「やはりそうですか。爆裂はデートの〆にします」

「デートの〆が爆裂魔法って聞いたことないけどな」

 

爆裂魔法とかムードもへったくれもないしな。

 

「私とデートは嫌ですか?」

「嫌じゃないけど、なんで俺なんだ?」

「何故だと思います?」

 

疑問に疑問が返ってきた。

つまり俺がちょっと考えれば分かることだよな?

まさかこれって常識講座の一環なのか?

 

「俺の常識レベルを測るためとか?」

「半分正解です。正しくはカズマをよく知るためです」

「俺をよく知る?」

「ええ、カズマのこと詳しく知りたいので」

 

俺の事知って何の得があるのだろうか?

最弱職でつい最新までヒモだった俺の事なんて知る価値ないと思う。

 

「何のために?」

「知りたいから知りたいのですよ」

 

答えになってないけど、言わんとすることは分かる気がする。

俺も今回のデートを通してめぐみんがどんな人か知ってみたいと今話していて思ったし。

 

「それよりも早く昼食にしましょう!」

「ああ」

 

陽気なめぐみんに手を引かれて、レストランへと向かうのであった。




次回の更新は未定です。
天界編がどんどん書きたいこと増えてどうしようか悩んでいる所であります笑


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デートの功罪

めぐみん、お誕生日おめでとうございました!
月曜にあげるとか言いながらもう数分で次の月曜です。
遅くなってすみません。


-DATENOKOUZAI-

 

めぐみんにデートへ誘われて、現在昼食を取っている最中なのだが、入ったレストランが本当にカップルだらけの如何にもデートしてますといった感じのする店だった。

窓側の席なこともあり、知り合いの冒険者が通り掛かると見てはいけないものを見たみたいな感じで去って行く。

俺は今、これが真のデートなのか、それとも教養を調べる為の一貫なのかで凄く悩まされている。

加えてさっきの話だ。

このままだと、俺とめぐみんがデートしてたって話が広まって、また俺の評判が落ちるんじゃないか?普通にデートしてたって内容だけなら評判は落ちないだろうけど、外堀が埋まると言うかなんと言うか。ともかく心配だ。

それに比べてめぐみんはと言うと楽しそうにスパゲティを頬張っている。

何故こんなにも堂々としていられるのだろうか。

こっちがこんなにも悩んでるってのに。

やっぱり、俺を試す目的と捉えた方が正しそうだな。

 

「カズマ?難しい顔してどうかしたのですか?」

「いや、何か普通にデートしてるから、何でだろうって考えてた」

「もしこれが教養講座だと思ってるなら間違ってはないですけど、普通のデートだと思って行動してもらわないと困ります」

 

やはりテストされてたのか。

普通のデートとか言われてもデートなんてしたことないし、どうすればいいか分からん。

めぐみんは知ってるみたいだけど、やっぱり異世界の性事情は早いのか?

中学一年の頃なんて、大した知識持ってなかったからな。

 

「俺の認識のズレが分からないからか?」

「そうですよ。あと、二人の時間は二人で楽しみたいですから」

 

満面の笑みでそんなこと言われてもなあ。

絶対面白がってるだけじゃねえか。

ああ、やっぱりデートと聞いて期待して着いてこなければ良かった。

 

「そろそろデザート頼みましょう。何が食べたいですか?」

「めぐみんのオススメで」

「ではいちごパフェですね」

 

いちごパフェか。

何だかんだで日本でも食べたこと無かったな。

母さんとかは食べてたっけ。

・・・皆元気にしてるだろうか?

 

「カズマ?どうかしましたか?」

「いや、何でも。ちょっと考え事をな」

「デート中に考え事とは、非常識ですよ?」

 

そりゃあこれが本当のデートなら失礼極まりない態度だけども、これは違うしなあ。

めぐみんはちゃんと俺の対応みたいだろうけど、正直に言って友達と遊んでる感覚になってる。

 

「それは知ってるけど、ふと思い出したんだよ」

「何をですか?」

「家族のことだ。もう会えないからさ」

 

・・・俺何言ってんだろう。

こんな重たい話デート中にするとかそれこそ非常識だと思う。

それにこの言い方だと、家族が死んだみたいに聞こえるし、俺が魔王討伐を目指してるって言ってる流れからして、魔王軍とかに殺られたって思うんじゃなかろうか。

 

「・・・ごめんなさい」

「謝ることないって」

「ですが、その」

 

やっぱり、気を遣わさてしまった。

聞いてきた時のお姉さん感のある表情から一変して、今は何かしでかした子供みたいに青くなってる。

俺としては何の問題もないし、何か安心させること言わないと。

 

「えっと、あれだ。今じゃお前らが家族みたいなもんだからな。気にするな」

「・・・カズマ、それはズルいです」

「何がズルいんだよ」

「ズルいからズルいのですよ。それよりもデザート頼みますよ。すみません!」

 

とデザートの注文で一旦話を流すことにした。

流したとは言え、二人ともあまり話さなくなっている間にパフェが到着した。

 

「ここのパフェ美味しいですね!」

「・・・えっと、めぐみんここ来たことなかったのか?」

 

めぐみんの反応を見ているとスパゲティを食べてる時からそうだったけど、初見のそれだった。

おすすめのお店と聞いていたけど、初めて来たとなるとこの店はどうやって知ったんだ?

 

「初めてですよ?この店は受付のお姉さんから聞きました」

「ルナさんか?」

 

ルナさんにとっての俺とアクアへの第一印象はあまりいいものではないと思う。

他の空いてる窓口に行かずに、わざわざ並んでいたもののいざ順番がやってくると登録手数料も持ってない一文無しが二人。

俺なら関わりたくない相手だ。

 

「いえ、ルナさんにこの手の話はご法度ですから、別の人です」

「それはどう言う意味なんだ?」

 

受付のお姉さんと言われると常勤のルナさんがどうしても思い付く。

違うとなると誰か分からない。

あと、ご法度ってどういうことだろうか。

 

「ルナさんは今もなおフリーとだけ言っておきます」

「・・・何となく分かった。そういえばめぐみんってデートしたのこれで何回目なんだ?」

 

ルナさんって美人なのに、配偶者なしなのか。

しかも今もなおって言う表現からして恋愛経験なしか。

なるほど、相手がいないこと気にしてる人に対してデートにオススメの店はないかとか聞ける訳ないか。

 

「カズマが初めてですよ?」

「・・・それにしては随分慣れてるような気がするんだが」

「こんなことで嘘ついてどうするんですか?」

 

めぐみんの言う通りだな。

俺達が付き合ってるとかならメリットもあるかもしれないけど、ハッキリ言って今の状況だと何のメリットもない。

 

「それもそうか。斯く言う俺も初めてなんだけどな」

「知ってますよ。アクアからカズマはどう」

「それ以上は言うな」

 

アイツなんてことめぐみんに教えてんだ。

根も葉もある話だけども、勝手なこと言ってくれてるなあのアマ。

今すぐにでもヤツをしばきたい。

 

「えっと、すみません。配慮が足りなかったです」

「気にするな。お前に吹き込んだあの馬鹿が悪い」

 

めぐみんが気に負う必要なんて何一つない。

全ては話をしたアクアが悪い。

 

「・・・あのう。ずっと気になっていたのですが、カズマとアクアはどう言う関係なんですか?」

「俺らの関係か。まあ、行きずりからの腐れ縁って所かな?」

「と言うと?」

 

普通に考えて抽象的な話を聞きたい訳じゃないよな。

とは言え転生して来たなんて言えるわけもないし、失言しないように気をつけないとな。

 

「この街に来る時の案内役がアクアだったって話はしてたよな?」

「ええ」

「それでここに着いたはいいものの俺もアクアも戻れなくなったから協力してるって所だ」

 

転生だから俺は日本に帰れない。

アクアは天界に魔王を討伐するまで帰れない。

この点において嘘は言ってない。

協力してるってのは、まあ、一応あってるとは思う。

 

「・・・なんと言うかアクアらしい事の顛末ですね。本当はアクアは一緒に来てはいけない状態だったのでしょう?」

「まあ、そうなるな。ある意味では俺も悪いんだが、八割方アイツ自身のせいだ」

 

俺が選んだからアクアがミスした訳では無いけど、アイツが俺をバカにしなければ多分普通に能力なり武器なりのチートを選んでいただろう。

多少の期待があったのも事実だけど、それはそれだ。

でも、そうなるとめぐみんに会えてない可能性もあるのか。

 

「アクアは何をしたんですか?」

「それは言えないな。そこまで話すのは悪い」

 

アクアのプライバシーを盾にこれ以上は言えないように持っていこう。

ここから先は転生に至る経緯を話す他なくなる。

 

「無理にとは言いません。二人の関係がずっと気になっていたんですよ」

「これが俺を詳しく知りたいってやつか」

「内の一つです。逆にカズマが私に何か聞きたいこととかありますか?」

 

思ってた通りか。

確かに二人きりじゃないと聞けない話だな。

逆に俺が聞きたい話か。

色々あるけど、めぐみんが聞いた話の時系列的に言うとこれしかないな。

 

「どうして俺達とパーティーになりたかったんだ?」

「簡単に言えば一目惚れでしょうか?」

「一目惚れ?」

 

簡単に言えばってことは例えとしての表現か。

しかし、どういうことだろう。

謎は深まるばかりだな。

これから明かされる訳だが。

 

「カズマの変わった服に興味を惹かれまして」

「まさかジャージで近付いたのか?」

 

紅魔族の感性なら有り得なくもない。

でもそんな理由だけってのは理解出来ない。

 

「初めはそうですね。加えて私のことを知らない人だったからです」

「めぐみんを知らない?」

「私が爆裂魔法しか使えないと二人は知らなかった」

 

なるほど。

爆裂魔法しか使えない魔法使いは不要とされていたのか。

そこに何も知らないよそ者が現れたと。

しかも恩を売って仲間入りできそうなケースだった。

これで納得がいった。

 

「まあ、そんなことより何よりもカズマを好きになったのが一番の理由ですけどね」

「そうか。今まで不思議に思ってたのが・・・ちょっ、ちょっと待て今なんて言った?」

 

俺を好きになったのが理由?

簡単に言うとってのは例示じゃなくて、単的にって意味だったのか?

やっぱりめぐみんってば俺の事好きなの?

 

「カズマを好きになったのが一番の理由です。好きだとは何度も言ってると思うのですが」

「・・・そ、そうだったな。変に騒いで悪かった」

 

なんだ仲間としてか。

めぐみんの言う爆裂道に必要な存在だからって話か。

ここ最近このパターンで動揺しすぎだな。

今後はめぐみんがこの手の反応しても気にしないようにしよう。

 

「カズマ?」

「何でもない。そろそろ他の場所行かないか?」

「いいですよ。食事マナーについては普通以上に常識があると分かりましたし」

 

・・・ちゃんとテーブルマナーやっといて良かった。

そんな所まで見られてるとは思ってなかった。

この後は何処に行く予定なんだろうか。

商店街をぶらぶらするって話だったけど、どんな店だろう。

 

 

 

商店街に到着し、ショッピングが始まった。

とは言えまだウィンドウショッピングの域を出ていないのだが。

 

「カズマは何か買いたいものとかないのですか?」

「めぐみんこそ何かあったから商店街に来たんじゃないのか?」

「私はこの杖をカズマに貰って特に欲しいものはもうありませんよ?」

「・・・食べ歩きするか?」

「それですね。食べ物屋さん探しましょう」

 

なんという無計画。

正に初めてデートする二人って感じのゴタゴタ感だな。

この時俺は、後は楽にしていられるとそう考えていた。

しかし、相手がめぐみんであることを俺は忘れていたのであった。

 

 

 

ある唐揚げ店では、

 

「いらっしゃい!そこのお二人さん!ウチの唐揚げとポテトどうだい?仲のいい兄妹さんみたいだから安くしとくよ」

「では、私たちが兄妹ではなく、デート中の二人だとしたらどうなりますか?」

「あれ?兄妹じゃなくてカップルだったのね?ごめんなさい。更に安くして破格の百エリスで二人分にしておくわ」

「ありがとうございます」

 

またあるクレープ店では

 

「いらっしゃい!今なら兄妹割もあるよ?どうかなあ?」

「私たちデート中で、兄妹じゃないです」

「ごめんね。お詫びと言うとあれだけどカップル割引もあるよ?」

「じゃあ二人分お願いします」

「はーい」

 

またまたあるアイス店では

 

「いらっしゃい!嬢ちゃん達、兄妹かい?」

「いえ、違います。デート中です」

「そうかいそうかい。青春だねえ」

「バニラとチョコ味をお願いします」

「はいよ」

 

とまあこのように、割引だとかサービス目的を抜きにしても、めぐみんが尽く、兄妹認定を覆してデートだと告げている。

初めはカップル割引目当てだろうと思ってたけど、そう言うの関係なく言ってるのがどんどんわかってきた。

こいつは商店街で兄妹みたいなカップルとして、認知されたいのだろうか?

俺このままだと、めぐみんの彼氏とか呼ばれる日が来るんじゃないか?

 

「私たちってそんなに似てますかね?一度もカップルだと言われませんでしたよ?ちょっと恋人繋ぎとかしてみますか?」

「お前まさかその実験の為にこれやってたのか?」

「途中から気になってやってました」

 

こいつは自身のことより、興味心を取るタイプの人間だとよく分かった。

ジャージに惹かれたってのも見たことない不思議な奴がいるって感じで、興味心をそそられたとかだろうし、今こうやって俺に構ってるのも俺が変だから気になってるとかなんじゃなかろうか。

 

「・・・今日のデートで俺達有名なカップルになったと思うぞ」

「私はそれでも構いませんよ?」

「絶対アクア辺りにネタにされるぞ?」

「それはそれです。私はそんなことよりも、どうすればカズマとカップルに見えるのかが気になって仕方ないのですよ」

 

アクアに煽られるよりも、知的探求の方が勝ってるらしい。

めぐみんが科学者してたら、パソコンとかテレビとかをこの世界で作り出しそう。

 

「・・・はあ、わかったよ。恋人繋ぎしてみよう。俺も何か気になってきた」

「では失礼して」

 

凄く自然な流れで、スルッとめぐみんの手が入って来た。

俺、生まれて初めて恋人繋ぎしてるなあ。

でも一つ言いたいことがある。

 

「・・・それ俺のセリフじゃないか?」

 

めぐみんさんや。

男らし過ぎやしないか?

俺絶対に自分からは無理だぞ。

 

「どっちのセリフとかあるんですか?」

「・・・いや、まあ。なあ、ひとつ聞いていいか?」

「何でしょう?」

「本当に恋愛経験とかないのか?」

 

どうしても今日の行動を見てると攻め方知ってる人に見えると言うか、今日初めてで、さっきまでの全部出来てたら魔性にも程があると思う。

・・・めぐみんなら魔性説も有り得るからなんとも言えないけど。

 

「ええ、カズマが初めてです。カズマと手を繋ぐタイミングくらいはカズマを見てれば自然と分かりますよ」

「ごめん。ちょっと何言ってるか分からない。けど、分かった。お前よく俺の考え読んでるもんな」

 

俺を見てたらタイミングわかるのか?

めぐみん見ててもどのタイミングで、手を繋ぎにくるか全く分からなかったぞ?

 

「そういうことです」

「そもそも何で考えが分かるんだ?」

「何故と聞かれても何となく伝わってくるとしか言えないです」

 

ニュータイプか何かか?

俺だけまだ覚醒してないみたいな?

俺は金銭的にも精神的にもめぐみんに何も言えなくなるかもしれない。

 

「俺以外の人で同じような事は?」

「ないですよ。まあ、その理由は何となく分かってますけど」

「理由って言うと?」

 

俺だけか。

俺だけな理由として考えられるのは、波長が似てるとか?

めぐみんに何かしらの受信機的なものがついてるなら有り得る。

ここは異世界だ。

何があってもおかしくは無い。

 

「何度も言ってますが好きだからですよ」

 

理由は好きだからと来た。

いや、ここでの回答に持ってこられると好きの意味が恋愛的な意味になるんだが。

どうしよう。

これでもし、恋愛的な意味で好きだとずっと言ってたなんて言われたら俺はどうしたらいいのだろうか。

でもこの際だ。

勇気出して、聞いてみるか。

 

「・・・なあ、そのいつも言ってる『あっ!?二人ともこんなとこにいたのね!』」

「何してんだコラ」

 

この駄女神が!!

なんてタイミングでやってくるんだ!

せっかく勇気出して聞こうとしてたってのに。

 

「何でカズマ怒ってるの?」

「はぁ、で何のようだ?」

「何もないわよ?暇だったから誰かいないか探してたのよ」

 

コイツ、後で絞めよう。

何もなく、俺の勇気を踏みにじったバカを放っておく訳にはいかない。

 

「ダクネスはいなかったのか?」

「ダクネスなら実家に用事があるって言ってたわよ」

「そうでしたね。ですが、見ての通りデート中なので、他を当たってください。今から爆裂散歩です」

 

めぐみんさんや。

あんた何言ってんだ。

アクアにこの手の話はダメだろう。

しかも見せつけるように寄せて、更に引っ付いてくる。

アクアが凄いニヤニヤしてる。

嫌な予感がする。

 

「・・・じゃあ、私はギルドで宴会しておくわね」

「おい待て、暇ならついてこい」

「めぐみんがさっき他を当たってって言ってたじゃない。デート中なんでしょう?」

 

ひっぱたいてやろうと思ったものの、腕が固定されて可動域にアクアがいないから諦めた。

コイツだけは生かして帰らせたらダメだ。

 

「お前ギルドの宴会で何する気だ」

「そんなの広めるに決まってるじゃない」

「ここに十万エリスある。意味は分かるな?」

 

アクアの口止めは現金しかあるまいて。

全く、めぐみんがこんなことしなければ口止めなんて必要ないのに。

 

「もちろんよ。私はカズマとめぐみんなんて今日見かけてないわ」

「よし、それでいい」

「因みになんだけど、私がここに来たのは二人が商店街でデートしてるって話が広まってたからよ」

 

言ってアクアはギルドへと駆けて行った。

・・・口止めの意味ねえじゃん。

アクアが話しても噂が事実として補完されるだけじゃん。

 

「・・・めぐみん、今すぐこれやめるぞ。ギルドの奴らには認知されてるみたいだし」

「いえ、初対面の人でなければ意味がありません!次の店でカップル認定されればそれで終わりますから!」

 

めぐみんの実験はまだ続くらしい。

ああ、ここで突っぱねるべきなんだろうけど、今の俺には出来ないな。

 

「はあ、分かったよ。てか、今のでアクアから俺らデートする仲って思われたぞ」

「別に構わないですよ。そんなことよりもあの店行きましょう」

 

構わないとはどういうことだろうか。

めぐみんの考えは全く分からん。

ただ一つ確かなのは、俺とめぐみんはもうギルドで有名なカップルと言うことだろうか。




明日の投稿はカズマさんがめぐみんを攻略するアレです。


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デートの〆に……

週一投稿と月曜更新の設定どこいったんだと言った感じで、全然守られてないのが恒常化してしまいすみません。
年末の課題ラッシュと資格勉強とSAOの復習で忙しいのです。
最後のは娯楽だろうと思われるかもしれませんが、クリスマスイブに友達へ解説しながら布教しないといけなくなったので、これはある種お仕事です。


-DATENOSHIMENI......-

 

めぐみんとのデート中にアクアと遭遇するし、ギルドでは話が広まってるらしいし、今後どうしていこうか考えながら爆裂目標を探して歩いている。

めぐみんは全く気にしてないみたいだけど、絶対何か不都合が生じると思う。

 

「いい目標がないですね。カズマは見つけましたか?」

「全く。もうそこら辺の平原の上空で良くないか?」

「それだと味気ないです」

 

何回も付き合ってるからめぐみんが対象物を欲するのは分かってたけど、味気ないか。

分からないな。

うん。

と言うか理解できたら終わりな気がする。

とりあえず、岩を見つけたから報告しておこう。

 

「味気ってなんだよ。はぁ、あっ、あの岩はどうだ?」

「あれはダメです」

「何でだ?」

 

多分、小さいからって言いそう。

見るからに小ぶりな岩だし。

 

「小さ過ぎます」

「はぁ、だろうと思った」

 

予想通りと言うかなんと言うか。

めぐみん好みの岩か魔物早く現れないかな。

 

「分かってるなら確認しないでくださいよ。期待するじゃないですか」

「へいへい」

「何ですかその返事は。・・・カズマ、アレはどうでしょう?」

「アレってなんだ・・・おい、あの城を爆裂するのか?」

 

そこには大きくて、硬そうな古びた城があった。

これを壊したら賠償請求されるんじゃないか?

少女に貢がせたと言うイメージに加えて借金追加は不味すぎる。

 

「確か使われなくなった廃城で、権利者は居ないと聞いてますから盛大に破壊してやります」

「本当に大丈夫なんだな?」

「ええ、破壊しがいのある物は一応確認してますから」

 

確認してる割には、臨時の土木工事を何件か発生させてるような・・・?

 

「分かった。ならアレにしよう。コホン。・・・目標、魔王軍が不当に占拠せりし古城!」

「・・・了解。今より破壊を実行します。『エクスプロージョン』ッ!!」

 

めぐみんの放った魔法は廃城を粉々にしたと言いたい所が大半が原型をとどめてる。

流石は魔法の世界にある城か。

対魔法耐久もバッチリだ。

 

「うっ、全然破壊出来なかったです」

「腐っても城ってこったな」

「カズマ」

 

おんぶをしようと近付くと名前を呼ばれた。

何か言いたげな顔してる。

 

「どうした?」

「続きお願いします」

「続き?ああ。分かった。・・・弾着確認完了。目標は依然健在。魔王軍は未だ陣地に立てこもっている模様。我々爆裂隊は一度退却し、事後は現場担当官に委任する」

「はい!!」

 

一応デートだから、めぐみんが喜びそうなロールプレイやってみたがめぐみん的には刺さったらしい。

紅魔族の感性ってやっぱり、中二病なのだろうか。

めぐみんは満足したのかおんぶの体勢になったので、おぶってから確認した。

 

「これで良かったか?」

「ええ、最高です!最高ですよ!カズマ、大好きです!」

「そうかそうか。それは良かっ・・・今なんて?」

「大好きです」

 

ダイスキデス?

だいすきです?

大好きです!?

いやいや、これはアレだ。どうせいつものパターンだろ。

こんな場当たり的な告白がある訳ない。

 

「なあ、めぐみん」

「何ですか?」

 

爆裂散歩の前はアクアのせいで聞けなかったが、今度こそ聞いてみよう。

これで単なる仲間としてだとめぐみんが言えば今後何も焦る必要なんてなくなるのだから。

ここは勇気を出そう。

 

「さっきアクアに邪魔されて聞けなかったけど、その」

 

めぐみんが言う好きってのは恋愛的な意味なのかと言いたかったが、めぐみんが暴れだして続けられなかった。

 

「か、カズマ!!話は後です!逃げてください!!初心者殺しが爆発に反応してやって来ました」

 

言われてめぐみんの指さす方を見ると狼のような魔物がこちらに向かって走って来ていた。

始まりの街になんでこんなのいるんだよ!

初心者殺しって名前からして絶対ヤバい。

 

「ざけんなちくしょおおおおおおおおおお!!」

 

この世界はホント俺に優しくない。

全速力で走って逃げているけど、これ、絶対追い付かれる。

他のパーティーに助けて貰うってのも厳しいだろうし・・・

こうなったら一か八かやってやる。

 

「『クリエイト・アース』ッ!『クリエイト・ウォーター』ッ!」

「ぎゃん!?」

 

目潰し作戦は何とか成功した。

後はいつまで奴が怯んでるかの運次第って所だな。

 

 

「めぐみん、ちょっと待っててくれ」

 

めぐみんを近くの木にもたれかけさせて、俺は初心者殺しへと向かって走り出した。

はあ、こう言うの柄じゃないんだけどなあ。

 

「か、カズマ!?」

「冒険者舐めんなごらあああああ!!」

「きゅるるるぅぅぅ」

 

半ば八つ当たりも込めて切りかかる。

目が見えていないからか、全く避ける動作はなく、命中。

あとはもう、我武者羅に切り付けた。

体力的に、一度攻撃を止めて初心者殺しを見るとぐったりとしていた。

 

「はあ、はあ、倒せた・・・よな?念の為に、えい!」

 

狼は賢いから、死んだ振りの可能性もある。

対策として頭を切り落とした。

初心者殺しなんて名前してるからもうダメかと思ったけど、何とかなってよかった。

 

「めぐみん、大丈夫か?」

「はい。カズマこそ、大丈夫ですか?」

「何とかな。さっ、帰るぞ」

 

めぐみんを背負い直して、街へと足早に向かう。

これ以上他の魔物と出くわしたら困る。

 

「カズマ、私のせいですみません」

「何言ってんだ。初心者殺しがいたのはたまたまだろうが」

「ですが、私が爆裂魔法を使わなければ」

「一応、俺の指示でやったんだから責任は俺にある」

 

ヒモだクズだなんだと言われてるが、一応このパーティーのリーダーだ。

仲間の失敗の責任くらい取れないと男が廃る。

 

「でも」

「でもじゃねえ。今は二人とも無事なんだからそれでいいだろ?」

「・・・分かりました」

「それに、なんて言うか、初めてめぐみんにいい所見せられたって言うか、俺としてはいい経験だったからな」

 

今まで情けない所しか見せてなかったけど、やっと活躍してる所を見せられて良かった。

まあ、こんなことくらいで今までのがチャラにはならないんだけども。

 

「カズマ、凄くカッコよかったです。惚れ惚れしてしまいました」

「そ、そうか」

 

こいつはまた惚れ惚れするとか言い出した。

アレか?めぐみんって案外天然入ってるのか?

と考えてるといつもよりも深く手を回して、めぐみんが密着してきた。

 

「めぐみん?どうした?」

 

緊張して声が上擦ってしまった。

相手はロリっ子だってのに・・・

 

「初心者殺しと遭遇して、生き延びれたのが嬉しいと言いますか、カズマの活躍を見て高揚していると言いますか」

「お、おう」

 

やっぱり、子供ぽい所あるよな。

好きってのもやっぱり仲間としてか?

これまでのめぐみんの言動見てても、全くどっちなのか分からん。

 

「早くさっきのことみんなに話したいです」

「そうか?」

「ギルドでカズマのカッコ良さを詳細に語ってみせます」

「いや、そんなことしなくていいから」

 

俺らが付き合ってると思ってるギルドの連中が、今の高揚してる状態のめぐみんから、俺がカッコよかったなんて話を聞かされたら、彼女が彼氏の惚気けしてるなって思われて終わりだ。

お子ちゃまなめぐみんにはそこまで考えが至ってないのだろう。

 

「何故ですか?カズマが私を命懸けで守ってくれた話をすれば、カズマのイメージ回復にも繋がると思いますよ」

「・・・分かった。めぐみん頼んだ」

 

イメージ回復か……

そう言われると止められない。

 

「任せてください。カズマのことは私が守ります!」

「お、おう」

 

めぐみんのこの考えがイメージ悪化の問題点でもあり、俺の男としてのプライドを抉ってくんだよなあ。

でもめぐみんの善意を無下には出来ないし、何処か嬉しい面もある。

男らしいめぐみんの発言に安心させられるんだよなあ。

 

「カズマカズマ!街が見えてきましたよ」

「ああ、何とか帰って来れたな。デートなのに死にかけてちゃダメだよな」

 

デート中に生死を彷徨うなんて普通じゃないし、そんな経験したくない。

偶発な事故とは言え、怖い思いをするのはごめんだ。

 

「そうですか?私はスリルでいい体験だったと思いますよ?」

「めぐみんは強いな」

「私は強くてカッコイイ紅魔族ですからね」

 

紅魔族ってみんなこんなに自信たっぷりな種族なんだろうか。

紅魔の里だったか。

そこに行って他の紅魔族にも会ってみたい。

 

「その勇ましさ分けて欲しい」

「今日のカズマは十分勇ましかったですよ?」

「あれは必要に迫られたからって言うかなんて言うか」

 

殺らなきゃこっちが殺られてた極限状態。

普段ならさっさと逃げ出してる。

と言うか逃げ切れる距離なら戦わずに全力で守衛さんの所に駆け込んでた。

 

「普段勇ましくて、いざって時に動けないよりも全然いいですよ」

「それって俺の普段が女々しいみたいに聞こえんだが?」

「誰もそんなこと言ってませんよ。そう聞こえるってことはカズマがそう意識してるからじゃないですか?」

「ちげえよ!ともかくギルドに行って討伐報告しに行くぞ」

 

普通好きな人へこんな風にからかわないよな。

うん。

めぐみんの言う好きは仲間としてで間違いないだろう。

所で初心者殺しの討伐報酬ってどんなもんだろうか。

 

「二人とも日課は終わったのか?」

 

声を掛けられた方を見るとダクネスとクリスがいた。

二人でクエストに行ってたのだろうか?

 

「ええ、終わりましたよ。ダクネス聞いてください!カズマが初心者殺しを倒したんですよ!」

 

早速話してるな。

二人の驚いた顔からして、初心者殺しは相当ヤバい奴だってのが分かる。

 

「ほ、本当か?」

「まぐれだよ。まぐれ。生き残る為に必死だったからさ」

「初心者殺しと遭遇して生還できた時点で十分凄いと思うよ?」

 

この二人の反応を見て、今更ながらに恐怖が増大してきた。

本当に生きるか死ぬかの分かれ道だったなんて……

 

「あの時のカズマは凄くカッコよかったですよ。惚れ直しました」

「へいへい。あっ、ダクネス悪い。めぐみんを風呂まで送ってやってくれないか?」

 

爆裂後に倒れた時と、初心者殺しと戦う為に降ろした時に砂埃がついてるだろうし、早く汚れは落としたいだろう。

 

「私は構わないが、いいのか?」

「いいに決まってんだろ。てか俺が頼んでんだけど?」

「いや…分かった」

 

言ってめぐみんを引き受けてダクネスは大衆浴場へと向かって行った。

ダクネスは何の確認を取ってたんだ?

最後は了承してくれたけども。

クリスに聞いてみるか。

 

「なあ、さっきダクネスは何の確認してたんだ?」

「えっと、あたしも分からなかったなあ。あははは」

 

これ絶対知ってる奴の反応じゃん。

何で分かってて隠すんだ?

意味が分からん。

 

「それより、ギルドに報告しよう。多分結構な金額貰える筈だよ」

「そうなのか?」

「この辺で初心者殺しの発見例は最近なかったからね。被害者が出る前に討伐出来たって言う、予防的な価値もあるからそれなりに高く貰えるんじゃないかな」

 

話を聞けば聞く程、すげえ大物倒したんだと気付かされる。

これ、前情報あったら逆に腰抜けて戦えなかったよな。

知らぬが仏って正にこの事だな。

 

「ほう。めぐみんが言ってたけど俺が初心者殺し倒したって話が広まったらイメージ回復出来ると思うか?」

「うーん。そうだね。最弱職の冒険者だからって舐められることは無くなると思うよ。あと、めぐみんがあの感じでギルドでキミの武勇伝広めたら彼女を命懸けで守った人ってイメージになると思うよ」

「・・・彼女?」

 

やっぱり俺とめぐみんは恋人だと思われてるらしい。

うっ、ギルド行くの嫌だなあ。

絶対にからかわれる。

 

「ギルドで二人がデートしてたって噂が立ってたからね。まあ、ダクネスは常識講座だろうって言ってたけどね」

「その通り。デートしてたのは事実なんだがな」

 

良かった。

クリスはちゃんと分かっててくれてるみたいで。

 

「へぇー。つまりデートについての常識講座ってこと?」

「そう言うこった」

「初心者殺しのこと知らないって時点で、知識ないのはよく分かるよ。でもどうしてめぐみんだけに教わってるの?別にアクアさんやダクネスでも事情知ってて教えて貰えるよね?」

 

確かにクリスの言う通りなんだが、アクアだと、絶対に小馬鹿にした教え方するだろうし、教師やって貰ってる間は調子に乗って言う事聞かないとか有り得そうだ。

ダクネスはまあ、見てくれだけは美人なお姉さんだから二人きりだと緊張するってのと、ドMが発動したら困るからなあ。

 

「アクアに聞くのは癪だし、ダクネスはアレだからめぐみんが丁度いいって感じだな」

「なるほどねえ。彼女には打ち解けてるんだね」

「打ち解けてるって言うかなんて言うか。クリスがパーティーならクリスに頼んでるぞ。俺が会った中で一番の常識人だし」

「そ、そっか。その評価は素直に嬉しいよ」

 

照れてるクリスはかわいいな。

最近はめぐみんにドキドキさせられっぱなしだから、なんて言うか落ち着く。

 

「カズマくん?ボォーッとしてどうしたの?」

「クリスの照れ顔に見惚れてた」

「え!?」

 

聞かれた質問に答えただけなのに、この反応は何だろうか?

間の抜けた顔になってる。

 

「話してる間に到着だな。クリス達はどんなクエスト受けてたんだ?」

「えええっと、その、ほら、あれ、ゴブリンの討伐」

「どうした?挙動不審で目立ってるぞ?」

 

何処か上の空で、手をパタパタさせて、明後日の方向見ながらクリスは答えた。

今もキョロキョロして、悪目立ちしてる。

 

「ちょっ、ちょっと待って!おかしいのあたしなの?」

「クリスどうしたのだ?お前が騒ぐのは珍しいな」

 

めぐみんを銭湯に送り届けて戻ってきたダクネスの指摘通り、クリスは珍しく騒がしい。

親友からの言葉に対してクリスは思わず叫んだ。

 

「なんでさ!!」

 

 

 

「サトウカズマさん。初心者殺し討伐報酬の二十万エリスのお渡しです」

「・・・こんなに貰えるんですね」

「はい。初心者殺しがアクセル周辺に現れるとギルドとしては初級冒険者の皆さんへのクエスト斡旋がしにくくなりますので、この功績への対価としては十分です」

 

クリスの言ってた通りになったな。

二十万か。

これだけあれば冬は余裕で越せるな。

冬のモンスター討伐は難しいらしく、貯蓄で宿屋暮しを春が来るまでするのが、この世界での冒険者の年越し方法らしい。

 

「ありがとうございます」

「カズマ、改めておめでとう。二人が無事に帰って来れて良かった」

「がむしゃらに戦ったからな。二度とごめんだあんな戦い」

「私もその場に居れば・・・」

 

言葉を詰まらせるダクネスに気にするなと言おうと思ったが、なんだか様子がおかしい。

モジモジしてる。

これ武者震いという名の例の症状なんじゃ・・・

 

「私が盾となり、初心者殺しに蹂躙され、衣服は…」

 

予想が当たったので、ダクネスを放置してアクアかめぐみんを探したけど、見当たらなかったからクリスの元に向かった。

 

「おっ、やっぱり大金貰えたみたいだね」

「お前らが二人で話してなくて助かった」

「と言うと?」

「ダクネスの変なスイッチが入った」

 

クリスもダクネスのドM性癖には悩まされてるみたいだからな。

苦労話の出来る友人は大切にしないと。

 

「あはは。アレばっかりはどうしようもないからね」

「俺ももう諦めてる。アクアかめぐみん見てないか?」

「アクアさんならカズマくんが受付してる時に、口抑えながら外に走って行ったよ?」

 

飲み過ぎて吐きに行ったのか。

相変わらずアホだなアイツは。

考えて呑めばいいのに。

まあ、俺も酔い潰れたことあるから人のこと言えないんだけども。

 

「酔っ払いはどうでもいいとして、めぐみんはまだ戻ってないのか?」

「戻っては来たけど、アクアさんの様子見に行ったよ。でもそろそろ二人とも戻ってくる頃かな」

 

駄女神が一人じゃないことに一先ず安心だ。

特にやる事もないし、クリスに質問でもしとくか。

 

「そうか。じゃあそれまでちょっと話し相手になってくれないか?」

「いいけど、どんな話かな?」

「めぐみんのことなんだけども」

 

めぐみんと言うか聞きたいのは紅魔族に関する話だ。

紅魔族の習慣って言うか、特性みたいなのを知りたいけど、なんと言うか、本人にはちょっと聞にくいんだよなあ。

 

「私がどうかしましたか?」

「えっと、めぐみんって言うより、紅魔族のこと聞きたくて」

 

結局本人に聞くことになった。

良くないことしてたみたいにめぐみんから睨みきかされたら、何でもないとは言えなかった。

 

「我が種族に興味を持っているのですね?」

「ああ、紅魔族ってみんなめぐみんみたいな感じなのかなあって」

「言ってる意味がよく分からないのですが」

 

質問がアバウト過ぎたのか、クエスチョンマークを浮かべるめぐみん。

代わってクリスの方を見ると少し悩んでから意図を汲んで説明してくれた。

 

「うーん。名前とか感性は同じだと思うよ。ファッションセンスも大体統一されてるかな」

「そういうことならクリスの言う通りです。でも中には変わり者の中二病もいますけどね。ゆんゆんが正に中二病です」

「・・・お前が中二病言うな」

 

こいつにだけは中二病とか呼ばれたくないな。

ゆんゆんって、確かめぐみんの自称ライバルだっけ。

あの子もいい子だったな。

多分、紅魔族の中でマトモな人が中二病って呼ばれちゃうんだろうなあ。

 

「おい、喧嘩を売ってるなら買おうじゃないか!」

「これも紅魔族特有?」

「まあ、紅魔族は売られた喧嘩は買う種族だって話はよく聞くからね。そうだと思うよ」

 

なんて好戦的な種族だろうか。

めぐみんの男らしさはそこから来てるのかもしれない

 

「わざと怒らせたのなら許します」

「いや、めぐみんは中二病だろ」

「いくらカズマとは言え許しませんよ。今日は抱き枕になってもらいます」

「かかってこい。俺は初心者殺しにも・・・今なんて?」

 

抱き枕になってもらうって聞こえた気が・・・

それになんかこれに似たやり取りをやったようなきがする。

 

「抱き枕になってもらいます」

「・・・そんなことされたら俺寝れないんだけど」

 

添い寝だけでも緊張して寝れそうにないのに、抱き枕なんかにされたら絶対眠れない。

昨日の別々のベッドでも緊張してたのに、これはどうすればいいんだ?

明日はバイトもあるのに・・・

 

「それが罰です」

「・・・」

 

流石紅魔族の天才でいらっしゃる。

的確に攻撃してくるとは。

・・・本当にめぐみんと付き合ったら絶対に尻に敷かれると思う。

 

「わかったよ。俺が悪かった」

「ふふっ、ではダブルベッド用意して貰いましょうか」

「ああ」

 

この子は何故こういう話を普通のボリュームで言ってしまうのだろうか。

凄い視線集めてるんですけど。

クリスからやっぱり関係あったのかって目で見られてるし、どうしようかこれ。

 

「私は宿屋に頼みに行ってくるので、カズマは夕飯私の分も頼んでおいてくださいね」

 

言ってめぐみんは宿屋へと去っていった。

となると俺に注目が集まる訳で・・・

 

「やっぱりあの二人付き合ってるんだ」

「何でもデート中に初心者殺しに出くわして、彼が命懸けで彼女守ってたらしいよ」

「マジかよ。あの弱そうなのが初心者殺し倒したのか?」

「人は見かけに寄らないってやつだな」

「でもあの男の人って年下の女の子に貢がせたり、パンツ盗ったりしてる人じゃないの?」

「確かにそうだけど、話だとあの子に杖プレゼントしたり、お金返したり、しっかりしてるみたいだぞ?」

「パンツ盗ったってのも事故らしいしな」

 

色々と言いたい放題言ってくれるな。

なんて言うか、マイナスな話少なくて良かった。

でも、これでギルドで俺とめぐみんが恋人認定されてるのが確定した。

今訂正入れても焼け石に水だろうしなあ。

 

「でもまあ、パンツコンビは周知の事実だけどな」

「そりゃあ間違いねえ。クリスと二人でパンツ取り合ってた話だろ?ダクネスさんと仲良いからそういう趣味あってもおかしくないって思ってたんだよ」

「ちょっ!?」

 

思わぬ攻撃にクリスさんは驚いていた。

キャベツ狩りで周り気にせずにやってた俺のせいなんだけどなあ。

まあ、クリス単体でも窃盗スキル講習を目撃した奴らが広めたのか、男のパンツ盗る趣味があるって噂はあったけども。

 

「あたしは別にそんな趣味じゃないから!」

「でも私見たよ。路地裏でクリスさんがカズマさんのパンツ盗ってる所」

「俺はキャベツ収穫の時にカズマがクリスの盗ったのを見た」

「それでも仲がいいってことはそう言うことだよな?」

「「違う!!」」

 

この後何度も説明を試みたが、変態コンビの汚名は晴らせなかった。

めぐみんと付き合いながら、クリスとパンツ盗り合う仲だと思われてるなら、全然イメージ回復できてないと思うんだが・・・

俺の評価回復は、まだまだかかりそうだ。




明日、もしかしたらまた投稿するかもしれません。
今年はもう教習行かないので、時間に余裕が出来つつあります。
とか言ってまた遅れてたら、SAO見てるものだと思ってください・・・


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期待の最弱職(ルーキー)

日曜日に投稿したと思ってたら出来てなかったです・・・
すみません。
毎回、謝ってる気がします・・・


-KITAINOROOKIE-

 

めぐみんとのデート講座中に色々とアクシデントがあったものの、何とか帰って来れた。

そして、宿には帰ってきたのだが、初心者殺しとの対峙よりも厄介な状況になってしまってる。

 

「カズマ?早く寝ましょうよ」

「・・・もうちょっと心の準備をする時間を」

「かれこれ一時間経ってますよ?」

 

ギルドで言ってた通り、本当にダブルベッドをめぐみんは用意していた。

そして、めぐみんは本気で俺を抱き枕にして寝るつもりだと理解した時には遅かった。

 

「カズマ!これは罰ゲームなんですから逃げはダメですよ!」

「わ、分かった。後数分だけってうわっ!?」

 

一瞬空を舞ったと思ったら、背中がふかふかしていた。

めぐみんに引き込まれた。

そして、ガッチリホールドされて身動き取れない。

 

「ホント、カズマはヘタレですね。もう離しませんよ」

「だ、誰がヘタレだって?」

「一時間もベッドに入らない人ですよ」

 

何も言い返せない。

くそっ、相手はロリっ娘だってのに情けねえ。

 

「・・・なあ、めぐみんに聞きたかったんだけどさ」

 

今だ。

二人きりで、話することの方が緊張しない今程確認するのに丁度いい。

流石に宿屋で邪魔されないだろう。

 

「お前の言う好きってのは」

「スースー・・・」

 

何でこうも確認取ろうとするタイミングで、失敗するんだろうか。

やっぱり、めぐみんが言うヘタレだからか?

てかこれ眠れないんだけど。

 

「かずま・・・」

「・・・」

 

そう言えばこいつの寝言は、爆裂散歩の夢が多いから、俺の名前もよく出てくるんだった。

やばい、名前呼ばれながら抱き着かれてるのは、徹夜慣れとか関係なく耐えられるか分からん。

 

「・・・わがばく・・・・えくす・・」

「・・・」

 

名前呼ばれるのより、こいつと共に心中することにならないか心配になってきた。

寝てる間の詠唱中に、魔力が出てることもあるし・・・

 

「・・・いす・・・・れつ・・」

 

ナイス爆裂かな?

一先ず安心だな。

これでこいつが詠唱することはない。

何か安心したら気が抜けて・・・

 

 

 

「・か・・き・・・・・さ・・・よ・・」

「かあさん、あとごふん」

 

休日はゆっくり過ごしたい。

 

「・・・ます・・・・・しは・・」

「あとちょっと」

「・・・・なかなか・・ない・も・いい・・」

 

休みなのにしつこいな。

こうなったら戦うしかねえ。

 

「いいかげんに・・・お、お前何やってんだ!!」

 

抵抗しようと目を開けて見るとそこには下着姿のめぐみんがいた。

 

「着替えですけど?」

「いやいや、俺居るんだぞ?」

 

さも当然の事みたいに言ってる。

やっぱり俺は兄貴みたいに思われてるのだろうか。

妹のいる友達が、兄妹を異性として見るなんて有り得ないって言ってたっけ。

・・・別にめぐみんに異性として意識されたい訳じゃない。訳じゃないけど、何か悔しい。

 

「あとちょっとと言われたので、カズマはもう少し寝たいのかなあと母さんは思いました」

 

あっ、これ絶対ずっといじられるやつだ。

 

「忘れてくれ」

「嫌です。・・・何してるんだと言う割にジロジロ見てくるのはどう言う了見か聞こうじゃないか」

「えっと、これは男の性でだな・・・」

 

やっぱり見られるのは気に触るか。

そりゃそうか。

いくら兄妹でも嫌だわな。

 

「まあ、いいです。着替えを始めた私も悪いですからね」

「悪い」

 

布団を被って見ないようにした。

どうしようか。

アイツが意識しないとしても、あんなの見たら嫌でも意識する。

俺はロリコンじゃない。

ロリコンじゃ・・・

 

「もういいですよ」

「おう」

「カズマ」

 

名前だけ呼んで黙って近付いてくる。

このパターンはラブコメとかでよく見てるから知ってる。

ビンタなりグーパンをされる流れだ。

 

「殴るなら痛くない所にして欲しい」

「そんなことしませんよ。私もカズマの着替え見ますから」

「・・・は?」

「冗談ですよ。私は外で待ってます。早く朝食に行きましょう」

 

めぐみんに振り回され続けてるな・・・

こんなんじゃ頼れるお兄ちゃんになるのはまだまだ先だな。

 

 

 

「遅かったですね。何してたんですか?」

「ナニもしてない。着替えに手間取ってただけだ」

「新しいパジャマが脱ぎにくかったのですね。慣れるまでの辛抱です」

 

全く違うけど、この際これでいいや。

ジャージに慣れ過ぎて、脱ぎにくかったのは事実ではあるし。

 

「今日はどこ行きますか?」

「何処って?」

「昨日はデートについてでしたよね?今日のお題と目的地の話です」

「そろそろバイト戻らないか?毎日金貰ってるだけってのは流石に気が引けるし」

「では今日は労働しましょうか」

 

とまあ、今日の予定が決まったのである。

 

 

 

「二人ともデートは楽しかったか?」

「いや、アレは勉強の為に」

 

ギルドについてからずっとだが、俺達二人は視線を集めてる。

昨日のデートの話が予想以上の早さで広まってるらしい。

 

「分かってるさ。でも商店街の知り合いからデートしてる初々しい二人を見たって聞いてね」

「アレはデートを装う事で、値切る戦法です」

 

値切る戦法より、昨日話してた俺らが兄妹ではなく恋人に見られることはないかの調査したかったと言えばいいのに。

流石に他人に話すのは恥ずかしいのだろうか?

 

「やはり紅魔族は賢いな。今日は二人とも奥の厨房で調理を頼む」

「「はい」」

 

ウェイターやってたらいじり倒されてたろうから、マスターの配慮に感謝しないとな。

でも、この世界の食料って自我もってて暴れるんだよな・・・

しとめ方とかを教わるのが今回のバイトの課題かな。

 

 

 

「お疲れさん。これは今日の分だ。それと明日から来なくていいぞ」

「えっと、俺ら何かやらかしました?」

「完璧とは言えませんが、それなりに出来たとは思うのですが」

 

クビの宣告をされるようなヘマはしてないはず。

人手不足は今も変わらないのは肌感覚で分かるし、切られる理由が見つからない。

 

「いや、腕に関しては十分だし、ウチとしても働いてもらいたいのは山々なんだが、ギルドから二人には冒険者として働いてもらいたいって要請があってね」

 

なるほど、ギルドからの要請か。

確かにそれなら分かる。

ここはギルドの敷地内だから、マスターよりも権限は上だろうし。

とは言え、俺が教養学んでる間も給料もらってたのに、このまま働かずにってのは、不義理に思える。

 

「でも、これまでに俺に投資して貰った分がありますし」

「それについても、ギルドからさっき支払われてね。恩に感じているなら、ギルドで活躍してくれよ二人とも」

「つまり、私達をギルドが買い取ったと?」

 

めぐみんの言い方はさておき、ギルドが俺らを確保しようと動いてくれたのは事実。

冒険者も人が足りてないのか?

 

「そういうこった。俺が投資してた分はこっちで払うから二人を本業に専念させたいってよ。随分期待されてんじゃねえか兄ちゃん」

「俺が?」

 

何故期待なんかされてるんだろう。

冒険者登録した時なんて、愛想笑いが返って来てたのに・・・

 

「初心者殺しが何かは知らねえけど、そいつを倒せる実力者は遊ばせておけないそうだ」

「良かったですね。少なくともギルドからは評価して貰えるようになりましたよ」

 

なるほど、実績残したから手のひら返しってことか。

 

「だな。これで俺のイメージ回復が一つ進んだ」

「それについてなんだが・・・」

 

悪い情報が齎されると思って身構えて見たけど、マスターの顔色的にはそこまで悪いようには見えない。

でもかと言っていい情報かと聞かれればそう言った感じの明るい顔でもない。

凄く気になる。

 

「何でしょう?」

「ウェイターをやってる子が今日接客してる中で、聞いた話によるとだね」

 

情報収集してくれてたのか。

マスターには世話になりっぱなしだな。

いずれ金が貯まったり、暇な時は無償でもいいから手伝いに来よう。

 

「めぐみんくんと盗賊の女の子がキミを取り合ってるって噂が立ってるらしいよ。それ以外は特にネガティブなモノはないと言っていたから安心したまえ」

 

ギルドの連中の中で俺はリア充になってるのか。

全然そんなことないのに。

いやまあ、ラブコメ的な展開に出くわしてないと言えば嘘になるけど、それはめぐみんが俺をからかうためにやってる事だしなあ。

 

「ほう。クリスがカズマを・・・」

「あくまでも噂だろ」

「ええ、ですが私としては見過ごせません」

「そりゃあ、何もないのが一番だけど悪いことではないだろ?」

 

めぐみんとしては俺の事はクリーンにしたいみたいだ。

本当に優しいやつだよな。

俺らより前に組んでためぐみんを追い出してたヤツらにはある種の感謝だな。

 

「カズマがそう言うなら」

「実際は何もないみたいだね。キミたちのパーティーの分は一割引にしてあげるよ。そうだ。あの青髪の子に謝っておいてくれるかな」

「アクアですか?」

 

とりあえず、マスターには事実をちゃんと認識して貰えて良かった。

そういや酒を水に変えてクビになってたっけ。

 

「そうそう。あの子が触れた液体が水に変わると言っていたのが事実だったとは知らずにクビにしてしまったからね」

「アイツがその体質について初めに話してなかったのが悪かったんですから、大丈夫ですよ」

「キミには敵わないな。ハハハハハ」

 

俺の幸運値は多分この出会いの良さに使われているのかもしれない。

明日からは冒険者としての生活か。

ここから俺の冒険者生活が本当の意味で始まるんだ!

 

「仲間の子達が戻って来たみたいだ。行っていいよ」

「「ありがとうございました」」

 

マスターの言う通りにギルドにやってきたアクアとダクネスに声をかけようと近付いて行くと俺はふと、ある違和感を覚えた。

噂されてる割にあまり視線を集めていないなと。

視線を集めたい訳じゃないけど、昨日の感じからしてもっと見られていてもおかしくは無い。

 

「二人ともバイトお疲れ!」

「アクアもな。ダクネスも付き添いで行ってたのか?」

「いや、実家に帰っていたのだが、ギルドに向かう途中でアクアを見かけてな」

「なるほど。所でダクネス、昨日はギルドに居たか?」

 

ダクネスからギルドでどんな噂が流れているのかを聞こう。

この際めぐみんがいると話がややこしくなりそうだから出来れば二人きりの方が都合がいいかもしれない。

 

「ああ、アクアが遅くまで呑んでいたからな」

 

これはラッキー。

アクアのお守りだけしていた訳じゃないだろうし、みんなが話してたとすれば耳には入って来てるはず。

 

「ちょっと二人で話し良いか?」

「私は構わないが、問題はないのか?」

 

心配そうに確かめてくる。

昨日も俺が頼んでるのに、確認されてたような?

ダクネスは気にし過ぎと言うか、気を遣いすぎてないか?

それとも、ダクネスなりの断り方とかだったらどうしよう。

でも誰も止めないし、この前はクリスも事情は知ってるにしても、ダクネスの意図を理解した上で黙って見てたから違うよな?

 

「何を心配してるのかは知らんが来てもらうぞ」

「分かった」

 

場所を喫茶店に変えて、俺は単刀直入に聞いた。

 

「俺に関するギルドで流れてる噂を教えて欲しい」

「カズマは何処まで知っているのだ?」

「俺をめぐみんとクリスが取り合ってるとか何とか」

 

ダクネスが頷いてるからマスターの言ってた情報通りか。

こんな噂でハーレム野郎だとか言われて男性冒険者から目の敵にでもされたら洒落にならない。

 

「概ねそんな感じだな。加えてカズマがめぐみんを選んだと専らの噂だ」

「クリスは大丈夫なのか?」

 

俺とめぐみんはまあ、一緒にいるから何とかなるけど、クリスは勝手にフラれたことにされてるのツラいと思う。

否定しても多分、火に油を注ぐようなもんだし。

 

「昨日から見かけていないから、ほとぼりが冷めるまで隣町に拠点を移したのだろうが、これが逆効果でな」

「・・・失恋したから隣町に行ったと」

「うむ。クリスが馬車に乗る所を目撃されていたのと、昨日めぐみんがダブルベッドを用意しようと言っていたこと、二人が商店街でデートをしていたと言う多くの目撃情報が合わさって、現実味を帯びてしまっている」

 

全部事実だけど、事実じゃない。

クリスは単純に厄介事から逃げただけ。

めぐみんの昨日の発言は、俺への罰ゲームだし、そもそもアイツは周りの目なんて気にしてない。

デートに関しても、めぐみんの知的好奇心が祟って、商店街中でデート中であるとアピールしたのと、レストランにいる所を多くの冒険者に見られてる。

何でこんなに状況証拠バッチリなんだよ。

 

「そうか。もしかしてクリスがいなくなったから俺らに気を使ってみんなこっち見なくなったのか?」

「そんな所だろう。昨日、カズマとクリスをいじっていた者も多かったし、負い目に感じているのもあるかもしれない」

「クリスのこともだけどさ、俺としては別にめぐみんと付き合ってるとか思われててもそれはそれで嬉しいけど、向こうは嫌だろうから何とか出来ないかと考えてるんだが、何かいい案ないか?」

 

妙案がないか聞いて見たら何故か呆れ顔を見せられた。

それくらい自分で考えろってか?

確かに冒険者は全部自己責任が基本だけど、これくらいは許して欲しい。

 

「・・・二つ、案がある」

「ホントか?」

「一つ目は意識的にめぐみんと行動を共にしないことだ」

 

聞いたら簡単そうだけど、実践するのはすごく難易度高いと思う。

爆裂散歩からの流れで大抵一緒にいるし、どこか行こうとするとめぐみんが「知らないことがあれば私に聞いてください」と言ってついて来てくれるし、流石に俺の教養不足を補うために同行すると言ってくれてるのは断り難い。

 

「それが出来たら苦労してない」

「カズマはめぐみんに流され過ぎだ。そんなだから二人の関係が恋仲であると噂が流れたり、アクアにロリマなどと呼ばれたりすることになるのだぞ?」

「それは分かってるけど中々言い難く、て?ちょっと待て、アイツそんな二つ名を俺を指して使ってんのか!」

 

あのクソアマ!

誰がロリコンだ!

アイツとは一度じっくり話す必要があるな。

 

「その話は後にしてだ。何かしら理由をつけて距離を置く他ないだろう」

「俺としては駄女神の処遇についての方が今重要なんだけど」

「はあ、前にも聞いたが、カズマはめぐみんをどう思っているのだ?」

 

何故ため息をつかれたのだろうか。

話を脱線させたからか?

それにしても呆れるようなため息をつく理由にはならないと思うんだが。

ここに来てからダクネスに呆れられてばかりだ。

 

「前にも言ったけど恩師だ。最近はちょっと抜けてる所もあるけど頼れるかわいい妹分みたいなポジションだ」

「以前と変わらず異性としては全くか?」

「もちろんと言いたい所だが、あいつのからかいでドキドキさせられっぱなしで、お世辞にも意識してないとは言えないかな。でも恋愛感情はない」

 

急にハグされたり、押し倒されたり、添い寝したり、抱き枕にされたりと、美少女にこんなことさせるにはいくら払えばいいんだと思うくらいの事を平然とあの子はしてくる。

これで意識しない男はめぐみんの実の兄とか、ゲイとかって言う例外を除けばいないはずだ。

 

「それは私と初めて会った時のモノと近いのか?」

「そうだと思う。てかさっきから何の確認なんだ?」

「いやな。噂を消すよりも噂を事実にした方が早いだろうと思って、カズマに告白させようと思ったのだ」

 

この人は何考えてんだ?

確かに俺とめぐみんの関係が事実だと認めて、その上でクリスの噂は尾ひれの着いたデマだと言った方が収束は早いだろう。

でも恋人になるのは簡単じゃない。

そりゃまあ、めぐみんが恋人になるってのはそれはそれで俺なんかに彼女が出来たって事で嬉しいけど、それとこれとは話が別だ。

 

「おいこら、人生一大イベントを噂解消なんて言うしょうもないことのためにさせるのかお前は?」

「確実に成功する案だと私は思うぞ?」

 

ダクネスは俺らを心のない駒か何かだと思ってないか?

めぐみんだって、会ってすぐの男となんて嫌だろうし、俺だって好きでもないのに告白するのは気が引ける。

それにこの案は最大の欠点がある。

 

「仮に俺がめぐみんのこと好きだったとして、俺がフラれて負う心のダメージとか考えたことあんのか?」

「考えてなかったが、問題ないだろう?」

 

ダクネスがここまでドライな性格だとは思って無かった。

なんだよその呆れた目は。

あれか?

俺がヘタレだとでも言いたいのか?

ダクネスとしては親友が事実とは異なる噂を流されて、それを解消する為には、手段を選ばない的な考えなのか?

 

「はぁ、もういい。アレだろ?とりあえずめぐみんに流されないように頑張って、一緒にいる時間減らせばいいんだろ?」

「うむ。第二案の存在も念頭にな」

 

ダクネスも何だかんだで、俺らの関係疑ってるのでは無いかと思えてきた。

なんと言うか単純に俺に告らせようとしてるようにも見える。

クリスを助けるのが半分、俺らを引っつけようとしてるのが半分って所か。

いや、クリスの方がウェイト大きいと思うけど。

 

「そっちは絶対使わないから」

「どちらの案にせよ。協力するから遠慮なく声をかけてくれ」

「ああ」

 

第一案の方はありがたいけど、第二案の方は協力も何もないと思う。だって告白するの俺だし、その場のことはダクネスにはどうしようもないし。

とは思いつつも協力してもらえるのだから、感謝しとかないとな。

 

「助かる。そろそろギルド戻るか」

 

 

 

ギルドに戻るとまた凄い視線を集めてる。

まさか俺がダクネスにも手を出した的なやつじゃないよな?

そうなったら洒落にならないんだけども。

 

「えっと、俺なんかしたか?」

 

近くにいたよく話す冒険者に聞いてみる。

 

「悪いことではないから安心しろ。今お前さんが注目集めてるのは彼女が惚気けまくってたからだよ」

「・・・俺ら付き合ってないけどな」

 

アイツ昨日の初心者殺しの話を本当に話してんだな。

思ってた通り惚気だと思われてる。

はぁ、収束がまた遠のいた。

 

「さっさと告白しろよ」

「何でそうなるんだよ。ダクネスも・・・あれ?」

 

ダクネスといい、何故俺に告白させようとするんだ?

それに気付いたらダクネスは何処か言ってるし。

 

「さっきプリーストの姉ちゃんの所に行ったぞ」

「じゃあ、そのプリーストは何処にいるんだ?」

「あの人だかりの中心」

 

宴会芸か。

お捻り貰えばいいのに、変な所で律儀っていうかなんて言うか。

 

「・・・めぐみんは?」

「あっちの人だかりの中心で今もカズマの武勇伝を語ってるぞ」

「今すぐ止めさせてくる」

 

情報提供への礼としてお辞儀してから、めぐみんのいる集団に向かう。

この人数は掻き分けるの難しそうだな。

どうして近付こうか。

 

「おっ、ご本人登場だぞ」

「お前ら道開けろ」

 

近付くのが難しいと考えてたのに、一瞬で問題は解消された。

道が開けてめぐみんまでの道が出来た。

 

「カズマ!こっちに来て昨日の話をしましょう!」

「しません。そんなことより明日のクエストについてみんなで話すからこっちこい」

「そんなことではありませんよ!みんなも話聞きたいですよね!」

 

みんな面白がって無責任に話を聞かせろとコールする。

ここで拒否すればめぐみんに流されない第一歩になる。

頑張れ俺。

俺はやれば出来る男だ。

 

「金出すから話してくれよ」

 

誰かは知らないがこの発言によって、俺が何も言ってないのに、俺の手元にお金が次々と集まってきた。

・・・もう、これはめぐみんに流されたんじゃなくて、冒険者の圧に負けたって事で大丈夫だよな?

 

「で、どうやって初心者殺し倒したんだ?」

 

誰かの言ったその一言によって、みんなの視線がより強くなった。

あっ、これ、俺の活躍を聞きたいとかじゃなくて、初心者殺しの倒し方知りたい冒険者の集まりか。

俺にこれだけ金を積むってことはめぐみんは俺の戦い方の詳細は話してないな。

 

「えっと、偶々上手くいっただけで、毎回出来るわけじゃないし、保証できないぞ?」

 

一応確認とって責任回避だけはしとかなければと思ったけど、そんなことより早く話してとヤジが飛んでくる。

誰も止めないし、大丈夫だろう。

 

「話の重複は避けたいから何処から話せばいいか教えて欲しい」

「お前の彼女は何も話してないから全部だ」

「カズマくんがカッコよかったとか、凄かったとかしか聞いてないから、どんな攻撃手段なのか教えて!」

 

めぐみんは何を語ってたんだ?

普通武勇伝って、戦い方を臨場感溢れる語りでするもんだよな?

 

「話す前に言っとくが俺とめぐみんは付き合ってないぞ」

「そう言うのいいから早く」

 

表情からして分かる。

恥ずかしがって、否定してるだけだと思ってるなこいつら。

言っても無駄か。

 

「はぁ。まず使うのは初級魔法と剣だ。剣はダガーとかでもなんでも、切れればいい」

「ちょっと待て!初心者殺しが初級魔法で倒せるのか?」

「初級魔法なんて覚えるだけ無駄だって習ったよ?」

「嘘ついてんじゃねえだろうな?」

「まあまあ、嘘かどうかの判断は話聞いたからにしてくれ」

 

先輩冒険者達に囲まれてる中、お金貰って話してるのに嘘つける初心者冒険者なんていねえよ!

本当の意味で冒険者を選択してる奴の基礎能力的に初級魔法か良くて中級くらいしか使えないのもわかってるだろうに。

 

「話進めるぞ?初級魔法の中でも使うのはクリエイト・アースとクリエイト・ウォーターだ」

「クリエイト・アース?」

「土作ってどうすんだ?」

「聞いていれば分かりますよ」

「それはそうだけどよ」

 

めぐみんのフォローに助けられた。

まあ、俺だって初心者殺しが初心者の魔法で倒せるなんて思いもしない。

 

「コホン。まず逃げながら土を手の中一杯になるまで作って、射程距離に初心者殺しが来たら目に向けてクリエイト・ウォーターを放てば目潰しが出来るから、怯んでる間に剣で切り付けて仕留める。頭を切り落とせば確実だな」

「・・・本当にそんなので倒せるのか?」

「だから偶々上手くいっただけってさっき言ったろうが」

 

大した情報じゃないと見るやみんな席に戻って行った。

金返せって言わないだけましか。

これで変に視線を集めなくなるだろう。

クリスもその内戻って来るだろうし、そうなれば、噂も沈静化するはずだ。

やっと落ち着いて、めぐみんと話が出来る。

 

「みんな戻っていきましたね」

「お前は何を話してたんだ?」

「その話よりもダクネスから聞いた話はどうでしたか?」

 

聞こえてたのか?

まあ、話の内容分かってるなら丁度いい。

 

「話によると俺がめぐみんを選んだからクリスが隣町に逃げたってさ」

「クリスが可哀想ですね」

「何とかしてやりたいけど、俺が動くと逆効果だろうし」

「確かにそうですね。私達が恋人になれば多少は早期解決も可能でしょうけど」

 

まさか、ダクネスが問題ないって言ってたのこういうことか?

めぐみんも同じ案に辿り着くだろうって?

じゃあ、そう教えてくれよ。

 

「・・・お前もそれを言うか」

「と言うとダクネスもこの案を出したのですか?」

「まあな。俺がめぐみんに告白して、恋人だって所を事実にして認めれば噂に上書きも出来るだろうって。ダクネスは協力を惜しまないとか言ってたけど」

 

ダクネスもフリをする案だって言ってくれれば、俺も構えなくていいのに。

でも恋人のフリするのを提案するのは凄い勇気いるし、ダクネスが間に入ってくれなかったら言えないかも。

 

「では協力してもらいましょう」

「おう。ってどういうことだ?」

「こういうことですよ」

 

と言ってめぐみんが肩にもたれかかって来た。

なんかいい匂いがする。

って、そんなこと考えてる場合じゃねえ!

 

「大人しくしてください。私達が恋人のフリをして一日でも早くクリスが戻ってこれるなら、それでいいじゃないですか」

「・・・分かった。めぐみんはそれでいいんだな?」

 

まさか、絶対にしないと言ってた第二案で、行動することになるとは。

ダクネスに話したらどんな反応するだろうか。

ほら見た事かって顔してそう。

 

「恋愛に興味なんてないですから。カズマと一緒ならそれで」

「そうか。そろそろ爆裂散歩行こう」

 

席から立てば離れてくれると思ったけど、手を繋いで行くことになった。

・・・これもクリスの為だ。

多少恥ずかしくても我慢するしかないか。

と言ってもデート講習からずっと恋人のフリしてる並に恥ずいことだらけだったけどな。

俺が慣れるのが先か、噂が消えるのが先か・・・




今日また、今週分を投稿するのでそちらもよろしくお願いします。
更新はこのシリーズです。


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コンボ魔法

手直しとかしてたらこんな時間になりました。
もしかしたら矛盾してる所あるかもですが、感想とかコメントとかで報告してもらえると幸いです。


-COMBOMAGIC-

 

お暑いねえとか何とか言われて、からかわれながら爆裂散歩に向かい、無事に戻って来た。

帰りはいつも通りのおんぶだから大して絡まれなかった。

手を繋ぐのより、おんぶの方が本来上だと思うのに。

なんにせよ。爆裂散歩も終わり、やっと落ち着いたと思ったのが悪かったのか、ギルドに着くなり駄女神が意味ありげな顔をしてこちらに向かってくる。

嫌な予感しかしない。

 

「カズマさん?ちょっと十万程くれないかしら?」

「断る」

「十万くれたらいいモノ見せてあげるからね?」

「いらんわ!」

 

いかがわしさ満点の言い方してるが、どうせとっておきの宴会芸だろう。

お捻りは貰わない癖に俺からは金取るのはどう言う了見なんだ?

 

「お願いよ!まだ誰にも見せてない大技を見せるから!」

「だからお前の宴会芸はいらねえって!てかそんなに金欲しいならお捻り貰っとけよ」

「カズマから巻き上げ、じゃなくて貰うのはいいけど、誰かから貰うのは私のポリシーに反するわ」

 

こいつとは一度じっくり話さないといけないと思ってたが、ここは話し合いなんて野蛮な手段じゃなくて、穏便に暴力で行こう。

 

「おいこら、あまり調子乗ってると初級魔法コンボ食らわせるぞ」

「初級魔法なんかで、アークプリーストであるこの私が負ける訳ないでしょ?やれるものならやってみなさい」

「よし、表出ろ。一つの攻撃も通さずに圧勝してやる」

「それは私のセリフよ」

 

とまあ、駄女神にどちらが格上か分からせてやることにした。

俺が初級魔法コンボと言ったことで、ギャラリーも随分な数になった。

これで負けたら俺、恥ずかしくて引きこもるぞ。

 

「先に地面に倒れた方もしくはリタイアした方の負けな」

「ええ、それでいきましょう」

「ダクネス、試合開始の合図頼む」

 

めぐみんをルナさんに預けて、俺は戦闘の準備を整える。

ダクネスは自分に振られると思ってなかったのか反応が遅れてる。

 

「えっ、私が?・・・始め!」

 

アクアのことだから、初っ端から突っ込んで来るだろうから、ここはカウンターで倒そう。

 

「先手必勝!『ゴッド・ブロー』ッ!」

「そう来ると思ってた。『クリエイト・アース』ッ!からの『ウィンド』ッ!」

「何をしようたっ、ぎゃああああああ!めがああああああ!」

 

目に砂が入った事で倒れてのたうち回るアクア。

これで勝敗はついた。

 

「えっと、カズマの勝ちだ」

「凄い。確かにこれなら使えそう」

「近距離なら当たりやすいのか」

「初級魔法も捨てたもんじゃないね」

「こんな技編み出せるなんて、ただものじゃない」

 

なるほど、駄女神倒すのが、俺にとってのチュートリアルだったのか。

このイベントで俺の悪評は初級魔法を使いこなす冒険者に上書きされる。

 

「ま、まだよ。三回勝負!」

 

面倒だけど、ここで戦わないとこいつの事だから勝ち逃げされただけで次戦えば私が勝つとか言いそうだから付き合おう。

 

「分かった。次増やすのはなしな」

「カズマ、目潰しは酷いからなしにしましょう」

「分かったよ。目潰しはなしな」

「二人とも距離を取ってくれ・・・始め!」

 

目潰しはなしとなれば、俺に打つ手なしと踏んだのだろうが甘い。

アクアは体術戦なら勝てると思ってるだろう。

悲しいかなカンストしてるアイツに俺が力勝負で勝てるわけがないからな。

さっきみたく突っ込んでくるかと思って構えていたが、アクアがやってこない。

 

「来ないのか?」

「お先にどうぞ」

 

さっきカウンターでやられたから、今度はカウンターしようってか。

俺が体術勝負に出ると考えてるのなら、大間違いだ。

 

「じゃあ、失礼して、『クリエイト・ウォーター』ッ!」

「私は水なんて効かないわよ?万策尽きたわねカズマ?」

 

水の女神に水をかけても意味は無い。

とアクアは思ってることだろう。

そうやって避けないこと前提にしたコンボ技をお見舞いしてやる。

 

「『ティンダー』ッ!」

 

放った水目掛けて炎を飛ばして、お湯を作る。

アクア含め周りの冒険者は、水に火を当てて消して何してんだって感じで見てる。

この状況を理解してるのは恐らく、めぐみんと一部の勘のいい魔法使いくらいだろう。

この作戦は、前にアクアが俺のスープに酔っ払って手を突っ込んで、俺のスープを水に変えてくれた時の事から着想を得た。

アイツは水には強くても熱さ耐性はない!

 

「カズマ、火遊びはよくなあづああああああ!!」

「・・・また、カズマの勝ち。ストレート勝ちだな」

「こんなもんだろ。ダクネス、アクアを頼む」

 

相手を見くびって警戒してないやつは隙だらけだからな。

勝てて当然の相手に勝っただけだ。

 

「容赦ねえな」

「でも初級魔法であんなに戦えるとは」

「私も初級魔法覚えようかなあ」

「さっきは疑って悪かったな」

「カズマくん今度初級魔法の使い方教えてね」

「俺も頼む!」

 

こうして、俺はギルドでの高評価を勝ち取ったのであった。

そして同時に俺の噂がまた広まることとなった。

この後に起こるある事によって。

 

「ほら、私の言った通りでしょう?カズマはカッコイイのです。ぱっとしないとか弱っちいとかは今後言わせませんよ!」

「分かったって、めぐみんの彼氏が強いのはよく分かったから」

「パッとしないのは変わらないけ・・・なんでもないです」

「おい、私の男を悪く言うのはやめてもらおうか」

 

めぐみんさんや。

あんた何言ってんだ。

と心の中で思ったけど、もう遅い。

今ので俺らが付き合ってるのを認めたと思われた。

めぐみん的にはウチの仲間を悪く言うな程度の感覚なんだうけど、言葉のチョイスが悪かった。

いや、確かに恋人のフリするって話だったけども、ここまでするとは思ってなかった。

 

「もう言わないから、アレは勘弁してくれ!」

「次言ったら分かってますね?」

 

コイツは、いつも報復に何やってんだ?

すげえ恐れられてるんだが。

 

「とりあえず、俺の技は証明できたし今日は帰っていいか?」

 

アクアとダクネスと合流して、明日のクエストについて決めてから俺たち三人は宿屋へと向かった。

 

「にしても、あの時のめぐみんカッコよかったわよね」

「カズマじゃなくて私ですか?」

「私の男を悪く言うな!ってやつ。凄く男らしくて良かったわ」

 

確かにカッコよかった。

カッコよかったけど、それ以上に何口走ってんだって思いの方が大きかった。

アクアとしてはやられた側だから、俺をカッコイイとか言うはずがない。

 

「アレはカッとなって言ってしまったんですよ。カズマ、すみません」

「いや、謝ることねえって、ある意味では都合いいし」

 

めぐみんもあの発言は不味かったと自覚してるようだし、まあ、いいか。

次から気を付けてくれればそれで。

 

「でなんだけど、二人が付き合ってるって噂あるでしょ?あれって本当なの?私の曇りなき眼にはそう見えないんだけど」

「お前の曇りなき眼が正しい。仲間には理解してもらえてるのが唯一の救いだな。あと、お前にも一応言っておくと、俺とめぐみんが付き合ってるように偽装するから、そこの協力頼む」

 

アクアは偶に鋭い所がある。

今はそれに助けられてるな。

てっきり、勘違いしてる口かと思ってたけど違った。

 

「だって、もし二人が付き合ってたら昨日の夜、お楽しみしてるはずだもんね。それに話はダクネスから聞いてるわ。クリスも大変ね。こんなヒキニートにフラれたとか言われるなんて」

「・・・」

 

いつもなら言い返してるけど、協力してもらう側だからヒキニートと言ったところは見逃そう。

初々しく添い寝だけで、終わる可能性など考慮してないってか。

まあ、もちろん俺がめぐみんと仮に付き合ってるなら途中で我慢できなくなるだろうし、めぐみんが現状でも間違いが起こったとしても責任を取るならよしと言ってるからなあ。

アクアの判断は当然と言えば当然なのかもしれない。

 

「私は昨日楽しかったですよ」

「俺は全然楽しくなかったけどな」

「女の子に抱きつかれながら寝るなんて男のロマンじゃないの?」

 

確かに日本にいた頃の俺ならば羨ましがるシチュエーションだ。

でも、寝不足気味になるくらいには疲れるイベントだったのは言うまでもない。

 

「理想と現実は全然違う。中々眠りに付けないし、理性との戦いだからな」

「別に我慢しなくてもいいんですよ?前にも言いましたが責任さえ取ってもらえれば」

「一旦黙ろうかめぐみん」

 

コイツはどうして毎度毎度話をややこしくする方に持っていくのだろうか。

やっぱり、恋人って言うか結婚したら、半強制的に俺を爆裂道に参加させられるからなのか?

いつもめぐみんはサラッと言うからな。

もうちょっと、恥ずかしがるとかしてくれてたら、好意があるって確信が持てるのに。

 

「仮に二人が恋人になったら私は祝福するわよ?」

「恋人とか言ってられる暇はねえよ。明日からクエスト受けて越冬の準備だぞ?」

「ふーん。カズマは春の訪れと共に春を迎えるつもりなのね」

「誰が上手く言えって言った。どうせ俺なんかにはやってこねえよ」

 

少なくともギルドの連中は俺とめぐみんが恋仲だと思ってる。

略奪愛が好きとか彼氏を寝取るのが好きなんて言うヤバいやつがいない限り、俺に告白してくるようなやつはいないと思う。

・・・自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「その内カズマにも来ますよ。私が保証します」

「その根拠の無い説は何処から湧いてきたんだ?はぁ、ダクネスがいたらなあ」

「ダクネスがどうかしたのですか?」

「もしかしてダクネスが好みなの?」

 

俺と周りのことを色恋沙汰にしようとするのは勘弁して欲しい。

 

「ちげえよ。この話から離脱して、別の話出来るだろ?」

「恋バナは嫌なのですか?」

「そうだよ。ってもう宿着いたな」

 

俺に関わらない恋バナなら全然聞くんだけどなあ。

例えば他の冒険者で、中々付き合わないもどかしいカップルがいるとかそう言うの。

 

「この時間だとうるさいって怒られるから、話はここまでね」

「・・・お前、前に怒られたのか?」

「・・・ち、違うわよ。廊下歩いてた人が怒られてたのよ」

 

凄く怪しいが、ここで言い争っても無駄な体力使うだけだし、さっさと部屋に帰ろう。

 

「ならいい。おやすみ」

「二人ともおやすみ」

「アクア、おやすみなさい」

 

今日はゆっくり寝れるな。

明日に備えて早く寝よう。

・・・あっ、そういやアクアが十万を欲してた理由を聞くの忘れてた。

 

「ただいま」

「誰もいませんよ?」

「いなくても別にいいだろ?こう言うのは雰囲気が大事なんだ」

 

布団と言う嫁さんに挨拶する癖は中々抜けないものだな。

と言うかここの部屋でかいから、声届いてないだろうけど。

 

「そういうものでしょうか?」

「俺先に着替えていいか?」

「ええ、アクアとの戦いで疲れてるでしょうし」

「助かる」

 

部屋に荷物をおいて、パジャマを取ろうとした時、俺はあることに気付いた。

そして、昨日の嫌な予感がまた過ぎってくる。

まだ玄関で何かを片付けてるめぐみんの元に行って確認を取る。

 

「なあ、ベッドはいつツインに戻るんだ?」

「ダブルの方が部屋代安いそうなので、これからずっとです」

「・・・本気で言ってんのか?」

 

アクアがお金返済するまでの間は、俺と添い寝になるのに大丈夫なのか?

やっぱり、俺はめぐみんから異性として全く意識されてないのかもしれない。

別に悔しいことは無い。

相手はロリっ娘だからな。

 

「本気ですよ?」

「帰り道での会話覚えてるか?」

「カズマこそ覚えてないのですか?責任を取るのなら我慢の必要は無いと私は言いましたよ?」

 

一生、爆裂道を支えて貰うためだろう。

好きでもない相手となんてのは結局長続きしないもんだ。

ここはダクネスに言われた通り、ビシッと言っておこう。

 

「・・・いくら爆裂魔法好きだからってそこまでしなくてもいいと思うぞ?もうちょっと自分を大切にしないとダメだぞ」

 

これでどうだと思い、めぐみんを見るも不思議そうに小首を傾げながらめぐみんは言った。

 

「何度も言ってますが、私はカズマのこと好きですよ?」

 

・・・このタイミングで言うのは仲間としてじゃないよな普通。

俺をからかうつもりかもしれないけど、それにしてはいつものイタズラっ子みたいな顔じゃない。

こうなったら今日こそ聞いてやる。

 

「この際だから聞くけど、その好きって言うのは『ドンッ』」

「カズマ!大変よ!私の買ったお酒が誰かに盗まれて・・・」

 

どうして俺が聞こうとするタイミングで、何度も何度も邪魔が入るんだ!

しかもアクアに邪魔されるのが多い。

今回は邪魔されただけじゃなくて、勢いよくアクアが扉を開けた拍子にめぐみんの頭に直撃して、気を失うって言う実害まで出てる。

 

「こっちの方が大変だわ!めぐみん!おい!しっかりしろ!」

「め、めぐみんっ!?ええっと、『ヒール』ッ!」

「扉開ける時は気を付けろよ」

 

アクアが回復魔法使えたのは不幸中の幸いか。

脳検査が出来る世界じゃないし、大丈夫なのかが分からない。

でもアクアの回復魔法なら大丈夫だろうと思える所がある。

 

「だ、だって、帰ったらゆっくり飲むつもりだったお酒がなかったから」

「それめぐみんに渡してなかったか?荷物多いからって」

「あっ」

 

めぐみんの倒れ損じゃねえか。

完全に伸びてるし、今日も聞けずじまいだなこれ。

 

「あっ、じゃねえよ。これどうすんだよ」

「回復魔法かけたから怪我とかそういうのは問題ないと思う。着替えとか私がやっとくからカズマは私の部屋で待ってて」

 

問題はなしか。

一先ず安心だな。

明日、無事に起きてくれるといいんだけどな。

でもまあ、今日は意識することなく眠れるだろうし、不謹慎だけど、ある意味助かった。

 

「分かった。着替え終わったら運ぶの手伝うから呼んでくれ」

 

アクアが着替えを終わらせてもめぐみんは目覚めなかった。

二人でベッドまで運ぶと何か寝言を言っていたけど、起きなかった。

昨日とは違う意味で眠れない夜となった。

 

 

 

翌朝、俺は強い衝撃を受けて目が覚めた。

主にベッドから落ちるような衝撃を・・・

 

「いたたた。朝からこれだと今日は不幸だ」

「何が不幸なのですか?」

「ベッドから落ちたんだ」

 

寝相が悪くて落ちるなんて何時ぶりだろうか?

しかも見られてるのが恥ずかしい。

 

「それは私が追い出したからです」

「何でそんなことすんだ?」

 

事故ではなく、まさかの事件だった。

めぐみんがこんな酷いことするなんて、やっぱり好きってのは仲間としてなんだろうな。

好きな人を何もなくベッドから落とすとかドSにも程がある。

予想だにしない事態に怒るでもなく、単に疑問形の質問になった。

 

「言わせないでください。恥ずかしい」

「いや、ちょっと待て!何があった?昨日お前が気絶してから何もなかったはずだぞ?」

「ええ、私は気絶しました。それでこの服装ですよ!」

 

まさか俺が着替えさせたと思って、俺をベッドから落としたのか?

 

「いや、待て!冤罪だ!着替えさせたのはアクアだから!」

「・・・そうなのですか?」

「俺待ってるから聞いてこいよ」

 

俺が呼んできたら、買収しただろうとかさらに疑われる可能性もある。

ここは、めぐみんに確かめに行ってもらうしかないだろうと思っていたのだが、案外早く、めぐみんは俺の主張を認めてくれた。

 

「・・・ご、ごめんなさい」

「まあ、気絶させられてから、初めて目覚めたんだから混乱してたとしてもしょうがないって」

 

今まで見たことないレベルでめぐみんが凹んでる。

こういう時はどうすればいいんだ?

 

「カズマ」

「どうした?」

「カズマはツインの方がいいですか?」

「その方が助かるかな。今日のは抜きにしてだぞ?」

 

シングルで寝られるならゆっくり出来る。

初めてこの部屋に泊めてもらった時はツインでも緊張してたけど、抱き枕とか添い寝とかの後だと、そこまで焦るようなことじゃないって認識になってる。

 

「じゃあ、元に戻してもらいます」

「ありがとう。でも急にどうしたんだ?」

「私の我儘でダブルにしていたのに、カズマに酷いことしてしまいましたから」

 

めぐみんが今にも泣きそうな暗い顔でそんなこと言った。

俺を間違って落としたのがそんなにも罪悪感を抱かせるものなのだろうか?

 

「あの、そこまで思い詰めることはないし、そんなに暗くなられるとこっちが悪いことしたみたいになってくるから、その、今日のことは忘れような?」

「・・・」

 

・・・凄く重たい雰囲気だ。

どうしよう。

この後、クエストなのに、こんな状態で行ったらミスとかも起きやすいし、危ない。

 

「カズマ」

「今度はなんだ?」

「一人部屋の方が、いい、ですか?」

 

話が途切れ出して、表情を確認すると涙が頬を伝っていた。

明らかにめぐみんの様子がおかしい。

 

「えっと、めぐみん?さっきからどうしたんだ?」

「うぐっ、かずまは、ううぅ」

 

遂に泣き出してしまった。

泣き出す理由が全く分からない。

そんなに俺を落としたこと気に病んでるのか?

・・・とりあえず、質問に答えるか。

 

「その、なんだ。俺としてはめぐみんとの同室も楽しいって言うか、女の子と泊まるなんてのは幼少期を除けば、初めてだから、嫌じゃないぞ?」

「・・・」

 

一瞬嬉しそうに笑ったけど、直ぐに疑いの目を向けられた。

安心させる為の嘘だと思われたか。

 

「嫌じゃないって言うか、この状況結構好きだ」

 

これでどうだ?

凄い恥ずかしい。

めぐみんってばこんな恥ずかしいこと毎回言ってるのか?

 

「・・・いえ、そこではなく、幼少期を除けばと言う所が気になったのですよ。でもそうですか。好きですか」

「・・・え?」

 

最後にめぐみんがニコッと笑ったのが凄く可愛かった。

えっ、何この緩み切った表情。

ずっと見てたい。

と思うと同時に、幼少期の話が何故ジト目に繋がるのか聞きたい。

 

「カズマの幼少期の話を聞きたいです」

「その、女の子と泊まった話だよな?」

「はい」

 

めぐみんの恋バナモードが始まった。

めちゃくちゃ見られてる。

 

「親戚の葬儀で、両親が家空ける時があってな。学校があるからついてく訳にもいかずに、その時は弟と二人で幼馴染の家に預けられて、その幼馴染が女の子だったんだよ」

 

トラウマ思い出すからアイツの話は出来ればしたくなかったのに、仕方ない。

 

「その幼馴染がアクアですか?」

「いいや、アイツはアクアのこと知らねえよ」

「その幼馴染とはどう言う仲ですか?」

 

一番気になるのは、恋仲かどうかだよな。

俺もこんな話出たら真っ先に聞く。

聞かれる方は、複雑だが。

 

「・・・話さなきゃダメか?」

「えっと、話したくないなら別にその、無理はしなくても」

 

なんだろうな。

ここで話さなかったら、今は楽だろうけど、めぐみんに変な気遣いさせるだろうし、後を考えると話した方がいいかもな。

何となくだけどさっき葬儀の話したから、影響を受けて亡くなったとか思ってるだろうし。

実際死んだのは、俺なんだけど、そこはおいておこう。

 

「やっぱり、話す。幼い頃に結婚の約束してたけど、ある日歩いてたら街で有名なヤンキーと一緒にいる所見てな」

「カズマはその子のこと好きだったんですね」

「うーん。どうなんだろう。学校行ってからは話してなかったからな。でも見た時はやっぱりショックは受けた。だから出来れば思い出したくないんだよ」

 

今になってはアイツのことどう思ってたのかよく分からない。

ただ、結婚の約束してたことだけ、覚えていて、その約束が崩れたってショックだけが記憶に残ってる。

まあ、ショック受けてる時点で、好きだったんだろうけど、それは遊んでた頃のアイツだからな・・・

 

「何故、話してくれたのですか?」

「アイツと俺が死別したって思ってたろ?」

「ええ」

 

思った通りめぐみんはアイツが亡くなったと思ってか。

死人の話はツラいもんだからな。

死人の転生者が話してるだろうって話は聞きたくないぞ?

 

「変に気を遣わせたくなかったから」

「カズマは優しいですね」

「そうか?めぐみんの方が優しいと思うけど」

 

こうやって泊めてくれてるし、俺の教養講座にも付き合ってくれてるし、世話になりっぱなしだ。

普通、他人にここまで出来ないと思う。

めぐみんにも、パーティーを組むって目的があるにしても、教養講座なんて、やらなくてもいいからな。

 

「そんなことないですよ。だって私はカズマを突き落としましたし」

「あれは事故だから。そんなの言ったら俺はめぐみんの下着盗ってるから」

 

ベッドから落とすよりも下着盗る方が酷い仕打ちだと思う。

それに両方事故だ。

気にしたら負けってのは意味が違う気がするけど、気にしないのが一番だ。

 

「カズマの優しい所はこういう所ですよ。そろそろ着替えましょう」

「お、おう」

 

俺がパンツ盗った事がどう優しさに繋がるのか分からん。

でもまあ、めぐみんの表情が晴れたしいいか。




次の更新は未定ですが、●●を進めたいとは思ってます。


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失敗で成功

遅くなりました。すみません。
明日はちゃんとあげますから、お許しください。
今回はアルセウスのし過ぎが原因ですが、先日図鑑が完成したので、もう大丈夫です。
多分……


-SHIPPAIDESEIKOU-

 

今日はクエストを受けるためギルドに来ている。

今は三人にクエストを探して貰っている所だ。

俺も探していたのだが、知り合いに声を掛けられて話してる間に今日のクエストは俺以外で探すと言う話になったらしい。

何でも俺が良しとするクエストを持ってきたやつに二人で奢るのだとか。

俺は奢って貰えないのかと聞いたら、審判に報酬はないと言われて、賃金要求したら、デザート一個だけとなった。

因みにこの勝負は始まる前から勝者は決まっているのだが、それはまた後の話として、第一走者はどうやらダクネスらしい。

 

「このクエストなのだが…」

 

何故か息の上がってるダクネス。

手にはなんだか見た事のあるクエストの依頼書。

絶対にろくなクエストじゃない。

 

「却下だ」

「まだ内容を言ってないぞ?」

「どうせ、俺やめぐみんなんかがワンパンされる魔物だろ。危険なヤツは受けない。もっと安全なの持ってこい」

 

前に一撃熊討伐とか言う名前からしてヤバそうなクエストを受けたそうに見てたのを俺は知ってる。

加えて、昨日もそのクエストは張り出されたままであったことも。

次は誰がどんなクエスト持ってくるだろうかと待ってると、アクアがやって来た。

リズミカルな足取りで近付いてくるあたり、機嫌が良さそうだ。

つまり、俺にとってはあまり良い状況とは言えないってことだな。

依頼書を戻しに行ったダクネスの方に視線を変えておこう。

 

「カズマ、一石二鳥なこれなんかどう?」

「却下だ」

 

この駄女神はいつもハイリターンハイリスクのクエスト見ながら、ダクネスの守りとめぐみんの爆裂魔法があれば余裕じゃないかしらとか、言ってるからな。

他人任せで危険なクエスト受けようとするなって話だ。

あと、俺の名前が出てこないのにはそれはそれで腹が立った。

 

「こっち見てすらないじゃない!」

「高収入の上級者向けクエスト持ってきたのは分かってる。お手頃なやつを持ってこい」

 

図星だったのか、紙を掲示板に戻しに行った。

高難易度のクエスト受けて死んでたら意味ないからな。

もっとまともなの持ってきて欲しい。

二人ともめぐみんの番を待つためなのか、次のクエストを探すのではなく俺と一緒に待機してる。

 

「カズマカズマ」

「採用だ」

「「名前呼んだだけなのに!?」」

 

二人揃って体揺らしに来るのはやめてもらいたい。

頭がクラクラする。

 

「ギルド来るまでに受けるクエストについて話していたのですよ」

 

めぐみんの話を聞いて、アクアから更に手に力強く揺さぶられた。

 

「ちょっと!こんなの八百長よ!不正もいい所じゃない!」

「何が不正だ。お前らが先に俺が納得するクエスト持ってくれば良かっただけだろ?そもそも俺に伺いたてちゃいけないなんてルールないんだから、どんなクエスト受けたいと思ってるか聞くのもありだったし、二回目に行く前にヒントは出したぞ」

「いいわ。めぐみんの勝ちはそれでいいけど、カズマのデザートはなしよ」

「分かったから離してくれ。めぐみん、クエストの内容を教えてくれ」

 

「えっと、内容は繁殖期に入ってるジャイアントトードの討伐です。目標は五匹で、それ以上の討伐は単価アップらしいですよ」

「ギルドで出てくるカエル肉ね」

「ああ、ジャイアントトードをギルドで回収するとその分報酬が上がるぞ」

 

冒険者の狩ったカエルをギルドが回収して、食堂に売り払うのか。

よく出来た社会システムだな。

 

「それを食べることもできますよ。我が爆裂魔法にかかれば灰燼に帰しますがね」

「ようし、クエスト中は爆裂魔法禁止な。報酬は少しでも多くする」

「なぜですか!爆裂道を共に歩むと言っていたではないですか!」

 

アクアとダクネスに続いてめぐみんにも肩を掴まれて揺らされてる。

この世界での抗議方法はこれなのか?

これ首が痛いからやめて欲しい。

 

「クエストの後に付き合うから揺さぶるのやめてくれ。クエスト中にめぐみんが動けなくなる状態は避けたいんだよ」

 

報酬を増やしたいのが第一の理由だけど、それはこの際黙っといた方が得策だろう。

嘘は言ってないからな。

 

「最後の一匹仕留めるのもダメですか?」

「音で周辺の魔物やってきたらどうする?」

 

ゆんゆんと一緒に爆裂散歩した時は結構な数が湧いてきた。

アレだけは避けたい。

 

「ジャイアントトードがいるのは平原ですから、大丈夫ですよ」

「そうなのか?」

「うむ。仮に音で反応した魔物がいても、見える範囲に居なければ、こちらに辿り着くことはないだろう」

「ならいいんだが」

 

めぐみんがおかしなこと言ったら、ダクネスに振れば何とかなるし、逆も然り。

相互補完されてるのが助かる。

アクアは、まあ、みんなから見られてるってことでいいや。昨日みたいに助けられることもあるし。

 

「帰る前に一回だけな」

「そもそも一度しか放てませんよ?」

 

そういやそうだった。

 

 

 

いざ、クエストへと言うことで、今、まさに冒険者やってるって実感からワクワクしてる。

朝起こった出来事なんてどこへやら。

父さん、母さん、俺は異世界でちゃんと活躍するから見ててくれよ。

 

「ねえ、カズマ。さっきから何ソワソワしてるの?美女三人に囲まれて浮かれてるの?」

「ちげえよ!クエストが楽しみなんだよ!」

「高々カエルの討伐なんかで浮かれてちゃあ、カズマもまだまだね」

 

自分もクエスト受けたことない癖によく言う。

上級職だから難なくこなせる相手なんだろう。

ここは駄女神様じゃない頼れる女神様として戦って貰おう。

 

「そこまで言うなら一人で五匹くらい倒してみろよ」

「あんな雑魚余裕よ。よ・ゆ・う」

 

扱いやすい性格で助かった。

これで楽出来るといいんだが……。

 

「じゃあ、一匹目は一人でやってくれ。見てるから」

「私の見せ場ね」

 

と話してると前方に物凄くデカいカエルが現れた。

デカすぎるだろあれは。

アクアはカエル目掛けて全速前進している。

魔法攻撃じゃなくて、物理攻撃らしい。

・・・あれ、何か忘れてる気がする。

 

「ゴッドブローッ!ゴッドブローとは神の怒りを乗せた聖なる拳!神に楯突いたことをあの世で懺悔なさい!」

 

凄い説明口調で語ってくれた。

見ためは強そうな感じで、確かにアイツはアレでも女神だ。

始まりの街の雑魚相手に負ける訳ないよな。

これで、まずは一匹討ば・・・

えっ、バウンドしたんだが。

ぷよんって効果音つけたいくらいに綺麗に跳ね返されてアクアが尻もち着いてる。

 

「ええっと、カエルってよく見たらかわいいと思うの・・・くぷっ」

 

最後のヨイショも虚しく、アクアはパクッといかれた。

神の力ってのはカエルに負けるレベルって事がよく分かった。

あっ、そう言えば受付のお姉さんが打撃技は効かないから気を付けてと教えてくれてたな。

基本知ってる風だったから伝えてなかったけど、注意しとけば良かったと思うものの、アイツなら知ってもも後先考えずに突っ込んだ可能性があるからなんとも言えない。

 

「・・・食われてんじゃねえええええ!!」

 

 

 

アクアを食ってる間、カエルが動かなかったから案外簡単に倒すことが出来た。

飲み込まれていたアクアは粘液まみれで、近付きたくない。

ちょっと離れた所から安否確認を取ってみる。

 

「おーい。大丈夫か?」

 

アクアは、泣きじゃくっていて、俺の声が聞こえてないらしい。

めぐみんは心配そうにこちらを見ながら辺りの警戒をしてくれている。

ダクネスは心配というより羨ましそうに見ながら周囲を確認してくれてる。

気付かないなら仕方ないと近付くと、こちらに気付いたのか顔をバッと上げた。

 

「あ、ありがとね。がじゅましゃんうわあああああ」

 

泣きながらこちらに倒れて来た。

美女からの抱擁って普通嬉しいはずなのに嬉しい所か凄く不快だ。

カエルの粘液は生臭く、引っ付かれたことで、俺の服にも付着してるし、これ絶対洗うの大変だ。

 

「お、おい。離せ。ぬめぬめがつくから。慰めて欲しかったら風呂で粘液を洗い流してからにしてくれ」

 

言ってみたが離れてくれない。

ぬめぬめがつくって言ったあたりから引っ付き度合いが増したのは気の所為だろうか?

このままだと動けないし、何とかしないと。

 

「分かったって、俺らにはまだ早かったんだよ。もう五匹倒せとか言わねえから離してくれ。元何たらのお前は頑張った」

「カズマ、そこまでよ」

「なんだ?」

「元じゃなくて現役の女神よ私は!今度こそってカズマ何するのよ!」

 

またグーパンしに行きそうだったので、手首を掴んで止めた。

同じ事の繰り返しだけは勘弁して欲しい。

 

「お前この次何するつもりだ?」

「強化魔法かけてぶっ飛ばすのよ」

 

やはり脳筋女神だったか。

止めて正解だったな。

 

「ジャイアントトードは打撃攻撃が効かないからお前は俺達に支援魔法かけて、待機しててくれ」

「このままカエル如きに負けたなんて事になったら信者達の信仰心もダダ下がりよ!」

「またカエルにパックリ行かれる方が、二回も負けたことになって余計評判落ちると思うんだが?」

「・・・わ、分かったわ。みんなに支援魔法かければいいのね?」

「ああ、基本はダクネスの近くにいろよ」

 

何とか二度目の面倒事は避けられた。

アクアが戦力外になった今、攻撃が当たらないダクネスと魔法を使ったらお荷物なめぐみん、そして、最弱職の俺。

聞いた話だとスライムレベルの魔物なのに、打つ手なしか。

このままじゃだめだ。

一旦落ち着いてから作戦立てないと。

 

「めぐみん!今日は一旦撤収するから向こうの二体を狙って放ってくれ」

「了解です!行きますよ!『エクスプロージョン』ッ!」

 

いつ見ても凄い魔法だけども、カエル二匹に使う魔法じゃねえなこれ。

まあ、岩相手に放つのも違う気がするけど。

 

「すげえオーバーキルだなこれ」

「ふっ、我にかかればこれくらい造作もないことでうわっ!?」

「「「え?」」」

 

めぐみんの叫び声と共にめぐみんが宙に舞った。

何が起こってるのか分からないまま、俺達はただ見ているだけだった。

 

「真下からカエルが出てくるとか予想外です。カズマ、あとは頼みまクックパッ……」

「・・・こんなことってあんのか?」

「滅多にないはずだが……」

 

ダクネス曰く、滅多にないらしい。

カエルは土の中で眠るのもいるって教育系の公共放送で見た気がするけど、普通起きる瞬間なんて見ることないもんな。

 

「それより早く助けてあげないと」

 

考察してる場合じゃなかった。

呆気に取られて助けるの忘れてた。

こう言う不意をつかれた状況だとアクアは役に立つらしい。

 

「めぐみん今助けるからな!お前らは警戒頼む」

「任せておけ」

 

ダクネスが居ればアクアは大丈夫だよな。

今はめぐみん救出だ。

 

「おーい。大丈夫か?」

「な、なんとか。ありがとうございます」

 

アクアの時とは異なり今度はおんぶしないとだから離れさせることが出来ない・・・。

アクアは既に粘液まみれでヌルヌルとヌルヌルだから滑ってしまうって頼めないし、ダクネスに任せて変なスイッチ入られると困るからな。

ここは我慢するしかないか。

 

「一旦戻って作戦立ててから明日また来よう」

「ですね。所詮カエルだと侮ってました」

 

スライム級のモンスターに苦戦するなんて思わないよな普通。

側だけ見たら上級職三人だもんな。

傍から見れば俺が足引っ張ったみたいじゃねえかこれ。

俺が半分倒してるのに。

 

「カズマあああああ!」

 

アクアの悲鳴を聞き、見てみるとまたアクアが捕食されていた。

ダクネスから離れるなって言ったのに何やってんだ。

 

「ダクネスがいるだろ!」

「ダクネスの攻撃が当たらないのよ!」

 

見ると動かないカエルに対して振った剣が何故か全て外れてる。

見てくれだけで言えばすごい大技決まったみたいに見えるのに不思議だ。

 

「・・・めぐみん、悪いけど、木陰に置いて行ってもいいか?」

「仕方ないですよ。アクアを助けてあげてください」

「アクア待ってろ!すぐ助けるからな!」

「あっ、ヤバい!カズマさ〜ん!何か飲み込まれ始めたんですけど!」

「あとちょっと耐えろよ!」

 

とまあこんな風に俺達の初クエストは失敗に終わった。

ただ、結果的にはクエストクリアにはなってる。

これならバイトしてる方がマシだと思える酷さだ。

 

 

 

 

アクアにまた泣きつかれて、生臭さとの戦いがあの後少し続いたがそれも終わり、今は帰り道。

みんな疲れてる中、一人だけ幸せそうな顔してるやつが俺の背中にいる。

 

「かずみゃ・・・」

「・・・この状況でよく寝られるな」

 

あんなことあった後でよく寝られるよな。

ヌルヌルの眠った人をおんぶするのは結構疲れた。

ダクネスが手伝ってくれたけど、ぬるぬる滑るから手間取った。

 

「あれだけの魔法を放ったのだ無理もない」

「そういうもんか?所で、アクアはどうして食われてたんだ?」

「私はカズマの言った通りダクネスのそばに居たら、カエルがやって来てダクネスが庇ってくれたんだけど、カエルがダクネスをスルーしてこっちに来たのよ。気付いた時には、もう逃げられなかったわ」

 

また勝手に突っ込んで行ったのかと思ってたことを心の中で謝っておこう。

ダクネスを素通りしてアクアが狙われるとはな。

 

「恐らく、鎧を着ているから食べにくいと判断されたのだろうな」

「ダクネスは硬いから狙われなかったのか」

「ちょっ、ちょっと待てカズマ。その言い方だと私が硬いみたいではないか。硬いのは鎧だからな?」

 

そこまで訂正しなくてもみんな分かってるのに。

ダクネスは硬いと言われるのを相当気にしてるらしい。

いつもドMの方が恥ずかしいと思うんだが……。

 

「分かってるって、でもダクネスはダクネスでなんで攻撃当たらないんだ?」

「不器用で剣術が苦手でな。でも守ることならば不器用でも出来ると思っていたのだが、こんなことになるとは。アクアがうらやま、いや、アクアに申し訳ない」

「おい今羨ましいって言いかけたよな?」

 

帰り道、落ち込んでるのは攻撃が当たらなかったからだと思ってたけど、それに加えて捕食されなかったこともありそうだな。

 

「言ってない」

「言ったろ」

「言ってない」

「・・・」

 

一応ドMな所は隠したいのだろうか?

その割には結構オープンに欲望垂れ流してる時あるよな。

 

「一応クエストクリアしたんだから何でもいいじゃない。早く帰ってお風呂入ってご飯食べましょう」

 

確かにアクアの言う通り。

アクアのポジティブ思考に乗っかろう。

 

「だな。ダクネス、悪いけど報告頼んでいいか?俺らヌルヌル落としてから行くから」

「うむ。ゆっくり休んで来てくれ」

 

普段は良い奴なんだよなあ。

ドMでさえなければ、完璧なのに。

美人だし、巨乳だし、常識的だし。

 

「私の顔に何かついているのか?」

「いや、何も。ちょっと考え事をな」

「そうか。悩み事なら何時でも相談にのるぞ?」

 

うん。

本当に、いい人だ。

モンスターに襲われてるのを羨ましいとか思ってる人には思えない。

と言うか思いたくない……。

 

「ストレスが溜まっているなら私を罵ってくれても構わない」

「相談はありがたいけど、最後のは要らない」

 

こういう所だよなあ。

これが全てを台無しにしてる。

要らないって言われたのにも興奮したのかはぁはぁ言ってる。

仲間じゃなかったら絶対に関わりたくない人だ。

 

「カズマ、お風呂こっちよ?」

「そうだった。ダクネス、後は頼んだ」

「食堂で待ってる」

 

アクアと眠っためぐみんを連れて浴場に向かう間、凄く注目されてた。

この状況は俺の評判が落ちる方向に話が進む気がする。

帰ったら仲良い冒険者巻き込んで宴会してクエストの愚痴と言う体で事情を説明しないと。

 

「ねえ知ってる?」

 

某社の豆キャラが出てくるCMをふと思い浮かべて笑ってしまった。

声似せて言ってたから狙ってるし、俺が笑ったの見て嬉しそうにしてるから確信犯だなこれ。

 

「なんだ?」

「あの大衆浴場に家族風呂があるのよ」

「家族風呂?」

 

何故この単語が今出てくるんだ?

全く意図が掴めない。

汚れ過ぎてると入れてもらえないとかはないと思うけどなあ。

前にスカンク系のモンスターにやられた人が入って来てたし。

あの時はみんな直ぐに上がってたけど。

 

「そう。家族全員で入れる貸切のお風呂」

「それがどうしたんだ?」

「そこ借りてめぐみんをカズマが洗ってあげてよ」

 

めぐみんを俺が洗う?

さては、面倒だから俺に押し付けようとしてるな?

俺が男ってこと忘れてないか?

 

「なんで俺がやらなきゃいけないんだ」

「だってめぐみんまだ起きそうにないじゃない」

「お前が洗ってやればいいだろうが」

 

ダメだこいつと言わんばかりの溜息と共に顔を横に振るジェスチャー。

え?

この状況で俺とめぐみんが混浴するのが普通の流れなのか?

そんなはずないと思うんだが、この世界の常識とか?

 

「あんた達恋人のフリするんでしょ?だったら二人で入って混浴しとけば誰も疑わないカップルよ」

 

あっ、そう言えば恋人のフリするって話だっけ。

だとしても混浴までするか普通?

やりすぎだと思う。

 

「にしても、流石に寝てる間に混浴させられてたら嫌だろ?」

「そういうことだから私は先に行って入ってくるわね!」

 

言って俺の話なんか聞かずに、アクアは走り出した。

やっぱりめぐみん洗うの面倒だっただけだろ。

振り返って駆けていく前にニヤリと笑みを浮かべた

のを俺は見逃さなかった。

 

「・・・これ、めぐみんが起きたらどうすんだよ。ダクネス連れてくれば良かった」

 

風呂上がってからみんなで報告に行けばダクネスがやってくれただろうに。

選択ミスだなこれは。

今からでもダクネスを呼びに行くのもありだなと考えてると後ろから声がした。

 

「ダクネスがどうかしましたか?」

「お、良かった。起きたか。動けそうか?」

「ええ。しゃがんでください」

 

混浴は何とか避けられた。

避けられたのだが、避けられたら避けられたで、少し残念な気がしてきた。

 

「お前がこのまま目覚めなかったら家族風呂に入る所だったんだぞ?」

「家族風呂ですか?何故貸切のお風呂に?あとアクアとダクネスはどこに?」

「アクアは一人先に風呂に向かった。ダクネスはクエストの報告だ」

 

話を聞いて、なるほどと手を打った。

家族風呂の話題が出た理由に察しが着いたらしい。

紅魔族の知力が高いのは本当らしい。

 

「それで、動けない私をカズマがお風呂に入れる話になって、ダクネスがここにいればと嘆いてたのですか」

「アクアが恋人のフリをするのにも役立つだろうって無責任なこと言っていなくなったんだよ」

「では、やりましょうか。家族風呂」

「おう。って今なんつった?」

 

やりましょうかと聞こえた気がする。

気の所為だと思いたいが、俺の聴覚が紛れもない事実だとこの後のめぐみんの言葉も含めて告げてくる。

 

「家族風呂を借りましょう」

「・・・本気で言ってんのか?」

「冗談ですよ。カズマは面白いですね」

 

男からかってクスクス笑うとか悪女になる素質あるぞこの子。

と言うか既に俺はめぐみんの手玉に取られてるようなことが何度も起こってるから、今度から魔性のめぐみんと呼ぶことにしよう。

 

「誰がここまで運んで来たと思ってんだよ」

「感謝してますよ?でもそれとこれとは別です」

 

どこがどう別なのか四百字程度の説明を受けたい。

感謝してたら、からかうか普通?

ここに来てめぐみんのSの部分に気付き始める。

多分、めぐみんとしては普通の戯れなんだろうなこれ。

 

「はぁ、ほら銭湯代だ。アクアによろしく伝えといてくれ」

「ありがとうございます。上がったらいつもの所ですね」

 

いつもなら牛乳屋の前で全員集まるの待っているけど、今日はそうもいかない。

ダクネスに一人で待たせるのは悪いしな。

加えて、一人だとからかわれない。

 

「ダクネスが食堂で待ってるから先にギルドに向かってくれ」

「では、アクアにそう伝えて私は待ってます」

「お前も待たなくていいんだぞ?」

 

俺の長風呂を一人で待ってもらうのは悪い。

いつも先に帰って構わないと言ってるけど、みんな待ってくれる。

まあ、目的は待たせて悪いからと奢ってるミルクとかコーヒー牛乳とかなのは分かってるんだが。

あと、めぐみんと二人とか絶対になんか仕掛けてくる。

アクアとダクネスが居ない時ほど要注意だからな。

 

「恋人が上がるのを待つ方が自然じゃないですか?」

「分かった。なるべく早めに上がるようにする」

 

確かにめぐみんの言う通りだ。

ここはめぐみんのからかいを耐えるしかないか。

まさか、異世界にきて付き合ってるフリなんか始めることになるとは……

何故こんなことになってしまったのか。

俺の運はいい方のはずなのに。

幸運値ってなんだよ。

あれか?

美少女と恋人のフリ出来るのが幸運だとかそういう話か?

だったらフリじゃなくて本当に恋人にしてくれよ。

まあ、右も左も分からず、その日を暮らすお金もない状況で、親切なめぐみんに助けて貰えたのはとても幸運だろうとか言われたら何も言い返せないんだが、それはそれとして、この国の国教にまでなってる幸運の女神とやらに会うことがあったら俺の幸運について問い詰めてやろう。




明日は幼馴染ちゃんの物語の予定ですが、最近夢にカズめぐがよく出てきて、カズめぐの波動を感じてるので、もしかしたら他のシリーズかもです…


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休日の過ごし方

先週は現パロを先々週にあげたので、勘弁してください。
今日から週一投稿に戻していきたいと思ってますので宜しくお願いします。
遅れていたらすみません。


-KYUUJITSUNOSUGOSHIKATA-

 

クエスト終わりの風呂は最高だ。

疲れが洗い流されていくような爽快感が堪らない。

そして、何よりめぐみんが居ない。

誰にも邪魔されない一人の時間を満喫できる数少ない場所だ。

別にめぐみんが嫌いという訳ではないけど、一緒に居るとからかわれるし、変にドキドキさせられるから落ち着かない。

元から日本人特有の長風呂をしてみんなを待たせていたが、ここ最近は単に長風呂と言うより一人の時間を作っている側面もある。

でも今日はめぐみんのために早めに上がらないといけない。

先に戻って良いと伝えたのに待ってくれると言うのだ。

俺を待つのが主目的ではないとしても、待たせている以上長風呂は出来ない。

めぐみんが俺を待つ主目的は、恋人のフリをするため。

理由はクリスと俺との噂を、俺とめぐみんが付き合っていると言う情報を認めることで上書きすると言うモノ。

単に恋人のフリをするのなら、緊張は差程しないだろうけど、現実は違う。

めぐみんから何度か好きだと伝えられてはいるが、真意が分からないから困っている。

責任取るならと言う話もしてくるし、明らかに異性としての好きじゃないと話が合わない時もあった。

でも本当に好きな相手にはしないと思うこともしてくるし、俺が確認しようとすると邪魔が入るし、どうすればいいんだろうか。

とめぐみんとのこれからを悩んでいると見知った冒険者が近付いて来た。

 

「カズマまた長風呂してんのか?彼女が待ちぼうけてたぞ?」

「えっ?もうそんなに時間経ってたのか?」

「彼女って遂に認めたな」

 

どうしよう。

俺も認めたことになった。

まあ、恋人のフリをするんだからいつか認めることになるだけどな。

 

「否定したって信じないから疲れるし止めた」

「そういうことにしといてやるよ」

 

こうして俺は外で待ってるめぐみんの元へ向う。

時計を見ると五十分経過してた。

これいつもより待たせてるな。

どう言い訳するかな。

 

「カズマ、いつもより遅いですよ?なるべく早くと言ってましたよね?」

「悪い、お前のこと考えてたら長風呂になった」

 

ご機嫌斜めな様子だったから正直に話してみた。

 

「そ、そうですか。ならいいです」

「いいのか?」

 

そっぽ向いて話聞いてくれなくなるのかと思ったけど、許して貰えたらしい。

こうも簡単に許して貰えるとは思って無かった。

何か裏がありそうだけど。

 

「牛乳とコーヒー牛乳一本ずつお願いします」

「へいへい」

 

やっぱり要求があったか。

そんなことだろうとは思った。

 

「カズマ」

「どうした?」

「私たち恋人ということになってるんですよね?」

 

当事者同士でこんな話普通しないよな。

めぐみんも困惑気味に話してるし。

 

「ああ」

「ならばこうしましょう」

 

突然腕が引っ張られたと思ったらめぐみんとの距離がゼロになっていた。

何かいい匂いする。

教養講座以来の恋人繋ぎだな。

なんの前触れもなくされたことで、前よりも緊張する。

 

「・・・お前は何やってんの?」

「恋人繋ぎです」

「昨日みたく普通に手を繋げば良くないか?」

 

凄いドキドキしてるけど、平静を装って何とか対応してる。

めぐみんは全くいつもと変わらない様子。

めぐみんってやっぱり大物だわ。

 

「いつまでもイチャイチャせずに初々しいままだと怪しまれますよ?」

「いや、昨日の今日だぞ?進展早過ぎないか?」

「それもそうですね」

 

納得して貰えたと思ったのも束の間、めぐみんは恋人繋ぎを継続している。

 

「言ってることとやってることが噛み合ってないぞ」

「私思ったんですよ」

「何を?」

 

めぐみんなりの考えあっての行動らしい。

まあ、めぐみん的に恥ずかしいとは思ってないのも一因だろうけど。

 

「ずっと付き合ってると噂されてた私達が恋人繋ぎしてても、ついに隠さなくなったか程度の認識になるんじゃないかと」

「・・・」

 

凄い正論で何も言えない。

ギルドの連中の反応はいつも決まって隠さなくていいだったからな。

 

「ということでこのままギルドに向かいましょう」

 

この後ギルドに着くと、めぐみんの言ってた通り、「やっと隠さなくなったな」とか「おめでとう」とか色々言われた。

アクアとダクネスにまで「二人でこれからも仲良く頑張りなさい」とか「カズマ、よく頑張ったな」とか言われた。

ダメだこれ。

結局、仲間も俺らのこと分かってないわ。

アクアの曇りなき眼とやらは何処へ行ったのだろうか。

クリス、早く帰ってきてくれ頼む!

 

 

 

翌朝、俺はクリスに手紙を書いていた。

何としても現状を伝えて帰ってきてもらわねば。

一人だけ隣町に逃げるとか、ズルい。

昨日までは可哀想にと思ってたけど、何か、昨日の一件で可哀想って感情が無くなった。

 

「かずま?」

「めぐみん起こしちまったか?」

 

なるべく音を立てないようにしてたんだけどな。

もう起きる時間と言えば起きる時間だけども。

 

「おはようございます。何してるんですか?アレを見ようとしてたなら怒りますよ?」

「そんなことしねえって、クリスに早く帰ってくるように手紙書いてるんだ」

 

アレと言うのは俺も何なのかは知らないけど、めぐみんが大切にしてるモノだ。

そして、それが何かは見せてくれない。

初めて同室で眠ることになった日の夜、音がして目が覚めたら何かを抱きしめながら泣いているめぐみんを見た。

俺が起きたのに気付いためぐみんは焦ってそれを隠して、そのまま布団の中に入って、その何かを片付けた場所は絶対に開けないようにと言われた。

そんな事もあって極力この机に近付かないようにしていたんだが、机だから、文字を書くのにはどうしても使わざるを得なかった。

 

「何故です?」

「俺らが恋人のフリして頑張ってるのに、一人だけ隣町に逃げるのズルいって思えてきて」

「私達二人も隣町に逃げるのはどうですか?」

「それはもう色々ダメだろ。愛の逃避行とか言われるぞ?」

 

紅魔の里だっけか?

そこに向かって二人で帰って暮らすつもりだとか何とか、噂されるのは必至だろうな。

 

「でも今クリスが返ってきても、ギルドの冒険者から変に気を遣われるのでは?」

「・・・」

「カズマの気持ちも分からなくはないですが、クリスだってまさかこんな噂が立つなんて想像もしてなかったと思いますよ?」

「そんなこと言われたら書けなくなるじゃん」

 

言われてみればクリスは単にパンツコンビと言われるのが嫌で街から逃げたんだっけ。

知らぬ間に言われてんだからなアイツも。

手紙書くのはやめよう。

 

「クリスに手紙を書くのはクリスが帰って来れる状況を作ってからにしませんか?」

「わかった」

「それよりも今日はどうしますか?」

「とりあえずギルドでクエスト確認だな。昨日は散々だったけど、同じく初心者向けのやつを受けよう」

 

と話していたのだが、掲示板の前に着くと俺達の受けられそうなクエストが全くなかった。

いつもびっしり張り紙だらけで下の依頼が見えないくらいなのに、お知らせと書かれた紙しか貼られてない、

 

「クエストありませんね」

「全部他のパーティーに取られたのか?」

 

クエストがないかと、一応受付に確認を取ってみたが、いい返答は得られなかった。

 

「すみません。今日はクエスト処理を行う職員が三人も病欠になってしまい不足してまして、制限をかけてる所なんです。その旨を書いた掲示物を今作ってる所でして、代わりとなる仕事の斡旋は行ってますのでどうですか?お二人なら直ぐにでもギルドの食堂で働けると思いますが」

「そうですか。ありがとうございます。他の二人待ってから決めます」

 

今日はバイトか。

これまでお世話になった分手伝うか。

 

「どうしますか?私は労働よりも今日はゆっくりしたい気分なのですが」

「マスターに恩返し出来るいい機会だと思わないか?」

「カズマ、食堂を見てください」

 

いつも以上に繁盛している食堂だとは思うけど、めぐみんが言わんとすることがさっぱり分からない。

お金のある冒険者は働かずに飲んだくれてるんだろうなあ。

俺も出来ればそうしたいけど。

 

「食堂がどうした?」

「いつもより人が多いのに料理が遅いと怒鳴る声が聞こえないことからして人手足りてますよ?それに急に冒険者を雇い入れることになって人件費が上がってる所に行くのは気が引けます」

「な、なるほど」

 

言われてみれば俺達が働いてた時はウェイターの人達が「まだなのか!」とか「早く出さねえなら割引しろや!」とか怒鳴られてたな。

言っても二日しか働いてないけどな。

 

「と言うことでまずは爆裂に行きましょう!」

「ちょっと待て、アクアとダクネス待つってさっき話してたろ?」

「分かってますよ。予定を決めただけです」

「嘘つけ、出口の方に俺引っ張って行こうとしてたの分かってるからな?」

 

爆裂魔法のことになると周り見えなくなるよなコイツ。

まあ、うちのパーティーだと常識枠なんだけども。

それを言ったらダクネスもドMさえなければ常識枠だからな。

 

「・・・あっ、ダクネスが来ましたよ!」

「おはよう。何かいいクエストはあったか?」

「それが人手不足でクエストに制限かけてるらしい」

「ということは今日は自由行動か?」

「ああ、俺らは爆裂しに行く所だ。ギルドが代わりに仕事の斡旋してくれるらしいから、その話も含めてアクアにしといてくれないか?」

 

これで後は爆裂散歩して、のんびりするだけか。

何するかな。

この街で休日過ごすの初めてだな。

めぐみんとのデート講座はなしとしてだ。

 

「任せておけ。二人はゆっくりしてくるといい」

「ダクネスからも言われましたし、今日はのんびりしましょう!」

「おう。やけに今日は元気だな。まあ、突然の休日にテンション上がってないと言えば嘘になるけど」

 

めぐみんってこう言う子供っぽい所あるよな。

確か中学生くらいだよな?

年相応な所もあるってことかな。

 

「今日みたいな爆裂散歩日和はテンションが上がりませんか?」

「俺はどっちかって言うと曇ってる方が好きだ」

 

今日みたいな快晴は眩しいから出来れば曇りの方がいい。

ずっと曇りはそれはそれで嫌だけど、別の話だなこれは。

 

「アクアの言う元ヒキニートだからですか?」

「・・・爆裂しに行くぞ」

 

この場合あまり否定出来ないから困る。

一応、引きこもりじゃないし、学生だからニートでも無いはずだけど、太陽の当たらない部屋が好きなのは不登校になってからだからな・・・

 

「行きましょう!と言いたい所なのですが、ちょっと用事を思い出したので、お昼からでもいいですか?」

「用事?誰かと約束してたのか?」

「いえ、宿屋で少しやることがあるのですよ」

「それなら俺もついて、行っちまったか」

 

俺を置いて行ったと言うことは俺が居ない方がいいってことだよな。

アレの隠し場所を変えに行ってるかもしれないし後を追わない方がいいよな。

 

「あれ?めぐみん走ってったけど、どうしたの?」

「宿屋で何かするらしい。昼まで一緒に飲まないか?」

「出来ればそうしたいけど、バイト受けちゃったのよね」

「行動が早いな」

 

もうダクネスから話聞いてバイト取ったのか。

アクアは土木関係のバイトだろうな。

 

「朝一にギルド来たらクエストの代わりにバイトの募集してたからね」

「俺らより先に来てたのか」

「そうそう。バイト先に行って、正式に決まったからその報告に戻って来たのよ」

 

アクアはそう言えば早起きだったな。

城壁補修の工事が早いからだったっけ。

 

「バイト頑張れよ。俺は食堂でゆっくりしてる」

「ふふん。お頭が給料アップだって言ってくれたから頑張るわ!」

 

アクアは水の女神としての才能を土木工事に役立ててるらしい。

おやっさんの話だとアクアにはずっといて欲しい逸材何だとか。

天職だなって言ったらすげえ怒られたけども。

 

「ダクネス、昼まで飲まないか?」

「すまない。今バイトを受けた所でな。始まるまでの間の話し相手にはなれるぞ」

「なら少しの間頼む」

 

これで昼までちょっと持たせられるな。

ダクネスが居なくなったらどうしようかな。

飲んでる誰かと話すのが一番だろうな。

 

「所でさっきめぐみんと爆裂しに行くと言っていたのに、どうして私を誘っているのだ?」

「宿屋に用事あるの思い出したから行くのは昼になってからだってさ」

「カズマを引っ張って行かなかったのが気になるな」

 

まあ、そうなるよな。

爆裂散歩行くならついて行った方が早いからな。

 

「多分、俺には見られたくない何かを動かしてるんだと思う」

「と言うと?」

「誰にだって隠し事の一つや二つあるだろ?俺だってまだアクアと共有してる秘密もあるし、俺だけの秘密だってある」

 

俺が転生者だって話は何時が話時なんだろう。

多分、アクアみたく信じて貰えないだろうし、出来れば伝えたくはないしな。

とは言え、このまま一緒に冒険者やっていく仲間にずっと黙ってるのもなあ。

悩ましい。

 

「まだと言うことはいずれ話してくれるのだな?」

「その内な。ダクネスだって何か隠してるだろ?」

「わ、私は仲間に隠し事などしてない」

 

物凄い動揺ぶりだな。

絶対に何か隠してるなこれ。

 

「してるだろ」

「してない」

「・・・何にせよだ。仲間同士でも無闇な詮索はなしだろ?」

 

俺も転生関係の質問されたら困るからな。

ここはお互い探り合いはなしとしておこう。

 

「今し方詮索を受けた気がするのだが」

「隠し事してるかどうか聞いただけだろ?中身までは聞いてない」

「・・・私も時が来たら話そう」

 

・・・ダクネスが秘密を話してくれた時に、俺も話すってのがありかもな。

めぐみんはあの隠してるモノだな。

でも、そうなるとアクアが女神だと言わなきゃいけないんだよな。

絶対俺も可哀想な奴扱いされそうで嫌だ。

 

「気長に待ってる。その時にはこの会話忘れてるかもしれないけど」

「ああ。すまない、私はそろそろ時間だ。ゆっくりするといい」

 

 

 

先輩冒険者達と一緒に飲んでいる。

飲むと言っても俺はジュースだけども。

ここで、先輩達から情報収集するのが今日の午前中のやることだな。

先輩と言ってももう既にタメ口の関係だけども。

 

「街の近くにある廃城に魔王軍幹部が住み着いたらしいぜ」

「こんな辺鄙な所に魔王軍幹部が来るわけないだろ」

 

何だって魔王軍の幹部が初心者冒険者しかいない街に来るんだ?

いつも為になる情報貰ってけど疑わしいなこれに関しては。

 

「本当だって、俺の知り合いの知り合いの親父さんが言ってたらしいから間違いねえって」

「それただの他人じゃねえか」

 

又聞きもいい所だ。

絶対ガセネタだ。

 

「その話本当らしいぞ」

「どこ情報だ?また知り合いの知り合いとか言わないよな?」

 

いつも絡んでる冒険者の一人がやってきて被せてきた。

 

「伝令で来てる王都の騎士が魔王軍幹部がアクセルの街付近に潜伏してるとの情報が入ったが、増援を出すのは厳しいって話をさっき詰所でしてたからな」

「・・・何で魔王軍幹部がはじまりの街に来るんだよ。悪質な嫌がらせか?」

 

これでこの街に魔王軍幹部攻めてきたら俺達はどうすればいいんだろうか。

とりあえず、昼飯でみんな戻ってくるだろうから、その時に話してみよう。

 

「どうせただの陽動だろ。増援を王都から派遣した途端王都が襲われるんだろうな」

「うわあ。如何にも魔王軍がやりそうな手だな。まあ、駆け出しの俺らには関係ないけどな」

「だな。間違いねえ」

 

話が一区切りした所で三人が集まってこっちを見ているのに気付いた。

先輩方も気づいたのか俺は三人の元に向かったのだが、何故か目が合った瞬間にみんな視線を逸らせた。

 

「お前ら三人揃ってどうした?」

「随分楽しそうでしたねカズマ?」

 

めぐみんが不機嫌そうに言った。

 

「情報収集は冒険者の基本だろ?」

「カズマが他所のパーティーに入るかもなんて心配はしてないからね」

 

アクアはツンデレみたいに俺の事チラチラ見ながらそんなことを言った。

 

「昼まで暇だったから先輩達に話聞いてただけなんだが?」

「仲間が取られるかもしれないと言うこの状況で、何だか込み上げてくる興奮感。これが噂の寝取られ……」

 

そして、ダクネスは何だか興奮しながらそんなことを言った。

これは何言っても無駄だな。

ダクネスは変なスイッチ入ったし、これ以上この場にいるとろくなことにならなそうだな。

 

「めぐみん、早く爆裂散歩終わらせるぞ」

「嫌です」

「何でだよ」

 

まさかめぐみんに反対されるとは思ってなかった。

爆裂散歩に一番行きたいのめぐみんだろうに。

 

「ゆっくり爆裂散歩したいので」

「じゃあ、ゆっくり行くか」

 

この場からは立ち去れるから良かったとこの時の俺はそう考えていた。

ゆっくり爆裂散歩に行くと言うことの意味を俺はまだ理解していなかったのだ。




このシリーズの次回はお城にポンポンポンポン放ちに行く回となることでしょう。
次回の更新シリーズは未定です。


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探究の先に

京都は本日凄い雨に見舞われています。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
何故でしょう。未定と言ってる方が、早いスパンで投稿出来てる気がします。
今回はカズめぐがゆっくり爆裂散歩するお話です。


-TANKYUUNOSAKINI-

 

爆裂散歩に向かったはずなのだが、何故かまだ街を出て居ない俺とめぐみんは今、商店街にいる。

 

「カズマ、あ〜ん」

「あ、あ〜ん。うん。美味しいって、俺ら何やってんの?」

「デートですよ?」

 

なぜ急にデートが始まってるのだろうか?

教養講座的な意味も分からなくはないけど、ここまでガチなデートする必要あるのか?

・・・あっ、そう言えば俺たち恋人のフリすることになったんだっけか。

教養とかじゃなくて、俺たちはイチャイチャしなきゃいけないのか。

これめぐみんが一方的に楽しめるイベントな気がしてならない。

主に俺をからかうって言う内容で!

 

「爆裂散歩はどうした?」

「ゆっくりと言いましたよね?」

「デートするならするで言ってくれよ」

 

何はともあれ気付いたらデートしてるって言うのは変だから事前に言って欲しい。

俺にだって心の準備があるのだから。

 

「カズマならば察してくれるものと思ってました」

「察し悪くて、悪かったな」

「責めるつもりはありませんよ。所でカズマはキスした事ありますか?」

「ないけど?」

 

突然キスがどうのとか聞いたりしてどうしたんだろう?

もしや、またも恋バナモード突入か?

 

「じゃあ、今からしましょうか」

「は!?お前何言ってんだ!?」

 

この子何言ってんの?

いくら偽装とは言えやり過ぎだと思う。

それともあれか?

やっぱり俺の事好きとか?

 

「冗談ですよ。カズマは本当に面白いですね」

「・・・めぐみんは好きな人とかいないのか?」

 

結局、からかわれただけか。

ここはカウンターとばかりに、好きな人について質問をしてみる。

 

「好きな人ですか?カズマですよ」

「・・・へ?」

「クレープ食べましょう!」

 

何でこの子こんなに平然としてるんだろうか。

クレープ屋目掛けて走っていき、俺が呆然としている間に支払いと受け渡しを終えて戻ってきた。

さっきの受け答えは仲間としてだと変だよな?

もし仲間としてだったら天然が過ぎるぞ。

 

「カズマ?何ぼおーっとしてるんですか?これカズマの分です」

「なあ、お前の言うす」

「うわっ!?」

 

聞こうと思ったら後ろ歩きしてためぐみんが段差にツマづいて転んだ。

また聞きそびれた。

二人きりでもこれかよ!

 

「大丈夫か?」

「カズマが痛いの痛いの飛んで行けーをしてくれたら大丈夫です」

「・・・大丈夫だな。ほら、行くぞ」

 

めぐみんは俺の事からかうことしか考えてないんじゃないか?

恋愛対象として好きな人に小言を言って困らせないよな普通。

めぐみんは天然なんだろう。

気にする必要はないような気がしてきた。

 

「カズマのケチ」

「ケチってなんだ。ケチって」

「それより、さっき何を聞こうとしたんですか?」

 

仲間としてだろうし、もういいや。

聞いたらそれをネタにまたからかわれるかもだし。

惚けておこう。

 

「何言おうとしたか忘れた」

「そうですか。次はどこ行きますか?」

「どこでもいいけど」

「案一つくらい出してくださいよ」

 

膨れっ面で抗議してくるのが、可愛い。

何も考えないのは悪いとは思うけど、分からないからなあ。

 

「そうは言われてもめぐみんみたいにデートに何するか知らないし」

「私だって知りませんよ?デートと言えば思いつくことしてるだけです」

「そうなのか?」

 

思いつくことやってるだけって、レベルで説明つくか?

俺から見たら恋愛慣れしてるって気もするんだが。

でも、めぐみんに嘘つく必要がないしな。

これが紅魔族随一の天才と言ったところか。

 

「カズマも何かありませんか?」

 

デートと言えばか。

夜景を見るとか大自然に触れるとかもデートの定番だよな。

景色のいい所って言っても街の中だと展望台くらいしかないよな。

展望台なら、爆裂散歩行くのにも方向的に都合がいいよな。

 

「展望台で景色眺めながら良い目標探すとかはどうだ?」

「いいですね!爆裂デートに必須のスポットです!」

「爆裂デート?」

 

変な造語が出てきた。

世界中探してもコイツしか言わないと思う。

 

「爆裂散歩とデートを合わせた名前です」

「いや、それは分かるけども」

「私たちのデートの〆は爆裂魔法ですよね?」

「別に爆裂魔法放った後もデート出来ないこともないだろ?」

 

早朝から出かけて遠出すれば朝からうるさいとか言われることも無く、街に戻る頃にはめぐみんが回復していて、そこからデートってのも可能だと思う。

午後からしか爆裂してなかったから、めぐみん的にはそのイメージが強いのかもしれないな。

 

「カズマは夜も私とデートしたいのですか?」

 

モジモジしながらそんなことをめぐみんが言ってきた。

凄く意味深な発言だ。

多分、深い意味はないんだろうけども、モジモジしてるのが気になる。

 

「そうじゃなくて、朝一に爆裂して、午後からってのもありだろ?」

「なるほど。その考えはなかったです。今度やりましょう!」

「その時はデートプラン考えとく」

 

デートプランか。

デートが出来るなんて想像もしてなかったから、全く思いつかない。

ラブコメとかの知識で何とか凌ぐしかないなこれは。

 

「期待しますからね?」

「一応彼氏ってことになってるから、リードしなくちゃだからな」

「カズマがリード?何だか変ですね」

「それどう言う意味だ?」

「そのままの意味です。そんなことよりも展望台行きましょう!」

 

めぐみんの興味はデートと言うか、街探索よりも爆裂に傾いてるらしい。

抗議したい気持ちもあったけど、凄く楽しそうに俺の手を引いて、歩き出しためぐみんを見てると何も言えなかった。

ここまで何かを好きになれるってある種の才能だと思う。

 

 

 

展望台に到着して、暫く眺めを見ているとめぐみんが服をクイクイと引っ張って言った。

 

「カズマカズマ、キスしてもいいですか?」

「急にどうした?」

 

お互いここに着いてから何も話してなかったのに、第一声がキスの申し出ってどう考えても普通じゃない。

しかし、こんなめぐみんの突拍子のない発言に慣れつつある。

ここ来るまでに今日もキスしましょうとか言われてたし。

 

「周り見てくださいよ。みんなキスしてますよ?この場所でキスしたらどうなるのか気になるじゃないですか」

「ファーストキスを検証なんかで使いたくない」

「じゃあ、私がカズマの頬にキスするのは大丈夫ですか?」

 

唇同士じゃなきゃ良いとかそういう問題じゃないと思う。

めぐみんの興味心を何か他のことに向けないと。

 

「一旦キスから離れて、爆裂しがいのある岩を探そう」

「カズマはキスがどんなものか知りたくないのですか?」

「その質問に対しては知りたいって答えるけど、今することじゃないだろ?」

 

ダメだ。

爆裂散歩のことに話戻すだけじゃダメだ。

探すじゃなくて見つけないとコイツの探究心は終わらないなこれ。

 

「そうでしょうか?夕焼けが綺麗で、ロマンチックな場所でムードもありますし、するなら今だと思います」

「俺達の間にそんな雰囲気あったか?」

「無いものは作ればいいのです。こうやって」

 

気付いたらめぐみんに壁ドンされてた。

どういう状況?

俺、めぐみんより身長高いはずなのに。

何でめぐみんの顔が上にある訳?

てか、ヤバい。

コイツマジでやるつもりだ!

 

「カズマの初めていただきます」

「ちょっ、めぐみん、こういうのは好きな人とだな」

「カズマのこと好きですから。という訳でしますよ!」

 

こんなムードの欠片もない、実験的なキスを俺は知らない。

どんどんめぐみんの顔が近付いてくる。

えっ、マジなのか?

こんなロリっ子の知的探究心の為に、俺のファーストキスは奪われるのか?

 

「お、落ち着け、めぐみん。今はいいかもしれないけど、後悔するぞこれは!」

「そこまで抵抗されると、ムードもへったくれもないですから諦めます。カズマが案外乙女な所もあると知れたので、それで良しとします」

「いや、何もよくねえよ!お前は男らし過ぎんだよ!」

「カッコイイがモットーの紅魔族ですから!」

 

今度ゆんゆんとか、他の紅魔族の人に会ったら聞いてみよう。

実験の為にキスしますか?って。

絶対コイツだけだと思う。

まあ、何にせよキスせずに済んで良かった。

 

「・・・そういう問題なのか?」

「では、爆裂しに行きましょう!」

「お前、ホント好きだよな」

「ええ好きですよ。爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザードですからね!しかもカズマの採点付きです!楽しみじゃないわけありませんよ!」

 

凄い圧を感じる。

眼が紅く輝いてキラキラしてる。

相当気分が上がってるんだろうけど、壁ドンが継続されている現状で、めぐみんが興奮状態なの傍から見たら盛り上がってるようにしか見えないんだろうなあと、壁ドンされてる事実から逃避してそんなことを考える。

 

 

 

展望台から降りて、門をくぐってから約三十分。

ハイテンションなめぐみんが走って行くのを、必死に追いかけて何とか、追い付けた。

 

「ちょっと、待ってくれ、はぁ、はぁ、早いって」

「カズマが体力ないだけでしょう?」

 

ぐうの音も出ねえ。

 

「教養もですけど、もうちょっと鍛えた方がいいんじゃないですか?帰りが心配になりますよ」

「そう言うなら、偶には俺以外の誰かと行こうって思ってたりしないのか?」

 

体力面に心配あるならダクネスに頼めばいいのに。

こうやって、頼りないだとか何だとか言うのに、そのくせ俺にしか頼まないんだよな。

 

「しませんよ?わざわざカズマ以外と爆裂散歩することに何の意味があるのか分かりません」

「俺はお前が何言ってるか分からない」

「兎も角、カズマが熱や風邪で動けないとか、疲れてるとかじゃない限りは付き合ってもらいます。約束もしましたし」

 

確かに爆裂道に付き合うって約束したけども、休みがあってもいいと思う。

はぁ、ただ単に付き合うのは暇だからと採点なんて始めなきゃ良かった。

 

「反故にするつもりは無いけど、気になってさ」

「カズマしか居ないから頼んでるのではなくて、カズマだから頼ってるのですよ?」

 

こういう言い方されると断れなくなるよな。

嬉しそうに微笑んで言われるとなあ。

 

「・・・しょうがねえなあ。さっき言ってた通り約束したもんな。とことん付き合ってやるよ。それこそめぐみんが爆裂魔法に飽きるまで」

「そうですか。飽きなんてやってこないので、末永くよろしくと言っておきましょうかね」

「そうだな。めぐみんが結婚してもまだ飽きてなかったら俺も爆裂魔法覚えてやる」

 

めぐみんが結婚なんて、全く想像つかないし、そもそもめぐみんに相手とか出来るのか?

見てくれはいいから、モテるのはモテるだろうけど、ずっと爆裂爆裂言ってるこいつに付き合えるやつって相当惚れ込んでないと居ないよな。

・・・そもそも俺がその位置にいると周りは思ってるから、多分、少なくとも誤解が解けるまでは、現れないよな。

それに加えてコイツの中二病な所とか含めると、厳しいだろうから、俺が爆裂魔法覚えなきゃいけなくなるなんてことも無いだろう、

 

「ほう。言いましたよ?絶対に約束守って貰いますからね?」

「お、おう。そんなに爆裂魔法を覚えて欲しいのか?」

「カズマと一緒に爆裂して、お互いの爆裂魔法を採点するの結婚式でやりたいです」

 

何で俺ら二人で結婚式に協同作業するんだ?

まあ、めぐみん的には華々しく二人で爆裂魔法を祝砲みたく上げるのを想定してるんだろうけど、俺だったら他の男と二人で何かやってるの見るのは面白くないと思う。

 

「・・・そんな結婚式でいいのか?と言うかそんなことして大丈夫なのか?」

「カズマ!やってくれますよね?」

「えっと、俺はいいけど」

 

単なる思い付きだろうし、その時はまた考えも変わってるだろう。

仮にやることになったとして、未来のことは未来の俺に任せておこう。

多分、そんなにポイント貯まらなくてそもそも覚えられないかもだしな。

 

「じゃあ決まりです!生まれて初めて結婚願望が今、生まれました」

「お前の人生はどこまでも爆裂魔法中心に回ってるのな」

 

結婚願望がなんて言ってるけど、結婚自体がしたい訳じゃなく、爆裂魔法を二人で放ちたいだけだろうな。

目的と手段が逆転してるって正にこのことだ。

 

「ふふん。あっ、いい岩みつけました!」

「上から見つけたのもっと遠くなかったか?」

「今日はこれでいいです。早く帰って日記に今日のこと書きたいので」

 

日記か。

めぐみんって結構マメな性格だよな。

 

「と言うと?」

「カズマが爆裂魔法を覚えてくれるのと、爆裂ウエディングの約束のことです」

 

また新たな造語が……

爆裂ウエディングって、なんか、リア充爆発しろの延長で、式場爆破みたいな感じするな。

まあ、そんなこと言ったら爆裂デートだって、デートしてるカップル爆殺みたいな感じしなくはないな。

でもまあ、日記に書きたい程に喜んでるのは確かだし、いつも以上に笑顔が眩しい。

・・・日記に書かれたら有耶無耶に出来ねえな。

 

「カズマ?ぼぉーっとしてないで見てください」

「悪い、考え事してた。もういいぞ」

「ちゃんと見て、覚えて、採点して結婚式に備えてください」

「へいへい。まずは相手探す所からな」

「そんなことするつもりはありません『エクスプロージョン』ッ!!」

 

相手を探さずとも向こうからやってくると。

美少女さまは考えが違うな。

まあ、この街にめぐみんへナンパするような物好きなんて居ないだろうけど。

 

「カズマ、今日のは何点ですか?」

「とりあえず百点で」

「そんな百点嬉しくないですよ」

「解説入れなかったのは悪かったから暴れるな。転けたら危ないのはめぐみんも同じだぞ?」

 

意味もなくとりあえずで点数発表した訳じゃないんだけどな。

こんなことなら初めから何も言わなければ良かった。

 

「で、点数は?」

「だから百点だって、自信あっただろ?」

「ありましたけど、何処がどう良かったのか聞かないと納得できません!」

「なあ、今日はゆっくり爆裂散歩するんだろ?」

 

何か一案をと言われて俺なりに考えたんだけどなあ。

まだ発案してないからしょうがないけども。

 

「・・・そうですけど、それがどうしたって言うんです?もう終わりましたよ?」

「いいや、家に帰るまでが遠足、いや、家に帰るまでが爆裂散歩だ」

「はあ?それと何の関係が?」

 

凄い不機嫌になってる。

早く俺の考えた案を言った方がいいな。

 

「街に戻ってからゆっくりレストランで食べながら話すのはダメか?」

「いいですね!いいですね!解説楽しみにしてますからね!」

「おう、お前が楽しみにしてるのはよーく分かったから暴れるのはやめてくれ」

 

さっきまでとは真反対の意味でめぐみんが暴れだした。

こういう情緒不安定な所がお子様なんだよな。

 

「むっ、何か失礼なこと考えてませんか?」

「いいや。めぐみんが楽しそうでなによりだなって」

「楽しいと言うか嬉しいのですよ」

「嬉しい?」

 

レストランで食べるのがそんなに嬉しいのか?

それなりにお金もってるみたいだし、何時でも行けるだろうに。

 

「爆裂魔法について語り合える人が出来るなんて思っても見なかったので」

「そりゃまあ、毎日付き合わされてたら嫌でも詳しくなるっての」

 

話せる相手が出来てってことか。

語りたくて知った訳じゃないけど、言われてみればめぐみんが爆裂魔法について熱く語ってるのは見るけど、みんな話半分にしか聞いてないもんな。

まあ、俺もなんだけど。

 

「でも、ゆんゆんは全然見てくれなかったですよ?」

「そうなのか?」

「里にいた頃に何度か付き添って貰ってたのですが、全くダメでした」

「まあ、俺は一応、仲間のスキルアップ確認もあるからな」

 

等とは言ってるが初めの方は単に押し付けられただけだし、今じゃ担当にされてるし、めぐみんとは約束しちゃったしで、付き合わざるを得ないんだけども。、

 

「それを言ったらあの子だって敵情視察になるとは思いませんか?」

「言われてみるとそうだな。俺ってばレアだったの?」

「ですから、ちゃんと私の魔法を見てくれる優しいカズマの事が私は大好きです」

「・・・え?」

 

今大好きって言ったよな?

・・・よし、今なら完全に二人きりだ。

敵感知に反応もないし、今聞こう。

好きが、仲間としてなのか、異性としてなのか!

 

「眠くなってきたので、夕飯までに起こしてください」

 

毎度毎度、俺が確認しようとしたらこれか!

大好きとか簡単に言うなよ。

勘違いするぞ?

何度ももう気にしないと決意してるけど、いざ言われたら動揺するし、気になるし。

魔性のめぐみん恐るべし。

レストランで邪魔はいるのは嫌だし、そこでは聞けないな。

でも、その後に聞けるタイミングがあるかと考えても見つからないな。

神様、どうか、俺にチャンスをください。




次回の更新シリーズはカズめぐしてないやつで、投稿日は未定です。嘘は言ってない!


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嘘か真か

夏休みももうすぐで終わりです。
京まふのステージ席が2列目と3列目取れたのでとてもテンション上がってます。


突如始まった爆裂デートの帰り道。

いや、これからレストラン行くから移動中か。

まあ、何にせよ。俺は街までめぐみんをおぶって歩いている。

そして、俺は今早くおんぶを止めてこの場から逃げ出したい気分だった。

 

「ねえ見て、あれってさっき展望台でキスしてた二人よね」

「お熱い二人だね。おんぶして散歩から帰ってくるなんて」

 

さっきからすれ違う冒険者からこんな感じのヒソヒソ話をされてる。

せめて聞こえないように話してくれればいいものを!

絶対わざとめぐみんが起きない程度で、俺には聞こえるように話してるだろこいつら!

もはや恥ずかしさより怒りの方が勝ってきてる気がする。

早くめぐみん起きてくれないか。

 

「ったく、なんで俺がカエル狩りなんざしなきゃならねえんだ!」

「あんたが借金増やすからでしょうが!」

 

借金か。

俺もめぐみんに借金してたようなもんだよな。

本人は貸してなどいないって言ってたけど。

そんなことを考えながら今からクエストに向かうパーティーを見る。

 

「本当借金作るのも大概にしろよな。俺はアノ店行ってゆっくりするつもりだったってのによ」

「お前だけずるいぞ!俺の分奢ってくれ」

「誰が奢るか!誰か何か言ってくれ」

 

借金男以外の二人を見て応援を求めるも、魔法使いらしき女はため息をつくだけで、もう一人騎士風の男はため息の後に口を開いた。

 

「お前はもう少し金の使い方を学べ、それとずっと気になってたんだが、お前たちのよく話してるアノ店ってのは何だ?」

「そ、それはまた今度な」

「けっ、金金うるさいんだよてめぇら!」

「あんたが言うな!」

 

何か楽しそうな連中だな。

ああ言う普通のパーティーで冒険がしたかった。

はぁ、俺は何処で選択肢を誤ったんだろう。

・・・間違いなくあの駄女神の勧誘に乗った時だな。

 

「あれ?ねぇねぇあそこにいる二人って最近有名な子達じゃない?」

 

魔法使いが俺達に気付いたみたいだ。

指された方向を男三人が追って、パーティー全員と俺の目が合う。

 

「あ?有名だ?この俺様より有名なやつが居るってのか?」

「お前は悪名だろうが、言われてみれば最近ギルドで有名な冒険者カップルの風貌に似てる気がする」

「冒険者カップルだと!?しかも見ねえ顔だ」

「あんたは何処に反応してんのよ」

 

何かこのまま借金男に絡まれる気がする。

こう言うのは適当に流さないと面倒になるんだよな。

今すぐにでも襲ってきそうな血相で睨んでるし、ヤバそう。

 

「威嚇も止めなさいっての!ほら、見なさいよ!彼氏さん怯えてるじゃない!ウチのバカがごめんね」

「いや、あの、こっちこそ何かすまん」

 

騒ぎを起こした原因は俺達らしいから、とりあえず借金男以外に向かって頭を下げて通り過ぎようとしたら、また怒鳴られた。

 

「何謝ってんだこら!煽ってんのか!」

「止めんか!」

 

魔法使いの子は借金男を殴って、引きずって行った。

何かいつもの俺とアクア見てるみたいだな……

 

「ウチの仲間が悪いな。ほら行くぞ日が暮れちまう」

 

アイツ以外は基本常識人なんだろうな。

またギルドであったら話しかけてみよう。

 

「ん?かずま?」

「起こしちまったか」

「・・・」

 

めぐみんは何か一点を見つめて不思議そうにしていた。

 

「どうした?」

「あなた誰ですか?」

「さっき名前呼んでただろうが!」

 

急に記憶喪失になるはずないし、原因が無さ過ぎて本当になってたら怖い。

ツッコミを入れた結果めぐみんは首を横に振って言った。

 

「いえ、カズマじゃなくてですね」

「はあ?お前何言って・・・」

「こんな所にいたのね」

 

振り返ると黒髪ロングの女の子がこっちに向かって歩いてきていた。

結構な美人だけど凄い剣幕でこっち見てる。

全く知らないやつだけど、めぐみんの知り合いか?

でも眼は紅くないし、どちらかと言うと日本人ぽい子だ。

 

「誰だこいつ?」

「私に聞かれても知りませんよ」

「忘れたとは言わせない!その剣!覗き犯の持ってたやつと同じなんだから!」

 

なんということでしょう。

突如現れた美女に冤罪を吹っかけられました。

中古で武器買うんじゃなかった!

 

「はあ!?ちょっと待て!人違いだ!」

「問答無用!」

「話せば分かる!話せば……あれ?」

 

殴られると思って目を閉じて腕で顔を守る体勢で構えていたのに、衝撃がなくて気になり目を開けて見ると、めぐみんが女の子に馬乗りになって取り押さえていた。

後ろで手を組ませて、まるで犯人逮捕した見たいにやってるし、さらに肘でグリグリしてるし……

 

「カズマ、安心してください。私が倒したので」

「・・・やり過ぎだ!おい、大丈夫か?怪我はしてないみたいだな」

「覗きのクセに!」

 

・・・何でおれここまで言われなきゃならないんだ。

この剣の元の持ち主に会ったら許さねえ!

てかこの場面誰かに見られたらまた悪評広まりそうでいやだ。

 

「だからやってねえって!この剣はつい最近買ったばかりなんだよ」

「・・・え?」

「中古なので、前の所有者が犯人でしょう。私のカズマがそんなことしませんから」

 

サラッと私のとか何言ってんの?

もちろん恋人のフリするのは分かってるけど、この子役に入り過ぎてない?

何か、本当に俺めぐみんのみたいに思えてきたんだが・・・

 

「えっと、あなたは?」

「私はカズマの恋人です」

 

堂々と嘘つきやがったよこいつ。

やっぱりめぐみんに恥じらいなんてないんだよきっと。

じゃなきゃ今日キスしようって言ってきたりしないはずだ。

俺にはそんなの無理なんだけども……

 

「・・・恋人が居るのに覗きなんてしないよね。・・・ご、ごめんなさい勘違いで」

「分かってもらえればそれでいい。今度これ買った店で犯人の特徴聞いといてやるよ」

「えっと、そこまでして貰わなくてもいいよ。これ、勘違いで襲いかかったお詫びに上げるよ。それじゃあ、私は犯人探しするからいくよ」

 

と言って黒髪の子はいなくなった。

名前聞きそびれたな。

あと、常識人ぽかったから出来れば仲間にって思ってたんだけどなあ。

 

「名残惜しそうですね。カズマはああ言うのがタイプなんですか?」

「いや、同郷ぽかったから名前聞いときたかったなって」

「確かに特徴は似てましたね」

「まあ、冒険者のようでしたし、ギルドでまた会えるでしょう」

「そうだな。切り替えてレストラン向かうぞ」

「はい!」

 

色々あったけど、おんぶの状態から解放されて向かいから歩いてくる冒険者にヒソヒソ話されることもないだろうと楽観視していたのだが、めぐみん様はそんなことを許してくれなかった。

 

「・・・めぐみん?」

「どうかしました?」

「これ何?」

「恋人繋ぎですよ?私たち恋人なんですからこれくらいしとかないとって前にも言いましたよ?」

 

俺の質問に対して何を言ってるんだと言わんばかりの呆れ顔で答えた。

言ってることは分かるけどそれを実行するには早すぎると思う。

だってまだ街に着いてないし。

 

「・・・誰も見てねえだろ」

「急にあの林から人が出てきたらどうするんです?その瞬間から手を繋ぐ方が怪しいでしょう」

「・・・」

 

めぐみんの主張に全くもって反論出来ない。

俺はクリスが帰ってくるまで、大人しくめぐみんになされるがままになるしかないのか?

それそれで癪だから何かないかと考えてみる。

 

「私と恋人関係ってことになってるのそんなに嫌なんですか?」

「嫌じゃないけど、こんなに引っ付いてたらクリス戻ってからも暫くこれだし、別れたとかってなったらそれはそれで面倒だろ?」

 

よし、とりあえず現状の方法が齎す将来的な問題点を挙げてめぐみんに考えを改めて貰おう。

と考えて言ってみたけども、めぐみんは小首を傾げているから望みは薄そうだ……

 

「どうもしませんよ。倦怠期に突入したくらいにしか思われませんよ。だって爆裂散歩は偽装と関係なく続けますからね」

「・・・納得したくないけど、凄い説得力あるなそれ」

「ええ、クリスが帰ってきた後もどうせ私達はカップルだと思われ続けますよ」

 

めぐみんが俺たちの関係について既に開き直ってるのがよく分かった。

その上で、まだ適応できてない俺をからかうのが、ここ最近出来ためぐみんの新たな日課なのだろう。

とは言っても一度恋人になったと言う情報が残ることになんとも思ってないんだろうか?

 

「前にも聞いたけど、お前はそれでいいのか?」

「構いません。カズマの可愛い反応見れますし」

「・・・」

 

俺で遊んでるの隠すつもりもないらしい。

めぐみんは楽しめるからいいだろうけど、俺は全然良くない!

この世界でやり直せるならキャベツ狩りの時にクリスへ窃盗スキル使う前に戻って、バカなやり取りしないようにしよう。

 

「カズマにもし好きな人が出来たら言ってください。その人にはちゃんと私からこの関係を伝えますから」

「止めろ。それ間接的に告白してることになるじゃねえか」

「じゃあ好きな人出来たらどうするんですか?」

「どうもしねえよ。どうせ俺なんかフラれて終わりだろうし」

 

・・・自分で言ってて悲しくなってきた。

自分に大した魅力がないことくらい理解してる。

はぁ、こいつもモトは良いから俺の気持ちなんて分からないだろうな。

 

「そんなことありませんよ!私ならカズマと付き合います」

「はいはい。世辞は結構。門が見えてきたからこの話も終わりな」

「お世辞じゃないですよ?何度も言ってますが私はカズマが」

「はいはい。俺の事好きなんだろ?分かってる分かってる」

 

めぐみんがお世辞で言ってないことくらいは最初から分かってる。

もう俺にはこうやって受け流すことくらいしか出来ないだけ、だって、これ以上真正面から受けてたら身が持たない。

 

「なんですかその返しは!私の想いを踏み躙ったこと後悔させてやります」

「何しようってんだ?」

「まずはこうです」

 

世間に聞くめぐみんの制裁とやらを受けると覚悟してたのに、なんの衝撃もなく、どちらかと言うと優しく包み込まれて、柔らかい感触が腕にさっきまでよりも鮮明に伝わってくる。

 

「・・・動き難いんだが?」

「そうしてるんですから当然です」

「つかこれでどうやって俺を後悔させるんだ?」

「見てれば分かりますよ」

 

何をと言おうと思ったら周りがやけに騒がしいことに気付いた。

周囲を確認するともう街の中に入っていた。

つまり、イチャつく冒険者がいれば目立つわけで……

 

「見て見てあの二人もう隠す気無いどころか見せつけてるわね」

「羨ましいぜちくしょう!」

「ヒューヒュー!」

 

・・・めぐみんの意図してたことがよく分かった。

謝って止めさせようと思ってめぐみんの方を見るとめぐみんは女性が多い方向に向かって言った。

 

「カズマは私の男です!近付こうものなら全力で叩き潰してあげます!」

 

・・・こいつ今の関係終わった時のこと考えてんのか?

絶対俺をからかうことしか考えてないだろ。

はぁ、もういいや。

未来のことは未来の俺に任せて今はめぐみんの感触楽しむ方に思考をシフトして……

 

「いや、誰もあんなパッとしない男興味無いわよ」

「そうそう。興味あるのあんたくらいだって」

「おい、カズマ。お前も安心しろよ。短気な爆裂娘に興味あるやつなんていねえからよ!」

「間違いねえ。あんなガキに興味あるのはロリマくらいだよな。あははははは」

 

本人が目の前に居るってのにこいつら言いたい放題だな。

色々言われて怒ってるめぐみんは俺の腕から離れて拳を鳴らしてる。

多分、俺と同じこと考えてるな。

 

「カズマ」

「めぐみん」

 

お互いに名前を呼びやることを確認して、俺は男たちに、めぐみんは女たちに近付き殴り倒した。

こんなことしたらお互いに恋人を馬鹿にされてキレたって判断されるよな。

でもまあ、この場合はしょうがねえ。

 

「俺達を馬鹿にするやつはこうだ。分かったな?」

「他に何か言いたい人はいますか?」

 

さっきまで冷やかしてた連中がいなくなった。

これでもうめぐみんの言ってた通り関係が終わっても倦怠期からの自然消滅的流れしか無くなったのか。

めぐみんは世間的に俺の元恋人なんて扱いでいいんだろうか?

 

「カズマ早く行きましょう」

「おう」

 

全く気にしてる様子はないんだよなあ。

気にしてるのは俺だけなのか?

 

「カズマ、思い知りましたか?」

「諸刃の剣って知ってるか?」

「私にとってはなんの問題でもありません」

 

だろうと思った。

 

「それよりも何処のレストランに行く予定ですか?」

「知らないからこの前行ったレストラン街にとりあえず行ってからメニューとか見て決めようかなって」

「なるほど。それもありですね。私はステーキの気分です」

「じゃあ、肉屋行くか」

 

と行先が決まった。

移動中ずっと視線を集めてたがもう何かどうでも良くなってきた。

ステーキ屋を見つけて二人で入った。

そして、出来れば出会いたくなかった二人がそこに居た。

 

「あっ!ダクネス見てよ!ウチのラブラブカップルが来たわよ」

「という事になっているだけだ!」

 

このバカは協力するとか言いながらカップルだと思ってるのはどうなってんだ。

俺の味方は多分居ない。

どうせ隣に居る変態も同じような反応だろう。

 

「ふむ。見た限り実際にそうなってるように見えるのだが気の所為なのだろうか?」

「だから違うって言ってんだろうが!めぐみんも何か言ってやれ」

 

予想通りとは言え、ムカつくのは変わらない。

流石に仲間相手ならちゃんと訂正いれるだろうとめぐみんに振って見たけど、不敵な笑みを浮かべてるから嫌な予感しかしない。

 

「分かりました。カズマのことは例えアクアとダクネスでも渡しません!」

「何か言えとは言ったがそうじゃねえ!」

 

味方不在の中、俺はどうすればいいんだろうか。

このパーティー抜けてクリスの向かった街に行って、それこそパンツコンビでパーティー組んで活躍とかしてやろうか。

 

「めぐみんが言ってた通りカズマの反応面白いわね」

「うむ。予想以上の慌てようは見ていて飽きないな」

「おいこらお前ら分かっててやってたのか?」

 

何やら様子がおかしい。

めぐみんが付き合ってくれとかキスしてくれとか言った後に、俺を嗤う時みたいな空気になってる。

 

「当たり前じゃない。この前協力するって話してたでしょ?」

「クリスが戻って来るまでの関係だろう?」

「てことはこの前のも……」

「全部演技よ」

 

アクアがドヤ顔してるのが超ウザイけどとりあえず無視だ。

今は状況の整理をしないと。

 

「めぐみんに頼まれていたからな」

「めぐみん?これはどう言うこった?」

「実はお風呂でアクアに恋人のフリすると言う話をして、そこからダクネスに話は通ってたのですよ。まあ、カズマがダクネスに話を聞いていた時はまだダクネスは知らない話でしたけどね」

 

は?

こいつもしかして最初から俺とクリスとの三角関係デマが広がってるって知ってたのか?

知ってて対応策まで考えて準備万端な状態にしておきながら、俺には黙ってたのか!?

 

「てことは俺達パーティーでいる時は別に恋人のフリとかしなくてもいいのか?」

「では多数決取りましょう」

「何を?」

「このままカズマの反応を楽しみたい人」

 

三人とも手を高く上げる。

こんな出来レース知らない。

数の暴力とはまさにこのことだ。

 

「認めない!絶対嫌だ!ちょっとくらい普通にしていられる瞬間が欲しい!」

 

と叫んで見たが、三人のと言うかめぐみんの行動が今日のような感じで所構わず続くため結局この多数決と関係なく、俺はめぐみんに翻弄されるのであった。




次回も更新シリーズと時期は未定です。
カズめぐしてるシリーズの可能性大です。


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一方通行な以心伝心

お久しぶりです!
忙しくなってきましたが、何とか作れました。
今回もカズマさんが翻弄されますので、お楽しみください。


めぐみんが俺をからかうの飽きないかなとか、早くクリス戻ってこないかなとか考える今日この頃。

全くそんな予兆は見られない。

めぐみんと付き合ってることになってからはもう四六時中一緒に居る。

別行動は風呂とトイレくらいだろうか。もちろん他にも多少はあるけど、イメージとしてはこんな感じだ。

もちろん偽装に必要なことだってのは分かるけども、これはやり過ぎな気もする。

なお、今はめぐみんとダクネスのトイレ待ち。

 

「ぼぉーっとしてどうしたの?」

「考え事だ」

「めぐみんのことでしょ?」

 

多分、事情知ってるアクアとダクネスなら普通に分かると思う。

俺が今悩むことはめぐみん関係が主だし、よく愚痴ってるし。

 

「その通り、俺は早く一人の時間が欲しい」

「別にいいじゃない楽しいし」

「それはお前らが楽しんでるだけだろうが」

 

他人事だと思ってお気楽なもんだ。

俺がどれだけ悩んでるかも分かってるくせに。

 

「カズマだって楽しんでるでしょう?仮初でも彼女出来たんだから」

「否定はできねえけど、それはそれ、これはこれでだなあ」

「その内めぐみんも飽きるでしょ、私とダクネスが最近あまりいじらなくなったみたいに」

 

言われてみれば最近は俺らのことでからかわなくなってる。

・・・もう飽きたのか。

結構早いな。

てかそれなら俺に多少普通にしていいとか何かフォロー入れてくれよ。

 

「お前らもう飽きてたのかよ。じゃあ、四人だけの時は止めてくれよ」

「それはそれ、これはこれなのよね。面白いのに変わりないし」

「いじめだって訴えてやる」

「何処に訴えるの?」

 

こいつにしては結構まともな事を言う。

そう、訴えを起こすにしても、それを所管する機関などここには無い。

企業で言うところ内部通報もギルドには無い。主に不正のしようがないのも大きいだろうけど。

犯罪であれば警察が動く故に、存在しないと言った所か。

で、パーティー内のいざこざは違法行為じゃなければ特に何の介入もされない。

つまり暴力的ないじめじゃないと訴える先など存在しないのだった……

 

「日本に帰りたい」

「日本だったら多分、めぐみんがカズマの家に毎日通って、外堀埋められると思うのよね」

「そうなる所が容易に浮かぶんだが……」

 

あまり思い出したくもないが幼馴染が遊びに来ていた時の両親の反応からして、めぐみんが毎日遊びに来るようになったら家族のように扱うだろうし、あの二人ならウチの息子をよろしくとか言いかねないし、めぐみんはめぐみんで、俺の方見ながらニヤニヤして、こちらこそよろしくお願いしますとか言いそう。

 

「あっ、全然話変わるんだけど、昨日覗きの犯人捕まったらしいのよね。カズマが冤罪かけられてたってやつ」

「ほう。そりゃよかった。被害者の女の子今何処に居るか知ってるか?多分日本人だと思うんだけども」

「そうなの?話によると犯人捕まえてからは、隣町に向かったらしいわよ」

 

わざわざ追うほどでもないし、それこそ隣町行ってクリスに会ったら理不尽にブチギレる自信あるから行かない方がいいな。

・・・冷静に考えてクリスは今の状況について何の責任もないし、偶発的な事故だからな。

強いて言うなら俺とクリスの窃盗スキル使用時の運が無さすぎたって話なんだけども。

 

「そうか。アクアに会わせたら仲間になってくれるんじゃないかなとか考えてたけど無理か」

「その内何処かでまた会うでしょ。それよりも、もしかしてその子に一目惚れしたの?」

 

第一印象が、勘違いとは言え冤罪吹っ掛けて来た子だからまず無い。

まあ、見た目が好みかどうかと言われると好みに近いけども、一旦そこは置くとして、あの子に特別な感情は全くない。

あるのは海外で日本人を見つけて、日本語で話したくなるあの感じだと思う。

こっちでは、日本語じゃなくて、日本でのこととか、この世界の常識どうなってんだよとか色々話したい。

 

「してねえよ。こちとらファーストコンタクトで取り押さえられかけてんだぞ?めぐみんが逆に絞めてたけどさ。ここに居る日本人ってチート持ちなんだろ?だったら仲間に入れない手はないだろうって思ってさ」

「そうだったわ!カズマと違ってチート持ちの日本人が仲間にいたらちゃんと魔王討伐できるじゃない」

 

言いたい放題だなこいつ。

てか特大ブーメラン刺さってることに気付いてんのかな?

 

「お前、自分がチートじゃなくてお荷物だって認めたな」

「ちっ、違うから!そういう意味じゃないわよ!」

 

ここから毎度の言い争いが始まろうとしていた中で、めぐみんとダクネスが戻ってきた。

 

「また何を揉めてるのですか?」

「まだ揉めてない。これから始める所だった」

「・・・何でもいいですけど、仲良くしてください」

 

いつもめぐみんが年長ムーブするんだよな。

不甲斐ないばかりだ。

いや、毎回アクアが変な事言うからなんだけども。

 

「まあ、二人が揉めるのは仲がいいからでは無いか?」

「「それは無い!」」

「息までピッタリで、本当に仲良いですね」

「「だから!違うって!」」

 

ダクネスもめぐみんもニヤニヤしててムカつく。

今ほどアクアと考えが同じ時はないよな。

 

「一つ聞きたいのだが、いつもハモるのはワザとやってるのか?」

「「何でそんなことをしな、今こっちが喋って……」」

 

ちくしょう!

なんでここまで被るんだよ!

ダクネスは失笑してるし、めぐみんはずっとニヤニヤしてる。

 

「こう言うやり取り見てると妬いてしまいますね」

「「めぐみんちょっ……」」

「何ですか?アレですか?実は付き合ってるんですか?」

 

めぐみんの演技モード入って、ニヤニヤは無くなったけど、アクアととか絶対ありえない。

とは言えここで否定が被ると二人の思う壷だから黙るか。

 

「「・・・」」

「沈黙は肯定と言えるな」

 

何で沈黙のタイミングまで合っちまうんだよ!

アクアもグルでワザと俺に合わせてたりしないよな?

もしそうなら全員絞めあげる。

 

「嘘発見器持ってきてくれれば俺らがただの腐れ縁って分かる」

「嘘発見器?」

「カズマ、ここにそんなものないわよ?」

 

日本のやつもそこまでの高性能じゃないけど、魔法の世界なら何かしらあると思うんだけど、この世界ないの?

中世世界で嘘発見器ないと、冤罪ふっかけとか余裕で通りそうで怖いからあって欲しい。

 

「な、何かあるだろ?嘘ついたら分かる魔道具とか」

「ふふっ、やっぱりカズマはカズマですね」

 

言って、めぐみんは俺を後ろから包み込み、頭を撫でて来た。

めちゃくちゃドキドキさせられてるけど、何が起こってるのか分からない。

俺は俺ってどう言う意味?

魔道具の質問しただけだよな?

 

「・・・なんで俺、めぐみんに抱きしめられて頭撫でられてんの?後こいつが何言ってるかさっぱりなんだが?」

「カズマが相変わらず訳の分からないことを言ってるから哀れんでるんじゃない?」

「・・・」

 

ぐうの音もでねえ。

そうだったよ。

こっちの常識ないから、また変なこと言ってると思われてんのかこれ。

 

「全然違うので安心してください」

「じゃあなんだよ」

 

どうやら違うらしい。

未だに抱擁は続いていて、アクアとダクネスは毎度の事ながらニヤついてる。

殴りたい、この笑顔。

とそんなことはさておき、めぐみんの行動理由が、何だろうかと考えてる間に、めぐみんの言葉に俺は思考回路を全て奪われた。

 

「愛おしいなと思ってます。それよりもそろそろクエストしましょう。ギルドの職員もみんな完治したみたいですから」

「うむ。最近は休みが多かったからな。本業を疎かにしてはならない」

「ねえねえ、簡単そうなやつにしましょう」

「・・・」

 

めぐみんの言葉に固まる俺をよそに、三人とも掲示板へと歩いて行った。

え?

何でみんな普通に会話してんの?

愛おしいとかめぐみん言ってなかったか?

演技の一環だとしても、何か反応するだろ普通。

一人で惚けているとマスターが近付いてきた。

 

「おい、大丈夫か?三人とも向こう行ったぞ?」

「それが、めぐみんが俺の事愛おしいって。痛っ!?何すんだよマスター!」

「ここは現実だ。惚気はいいから早く行け。心配して損した。まあ、クエスト頑張れよ」

「・・・」

 

俺にもう心休まる場所はないのかもしれない。

 

 

 

掲示板に辿り着くと三人はまだクエストを選んでいる所だった。

ある意味クエスト中が一番気楽かもしれないと思い始める俺だった。

 

「カズマ何してたの?」

「ちょっとマスターと話してた。いいのあったか?」

「私はこの一撃熊の依頼がいいと思うのだが」

 

ダクネスが見せてきた依頼を見てみる。

一撃熊ってことは、一撃の攻撃で相手を倒す強力な熊ってことだよな?

ダクネスは普通に耐えられるだろうし、アクアも何だかんだでカンストしてるから耐えはするだろうが、ステータス的に大丈夫じゃない耐久戦不向きな奴がウチには二人いる。

 

「どれどれ・・・俺とめぐみんが即死級のやつは却下」

「カズマ、これなんてどう?」

 

アクアが見せてきたのは、縄張り争いをするマンティコアとグリフォンの討伐。

どちらも超上級向けな相手なのに、二体倒しても五十万エリスと大して高くない報酬でとにかく割にあってないクエストだった。

 

「明らかに報酬と仕事が噛み合ってないから却下」

「これはどうでしょう」

 

最後にめぐみんが見せてきたのは、ジャイアントードが異常発生してるエリアの殲滅だった。

爆裂魔法でまとめて倒したいとか考えてるんだろうけど、魔法放った後の事に逃げる事が想定されてないと思う。

 

「討伐漏れが出た時にお前背負って逃げられるとは思えないから却下」

「じゃあ、何を受けるのだ?」

「他にもジャイアント・トードのクエストはあるし、討伐数も少なめだし、これでいいだろ。初心者級のこいつに負けてたら、他のに勝てねえからな」

 

無難とも言えないけど、一番適切なのはジャイアント・トード五匹とかその程度なら前回もギリギリなんとかって感じではあったけども一応倒せてるからな。

 

「カズマにしてはまともなこと言うわね」

「一言余計だ。ともかく、これで行くからな」

 

変なクエスト受けずに済んで良かった。

ここで反論されたら面倒だったし、これで何とかなるだろうと思っていた時期が俺にもあった。

 

「カズマ助けぐぷぷぷ……」

「カズマヤバいです!このままだと飲み込まれます!」

「か、カズマ、どうして私は狙われないんだ!」

 

アクアは既に呑まれてしまい、めぐみんは咥えられて上半身だけ出ている。

そして、ダクネスは自分だけ狙われないことを嘆いていた。

ツッコミたい所ではあるが、早くしないとアクアが完全に呑まれそうだから急がないとな。

 

「・・・ダクネス、めぐみんの方のカエル頼む。近付いて突き刺すくらいならお前でも出来るだろ」

「ああ、わかった」

 

めぐみんをダクネスに任せて、アクアを呑み込んだカエルに近付いて安否を確かめて声をかけてみる。

後ろを振り返りダクネスの方を確認すると、もう少しで到着しそうだから向こうは大丈夫だろう。

 

「アクア、大丈夫か?って話せないか」

 

よく考えたら完全に呑まれてるから返事が聞こえるわけがなかった。

ということで、カエルに斬りかかり、アクアを救い出すことにした。

これでカエルに呑まれた神を救うのは三度目か。

ここだけ切り取ったら、俺はこの後金銀財宝が貰えるよな絶対。

 

「ぷはぁ!カズマ、ありがとね。うぐっ、こんなのあんまりよおおおお」

「お前が勝手に突っ込んでいくからだぞ」

 

避けられないパターンで呑まれるならしょうがないで済むけど、馬鹿みたいに突っ込んで行って呑まれて戦況悪化させるのはやめて欲しい。

もうちょっとカエルの数が少なければその行動も身を呈した時間稼ぎと評価できたんだろうけど今は違う。

そう思ってアクアにもうちょっと注意をしようと思っているとアクアが何かを言いたそうにしていた。

 

「ねえカズマ」

「なんだ?」

「このままだとめぐみんが呑まれると言うか、もうダメかも」

 

話してる内容的には緊迫しててもおかしくないのに、結構冷静にアクアはそんなことを言った。

まあ、さっきまで自分も同じ状況だったからなんだろうけど。

ダクネスならとっくにカエルの元についてるから、めぐみんは無事なはずだよな?

 

「え?ダクネスが向こうに……」

「カズマ!こっちに来てくれ!刺しても刺しても剣先がズレて刺さらなくてめぐみんを助けられない!」

「何か動き出したので本格的に飲まれそうです!助けてくだぷっ……」

「めぐみん待ってろ!すぐ助ける!」

 

何でこんなことになってるんだろう。

一応スライムレベルだよなこのカエル。

そんなの相手にこの体たらくで魔王討伐とか出来るか?

無理だと思う。

とか考えてカエルに切りかかろうと構えたタイミングで、ダクネスの攻撃が当たった。

突きより切り付ける方が良かったらしい。

とりあえず、ダクネスがカエルを倒したから、俺は呑まれためぐみんを引き抜くことにした。

 

「無事か?」

「何とか。カズマなら助けてくれると信じてましたよ」

「悪い、まさかダクネスが至近距離で刺すことも出来ないとか予想外で」

 

クリスから縛った魔物なら倒せるって聞いてたから安心してたのに……

相手が悪かったのか?

皮膚がツルんとしてたから刺さらなかったとか?

切り付けなら攻撃は当たってたから、方法間違えてただけだろうけども。

とりあえず、ダクネスを戦力としては下方修正するしかないか……

 

「すまない、私が剣を扱えればめぐみんが呑まれるようなうらや、事態にはならなかったはずだ」

「今羨ましいって言いかけなかったか?」

「言ってない」

「いや言ったろ」

「言ってない!」

 

お馴染みとなりつつあるこの問答……

こう言うのは否定するからダクネスは何処まで隠して、何処までさらけ出していいのかの基準がよく分からない。

 

「私は無事ですから気にしないでください。二人が私とアクアを助けようとしたことは変わらないですし」

「そうね。カズマがめぐみんじゃなくて私の方に来たの意外だったけど、助けて貰ったもんね」

「お前の方が先に呑まれてたからな」

 

全身呑まれるとさすがに消化されそうで怖いからな。

それこそダクネスが直ぐにカエルを倒せるとは思ってなかったから、時間がある程度かかっても問題ないと判断しためぐみんを頼んだんだが、この結果だからな。

後で詳しく話聞くしかないか。

 

「彼女優先しなくて良かったの?」

「実際はそうじゃないの知ってるよな?てかそうだったとして俺が先にアクアを助けることは変わらねえよ」

「ふーん。逆にめぐみんはこの場合どうするの?」

 

アクアは面白くなさそうに反応を示して、めぐみんに話を振った。

また何か変なこと言わないかちょっと心配してる。

いや、ちょっと所かかなり心配してる。

アクアもそれを分かってて聞いてるだろうけど。

 

「私ですか?多分迷うことなくカズマの方に突撃します」

「やっぱりね」

「その方がアクアを助けるの早いですし、新手が来た時に私達三人じゃ厳しいですからね。アクアの期待してるような意味じゃないですよ」

 

悪ノリするかと思ったのに、普通に返してるのを見て、決め付けてたことにちょっと罪悪感を覚えた。

とは言え、めぐみんの日頃の行いだからそこまでじゃない。

ジュース一杯奢るとかで良いくらいのレベル。

 

「そういうことにしといてあげる。とりあえず今日もクエスト完了出来たし帰ったら宴よ!」

「宴ですか。いいですね。今日は私もお酒飲みますよ!」

「ダメだ。めぐみんにはまだ早い」

 

とダクネスが止める。

ウィズと会った時にめぐみんに酒は飲ませないって話になったからな。

しかし、止められて黙ってるめぐみんではなく、俺の背中から先頭を歩くダクネスに向かって吠えた。

 

「ダクネスのケチ!カズマ!みんなで飲んだ方が楽しいですよね!」

「いや、俺もダクネスに賛成だけど?」

「カズマの裏切り者!」

 

と言ってめぐみんは俺をポカポカと叩き始めた。

裏切るも何もこのメンバーの中だったら俺は基本中立だと思う。

何ならめぐみんと一緒にいる時間長い分、甘く見てる所あるくらいなんだけどもな。

 

「なんでそうなんだよ」

「アクアは分かってくれますよね?」

「めぐみんごめんね。私お小遣い減らされたくないの」

 

とアクアは俺の方を見ながら言った。

確かにアクアは何だかんだ言って飲ませてしまいそうだから、小遣い減らすと脅したのは俺だけども、発案者じゃないのにこれは困る。

まあ、俺も同じこと考えてはいたけど。

 

「カズマ計りましたね!」

「何をだよ。この前みたくなられると困るからめぐみんに酒は当分飲ませないって話になったんだよ。お前の為だからな?」

「そうだぞ。カズマの想いをしっかり受け取るのも彼女として大事ではないか」

 

めぐみんに真剣な眼差しで語った後、こちらを見てニヤつくダクネス。

コイツはSなんだろうか?Mなんだろうか?よく分からん。

どっちもとかだったらもう手に負えないぞ?

めぐみんはそんな事には気付かず、気恥しそうに了承した。

そして、そんな状況を黙って過ごす俺では無い。

 

「とか言ってるけど最初に案だしたのダクネスだけどな」

「ほう……」

「それは言わない約束だっただろう!」

「俺の想いだとか、彼女とか言う方が悪い。まあ、賛成したのはめぐみんが心配だったからだし、お前だって記憶ないのに初めてが終わってるとか嫌だろ?」

 

ダクネスが拳を上げようとしてたから、すかさずフォローを入れといた。

俺が物理最弱なのは分かってるから、戦闘は避けないと。

 

「・・・はぁ、分かりました。飲みまないことにします。醜態晒したのは事実ですから。でも何時になったら飲んでいいんですか?あと、カズマとなら別に構いませんよ?その後もう一回しますから」

 

納得して貰えたようで一安心。

と言いたい所だが、何か最後の方に変なこと言ってたな。

流石にこの発言は、アクアとダクネスも驚き隠せてないぞ。

 

「俺の国だと二十歳だな。めぐみん、この場でそれ言うの洒落にならないからやめろ」

「カズマも二十歳になってないじゃないですか。洒落って何ですか?私は本気ですよ?」

 

俺はもう何も言わないことにした。

コイツに話させたらどんどんペースを持ってかれる。

て言うか何か最近めぐみんのことが今まで以上に可愛く見えることがあるし、ちょっと危ない気がする。

まさかめぐみんのこと好きになってたりしないよな?

相手は三歳下で守備範囲外。

そうだ、相手はロリっ子。

危ない危ない。

日々のめぐみん疲れから変な思考にたどり着いてしまってる。

 

「次の誕生日とかでいいんじゃない?」

「めぐみんの成人に合わせるのはいいかもしれないな」

「十二月なのでもうすぐですよ?」

 

めぐみんってもうすぐ誕生日なのか。

・・・え?

来月誕生日ってことは俺とめぐみんって二歳差?

高一と中二?

あれ?

これってヤバいやつな気がする。

今まで恩師ではあるものの、変な所もあるけど出来のいい妹的な感じで見てたからある程度問題なかったけど、二歳差で、後輩って見方になったらこれどうすんの?

今後俺はどうめぐみんと接していけばいいの?

一人の女性おして認識しちゃったんだけども。

しかもそんな認識の変化が起こった上にめぐみんが酔っ払って前みたいに迫って来たら多分我慢できない気がする。

・・・めぐみんがいつも責任取ればとか言ってるからそのままとか普通にありそうで怖い。

 

「それは早すぎるな。来年の誕生日にするのはどうだろうか?」

「そうします。その時に何かあってもカズマが責任とってくれればそれでいいです」

「やっぱりめぐみんは金輪際飲まない方がいいと思う。仮にめぐみんが飲むなら俺は別に宿取るからな」

「私の誕生日なのに、一緒に寝てくれないんですか?」

 

やめろよ。

そんなことを寂しそうに言うなよ。

勘違いしちまうだろうが!

騙されないぞ!

耐えろ!

めぐみんとの実年齢差の認識が変わったことで混乱してるだけだ。

今ここでめぐみん超可愛いとか本当に付き合いたいとか思ったら負けだ。

落ち着け、相手は爆裂爆裂言って、杖に頬擦りしてたヤバいやつだ。

 

「誤解されそうな言い方やめろ。てかその頃にはもうアクアも返済出来てるだろさすがに」

「めぐみん、まだカズマには話していなかったのか?実は」

「ダクネスやめろ。聞きたくない。言いたいことは分かったからこの話は終わりだ」

 

部屋を分ける時は自然消滅の流れを作るための手段にするとかそういう話だろうな。

付き合ってる設定なら同じ部屋に泊まってる方が普通だし。

てかどうして当事者の俺無しで話進んでるんだ?

ダクネスの言い方的にめぐみんが俺へ伝える役だったんだろけど、昨日決まって話すタイミングがなかったとかか?

いや、めぐみんのことだ。

アクアの返済が終わって一安心した俺を驚かそうとかそういう意図で伝えてなかったに違いない。

 

「私がわざと伝えてなかったとか思ってますね?全然違いますよ。最初に考えてた方が正解です」

「・・・アクアとダクネスに聞きたいんだけど、俺ってそんなに分かりやすいか?」

 

今更、思考を読まれたくらいで狼狽えはしないけど、ずっと不思議に思ってたことを聞いてみる。

これで二人とも俺の考え分かってたら、俺が分かりやすい人間ってだけで済むんだが、小首傾げてるから絶対期待する返事は来なさそう。

 

「いや、普通だと思うぞ。さっきはカズマをずっと見ていたがめぐみんが言ってるようなことは読み取れなかったからな」

「私も全く分からないから、これはアレね。めぐみんの愛の力よ」

「・・・でめぐみんは何で分かるんだ?」

 

確かに俺に説明しようとしてたダクネスは俺の顔を確実に見てたし、それでも分からないなら、アクアの案は捨て置くとしても、やっぱりめぐみんが第六感的な何か持ってると考える他ないけども。

 

「誰でもある程度は分かりますよ?単に一緒にいる時間の問題だと思います。カズマの考えてることがより詳しく読めるのは」

「じゃあ私が今何考えてるか分かる?」

 

絶対に分からないだろうと高を括って、ドヤってるあたりこっちには無い、日本にある何かだろうな。

俺でも分かる。

ダクネスは分からないだろうけど。

 

「私にはよく分からない物を思い浮かべてますね」

「・・・紅魔族ってみんなこうなのかしら?」

「紅魔族は賢いですからね」

「考えてることが読めるのは賢さなのか?」

 

ダクネスの疑問も最もだ。

IQが高いと相手の心が読めるとか聞いたことないし、逆に人付き合いが難しい的なことはよくドラマとかの描写であるんだけどな。

賢さとの因果関係はない気がする。

 

「カズマが前に言ってた、めんたりすとなる人が学ぶことを知らず知らずのうちに修得してるんじゃないですかね?」

「確かにアレは学術的で訓練したら出来るもんな。それなら納得」

 

天然のメンタリストとか聞いたことない。

でもまあ、こうやって見せられると納得せざるを得ないよな。

他に考えてること読めるとしたらエンパスとかだろうけど、それだと俺に特化してるとかの説明付かないからやっぱり、めぐみんがメンタリストの技術持ってるって考えるのが妥当か。

 

「めぐみんがメンタリストねえ。カズマ、変なこと考えられなくなったわね」

「何でもかんでも見通されてる訳じゃないから大丈夫だろ」

「決めました」

「・・・何を?」

 

今この瞬間において何か決めること何てあるか?

 

「カズマの考えてることを完璧に読めるようになります!」

「是非ともやめてもらいたい」

「どうしてですか?あれ取って欲しいとか一々言わなくても動けるようになるんですよ?」

「それ以上に俺の内心の自由が脅かされるのが怖い」

 

めぐみんに思考を覗かれてるとか思いながら生活するのはやだ。

パノプティコンの囚人みたいな暮らしとか想像したくない。

 

「カズマが何を考えてたかを誰かに言うつもりはないですよ?それに私はカズマに何考えてるか分かってもらえる方が嬉しいですから、カズマが私の考えてること分かるようになったらお互い様ってことでいいじゃないですか」

 

とか笑顔で言ってくるこの子は本当に何を考えてんだろうか。

もう諦めるしかないな。

添い寝もなんだかんだで慣れてきたし、読まれるのもその内慣れるだろ。

・・・てか俺が修得するの時間かかって、結局めぐみんだけに見通される気がするのだが?

 

「大丈夫ですよ。ちゃんと教えますから」

「俺ポーカーフェイスのスキル探してくる」

「そんなスキルないわよ?」

「ですよね……」

 

めぐみんに悪意はない。

逆に自分だったら嬉しいと思ってるくらいだからな。

受け入れるしかないか。メリットのことだけ考えよう。

確かにめぐみんが言ってた何か取って欲しいとか言わずにやってくれたら痒い所に手が届くみたいなことも増えるだろうな。

で俺がめぐみんの考えを読めたら一々おんぶの時に確認したりせずともベストポジションが分かるだろうし、料理とかする時もお互い何も言わずに手伝うとかも……って、待てよ?これじゃあ何か夫婦みたいじゃないか?

と思いめぐみんを見るとニッコリと微笑んでいた。

・・・え?めぐみんが俺の考え読めてるとして、この状況で微笑む理由って何?

あの笑顔は何を意味してるんだ?

 

「今さっき何考えてたか分かるか?」

「お互い思考が読めるメリットを考えていて、その後は何かに引っかかって私を見たってことくらいですかね。何かは分かりませんが受け入れてもらえて嬉しいです」

「そうか」

 

夫婦みたいとか考えてるのがバレたら面倒なことになってただろうから、そこまでの精度じゃなくて良かった。

こうなったら、めぐみんがレクチャーしてくれるんだから俺も読めるようになってやろう。

そんでもってポーカーフェイス出来るように頑張るしかない。

と決意する帰路だった。




メンタリストめぐみんいかがでしたでしょうか。
カズマさんが年齢差に気付く回となりました。
次回の投稿時期、シリーズ共に未定です。
次の投稿はカズめぐだと思います。


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呪いと祝福

何とか週一投稿に収められました
COVID19の感染に苦しめられてますが、貯金で何とかなりました。
今は喉が痛いだけになりました。


俺とめぐみんが恋人のフリを始めてから約一週間。

ここ最近はクエストがないから、ギルドでのんびりしてることが多い。

現状、事実を知っている面子を除いては完全に俺たちが恋仲だと思っていることだろう。

何故かって?

それはもちろん、めぐみんの行動が全てだ。

 

「むぅ、また他の女見てましたね?ああ言うのが好みなんですか?」

 

頬を膨らませてそんな抗議をしてくる。

正直、俺ももうめぐみんと実際に交際してるんじゃないかと思い始めてる。

因みに今はギルドの食堂で昼間からイチャイチャしてることになってる。

アクアは毎日バイトへ、ダクネスは実家に毎日筋トレへ、今日に関しては、用事で隣町へ行った。

そんな毎日を、俺は飲酒でこの状況を何とか耐え凌いでる。

素面だとめぐみんのからかいに耐えられない。

昼間から酒飲むなとかそういう話はなしだぞ?

 

「ちょっと考え事してただけで誰のことも見てねえよ」

「本当ですか?」

「本当だって、俺はめぐみんにしか興味無い」

 

とまあ、明らかにカレカノのやり取りを毎日してる。

最初の方は宿に帰ってからアレはなんだったんだと聞いてたけども、恋人として普通の反応をしておかないと疑われるとか何とか言って説き伏せられてしまったが故の返しだ。

おかしい、何かがおかしいけど、アクアもダクネスもニコニコ見て、頷いてるだけだからなあ。

 

「また考え事してます?」

「どうやったら日常を取り戻せるか考えてる」

「私としてはカズマと出会ってからの大半をこうやって過ごしてるので、これが日常ですよ?」

「言われてみればそうだな」

 

非日常も続けば日常か。

しかも異世界転生してからの生活は確かに、めぐみんと一緒に居る時間の多い日常だった。

・・・どうなってんだこれは。

これはあれか?

めぐみんルートへ進めという神からの啓示か何かなのか?

それだったら恋人のフリとか訳の分からないワンクッションやめて欲しい。

当事者の俺でも分かる。

一日中どこへ行くにも一緒に居て、同じ宿で泊まってる二人とか何処からどう見てもカップルで間違いない。

俺がめぐみんと実際に付き合いたいとか変な気起こさないうちに早くクリス帰ってこないかな。

 

「また何か考えてますね?」

「なあ、めぐみん、俺思ったんだけど、そろそろクリス呼んでも良くないか?」

「なるほど、他の女を見ては無いけど、他の女のこと考えてたんですね」

 

見てるよりも考えてる方が不味いと思う。

てか、なんでこいつはこの場面でも続けてんだ?

周りの冒険者はもうこっち見てないってのに。

 

「人聞き悪い言い方やめろ」

「はーい。カズマの言う通りだと思うので、今度ダクネスに頼んで手紙送りましょうか」

「めぐみんはいつ頃この関係終わらせる予定?」

 

クリスを呼び戻せば当初の予定は果たせる。

後は不自然じゃないように別れたことにするだけだ。

とはいえ、その別れると言う工程が現状とても難しくなっている。

 

「私はこのままでも構いませんよ?」

「・・・楽しんでるだけだよな?」

「違いますよ?カズマと一緒居る時間が好きなので、このままがいいんです」

 

また勘違いしそうなことを言う。

とは言え、この状況でのこの返しは本当に勘違いなのか?

もうやけだ。

酒も入ってるし、今なら普通に聞けるはずだ。

 

「なあ、めぐみん。一つ聞いていいか?」

「構いませんよ?アレに関すること以外なら」

「それはもちろん聞かないけども、俺が聞きたいのは…」

 

お前の言う好きは恋愛的な意味かと聞こうと思ったが無理だった。

ギルド内に警報音が鳴り響いたことで完全に声がかき消された。

 

『緊急!緊急!正門前にデュラハンが襲来!デュラハン襲来!戦闘要因は直ちに正門前へ向かってください!正門前へ向かってください!』

 

明らかに焦ってる放送からして、相当ヤバい案件なのだろう。

俺がめぐみんからどう思われてるとか正直どうでもいいレベルで。

とはいえ、どうしてここまで俺が確認しようとするタイミングで邪魔が入るんだよ!

 

「これが終わってからですね」

「だな・・・」

 

 

 

アナウンスに従って正門へ移動すると、正面には堂々と丘の上に立ち、こちらを睨みつける黒い鎧で身を包んだデュラハンがそこにはいた。

乗っている馬も黒く、頭がない。

俺の邪魔するやつは許さんぶっ叩いてやるとか思ってたけど、そんなこと出来る相手じゃなさそうだ。

相手がアンデッドだからアクアが到着したらある程度戦えるかもしれないけど俺とめぐみんだけじゃ何もできないと思う。

 

「要求はなんだ!」

 

一人の冒険者がそんなことを言う。

この状況でよくそんなこと確認できるなあと見てみると如何にも勇者みたいな鎧を着たイケメンだった。

・・・何か見てるだけでイライラしてきた。

 

「要求か。ああ、この中に居る頭のおかしい魔法使いに要求がある」

「「「頭のおかしい魔法使い?」」」

 

見かけないイケメン野郎とその取り巻きと思われる女性冒険者二人以外は「頭のおかしい魔法使い」と聞いただけでめぐみんを見た。

もちろん俺も。

 

「カズマまでこっち見ますか・・・はぁ、全く心当たりはありませんが話くらい聞いてあげますよ」

「貴様か・・・毎日毎日、ポンポンポンポン爆裂魔法を城に撃ち込む大バカ者はああああああ!!」

 

それはそれはとても心当たりのある内容で、デュラハンさんは超お怒りだった。

これ、大丈夫かな?

めぐみんと俺殺されないよな?

 

「爆裂散歩をバカ呼ばわりとは聞き捨てなりませんね」

「爆裂散歩?なんだその変な散歩は、そんなモノがあってたまるか!いいか!命が惜しければ今後、俺の城に爆裂はするなよ!」

「無理です」

 

無理ですって何だよ。

爆裂やめれば命助かるんだからそこは乗っとけよ。

やはりめぐみんは頭のおかしい魔法使いであってると思う。

 

「何だと?」

「私は一日に一度、爆裂魔法を放って、カズマから採点してもらわないと死にます」

「「「・・・は?」」」

 

期せずして、デュラハン含め全冒険者の声がハモった。

何言ってんだろうこいつは。

 

「ええ、昔は何も無い平原に放てば満足でした。しかし、爆裂散歩を重ねる内に、大きくて硬い物じゃないと満足できなくなり、更にはカズマじゃないと満足出来ない身体になってしまいまして」

「何紛らわしいこと言ってんだ!あと、身体クネクネするのやめろ!」

 

周囲の冒険者からの視線が凄い。

ニヤケてるヤツらと呆れてるヤツらと色々いるけどとにかく気まずい。

俺らがあの散歩で何してるか知ってるやつが大半だからいいけど、ここまで誤解を産むことってないと思う。

 

「・・・惚気なら他所でやってくれ」

「惚気じゃありません!あなたがやめろと言うから無理だと説明したのです!」

「何も城じゃなくとも大きくて硬い目標なら近くの岩山があるだろうが」

 

ご最もですデュラハンさん。

どうかバカを止めてください!

そうすれば俺の労力も減るんで……

 

「あれは一発で木っ端微塵ですが、あなたが勝手に占拠してる城は未だに破壊出来てないんですよ?そんなのどっち狙うかなんて決まってるじゃないですか」

「・・・お前の言いたいことはよく分かった。止めるつもりはないということだな?」

「ええ、そちらが拠点を別の場所に変えれば済む話ですし」

 

この子本当に肝っ玉座ってるよな。

一応アンデッドの中でも上位なデュラハン相手にここまで堂々と言い切るとは。

しかも話だけ聞いてたらデュラハンの方がまともに聞こえるのは気の所為だろうか?

 

「それは無い。今から陣地を築く余裕は無いからな」

「では、交渉決裂ですね。先生!後はお願いします!」

 

お前は戦わないのかよ!

バイトから嬉々として抜け出してこっちへとやって来たのであろうアクアがウキウキで出て来た。

デュラハンって一応強キャラなんだけども、女神に取ってはバイトの店長に怒られるよりも下の者らしい。

 

「まっかせなさい!野良デュラハンなんてこの私にかかればちょちょいのちょいよ!」

 

・・・一応女神だもんな。

こういう時こそ頼りにならなきゃ困る。

 

「ほう、アーク・プリーストか。しかし、所詮始まりの町にいる者のレベルじゃまった……」

「『セイクリッド・ターン・アンデッド』ッ!」

「ぎゃあああああああああ」

 

おっ、アクアの除霊魔法で馬が消えた。

結構効いてるなこれ。

転げ回ってるし。

 

「カズマカズマ、どうしよう私の魔法が効いてないわ」

「いや、ぎゃあああああああって言ってたし聞いてるだろ」

「こ、この程度か。まだまだ」

 

片膝を突いてデュラハンが何か言ってる。

負け惜しみにしか聞こえないが。

 

「『セイクリッド・ターン・アンデッド』ッッ!」

「ひゃああああああああ」

「やっぱり全然効いてないわ!全力でやったのに!」

「いや、のたうち回ってひゃああああああって言ってるから効いてるだろ。さっきより痛そうだし」

 

除霊が出来てないのは、曲がりなりにも魔王軍幹部だからいわゆる神聖魔法への耐性があるってだけで、効いてるからあと何回かやれば除霊出来る気はするんだけども。

どうなんだろう?

 

「もういい、これ以上は拉致があかん。伝えたいことは伝えたから帰らせてもらう。最後に遅くなったが自己紹介だ。俺は魔王軍幹部のベルディア。この街を滅ぼされたくなければ二度と城へ来るな!危害を貴様らに加えるつもりはない。いいな?俺も元はこれでも真っ当な騎士のだったつもりだ。約束は必ず守る」

「さっきも言いましたが無理です」

「・・・ふっ、そうか、素直に従っておけば良かったものを。汝に死の宣告を、貴様は一週間後に死ぬ」

 

死の宣告だと!

そんなもん使えるやつが始まりの街に来んなよ!

てか魔王軍幹部って何だ!

めぐみんの声も震えてたし、そう言うのは先に言っとけよ!

ってそんなことよりめぐみんが危ない!

 

「カズマ?」

 

気付いたらめぐみんの手を取り強引にこちらへ寄せ、デュラハンから庇うようにしゃがみ込んだ。

すると何かが後ろを通った気がする。

とは言えこの状況で何かが俺の背後通るはずは無いだろう。

仮に何かがいたとして鳥とかそういうのだろう。

まあ、つまりこの状況で死の宣告をくらうのは俺だった。

 

「あ゙ぁあああああ!?」

「か、カズマッ!」

「・・・まあ、いい、何かが通ったのは置いとくして、仲間同士の絆が深い、ましてや恋人が相手であればその方が苦しむだろう。貴様の所為で恋人は死ぬ。己の愚かさを悔いるがいい」

 

・・・やっぱり何かが俺の後ろを通ったらしい。

何かってなんだ?

ってそんなことよりもめぐみんは涙流して固まってるし、こういう時どうすればいいのか誰か教えて欲しい。

あと、恋人と言ったことを訂正して欲しい!

 

「呪いを解いて欲しければ、城まで来て俺を倒してみろ。配下を全て倒した上で、やれるものならな。クハハハハハ」

 

言ってデュラハンは居なくなった。

そして、最初にデュラハンの要求を聞いたイケメンがデュラハンの居た場所に突進して、その虚空へ剣を振り下ろした。

俺、あと一週間の命なのに、イケメンがバカなことしてるの見てるのが楽しい。多分ハイになってるんだな。落ち着かないと……

はぁ、とりあえず、ダクネスがこの場に居なくて良かった。

いたら間違いなく、嬉々としてめぐみん庇ってただろうしな。

俺なんかの命で済んで良かった。

・・・全然良くないけど。

 

「ひぐっ、かずま……」

「怪我とかないか?」

「わ、わたしは、で、でも」

「気にするな。俺がしたくてしたことだから」

 

とは言ったものの咄嗟に身体が動いただけだが。

もちろんめぐみんを守ろうと言う意識はあったけど、先にめぐみんの名前呼んで手も動いてた気がする。

無意識下で守ったってことか。

まあ、俺の死因もそんな感じだもんな。

トラクターに轢かれそうな子を守ろうと勝手に身体が動いて死んだ訳だからな。

 

「・・・ちょっと、行ってきます」

「どこ行く気だ?」

「あのデュラハン倒してきます」

 

なんて事を言い出した。

責任を感じてるんだろう。

そんなに気負わなくていいのに。

 

「俺のことは気にすんな。俺みたいな最弱職一人の命で魔王軍幹部を退けられるならそれでいいじゃねえか」

「よくなんかないです!」

 

そう怒鳴っためぐみんは、涙を流していた。

心配させまいと言ったことが怒らせてしまったらしい。

 

「カズマが居なくなったら、私は、私は……」

「そん時はアクアかダクネスにたの…」

「好きな人が居なくなるのは嫌なんです!」

「えっと」

 

こんな時に何言ってんだと言おうと思ったけど出来なかった。

それは俺の反応なんて気にもせずに続けためぐみんの言葉だった

 

「もう嫌なんですよ!大切な人と会えなくなるのは、だから止めないでください」

「分かった。じゃあ行くか。俺も気付かなかった間抜けだからな」

 

俺が大切な人か……

これはいよいよ冗談とか、からかうためじゃないな。

でも、もうってことは、既に大切な人を失ってるってことだよな?

家族か、初恋の人か……

いや、そんな詮索してる場合じゃない……

 

「カズマは来なくても」

「俺の問題なのに、本人が行かなくてどうするよ。それに、魔法使った後のお前を誰が連れて帰るんだ?あと、爆裂散歩に付き合うって約束だろ?」

「ズルいですよ。それは……」

 

めぐみんは俯いて、動かなくなった。

めぐみんに取って大切な人を失うことがどれだけ辛いことなのか俺にはハッキリ分からないけど、少なくとも単騎で無謀な戦いに挑もうとするくらいなのは想像にかたくない。

いつも年下のめぐみんに引っ張られてる俺だけど、こんなときくらい年上らしく行動したい。

 

「ほら、行くぞ」

 

手を引くと少しずつ動き出した。

めぐみんは覚悟を決めた顔をしていた。

さっきまで涙を流していたのと同じとは思えない程に表情が違う。

これなら大丈夫だろうと思っているとめぐみんが口を開いた。

 

「こんな時に言うのはどうかとも思うんですけど、もし、あのデュラハンを倒せたらこの答えを聞かせてください。カズマ、私と結婚を前提に……」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!」

 

その言葉を聞くと同時に俺の身体は何かに纏われて、何だか心が洗われるような心地がした。

・・・うん、多分これ、死の宣告解けたわ。

 

「これでカズマが死ぬことはないわ!めぐみん、安心してちょうだい!」

「「・・・」」

 

俺とめぐみんのやる気を返せ。

それにこんな時だからとプロポーズしようとしためぐみんの気持ちを返せ。

あのめぐみんが固まって動かなくなったんですけど!

そんな中アクアは他の冒険者達に胴上げされていた。

そして俺とめぐみんの間だけ、時間が止まっていた。

 

「えっと、めぐみん。俺はもう大丈夫だからな?」

「へ?は、はい。無事で良かったです……」

「返事はその、ちょっとだけ時間くれ、このまま言うのはなんか違う気がするし」

「わ、分かりました」

 

言ってめぐみんは落ち込んで下を見る。

そういや前にダブルベッドとか部屋同室がどうのって話になった時もこんな感じだったよな。

俺が死の宣告を代わりに受けたことだけでも結構ショック受けてたからこれ以上不安にさせたくない。

いつかみたいに抱きしめながら俺は告げた。

 

「安心しろ、その、俺もお前のこと好きだから」

「・・・へ?」

「だから、ちょっとだけ時間くれ」

「は、はい!」

 

はぁ、言っちゃったよ。

告白しちゃったよ。

しょうがないよな。

こんな美少女と毎日一緒に居て好きですとか言われまくって好きにならない方がおかしい。

うん。そうだ。そうに違いない。

じゃなきゃ男じゃねえ。

 

「と、とりあえず、他の連中帰ったし俺らも帰ろうぜ」

「そうですね」

 

いつもなら恋人繋ぎしてくるだろうに、今日は服を掴むだけだ。

めぐみんって結構逆境に弱いタイプなんだろうか?

試しに俺からは初めてな恋人繋ぎを実践してみる。

 

「ど、どうしたんですか?」

「いつもの事だろ?」

「ええっと、それは、その……」

 

こんなに焦ってる所見るの初めてだな。

・・・こうやって見ると焦ってるめぐみん超かわいいな。

まあ、めぐみんからしたらこれを毎日見てた訳だもんな。

そりゃあ、止められないし、止めるなんて気にはならないな。

 

「照れてるめぐみんもかわいいな」

「なっ、なっ……」

「めぐみん、好きだぞ」

「ううっ……」

 

多分、こんなめぐみん見られるのは今日くらいだろうし堪能しとこう。

どうせ明日には同じことしても普通に受け入れる所か、カウンターされそうだよな。

と考えてたら男に声をかけられた。

 

「す、すまない。僕がいながら君たちが死の宣告を受けるようなことになって」

「はい?」

「僕はみつる…」

「悪いと思ってるならどっか行ってください!そもそも私たちの問題なので、出しゃばらないでください!」

「えっと、その、はい……」

 

とイケメンさまはめぐみんに追っ払われていた。

見ててスカッとするわあ。

しかも、それが彼女(予定)に言われてるんだから余計に心地いい。

 

「何なんですかあの人!折角いい雰囲気だったのに台無しです!」

「まあまあ、アイツ多分それなりに強いけど力になれなくて申し訳なく思ってたんだろうよ」

「だって、カズマとその、ちゃんと両想いだって分かってから初めての二人きりの時間をあんなしょうもない話のために直ぐに潰されたんですよ!」

 

言われてみればそうだな。

しかも、めぐみんが女々しい反応してる数少ない機会が短くなったもんな。

俺もちょっと腹たって来た。

でも、こんなことに時間使いたくないし、今はめぐみんと二人の時間楽しみたい。

 

「お、おう。わかった。分かったから一旦落ち着こう」

「と言うかアクアもアクアで、どうして直ぐに解呪してくれなかったんですか?私が馬鹿みたいじゃないですか!」

「その気持ちはよーく分かる。分かるけども、言ってもしょうがないし、結果としてはお互いの気持ち知れたしそれでいいだろ?」

 

確かにあのバカがもっと早く解呪してくれれば、こんなことにはなってなかった。

でも、こんな機会でもなければ俺は多分めぐみんに確認を出来ずじまいだった気がしてならない。

だって、経験したからこそ、からかうのが好きだからって分かるけど、そうじゃないままだったら、単にからかわれてるだけだとしか思わないから。

 

「それはそうですけど……」

「あの男も帰ったし、アクアはほかの冒険者と戻ってったからここから二人の時間過ごせば良くないか?」

「分かりました。・・・あの、昼頃まで私にからかわれてたカズマと中身一緒ですか?」

 

俺も昼頃の自分に、この後めぐみんを俺がリードしてるなんて言っても絶対信じないと思う。

だって、めぐみん相手だからな。

 

「おう。強いて言うなら今はもう酒の影響下にないだろうなって所くらいだ」

「余計に謎ですよ。前にお酒の力借りてなにか聞こうとしてましたよね?」

「めぐみんの言う好きの意味を聞きたかったんだよ。意図せず聞けちゃったけど」

「鈍感だった訳じゃないのですね」

 

めぐみんからは鈍感野郎に見えてたのか。

まあ、今までのからかい含めて全部が、全力のストレートボールだったんだから、そりゃ鈍感だって思うか。

思い返せば、俺が思考放棄してただけだしな、他に意味を見出して気にしないようにしてたし、と言うか意識したら終わると思ってたからな。

 

「からかわれてるのか本気なのかずっと悩んでたんだよ。仲間としての好きじゃ説明つかないこともあったし、愛おしいとか言われた時はもう意味がわからなかった。でももしからかうためだったら確認した後にもからかわれるし、聞くに聞けないっていうか」

「私の積極策が裏目に出てた訳ですか……」

「まあ、そうなるな」

「失敗しました」

 

めぐみんは作戦ミスだと思ってるけど、普通に成功してると思う。

だって、そのアタックで俺は落とされたわけだし。

 

「所で、いつからなんだ?」

「いつから?そうですねそれは……あれ?いつからでしょう?」

「おい」

「冗談ですよ。まあ、いわゆる一目惚れです」

「は?」

 

自分で言うのもなんだけどルックスは中の中だし、一目惚れなんて起こるとは思えない。

でも、なんか前にも言われた気がする。

 

「じゃなきゃギルドで登録出来ずに悪目立ちしてた二人組に声掛けたりしませんよ。前に声かけた理由の話と同じです」

「・・・俺パッとしないやつだぞ?」

「顔じゃないですよ。なんと言うか、遺伝子レベルで惹かれました」

 

遺伝子レベル?

めぐみんってフェロモン的なの分かるのか?

でもなんかのテレビで一目惚れはフェロモンがとか聞いた気がする。

気がするだけだけども。

 

「・・・意味が分からないんだけども」

「その内詳しく教えますよ。今は余韻に浸ってたいです」

「分かった。・・・これからもよろしくなめぐみん」

「はい、よろしくお願いしますカズマ」

 

こうして、俺たちの関係は恋人のフリをする二人ではなくなった。

あとは、日を改めて俺が告白するだけ。

だけとか言ったけどこれが凄くハードル高い。

早めに腹括らないとこのままになりそうだからな。

めぐみんと実際に付き合って、噂を無くす案を協力するとか言ってたダクネスに相談するか。




次回の更新も週一投稿を維持できるように頑張ります。
シリーズはいつもと同じで未定です。
カズめぐしてるかも未定です。


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散歩がデートに変わる時

お久しぶりです。
心の中のめぐみんの暴走を止められずに時間だけが過ぎてしまいました。
次はちゃんと週一投稿に出来るように頑張ります!


突如現れた魔王軍幹部は去った。

みんな撃退出来たことに喜び帰ってしまった。

残された俺とめぐみん。

二人きりの帰り道。

これ自体はいつもしている爆裂散歩と大して変わらない。

いつもと異なるのは、俺たちがおんぶではなく恋人繋ぎをしていること。

恋人繋ぎもいつもしてるだろうとか言うツッコミはなしで頼む。

今の恋人繋ぎといつもの恋人繋ぎは明確に意味が違うのだから。

 

「あの、これからの事について話したいのですが、いいですか?」

「俺の告白に期限を設けるとかじゃなけれ大丈夫だ」

「そんなこと言いませんよ。期限なんて設けたらムードもへったくれもないじゃないですか。私達の関係を何処まで話すかです。」

「・・・少なくともアクアには聞かれてると思うけど、そこら辺はどうするんだ?」

 

もし仮に周りには伏せるとしてもあのお喋りな駄女神様が言いふらしたら秘密にする必要性がなくなる。

逆に隠したりしたらからかわれるし、そうなるといっそ公然とイチャイチャする方がいいと思う。

そんな勇気俺にはないけど、めぐみんは俺の気持ちなんて気にせずやってくるだろう。

いや、気持ちを分かった上でからかってくるな。うん。

 

「戦いが終わったらの部分は声を抑えてたじゃないですか。そこは聞かれてないはずなので、私があの時に言った大切な人と言うのは仲間としてだと言い張れば、私が照れ隠ししてるくらいに思われて終わるでしょう」

「そういうもんか?俺としてはダクネスには話しとこうかなって思ってたんだけど」

 

もし付き合うなら協力するとか言ってたし、実際、めぐみんと恋人に近い関係になったから色々と相談したい。

めぐみんと付き合うにあたってのアドバイスとかを貰いたい。

主にからかわれないようになるための方法を聞くために。

 

「すぐバレるとは思いますが、付き合うことになって、それを二人だけの秘密として共有してみたいと思ってるのですよ」

「二人だけの秘密か。そう言うの俺も憧れてたことあるし、話さない方向でいこう」

 

と今後の方針が決まった。

二人だけの秘密とダクネスの支援あり。

どっちが良かったんだろうか。

好奇心唆られるのは秘密の方で、こっちの方が楽しいと言うかドキドキ出来ると思う。

でもダクネスに話していれば、プレゼントしたいとか喧嘩とかの時にどうすればいいのか聞けるから楽と言えば楽になる。

・・・正直、めぐみん相手だと後者の方が俺は良かった気がする。

でもまあ、これまで色々と世話になってるし、ここはめぐみんに合わせるしかない。

憧れがあるってのは嘘じゃないし、それを活力に頑張ろう。

 

「カズマ、今日は抱き合って寝ませんか?」

「嬉しい誘いだけどそう言うのは、正式に返事してからな」

 

めぐみんの気持ちが分かって思ったことはただ一つ。

コイツは常に全力で自分のやりたいこととか言いたいことを俺に全力でぶつけてきてたという事。

そして、今やそのお誘いを受け取ってもなんら問題ない状況に俺たちはある。

でも、俺としてはまだすべきじゃないと思ってる。

なんと言うか、このまま行くと順序が逆になるようなことが多くなりそうだからな。

 

「分かりました。カズマはホントお堅いですね」

「お堅いんじゃなくて、理性で抑えられるうちに止めてるだけだ」

「もうその必要なくないですか?」

 

た、耐えろサトウカズマ。

上目遣いでめちゃくちゃ可愛くて、魅力的なお誘いでもここで乗ったらそのまま際限なく、やる事やってからお付き合いなんてことも有り得る。

それだけはごめんだ。

 

「・・・まだ付き合ってないだろ?」

「そういう所を言ってるんですよ。私としては早くハグとかキスとかしたいです」

「一応言っとくとが、そこから先止まりそうにない気がしてるからやらないんだ」

「・・・分かりました」

 

まだ心の準備出来てないから助かった。

それに流れのままってのも良くない。

今はいつもの雰囲気に戻した方がいいかもしれない。

何故ならめぐみんの眼が赤く輝いているから。

正直、宿屋に着いて強引に迫られたら跳ね除けられる自信はない。

他にめぐみんの興味を移さなければ……

 

「街帰るのやめて、爆裂散歩しないか?今日はまだだろ?」

「行きましょう!カズマと手を繋いだままやりたいです。あと、詠唱前にキスするのもありですね」

「・・・手を繋いだままって所だけはやってやる」

 

俺の考えが甘かった。

爆裂散歩には俺と言う要素が最初から入ってることを失念していた。

そうだよな。

採点あっての爆裂散歩だっていつも言ってるもんな。

しかも俺じゃないと満足出来ない身体にとか、公衆の面前でモジモジしながら言ってたし……

 

「じゃあ、今からしましょう」

「まあ、これはいつも通りと言えばいつも通りだからな」

「そう言われるといつも通り以上のことしたくなります」

 

言ってめぐみんは恋人繋ぎを止めて右腕にしがみついて来た。

アニメとかドラマのバカップルでしか見たことなかったけど、まさか自分がされる側になるとは……

 

「・・・めぐみんさん、歩き難いのですが」

「ハグもダメ、キスもダメ、腕組みもダメ、何だったらいいんですか?」

「普通のハグならやってもいいって言ったしりからやるのなお前」

 

目を爛々と輝かせているめぐみんは、アニメとか漫画だったら目がハートになってるんじゃないかってくらいに、煌々と眼を紅く光らせて抱き着いて来た。

なんつーか。

俺の言っためぐみんのこと好きとめぐみんの言う俺の事好きとの間に物凄い質の差があると思う。

・・・めぐみん基準で言ったら、俺まだめぐみんのこと気になってる程度な気がする。

もちろん、めぐみんのことが好きだって気持ちは間違いないけども。

 

「許可が出ましたからね!カズマとハグ!最高です!」

 

とぬいぐるみを貰った子供みたいにめぐみんは今はしゃいでいる。

いや、もっと適切な表現があるな。

爆裂魔法放ったあとみたいだ。

今は、胸元に顔をグリグリと押し当てて、スーハースーハーしてやがる。

・・・彼氏の布団の匂い嗅ぐとかならまだしも直接ハグ中に嗅ぐやつがあるか?

しかも、これが初めてだぞ?

「えへへ、カズマの匂いがします」

 

俺の体に顔埋めてたらそりゃ俺の匂いするだろうよ。

めぐみんは匂いフェチだったか。

まあ、おんぶしてる時にめぐみんの匂いいいなあとか、偶に顔に当たって香る髪の匂いもいいから、もうちょっと近くで嗅いでみたいとか思ってる俺が言うのもなんだけども。

 

「なあ、くすぐったいから吸うのやめてくんねえか?」

「嫌です。カズマ成分を補充仕切るまでは!」

「・・・俺が言うのも変だけど、俺の事好き過ぎじゃないか?」

 

なんと言うか。

こういうのってもっとこう。

表現がすごく雑だけど、散々イチャイチャして、ラブラブになってからするものだと思うのだが……

別にされて嫌って訳じゃないし、めぐみんの思いがひしひしと伝わってきて、嬉しいくらいだけど。

疑問と同時にこんなにもハグだのキスだの添い寝だのと要求してくるめぐみんを見てると、よく今まで耐えてたなとは思う。

だって、添い寝は毎日してたしな。

押し倒すのとかやろうと思えば出来たわけだし。

クエスト中に勝手に爆裂することのあるめぐみんだからな。

不思議だ。

 

「カズマは分かってませんね。私が爆裂魔法に一途で全力なの知ってますよね?」

「爆裂魔法をこよなく愛する魔法使いさんは、意中の相手もこよなく愛していて、全力でくる訳ですか。そうですかってそうはならないだろ!」

「なってますよ?」

 

言って俺に何を言ってるんだこの人はと言う視線を向けてくるめぐみん。

不思議そうな目で見られてるけど、おかしいの絶対コイツの方だよな?

俺が恋愛経験ゼロだからとかじゃないよな?

いや、これが一年以上の付き合いでとかなら、正直この論法でも分かる所はある。

しかしだ、出会って数ヶ月と経ってない現状では、はいそうですかと納得出来ない所がある。

俺が戸惑っているとめぐみんはカズマ成分とやらを満タンに補充できたのかハグを止めて、恋人繋ぎをしてきた。

そして歩き出して妙なことを言い出した。

 

「そんなに気になるなら、ほら、カズマの言ってた嘘ついたら分かる魔道具でも持ってくるといいですよ」

「それ存在しないんだよな。・・・ああ、あの時のハグも愛おしいとかも本気だったのか」

「父に依頼すれば作れるかもですよ。それとあの時のハグも愛してるも、もちろん本気です。演技じゃないですからね」

 

ああ、そりゃそうか。

あの段階で愛してるなんて表現出てくるんだから、好感度のゲージがあるとしたらもう振り切ってる訳か。

・・・俺がいつその好感度を上げたのかは未だに謎だけども。

 

「ひょいざぶろーさんって魔道具職人だったのか。そこまでする必要はないと言うか、めぐみんが嘘ついてるとは思ってないと言うか、俺が単純に納得いってないだけと言うか……やっぱりアレ、マジだったのか」

「マジです。あそこまでやったのに、普通と言うかいつも通りだったので、カズマが超鈍感なのかと疑いましたよ」

「こちとら何が起こったのか分からずに固まってたんだよ。もうからかわれただけと思って処理するしかなくてだな」

「はぁ、私の積極策が尽く失敗するわけですよ」

 

お互いに勘違いして、相手の出方を伺ってた訳か。

しかも、めぐみんからは俺は鈍感系主人公と同じように思われてたと。

そりゃあ、直接好きだの愛してますだの言ってくるわけだ。

だって、鈍感系主人公って直接的に言わないと分からないやつが多いもんな。

直接言っても難聴系も入ったら聞こえないし。

・・・思い返せば普通出来ないと思うけど、めぐみんのやってたことって当然と言えば当然のアタックの仕方だな。

 

「いや、失敗はしてないと思う。だってめぐみんのこと意識せざるを得なくなったし……」

「・・・でも、あのデュラハンが来なければ多分この平行線が続いていたと思いますよ?」

「いや、来てなかったらあの場で聞けてたはずだ」

「あの時に聞かれてたらはぐらかしてたと思います。カズマはお酒飲んでましたし、こういうのは素面の時にと思ってましたから」

 

めぐみんなりの考えもあっての事か。

添い寝以上に強制発展しなかったのもこう言うめぐみんなりの線引きが理由か。

そして、お互い好き同士と分かった今、めぐみんからすればトリガーはもう引かれたという訳か。

 

「そっか、やっぱり酒に任せてはダメか」

「ダメですよ。お酒臭い状態でハグとかキスとかしたくないです」

「それもそうか」

 

信念とかより、単に不快な思い出を初めてにしたくないと言う話だった。

言われてみれば、俺も酔っ払っためぐみんからのキスは嫌だったもんな。

うん。

酒臭い相手とのキスは、いくら好きな人でも御免こうむる。

 

「カズマ」

「なんだ?」

「呼んでみただけです」

 

これまたベタなことやってくるめぐみん。

そして、俺はやる時やる男。

今俺が抱いた感情をそのままめぐみんへぶつけることにした。

 

「・・・めぐみん」

「なんですか?」

「頬っぺた引っ張っていいか?」

「どうしてそこでそんな話になるんですか!」

「なんかイラッとしたから」

 

話の流れ的に次にどんな話が来るだろうとか、色々考えてたのに、呼んでみただけとか言われるとちょっと腹が立った。

もっとこう、お互い話してない時とかなら可愛げあるけど、まだ話続きそうな時にされても何だか調子が狂わされて嫌だ。

 

「普通そこは俺も呼んでみただけとか言う所ですよ!」

「俺はそんなお約束には乗らない」

 

毅然とした対応取ったら拗ねられてしまった。

どうしよう。

とりあえずご機嫌取りにめぐみんご所望の呼んでみただけをやらないとな。

 

「・・・」

「めぐみん」

「ふん!」

 

相当ご立腹のようで、目を合わせくれない。

その割には恋人繋ぎは継続中である。

そこまで機嫌を損ねた訳じゃなさそうだ。

拗ねてるめぐみんも可愛いな。

 

「めぐみん」

「・・・」

「めぐみんさーん」

「・・・」

 

これは普通に呼んでも反応してくれそうにない。

何か普段とは違う呼び方しないとだな。

めぐみん様とか言っても多分、無視されて終わりだろう。

ここは思わず反応したくなるような愛称を考えて……

 

「めぐたん」

「・・・たんってなんですか?」

「何となく思いついた愛称」

 

脳裏にふとめぐたんがよぎった。

特に理由とかはない。

とりあえず会話を再開出来たことを喜ぼう。

ふと浮かんだにしてはめぐたんって結構アリだと思う。

二人きりの時は、めぐみんが嫌がらないならめぐたん呼びしとこう。

 

「・・・人前で呼んだら引っぱたきますからね」

「俺も二人の時しか言えねえから安心しろ」

「それは安心できますね」

 

人前でということは、二人きりの時は呼んでもいいってことだよな?

二人きりの時だけ使う愛称とか、正しく恋人同士ぽくていいな。

ちょっとおこみんも収まってきたし、もう一回呼んでみただけをやってみるか。

めぐたんバージョンで!

 

「めぐたん」

「なんですか?」

「呼んでみただけ」

 

さっきやられたことをやり返してみるとめぐみんはムスッとしていた。

多分、俺が味わった苛立ちを今感じてるのだろう。

意図せずに意趣返しになってしまった。

まあ、これでめぐみんに俺の気持ちが分かって貰えたのなら十分だ。

 

「・・・なんというかさっきカズマがイラッと来たのが分かった気がします」

「だろ?」

「話の続きは何かと考えて聞いてるのに、名前呼んだだけとか言われるとちょっと」

「俺もそんな感じ」

 

会話の途中には向いてないな。

プクッと頬を膨らませて怒ってためぐみんが可愛かったからまたやってみるのもありかもだけども、嫌われたらやだし、やめておこう。

 

「今度からは話が終わってちょっと経ってからにしましょう」

「そうだな。あっ、めぐみん」

「あの、話聞いてましたか?」

 

爆裂の対象にもってこいな岩を見つけたけど、言ったしりからやったと思われてしまった。

意図せず可愛く怒ってるめぐみんを見られたのは、不幸中の幸いだ。

 

「いや、ほら、あそこにお前好みの岩が」

「すみません。疑ってしまいました」

「流れ的にしょうがないって、でどうだ?」

「カズマの言った通り、私好みですよ。一撃では壊れなさそうな良さげな岩ですね」

 

良かった。

城の方がいいなんて言われたらどうしようかと思ってたけど、杞憂だった。

 

「じゃあ、今日はここだな。流石にもうあの廃城は無理だし」

「私としてはカズマに死の宣告かけたデュラハンにお礼参りしたい所ではありますが」

「やめろ、またアイツが来たら面倒だ」

「もうあんな思いはしたくないですからね。私もやるつもりはないですよ。・・・惜しいなとは思いますけど」

 

めぐみんは爆裂魔法のことには糸目をつけず最優先だと杖を買った時に思ってたのに、ある程度は現実的に考えてるのな。

 

「やる気がないなら良かった。デュラハンに無理ですとか言ってたからやるのかなって思ってたぞ。方向も近かったし」

「方向はたまたまですよ。カズマと一緒に居られれなくかもしれない選択はしませんよ」

 

・・・思い過ごしだと思うけど、めぐみんにとって爆裂魔法。放つことより俺の方が重要になってないか?

いやいや、流石に考え過ぎだな。

うん。

いくらめぐみんが出会った頃から俺の事気にかけてたとは言え、ずっと好きだった魔法より上にはならないだろう。

 

「そ、そうか」

「カズマが思っている以上に私はカズマのこと想ってますよ。それこそ爆裂魔法と同じくらいに。では行きます。『エクスプロージョン』ッ!」

 

やっぱり敵わないな。

めぐみんには俺の考えなんてお見通しか。

告白する頃にはもうちょっとカッコつくようになろうと決意する俺だった。




次回は、半お付き合い状態の二人がギルドでイチャイチャします。

次回の更新は●●な訳ですが、まためぐみんが暴走しないか心配であります。


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